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[35622] 【進撃の巨人】 緑の巨人、大地に立つ
Name: 烏天狗◆264e7e68 ID:88fad4ec
Date: 2015/05/07 08:01
前書き的な。

ご覧頂き感謝します。

この小説は作者の自己満足、自己都合、自己解釈によって作られております。

当作品は機動戦士ガンダムと進撃の巨人のクロスオーバー作品になる予定です。
以前、にじファン様に投稿させて頂いていたものを加筆、修正して投稿する予定です。
当作品は基本的にご都合主義です。独自解釈や独自設定が乱発します。
一人称作品ですが、文章力に難があるため時折、三人称のような表現があります。びしばしご指導頂けたら幸いです

あえて言います。容易にエタります。でも、完結させたいのでがんばります。

主人公がやっと言葉の壁を突破した



[35622] プロローグ
Name: 烏天狗◆264e7e68 ID:a00ffaa2
Date: 2012/10/25 23:44
宇宙世紀0079
 サイド3、ジオン公国の宣戦布告から始まった地球連邦との戦争は大きな節目を迎えていた。

 『チェンバロ作戦』

 地上からジオンをほぼ駆逐した連邦軍による宇宙反抗作戦。ジオン宇宙攻撃軍本拠地、宇宙要塞『ソロモン』攻略作戦の発動である。
 連邦軍はレビル大将を艦隊総司令に据え、再建した宇宙艦隊に多数のMSを配備した。迎え撃つはジオン宇宙攻撃軍司令、ドズル=ザビ。その戦力は圧倒的な物量を誇る連邦軍に劣っていたが、宇宙こそ、我らの戦場、と兵士達の士気は高かった。
 戦いは熾烈を極め、双方に被害が出た。そしてサイド5の暗礁空域に展開したティアンム艦隊によるソーラシステムの照射により、ソロモンは防衛力の大半を喪失。戦いの趨勢は決することになった。
 この物語の主人公、コウスケ=フルカワ中尉もソロモンで戦った戦士の1人である。


『こちら221小隊 光が! 光がソロモンに!』
『Sフィールドの要塞砲群が沈黙した! いったい何が起きているんだ!』
『光を食らったムサイが一瞬で爆沈したぞ! なんだあれは!』

 混乱した通信が次々と入ってきた。Sフィールドは壊滅。未だに光はソロモンに降り注ぎ続いている。
 俺、コウスケ=フルカワは地上からの愛機であるMS-06G改の操縦桿を握りしめた。状況は分からないが、Sフィールドはこの戦域のすぐ隣だ。このままだとまずい。

「コンドウ、キムラ! ただちに全力後退! ソロモンの真裏まで逃げるぞ!」
『ちょ、小隊長、正気ですか!?』
『敵前逃亡は軍法会議で銃殺刑ですよ!』
「うるせぇ! このままだったら連邦の新兵器にこんがりローストされんだろうが! つべこべ言わずについて来やがれ!」
 
 機体を反転させスラスターを一杯まで吹かす。推進剤の減りが激しいが、出し惜しみをしている場合じゃない。

『げ! 小隊長! 待ってください!』
『置いて行かないで!』
「だぁほ! とっととついてこい!」
 
 後方から光が迫ってくる。早い。

「全機、スラスターの出力を全開まであげろ! 捕まったら終わりだぞ!」
『元は地上仕様ですよ! これでも全開です!』
『も、もうだめだ! 追いつかれる!』
「あきらめんじゃねぇ! うぉお!?」

