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[33927] Persona -Revenger・復讐代行業者-(ペルソナシリーズ)
Name: 諸葛孔明◆26bfbd70 ID:d35be28e
Date: 2012/07/13 14:14
 このSSは、ATLUS(株式会社インデックス)から発売されている「ペルソナシリーズ」を原案とした二次創作になります。
 ATLUS(株式会社インデックス)とは、一切関係ありません。

 これは「ペルソナシリーズ」の設定を原案としたオリジナルストーリーです。
 「ペルソナシリーズ」に登場するキャラは、殆ど登場しません(たぶん出るのはニャル様ぐらい……)
 残酷描写、性描写、陵辱描写、鬼畜描写、独自設定、捏造などが含まれているため、苦手な方はご注意下さい。

 にじファンの閉鎖に伴い、ノクターンノベルズの方も二次創作作品は禁止になりました。
 そのため設定や舞台を変更して、今後の事を考えて新しく書き直す事にしました。
 前作、前々作に続く三度に渡る書き直しは、読んでくれている方に本当にご迷惑をおかけします。
 これからも引き続きの応援を、どうかお願いします。






[33927] Prologue 【OUT MAD FATE(狂いだす運命)】
Name: 諸葛孔明◆26bfbd70 ID:d35be28e
Date: 2012/07/08 06:27

 7月7日、七夕。
 比良坂市の住宅街にある桐生家のリビングには、桐生大和と桐生有栖の兄妹と幼馴染である桐咲瑠花が床へ座り、テーブルの上に置かれている短冊に願い事を書いていた。
 有栖と瑠花は、短冊に願い事を書いているが、大和は手に持ったシャープペンシルを回すだけで書こうとしていなかった。

「大和、願い事は書けたの?」
「……まだ。と、言うか願い事がない」
「願い事がないって――。何かあるでしょう、普通は」
「ない」
「……言いきったわね」

 肩を竦めて呆れたように瑠花は、溜息を吐いた。

「そう言う瑠花は、何か願い事を書いたのか?」
「書いたわよ。見る?」

 そう言って瑠花は、大和に白色の短冊を手渡す。
 受け取った短冊には、『大和が普通になってくれますように』と書かれており、その横には瑠花の名前が書かれている。

「いや、俺は普通だと思うんだ」
「学校中の女子を服従させておいて、よくそんな事を言えるわね」

 ジト目で睨みながら瑠花は言う。
 大和がある事をキッカケにペルソナを覚醒させた。
 ペルソナとは、心の底に潜むもう一人の自分が実体化したもので、神話や物語に登場する神や悪魔、その他伝説の生物や英雄たちの名前と性質を持っている。
 大和が覚醒させたペルソナは、ルシフェル、ベルゼブブ、アスタロトに仕える6人の上級魔神の1人で大将を務めているとされる『サタナキア』である。その『サタナキア』の能力は、ありとあらゆる女性を服従させる事が出来た。
 大和はペルソナである『サタナキア』の能力を使い、学校中の女子を自分へと服従させた。ただ唯一、瑠花だけが『サタナキア』の能力に何故か抵抗でき服従されないでいた。

「……別に、お前には関係無ないだろ」
「あるわよ。私は、アンタの、その……、そう! 幼馴染だから、真人間にさせる義務があるのッ」
「……」
「な、なによ。私の事は良いから、短冊に願いを書きなさいよ。せっかく和人さんが、竹を取ってきてくれたんだから。願い事はなんでもいいの。目標にする事だったり、こうなりたいとかでもね」

 大和は瑠花に言われ家の庭を見た。
 庭には小さい竹が置かれており、大和と有栖の母親である壱与が楽しそうに飾り付けをしている。その様子を縁側に座り甚平を着た和人が、無表情――大和から見たら僅かに嬉しそうな表情をして壱与を見ていた。

「願い事、か」

 再び大和は、自分が願う事を考えるが全くそれが浮かばない。
 金持ちになりたいとは思わない。
 成績が良くするのは、願いではなく自分の実力。
 好きな女子と付き合いたいと言う感情は、もう今の大和にはない。
 考えれば考えるほど、大和は自分が願うことが分からなかった。とはいえ、このまま何も書かないと瑠花に文句を言われ、母親である壱与は悲しそうな顔をするのは目に見えている。。
 その事を思うと大和は考えた末に、大和は紅い短冊に願い事を書く。

「書けた」
「ん、じゃあ見せて」
「ああ」

 大和は躊躇することなく自分の願い事を書いた短冊を、瑠花に手渡した。
 受け取った瑠花は、大和が書いた願い事を読むと同時に顔を真っ赤にする。

「な、なっ、なに――ッ」
「……どうしたんだ?」
「た、短冊に何を書いてるのよッ!!」
「短冊に書くんだから、願い事に決まってるだろ。さっき瑠花が何でも良いって言ったから、それを書いた。何もおかしくないだろ。『瑠花のヴァージンがほ――」

 短冊に書いた願い事を言い終える前に、大和の頭上に瑠花は手刀を思いっ切り打ち込んだ。そのあまりの痛さに大和は思わず涙目になり、頭を両手で押さえる。

「な、なにを……するんだ」
「それはコッチの台詞よ! た、短冊にナニ変な事を書いてるのよッ。信じられない。この、変態! 馬鹿! 女たらし!」
「――短冊に書く願い事は何でもいいって言ったのは、瑠花だろ。なんで叩かれないと駄目なんだ」
「叩いて当然でしょうっ! あ、あんな事を書かれたら、女子には叩く権利があるのっ」
「仕方ないだろ。俺にはそれぐらいしか願い事がないんだよ。一番気になる女は、瑠花しかいない訳だし」
「……そ、そうなの。あ、あの、その、『サタナキア』の支配を止めるなら、私は――」
「周りの女子の処女は奪ったけど、お前だけまだ奪えてないだろ? だから、短冊に……。って、瑠花、瑠花サン。なんでそんな殺人鬼のような目で睨むんだ。俺、何かお前の気分を害する事をしたか?」
「――別になんでもないわ。ただ目の前の最低男の関節を曲げたいだけだから安心して」

 何一つ安心出来る要素がないと言おうとしたが、関節を普通は曲がらない方向に曲げられた痛みで何も言えずに地面に倒れる。
 関節を曲げた瑠花は、倒れている大和を一瞥して一言漏らす。

「……バカ」

 そう言うと先程から話に絡まず、短冊に願い事を書いている有栖の元へと向かう。

「アリスはちゃんと願い事は書けた?」
「うんッ。かけたよ!」

 楽しそうな笑みを浮かべて短冊を瑠花へと渡した。
 短冊には、「お兄ちゃん、ルカねぇ、おとうさん、おかあさんとずっと一緒でいられますように」と書かれている。
 それを見た瑠花は、有栖へと抱きつく。

「うん、ずっと一緒にいるからね」
「ほんとっ! ありがとう、ルカねぇ」

 瑠花の言葉に嬉しそうに有栖は顔を綻ぼせた。
 関節を曲げられた痛みから床に倒れていた大和は、起き上がりその光景を見て、一つだけ願い事が思い浮かんだ。大和は机の上にあるボールペンを手で握り、何の願いも書かれていない短冊を取るとペンを奔らせる。

「……今度こそ、普通の願い事を書けたんでしょうね」
「普通かどうかは分からないけどな。とりあえず、「願い事」は決まった」

 大和の短冊には、短く『今が出来るだけ長く続いて欲しい』書かれていた。

「有栖と瑠花の雰囲気を見ていると、ずっとは無理だとしても、今のような事が先も続けばいいな……と思った」
「わたしもお兄ちゃんとルカねぇとは、このまま一緒がすき!」
「うん。私も、続けばいいなと思う。――大和が真人間になってくれたら、私は万々歳なんだけどね」

 瑠花の言葉に、大和は苦笑いをするしかなかった。
 それぞれ最低一枚の願い事を書き、残った短冊には瑠花と有栖が願い事を記した。短冊に願い事を書き終えると、瑠花は立ち上がりポーチから短冊を取り出す。

「それは?」
「お姉ちゃんの分よ。今日、学校の補習で帰ってくるの遅くなるから飾っておいてって言われたの」

 瑠花には4歳年上の姉・桐咲結花がいる。
 思金学園高等部1年生で成績は底辺で、補習の常連であった。だが、ある事柄に関してのみは天才的に能力を発揮出来る事から、馬鹿と天才は紙一重を地で行く少女である。
 また結花は妹である瑠花を激愛しており、その瑠花も有栖を激愛している事から、ある意味で似た者姉妹と言えた。
 瑠花は結花の短冊と自分の書いた短冊を手に持つと、縁側へと向かう。その後に続くように有栖は行こうとするが、立ち止まり大和の側に駆け寄ってきた。

「行こ――お兄ちゃん」
「……ああ」

 有栖に服を引っ張られ大和は立ち上がり縁側へと行き、靴を穿いて竹に近づき願い事を書いた短冊を枝へと結んだ。
 もし短冊に書いた願いが叶うなら、出来るだけ長くこの日常が続いて欲しいと大和は思った。




 結果から言えば、その願いは結局は叶わなかった。


 大和が願った日常も。

 有栖の願った未来も。


 尽く叶うこと無く、狂い出した運命の歯車は、最悪の結末を迎えることになる。




 比良坂市にあるアラヤ神社。
 そこには、魔神と吸血鬼による戦いが繰り広げられていた。
 赤い魔剣を手に持ち幾重にも斬り付ける『アスモデウス』を、それをねじ曲がった時計の針で防ぐ『フランドール』の姿があった。魔剣が時計の針にぶつかる度に、火花が飛び散る。
 『アスモデウス』は距離を置き、雷の攻撃魔法を仕掛けると、『フランドール』は幾つもの魔法陣を出現させて、光弾を幾重にも放ち対抗する。
 アラヤ神社にある人影は3つ。
 黒い髪を腰の所まで伸ばしした幼女――有栖は、アラヤ神社の社の上から狂気の笑みを浮かべ楽しそうにしている。
 有栖が見下ろす眼下には、大和が身体の至る所を壊されて倒れている瑠花を抱きしめて、大粒の涙を流していた。瑠花は涙を流れている頬へと手を翳した。

「……ハハ、やまとが、涙をながすなんて、らしくないよ」
「うっ……ぅっぅう――」
「でも、こんな、ぅぅッ、トキだからかな。わたし、のために流してくれるナミダに、ちょっと嬉しく感じちゃうのは」
「瑠花、やめろよ。そんな、コト……。黄泉川先生の所へ行けば、助けられるハズだ」
「……ううん、もう、……いいの。ごめん、なさい。――ッッ、一緒に、居てあげる――って約束したけど、守れそうに、……ぐっ」
「もういい! 喋らなくていいっ!! ぅぅ……ぁっ」

 涙を流す大和の顔を見ながら、瑠花は苦痛に顔を歪ませながらも首を動かして有栖を見る。

「ごめん、ごめん――なさい。アリ……ス、さま」
「なんで……なんで有栖に謝るんだっ。アイツは、お前をこんなにした――ッ」

 瑠花は頬に当てていた手を大和の口元へと移して、それ以上は言わせないようにした。

「――いいの。ゲッホグッ、こうなったの、ゥック……、わたしの、自業自得なんだから。――だから、お願い。アリス、さまを憎まないで、ぅぅ、あげて。私のこと、は、ゥッゥ、忘れて、良いから、お願い――。昔みたいに、仲の良かった兄妹に――もど……って、――ゥゥッァ」
「瑠花! 死ぬなっ、死なないでくれ! 頼む!!」
「……さいごに、これだけ、は、言わせて。やまと、わたしを、あいしてくれて、あり、が……とう。このいちねんかん、しあわせ――だっ………た………よ――――」

 瑠花は精一杯の笑顔を大和へと向けると、事切れたのか腕が地面へと崩れ落ちる。

「る、か? おい、しっかりしろ。一緒に……ずっと一緒に、居てくれるって……、約束しただろ。俺を、1人に……しないで、くれ。もうイヤなんだ――」

 大和は必死で瑠花の身体を揺さぶり、話しかけるが瑠花は安らかな顔をして返事は返って来ない。
 この時、大和は瑠花の死を実感した。
 今まで依存していた相手の喪失。それは、大和の精神を狂わせるには十分なことであった。

「――――――――■■■■■■!!」

 雄叫びが神社に響き渡った。
 精神に異常を期したことで、精神の産物であるペルソナ『アスモデウス』にも影響を与えた。『アスモデウス』は、有栖のペルソナ『フランドール』の光弾を幾度となく直撃を受け、地面へと落下する。
 大和たちの近くの地面に落とされた『アスモデウス』は、大和の精神の変調とダメージの量が多さから消える寸前であった。普通ならば、ペルソナチェンジをして他のペルソナに変える所だが、今の大和にはそれすら出来る状態ではない。
 有栖の前に降り立った『フランドール』は、自分の下に魔法陣を出現させた。そして手に真紅に燃える獄炎を、『アスモデウス』へ向けて放った。
 爆発。
 アラヤ神社の一角が紅い炎に包まれる。だが、一箇所だけ炎が届いていない場所がある。地面に亀裂が走り、そこから吸い上げた地下水を利用して作った水がドーム状になって大和と『アスモデウス』、そして瑠花を守った。
 死んだはずの瑠花から、青い円柱型の光が噴き上がり一体のペルソナが具現化していた。
 『ヴァルナ』
 天則を司る神であり、天空から全ての者を監視、宇宙の秩序と人倫の道を支配する司法神・天空神。仏教に置いては水天として日本では知られている神である。
 少女のような格好をしている『ヴァルナ』は、地下水を出来る限り吸い上げて燃えている火炎の鎮火に務めた。
 燃え広がる火炎が収まると水で出来ていたドームは、まるでシャボン玉のように弾け飛ぶ。
 最後の精神力を使って喚び出された『ヴァルナ』は、宿主である瑠花と、宿主を愛おしそうに抱きしめている大和を見ながら、蜃気楼のように存在が霞んでいき消える。

「――『ヴァルナ』。相変わらず憎々しいペルソナだなっ!!」

 流水を弱点とする吸血鬼にとって水を司る性質を持つ『ヴァルナ』は天敵に等しかった。実際に、有栖が暴走して『フランドール』を使用した時は、瑠花が『ヴァルナ』を召喚して雨を降らすことで大人しくさせていた。
 大和は瑠花を抱き抱えたまま立ち上が。そして、目からは鮮血の涙を流し、有栖を射抜くような瞳で有栖を睨んだ。

