<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[32972] 富江様が、呪いの家で、呪いのビデオを見てみました。
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2012/04/30 23:34
富江・リング・呪怨のクロス作品です。









 大粒の滴が地面にと叩きつけられる。
 雲に覆われた空は闇にと染まり、ただ、雨の音だけが響いている。その中、一つの音が雨の音を遮断した。それは古びた一つの家で止まる。黒い車から降り立った二人組の男、2人は、慌てているのか、息遣いは激しく、車の後ろにと慌てて駆け寄る。荷台には、ブルーシートに包まれた『何か』が、あった。男達は、顔を見合わせる。

「は、はやくしろ」
「うるせぇ、わかってる!!」

 雨の中、2人は、ブルーシートを掴み、両端を持って、トラックの荷台からゆっくりと下ろす。それと同時に、ブルーシートから、落ちる白い腕。男達は、そんなことを気にかけることなく、光もついていないその古びた家の玄関を開けて入っていく。

「ドア、あいてんのか!?」
「安心しろ、ちゃんと調べておいたから」

 男達が声を上げる中、ドアノブに手をかけて引くと、ゆっくりと扉は開き、暗闇の入り口を作り上げる。中は、真っ暗で、光がない。まるで底なしの穴に入っていくようだ。その中にと、男達は足を踏み入れる。

「気味悪りぃな」
「さっさと、おいて帰るぞ」

 玄関にと足を踏み入れた男達は、そのまま靴を履いたまま、玄関にと上がり込む。玄関はせまく、玄関からすぐ、二階にと続く階段があった。だが、2人は、とてもじゃないが、二階に上る勇気はなく、そのまま、リビングにと向かう。男達は、そのまま足早にリビングにと向かう。夜の闇の中、窓に映る外の光で照らされるリビングは、時折、白く光る。リビングの中は荒れ果てており、新聞紙や、雑誌などが散乱している。男達は、そのまま、ブルーシートにくるまれた女を置くと、そのまま、慌てて元来た道を戻っていく。


「あ、ああ!!」
「うああああ!!!」


 男達は、そのまま扉を開けて、家から出ていく。
 残されたブルーシート。
 ブルーシートから飛び出していた腕が、ゆっくりと動き、ブルーシートをどかした。そして、そのまま、腰を曲げて、起き上がる女。髪の毛が長く、右目の下に黒子がある美少女。




富江様が、呪いの家で、呪いのビデオを見てみました。




【出逢い】


……5時間前

 東京都渋谷区渋谷駅、ハチ公前

「可愛い子じゃん!一緒にカラオケとかどう?」
「ねぇ、ねぇ、いいでしょう?」

 金髪にピアスを開けた、派手な服を身にまとった男達が、一人の女にと声をかけた。ハチ公の前で、寄りかかりながら待っていたその女は、先ほどから誰もが注目をする女となっていた白いワンピースに、白い帽子を被った黒いストレートの女。それは渋谷という町においては、非常にアンバランスな合っていない姿だった。

「本当?嬉しいわ」

 女は喜んで、男達の言葉に乗った。
 その後は、一緒にカラオケに向かい、女と一緒に楽しもうと男達は思っていた。だが、此処で、女の本性が明らかになっていく。

「こんな安いもの飲めない」
「い、いや富江さん、カラオケなんだから、此処は特に美味しいものとかは」
「ふざけないで。こんなものを飲まして、私の体がおかしくなったらどうするつもり?お店変えて、そうじゃなきゃ……貴方達とはさようならね」

 男二人は、富江のその笑みに、背筋を震わせながら、富江が納得できるまで店を変えることとなった。だが、富江は満足しなかった。

「だめ、ぜーんぜん」

 富江は2人の男を弄んだ。

「フフ、アハハハ。やっぱりお金のない、ただの子供じゃ遊ぶ相手にもならないわね」

 富江は、男達を見下ろしながら、腕を組んで嘲笑う。
 カラオケの部屋にて、富江は、店員が持ってきたジュースを片手にして、それをしゃがみ込んでいると男達の頭にとかける。

「それじゃあ、さようなら」

 富江は、そう伝えて、カラオケボックスから出ていこうとした。男は、拳を握りしめ、立ち上がると、富江の腕を掴む。

「痛いっ、なにをするの!?」
「ふざけやがって!人のこと、弄びやがってぇ!!」

 男はそういうと、富江の腕を引っ張り、カラオケの床にと押し倒す。富江は、そのまま床に倒されて、長い髪の毛を、床にと舞わせながら、男に馬乗りにされる。富江は、そうされながらも、決して、物応じすることなく、男を見て、笑みを浮かべる。

「笑ってんじゃねぇ!!」

 男はそういって、富江の顔を殴りつけた。富江は、口から血を吐く。男は、大きく息を吐きながら、その拳をそのまま開くと、富江の首にと手をかける。

「はぁ……はぁ……」

 男は、そのまま、富江の細い首を締めあげていく。富江は、やがて苦痛の表情に顔を歪め、口を開けて、目を見開いたまま、そのまま手足をジタバタさせ抵抗するものの、そのまま動かなくなってしまった。

「はあ……はあ……」
「お、おい、なにしてんだよ、お前」
「はあ……はあ、え?」

 男は、もう一人の男の言葉で、自分が何をしたのかを知る。目の前には、富江が、死に絶えていた。

「あ、あああああ!!!お、俺、なにしてたんだ!?あ、あれ!?なんで、なんでぇええ!!」

 男は富江から離れて、壁にと持たれると、悲鳴を上げる。もう一人の男は、呆然と、動かなくなった富江を眺めていた。どちらにしろこのままでは……。男二人は、そのまま、富江を、酔った客のふりをして担ぎながら、そのまま、カラオケ店を出た。そして、彼女を車の後ろにと乗せると、エンジンをかけた。

「やべぇ、やべぇーよ!どうしよう、どうすればいい!?」
「落ちつけ!やっちまったのは仕方がない。隠せばいいだけだ」
「かくせば?」
「そうだ、犯罪が発覚しなければいいんだからな!」
「そんな場所あるのかよ!?」
「ああ、噂で聞いたことがあるんだ。入ったら最後、絶対に生き残れない家があるって」

 男は、そう告げると、その場所に向かって車を走らせた。
 そうして、今に至るわけだ。
 この家に入ったら最後、生き残れないと噂されている場所。そこに富江を捨てることにした。周りの連中だって、こんなおっかない家誰も入らないだろうし。そう考えた、男達は、富江を捨てるようにしたのである。


そして……。


血まみれの富江が、ゆっくりと身を起こす。

 富江が周りを見渡す。どうやら自分は捨てられたようだ。すると、目の前のテレビが突然、スイッチが入る。だが、入ったところで、砂嵐の映像がただ富江にと向けて映し出される。富江は、身を起こしながら、ソファーにと座り、大きく息を吐く。死なないとは言っても、多少血を失いすぎた。少し回復を待たなくてはいけない。そんな中、テレビの砂荒しの映像が止まる。

「?」

 富江が、テレビにと近づくとテレビには井戸の映像が映し出されていた。

「これ……どこかで」

 それは、一週間前だったか、自分と付き合っていた金持ちの男が見せてきたものだった。確か、呪いのビデオとかいっていたっけ。私には怖いものなど何もないと言ってやったらこんなくだらないものを見せてきたのだが。まあ、今はどこかの精神病院に入院していることだろう。富江が凝視する中、二階から物音が聞こえた。富江は、顔を上げて、二階の物音に耳を傾ける。それは、何かが這いずるような音だ。

「なんなの、この家」

 富江がそう言って、再度テレビのほうを見ると、テレビの映像に移る井戸に手がかけられる。そして、そこから這い出してるのは、髪の毛の長い女の姿。それは井戸から、はい出てくると、立ち上がり、そして、ゆっくりとだが確実に、こちらにと向かって歩いてくる。それと同時に、二階を這いずる音は、玄関にとつながる階段にと移動しているようだ。

「あ……あ、ああ……あ、あああ……」

近づいている。

 富江は、逃げようにも、外は既に這いずるものに抑えられてしまっている。そして、ここにいれば、このテレビの女が、やってきている。逃げな場所はない。だが、富江自身は、そこまで、驚きも、恐怖も感じてはいなかった。なぜなら、富江は死なない。そして、それを富江自身はわかっているのだ。やがて、テレビにと近づいたそれは、手を差し伸ばし、テレビから外にと現れた。

「!?」

 さすがの富江もこれには驚いたようで、思わず立ち上がる。だが、立ち上がった富江の背後には、這いずりまわる音と、そして、大きく聞こえる……女のうめき声。富江は、完全に囲まれた。近づいてくる目の前の髪の毛の長い女。そして、背後にと近づくうめき声の女。富江は、身構える。


目の前の女が長い垂れ下がった髪の毛から目を見せて、富江を見た。
背後にいたうめき声の女が顔をあげて、富江の後ろからその首を掴む。

そこで二人の目が合う。


「「わあああああああああ!!!!!」」


 悲鳴とともに、目の前にいた女は腰を抜かしたのか、後ろにと倒れて、指を富江の後ろにとさしている。その指を差されている女もまた、背後にと倒れて、腰を抑えながら、うずくまり、ビクビクと震えている。そんな様子を見ていた富江は、呆然としながら、ソファーにと座っている。

「な、なにしてるの?」

 富江が、この状況にふさわしいかどうか分からない言葉を告げる。そんな富江の言葉に、目の前の髪の毛の長い女が顔を上げる。髪の毛の間から見せた顔は、所謂、どこにでもいそうな女……富江には負けるがそれでも美人といってもいいだろう。そんな女が涙目でいる。

「こ……」
「こ?」

 聞き返す富江。

「怖いです……び、びっくりしました、心臓止まるかと思っちゃった」

 大きく息を吐く女に、富江は後ろを振り返る。
 顔を上げた女も、大きく息を吐きながら、まだ震えている。

「あ、あんなの見ちゃったら夢に出ちゃいます……俊雄を連れてこなくてよかったわ。死ぬかと思った」

 富江は、肩を震わせながら、立ち上がる。

「あんた達、もう死んでるでしょうがぁあああ!!!」



【御挨拶】


 ソファーに座る富江の前、2人の女が並んで座っている。正座をして、とても申し訳なさそうな表情で、富江は、足を組み直しながら、そのモデルのような綺麗な足を見せつけて、2人を見下ろしている。

「まずは、名前を聞いておこうかしら?そっちのおばさんから」
「お、おば……私のことですか?」
「そうよ!早く名乗りなさい」

 富江の勢いに押されて、ゆっくりと頷いた女。

「私の名前は、伽椰子といいます。この家の主です……」
「あ、そう。噂で言っていたこの家にきたものは皆殺しにする幽霊だって聞いていたんだけど?家が廃屋みたいになってて、よほど好きな奴じゃなきゃ、誰もこないんでしょう?だいたい、なんでこんな汚いのよ!?あんた、人を呪い殺す気あるの!?」
「ええーっと……すいません……」

 富江は、いろいろと突っ込みたいところはあるのだが、無視をして次に隣の女にと視線を移す。富江にみられた女は、ビクっと震える。

「あんたの名前は?」
「は、はい!さ、貞子といいます……」
「前時代的なビデオの幽霊だったわね。もうね、時代は2012年なのよ?ブルーレイ、もしくはDVDにしなさきゃ、誰も見てくれないでしょう!?」
「すいません、すいません、すいません……」

 富江は、噂では恐ろしい、致死率100%の恐怖の怨霊と聞いてはいたのだが……。もしそれがそうだとするのなら、噂がただ一人歩きしていたのか、なんなのか。まあ、どうでもいいか。

「へぇ、ビデオでの幽霊なんですか?移動ができていいわねぇ」
「そ、そうですか?私なんか、毎日毎日、移動ばかりだと疲れちゃうんですよ、ほら、井戸だって毎回、一週間たって時間になったら上っていかないといけないし、腕にだけ力がついちゃって」
「わあ、凄い筋肉だわ……」
「お腹割れてるんですよ?」
「あ、ちょっと触ってもいい?あ、本当だ、凄いわねぇ」
「アハハハ……ちょっとした自慢かもしれないです、でも、伽椰子さんはこんな立派な家で過ごせているんですからいいじゃないですか~」
「いろいろと掃除とか、大変で。後は、いつも人が来たら隠れなくちゃいけないから、屋根裏とか、湿気とか、カビ臭いし、大変なのよ?」
「なるほど~、やっぱりそれぞれ苦労しているんですね」
「ええ、でも、おかげで、隠れる能力と身体が柔らかくなったわ。やっぱり狭い所に隠れるから……」

 そういって、両足を広げて、身体を前にと倒し、胸が床にとぺったりつく。

「わあ~凄い、私もやってみたいなぁ」
「お風呂上がりとかにやるといいわよ」

 富江の肩が震える。

「あんた達、わざとやってるでしょう?」
「「え?」」

「死んでるのに身体が柔らかいもなにもないでしょうが!!!」

 富江は、こいつらと話しているとバカになりそうだと思いながら、ソファに肘をつけてため息をつく。そんな富江に貞子と伽椰子が、顔を合わせて、富江を見る。

「あ、あの……貴女の名前は?」

伽椰子が恐る恐る問いかける。

「え?富江よ、富江」
「私たちを怖がらないなんて、あなた、霊媒師かなにかですか!?だから、そんなに私達に対して抵抗力があったりするんですか?」

 貞子は、身構えながら、富江を見る。
 富江は、そんな2人をチラリと視界の端に入れながら。

「私は死なないの。基本的にね、だいたい、あんた達みたいなのにビビって死ぬほど、私はヤワじゃないのよ」

 そういうと富江は、ポケットからナイフを取り出して、2人の目の前で、手首を切る。すると、一気に赤い血が溢れだす。そんな光景を富江は、目を両手で隠しながら隙間から見ている。伽椰子もまた、一瞬、後ろに引いて様子を見ている。すると、富江の傷跡は、すぐに消えていく。まるで最初から何事もなかったように。

 その様子をみて顔を青ざめる2人。

「「きゃああ~~~化け物~~~」」

 絶叫する2人。
 富江は拳を握りしめ


「テレビからでてきたり、突然現れたりできる、あんた達のほうがよっぽど化け物だ!!!」



【力を発揮してみよう!】


「なんだか、本当にあんた達が怨霊なのかわからなくなってきたわね」

 富江がポツリと愚痴る。

「し、失礼ですよ!富江さん!!」
「そうです。こう見えても私はしっかりと死んでるんですから!カッターナイフで切り刻まれているんですよ?痛かったんですよ??」
「私だって、生きたまま暗くて狭い井戸の中に捨てられたんですから~~!!」

