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[3303] コードギアス 反逆のお家再興記
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2010/01/26 23:47
運命とは流れる大河のごとく。そして人などはただその運命と言う川を流されているだけに過ぎない。故に人の思いも涙も、全ては運命の流れなのかもしれない。

しかし…人間たまには運命という大河をクロール等とは言わず、バタフライで歯向かってみたいものである。










朝、朝である。
窓の外からは陽気な朝日と、小鳥が可愛らしく囀る。
麗らかな新たなる日の始まり。
しかし僕にとっては自らの誇りと尊厳と貞操を賭けた戦いの一日を告げるものである。

一度伸びをしてからベッドを立ち上がり、床に片ひざを付き、神に祈る。



神よ…今日も僕の尻を守りたまえ…



「んがーー」


日課の祈りをしていると、中々に豪快なイビキが聞こえてきた。
確かめるまでもない。
これは僕のルームメイトのイビキだ。
このイビキを聞いた瞬間に僕のテンションはガタ落ちだ。
イビキを立てているほうに視線を向けると、上半身マッパという男の裸など見たくない姿で、布団を抱き枕のように抱きしめながら眠っている男がいる。
とりあえず寝る時位、肌着着てくれよ。


「んごーんごー…ぎりぎり…でへへ…いいじゃないかよぉ…」


そんな僕の気持ちも知らずにルームメイト―――ジノ・ヴァインベルグは豪快なイビキを立てながら、歯軋りをして、気色悪くにやついていた。
何がいいのかは、僕には永遠に解らないが、とりあえずきしょいっす。

時計を見て見ると、朝の六時半。
そろそろこのルームメイトを起こしてもいい時間帯である。
僕としては、このまま起こさずに眠っていて欲しいものだが、如何せん。
同居人が寝坊などして、遅刻などすると連帯責任で、僕にも罰が来るのだ。
ああ、悲しきかな。ブリタニア士官学校。
ああ、潰れてくれないかなぁ。ブリタニア士官学校。

壁際に立て掛けて置いた棒、目覚まし棒を手に取り、一定の距離を保ちながら眠りこけるジノをつつく。
最初の頃は、近くに近寄り、揺すって起こしていたが、この男は寝ぼけているのか狙っているのか解らないが、何故か目覚めと同時に人に抱きついてくるのだ。
想像して欲しい。朝っぱらから上半身裸の男に抱きつかれて嬉しがる男がいるだろうか?
そりゃもちろん腐女子やガチホモ系にはマジシンボウタマランシュチュエーションかもしれんが、至ってノーマルな僕にはマジ勘弁な展開だ。

それ以来、僕は一定の距離を保てるこの目覚まし棒を使い、ジノを目覚めさせているのだ。

「ぐおーぐぐおー」

しかし毎度の事ながらしぶとい。
もう結構な回数を突付いているというのに起きる気配が微塵足りと見当たらない。
まあ毎度のことなので、僕も慣れたものだ。今まで突付いていた強さを、抉るような強さに変える。

「んごっふぅ、んー…だめだってぇばよ…SMは苦手だって言っただろ…んが!?」

なにやら恍惚の表情になってきたので、目覚まし棒をジノの鼻の穴に抉りこんだ。
さすがに鼻の穴は性感帯ではなかったようだ。
苦悶の声を上げつつ飛び起きた。

「おはよう」

鼻の穴を押さえながら呻いているジノに、爽やかに朝の挨拶を告げる。
あ、鼻血だ。

「おはようじゃねえよ!
鼻血がでてるじゃねえか!」

「大丈夫。ジノ。
君は鼻血を流していてもいい男だ。
いや、むしろ鼻血が似合ういい男だよ」

「えっ、そ、そうか?」

「ああ。
君ほど鼻血が似合う色男はそうはいないよ」

「そ、そうか。
どれ。んじゃちょっくら確かめてみっか」

僕の言葉に気を良くしたのか、ジノは近くにあった手鏡を手に取り、自らの表情をチェックしている。
本気にするなよ。鼻血シーツに垂れてるぞ。

この鼻血垂らしながら、自らの美を追求しようとせん漢の名前は、ジノ・ヴァインベルグ。
ブリタニアでも、有数の貴族の名家ヴァインベルグの嫡男として生まれながら、軍人の道を選んだアウトローな男だ。
その輝かしい生まれと、学生達の中でトップという確かな実力。本人の王子様な容姿で、ブリタニア士官学校の中では生徒達には勿論。教官たちからも一目置かれている存在だ。
鼻血垂らしながら、ポージングしている今の姿からは想像付かんが。


「どうよ?アクア。
この角度からのこのポーズいけてね?」




本当に心底到底想像が付かなすぎる。







場所は移動して食堂。

朝食を食べようと飢えた狼たちが、群れをなして獲物をかっ食らう場所である。
僕が何をしに来たのかと言えば、飯を食いに来たのだ。
それ以外の何もない。

配膳を貰い、席に着くとジノが僕の対面側の席に座ってきた。
しばし鏡を覗いては、ポージングを決めていた、ジノであったが、流石にあほらしくなったのか、鼻にテュッシュを詰めてから朝の準備をして、僕と共に朝食を食べに来たのだ。
辺りは活気に満ちている。それはいつもの光景であったが、今朝の食堂はいつも以上に活気に満ちていた。

「あー…明日から長期休みか。
アクアお前はどっかにいくのか?」

目の前にある朝食を食べながら、ジノは周囲の活気の要因となっている話を切り出してきた。

「いや、行く所も用事もないし。
あったとしても、行きたくないし。
僕は何処にも行かないよ」

我ながら若いもんとしてこの発言はどうよ?
と思う言葉にジノは羨ましいと言わんばかりの視線を僕に向け、ぼやく様に言葉を発してきた。


「俺は実家に帰んなきゃなぁ。
親父達と会うんだぜ…絶対めんどくせぇ事になるぜ」



ジノは名家ヴァインベルグの子として生まれ、両親からは花よ蝶よと育てられたそうだ。
男なのに。
行く行くは、ヴァインベルグの豊富な資金を使い、商業に精を出してほしいと考えていた、両親だが、ジノの選んだ道は、そんな真っ当な道とは180度違った軍人としての道だった。
その考えに当然激怒し、反対し、考え直すように説得する両親。
しかしジノはそんな両親の懇願に耳も貸さずに、軍人の道を進むことを熱望した。
その攻防は数年にも及び、その結果は、両親が折れた形となった。
かくして士官学校に通えることにはなったジノであったが、両親はジノに幾つかの条件を出した。
そのうちの一つが少しでも長い休みが出来たら、実家に帰る事である。ジノは決して両親のことを嫌っているわけではない。
むしろ大切に思っているだろう。両親がジノを大切に思っているのと同じように。
しかし帰省するたびに、士官学校を辞めろと言われ続けるのは、流石に堪えているのだろう。


「帰る家。
HOMEがあるという事は、幸せに繋がることだよ」

適当に昔見たアニメの台詞をぱくって言った言葉に、ジノははっと何かに気づいたように、こちらを見つめてきた。
なんだろうか?

「いや…そうだな。
すまなかったな。アクア」

そして目を伏せながら痛ましい者を見るような視線を向けてきた。
すまない?なにがっすか?

「いや…いいさ」

自分でも、なにが良いのかさっぱりわからんが、とりあえず、話を合わせておく。
僕の苦手なコミュニュケーションの基本だ。

この言葉にジノは微笑みながら、礼を言い、他愛もない話を振ってくるのだった。


しかし実家か。なついぜ。
僕の実家アッシュフォード家が…








僕、アクア・アッシュフォードは成り上がりの一族、アッシュフォード家の嫡男として生まれた。
アッシュフォードは成り上がりの一族であったが、アッシュフォード家が主体となったKMF開発計画の成功、そして皇妃のマリアンヌとの深い親密関係にあったアッシュフォード家は名家と言える程の一族となっていた。

僕の姉ミレイ・アッシュフォードは、マリアンヌ皇妃の息子である、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア皇子と婚約を果たし、僕はその妹であるナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女と婚約をし、両家の繋がりは更に盤石となったのであった。

僕は子供の頃から、社交性やコミュニュケーションと言った物が極端に苦手な子供であった。
表情は常に無表情。子供は活発という言葉とは正反対な僕であったが、お祭り好きの姉のミレイ。シスコンで執念深い未来の義兄ルルーシュ。明るく元気いっぱいな僕とは正反対な気質を持った未来の嫁ナナリー。
などといったお祭り軍団はそんな事気にも掛けず、僕にかまってきた。
ルルーシュはシスコンなだけに、ナナリーの夫となる僕にあまりいい感情は抱いていなかったようだ。
僕が未来の予行練習として『お義兄さん』と呼ぶと「誰がお前の兄だ!」と烈火のごとく怒られた。
これだからシスコンは。

つまり僕は、家金持ち。将来美人が確定しているような、幼女が婚約者。といった人生勝ち組人間であった。
僕の聖地、2ぶちゃんねるで、そんな僕をどうおもいますか?とスレットを立てたら、あっという間に僕への嫉妬と、批判でいっぱいのレスが付いたので、『てめえらザマァwww』とレスを付けて置いた。
優越感でいっぱいだ。




しかし人生そう上手くは行かない物である。
なんと僕らアッシュフォードと皇族の掛け橋であったマリアンヌ皇妃が暗殺されてしまったのだ。
しかも僕の婚約者である、ナナリーはマリアンヌ皇妃暗殺に巻き込まれ、視覚障害に加え、歩くことも出来ない体となってしまったのである。
これは本気で参った。

マリアンヌ皇妃が暗殺され、ルルーシュとナナリーは皇位継承権を剥奪され、日本へと移送されてしまった。
アッシュフォードは皇族への繋がりは閉ざされてしまったのだ。
それはアッシュフォードの没落への道を示す事であった。

おかげで家の雰囲気が暗くて仕方がない。僕としても最初は途方にくれていたが、ある程度時間がたつと、起こってしまったことは仕方がないじゃないかと開き直ってきた。

確かにアッシュフォード家は没落するかもしれない。
でも別に死ぬわけではないし、没落とは言っても、生きるのに困るような生活になるわけでも無い。
僕自身としても権力や家柄など興味も無い輩だ。
つまりは特に問題無し。
結論を出した僕は、部屋でゴロゴロとニートな日々を送った。

僕にとって幸いだったのは、アッシュフォードがこの大困難についての対処に終われて、僕にかまける余裕がなかった事。
そして、婚約者に悲劇があり、落ち込んでいるだろう僕を腫れ物扱いにして、ほっといてくれたお陰で、僕は十二分に毎日ニブニブ動画を楽しむ日々が送れた。


しかし僕の至福の時間は唐突に終わりを告げる。

運命の日。
今日も今日とて、ニブニブ動画でアイブスの美不ちゃんの動画を見ようとパソコンを起動した僕であったが、直ぐに電源を落とすことになる。
部屋のドアがノックされ侍女が声を掛けてきたのである。
当主である祖父が呼んでいると。





「ご機嫌麗しゅうお爺様。
アクア、参りました」

「うむ。
よくきたな、アクアよ」

爺さんは挨拶を返したっきり黙りこくってしまった。
いつも陽気でお祭りが大好きで、確実にその性格を孫のミレイに譲ったのが分かる爺さんのこんな姿を見るのは初めてのことだ。

よく爺さんの顔を見ると頬がコケ、目の下には大きな隈があった。
この有様が今のアッシュフォードの状況を表している。

「アクアよ…
今のアッシュフォードの状況が如何に苦しいかわかるか?」

しばし黙り込んでいた爺さんであったが、震わせながら、搾り出すようにして声を発してきた。

その問いに頷き返答を返す。

「お前も知っての通り、今のアッシュフォードは壊滅的なダメージを負っている。
マリアンヌ皇妃の死。それによりルルーシュ皇子やナナリー皇女の追放。
マリアンヌ皇妃を全面的にバックアップしていた我らの損害は計り知れない。没落の可能性もあるほどだ…」

本当に辛そうに、語る爺さんには悪いが、僕には家のことにはあまり興味はなかった。
僕たちアッシュフォードが没落するとは言っても、別に死ぬわけではないのだ。
勿論マリアンヌ皇妃やナナリーのことは気の毒ではあるが、全ては過ぎ去ってしまったこと。
大切なのは皆幸せに生きていることであろう。
大丈夫。権力なんか無くても生きていけるさ。爺さん。

そのまま暫し祖父はなんたらかんたら喋っていたが、右から左状態で聞いていた。

「我らアッシュフォードがかつての栄光を再び手にするには、功績が必要となる」

話がようやく本題に入ったのか、爺さんは目を伏せながら一度ため息を吐いて言葉を紡いだ。

「功績、ですか?」

「そうだ。
この度の出来事を覆すような功績。
それはアッシュフォード家全体の功績でも良いし、個人の功績でも良い。」

功績ねぇ。
確かにこの不祥事を覆すような功績があれば、大丈夫かもしれないが…
むしろ僕や、姉さんが政略結婚したほうが早いんじゃないかな?
なんて思考真っ黒な事を考えていたら、祖父が急ににこやかな笑顔になっていた。
さっきまでのギャップでちょいとびびった。

「それでだ。
お前は我らアッシュフォードが、KMFの開発を行っていたのは知っているな?」

「え、あ、はい。
勿論存じておりますが…」

いきなりの方向展開にすこしどもりながらも肯定する。
アッシュフォードは閃光のマリアンヌとまで謳われた、マリアンヌ皇妃と共に、第三世代KMF―――ガニメデの開発を行っていたのは周知の事実である。
僕も姉に引っ張りまわされて、現場に何度か訪れ、戯れにシュミレータなどで遊んだ経験がある。

「うむ。
お前は戯れにシュミレータなどで遊んでいたのだろうがな…
しかしマリアンヌ様はこう、言われていた」

クワッ!
という擬音が付きそうな勢いで瞼を開ける爺さん。
目が血走っていて怖いっす。爺さん。

「お前にはKMFの操縦に対する天賦の才があると!」

ジャジャジャジャーーーン!
みたいな効果音が聞こえた気がした。
目が血走りすぎてマジで怖いっす。爺さん。

「故にお前は軍人となるのだ!アクアよ!」

ドンガラガッシャーン!
と雷が落ちたような気配が感じた気がした。
は?何言ってんの?
この爺は。あと目がもう殺人鬼のような目つきになってます。
ごっつやばいっす。爺さん。

「功績を立てるのだ!
そしてその功績を持ってアッシュフォードに栄光を取り戻す!
これだ!これしかない!今やアッシュフォードの命運はお前が握っているのだ!アクアよ!」

僕の思いを微塵たりとも感じていない爺はさらに暴走していた。

なんすか?
この展開は。
急展開にも程がある。
軍人ですと?他国に戦争売りまくっているブリタニアの軍人になるなんて、死亡フラグを自ら立てるような事誰がしてたまるか!
僕は平穏無事に暮らしたいんだ。
その為にはこのいっちゃてる爺さんを説得しなくては。


「お爺様、それ「まずは士官学校への入学からだ!もう手続きは済ませてある!入学は明日からだからな。お前の荷物も今纏めている所だ!お前は今すぐ士官学校の寮に向うのだ!なーにあの閃光のマリアンヌ様がお前に天賦の才があるといったのだ!そのお前ならばたぶん大丈夫だ!手柄をとってくるまで家に帰ってくるんじゃないぞ!わっはははははは!ではお前たち!アクアを士官学校へと連れて行くのだぁ!オール・ハイル・ブリタニア!オール・ハイル・アクア!オール・ハイル・アッシュフォード!」爺人の話を聞けよ!あっ!?手前ら何しやがる!離せって、それスタンガ!?ちんげ!」

信じられない。
何処の世界に実の孫をスタンガンで気絶させる祖父がいるんだよ。

意識を失う前に目に焼きついた光景は、孫にスタンガンを突きつけながら笑い続けている爺だった。
この爺マジにいかれてやがる…。




後から聞いた話だとこの時、爺は躁病になっていたらしい。
やはりいかれていたか。




かくして、僕は、賭博漫画のブイジに出てくるような黒服のサングラス姿の爺の手下につれさられ、士官学校へと入学された。
人身売買された気分だ。

入学して最初の頃は、どうやって、学校を辞めて家に帰るか?
そのことばかり考えていたが、冷静に考えて見れば、あのクソ爺の様子では、仮に士官学校を中退して実家に帰っても、そこに僕の居場所はないだろう。
仕方ないから、とりあえず軍人になって、頑張って死なないように、そこそこの功績を上げ、退役するしかない。
そう考えた僕はとりあえず、軍人になった時死なないように訓練を頑張った。
お陰で成績もまあまあ。
ルームメイトとなったジノともそこそこに仲良くやって、僕の仕官学校生活は最初は中々に順調満風と言えた。

しかし後に僕はこのブリタニア士官学校の真の恐ろしさを知り、恐怖に慄くことになる。

軍人は当たり前だが、女よりも男のほうが数が多い。
ブリタニア帝国は男尊女卑ではなく、男女平等なので、女の軍人もいるが、やはり男の方が多いのが実情である。
したがって軍人の養育施設である、士官学校も必然的に男の方が圧倒的に多い。
考えて欲しい。
そんな男だらけの中で、性欲を滾らせた青少年はどうやって性欲を発散するのか?


1 砂漠の中で一粒のダイヤの欠片を見つけるかの如く、彼女を作るか。

2 右手を恋人にして、自らを慰めるか。

3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・男同士で交わるか。

恐ろしすぎる事実だが、ブリタニア士官学校では3が盛んだったのだ。
なんと恐ろしい。

僕は今ままで自分の容姿には無頓着であった。周りの人間が綺麗所であったのも災いしたのかもしれない。
自分の容姿を普通と思っていた。

しかしどうやら、僕の容姿は綺麗所に入るようだ。
僕はこの淫獄の館においては格好の餌だったのだ。
僕の尻が狙われたのは1度や2度ではない。
マジ勘弁してください。

僕の貞操のピンチだ。

そしてよくよく考えて見れば、ジノも油断できないと云う事に気づいた。
あの金髪碧眼という王子さまなルックス。
そしていつも何かと、べたべたと抱きついて引っ付いてくる態度。
時折僕のことを切なそうな瞳で見つめる視線。

間違いない。
僕の灰色の脳細胞はある事実を確信した。
奴は薔薇の王子さまだと。

その事実を確信した後、僕は自らの体を鍛えた。鍛えまくった。
ジノは年齢の割に体が大きく、ブリタニア人の標準の体を持つ僕よりも体が出来上がっている。
そんなジノに今の僕が押し倒されたら、あっという間に僕は強制的に
「やらないか?」で「アッーーー!」
のコンボになってしまう。
僕の貞操の大ピンチだ。
そうならないように、少しでも体を鍛え、反抗しなくてはいけない。
そしてそれは、他の奴に押し倒された時にも同じだ。

それ以来、僕は朝に神に貞操の祈りをし、体を鍛え、1日始終気を緩めず、貞操の為に日夜切磋琢磨しているのであった。


ジノよ!
そして僕の尻を狙うその他大勢よ!
僕の尻は僕の物だ!誰にもわたさんぞぉ!


僕の孤独な戦いは続く…。







■ジノ・ヴァインベルグ■




アクアと共に食事を取りながらつい振ってしまった、実家の話に、俺は自らの失敗を悔いた。



アクア・アッシュフォード。

初めて会った時感じた印象は『綺麗なお人形さん』だった。
少し青みが掛かった白い髪に、青い瞳。こいつの両親がアクアと名づけた理由が人目で分かる容姿に、無表情な、女のような顔つきに細い体。
どう見ても軍人の卵とは思えない容姿だ。
あまりにも頼りにならない印象。
どこぞのアイドルグループに紛れていたほうが違和感が無いくらいだ。

しかしそんな印象は直ぐに吹き飛ぶことになる。
常に周囲を威圧するような空気。
訓練の際のあまりの真剣振りには教官も驚くほどだ。
そう―――まるで戦いに恋焦がれているように。

何がそこまであいつを戦場へと思いをはせるのか?
俺はアクアに興味を持つことなり、奴を少し調べて見た。
そしてその調べた結果により、奴が何故こんなにも戦場へ思いを寄せる事となる原因を知る事になる。

アクアの実家アッシュフォードはあのマリアンヌ皇妃と繋がりの深かったことで有名であった。
しかしそこであのマリアンヌ皇妃の暗殺テロ。
今やアッシュフォード家は没落の危機に大いに晒されている。
そんな中でアクアは軍人となりて、功績を立てる事を、アッシュフォードの家の者から期待されているのだろう。
なにしろあの才能だ。期待せずにはいられないだろう。
そしてアクアもその期待に応えようと、ひたすらに己を磨き続ける…。
そう、まるで尖り過ぎた鉛筆のように。
己を削りすぎ、尖りすぎた鉛筆は直ぐに折れることになる。
しかしアクアはそのような事は構わないとばかりに、己を磨き、酷使し続ける。

まあ、でも別にそれもまた奴の人生だ。
人生を楽しむ。というコンセプトの俺からして見れば、理解できないが、あいつの人生。それもまたいいさ。
あれを見るまで俺はそう思っていた。

それは、ある日偶々俺はいつもより早く目が覚めた。
いつもならアクアに起こされている俺が、起こされる前に目が覚めるなんて、なんと珍しいことよ。
なんて思って目を彷徨わせたら。

其処には唯ひたすらに何かに祈っているアクアがいた。

それはまるで無垢なる赤子のように。
または純白なる聖者のように。
それはあたかも宗教画に描かれた殉教者のように。
神聖なる雰囲気を辺りに醸し出していた。

それ以来、何度か早めに目を覚まし、確かめたが、あいつは毎日祈っているのだ。
唯ひたすらに純粋に。穢れなき思いを神に。

アッシュフォード家再興の為だけにあいつが、自らを磨き続けているのかはわからない。
きっと俺なんかが、考えも付かない思いを抱きながら、あいつは自らを磨き、悩み、悔やみ、挫折し、それでも自らの願いを、そして誰かの願いを叶えようとしているのだろう。

そう、自らの命すらも掛けて。


それから俺はこの危なっかしくも、純粋なルームメイトが放って置けなくなっていた。
この危険な小僧と一緒に道を歩んでやる。嬉しい時は共に喜び、楽しい時は共に笑い、悲しい時には共に泣いてやり。
人生を楽しむのだ。

それが相棒である俺の役目って奴だ。
なあ、そうだろ?アクア…




■アクア・アッシュフォード■





ううぅ…またジノから切ない視線を感じる。
間違いない。
これは恋する乙女の瞳だ。もはや120パーセント間違いない。

僕の尻はジノに狙われている!
こんな熱い視線を向けられるのは初めてだが、向けられたくなど無かったぁ!

やられてたまるか!
僕の尻は僕の物なんだよぉ!
そんな瞳を向けられても駄目だからな!
くくぅ・・・この調子では近いうちに実力行使で
「やらないか?」で「アッーーー!」が来るかもしれない。
もっと強くならなければ!頼むから早まらないでくれよ!ジノ(泣)!



自由への道は遥か遠く、孤独な戦いはさらに続く…。



[3303] お家再興記 2話
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2008/07/07 16:04
「半人前だった我らを、見放さず教育した下さった、教官達―――」

ブリタニア士官学校の大講堂。
今ここでは、僕達の学年の卒業式を行っている。
今は学年トップの成績で見事に主席を務めたジノが、壇上で卒業生代表として訓辞している最中である。


長かった…。
ジノの訓辞を聞き流しながら、僕は一人深い達成感にも似た感情を噛み締めていた。
入学してから幾うん年。名も知らぬ生徒たちに狙われ、迫りくる淫獣どもを、千切っては逃げ千切っては逃げ。果てにはルームメイトにすら狙われるという、安息という場所が無い世界。
信じられるのは数少ない女性達と鍛え上げた己自身のみ。
淫獣達の攻めに屈した時、それは新たなる世界―――新世界もとい、ち〇世界の幕開けとなる。
新世界にも程がある。誰かドヴォルザークに謝って来い。

しかし僕はやりとげたのだ。
この不条理な淫獄の世界に決して屈せず…尻を守り抜いたのだ!
貞操を守り抜き、聖男として居るのだ。
えらいぞ、僕。よくやったぞ、僕。泣いてもいいぞ、僕。

「―――私からの言葉はこれにて終了させていただきます。卒業生代表、ジノ・ヴァインベルグ」

自分が成し遂げた偉業を一人静かに称えている間に、ジノの訓辞は終わったようだ。
一礼をしてから、壇上を降りてジノが自らの席―――僕の隣の席に戻ってきた。

僕に対して、キラリンと王子さまスマイルで笑うジノに苦笑いで出迎える。

「えーでは次に当校第八ブリタニア士官学校校長からの―――」

進行の言葉と同時に、ダンディズム溢れたおっさんが壇上に上がる。
ちなみにこのおっさん。20年以上連れ添った奥さんがいるのだが、その奥さんに秘書のアシェリー・ラマンさん(25歳)との浮気を暴かれ、現在離婚調停中であり、現在奥さんとは別居中。
11歳と言う可愛い盛りの娘さんから、ゴキブリを見るかの様な視線に晒されているという涙を誘うおっさんだ。
大丈夫おっさん。ゴキブリだって頑張って生きてるんだから。一寸の虫にも五分の魂よ。
ちなみに情報提供者はブリタニア士官学校一の情報ネットワークを持つ、食堂のおばちゃん。イヤー・グレイトさん(42歳)誰々がガチホモとか、僕を狙っているとか、いつも有益な情報提供、本当にありがとうございます。

「諸君。卒業おめでとう。我らはひよっこだった諸君らがこうして―――」




早く終わんないかなぁ。











大講堂での卒業式を終え、僕達学生は、己の教室に戻り、担当教官を待っている。
教官は学生たちに、配属地域と部隊を告げるのが教官としての最後の仕事だ。

自分の席に座って待っていると、ジノがこちらに寄ってきた。このホモともこれでお別れか。

「いやーこれで俺たちも卒業だな。アクア」

「ああ。やっとだね。早く卒業したくてたまらなかったよ」

この淫獄の館から。

「…お前らしいな。早く実戦に出たくてたまらなかったって事か」

そんな事はありえないのだが、流石に、君を含めたホモ達から逃れたい。
なんて言える訳が無い。曖昧に笑ってごまかす。

「しっかしお前との付き合いも、この学校にルームメイトになってからだから随分と経つな」

ジノがしみじみと頷きながら感慨深そうに言う。

そう―――僕はその長い間、ジノやガチホモ達の猛攻を凌いだのだ。
すごいぞ。僕。かっこいいぞ。僕。泣いてもいいぞ。僕。

「そうだね。でも部隊配属はバラバラになるだろうからね。ジノともこれでお別れか」

「おいおい。俺たちの友情はそんなもんで終わるもんじゃないだろ?」

友情。確かにジノとは尻の関係を抜かせば十分に友情を築いてこれたと思う。
ジノ自身も僕のような、コミュニュケーション能力が欠けた人間とも付き合ってくれるいい人だ。
尻を抜かせば。
卒業して、たまに会うくらいならば、尻を狙われる心配も無い。
ジノとは友人関係を続けても大丈夫だ。
尻さえ死守すれば。

「ああ、すまなかった。僕たちならば大丈夫さ」

「ああ。…その通りだ」

少し微笑みながら答えた僕の言葉に、ジノは誰もが見惚れるような満面の笑顔で応えてきた。
その笑顔にトクンと高鳴るむn…べ、別に胸が高鳴ったりなんかしてないんだからねっ!本当なんだからねっ!

自分では絶対に認めたくない心のドキマギに苦しんでいると、教官が教室に入ってきたので、ジノは自らの席に戻る。
ナイスタイミング教官。
危うく道を踏み外し、自ら〇ん世界への道へと旅たつ所だった。
あとドヴォルザークさん、すいません。






「スヌア・ボラギノール。イオーヤ・オロナイン。両名は所属地域はブリタニア本国。所属部隊は―――」

教官が学生たちに配属地域と部隊を告げる。

しかし配属地域と言っても殆どがブリタニア本国に配属だ。
士官学校卒業したてのほやほやに、いきなり侵略作戦中の前線に出ろというのは無理な話しだ。
殆どが戦争の無い本国や、もしくはすでに統括したエリアに配属となる。僕としても功績を取ってさっさと軍を退役したい所だが、功績の為に死ぬのは真っ平ごめんだ。
ここはまずは安全な所で軍人を経験してから「ジノ・ヴァインベルグ。アクア・アッシュフォード。配属地域―――E.U.」なんですと?

E.U.―――ヨーロッパ地方を中心とした国家で、民主主義の政治体制を取る国家である。
ブリタニアと対立している二強国の一つであり、現在もブリタニアとの戦争が激しく続いている国である。
つまりは最前線。死亡率ナンバー1。そんなバナナ。

一瞬聞き間違いかと思ったが、学生たちの間にざわめきが起こっているので、悲しいことに聞き間違いではなさそうだ。
それでは教官の勘違い。もしくは言い間違えか?
こう、E.U.じゃなくて。そう、良い・湯ー。だな。はぁービバノンノン。 見たいな世界のどこかにあって欲しいエリアとか。

「あの教官、失礼ながら、二人の配属場所…間違いでは?」

ナイス。名も無き生徒Aよ。

一人の生徒が席を立ちながら、教官に質問する。
そうだ。間違いであれ。間違いであってくれ。

「間違いではない」


ピッチャー投げた!三振!バッターアウト!ゲームセット! さよなら!僕の甲子園!  


現実はこれ位に非常だった。


「ジノ・ヴァインベルグ。アクア・アッシュフォード。両名はE.U.―――最前線への配属となる」

ジーザス。
神は死んだ。ついでに僕も死にそうだ。

教官の駄目だしに、教室の中はさらにざわめいていく。
もう一人の当事者であるジノに視線を向けると、さすがのジノも驚きの表情を顔に貼り付けていた。

「教官。
自分たちの配属地域がE.U.である事の理由をお聞きしたいのですが」

席を立ち上がり教官に尋ねる。
軍人は上官からの命令は絶対服従。
本来ならばこんな質問聞いてはならないのだが、まだ軍隊に配属される前。
ならばここは、可能性がある限りごねて見よう!

「それはだな…」

「その質問には私が答えよう」

口を開こうとした、教官の言葉を遮る様に、ガラっと教室のドアを開き、入ってきたのは…校長!?

突然の校長の乱入にざわめく生徒たち。
教官も驚いてるし。つーか、あんた廊下でずっと待ってたんですかい?
士官学校の校長って暇なのだろうか?そんな暇があるんだったら、奥さんとよりを戻すように頑張って、娘さんからの信頼を取り戻せよ。

「校長…」

「オードリー君。ご苦労様。
ここからは私から言わせてくれ」

校長の言葉に教官は、一つ頷いて、教卓の場所を校長に譲る。
一つ咳払いをしてもったいぶるように間を取ってから校長は語りだした。

「さて、ジノ・ヴァインベルク君。アクア・アッシュフォード君。
君達二人の配属地域がE.U.と知って、さぞ驚いていることだろう。
この人事に付いては私から推薦させてもらった」

なんたる余計な事を。
あんた僕に死ねってか?

「君達二人は実に素晴らしい素質を持っている。
この第八ブリタニア士官学校中ではトップの素質を。
そしてそれは他の士官学校を含めても、君たちの才能は逸脱した存在だと私は思って…いや、確信をしている。
そんな君たちの才能を後方勤務や、哨戒任務。治安行為が殆どの非戦地に赴かせていいのか!?せっかくの天から授かった君たちの才がそんなことに使われて!」


はい。モーマンタイです。
つーか、むしろそっちに行かせてください。


「私は絶望した。
君たちの才がそんなことに使われる事に。
そんな中私は、私と同じ思いをした者を見つけたのだ。」


しかしそんな僕の思いを悟らずに、校長は自分に酔っているかのように演説を続ける。
なんかどっかで見たような眼つきしてんなぁ。


「それは以前から親交のあった別の士官学校の校長だった。
聞くと彼の学校の生徒にも非常に才溢れる生徒が一人居ると。
そしてその生徒の才が潰されることを嘆いてたのだ」


顔を手で覆い、全身で苦悩を表現している。
演技派っすね。校長。
その演技で奥さんも騙せたらよかったのに。


「私たちはお互いの生徒の情報を見せ合った。
そしてお互いに確信したのだ。
この三人なら今すぐに戦場に行っても、通用すると。いや、戦場のエースになれる実力があると!」

あ、思い出した。この眼つき。
俺を売り出したじいさんの眼つきにそっくりだ!こいつも逝ってやがんのか!?

「私とその同士は、君たちの実力を表したデータや映像を、前線基地の司令官、部隊長に送り、説得したのだ。
本来ならば、最前線に新兵を送ることなどあってはならない事だ。
新兵は戦力になるどころか、邪魔になることが多々ある。
一瞬の油断が即死に繋がる前線では尚更だ。
しかしそれでも前線の勇将達は、君たちの実力を見て、自らの部隊への入隊を認めたのだ!」

なんちゅー余計なことを。
あんた一寸の虫にも五分の魂と、慰めたこの僕に死ねってか!?

「君達も軍人になり、自らの才覚に応じた働きをし、上へと駆け上がっていくのだろう。
私はそんな君たちを少しでも手伝えた事を誇りに思う!
ジノ・ヴァインベルク君!アクア・アッシュフォード君!君たちは私の…いや当校の誇りだ!
思うが侭に突き進んで何処までも高く、遠くへ飛翔してくれたまえ!オール・ハイル・ブリタァニアァ!」

自己陶酔度120パーセントを突破した校長は感極まったように、涙を流しながら両手を大きく広げながら、演説を終えた。
この学校潰れればいいのに。

いや、別に僕は軍人に命掛けるつもりは微塵たりともないし、勝手に誇りにされても困る。
ちょっと功績が取れたら即効に退役するつもりだから、ぶっちゃけすごくありがた迷惑っす。
めっちゃノーサンキュー。

しかし僕の思い等、自分に酔いしれまくった校長には微塵たりとも察してくれない。
マジで潰れてくれないかなぁ。この学校。
いや、むしろ僕が潰したい。

その後校長は暫しの間、そのポーズのまま、静止していたが、無粋な邪魔者に再起動を余儀無くされる。
校長の携帯が鳴ったのだ。
着メロは「ブジャ魔女カーニバル」しっかりしてくれ。校長。

「おお…すまない君達。
まったく人がいい話をしている時に、何処の誰だ?一つ文句をいってやらん、と…」

不快の表情を露にし、ブツクサ文句を垂れながら、自らの携帯を懐から出し、液晶画面を覗いた校長の動きがピタリと止まった。
心なしか脂汗が出てる気がする。

なんだ?

「あー君たち。
申し訳ないが、私は重要な用件が入ったから直ぐに戻らなければ。
では二人とも、頑張りたまえよ!」

言いたいことだけ言って、校長は廊下に出て行ってしまった。
校長の不振な態度に、一瞬教室中がざわつくが、校長が廊下で電話を話す声が聞こえてくると、ピタリと静かになり、皆耳を傾ける。
ナイス反応だ。皆。そして僕も耳を傾ける。野次馬根性いっぱいだ。あ、君。そこのコップ取って。














「…もしもし?どうした?急に電話してきて…いや、そんな訳ないだろう!そう。今仕事中で生徒たちに、講義をしていて直ぐに電話に出れなかったんだ。
…ああ、そうだ。信じてくれ。私がお前に嘘を言ったことがあるのか?
い、いや、その事は!?その…すまなかった。
どうだ?ここいらでもう一度考え直して、話し合わないか?リーネもまだ11歳だ。
リーネの今後のことも考えて…ああ。良ければやりなおしてくれないか?私も反省している。いや!?その!彼女のことは…向うから言い寄られてつい」

「酷い…校長…」

「アシェリー君!?」

「貴方のほうから、奥さんと別れるからといって言い寄ってきたくせに…」

「いや、その、違うんだ!
アシェリー君!決してその、私はそんなつもりじゃ!」

「嘘つき!さっきの奥さんとの話聞いてたんだから!
何よ!何よ!私の事、皆馬鹿にして!嫌い、嫌い!皆大嫌っい!」

「ア、アシェリー君」

「でも…でも嫌いになれないんです…校長のことは…」

「…アシェリー君」

「奥さんがいるって知ってた…私の事遊びだって事も心のどこかでわかってた。
でも…それでも」

「…………」

「貴方のことが…
貴方のことが好きなんですっ!愛しているんです!」

「……アシェリー」

「ぐす…ひっく…」

「…ありがとう。
君の気持ちは、とても嬉しく思うよ」

「ぐす…ひっく…いえ。すみません。
大人気なく癇癪を起こしてしまって…」

「いや、謝らないでくれ。
私が、そう全て私が悪いのだよ」

「そんなことありません!私が悪いんです!」

「いや!私だ!君にそんな思いをさせた…私が悪いのだ」

「…校長」

「すまない。アシェリー君…私の中途半端な行動が君をここまで追い詰めていたとは…私は人として最低な人間だ」

「そんな…そんなことありません!
校長は私にひと時の幸せを与えてくれました!私にはそれで十分です!」

「いや違う!違うんだ!君の言うとおりだよ…私は遊びのつもりで君と付き合っていた」

「……」

「しかし今君に愛していると言われてやっと気づくことができた」

「…?」

「虫のいい話と笑ってくれていい。下種な男と罵ってくれてもいい。私は君の事を…愛していたんだ!やっと、やっと気づいたよ」

「!?」

「私は妻と離婚するよ。しかしそれは今回の事が原因で離婚するのではない。
君と結ばれたいから離婚するのだ」

「あ…あぁ」

「だから君にこの言葉を贈る。アシェリー君。いや、アシェリー!私と結婚してくれ!」

「あ…」

「返答を…返してくれないか?」

「はい…はい!喜んで!」

「アシェリー!」

「校長!」







「「「おめでとうございます!!」」」

「うお!?」

「きゃあ!?」

二人だけの世界と化していた共同廊下に、突如乱入する生徒達に驚愕する二人。
アシェリーさんは大粒の涙を瞳に溜めていた。萌える。

「き、君たち!?どうして!?」

「そりゃ教室の直ぐ外の廊下でこんなことされたら、誰だって気づきますよ」

校長の詰問にクラスメイトの一人が、目を糸のように細めながら答える。
そりゃそうだ。

士官学校の廊下でプロポーズが成功。
こりゃブリタニア士官学校始まって以来の快挙だ。しかも成し遂げたのは校長。
これは伝説になるぜ。桜の木の下で告白したものは両思いになる位の伝説に。

「おめでとうございます!」

「おめでとう!二人とも!」

「校長!もうアシェリーさんを泣かせるなよ!」

「結婚式には呼んでくださいね!」

「むしろ今が結婚式でいいんじゃね!?」

「き、君たち。ありがとう!本当にありがとう!
私は歴代のブリタニア士官学校の中でも、最高に生徒に恵まれた校長だよ!」

「ぐす…えぐ…ありがとう皆!」

生徒たちからの祝福に本当に嬉しそうにする二人。
アシェリーさんは涙を流しながらも本当に幸せそうに笑っている。テラ萌える。


この二人の選んだ道は、決して祝福されるものではない。
世間的にも論理的にも反したものであろう。
妻を捨てて新しい女を娶った男。妻から夫を奪った女。
二人が選んだ道は茨の道だ。誰からも理解されることは無いのかもしれない。

しかし其処には確かに愛があるのだ。

ならば愛が芽生えた瞬間。愛が誕生した時、祝福する事位、神様も許してくれるだろう。
いや、許さなければならない。

だから僕達は心から二人を祝福した。
もう二度と、祝福されることは無いのかもしれない二人を祝福することしか出来なかった。




「いよっしゃー!それじゃ二人の新たな門出を祝って胴上げだ!」

「「「よっしゃー!」」」

一人の生徒が、腕を天へと突き出しながら発した提案に、生徒たちは威勢良く応え、胴上げの準備をする。
二人なので、二つ、輪っか状のスクラムを作ると、主賓を寝かせ準備を整えた。

「おいおい、こんな歳になって胴上げとは。ははは!久しぶりで胸が躍るよ!」

「こんな嬉しい思いは久しぶり…ううん。初めてよ!」

喜ぶ二人を尻目に、僕達は視線を合わせ、頷きあう。そして一度腰を低くしてから、一気に腕を頭上にまで持ち上げる。

二人の体は高く舞い上がった。


「「「わっしょい!わっしょい!」」」

「わっはははは!」

「きゃー!きゃー!」

二人は嬌声を上げながら、生徒たちに委ねた体が舞い上がるのを楽しむ。



「「「わっしょい!わっしょい!」」」

「わっはぐほ!?ちょ、君たちうぼ!?高すぎて天井にめきょ!?」

「きゃー!きゃー!」


何故だろう?アシェリーさんの方の胴上げは、天井ににぶつからない一定の高さであるのに対して、校長のほうの胴上げは天井にぶつかっている勢いだ。
まるで手前何、美人な年下の女性を取ってんだよ!ゴラァ!と言わんばかりに、今まで士官学校で鍛え上げた筋力を有効活用している感じがする。


「「「わっしょい!わっしょい!」」」

「ちょ!やめてくぶれぇ!?マジでやばいんご!?」

「きゃー!きゃー!」


特に何時の間にか校長の胴上げに参加している教官が力はいりまくってる気がする。
ブツブツと何かを呟きながら腕に血管が浮き出るほど力を込めている。気のせいだろうか?


「「「わっしょい!わっしょい!」」」

「ぶぼ!?は、鼻が!?今めきゃ!?って音ぐへ!?」

「きゃー!きゃー!」


しかし気のせいだろう。此処にいるのはただこの二人を祝福するだけに居る者たちだけだ。
今までお世話になった校長に対して、つい力を込めてしまっているだけのはずだ。
校長は祝福されているのだから。
ちなみに僕も校長の胴上頑張っています。
力のあらん限りに。愛を込めて。


「「「わっしょい!わっしょい!」」」

「ごふ!ぐふ!めきゃ!ずしゃ!」

「きゃー!きゃー!」



いつまでも、いつまでも僕たちの祝福は続いた・・・。



「「「わっしょい!わっしょい!」」」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「きゃー!きゃー!って、きゃーー!?校長!?」



ちなみにこのとき、奥さんと話していた携帯が、通話中のままで、向うの奥さんと近くに居たリーネちゃん(11歳)に駄々漏れだったそうだ。
後日娘さんと校長が会った時、この世の屑が!と言わんばかりのブリザードの如く冷たい視線で見つめられたという。















「さて。
ジノ・ヴァインベルク。アクア・アッシュフォード。
先ほどの話の続きだが」

その溢れる愛ゆえに校長を病院送りにした僕達は、教室に戻り、僕たちの配属地域の話しの続きをしていた。
教官が壇上に戻り、説明を告げる。

「二人の配属地域だが、私から校長に変更を進言しようと思っている」

え!?マジっすか!?

「君達の配属先はE.U.の中でも特に最前線の所だ。
君たちの実力は私も良く知っている。
しかし、だからこそ私は変更を進言したい。」

こ、校長の野郎。
僕をどんだけ危ないところに放りなげるつもりだったんだ。
もっと愛を込めて祝福するんだった。
でも教官GJ!マジGJ!なんか教官が校長にこれ以上いい思いさせてたまるか・・・とかって言った気がするけどノープロブレム!

「二人ともそれでいいか?」

「もち「いいえ、教官。俺たちはそのままで結構です。」ローン!?」

開始早々、国士無双食らった気分だ。

痔ノ!じゃなかった。ジノ!お前は何を抜かしてんだ!?
何を考えて、好き好んで最前線に赴く!?と言うかなんだ、この「俺たちは」は!?「俺は」の間違いだろ!?僕を巻き込むな!

ジノに視線を向けると、ジノは何もかも分かっていると言わんばかりの、顔で一つ頷いてきた。
解ってくれたか!では直ぐに嘘デース。てへ☆とかって言うのだ!

「わかってるさ。アクア。お前は例え一人でも、前線に赴くつもりだろう?だったら相棒の俺も付いて行くさ!」

わかってなかった。
何もかも。
神は死んだ。
そして僕も死ぬ。

「さすがはジノとアクアだ…」

「あそこまで二人の間には愛の絆があるのか」

「くぅ!妬けるぜ!」

辺りからざわめきが聞こえてくる。愛の絆とかマジで勘弁してください。
あと妬けるんだったら、いつでも立場交換するから助けてください。

「わかった。では改めて告げる。ジノ・ヴァインベルク!アクア・アッシュフォード!配属地域E.U.!貴官らの武功を祈る!」

今正に僕の魂が燃え尽きようとする時に、教官からのトドメ言葉で僕は真っ白に燃え尽きた。
ついでに灰も吹き飛ばされた。
もう僕のライフは0です。楽に死なせてください。

「へへ。また改めて、宜しくな!アクア」


がんばれ。僕。尻を守るんだ。僕。泣いてもいいぞ。僕。












「貴様ら!お待ちかねの新入りどもだ!
たっぷりとかわいがってやれよ!」

今僕の目の前には、厳つくゴリラのようで、いかにも歴戦です。
と、言わんばかりの軍人が居る。認めたくないが僕の上官だ。現実を認めたくない年頃だ。
そしてどういう意味でかわいがるのだ?
尻で可愛がるのは本当に勘弁してください。自殺したくなるんで。

上官の後ろには20から30のむさくるしい人が一律に整列している。
ここはヘルだ。僕はなんて所に来てしまったのだ。
家に帰りたい。ニブニブ動画を見たいよ。

「では新人共!右から順に自己紹介しろ!」

目の前の筋骨隆々な上官が無駄にでかい声で、こちらに促す。

「はっ!自分はジノ・ヴァインベルク少尉であります!」

新入りの中で一番右にいたジノが敬礼をしながら、自己紹介をする。
はきはきとジノらしい自己紹介だ。

「…アーニャ。アーニャ・アールストレイム少尉です」

ジノの左隣に居たちんまい少女が次に応える。新入りは僕を含めて三人。
この少女が校長が言っていた他校の優秀の生徒であろう。とても凄腕には見えない。ちなみに萌えた。

「アクア・アッシュフォード少尉です」

僕らしい、平坦な声で告げる。何故僕はこんな僻地で、こんなむさくるしい男たちに自己紹介をしているのだろうか?
とりあえず爺と校長はあとで殴っておこう。
顔つきが変わるまで。

とりあえず現実逃避で、このような状況になった原因である二人に殺意を抱いていた。
なんと僕らしい。

果たして僕はこの状況で生きて帰れるのだろうか?ジノから僕の尻は守れるのだろうか?



自由への道は遥か遠く、孤独な戦いは続く…。



[3303] お家再興記 3話
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2008/07/07 16:04
「N1!N1!応答せよ!N1!
…くそ!だめだ!ブランジョ少佐どころか、誰とも繋がりもしねぇ!」

「…本部も駄目。
さっき繋がったきり、もう電波妨害で繋がらない
…妨害が無くても繋がらないかもしれないけど」

ジノとアーニャの二人の通信結果は僕のテンションをがた落ちにさせるには十分なものであった。
というかもう、テンションとかの話じゃなくて、絶望だよ。絶望でいっぱいだ。これ以上の絶望は結構。鬱になっちゃうから。

「どうする?本部に戻るか?」

「…本部は大丈夫だと思う。本部にはまだ戦力が残っている。
向うの伏兵がどれくらいかはわからないけど、直ぐには堕とされないはず」

「だが奴らの基地には、たっぷりと戦力が残っている。
本部が伏兵の攻撃に耐えている間に、敵の増援が着たら、本部も持たねえ。
ちくしょう!この電波妨害が無けりゃ戦局がわかるってのに!」

「それを言っても仕方が無い。
…それよりも私たちはこれからどう動くか」


「そうだな。どうする?アクア」

ちょ、お前!そこで半分鬱入ってる僕に聞くんじゃねえよ!

ジノの言葉にアーニャも僕に視線を向けてくる。
なんだか二人とも何かを期待しているような視線だ。
そんな目で僕を見ないで。

なんでこんな事になってしまったんだ。
ゲームのタイトルじゃなくて、リアルにデッドオアアライブな予感だ。
しかもデッドな予感がびんびんしやがる。
もはやデッドオアデッドって勢いだ。
どうすりゃいいんだ、僕は。

「アクア?」

アーニャが可愛らしく小首を傾げながら僕を促す。
ちょwアーニャタンwその仕草やめてください。
テラ萌えすw萌え萌えっすwww



つらい現実を忘れるために現実から逃げてみた。目の前のアーニャに萌える事にした。
こんな状況で萌えることが出来る僕はなんと、2ぶちゃんねるの住民の鑑なのだろうか。
我ながら恐ろしい存在だ。

とりあえず萌えながらこれまでの経緯について思い浮かべよう。萌えながらね。










僕がこのE.U.進行最前線基地本部司令部に配属されて四ヶ月が経った。

僕達3人はそれぞれ別々のKMF小隊に配属され、最初の方は先輩方に扱かれている日々を送った。
扱かれるとは言っても、下の方ではない。されたら硫化水素呑む。
ちなみに、此処でも僕のルームメイトはジノであった。
悪意を感じる。
僕は神様に嫌われているのだろうか?それとも尻神様に愛されているのだろうか?
謎だ。

そして2週間ほど、扱かれてから僕達は始めての戦場を体験した。

初めての戦場での出来事は心底恥ずかしいので、永遠に僕だけの秘密としておく。
ただ一つ言えることは、先輩が語った人を殺すことは直ぐに慣れる。と言う言葉だった。

そしてその言葉は直ぐに本当だと実感することになる。

ともかく、僕は初陣を生きて帰る事を成功する。
そして別の小隊に配属されていた、ジノやアーニャとも無事に再会することが出来た。

この司令部は流石に教官がE.U.の中でも激戦地と言っただけはある。ほぼ毎日戦闘だ。僕達新人三人は、初陣を経験してからはKMFのデヴァイサーとして駆り出される毎日だった。
毎日戦場へと赴き、生と死の狭間を体験する。戦闘ジャンキーとかには、たまらんシュチュエーションかもしれないが、平穏無事に暮らしたい僕には全力で遠慮したい環境に、今僕は居るのだ。
いろんな所から涙が出そうな勢いだ。

しかし僕が駄々をこねても、戦争は続くものである。
この本部が相手をしている、E.U.基地とは正しく一進後退の戦局を繰り広げている最中だったのだ。
ブリタニア側が攻めれば、E.U.側が押し返す。E.U.側が攻めれば、ブリタニア側が押し返す。奇妙なバランス関係が築かれていた。

僕としては、このようなバランス関係が築かれているのだったら、いっその事戦争なんかしないで、皆で仲良く引きこもっていようよ。と提案したい所である。
血生臭い奴等がいっぱいの、この司令部に提案できる訳ないけど。

そんな感じで戦争をしていた時、諜報部がある極秘情報を掴んだのであった。
それは僕たちが相手をしているE.U.側の司令部が別の戦地に一時的に援軍を送るという情報であった。
すなわち相手戦力が減るという情報だった。

この好機は逃せない。
そう判断した司令部は、即座に戦の準備を整え、E.U.に戦闘を仕掛ける事にした。
先行部隊のKMF部隊は三体一組の小隊を、4組。12体のKMFである。そしてその中には別々の小隊に組まされた僕達、新人3人が含まれていた。
つらい現実だ。二次元の世界に逃げたい。

KMF部隊は、それぞれの部隊ごとに散会し、E.U.側に見つからないように慎重に進んで行った。
そして各部隊が敵の基地を一定の距離を取りながらも包囲するように、囲いを作った。

そしてKMF大部隊長。エルゴ・ブランジョ少佐の号令と共に一斉に突入した僕たちは驚愕することになる。

僕たちを待ちかねていたのは、諜報部が手に入れた、現在の敵側の戦力の三倍以上の数の戦力を持ち、迎撃準備を万全に備えた状態でE.U.側は僕たちを待ちかねていたのである。

僕たちは敵に嵌められたのだ。
めんどくさいので、手っ取り早く言うが。
ブリタニアの諜報部に、わざと敵に有益となる情報を流し、秘密裏に戦力を整えていたのだ。
しっかりしてくれ。諜報部。死んじゃうじゃないか。僕が。

敵の一機のKMFが銃砲を放った時、E.U.側の武装が火を噴いた。
そしてそれは虐殺の開幕の狼煙となるのであった。

僕たちは即に、一時撤退をしようとしたが、敵側の攻撃は怒涛の勢いで僕たちを蝕め、僕の小隊で隊長を勤める、グラン・エンフィ大尉、及び隊員のアビリーズ・J・ラカン中尉は戦火の中、その命を散らすこととなった。敬礼。

砲弾の嵐の中、命からがらに僕が何とか敵の基地から逃げ延び、非常事の集合ポイントに向った時、其処に居たのは、僕と同じく砲弾の虐殺を潜り抜けた、ジノとアーニャが居た。
そしてそれは、集合ポイントに辿り着いたのは、僕達三人だけと言う事実だった。ガッデム。

僕が周囲の警戒をし、ジノが仲間が生き残っていないか、一抹の望みを載せ通信を行い、アーニャは本部へと通信を試みる。
電波妨害が錯綜し、通常の通信すら困難の中、二人の通信結果は僕たちを最悪の状況へと追い込む結果となる。
それはKMF部隊とは連絡が付かず、何とか繋がった本部との通信内容は、本部が敵のKMF部隊に襲撃されているというものであった。
そしてそれ以降、通信は繋がることは無かった…。
不吉すぎる。こんな死亡フラグ満載な状況が、今の僕たちを取り巻く現状である。つらい現実だ。マスター…バーボンおかわり。そしてアーニャタン萌え。







「アクア!どうした?」

ジノの呼びかけに、アーニャに萌えながら、過去を振り返っていた僕を現実へと復帰させた。
できればもう少し現実を忘れていたかった。

「いや、すまない。この後のことを、少し考えていてた」

流石に、アーニャに萌えながら、現実逃避かましてた。
なんて、言える訳が無い。ジノに謝りながら、今度は本当に、今後のことを考える。


1 敵の本部を再襲撃。―――NO。  敵の本部には、わんさかと敵の戦力がある。これを僕達三人で殲滅するなんて、無理だし、やろうとも思わない。少数の極普通の機動兵器で、圧倒的多数の敵を殲滅することができるなんて、アニメの世界だけだ。そして僕の乗っている機体は、残念ながらブンダムでは無い。唯のグラスコーだし。僕自身はブータイプと呼ばれる人種で無いので、刻など見えない。と言うわけで、敵本部に突撃案は無し。


2 ブリタニア本部に戻る。―――ダウト。 此処から本部までは、かなりの距離がある。予備バッテリがあるから、バッデリー切れの心配は無いが、本部に戻ったら、敵の奇襲部隊と、敵の本部からの増援部隊に挟まれる可能性がある。そんな事態になってしまったら、命が幾つあっても足りなすぎる。敵の本部に再突入するよりは、生存率は高いと思うが、これも危険。故に本部に戻る案も無し。


3 敵に投降―――――――OK牧場! これだ!これしかない!敵に突っ込んでも、味方の所に戻っても、死亡の予感がプンプンする!ならばいっその事、逆の発想で敵に投降するのだ。歯向かうから、死亡フラグが立つのだ。ならば歯向かわなければいい。これによって死亡フラグを回避!これでいくしかない!なーに。例え捕虜になっても、E.U.側も、ブリタニアとの捕虜条約を守って・・・くれるか?
考えろ・・・よく考えるんだよ!アクア!このままE.U.の捕虜になっていいのか!?考えて見ろ!?奴らは、ブリタニアの淫獣達と一緒で女の変わりに、男と交わるような奴らの可能性があるぞ!?しかも相手は勝利者であり、僕は敗北者の捕虜だ。その絶対的な優位な立場で、僕にどんな要求をするかわかったもんじゃない!そう、E.U.の兵隊が緊縛されている僕を見て・・・。










『ウホッ!いい捕虜…』


兵隊男は緊縛されている捕虜男のことをじっくりと視姦してくる。
そんな兵隊男にフッ…っと兄貴らしく微笑む捕虜男。



『やらないか?』


深い深い、いさじボイスで誘う捕虜男。

その言葉に思わず、捕虜男の緊縛を解き。
ホイホイとトイレに付いて行ってしまう、兵隊男。


『よかったのか。
ホイホイ付いてきて。
俺はノンケだって、かまわないで食っちまう人間なんだぜ?』



『こんなこと初めてだけど、いいんです…
僕…捕虜男さんみたいな人
好き、ですから…』

その捕虜男の質問に、兵隊男は嬉し恥ずかしそうに頬を染めながら応える。


『うれしいこと言ってくれるじゃないの。
それじゃあ、とことん。よろこばせてやるからな』


その言葉に気を良くした捕虜男は、あらん限りのテクニックを駆使して、兵隊男を極上へのヘブンへと誘ってあああ゛゛あ゛ー!・・・ピクピク。















きめぇ!マジできめぇ!
なんて事を想像してしまったんだ。僕は!
もう、なんちゅーか。色々と勘弁してください。
こんな事を考えてしまった自分が憎い。
賢者タイム突入はいやー!尻にションベンはやめてーー!

しばし僕は自分が生み出した妄想に苦しむ結果になってしまった。
我ながらなんちゅーもんを想像してしまったんだ!マジガッデム!


はぁはぁ。お、落ち着くんだ。アクア。
これは僕の思考が暴走しただけで、決してE.U.側の兵隊に阿部(あぶ)さんのような人が居るとは限らないじゃないか…。
そうだよ!端からそんなことばかり考えていたら、紳士な兵隊さん達に失礼だよな!
僕はなんて事を考えてしまったんだ…。こんな自分が恥ずかしい。
ごめんなさい!お父さん!お母さん!ついでにミレイ姉さん!あとクソ爺!
アクアは、自分の偏見で無実の人を傷つける所でした!


…あれ?
ちょっと待てよ?これって僕の方が誘ってないか?
何時の間にか僕が阿部さんになっているような…。

自らの罪を家族に懺悔し、悟りを開きかけた僕であったが、ここで重要な事に気づいてしまった。
気づきたくなかった。
マジで。本気で。まじで。


…さらにきめぇ!超絶にきめぇ!
なんちゅー事に気づいてしまったんだ!僕はぁ!
何だ!?実は深層心理では、ガチホモになりたかったのか!?僕はぁ!?
認めたくねえェ!僕の全生命に賭けて認めたくねえェェ!
もう死にたい!でもやっぱり死にたくない!くそみそテクニックだぁ!僕はノンケのはずだぁ!腹の中がパンパンだぜ。一体どっちなんだぁ!僕はぁ(泣)


「おい!アクア!
どうした!?大丈夫か!?」



負のスパイラルに陥っていた僕を救ってくれたのは、類まれなる王子さまオーラをかもし持つジノであった。
ジノの魅惑のハスキーボイスに、僕の心は正常を取り戻すことに成功する。



ジ、ジノ!
ありがとう!今だったら、僕の尻を許してあげるよ!
…って、やっぱり僕はガチホモだったのかぁぁ!?もう死にたい!でもやっぱり死にたくない!でもでもやっぱり死にたいのかなぁ!?


「アクア!」

再び負のスパイラルに陥らんとしていた僕であったが、そんな僕を救ってくれたは、ピンくちんまいアーニャタンであった。
いつもは僕と同じく無表情な顔つきをしているのに、僕の事を心配してくれているのだろうか?心配そうな顔つきで僕のことを見つめている。ギザ萌える。


…萌える?

その言葉に僕の脳裏に天啓が閃いた。

そう。そうだよ。僕は女の人に萌えることが出来る。
これ即ち。僕がガチホモでは無い事の証明!神の定義。僕は真理に辿り着いたのだ。
真性・・・じゃない新生アクアの誕生だ。
今の僕は全てを悟ったブッダだ。お釈迦様と並ぶ存在だ。崇めてくれていいよ。


「いや、大丈夫だ。やっと決心が付いたよ」

通信画越しに二人の顔を見つめる。
そう、僕は決心したのだ。敵に投降する!これが僕が取るべき道だ。
仮にE.U.側に阿部さんの様な人が居ても、仕方が無い。
僕は全てを受け入れたのだ。悟りを開いたのだ。全ては命があっての事。
命に比べれば貞操の一つや二つ、惜しくは・・・惜しくなんか・・・惜しいけど・・・すっごく惜しいなぁ・・・死にたくなるなぁ。

いかんいかん!せっかくの決心が鈍ってしまう。とにかく、僕は敵に投降するのだ。これはガチ。


「僕は敵の本部に行く。君たちは「ふざけるな!」ヒィ!」


君たちはどうする?と、続けようとした僕であったが、言葉の途中でジノの怒声で遮られてしまった。
あまりの怒声に、思わずヒィ!っと驚いてしまったよ。
ヒィ!なんて生まれて初めて使ったよ。こんなやられ役の台詞、生涯使いたくなかった・・・orz


や、やっぱ敵に投降ってだめっすか。
いや、でも生き延びたいんすよ!分西先生!


僕の哀願の視線をその身に受けた、ジノは怒気を震わせながらさらに言葉を発してきた。



「お前だけを、敵のど真ん中に突っ込ませて、俺たちには本部に戻れって!?ふざけるなよ!」




…は?何言ってんすか?ジノさん?


僕の脳裏には?マークが幾つも発祥するのであった?



■ジノ・ヴァインベルク■


「おい!アクア!どうした!?大丈夫か!?」


俺はアクアに声を掛けずにはいられなかった。

これからの俺たちの行動を、話し合いに、暫しアクアは考え込んでいた。

そこまではいい。しかし少しすると、いつも冷静沈着であり、どんな時でも己が感情を露にしない、アクアの表情が苦悩で歪んで行ったのだ。
その表情は士官学校からずっと付き合いのある、俺が初めて見るほど、苦悩を表した表情であった。

俺の言葉に、アクアは一度顔を上げ、俺の顔を見つめてきた。
そしてまた苦悩に満ちた表情をする。

「アクア!」

アーニャもアクアの異変が気がかりなようだ。
いつもはアクアと並んで、無表情な奴だが、今はアクアを心配している事が一目瞭然でわかる。
こんな時に不謹慎かもしれないが、俺は今、貴重な体験をしているのかもしれない。いつも、自らの感情を決して表に出さない、俺の友人たちが、こうまでも感情を露にしているのだ。こんなことは滅多にないだろう。


「いや、大丈夫だ。
やっと決心が付いたよ」


アクアは、アーニャの言葉に一つ頷きながら、顔を上げてきた。
その顔は決意に満ち溢れた表情をしている。
なんだ?何を決意したっていうんだ。アクア…。



「僕は敵の本部に行く。君たちは「ふざけるな!」」




その言葉を聞いた時、思わず怒声を張り上げている自分が居た。
だが俺は怒声を上げた自分を、後悔してはいない。


「お前だけを、敵のど真ん中に突っ込ませ、俺たちには本部に戻れって!?ふざけるなよ!」


そう。
こいつは、よりにもよって自分だけで、敵の基地を再襲撃し、少しでも敵の増援を減らそうとしているのだ。
そして、俺とアーニャの二人で、司令部に戻れというのだ。

「アクア!お前には、果たさなくちゃいけない使命があるんだろ!?
それをこんなところで終わらせるってのか!?」

俺の言葉にアクアは、目を瞬たせながら、聞いている。


こいつがあんなにも苦悩した理由がやっと理解できた。

この馬鹿は、自分の使命と、俺とアーニャの二人の友人。
どちらが大切か、悩んでいたのだ。

そしてアクアは一人で悩み。答えを出したのだ。

俺たち二人のために、自分が犠牲になるという、馬鹿の答えを。

本当に馬鹿な奴だ。

なんて愛すべき馬鹿野郎なんだよ。

「お前が、敵の本部に突入するって言うんだったら、俺も行くぜ。
アクア。俺とお前は相棒だ。
相棒ってのは、どんな時でも、お互いを見捨てないってもんだ!
それをよーく、その馬鹿な脳みそに刻み付けていろよ!」

俺の宣言を少しの間アクアは呆然と聞いていた。

「私も付き合う」

その声の持ち主。
アーニャのモニターに視線を向けると、アーニャは微笑んでいた。

「私も付き合う。
KMFは基本3体小隊を組む。
私とアクアとジノで3人。
…私たちは3人で相棒」

微笑みながらアーニャは言葉を続ける。

その言葉をアクアは、やはり呆然とした表情で聞いていた。

へっ…今日は本当に珍しい日だ。
こいつら二人のいろんな表情を、見れるなんてよ。

「ああ…俺たちはトリオだ。3人で相棒だな」

気づいたら、俺も微笑んでいた。
現状は絶望的。
だがそんな事は微塵たりとも感じさせない、何かが俺の心の中に根付いていた。



[3303] お家再興記 4話
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2010/01/26 23:48
今の僕の心情を言葉で表すとするならこれしかないだろう。


ちょっとまってちょんまげ。




僕が呆然としている間に、二人は勝手に盛り上がっている。
気がつけば、何故か敵の基地に突撃する話になっていた。
僕は死亡フラグを回避するために敵に投降しようと思ったんだよ?
その為にはE.U.の阿部さんにも、この身を捧げる覚悟もできたっていうのに…。
何?この死亡フラグは?
これだったらまだデブのフラグ。
脂肪フラグの方がマシに思えてきた。

「で?どうやって攻める?俺たち三人でフォーメーションを組むとなると…」

「それは…」

「まってくれ!」

なにやら具体的な話が始まりそうだったので、とりあえずまったをかける。

僕の言葉にモニターの二人が僕に視線を向けてきた。

「どうした?アクア」

どうしたじゃねェェ!お前らがどうしたんだよォォォ!
たった三機で敵の本部を襲撃なんて、お前らは何処の起動戦士ですか!?ブンダムですか!?ブンダムなのかァァ!?
違うだろ!?違うだろォ!?大事な事だから、二回言っちゃうぐらい違うだろォォォ!?夢から醒めてくださいよォォ!現実を見やがれェェェェ!

って言ってやりたい。

しかし此処は熱くなったら負けだ。
クールになるんだアクア!クール・アクアになるんだ!
…なんかの商品の名前見たいだなぁ。

先ずは二人に現実を見せるのが先だな!

「二人とも。
三人で敵の本部に襲撃しても、無駄に命を散らすだけだ。
そんな事に、二人を付き合わせるわけにはいかない」

「だからって、お前一人を敵に突っ込ませられる訳無いだろ!」


そんな事誰も言ってないし。
僕が敵に突っ込むなんて一ミクロンたりともありえねえよ!
もういいよ。
とりあえずこの場は、僕が一人で突っ込むとか言っておこう。
そして、二人と別れたら即効に投降しよう。

「僕たち三人では今までフォーメーションを組んだことがない。
そんな状況で勝算があると思うのか?」

その言葉にジノは言葉を噤んできた。

そう。
僕達はこの三人で一度もフォーメーションを組んだことが無いのだ。

ブリタニアの軍隊でのKMFは基本、三体小隊を作る。
そして小隊によるフォーメーションには必ず、隊長―――リーダーがいるのだ。
しかし僕達三人は全員が新人だ。
新人三人がフォーメーションを組むなど、考えてすらいなかった。
今まで必ず歴戦の先輩が、リーダーとなり、指示を飛ばしてくれていた。
そのお陰で僕たちは今まで戦ってこれたのだ。

「敵に襲撃をすると言い出した身として、こんな勝算の無い戦いに君たちを連れ込むことなど出来ない!
だから、ここは僕に任せて、君たちは本部「ある」…に?」


やっと自分の望む展開になって来た事に気を良くした僕が、少し芝居が掛かった台詞を紡いでいたら、アーニャタンに途中で遮られてしまった。
しかしあるって…何がっすか?

「アーニャ。
何があるっていうんだ?」

アーニャの言葉足らずの言葉の意味を考えていると、同じ疑問を持ったジノが質問してくれた。
疑問を顔に貼り付けた僕と、ジノの顔を見渡しながら、アーニャはいつもの無表情な表情の中に、自信を伺わせながら言葉を紡いだ。

「勝算はある」

え゛。

「勝算ならある。
私たち三人ならば、敵本部を襲撃して、帰還できる」




ボンバーイェッ!
ボンバーイェェェェッ!
ボンバーイェェェェェェェッ!





…はッ!?
あまりのアーニャタンの爆弾発言に僕の思考回路がおかしくなってしまった。
しっかりしろ。僕。
現実を直視するんだよ!僕。

「本当なのか!?アーニャ!」

「うん。
私たち三人だったら出来る」

現実を直視したくない。

やっとの事、死亡フラグを回避したかと思ったのに、また死亡フラグが舞い戻ってきやがった!
なんだ!?僕は死亡フラグを司る神に愛されているのか!?
そんなフラグの神より、ラブコメのフラグを司る神に愛されたい!