 突然、機体が前のめりに倒れた。

「バ、バランサーが狂ったぁあ!? こんな時に!」

 必死に機体を立て直そうとするがうまくいかない。所詮は地上仕様を応急改修で宇宙でも戦えるようにチューニングした機体。この無重力の海で溺れてしまっている。

『小隊長!』
『今、助けます!』
「バカヤロウ! 戻るんじゃねぇ! 全力後退! 命令だ!」
 
 この状況で助けにくるなんてバカか。今、反転したらもう逃げ切れないだろうが。俺の部下らしくねぇ。

「行けぇ! 生き残って戦い続けろ! 俺の部下なら戦って死ね!」
『しょ、小隊長ぉ……』
『いくぞ、コンドウ! 小隊長の、中尉の命令だ!』

 コンドウとキムラの機体が更に加速して離れていく。もう機体を動かすのは諦めた。エラーメッセージが止まらない。復旧は間に合いそうにない。光はすぐそこまで迫っている。

「最後に一服くらいできるか」

 ヘルメットを取ってポシェットから煙草を取りだす。本来なら重大な規則違反だが、これから死ぬんだから少しくらいいいだろう。

「ちくしょう、いい人生だったなぁ、このやろう」

 紫煙を吐き出しながら、俺は光の奔流に飲まれた。



[35622] 第1話 巨人
Name: 烏天狗◆264e7e68 ID:79f0a82a
Date: 2012/10/24 23:04
「く……なんだぁ、地獄ってのは真っ暗闇だな」
 
 気が付くと真っ暗だった。体が重い……重い?

「重力がある? おいおい、ソロモンにゃ重力ブロックはねぇぞ」

 そういえばこの暗闇も妙な圧迫感があるな。むしろよく知っているような感じだ。ためしに手を伸ばすと馴染んだ手応え。うん、こりゃザクのコクピットだな。

「なんだよ、生き残っちまったのか」

 手探りでシステムを再起動する。モニターに灯が入り自己診断プログラムが自動で起動する。
 システムオールグリーン。推進剤残量85%、マシンガン125発、予備弾倉2、ヒートホーク、クラッカー3、固定兵装その他異常なし。核融合炉正常。
 幸いなことに機体に異常はない。カメラを起動して外を確認するか。

「コロニーの中? いや、これは……地球か?」

 空を見上げると抜けるような蒼。コロニーのように反対側の地上が見えることはない。

「てっきり吹っ飛ばされて運よくどこかの廃棄コロニーにでも流されたと思ったんだが……いや、ありえないか。気絶していたとはいえ、エアが持たん」

 暗礁空域にはサイド5の残骸がかなり浮遊しているが、原形をとどめていて、更に稼動しているコロニーなんてないだろ。サイド3までは遠すぎる。

「とにかく現在位置は……たしか地上にいた頃のマップデータがこのフォルダに……ありゃ? GPSがイかれてやがるのか? ん?」

 システムエラー。現在地の測定に失敗。自己診断プログラムじゃ異常なかったはずだが。いや、それよりも集音マイクが拾った音は……砲声? 

「なんだぁありゃ? 馬鹿でかい城壁? それとモビルスーツ……じゃなさそうだな」

 カメラを音のした方向に向けて拡大すると凄まじい高さの城壁があった。50メートル以上はあるか。城門らしきところが破壊されていて、モビルスーツと見紛う人を巨大化したような奴らが群がっていやがる。
 城門に据えつけられている、見るからに旧式な大砲に兵士のような連中がいて巨人を狙っていた。こちらは普通のサイズのようだが。
 
「おいおい、嘘だろ」

 機体を城壁の方に向け、地上を滑走する。あの巨人どもは敵だ。
 奴ら、城壁にいる兵士を掴み上げて、口に放りこんでいる。人を食ってやがる。
 
「うぉおりゃああー!!」

 幸いそんなに距離が離れていなかった。滑走中にマシンガンを腰にマウントしてヒートホークに持ち替え、巨人に振り下ろす。巨人は簡単に切れた。戦車より手応えがないな。服すら着ていないから当然か。

「よくわからねぇが、少なくても人間を食う奴らはダチにゃなれそうにねぇな」

 振り切ったヒートホークを勢いをつけたまま翻して次の巨人の首を跳ね飛ばす。ザク並みにでかいやつからその半分、さらに足元に群がってくるちっさい奴と種類豊富だな、こいつら。一番小さいやつでも人間の2、3倍はあるか。