「お前だけ……お前だけはっ、絶対に……俺の手で殺してやる!」
「アハハハ! やってみなよ、お兄ちゃん!!」

 有栖はアラヤ神社の社から降りて、大和と同じ地面へと立った。
 有栖の前には『フランドール』がおり、虹色に輝く宝石の付いた翼を羽ばたかせると、少年へ向けて特攻していく。『フランドール』は幻想種として上位である吸血鬼であり、素手で人間を殺すのは容易いことである。
 一方の大和のペルソナ『アスモデウス』は、なんとか立ち上がりはしたがダメージは深刻だ。消えかかっている状態で剣を構えて『フランドール』を迎え討とうとした。
 しかし、互いの思惑は外れた。
 突如として地面から黒い手が現れて有栖と『フランドール』、大和と『アスモデウス』を地面に無理矢理伏せらせた。
 そして『フランドール』と『アスモデウス』のほぼ中間地点から、円柱型の黒い光が天へ向けて吹き上がった。現れた不気味な異形の存在。上半身は人間のカタチをしているが、下半身はタコのような触手が蠢いており、黒い身体には虚無を表したような無数の面が無数に浮かび上がっている。

――特異点たる者達よ。私の名は、『這い寄る混沌』。この喜劇、私が預かろう――






>>see you next time











 今までペルソナ2の舞台となった珠間瑠市と、ペルソナ3の舞台となった巌戸台港区が同じ場所だったと言う改変で書いてましたが、にじファン閉鎖の事もあり、オリジナル舞台で書いていく事にしました。
 オリジナルの舞台ですが、ペルソナシリーズからは店などは登場させるつもりです(ジュネスとアラヤ神社ぐらいですけど)

 前回まで書いてた物は取り敢えず、にじファンに投稿されている作品が公開停止となる20日までは置いおこうかと思ってます。
 『女衒』の方は、新しく書き始めまで取り敢えずは置いておくつもりですが……。



 次回は原点回帰の意味合いを込めて「因果応報編(旧・トモダチの仮面編の加筆修正版)」になります。
 前回書いた時は、上中下としてしまったため、書ききれなかった事が幾つかあったので……。








[33927] 因果応報 編   ACT01 - 復讐依頼
Name: 諸葛孔明◆26bfbd70 ID:171932e5
Date: 2012/07/13 01:18

 比良坂市から伸びている『天岩門橋(あめのいわとばし)』の先には、人工島で全周10キロの島の高天原がある。
 高天原は不知火グループが建造した人工島で、一種の学園都市となっており、校舎は真新しく各種施設は充実している事と、学費が普通の私立と比べて4~5割ほど安いため、他県からワザワザ寮に入ってまで来るほどだ。その学園は、「私立神衣学園」と呼ばれている。
 神衣学園は幼稚園から大学まであるマンモス学園で、全校生徒は約一万人はいるとされ、教職員やショッピングモールで働く人物、不知火グループの関係者を合わせると5万人は優に超えると言われていた。

 俺――桐生大和は、そんな神衣学園高等部普通科2-Cで昼食を食べていた。
 机の上には、ある事情から一緒に住んでいる榊原雫ちゃんが作った弁当が置かれている。二段弁当の内容は、一段目にはウィンナーとポテトサラダとだし巻き卵、二段目にはご飯の梅干しが乗せてあるシンプルな弁当だ。
 箸で出汁巻き玉子を掴み、口へと運び食べる。
 ……うん、相変わらず美味しい。
 良いお嫁さんになるだろうけど、雪が果たして雫ちゃんを嫁に出すか疑問だ。
 残り1つなった出汁巻き玉子を箸で掴もうとしたした、その時、別の箸が出汁巻き玉子を掴む。慌てて顔を上げると、そこには神衣学園の制服を着たヤツがいた。

「おっ、美味しいな。このだし巻き卵」
「雫ちゃんが作ったんだから当たり前だろ。それよりも、勝手に人の物に手を出して食べるな、宗吾」
「わりぃわりぃ。ほら、代わりにオレの唐揚げをあげるからさ」
「……」

 そう言って宗吾は、コンビニの弁当から唐揚げを箸で取ると、俺の弁当へと唐揚げを入れた。
 コンビニで量産された唐揚げ1個、雫ちゃんが手作りをしてくれた出汁巻き玉子一つ。
 ……どう考えても等価交換が成立しない。雫ちゃんの手作りをした出汁巻き玉子一つと交換なら、せめて唐揚げを3つほど貰えれば、考えないことは無かったのに……。
 勝手に出汁巻き玉子を唐揚げと交換すると言う蛮行をしてきたのは、クラスメイトの小川宗吾。
 運動部は剣道部、文化部は報道部に所属している。メインは報道部で、剣道部の方は幽霊部員のようだ。ただ剣道の腕前は高く、その気になればレギュラーが狙えるほどである。
 「私立神衣学園」は学生が主導で、大人たちは余程の事がない限りは手出しをしない。良く言えば生徒の自主性を尊重、悪く言えば放任主義。そのためか、神衣学園には有象無象の部活動が幾つもある。
 例えば剣道部は普通の竹刀一本で稽古する部と、竹刀二刀流で部活動している所があり、文化部の方は新聞部だけで3つほどある。報道部もたまに新聞を発行していた。
 有象無象の部活があるため、毎年予算を組むときには、血を見る戦いが繰り広げられている。……らしい。
 らしい……と言うのは、あくまで宗吾からの情報なので、真実かどうかは分からない。それに俺は、部活に入っていないので、そう言うのには関心はなかった(あと、この学校で帰宅部を名乗ってはいけない。帰宅部と言う何をするかよく分からない部活が存在しているからだ。――そう言えば、何年か前に帰宅部と言う部活の活躍を書いたラノベがあったな)

「そうそう、ところで桐生。何か情報ないか?」
「なんの情報だよ」
「言ってなかったか? 『Revenger』だよ、復讐代行業の。報道部の部長が「都市伝説の実態に迫る」とかなんかで特集組むから、都市伝説関連で何か一つでも真新しいコトを見つけてこいって言われたんだ。因みに都市伝説の内容は割り振りだったんだ」
「……それでRevengerの事を調べることになったのか」
「ああ!」
「相変わらずだな、筒隱先輩は」
「でも、あの人のそう言う所が好きなんだよ。あ、勿論、ランクの方でな」
「――どうでもいいよ」

 筒隱清海先輩。
 神衣学園高等部三年生で、報道部の部長を務める才女。通称「くノ一」、「歩くプラックボックス」など
 あの先輩は、真面目な記事からゴシップ記事まで、あらゆる情報を取り扱う事で知られている。情報力の高さから、一部では神衣学園一の情報通ではないかと囁かれていた。
 報道部が出している新聞は一つであり、真面目な記事とゴシップ記事がちょうど良い具合に交じり合っているため、学生からも支持を集めていた。その分、ライバルである他の新聞を発行している部とは折り合いが悪い。

「――でも、Revengerは止めたほうがよくないか? 実在するかもしれない、奴らだろ」
「だからこそ調べる価値があるんだよ」

 Revenger・復讐代行業者――ねぇ。
 虚実入り交じる都市伝説で囁かれている、どうでも良い噂の一つである。
 名前の通り、他人の復讐を代行する人でなしの奴らだ。

「他にどんなのがあったんだ?」
「他にか? 「高天原の最下層には古代遺跡がある」とか、「路地裏には特別な者しか見えないバーへの扉がある」とか、「比良坂市の郊外にある廃屋敷には妖怪が出る」とか、それと」
「――もういいよ」
「そうか? これから面白くなるのに」

 ……別に都市伝説に面白さは求めるべきじゃないだろ。
 弁当を食べながら、宗吾と雑談をしていると、女子生徒が1人やって来た。
 黒い髪を腰の所まで伸ばしており、髪の後ろには少し大きめのリボンをしている。顔は少し幼さを残しているように見え、見るからにお嬢様と言う雰囲気を醸し出していた。

「――ちょっと良い?」
「あれ、委員長。何か用?」
「……委員長?」
「おいおい、桐生――。もうクラスが替わって半年は立ってるんだ、名前を知らないとか言わないよな」

 俺は首を横に振った。
 この学園は科の中で学年が上がる都度、クラス替えが行われるため、クラスメイトの大半が入れ替わる。そのため、一々名前を覚える気がしない。面倒くさいし。

「柳春香。内のクラスの学級委員長だろ?」
「――ああ、そう言われてみれば」

 ロングホームルームとかで、先生に言われて進行役をしていたような気がする。ただ、残念なことにロングホームルームは大抵寝ているため、あまり記憶がハッキリとしない。

「貴方達に訊きたい事があるのだけど……」
「え、オレたちに? そりゃ、オレたちに答えられる事なら答えますよ。なぁ?」
「……ああ」

 宗吾に促されて思わず返事をしてしまった。
 柳は少し躊躇いながらも、口を開いた。

「Revengerについて教えてくれない?」
「あれ、委員長。まさか復讐したい相手がいるとか?」
「ち、違いますッ! 最近、色々と噂になっているから気になっただけで――!」
「ハハハ、冗談ですって。オレもまだ調べてる途中で、あまり詳しいことは分かってないんですけど。それで良ければ見ます?」
「……はい」

 柳は頷くと、宗吾は机の横に掛けているカバンからタブレット端末を取り出した。iPadとか呼ばれているヤツだ。宗吾はタブレットを操作をしてから、柳に手渡した。
 受け取ったタブレットを、まるで何か覚悟を決めているかのように、柳は真剣に読み始める。
 ……。

「宗吾、Revengerについて何処まで調べてるんだ?」
「ん? 桐生も気になっているのか」
「……そうだな。都市伝説の中でも、実在してそうな気がするんだ」
「へぇ、珍しいな。そういうのにはてっきり無関心かと思ってたぜ」
「俺にも少しは興味がある事柄はあるよ。……それに、始め情報が無いかって聞いてきたのは、お前の方だろ」
「そうだったな。いや、あまり期待してなかったんだよ。ウチの部活の方針は『駄目で元々。無駄足上等。数打てば当たる』だからさ」
「……報道部として、それはどうなんだ?」

 その言葉に、宗吾は苦笑で返してきた。

「話は戻すけど、オレがRevengerについて分かっているのは、今時点では新聞の載っている情報と大して変わらない。部長に言われて調べ始めたのは、昨日の放課後からなんだ。超能力者でも無い限り、簡単に分かるはずがないだろ」
「――そう、みたいですね。ありがとうございました」

 一通り見終えたタブレットを柳は宗吾へと返した。そして頭を下げると、自分の席へと帰っていく。
 なんだったんだ……?
 女が考える事は、昔も、今も、先も、理解できない。――昔、理解できないんじゃなくて、理解しようしていない、って瑠花に言われたことがあった。ただ他者を理解しようなんてのは、俺から言わせればタダのエゴだ。他人は所詮は他人。理解なんか出来るはずがない。理解していると思っているのは、気のせいの類のものだと思う。血の繋がっている妹さえ、理解できないのに、他人のことなんて理解できるはずがないだろ。

「で、桐生。何かRevengerの事で知っている事はないか? あれば教えてくれ」
「……。大禍時(18時頃)に人気のない薄暗い路地裏に復讐願望がある人物が行けば、Revengerが現れるって噂を聞いたことがある」
「へぇ、……それってさっきオレが言った「路地裏には特別な者しか見えないバーへの扉がある」って都市伝説に似てないか?」
「似てるな。でも、都市伝説なんてそんなものだろ? 一つの噂が尾ひれ背びれがついて太くなっていく」
「なるほどな。お前の情報と、都市伝説を合わせると、Revengerは「大禍時に人気のない薄暗い路地裏に復讐願望がある人物が行くことで、バーが現れる」ってことになるな」
「ああ。――路地裏に行って調べてみるか?」
「……あー、何処の路地裏か分からないとな。ただお前の話が本当だとしたら、あまり意味無いだろう。だってオレには復讐願望はないし」
「無い方がいいだよ。復讐願望なんてのは、な」

 弁当を食べ終えて、二段弁当に蓋をしてカバンへと仕舞う。
 すると同時に着信音が鳴る。着信音はビゼーの「アルルの女」第2組曲の第4曲「ファランドール」である。宗吾は制服からスマートフォンを取り出すと電話に出た。
 宗吾の話の具合から、相手は筒隱先輩だと察しがついた。幾つか返事をした宗吾は、スマートフォンの通話を切ると、制服へと入れる。
 珍しいことに宗吾は、頭を掻きながら溜息を吐いた。

「あー、ちょっと部室に行ってくる。筒隱先輩からの呼び出しを無視すると、後が怖いんだ」
「……頑張れ」
「ああ」

 頷くと宗吾は、タブレット端末を持って教室から出て行った。
 残った俺は机の中から読みかけの文庫を取り出して読み始める。何時もならスマートフォンにイヤホンを指して音楽のボリュームを出来るだけ上げ、雑音が聞こえないようにして読む所だが、今日は家に忘れて来ているため仕方ない。
 読んでいる文庫は、角川書店から出版されている「万能鑑定士Qの推理劇」。前作である「万能鑑定士Qの事件簿」の方は劇場化が決定し、「面白くて知恵がつく人が死なないミステリ」と言うのが謳い文句の作品である。
 表紙イラストは、アニメ化もした綾辻行人・著の「Another」のコミカライズ版を担当している人がしていた。

「ねぇ春香、大丈夫? なんか気分悪そうだよ?」
「――だ、大丈夫。ちょっと考え事してるだけだから。心配かけてゴメンね」
「気にしないで。もし、力になれる事があったら言ってね」
「うん……。ありがとう奈津美」

 先ほどRevengerのコトを聞きに来ていた柳が暗そうな表情をしていたため、友人が心配そうに声をかけていた。
 だが、心配しているトモダチが、顔を逸らした直後に一瞬、嘲笑うような表情をするものかね。……ま、今のところ俺には関係ないので、どうでもいいけど。
 ページを捲りしおりを除け、読みかけの続きを読み始めた。






