にじファンから移転してきたけびんといいます。
主役コンビやその他一部の主要キャラの性別を反転させた上での、本編再構成モノを書いております。
実質的には原作の主人公とヒロインが、反転キャラと言う名のオリキャラにすり替えられて全く登場しない話と言えなくもないので、原作メインカップルに思い入れを持つ既プレイ読者としては人を選ぶ分野だと思いますが、反面、原作知識無しでも読み進められるよう工夫しています。
元ネタを知っている読者はニヤリと出来て、原作未プレイの方に原作ゲームに興味を持ってもらえるような作品を目指しているので、まずは目を通してもらえたら嬉しいです。
2015/04/01
※色々と思うところがあったので、レイアウトをなろう掲載時の話数に変更した上で再アップしています。旧連載時の最新話まで読まれた読者の方には心苦しいのですが、近い内に追いつくと思うので今しばらくお待ちください。
2015/07/20
※ハーメルン様への投稿を始めました。
七耀暦以前の遥か昔に発生したとされる、謎の『大崩壊』。
旧世界は一昼夜にして滅びるも、その残滓たる大陸各地にばら蒔かれた古代遺産(アーティファクト)の存在が、現代科学を凌駕する古代ゼムリア文明のオーバーテクノロジーを立証していた。
『暗黒時代』と呼ばれる果てしない戦乱。七耀教会の台頭と『空の神(エイドス)』の信仰による『安定期』の到来など、千年に及ぶ破壊と再生を経てゼムリア大陸は今を形作る。
七耀暦1150年の『導力革命』。
無限リサイクルエネルギーたる導力を内封したアーティファクトを模した導力器(オーブメント)の発明は、現代の科学水準を高度な古代文明の末端に追いつかせて、人々の生活に様々な恩恵を齎すも、心まで豊かにした訳ではなかった。
舞台となるのはリベール王国。
大陸西部に位置し、エレボニア帝国とカルバード共和国の二大国に挟まれた小国。特にエレボニアとは七耀暦1192年の『百人戦役』で本土侵略を受けて以来、緊張状態が続いている。
主役となるのは遊撃士(ブレイサー)に憧れる少年。
あらゆる国家、宗教、企業に属さず、極めて中立的な立場から地域の平和と民間人の安全をスローガンに、僅かな報酬(ミラ)でクエストを請け負う冒険者たち。少年の父親もまた遊撃士である。
その父親が拾ってきた黒髪の謎の少女の琥珀色の瞳に魅入られた時から、少年の運命の歯車は大きく動き出す。
◇
リベール王国の五大都市の一つ、地方都市ロレント。
安全対策でほとんどの住人が城塞に住居を構える中、市の南方にぽつんと佇む一軒家。
不用心だが、『ブライト家』と書かれた表札を見て悪事を企む命知らずのならず者は国内には存在しない。文字が読めぬ筈の市道を我が物顔でうろつく魔獣も、家主を畏怖しているのかこの付近には一切近づかない。
ただ、現在家長は不在。家屋には十歳前後の男の子が一人、暖炉の前で震えて留守番するのみである。
「……親父遅いなぁ」
眠たげな眼をこすり、大きく伸びをしながら欠伸を噛み殺す。
本日、出張から帰参するとギルドから連絡があったのに、一向に帰宅の気配なし。少年の姉替わりとも言うべき陽気な女性は、準遊撃士の武者修行だかで王国一周旅行に出掛けたまま。
「あー、つまんねえ。飯の前にもう一度棒術の練習でもするかなあ」
孤独な境遇に対する寂しさや恐怖心とは無縁のふてぶてしい性格らしい。
「おーい、エステル。今帰ったぞ」
「親父!」
徒然なる瞳がぱっと輝く。手にしたばかりの練習棒を放り捨て、エステルと呼ばれた少年は父親の胸元に飛び込もうとしたが、途中でその動作を停止させる。
「ただいま、エステル。待たせちまったようだな」
「親父。その怪我、一体どうしたんだよ? 魔獣にやられたのか?」
首筋に刻まれた隠しようもない傷跡を不安そうに見上げる。密かに敬愛する棍術の師範が負傷した姿など記憶の内にない。
「ほらっ、ここも、こんな所まで怪我して……んっ?」
左腕と、さらに分厚い胸板に巻かれた既に血液が凝固した包帯を確認しようとして、エステルの視点は一カ所に静止する。
「親父、これ一体なんだ?」
驚愕に彩られた瞳がみるみる冷める。
エステルの指さした先、父親の胸元には自分と同い年ぐらいの少女が抱かれている。漆黒の長髪で黒一色のワンピースを纏い、父親の両腕の中でモゾモゾと蠢く姿は黒猫そっくり。
「えっと、女の子? ちなみに瞳は琥珀色(アンバー)」
「んなこたぁ、見れば判る。どこで拾ってきたと聞いて……って、親父とは比べ物になんねえぐらい酷い怪我してるじゃんか、こいつ」
よく見れば、衣服は所々血と泥で汚れてズタズタ。
もはや父の負傷などどうでも良くなった。慌ただしくお湯を沸かすと、熱湯で絞ったタオルで身体全体の汚れを落とし、頭部に巻かれた血の染み出る包帯を新品に取り替える。
その際、少女のサラサラの黒髪を愛撫するのを忘れない。結構大胆な性格らしい。
◇
「でっ、この娘、誰なんだよ?」
一通りの応急治療を済ませて、少女をソファの上に寝かせると、質問を再開する。少女の腰まで届く黒髪をさらに激しく愛撫するのは継続したまま。