「がぁああ! しっかしウザイ上にキモいんだよ、てめえら!」
 
 足元に群がった小物は蹴り飛ばすか踏み潰すだけで済む。ただの歩兵を虐殺するよりはマシか。人と違ってザクの鋼鉄の足で踏まれりゃぺしゃんこだ。
 本当にどいつもこいつも生理的に嫌悪を抱く。人に似ていて人じゃない。生殖器はなく、口が頬まで裂けている奴もいる。むき出しの歯が更に嫌悪をそそるな。

「だからぁあ! 人を食うんじゃねぇ!!」

 またしても兵士をつまみあげて飲み込もうとしていた巨人の首を握りつぶす。力を失った手から零れ落ちた兵士を地面に落ちる前に手のひらで受けとめてやる。

「おい、無事か? どうなってんだこりゃ!」

 助けた兵士に拡声器で聞く。あ? 何語だこれ。

「言葉が通じない? どこの僻地なんだよ、ここは」

 世界共通語の英語が通じないってありえねぇ。とりあえず、こいつは城門の上に戻してやろう。
 下ろしてやると他の奴がすぐに駆け寄ってきて手を貸した。俺に向けて何か言っているが。

「わりぃ、やっぱ何言ってるかわかんねぇや。でも、ここは任せろ」

 ザクの右手で胸をどんと叩いてやる。ボディランゲージくらいなら通じるだろ。
 おぉ、よくわからんが一斉に同じ動作を返された。

「なんだ、あんたらの敬礼みたいなもんか? まぁ、意思疎通はできそうだな。とりあえず今はくそ巨人どもの掃除が先だな」

 意思疎通をはかるにもこいつらがいたらゆっくりできそうにないからな。
 次から次へと巨人を狩っていく。簡単に倒せるから城門付近だけならあっという間だ。
 不思議だが倒した巨人は死体がのこらねぇ。煙を吹いて消えちまう。中には斬ったところが再生する奴もいたが、滅多切りにしたら消えた。

「あらかた片付いたか。あ、なんだよ?」

 また城門の兵士達がなにかを叫んでいる。やっぱりわからねぇから手を振ってそれを伝えようとする。すると通じないってことが通じたのか全員で城壁の中を指さしてきた。

「まだ中にこいつらがいるってことか?」

 城門に開いた穴は高さが10M程度。横幅は問題なさそうだが厳しい。が、中にまだ巨人どもがいるなら始末した方がいいな。どうもこいつらは巨人に対抗できないっぽいし。

「ま、いけないことはないか。やってやるよ」

 助走距離を取り、ショルダータックルの要領で機体を低く滑走させる。


 城門を越えたところで俺が見たのは更なる地獄絵図だった。

 



[35622] 第2話 砲台長
Name: 烏天狗◆264e7e68 ID:79f0a82a
Date: 2012/10/29 00:45
 トロスト区駐屯兵団所属の私ことリカルド=トートは今日も壁の上にいる。
 トロスト区の城門に設置された第1砲台の砲台長が私の仕事だ。
 ここは5年前、シガンシナ区及びウォール=マリアが陥落して最前線のひとつになった場所だ。陥落した当初こそ、シガンシナ区が陥落した要因になった超大型巨人が現れるのではないかと戦々恐々としていたのを覚えているが5年も経った今ではその緊張もかなり薄らいできている。

「砲台長、1番から5番までの各砲座の上番点検整備に異常ありません」
「ご苦労、いつも通り即応要員を残して交代で休憩を取ってくれ」
「了解しました」
 
 前日の砲台長から報告書で申し送りを受け、その間に部下達は各砲座に状態を点検する。いつも通りの日常。何ごともない日々。うっかりすると最前線ということを忘れてしまいそうだ。

 そう、そんな時だった。

「うわっ!」
 
 突如として熱風が吹いた。目も開けていられないよう強烈な熱さだった。腕で顔を庇ってその場にしゃがみこむ。

「い、いったいなにが?」

 熱風が弱まってからなんとか目をあけると、

「壁 ?」

 目の前に真っ赤な壁があった。熱風はそれからきている。これは、いったい? 視線を上と向ける。

「きょ、巨人だぁあああああ!!」
「信号弾、緑星上げろぉおお!! 各砲座ぁあ、撃ぇえええ!」

 部下が上げた悲鳴を聞いて、咄嗟に指示を出すことはできた。
 目の前に5年前の超大型巨人がいた!?

