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[34769] 【完結】魔法少女アスカ☆マギカ(魔法少女まどか☆マギカ)
Name: ゴリアス◆1198178c ID:ecd696c8
Date: 2012/10/23 21:12
はじめまして? 再びお会いできましたね? ゴリアスと申します。


今更ながらマドマギのSSを書かせていただきます。
ただ単純に、エンディングが納得いかなかった! 彼女達に笑顔を!
その思いだけで書いていくお話です。不快にさせてしまいましたら申し訳ありません。
基本的に不定期更新となりますので、暇な時に見てやってください。


主人公のスペック

身長:マミさんくらい
体重:やや軽め
胸 :哀
容姿:それなり
イメージカラー:オレンジ(黄昏色)
メインウェポン:ナックル
主用魔法:炎

こんな感じです。
オリ主サイキョーがやや含まれるかもしれません。どうか、ご了承下さい。
ご了承をいただけましたでしょうか?




では、魔法少女アスカ☆マギカ。始まります!



[34769] <さあ始めましょう、私達の物語を>
Name: ゴリアス◆1198178c ID:ecd696c8
Date: 2012/09/05 09:57






 ある朝、それは何の変哲もない朝だった。少女の目覚めも、またなんの変わりもない。

 ぬいぐるみに囲まれ、窓際にはサボテンが立ち並び、壁には好きなアイドルのポスター。机の上も、部屋も、ベッドも。何も変わった事はない。しかし、少女の目覚めは唐突だったのだ。

「そっか。うん、そっか。それなら、私がやってみるよ」

 虚空に向かって何かを呟いている少女。その目は、どこも見ている様子はない。

「だから安心して。大丈夫、絶対に大丈夫だから」

 そして呟き終えると、少女はぐっと背伸びをする。

「さて、今日から忙しくなるなぁ。…………あら?」

 そう呟く少女が、窓際に移った影を見逃すはずはなかった。







 鹿目まどか、そして美樹さやかは普通とは違う世界に来ていた。

 結界。それは“魔女”と呼ばれる異形が作り出す現実世界とは異なった空間。その世界に“魔女”は隠れ住み、そして人間に害を及ぼす。

 “魔法少女”。そう呼ばれる少女達は、結界に隠れ住む“魔女”達を見つけ出し、狩る能力を有している。目的は様々だ。私利私欲の為に“魔女”を狩る者、自分が生きる為に“魔女”を狩る者、守るべき者を守る為に“魔女”を狩る者。大勢居る。

 巴マミ。彼女の戦う理由は異例中の異例。『見ず知らずの他者を守る為に』“魔女”と戦う少女だった。他人から見ればそれはとても尊いことだろう。しかし考えても見て欲しい。知りもしない他人の為に命を賭けられるだろうか? 顔も知らない人間の為に腕一本を賭けられるだろうか? 名前も知らない人間の為に、足一本を犠牲に出来るだろうか? 出来る人はいるのかもしれない。しかし、大半の人間はできない。いや、すると言う考えはあるのだろうが、実行に移すことは本当に難しい。

 故に、巴マミの行っている行動はそれ等を知る人間からすれば破綻していると思われる一歩手前の状態だった。しかし、夢見る少女たちには彼女はやはり英雄に映るだろう。自分もあんな風になりたい、自分も彼女のようになりたい。そう抱かせるのは不思議ではなかった。

 だから鹿目まどか、美樹さやかの両名は。眼の前の“魔法少女”、巴マミの勝利だけを信じていた。

「せっかくの所悪いけど、一気に極めさせて……」

 巴マミは手に持ったマスケット銃の柄で、“魔女”の座っているイスの足を圧し折り――――

「貰うわよ!!」

 そのまま野球のスイングの要領で“魔女”を壁に叩きつけ銃を乱射する。銃弾は外れたものの、“魔女”はそのまま落下。巴マミは落下してきた“魔女”に銃口を押し当て、発射する。するとリボンが伸び、魔女は空中に持ち上げられて固定される形となった。

「ティロ・………」

 巴マミのその言葉と同時に、彼女の持っていたマスケット銃が巨大化。戦艦の主砲クラスはあろう大きさの銃口が、“魔女”に標準されていた。

「フィナーレ!!」

 そして銃口が火を噴き、銃弾はまっすぐに“魔女”を捕らえそのまま貫通した。ティロ・フィナーレ、彼女特有の必殺技である。

「やったぁ!」

 鹿目まどか、美樹さやかの両名も歓声を上げる。巴マミも勝利を確信し、彼女達の方を振り向き優雅に微笑んだ。

 しかし銃弾、いや砲弾が貫通し消滅すると思われた“魔女”は、全員の予想を裏切る行動に出た。やられたと思った“魔女”、固体名『シャルロッテ』の口の中から“魔女”の本体が飛び出し、そのまま巴マミに迫ったのだ。鹿目まどか、美樹さやかは勿論のこと。巴マミ自身も油断して反応に遅れた。“魔女”はその大口を開けて、巴マミの頭部を一飲みにしようとするが――――

「いぃぃぃよいっっっっっしょぉぉぉぉぉぉ!!!」

 その大口は、直後下から来た黄昏色の突風に無理矢理閉じられる結果となった。

「え?」
「な、なに!?」

 鹿目まどかも美樹さやかも、何が起こっているのか理解できていない。しかし至近距離でそれを見た、巴マミだけはその突風の正体を理解していた。

「魔法、少女?」

 オレンジ色の髪、桜色のソウルジェムを宿した羽飾りの付いたチョーカー。動きやすそうなショーパンツにピッタリとした服。そして何よりも目を引くのが、両手に装着されているオレンジ色の璧が着けられたナックル。その中心からは、絶え間なく黄昏色の炎が噴出している。

「一気に行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 そのまま空中を駆け上がり、“魔女”をフルボッコにしていく“魔法少女”。手が残像のように何本にも見えるほどに高速拳打。

「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら、オラァ!!」

 止めとばかりに両手を合わせ、拳槌打ちの要領で打ち出された拳に。『シャルロッテ』は地面に叩きつけられ、そのまま消滅してしまった。

「ちぇ、やっぱりダメだ。漫画見て思いついたけど、魔法使う暇もないし。第一に、この方法は美しくない」

 グリフシードを回収し、地面に着地した瞬間にドヤ顔を極めている少女。

「え、えっと。あ、ありがとう。さっきは助かったわ」
「うぉう、何と何と。もしやあの有名な“巴マミ”さんでは?」
「え? え、ええ。そうよ。私は巴マミ、貴女はいったい……」
「ありゃりゃ、すいません。勝手に獲物横取りしちゃったばかりか自己紹介もしませんで」

 その少女は、しっかりと姿勢を正して深々と頭を下げた。

「この度、この町にやってきました真弓アスカと申します。どうぞ、宜しくお願いしますね」

 そういって深々と頭を下げたまま、彼女は巴マミを見るとニッと笑った。







 場所と、時間を少し移して話をしよう。

(ふ、不覚だったわ。マミさん、いえ。巴マミがあんな強硬手段に出るなんて。早くコレを解かないと、まどかが……)

 巴マミと仲違いし、拘束魔法を掛けられた暁美ほむらは焦っていた。

 拘束魔法を掛けられてから、体感時間で十分強。もう既に『シャルロッテ』との戦闘に入っている頃だろう。早く、早くこの拘束を解かないと……。と考えるが、一向に拘束は緩まる気配はない。諦めかけていたその時……、

「あっるぇ~? なんか美少女が緊縛されてる~」

 能天気な声に思考を停止させられた。目の前にいるのは、オレンジ髪をした見たこともない魔法少女。

「しかし拘束魔法か。ねえ知ってる? 拘束系魔法って内部からの衝撃や圧力には強くても、外部からの衝撃や圧力には弱いんだよ? だからね、こうやってこの鍵穴をちょっと突けば……」

 その少女は、ナックルの付いた片手を軽く引き絞ると、それなりの速度で鍵穴に叩きつけた。瞬間、拘束は解かれて暁美ほむらに自由が戻る。

「あ、貴女は……」
「おっとっと。名乗るほどの者じゃないですよ。とりあえず、アタシは急ぎますんでコレで。また会いましょう、暁美ほむらさん」

 それだけ言うと、オレンジ髪の少女はとてつもない速さで駆け抜けて行ってしまった。

「な、何者なの。あの魔法少女は……」

 何度も繰り返してきた彼女にも分からないことだった。それほどに、彼女の存在はイレギュラー過ぎたのだ。









「それじゃあ改めてお礼をさせて貰うわね。本当に助かったわ、ありがとう」
「いやそんなお礼だなんて。たまたまあの場面に遭遇しただけじゃないですかぁ」

 場所を移して巴マミの自室。そこには制服姿の、鹿目まどか、美樹さやか、巴マミ、そして一人だけ私服姿の真弓アスカの四名がテーブルを囲んでいた。彼女達の前にはケーキが振舞われ、紅茶が美味しそうな香気を上げている。

「あ、あの、真弓さんも“魔法少女”、なんですよね?」
「アスカでいいよ。真弓って呼ばれんの嫌いなんだ」

 まどかの質問に、ケーキを片手で頬張りながら答えるアスカ。

「じゃ、じゃあ。アスカさんはいつ頃魔法少女になったんですか?」
「ん~、半年くらい前かな? そっから場所を転々として、来週から見滝原中学に通う予定だよ」

 手に付いたクリームを舐めながら、まどかの質問に再度答える。

「じゃあ、私達と同じ中学なんですね!」

 見滝原の名前に反応したさやかが身を乗り出して話しに加わってきた。

「なんだ、二人とも同じ中学校なのか」
「マミさんもですよ」
「ええ。分からないことがあったらなんでも聞いてね?」
「よろしくお願いしやっす。えっと、二人は……」
「あ、鹿目まどかです。見滝原中学校の二年生です」
「同じく、美樹さやかです」
「ほんじゃ、こっちも改めて自己紹介。真弓アスカ、一応来週から見滝原中学校の三年になる予定だよ。よろしくね」

 アスカはテーブル越しに二人と軽く握手を交わす。おい、その手はさっきまでクリームが付いていなかったか?

「それで、お二人は実際の所。魔法少女候補生ってことになるのかな?」
『その通りさ、真弓アスカ』

 アスカの言葉に答えたのは、突如現れた白い狐のような猫のような生物(?)だった。

「おおぅQB……、じゃない。キュゥべえじゃないか。いつもキミはいきなり現れるなぁ」
「もう、どこに行っていたのよ」
『ごめんマミ、ちょっと確認することがあって。でももう終わったよ』
「ん~? お前本当に私が契約したキュゥべえ? なんかこう、違和感があるんだけど?」
『さぁ、どうかな? 僕としてはなんとも言えないね。僕が二人以上居るとは思えないけど』
「ふぅん。まぁいいや、ちょっと違和感あっただけだし。正直どうでもいいってのが本音だしね」
『キミがそういう性格で助かるよ』

 キュゥべえと呼ばれた白狐は、身軽にテーブルの上に飛び乗った。

『彼女達は僕の姿が視認できる貴重な人材だ。魔法少女としての資質は十分にあると思うよ』
「なるほどなるほど。で、お二人の意見としてはどうなのかな? 本当に、魔法少女になる気はあるの?」
「わ、私はその……。マミさんのお手伝いが出来たら、嬉しいなって」
「私も、その、願いとかはまだ決まってないですから」
「それじゃあまだ止めた方がいいね」

 ピシャリと断言する。二人の意見を聞いたアスカは紅茶を一口で飲みきると、おもむろに言葉を吐き出した。

「もしも命を賭けてでも叶えたい願いがないのなら、魔法少女になることなんて止めときな。絶対に叶えたい、何が何でも叶えたい。そういう願いがないのなら、君達は魔法少女になるべきではない。そして、命を賭けてでも叶えたいと願う物が見つからないのなら―――」

 今までチャラ気ていたアスカの雰囲気が消え、酷く儚げな笑顔を彼女は作った。

「それは、とても素晴らしいことだと思うから」

 まどかもさやかも何も言えなかった。彼女の笑顔に飲まれて、何も言えなくなっていた。

「鹿目さん……」
「すいませんマミさん。私、やっぱり……」
「いいのよ。アスカさんの忠告も正しいし、じっくり悩んでから決めるべきだと思うわ」

 マミの表情はそう言いながらもやはり少し残念そうではあった。

「あ、あの、質問。いいですか?」
「なにか?」

 さやかが突然口を開いた。

「アスカさんは、あったんですか? 命を賭けてでも、叶えたい願いって」
「あるよ。今も継続中」

 そして今度は照れ笑いを浮かべた彼女。コロコロと変わる彼女の表情に、二人は言葉もなく見とれていた。

「それでアスカさん。今日ここに呼んだのはお願いがあったからなのよ」
「お願い、ですか? マミ・マギカともあろうお方が、私なんかにお願いなんて」
「マミ・マギカ?」

 アスカの話を遮って、さやかが質問を繰り出した。

『ああ、魔法少女に対する敬称のことだね。優れた魔法少女、志の高い魔法少女は、尊敬と敬意の念を込めてマギカの名前で呼ばれるんだ。もちろん、マミもその一人だよ』
「あら、マギカなんて恥ずかしいわよ。普通にマミでいいわ」
「いえいえ。見ず知らずの人々を守り、町の平和を守り続ける大ベテラン。遠距離攻撃に関しては、もはや無類とまで謳われるその技量。他の地区を狩場としている連中は、総じて貴女のことをマミ・マギカと呼んでいますよ」
「もう、恥ずかしいわね」
「ただまぁ、否定的な連中も多々居ますけどね。特に、最近この辺を荒らしまわってる『佐倉杏子』とかいう魔法少女とか」
「あの子……」
「おや、お知り合いでしたか?」
「少し一緒だった時があるのよ。今は袂を別ってしまったけど」
「ふむ、複雑ですね」
「それで、お願いと言うのはね。私と一緒に戦ってもらえないかしら?」
「私が、ですか?」
「ええ。この二人は、まだこちらの世界に入るかどうか決めかねている状況なの。いくら魔女と戦う場面を見せたいからと言って、やはり危険は付きまとうわ。今回のケースもあるし。そこで、貴女に一緒に戦ってもらえれば……」

 そこまで言ったマミに、アスカは掌を突き出した。

「すいません、お言葉ですがマミ・マギカ。ご期待には副えることが私にはできないようです」
「そう……」

 マミは残念そうに肩を落とす。

「申し訳ありません。私には私の目的があるもので。どうにも、集団行動ってやつが苦手でして」
「残念だわ。貴女のような有能な魔法少女と手を組めないなんて」
「あはは、その言葉だけで十分です。目的が重なる事はまず無いと思いますが、その時はどうかご容赦を」
「いいわよ。貴女とは敵対する気は無いもの、話し合いで解決の道を探りましょう」
「ご理解いただけて光栄ですよ。では、私はこれで失礼します。あ、そこのお二人」

 手提げかばんを持ち出口に向かう途中、アスカはまどかとさやかを見た。

「じっくりと考えて、それから行動することをお勧めするよ。特にまどかさんは、自分行動に悔いの残らない選択をするべきだ。じゃないと、絶対に後悔するよ」

 それだけ言い残して、彼女は部屋を出て行った。







~~~NGシーン~~~

「一気に行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 そのまま空中を駆け上がり、“魔女”をフルボッコにしていく“魔法少女”。手が残像のように何本にも見えるほどに高速拳打。

「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら、オラァ!!」

 アスカは深く帽子を被ると、シャルロットの残骸を見下ろした。

「魔女よ、お前が死ぬ理由はたった一つだ。たった一つのシンプルな答えだ。テメェは私を怒らせた!」



 違う漫画と安直過ぎるのでアウト~~~。



[34769] <さあ飾りましょう、私達の物語を>
Name: ゴリアス◆1198178c ID:ecd696c8
Date: 2012/09/07 00:51





 場所は変わってここは病院。『シャルロッテ』の出現地であり、美樹さやかの思いを寄せる相手、上条恭介の入院している病院でもあった。

「じゃ、恭介。また来るね」
「ああ、また新しいCDを持ってきてくれると嬉しいな」
「任せなさいって」

 さやかは病室に向かって手を振ると、ドアを閉めて。そのままエレベーターに向かった。しかしその途中、診察室から出てきたアスカと鉢合わせる。

「おや、さやかさん?」
「あ、アスカさん。どうしたんですか、こんな所で」
「見ての通りさ、コレコレ」

 アスカは左手を掲げてみせる。その腕には包帯が巻かれていた。

「いやぁ、不覚不覚。油断した一瞬の隙を突かれたよ」
「大変なんですよね、魔法少女の仕事って」
「そうかな、別に大変だと思った事はないよ? 命の危機に晒される事は多々あるけど、自分で選んだ道だもの。後悔はしていないさ」
「自分で選んだ、道……」
「さやかさんはどうしてこんな所に? パッと見、ケガとかはしてなさそうだけど」
「あ、ああ。私はその、幼馴染のお見舞いといいますか」
「幼馴染? どっか悪いのかい?」
「いやその、事故で。指が動かなくなっちゃって、今はリハビリをしている最中なんです」
「指が……」
「将来有望なバイオリニストだったんですけどね。その事故のせいで、将来が崩れてしまって。見ていらんなくって。時々、昔好きだった人の演奏しているCDを持って行って元気付けてやったりしているんですけど……」
「なるほどなるほど。つまり君は、その恭介って男の子に惚れてる訳だ?」
「ちょっ! なっ!? どうしてそんな話になるんですか!?」

 突如大声を上げるさやかに、指を唇に当ててシーッと言いつけるアスカ。訝しげに見ていた看護婦に小さく頭を下げた。

「その少年が気になる、落ち込んでいる姿が見ていられない、なんとか元気付けてあげようと画策する。これを恋慕って言わないで何になるのかな?」
「わ、私は、腐れ縁と言うか、幼馴染の一環としてアイツに……」
「好意はいつからか恋へと変わり、やがてそれは愛に変わる。LikeからLoveに変化するのは、そう珍しいことじゃないよ?」
「ち、違いますって。私はそんなことは……」

 顔を真っ赤にして否定するさやか。そんなさやかをみて、アスカはクスッと笑った。

「青いなぁ。ああ、とっても青い。まさに青春だ」
「アスカさん?」
「恋愛や失恋、そして嫉妬や憎悪。そういった物を重ね、人は大きくなっていく」

 アスカは虚空を見つめて、何かを思い出すように語りだす。

「そこに何かの答えを見つけるように、青春を謳歌せよ若人よ。人はただ、重ね紡いでいく者なりけり」
「え、えっと。難しい事は、私にはちょっと……」
「難しいことなんてないさ。ただ君は、自分の気持ちに正直なればいいだけの話」
「自分の、気持ちに……」
「そう。悩み悩んで、そうして得た答えは紛れもない真理だ。例え得た答えは間違っていたとしても、その答えに偽りなんてないんだから」

 アスカはそこまで言うとエレベーターがちょうど到着した。さやかが動く様子が無いのを見越して、一人でエレベーターに乗ってしまうアスカ。

「悩んで悩んで、悩みまくりな。その先に得た答えこそが、君の世界の真理ほんとうだ」

 それだけ言い残すと、アスカは『閉』ボタンを押してドアを閉める。後に残ったのは、エレベーターホールに独り残されるさやかだけ。

「私の道、私の気持ち、悩んで悩んで悩み抜いた先に得た物は、紛れもない本当」







 さやかに変な助言を施したアスカは上機嫌で町を歩いていた。

「いやぁ、あそこまで青い物を見せられちゃうと。お姉さんとしてはちょっと助言したくなっちゃうんだよねぇ」
『まったく、自由奔放すぎるのもどうかと思うよ。真弓アスカ』

 突然念話で話しかけてきたのはもちろんキュゥべえだ。

『キュゥべえ? なに、近くに居るの?』
『キミの後方、パン屋の屋根の上辺りだよ』

 その言葉に後ろを振り向くと、確かにパン屋の上の辺りに白い尻尾だけが見えた。

『わざわざ念話で語りかけたりして、なにか急用?』
『いや、キミの真意が知りたくてね。真弓アスカ、君の目的はなんだい?』
『おやおや、ずいぶんと遠回しな言い方をするのね。もうだいたい見当はついてるんじゃないの?』
『いや、情報が足らな過ぎる。キミのやってきたことをログとして見ても、キミの真意にはたどり着けなかった。いくつか候補は残ったけどね』
『じゃあそこからキミ等なりに悩んだらいい。“青春とは、ある一定の期間を言うのではなく。心のありようを言うのだ”と、昔の偉人は言ったよ?』
『興味はないね。僕達はただ、結果だけを知りたいだけだ』
『おやおや、風情の無いことで』
『それで、教えてはもらえないのかい?』
『そうだね。教える義理はないし、たぶん近いうちに分かると思うからね』
『そうか、残念だ』
『ただコレだけは言っておくわよ、キュゥべえ』

 アスカは突如立ち止まり振り返ると、キュゥべえの居る辺りをジッと見据えた。通行人は彼女の奇行を奇異の目で見ながら通り過ぎていく。

『鹿目まどか、美樹さやか、巴マミ、暁美ほむら、そして佐倉杏子。この五人を好き勝手出来ると思ったら大間違いだ。それだけは、私が許さない。だからおとなしくしていなさい、インキュベーター』
『佐倉杏子はともかく、暁美ほむらの存在まで。やはりキミは要注意人物だ。僕達の本当の名前も知っている、そして僕達が郡体であり一個体であることも知っているみたいだね』
『ふふ、要注意人物なんて。そんなに重要な役目は背負ってないよ? 私はただ守りたいだけだもの』
『キミの思惑はさて置き、僕達の障害になるようなら先に排除しておかなければならないよ』
『あら怖い、排除だなんて。もっと平和的に行きましょうよ、ねぇキュゥべえ?』
『やれやれ、キミは本当に分からないよ。ところで、キミはさっきからどこへ向かっていたんだい? 既に町外れ、このまま行ったら見滝原市から出てしまうよ?』
『ああ、いいのよ。これからある人と会うことになってるんだから』
『ある人? それは誰だい?』
『ん? さっき言った五人。その最後の一人よ』








 とある路地裏で、佐倉杏子は得体の知れない“魔法少女”と戦っていた。オレンジの髪、自分と同じ動きやすそうな服装に桜色のソウルジェムを付けた羽飾り付きのチョーカー。そしてさっきから自分の攻撃をことごとく防御して見せている、オレンジの璧が付いたナックル。しかし一向に攻めてくる様子がない。

「おいアンタ! さっきから何なんだよ! いきなりケンカ吹っかけて来やがって!」
「心外だなぁ。たまたま通りかかった私に、いきなり襲い掛かったのはそっちじゃないのかい?」
「アンタが敵意丸出しで向かって来るからだろうが! 武器も丸出しにしてやがったクセに!」
「アレが私のスタンダードなんです」
「見え見えの嘘ついてんじゃねぇ!」

 杏子の槍が高速で相手の魔法少女に突き出される。しかし相手の方は、器用にナックルの甲の部分でそれを受け止め、受け流し、回避し続ける。

「だったら!」

 槍が節ごとに別れ、それぞれが鎖に繋がれた状態になった。杏子の武器は槍ではなく、九節便のような複数の節を持った多節槍たせつそうといえる武器なのだ。

 その多節槍がリーチを無視して相手に襲い掛かった。

「うわっと!」

 しかし相手も中々、意識してなかったはずのリーチからの攻撃を回避してみせる。

「まだまだ!」

 しかしその多節槍は杏子の魔力で誘導され、矛先を急転回し再び魔法少女を目指した。

「フッ!?」

 しかしその死角からの攻撃に、相手は回し蹴りで対応した。

「やるねぇ、私に蹴りまで出させるなんて」
「さっきので仕留めらんねぇのかよ。つか後ろからの攻撃によく対応できんな」
「魔法少女との戦闘は一筋縄ではいかないからね。死角からの攻撃、真下、真上からの突然奇襲。そんなのにも対応できないと」
「へぇ、経験則か。おもしれぇ」
「しかし殺気立ってるねぇ。もうちょっと冷静にことを運ぼうよ、アンコちゃん」

 ビギィッ! 瞬間、辺りの空気が一瞬にして冷えた。いや、体感温度は変わっていない。しかし周囲の空気の温度が一気に下がったような錯覚を受けたのだ。

「おいアンタ、今アタシのことをなんて呼んだ?」
「ん~怒らせちゃったか。まぁ、本気になってくれたみたいだし。続きをやろうよ、アンコちゃん」
「決めた。アンタは殺す。両手両足ぶった斬った後、頭蓋骨陥没させてやるよ」
「お~怖い。出来るものなら、ね?」
「上ッ等!!」

 さっきのような小細工はない。杏子自身がスピードを使って相手を翻弄し、そこに多節槍の攻撃を織り交ぜてくる波状攻撃だ。さすがにこの攻撃には相手の魔法少女も堪えたらしく、徐々に攻撃が掠りだした。

「まだまだぁ!!」

 そしてそこに鎖や節による打撃や足技まで繰り出して来る。魔法少女側も、ナックルだけでなく蹴りによるガードも使っているが、杏子のスピードの方が若干上手だった。

「こんなもんかよぉ! アタシにケンカ売っといてさぁ!」
「ん~、中々に強いですね。一見頭に血が上っているように見えますけど、冷静に戦略を練って次の手を考え続けている。なるほど、確かに強い」

 その魔法少女の言葉は確かにあっていた。事実杏子は、藪を突いて蛇を出したときのために逃走経路も確保してある。激情の中にいながらも、最後の一線では常に冷静に。それが杏子の強さでもあり、熟年のスタイルでもあった。

「でも、幻惑系の魔法は使わないんですね」
「なっ!? なんでアンタがそれを知ってるんだ!!」
「企業秘密です」
「OK、両手足ぶった斬った後に聞きだしてやるよ」
「やれるものでしたら、ね?」
「見てろよっ!!」

 杏子が更に速度を上げる。そしてそのまま槍で逃げ場を塞ぎ、矛先が魔法少女に迫る。

「今度こそもらった!」
「それ、フラグですよ」

 しかし魔法少女は片足立ちのままその場で一回転。すると、逃げ場を塞いでいた槍も、彼女に向かっていた矛先も、まとめて吹き飛ばされてしまった。

「んなっ!?」
「こんなもんですか?」
「へっ、まだまだぁ!」
「ですが、本気も見られましたし。そろそろ引かせてもらいますか」

 その言葉と同時に向かってきた槍の矛先に合わせるようにナックルを突き出し、そのまま勢いを殺さずに空中へ。空中で回転しながら慣性を殺し、優雅に着地した。杏子との距離ができ、接近戦を旨とする両名はお互いに決定打を欠いた状態になった。

「へっ、逃がすと思ってンのかよ」
「いえいえ、逃げさせてもらいますよ。それと勘違いしてもらっちゃ困るのが、私は防御よりも攻撃の方が得意でね。もしも私が防御に徹してなかったら、貴女は三十秒で肉塊になってましたよ?」

 瞬間、杏子は頭の中で逃走経路を再確認してしまった。相手の魔法少女になんら変化はない。しかし、杏子の長年の勘がこの相手との戦闘は避けろと言っていた。今し方までこちらが押していたはずなのに、一瞬にして優劣を入れ替えられたような錯覚。まるで相手の切り札がエースだと思っていたのにジョーカーだったとわかってしまった瞬間のような。

「では、ここらで引かせてもらいます。私との決着を付けたかったら、見滝原市へおいで下さいな」
「見滝原? 巴マミのテリトリーじゃねぇかよ」
「ええ。私と決着を付けたければ、その町で魔女を狩り続けていればいずれ会えますよ。貴女にその気があればの話ですけどね」
「へっ、そんなまどろっこしい事しないでもさぁ。今この場で殺しちゃえばいい話じゃないの!?」

 腕が霞むほどの超高速での多節槍の投擲。多節槍は一直線に繋がったまま、音速を超えて相手の魔法少女に迫る。その多節槍を視認するや否や、魔法少女側は腰を落としてナックルを地面に叩きつけた。瞬間、円形状に炎の竜巻が発生し、多節槍を吹き飛ばし魔法少女の姿を隠した。

「な、なんだぁ!?」

 その余波に晒されながらも、杏子は相手を視認しようとするが。竜巻が収まったときには、やはり魔法少女の姿は影も形も見えなかった。

「ちっくしょう!」

 杏子は苛立ちを雨どいにぶつけるように、金属製の雨どいがぶっ壊れるほどに強く拳を叩きつけた。

「上等じゃんかぁ。だったら誘いに乗ってやるよ、オレンジィ!」







「いやぁ、さっきのは危なかったなぁ」

 さっき戦った路地裏から、少し離れたビルの屋上。真弓アスカは受けた傷を治療していた。少々のケガなら自然治癒や医者に診てもらって魔力を消耗させる事はないのだが。今回のケガは、軽症とはいえない傷が多々あったので已む無く魔法に頼っている。

「しっかしこれで私の描いてる布陣は見滝原市に集まったな」

 アスカは携帯端末を懐から取り出すと、操作しながら治療を続ける。タッチパネルで操作している指は酷く滑らかなで、何度もその操作をしてきたことをうかがわせる。

「うん、大丈夫。アンタの描いた通りになってるよ。だから安心して。絶対に成功させて見せるから。あとは私の頑張りしだいだよね。大丈夫、きっとうまくやるから」

 ハンズフリーを付けている様子はない、念話は近くに魔法少女がいないと出来ない。誰かと話しているように見える彼女のそれは、実は完全な独り言だ。或いは、彼女だけの固有魔法だろうか?

「巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子、鹿目まどか、そして暁美ほむら。彼女達は絶対に救って見せるよ。だから安心して、そこで見てて。未だ見ぬ貴方」

 アスカは空を仰ぐ。そこには何も無く、ただ蒼穹の空が広がっているだけだった。







