装甲騎兵ボーダーブレイク
鉛色の雨雲が垂れこむ空。今にも泣き出しそうな灰色の空を背景に、一機のヘリが飛んでいた。人を乗せて運ぶためのヘリにしては大きく、武装ヘリならばあるはずの武装が全く見当たらない。
胴体の部分はかなり大きく、そして角ばっており窓は一切見当たらない。胴体の上では双発のローターがやかましいエンジン音を撒き散らしながら、猛烈な速度で回転している。
そしてそのヘリの内部では全身が鋼鉄で出来た人形――人型機動兵器、ブラストランナーが暗闇の中に静かに佇んでいた。機体ごとに若干の差はあれど、全長平均は約5メートル。腰と足の部分には頑丈そうな拘束具でしっかりと固定されており、さながら店頭に飾られる玩具の様である。
背丈、カラーリングにエンブレム、更には機体を構成するパーツに武装。何から何までもがバラバラなブラストランナーが五体、ヘリの片側の内壁に並んでいる一方。その反対側には正反対に殆どが統一された五体のロボットが並んでいた。
同じように腰と足を固定され、全長はブラストランナーよりも低い約4メートル。顔の部分には眼の代わりに大きさが異なる円形の三つのレンズ――ターレットレンズが付いており、左耳の部分にはアンテナが。カラーリングは緑をメインに塗装されている。
武装は違いがあれど、バズーカを装備した一機を除いて殆どがロング、若しくはショートバレルのマシンガンを装備。あとの違いは肩にミサイルポッドを乗せた一機くらいだろうか。
何から何までもが統一された緑のロボット――アーマード・トルーパー、通称AT。このATの名前はスコープドッグという。
全く統一されていない五体のブラストランナーに、殆どが統一された五体のAT。真逆のロボット同士が互いに背を向けあって左右に並んでいる光景はどこか滑稽である。
アーマード・トルーパーのコックピットでは、搭乗の際には必須である赤い耐圧服を着た兵士が乗っている。頭にはスコープ付きヘルメットを被り、目の部分にはターレットレンズからの視覚情報を受け取る為のスコープが下りており、顔は窺がえない。
『ようし、お前ら。作戦が始まる前にもう一度確認するぞ』
肩にミサイルポッドを担いだATのパイロットが通信を入れた。
『作戦開始と同時に、俺達は湾岸沿いの迂回ルートを進行。出来るだけ静かにな。敵のベースに辿り着いたら防衛要員に自動砲台、そしてレーダーを破壊だ』
『で、レーダーの破壊を合図に味方が一斉に攻め込む。だったな?』
『その通りだゴダン』
五機の中で唯一バズーカ、ソリッドシューターを装備しているAT。そのATのパイロットであるガリー・ゴダンは何処か気だるそうに喋る。
通信を入れたパイロット、ノル・バーコフは微笑しながら返答した。スコープにに隠れて笑みは見えないが。
『と、ところでよ。やっぱブラストランナーって強いのか?』
『心配なら今からでも降りろコチャック。お前が居るとハッキリ言って邪魔だ』
『な、なんだと!』
『こらこら、いい加減に喧嘩はやめろ』
怯えた声で喋る男、ショートバレルマシンガンを装備したATのパイロットであるコチャックは、自分を馬鹿にしたゴダンに食ってかかる。
この二人の喧嘩は何時もの事であり、バーコフは慣れた口調で仲裁に入った。
『分隊長、他に注意すべき点は?』
『俺達の目的は飽くまで敵ベースの侵入だ。道中で敵さんに出くわしても相手にはするな。こんくらいか』
『了解』
静かに口を開き、バーコフに質問した人物。ロングバレルマシンガンを装備したATのパイロット、キリコ・キュービィーはそう言うと沈黙する。
沈黙しながらも、キリコは隣から自分に向けられる殺意をAT越しにでも感じ取っていた。しかし、キリコは口数が少なく、ゴダンの様に自ら喧嘩を売るような真似は決してしない。