 そういって必死に自分たちの正当性を求める2人の幽霊(?)だが、富江としては、彼女たちの力が本当かどうかわからない。では、試してみるか……。

「ならさ、やってみてよ?」
「「え?」」

 富江は、腰に手を当てて、ニヤリと笑みを浮かべる。

「私を捨てたバカ2人がいたんだけれど、ほら……あいつら、この家はいったでしょう?ってことは、呪いのフラグを踏んでるわけじゃない?」
「ああ、そういえばそうでしたね!」

 伽椰子は、おっとりとした口調で頷いた。

「後は、ビデオをもう片方に見せて、貞子!」
「は、はひぃ!?」
「あんたがもう一人を殺す。いい?出来るわよね?」
「あ、は……はい。たぶん」

 富江は、腕を組みながら、2人の背中を見せた。
 こいつらを上手く使えば、他の自分の命を狙う富江たちを一挙殲滅できる可能性がある。富江は、そう考えを巡らして、早速、この作戦を実行に移そうと考えたのであった。

「「あ、あの……」」

「なによ?さっさと、行動に移りなさい!!」

 富江が振り返り怒鳴ると、富江と伽椰子は顔を見合わして、困惑した表情で富江を見た。

「さっきの2人ってどんな顔でしたっけ?」
「伽椰子さんと出会ったときに驚いたショックで……」

「「忘れちゃいました。てへ」」

「なんじゃそりゃああああああ!!!」



 その日、呪いの家近くを通りかかった人からは家から、大きな声が上がったという言葉を聞いたそうだ。






[32972] 第2話 富江様が、呪いの家改築のために、お金を稼ぐそうです。
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2012/05/14 23:42








「……それにしても、あれから特に変わったことは起きなかったな?」

 渋谷のネオンが光り輝く街の中で男二人組の中の一人が、そう切り出した。あの呪いの家にいってから三日。自分たちの環境に変化は起きず、警察が自分たちのところに来ることもなかった。ようは、死体は発見されず、自分たちが呪われたということもなかったわけだ。ようするに、所詮は噂だったということである。

「ああ、また可愛い女の子いないかな?」

 男二人組は、笑いながら、周りを見渡して、その人であふれ返っている道を歩いていく。そんな中、男の一人が、長いストレートの髪の毛を靡かせ、白いワンピースを身につける女の子を見つけた。男は、その姿を見て、足を止める。その後ろ姿を見たことがあったからだ。だが、ありえない……ありえるはずがない。

「あ、あいつは死んだんだからな」
「おい?どうした?」

 男の異変に気がついたもう片方の男。
 男は、その女の後姿だけを凝視していた。そして、その女はゆっくりと振り返った。その顔は……あの女のものだった。自分が首絞めて殺した女。目元にある黒子でわかる。女は、こちらを見て、微笑む、その病的な美少女を忘れるはずもない。

「あ……あああっ!!!」

 男は、そのまま、走って人ごみを駆け分けていく。

「殺したんだ!俺が、俺が殺したんだって!!殺す、殺した!殺す!殺した!殺された!殺す!殺す!!バラバラにぃ、ばらばらばらばらばらばらばらばらばらばらばらバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラババラばraばラバら薔薇ばらバらバラばraばラバら薔薇ばらバら」

 男は、富江の元に駆けより、その手を握ると、そのまま人混みから路地にと引っ張っていく。

「お前は殺したんだ!ダメじゃないか、死んできゃ……そうか、もう一度、殺されにきたんだね!わかったよ、わかった。俺が何度でも殺してあげるんだから!!!」

 男は、そういって振り返った。
 暗い路地裏にと来た男は、そこで、富江だと思っていた女を見る。そこには、顔を真っ白にした、目と口が黒い別の女がそこにはいた。

「ひ、ひいいいい!!」

 男は、慌てて手を離すと、そのまま、腰を抜かしてしまう。
 その白い女は、こちらを見下ろしていたと思うと、そのまま足元が崩れ落ち、四つん這いになって、こちらにと近づいてくる。

「あ……あ、あああああああ」

 響きわたる、女の低い声。
 男は、立ち上がると、声にならない声を上げて、路地裏から逃げ出そうとする。光が見えた。男は、その光にと手を伸ばし、足を踏み出す。



「え?」



 男の前に広がるのは、大勢の白い女。
 それらは、男の手を掴み、そのまま、引っ張り込む。

「にゃあ」

 どこかで、そんな声が聞こえ、男はそのまま闇に消えた。





富江様が、呪いの家で、呪いのビデオを見てみました。


第2話 富江様が、呪いの家改築のために、お金を稼ぐそうです。




【俊雄】



「どうでした~?あれが私の力です!」

 相変わらず、ゴミが散乱する家の中で、伽椰子は自慢気に富江にと告げる。富江は、ソファーに座りながら、貞子が差しだしたジュースを飲みながら、伽椰子を睨みつける。その富江の視線に、ビクっと震える伽椰子。

「何が私の力よ!?あんな一発で仕留めるような真似をして、もっとジワジワやりなさいよ!」

 伽椰子は、その富江の言葉に、ビクっと震える。

「いい?あーいう奴は、一度震えさせて、そして、生かしてあげる。希望を与えてあげるのよ。その後、さらに絶望と、希望を繰り返し見せてあげる。そして、最後に希望から奈落の底に落としてあげる。それが、一番効果的なわけよ。あんな最初から、ぶっ飛んだ方法とったら、相手もあーこれは夢だ~~って思ってしまうわ」

 富江の言葉に、伽椰子と貞子がメモを取っている。

「さすが!富江さん」
「本当に勉強になります……私、甘えてました。もっと、精進します」

 富江は、そんな2人のやり取りを見ていると、本当に幽霊なのかどうかわからなくなってくる。まあ、こいつらの呪いの力とやらが本物であることはわかった。これで、自分を殺しに来る別の富江の刺客から身を守ることはできるだろう。本来なら一挙殲滅してやりたいところだが、それはもう少し、彼女たちの能力を開発しなければならない。

「それにしても……この家はどうにかならないの?」
「ごめんなさい。綺麗にしても、俊雄がまた汚しちゃって……」
「俊雄?」

 初めて聞く名前に、富江と貞子が伽椰子を見る。

「そういえば、名前が何度か出たわね?誰、それ?」
「私の息子です」
「「子供がいるの(んですか)!?」」

 富江と、貞子の言葉に、伽椰子が恥かしそうにしながら頷く。見た目からはあまりわからないが……。

「それで、今、どこにいるの?」

 富江の言葉に、伽椰子は、上を見る。それと同じように上を見る貞子と、富江。すると、天井をまるで重力を無視するように歩いている白い子供。富江は、ポカーンと口を開ける。そんな驚愕の表情を浮かべている富江の目の前にと降り立つ俊雄。

「俊雄、挨拶しなさい?」
「にゃあ」

 にゃあ?
 今、このガキ、にゃあとかいわなかったか?富江は、子供の声から聞こえた猫の声を見て、首をかしげる。こういう可愛い子供アピールをするガキが、富江には許せない。富江は自分よりも可愛いものを許せないのである、それは、富江……自分こそが一番であるという自負からだ。

「まったく、子供の癖に、猫の声だなんて……育てた親の顔が見たいわ」
「あ、ああ……すいません、すいません」

 俊雄は、富江に謝る伽椰子……自分の母親を見ながら、富江を見ると、その手に口を開けて噛みついた。

「ったぁい!!な、なにすんのよ!このガキっ!!」
「と、俊雄!やめなさい!!こらっ!」

 慌てて俊雄を離す伽椰子に、富江は、手を振りながら俊雄を睨みつける。怪我こそしたところで効果はない富江だが、痛みはある。このガキは邪魔だ。間違いなく、この怨霊を利用するにしても、やはり邪魔でしかない……。

「ダメですよ、富江さん……きっと、俊雄君は、富江さんが怖かったんですよ」

 そういうと、貞子はしゃがんで、俊雄を見つめる。

「ごめんね~……ほら、怖くない怖くない」

 貞子は、そういって俊雄の頭を撫でる。すると、俊雄は、そんな貞子に顔を向けて、そのまま、撫でられ続けている。噛んだりは決してしない。富江は、そんな2人の様子を伺いながら、

「ふん、そんな簡単なこと、私でもできるわ」

 そう言い切り、富江はしゃがみながら、俊雄の髪の毛を撫でようとする。

「さあ、怖くない、怖くない」

作り笑顔の富江に対して、俊雄の口が大きく開くと、そのまま富江の腕を噛む。作り笑顔の富江の表情が曇る。その様子を見ていた貞子と、伽椰子もまた、顔を青冷めさせる。富江は、噛まれたまま、そのまま頭をさするが、一向に口を離さない。

「……」

「………」

「…………」


「……なめとんのか、このガキぁああああああ!!!!」

「きゃああああ!!!と、俊雄やめなさい!」
「と、富江さん!落ちついて!落ちついてくださいっ!!」

 大声を上げて、俊雄を蹴りだす富江。
 慌てて貞子と伽椰子が富江の両腕をとり、抑えつけた。怒り爆発の富江に、俊雄は無表情で、富江を眺めていた。



【アルバイト】


「とにかく、私はこんな汚い部屋にいつまでもいるつもりはないわ」

 富江はソファーに座りながら、足を組んで貞子と伽椰子を見る。貞子と伽椰子は顔を見合せながら、部屋を見る。確かに辺りはゴミが散乱し片付けられていない様子がうかがえる。元来、富江は高級食材やら、そういったものしか口にせず、自分で料理などしない、自称セレブである。万が一、一人暮らしをしながら、食事をして、下着姿でボロいアパートで身を潜めていたら、他の富江に笑われる。プライドの高い富江には、他の富江には負けたくないという、異常なまでの負けず嫌いが存在するわけだ。

「だったら……働くしかないですね」

 伽椰子の言葉に、富江はため息をついて

「私はイヤよ、なんで、私が人に媚びて仕事なんかしなきゃけいけないの?」
「んー……伽椰子さんは外には出れないし。私はでてもいいですけど、人前だとなかなか喋れなくて」

 コミニティ能力がら低い貞子に物を言っても仕方がないか。そうなると富江しか働き手はいなくなる。出ていくか……だが、彼女たちの力は間違いなく利用できる。こうなったら、やるしかない。

「やるわよ……やってやろうじゃない!!私が、本気を見せればどうなるか!一週間で億万長者にしてあげるわ」
「「おお~~~さすが富江さん!!」」


「……アルバイト情報誌なんて見たことないけれど」

1分後

「……」

5分後

「……」


30分後

「で……できるかぁー!!!」


 富江はパラパラとアルバイト情報誌をめくりながらため息をつく。どれこれも、自分には向いていないものばかりだ。事務も、算数苦手だし、PCだってそこまで早いわけじゃないし、力仕事だって、倉庫の仕事だってできない。だいたい、私は女王として君臨する立場なのに、こんな庶民的な者が出来る筈がない。

「あの、お姉さん?」

 男の声に、富江は振り返る。

 そこには、スーツを着た男だ立っていた。男は、愛想笑いを浮かべながら富江を見ている。富江はまず男の顔がある程度合格点であることを知る。そしてすぐにそのスーツを値段を目である程度値踏みし、時計、靴と視線を移す。これにより、相手がある程度の鐘を持っているかを確認するわけだ。まあまあ……金融系、もしくはアパレル系の男であるようで、チャラチャラしてそうだが、金はありそうだ。

「なにかしら?」
「お姉さん、可愛いから……もしよければ、映画とか、どうかなと思って?」
「映画……ふーん、なかなか見る目があるようね。天性の私の魅力が輝くのは確かにスクリーンだけだろうけど。それに見合うような脚本なのかしら?」
「アハハハ、面白い、面白いね。ギャラはだすよ」
「幾ら?」
「そうだね、君のような魅力があるような子はそうそうしないから、主演で、100万円ってところでどうだい?」

 富江としては、プライドとしては舐めるなと、跳ねっかえしたかったが……。掴みかかったチャンス。ここで無下に断れば、貞子と伽椰子に何を言われるか分からない。ここは、自分の力を見せつけておくべきだろう。富江は、考えながら、作り笑顔を男にと向けた。

「それなら……」
「それじゃあ、早速お話だけでも聞いてもらっていいかな?」

 いきなり、別室……マンションなんかに連れて行かれた日には、大抵正気を保てなくなったバカな男にバラバラにされる。富江は、男の誘いに対して、足を止める。

「いきなり、部屋になんて強引な人。どうせならスタジオに直接、時間を決めて連れていって頂戴」
「用心深いね」
「これくらいの自己防衛は当然よ」
「わかった、ならこの時間にこの場所で」

 富江は約束を取り付けて、足を軽くしながら、家にと帰ってきた。

「すごい!!凄いです!富江さん!!」
「さすがは、富江さん……やっぱり、綺麗だから。女優なんてそんな簡単になれるもんじゃないですものね」

 案の定、富江には貞子と伽椰子から惜しみない称賛の嵐が降ってくる。富江は、そんな拍手喝さいを受けながらも、決して喜びはしない。

「私なら、当然よ。すぐに家を改築して貴方たちにも優雅な生活を送らせてあげるわ」

 これで自分は、この家にとって必要な存在であることをわからせることができた。まずは、この家のボスを自分であることを決定させる。富江の計画は、完璧である。後は、適当に話をはぐらかして、映画など出ずに、金銭だけを奪って降板。なんとも素晴らしい策略。ああ、神様……どうして、私はこうも頭がいいのでしょう。富江はそんなことを思い浮かべながら、自分をじーっと眺めている俊雄を見る。

「あら?貴方も私の偉大さに気がついた?」

 しゃがみ込み俊雄を見る富江。頭を撫でようとした富江の腕を大きく口を開けた俊雄が噛む。

「……」

 貞子と伽椰子が無言で富江を眺める。





【女優霊】


 映画撮影初日

 撮影は、古びた映画撮影所を借りて撮影を行うこととなった。撮影倉庫が、何個か立ち並ぶ場所でありながらも、どれも年季が入っており、外から見れば、古さが際立っている。タクシーで颯爽と現れた富江を待っていたのは、最初に声を駆けてきたチャラ男風の映画撮影の監督、そして真面目そうな共演者、ディレクター、カメラマン等の関係者、十数人だっただろうか。彼らをひきつれて、撮影を行うセットなどが置かれている倉庫の中にと足を踏み入れた。温かい日差しとは一転して、仲は冷たく、暗い場所となっていた。富江は、周りを見渡しながら、映画撮影場所を眺めている。監督は、そんな一同の方にと向き直る。

「では、みんな、これから撮影を行っていく。最初の台本はP12からいくぞ」
「「はい」」

 富江は、台本を手に取り、眺める。
 題名は『舞台霊』という名前で、あらすじとしては、とある舞台役者たちが、ある舞台公演前の練習中に次々と変死を遂げていくという話で、ありきたりなホラー映画ということだ。富江としては、こんな作った幽霊よりも実際によく会っているあの情けない幽霊しか思い浮かばない。