~~~~今週のNGシーンテイク2~~~~

「へっ、逃がすと思ってンのかよ」
「いえいえ、逃げさせてもらいますよ。それと勘違いしてもらっちゃ困るのが、私は防御よりも攻撃の方が得意でね。もしも私が防御に徹してなかったら、貴女は三十秒で肉塊になってましたよ?」
「厨二クセェよ! 巴マミみたいなこといってんじゃねぇ!」
「あら、私のどこが厨二なのかしら。佐倉さん?」
「なっ、巴マミ。いつの間に……」


 収拾がつかなくなるのでアウト~~~。



「上等じゃんか、だったら誘いに乗ってやるよ。オレンジィ」
「私をオレンジと呼ぶなぁぁぁぁぁぁ!!」


 誰がジェリミア・ゴッドバルドを呼べといった……。





[34769] <さあ彩りましょう、私達の物語を>
Name: ゴリアス◆1198178c ID:ecd696c8
Date: 2012/09/05 10:46





 美樹さやかが魔法少女になってしばらくした頃。巴マミ、美樹さやか、そして鹿目まどかの三名は魔女の散策に赴いていた。

「ここ、ですよね?」
「そうね。ただコレは魔女ではないわ。使い魔ね」
「どっちだって同じですよ。この町でなにかやらかそうってんですから」
「威勢がいいのは結構だけど、油断しちゃダメよ? 魔女の戦いは、いつも命がけなんだから」
「はぁい」

 新米魔法少女のさやかと、ベテラン魔法少女のマミ。このタッグを先頭に、三人は路地裏へと舞い込んだ。

「美樹さん!」
「はいっ!」

 その瞬間、三人は結界に閉じ込められ。使い魔であろう、子供の落書きのような異形が壁を走り回った。

「逃げちゃう!」
「任せて!」
「逃がすモンですか!」

 その使い魔に反応し、さやかとマミは魔法少女に変身。さやかは刀剣を、マミはマスケット銃をそれぞれ手に取った。

「マミさん、ここは私が!」
「そうね。新人さんの腕慣らしにはちょうどいいかしら」

 マミはまどかの側に、そしてさやかはマントを一振りすると九本の刀剣を魔法で呼び出し、その刀剣を使い魔に向けて投擲した。

 最初の刀剣は使い魔を誘導し、次に逃走経路を塞ぎ、最後に使い魔に止めを刺す……、はずだった。最後に放った刀剣は使い魔に止めを刺すことはできず、突如現れた槍の矛先のような物に弾かれ力なく地面に突き刺さった。

「えっ!?」
「あの槍は!? くっ!」

 マミも慌ててマスケット銃を撃つが間一髪の所で避けられてしまい、単発式のマスケット銃を次に呼び出す暇も無く使い魔の逃走を許してしまった。

「逃げ、ちゃったの?」
「ちょっとちょっとアンタ達さぁ、何してくれちゃってんの?」

 まどかがそう呟くのと同時に、結界内に侵入してきた一人の魔法少女。赤色の髪に、赤い服装、そして手に持った多節槍。佐倉杏子だ。杏子は結界を解除すると、さっきの使い魔を守るように陣取った。

「アレって使い魔だよ? グリーフシードも持ってないただの雑魚、そんなの狩ってどうするのよ。巴マミもさ、居るんだったらその辺しっかり教えといてもらわないと」
「あら、久しぶりの再会だって言うのに。あんまりにも登場が乱暴すぎないかしら、佐倉さん?」
「マミさん、……この人が前に言っていた」
「そうよ。佐倉杏子さん、貴女達の先輩にあたる魔法少女で、私と昔コンビを組んでいた子」
「もう昔の話じゃん。今更出すの止めてくんない?」
「そう、そうよね」

 少し悲しそうにマミは息をついた。

「それでさ、そこの青いの」
「な、なによ……」
「アンタも巴マミと一緒で、使い魔も魔女も人間に害を為すものだから倒さなきゃ。とか言う口?」
「だ、だったら何!?」
「べっつにぃ。たださ、そういう正義感だけでこっちの世界に入ってこられんの、迷惑なんだよね」
「せ、正義感で戦っちゃいけないって言うの!?」
「ああいけないね。アタシ達魔法少女ってのは損得で動いてるモンなんだ。アンタみたいに正義感剥き出しで戦ってるやつとか、目障りなんだよね。そこに居る巴マミも同じだけどさ」

 さやかに詰め寄るように歩いてくる杏子。しかしさやかは怒りをぶつけるように叫んだ。

「うるさい! 守って何が悪いんだ! 正義感を持ってて何が悪いって言うのよ! いきなり現れて偉そうなこと言わないで!!」
「ハァ、これだから根本から勘違いしてる素人は」

 杏子はめんどくさそうに頭を書くと、更にさやかに詰め寄って来る。

「さ、佐倉さ……」
「悪いけど、巴マミはちょっと黙ってて」

 その言葉と同時に、マミとまどかの周りに魔法で編まれた格子状の障壁が展開した。路地裏の反対側にも同じような障壁が現れ、この路地裏は完全に隔離された状態となった。

「これはっ!?」

 それを見て、杏子は笑みを深めると更にさやかに詰め寄る。

「食物連鎖って言葉があるでしょ? 草を虫が食べて、その虫を動物が食べて、その動物を人間が食べて、その人間を魔女が食べて、そして魔女を私達魔法少女が食べる。こうやって世界は回ってんの。分かる? 一人二人助けた所で、なぁんにも変わったりなんかしないのよ」
「アンタは……、アンタってヤツは!!」

 ついに激情を抑えきれなくなったさやかが、杏子に斬りかかった。しかしその剣も、あっさりと杏子は受け止めてしまう。

「へぇ、先輩に向かって剣を振るうんだ?」
「うるさいうるさい! 先輩だかなんだか知んないけど、アンタは許さない!」

 一合、二合、三合、二人は剣と槍を合わせていく。しかしさやかは全力で攻撃しているのにもかかわらず杏子の方は完全に遊んでいた。未だに多節槍は繋げたままであり、得意のスピードを生かした多角波状攻撃も使っていないのがいい証拠だ。

「トーシロが、ちったぁ頭冷やせっての!」

 ここに来て初めて槍を分解した杏子は、力任せにさやかに塊としてそれをぶつけた。それをまともに食らったさやかは、剣を弾き飛ばされ雨どいを破壊しながら倒れこんだ。

「はんっ! ざまぁないね」

 勝利を確信した杏子は、そのまま去ろうとしたが……。

「なに、行こうとしてんよ……」
「おっかしいなぁ? 全治三ヶ月ってくらいにはかましたはずだぜ?」
『それはそうさ。彼女は『癒しの歌』を祈りにしてるからね。回復能力は魔法少女屈指さ』

 杏子の疑問に通気口から現れたキュゥべえが解説を入れる。そのまま身軽にまどかの肩に降り立つと、キュゥべえは事のしだいを見届けるかのように二人を見据えた。

「アンタが、アンタみたいな人が居るから。魔女が居なくならないんだ! こんなにも、こんなにも頑張ってる人達が居るのに!!」
「はぁ、うっぜぇな。頭潰せば黙ってくれる?」
「やってみろぉ!」

 急速に突進してくるさやか、そのさやかに笑いながら槍を合わせていく杏子。そして手加減することを止めたのか、今回は槍をバラしながら戦っている。

「さやかちゃん!」
「ダメよ鹿目さん。この戦いに巻き込まれたら命が危険だわ!」
「でも、でもさやかちゃんが!」
「大丈夫。あの子が簡単に人を殺すわけ無いもの」

 マミは何か確信を持っているようだが、それでもさやかが痛めつけられている現実は変わらない。

「ハッ、どうしたってんだ! 合わせるだけで、踊ってんじゃねぇ!」

 多節槍をさやかに巻きつけた杏子は、力任せに壁に叩きつけた。

「さやかちゃん!」
「佐倉さん! もう止めて!」
「ハァ? こいつが突っ掛かって来るのに、止めても何もないだろ? 止める云々はこいつに言ったらどうなんだよ?」

 そうしている間にも、さやかの傷は自動で癒され。また剣を持って立ち上がった。

「アンタ、強い魔法少女なんだろ? その力があれば、大勢の人を救えるんじゃないのかよ!」
「別に。アタシは自分のためにしか魔法を使わないし、使う気もない。見ず知らずの他人なんて、どうなろうが知ったこっちゃないね」
「お前はぁぁぁぁ!!」

 再び突進するさやか。そのさやかを今度は槍の矛先で迎え撃つ。

「どうして、どうして魔法少女同士で戦ったりするんですか。ねぇ、マミさん!」
「ダメ、下手に止めに入ればこっちまで標的になってしまうわ。残念だけど、美樹さんだけならともかく佐倉さんまで相手にする力は、私にはないのよ」
「そんなっ!」
『鹿目まどか、美樹さやかを助けたいのかい?』
「キュゥべえ。方法があるの!?」
『一つだけある。君が僕と契約し、魔法少女となれば。君の資質なら、二人を止めるには十分すぎるほどの力を持てるはずだ』
「私が、契約すれば……」
『そうだ。あの二人を止めたいんだろう?』
「うん。そうだよ、私が契約すれば……」
「それには及ばないわ」

 キュゥべえとまどかの問答に割って入ったのは、上空から現れた新たな魔法少女。黒い衣装に身を包み、紫のソウルジェムを手の甲に付けた魔法少女。暁美ほむらだった。

 ほむらは後一歩の所で杏子に槍で串刺しにされそうだったさやかを、どういう原理か杏子からやや離れた後方に放置するという離れ業をやってのけ。自分はその間に立って仲裁するように両者を止めた。

「佐倉杏子、美樹さやか。これ以上の争いは、私が止めさせてもらう」
「なっ!?」
「てめぇ、いったい何モン……」

 自分の背後に現れたほむらに向かって杏子は槍を突き出した……、つもりだった。しかしいつの間にかほむらに後ろを捕られている。

「なっ!? なるほど、アンタがあいつから聞いていたイレギュラーか。妙な技を使うな」

 改めて杏子はほむらに槍を向けると、慎重に距離を取った。

「もう一度言うわ。これ以上の無駄な争いは、私が止めさせてもらうわ」
「じゃ、邪魔するな! こいつは、こいつだけは!!」
「そうだぜイレギュラー。コレはアタシとコイツの喧嘩だ。部外者は引っ込んでな!」
「了承できないわ。これ以上無駄に戦いが続けば、無駄な確執を生むことになる。そして私は、無鉄砲な馬鹿の敵となる」
「おもしれぇ。アイツとの決着前に、いっちょ前哨戦と行くか!?」
「ちょっと待て! 私との決着が先だろ!」
「うっせぇよ。コイツ倒してから相手してやっから待ってろ」
「どうしても、やると言うのね?」
「ああ、どっからでもかかってきな!」

 杏子は槍をほむらに向け、ほむらもまた両足を大きく開いて構えを取った。

「やぁ~れやれ。遅れて来てみればなんかややこしい事になってるじゃないですか」

 バァン! という何かが爆発するような音、バリンッ! という何かが砕けた音。そして……、

「ぐっ、あ……」

 杏子の苦悶の声が全てほぼ同時に響いた。

「ゴメン。君の実力と場の状況から見て、手加減が出来なかった」

 しかし誰も現在の状況を理解できなかったのが事実だ。声がした、と思ってその方向へ視線を向けた直後。オレンジ髪に軽装の魔法少女、真弓アスカが杏子の腹部に拳を叩きこんでいたのだから。

 アスカの後方を見てみれば、杏子が張っていた格子状の障壁に人一人分くらいに空けられた穴と、アスカの靴の底から上がっている白い煙だけ。その場面から想像すれば、アスカが障壁を破り、高速で杏子に拳を叩き込んだという推測が出来るが。速度が桁違いだった。音速を超える速度で走ることなど、この場に居る誰にも出来ないことだ。

「暁美ほむらさん、彼女をお願いできますか? 話したいこともあるんでしょうし」
「………構わないわ」
「さやかさんも、今日は剣を納めて下さい。決着はまた後日ってことで」
「まぁ……、分かりました」

 さやかも渋々と剣を収める。そしてそれと同時に杏子の張っていた障壁が解けて、まどかとマミがこちらにやってくる。

「ありがとうアスカさん、おかげで助かったわ。後輩達に代わって、お礼を言わせてちょうだい」
「そんなお礼だなんて。本当ならもっと早くに割って入れればよかったんですけど、遅くなってすいません」
「いいのよ。結果的に彼女達は大事無いんですもの」
「そう言ってもらえると助かります」

 アスカは変身を解くと、まだ気絶している杏子をほむらに渡した。

「じゃ、くれぐれもお願いしますね」
「わかってるわ。というより、貴女が気絶させたんだからその言い方はおかしいんじゃない?」
「あはは、それもそうですね。失敗失敗」

 照れ笑いを浮かべたアスカだったが、ほむらは特に何も言うことなくその場を後にした。

「はぁ、相変わらず何を考えてるか分からない子だなぁ。そ・れ・よ・り・も、まどかさん!」
「は、はい!」

 ほむらを見送った後、アスカはまどかに詰め寄った。

「キミはなんの願いも決まっていないのに、まぁた魔法少女になろうとしたね?」
「だ、だって。二人を止めなくっちゃいけないって思ったし。それに、魔法少女は私の今なりたいものだから……」
「ハァ、前にも言ったけど。本当に命を賭けても叶えたい願い、それがないのなら魔法少女になるべきなんかじゃない。この契約は、魔法少女になるってことは。自分の全てを賭けてオールインして、それ以上の対価オーバーリターンを狙うってことなのよ。リターンがわざわざ少ない方に賭けるなんて、キミの価値はそんなにちっぽけな物なのかな?」
「わ、私は、その……」

 困惑し続けるまどか。その様子に、アスカは再びため息を付いた。

「ま、今回は未遂で終わったから良しとしましょうか。それと、さやかさん」
「えっ!? は、はいっ!」
「叶えたい願い、見つかったんですね」
「は、はい。絶対に、私の全部を賭けても叶えたい願い。見つけました!」
「それはなにより。その姿、よく似合っていますよ」
「あ、その、ありがとうございます」
「絶対に幸せを掴んでくださいね。オールインでオーバーリターン、是非とも目指してください。では……」

 それだけ告げると、アスカは路地裏を後にした。








 夜の帳が落ち、街灯が付き始めた頃。国道に渡された歩道橋。そこにはさやかと杏子がお互い対峙していた。

「で? 昨日の続きでいいってわけ?」

 恭介の退院を知って自宅前まで来たさやか。そのさやかに発破を掛け、からかうように言ってみせ、二人は再びもつれたのだ。

「アンタなんかに負けない。それに、これ以上私達の邪魔もさせない」
「へぇ、いっちょ前に言うじゃん。いいぜ、やろうよ」

 杏子はソウルジェムを取り出し、魔法少女に変身する。さやかも答えるように、ソウルジェムを掌に乗せた。

「さやかちゃん!」
「まどか!?」

 しかしそれは、まどかの乱入で乱される。

「だ、ダメだよさやかちゃん! ちゃんと話し合って。それで、こんな方法とらなくってもいいようにしようよ!」
「なぁにそいつ。昨日も居たけどさ。ひょっとして、ソイツも仲間? ハッ、だったらお笑いだね。言ってることがまるでトンチンカンだ」
「下がってまどか。こいつだけは私が相手をする。まどかには関係ない!」
「そんな……」

 まどかの言葉を無視し、ソウルジェムが一際強く輝いた。しかしその瞬間……、

「さやかちゃん、ゴメン!」

 まどかがさやかのソウルジェムを奪い、下の国道に投げ捨てた!

「まどか、アンタ何して!」
「だって、こうでもしないとさやかちゃんが、また……」
「だからって、ここまですることないでしょ! アレが無かったら、私魔法使えなくなっちゃうんだよ!?」
「でもそれでも! 魔法少女同士で戦ってるのなんて見たくない!」
「ホントにうっざいねアンタも。アンタ達勘違いしてない? 魔法少女を正義の味方かなんかと、さ」
「ど、どういう意味よ」
「そのまんまの意味だよ。魔法少女は正義の味方なんかじゃない。ただ自分の願いを叶えて、その代償に魔女と戦う。言っちゃえば掃除屋みたいなもんなんだよ。それなのにさぁ、魔法少女同士戦ってるのを見たくない? 魔女じゃなくっても人間に危害を加えるなら倒すのは当たり前? バッカじゃないの!? 報酬が取り合いになるもんだったら争いもするし、報酬が貰えないのに仕事なんてするもんか。それとも何? 無償の奉仕が美しいとでも言うつもり? そんなんで飯が食えるかっての」

 杏子は口に咥えていたポッキーを噛み砕くと、懐から新たに数本を取り出して力任せに噛み砕いて咀嚼した。

「だからって、ソイツを見逃せば自分の大切な人が被害にあうかも知れないんだよ! それでも、アンタは放って置くって言うの!?」
「ああ、放っておくね。第一に、そんなに大切な人ならしっかりと自力で守っておけって言うんだよ。守りきれなかったら、それは単純に自己責任だろ?」
「アンタってやつは、本当にっ!!」
「あ~、お取り込み中の所申し訳ありませんが。落し物を届けに参りましたよ~?」

 さやかと杏子のケンカの最中、突然間の抜けた声がそれを遮った。

「え?」
「ど、どこ?」
「まどかさ~ん、下下~」
「し、下?」

 まどかはさっきソウルジェムを投げ捨てた国道を再び覗き込む。

「や、やっほ~。できればそこをどいてくれると嬉しいかな?」
「ア、 アスカさん!?」

 なんとそこには魔法少女姿でナックルを外し、手摺りの更に下、アスファルトの部分に片手だけでしがみついているアスカが居た。

「な、なんでそんな所に!?」
「細かい説明は後回しにして、そこをどいてくれないと上がるに上がれないんだけど……」
「あ、ああっ!! ご、ごめんなさい!!」

 慌てて手摺りから離れるまどか。そのおかげでようやく歩道橋に上がることが出来たアスカ。

「いやぁ、腕の感覚がなくなって来た時にはどうしようかと……。本当だったら手摺りに着地するはずだったんだけど、まどかさんが居たからそれもできなくって」
「ご、ごめんなさい。私、邪魔しちゃったみたいで……」
「あ~、いいっていいって。気にしないで。それとさやかさん」
「は、はい」
「これ、落し物ね」

 さやかの出した手にポトリと落とされたのはソウルジェム。アスカはまどかが国道にソウルジェムを落とした瞬間、杏子の時に見せた超加速を使ってそれをキャッチ。そのまま手摺りの下にぶら下がっていたのだ。

「あ、ありがとうございます!」
「これは本当に大事な物だから、絶対に肌身離しちゃいけない。よっ!」

 話の直後、アスカは首を大きく右に曲げた。その一瞬後、アスカの頭があった位置を杏子の多節槍が通り抜ける。

「ちょっと静かにしててちょうだいよ。今大事な話をしてる所なんだから」
「うっせぇ! なぁ、前にお前が言ってただろ? 次に会ったら決着つけようってよ。だからさ、つけようぜ。決着」

 杏子に向き直って、改めて距離を取るアスカ。後ろにはさやかとまどかが居る。

「ちょっと待っててっての。第一に、コレはキミにも聞いておいて欲しい話なんだよ?」
「あぁ?」
「さっきも言ったけど、ソウルジェムは決して肌身放さず持ち歩いても欲しい。これは、キミ達の魂そのものなんだから」
「え?」
「た、魂?」
「そうだよ。ねぇ、キュゥべえ?」
『そうだね。確かに真弓アスカの言うとおりだ』

 歩道橋の端、そこからトコトコと歩いてくるのは白い狐(?)。そのままアスカの近くの手摺りに飛び乗ると淡々と話しはじめた。

『ソウルジェム。キミ達が魔法少女になる過程で生成される宝石。これは、僕がキミ達の魂を取り出して固定化した物なんだ』
「なっ!」
「なんだって!?」
『そしてキミ達が身体を操作できるのは、せいぜい百メートルが限度。それ以上離れれば、キミ達は自分の身体を操作できなくなる』

 その言葉に、三人は絶句していた。

「キュゥべえ、キミはもう少し言葉を選んだ方がいい」
『どうして? 事実をありのまま伝えることに、なにか問題があるのかい?』
「ハァ、もういいや。お前は、ちょっとご退場願いますよっと!!」

 言葉と同時に、アスカは高速で体を捻る。それと同時にナックルを装着、ナックルはオレンジの璧から炎を吹き上げながら確実にキュゥべえを捕らえ、そのまま彼方へ吹き飛ばした。

「ア、 アスカさん!?」
「い、今のはヤバいんじゃないですか!?」
「ああ、大丈夫。アイツあれくらいじゃ死なないから。というか、アレに死という概念が備わっているのかも怪しいね」

 パンパンッ! と手を払うと。アスカは改めて三人に向き直った。

「アイツの言ったとおり。私達の魂はこの通り、身体から離れてソウルジェムとなってしまっている。まぁ、奇跡を願った代償と思ってくれればそれでいい。だからこのソウルジェムだけは絶対に破壊されてはいけない。魔女との戦いで真っ先に守らなければならないのは、自分の身体よりもこの宝石だと思って。逆に言えば、この宝石が無事なら重傷を負っても私達は生き残れるのよ。お分かり?」
「ちっ! じゃあアレかい? 私達の身体ってのは単なる端末で、そのこの石ッコロが自分の本体だとでも認めろって言うのかよ!?」
「確かめたかったらどうぞ? ソウルジェムをその場において、百メートルも離れれば。自然と意識は遠のいて、キミの身体は電池切れの玩具のように床に倒れるだろうよ」
「くっ!」

 アスカの言葉に突っかかってきた杏子だったが、嘘を言っているようにも見えないし嘘を言うメリットもない。だから、さっきから言っている事は紛れもなく本当だということだと、杏子は一瞬で思考した。

「私達。こんな物にされちゃったってことですか?」
「まぁ、ね。身体が無事でもこいつがやられちゃうとどうしようもないってのが、私達魔法少女の弱点みたいなモンなんだ。そこん所を理解して、これからは過ごして欲しい。いいかな?」
「まぁ、頭でわかっちゃいても……よ」
「…………」
「ひどいよ、こんなの、あんまりだよ……」

 杏子は苦虫を潰したように、さやかは黙して、まどかは涙を流しながらそれぞれ事態を受け入れた。

「それで、佐倉杏子さん。私に会ったら決着を付けるって約束でしたけど、どうしますか?」
「ちっ、興が削がれちまったよ。今回は止めだ」
「そう行ってくれて助かるよ」

 杏子は変身を解くとどこかへ行ってしまう。しかし、さやかとまどかはそこを動けずに居た。

「さやかさん、まどかさん……」
「ねぇ、アスカさん。戻せないんですか? もう、さやかちゃんを元に戻すことは出来ないんですか?」
「残念ながら、コレばっかりはどうしようもないんです。彼女の得た奇跡、その代償がコレですから。“等価交換”、というのをご存知ですか? 人は何かを得るためには何かを失わないといけない。それが一つの真理です。ですから私は最初に言ったんです、等価交換の原則に当てはまらないように。己の全てを賭けて、それ以上の対価を。ってね」
「でも、でも……」
「後の答えは自分で見つけ出すしかありません。……美樹さやかさん」

 ここに来て、アスカは呼び方を変える。呼ばれたさやかも何事かと目を見開いた。

「貴女が魔法少女になったとき、胸に抱いた気持ちを忘れないで下さい。自分の全てを賭けてでも叶えたい願いを見つけて、そしてそれが叶ったときの気持ちを。そして願わくは、幸せになってください」

 それだけ言うと、彼女は飛び去ってしまう。国道の街灯を足場にして信じられない速さで飛び、見えなくなってしまった。







「ん~、やっぱり言うタイミングを間違えなかなぁ?」

 とある公園、そこで携帯端末を弄りながらアスカは独り言を呟いていた。

「貴女はどう思いますか。暁美ほむらさん?」

 いや、独り言じゃない。気が付けば街灯の届かない暗闇の中から、一人の少女がこちらに歩み寄ってくる。暁美ほむら、真弓アスカと同じイレギュラー的な存在だ。

「興味はないわ。でも、私は貴女自身に興味がある」
「おや、この身体は安くないですよ?」

 まだ転校手続きを済ませていない彼女は私服姿だ。首元が少し緩めの服を引っ張ると、慎ましやかな胸を包むブラジャーが……見えない。ノーブラ、だと!?

