――セラフ。
天に座す聖杯が紡いだ戦いの場。
本物と間違うほどの精巧な偽物。
殺し合いのために用意された美しき天の箱庭で俺は――人外の領域を垣間見ている。
睨みあう3つの存在。
ぶつかり合う不可視の圧力に押しつぶされそうになる。
自身の目の前で圧殺するような威圧感が放たれ、己はそれを眺めることしかできない。
立ちすくむ俺の前で、人を超え、獣を越え、神の領域すら超えようと、頂点を欲する戦いの幕が上がろうとしていた。
空間が軋むほどの闘志のぶつかり合い。
相手を喰らい尽くそうと隙を探る鋭い瞳。
間合いをとりながらじりじりと体を動かしている。
やや中腰で、相手の射程から少し外れた場所を維持した歩方。
対峙する3人がまったく同じ動きを行う。
それは、上部から見れば3人で円を描くように見えるだろう。
技量の切迫した者が見せる綺麗な真円。
達人同士が見せる奇跡の瞬間。
互いが互いを打ち倒そうと一瞬の隙を伺っている。
空気が痛い。
俺は対峙する3人から離れているのが、そう感じるほどに空間に緊張と闘志が満ちている。
ビリビリと肌を刺すような威圧感が、あの3人から感じられる。
そして、中腰で円を描くように動いていた3人が――止まった。
思わず息を飲む。
始まる。始まってしまう。
命を賭した戦いが。
相手を喰らう闘争が。
一瞬の停滞。
空間に満ちる緊張が限界へ達する。
――動く!
一瞬の刹那すら凌駕する動きで二匹の雌と一匹の雄が走り出す。
そして互いの射程に入った瞬間、攻防の構え。
予備動作すら見せない達人の技。
ここから始まる戦いは、決闘などという生易しい物ではない。
たった三人の闘争、だがそれはまさしく――
「カバティカバティカバティカバティカバティカバティカバティ!」
「カバティカバティカバティカバティカバティカバティカバティ!」
「カバティカバティカバティカバティカバティカバティカバティ!」
――戦争だった。
お前ら絶対仲良いだろ。
「ガオオォォー!!!」
「「にゃー!?」」
あ、虎が勝った。
遂に準決勝、6回戦が始まった。
今までの戦いと同様に訓練を重ね、相手の情報を集めてきた。
だが、今回は相手の情報がほとんど集まらなかった。
遠坂やラニにも相談したが、彼女等に対戦相手のことを伝えると……
『ごめん、わたし疲れているみたい。6回戦が終わるまで寝かせておいて』
『申し訳ありません、ナカオ(仮)、私には現在休息が必要なようです。7回戦で会いましょう』
――と言って、ベッドに横になり、話しかけても反応してくれなくなった。
まぁ、彼女等にはいつも無理してもらっているのだ。
いつまでも頼りっぱなしというのも悪いし、心行くまで休んでもらおう。
『――なんでバケネコが2匹もいんのよ。聖杯戦争って英雄の戦いじゃなかったの?つきあってられるかー!』
『――あのような不可思議生物がこの世に複数存在するとは……師よ、私には未来が見えません……』
そして迎えた決戦日。
結局有力な情報も得られないまま、コロシアムで敵と向かい合っている。
わかったことは、敵のサーヴァントの真名は『ネコアルクカオス』だということ。
というか――
「ハロー、ボーイエンドエセキャッツ。吾輩の名はネコアルクカオス。気軽にカオスって呼んでね」
――自己紹介された。
「ちなみにクラスは【サーカーニャー】。いいかね?気高く、気品を込めて、はい復唱、サ~↑カ~↓ニャ~→」
どんなクラスだ。バーサーカーと同じ韻で言うな。
しかし、見れば見るほどネコに似てるな。
色を黒くしてやさぐれたらあんな感じになるんじゃないか?
「失礼にゃ!あんにゃパチネコと一緒にするにゃんて怒るぞ少年!」
全力でネコ缶を放り投げる。
「「それは あたし/吾輩 のものだーーーー!!」」
お前ら親戚じゃね?
なにこの空間。
本当に決闘が始まるの?