「アクア!アーニャには勝算があるって言うんだ。
これで文句は言わせないぜ!」

「ああ…そうだね…
文句は…ないさ…」

ジノがアーニャの言葉に我が意を得た!と言わんばかりに声を掛けてくる。
その返答に僕は死にそうな声で返す。
死にそうって言うか、もはやお前は死んでいるってレベルだ。
楽に死なせてください。お願いしますから。



しかし良く考えて見れば、これはチャンスかもしれない。

アーニャがどのような戦略を持っているかは知らないが、あんなに自信満々なのだ。
かなりの戦略なのだろう。

僕とて好きで敵に投降するのではない。
無事にこの死亡フラグを避けられる選択をしたいだけだ。
そして投降する以外で、死亡フラグを避けられると言うならば、やってみる価値はあるな。
それどころか、この逆境を上手く乗り越えられれば、功績が手に入るかもしれない。
功績が手に入ったら、僕は軍人を辞めることができる。
良い事尽くめだ。

そうとなれば、俄然とやる気がと湧いて来ましたよぉ!
そうだよ!この試練さへ乗り切れれば、僕の自由への道は確約されるかもしれないのだ!
やってやるよ!僕は出来る子のはずだ!やってやんよ!

「わかった。
二人ともすまない。僕に力を貸してくれ」

僕の貞操と自由の為に。

「へッ。当然の事をそんなすまなそうに言うんじゃねえよ」

「ん」

覚悟を決めた僕の言葉に、二人は頼もしくも頷いてくれた。
でもアーニャタン『ん』はまずいっす。
毎度の事ながら萌えてしまいます。

「それで、アーニャ。
君が考えている作戦を教えてくれないか?」

「私の考えているのは一つ…」

僕の言葉にアーニャは一つの作戦を教えてくれた。







・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・






「…それだけ?」

「それだけ」

アーニャが教えてくれた作戦は、とても作戦とは言えないものであった。
思わず、聞き返してしまった。
そして僕の質問に無慈悲に頷いてくるアーニャタン。
色んな意味で死ぬ。

おいおい!僕の人生を賭けた、一戦がこんなもんでいいのか!?
こりゃ間違いなく死亡フラグ全開だよ!
『俺…この戦争が終わったら、故郷に戻って、彼女と結婚するんだ…』
並みの死亡フラグ展開だよ!
マジ勘弁してくれ!
ジノ!お前はこの戦法に何か意見はないのか!?
このままじゃ僕達仲良く死んじゃうぞ!僕の最後を看取る相手がお前だなんて嫌だァァァ!ちなみにアーニャタンならOKかも。

「へっ…いいんじゃないか?
シンプルでわかりやすい。そして俺たち向きの戦い方だな」

ジノォォォーー!
お前それでいいんかい!?いいのか!本当にいいのか!?本当にいいんだなお前はァ!?駄目だと言ってもいいんだぞ!?少しは反対意見出してもいいんだぞ!怒らないから言って見てなさいよ!というかお願いだから言ってください!

しかし僕の気持ちは微塵たりとも察してくれない。
というか、今までの人生で、僕の気持ちを察してくれた時はあっただろうか?
考えたら更に凹んだ。

「さーて…作戦も決まったことだし。
後は俺たちの腕と運次第だな」

え!?
本当に決まっちゃたの!?
皆考え直そうよ!まだ遅くないよ!?
この作戦ブラクエで言えば、『ガンガンいこうぜ!』を超えて、もはや『カミカゼアタック!』とか『あたってくだけろ!』って感じだよ!?
最早ブラクエの作戦にも無いよ!
ここは安全に『いのちをだいじに』で行こうよ!頼むから!

ようやく僕の必死の気配と視線を察したのであろう。
ジノが僕に一つ笑いながら頷いてきた。
もしかしてわかってくれたの!?僕の気持ち!
僕の気持ちを察してくれるなんて…初体験だよ!
ジノが初体験って、別の意味で考えると、物凄く死にたくなるけど!

「なーに!大丈夫さ!アクア。
俺たちならやれるさ!仮に…仮にだぞ。
此処で死ぬことになってもお前の事を恨む奴なんかいねえよ。
俺たちは相棒。運命共同体って奴だからな!」

ジノは本当に爽やかに告げた。
爽やかすぎてちょっとむかついた。

だから僕は絶望に陥る前に、得意の現実逃避をかますことにした。






ボンバーイェッ!
ボンバーイェェェェッ!
ボンバーイェェェェェェェッ!
皆さんのご家庭にも是非ともお一つ。
ボンバーイェェェェェェェェッッ!





僕の現実逃避は我ながら理解不能だ。















「さあいくぜ!俺が一番手を勤めるからな!
ちゃんと着いてこいよぉ!アクア!アーニャ!」

ジノが威勢良く声を出すと同時に、ジノのグラスゴーの脚部に装着してある、ランドスピナーが激しく回り始め、一直線に動き出す。

―――敵の基地に向って。

その後に僕が続き、少し離れながらも、その後にアーニャが続く。

基地を警護していた、敵のKMFの小隊が僕たちに気付き、こちらを撃退しようとするが、既に遅い。
ジノの機動しながらの、スラッシュハーケンで敵の動きを封じてからのスタントンファーの攻撃と、僕のアサルトライフルを。それに加え、アーニャのグラスゴー改専用の遠距離砲弾を喰らい、
5機居たKMFはあっという間に撃沈されることになった。

「よーし!
この調子でいくぜ!」

新たな獲物を求める獣のように、ジノのグラスゴーは動き出す。そしてその後を着いて行く僕とアーニャ。


そう―――これがアーニャが考えた勝率を出す戦法。
それは作戦でもなんでもなく、唯のフォーメーション。
否、フォーメーションとも言えない物であった。

ジノが先鋒を務め、高機動戦にて敵を撃破する。

アーニャは後方を務め、砲撃戦にて敵を撃破する。

そして僕は二人の間に入り、中距離から敵を撃破する。

唯それだけであった。

そしてこれがフォーメーションとは言えない理由がある。
普通フォーメーションとは、お互いをお互いがサポートするものだ。
そして熟練のフォーメーションとなると、リーダーが何も言わずとも、サポートをする。
そうしたお互いのサポートが歴戦の兵士のフォーメーションである。

しかし僕たちのフォーメーションは、それを一切しない。
ただ己の仕事をこなすのみ。

即ち、敵が己のレンジに入ったら即撃破。
三体で常に止まらず、高速で動き続けながら攻撃する事によって、敵からの奇襲や、後ろからの射撃を回避する。

ただそれだけという、とてもフォーメーションとは呼べないフォーメーションだ。
皆は真似しちゃだめだよ。マジで危険だから。

しかしこの時はまともに考える余裕が無かったが、後々よく考えて見れば、理に適ってなくも無い。

ジノは高機動戦闘を生かした奇襲による接近戦の攻撃を何よりも得意とする男だ。
士官学校は勿論。先輩方の兵士にも接近戦では一度たりとも負けたことが無い実績を持つ。僕も負けた。
故に、ジノのグラスゴーは装甲を薄くして、機動性や運動性能を上げている改造機を与えられている。

アーニャは、遠距離からの砲撃戦を得意としている。
砲撃や射撃という一点ではまさに天才という名に相応しい実力を持ち、KMFを機動させながら、精密射撃を行えるという、凄まじい能力を持つ。
それ故に、アーニャのグラスゴーは、遠距離専用の武器が満載の改造機を与えられている。

そして僕は―――。

僕は、接近戦ではジノに絶対負ける。そして射撃戦ではアーニャに必ず負ける。
しかし射撃戦ではジノに勝ったし、接近戦ではアーニャと戦ったわけではないが、勝てると思う。

僕は二人の中間のような実力なのだ。
二人のように特出した実力を持たないが、バランスに優れた兵士。
戦場の主役になること難しいが、近距離戦でも中距離戦でも遠距離戦でも、一定の働きは出来る。
それが僕だ。

その僕が二人の間に挟まり、中距離からの射撃や時には接近戦による戦闘を担当する。


これがアーニャが提案した戦法だ。
今回は他に方法が無かったので実施したが、二度としたくない戦法だよ。
命が幾つあっても物凄く足りない。
マジで。


しかし今回においてはこの戦法がピタリと上手くはまった。

敵の基地は、先のブリタニア側の奇襲を返り討ちにしたことで油断していた。
まさかもう一度、奇襲があるとは思っていなかったのだ。
しかもE.U.側のKMFは全体的に機動性が遅く、火力重視といった感じのKMFなのだ。
常に高速で動き回る僕たちを、その火力で捕らえることは難しかったのである。

そんな感じで、僕たちは調子に乗って、どんどんと敵のKMFや基地を破壊して回った。
もう脳内アドレナリン出まくりよ。

その他様々な要点はあったが、結果として僕たちは敵基地を襲撃し、敵の兵力を大幅に減らし、尚且つ本部に生還することを達成する。
奇跡だ。
まあ、常に一番手を勤めたジノのグラスゴーは大破し、機体を乗り捨てた事や。
僕とアーニャのグラスゴーは大破一歩手前。という整備士泣かせの結果ではあったが。
それでも奇跡だ。
ブノン並の奇跡が今この場に発生したのだ。

本部に生還した僕たちは英雄扱いを受けることになる。

なにしろ、僕たちが敵の基地を襲撃していなければ、襲撃されていたこの本部に、続々と敵の増援が増えてくるのは必至だったのだ。
僕たちの活躍によって、このブリタニア本部は無事に存在しているようなものである。
崇めくれてもいいよ。君たち。

整備のおっちゃんや、本部に残っていた、兵士の皆さん。
というか、基地の全ての人が物凄い勢いで僕たちのが成し遂げたことを褒め上げてくれている。
物凄く鼻高々だ。

この時の僕はもう気分上々↑↑って感じだ。
なにしろ、負けるのが確定したかのような戦場で、奇跡の大逆転の立役者!功績間違いなし!そしてその功績で、軍隊を退役!家に戻って、復活ニートな生活!嗚呼薔薇色の人生。
って勢いなのだ!もうジノに尻を狙われる心配も無くなる。笑いが止まらん。

その日の夜。眠りに着くためにベッドに横になっていた僕は、暫し嬉しさでベッドでじたばたしていた。
そんな僕をジノは生暖かい目で見つめていた。不覚。



しかし人生そうは上手くいかないものである。
後日。体を休めた僕たちが、上官から聞いた命令は僕を失意のどん底に叩き落すものであった。

なんとこれからもE.U.基地との戦いで、僕とジノとアーニャでチームを組み、禁断のカミカゼアタックをやってくれというのだ。僕に死ねというのかい。
しかし僕の気持ちなどいつもの如く、察してくれないジノは「イエス・マイ・ロード!」とかって勝手に答えてしまった。
なんて事してくれんだよ!お前って奴はァァ!空気よめや!このKYが!
しかもその後ジノの奴は僕に向って。

「やったな!これで俺たちの活躍の場が多くなる!
上手くすれば功績も取り放題だぜ!」

なんて本当に嬉しそうに言ってきやがった!
こんなCMに出てきそうな笑顔されたら怒るに怒れねえよ!これでジノがブサメンだったら、問答無用で顔の輪郭変わるまで殴るのに!
これだからイケメンはむかつくんだよ!畜生!イケメンファック!イケメンファァック!イケメンファァァァァック!


ちなみにこの間、アーニャは一人黙々と携帯をいじくっていた。
なんと協調性が無い、マイペースな娘だ。
しかしそこがまた萌える。

悲しい諸事情の結果、ジノとアーニャと三人で小隊を組み、戦場に出る事になった。
そして毎日カミカゼアタック。気分は特攻兵だ。
こんな気分味わいたくなかった。マジで。

仲良く三人で毎日一番槍で、カミカゼアタックをしていたら気がつくと、この本部で僕たちはエースの様な扱いになっていた。
そんな扱いはいらんから恩賞くれ。とっとと退役したいから。
それが僕の偽りなき思いだが、何故か知らんが、恩賞が出る気配が感じられない。
いったい何時になったら僕は、この地獄から抜け出せるのだろうか?
ジノの僕を見つめる、切なくとも情熱を含んだ視線にそろそろトラウマになってしまいそうな気分だ。
アーニャタンという萌えの中和剤をもってしても、もはや中和しきれない。
こうなったら、もういっその事。
掘られる前に掘ってしまおうか?犯られる前に犯れ。みたいな…。

って!?何考えてんだ!僕は!
しっかりするんだよ!何自らち○世界に素っ裸で飛び込むような真似を思いついちまったんだ!
ちょーガッテム!僕は阿部さんじゃないんだよォ!最近自信が無いけどノンケだと思うんだよォ!
こんな状況じゃ僕の思考が狂ってしまう!
何がいっその事、掘られる前に掘ってしまおうか?だよ!掘っちまったらもう、世間様に顔向けできねえよ!
まあ確かに掘られるよりは、掘ったほうが心の傷跡は少ないとは思うけど…………って!?

ますます何考えてんじゃーー!僕はァァ!
何よく考えて見れば、結構いいアイディアじゃね?とかって思ってきてるんだよォ!?
しっかりするんだァ!しっかりするんだよォォ!しっかりしてくれェェ!
このままじゃ世間様どころか、家族にすら顔向けできなくなっちまうよ!
いいのか!?アクア!父さんや母さんに顔向けできなくなっちまうんだぞ!爺はどうでもいいけど!

そして姉さんにも顔向けが!

…姉さんにも…姉さん。

…姉さんには顔向けできそうだな。むしろ姉さんは嬉々として受け入れてくれそうだ。


もはや何が正しいのかわからなくなってきたぁ!マジでやべええええぇ!


戦争による命の危機と貞操の危機によるダブルパンチにより、僕の精神は見事に追い詰められていた。涙そうそう。もらいなき。



もう世界の中心で愛とか何でも叫びますから、助けてくださーーーい!


もはや何が正しいのか僕には何もわからない。

暫し僕は、世界の中心(僕とジノの部屋の中の僕のベッド)でとりあえず愛を叫ぶ毎日を送ることになった。

そしてそんな僕を、心配するような、哀れむような視線を送るジノ。
萌える。





論理の境を彷徨いながらも戦い続けた僕に、ある一つの朗報が届く。

このブリタニア本部が相手をする、E.U.側の本部と周囲の基地を制圧することを成功したのだ。
これにより、しばしこの地での制圧作業にはいるので、いままでのようなほぼ毎日戦闘という状況から開放される事になった。
毎日カミカゼアタックして頑張ったかいがあったか。

基地の皆が、戦争から解放された開放感で、本部全体が明るい雰囲気に包まれている中、僕とジノとアーニャの三人はある人物から呼び出しを喰らう事になった。

E.U.進行最前線基地本部司令官―――つまりこの本部で一番偉い御方に。




「しっかし司令が俺達に何の用だろうな?」

特攻部隊の三人で司令室へと続く廊下を歩きながら、ジノが言葉を振ってくる。

「さあ…まあ、お叱りではないと思うけどね」

「説教であってたまるかよ。だったら俺は逃げるぜ。
アクア。お前も今のうちに一緒に逃げるか?」

「出来るわけないだろ。上官。それも司令官様に目を付けられるのは御免だよ」

ジノが僕の肩へと腕を回しながらサボタージュの誘いをしてくる。
何故だろう?以前このような行為をされると、サブいぼが僕の全身を駆け巡ったものだが、今は殆ど抵抗がない。これはやばい兆候なんじゃ…。
いや、きっと度重なる危機が、僕の思考回路を狂わせたんだ。
そうだ。僕がガチホモであるはずが無い。
今は疲れてるだけで、僕の心が平常を取り戻したら、またサブいぼが元気良く僕の体ではしゃいでくれるはずだ。
そう願いたい年頃だ…。

「ま、そりゃそうだ。
まあ、こうして唯のKMFのデヴァイサーの俺達が司令直々に呼ばれてるって事は、既に目を付けられている証拠だけどな。
それが良い事なのか悪い事なのかは判らねえけど」

「着いた」

歩きながら携帯をいじっていたアーニャの言葉で、ジノと話している間に、司令官室に着いていた事に気付いた。
しかし部屋に着いていた事にも気付かないなんて相当疲れているな。
もう、いっその事心労で倒れて、病院送りになって、戦場とジノから離れようかな。
いや、駄目だ。戦場からは離れられても、ジノは何処までも着いてくる気がする。
それに今アーニャタンという萌えのファブリーズから離れたら、僕の心が本当にやばいことになる気がする。ガチホモ一直線みたいな。
嗚呼。僕はどうすればいいんだぁ…。

僕が負のスパイラルに陥っている間に、ジノが気軽にドアを二度ノックし、入室の許可を願うと、直ぐに許可が下りたので、三人で入る。

そして司令室の中に居た人物を見た瞬間に、今まで抱えていた暗雲とした気持ちが虚空の彼方にぶっ飛ぶのを感じた。

其処に居たのは金髪、碧眼というジノと同じ王子さまなルックスと素敵な顎をもつ人物。
しかし稀代稀なる王子さまオーラを持つ、ジノをも遥かに凌ぐ皇子さまオーラをもっている美丈夫であった。

つーか本物の皇子様です。

「シュ、シュナイゼル殿下!?」

「いきなり呼び出してすまなかったね。君たち。
まずは席に座ってくれないかな?」

ジノの驚愕の言葉に目の前の美丈夫―――シュナイゼル・エル・ブリタニア殿下は優雅に微笑みながら、僕たちに席に着くように促してきた。










シュナイゼル・エル・ブリタニア。

世界の三分の一を領土に納める超大国、神聖ブりタニア帝国の第二皇子にして帝国宰相を務める傑物。
第二皇子である為王位継承権こそは第二位であるが、類まれなる才能を誇り、第一皇子であるオデュッセウス・ウ・ブリタニアを超えた実力と人望を持ち、皇帝を抜かせば、ブリタニア帝国の実質的なトップである。
次代の皇帝の座に最も近い立場である。
世界の二番目に偉い人物。そして将来は世界で一番偉い人物となるといっても過言ではない。
つまりは超VIP。つーかVIP所の話ではない。真面目に僕たちにとっては、雲の上の人物だ。

そんな雲の上の人物が何故か今僕の目の前の席に座っている。

ドッキリTVじゃないよね?
もしくはそっくりさん?

「さて。先ずは初めましてだね。
ジノ・ヴァインベルグ君。アーニャ・アールストレイム君。そしてアクア・アッシュフォード君。
私のことは知っているとは思うが、改めて自己紹介をさせてもらうよ。
私はブリタニア帝国第二皇子。シュナイゼル・エル・ブリタニア。
宜しく頼むよ」

本物だったよ!
サイン欲しい!
あと一緒に写真を撮ってください!

「はっ、はい!自分はE.U.進行最前線基地本部第8KMF部隊小隊長ジノ・ヴァインベルグ少尉であります!お会いできて光栄です!シュナイゼル殿下!」

「第8KMF部隊。アーニャ・アールストレイム少尉です」

「同じく第8KMF部隊所属。アクア・アッシュフォード少尉です。お会いできた事を光栄に思います。シュナイゼル殿下」

豪胆であり、どんな時でも、例え其処が戦場であろうとも恐れや、緊張を見せない男である、ジノが緊張しながら挨拶を交わす。
それに続きアーニャと僕もシュナイゼル殿下に挨拶を交わす。
見た目アーニャは何時もと変わらないように見えるが、目の前のシュナイゼル殿下の存在に対して困惑の雰囲気を醸し出している。
それはもちろん僕だって同じだ。
表面上僕はお得意の無表情で、感情を見せてはいないが、内面では困惑と疑惑が渦巻きまくっている。渦潮並みに。

「ああ、宜しく。
君たち、そんなに固くなることはないよ。
もっと友人のように、フランクに話しかけてくれてもいいんだよ?」

シュナイゼル殿下は僕たちの心情を悟って、笑いながら冗談のように言葉を紡ぐ。

その言葉に大分楽になった僕達は、シュナイゼル殿下との暫しの談笑にしゃれ込むことになった。
主にジノがしゃべってばっかだったけど。

しかし少し話しただけだが、このシュナイゼル殿下はなんちゅーか…深い人物だ。
その度量の深さ。僕達のような唯の新兵にも、フランクに接してきて、対象の懐にするりと入るような印象を受ける。
僕も少ししか話をしていないと言うのに、この皇子に対して何時の間にか、好意を持っている自分に気付いた。
…もちろん!LOVEの方じゃなくてLIKEのほうだからな!
最近自分の気持ちが自分でも理解不能になってきているので確証は持てないけど。orz



「あの…ところで殿下。
何故自分たちを殿下の前に御呼びになったのですか?」

暫しの談笑で、大分気を楽にしたジノがこの会談の本筋を聞き出す。
アーニャもその事を気にかけていたようだ。
ジノが話を切り出すと、いつもの感情が見えない表情に、何処か真面目な色が伺えた。

「ああ…。
これはまだ公式には発表してはいないのだが」

シュナイゼル殿下は此処で表情を引き締めてから言葉を紡ぐ。

「E.U.侵攻に対する、全指揮を私が取ることになってね。
その関係でこの司令部に訪れていたのだがね。
今このE.U.に存在するブリタニア軍で。
そして敵軍のE.U.に置いても『ブリタニアの三連星』と、その名を轟かす君達に一度会ってみたいと思っていたのだよ」

三連星?
なんすかそれ?
ジェットストリームアタックを繰り広げるお方たち?

「あの…殿下?
その、三連星とは?」

僕と同じ疑問を持ったジノがシュナイゼル殿下に問いかける。
横に座っているアーニャに視線を向けて見ると、アーニャも疑問に思っているような表情をしている。


「知らないのかい?
君たち三人の異名だよ」

異名!?
初耳だ!
そんなのあったんかい!?

「うん。
君たち三人による、高速戦闘が、さながら流れる星の様に見える事から、三つ並んだ流星。
つまり三連星と、軍の間でその名を轟かせているんだよ。
E.U.は君たちの事を警戒し、そして君達を討って名を上げようと躍起になってるようだね」

僕たちの反応を見て、シュナイゼル殿下は僕達が自分達の異名を知らない事を察してくれたのであろう。
疑問を顔に出す僕たちに説明をしてくれた。

どうりで最近戦場に出ると、物凄い勢いで襲われると思った…。
敵から狙われるなんて全然うれしくないっすよ殿下!
しかも、そんなブンダムにやられそうな不吉な異名、いらねっす!
やっぱり黒○三連星より蒼○巨星でしょ!あの渋さに憧れてしまうよ。死ぬのは勘弁だけど。
ってどっちみ両方の異名の奴ら死んでるじゃんかよ!また死亡フラグが舞い降りてきやがった!
どんだけ僕は死亡フラグに愛されてる男なんだよ!ファックミー!

「しかし君たちの戦績や、戦闘記録を拝見させてもらったが大したものだね
異名に恥じない働きと腕前だよ。
その若さで本当に大したものだ」

どこか誇らしげに語る殿下には申し訳ないが、僕の心は更にやばい方面に一直線だ。


「ありがとうございます。シュナイゼル殿下。
自分たちの働きに免じて、自分から一つ頼みがあるのですが、宜しいでしょうか?」

ジノ?

「ふむ。
なんだい?ジノ君」

「はい。
アクア・アッシュフォードに恩賞を授けて欲しいのです」

ジ、ジノ!?

「アクア君に恩賞を?」

「はい。
このアクア・アッシュフォードはある事情から、功績が必要としている身分なのです。
そして、此度の私たちの働きは恩賞に値する働きであると自分は思います。
自分には恩賞はいりません。自分の分の功績も合わせて、どうかアクアに恩賞をお願いします!」

ジ…ジノ。

僕は感動している。
何が、今までの人生で、僕の気持ちを察してくれた時はあっただろうか?だよ。
僕の隣には、こんなにも僕を理解してくれている友人がいるじゃないか!
軍人を辞める為に功績を求めるという、あまり自慢できない理由で働いてきた僕をこんなにも理解してくれるなんて…。
感動した!僕は感動しましたよ!
今ならジノに抱かれてもいい感じがする!
やっぱり抱かれるのは勘弁!
だって僕はノンケだから!

「私も」

アーニャ?

「殿下。
私の分の功績もアクアに」

いつもどおりの言葉足らずのアーニャの言葉。
しかし、その短い言葉の中に彼女の気持ちがたっぷりと込められているのを感じる。
僕としては是非とも愛を込めていて欲しいと願うぜ!

ア…アーニャタン!
萌え萌えっす!

「…君は素晴らしい友人たちを持ったね。
アクア君」

「…はい」

殿下の言葉に、素直な気持ちで頷く。
こんな僕には本当に勿体無い友人たちだ。
なんだ?この青春ドラマのワンテイクは。
涙無しには見られないぜ。

「三人とも安心したまえ。
君たちが働いてくれた結果は、非常に素晴らしいものだ
我が、ブリタニア帝国は、結果を出した者には、それ相応の褒賞を与える。
君たち全員には相応の恩賞を与える事を、このシュナイゼル・エル・ブリタニアが約束しよう」

その言葉を聞いた瞬間に僕の瞳から涙が零れ落ちた。








■アーニャ・アールストレイム■


「三人とも安心したまえ。
君たちが働いてくれた結果は、非常に素晴らしいものだ
我が、ブリタニア帝国は、結果を出した者には、それ相応の褒賞を与える。
君たち全員には相応の恩賞を与える事を、このシュナイゼル・エル・ブリタニアが約束しよう」



目の前のシュナイゼル殿下の口からこの言葉が出された時、隣に居たアクアの透き通った、空のような青い瞳から涙が零れ落ちていた。

私はそれを純粋に綺麗だと思った。




私はアクアとジノと、出会ってからそんなに時が経っていない。

それでもアクアが何かの為に、必死になっている事。
そしてそれを叶えようとしているアクアを支えようとしているジノには直ぐに気付いた。

私は他人に興味がわかない。

アクアもジノも所詮は他人。アクアとジノが何を思おうとも、私には関係ない。
それがいつもの私だ。

でもあの二人は、何かが違うと思った。

何かが違うと確信したのは、初めて私たちがチームを組んだ時。
あの絶望的な状況で、自らが犠牲になってまで、アクアは私とジノの身を案じてくれた。

アクアをジノは馬鹿野郎と怒り、自らも戦地に赴く事を決意したのだ。

そんな二人を見て、気付いたら私も参戦していた。

なんてことは無い。私もこの二人の中に入りたかったのだ。仲間として。

何絶望的な戦場から何とか生きて帰ってきてから、私はジノにアクアの事情を聞いた。

それは、家族の為に自らを犠牲にすることを決めた一人の馬鹿な少年の話。

でもとても暖かい、その話を聞いた人間も馬鹿になり、その馬鹿な少年を支えようと思わせる話。

この時、私たちは本当の意味でチームになったと思う。

そして今、アクアの夢は達成し、今涙を流しながら、ジノから祝福を受けている。

アクアは本当に喜んでいる。

そしてジノは本当に心から祝福をしている。

だから私も心からこの言葉を贈ろう。
いつも使わない表情を笑顔に変えて。

おめでとう、と。







■アクア・アッシュフォード■




「やったな!やったなアクア!」

ジノが本当に嬉しそうな顔で僕を祝福してくれている。

「おめでとう…アクア」

アーニャタンも普段見せることが無い笑顔で僕を祝福してくれる。
その笑顔に萌えます。

「ああ…ありがとう。
皆、本当にありがとう!」


出世しすぎると、直ぐに辞められなくなっちゃうから、少しでも恩賞がもらえたら退役すると僕は決めていた。
そして今僕は恩賞を与えられる事を約束されたのだ。
僕はこの時全ての柵から解き放たれたのである。

ふと脳裏には今までの思い出が駆け巡っていく。
クソ爺にブリタニア士官学校に送り込まれてから、幾うん年。
淫獣どもに尻を狙われ続けた仕官学校の日々。
日本で絶望した日々。
戦争に赴き、毎日ダイハードを日常とした日々。

…ろくな思い出しか無い!

しかし今思えば、それすらも僕の大切な思い出だったんだよ。
僕はこの思い出を心の中に大切にしまい、軍を離れ、僕が求める日常の世界を生きていく。

しかし生きていると言うことは、辛い事や、大変なことはいっぱいある。

それでも僕は生きていくんだ。

楽しかった事。辛かった事。全てを受け入れながら…。

これが僕の新しい任務。

英雄でもなんでもなく、唯の一人の人間として。この広い世界の中で生きていくんだ。



コードギアス 反逆のお家再興記 完!














「さて、では君達に恩賞を与えなくてはね」

心の中でエンディングを迎えていた僕を現実の世界に戻したのは、華麗なる殿下の一言であった。

早ッ!もう恩賞くれるの!?

「実は君たちに恩賞を与えることは、既に決まっていたことなのだよ
君たちに恩賞を与える準備は行っているさ。じゃあ君達行くとしようか」

は?何処に?
基地の外にいくんすか?

「行くとは…何処へですか?」

ジノの質問に殿下は優雅に微笑みながら物凄い答えを返してきた。

「ブリタニア本国だよ」









今僕たち三人は並んで、片ひざをつき、目の前の人物からの言葉を授かっている。


ブリタニア本国の王宮。
世界の頂点と言っても過言ではない、第98代ブリタニア皇帝―――シャルル・ジ・ブリタニアが住まう、世界の中心。

何故か僕達は今、そんな世界の中心にいます。

そして僕の目の前には世界の頂点なブリタニア皇帝がいらっしゃいます。

これは夢だ。それか幻だ。もしくはあの独特な皇帝にうりそつな、稀有なそっくりさんだ。


「ジノ・ヴァインベルグ。
アクア・アッシュフォード。
アーニャ・アールストレイム」


目の前のそっくりさんであって欲しい皇帝は、独特の発音で僕達の名前を呼ぶ。
ははは。あの独特な声までそっくりなんて、このそっくりさん一味違うぜ。

「お前たちを、我が直属の騎士団。
ナイトオブラウンズへの加入を認める」



えーーーーーーー。



[3303] お家再興記 番外編 
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2008/07/07 16:07
それは一人の少年の慟哭。

廃墟とかした街の前に膝を付き、壊れた人形の腕を手に持ちながら少年は涙を流している。

その少年が出すあまりの悲しみ、悲哀に見るもの全てが、心を動かされる。

まるで自分が突如映画の1シーンの中に迷い込んだような錯覚。

もし少年のことを、少しでも知っていたならば、直ぐに駆け寄り、抱きしめていただろう。

でも私は彼の事を知らない。唯の他人だ。私には泣きじゃくる彼を慰める術は無い。

私はその光景を唯見つめ続けていた。

見つめる事しかできなかった。










■アクア・アッシュフォード■












僕は今、生まれ育った国。
ブリタニア帝国から、遠く離れた、極東の地―――日本行きの飛行機に搭乗している所である。


ブリタニア士官学校での淫獣達との攻防にも大分慣れ、実家からの仕送りをコツコツと貯め、ようやく日本へと旅立てる程の貯金ができた僕は、士官学校の長期休みを利用して、日本へ旅立ったのだ。


日本―――今はエリア11と名を変えた、ブリタニアの植民地。

面積や人工は小規模ながらも、独自の確かな技術、そしてサクラダイトと呼ばれる、レアメタルを多く採掘されることから、小国ながらも、経済大国として世界に誇っていた国であった。
しかし、その自国を潤わしてくれるサクラダイトが仇になった。
古くから、サクラダイトを巡り日本とブリタニアには確執があり、このサクラダイトを確保するために、ブリタニアが日本へ侵略戦争をする要因の一つとなったのだ。

そう―――今でも忘れない。

皇暦2010年8月10日 ブリタニアが日本へと宣戦布告をした日を。



Bate/stay night  ブイバーオルタ 完成品フィギュア ブリッドシアター版8分の1サイズ、発売前日の日に宣戦布告しやがった事を!


あまりフィギアに興味が無い僕でも感銘を受けた、あのブイバータンオルタバージョンの余りの迫力!フィギアからかもし出る、狂気!そしてその中にある高貴!そして仮面を外せば、迎えてくれるのは物凄い目力!
燃えと萌えが絶妙にコラボした芸術品だったのにィィィ!わざわざ、ニブニブ市場で予約までしたのにィィィ!

それもこれも、ブリタニアが戦争を起こしてくれたお陰でパーだよ!もうお金払ってたのに!
返せ!僕のブイバータンオルタと、日本円で販売価格5772円と送料8500円!計14272円!海外発送は高いんだぞォォ!送料の方が高いんだぞォォォ!

憎い!我が祖国ながらブリタニアが憎い!

そもそも日本と戦争をするなんて許されることではないだろう!

日本と言えば、萌えの発祥の地であり、様々な文化を作り上げた、偉大なる先人たちが住まう地なのだぞ!?
職人と呼ばれる、様々な分野のエキスパートが存在し、二次元から三次元までの、未来には四次元の萌えを提供してくれる理想郷。Arcadiaだったんだぞ!?
特に、ぶろゆきと呼ばれる、神まで生息している国であったのに…。

そんな理想郷をブリタニアはサクラダイトの為に、蹂躙したのだ!

萌えは日本で始まり、日本で終わる…。

ブリタニアはこの言葉を理解できなかったんだよォォ!
なんて嘆かわしい!超絶ガッデム!
ブリタニアの未来は終わりだ!



ハァハァ。
いかんいかん。
つい興奮してしまった。
隣の席に座っている、お姉さんが怪訝そうな視線を向けてきているではないか。自重しなければ。
ちなみに興奮と言っても下関係で興奮ではない。勘違いはしないように。


今僕が何故、日本へと赴いているかと言うと、理由は唯一つ。


日本の中心に存在する場所。
僕が一度も行った事が無い場所。
されど、僕の聖地である場所。


秋葉原へと行くためだ。


僕は日本がブリタニアと戦争をしてから、秋葉原がどうなったかを知らないのだ。
その気になれば、ネットで情報収集し、秋葉原の状況など直ぐにわかる。
しかし、僕はそれができないでいた。僕は心のどこかで恐れていたのだ。秋葉原がどんな状況になっているのかを知ることが。
ブリタニアが日本へと侵略戦争をしたからには、秋葉原も唯ではすまないのは解かっている。
もしかしたら、秋葉原は壊滅しているかもしれない。
頭では解っている。
それでも、僕の心は否定するのだ。
秋葉原が無くなっている訳があるわけ無いと。僕の心は日本との開戦以来、ずっと心の中でわだかまりを持ち続けていたのだ。

そのわだかまりを無くす為に、僕は今日本へと向っている。

でも僕の心配は杞憂であるのかもしれない。
何せあのシブトイ住人達の事だ。
仮に秋葉原が廃墟となったところで、また皆力を合わせて、街を復活させているはずさ!

そんな事よりも僕が今するべきことは、アキバに行ったら、何をするかを考えるべきなのかもな。
先ずはやはり定番のメイド喫茶に行って。
それからBKB48のライブにも行きたいなぁ。そんでもってブフマップ!あとはブニメイト!
あとコスプレ集団と一緒に写真も撮らなくちゃな!

そして何と言ってもメインイベントはウッーウッーウマウマ(゚∀゚)だ!
アキバは街中でもウッーウッーウマウマ(゚∀゚)を道行く人々が踊っているというではないか!

僕はこの日のために、ウッーウッーウマウマ(゚∀゚)の踊りを密かに練習していたのだ!
この士官学校で淫獣達と戦う為に鍛え抜かれた、僕の肉体で繰り広げるウッーウッーウマウマ(゚∀゚)は半端じゃないぜ?
腰の切れが、我ながら半端ない。
あまりの切れと練習のしすぎで、危うく腰がもう少しで逝っちゃう所だったよ。反省。

先ほどの怒りも何処へやら、僕の心は既に、まだ見ぬアキバへと思いを馳せていた。
このように怒りに満ち溢れた心を癒すとは。
やはりアキバは偉大だ。

いよーし!
テンション上がってきましたよ!今日は楽しくなりそうだぜ!



そしてやはりアキバは偉大だ。
この無表情を地でいくこの僕を、喜びの表情に出させるとは。
そして何故か隣のお姉さんが、そんな僕をみて息を荒げていた。
よくわからんが、これもアキバが成せる業なのか。
アキバ恐るべし。

まあ、いいや!それよりもアキバだ!
アキバ待ってろよー!今僕が行くぜー!





















廃墟でした。


日本に辿り着き、真っ先に向った秋葉原で僕を待ち受けていたのはゴーストタウンと言っても過言ではない廃墟でした。
どっからどうみても廃墟でした。本当にありがとうございました。じゃ無い!

え?嘘でしょ?此処アキバじゃないよね?

あまりの光景に僕の頭が理解することを拒んでいる。

ボロボロになっているビルに住所が書いていたので、読んで見る。
日本語の難しい字。
漢字で書いていたので、全ての住所を理解は出来なかったが、とりあえず秋葉原という文字は確認できた。
如何に外国の言語と言えど、僕がこの秋葉原という文字を間違えるわけが無い。

僕の頭がその現実を受け入れた時、立ちくらみがした。
本能の赴くままに、僕はorzのポーズを取る。


おぉ…う………………マジ………か…よ。


今の僕は絶望の演技だけならば、ブカデミー賞を取れる程の絶望っぷりだ。


メイド喫茶が。


ブニメイトが。


ブフマップが。


BKB48が。


コスプレ集団が。


ウッーウッーウマウマ(゚∀゚)が。


執事喫茶…………は別にいいや。


何てこった…何てこったィ!
二回言っちゃう位、何てこった!三回言ってるよ僕!

僕の聖地が…エルサレムが!
もう日本は終わりだ!ブリタニアが日本という国を終わらせてしまったんだ!

くぉぉぉぉ…憧れの聖地に足を踏み入れたと言うのに、この絶望は何だ!?
僕は…こんな気持ちを味わうために日本へときたと言うのか!?

何か…。
何か無いのか!?希望は!?
何か残っていないのか!?

まるで夢遊病者のようにフラフラと、危なげに立ち上がり、僕はそこ等を徘徊する。
此処が廃墟で、誰もいない為に、何事も無く徘徊できたが、人通りがあるブリタニアの街でやったなら間違い無く、警官に通報されていただろう。
だが今の僕はそんな事も気にならないほど、何かを探していた。
希望という何かを。

そして僕は見つけた。

しかしそれは希望ではなかった。

其れは壊れた人形の腕。

これだけでは元がどんな人形だったのかは解らない。
しかし僕には解る。
これはブイバーオルタ 完成品フィギュア ブリッドシアター版8分の1サイズの腕だ!

間違いない!僕が惚れこんだ職人が作り上げた芸術品の腕だ!
何てこったい!何てこったいィィ!
嗚呼…あのブクスカリバーを持っていた、威厳と気品が混じった芸術品の腕が!

こんな…こんな姿になっているなんて!?

僕の喉から知らず知らずに嗚咽が出始める。

気が付くと、自分でも知らずに、僕は涙を流していた。
それを自分が自覚した時には既に遅い。
僕は溢れる涙と、喉から絞られた嗚咽を止められずにひたすら泣きじゃくっていた。







■紅月カレン■


私がその少年を見かけたのは全くの偶然だ。


お兄ちゃんが行っているレジスタンス活動に参加しようと、詰め掛けたのはいいが、お兄ちゃんに追い返されてしまったのだ。
お兄ちゃんは私がレジスタンス活動をすることに断固反対しているのだ。
私だってもう戦えるのに!

心の中に苛立ちを持ちながら、家に戻ろうと、ゲットーを通りすぎようとした時。

一人の少年を見つけた。

その身なりや容貌はブリタニア人の者に思われる少年。
白に青みが掛かった綺麗な髪。少女のように整った顔つき。

でも今はその整った顔つきをくしゃくしゃにして、少年は嗚咽を洩らしながら、蹲っている。

それは一人の少年の慟哭。

廃墟とかした街の前に膝を付き、壊れた人形の腕を手に持ちながら少年は涙を流している。

その少年が出すあまりの悲しみ、悲哀に見るもの全てが、心を動かされる。

まるで自分が突如映画の1シーンの中に迷い込んだような錯覚。

もし少年のことを、少しでも知っていたならば、直ぐに駆け寄り、抱きしめていただろう。

でも私は彼の事を知らない。唯の他人だ。私には泣きじゃくる彼を慰める術は無い。

私はその光景を唯見つめ続けていた。

見つめる事しかできなかった。





■アクア・アッシュフォード■



あまりの現実に暫し己を見失っていたが、気が付くと僕の近くに一人の女の子がいることに気が付いた。

お、おっといけねえ。
女の子の前では男の子は涙を見せちゃいけない。
ミレイ姉さんに怒られちまうぜ。

慌てて立ち上がり、顔を袖口で拭う。
相当、泣いていたのか、袖口はビチョビチョになった。
ハンカチ持って来るんだった。

「ねえ待って!」

このまま此処に居たのではあまりに恥ずかしいので、足早に立ち去ろうとする僕に、近くにいた少女が僕に声を掛けてくる。
そのまま無視して立ち去ってもよかったのだが、少女の声が僕の萌えセンサーに引っ掛かる声だったので、ピタリと立ち止まり、少女の方を向く。
少女は赤い髪をした、僕と同い年位の少女であった。
そしてやはり僕の萌えセンサーは大した物だ。
少女は特一級の萌え美少女であった。
勝気そうな釣り上がった瞳や、整った顔つき。スラリとした体型。
将来が物凄く期待できそうな萌え少女だ。

………日本万歳!

「ねえ…少し訊いていい?」

「………何をだい?」

少女の萌えっぷりに、心の中で少女を育んだ日本を賛歌してたら、当の少女に尋ね事をされた。
少女に萌えていて、返答が遅れたのは僕だけの秘密だ。

「どうして…どうして泣いていたの?」

僕の返答を聞いてから、少女は暫し躊躇う様な素振りを見せたが、思い切ってといった感じで僕に尋ねてきた。

しかし、何故泣いていたか。

何とも答え難い質問だ。
まさか、アキバが廃墟となっていた事に加えて、僕のずっと欲しがっていたフィギアのあんまりな姿に涙を流しました。
なんて恥ずかしすぎて言えない。
此処は少し、オブラートに包んだ、大人の答えを返そう。

「大切な…大切な物が、そして大切な人達が此処に居たんだ
でも僕の大切な存在が瓦礫の中へと消えて行った。
だから悲しくて、泣いてしまったんだ」

うん。
僕は嘘を付いていない。

「大切な人達…?
貴方はブリタニア人でしょ!?」

僕の言葉に少女は激昂したように言葉を返してきた。
その問いに頷きを持って、返答する。

僕の頷きを見た、少女は何かを堪えるように俯き、沈黙してしまった。

はてな?何かまずかっただろうか?

何故か少女が、激動を必死に抑えている様に感じる。
例えるならば、嵐の前の静けさといったやつであろうか。

僕の第六感がエマージェンシーを発している。

「ブリタニアが…ブリタニアが奪い去っていったのに!
ブリタニア人の貴方が、日本人の死を悼んだっていうの!?
貴方一体何様のつもりよ!貴方たちが!貴方たちが全てを奪っていったのに!」

俯いていた顔を上げた少女は、更に激昂したように興奮し、唾を飛ばす勢いで僕に生の感情をぶつけて来た。

僕の第六感は大した物だ。
でも今回は当たって欲しくなかった。

こんな事言われても、僕にどないせっちゅーねん!

しかしこの少女は今、僕にとって無視できない言葉を言ったよ。

「日本人だとかブリタニア人なんて関係ない」

うん。我ながら良い台詞。

「そんなことは関係ない。人種なんて彼らや僕達の間には何の問題も無かったんだよ。
僕たちは仲間…いや、家族とすら言っていい繋がりを持っていたんだから」

そう。
萌えに人種なんて関係ない!
そして萌えで繋がった僕たちは皆家族だ!
人類皆兄弟!すばらしい言葉だぜ!


僕の言葉に少女は暫し呆然とした表情を晒していた。
何だろうか?
僕の言葉に感動したのかい?
だったら僕もう帰っていいかな?
今日はいろいろと精神的ダメージが多かったから、とっとと家に帰って、自棄ジュースしたい。
炭酸一杯のコーラが僕を待っているんだよ。


「……ねえ?
貴方、ブリタニアが憎くない?
貴方の大切な家族を奪ったブリタニアが…」

ぽつりと少女が呟いた。

憎い?
ブリタニアが?
そりゃ憎いさ!

「憎いさ。
ブリタニアは僕の大切な物を奪っていったんだから」

改めて考えても、憎悪が沸いて来る。
アキバという至高の文化を破壊し、その文化を伝える住人たちを根絶やしにしたブリタニアが憎いと言わずに何と言うか!

「取り戻したいと思わない?
貴方の大切な何かを?
力があれば、貴方の大切な何かを取り戻せるのよ!
私達と一緒に…」

「………いや、思わないよ」

「な、なぜ!?」

少女は僕の言葉を聞くと、さらに言葉を紡いできた。
その表情は紅顔としてきて、その目は怖いくらいに真剣だ。
なんだか怖くなってきた。
しかも何か私達と一緒にとかって言ってきたよ!この子!
あれか?もしかして宗教か!?宗教の誘いか!?
だとしたらやばい!宗教は本当に怖い!断っておこう!

「一度無くした物は、二度と戻ってこない。
例え、戻ってきたとしても、それは無くした物と似た物であるだけで、無くした物ではないんだ。
確かに力は欲しいよ。でも僕はその力で、無くした物を取り戻すのではなく、僕はその力で僕が持っている大切な何かを守りたい」

うーん。
僕良い事言うなぁ。
勢いで言った台詞だが、中々に心に染みる台詞だ。

そうだ。
無くしたブイバータンは帰ってこない。
それよりも僕の今ある大切な何かの為に僕は生きなければ!

先ずは実家の僕の部屋にあるパソコンだ!
色々とお宝データ満載の僕のパソコンを回収しなければ!
他にも、部屋の至る所に隠している、僕の秘密のちょめちょめも家族に見つかる前に、回収しなければいけないな!
もし見つかったら切腹もんだ!
その為には、さっさと軍人になって、力を付けて功績を取って、とっとと退役しよう!

「……そう。
それが、貴方の道なのね」

少女の問いかけに頷きを持って返答を返す。

すまない。名も知らぬ萌えっ子よ。
僕は君のはまっている宗教には入らないよ。
ノルマが在るのかもしれないけど、別の人を勧誘してくれ。
なーに。君のその萌えっぷりなら、いろんな男が君の萌えにホイホイつられて入団してくれるさ!
僕も危うく入りそうになったしね!

「それじゃ、僕はもう行くよ」

「ま、待って!」

再び立ち去ろうとする僕を引き止める声。
しかし今度は立ち止まらない。
これ以上、宗教に漬かるのはごめんだ。

「貴方の…貴方の名前を教えて!」

歩みを止めない僕の背中に浴びせられる声。
それは懇願が混じった、萌え声であった。
その萌えっぷりに思わず歩みを止めてしまう僕。
僕の意思弱ッ!弱すぎ!

しかし名前かぁ…。
宗教団体にはまっている少女に教えてもいいものだろうか?
なんか教えてしまったら、まずい事に巻き込まれてしまうような…。

少女に背中を向けながら、首だけ少女の方を向く。
視線の先の少女は、瞳にうっすらと涙を滲ませながら、僕の事を意思の篭もった強い視線で見つめていた。
なんか萌えました。

「…アクア」

「え?」

「アクア・アッシュフォード。
それが僕の名前さ」

負けだよ。
僕の負けだよ。君の萌えっぷりには完敗さ。
君の勝利を称えて僕の名前を教えてあげるよ。
でも、悪いことには使わないでね!お願いだから!

「私の名前は、カレン。
紅月カレン。
また何時か会いましょう。アクア」


「…お互いが、気兼ね無く会える立場であったならね」


萌えっ子の名前は紅月カレンだと判明した。
何時か会おう、か。
君が宗教から抜け出されたら、喜んで会いたいものだ。
だから、宗教抜け出せてたら会おう。
そんな意味合いをカッコ良さげに告げる。
今日の僕は役者だ。
大根だけど。

そして今度こそ少女の前から立ち去る。

今日はもう疲れた。アキバもこんな状況だし、暫く日本に滞在する気で居たが、もう帰国しよう。
そして自棄コーラだ。
あの炭酸が僕の心を癒してくれるさ。

ゲットーを照らす夕日が僕の心を癒しくれるように優しく辺りを照らしていた。

夕日乙。







■紅月カレン■


暫し少年は泣きじゃくっていたが、近くにいた私に気付いたようだ。
少年は慌てて立ち上がり、立ち去ろうとしている。

「ねえ待って!」

私はそんな少年を何故か呼び止めていた。
私の言葉に少年は歩み始めた足を止め、私の方を向いてくる。
何処までも透き通った青い瞳が私の事を見つめている。

「ねえ…少し訊いていい?」

「………何をだい?」

何もかも見通すかのように思える瞳に、戸惑いながらの私の言葉に少年は、少し間を開かせてから言葉を返してくれた。
少年も私と話すことに戸惑いがあるのだろうか。
そう考えると、お互いが戸惑っている状況が可笑しかったが、その考えが私の気持ちを少し楽にさせてくれる。
一つ深呼吸とまでは行かないが、大きく息を吸ってから、この言葉を言った。


「どうして…どうして泣いていたの?」












「大切な…大切な物が、そして大切な人達が此処に居たんだ
でも僕の大切な存在が瓦礫の中へと消えて行った。
だから悲しくて、泣いてしまったんだ」


この言葉を聞いたとき、私の心の何かの導火線に火が走ったのを感じた。


「大切な人達…?
貴方はブリタニア人でしょ!?」

私の詰問に少年は頷きで肯定する。
その返答に私は顔を俯いた。
導火線が一気に短くなるのを感じる。


「ブリタニアが…ブリタニアが奪い去っていったのに!
ブリタニア人の貴方が、日本人の死を悼んだっていうの!?
貴方一体何様のつもりよ!貴方たちが!貴方たちが全てを奪っていったのに!」

導火線がゼロになった時、私は自分の心の生の感情を吐き出すのを堪えることができなかった。

私にとってブリタニアは全てを奪って行った悪の国。
そしてブリタニア人はその悪の国に住まう悪人だ。

そのブリタニアの悪人が、この廃墟と化したこの街の住人の死を悲しむ資格など無い!
私は自分の心から溢れ出る醜い感情を抑えることが出来なかった。



「日本人だとかブリタニア人なんて関係ない」

だがその少年は、私の醜い思いを吹き飛ばしてくれる言葉を紡いできた。


「そんなことは関係ない。人種なんて彼らや僕達の間には何の問題も無かったんだよ。
僕たちは仲間…いや、家族とすら言っていい繋がりを持っていたんだから」

そう告げる少年は宛ら、愛を唱える宣教師。
もしくは全ての争いに意を唱える聖者の様に思えた。

そしてこの少年と一緒に行動をしたい。
この穢れ無き聖人のような少年と一緒に居たい。
私の心はその思いで一杯になっていた。

「……ねえ?
貴方、ブリタニアが憎くない?
貴方の大切な家族を奪ったブリタニアが…」


「憎いさ。
ブリタニアは僕の大切な物を奪っていったんだから」

私の言葉に少年は顔を顰めながら言葉を紡ぎ出す。
その言葉に心が喜びに満ち溢れていくのを感じる。
この少年も私と思いは一緒だ!


「取り戻したいと思わない?
貴方の大切な何かを?
力があれば、貴方の大切な何かを取り戻せるのよ!
私達と一緒に…」

「………いや、思わないよ」

私の心はその言葉に、希望が怒りに変わっていくのを感じた。

「な、なぜ!?」

私達と同じ心を持っているのに、何故少年は奪われたものを取り戻そうとしないの!?
やはりこの少年も所詮は私の思い描く、ブリタニア人と一緒ということか!

私の心が身勝手な怒りで一色に染まっていくのを感じる。

私の失望と怒りを混じった視線を向けられた、少年は一度躊躇う様な素振りが見えたが、次の瞬間には決意溢れる視線を私に向けてきた。

「一度無くした物は、二度と戻ってこない。
例え、戻ってきたとしても、それは無くした物と似た物であるだけで、無くした物ではないんだ。
確かに力は欲しいよ。でも僕はその力で、無くした物を取り戻すのではなく、僕はその力で僕が持っている大切な何かを守りたい」

それが少年の出した答え。

大切なものを取り戻したい。
大切なものを守りたい。

たったそれだけの違い。
でもとても大きな違い。


「……そう。
それが、貴方の道なのね」

私の問いに少年は頷きをもって肯定する。


私はこの時、二つの予感を感じた。

その一つは、この少年と同じ道を行く事は無いだろうと云う予感。

唯の予感であったが、不思議とそれは私の中で事実のように心の中に根付いた。

「それじゃ、僕はもう行くよ」

「ま、待って!」

立ち去ろうとする少年を再び呼び止める。
だが、今度は少年は止まらない。

「貴方の…貴方の名前を教えて!」

今まで自分が生きてきた短い人生の中で、このような必死な思いで問いかけた事があっただろうか?
その私の思いを感じてくれたのかわからないが、少年は立ち止まり、首から上だけをこちらの方に向いてくれた。


「…アクア」

「え?」

唐突に告げられた言葉に、私が戸惑いの声を上げる。
そんな私を見て、少年―――アクアは改めて自らの名前を名乗ってくれた。

「アクア・アッシュフォード。
それが僕の名前さ」

アクア・アッシュフォード。
それが彼の名前。

「私の名前は、カレン。
紅月カレン。
また何時か会いましょう。アクア」


「…お互いが、気兼ね無く会える立場であったならね」

私との出会いに、彼も何か思うことが在ったのだろうか。
アクアは意味深な言葉を告げると、今度こそ振り返らずに私の前から立ち去っていった。

夕日が私たちの出会いを祝福するように、そして哀れむように淡く辺りを照らし出す。

私はアクアに感じた予感。
二つの予感が、一つは外れて欲しいと思い、もう一つは当たって欲しい。

そんな相反した思いを浮かべながら、自分の家へと帰っていった。

私の帰る場所へ。







それから何年か経ち、私の名前が戸籍上、紅月カレンからカレン・シュタットフェルトになって暫く経った時、ある一つのニュースがブリタニア全土を賑わせた。

それは皇帝直属の最強の騎士団に、新たな騎士が三人も。
それも三人ともまだ十代という少年少女達が加わると云うニュースだ。

新たに栄光あるナイトオブラウンズとなった者の名前は。

ジノ・ヴァインベルグ。

アーニャ・アールストレイム。

そして―――アクア・アッシュフォード。

テレビでは三人の叙勲式の生放送が流れている。

そのテレビにはあの時、ゲットーで出会った少年が成長した姿を見せていた。

少年は力を手に入れたのだ。

大切な何かを守るための力を。

私の予感の一つ。
少年と同じ道を行く事は無いだろうという予感は当たったのだ。

少年は大切な何かを守るための力を手に入れた。
私はまだ、大切な何かを取り戻す力を手に入れていない。

アクアと私の距離は果てしなく遠かった。




それからまた一年という月日が流れて、私は今アッシュフォード学園という学校に居る。

アクアの家族が理事を勤める学園。

私は其処で病弱なおしとやかなご令嬢の演技を勤めながら、通っていた。

私はゼロという、強力な指導者の元、彼が率いる黒の騎士団と云うレジスタンスに入ることになった。

彼のカリスマや行動力は凄まじいもので、皇族たるクロヴィスすらも倒し、私達黒の騎士団は日本を代表する、レジスタンスとなった。

私は力を手に入れたのだ。

大切な何かを取り戻す為の力を手に入れたのだ。



そして今アッシュフォードの教室で、自分の席に座っている私の視線の先には、一人の転入生が居る。

白に少し青みが掛かった髪。
綺麗な空色の瞳。
女性のように整った顔つき。

戴冠式で見た姿からまた成長した一人の少年の姿があった。

「アクア・アッシュフォードです。
宜しくお願いします」

私の二つの予感。

一つは少年と同じ道を行く事は無いという予感。

そしてもう一つの予感。

いつか私と少年の道は交差するという予感。

今二つの予感が証明されたことを私は心の中で感じた。



[3303] お家再興記 5話
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2008/07/07 16:07
超大国神聖ブリタニア帝国の首都、ペンドラゴンに存在するブリタニア王宮。

世界の中心の国の、そのまた中心と言っても過言ではない場所。

今僕はその王宮の廊下を羽織った水色のマントを翻しながら歩いている。
両隣には僕と色違いの、緑色と桃色のマントを羽織った、ジノとアーニャが歩いている。
歩く僕たちに向けられる視線は、妬み。嫉妬。そして羨望。


ナイトオブラウンズ。

軍事超大国神聖ブリタニア帝国における、軍人としての地位の最高峰の一つ。
12人の最強のKMFライダーのみ所属する、皇帝直属の騎士達。

その12席の中で、第7席の称号を持つ―――ナイトオブセブン。

それが今の僕の立場だ。

しかし、こんな僕に妬みや羨望の視線を向ける人たちには申し訳ないが。

早く辞めたい。

これが僕の偽りなき思いだ。












「やれやれ。
俺達が担当してるE.U.の、制圧があらかた終わったら、いきなり本土に戻ってこいなんて、皇帝も人使いが荒いなぁ」

謁見の間へと歩く僕に隣を歩いている、ジノがボヤクように声を出す。

「仕方が無いだろう。
僕たちは皇帝直属。
上司の命令には従わないとね」

「ま、そりゃそうだな。
しかし俺たちに何の用事なんだかね…
E.U.侵攻も、シュナイゼル殿下を中心として、順調に進んでいる。
何かの特命か?」

そう。
僕達三人は、つい先日まで、E.U.の最前線にて矛を振るっていたのである。

運命の日。
僕がついに、軍人を辞められると、思っていたのに、ありがたくない大逆転にて軍の頂点の一角。
ナイトオブラウンズのメンバーに加入してから随分と時が経った。

ナイトオブラウンズは皇帝直属の最強のKMF部隊。

その実力故に、僕達ラウンズが派遣される戦地は、常に最前線。
マジに最前線。嫌になる位最前線。ノイローゼになる位最前線。


ラウンズになって一年。
あちらこちらの最前線を駆け巡りまくった僕は本当に、よく生き残れたものだ。


昨日まで、僕たちが担当していたE.U.との戦闘地区の制圧がほぼ完了して、ようやくひと段落できると思った矢先に、皇帝からの本国へ帰って来いとの呼び出し。
その呼び出しの為に、E.U.から急遽、本国へと戻ってきて、皇帝が待つ、謁見の間へと向っている最中なのだ。
ハローワークに通報してやりたい、職場環境だ。

何故、こんな事になってしまったのだろうか?

僕の夢は毎日、ニートな生活をして、毎日ゴロゴロすることだった。
しかし、僕の祖父。
くそったれなルーベン爺の魔の手によって、ブリタニア士官学校へと、入学されてから、僕の人生設計は180度変わってしまった。爺殴る。
入学した士官学校で尻を狙われながらも、鉄壁のガードで尻を死守する事を成功するが、卒業したら、E.U.という最前線に送られてしまう。校長蹴る。
戦地のE.U.侵攻地で、絶体絶命の危機をカミカゼアタックで、何とか乗り切って、やっとこさ、恩賞をくれるかと思っていたら、毎日カミカゼアタックをする日々。上司撃つ。
そして、麗しの顎を持つ、シュナイゼル殿下から、やっとのこさ恩賞をくれると言うことで、軍を退役できると、はしゃいだのも束の間。
何故か知らんが、ナイトオブラウンズに加入されると言う、異例のスピード出世をしてしまった。殿下へりくだる。

物凄い勢いで、ニートからかけ離れて行ってしまってる。
何故だろう?

僕がナイツオブラウンズになったお陰で、アッシュフォード家はかつての栄光までとは行かないが、没落の危機から免れ、ある程度の地位を取り戻すことができた。
つまりもう、いつでも辞めて、家に帰れる状況なのだが。
僕が辞めるには困難すぎる壁があるのである。

「着いた」

歩きながら、携帯をいじっていた、アーニャの言葉に、うつむいていた顔を上げて見ると、そこは既に謁見の間の扉の直ぐ前。
考え事をしている間に、何時の間にか目的地に着いたようだ。
…なにやらデジャブを感じる。気のせいだろうか?

門の前に立つ衛兵に、許可を得て、門が開かれ中に入ると。

其処にはブリタニア帝国の―――否、世界の王が待っていた。





「ナイトオブ3。
ジノ・ヴァインベルグ。
お呼びにより只今参上致しました」

「ナイトオブ6。
アーニャ・アールストレイム。
参上しました」

「同じくナイトオブ7。
アクア・アッシュフォード。
参上致しました」

「良くぞ来たな。
お前たち」

僕たちの挨拶に、皇帝は一つ、手を一つ上げながら、返答をする。
その態度、姿、眼光、皇帝の全てには威厳に満ち溢れている。
ただ対峙しているだけだというのに、凄まじい威圧感だ。
回れ右して帰りたい。

この人物こそは僕たちの直属の上司にてブリタニア皇帝。
シャルル・ジ・ブリタニア皇帝だ。

世界の三分の一を治める、神聖ブリタニア帝国の皇帝として相応しい、実力や威厳。カリスマ性。
長いブリタニア帝国の歴史の中でも、此処までの傑物はいない。とまで謳われる、怪物である。

そして、この皇帝こそが、僕が軍を辞めるための、障壁なのだ。

想像して欲しい。

仕事と言うのは、退職するには、上司に報告するものだ。
平社員なら、上司の係長に。
係長なら、上司の課長に。
課長なら、上司の部長に。
部長ならば、上司の社長に。

そしてそれはナイツオブラウンズである僕とて例外では無い。
僕がラウンズを辞めるためには、上司に報告しなくてはいけない。

此処で考えて欲しい。

ナイツオブラウンズは皇帝直属の騎士団。
そこに所属する僕も皇帝直属の者だ。
つまりは僕の上司は皇帝。


この皇帝に。


ラウンズ辞めたいんですけどー。許してくださーい!テヘ☆


……言える訳がねえ!

あの皇帝だぜ!?

弱肉強食がもっとーで、武士雄真実みたいな 豚は死ね!とかって台詞を素面で言うような皇帝だぜ!?
こんな皇帝にラウンズ辞めたいなんていった矢先には、どんな仕打ちが待ってるか想像するだけで恐ろしい!
この皇帝なら、超能力を持っていると言われても納得してしまう!
言った瞬間に何らかの超常現象でひき肉にされてしまっても可笑しくないわ!
こう、なんか目からビーム!みたいな感じで!もしくは目からミサイル!みたいな感じで!もしかしたら目から皇帝が出てくるみたいな感じでェェ!

上司が皇帝じゃなかったら、即効で辞めているのに!スピード出世しすぎだよ!僕!

「アッシュフォード。
どうした?」


脳内で皇帝の超人ぶりをシャウトしていたら、当の皇帝が、不振そうな声で僕に尋ねてきた。
探るような視線を僕に向けてくる。
そして何故か知らんが光る眼光。

ヒィ!皇帝が出てきそうで怖い!

「いえ。
何でもありません」

その眼光にビビりながらも、表面上平然と言葉を返した僕は中々にカッコいい。


「お前達。
此度のE.U.地方での制圧ご苦労であった」

僕の言葉を受け、その恐ろしすぎる眼光を僕から外してくれた皇帝は、改めて僕たちに言葉を紡いだ。
その言葉に僕達は一斉に頭を下げる。

「此度の働きによって、E.U.侵攻に対する重要な拠点を奪い取る事が出来た。
この度呼んだのは他でもない。
制圧が終わって、暇であるお前たちに、新たな任務をやろうと思ってな」

物凄くハローマークに通報してやりたい。
この皇帝の一言で、人が死ぬ思いをしてやっと手に入れた、安息の時間が潰れるのが確定したよ!

なにが『暇であるお前たちに、新たな任務をやろうと思ってな』だ!
こちとら毎日戦場を駆け巡ってようやく得た安息の日々を暇と抜かしたか!
萌えっ子とラブコメしたいのに、戦場のむさ苦しい兵士たちとデスコメしてる僕に向って!
手前みたいに妻が100人以上居て、子供も100人以上いる手前がそれをいうかァ!この種馬野郎が!

なんだ!?お前はサンデーブイレンスか!?サンデーブイレンスなのか!?

羨ましすぎる!
土下座するから僕と立場変わってください!
ハーレムがしたいです!分西先生!

「…だからどうした?
アッシュフォード」

脳内で皇帝の羨ましぶりをシャウトしていたら、また皇帝に探りの視線を向けられた。
そして何故か光る眼光。

怖いけど…う、羨ましい…。

「いえ。
何でもありません」

その眼光に嫉妬しながらビビリ、表面上平然と言葉を返した僕は本当にカッコいい。
惚れるなよ?

「…まあいい。
ヴァインベルグ。
そしてアールストレイム。
お前たちはこのまま本国に残り、専用KMFの開発の協力をするといい。
技術者達が、お前達の意見を聞きたいと言っていたからな」

前に皇帝は自らの直属の騎士団、ナイトオブラウンズの専用KMFの開発を許可したのだ。
それにより僕達ラウンズには専属のKMF開発チームが付くことになった。
しかし、僕達三人の専用KMFはまだ開発中であるのだ。

おー。
特命っていうから、どんな危険な任務かと思ったら、KMFの開発かぁ。
こいつはいいぜ。
専用KMFが出来れば、それだけ生存率が高くなる。
GJ!皇帝GJですよ!

…って、あれ?
ヴァインベルグとアールストレイムって…。

僕は??

問いかける僕の視線を受け、皇帝は一つ頷いてから僕の視線に答えた。

「アッシュフォード。
お前はエリア11に向うのだ
そしてコーネリアの指揮下に入れ」

エリア11。
日本に?
ていうか僕一人で?

「それは私一人で…ですか?」

僕とジノとアーニャは常に三人で行動している。
『ブリタニアの三連星』という僕達の異名とおりに、トリオを組んでいるからだ。
故に、どんな任務でも僕達は一緒の場所に配置されていた。
それ故に皇帝が告げた、僕達の配属場所が別の事に疑問を抱いたのだ。

「そうだ。
アッシュフォード。
お前一人でだ」

まじっすか。

「エリア11は、今我らブリタニアに対して様々な反逆の種を持っている。
それを払うために、ナイトオブラウンズの一人であるお前を向わせるのだ。
コーネリアならばお前を扱って見せれるだろう。
もっとも、お前という手駒を持ってしても、反逆の種が払われなければ、コーネリアの才覚も高が知れている。
あ奴が死んだ時はクロヴィスの様にブリタニアの進化の証明となるだけだ」

とても親の台詞とは思えない言葉を吐きながら僕の事を射抜くような視線で貫いてくる。
まるで僕の死もブリタニアの進化の証と言わんばかりに。

「ある程度の裁可はお前に預ける。
自由に動くがいい。アッシュフォード。
そして切り開いてみせい。
己の運命をな…」

王者の視線に晒された僕は唯頭を垂れ、この言葉を吐くしかできなかった。

イエス・ユア・マジェスティ…と。


ハローワークに駆け込みたい。






「たく…。
俺達三連星をバラバラにするなんて、皇帝は何考えてんだか。」

「…僕達は軍人。
上司の言うことは絶対命令だろ?
そんな事言って誰かに聞かれでもしたらやばいよ?」

「壁に耳あり障子に目あり」

「難しい言葉知ってるね…。
アーニャは」

謁見の間を離れた僕達は、ジノの執務室に集まり、談笑をしていた。
もっともジノは先ほどの謁見が気に入らないようで愚痴を言っているような感じであったが。

しかし軍人になってから初めて二人と離れる事になったが、これはこれでいいかもしれない。
僕の萌えの貯蔵庫であるアーニャタンと離れるのはかなり痛いが、ジノと離れられるのだ。

ジノは本当にいい奴だ。

名門の生まれを気取らない、爽やかで気さくな性格。
王子さまルックスの容姿。
ジノは友人としては本当にいい奴だ。

だが悲しいかな。
ジノはホモなのだ。ガチホモと言ってもいいレベルのホモなのだ。
そして僕はジノに尻を狙われる憐れなノンケな男。
時々自殺したくなる現実なのだ。

天は人に二物を与えずとはよく言ったものだ。
ジノがホモで無かったら、本当にいい友人なのに。

「まあ、そりゃそうだけどよ…
にしれも初めてじゃないか。俺達が別々の場所に移動するなんて。
あーぁ。お前と絡むのは暫く我慢だな」

そう言うと、ジノは僕の肩を抱いてきた。
それを成すがままに受ける僕。

以前ならばこのような行為をされた瞬間に拒絶反応が起き、サブいぼが僕の全身を元気よく駆け上ったものだ。

しかし今はそれは無い。

僕は悟ったのだ。
ジノは真性のホモだ。
その真性ホモのジノにこの様な行為を止めてくれと言っても、聞いてはくれないだろう。
ならばこの様なちゃちな事で一々反応を返していたのでは、僕の体と精神が先に滅入ってしまう。
この程度のことはスキンシップと思うことにしたのだ。
そう思えたら、あら不思議。
ある程度のジノの行動が許せるようになってきたのだ。
肩を抱いてくるのもスキンシップ。
耳元に口を近づけられるのも…スキン…シップ。
共同風呂に一緒に入るのも……スキ…ン…シップ?
そんなこんなで僕は現実から少しだけ逃避することによって、安息の日々を手に入れたのだ。

そしてジノが僕を本気で求めてきたら…その時は僕の貞操かジノの命が失われるときだろう。

僕の意思は固い!ダイヤモンドのように硬い!