「貴女の目的、行動理由、それに興味があるの」
「あっさりとスルーですか。まぁ、乗ってこられても困るんですけど」

 首元を戻し、つまらなそうに口を尖らせるアスカ。

「それで、教えてはもらえないのかしら?」
「キュゥべえにも同じようなことを聞かれたなぁ。私の行動理由って、そんなに興味があるものなんですか?」
「ええ、なにせ貴女は本当にイレギュラーだもの」
「まぁ、そうでしょうね。貴女が繰り返した、数え切れない回数の中に私は存在していなかったはずですから」

 その言葉の直後、ほむらは魔法少女に変身。間髪入れずにデザートイーグルをアスカの眉間に突き付けた。

「おや。何か気に障ることでも?」
「どこまで貴女は知っているの?」
「質問に質問を返すのはマナー違反ですよ。まぁ、どこまで知っていると聞かれれば、“私も未来を知っている”と答えるのが妥当でしょう」
「誤魔化す気……」
「誤魔化してなんていませんよ。それよりもこの邪魔なの退かしてくれません? 無意味なんで」
「無意味じゃないわ。脳が損傷すれば、ソウルジェムが壊れていなくてもかなりのダメージになる。最悪、再起不能になってもおかしくは……」
「だから、無意味なんですってば」

 アスカの目がスッと細まる。

「今後の展開を言い当てましょう。貴女が引き金を引く動作をした時点で、私は頭を逸らす。銃弾は私のコメカミ辺りを掠めるでしょうが、それは致命傷には至らず。直後に距離を取り私は変身を完了。貴女お得意の魔法を使われる前に私は高速移動を開始、一瞬も止まらずに移動をし続け。貴女を地面に押さえ込むと同時に武器庫でもある盾を足で押さえ、手の甲のソウルジェムに寸止めを入れる。これで決着」

 淡々と話し続けるアスカ。その言葉には確信が宿っていた。

「貴女の魔法は、動きを止める事は出来ても慣性を止める事は出来ない。そして私の動きは銃弾よりも早い」
「貴女は、いったい……」

 ほむらの顔は驚愕に染まっていた。過去のループを見ても、自分が暴露しなければ魔法の性質まで言い当てられた事はなかったからだ。

「だから言ったでしょう? 私も未来を知っているって。まぁ、譲り受けですけど」
「譲り受け?」
「おっと、失言失言」

 アスカは眉間のデザートイーグルをおくびにも意識したようすはなく立ち上がった。

「仲良くしましょうよ、同じ魔法少女同士なんですしさ」
「では仲良くする代わりにお願いするわ。鹿目まどかには手を出さないで」
「手なんて出してませんよ。彼女が魔法少女になるのだって、何度か止めてますし」
「どうかしら。貴女は魔法少女になっても構わないって素振りだったようだけど?」
「ええ。構いません。だって、そうなっても私が守りきりますから」
「ッ!?」

 ほむらが息を呑む。当然だ、だってほむらにはその発想がなかったのだから。魔法少女になってしまえばそれでおしまいと思っていた彼女は、アスカの言葉が夢物語に聞こえてならない。

「ど、どうやって……」
「さぁ、それは秘密ですよ。さて、長居をしてしまいました。今後に備えて早く寝ましょう? 夜更かしは、美容の大敵ですよ」

 アスカはそれだけ言うとほむらに背を向けた。

 ほむらは後ろから撃つことも出来たであろうが、力なくその銃を下ろした。







~~~~今週のNGシーンテイク3~~~~

「やぁ~れやれ。遅れて来てみればなんかややこしい事になってるじゃないですか」

 バァン! という何かが爆発するような音、バリンッ! という何かが砕けた音。そして……、

「ぎゃいんっ!?」

 障壁に全身でぶつかっているアスカ。



 意外と障壁が堅かったようです。




「さやかちゃん、ゴメン!」

 まどかがさやかのソウルジェムを奪い、下の国道に投げ捨てた!

「まどか、アンタ何し……」

 そこまで言って力なくまどかに倒れ掛かるさやか。

「さやかちゃん?」
『今のはまずかったよまどか。よりにもよって、友達を放り投げるなんて。どうかしてるよ』
「キュゥべえ? 何を言ってるの?」
『残念だけど、美樹さやかはもう死んだよ』


「はっ、今何時!?」



 夜半近くにそんな所でそんな事件。絶望感が増しまくる+彼女の目的が達成できないのでアウト~~~~。



バトルインほむらVSアスカ。

「暁美ほむらさん、時を止められるのが貴女だけと思わないでくださいね?」
「ッ!? まさか……」
「そう、私だって……」

 アスカは手首同士をくっつけ、指をを二本伸ばしたまま突き出した。

「時よ……」


 別の神漫画なんでアウト~~~~~。え? 『エア・ギア』って神漫画ですよね?



[34769] <さあ語りましょう、私の歩む道を>
Name: ゴリアス◆1198178c ID:ecd696c8
Date: 2012/09/05 10:50








 ピンポーン。

「はぁい。あら、アスカさん?」
「どうも、マミ・マギカ。ちょっとお話したいことがあるんですけど……」

 まどか達に真相を話した翌日の夕方過ぎ、アスカはマミの家を訪れていた。

「え、これからなの? 私これから鹿目さんや美樹さんと一緒に魔女の散策を……」
「お二人には今日マミ・マギカは私と話があると言っておきました。とても重要なお話です」

 表情から何かを感じ取ったマミはアスカを中に招き入れた。

「どうぞ入って。あいにくケーキは切らしてるんだけど、紅茶ならあるから」
「ありがとうございます。どうぞ、お構いなく」

 中に入り、紅茶を振舞われるアスカ。しかしアスカはその紅茶には口を付けず、まどか達に語ったことをマミにも語った。

 魂のこと、自分達の体のこと、そしてまどか達には語らなかった真実の更に先。ソウルジェムが魔女を生む、ということも。全てを語り終え、アスカは冷めてしまった紅茶に口を付けた。ずっと黙ってアスカの話を聞いていたマミだったが、アスカがカップの置く音を合図に話し出す。

「キュゥべえが、このことを言ったの?」
「そうですね。アイツも同じことを言ってましたよ。無論、細部は違っていますが」
「…………そう」

 再び影を落とすマミ。それも仕方がない。自分の魂がソウルジェムに変えられてしまったということだけなら、まだ耐えることができたかもしれない。しかしそのソウルジェムが魔女を生むということは、遅かれ早かれ自分が魔女になるということだ。そして今まで狩って来た魔女達は魔法少女の成れの果てということでもある。最後まで希望を抱き続けられなかった魔法少女達を狩り、いつかは自分達も魔女になる。それは、希望などない絶望のループに見えてならなかった。

「私達魔法少女は、魔女になるしかない……の?」

 マミは手の中にソウルジェムを出すと、重々しく呟いた。

「いえ、そんなことは……」
「だったらっ!!」

 その言葉と同時にマミはテーブルの上にソウルジェムを置き、拳を振り上げる。そのまま拳は振り下ろされ、大きな音を立てた。

「ハァハァハァ、な、何をしてるんですか!!」
「退きなさいアスカさん! そして放して!」
「退きません! 放しません!」

 間一髪、アスカが組み付いてマミのソウルジェムは無事だった。テーブルを跳ね飛ばし、両手を押さえつけてそのまま押し倒すように二人で縺れ合っているもつれあっている

「だって、私達はいずれ魔女になるのよ!? だったら死ぬしかないじゃない! 災厄を撒き散らし、人々に呪いを生むくらいならいっそ今ここでっ……!」
「どうしてですか! どうしてそんなに命を簡単に投げ捨てられるんですか!?」

 マミの言葉を遮りアスカは大声で叫ぶ。

「せっかく助かった命じゃないですか! こんな身体になってまで手に入れた命じゃないですか!! なんでそんな簡単に諦めるなんて言うんですか!? なんでそんな、御自分を犠牲にしてまで魔女を生むのを嫌がるんですか……」

 マミの顔に雫が落ちる。アスカは泣いていた。マミの行為に、マミの言葉に、ひたすらに泣いていた。

 せっかく手に入れた命がこんなことになっている境遇に泣いていた。彼女の献身が利用されていたことに泣いていた。彼女の思いが届かなかったことに泣いていた。自分の心が、彼女に届かないことに泣いていた。

「でも、私達は生きていれば魔女に……」
「なりません。ならせません!! ソウルジェムが絶望に染まれば、それは魔女となる。だったら、貴女に絶望なんて抱かせません!」
「無理よ、だって私は……」
「私が居ます!」

 顔を背け、それでも否定しようとしたマミにアスカは顔をさらに近づけて言い切った。

「貴女が絶望に染まりそうになったら、私が頬を叩きます! 貴女が戦えなくなったなら、私が代わりに戦います! 貴女が魔女になりそうになったなら、もしそうなったなら……」

 言葉をそこで切り、アスカは目を閉じた。そして決意を再び固め、目を見開いて言い切る。

「私が貴女を殺します。そのソウルジェムを砕いて!」

 アスカの言葉に、マミもまた目を見開いた。

「どうして貴女はそこまでするの?」
「……理由は、今は言えません」
「本当に、信じていいの?」
「もちろんです」
「これから、一緒に戦ってくれる? 独りぼっちにしないでくれる?」
「今すぐには難しいですが、もうしばらくお待ち下さい。必ずや、貴女の元に馳せ参じます」
「私、もう独りじゃないのね?」
「はい。私も、さやかさんも、まどかさんも居ます。だから、絶望になんて染まらないで下さい。貴女は、私の希望なんです。マミ・マギカ」
「もう、マギカなんて恥ずかしいってば」

 マミの顔が穏やかになったのを見て、アスカは拘束を解いた。ゆっくりと起き上がったマミは、アスカの手を取った。

「貴女は優しい人ね。会ってまだ一週間も経ってない私の為に泣いてくれるんですもの」
「言ったでしょ。貴女は私の希望だって。貴女の為なら命の一つ、喜んで賭けてみせますよ」
「ダメよ、命を賭けるなんて簡単に言っちゃ」

 そう言いながら、マミは微笑んだ。

「これから、パートナーになるんだもの。私より先に死んだら承知しないわよ?」
「はい、お約束します。貴女より先に私は死にません。そして貴女が死ぬときは、私がお側に」
「よろしくね、私の騎士さん」

 マミの言葉にアスカは目を丸くすると、マミの手を放し少し離れ、座っているマミに片膝で頭を垂れた。

「誓います。私の拳、この脚、この命。その全てを賭けて貴女をお守りします。貴女の絶望、憎悪、未来への災悪、私が打ち砕きましょう。ですからどうか、心静かに……」

 マミは少し笑って、片手を差し出した。

「どうぞ、宜しくお願いね」
「イエス、ユアハイネス」

 その手を取り、アスカは手の甲に口付けをした。







 深夜。とある路線の電車の中、さやかは憔悴しきっていた。

 自らの身体を異質な物に変えられ、好意の相手は友人に取られ、その腹いせに同情してくれたまどかにあたり、同じ魔法少女からは殺されかけ。本当に疲れ果てていた。そんな中、二人組みのホストの言葉が嫌でも耳に入ってきた。

 女はペットだ、躾けなくてはいけない、つけあがらせてはいけない、捨てる時がメンドウだ。そんな言葉が嫌でも耳に入ってくる。

 さやかはのろりと立ち上がり、その二人の前に立つ。

「ねえ、その話もう少し聞かせてよ」
「は? なに、キミ」
「ねえ、さっきの女の人の話、もっとよく聞かせてよ」
「お嬢ちゃん中学生? 夜遊びはよくないぞ」
「その人、アンタのこと好きだったんでしょ? 喜ばせたくって頑張ってたんでしょ? アンタにもそれが分かってたんでしょ? なのに犬と同じなの? ありがとうって言わないの? 役に立たなきゃ捨てちゃうの?」
「なにコイツ、アイツの知り合い?」
「さ、さあ……」

 ホスト達も困惑し始める。

「ねえ、教えてよ。私って……」

 さやかが言葉を紡ぐよりも早く、突然舞い込んだ人影がホストの一人の腹部を殴打した。

「ゲハッ!」
「女ナメんな、クズども」
「お、おい、なんだテメェ……ゴホッ!?」

 そしてそのまま立ち上がったもう一人のホストの腹部にも、強烈な膝蹴りが叩きこまれた。

「職業上、顔は殴らないで置いてあげます」
「あ………、アスカ、さん?」
「行くよ!!」

 さやかの手を引いて、かばんを肩にかけたオレンジ髪。アスカは列車の前車両へ走り出す。

「いやぁ、危なかった。男の人殴ったのなんか小学校以来だよ」
「あの……、アスカさんどうして?」

 次の停車駅で降りたアスカとさやか。とりあずあの二人が追ってきていない事を確認すると、駅のホームに設置されているベンチに座っていた。

「ん? いやなに、さやかさんの様子がおかしかったもんでね。恥ずかしながら、見滝原の駅からずっと尾行させてもらったのさ」
「付いてきてたんですか……」

 俯いたまま、さやかは声も小さく答えた。

「うん。それに、キミには必要だと思って渡しに来た」

 そう言って、アスカはポケットからグリーフシードを取り出した。

「もう限界だろ? さっさと使った方がいい」
「いいです。私、まだ戦えますから」
「ふぅ、ねぇさやかさん。キミは、もしかして自分を人間じゃないって思ってんじゃないのかな?」

 その言葉に、さやかは俯いていた顔を上げる。

「やっぱりねぇ。まぁ、無理もないか」

 アスカは頭の後ろをかきながら足組みをした。

「ねぇさやかさん。仮にキミが人間じゃないとして、その根拠は?」
「だって!」

 さやかは掌にソウルジェムを乗せてアスカに見せる。

「私、こんな姿になっちゃったんですよ!? こんなの、もう、人間じゃない! 身体だって、痛覚をなくせるし! どんなに殴られたって、全然痛みなんて感じない!! この宝石が砕けたら、私死んじゃうんです! こんなの、人間じゃない! 人間じゃないんですよ!!」
「貴女は何をもって人間を人間と認識しているか、が問題だと思いますよ。じゃあ聞くけど、上条恭介くん。彼は今問題は無いみたいだけど、彼が左手を使えなかった時も。キミは彼を人間じゃないって断じたのかい?」
「え?」
「だって彼の左手は感覚そのものが無くなってたんだ。血を出しても、指を折られても、触っても、全く痛覚もないし感覚もない。そんな彼を、キミは人間じゃない。左手だけはゾンビだって言い切ったのかい?」
「そ、そんなことッ!!」
「じゃあそれと同じ事なんじゃないですか?」

 アスカは優しく微笑んだ。

「貴女の場合は、ちょっと人よりも頑丈になって、急所が変わっただけ、ただそれだけなんですよ。人間と同じ姿で笑い、人間と同じ感情で泣き、人間と同じ言語で怒る。そんな貴女は、誰よりも人間らしい。他の誰が否定しても、私がそれ以上に肯定します。貴女は人間だ、それ以外の何者でもない!」

 さやかはしばらく呆けていたが、その眼からは一筋の涙が零れた。

「私、人間でいいんですか?」
「もちろん」
「こんな身体でも、人間でいいんですか?」
「誰がそれを否定なんてするもんですか」
「こんな身体でも、人を愛していいんですか? 愛されていいんですか?」
「愛し、愛されて下さい。それだけが、私から貴女に望むことです」
「私、戦わなくってもいいんですか?」
「魔法少女にも、幸せになる権利はあると思います。さぁ、こんな所でいじけてないでっ!」

 さやかの取り出していたソウルジェムに、アスカはグリーフシードを当てた。ソウルジェムの黒い光を吸収しグリーフシードが黒く染まる。それを見てアスカはホッと息をついた。

「後は幸せを掴んできて下さい。貴女が望んだ、貴女の思いを寄せる人と共に」
「でも、恭介は……」
「あ~、それなんですけどね? 実は、私が邪魔しちゃいました」
「え?」
「いやぁ『人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてなんとやら』と言いますけどね。ちょっと魔法で新聞記者に変装しまして、緑色の髪の女の子と良い雰囲気になっている所に突撃レポートかけちゃいました。一緒に居た緑髪の子はある程度まで待ってたんですけど、途中で帰っちゃいまして。まぁ、私も興が乗っちゃったせいで遅くなっちゃったんですけどね」

 どうやらさやかが盗み見をし終わった後、彼女は彼女なりに動いていたということらしい。

「ついさっきまで念入りに密着取材してきました。ほらコレ、取材ノート(仮)」

 アスカは肩にかけていたかばんから、一冊のノートを取り出すと中を見せる。そこには上条恭介が語ったこと、これからのこと、尊敬する作曲家や演奏者、その他色々なことが書かれていた。

「この情報の中に、貴女が知らないことがありますか?」
「…………ない。みんな、私が知ってることだ」

 彼女が入院中に聞いていたこと、その全てがそこには書いてあった。彼の好きな作曲家、演奏者、趣味、好きな色、食べ物、ケガが治ったら何をするか、これから何をしたいのか、学校でなにをするのか、中の良い友達。全部が全部、さやかの記憶の中にある物と一致する。

「でしたら、それが表として見せる彼の全てです。そしておそらくそれを一番理解できているのは、他でもない貴女だ」

 さやかから取材ノートを受け取ると、アスカは再び優しく諭すように言った。

「あとは自分の気持ちに素直になるだけ、絶望なんて軽く吹き飛ばして下さい。これ以上ウジウジするようなら私が彼に言ってきちゃいますよ? 『キミのケガはさやかさんの犠牲によって回復したんだ』って」
「そ、そんなの! 絶対にダメです!!」
「じゃあ、どうすればいいか。後はわかりますよね?」
「アスカさん………。はいっ!!」

 さやかは勢いよく立ち上がると、アスカに深々と頭を下げた。

「あの、ありがとうございました!!」
「お礼は結果が出てからにしてくださいよ。さぁ、こんな所で油売ってないで。ずっと探してくれた親友にも、ちゃんとお礼を言うんですよ?」
「まどか……。ありがとうございます、行って来ます!!」
「はいはい、いってらっしゃい」

 アスカの返事も聞かずにさやかは走り出した。その背中が見えなくなってから、アスカはグッと背中を伸ばす。

「ふぅ、ミッションコンプリート。かな?」
『余計なことをしてくれたね、真弓アスカ』

 しかしそこに、突然キュゥべえが現れた。

「ああ、キュゥべえ。ちょうどよかった。これ、回収してって」

 アスカがさっき使ったグリーフシードを放り投げると、キュゥべえはその背中の模様のような所でグリーフシードを食べた。

『きゅっぷぃ。美樹さやかが魔女になれば、鹿目まどかには届かなくともかなりのエネルギーの回収になったというのに』
「ゲップは下品よ。それに言ったでしょう? あの五人を好き勝手できると思ったら大間違いだと」
『キミの行動理念は粗方理解できた。キミはあの五人を、死なせも魔女にもしないために動いている。違うかい?』
「御明察。よくわかったと褒めてあげるわ」
『まぁキミの行動理念だけでもわかっただけ良しとしようか。正直、今美樹さやかに魔女になられるのは僕達としても痛手だったからね』
「だからと言って、鹿目まどかに手を出そうとしているんだったら。そうは問屋が卸さないわよ?」
『気長に待つさ。だって、キミは長生きできそうにもないからね』
「長生きなんて望んでないわよ。私はただ、あの五人を守りきれればそれでいいの」
『魔女と戦って死ぬか、絶望して魔女になるか。キミの結果が楽しみだよ真弓アスカ。キミもまた、まどかに及ばずともそれ相応の資質を持った少女だからね』
「あら、私はただの一般中流家庭の長女よ?」
『さぁ、何故だかはわからないけどね』
「どの道魔女にはならないわ。そうなる前に、私は自分自身にケリをつけるから」
『そうならないことだけを願うとするよ』

 それだけ言い残して、キュゥべえは来たときのように去っていった。







~~~~今週のNGシーンテイク4~~~~

「巴マミが命じる。私の騎士となれ!」
「イエス、ユアハイネス」



 マミさん外道過ぎ……。そして別作品なのでアウト~~~~。





[34769] <さあ祈りましょう、私達の平穏を>
Name: ゴリアス◆1198178c ID:ecd696c8
Date: 2012/09/09 23:11







「え~、今日は、転校生を紹介する」
「真弓アスカです。三年のあと僅かな期間ですが、宜しくお願いします。得意な事は掃除、好きな事は甘い物を食べること、最近はまっている事は占いです。仲良くしてください、ね?」

 その日、真弓アスカは見滝原中学校に転校した。

「アスカさん、分からないことがあったら何でも聞いてね。できる限り力になるつもりよ」
「はい。宜しくお願いしますね、マミ・マ……、巴、さん」
「もう、マミでいいわよ」

 マミのクラスに転校してきたアスカは、滑り出しも上々にクラスに馴染んでいた。マミのサポートもあってか、特に問題もなく一日は終了。下校となった。

「アスカさん、帰りましょう。それと、今日も町の散策があるんだけどご一緒にいかがかしら?」
「是非ともご一緒させてもらいますよ。私のやることってのも終わりが見えてきましたし。貴女の元に、そろそろ馳せ参じられそうです」
「あら嬉しいわ。よろしくね、私の騎士さん」
「そうだ。まずはまどかさん達の教室に寄って行ってもいいですか?」
「鹿目さんの? 別に構わないけど、どうしたのいったい?」
「ちょっと気になることがありましてね」

 アスカとマミは揃って教室を出て、そのまま二年生の教室へと移動する。すると途中でまどかに出会う。

「あ、マミさん。アスカさんも」
「あら鹿目さん。今、貴女の教室に行こうとしてたのよ」
「私達の、ですか?」
「そうそう。さやかさん、戻ってきてるよね?」
「あ、はい。あの、さやかちゃんから聞いたんですけど。アスカさんが探してくれたって」
「私は探すなんてしてないよ。偶然見かけて、そのままちょっと話をして、そんで分かれただけさ」
「でも、さやかちゃんすっごく元気になって。さっきも上条くんと一緒に帰ったり。ホントに、アスカさんと話してからいつものさやかちゃんに戻ったんです。だから、ありがとうございました!」
「そんな、お礼なんて止めてよ。それよりもさやかさん、上条くんと一緒に帰っちゃったのかい?」
「え? あ、はい。さっき一緒に教室を出て行きましたよ」
「あちゃぁ、入れ違いか。アレからのことを聞きたかったんだけど……」
「アスカさん、貴女がここに来たのって美樹さんに用事があったからなの?」
「ええ、まぁ。そうなんですけどね……」

 途端、アスカの顔が何かを思いついた顔になった。

「あのですね、お二人とも。ちょぉっとこれからお時間よろしいですか?」
「え? はい。私は、大丈夫ですけど……」
「あら、何か思いついた顔ね。どんなこと?」
「ニシシシシ。デ☆バ☆ガ☆メです」








『ちょ、ちょ、アスカさん。まずいですよ』
『そ、そうよアスカさん。よりにもよって、尾行なんて……』
『だぁって気になるじゃないですかぁ。ほらほら、あそこに居ましたよ!』

 茂みの中に身を隠しながら念話で語り合う三人、彼女達はとある人物達を尾行していた。その人物達とは……

「久しぶりだね、さやかとこうやって下校するのは。最近声をかけてくれなかったから、ちょっと気になってたんだ」
「そ、そうかな? ゴメンネ、ちょっと回りが忙しくって」
「いいよ、さやかも大変なんだろうし。そういえば、この間も帰ってる途中に志筑さんに会ってね……」

 隠すまでもなく、恭介とさやかだ。恭介の方は松葉杖、その恭介の歩幅に合わせるようにゆっくりとした歩調で歩くさやか。二人で中睦まじく歩くその姿は、馴染み過ぎていてカップルを通り越して夫婦の域まで達しているようだった。

『うぉぉぉ! 良い雰囲気! 行け、さやかさん! そこで一発アタックだ! 私のターン、ドロー! 狂戦士さやかを攻撃表示で!!』
『や、止めましょうよこんなこと! 気付かれたらどうするんですかぁ』
『そんなこと言って、まどかさんも目が離れてませんよ~? ほら、公園のベンチに座った! 行け行けさやか! GOGOさやか!』
『ちょ、止めなさいってばアスカさん! それにもうちょっと距離を取らないと! 念話が混線したら大変よ!』
『おっとっと、それはまずい。それだけは防がないといけませんね。さすがマミ・マギカ。ところで、さっきから止めようと言いながらもガン見してるのは何故です?』
『え、ええっ!? そ、そんなに見てないわよ。た、ただ、その、美樹さんの尾行が今回の目的でしょ。だったら対象に勘付かれた素振りがないかチェックしていただけの話よ!?』
『マミ・マギカも結局はお年頃と言うだけの話なのでした、マル』
『アスカさぁ~ん、勝手に締め括らないで貰えるかしらぁ~?』
『ふ、二人ともケンカはダメですよ。あ、ほら、さやかちゃんと上条くん。さっきよりも距離が近くなってますよ!』
『そう言いながらも、きっちりと観察しているまどかさんなのであった』
『ふぇ!?』
『まぁ、からかうのはコレくらいにして。さてさて、どうなるどうなる?』

 まどか、アスカ、マミの三名は再び声を殺して二人の様子を観察デバガメし続けた。

「さやか。退院する前はひどい事言ってごめん。ずっと、ちゃんと謝りたかったんだ」
「そ、そんなの気にしないでよ! 恭介はあの時、お医者さんにも匙投げられて自棄っぱちになってただけだしさ」
「そうだね。でもさやかは、ずっと側にいてくれた。事故にあった後も、その前も、僕が自棄を起こしたときも、何をするときも。僕の病院での生活は、さやかが居なかったらずっと暗いものになっていて、もっと早くに自棄を起こしていたかもしれない」
「恭介……」
「だからさやか、本当にありがとう。君が居たから、僕はあの時奇跡を授かることができたんだ。諦めていたら、きっと奇跡は舞い降りなかった。君のおかげだ」
「ううん。恭介が必死に頑張ったからだよ。私は見てただけ」
「見てくれていただけ。それだけでも十分だよ、さやか」
「……恭介」

 顔を赤く染めているさやかと、本当に心の底から感謝していることが分かる眩しい笑顔を浮かべている恭介。二人の距離がさらに狭まる。

『うわぁうわぁうわぁうわぁうわぁうわぁうわぁうわぁうわぁうわぁうわぁうわぁ!?』
『まぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁ!?』
『さ、さ、さ、さ、さ、さ、さやかちゃんが、お、お、お、お、お、大人の階段を~!?』

 デバガメトリオもヒートアップ!!

「あのね、恭介。じつは私……」
「お、お待ちになってください!!」

 しかしここで、思わぬ乱入者を迎えることとなってしまった。

「ひ、仁美!」
「さ、さやかさん、ずるいですわ! 昨日まで待つと約束して、なにもアクションを起こさなかったのに! こんなの不意打ちです! 卑怯です!」

 その乱入者とは、先日アスカが邪魔をした緑髪。まどかとさやかの親友、志筑仁美だった。

『み、みぃぃどぉぉりぃぃがぁぁみぃぃ~~~!! ここでか、ここで乱入するか普通ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?』
『え? ど、どなたなの、彼女は?』
『え、えっと。私とさやかちゃんの親友で、志筑仁美って子で。彼女も上条くんのことが好きみたいなんです』
『ってことは、三角関係なの!?』
『迂闊だったぁぁぁぁ!! こんな所でデバガメしてないでアイツの動向を探るべきだったぁぁぁぁぁ!!』

 アスカが頭を掻き毟りながら悶絶しているが、こうなってしまっては後の祭りだ。

「ひ、卑怯なんかじゃないわよ! 仁美だって昨日なんにもしなかったってことじゃない! だったら結果は引き分け。後は早い者勝ちでしょ!?」
「き、昨日は思わぬ邪魔が入ってしまったんですの! ですけど、まだわたくしの順番のはずですわよ!」
「え、え~っと、さやかに志筑さん。二人ともお、落ち着いて」
「「なに言ってんのよ(言ってるんですの)!? 落ち着いてなんて居られるわけないでしょ(居られませんわ)!!」」
「ええっ!?」
「ともかく、今はわたくしの番なんですからさやかさんは引いてください!」
「こ、こればっかりは譲れないよ! いくら仁美でもこれだけは譲らない!」
「いいですわ。では公平に勝負と参りましょう!」
「望むところよ!」
「だ、ダメだよそんな。女の子同士で勝負なんて!」
「「恭介(さん)は黙ってて(下さい)!!」」

 そんな様子をみて、デバガメトリオは後ろを向いて撤退を始めた。

『あ~、こりゃもうダメだ。完全に雰囲気ぶち壊し』
『そう、ね。これ以上見てても泥沼関係になることが見えてるもの』
『え? あ、あの! あの二人、止めなくってもいいんですか!?』
『いや、止められるものなら止めるけど。まどかさんはあの剣幕に割って入るつもりですか?』
『え? そ、その……』
『あそこまでヒートアップしちゃったらもう冷めるまで待つしかありませんよ。もしくは、何か他のことに意識を向けない限り………』
「あ~ん~た~た~ち~、何やってんのぉ~~~?」

 ビクッと三人はその声に反応し、そぉっと後ろを振り返る。そこには魔女すら凌ぐ凄まじい威圧感を放つさやかが居た。

「いきなり念話が混線してきたかと思えば……」
「あ、あはは~。私一抜け!」
「ず、ずるっ! 私も二抜けよ!!」
「そ、そんな! アスカさん! マミさん!!」
「まぁ~どぉ~かぁ~?」
「は、はいっ!」
「何をしてたのぉ~?」
「それは、その……。さやかちゃんと、上条くんのことが気になって、ね?」
「それで、隠れて見ていたってわけ?」
「う、うん」
「うぅ~~! あの二人はぁ~!!」

 さやかの怒声が茜色の空に響き、全速力で逃げ去る二人の背中にも確かにその声は届いた。







「いやぁ、昨日は散々な目にあったね」
「笑い事じゃないですよぉ。さやかちゃん昨日は口きいてくれなかったんですから」
「まぁまぁ鹿目さん。美樹さんも本気で怒ってる訳じゃないはずだから、きっと話せばわかってくれるはずよ」

 さやかのデバガメを終えて翌日。まどかと、途中で合流したマミとアスカは一緒に登校していた。

「アスカさんはマミさん家の近くなんですか?」
「近くというか、昨日は泊めてもらったよ」
「だって彼女、今は漫画喫茶やビジネスホテルに泊まってるって言うのよ?」
「いやぁ、拠点の確保に失敗しまして。この身一つで魔法少女なんてもんをやっておりますと、そこら辺が無頓着に……」
「家でよかったらまた来なさい。貴女なら大歓迎よ」
「あざっす、ごちになります。マミ・マギカ」
「もう、マギカは止めてったら」

 漫才のようなことをやっていると、まどかは人込みの先に歩く青い髪を見つけた。

「あ、さやかちゃん。お二人とも、昨日の事は謝ってくださいね?」
「ええ、わかってるわよ」
「きっちりと謝罪しておきますか。かくなる上は、この腹を掻っ捌いて……」
「アスカさん、止めてくださいね。ここ、通学路ですし……」
「ツッコミが弱い! なんと嘆かわしい、大阪の血はどこへ行ったのか!?」
「私に大阪の血なんて流れてませんよ!」
「そ、それよりも二人とも。早くしないと美樹さんを見失うわよ?」
「おっとっと、いけないいけない」
「あわわ、さやかちゃん待ってぇ~」

 三人は慌てて駆け出し、人込みに紛れているさやかをようやく見つけ出した。

「おはよう、さやか………ちゃん?」
「おはよう美樹さ………あら」
「おはようっす、昨日はすいませんでしたねさやか………さん?」
「あ、おはようございます、マミさん、アスカさん。おはよう、まどか」
「あ、おはようございます。えっと、先輩方。それに、鹿目さん」
「あら、おはようございます。先輩方、それにまどかさん」

 人込みに隠れて見えなかったが、さやかの隣にはもう二人いたのだ。一人は上条恭介、さやかの思いを寄せる男子生徒。もう一人は志筑仁美、まどかとさやかの親友で恭介に思いを寄せる女子生徒。現在上条は、さやかにカバンを、仁美に小物入れを持ってもらい、自分は松葉杖で登校していた。