自分に突き刺さるような殺意を感じながらも、彼は特に何も言わず。ATの操縦桿を握ったままスコープに映る目の前の壁を眺めていた。
『それとザキ。大丈夫だと思うが、前みたいにキリコを撃つなよ』
『……了解』
バーコフはキリコ機と同じくロングバレルマシンガンを装備したATのパイロット。ゲレンボラッシュ・ドロカ・ザキにそう言った。
ザキはこのバーコフ分隊の中では最年少でありながらも、他のメンバーに引けを取らない程の腕前を誇る。
だが、バーコフが注意した通り。ザキはキリコに出会った当初から彼に対して異常なまでの殺意と恐怖を抱いていた。
この分隊が結成された惑星ガレアデでは、キリコが搬送された病院で偶然にも同室になり、ザキは夜中に突然キリコに襲い掛かったことがある。
それだけでなく、その後の任務でもキリコに向かって意図的に銃を発砲するなど、明確な殺意を抱いている。
ザキ自身も、初対面のキリコに対して何故そこまでの殺意と恐怖を抱くのか分から無いと言う。とは言え、実際にザキが事を起こすのはキリコと二人きりの時が多く。分隊では可能な限り纏まって行動する暗黙のルールが出来ていた。
と、ヘリの内部がけたたましい警告音と赤い回点灯で満たされる。続いてブラストランナー、ATのパイロット達に通信が入った。
『まもなく作戦空域に到着する。各機、装備と機体の最終チェックをしておけ』
ヘリのパイロットからの通信にブラストランナー、ATに乗る男達は己が愛機の最終チェックを始める。
装備はキチンとある。弾も込めてある、マガジンもある。機体の動力源も問題なく稼働している。何時でも戦闘を始められる。
「ポリマーリンゲル液、反応、循環率、温度問題なし。マッスルシリンダー正常稼働」
キリコはATの血液とも言えるポリマーリンゲル液に、液に反応して筋肉の役割を果たすマッスルシリンダーのチェックを行っていた。
ATの唯一の視覚情報であるスコープに映る照準を始めとした、ありとあらゆる機体状況。OSの役割を果たすミッションディスクの挿入も確認し、準備完了。
作戦が始まれば後は何時も通り。無いよりはマシな脆弱極まりない装甲、僅かな被弾で即座に炎上、爆発する全身を巡るポリマーリンゲル液、動く棺桶とも比喩されるこのATに身を委ねて、戦場を駆け抜ける。飽きるほど繰り返してきたことだ。
キリコが機体のチェックを終えると、目の前のハッチが開かれる。機体が前にせり出し前傾姿勢に、スコープには暗闇の代わりに鉛色の雲が流れる景色が映った。視界に映る景色の下には、島の端らしき部分が僅かに見える。
『作戦空域に到達! ロック解除、行って来い!!』
言葉通り、各機体を拘束しているロックが外された。前傾姿勢であるため重力に引かれて十体のロボット達は下に落ちて行く。落ちる先は戦場、既に幾つもの火線が走り爆発があちこちで起きていた。
と、AT達は空中で背中のパラシュートを開くが、ブラストランナー達は何もせずにそのまま戦場へと落下して行く。ブラストランナーはパラシュート無しで高度から落下しても問題は無いが、ATにはそんな真似は出来ない。
そんなことをすれば間違いなく機体は原型を留めぬほどに潰れ、中のパイロットの死亡も確実である。
十秒程のスカイダイビングを体験し、先に戦場に降り立ったのは五体のブラストランナー。着地直前に腰部のブーストを吹かして衝撃を出来る限り殺し、安全に着地する。
自分達の本陣となるベースに降り立った彼等は、素早く設置されているカタパルトに乗り込み、前線へと文字通り弾かれる様に跳んでいった。
それから数十秒後、遅れて五体のATがベースに降り立つ。着地と同時に上半身が前に深く沈みこむAT独特の降着体勢を取って衝撃を吸収し、背負っていたパラシュートを切り離す。