「まさか、親父の隠し子か? その傷は愛人宅で浮気がばれて、喧嘩になり追い出された時の名残? 俺と同い年ぐらいの娘がいるってことは、母さんが生きていた時から母さんを裏切っていたのかよ? なら俺、絶対に親父を許さないぞ」
「お前な、その年齢で一体どこからそういう知識を仕入れてくるんだよ? まあ、シェラザードしかいないか」
「当たりぃー」
「まったくあの耳年増め」
未だに母親を慕っていてくれたのが嬉しかった反面、亡き妻への操を全く信用していなかったことに寂寥感を覚えるのか。呆れたように我が子を見下ろす父親の瞳には実に複雑な色彩が入り混じっていたが、幼少のエステルはその想いに気づきようもない。
父カシウスの説明によると、この娘は仕事関係で知り合ったばかりで、まだ名前も知らないらしい。中々に荒唐無稽な話だが、どうやら真偽は直接本人の口から説明してもらえそうだ。
「……ここは?」
「お嬢ちゃん。目を醒ましたかい」
固く閉ざされていた少女の睫毛が開くと、話に聞いていた琥珀色の瞳が現れる。シーツを頭から被りながら、寝ぼけた眼でキョロキョロと辺りの様子を伺う仕種は、ますます拾い猫じみてきた。
「ここはおじちゃんの家だ。とりあえず安心していいぞ」
そうカシウスは頼もしそうに宣言したが、口髭を生やした怪しい男性宅にいきなり拉致され心を許せる娘など少数派ではなかろうか。案の定、少女の琥珀色の瞳は、みるみると強い警戒心一色に染まっていく。
「どういうつもりなの? 正気とは思えないわ。どうして、あの場で死なせてくれなかったの?」
何やら少年がシェラザードと視聴したメロドラマに出てきた物騒な単語が飛び交っているが、配役がちょっと若すぎないか? 父親にそういう趣味はないとエステルは信じたかったが。
「どうって言われてもなあ。いわゆる成り行きって奴?」
「ふざけないで!」
漆黒に染まった身体全体を逆立て、ふーっと噛みつく様は、まさしく黒猫そのもの。
「カシウス・ブライト、あなたは自分が何をしているのか判っているの? 必ず後悔するわ……」
そこで少女は舌先を停止させる。逆立った黒髪の一部が重力に反して持ち上がったまま。不審に思い視線をずらすと、その先では栗色の髪をした少年が熱心に少女の髪を撫で続けている。
「何をしているの?」
「この美しい黒髪を愛でている」
自分と目も合わせず、さらに愛撫の激しさを増すエステルの一心不乱な姿に琥珀色の瞳がジト目になる。
「離して」
「やだ」
「このっ、いい加減に……?」
再び少女は途中で沈黙したが、自由意志ではない。リクエスト通り、エステルは黒髪から手を離したと思ったら、今度は少女のモチモチのほっぺを両手で強く引っ張った。
「ひゃにするのよぉ? ひゃにゃしてぇー」
「怪我人のくせに、ましてや女の子がこんな夜中に大声出すんじゃねえ。もっとお淑やかにしてないとシュラ姐みたいになっちゃうぞ」
「しぇらねぇってはによ? ひーかげんにしぃなひと……ひぃっ?」
少女は悲鳴をあげる。エステルは少女の頬の最長伸記録を確認すると、大胆不敵にも少女のワンピースのスカートの中に顔を突っ込んだ。エステルが要望を叶える都度、少女にとって状況は悪化の一途を辿っている。
「ふーん、パンツの色は白か。髪も服飾も黒一色なのに画竜点睛に欠けるという奴か」
「お前な。日曜学校の成績はイマイチの癖に、何でそんな難しい諺を知っているんだ?」
「カシウス・ブライト。問題にするのは、そこじゃないでしょ? ちょっと、息があたって……いやぁー」
◇
エステルの再度のセクハラを恐れているのか、少女は大人しくなった。だが、よほど先の行為を根に持っているのか、「うー」と低く唸りながら、実に恨みがましい瞳でエステルを睨んでいる。
「カシウス・ブライト。この変態は一体何なのよ?」
「俺の息子のエステルだ。見ての通り腕白だが逞しく育っている」
「腕白って、アレはそういう次元の話じゃないでしょう? あなた、子供にどういう教育してきたのよ? それでも本当にリベールが誇るS級……」
「夜中に大声は出さない。おーい、エステル。お嬢ちゃんがまた遊んで欲しいってさ」
「判ったから、それ以上、そいつを近づかないで」
エステルが両掌をにぎにぎしだすと、少女はシーツを身体全体に纏ながら、ソファの奥の方に縮こまった。見知らぬ人間に毛皮を撫で回された臆病な子猫さながらに、少女の警戒心は完全にカシウスからエステルの方にシフトしている。
「ところで、お前何か忘れてないか?」
「えっ?」
「名前だよ、名前。俺の名はさっき親父が紹介しただろ」
最初、少女はエステルの催促を無視しようとしたが、これまでのパターンで目の前の少年の傍若無人さを思い知らされていたのだろう。再度の暴挙に出られる前に考えを改めることにする。「傷が癒えたらコロス」とか物騒なことを、小声で囁いていたが。
「私の名は……」
この日、レナ・ブライトが逝去して以後、二人に減ったブライト家の構成員が、五年ぶりに従来の三人に復活した。