来るならかかって来い!ジノ!
…やっぱりかかってこないで!ジノ!
貞操は生涯に一個しかもてないんだから!

「でもKMFの開発かぁ
ジノはどういうの作るんだっけ?
高機動型?」

「おう!あったりまえよ!
もうバリバリの高機動な奴でだなぁ!
こうガシャーン!って感じのすげえ奴を作ってるぜ!」

話の流れを変えるために、KMFの話をジノに振ると、ジノはよく聞いてくれました!と、言わんばかりに、身を乗り出しながら言葉を発してきた。
ていうかガシャーンって何だよ?
変形でもするのかよ。

「アーニャのは?」

「…砲撃。
すごいの付ける。
楽しみ」

相変わらず携帯を弄くっているアーニャタンに話を振ると、携帯を弄くる手を止めずにアーニャは答えて来た。
しかしこれでは意味が解らないだろう。
アーニャタンの毎度の言葉足らずの言葉を訳すとだ。



『私はねぇ♪
砲撃戦が得意だからぁ☆砲撃に特化した凄っっい兵器を付けたKMFを開発させてるのぉ★
もぉ~早くできないかぁ♪アーニャ待ち遠しくて、胸がドキドキして張り裂けそうで、もう夜も眠れないよぉー☆
あとぉ…アクアだ~いすき!』



ホンニャクこんにゃくも驚愕の翻訳だ。

萌え萌えっていうか、既に萌えの3乗です。
このアーニャタンの言葉で、僕は今日も生きて行けます。
本当にありがとうございます。


脳内で翻訳されたアーニャタンのあまりの萌えっぷりに僕はメロメロだ。
一部僕の脳内願望が混じってしまったかもしれないが、それは気のせいだ。
気のせいと言う事にしておこう。
その方が幸せだ。そして萌える。
そして僕は常に自由と萌えを追い求めるボヘミアンだ。
故に問題無し!
アーニャタン萌え!
鼻血が出るくらいに萌えェェ!

「で?アクア。
お前の方はどうなんだよ?
確お前のKMFは、シュナイゼル殿下のチームの奴らと合同に製作してるんだろ?」

アーニャタンの萌えっぷりに鼻血が出る勢いの僕にジノは問いかける。

「僕のKMFは試作機と行った感じが強いからね
製作者達に全てお任せ状態だよ」

皇帝直属のナイツオブラウンズは己専用のKMFを持つことが許されている。
そんな僕達ラウンズは専属のKMF開発チームが付いている。
僕達三人にも開発チームが付いているのだが、まだKMFが完成しておらず、僕達三人はグロースターに乗っている状態である。

ちなみに僕の機体となるKMFはジノの言った通りに、シュナイゼル殿下の部下の開発チームと合同で製作しているのである。
故に、試作機と言った具合が強いKMFに成る様だが、なんでも上手く出来れば一機で戦場を支配できるような、中二病全開の機体を作っているようだ。
素晴らしい。生還率が格段にアップするではないか。
是非とも早くそんな中二病全開の機体を作り上げて僕の元へ送ってほしいものである。


頑張れ!僕の開発チーム!
頑張れ!殿下の開発チーム!
そして僕専用KMFが出来るまで生き残るんだ!僕!
一番頑張んなくちゃいけねえよ!僕!

「そういえばシュナイゼル殿下の部下の開発スタッフって言えば…。
殿下の部下の開発スタッフが、第七世代KMFを作ったって知ってるか?」

「ああ。
確かランスロットとかって言ったよね?」

ジノが出した話題に一つ頷きながら答えを返す。

KMFは世代毎にコンセプトが違う。
現在のブリタニア軍では第四世代を代表するグラスゴー。
第五世代のサザーランドや、一部主力に回されているグロースターが主な主力となっている。
第六世代は新技術を投入した画期的なKMFを作る予定だったそうだが、具体的な成果を上げられず、企画倒れで終わってしまったので現存するKMFは皆無。
そんな理由で実質的には第五世代が最新のKMFという実情なのだが、シュナイゼル殿下の開発チームは新たなコンセプトのKMF―――第七世代を試作機として作り上げたのだ。
その機体の名前がランスロットという事だ。

「ああ。
なんでもすげえ機体みたいだぜ。
詳しいスペックは解らないけど、聞いた話だと単純な運動性能はサザーランドの1.6倍だってよ」

「1.6倍!それは凄い!」

「機体性能やランスロットの戦果を聞いたノネットさんが興味を持ってるって話だぜ」

「ノネットさんが…」

ランスロットのパイロットも可哀想に…。
もしノネットさんが日本に行ったら絶対ぼこられるな…。

ノネット。ノネット・エニアグラム。

ナイトオブラウンズにおける第九席の称号を持つナイトオブナイン。
人柄もよく、豪放で男前なお姉さまなのだが、彼女は困った気質を持っているのだ。
それはKMFでの戦闘が大好きという大の戦闘狂なのだ。
しかも強い者たちと戦いたいと言う、どこぞの戦闘民族の血を引いているんじゃないか?といった感じなのだ。
おかげで彼女と出会ったラウンズは必ず彼女と一戦しなくてはいけない、奇妙な暗黙の掟があるのだ。
僕も何度かやったことがあるのだが、ラウンズの相手は本当に疲れる。
しかも彼女は自身が勝っても負けてもとても嬉しそうな顔で、もう一度!もう一度!とせがんで来るのだ。
これが男女の閨の戦いであるのならば、喜んで勝負するのだが、現実は悲しいことに、KMFの模擬戦である。凄く遠慮したい。
しかし彼女のその笑顔を見ると、僕の口はホイホイと勝手に再戦を了解してしまっているのだ。
なんと憎たらしい口だ。
そして僕の返答を見て、100万ドルを超えた笑顔で喜ぶノネットさん。
そんな笑顔に萌えます。ホイホイと了承する僕の口。ちょいとGJ。

「今エリア11にランスロットがあるみたいだからな。
機会があったら、見てみたらどうだ?」

「ああ。
そうさせてもらうよ」

それから僕達三人は他愛無い話を続ける。
普段会話にあまり参加してこないアーニャもいつもより多く会話に参加してきた。
思えば、ジノとは士官学校からの、そしてアーニャタンとは正規兵になってからずっと付き合いがあった。
その僕達が、任務とはいえ離れるのは初めて。
感慨深いものがあるね。

「…まあ、日本に行って勝手にやられるんじゃないぞ。
ブリタニアの三連星を勝手に二連星にするんじゃないぞ?」

「…ああ」

ジノの言葉には友情の念がたっぷりと含まれていた。
だから僕は素直な気持ちで頷くことが出来た。
ちょっと愛情の念も感じた気もするが、きっと気のせいだ。
僕は自由と萌えを追い求めるボヘミアンだ。
ホモは求めてなどいない。
故に問題なし!
ホモは駄目!絶対駄目!

「お土産。
東京バナナ。
よろしく」

そしてやはり言葉足らずなアーニャタンの言葉。
これを僕の脳内翻訳機で訳すとだ。

『日本に行っても頑張ってね!お土産は東京バナナをよろしく☆
でもアクアと離れるなんてアーニャ寂しいよぉ(ノД`)
私寂しさに耐え切れなくて、シクシク泣いちゃうかもぉ(泣)
大好きだよぉ!アクア★必ず帰ってきてね♪』


…かいしんのいちげき!
こうかはばつぐんだ!






そんなやりとりをしてブリタニア本国を出発しました。



[3303] お家再興記 6話
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2008/07/07 16:18
「アッシュフォード卿。よくぞいらしたな。
私がエリア11を束ねる総督のコーネリアだ」

「ナイトオブセブン。
アクア・アッシュフォードです。
只今を持ってして、コーネリア殿下の指揮下に入ります」

「うむ。
よろしく頼むぞ
アッシュフォード卿」

というわけで何だかんだで、やってきましたエリア11―――日本へ。
日本に到着した僕は、すぐさまお出迎えの案内に従い、エリア11の総統府を訪れたのだ。
総統室に入った僕を出迎えたのは四人の男女。
そして今僕の目の前には、エリア11総督にしてブリタニア帝国第二皇女。コーネリア・リ・ブリタニア皇女がいらっしゃいます。

コーネリア・リ・ブリタニア
皇女でありながら、常に最前線を駆け回り、その類稀なKMFの操縦センスと指揮能力で他国からはブリタニアの魔女と恐れられている傑女だ。
そしてブリタニア軍人としてそしてブリタニア人とて高い誇りとプライドを持っている女性だ。
ぶっちゃけ僕としてはあまりお近づかになりたくない人種の人だ…。

だが今の僕にはそんな事関係ない。
なぜならば、僕は今ある視覚情報を脳に刻み付ける事で必死だからだ。

その視覚情報とは…おっぱい!
なんと見事な…おっぱい!

大事なことなので二回言いました!

軍服の上からでもわかるなんとけしからんおっぱいじゃァ!

( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!

僕の脳裏に何処からとも無く現れたおっぱい職人たちが降臨される。
彼らは一様に100万ドルを超えた笑顔を浮かべながら僕にサムズアップをしてくる。
そして彼らに同じくサムズアップを持って応える僕。
今世界はおっぱいで一色だ。
ビバおっぱい!

よっしゃァァ!皆神輿を掲げろォォ!
今夜はおっぱい祭りじゃァァ!

僕の宣言に脳内のおっぱい職人たちは、おっぱい神を称える神輿を「せーの…おっぱい!」という掛け声と共に、力を合わせて一斉に掲げる。
そして始まるおっぱい祭り。
もう祭りの序盤からフィナーレのようなテンションで皆が駆け回る。

( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!
( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!
( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!

今僕達はおっぱいで繋がっている。

嗚呼…僕は確信したよ。
人は分かり合える…。
僕たちは刻すらも越えられる…。
おっぱいは…世界を救う…。
ブラァ…君の言っていた事は間違ってなどいなかった…。



「アッシュフォード卿。
我が軍の直参達を紹介しよう。
この者が私の副官。
アンドレアス・ダールトン将軍だ」

脳内の刻の狭間の中おっぱい祭りを迎えていた僕を現実へと引き戻したのは、僕をおっぱい祭りへと誘ったコーネリア殿下の一言であった。
もう少しおっぱいの余韻に浸っていたかった。
コーネリア殿下の言葉に、後ろに控えていた一人の男が一歩前に出て言葉を発する。

「お初にお目にかかります。
コーネリア総督の副官。
アンドレアス・ダールトンと申します。
これから共によろしくお願いします」

「こちらこそ。
ダールトン卿」

うん。
ガチムチだ。
ニブニブ動画でパンツレスリングに出れそうな筋骨隆々の体に顔に走る一筋の傷。
いかにも軍人!といわんばかりの人物だ。
この人がガチホモで僕が狙われたら、生身での対処は難しいであろう。
この人と二人っきりで会わないように気をつけよう。

「そしてこの者が我が騎士。
ギルバード・G・P・ギルフォードだ」

「コーネリア総督の専属騎士ギルバード・G・P・ギルフォードです。
音に聞こえるブリタニアの三連星の中星と共に戦場を駆けるれるとは光栄です」

「自分はそのような大した者ではありませんが…。
ご期待に応えられるように頑張ります」

コーネリア殿下の背後に控えていたもう一人の男と挨拶を交わす。

眼鏡をかけ、長髪をオールバックにした男だ。
涼しげな目元が、見る者を魅了するかのようだ。
腐女子に大人気間違いなしだろう。

それにしても貴方が羨ましい。
ギルフォード卿。

騎士とはブリタニア軍におけるKMFのパイロットを指す。
僕も騎士の一人だ。
そして皇族は自らの専属の騎士を選ぶ権利を持っているのだ。
そして専属の騎士となったものは、その全てを自らの主へと捧げ、その生涯を主に尽くす。

ちなみに実力重視の騎士のはずなのに、皇族の選ぶ騎士は何故か知らんがイケメン揃いばかり。
何かの行事で皇族の騎士達が一同に集うと、ぶっちゃけホストクラブ状態だ。
ドンペリ入りましたー!なんて言っても可笑しくない雰囲気だよ。言ったらやばいけど。
皇族は騎士を顔で選んでいるのだろうか?

そして僕も皇族の騎士。
僕が忠誠を捧げ、生涯を尽くす相手は皇帝。
萌えの欠片も存在しない皇帝。
萌えが存在したらやばい皇帝。
…自殺したくなってきた。

その僕に対して、ギルフォード卿はコーネリア殿下の騎士。
おっぱい殿下の騎士。
萌えの騎士。
羨ましすぎる!
嫉妬が湧き出て止まらない!
マジで嫉妬が止まらねェェェェ!

「そしてこの者が、私の妹にしてエリア11の副総督であるユーフェミアだ」

「初めまして。
アッシュフォード卿。
ユーフェミア・リ・ブリタニアと申しますわ。
宜しくお願い致しますわね」

嫉妬で染まった僕の心が新たな癒しを見つける。
それは、副総督として紹介されたユーフェミア殿下だ!
おっぱいはコーネリア殿下には及ばないが、端整な顔立ちに、そのぽわんぽわんの空気!
こいつは特一級の萌えクラスだ!
アーニャタン並の萌えクラスだよ!
世界は広い!まさかこんな萌えっ子が居るとは!
皇族万歳!美形揃いの皇族万歳!
そして何で僕が仕える皇帝はああなんだよ!
皇帝畜生!とっても畜生!

「さて。
次は軍務での話だが。
アッシュフォード卿には近く行われる、テロ組織の壊滅作戦に参入してもらう」

カオスへと向っていた僕であったが、この言葉には流石に意識の気持ちを切り替える。

「テロリスト…敵の規模はどれ位でしょうか?」

「ナリタ連山という場所を拠点にしている、テロ組織であり。
日本解放戦線と呼ばれている組織です。
かつての日本の敗残兵によって構成されており、エリア11では最大勢力ですな」

僕の質問にガチムチのダールトン将軍が応えてくれた。


ほう。
日本で最大組織のテロリストっすか……ってちょっと待てェ!

ちょ!お前!
日本に来たばっかでいきなり、軍に対抗する最大組織との戦闘に参加しろってか!?
日本ではテロ活動が活発って聞いているのに、そんな日本での最大組織とかってドンだけ凄い組織なんだよ!?

もしかしてE.U.でドンパチしてた方がよかったんじゃないか!?僕!?
生きて帰れるのか!?僕!?
アーニャタンとごろにゃんできるのかぁ!?僕ゥ!

「まあ、エリア11最大といっても、我が軍と比べれば大した物ではありませんがな。
向うの主力のKMFはグラスゴーのコピーのような物ですし。
我らの力と、ブリタニアの三連星の中星の力さえあれば、余裕でしょう」


ナイスフォロー!ガチムチ将軍!
それを聞けてかなり気が楽になりましたよ!
でも僕の事は襲わないでね!

そんな感じで軍議を進めていった。

「ではとりあえずはこの様な感じでよいな。
詳しい話はまた後でするとしよう。
アッシュフォード卿。
貴官にはこちらから部屋を用意させた。
案内させよう」

「お心遣い感謝致します。
コーネリア総督」

そしてあらかた話が終わった時、コーネリア殿下の締めの言葉で簡単な軍議は終わりを告げた。
よし。
殿下が用意してくれた部屋に引きこもるとしよう。
そして久しぶりにニブニブ動画だ。


「アッシュフォード卿。お待ちください!
少しお聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

総督室を退室しようとした僕を引き止めたのは、ぽわんぽわんのメルヘンチック少女。
ユーフェミア殿下であった。


はてな?なんざましょ??


「何でしょうか?
ユーフェミア殿下」

ユーフィア殿下の方を向き、彼女と顔を見合わせる。

うーむ…やっぱり特一級の萌えっぷりだ。
今思えば、何故皇帝はあんななのに、その子供達はあんなに美形揃いなのだろうか?

僕が知っている皇族、ルルーシュやナナリー兄妹。
麗しの顎を持つシュナイゼル殿下に、コーネリア殿下にユーフェミア殿下。

皆美形揃いだ。
母方の遺伝子を色濃く継いだのか?
つまりはそれだけあのブリタニアの種馬は美人な女性と子作りしたわけだ。
……皇帝を殺したい。
嫉妬で皇帝が殺せたら、世の中の全ての男性に嫉妬されている。と言っても過言ではない皇帝は当の昔に死んでいるだろう。


「アッシュフォード卿。
このエリア11にある学園。
アッシュフォード学園とは貴方の一族が作った学園と聞いておりますが、本当のことでしょうか?」

アッシュフォード学園。

その名のとおり、僕達アッシュフォードの一族が作った学園だ。
一族と言うよりは、僕を士官学校送りにしたクソったれな祖父。
ルーベンが作ったと言った方が正しいのだが。

しかしそれが何だと言うのだろうか?

「はい。
確かにアッシュフォード学園は私の祖父。
ルーベンが作り、理事をしておりますが…それが何か?」

「まあ、本当の事なのですね!
……アッシュフォード卿。
一つお願いがあるのですが」

「…何でしょうか?」

僕の返答を聞いたユーフェミア殿下は少し考え込んだようにしていたが、意を決してといった感じで僕を見つめてくる。
さすが特一級の萌えクラス。考え込んでいる姿も絵になる。
ちょっと萌えてしまいました。

「アッシュフォード卿。
貴方にアッシュフォード学園に転入してもらいたいのです!」

「は?」

「ユフィ!?」

「「ユーフィミア殿下!?」」

なんちゅー爆弾発言じゃ。
ユーフィミア殿下が放った言葉は総督室にいる全ての人を驚愕させる事を成功する。
ちなみに「は?」が僕で。
「ユフィ!?」がコーネリア殿下で。
「「ユーフィミア殿下!?」」がガチムチと婦女子向けの二人だ。
皆驚いてます。

え?というか何故に学園に転入?

「ユ、ユフィ…何を言っているんだ?」

「はい。お姉さま!
アッシュフォード卿は本来、学校に通っていなければいけない年齢です。
いかにナイトオブラウンズという身分を持ってしても、それは許されることではありません」

ユーフェミア殿下は、狼狽しながらも訪ねてきた自らの姉に毅然とした態度で告げる。

いや。
んな事いったら貴女こそ学校は?
僕と一歳違いなだけじゃん。

皇女姉妹達は当の本人たる僕の事をほったらかし状態である。
疎外感を感じる。

「ユフィ。
アッシュフォード卿は、枢木と違って、唯の兵士ではなく、父上直属の騎士。
ナイトオブラウンズなのだぞ?
…ま、まさかお前枢木の為に…」

何かの想像を思いついたのか、コーネリア殿下は顔をしかめながら、自らの妹に問いかける。
そんな姉にユーフェミア殿下は一つ大きく頷き、テラ笑顔で言葉を発してきた。


「はい!お姉さま!
スザクと歳も近く、アッシュフォード学園とも関係が深いアッシュフォード卿が、スザクの近くに居てくれれば、スザクも何かと助かると思うのです!
スザクはブリタニア人ではないので…何かと大変だと思うのです。
お願いします!お姉さま!アッシュフォード卿!」

ユーフェミア殿下の必死さが伝わる願いに、コーネリア殿下は怯んだように、言葉を発せないでいた。

そしてやはり置いてけぼりな僕。

クルルギ?スザク?
誰だそりゃ。
誰か僕の答えに応えてくれ。

そんな時、困ったような表情をした、ギルフォード卿と目が合った。
ちょうどいい。彼に聞くとしよう。

「ギルフォード卿…その、クルルギやスザクとは?」

「ああ…それは…その」

僕の質問にギルフォード卿は、困ったように視線を彷徨わせ、自らの主であるコーネリア殿下に視線を向けた。
その視線にコーネリア殿下は一度考え込むような表情をしてから、僕に視線を向けた。

「……アッシュフォード卿。
卿はランスロットというKMFを知っているか?」

「ええ。
世界で唯一存在する第七世代のKMFですよね。
それが何か?」

「枢木スザクはそのランスロットのデヴァイサーだ。
…イレブンのな」

コーネリア殿下の言葉に僕は驚愕の意を覚えた。

「ナンバーズがKMFのパイロットに!?
それもランスロットという最新機のデヴァイザーを!?」

「…そうだ」

その言葉を信じられず、尋ねる僕に向って、コーネリア殿下は一つ頷き、肯定の言葉を紡いだ。

「ランスロットを作ったのは、シュナイゼル兄上の直轄の技術班だ。
故に、奴らはシュナイゼル兄上の部下となり、私の部下ではないのでな。
すまないが、アッシュフォード卿。
ナンバーズがランスロットのデヴァイザーを務めている事は公言しないでくれ」

ブリタニア軍では、ブリタニア人が多く占めている。
そんな中、数は少ないが軍の中には名誉ブリタニア人。
ナンバーズと呼ばれる人種が中にはいるのである。
ナンバーズはブリタニアが収めた国の人民の名称。
ブリタニア軍において、主力を務めるKMFのデヴァイサーは全てブリタニア人が勤めてきた。
ナンバーズが軍に入ったとしても、KMFのパイロットはおろか、銃火器すらも持たせて貰えない実情である。
そんな中において、ナンバーズがKMFのデヴァイサーに、しかもランスロットという最新機を与えられたという事実は、僕を驚愕させるには十分の情報だった。

しかし流石はシュナイゼル殿下。
僕のナイトオブラウンズの件といい、やる事が一味違うぜ。

「どうだろう?アッシュフォード卿。
卿は皇帝からある程度の裁可を与えられていると聞く。
此処は、私の顔を免じて学園に入ってもらえないだろうか?」

結局自らの妹に押される形となったコーネリア殿下は、僕の顔をすまなそうな顔で見つめてきた頼んできた。
この時僕は何となく察してしまった。
コーネリア殿下はシスコンだと。
ルルーシュと云い皇族はシスコン率高いなぁ。
でもそんな姿に萌えました。
僕は節操無しだ。

しかし両殿下には申し訳ないが、僕は学校に入るつもりは無い。
ただでさえ、軍人という自分の時間をもろに拘束される職業なのだ。
そんな軍人生活をしながら、学校に通ったら更に僕の大切な時間が潰れてしまうではないか。
しかも僕は学校にはいい思いではまるで無い。
爺にむりやり士官学校に入学され、僕がどれだけ苦労したか。
あの貞操が掛かった学校生活など二度としたくない!
どうにか穏便に断ろう。
どうやって断ったらいいかなぁ。

「本当ならば私が入学するべきなのでしょうが…
流石にブリタニア皇族たる私が一般の学校へ入学するわけにはいかないですから…
どうかお願いします!アッシュフォード卿!」

僕の表情を見て、心情を察したであろうユーフェミア殿下は懇願するように僕に訴えかける。
そしてその訴えの中に僕は萌えと共に重大な方程式を見つけた。




僕が入学できる   +   ユーフェミア殿下が入学できる   =   男女共学!イヤッホゥゥゥゥ!





僕は今真理を見つけた!
何この黄金の方程式!?
あれっすよ!?男女男男男男女!FU!FU!女男女男女男女男女!FU!FU!
って感じだよ!?
男女共学!男女が半々!なんと素晴らしい響き!ついに僕にもラブコメのフラグキターー!
これはあれだ!僕の大切な十代の青春時代を、貞操の死守と戦場での命の奪い合いという悲しすぎる青春時代を送った、僕に対する神様からのご褒美だよ!
神様サプライズすぎる!サプライズ過ぎますぞぉ!
くぅー!神様!ありがとうございます!
これで彼女が居ない暦=自分の生まれた年月という悪しき繋がりを絶つ事ができそうです!ビバ!共学!ビバ!ブリタニア!

「わかりました。
このアクア・アッシュフォード。
アッシュフォード学園に転入させていただきます」

両殿下の顔を見つめながら宣言をする。
僕の言葉を聞いたユーフェミアは花が咲いたような満開の笑顔を見せてくれる。
コーネリア殿下も何処か安心したような表情を見せてくれた。
悔しいけど…萌えちゃう!

「ありがとうございます!
アッシュフォード卿!それではこちらから学園の方へ連絡しておきますので、今から学園のほうへ行ってください!」



え?展開早すぎね?











と、そんなこんなで僕は今アッシュフォード学園に居ます。

あれから車に押し込まれた僕は、僕の意思など問答無用で学園に一直線に送られることになった。
そして学園に到着するや、車を運転していた軍人に、話は通してあるから理事長室に向ってくれと、言われて僕を置き去りにして帰ってしまった。

何?この扱いは?
一応僕ナイトオブラウンズで軍の中では偉いんだよね?

暫し自分の存在について考え込んでいたら、気が付くと僕は学生の衆目監視に晒されていることに気が付いた。
僕の視界に入る全ての学生が僕の事を注目しているといっても過言ではない。
しかしそれも無理が無いだろう。
総督室から僕は一直線にこのアッシュフォード学園に連れて行かれたので、僕は軍服から着替える機会が無かったのだ。
そして今僕の姿はナイトオブラウンズの軍服。
しかもマントまで羽織っている有様だ。

こんな…こんなコスプレ野郎が自分の学園に突如現れたら注目するしかないだろ!

恥ず!僕マジで恥ず!
せめてマント位は外させて欲しかった!
こんなコスプレ全開の格好で、今後通うことになる学園に初めて訪れるなんて…。
これじゃ転入したらいじめられちゃうよ!?あだ名がマントマン!とかコスプレ男!なんてあだ名が付いちゃうよ!?

僕が嘆いている間にも学生たちの視線は僕に突き刺さっている。
むしろ数が増えている勢いだ。


もうこんな衆人プレイには耐え切れない!
さっさと理事長室に向おう!
そして爺に僕の熱い拳を食らわせて帰ろう!
待ってろよ!爺ィ!

僕は理事長室に向って歩き出した。
そして何故か知らないが一定の距離を保ちながら付いてくる学生達。
お願いだから付いてこないでェェ!真面目にアクア恥ずかしいィ!

しかし僕の心情を察してくれない好奇心の塊の学生達は僕の後をまるで金魚の糞…否、これは表現がまずいな。
親鳥の後を付いて来る雛のように付いてくるのだった!




そして迷子になっちゃいました。

気が付けば自分が何処居るのかが、さっぱりわからない。
考えてみれば、当たり前の話だ。
このアッシュフォード学園はかなりの大きさを誇る学園。
そんな学園を、初めて訪れた僕が案内も無しで闇雲に歩いて目的地に辿り着けるはずが無い。
そんな訳で、僕は今コンクリートという名のジャングルの中で遭難しちゃいました!
アクアピーンチ!

そして何故か知らないが、未だに僕の周囲には一定の距離を保ちながら生徒達が僕の事を囲んでいる。
もはや上野動物園のパンダ状態だ。
そんなにコスプレ野郎が珍しいのか!?珍しいのか!?
…珍しいんだろうなぁ。
畜生!学生達に道を聞けば問題は解消されるんだろうけど、僕が近づけば学生達が離れて、僕が離れれば学生達が近づくという訳のわからんエリアができてるよ!
これじゃ聞くに聞けないよ!
そんなにコスプレ野郎が見たいんだったら、ブミケに行って来い!
…ってもうブミケは無かったんだったぁ!ブリタニアが潰したんだったぁ!
アキバの事を思い出してしまったではないか!畜生!ブリタニアとっても畜生!


うえーん!何かもういろんな感情が混じってしまって、この歳で泣いてしまいそうだ!
マジ泣き五秒前!って感じだ!
泣いちゃう前に誰か僕を助けてくれェェい!
僕に飴玉をくれェェい!
マジ泣きダァ!マジ泣きしちゃうぞォ!

「アクア!」

マジ泣き三秒前の僕にその声は届いた。

声の方を振り向くと、僕を囲んでいた学生の輪から、抜けて其処に居たのは、金髪の少女であった。
金髪のセミロングに整った顔つき。そして僕と同じ青い瞳。今その僕と同じ瞳は涙ぐんでいる。
それは昔。僕がまだアッシュフォードの家に居た時毎日見ていた人。


「ミレイ…姉さん?」


「っく、アクア!」

僕の問いかけに少女―――ミレイ姉さんは大きく頷くと、僕へ向って一直線に走りこみ、僕を抱きしめてきた。

え!?えええええ!?

ね、姉さん!
僕達は姉弟なのですよ!?
こここ、こんなインモラルな事、神様が許してくれない…ああ!その育ったおっぱいが僕のナイチチにむにょんって!当たってるゥゥゥ!
クゥァァ!何かが覚醒してしまう!詳しく言うと僕の丹田の下辺りの、聞かん棒がフルチャージしてしまうゥゥゥ!現在充電率68パーセントを突破だァァ!

落ち着けェェ!落ち着くんだァァ!アクアァァァ!
こんな衆人環視の元で姉に反応してフル勃起させてしまったら色々と終わりだァァァ!僕の人生が終わりだァァァ!僕の世界が終わりだァァァァァ!

その僕の意思を知らず姉さんは唯、僕の名前を呼びながら、痛いほどに痛いほどに抱きしめてくる。
その力に呼応して、僕に押し付けられるおぱーい。
マジやばす。

素数だ!素数を考えるんだ!素数を考えて冷静になるんだ!
素数は割り切れない間抜けな数字!僕を冷静にさせてくれる!今こそブッチ神父の教えを実行するのだ!

よーし数えるぜ!

2!もにゅん。

さ、3!もにゅん。

ご…5ォ!もにゅん。

な…ナナ…。もにょにょん。

じゅ…じゅう…い…ち…。もにゅもにゅもにゅん。


無理だーー!冷静になれる訳が無ェェェェ!こんなおっぱいに歯向かえるかボケェェェ!
ヤベェェェ!充電率がどんどん高まっていく!もはや充電率93パー突破だァァ!

煩悩退散!煩悩退散!煩悩たいさーーーん!

「…アクア」

今まで僕の肩に顔を埋めていた顔を離し、姉さんは僕の顔を真正面に見つめる。
涙を流す綺麗な瞳。
も…萌えちゃ駄目だ…。
煩悩退散!お願いだから煩悩退散!今だけ煩悩退散してくれェい!お願いします!ゴッドォォ!

「お帰りなさい…アクア…会いたかったわ」





ゴールイン。

その言葉を聞いたと同時に、僕は姉と同じ瞳から涙が流れるのを感じた。

何故涙を流したのかは言いたくない。

お願いだから僕をそっとしていて欲しい…。

もうこうなったら思う存分姉の体を楽しんでやる!
そうさ僕は外道さ!外道どころか犬畜生にも劣る存在なんだよぉぉ。シクシク。

開き直った僕は、姉の華奢ながら出るところは出てる体を抱きしめ返しながら、唯涙を流し続けるのであった。








■ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア■





「ルルーシュ!ナナリー!
アクアが…アクアが帰ってきたのよ!」

校内放送で、俺とナナリーを理事長室へと呼び寄せられ、理事長室へと入った俺達は、興奮したミレイから、この話を俺達に伝えてきた。
その話に俺達兄妹は驚愕の意を覚えた。

「まあ、本当ですか!?ミレイさん!」

「本当よ!ナナリー!
アクアが任務でこのエリア11に来ている間、アッシュフォード学園に通わせてくれって、軍からお爺様に連絡があったのよ!」

「アクアさんが学校に!
嬉しいですわね!お兄様!」

「ああ…そうだね。
ナナリー」

ナナリーはその答えに、一瞬車椅子から腰を浮かしかける程喜んでいる。
ナナリーの問いかけに応じながらも、俺の思考はアクアの事を考えていた。



アクア・アッシュフォード。

アッシュフォード家の嫡男であり、ナナリーの元婚約者。
そしてあの憎き皇帝直属の騎士団、ナイトオブセブン。
ブリタニアの三連星の中星という異名を持つ、最強の騎士の一人。

幼き日、まだ母が生きていた時、母が戯れにKMFのシュミレーターをしていたアクアの操縦技術を見て、天賦の才があると言っていた。
しかし、まさかナイトオブラウンズに入れるほどの才覚であったとは…。

アクアがこのアッシュフォード学院に転入するという事は、この日本へ来ているという事だ。
つまりは俺達黒の騎士団は白兜に続き、新たな強力なKMFの敵が出来たという事だ。


勿論、白兜のパイロットと違い、身元がわかっていて、しかもこの学園に通うというアクアにギアスをかけるのは簡単な事だ。
そして、ギアスで命じて自害させる。もしくは何かに利用するか、黒の騎士団の仲間にするのが最良の選択なのであろう。

しかし俺は自分がそれを出来そうに無い事を自覚していた。

アクアは俺とナナリーが大恩あるアッシュフォード家の者であり、俺の最も古い友人である。
幼かった、あの何もかもが幸せに包まれていたあの時。
確かにアクアは俺を包んでいた幸せの一つであった。

そしてナナリーの事もある。
アクアはナナリーの婚約者であった男だ。
ナナリーの皇位継承権が剥奪されて婚約は解消されたが、婚約していた事実は残っている。

あの頃はまだ俺もナナリーも幼かったから、気付きもしなかったが、ナナリーはアクアに恋慕の念を抱いているのかもしれない。

ナナリーの大切かもしれない人物を…俺はギアスで操る事はできないであろう。
それが甘さである事は自覚している。
しかし全ては…全てはナナリーの幸せのために。

俺はその為に生きているのだから。






「遅いわねぇ…総督府から直ぐに向うって行ってたから、もう来ていても、おかしくないんだけど…」

先ほどからミレイは、理事長室を所狭しと、歩き回っている。
その落ち着きの無さが、アクアをどれだけ思っているのかが伝わってくる。
しかし他人からしてみればかなりうざい。

「会長。
少しは落ち着いてくださいよ。
会長がウロウロしていたって、アクアは早くやってきませんよ」

「わかってるわよ。
ああ…でもあの子、昔っから何処か抜けている所があったから、迷子にでもなっているのかしら?
心配だわ…泣いていないかしら…」

「会長…アクアは子供じゃないんですよ?
ましてナイトオブラウンズの騎士が、迷子になって泣いてるなんて…」

呆れを含んだ俺の言葉に、ミレイは「わかってるわよ!」と返事をすると、また部屋の中をウロウロと歩き始めた。

「仕方ありませんよ…お兄様。
ミレイさんはアクアさんの事が心配で仕方が無いんですよ」

ナナリーの言葉に苦笑いで応えた時、廊下が騒々しい事に気付いた。

「何かしらね。
ちょっと見て来るわ」

ミレイは俺達の返事も聞かず理事長室から出て行く。ドアも開けっ放しで、とても良家の娘とは思えない態度だ。

「仕方が無いな。
ナナリー少し待っていてくれ。
俺も様子を見てくる」

「はい。
お兄様。いってらっしゃいませ」

ナナリーに断りを入れ、廊下に出た俺を待ち受けていたのは、生徒の厚い壁であった。
中心地が空白となっている模様なのだが、此処からでは生徒達の壁で伺う事ができない。

「な、何だこれは…?」

「あっ。
副会長!」

思わず呟いてしまった俺の呟きに、壁になっていた一人の男子生徒が反応して、こちらを向いてきた。
丁度いい。
彼にこの事態を聞くとしよう。

「何なんだ?この生徒の壁は?
中心部に何かあるのか?」


「はい!あのナイトオブラウンズが来ているんですよ!」

「ラウンズ!?
アクア・アッシュフォードか!?」

「はい!
あのブリタニアの三連星の中星ですよ!」

俺の言葉に、男子生徒は大きく頷きながら肯定の意を伝える。
アクアのラウンズとしての叙勲式は、三人の十代の少年少女がラウンズとなる為に、大々的に民衆に報じられた。
それ故に、軍と何の関係も無いアッシュフォード学園の生徒達がアクアに気付いたのであろう。

「しかしそれならば、何故アクア・アッシュフォードの傍に誰も近づかないんだ?」

「それが…その何とも無表情というか…。
アクア・アッシュフォードの傍に近づきがたい雰囲気があるのですよ
それで皆一定の距離を取って、見るしかないと言うか」

その言葉を聞いたとき、俺は自然と笑みを浮かべていた自分に気付いた。

…変わっていないな。
昔から奴はそうだった。
無表情で、何を考えているかはわからない様で、いつも自分の大切な人の事を考えていてくれた。
だからこそ、奴はナイトオブラウンズになり、自らの愛する家族の危機を救おうとしたのであろう。

「アクア!」

その声で俺は自分の思考を止める事になる。

その声は俺のよく知る人物であり、アクアの姉の声であった。
壁の中心地から聞こえてきた声に、俺は生徒の壁を掻き分けるように進む。


そして生徒の壁を掻き分け、中心地に辿り着いた俺が見たものは、涙を流しながらお互いを抱きしめあう二人の姉弟であった。

二人の姉弟の再会を祝福したものであった。
それはとても神聖なもの。

周囲の生徒たちに目を配ると、涙を流している皆一様にまぶしいものを見るような視線を二人に送っている。
中には涙を流している生徒までいる。

立ち去ろう。
アクアやミレイが俺に気付けば、二人は必ず俺に話しかけるであろう。

この二人の再会に水をさしてしまう。
それはどんな事に変えても許され無いことだ。

どうせ直ぐにアクアと会う事になる。
今は…心の中で二人だけの再会を祝福するだけにしておこう。

俺は人垣から抜け出し歩き出す。

俺の愛する人が待っている場所へと。



[3303] お家再興記 7話
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2008/07/10 17:57
「アクア…もっとよく顔を見せて…」

ミレイ姉さんは僕の顔を両手で包むと、自らの顔と近づけるように僕の顔を寄せる。
まるでキスをするような瞬間。
実の姉に萌えたくないけど萌えてしまう僕という存在が憎い。

あれからまだ姉さんと抱き合ってます。
ちなみに僕の股間の本能寺は当の昔に炎上しております。
ああ認めよう。
僕は畜生にも劣る存在だと。
涙が止まらない。
止まってくれない。
お願いだから止まってくれ。涙。

よかった…。
前が隠れやすいマントを着ていて本当によかった…。
今この時だけ、こんなコスプレ全開の軍服とマントがラウンズの軍服で本当によかったと思う。
これで、普通の服で学園に来ていたら、僕は変態のレッテルを貼られていたことであろう。


「アクア…この馬鹿!」

「ぷげらっ!?」

バチンと辺りに響き渡る良い音。
両手で僕の顔を挟みこんで、暫し僕の顔を見つめていた姉さんは、いきなり僕にビンタをかましてきた。
手首のスナップが効いたとてもいいビンタです。

と、父さんにも殴られた事無いのに!…士官学校の教官にはめっちゃ殴られたけど。
ところで何で僕ビンタされてるの?
久しぶりに再会した姉にいきなりビンタされる憶えは無いんですけど!

「アクア…いきなりごめん」

僕の非難の視線を受け、姉さんは落ち着くように一つ大きく深呼吸をしてから、言葉を発してきた。

「でもねぇ!
あんた人に何も言わずに、何勝手に軍に入ってるのよ!」

…は??
いや、僕はクソ爺に、拉致よろしくで軍に入らされたんですけど?

姉さんが激昂しながら発した言葉はかなり意味不明だ。
本気で困惑する僕に気付かず、姉さんは僕の胸元に自分の顔を押し付けて更に言葉を発してきた。
そ、それ以上は近づかないでください!色々とやばいです!
マジでやばいんだってばYO!

「お爺様から聞いたわ。
あんたが私達アッシュフォードの為に…自ら軍に入ったって」

え゛!?

姉さんが発した言葉は僕を真に驚愕させる事を成功する。

「確かにあんたのおかげで、アッシュフォード家は立て直すことが出来たわ。
でもね!私はアクアの人生を無茶苦茶にしてまで、家を守ろう何て思ってなかったわよ!
私はあんたの姉なのよ!?お姉ちゃんにちゃんと相談してから行動に起こしなさいよ!この馬鹿!
…でもありがとうね。アクア」

姉さんは言いたい事を言い切ったのか、僕の胸に顔を埋めたまま、瞼を閉じてきた。

何そのサクセスストーリは??
僕が家を守る為に自ら軍に入るなんてありえねェェ!
絶対ありえねェェェ!天地が引っ繰り返ってもありえねェェェェェ!

クソ爺ィィ!
手前貴様がやった事を、ごまかす為にこんな戯言を姉さんに吹き込みやがったな!
周りを見て見たら、今の話を聞いていたのか涙ぐんでいる奴まで居るよ!
言えねェェ!言える訳が無い!

実は爺に拉致されて無理やり軍に入隊されました。

なんて、こんな空気で言えるかボケェェェ!
誰か責任者連れて来い!

おのれ…爺!おのれェェ爺!

僕は生まれて初めて、本気で人を殺したいと思ってきたぜ。
今すぐ僕のこの熱い拳を爺にぶち込みたくて仕方が無い!

「姉さん…。
お爺様は今学園にいるの?」

僕の言葉に、僕の胸に顔を埋めていた姉さんは、顔を上げてくる。
涙で潤んだその表情に一瞬爺に対する怒りを忘れてしまう。
やはり萌えは偉大だ。
この煮え滾る怒りすらも抑える事が出来るなんて。

「お爺様?
お爺様ならアクアが、学園に来るって連絡があった後、急に用事が出来たってブリタニア本国へ帰国したわよ」

爺ィィィィ!
逃げやがった!?逃げやがったよ!あの爺!
姉さんに萌えて、忘れかけた爺への怒りが再び噴火してきやがった!

「そういえばアクアに伝言を頼まれてたわ」

「伝言?」

姉さんが手を叩きながら発した言葉に、首を傾げる。
爺が僕に伝言…嫌な予感がする。

「ええ。
『めんごめんご』って伝えてくれって。
何かしらねぇ?めんごって。
玩具のめんこ?」

爺ィィィィィィィィィィ!

伝わってねえよ!
姉さんに伝言の内容が伝わってねえよ!僕には伝わったけどよォォォ!
しかも何だその謝り方は!?
何がめんごめんごだ、このボケェェェ!
何かその後にwマークとか(笑)が付いても可笑しくない軽さじゃねえか!

くアァァ!
もはや怒りを通り越して憎しみになってきたァァァ!
もう僕の怒りのセルフメーターが振り切れんばかりに上昇してるぜ!?
もう留まる事をしらねェェェ!今の僕ならダース・ブイダーにだってなれる勢いだ!暗黒面だ!ブォースが暗黒面でいっぱいだ!


「そうだ!すっかり忘れていた。
アクア!あんたに紹介したい人達が居るのよ!」

「僕に紹介したい人?」

訝しげに尋ねる僕に、姉は一つ頷きながら言葉を紡いできた。

「ええ。
とっても吃驚するわよぉ!
さ、ついてらっしゃい!」

それだけ言うと、僕の手を掴み、ドンドンと歩いて行く姉さん。
そして何故か付いてくる野次馬な生徒達。

あの…こんだけ衆目監視の中、この歳で姉に手を繋がれながら歩くって、かなり恥ずいんですけど…。
しかし唯我独尊で思い立ったら即実行の姉さんに、何を言っても無駄であろう。
しばし僕は露出プレイに耐えるような心境で姉さんに、手を引っ張られるのであった。

「さあ、此処よ!」

連れてこられた場所は理事長室。
クソ爺はいまブリタニア本国にいると言っていたから、この部屋の主である爺ではないだろう。
理事長室に気軽にこれる者で、僕に紹介したい人?
アッシュフォード家に関係のある者か?

「って、何であんたらこんなに着いて来てるのよ。
さあさあ、散った散ったァ!」

姉さんは暫し野次馬とかしていた、生徒達を猫を追い払うかのごとく、散らしていく。
生徒達はすこしゴネていたが、素直に帰っていった。

「じゃあ入るわよアクア!」

姉さんが先に理事長室に入り、僕を促す。

僕が中に入ると、其処には二人の男女が僕を待っていた。


その光景が信じられず、思わず目を瞬いてしまう。


それは死んだはずの二人。


僕の記憶よりも成長した二人の姿。


二人の事が信じられず、思わず姉さんの顔を見つめてしまう。
姉さんは一つ頷き、僕の背を押し、僕は更に二人へと近づく事になる。



近づき、二人の姿を改めて見る。
それは紛れも無い彼らの姿。
昔姉さんと彼らと僕で戯れたあの時から成長した姿であった。


僕は確信しながらも、何処か信じられないように二人の名前を呼ぶ。




「ナナリー!
義兄さん!」




「誰が義兄だァァ!
誰がァお前の義兄だァァァァ!!!」





うん。
この反応は間違いなくルルーシュだ。















「それじゃあ二人は、あれからずっとアッシュフォードの元で」

「ええ。
二人を公式では死亡扱いとして、アッシュフォードが保護したの」

「そういうわけだ。
久しぶりだな。アクア」

「…お久しぶりです。
アクアさん」

「ああ二人とも、本当に久しぶり」

あれから僕達は理事長室のソファーに腰掛け、話し合っている。
僕の隣には姉さんが座り、向かい側のソファーにはルルーシュが座り、その隣には車椅子に腰掛けたナナリーがいる。

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとナナリー・ヴィ・ブリタニア。

神聖ブリタニア帝国の皇子と皇女であり、僕と姉さんのそれぞれの婚約者であった人物たちである。
二人の母親、マリアンヌ皇妃の暗殺で、皇位継承権を剥奪され、僕達の婚約は解消されたが、まだ僕が幼い頃、よく遊んだ幼馴染というやつだ。


「世間では死亡した身となると、名前を変えているんだろ?
何て名前にしたんだ?」

「ああ。
今はランペルージの姓で、ルルーシュ・ランペルージ。
ナナリーはナナリー・ランペルージだ」

え゛?

何で苗字だけなんだよ。
二人の昔の姿を知っている奴が見たら、お前たち兄妹だって即に解るのに、何で名前変えてないんだよ。
こいつはかなりやばいんじゃ…。


「二人を保護した時には、既にアクアは士官学校に通ってたからね。
流石に軍の中にいるアクアには知らせられなかったのよ。
軍にはこの二人の事内緒にしてね」


いや、姉さん。
そんな気軽に言われても…。
一応僕これでも皇帝直属の騎士なんすけど。


しかしルルーシュとナナリーに視線を向けると、僕を信じているような表情をしている。
流石に、元婚約者と友人にこのような顔をされたならば、その信頼に応えなければいけないか。
皇帝になんか突っ込まれたら、怖いなぁ。
あのおっさん恐ろしく感が冴えているというか鋭いというか。皇帝に隠している事が、ばれたらマジでやばいなこりゃ。


「二人の身元を知っているのはアッシュフォードの家の者だけ?」

僕の質問に、ルルーシュは一瞬考え込むような様子を見せたが、答えを返してきた。

「いや…。
他に一人知っている者が居る」

「居るのかい!?誰なんだい?」

「枢木スザク。
名誉ブリタニア人の…俺とナナリーの友人だ」

「枢木スザク!?」

「ああ。
知っているのか?スザクを?」

「い、いや。
名誉ブリタニア人という事に驚いただけさ」

その思いがけない名前に、思わず驚いてしまった。
そんな僕を不振そうにルルーシュが見つめてきたが、誤魔化す事にした。

しかしこんな所で、この名前が出るとは。

ユーフェミア殿下にサポートをしてやってくれと頼まれた枢木スザクが、まさかルルーシュとナナリーの知り合いとは…。
これって結構やばいんじゃね?
何かこの二人が軍にバレルのが、秒読みな気がする。


にしても枢木スザクルルーシュの友人とは。
この頭でっかちで、僕以外友人が居なかったルルーシュを友人とするなんて、そうとう人がいい奴なんだろうな。


まあ、僕もルルーシュとジノ以外友人なんて出来た事無いけどね!しかもジノはホモだし!
HAHAHAHAHA!
……死にたくなってきた。


それから僕達はお互いの現状を話し合い、それもひと段落すると、他愛無い話をする事になった。
七年ぶりに出会った僕達の溝を塞ぐ様に。

「ナナリー?
どうしたんだい。
さっきから黙っていて…体調が悪いのかい?」

「何!?
大丈夫か!?
ナナリー!?」


僕と挨拶をしたっきり、ナナリーが黙り込んで、元気が無いように見えたのが気になり僕がナナリーに尋ねると、ルルーシュは慌てたように、立ち上がりナナリーの傍へ寄り、その手を握った。
うーむ。
七年前よりもシスコンっぷりに磨きが掛かってるぜ。


「いえ…すみません。
お兄様、アクアさん。
私は大丈夫です。唯…」


ナナリーは呟くと、自らの見えない瞳で、自分の体を眺めた。

「このような姿でアクアさんに再び出会ったのが苦しくて…」

「ナナリー…」


どこか自嘲するかのような、ナナリーの呟きに、ルルーシュは辛そうに顔を顰めながら、ナナリーの手を強く握る。


ナナリーは僕達アッシュフォードの一族や、ルルーシュとナナリーの運命を大きく変えた、マリアンヌ皇妃殺害の日に大きな傷を負った。
視覚と足を怪我したナナリーはすぐさま集中治療室へと駆け込まれたのだ。
僕は集中治療室で治療を受けるナナリーは見たのだが、ナナリーの意識が戻ってからは、ナナリーが僕に会うのを嫌がり、会った事は無かった。

僕から見れば、ナナリーのこのような姿は既に見ているのだが、ナナリーからすれば、自分の傷ついた体を初めて僕に見せた事になるのであろう。

「ナナリー。
確かにナナリーはあの頃とは変わってしまったよ」

「アクア!」

「アクア!
何を言う…!」

僕の言葉にナナリーは更に顔を俯き、姉さんは慌てたように、僕の名前を呼び、ルルーシュは激昂するように、立ち上がってきた。
しかし僕はそれらを無視して立ち上がりナナリーの傍へと歩み寄り、ナナリーの傍で腰を下ろす。

「でもねナナリー。
この世には変わらない人間なんて居ないんだ。
僕はどうだい?
僕はあれから軍人となり、今では皇帝直属の騎士様でアッシュフォード卿なんて呼ばれているんだよ?
あの頃の僕からこんな姿、想像出来たかい?」

「いえ…」

僕の問いかけに、ナナリーは首を振りながら否定する。
ルルーシュと姉さんは先ほどは開いた口を閉ざし、僕達二人を見守っている。


「ルルーシュだって、姉さんだってそうだ。
今もどんどん変わっていく。
変わらない人間は存在しない。
例え大きく変わったとしても、それは新たな自分になったに過ぎないんだよ。
僕や姉さんやルルーシュが変わったように、ナナリーも唯少し変わっただけなんだから」

「はい…ありがとうございます。
アクアさん」



僕の言葉にようやく微笑んでくれた。
その微笑みは昔アリエスの離宮で見た、純真爛漫だったナナリーの微笑みとは違う微笑み。
でもそれはとても魅力的な微笑だった。
……なんか萌えました。ズキュンときました。
その萌えっぷりによせばいいのに、ついホイホイと僕の口が開いてしまった。


「でも変わったといっても、ナナリーには変わっていない所があるね」

「え?何ですか?」


素直に聞き返してくる、ナナリーの手をそっと握り、普段無表情な僕であるが、顔の筋肉をフル作動させ、ジノの王子さまスマイルを真似る。
歯をキラリンって感じで。


「ナナリーが…とても可愛いい女の子って事さ」


くさ!僕くさ過ぎ!マジでくっさー!
普段の僕なら絶対に言わない台詞をナナリーの萌えっぷりに釣られて、ホイホイと口走ってしまったよ!
ちょっと自重してくれ!僕!
恥ずかしさのあまりにサブいぼが出てしまうかもしれない!


「え…あ…その、ありがとうございます。
…アクアさん」


僕の言葉に、ナナリーは可愛らしく頬を染め、戸惑いながらも微笑みお礼を言ってくる。
なんつーか破壊力抜群の萌えです。
この笑顔でどんぶり3杯行ける勢いですな。


「でも、その…アクアさんも変わっていない所がありますね」

「え?何がだい?」


「…いつも暖かくて、どんな時も私を励ましてくれる。
…とても優しい所がです」



ぐっはーーー!
もう、吐血するぐらいに萌えました。
何だ!?この萌え萌えワールドは!?
ぼ、僕は今新たな萌えの境地って奴を垣間見た気がするよ…。
ここまで僕のハートを揺さぶるとは…ナナリーなんて恐ろしい子!
もはやナナリーが萌えの女神に見えてきた。
やはり萌えは世界を救う。
僕は確信したよ。
何時の日か、人は争いの愚かさを悟り、萌えの下に一つになるであろう。
それぐらいに萌えは偉大だ。



だが僕もまだまだ甘いな。
時と場所を間違えた。
僕の背後には嫉妬の鬼と化した、恐ろしいプレッシャーを放つルルーシュさんが待ちわびているのだから。


認めたくないものだな…若さゆえの過ちとは。
そして頼むから、落ち着いて下さいお義兄さま。
先ずは落ち着いて話し合いましょう。話し合えば分かり合えるはずです。多分。


「ぷ…くくく、あっはははは!」

僕がルルーシュのプレッシャーに脅えて、後ろを振り向けないでいると、不意に姉さんが大きく笑い始めた。
なんだろう?
そんなに僕がルルーシュに嫉妬されるのが面白いのだろうか?
こいつの嫉妬は執念深いから、大変なのに!笑ってないで、助けてくださいよ!
大切な弟の命がもしかしたら消されるかもしれませんよ!姉さん!
マジでヘルプミィィィ!


その場に居る全ての人間の怪訝そうな視線を受けながら、暫く姉さんは笑い続けていたが、流石に僕達の視線に気付いたようだ。
目じりに浮かんだ涙を手で拭いながら、言葉を発してきた。


「あはは!ねえ、昔を思い出さない?
昔、マリアンヌ様からアクアがKMのパイロットとして素質があるって聞いた時、ナナリーと私でアクアを自分の騎士にするって、取り合ったでしょ?
それでアクアに嫉妬してルルーシュが、アクアにドロップキックかましちゃったやつ!
あのルルーシュがよ!」



「あ、あれは!嫉妬したんじゃない!
ただ、俺をほったらかしにしていた事に怒っただけで…
というか会長!そんな古い事を今更穿り返さないで下さいよ!」


姉さんの言葉に、ルルーシュが顔を赤くしながら、慌てたように反論している。
その反応に、姉さんはまた笑い、それに釣られてか、ナナリーも笑い始めた。
益々顔を赤くするルルーシュ。
熱が篭もってそうな顔色だ。






それは僕達がまだ幼く、ルルーシュとナナリーがアリエスの離宮に住んでいた頃の話。

マリアンヌ様から、僕のKMFのパイロットとしての素質を聞いたナナリーが、自分の婚約者である僕を、将来自分の騎士にすると言い出したのだ。
そしてそれに対抗して、何故か姉さんも自分の騎士にすると言い張ったのだ。

自分の夫となる僕を騎士にすると言い出したナナリー。

自分の弟を騎士にすると言い出した姉さん。そもそも姉さんは皇族ですら無いのに。

二人はお互いに譲る気配が無く、ひたすら、不毛な戦争を続けた。
この戦争の主な被害者は僕だ。
というか、僕しか被害者がいなかった。
理不尽すぎる。

この二人の不毛な戦いは、意外な形で終わりを告げる。

四人で居ながらも、放置プレイをかまされていた、ルルーシュが何と、僕に向ってドロップキックをかましてきたのだ!
そしてそのドロップキックを食らい、倒れる僕。
何故僕が…。
本当に我ながら被害者過ぎる。

それからはグダグダになり、気付いたら、皆で揉みくちゃになりながら、皆で笑い合っていた、という何とも子供らしいエピソードだ。



しかしルルーシュは今でも、あの時の自分らしからぬ行動を恥じているようだ。


今も顔を真っ赤にしながら、反論して姉さんとナナリーを楽しませている。
そしてそれは僕もだ。


暫し、ルルーシュは顔を真っ赤にしながら反論ていたが、自分が道化のような立場に気付いたようだ。
不貞腐れたように、顔を逸らしながら、自分の席に着く。

不貞腐れたルルーシュを姉さんとナナリーが宥め、僕達は再びお互いの話を語り合った。

僕も姉さんもナナリーもルルーシュも。

何時までも楽しそうに。

今、この空間は七年前。
失ったと思っていたあの懐かしくも、幸せだった時と同じ瞬間であった。


おお、何かいい終わり方。



[3303] お家再興記 8話
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2008/07/28 07:22
姉さんや、ルルーシュにナナリー達と再会してから三日の日時が経った。


僕は今、軍が用意した自分の部屋に居る。
今僕が着ている服は、普段着ているラウンズの軍服でもなければ、私服でもない。
私立アッシュフォード学園の制服だ。


そう。
今日から僕はアッシュフォード学園の生徒となり、学園へと通う事になるのだ。


つまり僕は今日から性春の…もとい、青春の学園生活を送る事になるのだ!
うっひょー!嬉しさのあまりに、トリプルアクセルをかましちゃいそうな勢いだ!今の僕なら四回転だって夢じゃない!


今思えば、僕の今までの学校生活は地獄のようなものであった…。
女ッ気が微塵たりとも感じさせない男だらけの集団生活であり、しかも其処は魑魅怨霊の如く、ホモたちが満開している世界!
そして、僕はホモたちに狙われる哀れな子羊!何度尻を狙われた事か…思い出したくも無い。
僕の学校生活は常に貞操を奪われないために奔放したといっても過言ではない。
なんちゅー青春時代じゃ。
マジで泣ける。


しかし神は、こんな哀れな僕を見捨ててはいなかった…。


なんと軍人になってから、学園に通うチャンスがきたのだ!
しかも唯の学園ではない。
なんと男女共学!男女共学だ!男女共学なんだよォォォ!


来る日も来るも、戦場でデスコメしていた僕に神様は、学園という楽園で、甘酸っぱい青春を送りなさい。という神の享受じゃ!
やるぜェ!僕はやってやるぜェェェ!
彼女居ない暦 = 生まれた年月という悪の方程式をぶった切ってやる!
絶対に彼女を作ってやる!
こう、なんか彼女と運命の出会いを果たし、知り合いになる僕達。
初めてのデートを体験し、初々しい関係から徐々に親しくなる僕達。
そして遊園地のデートで、夕日に包まれる遊園地を観覧車から見下ろしながら、意を決し告白する僕。
僕の告白に、頬を染めながら頷きを持ってして返答する彼女。恋人同士になる僕達。
そして愛し合って毎日裸エプロンだ!


ぐふ。ぐふふ…。
おっと、いかんいかん。
つい妄想が先走ってしまった。反省。
よーし!この妄想を現実のものにする為に、アッシュフォード学園に登校だ!


いざ行かん!我らが理想郷へ!
アクア・アッシュフォード!推して参る!



改めて気合を込めた僕は、足音高らかに部屋から飛び出し、学園へと行くのであった。
僕の未来への道筋へと。
















「アクア・アッシュフォードです。
宜しくお願いします」


学園へと一直線に向った僕は、僕の担任となる教師に案内され、自分が過ごす事になるクラスへと連れて行かれた。
そして転校生恒例の自己紹介をしている所です。
僕の視界の先には、数多くのクラスメイト達。
その中には、ルルーシュや、ユーフェミア殿下にサポートを頼まれた、枢木スザクの姿がある。
あの後に、ユーフェミア殿下から、枢木スザクの資料や写真を見せてもらっていたのだ。
美形でちょっと…いや、かなりむかついたのは僕だけの秘密だ。



「えー。
アッシュフォード卿は、軍務も兼ねている為に毎日学校に来れるという訳では無いが、卿は普通の学生として過ごしたいとおっしゃられている。
皆、仲良く頼むぞ」


僕の自己紹介に、クラスメイト達はざわめきを持ってして僕を迎えてくれた。
にしてもざわめき過ぎじゃない?
担任の話が生徒のざわめきで聞こえていないくらいだ。


は!?もしや三日前に、僕がコスプレ全開の格好で学校へ来たのが知れ渡っているのか!?
んで、その本人のコスプレ野郎がクラスメイトとしてやって来たって驚いているのか!?
NO!とってもNO!な展開じゃこりゃ!
いきなり先行き不安な展開じゃねえか!こりゃ!
枢木スザクのサポートをするどころか、僕にサポートが欲しい状況じゃ!


そして何故か知らないが、何故か一人、痛いくらいに視線を向けてくる女生徒がいるし。
赤毛でとっても萌え萌えな少女なのだか、怖いくらいに真剣に僕を見つめ続けている。
その視線にタジタジだ。
僕何かしただろうか?謎だ…。


「では…アッシュフォード卿。
そこの空いている席にお座りください」


とても生徒にかける言葉ではない、担任の言葉に一つ頷いて、示された席に歩む。
席に着く間、クラスの全ての視線が僕に突き刺さっているのを感じる。なんちゅーか…そんなに見つめないで欲しい。


そんなこんなで、朝のHRが終わり、そのまま授業へと突入するのであった。



そして授業が終わり、休み時間となっても僕はクラスメイト達と交流が出来ないで居た。
席に座る僕を皆、遠目から腫れ物を見るような視線で僕の事を見つめてくるのだ!
普通転校生が来たら、休み時間は、転校生の机をクラスメイトが囲んで話しかけるのではないのか!?
なんちゅーかもう心細いっす!学校生活ってこんなに孤独だったのか!
あまりの心細さに泣いてしまいそうだ。


神様!お願いします!誰か僕に愛の手を差し伸べてください!
できれば女子で!
そして出来るならば、その女子が萌えっ子であってくれェェェ!


「アクア」


神は僕の願いを半分だけ叶えてくれた。
僕に差し伸べられた、愛の手の持ち主は、萌えっ子ではなく、義兄さん…もとい、ルルーシュであった。
当然萌えっ子ではない。男だ。
ルルーシュの事を、萌えっ子と認識できた時、僕は死ぬ時であろう。


う、嬉しいけど…何か嬉しくねぇ…何だ?この複雑な心境は…。



「アクア。
中々大変な学園生活になりそうだな」


僕が複雑な心境を抱えている事を露知らず、ルルーシュは僕に話しかけてきた。


「ああ。
なんだか皆僕に遠慮している見たいなんだが…何でかな?」


「それは仕方が無いだろう。
何しろお前は有名人なのだからな」


有名人!?
やっぱり以前にコスプレで学校に来たことが世間に知れ渡っていたのか!
ギャーーース!
僕の性春の学園生活にいきなりの障害が発生したよ!
何とかしなければ、未だ見ない僕の彼女とのストロベリーな甘ーい性活が始まる前に、終わってしまう!何とかしなければァァァ!


「それよりも、アクア
お前は生徒会に入るんだろ?」


苦悩する僕をまたしても露知らずルルーシュは尋ねてきた。


「ああ。
今日から生徒会に入る事になったよ」


この私立アッシュフォード学園の生徒は何かしらの部活に入らなければいけない。
生徒会も部活動と認められている為、生徒会に入ると、部活に入らなくてもいいのだ。
それに生徒会には姉さんやルルーシュにナナリー。
そしてサポート対象でもある枢木スザクもいるのだ。
これは入るしかないであろう。




決して姉さんの

『可愛い子いっぱい居るわよぉ~』

という言葉にホイホイ釣られた訳ではない。

うん。決して釣られたわけではないはずだ。
…多分。





「そうか。
このクラスには生徒会の役員が多いからな。
放課後に会うことになると思うが、先に紹介しておくよ」



ルルーシュは遠巻きに見ていたクラスメイト達の中から、一部の生徒達を手招きして呼んだ。


そして僕の前に並ぶ事になる五人の男女達。


「ほら、シャーリー」


「う、うん、ルル。
は、初めまして!アッシュフォード…ううん、アクア君!
私はシャーリー・フェネット。
宜しくね!」


ルルーシュの言葉に、一人の少女が最初は少し戸惑いながらも、後で吹っ切れたように挨拶をしてきた。


「こちらこそ宜しく。
シャーリーさん」


腰まである長い髪に、可愛らしい顔立ち。明るく元気いっぱいといった感じで、十分萌えのクラスに達している少女だ。


うんうん。いいねぇ。
とってもいいねぇ。
姉さん!GJ!とってもGJ!
姉さんが可愛い子いっぱい居るって言ってたから、期待半分、恐れ半分で待ってたけど、十分に期待に応えてくれる少女だよ!


「アクア君ったら、やだ。
クラスメイトなんだから、シャーリーでいいわよ」


「それじゃ、僕もアクアでいいよ。
シャーリー」


「うん!
じゃあ改めて宜しくね!アクア」


「宜しく。
シャーリー」


何?このストロベリーな会話は?
くっはー!
今まで、ゴッツイ軍人と、ただすっぱい会話ばかりしていた僕が、女学生とこんな甘酸っぱい会話をする時が来るとわ!
すっぱいと甘酸っぱい!ただ甘が付いただけなのに、なんちゅー破壊力じゃァ!
もう萌え死してもいいぜ!
素晴らしい!アッシュフォード学園万歳!でも作った爺は死ね!


「それじゃあ次は…」


「はいはいはい!
俺が行くぜ、ルルーシュ」


ルルーシュの言葉を遮るように、一人の男子生徒が片腕を威勢良く上げながら、声を発してきた。

「よ!
俺の名前はリヴァル。
リヴァル・カレデモンドだ。
宜しくな!アクア」


「ああ。
宜しく頼むよ。
リヴァル」


リヴァルは人懐っこい笑顔を浮かべながら、僕に気さくに挨拶をしてきた。


何故か知らないが、僕の第六感が告げていた。
この男は女性からは、いい友達で終わる人物だと。


僕の第六感のお告げによりリヴァルに対する僕の好感度は一気に上昇気流だ。
お互いに強く生きようじゃないか…リヴァル。
僕は恋人を作るけどね。ああ。絶対作ってやるよ。男じゃなくて女の恋人をね。


「ところでアクア君。
ちょいと聞きたいことがあるんだけど…いいかな?」


「え…うん。
いいよ」


僕に尋ねたい事があると言った、リヴァルは真面目な顔で、僕の肩を両手でガシッと掴んできた。


な、何だろうか…?


困惑する僕をそのままに、リヴァルは僕の顔に自らの顔を近づけてくる。
僕の心が激しくエマージェンシーを発する。
久しぶりのエマージェンシーを感じてしまった。


え゛?


こ、これはもしや!?
不意打ちで貞操の危機!?


ぎゃーーす!
まさかこんな所にホモが居るとわ!


ルルーシュ!ヘルプミー!


お前の尻合いだろ!?
助けてくれェェェー!


不意打ちに訪れた尻薔薇空間に、士官学校時代に培った、対ホモ撃退術を繰り広げる事すら忘れた僕に、リヴァルは真剣な顔つきで僕の顔に自らの顔を近づけていった。
僕のくちびるが汚される時が遂に来たということか。
泣きたい。
泣きたい所か死にたい。
死にたい所か殺したい。リヴァルを。


ごめん…アーニャタン。
君に捧げる予定だった、僕の唇は今、一匹の淫獣に蹂躙される事になる…。
ごめんよ…ナナリー。
尻は…尻だけは死守するから。
でも君はこんな僕を君は受け入れてくれるだろうか…。


心の中で僕と縁が深い、二人のロリ萌えっ子に謝罪をする中、リヴァルはその口を開いてきた。


「アクア…お前、ミレイ会長の弟って本当か?」


「は?」


なんですと?


僕の気の抜けた返答にリヴァルは苛立ったようにもう一度同じ質問をしてきた。


「だから!三年の生徒会長!
ミレイ・アッシュフォードの弟かって訊いてんだよ!」


予想していた強制ボーイズラブからは、かけ離れた展開に面食らい、言葉を出せずに居ると、リヴァルは興奮してきたかのように、僕の肩を掴みながら、前後に揺らしてきた。物凄い勢いだ。
擬音で表すならズッコンバッコン!…じゃなくてガックン!ガックン!って感じだ。


ちょ!?前後に揺らしすぎ!
こんなピストン運動止めてください!
あと、男とピストン運動なんて、考えただけで吐き気がこみ上げてきた!
いや、これは単純に酔ってきているのか?
どうでもいいけど、ピストン止めて!


