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[33468] 【習作】 我が魔導を、鉄槌の騎士にささぐ。 【リリカルなのは】
Name: はじっこ◆e894d58f ID:139085e1
Date: 2012/08/05 10:55
「おまえの魔力をいただく。」

街灯の光が点滅し、その赤いシルエットを不安定に照らす中、俺は後悔とあきらめの混じった脳みその中で愚痴をこぼした。

夜の散歩なんて、柄にもないことをするんじゃなかった……。



 俺の名前は「山田太郎」。名前――――のことはできればつっこまないでほしい。

まさか第二の人生で、こんなエキセントリックなイベントに遭遇するとは、思わなかった――――――――――。

俺は、二次制作小説でいう「転生者」という、なんともいいがたい存在だ。

大半のヤツは「チートだ!」「原作介入だ!」「ハーレムだ!」…と、喜び勇んで己の欲望のままに赴き、脳内がマルハg――――じゃなくてハルマゲドンしてしまっったかわいそうな人たちだと思っているのは、はたして俺だけだろうか。

いやね、俺だって内なるコスモとか、隠された力とか、そうゆう厨二なヒーローパワーに憧れていなかったわけじゃないぞ。

子供のころの作文で、将来の夢はア〇パンマンになることだったしな。

いや、それはいい。もう20歳になる前に死んでしまったとか、死因が餅を喉につまらせた窒息死だとか、―――――神様に会えなかったとか、転生特典とか………。

いや、今はいい。今それどころじゃないんだよ!

「お前の魔力は、闇の書の餌だ。」

赤いゴスロリ+うさぎ帽子+トンカチ(凶器)=どう考えても「リリカルなのは」のヴィータさんです。ありがとうございました。


「え、え~と君どうしたの?もしかして迷子?そっそうか迷子か!じゃあそこの角まがったとこの交番「ジャキ!」っひぃ!?」

こっこえぇぇぇぇ!!?

やべぇよ。これってたしか闇の書の蒐集事件だったか。今は二期ってところか。


それにしてもピンチだ。ピンチの連続だ!助けてダ〇ナァァァァァ!!



―――――――――ふぅ…おちつけ。まずは状況把握だ。

たしか「リリカルなのはAs」は、闇の書の守護騎士が、闇の書の主「八神はやて」の病を治すために、魔導士のリンカーコアを蒐集して闇の書を完成させるために奔走する話だったっけ。

蒐集―――――――ということは俺にもリンカーコアがある!魔法つかえるじゃん!!

すげえぇぇぇっぇえぇ!!やたあぁぁぁ!!――――――――――――――――って、それどころじゃねえし!!

つまり、どうやら俺にもリンカーコアがあって、ヴィータさんがそれを蒐集しに来たわけか。



――――――――――――結局、わかったのは危機的状況のままってだけか。ちくせう。


「…えと、見逃してください?」


「悪ぃがムリだ。」


ダヨネー

「アメちゃんあげるから。」

「ふざけてんのか?」

「ハーゲンダッツ買ってあげるから。」

「ぐっ!!…………………だめだ。」

間が長かったなぁ。

でもどうしようか。正直、一度死んだ身としては二度目は正直カンベン……チョイ待ち。

「…あの、質問しても?」

「…なんだ?」

おおう、こえぇな。

「その、君がほしいのは俺の持ってるリンカーコア?であって、その、べつに俺を殺そうと思ってるわけじゃないと?」

「っ……。」

口籠んなよ、こええだろ!!

「…………殺しはしない。」

「……え?」

「ほしいのはリンカーコアだけだ。命までは取らない。」

「ホントに?」

「ああ」

よっしゃああぁ!!死亡フラグ回避ぃぃ!!……かな?

とにかく、リンカーコア取られるけど命までは取らないみたいだ。

なんつーか、魔法つかえるかも!―――って思った矢先に取られるっつーのはなんか癪だけど、命には代えられんしね。ぶっちゃけ死にたくないしね。


「おっけー。おれの純情、君にあげちゃる!」

「???」

「……ただの妄言だ。それよりさっさと終わらせてくれ。」

俺、注射苦手だしね。

「…」

すると、彼女の手のひらの上に分厚い本が出てきた。あれが闇の書か。

そして、ふよふよと浮いていた本は、ひとりでに開き、まるで風でも吹いたかのようにパラパラとページがめくれていき―――――――



白紙のページに止まった。



『蒐集』

「――――――ぐっ!!?があぁ…!!」

「……っ」

胸のあたりから、まるでフォークでえぐられているような痛みが体中に広がる。



いってええええええぇぇっぇぇっぇぇぇぇぇぇ!?!?!?



イタイイタイいたいいたい痛い痛い!!!!

こっこれならまだ注射のほうがましだったーーー!!

先生ごめんなさい!!次からはちゃんと注射受けます!!

なんなら献血にだっていってやるぜ!!

もうホント予想以上の痛さだよこれえぇぇぇぇぇぇ!!?

はやくっハヤクオワッテクダサイ!!

ああああ鼻水とか、涙とか、とまんねぇし!

ぁ――――やべっ、ねむくなって……おっおぉ―――――……………




―――――――――ここで俺の意識は、途切れた。











     *****


意識が浮上して、最初に目にしたのは、

「しらない天……やめよ。」

あほらし。

それよりどこだろここ?全体的に白いから病院かな?

たぶん廊下に出ればナースさんくらいいるだろ。

そう思って体に力を入―――――――

「――――っていたたたたたた!!??」

な!?なんぞこれ!?なんかまるで全身筋肉痛になったような、筋にカミソリ入れ

られた様な痛みは!?

ううぅもうやだ、なっナースコールを――――――

「気がつきました?」

んう?

「気分はどうですか?」


えーと? この緑髪のべっぴんさんは、はて?どちらさんで……?




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



どうも、作者です。

練習も兼ねて書かせてもらってます。

まだまだ未熟者ですので、間違いなどがありましたらどんどん指摘してくださると

うれしいです。

更新が止まってしまったり、もしかしたら中途半端に終わってしまうかもしれませ

ん。

なんとか頑張って書いていきますので、なにとぞよよろしくおねがいします。




【修正しました。】

改行とかいろいろ。



[33468] 【1】太郎「タイトルからして、作者はおそらく厨二だ。」
Name: はじっこ◆e894d58f ID:a66a941c
Date: 2012/08/04 22:45





星の光も消え失せた夜、私は夜の闇を切り裂くように飛行魔法を駆使し、空を駆ける。

焦りで弾みそうになる息を、なんとか落ち着かせながら、わずかに感じる魔力をたどる。

こんなことしてるなんて、はやてに知られたらきっと………



『蒐集』


魔導士・魔力を持つ生命体が保有する魔力生成器官、『リンカーコア』を『闇の書』と呼ばれるデバイスによって吸収することによって。主に大いなる力をもたらすことができる。

しかし、リンカーコアを奪われた者は、魔法が一時期使えなくなったり、最悪の場合、死んでしまう。

現・闇の書の主、八神はやては見知らぬ他人が苦しむことも、大いなる力も望まなかった。

彼女は穏やかな暮らしを望み、騎士たちを家族として向かい入れた。

暖かく、幸せな日々が続いた。永遠に続いてほしいと願った。

けれど―――――――――――――――――――――




(ちくしょうっ……このあたりのはずなのに!)

この街に入ってサーチにかかった反応は『3』つ

ひとつは瞬間的な魔力量は大きいが、ついたり消えたりしてる、魔力を隠蔽する方法を知っていることから、おそらくは『魔導士』。しかも魔力からして「アタリ」かもしれない。

けれど、どうにも反応がとぎれとぎれで、うまく見つけられない。後回しにするほかない。

ふたつめは―――正直言ってバカ魔力だ。隠しもせずに魔力だだ漏れだ。罠なのか、それとも単なるバカなのか。

いいカモかとも思ったが、慎重に様子を見てみると案の定。

『時空管理局』

遠目だがそれらしい人物と接触しているところを見た。

となるとアイツは時空管理局の魔導士ということになる。

さすがに管理局の相手はしたくない。面倒になるどころの話じゃない、最悪はやてが捕まってしまう。

それならひとりめを地道に探したほうが、何倍もマシだ。

みっつめは……………何だろう?

正直、最初の2人よりも魔力は少ないほうだろう。良くて1ページ埋まるか埋まらないかぐらいだ。

この世界は魔法文明は皆無だと思ったが、はやてのような資質を持つ人間はちらほらいるようだ。

コイツに関してはよくわからない。

魔力の質からして、おそらくは素人。それかまだ魔力が覚醒しきっていないのかもしれない。

(っ!!)

するとサーチが反応した。

この魔力の反応は……………………



「―――――――――――――見つけた」




     *****




第一印象は――――――変なやつ。

10代半ばの背格好、身長は高め、黒髪黒瞳の少年。

私が突然出てきたのを皮切りに右往左往しだす少年。眼には、怯えと驚愕に染まっており。なにかブツブツと言い始めた。

(渋るようなら、さっさと気絶させて―――――――)

と思っていたら、彼のほうからとんでもない提案が来た。


――――――魔力を差し出す代わりに、命を取らないでほしい。


私は正直、耳を疑った。

魔導士、いや蒐集の実態を知っているであろう管理局員ならリンカーコアという器官がどれほど重要な存在なのか知らないはずはない。

リンカーコアを奪われるということは、すなわち己の魔法を奪われるということ。

鳥にとって、翼をもがれ地に落とさたも同然なのだ。

ミッドにおいてもベルカにおいても、魔法を持たない人間の立場は弱い。

それほどに、管理局にとって・魔導士にとって魔法はもっとも重要なステータスなのだ。

今一度、彼の言葉に驚愕の表情が出そうになる。思わず彼の顔をじっとみるが彼の顔からは「覚悟」の二文字が読み取れる。まだ若干脅えの色が見えるが、その力強いまなざしに、しばし見とれてしまった。

(ッ!)

自分の行為に若干戸惑いつつも、本来の目的を思い出し、闇の書を取り出す。

たとえわずかでも、労せずに魔力を手に入れられるのだ。こちらとしては願ったりかなったりだ。

(悪ぃな………これもはやてのためだ!)

空中で闇の書が開き、パラパラとページがめくれる。




『蒐集』



闇の書が鳴動し、そのページを埋めるべく彼の魔力を奪い始める。

彼は苦痛に声を漏らすが、それと比例して胸の輝きがだんだん強くなる。

(!!っ――これは!?)

思わず驚愕に顔が染まる。それは、思いのほか彼の魔力が少なかった――――――――――――――――――――――わけではない。



『多すぎる』のだ。



本来見積もっていた量とは明らかに違う。おそらく魔力覚醒前で気付かなかったのか。それとも魔力が漏れにくい体質なのか。



このとき、魔が差したのであろう。



(っ――――もう少し…!)

こんなチャンスは、おそらく二度と来ない。 そんな彼女の眼にはやさしい主の姿が見えた。

(これで―――――あと少し!)

すでに闇の書は5ページほど埋まった。まだ蒐集は続いている。彼女は、やさしい主のことを思いながらも、今現在収集の餌食となっている彼のほうに目が行き―――――――



「――――ぅ―――――ぁ」


「――――――――――っ!!!?」



ついに、その口から驚愕の声が漏れた。



彼は、まるで拷問に耐えるかのような顔で筋肉が引きちぎれるのではないかというくらい表情がゆがみ、目は焦点が合っておらず涙と、歯が折れるくらい食いしばった口からのヨダレとでぐしゃぐしゃだった。

あわてて蒐集をやめ、彼に駆け寄る。

彼は、糸の切れた人形のようにその場に崩れおちる。

うつぶせに倒れた彼の顔は血の気がなく、小刻みに痙攣している。

「おい!!しっかりしろ!!」

「―――――」

あわてて仰向けにし、心音と呼吸を確かめる。

「…………」

胸に耳を当てると、不規則だが心臓の音が聞こえる。呼吸もちゃんとしている。

「………ふぅ」

とりあえず命に別状はないと安心するが、冷静になった頭が先ほどの己の愚行を思い出させる。


「っあ…あたしっ―――――!?」

一歩間違えれば彼の命を奪っていたやも知れない失態。それは主であるはやてに殺人の濡れ衣を着せてしまうも同然だ。だが、それよりも――――――――




―――――――――命を取らないでほしい。





「―――――――っ!?」

彼との約束を、願いを踏みにじったのだ。

騎士である、自分が、『鉄槌の騎士』が。

後悔…………なんてものではなかった。

かつて、数え切れぬほどの命を奪い。数え切れぬほどの敵を砕き。数え切れぬほどの血を浴びた。恨まれても、蔑まれ罵られても文句はないと思っている。己を犠牲にする覚悟だってある。

けれど、誇りはあった。

騎士として、主のために、仲間のために、強大な敵と対峙した時も、己が主に罵倒されても、『鉄槌の騎士』の名を誇りに思っていた。




―――――自分はいったい何をした?



「―――あたし…は」



―――――これが『騎士』のやることか?



「ちっちがう!!」



――――――――じゃあ…………





―――――――――カレノイノチヲウバオウトシタオマエハ








―――――――――『ダレ』ダ?










「――――――――――!!??」

遠くからのサイレンの音にはっとなり、あたりを見渡す。

 (結界が!?)

あらかじめ張っておいた結界が消えていた。どうやらあまりに動揺したせいで結界の魔力が切れてしまったようだ。

ここにいてはまずい。

「っく!?」

正直、彼をここに置き去りにしたくなかった。せめて病院の前まで運ぶくらいはしたかったが――――

サイレンの音が徐々にこちらに近づいてくるとともに、先ほどの動揺と合わせて焦りが彼女の心を埋めていく。

とっさに彼女は飛行魔法を行使し、ふわりと浮きあがる。

「…………っ」

不意に仰向けになっている彼が視界に入り、口から声が出かかったが、彼女の声帯はまともに働かず、何も言えずに彼女は闇の支配する空へ消えていった。



   『彼』と『騎士の誇り』を置き去りにして―――――――――――――








――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





どうも、作者です。

前回同様、今回もいろいろとスイマセン(;- -)

本当は、ここから主人公視点いれたかったけど体力的に無理でした。

次は主人公視点からです。また見てくれるとうれしいでっす!!





【次回】

太郎「甘いお茶には気をつけろ。」

緑髪のべっぴんさんの正体が明らかに!?




【修正しました。】

魔法至上主義の管理局において、魔法を持たない人間は蔑まれる傾向にある。

ミッドにおいてもベルカにおいても、魔法を持たない人間の立場は弱い。



[33468] 【2】太郎「甘いお茶には気をつけろ。」
Name: はじっこ◆e894d58f ID:9342cff6
Date: 2012/08/05 10:46
薄暗い廊下を、二つの足音が進む。薄暗い、といっても不気味な雰囲気は感じず、どちらかというと街灯のある道を歩いているような感覚だ。

「わざわざ、ごめんなさいね。目が覚めたばかりだというのに」

「いっいえ、こちらこそ、なんか恐縮です…」

「ふふっそんな畏まらないで」

そんなパーフェクトスマイル(業務用)に、俺は「…は、はい」という受け答えしかできなかった。

俺は今、緑色の髪の女性―――――リンディ・ハラオウンさんと歩いている。





俺が目を覚ました時、ちょうど様子を見に来たのがリンディさんだった。動けない俺に軽く事情説明をしてくれた。

ここは、次元航行船アースラの医療施設。次元世界とか、魔法とかも説明してくれた。―――って、こんな話しちゃっていいのか?

「あなたも被害者ですから。事情が分からないと納得できないでしょ?」

まあ、そーだわな。

後日、あらためて事情説明をしてくれることになり、その日は眠りに落ちた。


そんで翌日、起きようと思ったが―――動かん。つか痛い!

看護師さんの説明によると寝たきりで筋肉が衰えたせいだとか。どんだけ寝てたんだよ俺。

でも、そのあと看護師さんが治療魔法とやらをかけてくれた。

おおぉ~すげ~!なんかマッサージされてるみたいですごい気持ちいい。

――――うん、まだちっと痛いけど動かせないほどではない。いやぁスゴイね!魔法!

そんで、着替え終わったころちょうどにリンディさんが来たので、どうやら艦長室で説明するそうなので、俺とリンディさんは廊下に出た。



艦長室。………というより応接室みたいだ。なんか原作では日本和風テイストだったような気がしたが、リフォームしたとか?

俺はソファーを勧められ腰掛ける。しばらくして――――

「はいどうぞ」

背後から腕がにょっと出てきた。

うおうっ!びびったぁ。後ろから声かけんでください。

―――と、俺の前にいい香りの緑茶が置かれる。

「あ…ありがとうございます。―――ええと…」

「あっ!ごめんごめん。キミとははじめましてだよね?」

俺の後ろ、茶色い髪の女性が姿勢を正す。

「エイミィ・リミエッタ。ここでオペレーターをやってるの」

「そうですか。 どうもはじめまして。山田太郎といいます」

「うん!よろしくね~」

と、エイミィさんからのお茶をひとくち。

――――――うん。うまい。

あ、リンディさんもお茶を…………へ?

「………リンディさん。それは?」

お茶に(多分)砂糖と(おそらく)ミルクを入れ、それをおいしそうに飲む姿は――――まあ、まずそうに飲んでるわけだないみたいだ。みたいなんだが……

「あら? どうかしたの?」

お茶の香ばしい香りと、砂糖の甘い香りとミルクの乳製品な香りが――――うっぷ。

「いえなんでもないです」

「???」

まあ、本人が問題ないならいいかな………いいかな。

「それじゃあ始めてもいいかしら?」

「あ、はい。お願いします」





     *****




聞く所によると、この地球を起点として魔導士襲撃事件の調査をしていたところ、結界の反応をキャッチして現場に急行したのだが、すでに結界も消えて、その問題の犯人もおらず、そのとき倒れている俺を発見し、保護したんだとか。

うん、それはいいんだ。大体知ってるから。でもなぁ―――――――

「―――――ですので守護騎士たちの保護観察処分を持って身柄の保護と事件の収束となりました。」

「……ソウデスカ」

「あの…大丈夫?」

「…うん。まあ」





俺寝てる間に全部終わってるってどんなイジメだあああぁぁぁぁぁぁぁ!?




いや、いいよもう危険もないし地球滅亡の危機も脱出したみたいだからいいけどさ!

でも俺だって守護騎士たちの戦うとことか、最終決戦とか生でみたかったさ!!

戦わんけどな!怖いし!

ううう~。映像とか残ってないかな。

もう人前とかじゃなかったらマジでその場で崩れ落ちてるところだよ!

「と、とりあえず後は身体検査で異常がなければ一時帰宅となります」

「……へ?まだなんかあるんですか?」

「一応、事件関係者ですので」

う~ん。やっぱ事情聴取とかあるのだろうか。

「……わかりました。俺にできることがあれば」

俺の了解の返答をもってこの話は終わった。




     *****




カンカンカンカンと馴染みの階段を駆け上がり。『203』の番号付きのドアの前で止まる。

ほぼ一か月部屋空けてたからなあ。部屋の家具がなくなってたりしないかなあ。

鍵を取り出し、ねじこむ。

おっ開いた開いた。


―――――――――うあ~~なんかホコリっぽい。

うん。出てきたときそのまんまだ。

寝床に転がってる目覚ましがちょうど「01:00」の表示となった。

深夜の1時となった。

「はらへった……なんかあるかな。」

冷蔵庫の前に移動するが………

「……やめよ。中すごいことになってそうだし。」

もうねむいし、寝るか。

布団に横になって、唯一の手荷物を近くのテーブルに放る。

これはリンディさんが帰りがけにくれたやつだ。




『時空管理局進路案内』




あはは……スカウトされかかっとるし。




     *****









彼の目が覚めたと聞いた時、いても立っていられず、廊下を走る。

けど、会ってどうする?

そんな問答が頭の中をぐるぐるめぐる。

けれど、彼は病室にいなかった。

会えないことに苛立ちが募った。

会わなかったことに安堵していた。

そんなことを考える自分がいやだった。




「ヴィータ?どないしたん?」

「………はやて。」

『はやて』と呼ばれた車椅子に乗る少女がこちらを見ていた。

「…ううん。なんでもない。」

そういってヴィータは少女のもとに戻った。




それでも未練がましく病室を振り返ってしまう。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




どうも作者です

まずは読者の皆様。感想、ご意見、ありがとうございます。

もうなんとゆうか、みなさまの気分を害してしまってるのではとヒヤヒヤしてます。

自分も目標は完結ですので。がんばって書いていきます!

駄文が続いてしまいますが、なにとぞよろしくおねがいします!



【次回】

太郎「魔法戦闘?ムリ、ゼッタイ。」


しょうがないなぁ~、の〇太君は。(〇竹ボイス)


【修正しました。】

side表示消しました。



[33468] 【3】太郎「魔法戦闘?ムリ、ゼッタイ。」
Name: はじっこ◆e894d58f ID:baf2490c
Date: 2012/08/04 22:44
おはようございます。管理局の就職案内をもらった山田太郎だ。




…………ホントどーしよう。





     *****





何日も部屋空けてたから、大家さんがスゲー心配してくれてた。なんか、ホロっときたね。最近の日本は人と人との繋がりとか、近所付き合いとかが廃れはじ
めてるなんて言うけど、まだ日本も捨てたもんじゃないね!

うん、だからね、大家さん。

「あと一日待ってください!」

「チッ」

舌打ちせんでください!いろいろと台無しです!

だって仕方ないじゃん!ここって近くにATMないんだもん!!



     *****



あーもう……まるまる一か月も休んだから出席日数もやばいし、アルバイト代なんてないし。まあ退学になってないだけまだましかな。

―――――――しゃーない。貯金くずすしかないか………はぁ。

「………つか、目下の最大の問題はこれなんだよなぁ。」

ふいにテーブルに目がいけば、そこにはぞんざいに置かれた。A4くらいのパンフレット。

――――――――もとい。

「地獄の片道切符。―――そこまでひどくねぇか。」

正直、俺は頭を悩ませた。管理局に対する偏見になってしまうが。どう考えても危険だらけだろ管理局!!

主に砲撃とか、次元犯罪者とか、砲撃とか、砲撃とか!!




―――――――――よし、おちつけ。COOLだ。COOLになれ。

「まあ、少し読んでから考えるか。」

パンフレットを手に取り、パラパラとめくり……


『本局・次元航行部隊』

「ムリ」

まず次元世界ってどんな危険あるかわかんねぇし。なにあるかも未知数だもんな。


「え~と他に…」

『地上本部・地上部隊』

「ムリ」

パンフレットを壁にたたきつけた。






あれから頑張って読んでみたけど、

「安全そうなの、一つしかねえじゃん。」


『無限書庫・司書』


自然保護とか密猟者捕まえるとかムリ。あと医務官とか執務官とかもあったけど。よく読んでみると、マフィア検挙したり、紛争地帯行ったり………

「でも、こいつもなぁ。」

資格試験がめちゃくちゃだし。俺、頭そんなよくないし。

うん無理!

俺は投げやりにふとんにダイブした。

ごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろ―――――……なんて。


「――――でもなあ。」

俺は、どうにもあきらめきれずにいた。理由?―――――決まってんだろ!





「魔法、使いたいなあ…」




だって魔法だぜ、魔法!

アギにファイガにメラゾーマだぞ!使えるなんてわかっちまったらもう止まれん!止まれんのだよ!!

子供の頃、誰もが憧れた魔法。それが自分の手元に転がり込んできたんだぞ。

これをチャンスといわずなんと言う!もうこんな機会二度とないかもしれないじゃん!


「でも、痛いのはYADA!!」


――――――――うん、身の安全が第一だな。




     *****




――――――――ピンポ~ン!


古めかしい呼び鈴が鳴った。(たまに、ちゃんと鳴らずに「ピッ!!」で止まることがある。心臓に悪い。)

こんな時に誰だろ?大家さんかな?

「ほいほい?」 ガチャッ

「すまない、君が山田太郎かい?」



ドアを開けると、精悍な顔つきをした黒髪少年が立っていた。俺と同い年ぐらいかな。

――――え~と

「……はじめまして?」

「ああ、そういえば君とは初対面だな。僕は――――」








「―――――ふ~ん、『原尾』さんもたいへんだなぁ、事件の後始末なんて。」

「『ハラオウン』だ。クロノ・ハラオウン。呼び捨てでかまわないよ。見たところ歳も近いようだし。」

「わかりま――わかった、クロノ。これでいいか?」

「ああ。」


アースラの廊下を俺は、原尾――じゃなかった、クロノと歩いていた。たしかクロノってリンディさんの息子さんだったっけな。ううむ。いざ実際に目の当たりにしてみると、大
体知ってても驚いちまうなあ。

リンディさん、どう見ても二十代じゃん。人体の神秘だね。

あーでもなんとなく納得できるというか。顔立ちとか雰囲気とか、なんかこう、親子って感じがする。似てるとこも結構あるしね。





――――――――――『親』………か。






「―――そういえば。」

「…んう?」

おっと、イカンイカン。ちょっとしんみりしかけちまった。俺にシリアスは似合わんしな。

「先日、母さ…艦長から渡されたものがあったが…。」

「ああ、コレか。」

そう言われ、いつぞや渡された、地獄の……じゃない、パンフレットをバッグから出した。

クロノはそれを見て、軽いため息が漏れた。

「なんというか――すまないな。こんな急に話すような事ではないんだが。」

「……はは。」

リンディさんのしたたかさには脱帽です。




「おいクロノってめぇ!」


なんてクロノと駄弁ってたら、不意に後ろから声がかかった。

ちらっと銀髪のなにかが視界をかすめたけど。その声の主はずかずかとクロノに詰め寄って、なんか怒鳴り散らしている。

お~い。俺いるんだけど?

「なんでフェイトがいないんだよ!今日はアースラにいるはずだろ!!」

「…いや、僕に聞かれても。」

「言い訳すんじゃねぇ!じゃあなんでなのはも居ないんだよ!!」

「―――――ああ。そういえばなのはもフェイトもミッドのほうに呼ばれたんだな。」

「…てめぇ、隠してやがったな!!」

「いや、僕も今朝、聞かされたんだが…。」

「言い訳すんじゃねぇ!!―――ックソ!!」

銀髪は苛立たしげに廊下の壁を蹴りつけた。…お~い、物を壊すなって親に言われなかったか。一応、公共物だぞこの船。


「―――おいクロノ。なんだそいつは?」

やっと気づいたよ。でも扱いがぞんざいだよ。

「彼は、……今回の事件の『関係者』だ。事情聴取の途中でな。」


事件の『被害者』であることを伏せて話すクロノ。―――まあ、当り前か。被害者からすれば気分のいい話じゃないからなあ。下手したら精神的にまいっちゃう人もいるし。

クロノのやさしさにちょっと感動。まあ執務官としてかもしれんが、俺はうれしい。―――――――誰だろ、『KY』なんて言ったの。

まあ、なにはともあれ自己紹介だ。


「………」

「……え~と、山田太郎。人畜無害の学生です。」

「………」

あの~名乗ったんですけどっ!何が気に入らないの!?……あっ!握手か!握手をご所望か!はははっいや~なんか気恥かしいな。ゴシゴシ手を拭って…と。

「えと、よろし――」


ッッパァン!!!


「触んじゃねえっ!クズが!!」

「――っ?!!おい君!!」

クロノが血相を変えて俺の前に出た。銀髪の少年は色違いの双眸でこちらを射抜かんばかりに睨んでいる。

――――こっこここここここコッ怖えええぇえぇぇぇぇっぇえ!!!??

差し出された手をはたかれた。結構強めにっ!初対面なのにいきなり好感度マイナスMAXじゃん!? えっ!?俺より年下なハズなのに、なんで年上の俺がビクビクせにゃあ
ならんの?!

ヒリヒリする手をさすりながら、震えそうな足に力をこめる。―――小学生にビビる俺って……なんかむなしくなってきた。

なんて思っていると銀髪少年は急にはっとなって、


「―――――! お前まさか、『転生者』か!?」


―――なんて言い出した。

もうわけわからん。

「てめぇまさか、はやてが目的か!?」

―――スマン、わかるように説明プリーズ。

「――関係者ってことは、被害者面してはやてに取り入る気だな!!」

―――被害者面っていうか被害者なんだが。

「いいかげんにしろっ!彼は艦長の権限で来ているんだぞ!いくら君でも、これは立派な公務執行妨害になるぞ!」

クロノが声を荒げる。

「………………チッ!」


ちょっ、舌打ちせんでください!本日二度目だよ!


「…………………………はやてに近づいたら――――ただじゃすまねえぞ。」

わかったか!…と捨て台詞をはいて銀髪くんは行ってしまった。



「…」

「…」


ずいぶんと重い空気になっちまった……。


「……本当にすまない。」

と、クロノが重い口調で俺に向かって頭を下げた。

「…いや、いいさ。気にしてないし。」



―――だから、小学生にマジビビリしたのはナイショにしててくれ。




     *****




「さっきの彼は『神崎彰吾(カンザキ ショウゴ)』。彼は………………“一応”今回の事件解決に貢献した協力者だ。」

“一応”の部分を強調してクロノは続けた。

「嘱託魔導士で、それなりの実力はあるんだが―――その、性格に問題があってな。異性に対してはともかく、同性同士だとあんな風な態度になってしまうんだ。」

うん、さっき嫌ってほど思い知らされたからね。


――――――――――それに、さっき銀髪くんが言ってた……… 『転生者』。なんか自分からしゃべってたけど。


あんなやつ『リリカルなのは』にいたっけ?って最初思ったけど、…俺以外にもいたんだなぁ、転生者。



…………………でも、仲良くなるのはムリぽ。



あっちは完全に俺のこと敵視してるし、下手したら二度目の生命の危機にあわにゃならん。アカン、それはアカン!



はぁ……同じ境遇だからいろいろ話せると思ったんだけど―――――――残念。


「――もしかして、あの銀髪くんに結構ふりまわされてたり?」

「まあ、………………………な。」

――――うわぁ…。

「………暇な時は愚痴ぐらいは聞くぞ?」

「――ああ。ありがとう。」


そんなわけで、クロノと俺はメル友になった。





     *****





随分と暗くなっちまったが、あのあと艦長室に無事到着し、リンディさんから保障やら賠償やらうんぬんかんぬん……ムツカシイ話はパスして、さっそく魔力測定!

いや~ぶちゃけ半分はこれが目的だったしね!もうドキのムネムネがとまらんよ!はっはっはっ。やべっテンションあがってきた!


とまあ、白衣の看護師さん(41歳 男性)に先導され、前に来た時とは違う医療施設のドアをくぐった。その間、俺はスキップしそうな歩調を何とか抑える。

俺は丸イスに座るよう言われ、看護師さんが(たぶん俺の)カルテに目を通し、

「それじゃあ、楽にしてください。」

なにか、バーコードリーダーのようなものを俺の胸に当てた。「ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…」と、規則正しい電子音が聞こえる。

―――もうやべえよ!こんなワクワクしたの前世のクリスマス以来だよ!早く終わんねえかなあ~♪



「ピーーッ!」



きたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!




















「フム…………………………………――――――――――――――――――― 『E』ですね。」
























………



…………………んう?




「『E』です。Eランク。」



「―――――――『良い』ランク???」



「いえ、『E』です。」



「……上から何番目?」



「…下からのほうが早いです。」



「……何番目?」



「………二番目です。」



「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………………………………………………。」





















―――――――――――――――低っ。














     *****




「………………ひでぇよサンタさん。」


鏡で確認できれば、おそらく俺の今の姿は、驚きの白さで燃え尽きてることだろう。

あのあと、心配そうな看護師さんをよそに、茫然自失でフラフラと医務室から出て、気づいたらどこかの休憩室のような場所にいた。

俺は、いつの間にか備え付けのベンチに腰かけていた。壁が一面ガラス張りで外の景色が見える。いや、景色ってほど良いもんじゃないな。たぶん次元空間の中にいるのだろう
、なんかいろんな色がうねうねうごいて………うぷっ、酔いそう。


「――――はぁ。」


憂鬱な空気を吐き出すかのように溜息がもれる。でもそれで気が晴れるわけでもなく、憂鬱はさらに俺の肺に溜まりつづける。

「――はぁぁ。」


また、溜息が出る。




はい。いろいろ期待しまくり調子に乗ってました。スンマセン。なんかもうはっずかしいよ、一時間前の俺…。なんであんなハシャいでたんだろ。


『魔力SSS!? しかもレアスキル持ち!? やべっ、俺無双じゃん!!』―――――――――――――なんて妄想を一瞬でもしてしまった………死にたい。


ドラ○もん。タイムマシンかして。過去の俺ぶん殴りに行くから。


勝手に期待しまくって自分で落とすって、それなんて一人フリーフォール?



「…はぁ。」




「―――ここにいたか。」


―――この声は……


「…おお、クロノじゃん。」

クロノは何も言わず、俺の隣に腰かけた。


「医務室から、君を探すよう連絡が来たときは正直驚いたが………相当こたえてるみたいだな。」

「…まあ、完全な自爆だがな。」

俺がちゃんと考えてなかったからな。

もしかしたら自分は特別なんじゃないか、なんて一度は誰しも考えるだろ。  でも『違う』。違うんだ。   魔力だって才能だって文字どうり千差万別だ。持ってるやつは
持っている、俺はなかった。ただそれだけだ。

自分のバカさ加減を改めて再認識されるなんてな。ははは…。


「――君に、話しておきたいことがある。」


「…へ?」

「本来は、話すべきではないんだが…。」


ちょっと!? まだなんかあんの!? カンベンしてください! 俺のライフはもうゼロをふりきってマイナスだよ!!

「…君のリンカーコアのことなんだ。」

「……ホントはFランクだったとか?」

「まじめな話だ。先日の身体検査でわかった―――」






「君のリンカーコアが抱えている―――――“障害”だ。」



――――障害?





クロノの話をまとめるとこうだ。

俺のリンカーコアは、過剰な魔力運用と消費によって破損し、それによってリンカーコアに後遺症が残ったそうだ。本来とりこめるハズの魔素のキャパシティが著しく下がり、
魔力運用にも支障をきたすほどに。

ただ、まだ子供のうちは回復力があるため、時間はかかるもののリンカーコアの自然治癒力により回復するはずなのだが、―――――――正直、心当たりはある。


闇の書の『蒐集』―――リンカーコアの自然治癒を上回るほどの蒐集行為によって、俺のリンカーコアは打撃的な欠陥を抱えてしまったのだ。


――――なるほど。たしかにおいそれと話していい内容ではないな。

ただ、それより

「なんでわざわざ俺に話すんだ?」

こんなこと『被害者』に話した日にはどうなるかわかってるはずだ。少なくとも俺より頭の回転が速いあんたなら。

俺がさっきの話で闇の書の主に恨みを持つ奴だったらどーすんだよ。


「今回のことは管理局―――いや、僕個人の責任でもあるんだ。」

「だから今回の首謀者は黙って見逃してくれ……か。」

「今は隠せても、いずれ君は知ることになるからな。――――僕なりのけじめだ。偽善かもしれないが。」


―――内容がヘビーすぎるわ!




…………はぁ。つくづく自分の馬鹿さ加減にはあきれる。


「―――まあ、もう無いモンはしゃあないさ。」

「…」



俺の落ち込みように(←自業自得)、隠しておくのが後ろめたく感じたんだろう。けど今回の『加害者』でもあるが、『被害者』でもある闇の書の主に、これ以上非難の目を向
けてほしくない――か。


「でも、お前が泥をかぶる必要はないじゃん。」

「!――君は……。」

「あと、」

クロノの言葉をさえぎる。


「俺はべつに闇の書の主――『八神はやて』を恨む気はないさ。」


その言葉に、クロノはどれほど驚いただろうか。

俺は、さらにつづけて……、


「それに、―――――――メンドクサイじゃん。誰かが悪かったわけでもなしに、責任の押し付け合いなんぞしてもキリがないし。俺、ややこしいの嫌いだし。」


「――――そうか。」

そんなクロノからは声も表情からも憂いが消えていた。いろいろ吹っ切れたようだ。


「つか、お前って随分と律儀だよな。会って一日しか経ってない俺に、こんな話するなんて。」

「こればかりはな、『直せない性格』ということでずいぶん前にあきらめてる。」

「――ッブフ!? はっははは!」

「……おい。」

「――ははははっ!いっいやスマンつい、…」

いっイカン、ツボ、ツボ入ったっ!






     *****




「―――そんじゃあさ、もし仮に蒐集されてなかったら、俺の魔力ってどんくらい?」

「……まあ、医務官の話では『D』までいくかいかないか「もうイイッス」…そっそうか。」


ビミョー…


もういいもんっ!多くは望まないって決めたんだもん!


と、隣に座っていたクロノが腰を上げた。

「そろそろ君も、帰らないとまずい時間だろ?」

そんなに時間たってたか?――腕時計を確認………おおう、深夜11時24分。晩飯ぶっちぎっちまった!

「どうする?なんならここで食事もとれるが。」

「いや、いいや。」

帰ってまず、冷蔵庫の中身を攻略せんといかんし。

「まあ、君がそう言うなら。あと、僕は一度艦長に報告に行かないといけなくてな。すまないが先に転送ポートのほうに行っててくれるか?」

「すまん、時間とらせちまったか。」

「いいさ。道はわかるか?」

「だいたいな。迷ったら誰かに聞くから。」

「わかった。じゃあ後で。」

そう言ってクロノは休憩室を出た。






俺は、まだ休憩室のベンチでぼ~っとしていた。



考えているのは―――――これからのこと。



ズバリ、『原作介入』するかどうか。―――なんて、もう決まってる。






「ムリ、ゼッタイ。」



もうこればかりはどうしょうもない。まあ、魔力強かったりしたら、手伝ってやろっかな~程度には考えてたけど、まず根本的に戦闘がダメだ。

えーと、三期……ストライクだかストライキだったか………いいや三期で。 確か三期ではほとんどが熱血バトルアクション展開だったっけ。 なんか命がけの真剣勝負とか…
…絶対、魔法少女じゃないし!

運動オンチにビビリでヘタレの俺が砲撃飛び交う戦場に放り出されてみろ、 二秒で死ねるわ! もう今後の人生において生命の危機なんぞあいたくない。つーか何度もあって
たまるか!

でも、弱いけど俺にも魔力があるんだ。管理局になんか入ったら絶対戦闘に駆り出される可能性が高い。いっそ魔力あるの隠して平局員に………ムリか。

「――いっそ魔力なかったほうが……いや、でも…」

当初の目的、魔法を使うことはあきらめるつもりはない。 たとえEランクでも使えるには使えるんだ。

でも正直、攻撃魔法にはそんなに興味ない。




目標はズバリ、『飛行魔法』だ!




人類の、ひいては俺の夢だし。自由に空を飛べるなんて考えるだけでもワクワクだ! まあ動機は不純だが、それだけでも管理局に入る価値はある。

あと防御魔法かな。―――うん、イタイの嫌です。自分の身が大事です。いのちだいじにです。 だって怖いものは怖いんだもん!!

あとは三期の事件にかかわらなければ万事OK。――――ぶっちゃけ内容うろ覚えだが。


まあ、あの銀髪くんは積極的にかかわってるみたいだけど。俺としては一向に構わんし、危険そうなことは彼に丸投げしよう。

うん、これは原作介入したい銀髪くんの考えを尊重した結果であって。べっべつにアイツ怖いからとかメンドイからとかじゃないんだからねっ!




「―――うしっ!」

とりあえず、大体の方針もきまった。 俺はベンチから腰を上げる。



―――――――――と







「―――ま…まって!」

後ろからどこかで聞いたことのある声が、俺を引き留めた。 思わず「ギクッ」なんて言いそうになった。


「―――」

いやいやまさかそんな~…なんて感じでゆっくりと声の聞こえた方に顔を向ける。


「あ……あのっ、あたし――」


さて、ここで問題です。次の式を解きなさい。



   ・  赤髪 + 三つ編み二つ + うさぎ + ちびっこ =



正解はCMのあと!!









現実逃避終了…


思考再起動中…


しばらくお待ちください…



―――――っは!!?


俺の意識が現実に戻ってきた。(その間0.8秒)そして俺の目の前には――


「―――その、あたしのこと……覚えてるか?………あの夜の――」

その台詞はいろいろ危険だからやめなさい。


ああ、覚えてるさ。俺がここにいるのも、元をたどれば君が発端だったんだよな―――――――――ヴィータさん。


と、どうやらヴィータ意外にも誰かいるようだ。ちょうどヴィータの後ろに、事の顛末を見守るように4人の男女がこちらを見ていた。


そのうちの一人、小学生ぐらいの茶色い髪の子――――「八神はやて」が車椅子に座り、こちらを見ている。  俺の知識が確かなら、その後ろにいるのはおそらく闇の……『夜
天の守護騎士』 通称、ヴォルケンリッター。


ピンクの髪をポニーテールにした女性。

肩にかかるくらいの金髪で、柔らかい物腰の女性。

銀髪に犬耳(おおかみ耳?)、たくましい体の男性。


はい、シグナムにシャマルにザフィーラですね。 本当にありがとうございました。




「―――――えと、はじめまして。私、八神はやて言います。 山田太郎さん…ですよね?」

守護騎士たちを代表するかのように、はやては語り始める。

「この子…ヴィータの家族です。 ヴィータが、あなたに謝りたい言うて。」

おおう。

「あっああ、あのあたし、あ、あんたに―――」

ヴィータがスカートの端をぎゅっと握り、俺と目を合わせられないのか、うつむいてる。 まるで叱られている子供のようだ。――――いや、子供か。…見た目。

そんなヴィータの様子に俺は―――――











「―――――はじめまして?」



「―――ぇ」

「…あれ?」

「…ん?」

「…あら?」

「…む?」


ヴォルケンズたち、キョトン顔。

ちなみに上からヴィータ、はやて、シグナム、シャマル、ザフィーラさんの反応。



「え~とたしか、俺を襲った人…でしたっけ? いや~どうも俺記憶とんじゃってるみたいでねぇ~、全然まったく覚えてないんだなコレが。は、はははっ!」

とまあ、なぜ俺がとっさに記憶喪失を理由に誤魔化したかといえば。


白状します、ピッチャー ビビってます!!


いやさ、いざ目の前にしてみると襲われた時のこと思い出しちゃって、どうやら完全にトラウマです。

ヴィータさんは悪くない。そう、悪くないんだよ! だけど、どうにも俺のヘタレ遺伝子が「僕はもうエ〇ァになんか乗らないっ!!」ってダダこねんだよ! 足震えそうなん
だよ!


おおおっおおおおち落ち着けけけけけけ。


逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだ――――――――ゴメンムリ。



「―――あの、ヴィータ…ちゃん?」

「――!?」

俺の声にヴィータはびくんっと小さく震えた。

「まあ、覚えてないのにこう言うのも変だけど、俺は別に気にしてないよ。現にこうしてなんともないわけだし。だからヴィータちゃんも気にしなくていいよ。」

「じゃ!」と、震えそうな声を何とか絞り出し、俺はスタコラとその場から脱出。

後ろから何か静止の声がかかるが。無視無視! 結構限界だもん。精神的に。



よし、一応伝えることは伝えたし、これで後腐れもないだろう。たぶん…




はあ……局入りするなら、地上本部にしようかな。ヴィータ達とかかわらんように。





     *****











彼―――山田太郎が消えていった廊下をぼんやりと見つめていた。



―――覚えてない。


彼はそう言っていた。

だが、



(―――嘘だ。)


彼の怯えようは、隠しているつもりでも丸わかりだった。 私にはわかる。



――――気にしなくていいよ。



それでも彼は私を気遣う言葉を掛けてくれた。  こんな、私に。


クロノは、私が彼に会うことを止めた。


『彼のリンカーコアのことは、知っているだろう? なら余計に会わせるわけにはいかないんだ。』


蒐集によって、障害を負ってしまった彼のリンカーコア。


私はそれを聞いて、愕然となった。 


もう元に戻らない。 なんて、信じたくなかった。 アースラの医務官や、シャマルに藁にもすがる思いで頼んだこともあった。


でも、何度聞いても答えは同じだった。


私のせいだ。 私が、あんなことしなければ………!


彼に、―――会わないと。


恨まれるかもしれない。 私は、それだけにことをしたんだ。


クロノの反対を押し切り、 私は彼のいる休憩室に走った。


―――でも


(―――――な、んで……なんでっ。)


罵倒のひとつも無かった。 謝罪のひとつも言えなかった。 なぜなのか、わからなかった。


いっそのこと憎んでほしかった、自分のことを―――――。


「……ヴィータ。」


「………」


はやての―――守りたかった主の声が聞こえる。


「―――今回はあれやったけど、また次会った時にちゃんと謝ろか?」


「…うん。」


はやての言葉に、私はうなずいた。


―――――ありがと。 はやて。


「それにしても、お前が血相変えて出ていくものだから、何事かと思ったぞ。」


シグナムが、ふっとわずかに笑った。


――――なんか、気に食わない。


「ふふっ。あんな必死なヴィータちゃん見たの久しぶりかも。」


「……うるせえ。」


「あらあら♪」


シャマル―――あとで覚えてろよ。


「ほんなら、いこか。 リンディさん待たせてしもうたからなあ。」


ああ、そういえばそうだった。


シャマルがはやての車椅子を押して。 シグナムがその隣で歩く。


「…」


ちら、と 私は廊下の向こうを一瞥した。


「どうした?」


「……なんでもない。」


ザフィーラの声に、私はあわてて歩きだす。


思考の海で、未だ鮮明にうつる、彼の姿。


(―――あたしは…謝りたいのか? 謝るだけなのか?)


私は、彼の大切なものを奪ったのに。


(あたしは、彼に―――太郎に何をしたい? 何ができる?)


彼の力になりたい。 でもどうすればいいのかわからない。


(あたしは……―――――。)





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


みなさん、おひさしぶりです。 作者です。

今回はごちゃまぜ感が半端無いです。 

で、今気づいたのですが、 もう三話目なのにリリカルな主人公が全然登場してない!

―――次出せたらいいなぁ……。

それから、この小説を読んでくださってる読者の皆様に感謝。

皆様の辛口コメントには頭が下がる思いです……。

太郎「そういや、前の話ってなんで微妙に短いヤツばっかなんだ?」

ああ、それは―――リアルタイムで直接書き込んでました。テヘッ☆

太郎「…」

そっそんな目でみないでよおおぉぉぉぉ!! 初心者なんだもん! 仕方ないじゃん!

――――前の話も近いうちに修正しようと思ってます。……できたらいいなぁ。




【次回】


太郎「こちら古代遺物管理部遺失物保管室管財課。」


両おおぉぉぉ〇うぅぅぅぅっ!!!(←ぶっ部長!?)



【修正しました。】

side表示とか色々。



[33468] 【4】太郎「こちら古代遺物管理部遺失物保管室管財課」
Name: はじっこ◆e894d58f ID:bc9a2cd9
Date: 2012/07/08 15:41
よぉ、ひさしぶしだな! いろいろあって管理局に就職した山田太郎だ。




――――――――え? 飛びすぎだって? うるせいやい!











もうすぐ夕刻を知らせるかのように、オレンジに染まり始めた日の光が窓を通り、部屋の半分を照らしている。 俺はそんな中、半透明のモニターとにらめっこなんてしてるが、全然楽しくない。 いや、仕事だし当然か。

「――…ふぁあああぁっ……!」


思わずデカイあくびをぶちかます。 何気に細かい上に単調な作業が多いから集中力が切れること切れること……。

両手でほっぺたをぱしぱし叩き、ムリヤリ意識を戻す。

「――うしっ! さっさと終わらすか!」


これが終われば定時で帰れるし。





     ・
     ・
     ・
     ・
     ・
     ・
     ・
     ・







別に、管理局のことが嫌いなわけではないんだが、面接官も試験管もそろいもそろって俺を武装隊にぶち込む気満々なんだよ。

理由は言わずもがな、俺が魔力保持者だからだ。

でもな、たとえランクEだろうがFだろうが、みんながみんな戦えると思ったら大間違いなんだよ!