「えっと、この状況を簡潔に説明しますと、女子二人をはべらせている好けこましって状況なんですけど。さやかさん、説明いいですか?」
「え゛、恭介が好けこまし!? ち、違いますよ!」
「そ、そうです! 全くの誤解ですわ!」
「僕としても、その誤解はご遠慮したいですね。えっと……」
「ああ、自己紹介が遅れたね。私は真弓アスカ、三年だよ」
「私は巴マミ、アスカさんと同じく三年生よ」
「あ、上条恭介です」
「志筑仁美と申します」
「おおう、正統派美少年と良い所風のお嬢様。特に美少年は得点高いぞ。ねぇ少年、年上のお姉さんとかに興味はなぁい?」

 急にアスカが色っぽい声を出し、顔を恭介に急接近させて顎を撫でた。

「えっ!? そ、その………!!」
「恭介さん!!」
「恭介っ!! アスカさんも冗談止めてください!!」
「あらぁ、冗談じゃないかもよ? 美少年を誘惑するって言うのも、年上の醍醐味じゃないかし………」
「アァ~スゥ~カァ~さぁ~ん?」

 更に冗談を言い続けるアスカにキレたのは、さやかでも仁美でもなくマミだった。背後に幽鬼を漂わせ、『今すぐその冗談を止めないとティロ・ボレーだ』とでも言わんばかりの殺気。アスカの動きが完全に固まる。

「冗談はぁ、ほどほどにしましょうねぇ?」
「はははははははははははいいいいいいいいいいいい」

 超高速で上下する顎。舌を噛まなかったのは幸運だろう。

「ね、ねぇ、マミさん。どうしたの?」
「さ、さぁ?」

 マミの様子に、まどかもさやかも怯え気味だ。

「コホンッ、まぁ冗談はさて置き。このハーレム的な状況。どういうことか説明してもらえますよね? 確か昨日はお二人ともケンカしていたはずですけど……」
「え、ええ。まぁ、そうなんですけど……」
「結果的に、お互いに何もできなかったということで引き分けとなりまして……」
「それで、また今日からお互いに恭介にアピールしようってことになって……」
「一時休戦、ということですわ」
「なるほどなるほど。よかったな少年くんキミは男の一つの夢、ハーレムを手に入れたぞ!」
「ハ、ハハハ。急になんだか分からないうちに勝手に決められて、三年に上がる前に結果を出してと勝手に言われることをハーレムって言うんですかね?」
「頑張れ少年、それが漢の甲斐性だ」
「こんな甲斐性が必要なら、ハーレムなんて望みません」
「……今度、一杯奢ってあげるよ」
「……遠慮します、後が怖いですから」

 既にきっちりと躾けられている様子である。

「さて、早く教室に入らないとこのままでは遅刻になりますよ。ところで、暁美ほむらさんはご一緒じゃないんですか?」
「ほむらちゃんは……」
「転校生は何でか知らないけど、私達と壁作ってんですよね。何ででしょう?」
「そんなぁ、仲良くしましょうよ。同じ見滝原の学生なんですからさ」
「私は、そうしたいんですけど」
「私としても、過ぎたことを謝りたいのだけれど。どうにも彼女が心を開いてくれないと、ね」
「いいんですよ、転校生のことなんて。アイツなんか私達に隠してるって言うか、手の内を見せてないって言うか、そんな気がするんですよね。勘なんですけど」

 さやかの言葉にアスカは苦笑する。

「そこもふまえて仲良くしましょうよ。限られた平穏を」
「限られた平穏?」

 アスカの言葉に仁美が反応する。

「あ! いや、その! ほら、私達三年って来年卒業じゃない? だから、忙しくなるなぁって」
「ああ、そうですわよね。残念ですわ、せっかくお知り合いになれたのにもう来年には卒業なんて」
「またいつでも会えますよ」
『アスカさん、気をつけましょうね』

 仁美に笑顔で返事をした後、アスカは念話でマミのお叱りを受けた。

『私達魔法少女の事はなるべく秘密に。ね?』
『はぁい』
『そうですよ、アスカさんが平穏とか言うから私背中が伸びちゃいましたもん』
『あはは、ごめんねさやかさん』
『アスカさん、心臓に悪いですよ』
『ご勘弁を、まどかさん』
『じゃあとりあえず、その守られた平穏ってやつをぶち壊しにされたくなかったら。ちょっと面貸してくれない、真弓アスカ』

 四人の和気藹々とした念話に、突然割り込んできた荒々しい声。暁美ほむら以外のもう一人の魔法少女、佐倉杏子だった。

『へぇ、この平穏をぶち壊すと? その前に、両手両足をへし折りますよ?』
『いいねぇ、今回はしっかりと怒ってくれるんだ。前回は変に上から目線だったからよぉ、今回はお互い全力でやれそうだな』
『や、止めなさい佐倉さん! また変にことを荒立てるつもり!?』
『そ、そうですよ! もう魔法少女同士で戦うのなんて止めてください!』

 マミとまどかが口々に抗議するが、杏子は聞き入れるつもりもなさそうだ。

『ハァ、なにアンタ達。まさかまだ仲良しこよししようとか思ってんの? 冗談! アタシはね、借りたもんはきっちりと返す主義なんだ。それが物であれ、恩であれ、恨みであれね』
『でも……、でも……』
『よしなまどか。アイツには何を言っても通じないよ。私達とは物の考え方が違いすぎるんだ』

 何かを知っているらしいさやかが、まどかと杏子の念話に割り込んだ。

『アイツはね、自分の願いで家族を亡くしちゃったんだ。だから自分のため以外に魔法を使うことの怖さを知ってる。知ってるからこそ、怖がって使えないの。でもアイツの考え方も分かるよ。だって、私も一回世界に絶望しかけてたもん。でもさ、アスカさんが言ってくれた。私達は人間でいいんだって、私は戦わなくってもいいんだって。そしたらさ、なんかすっごい気が楽になった』
『ハンッ! お気楽な考え方だね。自分の為に戦う、自分の為に魔法を使う。それの何が悪いってのさ』
『悪いなんて言ってないよ。でも私は、マミさんの考え方のほうが好き。この力を使って、多くの人達を救ってあげたい。だから私は魔法少女を続けるの』
『そうかいそうかい。アレだけ言ってもやっぱり分からなかったってことだよね』
『理解はしてるよ。でもその上で、私は自分の道を見つけて、そして選んだの』
『………チッ!』
『さぁって、お話はまとまった所で。そろそろ場所についてお話しましょう、佐倉杏子さん?』
『……ああ、いいぜ。どこでやる?』
『ア、 アスカさん!』
『大丈夫だって、まどかさん。時間は放課後、場所は………』