「あ、ああ。
ミレイは僕の姉だけど…」


前後に激しくシェイクされながらも、何とか答える。
しかし僕がミレイ姉さんの弟だから何だと言うのだろうか?
そして本当にお願いだからピストン運動止めてください。
男とピストン運動なんて、考えただけで死にたくなります。


「本当か!?本当に姉弟なのか!?
義理の姉弟とか、実は婚約者とかってオチとかじゃ無いのか!?」


僕の言葉に、更に勢いを増して行くピストン運動。
リヴァルの勢いは止まる事を知らずに、その勢いを増していく。
だれかこの暴走機関車ブーマスを止めてくれ。
お願いしますから。



「あ、ああ…多分」


「多分ってなんじゃァァァー!
実の姉弟じゃ無いってことかァァァ!?」


戸惑いながら言った僕の言葉に、リヴァルは遂には、僕の襟元を掴みながら、前後にピストンシェイクしてきた。首元が地味に絞まっている。
そのあまりの勢いに、もう走馬灯が見えてくるレベルだ。
リヴァルさん。もう勘弁してください。
僕のライフは0です。
何だか知らないけど、そのお怒りをお静めになってください。
アクアと言う、オタクの星が消えてしまいます。


「いや、実の姉です!
確実に血が繋がった姉弟です!
同じ母親の股座から生まれてきましたァァ!」


だから何だかよくわからないけど、もう勘弁してください。
何だか、脳裏に綺麗な河が浮かんできた。
もしかして三途の川ってやつっすか。
そして河の向うには、何故かルーベンの爺さんが手を振っていた。
すっげぇ笑顔で手を振っていた。改めて殺意が沸いた。
キラッ☆って感じで笑ってた。しかもポーズもキラッ☆だった。物凄く殺意が沸いて来た。
おいおい。僕の脳しっかりしてくれ。
まだ爺さんは死んでねえよ。僕が殺す予定だけど。


「そ、そうか…。
それならいいんだ…」


脳内で改めて爺さんに対する殺意を再確認した所で、リヴァルは僕の言葉にようやく納得してくれたのか、一つ安堵の溜息を吐くと、僕の襟元から手を離してきた。
ようやく、男からの地獄のピストン運動から解放される僕。


しかし、何だったのだろうか?
僕とミレイ姉さんが実の姉弟で無いと、何か困るのであろうか?


僕の探る視線に、リヴァルは一つ咳払いをしてから、この言葉を言ってきた。


「まあ、今後とも宜しくな!
あ、俺の事はお義兄さんって、呼んでくれても良いからな!」



……………何だか、ルルーシュが僕に義兄さんと、呼ばれるのを嫌がる理由が解った気がした。
ごめんよ、ルルーシュ。
今度から心の中でだけ、義兄さんと呼んで上げるから。




「あー……えっと。
じゃ、じゃあ、次はスザクだな!」


「あ、う、うん!」


リヴァルの謎の奇行により、微妙な空気となった事を察知した、ルルーシュが、間を取り繕うように、僕のサポート対象である、枢木スザクに自己紹介を促す。
その言葉に、スザクはどもりながら返事をして、こちらに敬礼してきた。


「自分は特別派遣嚮導技術部所属、枢木スザク准尉であります!
お会いできて光栄です!アッシュフォード卿!」


凄く堅苦しい挨拶であった。
とても同級生にいう言葉じゃねえよ。こりゃ。


「……枢木准尉」


「はっ!何でありましょうか?
アッシュフォード卿」


僕の呼びかけに、やはりスザクは堅苦しく応えて来る。


「僕は今唯の学生として、この場に居るんだ。
だから君も軍の事は忘れて、唯の一学生として僕に接してくれ。
僕の事は気軽にアクアでいいよ。
僕も君の事をスザクと呼びたいしね」


そうして貰わないと僕が物凄く困る。


だってそうだろう?
事情を知らない一般生徒から見てみれば、勝手に自分を階級持ちと、カッコつけている、痛いミリタリーごっこだ。
そんなミリタリーごっこに付き合わされたんじゃ、女子生徒が寄ってこねえよ!
唯でさえ、コスプレ全開の姿で学校に来たことが知れ渡っていると言うのに、これ以上僕のストロベリーな学園性活を脅かす要因はごめんだ!


だからスザク君。
お願いですから、僕と接する時に、そんな態度は止めてください。
僕以外の人間には別にいいけど。


「…わかりました。
宜しくお願いします。
アクア」


名前は呼び捨てになったけど、まだ幾分硬い口調で、スザクは僕の提案に同意してくれた。
どうやら、生真面目な性格のようだ。


だが、サポートする身としては、サポート対象が生真面目で困る事はあるまい。
うむ。スザク君。あんまり問題起こさないでね。
特にホモ関係の問題は。
もし君がジノと同じく、そっち方面の人間なら、僕は全力で君の傍から離れなければいけないのだよ。
これ、悲しいけど戦争なのよ。
貞操を賭けた。


「よし。
それじゃあ次はニーナ」


「う、うん。
久しぶりだね。アクア君。
私の事…憶えてる?」


「勿論だよ。
久しぶりだね。ニーナ」


「う、うん。
久しぶり…アクア君」


黒髪の癖毛に、眼鏡を掛けた少女が僕にオドオドと言葉を掛けて来る。
スザクの次に僕に挨拶をしてきたのは、僕のもう一人の幼馴染であるニーナ・アインシュタインだ。


「なんだなんだ?
アクアとニーナは知り合いなのか?」


「僕と姉さんとニーナは親付き合いの幼馴染だからね。
昔からの知り合いというやつさ」


リヴァルの疑問に僕は簡潔に答える。


ニーナ・アインシュタイン。

アインシュタイン家は僕達アッシュフォード家と深い繋がりを持っている。
マリアンヌ皇妃がまだ、存命していた時、僕達アッシュフォード家は第三世代KMF―――ガニメデの開発を行っていた。
そこで、開発スタッフの中心となった人物がニーナの祖父であったのだ。
お互いの祖父の繋がりで僕達は幼い頃に何度か遊んだ事があった。


でも昔と受ける感じが少し変わっている。
まあ、あれから7年以上も時間が経ってるし、ニーナも変わるもんだよな。


しかしニーナは僕の知り合いの中では貴重な眼鏡っ子だ。
眼鏡っ子萌えを十二分に堪能しようではないか。
眼鏡っ子!萌え!


「最後は、カレンだな」


「あ…うん。
私はカレン。
カレン・シュッタットフェルト…です。
宜しくお願いね」


ルルーシュの促しに、赤毛の少女が僕に挨拶をしてきた。


儚げな雰囲気をもった少女だ。
勿論萌えた。


うーん。いいねぇ。
とってもいいねぇ。凄くいいねぇ。
シャーリーは元気いっぱいな健康美と言った感じだが、この少女はその逆の儚げな雰囲気を醸し出す、深窓のご令嬢といった感じですよ!
どっちも甲乙付けがたい萌え少女ですよ!
ぐっはー!こいつは生徒会活動が楽しみだ!
もう、ぐふふ笑いが止まりませんよ!旦那!


「初めまして。
アクア・アッシュフォードです。
こちらこそ宜しく」


心の萌えを押さえ、表面上紳士に接する僕は中々に素敵だ。
ジェントルアクアと呼んでくれても構わない、ジェントルメンぶりだ。
もう、僕と言う存在が紳士だね。


でも何故か紳士な僕の言葉を聞いたカレンは、一瞬悲しそうな顔を見せた気がした。


な、何だ!?この萌えっ子の反応は!
僕何かやっちゃった!?ただ挨拶しただけだよね!?
最近の若い子達は異性に挨拶しただけで、セクハラとかになるのか!?
は!?そういえば、僕がクラスに入ったとき、この子すっげぇ僕の事ガン見してたよ!
な、何かあるのか!?僕と彼女には!?何かあるんすか!?ゴッド!?


「うん…。
宜しくね、アクア君」


葛藤する僕を他所に、カレンは直ぐに表情を儚げな令嬢の顔に戻り、儚げに僕に微笑んでくれた。
僕の気のせいだったのだろうか。
うーん。でもとりあえず萌えるわ。
難しい事は忘れて、今はこの特A級の萌え少女に萌えておこう。
その方が幸せだ。



と言うわけで、改めまして。


カレン萌え!儚げ萌え!
そしてシャーリー萌え!健康美萌え!
んでもってニーナも萌え!眼鏡っ子萌え!
さらにはナナリー萌え!幼女萌え!
最後に姉さん萌え!実姉萌え!…って駄目じゃァァ!姉さんに萌えちゃ駄目じゃァァ!


おいィィィ!つい乗りで生徒会役員全員に萌えてしまったが、何実の姉に萌えてんじゃァァ!
アクアよ!三日前の悲劇を忘れたのか!?あの全僕が泣いた、黒歴史を忘れたと言うのかァァ!?アクアよォォォ!
姉に反応して、フルチャージをかました愚息に死にたくなった僕を忘れたと言うのかァァァ!?


忘れる事無かれ!アクアよ!

あの時、僕の体に押し付けられた、けしからんおっぱいの感触。

あれは麻薬と一緒だ。

あれはいけない物だ。

あんないけない物が、もにょんと僕の体に押し付けられたのだ。

こう、もにょんと!もにょにょんと!

もにょもにょもにょんと!

……………もう、萌えるしかありませんな…て、はァ!?



何僕は姉さんに萌えるのを、納得してるんだよ!?
納得しちゃ駄目だろ!納得しちゃったらもう畜生道一直線だよ!
萌えるなァ!姉さんに萌えちゃだめなんだよォ!
でも客観的に考えると、萌えたい気持ちが十二分に理解出来ちゃうんだよぉ!
何だ!?この矛盾は!?
二つの相反した思いが僕を悩ませる!
自らの弟をこんなにも悩ませるなんて、我が姉ながら、何と貴女は罪深い女なのだ。ミレイ姉さん。



「これで、このクラスにいる生徒会のメンバーは全員だ。
あとは他の生徒会のメンバーは、会長とナナリーの二人で、計八人だな。
何かと騒がしい奴らだが、宜しく頼むぞ。アクア」


インモラルに苦悩する僕を他所に、ルルーシュは締めの言葉を紡いでいた。


そしてここで、休み時間を終えるチャイムが鳴り響く。


そんなこんなで、生徒会の役員との初対面はインモラルに幕を閉じた。














「で、もう皆はアクアと、顔合わせは済ませてあるのよね?」


「ええ、会長。
何てったって、同じクラスなんですから」


時間は過ぎ、場所は変わり、ここは生徒会室である。
あれから何だかんだで、時間が過ぎて現在は生徒達が大喜びとなる放課後。


僕はルルーシュ達の案内で、今後僕が活動する事になる、生徒会室に来ているのだ。
やっぱり案内があるといいね。初めて来た時みたいに迷わないで済むから。


今この生徒会室に居る人物は、僕の姉であるミレイに、ルルーシュやナナリー。
そしてシャーリーにカレン、ニーナとスザクにリヴァル。
つまりは生徒会全員が勢ぞろいと言う事だ。


「はーい。
皆、注もーく!
この生徒会に新しい役員が加わる事になりました!
私の弟のアクア・アッシュフォードよ!皆仲良くしてやってね!」


姉さんが僕の肩を抱きながら、僕の紹介をしてくる。
あの…姉さん。
紹介をしてくれるのはとても嬉しいのですが…おぱーいがむにゅっと当たってます。
また、インモラルで悩んでしまいます。
そしてリヴァルさん。
これは姉弟の純粋なスキンシップです。多分。
そこに邪な思いはありません。きっと。
だからそんな嫉妬に満ちた視線で僕を貫かないで下さい。


「アクアは、スザク君と同じで、軍関係の仕事があるから、生徒会には頻繁には来れないかも知れないから、宜しくね」


その言葉に僕はスザクの方に視線を向ける。


この生徒会に来る前に、既にスザクと二人っきりで話しはしてある。
念のために言っておくが、二人っきりと言っても、そこに恋愛感情は勿論無い。
あったら、僕はこのアッシュフォード学園から立ち去らなければならない。


スザクと話した結果、スザクがKMFのデヴァイザーをしていると言う事を隠し、技術班所属と話している事が解った。
ブリタニア軍の人間としても、その方が都合がいい。
ナンバーズが最新機のKMFに乗っていると言い触らされるのは、軍としては容認できる事ではない。
スザクが生徒会の人間に技術班と言っているのは、ルルーシュ達を心配させない為で在るとはいえ、軍側としては、都合がいいのであった。


というか、僕が技術班に行きてェ。
命の危険が高い、ナイトメアのデヴァイザーなんてもうやりたく無いっす。
軍が辞められないなら、せめて、まだ安全な後方勤務に異動したい。
異動したいんだけどなぁ。あの皇帝が聞いてくれるはずが無い。
もう、何で僕はナイトオブラウンズなんかに成ってしまったのであろうか?
運命が憎い。


その後、生徒会の役員としての確認事項を話し合い、それからは談笑といった感じで、話をしていった。


しかし姉さんの話を聞いてると、かなり姉さんははっちゃけちゃってるみたいだ。
理事長の孫であり、生徒会長という立場をフル活用して、様々なお祭り騒ぎを起こしているらしい。


流石は、親戚一同に、確実にルーベンの爺の血を引いていると、親戚一同に容認された性格は伊達じゃないぜ。



「ほーんと。
アクアも、もうちょっと早く、学園に転入していたら、男女逆転祭りが楽しめたのに」


姉さんが心底残念そうに呟く。


男女逆転祭り。


その名の通り、男が女となり、女が男となるという奇妙な祭りだ。
主催者は言わずとも姉さんである。
というか、姉さん、アンタはっちゃけ過ぎです。マジで。


よかった…。
本当に、男女逆転祭りが行われた後に、編入してきて本当によかった…。


男が女の格好をする。女装をする。
考えただけで吐き気が込み上げてくるわ!なんだかしらんけど、ボケ!


ましてや、自分が女装するなんて、考えただけで、気持ち悪い。
皆は誤解しているかもしれないけど、僕はナイーブな性格なんだよ?打たれ弱いんだよ?
そんな僕が女装するなんてしたら、衝動で自殺するかもしれないよ。
切れやすい衝動の十台なんだよ?僕は。
ラウンズが自殺という、前代未聞の事件を起こすのかもしれないのだよ。


でも、逆の女子が男子の格好をした姿は見てみたかった。


可憐な萌えっ子が、その身を男装の姿へと身を変じる。
これは、新たな萌えの挑戦ではないだろうか?
しかもこの生徒会役員の女子達は、素晴らしい萌えの要素を持っている。
そう、無限の萌えの可能性を。


そんなインフィニティなMOEを持つ少女たちが、醸し出す、妖しくも優雅な男装。
気分は宝塚歌劇団を見に来た観客だ。
僕としては帝国歌劇団の方が見て見たい気がするけど。


うーむ…。

そう考えて見ると、僕はもしかしたらとてつもなく、貴重な体験を見逃したのかもしれない…。
新世代の萌えの探求者を自称する僕がこの有様でいいのだろうか?
悩む年頃だ。
うむー。


いや、好奇心猫を殺すという言葉を忘れるな!アクアよ!
確かに、女子の男装と言う新たな萌えを垣間見えなかったのは、萌えの歴史に残る失態だ。
しかし、萌えを追求したばかりに、男の女装と言う、生涯のトラウマを背負う事になる。


忘れるな。アクアよ。
イカロスは太陽に近づき過ぎた為に、神の怒りを買い、空から堕ちたと言う事を。


シャーリーが出してくれた、紅茶を啜りながら、僕は結論付ける。


流石は僕だ。
萌えに対する、飽くなき探究心。
そして時には、その探究心を抑える自重心。
我ながら、惚れ惚れする萌えに対する、心構えだ。


自画自賛を終えた僕は、紅茶―――アールグレイを口に含んでいく。


うーん、マンダム。
これぞ、正しく優雅な午後のティータイム。
優雅を愛し、ジェントルメンな僕に相応しい午後の時間だ。


「そうだ!
アクアだけ、逆転祭りを堪能してないのは可哀想よね!
今度、ナイトオブセブン歓迎会を開いて、アクアにはそこで女装してもらいましょう!」


「ぶぽぉ!?」

「うぉぉ!?
汚ったねぇ!アクア!」


姉さんの爆弾発言に、僕は華麗にアールグレイを噴き出した。
優雅な午後のティータイムが唐突に終わりを告げてしまった。


は、鼻から、アールグレイが!?


地味に痛む、鼻を押さえながら、咳き込む。
僕の対面の席に座っていたリヴァルが悲鳴を上げていた。
めんごめんご。


「げほっげほ!す、すまない、リヴァル。
いや、それよりも姉さん!何言ってるだ!?」


僕の泣きが入った質問に、姉さんは良くぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、胸を張る。
そしてそれに呼応して、揺れるおぱーい。
み、見ちゃ駄目だ!
でも見てしまう。
理性と本能が一致しない年頃。
自殺したくなってきた。


「アクアだけ体験してないってのは、不公平だからねぇ。
我ら生徒会は仲間はずれは許しません!
我ら生まれた時は違えども、死すべき時は同じと願わん!って奴よ」


本当に自信満々に言ってきやがった。
いや、姉さん!言葉は素晴らしいんですけど、それに付き合わされる僕の身になってください!
この場合、仲間はずれ大いに結構です!仲間はずれにしてやってください!


百歩譲って、まだ男女逆転祭りなら、我慢できる!
まだ、女装と言う生涯の十字架を背負っても尚、得られるものがあるのだから、まだいい!


しかし僕一人が、女装ってドンだけ酷な罰ゲームなんだよォォォ!
何も得られるものが無いよ!つーか!女装したという生涯の重い十字架を背負う道しか、ないじゃ無いか!
勘弁してくれェェ!姉さん!
でもこのゴーイングマイウェイな、姉さんが僕の話を聞いてくれると思わない!


誰か…誰か味方を探すんだ!僕の援護をしてくれる味方を!


僕は必死の思いで生徒会の皆を見渡す。


ルルーシュ、ナナリー、ニーナ、カレン、スザク、シャーリー、リヴァル。


この中で、姉さんを説得してくれそうなのは…。


よし!君に決めた!
頼む!ルルーシュゥゥゥゥ!この状況を打開してくれェェェェ!


僕は生徒会役員の中で、一番僕に同情するような顔をしていた、ルルーシュに懇願の視線を激しく飛ばす。
もう、バチバチ!って火花が飛ぶくらいに熱い視線を飛ばす。


僕が、この中でルルーシュを選んだのは、僕に同情をしていた事もあるが、なによりもルルーシュの口先の上手さだ。
こいつは昔っから口先は凄かった。得意の口八丁で、姉さんを説得してくれるはずだ。
それにルルーシュは何だかんだで、姉さんとの付き合いは、僕の次に長い。
元婚約者でも在るし、姉さんの扱いも大分慣れているはずだろう。
ナナリー関係では唯の暴走するシスコンだが、こういった時は口下手な僕よりも、遥かに頼りになるはずだ!


だからルルーシュ!ヘルプミー!マジでヘルプミー!
お義兄さま!未来の義弟の危機を救ってくれェェェい!


僕の哀願の視線は確かにルルーシュに通じた。
ルルーシュは任せろと言わんばかりの、自信に満ちた表情で、僕の方に視線を向けながら一つ頷いてきた。
なんと頼もしい。今ならルルーシュに抱かれてもいい気がしてきた。


ル、ルルーシュ…!
流石は、未来の兄弟コンビ!
僕達には通じ合うものが在るんだね!
もし僕が女の子だったら、結婚を申し込んでいるかもしれないよ!
いや、やっぱりやだ!
冷静に考えたら、気持ち悪くて仕方が無い!
とにかくルルーシュ乙!


「会長。
その件で少し話があるのですが」


「なあに?
ルルーシュ」


我らが希望の星、ルルーシュ義兄さまは毅然とした態度で、ミレイ姉さんに向き合い、話しを始める。
カッコよすぎる。今のルルーシュになら、抱かれてもいいと思ってきた。


行け!僕らのヒーロー!ルルーシュ!
悪の手先の姉さんを撃破するのだ!




「会長、アクアもこんなに嫌がっているんですし、この件は」


「アクアさんが女の子に成っちゃうんですかぁ。
楽しそうですね!お兄様!」


「やるしかありませんね。会長!」






ルルーシュは希望の星等ではなかった。
死兆星だった。しかも特大過ぎる死兆星であった。
ルルーシュなんかスザクに犯られちまえばいいのに。



ルルーシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
このシスコンがあァァァァァァァァァ!!!


何がてめぇ!やるしかありませんね!だよ!
唯単に、ナナリーの言葉に、賛同しただけだろうが!このシスコン野朗がァァァァァ!
どんだけお前はシスコンッぷりに磨きが掛かってんだよォォ!
シスコンにも程がありすぎる!ちょっとお前は、妹離れしなさいよ!
畜生ォォォォォ!なんだかとっても畜生ォォォォォォ!
絶望した!このシス馬鹿には心底絶望した!
絶望先生並に絶望したちゃったよ!
ルルーシュの馬鹿!とっても馬鹿!
ルルーシュなんてリヴァルやスザクに犯られちゃえばいいんだ!
腐女子が大喜び間違いなしだ!でも僕はそんな光景見ても、全然喜べないけどなァ!



「よーし!
副会長の承認も取れた事だし!
ナイトオブセブン歓迎会は、女装大会で決っ定!」


絶望する僕を更に絶望の淵へと叩き込む姉さんの言葉。


それに無邪気に拍手をして喜ぶナナリー。
そんなナナリーを見てこれまた嬉しそうなルルーシュ。
殺意が沸いて来る。
他の役員も勢いに流されて戸惑い気味に拍手している。
誰も反対してくれない。
僕の人生オワタ。


神は今死んだ。
そして僕も歓迎会の日に死ぬ。
女装姿で死ぬ。
末代までの恥だ。
普通に今死にたくなってきた。
もうキルミー。




「あと、あんたら三人も女装するのよ」



ここでルルーシュに対する、反逆の狼煙となる言葉が姉さんの口から飛び出てきた。
その言葉に驚愕するルルーシュとリヴァル。
特にルルーシュは声も出ないほど驚いている。


ルルーシュざまあWWW


「うぇ!?
何で!?会長!」

「はぁ。
僕は別にいいですよ」

驚愕するリヴァルの声に、気の抜けた声で同意するスザクの声。
スザク。別にいいんだ。
その言葉に吃驚だよ。
実は女装が趣味とか、そういうやばい趣味を持っているのか?


リヴァルの言葉に、当然といった顔つきで、姉さんは答えてきた。


「だって女装大会だもん」






かくしてナイトオブセブン歓迎会は、女装大会という事に決まった。

参加が確定している四人の内、二人はめっちゃくちゃめっちゃくちゃ嫌がっているような歓迎会。
しかも当事者たる僕が嫌がっていると言う、めちゃくちゃな歓迎会となるのであった。



夕日が涙にしみるぜ。
あれ?何だろう?
夕日がしみてしみて涙が止まらない。
止まってくれない。
お願いだから止まってくれ涙。

お願いだから…。



[3303] お家再興記 9話
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2011/07/12 23:36
ナイトオブセブン歓迎会。
つまりは僕の歓迎会は、歓迎される立場である、僕に深いトラウマを残して終わる事となった。
本当に歓迎されているのか悩んでしまった。
にしても、まさか最後に姉さんからあんな事をされてしまうとは…。

いや!忘れるんだ!アクア!
これ以上トラウマを生み出す原因となる記憶を抹消するんだ!
畜生道なんかには行きたくないんだ!僕は!
それにこんな心境で戦場に出ては死んでしまう。
心を入れ替えろ!アクア!

悩みを振り払うように、僕は歩き出す。
周囲には出撃の準備を急ぐ兵士達。
辺りは活気に満ちている。
慣れている活気だが、僕としてはあまり嬉しくない活気だ。


ここは、ナリタ連山の近くの臨時基地。
もう直ぐ、僕達ブリタニア軍が敵陣を急襲するために、現在最終準備中なのである。
そして敵は日本最大の反政府勢力。日本解放戦線が本拠地を置く場所である。
つまりは、日本最大のテロ組織の本拠地である。
物凄く行きたくない場所だ。


何故僕が、そんな行きたくない場所に居るかと言うと、エリア11の総督である、コーネリア殿下直々に、テロ組織の壊滅に乗り出しているのだ。
コーネリア殿下は他国からはブリタニアの魔女とまで恐れられる、傑物。
エリア11の総督として着任した、コーネリア殿下は次々とテロ組織を潰して回ったのだ。

そして今回のコーネリア殿下の獲物が、日本最大のテロ組織、日本解放戦線と言う訳だ。

僕としてはそんな討伐などに参加せず、家に引き篭もっていたい所存であるが、流石に殿下直々に参加を要請された時には、参加するしかないのである。

しかしコーネリア殿下は、日本解放戦線を確実に潰すために、過剰とも言える戦力を連れて来ている。
僕が今まで体験した戦場に比べれば、今回の戦場は大分楽になりそうだ。

何てったって、今まで僕が派遣された場所は、最前線ばっかの戦場で、しかも殆どジノやアーニャと三人突っ込んでカミカゼアタックの毎日だったんだから!
どんだけ特攻隊の気分を味わったことか。
愛国心が皆無の僕には厳しい毎日だよ。

やべえ。
改めて考えて見たら涙が出そうになってきた。


いつもなら僕は、ジノやアーニャとカミカゼアタック。
もしくは単機の超カミカゼアタックによる、特攻部隊の役割を負っているのだが、今回の僕の役割は少し違う。

コーネリア殿下から、僕に部隊を率いて欲しいと頼まれたのだ。
つまりは指揮官としても戦場に出ろと言う事だ。

この命令には困ってしまった。
何てったって、僕はナイトオブラウンズなんて偉そうな肩書きが付いてはいるが、つまりは唯のナイトメアのパイロットに過ぎない。
今までの戦場では殆ど、カミカゼアタックばっかりだったので、指揮を執るなんて今までした事が無かったのである。

予備戦力の中から、僕の好きな部隊を率いても良いと言われたが、どうすればいいのだろうか?
悩む…本当にどうすればいいんだ?
できれば女の子がいる部隊がいい。
それが萌え系の女の子なら言うこと無しだ。
何処かの部隊にいないだろうか。

「アクア!いや、アッシュフォード卿!」

「ん?」

悩みながら歩いていた僕を呼び止める声。
その声に振り返ると、其処には二人の軍人が居た。
二人とも僕と同世代の男性である。

一人は、短い金髪の髪を逆立て、活発そうな顔つきをしている。
体格の方も、その顔つきに見合った体つきというか、ガッシリとしている。
この男がガチホモなら間違いなく攻めだろう。

一方、もう一人の男は、黒い髪を肩まで伸ばした、男にしては長髪を持つ男であり、どこか理知的な顔つきをした男だ。
少し細めの体をしているが、其処に貧弱さは見当たらない。
この男もガチホモなら間違いなく受けだろう。


はてな?…どこかで見たことがあるような…?

僕の訝しげな視線に気付いたのか、金髪の軍人が敬礼しながら言葉を発してきた。

「お久しぶりであります。
アッシュフォード卿!
仕官学校時代同期であった、スヌア・ボラギノールであります!」

「同じく、イオーヤ・オロナインであります」

「スヌアにイオーヤ!?」

二人の特徴的過ぎる名前は僕を驚愕させる事を成功する。
僕の驚愕の言葉に二人は頷いてきた。


スヌア・ボラギノールとイオーヤ・オロナイン。

二人とも僕が卒業した第八ブリタニア士官学校の卒業生であり、僕の同期でもある。

ジノのヴァインベルグ家程ではないが、二人は名家と呼ぶには十分に相応しい、ボラギノール伯爵とオロナイン辺境迫の子息であり、二人は幼馴染だそうだ。

幼馴染の阿吽の呼吸のフォーメーションに、血気盛んなスヌアに冷静沈着なイオーヤのコンビは、仕官学校時代から名コンビと、学生達の中でその名が轟いていた。
別の意味でも轟いていたけど。

ちなみに名前に関しては突っ込んではいけない。
これは仕官学校時代からの暗黙のルールだ。
皆の突っ込みたい気持ちは分かる。
物凄く分かる。
十二分にも分かる。
でも堪えて欲しい。
僕も堪えるから。


「スヌアにイオーヤが、コーネリア殿下の部隊に居るとは…驚いたよ」

「はっ!自分もアッシュフォード卿が、このエリア11に来られると、聞かされたときにはたいそう驚きました!
アッシュフォード卿と共に戦場を翔れる事を光栄に思います!」

「スヌア…そんな堅苦しくしないでくれ。
昔のように、アクアでいいよ。
というか、さっき僕を呼び止めるとき、アクアって呼んだろ?」

僕の言葉に、ニヤリといたずら小僧のような、笑みを浮かべながらスヌアは言葉を発してきた。

「あ?やっぱりバレタ?
いやー、俺はアクアで良いと思ったんだけど。
イオーヤの奴が、礼儀をちゃんとしろってうるさくってな」

「当たり前だ。
アッシュフォード卿は、ナイトオブラウンズなのだぞ?
仕官学校時代とは違うのだ」

この二人は相変わらずのようだ。
仕官学校時代と何ら変わらない、二人のやり取りに、思わず笑みが浮かぶ。

「イオーヤ。
君も僕の事はアクアでいいよ。
久しぶりだね。二人とも」

「それならば遠慮なく…。
ああ、久しぶりだな。アクア」


思わぬ旧知との再会に、会話に花が咲く。
僕とスヌアとイオーヤは少しの間話し合うのであった。


「二人は今コーネリア殿下の軍の中で、何処にいるんだい?」

「ああ、俺達は今アレックス将軍の直属部隊に配属されているよ」

僕の言葉に、スヌアは、何処か誇らしげに答える。

その返答に驚いた。
まだ僕達が軍人になってからまだそんなに時間は経っていない。
そのスヌア達が既に、将軍の直属部隊に選ばれているというのは、大した出世速度だ。

「将軍直属か!
出世したじゃないか。二人とも」

「お前やジノ程ではないがな」

苦笑いを持って、僕の言葉に答えるイオーヤ。
そりゃそうだ。
僕とジノは信じられないスピード出世で、ナイトオブラウンズになっちゃたのだから。
なっちゃいたくなど無かったが。

その後から他愛無い話をしていた僕達であったが、話は中断される事になる。
近くから言い争うなような声と共に、喧騒が聞こえてきたのだ。
喧嘩か?

「なんだなんだ?喧嘩か?
イオーヤ、アクア、近くに行ってみようぜ」

僕と同じ感想を言った、スヌアは興味深そうに、喧騒の方へと視線を向けながら、一つの提案を出してくる。
その発現に、イオーヤが眉を顰めながら、己の相棒を戒める。

「スヌア。
野次馬根性が過ぎるぞ」

「いいじゃねえか、イオーヤ。
アクアだって、近くで見て見たいだろ?」

スヌアの問いに、僕は頷きを持って、返答をする。
野次馬根性ぶりでは僕は、スヌアにだって負けてはいない。
自分には被害が来ずに、他人のいざこざ見て楽しむ。
野次馬最高だ。
そしてこの考えに至る僕も最高だ。

「民主国家的に見に行く事に決定!
んじゃ行こうぜ!イオーヤ、アクア」

いや、民主国家はE.U.なんすけど。
僕達ブリタニアは民主国家じゃないっすよ。
この事が愛国心溢れる軍人さんの耳に入ったらやばいっすよ。
まあ、いっか。
周りには聞き耳を立てている人間もいないし、僕は愛国心ゼロの男だ。
イオーヤにしては、相棒を自ら売るような真似はしないであろう。

溜息を吐きながらも、イオーヤは渋々と言った感じで了承し、スヌアの後を付いて来る。
僕もその後を遅れじと付いて行くのであった。





「もう一度言って見ろ!キューエル!」

「ああ!何回でも言ってやるよ!
俺達純血派が予備戦力に回されたのは、お前がいるせいだ!ジェレミア!」

「キューエル!貴様ァ!」

「お前が言えと言ったんだろうが!
このオレンジが!」

「オレンジって言うなァァァ!」


僕達三人が喧騒の中心地に赴くと、野次馬の軍人の人垣の中で、二人の軍人が今にも掴みかからんと、言わんばかりの様子で向き合っていた。
二人ともかなりエキサイトしているみたいで、回りの野次馬から注目されている事にも気付かないほどに、興奮しているようだ。

「あれは…純血派のジェレミアとキューエルじゃねえか」

僕の隣にいたスヌアがポツリと呟く。
その呟きに、イオーヤが頷いていた。

「ああ、そのようだな。
純血派同士のイザコザか」

純血派。

僕は詳しいわけではないが、聞いたことはある。
確か、ブリタニア軍はブリタニア人で構成されるべきという考えを持った者が構成している派閥だ。
様は、ナンバーズの不要を声高に宣言している様なものだ。
ブリタニア皇族の畏敬の念が人一倍強いとも聞いている。

今揉めている二人はどうやらその純血派のようだ。
つまりは内輪揉めか。

周囲の注目の的である、純血派の二人は、周囲の視線など物ともせず、未だに言い争っている。
そのうち拳がでそうな勢いだ。
というか今出た。
金髪の方が、「このオレンジがァァァ!」って言いながら、緑髪の方を思いっきり殴った。
緑髪涙ぐんでる。
かなり痛そうだ。
そして周りの軍人は二人を止めるどころか、たきつける様に、野次を飛ばす。
皆見事なまでの野次馬根性だ。
そして勿論僕も野次馬を続行中だ。


二人の言い争う声を聞いて解ったのだがどうやら、彼らは自分たちが予備戦力に回されたことが原因で、言い争っているようだ。
予備戦力は基本的には、何かあるまで後方で待機し、特別な事態の時のみ行動をする部隊だ。
僕にとっては非常に羨ましい部隊だ。
僕が予備戦力に回りたいくらいだ。
回してくれないかなぁ…。

ん?今思えば、彼ら予備戦力なら僕が率いる部隊にできるんじゃない?
そうすれば、彼らは予備戦力から、僕が率いる部隊として前線に出れるはずだ。
僕としては決して前線なんかに出たくは無いんだけど。

少しの間、僕はこの提案の採決を思考の海の中で考える。

その間、揉め事を起こしている緑髪の軍人は、金髪の軍人からヤクザキックを食らっていた。
鼻血が出ている。
物凄く痛そうだ。

うん。決めた!

自らの志向の海で決めた採決の結果は…。

NOだ!彼らには申し訳ないかもしれないが、NO!
これで決まりだ!

こんな内輪もめするような部隊を指揮するなんて、冷静に考えればとんでもない!
しかも僕は指揮官初体験なのだよ?
そんな僕がこんな部隊を率いるなんて絶対無理だ。
僕は己の分を知っているつもりだ。
確かに、僕は他の人よりもナイトメアの操縦は、上手いと自分でも思っている。
でも、他の部分では至って普通だと自分で解っている。
そんな僕が、指揮官初体験で、こんな内輪揉めしている部隊を率いるなんて自殺行為の様な物だ。
しかもナンバーズは不要と公言しているような、人種差別上等の部隊とはあまり近づきたくないというのが、僕の本音でもある。
彼らの中に萌えっ子が居るというなら考えてもいいが、男が多い軍で其れを望むのは酷と言うものであろう。
というわけで、彼らは予備戦力のままで居てもらおう。
うん。決定。

でも僕が率いる部隊…マジでどの部隊にしよう…。

緑髪の軍人が、金髪の軍人から四の地固めを極められて「ギブ!ギブ!ギブ!」と叫んでいる中、僕はまたもや一人、自分の思考の海の中に潜る。
緑髪の「ギブ!ギブ!ギブ!」が僕の思考力を刺激したのかは解らないが、名案を思いついた。

そうだよ。
よく考えて見れば、スヌアとイオーヤに、予備戦力の中で、どの部隊が優秀か聞けばいいじゃん。
スヌアとイオーヤは、最近コーネリア軍に合流した僕と違って、大分前からコーネリア軍に参加しているのだ。
僕よりもコーネリア軍の内情には詳しいであろう。
その二人に僕が率いる部隊として、もっとも相応しい部隊を教えてもらうのだ。

うーん。
僕が考えたにしては、良い判断だ。
さっそく二人に聞くとしよう!

隣で騒乱を眺めている二人に相談しようと、僕が口を開こうとした時、其れは来た。

「ジェレミア卿!キューエル卿!
このような所でお止めください!」

二人の争い。
というよりも金髪による、緑髪への一方的な攻撃行為を、止めようとしたのは女性であった。

しかし、唯の女性と侮る事無かれ。

その女性は、綺麗な銀髪のロングの髪に、褐色の肌を持ち、何処かエキゾティックな魅力を持ち、出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいるグンバツのスタイル。
そして何よりも少女にはとても出せない、妖しい大人の魅力を持った女性であった。

つまりは萌えを持った女性だ。
しかも特一級の萌えを持った女性だ。

勿論僕は萌えました。
ああ、当然萌えましたよ。
萌えるしかないっしょ。こりゃ。

え!?何!?あれ純血派!?
本当に純血派!?
マジで純血派なの!?

ぐっはー!
あの女性が純血派なら僕は全力で、今回の作戦純血派を僕の指揮下に置くよ!
んでもって、彼女も個人的に指揮下に置きてェェwww

は!?
落ち着け!アクア!落ち着くんだ!アクアァァァ!
まだ彼女が純血派と決まった訳では無いではないか!
偶々あの二人の軍人の知り合いと言うだけで、喧嘩の仲裁に入っているだけなのかもしれない!

今はあの三人の会話に聞き耳を立てるんだ!
アクア!一句一音!どんな言葉も聞き逃す事無かれ!
全ての感覚を聴覚へと委ねるのだ!

僕は瞼を閉じて自然体を取る。

視覚が消えた気がする。
触覚が消えた気がする。
嗅覚が消えた気がする。
味覚が消えた気がする。

だがそれでいい。
五感の内、四感が消えた代わりに、残った一感―――聴覚が冴え渡るのを感じる。


達人でもなんでもない僕が、このような芸当が出来るとは…やはり萌えは偉大だ。
萌えに不可能は無い。
僕は今改めてその言葉の意味を思い知らされた気がする。

全神経を耳へと集中させ、騒ぎの中心となっている三人の会話を全力で盗み聞く。

そして拾った。
この黄金の言葉を。


「お二人ともお止めください!
我ら純血派の中核であるお二人が、このような事をしていては、我らは更に結束を失います!
ですからお止めなさい!」

『我ら純血派』


『我ら純血派我ら純血派我ら純血派』

リピートして見ても同じ意味。

つまりは彼女は純血派という事だ。

つまりは彼女はあの騒ぎを起こしている輩達とは同じ部隊。


…………純血派サイコー。
マジでサイコー。物凄くサイコー。
うん。よくよく考えて見れば、確かにブリタニア帝国の剣であり、盾である我ら軍人は愛国心溢れる、ブリタニア人で在るべきだよね。
そう!僕は彼らの愛国心溢れる、その心意気に感動したのだ!
彼らこそ僕の指揮下に入る、部隊として相応しい!

勘違いしないでくれよ?
これは彼らの高潔な意思と僕の思いが重なった結果だ。
決してあの美女とにゃんにゃんしたいが為に、するのではない。
勘違いしないでくれよ?
大事な事なので二回言いました。

素晴らしき結論を導き出した僕は、野次馬をしている人を掻き分け、中心地へと向う。
人々は、僕がラウンズだと気付いているので、何も言わずに道を空けてくれた。
自分でも忘れそうだけど、僕はこれでも軍の中ではかなり偉いんだよ。

「君達、もうやめたまえ」

「こ、これはアッシュフォード卿!
このようなお見苦しい醜態をお見せして申し訳ありません!」

当事者達の目の前に辿り着いた僕は、純血派の三人に向って声をかける。
三人は最初ポカンと言った感じで僕を眺めていたが、僕がラウンズだと気付いたのであろう。
慌てて、敬礼をしながら口を開いてきた。
その前に、緑髪君。
鼻血拭こうよ。
物凄い勢いで出てるよ。

「いや、別にいいさ。
それよりも君たちは自分たちが予備戦力に回された事が納得できないようだね」

「いえ!決してそのような訳では!」

緑髪の軍人を痛み付けていた金髪の方が、僕の言葉を否定する。
軍の上層部が決めた部隊配置に不満を持っていることを、上層部の一人である僕に知られては不味いと思ったのであろう。

「まあいいさ。
それよりも君たちの部隊の代表はこの中に居るのかな?」

「はっ!私でございます!」

僕の言葉に緑髪君が声を上げる。
君だったんだ。
純血派で君が一番偉いのに、金髪からフルボッコされてたのかい。
てっきり金髪の方が代表かと思ったよ。
そして鼻血拭こうよ。
もう、君の軍服半分くらい赤く染まってるよ?

「私は今回の作戦において、予備戦力の中から一部隊を率いろと、コーネリア殿下から言われている。
そしてその部隊の選択権は私に委ねられている。
君たちさえ良ければ私は君たちの部隊を選ぼうと思うのだが、どうだろう?」

「ほ、本当でありますか!?」

緑髪の信じられないと云った感じの言葉に頷く。


「そ、その様な事が!?」

「何を考えているんだ!?」

「よりにもよってあの純血派を…!?」

僕の言葉は、当事者の三人のみならず、野次馬と化していた、周りの人間も驚愕させる事を成功した。
辺りはざわめきに満ちている。
それにしてもそんなに驚く事であろうか?唯予備戦力の彼らを僕の指揮下の部隊にしようとしているだけなのに。
純血派って何か大きな失態でもしたのか?

「お待ちください!アッシュフォード卿!」

その声に後ろに振り向く。
何時の間にか僕の直ぐ後ろに来ていたスヌアとイオーヤが居た。
イオーヤが一歩前に進み、僕に言葉を発してきた。

「アッシュフォード卿。
どうか冷静にお考え下さい。
この純血派は栄光あるナイトオブセブンである、卿が率いる部隊としては相応しくないかと、小官は思います。
ましてこのジェレミアはあのオレンジです。
どうか、お考え直しを…」

は?オレンジ?
オレンジってあの果物のオレンジ?
何でここでオレンジが??
そういえば、金髪もオレンジって言ってたな。

緑髪―――ジェレミアを見ると、オレンジと言われ、悔しそうに顔を顰めていた。

オレンジ。
オレンジとは果物の名前だ。
世界的なポピュラーな果物で、お子様や大人の皆様にも大人気な果物である。
何故そのオレンジが彼と関係があるのだ…?

僕は一人考えた。

そして僕は悟った。

オレンジとは…………彼の実家の事だ!
彼の実家はオレンジ農家なのであろう。
そしてブリタニア軍はその事を馬鹿にしているのだ。
オレンジ農家の息子の癖に軍に入ってんじゃねえよ!手前オレンジくせえんだよwバーローwww
見たいな感じで!

そしてその苛めにより屈折した彼は、ブリタニア人以外要らないという、純血派の道へと進んでしまったのだ!
なんて悲しいサクセスストーリー。
無理やり軍へと入隊された、僕の身の上話と並ぶくらい辛いサクセスストーリーだ。

しかし、いかんな。
実にいかん事実だ。
オレンジは、世界的にも有名であり、一部の地域では太陽の果実とすら謳われている果物なのだぞ!
オレンジを馬鹿にしてはいけない。
あれ?太陽の果実ってマンゴーだっけ?
…まあ、どっちでもいいか。

とにかくこんな世界のオレンジ農業の方々に喧嘩を売っているという、ブリタニア軍の内情はやばいな。
一応僕も、軍の上層部の一人だ。
ここは、いっちょ示しをやってみますか!


「皆よ!聞いてくれ!
私達ブリタニア軍人にとって必要な事は、生まれや出自、ましては過去の経歴でもない!
そんな事よりも大切な事は、ブリタニア帝国への愛国心と皇族に対する忠義!
そしてなによりも、今自分が何ができるかという事だ!
この者も過去に過ちがあったのであろう!だが彼のブリタニア帝国や皇族に対する心は、真摯な物だと私は思う!
そして自分が出来る事をしようという心も感じる!
故に私は、彼の部隊を私の指揮下に置くのだ!
皆もこの事を決して忘れないで欲しい!大切なものを決して見失わないで欲しい!」


調子に乗って演説めいた事を言ってしまった。
今日の僕は役者だ。
やっぱり大根だけど。

ブリタニアに対する愛国心も皇族に対する忠義の欠片も無い、僕がこのような事を言うのも可笑しいのかもしれないが、所詮この世は嘘だらけだ。
だから僕もちょっとだけ嘘を付いても、神様には怒られないであろう。
それにいつも、神様僕を見放すし、これでお返しだ。

僕の演説めいた言葉を聞いた皆は一様に黙ってしまった。
何?この静寂。
沈黙が痛い。

……あれ!?もしかして僕外しちゃった!?
自分でも言ってて、くっせェェェ!っては思ったけど、そんなに外しちゃったすか!
ちょっと誰か反応してくださいよ!
そりゃくさすぎっすよ!とかでも良いから何か反応してください!
本当にお願いしますから!


「ア、アッシュフォード卿…」

僕の願いが通じたのかわからないが、目の前のジェレミアが俯いた顔のまま声を出してきた。

よし!この沈黙には耐えられないから、何でも良いから反応してくれ!

「何だい?」

僕の促しの言葉に、ジェレミアは俯いた顔を上げて…って何か泣いてるし!
号泣って言って良い位のレベルで泣いてるし!
どうしちゃったの君!?

「あ、ありがとうございます!アッシュフォード卿!
このジェレミア・ゴッドバルド!アッシュフォード卿のご期待に全力でお応えします!」

「あ、ああ。
宜しく…」

涙を滂沱の如く流しながら、ジェレミアは僕に宣言していた。
鼻血と涙による鼻水によって、すごいコラボになっている。
そのあまりの姿と勢いに僕は引き気味だ。

まあ、それはともかく、実家がオレンジ農家だからって、腐っちゃだめだよ。
オレンジ農業だって、僕達人間を支えている立派な職業の一つなんだから!
そして其処の銀髪のお姉さん!名前教えてくれないかな?出来ればスリーサイズも…。


そんなこんなで、僕はナリタ連山の戦いにおいて純血派の部隊を率いる事になった。
ちなみに美女の名前はヴィレッタ・ヌゥと言う名前だという事がわかった。

頑張れ!アクア!この美女を堕とすんだ!アクアァァ!

僕の心はナリタ連山の戦いよりも、違う戦いに心を滾らせるのであった。



[3303] お家再興記 10話
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2008/08/08 03:36






■コーネリア・リ・ブリタニア■


「ギルフォード!後ろは任せるぞ!」

「心得ております!姫様!」

後ろを任せるギルフォードに一声掛けてから、私の操るグロースターは戦場を駆ける。

戦場を駆ける間、前を見つめる私の視界の先に、無頼とか言う、グラスコーのコピーである敵のKMFが三体見えてきた。
新たな獲物だ。

グロースターのランドスピナーが激しく回り、グロースターに更なる加速が加わる。

向うが私の存在に気付き、慌てて此方にアサルトライフルを身構えるが、その行動は既に遅い。

「遅いわ!」

そしてその隙を見逃すほど、このコーネリアは甘くは無い!
慌てているために、碌に狙いを付けていない弾丸を避けながら、一気に敵に近づき、三機まとめて、ランスで薙ぎ払う。
二機が吹き飛び、一機がコクピットブロックに直撃し、爆散する。

「脆弱者が!」

吹き飛び、尻餅を付いている、無様なナイトメアを串刺しにして、二機目を仕留める。

三機目が私の後方で、起き上がって体勢を取ろうとしているが、遅い。
後ろに振り向きざまにランスを投擲する。
投擲したランスはナイトメアに直撃し、コクピットブロックを貫いている。
直後、ナイトメアは爆散するのであった。

「お見事です、殿下」

「いらん世辞を言うな。
ギルフォード」

投擲したランスを回収していると、ギルフォードが近づいてきていた。
世辞を言うギルフォードを笑いながら諌め、辺りを見渡す。
周囲は我が軍が山を囲むように包囲し、進軍を進めている。

ナリタ連山。

エリア11最大の反政府組織―――日本解放戦線の本拠地が置かれている場所である。
山一つを天然の要塞とし、山の要所にナイトメアの格納庫や、砲弾塔を建てている、堅牢な要塞。

しかしエリア11最大とは言っても、所詮は唯のテロ組織か。
ナイトメアも無頼とか言う、グラスコーのコピーの物しか無い上に、兵の質も低い。
確実に潰す為に、大兵力を持ってきたが、此処までの兵力は必要なかったかもな。

「G-1ベース。
こちらコーネリアだ。
全体の戦況はどうなっている?」

「はっ!コーネリア殿下!
現在我が軍は、ナリタ連山を囲むようにして、順調に侵攻中であります!
あと少しすれば、日本解放戦線の本拠地の入り口も見つかるでしょう」

全体の戦況を知るために、G-1ベースに通信を入れると、参謀長がモニターに表れて、こちらに敬礼をしながら報告をしてくる。

「我が軍の被害は?」

「現在の所、正面勢力のアレックス将軍の部隊のKMFが三機中破。
同じく正面勢力のダールトン将軍の部隊が一機中破です。
四人とも脱出が確認されており、戦死者はおりません」

「ふむ、順調と言う事だな。
…アッシュフォード卿が率いている部隊はどうだ?」

「…アッシュフォード卿の部隊は、破竹の勢いと言わんばかりに、戦果を上げております。
我が軍で小部隊としての戦果を見ると、現在の所アッシュフォード卿の部隊が、一番戦果を上げております」

「何!?」

参謀長の言葉には、不覚にも驚愕を覚えた。

「アッシュフォード卿が率いている部隊は、あの純血派なのであろう?」

「はい。
あの純血派です」

「それなのに、それほどの戦果を上げているのか?
…信じられん」

今回、ナイトオブランズである、アッシュフォード卿にはKMFのパイロットとしてだけではなく、指揮官としての役割も頼んである。
アッシュフォード卿は今までの戦場で、一度も指揮官をした事が無いと聞いていたので、初めての指揮でどの程度指揮が出来るのか、確かめて見たくなったのだ。
しかしアッシュフォード卿が選んだ部隊は、寄りにもよって純血派などといった、我が軍の中で一番と言っていいほど、部隊として士気も結束も低い部隊を選んだのだ。
これでは今回の戦は、アッシュフォード卿にとって、散々な物になるなと思っていたのだが…。

「どう思う?
ギルフォード」

「はっ!
正直、驚きであります。
まさか、あの純血派を率いて、そこまでの戦果を得られるとは…」

通信を聞いていた、ギルフォードに話しを振ると、やはり驚きの念を返してきた。

「お前もそう思うか。
アッシュフォード卿が、純血派を率いると決まったのは、戦の始まる直ぐ前だ。
その短い間で、純血派の士気を高め、支持を得たということか…。
しかし初めての指揮で此処までの結果が出せると言うのか…?」

其処まで考えて、ある一つの考えが浮かんだ。

アッシュフォード卿は、元々ナイトオブラウンズとして名を馳せる前から、ヴァインベルグ卿やアールストレイム卿の三人とトリオを組み、戦場を駆け抜けてきた。
彼ら三人による高速機動の襲撃は、ブリタニア帝国の中でも随一の破壊力を持ち、彼らは常に一番手として敵陣へ切り込んで居たと言う。

そしてアッシュフォード卿は彼ら三連の中で、常に中核を担っていた存在。
二人の間に挟まり、戦闘をこなすには、常に戦況を把握し、把握した情報に対する行動に即対応できる、対応能力が無くてはいけない。
そしてそれは指揮官にとってもそうだ。

指揮官として常に戦況を把握し、把握した情報を元に、即指揮下の部下に対する指示を出す。
アッシュフォード卿が体験した戦場の経験は、指揮官とも繋がる物があるのだ。

そしてアッシュフォード卿は常に、一番手として敵陣へと切り込んでいるのだ。
こういった、敵陣を切り裂く作戦を最も得意としているのであろう。
だから、このような戦果を上げる事が出来ているのだ。

しかし、如何に自分が得意としている戦場であろうと、純血派という最も扱いにくい部隊を率いて、戦果を上げている事実は、アッシュフォード卿の非凡な指揮能力を表している。

純血派は元々我が軍に置いては、鼻摘み物の様な存在だ。
この機会に今後は、純血派をアッシュフォード卿の部隊に回してもいいかもしれないな。

「…確か、このエリア11には将軍と騎士の器を持つ、と呼ばれた者が居たはずだな」

「は?
ええ、藤堂という者がその様に呼ばれておりますが」

ギルフォードが突然の私の言葉に、少し面食らいながらも答えて来る。
その言葉に私は笑いながら言葉を紡いだ。

「どうやら、我が軍にも将軍と騎士の器を持つ者がいるようだ。
それも騎士としての器は桁違いな器をもったな」

自分が笑みを浮かべているのが解る。
だがその笑みはよく女子供が浮かべる笑みではない。
不敵な笑み。
やはりこのコーネリアと戦場を駆ける者は、武人であるに限る。
そしてアッシュフォード卿は間違いなく武人だ。


「だが客将である、アッシュフォード卿にばかり言い顔をさせては、我がコーネリア軍の名が廃ると言うものだ。
皆の者!アッシュフォード卿に負けるではないぞ!
我らコーネリア軍の勇猛さと、恐ろしさを日本解放戦線の輩に存分に見せつけてやれ!」


「「「イエス・ユア・ハイネス!!」」」








■ジェレミア・ゴッドバルト■



「キューエル!お前は交戦中のアラン達の元へ向え!
ヴィレッタ!私は今からメリス達と共に、敵の後方部隊に向って奇襲を仕掛ける!
此処の指揮は任せるぞ!」


「「イエス・マイ・ロード!!」」


私の命令に、ヴィレッタとキューエルは即座に了承し、行動に移る。
二人の言葉は覇気に満ち溢れた声であった。
この場の指揮をヴィレッタに任せた私は、相対している敵の後方部隊に奇襲を食らわす為に、敵味方が入り混じる戦場を、駆け巡る。
敵の後方部隊を目指し、駆ける私を邪魔するかのように、敵のナイトメアが二機現れ、私の進路上に立ちふさがる。
だがこの程度の敵、今の私には路上の石でしか無い!
否!それ以下だ!

「邪魔だァ!イレブン!」

敵のアサルトライフルから放たれる弾丸を避けながら、此方もアサルトライフルの弾をお見舞いし、一機を行動不能にする。
残ったニ機目にはスラッシュハーケンを放ち、直撃させる。
スラッシュハーケンの直撃をくらい、バランスが崩れた所を狙い、再びアサルトライフルが火を放つ。
火力の弱いアサルトライフルでは爆散とは行かないが、グラスコーのコピー如きならば、行動不能に陥れるのは容易い。

「今のこの私を!
このジェレミア・ゴッドバルトを止められる者は何人たりともいない!」

自らのサザーランドのコクピットの中で吼える。
自分でも気分が高揚して居るのがわかる。
だがそれは悪い高揚ではない。
むしろこの高揚が、このジェレミア・ゴッドバルトの体を駆け巡り、全身に覇気を張り巡らせているのかのようだ!

「メリス!バーダ!
遅れるなよ!
この戦場で遅れを取る者は、末代まで語り継がれる恥となると思え!」

「「イエス・マイ・ロード!」」

私の後ろを付いてきている、二人の部下に檄を飛ばす。
そして返ってくる声もやはり、覇気に満ちた声。
今この純血派は、かつて無いほどに士気が高まり、覇気に満ち溢れている。


このナリタ連山侵攻が始まる前に、アッシュフォード卿は、我ら純血派の隊員の前で一つの話しをされた。

『私はこの戦いでは何もしない。
私のような、新参者がいきなり指揮をとっても現場は混乱するであろう。
指揮は今まで通りのままに、好きに動くといい。
君たちの力が十二分に発揮されれば、このようなテロ組織に負ける要素が見当たらないのだ。
君達ならば、私は安心して戦場を任せられる。
私は君達の後方で、待機していよう』

この言葉だけ聞けば、この言葉を言った者は、自らだけ安全な所に居ようとする、保身主義者の戯言のように聞こえるだろう。

だがそれは在りえない。

何故ならば、この言葉を言われたのは、巨大なブリタニア帝国の中で、軍人としての頂点の一角に立つ男!
齢16歳にして皇帝直属の部隊に入り、数々の華やか過ぎる戦果を上げ続けてきた男!
至高の十二席の第七席を委ねられている男!
帝国最強の座、ナイトオブワンすらも狙える男!
栄光あるナイトオブセブンであるアクア・アッシュフォード卿なのだから!

そのアッシュフォード卿が我らの実力をお認めになったのだ!
そして我らに信頼を持って、この戦場を任せると言っておられるのだ!
この事実に血が滾らずにいられるだろうか!?
否!このジェレミア・ゴットバルト!煮え滾る血を抑える事など不可能であった!

そしてそれは私だけではなく、純血派全ての人間に起こっていた現象であった。

皆、心から湧き上がる何かを止めることができずに居る。
それをアッシュフォード卿に悟られぬようにと自制し、皆必死になって耐えている。

だがアッシュフォード卿には我らの心情などお見通しのようだ。

卿は一つ頷くと、言葉を紡いできた。
我らの体を駆け巡っていた何かを、爆発させる言葉を。

『卿等こそはブリタニア帝国の忠義の剣にして愛国の盾!
卿等の、ブリタニア帝国の愛国心!
皇族に対する忠義の強さをこの戦場で示すのだ!
オール・ハイル・ブリタァァニアァァ!』

その言葉を聞いた瞬間、我らの体を駆け巡っていた、何かは爆発し、体の外に熱狂として現れる。

一瞬の静寂の後、気が付くと皆がブリタニアを称える言葉を熱唱している。

忌わしきあの事件以来、バラバラであった我ら純血派は、一人の男によって再び結束を見せる事ができた。

そして戦場に出ると、アッシュフォード卿は、隊の後方で我らを見守ってくださっている。

ただ隊の後方に居る。
それだけで何と言う心強さ!
まるで万の援軍を得たような心強さを感じる。
ナイトオブランズとは、唯其処に居るだけで、戦場を支配するのか。

私の目覚めべき場所は、ナイトオブワン。
至高の席の頂点。
その為には、まず至高の席を目指す。
そして…アッシュフォード卿。
あの方と共に戦場を駆けて見せる!

「ジェレミア!
此方の掃討は終わったぞ!
アラン達と共に、そちらに合流する!」

「不要だ!
キューエル!お前はそのままヴィレッタと合流し、正面から突入しろ!」

敵を掃討したキューエルがこちら合流するという報告を、切って捨てる。

「しかし!たった三機で奇襲は危険だ!」

「今のこの私を!
否、私達を止める者はいない!
そら、キューエル!さっさとヴィレッタと合流して早く来ないと、私達が敵を食い尽くしてしまうぞ!?」

モニター越しのキューエルに、不敵な笑みを浮かべながら吼える。
その笑みを見て、キューエルも不敵な笑みを返してきた。

「…ふっ。
ちゃんと私の獲物は残して置けよ!」

「お前が遅れなければ、ありつけるかもしれんな」

キューエルと会話をしている間に、私の視界の先には、敵の後方部隊が見えてきた。

蹂躙する!

「さあ、行くぞ!
我らは忠義の剣にして、愛国の盾!
この戦はアッシュフォード卿が見ておられる!アッシュフォード卿に恥を掛けぬ戦いをするぞ!」


「「イエス・マイ・ロード!!」」











■アクア・アッシュフォード■



僕は今、純血派の部隊の後方で、愛機のグロースターのコクピットの中で、純血派の戦闘を眺めている。

いやーすげえっす。
何がって純血派が。

もう、特攻部隊もびっくりの物凄い勢いで、敵陣を切り開いているよ。
いくら日本解放戦線が、コーネリア軍の急襲に浮き足立っているとはいっても、この突進力は物凄いものだ。
いったい、この純血派に何があったのだろうか?

僕は出撃前の純血派の部隊を思い浮かべる。

出撃前の純血派に僕は一つの話をした。

ぶっちゃけ、僕指揮できないから、今まで通りに好きにやっちゃっていいよ。
僕後ろで引っ込んでるから。

このまま言うと、あまりにも本音出しすぎで、恥ずかしいからカッコよさげな感じなニュアンスに変えて言って見たんだよ。

そしたら何か妙に感動したって感じで僕の事を見つめるから、止せばいいのに調子の乗って、ブリタニア皇帝の演説を真似た言葉が出てしまった。
その時は場の勢いに任せて、ホイホイと言っちゃったんだけど、冷静に考えると、なんて恥ずかしい言葉のオンパレードを口走ったんだ!僕は!
何が忠義の剣に愛国の盾だ!何がオール・ハイル・ブリタニアだ!
改めて考えて見ても、恥ずかしすぎる!前々から思ってたんだがちょっとは自重してくれよ!僕の口!

叫んでいる時はハイって奴になっていて、ノリノリで演説かましてたんだけど、オール・ハイル・ブリタニア!と叫んだ途端に、僕のテンションは素面に戻ってしまった。
考えて欲しい。
いきなり目の前で一人の人間が、オール・ハイル・ブリタニア!なんて大声で喚き始めたら、それを見ていた人間はどのように思うだろうか?
少なくとも僕なら、関わりたくない。
僕なら全力で逃げるね。
もう、カーブ・ルイス並の足の速さを見せ付けて。

でも今回、その痛い発言をしちゃったのは、何を隠そうこの僕だ。
逃げられる筈が無い。
いや、逃げたほうがいいのか?
この凍った空気の発生源となった僕が、真っ先に逃げてもいいものであろうか?
……悩む。
あまりの外しっぷりに隊の皆が静まり返っている。
静寂が痛い。
痛すぎる。
やっぱり逃げてもいいかな?僕。
つーか逃げよう。
うん、逃げるの決定。

真面目に敵前逃亡を考えていた僕を救ってくれたのは、純血派の皆さんであった。
ジェレミア君がオール・ハイル・ブリタニア!と叫んでくれると、皆が同じくオール・ハイル・ブリタニア!と叫んでくれたのだ。
そして始まる大合唱。
もう辺りには、オール・ハイル・ブリタニアしか聞こえてこない程、物凄い音量で皆さん叫んでいる。

僕はその大合唱を聞きながら感動していた。
何て…何て優しい部隊なんだ!この純血派は!
勢いで口走った言葉に、自爆して困っている僕を助けるために、ノリを合わせてくれるなんて!
ありがとう!皆本当にありがとう!
君達のおかげで、人生の汚点を増やさずに済んだよ!

応援するよ!僕は君たちを応援するよ!
僕は君達の後方な安全な所で、応援しているから頑張ってね!



なんて事があったんだけど、いざ戦闘が始まると、皆物凄い勢いで敵陣に突っ込んでいって、物凄い勢いで敵を撃破しているんだよ。
僕吃驚したよ。
純血派って凄いんだね。


特にジェレミア卿が凄い。

もう、我こそは三国一の兵である!と言わんばかりの勢いだ。
幾ら敵が、グラスコーのコピーのKMFで、軍の襲撃で浮き足立っているとは言っても、この動きは大したものだ。
もしかしたら、ナイトオブラウンズにも成れるんじゃないかな?

……て、はぁ!?
今僕は凄い事を思いついた!

ちょっとやそっとの事では悲しい事実だが、僕はナイトオブラウンズは辞められない。
だが、僕の後釜を用意すればどうだ?

『自分を超える、器を持つ者が現れました。
彼こそはナイトオブラウンズとして相応しい人材です!
そう、このジェレミア・ゴッドバルトこそがナイトオブセブンとして相応しい!
彼ならば僕は安心して、自分の座を授ける事が出来るでしょう。
後は、全て任せたよ!ジェレミア卿!』

こんな感じで辞めれるかもしれない!
上手くいけば僕はラウンズを辞めれて、祝!ニートな生活に戻れるかもしれないぞ!
キターーーーー!
ラウンズ辞めるフラグキタコレーーーーー!

その為には、ジェレミア卿にはドンドンと功績を取って貰わねば!
よーし!僕ドンドンサポートしちゃうぞぉ!

なんか久しぶりに戦場に出る目標が出来たよ!

「アッシュフォード卿。
ここら一帯の敵を掃討しました。
先に進もうと思うのですが、いかが致しましょうか?」


お!
噂をすれば何とやらだ!
未来のナイトオブセブン様が通信を寄越してきたよ!

「ご苦労、ジェレミア卿。
君の思うがままに、動くといい。
僕も君の行動をサポートさせてもらうよ」

そして君は功績ガッポガッポで行っちゃってください。
僕の薔薇色の未来の為に。

「イエス・マイ・ロード!」


その時、空に信号弾が放たれた。

あれは…本拠地が見つかった?

「あれは…ダールトン将軍ですね。
向うの方に、敵の本拠地の入り口がありましたか…。
此処からは離れておりますが…いかが致しますか?
アッシュフォード卿」

エキゾチック萌えな、ヴィレッタさんが僕に問いかける。
その問いに対する答えは一つしかない。
僕はモニターに映ったヴィレッタさんに萌えつつ命令を下す。

「卿らの指揮権は全てこの、アクア・アッシュフォードに委ねられている。
故に命じる!今から解放戦線の本拠地の入り口の制圧作業に移行する!
各自、健闘を祈る!
ジェレミア卿!任せたぞ!思うが侭に、暴れてくるといい!」

「「「イエス!マイ・ロード!」」」


純血派の皆さんに命令を下し、僕達はダールトン将軍の下へと急ぐのであった。


そして目的地までもう少しと行った所で、其れは来た。


ん?何か揺れてる様な…って地震だ!
最初は微々たる振動だったので、戦場になっている為に、揺れているのかとも思ったが、間違いない!
次第に激しくなって行く振動に、ナイトメアを直立に立たせる事すら難しくなってきた!
純血派の皆も驚愕の言葉を口々に出しながら、バランスを取ろうとしている。

「皆!体勢を上手く取るんだ!
揺れで、山から落ちるなよ!
スラッシュハーケンを上手く使い、機体を固定するんだ!」

指示を出しながらも、僕もスラッシュハーケンを足元の大地に打ち込み、山から落ちないように、機体を固定する。
その間も絶えず、振動は続いている。
流石は地震国家日本だ!
でも、こんな時くらいは、地震も自重して欲しいよ!
あ、ちょっと今僕上手い事言ったかも!

頭の中で下らない事を考えながら、ふと山の上の方を見てみると…。

ものすっごい勢いで、土砂崩れが辺りを飲み込みながら、こちらに向って一直線に来ていた。
もうズゴゴゴゴゴ!って感じで津波のようだ。
うーん。あれに飲まれたら死んじゃうなぁ。



…………って!?
ええ゛!?!?


そして、驚愕する間もなく、飲み込まれてしまった。
自然の驚異をリアルに体験中だ。
体験したら死にそうだけど。
つーか死ぬ。



ギャーーーーー!!!
デスペラーーーーードォォォォ!!??



「アッシュフォード卿ォォォォォォ!?」



ジェレミア卿が僕の名前を叫ぶのが耳に入る中、僕は意識を失っていった。



あれ?
もしかして、これって死亡イベント?



[3303] お家再興記 11話
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2008/08/12 10:02
生命謳歌万歳。

土砂や岩の中に埋もれている、グロスターのコクピットの中で目が覚めた僕が真っ先に思ったのは、この言葉だった。

生きてる…僕生きてるよぉ…。
冗談抜きで…今回は死ぬかと思った…。

最後に憶えている記憶は、圧倒的な質量を持った、崖崩れに巻き込まれ、前後左右が解ら無くなる程、揺らされまくった記憶。
コクピットの中がジェットコースターになった気分だ。

…よく生きてたな、僕。
これが噂の主人公補正?
いや、脇役な僕にそんな補正はないよな。
単純に運がよかったのか?
とにかく生命謳歌万歳。

にしても本当に自然の脅威は恐ろしい!
日本は地震が頻繁に起こる国だと聞いていは居たが、まさかこれほどの地震を実際に体験する事になるとは…。
日本に住む方!特に東北地方の方々はご注意を!

……さて、皆に注意を促した所で、そろそろ行動に移さないとな。

雪崩や土砂崩れに巻き込まれた場合の恐怖の一つは、どちらが天か地か解らなくなる事だそうだ。
だが幸いに、今僕が埋もれている場所は比較的、地表に近い所の様だ。
土砂や木々の隙間から光りが漏れている。
とりあえず、今の状況からは抜け出せれそうだ。

土砂や岩に埋もれた場所から、グロースターを抜け出し、機体の調子を確かめる。

確かめた結果、芳しくない結果がわかった。

まずは通信機がイカレている。
仲間や本陣と連絡を取ろうと、通信を試みたのだが、繋がる気配が無い。
そしてレーダーも逝っちゃている。
仲間の識別反応や、敵の熱源反応を示す、装置がうんともすんとも言わない。
更には、地図すらも表示されない。
これでは何処へ行けばいいのか解らない。

そして問題はグロースター自身にもある。
あの土砂崩れに揉まれたおかげで、グロースターの反応が鈍い。
少しではあるが、いつものグロースターの動きよりも鈍重に感じる。

そして武器も無い。
僕はこの戦いにおいて、大型ランスとアサルトライフルを持ってきたのだが、今それらの武器は、あの土砂の中に埋もれている。
発掘して見つけ出すのは、実質不可能といってもいいだろう。
つまりは今の僕は丸腰。
こんな状況で敵に見つかったらマジでやばい。

そして更にヤバイ事態が一つ。





………………此処……何処?