「富江さん、いきますよ?」
「はい」

 富江は、ため息をついて台本を閉じると、既にセットされている舞台にと上がる。

「では、シーン3から……アクション」

 監督の言葉で、撮影が開始される。
 富江は、既にセットされた学校の中という設定で作り出された舞台の上で、それはもういつもやっているように人を騙す演技力を如何なく発揮した。富江は、主役として、命を狙われる舞台の主演を演じる。

「一体、どうして……こんなことに」

 台詞を告げる富江の視界、カメラマンの隣に、白い服を着た女が立っていた。富江は、あんな女いただろうか?と思いながら、遅れてやってきたスタッフかと思いながら、演技を続けていく。富江は、無視をして演技を続けた。

「カット!」

 その言葉で、富江は、カメラチェックのために、監督たちとカメラマンの前にと歩いていく。

「いやあ、よかったよ。富江さん。さすがだ。僕の目に狂いはなかった。君の演技は自然でありながら、人を引き付ける力がある。魅力といってもいい。きっと君が本気を出せば、男女ともに虜に出来るだろう」
「ありがとうございます」

 富江は淡々と答えながら、カメラマンの撮影を行ったカメラを見る。そこには富江と共演者が、教室の部屋で、台詞を喋っている映像が映し出されている。だが、その教室のシーンは二人しかいないはずだというのに、教室のベランダに白い女がカメラを睨みつけるように映っている。

「な、なに、これ!?」
「おい!バカ、誰がこんな悪戯したんだよ?」

 カメラマンに怒鳴る監督。

「お、俺知らないですよ!おっかしいな、さっきはこんなの映ってなかったんだけどな」

 カメラマンは首をかしげながら映像を見る。富江は、そこに映っている女が、さっきカメラマンの隣に立っていた女であることに気がついた。富江は、額に汗をかく。証明しろと言われれば、難しいが……明らかに、生きている人間ではないだろう。そして、、これがいい幽霊であるとも思えない。

「まあいい、さっさと次とるぞ!」

 監督の言葉が倉庫に響く。
 富江は考える……このまま逃げ出すべきか、否か。

「でも、どうせ私は死なないし、しかも……こんなことで逃げたなんてあのバカ2人に言われたら何を言われるか分からないわね」

 富江は、自分の不老不死を利用にして降りようとはしなかった。
 彼女の絶対的なプライドがそうさせたわけだ。順次、撮影はその後は、何事もなく、撮り続けることが出来た。皆、先ほどのことは、ただのミス、何かの間違いであると割り切って撮影を続けて行った。富江は、何事もなく、荷物を背負って、明日また来ることを話しながら、倉庫を出た。既に外は暗くなっている。

「ふん、まあ、何事もなく終わりそうね。最初は驚いちゃったけど」
「本当にそう?」

 富江は、その言葉に背筋に冷たいものが走り、振り返った。
 そこには、倉庫の前に立つ白い女が立っていた。カメラに映り混んだ奴と同じだ。富江は、その女にと向き直る。

「あんたが誰かなんてどうでもいいのだけれど、私のお金の邪魔はしないでほしいわね」
「……もう、この場所にはくるな」

 女は富江の言葉など聞く耳持たず、そう告げる。

「冗談じゃないわ!私がなんで出ていかなきゃいけないのよ!私の歩く場所は、例え家であっても、潰して道にする。私が座りたければ、そこにビルがあろうが、潰してイスにする……私を誰だと思っているのかしら?」
「忠告はした」
「って、人の話を聞きなさい!!」

 女は既に、姿を消していた。


【今日1日の出来事を話してみましょう】


「というわけ……まったく、幽霊って奴は、そこら中にいるっていうことがよくわかったわ。本当に、生きている人間に迷惑かけるなっつーの。わかるでしょう??」

 そんな富江の話を聞いている幽霊2人組。

「で、でも、富江さん。あんまり幽霊を刺激するのは如何なものかと……」

 貞子が、富江を怯えながら見て言ってみる。富江が、貞子を見る。貞子は、オドオドしながら

「幽霊って基本的には、強い念で構成されているものですから。ほら、きっと、そこの撮影現場でなくなっちゃった人とか。そう言った方かもしれないですし。やっぱり、忠告されたのなら、そこは、行かないほうがいいのかなって思うんですけど」
「貞子」

 富江は肘をテーブルに乗せて頬ずえをしながら、視界に貞子を定める。その目つきに、幽霊のことを豪語していた貞子の表情が固まる。

「は、はい……」

 貞子の頬を両手で挟みこみ、顔を近づける富江。

「よくもまあ、そんなえらそうなことを言えるようになったものね?いい?私が、やるといったことはやるのよ!例え、そこに何があろうとも!それが、私、と……」

 ガブッ

 富江がゆっくりと後ろを見ると、自分のお尻に噛みついている俊雄の姿。

「ぬあああああああ!!!!!」

 大声を上げる富江。
 慌てて俊雄を引き離そうとする伽椰子。

「ちょ、ちょっと早く離しなさい、このクソガキッ!!」
「と、富江さん、そんな無理に離そうなんてしたら傷がっ!」
「ああ!!なんなのよ!こいつっ!!貞子、貞子のせいね!私を疎ましく想って、こんな小さな子供を調教して!!」
「ちょ、調教……ええ!?う、うちの俊雄を!?本当ですか?貞子さん」
「し、してません!してませんってばぁ!!」

 騒ぎが終わったのち、富江は明日も撮影が早いとすぐに寝てしまった。残された伽椰子と貞子。伽椰子は一階の和室にて、毛布にくるまりながら、眠っている富江を見ながら、こうして寝ている姿を見ているだけなら、本当にただの美少女だなと思いながら、笑みを浮かべて、和室の襖を閉める。

「それで……実際どうなのかしら?その撮影所の幽霊っていうのは」

 伽椰子の問いかけに、貞子は、うーんと考えながら

「おそらくは、その場所に強い怨念を持つ自縛霊か何かなのでしょうけど」
「私と同じっていうことね」
「ええ、まあ。自縛霊っていうのは、大抵強い怨念でその場にとどまっていることが多いので、危険な者が多いのです。富江さんはあーはいっていましたけど、心配ですね」
「対処できるの?」
「えーっと……幽霊同士なんで、話とかはできるかも知れませんけど、納得させられるかどうかまでは、実際に合ってみないことには」
「最悪、実力行使っていうことも……私は、家に入ってこないことには、力を使えないし」

 伽椰子はそういって貞子を笑顔で見つめる。貞子は、その伽椰子の笑顔に、『えっ!?』と気が抜けた声でつぶやくしかなかった。



【貞子】


 映画撮影二日目。

「おはようございます」

 倉庫に足を踏み入れた富江のあいさつの言葉に、周りの人たちが顔を向ける。その表情はどこか暗い。富江は、監督にと視線を向けた。監督は、富江からの視線を向けられると、顔をうつむかせながら口を開けた。

「カメラマンが、事故でなくなった」
「事故?随分、急な話ね」
「ああ、電車に跳ねられたそうだ。急に、ホームから落ちて……」

 監督の重い言葉に、富江はあのときの女の顔と、言葉が甦る。
『もう、この場所には来るな』
 冗談じゃない、あんな訳のわからない奴のために、金を無駄にはできない。それに自分が死ぬことはない。例え、どんなことをされようが、いや、するならかかってこい。富江は、逆にやる気が出てきた。こうなったら幽霊と勝負だという意気込みだ。

「監督、時間はありません。カメラマンさんのためにも、いい映画を作りましょう?」
「あ、ああ。そうだな、みんな!準備だ。映画撮影を再開するぞ!」

 富江に押されて監督は声を上げる。


「ああ、どうして……どうして、みんな死んでしまうの!」


 富江の声が、高らかに撮影所で聞こえる。
 共演者たちが、富江を眺め、監督の男は、富江の魅力に、目を光らせていた。カメラマンもまた、富江を撮りながら、彼女の魅力に震えていた。だが、そのカメラに白い女が映り込む。不思議に思ったカメラマンが、カメラから目を離して、実際の撮影状況を確かめるが、そこには富江しか映っていない。カメラマンが再度、カメラから様子を見てみる。すると、その白い女は、ゆっくりと自分のほうにと近づいてきている。

「な、なんなんだ!?」

 カメラマンは、再度、外を見るがやはり誰もいない。カメラマンがおそるおそるカメラを覗き込むと、そこにはカメラ前面に白い女の顔が映し出されている。

「ひいいいいいいい!!!!!」

 カメラマンの悲鳴に、周りの共演者たちやスタッフが視線を向ける。

「ど、どうした!!?」
「なんだ!?なにがあった!?」

 カメラマンにと集まる撮影スタッフ達。富江もまた、その集まる人だかりの外から様子を見る。そこには、カメラマンの死体が転がっている。なぜ死んでいるかわかるか。それは、彼の顔が醜く歪んでいたからに他ならない。まるで、化け物にでもあったかのように。

「忠告はした」

 富江は振り返り声の主を捜す。

「はやく、早く救急車を!後、警察も!!」

 監督の声とともに、周りがざわめきだす。

「だ、ダメです!!電話が通じない!」
「なんだって、そんなバカな話があるか!」
「携帯も通じないぞ!」
「ど、どうなってんだ!」

 富江は、大きくため息をついた。どうやら、閉じ込められたらしい。時計を見れば、まだ午前中だ。不審に思って警察が来るとしても、まだ時間はかかるだろう。それに、そこまでの猶予をあの幽霊が、優しく残してくれるとは思えない。富江は、倉庫の出入り口で、扉を叩きながら、助けを求める者たちを眺めながら、そう考えた。

「いや、いやああ!!誰か、誰か助けてぇ!!」

 悲鳴を上げながら、頭を抑えてうずくまる共演者の女。舞台の上で、そう叫ぶ女。すると、なんの前触れもなく天井の機材が落ちてきた。女は顔を上げて、迫りくる機材を見て声を上げることもなく潰される。機材が舞台に落下した音が、響き渡る。

「きゃああああああ!!!」
「な、なんだ!?一体どうしたんだ!!」

「2人目」

 富江は、冷静に、そして淡々と答えた。

「言ったでしょう?忠告はしたと」

 富江の前にと立つ白い女。
 富江は顔をあげて、その白い女を見る。

「好きにしなさい、ここにいる撮影スタッフを皆殺しにしたところで、私は一向に構わないし、貴方ごときじゃ、私は殺せないわ」
「そう……なら、遠慮なく」

 白い女は、そういうと、後ろで騒いでいるディレクターの一人を見ると、手を伸ばして遠くから彼の身体をその手の中にと収めて手を強く握る。すると、男の体は目の前でまるで何か強い力で潰されるかのように赤い血肉を飛び散らせる。白い女は、その手を今度は富江にと向ける。だが、富江は動じない。冷たい笑みを向けるだけだ。

「貴方、本当に綺麗ね」
「幽霊にまで褒められるなんて嬉しい限りだわ」
「……だから、許せない」

 白い女は、その眼を大きくして、富江を睨みつける。

「綺麗な女ばかり優遇されて、怪我をしたものならすぐに干されて、そこには愛も何もない。私を見捨てた奴ら……みんな、みんな呪ってやる」
「見苦しいわね」

 そんな女に対して富江は一歩も引かずに告げる。

「男に媚びて、捨てられた。ただそれだけじゃない?愛なんて所詮は一時の感情の迷い、その先にある性欲のための言葉遊びにすぎないわ。それを、死んでからも尚、引きずって、ああ、馬鹿馬鹿しい。女の嫉妬ほど見ていて滑稽かつ、愚かな者はないわ」
「貴様……」
「あら?どうするの?私を殺す?八つ裂きにでもしてみる?なんだったら、顔を切り裂いてみる?」
「燃やしてやる」
「え?」

 女の言葉に、富江は思わず聞き返す。

「あんたが、再生出来ることを知らないとでも思った?燃やしてやれば、その身体を灰にしてやれば再生なんかできない。いや、それよりも、あんたの体を乗っ取ってやった方がいいかもしれない」

 富江は、その言葉に、苦笑いを浮かべ立ち上がると、その幽霊から距離をとる。

「いえ、決して別に、まったくもってびびっているとか、そんなこと思ってはいないけれども、ほら、トイレ、そう!トイレに行こうと思ったから、離れただけなんだからね!決して、怖いとはそんなこと思ったりなんか」

 そういう富江の身体が止まる。
 富江が身体を動かそうとするが、全身を見えない縄で縛られたように、指一本動かすことが出来ない。そんな富江の前にと近づいてくる女。その女は、富江の周りを見渡しながら、笑みを浮かべた。その笑みは、耳元まで裂け、口の中は闇のように暗い。女は、そのまま、富江の身体の中に手を入れる。

「んぐっ!!」
「貴方の身体、乗っ取ってあげる。私が、貴女の代わりに立派な女優になってあげるわ。うふふふふ、あはははははははははは」

 富江は、初めて恐怖に怯えた。
 自分は死なない、そう思っていた富江にとって、魂を、身体を奪われることの恐怖はいまだかつて感じたことがないものであった。富江は、震えながらも抵抗が出来ない。富江は、目を見開きながら、心の底から思った。

……助けて。

誰でもいい。
焼かれるのも、切られるのもいい。
だけど、こんなの……いやだ!誰か、助けて!!!