 アスカはイジワルそうな顔をしながら杏子に場所のしだいを伝えた。







~~~~NGシーンテイク5~~~~



「え~、今日は転校生を紹介する」
「ただの人間に興味はありません。この中に(ry」

 はい安直過ぎてアウト~。




『うぉぉぉ! 良い雰囲気! 行け、さやかさん! そこで一発アタックだ! 私のターン、ドロー! 狂戦士さやかを攻撃表示で!!』
「やぁっと出番だぁ! ストレス溜まりすぎて爆発寸前だァ!! さぁ、誰死ぬゥ!?」

 うん、アウト。これじゃ美樹セラレーターだ。ちなみにこのセリフはニコニコ動画でご活躍中、ゴギガガガギゴ様のセリフから拝借(無断で)しました。




[34769] <さあ紡ぎましょう、私達の普通を>
Name: ゴリアス◆1198178c ID:ecd696c8
Date: 2012/09/15 01:31







「そりゃぁよぉ、決着つけようとは言ったぜ? でもよ………」

 アスカ達の授業は恙無く終わり、時刻は放課後。その場にはアスカと杏子以外に、マミ、まどか、さやか、恭介、仁美、そしてなぜかほむらまで同席している。そしてその場所の中心では私服姿の杏子と空手着姿のアスカが準備運動をしているが、杏子が我慢できなくなったのか青筋を浮かべながら――――

「なんで柔道場ここなんだよぉーーーーー!!」

 柔道場全体に響き渡るほどの大声で叫んだ。

「第二に、なんでこんなギャラリーが居るんだ。聞いてねぇぞ!?」
「わ、私はその、アスカさんに誘われて」
「同じく~」

 まどかは気まずそうに、さやかは笑いながら――――

「僕はさやかに一緒に見てくれって言われたから」
「わたしくは恭介さんとご一緒に」

 恭介も仁美も苦笑いをしながら――――

「そして私は立会人として」
「私は鹿目まどかに頼まれて」

 マミは微笑んで、ほむらは無表情のまま。それぞれ答えた。

「いやぁ、転校して日が浅い私の頼みを聞いてくれるとは思えなくって。已むを得ず、マミ・マギカを頼っちゃいました」
「そこで私が立会人を買って出たのよ」
「だからってよぉ……」
「ギャラリーは多い方が燃えるでしょ。それともなに、もしかして大観衆の前で負けるのが怖いとか?」
「いいぜぇ、そんなに負ける姿を誰かに観て欲しいって言うならよぉ!」

 杏子がソウルジェムを取り出すが……

『ストップ! ここでの魔法の使用は厳禁です』
『ハァ!? なに言ってやがる!!』

 アスカが慌ててそれを制した。

『周りをよく見てください。一般人も居るんですよ? 魔法関係のことをよく知らない人を巻き込むつもりですか?』
『………くそがっ! じゃあどう勝負をつけるって言うんだよ!?』
「では、佐倉さんにはコレで戦ってもらうわね」

 念話の区切りをみて、マミが壁に立て掛けてあった薙刀を杏子に手渡した。

「使い慣れてる得物がいいと思って、私が用意したわ。不安があるようだったら確かめてちょうだい」
「いいよ。巴マミが言うんだったら確かなんだろ。で、真弓アスカは何を使うってんだよ」
「私は得物なんてないわよ。強いて言うなら、これが私の武器」

 アスカが示したのは手に填めている空手のサポーター。拳骨の部分と、手首の辺りにメッシュが詰まっているごく普通の物だ。

「おいおい、ふざけてんのかよ! 剣道三倍段って知らねぇのか!?」

 剣道三倍段。通常武器を持った者に武器を持たない者が勝つには、武器保有側よりも三倍は優れた技能を持っていなければ勝てないという格言である。事実、剣や槍といった得物のリーチは凄まじく。無手の者は何もできずに敗北するケースが多々ある。

「ご心配なく。私はこれで十分に戦えます」
「……OK、だったら文句はねぇや。後で変な言い訳すんなよ?」
「佐倉杏子さんこそ、得物を使ったのに勝てなかったのは魔法を使ってなかったほんちょうしじゃなかった。なんて言わないでくださいね?」
「上等だよ」

 杏子はその言葉と同時に薙刀を構える。アスカも杏子が構えるのを見ると同時に左手を前にして指を軽く曲げ、右手は腰の位置に、空手の手刀構えをとった。

「それでは両者、武器や状況に異論はないわね?」
「ねぇわけじゃねぇけど、いいぜ」
「同じく」
「それじゃルールの再確認。投げ、肘、膝、頭突き、全てあり。基本的にフルコンタクト、しかし相手への止めの一撃だけは寸止めで。一本先取制。いいわね?」

 マミはいったん言葉を切り――――

『それと、魔法の使用は厳禁』

 それを付け加えた。

「はい」
「了解」
「それでは………始めっ!!」

 マミは右手を高々と上げて、開始を宣言した。

「しゃっ!」
「ッ!!」

 マミの言葉と同時に杏子が動いた。まさしく神速の一撃、魔法による加速がなくとも視認することすら難しい点への打突。しかし神速のそれを、アスカは寸での所で左手を使いずらしていた。

「やるじゃん。一撃当てるつもりだったんだぜ?」
「だったら本気で行きましょうよ。右肩なんて狙ってないでさ」
「言ってくれるじゃんかよ!」

 杏子は素早く距離を取り、そのまま打突の連打を放つ。しかしそれを全て見切り、両手を使って捌くアスカ。掠めたり、手に当たったりはしているが、未だに胴や顔に当たった形跡は一つもない。

「どうした! 避けるだけで精一杯か!?」
「だったら踏み込みましょうか?

 ほんの一瞬だった。杏子が放った打突をミリ単位で避け、そのまま一歩踏み込む。そして当然杏子が薙刀を引き戻すよりも早く一撃を叩き込んだ。

「おおっと、あぶねぇ!」

 しかしそれを身体ごと捻ってかわした杏子は、そのまま床を転がり薙刀を構えなおす。

「ちっ、やっぱりバラせないコイツじゃやり難いぜ」
「こっちもですよ。さっきので一撃は入れえるつもりだったのに、かわされたのは予想外です。やはり加速がない以上、もう0.5秒は前倒しにしないと」
「やり難いのはお互い様ってわけかい。それじゃ、仕切りなおしだ!」

 杏子とアスカが再びぶつかり合う。スピードで翻弄しリーチの強さを前面に押し出してくる杏子と、打突の欠点でもある引き戻しを利用し懐に入り込もうとするアスカ。スタミナの続いている限り、両者は拮抗しているように見えた。

「ちっ、やっぱりこのまんまじゃどうしてもスピードに劣るな」
「こっちもですよ。それに踏み込みにくいったらありゃしない」

 しかししだいに二人とも息を切らし始めた。元々魔法少女としてのスタミナを前提とした戦い方が二人のスタイルだ、生身で動き回れば当然ながらどこかで底は尽きる。二人もそれが分かっているからこそ、勝負を焦っていた。

「しかもお前、なんだよその戦い方。防御の隙が無さ過ぎて牽制の意味すらねぇじゃねぇか」
「“空手の真髄とは防御にあり”、かてつ私にコレを教えてくれた師匠の言葉です。そしてその言葉に私は空手を習おうと思ったんですよ。貴女こそ魔女とばかり戦ってきたはずなのに随分と人間相手の駆け引きが上手ですね」
「へっ、長いことアウトローやってるとな、人間と魔女両方を相手にしなくちゃならないんだよ。まぁ、人間相手は軽く捻れるけどな」
「アウトロー止めましょうよ」
「そいつはできない相談だ」

 言葉を交わしながらお互いに体力の回復を図る。やがて息は整い始め、杏子は腰溜めに深く薙刀を構え、アスカは左手を大きく上に右手を胸よりやや下に構えた。

「へぇ、珍しい構えだな」
「師匠相手以外にお見せするのは初めてですよ。“天地上下の構え”といいます」
「威圧感がハンパねぇんだが?」
「それが真髄です。相手を威圧、殲滅するのがこの構えの本懐ですから」
「なるほど、遊びは終わりってわけだ?」
「いいえ、今までずっと本気でした。私が終わらせようとしているだけです」
「お互いに全力出せる回数は限られてるってわけか」
「ええ、全力を出しましょう。それ故に立会人が居るわけです」

 二人とも、今まで気にしていなかったギャラリーを見る。マミは真剣にこちらの様子を伺い。まどかとさやか、それに恭介と仁美は二人の全力の姿に少し怯え気味だ。そしてほむらだけは、しっかりと正座しながらこちらを見つめていた。

「じゃあ、いくぜ」
「よしなに」

 杏子が体重を前に乗せ、一歩踏み出す間に三合打ち出した。アスカもそれに対して全てを両手で打ち落とす。やがて一歩目が踏み出された瞬間、その脚を主軸に杏子は一回転。柄の部分でアスカの体を打ち砕かんと迫る。しかしそれを拳骨で迎え撃ったアスカは、姿勢を落として主軸となっている脚を払った。バランスを崩した杏子にアスカは止めの一撃を放とうと半歩下がり、そのまま拳を突き出す。

「くっ!!」

 その拳を杏子は薙刀を背中で回転させ、払い、短く持ち替えてアスカを突く。しかしアスカもそれを半歩逸らしてかわし、そのまま拳槌けんついを打ち下ろす。それを杏子は柄で受け、鍔迫り合いのような状態となった。

「本当に、やりますね。脚を払ったときに、勝負は決したと思ったんですが」
「アンタこそ、その一撃かわされた後の突きによく反応したな」
「師がいいもので」
「羨ましいね」

 鍔迫り合いのまま徐々に体力を消耗していく二人。しかし埒が明かないことを察した杏子が強引にアスカを押し戻した。

「仕切りなおしといこうぜ」
「そうですね」

 アスカは両手を×の字に組むと、顎を少し引いた。

「ゴオオオォォォォォォ」

 その後、アスカの呼吸音が妙な音となる。吸い込んでいるのは間違いが無いが、肺で吸い込んでいるような音ではない。もっと奥、身体の下の方から吸い込んでいるような音。事実アスカが空気を吸い込んで膨らんでいるのは胸部ではなく腹部だ。

「カハァァァァァァ」

 ×の字を解き、全力で吸い込んだ息を吐き出すアスカ。そして吐き出し終えると、再び天地上下の構えをとった。

「お、おいおい。そりゃなんの魔法だよ……」

 杏子が冷や汗をかく。杏子が言っているのは別に本当に魔法を使っているのかと疑う言葉ではない。魔法を使っていないことなど見れば分かる、故に杏子は冷や汗をかいていた。

 アスカの呼吸に乱れがなくなっている。杏子自身の息も整ってきているほうだが、アスカの呼吸は完全に平常時のそれだ。体力回復の魔法かと疑いたくなるほどに、彼女の呼吸は整っていた。ただ息をしただけだと言うのに。

「“息吹”といいます。空手の中でも上位に含まれる技、身体操法の一つですよ」
「だからって体力回復とかめちゃくちゃだろ」
「回復なんてしていませんよ。ただ血液の流れの中により多くの酸素を送りこみ、体内の細胞を活性化しただけです。後で教えましょうか?」
「ああそいつはどう、もっ!」

 息も十分に整っていないまま杏子が突進する。アスカは薙刀を左手で捌き、右手の手刀で杏子の眉間を狙う。

「あめぇ!」

 だが杏子はその手刀を体ごと沈ませて、かわす――――

「甘いのはそっちぃ!」

 が、そのまま奥襟を掴まれた。

「はぁ!?」
「投げもあり、でしたよねぇ!!」

 そうして左手は袖を捕まえると、状態を沈ませてそのまま投げに入った。

「ぐほっ!?」
「これでっ!」

 背中から床に叩きつけられた杏子に、アスカが止めの寸止めを入れようと拳を振りかぶる。

 しかし杏子はその拳が来る前に両足を跳ね上げ、その勢いのまま背筋を使って身体を跳ね上げ、アスカを飛び越えるような状態になった。

「は?」

 そして空中で身体を回転させ、アスカの首元に薙刀を突き付けて着地。背後を取った状態でそのまま笑った。

「一本、てな」
「そこまで!」

 マミの声が響き、アスカは座り込んでしまった。

「あ~あ、負けちゃいましたか」
「いい線行ってたぜアンタ。普通のやつ相手だったら、投げた瞬間に決まってた」
「普通の人相手にしてないから困ってるんですよ。あ~ぁ、勝ちたかったなぁ」
「へへ、十年早いっての」
「いい笑顔ですね、佐倉杏子さん」
「へ?」

 アスカが指摘して杏子は初めて気付いた。自分自身が笑っていることに。最初はただ逃げられたのが悔しくて仏頂面だったし、勝負の最中は常に真剣だ。杏子はここにきて初めて本当の屈託の無い笑顔を見せていた。

「こ、これは、その、なんだっ。べ、別に、楽しかったとかそういう意味じゃなくって、勝てたのが、嬉しくて、だな」
「嬉しいです」
「あ?」
「貴女の笑顔が見られた、それが私は嬉しい」

 座り込んで下から見上げるような姿勢のまま、アスカも笑っていた。杏子と同じ、屈託の無い笑顔で心底嬉しそうに。

「ったく、なんだよそりゃ」

 杏子は頭をかいて、そのままアスカに手を差し出す。

「いつまでも座ってんじゃねぇよ」
「はい、ありがとうございます」

 アスカも素直にその手を取って立ち上がる。

「私の完敗ですね」
「いや、アタシの辛勝だ。正直何度も危なかった」
「いいえ完敗です。私の持てる全力を持って当たった、しかし貴女はそれを押し返した。完敗です。空手家としての禁術、投げまで使ったのに」
「ありゃぁ虎の子だったのか?」
「奥の手も奥の手ですよ。使うつもりなんてこれっぽっちもなかったのに」
「へっ、じゃあアタシの完勝だな」
「はい、私の完敗です杏子さん」

 初めてフルネームじゃなく呼ばれた自分の名前。杏子は笑い、そうして再び握手を交わす二人。その直後、杏子はなにかに気付いたようにポケットを漁るふりをして何かを取り出した。

「食うかい?」

 おそらくソウルジェムで収納していたのだろう。うめぇ棒(サラミ味)を差し出す杏子。

「私、コンポタが好きなんですけど」
「サラミも中々いいもんだぜ」
「ふふっ、それじゃ試してみますね」

 そう言いながら受け取るアスカ。その様子を見て恭介が拍手を始めた。続いてまどか、さやか、仁美、マミ、と拍手が伝播していく。二人はその拍手に照れ笑いをしながらみんなの所に歩いていく。

「アスカさんお疲れ様でした!」
「佐倉さんも、いい試合だったわよ」
「アスカさん凄かったですよ! アンタもまさか勝っちゃうなんて!」
「へっ、まぁな」
「負けちゃったのに、お恥ずかしい」
「二人とも全力で戦ったんです。負けて恥ずかしい事はないと思いますよ」
「そうですわ。良い試合でした」
「ありがとうございます」

 みんながみんなアスカと杏子の健闘を称える。その中で、杏子が何かに気付いたように薙刀を肩に担いだ。

「おいさやか、お前もちょっと竹刀か木刀持ってこいよ。稽古付けてやるぜ」
「ハ、ハァ? なんでいきなり!?」
「だってお前との決着もついてなかっただろ? いい機会だ。お互いに手の内を晒した後で、もう一戦やろうぜ」
「さ、さやか。大丈夫なの?」
「さやかさん」
「いいよ、やる。恭介、見ててね」

 マミが差し出した(何処にあったかはヒ・ミ・ツ)竹刀を持って、杏子の待つ中央線へ向かうさやか。

「ルールはさっきと一緒だ。寸止めだけは気を付けろよ」
「いいわよ、始めましょう」
「オーライ。巴マミ、悪いがもう一回審判頼むぜ」
「そういうことなら喜んで。では……始め!」

 さやかと杏子が竹刀と薙刀を交える。その音の中でほむらだけが一人柔道場を後にした、アスカはそれに気付くと慌てて後を追う。

「暁美ほむらさん、観て行かないんですか?」

 柔道場を出てすぐにほむらを捕まえたアスカが、疑問をぶつける。

「興味はないわ。私はただ、鹿目まどかに頼まれてここに来ただけだもの。用が済んだし、私はコレで失礼するのよ」
「そんなこと言わないで、魔法少女同士で仲良くしましょうよ」
「無理ね。何度も無理だったもの」
「でもそれは誰かが欠けたりお互いを信じられていない状況だったからでしょう? 今回は違います。少しずつではありますが、みんな信頼しあって……」
「少しずつじゃダメなのよ。もう、時間切れよ」

 その言葉と同時にほむらの長い髪が強めの風になびく、空模様がやや悪くなっているようだった。

「ああ、もうすぐなんですか」
「やはり貴女も知ってるのね」
「無論です。私はこのためにこの町に来たと言っても過言じゃない」
「『ワルプルギスの夜』」
「単体で町一つを滅ぼすような超巨大魔女。一つの災害……」
「アイツを倒すのは私よ。貴女達は邪魔だけはしないでね」
「力を、合わせる気はありませんか?」
「ないわ。いえ、あったのかもしれない。けど、もう忘れたわよ」

 ほむらはそれだけ言うと長い髪を颯爽と振りながら帰路についていた。冷たい風が、アスカを撫でる。竹刀と薙刀を合わせる音はまだ続いていた。アスカはその音を聞きながら手に持っていたうめぇ棒を齧るのだった。







「いやぁ、すいませんねぇマミ・マギカ。またまたご厄介になっちゃって」
「いいのよ。私も嬉しいわ、こうして友人を招くことができて。今夜も泊まっていくの?」

 その夜。マミの家でたらふく食べた後、紅茶を飲みながらくつろいでいるアスカ。そんなアスカを微笑ましげにみつめているマミの表情は終始笑顔だった。

「お願いします。とは言っても、こうしてご厄介になりっぱなしってのも、なんか悪いですね。背中でも流しましょうか?」
「えっ、い、いいの!?」
「え、いいんですか?」

 軽い気持ちで言ったことを受け止められて若干焦るアスカだったが、言ってしまった以上後には引けない。

「え、ええっと。それじゃあお願いしようかしら。ウチのお風呂広いから、二人でも入れるし。問題は無いわよね?」
「え、ええもちろん! 隅から隅までキッチリシッカリ流しますよ! ええやってやりますとも!」

 もはや退路は無い。腹水は盆に帰らないのだ。

「そ、それじゃあ先に入ってるわね。あ、後から来てくれるかしら?」
「も、もちろぉんです。ど、どうぞお先に!」

 マミはイソイソと洗面所兼脱衣所に向かう。しばらくして風呂のドアを開ける音が聞こえ、水の音が響いた。

 アスカ長考…………………、考えている内容は風呂の中での会話(想定パターンは三十九種類)。

「そ、そろそろ。いいかなぁ?」

 そんな独り言を呟いて、アスカは脱衣所に向かう。上着を脱いで、下も脱ぐ。ブラを外して、ショーツを脱いだ。そのとき風呂の中から声がする。

「アスカさん、も、もう来ちゃったの?」
「え゛、まだ時間置いたほうが良かったですか?」
「い、いえ、いいのよ! 大丈夫、大丈夫だから!」

 その大丈夫はどちらに向けて言っていることなのだろう。とりあえず、脱いだショーツを洗濯籠に入れようとして――――

「こ、これは……」

 籠の中に何かを発見してしまった。

「こ、これがブラ? 本当に私と同じ年代なの? りんご、いや小玉メロンが入るんじゃない?」
「アスカさん?」
「あ、ああごめんなさい! 今入りますよ~っと」

 ドアを開けて、中に入るアスカ。しかしそこには胸にメロンを二つ付けたマミがお湯に浸っていた。

「それじゃ、お背中流してもらおうかしら」
「あの、マミ・マギカ。一つ質問よろしいですか?」
「あら、どうしたの?」
「その胸、自前です?」
「え? 胸?」
「そのメロン、自前ですか? 魔法とかじゃなくって?」
「え、え~っと。一応何も不正をしてるつもりは無いんだけど……」
「そうっすかぁ~」

 アスカはがっくりと項垂れると、気を取り直してボディタオルを手に取った。

「さぁって、それじゃあシッカリバッチリ洗いますよ。さぁマミ・マギカ、こちらへどうぞ」

 アスカは洗面座椅子の後ろに陣取るとマミを招いた。

「ええ、それじゃお願いしようかしら」

 マミも若干緊張がほぐれたらしくゆっくりとした動作で座椅子に座ると、息を落ち着かせてアスカを肩越しに見た。

「それじゃ、お願いね」
「了解です」

 優しくゆっくりとした動作で、アスカは肩の方から徐々に腰の方に向かって身体を洗っていく。

「マミ・マギカって肌綺麗ですね。傷痕とかもないんですか?」
「ええ。全部キュゥべえが消してくれたわ。こんな体にされちゃったとは言え、それなりに感謝はしないとね」
「むしろ命の代償としては安い気もしますけどね。だって死んじゃったら、こんな風に一緒にお風呂も入れなかったんですから」
「ふふ、本当ね。それじゃ、あの子にはやっぱり感謝しないといけないのかしら?」
「あ~その必要は無いと思いますよ。なんだかんだ言っても、やっぱりアイツ等は私達を利用してる訳ですから」
「持ちつ持たれつって訳ね?」
「はい、そんなところです」

 背中を洗い終えて、アスカはボディタオルをマミに渡した。

「はい、前はご自分で」
「えっと、その、前も、お願いできないかしら?」

 アスカは目を丸くするが、マミの真っ赤な表情を見てニンマリと笑みを浮かべた。

「ええ、いいですよ。それじゃ、遠慮なく!」
「ひゃぁ!? だ、ダメよアスカさん! そんなに激しく!」
「よいではないかよいではないか~」
「だ、ダメだったら。ダメ、く、くすぐったい……ひゃぁん!」
「うわ~、すご~、メロンかと思いきや水風船だ。ポヨンポヨンのタユンタユン」
「ちょっ、どこさわって……あんっ!」
「オマケに下も金髪だぁ。やっぱりその髪って地毛なんですねぇ」
「そ、そういうアスカさんだってオレンジ……、あら?」
「あ、私まだ生えてないんで。だから余計にマミ・マギカが羨ましいですよ~」
「う、羨ましいとかそういう類のものじゃ……やぁん!」
「では足の方も念入りに~」
「や! ちょっと待って! そこは! そこはらめぇ~!!」


 収集が付かなくなったので、しばらくお待ち下さい………


「いやぁ、堪能しました」
「うう、弄ばれたわ、アスカさんに」
「人聞きの悪いこと言わないでください。軽いスキンシップじゃないですか」
「今のが軽かったらそれ以上って何する気なのよ?」
「え? 実践しても?」(じゅるり)
「え、遠慮するわ」

 さすがのマミも危機感を感じ取ったのか、素直にOKは出さなかったようである。

「ちぇ、残念」

 その瞬間、ガタガタガタっと窓が大きく鳴った。

「あら、風が強くなってきたわね。嵐でも来るのかしら?」
「………ええ、そうですね。ドでかいのが来そうですよ」
「しっかりと戸締りと窓閉めはしておかないとね。さて、それじゃあそろそろ寝ましょうか」
「はい。それでは、おやすみなさいマミ・マギカ」
「ええ、おやすみなさい。アスカさん」

 そういうと、アスカは来客用と渡された布団の中に、マミは自分のベッドにそれぞれ潜り込んだ。

 ややあって……、マミがウトウトとしだしたとき。自分の近くに誰かが近寄っているのを感じた。

「アスカ、さん?」
「あ、起こしちゃいました?」
「どうしたの? もう寝てると思ったのに……」
「マミ・マギカ。今日だけ、今日だけ一緒に寝ませんか?」

 アスカの言葉に、マミは半目だった目を開けて改めてアスカを見る。照れて顔が真っ赤になって、まくらを抱えながらベッドの側に立っているアスカ。自分が貸したピンクのパジャマが良く似合っていた。

「クスッ。いらっしゃい、今日だけよ?」
「はい。ありがとうございます」

 マミは掛け布団を開き自分の枕を横にずらすと、アスカの枕を受け取ってそこに置いた。オズオズと布団に入ってくるアスカが寝っ転がるのを確認して、マミは布団を優しくかける。

「寒くはない?」
「だ、大丈夫です」
「どうしたのよ、そんな緊張しちゃって」
「いえ、同世代の子と一緒に寝るなんて初めてなもので、つい」
「フフ、自分から言い出したことなのにね」
「うう、お、おやすみなさい!」

 アスカは布団を顔まで被ると、何も言わなくなってしまった。

「ええ、おやすみなさいアスカさん」

 マミもまた布団に入る。しばらくすると、マミは自分の胸の辺りに何かを感じた。何かと思ってみてみればそれはアスカの顔だ。もう半分以上眠っているらしく、たぶん無意識でマミの胸に顔を押し付けているんだろう。その後手も背中に回され、マミは完全にホールドされた。

「おやすみ、私の騎士さん」

 その額にマミは軽くキスをして、自分もアスカを抱きしめるように眠りに落ちるのだった。







~NGシーンテイク6~

 息も十分に整っていないまま杏子が突進する。アスカは薙刀を左手で捌き、右手の手刀で杏子の眉間を狙う。

「あめぇ!」

 だが杏子はその手刀を体ごと沈ませて、かわす――――

「甘いのはそっちぃ!」

 そのまま両手を挟み込むように杏子に繰り出す。

「“諸手正拳挟み蹴り”!!」
「“脱気崩しがわし”!!」
「その手は、見切ったぁ!!」

 そのままアスカは次の手に入る。

「“諸手猿臂飛び膝蹴り”!!」
「“相互肘打ち”!!」

 はいアウト~~。もはやどこかのマスタークラスの応酬だわ。



「うう、お、おやすみなさい!」

 アスカは布団を顔まで被ると、何も言わなくなってしまった。

「ええ、おやすみなさいアスカさん」

 マミが目を瞑ると、そこにぎゅっと抱きついてくるアスカが居た。

「もう、眠っちゃうんですか?」
「……そうね、夜はまだ長いわよね」
「マミ・マギカ。明日までに、私に勇気をください」
「いいわよ。貴女になら、いくらでも……」

 アウトアウトアウトーー!!! 完全にXXX指定だっていうの!!







[34769] <さあ創めましょう、私達の戦争を>
Name: ゴリアス◆1198178c ID:ecd696c8
Date: 2012/09/21 13:11







 見滝原市の端には大きな川が流れている。そこを境に、隣町と見滝原を区分けしているのだが。

 暁美ほむら、彼女はそこに立っていた。対岸に見えるのは工場の密集地、その先にある空を見つめてほむらは呟いた。

「来るっ」

 まずは余波。黒い煙のような蒸気が地面を駆けほむらの周囲を被った、その瞬間ほむらは魔法少女に変身する。

「今度こそ、決着を……」
「こ~っちのミスドは冷凍だ~♪ ミスドは冷凍だ~♪」

 しかし引き締めていたほむらの気を、間の抜けた声と歌が台無しにした。

「なんですかソレ?」
「え? 気分を高揚させようと……」
「しねぇよ高揚なんて。つか、むしろ下がる」
「ひどいなぁ杏子さん」
「おふざけをしてないで、気を引き締めましょう」
「はぁい」

 振り返れば、煙の中からこっちに歩み寄ってくる四つの影。美樹さやか、佐倉杏子、巴マミ、そして真弓アスカ。見滝原に住まう魔法少女総勢が、既に変身を終えた姿でそこには居た。

「貴女達、どうして?」
「別に、私はアスカさんに呼ばれてきただけだし」
「アタシもそうさ。アスカのやつがアタシの力を借りたいってさ」
「アスカさんが貴女の助けになりたいからって、全員を呼んだのよ」
「いやぁ、邪魔するなって言われると邪魔したくなる性分でして……」
「真弓、アスカぁ」

 ほむらがギリッと歯を食いしばった音が響く。

「ほら、そんな怖い顔してないで。お客さんがおいでになりましたよ?」

 アスカが指差す先には、動物の集団。いや違う、動物の形をした使い間の集団だった。

「なにこれ、サーカス?」
「違いますよ。本命は、この先です」

 そして動物の集団に引っ張られるように上空に浮かんでいる、一つの巨大な影。

「これが……」
「『ワルプルギスの夜』……」

 杏子とマミの声に怯えが混じる。それほどまでに巨大な、とてつもなく巨大な魔女がそこには居た。巨大な歯車、そこに逆さづりになったような人間のようなもの。笑みを浮かべた真っ赤な唇。不気味に、しかし圧倒的存在感を持って、アレはそこに君臨していた。

「ざっと見て、十階建てビル一個ととどっこいくらいですかね?」
「本当に、貴女達も戦うつもりなの?」
「愚問だぜほむら。アタシ達魔法少女ってのは魔女と戦うもんだ。ま、今回は助っ人だけどよ」
「暁美さん。一人で戦おうとしないで、私達を頼ってもいいのよ?」
「よく理由はわかんないけど、困ってんなら力になるよ転校生」
「………」

 押し黙って考えるほむら。そして意を決したように口を開く。

「わかったわ。まずは私が……」
「残念ですが皆さん。一緒に戦うのは無理そうですよ」

 アスカの言葉に全員が振り向く。そこには一人離れた所にいるアスカの姿。

「皆さんは、戦えませんから」

 その言葉と同時にアスカはナックルを地面に叩きつけた。瞬間地面に火線が走り、マミ達の周囲を取り囲むように半球状の膜が張られた。

「な、なによこれ……」
「おっと美樹さやか、触らないほうがいいですよ? 私の炎を圧縮して形成した、外圧、内圧からも強い。言わば“結界”です。私が魔法を解かない限りは、この結界はビクともしないでしょう」
「お、おいアスカ。何の冗談だよコリャ」
「冗談? いえいえ、本気です佐倉杏子。あの魔女は、私の獲物ですから」
「獲物?」
「そうですよ、暁美ほむら。言ったでしょう? 私はコイツのために見滝原市に来たんだって」
「どういう、意味なの?」
「わかりませんか、マミ・マギカ。最初っから私はグリーフシードが目当てだったんですよ」
「「「「なっ!?」」」」
「魔法少女が乱雑する可能性が高いこの見滝原市、更に外から魔法少女を呼び込めばお互いに牽制しあってくれますから、当然魔女への意識が薄くなります。おかげで狩りやすかったですよ、ここ周辺の魔女は全部私が頂きましたから」

 アスカが両手を開いて見せると、そこには合計八個のグリーフシードが。

「あとはアソコの魔女を倒せば私の目的は終了です。あれだけの魔女、アイツを倒せば一生魔法には困りませんね」
「……無理よ。倒せるわけが無い」
「さて、どうでしょうか暁美ほむら。まぁ皆さんは、そこでじっくりと見学しててくださいな」

 それだけ言うと、アスカは『ワルプルギスの夜』に向き直る。

「さぁ、戦争を始めましょう。開戦オープンコンバット!!」
「アスカさん!!」

 アスカの靴底が爆発すると、その衝撃でアスカは空高く舞い上がった。その途中、アスカはマミだけに見えるように自分の手の甲に軽くキスをする。更に連続した爆発音を響かせて、アスカは『ワルプルギスの夜』に迫る。

「まずは、初撃ぃぃぃぃ!!」

 オレンジ色の炎を煌かせて、アスカの拳が『ワルプルギスの夜』の腹部に叩き込まれる。

「まだまだぁぁぁ!!」

 そのまま左右の手を交互に、『ワルプルギスの夜』を更に上空へと押し上げた。

「こいつで、どぉだぁぁぁぁ!!」

 そして渾身の力を込めて真下へ。『ワルプルギスの夜』は、その巨体にも関わらず地面へ叩き落された。ビルの屋上に着地したアスカだったが、『ワルプルギスの夜』もふわりと浮遊しアスカを捕らえていた。

「ちぇっ、あんまりダメージ無いようですね。だったら………」

 ビルの淵を蹴り、そのままの速度で『ワルプルギスの夜』に突撃をかける。

「ちょっとネタ古いけど知ってる人居るかなぁ!? イィーナァーズゥーマァーキィィィィィィック!!」

 音速を超えた蹴り。それは『ワルプルギスの夜』の顔面に直撃し、そのまま吹っ飛ばしていく。

「もう一丁ぉぉ!!」

 更にそのまま蹴り上げ、逆さになりながら蹴りを連打していく。

「お、ま、え、な、ん、か、に、こ、の、ま、ち、を、す、き、に、させるかぁ!!」

 更に、更に上へ。そして『ワルプルギスの夜』を飛び越えてそのまま……

「私のカカトは宇宙一ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 宙を蹴り、その加速を使っての打ち下ろしの蹴り。それが『ワルプルギスの夜』を再び地面へと沈めた。

「これでも、まぁだ効かないっての?」

 宙に浮いたままアスカは『ワルプルギスの夜』を観察していた。普通なら原型すら留めていることが不思議なくらいの攻撃の連撃。しかし『ワルプルギスの夜』は、変わることなくそこに在った。

「だったら、とっておきですよぉぉぉぉっと」

 アスカは両手を組む。そして手の間に火球を生み出した。更にそこに力を加え、加え、加える。炎は大きさを変えず、温度だけを上昇させ、更に、更に、更に、更に! そして最終的には炎ではない、白色の光球へと変わっていた。

「これ使っちゃうと一気にソウルジェムが黒くなっちゃうのが問題なんですよ、ねっ!!」

 その光球を維持したまま、アスカは『ワルプルギスの夜』に向かって宙を駆ける。

『アハハハハハハ、アハハハハ』
「はっ、なにがそんなに楽しいのやら!!」

 そのまま光球を『ワルプルギスの夜』の腹部に押し当てる。瞬間、莫大な量の炎が周囲を焼いた。まるで戦略兵器でも落としたかのような圧倒的熱量。

 あの光球の正体とは熱量を更に上げた炎、プラズマ現象を起こした物だ。限定的な空間で熱量を一定以上あげると、しだいに気体を構成する分子同士が自由運動を始める。その状態を維持したまま、アスカは『ワルプルギスの夜』に叩きつけたのだ。この場合プラズマの温度は約10000K(約9700℃)、本来であれば人間なんて軽く消滅してしまう温度であるのだが。

「くっ、やっぱりコレを使うとダメージでかいなぁ」

 炎の中心から脱出、川にかかる橋の上に着地。否、落ちてきたアスカの身体はあちこち黒く焦げ、両手のナックルを填めている手は酷い火傷があった。

「さすがに、もう限界か」

 一度変身を解き、ソウルジェムにグリーフシードを当てて浄化するアスカ。浄化を終了すると、そのまま傷を癒し、再び変身した。

「これであと七つ。それまでにこいつをどうにかしないとね」

 まだ炎の収まらない中心点を見つめる。

「てか、アレで無傷だったらむしろ泣くしかないんだけど……」

 しばしして、その炎の中から悠然と現れた『ワルプルギスの夜』。

「は、ははは、う、嘘でしょ?」

 その体には傷らしい傷はなく、損傷らしい損傷もなく。『ワルプルギスの夜』はただそこに在り続けていた。

「私のとっておきでも無傷……。やってくれますね」

 そう呟いたアスカの元に、一筋の閃光が駆けた。

「おっと!」

 素早くナックルで迎撃したアスカだったが、その正体が掴めなかった。

「なんですかね、今の……」

 考えている暇もなく、その閃光は次々と飛来する。

「くっ、このっ!」

 そしてアスカが閃光に気を取られている間に、『ワルプルギスの夜』はついに見滝原市に上陸した。

「くっ、行かせるかぁ!!」

 足の裏を爆発させ超スピードで動くアスカにとって、『ワルプルギスの夜』との距離なんてあってないようなもの。しかしその状態のアスカに、閃光が真横からつっこんできた。

「グブッ!?」

 この超加速中に衝撃を受けた事のなかったアスカは肺の中の空気を全部吐き出してしまった。アスカはそのまま元居た橋の中央付近まで戻される。

「ゲホッゲホッ! な、なにが………」

 そこにきて、アスカは初めて閃光の正体を視認した。

「これも、使い魔……?」

 色はない。しかし輪郭だけ見ればそれは魔法少女の形をした使い魔だ。閃光のように体当たりをして、行く手を阻んでくる。

「邪魔、なんですよ。とっと、失せやがれぇ!!」

 ナックルを叩きつけ次々と消滅していく使い魔たち。しかし相手は使い魔、その数は無限にも等しい。そうしている間にも『ワルプルギスの夜』は徐々に見滝原市の中心部へ向けて進行している。

「くっそぉぉぉ!! 邪魔なんだよぉぉぉ!!」

 使い魔を蹴散らし『ワルプルギスの夜』に音速に近い速度で接近するアスカ。そのまま『ワルプルギスの夜』の進行方向とは逆サイドから拳を叩きつけた。

「行っかせるかってんですよぉぉぉぉ!!」

 右手と左手を交互に叩きつける度に巨大なオレンジ色の爆発が空を彩る。まるで連続した花火でも上げているかのような幻想的な光景。しかしそこに込められている破壊力は戦艦の砲撃クラスに匹敵する。しかしそれを数十発と受けながらも『ワルプルギスの夜』は健在だった。

「まだまだぁぁ!!」

 アスカは空中を足場に、思いっきり膝を引き絞って蹴りの溜めの姿勢に入る。

「こいつで、どぉだぁ!!」

 アスカの蹴りが当たった瞬間。ヒットした地点にミサイルでも着弾したのかと疑えるほどの膨大な炎が上がる。しかし『ワルプルギスの夜』は……

『うふふふふ、あははははは』

 不気味な笑い声を上げながら、その攻撃を受けながらも侵攻してきている。

「そんなっ! グブッ!?」

 攻撃直後のフイを付かれ、アスカは再び腹部へ使い魔の体当たりをもらう。そのままビルに突っ込むハメになったアスカだったが、悠長に気絶などしていられない。『ワルプルギスの夜』はアスカの攻撃など意に介した様子もなく着々と見滝原市中央に迫ってきている。

「ざっけんなぁぁぁぁ!!」

 アスカは宙で足の裏を爆発させ、そのまま超スピードで使い魔を蹴散らし『ワルプルギスの夜』を抜き去る。そのまま連続で宙を爆発させて強引な方向転換。そのまま『ワルプルギスの夜』に蹴りを突き出した。

「行かせらんないんですよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 蹴りを接敵させたまま加速、『ワルプルギスの夜』をさっきの川岸まで押し戻すアスカ。しかし強引な方向転換と、連続した音速での活動でアスカは意識が一瞬ブラックアウト。そのまま川岸に落下した。

「ア、アスカさん……」







~~NGシーンテイク7~~

「だったら、とっておきですよぉぉぉぉっと」

 アスカは右手に全エネルギーを集中させる。

「私の右手が光って吼える! 魔女を倒せと轟き叫ぶぅぅぅぅ!!」

 アスカの右手が輝く、輝く! 輝く!!

「輝け、もっと、もっと! もっと!! もっと輝けぇぇぇぇぇぇ!!!」

 そして輝きが最高潮となった右手を引き絞りながら突撃する。

「喰らえ!! シャルブリットォォォォォ・バァァァァストォォォォォ!!」

 光が、世界を支配した………。



 いや、熱いんです。熱いんですけど、これって違う作品じゃね?



[34769] <さあ紡ぎましょう、真弓 アスカを>
Name: ゴリアス◆1198178c ID:ecd696c8
Date: 2012/09/26 23:49





 時間を少し戻して話をしよう。アスカが『ワルプルギスの夜』に初撃を放つ前。結界の中でマミ達は思い思いの言葉を叫んでいた。

「ちっくしょう、アスカのヤロウ!! アタシ達を、騙してやがったのか!!」
「…………」

 杏子は地面を槍で叩き、苛立ちをあらわす。ほむらも奥歯を噛み締めて険しい顔をしていた。

「アスカさん、なんであんな……」
「嘘よ! アレは嘘! 絶対に嘘よ!」
「なんでそんなこと言い切れるんだよマミ!」
「アスカさんはさっき手の甲にキスをしてた。だってそれは……」
「手の甲にキスぅ? それがなんで嘘だって言い切れるんだよ!」
「それは……」
「マミさん?」
「でも、違う。私は彼女を信じる、今も、前も!」
「そう信じて裏切られてたんだろうが!」
「でも、おかしいと思わない?」
「なにがだよ、さやか」
「だって、『ワルプルギスの夜』のグリーフシードが目的なら。私達全員で向かっていって倒してから、隙を見て奪えばいいだけの話じゃないの?」
「ハンッ、大方それじゃ確実性がないから止めたんだろ。たいした自信だぜ、あの魔女に独りで向かっていくんだからな」
「でもリスクとリターンをみても、どう考えたって一人で向かっていく事のリスクの方が高いと思うんだ」
「じゃあどうだって言うんだよ! 他になんか理由なんてあんのか!?」
「それは……」

 さやかが答えあぐねていていると、突如轟音が響き渡った。

「な、なんだぁ!?」
「アレ、アスカさんの攻撃なの!?」
「す、凄い……」
「まさか……」

 『ワルプルギスの夜』の腹部辺りでオレンジの光が連続で煌き、その直後急速に落下した。しかしダメージを受けた様子もなく、そのままふわりと浮遊を始める『ワルプルギスの夜』。その状態の『ワルプルギスの夜』に、今度はオレンジ色の彗星が突き刺さった。そのまま再び上空へ打ち上げられ、更に再び急直下。とてつもないスピードでの攻撃の応酬だった。

「これが、アスカさんの本気?」
「アタシん時は本当に手ぇ抜いてたのかよ」
「戦争って言ったアスカさんの言葉、やっと理解できた」
「これでは、本当に?」

 マミ、杏子、さやか、ほむらは口々に思ったことを呟く。その中で、ほむらは全員とは違うことを思っていた。

 このまま『ワルプルギスの夜』を倒せれば、自分の目的は達成される。思いもよらぬジョーカーのおかげで。少々納得はいかないものがあるが、結果だけを取ればそうだ。アレを単体でどうにかできる規格外の魔法少女の存在なんて、まどか以外に思いつかなかったとも言えるが。

『やれやれ、派手にやっているね。真弓アスカ』
「え? キュゥべえ?」

 結界の近くにやってきたのは、白い狐猫。キュゥべえだ。

「テメェ、今更どの面下げて現れやがった!」
『僕としても状況を知りたくってね。なるほど、やはり真弓アスカはこういう行動に出たか』
「え?」
「キュゥべえ、何か知ってるの!? アスカさんがこんなことした本当の意味を!」
『真弓アスカは言っていなかったのかい? 彼女は……』

 キュゥべえが言葉を言おうとした瞬間。先ほど『ワルプルギスの夜』が落下した辺りで、核でも落としたのかという規模の火柱が上がった。

「なっ!?」
「なんだよ、ありゃ!?」
「アレもアスカさんがやったの!?」
「信じられない!」
『やっぱり彼女の力は凄まじいね。アレだけの力を持っていれば、キミ達を守ると豪語しても不思議はない』
「……おいキュゥべえ、今お前なんて言った?」
『真弓アスカは僕にキミ達を守る。そう言っていたんだよ』
「どういうことよ、キュゥべえ」
『真弓アスカの行動理由。それは『キミ達全員を守りきる』という物だったんだ。まぁ僕も気付いたのはホンの少し前、ごく最近の話だけどね』
「んなこたぁどうだっていい! アスカが、アタシ達を守ろうとしている?」
『そうさ。巴マミが九死に一生の所を出会い頭に救い、美樹さやかが魔女になりかけている所を説得し、佐倉杏子がさやかと再び決闘をしないように魔法を禁じた状態で戦えるように場を作り、そして暁美ほむらが『ワルプルギスの夜』との戦いで死なないように自分自身単独で戦う。彼女は全てを上手い方向へ導いたんだ』
「私が、魔女になる?」
「おい、魔女になるってのはどういうことだよ!」
『真弓アスカはそこまで言っていなかったのかい? ソウルジェムに穢れが溜まり、キミ達が絶望に呑まれると、ソウルジェムはグリーフシードへ変わる。その瞬間が僕達の求める物。即ち、膨大なエネルギー発生の瞬間なわけさ』
「……そう。アスカさんは、そのことを言っていたのね」
「マミは知ってたのか!?」
「エネルギーの話までは聞いていなかったけど、アスカさんから教えてもらったわ」
「じゃあ、彼女の今までの行動は……」
『そう、全てはキミ達を守るためだ。現にキミ達は彼女の作った障壁の中で身の安全だけは確保されている』
「そんな、そんなことって………」
「じゃあアイツ、始めっから一人で………」
「私達を守る為に、一箇所に集めようとして……?」
「真弓、アスカ……」
『でも正直、彼女が『ワルプルギスの夜』を倒すのは難しいだろう。いくら強いといっても、あの魔女を倒すのは至難だ』

 キュゥべえがそう言った直後、彼女達の上空を『ワルプルギスの夜』が押し戻されるように通過した。そしてその直後、結界のすぐ近くにアスカが落ちてくる。

「ア、 アスカさん……」
「くっ、そっ。さすがラスボス。私の全力を使っても、ダメージらしいダメージが通らないなんて……」

 アスカが何とか起き上がろうとするが、手足に力が入っていない。

「もう止めてアスカさん! どうして、どうしてそこまでして……!!」
「ふっ、何を言ってるんですか。全ては自分の為、グリーフシードの……」
「なに強がってんだよ! アタシ達を守る為に、そこまですることねぇだろ!!」

 杏子の言葉に、アスカは近くにいたキュゥべえを睨みつけた。

 アスカがマミ達に嘘をついた本当の理由。それは彼女達に少しでも絶望を抱かせないため。自分達を守る為にアスカが死ぬのと、自業自得で欲の為にアスカが死ぬのとでは彼女達の中では意味が大きく違う。自分にもしものことがあった時の為にアスカは保険をかけておきたかったのだ。

「キュゥ、べえ……。いや、インキュベーター!」
『何かまずいことでも言ったかな?』
「ええ言いましたよ。言いましたとも!」

 よろけながらアスカは立ち上がると、さっき吹っ飛ばした『ワルプルギスの夜』を見据える。やはり目に見えたダメージはなく、上空を浮かんでこちらに向かってくる。

「バレちゃったのなら仕方がないですね。まぁ、そういうことです」
「どうしてですか!? どうしてそこまでして……」
「それは………」

 アスカが答えに困っていたその時、使い魔の閃光がアスカとそして四人を守る結界に殺到した。

「くそっ!!」

 アスカは結界と『ワルプルギスの夜』との間に割って入り、その閃光を次々と叩き落す。しかし十を落とせば百、百を落とせば千、数はどんどん増えていく。

「も、もう止めて! この結界を解いてアスカさん! 一緒に戦いましょう!!」
「そうですよ! アスカさんだってもうボロボロじゃないですか!!」
「アスカてめぇ! なんだってそこまでするんだよ!!」
「真弓アスカ、強がっている場合じゃないはずよ」

 アスカは答えない。いや、答えられない。向かってくる閃光はどれも高速、しかも数が尋常ではない。当然ながら会話をしている余裕なんてものはないのだ。しかし敵は閃光だけではない、『ワルプルギスの夜』もまたアスカの上空を通り過ぎようとしている。

「させるかってんですよっ!!」

 閃光を無視し、上空へと飛び上がるアスカ。駆け上がっている途中にも、何度か使い魔とぶつかり合うが全て無視。そのまま左手から極大の黄昏色を溢れさせる。

「いいかげんに、落ちろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 巨大な爆発。そして再び『ワルプルギスの夜』は川の反対側まで押し飛ばされた。アスカも全身から煙を上げながら落下してくる、しかしその体は……

「ア、 アスカさん!!」
「お前、腕がっ!!」
「駆け上がるときに折れてたんですけどね、火傷程度で済むと思ったんですけど。まさか吹っ飛ぶとは……」

 先ほどの爆発の影響でアスカの左腕は二の腕半分から先が無くなっていた。幸い傷口は焼けていたため血は出ていなかったが、それでも骨と焼けた肉が丸見えになっている。マミとさやかが思わず口を押さえる。

「もう、ソウルジェムも限界だ」

 一度変身を解いたアスカは、ソウルジェムにグリーフシードを当てて浄化する。そして使い終わったグリーフシードを二つ、キュゥべえに放り投げる。

「コレで残り六つか……」
「もう、二つも使ったの?」
「それでも倒せないって……」
「アスカさんもう止めてください! 今からでも遅くないです! 私達も一緒に戦います!」
「ありがとうさやかさん。でも、こればっかりは遠慮させてもらいますよ」

 『ワルプルギスの夜』が再び向かってくるまでの間。アスカはフェンスに寄りかかり、傷を癒していた。

「やっぱり、腕の欠損まで治そうと思ったら時間掛かるわよね」
『だろうね。再度侵攻までの間には難しいだろう』
「アンタに解説されるとなんか腹立つわぁ」

 しかし一応回復は試みてみる。若干の表面組織は回復し、二の腕半分までの長さだったのが肘辺りまでは回復した。だが全快には程遠く、敵は止まってはくれない。アスカは再び変身し、『ワルプルギスの夜』を見据えた。

「アスカさん、もう止めて。お願いよ、止めて……」

 マミがボロボロと泣いている。見ればさやかもだ。杏子も涙を溜めた眼でこっちを睨んでいる。ほむらだけは、無表情のままこちらを睨みつけていた。

「……ごめんなさい、行って来ます!」
「アスカさん!!」

 宙を駆けるアスカ、絶対に四人には見せられないがアスカもまた泣いていた。

「ちっくっしょうぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 アスカは拳を叩きつける。そのまま空中で回転して蹴り、回し蹴りの要領でもう一発蹴りを入れる。

「ワルプルギス! お前だ! お前なんかが居るから!!」

 泣きながら何発も、何発も蹴りを叩き込む。しかしそれも真横から飛来した高層ビルの直撃で妨害される。

「鬱陶しい!!」

 その高層ビルを突っ込んできた屋上側から真っ二つに叩き割ると、その瓦礫を足場にして『ワルプルギスの夜』の背後から殴りかかる。

「とっとと、落ちなさいってのぉぉ!!」

 しかしヒットした直後、斜め上からの使い魔の体当たりで再び吹っ飛ばされるアスカ。

「これが、正真正銘の奥の手よ!」

 だがアスカもただ食らった訳ではない。アスカが拳を叩きつけた部分を基点に、『ワルプルギスの夜』を黄昏色の鎖が拘束した。鎖は合計七本、その全ての鎖は周辺のビルや建造物に巻きつき『ワルプルギスの夜』の足を止める。しかしそんな複雑な魔法に意識を割いていた為、アスカもまた――――

「ああああっっっぅ!?」

 吹き飛ばされたまま自分が張った結界に叩きつけられた。かなりの速度のまま突っ込んだため骨が何本か折れ、叩きつけられた背中は酷い火傷になっている。結界の中に居た四人も、アスカの骨の折れる音と肉の焼ける音に思わず目を背けた。

 一本、鎖が千切れる。

「ぐっ、あ……。自分の魔法で焼かれるとか、洒落に、ならないんですけど……」

 うつ伏せのまま変身を解いたアスカは、まず背中を治療し、その後折れた骨を治療し始める。

「あ、アスカさん! ケガは!?」
「大丈夫ですよ。この程度のケガ、想定内です」
「そ、想定内ってよぉ」

 身体中がボロボロになりながらもアスカは自傷気味に笑って見せた。なにかを諦めたように、ゆっくりと彼女は口を開く。

「……そうですね。ケガを治療している間昔話でもしましょうか」
「昔、話?」
「はい。あるところに、死んだ親の遺産を食い潰し、定職にも就かず、毎日漫画やアニメを読み漁り、インターネットの掲示板に書き込みばかりをしている。俗に言う“社会不適合者”、そんな男が居たんです」

 アスカは骨折の治療を終え、少し歩いてフェンスに寄りかかると全身の傷の治療に入った。また一本、鎖が千切れる。

「ところがある日、その男は出会ったんです。一つのアニメに。そのアニメの中には、貴女達が描かれていました」
「私、達?」
「はい。巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子、暁美ほむら、そして鹿目まどか。この五人が絶望を目の前にしながら、希望を信じて進むお話。そんなお話だったと記憶しています。そしてその男は、そのアニメから学んだんです。先を示す大切さを、勇気を、信念を、友情を、そして希望を。それを観てから、男は変わりました。バイトを始めて、そこから定職に就き、奥さんを貰って、子供が生まれて、最後は子供と孫に看取られて。幸せな一生を歩んだんじゃないかと思います」

 傷の治療を終えてグリーフシードを使い、穢れを浄化する。そしてそのまま腕の欠損治療に入った。そしてその時、また一本鎖も千切れる。

「しかしその男は思ったんです。あんなクソみたいな自分に、上等な人生を歩ませる切っ掛けをくれた彼女達を、せめて最後は笑顔にしてあげたい。誰一人欠けることなく、全員が笑顔でハッピーエンドを迎えて欲しい。そう願ったんです。その願いと記憶が、私の元に届きました」

 アスカは笑って四人を見る。鎖が一つ千切れる。

「偶然か、なにか理由があってのことか私には分かりません。しかしその願いは純粋なものでした。ただ彼女達に笑顔を、誰一人欠ける事のない笑顔を送りたい。その男の願いが、今の私の原動力です。貴女達に最後は笑っていて欲しいから、私は戦うんです。これが私の戦う理由、私の生きる意味です」
「そんな、変よ! なんで、なんで会って一ヶ月も経っていない私達なんかの為に……」
「私達、“なんか”?」

 アスカは急に泣きそうな顔になった。

「そんなことを言わないで下さい、マミ・マギカ。貴女達は“なんか”じゃありません」
「え?」
「貴女達が居てくれたから、その男は救われた。そして私はその男の思いに救われたんです」
「思いに、救われた?」
「私は魔法少女になる前は普通でした。普通の学校、普通の家庭、普通の日常、何もかもが普通で、普通の中で溺死しそうでした」

 アスカの腕が手首辺りまで回復する。鎖が、また一つ千切れる。

「しかしその男の思いが、世界に不思議があることを教えてくれた。普通に溺死しかかっていた私を救ってくれたのは貴女達なんです。ですからご自分達を卑下しないでください。貴女達は私と、その男を救った。それだけで私は貴女達の為に戦う意味があるんです」
「わ、私達が……救った」
「巴マミさん、貴女には道を示す大切さを教えられた」

 マミの目を見るアスカ。

「美樹さやかさん、貴女には自分を犠牲にしてでも助けたいものを助ける勇気を教えられた」

 今度はさやかの目を見る。

「佐倉杏子さん、貴女には自分の気持ちを貫く信念を教えられた」

 次は杏子の目を。

「暁美ほむらさん、貴女にはどんなに繰り返そうとも揺らがない友情を教えられた」 

 最後はほむらの目を。それぞれに感謝の念を伝えようと、アスカは精一杯の心を込めて一人ずつの名を呼ぶ。そしてアスカはふっと微笑んだ。

「私は、そんな貴女達に恋をしたんだと思います」
「こ、恋って。お前っ!」

 杏子が顔を真っ赤にして否定してくる。

「あはは、物の例えですよ。中でも巴マミさん」
「え?」
「私は貴女を尊敬します。繋ぎ止めた命を使い、鹿目まどか、暁美ほむら、美樹さやか、彼女達の住む町を守り続けた貴女を。貴女が居なければ、彼女達は魔法少女になる前に魔女にやられていたかもしれない」
「そんな……」

 アスカの腕が完全に回復し、ソウルジェムが黒く染まる。アスカはグリーフシードを使い浄化を完了すると再び魔法少女へと変身する。鎖がまた一つ千切れた。

「ですから守らせてください。『私を最強の魔法少女にして。私自身を焼き尽くしても、私の思いを適えさせて』私はそう願った。だから惚れた貴女達を守りきる。信じてください」

 アスカの跳躍と同時に、『ワルプルギスの夜』を縛る最後の鎖が弾け飛んだ。それと同時に、アスカの拳が再びヒットする。

「何回だって、何十回だって、何百回だって! 私はこの拳をお前に叩きつけてみせる!! 私が私であるために、彼女達を笑顔で居させるために!!」

 再び戦闘を開始するアスカと『ワルプルギスの夜』。アスカの話を聞いた四人は、再び観るだけしかできなくなった。

「アスカさん」
「そんな、一方的過ぎますよ!」
「アスカのやつ、なんだってそこまでしてっ!」
「真弓アスカ……」
『なるほど、ようやく合点がいったよ。真弓アスカの素質と強さについて』
「キュゥべえ、どういうことなの?」
『魔法少女の素質って言うのは、自分の持つ因果の量に比例する。真弓アスカの素質、それは本当だったら普通の女子と変わらないはずだった。しかし彼女の中には上位世界の意思というとてつもない因果が入り込んできてしまったんだ』
「上位世界?」
『キミ達は平行世界って言葉を知ってるかい? もしもこうだったかもしれない、もしかしたらこうだったかもしれないというIFもしもの世界だ。その世界の束を、僕達は総じて平行世界って呼ぶんだよ』
「まだるっこしい話はいい。上位世界ってのは何なんだよ」
『平行世界って言うのは、僕達の横に広がる世界と考えてくれていい。それと同じで、上位世界っていうのは僕達の上に存在する世界。僕達の世界を観察、改変できる世界のことさ。その世界から僕達の世界を見れば、僕達の世界はテレビの中や紙やパソコンの中の平面に写っている世界。消しゴム一つ、キーボード一つで用意に改変できる』
「そ、そんな……」

 キュゥべえの話を聞いてさやかが青冷める。当然だろう、自分達を容易に消せる存在を肯定されたのだから。

『まぁもっともこの世界はもう既に確立されているから、消そうと思ったらそう簡単ではないはずだけど。でも、そういった世界もある。そしてさっき言った真弓アスカの男の話。アレはおそらく上位世界の話だろう。そしてその意思と記憶が、なぜか下層世界のアスカに飛び込んできた。これはおそらく偶然だ。狙ってできるような物でもないし、そもそも起こる可能性を検索するもの馬鹿馬鹿しい。まさに天文学的確立さ』
「その天文学的確立が、アスカさんの身に?」
『そうだね。真弓アスカの鹿目まどかに匹敵せんばかりの優れた素質、それの裏付けも十分に取れた。後は彼女が魔女になってくれれば、僕達の使命は十二分に果たせるんだけどね』
「ざっけんな! アスカは魔女になったりなんかしねぇよ!」
『どうかな? 現に今だって……』

 その言葉と同時に、再びアスカが落下してくる。全身を焦がし、せっかく治した左腕は変な方向に曲がっている。

「か、勝てない、の?」
「アスカさん!」
「私じゃ、アイツには勝てないの? せっかく最強の魔法少女にって願ったのに……」
『当然さ。キミは今居る魔法少女の中では最強の部類に入るだろうけど、魔女も含めればキミはまだまだ弱いということだよ』
「はは、なによそれ。結局、無駄だったってことじゃない。私の願いなんてさ……」

 アスカは手の甲で目を隠し、乾いた笑いをしていた。

『キミは倒してみせると言っていたけど、本当にできるのかな?』
「キュゥべえ! テメェは黙ってろ!!」
「そうですね、キュゥべえの言うとおりですよ。確かに、私じゃアレは倒せないかもしれませんね」
『かも、ではなくてかなりの確率で。だと思うよ?』
「キュゥべえ、アンタッ!!」
「もう、疲れちゃったな……」

 アスカが手を退ける。その目はどこも写していない、空っぽのようだった。

「私の目的って、なんだったんだろう?」
「アスカさん、ダメ! 気をしっかり持って!!」
「私のやってることって、なんだったんだろう?」
「アスカさん! お願いです、魔女になんてならないで!!」
「私の生きる意味って、なんだったんだろう?」
「アスカ、テメェ! んなことでテメェが悩むたまかよ!!」
「私って、なんなんだろう?」
「真弓アスカ! 貴女は……、貴女はっ!!」

 ほむらには分かる。自分のしてきたことを否定され、そして自分の行動までも否定されそうになっている瞬間。自分はその瞬間に過去に戻ることで繋ぎ止めたが、彼女にはその術はない。そして今彼女が魔女になれば、見滝原市は間違いなく崩壊する。『ワルプルギスの夜』と『新たに生まれた魔女』によって――――。

「なぁ~んて、言うと思いましたか。キュゥべえ?」
「「「「え?」」」」

 異口同音。四人は全く同じタイミングで疑問府を浮かべた。

『おや、おかしいな? 今までの統計からすると、キミはここで魔女になるはずだったんだけど……』
「それは志が折れたときでしょう? 残念ながら私の心は、まだ折れてませんよ」
『興味深いね。キミの言う心っていうのは、いったい何を指しているんだい?』
「決まってるじゃない。私の心は、そこにいる彼女達よ」
「私達?」
「え? え?」
「どういう、ことだ?」
「………」
「貴女達を笑顔にする、私はその為に戦っている。ならば、貴女達がまだ無事なのになんで私が絶望する必要があるんですか?」
『なるほど。キミを絶望させるには、彼女達の誰か一人でも死ぬか魔女になる必要があるわけだね』
「ハッ! そんなことさせる訳がないでしょう? 私がここに居る。それだけで、彼女達にアンタの魔の手は届かない」
『さぁて、それはどうかな? そんなことより『ワルプルギスの夜』が行ってしまうよ?』
「チッ、帰ったら絶対に灰にしてやる!」

 アスカは左腕の治療だけを済ませて『ワルプルギスの夜』に向かっていく。そして再び始まる激戦、正直アスカもそろそろ限界だった。

 用意していたグリーフシードは今浄化を終えたせいで残り三つ、治療も考えると攻撃に使えるのはあと二つ。そして自分の攻撃で最も有効だったのは、最初に使った“とっておき”のみ。しかしアレは一発使っただけでソウルジェムを浄化必要域まで穢してしまう為多様はできない。しかし他の攻撃は目立った外傷は与えられていない。

「それでも、徐々にダメージは蓄積できているんですけどねぇ……」

 しかし手がないもの事実。アスカに悩んでる時間は無かった。

「あと二発、これで沈んでくれなければ消耗戦か、もしくは他に持って行くしかなくなるな。……最悪、覚悟も決めないと」

 アスカは手を組むと、再び光球を両手の間に生み出した。先ほどとは違うのはやや大きいめ、アスカの顔ほどもある光球だ。

「こいつで、どぉだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 再び『ワルプルギスの夜』は炎の嵐に包まれた。ビルや鉄筋を飴細工のように溶かす炎でも、あの魔女には通用しない。

「くっ、そっ!」

 全身から煙を上げながらアスカは毒づいた。変身を解き、浄化を終わらせ、再び変身。これで残り二つ、もうアスカに退路は無い。

「だったらせめて、こいつをどこかに持って行かないと……。見滝原周辺で、被害の少なそうな所に……」

 しかしここに来て『ワルプルギスの夜』に変化が訪れた。今まで逆さまだった人形が、突然上向きになったのだ。そして真っ赤な口だけしかなかった顔には、見ただけで恐怖を覚えるような双眸がいつの間にか現れていた。

「な、なによ。アレ……」

 瞬間、『ワルプルギスの夜』周辺に変化が訪れる。さっきまでは使い魔による攻撃、もしくはビルを不可視の力で操った物理攻撃などが主な攻撃方法だったが。今度は魔女の周辺に眼に見えるほどの膨大な風が舞い始めたのだ。離れているアスカですら目を開けているのが辛いほどの風速、おそらく迂闊に近寄れば即座にミンチになるだろう。

「今までのは、遊びだったとでも……?」

 いやでも納得してしまう、圧倒的なまでの力の差。オマケにこの風では接近戦を旨とするアスカでは攻撃することすら難しい。

「化け、物めっ!!」

 忌々しげにアスカは奥歯を噛み締める。そのアスカに『ワルプルギスの夜』は標的を定めた。

「ッ!?」

 先ほどまでとは違うこちらを攻撃しようとして放たれる使い魔の閃光、そして時折混ぜられる巨大な建造物や瓦礫による攻撃、そして絶え間なく吹き荒れる台風のような風。アスカはなす術もなくただ攻撃を防ぐしかできなかった。

「こんのぉぉぉ! いい加減にしろっての!!」

 アスカは向かってくる使い魔を回し蹴りで吹き飛ばし、突っ込んでくる瓦礫を右手で粉砕し――――

「グフッ!?」

 飛んできた先の尖った鉄筋を腹部にモロに食らって、その勢いのまま地面に縫い付けられた。

「ゴハッ!!」

 口から大量の血が流れる。臓器を損傷して、胃の中に血が溜まっているのだ。

(まずった。これじゃあ身動き取れない)
「アスカ、さん……」

 しかしその縫い付けられた状態で、アスカは絶対に聞くはずの無い声を聞いた。