僕の名前はアクア・アッシュフォード。
世界の三分の一を占める超大国ブリタニア帝国の軍人としての最高峰の一角である、ナイトオブラウンズであり、第七席の称号を与えられたナイトオブセブンだ。
ジノやアーニャとトリオを組み、駆け抜けた戦場は数知れず。
勲章もばっかばっかって感じで増えて行っている、若手の中では出世頭の象徴のような存在。
皇暦2017年ブリタニア帝国の中で抱かれたい男ナンバー1!………だったらいいなぁ。

そんな僕は今、迷子っています。
ナイトオブセブンが遭難しています。
仲間も、何も無く、途方に暮れています。
………物凄く家に帰ってニブニブ動画を見たい。


絶望に暮れる僕に、木枯らしの風が吹いた気がした。






少しの間コクピットの中で体育座りをしながら、孤独を味わっていたが、さずがにこのままじゃいかんと気付いたよ。
時間を確かめて見ると、土砂に巻き込まれた時から、そんなに時間は経っていない。
どうやら気絶していたのは一瞬だけのようだ。
それが唯一の救いだな。

さて、冷静になった所で考えようじゃないか。
僕がどう動くかを。




1. この場で味方が救助に来るのを待っている。

んー…保留。
山などで遭難した時は、下手に動かずにその場で待っているのも一つの手だと聞いたことがある。
しかし今まで戦場であった場所では、軍も直ぐには救助活動はできないであろう。
下手したらこの場に置いてけぼりなんて可能性もある。
そんなのは死んでも御免だ。
でも結構魅力的な提案なので、一先ずこの案は保留。


2.山から下りる。

んむー……保留だな。
戦地から離れられるこの提案はかなり魅力的だが、下山した所で、コーネリア軍と合流できる保証が無い。
そもそもコーネリア軍は敵軍を順調に攻略していた。
あの土砂崩れがコーネリア軍にどれだけ損害を与えたかは解らないが、あの戦況からでは、別の勢力が現れでもしない限り、戦況は引っ繰り返らないであろう。
殆ど勝ちが決まった様な戦場で、敵前逃亡は不味いだろう。
僕はラウンズは辞めたいけど、捕まりたくは無いのだ。
でも戦場から抜け出せれるのは魅力的なので、この案も保留。


3.山をもう一度登る。

うぬぬーー…保留!
山を登れば、コーネリア軍の誰かと合流できる可能性が高くなるだろう。
しかし、敵とも遭遇する可能性もある。
如何に、日本解放戦線がほぼ壊滅状態だからって、侮ってはいけない。
今の僕は武器が無い状態なのだ。
そんな時に敵と出会ったらマジでやばい。
でもコーネリア軍と合流できる可能性が一番高そうなので、この案もやっぱり保留。


…って何だよ!僕!
出す案全部が全部、保留だらけじゃないか!
しっかりしてくれよ!僕!
でも駄目だ!僕の陳腐な頭じゃ、どれがベストな案なのか決められない!
んーー、どうしよう。

少しの間必死に頭を捻らせたが、これだ!という意見が浮かばない。
段々必死になって考えてるのがアホらしくなってきた。

ああ!何かもう考えるのがめんどくさくなって来た!
もういい!全ての採決は神様に委ねるよ!
最近の神様はよく僕の事見放すけど、さすがにこんな命が掛かった採決には仏心を出しくれるだろう!
信じてるよ!神様!
と言うわけで、運命の採決スタート!

ど・れ・に・し・よ・う・か・な・て・ん・の・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り!


神に全てを委ねた採決の結果は、山を登るであった。
神様わかりました。
あなたを信じます。

はい決定!
山登るので決定!
拒否案は受け付けません!
レッツゴー!ハイキング!


神に全てを委ねた僕は、グロースターを起動させ、山をもう一度登りだす。
味方と合流するために。



……しかしこの行動は、破滅への第一歩となる行動だったのだ。
なんちゃって。








うーん。
結構登ったんだけど、誰とも会わないなぁ。
行けども行けども自然ばっかり。新鮮な酸素が豊富だ。マイナスイオンもガンガン出てるんだろうな。
此処が日本解放戦線の本拠地でなかったら、普通にハイキングに来てもいいかもしれない。
僕は引きこもりが大好きなインドア派だけど、時にはアウトドア派にもなれる新世代の引きこもりなのだ。
ニュータイプって勢いだね。


でもこの土砂崩れ本当にすごかったんだなぁ。
山を登っている間に土砂崩れの被害を目の当たりにしているのだが、かなり広い範囲の被害があるようだ。
やはり自然災害は恐ろしい。
こんな事が戦場でしょっちゅうあったら、命が幾つあっても足りない。足りなさ過ぎる。
やはり軍人は常に命の危機に晒されている。
早くこの職業を辞めて、ニートに戻るのが僕の最大の使命だな。


んー…。
しかし本当に敵味方問わず、誰とも会わない。
でも戦闘は終わってはいないと思うんだよなぁ。
なんちゅーか、戦場の独特の空気と言うか…表現しづらいんだけど、そういった物を感じる気がする。
まあ、確証は無いけど。

しかし大分山を登った。
このまま登っていいものか。
なんか嫌な予感がしてきた。

んー何か僕の感が、これ以上登るなと告げている気がする。
僕の第六感は当たったり外れたりで、ぶっちゃけ役に立つのか微妙だけど、此処は従ったほうがいいかもしれない。
さて、そうなると問題となるのはどちらの方向に降りるかだな。

今まで僕が登ってきた方向と、山に登る方向は省いてだ。
大雑把に言えば、今僕が見ている所から左に行くか。
それとも右に行くか。
この二択だ。
これは割かし大事な選択だと思う。
ギャルゲーで言うなら、ルート分岐並に大事な選択だ。
そして残念ながら、現実は厳しく、ギャルげーの用に分岐時にセーブをしておくなんて行為はできない。
そして優柔不断な僕が、この不毛な二択を選ぶのは難しいものがある。
という訳で、神に全てを委ねよう。


ど・っ・ち・に・し・よ・う・か・な・て・ん・の・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り!


はい!今僕が見ている方から向って、左の方に決定!
拒否案は受け付けません!
どちらにしろ、どちらかに行かなくちゃ行けない上に、何の情報も無いのだから、行き当たりばったりで行くしかない。
神に全てを委ねるしかないんだよ。
なーに!最近神様、僕の事見放してばっかだから、そろそろ助けてくれるだろ!
神様!信じてますよぉ!

と言う訳で、神の導きに従い下山スタート!
神様!頼みますよぉ!

神の従いに全てを委ねた僕は、下山を開始するのであった。








■ギルバード・G・P・ギルフォード■







目の前に居る、ナイトメアと鍔迫り合いを繰り広げながら、私の心は焦燥に満ち溢れていた。

事態は深刻だ。

敵の援軍に、背後から奇襲を突かれ、我ら親衛隊は劣勢に追い込まれた。
この状況を打開しようと、ポイント9に敵を誘導し、一気に敵を撃破しようと考えられた、コーネリア殿下が、一足先にポイント9に行かれたのだが、その行動が不味かった。
ポイント9にはゼロ率いる黒の騎士団が、既に待ちかねていたのだ。

そして先ほど、殿下と黒の騎士団の戦いを告げる通信が殿下から、聞こえたのだ。

私達親衛隊は殿下を守るためにも、直ぐにも駆け付け、殿下の加勢をしなければ行けない。
だが、目の前にいる敵が其れを許してはくれないのだ。

藤堂。

七年前の日本侵攻作戦において、ナイトメアを持たぬ日本軍に置きながら、一度も負ける事が無かった伝説の男。
将軍と騎士の器を持つ者として、ブリタニア軍にも其の名を轟かす武人。

その男が私達の行く末に立ち塞がっているのだ。

「どけぇ!藤堂!」

鍔迫り合い制した私のグロースターが、力任せに藤堂の操るナイトメアを突き飛ばす。
グロースターの突き飛ばしを食らった藤堂の機体は、バランスを崩しながら後方へと逃げる。
その好機を逃すまいと、私のグロースターは追撃を仕掛けるのだが、私の行動を邪魔する様に、藤堂の機体と色違いのナイトメアが、こちらに切りかかってくる。
ランスを斬撃へと合わせ、敵の攻撃をいなす。
その間に、藤堂は私から間合いを取り、体勢を整えていた。
藤堂への追撃は諦めざるを得なかった。
先ほどからこのような戦闘が続けられているのだ。

此方が攻めれば、向うが引き。
此方が引けば、向うが攻める。

敵は此方が殿下の下へと駆けつけぬように、一気に攻めてくるのではなく、時間稼ぎをする戦闘を繰り広げているのだ。
藤堂が率いる部隊は、完璧なコンビネーションをもってして、私達親衛隊をこの場に釘付けにしていた。

殿下は今黒の騎士団と戦闘を行っている。
一刻も早く殿下の下へと駆け付けなければいけないと言うのに…!

だがどうする!?
この調子では、直ぐに藤堂達を片付け、殿下の下へと駆け付けるのは難しい。
ダールトン将軍の部隊も、日本解放戦線の残党に挟撃されていて、殿下の下へは行けない。
くそぉ!手詰まりだ…!

あの土砂崩れで、我が軍が崩壊していなければ、このような事には…!

殿下の危機に駆けつけられぬとは…!
誰か、殿下の下へと行ける者は居ないのか!?

ポイント9の周囲の地図に目を走らせる。
だが、それは少し前に見た地図と全く同じで、味方の信号を示すサインが無い地図…いや、違う!

ポイント9の近くに、一つ我が軍の信号を発している機体が在る!
だが、一機だけ姫様の加勢に向っても焼け石に水かもしれない。
それでも居ないよりはましか!

通信を繋げようと、信号を確かめた私は驚愕する事になる。

この信号は…アッシュフォード卿!?

アッシュフォード卿の率いる純血派は、我が軍に多くの被害を出した、土砂崩れに巻き込まれた。
そしてアッシュフォード卿自身も、その土砂崩れに巻き込まれ、行方が解らなくなったと、純血派の生き残りからの報告であったが、生きていたのか!

「アッシュフォード卿!
こちらギルフォードです!
アッシュフォード卿!?」

通信が繋がらない!
向うの通信機が故障しているのか!?
土砂に巻き込まれた時に故障したのか!?
こんな肝心な時に、通信が繋がらないなんて…!


「アッシュフォード卿!こちらギルフォード!
アッシュフォード卿!応答願います!
くぅ!邪魔だァ!」


私の隙を見出したように、藤堂率いる部隊が再び攻勢に入る。
その攻撃を捌きながらも、私はアッシュフォード卿に通信を行う。

「アッシュフォード卿!応答願います!
こちらギルフォード!応答願います!」

戦闘をこなしながら、必死にアッシュフォード卿に通信を繋げる。
だが無常なまでに、通信は繋がらない。

アッシュフォード卿が姫様の加勢に向わねば、姫様のお命が危ないと言うのに…!
何故繋がらない!頼む!繋がってくれ!

私の心の焦りを読み取ったのか、藤堂がこちらの一瞬の隙を見つけ、私のグロースターに上段から切りかかってくる。
その斬撃を避けようと、グロースターを移動させるが、その行動は遅かった。
斬撃はグロースターの肩口を切り裂き、返す刀でコクピットを切り裂こうとする。
返しの刃をランスで受け止め、再び鍔迫り合いとなる。

「アッシュフォード卿!
お願いします!応答願います!
アッシュフォード卿ォォ!」

余所見をしている暇は無いと言わんばかりに、藤堂の機体が此方を押してくる。
駄目だ!
他の事に気を取られながら戦って、勝てる相手ではない!

だが、此処でアッシュフォード卿に、コーネリア殿下の危機をお伝えしなければ、姫様のお命が…!

頼みます!アッシュフォード卿!
どうか私の言葉をお聞きください!
そして姫様を…!お助けください!

「アッシュフォード卿ォォォォォ!」

叫びとなった私の通信に応える声は…。


『…こち…ア…フォード。
ギルフォー…卿。
応答…う』

あった。
希望は繋がった。






■アクア・アッシュフォード■




まずい事態だ。
神様が示された道を進み続けたが、とんと味方と出会う気配が感じられない。
このままでは僕は、戦場に一人迷い込んだ、哀れな子猫ちゃん状態になってしまう。
そんなのは死んでもゴメンだ。
やはり神様を信じたのがまずかっただろうか?
最近僕のことを見放してばっかりだったから、そろそろ助けてくれるだろうと思い、信じたのがそもそもの間違いか。
やはり人は己の力で、道を示すべきだったのかもしれない。

まあ、今後神様を信じるかどうかはともかく、この状況は本気で何とかしなければいけない。
このままじゃ本気で、BADENDに直行してしまう。

この通信機さえ繋がれば、味方の現在地がわかるというのに!

僕は通信機が内蔵されているであろう、場所を憎たらしげに見つめる。
通信機さえ繋がれば、仲間と連絡を取り、直ぐにでも合流地点へと向う事が出来るのだ。
だが通信機が繋がらなければ、仲間との連絡も取れず、居場所もわからない。

こんな肝心な時に通信機が使えないなんて…!
しっかりしてくれ!てい!チョップ食らわしてやる!

壊れたテレビを直す要領で、通信機が内蔵されているであろう所に、ビシ!ビシ!っとチョップを食らわす。
右45度の角度がポイントだ。
その角度に沿って打つべし!打つべし!

ニ、三度打ち込んだが、特に通信機に変化はない。
現実逃避でチョップを打ち込んだが、まあ、これで直ったら奇跡だな。
そして奇跡は簡単に起こらないから、奇跡と呼ばれちゃうのよね。
アクアションボリ。

さて、現時逃避はそろそろやめよう。
この先僕がどう動くか、考えようか。
このまま現実逃避かましてたんじゃ、マジで僕の命がやばい。

…って、ん?
今、通信が繋がったような!?

「アッ…フォード卿…ォォォ!」」

うお!?びっくり!?

通信機から突如聞こえてきた、馬鹿でかい声に、僕は驚愕してしまったよ!
いきなり通信が繋がったと思ったら、こんなでかい声に迎えられるなんて!

え!?まさか僕のチョップが通信機を蘇らせたの!?
すげえ!マジで僕のチョップすげえェェ!
今度から僕の右手は神の右手と呼ぶ事にしよう!

おっと、そんな事よりも通信だ!
あの声には聞き覚えがある。
おそらく通信先はコーネリア殿下の専属騎士である、ギルフォード卿だ。

「こちらアッシュフォード!
ギルフォード卿!
応答願う!」


通信を寄越してきたギルフォード卿に、一抹の期待を寄せて通信を行う。
頼む!繋がってくれ!
本当にお願いだから繋がって!
繋がったら、ジノとだって一発やってもいいから!
………いや、やっぱりそれはやめておこう。
とにかく繋がってくれェェェェ!

僕の必死の願いは…。


『アッシュ…ド卿…
こちらギルフォ…』

通じたーーー!
僕の願いが通じたーーー!

「ギルフォード卿!
今こちらは、通信機や、レーダーと言った物が故障しています。
そちらに合流したいのですが、現在地を教えてくれませんか?」

ギルフォード卿が所属する部隊は、コーネリア殿下の親衛隊。
親衛隊はコーネリア軍の中でもトップの実力を持つ、屈強の部隊にある上に、コーネリア殿下自身も、卓越したナイトメアの操縦技術を持った人だ。
つまりはこの親衛隊が居る所が、この戦場の中ではある意味で、一番安全と言う事だ。

『直ぐにポイン…ナイ…
殿…の下…』

ええい!
しっかりしてくれ!通信機!
ギルフォード卿が何て言ってるか全然わかんねえよ!

「申し訳ありません!
通信機の調子が悪いので、もう一度お願いします!」

お願いだから、見捨てようとしないで下さい!ギルフォード卿!
どうか、もう一度僕に通信を!

…って、何か地図が送られてきた!
よく伝送できたなぁ。

どれどれ?
ポイント9までの地図…。

これが今コーネリア殿下や親衛隊が居る場所か!
やっと僕の欲しい情報が手に入った!
しかも、今の僕が居る場所から、かなり近いし!
やったー!
これで生きて帰る事ができそうだ!

「ありがとうございます!ギルフォード卿!
直ちに、ポイント9に向かい、そちらと合流します!」

『殿……を
よろ…し…』

僕の感謝の言葉に、ギルフォード卿は何らかの返事を返してきた。
やっぱり通信機の不調で、何て言ってるのかはわからなかったけど。

でも、神様の言うとおりに進んでよかったぁ!
これで全然反対方面に進んでいたら、えらい事になっていたよ!

後はとっととポイント9に行って、親衛隊と合流すれば、万事解決だ!
よっしゃー!善は急げだ!
これで、時間を掛けてしまい、コーネリア殿下や親衛隊の連中が移動でもされたら堪らん。
とっととポイント9に向うぜ!

目的地を定めた僕は、グロースターを稼動させ、ポイント9へと急ぐ。

ふぅ。今回も何とか生きて帰れそうだ。
土砂崩れに飲み込まれた時は、もう人生オワタと思ったもんだが、無事に生きて帰れて本当に良かった。

まあ、安心するのはポイント9に向かってからだな。









■ギルバード・G・P・ギルフォード■




『ありが…ご…います!ギルフォ…卿!
直ちに、ポ…ント9に向かい、…合流します!』

その言葉を聞いた瞬間、藤堂と切りあっている最中だと言うのに、私の心は安堵に包まれた。

通信をまともに行えない中で、地図を送信できるかは賭けであったが、無事に送れたようだ。

「殿下を宜しくお願いします!
アッシュフォード卿…」

殿下の事は、アッシュフォード卿が何とかしてくださる!
ならば、我らがすべき事は。

「藤堂!
此処でお前達を倒す事だ!」

私達親衛隊は、藤堂達との戦いに身を没頭させるのであった。






■アクア・アッシュフォード■



おかしい。

何もかもがおかしい。

ポイント9に辿り着いた僕を出迎えたのは、コーネリア殿下や、親衛隊の面子ではなかった。
いや、コーネリア殿下は居るのだが、様子がおかしい。
何か、殿下専用のグロースターの両手が無いし。

しかも何故か知らんが、殿下の傍には、赤くて、すごい強そうなナイトメアが居る。
そして崖の上には、数機の敵のナイトメアが。

あれ?親衛隊の皆様は??

「着てしまったか…!ナイトオブラウンズ!
だが、いまさら邪魔はさせんぞ…!」

崖の上の指揮官機らしきナイトメアが、オープンチャンネルで吼えていた。
それに呼応して、臨戦態勢に入る敵のナイトメア達。

そして状況に取り残される僕。

あれれ?
もしかしてこれって死亡イベント??

…そりゃねえよ。神様。



[3303] お家再興記 12話
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2008/09/06 21:44
僕の目の前には、赤い上にかっちょいい感じの、とっても強そうな機体が佇んでいる。

出陣する前に、ダールトン将軍が敵のKMFはグラスゴーのコピーしか無いと言っていたのだが…。

これ本当にグラスゴーのコピー?
何か赤い彗星のコピーって言ったほうがしっくり来ますよ?

『紅蓮二式は、ナイトオブラウンズを抑えていろ!
私達は、コーネリアをやる!』


情報の錯誤に悩む僕に、敵の指揮官らしきナイトメアから、オープンチャンネルで、とっても嬉しくない情報が入った。
どうやらあの赤い機体は紅蓮二式と言うらしい。
益々、グラスゴーのコピーとは思えない名前だ。

……って!?
僕があれの相手をするの!?

じょ、冗談じゃない!
僕と殿下の機体が満身創痍で、こっちの戦力は絶望的なのに、あんな強そうな機体と戦ってたまるか!

逃げましょう!殿下!
逃げまくりましょう!殿下!
そのまま駆け落ちする勢いで逃げましょう!殿下ァ!
子供は三人は欲しいです!殿下ァァァ!

「そちらは任せた!
私はゼロを倒す!」

殿下ァァァァァァァ!?
そちらってどっちィィィィィ!?
僕との愛の逃避行はァァ!?

とてもカッコいい台詞と共に、殿下はスラッシュハーケンを敵に打ち込みながらも、駆け出していった。
即座に頓挫した、僕と殿下の愛の逃避行計画。
地味に凹む。
そして頼むから、この状況で僕を一人にしないで下さい。
あまりの心細さに泣いてしまいそうです。

そして打ちひしがれる僕に向かって、襲い掛かってくる赤い機体って…早っ!?そして危なッ!?

ジグザクに移動しながらも、猿のような身軽さで、赤い機体がこちらに向かって飛び掛りながら、攻撃をしてきた。
煌めきながら振り下ろされるナイフ。
怖すぎる。
ナイフによる斬撃に対して、グロースターの右足のランドスピナーを稼動させ、半身の姿勢で避けることにする。
一瞬の後、今まで僕が居た所に、振り下ろされるナイフ。
とりあえず助かった。

しかし安心するのはまだ早かった。
相手はナイフを振り下ろした体勢にも拘らず、ごつい右手で僕のグロースターを薙ぎ払わんと、振り上げてきた。
慌てて、グロースターをしゃがませる。
しゃがませた直後、グロースターの頭をかすらせながらも、なんとか避けれた。
九死に一生って感じだ。


半ば、奇襲といった襲撃が失敗した事で、敵も慎重になったのか、向うから間合いを取り直してきた。
それに呼応して、僕もグロースターを後退させ、間合いを取り直す。

助かった。
マジで死ぬかと思った。
やっと安堵の溜息を吐く事ができたよ。


にしても何なんだ!?
あの運動性能は!?
あまりの速さにびびったよ!
ガチムチ将軍の嘘つき!
あんなのがグラスゴーのコピーであってたまるかよ!
むしろランスロットのコピーなんじゃないか!?

あの赤い機体は、絶好調の時の僕のグロースターよりも、運動性能は遥かに上だ。

そんでもって、その凄い機体と相対している僕の機体は、調子が悪いグロースター。
マジでやばい。
どうしよう。

って考えている間に、また来たぁ!?

この状況をなんとかしようと、考え始めた矢先に、向うから間合いを一気に詰めてくる。
そしてその勢いのままに、こちらに向かって襲い掛かる赤い機体。
向うは殺る気満々だ。
マジで勘弁してください。


襲い掛かる赤い機体に対して、僕は唯、その攻撃を避け続ける事しか出来なかった。

相手の動きを間近で見て、さらに不味い事態が解った。

この赤い機体のパイロットは、機体に振り回されていない。
逆に乗りこなしている。

KMFにも関わらず、どんな乗り物でもハイスペックな乗り物というのは、実に乗りこなす事は難しいものである。
未熟な者が、その乗り物の最高クラスの物に乗ったとて、振り回されるだけで、碌に乗りこなせない。
だが、このパイロットは、そのナイトメアとしては最高クラスであろう、あの赤い機体を見事に乗りこなしてる。

つまりはあの赤い機体は、パイロットとしても凄腕と言う事だ。
あの赤い機体に相応しい実力を持ったパイロット。
だが、まだ甘い。


突き出されたナイフを持つ左手の一撃を避けながら、相手の懐に潜り込み、そのままの勢いで体当たりを喰らわす。

グロースターと言う名の、8tにも及ぶ鉄の塊の突撃には、どんなナイトメアであろうと体勢が崩れる。
そしてそれは、如何にハイスペックを誇る、目の前の赤い機体とて例外ではない。

体勢を崩すした相手の隙を見逃さないように、グロースターの右足を持って、相手の左足を踏みつける。
それと同時にグロースターに搭載されている最後の武器―――スラッシュハーケンを相手の胴体部に狙いを付け、放つ。

「貰ったァァ!」

自分でも知らず知らずに、勝利の雄叫びを発していた。
其れほどまでに、この一撃は僕に勝利を告げる。
もしくは勝利への掛け口となる一撃なのだ。

赤い機体の崩れた姿勢で、グロースターに寄って、左足を固定された状態で、スラッシュハーケンの一撃を避けるのは、如何にあの機体の優れた運動性能を持ってしても、不可能と言ったもいい。
避けるのが無理ならば、其のまま直撃を食らうか、防ぐしか手は無い。

防がれても良し。
この状態でスラッシュハーケンの一撃を防ぐ方法は一つしかない。
それはあのごつい右手を使って、防ぐ事だ。
あの右手がどんな性能を持っているのかは解らないが、スラッシュハーケンの直撃を受ければ、あの右手は破壊する。
それは相手の武器を一つ奪うと言う事だ。
それは勝利への掛け口となる。
一番怖いのは、左手に持つナイフで、スラッシュハーケンを絡み取る様に、防がられる事である。
だからそうされない様に、左手のナイフの突き出しにカウンターで攻撃したのだ。
伸びきった左手で防ぐのは不可能。
これで防ぐには右手を使うしかない。

直撃すれば尚良し。
そのまま胴体部に直撃すれば、この機体の戦闘続行は不可能と為り、僕の勝利となる。
仮に、戦闘続行であっても、大きな損傷は防げない。
こちらが一挙に有利となる。

赤い機体が、僕の一撃を受けるのか、防ぐのか。
どっちに転んでも僕の有利となる。

スラッシュハーケンの一撃に対して、赤い機体が取った行動は…。

防ぐ事であった。

大きな右手を自らの胴体部の前に構え、スラッシュハーケンの一撃に対して備える。

どうやら僕の勝利はまだ先らしい。
だが勝利に近づいたのは間違いない。

その右手…貰ったァァ!

そしてグロースターのスラッシュハーケンと、赤い機体の右手が接触し…。


スラッシュハーケンが爆発して砕け散った。




……………ヤックデカルチャー。


今僕の視界にはありえない現象が起こった気がする。
僕の網膜がいかれちゃったのかな?
え?何でスラッシュハーケンが爆発しているの?
逆でしょ?右手を貫かなきゃ。
ゴッドフィンガー??
爆熱なゴッドフィンガーなの?あれは?
流派東方不敗なのか?
東方は紅く燃えているのか??
師匠ーーー。

現実に付いて行けない。
マジにデカルチャー。
デカルチャー過ぎる。

だが、一つ解った事がある。
とりあえず勝利から遠ざかったのは間違いない。
泣ける現実だ。

あまりの現実に僕の思考が現実に追い付けない中、敵の赤い機体は動き出していた。
その右手でこちらを掴もうと腕を突き出してくるのであった。

その気配に気付いた僕は、すぐさまグロースターを後方へと移動させる。

あの右手はやばい!
しかしどんな仕組みが仕込まれているかは知らないけど、間合いさえ取れば!
グロースターを後方へと動かしながら、そう考える。
しかし相手の間合いの外へと抜け出した時、一つの天啓が頭を過ぎった。
キラリンって感じで過ぎった。
気分はブータイプだ。

まずい…!
この考えと行動!
やられフラグだ!!!


舞い降りた天啓の警告に従い、グロスターの脚部の向きをずらし、後方への移動から、左後方への移動へと変更する。
その突如、赤い機体の間合い外からの一撃が、先ほどまで僕が居た場所を貫いてきた。
突き出した腕を更に伸ばして。

この言葉では、限界いっぱいに伸ばした腕が、何とか僕の居た所まで届いた、といった感じの言葉だが、現実は違う。

文字通り腕を伸ばしてきたのだ。
ビヨーンって感じで。


まさかあの技をこの眼で直に見るときが来るとは…!
あれぞブェペリがジョブサンに仕込んだ技。
ズームパンチ!!
BOBOの珍妙な冒険だね。
誇り高き血統だよね。
燃える展開だよ。
今の状況はとても燃えれないけど。

……って!冷静にテンパッテる場合じゃネェェェェ!
普通にテンパろうぜ!?僕!
テンパル自体が駄目だけどな!僕!

なんじゃあの右腕は!?

スラッシュハーケンを爆破させた上に、腕を伸ばしやがった!

つまりあれか!?
爆熱ゴッドフィンガーな右手の上に、ズームパンチな右腕なのか!?

どんだけチートなんだよォォォォ!
あんな右手だったら、ジョブサンだって、もっと楽にBIOを倒せるわァァァ!

ブモンだって、ゴッドブンダムがあんな右腕だったら、もっと楽にブンダムオブブンダムになれるわ!
デカルチャーにも程ってもんがあるんだよ!このボケェェェ!

って、こんな相手に僕はどうすりゃいんだYO!?
しかも僕に残された唯一の武器である、スラッシュハーケンも爆発されちゃったしYO!
マジで誰か教えてくれYO!?
つーか助けろYO♪イエー!チェケラ!YOYO♪チェケラ!TA♪SU♪KE♪TE!!YO♪チェケラァァ!


絶望のあまりに、ちょいと小粋なラップを口ずさんでしまった。
何と僕はラッパーの鏡なのだ。
この僕の今の心境をありのままの姿を、彩ったラップに全ブリタニアが泣いた。
むしろ世界が泣いた勢いだ。
今日から僕はDJ。AQUAだ。
世界コンサートに突入だ!
そして可愛い萌えっ子のファンの子と、毎日うっはうっはな生活を送ってやる!

しかし現実は甘くはない。
現実逃避で、DJ。AQUAと化した哀れな僕に、赤い機体は情け容赦なく襲い掛かってくるのであった。

SHI♪NU♪ZE♪チェケラ!






■紅月 カレン■





『紅蓮二式は、ナイトオブラウンズを片付けろ!
私達は、コーネリアをやる!』

「はい!」

ゼロの通信に応え、私の操る紅蓮二式は、新たに現れたナイトメア。
グロースターに向かって突き進む。
ナイトオブセブン―――アクア・アッシュフォードに向かって。

紅蓮二式の運動性能を十分に見せ付ける様に、ジグザグに進みながらも、一気にグロースターに接近する。
そして、そのままの勢いのままに、紅蓮の左手に握るナイフ―――呂号乙型特斬刀をグロースターに振り下ろす。

紅蓮の一撃をアクアのグロースターは、右足のランドスピナーを稼動させる事で、半身の姿勢になりながら避けてきた。
私の右前方に居る、グロースターに追撃の攻撃として、紅蓮の右腕―――輻射波動を搭載した、大きな右腕を下から上へ薙ぎ払うように、右腕を振り切る。
その一撃も、グロースターはしゃがみ込み、最小限の動きで避けるのであった。

二連続の攻撃を避けた、グロースターから距離を取ると、グロースターも後退し、間合いを取り直してきた。
あの二撃は、紅蓮の運動性能を知らないであろう、アクアには半ば、奇襲じみた攻撃だ。
それを最小限の動きで、ああも見事に避けられた。
流石はアクア―――ナイトオブセブンの名は伊達では無いと言う事ね。
でも…。

私はある種の失望感に似た思いが心に抱いているのを感じた。

アクアのグロースターの動きは、この紅蓮二式は元より、先ほど相手をした同型機である、コーネリアのグロースターよりも動きが鈍いのである。
コーネリアのグロースターが特別機なのか、アクアのグロースターの調子が悪いのか。それとも両方なのか。
答えは私には解らないが、この紅蓮二式よりも、アクアのグロースターの戦闘能力が低いのは間違いない。

更には、アクアのグロースターは武器を持っている様子も無い。
丸腰でこの紅蓮二式を相手しようと言うのだ。

これでは、遥かに私のほうが有利なのは言うまでも無い。
勝敗の行方は誰でも解ると言うものだ。
私はアクアと対等の戦いをしたかった。

アクアは私の憧れの一つであった。

まだ二人が幼い頃に、一度だけ出会った私達。

大切なものを取り戻したいと願った私。
大切なものを守りたいと願った、アクア。

私は運命なんて言葉を信じないが、私達二人が、敵として向き合う事は、既にあの時から決まっていたのかもしれない。

だからこそ私はアクアと戦う時は、正々堂々と同じ条件で戦いたかった。
勿論、そんな事は実質不可能である。
でも、そう思う気持ちを止められないのだ。

実際に、再び攻撃を始めた、私の紅蓮の攻撃を、唯アクアが避け続けるという、あまりにも一方的な展開が繰り広げられている。
これでは私がアクアを追い詰めるのは目に見えている。

この戦いは、私が望んだ戦いとは程遠い。

そう私が考えた直後に、動いたアクアの行動に私は自らの思い上がった心が吹き飛ばされるのを感じた。

アクアのグロースターは、紅蓮の左のナイフによる、突きを避けたと同時に、カウンターで紅蓮に突進して来たのだ。
半ば、虚を突かれた私は、その突進を食らうしかなかった。
そしてアクアの行動はまだ終わらない。

突進した勢いのままに、紅蓮の左足を、グロースターの右足で踏むように固定する。
これで紅蓮は直ぐには素早く行動が出来ない。
そして、アクアに残された最後の武器、スラッシュハーケンを放ってきた。

この瞬間、私はこれが全てアクアの目論み通りの展開だったと気付いた。

自らに残っている最後の武装、スラッシュハーケンを、紅蓮の左手に握る呂号乙型特斬刀で、切り払われないように、左の突き出しに合わせたカウンター。
紅蓮の運動性能を一時発揮させないように、自らの右足で紅蓮の左足を踏みつけることによって固定し、スラッシュハーケンの一撃を避ける選択を潰す。

私に残された選択は、スラッシュハーケンの直撃を食らうか、残された右腕を犠牲にして、直撃を避ける事しか出来ない。

アクアにとって、この一撃が直撃すれば良し、仮に右腕で防がれても、確実に右腕は潰れる。
アクアの有利になる事はあっても、不利になることはありえないという事だ。

―――この紅蓮二式の右腕が唯の右手だった場合だが。

スラッシュハーケンの射出上に、右手を構え、即座に輻射波動を発動させる。
直後、スラッシュハーケンと紅蓮の右手が接触し、スラッシュハーケンは爆散する事になった。

アクアの誤算は、この右腕に輻射波動が搭載されている事を知らなかった事であろう。

血が沸々と滾ってくるのを感じる。

攻撃を失敗したアクアのグロースターを、拘束しようと右腕を突き出す。

アクアは、事前に察した様に、こちらから離れようとグロースターを後退させている所であった。
右腕を突き出しただけでは既に届かない範囲まで、後退しているグロースター。
そして届かない相手に手を伸ばそうとしてる、私の紅蓮二式。

「取ったァァ!」

右腕に付けられた、腕全体が伸長する仕掛けを発動させ、紅蓮の右腕は間合いを伸ばす。
唯、後退をして間合いを取ろうとしてるグロースターの姿に、私は勝利を確信し、コクピットの中で吼える。
しかし私が勝利を確信した一撃を、あろうことかアクアは、今正に私の紅蓮がグロースターを捕まえようとした時、グロースターの進路の方向をずらし、紅蓮の魔の手から逃れたのであった。

アクアが私に見せた計算された攻撃。
そして今私が必殺と思った一撃を避けれた事。

それら全てが私の血を滾らせる。

そうだ、私は何を勘違いしていたのだろう?
私の目の前に居るのは軍事超大国ブリタニア帝国の中で、唯、ナイトメアの強さだけで軍人としての頂点の一角に居座る男。
帝国最強の騎士の一人であり、ナイトオブセブンの称号を与えられた男―――アクア・アッシュフォードなのだ。

何が、向うの方が不利なのが気に食わないだ。

アクアは自らの不利など気にせず、自らのできる最大限の事をしようとしている。
そしてそれに応える私が何を考えていた?
私が考えていた事は、自らの力を最大限に引き出しているアクアを侮辱している事だ。

アクアは自らの持てる力の全てを持って、私に挑んでいる。
ならば私がすること事は唯一つ。

「全てを持って、貴方に応えるだけ!」

勝負よ―――アクア!

迷いを断ち切った私は紅蓮を稼動させ、一直線に進む。

恋焦がれた、愛すべき敵の下へ。



[3303] お家再興記 13話
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2008/09/06 22:26
わっはははは!軽い軽い!しくしく。
どうした!?お前の実力は、こんなものか!?えぐえぐ。
そんな攻撃では僕に傷一つ付ける事も出来んわァァ!ひんひん。
この場は見逃してやるから、顔を洗って出直してこいやァァァ!!マジでお願いしますから。


赤い機体―――紅蓮二式の猛攻を避けながら、僕は一人コクピットの中で、騒いでいた。

僕は今、心の底から笑っている。
そして同時に心の底から泣いている。
そしてこのような状態になったのには理由があるのだ。

紅蓮二式との戦闘をこなしながら、敵と自分の戦力差について考えた。

敵を知り、己を知れば百選危うからず。

孫子なんて一見女のような名前だが実は男なんだよ。
の、昔の偉い人の言葉に従い今更だが、お互いの戦力を確かめたのだ。

先ずは敵の方!

KMFの性能―――マジで凄い。なんちゅーかランスロットって感じの勢いだ。今までラウンズとして1年以上激戦地を駆け抜けてきたが、あれ程の運動性能を持ったナイトメアとはお目にかかったことは無い。ラウンズ専用機としても十分に通用する性能だ。

武器―――右腕のごっつい鉤爪が付いた、ズームパンチなゴッドフィンガー。これに捕まったらマジでヤバイ。あの右手に捕まった時、僕は爆散したスラッシュハーケンと同じ道を行く事になる。しかも伸縮する事によって、間合いが摑み難いったらありゃない。紅蓮二式の武装の中で最も注意すべき武器だ。後は、ナイフ。地味にこのナイフがヤバイ。切れ味抜群って感じでまともに食らったらカナリやばい。スパって勢いで三枚に下ろされそうだ。最後にスラッシュハーケンって所だ。

パイロット―――あれだけ高性能の紅蓮二式をホイホイと乗りこなしているのだ。歴戦のテロリストに違いない。きっと髭もじゃで、むっきむっきのテロリストだ。街中でお目にかかりたくないタイプの人間だな。きっと。


むむむ…敵もやるじゃないか!
次!僕の方!

KMFの性能―――グロースターはKMFの中では、かなりの高性能を誇る。でも今の僕のグロースターは土砂崩れに巻き込まれて、反応が鈍くなっている。自分よりも高性能の敵、つまりは格上の相手をするには致命傷といってもいい。そして僕が敵対している紅蓮二式は明らかに格上だ。めっちゃやばい。

武器―――無し!

パイロット―――ニート志望のニブ厨。


むむむ…駄目じゃないか!僕!


結論。
勝てる要素が一個も見当たらねェェェェ!!
普通こういった、圧倒的に不利な側でも、一つ位勝つ要素があってもいいんじゃね!?
これ展開的にどうなのよ!?僕DEAD・ENDほぼ確定じゃねえかよ!

今の僕が置かれている状況のあまりの絶望っぷりに、涙が込み上げてきた。
涙早々。もらい泣き。オーイエー!YO!チェケラ!僕SHINU!

そんな圧倒的な戦力差で未だに戦えている…否、僕がやられていないのは、僕が全力で回避行動に専念しているからだ。
攻撃なんて端から考えずに、全力で回避行動。全神経を使って回避行動。全生命を賭けて回避行動しているのである。

確かにあの紅蓮二式の驚異的な運動性能から、繰り出される攻撃は凄い。

だが、如何に攻撃能力が高いといっても、防御に専念する相手を倒すというのは実に難しいものである。

命が掛かったこの戦場で、集中力を極限まで研ぎ澄ませ、全力で回避行動に謹む僕を仕留めるのは困難なものなのだ。

だが、結局僕がやばい事には変わらない。
今は何とか凌いでいるが、いつ僕の集中力が途切れるかも解らん!
此処は何か手を考えなくちゃいけない!
何か…手は無いか!?何か!?


紅蓮の攻撃を避け続けながらも、僕は灰色の脳細胞はフル作動させ、考える。
そして閃いた。
電球が見える位に閃いたよ。

もうこうなったら、いっその事、とっとと脱出装置を使ってこの戦闘から脱出しようか!?
幾ら何でも、脱出装置を使ってトンズらかませば、追っては来ないだろう。
確かに脱出をすれば、ナイトメアを失って後々大変になるが、生きてこの場から離れられるのだ。
この場で、紅蓮二式に命を狙われるよりは遥かにマシだ。
おお!考えて見れば、何て素晴らしい提案なんだ!僕、今日は冴えてるぜ!
では早速脱出をォォォ!

さらばだ!紅蓮二式とやら!今日の所は勝ちを譲ってやろうではないか!
だが次に合間見えた時こそ、貴様の最後だァァ!
わっはははははは!さらばだァ!…って、はあぁ!?

やられ役の悪役フラグを全開で展開しながら、両手脇にある脱出装置に手を掛け、今正に脱出せんとした時、僕はある一つの考えを思いついてしまった。

今僕が、この戦場から抜け出すという事は、あの紅蓮二式が自由になると言う事になる。
僕と言う標的を見失った紅蓮二式は仲間の援護に向かうであろう。
そして今コーネリア殿下は、両手を無くしながらも、勇猛な戦いを見せつけ、グラスゴーのコピー数機相手に、ほぼ互角の戦いを演じている。
そんな時に仲間の援護に駆けつけた、紅蓮二式が乱入したらどうなるだろうか??
コーネリア殿下の敗北決定である!



僕が逃げたせいで~コーネリアが殿下やられちゃいました☆テヘ♪



言えねェェ!こんな報告絶対言えねェェェェ!

こんな事皇帝の耳に入ったら、僕自身がブリタニアの進化の証明として、暗殺されてしまう!
あのやばすぎる眼光で抹殺されてしまうゥゥ!

武器も無くて、相手を倒す事も出来ないのに、逃げる事も出来ないなんて、ドンだけな状況なんだよ!

もうこのまま、避け続けるしか道は無いのか!?無いんですか!?無いんだな!?こんちくしょォォ!!

凄まじすぎる絶望っぷりに、自分でも知らずに、笑いが込みあがってきた。
人間本当に追い込まれると、不意に笑いが込み上げてくるものだ。
人、それを開き直りという。

わっははははは!いいだろう!紅蓮二式とやらのパイロットォ!
お前に皇帝直属の騎士団であり、帝国最強と謳われるナイトオブラウンズの戦場を垣間見せてくれよう!
もう避け続けるしか後が無いと判ったら、覚悟が決まった!
アドレナリンとかエンドルフィンとかが僕の脳内を駆け回ってるぜェェ!最高にハイって奴だ!
このアクア・アッシュフォードには夢がある!
ニートの中のニート!
ニート・スターとなる前に、こんな所で死んでたまるかァァ!
ナイトオブセブンの誇りと意地にかけて、避けて避けて避けて、お前が攻めるのが馬鹿らしくなる位避けまくって見せるわァァ!
ナイトオブセブンの避けっぷりィィ!しかとその眼に焼き付けろよォォォ!う…えぐ…ぐす…。

でもやっぱり涙が出てきちゃった。
だって男の子だもん。







■紅月 カレン■



今目の前に相対しているのは、グロースター。
ナイトオブセブンであるアクア・アッシュフォードと一騎打ちを繰り広げている、私の心は焦燥に満ちていた。
戦いは私の紅蓮二式が終始攻めを続け、アクアのグロースターが避け続けるといった攻防が繰り広げられていた。

一見、私の紅蓮二式が攻め続け、グロースターは唯ひたすらに避け続けているだけの戦闘。
それは事実だ。
このままいけば、私の勝利は間違いないだろう。

だが、それでも私の心は焦燥に満ち溢れていた。

戦いは私が攻め続けて、アクアが避け続けるだけの、私の圧倒的有利な戦い。
この戦いを始めて、大分時間が経った。
もし一般兵が乗る、サザーランドやグロースターならば、10機は破壊しているだろう攻撃を繰り返してきた。
それなのに私は一度もアクアに攻撃を当てる事が出来ていなかった。

工夫を凝らし、フェイントなどを混ぜた、変則的な攻撃も避けられる。
紅蓮の蹴りなどといった攻撃はガードなどで捌くが、致命傷となるナイフや右手の一撃は確実に避けている。

アクアに攻撃が当たるイメージがどうしても思い浮かばない。
このまま攻撃を続けても、無駄だとさえ感じさえする。
これが今の私とアクアの力の差ということなのか…!

だがアクアは何を考えているのだろうか?

いくら武器が無いからといって、何の攻撃もせず、このまま避け続けるだけならば、自ずと私に勝利が転びこむ確立は高くなる。
援軍を期待している?
いや、それはありえない。
私達黒の騎士団と、日本解放戦線の一部の部隊で、コーネリアへの援軍は完璧に途絶している。
仮にこの網を抜け出せたとしても、数機程度ならこの紅蓮二式の敵では無い。

あの冷静なアクアがこのような考えは起こさないだろう。

それじゃあ…何を狙っているの…?

グロースターが間合いを離そうと、後方へと移動する。
それを逃がさないと、追撃しようとした時、ふと目に入った紅蓮の状態を示すモニターを見て、アクアの狙いに気付いた。


アクアは紅蓮二式のエナジーフィラー切れを狙っている!?
その答えが判った時は既に時遅し。
紅蓮二式のエナジーフィラーはかなりの量が減っていた。

エナジーフィラーは全てのナイトメアの生命線。
如何に、巨大な力を持つナイトメアでも、エナジーフィラーが切れた時、そのナイトメアは巨大なただの人形と化す。

私の紅蓮二式は、アクアに攻撃を当てようと、多彩なフェイントを入れたり、様々な行動をした。
それに対して、アクアはできるかぎり最小限の動きで私の攻撃を避け続けた。
まして、私の紅蓮二式はハイスペック機。
運動性能が高い分、エナジー消費が激しいのだ。
これではどちらが先にエナジーフィラーが尽きるのかは目に見えている。

アクアは、最初っからこれを狙っていたのか。
純粋な戦闘では勝ち目が無いと見て、己が最も勝利を拾える作戦を繰り広げてきたという事ね。

ラウンズの戦場に敗北は無い。

それがラウンズを象徴する言葉の一つ。

私はアクアの思惑通りに踊らされたと言うことなのね…。


上等!

沸々と血が煮え滾るのと同時に、心の中に戦意が溢れて来るのを感じる。
やはりアクアは凄い!
幼い頃に私が憧れた―――否、今も憧れている存在だ。

残りのエナジーで必ず貴方を仕留めてみせる!
ラウンズの戦場に敗北をプレゼントして見せるわ!






■アクア・アッシュフォード■



ぎゃーーーー!
死ぬ!僕は今日此処で死ぬ!絶対死ぬ!
追い詰められた鼠は猫を噛む!なんて勢いで敵の攻撃を避け続けたが、僕の集中力もグロースターもとっくに限界突破だーーー!!
しかも唯でさえ、紅蓮の攻撃が物凄いのに、途中からさらに勢いを増してきやがった!
土砂崩れに飲み込まれて、調子の悪いグロースターを無理に動かしたせいで、更に反応が鈍くなってきたし!
何よりも僕の集中力が限界に達してきた!ぶっちゃけ、これ以上避けられる自信が無い!

どうする!?僕はこの状況でどうすればいいんだ!?
もういっその事、皇帝に殺される覚悟で、コーネリア殿下を見捨てて、脱出装置でおさらばするか!?
でもやっぱり皇帝も怖いし!?あのコーネリア殿下のおっぱいも捨てがたい!
ああ!混乱してきた!誰か僕を冷静にさせてくれェ!
ってまたキタ!

紅蓮が再び接近してきたので、間合いを離そうとランドスピナーを稼働させ、後退する。

とりあえず、出来る限り避けまくるしかない!
上手く行けば援軍とか来てくれるだろう!多分!
頼むから持ってくれよ!僕の集中力とグロー『バキ!』スター…って、バキ??

その音が発せられた途端、僕のグロースターは大スピンを起こしていた。

なんじゃーーー!?
いきなりグロースターが大スピンしてるぜ!?
もしかしてランドスピナーがぶっ壊れたーーー!?

僕の予想は的中していた。
グロースターの右足に装着されていたランドスピナーが破損し、使用不可能になったのだ。
そして左足のランドスピナーだけが動いている状態なので、その場でスピンすると言う現象になってしまったのだ。

恐らくあの土砂崩れによって、ランドスピナーに激しいダメージが加わったのであろう。
そこに、紅蓮二式の攻撃を避ける為にあれだけ無茶な回避行動を取ったのだ。
ランドスピナーが限界に達し、自壊したのであろう。

…って、冷静に言ってる場合じゃねェェ!
こんな大チャンスを見逃してくれるほど敵は甘くない。
接近した紅蓮二式がその右腕を突き出してきていた。

だ、駄目だ!こんなスピン状態じゃ、防ぐので精一杯だ!

グロースターの胴体部へと伸ばされた一撃を、何とか左腕を使い防ぐ。
しかし左腕をがっちりと掴まれてしまった。
そして始まるゴッドフィンガー。
まるで内側から沸騰するように、ボコボコと左腕が膨らんで行く。
その膨らみを胴体部へと浸入させない為に、左腕をパージする。

成る程。
コーネリア殿下のグロースターの両手が無い理由が解かった気がする。

さて、理解できた所で、この状況をどうしようか?
左腕を失った上に、ランドスピナーは片輪が破損して、もはや高速移動ができない状況である。
つまりは、防御も右腕一本でしなくちゃいけなくなった上に、もう敵の攻撃を避ける事すら難しくなった…否、出来なくなったと言う事である。
しかも他の部分も実にヤバイ。もはやグロースターは活動限界と言ってもいいくらいだ。
この満身創痍の中、どのようにしたらこの場を切り抜けられるだろうか。
脳細胞をフル活用する。
灰色の脳細胞から、ピンク色の脳細胞になる位にまで活用する。

結論。

無理です。
どう考えても無理です。


ああ!もう無理じゃ!無理なんだよ!ちくしょォォ!
こんな状況を切り抜けられるなんて、ナイトオブワンのビスマルクのとっつぁんでも無理だって!
今日が僕の命日となってしまうのかァァ!
ファーストチューも体験せずに僕は死ぬのか!?
ああ!死ぬ前にアーニャタンとかナナリーとかとチューしたかったァァァ!できたらその続きもしたかったァァァ!というかハーレムがしたかったァァァ!

この世に未練たっぷりの僕に、紅蓮がじりじりと近づいてくる。
一歩一歩死が近づいてくるこの感触。
最悪だ。
神様のお告げ通りに進んだ結果がこれだ。
神は僕を見放したのだ。
死ねよ、神様。
でも、できれば地獄より天国に連れて行ってください。神様。

そして紅蓮は遂に、神に祈りをかましている、僕を仕留めようと飛び掛かろうとした時、救世主は爆音と共にやってきた。
辺りにに土煙が舞い踊る。
周囲を吹き飛ばす勢いで何かが来たのだ。


その何かは…。

「ランスロット!?」

土煙が晴れて、視界に入ってきたのはナイトメアだった。
世界唯一の第七世代KMF、ランスロット。
圧倒的な運動性能と、強力な武装を数々と持ち、ラウンズ専用機となってもおかしくない程の、屈強なナイトメアである。

そのランスロットが今僕の目の前に、居るのだ。
ぶっちゃけ天使に見える。
そしてその天使に乗っているのは…。


『総督!アッシュフォード卿!
ご無事ですか!?救援に参りました!』


この声はやっぱりスザク!
ああ!スザク!今の君になら僕は封印されし、この尻を捧げてもいいかもしれない!
それ位に今の君はカッコいいよ!ギランギランに輝いているよ!もはや百万ボルトだよ!君の瞳に乾杯だよ!

『ランスロット!
私の事は気にするな!
アッシュフォード卿の援護に回るのだ!』

オープンチャンネルで、殿下のありがた過ぎる通信が耳に入った。
ごっつ愛してます!殿下!

その命令にスザクは従い、紅蓮へと襲い掛かる。
そして新たな敵の登場に、対応に負われる紅蓮二式。
僕の命が助かった。

ランスロットは高くジャンプをして、回転を始める。
そしてたっぷりと遠心力を付けた、回し蹴りを紅蓮へと叩きつける。
しかしその回し蹴りは、紅蓮の右手によって防がれていた。
回し蹴りを叩き込んだ、左足を右手で掴んでいたのだ。
そして始まるゴッドフィンガー。
しかしそれは失敗に終わる。

ランスロットにっとって幸運だったの、サンドボードを付けていた事だ。
砂上走行用としてナイトメアの脚部に取り付けられるサンドボードは、例えパージをしても、それほど戦闘には支障は無い。

紅蓮はサンドボードの部分を掴んだために、ランスロットは唯、サンドボードをパージするだけで、その魔の手から逃れられたのだ。
紅蓮の右手に、切り離されたサンドボードが爆破する。

「気を付けろ!ランスロット!
この機体の運動性能は半端じゃない!
それと右腕に捕まると、捕まった箇所が爆破するぞ!」

『はい!』

スザクに通信でアドバイスを飛ばす。
アドバイスといっても、ろくな情報じゃないが、無いよりはマシだ。

そして始まる大決戦。
二つの高性能の機体は、互角の戦いを演じ始めた。
運動性能は、両機ともほぼ同じ。
武器は、ヴァリスやメーザーバイブレーションソードと言った、多彩な武器を持ち、近距離、中距離、遠距離に対応できると言っていい万能型のランスロット。
攻撃、防御、または移動にすら仕える脅威の右手を持ち、スラッシュハーケンを除けば、完全な近距離専用機となっている紅蓮二式。
お互いの持ち味を使った、激しい戦闘が繰り広げられる。
その激しさと苛烈ぶりは、ラウンズ同士の戦いと比較しても遜色は無い。


そんな手に汗を握る戦闘の中、僕もまた一つの戦いを演じていた。
その戦いとは…。

フレ!フレ!ス・ザ・ク!フレ!フレ!ス・ザ・ク!
ガンバレ!ガンバレ!ス・ザ・ク!ガンバレ!ガンバレ!ス・ザ・ク!
おおーーーー!イエーーー!!


勿論スザクの応援である!

物理的に応援しようにも、このボロボロのグロースターで、あの二機の戦闘に加わるのは自殺行為である。
何よりも僕自身が戦闘に加わりたくないし。
だから、ここは僕の熱いハートによるエールで、スザクを援護しているのだ!

さあ!君たちも一緒に、スザクを応援しようではないか!
今から僕達はスザク応援団員だ!
てゆうか、僕はいったい誰に向かって語りかけているのだろうか!?
変な電波でも受信したのか!?
まあ、いいや!さあ、レッツザ応援!スタート!

甲子園の出場チームを応援する、応援団のように青春の汗を流しながら、必死にスザクを応援する。
この輝く汗と、流れる涙。
正しくこれぞ青春!
戦場の青春だァァァ!

いい感じで熱狂しながら応援していたが、此処で重要な事に気付いた。

今なら僕脱出してもいいんじゃね!?

スザクが来て、殆どいらない子状態となった今の僕なら、この戦場から居なくなっても、支障は無いだろう。
本来なら、紅蓮の相手をランスロットが務めている間に、殿下の援護に回るのが筋なのであろうが、今のこのグロースターでは逆に、殿下の足手まといになってしまう可能性がある。
何よりも僕がこの場から離れたい。
即刻離れたい。光りの如く離れたい。
と言う訳で、脱出決定!

いしょっしゃーー!今こそ、この禁断の脱出装置を使う時がキターーー!

ふわっははははは!さらばだ!紅蓮二式よ!
この私と戦いたければ、私の手下であるランスロットを倒してから来るのだな!
貴様が私の元へ辿り着けるか楽しみにしているぞ!辿り着けたらの話しだがな!
ぐわっはははははははは!


悪役フラグ全開で、いざ、脱出せん!と両脇にあるレバーを同時に引こうとした時、ランスロットと崖際で戦っていた紅蓮が落っこちた。

はれ!?紅蓮落っこちた!?

その視覚情報のあまりのインパクトっぷりに、レバーを引くのを忘れていると、気が付くとランスロットが近くに来ていた。

おお!
お疲れ様!スザク!
良くぞあの機体を倒してくれた!
僕は脱出するから、後は宜しくね!

そう伝えようと、通信を開いた僕であったが、先に通信を寄越してきたのは、スザクの方であった。

『あの機体は片付いた!
直ぐに、殿下の援護に向かいましょう!』

とりあえず解った事は、脱出の機会を逃してしまったようだ。
かなり凹む現実だ。
とっとと逃げてればよかった。


その後の展開は、僕とスザクの二人で殿下の援護に回った時、黒の騎士団は撤退を決意した。
ボロボロと化した、僕と殿下のグロースターではこれ以上の追撃は不可能と判断し、殿下はスザクに単機での、追撃を命じた。
コーネリア殿下の我らの負けだという、自らの敗北を認める言葉にて、このナリタ連山の戦いは幕を閉じるのであった。



ああ、生きてるって素晴らしいなぁ。



[3303] お家再興記 番外編 2上
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2008/09/28 23:34
「では只今より!
ナイトオブセブン歓迎会INアッシュフォード学園!を開催しまーす!
イエーーーー!よっろしくぅぅ!」


マイクによって拡張された姉さんのノリノリな声が辺りに響きまわると同時に、万雷の拍手と歓声が辺りを覆いつくした。
今僕が居る場所はアッシュフォード学園の中庭に建てられた、ナイトオブセブン歓迎会特注会場である。
この歓迎会の為だけに作られた会場である。
ぶっちゃけ無駄にも程ってものがある。
姉さん。あんたはっちゃけ過ぎです。マジで。

会場には全校生徒といって言い生徒達の姿が見える。
皆、盛り上がっているようで、実に楽しそうだ。
この会場爆破すればいいのに。


そんな楽しそうな様子を会場の中心から、死んだ魚の目で見つめる一人の男。
ぶっちゃけ僕です。

「皆さん!今回の私の弟である、ナイトオブセブンのアクア・アッシュフォード歓迎会の出席ありがとうございます!
私は司会者兼出場者のパートナーを務める、生徒会長であり、アクアの姉であるミレイ・アッシュフォードです!
宜しくね!」

ウインクをばっちり決めて、司会者の姉さんはものすごくノリノリだ。
そのノリに引かれて、盛り上がるその他学生達。
それに比例して盛り下がる僕のテンション。
気分は最悪だ。
最悪なんだよ。畜生。

だがそれも仕方がないというものだ。
僕のテンションががた落ちなのは理由がある。
物凄い理由があるのだよ。

「では!今回の歓迎会の内容を説明しまーす!
この会場の壇上に居る10名の男子は、生徒会のメンバーと、参加者を募集して集まってくれた学生達です!
彼らには今からなーーんと!」

ここで姉さんは一度溜めを作ってから、この歓迎会の趣旨を言った。
僕にとっては迷惑千本なこの歓迎会の趣旨を。

「女の子になってもらうのです!
もっとてっとりばやく言えば女装です!イエーーー!」

ドンドンぱふぱふ!という効果音と共に、姉さんはノリノリ全開で告げていた。
そしてそれに呼応して、盛り上がる生徒達。
皆、食中毒になって寝込めばいいのに。



イエーーーー!じゃねえよ!姉さん!

これが僕のテンションがた落ちの理由だ。

ナイトオブセブン歓迎会。
つまりは僕の歓迎会なのに、何故か僕が女装するハメになっているのである。
しかもその姿を、全校生徒にお披露目するという拷問付なのだ。
何?その羞恥プレイは?
僕はまだ女装して喜ぶほど、落ちぶれてねえよ!
だー!女装姿なんて、軍の関係者に見られたら、もう自殺ものだよ!
腹キーリで介シャークものだよ!
ラウンズが女装するなんて、ブリタニア帝国の歴史上初めてじゃないのか!?
こんな史上初なんて嫌だァァァァ!
どうせ史上初になるなら、ラウンズ史上初のニートになりたかったァァァ!

「ではここで皆さんに、ルールを説明しまーす!」

葛藤する僕を余所に、姉さんの説明は進んでいた。

「参加する生徒達にはそれぞれ、自分のパートナーとなる女子生徒がいます!
そのパートナーの女性に、衣装やメイクをしてもらうのです!
制限時間は、開始を宣言されてから二時間の間です!
その間にパートナーは男子生徒を、華も恥らう女子生徒とせねばならないのです!
つまりは、この大会に優勝するには、男子生徒の器量だけで無く、女子生徒の協力が不可欠と言う事です!
パートナーの女子生徒の皆さん!貴女の腕に、パートナーの優勝が掛かっていると言っても過言じゃ無いわよぉ!是非とも頑張ってパートナーを綺麗な女の子にしてね!
そして観客の皆さんの投票でこの大会の優勝者を決めるのです!
貴方の一票がこのアッシュフォードの歴史を変える!
皆さんの投票をジャンジャンお待ちしてます!」

姉さんが本当に楽しそうにルールを告げる。
そんな姉さんを、僕はやはり腐った魚の目で、虚ろ加減な視線で見つめた。

これがこの女装大会の大まかなルールだ。

衣装選びや、メイクの制限時間は二時間。
出場生徒、一人に付き一人の女子のパートナーが付き、衣装やメイクをしてもらうのだ。
僕達生徒会の男子には、目が見えないナナリーを抜かした、生徒会女子一同に付いてもらう事になっている。


公平に、くじ引きでパートナーを決めた結果。

僕がシャーリー。
ルルーシュがカレン。
スザクが姉さん。
リヴァルがニーナ。

このような組み合わせとなった。
スザクが、くじ引きでミレイと名前の書いてある紙きれを引いた時、スザクには申し訳ないと思いつつも、僕は心の中でガッツポーズを取ったものだ。

「………パートナーが姉さんじゃなかったのは不幸中の幸いだな」

「………全くだ」

心の安堵の要因を思わず呟くと、隣で僕と同じく、腐った死体の目をした男―――ルルーシュが同意の声を上げていた。

なんてったって、あのお祭り大好きな姉さんである。
場を盛り上げる為にはどんな事であろうと惜しまず、妥協をしない姉さんを、女装のパートナーにしたら、どんな姿にされるか。
僕は、スザクが美川憲一のような衣装で現れても驚かないと心に決めている。
ちなみにこの大会は、当初の予定では外部からもお客さんを入れる予定であったが、僕とルルーシュが全力で阻止した結果、なんとか学校内の内輪だけでやることになった。

スザクに対して僕のパートナーである、シャーリーは常識の分別がある、心優しい少女だ。
僕がこの大会にやる気が皆無なのは周知の事実である。
女装でも、まだそんなに恥ずかしくないレベルにしてくれと頼み込めば、シャーリーならば了承してくれるだろう。
それはルルーシュのパートナーである、カレンもそうだ。
そしてリヴァルのパートナーであるニーナもだ。
というか、姉さん以外なら皆了承してくれるだろう。
スカートなんてもう履くのは死んでもご免だ!
ここは、まだダメージが軽いパンツの方で攻めるべきだな。

にしてもまさか…。

「また女装するハメになるとは…」

「な!?」

僕の呟きを聞いた、ルルーシュが信じられないような物を見るような視線で僕を貫いてきた。
文句あるんかい?このシスコンが。

「ア、アクア…!お、お前、女装をした事があるのか…!?」

地味に僕から距離を取ろうとしているルルーシュがむかつく。
手前だって女装してるくせに。


僕から逃げようとしているルルーシュの肩をガシリと掴み、僕は腐った魚の目から、全てを悟った賢者の瞳に変え、ルルーシュに向ける。
今の僕は仏陀だ。
全てを悟り切った偉人と同格の存在なのだよ。
気分的にはね。

「ルルーシュ…。
僕の姉が誰なのか…忘れたのかい?」

「………そうだったな。
すまない、アクア」

「気にすることはないさ…ルルーシュ」

僕と同じく、全てを悟った賢者の瞳へと、変化させたルルーシュに頷きを持って、許しの言葉を紡ぐ。
この言葉だけで意味が通じ合う僕らは、本当に幼馴染なんだと実感してしまった。

そう―――僕の姉は、天下のお祭り大好き女、ミレイ・アッシュフォードなのである。
僕がまだ幼い頃、そりゃもう、毎日の如く、弄くられまくったものだ。
ぶっちゃけ、あの頃の僕は実写版リカちゃん人形改め、アクアちゃん人形と化していた毎日であった。
ああ、そうさ。フリフリドレスだって着たさ。
ゴスロリ上等の毎日を送ったさ。
文句あるかい?あるだろうなぁ。
恥ずかしすぎる過去だ。
女装している僕の姿を、姉さんと一緒に悪乗りした爺が動画として保存しており、その動画をニブニブ動画に投稿しようとしたのを全力で阻止したものだ。
………爺に対して改めて殺意が沸いてきた。
爺は必ず殺す。
必殺と言っていい位に抹殺する。
誰か、青狸と知り合いの方がいらっしゃいましたら、当時の僕を姉さんと爺の魔の手から助けてやってください。
真面目に助けてやってください。
本当にお願いしますから。

ちなみに、今回の大会のトトカルチョで、断トツの優勝候補は、隣で虚ろな視線で虚空を見つめている男―――ルルーシュだ。
去年と今年の実績で、断然のトップだ。
女装の実績とは何とも嫌な実績だが。

ちなみに次の優勝候補は何故か僕。
その次にスザクが候補に上がっている。


しかしスザクも姉さんという、爆弾女がパートナーとは可哀想な者だ。
僕とルルーシュは、常識人と言えるシャーリーとカレンなので、ちょっとした恥だけで済むが、スザクはそうはいかないだろう。
僕はスザクが小林幸子のように巨大化して現れても、驚かないと心に決めている。

スザク!骨は拾ってあげるからね!安心して玉砕してくるんだ!

「さーて!
ルールを説明した所で、今まで伏せられていた、この大会の優勝者に対する賞品をお知らせします!」

被害者に同情の視線を送っていると、加害者がチョーノリノリで説明を続けていた。


姉さんは、この大会の優勝者に対する賞品の情報を少しも公表していなかったのだ。
僕達生徒会のメンバーにも一切秘密と言う徹底振りで、姉さん以外は誰もこの大会の賞品を知らないと言った状況なのだ。
まあ、賞品とは言っても、女装大会なんてふざけた大会だが、仮にも学校行事という名目だ。
賞品といっても大したものではないであろう。
優勝トロフィーに何か付いてくる位で…。

「優勝者には、今私が持っているトロフィーと共に!
なーんと!私の熱いキッスをプレゼントしまーす!」

「ぶふぉ!?」

姉さんのサプライズ過ぎる、優勝賞品に参加者や観客から様々な反応が、割れんばかりに轟き始める。
いいぞー!とはやし立てる生徒。
やめてくれー!と悲観に暮れる生徒。
生徒の反応は様々だ。

ちなみに僕は噴いた。
素で噴いてしまったよ。
そして沸々とある感情が湧き上がってきた。
人、これを嫉妬と言う。

おいおい!姉さん!
一応嫁入り前の身なのに、何をはっちゃけっちゃってるんすか!
リヴァルなんか、やるぜー!ってちょーやる気になってるじゃないですか!
ねねねねねね、姉さんのくくくくく、唇がどこぞの馬の骨に奪われるなんて…!
駄目!絶対に駄目!
そんな事、この皇帝直属の騎士団の一員であり、ナイトオブセブンの称号を託された、アクア・アッシュフォードが全生命を賭して許しませーーーーーん!
それならばいっその事、姉さんの唇はこの僕がァァァァ!………って、え゛え゛!?!?


僕って奴は何て事考えてるんだァァァァァァァ!
よりにもよって、実の姉の唇の行方に嫉妬するなんてェェェェ!
しかもその実の姉の唇を奪おうと考えるなんてェェェェ!
インモラルだ!インモラルにも程があるってものがあるんだぜェェェ!
もはや、淫盛らるって勢いだァァァァァ!

おいーー!しっかりしてくれ!僕!
僕はこんなキャラじゃないだろう!?
僕はもっとクールでナイスな男のはずだろう!?
こんなシスコン関係はルルーシュの分野のはずだ!

違う!僕はルルーシュとは違うんだ!
僕は決してシスコンじゃないんだァァァァ!

嗚呼!でもやっぱり、嫉妬しちゃう心がある事が自分でも、わかっちゃうんです!
僕はどうすりゃいいんじゃァァァァァァ!
誰か悩める子羊な僕に答えを教えてくれェェェェ!