『全員、よけろぉおお!!」

 超大型巨人が足を振りあげていた。ウォール=マリアの城門を破壊したときのように城門を破るつもりか!

「ぐぅ……各砲座、状況を報告しろ!」

 凄まじい轟音と共に15メートル級でも破壊できないはずの城門が吹き飛んだ。幸い、私の体に異常はない。まだ戦える。

「2番砲が砲座から脱落しまいした! 復旧中!!」
「1,2,4,5砲座、異常なし!」
「第3砲台が1、5番砲を除いて城壁ごと崩落しています!!」
「第2砲台も3番砲が崩落!!」

 被害は甚大だ。第1砲台は2番砲の脱落で済んでいるが、一段下に位置する第2砲台は3番砲が砲座ごと崩落してしまっているし、第3砲台に至っては2門が残っているとはいえ、射撃できるか怪しい。

「1,2,4,5番砲! 目標、前方の超大型巨人! とにかくぶちかませぇええ!!」

 怒りのままに号令を下し、健在だった4門が火を噴く。もっとも超大型巨人にちっぽけな榴弾が効くかはわからないが、今、できることをやるしかない!
 案の定、至近距離で命中したにも関わらず聞いてた様子はない。

「次弾装填、急げ!」

 部下が装薬と砲弾を大急ぎ込める。

「ほ、砲台長! う、上!」
「なに?」

 上を見上げると超大型巨人が右手を大きく引いていた。

「そ、総員、城壁内に退避!! 奴は城壁の機動砲をなぎ払うつもりだぞ!」

 ただちに城壁の中に退避する。最後の部下が飛び込んだのを確認して、私も飛び込んだところで、上から破壊されて機動砲やこぼれた砲弾、レール、そして人が雨のように降ってきた。

「野郎!!」
 
 再び、砲座に展開しなおす。こいつには知性でもあるのか? 壁上の人を捕らえるならともかく機動砲をなぎ払ったり、城壁の弱点である城門を狙って破壊したり、普通じゃない。

「砲台長! 2番砲の復旧、及び各砲装填よし!」
「よぉし! 各砲座、う……」

 て、と続けられなかった。超大型巨人の体から再び熱気と煙が噴出してきたからだ。

「煙幕のつもりか! 構うか! 目標正面! 撃てぇえええ!」

 再び火を噴く5門の砲。同時に下からも砲声が聞こえた。下の砲台もいくつかは生き残ったらしい。

「ただちに、装填! ありったけぶち込んでやれ! すぐに増援もくる、5年前の借りをかえす……ぞ?」

 煙が晴れた。そして私は呆然とする。たった今まで目の前にそびえ立っていた肉の壁が忽然と姿を消したのだ。

「に、逃げた?」
「砲台長! あれを!」

 呆けている私に、部下が指差したのは巨人の大群。15メートル級から3メートル級まで軽く100体以上。ぽっかり開いたトロスト区の城門目指して向かってきている。

「各砲座、弾種変更! ぶどう弾詰め! 住民の避難が完了するまで可能な限り足止めする!」
「し、しかし。砲台長。巨人です。一度下がって態勢を立て直しましょう!」

 部下の1人が叫ぶ。その顔は恐怖で染まっている。たしか配属間もない新兵だったはず。

「馬鹿やろう! 私たちはまだ戦えるだろうが!! ここで戦わずになんのための駐屯兵団か! 今度、弱音を吐いたらここから突き落としてやるぞ!」
「す、すみません!! い、1番から5番まで装填良し!!」
「各個に撃て! 続けて装填! 砲身が焼け付くまで撃て!」