ブラストランナーとは違い、カタパルトを使わずに足裏に設置されたローラーを使って文字通り地面を滑るように走り、迂回ルートである湾岸へと向かった。
まるで樹木の様にあちこちに曲がりくねった様々な太さのパイプ、行く手を阻む大小様々な色取り取りのコンテナ群。ここはさながら人工のジャングルだろうか。
前線から離れた位置、身を隠す場所には困らない地形、オマケに前線の激しさは相当な物であり。その場に居る者は無意識に戦場へと意識を向ける。
幾つもの銃弾が飛び交い、一瞬の内に幾つもの命が散って行く前線。その脇を隠れるようにバーコフ分隊のATは進行していた。
ローラーダッシュでコンテナの合間を滑らかに進んで行く五機のAT。幸いにも敵とは全く遭遇せず、感づかれた様子も無い。
『ようし、良い感じだ。このまま敵さんの懐に潜り込むぞ』
『な、なぁ。気付かれてないよな?』
『うるせぇぞ、コチャック。そんなに心配なら今すぐ降りろ』
戦場と言う極限の緊張が強いられる場所であるにも関わらず、バーコフ分隊の面々は至って平然としていた。バーコフは小さく鼻歌を歌いながら、コチャックは相変わらず怯え、そんなコチャックにゴダンは苛立ちをぶつける。
キリコは自分のすぐ後ろに居るザキの視線と幾分かは収まった殺気を感じながらも、黙々と操縦桿と足元の二枚のペダルを操作してATを動かす。
先頭を走るバーコフがATのターレットレンズを回転させ、観測用のレンズに切り替えた。レンズ越しの視線の先には巨大な三角形の物体、敵のベースが人工ジャングルの奥に見える。
戦場に降り立った際に一瞬だけ見えたが、その時に比べて三角形はかなり大きくなっている。それだけ敵ベースも近いと言うことだろう。バーコフは改めて操縦桿を握り締め、ターレットレンズを戦闘用に戻した。
と、コンテナの僅かな合間。その先で何かが動いた。気が付いたバーコフは素早くブレーキをかけATを停止させる。
『止まれ、隠れろ』
先程とは打って変わって緊迫した声の命令。分隊のメンバーは命令通りにATを停止させ手近なコンテナの陰に隠れる。
バーコフの視線の先では数機のブラストランナーが前線の方向に進んでおり、その手にはショットガンやアサルトライフル、更にはガトリングガン。背中には恐らく榴弾砲であろう長い筒に、近接用の大型ブレードまで背負っている。
バーコフ分隊は息を潜めて敵が過ぎ去るのを待った。敵のブラストランナーは近くのカタパルトに乗り込むと、一瞬で撃ち出されて前線へと跳んで行く。その後ろ姿を見届けて、コンクリートジャングルの向こう側に消えたことを確認するとバーコフは小さく息を吐いた。
『ようし、もう良いぞ』
バーコフ機のATが手を小さく振って後ろの分隊員に安全を伝える。コンテナに隠れていた隊員達は辺りを窺がいながら身を乗り出す。
敵ベースまでそう距離は無いだろうが、見つからないに越したことは無い。バーコフはゆっくりとATを歩行させ周囲の安全を確認する。と、コンテナ群を抜けた所で耳が何かの音を拾った。音量は小さいが特徴的な電子音が規則的に聞こえる。
――罠か!? バーコフの背中に寒気が走るが、電子音の音源を見て罠では無いことを確認した。が、直接的な罠で無いにせよ、それは事態を悪化させるには十分な代物であった。
コンテナとコンテナの合間にひっそりと隠れるように置いてある物、三枚の羽が開かれた装置――索敵センサーがそこに置いてあった。
「ちぃ!」
バーコフはATのショートバレルマシンガンで索敵センサーに銃弾を撃ち込み、即座に破壊した。
分隊員が何事かと慌てると、叫ぶように指示を飛ばす。
『センサーに見つかった! 急げ、ベースまで突っ切るぞ!!』