「富江さん!!」

 富江の体に侵入しようとする女を体当たりして弾き飛ばす影。富江は全身の金縛りが解けて、その場で膝を落として倒れてしまう。そんな富江の前にと立つのは貞子だ。貞子は、白い服に、長い髪の毛を靡かせながら、手を大きく広げて、富江の前に立っている。体当たりされて、倒れていた女が顔を上あげる。

「邪魔をするのか?同じ幽霊の癖に」
「彼女は、私の大切な方です……。この場所が貴方にとって大切な場所でしたなら謝ります。だから、見逃してもらえないでしょうか?」

 貞子の問いかけに、女は、立ち上がると、富江に手を向けて握りしめる。すると、富江の首に女の手の形がはっきりと移り、富江の首を締めあげていく。富江は苦しみにもがきながら、首を抑えるが、女は笑みを浮かべて攻撃を続ける。

「や、やめてください!!お願いします!!」

 貞子は、女に対して、涙を浮かべながら何度も懇願する。富江の表情はみるみる青くなっていく。貞子は、女にと駆けより、そのまま縋りつきながら、必死に懇願した。

「お願いします!お願いします!!やめてください、お願いですから、やめてください!!」

 女は、そんな貞子を足蹴にして、富江の首を折る。
 富江の身体が、力なくそのまま、崩れ落ちた。それは、周りで逃げ道を捜そうとしていた映画スタッフ達も気がついた。

「と、富江さん!?」
「きゃああああああ!!!」

 悲鳴が上がる中、貞子は、崩れ落ちて力なく横たわる富江を視界にと焼きつける。

「あははははははは、ざまあーないわ!私をバカにする奴はみんな死んでしまえばいいわ。あいつ、こいつも、みんな、みんな死ね!私をバカにして、みんな死ねぇええええ!!!」

 女は高らかに笑いながら、富江に集まるものたちにと手を伸ばして同じように殺そうとする。そうしようとした女だったが、その手首を掴まれた。女は、その掴んだ先にと視線を移した。そこには、前髪を垂らし、表情をがつかめないが、それは、先ほど自分に縋りついてきた幽霊であることがわかる。

「邪魔をするな」

 そういって、振りほどこうとする女だったが、貞子に掴まれた腕は、まったく動かせないほど強く握られている。女が貞子の力に驚いている中、前髪の隙間から大きく見開かれた目が見えた。女は、それを見て幽霊であるというのに、直観的にそれがやばいものであることを悟った。

「貴様は、私の逆鱗に触れた」

 先ほどとは違う口調。
 目の前、貞子の足が、女の顔にとぶつかる。女はその衝撃で弾き飛ばされ、映画のセット道具にとぶつかり、転がり込む。貞子の蹴りは見えなかった、いきなり人が変わったかのような力。女は、なんとか立ち上がる、すると、貞子がこちら目掛けて走ってくる。女は、慌てて、その場から転がるようにして離れた。貞子は、飛び上がり、先ほど女がいた場所にと蹴りをくらわす。激しい音とともに、女が先ほど自分がいた場所を見れば、そこは地面がへこんでおり、機材が砕け散っている。

「なんなんだ!なんなんだよっ!?お前は!!」

 女は立ち上がり、貞子に怒鳴る。
 貞子は、瓦礫の煙の中ら姿を現す。前髪は、地面の床につくのではないかというほどに垂れ下がり、白い肌が露出したその姿。貞子は、片手を上げるとその手に力を溜めこんでいく。腕に血管が浮かび上がり、そして、女の腕とは思えないほどの筋肉が産まれ、その腕を太くする。それは指の一つ一つまでも浸透し、明らかに肉体的な変質が行われている、異様な音が響いている。

「ヤバイ、やばい………」

 足を一歩強く踏み出して、その強化された腕を前にと突きだしてくる貞子。その速度に、女は、何も動けず、身を守るように手をクロスさせて、防御にと努める。

「!?」

 女は、暫くしても襲ってこない衝撃に顔をあげた。
 その女の目の前、前髪を垂らした隙間から貞子の眼が見開かれ、女を覗き込んでいる。その至近距離で見た貞子の目に、女は、息をのむ。

「消え失せろ」

 貞子は、その強化された腕を女の身体に無理矢理、突き入れると、彼女の中から、光る物を取り出した。女は目を見開き撮り取り出されたものを見る。

「そ、それは……私の、私の魂!!?」

 貞子は、それをその手で握りつぶす。

「あっ……あああ!!!な、なんてことするのよぉ!!!そんなことしたら、私、私ひぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!」

 目の前で、女はそのまま消えていく。
 絶叫を上げながら、彼女の姿は消え去った。残ったのは、悲鳴の残響のみ。貞子は、前髪を垂らしながら、その視線を、首が折れてしまった富江にと向ける。富江にとゆっくりと近づいていく貞子。

「死んだふりか?」

 貞子の問いかけに、富江は目を開けて貞子を見る。

「五月蠅いわね、実際首が折れて死にかけたわ。私が不死でよかったわね。だ、だいたい、あんた誰よ!?いつもの気弱な貞子はどうしたのよ!!」
「……誰のせいで、こうなったのか少しは反省するがいい」


 そういって貞子は、富江から離れて帰ろうとする。富江にしては、その貞子が、今まで話をしていた気弱な貞子とは似ても似つかないと感じていた。そういえば、貞子と呼ばれる存在は、かつては、普通の少女であったが、彼女のひと際強い霊感と、彼女の美貌に嫉妬した周りからの憎悪などを感じ取って、その軋轢に耐えるために貞子がもう一人の貞子を作り上げたとか、そんな話を噂で聞いたことがある。ということは、あれは……そのもう一人の貞子ということか。貞子は歩きながら、その場所から帰ろうとした際、貞子の手を掴まれた。貞子が視線を向けると、それはあの映画監督である。

「き、君っ!!ありがとう!助かったよ!!」

 貞子は、自分の身体を見る。
 どうやら本気を出したため実体化してしまったらしい。貞子にと駆け寄る映画スタッフ達。富江を看病していたものたちも纏めて貞子にと駆け寄っていく。監督は、貞子の手を握りながら

「君は命の恩人だ!どうか、顔を見せてはくれないだろうか?」
「え……わ、私は」

 そういって、貞子は前髪をあげる。
 そこには、美人な少女の姿があった。その顔を見て再度、映画スタッフから歓声が上がる。

「君!どうだい!?映画なんかにでてみては!?」
「え、わ、私そういうのはちょっと……」
「なら、歌だ!そうだ、歌なら別に恥ずかしがりらなくても大丈夫だ!!」
「う、歌ですか?でも……」
「大丈夫!君ならきっとスターになれるよ!」

 そんな勝手な話が上がっていくのを聞きながら、富江は首を抑えながら、立ち上がる。

「ちょ、ちょっと!!私主演の映画はどうなるのよ!!」

 富江がそう叫ぶ中、貞子を連れた映画スタッフたちは、解放された扉から皆、出ていく。富江は追いかけようにも頭を抑えながら走るために、追いつけず、彼女たちは出て行ってしまった。

「待ちなさい!待ちなさいって言ってるでしょう!!私は未来の名女優よ!そう、きっと主演女優賞をとる女!日本だけじゃない、世界中で称賛されるようになるわ。みんなが私を見てくれるって、ねぇ!?聞いてるの?あのー聞いてますか、え、ああ……ちょっと!無視?私を無視するっていうの!?覚えておきなさい!!絶対に許さないんだから!もう映画なんか出てやらないわよ!!本当に無視!?富江~、そういうの寂しいな……って!!聞きなさいって言ってるでしょう!!このバカぁああああああ!!!!」


彼女を照らす太陽の日差しは、貞子が外にと出ていく中、閉ざされた。


【国民的アイドル】


 事件終結後1週間

 富江はソファーに寝転びながらテレビを眺めていた。今、富江は、その美貌を武器にして、様々な男を転々としながら詐欺まがいなことをして金銭的に儲けてはいたが、いつ八つ裂きにされるかわからず、派手な行為をできないでいた。それに、首に巻きついてある骨を固定するためのギブスが目立ち、男も近寄ってこない。そんな富江を労わるかのように、食事等を世話する伽椰子。富江は、テレビのチャンネルを変えながらため息をつく。

 貞子。

 あの幽霊を肉体言語で瞬殺した力。驚くべき身体能力……日頃、あんなポカーンとしたバカ女とは思えない。あれだけの力を持った奴ならば、生きた人間を呪い殺すことなど造作もないだろう。とはいえ、あの力を利用するには、まずコントロールできるようにならなければいけないわけだ。

「面倒な話ね。どうにかできないものかしら」
「富江さん、そろそろ始まるわよ」

 そういってチャンネルを変える伽椰子。

「え?」

 チャンネルを変えられたテレビを眺める富江。
 テレビに映し出されたのは、しがない司会者。そして、彼は安いスーツを着込みながら、マイクを握っている。

「さあ!今週のCDヒットチャート、初登場1位!この快進撃、どこまで続くんでしょうか。初の生ライブとなります!歌っていただきましょう。SDK only 1で、『井戸の底から…会いたかった』です、どうぞ~~」

 観客の歓声が上がる中、姿を見せる白い相変わらずの服に身を纏いながら、長い髪を縛って、その美少女の顔を皆に見せる貞子、彼女は恥ずかしそうに、頬を染めながら、マイクを握った。

「会いた……」


 テレビを消す富江。











[32972] 第3話 富江様が、ストーカーに狙われたそうです。
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2012/09/26 23:44

※ギャグ成分少なめ?グロ成分有









夜中のテレビに光がつく。
テレビは砂嵐が起こりながら、ただ輝きだけを暗い部屋にと落としている。そのテレビにまるで吸いこまれるように眺めている男が一人。その眼にも砂嵐が反射されている。時計の音だけがただその部屋を支配している。秒針が時を刻む中、テレビ画面が砂嵐から、ある風景にと映し出される。

それは、どこかもわからない森林
そして、そのテレビ画面の真ん中には、井戸が映し出されていた。

不安定な画像は、時たま、画面がぶれる。
そんな中、何も変わらない映像であったその映像に変化が訪れる。
長い髪が、井戸に映し出されると、そのまま手がかかり、影が姿を現す。

それは、やがて、井戸からはい出ると、そのまま白い衣服で立ち上がり、テレビ画面にと向かってくる。そのまま、ゆっくりとテレビにと向かってくるもの。

男は、テレビから距離をとる。
やがてテレビ画面いっぱいにうつった、それはテレビ画面の枠にと手をかけてその姿を晒し出す。前髪を垂らした、その女は、前髪の隙間から、男をその眼に定める。


「……では、聞いてください。デビュー曲!井戸の底から……会いたかった!!」
「うおおおおおおお!!!!!」





富江様が、呪いの家で、呪いのビデオを見てみました。


第3話 富江様が、ストーカーに狙われたそうです。






【残暑、吹き飛ばしましょう!】



 都内某レストランにて……。

「はあ……なんか、私、あの家に行ってから急速に運がなくなっている気がすんのよね」

 テレビでは、今大人気の、貞子の歌が流れている中、昼食を食べている富江。富江は、テーブルを挟んで反対側にいる鏡写しのようにそっくりな、もう一人の富江を見る。彼女は私服姿の富江とは異なりOLのスーツを身に纏っている。服装は違くても顔や体型は瓜二つの二人に、周りからの視線が突き刺さるが、そんなことに二人は慣れているのか、無視をしている。

「それで、なんで、私に愚痴をいってるのよ?」

 OL姿の富江は、富江の顔を見ることなく、告げる。

「どうして、同じ富江でしょ?私がバカにされているってことは、あんたもバカにされているってことなのよ!!」
「知らないわよ、他の富江なんて……、だいたい、私は私にしか興味がないの。みんな、他の富江は殺し合いをしているのに、あんたはよくまあ、他の富江に会おうと思うわね?」
「フフフ……それは、私に強力なボディーガードがいるから」

 肘をついて、食事をするもう一人の富江を見つめる、富江。OL姿の富江は、食事の手を止めて、自信満々の富江を見ると、再度食事をとりながら

「自分のドヤ顔を見てご飯食べるほど、まずいものはないわね」
「まあまあ、私にはそれだけの余裕と自信があるのよ」
「ふーん……ま、どうでもいいけど。そうだ、折角だから、私の仕事場の男、紹介してあげようか?」
「マジで!?」
「マジで」

 富江は顔を見合わせて、告げる。
 富江としては、ここ最近、すっかり男不足で、気持ちが萎えかけていたところでの申し出に、藁をもすがる気持ちで、富江の提案に同意する。

「それで、なんで着替える訳?」
「あんたを双子の妹です。出来た妹でしょ??なんて紹介をしている間に、二人して切り刻まれたら、たまらないでしょ。絶世の美女の双子なんて、そうそうないシチュだし……」

 そういって二人でトイレにて服を入れ替える。着替え終え、トイレの前の鏡に並べ、先ほど話をしていたOL富江がそこには写っている。

「それじゃあ、せいぜい楽しんで」

 そういって富江は自分の服を着てそのまま、立ち去って行く。OL服にと着替えた富江は、拳を握りしめる。

「今まで溜めこんだ分!今日は男を、誘惑して誘惑して取り込んでやるわ。そうね、お金も出させなきゃ……あ~後は、後は」


 その日の夜……。


「ただいま」
「お帰り、ごはん食べます?」

 家にと戻ってきた富江を、伽椰子が出迎える。富江は、荷物を玄関に投げ捨てると、靴を脱いで、伽椰子を見る。

「後で食べるわ。先にお風呂入る」
「あら?なにかあったの?」
「……爺ばかりの職場押しつけやがって……」

 富江は、舌打ちをすると、そのまま自室である二階にと昇っていく。伽椰子はそんな富江の言葉を疑問に思いながら、食事の用意をするために、リビングにと戻っていく。富江は、自室である二階にと戻ると、もらったOLの服を脱ぎながら、下着姿にとなった。大きく息を吐きながら、ベットにと倒れる。

「つまんないなぁ……、なんか、もっとこうスリルのあることないかな」

 富江は、そんなことをつぶやきながら、等身台の鏡を見る。そこに映る自分の姿。自分の姿であり、この姿は他人の姿でもある。この自分の体には無数の富江の卵であり、分裂と再生、挙句、増殖のために、常にこの身体を、富江の細胞が蠢いている。

「ふぅ、考えたらイヤになるわ」

 そんな富江が考えている中、携帯が鳴る。富江は、身体を起こし、携帯を見る。それは非通知になっている。富江は、おそれることもなく、携帯にでた。

「はい、もしもし」
『富江!?私、富江……今日あった富江なんだけど』
「あ、あんた!酷い職場押し付けてくれたわね!?いつから私の趣味はあんな爺になったのよ!」
『そんなことはどうでもいいの!助けて!助けてよ!』
「はあ?何言ってんの。大方、そこら辺の男ナンパしてまた、バラバラにされそうになっているだけでしょ?富江の定めよ、受け入れなさい。大丈夫。すぐ生き返るから」
『違う!違うの!あいつはそんなんじゃない!!』
「あいつ?」
『あ、ああ……来た、あいつだ!た、助けっ、たすけ……』

 そこで公衆電話の音が途切れる。
 富江は、携帯から、耳を離して、携帯を見る。どうやら富江が誰かに襲われていることはわかった。だが、富江は襲われる運命。今更、誰に襲われているかなんか、どうだっていいし、興味もないわけだけど。今の電話は、いたずら電話?それとも。そんなことを考えていた富江だったが、携帯から音が聞こえてくる。

「なに?」

 ガリガリと響く音。
 富江は、よくわからず、携帯に耳をあてる。

『……リ……ガッ……ガリ……リ……ガ……』

 なんだかよくわからない音が響いている。富江は、耳を澄ましてよく聞こうとした。


『ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ』


 その急に響く音に驚いた富江は、携帯を投げ捨てる。

「だああああ!!!び、びっくしたぁ!ふざけんじゃないわよ!!お化けとかそういうのは、こっちで十分事足りてるわ!!!」

 富江は、携帯を投げ捨てて、大きく息を吐きながら叫ぶ。その富江の悲鳴に驚いたのか、階段を上ってくる音。

「と、富江さん!?大丈夫?凄い音がしたけど?」
「伽椰子、へ、平気よ。携帯が鳴っただけだから」

 富江は携帯を指差して告げる。伽椰子は携帯を見ながら、その携帯にと手を伸ばした。


『次はお前だ』


 その言葉が聞こえて、携帯は切れた。
 伽椰子が、富江のほうを見る。富江は、背筋に冷たいものが走ったのを感じながらも、笑みを浮かべる。私は負けない、負けるはずがないのだ。