 5門の砲がいくつも砲弾を吐き出す。巨人に命中するものの奴らはひるまない。頭や足を吹き飛ばして一時的に動きを止めることが出来るが、1、2分もすると吹き飛んだところを再生して進撃を続ける。
 何体もの巨人が破壊された城門を通り、トロスト区の中に入っていく。大した足止めになっていない。住民の避難は間に合うのか。

「あぁああアァあああぁあっ!!」

 下から断末魔の悲鳴が聞こえてきた。第2、第3砲台が崩落したときに一緒に地面に落下して、運悪く生き残ってしまった兵士の悲鳴だ。そう運悪く生き残ったために巨人に掴み上げられている。

「砲台長!」
「諦めろ! 助からん!」

 私だって助けたい。しかし、もう助からない。下に落ちたときに死ねなかったのが不運だ。平時なら奇跡と言われるようなことだが、今は不運としかいえない。少なくても生きたまま食われるよりは頭を砕かれて即死したほうがマシだ。
 巨人が口を閉じて鮮血がほとばしる。悲鳴はとうに途切れていた。

「砲台長! まだ生き残りがいます!!」 
「……2番砲、俯角下方90度、榴弾装填……」
「砲台長!?」

 私の命令に部下は戸惑う。

「もう彼らを助けることはできん。仮に助けにいったとして巨人の胃袋に入るのが1人増えるだけだ。せめて生きたまま喰われるより一瞬で楽にしたやったほうが彼らのためだ」
「し、しかし、砲台長……」
「やれ、責任は私が取る」
「りょ、了解。2番砲、俯角下方90度、榴弾装填!」

 部下が俯角修正と装填作業を行なう。その間にも地面に落ちた生き残りの兵士達は巨人に食われていく。幸い食うのに夢中で巨人は動きを止めている。兵士達を狙うならできる。

「射撃準備良し!」
「許せ……」

 ほんに僅かに目を閉じ、これから殺す兵士達に向かって詫びた。射撃号令を下そうとしたとき、聞きなれない音が私の耳朶を打った。

「なんだ?」

 音のした方を見て私は驚いた。見たこともない緑色の巨人が凄まじい勢いでこちらに向かってきていた。その手には巨大な斧を持ち、赤い一つ目を光らせ、背中から火を噴きながら飛んでいた。

「ほ、砲台長! あ、あれ、なん、なんなんですか、あれ!」
「知るか! 私に聞くな! 新種の巨人ってことでいい! 20メートルはあるな!! 1,2番砲、アレを狙え! 当てろよ!!」

 とにかく迎撃せねば。効くかどうか、いや、それ以前に当たるかどうか分からないが砲を向けないわけにはいかない。しかし、それは無駄になる。

「なん、だと?」

 私はあり得ない光景を見た。
 緑色の巨人は城門前に降り立つと目の前にいた15メートル級を頭から手にした斧で叩ききったのだ。
 そのまま当たるを幸いに斧を振るって巨人の首を跳ね飛ばし、小型の巨人を蹴り散らし、踏み潰した。そして、今、まさに兵士を飲みこもうとしていた巨人の首を掴み、そのまま握りつぶした。さらに巨人の手から零れ落ちた兵士を地面に落ちる前に巨大な手で受け止めた。

「私は夢でも見ているのか?」

 巨人が巨人を殺す。今まで見たことも聞いたこともない。加えてこの巨人は明らかに人を助けようとしている。今も手に乗せた兵士に向かって言葉を発して……言葉を!?

「おい、今、あの巨人が話したように聞こえたんだが、気のせいだよな?」
「いえ、俺も聞こえました、砲台長。言葉は分かりませんでしたが」
 
 そう、話した言葉は聞いたことのない言葉だった。だがうなり声や鳴き声とは違う、意味のある言葉を話しているような気がした。
 緑の巨人は助けた兵士を私のいる城壁まで運び、丁寧に下ろした。


「おい、お前は何者だ! 言葉が分かるのか?」

 私は思わず緑の巨人に話しかけていた。あり得ないことだが、もし、言葉が通じて私たちの味方をしてくれるとしたらこれほど心強い援軍はない。
 だが、緑の巨人は首を左右に振った。言葉は通じないらしい。しかし、言葉が通じないということが通じた。
 更に緑の巨人はまた私を驚かせた。なんと胸に右拳を持ってきてドンと叩いたのだ。

