宇宙世紀0079
サイド3、ジオン公国の宣戦布告から始まった地球連邦との戦争は大きな節目を迎えていた。
『チェンバロ作戦』
地上からジオンをほぼ駆逐した連邦軍による宇宙反抗作戦。ジオン宇宙攻撃軍本拠地、宇宙要塞『ソロモン』攻略作戦の発動である。
連邦軍はレビル大将を艦隊総司令に据え、再建した宇宙艦隊に多数のMSを配備した。迎え撃つはジオン宇宙攻撃軍司令、ドズル=ザビ。その戦力は圧倒的な物量を誇る連邦軍に劣っていたが、宇宙こそ、我らの戦場、と兵士達の士気は高かった。
戦いは熾烈を極め、双方に被害が出た。そしてサイド5の暗礁空域に展開したティアンム艦隊によるソーラシステムの照射により、ソロモンは防衛力の大半を喪失。戦いの趨勢は決することになった。
この物語の主人公、コウスケ=フルカワ中尉もソロモンで戦った戦士の1人である。
『こちら221小隊 光が! 光がソロモンに!』
『Sフィールドの要塞砲群が沈黙した! いったい何が起きているんだ!』
『光を食らったムサイが一瞬で爆沈したぞ! なんだあれは!』
混乱した通信が次々と入ってきた。Sフィールドは壊滅。未だに光はソロモンに降り注ぎ続いている。
俺、コウスケ=フルカワは地上からの愛機であるMS-06G改の操縦桿を握りしめた。状況は分からないが、Sフィールドはこの戦域のすぐ隣だ。このままだとまずい。
「コンドウ、キムラ! ただちに全力後退! ソロモンの真裏まで逃げるぞ!」
『ちょ、小隊長、正気ですか!?』
『敵前逃亡は軍法会議で銃殺刑ですよ!』
「うるせぇ! このままだったら連邦の新兵器にこんがりローストされんだろうが! つべこべ言わずについて来やがれ!」
機体を反転させスラスターを一杯まで吹かす。推進剤の減りが激しいが、出し惜しみをしている場合じゃない。
『げ! 小隊長! 待ってください!』
『置いて行かないで!』
「だぁほ! とっととついてこい!」
後方から光が迫ってくる。早い。
「全機、スラスターの出力を全開まであげろ! 捕まったら終わりだぞ!」
『元は地上仕様ですよ! これでも全開です!』
『も、もうだめだ! 追いつかれる!』
「あきらめんじゃねぇ! うぉお!?」
突然、機体が前のめりに倒れた。
「バ、バランサーが狂ったぁあ!? こんな時に!」
必死に機体を立て直そうとするがうまくいかない。所詮は地上仕様を応急改修で宇宙でも戦えるようにチューニングした機体。この無重力の海で溺れてしまっている。
『小隊長!』
『今、助けます!』
「バカヤロウ! 戻るんじゃねぇ! 全力後退! 命令だ!」
この状況で助けにくるなんてバカか。今、反転したらもう逃げ切れないだろうが。俺の部下らしくねぇ。
「行けぇ! 生き残って戦い続けろ! 俺の部下なら戦って死ね!」
『しょ、小隊長ぉ……』
『いくぞ、コンドウ! 小隊長の、中尉の命令だ!』
コンドウとキムラの機体が更に加速して離れていく。もう機体を動かすのは諦めた。エラーメッセージが止まらない。復旧は間に合いそうにない。光はすぐそこまで迫っている。
「最後に一服くらいできるか」
ヘルメットを取ってポシェットから煙草を取りだす。本来なら重大な規則違反だが、これから死ぬんだから少しくらいいいだろう。
「ちくしょう、いい人生だったなぁ、このやろう」
紫煙を吐き出しながら、俺は光の奔流に飲まれた。