【座敷女 其の1】



『今日、深夜0:20分頃、東京都練馬区練馬の、公衆電話付近で火事がありました。火は、20分ほどで消されましたが、この火事で、身元不明の遺体が発見されており、警視庁は、放火殺人事件として、殺害された遺体から身柄の特定と、犯人の捜査を行っております』

 翌朝、テレビニュースが流れる中、伽椰子は、富江に朝食を用意する。富江はニュースを見ながらコービーを口につけた。

「昨日のことだけど、富江さん……何かあったんじゃないの?」
「私のような人気者には、いい噂も、悪い噂も絶えないのよ!」
「……でも、昨日の電話。何か嫌な予感がしたわ」
「幽霊とかなの?」
「幽霊とは言い難いけれど、でも人間とも言い難いわ」
「はっきりしないのね」

 富江は、コーヒーを飲み燃えると、立ち上がり、清楚な服を身に纏いながら、ハンドバックを肩にぶら下げる。

「行ってくるわ。戻りは……わからないから連絡するわね」
「ええ、いってらっしゃい」

 伽椰子は、不安そうにいいながら、富江を見送る。伽椰子は、もう一度、ニュースを見ながら、ニュースの内容を確認する。そんな中、伽椰子は、天井を見る。そこには、彼女の息子の俊雄が張り付いて眠っている。

「俊雄。少し、様子を見てきてほしいの」
「にゃあ?」
「大丈夫、何かあったらすぐに戻ってきなさい」
「にゃあ」

 深くうなずいた俊雄は、そのまま、天井を走りながら、富江を追いかける。
 
 富江は、駅にと向かいながら、歩いていく。富江自身、昨日の事件が気になっていないわけじゃない。だからといって、自分は安全だと言う絶対的な自信が、彼女の危機感を甘くしているのは事実だ。実際、富江は、朝とうこともあり、幽霊的な者が、襲うことをまったく考えていなかった。富江は、公園を通り抜けていく。この公園を通り抜ければ、もうすぐそこが駅だからである。

「……」

 そんな富江の視界に入りこんでくるもの。
 それは、公園の道の端に置かれているベンチに座っている女の姿。ただの女ではない。買い物の紙袋を、ベンチ匂いているこの女、髪の毛が長く、コートを着ているが、まず、その身長。座っているのに、立って歩いている富江の背丈ほどまである。立てば、自分の身長をゆうに超えてくることは明らかだ。

「……」

 富江は、咄嗟に、こいつはヤバイとわかった。どれだけヤバイのかは判別がつかないが、こいつはヤバイ。富江は、足を止めてしまう。これ以上進むことを富江の本能が拒否していた。紙袋を持つ女の首が、富江を見た。長い髪の毛の隙間から細長く、青白い顔が見える。

「みーつけた」

 その女は、富江を見て、白い歯を見せる。
 富江は、その女を見ながら、拳を握りしめる。

「待ちなさい!私は、あんたと関係ないわ。何か気に障ったことがあるのだったら、仕方がないから、この富様が謝ってあげるわ。だからこれ以上、私にかかわらないで頂戴。あいにく、女性にはまったく興味がないのよ!本当に」
「……ねぇ、この間、私の彼、貴方……奪ったでしょう?」
「はあ!?知らないわよ、そんな……」

 そこで富江は、もう一人の富江の存在を思い出す。昨日焼かれた富江、彼女は、自分と、立場を入れ替えてくれといった。それは、あの職場から逃げることではなく、この化け物女から逃げることだったとすれば。

「やっぱり、今後、他の富江とはかかわらないわ」

 富江はひとりつぶやきながら

「あれが、私の、数百いる双子の姉妹といっても、きっと信じてもらえないわよね~~」

 ベンチから立ち上がるその女。立ち上がれば、やはり、その身長、そしてガタイは並みの女ではない。いや、男だってこんな化け物みたいな奴は存在しないだろう。

「お、落ちつきなさい」
「私の彼を返して頂戴。いるんでしょう?貴方の家に……ねぇぇええええええ」

 富江は、これ以上の会話は無駄だと判断して、踵を返すと、全力で走りだす。後ろを振り向けば、両腕を振り上げ、膝を上げながら猛スピードで走ってくる化け物女の姿。

「あ、あんたはアスリートかぁあああ!!!」

 そんな突っ込みの悲鳴をあげながら、富江は、自分の家に戻っていくが、相手は早い、腕が富江の服を掴んだ。

「いやあああああああ!!!」

 そんなとき、猫の声が聞こえる。

「きゃああ!!!」

 野太い声が響く中、振り返ると、そこには俊雄が、その巨大な化け物女の顔に飛びかかり、爪でひっかいている、もうどう見ても某妖怪の猫●である。

「邪魔をしないで!女の子の顔を傷つけようなんて最低よ!」
「女の顔っていう顔じゃないわよ!あんたみたいな化け物は!」
「バカにしてぇ……」

 俊雄は、そのまま、その化け物女に、襟を掴まれると、投げ捨てられる。自分のほうに飛んできた俊雄をキャッチすると、再度、富江は怯んだ化け物女を後ろにして走り出す。

「ま、まちなさいいいいいいいいい!!!」

 待てと言われて待つ奴がいるか!そう思いながら走り続ける富江は、その視界に、慣れ親しんだ、我が家を見る。もう少し、もう少しだ。すると、家の前に貞子の姿。

「貞子!!後ろ、後ろっ!!!」

 私の声が聞こえたのだろうか、振り返った貞子。私は、家の前で立ち止まると、貞子の肩を掴み、涙目になりながら、貞子を見る。

「助けて!貞子、私、私!!」

 声にならない声を上げて、私は後ろを指差した。

「あ、あの富江さん?」
「なによ!はやく、あいつを!あいつを、あんたのこの間の奴でボコボコにしちゃいなさいよ!」
「だから、富江さん……誰をボコボコにすればいいんですか?」
「誰を!?誰ってあの髪の毛の長い、でかい女よ!」

 そういって富江は振り返るとそこには誰もいない。富江は、周りを見渡しながら、先ほどまでいた化け物女を探す。

「さ、さっきまでいたのよ!すぐ私の隣まで迫ってきて!ね、ねぇ?俊雄?」
「にゃあ、にゃあ」

 貞子は、俊雄の言葉を聞きながら、再度顔をあげて、富江がやってきた後ろの道を見る。その真剣な表情を見ながら、富江は、貞子の言葉を待つ。貞子はその真剣な表情のまま、富江を見た。富江は息を呑み、貞子の次の言葉を待つ。

「……気のせいじゃないですか?」

 肩を震わした富江は、その両手を貞子の首に当てる。

「しねぇ!この成り上がり女っ!!少し金稼いで、男にイチャイチャされて!あんたなんか死んでしまえばいいのよ!!」
「いやあああ~~と、富江さん!私、私もう死んでますからぁ!!」

 そんなことをしている富江のお尻に、俊雄が大きく口をあける。

 さらなる悲鳴が、家の前に響き渡った。



【対決】


「……家の防備は完璧ね?伽椰子」
「ええ、この家は私の念で覆っているから、何か異変があればすくにわかるようになっているわ。屋根であろうが、床下だろうが大丈夫よ」
「オッケー。次、貞子。各部屋の状況は?」
「は、はい。各部屋、屋根裏も含めて、私の分身を配備しています。万が一、伽椰子さんの防御が突破された場合は、この分身の私が対処します」
「フ、フフフフ……なーに、完璧じゃない。これこそ、私がとるべき完全無敵の包囲網。誰だってこれを防ぐことなど無理無理無理っ!!」

「富江さん、キャラが……」
「コホン……」

 咳払いをした富江は、改めて二人を見る。

「というわけで、私の大切な友人たちを守るために、私がこの完璧なまでの防御策を作り上げたわ。みんなで一致団結して頑張りましょう?」
「あ、でも、私これから取材がはい……ぶふっ!」

 貞子の襟首を掴む富江。

「あ~~、貞子さんったら、そんな仕事があるにもかかわらず、私のために、いえ、この家のために力を貸してくれるなんて、嬉しいわ。とっても……」

 そんなやり取りの中、チャイムが鳴る。
 富江は玄関のほうにと顔を向ける。貞子と伽椰子も同じくだ。

「どう伽椰子?何か感じる?」
「よくわかりません。霊とは違うような感じですけど、人間としての姿形はしているみたいですし、でも、なんだか得体の知れないものですね」
「こうなったら、家に招き入れて、呪いで一発で仕留めたほうがいいかしら」

 富江は、伽椰子に問いかける。
 そんな話をしている間にもチャイムが鳴る。それは徐々に早くなり、そして最終的には、部屋中に響き渡るようなチャイムが鳴り響き始める。連打されるチェイムに、伽椰子は、受話器を取る。

「貴方!誰ですか!?私達の家の生活を邪魔するのなら、実力行使にでますよ!」
『あの女をだしなさい。だせ、だせだせだせだせだせだせぇえええええええええ!!!』

 インターホンがそれで切れると同時に、玄関から音が聞こえる。玄関を叩きつける音だ。貞子は、立ち上がると同時に腕をまくる。その光景を見て、富江は期待に胸を膨らませる。それは、以前、幽霊を撃退した時に出した、貞子の力。彼女は井戸を毎回上っている為に、その腕と足に筋肉がついており、それは、並大抵の人間の運動能力をはるかに超えているのだ。

「私が一発、ドカーンっていってやりますから!」

 貞子は、そういって玄関の前にと立つと、その玄関の扉を開ける。

「あんた!いい加減にしなさっ……」

 そう言おうとした直後、玄関の扉が吹っ飛ぶ。玄関の扉が、まるでダンボールかのように簡単にはじけ飛び、廊下にと落ちるドア。その様子を見て口を開ける富江と、伽椰子。

「ちょ、ちょっと!?こ、この話はいつから、世紀末覇者の話になったのよ?」
「富江さん、とにかくどこかに隠れてください。この家に入った以上、私の領域【テリトリー】です。私の力を使って、侵入者を叩きのめします」

 富江は頷いて、そのままリビングの隣にある和室にと逃げ込んでいく。
 伽椰子は、富江を逃がすと、玄関にと入ってくるその身長のでかい女を見た。その大きさは、天井に頭がつきそうなほど。伽椰子は、その髪の毛の長い女を睨みつけると、その顔色を一気に青ざめさせていく。血の気が引くように、色が薄くなると、彼女は、そのまま、崩れ落ち、四つん這いになりながら、その女にと這い寄っていく。

「邪魔をしないでええええ!!」

 大声をあげながら、廊下を走ってくる女。伽椰子はその相手の走ってくる速度に、蹴り飛ばされ、リビングの壁に叩きつけられる。

「あっ……ああああ……ああ……ああ」

 低い声をだしながら、伽椰子は、その長い髪の毛を、女の首にと巻きつける。女は、その首に巻きついた髪の毛を振りほどこうとするが、しっかりとしまっておりほどけない。その髪の毛を両手で掴むと、その手の平が髪の毛によって切れ、血がにじむ。伽椰子の髪の毛はピアノ線並みの強度を持っているのだ。そう簡単には、とれない。

「ううっ……ああああああああああ!!!!」

 女は、苦痛に涙を流しながら、締め付けられた首を大きく振るう。すると、伽椰子の体は、宙を舞い、再度、壁にと叩きつけられる。伽椰子にとってはこれは、まったくもって意外な展開だ。というよりも、この女は一体なんなのだろうか!?

「あ……あああ……」

 伽椰子の体は何度も何度も、壁にと叩きつけられてしまう。

「うわああああああああ!!!」

 とうとう、女はそのまま、逆に伽椰子の髪の毛を引っ張り自分の元にと引き寄せようとする。捕まれば何をされるかわからない。そんな時、天井から落ちてきた俊雄が、伽椰子の髪の毛を歯で噛み切った。

「ゴホゴホ……ゴホ」

 咳き込みながら、顔を上げるその女は、口から唾液を零し、涙を流しながら、大きく息を吐いている。伽椰子は、壁に叩きつけられたダメージで、身動きが取れないでいた。

「と、富江さん……に、逃げて」

 伽椰子は、和室に隠れているであろう富江を見ながら、声を上げる。
 その巨大な女は、和室にと足を踏み入れるが、そこには誰もいない。

「どこにいったの?隠れていないで出てきなさい」

 女はそういいながら、和室に設置されている襖を開ける。すると、そこには、布団が入っている。女はそんな布団を全部外に出して、隠れているかを探るが、そこには誰も入ってはいない。女は、細長い顔をと鋭い目つきを向けながら、和室の中を見る。そんな広い部屋ではない。隠れる場所などないはずだ。

「おかしいわねぇ」

 富江は、その襖の布団が置いてある屋根の裏にいた。息を殺しながら、女が現れた時には心臓が止まるかと思った。

「そんな……伽椰子も貞子もやられるなんて。私じゃあんな化け物女倒せないわ。だいたい、これホラーものでしょ。それで私、そのホラーもののヒロインなのよ?こんな殴り合いみたいな、展開望んでないわ!需要もないわ!」

 そんな富江が愚痴を吐いていると、ドンと、音が鳴る。富江は、その音のほうにと振り返ると、そこには、屋根裏を開けた女の顔が映る。身長が高いことを生かし、屋根裏を顔で突き破ったのだ。

「いやあああああああ!!!」

 富江は悲鳴をあげるが、女はそのまま、顔を半分出した状態で、富江にと近づいてくる。屋根裏を破壊しながら、顔をで突き進む女。その目は笑っている。

「彼を、彼を、返してぇ~~~~~」
「しらない!私、知らないわよっ!!」

 富江は、後ずさりながら、追い詰められていく。後ろには柱。富江はこれ以上下がれない。汗をかき、涙を流しながら、富江の目の前には、顔を半分以上出した女の顔が映る。

「私を殺したって無意味よ!何度だって甦るんだから!そうよ!だ、だから怖くなんかないわ」
「そう?なら、何度も殺してあげる、泥棒猫は、許さないんだからああああああ!!」

 そういってこっちにと近づいてきた女の顔。富江は、近づいてくる女の顔に、恐怖で体固まってしまって動けない。



「「……」」



 それは偶然か、女と富江の口が重なった。

「うげええええ!!!い、イヤだわ。こんな泥棒猫とキスするなんてっ!」

 女は顔を離して、ペッペッとつばを吐く。富江は、呆然としたまま、恐怖で体が動かなかったが、徐々に意識を取り戻していく。目の前では自分とキスした女が嫌そうな顔をしている。富江は、怯えていた表情から、クスクスと笑いだす。ひきつった笑みで、女を見た富江。