隊員からの返事は舌打ちが一つと怯えた声が一つ、了解の声が二つ。返事は様々だが四機のATのローラーが回転し足元に火花が散る。
バーコフもATのローラーを回転させ、ベースまで突っ切る準備が出来た。形振り構っていられる状況では無い、直ぐにでも気が付いた敵が集まってくるだろう。
五機のATはベースに向かって足元に火花を散らしながら全速力で走り出した。
障害物が多い迂回ルートの湾岸からメインルートの道路に乗り込み、最短距離をバーコフ分隊はひた走る。途中、巡回していたブラストランナーに遭遇するが牽制の威嚇射撃だけ済ませ、不必要な戦闘は徹底的に避ける。
既に敵ベースの入り口が見える距離まで近付き、バーコフはここで命令を下した。
『ゴダン、レーダーを破壊しろ。キリコとザキは防衛要員の相手。コチャックは自動砲台の破壊だ!』
口早に指示を与えると五機のATはベースへと乗り込む。ニュードの塊で出来た緑色に輝くコア。巨大なピラミッドの傘に収まるコアを中心に、その中では数機のブラストランナーと、侵入してきた敵を迎撃する幾つもの自動砲台が待ち構えていた。
破壊力のあるバズーカ、ソリッドシューターを装備したゴダンのスコープドッグはベースの奥へ。そこには巨大なパラボラアンテナ型のレーダーが左右に首を振っている。
躊躇うこと無くゴダンはソリッドシューターの引き金を立て続けに引いた。黒い大きな穴から赤い弾頭のロケットが三つ飛び出し、巨大な白い皿のようにも見えるレーダーに飛来する。
白い尾を引いてロケットはレーダーに直撃し、巨大な爆発と火柱を上げた。レーダーであった破片や残骸が辺りに飛び散る。爆発が収まったあとには、無残なスクラップと化した燃え盛るレーダーだったものがそこにあった。
一方、コチャックはベースを守る自動砲台の相手をしていた。四方八方から一定の間隔で撃ち出される砲撃を何とか避けつつ、ショートバレルマシンガンを砲台に浴びせる。
一台、また一台と着実に自動砲台を破壊し、回避にも余裕が出てきた所で同時に隙が生まれた。コチャック機の足元に砲撃が着弾し、スコープドッグの脚がもつれる。フラフラと不安定な軌道を描いて、やがて派手に倒れた。
「いてて……」
横転したATの中で、コチャックはぶつけた頭を擦りつつ機体を立て直そうと操縦桿を握る。と、スコープに映る外の様子に思わず手が止まる。
一機のブラストランナーが手に持った機関銃の銃口を此方に向けていた。既に引き金に指がかかっている。後はほんの少し指に力を入れるだけで黒い穴から大口径の鉛弾が飛び出し、紙屑にも等しいATの装甲をズタズタに引き裂くであろう。中のコチャックごと。
「う、うわああぁぁぁぁ!!」
恐怖の余りコチャックは叫び声を上げ目を閉じ、両手で頭を抱える。ブラストランナーの指が引き金を引くまであと数ミリ。
そして、引き金が引かれ銃弾が飛び出した。火薬の力で撃ち出された鉛の弾頭は狙っていたATに命中せず、明後日の方向に飛んで行く。
コチャック機を狙っていたブラストランナーは、横からやってきたキリコのスコープドッグのターンを加えたアームパンチの直撃を側頭部に受け、倒れ伏す。
スコープドッグの左腕から空薬莢が排莢され、伸ばしていた左腕を戻す。立ち上がろうとしていたブラストランナーに、キリコの後ろに居たザキのスコープドッグがマシンガンを浴びせる。マシンガンを浴びたブラストランナーは被弾した箇所を始め、関節部や様々な場所からニュードの緑色の粒子を噴き出し爆散する。
『大丈夫か?』
『た、助かった……』
『気をつけろよ』
キリコは抑揚の無い声で、ザキは舌打ち混じりの声でコチャックの安否を確認すると、キリコとザキのATが背中合わせになる。
背中を向けあった瞬間に手に持ったマシンガンを発射、射線の先にはブラストランナーが。二人の銃撃は左右のステップで回避されるが、その間にコチャックはATを立て直し三人は別々の方向に散って行く。