なんだよ、この「え?前のクラスも委員長やってたの?じゃあ今回も委員長おねがいね?」みたいなノリは!

俺は委員長になんかなりたくない! 図書委員がいいんだ!


あ、まちがえた。

とにかく俺は、山のような管理局の資料から安全そうな部署を地道に探すほかなかった。 もうこれでだめなら、管理局入りはあきらめる…。





……―――正直あきらめたくないです!!


まだ魔法もたいして使ってないのに。 ましてや飛行魔法すらまだやってないんだぞ!!

あと、士官学校入るための勉強とかも正直きつかった……。 でもあの時はクロノがわざわざ時間空けて勉強を見てくれた。 ホント助かった、ありがとうクロノ。


でもなクロノ、俺が配属部署に悩んでるからって、「なら、僕の知り合いに「遠慮します」――……そ、そうか。」って俺を航行部隊に引きこまんでくれ。 俺の身に余るし、俺が求めているのは安全だ。


とまあ、勉強の合間に資料と格闘し、クロノに勉強を手伝ってもらいながらも、無事に士官学校に入れたけど―――








======================



        ◆所属部署志望◆




・第一志望

   あんぜんなとこ

・第二志望

   たたかいたくないでござる

・第三志望

   (笑)


   ・志望動機

   ああああああああああああ
   ああああああああああああ。



======================





「―――――…真面目に書こ。」

士官学校にも慣れ始め、ちょうど半年くらい経った頃、俺は目の前のコピー用紙の形をした『AKUMA』と対峙していた。 

要提出、だそうだ……。


ここは士官学校の男子寮。 備え付けのデスクに向かい、脳細胞をフル稼働させながら、何とかごまかせんかな~と、ない知恵を絞っていた。


時刻は夜7時。 完全消灯は8時半なのでまだ一時間以上ある。 けれど、そんなものは俺の焦りを鎮める効果はない。


いや、このアンケート用紙のことではない。 明日の――――


「地獄めぐり―――じゃなかった、 説明会、なんとかならんかなぁ。」

明日は、管理局をあげての就職説明会があるのだ。 説明会、と聞いてあなどることなかれ。

なにせ、明日の正念場で俺の命運が決まるのだから。

この説明会の後、半年後の研修学習で、どの部署で研修を受けたいかを決めなければならない。

研修期間は一年。 でも午後だけ。 士官学校と両立とは……なかなかハードだ。

一応、建前としては「こんな部署あります。無料体験~。」って感じなんだが……


ところがどっこい、じつはこの研修で所属部署が決まってしまうのだ!


――――え? なんで?


いやね、研修した部署以外に入ったって話あんまり聞かないからさ、いろいろ調べたら、 なんと研修期間中もその部署があの手この手で勧誘してくるらしい。 入隊条件を変えたりなんてのはザラで、あるトコは美人のねーちゃんで釣ったり、サラダ油贈ったり、 賄賂―――は調べた限りはなかったが正直、ないとは言い切れないかもしれない。

まあ、それは俺が勝手に調べた内容で、実際はそこで仕事の基礎叩き込まれたりしてるから、研修生たちも慣れ始めた仕事変えたくない――ってのが本音だ。


俺もさすがにそれはメンドクサイ。


「もう贅沢言ってられんな。」


最悪、いくつか条件出して出動回数減らしてもらうしかないな。 おっしゃあ!警備隊だろうがイタリアンだろうがかかってきやがれ!!


もちろん、武装隊以外で!




     *****




―――決戦の日。











武装隊の勧誘率(エンカウント)パネェ!?




「はあ゛~……」

ここは士官学校の総合室内訓練フロア。 広さはだいたい東京ドームくらいか。

いつもは士官生徒と教官が、羊と牧羊犬さながらの集団訓練という名の『ひとり集団リンチ(“ひとり”が“集団”をリンチ)』が行われている。

が、今は訓練道具の類は片付けられ、今は長机が並べられており、管理局の各部署の局員たちが、フロアごとに分かれ説明が行われている。

俺はそんな会場の隅っこにある自動販売機に寄りかかり、一息ついた。


計8回。


武装隊局員に引き込まれそうになった。

5、6歩進むごとに声かけられるってどーなってんだよ!

「どこで知ったんだよ魔力持ちだってこと…」

事あるごとに「君、魔力保持者だね。」「うちの部隊に気なよ!もったいないよ!」って声をかけるアナタタチはそれをどこで知ったんですか? 俺のプライバシーは?


「―――にしても、すごいな本局。」


特に次元航行部隊の人気は異常だ。フロアの上の空間に半透明のモニターが浮いている。 プロモーション映像のように空戦試合の記録映像が流されている。 すげぇ、長蛇の列だ。

「なんつー予算の無駄使い。」

その分、陸の局員たちは必死だ。 下手したらせっかくの人員を根こそぎ取られるんだからな。 ――…ヤバいあれは、狩る者の眼だ……。

「……――ん? あれは」

本局フロアのモニターの映像にどっかで見た顔が――……

「ああ、銀髪くんだ。」

えーと…名前忘れた。

試合の記録映像の中では、銀髪くんの踊るように空を飛ぶ姿が映し出されている。 ―――いいなぁ。 俺もあんな風に空飛びたい。  あ、カメラ目線でウインクした。

おおお、 なんかモニターの近くには局員から士官生と女子たちがモニターの銀髪くんに夢中だ。

キャーとか、ステキーとか、うっとりしながら見てるし。 まあ、確かにイケメンだが、俺はあまりいい印象がない。   断じて嫉妬ではない。断じて。


「―――――おぉ、タローじゃん!」


――と、ボーっとしてると女性特有の高めの声が俺を呼んだ。

「お?―――おお、『ソゥちゃん』か。」

声のするほうに顔を向けると、そこには深緑色の髪を短く切りそろえたクセッ毛の女の子が士官学校指定の制服に身を包んだ姿があった。

女の子―――ソゥちゃんは軽い感じでヒラヒラ手をふり、

「やほっ、ひさしぶり~…ってほどでもないかぁ。」

ほわん、とした声色が耳をくすぐる。

「なんでこんなとこに?タローってもしかして航空部隊きぼう?」

「ぬかせ、そんなん世界が崩壊したってありえん。」

「あははっ、だよね~。」

彼女の少しタレ気味の眼が笑みの形に細まる。

――と、ふいに彼女の視線がモニターのほうに向いた。 モニターの近くには未だ女性局員たちがワラワラいる。

「すごい人気だね~。」

「おうおう、ソゥちゃんはメンクイだなぁ。」

「ちがうよぉ~。私、ああいう“ナヨナヨ”したのニガテだもん。」

「ふ~ん、そんなもんか?」

わからん。





あ、この女の子は俺と同じ士官学校で同期のソゥちゃんだ。 ちなみに俺とタメ。

普段は、士官学校では女子と合同になることはないが、受ける講義によっては男女合同となることがある。そのときに一緒になったのだ。

でも、特にこれといった出会い方をしたわけではない。 単に座った席が隣同士だっただけだ。

ただ、自己紹介の場面で――――


「ソゥちゃんです。 すきなものは『筋肉』ですっ!」


なんてブチかましやがった。 教官も士官生も、みんながみんな口半開きでア然。―――コイツとんでもねぇ爆弾投下しよってからに!?     だが、それで黙っている俺ではない。

喰らえ! 俺のレジェンド!!


「タロウ・ヤマダです。好きな食べ物はハッピーターンの粉です。」


HAHAHAHAッ! さあ、どう来る!!


「あ~、あれおいしいよね~。」

「え?わかる?」

「うん!わかるわかる。」



――――――――ってな感じで意気投合したのだ。

それ以来、講義でよく一緒になったとき、いろいろ話している。

あ、ちなみに彼女は恋愛感情はないそうだ。 彼女いわく―――


「レジアス中将みたいなたくましい腕にだかれたい!」


―――だそうで……


それはさておき。




「そういや、ソゥちゃんは結局地上の警備隊志望?」

「ん~、まだかんがえ中~」

ソゥちゃんはそう言い、自動販売機の前でうんうん唸っている。

「でも本局はむりかな~。あんまりおうちかえれないし、船酔いしそうだし。」

「軽い軽い、理由が軽すぎるわ。」

むんっ、と彼女は自動販売機のボタンの一つを勢い良く押した。 ―――ガコンッ!と、取り出し口にお目当てのジュースが転がり落ちる。

取り出し口に手をつっこみ、ジュースを取る彼女。

「私、あんまりあたまよくないから、陸士隊もいいかな~っておもって。」

プルタブを開け、グビグビとジュースを一気飲み。

「おいおい、マジか?」

「―――っぷひぃ~! うんまぁ。なんか『君の頭でも上を目指せる!!』っていってたから。」

「遠まわしどころかストレートに馬鹿にされとるぞ!?」

「え? そーなん?――そぉいっ!」

そう言い、ソゥちゃんは離れた所のくずかごにすでにジュースのない空き缶をフルスイング。 お、ナイスシュー。

「お前、武装隊は『メンドそうだからムリ』とか言ってたじゃん。」

「ん~、でも…」

「でも?」


「説明してくれた局員さん―――ムキムキだった!」


――ゴンッ!!  あまりの衝撃に自動販売機に頭突きしてしまった。



――――なんじゃそら!?



「いや~あれはみごとな胸鎖乳突筋だったぜいッ!」

プヒ~! と鼻息荒く、ソゥちゃんはいい笑顔で「ビシッ!」っとみごとなサムズアップを披露。

「……真面目に考えろや。」

「なにおうッ! 私のめに狂いはないよ~! 私のみたてでは大腿筋も―――」

「そっちじゃねぇッ!!」




     *****




「ハァ……――」


自動販売機の近くにある椅子に座ったまま、息を吐く。




休憩してたのに何でこんな疲れてんだろ…


あのあと、ソゥちゃんは本局フロアへ「ひやかしにいってくる~」と言ってわかれた。 俺の「ひやかすなよ……」というツッコミを置き去りにして。


(普段はタンポポみたいにふわふわしてるのに、なんだよあのテンションは。)


ほんとにいつもはカピバラ並に気性は穏やかなんだが、たまにあんな風に暴走するからなあ。 そして、なぜかいつも俺が彼女の暴走を止める、 という構図が出来上がっていた。 なんかあるたび「タロー!タローはどこだー!」「きょっ教官に取りついたぞ!早くひきはがせ!」「ぶぅぅわあっかもおぉぉぉぉぉぉん!!」「ぶ、部ちょ…じゃなくて、教官がブチギレたぁぁ!?」―――――って、俺を巻き込まないでほしい。   あれ? なんか混じってる??


「あいつ、戦闘訓練は太鼓判押されてるのに、なにがどうしてああなったんだ。」

あの教官ともサシで結構いいとこまでいってたし、今んとこ俺の知り合いで最強TOP3に入ってるし。(一位・教官 二位・クロノ 三位・ソゥちゃん   ※銀髪くんは除外)


「――ん?」

と、考えに耽っていると足もとにカラカラと空き缶が当たった。

誰か置いたままにしたんかな?

「――っしょ、と。」

空き缶を拾い上げ、その勢いで立ち上がる。

「………」

遥か彼方(数メートルちょい)にあるくずかごに標準をあわせて―――



「ぬぼんば!!!」



自分でもよくわからんかけ声とともに全力投球。 気分はメジャーリーガー。



――――カコンッ!!


「ありゃ?」

が、狙いを外しくずかごに当たり、空き缶が弧を描くように――


「……………………あ」


その落下地点には、局員の制服を着た男性が――――

「あっ!!?危な――…………」

あわや、頭にぶつか――――




―――ッパシ!




「―――――え?」

――――らなかった。



その人は、後ろ向きのまま右手で空き缶をつかんでいた、俺から見て左肩の上から手をのばして。

まるで、後頭部に目でもついてんじゃないかってくらい、自然に。


「あら?」

と、その男性が頭に疑問符を浮かべ、こちらに振り向いた。


「―――――――あ!」

そうだ!謝んないと!


「あ、あのすいませんその空き缶…」

「ああコレ? あなたが?」

「ごっごめんなさい! その、くずかごに入れようと……」

「――ああ、なるほどね。 べつにいいわよ。私は怪我してないから。 でも、次は横着しないでちゃんと入れなさいね。」

「はい、すみません。」



なんだろう、すげーいい人だ。 なんつーかこう、人間ができてるって感じ。 大人な女せ……じゃなかった、男性だ。  オネェ言葉が自然すぎる。


「あら?あなた士官学校の子?」

「え、ええまあ。」


この人、近くにいるとけっこう身長あるなあ。180くらいあるんじゃないか?

褐色の肌に紫がかった髪が目立つ。 肩にかかるくらいの髪を後頭部で結ってポニーテールにしている。 かっこいい、というより綺麗と感じる印象だ。 体格も細目だから女性と間違えそうだ。

「へぇ、そうなの。 もしかしてもう行くとこ決めてる?」

「幸か不幸か、まだなんす。」

「あらそう。 ねぇ、よかったら私のとこの部署の説明受けてみない?」




     *****




本局フロアの隅っこの………さらに端っこにそれはあった。

「えーと、ココっすか?」

「ええ。 周りとくらべるとあまり、ね。」

「…はは。」

い、いやその、一瞬入口の受付かと思った。 なんか学校の机を二つ並べたくらいのスペースに、椅子と立て看板があり、看板には『古代遺…管…部遺失物保管……財課』―――ってなんか所々文字消えてるし!


「ごめんなさいね、散らかってて。」

「い、いえ…」

なんかこっちが申し訳なくなってくるよ…。 ゴメンナサイ。ちょっと小汚いって思ってしまいました。


「さ、座って座って。今お茶入れるから。」

「そっそんな、お気遣いなく。」

「いいのよ。好きでやってるし。少し待っててね。」

――と、裏のほうに入って行ってしまった。 俺は言われたとおり、おとなしく座るしかなかった。


待ってる時間ヒマなので、俺は今日もらった案内パンフレットを見てみる。 これはこの会場の地図のようなもので、これで目的のフロアに説明に行くのだ。 俺は全然決めてなかったので、今初めて開いた。

(――…えーと、ここが次元航行部隊のフロアで……たしか古代遺物管理部のとなり………)


あ、あった。


(―――小っさッ!!?)


あったけどさ、こんなんわかるか! よく見ないとただの黒点に見えるわ! ちっこい四角の中に、さらに小さい字で書かれてるが―――肉眼で見えるわけねえだろ!  目が悪くなるわ!


「はい、どうぞ。」

なんて、もんもんと唸っていると俺の前に温かいお茶の入ったマグカップが置かれた。

「あ、どうも。」

そう言い、俺はお茶を一口。――――ずずず~。

「お、美味い。」

「あら。気に入ってくれた?」

なんかウーロン茶を香ばしくした感じでなかなかいける。

「はい。ありがとうございます。―――――ええと…」

「ああ、ごめんなさい。 そういえば自己紹介もまだしてなかったわね。」

そう言い、向かいの椅子に座る。


「『アラニア・アマティスタ』。 陸曹だけど、今は堅苦しいのは無しでね。」

「わかりました。 タロウ・ヤマダです。よろしくお願いします。」

そう言い、俺はお茶をもう一口。 うん、美味い。



「えーと、それでここって…本局の部署なんですか?」

「ええ、そうなるわ。 『古代遺物管理部遺失物保管室管財課』一応本局の部署になるけど、地上本部に拠点をかまえているの。」


――――――地上本部に?

「地上に、ですか?」

「ええ」

なんでだ? たしか古代遺物管理部ってエリート中のエリートが集うトコじゃないのか?

「ウチは例外中の例外みたいでね。 まあ、見てのとおり。」

そう言い、おとなりの部署フロアに目が行く。 バスケコート並みの広さに長椅子がいくつも並べられ、それぞれ局員たちが対応している。 空いたスペースにはさっきの空中モニターの小さいバージョンが置かれ、映像や文章などの様々な情報が映し出されている。 ホントに同じ本局か?


「本局にとっては煙たがられてるみたいでね、人気がないの。」

「人気がない?」

これまた妙な話だ。

「本局だからって面倒な仕事はなくならないってことよ。」

「――なるほど。」

つまり、そのしちめんどくさいことを、全部この部署に丸投げしたってことか。 いや、もしかしたらそのために作られたのかもしれんな。―――いやはや。



「なんか、大変そうっすね。」

「あら、仕事っていうのは大概大変なものよ。」

「あ………そ、そりゃそうか。」


「ふふっ」とアラニアさんは気分を害した様子もなく、小さく笑う。

う、うああ。なんかスゴイ恥だ……俺、傍から見たら仕事ナメきってるチャラ男じゃん!!


「おかわりいる?」

「え?」

思わず頭を抱えそうになっていると、アラニアさんがお茶のお代わりをすすめてくれた。 ………手元のマグカップをのぞくと、見事に空っぽだった。

「………いただきます。」

もうこの人には頭が上がらないかもしれん。 でも、まずは緊張で渇いた喉を潤すのが先だ。




     *****



二杯目のお茶をいただきつつ、さっき俺が疑問に感じたことを聞いてみることにした。

「でもなんでわざわざ地上に?」


アラニアさんは「そうね…」と、言葉を選びながら答えてくれた。

「まあ、簡単にいえばウチの部署は資料管理みたいなものなの。 結構場所を取るから本局では無理みたいなの。」

「そんなにあるんすか?」

「まあ、広さだけなら航空部隊の訓練場が埋まるわね。」

「嘘ォ!?」


あそこ一度見たことあるけど、結構な広さだったぞ!?


「まあ、ウチにいても警備出動がないから、上を目指す子達には不人気なのよね。 特に魔力持ってる子は武装隊に引き抜かれるから。」

「ああ~、それはわかります。さっきも武装隊の局員に―――………」







―――――――……あれ?   チョイまち。



「―――? どうかしたの?」

俺は石像のように固まっていた。 とりあえず手に持ったマグカップをゆっくり置き、深呼吸。 言葉を間違えないように慎重に口を開く。


「あっあの、さっき、なんて言って……?」

やべえ、声震えてる。

「え? ええと、魔力持ってる子…」

「その前。最初のほうです。」



「ん??? 『ウチにいても警備出動がない』 ってトコ?」



















「…」


「―――あれ?どうかしたの?」

心配そうな表情で、アラニアさんはこちらを見ている。

俺は無言でゆっくり立ち上がり、アラニアさんのほうを向く。

アラニアさんはまだ困惑している。

「え? え?」

「…」

そして俺は―――――――





「これからお世話になりますッ!!!」

ビシィィッ!! と、45度の見事なお辞儀をした。






     ・
     ・
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     ・
     ・
     ・
     ・




「……―――――くぅうあああぁ~ッ。おわったぁ~。」


俺は大きく伸びをして、ガチガチの背筋を伸ばした。

「―――おおう。真っ暗やん。」

窓に目が行くと、もう日が沈んでいた。 あれ?室内の電気はついてるけど。 誰かつけてくれたのか?

「タロくん、おつかれさま。」


――と、俺の前にこうばしい香りが漂うマグカップが置かれる。


「――あ、『スーさん』。お疲れです。 あと、いただきます。」

そう言いアラニアさん――――『スーさん』の入れてくれたお茶をもらう。

「仕事熱心なのはいいけど、ちゃんと明かりつけないとだめよ。誰も居ないと勘違いして鍵閉められることがあるから。」

「あはは、すいません。気をつけます」

ずず~…、うん、スーさんの入れるお茶は相変わらず美味いなぁ。

「あ、あとココ間違ってるわよ。二度打ちしてる。」

「………スンマセン。」





     *****



俺とスーさんが最後みたいなので、戸締りチェックして廊下に出る。 窓の外を見てみると、まだわずかに夕日が出ており、黄昏色の空にわずかな光源が浮かぶ光景は、なかなか幻想的だ。 写メっとこ。


「もう遅いけど、タロくんはこのあと『訓練場』に?」

と、スーさんは戸締りを終えたようだ。この後、鍵とかをロビーの人に預けるみたいだ。

「いえ、もうさすがに遅いんで、このまま帰るつもりです。」

「そのほうがいいわ。最近は治安が良いなんて言うけど、絶対に安全ってわけじゃないから。 気をつけてね?」

さすがに心配かけるわけにはいかんな。今日は寄り道せずに帰ろう。

「はい。 じゃあ、お疲れ様です!」

「ええ、また明日ね。」

スーさんにそう言い、今日の仕事を終えた俺は足早に男子寮へ向かう。




さて、明日も頑張るべ!





     *****








もうすぐ日が完全に沈む。 黄昏。 昼でも夜でもない、曖昧な空。

夜の闇は、その二階建て一軒家を覆うように、夜の訪れを知らせる。先ほどまで太陽の光を浴びていた庭の青草も、夜の色に染まる。 

庭に続く扉は開け放たれ、そこに小さな影が座っている。 部屋の電気は点いていないので、その姿ははっきり見えない。

「ここにいたか。」

凜。――とした声が反響する。 声とともに部屋に明かりが灯る。 声の主――ピンク色の長い髪をポニーテイルに結わえ、女性らしい起伏に富んだラインをした体つきをした彼女。

「――シグナムか。」

小さな影――――ヴィータは、けだるそうにつぶやく。

「もうすぐ主も帰る。電気ぐらいは点けたらどうだ。」

シグナム、と呼ばれた女性はヴィータに言う。

「ああ…。」

だが、どこか上の空でヴィータは答える。

「どうした?『鉄槌の騎士』ともあろうお前が、何を呆けている。」

少し棘を混ぜた言い方になってしまったが、それは彼女もヴィータのことが気がかりだからだ。

「…………なあ、シグナム。」


「…ん?」





「あたしって、なにができるかな……」






「ふむ………………………………お前の真価は近接戦闘による一撃必殺と強固な鉄壁の防御だからな。だが中距離もこなせるオールラウンダ―の要素から見ても遠距離からあぶりだす戦法も悪くない。高町との模擬戦の時も防御に徹した高町を追い込む術としていいかもしれん。アイツは一度足が止まると、なかなか動き出せんからな。ふむ、そうなると次のテスタロッサとの模擬戦も見直さんといかんかもしれん。最近は高機動に飽き足らず射撃魔法の腕も上げたようだからな、こちらもうかうかしてられんな。が、お前のような力押しは私には向かないみたいだからな、しかし、だからといってスタミナ切れで追い込めるほどテスタロッサの奴も甘くないからな。こちらとしても嬉しい限りだが。そういえば高町の奴も最近は、なかなか手ごわくなったな。射撃精度も針に糸を通すような鮮やかなものになりつつある。この間の模擬戦で私の頬をかすめた時は、さすがに肝が冷えた。まあ、結局私が勝ちを取ったがな。あそこで防御を選んだのは失敗だったな。――――」


「…」

「―――ん?」

「―――…ハァ。」

ヴィータの口から鉛のように重いため息がもれる。

「どうした?ため息などついて。主の話では幸せはため息をつくたびに減っていくそうだが。」

「お前のせいだよッ!!!」

両手をブンブン振り上げ、『私、怒ってます!』を全身で表すヴィータ。




「コイツに聞いたあたしが馬鹿だった……」

ゼーゼーと息を切らす中、シグナムはポロッと一言

「そうなるとその馬鹿は私も入るのか?」

「自覚ないんかい!!」

ヴィータのツッコミを涼しい顔で流すシグナムは先ほどの雰囲気から一変、『烈火の将』の顔つきになった。 シグナムは静かに口を開く。

「まあ、冗談は終わりだ。」

「…」

「あの『ヤマダ』という男のことだろう?」

シグナムも事情はだいたい知っていた。 彼女が蒐集で、彼にけっして癒えない傷を負わせたこと。彼女はそれに苦悩し、罪悪で潰れそうなことも。 主も、他の騎士たちも彼女を気にかけていた。  (特に、シャマルの奴なんか目に見えて落ち着きのないこと……――だが、それを料理に失敗した理由にしないでほしいがな。)



「こればかりは、私がとやかく口出しして解決できるほど、軽い問題ではないだろう。私から言えるのは『お前のできることをやれ』くらいだ。」

が、『烈火の将』からの助言は、どこか突き放したような言葉だった。

「投げやり。」

と、呟くようにヴィータはぼやく。

「世情に疎い私だけに聞いても答えは出んぞ。私だけでなく、高町やテスタロッサ、それに主にも協力を仰いだほうがいい。一人でも多いほうがいいだろう?」

「――ん、わかった。」

少しだけ納得したような返事をする。




「―――ただいまぁ~。」

しばらくして、玄関から聞きなれた主の声が聞こえた。

「ほら、行ってこい。」

「ん、ああ。―――――あんがとな。」


そう言い、ヴィータは玄関のほうに駆けていく。


その後ろ姿をシグナムは静かに見つめる。


(――――…私から口出しするつもりはない。が、それが『鉄槌の騎士』としてのお前の出す答えなのか、 それとも―――――………)


静かに、シグナムはただ静かに見つめ続ける。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


お久しぶりです。 ハッピーターンを伏せ字で出すべきか悩んだ、作者です。

今回は二人もオリキャラが出てしまいました。 本当はチョイ役のつもりだったのに、いつの間にか濃いキャラになってしまった……キャラ作りって難しい。


そして、何気に今回も登場せず、リリカル主人公。――――ゴメン、ゴメンヨ。


感想を書いてくれた読者の皆様には心より感謝。 (結局、side標示なくしました。  自分でも書きづらかったことに気づく。←オイ)




次は太郎の日常みたいのを出します。なにとぞよろしくお願いします!




まだ修正できずスイマセン……


【次回】


太郎「こちら古代遺物管理部遺失物保管室管財課」その2


ついに主人公、魔法を使う!?




[33468] 【5】太郎「こちら古代遺物管理部遺失物保管室管財課」その2
Name: はじっこ◆e894d58f ID:e5126935
Date: 2012/07/15 10:53





「タロくん。これ終わったら倉庫の整理おねがいできる?」

今日も仲良くモニターの数字と戯れているとスーさんが俺に声をかけた。 時刻は2時24分。 こちらも丁度よく終えられそうだ。

「あ、はい。いいですよ。 前と同じ『C-2』の倉庫ですか?」

「ええ、作業も昨日の続き。私もいるから、まだわからないことがあったら教えるし」

「はい」

と、スーさんの人差し指が俺の操作するモニターの端あたりを指し――

「あ、あとココ。桁が違うわよ」


「……スンマセン」

「ふふっ」


スーさんはいつものように小さく笑う。 毎度毎度、申し訳ないです。


「でも、前と比べるとミスも減ったし、仕事覚えるの速いし、若い子が入ってくれて助かってるわ」


「いやぁ、まだまだですよ。慣れない仕事もまだ多いし、たまにミスしちゃうし」

実際、スーさんには世話になってばかりだ。 すると、スーさんは


「あら、いいじゃない。人間は失敗から学ぶって言うし。生まれた時から何でもソツなくこなすなんて無理よ」

なんて言ってくれた。 もうホント、この人には足を向けて寝られんな。


「そうそう。 なんでもかんでも人生うまくいくとはかぎらないんだし(ポリポリ)」




――――――――オイッ


「サラッと会話に混ざるな。それから俺のハッピーターン勝手に食うな!」

せっかくスーさんのありがたい言葉の最中に、なに人の引き出しあさってんだよ! この緑カピバラ女は! どこから湧いて出やがった!


「だいじょぶだいじょぶ。 今たべてるの、のこった粉だから(ザラザラ~)」


「全然大丈夫じゃねぇ!? 結局全部食った上に最後の楽しみまで奪いやがった!?」


「おのこししません! ソゥちゃんはいいこです!!」


「人のモン奪うやつは良い子とは言わんわぁぁぁ!!」





どうも、今日もソゥちゃんにおやつを食われた 山田太郎です。―――――――ちくせう。







     *****





ここは、『古代遺物管理部遺失物保管室管財課』―――長いので、みんな『保管課』と呼んでる―――そこの隣部屋に設けられた、仕切りとソファーとテーブルがあるだけの小さな休憩室。そこにいつもの三人組がテーブルを囲んでいた。




あのあと、ソゥちゃんの脳天に鉄拳制裁をプレゼントしてやり、ハッピーターン達の仇を取った。 そのあと仕事の区切りがついたので、ただいま休憩中。 スーさんとソゥちゃんと俺で、三人仲良くスーさんの淹れたお茶をいただく。

ソゥちゃんは、さっきのゲンコツのダメージが残っているのか、深緑色の髪におおわれた頭部をさすっている。

「うう~…ひどいよタロー。なぐることないじゃん~」

少し涙目で、不満を漏らす。

「全面的にお前が悪い。 お前は、毎度毎度こんなとこに来て大丈夫なのか? 警備隊は?」

ソゥちゃんは、ダメージから回復したのか、お茶をおいしそうに飲みつつ

「ん~? あそこってはんぶん以上くんれんだからさ、さっさとおわらせてきたのでソゥちゃんはヒマなのだ」

オイオイ……あそこの訓練って…


「へえ、あそこの訓練って入ったばかりの新人には結構ハードなのに。 あなた、中々タフねぇ」

スーさん。 あの訓練はタフなだけじゃどうにもなんないっすよ。 少しのぞいてみたけど。


「でへへ♪」

「照れんな。 お前は脳筋以前に、筋肉のことしか頭にないだろ」

「いやいや~褒めるなよ~♪」

「褒めとらんわ!」




――――なぜ、ソゥちゃんがこんな軽い感じでウチの課に遊びに来ているのかといえば、 まあ、簡単にいえば『お隣さん』だからだ。


結局、ソゥちゃんは陸上警備隊の研修を受けることにしたのだ。そしてどういう因縁なのか、俺の『保管課』とソゥちゃんのいる『陸上警備隊』が隣同士だったのだ。

スーさんの話ではこの保管課の施設は、元々昔は警備隊の使っていたものだったとか。 で、ここより広い訓練場を作るにあたって、その訓練場近くに新しい警備隊施設を作ったんだと。 したがって旧警備隊施設も、すぐに取り壊す予定だったのだが、まだ建てられて数年しか使ってないからもったいないとかで、本局がここに保管課をねじ込んだわけだ。―――どんだけ人気ないんだろココ。


で、ソゥちゃんは近いことをいいことに、ちょくちょく遊びに…というか主に俺にちょっかいを出しに来るのだ。 そしてそのあとスーさんと三人でお茶会、というのが日課となりつつある。 ソゥちゃんもスーさんのお茶をいたく気に入ったようだ。




「ね~タロー。お茶うけない~?」

「全部お前の胃袋の中だよ!!」

二袋もあったのに、何で全部食うかなぁ…!

「まあまあ、確か昨日の残りがあるはずだから、それ開けましょ」

「わ~い! スーさんだいすき~!」

「スーさん。 あんまりコイツを甘やかさないほうがいいですよ」

「あら、私はこういう明るくて元気な子は嫌いじゃないわよ。 なんだかこっちまで楽しくなってくるじゃない?」

相変わらずスゴイ寛容さだよスーさん。 俺だったらマッハでブチギレなのに。

―――すると、ソゥちゃんのいつもの「ほわん」とした雰囲気のタレ目が「きりっ」っと変わり……いや、いつものタレ目のままだが。



「スーさん……―――けっこんしてください!!」



「ぶっ!!??」

「ふふ、ありがと。 でも、その気持ちだけ受け取っておくわ」

「が~ん!?」

その場に崩れ落ちるソゥちゃん。



――――ソゥちゃん、絶好調だなあ。 5秒で振られたけど。



そういえば、なぜソゥちゃんがこんなにもスーさんに懐いているかといえば、「あの細身のからだには、みごとな腹筋がかくされている!!」――だとさ。 ソゥちゃんいわく、細マッチョ。



あ、復活した。


「――っは!? まさか……もうタローとできてるの!?」


「シバき倒すぞ!!」

「あら、私とタロくんは男同志よ?」

スーさんからの正論アタック。 するとソゥちゃん、ひとさし指を横に「ち・ち・ち」と振りながら


「いやいや~。 たとえ男どうし女どうしでも……――――めばえるものはめばえるのさっ!」


俺はお前のおかげで殺意が芽生えそうだよ………!


「あのなあ……芽生えるとしたら、尊敬とか親しみだろ。 てか、もうスーさんのことはすごい尊敬してるけど」

俺の言葉に「あら」と、スーさんは少し驚いた声を漏らす。


「ふふ、ありがと。 でも、私はそんな大したことしてないわよ?」

「いや、スーさんには色々世話になってばかりですから。 まだ未熟ですが、これからもよろしくお願いします」

「ええ。こちらこそ」


と、服をクイクイっと引っ張られる感覚が、

「ね~ね~わたしは? わたしは?」

ソゥちゃんが、自分の顔を指差してニコニコと俺の回答を待っている。



「ただのアホ」


「し、しどい~」




――――――われらが保管課は、今日も平和です。











俺のいる保管課という部署は、資料整理、および事件現場の押収品の管理と保管。それを証拠品として執務官に一時提供したりするのが主な仕事……なのだが、

実際は、危険なデバイスやロストロギアなんかは『海』の方に持って行かれ、俺らのところで預かっているのは自転車のキーホルダー並にどうでもいいものから、用途不明のよくわからないものばかりだったりする。

でも、一応ロストロギアの類やデバイスも含まれているので、こうやって一時的に保管する必要がある。

まあ、物はドンドン増える一方だから何年も放置されたものとかは処分したり、デバイスはパーツとかを再利用されたりする。

とまあ、聞けば聞くほどツッコミどころが多すぎる。

そういう仕事だからか、うちの部署の局員は、 高齢な人たちが4割。 事故や怪我が原因でこの部署に来るのが2割。 残りが俺みたいな変わり者とかスーさんとかだ。  まあ、それぞれ事情があったりするのだ。

そんな理由もあってここでは出動がないんだとか。 が、俺としては願ったりかなったりだ。 給金は他とくらべると劣って見えるけど、俺は気にしてないしな。 





     *****





「……………ふい~、おわりっと」


あのあと、さっきの倉庫整理の続きから始め、その後再びモニター作業。―――も、今さっき終えた。 今度はちゃんと見直ししたから大丈夫なはず。


「はい、おつかれさま」

すると、タイミングを計ったかのように、スーさんがいつも俺が使うマグカップを置いてくれた。 こうばしい香りが鼻をくすぐる。

「ありがとうございます」


俺がお茶を飲んでる間に、スーさんがモニターをチェックしてくれる。


「―――うん、大丈夫よ。打ち漏らしもないわ」


おっしゃっ!




「それじゃあ、あとは私がやっておくから今日は早めに帰っていいわよ」


そう言われ、時刻表を見る。 午後4時10分くらい。 いつも5時過ぎたあたりに帰ってたから結構速いな。


よし! 今日は『訓練場』に行くか!


「わかりました。 じゃあ、おつかれさまです!」

「ふふっ、おつかれさま」





     *****





「ふははは! わが新たなる力を目に焼き付けろ!」


ところ変わって、こちらお隣の陸上警備隊の訓練施設。 俺がこんなテンションなのは許してくれ。 しばらくしたらおさまるから。

ここの訓練場は局員なら自由に使用を許可されており、主に警備隊の局員たちが利用している。 広さはだいたい学校の校庭くらい。 で、奥のほうにはフェンスみたいな仕切りで3つに区切ったスペースがある。 その限られた空間では一対一の戦闘試合が繰り広げられている。 俺は奥から離れた、フリースペースのはしっこにいる。ちなみに一人。




「……………むなしい」

さっさと新しく覚えた『魔法』試してみるか。


「…さて、今日も頼むぞ」

気合いを入れつつ、俺は左腕にある無骨な黒鋼色の腕輪に触れる。





ふふふっ、そう! 何を隠そうこれが俺のデバイスなのだ! 警備隊で支給されている量産型ストレージではなく、正真正銘 マイ・デバイスだ!

実はこれを見つけた所はなんと、保管課の倉庫だったりする。 あ、あそこの物って何年も経ってたり保管期間の過ぎたものとか処分される前に所有権申請の書類を出せば、なんと自分のものにしていいんだそうだ。 もちろん審査とかで危険性がないか調べた後だが。 このこと知ってる奴はよくウチに来て宝探ししてたな。 ガラクタばっかだけど。

で、その日もスーさんと倉庫の整理をしてた時だ、俺が棚の箱を移動してる時に、棚の間にホコリまみれの腕輪を見つけたのだ。 ぶっちゃけ最初はデザインとかが気に入ってその場で申請書類を書いて、1ヶ月後晴れて俺の物となったのだ。

そんで最初腕にはめたとき、なんか魔力に反応した気がして知り合いの整備士に見せたら、デバイスであることが判明したのだ。

文字どうり 『棚からぼたもち』ならぬ『棚からデバイス』だ。

そんで、こいつの中のデータとか整理したり消したりしながら気づいたんだが、

「なんじゃ、このバカ容量。」

データ自体はそんなにはなかったんだが、どれぐらい入るか調べてみたら―――――えーと『ぺタ』の上ってあったっけ? ってモニターの前で呆けていたな。

下手したらこれ、うちのデータベースにあるもの全部入るかもしれんぞ。 整備士の話ではデータ収集が目的で作られた可能性があるとか言ってたな。 しかもこれ、見た目以上に頑丈なのだ。


まあ、そんな経緯があり、晴れて俺は自分のデバイスを手に入れたのだ!



そのあと、デバイス整備入門なる本を片手に悪戦苦闘しながら試行錯誤を重ね、最近になってようやく使えるくらいの性能になったのだ。 もちろんデバイス用のパーツとかも自分で買った。 何気に高いんだよなあ。



「『オーバーリング』 セット」


《OK》


俺の左腕の腕輪から、合成音声が響く。  あ、ちなみにコイツの名前は『オーバーリング』。 なんか、そのまんまな感じだが実は他にも候補はあったんだが、あまりに厨二すぎて、すべてボツになった。 『黄昏〇腕輪』とかアウトすぎる。


《コマンドを》


「そんじゃあ、バリアジャケット。スタンバイ」


《OK。 バリアジャケット セットアップ》


無機質な合成音声が答え、俺の体が光に包まれる。


今まで着ていた服が黒いインナーに変わり、インナーの上に焦げ茶色のズボンとジャケットが覆う。ジャケットの胸のあたりだけに鋼色のプレートメイルが当てられ、その上に膝下丈のダークグレー色のコートがたなびく。コートの前の方は開いており、背中には縦と横に白のラインが交差し、十字架のように見える。両足には黒のブーツ、そして両手にはフィンガーレスグローブが着用されている。






――――うん、バリアジャケットに関してはメチャクチャ気合い入れた。 こればかりはたとえ厨二と言われようともゆずれんな!



軽く準備運動しながら動作確認。 ん~、コートがちっと長いかな? とりあえず他は動きを阻害しない程度に体に合ってるな。やっぱ下を軍用ブーツにしたのは正解だったな。 あ、ちなみに腕輪はそのままだ。  武器? 杖? どっちも使えんからムリ。

「―――よし。とりあえず問題はなさそうだな」


そんじゃあ、早速行ってみるか!


「まずは……射撃魔法で」

《OK。 シューター セット》


オーバーリングが俺の意思に答え、魔力を収束させる。 そして俺の右手にはゴルフボールくらいの大きさの魔力弾が現れる。―――ちなみに俺の魔力光は、なんか茶色…というより赤錆みたいな色だ。  見栄えが悪い…。


「おしっ! できた!」


やっぱ、何度やっても感動するなぁ。 最初のころもあまりのテンションに恥ずかしげもなくその場で小踊りしたぐらいだ。 なんせ夢にまで見た魔法が今まさに俺の手にあるのだから。

「そんじゃあ………」

右手に輝く魔法弾を、数メート先にある金属製の的に当てるべく狙いを定める。―――――そして


「いっけぇ!!」









………


…………………




「…」

右手にはいまだ赤錆色の魔力光が見える。


「撃て」

魔力を込める、けれど目の前の魔力弾は何の反応も示さない。


「発射、射出、飛べ、出ろ、飛び出せ、動け、…………―――――」

いくら命令を飛ばしても、いまだ魔力弾は俺の右手に鎮座している。


ほほう、ならば―――――俺の本気見てみるか!!



「かあぁぁぁぁぁぁぁ…めえぇぇぇぇぇぇ…はあぁぁぁぁぁぁ…めえぇぇぇぇぇぇ…――」

ありったけの気合いを両手に集め、一気に―――――放つ!!


「――――はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」





俺の叫びが訓練場にこだます。 いつの間にか訓練所にいる警備隊の人が何事かと覗き見るが、「ああ、いつものことか」とすぐに興味を無くし、訓練を再開していた。


かくいう俺は、さっきの発射ポーズのままだ。 手にあった魔力光も維持できずにもう消えている。




――――――うん、どうにもね、射撃魔法できないみたいなんだ俺。


「……なぁんでだぁぁ」

力なくその場に崩れ落ちる。

いや、全然できないわけじゃないんだ。 魔力弾自体はできてるんだよ。 『射撃』ができないだけで。


「警備隊に置いてあったデバイス全部試したのに駄目だったし…」


射撃魔法はざっくり分けると二種類。  魔力弾を形成した後、『弾を発射させるための魔法』を使い発射させる。あのリングみたいな魔法陣だ。なんか周囲に負荷をかけて――すまん、詳しくわからん。  で、もう一つが追尾性能を持った誘導弾だ。なんでも細い魔力のラインから意識をつなげて操作が可能なんだとか。

まあ、言わずもがな俺はどっちもできない。 どうもうまく魔法陣が形成できずに霧散してしまうのだ。 何とかできないかと色々試したんだが、 唯一の方法が『手で投げる』だったからなぁ…………。


実はこの問題を解決するために俺用の射撃魔法をこしらえたくらいだ。 魔法自体はすごく簡単な構造だ。 弾作って、その後部に起爆剤がわりの魔法をセットして打つ。 魔力の消費も少ないから最初は喜んだんだが、  発射と同時に爆発。 どうやら起爆剤の威力に俺の魔力弾が耐えられなかったようだ。 で、泣く泣くボツとなった。



「やっぱ体質なのかなあ…。 うう、自分のクソスペックが憎い…」


魔法メジャーリーガーになれってかコノヤロー  いや、戦わなくていいならイイケドサ……。

あと防御魔法も壊滅的だった。 シールドは展開できたんだが、指で簡単に穴があく紙防御。 こんなの出してる暇があったら全力で逃げるわ!

え? 砲撃魔法? 魔力低いからできねぇんだよブァーカ!!


―――ち、ちくせう……



「だ、だが今回の俺は一味違うぜ…!」

そう、こんなことのために新魔法を開発したのだ! なにげに俺の最近の趣味だったりする。 いやー何か色々やってたら面白くなってきてなぁ。 さっきの俺用射撃魔法を筆頭にけっこう作ったしなあ。

「オーバーリング。 試作弾・11番セット!」

《OK。 プロトタイプ・シューター 11 セット》

俺の意思に答え、オーバーリングは俺の右手に先ほどと同じように魔力を収束していく。 けれどさっきの魔力弾とは見た目が少し違う。

大きさは野球ボールぐらいの大きさとなり、弾自体も半透明になり魔力光も淡いものとなっている。


そして俺は、その魔力弾を手で“掴む”。


「フフフフ、さあ行くぜ!」


狙うは、先ほどの金属の的。 そこから俺は大きく振りかぶり―――投げる!

「そいやぁ!!」

魔力弾はまっすぐ的に飛んでいき、ど真ん中をとらえる!  的に当たった弾はその衝撃により形状を歪ませ、 




―――――ぺよんっ




「…」


やわっこい打撃音とともに、当たった魔力弾が「ぽーん」と宙を舞い、地面に着地。 「ぽよんぽよん」とわずかに弾んだ後、魔力の結合が解けてスゥーと消えた。



これが俺の編み出した魔法、『ゲル・シューター』。 またの名を……『すらいむ弾』


「ははは…だよなぁ」


この魔法、魔力を半物質化させて触れるようにしたんだが……威力はご覧のとおり、当たっても全く痛くない。 さわり心地はふにふにしていて気持ちいいんだけどな。 魔法戦闘においてはクソの役にも立たない。

だが! この魔法の真価は別にあるのだ! コイツに隠された性能、それは………



――――――たとえ『殺傷設定』であっても怪我をしない安全な射撃魔法なのだ!!





すごいだろう!! ははははははは、はは………………ハァ。



そんな、一人うなだれる俺の姿を遠くで警備隊の研修生数人が「あいかわらず面白いなぁ」という感じの視線で傍観。 何人かが笑いをかみ殺している。


「見せもんじゃねえぞゴルァ!!」

怒りにまかせたすらいむ弾の応酬に、ちりぢりになって避けたり、弾を打ち返しに来る奴もいたりで、訓練場は一時カオスと化した。





     *****




「はぁ……さっさと飛行訓練するか」

あのあと、笑ってた研修生どもをゼロ距離射撃魔法できっちりシバき倒してやった。 打撃戦じゃないぞ、ちゃんと魔法使ってたし。

で、そのあと全員まとめて説教された。 く、くそう俺もかい。


まあ、今はこっちに集中だ。

「気を取り直して……飛行魔法、セット!」

《OK》


聞きなれた無機質な声とともに魔法が組みあがっていき、俺のまわりを魔力がまとい、体に浮遊感が生まれる。 そして、少しづつ足が地面から離れ―――





「………――ぉぉぉぉぉおおおおお……!!」





い、いかん感動のあまり集中途切れそうだ。 やっぱ何度やってもスゲーなこれ。

俺は二メートルくらいの高さにふらふらと浮いていた。 最初の頃はひどかったし、数十秒浮いてるのがやっとだったけど、できた時は感無量だったな。

おし、このまま訓練場一周してみるか!


「――ぬううおおぉぉぉぅぅぅ………」


ふらふらと浮いた状態からゆっくりと移動開始。集中切れるとバランス崩れるから気が抜けん!―――と、


「おー、タロー飛んでるね~」

「お、おおお…そ、ソゥちゃんか」

訓練場入口あたりで、ソゥちゃんがこちらを見上げていた。 あ、手振ってる。


「すご~い。まえよりながく飛んでるんじゃない~?」

「ふ、ふふふ。 ひ、人は成長する生き物なのだよ!」

空中で「ぬんっ!」とポーズをとってみたり。 ギリギリだが。



「さすがぁ、『ポンコツピーターパン』の名はだてじゃないね~」




「その名で呼ぶなあぁぁぁぁ!!!――――――って、あ」


集中力が切れ、その場に落下。


「――――ぬぼんッ??!!」


ビタン!! と、訓練場の踏み固められた地面と熱いキスをぶちかます。


「おおう。 でーじょーぶか?」

トテトテと、ソゥちゃんが駆け寄ってくる。

「お、オノレェェェェ…」

恨み100パーセントで睨むがソゥちゃんはどこ吹く風だ。 多分ワザとではないが俺の気は晴れない。



そう、なんとも不名誉なことに俺には通り名が付いているのだ。 かっこいいのなら、まあいいかな。なんて思っていたが―――



『保管課のポンコツピーターパン』



ソゥちゃんから聞いた話では、俺が訓練場でヒイコラ飛んでいる姿からそう付けられたそうだ。

誰だ言い出した奴!!! すらいむ弾漬けにしてやる!!! なんだよこの仕打ち! 俺なんかしたか!?