***///***







 放課後。
 高天原にあるショッピングモール「神大市」の路地裏に、神衣学園高等部普通科2-Cのクラス委員である柳春香はいた。
 ショッピングモール「神大市」は、日用備品から一部のマニアしか使用しないコアな商品までを販売している商店が並ぶ場所で、主に神衣学園に通っている生徒や教師が使用しているが、最近では品物の充実ぶりからか比良坂市の方からも来るようになっていた。
 また路地裏に入ると、非合法な商品を販売していると言う噂があり、この学園を創った不知火グループが取締を強化しているが、トカゲの尻尾切りの状態で、最近は地下へと潜る者も多数いた。

「……」

 春香は、路地裏をコソコソと歩き回っていた。
 昼休みにクラスメイトの桐生大和と小川宗吾が話していた内容を聞き、僅かな願いを胸に秘めて路地裏を捜索している最中である。だが、所詮は噂話か、Revengerは現れず、バーのような扉が現れる事もなかった。
 そろそろ時間は19時近くになる。夏が近いため、19時近くなってもまだ日が上って入るが、路地裏は影に隠れているため薄暗く、ガラの悪い連中が所々にいるため、春香は怯えながらも勇気を振り絞って探した。
 どれぐらい歩き回ったか分からない。春香は少しだけ息を荒らげながらも、まだ探し続けていた。しかし、春香のスカートのポケットから携帯の着信音が鳴り響くと、立ち止まり携帯を見た春香は愕然とする。
 身体を震わせながらも、携帯電話を制服のポケットへと入れた。

「……所詮は、噂話――だったのかなぁ」

 そう諦めた口調で言った。
 春香は路地裏から表通りに向かおうとしたその時に、周りに異変が起きた。まるで時間が停止したような感覚に襲われたのである。再び携帯電話を取り出して時計を確認するが、秒が止まり動く気配がない。
 思わず壊れたかと思ったが、腕時計の方も秒針が壊れたように止まったまま。
 どう言うことなのかと混乱していると、春香の前に突如として赤黒い木製の扉が出現した。怪しく禍々しい気配を放つその扉を前に、春香は恐怖を感じた。
 しかし今の春香には躊躇い、迷って、この幸運を見逃すほどの余裕は無かった。両手で頬を叩いて覚悟を決めた春香は、ドアノブを回して赤黒い木製の扉を開いた。

「いらっしゃいまっせー♪ 意識と無意識の狭間にある、バー『Nyarlathotep』へようこそ♪」

 春香をまず出迎えたのは、赤い髪をした12歳ほどの少女だった。衣装はミニスカメイド服を着ており、足元からは黒いガータベルトが目に付いた。

「え、ナイアーラトテップ? ニャルラトホテプ? ナイアルラトテップ?」
「どれでもいいですよー。と、言うか、全部が正解です。どうせ本当の呼び名は、人間の言語では表せません」
「そう、なの」
「はい♪ あ、ワタシは此処で働いているアイリ。よろしくね♪」
「……う、うん」
「それじゃ、一名様ご案なーい!」

 アイリに促された春香は、『Nyarlathotep』への中へ案内された。
 バー『Nyarlathotep』の中は普通のバーと比べてそこそこ広い。出入口の所のフロアには、6人ほどが座れるテーブル席が6席あり、そこから四段ほどの階段を上ったフロアにカウンター席が6つほどある。
 春香が案内されたのは、四段ほど上った先にあるカウンター席だ。カウンター席には1人の女性が先に座っていた。
 カウンターに座っている白いゴスロリ服に身を包み、銀の髪からは粒子を撒き散らす少女。
 彼女の名前はテスタメント。普遍的無意識の世界に生きる者で、その性質は、契約を司る事に特化している。テスタメントは、テーブルの上に置かれたグラスを手に取り、口元へ運び少し飲むと、元の位置へと戻した。
 そしてアイリによって案内された春香を見ると口を開いた。

「さて、依頼内容を聞こうか」
「い、依頼内容……?」
「おいおい、キミはRevengerに依頼があって来たんだろ? それとも、こんな辛気臭いバーにただ来ただけかい。こんなバーに来るぐらいなら、クラブにでも行って騒いだほうが良いよ」
「……辛気臭いとは、余計なお世話ですな。テスタメント様」
「えー、そう言われても仕方ないよ。だってお客さん、滅多に来ないもの」
「そうだね。此処に来るのは、大抵がボク達へと客だろ? バーそのものに用事のある客なんて見た事がない」
「……」

 バー『Nyarlathotep』のマスターであるメフィスト・フェレスは、アイリとテスタメントに言われて黙るしか無かった。
 メフィスト・フェレスは、普遍的無意識にあるネガティブマインドの元型であり破壊性を司る「這い寄る混沌」ニャルラトホテプが持つ千の顕在の内の1体である。

「さて、話が逸れたようだね。柳、春香。キミの復讐依頼を聞こう」
「なんで私の名前を――っ」
「人の意識は、心の奥深くで繋がってるんだ。入ってきた人間の名前を知るなんて事は、造作もないことだよ」
「……それじゃ、貴女が、Revenger……なんですか」
「いや、ボクはただの仲介役だよ。依頼人とRevengerとの間に交わされる契約を取り仕切るだけの存在さ。だから、依頼を謂い給えよ。キミは明確な復讐心があって来たんだろ」
「……はい」

 春香は頷くと、ポツポツと言葉に出し始める。
 緊張していたが、「Nyarlathotep」の店内に流れている音楽の所為か、入ってきた当初と比べて心が落ち着いていた。

「――数日前から毎日、その、レイプされてます。もう……イヤなんですッ。これ以上弄ばれたら、私が私じゃなくなっちゃいそうで……。お願いしますっ、あの人達に復讐して下さいッ」
「へぇ。それは同じ学校の人たちにかい?」
「……違います。八雷学園の人たち、に――」

 消えそうな声で春香は言った。レイプの事を思い出しているのか、僅かに身体を震わせている。
 八雷学園。
 比良坂市に昔からある学園で、中等部と高等部がある男女共学の学校である。通っている学生は、札付きの不良や、成績や素行に問題がある者が主なため、比良坂市の中でも八雷学園に通っている学生の風当たりは強い。
 一応は男女の共学ではあるが、男子生徒の数が圧倒的に多く、女子は全体の1~2割ほどであった。その女子の全てが、レディース『迦具土』に所属しており、校内はかなり荒れていると言う噂である。
 因みに学園の名称は、黄泉の国でイザナギの身体に纏わり付いてきた、穢れの象徴とも言われる8柱の雷神・八雷神(やくさのいかずちのかみ)から取られていた。

「なるほど。つまり……キミをレイプした八雷学園の人たちに復讐して欲しいと言うわけだね」
「……はい」
「一つ訊いてもいいかな。なぜ警察にいかないんだい?」
「写真やビデオを取られたんですよ! 警察に言ったらインターネットにアップロードするって言われて――。もう言うとおりにするしかないじゃないですかッ」
「ふ~ん、それじゃあ依頼内容に、動画写真の削除も追加するかい?」
「で、出来るんですかっ」
「ああ。まだインターネット上に公開されたワケじゃない現段階なら――可能だよ」
「お願いしますっ。あんなのがあると思うと、安心できませんっ! もし知り合いに見られたら、生きていけない――」

 泣きながら春香は言うが、テスタメントは聞くだけで表情を変えずにグラスに注がれているカクテルを飲んだ。

「なら、聞かせてくれないかな?」
「……何を、ですか」
「キミがレイプをされる原因を、だよ。まさか普通に街を歩いていたら、何処かに連れ込まれてレイプされた――。なんて、猿でも分かる嘘は付かないで欲しいな」
「……」
「ハハ、ただ自分の口からは言い難いだろうから、実際に見てみるとしようか」
「――え?」
「アイリ、何時ものヤツを持ってきてくれ給え」
「はいは~い」

 テスタメントに指示をされたアイリは元気よく返事をすると、バーの奥へと入って行った。
 しばらくすると、大きな水晶で出来たと思われる鏡を持ってくる。高さ3メートル、横2メートル。それを軽々しくアイリは持ち、春香の後ろへと置いた。

「持ってきたよ!!」
「これは、なんですか……」
「これかい? これは「浄玻璃鏡」と言って地獄を守護する閻魔が所有する道具の一つさ。とはいえ、本来なら亡者の生前の一挙手一投足が映し出される物だから、生きている人間にはあまり効果はないんだがね。そこはメフィストに改造してもらって、生者でも映るようにして貰ったものなんだよ」
「――まさか」
「そう。これから観るんだよ。数日前、キミがレイプされる原因となった出来事を。そしてレイプされている様子を!」





>>>>To be continued






 はい。前回予告した通り、旧「トモダチの仮面」編の加筆修正版「因果応報」編の第一話になります。
 加筆修正と言っても、あまり原型は残ってませんが……。

 バー『Nyarlathotep』は、ペルソナシリーズにおける「ベルベットルーム」と同質です。
 違いは、ニャルラトホテプ側か、フィレモン側かの違いです。
 イゴール=メフィスト
 力を管理する者=アイリ
 と、言った具合です。
 テスタメントがバー『Nyarlathotep』にいる理由は、その内に本編で明かせばと思います。





[33927] EX 人喰い住宅(マンイータ・ハウス)編 前編
Name: 諸葛孔明◆6fead616 ID:7bbc953e
Date: 2012/08/28 03:24

 8月の中頃。
 夏休みも後2週間ほどで終わるが、俺は特にする事もなくリビングにあるソファーで身体を横にしてライトノベルを読んでいた。
 神衣学園は基本的に夏休みに宿題は出ない。その代わりに、夏休み明けて早々に学力テストが行われる。そのテストは中間・期末と比べると少しだけ難しくなっており、教師陣が設定しているある一定の点数以下を取ると、一週間ほど放課後に特別補習を受けるハメになる。
 夏休みの間、勉強せずに遊びやアルバイトに集中するあまり成績を下げて補習を受けるのも、少しでも自主勉強をして成績をキープするのも、個々の自由というわけだ。
 因みに、その補習を受けている間は放課後の部活動に出る事が出来なくなるため、有力な部活は夏休みの終わり頃となると部活を上げての勉強会をするところもあった。
 俺の場合は、とりあえず試験の数日前に詰め込めばなんとかなる……ハズ。今までもそれで乗り越えてきた。

「……暇そうね」

 声を掛けたきたのは、榊原雪だ。
 前髪を無駄に伸ばして顔の9割ほどを覆っている。……きちんと美容すれば、可愛くなるんだけどな。
 ソファーの近くにある机においてある栞をライトノベルの読みかけのページに挟み閉じると、ソファーから起き上がり雪を見た。
 キッチンと対面している場所にあるテーブルの上に、ノートパソコンとUSB電源コードのミニ扇風機を置いて何か作業をしている。

「まぁ、暇と言えば暇だな。夜のバイトも、ここ最近はないしな」
「そう。なら、たまには昼のバイトをしてくれると色々と面倒が減って助かるんだけど?」
「……昼の仕事、か。何かあるのか」
「あるわよ」

 ――即答か。
 ソファーから立ち上がり、雪の元まで歩く。
 夜のバイトと言うのは復讐代行業である「Revenger」のこと。とはいえ、最近は特に依頼もなく平和で退屈な日々が続いているわけだが。
 その「Revenger」の仕事をする際、依頼主から復讐を代行する際に一つだけ何かを貰っていた。
 ほとんどの場合は金であるが、たまには物の場合もある。物の場合は質屋に入れたりするので別に構わないのだが、金の場合は手に入れたからと言って直ぐには使えない。少額なら問題はないが、高額な買い物をすると、国税局やら何やらが煩くするからだ。
 だから「Revenger」で手に入れた現金は、何時でも使用できるようにしなければならない。ヤクザやら犯罪組織が、違法な方法で稼いだ幽霊資金を資金洗浄するのと同じ事である。
 その資金洗浄するための方法が、昼のバイトだ。
 何でも屋「JOKER」
 トランプ等では切り札扱いされる事が多いが、どちらかと言うと道化師としての意味合いが強い。こちらの仕事内容は、犯罪行為以外ならばなんでも受けるようにしていた。
 猫や犬などのペット探しが依頼される事もある。その場合、雪が降魔しているペルソナ『アガリアレプト』で見つけているので、俺たちがどうこうする事はまずなかった。
 ただ所詮は高校生がやっている何でも屋。まともに相手にする人も少なく、「Revenger」以上に依頼が少ないのが現実だ。
 雪の元まで歩いて行き、雪の背後からノートパソコンの画面を見た。

「……なんだ、これ? 朽ち果てた家の画像だな。解体工事の依頼なら、他に回してくれ」

 ノートパソコンの画面に映っているのは、二階建ての何処にでもありそうな白い家であった。
 しかし何年も放ったらかしにしているからか。家の所々が朽ちて、硝子は割れている。

「違うわ。今回の依頼は「除霊」よ」
「除霊?」
「ええ。依頼主は、この土地を所有している不動産屋からよ」

 雪は依頼主から送られてきたメールを開いて見せた。
 この家は築30年以上も経っているらしく、家自体が傷んでいるため解体しようとした所、解体業者の作業員が突如として発狂や意識不明となり倒れた結果。ほぼ全員が死亡したらしい。
 始めの方は誰も本気にはしなかったようだけど、それが2件、3件と続くと不気味さが増してくる。事実「家を解体しようとすると呪い殺される」と言う噂が流れたため、この家の解体を請け負う業者はいなくなった。
 依頼主である不動産屋は、自称霊能力者や神主などを雇って除霊を頼んだみたいだ。ま、結果は全て失敗に終わっている。

「呪い、か。現実的に見れば、有害物質でも埋まっている可能性を考えた方がいいんじゃないか?」
「その可能性は依頼主も考えて調べたみたいだけど、土地や建物からも何も有害物質は検出されなかったようね。ついでに、その調べに入った人達も同じように死んでいるわ」
「……。肝試しスポットに使えそうだな。身の毛もよだつ恐怖の住宅、致死率100%って謳い文句で」
「――人がまじめに話をしてるのに巫山戯ないでくれる? ハッキリ言って不愉快だから」

 声のトーンを落とし、髪で隠れた瞳で睨んできた。

「話は戻していいわよ」
「……ああ」
「この家で、不動産屋が雇った解体業者や研究者たちを除いても、十数年の間に20人以上は死んでいるわ」
「多いな」
「ええ。一番古くて記録に残っている死者は、この家に住んでいた当時中学2年だった女の子。死亡原因は……刺殺。実の父親に殺されたそうよ。この父親は最低の下衆だったようね。実の娘相手に性的暴行を加えて、数年も自宅に監禁していたそうよ」
「その父親はどうなったんだ?」
「死んでるわ。死亡原因は心筋梗塞。玄関から顔を恐怖で歪ませて出てきて、意味不明な言葉を喚き散らした後で死んだようね。自業自得の死に様よ」
「雪……」