「砲台長! 巨人が……我々の敬礼を!」
「あぁ……総員、敬礼!!」

 なぜか私は敬礼を命じていた。そうしたいと思った。
 それから緑の巨人は城門に集まってきた巨人を殺しまくった。
 弱点を知らないようで時々、仕留め損なった巨人が襲い掛かるもまるで子供を相手にするようにあしらい、倒していった。

「つ、強すぎる……
 
 城門周辺の巨人はあっという間に全滅していた。緑の巨人はあたりを見回して他に巨人がいないか探しているようだった。

「おーい! 緑の巨人よ! もしも、人類の味方なら街に巨人が侵入してるんだ! 仲間達が戦っている! 助けてやってくれ!!」
「砲台長! 正気ですか! あんな奴を中に入れるなんて!」
「ああ、私もどうかしていると思うよ。だが、あの緑の巨人が味方だったら素晴らしいと思わんか? そもそも奴が入ろうとしたら貴様、阻止できるか?」
「それは、無理ですけど。でも言葉は通じないようですよ」
「の、ようだな」

 緑の巨人は私の呼びかけを来て振り向いたが、やはり言葉は通じないようだ。だったら。

「こっちだ! この中だ! 頼む、女房と娘が街にいるんだ!」

 全身を使って緑の巨人の注意を引いて、叫びながら街を指差した。他の兵士にも同じことをしろと命じる。
 すると巨人は城門から少し距離を取り、身を屈めるとまた背中から火を噴いて城門に飛び込んでいった。

「ほ、本当に入っちまった。大丈夫でしょうか?」
「分からん。少なくても人間は殺さない、巨人は殺す。それだけでも大助かりだ。それより新手だ」

 緑の巨人が一掃したとはいえ、巨人は無数にいる。新たな巨人が城門に向かってきていた。

「私たちもやれることをやるぞ! 撃ち方用意!!」

 緑の巨人がきっと仲間たちを助けてくれる。だったら私は自分の責務を果たすだけだ。


「撃てぇええええ!!」



[35622] 第3話 城壁の中
Name: 烏天狗◆264e7e68 ID:79f0a82a
Date: 2012/10/29 00:45
 屍が累々と転がっている。上半身だけ、下半身だけ、腕だけ、脚だけ、頭だけ、胴体だけ。

「ひでぇ、なんだよ、こりゃあよ」

 たぶん、巨人の食い残し。戦った兵士達の亡骸の一部なんだろう。

「よし。とりあえず巨人どもは全部ぶった切る。それから言葉の通じる奴を探して話を聞く」

 方針を決めたら後は行動するだけだ。
 手当たり次第に巨人どもを狩る。斬る、叩き潰す、踏み潰す。暴れに暴れまわった。
体躯に比してか、腕力は相当にあるらしく大型の巨人が振るう拳は木造の建物を簡単に破壊した。動力パイプでも握られたら厄介かもしれないが、大型の巨人の絶対数が少ないから今は問題ない。それ以下の巨人は相手にすらならない。ヒートホークと徒手空拳だけで十分だ。
巨人は体温が異常に高いらしく高熱を放っている。それをセンサーに登録してレーダー上に表示し、効率よく巨人を狩っていく。

「おお、こいつらすげぇな」

 時折、兵士がワイヤーのついたアンカーを打ち出す装置を使って空を飛び、両手に構えた剣で巨人のうなじの肉をそぎ取っていく。削がれた巨人は他に損傷がないのに倒れ、消えていく。どうやらうなじの一部分が弱点らしい。
 その兵士達は最初こそ、こちらを警戒していたが俺が構わずに巨人を狩り続けると敵意なしと判断したか、今では俺の周りを飛び交って同じく巨人どもを狩っている。