「私はいいとおもうんだけど、ピーターパン」

「お前はまだ言うか! “ピーターパン”だけならまだいいんだよ! そこに“ポンコツ”が入ってんのが問題なんだよ!」

ソゥちゃんは首をかしげ、

「……ポンコツタロー?」

「――そこに直れぇぇ!! お前は触れてはならないモノに触れた!!」

「おおお! ひさしぶりにやるかぁ!」

「上等だ! 末代まで後悔させてやる!」











「む~ん! おりてこ~い!」

「誰が降りるか! それに杖型デバイスは射撃用で撲殺用じゃないって何度言ったらわかんだ!」

「射撃魔法はにがてだもん!」

「だったらアームドデバイスにしやがれ!」


その後、30分ほど俺とソゥちゃんの追いかけっこが続いた。 でも、結局俺の魔力切れで降りてきたところをソゥちゃんにボコボコされるのだった。





     *****




ここは時空管理局本局。次元空間に存在する巨大な建造物だ。 その中にある通路で二人の少女が並んで歩いていた。

一人は亜麻色の髪を左右で結わえツインテールと呼ばれる髪型にしており、次元航行部隊の制服に身を包んでいる。 もう一人は鮮やかな赤髪を左右で三つ編みおさげにしている。ツインテールの少女よりも若干背が低い。同じく航行部隊の制服姿だ。


「そっか。 それっきり『太郎さん』には会ってないんだ…」

「うん。 地上の方に行っちゃって…」

ツインテールの少女――『高町なのは』は目の前でうなだれる少女を心配していた。

赤毛の少女――ヴィータの様子がおかしかったのは前からわかっていたが、今日彼女が持ちかけた相談の内容には、なのはもさすがにいい答えが出なかった。

太郎にひどいことをしてしまったこと、けれどそれ以上にその人に何もしてあげられないことが彼女を悩ませている原因なのではないかと、なのはは考えている。

しかも、ヴィータから聞いた話では、今は『保管課』と呼ばれるところで太郎は研修を受けているそうだ。 なのはも保管課のことは誰かが話していたのを聞いた覚えがある。 そして聞いた話全てが“よくない噂”ばかりなのだ。 おそらくヴィータもそれを心配しているのだ。


「なんとか太郎さんとおはなしできる機会を作れないかなぁ…」

「あたしも何度かミッドに行こうと思ったんだけどこっちのこともあるから、あんまり離れられないんだ…」

「そっか……」

ヴィータも、まだ体調に不安の残るはやてのそばを離れるわけにはいかないし、次元部隊のシフトに穴をあけられない。たとえミッドに行けるとしても、肝心の太郎の予定が開いてなければ意味がない。だからと言って勤務中に上がりこむなど論外だ。

「せめて太郎さんと連絡が取れればいいんだけど…」

なのはは腕を組み、うんうんと考え込む。


ちなみに、なのはもヴィータもクロノと太郎がメル友同士なのは知らなかったりする。


「わりぃな、こんなことにつき合わせちまって。 ホントならあたしがちゃんとしなきゃいけないのに」

「ううん! 全然いいよ! 私もヴィータちゃんの力になりたいもん。だから私にできることがあったら協力するから!」

「そっか、―――あんがとな」

ヴィータは最後の方だけボソッとつぶやく。

「え? ヴィータちゃん何か言った?」

「……なんでもねえ」

「え~気になるよ~」

「なんでもねえったらなんでもねえ!」

ヴィータはプイっとそっぽを向く。 そんな態度になのはも「む~」とほぺったを膨らませる。 が、このままでは進まないので話を戻す。

「そういえば、はやてちゃんにはもう話したの?」

「うん。そしたら『わたしのことは気にせんと行っとき!』なんて言い出すから大変だった…」

「そ、そっか。はやてちゃんらしいなぁ」

「あたしとしては病み上がりだから無茶しないでほしいんだけどなぁ」

「にゃはは…」

思わず乾いた笑いがこぼれる。

(でも、やっぱり私も一度ちゃんと会って話すのが一番だと思うし)

なのはとしても、はやての意見には賛成だ。けれど第一の問題として太郎とヴィータがちゃんと話し合いのできる所までもっていくのが困難だ。

(う~ん……せめて同じ部隊ならなぁ)

リンディさんに相談したほうがいいのかな――と、なのはが知恵を絞っていると、



(――同じ部隊?)

何となく、心の中でつぶやいた言葉がひっかかった。


(同じ部隊……部署……でも太郎さんはまだ研修中で――――研修?)

そして、なのはの中で一つの閃きが浮かんだ。


「――――そうだ!」

「なのは?」

「ヴィータちゃん! 太郎さんってまだ研修生なんだよね?」

「お、おう。 たしかそうだった。」

「なら、前に私がいた部隊の人に聞いたんだけど――――――」





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



どうも、作者です。

今回は作者の独自解釈・独自設定が炸裂してしまいました。もうしわけありません……。

あと、やっとの登場! われらが主人公、NA・NO・HA・SAN! これから少しづつ物語に絡めていこうと思ってます。

あとはフェイトさんが出れば……たぶん次で出ると思います、たぶん。 


最後に、毎回この小説を見てくださっている読者に感謝。 まだまだ未熟ですが みなさんの意見・感想・辛口コメントをからめつつ、精進していきたいと思います!


【次回】


フェイト「休日の悩み相談」


頑張れフェイトさん! マジ頑張って!

 



[33468] 【6】フェイト「休日の悩み相談」
Name: はじっこ◆e894d58f ID:02e9b97b
Date: 2012/08/05 10:54


――ミッドチルダ中央区 首都クラナガン某所。



ここは道路沿いにある喫茶店。 内装はモダンというか中世的な風味のある感じで雰囲気は悪くない。ただ、その周囲の建物が未来的すぎて少々ミスマッチ感がなんともいえない。

だが、それなりに人気があるらしく今日が休日ともあって店内の席はほぼ埋まっている。 オープンテラスに至っては満席だ。 しかもそのほとんどが男女ペア―――所謂、カップルというやつで……はた目から見たらイチャついとるようにしか見えん。

そんなお砂糖空間に二人の野郎が一つのテーブルに腰を据えている光景はあまりいい絵面じゃないかもしれんな。場違い感MAXだ。 さらに言えば話している内容も。




「――――まあ、次元犯罪者を捕縛したまでは良かったんだが、『神崎』が後から暴行をくわえたみたいでな。一応厳重に注意したんだが……」

「『テメェはひっこんでろ! 犯罪者なんざ庇ってんじゃねぇ!』って逆につっかえされた、と」

「あ、ああ。 まさに一字一句間違いなくその台詞が出た」

「―――まじか?」

黒髪の青年、クロノ・ハラオウンの言葉に思わず聞き返してしまう。 クロノは「ああ」とため息のような返事を返す。


「その、銀髪くんの傍若無人ぶりは担当の上司とかに話したのか?」

「もちろん話したさ。だが――」

クロノのあきらめ半分、疲れ半分の微妙な表情になる。

「黙認されてそうだよなぁ。問題起こしてるけど上司にとっちゃあ使える人材だしな。 他人にに問題押しつけてる時点でどうかと思うけど――っとこれは一言余計か」

そんな俺の失言にクロノは、

「まあ、今聞いてるのは僕だけだ。別にかまわないだろう」

そう言い、肩をすくめる。

「ほほうクロノ、おぬしもワルよのう~」

「――っぶ!?…くくっ」

「笑うなよ……」

狙ったわけじゃないのに。

「すっすまない…っく」

しばらくクロノが笑いをこらえる状態が続いた。 ツボだったのかクロノ……





どもども、ただいまクロノと休日の午後を満喫(というか悩み相談)している 山田太郎だ。 まあ、どうしてこんな展開になってるのかは二日前にさかのぼっちゃったりする。






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  #月 *日   天気・曇り


ここは陸上警備部隊に隣接する本局部署、古代遺物管理……以下略。 通称『保管課』。

そこで働く俺こと、田中太郎は管理外世界の出身で『転生者』だ。 本来なら俺は今頃高校生活をだらだら過ごしていただろうが、冬のはじめに『例の赤いの』に襲われ、それをきっかけに俺は管理局と関わり、色々悩んだ末に就職を決めたのだ。

ただ、入る動機が『魔法を使いたい。空を飛びたい』―――とまあ、不純すぎるのは自分でも自覚しているが、こればかりは譲れない。 いや、近頃は新魔法…もとい、“ネタ”魔法開発やデバイス改造にこってるからわりと充実した毎日を送ってたりする。


「うしっ、こんなもんか」

あらためてみるとモニター作業も結構なれたなぁ。 前はパソコン関係なんてネット見るぐらいしか使ってなかったからな。――と、

「タロくん、おつかれさま。 少し休憩する?」

ちょうどいいタイミングでスーさんが声をかけてきた。

「そうっすね、だいたいキリがいいんで」

「ふふっ、じゃあお茶入れるから休憩室で待っててね」

いつものようにスーさんは小さく笑い、お茶の準備を始めた。

この人は、アラニア・アマティスタ。 皆からはスーさんと呼ばれ慕われているここ保管課の先輩だ。 褐色の肌に、紫がかった髪をポニーテイルにしていて、細身で女性っぽい口調だけど、れっきとした“男性”だ。 だが、その包容力と寛容さは女性と間違えるには十分すぎるほどだ。 なによりこの人、女性局員からの恋愛相談まで請け負うほどの人望の持ち主だったりする。 すごいぜスーさん。


モニターの電源を落とし、俺はいつもの休憩室に足を運ぶ。


すると、休憩室ドアの前に一人の少女がいた。――――――逆立ちして。


…はっきり言ってこのまま放置したかったが、いかんせん扉の前にいるからなぁ。 はぁ。


「……今度は何の遊びだ?」

「お! おっす~タロー。びっくらこいた?」

「俺はお前がどういう経緯で逆立ちしてんのかが驚きだよ」

「ん~、どうやってタローをおどろかそうかかんがえてたら、こうなった――よっと!」

そう言いながら少女―――ソゥちゃんは逆立ちの体制から腕の筋力だけを使い勢いよく反転。両の足で立つ。

「なら、お前の目論みは見事成功だ」

「んん~…なんかおもってたのとちがう~」

お前は小学生か。

あ、この女の子はソゥちゃん。 士官学校では俺と同期、今は陸上警備隊の研修性だ。 深緑色のクセッ毛ショートヘアで、タレ目の瞳にほわんとした雰囲気の人懐っこい性格の少女だ。 士官学校の戦闘訓練では教官も認める実力の持ち主なんだが……、興奮すると暴走するトラブルメイカー。 で、筋肉マニア。(←重要) 自分のいる警備隊が近いのをいいことに、まいど休憩時間になるとどこからともなく現れるカピバラ系女子だ。

「…あとソゥちゃん。これは男として一言」

「お! 告白か!」

「ちゃうわ。 逆立ちするのはいいけどスカートのままはやめとけって言いたいの。 さっき丸見えだったぞパ」



―――瞬間、 ソゥちゃん渾身のラリアットが寸分の狂いもなく俺の首をとらえた。





     *****




休憩室。 そこで俺は痛む首をさすりつつ休憩という名の反省会が行われていた。


「うーん、さすがに今回はタロくんが悪いかも。 女の子に対しての配慮とか」

お茶を淹れつつ、スーさんは俺をたしなめるように言う。

「そうだよ~!デリカシーない!」

「だったら、そもそも逆立ちなんてすんなよ」

「む~!」

ソゥちゃんはほっぺを膨らませ、ぷいっとそっぽを向く。 若干顔が赤く見えるのは多分気のせいだ。―――気のせいだよね?


あれ? これって悪いの俺なのか? 俺注意しただけなのになんか間違ったか?

「間違ってはいないけど、でも言い方にもう少し気をつけた方がいいってことよ」

と、スーさんの辛口コメント。

「はい…スイマセン」

「私じゃなくて………ね?」


そう言われ、俺は向かいのソファーに座るソゥちゃんの方に向く。未だにご機嫌斜めなのか、横目でこちらを睨んでくる。 迫力はないが。

「…ゴメン、ソゥちゃん! 今度から気をつけるから」

手を合わせ、頭を下げる俺。 

「……」

じぃ~っと睨むソゥちゃん。 どうやらまだ腹の虫がおさまらないようだ。 ぶっちゃけ、ソゥちゃんがこんな風に怒るなんて今までなかったから正直俺は動揺しまくりだ。―――すると、スーさんが鶴の一声。

「もういいんじゃない? タロくんも反省してるし。さすがにあなたも少し不注意だったんだし」

そして、ソゥちゃんはいまだ仏頂面のままだったが、

「……こんどチョコポットおごって」

「…オーケー」


俺が慰謝料の要求に応じる形で何とか反省会は終了となった。 やれやれ、乙女心はミステリアスだ。





     *****





「タロくん、じつは明後日のシフトのことなんだけど…」


スーさんが話を切り出してきたのが、俺のとっておきのおやつでご機嫌が回復したソゥちゃんとともにスーさんのお茶に舌鼓をうってる時だった。

「あ、はい。たしかその日は士官学校が休みで午後からの出勤でしたね」

午前は士官学校で午後は研修なんてスケジュールなもんだから、近頃は一日まるまる休んだなんて記憶がない。 一応それぞれ休みはあるんだが、いかんせん休みの日がバラバラだから半日休みになってる。

「ええ。 それなんだけど、実は明日にシフトを変えたいの」

「明日ですか?」

一応シフトでは研修は明日が休みで明後日が出勤となっている。

「どうにも“せっかちな人”が明日までにここの資材をいくつか借りたいって今朝連絡あってね」

「そりゃまた……」

普通、そういうのってもっと早く連絡入れるもんじゃないのか? 整理するだけでもあのバカみたいに広い倉庫の中を往復せにゃあならんのに。 本局から来る押収品の格納もあるんだぞ?

「ごめんね急で。 そのかわり明後日を休みにできるようにしたから」

「おお~!タローいちにちまるまる休みだぁ」

ソゥちゃんが声を上げる。

「はあ、まあ俺は構いませんけど。 いいんすか?」

「こっちから無理言ってるんだもの。 それに休めるときには休まないと」


まあ、そんなわけで一日休みをもらった俺は久々に遠出なんかしようと思ったわけで。






  △月〇日  天気・晴れ


お休み当日。

とりあえず、今日の予定としてはクラナガンの大手デバイスショップに行くつもりだ。 お目当てはズバリ、インテリジェントデバイスの『AIコアパーツ』だ。

そろそろ俺のデバイスもバージョンアップを図ろうと思い、思い切ってAIを搭載しようと考えたのだ。 まあ相性とかの問題もあるけど俺自身は戦わないし、たぶんビビってなんもできないし。 原作にかかわるつもりはないけど、この先何が起こるかわからんからな。 それなら自動で防御したり追撃してくれるAIの存在は俺にとって心強いはずだ。なにはともあれ身の安全です。 その上このバカ容量デバイスなら多少の無茶な改造だって耐えられる。 まあ、趣味と練習も兼ねてるからな。

一応、中古も置いてあるジャンクパーツショップも何件か回ろうかな。 正直中古パーツは性能不備が多いみたいだからあんまり見ないんだけど、もしかしたら掘り出し物がありそうだし。




そんでもってリニアレールに乗ること二時間後、目的地のミッドチルダ中央区『クラナガン』に到着。


「おおー、何度見てもすげぇなあ。 未来都市だなぁ」

森林のようにきつ立する高層ビル群。 ビルの窓ガラス部分が空の光を映し出し、青く染まるビル郡は壮観の一言に尽きる。

子供のようにはしゃぎまくり。 完全におのぼりさんです。俺。 いかん、当初の目的忘れそうだ。

「さて、まだ昼前だけど先に昼飯かなぁ。」


「――――ん? タロー?」

一人、予定を模索してると不意に後ろからずいぶんと聞きなれた――声変わりし始めた――声に名前を呼ばれた。


「んう?」


反射的に振り返ると、 黒髪に精悍な顔つきの青年――――

「お! クロノじゃん!」

「ああ、士官学校の試験勉強のとき以来だな」


あれから身長が高くなったクロノの姿があった。





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とまあ、思いがけずクロノと再会。 まあついでとばかりに昼食でもとりながら積もる話でもしようと席が開いてる喫茶店に突入したわけだ。

クロノも今日はお休みだそうで私服姿だ。 まあ、本人の話によると周りから「ちゃんと休みをとれ」と、しつこく言われ渋々承諾したそうだ。 で、家で寝てようと思ってたそうだが「せっかくなんだし、気分転換に外で散歩すればいいじゃない」と、エイミィに家からたたき出されたそうだ。 あ、ちなみにエイミィはクロノ家に同棲してるそうだ。 「賑やかすぎて困るんだが」とクロノは愚痴っているが――――――クロノ、そんなユルユルの顔で言われても説得力はないぞ。 ううむ、こりゃあエイミィとの仲も秒読み段階かもしれんな。


「まあ、いい機会だしエイミィとのデートコースの下見でもすればいいじゃん」

「―――っぶご?! ゴホッゲホッ…………なんでそこでエイミィが出てくるんだ…」

盛大に飲みかけていたコーヒーにむせるクロノ。 動揺しすぎ。

「さあ? 俺個人としてはどうして今日エイミィといないのかが疑問なんだが?」

「そ、それは……」

「まあ大方、『今日は予定もないし家で休んでるよ』なんてぼやいたらエイミィが機嫌損ねたんだろ」

「う゛…」

図星かい!



「…クロノ。そこはエイミィ誘うトコでしょうに」

「そ、そいうものなのか?」

「……」




朴念仁すぎるぞ、クロノ………





     *****




そのあとクロノと少し話したあと、喫茶店で別れた。 クロノは俺の助言でデートコースの下見。 あと次の休みにはエイミィをデートに誘うように厳命した。 がんばれクロノ。 超がんばれ!


まあ俺は本日の目的地である大手デバイスショップに無事到着。


「おおおお! でけぇ!」

その大きさに思わず感嘆の声を上げる。

大きさは8階建てのデパートみたいで、交差点の十文字に区切られた四つのスペースの一つに堂々と鎮座している。 ほぼ全面がガラス張りの窓で、日が傾き始めているのか、太陽光がこっちに反射してるので結構まぶしい。 どう見ても半日じゃ回りきれない。


「さーて、いいヤツ見つかるかなぁ」


ううむ、今後のデバイス改造の参考のためにも今日はいろいろ見たいしな。


では、いざ突入!










「うおおぉぉ………多すぎ。」

今回の目的のパーツを見るべく、ただいまデバイスパーツコーナーにいます。 そしてその広さと数の多さに圧倒しています。 コーナー、なんて言ってるがすでに三階をぶち抜いています。


俺の目の前には立派なショーウィンドウに収められている色とりどりの宝石―――AIコアが飾られている。 形もいろいろあるなぁ。ほとんど丸いのだけどクリスタルみたいなのからビーズみたいな小さいのもあるな。 で、別のショーウィンドウにはアームド用のベルカ式AIコアもある。 あっちはもっとメカメカしい感じだ。


「う~ん。 俺のデバイスの強度と容量ならこっち(ミッド)でいけそうだけど、……」


ただ、値段が――――うあぁ、けっ桁が! うん、これはもう少し見送ろう。


まあその後アームドのAIコアとかも見てたんだけど

「――って、あれは!」


俺の視界をかすめたのは、ひときは人目を引く赤い宝石。 その燃えるような赤い輝きはまるで―――






「「レイジングハートそっくり!」」










あり?



「あ…」

「ん?」

なんか今セリフが被ったような…? と、ちょうど俺の隣あたりに顔を向けると…………目が合った。


その瞳は先ほどの赤い宝珠のような輝きを宿し、次に目に映ったのが金色の絹のように綺麗な髪。髪型はツインテール。 全体的な姿はまだ少女のそれだが、その整った顔立から将来はそこいらの美人では到底及ばないほどの女性になることが容易に想像できる。   そしてなにより、この少女を俺は知っている。


―――――そう、リリカルなのはの中では最重要主要キャラであり第二の主人公、 フェイ…


「タローさん?」

「へ?」


と、おそらく初対面であろう少女の口から俺の名前が飛び出す。



何で俺の名前知ってるんすか?フェイトさん?





     *****





「やっぱり、クロノの言ったとおり面白い人だねタローさんは」

「面白いって……クロノの奴、俺のことなんて言ってんだよ」


おそらくここの階の通路は最近出始めた『アームドデバイス』専門のコーナーのようだ。 そこらじゅうに剣やら斧やら―――ギロチン? とにかく凶悪そうなデバイスが飾られている。(後から聞いたがあのギロチンは非売品だったそうだ)


そんな中、ひときは周囲の目線が俺達に集中する。 まあそうだよな……隣を歩く彼女はあらゆる方面では結構知られているらしいからな。その上べっぴんさんだ。

今現在、俺はフェイト―――『フェイト・T・ハラオウン』と雑談しながら見て回っております。

ぶちゃけ、逃げたかったり。 まさかこんなところで『原作キャラ』と遭遇することになるとは………いや、クロノならまだいいんだ。ただフェイトにいたってはさすがに俺の許容量オーバーだ。

なんせ、俺のうろ覚えの原作の知識に鮮明に残ってることから、おそらく三期でも超重要人物であることは疑いようもない。 ココはなるべく距離を



「じゃあ、テス――」

「あ、私のことは呼び捨てで構いませんから。あと敬語もいりませんよ」

縮めてきやがった!


「……おーけー、テスタロッサ」

「フェイトです」

「原尾?」

「ハラオウン……フェイトです!」

「お、オーケー フェイト」


ははは……もういいや。 いろいろとメンドイ



「そういえば、何で俺の名前を?…ってクロノから聞いてたんだったな」

「はい。 あとヴィータにタローさんのことで相だ…―――あ!」

「…」


ちょい。 今、聞き捨てならんワードが飛び出したぞ。


「ち、ちがうちがう! じゃなくてなのはから相談があって、それで、えとえと…」

「その、なのはさん? はなんて言ってたんだ?」

「う、うん、タローさんとヴィータの―――じゃ、じゃなくて! ええと…」


う、うーん、この子は隠し事ができない性格なのかな? 俺の中で彼女の印象がずいぶんと変わってくな。けっこうしっかりしてるように見えたんだが。

「うん、フェイトはおもしろいなぁ」

あ、本音出ちゃった。

「う、うぅ~~~!」


フェイトが唸りながら上目づかいに睨んでくる。 ぐぁっ………破壊力あるなぁ。

「あーゴメンゴメン。 ほれ、アメちゃんあげる」

「へ? あ、ありがとう…」

イカンイカン。 いつもソゥちゃんをあしらうときの対応になってしまった。

ううむ。 これじゃあまたスーさんに叱られそうだなぁ。


「そんじゃあお詫びと言っては何だが、この太郎さんがちょっとした相談に乗ってやろう」

「そうだん?」

「おうとも! 名づけて『お悩み相談・太郎の部屋』!(出張版)」

「…」


あれ? すべった?





「―――ぷっ、ふふふ」

「お?」

「ふふ、そうですね。 じゃあ少しお願いしていいですか?」

「おう! まかたれよ」







ビルの1階。 道路側に位置する場所にある喫茶店……また喫茶店か。 そこで本日二度目のお悩み相談室。

一面すべてがガラス張りで、外の様子がうかがえる。 ちょうど道路側で大小様々な車が走っている。

そんな窓側の席に俺とフェイトは座っている。 フェイトはオレンジジュースを、俺は麦茶(こっちにもあるんだ麦茶…)を頼んだ。

で、フェイトの悩み相談の内容なんだが……


「またか銀髪ぅ………」


まさかの銀髪くんの迷惑伝説パート2。 オマエは何がしたいんだ…

フェイトの話によれば、銀髪くんのなれなれしい態度に困っているんだそうだ。 ニヤニヤしながらこちらを見たり、頭をなでようとしたり、男性局員と話してたら「俺のフェイトに色目使ってんじゃねぇ!」なんて言いながら殴りかかったとか。

あとクロノをKYと呼んだり、ストーキングされたり、嘗め回されるような視線で見られたり、友達も同じことされて困っていたり……etc



ぎ、銀髪くーん! さすがに小学生で許される範囲を超えとるぞぉー! 俺と同じ転生者なら自重しろ!! イケメンだからってそんなことしてたらいつか捕まるぞぉ!


―――あ、頭痛ぇ…。


「その…フェイトはそれが嫌なんだろ? だったら銀髪くんにそう言ってやればいいじゃん。 なるべくストレートに」

「うん。 実は前に言ったんだ。『あんまり近づかないで』って。 だけど…」

「だけど?」

「『照れるなよ。素直じゃないなぁ』って言うばかりで、全然わかってくれなくて……」

「Oh……」


いったい何がどうなったらそんな結論にたどり着けるんだよ。 俺が言われたらショックで学校休むレベルだぞ。


「んー… 勘違いしてて人の話を聞かない上に自己中、女たらし…… アカン、俺にはどうにもできんかもしれん」

「そ、そんなぁ」

がっくりと項垂れてしまうフェイト。 彼女の背後に「しゅ~ん…」という擬音が見えそうだ。

「…まぁこういう場合はなるべく相手にしないとか距離を置いて会わないようにするぐらいか、あとは――」

「あとは?」


「そいつのケツを思い切り蹴り飛ばす」


「ええ!?…………………………う、うーん」


え? ふぇ、ふぇいとさん? なぜに真剣に考えてるの?

「え、えーと…いちおうジョークなんだけど?」

「い、いえ違うんです。 実はこの前アルフが――あ、アルフっていうのは私の使い魔――とうとう怒っちゃって、殴ろうとしたみたいなんだけど……魔法(シールド)で防がれちゃって………」


うおおおい?! そんなしょうもないことに魔法使うなよ銀髪ぅー!! んなことに使うくらいなら俺にその才能分けてくれよ! ちょっとでいいから!



「はは……まぁ世の中にはいろんな人間がいるからな、いちいち付き合ってたらこっちの身が持たないだろ? あっちがなんか言ってきてもなるべく関わらないようにすればいいさ」

「そうですか……」


フェイトは浮かない顔でオレンジジュースに口をつける。  ――――あんまり納得のいく解決策では無かったからなぁ…


「すまんな。 あまり力になれなくて」

「い、いえ! そんなこと……相談に乗ってもらってこっちがお礼を言いたいくらいです。 クロノの言ったとおり、タローさんにはいろいろと話しやすいです」

「そっか。 じゃあ今度クロノに『エイミィとデートの最中にこっちに電話なんかすんな』って伝えといてくれ」

「――っぷ、あははっ」


影が差していた顔に笑顔がほころぶ。 うん、やっぱりかわいい子には笑顔が似合うなぁ。





     *****





なんだかんだで結構話し込んだなぁ。 西日がまぶしいぜ!


「今日はありがとね、タロー」

「いやいや」


なんかいつのまにかくだけた話し方になってるんだよな。 まあ俺は堅苦しいのは好きじゃないからいいけど。


何気に麦茶三杯は飲みすぎたな。 腹がタプタプだ。 日も傾いてきたみたいだし、そろそろ―――



「――じゃあ、次は私の番」


俺が席を立とうとした時だった。


「んう?」


「私がタローの悩みを聞く番だよ」


おいおい。  何の脈略も無く、いきなりそんなこと言われてもなぁ。


「悩み………ねぇ」

「うん。 私の相談に乗ってくれたんだし、それくらいはさせて」


うーん。 その気持ちはうれしいけど―――





「―――ぶっちゃけ、無いかも」




「……え、ええ!?」


いや、そんな驚くことか?



「いやいや。 正直、今の生活に不満はないし。 仕事場の人間関係も悪くないし。 まあ、ウチの部署の“噂”はあれだけど、そんなに悪いとこじゃないしさ」

「そう、なんだ。………じゃあ」

フェイトは意を決して言葉を発する。




「―――タローはヴィータのこと、どう思ってる?」




イキナリだなぁ。


「ヴィータから聞いたのか? 俺のこと」

「………うん」

なるほどな。

「どう思っている、か。 んー……」





実際、ヴィータに対して思うところが無いかといえば―――嘘になる。


でも、恨んでいるとかの部類ではないと思う。たぶん。 襲われといてなんだけどね、俺も必死だったし。 正直、いい思い出ではないからな。 でもなぁ。 ヴィータと会ったのは襲われた時とアースラにいた時の二回だけだし、あれから結構経ってるから今更なぁ。


―――だから俺は、答える。


「…特別、どうとは思ってないかな」

「…そう、なんだ」

「………まあ、今度ヴィータに会ったら「俺のことは気にしなくていい」って伝えてくれるかな?」


地上と本局じゃ会う機会は多分ないからな。




「―――――私は」


「…ん?」


「私はやっぱり大切なことは直接会って伝えたほういいと思うんだ。 ヴィータにとっても、タローにとっても。」


「…」

「ご、ごめんなさい。 差し出がましいこと言ってしまって」


「いや、いいよ。――――――まあ、そのうち…ね」

「…はい」



最後は少し暗い雰囲気になってしまったけど、その後軽く雑談して喫茶店を出た後、フェイトと別れた。 そしてなぜかフェイトとメルアドを交換した。 あるぇ? 何で??





     *****





  Э月Щ日  天気・晴れ


休日の翌日。


午前の士官学校の講義が終わったので、ただいま保管課のほうに移動中。 弁当持参で。

いつの間にか士官学校が終わったあとに保管課の休憩室で昼飯を食べるのが日課になってしまった。 いや、べつにスーさんのお茶が目当てではないぞ。 がっついてるわけじゃないぞ。 本当だぞ。


「う~い、タロー」

「おお、ソゥちゃんおっすー」


と、廊下でソゥちゃんと遭遇。 ――――重箱とともに。


「毎度のことながらすげぇ量の弁当だな」

「ふぉふぉふぉ。あげないよぉ」

「もとよりいらんわ」


食べてるトコ想像するだけで胸焼けしそうだよ。 どこに入るんだよ、どこに。


「―――あっ スーさんだ! お~い!」


そう言い、ソゥちゃんが元気いっぱいにスーさんの所に駆け寄る。 廊下では静かにな。 あと走るな。


「あら、二人ともこんにちは」

休憩室の扉の前でスーさんがいつものように小さく笑い、出迎えてくれる。

「こんちはっす………あれ? スーさん、何か見てるんすか?」


仕事の途中だったのかな? スーさんの目の前に半透明のモニターがある。 何か文字のようなものがびっしりあるが細かくてわからん。 まあ、盗み見るつもりもないし。


「ああこれ? 一応、タロくんに関係あることなんだけど…」

「―――へ?」

思わず間抜けな声が出る俺。









―――そのとき、俺は気づかなかった。  これが、すべての始まりであったことに。



―――この時まで、まだ始まってすらいなかったことに。





―――その瞬間から、「俺」と「彼女」の運命が、大きく動き出したのだ。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



遅れてしまって申し訳ありません。 作者です。



フェイトが好きです。大好きです。 でもヴィータの方がもっと好きです。


―――突然スイマセン。 最近ヴィータまともに出せてないんでストレスが……次は出番がありますので気合を入れて書いていこうと思います!!


読者の方々、毎回の感想ありがとうございます。 時に読者の意見を取り入れつつ、試行錯誤の連続ですが、これからもどうかよろしくおねがいいたします!


【次回】

ヴィータ「私の罪」



【修正しました。】

フェイトのセリフとか色々。

ご意見ありがとうございます。



[33468] 【7】ヴィータ「私の罪」
Name: はじっこ◆e894d58f ID:fb3e462b
Date: 2012/08/18 18:49





数多の世界が存在する空間。 次元空間。

おおよそ既存の生命体では活動はおろか存在することすらできない。 暗黒の空間の中、渦を巻くように存在する光の中を巨大な船艦が空間を割り裂くように進んでいた。

その船の名は『フレイヤ』。 時空管理局の誇る大型次元船艦である。




「みなさんはじめまして。 本日、一二〇〇より本局所属次元航行艦船『フレイヤ』にて“短期研修”に伺いました。 タロウ・ヤマダ士官候補生です。 何分至らぬところは多々ありますが、これから一週間よろしくお願いします!」


無機質な壁と天井に囲まれたフレイヤのブリッジに少々控えめだが、歓迎の拍手が響く。 今ブリッジには30人近い局員が整列している。


(よしっ好感触!)


よかった。 結構歓迎ムードで。 正直、知り合いがいないこの状況でハブられるのはカンベンだからな。 いや、ここの人たちを悪く言うつもりはないんだ。良い人たちだってのは解るから。

ただ、俺のいる保管課の“噂”を真に受ける奴が何人かいるからな。 わかりやすいくらいイヤな顔されたこともあったっけな。――――嫌なこと思い出しちゃったよ…。 くっそー! んな噂信じてんじゃねぇよバーカバーカ!!


よし、おちつけ。 びーくーる。


(さて、 あちらさんは………)


局員が整列してる最前列に目を向ける。


俺から見て右から二番目の列、 亜麻色の髪をツインテールにした十代くらいの女の子がこちらの視線に気づいたのか、ニコニコしながら小さく手を振る。――あはは…なんだろう、どこかでみたことあるなー …うん、気のせい!


その少女の隣、三番目の茶髪にボブカットの女の子もこっちに手を振ってる。――……俺、最近疲れがたまってるのかなぁ。ある筈のない幻が……誰か幻術魔法使った?


その三番目の列の隣、ボブカットの子に隠れるように俺の方をちらちら見ている赤毛で三つ編みの――――うん、知らない女の子だ。


な、なんだよ!?俺が知らないって言ったら知らないんだ! ノータッチだノータッチ! ボクムツカシコトワカンナ~イ! 



(※ただいま混乱中。 しばらくお待ちください。)







――――おーけー、認める。 現実と向き合うよ。



笑顔で手を振ってるあのツインテール少女は間違いなく原作の超主人公、『高町なのは』ご本人だ。 現在、俺の知る限りでは最強の部類に入る魔導師。 初めて会うけどフツーにかわいい女の子です。 こんなちっこい子がシューターばら撒いて砲撃をぶっ放すなんて――――――世も末だ。


そのお隣のボブカット少女はフェイトに次ぐ原作第三の主人公、『八神はやて』……そういえば昔に一回会ったことあるんだっけ?  できればその一回で終わりでよかったのに。



そして三人目、―――――俺が前の二人以上に一番接触したくないトラウマ級超要注意人物、ヴォルケンリッターが鉄槌の騎士『ヴィータ』……ホントね、俺だって知ってたら全力全開で断ったんだけどね………ハァ。 


なんだよ、この原作キャラ(地雷)のオンパレードは。 セールか?セールなのか?

神様、これがあんたの作ったシナリオだってんなら――――まずは……一発殴らせろ。 それか転生特典よこせドチクショウ!


ここで、俺にとってさらに残念なお知らせがあります。


それは、前列の左端。

「………」

いまだに無言の殺気をこちらに放ち続ける、銀髪に色違いの双眸をもち、イケメンすぎるほどイケメンなイケメン少年。 銀髪く――じゃなくて、えーと名前はたしか…『神崎彰吾』? だっけ?? コイツは俺と同じ転生者だったりする。

その銀髪くんの視線はまるで昼ドラのような嫉妬に狂う愛人みたいだ。 怨念というか、オーラが見える。



もう~、そんなに見つめないでよー♪ ビビリすぎてちびっちゃいそうじゃんかー♪ HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!!!









もおやだぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁ!!!!!! おうちに帰してぇぇぇぇぇええええええええええええええええぇぇぇぇ!!!!!!





     *****




突然だが、ここで『短期派遣研修制度』について説明しておこう。

まず一般的な研修は一年の期間を総じて一つの部署で研修を受ける。 その間、士官学校の講義も入ってくるのでなかなかハードだったりする。武装隊や警備隊は戦闘訓練もあるからなおさらだ。(ちなみに本局や自然保護隊みたいに士官学校に直接通えない場合は通信教育みたいにレポートを送るそうだ)でもその分、早いうちから仕事に慣れるし、教える手間もいくらか省けるのだ。 まあ、それでほかの研修は受けられないというか受けてる暇がないというか………。


まあそんな訳で作られた制度が『短期派遣研修制度』だ。 実は最近導入されたんだとか。

この制度は3日~7日の期間に今研修を受けている部署とは別に、他の部署の研修を受けることができる制度なのだ。 ほとんどは自薦だが、まれに部署の方から推薦が来ることもある。 で、俺が知る限りでも結構受けている奴がいるのだ。 この制度は短期間とはいえほかの部署の仕事ができるのだ。仕事の幅を広げたい、警備隊にいるけど武装隊で経験を多く積みたい、などなど理由は様々だ。

まあ、ぶっちゃけるとこの制度、地上本部の出した案なのだ。 ……なんつーか地上の必死さが伝わってくる。




さて、ここまで長々と説明させてもらったが、だいたい察しがついただろうか。

前回、お昼にスーさんが見ていたのがその短期研修の推薦状だったのだ。 で、その派遣先が――――


『本局 次元航行船艦フレイヤ所属 次元航行部隊』

仕事内容は研修生なのでデスクワークと戦技訓練だけだ。 ちなみに訓練は出なくてもOKなのだとか。戦闘が苦手な俺にはとてもありがたい。 ありがたいのだが………。

聞けば聞くほど何で俺にこんな話が来たのか、全く見当がつかない。 なんつーか、いやな予感がビンビンするんだが……。

まあ、元々行く気はないし。メンドそうだし。ぶっちゃけもう保管課に入る気満々だしね。 パスパス。


―――って、思ってたんだけど………。


「あら、もったいないわねぇ。 こんな機会めったにないんだし、受けるだけ受けてみればいいじゃない。 いい経験になりそうだし、若いうちはもっと積極的にならなきゃ」

――と、スーさん。


「ん~?せっかくだし行ってみたら~? あ!ついでに本局でおみやげかってきて~。あそこのバターケーキめちゃウマなんだって~!」

――と、ソゥちゃん。


「「「贅沢なやつ。そもそも俺(私)達ですらそんな話全然来ないんだぞ!!(血涙)」」」

――と、保管課のみなさん………ははは。


とまあ、周囲の勢い(特にスーさん以外の保管課局員たちの殺気)におされ、なし崩し的に受けることになってしまった。――とほほい…

まあでも、心配しすぎかな。 べつに本局行くからってイキナリ原作キャラとエンカウントするわけじゃないんだし。 行ってもすぐ次元船に乗ることになるし、アースラだったらアレだったけど、まあどうにかまるだろ。 一週間なんてあっという間だし。 大丈夫だろう! 




だがこの時、俺は完全に油断していた。

思えば、あの時ちゃんと推薦状を見ておくべきだった。 そうすれば、推薦者の欄に『高町なのは』という名が記されているのに気づいたはずだろうに。





     *****





そして、俺は見事にナノハサンの策略にはまってしまったわけで………。 クソぉ…悪魔めっ…!




「不幸だ…」

次元航行船艦、フレイヤの居住スペース。 その個室で俺は一人頭を抱えていた。

もうやだよ。 ガチで呪われてるよ俺。

あれか、某ツンツン髪少年のような空気に触れるだけでバンバン不幸になる体質なのか俺は。 ちくせう…。

「………しかも、よりにもよって主人公のなのは(戦闘民族)までいるし」


原作組3人+転生者(銀髪)。 わかりやすく今の状況を例えると、ライオンに前後左右を囲まれた小鹿というシチュエーション。 ちなみに小鹿は俺です。


「か、かかわりたくねぇーーー!!」

特に厄介なのが、なのはと銀髪くんだ。

なのはにいたっては事あるごとに『O★HA★NA★死』―――じゃなかった、『お話』と銘打って近づいてきそうで安心できない。 多分ヴィータのことで色々ちょっかい出してきそうだもんなぁ。

あと、はやてに関しもはなのはと同義だ。 もしかしなくてもヴィータ関連だろう。

さらに面倒なのが銀髪くんだ。 なのは達が絡んでくれば100%アイツも絡んでくる。 しかもフェイトから聞いた話じゃ、なのは達が自分に惚れていると勘違いしてる始末だ。フリ○ザより手に負えないやん。




しかも、問題はヴィータの方だ。

こないだのフェイトの話によればヴィータはまだ「あの時」のことを引きづっているらしく、なのは達に相談してるって言ってたな。 俺が「何もしなくていいよ~」って言っても本人が納得してくれるかどうか………。

まあ仮にそれでOKだったとしてもだ、もしそうなったら後にも俺と原作キャラ達の間にかなりの接点が出来てしまうわけで。 まあ、クロノやらフェイトやらの時点で完全にアウトだが。

でも、やっぱりヴィータだけは勘弁願いたい。 何でかといえば、理由は言わずもがな「あの時」のトラウマだ。

ヘタレで痛いのが一番嫌いな俺はヴィータに襲われた時の恐怖と、蒐集の時の予想以上の激痛でしっかりトラウマを刻み込まれてしまったのだ。

最後にアースラで遭遇した時よりはヒドくはないけど、でもやっぱりまだ苦手意識が強いというか………ナメクジが塩を目の前にしたような感じというか――――――


いや、言い訳はよそう。 実を言うと俺はもっと、もっと“個人的な理由”でヴィータを避けている。


たしかにあのときの恐怖心もある。 けど、―――――





「……っ」





よせ。 やめとけ。  俺にそんなシリアスは似合わんだろうが。


憂鬱な気を晴らすように備え付けのベッドに転がる。 ごろごろ~。

ゆっくりと深呼吸しながら天井を見つめ、気持ちを落ち着ける。


まあでも、不幸中の幸いはヴィータ達は出動部隊、俺はデスクワーク組、別々のところになるわけだ。 しかも出動部隊はフレイヤを離れることが多いそうだし、接触する確率は半々だ。

ホント、出動部隊に入るの全力で断っておいて正解だったな。 研修生だから戦闘に出ないとはいえ訓練やらなんやらでヴィータ達とカチ合いそうだもんな。

「まあでも一週間、これさえ過ぎればここともオサラバだ」

なのは達には悪いが、ここは逃げさせてもらうぜ。 主に俺の心の平穏のために。


―――俺、この戦い(研修)が終わったら…スーさんのお茶をたらふく飲むんだ………。




そんなこんなで、短期研修開始だ!





     *****





フレイヤ。武装隊の待機室付近の廊下。

艦長の挨拶が終わり、自分のまとめる部隊へ連絡事項とシフト確認を行った後、ヴィータは「彼」がいるであろう仕事場に足を進める。 だが、その足取りは重く、先ほどまで進んでいた歩みはぴたりと止まってしまっていた。 廊下の真ん中で一人俯いたまま、彼女の足は進もうと動くのだがその一歩が踏み込めず――――――

「―――ィ――ヴィータ?」


「―――…え?…あっ」


いつのまにか隣にいたはやてから声をかけられ、はっとなるヴィータ。

「だっ大丈夫! ちょっとぼーっとしただけだから」

なんとかその場で取り繕う。 が、


「そんな顔で言われても説得力ないでヴィータ」

そう言われ、ヴィータは思わず自分の顔をぺたぺた触る。

「ど、どんな顔してた?」

ヴィータは慌てた。 今から彼に会いに行くのに不安に思われるような顔をしたくなかった。 そんなあたふたしているヴィータにはやては、

「んーと『どんな顔でタローに会えばいいんだ~』って顔してたで」

「…う゛」

当たらずとも遠からずな回答に唸るヴィータ。


「大丈夫やって! タローさんもちゃんと話せばわかってくれるて」

「うん…」


そう小さくつぶやくヴィータを、はやては心配そうに見つめた。


今回、なのはの協力によりヴィータとタローが話せる機会を作ってもらい少しでも二人のわだかまりを解消できればと思ったのだ。(なのは曰く、『タローさんとヴィータちゃんを仲直りさせちゃおう大作戦』だとか)

それに、最近のヴィータは表情を曇らせることが多くなった。 ふとした時に、何かを思い出すように辛そうな顔をすることがたまにあるのだ。 いつも元気いっぱい笑っていたころから考えると、見ているのがあまりにも心苦しかった。


(―――ヴィータに、そんな顔させとうないんや)


家族が辛い思いをしているなら、力になりたい。

はやての願いはただそれだけだった。


「あれ?そういやなのははどこいったんだ?」

ヴィータの思い違いでなければ、なのはも一緒に来ると言っていた筈だったが。

「あ、あはは。 あんなあ、実はうちもなのはちゃん来るの遅いなぁ~って部屋まで様子見にいったんやけど、なんか…廊下で『神崎』くんにからまれとって……」

「は?」


思わぬ伏兵の存在にあっけにとられるヴィータ。

「なのはちゃん『先に行ってて』って言うてたんやけど……」

「つーかそもそも、何でアイツがいるんだよ…!」

ヴィータは苛立ちを隠そうともせず、はやては厄介なことになった、とため息をついた。

こればかりは、はやて達も想定外の事態だった。



神崎彰吾。

魔力保有ランクSSSの嘱託魔導師。 なのは曰く“一応”知り合い。(一応の部分を強調)

『時空管理局の期待の星。 美貌と天性の才能を兼ね備えた百年に一人の逸材』―――――というのが世間の評価だが……はっきり言ってそれ以上に彼の性格は最悪だ。


「…なんか出動部隊にムリヤリねじ込んできたみたいでなぁ。『なのは達のことが心配なのさ~』なんて言うとったけど」

「……ふざけやがって」


今回だってなのはが無理を言って太郎が入れるように取り計らったのだ。本人は隠しているつもりだが、ここの艦長に何度も頭を下げて頼んでいたのをヴィータもはやても知っていた。


「……でもなのはちゃんが心配なのはうちも同じかな」

はやての言葉にヴィータはピクリと反応する。

「……やっぱ、はやても気づいた?」

「うん。 なにを無理しているのかわからんけど、休みもまともにとってないみたいなんよ。緊急出動も積極的に出とるし、出動シフトも増やしてるみたいなんよね」

「……」


そう、さらに言えば最近のなのはのこともヴィータが心配している要因のひとつなのだ。 まわりが何を言ってもなのはは仕事量を減らそうとしないのだ。

その上、今回のヴィータと太郎の事だ、気負いするなというのが無理な話なのだ。


(―――なのは。……あたしのせいで)

自分のわがままが、なのはに負担をかけてしまっている。 ヴィータは自己嫌悪に陥ってしまう。

(あたしが、こんなこと頼まなければ…)

「ヴィータ」

「…あ」

はやての声にヴィータは負の思考連鎖から脱する。


「ヴィータのせいやあらへんよ。なのはちゃんちょっと頑張りすぎなだけや。 それにこの仕事終わたらリンディさんが強制的に休みとらせる言うてたし」

「…はやて」

「だから、なのはちゃんのためにもヴィータも頑張らな」

はやての激励にヴィータは答える。


「……おう!」

重かった足は再び歩み進むために動く。







(あたしは、たくさん罪を重ねた。 今更、許されるなんて思わない。 けど――――)



――――償いたいんだ………………タロー。









少女は思う、一人の少年の姿を……。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


遅れて申し訳ありません。作者です。


なんと言いますか、作り手さんの苦労をあらためて実感する今日この頃。

そして、今回二度目の登場、NA・NO・HA・SAN。 あ、あとたぬきちゃん。

なにはともあれ読者の皆様からの激励または罵倒(?)を受けつつも筆を進めていきたいと思います。



【次回】

ヴィータ「私の罪」その2






[33468] 【8】ヴィータ「私の罪」その2
Name: はじっこ◆1601988e ID:9226f0c1
Date: 2012/09/15 16:14



皆にはいただろうか? 子供の頃、憧れてやまなかった存在が。



特に子供の頃はテレビ画面の向こうに存在する世界に夢中だったはずだ。

男の子は、悪を倒し弱きを守る正義の「ヒーロー」。 女の子は魔法のような力で皆を笑顔にする「ヒロイン」。

皆が日曜の特撮とアニメに釘付けだった頃、俺は一人のヒーローに夢中だった。

そのヒーローは幼児向けアニメの主人公で、なんというか見た目かっこいいかと聞かれたら首を傾げるしかない。あの丸っこい顔はどちらかといえば、かわいいとか愛嬌があるとかの部類であろう。

まあ、その姿はちびっ子たちの受けはよかったが、俺が見ていたのはストーリーとかキャラクターではなく主人公が持つ「信念」だった。

助けを求める人がいれば、その人のもとに駆けつけ。その身を盾に大切な人たちを守り。時には己の身を削り、人々の笑顔を守ってきた。

彼には戦隊ヒーローのようなカッコいい武器はなかった。魔法少女のような魔法の力もなかった。 けれど、その身一つで戦い続け、大空を翔けるその姿に俺は「憧れ」を抱いた。



―――「彼」のようになりたい。そう思ったんだ。



改めてみれば俺が空を飛びたいなんて思ったのも、これがきっかけだったのかもしれない。


でも、「憧れ」はどこまでいっても「憧れ」でしかない。子供もいつかは大人になり、気づくんだ。 自分に無いものだからこそ憧れを抱くのだと。

臆病で、自分を守ることしかできなかった俺にとってその姿はとても眩しく思えた。 だから俺は「ヒーロー」に憧れたんだ。



――――そして気づいたんだ。 俺は、「ヒーロー」にはなれないと。





     *****





一週間、短期研修生活。 一日目。



以下略。山田太郎です。


今日から本局、次元船フレイヤにて短期研修となりまして。その初日。

フレイヤの人たちの挨拶も終わり、あてがわれた部屋で先の見えない不安に頭を抱えつつも荷物整理。

午後から早速お仕事です。―――なんかドアの向こうに人の気配が……。

嫌な予感もするので休憩終わるぎりぎりに仕事場へ。 ああ、昼飯食いそびれた…。






薄暗いです仕事場。電気つけましょうよ電気。―――え? ないの?