~~~~NGシーンテイク8~~~~


「もう、疲れちゃったな……」

 アスカが手を退ける。その目はどこも写していない、空っぽのようだった。しかしその耳に、突然歌が聞こえる。目を向ければ、マミが一人歌を歌っていた。

「♪交わした約束忘れないよ、目を閉じ確かめる。押し寄せた闇振り払っても空は、綺麗な青さでずっと待ててくれる、だから怖くない♪」

 マミが歌いだし、さやか、杏子、ほむらが続く。

「そう、そうだ。皆が居る、私は、一人じゃないんだ……」
『まだ、立ち上がるというのかい?』
「当たり前、でしょう? 私は、一人ではないんだから!」

 アスカの身体を、光が包んだ。

『その力は!? 何がキミを支えているんだ!? この歌の力? ありえない! キミはいったい何を掴んだ!? それは本当に僕と契約で得た力か!? キミ、キミはいったい何なんだ!? キミの纏っている力は何だ? それはいったいなんなんだ!?』
「シ・ン・フォ・ギアーーーーーーーー!!」


はい中の人繋がりです! いや大好きですよ、シンフォギア! ツヴァイウィーーング!!




 しかしそんな複雑な魔法に意識を割いていた為、アスカもまた――――

「あいったぁ!?」

 地面に頭から激突する。

『はいカットォォォ! ダメだよアスカちゃん。ちゃんと狙って結界(クッション)に当たってくれないと!』
「す、すいませんQBかんとく!」
『それじゃもう一回! ワルプルギス(風船)に拳を叩きつけるシーンから!』
「宜しくお願いします!」


 本当にNGシーンになっちゃったよ……。


もう言ってもいいよね。
ご意見、感想、ご指摘、お待ちしてます!!



[34769] <さあ終らせましょう、私達の戦いを>
Name: ゴリアス◆1198178c ID:ecd696c8
Date: 2012/10/06 02:16







(まずった。これじゃあ身動き取れない)
「アスカ、さん……」

 しかしその縫い付けられた状態で、アスカは絶対に聞くはずの無い声を聞いた。

(ま、まどかさん! ど、どうして!?)

 喋ろうとしても上手く喋れない、口から出てくるのは血が混じった咳だけだった。

「アスカさん、キュゥべえから全部聞きました。ほむらちゃんが何度も時間を繰り返して、私を守ろうとしてくれたことも。アスカさんが自分の身を犠牲にしてでも、私達全員を守ろうとしてくれたことも……」
(キュ、キュゥべえ! そうか、そういうことか!!)

 アスカの言葉を聞いたあと、キュゥべえはまどかの所に行ったのだろう。そして言葉巧みにまどかを騙し、ここまで連れて来たのだとアスカは判断した。その証拠に、彼女の足元にはことの元凶がチョコンと座っている。

「キュゥべえの話を全部信じた訳じゃありません。でも、私見つけました。魔法少女になってでも、自分の全てを賭けてオールインしてでも、叶えたい願いを」
(ダメだまどかさん! このタイミングで願いを言っちゃダメだ!!)

 アスカの知るまどかの最後。それは『全ての魔女を生まれる前に消し去りたい』という、宇宙の法則その物を捻じ曲げる願いをもって神へと至ってしまうということ。しかしそれはアスカが一番避けたかったこと。アスカの願いは五人の今の日常を守りきるというものだ。まどかがその願いを言ってしまえば、アスカの願いは叶わなくなってしまう。故にアスカは焦っていた。

「アスカさんに守ってもらったこの命、ほむらちゃんに守ってもらったこの命。今、皆の為になら使える気がします。ですから、見ていて下さい。私の決断を」
(ダメだまどかさん! 貴女はっ、貴女はそうやって……!!)
「ほむらちゃんがここに居たら、きっと怒るんだと思います。でも私は、自分の出した答えを信じたい。その為にどうか、見守って下さい」
(まどか、さん!)

 血を失いすぎて意識が朦朧としているアスカ。しかし何とか止めさせようと手を伸ばすが、そんなことをしてもまどかには届かない。

『数多の世界の運命を束ね、因果の特異点となったキミなら、どんな途方もない望みだろうと叶えられるだろう』
「本当だね?」
『さぁ、鹿目まどか。その魂を代価にして、キミは何を願う?』
「私は……」
(ダメだ! まどかさん!!)

 霞んでいく意識、その意識の中ででもアスカは叫んでいた。口から血混じりの咳をしながら、何とか伝えようとする。しかしまどかの言葉は、紡がれた。

「全ての魔法少女に希望を。今、過去、未来を生きる全ての魔法少女に希望をあげたい。彼女達が魂を代価にしてまで望んだ最初の心を、もう一度取り戻させてあげたい。絶望に沈みそうな彼女達に、もう一度希望の光を点してあげたい」
(ッ!?)

 アスカは目を見開いた。それは彼女の記憶にある願いとは別の願い、アスカの知る願いとは全くといって良いほどに違う願いだった。

『それは……、そんな膨大な時間干渉を! もしもソレが叶うとすれば、それは果てしないレベルでの時間干渉だ。キミは世界を変えるつもりなのかい!?』
「世界だって変えてみせる。そしてこれが私の答え。絶望に濡れた彼女達に、もう一度希望を点してあげたい。さやかちゃんのように、救われることができた人達も大勢居たはず。私は、彼女達が救われないのは嫌。もう一度笑顔を取り戻して欲しい、もう一度幸せを掴み取って欲しい。それが私の祈り、私の願い。さぁ、叶えてよ、インキュベーター!」

 まどかは光に包まれた。

 あまりの眩しさにアスカは目をつぶるが、何が起こっているのか理解できなかった。まどかの願いはアスカの予測とは違った物だ。しかしその願いが途方もない物だという事は理解できた。魔女になるはずだった魔法少女達を、一度だけでも繋ぎとめる。それがもし現実になれば、過去も今も変わるかもしれない。宇宙の法則改変やまどかが神になるような事はないだろうが、それでも世界規模での大改変には違いない。もしかしたら、世界の歴史すら変えられてしまうかもしれない。







 人とは過去の出来事の積み重ねで出来ている、過去の偉人はそう言った。

 両親に虐待されて育った者は心に歪な感情を抱き、人を愛することを早くに学んだ者はその愛を誰かに説くことを覚え、人の死に慣れた者は自身から感情を殺す術を覚える。人とは過去に起こった出来事、体験、事象の積み重ねから成る者である。それ故に、まどかの願いが違うのは必然とも言える結果だった。

 アスカの知るまどかの世界。そこでは、マミは死に、さやかは魔女と化し、杏子はさやかと共に死ぬことを選び、そしてほむらは瀕死の状況、そしてアスカは存在しない世界。そこで彼女はマミの死を目撃し、さやかの魔女としての姿を見、杏子に身を挺して救われ、ほむらの献身を知る事となる。それ故に『全ての魔女を生まれる前に消し去りたい』という願いが生まれた。

 しかしこの世界はアスカの知るまどかの世界とは違う。マミはアスカに救われ、さやかは魔女にならずに済み、杏子はさやかと和解し、そしてほむらとアスカの献身のみがまどかの中に積もった。絶望を極力目にすることなく、ただ希望を信じることが出来た少女『鹿目まどか』。その彼女の願いこそが『全ての魔法少女に希望を』。素直で、誰よりも人の幸せを感じ取れる彼女が願った、ホンのちょっと世界を優しくする願い。







『契約は、完了した』

 キュゥべえの言葉に恐る恐る目を開いてみれば、そこには魔法少女姿のまどかがいた。

「アスカさん、動かないでくださいね?」

 まどかは持っていた弓を引き絞ると、アスカを地面に縫い付けていた鉄筋だけを消し飛ばした。そしてすぐにアスカの腹部に手を当てる。優しい光が漏れて、アスカの傷は見る見る塞がっていった。

「こんなにボロボロになるまで、戦ってくれてありがとうございます」
「まどか、さん」
「あとは私達に任せてください。こんなになるまで戦ってくれたアスカさんに、ささやかなお礼です」
「待って! あの魔女はっ……!!」
「大丈夫です。わかるんです、なんとなく。今の私達なら、あの魔女に勝てるって」
「まどかさん……」
「みんなっ、行こうッ!!」

 まどかは再び弓を引き絞る、そしてアスカの作った結界の方へ光の矢を放った。矢はビルなどを貫通し、アスカの作った結界だけを綺麗に突き破って消えていった。

「私がこれでもかってくらいに頑丈に作った結界だったのに……」
「鹿目さん! アスカさん!!」

 上空から舞い降りたのは、マミ、さやか、杏子、そしてほむら。その中でほむらは、まどかの姿を見た途端絶望したような顔になって泣き崩れた。

「まどか! どうしてっ!!」
「ごめんねほむらちゃん。私、全部知って、その上で魔法少女になったんだ」
「そんなっ、なんで……。私は、何の為にっ……」
「ありがとうほむらちゃん。ほむらちゃんも、私の為に戦ってくれてたんだよね。本当にありがとう。その気持ちに答えるために、これからいっぱい幸せな思い出を作ろう?」
「幸せな、思い出?」
「うん。あの魔女を倒して、それから私達の普通に帰るの。だから、協力してくれる?」
「まどかぁ……」

 泣き崩れているほむらを優しく諭すまどか。アスカもまた、ヨロヨロと立ち上がった。

「みなさん……」
「おいアスカ、歯ぁ喰いしばんな」

 杏子は言うや否やいきなりアスカの顔をぶん殴った。

「ちょっとっ!」
「これで落とし前付けたことにしてやるよ。もう、あんな無茶すんじゃねぇぞ。わかったな!」
「はい、すいませんでした」
「そうよ、アスカさん」

 マミはアスカの手を取ると、自分の頬に当てる。

「本当に、無事でよかった」
「ご心配をお掛けしました、マミ・マギカ」
「え~、私達には無しっすかぁ?」
「フフ、ごめんなさいみなさん。心配をかけましたね」
「べ、別に心配なんてしてねぇし」
「もう次はないっすよ?」
「無事で何よりよ」
「真弓、アスカ……」
「ほむらさん、さぁ泣き止んでください。私も一緒に戦います。一緒に見ましょう、これから先を。これからの未来を。一緒に掴み取りましょう」
「ほむらちゃん」

 アスカとまどか、二人が手を差し出す。ほむらは涙を拭うと、二人の手を取った。

「アイツを倒すのは困難よ?」
「身を持って体験してます」
「大丈夫、私達ならできる」
「ここが正念場ね」
「やるからには、全力!」
「一丁、派手にやるか!」

 未だに暴風を纏っている『ワルプルギスの夜』、六人は一斉に武器を構えた。

「それではまどかさん、号令をお願いします」
「え? わ、私ですか?」
「もちろん。作戦指揮は後方が担当するものですよ」

 全員が武器を構えてみせる。ナックル、刀剣、多節槍、マスケット銃、重火器、弓。たしかにまどかの武器が一番射程の長そうな武器だった。

「そ、それじゃあ。みんな、行きます!」
「「「「「はい(ええ/おう)!」」」」」

 六人が一斉に空を駆けた。

「マミさん、ほむらちゃん。初手を!!」
「OK、全力よ!」

 まずは初手。マミが大量のマスケット銃を呼び出し、一斉に発射する。数は百にも届くだろう。そしてその銃弾が直撃する瞬間――――

「今ッ!」

 ほむらが時間を停止。マミの攻撃にあわせ、ロケットランチャーをありったけ砲撃する。そして停止を解除。マミの攻撃とほむらの攻撃を同時に受けた『ワルプルギスの夜』が進行方向とは真逆の方向へ吹っ飛ばされていく。

「おっと、こっちは通行止めだよ!!」

 そしてその飛ばされている途中、アスカが割って入った。手に持っているのはアスカ最強の一撃、ソウルジェム一個分の魔力を込めた炎の嵐。

「今までの分、全部まとめてお返しするってぇの!!」

 『ワルプルギスの夜』は背中から光球を受け、そのまま炎に包まれる。そしてその直後まどかが弓を引き絞った。

「やぁ!!」

 上空へ向けて放たれたその矢は、一瞬消えたように見えた。しかしその直後巨大な魔方陣を描き、雲を吹き飛ばして『ワルプルギスの夜』に数千倍の数で炎を消し飛ばしながら降り注いだ。

「杏子ちゃん、さやかちゃん!」
「へっ、足引っぱんなよ?」
「アンタこそ!!」

 赤い閃光と青い閃光となった二人の突撃は『ワルプルギスの夜』に激突し、見滝原の端まで弾き飛ばす。

「ここは私が!」

 そのまま橋の上辺りまで飛ばされた『ワルプルギスの夜』に向かって、魔法で操作されたタンクローリーが突っ込む。その上に乗っていたほむらは橋の上から川へダイブ。しかし川の中へ隠していた地対艦ミサイルの上に乗り、一斉砲撃を開始した。

「マミさん、一緒に!」
「ふふっ、ずいぶんと長くなっちゃったけど。ようやく一緒に戦えるわね」

 マミの出した巨大なマスケット銃、そしてまどかの巨大な矢。この二つが同時に放たれる。

「ティロ・フィナーレ!」
「えっと……、イノーメ・ルミノシィタ!!」

 黄色とピンクの二条の閃光は地対艦ミサイルの反対から『ワルプルギスの夜』を貫通し、地対艦ミサイルをその場で爆砕。川の上空で巨大な爆発が起こる。

「あら、『巨大な閃光』なんていい響きね」
「ウェヘヘ。マミさんの『ティロ・フィナーレ』みたいなカッコイイ名前を考えてたんですけど、いいのが見つからなくって……」
「いいじゃないそれで。とってもカッコイイわよ」
「ありがとうございます」
「ちょっとちょっとお二人さん。和気藹々としてるのはいいけど、まだ終わってないよ!」

 浄化を終えたアスカが二人の所に降り立つ。

「あら、妬いてるの?」
「……え~えそうですよ? 私という者がありながら、なぁに他の女とイチャついてんですかぁ?」
「え、ええっ!? アスカさんとマミさんって!!?」
「鹿目さん、その話は後にしましょう?」
「まどかさん、こっからが本番ですよ」

 爆煙の中から現れたのは、体の所々を損傷しているが未だに見滝原を目指している『ワルプルギスの夜』。再び六人が集結した。

「アレだけやってもまだ倒れねぇとか、一種のホラーだな」
「私の全力をアレだけ受けても傷がほとんど付かなかった相手ですからねぇ。まぁ、当然かと」
「でもどうするんですかアスカさん。何か手でもあるんですか?」
「まぁ、あるっちゃあるんですよね。まどかさん」
「は、はいっ」
「まどかさんの全力って、溜め時間どれくらいかかります?」
「えっ、た、試したこと無いんでわからないですけど。たぶん、二~三分あれば」
「それじゃ、それくらいの時間を稼ぐってことで。どうです?」
「乗ったわ。他に手もないし」
「私もその案で問題ない」

 マミとほむらが武器を構える。

「OK、ダメなら別の手を考えようぜ」
「まどか、しっかりね!」
「うん。さやかちゃんも気をつけて」

 杏子、さやか、まどかも再び武器を手に取り構える。

「こんどはアスカさんがお願いしますね? 立案者なんだし」
「ちぇ、こういうのは慣れてないんですよね……。それじゃ、第二戦。開戦オープンコンバット!!」

 アスカの号令と共に、全員が思い思いに散っていく。

「さやかさん、杏子さん。私に合わせて一斉にお願いします!」
「了解です!」
「おもしれぇ、近接系の同時かよ!」
「マミさん、ほむらさん、援護を!」
「後ろは任せなさい!」
「三人には石一つ当たらせない」

 杏子、アスカ、さやかはそれぞれが赤、黄昏、青の色の閃光となって『ワルプルギスの夜』に激突していった。

「あら、許可無くレディに近づくのは嫌われるわよ?」
「邪魔ッ!」

 そして激突していくことに集中し過ぎて、がら空きになっている後ろをマミとほむらが守る。

「だりゃぁぁぁぁ!!」
「これでもくらえぇぇぇぇぇ!!」
「もらったぁぁぁぁ!!」

 そのまま三色の閃光が『ワルプルギスの夜』と激突する。一人ではビクともしなかった、二人では吹き飛ばした、では三人では――――

「この腕ぇ!」
「もらったぁぁぁ!」
「ぶっ飛べぇぇぇ!」

 さやかと杏子の斬撃が『ワルプルギスの夜』の腕に切れ目を入れ、アスカの一撃で完全に千切れ飛ぶ。

「さやかちゃん、杏子ちゃん、アスカさん、離れて!!」

 まどかの声に全員が散開する。その直後――――

「これが私の全力、です!!」

 彗星でも通ったのかと勘違いするほどの、極大のピンクの閃光がアスカの横を通り過ぎた。

「うぉ、すごっ!」

 閃光は真っ直ぐに『ワルプルギスの夜』に向かい、そして激突、大爆発を起こした。

「どうだぁ!」
「ここまでやれば……」
「さすがにこれで……」
「……おそらく」
「私、ちゃんとできてましたよね?」
「完璧、だと思いたいですね」

 六人がそれぞれ別の地点に着地し、終わったと口にする。しかし――――

「ッ!?」

 アスカだけは捕らえていた。爆煙の中から突如飛び出した一筋の黒い閃光。その閃光は真っ直ぐに――――

「ほむらさん!」
「ッ!?」

 ほむらへと直撃し、そのままほむらは弾き飛ばされる。

「そんなっ!」
「アレだけやって……」
「くそっ!」

 爆煙から姿を現した『ワルプルギスの夜』は全身がボロボロ、しかし未だにその姿をとどめている。

「あと一歩、押しが足りなかった!」
「ほむらちゃん、逃げて!」
「おいほむら!」

 杏子が大声で叫ぶがほむらが動く様子はない。頭を強く打ったのだろう、一向に動く様子が無い。そんなほむらに狙いを定めたのか『ワルプルギスの夜』は更に追い討ちをかけるかのような行動に出た。

「お、おいおい、なんだよありゃ!」
「あ、あんなのくらったらひとたまりも無いよ!」

 『ワルプルギスの夜』に前面に使い魔達が集まっていく、使い魔を束ねたまどかが放った物よりも大きな球体。その周りには瓦礫すら巻き込んだ風のミキサー。光は徐々に輝きを増して、そしてそれはほむらに放たれた。

「ほむらちゃん!!」
「転校生!!」

 二人の呼び声も虚しく。ほむらはその暴風に――――

「っざっけんなぁぁぁぁぁ!!」

 飲み込まれる直前。杏子がその極光と暴風を押しとめた。槍を盾のように両手で構え、そして前面に障壁を張って耐えている。

「おいほむら! こんな所で寝てんじゃねぇ! 起きやがれぇぇぇぇ!!」

 しかし未だにほむらは気絶したままだ。

「くっそ、この……」

 徐々に障壁が軋みだす。しかしそれより先に………

 ボギィ!