だいたい敵のマスターからして……
「おぉ……神の御使いが2柱も具現するとは……我が女神の再度の降臨待ったなし!ハッハッハ!」
なんか感動してるし。
なんだこれ。
「ふっ、そんにゃに余裕を見せていいのかボーイ。吾輩、もう戦闘態勢だぜ?」
――殺気が一気に膨れ上がった!?
その静から動へ転じる早さ、そして今まで感じさせなかった濃密な殺気。
やはり油断していい相手などではなかった。
敵も間違いなくこの準決勝へと駒を進めた強者なのだ――!
「ニャーッフッフ。さぁ、戦いを始めよう……カモン!カオスソルジャー達よ!」
戦いの幕が上がる。
カオスが高らかに声を上げると、カオスの影が蠢き何かが這い上がってきた。
蠢く影が形を成し――
「どうも、吾輩がカオスです」
「どうも、吾輩もカオスです」
「こんばんは、貴方のカオスです」
「そして、吾輩もカオスだ――!」
「「「「「五匹揃って貝百の使者カオスソルジャーーーーー!!!!!貝百ってのは時給貝100個って意味ね」」」」」
増えたーーーーー!?
蠢いた影から沸きあがった4匹のカオス。
どれもこれもが本物と区別ができないほどに似通っている。というか、まんま同じ。
もし戦闘力も同程度だというのならば、単純計算で5倍。
冗談じゃない。これほどの戦力差に勝てるわけが――!?
「心配するにゃ少年」
その声は、いつもと変わらぬ相棒の声。
圧倒的戦力差を見せ付けられて、尚不遜に笑う小さな相棒。
なにか秘策があるのか、その瞳は爛々と敵を見据えていた。
ネコ――?
「にゃっふっふ。あのパチネコにできることが、あたしにはできにゃいと思った?いまこそ見せよう、我がネコソルジャー、一騎当千の軍勢を――!」
高らかにネコが叫ぶ。
その凛とした声が空間に満ちる。
その呼び声に応えるように――
ネコのすぐ傍で軽い、ぽんっ、という音とともに小さな爆発が起きた。
爆発の後にネコソルジャーがいるのかと思えば、そこにあったのは小さなメモ用紙のみ。
……ネコ?
「あれ?」
……とりあえず、拾って読んでみるか。
『只今あちし休暇中。そうだ京都へ行こう。ジェットで。というかあんたに指図されるいわれはねー。おとといきやがれプリンセス』
……ネコ?
「あるぇ?」
お前、嫌われてんのか?
「少年の瞳が生暖かいだと――!?」
気にするな。大衆全てに好かれる奴なんて居ない。
少なくとも、俺はお前の味方だぞ。
「その優しさが辛い!」
なんにせよ、こちらの戦力増強は失敗したというわけだ。
しかし、1対5とは洒落にならん。
どう対処すべきか。
――宝具を使うか?
いや、あれには攻撃能力は無い。
前回有効だったのは、アサシンの性格を利用しこちらへ突撃させたからだ。
ネコ曰く、本来ならあの『世界』はネコの望むままに形を変えることが出来るらしいが、俺が未熟なせいで現状ではそこまではできないそうだ。
城と草原を形作るだけで精一杯なのは俺のせいなのだから、文句など言えるわけが無い。
さて、どうする――?
「おい、にゃにお前センター気取っちゃってるの?」
「おいおい、センターにはカオス。これ、定番よ?」
「待て待て、ここはセンターにはカオスを置くべきだと思うのだが、そこんとこどうよ紳士キャッツ」
「実にその通りにゃ。センターカオス、新しくね?」
「ニャー!?早速裏切りやがったな眷族共ぉ!?」
――反乱が発生していた。
なにこの混沌。俺はどうすればいいの。
「放っておけばいいと思うにゃ」
的確なアドバイスをありがとうネコ。
とはいっても、あの状況程度、マスターが止めに入ればすぐに収まるだろう。
そうなれば結局1対5になる。
予断はできんぞ――
「お……おぉ……御使いが5柱とは……小生の、神への……拝謁は……近いな……ぐはっ!?」
倒れてる――!?