いやあ、ここの局員さん明るくて茶目っ気ある人たちなんだけどね、うん、職場の雰囲気は明るいんだけど部屋が薄暗いです。目悪くならないのかな?

空腹感も手伝ってちと鬱に入りそうだけど手は動かす。デスクワークは結構やってたからこれくらいなら朝飯前だ。……イカン、ますます腹が…。

「これ終わったら売店いこ」

一応ここって所々に売店みたいなのあるからなにげに便利です。アンパンと牛乳がないのがちと残念。

そんなこんなで頼まれた仕事分を終わらせ、上司に報告。


「あ、すいません」

「ん?何か分からないところがありましたか?」

「いえ。一応今ある分終わらせたんですけど」

「―――え?」


…あれ?何でそんなに驚いてるんだろ?


「もしかして、さっきの量を…全部?」

「え、ええまあ」

これくらいの量ならあっち(保管課)いたころ結構やってたし。ちゃんと見直ししたから大丈夫なはずだけど。

上司の人は今日はもう終わりでいいと言われたので、ちっと早いけど初日のお仕事は無事終了。 まあ今日は部屋にでもこもってネタ魔法開発でもしてるかな。

「今日は『ぺんしるろけっと弾』の改良でもするかな~」

自動ドアをくぐり、廊下を歩きながら自分の部屋への道順を思い出している時……


廊下の向こうから足音が響いてきた。


(―――そぉい!!!)

俺は本能的に廊下の曲がり角に隠れる。 そして少し顔を出して様子をうかがっていると、――――見覚えのある人影。


「………ぉぉぅ」


あの人影はヴィータと、その隣ははやてかな?二人が廊下の向こうから現れた。

(…あ、アブネエェェェ!?)

内心動揺しまくり、息も止めて気配を消すのに専念する。しかもあの進行方向はもしかして……さっきまで俺がいた仕事場だった。

「プシュー」という音とともに自動ドアが開く。

「お仕事中に失礼します~。太郎さんいますか?」


やっぱしか!!?何気にタッチの差で危険を脱したよ。油断できねぇよ。

俺はそそくさと部屋へ向かい篭城戦を決め込む。せっかくだしネタ魔法の開発ついでにデバイスの開発案でも考えるか。

なんか呼び鈴ブザー鳴りまくってる気がするけど、気のせいです!聞こえません!アーアー!





一週間、短期研修生活。 二日目。



今日はなのは達は出動なのでフレイヤにはいません。ヤッタネ! ちなみに銀髪くんは待機のはずなのに勝手についていったそうだ。文字どうり女の尻を追いかけていったか…ははは…。

まあ、あの三人には悪いが俺にとっちゃあ好都合だ。

さて、そうと決まれば出動組が帰ってくる前にさっさと仕事終わらせるか!


…あれ?何だろう、昨日より仕事量少し多いような?まあこれくらいなら多少増えても十分許容範囲内だ。――――っと、言ってる間にこれで終わりだな。一応見直しもして、と。


「終わりました。………えと、何でしょうか?」

な、なんだろう。なんかマズッたかな。上司さん、なんか口あけてポカン顔。

「あ、あの~…」

「い、いや何でもない。ご苦労さま」

「あ、はい。えーとあとは……」

「ああ、今日はもう終わりでいいよ。お疲れ様」

えぇ!?午後の分は??

い、いいのかなあ…時計を見てみるとまだ昼になったばっかりなんだけど。

ん~……まいっか。多分研修生だから初めのうちは少なくしているのだろうと勝手に納得。せっかくだし午後をめいっぱい魔法訓練とかに使えるし!

上司の人に挨拶をして、俺はルンルン気分で部屋を後にした。………その後


『――あってる。…これも…打ち間違いが一つもない……』

『――なんでこんなに仕事速いんだ?…どう考えても午前じゃあ終わらない量だったんだぞ……』

『――初日のだってほとんどジョークのつもりで出した量だったのに……』


という、戦慄する局員達の声は俺の耳に入ることはなかった。




     *****




ところ変わって、ただいまフレイヤ訓練スペースにおります。


「デカッ!」


それが俺の素直な感想だ。

いつも使う警備隊の訓練スペースよりも若干狭く感じるが、天井までの高さが結構ある。たぶん航空戦もできるように配慮されてるんだろう。後、別室にトレーニングルーム、給水所…というかドリンクバー(無料)、シャワールームにはサウナまでついてやがる。その上「イメージシュミレーター」まであるし。

ちなみにイメージシュミレーターとは仮想空間で様々な環境や状況を再現し、戦闘訓練ができる装置だ。簡単にいえばイメージトレーニングをすごくした感じかな?使用する際はヘルメットみたいなのをつけるそうだ。何気に実物を見るのは初めてだったりする。なんせこれ一個の予算で武装隊の標準設備が一式揃うのだ。地上にも数えるほどしかないとか。

「すげぇ充実っぷりだなぁ」

艦ひとつにこれだけの装備ぶち込むくらいなら、ちっとは地上に予算回したってバチは当たらないと思うんだが。いや、それだけ本局の航空部隊はハードな仕事場だってことなのかな。 うん、改めて地上の方にしといてよかったかも。

「おっと、ボーっとしてる場合じゃないな」

さっさと魔法練習とネタ魔法を試すか。

「そんじゃあ頼むぜ」

そう言い、左腕にはめられたデバイスに魔力を注ぐ。

《OK》

無機質な電子音声が律儀に答えてくれた。




     *****




「ふぅんぬうううぅぅぅぅ!!!キィエンザアァァァァンッ!!!」

ダークグレーのバリアジャケットをまとった俺は左手を天に掲げ、その頂点にある魔力弾に意識を集中させる。すると、赤錆色の魔力弾はその形状を変える。こぶし大の球体は押しつぶされるように少しづつ楕円の形に変わる。徐々に円盤のような平たい円形となっていき―――


――パァンッ!


魔力弾は形状を保つことができずに霧散してしまった。その様子に俺はガックリと肩を落とす。

「…やっばだみかぁ」

俺が今試しているプロトタイプシューター31番『ゆーふぉー弾』。通称『キエンザン』はフェイトの「ハーケンセイバー」を参考に…というかパクって編み出した魔法だ。フェイトの場合は魔力刃で斬ったりブーメランよろしく飛ばしたりだけど、これの場合は純粋に「飛ばす」ことだけに重点を置いている。 いや、ぶっちゃけ『キエンザン』やりたいだけなんだけどね…。

でもまあ、結果はごらんのとおりです。

「魔力構成に問題があったのか……それとも単に魔力が足りなかったのかなぁ…」

改良に改良を重ねたんだが、結局改善の余地は見られなかった。

努力むなしく、『キエンザン』はお蔵入りとなったわけで……。

「…ハァ」

訓練場の中心でひとりポツーンと胡坐をかく俺。ちなみに訓練場は今は俺一人しか使っていない。まあ艦に残っている部隊は基本待機だからな。

「やっぱし、問題は“これ”か……」


おもむろに自分の胸に手を当てる。わずかに感じる赤錆色の魔力。


(リンカーコアの障害……思った以上に曲者だな)


ランクは「E」なのに「F」より多いくらいしか魔素を取り込めない。魔力運用にも問題あり。もしかしなくても射撃魔法の構成が編めないのもコレが原因っぽいしなあ。


(まあでも、飛行適正があったのは素直にうれしかったな)

もしこれでだめだったら、わりと本気で管理局辞めてたかもしれんな。


「ううむ。でもやっぱしかっこいい魔法とか使いたいよなー」

派手な魔法ぶっ放すのは男の子の夢だかんなー。砲撃も射撃もできんけど。

まあ、俺はそんなことをブツクサ言いながら「ロープバインド」をチネチネして遊んでいる。―――と


「――あ。なんか閃いた!」


頭に走った閃きに、俺はすぐさまバインドの魔力を解除し、オーバーリングに登録されてる「ロープバインド」のプログラムを書き換える。

いくつものモニターを操作し、次々とプログラムを書き換えていく。そして最後に操作していたモニターを消して…

「―――うし!こんなもんか!」

さぁて。新たなるバインドのお披露目だ!


「いくぜ!」

《OK!プロトタイプ・ロープバインド!》

デバイスに魔力を流し込むと、「三本」のロープバインドが出現。ここまでは普通のバインドだが、ここから俺の組み込んだプログラムが起動。すると瞬く間にバインドが複雑に絡みついていき――




「新魔法!!『みつあみバインド』!!!」




―――“三つ編み”状のバインドが完成した。


「………なんかイメージと違うな」


まあいいや。一応登録しとこ。

こうして、また役に立つかどうかわからないネタ魔法が一つ増えたわけで。





一週間、短期研修生活。 三日目。


助けてください!!たすけてくださあぁぁぁぁい!!!


おおおおおおおおお落ち着けっ!まずは状況を確認だ!

きょ、今日も午前中にデスクワークを終わらせて、さて自分の部屋へ向かおうと部屋を出ようとした時………扉が開いた。そう、それは、俺が最も恐れていた事態――


「Oh…」

ナント!?ヴィータとなのはに遭遇!!イキナリすぎるだろうが!!

ナノハサンはニコニコ笑顔。でもその目には強い意思が宿っているように見える。簡単に言えばすごい張り切ってます。そしてその後ろにはトラウマハンマーことヴィータちゃん。若干顔を俯かせ、こちらをチラチラ見ながら俺と目線が合うと慌ててそらす、を何度目か繰り返している。正直、気が気じゃないです。


「はじめまして!って言うのも変かな?私、高町なのは。なのはって呼んでください!」

「太郎さん。これからお昼ですか?よかったらご一緒しませんか?」

「せっかくですから皆で一緒に食べましょ!ほら、ヴィータちゃんも!」

「えっ!?えええ?!!…あっあのっ…」


あっアカン!みるみるうちに話が進んでる…。は、早く逃げ道を確保せねば!!


「…えーと、高町さん?悪いけど俺――」

「なのはでいいですよ!」

…いやいやいやいや、フェイトといいキミといい何で初対面でそんなにフレンドリーなん?

「おーけーナノハサン。で、俺はこれから用事――」

「それじゃあ用事が終わるまで待ちましょうか?」

「い、いやあ。そっその結構時間かかるし、先に食べてて――」

「えと、じゃあその後って時間空いてますか?」


逃げ道ドンドン潰されてくしーーー!!??


と、とにかく今は目の前の強敵をやりすごさねば!そっ装備は!?



E.オーバーリング(ネタ魔法、ダウンロードしたおもしろ動画データばっか)

E.アメちゃん(イチゴ味、ソーダ味、2個づつ)




―――そんな装備で大丈夫か?




どこからか、そんな幻聴が聞こえてきた気がした……。あえて答えよう。


大丈夫じゃねぇ、大問題だ!!



………ってナノハサン!?何で俺の手をグイグイ引っ張ってんすか!?俺行かないって言ったよね!?


「少し、ほんの少しでいいんです!ヴィータちゃんとおはなし―――」

実力行使に出やがった!!しかも腕をガッチリつかまれて逃げられなくなった!?


あああぁぁああ、万事休すかぁ……。







……あれ?なんか廊下の方から銀色のなんかが近づいて…?


「――てめぇ!!俺のなのはに何してやがんだ!!」

ああ君か……。神崎――え~と?





スマン、忘れちった。


と、銀髪くんがドスドスと足音を立てながら俺となのはの間に割って入る。「きゃっ!」となのはが驚き声を漏らすが、とりあえず何とかなのはの手を振りほどけた。けど、

「その汚い手でなのはに触ってんじゃねぇぞ!モブ野郎が!!」

銀髪くんがこちらを睨みながら俺に罵倒を浴びせる。

ちょっ、ツバ飛んでるって。君が言いたいことはよくわからんが、最初に手を握ってきたのはなのはの方なんだが?―――っていうか

「失敬な。これでもトイレの後は入念に手を洗うほうなんだぞ」

「俺のなのはに手を出したんだ…タダじゃすまねえぞ」

オイオイ…「俺の」って…。しかも話聞いてくれないし。ボケスルーされちゃったし。

………ハァ、しゃあない。そう愚痴をこぼし、俺は財布を取り出す。


「すまんが今は1000しか持ってないけど…」

「……は?」

銀髪くんが眉をひそめたまま間の抜けた声を出す。

「いや、“タダじゃすまない”って言ってたから。カツアゲでしょ?」

「ちげぇよ!!」

大声で否定する銀髪くん。下っ端スキル「金銭で解決」は見事に失敗。

「そんじゃあパシリかな?ここ(フレイヤ)にアンパンと牛乳は売ってなかったんだが?」

「んなもんいるか!!」

「注文が多いなぁ………………………………………メロンパンか?」


「うがああああああああああ?!?!?!」


イカン、余計に怒らせてしまった。めちゃくちゃ地団太踏んでるよ。

後ろにいるなのはもヴィータも呆然…というよりドン引きしてるし。――あ、なのはさんが先に再起動。

「か、神崎くん!ちがうの、私とヴィータちゃんは太郎さんに用事があって……」

手をわたわたさせながら銀髪くんをなだめようと必死にフォローする。

すると、先ほどの醜態など無かったかのように(というか無かったことにした)銀髪くんの態度が180度豹変。

「なのは、こんな奴にかかわるとロクな事がないぞ。それに話し相手なら俺がなってやるぜ」

「え、えーとそうじゃなくて、私たち太郎さんに……」

「素直じゃないなぁ。別に照れることないんだぞ?俺がいなくて寂しかったんだろ?」

「え、ええと……」

なのはさん、さらにドン引き。その後ろにいるであろうヴィータは表情はうかがえないが、プルプルと震えるほど怒りを溜め込んでいるのがよーくわかる。

そして銀髪くんはよぉ気付け!!おぬし今三途の川に片足突っ込んでる状態なんだぞーーー!!



…………………………んう?これってよく考えてみたら逃げられるチャンスじゃね?



今、なのはもヴィータも完全に銀髪くんのほうに意識が向いている。銀髪くんは言わずもがな。

うむ、そうと決まれば。気づかれないように少しづつ後退。…そぉーっと…そぉーっと……ワタシは空気…空気…。


廊下の突き当りまでたどり着き、廊下の角に身を隠した所で、ついにヴィータの堪忍袋の緒が切れる。


「てめえいいかげんにしやがれぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!!」

「はっはっはっは。そうツンツンするなよ~」

「ヴィ、ヴィータちゃん落ち着いて!……あ、あれ?!太郎さんは?!」


銀髪くんの乱入によって生じた混乱に乗じ、撤退に成功!一刻も早く自分の部屋へ非難するべく廊下を全力疾走!走る走る。

ううむ、まさかの銀髪くんに助けられたな~。本人は気づいてないっぽいけどね。ま、この時ばかりは銀髪くん感謝するぜ。


――まあ、なのは達にとっては彼の迷惑伝説に新たな一ページが刻まれることになったけどね。



銀髪くん、本当に今さらだけど君は何がしたいんよ……。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ずいぶんと遅れた更新になってしまいました。

お待たせしてしまって申し訳ありません。作者です。

もう思いのほか遅れに遅れて、その上微妙に短い……。

この作品を見ていただいてる読者の方々には深く深くお詫びいたします。

どんずまってしまうこともたびたびありますが、1秒でも早くヴィータと太郎をイチャイチャ(?)させるべくこれからも頑張っていきます!!

次回は、ついに太郎とヴィータが……


【次回】


ヴィータ「私の罪」その3





[33468] 【9】ヴィータ「私の罪」その3
Name: はじっこ◆1601988e ID:a131b47e
Date: 2012/10/14 12:23





一週間、短期研修生活。 四日目。





「遅いぞ!!俺を待たせるんじゃねえ!!」


さて、短期研修も四日目に差し掛かり、今日もデスクワークをピャピャッと終わらせ、これから昼飯ヤッホイ!――っと思った矢先、

部屋を出てすぐに銀髪くんがアクティブに絡んできた。銀髪くんは部屋の前で腕を組んで仁王立ちして待っていたようだ。いやいや、おぬし仕事はどうした仕事は。


「すまん。記憶違いでなければ呼んだ覚えも待ち合わせた覚えも無いんだけど?」

「あぁ?」

いちいち怖いよキミ。

「ハッ!いい気になるなよモブ野郎が。お前の魂胆は見え見えなんだよ」

「???」

スマン、説明プリーズ。

「わかってんだぜ。お前の狙いははやてだってことは」

おかしいな。俺がいつも狙っているのはボケだけなんだが?

「その上、あろう事か俺のなのはにまで手を出すつもりだろ」

いえ、ありえないっす。むしろ距離をおきたいくらいです。

「けど残念だったな!なのはもはやても、もう俺に惚れてんだよ」

「いや、そのりくつはおかしい」

「あ゛?」

だから怖いって!

「いやね、その割にはなんか彼女達のほうから避けてるように見えたから」

「くくっ、わかってねえなぁ。あれは照れ隠しだよ」

いやいやいや、あんな露骨に嫌そうな顔が照れ隠しに見えるか?

「さて、そこでだ」

ようやっと本題です。

銀髪くんは俺に向かって「ビシィッ!」と指を刺し、まるで勝利宣言でもするかのように声を張る。


「いいか!今から訓練場に来い!俺がお前に自分の立場ってもんをたっぷりと自覚させてやる!」


すごく、いやかなりの確率で嫌な予感。

「俺が勝ったら、二度となのはたちに近づくんじゃないぞ!」

いや、勝つも負けるもいつの間に勝負することになったんだ?


言いたいことを言い終えた銀髪くんは、「今のうちに遺書でも書いとくんだな!」と物騒な捨て台詞を残し、その場からいなくなった。


「………何したかったんだろ?」


銀髪くんがいなくなったほうの廊下をしばらくぼーっと見ていたが、「まあいっか」と考えることを放棄。

俺は銀髪くんの行った廊下とは反対方向に、自分の部屋に向かう。



うん、銀髪くん来いって言ってたけど、俺行くなんて一言も言ってないからね。なので行きません。

だって行ったら絶対ボコボコされるって。アイツの目マジだったもん。痛い思いするってわかってて行く奴はいないと思うんだ。動物的生存本能って奴だ。

そもそも戦力差ありすぎ。ランク『E』の俺と『SSS』の彼じゃ勝負も何もあったもんじゃないだろうに。それに、そういうのが嫌だから出動隊に入るの断ったんだし。

あ、そうそう出動隊といえば今日なのは達は出動なのでいません。彼女達のいないうちに魔法訓練しようと思ったけど、アイツいるんじゃあなぁ…………まあ別にいいや。

「今日は部屋で映像鑑賞だし」

今日の俺はちょっと機嫌がいい。実はダメもとで頼んでいた航空部隊の摸擬戦の映像記録を借りられたのだ!

摸擬戦と聞いてあなどるなかれ。箱を開けてみればハリウッドのスタントマンも真っ青のド派手な衝撃映像のオンパレードだ。魔法すげー。

しかもその映像のメインを飾っているのが、みなさんご存知「高町なのは」。きっとすごい映像が見られるはずだ。

「今後の飛行魔法の参考になるといいなー」

まあホントは直接本人から教わりたいなぁ~…なんて考えた時期もあったけど、うんダメ。銀髪くん以上に厄介事の乱闘パーティだ。


「さわらぬ神になんとやらだ」


いのちだいじに、です。





一週間、短期研修生活。 五日目。



―――うっぷす!!!!!


こいつぁ困った。ああ困った。


「てめぇ………昨日何で来なかった!!」

ちょうどお昼にさしかかろうとした時間、まだ仕事中だというのに自動ドアを開けて誰かが入ってくる。基本的に仕事中は部外者は入室厳禁のはずなのにそんなことお構いなしに入ってきた。

なんかヤバそうな剣幕に俺は本能に従い席を離れようとして―――

「――ッ!?いでで?!」

いきなりバインドでぐるぐる巻きにされた。


「―――捕まえたぞ!どこ逃げる気だ!」


そんで、仕事中に突入してきた人物――銀髪くんに胸倉をつかまれる。胸倉つかむのはともかくとして、ここで魔法使うのは不味いだろ!!

「ぎ、ぎぎ銀髪くん!?オチケツオチケツ!!とりあえず深呼吸!その後バインド解除!ここで魔法は使っちゃヤバイって!!」

あと、腕もう少し緩めて。若干苦しい!

「モブの分際で俺をはめやがって…。オリ主の俺を騙すとはいい度胸だな?」

話し聞いてくれない?!しかもすんごい怖わあい!?

ま、まさか昨日の放置がこんな形でツケが回ってくるとは…。

銀髪くんのもたらした混乱で、職場が騒然となる中、俺は何とか事態の収拾を図るべく説得を試みる!主に俺の生存のために!!

「い、いやあ、いやねぇあの後ええとー…用事。そう!大事な用事があったんだ。いやほんとに。」

一応、魔法開発とデバイス改造も自分の身を身を守るために必要なことだよね!うん、間違っていない。

「この野郎、何ふざけたこと……まてよ、そいうことか」

ふ、ふう、この様子だと納得してくれたようだ。さすが俺!ナイスいいわけ!俺の話術にかかればこれくらいの……


「――俺を出し抜いてなのは達に会ってやがったんだな!!」


――――あるぅうええ??すごいベクトルの勘違いぃぃ!?


「ちょ、違っ、今ワタクシ達の間にものすごい食い違いが発生しておりましてよ!軌道修正、会話の軌道修正を!!……あの、銀髪くん?銀髪さま?その左手に収束しつつある魔力は???」

ウェイト、ウェイト!!銀髪くん!訓練所でもないのにそんなん撃ったらココがわきあいあいとした仕事場から阿鼻叫喚の廃墟になっちゃうから!


「覚悟しやがれ…二度となのは達に手出しできないようにしてやる」


あっはーーーー!聞く耳もってくれませ~ん!……ああ、こりゃあもうダメかなぁ。もう半分あきらめの態勢に入った俺は「○リーザにやられたク○リンってこんな気持ちだったのかなー」と現実逃避を始め…


またも、自動ドアが開いた。


「こんにちは~。仕事中失礼します。太郎さんい―――――――――って、ええぇぇぇぇぇぇぇえええええええええぇぇぇ!!!???」

我らが主人公、高町なのは登場。…とともに目の前の惨状に悲鳴を上げる。そんな中、私こと山田太郎はといいますと……


「……こんにちはなのはさん。―――さようなら」

売られる子牛の目をしてました。


そんな俺の様子になのはが「ふえぇぇええ?!」と、さらに動揺し声を上げる。慌てて銀髪くんをとめに入る。

「か、神崎くん何してるの!?ここで魔法使っちゃだめだよ!はやく太郎さんおろして!」

「やあなのは!俺に会いに来たのか?うれしいなあ」

「……ハロー、そしてグッバイ」


パニック状態のなのは。勘違いする銀髪くん。はりつけのまま遠くを見る俺。阿波踊りする局員さん。


かなりカオスと化してしまった仕事場は待機中だった出動隊の方々が突入したことにより沈静化。まあ、結果的になのはが止めに入ったおかげで俺も助かったわけでして。

でもなのはさん。あなたも仕事中に俺に会いに来るのはどうかと思うんだが。ちょっと複雑です。





一週間、短期研修生活。 六日目。







来た。








とうとう来た。この日が。








短期研修六日目。……そう、六日目だ。


今日だ、今日が終われば……明日の午前には帰れる!!いよっしゃああああ!!


はは、ははは。長い、長いウィークだった…。もう連続便所メシはさすがに俺のメンタルが挫けそうだったぜ。

でも、そんな湿った日々も今日ですべて終わりだ。明日になれば俺はフレイヤからオサラバし、さらに次の日にはスーさんのお茶をおいしくいただける日常が戻ってくる。

しかも今日は、なのはも、ヴィータも、はやても、出動でフレイヤには居ない。Yahooooooooooo!!さらに付け加えれば、銀髪くんは昨日の騒ぎのせいで本局に強制送還されたそうだ。自業自得といえばそうだが、彼は結局なにをしに来たのだろうか?とりあえず彼の迷惑伝説に新たな歴史が刻まれたとだけ言っておこう。

まあでも、おかげで現在このフレイヤには俺の平穏を脅かす要因が皆無ということだ!もうコソコソと隠れる必要も廊下を壁沿いに歩く必要もナッシング!もうスキップしちゃうもんね!

「シャバの空気がうまいぜ!」

思わず鼻歌がこぼれる俺の姿に、廊下をすれ違った局員さんはなぜか若干かわいそうなものを見るような視線を向けられるが、俺はまったく気にならない!スーパーハイテンション!

仕事の方も昨日のこともあり、昼前に終わりでいいといわれたので最終日は訓練所でめいっぱい飛行魔法訓練に使うつもりだ。

「昼飯も食ったし、少し休憩したら行くか」

ああ、平和ってすばらしい!




     *****




「ちょ、ちょっと調子に乗って飛びすぎた……うっぷ」


フレイヤの訓練場。そこで俺は魔力が尽きるまで飛行魔法で飛び続け、結果として疲労+飛行酔いで完全にダウンしていた。

もう立ってる気力も無いので人目が無いのをいいことに訓練場のど真ん中で大の字になって寝転んでいる。酔いが引いていき、息を整えながら俺は心地よい疲労感に身をゆだねていた。

「こんなに飛んだのは久々だったな~」

最初に飛行魔法が使えたときもこんな感じだったな。地上にいた頃は警備隊の訓練場で飛んでるか魔法やデバイスいじったりがほとんどだったからな。あとは仕事とか、スーさんとお茶の飲みながら雑談。ソゥちゃんが俺のおやつを勝手につまみながら筋肉について熱く語ったり。

「……あー、いかんなぁ。思わずしんみりしちゃうじゃんか」

というか、事の発端はあの短期研修の推薦状だったっけなぁ。後で確認してみたら、あれ出したのなのはさんだったと言うじゃないか。

「まったく、何でまたこんな面倒なこと……」

そんな風に愚痴ってみるけど、――――何でかはわかっている。



―――少し、ほんの少しでいいんです!ヴィータちゃんとおはなし…



いつか聞いたなのはの言葉が脳裏に浮かぶ。

「…」

はっきり言ってしまうと、あの日の出来事は俺の中ではもう終わっている出来事だ。過ぎたことをいちいち気にはしない。でも、それでも俺は彼女に――ヴィータに会う気も話す気もない。



―――私はやっぱり大切なことは直接会って伝えたほういいと思うんだ。 ヴィータにとっても、タローにとっても…



いつだったか、フェイトがそんなことを言ってたっけ。

でもちがう、ちがうんだ。俺が彼女を避けているのはそんな綺麗な理由じゃないんだ。なのはにも悪いとは思っている。わざわざ俺とヴィータを引き合わせるためにこんな面倒なことまでしたのだから。

おそらく彼女達が気にかけるほどヴィータは追い詰められていたのだ。 過去の行いに。自分の犯した“罪”に。

彼女の中ではそれだけ自分のしたことが許せなかったのだろう。

でも、それだけだ。俺にとってはそれだけなんだ。


「ん…?」

ふと、わずかに眠気がした頃、そろそろ休憩も終わりかと起き上がった時だった。訓練場の出入り口から人の気配がする。

もしかしたら待機中の部隊の人がココを使うかも、と考えていると――


扉が開いた。


そこにいた、その小さなシルエットは少女のもの。航空部隊の制服に身を包み、視線を上に向ければ燃えるような鮮やかな赤髪が目に入る。髪型は二つ分けの三つ編みにしている。そして、こちらに向けられた青の瞳。女の子にしては少々つりあがった目は一見すれば勝気な印象がくるのだが、今はハの字に形を変えた眉毛によってかえって弱々しく見えた。

「……ぁの…」

少女―――ヴィータの顔は戸惑いの色がうかがえるが、その双眸はしっかりとこちらを……俺を見ていた。


一瞬、呼吸が止まる。


「な、なん、何で……」

どもりながら、俺の口から言葉が漏れる。

記憶が確かならヴィータはまだ出動隊と出ているはずだ。帰ってくるにしても早すぎる。

「……えと、はやてが、その……」

……その名前で大体わかった。おそらくはやてがヴィータの仕事を肩代わりして早めに帰らせたのだろう。……まったくどうして神様はイベントがお好きなようだ。

「…」

「…」

この沈黙はいつまで続くか。いつまでごまかせるのか。

もう、正直このまま逃げても、多分また同じことがこの先何度もあるような気がしてならなかった。

「…とりあえず、場所変えよう。ココだと落ち着かんし」

「…う、うん」


いい加減、覚悟決めろってか……。




     *****




ココはフレイヤの休憩所。

簡素なベンチがいくつも並び、エアコンにより適度な温度に調整された部屋だ。わずかに設定温度が低いのは訓練後の体を少しづつ冷ますためだとか。いつもなら一息つくためのリラックスできる場所なのだが、今の俺にとってはエアコンの寒さなのか悪寒なのか、とにかく寒さを感じるのに背中から気持ち悪いくらい汗をかいている。

早く終わらせよう。その意気で俺は会話を切り出す。


「――えーと、前も言ったかもしれないけど、俺襲われたときのこと全然覚えてないからさ、それに謝罪ももう――」

「嘘……だよな?」

突然のヴィータの言葉に、息を呑む。

「覚えてるん、だよな。あの、夜のこと………。じゃなきゃ、あたしをそんなに避ける理由、わからないから…。」


完全にバレとる。

やっぱ俺の嘘が下手だったか。それともベルカの騎士は総じて勘が鋭いのかな。多分、ごまかしは効かないな。

躊躇したのは一瞬だけ。


「………ああ、覚えてる」


正直に答えることにした。

「あの時、君は俺のリンカーコアを『闇の書』に蒐集した。……そうだろ?」

「…ん」

「その後、その反動で俺は気絶。そのあとアースラに運ばれた。…で、その様子だと――」

「タローのリンカーコアを、あたしが、傷つけたせいで、そのせいで…」

「…それも知ってたか」


こんなこと知ってる奴は限られている。多分クロノ以外にいないだろう。

アイツめ……こういうヘビーな話をほいほい他人に話さないでほしいんだがな。でもクロノのことだ、話した上で俺に会うことを止めたんだろうな。――――逆効果だったがな。

するとヴィータは、俺の前に立ち、わずかに瞳を揺らしながらもこちらを見据える――――頭を下げる。

「こんな、こんなことで許されようなんて思わねえ。でも!あたしにできることなら力になる。なんだってする!」

彼女の強い感情が声に乗り、俺を揺さぶる。でも、急にそんなこと言われた俺は戸惑いのほうが大きかった。

「いや、俺はその、そういうのは、ちょっと、というか……」

多少どもりながらも、言葉を続ける。

「その気持ちあるだけで十分だから。それに一年以上も前のことだし」

「でっでも!タローが“酷い部署”に入れられたって聞いて、心配で――」

後半の言葉は俺の耳に入らなかった。





――――おい、今コイツは何て言った?スーさん達のいるあの場所を…





(―――――――ッ!!おちつけ!!)

落ち着くんだ。多分ヴィータはあの保管課の噂を真に受けているだけだ。別にスーさんたちのことを『酷い』と言ったわけじゃないんだ。

今は気を落ち着けるんだ。

ヴィータに気づかれないように静かに深呼吸。沸騰しかけた脳みそを再起動させる。

「え、ええと、なんか勘違いしてるみたいだけど俺は自分で今の部署に入ることを決めたから、入れられたってわけじゃないし」

「でも、その、あたしの知り合いに頼めば、別の部署に―――」

それこそ冗談じゃねぇ!

「…俺は、今の部署のままでいい。それにうちの部署のことは君が聞いたような、噂みたいなことはないから」

「で、も」

「それに、何度も言うようだけど、もう過ぎたことだし。俺のことは、もう気にしなくていいからさ」

矢継ぎ早に言葉を放つ。出来ればこのまま一方的に話を打ち切ろうかとも思った。

でも、ヴィータの言いたいように言わせてこのままあきらめてくれれば、俺はそんな風に考えていた。


「―――――………ぃん、だ…」

「………え?」

小さく、けれども強い声。





「償(つぐな)いたいんだ…!」





「…――」

何か言わなければ。―――でも、言葉は出なかった。

「あたし、タローに、何が出来るかわからない。わからないけど……タローの助けになりたい、力になりたいんだ!」

…ちがう。そんな言葉聞きたいんじゃない。

俺は、ただ毎日を平穏に、退屈に、怠惰に、刺激的に、ちょっとした趣味を持ったり、美味いものを食べたり、お金をためてみたり、無駄使いをしたり、ネタ魔法を開発したり、デバイスパーツを探しに町を散策したり、ぶっ倒れるまで魔法の訓練したり、保管課の皆と馬鹿な話をしたり、スーさんのお茶を飲んだり、ソゥちゃんとおやつ食べたり…いつか大空を飛んでみたいとか―――そんな、そんな毎日を、そんな日常を望んでいるんだ。


――なんだよ、それ

――なんだよ『償う』って…


その時の俺は、研修期間中のストレスが溜まっていたからなのか、それとも目の前のトラウマに極限状態だったのか、覚えているのは一つの思考に頭を侵食されていく感覚だけだった。


もう、いい加減………我慢の限界だ。


「……………………必要ない」

ようやく、口が開いたと思ったらそこから出た言葉は、声は、自分でも驚くほど冷淡だった。

ヴィータは、俺の言葉に固まっている。

「―――――……ぇ」

「そんなもの、必要ない」

「で、でも…」

彼女は何か言おうとしていたが、俺はただ淡々と言葉を発する。

「あんたには何も出来ない」

「ッ!?そ、そんなことねぇ!!あたしは―――」

一瞬あっけにとられる。次の瞬間、怒声のようなヴィータの声が休憩所内に響く。

いつもの俺なら驚くなり怯えるなりしたのだが、今はなぜかそういう類の感情は浮上しなかった。いや、そんな感情の余地が入らないほど俺の中ではそれ以上の『ナニカ』に支配されていた。


俺は


「なら―――……」


刃を放つ









「……―――戻してくれよ、俺のリンカーコア」









その時の彼女の顔を、俺は忘れないだろう。

先ほどの激情に染まった顔が、ドライアイスをブチ込まれたかのように凍りついた。

「何かしたいって言うなら、『償いたい』って言うならさ―――元に戻してくれよ、返してくれよ、あんたが俺から奪ったリンカーコア」

俺の放つ言葉に答えようと、ヴィータは口をぱくぱくと動かし必死に声を出そうとするも、彼女の声帯は言うことを聞いてくれない。

「正直言うとさ、今更なんだよね。そっちがどうが思ってるのか知らないけどさ、俺としてはもうこれ以上あんたみたいなのと関わりたくないんだよ」

「―――ぅ、ぁぁ…」

「それとも『自分は罪を償いました』っていう免罪符でもほしいのか?さっさと償って楽になりたいと?」

「ッ!!ち、ちがう!!あたしはそんな、そんなつもりじゃ―――」

彼女はあらん限りの力で拳を握り、声を絞り出す。見てもわかるくらい震えていた。彼女が拳をきつく握り締め震えを押さえようとするも、力を込めただけ震えが強くなってしまうという悪循環に陥っていた。

そんな彼女の姿を見ても俺の思考は、冷え切っていた。



たまに、ふと頭によぎる。

もう少し魔力があれば、もっと魔法が使えたかもしれない。

リンカーコアが傷ついてなければ、射撃魔法もそれ以外の魔法もうまく使えたかもしれない。

士官学校のやつらにも、馬鹿にされなかったかもしれない。

―――――もっと、空を飛べたかもしれない。


分かってる、これはただの未練だ。

知ってる、世の中には俺なんかよりも理不尽な現実に立たされている人がたくさんいることも。そんな人たちに比べれば俺の抱えている負の感情がどれだけ醜悪なのかも。

彼女に会わなければ、俺は魔法に出会うこともなかった。それは事実だ。


――……でもな、俺はアニメや漫画に出てくるお人好しの主人公みたいな殊勝な奴じゃあないんだ。


「……ふざけんなッ」

「―――…ひ…」

ヴィータの顔から血の気が引いていく。目を見開き、瞳孔がすぼまる。

自分では、どうにもできないくらい俺の中で蓄積されていた負の感情がとめどなく溢れ、噴き出す。


目の前の存在が、『忌々しかった』。

「いくら御託並べても結局はあんたの自己満足じゃないか!うんざりなんだよ、これ以上俺の人生に、居場所にちょっかい出されるのも厄介事持ち込まれるのも!」

「あ、ぁ」

「助けになりたい?力になりたい?そんな綺麗事で丸く収まると思ってんのか?それとも、あんたが騎士辞めれば俺の魔力が戻るのか?―――答えろよ!!!」

「―――っ!?」




「『償う』ってなんだよ!あんたに一体『何』ができんだよッ!!!」




休憩所に、負の感情を撒き散らすかのように俺の叫びが反響した。

音の波の余波が消え、訪れた静寂はまるで針のように体中に突き刺さる感覚を思わせた。

けれど、永遠に思えた沈黙は突如終わりを告げる。


「……………………な……も」


普段の彼女からは、想像できないほど弱々しい声だった。


「………何、も……できっ…出来ない」


小さな体は震え、嗚咽が漏れ、涙が伝う。


「…」


「……ごめ゛っ………ごめんな゛ざいっ…」


必死に涙を抑えようとするその姿に、そこに『鉄槌の騎士』はいなかった。それは見た目相応の少女の姿でしかなかった。

そんな彼女を見ても、俺の思考は動揺も、ざわめくことも無く冷めたままだった。

それ以上に、もうこの場所にとどまりたくなかった。


「―――……もう、これ以上俺に関わらないでくれ」


もう用はないといわんばかりに俺はヴィータに背を向け、休憩所の出口に向かう。


「――――……っ、……っ」


彼女は最後、何か言っていた様な気がしたが俺は無視した。

何を言っていたのかはわからなかった。―――――知りたくも無かった。



自動ドアが、閉まる。






俺と、彼女の『世界(つながり)』を絶つように。


















     *****




「うーん、ここにもおらんかぁ」


フレイヤの廊下をはやては早足に歩いていた。

先ほど出動隊の引継ぎも終わり、先に帰らせていたヴィータの様子が気になり、こうして探して回っている。

おそらくは真っ先に太郎の部屋に向かったと予想し、彼の部屋をたずねたがおらず、心当たりのある場所をしらみつぶしに探し回っているのだ。


「…大丈夫かなぁ」


彼女は少し強引過ぎたのでは、と若干後悔している。しかし、太郎の研修期間も明日には終わりミッドに帰ってしまうとなれば、もう今日しかチャンスが無いのだ。

ヴィータに先に帰るように提案したときも、ヴィータは最初こそ躊躇してたが、さすがにもう四の五の言ってられなかったので「主として命令や!」と職権乱用までして送り出したのだ。

でも、やはり心配であることは変わりない。せめて自分が間に立てればとも思ったが、これ以上出動隊に穴を開けるわけにも行かず、我がままを言うのも忍びなかった。


そして、あれから5分ほど廊下をさまよい、


「―――――……あ!ヴィータ!」


訓練所の休憩室の扉の前に彼女はいた。はやては急いで声をかけ、


「さがしたで~。太郎さんとは会え――――」


その姿に、息を呑んだ。


「ッ!?ヴィータ!!どないしたん!?」

「――――………ぁ、ぅ…」


そこにヴィータは確かにいた。


しかし、少し俯いた彼女の顔は血の気が失せて真っ青だった。声も生気を感じられず、瞳も虚ろで涙の跡がある。いや、今も涙を流していた。


「ヴィータ!何があったんや!太郎さんとなんかあったん?!」


ヴィータの両肩を掴み、揺すってみたが反応が鈍かった。一体、彼女に何があったのか問うてみるも、

「ヴィータ!」

「……ぃ、た」

「……―――え」

「はやて、痛い……」

「――っあ!ご、ごめんな」

強く掴みすぎたようで、はやては慌てて掴んだ手を離した。


「―…」

「――…ヴィータ?大丈夫?」

心配そうに声をかけるが―――ヴィータは、はやての横を通り過ぎる。


はやてを、一瞥もせずに。


「……え?」


「…ごめん、疲れた、から」


そう言い、ヴィータはフラフラとした足取りで自分の部屋に入っていった。

普段の姿からは考えられないほど変わり果てた彼女の姿に、自動ドアが閉まった後も、はやてはただ呆然と立ち尽くすほかなかった。





翌日、ヴィータは部屋から出ることはなかった。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



どうやら自分はシリアスが苦手らしいと最近気付いた作者です。

今回はかなりごちゃごちゃになってしまいました。小説って難しい。

さて次回、太郎はいったいどうするのか?


【次回】


太郎「ただいま土下座の練習中」



あれ?ネタバレ?



[33468] 【10】太郎「ただいま土下座の練習中」
Name: はじっこ◆1601988e ID:db21410a
Date: 2012/12/09 16:33







時刻は深夜。ここは都心から離れたとあるマンション。


そこのとある部屋の一つ、そこで一人の少年が頭を抱えていた。

少年の名は山田太郎。

元々は第97管理外世界『地球』に住んでいた少年だ。

彼は名前も含め黒目黒髪中肉中背の容姿は写真の端に写ったら背景と同視されるような平凡だ。しかし、彼を平凡のカテゴリには入れられないある一つの要因があった。


それは、前世の記憶を持つ『転生者』と呼ばれる存在だからだ。


しかしながら前世でも平凡の部類に属していた彼にしてみればあまりプラスな要因はないことだろう。

さらに付け加えれば、今現在少年を悩ませている人生最大の―――……




「やっちまったあああぁぁぁぁ………」




……―――人生最大の己の失態に対してまったくといっていいほど役に立たないのだった。




     *****




翌朝。時刻7時14分。


(あ、あはは。朝になっちった…)


ご紹介に預かりました。あれから寝不足に悩ませられる事になってしまった山田太郎です。ただ今絶賛後悔中でございます。

あの地獄の短期研修から生還し、あれから5日が経ちました。


そう5日です。


研修6日目にヴィータと話し一方的に罵詈雑言ぶちまけたあの日から5日がたったのだ。冷静になって考えるには十分な時間だ。もちろん後悔するのにも十分な時間だ。

というか、帰って早々に俺は自分のあんまりな醜態に悶絶。壁に頭突きをするなどの奇行にはしった。

そんな精神状態なので最近は熟睡できた記憶がない。

「何で俺はあんなこと言っちまったんだ……」

今考えてみる。なぜあのタイミングで自分があそこまでブチ切れたのか……やっぱ日ごろのストレスが原因だったのかな。


が、どう言い訳したところで自分の愚行が消えるわけではない。今の俺は『人畜無害の平凡少年』ではなく『女の子を泣かせた鬼畜野郎』という称号を背負ってしまったのだから。


「…シャレにならん」


さらに、俺が密かに恐れていることがある。いや、最も恐れている事態――――なのは達のことだ。


考えみてほしい。もしも身近な友達が誰かに泣かされた、いじめられたなんて聞いたら皆はどうする?

けんか、いじめうんぬんはおいといて先ずはその原因となった人物に詳しい話を聞きたいと思うだろう?

さらに言えば、感情的になりやすいまだ精神が発達途中の子供なら――――言わずもがな優先されるのは『感情的』な方だ。

まあ、それが彼女達に当てはまるのかはわからない。だがいくら大人びているといっても子供は子供だ。納得できないことはとことん納得できない。

その結果、俺の不安は夢という形で現れた。


※音声のみでお楽しみください。




「……なんでヴィータちゃん泣かせたの?……ねえなんで?ねえねえねえねえねえねえ……」

「……フム、貴様に人の血が流れているかその頭をカチ割って確かめてみるか――レヴァンティン!」

「ちょっ、まっ――――ギャァァーーーーーーーーーーー!!」


   BADEND




こんなんで眠れるわけねーだろボケェェエエ!つか怖ええよリリカル主人公!それ以前になんでシグナムいんの!?どーなってんの俺の夢ぇ!?



ハァ…もう正直このままベッドに潜っていたいけど、カーテンの隙間から差し込む光がダイレクトに俺の顔に当たり、しつこいくらいに朝の訪れを知らせてくれる。時間的にもそろそろヤバイ。

もちろん今日も士官学校の講義はあるし保管課の仕事もある。

「講義行きたくねぇ~…」


――とは言うものの、時間は待ってくれないし講義も待ってくれない。うだうだ言いながらも俺は制服に着替え始める。

目に隈を作りながら5日目のけだるい朝は始まった。



     *****




結論から言えば講義の内容はまったく頭に入らなかった。


目下、俺の頭を埋めているのは言わずもがな、ヴィータのことだ。

さすがにあんなことをしてしまったんだ。一言、謝るくらいしないと。とまぁ、ヘタレなワタクシです。精神年齢30です。……でも、

(はあぁ~。どうすりゃいいんだよ)

俺は彼女に対する苦手意識もさることながら元は被害者加害者で割り切っていたのだ。自分から壁を作り、距離を置いていた存在に今度は自分から進んで接触するなどビビリの俺には難易度が高すぎる。

(自分で吐いた言葉で首絞めてらあ…)


さっさと謝って楽になりたいとか……


(でも、……俺って―――)


どうしたいんだろう?