「しかし、楽に倒せるがきりがねぇな。増援を食い止めるにはあの穴を塞ぐのがいいんだろうが……おぉ! いいものあるの忘れてた!」

 腰から対MS手榴弾のクラッカーとは別の特殊手榴弾を取り出す。

「有り合わせで作ったもんだが、まさか役に立つとはな。やっぱおやっさんの言って通り備えあれば憂いなしだな」

 ソロモンの廃材置き場からかっぱらった材料で作ったお手製手榴弾。コロニーで空気漏れが発生したときに使う瞬間凝固ジェルを充填した一品。愛称はトリモチ弾。

「正直、連邦のジムに対する嫌がらせのつもりで作ったから強度はあまり期待できないが、時間稼ぎにはなるだろ」

 巨人を排除してから兵士達に城門を復旧してもらえばいいだろう。
 城門に開いた穴に向かってトリモチ弾を投擲。時限信管によってちょうど通路の中ほどで爆発。通路いっぱいに粘着性のジェルが広がり、すぐさま空気と反応して硬化を始めだ。門を通過しようとした巨人を巻き込んでなんだか気味の悪いオブジェが出来上がったが、気にしないでおこう。

「ナイスボールってか。それじゃ、ちゃっちゃと掃除といきますか」
 
 巨人の増援は阻止した。次は残存する巨人の殲滅を目指す。街の中にどれだけの数が入り込んでいるのやら。

「あん? 巨人の仲間割れか?」

 大小の巨人相手に無双していると巨人同士で殺しあっているのを見かけた。片方の巨人が強いらしく同じサイズの巨人の一方的に殴り殺している。止めを刺し終えるとすぐさま次の巨人に襲い掛かっていた。

「ま、人を襲わずに仲間を襲ってんならとりあえず後回しでいいな。ん、なんだ?」

 俺の周りで戦っていた兵士が高い建物の屋上に登り何かを叫びながら指を差した。指の指す方向には巨人に群がられたでかい建物があった。

「あれだけ巨人が群がっているって事は生存者が立て篭もっている建物なのか? たぶん、助けてくれってことだろうな、よし」
 
 その兵士に向け、また任せろと胸を叩いてやる。やはり敬礼か挨拶なのかこの兵士も胸に拳をやって返してきてくれた。うん、今のところこれだけが意思疎通の方法だな。

「待っていろよ! 今、助けてやる!」

 襲ってくる巨人を兵士達と共に蹴散らしつつ、建物に向かう。
 建物に辿り着くと何体かが俺に向かってきやがった。

「邪魔なんだよ、でかぶつが!」

 向かってくる巨人を手当たり次第に切り払い、排除する。建物に群がっている巨人はひっぺがして転がし、叩き切る。

「あらかた片付いたな」

 建物から巨人を一掃した。レーダーには今のところ他の個体は確認できない。もしかしたら小型の奴が内部に侵入しているかもしれないが、それはどうすることもできないから兵士達にがんばってもらうしかない。
 一緒に戦ってきた兵士達は建物の中に入っていった。しばらくすると屋上にその兵士達と立て篭もっていただろう、他の兵士達が出てきた。よく見ると全員かなり若い。少年少女といってもいいくらいだ。どこも人手不足なのか。

「おい、お前ら、俺の言葉が分かるか?」

 拡声器で話しかけると一緒に戦ってきた兵士以外がぎょっとした。リーダーらしき兵士がなにかを叫んできたがやはり言葉が分からない。

「だぁあああ! 英語が通じないってお前ら何人だよ!」

 地球圏では共通語として英語、他に母国語を覚えるのが一般的なはず。見た目は英語が通じそうな白人っぽいのが多いのに聞いたことのない言葉でしゃべってやがる。

「こちとら共通語と日本語しかわかんねぇんだよ! おい、誰か日本語がわかるやついねぇのか? いないよな、そうだよな……くっそう……っておろ?」

 やけくそで日本語で喚いてみたら反応したのが1人いた。黒髪で顔立ちも東洋人っぽい少女。

「おい! そこの黒髪でマフラー巻いた子! 言葉分かるのか?」
『……少し分かる』

 よっしゃ、希望が見えてきた!