 杏子の腕から嫌な音がする。見れば杏子の両腕は変な方向へ曲がっていた。

「なぁっ!?」

 その直後障壁は砕け、杏子はその余波でほむらの所まで吹き飛ばされた。

「くっ……そっ」

 立ち上がろうと試みるが、諦めたように首を倒した。

「ああああっっっっ!!」

 しかしその杏子を飛び越えるように青い疾風が駆ける。

 さやかは十や二十ではきかない、百や千に届きそうな刀剣を生み出し一斉に暴風へとぶつけた。砕かれた刀剣よりも多くの刀剣が射出され、そこには一時的とは言え拮抗状態が生まれていた。それはまさに刀剣の結界、しかしその結界はさやかの魔力を激しく削っていく。

「さやか!?」
「うあああああっっっ!!」
「ば、バカ止めろ! そんなこと続けたらお前のソウルジェムがっ!」
「死なせない。アンタも、転校生も、絶対に死なせない!」
「な、なに考えてんだテメェ!」
「私はアスカさんに救われた。でもその前に、アンタに聞かせてもらったことが無ければ私はもっと早くに絶望してたかもしれない」
「さやか……」
「だから、私はアンタにも救われてるんだ。私を救ってくれたアンタが死ぬのは許せない! 転校生だって死なせない! アスカさんが命懸けで守ったんだ。だったら私だって命を懸けてみせる。アンタが死ぬなんて……。そんなの、アタシが許さない!!」
「……ッ、さやかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ダメよさやかさん。命を懸けるなんて簡単に言っちゃ」

 さやかの刀剣結界の少し内側、そこに突如として幾条ものリボンが出現した。リボンは密度を増し続け、やがて射出され続ける刀剣の供給を阻み、それに変わって暴風と極光を受け止めた。

「マミさん!?」
「マミ!?」
「ほんと、世話のかかる後輩達ね」

 リボンによって受け止め続けられる暴風と極光、しかしその強度にもやはり限度がある。しかしマミは苦しい顔一つしないで受け止め続けた。

「二人、いえ。暁美さんも含めれば三人かしら。三人は私の可愛い後輩だもの。命を懸けるなんて、簡単に言わないで?」
「マ、マミさん……」
「マミ、お前……」
「大丈夫よ、後輩達のためだもの。こんな攻撃くらいで……」

 強がってはいるが限界だった。現にリボンの幾条かは千切れ飛び、先ほどまでの密度は保っていない。慌ててリボンを継ぎ足すように増やすが、それでも消耗のほうが大きい。徐々にマミが押されている証拠だった。

「マミさん、引きましょう! 今なら一旦引いて……」
「そ、そうだぜ。アタシはなんとか走れる。あとはほむらを抱えて……」
「ダメよ! そんなことをすれば後ろの町が大惨事になるわ」

 そう、ここは見滝原の端。このままこの攻撃を素通りさせれば、それは見滝原を端から端まで脅威に晒すこととなる。当然民間人達が逃げ込んでる施設なんて跡形も残らないだろう。そうなれば、死者の数は計り知れるものではない。

「私達が、ここで食い止めないと!」
「で、でも、無理ですよ!」
「こんな攻撃、どうしろってんだよ!」
「マミさん、みんな!」
「まどか!」
「ちょ、ちょうどよかった! ほむらを起こしてくれ! そうすれば、全員で一斉に攻撃を仕掛けてその隙に……」
「ッ!? ダメ……。みんな、早くここから逃げて!!」

 マミの叫びに何事かと全員が前を見る。リボンの隙間、そこから見える『ワルプルギスの夜』本体。そこには今受け止めている極光と暴風とは別に、もう一つ同じ物を作り出している『ワルプルギスの夜』の姿が目に映った。

「そ、そんなっ!!」
「も、もう一撃っ!?」
「みんな、早くっ……!!」
「ダメ、間に合わないっ!!」

 まどかの声を皮切りに、その絶望が放たれた。最初に放った一撃と、後から放った一撃。二つの光と風は交じり合って、マミのリボンを容易く千切れ飛ばす。そして五人に激突する瞬間――――

「燃えろ私の命ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 その二本分の極光と暴風を、全員を追い抜くように駆け抜けたアスカが受け止めた。

「があああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「アスカさん!?」
「そんな、無茶です!」
「アスカ! 無駄死にするつもりか!?」
「アスカさん!」
「ぐううぅぅぅぅぅ!! ま、まどかさん!!」
「は、はい!?」
「コレでキメです。貴女の一撃を! 貴女の最高の一撃を、アイツに叩き込んでください!」
「そ、そんな。私なんかで……」
「まどかさん。貴女は希望なんです! 私の、そして私に流れ込んだ一人の男の!」

 アスカの両手に填めていたナックルが砕ける。それでもアスカは受け止めるのを止めない。

「き、希望?」
「鹿目まどかさん、貴女には最後まで諦めない希望を教えられました。私に流れ込んだ男の記憶。その中で貴女は最後の最後まで希望を信じ続け、そしてその希望を実現してみせた! だったら今度もできます。自分を信じて、絶対にできますから!!」
「アスカ、さん……」
「その希望を守れるんだったら、私の命なんていくらでも燃やせるってもんでしょうがぁぁぁ!!」

 アスカの腕の骨が折れる音がした。足元は大質量を受け止めているため陥没し、既に両手はボロボロだ。消し飛んでいないのが不思議なくらいだが、それでもアスカは踏ん張っていた。言葉通りに、命を燃やして。

「皆さんに言った言葉、アレはあの男の言葉であると同時に私の言葉!」

 負荷に耐え切れずアスカのアバラが折れる音が響く。アスカは口の端から血を流しながらも叫んだ。

「だから貴女達を守りたい! たとえ私という全てを対価にしてでも、貴女達だけは守りたい!!」
「アスカ、さん……」
「何度でも、何度でも命だって懸けてみせる!! 私の惚れた人の為に、私に希望をくれた彼女達の為に!!」

 暴風が勢いを増し、極光は衰えることなく向かってきている。アスカも命を燃やし、魔力を放出し、それを受け止め続けた。

「私は、その為に魔法少女になったんだぁぁぁぁぁ!!!」
「うあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 アスカの叫びとまどかの叫びが重なる。瞬間、まどかを白い光が包み込んだ。

 光は密度を増し、まどかの姿を変えていく。ピンクが基調となっていた服は純白となり、服の長けも変わり髪も伸びた。そこに居たのは、まるでウェディングドレスを着飾ったような美しい少女。まどかの魔力を余すことなく使う最強の魔法少女の姿。彼女の激情と、そして思いがその姿を召喚んだ。

 まどかは弓を取り出し、矢を番えた。するとまどかの弓のてっぺんに付いた花のような部分から、凄まじいピンクの炎のような光が溢れ出す。まどかはその状態のまま、それを『ワルプルギスの夜』に向けた。

「私が希望なんて、そんなことは思えません。ですけど、私を希望と思ってくれてる人が居るんなら、私はその思いに全力で答えたい。だから絶望よ、貴女は私が打ち払う!」

 まどかが弓を放つ。その光は極光の吹き飛ばし、暴風を撥ね退け、真っ直ぐに『ワルプルギスの夜』へ向かっていく。

「もういいんだよ。私達の希望の光はこうして生まれたんですから。だから、貴女もいつまでも絶望なんて撒き散らしてるんじゃなくって。泣いてる赤子は、さっさと家に帰りなさい。ワルプルギス」

 アスカの呟きは誰に聞き取られる事はない。

 そうしてまどかの放った光が『ワルプルギスの夜』を打ち抜いた。光を受けた『ワルプルギスの夜』は、人形が崩れ、そして歯車だけとなる。そしてそのままピンク色の光を撒き散らしながら、完全に消滅した。

「勝った、の?」
「勝てたん、ですか?」
「勝ったのか、おい?」

 マミ、さやか、杏子は眼の前のことが信じられないように呟いた。

「さすが、希望の光」

 まどかの一撃によって吹き飛ばされた極光と暴風。それらを受け止め続けボロボロのアスカは、目の前の光景を見ると微笑んだ。

「やはり敵いませんね、本物の希望には……」

 そこまで言うと、アスカは完全に崩れ落ちた。

「アスカさん!」
「アスカさん!」
「アスカ!」

 マミとさやか、杏子も駆け寄る。全身を骨折し、血を失い過ぎたアスカは完全に限界だった。

「はは、ちょっと無茶しすぎちゃいましたね」
「無茶なんてレベルじゃないわよ! 本当に、ここまでして……」

 マミは泣きながらアスカの傷に手を当てていく。黄色の光が漏れて、アスカの苦痛が徐々に和らいでいく。

「本当に、生きててくれてよかった。本当によかった」
「ご迷惑、お掛けしました」
「アスカさん。勝ったんですよ。私達、勝ったんですよ!」
「ああ、勝った。勝ったんだ! アイツに、あんなのによ!」

 杏子もさやかも涙目でアスカを覗き込んでいる。

「真弓、アスカ……」

 そこに意識を取り戻したらしいほむらが、既に普通の状態に戻ったまどかに付き添われてやってくる。

「ほむらさん」
「聞きたい事はいっぱいある。けど、今は一つだけ」

 その時、初めてほむらはアスカに対して優しく微笑んだ。

「ありがとう」

 その日、見滝原市を襲ったスーパーセルは各地に驚異的な爪痕を残しながらもなぜかそれは市の外周部だけという奇妙な現象を残す。その中心に六人の少女たちが居た事を知る人間は、ホンの僅かしか居なかった。







『やれやれ、本当にあの魔女を撃退してしまうなんてね……』

 見滝原の瓦礫の中、キュゥべえは六人を見下ろしていた。

『あの六人の繋がりが堅固になってしまえば容易に絶望させることは出来ない、か………』

 そこまで呟いて、キュゥべえはクルリと後ろを向く。

『どうやら今回は僕等の負けのようだよ真弓アスカ。誇るといい、キミは少女達を守りきったんだ』
「あら、何処へ行こうというんですか。インキュベーター?」

 そのまま立ち去ろうとしたキュゥべえの前に、アスカが舞い降りる。他の五人は居ない、彼女一人だ。

『やあ真弓アスカ。僕はコレでこの町からは失礼するよ。キミ達の繋がりが堅固になりすぎて、僕等の介入する隙がなさそうだからね』
「それは朗報。コレで彼女達も魔女との戦いに専念できるってものですよ」
『別れの選別として教えてくれないか? キミは、キミ達はどうしてあの魔女を撃退できたんだい? 佐倉杏子や美樹さやかの言動、そして最後の一撃を受け止めてみせたキミの行動力と力。どれも前例が無い。キミ達は何を糧として戦っているんだい? 何をもってして力と変えているんだい?』
「アハハ、何千年も前から人間に干渉してきた異星人が。よもや私に質問なんて。全く、変な因果を持っちゃったもんですね」
『それで、回答は?』
「そうですね。その率直な質問に免じて答えましょう。私達の原動力は、ここですよ」

 アスカは左手を自分の胸に当てる。

『そこは循環器系の集まりだろ? そんな所からエネルギーは生まれな………』
「違いますよ。心臓じゃない。心、思い、ハート。国によって言い方は異なりますが、私達はそれらを総じて“気持ち”と呼んでいます」
『“気持ち”?』
「願いに似て、それよりも純粋で直情的な物。何かをしたい、ただそこに思うだけで私達はなんだってできるんですよ」
『理解しがたいな。そんなことでエネルギーが生まれてくるというのかい?』
「ええ、生まれてきますよ。それこそ無尽蔵に、幾らでも」
『そうか。不可思議なものだね、人間と言う生き物は』
「面白いでしょう?」
『ああ、実に興味深いよ。さて長居をしてしまったね、僕はそろそろ行くとするよ』
「もう二度と、会わないことを期待してるわ」
『また出会うさ。キミ達が魔女になるその日にね』
「じゃあ二度と会わないわね。私達は誰も魔女にならない、誰も魔女にはしない。私が皆を守るから」
『残念だよ、真弓アスカ』

 キュゥべえはそれだけ言って立ち去ってしまう。それを見届けると、アスカは天を仰いだ。

「ねえ、見てた? 私、守りきったよ? ちゃんと、守りきったからね?」

 スーパーセルが去った見滝原市。まどかの弓によって雲の払われた空は、いつか見上げた空のように蒼穹に澄み渡っていた。







~~~~NGシーンテイク9~~~~



「ぐううぅぅぅぅぅ!! ま、まどかさん!!」
「は、はい!?」
「コレでキメです。貴女の一撃を! 貴女の最高の一撃を、アイツに叩き込んでください!」
「…………わかり、ました」
「鹿目さん、貴女!?」
「まどか?………まさか!」
「ゴメンネ、皆。ちょっと、行ってくる、ね」

 まどかはゆっくりと歩み、そしてアスカの隣に立つ。

「せめて最後は、私も一緒に」
「ありがとう、アスカさん」

 二人は声を揃えて歌い始める。

「「ガトランディス バベル シーグレット エル デナール エミュソトーロンゼ フィーネ エル バラル ジール……」」

 そして一節を歌いきった二人は、口の端から血を零しながらも満足そうに微笑んだ。

 瞬間、指向性を持った巨大な二本のエネルギーが絡まり合いながら『ワルプルギスの夜』に向かって行き。その二本のエネルギーが当たった瞬間、『ワルプルギスの夜』は跡形も無く消え去った。


 だから大好きなんですってシンフォギア。もう言い訳しませんよ!




「さやかちゃん、杏子ちゃん、アスカさん、離れて!!」

 まどかの声に全員が散開する。その直後――――

「これが私の全力、です!!」

 しかしその弓からは何も放たれない………。

『カァァット!! まどかちゃん頼むよぉ、そこ大事な所だよぉ!?』
「す、すいませんQBかんとく!!」
「まどかさぁん、頼みますよぉ? あのアクション楽じゃないんですからぁ」
「まぁまぁアスカさん。もう一回できますよ。ね、杏子?」
「う、うん。さやかさんかが大丈夫なら……」
「ちょっとぉ、早くしてくださるぅ? わたくしこれからまだ取材も控えてるんですよの?」
「ちっ! 金髪ボインが」
「なにかおっしゃいました? 黒髪貧乳レーシック娘さん?」
『こらぁ、ケンカすんなぁ! もう一回シーン二十八撮り直すぞぉ!』
「「「「「「はぁいQBかんとく」」」」」」



本当のNGシーン第二弾。もっとネタが思いつけばいいんだけどなぁ。


ご意見、ご指摘、誤字脱字報告、お待ちしています。
よいよ最終回も見えた!



[34769] <さあ喜びましょう、私達の安息を>
Name: ゴリアス◆1198178c ID:ecd696c8
Date: 2012/10/14 19:53







 それからしばらく平穏が続いた。

 一般学生としての表、魔法少女としての裏。両方の生活を両立させ、彼女達六人は誰一人欠ける事のない生活を送っていた。

 アスカもまた、マミの部屋にルームメイトとして住まわせてもらっていた。魔法少女として活動し、一緒に家に帰って来て、一緒に食事をして、一緒に眠る。何事も無く、退屈といえるかもしれないが。それは彼女達の勝ち取った平穏。

 しかしその平穏にも変化が訪れた。







『桜の蕾も膨らみ始め、そよ吹く風が春の便りを運んできます………』
『皆さんは、ここを巣立ち、新しい一歩を踏み出すのです………』
『先の、スーパーセルによって。我が見滝原市は、微々たる物ではあるが損害をこうむってしまった。(消防隊員の)奮戦むなしく、多くのビルと貴重な人材が失われ、まさに精も根も尽き果てんばかりであった………』
『お前達に足りない物、それはっ! 情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ、そしてなによりもぉぉぉ、速さが足りない!!』
『諸君! 世界は平凡か? 未来は退屈か? 現実は適当か? 安心しろ、それでも、生きる事は劇的だ!』

 壇上に立ち、様々なありがたいお話なんかをアクビを噛み殺しながら聞き終え、そして――――

『卒業生、退場!』

 お決まりの文句で拍手に見守られながら体育館を出る。

 この日、見滝原中学の卒業式が行われた。

「マミさん、アスカさん。ご卒業、おめでとうございます!」
「マミさん、アスカさん。おめでとうございます!!」
「マミさん、それにアスカさん。おめでとうございます」
「みんな、ありがとう!」
「いや~、ありがとう。長いようで短かったなぁ、本当に」

 マミとアスカは見滝原の制服の胸部分に造花を付け、記念写真などをクラスメイトと撮り。まどか、さやか、ほむらは二人を祝福し、惜しみない笑顔を送った。

「マミさんは高校、どこに行くんですか?」
「無難に見滝原高校よ。アスカさんもそうでしょ?」
「え? あ、はい。その、まぁ……」
「どうしたの?」
「ま、まぁ、その話はいいじゃないですか! それよりも、これから杏子さんも連れてカラオケでも行きましょうよ!」
「あ、いいですね!」
「あ、あの! 恭介も連れて行っていいですか!?」
「もちろん。仁美ちゃんも連れて来るでしょ? これが最後、たっぷり弄り回してやるぅわぁ」
「あ、アスカさん。ほ、程々にね?」
「あ、あの、アスカさん。私もいいですか?」
「もちろんだよほむらさん!」

 『ワルプルギスの夜』事件以降、すっかりと大人しくなってしまったほむら。メガネを再びかけるような事はなかったが、繰り返している経験則が無くなったため非常に謙虚になり、自分のやることに一々誰かの了承を得るくらいだ。

「それじゃ、今日は歌うぞぉ! その後はゲーセンだぁ!」
「「「「「おーっ!!」」」」」

 そこから杏子と合流し、カラオケで歌い倒し、ゲーセンを総なめし、遊べる限り遊んだ。

「いやぁ、楽しかった楽しかった! 余は満足じゃ!」
「アスカさん、どこの殿様ッスか……」
「ふふっ、でも楽しかったわ」
「アタシとしてはもう少し遊び足りねぇぜ。なぁアスカ、これからバッティングセンターで打ち合いしようぜ!」
「お、いいですね!」
「ほむらちゃん、大丈夫?」
「大丈夫よ。それに、やっと見れた未来だもの。少しくらい無理してでも一緒に居たい」
「ダメですよほむらさん。無理なんてしちゃ。明日も、明後日も、今日と同じ明日は来ないんです。ですから、無理をしないで明日を楽しみましょう。もう戻るなんて言わないでくださいね?」
「もう、アスカさんはイジワルだ」
「あはは。ごめんごめん、でも今の貴女も可愛い~♪」

 突如ほむらに抱きつくアスカ。

「キャアッ!?」
「もう、クール系キャラで通ってたのに突然の弱気キャラ。コレか? コレがギャップ萌えってやつなのかぁ!?」
「あ、アスカさん! は、放して! だ、誰か助け……」
「あ~、観念しろほむら。こうなったアスカはアタシが全力で引き剥がそうとしても無理なんだ」
「この前無理矢理引き剥がしたら体育座りのままず~っといじけちゃったのよね。ごめんなさい暁美さん、ちょっとの辛抱だから」
「転校生とアスカさんのコラボレーション。コレは……、ありだね!」

 諦め顔の杏子、困り顔のマミ、ドヤ顔のさやか。

「あらあらまあまあ」
「え、えっと。この場合僕はどうしたら……」
「「恭介(さん)は見なくていいの(よろしいです)!!」」
「え、えっと。私じゃどうしようもない、かな?」

 例のごとく何を考えてるか分からない緑(仁美)、さやかと仁美から目を塞がれてる恭介、目を逸らしているまどか。

「そんなぁ~~!!」
「このスベスベで病的とまで言える白い肌! モチモチの触感! くぅっ! マミ・マギカ! この子持ち帰って居間に飾っていいですか!?」
「ええっ!?」
「アスカさん止めましょう。犯罪の臭いがするわ」
「残念っ!! しかし、だったら私が総理大臣になって官僚どもを粛清し、この国に新たな法を! 『肌スベモチ(スベスベでモチモチの略)の美少女は居間に飾ってよし!』」
「「それ完全に悪法だから!!」」

 半分泣き顔のほむら、完全に親父と化したアスカ。そこには誰も見れなかった日常があり、誰もが望んだ平和があった。彼女達が望み、そして一人の男の願いが成した世界が。しかし、そんな平和も――――

「てっ!」
「あ、すいません。ちょっとよそ見してました」
「んだよっ。ったく」
「ん? あ! ショウさん! こいつこの前の!!」

 壊れる時は簡単に壊れる物である。

「ん? ああ、誰かと思ったらこの前のホストモドキ」

 アスカが偶然ぶつかったのは、さやかが魔女化しそうになった直前に電車でアスカがボコにした二人組みのホストだった。

「テッメェ! この前はよくも!!」
「貴方達の話していたことが気に障った。それだけです、他意はありません」
「ざっけんな! たったそれだけで鳩尾に殴りと膝蹴り食らう理由はねぇんだよ!」
「ま、収まりがつかないってンなら相手になりますよ」

 アスカは全員に離れるように手を出すと、両手を前に突き出した。左手を少し前に、右手は左手のやや後ろに、肘は少し余裕を持たせて。

 現代の空手では利き手とは逆の手を死に手(受け手)として扱い、利き手を攻撃に使う型が主流であるが。古流空手、もしくは集団戦を想定した流派の空手ではそれでは間に合わない故に両手を使う構えが多く存在する。その中でもアスカの今の構えは防御を念頭に置いた絶対守、両手の内側には絶対に相手の拳を入れさせない。名を“前羽の構え”といい、“絶対防御”と謳われる構えである。

「な、なんのつもりだよ」
「好きなだけ打ち込ませてあげますよ。もっとも、私の胴や顔に当てるのは難しいでしょうけどね。
「ふ、ふざけんなぁ!」

 まず一人が殴りかかってくる。それをアスカは足捌きだけで避ける。

「ほらほら、単調すぎますよ?」
「くそ、このヤロウ!」
「正しくは、このアマです」

 乱打乱打。一発、五発、十発。ホストは何発も打ち出してくるが、アスカの顔や胴に当たる事はない。全ての攻撃はアスカの両手に当たるか、足捌きだけでかわされてしまっていた。

「へっ、アスカが簡単に食らうかっての」
「ど、どうしましょう。と、止めに入らなくっていいんですか?」
「下手に刺激しない方がいいわ。それに、アスカさんも余裕みたいだし」
「うわっ、つか一方的ですよ。アスカさん、全然疲れてないみたいじゃないですか」
「あぶっ! わぁ、アレを受けるんだ」

 杏子は余裕顔で、まどかは心配そうに、マミは若干不安そうに、さやかは観察し、ほむらは時々目を瞑りながら。それぞれ観戦している。人が集まってきたが、それでも三人は止める様子が無かった。

「ハァ、ハァ、ハァ。ちょ、チョコマカ動きやがって!」
「心外ですね。打ち込ませてあげる、とは言いましたが。避けない、とは一言も言ってませんよ?」
「屁理屈こねてんじゃねぇ!」
「どけ、俺がやる」

 と、ここに来て後ろで控えていたもう一人のホストも加わってきた。

「ショ、ショウさん!」
「今度はそちらの方が相手ですか?」
「悪いけど、俺もけっこう頭にきてんだ。二、三発は覚悟してもらうぜ!」

 アスカも再び構える。先ほどの男とは明らかに身のこなしが違う、余裕を持っている場合じゃないだろう。力を込めて、確実に相手の動きを捉えようとして――――

「なっ!?」
「これなら動けないだろ?」

 腰に飛びついてきたもう一人の方を完全に忘れていた。

「シッ!」

 そしてショウといったホストの方が左ジャブを繰り出してくる。それを見た瞬間、嗚呼一発もらったな。とアスカは考えていた。

(まぁいいさ。ここで一発もらって、あとは警察が来るまで粘ろう。そうすればこの二人はそのまま連行、私は適当に理由つけて帰ればそのまま無罪放免。あ~あ、痕が残んないといいけどなぁ)

 アスカはそんなことを考えていた。これが正しい判断で、おそらく大人な判断なのだろう。しかしアスカの身体に染み込んだ“空手”という武術がそれを許さなかった。

 本来空手とは、江戸時代に刀を持った薩摩武士との無手戦闘を想定して発案され。明治の世、廃刀令後にはこちら一人に対し多数との戦闘、一対多の戦闘を想定し発展した。武術しては珍しいことではないが、当然ながら後ろや下、上への攻撃。そして片腕一本で相手を倒す事のできる技も十二分に兼ね備えている。

 故にアスカは無意識のうち腰に張り付いていたホストに脇を締めたまま頭頂に二の腕を落とし(猿臂落とし)、ショウの放ってきたジャブに左手を当てて軌道を逸らしその反動を使って手首を曲げた部分でショウの顎を打ち砕いていた(下段払い鶴頭打ち)。

「あ゛」

 まさに一瞬。一瞬にして二人の男を倒してしまったアスカ。しかしそれは、アスカの考えていたことを完全に無にし――――

「こら、何をしているそこの三人!!」
「ちょっと、通してください!」
「……巡回中にケンカと思われる騒動に遭遇。応援を請う」

 国家権力の遅すぎる登場が完全に逃げ場をなくしていた。

「あ、いや、その、これは………」
「とりあえず、事情は署の方で聞くから。同行してもらえるかな?」
「……はい」

 この場でまともに動けるのはアスカのみ。どう取られても不思議は無いが、とりあえず手錠だけはしないでくれたのが救いだろう。

「あ、アスカさん!」
「お、おい! あっちが一方的にっ!」
「アスカさんは悪くありませんよ!」

 まどか達が必死に何か言っているが、警官達は耳を貸そうともしなかった。連行されていくアスカ、しかしアスカは意識を集中してまどか達に語りかける。

『大丈夫。心配しないで下さい』
『アスカさん!』
『アスカっ! 今すぐ変身しろ! お前の身体能力なら逃げ切れんだろ!!』
『私を全国規模でのお尋ね者にしたいんですか? 大丈夫。あの状況でしたらせいぜい過剰防衛で揉めるくらいですよ』
『ダメですアスカさん! 戻って! 戻ってください!!』
『そろそろ切ります。大丈夫、罪に問われることはありませんから。追って連絡しますよ』

 アスカはそこで念話を中断。目の前の青服に焦点を合わせた。







 アスカが連行されてから数時間。ようやく開放されたアスカが見滝原警察署から出てくると、そこには。まどか、さやか、マミ、ほむら、杏子、の五人が座り込んでいた。

「み、皆さん……」
「ア、アスカさん!」
「遅いっすよ! 結果、結果はどうなったんですか!?」
「向こうが二人で先に手を出したって証言が出たからね。正当防衛で無罪放免よ。ただ……」
「ただ?」

 煮え切らないアスカの言葉にほむらが首をかしげる。

「このことは、たぶん学校にも知らされると思うの。そうなったら……」
「アスカさんの、合格手続きが……」

 さやかが愕然としながら言った。入学前の大事な時期だ、アスカが最初無抵抗だったのはこのことが大きかった。自分はともかく一緒に居るまどかやマミまで巻き込んでしまう可能性があったからだ。

「じゃ、じゃあ今から再入試をしてくれる所を探さないと! 急ぎましょう。今からでも学校に行って……」
「いえ、マミ・マギカ。丁度いいんです。皆さんにも、話しておかないと」
「話すって、何をだよ?」
「……私、高校には行かないことにしようと思うんです」

 アスカの突然の言葉に、全員が固まった。

「四月に入る前に、私はアメリカに飛ぼうと思います」
「アメ、リカ……」

 まどかが呆けたように呟いた。

「そこで、NGOを組織するつもりです」
「NGO?」
「Non-Governmental Organizations、非政府組織。まあ用は、民間の政府に属さない組織のことですね」
「そんなもん組織してどうするつもりだよ」

 さやか、杏子もまだショックが抜け切っていないようだ。

「表向きはボランティア活動です。しかし裏では……、魔法少女達の合同組織を作りたいんです」
「合同、組織?」
「もはや一人で効率悪く狩りをするのではなく。常に数人でまとまった狩りをし、グリーフシードを共有化し、情報を民間人にも求め、全ての魔法少女を監視する組織。もうこれ以上魔女を増やさない。もうこれ以上、たった一人で絶望を背負わせない。仲間が居れば絶望もどうにかなる、貴女達を見て確信しました。そんな組織を私は作りたい。いや、作ってみせます。その為に、私はアメリカに行くんです」
「それが、前に言っていた魔法少女になっても救う方法、ですか?」

 ほむらが若干目を鋭くして聞いてくる。

「いえ、これは次善策です。本当だったら世界を改変し、魔女の居ない世界を作る方が断然いいんでしょうけど。私はそれを認めない。だったら、せめて魔法少女に優しい世界を作りたい。まどかさんが変えたこの世界を、さらに優しく。もっと私達の住みよい世界に。もう、私達が魔女になる事のない世界に!」
「当ては、あるのかよ?」
「……コレばっかりは地道な作業になります。向こうで魔女を狩りながら魔法少女達を説得して、パトロンを見つけ、そして組織として機能させるまで。そうですね、何年かかるか……」
「じゃあ、コレで、お別れなんですか!?」

 何年かかるか。その言葉に、さやかが驚愕として聞き返した。

「そう、かもしれません。長い時間がかかります、少なくとも高校や大学でまた会う事はないでしょう。お別れ、と言う言葉は正しくはありませんが。ひとまず、長い間会えなくなりますね」
「……んっだよ、それ。せっかく、友達になれたと思ったのによ!」

 杏子が地面を強く蹴りつけた。

「すみません、杏子さん。でも、貴女と私はずっと友達です」
「考え、直せないんですか?」
「ごめんなさい、さやかさん」
「アスカさん、せめてもう少しだけ待って。高校だけでも一緒に……」
「すみません、まどかさん」
「向こうについたら、絶対にメールください。定期的に電話もください。絶対です!」
「はい、ありがとうございます。ほむらさん」

 そしてアスカはずっと腕を組んで押し黙っているマミに向き直り、深々と頭を下げた。

「マミ・マギカ。貴女の騎士になると言っておきながらこの体たらく、申し訳ありません」
「……………」
「しばしの別れ、誠に名残惜しいものがあります。ですが、私は……」
「もういいわ、アスカさん」
「え?」

 その言葉に驚いて頭を上げたアスカを抱きしめると、マミは強く力を込める。

「貴女は私の騎士になってくれた。それだけで私は嬉しい」
「マミ・マギカ」
「貴女は貴女の決めた道がある、私はその道を応援するわ」
「……………」
「だから、そんな申し訳なさそうな顔をしないで。私はもう大丈夫だから」
「…………はい」
「フフッ、泣かないの」

 マミの腕の中。アスカは涙を零していた。責められると思っていた、もう二度と会いたくないと言われると思っていた。しかし彼女はアスカの身に余るほどの包容力で優しく彼女を包み込んだ。アスカはその言葉が嬉しくて、声も殺さず泣いていた。溢れ出る涙を、止める事が出来なかった。

「約束を守れず。申し訳……、ありませんでした」
「頑張ってね、私の騎士さん。何処に居ようとも何をしていようとも、貴女は私の騎士なのだから」
「イエス、ユアハイネス」

 強く、強く抱きしめ合い。アスカとマミは涙を流し合いながら別れを告げた。