「――はぁ」


もう既に講義は終わっており何人かは席を外し、いくつかのグループになっておしゃべりを開始した。もう休み時間か。

ちなみに俺は机に突っ伏してます。だって寝みぃもん。


―――――ぐぎゅごごごごおおぉぉ…


が、どうやら三大欲求の一つは俺の眠りを妨害する気満々のようだ。


(……そういや、朝飯食べてなかったっけ。その上弁当も用意してなかった)


最悪やん。


「…しゃあない。どっかで買ってくるか」

そう思い立ち、だるそうに席を立つ。



「失礼する。タロー殿はおられるか?」



突如、教室の入り口あたりから鈴のような声が響いた。突然の事だったので特に意識せずにドアの方に視線を向けると、

一人の少女が立っていた。

身長は大体130cm程。服装はウチの士官学校の制服ではなく陸士訓練校のもの。青色の髪と藍色の瞳が印象的だ。だがそれ以上に彼女の髪型、背中まである長髪になぜかもみ上げ部分だけが見事なタテロールだ。その上、ミッド(というか現代)では聞くことはない独特な喋り方―――

「おお!ここにいたでござるか!」

いわゆるサムライ口調。

そんなござる少女が俺の存在に気付きこちらに来た。うん、顔見知りなんだよね。

「……ありゃ?ルッチー?どしたん?」

と、突然現れた少女にそんな風に声をかけたのだが…

俺の言葉に少女はぎゅっと眉根を寄せた。

「む…タロー殿、拙者はその呼び名はあまり好まないのだが…」

「あ、ああ、すまんルティエラ。いつもソゥちゃんが言ってるから耳に残ってて――」

「『瑠璃(るり)』」

「――へ?」

「拙者の名は瑠璃でござろう」

「は?……いやいやいや、そっち本名じゃないっしょ?」

「…たしかに『ルティエラ・バルティエール・フォン・ファブリツィウス』は家柄を含め拙者を示す名である……だが、それは拙者の名であって名にあらず!」

声大きいよ。皆見てるよ。目立ってるよ。

「拙者は無情な一振りの刃。それを己に課すために得た名――いや、そう望んだからこそ得た名が『瑠璃』。拙者の誇りであり仁義でござる」


うん、今日も絶好調ねキミ。





おっと、いい加減ちゃんと紹介しないとな。

この少女の名前は「ルティエラ・バルティエール・フォン・ファブリツィウス」。歳は俺より3つほど下の13歳。

陸士訓練校の方に通っているんだが短期研修でいろんなトコに顔出してるんだとかで仕官学校の講義にもたまに出てるのだそうだ。

彼女のご先祖様は昔、古代ベルか時代に存在した数多の王の一人に仕えていたとか何とか…。今は聖王教会の方で騎士をやっているのだそうだ。かくいう彼女も騎士見習いなんだってさ。

そういえば最初に会ったのは半年くらい前だったか。

たしかいつもみたいに保管課で弁当食いに行くときに教室出たとこの廊下でソゥちゃんと一緒に並んで歩いてたんだっけ。





『おお!タローおっす~』

『おっすー…ってソゥちゃんその隣の子は?』

『…』

『んお?ルッチーだよ?』

『…(むっ)』

『ちょい、なにその「もう知ってるよね?」みたいな返答は。初対面だし初対面』

『はじめまして!ソゥちゃんです!』

『お前ちがう!隣の子!』

『なぬ!ナンパだなっ!』

『ちがうわ!』

『ぶぅ~…ちまらん~』

『…』

『ほら、隣の子があきれちゃってるじゃんかー』

『………ルティエラ』

『へ?』

『おおう。ルッチーツンデレちゃんだ~』

『…』

『え、え~とルティエラ…ちゃん?はじめまして俺はタロウ・ヤマダ。ファイナル常識人です』

『………(ぷい)』

『あ、あれ?』

『…(すたすた)』

『(って完全に無視されたぁぁーーー!?)』

『あはは~タローふられてやんの~』





―――ああ、そういえば最初は見事に相手にされて無かったっけな。無言で俺の横通り過ぎて通行の邪魔だといわんばかりの視線ぶつけられてたっけな…はは。

確かそん時にソゥちゃんから聞いた話では訓練校との合同で摸擬戦をした時にソゥちゃんとぶつかったのがルティエラなんだとさ。

しばらく後になって聞いた話ではルティエラは陸士訓練校でも同年代では相手にならないくらい強く、年上でさえも勝てないと言われる位の実力があるんだと。今まで負け知らずだったらしいが、ソゥちゃんとの摸擬戦で――見事に完敗した。

まあソゥちゃんだしね。仕方ない。

でも本人は納得できなかったそうで、何かあるたびにコッチに来てソゥちゃんに摸擬戦を申し込んで来るのだ。完全にライバル視してるなこりゃ。

さて、ここまで聞いてみると俺と彼女との接点は皆無、という程ではないにしてもせいぜいが『知り合いの知り合い』ぐらいの認識しかなかったんじゃないかと俺は思う。 

まあ今の彼女になったのにはちゃんと理由もありきっかけもあった。

それは俺がいつものように訓練場で魔法訓練をしていた時だった。その日は自作デバイスとバリアジャケットのテストをしていた。





『……ううむ、ジャケットの展開速度が遅いなぁ。引っかかったとき首絞まるし、マフラータイプのヤツはボツかなぁ』

『…(すたすた)……ん?』

『これはどうだろ…………動きにくッ!?裾が邪魔すぎるやん…。誰だよ着物は戦闘服なんて言ったやつは!…………俺か』


『………………………………ッ!!??』


『はぁ、これもボツ……あれ?』

『………(すたすたすたすた)』

『あれ?君は確か、ルティエラちゃ……え?』

『…(すたすたすたすたすたすたすたすたすたすた!)』

『うおおお!?(なんかすごい速さで接近してきたッ?!競歩か?競歩なのか!?)』

『!!(ガシッ)』

『ちょ、ま(腕つかまれた!?てか捕獲された!?だ、誰かヘルプゥゥ!!)』


『そのデバイスをどこで?!』


『――――――はへ???』

『どこで手に入れたの?製作者は?バリアジャケットのデザインは誰が!?』

『え?ちょ、ちょっと』

『タイプはミッド?ベルカ?これストレージ?AI積んでるようには見えないけど?管理局でも見ない型式だし教会でもこんなの見たことない!』

『ゆ、ゆさ、揺さぶらないで…うぷ』





―――とまあ、これがきっかけとなりルティエラの方から話しかけてくることが多くなった。実はこの後も結構大変だった。

俺がバリアジャケットとかデバイスを趣味で作っていると聞いたときの彼女の豹変ぶりは…なかなか怖かった。

その日を境に、事あるごとに俺に会うや否や『バリアジャケットのデザインをしてくれ』とか『デバイスを製作してほしい』とか言いながらなんか重そうなアタッシュケースを押し付けてきたり……結構な重さに中身を見る勇気がなかった。もちろん丁重にお返しした。

だが、彼女の行動力はそれだけにとどまらなかった。

俺がいつもデバイス開発や作成とかに整備士達が使っている整備室を借りているのをどこで聞いたのか、そこにまで彼女が押しかけてきたのだ。その上厳重に封印していた俺の黒歴史ノートを見られるはネタ魔法を見るや弟子にしてとか言い出すわ……

俺は確信した。




このコ……厨二だ!!!!





―――最初会った時なんかは俺作の厨二バリアジャケットにめちゃくちゃ興味を注いでたし、整備室に山積みになってた失敗デバイス―――もとい、『厨二デバイスシリーズ』という厨二魂の名の下にノリと勢いだけで作り出した欠陥だらけのデバイスを見て、「すべて買い取る!」なんて言い出すわ、ある日を境にサムライヴォイスになってるわで……


あれ?何で俺の周りってキャラ濃いやつばっかなの?




「タロー殿?タローどの~?」

「……はっ!」

遠い彼方に向かっていた俺の意識が引きもどされる。

「どうしたでござるか?遠い目などして?」

……貴女の厨二爆裂キャラ濃度に眩暈がしたなんて言えませんです。




     *****



「時に、アラニア殿はまだ本局の方に?」

「ん?ああ、一昨日出たから多分あと5,6日くらいはあっちにいると思う」

購買でお昼を確保し、ルティエラ―――瑠璃と廊下を歩きながら話題がスーさんの話になった。


実はスーさん、現在は保管課の席を空けている。

二ヶ月に一度くらいのペースで一度、保管課での押収品とかの報告に本局に行かないとならないのだ。

別に通信とかで済ませればいいじゃん。と、誰もが…というか俺も最初は思ったのだが、一ヶ月分以上の押収品などの納品表から細かな取り決め報告その他…などなどあるからどうしても時間がかかってしまうのだ。通信で話せない内容もあるとか無いとか…。まあ、まがりなりにもロストロギア類も預かってるからねウチ。

「むむ、大丈夫でござるか?アラニア殿がいない分、そちらも多忙でござろう?」

「…まあ、なんとかなってるさ」

たしかにスーさんがいない分、仕事量も増えて保管課も結構な忙しさだけど……今の俺にはありがたかった。

せめて何か手を動かしてないとヴィータのことで気が滅入りそうだからなぁ…。

逃げてるって分かってても、中々踏ん切りがつかない。このままでいいのかどうかも……



「みつけたぞぉい!ここであったが五時間めぇ~!」



と、マイナス思考になりそうになってると、保管課の休憩室の前にすでに見慣れてしまった深緑のクセ毛少女が仁王立ちする姿が目に入った。

「…なにしとんねん」

マイナス思考も手伝って、げんなりする。



ソゥちゃんがあらわれた!


どうする?▽



・たたかう

・かたたたき

・アメちゃん←

・にげる



昼飯に時間かけるのもシンドイし回りくどいのもメンドイのでさっさと賄賂交渉に出る。

「ほれ、アメちゃんやるからそこどいて」

「わ~ぃ…っと、そ、そのてにはのらないぞ~」

ちっ、だめか。最近アメだけでは効果がなくなってきたな。

「…タロー殿。ここは拙者にお任せを」

と、後ろで様子を見ていたいたルティエ――じゃなくて瑠璃がユラリと俺の前に出た。

「この瑠璃、一振りの太刀のもとに主君の道を切り開いてご覧に入れましょう」

君も何言っとんねん。不敵に笑うな不敵に。

「くっくっく。そうは問屋がおろしダイコン…!」

「ふっ……ならば押し通るまで…!」

「何でもいいけど早くしてくれ」




     *****




激しい戦いの末―――割愛。


まあ、とりあえずは休憩室で昼飯を食い終わり三人で食後のお茶を堪能。あ、お茶は俺が入れました。スーさんほどではないが俺もそこそこ上手くなったんじゃないかと自負している。

ソゥちゃんはモデル(というか筋肉)雑誌を読みながらハッピーターンをぽりぽりつまみ、瑠璃は静かにお茶をすすっている。俺も休憩室にあるテレビの声をBGMに片手間に端末をいじっている。

と、なんかテレビが騒がしいなぁ、と視線を向けると

(…あり?)

見覚えのある銀髪が――…神崎ナントカくんだ。女子アナウンサーが若干興奮気味にニュースを読み上げる。

『―――時空管理局の最強エース。神崎彰吾は第××管理世界でテロリストを一網打尽!その後も他の管理世界で……』

ニュース映像で銀髪くんが銀色の魔力光で光る剣を振り回し、テロリストをばさばさ切り飛ばす映像が流れている。うわー無双じゃん。

あれ?でもそのわりに銀髪くんなんか必死の形相というか血の涙ながしてるように見えるような見えないような?幻覚?


『チクショーーーーー!!なのはぁーーーーーーー!!撃墜イベントォーーーーーー!!』


なんて叫びながらどこから取り出したのか剣やら斧やら槍やらがガトリングみたいに次々と発射されていく。なにがあったんや銀髪くん。


「……品の無い」

と、瑠璃がテレビに目を向けていたが、ぽつりと何かを言ってすぐに視線を外した。

品が無いって、アナウンサーに対してなのかな?

「おお、そういえばタロー殿」

「おう?」

瑠璃はお弁当と一緒に持ってきていた赤い花柄の風呂敷包みを丁寧に広げると、中は数冊の本があった。

「このあいだ貸していただいた読物、読み終わったのでお返しする。いやー良い参考になったでござるよ!」

「お、おお、そうか。それはよかった…」

「しかし、拙者もそれなりに騎士の剣術は目にした事はあるがあのような剣術が存在していたとは……!三刀流なる流派にも驚いたが、しかしあれは幻術魔法の類なのだろうか?…九刀流…」

「…はは」

「はいは~い、ソゥちゃんはロケットパンチうちたいです!」

「…人体の構造的に無理だからあきらめろ」


うんまあ、瑠璃がなぜサムライ口調になったのかも実は“コレ”が原因なんよね。

俺がいつも休憩中に読んでる家から持ち込んだ漫画に興味を持ったのがキッカケでよく漫画を借りに来るようになって―――特にホッペにバッテンのあるサムライが一番のお気に入りでリスペクトしまくった結果があのサムライ口調なのだそうで…。

厨二パワー恐るべし……。

それ以来、日本のMANGA文化に興味津々で近々地球に観光に行くとか行かないとか……。ホント行動力ハンパない。


「ううむ、まだ九頭○閃も完成していないのだが…しかし月牙天○も捨てがたい…」

「タローみてみて~鼻○真拳~」

「バインドで遊ぶな」

いや、それ俺が教えた魔法じゃん。




     *****




「―――タロー殿」

食後のお茶も飲み終わった時、瑠璃が神妙な顔でこちらに向いた。

「んう?どうした?」

ずいぶんと真剣そうな顔だから少しビビる。

「いや、いきなり不躾ではあるのだが…」


「こくはくか!!」





………


………………



とりあえず会話に乱入してきたソゥちゃんの鼻を思いっきりつまんでやった。

「ふに!?ふにぃぃ~!?は、はにふうのぉ(なにするの)~!?」

「コイツにかまわず続けてくれ」

「では失礼して――」

瑠璃のほうも特に気にかけていない様子。まあいつもの事だし。

しかし、そんなユルイ空気を、



「――タロー殿、此度の短期研修どうでごさったか?」



消し飛ばすかのような瑠璃の問いにビクッと体が反応してしまう。


「え、ええ…ええと、その」

突然の事に要領を得ない俺の言葉に、

「回りくどいのはやめにする。短期研修で何があったでござる?」

「う゛…」

ストレートな物言いに、ついにぐうの音も出なくなってしまう。

な、何だろう、気付かれてた?ってかそんなに分かりやすかったのか?

「未だ半年ほどの付き合いとて、タロー殿が気落ちしているのは拙者でもわかったでござるよ」

「いちち…タローって隠しごとへたっぴだもんね」

鼻を押さえながらソゥちゃんが言った。


うああ…はっずい!!しかもよりにもよってソゥちゃんに言われた!ってかソゥちゃんに言われたぁ!


…大事なことなのかどうかは分からないが2回言っといた。


「話せぬ内容であるならしかたないが、拙者たちに相談できるなら話すだけでも気持ち楽になると思うのだが」

「オーイエス!」

瑠璃は胸に手を当て真摯な視線を向け、ソゥちゃんは満面の笑みでサムズアップしていた。

――いかん、ちっとホロっときそうだった。

「あはは…、なんかスマンな気を使わせちまって」

「いやいや、拙者も普段はタロー殿に相談を持ちかけている故。何分アラニア殿のようにはいかないかもしれぬが、相談役を勤めさせてもらうでござる」

そうだな、じゃあちっと愚痴らせてもらおうかな。




     *****




そんなわけで短期研修での経緯を説明した。あ、闇の書とかリンカーコアの事とかはちゃんと伏せた上でだ。


「うん、タローは最低ヤロウだね~☆」

「ぐはッ!?」

ソゥちゃんの第一声、見事に俺のハーツをえぐる。ええ、もっともでござんす。

「ミドリ殿、そのような言い方は無いと思うのだが…」

ソゥちゃんを諭すように言う瑠璃。あと些細な事なのだがなんでソゥちゃんのことミドリ殿なんて呼ぶんだ?

「え~、でも女をなかせた男は世界の敵だってこないだよんだ本にかいてあったよ?」

なんだよその過激な本は。

「『恋する乙女の涙は大津波を起こす』って本」

「なんつー破滅タイトルだよその本」

「恋愛小説だよ?」

その乙女、人類を滅ぼしにかかってないか?

「フム…」

若干話が脱線している中、瑠璃はあごに手を当て難しい顔をしていた。

「…中々難しいでござるな。状況から言えば言い分はタロー殿にあるでござる。……しかし、その騎士殿の心情も考えると明確な悪が存在しないのもまた事実」

ヴィータはそれが犯罪(人を傷つける)と分かっていてやった。けれどそこに悪意は無い。それが罪と糾弾できるが悪とは言い切れない。そこに被害者である俺の存在。例えるなら何だろう?

悪戯をした子供と叱る親?学校の先生と生徒?

「よくわかんないけど、こういうときはさっさと謝っちまおうぜユ~」

ソゥちゃん、もしかしなくても全然話聞いてないんじゃね?

「それで解決するならばいいのでござるが……それでは精神的に相手を追い込む事になるでござる」

うぐ…そうだよなぁ…。

「しかし、今現在タロー殿が悩んでいるのはそのような理由ではないのであろう?」

「へ?」

間抜けな声を上げてしまう俺。

そんな彼女は呆れ半分、心配半分の表情で俺に視線を向ける。



「タロー殿は、優しすぎるのでござる」



優しい?俺が?

「む~んタローどんかん~」

俺は訳がわからないよ。という顔になっているとソゥちゃんがそんな事を言った。さらににわけわかめ。

「タロー殿、普通このような状況であれば「いい気味だ、せいせいする」と思うのが当然の反応でござるよ」

「…」

どうだろう、俺はそこまで深く考えたりしたことなかったけど。何時も目先の事でイッパイイッパイだし。

「だというのにタロー殿は自分を傷つけた相手に対しても心を悩ませ気にかけているなど、ベルカでは背中を切られても文句は言えないでござるよ?」

え、えらい物騒な例えですな。

「普通ならそれくらい憤るものでござるよ?しかしタロー殿はそうしなかった。たしかにその者に怒鳴り散らしわめき散らしはしたがタロー殿は距離を置くことを主としてその騎士殿をこれ以上傷つけまい、という意図を感じたでござる」

「……そんな」


そんなわけない。


俺はそこまでできた人間じゃない。

距離を置いた理由なんて分かりきってる。そんなの―――俺が臆病だからに決まってんだろ。嫌なもの怖いものは遠ざける、避ける、逃げるしかないんだから。

立ち向かう度胸も向き合う勇気も無いんだから。



じゃあ


じゃあ、なんで―――


何で俺は、ヴィータを気にする必要がある?


あんなにも、負の感情をぶつけた相手なのに―――


『憎しみ』をぶつけたくないと、心のどこかで……



「タロー殿」

耳に浸透する、凛とした声に我に返る。

「もしタロー殿が騎士殿に対して引け目を感じているのならば、ここは思い切ってその者と会談の機会を設けてみてはどうかと」

「解体?」

「会談な。会って話すって事」

ソゥちゃんのヨコヤリボケにやんわりと突っ込む。

「拙者としては会って話すだけでも現状悪くない選択だと思うのだが……どうだろうか?」


そうだな…。

うじうじするくらいなら「さっさと謝って楽になる」方がいいよな。

いや、謝る謝らないとかじゃない。

少なくとも「今」よりは断然いい。何かする方が何もしないより後悔は少ないはずだ。……多分。



と、俺が沈黙しているのをどう勘違いしたのか、瑠璃は少し唸る。


「…むむ、会うのに不安があるのならここは言いだしっぺの拙者も同席させてもらうがどうでござる?」


いやいや何を言い出すんだ君は。お母さんか?お母さんなのか?


「……フム、母役か。これは難しそうでござるな…いや、何事も経験でござる。子を持った経験は無いが、この瑠璃めが母役を見事に勤めさせてもらうでござる!」


待て、なぜそうなる?


「じゃあソゥちゃんパパになる!」


待て、なぜそうなった?


おーい。話し聞いてるかー…ってだめか。なんか俺そっちのけで二人でキャイキャイとガールズトークみたいになっちまってる。やれ割烹着が母の決戦兵器とかヒゲつけたほうが威厳あるかとか……。


ったく……さっきまでのシリアスは何処えやら。


「タローなにニヤニヤしてるのさ~気色わるい~」

「ふふ、やはりミドリ殿にはヒゲは似合わないのでござろう?」


なんだか、いつも誰かに助けてもらってばっかだなぁ俺。




     *****




「――おし!大丈夫だ何も恐れる事は無い!」

マンションの部屋をうろうろ、独り言をブツブツと挙動不審な少年が一人―――そうですワタシが山田太郎です。

俺ってここぞって時に限って優柔不断だからなぁ…

「大丈夫ダイジョウブ、無問題モーマンタイ……」

とりあえずこのあいだの事を謝りたいって口実で話そう。謝るかどうかは別問題にして。


もうヴィータとは無関係というわけにもいかないしな…。


まあでも積極的に交流をするのかといえば、答えは否。

連絡はそこそこ会うことはあまり無いという感じの電話友達的ポジションが一番望ましい。

「おっしゃーかけるぞー、ホントにかけるぞー、今だっ!今しかないっ!」

―――ホント優柔不断でゴメンネ。


渋りに渋って30分。ようやく端末のメニュー画面までたどり着く。

後はここから―――


「―――あれ?」


ここで、俺は動きが止まる。別に今になって「やっぱやめよう」なんて思ったわけじゃない。けっして。

ただ俺はあることに気付いたのだ。

今の今まで忘れていた、彼女と会う前に事前に連絡……する前の心の準備……………………………………………………のそれ以前に、そもそも






「俺…………………ヴィータの連絡先知らない」









………


………………




―――――――っは!!?


「い、いかん。あまりのショックに意識とんだ……」

とりあえず寝床に鎮座する目覚まし時計を確認。―――多分5分くらい気絶してたっぽい。

「――ってかどうしよう。ガチでヴィータとの連絡手段が無くなった」

アワアワと軽くパニックになる俺。



しかし、心のどこかで『会うことが無くて安心』してしまっている自分がいる。

「…」

別に無理に連絡取る必要は無いんだ。時間が経てば大体の事は落ち着いてくるものだ。急ぐ必要性はない、勢いだけではロクなことは――――


「―――バカ言うな」


折れる寸前だった心に、活を入れる。


「はぁ、悪い癖だな。弱気になるとなんもかんも避けようとするのは」

そうだ、今は俺だけの問題じゃあないんだ。周りのみんなに心配をかけっぱなしじゃあカッコつかない。それに、ヴィータの事も―――


真剣に向き合うって決めたからな。


「―――あ」

と、パニックも収まった頃に落ち着いてみれば意外と問題はあっさり解決した。


「…本人は無理でも知り合いなら!」

そうだよ、いきなり本人とはさすがにお互いに刺激が強すぎるだろうし、間にワンクッションおけばこないだみたいな事にはならないはずだ。

しかも、ヴィータと知り合いの…心当たりのある人物の連絡先を二つも持ってる。

早速メニューから切り替え、登録されている名前から探す。―――までもなく見つかった。



・クロノ原尾
xxxx‐xxxx


・フェイト原尾
xxxx‐xxxx



……後で直そう。


「さて、となると」


少し考えるそぶりを見せたが、俺は迷わずその人物の番号をプッシュ。


選んだ理由は至極単純。ヴィータの近くに一番いそうで、それなりの気配りができて、なおかつ……


『―――――はい。あっ、タロー?』

「おす。夜遅くにわりぃな、フェイト」


ヴィータと同姓だからだ。少なくとも同じ女の子同士なら気兼ねしなくていいかなーという俺の希望的観測だ。

『ううん全然!…でもどうしたの急に?』

「…ええと、どこから説明したらいいか。長くなりそうだけど時間大丈夫か?」

『うん』




     *****




『――――そうだったんだ……そ、その、ごめんなさい』

「へ?」

いきなりフェイトが謝ってきた。なんで?

『私、タローの事、ちゃんと考えないで…ヴィータと会った方がいいなんて……』

「…喫茶店の時の?」

『…ん』

あ~。確かにそれっぽいの言ってたっけ。

「気にすんな。元々先延ばしにしていた俺にも問題があったんだし」

『…でも』

「まあ、ぶっちゃけこれからいい方向に向かうかどうかはフェイトの協力次第だから。といってもヴィータと話せる機会を作ってくれるだけでいいんだ」

もう他力本願です。オレカッコワルイ。

『うん。それはもちろんだよ!』

ううぅ、なんか利用してるみたいで良心が…



『――――あ、でも』



…アレ?やっぱムリ?

『ううん、そうじゃないの。………』

フェイトは少し言い難そうにしている。

や、やっぱしアレか。我らが主人公NANOHAさんが鬼の形相とか。ヴォルケンズが臨戦態勢とか―――

『じつは……』

俺は戦々恐々としながら言いよどむフェイトの次の言葉を待った。

しかし、こればかりはオレの予想範囲外だったのだ。




『ヴィータね、しばらく帰ってこないんだ』




………………



「はい?」

『えっとね、たしか無人管理世界で航空部隊演習があるって…。何日か前に本局によってから出たみたい…』

え?え?

『なのはとはやても一緒みたいなんだけど……念話も通信も届かないくらい遠いから、たぶん今は連絡できないと思うんだ……』


そ、そんなバナナ!?


「あ、え、あ、ええと、じゃあその何時ぐらいにこっちに戻ってくるかな?」


あ、これってフラグなんじゃ―――――

『えっと、多分―――――』




















『―――――………10日後…かな……』



















――――――――長っ


フェイトの返答に、全身から力が抜ける。

「ぉぉぉぉ……」

『タ、タロー!?しっかりして!』


通信画面の向こうで慌てだすフェイト。しかし彼女の心配そうな声はもはや俺には届かなかった。



今度こそ、俺の心はポッキリと折れた。


(―――俺の勇気かえせぇぇぇぇえええええ!!!)





     *****










目が覚める。




「…」




目を閉じる。




眠気は来ない。




「…っ」




うっすらと目を開ける。

視界に映るのは薄暗い部屋。




目の周りがひりひりする。

喉が渇く。

部屋を見渡す。自分が今ベッドで横になっている事を知る。




あたし、どうして寝てるんだろう?いつから寝ていたんだろう?




記憶を探る。

過去を掘り起こす。




やめろ。

思い出すな。

考えるな。




――――思い出した。




「っ―――ぁ……あ゛あ…」




思い出した。




「た、ろ……」




―――そうだ。あの日、あたしはタローに会いに行った。




その日以来、あたしは部屋から出ていない。

あれから、どれくらい時間が経ったのだろう?




1日?3日?一週間?




布団を押しのけ、ゆっくり起きる。

間接がくきこきと鳴るのが分かる。

髪の毛が口の中に入ってた。


「…あたし」


彼の言葉が、耳にこびりついて離れない。


「――――……う、ひぐっ…」


何泣いてんだあたし。


あたしにそんな権利なんてない。


布団をきつく握りしめ、歯をくいしばって涙を抑えようとする。が、




―――っ―――っ。




あれだけ泣いたのに、あれだけ涙を流したのに、

もう枯れたのかと思ったのに。


「―――…ひぅっ―――…ぅう――」


頬を伝う雫が布団に落ちる。




――――『償う』ってなんだよ!あんたに一体『何』ができんだよッ!!!




あたしができることって何だ?


騎士として、人を守ること?


騎士として、目の前の脅威を取り除くこと?


……それがいったい何になる。


そうすれば彼の体は治るのか?


リンカーコアは元どうりになるのか?




「――…ぁたし、何もできない……」




彼の命を奪おうとした私が、彼を守る?

あたしにそんな権利があるのか?

それを彼が望むのか?


「――――……ぅ、ううああぁ、ぁぁぁ」


胸の奥が、黒い何かに浸食されていく。


ズクズクと傷に沁み込むように痛みだす。


耐えられない。

痛い。

いたい。





けきょくあたしは、


「たろーを、きずつけただけだった」


償う、なんて最初から、自分が罪から解放されたいという口実でしかなかったんだ。







今更、ソンナコトデナゼ悩ム?



アタシハ今マデ、ソンナ“些細”ナコト気ニモ留メナカッタンジャナイノカ?



今マデ散々、多クノ命ヲ潰シテキタ“アンタ”ガ――――――







「やめろおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」


大声を張り上げ、『内側』から聞こえてきた声を塗りつぶす。

「……はぁ、はぁ、ぁ…ゲホッ…」

後ろに倒れ込む。息が乱れる。


意識が薄くなる。

気絶するかのように、彼女は再び眠りについた。














―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


一か月以上も空けてしまって申し訳ありません!!

シリアスがヘタすぎて泣きそうな作者です。

そしてゴメンネゲボ子…ここまでドロドロにするつもりじゃなかったんだ…。



と、とりあえず次回!


【次回】


スーさん「あなたはどうしたいの?タロくん」






[33468] 【11】スーさん「あなたはどうしたいの?タロくん」
Name: はじっこ◆1601988e ID:84d3fd30
Date: 2013/01/27 13:00







何事にも勢いというものは必要なんじゃないかと俺は思う。



「―――……はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

鉛なんて目じゃないくらい重苦しいため息が俺の口から漏れ出す。

「もぅー…タロー気にしすぎ~」

ソゥちゃんが俺の頭をツンツンつついてくる。

本日の士官学校の講義も終わり、教室には昼食をとりに行くもの、残ってレポートや課題を進めるものと大体分かれている。提出期限近いしね。


そんな中、俺、山田太郎は窓際の席で頭を抱えた状態で教室に残っている。その隣の席には既におなじみとなったクセ毛の少女。


「いつまでうじうじしてんのさ~。よくわかんないけどあと何日かしたらその騎士の子とあえるんでしょ~」

「…うん、まぁ」

「だったらアレだよ~…えーと、か、カホワネタマエ?」

「『果報は寝て待て』?」

「うんそれ!」

「…使い方違うぞ」

「えぇ~」

完全に失速状態です。はい。




     *****




俺は迷っていた。



あの時はそのままの勢いで行こうと思ったけど、こうも時間が空くと余計な事を色々と考えてしまう。

いや、だって10日も待ちぼうけなんて誰が想像できた?コレって俺完全に空回っただけじゃね?

ま、まあその後フェイトが連絡が取れ次第知らせてくれるって言ったからあと数日待てばいいわけなんだけど……。


白状します、すごく会い辛いです。


一応そこそこ覚悟は決めたつもりなんだが、俺はこの期に及んで彼女に対して苦手意識があるみたいだ。

俺はまだヴィータを怖がっているんだろうか?それとも単に顔を合わせづらいのだろうか?

俺だっていつまでもこんな事引きずったままなんてのは本意じゃない。


けど、同時に考えてしまう。俺という存在が彼女を苦しめているんじゃないかと。






「―――…はぁ、どうしよ」

デスクに座り、ぼけーっと窓から差し込む夕日を眺める。

「…」

こーいうシリアスなのって俺専門じゃあないんだけどなー。どっちかっつーと俺より銀髪くんのほうが嬉々として関わってそうなんだけど。

――いや、逆に心配だ。

「っとイカン。そろそろ戸締まりせんとな」

つかまだ研修生の俺に鍵預けるのはどうなんだろう?もうすぐ研修期間も終わるけどさ。まあ、ご老体組は体の事があるのはいいとしてさ、他の人はスーさんいないことをいいことに何かと俺に仕事押し付けて帰ろうとするんだもんなー。

「改めて考えてみると、スーさんって俺が考えてる以上にすごい人なんだなー。あんな不良みたいな局員相手なのに見事にまとめ上げてるんだから」

「あら、そんな事ないわよ?あの子達も最初はヤンチャで手に負えなかったんだから」

「いやいや、あの強面集団相手に堂々としてるスーさんのカリスマは―――…え?」

声のする方……後ろを振り返るとちょうどそこは保管課の出入り口がある。そこに、



「残業お疲れ様。タロくん」



紫色の髪を後ろでまとめ、褐色の肌に局員制服の上からコートを羽織った男性―――スーさんが立っていた。

「え?ええ!?スーさん!?」

俺はかなり驚いた。俺が知る限りではスーさんはまだ本局の方にいるはずだと思ったからだ。

「それが思いの他報告が早く終わってね、上司に報告がてら少しココの様子を見に来たの」

そうだったのか。

「それに…」

「………えと、何でしょうか?」

「どうやら、結構こたえてるみたいね」

スーさんは腕を組み、苦笑しながら答える。

ま、ましゃか……

「気付いていたのはあの子達だけじゃないわよ?私を含めうちの課でタロくんと面識ある人は全員知ってたわよ。タロくんが悩んでた事」



ま、マジかああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!?



え、ちょ、マジで!?知ってたの!?うああハズイっ恥ずかしすぎる!

思わず頭を抱える俺。スーさんは小さく笑いながら話す。

「私としてはタロくんから言い出すのを待ってようかとも思ったけど、でもあの子達は痺れを切らしちゃったみたいね」

多分ルティ…瑠璃とソゥちゃんのことを言ってるんだろう。

「愛されてるわね?」

「茶化さんでください…」

スーさんはいつもみたく「ふふふっ」と小さく笑う。

「…なんかスンマセン。俺なんかのために…」

「そういう事は言っちゃダメよタロくん」

すると先ほどの雰囲気から一転、少し怒ったような表情のスーさんが子供を叱るような口調で俺に言う。

「いい?タロくんは保管課の…私達の大切な仲間よ。あなたが来てから仕事も落ち着いてできるようになったし、素行の悪かった子達も貴方が懸命に仕事をする姿を見習ってがんばるようになったし。だから、そんな自分を卑下するような言い方はやめなさい」

「……はい」

そのまんま叱られた子供です、俺。

「ふふっよろしい」

なんつーか、スーさんはホント凄いよ。色々と。

「それじゃあスーさん、聞いてくれますか俺の愚痴」

「ええ。そもそもココに来た理由の一つがそれだもの」

たとえ俺が精神年齢年上でも、この人には絶対敵わないと思ったよ。




     *****




毎度おなじみ保管課の休憩室。スーさんと俺はいつもの定位置に座る。俺はスーさんに今までの経緯を話した。


「そう……思った以上に深刻ね」

スーさんは顎に手をあて、考えている。

「それで数日後くらいに連絡を取ることになってるんですけど…」

スーさんは俺の話に耳を傾け、たっぷり30秒ほど唸った後、口を開く。

「タロくん、コレは私の個人的な意見ではあるけど……少しキツい言い方になるわよ?」

俺のガラスのハートが割れそうだけど、ここはぐっと堪える。

「う…、はい」

俺がそう返事をしたのを見計らってスーさんが口を開く。



「率直に言えば、その子に会うのは止めた方がいいわ」



スーさんにしては珍しい、否定的な返答だ。

ううぅ、やっぱしイキナリは不味いのか、それとも…

「ココで勘違いしてほしくないのは貴方の事を責めているわけじゃあないの。元々は貴方とその子はそういう関わりだったのだから。そこで衝突するのは真っ当な反応よ。……けどね」

「……けど?」

「本来なら貴方がその子を恨んだり、憎んだりする正当な理由もあり権利もある。それが普通なの」

「…」

「なのに貴方はその子に対して憎しみはあれど、それを否定している。拒絶しているといってもいいわ、『憎しみ』という感情を。―――正直、貴方の在り方は『異常』よ」


――い、異常?


「少なくとも聞いている限りではタロくんに非が無いのは明白よ?」

………それは、分かってる。分かってるけど…。

「貴方がその子の行いを否定したくないのか、その理由を知っているのか、それに関してはいいわ……けどね」

スーさんの目が細まり、それだけで俺の中の緊張が高まっていく。そしてスーさんは口を開く。







「貴方の謝罪は、その子の心を否定―――『殺そう』としているのよ」







俺は絶句した。


俺が…………ヴィータを…!?


スーさんの言葉はそれだけで衝撃的だった。

「その子は多分、こう考えてるんじゃないかしら…『私はあなたにひどいことをしたのに、私は恨まれても憎まれても良いのに、何故そうしないの?』――って」


―――あたしにできることなら力になる。なんだってする!


「―――冷たいかもしれないけど、本当なら悩み苦しむのはあの子であって貴方ではないわ。それが本来の被害者と加害者の関係なの。『償いたい』『楽になりたい』…そう考えるのは当然よ。誰だって苦しいのは嫌なんだから」


―――償いたいんだ…!


「…」










俺は、馬鹿だ。


自分の馬鹿さ加減にはいい加減うんざりしていたが、


今、本気で自分で自分を殴り倒したいと思ったよ。


ヴィータが苦しんでいるのを分かったつもりでいた。


彼女が自責の念で、後悔で、自己嫌悪で、罪悪感で、悲しみで、何度も潰れそうになって、


それでも俺の前に立って、


自分にできる事からしようとして、


もがいて、悩んで、苦しんで、手を伸ばして、










なのに、俺はその手を払いのけたんだ。


彼女の思いを、粉々に壊して。


自分だけが苦しいんだと勝手な勘違いをして。










俺は自分でも気付かないくらい、拳を強く握っていたみたいだ。

爪が食い込んで手のひらから痛みが伝わる。

俺はスーさんと顔を見ることができなかった。何も言ってこないスーさんは俺が落ち着くのを待ってくれているようだ。

手の力を抜いて静かに深呼吸をした。


「大丈夫?タロくん」

「…はい。とりあえず」


これで落ち着いて考えられるだけ回復したかな。

おかげでスーさんが言いたい事も大体理解できた。

スーさんが止めるのも無理はないと思ったよ。


つまり、軽く考えていたのだ。他の誰でもない俺自身が、だ。

事の重大さを、まったくもって理解してなかったのだ。

もし、そんな気持ちで会おうものなら、俺はまたあの時のように彼女を傷つける事になるだろう。


「…はぁぁ」


ホント、俺って救いようのない大馬鹿だよ。どチクショウめ。


この時ばかりは俺は本気で頭を抱えた。

完全に八方塞や……。


すると、そんな俺にスーさんが……




「―――さて…それで、貴方はどうしたいの?タロくん」




「――え?」

その言葉にあっけにとられてしまう。

「あら?言ったわよね、コレは私の個人的な意見だって。最終的な決定権は貴方にあるんだし」

「い、いやでも……」

「タロくんも、いつまでもあの子とこのままでいたいわけじゃあないんでしょ?」

「それは、まぁ…」

それは、もちろんそうだ。俺だってヴィータとこんな最悪な関係じゃなければもっと普通に話したりできたかもしれないんだ。魔法とか騎士の話をしたいとも思っていたんだ。


―――だったら


だったら、いい加減どうしたらいいかはわかってんだろ?山田太郎。


と、スーさんが俺の目を見て―――すると、スーさんは小さく微笑んだ。いつも見るスーさんの顔がそこにはあった。

スーさんは「最後に一つ」と付け加えて話し始める。

「いい?私やあの子たちの意見はあくまで参考よ。貴方が得るべき答えは他人からではなく悩み続けた先にある自分で選んだ答えよ。その上で、あの子に会おうと考えてるなら慎重に考えて、それから決めなさい――とても大切な事だから…ね」


その時のスーさんの顔は、とても印象深かった。




     *****




「――タロー殿、今日も訓練場に来なかったでござるな…」


警備隊訓練場へと続く廊下を一人の少女がすたすたと歩いていた。

その特徴的な青髪を揺らしながら歩く姿は小柄な体躯ながらも存在感を感じさせるものだ。

「あまり外野がとやかく言うのは控えたいが…しかし、むむむ…」

そんな彼女が腕を組んで唸りながら歩いていると―――廊下の反対側から「けんけんぱ」をしながら廊下を進む人物が近づいてくる。


「るん、たっ、たぁ~!るん、たっ…おおう!ルッチー発見伝!」


「けんけんぱ」をしていた深緑色のクセ毛の少女がトテトテとこちらに近づく。

「ミドリ殿。何度も言うようだが拙者のその呼び名はどうにかならないのでござるか?拙者の名は瑠璃だと何度も申しているでござろう」

「え~かわいいじゃん」

「拙者の呼び名に「かわいい」はいらないでござる」

「むむぅ~。じゃあなんでわたしは『ミドリ殿』って呼ぶの?」

「…カッコいいでごさろう?」

「かわいくないよぅ~!」

そんな微笑ましい(?)やり取りをする二人の少女。


しばらくすると、話題はある少年の話となる。


「そういえばミドリ殿、今日のタロー殿の様子はどうでござったか?」

「それが、ぜんぜんダメダメだったんだよ~。ずっとぼーっとしてたし」

青髪の少女はやはりか、とため息を漏らす。

「(…まぁ、当然といえば当然でござるな。タロー殿のあの性格では)」

「ルッチー今日はどーすん?今日もタローんトコ?」

「そうだな―――む?」

考えに没頭していると、青髪の少女の胸ポケットから電子音が鳴り響いた。彼女が持っている通信用端末だ。


「――――ふむ、どうやら拙者たちの出番はなさそうでござる」

「ほへ?」

端末を見た青髪の少女はそう言い、クセ毛の少女に自分の端末を見せた。



======================


差出人:アラニア・A

件名:(なし)


タロくんのことありがとね。


======================



「あり?スーさん帰ってるの?」

「そのようでござるな。もしかすると今頃タロー殿と会っているかもしれないな」

肩をすくめながら端末をしまう。

「アラニア殿がいるなら、もう心配はなさそうでござるな」

「……ほほう“心配”ねぇ~」

すると、クセ毛の少女はなにやら口元を押さえニヤニヤする。

「??…何でござる?」

「いやいや~、なんだかんだいってもルッチーはタローのこと気になってたんだなーって♪」

「まあ、気にはなるであろう。彼は大切な友人なのだから」

「…“思い人”のまちがいじゃないの~?」

その言葉に、青髪の少女は「ああ」、と納得した。

「思い人か……ふむ…」

クセ毛の少女に言われた言葉を反芻し―――


「まあ、そうかもしれんな」


あっさりと肯定した。それはもう、あっさりと。

「―――あり?」

おそらく予想外であったのだろう。クセ毛の少女はポカーンとだらしなく口が開く。

その顔が面白いのか、青髪の少女は笑いをかみ殺す。

「ククッ…何だ?拙者をからかうネタにでもしようと思ったでござるか?」

「ううぅ~…、なんだよ~」

クセ毛の少女は口を尖らせ、面白くなさそうにつぶやく。

「ふふ、そういうミドリ殿はどうなのでござるか?いつもタロー殿と行動を共にしているお主としては」

「プププッそれはあるえないっすよ~。わたしの好みはもっとムキムキでメキメキな人だし。それにくらべてタロー、ヨワヨワのダメダメじゃんか~」


「――それこそ、“ありえない”のではないか?」


「…ほい?」

その言葉に、クセ毛の少女は目を丸くする。

「タロー殿は弱くない。それは『力の強さ』ではなく『内なる強さ』。拙者はかつてタロー殿を道端の石のようにしか思わなかった。しかし、彼と関わり、初めて彼の目を見た」

「…」

「正直、あそこまで意志の強さを秘めた目は『母上殿』以来でござる。拙者の視野がいかに狭かったか、痛感したでござる」

その目は、歳相応の輝きを宿した瞳。羨望。

「そういう意味では、タロー殿は拙者の世界を広げてくれた、『恩師』のようなものでござる」

「ぷぅ~…なんか、かたっくるしぃ~。もっとユルくかんがえようぜ~」

対するクセ毛の少女は、なんとも空気をぶち壊すようなセリフだ。

「ふ、そうでござるな」

青髪の少女は、いつものことなので特に気にはしないようだ。

「―――それに、さ」

ふと、クセ毛の少女が普段ののほほんとした雰囲気から―――


「タローは、そんなこと関係なしにたのしく話したり、騒いだりしたいんじゃないかな。『みんな』で、さ」


目を細め、静かな声色。

「…」

「多分タローは、ルッチーがどう思っていても、嫌われていても、ニコニコわらって「おはよう」って言うんじゃないかな」

「――そうか、そうだな」

「うん。だって、タローは――――――わたし以上の『おバカさん』なんだし」

クセ毛の少女はいつものように「にひー♪」と無邪気に笑った。

青髪の少女も、その笑顔に釣られ、微笑んだ。




     *****




「――――っぶぅぅえっっくしょいぃぃっ!!……ずずっ、誰か噂でもしてんのかな?」

ティッシュをぼしゅぼしゅと引っ張り出し、盛大に鼻をかむ。

「最近冷えてきたかなー。…うしっ、今日はおでんにすっか!」

ダイコンと卵しかないから、なんとも寂しいおでんだけどな…。


おっす!オラ浪花のモーツァルト、キダタ○ウ!……じゃなくて山田太郎だ。

ただ今、わが根城にて晩飯の準備をいそいそと始めている。


スーさんと別れ、俺はまっすぐマンションに帰り、ようやく落ち着いて考える時間ができた。

ヴィータのこと、俺のこと、これからのこと。

まあ、どちらにせよ俺は彼女に会う決意はちゃんと固めた。

でも、彼女に対して考えなしに謝ったりなどはしないつもりだ。

彼女に会ったら、まずしたい事がある。


それは、俺のことを話すのだ。俺の今までのことを。


士官学校に入ったとか、研修で行っている保管課の人たちのこと、魔法訓練、デバイス開発、飛行魔法訓練……もしかしたら話しきれないかもしれん。

それから、ヴィータの話を聞きたいと思う。騎士の事とかベルカの話を。

そういう取り留めのない話から少しづつ、ヴィータとの間を良くしようと思っている。

というか、それしか思いつかんかった。いつもスーさんやソゥちゃんといる時みたいに話せたらなー、と思った結果がコレですぜ……

くっそー!笑いたきゃ笑えー!もう正直コレしか思いつかなかったんだよーーー!!


「――って、土鍋がない」

…あーこの前、落として粉々になったんだっけ。…ちくせう。

「…べつにいっか」

テキトーな鍋使うか。

「………にしても、今日はさみぃなー。……………暖房壊れたか?」




     *****

















































「―――――……」




「―――――た…ろ」




「たろぅ…に、れんらく…」




「連絡―――しなきゃ……」









     *****




「―――っと、誰だ?」

ちゃぶ台に置いた端末が鳴っている。

鍋を片手で持ったまま端末を取って確認してみると、


「―――ん?」


俺は画面に表示された名前に首をかしげた。

「何で…?」

怪訝に思いながらも端末を操作して通信用の画面に切り替える。

「もしもしー。どうしたんだ?こんな夜中―――――――――」

俺は、凍りついた。









『た、ろ――――……タロぉ…』









モニターの向こうには、目を真っ赤に泣き腫らした金髪の少女――――――フェイトがいた。


「フェイトっ!?どうした!何があった!?」

『たろぉ…どうしよぅ…わたし、私…』

彼女はオロオロするばかりで話し方も要領を得ない。

「フェイト!落ち着け何があった?」

『どうしよう…な、の…なのは、なのはが………』

「なのはが…?、なのはに何かあったのか!?」




















『タロー………なのはが……なのはと“ヴィータ”が……!!――――――――――――――』




















「――――――――――………」

それを聞いた瞬間、手に持っていた鍋を落とし、中身を床にぶちまける。








俺はその時になって、本当に今更になって、ようやく気付いたのだ。


『世界(運命)』が、狂い(動き)始めたことに。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






【次回】


ヴィータ「色のない空」



【誤字修正】

家宝は寝て待て

果報は寝て待て


―――素で間違えた…( ̄□ ̄;)!!