「何がおかしいの?」

 女の言葉に、富江は、笑みを浮かべたまま女を見る。

「私の能力は、自己再生・自己増殖・自己進化……あ、それは別の奴ね。えーっと、再生・増殖・分裂……そして寄生。今、私の体液を貴方は微々だけど摂取したわ」
「ど、どういうことよ!?」
「貴方の体に私の卵が産みつけられたということよ。貴方は、望もうと望むまいと、私になる。そう、貴方も私になるのよ!!」
「そんなことないわ!そんなことないいいい!!」

 そういうと、女は顔を引っ込めて、足音を響かせながら、家から出ていった。富江は、緊張の糸が切れたのか、そのまま、気を失ってしまう。


「……みえ」

「……さん」

「……富江さん!!」


 富江は、目を開ける。
 視界に入ってきたのは、泣きじゃくる貞子と伽椰子の二人だ。富江は身を起こし、周りを見渡す。自分は和室で、寝かされていたようだった。起きた富江を見て抱きつく貞子。

「よかった、富江さん、死んじゃったかとおもって!私っ!私ぃ!」

 涙を流す貞子に抱きしめられながら富江は、小さくため息をついて、貞子を抱きしめ返す。

「言ったでしょうが、私は死なないって……」
「でも、本当に良かった。でも、あの女……どうやって?」
「なに……死んでいるものと、生きている者との差よ」

 富江は、伽椰子に笑顔でそう告げた。




【座敷女 其の2】



「ひいいいっ!!」

 グシャグシャ……そんな何かを切り捨てる音と叩きつぶす音が聞こえる。悲鳴を上げながら女は、自分の体から生えてくる別の手や足を、ノコギリなどで切り裂いていた。山奥にて、女は、悲鳴をあげながら、その衣服から突き破ってくる、富江の腕や足。彼女の体を支配しようと、彼女の遺伝子を書き換えながら、彼女の脳を支配しようとするが、女の強力な抵抗で、上手く行かず、結果、彼女の体からめちゃくちゃに富江の体が生えていくこととなる。それを女は、我武者羅に切り裂いているのだ。

「はあああああっ!!!死ね死ねしねぇ!」

 自分の体を切り刻む、その姿。
 切られた腕からは赤い血が溢れだしていく。自分のノコギリを切っている腕からも腕や足、顔が生え始めてくる。

「で、でていきなさいいひいいい!!これは、これは私の体よおおおお!!」

 そう叫ぶ女の顔の隣から生えてくる富江の顔。

「いいえ、この身体は私の体よ、フフフフ……」
「ぎっやあああああああ!!」

 そう叫びながら女は、その首から生えた富江の顔をノコギリで切り捨てる。切り捨てた富江の体が、徐々に再生を始めていく中、その女の驚異的な生命力と精神力により、富江と女の血みどろの体の奪い合いは終わらない。


「ぎぎいいいい、くひいいいいい、ひぃ、ひひひひひひいいい!!!」












[32972] 第4話 富江様が、携帯電話の呪いにかかってみました。
Name: 一兵卒◆86bee364 ID:e2f64ede
Date: 2013/05/21 21:20




 湯気が立ち伸びる中、水音が浴場に聞こえる。
 長い髪の毛から雫が滴り落ちていく……彼女の素肌は白く、透きとおりその肌から、髪の毛から流れ落ちた雫が垂れ、肌を流れ落ちながら、背中、そして尻にと流れ、長い脚にと垂れていく。等身大の鏡の前にと立つ彼女は、曇った鏡を手を伸ばして拭く。そこに映り込む彼女の顔。左目の下にある黒子が特徴的であり、目立つ場所。鏡に映り込む彼女の姿を眺めながら、息を吐き姿見から視線を外した。彼女はタオルを手に取り、体に流れる滴を拭いながら、浴場から外にと足を踏み出す。肩にと駆けたタオルを洗濯機にといれてバスタオルを手に取り、少女の未だ膨らみきってはいない胸を拭く。

「ふぅ……」

 息を漏らした彼女は、バスタオルを纏いながら、彼女の自慢の長い髪の毛を纏めてバスタオルで雫を染み込ませるようにして拭いていく。再度、彼女は、鏡にと視線を向けた。いつもの美処女と呼ばれる自分自身の姿を眺めた彼女だったが、その彼女の背後に髪の毛を顔にと覆いながら、その隙間からこちらをジーっと眺める目が、彼女の眼と合った。

「!?」

 振り返った彼女は、拳を握りその髪の毛の長い背後の女を殴りつける。

「きゃあぁああ!?」

 悲鳴が家の中に響き渡った。

「だ、大丈夫!?貞子さん、富江さん」

 慌ててやってきたのは四つん這いになりながら這い寄ってきたこの家の主である伽椰子である。少女は、足を延ばして伽椰子を踏みつけた。

「痛っ!こ、腰がっ!!」

 浴場内の惨事を、背にして、今日も富江は朝から大きくため息をつく日常が始まる。


「「だって、こうでもしないとホラーじゃないじゃないですか」」


 幽霊の嘆きが富江の耳にと聞こえてくる




富江様が、呪いの家で、呪いのビデオを見てみました。


第4話 富江様が、携帯電話の呪いにかかってみました。




「富江さん~~、朝から酷いじゃないですか。久し振りの話なんですから、もっと優しく突っ込んでくださいよ!」
「いつから、私は漫才師になって突っ込みキャラになったのよ」

 テーブルの前コーヒーをのみながら、スーツを身につけた富江はイスに座りながら苛立った表情で、貞子を見ずに告げる。貞子は伽椰子と顔を見合わせて首を傾げ合う。

「最初からじゃなかったかしら?」
「そうですよね、最初から富江さんは突っ込みキャラですよ。いやだなぁ、何を言っているんですか?」
「あんた達こそ、なにをいっているのよ!?私が好きで突っ込みキャラをやっていると思っているの?!」
「ち、違ったんですか?」
「なによ、その嘘つけみたいな、そういう立ち位置でしょう!?っていう顔は!」

 富江は貞子に指を差して、今にも食ってかからんばかりの勢いで怒鳴りつける。富江の勢いに、後ずさる貞子。富江は、ため息をつきながら再度イスにと座り直す。

「だいたい……本来、私はみんなから周りから、崇め奉られながら、周りの人間達が私の妖艶さと美貌によって狂っていくっていう話なのよ!?それが、周りにいるのが幽霊!!そして。幽霊にまとわりついてくるよくわからないバケモノ達ばかり!私のこの特徴である妖艶さと美貌、私の美しさに取りつかれていく人間達の無様な嘆きはどこ!?一体どこにいったのぉ~~~~~!!」

 立ち上がった富江は、リビングに声を響かせる。
 再度、顔を見合わせる貞子と伽椰子。

「えーっと、富江ちゃんはもてたいの?」

 伽椰子の問いかけに富江は、伽椰子を睨みつける。その怖い表情に伽椰子は、震えた表情で後ずさる。

「違う!まぁ、もてたいというのは、あながち間違ってはいないわ!でも、こう……なんというか、そう!虜よ!虜!」
「トリコ?あのイスタンプールが首都の街ですか?」
「それはトルコよ!!トルコ!!ただの国名じゃない!!」
「ああ!!わかったわかった、あのジャン〇漫画で有名な~~」
「いろいろ間違っているわよ!突っ込むのも面倒じゃない!この突っ込み殺しのバカ!!」

 富江は大きく息を吐きながら、腕を組みながら貞子達を睨みつけている。どうやら本当に苛立っているようである。伽椰子は、以前、富江の映画を、富江のことを深く知るために見たことがある。結果的には非常に怖くて、途中で見るのをやめてしまったのだが……。その結果わかったのが、彼女はプライドが高いことと、周りの人間を魅了していくことが得意な少女であることがわかった。わかったというか、それしか、あのDVDからはわからなかったのだが。だから……。

「さ、貞子ちゃん……」

 伽椰子は貞子にと耳打ちする。
 二人のやり取りを黙って見ている富江。

「何話してんのよ?大方、またアホなことでも考えているんでしょ?」
「富江さ~~~ん」

 猫なで声で抱きついてくる貞子。突然のことに、びっくりし動けない富江は。抱きついてくる貞子を抱きしめることしかできなかった。貞子は、長い前髪をかきあげて、その女優顔負けの美しい顔を晒しながら、富江の身体にこれもまた、普段わからない大きな胸をおしつけてくる。

「ちょ、な、なにしてんのよ!?あんたは!!」
「え?私すっかり富江さんに魅了されてしまったので、こうして好きという行為をアピールしているのです!」
「あ、アピールって!?」
「あ~~ん、もう富江さんったらわかっている癖にぃ~」
「さ、貞子!?あんたキャラが代わりすぎなのよ!!」

 富江の視界にはイスに座った自分を抱きしめながら、身を乗り出し、寝間着姿の貞子は、そのお尻を振りながら、体を自分にと擦りつけてきている光景が映し出されている。自分はノーマル……というわけでもない(映画では女子ともよくキスしているし、可愛い娘限定だけど)わけなので、そのような行為をされても悪い気はしない、悪い気はしないのだが、富江自身が、貞子のその過度なスキンシップに顔が熱くなってくる。

(わ、私は何を……ただの幽霊、しかも前時代的なビデオ幽霊ごときに、私は何を照れているの?私は誰、史上最強のクールビューティである富江様なのよ)

「と・み・え・さ・ん」

 その声に富江が顔を貞子の方にと向けると首にと手をまわした貞子が、顔を前にと出して、キスをするポーズを富江にと向けている。

「んmcお@cjmcwcmjccwjcふぉvc!?」


 富江は、その場で意識を失った。



「富江君、初日に遅刻はよくないよ、遅刻は」
「ごめんなさい、課長」
「ま、まあ……次はないようにね」

 貞子を血祭りにあげた富江は、今日からとある会社で働くこととなる。富江が本気になれば、どんな会社であろうとも一発面接で合格が可能だ。所詮は男など、富江の魅力に飲まれてしまえば、ただの人形にすぎない。富江は、社内にて一番前にと立ち、挨拶をすることになる。富江は、周りにいる男達の視線と興味を集めながら、肩に髪の毛を払いながら、頭を下げる。

「今日から此処で働くことになります。よろしくお願いします」

 富江は、それだけ告げる。
 男達の目は、ギラついており雄の目になっているのはよくわかる。

「では、富江君の席だが、彼女には私の秘書として……」
「課長、私……あの人の隣がいいです」

 富江が指を差したのは、この社内の中で一番のイケメンである。課長は、富江を見ながら

「富江君、彼はまだ入社したばかりだ」
「なら、一緒にがんばればいいじゃないですか?私、あの人の隣じゃなきゃ会社辞めます」
「なっ!?わ、わかった……それじゃあ、藤田君。よろしく頼むよ」
「課長!!僕だって、彼女には……」
「藤田君、富江君に何かあったら、君が責任をとるんだぞ?わかったか?」

 藤田と呼ばれたイケメン社員は、課長の人が変わったような言葉に何も言い返せなかった。富江は、ゆうゆうと足を進め、藤田の隣にと座る。

「よろしくお願いするわ」
「あ、ああ……」

 藤田は、富江を見ながら怯えた表情で頷く。
 富江としては、久々にこうして男達を手玉に取れることに、幸せを感じていた。最近は、自分のペースを乱されてばかりだったのだ。後は、この男を自分の色に染め上げれば……。富江は、笑みを浮かべながら綺麗な机の上で、ただ、男にだけ話しかける。

「営業に行ってきます」
「私も同行します」

 そういって、富江は藤田にとつきまとう。藤田の精神を削り取るために。

「君は、なんで僕と一緒にいようとするんだい?」
「簡単なことよ。私は貴方が好きなの。好きな人と一緒にいようとすることは普通のことじゃない?」
「ふ、普通なのかもしれないが……でも、僕には、彼女もいるし」
「別れてよ?私のために」
「そんなことできるはずがないだろう?」
「なら、私がしてあげるわ」

 富江は淡々と答える。
 藤田がそんな富江に恐怖を覚えるのだった。富江の藤田のつき纏いはこれにとどまらない。

「藤田さん帰らないの?」
「僕は残業があるからね」

 藤田は富江にと書類を見せる。富江は、ふーんと頷くと藤田の書類を取り上げて課長の元にともっていく。

「藤田さん、私と一緒に帰るので、これやっておいてください」
「なっ、そ、そんなことが……」
「私がお願いしているんですけど、駄目ですか?」
「う……わ、わかった」

 富江が笑顔で課長を見つめると藤田の元にと歩み寄る。

「さあ、帰りましょう?」

 藤田は恐怖にさいなまれることになる。
 家にと帰った藤田は、頭を抱えながら家で待っていた彼女に顔をのぞきこまれる。

「大丈夫?」
「あ、ああ……変な女が会社にやってきたんだ。俺に付きまとってくる」
「フフ、それは貴方がカッコいいからよ」
「違う!そんなんじゃないんだ!?あいつは異常だ!俺に付きまとって、社内の人間をおかしくする。あいつはきっとバケモノだ。このままじゃ、俺もお前もあいつに狂わされる」
「よっぽどなのね?その人」
「ああ……お前も気をつけた方がいい。あいつは、ただものじゃない」

 彼女は、藤田がそのまま疲れ果て眠りにつく頃、携帯を強く握りしめる。

「人の彼女を奪おうとするなんて、信じられないわ……そんなことをする人にはお仕置きが必要ね」

 彼女は、口元に白い歯をだす。



 翌日。

 会社にとやってきた藤田、既に出社していたのだろう、富江が藤田にと笑みを見せる。彼女の顔は、恐ろしくも美しい。それは今の彼女と比べることもできない。だが、この富江は化け物だ。それはわかる。このままでは、自分も彼女に魅了されてしまうのだろうか。実際、彼女の顔は、眠っていてもイヤでも思い出されてしまうのだ。こんなことがあっていいはずがない。

「藤田……富江さんに好かれてて羨ましいな」

 藤田の背後、そうつぶやいたのは課長である。課長は目を血走らせながら、ジーっと、藤田を見ている。藤田は、そんな課長の表情が完全に狂気に満ちていることがわかった。藤田は再度、富江を見る、富江は、クスクスと笑みを浮かべ続けている。

「クククク……いい調子だわ」

 富江は昼休み中、会議でどうしても抜けられない藤田を置いて、大きく笑う。

「……このままじゃおかしくなる。あの女に取り殺されてしまう」

 藤田は、頭を抱えながら大きく息を吐いて会議室の部屋に一人残っていた。そんな藤田の背後に立つ女の影。藤田は、咄嗟に振り向いた。

「な、なんだ……美優か」
「なんだってなによ?すごい顔して……」

 美優は、藤田と同期の女子社員でありなにかと世話を焼いてくれている女であった。彼女は、ここ最近の藤田の異変に気が付いていた。それもこれも皆、あの富江という女がこの会社にとやってきてからである。