 雪はかつてこの少女と同じように、自分の父親に犯された挙句に命令されて援助交際していた過去がある。
 だからか、娘に対して性的暴行や性的行為をする「父親」に強い嫌悪と憎悪を含んでいた。もし、この少女の父親が生きていれば、雪は社会的抹殺をしたかもしれない。

「娘が父親に殺され、その父親も発狂して死んだような物件を買う奇特な人はいなかったようね。その事件以来、誰もこの家には住んでないわ」
「? ちょっと待ってくれ。さっき十数年の間に20人以上は死んでいるって言ってただろ。住人でないなら、その20人以上の死者は――」
「後は、その家に肝試しで来た命知らずなカップルと、レイプ目的で女性を連れ込んだ男と、連れ込まれた女性」
「……まるでゴキブリホイホイだな」
「ふっ、言い得て妙ね。でも、不思議とこんなに死んでいるにも関わらず、強姦目的で使用する不良たちや社会のクズは減らなかった所を考えると……。意外とそれと同じように、この家に誘われているのもしれないわね」

 雪は画面をクリックして、例の家が写っている画像をアクティブにした。
 ……話を聞いた後だと、始めに見た印象とは少しだけ変わる。よく見れば、いかにも出そうな雰囲気を出しているな。

「――それで、この依頼。引き受ける?」
「? まだ引き受けてないのか」
「『Revenger』も『JOKER』も、貴方がリーダーなの。だから、貴方が気が進まなかったら別に受けないわ。例え家事の手伝いを何一つせずに、ソファーで横になってラノベを読んでいたとしても、ね」
「……。いや、やりますよ? ちゃんと仕事をやらせて貰います。全力で」
「そう。じゃあお願いね。依頼主には、私から確認のメールを送っておくわ。それと、コレ――」

 雪はジャージのポケットから鍵を取り出すと、俺に向けた投げたので、それを受け取った。

「それ、この住宅の鍵よ」
「……ちょっと待て。依頼を受けると言ったのは、ほんのさっきだぞ。なんで鍵を持ってるんだ」
「「スキマ」でちょっと拝借しておいたの。心配しなくても、ちゃんと依頼主にも鍵は借りてるってメールに書いてるから心配しなくていいわ。それと、この家の住所と辺の地図はメールしておくから後でスマホを見なさい」
「ああ、分かった」

 雪が降魔しているペルソナの中には、索敵や探索をメインとしている非戦闘系の『アガリアレプト』と、境界を操る程度の能力を持っている戦闘系の『八雲紫』がおり、主にその二体を使用していた。
 その二体のペルソナを上手く使用することで、雪の情報処理能力はかなりの物だ。ハッキリ言って、情報屋として普通に生計が立てれるほど。実際に、『Revenger』にしろ、『JOKER』にしろ、雪の情報収集・処理能力によって大きく助けられていた。
 ポケットに入れているスマホが振動したので取り出した。画面には雪からのメール着信があったことが表示されている。画面のロックを解除してメールを見た。
 ……バイクで約15分ってところにあるのか。

「それじゃ行ってくる」
「いってらっしゃい。成功を祈ってるわ」




***///***




 バイクを走らせて約15分ほどで、問題の住宅についた。
 ヘルメットを頭から除けて、ハンドルへ吊るして住宅を見た。
 ……画像で見るよりも不気味さは増している。いや、実際に不気味だ。白い住宅には黒い靄――悪意や憎悪――が立ち上っている。画像だと分からなかったが、これなら解体業者や研究員が死んだ事も納得できる。
 普通に見るだけで視認できるほどだ。呪殺に耐性のない一般人が、長時間いれば精神や魂が蝕まれて死へと至るわけだ。
 今降魔しているペルソナは『アスモデウス』で、呪殺の類は効果がないため、別に呪殺に関しては気にする必要はないだろう。
 バイクから降り黒いプラスチックの門を開けて、住宅の敷地内へと入る。
 …………ッ。
 見ると、実際に、体感するとでは、まるで違う。身体に無数の針で刺されているような痛みが襲ってきた。強い怨念や憎悪が、呪殺だけではなく物理的な痛みまで引き起こしていた。
 問題は、敷地に入っただけでコレだ。本丸だと思われる住宅の中に入った時は――。
 考えるだけでイヤになるな。

「――ま、一度引き受けた以上はちゃんと最後までするけどな」

 門の所から10歩程度で玄関へと着いた。
 ポケットに入れている雪から貰った鍵を取り出し、玄関の鍵穴へ入れて解錠をする。
 ……視認できるほどの怨念と憎悪に覆われた住宅だ。まさに「鬼が出るか蛇が出るか」とはこの事か。
 ドアノブを握り回して玄関を開けた。

「……ッ」

 一瞬。立ち眩みに襲われて倒れそうになるが、玄関を掴んだ事で倒れると言う事だけは免れた。
 頭にまるで酩酊感のように痛む。
 くそっ、なんなんだ……一体。
 徐々に感覚が戻ってきたので立ち上がり、目を開けると信じられない光景が広がっていた。

 廊下や二階へあがる階段の所で、20半ばかそれよりも若い女性が複数人の男に犯されていた。

 なんだ、これ。
 さっきまで人の気配はまるでなかった。雪のような索敵・探知系のペルソナは降魔していないが、レイプをしているような男達の気配を、ドア越しだからと言って感じないはずがない。実際に、今は気配を感じる事が出来ている。
 いや、目の前の廊下や階段だけじゃない。
 感じるだけで家の場所から複数人の気配がした。
 どうなってるんだ? …………まさか。
 玄関から身体を反対に向けて空を見上げた。
 来る時は薄暗い感じだったが、今は空は禍々しいまでに赤と黒に覆われている。しかも、この家以外に周りには何もない。
 乗って来たハズのバイクも、周りにあった家も、そして道さえもなかった。あるのは、禍々しく染まっている赤と黒の空間に、今いる住宅の土地が存在しているだけ。

「あー、予想は全くしてなかったワケじゃないけど。異界に引き摺り込まれるたか……。それほどまでに、この住宅の怨念やら憎悪が強かったんだな――」

 このままだと、死ぬまでこの異界に囚われるか、この異界の主……憎悪と怨念の起点を壊すなり斃すなりしないと出られない。
 全く面倒くさいことになった。雪に連絡が付けば、この異界が発生した起点たる物か者を見つけて貰って楽が出来るんだけど……、やっぱり電波は届かないよな。現実とは異なる世界だし。
 溜息を吐いて取り出したスマートフォンをポケットに入れる。
 ……あまり長く居たい世界じゃないのは確かだ。とりあえず、この空間内にいる相手を全て斃すか。その中に当たりが居れば面倒はないんだけど。そう上手くはいかないだろう。
 再び身体を玄関へ向き、靴を履いたまま廊下にあがった。
 玄関から入って直ぐの所に、中年の作業服を来た男が2人ほどが1人の女性を押し倒して犯している。犯している方は、とても正常とは言い難く、眼の焦点はあっておらず、技術もなく、まるで獣のように腰を振るだけ。
 一方の犯される側の女も泣き叫んではいるが、その演技力は出来の悪いAVのような感じで、男に乱暴に犯されるためだけにいるような存在に思えた。
 ――それを言うなら、男もそうか。女を強姦するだけの男、男に強姦されるだけの女。

「……耳障りな上に、不愉快だな」

 赤い円柱型の光が地面から噴き上がり、一体の魔神が姿を現す。黒い甲冑からは赤い外套がついており、手には真紅の大剣が握られている。
 ペルソナ『アスモデウス』
 色欲と破壊を司る魔神で、今では最も使用しているペルソナである。
 『アスモデウス』は、大剣を振り上げ犯されている女性諸共、男2人を一閃で斬り捨てた。女と男達は黒い靄のようになり、まるで初めから存在しなかったようになる。

[あーあ、せっかく捕らえている魂になんて事をしてくれるの]
「……誰だ」
[誰でしょう? そんな事よりも、せっかく招いてあげたんだから、そんな物騒なモノは仕舞いこんで、楽しんだら?]
「何を楽しめて言うんだ?」
[コレよ。コレ]

 どこからか聞こえてくる少女らしい声が言うと、床から少女が1人現れた。歳は15にまだなってないぐらいだろう。乱暴にされた後か服は所々が破られ、目には精彩がない。

[この子は、数日前にこの家に連れ込まれて乱暴にされた子。まだ処女だったのに、前も後ろも同時に犯されたの]
「……で、コレの何を楽しめって言うんだ?」
[犯しちゃえ。此処はワタシの世界。現実世界のようにモラルとか気にする必要は無いんだよ。そこに女がいるから、犯したって別に誰も責めたりしない。ほらほら、貴方にも少女をモラルとかに囚われずに好き勝手に犯したいって欲求はあるでしょう? だから、この世界に招かれたんだよ]
「……下らない」

 強姦や輪姦は、無駄な塊だ。非効率かつ生産的ですらない。
 セックスをする相手に恐怖などでトラウマを植え付ける行為は、誰が見ても下らない。そう言うプレイをしたいと言う特殊な嗜好を持っている者は置いておき、セックスは互いに気持よくなってこそだと俺は思っている。
 俺はかつてペルソナ「サタナキア」の能力を使い、周りの女子を服従させて色々した事がある。ただ相手は、それなりに気遣っていたつもりだ。セックスに対して恐怖を覚えさせるような事はしなかった。

[――己を偽って苦しむ事はないんだよ。ここはありのままの欲望を放出ししても良い場所なんだから、我慢せずにに吐き出しちゃえ]
「……『アスモデウス』」

 『アスモデウス』は左手を突き出すと、魔法陣が現れ、雷が乱れ飛ぶ。
 拡散する雷は、住宅の内部と轟音を立てながら破壊していく。そんな中ですから、レイプに励む男達がいたが、そいつらも『アスモデウス』の雷を受けて消滅する。
 雷が治まり周りを見回すと、壁や天井は破壊され、一部からは雷の影響で火が発生し、所々は黒く焦げていた。

[人の家を破壊しないでほしいな――。器物破損罪だよね。これは]
「現実世界のようにモラルとか気にする必要はないんだろ? そんな事よりも、さっさと姿を現したらどうだ。近くに居るんだろ」
[……]

 空間が渦巻きのように歪み、1人の少女が姿を現した。少女は仮面をしているためどんな顔をしているか分からない。服装は、どこかの中学校の制服を着ている。
 少女は両手を前に出して、パンッと音を鳴らし両手を叩くと、『アスモデウス』の雷で破壊された住宅は、まるで何もなかったかのように元へと戻った。
 それどころか、斬り殺したハズのレイプをしている男達まで復活を果たしていた。

「此処はわたしの世界。わたしの思い通りにならないことなんて、何一つとしてないっ!!」

 少女の叫びに呼応するかのように、壁、床、天井から黒い影のようなモノが現れ、影の中から仮面が出た。すると影はそれぞれの姿へと変化していく。

「コイツらは『シャドウ』……。人の心の裡に潜む存在。そしてわたしの忠実な僕……。わたしの思い通りにならない……お前なんか消えちゃえばいいんだ」

 この狭い廊下で戦うのは不利、か。
 広い場所で戦うべく、後ろへと跳ぶが、後方にも少女が呼んだ「シャドウ」がいた。地面から生えた一本の腕には、柄の所に仮面がついた剣が握られており、それを躊躇うこと無く振り下ろされる。
 『アスモデウス』は背後に現れた敵を察知すると、手に持つ剣でシャドウが持つ大剣を受け止めた。
 ぐぅ――ッッ。
 なんてパワーだ。鍔迫り合いをしてるけど、このままだと押し負ける。
 それに背後……住宅の中からは、『アスモデウス』が鍔迫り合いしているシャドウとは別タイプのヤツが、こっちへ向かってきている。
 ――仕方ない。アレは現実世界だと目立つから、頻繁に使用できなかったけど、ここは幸いにも異界。暴れたとしても、誰が困るということはないよな。
 『アスモデウス』は俺の考えを察したのか、シャドウとしている鍔迫り合いを横へ力点を逸らすことで終わらせて空中へと飛んだ。同時に俺の身体も空中へ浮き、『アスモデウス』がいる場所まで向かった。
 そして『アスモデウス』は、理解できない言葉で詠唱を始めた。地面には紅く輝く魔法陣が現れ、まるで機械音のようなガチッガチッと何かを外すような音が響く。紅く輝く魔法陣の中央部分が、黒い孔となり、そこから一体の竜が現れる。
 それは黒竜だった。頭には雄々して角が生え、背には大きな黒い翼が二対四が生えている。

「■■■■■■――!!」

 黒竜が吠えた。その声質は、空間を震わせたと思えるほどだ。
 俺は黒竜の背に降りると、『アスモデウス』も同じように降りた。黒竜召喚には、通常の魔法を使用する際に消費する精神力が倍以上必要となる。何が言いたいかというと、早くも精神力が切れかかっているということだ。
 全力で攻撃を繰り出したとして、一分したら倒れるな。
 ……それで確実に斃せる確証はないけど、やらないと余計に追い詰められる。向こうは「シャドウ」なんて異形を僕として操っていのだ。「シャドウ」を繰り出し、精神力が切れた所でやられる可能性も低くはない。ならばこその全火力を集中させての短期決戦に持ち込むのみ。
 現実世界だとしたくても出来ないんだよな――コレは。周りの被害が大きいコトと、大抵のターゲットが一般人なので、使用する必要もないわけだが……。
 黒竜は大きく顎が開かれ、光の粒子が集まっていく。同時に『アスモデウス』も両手を前へと広げて、そこに赤黒い魔力が集収されていき、バチバチと激しい音を鳴らす。
 地上……と言うか住宅の敷地内にいる「シャドウ」達は、危険を感じたのか『バハムート』と黒龍へと向かってくる。
 だけど、遅い。
 『アスモデウス』と黒龍の方が早い。
 『アスモデウス』の魔法と、黒龍のブレスが同時に放たれ、世界は白く染まった。