[33468] 【12】ヴィータ「色のない空」
Name: はじっこ◆1601988e ID:579fbe48
Date: 2013/01/27 12:55











あたしの手は、たくさんの血で濡れている。



あたしの目は、硝子(ガラス)細工のように無機質で。



あたしの心は、乾いた果実のように色あせていた。



あたしを保つ事ができていたのは、「戦い」があったから。



飾りのような二本の足で立てるのは、「誇り」を持っていたから。



ぶら下がっているだけの腕が、誰かを守るために武器を振るえたのは、あたしが「騎士」であったから。



それが、「ヴィータ」の全てだった。



それが、かつての「鉄槌の騎士」だった。



それが、かつての「ヴォルケンリッター」だった。



そんなあたし達は長い旅路の末、ひとりの少女に出会った。



あたし達の新たな主であり、最後の主。



まるでそれは、御伽噺のような出会い。



まるでそれは、木漏れ日のように温かい居場所。



あたしの手は、主である少女の温かい手を握っていた。



あたしの目は、写るものすべてを輝かせた。



あたしの心は、かつての日々など忘れ去ってしまいそうなほど満たされていった。



あたしは、この日々を、この居場所を守るためならどんな事でもできる。



この小さな心優しい主のためなら、どんな犠牲も、どんな罪も―――――そう思っていた。



そして、あたしは「彼」と出会った。



まるでそれは、御伽噺のような出会い。



けれどそれは、血に濡れた刃のような残酷な現実。






そしてそれは、「私」のすべてのはじまり。

















次元航行艦船『フレイヤ』。


この船はあたしの知るアースラとは違い、内部施設が充実している。あたしはそのうちの一つ、訓練施設に足を運んでいた。

でも、ココに用があるのは別の理由からだ。


「………」

訓練所には入らず、入り口の前で身を隠していた。開け放たれた扉の向こうには、



一人の少年がいた。



「――――…っと、とと」

少年は危なげな雰囲気で飛行魔法を使って飛んでいる。

「――…そいやっ!斜め45度!っとぅうわっは!?」

彼が飛行魔法を維持できず落ちてしまい、訓練所の床をゴロゴロ転がる。

「ッ!?」

あたしは慌てて駆け寄ろうとしたが、

「……い、いちち…なんの!」

彼はすぐさま立ち上がった。足取りからも疲労の色が見て取れるというのに。



彼が訓練所で飛行魔法の訓練をしているのを知ったのは、つい最近。

待機部隊のメンバーに彼の所在を聞いたときに訓練所で見たときの事を聞いたのだ。

彼の訓練する姿を見たのは、これが初めてだ。

彼の飛行魔法は、その…あまり上手いとは言えなかった。……わりぃ、はっきり言って下手糞だ。航空部隊の教導官なら、間違いなく激が飛んでくる。ってか、あたしなら確実にそうする。

でも、それでも彼の姿には度重なる努力の跡が見て取れた。


「っと、う、うわっと!」


彼の顔にふざけたような様子はなく、真剣そのものだ。

ダークグレー色のバリアジャケットはそかしこに汚れや傷がある。何度も落ちたのだろう。

なのに、彼は果敢に飛び立ち、地に落ちてもその目に宿る光は強さを増すばかり。


貪欲に、執拗に、純粋に、ただただ訓練所の天井を……『空』を見上げる。飛び立つことを夢見る雛鳥のように。


あたしは、あの目を知っている。強い意思と輝きが宿ったあの目を。


「――――……?」


と、あたしは彼の様子がおかしいことに気付く。さっきまで必死に訓練していたはずだが、気がついたときには訓練所の真ん中にぽつんと立っていた。

そんな風に疑問に思っていた時、



「…………………――――」



彼は、何の前触れもなく倒れた。



「ぇ」



突然の事に、あたしは一瞬呆けてしまう。

しかし、すぐさま目の前の事態を理解する。


「ッ!!おいッ!?」


あたしは弾かれたように彼の元に駆け寄る。

「どうしたッ!?しっかりしろ!!」

彼の体を揺すってみたがまるで反応がない。急いでうつ伏せの状態から抱き起こすように仰向けにする。



「――――ッ!!!??」



息を飲む。目の前の惨状に。


彼の胸の辺りからぽっかりと、抉り取られたかのように開いた「穴」。

そこにあるはずの臓器も丸ごと存在しなかった。


「……………あ…あぁ…!」


目の前に映るものが信じられなかった。信じたくなかった。


「そ、んな……そんな……―――」


……――――誰、が……一体誰が……―――!!


「ゆる、さね……ゆるさねぇッ…!!誰が――――」


胸の中から、臓腑の奥底から怒りがこみ上げる。


「誰がやりやがったぁァァッ!!!!!」



――――――何ヲ、言ッテルンダ?



「―――ッ!!誰だ!?」

どこからか聞こえる声。まるで空間全体から発せられたかのような声。

「誰だ!?何処にいやがる!」



――――――ワカッテナイノカ?気付イテナイノカ?



「何を……?」










――――――ソレハ“オマエ”ガヤッタンダロ?










「―――…は?」

何を、言ってんだ?あたしは何も……。


そこで、気付いた。気付かされた。


あたしの右手に感じる、生々しい温かさ。


「―――あ……ぁ…」


左手は彼の体を支え、




その右手には、赤錆色の輝き。




「ひ……ぁ…」


彼の、輝き。


「…う、嘘だ。こんな…」


“あたし”が、奪った光。


“オマエ”ガ、奪ッタ光。


「ち、ちがうッ!違うッ!!」


よく見ると、右手はぬるりとした濡れた感覚。真っ赤に染まった手から、伝うように肘からパタタッと赤い雫が滴る。


「違う違う違う違う違うッ!!」


右手だけじゃない。左手も、顔にも、服にも。


「あたしじゃないッ!あたしはこんなこと……!!」



――――――ソウヤッテ、目ヲソムケルノカ?



「や、めろ…やめろ…やめろやめろやめろやめろやめろ」


壊れた玩具のように体が震えだし、うわごとのように口から言葉が漏れる。――――――――と、



突然、手首をつかまれる。



「(―――っ?、!だ…)」


だれが?コレは、誰の手?ここに、あたし以外の……


「――……ッ」


見たくない。見てはいけない。


見なくては駄目だ。目をそらすな。


あたしは、手が伸びている方、今現在体を支えている…




―――――彼の顔を見た。




「――――――ッひ!!?」



彼は、彼の目は、


まるでそこに穴があるかのように、どこまでも深い暗闇が広がっていた。

先ほどまでの光を宿した目は、もうない。


彼は、その虚空のような目をあたしに向ける。


「―――あっ…あ、アァ…」


目をそらす事も呼吸さえもできず、彼の口が動く。言葉が吐き出される。




―――――カエ、シテ…




ぁ、や…あ……




―――――カ、……エ、セ…




ヒ、ぁ………




カエセエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!!!!!



















「――――――――――ッッぁ゛!!!!!?????」




ベッドから飛び起きる。

意識が一気に覚醒した。


「ッハァ、ハァッ…はぁ、ゲホッ…」

急に呼吸したため咳き込んでしまう。

「――げほっ、ゲホッ…はぁ…ハァ…ハァ…」

布団に顔を埋め、目に溜まった雫を乱暴に拭う。

「―――…はぁ、はぁ」

前に目覚めたときと何ら変わらない、次元航行船の簡素な個室。―――そして、突きつけられる現実。




もう、何度あの夢を見たのだろう…?


このままベッドにこもっていても、夢の中に逃げ込んでも、


夢の中が、現実が、あたしの逃げ場などないと、安穏などないと囁く。――――


「―――く、そッ…」


布団に顔を埋めたまま吐き出すようにつぶやいた。




     *****




―――コンコン



「―――ッ!!」

ドアの向こうから聞こえる、控えめなノック。

あたしは思わず布団を頭からかぶる。


「……ヴィータ?起きとる?」


ドア越しに聞こえる、主――はやての声。


「…っ」


あたしは、ただ声を押し殺す事しかできなかった。


「…ヴィータ、太郎さんと何かあったん?」

「…」

「…ゴメンな。私が無理に合わせようとしてもうて…。ヴィータの…ヴィータだけの責任やあらへんよ。私のせいでもあるんや…」

「…」

「今度は、私も一緒にいるから、そしたら一緒に謝りにいこ?」

あたしは…答えない。答えられない。

「…ヴィータ…みんな、待っとるから、その…」

「…」

「あせらんでいいから、落ち着いたら出てきてな…」


足跡が遠ざかっていく。ドアの前からはやての気配が消えてしばらくして、あたしはゆっくり体を起こした。

「………は、はは」

乾いた笑いが、口から漏れる。


あたしは、なにやてんだ。


はやてに、皆に心配させて、迷惑かけて―――なのに、



なのに、あたしは……



「……ん」


あの後、あたしは久しぶりにベッドから降りた。おぼつかない足取りで洗面所へと向かう。

汗をかいてもそのままだったから気持ち悪くてしかたない。髪もぼさぼさだった。

「…っ」

手探りで洗面所の電気をつける。

「――ッぅ」

つけた瞬間、電灯の明かりが目に痛かった。ようやく光に目が慣れてきて最初に目に映ったのは……


「………ひでぇ顔」


鏡に映った自分の顔。三つ編みは片方ほどけていて顔色はすごぶる悪い。目の下には遠目でもわかるほどくっきりと隈ができている。

「…」

できるなら、こんな顔ではやてには会いたくない。でも、これ以上はやてに心配をかけたくない。

もう何日寝たままだったかわからない以上、せめてシャワーだけでも浴びようと服を脱ぎ始めた。




     *****



「―――……!?、ヴィータ!」


部屋から出ると、ドアの前にいたはやてに抱きしめられた。多分あの後からずっと待ってたんだ。

はやては涙声ながらあたしを強く抱きしめている。

「ヴィータぁ…ヴィータ…よかったぁ…」

「……はやて」

はやての体からぬくもりが伝わる。

「(―――――そうだ、あたし…)」


あたしは、このぬくもりを守りたかったんだ。


そのためだったら、あたしはいくら罪に塗れてもかまわないって思っていた。


なのに、ぬくもりを、あたたさを感じるのに、


なのに―――


それが、あたしの胸を少しづつ針で刺されていくようで、堪えられなかった。


「(ごめん……はやて…)」


あたしは今の幸福のために―――――タローに武器を向けたんだ。




     *****



見上げると、なんとも鬱になりそうなくらい灰色の雲に覆われた空。

同じく灰色の簡易テントの隣であたしは白い息を吐き、寒さに体をさすりながら恨めしそうに空を睨む。


(ヴィータちゃん。やっぱり一度フレイヤに戻って休んだほうが―――)

(心配しなくても睡眠は十分すぎるほどとったんだ。これくらいなら鈍っちまった体にはちょうどいいし)

飛んでくる念話ごしになのはの心配する顔が目に浮かぶ。


今現在、あたしとなのはは当初の予定にもあった無人世界での演習をしている。

なのはとはやてには反対されたけど、これ以上スケジュールに穴を開けるわけにもいかないし、あたしがいない間はやてが結構無理してあたしの分も仕事をしていたから、今はフレイヤで仮眠を取ってもらっている。―――ホントはなのはも休んでほしかったんだけどな…。


(……あ、そういやなのは、今いるトコってベースキャンプだよな?)

(え?うん、そうだけど…)

(なら丁度じゃん。今のうちに仮眠とっとけ)

(ううん!まだ大丈夫だよ。わたし―――)


(なのは)


あたしはなのはの言葉をさえぎるように言う。

(昨日、何時間寝たんだ?)

(ふぇ!?え、ええと…)

ったく…隠せてると思ってんのか。

はやて同様、なのはも睡眠時間削って出ていたのは明らかだ。本当なら、あたしがなのはを心配する立場なのに。


―――…あたし、何やってんだろ。


はやてに心配かけて、なのはに無茶させて、―――――肝心のあたしは、このザマか…。


(なのは、この後も合流したら演習があるんだ。お前のヘバった姿じゃ他の隊員に示しつかねぇだろ?)

(うん…)

(今中継地点にいるからココのテント借りてあたしも仮眠取るし。それでいいだろ?)

(――………うん、わかった)

なのはは渋々、といった感じで了承した。

(そんじゃ、また一時間後に連絡な。―――――…なのは)

(うん?)

(――………ごめんな)

あたしはそう言い、念話を切った。

「……はぁぁ」

長いため息が白い息となって空に立ち上っていく。ふと目線が上に向いた時、


「……雪、か」


視界に広がる灰色の空に白がわずかに見え始め、それがだんだんと空を覆ってゆく。

「さみぃわけだ」

雪は、好きになれない。

嫌いというわけじゃない。前に地球でも雪が降った時は、はやてと一緒に雪だるまを作ったときは楽しかった。

でも、あたしは何度も思い出すんだ。


『彼女』が旅立っていったのも、こんなふうに雪が降っていたな…と。


「…少し、休むか」

白い息を吐きながら、あたしはテントに入っていった。




     *****




あたしがテントに入って、10分ほどたった時だ。

「(…?…何だ?)」

なんだか外が騒がしい。慌てて外に出て近くにいた隊員をつかまえる。

「何かあったのか?」

「あ、はい。実は……」

うろたえ気味の隊員の説明を聞き、――――あたしは血の気が失せていくのがわかった。


聞けば、ついさきほどベースキャンプのほうから緊急事態を知らせる通信が一斉送信されたそうだ。内容は『アンノウン』『襲撃』の2つしか分からず、詳細を確認しようにも通信も念話もことごとく使えなくなっており、頼みの綱であるサーチャー(探査魔法)ですら無駄な努力となった。いや、まったくの無駄というわけではなかった。

サーチャーを飛ばした事で分かったのは、ある一定の圏内に入ると急激な魔力の霧散現象が発生したのだ。これによりサーチャーはおろか、それ以外の魔法ですら使えない可能性が出てきた。その圏内というのはもちろん、ベースキャンプを中心とした場所だ。

「クソッ!―――(なのは!おい、なのはッ!!)」

焦り気味でベースキャンプにいるであろう少女に念話をつなごうとしたが、やはり念話は使えなかった。

「…ちくしょうッ!」

焦りは収まらず、髪の毛をガシガシと掻き乱す。

(だめだ。…いったん落ち着け…!)

あたしは大きく深呼吸して空回り気味の脳に酸素を送り込む。そうして落ち着いたところでさっきの隊員にすばやく指示を飛ばす。

「いいか、中継地点はいったん破棄。ここにいる全員指定された避難ポイントに行け!そこならフレイヤへの通信機が使えるはずだ。フレイヤ待機組と合流後はベースキャンプに向かえ!あたしは先行して現場に向かう!」

今、あそこがどのような状況かわからない以上、現在5人程度しかいない中継地点メンバーを連れて突っ込んでも足手まといになってしまう。その上、戦闘に慣れていない隊員もいるため、いくらあたしでもフォローしきれない。

本音を言えばココの部隊員達を避難ポイントまでちゃんと送り届けたいのだが、今は贅沢いってられない。


「アイゼン!!」

《Jawohl!!》


すばやくバリアジャケットを展開し、一気に空に舞い上がる。あたしはベースキャンプのある方角を睨む。

(たのむから、間に合ってくれ!)

あたしは全力で空を翔ける。




     *****




白と灰色に塗りつぶされた空を、赤い光点が光の尾を引きながら飛んでいた。

あたしは飛行魔法を最大速度で行使し、白い世界を赤線で切り裂くように進む。


「……………」


なんだろう?この焦りの中に不安が混在するような嫌な感覚。――――いつだったか、こんな気持ちで空を飛んでいたことがあった。

(―――ああ、そっか)

こんな状況なのに、落ち着いたようにスッと記憶の引き出しが開く。


(あの夜と、おんなじだ…)


あの時はひとつの物事に頭を支配され夜の空を飛びながら目の前に映る夜の闇に、どこまで行っても変わらない闇に焦りを募らせていた。

今もそう。白く染まる空をただただ進み続け、それなのに方向感覚、時間が狂ったかのように、未だこの白い世界に囚われているかのような錯覚に陥る。


(―――……)


怖い。


この一面の「白」に、すべてを奪われてしまうかのようで。大切な人が消えていってしまうようで。


怖い。


(ッ…なのは)


不安で押しつぶされそうで、思わず彼女の名前を心中でつぶやいた―――――その時。


「―――ッ!?」


飛行中にわずかに態勢を崩しそうになる。あわてて態勢を立て直すが中々安定しない。それに、

(…なんだ?息苦しい…?)

そこではたと気付く。


(!?…魔力霧散現象!!)


突然飛行魔法が解除されそうだった。勿論自分から解除ようとしたわけではない。つまり…


「―――!!あれは!」


あたしは、ついにそれを視界に捕らえる。


いくつか火の手が上がるベースキャンプ。そして、『アンノウン』と思われる機械と交戦してるなのは。

鎌のような刃を振り回し、2体のアンノウンはすでになのはを挟み撃ちにしようとしていた。


「ちッ!間に合え!!!」

《シュワルベフリーゲン!》


4発の鉄球をアイゼンで叩きつけ、同時に打ち出す。

今まさになのはの後ろから襲い掛かろうとしていたアンノウンに向かっていく。刃が振り下ろされる寸前、鉄球は刃を砕き、残る3発はヤツの胴体に当たる。

ヤツが身じろぐように動きが止まったのを見過ごさなかった。


「下がれなのはぁァァ!!!」


「!?」


なのはが退いたのを視界の隅で捕らえ、あたしはアイゼンを全力で振り抜く。


―――ズドンッッ!!!


金属のねじ切れる壮絶な音と共にアンノウンはその胴体をくの字に折り曲げ、横に吹っ飛んでいく。

すると横合いから残っていた1体が虫のような脚をガシャガシャ動かし突っ込んできた。しかし、


「―――シュートッ!!」


桜色の魔力光―――なのはの魔力弾がヤツの足元に当たり、アンノウンが前のめりに転ぶ。急いで脚を動かし、起き上がろうとするが―――――おせぇ!!!



「コメットフリーゲンッ!!!」


「ディバイン………バスターー!!!」



―――ドゴォォォンッ!!!!!


巨大な鉄球がアンノウンの胴体に大穴を開け、その上から桜色の魔力砲撃によってヤツの体はバラバラに吹き飛んだ。

ただ、爆風の余波で周囲のテントが吹き飛んで行ったような気がするけど……気にしたら負けだ。


「なのはッ!無事か!?」

「ぅ、うん、なんとか…」


緊張の糸が切れたのかなのははその場にへたり込む。思った以上に疲労が蓄積しているのかもしれない。


「なのは。お前はいったん避難ポイントに戻れ。あたしもここを見回ってから戻るから」

「でっ、でもまだ避難できてない人がいるかもしれないし2人で…」

「―――このバカ!!」

「っ!?」

「……わりぃ、怒鳴っちまって…。でも今あたしとなのはだけじゃ人手が足りなすぎる」

それに、避難ポイントも絶対に安全ってわけじゃあない。まだあのアンノウンがうろついていたら……。1体や2体ほどなら部隊員の人数かき集めてどうにかなると思うけど、アンノウンの数もどれほどか把握できてない以上安心できない。

「とにかく一度戻ってから―――――」




《マスター!!》




突如、なのはのデバイス「レイジングハート」の声が割り込んでくる。―――――刹那と経たず、その理由を思い知る。

「なッ!!?」

「!!?」


あたしとなのはをまとめて切り裂こうとする鎌が横一線に振るわれる。

なのははすぐさま距離をとったが、あたしはアイゼンで受けて、その勢いと衝撃で後ろに弾かれる。

(三体目!?いつのまに接近された?!)

するとヤツはなのはの方に向かっていく。

「なのは!!」

なのはは咄嗟にアクセルシューターをヤツの胴体に撃ち――――当たらない。


「―――え!?」


なのはは困惑する。いままで百発百中といっていいほどの魔法が彼女の意思に反するかのようにあらぬ方へと飛んでいったのだ。


(―――そんな…!まさか!!?)


あたしの中の勘が警笛を鳴らす。何故なのはのシューターが暴走したか。

理由は簡単だ、なのははシューターが制御できないほどに集中力が途切れてしまったのだ。


アンノウンはそんなことは意に介さず、すでに刃を振り上げなのはに迫っていた。


「…くっ!ディバイン―――」

「!?やめろ!今のお前じゃ――……」


なのははデバイスをアンノウンに向け砲撃の体勢に入る。あのモーションに入れば早いのはなのはの方だ。ヤツを破壊はできないが足止めは十分にできる。


―――そうなる筈だった。


「―――バスタ…ッう?!!」


なのはの顔が歪む。金縛りのように体が硬直する。

集中力が途切れ、チャージされていた砲撃魔法が霧散した。


あたしは全力で飛んだ。なのはの元に、一秒でも一センチでも近づくために。


手が届く。そう思い、わずかに安堵し―――――




―――――ドスッ!!!




「!!??ッ……――ぅぐッ!!!?」




もう既に触れられそうな距離で――――あたしの目の前で。


なのはの体に、刃が突き立てられた。


「―――」


純白のバリアジャケットを血で染め、少女は白い大地に音もなく倒れ込む。


「―――――――――――…………ぁ゛あ…」


あたしの頭から―――――理性が消えた。




「………ッああああぁア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」




あたしは内から怒涛のようにあふれ出す本能のまま、獣のように吼える。


「ラケーテン!!!!」

《Ja!》


アイゼンが変形し前部にピッケル、後部はジェットブースターに変わる。ブースターから火が噴き、グンッとアイゼンに引かれるほどの推進力が生まれる。

アンノウンがこちらに気付くが、あたしはかまわずアイゼンを叩き付けた。



―――ッッッドン!!!!!!!



爆音と共に装甲や金属片を臓物のようにぶちまけられたアンノウンは、原形をとどめていない鉄屑となった。


「―――はぁ、はぁ、…!!なのは!!!」


あたしはなのはの元に走る。アイゼンを放り、なのはを抱き起こした。

「チクショウッッ!!なのはッしっかりしろ!!」

血で汚れるのもかまわず、なのはを抱き起こしながら付け焼刃で覚えておいた治療魔法をほどこす。


「クソッ駄目だ血が止まんねえ!」


こればかりは元々自分の得意分野ではないから仕方がない。


「クソッ…(おいッ!誰か聞いてるか!聞こえてたら大至急コッチに医療班を呼べ!!重傷者が出た!!)」


まだちゃんと通信が通じるかどうか確認できてないが、悠長に待機組が来るのを待てるほどあたしは余裕がなかった。


「(頼む!!大至急――――――――――――――――)」









――――――…………………………………………トンッ









突然、背中に何かが“当たった”。









「―――――――――え?――――――…………………………………………ッッッ!?がふッ!?!?!?」


嘔吐感とは違う、喉からせり上がってくる感覚とともにあたしの口から我慢する事もできないまま吐き出される―――――血。


「オぇ、ェ……??!………ひぁ゛…――?!」


なんで?


なんで、あたし血なんか吐いてんだ?


「ぃ―――ひゅ…ッ!」


すると、一時遅れて背中から鋭い痛みが伝わる。

あたしはギリギリと錆びた万力のように首を回し、後ろを見る。そこには代わり映えのない雪原が広がっていた――――かのように見えた。

しかし、景色は突如霞がかったように消え、そこにいたのは先程まで戦っていた筈の、破壊したはずのアンノウン。

(……まだ、…一体……)

ソイツから伸びる刃は、あたしの背中を刺し貫いていた。そして、ヤツは思い切り刃を引き抜く。


「あ゛ッ!!?いぎ!?!?」


とてつもない激痛とともに、なのはに覆いかぶさるように倒れる。

「ハぁ……はぁ、ぁァ…」

痛みで意識が朦朧とする中、視界に血に濡れた刃を振り上げたアンノウンの姿をとらえる。

(―――こ、イツ……あたしごと、…なのはを―――…!)

あたしが両腕に力を込めて体を起こすのと、ギロチンのように刃が振り下ろされたのは同時だった。





―――――ドンッッッ!!!!!





ひときは強い衝撃と、あたしの胸から“生える”刃。


「ッッッい゛ぎ!!!??―――ぐ、ぎッ!!」


胸から突き出る刃がなのはに届かぬよう両腕にあらんかぎりの力を込める。

その間にも、刃はズブズブと肉を裂きながら傷を広げていく。


「――ァ……ゥウ゛―――!!」


今までにないほどの体を焼かれるような痛みに歯を食いしばる。――――――――と、















――――――――――――――――ぱきん














“なにか”が、砕ける音。


それとともに、体から急激に熱のようなものが抜けていく。それは指先から、足先から熱が引いていき、まわりの雪にも熱を奪われていく。


コップの水がこぼれていくかのような感覚と比例するかのように、痛覚が、意識が、視界が、じわじわと薄れていく。





―――――ズズリッ!!





「―ッ!?――ひゅ…!」


刃が強引に引き抜かれ、またあたしはなのはの上に倒れ込んだ。もう両腕には力を込める事はできなかった。だらんと投げ出された腕は指一本動かない。呼吸すらままならず、文字どうり「虫の息」だ。


「こひゅ…――ふゅ…――」


ふっふっ、と小さな呼吸を繰り返す。酸素もまともに取り込めず、霞む視界の中にヤツの輪郭が浮かぶ。


刃を掲げた、ヤツの姿を。


「ヒュ…――は、ひゅ…――」


もう、考える事もままならない。


せめて、せめてなのはだけでも…と、あたしは信じてもいない神様に祈る事しかできなかった。





刃は振り下ろされる。





刃は突き刺さる。





―――――が、刃が突き刺さったのはあたしの体ではなく雪に覆われた地面。

肝心のアンノウンは、その刃を残して体はバラバラにされていた。


その時目にしたのは、ヤツに降り注ぐ無数の光。


そして、白い服と帽子を被った少女と思われる輪郭。

「――!!―――――!!?」

なにかを叫びながら、駆け寄ってくるのがなんとなくわかった。


よかった…。はやく、なのはを……。


「!!――、―!―――!?」


泣いてるのだろうか?あたしの顔に雪とは違うあたたかい雫が落ちてくる。

ふと、あたしの目は少女の顔の向こうにある空に向く。


(――――――………)


なんだろう?最初見た時よりも色あせてるような気がする。灰色なのか白なのかもわからない。

口に残る血の味すらわからない。

音も聞こえない。

強烈な眠気に、どんどん意識が引き込まれていく。


―――……ね、むい。


「――…………ふ、―――……ひゅ…」


「!!?――!!――――ィ―!?」


呼吸音が小さくなるたびに眠気もいっそう強くなり、ついにまぶたも重さに耐えられずに、視界を閉ざす。


そして、底の無い闇が津波のように押し寄せ、あたしの意識を飲み込んだ。












―――――数多の世界のどこか、





―――――雪に支配された世界で、












『鉄槌の騎士』は死んだ。















―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


あ、あとがきなのに何書いたらいいかわからん……(ノд・。) グスン

一話丸ごとシリアス……鬱になりそうだけど頑張ります。

読者様へ。毎回感想と誤字のご指摘ありがとうございます。


次回もシリアス。――――ギャグはまだか!?




【次回】


はやて「かえして」






[33468] 【13】はやて「かえして」
Name: はじっこ◆1601988e ID:0b58e5a9
Date: 2013/03/03 18:50










―――23時52分―――




クラナガン総合医療施設。


その近くの道路に一台のタクシーが止まる。

俺は運転手に料金を払い、飛び出すようにタクシーから降りる。

いつの間にかあたりは雪が降っていた。積もりかかった雪で湿った道を俺は走る。

この先にある建物―――クラナガン総合医療施設は遠くで見ても、病院特有の近寄りがたい雰囲気を感じる。

マンションからココまで急いで来たから今の俺は薄着のシャツとジーンズの上にコートを羽織っただけだ。寒すぎる。

けど、今の俺にとっては寒さなど「その程度」ぐらいにしか思わなかった。そう思えてしまうほど今の俺は切迫していた。




一時間ほど前、フェイトから通信があった。


取り乱すフェイトをなんとか落ち着かせながら、俺はなんとか現在起こっている状況を把握する事ができた。




―――――なのはとヴィータが無人世界で事故に遭い、重傷を負った。




それは、俺を混乱と絶望の海に叩き落とすには十分な内容だった。




     *****




病棟に入った俺はフェイトから聞いた場所へ向かっていた。走ってたら看護士さんに起こられたので今は早歩きだ。

廊下は足元を照らす照明のみで薄暗い。転ぶ心配は無いが、正直迷子になったら目的地以前に最初の入り口に戻れるかも怪しい。

「案内図はちゃんと見たけど……こっちだよな?……」

俺って始めて来る場所は迷子になりやすいクチだからな…。まあだから地図はちゃんと見る方なんだけど。


「――――!!っ、タロー!!」


廊下のむこう、わずかに光が漏れるT字路の先から聞きなれた声。それとともに曲がり角から少女と思われる人影。

知らず、早足だった歩調を早め、さっき注意された事も忘れて走った。

茶色いコートを着た人影―――フェイトは不安に歪む顔で俺に駆け寄った。かなり息を切らしている様子からついさっきココについたのだろう。

「タロー!なのはがっ!ヴィータも、すごい怪我して、いま、しゃ、シャマルが治療室で、それで――」

「お、おい落ち着けっ」

俺は彼女をなだめようとするが、フェイトは尚も不安そうに顔をゆがめる。

「落ち着けないよッ!だって、だって……」

「フェイト…」

「ねぇタロー、だぃ、大丈夫、だよね?なのはも、ヴィータも怪我、すぐ治るよねっ?」

フェイトは俺の両腕をつかみ体をグイグイと引く。体を揺さぶられ、何も抵抗できずにいたが、

「よすんだフェイト。タローが困ってる」

「!、クロノ…」


フェイトの手をほどくように引く少年、クロノがいた。


「っ……ごめんなさい」

「いや、俺は気にしてないから」

かすれてしまいそうなフェイトの声に俺はそう返す。そして、クロノは「すまないな」と静かに言う。

「タロー、話はフェイトからか?」

「…ああ、まあ一通りは」


角を曲がった先、突き当りにある曇りガラスの扉。中の様子はわからないが、ガラス越しに漏れる照明が小さな廊下を照らす。

曇りガラスの扉には液晶表示のように『集中治療室』という文字が浮かんでいた。

その扉の両サイドに設けられたベンチ。

そこにいた白のコートを着た女性、シグナムだ。その傍らには青い狼、おそらくザフィーラだろう。


そして、毛布を頭からかぶり、ベンチに座っている人影。


うつむいた状態に毛布もかぶっているため顔はわからないが、毛布から見える茶色い髪、小さい輪郭の顎は女性特有のもの。

毛布が動きうつむいていた顔が、瞳が、俺の方に向く。


少女―――八神はやてが俺の存在に気付く。


「―――――ッ!?……な、なんで、太郎さんが…?」


はやての顔が先程とは打って変わり、困惑の色に染まる。おそらく今の俺も同じ顔をしているかもしれない。

「な、んで、…ここに……」

「その…フェイトから、聞いて……それで…」

搾り出すように答えるが俺は気が気じゃない。はやての瞳が真っ直ぐに俺を射抜いている。


フェイト経由なのだが、なのは達を最初に見つけたのははやてなのだそうだ。フレイヤが緊急通信を受けた時、真っ先に転送ポートから向かっていったのだ。

しかし、現場に着いたときには2人はすでに重症だった。今まさに二人を襲おうとしていたアンノウンはその場で倒す事ができたものの、彼女からすれば間に合わなかったも同然だった。

なのは達が搬送され、フレイヤからココまで、はやてはずっとこんな状態だったそうだ。


毛布を被ったまま、はやては言葉を選ぶかのように口をもごもご動かし、けれどその瞳は俺の姿を捉え続ける。俺は目をそらす事ができなかった。


俺は……気付いてしまった。はやての瞳に、ほんのわずかだが仄暗いものが混じり始めていたのを。


しかし、一瞬凍りついたかのような空気は一変する。


光が透ける曇りガラスの扉が左右に開く。扉の向こうから緑の手術着を着た女性―――シャマルが出てきた。


「――!!シャマルっ」

はやては被っていた毛布をはねのけ、シャマルの元に駆け寄る。

「シャマル、なのはちゃんは…ヴィータはどないなん?大丈夫なんか?」

「……っ」

はやては詰め寄るようにシャマルに問いかける。その傍らにフェイトもいて、シャマルの言葉を待っている。

シャマルはしばらく何も言わなかったが、二人の声に押されるように言葉を紡いだ。


「…落ち着いて、聞いてね」


シグナムとザフィーラは、ただ静かにシャマルの言葉を待つ。俺も裏返りそうな心臓に「おちつけおちつけ」といい聞かせながらシャマルさんの言葉を待った。

「まず、なのはちゃんは――――失血量は多かったけど、命に別状は無いわ」

その言葉に、わずかな安堵の空気が広がる。―――――しかし、

「でも……」

「でも?……なのはは、どうしたの?」

フェイトが不安げにシャマルに問う。




「…もう、あの子は―――――飛ぶことはできないかもしれない」




シャマルの口から告げられる、宣告。フェイトも、はやても、言葉を失う。

「――――リンカーコアは過剰使用による損傷。体も、疲労と大量出血の上に腹部の傷、かろうじて内臓は無事だったけど……これからは立って歩く事も困難になるわ」

静まりかえる廊下に、シャマルの声が通る。

「リンカーコアも、体も、リハビリが上手くいったとしても――――もう、前のように魔法を使う事は…」


とすん。と、フェイトは糸が切れたようにその場にへたりこむ。


「――!?フェイト!!」

クロノはフェイトの体を支えているが、彼女はもう自力で立つこともできなかった。

「――ぅ、うあ…っああ、…ぁぁ」

フェイトは泣いていた。まるで涙を押さえつけるかのように両手で顔を覆い、けれど涙を止めることはできなかった。

彼女の嗚咽だけが廊下に反響する。しかし、その中で―――――はやての声が響いた。


「………ヴィータ、は?……」


「――………っ」

はやての言葉に、シャマルは一層苦しげに表情を歪める。

「シャマルッ!ヴィータは…あの子は、どうなったん……?」

シャマルは手を強く握り締める。ギリ…という音が聞こえるほど。

「シャマル」

「っ…シグナム」

「どの道、言わなければならないだろう」

「……」

シグナムの言葉に、シャマルは目を瞑る。ここにいる全員が彼女の反応を待った。

そして、彼女の口は開かれる。

「―――……ヴィータ、ちゃんは、胸部を貫通するほどの傷で、表面上は、傷はふさぐことはできた。けど、胸部を貫通したとき、あの子のリンカーコアは……」

「…しゃ、まる?」

ここでシャマルは言葉はとまってしまう。


事実を知らないのではない。現実を直視できないのではない。事実を知り、現実を目の当たりにしたからこそ、彼女がこれから告げることは相応の覚悟が必要なのだ。


俺はもう気付いてしまった。シャマルさんが知り、そしてこれから話す事実は避けることができない――――“絶望”。


そして、それは俺の想像どおり―――いや、想像以上のものだった。


「なのはが二度と飛べなくなる」という現実が、マシに思えてしまうほどに。



















「―――……ヴィータちゃんは、もう助からない」



















絶望という名の弾丸が装填され、引き金が引かれた。



シグナムは苦虫を噛み潰すように歯を鳴らす。


ザフィーラは静かに、悔やむように目を伏せる。


フェイトはさっきまで泣いていたことも忘れ、目を見開く。


クロノは悲痛そうに顔を歪める。


はやてはシャマルの言葉が理解しきれず、呆けている。


俺は皆の反応を見て、ようやくシャマルの言葉の意味を理解した。



「……??、え?…な、何、言うとるんシャマル???」

静寂の中、まず聞こえた言葉は、疑問。はやては苦笑している。

「助からんて……何言うとん。ヴィータが、そんな、そんなことあらへんやないか」

「はやてちゃん。ヴィータちゃんはも―――」


「そんなことないッ!!!!!ありえへんッ!!!!!」


少女は突きつけられた事実も、現実も、受け入れなかった。


「ヴィータが助からん?そんなことあるわけない!!ヴィータは居なくなったりせえへん!!こんなん…こんなん、なんかの間違いや!!」


「はやてちゃんっ!!!!!」


「!!?」

シャマルの怒気をはらんだような叫びに、はやては固まってしまう。

「シャマル……もう、手は無いのか…?」

シグナムの問い。だがシグナムはこの疑問をぶつけても現実は変わらないと薄々感じていた。

「――…わたし、だって……私だって!!できる手はすべて尽くした!すべて調べた!……でも、ヴィータちゃんのリンカーコアは、原型を留めてないくらいボロボロなの…」

血のにじむような、シャマルの声。

「…今、いったんラインを切断して、間に合わせで魔力供給ラインを複数繋げることで肉体の消滅は防いでいる。……でも、これも時間稼ぎでしか、自己崩壊の進行を遅らせる程度にしかならない」

しかし、はやては納得できず、声を上げる。

「でっ、でも!まだ時間はある!その間にヴィータのリンカーコアを治―――」

「それが、できないの。リンカーコアはもう原形を留めてない。治癒をかけても、受け止めきれず垂れ流すだけ。穴の開いたバケツでは水を貯められないのと同じ」

あっさりと、希望は潰える。

「な、ならこのまま魔力を供給したまま―――」

「それも、だめなの」

「――…え」

「魔力を流し続けても、コアの崩壊は止まらない。いいえ、魔力を供給する行為自体が、その進行を早めているといっていいわ。魔力を流せば流すほど「穴」は広がる」


それはつまり、ヴィータの命を維持するための行為が、彼女を死に追いやっているというのだ。


普通の人間であれば、リンカーコアが損傷したからといって死ぬわけじゃない。


でも、ヴィータは人間ではない。その体はリンカーコアを核としている『プログラム生命体』。


彼女にとってリンカーコアを失う事は、心臓を失うのと同義。


「あと、どれ程残っている?」

低いところから聞こえる声、狼の姿のザフィーラが問うのは、ヴィータの『残された時間』。

「…シャマル」

「…」

はやても、シャマルの答えを待つ。









「―――――――――――……………“23時間”……それが、ヴィータちゃんの体を維持できる…時間」








それは、あまりにも短い、彼女に残された命の期限。


ヴィータは一日と経つことなく、その生涯を永遠に閉じる。


その場にいる皆が皆、シャマルの言葉に衝撃を受ける。


「…う、そや…そんなん」

「はやてちゃん…」

「……いやや……――いやああぁぁぁぁ!!」

彼女は頭を抱え、その場にうずくまる。くぐもったような押し殺すような声を漏らしながら、ただ目の前の現実が受け入れられず。

そんな彼女の姿を呆然と見ていたが、それは俺にも言えることだった。

何よりも誰よりも俺自身が目の前の現実を信じられなかった。「多分コレは夢なんだ」なんてバカなことを何度も思った。

でも、夢は覚めない。否、現実は変わらない。


―――なんだよ、なんなんだよこれは。


―――なのはは、主人公なんだろ? 何でヴィータが死ぬんだよ。


―――こんな話、アニメであったのか? どうして……なのはが、怪我しなきゃなんないんだ…?


―――なんで、なんでヴィータが死ななきゃなんねぇんだよっ!!


「な、なんで、こんな…」

俺は知らず、そんな言葉が漏れた。吐息のような俺のつぶやきは小さく、まわりの人間には聞き取ることはできなかった。


ただ、一人を除いて。



















「―――――――――――……………んたの、せいで…」



















その声が聞こえた、次の瞬間、俺は背中から床に叩きつけられた。

「――ッが?!ぐぅ…!」

肺の空気をしぼり出される苦痛の中、その原因は俺の上に覆いかぶさるようにつかみかかる少女。


怒り悲しみなどないまぜな感情で歪む、はやての顔が至近距離にあった。


「はやて!?」

「はやてちゃん!?」


フェイトとシャマルの声が驚愕に染まる。クロノ達も突然の出来事に対応できずにいた。

そんな中、胸倉を乱暴につかむはやては叩きつけるように声を発する。


「あん時、ヴィータに…ヴィータに何を言うたんやッ!」

その叫びに、俺はただ萎縮するしかなかった。

「ヴィータは…あの後、あれからずっと、部屋に閉じもって、ずっと泣いてて、苦しいのに、辛いのに…あの子は―――あの子はなぁ!自分のしたことだからって、自分の…罪だから、私が償うべきだから、言うて…あの子は、ひとりで……なのに―――」

はやての後ろから誰かが―――多分シグナムがはやて腕を取り俺から引き剥がすように立たされるが、はやてはそれでもなお俺に掴み掛ろうとしている。

「こんなん、こんなんないよっ!あんまりやろ!!私が悪かったいうんならいくらでも謝る!あんたが望むならなんだってするッ!――――だから、だからヴィータを、あの子をかえして…かえしてよッ!!!」


「―――っ!?」


「なんで、なんであの子なん!?あの子はずっと苦しんできたんに、やっとたくさん笑えるようになったんに…どうして、こんなこと――ひどぃ…ひどいやんかぁ…」


彼女の言葉は要領を得ない支離滅裂な内容だ。でも、そんなのは何の言い訳にも理由にも気休めにもならない。なぜなら彼女が吐き出してるのは感情そのものだからだ。

彼女の幼い精神(キャパシティ)は限界を振り切ったのだ。


「かえしてよぉ……ぅ、あ…うぐっ…ひぅ―――うぅうぅぅあああぁ……!あ゛ぅうううあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


俺の耳に、鼓膜を突き刺すような少女の声がこびり付いた。




     *****




―――00時40分―――




治療室の前は先程の騒ぎとは打って変わり、静寂に包まれていた。

今は俺とクロノ以外は誰もいない。泣き叫び疲れたはやてはあの後シグナムに抱き上げられ、多分今は待合室みたいなところで寝かされているのだろう。フェイトも、はやて同様。ザフィーラが人型になっておぶっていった。シャマルさんはいつの間にかいなかった。

「…タロー」

「…」

クロノはどう声をかけたらいいものか迷っているようだ。―――ま、下手に慰めるような言葉を出さないようにしてるトコはなんとなくわかる。

――ったく…。

「クロノ。今は俺のことはいいからフェイト達の様子を見に行ってやれ」

「いや、しかし…」

「まあ、俺はしばらく一人になりたいってコトで」

「……わかった」

クロノはそう言い迷うようなそぶりは見せたが、ゆっくりと待合室のある方へと歩みを進めた。

そして、治療室の前にいるのは俺一人だけとなった。


「…」


目の前の扉は、堅く閉ざされている。―――今、俺の中である衝動がくすぶり渦巻いている。




―――ヴィータに………会いたい。




この先に彼女がいる。この扉を叩き割ってでも中に入って、話せなくてもせめて顔を一目見るだけでも……!

でも、そんなことしたら多分ただじゃすまないだろう。最悪、はやてやシグナム達にボコボコにされるやもしれない。―――でも、それでもヴィータの顔が見れるならそれでも構わないと思った。


―――でも、


「……バカか、俺は」

第一、会えたからといって、会うことができたとして、




「……何ができんだよ」




ヴィータに何かできるとでも思ってるのか?……YES/NO。


この絶望的な状況を覆す奇跡の力を持ってるのか?……YES/NO。


俺は、彼女を助けられるのか?……YES/NO。


答えは、全部「NO」だ。


クソッタレ。身の程をわきまえるのも限度があるだろうが。


「……なんもできねーじゃん」


もう、


もう、いいじゃないか。


これ以上、かかわっても彼女達に不快な思いをさせるだけだ。


だいたい俺はなんの力も、レアスキルも無い。魔力もEランクのなんちゃって魔導士だ。自分の身ひとつで精一杯なのに誰かの命を背負い込めるほどの覚悟も信念も思いも無い。


誰も彼もが何でもできる「ヒーロー」じゃないんだ。俺は、そんなご立派なモノにはなれないんだ。せいぜいが怪人に逃げ惑う一般市民がお似合いだろう。


「…」


俺は治療室に背を向け歩き出す。




しばらくして、集中治療室の前には人気が無くなった静けさに包まれた。




     *****




―――01時12分―――




クラナガン総合医療施設の一室。


「―――…これも、だめ……これじゃぁ…」


ブリーフィングルームの室内にはに明りが灯り、そこに一人の女性の存在を認識させた。


女性は複数のモニターを操作しながら片手に持つ書類に目を通していた。彼女の目線がめまぐるしくモニターと書類を交互に見やる。

普通はこんな事では内容を理解できず逆に情報が混乱してしまうのだが、彼女の頭の中では複数の思考が同時並行して情報の収集と検討が行われていた。

『マルチタスク』を駆使して彼女は自分の求める情報を模索する中で、その幾分かを焦燥と苛立ちに塗りつぶされようとしていた。

「―――消滅の危険性を覚悟して無事なコア断片を収束…?―――コアの周囲を覆うように魔力の膜を張って漏洩を防ぐ…?」

彼女の中で様々な方法が浮かび上がり、そして現実と確率論に照らし合わされた結果、実現は不可能と判断し落胆する。


彼女は―――シャマルは自分の行いがただの悪あがきだとわかっていながら、それを諦めきれずにいた。


ブリーフィングルームに備えられたテーブルの上には書類が散乱し、床にも何枚か落ちていた。

焦りから手が震え始め、手に持った書類が何枚か落ちるがそれを気に留める余裕はなかった。

「―――っ…ヴィータちゃん……!」

ついに、動いていた手が止まってしまった。

時間が、無かった。あまりにも足りない。

こうして、ただ時間が過ぎていくだけでもシャマルの心はおろし金に当てられたような心的負担に囚われる。


「―――………ッ!!」


苛立ちのあまり、テーブルに拳を打ち付ける。「―――ドンッ!」という衝撃音とともに書類は舞い散り、座っていた椅子は蹴り倒されてしまう。

右手から伝わる鈍い痛覚がわずかに脳をクリアにする。ふいに壁にかけられた時計に視線を向ける。


ヴィータに残された時間は……………あと22時間弱。


(……)


シャマル自身、騎士として戦い続けた現在に至るまで仲間の誰かが欠ける可能性は常に覚悟はしていた。しかしそれは参謀としての打算と彼女自身の気持ちとはまったく別だ。

もうヴィータ達はシャマルにとって失う事を許容できない存在―――家族だった。

もう誰一人、何一つ失いたくない。

今、それだけが、今の彼女を突き動かしている。だが、それでも―――


彼女の意思は折れる寸前だった。


手探りに近い治療法の模索、治療方針も定まらない、準備も、情報も、資料も、―――何よりも、時間が無かった。


こうして頭を抱えている間にも時間の針は進み続ける。こんなことをしている猶予など無いのに、もうシャマルは限界を感じ始めていた。




(――――――も、う……)




視界がかすんでいくような錯覚とともに、強く握っていた拳から静かに力が抜けていく……………。



























































「――――――――――っだあぁぁ……!はぁ、やっと見つかった~……」




突如背後から響く声。

シャマルの思考は驚愕に染まる中、ブリーフィングルームの扉から聞こえた声に振り返る。

「はぁ…道迷ったときはマジで焦った…」

そこにいたのは日本人特有の黒髪と黒い瞳の少年。あまり特徴の見られない顔立ちは疲労に歪んでいる。

だが、彼女が気になったのはそんなことではなかった。

「探しましたよ。シャマルさん」









その少年の眼は、―――――強い光を宿していた。









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





さ、作者です。カメ更新でゴメンサイ……ぐふぅ。

読者のみなさまの感想と意見を糧にまだまだガンバリマス!!


さて、次回。

少年、山田太郎の物語が動き出す。







【次回】


シャマル「偽善者と最悪の手段」






[33468] 【14】シャマル「偽善者と最悪の手段」
Name: はじっこ◆1601988e ID:b6aefa42
Date: 2013/03/25 16:40





―――10時28分―――




「かぁ~……ぐごごぉ~……」


時空管理局、第三士官学校南棟。

太陽が真上に差し掛かりそうで、まだわずかに届かないような斜めに射す日の光が教室の窓際のわずかなスペースをぽかぽかと温める。


「ぐご~……ぐごぉ~……」


昼に近そうでその実、朝の眠気がまだわずかに残るこの時間帯はまさに睡魔との一騎打ちだ。ココで負ければ現在教壇で講義をしている講師の怒りを買うことになる。


―――が、教室の窓際に座る少年は机に完全に突っ伏し、これでもかと言うぐらいイビキをかいていた。


「んんっ……ヤマダ仕官候補生」


「………ふがっ?」


講師のわずかに角のある声に間抜けな声で答える少年が一人。少年の寝ぼけに教室にいる何人かが笑いをこらえている中、


「ヤマダくん。眼は覚めましたか?」

「ぉ、ぉぅ………あと、…ごじゅっぷん…」


「「「っっぶふぅ!!!???」」」

ついに笑いをこらえることができず、吹き出す者が出た。


その15秒後に、睡魔に完全敗北した少年の脳天に拳が降った。




     *****




いつつ……。まだ地味に痛いし。


「タローどーしたんさ~?あんな爆睡して。ねぶそく?」

「ん、まぁちょっとな」

どもども。本日最初の講義から休み時間もまたいで爆睡していた俺に堪忍袋の緒が切れた講師サマの容赦ない拳骨を喰らい、講義終了と同時にありがたいお説教を聞かされようやく眼が覚めた山田太郎である。

「よふかしはお肌の大敵だぜタロー」

「…そこは体に毒とか言うんじゃないか?」

そんな残りわずかとなった休み時間をソゥちゃんと無駄話をしながら過ぎていった。





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―――01時10分―――




俺の主観と言うか偏見だが、どうして真夜中の病院というのはこうも不気味に感じるのだろうか?よくホラー映画でも病院が出るけど、そのイメージが先に出てくるからかもしれないな。


うん、でも……今、俺が道に迷っている事とはまったく関係ないんだよね!