「すまない」

 屋上にてコーヒーを手渡される藤田。
 美優は、ベンチにて藤田の隣に座った。

「大丈夫?」
「ああ。あの女が出社するようになってから、この会社はおかしくなってきているよ。皆があの女によって狂わされていく。俺はどうしたらいいんだ。このままじゃ俺までおかしくなってしまう。富江のことだけしか考えられなくなりそうなんだ」

 藤田は頭を両手で抱えながら目を見開いて告げる。その表情を見ただけで彼が追いやられていることを美優は知った。

「……あら?こんなところでなにをしているの?藤田さん」

 振り返った美優と藤田の前、そこには富江が立っていた。藤田は富江の登場に体を震わせたまま、立ち上がる。

「さあ、いきましょう?」
「藤田くん!?」
「あなた、私たちの邪魔はしないことよ?そんなことをするんだったら、呪いの家で呪いのビデオを見せて、階段でブリッジで降りてもらうんだから」
「?」

 富江の言葉に頭を「?」マークにさせている中、そのまま藤田は、富江にと連れて行かれてしまう。一人残された美優は、富江から藤田を取り戻すべく、計画を開始する。美優には別の友人からある悩み事を聞いていたのであった。それは呪いの携帯電話。この二つの悩み事を結び付ければ、解決できるかもしれない。美優は早速友人の元にと会社帰りに向かうことにする。

「……」

 あるマンション内……。
 鍵を開けて部屋にとやってきた美優。部屋は暗くなっており、電気をつける。彼女は荷物をベットにと投げ捨てた。美優は、携帯を手に取りながらその内容を見ている。彼女は、携帯を自分のテーブルの上にと置いた。その携帯の数は5個。彼女はスーツを脱ぎながら、隣の部屋にと入る。彼女が電気をつけたその部屋……。

「~~~~!!!」

 そこには、檻に閉じ込められた女性が二人いた。
 まるで動物園のような状況の中で痩せ衰えた女が、部屋にとやってきた美優の姿を見る。美優は、その手に携帯を持ちながら、檻の中にいる女に見せた。

「確か、もうすぐ死ぬんだっけ?あんた?」
「……」

 震えた表情と視線を美優にと向ける。

「助けてあげようか?」
「……」
「自分の携帯電話に死の着信で未来の死ぬときの自分の声が聞こえるんだっけ?」
「……」

 美優は、その女の携帯電話弄りながら、着信できているメッセージを再生する。

『も、漏れる……あ、ああああああああああ!!!!!』

 そこで音が途切れる。

「なんじゃそりゃ!!?」

 檻に入っているもう一人の女は、その言葉を発しているであろう女に対して思わず突っ込みを入れる。先ほどから声を発することができないでいる女は、顔を赤くしながら美優を見ている。美優は笑うことなく携帯を目の前で揺らして見せている。

「別の相手に転送すればいい」
「そうすれば助かるの?」
「……お願い!助けて!!死にたくないの!!」
「はいはい、助けてあげるわ。私の動物小屋の動物がまた減ってしまうのは困るしね」

 美優はそういいながら部屋を閉じると電気を消す。



「……藤田君」
「……え、富江……富江……富江」

 すでに藤田は、富江の虜になりつつあった。美優は、表情がこわばっている藤田を見る。

「藤田君、あの女を倒す方法を見つけたわ」
「本当か?」
「ええ、これですべてが元通りになるわ」
「ど、どうすればいい?」
「あの子の携帯電話番号、アドレスを教えてちょうだい」
「あ、ああ……」

 美優は藤田から富江の携帯電話番号アドレスを教えてもらいそれを、手に入れることで、富江に呪いを感染させようとする。その手にあるのは監禁している一人の女の携帯電話。これを使って、富江にと呪いを転送する。

「ふふふ、久しぶりにこの富江様の恐怖と狂気を皆様にお送りいただけているわね。そう!!これこそ、これが私、富江の本当の姿なのよ!どっかの引きこもり幽霊にバツイチ子持ち幽霊にペースを乱されまくっていたけど、これが本当の私の力なのだから!!」

 一人ガッツボーズをしてみせる富江。
 そんな富江の携帯に着信がかかってくる。

「?」

 しかも変な着メロで。こんなダサい着信メロディつけた覚えがない。富江は、なんの疑いもせずに、留守番電話に残っていた音声を聞き直す。

『あ、あ、ああふぅ、んは、あああああああああ』

 その喘ぎ声のような女の声の声に思わず富江は携帯を地面に叩きつける。

「なによこれ!!ったく、酷いイタズラだわ。でも、あの声……どこかで聞いたような声ね」

 富江がそんなことを腕を組んで考えていると、そんな富江の肩を叩く手。
 富江はその手を払いのけながら、考えにふける。
 だが、何度もたたかれているといい加減にいやになってきたのか

「なによ!うるさいわね!!」

 振り返った先にいたのは、ガングロにミニスカのセーラー服を身にまとった女子中学生。

「はーい!おめでと~~~~」

 やる気のない声で告げるその女子中学生。

「は?」
「あんたは、わたしのー、呪いの携帯に感染しましたぁ~~」
「なにいってんのよ、幽霊とか呪いならもう間に合ってるわ」

 そういって取り合おうとしない富江。

「っていうかさぁ?あんたー私のこと見えてるって感じぃ??」
「ああ、見えてるわよ、後、今どきそんなギャルいないわよ」
「だって~これって最新の女子中学生ファッションじゃないのぉ?」
「今更ガングロとか、ルーズソックスとかいないわよ」

 富江はそう吐き捨てて、その場から立ち去ろうとする。だが、その女子中学生はなぜかついてくる。富江は足を速めれば、後ろから聞こえてくる足音も早くなってくる。富江は苛立ちながら振り返った。

「だから!!なにか私に用があるわけ!?」
「あんたは、私の呪いにかかっちゃったわけ。だから、後一週間後に死ぬっつーの」
「はあ!?なにってんのよ」

 富江は、ため息をつきながら勝手に言ってろと言わんばかりに、足早に立ち去ろうとする。だが、彼女はどこまでもついてくる。仕事場にと戻ってきた富江は、自分の席にとすわりながら、書類を目にする。だが、その富江の隣には自分の派手に塗ったマニキュアを直す女の姿。あまりのうざったっさに富江は、立ち上がり、自分の席の隣にいる女子中学生を指さす。

「ちょっと!課長!」
「な、なんだね?富江君?」
「私の席に座っているあの女子中学生をどうにかしてください!」
「え??ええ?じょ、女子中学生?どこにいるのかね?」
「はああ!?あんた老眼なんじゃないの!いるっでしょ!そこに!」

 富江の言葉に、周りは皆顔を身わせて不思議そうな顔をしている。

「無理無理。私はあんた以外には見えないわ。本来なら、普通の人間には見えないはずなんだけど。あんた霊感でもあるわけ?」
「くっ……なるほどね、よーくわかったわ」

 富江は、彼女の言っていることを理解する。

「私があなたを叩きのめしてあげる」
「え?」

 思わず聞き返す女子中学生。
 富江は、そのまま帰り支度を始める。

「課長、体調悪いので帰ります」
「え、あ、ああ……」

 富江はそういって荷物を持って会社から立ち去る。周りの社員たちは呆然とする中、藤田は、いつもストーカーのようについて回っている彼女が自分には見向きもせずに立ち去る姿を見て歓喜に震えた。美優の効果は絶大だ。このままいけば、彼女は会社に来なくなるのでは。藤田はここ一週間でようやく解放された気持ちに表情を緩める。

「なーに?私、渋谷のセンター街に行きたいんだけど」
「なら、勝手にいけばいいじゃない」
「だって~、あんた私の呪いを受けちゃったから、呪いを解かない限り無理じゃん?」
「そうね、それは残念だわ」

 富江は、自分の呪いの家の前にと立つ。

「なに?このだっさい家」
「そう?なに安心して頂戴。あんたのためにお友達を呼んでいるから」

 富江はそういいながら、堂々と玄関にと入る。
 取りついている女子中学生もまた彼女とともに部屋の中にと入る。中は意外と広い。そしてそこで女子中学生は、その家の中に渦巻くものを知る。

「な、なにこれ?!ちょ、ちょっとヤバくない?」
「アハハハハハ。今更気が付いたかしら?」

 富江はリビングのソファーにと座ると、腕を組みながら笑みを浮かべる。

「いる?伽椰子」

 富江の言葉に、部屋のリビングの床からまるで影のように姿を見せる女。その姿に女子中学生は、腰を抜かしたかのように倒れる。その姿を見て富江はさらに嘲笑する。

「あなたのようなガキが、ここにいる頭が少し弱いけど強力な邪念を持つ幽霊たちに勝てるわけがないじゃない?」
「あ、あの……富江さん会社はどうしたんですか?またクビですか?」
「またってなによ!?そんな何度もクビになってないわよ!!だいたい、私がクビになったわけじゃないのよ!わかる!?私の有能さに気が付かない会社に対して、私からやめてやっているだけなんだから!」
「は、はい……わかりました」

 苦笑いを浮かべている伽椰子に、富江は、長い髪の毛をかき上げながら、腰を抜かしている女子中学生の幽霊を見下す。

「さてと、さっさと自分の正体を言って私の呪いを解かないと、あなたはここで逆に呪い殺してあげるわよ?」
「ば、バカ言わないで。わ、私は女子中学生なのよ!華やかな今時の女子中学生があんたみたいな、対して可愛くもない女の、い、言うことなんか聞くもんですか!」
「ほお?可愛くないですって。異性同性かかわらずすべてを虜にしてきた私によくもそんな台詞を言えたもんだわ」

 対峙する富江と女子中学生。

「あ、あの富江さん。今日のご飯の買い物に行ってきますね。あんまり、子供をイジメちゃダメですよ」
「うん、いってらっしゃい」
「それじゃあ。お留守番お願いしますね」

 そういって買い物袋を持って買い出しに向かおうとしている伽椰子の襟を掴む富江。伽椰子は笑顔で富江を見て

「あ、何か食べたいものでもありました?」
「そういう問題じゃない!!!あんた、この状況分かってる!?私とこいつはNO友達。敵!エネミー!わかる!?」
「ああ、えーっと……幽霊の方なんですか?」
「あんたも幽霊でしょうが!なんでわからないのよ!!」

 怒鳴り散らす富江の腕を突然現れた俊雄が噛む。

「ぎゃあああああああ!!!」

 悲鳴を上げてその場で暴れだす富江と俊雄を引き剥がそうとする伽椰子。その様子を呆然と眺めている女子中学生。彼女は思った。あーなんと楽しそうな光景なんだろうと。これは自分にはなかった家族の姿だ。自分は、母親に殺された。もう少し具体的に言えば、もともと、肺に持病を患っていた私を母親は放置して殺されたのだ。女子中学生は、胸の痛みを覚えると同時に、その場に倒れてしまう。

「ちょ、ちょっと!?どうしたのよ!あんた?」
「ふぅー……ふぅー……」
「大変です!富江さん、彼女息が荒いです。喘息のようです」
「幽霊でしょうが、もう死んでいるんだから平気よ」
「そういう問題じゃありません!幽霊は身体的ダメージは問題ありませんけど、心のほうにはダメージが絶大なんですから。下手をすれば消滅してしまいます」
「はあ?何それ」

 富江は、そういってもう一度倒れている女子中学生を見る。彼女は顔を赤くしながら呼吸を荒くしている。こんな奴、別に放っておいても問題はない。自分には何の関係もない奴だ。富江はそう思うが……。目の前で苦しんでいる彼女を放っていくのはどうにもバツが悪い。それに、伽椰子がこんなにも必死になっている以上、何かをしてやらなければ、伽椰子に何をされるかわからない。下手をすれば、怒りを自分にと向けられる可能性もある。となれば……協力するほうが吉か。富江は咄嗟に正解を導き出すと、伽椰子のほうを見て

「どうすればいいの?!」
「えーっと、あれです。直接新鮮な空気を送り込んであげる必要があります」

 富江は、彼女が持っていたスクールバックをひっくり返して探していると、そこに吸入器を発見する。富江は、それを手に持ちながら、女子中学生の口にと押し当てる。

「ほら!さっさと吸い込みなさい!」
「ふぅー……ふぅー……」

 小さく呼吸をする女子中学生。
 苦痛の表情が薄れてゆく。

「まったく、なんなのよこの幽霊は」
「どうやら彼女は、貞子さんと同じ形の幽霊のようですね」
「あ?どういうこと?」
「呪いを増殖させていく形だということです。人に次々と受け渡していく。そういった類のものですね」
「なによそれ。迷惑ったらありゃしないわ。でも貞子の場合は、自分を殺した犯人を見つけ出すためとか言ってなかったっけ?」

 その手に『リング』『リング2』『貞子ちゃん寝起きドッキリ3D』のDVDを見せつけながら……。

「彼女の場合はどうなんでしょうね、聞いてみないことには話が分からないですが」
「そうね、聞いてみましょう!ほら、いつまで寝ているのよ?起きなさい!起きろ!このガキ!」

 そういって富江は先ほどまで倒れていた娘の襟首をつかみ揺する。徹底的に揺する。

「なにすんだ!!」

 目を見開いて起こる女子中学生。

「よかったですね。起きたみたいです」

 笑顔で告げる伽椰子。

「起きたじゃないわよ!ほら、自分の正体を洗いざらい喋りなさい!」
「だから私は、呪いの携帯に取りついている女子中学生14歳だっつーの!!まあ、最近は新作は作られてないっつーか、もう3部作完結で終わってるけど~、ま、何度も何度も焼き直しをしてそのたびに前のほうがよかったなんて言われる作品よりかはましだよねぇ??」

 ドヤ顔で悟ったように語る女子中学生。

「やっぱ死ね!今すぐ死ね!!」

 そんな女子中学生の襟首をつかみ再度揺する富江。

「や、やめなさい富江ちゃん!」

 富江を抑える伽椰子。
 女子中学生は制服を直しながら、小さくため息をついて。

「まあ、あんたの命はあと一週間。恥ずかしい最後のセリフをいって死ぬのよ」
「なにそれ……」

 小馬鹿にしたような目で女子中学生を見る富江。
 もうこんなアホな女子中学生幽霊にかまってなどいられない。富江は、ここで幽霊ハンターの貞子がいないことに気が付く。

「ちょっと!伽椰子!あの髪の毛長いアイドル気取りの幽霊はどこにいったの!?」
「え?ああ、貞子ちゃんのこと?彼女なら今」

 そういってテレビをつける伽椰子。

『今、ここハワイでは国民的アイドル貞子さんの3rdシングルである『ダビング・ゲット』のPV撮影が行われています。今回は、初の海外PV撮影ということで、貞子さんは、水着姿を披露するということで、ファンの大きな関心を……』