マスターであるガトーが、大地へ倒れこみ、まるで何日も断食をしたようにやつれていた。
よくよく考えればあたりまえだ。
本体と同レベルの存在をプラス四体。
魔力消費も当然プラス四体。
合計五体のサーヴァントを従えるなど自殺行為だ。
当然マスターの魔力は枯渇する。
しかし、これではカオス達もおとなしくならざるをえないだろう――
「「「「「オーケー分かった、ちょっと体育館裏にこいや!!!!!」」」」」
収まってない――!?
影からよくわからん獣を出したり、ネコのようにビームを出したり、ジェットで飛んだりまた増えたり。
5匹――どころか減ったと思ったらまた増えたりを繰り返す壮絶な死闘。
すぐ近くでガトーの体が段々と動かなくなっていく様子を尻目にカオス達の戦いは続く。
このままいったら魔力枯渇で勝てるんじゃ?
そんなことを考えていたが甘かった。
始まりがあれば終わりは必ず来る。
一匹のカオスが残り、他のカオスは影へと消えていった。
やはり、最後は本体が残ったのだろう。
「よっしゃぁぁぁぁ!ここからは吾輩、カオスザサードが主役だぁぁぁぁぁ!!」
本体じゃねぇのかよ。
それはともかく、結局一匹になったとはいえ、本当の戦いはここからだ。
「ら、らまだーん……」
「モンジーーーーー!?」
――敵マスターは瀕死だが。
「おのれよくもモンジーを!だが、やるではないかボーイ。吾輩、思わず花丸をあげちゃうぞ」
いらねぇよ。
というかマスターを追い詰めたのはお前だ。
しかし、ガトーが瀕死な今、攻め時か?
いや、心情的にはとても攻めにくいが……
「やめるかにゃ?」
突撃だネコ。
「一切の躊躇なし。それでこそあたしのマスターよ。真祖ビーーーーーーム!」
ネコから放たれたビームが真っ直ぐにカオスに向う。
それに対しカオスの動きは早かった。
英霊の名に偽りなし。
人を遥かに凌駕する反応速度をもって――
「プロメテ~~~~ウス!?」
「モンジーーーーー!?」
――マスターを盾にした。
それでいいのかサーヴァント。
というか、ガトーも割りと平気そうだな。頑丈すぎやしないか。
「あのおっさんマジ変態」
ネコがここまでストレートに悪態をつくのも珍しい。
「にゃにあのボーイ。攻撃指示に躊躇いがなさすぎて怖い。起きろモンジー!この程度でへこたれるなどお前らしくない。どうしたどうした、女神に会うのではなかったのか!?」
「女神……?おぉ……そうだ、小生にはまだ歩く理由があるのだ!」
カオスの言葉にガトーが立ち上がる。
その体は傷つき、魔力もほとんど枯れている。
だが、それでも尚、こちらを睨む視線の鋭さは失われていない。
「そうだ!モンジー!今こそ世界へ叫べ!お前の思いを――!」
魔力が尽きたガトーに何をさせるというのか。
その何かをさせるべきではないと俺の警戒心が叫ぶが、カオスがネコをうまくビームで牽制し、こちらを動けなくさせる。
「おぉ神よ!原初の女よ!今こそ貴女へ我が信仰を――!」
立ち上がったガトーから、先ほどまでのやつれ具合が嘘のような魔力が吹き上がる――!?
「観自在菩薩行深般若波羅蜜……」
般若心経?
「Our Father who art in heaven, hallowed be thy name. ……」
かと思えば祈りを謳う。
他にも聞きなれない呪文やおそらく祈り、聖句を立て続けに唱えるガトー。
その度に、彼の体から凄まじいまでの魔力が溢れ出た。
「あぁ……あああああ!神、サイッコーーーーーー!」
そして祈りは爆発した。
今までの全てを越える魔力の波動、そしてその向き先は――カオス。
「いいぞモンジー漲ってきたぁ!」
明らかにカオスの能力が上がっている。
どういうことだ、コードキャストも使わずにサーヴァントを強化するとは――!?