***///***




 意識と無意識の狭間に存在する空間がある。そこは生きる意味を忘れ、創造よりも破壊を選んだ者が訪れるとされるバー『Nyarlathotep』と言う。
 『Nyarlathotep』は二段構造となっているバーで、下の場所には6人ほどが座れるテーブル席が6つほどあり、上にはカウンターに6つ椅子が並んでいる。
 テーブル席には誰も座っていないが、カウンター席には常連であるテスタメントの他に珍しく榊原雪が座っていた。

「さて、毎度おなじみの復讐依頼が来たよ。……とはいえ、今回はちょっと厄介なんだけどね」
「どう言う意味?」
「復讐対象は今まで人だっただろ? でもね、今回は人じゃない。家なんだ」
「……家?」
「そうだよ」

 テスタメントが空中へ手を当てると、半透明の画面が現れた。
 そこに映しだされているのは、雪もよく知っている住宅であり、大和が消息を経った場所だ。
 大和が『JOKER』の仕事で、この住宅に向かったのは三日前のこと。途中までは『アガリアレプト』で探知出来ていたが、玄関を開けた当たりで途切れた。
 『アガリアレプト』の力で必死で消息を追い、どこかの空間に囚われていると言う事まで分かったが、一体何処の空間に囚われているのか分からなかった。なにやら強力な力により探知する行為を妨害されていた。

「対象が家なんてね。……依頼主は、この家にどんな怨みがあるの?」
「この家に殺されたんだよ」

 テスタメントは、グラスに入ったアルコールを一気に飲み干すと言った。
 依頼主は、2日前にこの家でレイプされた少女の両親である。本来ならレイプした男を復讐対象にするべきだろうが、そのレイプをした男達は鋭利な刃物で惨殺されて死んでいたのが見つかった。レイプされた少女も、病院に運ばれたもの心筋梗塞と言う事で死亡通知された。
 事件はそれだけではなく、大和が行方不明になったと同時期から、その住宅からは何かが出ているのか、餌に群がる蟻のように人を引き寄せて殺していく。
 まだ3日しか経っていないが、ネット上で誰かが名付けた名前が、その住宅を表す名となった。
 『人喰い住宅(マンイータ・ハウス)』と。

「……家に復讐って、どうすればいいのよ」
「とりあえず壊したらどうだい? 原因は、土地と言うよりも建物に何かが憑いてる感じなんだからさ」
「破壊、ね」
「そう云うのが得意な子が、キミ達の近くにいるだろ?」
「……」

 雪は黙ったままコップに入っている炭酸飲料を飲む。
 最近、大和の実妹である桐生有栖の機嫌はかなり悪かった。近くにいるだけで、不機嫌のオーラが分かるほどにだ。
 その理由は大和が行方不明だからである。大和が有栖に対してどんな感情を抱いていたとしても、有栖にとって最も近くにいる血の繋がった存在だ。例え滅多なことでは死なない、否、死ねなくなっているとはいえ、心配するなと言うのは無理と言うものだ。

「ガス抜きにでも、壊させればどうだい? 意外と壊せば、異界から戻ってくるかもしれないぜ」
「……そうね」

 逆に戻らなかった場合は、更に不機嫌そうに成る気がしないでもなかったが、今はその方法しかないと雪は思う。
 今回の依頼内容も聞いた事で、そろそろ『Nyarlathotep』を出ようと思い、雪は席から立ち上がると、赤と黒のメイド服に身を包んだ少女――アイリがやって来た。

「ねぇ、メフィスト。今回のはなんか面白そうだから、外に出てもいいよね!」
「構いませんよ。好きにしなさい、貴女は何をするのも自由なのですから」
「うんっ。――と、言う訳で、ヨロシクね! ユキ」
「……え?」

 思わず声をあげてしまった。

「雪さま、アイリはあまり現実世界に対する知識が乏しく、自由行動にさせて問題を起こすのは、そちらにとってもあまり良くないのでは? それに相手は未知の存在でございます。少しでも戦力が多い方がよろしいのではないでしょうか?」
「……分かったわ。それじゃあ、ついて来なさい」
「うん」

 メフィストの口車に乗せられた気もしないではないが、確かに戦力が多いことに越したことはない。なんと言っても大和が、この三日間に何も音沙汰がないほどの相手である。
 ただ不安要素もある。
 有栖にしろ、アイリにしろ、自己が強すぎる。そのため協調性なんてことは皆無と言っても良かった。最悪、敵と遭遇する前にお互いに戦い始めると言う可能性すらあった。もし大和がいれば、間に入り双方の攻撃を受けて有耶無耶にするのだが、今は大和はおらずストッパーがいない状態だ。
 雪はなんだか色々と危ない橋を渡っている気がして来た。
 とりあえず無駄かもしれないが、釘を刺しておこうと思いアイリに話しかける。

「……アイリ、これだけは約束して。絶対に有栖とは戦わないで」
「うん、分かった!」
「……」

 元気よく答えてはくれるが、なぜか不安が消えることはなかった。
 雪は一度大きく溜息を吐く。どうやら大和が消息不明になっている事で、雪自身も不安になっているようだ。

「有栖は、高天原の神衣学園にいるようだから、まずは有栖の元に行きましょう」
「分かった!」







>>>>後編へ続く









 一ヶ月以上、ssを書かなかったので、リハビリを兼ねた前後編です。
 シャドウはペルソナ3よりも、ペルソナ4の存在に近いですが、その性質は少しだけ違います。






[33927] EX 人喰い住宅(マンイータ・ハウス)編 後編
Name: 諸葛孔明◆6fead616 ID:8f7eaaca
Date: 2012/09/07 01:05
(……流石に、ずっと動かずに縛られているのも疲れる)

 何度目かの溜息を吐いた。
 今、両手は横に伸ばした状態で、手首には天井から伸びている鎖により絡まれ、足元には鉄球から伸びている鎖付きの手錠が嵌められているため、満足に動くことが出来ない。
 この状態で分かる通り、『アスモデウス』と召喚した地獄の黒竜の合体魔法で攻撃は、失敗に終わった。とはいえ、この異界にある家と土地は吹き飛ばす事はできた。ほんの一瞬だったけど。
 吹き飛ばして終わったと思った瞬間。破壊された家も、土地も、全て何事もなかったようにされた。つまり、合体魔法で消し飛ばす以前の状態へと戻されたのだ。
 まるで俺が降魔しているペルソナの一体、『球磨川禊』の持つスキル《大嘘憑き》に近い感じである。
 『アスモデウス』と地獄の黒竜の合体魔法で精神力を使い果たしたため、地獄の黒竜は自動的に召還され、『アスモデウス』は蜃気楼のように消えた事で、浮力を失った俺は、上空からそのまま真っ逆さまに家の庭へと落ちた。
 そこで待っていたのは、「シャドウ」達による手荒い歓迎だった。落下したことでダメージを受けているにも関わらず、魔法攻撃に、物理攻撃と、死ぬ寸前の状態まで追い詰められた。――反撃をしようにも、精神力が切れ、ペルソナが使用できない状態では、シャドウ達の好きにさせるしかなかった。
 その気になれば俺を殺す事も出来ただろうけど、仮面の少女は俺を殺すことはしなかった。ただ、その代わりに降魔している全てのペルソナを奪い取られたけどな。
 今の俺は対魔法も対物理も全てが生身の人間と変わらない耐性である。下手にシャドウのダメージを受けると、某魔界戦記シリーズのように1億ダメージ逝けるかも。
 ま、どんなに低くても高くても、ペルソナを降魔していない今はシャドウにしろ悪魔にしろ、両方の攻撃は生身の精神へ攻撃されるようなもので、とても耐えられるモノじゃない。耐える前に昇天してしまう。

(逆に考えれば、ペルソナがない状態は理想なんだけどな。簡単に死ぬことができる)

 ペルソナを降魔していると、物理・魔法に対する耐性が上がるので普通の人より死に難くなる。更に『球磨川禊』の持つスキル《大嘘憑き》により、死んでも自動的に生き返らされるので、ハッキリ言って死ねないのだ。
 今は仮面の少女に、ペルソナを奪われているので耐性も普通に戻り、『球磨川禊』も居ないため、もしかしたら死ねるかもしれない。……今の状態では、それは無理そうだけど。舌を噛みきって死ぬのは遠慮したい。アレはかなり痛い。
 そんな事を思っていると、空間が渦巻状に捻れ、黒い仮面を被っているセーラー服をきた少女が現れる。
 彼女こそ、この空間の絶対の支配者で、どういう魔法を使ったのかは分からないが、俺が降魔しているペルソナを尽く奪っていき、それをまるで自分のペルソナのように扱ってくれていた。

「――大人しくしてた?」
「この状態だ。大人しくするしかないだろ。それに、ペルソナも奪われてるんだ」
「貴方には感謝してる。ペルソナを奪えたお陰で、計画の第一段階を終えて、第二段階へ行けるようになったの」
「……」

 囚われている間。この仮面の少女と話していて、幾つか分かったことがある。
 一つ。
 この世界は、個人的無意識の世界だと言う事だ。
 個人的無意識は、個々の人間に固有な無意識であり、普遍的無意識の対語。人の人生の過程と関連した不快な記憶や情動、感情を混乱させる幼児期の外傷体験や原始的な本能を抑圧する領域……らしい。個人の自我を種々の不快な記憶や苦痛な刺激となる欲求から防衛する機能を持っている。
 この世界は、……たぶん目の前の少女の意識世界である。しかし、自分の個人的無意識下に無理矢理人を誘い込んで負の感情を増量させているかが分からない。俺にしている事から、ドMってことはないだろう。
 二つ。
 さっき言った計画の第一段階。それは、自分自身が現実世界に直接干渉できるようにすること……だそうだ。
 通常、普遍的無意識・個人的無意識の双方に存在する「シャドウ」と呼ばれる異形は、現実世界に干渉することはほぼ出来ない。メフィストから聞いた話では、限定的な特殊空間ならば可能、らしい。
 仮面の少女は自我のある「シャドウ」で、他の「シャドウ」と同じように外へ干渉することは出来ず、たまにコチラ側へと誘うことぐらいしか出来なかったらしい。しかし俺からペルソナを略奪した事で、どう言った訳か現実世界へ自由に出入りが出来るようになったようだ。
 だからこそ、俺を殺さずに生かしているのだろう。下手に俺を殺してペルソナも消えてしまったら、また第一段階からのやり直しになる。
 計画の第二段階はどんなのか知らないが、……まともな事じゃないのは分かる。
 それよりも、この仮面の少女には一つ言いたいことがあった。
 射抜くように睨みながら言った。

「人のペルソナを使って人を殺すな」
「今はわたしのモノ。絶対に返さない! その代わりに、貴方に楽しませてあげるよ」

 仮面の少女は手を前へ出すと、自分が現れる時と同じように空間を渦巻状に歪ませ、1人少女を出現させる。
 茶色のショートヘアーに右側には可愛らしいヘアピンをつけていた。見た目は高校生ほどだが、身に着けている衣服や顔の部分には赤い鮮血がベットリと付着している。

「この子は彼氏と一緒に人の家へ不法侵入してきたの。外の世界は、わたしの家は肝試しスポットみたいだね。恐怖を感じたくて来たら、親切に目の前で彼氏の身体を『アスモデウス』で真っ二つにしてあげたわ」
「……人のペルソナを」
「だから、今はわたしのなんだってば。この子ね、目の前で彼氏が真っ二つにされたのを見て、地面にへたり込んで失禁したんだ。――許せる? わたしは許せない。勝手に人の家に土足で踏み込んで、その上に廊下でおしっこを漏らすなんて! そんないけない事をするこの子には、罰を与えないと駄目だよね」

 指を鳴らすと、両腕に結ばれていた鎖、足元にあった足枷が外れる。

「さぁ、この子を犯して。自分の彼氏を殺した相手に犯されるなんて、最高の喜劇よね!」
「俺は……殺していない」
「ううん、殺してるよ。ペルソナはもう1人の貴方。心の中に潜む数多ある自分の一つ。わたしが奪ったのは貴方の半身なんだから、それが殺したんだから、貴方が殺したと同じだと思わない?」
「――お前ッ」
「睨んでも、ペルソナを降魔せず、なんのスキルも持っていない貴方なんて怖くないんだけど。あー、そう言えば頑なに女をレイプするのを嫌がってたっけ。痩せ我慢する必要ないのにさ」
「ここは個人的無意識領域。原始的な本能を抑圧したり、欲求から防衛する機能があるんだろ。お前に関しては正常に働いてないようだが」
「……うるさい、知った風に言わないで。貴方にわたしの何がわかるッ!!」
「分かるわけないだろ。俺とお前は赤の他人だ。他人を理解するなんてのは、ただのエゴでしかない」

 それに、俺は自分自身のことですら、きちんと理解も把握もできてないのに、他人のことなんか理解できるハズがない。
 仮面の少女は、数回深呼吸をして感情を落ち着かせる。

「もういい。貴方は、このオンナを犯せばいいの」
「断る。俺はもう女は出来るだけ抱かないようにしてるんだ」
「貴方がどんな主義でも関係ないわ。貴方は、このオンナを犯すの」

 そう断言した仮面の少女の下から赤い円柱型の光が噴き上がり、一体のペルソナが姿を現した。
 『ミュウツー』
 道化師アルカナに属するペルソナの一体で、催眠術やサイコキネシスなど得意としていた。身体は全体的に白で、エイリアンのような姿である。
 『ミュウツー』は右手を突き出すと同時に、俺の身体は自分の意志では指1つ動かせなくなる。これは……サイコキネシスか。今の俺にサイコキネシスに抵抗する手段は何一つとして……ない。
 身体をマリオネットのように動かされて、地面にへたり込んでいる少女の元へと歩く。近づくが顔は俯き、聞き取れない小さな声でブツブツと何かを呟いている。
 手を伸ばして少女の身体を押した。すると抵抗すること無く、少女は床へと倒れる。

「……え。あなた、だれ?」
「俺は――」
「お前の彼氏を殺した相手だよ。その相手に、これから犯されるんだ。彼氏を殺した相手に犯されるなんて……一生に一度あるかないかのイベントだよね」
「あ、ああああああ――!!」