五人がベースに突入してから三分が経とうとしていた。奇襲にも等しい突撃によって防衛していたブラストランナーにダメージを与えることは出来たが、撃破には至っていない。
更に悪い事に、バーコフ分隊に気が付いた前線の敵がベースに戻り、時間が経過するごとに敵が増えて行く。幾ら腕の立つ分隊とは言え数の差だけはどうしようもない、錬度でカバーしようにも限界がある。
『クソっ! バーコフ、このままじゃ押し切られる!』
『分隊長、味方はまだ来ないのか?』
ゴダンは焦りに満ちた声で、キリコは変わりの無い平坦な声であるが、内心では危機を感じているのであろう。
バーコフはスコープドッグの肩に担がれたミサイルポッドの最後の三発を牽制に撃ち、敵のブラストランナーと距離を取りつつマシンガンを乱射する。
前線の敵が戻ってきたということは、同時に味方も此方に向かっている筈だ。もうすぐ、もうすぐ来る。しかし、それまでの時間が余りに長い。
マシンガンの予備のマガジンも直に底を着く、近接用のアームパンチだけで戦うのは余りに無謀だ。早く、早く来てくれ。バーコフは焦燥で満ちた心の中で必死に祈る。
やがて、五機のATはベースの奥に追い詰められた。目の前にはこの戦場に居る殆どの戦力が集結したであろうブラストランナーの群れ。その群れが多種多様な形の不気味に光る眼で五機の獲物を睨みつける。
『万事休すか……』
『クソッたれ! こんな所で死んでたまるか!!』
『あ、ああ……』
『ここまでか……』
『……』
バーコフは諦めたように、ゴダンは吐き捨てるように、コチャックは呻き声を、ザキは歯噛みしながら、キリコに至っては無言で今の感情を吐露する。
目の前のブラストランナーの群れが手に持った様々な得物を持ち上げ、五体のスコープドッグに照準を合わせる。
これだけの数の一斉射撃を浴びれば、数秒後には鉄屑とポリマーリンゲル液、血と肉と骨で出来たスクラップの山が出来上がっているであろう。
アサルトライフル、機関銃、ショットガン、サブマシンガン。ありとあらゆる銃火器が火を噴く寸前――。
『伏せろ!!』
五人の耳に届く野太い声、上から響く気の抜けるような飛来音、音に合わせて上空から近付いてくる赤い火の玉。
バーコフ達は声の言うとおりに咄嗟にATをしゃがませた。直後、ブラストランナーの群れの直ぐ後ろに火の玉が着弾し、まるで小さな隕石が落下したかのような爆風と衝撃が生まれる。
巨大な爆風はブラストランナーの背中から容赦なく襲い掛かり、華奢な体付きの機体は大きく吹き飛ばされ、頑強な機体は衝撃と爆発の直撃を浴びることになった。
バーコフ達のATは必死に地面にしがみ付き、吹き飛ばされまいと指先に力を入れ内部のマッスルシリンダーが悲鳴を上げる。
爆風と衝撃が収まりベースは静まり返る。火の玉が着弾してから数十秒後、バーコフはゆっくりとATの顔を上げた。
ターレットレンズを左右に動かし何が起きたかを確認する。スコープ越しに見えるその景色にはブラストランナー達が居た場所のすぐ後ろに、煙を上げる巨大なクレーターが。その周りにはブラストランナーだった残骸が散らばっている。
『……助かった、のか?』
バーコフが独りごちると、耳に先程聞こえてきた野太い声が届く。
『遅れてすまない、間に合ったようだな』
幾つもの重い足音がベースの入り口から聞こえ、ターレットレンズをそちらに向けると何機もの味方のブラストランナー達がやってくる。
ここで初めてバーコフ達は自分達が味方に助けられ、命拾いしたことを理解した。
最低野郎と呼ばれ、使い捨て前提の兵士と兵器たち。今日もまた、彼等は生き延びることが出来たのだった。