「少年、これは令呪の発動にゃ!」
ネコからの指摘にガトーを注意深く探る。
魔力に反応し発光しているため、令呪の確認は容易だった。
赤く、まるで燃えるような紅さで発光する令呪は、確かにどこか欠けているようだった。
「そうだモンジー!お前の祈り、信仰、その全てを捧げるのだ!」
信仰、それがガトーの力の源。
彼が祈りを捧げ、一定のラインを超えた瞬間令呪が発動しカオスを強化するようだ。
そして、ガトーの祈りは終わらない。
ネコ――!
「にゃふー!」
「残念!そこは通行止めだぜエセキャッツ」
ネコが攻撃をしかけるがまたもカオスに止められる。
基礎能力にさして差はなかった二人だが、今はもう強化されたカオスのほうへ軍配があがる。
幸いなのは、カオスはこちらへは攻めてこず、あくまで時間稼ぎに徹するようだ。
なんとかしてガトーの祈りを止めなければ……!
「神よ、女神よ!その美しさはまるで湖面に揺らぐ月の如し!その黄金の御髪――梳いてみたい!」
「ひぃっ!?」
ガトーがヒートアップしていく。
そしてネコがなぜか悲鳴をあげた。
しかし、まずいな、打てる手がないぞ。
戦いは膠着し、ガトーのテンションはさらに上がってゆく。
「身長167cm体重52kg!スリーサイズは上から88!55!85!ないすばでぃ!おぉ神よ、原初の女よ!汝は具体的にも美しい!」
「ちょっ!?なんで知ってんの!?ぶち殺すぞストーカー!!」
何故お前が憤慨してるんだネコ。
しかし、まずい。
今のよくわからんプロフィール宣言で令呪が発動したのか、カオスに満ちる魔力がさらに強大になった。
「ニャーッフッフ。いいぞモンジー。吾輩、漏れ出る魔力にちょっぴり引き気味。だが足りぬ。足りぬぞぉ!さらに捧げよ!もっと祈れ!吾輩に全て委ねよモンジー!」
「おぉ!唸れコスモ!高まれソウル!謳い奏でるは般若心経!いける、もっといけるはずだ!小生の信仰ならば更なる高みに――!」
まだ上があるというのか――!?
ガトーが膝を大地につき、祈るように組んだ両手を天に掲げ、般若心経を一心不乱に唱え上げると、その巨漢から溢れんばかりの魔力が張り詰めた。
こちらの令呪は最後の一つ。つまり令呪によるネコの強化は不可能。
これ以上敵に強化をされれば、基礎能力が同程度のネコでは勝ち目がなくなってしまう――!
「見える、見えるぞ!おぉ……我が信仰の果てが!我が神への思いが!イマジネィショォォォォォン!」
感極まった大声が響き渡る。
大粒の涙を流し、ガトーはその思いの丈を解き放った。
「極まった……我が思い……我が信仰……小生の想像力は遂に作り出したのだ……」
その顔は達成感と満足感に彩られた、歓喜の表情だった。
「そう、遂に至ったのだ。小生の想像力が!原初の女、その原初の姿を!!即ち――――――――ヌゥゥゥディストォォォォ!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ガトーが叫び、ネコが嘆く。
ガトーの令呪が一層の輝きを放ち、それと同期するようにカオスが輝く。
あの輝きは一体――!?
「ニャーッフッフ、ニャーッフッフッフ!!!来た来たキタァ!これぞカオス究極形態!シャイニングカオス!こうにゃったら吾輩、止められないよ?」
その輝きの神々しさよ。
ネコと同じ姿だとは信じられないような神秘の胎動。
自然と頭を垂れ、祈りを捧げてしまいそうになる。
「グッバイ、ボーイエンドエセキャッツ。君等のこと、吾輩割りと好きだったよ?」
――動く。
もはや神と呼んでも過言ではない存在が。
強大唯一、絶対無敵の恐るべき敵が。
ネコ――!
「うぅ、なんなのよアイツ……もぅやだぁ……」
戦意喪失してる――!?
いつもの不遜な態度等どこにもなくメソメソと泣いていた。
これでは反抗すらできない。
「では幕引き。さらばにゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」
足元からジェット噴射で浮き上がりこちらへと飛び掛るその刹那――!