「ど、どこだココ…」

ああもう!こう時間が無いってのに何で俺はお約束のように迷子になってんだよ~!

後頭部をガシガシ掻きながらカツカツと廊下を早歩きで進み、

「―――ん…?」

あそこは…開きっぱなしのドアから明りが―――。

「…あっ!」

間違いない。遠目だけどあの女性は…。

急ぎドアの方へ俺は駆け出した。


「―――っだあぁぁ……!はぁ、やっと見つかった~」


疲労でドアの枠にもたれかかるが、目的の人物を視界に捕らえる。…いや~、一時はどうなるかと思った。

「探しましたよ。シャマルさん」

俺は目の前の女性―――シャマルさんをようやく見つけたことに安堵の息を漏らす。

対してシャマルさんは俺の姿を見て少なからず驚いているようだ。

「あなたは……」

「シャマルさん」

シャマルさんが声を漏らすが、今は時間が無い。シャマルさんの目線を正面から受け、見据える。

彼女から、わずかに息を飲む声が聞こえたように思えたが…気のせいだろう。


「忙しいところ申し訳ないんですが、少し聞いておきたいことがあります」

「……何かしら?」


シャマルさんは目を細め、俺の真意を探るような目線を向ける。睨んでいると言ってもいいかもしれない。

こ、こええ…。やっぱシャマルさん見た目優しそうなお姉さんでもベルカの騎士なんだよな…。ぶっちゃけます、ちびりそうです。…でもココで退くわけには行かない。

俺は意を決し言葉を紡ぐ。


「―――――ヴィータは…ヴィータを救う方法は、もう無いんですか?」


「……」

「リンカーコアが、治療ができないって言ってましたよね。だったら仮想補助コアで外部から繋げて肉体を維持するための入力とか、できませんか?」

簡単に言えば体を維持するため“だけ”の機能を外部設備などで補おうということだ。幸いココには医療設備は十分にあるし、それぐらいは揃えてるだろうと―――が、

「残念だけど…それは無理よ」

「…」

…だよなぁ。だって今ヴィータの体を維持してる外付けの魔力ラインってのが“それ”なんだよな。

あの時シャマルさんが『いったんラインを切断して、間に合わせで魔力供給ラインを複数繋げる』って言ってたけど、魔力ラインを繋げるのはいいとして、何でわざわざ“守護騎士間のライン”を切断する必要があるのか。

「…つまり、ラインの維持が難しいほどコアの損傷が激しいってことですよね?」

守護騎士ラインを切ればその分魔力供給ラインを増やす事ができる。でも何故?それなら複数ではなく一本にまとめればいいんじゃないのか?その理由も多分コレだ。

ラインを繋げてもそのラインを繋ぎ続けるだけの余力も無いコアでは何時切れるかもわからない。ましてや一本にまとめたらそれが切れた時点で終わりだ。

多分シャマルさんは複数のラインで魔力を小出しにしてギリギリのところで体を維持させているんだと思う。それにこれなら万一にも一本が切れてしまっても他のラインの供給を増やせばいいのだ。短時間とはいえこれほどまでの処置ができるのはさすがとしか言いようが無い。

「……何が、言いたいの?」

シャマルさんはいぶかしむようにこちらを見る。

まあ、俺もさすがにさっきの方法でヴィータが助かるなんて思えないし。


ここまでは、俺が情報を得るための前座。――――本題はこっからだ。


これから話す事を間違えぬよう何回か頭を整理し、俺は口を開く。









「……シャマルさん、ヴィータに“リンカーコアの移植”は可能ですか?」

「不可能よ」









即答された。

…うん、まあ無理も無いだろう。

シャマルさんの言うとおり、「リンカーコア移植」なんてものはこれ以上ないほどに非現実的な方法だからだ。


さて、皆もいいかげん気になっただろう。俺が何でこんな偏りまくりな専門知識を持っているのか。

なんてことはない。―――俺は未練がましくも自分のリンカーコアを治療する術を探すため、片っ端からコア治療に関する情報を集めまくったのだ。それこそ情報雑誌に載ってるプチ健康法のようなものから無限書庫の片隅にある専門書に一行ほどしか綴られてないような超がつくほどマイナーなものまで、手当りしだい。

情報収集に関しては『オーバーリング』のおかげで丸写しだ(←※マネしないで)。デバイスさまさまだな。

その後はひたすら情報の整理と検索。これは俺の得意分野だから問題なし。まあそんなことを2、3年もやってれば嫌でも内容は覚える。

それで医務官目指してる士官学校の同級生を論破しちゃったのは今も反省してる…。

まあ、そんな専門家も真っ青の情報量をもってしても俺のリンカーコアを治療する方法は見つからなかったんだけどね……。


話を戻そう。俺がリンカーコアの治療に関する知識をもってしても「リンカーコア移植」を不可能と言わしめるか。


簡潔にまとめれば、今現在に至るまで成功例が存在しないからだ。


別に情報が少ないとかではない。あまり気分のいい話ではないが地球の医学知識も大昔から続く人体実験の連続だ。風邪薬から麻酔に至るまでそんな顔も名前も知らない人たちの犠牲の上に成り立ってるのだ。そしてそれは魔法主義のミッドチルダも然り。

それは、誰もが夢見る魔法の力。それを求め、数多くの者がその力を手に入れる方法を探求した。―――その一つが、「リンカーコア移植」。

資料には事欠かなかった。ってかありすぎてドン引きした。それだけ、何百人もの欲望と何千人もの犠牲が垣間見えた。

そんな資料も、今は歴史の一部分としてしか存在できないのだ。

だが、そもそも何故リンカーコア移植を不可能と決定づけるのか?


「――――リンカーコアと肉体の相違による拒絶反応」


「…っ!?…あなた、どうして」


「まあ“ちょっと”調べれば、それなりに…」


そう。


それがリンカーコア移植を不可能とさせる最大の壁なのだ。

皆は医療用語に出る「移植」を聞いて何を連想するだろう。臓器移植、皮膚移植、まあ大体は聞いたことはあるだろう。

だが、それがリンカーコアとなると話が変わってくる。心臓などの臓器とは訳が違う。――――相手は未だ謎を多く抱える非物質器官なのだ。

どの資料を調べても、この拒絶反応が最大の問題点として立ちはだかり、多くの研究者達を挫折させたのだ。

そのうえ拒絶反応のメカニズムは未だ全容がつかめていない。移植途中で出ることもあれば、1日ほど経ってから出る場合もあるのだ。


シャマルさんは静かに、子供に語りかける母親のように言葉を紡ぐ。


「……もう、いいわ。十分よ」


「…」

「貴方が、ヴィータちゃんのために色々考えて、思ってくれただけで、……あの子も、幸せだと思うから…」

ぽつりぽつりと、彼女の語りは少しづつかすれるような涙声となってゆく。

「はやてちゃんのことは、ごめんなさいね。…こんな言い方、ずるいってわかってる。でも…はやてちゃんは、貴方の事を本気で憎んでいるわけじゃないの。だから―――」

「あ、あの~…」

おずおずと言葉をさえぎる俺。急な事にシャマルさんの言葉が止まる。

「…え?」

「い、いちおうまだ話があるんですけど…」

シャマルさんには悪いが、まだ俺は全部説明し終えたわけじゃない。むしろここからが本当の本題だ。





「まあ、単刀直入にもうしますと―――――拒絶反応(それ)に関してはもう解決してます」





俺の、緊張感のないセリフにシャマルさんは「え?!」と声が裏返る。

「なな、なん、い、一体なんの冗談―――」

「悪いすけど、これは冗談でも気が狂ったわけでもないですよ。まあ素人の考える事なんでそれに関してはシャマルさんの補足が必要ですけど…とりあえず、一通り説明してもいいですか?」

「…」

シャマルさんは沈黙したままだが、俺はそれを了承の意として受け取ることにし、説明を始める。


「まず一つ。シャマルさんが危惧する拒絶反応。これはヴィータの体質に合わせてリンカーコアを調整することでなんとかなると思います」

名前は忘れたが、ある研究者は移植するリンカーコアを移植者の体質に近づけることで拒絶反応を克服しようと考えた。だが、

「…悪いけど、それでは拒絶反応を無くすことはできないわ」

結局はそうなのだ。いくらリンカーコアを体に合うように作り変えても拒絶反応は出る。仮に移植が上手くいっても、時間が経つにつれて拒絶反応の兆候が見え始める。

爆弾が時限式になった程度の違いしかないのだ。――――ところがどっこい、どうにかしちゃいました。










「…それなら大丈夫です。リンカーコアと―――“ヴィータの体質そのもの”を作り変える事ができれば」

「―――っな!!?」










俺の策は、シャマルさんの予想斜め上だったようだ。驚くあまり固まってるようだ。

そりゃそうだ。どう考えても正気の沙汰ではない。俺が言うのは移植するリンカーコアとヴィータの体を同時並行で調整を合わせ、拒絶反応のリスクを極限まで低くするのだ。

もちろんそんなこと生身の人間には絶対に不可能だ―――『生身』なら、な。

普通の人間ならば薬品漬けにしても肉体改造をしてもどうにもならない。だが、ヴィータは違う。彼女は『プログラム生命体』だ。

データと魔力によって構成された肉体ならば十分可能性はある。―――それに…


「二つ目は、―――シャマルさん。貴女です」

「…え?」


そう、ヴィータのコア移植を成功させる上で鍵となるのが、何を隠そう彼女なのだ。むしろ彼女以外考えられない。

俺がシャマルさんに目をつけたのは、うろ覚えの原作知識。そのワンシーンに彼女がなのはのリンカーコアを遠隔で抜き取ったことだ。

アニメの設定はわからないが、実はアレ、かなり無茶苦茶なことなのだ。

ネコ姉妹かネコ仮面だったか忘れたが、彼女達は至近距離でコアを抜いていたのに対し、シャマルさんは目測で遠距離にもかかわらず正確なコアの位置を割り出していたのだ。

俺もコア治療の専門書を読んでの知識でしかないが、普通はコアの位置を把握するには計測器などの設備を使う方が一般的で、なんの準備もなしにおこなうとすれば高い魔力察知、空間把握能力等の技術が必要なのだ。


だが、シャマルさんはそれを遠距離でやってのけた。専門医から見れば「え?なにそのチート」と言うだろう。


そんな彼女の高い技術もさることながら、さらに言うならヴィータの…いや、『プログラム生命体』の構造を熟知している事。

ヴィータに素早い対応と適切な処置ができたことからも十分うかがえる。

いや、もう正直彼女以外任せられない。


「貴女なら『プログラム生命体』の事情を知ってるし、技術もある。コアと身体の同時調整は労を要するかもしれませんが」

ここでシャマルさんが「NO」と言えばその時点で試合終了となってしまう。









「では改めて聞かせてください。リンカーコアとヴィータの身体を同時並行調整施術で拒絶反応のリスクを最大限に引き下げた条件下で―――ヴィータにリンカーコアの移植は可能ですか?」









重ねられた問い。しかしシャマルさんはさっきのように即答しなかった。

口をつぐみ、今彼女の中で激しい葛藤が起こっている。俺はただ彼女の返答を待った。

「………はっきり言って、私はこんな話を持ちかける医者がいたら、その人の正気を疑うわ」

おおう。医者じゃないが正気を疑われてしまった。うぅ、地味にキツイ一言。

俺が落ち込む中、シャマルさんの言葉が続く。









「―――でも、不可能ではないわ」









俺はその言葉に反応した。

「本当ですか!」

「不可能ではない。けど成功率は期待できないわ。ただでさえ時間が無いから」

それだけわかれば十分だ。少なくともこれで「成功率ゼロ」なんて出ないだけでも俺は喜べる。たとえ僅かでも、ヴィータを救うための方法が見つかったのだから。

だが、シャマルさんの表情は未だに優れない。俺が何かと尋ねようと―――



「―――でも……できないわ」

「な!?」



その一言に、耳を疑う。

「移植は、できないわ…」

「…理由はなんですか?」

俺の質問にシャマルさんは答えない。

「…」

「答えてくださいシャマルさん。貴女は移植は可能と言いました。俺は成功率が低いから移植ができないなんて言い訳では納得しませんよ」

「言い訳じゃないわっ!!」

シャマルさんの声が張り上がるが、俺は怯むことなく彼女の眼を真っ直ぐ捉え、問うた。


「―――シャマルさん」


一瞬だったのでその時は気付かなかったが、シャマルさんは大きく身体を震わせた。

「シャマルさん、貴女ができないと答えた理由はなんですか?言ってください」

再び、俺は尋ねた。シャマルさんの下がった視線は前髪によって隠れてしまうが、彼女の口元は言葉を発するために形を変え始めた。









「―――移植するための、リンカーコアが……」









「え?」

俺はシャマルさんが頑なに拒んでいた理由にポカンとなってしまう。―――――そして、彼女が何故ここまで来て「できない」と言ったのかがようやくわかった。……いや、シャマルさんの方が“判ってしまった”と言えばいいのか。


ズバリ言おう。もうその問題は解決している。―――――とっくの昔に、な。


「ありますよ」


シャマルさんは、はっと俺の顔を見る。俺はゆっくりと、ゆっくりと、―――自分の胸に手を当てた。



















「…………――――――“ここ”に、あります」



















……最初、コアの移植を考えた時まず候補に考えていたのは『リンカーコアコピー』を用いるものだった。これは名前のまんま、体内を循環する魔力から形成された擬似的なリンカーコアだ。

これならば拒絶反応の心配はほぼ皆無だ。…が、さすがにそこまで都合良くなかった。

このリンカーコアコピーは製作に時間が掛かるのだ。少なく見積もっても一ヶ月以上。20時間じゃどうやったって無理だ。

それにこの技術は完璧ではない。移植できても体内で分解してしまうようで、一週間ほどで跡形もなく消えてしまう。それじゃあ駄目なんだ。


―――いや、もう気付いてたんだ。

ヴィータを救うために必要なものが、何なのか。









“俺”自身だ。









今、俺の胸の内に輝く赤錆色の光こそが、ヴィータを救うために必要な―――最後の鍵。


仮に、この方法を八神はやてが知ったなら彼女は喜んで自分のリンカーコアを差し出したかもしれない。―――――でも、駄目だ。彼女のコアは“強すぎる”のだ。

拒絶反応の症例の大半は、高ランクのコアの暴発によるものなのだ。つまり魔力が高いほど拒絶反応の確率が上がってしまう。

必要なのは、魔力の低いリンカーコア。

だが、見ず知らずの人間がはいどうぞなんて自分のコアを提供してくれるわけがない。ミッドチルダの、管理局に勤める魔導士にとっては死活問題なのだ。仮に提供してくれる人物がいるとしても、探している時間など無い。



絶望。万策尽きた。ゲームオーバー。――――と、なるはずだった。だが、俺は現状ある中から数少ない鍵をそろえた。



一つ目の鍵は……リンカーコア移植の方法&裏技。


二つ目の鍵は……シャマルさんの医療技術。


三つ目が……俺。魔力保有ランク『E』のリンカーコア。



これが、ヴィータの命を救うためにかき集めた最後の、最後の、最後の希望。

そしてそのすべてを目の前の女性、夜天の書が守護騎士。『湖の騎士』―――シャマルさんに託した。


もうここで彼女を頷かせることができなければ、もう俺にできる事など何もない。俺にシャマルさんのような医療技術などないのだ。

俺は、何もできない。でもシャマルさんは違う。だから俺は惨めだろうとみっともなくとも他人に頼るしかない。

俺は深く頭を下げる。これで駄目なら土下座だってやってやる。


「シャマルさん、お願いします」


目の前には自分の爪先と床が見える。









「ヴィータを、助けてくださいっ」









頭を下げた状態のまま、どれぐらい時間がたっただろう。頭下げてるからシャマルさんの表情はわからない。

駄目か…と、僅かに暗い気持ちになるが、なら土下座で!と体勢を変―――



「………―――――な、んで?」



俺は、顔を上げる。そこにいるのは、ほのかに充血した眼で俺を見つめるシャマルさん。

「…なぜなの?……何故そこまでするの?…そこまでできるの?」

シャマルさんの問いはまるで「鳥はなんで飛べるの?」と聞く子供のように思えた。

「…わかっているの?あなたは…移植が、失敗しても……あなたは……」

「…」

わかってるさ。

この移植が成功しようと失敗しようと、俺はリンカーコアを…『魔法』を失う。―――永遠に。

ヴィータのために調整を施されたリンカーコアは、その時点で俺のものではなくなる。「移植できなかったから返す」なんて都合よくいかないのだ。


でも、それで満足だ。


だって、俺のちっぽけなリンカーコアでヴィータを助ける事ができるんだ。それがいったい、どれだけすごいことか。

未練はある。ありまくりだ。正直今まで苦労してやっと魔法使えてバカしながらこの先ダラダラ生きようなんて考えてた俺にとって、それが何の前触れもなくすべてぶち壊されるなんてわかったら俺は最高裁まで争えるね。だが、そもそも俺の遊び半分の魔法と彼女の命では天秤にかける意味がない。

だから何度だって答えてやる。魔法か、ヴィータの命かと言われたら迷わず彼女を選んでやる。当然だ。

「あなたは、どうしてそこまでするの?あなたは…私達が、憎いんじゃないの?」

いや憎いわけじゃないんだよ。単に苦手なだけ。それに俺そういうメンドクサイのはすっぱり割り切る性質だから。

「―――どうして…か」

でも、あえて言うのなら


「……自己満足、偽善ですかね」


「…な」

俺の答えに、シャマルさんの言葉が詰まる。

「俺は、はやて達の恨みを買いたくないし、これが俺のせいで起きたっていうならそれなりの責任は取るつもりです…」

俺の言ってる事は間違いではない。面倒なのは避けて通るし、後引くようなことはなるべくしないようにしてる。あえて付け加えるならもう一つ『理由』があったぐらいだ。こっちは言う必要はないな。…色々思い出したくないし。

「?…え、ええと……どうかしました?」

い、いかん一言余計だったのかな…。シャマルさんが何も言わなくなった。マズイぞ…気を悪くさせたかな…。

シャマルさんは目を瞑り、考察する時間が静寂とあいまって俺はなんとも居心地がよくない…。


「――――デバイスか、通信用端末は持ってる?」

「…え?」

「一応、連絡が取れるようにしておいたほうがいいと思って」

「…!それじゃあ!!」


と、シャマルさんが手のひらを突き出し、「待った」をかける。

「可能性はあっても、まだ可能かどうかはわからないわ。私の方で検討して、判断させてもらうけどいいかしら?」

「はい。もちろんです」

多分これから機材借りたりとか医師達の人手を確認して施術ができるか検討するのだろう。―――と、そうだ。

「一応コレも持っててください」

「…?これは…」

シャマルさんは渡された黒鋼色の無骨な腕輪―――『オーバーリング』を手に取った。

「その中にあるY-112ってファイルにリンカーコア移植についての資料が入ってます」

引っ張り出したデータの丸写しだが、情報を探す手間も考えればコレも十分役に立つはずだ。


「じゃあ、後は…お願いします」


俺はそう言い頭を下げた後ドアをくぐり廊下を進んだ。




     *****




「……ふぅ」

俺は人の気配の無い薄暗い廊下で、ようやく一息ついた。

「上手くいくかなぁ…」

さすがに不安は完全に拭い去る事はできない。こればかりはシャマルさんが頼りだから仕方ないが。

「まあでもできることは全部やった」

これで、もう俺のできることは一つとなった。ここはおとなしくシャマルさんの連絡を待つ事にしよう。

「……」

えーと、確かコッチが受付…

「あり?」

ちがった、エントランスだっけ?

「…」









………



…………………んう?





ましゃか……また、迷った?


「……―――――ちくせうッ!!!」



シャマルさんに道聞いとけばよかったと大いに後悔する山田太郎だった。




     *****




「……」

黒髪の少年―――山田太郎がブリーフィングルームの出口から姿が見えなくなるまで見送った後、シャマルは彼から受け取ったデバイスを持ったままの状態のまま立ち尽くしていた。

時間は切羽詰っているはずなのに、彼女はついさっきまでいた少年のことで憤りにも似た激情を感じていた。


(何が……)

シャマルは内心で吐き捨てるように言う事しかできなかった。

(何が、偽善よ…)

どこの世界に、自分の捥いだ腕を差し出す偽善者がいるのか?どこの世界に、自分に対しあそこまで残酷な行いができる者がいるか?


あの少年に、あんなことをさせたのは、あんな選択を選ばせてしまったのは、他でもない―――自分達だ。

私達が、彼を、あの少年を崖の端まで追い込んだのだ。なのに彼は、それを自己満足だといい、全て飲み込んだ。

泣きも、喚きも、嘆きも、憤りも、罵りもしなかった。


彼の在りようを端的に見るなら、それは『異常』としか言いようがなかった。

なのに、


「何故なの…」


シャマルは、あの少年の眼を、忘れる事ができなかった。

「…っ」

その時のことを思い出し、僅かに身を震わせる。まだ彼の眼が網膜に焼きついていると言ってもいいかもしれない。


それは―――『畏れ』。


形容できない。言いようの無い。どう説明すればいいだろうか?

死を覚悟した老兵の目ではない。全てを諦めた亡者の目ではない。自暴自棄となった者の目でもない。

あの眼は、あの光は、何者にも犯す事ができない輝き。挫かれること無い強い意志を宿した眼。


眼を合わせた瞬間、シャマルは震えが走った。幾度もの戦いを潜り抜けたベルカの騎士である彼女がだ。


あれは…騎士でも戦士でもない少年がしていい眼では断じてない。





「……」


かの少年の持ちかけた話は、シャマルにとっては喉から手が出るほどほしかったヴィータを救う事ができる手段。

そして彼は、そのための情報も提供した。成功率が低いなんて言うが、実質その手段自体見つからないと高をくくっていた彼女にとっては、成功率云々はたいした事ではなかった。

もうシャマルに彼の話を断る理由が見つけられなかった。


それが、悔しかった。


少年の犠牲(リンカーコア)がなければ、ヴィータを救うこともできない。


一体、私達はどれだけ彼を苦しめれば気が済むのだ、と。


「――――――でも」


だから、だからこそ、シャマルは行動しなければならない。無駄にしてはならない。


彼が、覚悟し、そのすべてを賭け、自分に託した。


その意志に、応えなければならないと。


彼が、自らを『偽善者』と言うなら、私はその片棒を担ぐ『共犯者』になろう。


彼一人に背負わせて、たまるものか。


「…」


シャマルは素早く通信モニターを開き、夜勤でいる医療スタッフ達と連絡をとりはじめた。





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「そんじゃ、またあとでねタロ~!」

ソゥちゃんはぶんぶん手を振りながら陸上警備隊施設へと続く廊下をてててて~、と駆けていった。今日は合同演習があるとかで少し遅れて来るそうだ。

「……っと、そうだ購買行かねーと」

この時間は混むからな~、と考えながら俺は通信用端末の時刻表示をなんとなく確認した。




―――12時00分―――




「―――……丁度か」

不意に廊下の窓際に視線が向き、窓の外から見える空と雲に目を奪われる。

「…」

俺は、視線を外し購買部へと早足に向かった。









………―――――ヴィータに残された時間は、あと11時間。









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独自解釈全開回。

どうも、感想版を覗いたらかなりネタバレしまくっていた事にヒヤリとした作者です。

や、やはりあからさますぎたでしょうか……それとも読者様はエスパーなのでしょうか…?


心を読まれる前に、次回予告。





【次回】


太郎「俺の“魂(すべて)”を紅の少女に…」






[33468] 【15】太郎「俺の“魂(すべて)”を紅の少女に…」
Name: はじっこ◆1601988e ID:2927bc18
Date: 2013/03/31 13:55







………俺は、



俺は今まで、なのは達は住む世界の違う―――『アニメ』の世界の住人だと思っていた。


俺みたいな一般人とは遠く、遙か向こうにいる『ヒーロー』のような存在に思えた。


俺なんかみたいに、うじうじ悩んだり迷ったりしない。俺なんかと関わる事などあってはならない。


そう思っていたんだ―――。今の今まで、その瞬間まで。


ああ、認める。


俺は馬鹿だ。


俺は、ヴィータが助からないと聞いた瞬間に、ようやく気付いたんだ。




これは、『アニメの中の世界』なんかじゃない。


ふと気付けば、例外なく人が死ぬ、『現実の世界』なのだと。


そこに意志は無い。誰もがほんの些細なキッカケで不幸にも幸福にもなる。


俺はそれを『アニメの中のこと』として、脳内の片隅に追いやっていた。




世界の修正力?


神様転生?


テンプレ?




クソッタレが!!こんなのただの言い訳だ!!


認めるさ。俺は根本的なところで『彼女』と向き合おうとしなかったのを。


俺はアニメの『鉄槌の騎士ヴィータ』しか見ていなかったことを。


思い出せ。俺の目の前に立っている少女はどんな存在だった?俺から見た彼女は何だった?




「―――おさげの似合うかわいい子だな」




ベルカの騎士ってなんだ?プログラム生命体?知らん。俺の目にはただの女の子にしか見えないぞ。


アニメなんぞで得た外付けの情報なんて全くもって当てにならない。ただ純粋に目の前の存在を認めればいいだけだ。


たったそれだけだ。


本当に、本当に今更になってようやくわかったよ。


でも、でもな、




いくらなんでも気付くのが遅すぎだ馬鹿(オレ)。










―――12時56分―――




「………ふうぅぅぅああぁぁぁぁ~~~………」

「タロー殿、眠そうでござるな」

「…ん、ちとな。昨日夜更かししちまって」

「そうでござったか。だが夜更かしは身体に障るでござるよ。あとお肌にも良くないでござる」

「…俺、日ごろからエイジング気にしてる素振りなんてしてたか?」


昼下がりの休憩時間。もうすっかり保管課の休憩室に馴染んだ縦ロールモミアゲ少女、瑠璃と俺は二人で雑談をしていた。

ふわりとした入れたてのお茶の香りが部屋の中を満たし、ほのかなリラクゼーション効果があるんじゃないかとぼんやりと考える。


「―――そういえばタロー殿、折入って尋ねたい事が」

声をかけられ、慌てて瑠璃の方に向く。

「…んう、何だ?」

「ふむ、実は――――――………男性は皆、胸の大きい女子を好きこのんでいると聞いたのだが、その真意を知りたいのでござる」

「…っぶ!!!?」

あまりのことに飲みかけのお茶を盛大に吹き出す。

「げほげほっ!げほっ!……――ち、ちなみに聞いたって、誰から?」

「同じ訓練校の同僚からだ」

「瑠璃、それはセクハラだ。次ソイツにあったら鳩尾に一発入れておけ」

「御意に。で、どうなのでござる?やはり胸の大きい女性は魅力的に見えるものなのでござるか?」

あれええ?!さらにえぐりこむ??!

「そそ、それは、ひ、人によるんじゃないかな~」

「ふむ、そうか…そうでござるか。まあ人の好みなど千差万別でござるか」

ふい~。とりあえず納得してくれたみたいだ。

「ではタロー殿はどうなのでござる?やはり胸の大きい女性を好むのでござるか?」

第二形態だとぉお!!?

「…え、う、ええと」

「む、拙者のは他と比べるならそれなりの大きさなのだが…どこからが『大きい』の差異があるかわかりにくいでごさるからな」

瑠璃はそう言いながら腕を組むことで盛り上がった自分の胸を見て、首をこてんと傾けている。

そのしぐさだけ見れば、小動物みたいでかわいいなんて思えたけど、俺は押し上げられた事でその存在感を3割増した彼女の胸部に目が行ってしまう。


う、うん。前々から思ってたけど、この子身長は低いのに体付きとかがもう『女性』なんだよね。ほんとに13なの?

特に、あれはデカイ。

制服の上からでもその大きさと形がわかるほどだ。なのに不自然に大きいとかではなく身体のラインにそっていてバランスがいい。それに最近は若干身長が伸びはじめ、鍛えている事もあり体つきも引き締まってきている。

俺は今まで、『ロリ巨乳』なんてもんは空想上の生き物だと思ってたよ…。


瑠璃―――……おそろしい子ッ!


「―――タロー殿?タローどの~?」

「おふ!?」

俺は慌てて視線を逸らす。

「タロー殿」

「へ、へい。なんでやんしょう?」

「…どうだったでござる?」

瑠璃は悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「ナニガデスカ?」

「…ふ、先程までじっくりと見てたではないか」

「…うぐ」

「くくくっ、タロー殿は正直でござるな」

含み笑いをする瑠璃の頭頂部に強めのチョップをこちんっと振り下ろす。

「思春期の男の子をからかうんじゃありません!」

「ふふ、以後気をつけるでござる」

くすりと笑うその顔は全然反省してるようには見えない。

「ったく。そういう話はソゥちゃんとでもしてくれ……いや、ソゥちゃんにその話題はマズイか」

「む?」

「まあ…瑠璃にはまだ言ってなかったが、ソゥちゃんこの手の話はあまり好きじゃあないらしい」

瑠璃は始めは首をかしげていたが、察しがついたのか「ああ」と声を出す。

「いわゆるコンプレックスというものでござるな」

「まあ、そうなるな。だからソゥちゃんの前では「ヒンニュー」とか「ペタンコ」とか「ツルペタ」とか「マナイタ」とか「ゼッペキ」とか「ナイチチ」とかいうワードは禁句だべらぶぼォーーーーー!!??」


突如、回転しながら横にぶっ飛んでいく俺。瑠璃さん曰く、「その時ミドリ殿の回し蹴りは中々様になってたでござる」だそうで。


逆さまで休憩所の壁に叩きつけられる。そんな中、蹴りを放った状態で水平に足を構えたままのソゥちゃんが見えた。ついでにパンツも見


「…ほげいぃ!?」


ソゥちゃんは追撃とばかりに近くにあったゴミ箱を投げ、それが見事俺の頭に被さった。

「たぁ~~~ろぉ~~~?」

ソゥちゃんはのそりのそりと俺に近づいてくる。

「おお。ミドリ殿か」

る、ルッチーさんや、ちっとはこちらの心配をしてほしいのですが?

「まったくさー、タローはなにいっちゃってるのかな~?」

「ままままままマテっ話を聞いてくれ!」

頭にゴミ箱をかぶったまま起き上がり距離をとろうと思ったが、すでに背中に壁が当たっていることに気付く。

「…ちなみにさぁ~」

「へ、へいっなんでやんしょう!」

「……色はわかった?」

「え、ええとたしか薄めのパープルでフリルが―――――――――――――――…………………………………………あっ」




「タローのエロバカあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」




「にゃんちゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??」





ソゥちゃんお得意のラリアットにより、ふたたび壁に叩きつけられた山田太郎であった。

「おおっ。これは『らっきーすけべ』でござるな」

なんとも場違いな瑠璃のセリフがこだますのだった。




     *****




「まったくさ~みんな誤解してるよね~。だいたい胸なんてただのシボウだよ脂肪。キンニクを愛し、めでるものたちにとっては忌むべきテキだよ~?」

乱闘で散らかった休憩所を(俺一人で)片付けながらソゥちゃんはソファーでふんぞりがえりながら演説のように話していた。

「んなのしらんよ。そもそもそう思ってんならお前が怒る要素が見当たらないんだが」

「そーいうところがデリカシーないっていってるのにぃ~~~~!」

「わぷっ!わあったっ、わかったから!みかん投げんな!」

結局は俺が平謝りするしかなかったんで。

俺はソゥちゃんの投げたみかんをひとつづつ拾い、ほこりを払ってかごに戻す。

ソファーに座るソゥちゃんはぷりぷりしながらも、もりもりとみかんを食べまくっている。


「ふむ…………………ミドリ殿は胸が無いことを気にしているのでござるか?」


不意打ちで投下された爆弾に、俺はかごごとみかんを落とす。

「ちょーーーーーーーーーー??!!」

奇声を発しながらあたふたとする俺。ソゥちゃんはみかんを口に運ぼうとしたポーズのまま硬直していた。

「ルぅッチぃ~~~~?そんな子にそだてたおぼえはナイノニナァ~~~??」

「こ、こわいっす!!」

恐怖のあまりガタガタと震えだす俺。実録、笑顔で人は殺せる!!

「んむう……拙者は別段気にした事はないのだが…」

「イヤミかこんにゃにゃ~~~~~~~~~!!!!」

ソゥちゃんは動きも言葉もネコのようになりながら反対のソファーに座ってた瑠璃に向けて蹴りを放つが、ひょいっと横に倒れるように避ける瑠璃。その状態から起き上がった反動を利用しソファーの上で前転と共に両手に力を込め空中で半回転しながら「しゅたっ!」、とドア付近に着地する。

瑠璃はそのまま部屋を出て廊下を走りながら「続きは訓練所でござるぞー!」とやまびこのような声で遠ざかっていく。

「じょーとーだぁ!きょうがニャンコのおさめどき~~~~!!」

「『年貢の納め時』な」

ソゥちゃんの言葉に一応突っ込んでおいたがもう本人は既に廊下を爆走していた。

な、なんといいますか。スーさんが1日休んだだけでこの有様って……。スーさん、俺に代役は務まりそうに無いです!スーさんカムバァーック!





「…」


しばらくすると先程の騒ぎが嘘のように、静かな雰囲気が休憩所に戻る。

俺は黙々と散らかった休憩所を片付け、それが終わるとお茶を入れてソファーに座り一息ついた。

「ふいっと」

通信用端末を開き、中身を整理しながらスケジュール機能を起こし予定を確認する。

お茶で喉を潤しながらただ静かに作業をする。

「……ん、んまい」

入れたてのお茶に舌鼓を打ち、作業が一通り終わるとする事がなくなってしまった。

お茶のおかわりを入れようと急須を持ち窓際のポットに向かう。

「……」

自然と、窓に映る景色が目に映る。

フェンスに囲まれた屋外訓練場だ。そこには警備隊の局員達がたむろしている。


視線が上に向けば、そこは一面の青空。


雲ひとつなく、真上にいる太陽だけがその空を自慢げに独占しているように見える。

すると、羽ばたく音と共に幾つもの通りすぎる影。鳩か何かだろうか。

鳥達は訓練所のフェンスを飛び越え、太陽を横切り、ただひたすらに果ての無い空へと消えていく。

「…」


俺は、その鳥達が見えなくなるまで空を眺めていた。




     *****




―――16時33分―――




「仕事早っ」

「いや、なんなんすかその反応」

上司に今日の分を終わらせ、報告に行ったらねぎらいの言葉の前に言われた。

「キミ、本当にどうしてここにしたんだろうねぇ」

「そりゃー俺の座右の銘は「いのちだいじに」ですから」

「全然理由になってないから」

上司の突っ込みにぽりぽりと頭をかく俺。


報告をパパッと済ませ、今日の戸締りは上司の人がするから俺はさっさと退場するか。

「おお、タロー殿」

「タローおっす~」

と、廊下の向こうから瑠璃とソゥちゃんが来た。

「おお、おすー。どうしたんだ二人そろって?」

「にっしっし~。じつはね~…」

「うん、やっぱいいや」

「ぶぅー!きいてよぉ~!」

ソゥちゃんはふくれっ面で俺の肩をポカポカと殴ってきた。

「たははっ、冗談だよ。で、何だって?」

「ふむ。実はこの後ミドリ殿とクラナガンの付近を散策する予定でござる」

「『恋する乙女シリーズ』しんさく発売日だぜ~!」

オイオイそれって、いつぞやのパニック映画みたいな恋愛小説やん…。

「…ちなみにタイトルは?」

「んとね~…『恋する乙女は太陽を素手で砕く』」

「物騒すぎるわ!!」

「あとね~『恋する乙女の思いは月の引力を越える』っての」

その乙女ほっといたら本気で人類存亡にかかわるぞ!

「二冊同時に購入すれば特典がもらえるでござるよ」

「って、えっ!?瑠璃も読んでんの!?」

「ふむ。ナンバリングシリーズも外伝も読み応えがあるでござるよ。タロー殿もどうでござるか?」

「え、遠慮するよ…」

なんつーか、たくましすぎるぞミッドの女性達!

「そんでねー、タローもいっしょにどうかなーって」

「俺?」

いまいち意味がわからず首をかしげる。

「つまるところ、拙者たちとクラナガン観光に洒落込もうということでござる」

「にもつもち兼、デートだよ~!美少女ふたりもはべらしてタローも罪なオトコだね~」

どちらかというと荷物持ちのほうが主体となりそうだけどな。ってか、自分で美少女って言っちゃってるし。

「んー…………わり」

「「???」」




「今日はちっと大事な用があってな、行けないんだ」




「えぇ~~!」

「……」

ソゥちゃんはわかりやすいくらい落胆している。ただ、瑠璃は一瞬顔を強張らせたように見えたが、本当に一瞬だったため俺は気付かない。

「悪いなせっかく誘ってくれたのに。埋め合わせはするからさ」

「…うう~ん、しゃ~ないか~。ハッピーターンで手を打とうではないか~」

「ははぁー」

ソゥちゃんと軽くふざけあい、「んじゃ」と挨拶し彼女達を通り過ぎ、着替えるためロッカーに向かう。









「―――――………っ、タロー殿!!」









急に呼ばれ、驚く中思わず声の方に振り返る。

声の主である、瑠璃……ルティエラが不安そうな顔で俺を見つめていた。彼女のこんな姿は初めてなため、隣にいたソゥちゃんも驚いている。

「…どうした?」

俺は、なるべくやさしめに声を抑えた。瑠璃はまだ不安そうにしていたが、

「……いや、何でもないでござる。急に引き止めて申し訳ない」

「ん、大丈夫」

「…それでは、タロー殿………お気をつけて…」

何だったのかな?と思いつつも瑠璃の顔からは見た感じ不安そうな雰囲気は感じられなくなった。


「……おう、“じゃあな”」


『別れ』の挨拶を交わし、俺はロッカーに向かった。









「…ルッチー?」

「…」

「どしたのルッチー。なんかあった?」

「いや、大丈夫でござる。ただ…」

「ただ?」


「―――拙者も未だ、生意気な小娘だというだけのこと…」




     *****




―――17時47分―――




クラナガン総合医療施設。



もう既にあたりは夕日によってオレンジに染まり、空の彼方から夜の空が顔を出し始める時間となった。それはココ、クラナガン総合医療施設も例外ではない。ココの白い外壁もすっかり夕日によってオレンジに染まっていた。

そしてこの場所に用事がある少年は入り口付近をうろうろと徘徊していた。


「…わーお」

念のために生垣から隠れて入り口付近の様子を見れば…

「…シグナムさん、お勤めご苦労様です」

案の定、入り口の柱あたりに背を預ける一人の女性がいた。遠目でもわかるピンクの髪をポニーテイルにしているヴォルケンズの『ミス・ブシドー』こと烈火の将シグナム。

まるで何かを待っているかのようにじっと舗装された道の向こうを見ている。少なくともデートの待ち合わせとかじゃないのはわかった。

ザフィーラの姿が無いのはありがたいかも、ニオイとかで気付かれるかもしれんし。


でも言わせてくれ。何でいるんだよ。ある意味最強の門番じゃん。


まあここは大人しくシャマルさんが指定してくれた別のルートを使わせてもらいますか。

「残念ですが阿修羅はお呼びじゃないですよ~と…」

ゆっくりと生垣から離れようとしたとき、


「―――!!」


シグナムが何かに気付いたかのように柱に預けていた背中を離す。

(――気付かれた!?)

やばばばばばヤバイ!!山田太郎、絶体絶命!!シグナムは正面を見据えたまま動かない。これじゃ動いていいかもわからん!


だが、そんな俺の心配は無駄に終わった。


生垣の間、つまりは舗装された正道を一人の少年が通り過ぎる。

(あれは…?)

どっかで見たようなオッドアイに輝くようになびく銀髪。あとイケメン。


(って、おまえかぁーーーーいッ!?)


ここでまさかの銀髪くんの登場だぁ!!(←名前完全に忘れた)

銀髪くんがズンドコ進むたびにシグナムの顔はより一層険しくなっていく。

(や、やめとけ銀髪くん!さもないとシグナムさんが阿修羅を凌駕する存在になっちゃうーーー!?)

もちろん俺の心の声は届かない。一応念話できるけどそんなことしたら気付かれちゃうし。

で、結局どうにもならず二人は対峙する形となってしまった。


「よ――――ム!寂――――っ――?」


「失―ろ」


うん。聞こえにくいが会話の内容は容易に想像できるや。


「な―は―――夫―?俺―――――て―――――た――?」


「――無―」


「あ――――。―前―――――――――ろ―グ―ム」


「……―――黙―」


さて、銀髪くんは全く気付いていないようだがシグナムさんの顔はドンドンやばくなってきた。本気で阿修羅超えるかもしれん。

銀髪くんは度胸があるのか、それとも鈍感力が高いのか、ただ単にバカなだけなのか…。最後の可能性が高いがせめて二番目であってほしい。

と、現場に進展あり。


「場―――――う。―――――と――い」


「そ――、――っ―。言――――事――――」


シグナムと銀髪くんが入り口から離れ、俺は物音を立てずに生垣の奥に隠れる。

生垣を挟む正道を通り過ぎ、二人の姿は見えなくなった。見た感じだと銀髪くんはラブレターをもらった男子学生みたいに浮ついていたのに対し、シグナムは紙一重の真剣勝負をする前の武士のような殺気を放っていた。ここまでアンバランスだと逆に笑うべきか引いたほうがいいかわからん。

ま、とりあえずは、


「…銀髪くん。キミの犠牲は無駄にしないぞー」


大して気持ちのこもってない感謝の言葉を述べ、門番のいなくなった入り口を注意深く探り、まんまと通り抜ける事に成功したのだった。

その一時間後にどこかの空き地で想像を超えた戦いが繰り広げられたらしいが、それは俺にはあまり関係の無いことだ。いやー最近物騒だしねー。




     *****




なんとかエントランス付近にまで来れた。

と、簡単に言っているが実は病院内はザフィーラが巡回していたのだ。多分最後の砦的な。

エントランスに入られないように回っていたので、まずはニオイで悟られないように全身にファブ○ーズ(トイレにあったヤツ)をかけ、さらにザフィーラの回っているところから少し離れたところにまだ俺のニオイが残っているコートを置いて、ザフィーラがコートの置いた所に走っていくのを確認してダッシュで取り抜けた。

途中、仮眠室みたいなところで二人分の寝息…はやてとフェイトが寝ている所を、静かに通り過ぎる。

サーチャーっぽいのはなかった。まあ病院だしココ。

「ココまで来ればあとは、えーと…エントランス抜けたトコで―――」

ザフィーラがおとりに気付く前にシャマルさんのいる安全地帯(昨日の集中治療室)に行かないと。





「……タロー?」

「ほぉあちゃぁぁ!!?」





突如後ろからかけられた声に飛び上がる。

「さっささささぁあせんしたあぁぁぁ!!ほんの出来心なんで―――」

「ちょっちょっと!?落ち着いて!」

振り返り様に土下座を食(?)らわせてやるぅ!!―――と、最近聞いた憶えのある声に俺は振り返る。


そこにいたのは淡い金髪の少年だった。


大人しい雰囲気を感じる碧眼の少年だ。服装は緑のパーカーの上から茶色のコートを羽織っている。

ただ、彼の左の頬は白いガーゼによって覆われていた。僅かにあざのようなものが見えることから殴られた痕だとわかる。


「…ユーノくんかえ?」

「えーと、そうです」


少年、『ユーノ・スクライア』はおずおずと答えるのだった。





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とりあえずルッチー達のフラグをクラッシュ(?)。作者です。

場面切り替わりで(作者が)こんがらがりそうなので分割して投稿しますた。続きはまだ執筆中。

と言うわけでユーノくん初登場。…実は作者、素で存在を忘れてしまってました。(・・;)


ユーノ「………」


とっとととりあえず次回予告!





【次回】


太郎「俺の“魂(すべて)”を紅の少女に…」その2






[33468] 【16】太郎「俺の“魂(すべて)”を紅の少女に…」その2
Name: はじっこ◆1601988e ID:fa0f0c45
Date: 2013/09/08 08:43




―――18時08分―――




クラナガン総合医療施設。3階エントランスホール。


夜の時刻に差し掛かり、日が完全に傾く。あと一時間もすれば窓の外は月と星の明りだけの闇夜へと変わり、月の光だけがエントランスホールを僅かに照らし出すことになる。

そこに、一人の淡い金髪の少年が座っていた。少年のほかには誰もおらず、人の気配も無い。


しかし、そこに少年とは違う気配が新たに加わる。

それは人の足音ではなく、目を凝らすとそこにいたのは一匹の狼であった。

その狼の目にはどこか理性を宿した光があり、エントランスに入ると少年の姿を見つけ近づいてきた。

「あ、ザフィーラ。……それは?」

「ああ、そこの廊下に落ちていた“落し物”だ。すまないがあとでどこかに預けておいてもらえるか?」

少年の問いかけに狼…ザフィーラは言葉を交わす。ザフィーラは口にくわえていたコートを近くの椅子に器用にかける。

「わかった。たぶん受付に持っていけば落し物として預かってくれると思う」

「ああ。それと、何か変わった事はあったか?」

ザフィーラの問いに少年はぽりぽりと頬をかき。

「あ~…そういえば正面入り口で騒ぎ声があったみたいだけど。シグナムもいないみたいで」

ザフィーラはやれやれ…と頭を振り、若干あきれたような顔になる。

「……そうか。まあ、問題は無いとは思うが一応様子を見てくる。重ね重ね悪いがしばらくここを頼む」

「わかった」

そう言うとザフィーラはきびすを返し来た道を戻っていく。


「………」


少年…ユーノはザフィーラの姿が見えなくなりしばらくたったあと安堵のため息を吐く。

「…もしかしたら気付いてたかな」

ザフィーラは去り際、廊下の隅の観賞用植物の方に視線が向いていた。なんとなくだが最初から気付いていた可能性もある。


「…もう大丈夫だと思うよ」


ユーノが声をかけると、観賞用植物のあたりの空間が僅かにゆがみ、ユーノの『結界魔法』が解除される。そこには植物に隠れるように一人の黒髪の少年がいた。

「しょ、正直こっち見られたときは生きた心地がしなかった…」

黒髪の少年はぶるりと身を震わせ、疲れたような溜め息を漏らす。

「いやーマジで助かった。ありがとユーノ」

「いいさこれくらい。あ、このコート君のでいいんだよね?」

「おお、さんきゅ」

コートを受け取った黒髪の少年…山田太郎はここでふと疑問に思ったことを口にする。

「……そういやユーノは何でここに?昨日のうちに帰らなかったのか?」

なんとなく感じた太郎の疑問に、ユーノは、

「ああ、それは―――」

一拍をおいて、その問いに答える。




「―――僕も、シャマルと君の企みの片棒を担ぐ……『共犯者』だからさ」





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―――01時53分―――




「ココは誰~~~?ワタシは何処~~~?」


迷子。以上。言えるのはそれだけだ。


うかつだった。安心しきってしまったせいで肝心の帰りの事を考えてなかった。いまさらシャマルさん所に戻るのもなんか締まらない。ってか道わからんし。

つか、何よりもヤバイのはこのままだとはやて達に気付かれる可能性が……うおおお!想像しただけでもおそろしい!はやく出口!脱出!エスケープ!リ○ミトーーー!!