 少女は彼氏の死の瞬間を思い出したのか、喚き始めた。
 だが、サイコキネシスで自由を奪われ、操られている状態の俺にはどうする事も……。もしサイコキネシスで操られてなかったとしても何も出来なかったとは思う。
 膝を地面につくように半座した状態で、少女のスカートの中に手を入れて、そのまま下着を引っ張り脱がした。てっきり抵抗するかと思ってたけど、何の抵抗もない。

「おねがいしますおねがいしますおねがいします。ころさないでころさないでころさないで」

 ……目の前で彼氏を殺されたから、抵抗する意志も折られているのか。
 脱がした刺繍入りの緑色の下着を横へ投げ捨て、右手で秘所を触る。失禁したためか、まだ生暖かい。……いや、それよりも触り方が雑すぎる。サイコキネシスで操られているため、あくまで『ミュウツー』の思うがままに操られているためだ。
 左手は少女の服を胸の上まで捲り上げ、下着と同じガラのブラも同じように上へずらすと、程よい大きさの胸が露わになる。秘部を触られ、緊張しているためか、乳首は自己主張するかのように勃っていた。
 ……自分でも嫌になる。
 ペルソナを奪われた自分が、これほどまで弱くなるとは想像すらしてなかった。
 『ミュウツー』は腕の角度を変えると、秘部を弄っていた手を放し、履いているズボンへと掛けて、トランクスと一緒に下へと下げた。

「ふん。女を犯すのがイヤみたいに言ってったけど、すっかりオチンチンは勃起してるじゃない。素直じゃないんだから」
「……」

 ただの生理現象に決まってるだろ?
 女衒をしていた親父なら、どんな状況下でも性欲をコントロール出来たようだが、俺はそんな事は出来ない。瑠花を喪った時から、よっぽとの事が無い限り抱かないようにすると心に決めていた。だから、性欲をコントロールして逸物をどうこうするなどと言う事は無縁の生活を送ってきたので、どうする事もできない。
 仮面の少女は、恐怖に顔を歪めて泣いている少女へ向けて言った。

「さぁ、お願いしなさい。彼氏を殺されたのに、濡れているマンコに突っ込んで下さいってね!」

 憎悪が篭った声で言われ少しだけ迷ったようだが、少女は覚悟を決めて言葉を吐き出す。

「わ、わたしは……目の前で、彼氏をこ、殺されたのに……。濡れている、へ、変態……女、です。どうか、ヌルヌルに濡れている、わたしの……お、オ○ンコに、い、い……入れて下さい」
「は~い、良く言えました。それじゃう挿入しちゃいなよ」

 挿入しちゃいなよって……。それに俺の意志は、1ナノすら無いんだけどな!
 再び『ミュウツー』が腕を動かすと、身体が僅かに浮いて少女へと近づき、そして俺のが少女の膣へと一気に入った。

「んっ……。やぁぁ、やぁだぁぁぁ! 入って、私の中に、知らない……男の人のがっ!!」

 ……まだ男を受け入れたことは、2、3回あるかないかってところか。まだ微妙にキツさがあった。
 本来なら馴染ませるためユックリと動かしたいが、残念なことに、今は俺の意志でどうすることも出来ない。激しく腰を振り、少女を犯す。
 犯す度に吐き気がする。
 別に少女が可愛くないとかではなく、単純に自分へと嫌悪感。特に元々『ミュウツー』はアイリから購入した汎用ペルソナだった。超能力系を使えるペルソナがいれば便利だと思って購入(税込価格、2,980万円)しておいたのが裏目に出た。
 せめてコレが自分の意志でするのなら、まだ我慢は出来る。だけど今は、『ミュウツー』のサイコキネシスにより操られ、自分の意志とは関係なく、少女を犯している。
 それが、とてつもなく不愉快で、嫌だった。

「おねがい、おねがいします。外、外に出して、下さい。今日は、駄目、駄目なん、……ですッ」
「――俺はそうたいよ。でも、今は俺の意志じゃ、自分の体を動かす事が出来ない。頼むのなら、悪趣味な仮面の女へ頼んだほうが効果的だ」

 そうは言ってみたが、この少女に言える勇気はないだろう。実際に、もう何もかも諦めて喘ぎ声だけを言うようになった。
 このまま犯し続けるのかと思った、その時、

 まるで地震でも起きたかのように、空間全体が揺れた。

「……この感じ、侵入者? ここはわたしの世界なのに、どうやって……ッ。」

 舌打ちをした仮面の少女は、『ミュウツー』を俺の目の前に移動させ、目が『ミュウツー』と合った。爛々と怪しく輝く目を見ていると、少しずつ意識が遠のき始める。
 ヤバイ……これは、『ミュウツー』の《催眠術》か。

「侵入者を片付けてくるまで、貴方はその女を犯してなさい。それ以外の行動は何もしなくていいわ」

 その言葉が脳裏へと響き、俺は、意識を……うし、なっ――。





*////*





 桐生有栖とアイリは、家の中庭へと降り立った。
 今まで雪のペルソナである『アガリアレプト』ですら感知する事は出来なかったが、大和が行方不明になったと同時に何回か現実世界に顕れては干渉したため、誘うだけだった頃と比べて探知しやすくなり、この機会を逃すまいと探知能力を最大限にして元凶がいる世界を見つけ出した。
 そのため雪は精神力を激しく消費したため、今は自宅からの後方サポートに努めている。
 元凶がいる世界を見つけはしたが、雪は探知能力を使用し続けたため、『八雲紫』を召喚できる精神力は残されていなかった。故に「面白そう」だと勝手に付いて来たアイリが、現実世界と雪が探しだした世界との空間を繋げて、この世界に侵入する事が出来た。
 ペルソナ使い、かつ侵入者だと判断したのか、家の壁、地面、倉庫などから影が泥のように溢れだし、泥のような影の内から仮面が現れると黒い影は、着色されていき、それぞれ別の貌(カタチ)へと変える。

「あは♪ 最近、ものすご~く、ストレスが貯まってたんだよねっ。ちょうどいいストレス解消になりそうだよっ♪ 『エトナ』」

 有栖の足元から赤い円柱型を上空へ向けて噴き上がり、ペルソナが姿を現した。
 真っ赤な髪を二つに束ねており、細く凹凸の少ない身体に黒のレザーに包まれているため肌の露出が多い。背中から悪魔の翼、お尻からは赤紫色のした尻尾、そして手には真紅の槍が握られていた。
 『魔神エトナ』
 有栖が所有しているペルソナの一体で、覚醒させたのはここ数年の間のことである。完全な戦闘タイプのペルソナで、所有している『フランドール・スカーレット』と違って、ある程度の手加減が出来るため、今は『フランドール・スカーレット』よりも、『エトナ』を常時降魔させる事が多かった。
 とはいえ、手加減の必要のない『Revenger』の仕事時は、『フランドール』を降魔させている事が多いのだが……。
 召喚された『エトナ』は、正面にいる剛毅アルカナのギガスと呼ばれるシャドウへと向かっていく。ギガスは拳を握り締めて『エトナ』へと放つが、攻撃は余裕で交わされ地面へと接触した。すると大きな音を立て、クレーターのように凹んだ。
 ギガス系のシャドウは、他のシャドウと比べて物理攻撃に長けており、拳での攻撃力は高い。しかし幾ら攻撃力が高かったとしても当たらなければ、何の意味もなさなかった。
 宙を舞うエトナは、真紅の槍を放ち、ギガスの頭部に被っている青色の仮面を貫く。仮面は亀裂が徐々に広がり続け、最後には砕け散った。するとシャドウの身体は、まるで溶けるかのように崩れていき、地面に黒い水溜まりのようになるとそのまま消えた。
 『エトナ』は空高く飛び、両手を上へ上げると巨大な炎の塊が現れた。これは『エトナ』の専用スキル《カオスインパクト》である。溜めが終わり『エトナ』は巨大な燃え盛る炎の球体を、眼下にある家へと向けて投げるように放った。
 直撃すれば家は完全に吹き飛ぶほどの魔力の塊。
 それを見ていたアイリは、自分の周りにだけ結界を張り、余波で巻き込まれないようにしたが、結果としては無駄な努力となる。
 家と《カオスインパクト》の狭間が渦巻く状に捻り曲がり、セーラー服に顔に仮面をつけた少女が現れた。向かってくる炎の塊を一瞥すると、赤黒い光が仮面の少女を護るように包み込み一体のペルソナが姿を現した。
 山羊のように立派な角。上半身は裸、下半身には黒のズボンを穿き、黒い外套を靡かせる。

「『サタナキア』……跳ね返しなさい」

 仮面の少女の指示を受けた『サタナキア』は、右腕を前に出した。すると空間に半透明の菱形で出来た障壁が現れ、家へと向かってくる《カオスインパクト》を阻んだ。
 拮抗しているためか、激しい音を立ててぶつかり合う。『サタナキア』は、更に魔力を上乗せをする。強化された魔法反射壁(マカラカーン)は、炎の塊をエトナへ向けて跳ね返した。
 跳ね返された《カオスインパクト》を見た『エトナ』は、空中で少しだけ慌てた様子で回避をする。だが、その行動は読まれていた。
 『エトナ』が回避した方向へと、仮面の少女は『サタナキア』から『アスモデウス』へチェンジをして追撃をかけた。真紅の魔剣を振り上げて『エトナ』の元へと向かい、剣を両手持ちで振り下げる。思わず舌打ちをした『エトナ』は、自身が持っている赤い槍の柄で辛うじて防ぐには成功したものの、『アスモデウス』のパワーで地面に叩きつけられる。
 中庭はクレーターのように凹み土埃が舞う。ダメージが大きいためか、倒れている『エトナ』の身体にノイズのようなモノが入っていた。またペルソナのダメージは、半身である有栖にもフィードバックされるため、少しだけて痛そうに有栖は顔を歪めた。
 上空から見下すように有栖とアイリを見る仮面の少女は呟く。

「……さっさと出て行って。ここはわたしの世界。誰も、誰にも、干渉しさせないッ」
「う~ん、私としてはお兄ちゃんさえ返してくれれば、こんな辛気臭い場所からはさっさと出ていってあげてもいいんだよ? だから、さっさとお兄ちゃんを返しなよ♪」
「お兄ちゃん……? ああ、アレか。それは出来ないわ。アレはわたしのモノだから」

 仮面の少女が、そう言うと有栖の頭に青筋が浮かび上がる。

「ん? もう一度言ってくれるかなっ。誰が、誰のモノ、だって?」
「彼はわたしのモノって言ったの。事実、彼のペルソナは全て私の支配下にある」
「あは♪ アハハハハハハ!! やっぱりさっき使ってたのは、お兄ちゃんのペルソナだったんだっ。私のお兄ちゃんを勝手に拐かして、そしてペルソナを奪って好き放題するなんてさ♪ …………楽に死ねると思うな、ビッチ女」

 笑顔の仮面が剥がれ落ち、有栖の荒々しい本性が垣間見られる。
 その後ろで静観を決め込んでいたアイリに向けて、一瞬だけ剥がれ落ちた仮面を再び被ると視線を向けて言った。

「――あの仮面女は私が相手するから、アイリは邪魔だからどっか行ってくれるかな♪」
「別にいいけど。あの仮面女は、ヤマトのペルソナを全て奪ってるって言ってたから、かなり強いよ。ヤマトのアルカナは『道化師』……。そのアルカナの名前通りトリックスター的なペルソナが多いからね」
「アイリに言われなくても、それぐらい知ってるよっ。元々はお兄ちゃんのペルソナなんだからさ☆」
「それもそっか。それじゃあ、わたしはヤマトを探しに行ってくるから。精々、死なない程度に頑張ってね。アリスは直ぐに油断する癖があるんだからさ」
「……」

 アイリはそう言って玄関まで歩いて行くと、急に足を止めた。視認出来ないが目の前に透明な壁があり、これより先に進ませないようにしていた。
 家の中に入ろうとするアイリを仮面の少女が止めないのは、この透明な壁を出現させたからである。しかし、この時点で仮面の少女は、アイリの実力を過小評価していたと言っていい。アイリが壁に触れると、硝子が砕け散るような音を響かせた。
 そして邪魔な透明な壁がなくなると、何事も無かったかのようにアイリはそのまま玄関を開けて家の内部へと入っていく。

「……そんなっ。あの壁を破壊できる、ハズ、ないっ」

 アイリは普段バー『Nyarlathotep』のメイドをしているが、立場的には『力を司る者』である。その実力は、ベルベットルームに住まう同じ立場の者達に劣らないほど。故に侵入を拒む障壁で阻もうとも、アイリの前では壁があろとなかろうと、大した違いはない。
 仮面の少女は、アイリの行動に驚き、2息ほど反応が遅れる。気がつくと目の前に『エトナ』がおり、手に握っている真紅の槍を仮面の少女へ向けて放った。
 ペルソナを召喚するには間に合わず、仮面の少女は紙一重で交わす。だが、交わした直後にエトナから魔力の塊が放たれ、それは回避する事が出来ずに直撃した。
 魔力の塊が当たり爆発する。仮面の少女は、地面へと落ちて行き、『エトナ』が右手を前に出して詠唱をした。上空に小さな赤い魔法陣が約10ほど現れ、その魔法陣はゲートのようで解錠のような音がすると、次々と背中に悪魔の翼を生やしたペンギンのような物体が、仮面の少女へと降り注いでいく。
 降り注ぐペンギンのような物体――「プリニー」は、地面や仮面の少女に接触すると同時に爆発を起こした。
 その攻撃を60秒ほど続けると、『エトナ』は魔法陣を消して、プリニー投下を止める。
 仮面の少女はかなりのダメージを受けているようで、セーラー服はボロボロになり、肌が露出させられて、所々に火傷や血が流れている。

「アハ♪ さっきお兄ちゃんのペルソナを使って好き勝手してくれたから、そのお返しだよっ。……でも、この程度で終わるほど雑魚じゃないよね☆ 仮にもお兄ちゃんを拐かして囚えて、ペルソナを強奪してるんだからさっ」