――半透明の壁が、俺達と敵の間を塞き止めた。
「オブパッ!?」
当然カオスは壁にぶち当たって、そのまま壁伝いにずるずると大地へ堕ちる。
「にゃ、にゃにごとだモンジー!?」
「おぉ、これは一体……?」
いや、何事も何も……
――令呪、使い切ったじゃん、あんたら。
「うむ!使い切ったぞ!」
「見事な祈りだったぞモンジー!」
実に見事な自画自賛。
ルールを忘れたのか?
令呪を失うと次の決闘には進めない――即ち敗北だ。
「おぉ!まさに!いやはやこのモンジ、ついうっかり!ハッハッハ!」
「うっかりはしょうがねーにゃ。よくあるよくある。どっかの一族なんかうっかりしっぱなしだから。当主の浮気とか」
既に体の分解が始まっているというのに軽いなあんた等。
体のいたるところが分解される。
今までに何度も見た敗者の姿。
だが、これほどに明るい敗者が今までにいただろうか、いやいない。
ガトーとカオス、その二人が光に消え、霞み逝く中、何故か黒電話の呼び鈴の音が響き渡った。
「おっと吾輩の携帯だにゃ、ちょっと失礼」
お前かよ。しかも携帯電話、黒電話かよ。
でかい、重い、ワイヤレスじゃない。
どこに携帯の要素があるんだ。というか、どうやって電話が掛ってきた、電話線途中で切れてるぞ。
「もっしー、うん、吾輩吾輩。おぉこれはアーネンエルベのジョージ店長。何事かにゃ?ふむふむ、ネロ教授と荒耶そーちゃん、コトミーと飲んでるって?もち行く行く。ちょっと待っててくれ。すぐに行くから。ジェットで」
話が終わったのか黒電話を影に終い、カオスがガトーを見る。
というか、さっきの会話はなんだ。知らない名前ばかりだがラスボス集会でも行ってるのか。G5サミット(とか言わないだろうな、やめてくれ。
「臥藤門司よ、吾輩にはやらねばにゃらぬ使命ができた」
飲み会だろ。
「お前の歩みをもう少し見ていたかったが、許せ」
「おぉ、なにをおっしゃる御使いよ。小生の歩みはいつ如何なる時も八百万の神が見守ってくださる。貴方一人分がなくとも、このモンジ。見事に入滅いたしましょうぞ!」
「うむ、それでこそだ!ではグッバイモンジー!あとボーイエンドエセキャッツ、機会があればまた会おう!ニャーッフッフ、ニャーッフッフッフ!!」
二度と会いたくありません。
別れを言ったその瞬間、ジェットで舞い上がり彼方へ飛ぶ。
パリン、と硝子が割れるような軽い音がなったと思ったら、空間の裂け目のようなよくわからない何かが発生し、そこへカオスは消えていった。
……なに、あれ。
なんだあれ。
なんなのあれ。
「ふっ、小生もここまでか……」
一瞬忘我の状態になったが、ガトーの消えるような声に意識が戻った。
目をガトーに移せば、そこにはもはや体の殆どを光に消されたガトーがいた。
「今思えば……原初を求めるなど、それそのものが間違いであったな……だが、その方法に間違いはあれど、歩んだ過程に後悔なし。ハッハッハ!良き旅路であった。大、満、足!それでは小生、これにて入滅!さらばだ小僧!女神によろしく!ハーッハッハッハッハ――――――」
豪快な笑い声を残し、ガトー・モンジ、神を求めた男は消えた。
その生き様は、余人には理解できないものであったが、きっと本人は楽しんでいたのだろう。
まぁなんにせよ。
あんなにも快活な笑みを見せられては、心にしこり等残りようも無い。
こんなにも晴れ晴れとした戦いは初めてだった。
しかし――
こんな戦いで良かったのだろうか、聖杯は。
ネコ、お前はどう思う――?
「もういい!終わったんなら帰るわよ!」
あ、あぁ。
よくわからない戦いだったが、ネコの新たな一面が見えた気がする一戦だった。
【 六回戦終了 4人⇒2人 】
<あとがき>
タミフル先生が仕事してくれないの。
流石に更新はもう無理です。
次は生きていたら会いましょう。ぐっばい。