「…うう、朝まで待つなんてのは勘弁したいんだけどな…。―――おっ!」

しばらく歩き続けると、どこか開けたような場所―――天井が一面ガラス張りのエントランスホールを見つけた。間違いない!ココ通った事ある!

「や、やっとだ…。長い道のりだった…。あとは出口までは覚えてるし―――」


と、不意にエントランスの長椅子に人影が見えた。


俺は警戒レベルを上げる。だが人影は既にこちらの存在に気付いてしまっている。そして先に声をあげたのは人影の方だ。

「―――……!、あなたは…」

「え?…ええと、どちらさま?」

僅かな照明の光がその輪郭を映し出す中、どこかで見たことあるのか?と俺は内心疑問が沸くが、その謎はすぐに解決した。


「どうも……はじめまして。僕の名前はユーノ。ユーノ・スクライアといいます」


俺とユーノが始めて面と向かって会った瞬間だった。




     *****




俺はアニメのときのユーノしか知らないが。なんというか実写で見てみるとほんとにモテそうな顔してんなー。銀髪くんとは方向性がまるで違うかわいい系のイケメンだ。


「…」

「…」


エントランスの長椅子に二人並び座る。

うん、それはいいんだが…なんだろこの空気。重いわ。

なんつーか、俺の記憶が間違っていなければ彼とはこれが初対面のはずなんだけど…。

ユーノはほんの少し前にココに来てなのはとヴィータのことをザフィーラから説明されたそうだ。…それはいいんだけど。

さすがにさっきのはやてみたいな危うい雰囲気は感じられないし。

うーん。なら、この沈黙は何なんだ…。


「―――タローさん」

「っお、おう」


突然沈黙を破り、少年ユーノから声が掛かる。びびった。


「タローさん、貴方に責任はありません。あるとすればそれは、僕―――僕たちの責任ですから…」


その思いつめた表情に、俺はなんと言えばいいか迷った。どう考えても十代の少年がする顔つきではない。

「……その、差し支えなければ聞いてもいいか?」

余計な事なのかもしれないけど、な。

「…はい」

そう言うと、ユーノは話し始めた。己の心中を。



「―――きっかけ、って言えばいいのかな。なのはに……彼女に魔法を教えたのは、僕なんです」



あ、うん。その辺はだいたい知ってる。

「と言っても、僕が教えた事なんてほんの僅かなんですけどね…。」

ユーノはどこか寂しそうで、悲痛な感じににも思える。しかしその顔はどことなく懐かしくも大切な思い出を振り返っているように見えた。俺より年下だよね?

「なのはは、僕を助けてくれた恩人で、とても優しくて他人を思いやることが出来て、でもそれだけじゃなく勇敢で、いつでも前を進み続けて、道を切り開いてくれる」



彼女は、不屈の心を持つ強く優しい女の子。



「彼女が、なのはがいればできないことなんてない。不可能ですら覆せる。……だから、なんでしょうか」

「……」

「『彼女なら大丈夫』…なんて根拠もないことを心のどこかで思っていて……」



彼女が、なのはが無理をしていると気付いていたのに僕たちは止められなかった。



「はじめの頃も、僕が不甲斐ないせいで巻き込んでしまったのに、彼女は笑って『大丈夫』って言って…、それを当たり前のように思ってしまって……僕たちが、ちゃんと気付いていれば…」

「……それは」

さすがにそれは無理があると思う。

人の、他人の行動原理はともかくとして不測の事態は起きるものだ。

「貴方とヴィータのことも、たぶん心のどこかで他人任せに考えてしまってたんです。…だから、僕は貴方に謝らなくちゃいけない」

起きてしまった『結果』はつまるところ『過去』だ。

そんなことでいちいち謝られても困るんだが。


それを言うなら、俺は謝らなければいけない人物が一人いる。

俺は、あの子を傷つけちまったんだから。


「――いいんだ」


自然と、そんな言葉が口から出る。

「俺のことは、もういいんだ。ヴィータを、あの子を傷つけたのは事実なんだ。そういうなら俺にだって責任はある」

「っ、でも――」

ユーノは俺の反応に困惑している。

まあ、普通はそんなにすっぱり割り切るなんて無理だもんな。でも俺は―――



俺は、そうしなきゃ、いけないんだ。


もう、失ったものを、無いものを、もとめちゃいけない。


今を受け入れなきゃ、この先きついだけだし。


「だから、いいんだ」


重みの無い空気のように俺は話す。この言葉を、俺は重くしたくない。重く受け止めてほしくない。

でも、ユーノは俺の言葉では割り切れないようだ。

先程よりも深刻な、沈んだ表情に俺は苦笑するしかない。



「でもっ!これは、僕が―――『償う』べき罪なんだ!」



なのはに何もできず、力になれず、今もなお何もすることができないユーノは、自分を責めることしかできなかった。

「………」

「僕が、彼女にかかわらなければ、出会わなければって、何度も思った。そうすればなのはは平穏な暮らしの中にいて…危険なことなんてなくて……」

「……それは」

「わかってます。そんなこと、ありえないって。………でも」

「……ユーノ。償うって言ってもさ、ユーノはどうするつもりなのさ?」

「……わかりません。わからないんです、何をすれば、どうすれば彼女にとっていいのかも。…もしかしたら、僕はただなのはを苦しめてるだけかもしれません。――――だから、僕はっ……!」


「―――あー…ユーノくんや?」


ユーノの言葉をさえぎり、俺は腰を上げる。

「……え?」

「ちょっと立ってくれるか?」

俺の言葉にユーノは半ば反射的に腰を上げた。

若干困惑気味のユーノには悪いが、ここは少し出しゃばらせてもらおう。でも、その前に―――

「……あの?」

「あー…いやなに、話の腰を折って悪いんだけどねぇ……」

俺は―――









「―――――少し、面貸せッ!!!!!」









ほぼ全力で、容赦のかけらもなくユーノの顔に握り締めた拳を叩きつけた。

「ッぐ!?」

くぐもった声とともにユーノはエントランスの床を滑るように吹っ飛んでいく。

3メートルくらいの距離で仰向けに倒れたユーノ。数十秒の後にゆっくりと起き上った。

「……な、なにを…!」

「なにをじゃねぇ!!」

言い放つ俺はこの時、若干キレていたのだ。

「―――何が『償う』だこの野郎。俺に言わせればそんなのはただの「後悔」だ。今更どうにもならないことをどいつもこいつも償う償う言いやがる。どうしょうもないから代わりの物を押し付けたところで意味ねぇんだよ!」


はっきり言おう。俺は―――――――『償う』という言葉が嫌いなのだ。


俺にとっては、この言葉は何の慰めにならない。ただ俺の精神を逆なでするばかりだ。


その行為のすべてを否定するつもりはない。『償う』ことによって救われる人もいることも事実だ。


「お前は、『自分が関わらなければ』なんて理由で彼女と距離を置こうとしている。『これ以上関われば彼女を不幸にするかもしれない』―――たしかにそうかもしれないな。だがな、それはお前の『決め付け』だ。相手に一方的に押し付けてんのと何も変わんないんだよ!」


ユーノは俺に対し眼光を強めた。


「…だったら―――だったら僕はどうすればいいんだ!!何ができるって言うんだ!!」


何が出来るかだって?

「それくらい自分で考えろ!……でもな、これだけは言わせてもらうぞ」

過去は変えられない。

起きてしまった結果は覆す事はできない。

だからこそ、




「たとえ自分に何も出来ないとわかっても、自分が犯した過ちを忘れない―――『罪を背負う』事はできるんじゃないのか?」



「―――っ!?」



どんなに小さな過ちも、それは一生自分の記憶に、心に、魂に刻まれ、永遠に縛り続ける。

消す事なんてできない。

変えることなんてできない。

それならば、背負い続ければいい。


「償うとか許されるとか、その前に自分の罪と正面から向き合って、愚かだった自分を忘れないために、同じ過ちをしないために…。距離を置くとか、かかわらなければなんて思う前に、できることはあるんじゃないか?」

そんな簡単な事じゃないのは十分わかっている。ユーノだって追い詰められていたんだ。

「ユーノ、これは俺の勝手な考えだけど……償える罪なんて、この世界には無いんじゃないのか?」

「…え?」

「相手が許しても、忘れても、結局は自分が罪を犯したと言う事実は消えない。自分の中に刻まれ一生残ることになる。ならいっそ、全部飲み込んじまう覚悟で一生付き合う気持ちでいたほうがいちいち悩むよりはいいんじゃないかって……」

俺の言葉のすべてが正しいなんて事は無い。俺の身勝手な考えだと言う事も自覚している。でも、ユーノにはちゃんと伝えたかった。


まだ、自分にできる事をあきらめてほしくない、と。


「……――」

どれ程、静寂が続いたか。しばらくしてユーノは若干足元がふらついたがゆっくりと立ち上がった。

ユーノは俺の言葉を反芻するかのように静かに目を閉じ、一呼吸。開けられた彼の眼は先程まであった憔悴しきったような雰囲気はなかった。

ついでに言えば、俺も頭が冷えてきて今更ながらとんでもない事をしてしまったと、若干焦る。

「……ま、まあ、その、俺自身偉そうなこと言えた義理じゃないんだけど」

「―――っ」

あ、あり?なんだろう。ユーノが何かをこらえるように眉間の皺が…。

「ゆ、ユーノ?ユーノさんや?」

あああまたやっちまったかもしれん!俺のバカん!!

「――っぷ」

と、俺の自己嫌悪の最中、―――




「……っぶは!あははははっ!」




ユーノ、爆笑。

「…って何笑ってんの!?」

「あはははっ!だっ…だって君、あれだけ言っといて急に…っぶ、あははは!」

お、おお俺だってあんな説教じみた言い方をしたかったわけじゃないんだぞ!!

「せっ説教って…あはははは!!」


笑うなよーーーーーーーー!!!





ユーノはしばらく腹をかかえて笑った後、わずかに血のにじんだ口を乱暴に拭う。

「……ありがとう。なんだかうじうじ悩んでるよりは少しは楽になった」

ユーノの顔つきはどこか吹っ切れたような印象になっていた。まあ、ぶん殴ってしまった俺が言うのもなんだけど。

「…そっか」

「うん。後悔する前にできること、まだ何をしたらいいかわからないけど、ちゃんと考えてみるよ」

そう言うと、ユーノは俺の正面に向く。

「…?」

俺が何かと頭をひねっていると―――









「………だから、『これ』は君に返しておく」









ユーノの右ストレートが俺の顔にぶち当たった。


「―――ッが!?…ぐっ」

その痛みと衝撃に俺は2、3歩よろけたが、気合いと意地で倒れることは阻止できた。

「~~~っつぅ!」

じんじんと頬が焼けるような痛みを俺に伝える。

「っ~~~たぁ…結構本気でいったんだけどなぁ」

そう言いながらユーノは右手をぷらぷらとふる。殴ったときに痛めたみたいだ。

「…馬鹿言え。すげぇ痛かったぞ」

「はは。まあ、これはさっきの『お礼』てことで」

「……ありがたくもらっとくよ」

とりあえずはこれでおあいこってことだそうだ。

はぁ…。もう帰って寝たい。今日はいろいろありすぎた。

殴られて痛む頬をさすりながらエントランスの出口へ向かう。少し膝がガクガクだけど根性で歩く。


「…タロー」


後ろから声をかけられたが振り返る気力もないので「んう?」と適当に返事をする。


「―――僕から言うのも変な話だけど…………君は、これからどうするつもりなんだい?」


「……」


―――――どうする、か…。


「…俺は」


そんなの、わかりきってることじゃん。


「もう、できることはないさ………」





     ・
     ・
     ・
     ・
     ・
     ・
     ・
     ・





―――18時30分―――



俺は今、月明かりと足もとの照明に照らされた廊下をユーノと並んで歩いている。

「あれ?そいうやユーノその怪我、治療魔法とかで治せなかったん?」

いちおう俺の方は朝早く出勤先の医療室で治療受けてもらったからもう跡とかは残ってないし。―――まだ痛いけど。

「あはは……忘れてた」

「をい!」

「まあ、色々とバタバタしてたし…」

苦笑いをするユーノ。

「というか、君も君だよ。僕もシャマルから聞いた時には耳を疑ったよ。タローがあんなとんでもないことを提案するなんて」

「…え~と、そんなに非常識だった?」

「非常識どころか“異”常識だよ。それなのに単なる素人の考えで片付けられないところが僕は恐ろしいよ」

「……たはは」

「もう、笑い事じゃないよ!」

「…さぁせん」

うん、どうやら俺の提案は心底シャマルさん達の度肝を抜いたらしい。


「…タロー」


すると、先ほどとは雰囲気が変わるユーノの声に顔を向ける。

「タロー。僕は今回の施術でシャマルさんのサポートをすることになる。あくまで補助的な役割にすぎないけど、施術の内容は大体把握できてる」

そこまで聞いて俺はユーノの言わんとしていることをなんとなく察した。

「タロー。君がしようとしていることは―――――」


「ユーノ」


俺はユーノの言葉をさえぎる。

「お前の言いたいことはわかる」

「………ならっ」


多分、ユーノはもう気づいてしまったんだろう。俺がこの先どうするか。


いったいどんな覚悟で、ヴィータの施術を持ちかけたのか。


「でもな、ユーノ」


だからこそ、俺は決めたんだ。


「やっと、やっと見つけたんだ」


何の力もない俺が、


「俺が、あの子にしてあげられること」


間違ってばかりだった俺が、


「単なる、自己満足なのかもしれない」


後悔ばかりしかできなかった俺が、


「でも、たとえ偽善だったとしても」


たったひとつ、誰かのために、


「助けたいんだ」


ヒーローなんかじゃなくていいんだ。


魔法が使えなくなったこと、空を飛べなくなったことに後悔するかもしれない。――――――でもな、




誰かを救えたことに、後悔なんか一切しない。




俺は彼女を、ヴィータを救うことに何一つ迷いはない。


俺の魂(すべて)を賭けて、彼女を救ってみせるって、な。


「……君は」

ユーノは言葉を失っていた。ただ先ほどの呆れたような雰囲気ではない。

ユーノは言葉を紡ぎかけて―――やや苦笑気味に小さな溜息を吐いた。

「いや、なんでもないよ」

彼の紡ごうとした言葉に、いったいどんな意味があったのか、いずれにせよそれを俺が知ることはなかった。


「タロー」

「ん?」


しかし、ただひとつ………


「僕も、全力を尽くす。―――成功させよう」

「―――ああ。たのんだぜ」


それは本当にわずかなゆらぎだった。しかしそれは時を経るごとに強く明確な意志となる。


俺は知らない。本来の物語(うんめい)とは違う、彼の心にひとつの変化をもたらしたことを。




     *****




―――19時11分―――




暗がりの廊下をユーノの案内で進むと、どこか見覚えのある廊下の風景に俺は昨日の出来事を思い起こす。

そして、廊下の向こうから明かりが見える。

「―――来たわね。いらっしゃい」

昨日ヴィータ達の運びこまれた集中治療室の扉の前にシャマルさんが立っていた。

「はい」

「どもっす」

俺とユーノを確認したのち、シャマルさんはユーノに案内のお礼を言う。

「ここまでありがとうね。ユーノくん」

「いえ。それじゃあ僕もそろそろ準備を始めますね」

そう言うとユーノは「それじゃあ後で」と俺に言い治療室の隣にある準備室の中に入って行った。


「まずはタローくん、来てくれてありがとう」

シャマルさんは長椅子に座ると俺にも座るようにすすめた。今まで歩きっぱなしだったため、言われるがまま椅子に腰掛けると思わず安堵と疲労にため息が出た。

「…そう言えば、ココに来るまでシグナム達に会った?」

…まず出会ったら最後、俺はここにはいないと思います。

「あー…そこは何とかやり過ごしました」

いやでもまさかシグナム達の恨みまで買うことになるとは思わなかった……。まあ、当然か。ヴィータを傷つけた挙句にこんなことになるんだもんな…。はやて同様恨まれても仕方がないか――――。


「―――違うわよ?」


しかし、シャマルさんはそれを否定した。


「シグナムも、ザフィーラも、あなたに非があるなんて思っていないわ。―――はやてちゃんも、こんなことになっちゃったけど……本当は誰よりもあなた達のことを気にかけてたの」


―――――でも、はやてはまだ子供だった。


たとえ大人びた感性を持っているとしてもだ、大切な家族を失うなんてショックが大きすぎるのだ。


ましてや、彼女はそれを一度目の当たりにしているんだ……。


「………タローくん、一つ聞いてもいい?」


静かな雰囲気の中、シャマルさんの声が響く。治療室から漏れる光がその横顔を照らす。

お、おおう。ちょっとドキッときた。

「は、はぁ」

誤魔化すように返事を返すヘタレな俺。



「―――――タローくん、あなたはどうしてヴィータちゃんを助けようって思ったの?」



えと、それは前にも話したんですけど……。

「ええ。でも、それだけじゃないわよね?」

「っ!」

…ああ、忘れてた。ベルカの騎士は勘がいいって。


「貴方にこれだけの決意をさせた“それ”は――――多分、貴方の“偽善”の本当の理由」


……そんな真っ当なものじゃないさ。

「―――同情ですよ。…ただの」

俺の返答にシャマルさんは疑問を浮かべた目線で俺を見る。


「俺が、助けたいと思った人はヴィータだけじゃない……―――はやても助けたいんです」


「……えっ?」

その眼を見開きシャマルさんは驚く。

「あの子は…はやては大切なものを失うことを恐れている。失ったら最後はやては、本当にこの世界に絶望してしまうかもしれない。俺には……わかるんです」


―――俺も、そうだったから。


「あなた…」

「はやてには、“俺みたいになってほしくない”んです。俺はこんなんなっちまったけど、はやてのまわりにはまだ親しい人が―――支えてくれる人がたくさんいる。……それを忘れないでいてほしいんです」





俺は、それに気づくことができなかった。ただそれだけだ。





「……」

「え~と、一応それが理由ってことでカンベンしてください……」

「…ううん。こっちこそ不躾なこと聞いてごめんなさいね」

「いえ、気にせんでください。俺は別に大丈夫ですから―――」


「…嘘ね」


シャマルさんの言葉に俺は固まってしまう。

「タローくん。私が言うのも変だけど、―――――つらいのならそう言って。嫌ならちゃんと言葉にして。じゃないと……いつか、持たなくなるわよ?」

その言葉に、俺は背筋が寒くなった。シャマルさんには俺の姿がとても危うく映ったのかもしれない。

んーまあ、俺の行動原理はまっとうなもんじゃないしな。

「一応、気を付けときます」

俺は無難な言葉で返した。

「ええ。何かあったらいつでも相談してちょうだい」

すると、シャマルさんは白衣のポケットから黒い腕輪―――オーバーリングを取り出した。

「先にコレ返しておくわね。……あ、私の連絡先入れておいたから後で通信端末に入れておいてね」

……わーお。ぬかりないですねー。

そう思いながらデバイスを受け取った。うん、まあシャマルさんの心遣いってことにしとこう…。

「…」


まあでも、


お前を使う機会も、もうこれっきりになるのか、な。


(そんな長い付き合いじゃなかったが、あんがとな。今まで)


「―――そろそろ、時間ね」

シャマルさんは時間を確認し、俺に告げた。

…いよいよか。


ゆっくりと目を閉じ、深呼吸をする。


「――――――………」




―――19時30分―――




目を開け、俺は言う。









「―――――ヴィータのこと、お願いします。シャマルさん」









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





おおおおおおおおお待たせしてしまってもうしわけありませぇぇんっ!!(土下座


まさかここまで時間がかかるとは思わず、読者様を待たせてしまうとは……。


ですが、こんな中途半端に終わらせるのは作者のちっぽけぇなプライドが許さないので引き続きこのSSを見てくださる読者様に感謝を。


なにとぞよろしくお願いします!!終わりじゃないよ!まだ続くよ!





【次回】


太郎「色のない心」



【誤字修正】

「シャマルも、ザフィーラも、…

「シグナムも、ザフィーラも、…

通りすがり様。誤字報告ありがとうございます。



[33468] 【17】太郎「色のない心」
Name: はじっこ◆1601988e ID:c3273a9a
Date: 2013/11/08 18:50









――――――――………………


――――……こ――…こ、は?




闇。




――……ど、こ?


どこまでも続く、闇。


――――…………なんで?


もう、どれくらいになるのだろうか?

あたりから溢れるように渦巻くこの闇に囚われてから、どれくらいの時間がたったのだろうか?




―――――…………わからない




――…もう、どれほどここにいたのかも




気がついた時には、自分の周りを取り巻いていたのは果てのない暗闇だった。

最初の頃は混乱のあまり、当たり散らすように声を荒げ、いるかどうかも分からない誰かに呼びかけた。

その声に返答もなく、気配もなく、それが恐ろしくて、さらに声を上げ、

気づけば、自分の喉は潰れていた。

もう、鉄が擦れ合うような声しか出なかった。そして、ようやく理解したのだ。




なにもないんだ。




ここは、いや、この闇はそういうものなのだ。

ここには何がいても、何がいようと、何もない。


“何も残らない”


誰が居ても、誰かがいたという痕跡も、なにもかも。

今、ここにいる、存在する自分も、いずれは―――――



叫。



気づけば、かすれるようなか細い声が辺りに響く。

その声はまるで親を探す子供のような泣き喚く声。

誰かいるの?

誰か泣いているの?

しかしそれが、自分の声だと気づいた時、胸の奥が握り潰さるような孤独と絶望が心と体を満たす。





―――……なんで、だれもいないの?




壊。




どれほどの時が過ぎたのだろうか?

まるで寒さに耐えるかのように体を丸め、縮こまるように膝を抱き抱える。

この場所に温度の概念はない。寒いわけでも、暑いわけでもない。

しかし、時間を経るごとに体中の感覚が希薄になっていく。少しづつ、自分は闇に溶けはじめている。

なのに、自分にできるのはうずくまって耐えることだけ。


後は、静かに闇の中に消えていくのを待つだけ。


闇。


闇闇。





―――――………もう、いい




狂。


ここにはいたくない。ここでないならどこだっていい。

自分という存在が少しづつ腐敗しただれ崩れ落ちていく。精神をゆっくりヤスリで削られていく。


狂狂。




―――――………ダ、レか………



闇。


気泡のような呟きも、闇に溶け消える。


闇。


闇。


闇。





























































突如、終わりなき暗闇に変化が生じた。




闇の遥か彼方、あたりの暗闇に埋もれなお、それは一筋の『光』となってかすれはじめた視界にうつる。

本当に、瞬くようなわずかな変化だった。

しかし気づけば、無意識に体は光のある方向へ進もうと動いていた。

歩いているのか、はたまた泳いでいるのか、もう感覚のない手足を動かし進み続ける。

光は、徐々にその存在を大きくし、気づけば無数の光の柱があたりを照らしていた。


そして、ひときは巨大な光の柱が自分の目の前にあった。


それはもはや柱ではなく壁であった。

天より降り注ぐ光が収束し、一本の巨大な大木のように闇の中に堂々とたたずんでいる。




―――…………すごい




光の降り注ぐ天上を見上げれば、そこは水面のように光の向こう側を映し出している。

そして、その水面の向こう側に広がる光景に言葉を失う。




そこには、『空』が広がっていた。




澄み渡るような「蒼」がどこまでも広がり、果てしなく続く大空に心を奪われる。

その空を流れる雲も、まるで生き物のようにゆっくりと形を変え、空を泳いでいる。




―――……きれい




ふと言葉がこぼれ、涙が流れる。

悲しみと孤独から流れた涙ではなく、胸の内からあふれる、あたたかな涙。

知らず自分は、無限に広がるこの空に心を奪われていた。

もっと見たい。もっと近づきたい。まるで子供のように気持が浮き始めた時、




突然、それは姿をあらわす。




光の中に射す、わずかな影。

驚き、見上げた先には光に揺らめく水面と、




その上から自分を見下ろす『少年』の姿。



















     *****




「―――いや、誰やねん」


唐突な覚醒とともにツッコミ。

いや、何いきなりツッコんでんの俺。

「…ん、ん?」

何か、さっきまですごいトコにいたような………夢、だったよな?

つか、そもそもココは?

「…おれ、なんで」

視野に入るのは無機質な天井。俗に言う知らない天……これ前にもやったし。

「病院?」

そう、ここはまさしく病院の病室だった。

個室らしい病室は病院特有の薬品の匂いと、白の一色で満たされていた。

俺はというと、白い病院着でベッドに横になっている。

窓は閉めきられており、薄いカーテンから漏れる光が、まだ太陽の昇る時間帯であることを告げている。


イヤマテ、なんで俺は病院に?

馬鹿は風邪をひかないとか俗説はともかくとして、少なくとも俺は病気らしい病気は今までしたことない。戦闘訓練で馬鹿やってとかはノーカウントとして。

「……なんか、あったっけ」

ふと、過去の記憶を呼び起こす。


保管課の仕事をして、仕事が終わって、なんか瑠璃とソゥちゃんがデートがうんたら言ってたけど断って、そんで―――――







………



…………………



「………そっか」


ああ、よーやく記憶が追いついた。


俺は、ヴィータを救うためにシャマルさんにリンカーコア移植の方法を持ちかけて、ユーノも巻き込んで―――

ってことは時間帯的にはヴィータの施術はもう終わったのかな。

「う゛ぅ、だりぃ……」

体を起こすのもおっくうになりながらも上体を起こす。

「…」

まだ寝起きのせいか眠気が完全に抜けきれない。そんな状態でしばらくぼんやりと病室の壁を見る。


ふと、俺は自分の胸に手をあてた。

手のひらから伝わる、人肌ほどの熱。心臓の鼓動が規則正しくその振動を響かせている。

それでいい。それで正常なんだ。それが普通なんだ。


でも、ほんの少し前まで、そこにはたしかにあったのだ。


俺とともに存在した『力の鼓動』が。


「………ぃてっ」

うあととっ、いかん。無意識に爪が立ってたみたいだ。

オチケツオチケツ。

「つつ……跡は、大丈夫か」

いかんなぁ。ちゃんと踏ん切りつけたつもりだったんだけどなー。

「…はぁ」

深呼吸なのかはたまた溜息か、そんな吐息が漏れる。―――と、


「―――タローくん」


ふと、声に反応すれば視線の先に金髪の女性―――シャマルさんが扉を開けたところで病室に入るのをためらいがちにこちらを見ていた。




     *****




「体調の方はどうかしら?」

「はい。とりあえずはなんともないっす」

俺は今シャマルさんから簡単な問診と検査を受けている。

俺自身は別に大丈夫だとは思うんだけど、あの前代未聞の大手術だ。心配もする。

一応俺の体には異常は見られないとのことだ。

というか、今はそれよりも……

「焦らなくても順を追って説明するから、そんな顔しないで」

「……顔に出てました?」

おおう。落ち着け俺。あせりすぎ。

シャマルさんが「ふふっ」と微笑む。そんな大人な雰囲気に照れてしまう。

とりあえずシャマルさんの話を聞くことにする。シャマルさんは椅子に座り、静かに説明を始めた。

「とりあえず、結論から言うわ」

「……っ」

知らず、俺は息を飲む。









「ヴィータちゃんの施術は――――――――――無事、成功したわ」









俺は思わず身を乗り出す。

「……ほ、ほ、本当なんですねっ。成功…うまくいったって―――」

「ええ」

俺はその言葉に体中から重みが消えたかのようだった。

安堵のあまりそのままベッドに倒れこみそうになるが、とりあえずシャマルさんの説明を一通り聞いてからにする。


「―――……一応今のところは拒絶反応の心配は無いわ。今後そういう兆候が出始めたらヴィータちゃんの身体と一緒に調整するという方法で問題ないわ。それよりも、貴方のリンカーコアが思う以上にヴィータちゃんに適合していたのは驚いたけど」

「へ?」

いや、それ初耳。

「ほんとに驚いたのよ?魔力錬度から生成質までこんなに近いのは。おかげで調整に時間が掛からなくてすんだもの」

―――……マジか。案外、俺ら似たもの同士だったんかなぁ。……なんて。


まあでも、全てがいいことばかり、と言うわけどもなかったみたいだ。


移植されたのは俺のリンカーコアだからな。どのみちヴィータの元の魔力量よりもかなり下がってしまった。

ヴィータのリンカーコアの残骸と俺のリンカーコアを「芯」としてよりあわせる形で移植を行った。

結果、彼女の保有魔力量は半分ほどに落ち込んでしまったそうだ。

こればっかりはどうしょうもないけど、やっぱり俺としては複雑な思いだ。

いや、贅沢は言わない。ヴィータが助かっただけでも奇跡みたいなものなのだ。


「ねぇ、タローくん」

「はい?」

シャマルさんは神妙な顔で俺に問いかけた。

「……本当に、これでよかったの?」

うん?

「―――貴方の事」




今回の、ヴィータのリンカーコア移植。

彼女の命を救ったそれが世間に知れることはない。

いや、世間に知れてはいけない。


なんせ、かつて誰も成しえなかった『リンカーコア移植』を成功させた、させてしまったからだ。


というのも、管理局、次元世界の歴史を紐解いてもコア移植をここまで完成した形で実現させた例が存在しないのだ。

不可能を可能にさせた方法と技術。そんなものが世間に広まればどうなるか?


簡単だ、かつての歴史をたどるように狂人(バカ)共がそれを欲する。


それは、過去の犠牲など瑣末ごとのように思えてしまうほど、想像もできない規模の被害が広がる。下手したら次元世界を巻き込んだ事態になる。


だが、その前に不幸の降りかかるであろう被害者は――――――ヴィータだ。


彼女は、リンカーコア移植に成功した貴重な存在だからだ。

彼女がプログラム生命体だろうと関係ない。それを知られたが最後、彼女は―――

……

正直、胸糞悪い。

せっかく救うことができた命が、名も知らん馬鹿どもの玩具にされるなど、想像もしたくない。

…だからこそ、俺とシャマルさんは話し合いの末に防止策を講じた。


ぶちゃけると、隠蔽(いんぺい)だ。


公式では「リンカーコア複合再生施術」ってことになってる。結構無理ありそうだけど…。

このことを知るのは俺、シャマルさん、ユーノ、医療スタッフ数人。

そして、はやて達に説明したのは―――複合再生施術(ダミー)の方だ。

これは、俺がシャマルさんに無理言って頼んだのだ。




「……施術のこと、本当にはやてちゃん達に話さなくてもいいの?」

「はい」

「でも、それじゃあ貴方は……」

「いいんです。これで」

そう、これでいいんだ。

これが俺の望んだ『結果』なんだ。


ヴィータを救おうとした施術において俺という存在はない。

俺が、リンカーコアを失ったことも。

俺が、魔法を失ったことも。

決意も、犠牲も。


―――そんなもん、絶対に知られたくないじゃんか。

そんなこと知られたら、あの子は……かつてない後悔と自責の念に駆られる。

これ以上あの子を苦しめて何になるんだ?

はやてに、ヴィータに、そんな重荷背負わせるつもりはない。

せっかくヴィータの命も助かってのハッピーエンドだ。水を差すなんて真似はしない。


「…そう。貴方が、そう言うなら」

「すんません。無茶言って」

ホント、シャマルさんには心から感謝している。

なにより俺の提案した話に真摯に向き合ってくれたこと。

もしあの時、子供の戯言と一蹴されていたかもしれないのに、シャマルさんはそれを現実にしてくれたこと。

本当に、この人には感謝してもしきれない。


「……タローくん」

そんなシャマルさんは俺に向き直り、

「―――………へ?」

俺の手をとり両手で包むように握った。

彼女の手は触った瞬間、わずかにひんやりとした感覚とすべすべの手触りが伝わってきた。

「…え?え??」

何とも情けないくらいあたふたしてると、シャマルさんは――――




「―――――ヴィータちゃんの命を救ってくれて、本当に……本当にありがとう」




涙を流し、笑顔を俺に向けた。

「貴方のおかげで、ヴィータちゃんを救うことができた。貴方がいなければ、私は何もできなかった……」

「そんな、大げさな―――」

「大げさなんかじゃないわ」

シャマルさんの握る手に力がこもる。

「私はね、あの時……一瞬でも思ってしまったの。『もうなにもできない』って。でも、貴方があの子を救う方法を見つけ出してくれた。そして―――」




そして何より、貴方は諦めなかった。迷いも曇りもない瞳を私に見せてくれた。




「確かに貴方だけでは何もできなかった。でもそれは私も同じ。貴方や、ユーノくん、いろんな人達の協力でできたことなの。だから私は貴方に、この結果を導いてくれた貴方に、心からお礼を言いたかった」

俺の視界に涙が頬を伝うシャマルさんの顔が綺麗に映った。

「だから改めて言わせて。ヴィータちゃんを―――家族を救ってくれて、ありがとう」




     *****




「……ありがとう、か」

もうすっかり夕方になりました。うん。


俺はあの後病院を出て帰路に就こうと歩き始めたはずなのに、なぜに中庭のベンチにぼ~っと座ってんだろうか。

「………」

思い起こされるのは、シャマルさんの言葉。

「―――俺は」

俺は、お礼を言われるような出来た人間じゃないんだが…。

基本は自分を中心に置く立場で、「困ってる人がいるなら助けようかな?」程度の善意しか無い。

危険なことは御法度。命をかける?馬鹿言うんじゃないよ。

俺が第二の人生で決意したのは「いのちをだいじに」だ。


―――でも、俺は……





…………って、ナニ鬱になっとんじゃ俺は!キャラじゃないでしょ!

あーもーやめやめ!こんなとこでウジウジする理由なんてないじゃんか。

「あー……さっさと帰って寝んべ」

これからの身の振り方とか考えることは色々あるけど、それはいったん余所にやる。

つーか疲れた。

「―――……さて」

そんじゃ帰りに晩飯の材料でも買いながら献立でも―――

そもそも俺ってレパートリーそんな無いし。


―――――なんて考えながらベンチから立ち上がった時、


中庭の向こう、病院の入口。

「―――ッ!?」

息を飲む声。

夕日を浴びた輪郭は少女の姿だ。

肩にかかる程度の長さに揃えた、こげ茶色の髪。

「………」





少女―――八神はやてが俺を驚きの表情で見つめる。






うんまあ、考えれば予想は出来てたんだけどね。すっかり忘れてました。

「…なんで」

はやてはわずかに震える声を俺に向ける。

「なんで、ここにおるんや」

その声と瞳には俺に対する敵意が見えていた。

「ヴィータに、会いに来た。会えなかったけど」

あらかじめ用意したように出る言い訳。

張り詰めたような場の空気の中、何故か不思議と俺は落ち着いていた。

はやてはこちらを睨んだまま。俺はそんなはやてを観察してるかのような気分だった。

そして意を決したように、はやては口火を切る。

「―――……ヴィータは、もう大丈夫や」

「……」

「…あの子は、助かったで。手術して」

「……うん」

「だからもう、心配はいらへん」

「…ああ」

俺とはやての間に漂う空気ははっきり言って良いものではない。

まるで亀裂から漏れ出る冷気のように冷めきっている。

普通なら、俺は今頃この空気の中で戦々恐々としているはずだ。はやてという少女の存在にすらビビっているはずなのに………。

「あなたが、ヴィータに何を言うたかは、この際もうええ。あの時八つ当たりしたんも謝る」

でも、だからこそ彼女が何を伝えたいのかも、想像できた。




「―――――でもヴィータには、もう会わんといて」




    *****




時計を見ると、もう0時だった。


晩御飯は昨日作り置きにしていたおでんだ。後は温めなおすだけだ。

「いただきマス~」

おでんをおかずにコンビニで買ったSATOなご飯とともに遅めの食事だ。

「はふ、はふ、ん、んまい」

ちょっとダイコンが硬かったかもしれん。

つか、疲労感がハンパない。この短いスパンで修羅場の連続って……。ホント寿命縮むわ。

「ハァ…」

今後のことを考えると本気で頭が痛い。

「これからどーすっかねぇ?」

昆布を口に放り込んで今後の事を考える。

もう魔法使えないし飛行魔法はもう諦めるしかないし……。

でも研修ももう少しで終わるから、このまま保管課に入るか?

別に魔法に凝ることもないし、保管課なら魔法つかうこともないし。

あ、デバイスマイスターの資格取るのもいいかもしれんな。

オリジナルデバイスの開発……ロマンが溢れるな。

うん、他にもやりようはあるじゃないか。


「…」


なんだよ。


なんだよそれ。


俺は、


俺は理由がないとここにいることもできないのか?


ふざけんな……。


ここには俺の居場所がないのか?


保管課は?


スーさんやソゥちゃんや瑠璃は?


「…っ」


……何バカなこと考えてんだよ俺。


もう、決めたんじゃないか。









『ヴィータには、もう会わんといて』


なんでだ?


『あの子は、後悔しとった。自分のしたこと、あなたにしたことに』


俺のせいだっていうのか?


『あなたに会うたび、あの子は自分のしたことに思い悩んどったんや』


俺に、どうしろってんだ?


『わたしは、…………』




わたしはあなたが嫌いや。




『なんで、自分は無関係みたいにあの子を遠ざけたん?』


『あなたに迷惑が掛かるんはわかってた。でも、ほんの少しヴィータの思いを聞いてほしかった』


『わたしたちのことを許せとは言わん。ただ、あの子の気持ちを汲んでほしかった』


『なのに、なのにあんたは…………!』


……。


『あなたは、あの子が傷ついたのに何もしなかった!』


『あの子はあの日から部屋から出んようになって、何日もたって、やっと顔を見せてくれたんに………』


『ヴィータは泣いとったんや。ずっと、部屋ん中で。あんなひどい顔、わたしは見たことなかった』


……っ。


『あなたは…………』




あなたはヴィータを苦しめてるだけなんや。




わたしは、あの子にこれ以上辛い思いをしてほしくないんや……!!




「―――………」

んなもん、十分理解してるさ。

俺だってヴィータを苦しめたいわけじゃない。

でも、俺がそう望んでいてもそれは俺がいる限り変わらない。

俺は彼女の『罪』の証だから。

俺の姿が、存在が、ヴィータの中に潜む罪悪感(きずあと)に苦痛を与え続ける。

だったら、

だったらもう、どうするかなんてわかりきってるじゃあないか。


「…ん?」


食器を流しに片付け、ふと頬に冷たいものを感じる。

頬に触れてみるとわずかに濡れた感覚が掌に伝わった。

「…」

特に気にすることなく袖で拭う。

「―――歯磨いてさっさと寝るか」

洗面台に向かう俺には、先ほど頬を流れたモノを大して気にかけることもなかった。




     *****










鼻孔をくすぐる水と風の香り。


まぶたの上から感じる柔らかな光。


ふわりと風が肌をなでる感覚。


恐る恐る目を開く。


わずかに震える瞼が上がり、視界は光に満たされる。


目に映るのは、言葉では言い尽くせない光景。




青空が支配する『蒼穹』がそこにはあった。




そこは世界の果てまで続くのではないかという青空が広がっていた。

深い青は手を伸ばすだけで吸い込まれてしまうのではないかというほど澄み渡り、空を悠々と泳ぐ雲は広大な空に白のコントラストを彩る。

天の境界線より広がる大地は、まるで鏡のように空を映し出す湖のようだ。

陸地は存在せず、湖は波ひとつないおかげか鏡のように青空の姿を映し出し、天も地もまるでひとつの空となったような幻想的な幻想的な光景であった。




……………。




「どこやねんここ」




なんだ???

なにがどーして俺はこんなところにいるのか……。

なんと言いますか、不思議なトンネルをくぐりり抜けたわけでもないのに気づけばこのありさまさ!

……アカン。ちっと落ち着こう。こういうときは奇数を数えるのか羊を数えるのか………。

「でも、すごいとこだなここ」

ホント、世界の絶景シリーズにこんな場所ありそうだよな。

こんな絶景、現実ではありえないんじゃないかなぁ。

「ん?」


現実じゃない?


現実じゃあないっつーと。


非現実?


夢?


「―――夢……おお!なるほど!」


ここって夢の中か!


「なるへそ。つーことはだ、これは俺が今見ている夢ってことか」

まさか俺の夢の中でこんな絶景に出会うことになるとは……。俺グッジョブ!

「でも、ある意味納得だ」

俺って空飛ぶことしか頭にないみたいだなぁ…。

「あ!もしかしなくても空飛べるかもじゃん!」

そうと決まれば即実行。夢の中だし飛行訓練ではできない縦横無尽の飛行ができるかもしれん。

「うっしゃあ!いくぞおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

両足を曲げ、腰を低く沈め、体中をバネのように縮める。


「どっせえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!!」


体を一気に垂直に伸ばす。その反動により足は地面から離れ――――




ふたたび着地。




「………………なぬ?」

もう一度ジャンプ。――――着地。

「……」

ジャンプ。着地。ジャンプ。

「…」







………



…………………



「………な………な…………………」




なんでやじゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!




そのあと、体感で30分ほど頑張ってみたけどダメですた。




     *****




「…明晰夢(めいせきむ)ってやつかねぇ」


絶景級の空を眺めつつ、テクテクと散歩気分で歩き続ける。うん、贅沢だな。

なんだかこの場所を独り占めしてるみたいだなぁ。いや、俺の夢なんだし当り前か。

「…にしても、どこまで続いているのか」

夢に突っ込んでも仕方ないけど、ホントどこまでいっても広大な空と形を変える雲が続いている。


かと思いきや、しばらく歩いていたら少しづつ空に変化が起こる。


空が徐々に赤く染まりはじめ、美しい夕焼け空へ。


そして空が藍色の暗闇に包まれると、そこはまるで砂金をばら撒いたかのような星々が煌めいていた。


そして、輝く星達が空に吸い込まれていくと今度は地平線より光が差し込みはじめ、夜明けの光が夜の藍色を昼の蒼へと染め上げていく。


ちなみにこれももう二週目だが、まったく飽きない。


うん。いい夢じゃん。


「そういや、下のこれって湖なんかな?」

平然と上を歩いていたけど、別に沈むとか溺れるとかいうのはないな。

でも、俺が足を踏みしめて歩くたび水面に波紋が広がっていくから水ではあるみたいだし。

俺は足元をのぞき込むが、鏡のように反射する水面は下をのぞく俺の姿と空だけを映していた。

「……んう?」

しばらく見ていたが特に変化はない―――と思っていたら水面はわずかに揺らぎ、水面の中が少しだけ透けてきた。

俺はしゃがみこんで水面に目を凝らす。




湖の底に―――――少女の姿があった。




「へぶーーーーーー!!?」

思わずその場からゴロゴロと転がり距離をとる。


なななななななナンダ!?幽霊?怨霊?自縛霊?ひえぇぇぇぇぇぇ!くわばらくわばら!


と、長いこと混乱していたが、しばらくして「いや、夢の中で幽霊はないだろ(笑)」と冷静になる。

とりあえずさっきの水面をそ~っとのぞき込む。

「……いるな」

先ほどと変わらず、少女はそこにいた。―――つか、誰っすか?

水の中なのでよく見えるわけじゃないが、腰まで伸びた髪、細身の体、異様に白く見える肌、あとなんか裸。

…………うん、女の子だね。

「お、親方!水中に女の子が!?」

いや、ネタに走ってる場合じゃないし。

少し様子を見てみたが、少女はピクリとも動かず、しかし苦しそうにしているわけでもなく、先ほどからふわふわと静かにまばたきをしているので、死んでるわけでもなさそうだ。

「……」

だが、俺はそれよりも彼女の眼に興味を引く。


彼女の蒼い瞳には、―――――光も色も意思も何もかもが抜け落ちていた。


そう、それは水面の底に沈殿した濃厚な闇のように。


『闇』そのもの。


「―――っ」


なんだ。


落ち着け。


…………いいや。落ち着けるもんか。


ああ、そうか。


「俺は…」


さっきから胸の奥から火種がくすぶるように感情が沸く。


彼女の眼を見るたび、脳味噌の中心がビリビリする。


そうだ、俺は―――――




「―――――あの“眼”が気に入らないんだ」




すべてを諦めた眼。


すべてを手放した眼。


すべてを背けた眼。


すべてに―――『世界』に絶望した眼。


世界のすべてが悪意に見えて、誰も味方がいなくて、ただただ孤独で、一人で、さびしくて、悲しくて―――――


…許せなかった。


そんな眼をする少女が。


少女を絶望させた世界が。


なによりも、―――――いつかの自分自身を見ているようで。


「……」


俺は水面に触れる。

触ってみると水で少し濡れた感じと、ガラスのような硬い感触。

「…よし」

その気になれば、壊せるかもしれない。漠然とだが『できる』という自信があった。

「―――……」

俺は静かに息を整え、拳をゆっくりと振りかぶる。


だが、俺の頭の中でそれを『してはいけない』という警笛がガンガン鳴っていた。


その声に、振り上げた腕が停止する。



―――お前は、自分が何をしようとしているのかわかっているのか?


―――もし、『これ』を壊せば、お前の居場所はなくなる。


―――『これ』は蒼穹(お前)と闇(少女)を隔てル『境界線』。


―――『境界線』が消エた時、お前はこの女ニ世界(すべて)ヲ奪ワれる。


―――そうナレバ、お前(俺)ハ………



「んなこと知るか」



俺は、その声を一蹴する。

「俺は随分とこの世界に執着してるんだな」

まあ、そうだよな。

誰だって自分の世界を奪われるなんて知ったら、耐えられるはずがない。

「―――――でもな」




………―――ピシッ!!



拳は振り下ろされ、乾いた音が世界に響く。

地面に伝う衝撃とともに、そこから亀裂が一気に広がっていく。


「俺の、この世界で、この手で、この思いで、あの子を助けることができるんだ。それって―――――」




最高にカッコいいじゃんか。



亀裂がはじけ、ガラスのような破片があたりに飛び散っていく。

地の底から闇があふれてくるが、俺はそれを無視して思いっきり手を伸ばす。

そして、闇の中に沈む少女の手を取り、力の限り引っ張り上げる。


「―――――」


『赤髪』の少女は目を見開き、驚いているのがわかった。

不謹慎だが、なんだかいたずらが成功したような感じがして悪くない。


なんだか気分がいい、な……なん、だろう…?


安心したとたんに、眠気が襲ってくる……。


「―――っ!―っ!」


広大な青空を背景に、少女が俺に向かって何かを叫んでいる。んん、聞こえん。

顔が影ってよく見えないが、なぜだかその顔は泣いてるように見えてしまった。


「……ったく、なんて顔してんだよ?」


彼女に…名前もわからない少女に笑ってほしくて、俺はニカリ笑ってやった。


身が、視界が、体温が、音が、声が、心が、静かに闇の中に吸い込まれていくようなおぞましい感覚に支配されはじめているのに、俺は―――――









「上見てみろよ。綺麗だろ?」









なんせ、俺がこの世で一番好きな―――――『青空』なんだからな。





























少年は闇に溶ける…………………――――――――――ひとりの少女を残して。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





うまくいかねぇまとまらねぇ作者でぇ。

読者様、熱い応援と感想ありがとうごぜぇます。がんばりますぜぇ。

シリアスは鬱な曲聴きながら書きすすめてます。そうしないとギャグ方面に行きそうでぇ。


……次回です。





【次回】


太郎「色のない心」その2





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