 有栖の言葉に反応したのか、ヌルリと仮面の少女は立ち上がった。
 同時にボロボロだったセーラー服、火傷、斬り傷などが、まるで始めっから無かったかのようになる。
 それを見た有栖は、大和が降魔しているペルソナの一体『球磨川禊』が持つ《大嘘憑き》を使ったかと思ったが、それは違う気がした。
 ペルソナはもう1人の自分。能力や耐性はそのまま降魔している宿主のステータスに影響する。『球磨川禊』は人類最弱とも言えるステータスで、あらゆる攻撃に対して弱かった。だが、ありとあらゆる弱さを知り尽くしているため、相手の弱点を見抜く類稀な観察眼を持っていた。また現実(あったこと)を虚構(なかったこと)へ変える凶悪なスキル《大嘘憑き》と、プラスをマイナスへと変えるスキル《却本作り》を所有している。
 しかし有栖が観察した限り、仮面の少女が『球磨川禊』にペルソナチェンジをした感じはなかった。もし『球磨川禊』を降魔さていれば、吐き気がするような気持ち悪い感じがするのだが、今はそれが無かった。
 有栖は仮面の少女の動向を注意深く観察して、次の行動に注意しようとした矢先。突如として有栖は、口から血を吐き地面へと倒れこんだ。身体中に激痛が走り、ペルソナを召喚するために意識を集中することも出来ない。

「わ……わたしにっ、なにを、したっ!!」
「これがわたしの持つスキル《因果応報》。わたしが受けたダメージと同等のダメージを相手に与えるだけのスキルよ。「私」が他人に知って欲しかった……「私」の苦しみ、痛みを――」
「……他人に、自分の苦しみを、知って欲しいって願いは――共感できるけどね♪ でも、他人に自分のイタミを押し付けて、自分はその痛みから逃れられるなんて……随分と甘いんだねっ」

 地面に倒れながらも、弱音を吐かずに仮面の少女へ向けて有栖は睨む。
 仮面の少女の使ったスキル《因果応報》は、呪いの性質が強い。さっき仮面の少女が説明した通り、このスキルは自分が受けたダメージと同等のダメージを与えるのだ。物理ダメージにしろ、精神ダメージにしろ。
 対象は自分に対してやった相手のみで、受けたダメージを、与えた相手以外に向ける事はできない。また大和のペルソナ『球磨川禊』と同じ原作に登場する蝶ヶ崎蛾々丸が持つスキル《不慮の事故(エンカウンター)》と違って、相手にダメージを押し付けているわけではなく、あくまで同じダメージを与えるだけである。そのため、《因果応報》が発動したとしても、自分のダメージが消える事はない。

「……勘違いしないで。《因果応報》は、あくまで自分の受けたダメージと同等のダメージを与えるだけのスキルよ」
「んん~♪ それってちょっと矛盾してるよっ。だって、お前がダメージが消えた後に、私にダメージが来たんだから、ふつー押し付けられたと思うよねっ!」
「そう見えたのは、わたし自身をダメージを受ける前に戻したからよ」
「……ダメージを受ける前に戻した? どういう意味なのかなっ」
「わたしの持つスキル《原点回帰》。自分が設定した時点に戻すだけの、平凡な、ただそれだけのスキル。……「私」はそれよりも時間を戻したかった。家族で楽しく、苦しさなんて無かった時点に、「私」は、戻りたかった」
「……戻すなんて無理だよ。自分でやったことは、もう戻らないんだからさ」

 少しだけ憂う顔をして有栖を、仮面の少女は見ながら上から目線で言う。

「お前がどんな過去を持ってるかなんか知らない。――でも、今ならペルソナを全て寄越せば、命だけは助けてあげる。どうする? わたしに《因果応報》と《原点回帰》の二つのスキルがある限り勝ち目は、ハッキリ言ってないよ」
「……それはっ、どうかな♪」

 地面から起き上がり、仮面の少女に向けて笑みを浮かべた。
 それ笑顔は、楽しいオモチャを手に入れた子供がオモチャを壊すのと同じような、純粋な悪意を放っている。それに思わず二歩ほど仮面の少女は後ろへと下がる。
 仮面の少女は、どうして有栖が余裕で居られるのかが分からなかった。受けたダメージを与えた相手にも与える《因果応報》と、ある時点まで自分の状態を戻す《原点回帰》。更に大和から奪った数体のペルソナを宿している。更に付け加えれば、この世界は仮面の少女の個人的無意識であり、この空間にある限り《原点回帰》は、この空間そのものへ影響を与えた。

「『安心院なじみ』」
「……そんな普通のペルソナで、わたしに勝つつもり?」
「アハハハ、まだまだ青いねッ♪ 見かけだけで判断するなんてさっ」

 有栖の前に現れたのは、腰の下まで伸びた豊かな黒髪が特徴の美少女で、肩下と腰下の部分の髪にリボンを結んでいる。服装はミニスカにニーソ、そしてラフな私服姿をしていた。
 顕れた『安心院なじみ』に反応したのか、仮面の少女の地面から青い円柱型の光が噴き上がり、少年が姿を表す。
 『安心院なじみ』と同じ原作に登場して「負完全」「混沌より這い寄る過負荷」と称される『球磨川禊』である。服装は黒い学生服で、身長は高校生にしては低い。手には市販してないような大きな螺子が握られていた。
 『球磨川禊』を降魔させたため、仮面の少女の髪は白髪へと変わり、ステータスが著しく低下する。

『やれやれ、相変わらず惚れっぽい性格をしているね球磨川くん。本来の宿主じゃない、そんな少女に力を課すなんて』
『『僕は悪くない』『それに決めてるんだ』『争いが起こったとき僕は善悪問わず』『一番弱い子の味方をするって』』
「……。つまり、あなたのお兄さんのペルソナが、わたし「を」守ってくれるのね。実の妹はほったらかしにされて、ね」

 この時、有栖から何かが切れる音がした。
 大和が自力で覚醒させたペルソナである『球磨川禊』『アスモデウス』『サタナキア』は、基本的に女子が好きである。故に制御権が仮面の少女に移った後も、その支配を甘んじていた。他の外的要因で所有しているペルソナは、女子好きと言う事はないが、それでも一応は発動させる事は出来る。
 『安心院なじみ』と『球磨川禊』がペルソナトークに打ち込んでいる間、有栖はある魔法を使用した。
 【禁忌「フォーオブアカインド」】
 有栖が降魔させているペルソナ『フランドール・スカーレット』が使用するスペルカードで、4人に分身することが出来る。
 ペルソナは自分のもう1人の自分であり、降魔させている者の可能性でもある。そのことから、バー『Nyarlathotep』では、ペルソナと対面・対話・決闘などすることで、自分自身のスキルとしてペルソナが持つスキルを会得する事が出来た。とはいえ、習得したスキルはゲーム的に言えばレベル1の状態なので、攻撃力や場合によっては効果も軽減する。
 今回、有栖が使用した【禁忌「フォーオブアカインド」】は、軽減することのない魔法である。
 『安心院なじみ』を召喚したオリジナル有栖以外の、分身有栖3人から赤い円柱型の光が噴き上がり、それぞれ別々の姿をしたペルソナが顕れた。

「ペルソナ『フランドール・スカーレット』」
「ペルソナ『ベルゼブブ』」
「ペルソナ『ジャヒー』」

 『フランドール・スカーレット』
 《ありとあらゆるものを破壊する程度の能力》を所有し、情緒不安定なところがあるため、姉に495年もの間、地下に閉じ込められていた吸血鬼である。金髪のサイドテールにまとめ帽子を被り、瞳は真紅、服装も真紅で半袖とミニスカートを着用、背中からは一対の枝のようなものに七色の結晶がぶら下ったような特殊な翼が生えている。
 『ベルゼブブ』
 七つの大罪の内「暴食」を司るとされ、地獄のNo.2でもあった。普通は巨大な蝿で書かれる事が多いが、有栖が召喚した『ベルゼブブ』は、生粋の美少女である。これは、『ベルゼブブ』が変身した淫魔『ビヨンデッテ』の逸話を取り入れているためだ。『ビヨンデッテ』が登場するのは、フランス人作家のジャック・カゾットが執筆した小説「悪魔の恋( Le diable amoureux)」である。背中の中程まで伸びた紫色の髪、真紅に輝く瞳、露出が多いミニスカメイド服を着ていた。
 『ジャヒー』
 ゾロアスター教に登場する女悪魔。悪の最高神であるアンリ・アンユの妹であり妻、早い話が近親相姦を行う存在である。「淫売」や「不浄」の化身で、世界中のあらゆる売春婦を従える売春の守護神とされ、またアンリ・アンユから《人間を誘惑する力》と《女性を生理で苦しめる力》を与えられている。姿は小さくもなく大きくもないカタチと良い張り具合をしてる胸、頭にはフードを被り、後は腰巻をしている程度でほぼ全裸と変わらない姿をしている。

「……この魔法を使って同時ペルソナ召喚するのは、私がこの世で最も大好きだった人で、大嫌いになった人を殺す時に使った時以来だよ♪ 私に向けて発したさっきのムカツク暴言の罪は、死んで償え!! 腐れビッチ!」




*////*




 ――ッッ!!
 全身が強烈な痛みを感じ、意識がハッキリとする。
 目を開けると天井があり仰向けで倒れている事が分かる。痛みを感じる身体を起こして周りを見ると、バー『Nyarlathotep』でメイド服で働いているアイリがいた。ただ何時もと違い、顔は不機嫌そうで、格好は脇を出す作りとなっている巫女服を着ている。

「ヤマトの分際で、わたしが話かけてるのに無視するなんて良い度胸だね。思わず『ミノタウルス』で殴っちゃったじゃない」
「……」

 ああ、それで身体中が痛いのか。でも、一応は手加減をしてくれたようだ。本気で攻撃されていれば、ペルソナを降魔していない俺は瞬殺されていたハズだからな。
 それにしても、俺はどうしてたんだ。何時もならアイリが近くに来れば、特殊な気配から察知できるハズ……。
 ――ッん。
 頭痛が走り、徐々に記憶が回復してくる。
 そうだ。そうだった。確か仮面の少女にペルソナを全て奪われた俺は、此処で軟禁状態でにあって、『ミュウツー』に操られ少女を犯し、最後は『ミュウツー』の《催眠術》で意識を奪われたんだ。
 そこまで記憶が蘇った所で、辺りを見回してみるが、犯していた少女の姿形が何処にもない。アイリへ視線を向けると、少女が何処に言ったのかを尋ねた。

「……少女? ああ、もしかしてアレ? シャドウになりかかって、ヤマトがセックスしているのに、ヤマトを喰おうとしていた物体。思わずヤマトの趣味が、人外珍妙なものにまで及んだんだなー、って関心してたんだけど、喰われて死ぬなんて面白くないから、『ミノタウルス』の攻撃で突き飛ばした。まだ、あそこにいるよ」

 アイリが指さした方向を見ると、そこには蠢く影がいた。まだ完全なシャドウにはなれてないためか、影にはシャドウ特有の仮面はまだなかった。だが、身体の9割近くシャドウに侵食されているため、助かる可能性は低い。
 俺は立ち上がり、犯していた少女だったシャドウの元へと近寄る。
 『ミノタウルス』のダメージがあるため、近寄っても攻撃をしてくる気配がなく、グニャグニャと蠢くだけだ。

「――なんだ。お前がそうなったのは、俺にも少なからず責任がある。だから、せめて俺の手で殺してやる」
『――……』
「殺すのは良いけど、今のヤマトって全てのペルソナを奪われてるんだよね。シャドウになりかけとはいえ、ほぼシャドウだから、普通の人には簡単に殺すことは出来ないよ。どうしてもって頭を下げるなら、特別プライス価格でペルソナカードを一枚あげても良いけど」
「必要ない」

 そう言って少女だったモノを、左目を閉じ、右目だけで見る。
 万が一に備え、降魔しているペルソナにある一定の条件下で一度だけ使用できるようにして貰っていた術があった。それさえすれば、シャドウになりかけとはいえ斃す事が出来るハズだ。
 見開いた右目は徐々に黒から赤へと変わり、瞳には三枚刃の手裏剣には浮かび上がっているだろう。同時に眼球に痛みが走り始めると、シャドウになりかけている少女から黒い炎が包み込み燃やして行く。
 ――転写封印・天照――
 『Revenger』と『JOKER』の仕事を始めてから、しばらくして覚醒させたペルソナ『うちはイタチ』が所有している術の一つで、他者に天照の効果を封じる事が出来る。なお術の発動条件は「ペルソナが使用不可能な状態」にあって且つ「天照を発動させるという意識」である。
 この術はあくまで天照の効果を封じているだけで、使用中は視力が少しずつ奪われていくデメリットもあり、あまり使用したくはなかった。
 右目から血が流れ落ちていくのが分かる。
 シャドウは悶えながらも、《天照》をどうすることも出来ずに鳴き声を上げた。そして黒い炎は、一分足らずでシャドウを燃え尽くすと消えた。

「くっ――」

 身体が、重い――。予想以上に、この術は反動が大きいな。まぁ滅多に使うことはないから良いけど。
 膝から崩れ落ちるとアイリが、つまらなそうな顔をして話しかけてくる。

「シャドウのなりかけなんかに、そんな大技を使うなんてバカじゃない? と、言うかバカだよね。こんなの放っておけばいいのに。斃しても経験値なんか手に入らないし、お金は勿論ゲームじゃないんだから入ってこない。それなのに無駄に精神力を消費してまで斃すなんて何考えてるの? あの少女をシャドウにした原因の一端があったから使ったんだとしたら、それってただの偽善だよ」
「……うるさい。俺の選んだ選択なんだ――お前に文句を言われる筋合いはない」
「ま、そうなんだけどね?」

 アイリと下らない会話をしていると、部屋の隅に何かの気配を感じたので視線を向けた。そこには青色に発光している少女が1人いた。格好は俺からペルソナを奪い取った仮面の少女と同じセーラー服を着ており、背丈も、身体的特徴も間違いなくあの仮面の少女と同じである。
 仮面の少女と違い悪意や憎悪を感じられないが、十二分に注意した方がよさそうだ。第一、今の俺は全ペルソナを奪われて、しかも万が一に備えての奥の手であった《転写封印・天照》もさっき使用したため、もう使用する事はできない。
 そのため唯一の望みはアイリと言う事になる。しかし、この快楽主義者が手を貸してくれるかと言うと疑問だ。さっき《転写封印・天照》を使った際も、グチグチと文句を言って来たからな。

[警戒しないで。私は貴方たちと争う気はない……。戦っても、私は勝てないから]
「……」
[わたしがした事は、その、ごめんなさい。でも、わたしは私の望みを叶えようとしてくれただけなの]