 テレビには、多くの報道陣に囲まれながら、手を振る貞子の姿が写っている。
 テレビを消す富江。

「んvぺいおr83r8bんvいぺbv395-349vんヴぇqbんv!!!」
「言葉になってないわよ、富江ちゃん」
「な、ななな……なんであいつはあんなキャラになってんのよ!!」
「しょうがないじゃない。今はどんなキャラでもアイドルの時代よ」
「間違ってる!何がホラー映画よ!この現実世界のほうがよっぽどホラーじゃない!」

 富江はぶつぶつぼやきながら、女子中学生のほうを見る。

「こうなったら、とことんやってやろうじゃない!」

 富江は、女子中学生に指をさす。

「こう見えても私は、何度でも再生、分裂、増殖を繰り返す最強の女よ!伊達に幽霊と一緒に暮らしてなんかいないんだから。あんたなんかの呪いなんかに私が負けるはずがないのよ!」

 強気に出る富江の言葉に女子中学生はふーんと頷く。

「ま、好きにすればいいわ。私に取りついていられるなんて逆に光栄かもしれないわよ。あんたみたいな、古いギャルなんかには最新の流行を教えてあげるわ」
「……」

 そういって富江は、さっそく出かけるようだ。
 そんな彼女の後ろをついていく女子中学生。
 二人が玄関から出て行く姿を心配そうに眺めている伽椰子。

「だ……大丈夫かしら」




 東京都渋谷区渋谷駅前……。


 多くの人々が行きかう中、富江と女子中学生が並んで立っている。彼女は、その街並みを眺めながら、ぼーっとした目でただ周りを眺めていた。周りには様々な服装をした男女が交差点を波のように移動をしている。

「さてと、まずはあんたのその凄まじいまでの前代的なコスチュームを直してあげるわ」
「え?」
「私に取りつくんでしょう?そんな私の美的センスにかけ離れた格好をされると目に毒なのよね、ほらいくわよ」
「え、あああ!?」

 そういって女子中学生を引っ張ってきた富江は、その焼けた肌をまず、すべて白く戻そうと、お店の中にと入る。嫌がる女子中学生を無理やり店の中にと叩きこみ……数十分後。姿を見せたのは、純真無垢な女子中学生の姿。

「変に大人ぶるよりかは、そっちのほうが可愛らしいわ」
「え……あ、はあ」

 呆然とする女子中学生の手をつかみ、再度富江は歩き出す。

「え、ええ!?次はどこに行くの!?」
「次は服よ、服!」

 富江は、そのまま女子中学生を服屋にと連行すると、そこで彼女に似合うような、清楚な服を選んでいく。白いワンピースを購入。あとは髪飾りを購入して試着室で着替えさせる。

「さて見せてもらおうかしら」

 試着室から現れたのは、先ほどまでのギャルとは全く違う少女の姿。富江は、腕を組みながら己のセンスに惚れ惚れする。

「フフフ、どうかしら?」
「すごい……」
「でしょう?ああ、我ながらこのセンスには脱帽ね。今度の職種はデザイナーにでもなろうかしら。そうね、それがいいわ」

 富江が自惚れをしている中、女子中学生は、己の変わった姿を見て鏡を見つめていた。女子中学生は、自分を変えたかった。母親に見捨てられるようなそんな自分ではなくて、もっと別の自分に。呪いの連鎖は、すべてに見捨てられた彼女自身が、誰かにかまってほしくて、訳もわからない気持ちが暴走して……誰を恨んでいるかもわからなくなってしまって。そうして携帯電話から携帯電話にと当てもない旅を続けてきた。それが今、自分のためにこうして、構ってくれる人がいる。女子中学生は、そのことがうれしかった。そこで彼女は、富江のほうを見る。

「……富江さん」

 今までそんな風に呼ばれてこなかった富江は、驚いた顔で女子中学生を見る。

「ひとつ……寄ってほしいところがあるんですけどいいですか?」

 突然敬語になった彼女に富江はただ黙ってうなずいた。
女子中学生が向かった場所は……とある一軒家。彼女はその玄関が見える電信柱のところに立っていた。しばらく待っていると、家の前にとやってくる制服姿の少女の姿。富江は、少し薄暗くなりつつある中、女子中学生と同じように、その制服姿の少女を見る。

「……私の妹です」
「?」

 富江は、女子中学生を見る。

「会うのが怖かったんです。私が幽霊になって、お母さんを呪い殺しちゃって、それで妹は一人になってしまった。私が招いたこと。私がすべて悪かったんです。でも、それを認めたくなかった」

 うつむきながらつぶやく女子中学生。

「でも、なんだか……富江さんに会って、いろいろ話を言いてもらってすっきりしました。ありがとうございます」

 女子中学生が笑顔で、富江にとつぶやいた。富江は、腕を組んで女子中学生から顔をそらす。別にお礼を言われるためにやっていたわけじゃない。富江は、そう思いながらさっさと帰ろうと思った矢先、悲鳴が聞こえる。

「!?」

 富江と女子中学生の前で、女子中学生の妹が、口元を押さえつけられて、ワゴン車の中にと乗せられてしまう。

「そんな!!」

 女子中学生の妹を拉致した車は、そのまま走り去ってしまう。

「待って!!そんな……ダメ!連れて行かないで!!お願い!」

 慌てて走っていく女子中学生だが、車には追いつけない。女子中学生は、大きく息を吐きながら目から涙をこぼす。その表情はとても幽霊とは思えない。掠れた声で彼女は、車を追いかけていく。富江は、そんな彼女の姿を見て、拳を握りしめる。女子中学生は見えなくなりそうな車を走って追いかける。唯一の肉親……彼女までいなくなってしまったら、自分はもう誰にも覚えていてはもらえなくなる。だから、妹だけは幸せに……幸せになってほしかった。そんな女子中学生の隣にと止まる車。

「乗りなさい」
「え?と、富江さん……車なんて」
「五月蠅いわね!追いかけるんでしょう!?」
「は、はい」

 女子中学生は、助手席にと乗り込む。富江はアクセルを踏みつけて一気に走り出した。そんな富江たちが走り去った後には、運転手と思われる男が、富江のパンツを片手に握られ、頬にキスマークをつけられて呆然と立っていた。


「ふぅ、なかなかいい女の子じゃない?」


 ワゴン車の助手席に座っていたマスクをかぶっていた女が、マスクを外して告げる。それは、美優である。彼女は人身売買を主な仕事としており、彼女の部屋に檻で閉じ込められていた者たちもまたその一部である。おびえた表情でいる少女を前にして美優は笑顔を見せる。

「安心しなさい。あなた達は家出少女として誰からも忘れ去られていく存在なんだから、日本人の行方不明者なんて、多すぎてわからないわ」
「うっ……うう……」

 美優の言葉に、少女はうつむいたまま声を押し殺して恐怖におびえる。

「姐さん、後ろから車が追っかけてきてます」
「なんですって?巻きなさいよ!」
「それが、巻いたと思ったらまた現れて……まるでこっちの行き先が前もってわかっているようなそんな感じです」
「バカいうんじゃないわよ!!」

 美優がそう叫ぶ中、隣にとぶつかってくる車。
 大きく車内が揺れる。美優は、苛立ちながら、隣の車を見る。

「こっちのほうが大きいわ!ぶつけて潰しなさい!」

 美優の言葉に、運転手の男はハンドルを回して車を体当たりさせてくる。ぶつけられた車は大きく揺れるが、ハンドルを握りしめている富江は意地でもハンドルから手を離さない。

「やってくれるじゃない!!だけどね、こっちにも意地があるのよ!!」

 富江もまた負けじと車体をぶつける。だが、車体ではワゴン車のほうが大きい。狭い路地の中を猛スピードで走り抜けていく両者。だが、徐々に富江たちの車のほうが追いやられ始めていく。壁にと叩きつけられて車体は傷つき、壁に擦れて火花が散る。

「くうううう!!!」
「と、富江さん!もういいです。富江さんは私が呪っているんですよ?私のためにここまでしてくれなくていいんです!もう……いいんです、幽霊が……生きている人間を守りたいなんて、おこがましかったんです」

 助手席に座っている女子中学生がうつむきながらつぶやいた。富江はハンドルを握りしめ、額に汗をかいたまま、歯を食いしばっている。

「バカいってんじゃないわよ!!」
「!?」

 顔を上げる女子中学生。

「幽霊だろうが、人間だろうが……大切なものを守りたい気持ちは誰でも一緒よ!」
「富江さん……」
「だから、そんなバカなことを言うのはやめなさい!」

 富江はブレーキを踏んで速度を一度落とす、ワゴン車と壁の隙間から零れ落ちるように、潰されずに済んだ車体を今度はアクセルを踏みつけて、背後から一気にワゴン車に体当たりをかます。ワゴン車はその衝撃でバランスを失い、車体を90度回転させて、T字路になっている目の前の公園にと突っ込んだ。二つの車体は、そのまま公園の中をしばらく進んでからワゴン車が木にぶつかって、止まる。

「……」

 顔を上げる美優。
 その額からは血が流れている。
 隣を見れば、そこには運転手が、木と車体に潰されて息絶えていた。美優は、なんとか体を動かしながら、車体から外にと降りる。体中が痛い。とにかく逃げなくてはいけない。こんなところで捕まったらそれこそ終わりだ。美優は、虚ろな足で、公園から逃げようと歩き出す。そんな矢先、ぶつかってきた車体のドアが開かれる。

「!」

 美優は、その手に拳銃を握りしめ、車体から出てくるであろうものに対して銃を向けた。

「ゆっくり出てきなさい……」

 扉から出てきた女の姿。その姿を見て美優は、驚いた。

「あら?富江さんじゃない、どうしたの?こんなところで」
「……あんた誰?」

 富江は、額を血に濡らした女を見てつぶやいた。

「ひどい人ね?つい最近あった人の顔も忘れちゃうなんて。まあいいわ。あんたには悪いけど死んでもらう。私の姿を見たんだから」

 そういって引き金を引く美優。
 銃声がとどろき、それは富江の身体を貫いた。富江はそのまま力が抜けたように倒れる。美優は、銃を握りながら、笑みを浮かべた。

「ひ、ヒヒヒヒ……」

 足を引きずりながら、美優はその場から逃げるように歩いていく。だが、そんな彼女の足が掴まれる。美優が足元に視線を向けると、そこには富江が自分の足首をつかんでいたのである。美優は、おびえながら、富江の足を蹴り飛ばす。

「離しなさい!!離せ!こいつ!こいつ!!」

 美優は富江の足を蹴り飛ばしようやく離すことに成功する。

「はあ、はあ……」

 美優は、大きく息を切らしながら、再度歩き出す。だが、次の瞬間、背後から音がする。美優は怯えながら振り返るとそこには銃で撃たれたはずの富江が立っていた。その衣服からは血を流しながら、彼女は美優を見つめながら歩き出す。美優は恐怖におぼえながら銃を両手で握りしめて撃つ。それらは富江の身体を貫くが、彼女は銃を撃たれたことを感じていないかのようにそのまま歩いてくる。美優は恐怖にひきつった表情を見せながら、引き金を引くが、既に弾丸はなくなっていた。

「ひいいいいっ!!」

 銃を投げつける美優。
 そんな美優にと抱きついてくる富江。美優は、悲鳴を上げながら、すがりつく富江から離れようとする。富江は、美優の頬を血でぬれた手でなでながら、唇を重ねる。その行為に、必死に抵抗をする美優。だが、富江は離さない。富江がゆっくりと美優から唇を離せば、唾液の糸が引いている。美優は富江をどかして口を大きく開けて吐く。

「ゲホゲホ……な、なにする」

 ドクン

 心臓が大きく鳴る。美優は、震えながら富江を見る。富江は笑みを浮かべながら美優を見ていた。

「あなたの醜い心、私にぴったりね」
「な、なんなのよ、あんたは?!」

 そういった瞬間、美優の髪の毛が抜け落ちていく。

「きゃああああああ!!」

 悲鳴を上げた美優の髪の毛からすぐに生えてくるのは、それは富江と同じ黒いストレートの髪。全身の骨格が軋みだし、内臓が富江のものにと変貌していく。そしてそれは体の表面にも表れて美優は富江にと浸食されていく。

「ひぎいいいいいいっ!!!!」

 美優の声が響く中、そんな美優の身体にと富江はマッチを投げつける。それは一気に富江に変貌する美優の身体を包み込む。

「あなたは私になることさえ許さない。永遠に自分と私の身体の中間で身も心もぐちゃぐちゃになればいいわ」
「くひいいいいいいいいいいっ!!!!」

 燃え広がる炎の中で、美優の頭から富江の顔が現れては燃えつき、そして焼けた肌からは富江の手足があふれ出ては燃え尽きていく。ただ聞こえるのは、美優の悲鳴だけ……それも少ししてから、消えてしまった。


「……」


 女子中学生は、ワゴン車の中で眠っている妹の姿を見て、胸をなでおろしていた。妹は意識を失っているようだ。女子中学生は、妹を膝枕しながら、その髪の毛をなでている。開いたワゴン車の中を覗き込む富江。ワゴン車の中に差しこまれるオレンジ色の光が姉妹の仲良い姿を照らしている。

「……ごめんなさい」

 女子中学生が小さな声でつぶやく。

「私のせいで、あなたに苦しみを与えてしまった。私のせいで……」

 涙を零しながら女子中学生はうつむいて言葉を漏らす。

「……お姉ちゃん?」

 小さく開いた口から漏れる声。
 女子中学生は目の前の妹を見つめる。虚ろな意識の中で妹は、ポケットから飴玉を取り出す。姉が妹に与えていたもの……妹はその手に飴玉を取り、姉にと渡す。

「……泣かないでお姉ちゃん。私……さびしくないよ」

「……」

「お姉ちゃんとずっと……一緒だから。目の前にいなくても、隣にいなくても、私ずっとお姉ちゃんと一緒だから」

「……」

「……お姉ちゃん、大好きだよ。ずっと……ずーっと」


 妹の言葉に、姉は妹を抱きしめて声を漏らさずに涙を流す。顔をあげた姉は、富江のほうを見つめる。

「富江さん……ありがとう。本当にありがとう」

 そうつぶやいた女子中学生の姿が光にと包まれていく。綺麗な光が彼女を覆い、そしてそれらが天高く昇っていく。富江は、そんな彼女の姿を眺めながら、小さく手を振る。彼女はそのまま、光にと包まれて消えて行った。成仏……できたってことか。富江は、既に日が落ち、星明りが照らされ始めている空を眺める。

「ダメダメ……私、こういうキャラじゃないから……」

 富江は、一番星を眺めながらつぶやいた。





「ま、でも……たまには、悪くないわね」










感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.063914060592651