神はなんたる試練を僕に与えるのだ。
姉さんの唇がかかったこの状況で僕は悩む事しかできなかった。
そんなインモラルに苦悩する中、僕の目に入ったのは、達観したような目をした、あたかも全てを受け入れた賢者の瞳をしたルルーシュであった。
その時、ある考えが僕の脳裏を過ぎった。

そうだよ。
今思えば、この大会はルルーシュが優勝するのが決まっているような出来レースみたいなものじゃないか。
姉さんはそれが解っているからこそ、このような賞品にしたのではないのだろうか?
そしてルルーシュは、姉さんの元婚約者。
つまりはこの出場者の中で、最も姉さんのくくくくく、くちびーるを受け取るに相応しい人物ではないのか?
ルルーシュは、シスコンで執念深い人物だが、自分の身内と定めた人物は、自らの持てる力を使い、守ろうとする強い意志を持っている男だ。シスコンだけど。
そのルルーシュになら、姉さんのくくくくく、唇の端位なら許してやってもいいかもしれない。重度のシスコンだけど。

ね、姉さんだって、多分ルルーシュが勝つと分かっているから、このように自らのくくくくくく、嘴を賭けるような真似をしたのであろう。
それが姉さんの願いと言うならば、僕はその願いを叶えるだけだ!ああそうさ!決して畜生!ルルーシュの事を殴り殺したい!なんて思ってないさ!ああ!多分!
故にトトカルチョで、ルルーシュの次に優勝候補となっている僕は、当初の予定通りに地味目な女装で、優勝を取らないように気を付けるだけだ!

ルルーシュ!手前ェェェェェェェェ!絶対に勝てよォォォォォォォォ!死んでも勝つんだぞォォォォォォ!
もし負けたら、罰としてお前の愛するナナリーと僕がチューしちゃうからな!チュッ☆チュッ☆しちゃうからなァァァ!
…って、ナナリーとチュッ☆チュッ☆?
……………僕がナナリーとチュッ♪チュッ♪

その考えに至った僕は、脳裏にナナリーとチュッ☆チュッ♪する姿を思い浮かべた。
恥ずかしがりながらも、嬉しそうに僕とチュッ♪☆チュッ☆♪するナナリーの姿を思い浮かべたのだ。
そ…想像しただけで…鼻血が出そうだ。
思わず鼻を押さえてしまったよ。
流石は萌えの使者ナナリー。
想像だけでも破壊力は抜群だ!
恐ろしいまでに抜群だ!

………や、やっぱぁ。負けてもいいかもしれないね。ルルーシュ。うん。

いや、いや!何を考えてるんだ!あのシスコンのルルーシュがそんな事許してくれるはずがない!

と、とにかく!僕がすべき事は、僕が勝たない事だ!
出場者を見て、僕から見てもルルーシュが優勝候補だと思う。
ルルーシュの次の優勝候補である僕が勝たなければ、おのずと優勝はルルーシュの頭上に輝く事になる。
大変に遺憾な事だが、姉さんのくくくくくくくくく、嘴の端っこはルルーシュに委ねるよ!
と言う訳で。
やっぱり勝てよぉぉぉぉぉ!ルルーシュゥゥゥゥゥゥ!
もし負けたら、グロースターで引きずり回しの刑に処するからなァァァ!
僕は本気だぜ!?その命が惜しければ、死ぬ気で勝つんだァァァァ!
勝って勝って勝ちまくるんだァァァァ!
オール・ハイル・ルルーーーシュ!!


ついついルルーシュに対して、殺気紛いの眼光を放ってしまった。
気分はブリタニア皇帝だ。
その視線をルルーシュは戸惑い気味に、受けていた。

「それでは!只今よりナイトオブセブン歓迎会を開催宣言を致します!
皆さん!二時間後を楽しみにしていてください!
それではよーい………にゃーーーーー!!」


姉さんの気の抜ける開催宣言と共に、辺りからは割れんばかりの歓声と怒号が埋め尽くされる。

僕達出場者はパートナーの下へと駆けるのであった。






■シャーリー・フェネット■


会長の口から告げられた、この大会の賞品の内容に私は少しの間呆然としてしまった。

でもそれも、仕方がないと自分でも思うの。

だって、優勝者は会長とキスしなくちゃいけないのよ!?

そしてこの大会の優勝候補筆頭は、ルル。
つまりは、ルルが一番会長とのキスに近いって言う事なんだから!
そんなの駄目!会長が何と言おうと駄目なんだから!

「それでは!只今よりナイトオブセブン歓迎会を開催宣言を致します!
皆さん!二時間後を楽しみにしていてください!
それではよーい………にゃーーーーー!!」


会長の変な開催宣言が発しられたと同時に、私は会長の下へと走るのであった。

「ちょっと会長!」

「あら?シャーリー。
どうしたの?」


「どうしたじゃありませんよ!
なんですか!?あの優勝賞品は!?」

「何って言葉通りの賞品よぉ。
優勝者には私の熱いキッスをプレゼント!ってやつよ」

私の言葉を聞いた会長は、人が悪そうな顔をしながら、何処ぞへと投げキッスをしてきた。

「別にいいじゃない。
どうせ優勝はルルーシュかアクアでしょ?
ルルーシュの女装っぷりは去年と今年の男女逆転祭りで証明されてるし。
アクアは元から女顔だし。
それに小さい頃から女装させてたから、あの子の女装は保証出来るわよー!
アクアは弟だし、ルルーシュは長い付き合いなんだから、キス位別にいいんじゃない?」

キス位なんて…!?

「よくないですよ!会長!」

ルルとキスだなんて、何て羨ましい!…じゃなくて!

「まあまあ聞きなさい、シャーリー。
いい?さっきも行った通り、この大会は優勝争いはルルーシュとアクアの一騎打ちとなると思うわ」

会長は、私の肩に両手を置きながら、諭すように話しかける。
その話しの内容に私も頷きを持って同意する。
そして同意できる内容だからこそ、会長の賞品には反対なのだ。
ルルとアクア君が最たる優勝候補!
単純に確立で言えば二分の一の確立でルルと会長がキス!
そんなの駄目!絶対に駄目!

「素材となる二人は同レベル。
じゃあ、この大会の優勝者となるには何が勝利の秘訣となると思う?」

「何が勝利の秘訣って…どれだけ上手く、女装したかじゃないですか?」

会長は真面目な顔つきをして私に問いかけてくる。
その問いに私は答える。
しかし何故だろう?
会長は至って真面目な顔つきなのに、何処か子悪魔な表情に見えて仕方がない。

「わかってるじゃない!
つまりは、二人の勝負の行方を決めるのはパートナーの腕しだいって事よ!
そしてアクアのパートナーは誰だったかなぁ?」

「そりゃぁ…私……って、あぁ!?」

会長の言わんとしている事に気付いた私は、思わず声を上げてしまった。

「そう!
貴女がアクアを思いっきり綺麗な女の子にしちゃって、優勝させちゃえばいいのよ!
そうすればキスはルルーシュの元へは行かない!」

会長はニヤリと子悪党がするような笑みを浮かべながら、言葉を紡いできた。

「で、でも…ルルの唇を守るためにアクア君を優勝させるだなんて…。
アクア君に失礼というか…そ、それにアクア君と会長は姉弟なのにキスだなんて…」

思わず迷いが口から出てしまった。

「なーに言ってんのよ!
どっかの昔の偉い人が言ってたじゃない!
恋と戦争はどんな行為すら許される!みたいな事!
それに私とアクアは姉弟だから別にいいのよ!
キスだなんて、姉弟の間ではスキンシップみたいなもんなんだから!
毎日キスしたっておかしくないのよ?」

キスがスキンシップだなんて!?
一人っ子の私にはわからなかったけど、そうだったんだぁ。
という事は、ルルもナナちゃんとキスしてるって事!?
ちょ、ちょっとショック。
今度ナナちゃんにこっそり、聞いてみよう。

でも、会長の言う通りかも。
ルルを会長の魔の手から逃れさせるには、アクア君を優勝させるしかない。
そして私はアクア君のパートナー。
まるで運命がルルを助けるために、私をアクア君のパートナーに導いたような気がしてくる。
それにアクア君と会長はスキンシップで毎日キスをしているのだ。
今更キスの一回や二回、増えた所で問題は無いのだろう。

その考えに至った私は、毅然と顔を会長に向けて、宣言をする。

「わかりました!会長!
私の全精力をもってして、必ずアクア君を優勝させて見せます!」

「その調子よ!シャーリー!
じゃあ私は、カレンがちょっと呼んでるみたいだから、ちょっと行ってくるわね。
頑張るのよ!シャーリー!」

「はい!」


恋はパワー!
大丈夫よ!ルル!私が会長の魔の手から貴方を守って見せるわ!
ルルの唇は…私が守ってみせる!
それが私の恋の使命!


決意を固めた私は、近くに来ていたアクア君の元へと駆け寄るのであった。





■アクア・アッシュフォード■


シャーリー…シャーリーは何処かなぁ…って居た!

シャーリーを探して、辺りを見渡していると、姉さんと話しているシャーリーを見つけた。
傍に近寄ろうとすると、丁度二人の会話が終わったようだ。
姉さんがシャーリーから離れて行った。

「シャーリー。
今回の件でだが…?」

シャーリーに近づき声を掛ける。
二人がどんな話しをしていたか、少し気になったが、それよりも先にこの大会の事が重要だ。
ルルーシュに勝ちを譲るために、僕はパッとしない女装で攻める!
この作戦を先に、シャーリーに伝えなくてはならないのだ。
しかし、言葉を続けようとした時、シャーリーの様子がいつもと違う事に気付いた。
何て言うか、こう覚悟が決まっているというか、凄みを感じると言うか…。
BOBOの珍妙な冒険で言う所の、ドドドドドドドドドドド!!って空気を振動する音が聞こえるような気がする。

何なんだ!?この緊迫感は!?

一体シャーリーに何があったと言うのだ!?

なんだか、敵のスタンド使いの気迫に押されている気分である。
脂汗が浮いているのが自分でもわかる。
何だか今、この空間なら、憧れのスターブラチナを出せるような気がする。
憧れのブラブラ!ラッシュが出来るような気がする。
そんな錯覚を覚えるほどのBOBO空間だ。


「……アクア君」

「な、何だい?」

生唾を飲み込んでからシャーリーの言葉に応える。
そんな僕をシャーリーは意思の篭もった瞳で見つめる。
一つの選択を貫く事を決めた、覚悟の瞳。
その瞳が僕を貫く。

「この勝負…勝つわよ!絶対に!」

反論すら許さないと言わんばかりの、気迫でその言葉を紡いできた。
とりあえず僕に拒否権は無さそうだ。
拒否をした途端に、ひき肉になってもおかしくない。
そん凄みすら出させるシャーリーに僕が出来る事と言えば…。

まったく…やれやれだぜ。
本当に…やれやれだぜ。
なんでこうなっちまうんだよ…やれやれだぜ。
誰か僕を助けてくださいよ…やれやれだぜ。
このままじゃ畜生街道まっしくだらだよ…やれやれだぜ。
シスコンはルルーシュだけで十分なんだよぉ…やれやれだぜ。

憧れの承太郎ちっくに締める事しか僕にはできなかった。


やれやれだぜ。



[3303] お家再興記 番外編 2中
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2008/09/28 23:34
「んー…やっぱり、アクア君の髪の色に合わせて服装は一色に統率したほうがいいよね。
アクア君の髪の色は白に近い水色だから…薄い色に合わせるか、反対に黒系の色に合わせるか…」


今、僕の目の前は、大量と言っていい程の、女物の服で溢れかえっている。
和洋中…世界の女物の服装は見てるだけで、僕の心をお腹いっぱいにするには、充分の破壊力を持っていた。

僕はこの女装大会にあって、至って地味な、それこそ街中で普通に歩いている女の子のような格好で責める予定だった。
それなのに、何だ?あの豪華そうなドレスは?
何だ?あのチャイナ服は?
何だ?あのセーラー服は?
何だ?あのバニーガールは??

あの衣装達の何処が地味目なんだよォ!
どれもこれも、普通の女装レベルの代物じゃねェ!
何だ!?ナイトオブセブンである僕に、本格的に晒し者になれって事かァァ!
嫌だ!絶対に嫌だァァ!
こんな恥ずかしい女装姿を女生徒に見せてしまったら、僕の愛と淫欲の学園性活が益々遠のいてしまうわァァ!

僕の愛と淫欲の学園生殖を守るためには、この妙にやる気満々なシャーリーを止めなくては…!
先ほどは、よくわからないシャーリーの気迫に押されてしまった。
しかし、冷静に考えて見れば、シャーリーは極普通の一般的な萌え女子生徒だ。
そんな一般萌え女子なシャーリーに、戦場を渡り歩いてきたこのナイトオブセブンたる、僕が気迫で押される筈が無い。
きっとさっきのは錯覚だ。
うん。錯覚オーイエーって奴だ。
そうと判断したからには、ここで僕の意見を押し通すのみだ!

「あ、あの…シャーリー?」

「なーに?アクア君?」

衣装選びに夢中なシャーリーの背後から声を掛ける。
僕の呼びかけに、シャーリーは衣装に目を通しながら、振り向きもせず応えてきた。
チャンスだ。

よし!一気に攻めるぞ!
シャーリー!
このナイトオブセブンである、僕の攻撃を凌げるものなら凌いで見せよ!

「僕の衣装の事なんだけど…別に僕は優勝を狙ってなんか居ないから、もっと地味目な服でいいよ。
それにどうせ、この大会はルルーシュが優勝するんだ…し…?」

ここまで話して、シャーリーの様子がおかしい事に気付いた。
シャーリーは僕に背を向けて衣装を選んでいる。
唯それだけである。
しかし何故だろう?
その背中からは殺人的なプレッシャーを発している様な気がするのだ。
ドドドドドドドドドドド!!と言う、奇妙な圧迫感を感じる。
知らず知らずに、掌に汗が溜まるのを感じる。
という体全身が汗で濡れていた。
今のシャーリーならば、実はスタンド使いでした、と言われても信じてしまいそうな勢いだ。

「シャ…シャーリーさん?」

思わずさん付けでシャーリーの名前を呼ぶ。
お前どんだけチキンなんだよ、と言われそうな僕の弱腰ぷりだが、逆にシャーリー様と言わなかった僕を褒めて欲しい。
それほどまでに、今のシャーリーから感じるプレッシャーは凄まじいのだ!BIO以上のプレッシャーを放っているよ!多分!

そして僕の呼びかけに、ゆっくりと振り返るシャーリー様。
そしてその目を見た時―――僕は服従を決意した。

窮鼠猫を噛む。
追い詰められた鼠は、狩猟者である猫をも逆襲するという言葉があるが、それは本当に稀な事だ。
現実は厳しいものである。

鼠が猫に狩られるように。
蛇が蛙を睨みつけるように。
空条上太郎がチョーカッコいいように。

現実と言うのはそんなものだ。

そしてシャーリーの目は、僕に現実と言うものを教えるには充分な凄みを纏っていた。

そのシャーリーの決意に満ちた瞳に、敬意を表して僕は彼女に服従を誓ったのだ。
誤解しないでくよ?
決して、ビビッて服従したわけではない。
決して、やばい。何か服従しないと殺されるかもしれない。なんて思ったわけじゃない。
決して、ちょwマジシャーリーやばすwテラヤバスwwwなんて思ったわけではない。

「アクア君…今、何て言ったの?」

「勝利の栄光を君に!」

物凄い視線で僕を貫いてきた、シャーリー様の問いかけに、僕は敬礼をしながら、答える。

気分は赤い彗星さんだ。


僕の返答を聞いたシャーリー様は、満足したように、一度頷いてから再び衣装選びを再開したのであった。


さよなら。僕のプライド。
ようこそ。新たな女装な世界。
これぞ新世界。
ドヴォルダークって感じな世界だ。

あんまりな覚悟を決めた僕に木枯らしの風が吹いた気がした。
室内なのに。







以下は音声のみのダイジェストでお楽しみください。




「さーてと、大体決まったし、始めましょうか!
先ずは化粧ね!
ファンデーションをうまーく塗して…やだ!アクア君!
アクア君は男の子なのに、何でこんなに化粧の乗りがいいの!?」

「…さぁ?
化粧の乗りがいいなんて生まれて初めて言われたよ…」

「なーんか、微妙に納得できないなぁ…
あ!動いちゃ駄目だからね!アクア君!」

「むず痒くて仕方がないんだけど…」






「シャーリー。
このヒール、踵が高くて凄く歩きにくいんだけど…」

「我慢!女の子は、自分を少しでも魅力的に見てもらうために、色んな努力をしてるんだから!
アクア君も女の子を目指すんだったら、我慢しなさい!」


「いや…目指す気はないんだが…」








「次は無駄毛の処理ね!
アクア君無駄毛剃るよー」


「いや!
この世界の人類の98パーセントはすね毛無いですから!」







「ぐおぉぉぉぉぉぉ…!
シャ、シャーリー…コルセット…す、少し…緩めてくれ。
きつ過ぎる!」

「我慢しなさい!
女の子は好きな人に、少しでも可愛く見てくれるように、血の滲むような努力をしてるんだから!
アクア君も女の子だったら、少しは我慢しなさい!」

「いや…!僕、女の子じゃなくて、男の子…!
って、ぬォォォォォォォ!?
緩めて!お願いだから緩めて!」

「我慢しろ!
無駄な事喋ってる暇があるなら、息吐いて!」

「シャーリー…!?
性格変わってる!?
あぎャァァァァァ!
そして僕の体型も変わる!」

「体型変わるためにやってるんだから、それでいいのよ!
さあ、もっともっと絞るわよ!」

「絞るって…!?
締めるじゃなくて絞るって!?
僕の扱い雑巾レベル!?
って、あーーーーーーーーー!」


「よーし!
この調子で絞るわよぉ!」







・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・








何時如何なる時でも、時間は平等に流れる。
シャーリーをパートナーにして女装大会の準備をしている、僕達にも準備時間である2時間は、もう少しで終わろうとしていた。

今の状況は、ほぼ女装が完了した僕を、シャーリーが最終チェックをしているのだ。
メイクの出来栄え、衣装がちゃんと僕に合ってるかどうか。
シャーリー先生のチェックをちゃんと通る事ができれば、僕の女装は完成となる。



つ、疲れた…。
女の格好をするという事は、こんなにも重労働だったのか。
女性の人は、こんな事をしているのだから、大変だ。
あまりの大変さに、普段僕の心の奥底に閉まってある、僕の本性が表に出てしまった。
僕は今、この世に男として生まれてよかったと、心の底から思っているよ。



「んー…よし!OK!
これでアクア君も何処に出しても恥ずかしくない、女の子よ」

その言葉に僕は安堵の溜息を吐く。
シャーリー様からのOKサインにより、僕の女装は完成した。
あの地獄のような女装準備から開放されたのである。

しかし今の僕の気分は最悪って物である。

頭に載せたティアラが重く感じる。
剥き出しの肩が寒い。
コルセットにより絞り込まれた腹が痛い。
スカートがでかくて、自分ひとりでは碌に動けない状況。

まったくもって、女装は大変だ。
と言うか、何で僕が女装しているんだろうか?

皆この大会の趣旨を忘れてるかもしれないけど、今回の大会の趣旨は、ナイトオブセブンの歓迎なんだよ?
つまりは僕の歓迎なのに、何故僕が見世物になっているのだろうか?
しかも女装姿なんて、今世紀最大の恥を晒してまで。
こういう役目はルルーシュで良いのではないのではなかろうか。

やばい。
改めて考えてきたら、涙が出そうになってきた。
顔を下に向け、泣きそうになるのを堪える。

泣くな。
今泣いたら化粧が崩れて、また化粧地獄に戻ってしまうぞ!
涙を堪えるんだ!僕!

「どうしたの?アクア君」

シャーリーの訝しげな声に、ただ首を振ってなんでもないと伝える。
僕の首の動きに従って緩やかに揺れるベール。
どうして僕の頭にこんなひらひらなベールが存在するのであろう。
鬱になってきた。

「んもー。
アクア君ったらさっきから虚ろな目で、俯いてばっかり!
せっかくこんなに綺麗なったんだから、そんなに俯かないでよ!
ほら鏡見て見てみなよ!
とっても綺麗だよ!」

無理やりちっくに顔を上に上げられた僕は、自らの女装姿と言う、一生見たくなかった光景を見るハメになってしまう。

そして僕は衝撃を受ける事になる。

姿見の鏡に映った僕の姿は―――これ以上ないほどの、見事な女装姿であった。

僕の色素の薄い髪に合わせられた衣装は、真っ白な純白のウェディングドレス。
肩口と背中を露出させ、胸元を覆うタイプのドレスであり、清楚の中に何処か色気を感じるものがある。
僕の髪の色に併せた、付け毛を後頭部に付ける事によって、腰まで届きそうな長い髪にする。
そしてその長髪をアップにして結う事によって、チラリズムに見えるうなじがまたやばい。

メイクも僕に合わせた素晴らしい物で、男である僕の顔がどっからどう見ても、女の顔にしか見えない。
ウェデングスドレスを着た僕は、何処からどう見ても、今から愛しい人と愛の誓いを交わす女性だ。

というか、ぶっちゃけ。





ふ…ふつくしい………。








「………アクア君?
どうしたの?今度は固まっちゃって」


自分に酔いしれているという、荒業を繰り広げていた僕を現実へと連れ戻したのは、訝しげなシャーリーの声であった。
その声を聞いた瞬間。
僕の魂は慟哭を上げた。


って、はぁぁ!?
僕は何て事を考えてるんじゃァァァ!?
よりにもよって、自分に萌えるだなんてェェェェ!?
ナルシスだ!ナルシシズムだ!
ナルシスアクアだァァァ!
しかも女装した姿で萌えるなんてェェェェ!?
何が、ふ…ふつくしい………だよ!
しっかりしろォォォォ!しっかりしてくれェェェェ!本当に頼むからしっかりしてくれェェ!僕ゥゥゥ!



シャーリーの言葉で僕は現実へと帰ってきて…嘆いた。
そりゃもう、嘆いて嘆いて嘆きまくったのだ。
僕が生れ落ちて17年経ったが、こんなに嘆いたのは初めてと言ってもいい嘆きっぷりだ。
だってそうだろう?
僕は正真正銘の男だ。
実の姉に欲情してしまうような悲しい男ではあるが、男である僕が女の格好をした挙句に、自らの女装姿を見て萌えてしまったのだ。
何たる神への陵辱!もはや神々の黄昏を越える勢いだ!
このまま僕の人生、一歩間違ってしまったらゲイバーに就職しているかもしれないのだ!

嫌だァァァァ!
ラウンズからオカマさんになるなんて、北極から南極に異動するような勢いだァァァ!
異動するにも程があるってもんなんだよォォォ!

認めたくネェェェ!
今僕の胸の中で湧き出た感情は絶対に認められネェェェ!
認めてしまったら僕の世界が終わってしまうゥゥゥ!

粉砕☆!極砕☆!大喝采☆!!

並に僕の世界が終わってしまうよォォォォ!



「…今度は頭抱えて本当にどうしたの?
まあ、もう時間も無いし、控え室に向かうわよ!
アクア君!」


苦悩する僕は、謎パワーによってその勢いを増したシャーリーに引きずられてしまった。
シャーリーに引きずられている間、僕は唯こう思った。
誰かこの状況から僕を助けてください…と。

マジヘルプミー。



[3303] お家再興記 番外編 2後
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2010/01/23 21:25

僕達は…僕達は何処で間違ってしまったのだろうか?

今僕の心はそんな疑問で一杯である。

ここは選手控え室。
其処には、ホモサピエンス上、♂な方たちが必死に♀に見せようというコンセプトの下、集った面々が居る。
ナイトオブセブン歓迎会に出場する、花も吐き乱す程に、着飾った者たちが集う場所だ。

僕はその場所で唯、黄昏るしかなかった。

何故僕はここに居るのだろう?
シャーリーに着せてもらったウェディングドレスの裾を踏まないように、気をつけながら此処に辿り着いた僕は先ず始めにそう思った。

「お!アクアじゃないかー」

控え室へと入ろうと扉を開き、中に入ろうとした僕を出迎えた人物がいた。

その人物はとても僕の視界で直視するに耐えがたい生き物だった。
故に、僕はこの者を人類と認めない。
謎の生命体Xと呼ぶ事にしよう。



「こりゃまた美人になったなぁ。
だけど、俺だって負けてないぜぇ!
見ろ!この胸を!ボインボインだぜ?」


僕を出迎えた謎の生命体Xが自らの、胸に張り付いた豊満な胸を上下に揺らす。
なるほど。確かに見事な胸だ。
その人物に振り合いな程にたわわな果実。
その見事すぎる果実が上下に、たゆんたゆんと揺れている。

おっぱい星人なら目に涙を流しながら喜んでいる所であろう。
そのおっぱいが本物であり、この目の前に居る謎の生命体Xが♀だったらの話しだが。

「どうよ!アクア!
俺のこのセクシーダイナマイツな姿で、優勝を奪って見せるぜ!
そして会長の唇は俺の物だ!
あ、胸飛び出しちまった!」

というか、たわわ過ぎる果実だった。

謎の生命体Xの動きが激しかったために、胸にしまってあった胸パット…否、ドッチボールが胸元から飛び出したのだ。
床に落ち、跳ねているドッチボールを拾い上げようと、謎の生命体X…アッシュフォード学園生徒会書記リヴァル・カルデモンドは行動していた。

「ふう、これで元通りっと!
いやーこのボール中々落ちやすくて、一苦労だぜ!
本番中に落ちないように気をつけないとな」

「………リヴァル」

拾い上げたボールを再び胸元に詰めた事によって、謎の生命体Xへと戻ってしまったリヴァルがこのような事をほざいていた。

今のリヴァルの姿はチャイナドレス姿である。

チャイナドレス。
それは中華連邦で生まれた、民族衣装の一つである。
本来なら、着用した女性の脚線美を露にしてくれる、素敵なスリットから覗く脚線美に、世の男達の心を癒してくれる素晴らしい衣装だ。

だが何故だろう?
今、目の前のチャイナドレスの、スリットから覗く、足を見ても全く癒されない。
それどころか殺意が沸いて来る勢いだ。

そして胸元には、豊満すぎる膨らみ。
胸元の膨らみは、その形、大きさを問わずに世の男達の乾いた心を潤す、オアシスのような存在だ。
殆どの男は大きな膨らみに憧れを通り越して、崇拝の域まで達しているとも言えるものだ。

だが何故だろう?
今、目の前の人物の胸元は、たわわ過ぎるほどに大きく実り、バインバインと揺れまくっているとと言うのに、一向に僕の乾いた心を潤してくれない。
それどころか殺意が止めどころなく沸いて来る始末だ。

この謎の生命体Xを殺したい。

僕は自らの心から湧き出て来る殺意の波動を抑える事に精一杯だった。


「どうした?アクア。
何か体が震えてるぞ?」

必死に殺意の波動を耐えていた僕を不振に思ったのか、リヴァルは不振そうに尋ねてきた。

「いや…なんでもないよ。
唯…リヴァルの姿に驚いただけさ」

その問いに僕は必死になって殺意を隠して返答する事に成功する。
しかし言葉の端に殺気を洩らしてしまっていた。

いかんぞ!アクア!冷静になるのだ!

こういうときこそ、ブッチ神父の教え通りに素数を数えるのだ。
素数は割り切れない間抜けな数字。
その間抜けな数字は僕を冷静にさせてくれる。

いつぞやの忘れたい過去。
姉さんにフルチャージ事件の時には、まったくといっていいほど、効果が無かったが今ならば効果があるだろう。

よーし!早速数えるぜ!

2…3…5…7…11…13…17…ふぅ。

心の中で、素数を数える。

やはりブッチ神父の教えは凄い。

あれ程リヴァルへの殺意に燃えていた僕の心は、穏やかに落ち着き、もはや全てを悟った賢者の領域にも達しようとしていた。
ちなみに、念のために言っておくが、最後のふぅは賢者タイム突入のふぅでは決して無いので、誤解なきように。誤解なきように。
大事な事なので二回言いました。

今の僕は仏陀だ。お釈迦様だ。
全てを許そうではないか。
萌え関係以外では。

そう。
考えれば、リヴァルだって好きでこんな、チャイナ服愛好家に喧嘩売りまくりの格好をしているのではない。
姉さんの陰謀に巻き込まれて仕方なく、こんな末代までの恥と成りかねない格好をしているのだ。


そんな僕を見て、リヴァルは一言。

「なんだぁ?
俺のあまりの色っぽさに見惚れちまったのか。
俺はこのボインで会長の唇を奪って見せるぜ!」


殺す。
リヴァルは今日死ぬ。
リヴァルは今此処で僕に殺される。
こんな偉大なるおっぱい星人の貴族や王族に対して喧嘩売り捲くりの偽チチに加えて、姉さんの嘴端を狙うと宣言したのだ。
おっぱい男爵の爵位を持つ者としても、ミレイ姉さんの弟としても見逃せるはずが無い。
リヴァルの殺害を決意する僕の脳裏に、偉大なるナポリの英雄。
パルコ・ブォルゴレが現れて、僕に問いかける。




嗚呼…それはおっぱいかな?おっぱいかな?
私たちがもぐに相応しいおっぱいかな?


虚言は許さんと語る偉大なる英雄の言葉に返す言葉は僕は一つしか知らない。


否!あれはおっぱいではない!断じておっぱいではない!
我らが偉大なるナポリの英雄。
パルコ・ブォルゴレよ!
あれはもぐ価値すらない無いものだ!



僕の言葉にパルコ・ブォルゴレは少し寂しそうな顔をしてから、笑顔で頷いてきた。

僕の答えが正しいと言わんばかりに。

そしてそれはパルコ・ブォルゴレだけではなかった。

世界に広まる、古今東西のおっぱいを愛する人たち。


おっぱいに生き。
おっぱいに喜び。
おっぱいに泣き。
おっぱいに癒され。
おっぱいに傷つき。
おっぱいに死んでいった者たち。


その生涯をおっぱいに捧げた英霊達の意思を僕は感じた。


そして彼らは言うのだ。
目の前のおっぱいを侮辱するものを許すなと。




僕は今…すべてのおっぱいを愛するものの意思を託されている!

なんと心強い。
この意思さえあれば、我が軍は10年は戦える!
僕には今、万にも等しい援軍を得たような心強さを感じる。

そして目の前の抹殺対象へと視線を向ける。


リヴァル…君はよき友人だったが、君のおっぱいがいけないのだよ。


僕の視線を受けて首を傾げるリヴァル。
そして何かに気付いたかのように、僕の背後に視線を向ける。


リヴァル。
あまねく多くの英霊達に変わって…お前をターミネートする!


「お!ルルーシュ!
お前もやっときやがったか
ってお前も美人さんになったなぁ!」

リヴァルをターミネイトしようとした僕を止めた言葉は、ターミネート対象であるリヴァルが紡いだ言葉であった。

僕の後ろにあったドアに視線を向けながら抹殺対象である、リヴァルは新たな抹殺対象になるかもしれない、人物の名前を呼ぶ。

その言葉に僕は後ろを振り向く。

ルルーシュ…!いくら未来の義兄となる君でもこのリヴァルのように、おっぱいを侮辱する姿ならば、君もこの手で…!

って。
んぱあぁぁぁ!?


後ろを振り向き、ルルーシュの姿を確認した僕は真に驚愕する。
其処に居たのは、黒い着物を着こなす大和撫子そのものであった。
ルルーシュの髪の色に合わせたであろう、黒い着物。
僕と同じく付け毛を付け髪をロングにしてからアップに結い上げ、少し叩くと折れそうなまでに細く、色っぽいうなじを露出し、色気を出している。
日本人が日本人の為だけに、作られた着物であるが、ルルーシュはこれを見事なまでに着こなしていた。
あまりの似合いっぷりに僕の意識はルルーシュに釘付けになる。
もはや、一瞬前に考えていたリヴァルの抹殺などどうでも良くなっていた。
それほど目の前のルルーシュは可憐な存在なのだ…!




も…萌え!


………って萌えちゃあかんーーー!!
しっかりしろォォォ!頼むから本当にしっかりしてくれェェェェ僕ゥゥ!
あれは男!僕と同じ男ォォ!
毎度の事ながら何で僕は、萌えちゃいけない者に萌えてしまうんだ!
ジノに萌えたり姉さんに萌えたり自分自身に萌えたり…このままじゃ世間様に顔向けできないロードに一直線だ!
そんなの絶対嫌だァァァ!将来がインモラルとかホモとかって絶対に嫌過ぎるゥゥゥ!


先ずはホモの可能性を消すのだ!

決意新たに、僕はルルーシュに視線を向ける。
其処に居るのは美人な着物美人さん。
だがあれは男だ。

そう。あれは男。

あれは男…あれは男…あれは男ォォォ!

僕は自らにマインドコントロールを試みる。

ルルーシを男と再認識する事によって、萌えっ子と認識してしまった事実を撤回するのだ!



「いやー、前回のドレス姿も似合っていたが、着物もまた似合ってるなぁ。
ルルーシュは和美人かもな!」

「リヴァル。
…そんなにからかわないでくれ」

リヴァルの言葉に、ルルーシュは可憐に頬を染めて、顔を俯かせた。
なんと様になる大和撫子っぷり。
萌える。
萌えてしまう。


あれは萌えっ子…あれは萌えっ子…あれは萌えっ子ォォォ!ってはぁぁ!?

気付いたら萌えっ子と再認識してしまったよ!
もう僕は駄目だァァァ!
このまま一気に僕の人生はBLなヤオイな話に一直線なんだ!
そしてウホッ!な展開になっちゃうんだ!
もはやウホウホッ!な展開までいっちゃうんだよ!
きっと初体験がルルーシュで、次の体験はジノとかスザクとかなんだァァァ!
初体験の場所は公園のトイレなんだ!そこで僕はションベンを尻に流し込むんだ!
そして腹の中がパンパンになっちゃうんだ!


…改めて考えて見たら認めたくない!何があっても認めたねェェェェ
誰かァァ!こんなおぞましい未来を思いついてしまった、僕の記憶を消してくれっぇぇ!
マジで僕の脳裏からターミネイトしてくれェェェェ!


僕は自ら生み出してしまった、おぞまし過ぎる未来のビジョンに恐怖を覚える。
それほどまでに自分自身が生み出した、ありえるかもしれない未来の想像は恐怖の対象となる物であったのだ。
もはやその恐怖は、勢い留まる事を知らず、僕の心に這い寄る混沌の如く、侵略してきたのだ。
ガチホモはマジで嫌だァァァァァァ!
もう世界の中心とかで愛とか何でも叫びますから、誰か助けてくださーーーーーい!!

僕は生涯二度目となる世界の中心(男子控え室)で愛を叫びながら、助けを求めるしかできなかった。




「…所でアクアは何をしてるんだ?
頭を抱えたかと思っていたら、急に救いを求めるような顔で、天を仰ぎだしたぞ…」


「さあ?
さっきからこんな感じなんだけど…軍務で疲れてるんじゃない?
表には出さないけど、ナイトオブラウンズの軍務って大変なんだろうなぁ」


「確かに…ナイトオブラウンズの軍務をこなしながら、学生生活をするというのはかなりのハードスケジュールなのだろうな。
その大変さがよくわかるな」


「あり?何か実感こもってない?
ルルーシュ?」


「……気のせいさ」


何やらルルーシュとリヴァルがほざいているが、そんなの無視だ!無視!
そんな事よりも僕は世界の中心(女装大会出場者控え室)で愛を叫ぶ事で精一杯なのだ!
マジで誰でも良いから助けてくださーーーーい!!僕のこの忌まわしき記憶をアブシズ並に吹っ飛ばしてくださーーい!
僕はこの時ほど何かに真摯に祈った事は無いだろう。


そしてその願いは叶えられた。

最悪な形で。



「やあ、皆。
早かったね。生徒会の出場者の中では僕が最後か」

そんな台詞と共にに背後にある扉から入ってきたのは生徒会メンバー最後の一人。
クルルギ・スザクの登場である。

その声に僕は後ろを振り返る。

そして直ぐに後悔した

スザクの姿を視認した瞬間に、僕は目を両手で押さえて俯いた。
そして心の中で悲鳴を上げたのだ。

ああー目がー目がぁぁー!
目がぁーあぁあー!!

気分は目が潰されたイブロンな王様だ。
それほどまでに、スザクの姿はあまりにもインパクトがありまくりだったのだ!
ルルーシュに萌えた事など、雲の彼方へと吹き飛ばすには充分すぎるディープなインパクトだ!
最早ディープインパクトを超えたインパクトだ。
五冠だって夢じゃない。
何の五冠かは知らんが。


「ス、スザク!?」

「うぇぇ!?スザク何て格好をしてるんだよ!?」

「何って…女装だよ。
女装大会なんだから当たり前じゃないか」

僕と共に、スザクの姿を見たルルーシュとリヴァルは驚愕の意を露にしている。

それに対してスザクさんの返答は冷静その物。

いたってクールな返答を返してくれました。

流石スザク! 僕達にできない事を平然とやってのける! そこに痺れない、憧れてたまるかァァァ!

何てったって、このスザクさん。
水着を着ているのですから!
水着といっても、ガチムチ兄貴たちが愛用しているような、超ブリーフとかではない。
むしろそっちの方が良かったのかもしれない…。
いや、やっぱり駄目だ。
見た目気持ち悪いし。

何とこのスザクさんは、女物の水着を着ちゃってるのですよ!奥さん!
しかもビギニタイプ!!
下はパレオで隠しているけど、その逞しい太腿や、割れている腹筋が眩し過ぎます。
しかも胸元なんか、何故か知らんがちゃんと谷間がありますよ!?どういうことですか!大奥さま!

「スザク…その胸…どうしたの?」

僕と同じ疑問を持ったリヴァルはスザクの胸元に視線を向けながら、恐る恐る尋ねる。
リヴァルの疑問は理解できる。

スザクの胸元は、大胆なカットな水着で包まれているのだが、其処にはれっきとした谷間があるのだ!
どういうこった!実はスザクさんは雌!?もしくは両性具有!?

リヴァルの疑問に、スザクは自分の胸元を触りながら質問に答えて来た。
うーむ。実に柔らかそうないいおっぱいだ。

「ああ、これかい?
会長が特注で作らせた胸パットだって。
本物に見えるように、日本…イレブンの職人さんたちが作ったんだって」


日本オワタ!

ま、まさかこんな所で僕が求めた、日本人達の職人技が見れるとは!
正しくハイクォリティ!でも違うハイクオリティを見たかったです。
そして姉さん!あんたは本当に何やってるんですか!?
あんたはこの女装大会の為だけに、こんな物を用意させていたんすか!?
ドンだけ用意周到なんだよ。
お祭りが大好きで、自分のやりたいことには一切の妥協は許さない。
正しく姉さんはあのくそ爺の血を受け継いでいるぜ…。


「いやーそれにしても、俺達生徒会は皆いい感じでバラバラで、バランスが取れてないか?」

リヴァルが僕達を見渡しながらそう告げる。

僕がウェディングドレス。

ルルーシュが着物姿。

リヴァルがチャイナ服。

スザクが真夏のトロピカルビギニサンデー。

確かに、バランスが取れてなくも無い。
こんな所でバランスが取れてたら嫌だけど。


しかしまだ女装大会は始まってもいないのに、僕は心底疲れていた。
シャーリーとの女装準備。
この控え室での数々の衝撃。

最早僕の心のライフはゼロだ。
こんな時に僕の萌えの芳香剤。
アーニャタンが傍に居てくれたら、僕は何とか生きていけるのに。


嗚呼…アーニャタン…君に逢いたいよ…。



『控え者の皆さんそろそろ本番が始まります。
会場へとお越しください』


心の中に愛しき萌えの使者の姿を思い浮かべる事で心を癒していた僕であったが、校内放送で告げられた一言は僕の心を打ち砕いていくのだった。


誰か助けてくださーーーーい!



[3303] お家再興記 番外編 2完結
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2010/01/23 21:24


僕が現実逃避もできずに、助けを求める間にも、女装大会は開催され、スムーズに進行されていった。
1人、1人、順番にステージに上がり、女装姿を披露しながら、簡単な質問に答えるといった感じ大会は進んでいった。

流石に此処までくれば、僕も覚悟が…もとい、諦めが付いてきた。
確かに、末代まで語り継がれそうな女装を僕はしているが、他の出場者達も女装をしているのだ。
つまり僕達は皆、末代まで恥を語り継がれる同盟!
僕は1人ではない!赤信号皆で渡れば怖くない!状態になるように自分に自己暗示したのだ。

そうやって、何とか心を落ち着かせてから挑んだ女装大会。

1人…また1人と順番とステージに上がって行き、順調に女装大会は進んでいる。
僕の順番はなんと一番最後となっていた。
一番初めよりはまだマシだったが、一番最後というのもまた嫌な順番である。
ちなみに、僕の前がルルーシュ。更にルルーシュの前がスザク。リヴァルは一番最初という順番となった。

ステージ脇から、ステージに出場者達が上がって行く度に、大勢の笑い声が此処まで聞こえてくる。

そんな中でスザクがステージに上がると、どよめきと今まで以上の笑い声が上がるのであった。
無理も無い。
きっと会場はスザクの腹筋と、真夏のトロピカルサンデーの姿に驚愕しているのであろう。
あの腹筋と偽おぱーいは観客の度肝を抜くには十分すぎる破壊力を持っている。
それにしても姉さんも恐ろしい物を作ったものだ。
あの偽チチは実に見事なものであった。
男であるスザクの胸がふくよかなナイスおっぱい!に変化したのだ。
流石は僕が崇拝する日本人の技術。何と見事なものよ。
この調子で、萌え方面でドンドンとその技術を磨いていって欲しいものよ。
そして何時の日か、あの幻となってしまったブイバータンオルタバージョンのフィギアをもう一度作ってくれる事を切に願う。
マジで。

日本の萌え技術の将来をを考えたいたら、係員がルルーシュへステージに上がるように指示が来ていた。
だが、ルルーシュはその場から動こうとせずに唯立ちすくみ、動く気配が無い。
そんな姿を見て、係員は焦った様に、ステージに上がるように合図を送る。
それでもルルーシュは動く事は無かった。

「ルルーシュ?」

立ち竦んだままのルルーシュを不振に思った僕は、ウェディングドレスのスカートを引きずりながらルルーシュに近づく。
ええい。何と動きにくい格好なんだ。
世の中の花嫁さん達は大変だ。

「………アクア」

僕の方を振り向いたルルーシュは私テンパってますと、言わんばかりの眼つきで僕を見てきた。
こいつ相当テンパってやがる。
開催当初は僕と同じく悟りを開いたと思ったが、直前になって俗世の身に戻ってしまったのか。
なんと嘆かわしい事だ。
これだからシスコンは役に立たん。
仕方が無い。
少し話しをして緊張というか、解してはいけない何かまで解してやろう。

「アクア…俺は…この大会を辞退する!」

僕がルルーシュに話しかけようとした矢先に、逆にルルーシュから話を切り出されてしまった。
しかもとんでもない爆弾発言付きで。
手前、いきなり何てこと言うんだよ!
これじゃ僕のルルーシュ優勝大作戦がパーになっちゃうじゃねえかよ!
ルルーシュにだったら姉さんのくくくくくく唇の端っこのそのまた端っこ位だったら許してやると、覚悟を決めたのに。
姉さんの唇を何処ぞの馬の骨にくれてやるなんて、このアクア・アッシュフォードが許さん!
これは何としてでも、ルルーシュを説得して考え直させなければいけない。
姉さんの唇の未来はこの僕の手に掛かっている。
失敗は許されんぞ!アクア!

「ルルーシュ。
此処まで来て今更何を言ってるんだい。
もう、君の出番は目の前まできているんだよ?」

僕は駄々っ子をあやす様な心境でルルーシュに話しかける。
アクアお兄さんと呼んでもらってもおかしくない心境である。

「だが…こんな末代まで語り継がれるような恥を晒した姿を見せるなんて…俺には耐えられない!」

「既に男女逆転祭りで披露してるんでしょ?
それにその格好似合ってるよ?」

僕が萌えてしまう位に。

「アクア!お前は我慢できるのか!?
こんな末代のそのまた末代の末っ子位にまで語り継がれてしまうレベルの恥を晒しまくる自分を!?」

言葉遣いまでおかしくなって来て居やがる。
こいつはマジでテンパってやがるぜ。

「ルルーシュ…。
君の気持ちは良くわかるよ」

ルルーシュの肩に手を置き、語りだす。
いかにも僕は君の理解者だと言わんばかりの口調で。

「ああ!解ってくれるか!?
アクア!お前なら解ってくれると信じていたぞ!俺は!」

ルルーシュは地獄の底で蜘蛛の糸を見つけた如く、救われたと言わんばかりの目で僕を見つめながら、ルルーシュの肩に置いている僕の手を握ってきた。
かなり萌えてしまった。
頼むから僕の萌え心自重してくれ。

「でもね…ルルーシュ。
この大会の趣旨を憶えているかい?」

「この大会の趣旨…?」

「ああ、この大会の趣旨だ」

僕の言葉に訝しげな顔をするルルーシュ。
そんなルルーシュに僕は更に同じ問いかけをする。

「大会の趣旨など…お前の歓迎会という名目だろう?
女装大会な歓迎会というのもおかしな話だが」

「そう…この大会の趣旨は僕の歓迎会なんだよ」

「それがどうかしたのか?」


先ほどから訝しげな顔をするルルーシュの言葉に頷きながら僕は話を続ける。
ルルーシュの目を真摯に見つめながら。
シスコンのルルーシュの心を掴むための言葉を。

「この大会は姉さんが僕の為にしてくれてる事なんだよ」

僕の言葉にルルーシュは目を見開くのだった。

そう。
この大会は姉さんのお祭り魂から始まった大会だ。
それは確かな事である。
しかし其処には僕に対する思いやりも入っているのも確かな事なのだ。
姉が弟に何かをしてやりたい。
そんなシンプルな感情が姉さんにはあったはずだ。多分。
そしてそれ以上に姉さんは数年ぶりに再開した僕との間に思い出が欲しかったのだろう。きっと。
正直、姉さんとの数年ぶりの思い出が,、女装大会何てマジ勘弁して欲しい所だが、姉さんの気持ちは僕にとって素直に嬉しい物である。
思わず息を荒げる位に嬉恥かしい物である。
ハァハァ…姉さん…ハァハァ…姉ェさぁん!
何て思ってしまったら、人間として終わりではあるが、ついつい心の中では息を荒げてしまう年頃である。
最近の僕は自分でも終わってると思う。
でもい終わりたくは無いと思う年頃でもある。
僕の心は複雑だ。

「ルルーシュ。
確かにこの大会はかなりおかしいとは僕も思う。
ああ、思うとも。思わずにはいられない。
だけど…この大会は姉さんが僕の為に開いてくれたものでもあるんだ。
僕に免じて、此処は素直に出てくれないか?」

シスコンの心をくすぐる僕のトークに、ルルーシュは暫し考えるように顔を伏せる。
そしてその伏せた顔を上げた時には、その顔には諦めと覚悟が入り混じったような表情をしていた。

「まったく…仕方が無いな。
幼馴染切っての頼みだ。
此処はお前の顔に免じてやってやるよ」

計画通り。
僕の顔面が無表情でなければ、新世界の神のような表情をしていただろう。

ふ、ルルーシュなど唯のシスコンよ。
常に姉と弟の男女の関係に対してインモラルに悩み続ける僕の敵ではないわァァァ!

だっはははは!と心の中で自分でも死にたくなってる勝ち鬨。
そんな僕を見てルルーシュが一言。

「しかしお前も存外に…。
こういうのは何て言うのかな?そう、確か…シスコン。
そうだ、シスコンというんだよな。
お前も随分とシスコンなものだ」

その一言は僕の意識を停止させるには充分過ぎる破壊力を持っていた。

……え?
ルルーシュさん?
貴方今何て言ったの??
この僕がシスコン?
ルルーシュと同じシスコン??

シスコン。

シスターコンプレックス。

この僕がシスコン!?
シスターコンプレックス!?
ルルーシュにシスコンと言われてしまった!?
シスコンにシスコンだと言われてしまった!?
シスターコンプレックスにシスターコンプレックスと言われてしまった!?

ぷぷぷぷぷじゃけるなーーー!
ルルーシュ!僕はシスコンなんかじゃねェェェェェ!
皆だってあるだろう!?年の近い姉や妹にドキドキしちゃう年頃が!?僕もそれだァァァ!
唯、姉に対して萌えてしまい、少しインモラルな考えを起こしてしまう、極一般的な弟だ!
断じて!断じてシスコンな訳が無ェェェェェ!シスコンな訳が無ェェェェェェ!
大事な事なので二回言っちゃうくらいシスコンじゃ無ェェェェェェェ!



「ああ…そういえば俺の出番だったな。
どれ、覚悟を決めて行って来るか」

「ルルーシュ!
ちょっと話し合おう!僕の話を…!」

「ふふふ…これも姉思いの友人の為だな」

「いや、だから!
ちょっと僕の話を!!」

「じゃあな、舞台で待ってるぞ!」

「ルルーシュゥゥゥゥ!
僕の話をォォォォ!?」

そして颯爽と舞台へと旅立って逝く義兄さま。
そして取り残される灰と化した僕。
最早ジョー・ブブキすらもびっくりの真っ白具合だ。
どうして僕の周りの奴らは、こんなにも人の話というか、僕の話を聞かない奴が多いのだろう?
爺さんといい、姉さんといい、ジノといい、ルルーシュといい。
僕の周りの人間は、僕の言葉にフィルターをかけ、脳までに言葉を伝わらない様にする機能でも備わっているのだろうか。
人体の神秘だ。

僕が真面目に人体の神秘に付いて考えていた時、舞台から大きな歓声とどよめきが上がるのが聞こえた。
どうやらルルーシュが舞台へと上がったらしい。
とりあえず、色々と問題というか言いたい事はできたが、ルルーシュを舞台へと上げると言う初期の目標は果たせたようだ。
よくやった、僕。今夜は勝利のお赤飯だ。
……勝利の栄光を僕に。


「アクアさん!
出番が直ぐですので、準備お願いします!」

女装大会準備員の言葉に勝利の余韻に酔いしれる僕に現実を知らされる。

………女装の恥辱を……僕に。

とても贈られたくない余韻だ。

久しぶりに心に隙間風が吹くのを感じた瞬間だった。



そして今僕はステージに立っている。
ああ、立っているんだ。立ってしまってるんだ。
断じて勃っている方ではない。
全てを悟った賢者の瞳とかした僕の前には、観客となっている大勢の生徒達。

正直リストカットしたい心を抑えるので一杯一杯です。
僕的には心が…
( ゚∀゚)o彡゜オッパイ!オッパイ!
の方がいいのに。
嗚呼…二次元の世界にルパンダイブしたい。
ジョブジュ長岡さん達の世界に旅立ちたい年頃です。

「はい!
今回のナイトオブセブン歓迎会における女装大会の締めを飾るのは…
ご存知!我らが生徒会長、ミレイ・アッシュフォード会長の弟であり、皇帝直属の騎士団。
ナイトオブラウンズの一人であるアクア・アッシュフォード氏であります!」

壇上の進行役がノリノリの口調で僕の事を説明する。
その言葉に対してまた湧き上がる観客達。
全然嬉しくねえ。
ああ、まったくもって嬉しくねえ。

「アクア君は会長と何年か振りに再開したばかりとの事。
久しぶりに再開したお姉さんにどう感じましたか?」

「いきなりで…凄く驚きましたよ」

本当にあのおっぱいには驚いた。
あのおっぱいは世界を狙える。
そんな可能性を感じさせられました。

「二人は再会した時、お互いに涙を流しながら抱き合っていましたね。
私も周りで見ていましたが、あの光景には思わず涙腺が緩んでしまいましたよ!」

ふぐぁ!?
僕の最近のトラウマを抉ってきやがった!
姉さんに興奮して愚息フルチャージ事件…。
あまりにも葬り去りたい過去。
僕の黒歴史だ!!
黒歴史過ぎる!黒歴史にも程があるってもんだ!!
だれか月光蝶を降らせてくれ!!
僕の黒歴史を文明ごと滅ぼしてくれ!!

「恥ずかしいので…その事には触れないで下さい」

本当にお願いしますから。
自殺しちゃうくらい恥ずかしいので。
顔を俯きながら、恥ずかしげに僕は言葉を出す。
きっと僕の顔はいつもの無表情ではなく、頬を赤く染めているだろう。
それぐらいに恥ずかしさにも程があるくらいに恥ずかしい事件だったのだ。
切腹モンの恥辱ぶりである。
ハラキーリでカイシャー-クしてもおかしくないのだ。

「おっとぉ!アクア君のうっすらと染めたこの頬!
遺憾ながら私、ちょいとグッと来るものがありますよぉぉ!
流石はナイトオブセブン!皇帝直属は伊達ではありません!破壊力抜群です!
憎いぞぉぉぉ!ナイトオブセブン!!」

司会さんがかなりエキサイトしてる。
どこら辺が流石やねん。
皇帝直属マジ関係あらへんわ。
思わず関西弁で突っ込みを入れるほどだよ。

そんなこんなで女装姿を晒したまま僕に対するインタビューという名前の公開レイプは続く。
僕は虚ろなレイプ目でその恥辱に耐えるのだった。
そんな今の僕の心情をエロゲ風に表すとするなら、これしかないだろう。



らめぇぇぇ!壊れちゃう!それ以上したら壊れちゃうゥゥゥゥゥ!
アクアの大事な所がこわれちゃうよォォォォォォ!

僕の心が。





「はい!皆さん大変お待たせしました!
これより、結果発表を致します!」

遂にこの大会も終わりが見えてきた。
姉さんがノリノリな声で結果発表の始まりを告げる。
その言葉に観客と化している生徒達は熱狂を持って歓声を上げてきた。
うん。皆死ねば良いと思うね。

ステージの上には僕達出場者達が並び、結果を待ちわびている。
ちなみにその中の幾人かは目に光りを宿さないレイプ目だ。
ちなみに僕もレイプ目だ。
女装をしたレイプ目集団…。
はたから見ると実にヤバイ光景だと思う。

そんな中でも生き生きと目を輝かせている一部の連中の未来が心配だ。
君たちの未来に栄光を。

「今回の大会で、出場者のパートナーを含めた全生徒達!
そして先生方の皆さんにも、投票していただき真にありがとうございます!
弟の歓迎会の為に、皆がこんなにも協力してくれた事に、ミレイさんは実に感動しておりますよぉ!」

姉さんが目元を抑えるような演技をしながら、司会を続ける。
なんか姉さんがノリノリだ。
しかも何気に司会上手いし。
案外、将来アナウンサーや司会者とか向いているのかもしれない。
もしそうなったら、是非とも芸能人のアイドルや女子アナさん達を紹介してほしい!
そして将来は芸能人の嫁さんをGET!!
うーん…夢が広がるって…いや、待て!

アクアよーく考えて見ろ!
姉さんが女子アナとして活躍している頃には、僕はラウンズをとっくに脱退している。
うん。脱退してるったら、絶対脱退しているんだ!きっと脱退してる!
そして優雅な自宅警備員な生活をしているはず!
僕は信じている!

だがそれがまずいかもしれない。

ニートの鑑である僕。
そんなニートな僕に女子アナさん達は、振り向いてくれるだろうか!?

今ならまだいい。
ラウンズは世界最大の武力国家、ブリタニア帝国の頂点である皇帝直属の騎士団。
腐っても皇帝直属。女装してても皇帝直属。男に狙われてても皇帝直属。
女子アナさん達とも釣り合いは取れてるはずだ。
だが、ニートの場合はどうだ!?

未だかつて、女子アナを嫁としたニートは居るだろうか!?
こんなRPGの村人が、ヒロインのお姫様を手に入れたような話しが未だかつてあるだろうか!?
んな事出来るはずが無えぇぇぇぇ!
もしやった奴がいるなら、僕は全力でそいつを殺す!
開発途中の僕専用KMFを駆ってでも殺す!
というかニートじゃ女子アナどころか、一般人とも結婚できねえじゃん!?

ニートのままでは嫁ができない。
だがラウンズのままならば、まだ可能性があるかもしれない。

自由を選ぶのか。
それとも愛を選ぶのか。

な…なんという究極の選択。
僕は今人生の岐路に立たされている!?

どうなのだろう。
僕は今までニートの生活に恋焦がれてきた。
特に軍人なんてくそ危なすぎる職業に就いてからは更にその気持ちに加速がかかっている。
それは確かだ。
うん。確かすぎる。
確かすぎるったら確かすぎる。

しかしよくよく考えて見たら、ニートでは萌え系美少女との出会いが無いではないか!?

今僕はラウンズの立場に居るおかげで、ラウンズであるアーニャタンやノネットさん。それにモニカお姉さまにドラテアの姐さん。
ブリタニア帝国における憧れの存在の彼女たちとも仲間となれた。
更には世界の憧れとも言える、ブリタニア皇族であるコーネリア殿下や、ユーフェミア殿下とも知り合えたのである。
これはニートをしていたら確実になかった出会いだ。

冷静に考えて見たら…僕は今とても美味しい状況なのではないだろうか?

世界最大最強の軍事国家の、皇帝直属最強の騎士団の団員。

これだけ聞けば何?その厨二病はw
現実みなくちゃwww
って感じだが、本当に僕はナイトオブラウンズの一人なのだ。
今だに自分で信じられんが。

このナイトオブセブンの立場を上手く利用できれば、憧れの…か、か、かかかかか彼女が出来るのではないだろうか!?
そして嬉し恥ずかしのイチャラブストーリーを繰り広げる事ができるのでないだろうか!?!?
甘い甘いすいぃーとな恋ができちゃうのではないのだろうか!??!
































銃弾が飛び交い、KMFが縦横無尽に蹂躙する戦場。
そんな戦場に紛れ込んだ一輪の花のような女兵士。
しかし彼女は今まさに、命を狙われているのだ。
それは戦場での宿命。
生と死が交じり合う戦場では日常的な行為。

彼女は物心が付いた時には既に戦場に居た。
幼い彼女の玩具の代わりは無骨な銃であった。
彼女は人の命を奪う事に長けていた。
人殺しとしての才能があったのだ。
戦場の主役が、重火器からKMFと代わっても彼女の才能は偉観なく発揮された。

彼女は本当の親を知らない。
戦場を駆ける傭兵達が彼女の家族。
しかし心が通い合ったとはとても言えないものであった。
傭兵達は彼女を家族だと思い、接している。
だが、彼女の方から彼等を遠ざけたのだ。
それは、彼女の心にある思いがあったからだ。

自分達は傭兵。
駆け抜ける毎日は戦場。
自分達には常に生と死の狭間の中にいる。

そんな日常を送る自分達に大切な人を作って何になるのだろうか?
今まで何人もの仲間を見送ってきた。
自分は疲れたのだ。
大切な人を送る事を。
そして怖いのだ。大切な人を作り、自分が死んだ時に大切な人を悲しませるのを。
だから彼女は一人で生きる。
一人で戦場を生きて、一人で戦場で死ぬ。
そう、ずっとそう思ってきた。
あの日…彼と出会うまでは。


彼女が所属する傭兵団は一つの国に雇われていた。
彼等の傭兵としての実力は、非常に高いものがあった、
彼等がいる戦場では敗北は無い。
そんな風評すら流れている事もあった。
事実、国に雇われてから幾度も無く戦場へと赴いたが、彼らは敗北する事は無かった。
連勝を重ねる内に、国の守護神のように扱われるようになり、戦場を渡り歩く彼等にも一つの居場所ができたような気もしていた。

だが、安寧は続く事はなかった。

彼等と敵対している国家。
敵は連敗している今の状況を何とかしようと、援軍を要請したのだ。
援軍とは言っても、大軍の要請ではない。
ごく小規模の人員とKMFであった。

だが、その援軍こそは最強の援軍。
戦場で最も敵に回してはいけない者達であった。


敵国。
軍事超大国ブリタニア神聖帝国における最強のKMFライダー達。
個にして群を圧倒する者達。
個にして軍を成す者達。
戦場の死神達。


ナイトオブラウンズの参戦である。

彼ら傭兵達は、ラウンズ達と戦場で戦う事になる。
そして彼らは負けた。
守護神と呼ばれた彼等の卓越した実力を持ってしても、ブリタニア帝国の最強の剣にして最強の盾であるラウンズには歯が立たなかったのだ。
それは少女も同じ事であった。

四肢を潰された自らのKMFのコクピットの中で、自らを倒した相手を見上げる。
戦場の死神のKMFを。
その死神は自らにアサルトライフルの銃口を突きつけていた。

自らの命を絶つことになる、銃口を見て諦めたように顔を俯く少女。
戦場では正義も悪も無い。
ただ強い者が弱い者を蹂躙するだけの事。
故に、勝者となった敵が敗者となった自分を殺すだけの事。
幼き頃から戦場で育った彼女。
今まで多くの命を奪ってきた彼女。
今度は自分が奪われる番。
ただそれだけの事。
もう直ぐ自分は死ぬ。瞼を閉じる。

『…投降しろ』

だが自分に振ってきたのは銃弾ではなく、オープンチャンネルで投降を呼びかける言葉であった。
その言葉に思わず目を見開き、KMFを見てしまう。

「何を…言ってるの?」

思わず呟く。

『投降しろと言っている』

呟いた言葉は、オープンチャンネルを通して彼にも伝わったらしい。
彼はもう一度投降を促してきた。
そしてその言葉は激しく私のプライドを逆撫でした。
戦場で情けは無用。
いらぬ情けは己を…否、仲間をも危険に晒す。
だから自分は敵対してきた相手を全て殺してきた。
命乞いをしてきても、情け容赦なく殺してきたのだ。
そして今度は自分が殺される番。
それなのに、敵は自分に情けをかけてきた。
それは幼い頃から戦場を故郷とした彼女の誇りを激しく逆撫でしたのだ。

「いらん情けをかけるな…!
私はいつでも死ぬ覚悟はできている!
貴様の下らん偽善に私を付き合わせるな…!
さあ、殺せ!殺すがいい!」

相手のKMFを睨みつけながら唾を飛ばす勢いで吼える。
そう、自分はいつだって死ぬ覚悟は出来ているのだ。
故に、奴の下らん偽善には付き合ってはられん。

『偽善か…。
確かに僕の行動は君にとって…偽善となるんだろうな
だが、何と言われようと君を殺す訳にはいかない。
僕がそう決めたんだ』

そう、言葉を発すると彼は私のKMFのコクピットブロックを捥ぎ取るように引きちぎる。
そのまま自分は敵の拠点地まで連れて行かれる事となったのだ。

拠点に着き、コクピットの扉を無理やりこじ開けられ、コクピットから出た私を出迎えたのは銃を構えた幾人もの軍人。
その中心に立っている人物は私も知っている者だった。

皇帝直属の騎士団。
ナイトオブラウンズの中において、第七席を与えられた者。
ナイトオブセブン、アクア・アッシュフォード。
私を負かせた者。
そして私に情けをかけた者であった。

「おい、偽善者…何故こんな情けをかけた?」

私の言葉に周囲の人間は騒然とする。
当然だ、ナイトオブセブンに侮蔑の言葉を吐いたのだ。

「貴様!アッシュフォード卿に向かって、何たる口の言葉を!」

「別にいい」

一人の軍人が激昂して、拳を振り上げようとするのを止めたのは、当のナイトオブセブンであった。

「僕は君を殺したくないと思ったから此処に連れてきた。
ただ…それだけの事さ」(キリッ

「他の者達は皆殺しにしているというのに…!
貴様は本当の偽善者だ!」

「偽善者か。
ああ、その通りだよ。
僕は唯の偽善者だよ。
偽善者は他の者は殺したが、君は殺したくないと思ったから…君を此処に連れてきた
本当にそれだけなんだよ」キリッ

何だ…?こいつは?

私の言葉を唯淡々と認めるナイトオブセブンに困惑する。
見ると、周りの兵士達にも困惑の雰囲気が見えた。

「君を捕虜として扱う。
条約に従った扱いをさせてもらうから、安心してくれ。
そこの君等、彼女を連れて行ってくれ。
くれぐれも丁重にな」

「イ、イエス・マイロード!」

当の本人は当惑する周りを気にも留めずに、唯淡々と周りの兵士に命令をする。
その言葉に兵士も戸惑い気味の返答を返し、私の移送を始めるのであった。

案内された部屋には必要最低限の物がそろっているだけの、殺風景な部屋だった。
部屋の中で唯一人考える。

いったい、彼は何なのだろうか?
戦場で彼と戦ったときは、圧倒的な力を見せ付けて、私に格の差を見せ付けた。
だが私に止めを刺さずに、逆に助ける行動を取っている。
しかも助けた理由は殺したくなかったから…だ。
戦場の死神達とは、とても思えない台詞である。
気まぐれで自分を助けたのであろうか?
それとも自分を抱く為に助けた?

あの無表情な淡々とした様子から、彼の心情を知るには私には難しすぎる。

そしてそれから彼は毎日の様に私の元へとやってきた。

「やあ、気分はどうだい?」

「最悪だ」

「何か不備な事でもあったのかな?」

「偽善者の顔を見たから最悪なんだ」

「そうか…それは失礼したね」

私の皮肉に対して、表情も変えずに、淡々と謝罪めいた言葉を紡いでぐる。
敵側の捕虜からこんな舐められた口調を聞かれて、何ら怒張めいた反応もしない。
普通なら、拳の一つでも飛んでくるものだ。
だが彼は私に対して何ら物理的な暴力や、性的な暴行もしてこない。
彼は私の仲間を情け容赦無く、殺していった。
それなのに私だけは情けを掛け、殺さなかったのだ。
最初は、性的欲求を満たす為に私を捕らえたのかと思っていたが、数日経っても私に手を出そうという気配すらない。
それ所か、独房にすら入れられていないのだ。
幾ら、ブリタニア帝国との間に捕虜条約が結ばれているとは言っても、所詮口約束以下の決まり事である。




「何故私を助けたの?」

此処に来て何度となく尋ねた質問。

それに対しての彼の答えは何時も同じであった。

「ただ君を殺したくないと思ったからだよ」(キリッ(キリッ

最初の頃はこの言葉は兵士としての私を侮辱している。
そう思い、この言葉を聞く度に心が激昂していた。
しかし今は何故か心が暖まるのを感じる。

最初は煩わしく思っていた彼の来訪を私は楽しみにしてる事に気づいた。

そんな毎日が続いたある日。
一人の招かざる者が私の部屋にやってきた。

「お前か。
あいつが熱を上げている女と言うのは
…ククク。どんな女かと思えば…野蛮な雌猿か」

オレンジの色を基調とした外套。
その外套はブリタニア帝国において、12人しか羽織る事が許されていない外套である。

突如として遣って来た招かれざる客。
ナイトオブテン。
ブリタニアの吸血鬼。
ルキアーノ・ブラッドリーだった。


「クククク。
お前の様な雌猿に興奮するとは…。
あいつもまだまだ餓鬼だな。
だが餓鬼同士という意味ではお似合いかもな。
あーははははっはは!」

私を一瞥した後、言いたい事だけを言ってルキアーノは、天を仰ぎ見ながら笑っていた。
気分が悪い。
この男は唯そこに居るだけで、血の匂いを辺りに撒き散らす
数々の戦場を駆け抜けてきて、踊るように多くの血を吸ってきた吸血鬼。

アクア・アッシュフォードとルキアーノ・ブラッドリーは同じ戦場の死神ではあるが、アクア・アッシュフォードが騎士だとしたら、目の前の男は唯の殺人狂だ。
そう確信させる何かが目の前の男から溢れ出ていた。


「ククク……。
おい女ぁ。
お前に一つ質問をする。
答えろ」

一通り笑い通すと目の前の男は顔を手で覆いながら、話をしてきた。
質問?何を聞いてくるつもりだ。

「貴様は…戦場をどう思う?」

「どう…とは?」

「聞いたとおりの事だ。
貴様は戦場をどう思っている?」

戸惑う私に、追い討ちを掛けるように男は質問を重ねる。

戦場。
私が故郷としている懐かしき場所。
アクア・アッシュフォードに負けるまでは、私も戦場を駆け抜けていた。
そんな戦場を私はどう思うのか。
その問いには一つの答えしかない。

「命の…」

ポツリと呟く様に言葉を発する。

「命のやり取りだ。
命を奪い…命を奪われる。
それが戦場だ」

これが私の答え。
いつも私が奪ってきた命。
そしていつか私も誰かに奪われる命。
命を奪い奪われる。
それが私にとっての戦場であった。

「ククククククク………」

私の答えにルキアーノ・ブラッドリーは顔を俯かせながら笑っていた。
その表情は見えないが、笑いを堪えきれないのは見て取れた。

そして俯かせていた顔を上げた時、ルキアーノ・ブラッドリーの顔には狂笑が張り付いていた。

「あっっはっははハハハハァ!!!
そうだぁ女ァァ!!
その通りだよ!オンナァァァ!」

両の手を大きく広げながら言葉を続ける。

「戦場は命の奪い合い!
命を奪い奪われるのが戦場!
女ぁ!お前は正しい!実に正しいぞォォォ!」

狂わしいばかりの笑顔を振り向きながら、私の答えを肯定する。

「凡夫のお前達にとってはなぁ」

だがその言葉が私の言葉を否定した。

「戦場とは…命の奪い合いではない。
俺にとっての戦場とは…命の搾取。
命を奪い奪い奪いつくす。
俺の…遊び場よ」

戦場とは自らの娯楽場。
暇つぶしに過ぎない。
唯其れだけの事。

目の前の男にとって、私が今まで生きてきた世界はただの娯楽場だったのだ。
それは幼い頃から戦場と共に生きてきた私の誇りを汚すものであった。
目の前の男は私にとっていてはいけない存在だ。
この男が言う言葉は私の全てを否定する。
殺意を込めて目の前の男を睨みつける。

「何だ女…その目は。
気に食わん、実に気に食わんぞ」


ルキアーノ・ブラッドリーは呟くと私に向かって猛然と襲い掛かってきた。
それに対応しようとしたが、腕を捕まれ、足を払われ、床に組み伏せられてしまった。
床に倒された私の上に、ルキアーノが覆いかぶさってくる。
私の顔の直ぐ目の前に、男の顔がある。


「どいてくれない?
不愉快よ」

「この状況でその言葉がいえるのか。
なるほど、大したものだ。
あの小僧が入れ込むのも解る気がしてきたな」

私の言葉に何処かおもしろそうに笑う。

にやけた面。
男の手が私の服に手を掛けようとする。
全てが気に食わない。

「ブリタニアの吸血鬼には常識というものはないようね。
軍のトップが堂々と条約を破ろうとしている」

「知っているか?
捕虜条約なんて物は唯存在しているだけだ。
そんなものでは俺を止められない。
俺は唯、俺がしたいがままに行動する。
それを止める事は誰にも出来ない」

「そんなあなたを止めれる人が着たみたいよ」

「何だと?」

私の視線がルキアーノの背後へと向けられる。
その視線に釣られてルキアーノが後を振り向くと。
そこにはルキアーノ・ブラッドリーの同僚であるアクア・アッシュフォードの姿があった。

「何をしているのかな?
ブラッドリー卿」

いつもと同じ無表情で何を考えているかわからない。
でも彼の瞳に確かな怒りを感じたのは私の勘違いだろうか。

「何、少しこの捕虜を尋問しようかと思ってな」

悪びれもなくルキアーノが答える。
女を押し倒して置きながら言う言葉ではないと、私は場違いに思った。

「彼女に対する尋問は既に終わっています。
そして何よりも貴方の今の行動はとても尋問には見えない」(キリッ

「女に対する尋問はこういったことが一番なんだよ。
これだけ入れ込んでいるんだ。
お前も散々やってきたんだろ?」

「それは僕と彼女に対する侮辱となる
これ以上何かを言うならば、私は貴方に決闘を申し込まなければならない」

ルキアーノ・ブラッドリーの下種な言葉に、アクア・アッシュフォードは顔色一つ変えずに自らがはめている手袋に手を掛ける。
表情では判断できないが、この行動を起こさせるほどに彼が怒りの感情を抱いているのがわかる。
しかし、何故アクア・アッシュフォードはこれ程までに激怒しているのだろうか。
私にはその理由が解らなかった。

「ふっ…。
おぼっちゃまが…其処こまで怒る事も無かろうに。
まあいい。
この場は退散する事にしようか」

私の上からルキアーノは退き、部屋の外へと出る為に移動する。
その表情と態度には何処にも悪びれた様子が伺えない。
そして部屋を出ようと扉をくぐる前で、振り返りこちらを見てきた。

「女、また会おうではないか。
今度は邪魔者抜きでな」

にやけながら言う言葉の返答は一つしかない。

「ええ、是非会いたいわ」

「な!?」(ビクキリッ


「ほう」

私の言葉にアクア・アッシュフォードとルキアーノ・ブラッドリーは驚きの声を上げる。
だが私の次の発現を聞けば驚く事ではない。

「今度あったら一発殴らせてもらう」

私の言葉にルキアーノ・ブラッドリーは一度大きく瞬きをしてから私を凝視してきた。
アクア・アッシュフォードも無表情な顔の中に呆気に取られたような雰囲気を漂わせている。
私はそんなに可笑しな事をいっただろうか?