 んん? 何か微妙に発音が違ったな。

「一つ聞きたい。俺からペルソナを奪ったのは、お前なのか?」
[そうだと言えるけど、そうだとは言えないかも。貴方のペルソナを奪ったのはわたし。私が現実世界で体験した憎悪や苦痛から生まれた負の私]
「お前は、あの仮面をつけた少女のオリジナルなのか」
[…………いえ。私とわたしのオリジナル――本体はもう死んでます。実の父親に殺されて]
「父親に? なら、お前たちは、この家で父親に監禁された上に殺された少女の意識と言うわけだ」
[はい]

 この仕事を受ける前に、雪がノートパソコンに映っている資料を読み上げていた事を思い出す。
 確か中学2年の少女が実の父親に刺殺されたんだったな。刺殺された少女は、父親に性的暴行を幾度と無く受け、更に数年の間、自宅へ監禁されていた。
 その最悪な父親は、玄関から顔を恐怖で歪ませて出てきて、意味不明な言葉を喚き散らした後で死んだようだ。
 少女は頭を下げるて言った。

[――貴方たちにお願いがあります。私とわたしを、殺して下さい]
「……」
[私はアイツを、陵辱の限りを尽くされ、最後に殺したアイツを殺すだけでよかった。スキル《因果応報》で、私がアイツから受けた苦しみ! 痛み! 全て同じように与えてあげると、心が耐え切れずに死んでった。……私はそれだけで良かった。でも、わたしは違った。外の、無関係な人達まで復讐をしようとした]
「どういう意味だ?」
[――この部屋はね、私が監禁されていた部屋なんだ。そこは真っ暗で、窓は何時も締め切られていたけど、スキマから光が差し込んできてたから、ちょっとだけ外を見ることが出来た。そこから楽しそうに通学している同学年の子達や、カップルを見ていると、私は思った。思っちゃった。どうして私だけが辛い目にあって、外の人達はあんなに幸せそうにしてるんだろって]
「それが計画の第二段階か。外に干渉できるようになって、幸せそうにしているヤツを不幸にするってのが」
[……はい。私は何ども語りかけて、止めるように説得しました。でも、闇に囚われたわたしには通じません。それにこの家にわたしが誘い、怨念を増やしていく度に、わたしの力は強大になって……。もう私では、わたしに干渉すら出来ません]
「感傷しても何一つ意味がない。……そう、何一つ、だ。こっちも元々はこの家の呪い解きに来た身。例えお前が、斃さないでくれと懇願したとしても、こっちは元々斃す気でいる」
「――ペルソナを奪われて使えないくせに。強がっちゃって」
「……」

 手を地面に押し付けて立ち上がった。
 まだ、少し《転写封印・天照》の反動が残ってるか……。ただ、ペルソナを降魔していたから幾らか精神世界に耐性はあるものの、あまり長時間は居たくない。こっちの世界にいると、物凄く疲れる。
 俺は少女を見つめて言った。

「……一つだけ、訊きたい事がある。お前たちの意識の本体は、何処にある。触媒か、何かがあるハズだ」
「へぇ~、その事に気づいたんだ。てっきり外で戦っているアリスの元に行くかと思ってたよ」
「無駄な事はしたくない。……特に、今はそんな事をするほど体力もないんだよ。それに、戦闘に巻き込まれて死にたくない」
「うわぁ、ヘタレ~」
「冷静な状況判断だ」

 敢えて無視していたが、さっきから物凄い音が響いている。まるで戦争の真っ只中で聞こえるような激しい音。
 ……ペルソナを降魔していない状態で介入すれば、間違いなく巻き込まれ死が確定だ。今時、巻き込まれ死エンドなんて流行らない。断じて回避するべきである。

[現実世界のこの部屋にあるテディベアがそうです。お母さんに誕生日に貰ったプレゼントで、死ぬ時までずっと一緒にいたから]
「……そうか」

 触媒が何かさえ聞ければ、もうこの空間には用はない。仮面の少女は、有栖に任せておけば良いだろう。アイツの相手をしていれば、こっちへ注意を向けられる事は無いはず。
 ヨロヨロとアイリの元へ向かう。
 アイリの直ぐ横まで行くと、アイリは指を鳴らして地面に紅く輝く魔法陣を出現させる。大きさはちょうど俺とアイリが収まるぐらいだ。魔法陣が輝き、周りの景色が陽炎のようにボヤケて行く。少女の方を見ると、最後にもう一度頭を上げた。
 魔法陣が最も強く輝き、周りの景色が変化する。そこは暗闇であった。壁と思われる所から僅かに光が差し込んでくるが、とても部屋を照らすには光源が足りていない。
 横にいるアイリも、暗いと思ったのかゴソゴソと動く。

「ペルソナカード、ドロー! 『ジャック・ランタン』」

 赤い円柱型の光が噴き上がり、カボチャ頭にトンガリ帽子、黒いマント、白い手袋をしている手にはランタンを持っているペルソナが顕れた。
 『ジャック・ランタン』は、イングランドに伝わる火の精であり、生前に堕落した生涯を送った者の魂が死後の世界への立ち入りを拒まれ、彷徨っている姿だとされる。これは余談であるが、発祥地のイングランドではカブをくりぬいたランタンを持つとされていたが、アメリカに伝わる過程でカボチャのランタンに変化し、現在に至っている。
 『ジャック・ランタン』が持つランタンの光が部屋を照らす。
 明るくなった部屋を見回すと、淫具、蝋燭、木馬などが放置され、所々には血痕もあった。……あの少女は、ここに数年も監禁されていたのか。光がほとんどなく昼夜問わずに闇に覆われた空間に。
 まぁ、どうでもいいな。
 そんなことよりも、こんな器具が放置されていると言う事は、隠し空間ってことか。そうじゃなくて、放置していたとしたら警察の怠慢だ。どう考えても事件性のある場所を放置しているんだからな。
 部屋を見回すとベニヤで塞がれた窓の所に、椅子の上に座っているテディベアがあった。
 とりあえず近づいて見てみる。長い間、ほったらかしにされていた割には綺麗だ。とりあえず、このテディベアを燃やすなり、破壊するなりすれば、この件も終わる。
 手を伸ばしテディベアに指先が触れると、

[それにっ、触れるな――ッ!!]

 空間が渦巻状に捻り曲がり腕が一本伸びてきた。なんとか後ろへと飛ぶことで、掴まれる事は回避できた。
 現れたのは仮面の少女。ただ最後の時と違い、髪は白髪となり、身体からは寒気のするぐらいの不気味が出ている。どうやら『球磨川禊』を降魔しているのか。ま、有栖の猛攻を耐えるにはそれしかないか――。
 捻れた空間から現れた仮面の少女は、フラつき床へと音を立てて倒れた。かなり疲労をしているようだ。
 手を地面に押さえて、なんとか身体を起こそうとするが、直ぐに地面に倒れ、苦しそうに呼吸をしている。
 ……今ならペルソナを返還できそうだな。
 腕を少女の方へと伸ばす。

「悪いな。それは元々は俺のペルソナだ。返して貰うぞ――」
「うっ、ううううぁぁぁぁぁあああああ!!」

 叫び声を上げ上半身を弓なりにさせ、大声で叫んだ。
 ……おいおい、そんな大声をあげて警察に通報されたらどうするんだ? この家、色々と変な噂が流れているようだから、通報があれば直ぐに警察が来るぞ。
 仮面の少女の身体からペルソナカードが抜け出してくる。カードは鎖のようなモノで縛られており、仮面の少女から離れられないようである。アレが人のペルソナを奪った術か。
 どうやって鎖を解こうか悩んでいると、静観していたアイリが指を鳴らした。すると鎖は次々と破壊され、自由になったペルソナカードは、伸ばしている俺の腕の掌から入っていく。
 ――所有していたペルソナは、なんとか取り戻すことができた。『球磨川禊』『サタナキア』『アスモデウス』辺りは、渋るかと思ってたんだが。
 そんな事を思っていると、青い円柱型の光が噴き上がり、全身が黒く、貌は無貌で頭には王冠、背中には悪魔のような翼を生やしている。
 『ニャルラトホテプ』。親父の遺品を整理していた時に偶然見つけた「トラペゾヘドロン」を開けてしまい、強制的に降魔させられるハメに……。
 現れた『ニュルラトホテプ』は、手に輝く球体を二つ持っており、仮面の少女へ向けて言った。

『クックックク――。我々を使用していた駄賃として、貴様が持つスキル《原点回帰》と《因果応報》を貰っていくぞ』
「なっ……! か、返せ。返してよ! それは、それは私の、わたしのスキル――」

 仮面の少女を嘲笑しながら『ニャルラトホテプ』は、心の海へと戻っていく。
 ペルソナを返して貰った為、自力でコチラ側へ出てくる事が事実上できなくなっているためか、仮面の少女の身体は崩れて行った。手を伸ばし、スキルを取り返そうとして、ユックリと歩いて向かって来る。
 その直後。仮面の少女の後頭部に真紅の槍を貫かれ、仮面に亀裂が入った。

「あ……あっああ」
「駄目だなぁ。人とバトってる最中に逃亡するなんてさ♪」

 現れたのは有栖。そして有栖のペルソナ『魔神エトナ』である。
 後頭部を貫いた槍を引き抜くと、『エトナ』は姿を消した。後頭部から槍で貫かれた仮面の少女は、声にならない雄叫びをあげ、両手で顔を抑えて蹲り悶えると消えた。
 『ニャルラトホテプ』から《原点回帰》を奪われている以上、もう回復することは無いはずだ。あのまま放っておけば自壊していくハズである。
 それが分かっているハズの有栖は、触媒であるテディベアの頭を握りしめて持ち上げた。

「バイバイ♪」

 青い円柱型の光が噴き上がる。ペルソナは姿を現さなかったが、有栖が握り締めていたテディベアは炎が走り包まれた。赤い色で燃えるテディベアは灰になり、地面へと落ちる。
 こうして『人喰い住宅(マンイータ・ハウス)』と言う怪異は解決した。




*////*




 バー『Nyarlathotep』
 今『Nyarlathotep』にいるメンバーは、俺、有栖、雪の三人と、常駐しているテスタメントとアイリ、マスターであるメフィストがいる。
 『人喰い住宅(マンイータ・ハウス)』は、有栖が触媒を消した後、向こう側の世界は消滅したようだが、仮面の少女が遺した人々の怨念から憎悪などが、まだそこに渦巻いていた。
 仮面の少女……と言うかテディベアを燃やした時点で、『Revenger』の仕事内容は解決しているが、『JOKER』の仕事はまだ片付いていない。家に残っている怨念をどうにかする必要があった。
 そこは「面白そう」と言って、勝手について来たらしい付いて来たアイリにして貰うことにした。正直言って、俺と有栖は呪殺する事は出来ても、神聖系の魔法を使用できるペルソナは降魔していない。否、降魔出来ない。
 アイリが言う事を訊いてくれるか疑問はあったが、頼むと珍しく即答してやってくれた。
 手に持つペルソナ全書から、アルカナ・審判に属するペルソナ『アヌビス』を取り出して召喚した。『アヌビス』は、エジプト神話のジャッカルの頭を持つ神で、冥界の神、守護の神などと呼ばれている。手には天秤を持ち、それを前へ向けると、家の四方に白い符が現れ、敷地内に金色に輝く魔法陣が描かれた。
 魔法陣が強く輝くと神聖魔法が発動して、家にあった怨念などを全て成仏させ、清めていき、今度こそ全てが終わった。
 そう、『JOKER』及び『Revenger』の仕事は終わった。

「……で、コレか」

 目の前にあるのは外見はたこ焼きだ。青のり、鰹節、マヨネーズとソースが掛かり、美味しそうな匂いが胃袋を刺激する。が、胃袋は食べるように刺激してくるが、脳が食べる事を拒否する。これは食べるな、と。

「『アヌビス』を召喚をして、しかも除霊までやってあげたんだから、その料金に私の手料理を食べてくれるぐらい楽勝でしょう?」
「……OK。まずは食材を教えてくれ。話はそれからだ」
「タコ(ッポイ生物)に決まってるよ」
「小声でッポイ生物って言ったな! ちゃんと人間が食える食材で作れ。そうしたら食べてやる」
「えー、そんなの面白くないしぃ」
「料理に面白い面白くないを持ち込まないでくれ……っ。料理は食えるか、食えないかだ!」
「大丈夫。食べられるよ…………………………たぶん、だけど」

 目を泳がしながらアイリは言う。
 絶対に食べないと心に決め、目の前にある皿をテーブルの縁へと寄せた。それに対してアイリが文句を言ってきているが聞こえないし、取り合わない。絶対に昇天するようなモノを食べたいとは思わなかった。
 俺が座っている隣の席を一つ空けて、その隣に座っている雪へと話しかける。

「ところであの家はどうなった?」
「昨日、解体工事が始まったようよ。勿論、何の異変も起きずに順調に作業は進んでるわ」
「……そうか」
「ま、色々と怪異を起こした場所だから売れるかどうかは、私の知ったことじゃないわ」
「そうだな」

 土地の売買に関しては不動産屋の腕次第。俺たちがどうこうできる範疇じゃない
 今回の件は、依頼主からの報酬が入り雪は満足、有栖は久しぶりに大暴れた結果か上機嫌、……俺だけが敵に捕まりペルソナを奪われ無駄に精神疲労をしたと言うちょっと納得のいかない結果に終わっているが、まぁだいたい何時もこんな感じか……。
 思わず溜息を吐くと、両手が勝手に動き横にずらしたハズの、タコ(ッポイ生物)焼きを目の前へと持ってくる。そして右手がタコ(ッポイ生物)焼きに刺さっている楊枝を握りしめると持ち上げて口へと運ぶ。
 顔を犯人だと思われるアイリの方へ向けると、見た事もないペルソナを召喚して、《サイコキネシス》で俺を操っていた。
 口を大きく開け、右手がタコ(ッポイ生物)焼きを口へと運んだ。

「――――……………………ァ」

 右手に持っていた楊枝は、床へと落ち。上半身がカウンターの上に倒れ、俺は意識を喪った










**************



 『人喰い住宅(マンイータ・ハウス)』の後編です。
 本当はこの半分で纏めるつもりだったのですが、書いている内になぜか倍の文量に……。不思議だなぁ

 次回からは「因果応報 編」に戻ります。
 元となった「トモダチの仮面」の前編分だけで3話分になりそうです(^_^;)





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