~~~~NGシーンテイク10~~~~



『お前達に足りない物、それはっ! 情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ、そしてなによりもぉぉぉ、速さが足りない!!』
「ほほぅ、聞き捨てなりませんね。この私、音速を超えて動く事の出来るこの私をさして置いて速さが足りないとは!!」
『音速よりも速くだとぉ!? まだ足りない! 貴様が音速ならば俺は光速だ!!』
「ならば、ここで実証してみせてくださいよぉぉぉぉぉ!!!」
『おぉぉぉぉぉもんしれぇぇぇぇぇ!! 衝撃のぉぉぉぉぉぉぉ、ファーストブリットォォォォォォォ!!!』
「唸れ私のコブシィィィィィィィ!!!」



 誰だよこんな来賓招待したヤツ……




「そこで、NGOを組織するつもりです」
「NGO?」
「Non-Governmental Orga………」
「アスカさん?」
「…………すいません、カットを……」
『カァァット!! アスカちゃぁん、これで何回目!?』
「すいませんQBかんとく! あの、カンペ用意して貰っていいですか!?」
『あ~もうしょうがないな。おい、そこのシャルロット。お前これもって立っとけ。あ? 手がない? じゃあ銜えとけ! 後でチーズやるから! それじゃあもう一回! 最終近いぞ。一気に終らせろ!」
「「「「「「はい、QBかんとく」」」」」」



次回、最終回です。
皆様の感想、ご意見、ご指摘、誤字脱字報告。お待ちしております。



[34769] <さあ結びましょう、私達の物語を>
Name: ゴリアス◆1198178c ID:ecd696c8
Date: 2012/10/23 21:03







「やぁ、わざわざ空港まで来ていただかなくってもよかったんですが」
「なに言ってんですか。せっかくの先輩の門出、祝わないのは後輩が廃るってモンですよ!」

 成田New国際空港。そこにはキャリーバック二つを持ったアスカと、まどか、さやか、ほむら、そして杏子がアスカの見送りに来ていた。

「やっぱり、マミ・マギカは………」
「なんだよ。あんだけ盛大に泣いてたくせによ」
「い、一応家まで迎えに行ったんですけど、もう出掛けてるみたいで出てこなかったんです」

 杏子は辺りを見渡しながらマミの姿を探し、まどかは苦笑いを浮かべながら状況を説明した。

「アスカさん。絶対絶対、ぜ~ったいに! 向こうについて落ち着いたらメールくださいね!? あと、アメリカの名所とかの写メしてくれると嬉しいです!」
「さ、さやか。アスカさんは観光に行くんじゃないんだから……」

 さやかは笑顔のまま注文を、ほむらはそんなさやかを困り顔で見ている。

「ふふっ、ありがとうございました。皆さんと出会えて、本当によかった………。そろそろか、それじゃ皆さん。しばしのお別れです。見滝原を宜しくお願いします。貴女達は、私が描く魔法少女連合の輝かしき雛形なんですからね」
「ぜってぇ帰ってこいよ、約束だからな! こっちのことはアタシ達に任せとけ!」
「アスカさん。お土産、楽しみにしてますね! 大丈夫です。アタシ達五人居れば怖いもの無しですよ!」
「アスカさん、気をつけて。頑張ってきてくださいね! 本当に、ありがとうございました!」
「アスカさん本当にありがとう。いってらっしゃい!」
「……ええ、行ってきます」

 アスカはまどか達に背を向けると、エスカレーターに向かおうとして――――

「あらアスカさん。私に何も無いのは酷いんじゃない?」

 その足を急停止した。

「マ、マミ・マギカ!?」
「「「「「マミさん(マミ)!?」」」」」

 アスカが全力で振り向くと、そこにはキャリーバックを持ったマミがこちらに歩いてきていた。

「マ、マミ・マギカ。どうして、そんな……」
「そうそうアスカさん。私ね、こんな大事な物を今の今までずぅっと忘れてたのよ」

 アスカの質問には答えず、そう言ってマミは一枚の紙を取り出した。

「え? えっと“見滝原高校合格後入学金送付手続き先案内”? 期限は……、って今日じゃないですか! や、ヤバイですよコレ! 早くしないとマミ・マギカも合格を取り消しに……」
「ええ、だから……」

 マミはアスカから紙を受け取ると、その場でビリビリに破り捨てた。

「なぁっ!?」

 破片は十、二十、もはや復元は不可能に近い。そしてそのバラバラになった破片を、止めとばかりに近くのダストシューターに紙吹雪を撒くかのように散らして入れた。

「これで、口座番号も送金金額も分からなくなっちゃったわね」
「な、なんてことするんですかマミ・マギカ!! 貴女は、貴女がこんなことをする必要は微塵も……!!」
「それでねアスカさん。これで高校に行く話しもフイになっちゃったし、私もアメリカに行こうと思ってるのよ」
「…………は?」

 あまりに突拍子も無い話に、アスカの思考回路は完全に停止していた。

「アメリカって年の差とか関係なく学校とか行けるんでしょ? それに、学歴じゃなくって今まで自分が何をしていたかを就職の際に重要視するって話じゃない?」
「え、ええ、まぁ、概ねそんな感じ、です?」
「だからね。大学までを通信制で取っても、NGOの設立と活動に従事してました。って言えば就職の際に有利なんじゃないかしら?」

 そこまで言われてアスカもようやくマミの意図に気付く。しかしそれはあまりにも大胆で、あまりにも希望的観測に過ぎなかった。

「い、いいんですか? 作るって言ったって一から作るんですから、何年かかるか分かりませんよ?」
「ええ、いいのよ。貴女のやりたいことなんでしょ?」
「ずっと貧乏暮らしかもしれませんよ? 下手したらずっと日本に帰って来れないかも……」
「失敗したら失敗したでいいじゃない。その時は、別の手を考えましょう」
「私なんかの為に、人生棒に振るうかもしれないんですよ?」
「アスカさん、貴女は“なんか”じゃないわ」

 その言葉は、かつてマミ達にアスカが言った言葉だった。

「アスカさんが居るから、私達はこうして全員揃ってここに居られるのかもしれない。アスカさんが居るから、私達はだれ一人欠けることなくあの災悪を乗り切れた。誇っていいのよ、アスカさん。貴女は今、私達の恩人なんだから」

 マミの言葉に、アスカはまどか達の方を振り向いた。

 まどかも、ほむらも、さやかも、杏子も、全員が笑っていた。笑いながら無言でマミの言葉を肯定していた。

「私、私………」

 アスカは耐え切れずにボロボロと泣き出した。

「大丈夫。貴女の為に人生棒に振るうのなら、それはそれで私は誇らしく思うわ。だから自分の信じた道を、真っ直ぐに進んで。できれば、私も一緒に幸せにしてくれると嬉しいけど」
「はい……、はい! お約束します。絶対に、絶対に貴女を幸せにしてみせます。貴女の騎士として、一人の女として。貴女を幸せにします、私の全てに誓って!」

 場所も考えずマミを抱きしめるアスカ。マミもアスカの背中に手を回した。

「さぁ行きましょうか」
「はい。貴女とならどこまでも!」

 アスカとマミは手を繋ぎまどか達の方へ向き直った。

「では、行って来ます」
「お土産を楽しみにしててね?」
「行ってらっしゃい、マミさん、アスカさん!」
「必ず帰ってきてくださいね!」
「マミ、アスカ、しっかりやれよな!」
「マミさん、アスカさん、お元気で」

 マミとアスカは手を振ると、今度こそ搭乗口へ向かうエスカレーターに乗っていった。

「行っちゃった、ね」
「そうだね」
「アタシ達はアタシ達でしっかりやろうぜ。二人がいつ戻ってきてもいいようによ」
「うん。みんなで頑張ろう!」

 まどか達はそう言い合って帰路につく。途中、彼女達と同じ歳くらいの少女達がすれ違った。

「ほらキリカ、そんなにはしゃがないで。搭乗時間までまだ余裕はあるわよ」
「だってさ、素晴らしいじゃないか。きみとゆまと一緒に海外遠征だよ? アメリカだっけ、今回の所は」
「ねえ織莉子、あめりかって遠いの?」
「ええ、とっても遠いわ。でも大丈夫、貴女は私達が守ってあげるから」
「ゆまだって戦えるもん! 回復だって!」
「そうだねぇ、ゆまは戦えるもんねぇ~」

 真っ白なワンピースを着た少女、黒いボーイッシュな格好をした少女、そしてその二人よりも一回り近くも小さい少女。

 それぞれの名前を美国 織莉子みくに おりこくれキリカ、千歳ちとせゆまといった。今はキリカがトロけた顔でゆまの頭を撫で回している。

「しかしどうして急にアメリカに行こうなんて言いだしたのさ織莉子。それも“お告げ”ってやつなのかい?」
「そうね。そうとも言えるわ。“お告げ”なんて曖昧なものじゃないけど」
「ゆまね、海外って始めて! 外人さんがいっぱい居るんでしょ?」
「そうだねぇ、ゆまはよく知ってるねぇ~」

 可愛くてたまらないといった表情でゆまの頭を撫でるキリカ。

(あの見滝原をスーパーセルが襲った直後から、私の予知は違う形に変わった。そしてこの先、私をアメリカに導く何かがあるはず。まだ雲が掛かっていて見え辛いけど、向こうに行けばなにか手掛かりが……)
「織莉子、どうかしたのかい?」
「いえ。なんでもないわ。さぁ、飛行機に乗る前に軽くご飯を食べましょう。道のりは長いわよ?」
「ゆまねぇ、お子様ランチ!」
「うんうん。ゆま、なんでも好きな物食べていいからねぇ~」
「やったぁ! キリカ大好き!」
「ダメよキリカ、甘やかしちゃ。ちゃんと好き嫌いしないで食べましょうね」
「うぅ~、織莉子嫌い」
「こらゆま、織莉子のことを嫌いなんて言っちゃダメだぞ。好き嫌いしないでちゃんと食べられたら、ご褒美にプリンも付けてやるからな」
「やったぁ! キリカ大好き! 織莉子も好き!」
「はいはい、行きましょうか」

 仲睦まじい、それこそ三姉妹のように歩く三人。そこにもやはり笑顔。これは、アスカの与り知らぬ所であったが。







 それから、長い月日が流れ……。五年後、成田New国際空港。

「んぁ~~。いやぁ、久しぶりの日本。空気が違う感じがするなぁ。おお、懐かしきかな黄色人種!」
「ちょっと、はしゃぎすぎよ。私まだ時差ボケが……」
「あはは、飛行機の中じゃ寝られてなかったもんね」

 そこにはグラマラスな肢体をゆったりとした服で目立たなくした金髪の女性と、サングラスをかけたスリムなモデル体系をスポーティな格好で引き締めたように見せている黄昏髪の女性が立っていた。かなりの美女が二人、足元には大きめのキャリーバックを転がしている。当然道行く人はその姿を目で追っている。

「それにしても五年かぁ、すげぇ長い間離れてたはずなのに空港は変わってないなぁ」
「空港なんてそう簡単に変わってるわけ無いでしょ。問題は見滝原よ、私達の組織じゃまだ日本までは介入できないんだから」
「う~、さすがに五年じゃあ十分な組織図を描けなかったなぁ」
「それでも大したものじゃない。アメリカ各地に散らばる魔法少女達を束上げて、そこからパトロンを同時に探し、組織としての体裁を整える。その後、各国に散らばってる魔法少女達に自分達の存在をアピールして、組織に加わってもらう。五年の成果としては上々よ」
「個人的には中東、中国、日本にも手を伸ばしたかったんだけどね。五年じゃ足りなかった。それに、向こうで織莉子達に出会えたのも大きな理由の一つだよ」

 サングラスを外して、空港の案内を見ている黄昏髪の女性。

「鹿目さんの願い。あんな形で遂げられていたのね」
「正直調査してて驚いたよ。歴史その物の改変。いやぁ、スケールがでかい!」
「おちゃらけては居られないけどね」
「私達の知る歴史上の偉人女性、その偉人女性の死の形。それが悉く改変されている。ある者は好きな人と思いを遂げ、幸せな生涯を閉じ。またある者は友の死を乗り越えて自ら勝利を掴み取り。ある者は誰もが絶望する中、一人だけ希望の意思と剣を持って立ち上がり巨悪を倒している」
「一つ二つなら見逃しようもあったけど、それが大多数ではねぇ」
「しかもそれがほとんどの人間の、記憶の中にまで作用しているときたものです」

 まどかの願い。『絶望に沈みそうな彼女達に、もう一度希望の光を点してあげたい』、その願いによって人々の記憶の中ではそこで死ぬはずだった彼女達は死なず、もう一度立ち上がり希望を手にして終わる者が大半だった。中には例外も居るが、それでも絶望の淵から立ち上がる力を誰かから貰っているのは確かだった。

「そして各国の神話レベルで残っている、一人の小さな天使の話」
「ピンク色の髪をして、同じくピンク色の服を纏った天からの使い。人が絶望すると現れ、その人に一度だけ希望を与えてくれる」
「問題はどうして私達の記憶だけが塗り替えられていなかったのか、なんだけどね」
「いいじゃない、仕事の話は帰ってからで。みんなにお土産も渡さないとね」

 金髪の女性は持っていたキャリーバックをみる。その中には、アメリカを始めとする彼女が回った各国のお土産が大量に入っていた。

「それにしてもマミの噂はアメリカだけに留まらなかったわね。遠距離からのパーフェクトな狙撃、それに加えて近距離戦の優雅な戦い方。必殺技における最大限の有効活用法。確か欧州では二つ名も付いてたわよね、『トパーズ・スナイパー』だっけ?」
「うっ、それを言ったらアスカだって。その歳にして表向きは国際救難ボランティア活動団体、裏では魔法少女を一手に束ねる一大組織『マギア』の総帥ですもの。アメリカでアスカ・マギカの名前を知らない魔法少女は居ないわ。しかも超災害級の魔女を一人で二体も撃破した超武闘派、その戦い方から『トワイライト・ブレイカー』の名前は有名よ?」
「うぐっ!」

 金髪の女性、巴マミ。黄昏髪の女性、真弓アスカ。二人はお互いにお互いの五年間を称え(辱め)合っている。そして最後まで言い切って、お互いに赤面した。

「や、止めようマミ。二十歳にもなった女が『トパーズ・スナイパー』とか、『トワイライト・ブレイカー』とか……」
「そ、そうね。最近ではマギカって呼ばれるのも恥ずかしくなってきちゃってるし」
「え? 私それは止めないよ。マミのことをマミ・マギカってたまに呼んでる」
「あ、アスカァ!? それは言わないでって、もう何回も……」
「いいじゃんマミ。私のことだってアスカ・マギカって呼んでるみたいだしぃ?」
「な!? ど、どこから情報が……!」
「織莉子とキリカ。酔って漏らしてたって言ってたのを……」
「あ、あの子達っ! 絶対に秘密って言ったのに!」
「……さらに聞いていたゆまちゃんから聞いたんだ」

 迂闊、と額に手を当てているマミ。その顔を見るとアスカは更におかしそうにお腹を抱えた。

「あはは。ま、ひとまずはこの辺で。確か迎えに来るって……」
「あ、居た! アスカさん! マミさぁん!」

 空港のポータルから出てくると、そこには五年経っても分かる見滝原を五年間守っていた四人。鹿目まどか、暁美ほむら、美樹さやか、佐倉杏子。その四人の女性がこちらに手を振っている。

「もう、みんな十九にもなって恥ずかしいわね。中学校からまるで成長が無いみたい」
「向こうで大学の単位まで全部取得済みの優等生は言うことが違うわねぇ。こっちは最終学歴中卒だって言うのに」
「あら、今からでも学校行きましょうか? アスカだったら喜んで教授に紹介するわよ?」
「い、いいよ。私は勉強とか参考書とか見ると知恵熱出るし!」
「知ってる。フフッ」

 マミの笑っている顔を見て、からかわれた事を悟るアスカは膨れっ面をした。

「マミはイジワルだ」
「フフッ、そういうアスカはもっとイジワルね。さて、みんなを待たせるのも悪いしそろそろ行きましょうか」

 マミは微笑みながらアスカの手を取る。

「行きましょうか、アスカ・マギカ?」
「はい、マミ・マギカ。貴女と一緒ならどこまでも!」

 そうして二人はまだ手を振っている四人の所に、手を繋いだまま向かっていった。









~~~~~NGシーンテイク11~~~~~~

「「「「「「かんぱーいッ!!」」」」」」
「いやぁ、お疲れ様でしたぁ!」
「本当。色々ありましたけど、ようやく終りましたね!」
「一時はどうなるかと思いましたけどねっ!」
「まぁ、わたくしにかかれば当然ですわね」
「空気読めよ、巨乳が」
「なんですって貧乳……」
「はいはいケンカはしないっ! ともかく、今日は終了を祝って。もう一度かんぱぁぁい!!」
「「「「「かんぱぁーいッ!!」」」」」
『やあやあ楽しんでるようだね』
「あ、QBかんとくッ! お疲れ様でしたぁ!」
『もう監督じゃないからね。固くならなくっていいよ』
「じゃあキュゥべえ、もういいのね?」
『何がだい? 暁美ほむら』
「こういうことよ」

 ドンッ!

「あ、撃った」
「撃ったね」
「いいんじゃん? 収録終ってるし」
「ま、予定調和よね」
「お決まりだよね」
「ではこれにて……」
「「「「「「お疲れ様でしたぁ!!」」」」」」



[34769] <さあ予期しましょう、私達のこれからを>
Name: ゴリアス◆1198178c ID:ecd696c8
Date: 2012/10/23 21:04









魔法少女アスカ☆マギカSecond Seasonとは!?



「ここがアメリカかぁ」
「やっと着いたわね」

 アメリカ、ニューヨークの地に降り立ったアスカとマミ。

「うわぁ、エンパイヤステートビルですよマミ・マギカ!」
「あっちは自由の女神よアスカさん!」
「うわぁ、このお菓子甘ぁ」
「こ、これがアメリカンサイズ……。正直侮ってたわ」

 昼はアメリカを観光し、住む所を探す彼女達。しかし夜になれば……

「やっぱり、アメリカにも魔女は居るんですね」
「そうじゃなかったら私達の計画が最初から頓挫でしょうに」

 魔女を探してニューヨーク市内を散策する彼女達。

「これが、アメリカの魔女……」
「まさかこっちもアメリカンサイズなんて……」

 初めて遭遇する異国の地の魔女。

『おや? 新人さんかい?』
「魔法、少女……?」
「アメリカの地の魔法少女!」

 そして初めて出会う異国の魔法少女。

『キミ達も迂闊に出歩かない方がいい。ここらを縄張りにしている魔法少女は他にも居るからね』
「待って、話だけでも!」
『しつこいなぁキミは。ここで狩っちゃおうか?』
「マミ・マギカ、下がって!」
『ふふ、いいよ。キミが相手になってくれるんだ?』

 討論の末の戦闘。そしてついに……

「おや、キミは日本人なのかい?」
「え? 貴女も日本人なの?」

 運命の出会い。呉キリカとの出会い。

「私達は、魔法少女達の合同組織を作ろうとしているの。協力してもらえないかしら?」
「ハァ、何を言っているんだい? 気の合わない魔法少女達と一緒に戦えって? 冗談も程々にしてもらえないかな?」
「待って。もうちょっと話を……」
「話すことなどないわ。キリカ、ゆま、行きましょう」
「貴女達とはもう一度どこかで会う気がしますよ」
「奇遇ね。私もそんな気がするのよ」

 すれ違い続ける両陣。

「まぁたキミ達かい?」
「まぁたお会いしましたねぇ?」
「織莉子さん、どうしても協力はしてもらえないのかしら?」
「残念ね巴さん。いいえ、マミ・マギカ。聡明な貴女がそんな馬鹿げた目標を掲げるなんて」
「マミ・マギカ、貴女は白い方をお願いします」
「ぶつかり合ったのなら、殺し合うのが魔法少女だよね!」
「織莉子さん……」
「全ては、救世のために……」

 戦いを続ける両陣。

「くっ、どうして私の攻撃をここまで!」
「私の遅延魔法を使っても回避するのが精一杯……」
「なぜ、ここまで正確に……」
「さすがねマミ・マギカ。私でも今のはギリギリだったわ」
「あの少女の回復が……厄介!」
「おや、ゆまを狙わないのかい?」
「冗談! あんな小さな子を狙う理由が無いでしょうが!!」

 そして訪れる転機。

「こんな弩級魔女がいるなんて……」
「か、勝てない……。私達だけじゃ、この魔女にはッ!」
「逃げよう、キリカ、織莉子!」
「キミ達だけでも逃げろッ! 織莉子、ゆま!」
「キリカ!」
「ゆま、織莉子の言うことをよく聞くんだぞ?」
「キリカァァァ!」
「ぶっ飛べぇぇぇぇぇッ!!」
「アイツはッ!」
「アスカさん無理しないで! 『ワルプルギスの夜』と同じ弩級魔女よ!」
「私が時間を稼ぎますッ! マミ・マギカは三人の一時退避を!」
「なぜ、私達を?」
「同胞を助けるのに、理由が要りますか。早くっ!」

 徐々に解けていくお互いの疑念。

「ほほぅ、ゆまちゃんは遅れて魔法少女に」
「そうなんだ。もう可愛くって可愛くってッ!」
「キ、キリカぁ。苦しいよぉ」
「分かります。分かりますとも呉さん! この可愛さは反則ですよねッ!」
「分かってくれるか同志ッ!」
「もちろんですとも同志ッ!」
「二人とも苦しいよぉ」
「打ち解けたようね。アスカさんも、呉さんも」
「マミ・マギカ。私達のことを許してくれるのですか?」
「元々衝突は覚悟の上よ。その上で、私達は魔法少女の合同組織を作りたいと思っているの」

 新たに集う仲間。

「あ、貴女は以前の!」
『ちょっとさ、話があるんだ。前にキミ達が話していた組織のことなんだけど……』
「ええ。それがどうかしましたか?」
『あの弩級魔女を倒すため。どうか、私達もその組織に加えてくれないか?』
「私、達?」
『ああ!』




 アスカがアメリカに行ってからを描いた、第二弾ッ!!

 執筆:ゴリアス
 演出:ゴリアス
 脚本:QB
 BGM:皆様のお手元
 原作:虚淵 玄“超”先生
 キャラクターデザイン:蒼樹 うめ“大”先生
 スペシャルサンクス:画面の前の皆様

 魔法少女アスカ☆マギカSecond Season 近日公開予定!!

                                                             April fool


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