「クククク。
ならば是非とももう一度会わないとなァ」

面白そうに笑うとルキアーノ・ブラッドリーは部屋から出て行く。
一瞬の静寂と共に、気が抜けたのか体の力が抜ける。
溜息を付いて、気を落ち着かせようとしていると、アクア・アッシュフォードが私に声を掛けてきた。
アクア・アッシュフォードの無表情の中にはどこか申し訳なさげな雰囲気を感じる。

「すまなかった。
ルキアーノが無礼な真似をして」

「何故貴方が謝る?
貴方は私を助けてくれた
逆に礼を言わなくてはならない」

そう、アクア・アッシュフォードは間違いなく私を助けてくれた。
それなのに彼が私に謝る理由が解らないのだ。

「それは確かにそうだが…。
ルキアーノは僕の同僚でもある。
彼の行動を諌められななかったのは僕の責任でもある」

アクア・アッシュフォードは無表情ながらも真摯な態度で私に謝罪をしてくる。
いくら同僚と言えど、相手の行動を完璧に把握する事など不可能だ。
まして、アクア・アッシュフォードは私を助けてくれたのだ。
私がアクア・アッシュフォードに感謝をする事はあれ、向うから謝罪されるいわれは無い。

「そう、なら勝手に謝罪していなさい」

それならば本人の気が済むまで謝罪させればいいのだ。
私の言葉にアクア・アッシュフォードは一度瞼を閉じてから、下を向いて再び謝罪の言葉を出す。
そんな彼に向かって、私は次の言葉を紡いだ。

「私も勝手に貴方に感謝する。
ありがとう、貴方のおかげで助かったわ」

そして私もだ。
勝手に感謝してやる。
この男が嫌になるくらいに。

「…………」

常に無表情な男が私の言葉に呆気に取られた表情を見せる。
この男と知り合い、毎日のように顔を付き合わせているが、こんな表情を見るのは初めてだ。
というか、無表情な顔以外を見ること事態が始めての経験だ。

「何よ?
その顔は」

「いや…その…なんと言うか…」

「貴方のそんな顔…初めて見たわ
そんな表情もできるんじゃない。
たまには表情を変えないと。
じゃないとせっかくの可愛い顔が台無しだ。
どうせなら笑顔なんてどうだ。
とてもいい表情になると思うぞ?」

私も無表情とよく言われるが、この男は私以上の無表情振りだ。
これでは表情筋が衰えてしまうぞ。
そして何よりもこの男の魅力が半減してしまう。
別に私はこの男の笑顔が見たかったから言ってみた訳では決して無い。
決して無いんだ。

アクア・アッシュフォードは私の言葉に更に呆気にとられたような表情をとる。


「…………くくくく……ははははははは!」

そしてその後顔を笑い顔に変えて、笑い始めた。
何がおもしろかったのかは知らないが、そうとうツボにはまったようだ。
アクア・アッシュフォードの目じりには涙すらでている。
その笑顔はともていいものであった。


この男がこんな顔をしていると気分がよい。
それは私がこの男の表情を出していると実感できているからだろうか。
とにかく何だか私の気分がいいのは確かだ。

「何だ。
笑えているじゃないか。
やはり、いい顔をしているぞ」

「はははははは!
ははは、…なら君も笑った方がいいと思うよ」

目じりの涙を拭いながら言ってきた言葉に私は首を傾げる。
私が笑うと何故いいのだろうか?

「何?
何故だ?」

「その方が…とても魅力的だからさ」

「………は?」

今この男は何と言った?

「とても可愛いと言ったんだよ」

その言葉を理解できた時私の顔が火照るのを感じた。

「な!?
わ、私は傭兵だ!?
そんな私にかわいいだなんて!?」

「傭兵だろうが兵士だろうが、君が可愛い事にはかわりないよ」

笑顔を浮かべたまま、アクア・アッシュフォードは私の容姿をか、可愛いと褒めてくる。
顔の火照りが止まらない。
アクア・アッシュフォードを見ると、その顔は楽しいと言う感情を表に出して、笑顔を浮かべている。
私は顔を火照らせて困っていると言うのに、私を困らせた張本人は楽しんでいるのだ。
何だか腹が立ってきた。

「う、うるさい!そんな事言うなら、お前だって可愛い顔をしているじゃないか!」

「な!?男に可愛いって褒め言葉じゃないよ!?」

その言葉はアクア・アッシュフォードにとって、カウンターとなりうる言葉だったのであろう。
私の言葉にアクア・アッシュフォードは顔を真っ赤にして反論してきた。
いつもの無表情な姿はどこにもない。
だけどこっちの方がいいと私は思う。

「うるさい!お前の方が可愛い!」

「いや!君の方が絶対に可愛い!」

「お前だ!」

「君だ!」

「お前ったら、お前なんだ!」

「君って言ったら君なんだよ!」

小学生のような言い争いは止まる事が無い。
そのまま私達の不毛な言い争いは暫し続けられるのであった。

「もういい…わかったよ」

暫し続けられた私達の言い争いを終わらせたのはアクア・アッシュフォードの声であった。

「君は可愛いし……ぼ、僕も可愛い。
それで終わりにしようじゃないか」

「いささか納得できないが…まあいいだろう」

私もかわいいと言う意見は納得できないが、その提案を全面的に受け入れる。
そして溜息を吐いてから、冷静に今の状況を思い浮かべる。
私達が今までしていた言い争いは、どちらの方が可愛いかというもの。
そして私達はお互いの意見を譲らずに、熱い言い争いへと発展したのである。
今思えば、なんとも馬鹿げた言い争いであったものだ。
今思えばじゃなくて、最初に気づけと自分に言い聞かせてやりたい。
というか、私は馬鹿か?

「ふふふ」

自分の行動に後悔していると、笑い声が聞こえてきた。
確かめるまでもなく、その笑いの発祥源は目の前の男である。
思わず睨みつけるように凝視する。

「ふふふ…ああ、ごめん
でも…あはは」

私の視線に気付いたアクア・アッシュフォードは、謝りながらもまだ笑っていた。
なんだか腹が立ってきた。

「何がそんなに可笑しい」

自分でも答えが解りきっている事を質問する。
何が可笑しいか。
そんな事は決まっている。

「ははは…だって、まさか君があんな言い争いをするなんてね…。
なんだか面白くて」

「そんな事いうなら、お前の方だってそうだろ!
いつも無表情なお前が嘘のようだったぞ!」

「……僕らしくないか。
確かに…そうだね」

私の言葉にアクア・アッシュフォードは今気付いたとばかりの表情を浮かべながら頷く。
こいつは気付いていなかったのか。
呆れた私の視線を受けたアクア・アッシュフォードは一つ頷きながらまたもや爆弾発言を放ってきた。

「じゃあ、僕達はお互いに珍しい所。
ある意味素顔を引き出せる仲なんだね。
……何だか、嬉しいな」

本当に嬉しそうな笑顔でこの発言。
何だその表現は。
そして何だその本当に嬉しそうな笑顔は。

お互いの素顔を引き出せる仲。
その言い方はまるで私達が特別な仲。
こ、恋人のような言い方に聞こえてしまったのは私だけだろうか。
頬に熱が溜まるのを感じる。
でも、これは恥ずかしくて高潮させているのではない。
いきなり変な事を言い出した、目の前の男に怒りを感じて、頬を赤くしているのだ。
断じて、恥ずかしい訳ではない。そう、恥ずかしい訳ではない。
大事な事なので、二回言った。

「な、何をいってるんだ!
お前は!?」

「アクア」

「は?」

「アクア・アッシュフォード」

自分自身を指差しながら、自己紹介を繰り返すアクア・アッシュフォード。
というか、そんなの知ってるわ。

「……お前の名前なんて知っているぞ」

私の言葉に一つ頷く、アクア・アッシュフォード。
何がしたいんだ。

「それだよ。
お前じゃなくて、アクアと呼んで欲しいな」

「な!?」

「僕と君はお互いに素顔を引き出せる仲じゃないか。
お前なんて他人行事じゃ寂しくてね」

「わ、私とお前は、敵同士なのだぞ!?」

「そうだね。
でも今は君は捕虜で、僕は君の身柄を預かる身。
だったら、呼び名位僕が決める権利があっていいんじゃないかな?」

「ぐぎぎぎぎぎぎ…!」


思わぬ反撃に思わず歯軋りをしてしまう。
頬の火照りが留まる所を知らない。
目の前の男を睨み付けるが、睨み付かれた当の本人は何処吹く風、そんな言葉が似合うような笑顔だ。

アクア・アッシュフォード。
ブリタニア帝国最強の騎士団の一員、ナイトオブセブンにして、私の傭兵団―――家族達の仇の一人。
憎い敵。憎い仇。憎むべき相手。私にとって許されざる者。
私の脳裏には家族たちの姿が思い浮かぶ。
いつも共にいた彼ら。
その彼らを殺したアクア・アッシュフォード。
でも…今は私の友人の一人かもしれない相手。
相反した私の思い。
私はどうしたいのだろうか。
最早自分の気持ちが解らない。



「…………駄目…かな?」


目の前の男は少し諦めたように、悲しいように、でも仕方がないと言う気持ちが溢れた苦笑いを浮かべる。
その笑顔。
先ほどまでの笑顔とはまるで違う笑顔。
私は見たくないと思った。
何故かは自分でも解らない。
でも、私は見たくないと思ったのだ。
だから自分でも知らず知らずに、思わず私の口から出た、次の言葉を聞いても驚きはなかった。



「すまなかったね、変なことを言って。
君の言う通り僕と君は元は敵同士。
今言った事は忘れ「おい!」て…?」


「………………私だけがお前の名前を呼ぶなんて、不公平だ。
だから、お前も私の名前で呼べ。
いいな、アクア」

目の前の男―――アクアを見ることができない。
視線を外しながらも、でも、しっかりとした口調で私は告げる。
告げれたはずだ。

それから少し無言の時間があった。
外していた視線をちらっと戻して、アクアの顔を見る。
そこには私が見たかった笑顔があった。
少し前に浮かべていたすまなさそうな笑顔ではない。
心の奥底から浮かべるような満面な笑顔。
私の心が嬉しくなる笑顔を浮かべていた。

「ああ、ありがとう―――」




アクアが私の名前を呼ぶ。
私もアクアの名前を呼ぶ。




お互いの名前を呼び合っただけ。
ただそれだけの事。
でも、きっと私達は今日の事を忘れる事はないだろう。
何故かそんな予感がした。

























…………何て、甘い甘い甘いすいぃぃーとな恋ができちゃうのかもしれない!
おいぃぃぃぃぃぃぃ!何だ!今の素晴らしすぎる妄想は!
ぐっほう!自分の妄想に吐血しちゃいたい位素晴らしかったぜ!
そうだ、僕は戦場の華たるナイトオブラウンズ!
もしかしたら、こんな出会いがあるのではないか!
ちょめっす!ちょめっす!
何だかテンションみなぎってキターーーー!
思考回路がヤバイ所に一直線な気がするがノープロブレム!
後半すごい強引な展開にも程がある気もするがノープロブレム!
とってもノープロブレム!

落ち着け、アクア!そのみなぎる気持ちはあふれんばかりに理解できるが、ここは先ず冷静に考えるんだ!
そうだ、悲しいがラウンズは今の状況では直ぐに辞められそうにはない。
物凄く悲しい事実だが。
だったら、辞めるまでに少しは美味しい思いをしてもいいんじゃないだろうか?
ぐふ。
ぐふふふふ。
やっぱりテンションみなぎりまくってキターーーー!
明日から僕は積極的に女性捕虜の尋問をするぜ!
むしろ今日からだ!
ブリタニアの兵士諸君!捕虜尋問は僕に任せろ!但し、女性専門でw



そう、戦場で芽生える一つの愛。
命を掛けた愛の行方。
僕達の未来は如何に…。





次回!コードギアス 反逆のお家再興記 超番外編。


君と僕の出会い。


が、始まります!
皆さん、こうご期待「優勝はアクア・アッシュフォード選手です!!」……………を??
…………僕が優勝って何?



繰り広げていた素敵な脳内妄想をシャットダウンして、現実へ舞い戻る。

そこは舞台上。
僕はふりふりなウェディングドレスを纏い、舞台の上に立っている。
眼下には沢山の生徒達、彼等から万雷の拍手が鳴り響く。

「おめでとう!アクア!
本当におめでとうゥ!アクアァ!」

そして横には、満面の笑顔を浮かべながらも力強い拍手で僕を祝福している和服大和撫子なルルーシュ。
萌え。

「おめでとう!アクア」

「畜生!アクアに負けちまったか!」

そして同じく祝福してくる真夏のトロピカルビギニサンデーなスザクと、謎の生命体Xなリヴァル。
二人にイラッ☆

「ナイトオブセブン歓迎会である、今女装大会の優勝者は、最優勝候補のルルーシュ選手を抑え、見事アクア・アッシュフォード選手が優勝を果たしました!
準優勝たるルルーシュ選手との投票差は僅か2票!
この僅差が今大会のレベルを表しています!
本当におめでとう!アクア!」

そしてノリノリな姉さんの声。
それが全てを思い出させてしまった。

って、ハァァァァァァァ!?
そういえば僕の歓迎会が何故か女装大会な上に、その上僕自身が出場させられている身分だったーーー!!
妄想ダイブしていて、すっかり忘れていたーーー!!
しかも何か優勝してるし!?
嘘だと言ってよ!ブーニィ!

「優勝おめでとう!
よくやった!本当によくやったぞ!アクア!
お前は偉い!お前は凄い!まじパネえ!
オールハイルアクアァァァ!!」

現実を否定したい僕を追い詰める和服大和ガールなルルーシュの喝采。
死ねばいいのに。
うるせえよ!ルルーシュ!
つか、お前キャラ変わりまくってるぞ!
何か普段のお前が信じられない位の喜びようだぞ!?
正しく狂気乱舞。
さよなら、今までのルルーシュ。
そしてこんにちわ、新しいルルーシュ、って感じだ。


つか、何で僕が優勝してんだよ!?
優勝はルルーシュに譲るはずだったのに!?
やばい。
やばいやばい。
やばい!やばい!やばい!
やばすぎるゥゥゥゥ!
天地崩壊する位やばすぎるゥゥゥゥ!
天地創造する位やばすぎるゥゥゥゥ!
とにかくやばすぎるゥゥゥゥ!
何が言いたいか解らなくなる位やばすぎるゥゥゥゥ!
何回やばすぎるって言ってるのか解らない位やばすぎるぅぅぅぅぅ!

僕は一人ひたすらてんぱる!
だって、そうだろ!?
この女装大会の優勝者には賞品として…。



「はい!それでは優勝者のアクア選手にはこの優勝トロフィーを!」


何時の間にか姉さんはステージ上に上がって来ていた。
そして僕に優勝トロフィーを渡してきた。
優勝トロフィーを受け取りながらも、呆然とする僕。
逃げたい。地の果てまで逃げ去りたい。
ちなみに優勝トロフィーには、第一回 アッシュフォード学園女装大会優勝者へ!君が一番星☆
なんて言葉が刻まれていた。
このトロフィー…凄まじくいらねえ。
何か地面に叩き付けたくなって来た。
って、そんな事より別の賞品が問題なんだよ!

地面にトロフィーを叩き付けたくなる衝動を抑えながら、目の前にいる姉さんの顔を見つめる。
ま、まさかねーー?冗談だよね?
だって僕達姉弟なんだよ?
そんなある意味カインとアベルな関係の僕達なんだよ?
そんな僕達がアダムとイブちっくな事なんてしないよね?
具体的に言うとキキキキキキキキ、キスなんてしないよね?
そんな事したら、僕達畜生街道まっしぐらになっちゃうよね!?
淫盛らるの特盛りになっちゃうよねェ!?
そこら辺わかってるよねェ!?姉さん!?
わかってくれるよねェェ!?姉さん!?

姉さんに僕は涙目の懇願の視線を向ける。
その視線には僕の今の全ての思いが詰まっている。
そんな僕の視線を受けて、姉さんは微笑みながら一つ頷いてきた。
まるでそれは、大丈夫!お姉ちゃんに全てを任せなさい!と言わんばかりの行動だ。
いや、事実その意味なのだろう。

ね…姉さん!

自分を理解してくれている、目の前の血を分けた家族へと目を向ける。


そうだ。
姉さんはいつだって僕の事を思ってくれていた。
爺さんの陰謀によって引き離された事もあったが、小さい頃から僕は姉さんと一緒に過ごしてきたんだ。
姉さんはお調子者で、お祭り大好きな困った人ではあったが、いつも僕を大切にしてくれた。
そんな姉さんだから僕は姉さんの事が大好きだったんだ。

僕は姉さんを見る。
僕の白い髪とは違う、金色のセミロングな髪。
僕と同じ青い瞳。
僕と血を分けた人。
僕を解ってくれている人。




「そして私の熱いキッスをプレゼントしちゃいます!」




姉さァァァァァァァァァん!?
え!?ちょ!?
姉さん!?
あれ!?おかしくね!?
この展開だったら、私とアクアは姉弟なので、キスはなしです!とかってなるんじゃね!?
さっきまでの僕の回想台無しじゃね!?

姉さんの発言に沸き立つ観客達。
それは歓声でもあり、悲鳴でもありよくわからん声たちであった。
つーか、え゛!?
マジでするの!?
マジマジでするの!?
姉と弟なんて…ソフ論ならとても許してくれないよ!
せっかく苦労して作ったのに販売中止なんだよ!?それでもいいのかい姉さァァん!?
って、毎度の事ながら僕の頭が混乱してきたァァァ!
やっぱり嘘だと言ってよ!ブーニィ!?

混乱する僕を置いてけぼりに展開は進む。
なんと姉さんが僕の頬に手を添えてきたのだ。
小さくて、細い姉さんの指。
それが僕の頬に当たる。
ド…ドキドキなんかしてないんだからね!?本当なんだからね!?

ツンデレ風に自分の心を誤魔化す。

そんな僕に姉さんは一言。

「アクア…恥ずかしいから目をつぶって…。
こういう時は目をつぶるのが…ルールなんだよ?」

頬を染めながら放たれたこの一言。

その一言で僕の何かが壊れた。

……そうだ。
論理感がなんだ!ソフ論が何ぼのもんじゃァァァァァ!
この作品に登場している人物は全て18歳以上です。
なんて言葉で、どう考えても18歳未満のキャラクターを攻略対象として認めている機関じゃねえか!
そんないい加減な奴等が僕達を止めることなんて出来ない!
ああ…脳裏に天の声が聞こえてくる…。

なに?アクア。
論理感が働いて、姉とのキスに恐れを抱いている?
アクア、それは逆に考えるんだ。
「論理感なんてくそくらえ、別に姉とキスをしてもいいんだよ。
とゆーかその続きもしていいんだよ!」
と考えるんだ。

脳裏に浮かぶのは誇り高きイングランドの貴族。
ですよね!ブースター卿!
僕は今凄まじき援軍を得た!
これで我が軍は100年は戦える!



覚悟はできた!
僕はこれより、新たなる世界―――新世界へと赴く!
それは誰にも理解されない世界なのかもしれない。
それは冷たく、辛く、険しく、過酷な世界なのかもしれない。
だけど僕はこの道を進むと決めたのだ。
姉さんと一緒に!


僕は姉さんを見る。
僕の白い髪とは違う、金色のセミロングな髪。
僕と同じ青い瞳。
僕と血を分けた人。
僕を解ってくれている人。
僕の…大切な姉さん。
僕の…初めてのキスの相手となる人。

先ほどまであんなに騒がしかった、周りの騒音が全く聞こえない。
まるでこの世界に居るのは僕と姉さんだけのような錯覚を覚える。

瞼を閉じる姉さんに合わせるように、僕も瞼を閉じる。
僕の視界が閉じられ、姉さんの表情が解らなくなるが、脳裏では姉さんの顔が焼きついている。


さあ!いざ行かん!我等が未だ見ぬ最果ての地―――姉萌えへ!

そして僕と姉さんの唇が合わさる…事無く、何故か頬に軽く柔らかな衝撃が走った。

…はれ?

思わず閉じていた瞼を開き、視界を取り戻す。

そこには、悪戯が成功した事を喜んでいる子供のような表情をする姉さん。

…はれれ?

「ふふふ…。
アークーア、もしかして唇にかと思った?
ざーんねん!お姉ちゃんの唇はそんなに安くはないんだよ!」

そして会心の笑みを浮かべながらこんな事を口走ってきた。

………はれれれれ?

今の姉さんの発言。
そして頬にあった、軽い衝撃。
それらの情報を考えると、どうやら姉さんに頬にキスをされたようだ。
唇にではなく頬のようだ。


………な、なーんだ。
姉さんに一杯食わされたな。
思わず、してなくてもいい覚悟までしちゃったよ。
あの覚悟はあれだな。
思わず、こく雰囲気に流されてしちゃった覚悟だな。
うん、そうだよ。きっとそうだよ。絶対にそうだよ。大切なことだから3回言っちゃうくらい大事な事だな。
冷静に考えてみれば、姉さんと一緒に畜生道まっしぐらへの道を僕が選ぶはずが無い。
何が、いざ行かん!新世界へ!だよ。
はははははは、ぼ、僕の唇はアーニャタンやナナリー達へと捧げるものなんだから!
間違っても、ね、姉さんじゃないんだよ!?

改めて再確認した僕。
危ない所だった。
危うく、二度と戻って来れない奈落への道。
畜生道を駆け抜ける所だった。
姉さん…!貴女の魅力は凄まじいものがあったが、このアクア・アッシュフォードは見事にあなたの一撃を耐え切って見せた!
よくやったぞ!僕!かっこいいぞ!僕!まじパネエぞ!僕!

でも…姉さんの唇の感触…柔らかかったなぁ。

思わず姉さんに口付けられた頬に手を当てて、そんな事を考える。

あの唇の感触が…僕の頬じゃなくて…口だったら…。

思わず自分の唇に手を当てて、そんな事を考える…って、ええええ゛!?

おいいいいいい!!
何を考えてるんだ!?
何を考えすぎているんだ!?僕は!?
何があの唇が僕の口にだったら…だよ!?
何だ!?僕は心の奥底では姉さんとの禁断の愛を望んでいたのか!?
嫌ァァァァァ!とっても嫌ァァァァァ!
僕は至って、ノーマルなんだよ!?
それが何だ!?最近の僕は!?
ホモに悩んだり姉萌えに悩んだり…まともじゃねえ!まともじゃねえ!
このままじゃ本当にホモで近親相姦者なまっとう過ぎないロードに一直線だ!
嫌ァァァァァ!とっても嫌ァァァァァ!すっごく嫌ァァァァァァ!

負のスパライラルへと一直線な僕。
そんな僕を見て姉さんは一言。

「ふふふ…残念だったね。
でも…これからの展開次第では、お姉ちゃんの唇を本当にアクアに捧げちゃうかもよ?」




………………………に、人間たまには道を誤ってもいいかもしれないね。










[3303] お家再興記 14話
Name: 0◆ea80a416 ID:a87cd7a7
Date: 2010/01/26 23:50
エリア11に存在する総督府。
それは日本がブリタニアの植民地になった時から、このエリア11の中心の地となったと言っても過言ではない場所である。

そんなエリア11の中心地で、僕は今死ぬほど重い足取りで廊下を歩きながら、ある一室を目指していた。

僕が目指している場所。
それは総督室―――ブリタニア帝国第二皇女でもあり、エリア11総督であるコーネリア・リ・ブリタニア皇女と会見する為に向かっているのである。

今の僕の上司、コーネリア殿下に呼び出しを食らった為に総督室へと向かうハメになったのだ。
本来であるなら、あのコーネリア殿下のおっぱいを間近で見れる機会と、喜んでいたかもしれない。
しかし今の僕にはそんな余裕は無かったのだ。

僕の足取りを重くする理由。
それは先のナリタ連山の戦いの為であった。

ナリタ攻防戦。

それは日本最大のテロ組織である、日本解放戦線を壊滅するためにコーネリア軍が挑んだ戦いであった。
序盤は、コーネリア軍が圧倒的多数の軍事力によって、ナリタ連山を包囲する形で順調に押していたが、予期せぬ地震により発生した山崩れに巻き込まれてしまい、コーネリア軍は八割近くの兵力を失ってしまったのである。
しかもその隙を突くように、黒の騎士団と名乗る新たなテロ組織が戦場に乱入する形となり、コーネリア軍は少ない戦力で日本解放戦線の残党と、黒の騎士団の両方の戦力と戦わなければいけない状況へと追い込まれてしまったのである。
黒の騎士団と日本解放戦線の即席タッグによる猛撃は、一時、コーネリア殿下も危うい所まで追い込まれたが、スザクが駆る第七世代型KMFランスロットに寄る活躍によって、事なき事を得た。
日本解放戦線はその殆どの戦力を失ったが、僕達ブリタニア軍の被害はそれ以上であり、結果的に見て今回のナリタ攻防戦は黒の騎士団の一人勝ちと言ってもおかしくない結果となったのである。

そんなコーネリア軍にとっては散々な結果となったナリタ攻防戦であったが、その中で僕がした事と言えば、予備戦力であった純血派の皆さんを率いた事であった。
純血派はジェレミア・ゴットバルド卿を中心として、小隊としては破竹の勢いで戦果を上げていったのだ。
壊滅しちゃったけど。

その事実が僕の足取りを重くする要因の一つであった。

そう、純血派はコーネリア軍に壊滅的な打撃を与えた山崩れに巻き込まれて壊滅してしまったのである!
奇跡的に助かったのは、純血派のNO2のキューエル卿。
そして大人の魅力満載のエロエロエキゾチックなヴィレッタ卿の二人だけである。

ちなみに純血派の頭であったジェレミア卿は、最初は山崩れに寄る被害から逃れられたのだが、土砂によって流された僕を救うべく、自ら土砂崩れの中に飛び込み、行方不明となってしまったのだ。

ジャレミア卿!なんと忠義に熱い男だ!
でも助けられる立場の僕が生還して、助けようとしたジェレミア卿が行方不明。
ミイラ取りがミイラになっちゃて、ミイラが何を間違ったのか生き返って、生還したようなものだ。

このジェレミア卿行方不明の事実によって、僕の中で進行していた、目指せ!ジェレミア卿ナイトオブセブン計画☆は即座に頓挫の道へと一直線となってしまったのである。
かなり凹む。

純血派の壊滅。
これだけで僕の頭は痛いのに、頭痛の悩みはこれだけではないのである。

それは僕自身の戦果であった。

僕は今回、黒の騎士団の新型KMFと一騎打ちを繰り広げ、攻められまくりながらも、何とかスザクの支援によって引き分けとまで持ち堪えた。
だが引き分けといっても、それは物凄く負けに近い引き分けだ。

ナイトオブラウンズには暗黙の鉄則がある。

それは、ナイトオブラウンズの戦場に敗北は無いという事。

僕達ナイトオブラウンズは、皇帝直属の騎士団であり、その実力は軍事超大国ブリタニア帝国の中に置いても最強と言われる集団である。
その実力はブリタニアだけでなく、他国まで知れ渡っている。

そんな僕達は最強でなくてはいけないのだ。

もしラウンズが負ける事態になってしまったら、味方は一気に士気を失い、恐慌状態へと陥ってしまう。
逆に敵は一気に勢いを増して戦意を高める。

僕達ラウンズの敗北は個人の敗北ではなく、その戦場での敗北へと繋がるのだ。


故に、僕達ラウンズは敗北は許されない。
否、存在してはいけないのだ。

だと言うのに、僕は今回の戦いはもう、ダメダメな結果であった。


率いた純血派は壊滅状態。

敵KMFと一騎打ちをした結果、負けに近い引き分け。

僕専用グロースターはスクラップ一直線。



もう散々な結果である。
下手したらハラキーリ物じゃね!?
いや下手しなくてもカイシャーク物じゃね!?

しかもコーネリア殿下は、皇女でありながら軍人として厳しい事で有名な人である。
一体、どんな事を言われるのか…!
想像するだけで恐ろしい。欝になってくる。
このまま回れ右して帰りたいぐらいだ。
どうしよう!?帰っちゃおうか!?んで部屋に引きこもって久しぶりにニブニブ動画を楽しんじゃおうか!?
そしてニブニブ動画流星群を歌い手達と、歌っちゃうか!?
うん。そうしよう。
僕の歌い手としての名前は何にしようか。
神聖かつ、皆さんに親しまれるような名前は…。

「ようこそいらっしゃいました。
アッシュフォード卿。
只今、コーネリア総督に入出の許可を取りますので、少々お待ちください」

真面目に、帰って現実逃避しようかと考えていたら、何時の間にか総督室の目の前まで足を運んでいた。
そして総督室の前に立っていた、従卒が入出の許可を取り始めていた。
その許可の申請に、即応じる入室許可の声。
どうしよう。逃げられなくなっちゃた。

「お待たせしました。アッシュフォード卿。
許可が下りましたので、ご入室ください」

入室を促す従卒の声が死刑を告げる裁判長の言葉のように聞こえた。






「失礼致します。
アクア・アッシュフォード只今参りました」

「ああ。
突然呼び出してすまなかったな、アッシュフォード卿」

「いえ、お気になさらず」

中に入室してコーネリア殿下と挨拶を交わす。
総督室の中には、ガチムチ将軍、ダールトン将軍と、萌えの騎士、ギルフォード卿が居た。
所謂、いつもの直参組みだ。

「さて、今回アッシュフォード卿を呼んだ理由だが…
先日のナリタ連山の戦いについての件で呼んだのだ」


いきなり直球がキターーー!
殿下ったら!僕にお得意の現実逃避をする暇も与えてくれないよ!
疾風迅雷の一撃じゃ!
嗚呼。この目の前におわす、コーネリア殿下の一言で、僕の人生が終わるかもしれないのか…。
せめて…せめて死ぬ前に彼女が欲しかった…。
ウキウキ学園ライフをもっとトロピカルに過ごしたかった。
僕の性春の日々は始まったばかりだというのに。

机の中にある、ラブレターから始まる二人の恋。
それはファーストキッスから紡がれるような甘い甘い二人の恋の話。
そして初デートで何故かいけないホテルへと行っちゃう僕達。
だ、駄目だ!僕達はまだ未成年なのに、エッチな事はいけない事だと思います~♪
まて!靴下は脱いじゃだめだ!靴下は残していてくれ!

あれ?僕今現実逃避してる?

「此度の働き、真に見事であった。
アッシュフォード卿」


よいではないか♪よいではないか~♪


……今、殿下何て言ったの?


脳内彼女とお代官様ごっこを繰り広げいた僕は、殿下の言葉を聞き逃していた。


そんな僕に気付かずに殿下は、僕を褒め称える言葉を紡いできた。
あれ?僕何か褒められてる??
何で褒められてるの??

「いえ、自分は何も賞賛される事はしておりません」

「何を言うか。あのグロースターの状態でよくもまあ、あそこまで戦えたものだ。
技術者達が回収した卿のグロースターを見て、驚愕していたぞ。
流石はナイトオブセブンと言った所か」

本気で褒められている理由が解らず、功績を否定する僕に。
卿は謙虚な男だな。
と呟きながら殿下は僕に対するお褒めの言葉を言ってきた。

あれれ??
何か僕の予想と違うんですけど?
今日はアクア断罪の日じゃなかったの?
僕はナイトオブラウンズの鉄則を壊しかけて、しかも純血派を潰しちゃったのに。

訝しげな僕の雰囲気に気付いたのだろう。
コーネリア殿下は純血派の事か。と呟きながら僕に話しかけてきた。

「卿の心に残っているのは、純血派の事か。
確かに、純血派の壊滅は真に残念であったが、土砂崩れに巻き込まれての壊滅では、致しかたが無い。
卿は最善の行動を取り、このコーネリアの命を救ったのだ。
改めて礼を言おう。
アッシュフォード卿」

「私達からも礼を言わせていただきます。
よくぞ、姫様をお守りしていただきました。
感謝申し上げます。アッシュフォード卿」

コーネリア殿下の言葉に続いて、ガチムチ将軍が感謝の言葉と共に、頭を下げてきた。
それに続き、ギルフォード卿も頭を下げる。

正直、褒めれられるのは気分がいいが、断罪を覚悟でこの場に着たのに、逆に褒められるという今の状況は、嬉しさよりも戸惑いの方が大きいっす。

「二人とも頭を上げてください。
自分は兵士として当然の事をしたまでです」

でもやっぱり気分がいいので、調子こいていい人ぶってみたりします。
その場のノリで生きる僕は何と素晴らしい人間なのだ。
嫉妬するなよ?

「兵士として当然の事か…。
あれだけの戦闘を繰り広げていながらそんな台詞が出てくるとはな。
…いや、卿にとっては、今回の戦いは日常の一コマといった所なのかもな」

あんなデッドオアデッドな戦いが、日常の一コマ何てありえないというか、あったら物凄く泣くような状況だ。
しかしこれ以上否定しても、また謙虚してるとか思われそうなので黙っている事にする。

「さて、アッシュフォード卿。
今回呼んだのは、他でもない。
今後の我らの行動を知らせておこうと思ってな」


殿下の言葉に空気が引き締まるのを感じる。
ちなみに僕は殿下の凛々しい顔に、凛々萌えしてしまいそうな勢いだ。
何と萌えは奥が深い。

「今回の戦によって、日本解放戦線はほぼ壊滅状態となった。
あとは散り散りとなった残党狩りと、日本解放戦線の首領。
片瀬という者を討ち取れば、自然と日本解放戦線は消滅するであろう。
それよりも問題は…」

「黒の騎士団ですな」

ガチムチ将軍が殿下の言葉を引き継ぐように言葉を発する。
その答えに、頷きながら殿下は話を続ける。
何か雰囲気がピリピリとやばいっす。

「そうだ、ダールトン。
今回の戦いにおいては屈辱的な事だが、黒の騎士団の一人勝ちといった結果だ。
この勝利の結果によって、黒の騎士団はさらに規模を拡大させる事であろう」

此処まで話すと、殿下は顔中に悔しさを滲み出しながら話を続けてきた。

「それに対して我が軍は壊滅的なダメージを受けている。
今の状況では、レジスタント達の頭領という、NAC所か黒の騎士団にも手を出せん状況だ」

その言葉に僕はかなり驚いた。

NAC―――旧日本における名門と財閥の集合体であり、内務省の管理下にある団体であり、このエリア11に住むイレブンと言われる人種の自治を任せられている代表者達である。
当然、選ばれる者たちは、親ブリタニアでなくてはならない。

そんな親ブリタニアの筈の彼らが、実はレジスタンスの黒幕という立場に、僕は驚きを隠せなかった。

イレブンの反乱勢力が他国の植民地と比べて活発な理由が少し解った気がする。

「今は我が軍も建て直しが必要な時期だ。
しかし、日本解放戦線の残党狩りは続けなければいけない。
近く、日本解放戦線の首領の片瀬を討ち取る。
アッシュフォード卿。
貴殿の力を借りる事は無いかもしれんが、貴殿にも付き合ってもらうことになる」

うわーん。
また戦場行きが決まっちゃたよ。
本当はこんな出撃要請拒否したいのだが、如何せん、相手は皇族。
ましては戦場を良しとする、豪傑なコーネリア殿下の裁可に反対するほうが、戦場に出る事よりも危険というものだ。
だから僕は心の叫びを仕舞い込んでこの言葉を発してしまった。





「イエス・ユア・ハイネス」




ネットの海に溺れる日々に戻りたい年頃だ。







あれから四人で軽く会話をしてから、僕は総督府を後にした。
コーネリア殿下からは、ナリタ連山の戦いの褒美として、何か頼みごとがあれば、融通を利かせてくれるような事を言っていた。
だったら、戦場に出たくないと言いたい所だったが、鉄の意志でその言葉を抑えた僕を褒め称えて欲しい。

そして今僕が居る場所は病院だ。

何故僕が病院にいるかというと、先のナリタ連山で負傷した友人達の見舞いに来たのである。
その友人達とは…。

「いやー。
態々、来てもらってすまねえなぁ、アクア。
あ、其処に置いてる果物、イオーヤのだけど好きに取って食ってもらって構わないから」

「おい。
お前という奴は、何人の物勝手にやろうとしてるのだ」

「あ?折角アクアが着てくれたんだ。
丁重にもてなそうという、殊勝な心はお前には無いのか?」

「アクアにやる事は別にいい。
だが、スヌアが勝手に俺の物をやると言う事が嫌なのだ。
ああ、アクア。其処に置いている東京バナナ食べてもいいぞ。
スヌアの物だから、遠慮なく全部食べてくれ」

「ちょ!俺の東京バナナを!?しかも全部とかって、お前は鬼か!?
このヤオイ野郎!」

「うるさい!元はと言えば、お前が勝手に俺の物を上げようとしているからじゃないか!
この尻男が!」

この目の前で、面白くないコントを繰り広げながら、さり気なく相手のコンプレックスを刺激しあっている二人である。


スヌア・ボラギノールとイオーヤ・オロナイン。

二人とも僕の仕官学校時代の同期であり、此度の戦いでは、アレックス将軍の直属部隊として働いていた二人である。
アレックス将軍の指揮下であった部隊は、土砂崩れに巻き込まれ壊滅状態となったが、この二人は数少ない生き残り組みだったという訳だ。
奇跡的に生き残った彼等であったが、二人の体は直ぐに現場復帰できるような状態ではなく、即病院に搬送され、そのまま入院コースとなってしまったと言う訳だ。
ちなみに二人の名前は、彼らの父親がお互いの子供の誕生を祝って飲み会をした際、酔っ払った勢いで自分達の子供の名前を決めて、役所に名前を登録したそうだ。
ちなみのちなみに父親達はその後、自分達の妻達に半殺しにされたそうだ。
南無。

「でも君達二人が無事でよかったよ」

アレックス将軍が率いた部隊は、ほぼ全滅している。

そんなアレックス将軍が率いた中でも直属部隊に当たる二人が生き残ったのは奇跡と言える事であろう。

「そんなお前もあの土砂崩れに巻き込まれて生き残ったんだろう?
まあ、俺達はお前と似て悪運が強かったって事さ。
ジノや俺達と言い、第八ブリタニア士官学校の奴らは悪運が強いのかねぇ」

「お前と一まとめされるのは尺に触るが…その通りかもな」

二人と軽口を交わしながらも話を続ける。

「でも、君達はこれからどうなるんだろう?
アレックス将軍の部隊は壊滅してしまったから、君達には戻る部隊が無くなってしまったからね」

僕の言葉に、二人は難しそうな顔つきをしてから言葉を発してきた。

「そこなんだよなぁ…。
まあ、俺達のこの状態では暫くは現場復帰できないだろうけど。
コーネリア軍の何処かの部隊に配属になるか…でも恐らく休養も兼ねて本国に配属になる可能性が高いんだよなぁ…。
俺としては、このままエリア11に残って、黒の騎士団の奴らにキッチリとノシ付けてやりたいんだがな」

「黒の騎士団と決着を付けたいのは俺も良くわかる。
だが、俺達の配属先を考えるのは、俺達では無く上層部のお偉方だ。
俺達はその決定に従うしかないのだがな」

フンガー!と鼻息荒く話すスヌアに同意しながらも、冷静に自分達の立場を解っているイオーヤがぼやく様に話す。

コーネリア軍が壊滅状態となった原因である土砂崩れ。
あれは人為的な現象である確立が高い事であるという事を、僕は先の殿下との会見で聞かされたのだ。
そしてそれを起こした勢力が黒の騎士団とである可能性が非常に高いと言う事を。
その事を僕はスヌアとイオーヤに教えたのだ。
自らの部隊を飲み込んだ土砂崩れを誰が起こしたのかを。

それに対して二人は怒りを露にしていた。
二人が配属され、共に苦楽を共にし、生死を分かち合った部隊の者たち。
自分たちは兵士。
相手の命を奪い、自分の命も狙われる。
それも戦場では仕方が無い事だ。
だが彼らをそを飲み込んだ土砂崩れ。
騎士としてとても許されない死に方。
その彼らの死を引き起こした黒の騎士団を二人は許せないようだ。



「そうだよなぁ…上層部のお偉方の決定がどんなモンなのか…
…んん?上層部??」

「ああそうだ。
我々は上層部の方々の決定に従うしか………上層部?」

「そうだねぇ。
上層部の決定には歯向かえないからねぇ……ん?」


何だか二人から熱い視線を感じる。
一体何だろうか?

この熱い視線………は!?
もしかして僕を性的な意味で狙ってる!?
二人を見ると、まるで砂漠のど真ん中で、オアシスを見つけた旅人のような眼つきで僕を嬲っている!
何てこったーーー!
まさかこの二人までガチホモ系だったなんて!
名は体を表すとは本当だったのかーーー!
何でこう、第八ブリタニア士官学校の奴らは悪運だけでなく、性癖も悪すぎるんだーーーー!
は!?もしやこの二人はおホモ達!?
そしてこの二人の入院先で同室なのは、性的な意味でも同室が好ましかったからか!?
二人は毎晩、入れて入れられてな天上天下な日々なのか!?
そしてそんな天上天下唯我性尊な日々に僕を加えようってか!?
どっちが攻めでどっちが受けとかって考えたくねェェェ!
いやーーーー!とってもいやーーーーーーーー!


断るしかねェェェ!絶対に断るしかねェェェェ!

幸いにして二人は怪我人だ。
この仕官学校時代から、対ホモ戦闘術を磨いてきた僕ならば撃退は容易いはずだ。
来るなら掛かって来いやぁぁあぁ!
この、たった今開発した一子相伝の歩藻神拳の初代伝承者としての実力を見せたるわァァァ!
ほわたたたたたたたたたた!ホモチャァァ!

「「お前が上層部じゃないか(よ)!!」」


……お前は既にホモっている。
ヒデヴゥ!?

……って、はい?

「え?」

「え?じゃねえよ!
今思ったらお前めっちゃくっちゃ上層部じゃねえかよ!
お前より偉い奴なんか、皇族かナイトオブワンぐらいじゃねえかよ!」

「今改めて考えて見たら、俺達の目の前にはとんでもないコネがいたんだな…」

「ええ?」

「なあ、アクア。
お前なら、俺達を黒の騎士団と戦える部隊に配属できるんじゃないか?」

「えええ?」

「ああ。
ナイトオブセブンである、アクアならこの様な事容易いはずだ」

「ええええ?」

「頼む!アクア!俺達はあんな潰し方で部隊を壊滅させた黒の騎士団を許せないんだ!」

「ええええええ?」

「俺もスヌアと同じ意見だ。
どうか頼む!アクア、俺達の願いを聞いてくれ!」

「えええええええええ?」


何?この唐突な展開は??
僕がホモの二人を一子相伝の暗殺拳で撃退しようと思っていたら、気付いたら二人が何やら懇願してきやがった。
しかし、何ですと?
戦線復帰を希望しているですと??
戦線から外れまくりたい僕に向かって、そんな台詞を吐いてくるとは。

「まあ…コーネリア殿下に言って見るけど…そんなに期待しないでくれよ?
どうなるかはコーネリア殿下が決めることだから」

「ああ!言ってくれるだけで充分だ!
頼むぜ!アクア!」

「すまないが宜しく頼む」

二人の言葉に頷きをもって返答を返す。

まあ、二人とも戦線から外れることでなく、逆に戦線に復帰したいと申し出ているのだ。
よっぽどの事が無ければ、二人の申し出は通るだろう。
しかし戦場に戻りたいだなんて…。
戦場から全力でばっくれたい僕からしてみれば、理解できない思考だ。


「そういえばアクア。
お前達ブリタニアの三連星は親衛隊を作らないのか?」

その後三人で、適当に世間話をしていたのだが、唐突にイオーヤはこの話を振ってきた。

親衛隊。
それは自分専属である、直属部隊の事を言う。
ブリタニア軍では、主に将軍クラスや皇族達が親衛隊を持っている。
そして僕達ラウンズも親衛隊を持てる裁可は持っている。
だが僕やジノやアーニャは親衛隊を持っていないのだ。

「まあ…ジノは思う存分戦いを楽しみたいタイプだからね。
今は僕やアーニャとトリオを組むほうが楽しいみたいだから、親衛隊を持とうとは思わないみたいだよ。
アーニャに至っては、隊を持つと面倒だから持たないみたいだね」

「はぁ。…なるほどねぇ。
んじゃアクア。
お前は?」

スヌアは中々に痛い所を突っついてくる。

僕が親衛隊を作らない理由。
それはこれ以上軍に縛られたくないからだ。

唯でさえ僕はナイトオブラウンズ何て言う、ちょっとやそっとの事では辞められない立場にいるのだ。
そんな僕が親衛隊何てもんを作ったら余計に縛られて、軍を辞められなくなる!
僕はスムーズに軍を辞めたいのだ。
僕が軍を辞める時に足枷となる要素を自分で作ってたまるか!

でも、流石にこんな理由を話すのは恥ずかしすぎるので、スヌアの言葉に曖昧に笑って誤魔化す。
クールな大人の対応だぜ。

その後、軽く三人で世間話をしてから僕はスヌアとイオーヤの病室を出て、違う病室へと向かった。

次に僕が向かう場所…それは純血派のキューエル卿が入院している病室である。

キューエル卿はナリタ連山の戦いで、壊滅した純血派の生き残りだ。
僕としては男のキューエル卿よりも、女性でエキゾチック萌えなヴィレッタ卿の所に行きたいところだったのだが如何せん。
ヴィレッタ卿は特に大きな怪我も無く、現在は私用で何処かに出かけているらしい。
ヴィレッタ卿に怪我が無かったのは良い事だが、彼女に会えない事は実に残念だ。

キュエール卿は見た目から神経質っぽいし、初見のジェレミア卿とのイザコザ。
僕は確信している。
絶対キューエル卿は友人が居ないと!
入院していながらも、誰も見舞いに来てくれていないであろう、キューエル卿の為に僕は見舞いに来ているのだ。
なんと、僕はいい男なのだ。
惚れるなよ?
惚れても僕の尻は永久に僕の物だ。
でも萌えっ子になら僕の尻を渡しても良いと思ってきた年頃だ。

そんな馬鹿な事を考えて歩いていたら、キューエル卿の病室に近づいていた。
ふ…キューエル卿の驚く顔が目に浮かぶぜ。
まさか友達が居ない自分にお見舞いが来るなんてな!
かなり失礼な事を考えながらキューエル卿の病室の前で扉を一度ノックをしようと、手を上げ…。





「はい、キューエル。
あーんして」





その手が止まった。

……え?
何?今の声は??

今まさに扉を叩かんと、僕の上げた腕を止めたのは、目の前の扉の向こうから聞こえてくる甘いスイーートな声だった。
そう、まるで萌え少女の声のように聞こえた。
そして目の前の部屋はキューエル卿の部屋。
断じて萌え萌え少女の部屋ではない。
それなのに何故、男で友達が居なさそうなキューエル卿の部屋から、甘美なキューティクルボイスが聞こえてきたのだろうか??
僕は暫し考えた。
真剣に考えた。
マジに考えた。
そして結論が出た。

これは…幻聴だ!!
彼女どころか友達が居そうにもない、キューエル卿の部屋から女性の声が出るなんてありえない!
しかも聞こえてきた内容はあーんして、だ!
あーんだと!??!
あーんというのはあのあーんか!?
あーんというのはあのあのあーんであっていいのか!?!?
キューエル卿にそんな事羨ましいシュチュエーションがあるなんて考えられない。
というか認めたくない。認められない。僕の全人生にかけても。
きっとあれだ。
度重なる戦場の日々に僕の心は想像以上に疲れ果てているのだろう。
その疲れが僕にこんな幻聴を聞かせてしまったのだろう。
こいつはまずい。
この荒れきった心を直ぐにでも癒さなくていけない。
早くラウンズを辞めて、戦場という悲しすぎる舞台から逃げ出さなくてはならない!!
改めて軍を辞める決意が沸き立ってきたぜ。
しかし、とりあえずは僕の心の砂漠を癒さなくてはならないな。
僕の心を癒す為に、萌えの天使。
アーニャタンに電話をしよう。
そしてアーニャタンのストロベリーな声で僕の心を癒してもらおう。
嗚呼…目を潰れば思い浮かぶぜ。
僕とアーニャタンの未来会話が…。












『はいもしもし☆
アーニャです♪』

『やあ、アーニャ。
僕だよ、アクアだよ』

『アクア!?
アクアなの!?』

『ああ、そうだよ。
元気だったかい?』

『もー!アクアッたら!
エリア11に行ってから全然連絡くれないんだからぁ★
さびしかったんだよ!すっごくさびかったんだよ!
もう!ぷんぷん☆だよぉ!!』

『ごめんよ!アーニャ…』

『でもぉ…久しぶりにアクアの声が聞けて…アーニャ嬉しい♪』

『アーニャ…僕も君の声を聞けて嬉しいよ…』

『アクア…好き♪』

『二人はそして伝説へ……』
















何て会話に違いない!!!
ああああああああああああ……聞こえる!聞こえてくるよ!
脳内翻訳機能がかかったアーニャタンとの会話が!!!
ほんのちょっと、僕の脳内願望が混じっている気もするがノープロブレム!
とってもノープロブレム!!!

まじ二人はそして伝説へだ。
ここから勇者ブトの物語は始まる。
壮大な伝説の幕開けだ。
素晴らしいィィィィ!素晴らしすぎるゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
結婚式の準備をしろ!ブーケはまだか!?
新婚旅行は僕は秋葉原が良いと思います!!
あ、しまった。
アキバは廃墟のまんまだった!!
でもどっちみち素晴らしいィィィィィィ!!!
ビバ!ヴァージンロード!祝!我らの素晴らしき人生よ!!
人間賛歌は此処から始まる!






「おいおい。
食事位自分で食べさてくれよ
恥ずかしいからさ」






その声で僕の現実逃避は終わってしまった。

……ふう。
どうやら神はこの僕に安息な逃避を行う事を許してはくれないようだ。
すまない。
アーニャタン。
君との甘美な脳内妄想会話はまた後でさせて貰うよ。
少し待っていてくれ。
直ぐに君の元へ駆けつけるから。



『うん☆私待ってるからね♪
でも早く来てくれないとアーニャおこっちゃうよ★』

ああ、わかってるよアーニャタン。

心の中のアーニャタンに誓いの言葉を紡いでから、目をつぶる。
此処で一つ、気持ちを落ち着かせる為に深呼吸。よし。
これで僕は冷静になれる。

OK。OK。
KOOLに考えようぜ。
アクアKOOLに行こうぜ?
そうKOOLにな?

今聞こえてきた声はキューエル卿のものだ。
しかしその内容が問題だ。


食事位自分で食べさてくれよ

これ重要。
凄く重要。
物凄く重要。
テストに出る位に重要。

食事位自分で食べさせてくれよ。
つまりこれは自分以外に食事を食べさせてくれる相手が、今部屋に居るという事だ。
ましてこの口ぶり。
相手は看護婦さんなどとは違い、相当親しい間柄ではないかと思われる。
いや、看護婦さんでも凄く羨ましいけど。
血涙が出るくらいに羨ましいけど。

恥ずかしいからさ。

そしてこの言葉も重要だ。
恥ずかしい。
つまりは食べさせてもらっている所を第三者に見られたら、恥ずかしいと言っているのだ。
キューエル卿が自ら食事を取る事も出来ないような、状況であるならば其処まで恥ずかしいものではないだろう。
つまりキューエル卿は自分で食事をできる程度の負傷であると考えられる。

さて此処で問題だ。
ではこれらの事を考えて、キューエル卿は今誰と話しているかを答えなさい。
この難しい問題に皆は悩むだろう。
しかし僕には答えが解っている。
そう。考えるまでもなくね。

答えは………キューエル卿の妄想です!
もうファイナルアンサーな勢いで妄想です!
あまりにも友達が居ないキューエル卿は、一人っきりの入院生活に耐え切れず、ついつい妄想の世界に逃げてしまったのであろう。
そしてその妄想の内容がついつい口から出てしまったのだ。
何て哀れなキューエル卿だ。
でもその気持ちはもの凄く解ります。
よく僕も妄想の世界に逃げているから。

さて、部屋の中ではキューエル卿が妄想の中に旅立っているのだ。
そんな中僕が部屋に入っては、キューエル卿の妄想の邪魔をしてしまう。
僕はこれでも空気が読める男なのだ。
決してKYではないのだ。
しかし凄いなキューエル卿は。
あんなストロベリーな声を裏声とはいえ出せるのだから。
もう、女の子の声にしか聞こえなかったよ。
さて、答えが出た所で、さきほどから待たせているアーニャタンの所へ行かねば!
もう一度…アーニャタンとの未来会話を思い浮かべちゃうぜ!
アーニャタンとのストロベリーなトークで乾ききったこの心を癒しつくすぜ!









『はいもしもし☆
アーニャです♪』

『ふ…。
アーニャよ。
私だ、アクアだ』

『アクア!?
アクアなの!?』

『ふ…そのとおりだ。。
息災であったか?』

『もー!アクアッたら!
エリア11に行ってから全然連絡くれないんだからぁ★
さびしかったんだよ!すっごくさびかったんだよ!
もう!ぷんぷん☆だよぉ!!』

『ふ…許すが良い、許すが良い』

『でもぉ…久しぶりにアクアの声が聞けて…アーニャ嬉しい♪』

『ふ…アーニャ…私もだ…私もお前の声を聞けて嬉しく思うぞ』

『アクア…好き♪』

『ふ…二人はそして伝説へ……』











何て会話に違いない!……って、あれ?何か僕のキャラに無理があるような…。
何だか僕のキャラが大分変わっている気がするのだろうが、気のせいだろうか?何かふ…が付きすぎている気がする。
そして一人称も変わっている気がする。
うーむ…キューエル卿の妄想のお陰で、僕の素敵な未来妄想に支障がでてきたようだ。
こいつは中々に深刻な事態だぜ。


さて、素敵な未来妄想で大分時間を潰せた。
そろそろキューエル卿の妄想タイムも終わって、下手すれば賢者タイムに突入している頃だろう。
頃合だ。
僕はそう判断し、今度こそノックをしようと、腕を振り上げて。









「何恥ずかしがってるのよ。
キューエルは怪我人何だから、黙って口をあけなさい!
はい、あーん」








扉の向こうから聞こえてきた言葉に、
再びその腕を止めた。




………何て事だ。

未だにキューエル卿の妄想ダイブが続いていたとは。
妄想内容はあれかな?
怪我をして動けない自分に可愛い彼女が甲斐甲斐しく世話をしてくれるという妄想かな?
まったく可哀想なキューエル卿だ。
未だにこの妄想というラビリンスから抜け出せていないと言うのか。
ああ、いいとも。
僕は前に言ってるが、空気を読める男なのだ。
キュエール卿が妄想の世界に旅立つというのならば、僕もそれを待とうではないか。
そうだ。
キューエル卿は妄想しているのだ。
決して女の子ときゃっきゃうふふしているのではないのだ。
もう一度脳内のアーニャタンを呼び起こす。







『はいもしもし☆
アーニャです♪』

『HI!アーニャ!
ミーです!アクアでーす!』

『アクア!?
アクアなの!?』

『そうでーす!
GENKIでしたかぁ!?』

『もー!アクアッたら!
エリア11に行ってから全然連絡くれないんだからぁ★
さびしかったんだよ!すっごくさびかったんだよ!
もう!ぷんぷん☆だよぉ!!』

『ソーリー!ソーリー!セニョリータ!』

『でもぉ…久しぶりにアクアの声が聞けて…アーニャ嬉しい♪』

『OH!アーニャ…ミーの愛しいマイエンジャル…』

『アクア…好き♪』

『OH…二人はそしてレジェンドへ……』






そうそう!こんな会話あるある…ってねえよ!
何だ!?僕のキャラが半端なく崩壊しているよ!?
何がHI!だよ!?何がOH!だよ!?そんな台詞間違っても言わんわ!
何で僕が日本人から見た、典型的なブリタニア人になってるんだよ!?
もう、教科書に出ても可笑しくない典型的なブリタニア人だよ!


だーーーー!駄目だ!キューエル卿のあまりの妄想に僕の心が惑わされている。
こりゃ駄目だ。こりゃいかん。こりゃあかん。
思わず関西弁になっちゃうほど…あかん!
おのれェェェェェ!キューエル卿!
この皇帝直属の騎士団の一員であり、ナイトオブセブンの称号を掲げるこの僕を!
このアクア・アッシュフォードを此処まで追い詰めるとは!
やるな!キューエル!

心の中で僕をここまで追い詰める、キューエル卿の妄想に賛辞を送る。

だが…貴様の妄想もこれまでだ!

そう!僕は僕自身の心を守る為に、目の前のこの扉を開ける!
この扉を開けて僕の姿を見せれば、如何に妄想マスターたる、キューエル卿とて妄想を辞めて現実へと帰ってくるだろう。
さあ、現実へと帰る時が来たのだよ!キューエルよ!!

此処で僕は一つ深呼吸。
そして自らの腕を掲げる。
今から僕が奏でるノックはさながら、世界の終焉。ラグナロクの訪れを告げるギャラルホルンの角笛。
僕が…キューエル卿の世界を終わらせる。




「ううん…わかったよ、じゃあお前に任せるよ」




「素直でよろしい!
はい、キューエル。
あーんして」





扉の向こうから聞こえてくる声。
妄想妄想!
こんなの妄想じゃ!
妄想ったら、妄想じゃ!




「あ、あーん。
…………は…恥ずかしいものだな、これは」


「はいはい、恥ずかしがってる場合じゃないよぉ。
次はサラダねー」


やっぱり扉の向こうから聞こえてくる声。
妄想妄想!
こんなの妄想じゃ!
妄想ったら、妄想じゃ!!
妄想って言ったら、妄想なんだよォォォ!!
頼むから妄想なんだよォォォォ!!
妄想じゃなかったら、マジ泣くぞォォォォォォ!!
つうか殺すぞ!!
キューエル卿をマジで殺すぞォォォォ!!
このナイトオブセブンの全てをかけて抹殺するぞォォォォォォ!!

愛と怒りと悲しみと嫉妬と嫉妬と嫉妬と嫉妬と嫉妬と嫉妬と。
とにかく色んな感情を込めた僕のギャラルホルンの角笛。
そんなギャラルホルンな右腕は遂に…扉を叩く。

ゴンゴン!!と高らかにラグナロクを告げるのであった。
ちょっと、色んな感情が篭もって強くノックしちゃったぜ。



「あ、はーい!
どうぞ!」


そしてそれに答える声はストロベリーな妄想な声。
妄想の声が聞こえたと同時に僕は、部屋のドアの開閉ボタンを押す。
ドアがスライドして、部屋の中の状況が僕の眼下に広がる。

そして僕の目に入ったのは、ベッドで上半身を起こしているキューエル卿。
これはいい。
これは問題ない。
凄く問題ない。

だがその他の情報がいかん。
いけない。
いけな過ぎる。

キューエル卿のベッドの隣に備え付けられている椅子に座る人物が居る。
その人物は僕の姿を見て、目を丸くして驚いている。

その人物がいかん。
いけない。
いけないにも程がある程にいけな過ぎる。

その人物。
其処には、美少女がいたのだ…!
僕と同い年位の、オレンジの髪をセミロングとした美少女がいたのだ…!
何が言いたいかと言うと、と・に・か・く!美少女がいたのだ…!!言いたくないけど大事な事なので三回言いました……!!
つまりはさっきまで聞こえていた会話は、キューエル卿の一人寂しい空想会話なのでは無く、この美少女としていたと言う事だ。
その考えに至った時、ある一つのビジョンが脳裏に浮かんだ。
そう、これはさながら信じていた相手に裏切られた、あの人物の心境ではないだろうか?


「アッシュフォード卿!?
わざわざ私の為にご足労を…」

キューエル卿が何やら慌てながら、話しかけてくる。
しかし僕にはその声に応える余裕などなかった。

そう…今の僕はあの少年の心と同じなのだから…!




その少年は幼き頃に母を亡くし、父から見捨てられ親族の下で育てられた。
しかしある時、父から一通の手紙が来る。
その手紙の内容はただ一言。
来い。それだけであった。

父の手紙に従い、赴いた先では信じられない事が何度も起きた。

人類の敵、使徒。
使徒を倒す最終決戦兵器、エヴァンブリオン。
そしてそのパイロット足る自分。

様々な出会いと別れ。
そして…仲間たちの傷ついた姿。
戦いは多感な少年の心を傷つけ、少年は一人心の中へと逃げてしまう。
そんな少年を救ってくれたのは、新たな仲間となった一人の少年…かれの友人だった。

その少年と友になり、心安らぐ少年。
しかし、その友人は実は人類の敵―――使徒だったのである。
友人の真の姿に、困惑し、嘆き、信じられず…そして憤怒する少年。
そして少年は敵を殺す。
少年の友人を殺すのだ…。



そう、僕は今その少年と同じ心だ。

具体的に言うと、こんな感じだァァァ!



嘘だ嘘だ嘘だァァ!!

彼が…キューエル卿がリア厨だったなんて…そんなの嘘だァァ!

『事実だよ☆認めなさい♪
そしてアクアだーい好き★』

今日大活躍のアーニャタンが僕の言葉を否定する。
そしてやっぱりアーニャタン萌え。


裏切ったな…!僕の気持ちを裏切ったな!

爺さんと同じで裏切ったんだ……!






正しく今の僕はこんな心境だ!!
今の僕はイブリシンジの気持ちが理解できる!理解できるぞォォォォ!痛いほど理解しちゃうぞォォォォ!
B・Tフィールドだって張れちゃう勢いだァァァ!
信じていたのに…。
キューエル卿は彼女が居ないって信じていたのにィィィ…!!
信じた結果がこれだ!ごらんの有様だよ!ごらんの有様なんだよォォォォ!

手前ェェェェ!キューエルゥゥゥゥゥ!
どう見てもこの子僕と同い年位か、下手したら僕より下じゃね!?
つまりはどう考えても未成年です、本当にありがとうございましたァァァァ!じゃない!
オンドゥルルラギッタンディスカー!!オンドゥルルラギッタンディスカー!!


手前!成人が未成年に手を出していいと思っているのかァァァァ!?
違法だぞ!?めっちゃ違法なんだぞ!?未成年に手を出したら捕まっちゃうんだぞ!?
それなのに貴様は…貴様はァァァ…!
このいたいけな美少女に、あんな事やこんな事やあんな事やそんな事までやったと言うのかァァ!?
クワァァァァァァ!あんな事を詳しく説明したら、この話しが18禁になっちゃう勢いだぜェェェェ!?
僕は別に羨ましくて怒っている訳じゃない!
このキューエルが法を犯し、哀れな少女の為に怒っているのだ!
ああ、決して、畜生!!羨ましいィィィ!羨ましいにも程があるってもんだァァァ!頼むから僕と代わってくれェェェェェ!
何て思ってないからな!畜生!畜生!思ってる訳ないだろう!?この馬鹿野朗ォォォォォ!
オンドゥルルラギッタンディスカーァァ!!オンドゥルルラギッタンディスカーァァァ!!



心の中で血涙を流しながら、目の前の少女とキューエル卿を見る。
二人とも驚いた顔で僕を見ている。
しかし、僕の表情こそ無表情だが、僕の方が驚いている。
というか混沌に満ち溢れている。カオスで一杯だ。
今の僕なら黒魔術を使える位に心が嫉妬…じゃなくて、義憤に満ち溢れている。
義憤って言ったら、義憤だァァァァ!決して嫉妬じゃないぞ!畜生ォォォォォォォ!
オンドゥルルラギッタンディスカーァァァ!!オンドゥルルラギッタンディスカーァァァァ!!



キューエル!手前、覚悟しておけよ!?
病院を出たら、直ぐに憲兵達に通報してやるからな!?
いや、むしろ今すぐにでも通報してやるからな!?
僕を舐めるなよ!?このナイトオブセブンの立場を利用して、今すぐにでも逮捕してやるわァァァ!
このロリぺド野朗がァァァァ!貴様には人誅を食らわしてやるわァァァァ!!
オンドゥルルラギッタンディスカーァァァァ!!オンドゥルルラギッタンディスカーァァァァァァ!!

僕の決意は固まった。
キューエル卿!もう君に逢うことはないだろう。
暗い監獄の中で己が犯した罪に後悔するがいい!

「あ、あの!」

懐に閉まっている携帯に手を伸ばし、通報しようとした僕を止めたのは、キューエル卿に弄ばれた哀れな美少女からだった。
その声に思わず手を止めてしまう。
止めないでくれ!これは君を救う為なんだ!決してキューエル卿への嫉妬でするんじゃないんだよ!?
このロリペドキューエルは決して許してはいけない存在なんだよぉぉぉ!
何回も言ってるが嫉妬じゃないんだからなァァ!?こん畜生ゥゥゥゥゥゥゥゥ!

義憤に満ち溢れている僕に向かって美少女は更に一言。

「は、初めまして!
私はエリア11ブリタニア士官学校所属で、コーネリア総督の従卒を勤めております、マリーカ・ソレシィと申します!
あ、兄のキューエルがお世話になっております!アッシュフォード卿!」





…………OK、キューエル卿。



お義兄さんと呼ばせてください。



[3303] お家再興記 15話
Name: 0◆ea80a416 ID:e332fd4d
Date: 2013/01/28 19:16
「遅れながら紹介いたします、アッシュフォード卿。
私の妹のマリーカ・ソレシィです。
マリーカ、この方がナイトオブセブンであるアッシュフォード卿であられる」

「お、お初にお目にかかります!
コーネリア総督の従卒を勤めているマリーカ・ソレシィと申します!」

「キューエル卿の妹君であったのか。
初めまして、アクア・アッシュフォードです。
何時も貴女の兄君にはお世話になっているよ」

「こ、こちらこそ!
兄がお役に立てて光栄です!」

キューエル卿の紹介により、その正体が判明した目の前の少女、マリーカ嬢と言葉を交わす。
歳は僕と同じくらいであろうか?
キューエル卿と同じ茶色の髪に、青い瞳。
冷静に考えると、キューエル卿と似ている箇所は多い。
僕とミレイ姉さんよりも兄妹らしく見える。
そしてそれより重要なのはマリーカ嬢はぶっちゃけ可愛い。
ぶっちゃけS級の可愛さだ。
もうマフマフして萌え萌えしてもおかしくない美少女だ。


………こ、これからは心の中でキューエル卿をお義兄さんと呼ばせてもらおうかな。うん。

ルルーシュに続く、新たな義兄の誕生だ。

「アッシュフォード卿、今日は私ごときの為にご足労をお掛けさせてしまいまして…」

「キューエル卿、何を言うか。
卿と僕は先の戦いを共に戦った仲ではないか。
そのような遠慮はしなくてもいいさ」

とは言っても、ぶっちゃけ僕は純血派と一緒に戦っておらず、後方から唯戦闘を眺めていただけだが。
そこは大人の事情で誤魔化されて欲しい。

「むしろ僕は君達に謝らなくてはならない。
僕が率いたばかりに君たち純血派を壊滅させてしまったのだから…」

先のナリタ連山の戦いにおいて、僕は純血派を率いた。
だが、その結果は今目の前にいるキューエル卿と、今は此処に居ないエキゾチック萌えなヴィレッタを除き、壊滅してしまったのだ。
初めて率いた部隊を壊滅させた男。
それがぶっちゃけ僕だ。
かなり黒歴史だ。

だが、その後の働きで、何か知らんが、コーネリア殿下からはお褒めの言葉を頂き、懲罰はなかったが、壊滅させられた部隊の一員のキューエル卿はたまったものではないだろう。

だから無表情な僕の顔の筋肉をフル活動させ、神妙な顔を作り、キューエル卿に謝罪する。
決して、先ほどまでキューエル卿に嫉妬し、マリーカ嬢に萌えていた事を悟らせないようにしなくては。
大根な僕だが此処は頑張らなくては。

「アッシュフォード卿…そのような事をおっしゃらないでください。
あれは誰が部隊を率いたとしても防ぎようがない事態です」

「すまない…キューエル卿…」

「それに…私達は嬉しかったのです。
あの時、アッシュフォード卿の指揮下の部隊に選ばれて」

なぬ?
初めて指揮する男の部隊に入れて嬉しい??
何故に??
そんな部隊僕なら死んでもお断りだぞ。

「我ら純血派は、冷遇されていました」

そんな僕の心情を悟ったのかキューエル卿が、話をしてくる。

「アッシュフォード卿もご存知でしょうが、ジェレミアのオレンジの件で私達純血派は最早終わったも同然だったのです」

ブリタニア軍の中でオレンジ農家がここまで差別されていたとは…。
オレンジってそんなに人気がなかったのか…。
僕結構好きなのに。

「最早組織として終わっていたと同然の私達に突如希望が降ってきました」

オレンジ農家のあんまりな待遇に心痛めていた僕に、キューエル卿が視線を向ける。
その瞳はすごく真摯な物だ。
まるで仕官学校時代のガチホモ達が僕を見つめる視線のようだ。
…死にたくなってきた。

「それが貴方です、アッシュフォード卿」

絶賛、死にたくなっていた僕を見つめながらキューエル卿は言う。
希望って…何で?
完全に困惑している僕を置き去りにしてキューエル卿は遠くを見るように視界を上げる。

「あの、兵達を前におっしゃてくれました言葉。
私は生涯忘れることは無いでしょう。
我らをブリタニアの忠義の剣にして愛国の盾と評してくれた言葉を」

は、恥ずかしい。
あんな勢いで言ってしまった言葉を…。
どうか忘れてほしいと心から願う。
マジで。

「あの言葉だけで私達は救われました。
本当に…本当にありがとうございました。アッシュフォード卿」

だが、そんな僕の気持ちを知らずにキューエル卿は感謝の気持ち100パーセント籠もってます。
なんて言葉が相応しいキラキラとした瞳を僕に向けてくる。

ま、眩し過ぎる。
純血派を壊滅させてしまった僕には眩し過ぎる瞳だよ。姉さん。

「と、ところでこれから純血派はどうするんだい?
生き残ったのは君とヴィレッタさんのみとなってしまったのだろう?」

薄汚れている僕には眩し過ぎる話の流れを変えるために違う話題を切り出す。
純血派を壊滅させてしまった、僕としてはこれからの二人の動向は気になる所だ。
特にヴィレッタさんは。

「まだ何とも…私はまだ入院が必要ですので、現場復帰には時間がかかりそうです。
ヴィレッタは怪我はなかったのですが、どこに所属されるかはまだ決まっておりません」

「そうか…」

ぬぬぬ…これではヴィレッタさんと、うきうき職場ラブ体験は出来そうにないぞ。
何てこったい…。
僕が脳内で勝手に作り上げていたヴィレッタさんとの明るい未来家族計画が頓挫してしまうではないか。
二回言っちゃうくらい、何てこったい。
地味に落ち込む僕であった。僕を見ながらキューエル卿は苦笑いをしながら言葉を発してきた。

「まあ、純血派であった私たちを受け入れてくれる部隊があるかも問題ですがね」

「キューエル…」

僕を見ながらキューエル卿は苦笑いをしながら言葉を発する。
そしてそんなキューエル卿を痛ましげに見つめるマリーカ嬢。
…も、萌え!

と、いかんいかん。
切なげなマーリカ嬢に萌えるのは後にしなくては。
まずはキューエル卿の問題に関してだ。
マリーカ嬢をオカズに萌えるのは部屋に帰ってからにしよう。
ぐふふ。

にしても行き先がないか。
確かにあれだけ軍に嫌われていた純血派の生き残りである二人を快く受けれいてくれる部隊は少ないのかもしれない。
下手すればこのまま僻地送りにあい、軍人としては日陰の一生を送るかもしれないのか。
……う、羨ましいかも!!

冷静に考えてみれば、僻地送りにされても、毎日のように戦場でラブドンパチ繰り広げている僕としてはちょっとっていうか、かなり羨ましいかもしれない。
僕も戦場でミスをし続ければ、僻地送りにされるか、もしくはラウンズを首となって、ニートになれるのではないだろうか。
おお、何かいい考え!
…ではないよな。

冷静に考えてみれば、僕が戦場でミスをし続けるということは、それだけ軍に迷惑をかける事となる。
そしてその迷惑によって、仲間が死ぬかもしれないのだ。
いくらラウンズを辞めたいからといって、仲間を危険に晒すわけにはいけない。
それ以前に、ミスをし続けているうちに、僕自身が戦死してしまうかもしれない。
軍人を辞めたい為に、わざと失敗を繰り返すうちに戦死してしまったのでは元も子もない。
というか、下手したら皇帝に殺される気がする。
弱者は死ね!って感じで。
僕は女の子といちゃラブする前に死ぬわけにはいかんのだ。
それと爺に熱すぎる鉄拳を喰らわせてないしな!

話を戻して純血派の受け入れ先。
軍のはみ出し者扱いされている純血派を受け入れてくれる部隊先か。
実は僕には心当たりがあったのだ。
それはぶっちゃけ僕直属の部隊---つまりはナイトオブセブンの親衛隊だ。

ブリタニアでは、皇族や軍ならば将軍やラウンズクラスであれば、自らの直属部隊、親衛隊を持つことができる。
ナイトオブセブンである僕はその気になれば、親衛隊を作ることができるのだ。
まあ、部隊を指揮するのが面倒なのと、軍を辞めれなく要因を自ら作りたくないので、今まで親衛隊を作る気など皆無であったのだが。

僕が新たに親衛隊を作れば、僕の意向で隊のメンバーを選ぶことが出来る。
それならばキューエル卿やヴィレッタさんを受け入れることは容易なのだが…。
前にも話したとおり、親衛隊を作れば、さらに軍を辞めづらくなるのは目に見えている。
確かに、あのエキゾチック萌えなヴィレッタさんと、ドキドキ職場恋愛はものすごくしたいのだが、目先の萌えに目が眩んで、軍人への縛りをこれ以上強くしてしまっては、本末転倒だ。
断腸の思いだが、ここは冷静に判断しなければならない。
非常にひじょーに残念だが、うきどき戦場ラブは諦めざるをえない。

うんうん、と僕は自らの英断に酔いしれていた。

「キューエル…大丈夫だよ!!私も来年士官学校を卒業する!私絶対キューエルと同じ部隊になるよう申請するから!それでキューエルを支えるから、二人で頑張ろうよ!」

「…マリーカ」

酔いしれタイム終了。

え??マリーカ嬢ってキューエル卿と同じ部隊を希望しているの??
ということは、僕が親衛隊を作って、キューエル卿を招き入れれば、マリーカ嬢ももれなく付いてくるということ??
つまりはヴィレッタさんとマリーカ嬢の両手に花状態??
戦場のラブロマンスここに極まり??

いやいや、何を考えるんだアクアよ。
つい先ほど、親衛隊は作らないと決心したばかりではないか。
この後先考えずで親衛隊を作ったら、生涯後悔し続けることになるぞ。
キューエル卿、ヴィレッタさんには悪いが、ここは心を鬼にするんだ。
そう、心を鬼にして…。

「ありがとう、マリーカ。その心は嬉しく思う。だが、もはやブリタニア軍には俺の居場所は無いも同然なのだ。
ジェレミアの失態に加え、純血派は壊滅。もはや元純血派というだけでどこも爪弾き扱いさ。今更俺を受け入れてくれる場所などないのさ…最早退役したほうがいいのかもしれない」

こ、心を鬼にして…。

「何でそんな事言うの!?夢を忘れたの!?昔から言ってたじゃない!自分は皇族の為に命を捧げ、その身の盾となるって誓ったって!その夢を忘れたの!?」

こ、心を鬼に…。

「忘れていないさ!だが、もはやもう駄目なんだ。仮にこのまま軍に残ったとしても何になる!?下手をすればKMFにも乗らせてくれず、ただ、ごく潰しとして軍に残るだけかもしれないのだぞ!?」

ここ、心を鬼にに…。

「それでも!例えそうだとしても、諦めちゃだめだよ!小さいときにキューエルのその夢を聞いて、私もキューエルと同じ道を選んだんだよ!?キューエルがそんな事言ってたら…私の夢も終わっちゃうよ」

こここ、心をオーガににに。

「…マリーカ」

「だから、頑張ろう。私も頑張る!だからキューエルも…夢を諦めないでがんばろう…ね」

「……………………………………よ、よかったら、僕の部隊に来ないか?」

「「え!?」」

思わず、言葉を出してしまった。

そして僕の言葉を聞いて大変驚愕するソレシィ兄妹。

感動の兄妹劇を目の前で見てしまった。
ちくしょー!こんなの目の前で見せ付けられて心を鬼にできるはずがねー!
できるはずがないんだよちぃくしょー!

「ラ、ラウンズである、僕は親衛隊を持つことができる。い、今まで親衛隊は無かったけど、今度作る…かもしれないというか…」

ああ、でも僕の迷いが垣間見る言葉となってしまった。
僕の意志弱すぎ。
いろんな意味で。

「ほ、本当ですか!?アシュフォード卿!?」

「た…多分」

驚きながら僕に尋ねるキューエル卿。
それに対してあやふやな答えを返す僕。
この意思の弱さ。流石は僕だ。

「キューエル…アッシュフォード卿は…本当は親衛隊を作りたくないんじゃ…」

僕の言葉に一度は嬉しそうな顔をしたマリーカ嬢であったが、僕のその後の煮え切れない態度を見ると、こちらの心情を察してきた。
僕の心情を察したマリーカ嬢は苦しい顔つきとなった。
そして妹の言葉で察したキューエル卿も笑顔から、顔をうつむける。
い、いかん…。ぬか喜びをさせてしまった。

というか、本当に親衛隊を設立していいのか、僕よ。
二人の感動の兄妹劇を見てしまい、ついつい勢いで発言してしまったが、前言撤回するなら今しかないぞ、僕よ。

「アッシュフォード卿…兄共々、見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ございませんでした…」

「い、いや、そんな事は…」

顔をうつむけるキューエル卿に代わり、マリーカ嬢は頭を下げながら、謝罪をする。
ぐはぁぁ…心が痛い。痛すぎる。
僕の勝手な発言で、二人の心を弄んでしまった…。
こ、心が…やばいっす。

「アッシュフォード卿も事情があり、親衛隊を設立しないのでしょう。私たちの事情で、アッシュフォード卿を困らせるわけにはいきません」

そう、僕には軍を退役したいという事情があるのだ。
人にはとても言えないが、立派な事情なのだ。
僕が夢のニート生活を送るには、前言撤回をするしかないのだ。
ココこそ心を鬼にして前言撤回を宣言するのだ!アクアよ。

「マリーカさん…」

「でも…」

謝りの言葉と、前言撤回を言うとした僕の言葉に重ねて、マリーカ嬢は言葉をつむぐ。

「でも…私たちの事を思って、親衛隊を設立しようと言ってくれて…本当に嬉しかったです。
アッシュフォード卿のそのお気持ちだけで…とても救われました…本当にありがとうございました…」

涙を目じりに溜めながら、マリーカ嬢が微笑む。
僕の身勝手な発言で喜び、そして悲しんだというのに、僕に感謝の言葉を告げている。
何この聖女。
後光が眩し過ぎてマリーカ嬢をまともに見れない。
僕は現代の聖女を垣間見ているのかもしれない。
それほど僕にとって今のマリーカ嬢は聖女っていた。
だ、だが、いかにマリーカ嬢が聖女パワーを身に纏っていたとしても、僕は前言を撤回してみせる!
そう、前言撤回を…。

「いや、大丈夫だとも。マリーカさん。
元々僕は親衛隊を設立する気でいたんだ。
ただ、急だったから、言いよどんでしまっただけさ」

あれ??
前言肯定??

「ほ、本当なのですか!?」

おい。どうした僕の口。
何やら勝手に口走ってるぞ?
しっかりしろ!ここで親衛隊設立を約束してどうする!?
撤回しろ!前言撤回を徹底するんだ!
目の前のマリーカ嬢を見ると、もう僕を憧れのハリウッド俳優を見るような瞳で僕を見つめている。
だが、僕は映画に出てくるようなヒーローではないのだ。
ただのニート志望のニブ厨なのだ。
ここで彼女に現実を知ってもらおう。

「ああ、親衛隊を設立した時には、キューエル卿とヴィレッタさんを迎えることを約束しよう」

だと言うのに何故か話を肯定しちゃう憎い僕の口。
ハリウッド進出決定!!
おいー!いつから僕はこんな役者になっちまったんだ。
もはや僕の口が僕の口じゃねーー!!ファックマウス!

「アッシュフォード卿…!!本当に…本当にありがとうございます!!」

「お礼を言うのは僕のほうかもしれないよ?キューエル卿とヴィレッタさん…そしてマリーカさん、君にもしっかりと働いてもらうんだからね」

止まることを知らない僕の口。
もはや別の生き物だ。
マウスは生きています。
16年生きてきて初めて思いました。

「わ、私もですか!?」

驚くマリーカ嬢。
僕も驚いてます。
何を言ってるんだ??僕の口は。
もはや展開に付いていけない。
僕自身が展開を新たに繰り広げているというの、僕自身が展開に付いて行けない。

マリーカ嬢と僕の内面の困惑を置いてけぼりにしながら、僕の外面は顔の筋肉をフル作動させ、ジノの王子様スマイルを真似たエセ王子様スマイルをかます。
そして口は勝手に口走るのだ。



「ああ、勿論だとも。キューエル卿と二人で僕を支えてほしい…。
ナイトオブセブン親衛隊…僕の部隊に来てくれるかな?」






これが後にナイトオブセブン直属親衛隊---通称、エインフィリア隊の誕生のきっかけとなる出来事だった。


























コーネリア殿下やキューエル卿と面会した後、僕はアッシュフォード学園に来ていた。
もう午後を既に過ぎているので、授業は残り1時間しかないという、重役出勤ぶりだったが。
大変疲れた一日となったので、萌えの女神のナナリーやカレン、シャーリー、ニーナに癒してもらおうと学校に来たのだ。

「およ、こいつは重役出勤お疲れ様だな」

「もう、リヴァルったら。アクア君は軍に所属しているんだから仕方が無いでしょ!」

教室へと顔を出すと、リヴァルトシャーリーが話しかけてきた。
うう、シャーリーその心遣いに僕の心は癒しMAXです。

「シャーリーありがとう。
リヴァルも、そう言う訳だから重役出勤を許してくれ」

返答をしながら、荷物を置こうと自分のロッカーへと向かう。

にしても、本当に疲れた一日となった。
コーネリア殿下からは更なる戦闘を要請され、何をトチ狂ったか、ソレシィ兄妹に親衛隊を作る約束をしてしまった。
うごごごご…こ、これから先の事を思うと目眩がしてくる。
だ、だけど僕はある意味いい事をしたんだ。
絶望に暮れるソレシィ兄妹に希望をもたらしたじゃないか。

日本の言葉にも情けは人の為ならずなんて、根本的な意味を間違えそうなことわざだってあるじゃないか。
いい事をした僕に明るい未来が待ってるはず!!
具体的にはニートで彼女と退廃的な生活を送るとか!!
そうきっと送れるはずなんだ!そう信じなければやってられないよ。

気を取り直して、自分のロッカー扉を開く。
ロッカーの中には、数少ない僕の荷物、教科書や文具が入っている。
そして見知らぬ便箋が鎮座していた。

便箋……手紙か?

な、何だ?この手紙は?
まさか、不幸の手紙か?

恐る恐る便箋を手に取る。
ピンク色の便箋に、ハートマークのシールが貼ってある。

ま、まさか…こ、これは…。

即座にその便箋を手に取り、教室を出て、トイレへと向かう。
男子トイレの個室に入り、一つ深呼吸。
芳香剤の匂いが肺の中にいっぱいはいってしまった。


緊張に震える手で便箋を開ける。
そして中の手紙を取り出し、読み始める。

『いきなりこんな手紙を出すのを許してください。
でも、どうしてもこの気持ちを抑える事ができないんです。
ぜひ、一度二人っきりでお話をしたいんです。
今日の放課後、校舎の裏で待っています。
どうか私の気持ちを…聞いてほしいんです。
よろしくお願いします』


……………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………
情けは人の為ならず過ぎだろ………。

いいことキターーーーーwww

僕はトイレの個室の中で喜びの感情を爆発させる。
人生において、初めてではないがラブレターをもらってのだ。
これを喜ばないはずがない。
アッシュフォード学園に転入してきてはや2週間。
たった2週間でもしかしたら、うきどきスクールライフを送れるかもしれないのだ!
これを喜ばずに何に喜べというのだ!
ああ、わが春が来たのかもしれない。


しかし、喜んでばかりとも言えない。
僕には一つ、ある懸念があったのだ。
それは士官学校の黒歴史。
忘れたいのに決して忘れられない黒歴史。
人生初のラブレターと喜んでいた若かりしき頃の僕の記憶。
トラウマと言っても過言ではない記憶である。




それは………。








…………このラブレターの差出人………男じゃないだろうな?






過去のトラウマというのはきついものがある。



[3303] お家再興記 16話
Name: 0◆ea80a416 ID:e332fd4d
Date: 2013/01/28 19:20
放課後。
トイレの個室でテンションMAXとなっていた僕は結局最後の授業に出ることなく、そのまま校舎裏へと突撃していた。
そしてそのまま校舎裏で放課後が来るのを待ちかねていたのである。
一時間以上も校舎裏で待ちぼうけとかってどんだけー。と思うかも知れないがそんなの関係ねー!!というのが僕の実情だ。
き、緊張する。
もしかしたら今日という日で僕の人生がらりと変わるのかもしれないのだ。
今日という日を過ぎれば、僕は憧れの彼女をGETできるのかもしれない…。そう考えただけで僕の心はいてもたってもいられない。
だが、不安もある。
このラブレターに対して僕は三つの可能性を考えた。

① 本当に女の子が書いてくれた…。アクア君好き…ぽっ…GOODEND一直線。

② 唯のいたずら…。ラウンズだからって調子乗ってんじゃねぇ。ぎゃははは、悪戯のラブレターでからかってやるぜ!!ぷげらwww…ションボリEND一直線。

③ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・男が書いた…。おいどん、あんたに惚れたバイ!!どうか、おいどんの気持ち…受け取ってほしいバイ!!………アッ----!!失踪END大一直線。


………いかん、①以外悲惨なエンディングしか想像できない。
特に③何か深刻すぎて、死にたくなってくる想像だ。
だが、実は一番可能性が高いのは③だと僕は思っている。

その理由は士官学校に在籍している時の事だ。

当時、ブリタニア士官学校に在籍していたとき、僕は計12回告白された。
この言葉だけ見ると、リア充爆発しろと思うだろうが、きちんと裏がある。

あれは僕がブリタニア士官学校に入学して1ヶ月が経った頃だった。
正直、あの頃はばりばりのホームシックと爺への憎さがいい感じでミックスされていたので、家に帰りたくて仕方が無かった。
士官学校に入学する前は、僕は毎日ごろごろ食っちゃ寝していた身分なのだ。
それがいきなり、軍人の養成機関である士官学校へ叩き込まれ、そのギャップに僕のストレスは天元突破寸前であった。
とにかく早く家に帰ってニート生活を送りたい。
それだけしか思ってないかなった時である。…………あれ?今とあまり変わってない気がする。

ま、まあとにかくそんな時だった。
僕が生まれて初めてラブレターもらった時は。

可愛らしい便箋の中には1枚の手紙。
そこには可愛らしい文字で僕への愛が綴られていた。
書き主の真心が籠もった、嬉しはずかしの見事なラブレターだった。

この手紙を貰った時、僕は狂喜乱舞した。
初めてこの学校に来てよかったと思った。やるじゃん、ブリタニア士官学校と本気で思った。

浮かれる気持ちのままで急ぎ指定された場所へと向かった。
手紙には名前が乗っていなかったので、手紙を送ってくれたのは、女子科の誰かだろうかとか。もしかしたら校長の秘書のアシェリーさんだろうかとか。やべえ、禁断のラブだったらどうしよう。
手紙を送ってくれた女性の事を、想像しながらうきどきと相手を待っていた。
そしてついに待ち人は来た。

その人はとても身長の高い人だった。
当時の僕の身長が160台だったのだが、その僕を優に40センチは超す背丈だった。
そして体つきはその身長に相応しい、ゴツリという擬音が聞こえるような体躯。
その胸囲はたくましいの一言で、だきしめてーというか、だきつぶしてーなんて言葉が聞こえるかのようだ。
腕もたくましく、上腕が子供の胴体ほどあるんじゃないかと錯覚してしまう。
顔立ちは彫が深く、精悍な顔つきなのだが、なんだか非常に濃い顔立ちをしている。
統計的に非常にたくましい人だったのだ。

…………ああ、もう面倒くさい。
ぶっちゃけると男だったんだよ。男!!
しかもめっちゃごつい。北部の拳に出てても違和感ゼロなレベルのな。

最初僕は人違いだと思った。
たまたま、この場所で誰かと果し合いをしに来た人だと。
告白場所が、果し合いの場所とブッキングしてしまったんだと。

ラブレターを送った人が果し合いの現場となってしまった告白場所を見て、この場所に来るのを躊躇してしまうんじゃないか。
心配する僕に目の前の彼は言葉を発してきたのだ。

『アクア・アッシュフォード』

低いバリトンな声。地鳴りがおこったかのような錯覚が起きる。

『我、お前を欲する』

漢らし過ぎる告白。

これが僕の人生において、初めて告白された瞬間であった。
この時、僕の頭は機能停止していた。
だってそうだろう?
僕は少女との甘いひと時を過ごしに来たのだ。
顔も知らぬ見知らぬ君よ。
さあ、恥ずかしがらずに俯いた顔を上げて、僕と話をしよう。
あはは。うふふ。ぐふふ。

何て想像をしていたのだ。
それが何がトチ狂ってこんな世紀末覇者のような人物に僕は愛の告白をされているのであろうか?

『いざ行かん、我らの理想郷に』

そして何故か、知らんが気づいたら目の前の世紀末覇者に担がれてどこかへ連れ去られていた。





















その日、僕はブリタニア士官学校の真の恐ろしさをその身を持って知ったのであった。






























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…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………………………ここから先は思い出したくない。

……………………………………………でも、とりあえず貞操だけは死守したということだけは言わせてくれ。



ううう、あんまりな僕の始めての告白シリーズに涙が出てきそうだ。

そしてここまで来れば、想像が付くと思うが、他の11回の告白も全て男からだったのである。
何故だ。僕にはホモを誘うフェロモンが漂っているのだろうか。

男からの告白連続12回達成というありがたくも無い達成のため、僕にとって告白というのは一種のトラウマとなっていたのだ。

しかし!ここはアッシュフォード学園である。
男の方が圧倒的に多い、ブリタニア士官学校と違い、男女比が半々という聖地である。
このアッシュフォード学園であるのならば、僕だって女子に告白される可能性は高い!…多分!!

ああ、というか、そろそろ待ち合わせ相手が、来てもいい頃じゃないか。
やばい、あまりの緊張と不安で眩暈と動悸がやばくなってきた。
これで何かショッキングな結末となってしまったら、僕は倒れてしまうかもしれない。

も、もう男でも女でもどっちでもいいから、早く来てくれ…このままでは僕は倒れてしまう…。いや、やっぱり男は嫌だ。
と、とにかく早く来てくれることを切に願います。

ふらふらする意識を必死に繋ぎ止めていた僕であったが、ついに待ち人は来た。
それも最高の形で。




「アクア君…」




僕の目の前に現れたのは黒髪の少女。
ものすごく可愛いというわけではない、普通そうな少女だ。
しかし、ここで大事なのは女の子という事だ。
女!男ではなく女!
大事なことなので何度も言うが女!!
我が人生に春が来た!

うう…苦節16年…ついに年齢=彼女いない歴という悪しき方程式から逃れられる時がきたのか…。

脳裏に今まで駆け抜けてきた、暗い青春時代が思い浮かぶ。

美幼女と婚約して人生ウハウハかと思っていた幼少時代。

ウハウハから転げ落とされて、男色家達に囲まれた淫獄の館士官学校時代。

戦場ヴァイオレンスストーリーを毎日の日常とする軍人時代ナウ。


……………やべえ、最初の頃しかいい思い出が無い!!
何て暗黒な青春や。
もはやいつ、暗黒面に堕ちてもおかしくない暗黒っぷりだ。

だが、そんな暗黒ナウな僕にも、ついに光は照らされたのだ。
僕達はこの後、お互いの気持ちを伝えあう。
そして、始まる二人の物語。
不器用な二人の平凡なラブストーリー。
時に甘く、時に切なく、時にほろ苦い平凡な…だけど大切な物語を築いていくんだ。

「アクア君…私ね…」

目の前の僕の彼女筆頭候補である少女が何かを話そうとしている。

わかる…。
この少女が何を言おうとしているか、空気が読めない僕でも理解できる。

僕は、フッと自分でも似合わないとわかる笑みを、一生懸命浮かべる。

「何も言わなくていい…君の言いたい事はわかってるさ…」



くっせーーー!
くっせーーーにも程がある台詞だ。
まさか僕がこんな言葉を発する時が来るとは。
ふっ…恋とは怖いもんだぜw



「ううん、アクア君…。
私の口から言わせて…」


僕の言葉に首をふり、自らの言葉を発しようとする少女。

なんといじらしい。
自らの言葉で僕に愛を伝えなければ、気がすまないとは。

顔を真っ赤にし、自らの思いを健気にも伝えようとする少女に、僕は表情筋をフル活動させ、笑顔を浮かべながら言葉を待っている。


「軍に所属して…ましてはナイトオブラウンズのアクア君が、こんな事にうつつを抜かすなんてだめだっては、わかっているの…」

いや、僕は十二分にうつつを抜かしたいです。

「会でアクア君に、手を出すのを禁じられているのもわかっているの…」

会?会ってなんだ??
もしかして裏組織とかが学校でできてるのか?
どんな会なんだ。
まさか、ホモ関連の裏組織とかではないだろうな。
だったら、僕は光の如くこの学校を立ち去るぞ。

少女の言葉に疑問が激しく噴出すが、表情には出さず、ひたすら爽やかな笑顔を浮かべ続ける僕は、マジイケメンだ キリ

「それでも!!それでもこの気持ちは抑えられないの!!
始めて貴方を見た時から私のこの気持ちは!!」

少女が身を切るような大きな声で叫ぶ。
ようやく少女の独白もクライマックスを迎えたようだ。
そして僕の人生のクライマックスはもうすぐ始まるようだ。


来る。来た。来てしまったのだ。

僕の人生初となる彼女GETの瞬間が!!

うぉぉぉぉ!!。
何かうぉぉぉぉぉ!!。
もう、うぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉっぉぉぉ!

やばい、あまりの嬉しさに心がどうにかなってしまいそうだ。
自分の心がやばい。
やばいにも程があるが、物凄く嬉しい!!

「アクア君の事…!!」

少女の告白。

僕は笑みを浮かべ、それを受け入れる。

そう、受け入れいるのだ。













「アクア君の事…お姉様って呼んでもいい!?」















こいつを受け入れられる者は勇者と呼べるだろう。




















アッシュフォード学園の敷地内。
僕は今学園内をさまよっている。
自分で言うのもなんだが、肩を落とし、足取り重く、まるでとぼとぼという擬音が聞こえてきそうな歩きだと思う。

件の少女---エリーシアちゃんの告白は僕の歩みを重たくさせるには十分な内容だった。

まさかの④ タイが曲がっていてよ?マリブ様が見ておられるわ。…お姉様ぁん…はぁーキュン…マリぶてENDで来るとは思ってもいなかった。
というか、予想できるほうがおかしい。
責任者出て来い。

エリーシアちゃん曰く…。
彼女は元々ミレイ姉さんに憧れを持っていたらしい。
最初はただの憧れの先輩だった。
しかし、時が経つにつれ、憧れの先輩から恋する相手へと変わっていったらしい。
勿論、彼女は悩んだ。
自分は女で、恋する相手も女。
世間では許されない恋だとは理解している。
でも、自分の気持ちに嘘は付けない。
でも、どうすればいいんだろう…?

悩む彼女は、このままではいけないと、気晴らしにあるイベントを見に行く。
たまたま、アッシュフォード学園で行われた行事。


しかし、そこで彼女は運命と出会うのであった。


彼女は見た。
彼女は見ていた。
彼女は見てしまった。

白い青みがかかった髪をひるがえし、愛する人と誓いを立てるための衣装を着た、一人の可憐な………男を。
つまりは僕だ。
僕なんだよ、ちくしょう。

ナイトオブセブン歓迎会。
つまりはあのトラウマの女装大会である。
そこで彼女は、女装した僕を見て、ある事を思った。


元々愛しの相手はミレイ姉さんである。
だが、自分の性別は女であり、ミレイ姉さんも勿論女。
世間的にも論理的にも許される恋ではない。
だが、僕ならばどうだ?

僕は男だ。
あんな格好をしたが普通の男なのだ。

女であるエリーシアと男である僕が付き合えば何も問題ない。

しかも将来、僕と結婚することができれば、ミレイ姉さんは本当にエリーシアの義姉となるのだ。
堂々とミレイお姉様と呼べるのだ。

女装させた僕と付き合い、ミレイ姉さんを本当のお姉様と呼べる。
そんな一石二鳥の策をエリーシアは思いつき、実現しようとしたのである。



エリーシア…何て恐ろしい娘!!
恐ろしいにも程がある娘!!
大事なことなんで二回言いました!!
ちくしょー。


あまりのショックに、告白の返事を保留させてもらったが、これはもう色々と駄目であろう。

あそこでエリーシアの告白を受け入れた時、僕の学園生活は終わりを迎え、新たな学園生活が始まる。
例えるならば、おとぶくの世界へと突入してしまう。
そう、女装男児という新たな世界を広げたおとぶくの様に…。
おとぶく…案外いいかもしれない。

…………て、は!?
いかんいかん、何度僕はインモラルな世界に突入しようとしているんだ。
いい加減学べ、僕よ。
身内が経営している学園でおとぶくの世界なんて、繰り広げるなんてどんだけ勇者なのだ。
いかに、女の子と付きあるシチュエーションだからって、これはいかんだろう。
ここは心を鬼にして断るべき…でも、この機会を逃せば二度と訪れない機会なんだよなぁ。
うう、僕はどうすりゃいいんだ。


頭を抱えながら学園を彷徨う僕。

よし、どうなるかわからんが、とりあえず女子制服だけは用意しておこう。

うん、と決断を決めた僕はクラブハウスの近くに来ていた。
どうやら、考え事をしている間に気づいたらクラブハウスに来ていたようだ。
とりあえず、家に帰ろうかと思った矢先、僕の目にある信じられない物が飛び込んできた。

それはピザのデリバリーサービスであった。
ピザ屋の店員がピザを届けに来ているのだ。
それはいい、どうでもいい。
問題はそのピザを受け取っている少女だ。

僕の視線は少女に釘付けになっていた。



馬鹿な…。何故彼女がここに…!?




腰を超える長い緑色の髪を持ち、特徴的な白い拘束衣のような服装。
凛とした表情を持つ少女だった。

少女は自分を凝視している僕に気づくことなく、ピザを受けとり、クラブハウスの中に入っていった。
それを呆然と見送る僕。
自然と唾を飲み込む。
それほど彼女は信じられない存在だったのだ。


今見たものが信じられない、信じられない。
そう、彼女は、彼女は。











コスプレイヤーだ!!!!






そう、彼女こそは間違うことなくコスプレイヤーである!!

その現実を受け入れた時、僕の心は歓喜と興奮でいっぱいになった。

うぉぉぉ!アキバが無くなって絶望していたが、まだ日本にはオタ文化を受け継ぐ勇者達が存在していたのだな!!
あの白い服装!あんなものはお世辞には普段着とは言えない!しかしあえてそれを普段着にするとは、正しく真のコスプレイヤーだ!!
あれは何のコスプレだろ!?何かうちの軍の囚人に使う拘束衣に似ているけど、何かのアニメや漫画に出てくるコスチュームなのだろうか。
ふ、世界いは広いな。この僕にも知らないコスチュームがあるとは…。日本最高wwww
感動した!僕は本当に感動した!日本マジ最高wwwwww


こうはしていられない、彼女とアポイントを取らなければ!
きっと彼女の他にコスプレ仲間はいるはずだ。
彼女をきっかけとして、僕も輪に加えてもらおう。


彼女を後を追うように、クラブハウスへと入ろうとする。
が、そこまで来て気づいた。
いきなり声をかけては彼女に警戒されるかもしれない。
せっかく見つけたコスプレイヤーを警戒させるのはよくないな。
とりあえず、彼女の部屋を知って、あとから行動を起こしたほうがいいか…。
そ、それにいきなり声をかけるなんて恥ずかしいし…モジモジ。

ふふふ。
僕は目標を前にしても氷の心を思い出せる男なのだよ。
ならば、僕がすべきことは一つ。


クラブハウスの何に音も無く、侵入した僕は瞼を閉じて自然体を取る。

視覚が消えた気がする。多分。
触覚が消えた気がする。きっと。
嗅覚が消えた気がする。恐らく。
味覚が消えた気がする。だといいな。

だがそれでいい。
五感の内、四感が消えた代わりに、残った一感―――聴覚が冴え渡るのを感じる。


達人でもなんでもない僕が、このような芸当が出来るとは…常々思う。やはり萌えは偉大だ。
萌えに不可能は無い。
僕はそれを今再び感じている。


今の僕には普段聞こえない音も、逃すことなく聞こえている。
そしてそんな超人と化している僕の聴力が捉えているのは、彼女の足音だ。

……彼女は今5歩北に歩いて右に曲がり、そのまま10歩直進して、ドアを開けた。

そこから、動く気配は伝わらない。
つまりはそこが彼女の部屋!!!!

くわっ!と閉じていた瞼を開く。
ふふふふふ!これで彼女の部屋はわかった!
何かストーカーっぽい気もするが萌えの前では全てが許される!!
だから、通報はしないでくださいね!

心の中がハイテンションになっているのがよくわかる僕の心情だ。

よし、あとは彼女の部屋をこの目で確認するのみ!!

部屋に入ってからは動くような音や気配は無かった。
おそらく部屋でくつろいでいるのだろう。
ならば部屋の前に行っても、気づかれる心配はないであろう。
これで彼女の部屋を確認できる。

ふふふ、と表情は無表情ながらも、心の中で笑みを浮かべながら、足音が示した部屋の前へと辿り着く僕。

ここが、彼女の部屋!!

目の前の扉の向こうには彼女の部屋が広がっている。
その部屋の中には、まだ見ぬコスプレがいっぱいなのだろうか。
そう思うと、心が浮つくのを感じる。

だが、ここは我慢だ、アクアよ。
まず彼女の部屋は確認できた。
ここは一度自分の部屋へと引き返し、彼女とコンタクトを取る方法を考えよう。
そしてコスプレの輪を広げようではないか!!
夢が広がりまくり!

自分の完璧な計画に思わず笑みが浮かびそうになる。

このときの僕は浮かれていた。
だから僕に近づいてきている気配に気付く事ができなかった。



「アクア様?」

「うぉぉあい!?」

僕に呼びかける声。
それに対して、変な声を上げる僕。
背後から呼ばれる声にマジでびびッた。
心臓がめっちゃ鳴ってしまった。
これが漫画だったら、口からハートが出ているような勢いだ。

慌てて後ろを振り向くと、そこには一人の女性がいた。
黒い髪に黒い瞳を持ち、温和そうな顔立ちをしている。
典型的な日本人の容姿をしている女性は、メイド服を着ている。

そしてそんな彼女を僕は知っている。


「咲世子さん」

「はい、アクア様」


僕の言葉に頷く咲世子さん。

咲世子。
篠崎 咲世子は元はアッシュフォードに使えるメイドだったが、今はルルーシュやナナリーの世話を担当している女性だ。
僕が軍人になってから雇われたので、僕にとっては馴染みは浅い女性である。

「このような場所でどうしたのですか?」

「い、いや、何というか」

僕を見て不思議そうに尋ねてくる咲世子さん。

それに対して返答をうまく返せない僕。

しかし、まずいことになった。
まさか、彼女に僕がコスプレ少女をストーキングしている現場を見られるとは!!
彼女にその事がばれれば、彼女を通じて、雇い主のクソ爺や姉さん、ルルーシュやナナリーにまで僕のストーキング行為が伝わってしまう。
な、何とかしなければ。
だけど、こんな時に限って僕の口は旨く回ってくれない。
余計な時には、憎たらしい程によく回る口だというのに、何と使えない口なのだ。
ファックマウス!!
ああ、ストーカーと呼ばれる僕の未来が近づいてきた気がする・!?

「ああ、もしかしてルルーシュ様に用があるのですか?」

そんな窮地の僕を救ったのは、僕を窮地へと叩き込んだ張本人である咲世子さんであった。
何を勘違いしたのか、僕がルルーシュへと用があったと思ったようだ。
これに乗らない手はない。

「あ、ああ、そうなんだ。
ルルーシュに用事があったんだよ」

実際はルルーシュに用何てないが、ここはルルーシュに用事があるという事で行くしかないだろ!常考!

僕の言葉に対して、咲世子さんは顔を曇らせながら返答をしてきた。







「まあ、そうだったのですか。だからルルーシュ様の部屋の前に居られたのですね。
しかし申し訳ございませんが、ルルーシュ様はまだご帰宅されていないのですが…」




そしてそれは爆弾だった。




「はい?」

彼女の言葉が信じられなくて思わず問い返す。
彼女の言葉は僕には見逃せないキーワードがあったのだ。
そんな僕の態度を見て、再び彼女は言葉を発してきた。





「ですから、ルルーシュ様はまだご帰宅されていないと」

「いや、そこじゃなくてもっと前」

「?ルルーシュ様の部屋の前で?」

「ルルーシュの部屋の前?」

「ええ」

「この部屋ってルルーシュの部屋?」

「ええ、ルルーシュ様の部屋です」

「……………………本当に?」

「はい」






その言葉に僕は目の前の扉を見る。
何も変哲もない扉。
しかしその先にはコスプレ少女の部屋へと繋がる無限の可能性を秘めた扉である。
そう、無限の可能性を秘めた扉のはずであったのだ。







「本当の本当にルルーシュの部屋?」


「本当の本当に、そうです」







どういうこっちゃい、こりゃ。




[3303] お家再興記 17話
Name: 0◆ea80a416 ID:e332fd4d
Date: 2013/12/06 02:00
「まあ、本当ですか?アクアさん」

「ああ、信じられないだろうが本当の話なんだよ、ナナリー」

クラブハウスの食堂において二人の笑い声が聞こえている。
僕と目の前にいるナナリーとの間の会話であった。

咲世子さんから得られた情報によって、深い謎のスパイラルに陥っていた僕であったが、そんな僕を尻目に咲世子さんは動き出していた。
いつの間にか連れてきていたナナリーと面談した僕は、場所を移動してこの食堂でナナリーと話をしていたのだった。

「ふふふ。もうアクアさんったら私をからかってるんじゃないですか?」

「本当の事だよ。ナイトオブラウンズって言っても唯の子供だよ。
あのジノだって、かなりずぼらなんだよ。この前なんてこんな事があったんだから…」

僕の身のうち話を少し大げさに脚色しながらナナリーに聞かせる。
そんな僕の話をナナリーは本当に楽しそうな笑顔で受け入れてた。


その笑顔、なんたる癒し。

日々の戦場やホモ達との戦いによって荒みきっていてた僕の心に一筋の癒しの風が差し込むのを感じる。

このナナリーの癒しが市販されてたら、大ブレイク間違いなしであろう。
僕は1年分買い込む自信があるな。
ナナリーのスマイルに5千円払っても惜しくはない。

癒し萌え。

いつまでもこの空間に浸っていたい。
それほど目の前のナナリーは癒しの元なのである。
もはやマイナスイオンを遥かに超えているね。
むしろナナリーイオンだ。
ナナリーイオン万歳。

「ところで、アクアさんはお兄様に何か用事があったのですか?」

ナナリーイオンに酔いしれながらも癒される僕に、ナナリーは尋ねてきた。
チャンス。
ナナリーにあのコスプレ少女を知っているか聞いてみよう。
ナナリーは目が見えていないから、わからないかもしれないが、ルルーシュの一番近くにいるのがナナリーだ。
聞いてみる価値は十二分にある。

「いや、実はこの前ルルーシュを公園で見かけてね。
その時、仲良さそうにしている女の子が傍にいてね。
ちょっと気になったものだから」

「お兄様と親しげな女性ですか…?」

ナナリーが怪訝な顔を僕に向ける。
それは兄と親しげな少女に対する疑問と、何故僕がそんな事を気にするんだろうという二つの疑問が合わさったものであろう。

「ああ。ほら…ルルーシュは元は姉さんの婚約者だろ。
もう婚約は解消されて関係は無いとしっているが、つい…気になってしまってね」

だが、まさかコスプレ少女をストーキングしたら目標の少女がルルーシュの部屋に入っていったのを目撃しました。
なんて言える筈がないから、ちょっと嘘を付かせてもらった。

「アクアさん…」

僕の言葉にしんみりするナナリータン。
ナナリータン…ごめんよ。だが、これもコスプレ少女に近づく為なのだよ。

「でもお兄様と親しい女性…」

「ああ。
おそらくアッシュフォード学園の生徒ではないと思うんだけど」

あんなコスプレ美少女がいたら、話題になってるはずだし、僕が見逃すはずがないと言えよう。

「学園の生徒でもない…。
あ、もしかしてC.C.さんかしら?」

「シーツー?」

心当たりを思いついたナナリーは顔を上げながら僕にある名前を教えてくれた。
しかし、シーツーとは珍しい名前だな。
ブリタニア人ではないのか?

「はい。この前お兄様に紹介していただきました。
私はこの通り目が見えないのでお顔はわかりませんが、咲世子さんからは緑の長い髪が綺麗な方とお伺いしています」

緑の髪。
ビンゴ!!
やはりルルーシュの知り合いだったのか。
むむ、ルルーシュの奴め。いつのまにコスプレ美少女とお知り合いになっていたのだ。
しかし、どんな関係なのだ?
ルルーシュの性格を考えると恋人ではないと思うんだが。
というか、恋人だったらルルーシュを殺すわ。

「緑の髪…間違いないね。
ルルーシュがあんな綺麗なお嬢さんと知り合いだったなんて。
しかし、ルルーシュとどんな関係なのだろうね?」

僕の素朴な疑問に、ナナリーは考え込むように顔を俯かせた。
ん?何だ?何かまずい質問をしたか?

「ナナリー?」

「…………いえ、そうですね。
アクアさんはお兄様の初めての友達にして親友。
そしてミレイさんの弟であられるんですものね」

ナナリーは顔を上げる。
その表情には決意のようなものが浮かんでいた。

「アクアさんにはお話しておいたほうがいいですね」


「何をだい?
ナナリー?」

何だろうか?
この話の内容では、ルルーシュとシーツーさんの内容だとは思うだろうが。
ルルーシュはナナリーを溺愛している。
ぶっちゃけシスコンだ。シスターコンプレックスだ。
そんなルルーシュがナナリーに心配させるような言動は取らない男だ。
だからそんなに大した事ではないだろう。


「C.C.さん……彼女はお兄様と将来を約束した方なのです」





すげぇ大した事だった。
大した事にも程があるレベルだった。



「…………は?」

将来を約束した方。

将来を約束した方。

凄い大事な事なので、二回回想をしてみました。
それでも僕の脳にはその言葉が浸透しない。
それほど僕の脳自体がこの言葉を拒絶しているのだ。

「…………え?何だって?」

「ですから、お兄様とC.C.さんは将来を約束しているのです」

将来を約束している。
そ、それはどんな約束なんだ!?
こ、こここここここの言い方では、まるで、けけけけけけけけけけけけ

「そ、それはつまり、ルルーシュと彼女は、け、結婚の約束をしているということかい?」

嘘だ。嘘であってくれ。
この僕をさしおいてあんなコスプレ美少女を嫁にしているなど。
嘘だ。嘘であってくれ。
大事な事なので二回言いました。

「ええ。
あのお二方は将来結婚なさると思います」

ピッチャー投げた!バッター打ったー!しかし打球は内野に飛んだ!!タッチアウト!ゲームセット! さよなら!僕の夏の甲子園!

現実はこれくらいに非常だった。

ルルーシュが結婚。

僕はその言葉に打ちのめられた。
いや、この言葉は正確ではないないな。
正しくはこうだな。

ルルーシュがコスプレ美少女と結婚。

ますます打ちのめられた。
現実を見たくない。
見たくなんかない!

は!?そういえばアイツは授業中はよく寝ていた。
夜に何して睡眠不足なのかな?って思っていたが、今その謎が解けたーーーー!!
あの野郎は毎晩嫁とコスプレプレイをして楽しみまくっていたんだ!!
そして毎晩コスプレギシアンを繰り広げているから睡眠不足だったんだ!!
謎は全て解けた。
くそ爺の名にかけて謎は全て解けたぁぁぁ!
解けてしまったんだよぉ!畜生ーーーー!

「お兄様も意外と手が早いというか…。
やっぱり親子なんですね」

ナナリーの言葉が耳に入る。
そうだ、そうだった。
全然似てないから、忘れそうだが、ルルーシュはあのブリタニア一の種馬皇帝の息子なのだ。
あんな子供が百人近くいるなんて、なんて羨ましい。頼むから僕と代わってください。と土下座したくなるような皇帝の血をルルーシュは引いているのだ。
血が…血がなせる業だというのか!?

だが、許せん。許してはいかん!
僕が毎日、ホモ達にケツを狙われながら、くそみそ戦場ダイハードストーリーを繰り広げていたというのに!
奴はその間嫁といちゃラブストーリーを繰り広げていたのか!?
BoLOVEるな毎日を繰り広げていたのか!?コスプレしていたのか!?
そんなの許せるはずがない!
僕の全人生をかけても許せない!






ルルーシュ…お前って奴は…………!




僕は溢れる思いを抑えきれずにいた。

そこまで一人でいい思いをしていたという事実。
胸が苦しくなる。熱くなる。殺したくなる。

ルルーシュ…。
お前には必ず制裁の日を迎えさせる。
僕の嫉妬という制裁をなぁ!


僕はこの日。
新たな誓いを立てたのだった。







■ゼロ■









「いやー、今回の遠征は凄かったな!!」

「ああ、まったくだ。
今回の遠征の成功は黒の騎士団の基盤を築くだろうな!」

「だよなぁ!いやー皆にも見せたかったぜ!あの俺の活躍を!」

「玉城はコーネリアに腕を切られただけだろ?」

「う、うるせぇ!!」

黒の騎士団の拠点であるトレーラーには、騎士団の幹部達が勢ぞろいしていた。
彼らの表情は一部を除いて皆明るい。
その理由は明白だ。

先の遠征である成田連山にて行われた攻防戦。
ブリタニア軍と日本解放戦線、そして我らが黒の騎士団の三勢力で行われた戦闘だ。
ブリタニア軍には甚大な損害。日本解放戦線も同じく大きな被害を出し、尚且つ本拠地を手放す結果となった。
結果として黒の騎士団の一人勝ちといっていい状況だ。
本来ならばコーネリアを討ち取るか、捕虜とする所だったのだが、あと一歩と言う所でナイトオブセブンたる、アクアと白兜によって防がれ、当初の目標を全てクリアと言う訳にはいかなったが。
だが、それを補う戦果はあった。
それは自信と経験。
ブリタニア軍と真っ向からぶつかり尚且つ勝利を収めることが出来た。
今まで我ら黒の騎士団はブリタニア軍に対して何度も活動を行ってきた。
だが、それは俺のギアスを用いての活動。役人の腐敗や麻薬組織の壊滅。
KMFもナイトポリスといった警察用の相手をしただけだった。

そんな自分達がついにブリタニア軍の精鋭軍団と戦い、勝ち残ったのだ。
生き残った彼らは兵士として生まれ変わる事ができただろう。

更には、レジスタンスを支援している、キョウトから面談の誘いが来ているのだ。
初期の小規模なレジスタンスだった頃を考えるとなおさらだろう。

そして今回の戦いにおいて、彼らの自信を更に高める要因があった。

「それに何といっても一番凄いのはカレンだろ?」

「そうね。何て言ってもあのナイトオブラウンズと互角以上の戦いを繰り広げたのだからね」

そう。
彼らの仲間である、紅月カレンが新型機、紅蓮弐式を駆り、ナイトオブセブンたるアクア・アッシュフォードと互角の戦いを繰り広げた事である。
アクア・アッシュフォード。皇帝直属であり、最強の騎士軍団の一人。
ラウンズの戦場に敗北は無いと謳われる存在と互角異常に渡り合ったのは、騎士団の意識を高揚させるには十分過ぎるものだった。

アクアと個人的に親交がある俺としては複雑な心境であるのは確かだが、ここでアクアをかばうような発言をする訳にはいかない。

「いやー!カレン!本当に凄かったぜ!」

「別に…そんなことないよ」

だが一つ不可解なことがあった。
皆が喜びあっている中、一人だけ浮かない表情を浮かべている人物がいたのである。
それは話の中心であるアクア・アッシュフォードと互角の戦いを演じたという、今回の遠征の最大の功労者である、紅月カレンその人だった。
何かを考え込むような表情を浮かべる彼女は、周囲から浮いている雰囲気すらあった。
そんなカレンの様子に気付かない、黒の騎士団一のお調子者と言える玉城は言葉を続ける。

「それにしても、カレンは凄かったけど、ナイトオブラウンズは大した事なかったなぁ!
終始、カレンに攻められっぱなしで、あいつ見せ場が一つもなかったぜ?あれのどこが最強の騎士なんだか!!」

完全に浮かれ気分に身を委ねた発言。
黒の騎士団の指揮官として、そしてアクア・アッシュフォードの友人としても両方の立場から見てもこの発言は許せるものではなかった。
玉城を諫め様とする。

「そんな事ない!!」

しかしそんな俺を遮るように大声を発した少女がいた。
それは、先ほど話に出た少女、紅月カレンだった。
大声を出しながら勢い良く座っていたそソファーから立ち上がる。
その勢いと声に、あれほど賑やかだったトレーラーは奇妙な静寂を取り戻すこととなった。

「………そんな事は…ない」

自分が作ってしまった雰囲気に気付いたカレンは、バツが悪そうな顔をしながら再びソファーへと座った。

「…………アクア・アッシュフォードは明らかに調子の悪いKMFを使っていた。
そんな中で私の紅蓮の攻撃をかわし続け、尚且つ調子の悪いKMFで行える最善の攻撃を繰り広げてきた。
だから…そんな事はないよ」

「お、おお。
そうか」

カレンの言葉にあっけに取られたような声で返事をする玉城。
それはこの場にいる皆もそうだろう。

カレンとアクアが学園でクラスメイトであることは周知の事だ。
だが、アクアは転入生であり、二人がクラスメイトとなって、一月も経っていない。
だというのに、今のカレンの言葉はアクアに対するクラスメイト以上の思いを感じた。

「ねえ…カレン。
アクア・アッシュフォードと何かあったの?」

幹部の中でカレンと特に仲がよく、カレンにとって姉のような存在である井上がカレンに問う。
だが、その質問はこの場にいる一同が皆思ったことだ。
玉城はどうかしらんがな。


「………私とアクアがクラスメイトだって事は言ったよね?」

少しの間、悩むような仕草を見せたカレンだったが、覚悟を決めたようだ。
彼女に似合わない小さな声で話し出した。

「ああ、勿論だ」

「このチャンスにナイトオブセブンを暗殺しようって話も出た位だしな。
ゼロに止められたけど」

「私とアクア・アッシュフォードがクラスメイトになって一月も経っていない。
…………でも、私とアクアが会うのは初めてじゃないの」

カレンは尚顔を俯かせながら言葉を発する。
そしてその内容は俺達を驚愕させるには十分な内容だった。

「アクア・アッシュフォードと会っていた?」

「いつ?どこで?」

「カレン・シュタットフェルトの身分でだよな?」

仲間達の問いかけに対してカレンは質問の一つに答える。

「ううん。カレン・シュタットフェルトでは無く、紅月カレンとして」

そしてそれは俺達を更なる驚愕へと導いた。

「そ、それってやばいだろ!?
つまり、アクア・アッシュフォードはカレンがハーフだって知っているって事だろ!?」

そう、つまりはそういう事だ。
紅月カレンの表の顔はカレン・シュタットフェルト。
ブリタニアでも有数の貴族、シュタットフェルト家の令嬢なのだ。
ブリタニア国籍を持つ故に、彼女はブリタニア人が作った学園であるアッシュフォード学園に通っているのである。
アクアがカレンがハーフであると知っているということは、非常にまずい。
カレンから俺達黒の騎士団までたどり着くかもしれない。

まずい…これは何とかしなければ。

思わず眉間に力がこもる。

「ううん。
アクアは私の事を覚えていないみたい。
会ったって言っても本当に一度だけ会っただけだから、無理もないけど…」

その言葉に一先ず安心する。
確かにアクアとカレンが教室で対面したとき、特におかしな様子は見当たらなかった。
だが、油断はできない。
後でアクアにそれとなく探りを入れてみるか…。

「でもどうしてアクア・アッシュフォードと会うことができたの?
カレンの父親の関連でブリタニアで出会ったとか?」

そう。
それを俺も疑問に思っていた。

井上の言葉にカレンは首を振り、その疑問に答えた。

「数年前に―――日本のゲットーで会ったんだ」

カレンの言葉に驚く。
アクアは士官学校を卒業し軍人になって直ぐに、激戦区であるE.U.戦線へと着任している。
そこで、ジノ・ヴァインベルグやアーニャ・アールフレイムの両名と共に大いに活躍し、ブリタニアの三連星と大いにその名を轟かせた。
その活躍ぶりに、三連星はブリタニア皇帝直属の最強の騎士団―――ナイトオブラウンズへと取り上げられたのである。
そしてアクアがナイトオブラウンズになってから、この日本に来日したという話は聞いていない。
また、俺とナナリーがまだアクアと一緒に居られていた、あの幼い日々の時。
あの時もアクアが日本に行った事があるという話は聞いたことがない。
つまり、カレンがアクアと会ったというのは、俺達が日本に追放されてから、アクアが軍人になる前という事になる。
だが、何故アクアは日本に来たのだろうか?
アクアとは幼少期から付き合いがあるが、あいつと日本を繋ぐものがはたと思いつかない。

「出会ったのは偶然だったんだ。
あの日、私はお兄ちゃんにレジスタンス活動を止められて、むしゃくしゃしてたの。
それで、普段は危ないから通らないようにって言われてたゲットーを通ったんだ。
そこで…アクアと出会ったんだよ」

その日を思い出しているのだろうか。
カレンは少し遠い目をしながら話を続ける。

「なるほどなぁ。
で、カレン。アクア・アッシュフォード…ああ、めんどくせぇ。
アクアって奴とどんな会話をしたんだ?」

「会話って言っても10分位しかしてないけどね…」

そう前置きをしてから、カレンは話し出す。
俺の知らない、アクア・アッシュフォードの話を。

「アクアはね、泣いていたの」

「は?泣いていた?」


いきなりのカレンの言葉に皆が意表をつかれたような声を上げる。

「うん、泣きじゃくっていたわ」


ブリタニア帝国最強の騎士の一人が泣いていた。
そのあまりのギャップに皆は驚きを隠せない。
そして俺も声を上げていないが、内心は他の者と同じだ。
表には出さないが、内心、アクアと幼少期から付き合いのある俺は、周り以上に驚いている。
アクアは子供の頃から、冷静沈着で、どんな事にも落ち着いて対応をする子供だった。
あいつが涙を流した事は、ミレイと再会したあの一回しかしらない。
ミレイからもアクアは泣かない子供だったという話を聞いたこともある。
ただでさえ、泣きやすい幼少期を一度も泣いたことがないだろうアクアが泣いていた?

「それでね、アクアに聞いてみたの。
何で泣いているの?って」


『大切な…大切な物が、そして大切な人達が此処に居たんだ
でも僕の大切な存在が瓦礫の中へと消えて行った。
だから悲しくて、泣いてしまったんだ』


「そう言って泣いていたわ」

カレンの言葉に一同が静まり返る。
アクアが発したという言葉が一同の言葉を失わせたのだ。
そして、こんな時一番に動くのは決まっている。
激情家である玉城だ。

「ブ、ブリキ野郎が、何言ってやがる!」

玉城はソファーから勢い良く立ち上がりながら吼える。

「ブリキ野郎達が壊してったんだろ!!瓦礫を作っていったんだろ!?
壊してった張本人が何いってやがんだよ!!」

その言葉はある意味、アクアの言葉を聞いた日本人達の心の叫びと言っていいかもしれない。
自らが壊していったものを見て、何を泣いているのか。
勿論、日本と開戦したときアクアはまだ子供だった。
子供だったアクア自身が日本に危害を加えたはずがない。
それでも、アクアはブリタニア人なのである。
日本人達にそれを割り切れというのは難しい話だ。

「大体よ!そんなに大事な存在をブリタニアが壊して行ったってことだろ!?
大事なものをぶっ潰された!?許せねえよな!?
許せねぇんだったら、ブリタニアと戦うのが筋ってもんじゃないのかよ!?」

玉城らしい感情のみの台詞。
だが、それゆえにその言葉は妙な説得力が感じられた。


「アクアはブリタニアを憎んでいると言っていた。
私もね、それを聞いてアクアに言ったんだ。
私達と共に大切なものを取り返そうって…。
そしたら、アクアに断られたの。
無くした物を取り戻すのではなく、僕はその力で僕が持っている大切な何かを守りたいっ…てね」

「はっ!!所詮はブリキ野郎って事だな!!
偉そうな、綺麗ぶった事を言ってても結局は口だけじゃないかよ!!」

「そうかもね…。
でも」

玉城の言葉に逃げる事無く、カレンは毅然とした顔を玉城へと向ける。
その毅然としたカレンの表情を見て玉城は無意識に、一歩後ろへ下がっていた。

「その時私は思ったの。
この人は心の奥からそう思っている。
心の奥底から願っているって」

そしてカレンは続ける。
まるで大切な誓いを語るように。
大事な宝物を語るように。

「大切なものを取り戻したい私達と、大切なものを守りたいアクア
たったそれだけの違い。でも大きな違いを胸に秘めて戦ってるんだって」


「…………カレン。
君の言いたい事はよくわかった」

カレンの言葉で静寂していたトレーラーに響くように俺は声を上げた。

「君がどんな思いを抱き、アクア・アッシュフォードへと戦いを挑んだということも」

「あの、ゼロ。
こんな事言った後では説得力は無いと思いますが、私は決してアクアとの戦いでは手を抜いたわけでは」

「わかっているさ。
君がそんな器用な性格ではないということはな」

「だな。
カレンがそんなに器用なはずがないって」

「思い込んだら一直線は、ナオトにそっくりだもんね」

「み、皆!!」

慌てた様に言葉を発するカレンに、からかうかのようなニュアンスで言葉を返す。
俺の言葉に釣られるように、皆がカレンをからかいはじめた。
ようやく、トレーラーの中に明るい雰囲気が戻ってきたな。

「皆、聞いてくれ」

声を出しながらソファーから立ち上がり、皆を見渡す。

「この世界は簡単ではない。
正義の敵は悪だと、単純なものではない。
ブリタニア軍という悪の中で、アクア・アッシュフォードは奴なりに己の正義を貫いているのかもしれない」

俺の言葉に戸惑ったような視線を向ける、黒の騎士団の幹部達。
なぜならば、今言ったことはある意味黒の騎士団の根本を揺るがすものなのだから。
黒の騎士団はブリタニア軍だけではない、全ての悪を討つ正義の味方なのだ。
だが、悪の中に他の正義があった。
悪の中の正義に、正義の味方はどう立ち向かえばいいのか。

「ならば、尚更私達は正義の味方でなければならない。
私達の正義と、アクア・アッシュフォードの正義。
二つの正義が戦うのは確かに、心苦しい。
だが、私達には叶えなければいけない理想がある、宿望があるのだ。
アクア・アッシュフォードとはこの先、何度も戦う事があるだろう。
その時、奴の正義に飲まれるな。己を正義を貫け。
その先にこそ、私達の理想の果てがあるのだからな」


「おう!!」

「わかってるぜ!!」

「ええ!!」

「あったりまえだ!!俺達黒の騎士団の正義を思い知らせてやらぁ!!」



俺の言葉に、皆が威勢のいい返事を返してくる。
先ほどまで憮然としていた玉城も、威勢を取り戻したようだ。


「だが、カレン」

「はい?」

完全に活気を取り戻したトレーラーの中で、俺はカレンへと語りかける。

「私達の正義とアクア・アッシュフォードの正義…。
二つの正義が交わる時が来るといいな…」

「そうですね…ゼロ」





この時の俺の言葉は、黒の騎士団の総帥ゼロからナイトオブセブン、アクア・アッシュフォードへ向けた言葉ではなく、
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアからの、掛け替えのない友達への言葉だったのかもしれない。






その後、多少の取り決めを確認した後、解散となった。
幹部達と別れ、帰途へとつく道すがら今回の出来事を考える。
今回は少しまずかったかもしれない。
黒の騎士団の士気を高めるため、アクアを好敵手としてみなす形で話をすることになってしまった。
カレンにはフォローのような言葉をかけておいたが、これで黒の騎士団とアクアがぶつかり合うのは、避けられない事となったかもしれない。
だが、逆に言うと、アクアの高潔な意思を聞いたことによって、騎士団にとっては良い好敵手ができたという、メリットもある。
憎い敵ではなく、戦う価値のある好敵手。
この違いがこれからどんな動きにかわっていくか…。

しっかしと見極めなければいけないな。

溜息を付きながら、気を引き締める。

その時、ふと気になることが生まれた。

アクアの言っていた大切な存在とは…なんだったのだろう?
おそらく大切な存在とは、人であろう。
アクアにとって大切な人物が日本で消えてしまったのだ。
幼少期の頃、アクアと日本を繋げるものはなかった。
俺達が引き離されてから、アクアは直ぐに士官学校へと入学したとの事だ。
カレンの話からすると、おそらくアクアがまだ士官学校の生徒だった頃の話だろう。
士官学校は年に数回しか長期休みは無い。
そんな束縛された生活の中で、アクアが日本に大切な存在を作る事ができたのだろうか。
それは限りなく、難しい事だと思う。
俺が言うのはなんだが、アイツは友達を作るのが苦手な男だ。
俺以外にはほとんど友達はいなかったはずだからな。
つまり、アクアの大事な人は、俺達が引き離されてから士官学校へ入学する間に日本に行ったということか…?

そこまで考えて、俺は思いついた。

そう、いる!!いるではないか!!
俺達が引き離されてから、士官学校へ入学する間に日本に行った人物が!!

考えてみれば簡単な事だった。

そう―――その時期に日本に居たアクアの知り合い。
それは、俺とナナリーだ!!

アクアは俺とナナリーを探しに、日本に来ていたのだ!!
だが、幾ら探しても俺とナナリーの存在を確認できなかった。
ゆえに、アクアは俺達兄妹は既に死んでいると思い、絶望し泣いていたのであろう。



アクア…お前という男は…………!



俺は溢れる思いを抑えきれずにいた。

そこまで俺達兄妹は友に大事に思われていたという事実。
胸が苦しくなる。熱くなる。嬉しくなる。

アクア…。
お前は来るべき、優しい世界に必要な存在だ。


俺はこの日。
新たな誓いを立てたのだった。



[3303] お知らせ
Name: 0◆ea80a416 ID:e332fd4d
Date: 2015/12/25 02:52

大変お久しぶりでございます。

ほぼ一年ぶりに更新とさせていただきましたー。

いやはや、自分の遅筆ぶりに本当に情けないもんですと、思うこの頃です。

突然で申し訳ないのですが、実は作者、急性脳炎という病気になり、入院していました。

幸いにして大きな後遺症とかはないんですが、一部の記憶が思い出せない所があります。

その記憶の中に、この小説のプロットや言わせようとしていた台詞などが入っていまして…。

憶えている所と、憶えてない所が混じってる感じです。

ぶっちゃけ言うと、この話を続けられるかわりませんwww

いやー参ったもんですwww

ステロイド治療をしていたのでその影響かもって思ってましたが、駄目っぽいです。

結婚したり、震災にあったり、病気になったりと大忙しの20代www

今は退院して、落ち着いてたので、病気となる前につくっていた部分の続きを頭のリハビリがてらに作ってみました。

面白い面白くないは、わからないのですが、今できる限り頑張ってみた感じです。

ちょっと後半が駆け足すぎたかも…。

この作品を消すことはないつもりですが、この先続けるかは正直わからないです。

もしかしたら、また直ぐに作るかもしれませんし、また一年先くらいに続き書くかもしれないし。もしくは書かないかもしれないし。

大変申し訳ないですが、まだ作者の心も決まっていない状態です。

もしかしたら最後の更新となるかもしれないと思い、この知らせを作らせていただきました。
※もしかしたら今回更新したところは訂正で更新するかもしれませんが(笑)

あと、チラシの裏に投稿していたオリジナル作品の続きがパソコンの中から見つかりましたので、ついでに投稿させていただきますwww

こんな私の稚拙な作品にいつも感想をくれまして本当にありがとうございました。

皆様の感想、本当に嬉しかったです!

もし、また更新されたら、生暖かく見守って欲しいと思いますwww

それでは失礼します!

今までありがとうございました!!









※皆様、お久しぶりです。
あれから体調は微妙ですが、何とか平穏に生活することができています。

ハーメルン様でもこの作品を投稿することにしました。
みなみZという名前です。
更新自体は難しいかもしれませんがよろしくお願いします。


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