[35622] 第4話 兵士
Name: 烏天狗◆264e7e68 ID:79f0a82a
Date: 2012/11/02 00:49
「うぉおおっ!!」

 第104期訓練兵団、17班、班長ウェスカー=ポートマン。
 今、巨人の手を必死に逃れた俺です。もう半泣きだ。いっそ泣きたい。

「ウェスカー! もう無理だ! 撤退しよう!!」

 もう1人泣きそう、いや、むしろ泣きながら機動しているのはレオン=アルバカーキ。唯一残った17班の班員。
 他の班員はどうしたって? とっくの昔に巨人に食われちまった。8人いた17班も俺とレオンの2人だけに、いや、あと1人。

「こんなときにミカサがいてくれたらなぁっとぉおおおおっ!!」

 あぶねぇ、あぶねぇ。後衛に入れられた104期の主席、ミカサ=アッカーマンを思い出していたら危うく巨人に掴まれるところだった。

「ないものねだりしても仕方ないか、撤退の鐘はまだかよ」
「ウェスカー! もう無理って! もう死ぬって! 逃げようってば!!」

 叫ぶわりには巨人の攻撃を紙一重で避けているレオン。

「逃げるったってこの包囲を突破できる自信あるのかよぉっととと!」

 周りは巨人だらけ。15メートル級から3メートル級まで大盤振る舞か!
 元々、中衛だった俺たちの班は前衛の先輩方が全滅したせいでなし崩し的に前線へ上がっていた。いつの間にか城門まで来てしまって団体さんを相手することになってしまった。

「ガスも残りすくねぇ……一度、補給に帰りたいが……こりゃ死んだかな」
「不吉なこというんじゃねぇ!! そいやぁあああ!!」

 レオンが突っ込みつつ10メートル級の延髄を削り取った。焼け石に水。隙を見て反撃するものの逃げるのが精一杯だ。

「そろそろやばいかなって! なんだありゃ?」

 城門からまた新手の巨人が入ってきた。しかも、今まで見たことのない緑色の巨人だった。そいつは背中から火を噴き、飛び込んでくるとゆっくりと立ち上がった。

「でけぇ、20メートルは・あるんじゃねぇか おい、レオン。俺たち死んだな!」
「激しく同意するぜ、ウェスカー。ここにきて新種様に会えるとは感激だぜってぇえ!!」

 絶望のあまり自虐的な軽口を叩きつつも脚は止めない。脚を止めたら喰われる。
 新しい巨人にどう対処するべきかな、とりあえずやってみるかな。

「おりょ? こりゃいいな、おい。あいつ、仲間を殺し始めたぞ」

 緑の巨人は手に持った巨大な斧をふるうと手近にいた15メートル級を一刀で切り伏せた。
 それからばっさばっさと巨人を駆逐していく。圧倒的に強いじゃないか、なんだこいつ。
 明らかに俺たちを認識しているにも関わらず一切襲ってこない。むしろ巨人を狩るほうが重要みたいだ。

「レオン、ひょっとしたら生き残れるかもな」
「俺もそんな気がしてきた。頑張れ! 緑の巨人!!」

 緑の巨人はあっという間に城門付近にいた巨人を殲滅した。ちなみに俺たちは確実に狩れて、かつ危険の少ない時だけ攻撃していた。他はほとんど逃げ回っている。ヘタレだが、生き残ってナンボだ。

「はは、ほんとに全滅させちまったな。いや、俺たちツイてるな」
「た、助かったぁ……」

 胸を撫で下ろしていると巨人が腰のあたりを探り始めた。そして丸い玉を取り出すと定紋に開いた穴に向けて投げた。
 榴弾が爆発するような音がして玉が爆発し、透明な液体が飛び散ちり、ちょうど通りかかった巨人を巻き込んだ。液体はみるみるうちに白くなり巻き込まれた巨人は固まって動けなくなった。

「すげぇ! あの巨人、穴を塞ぎやがった!」
「ウェスカー、今のうちに本部に戻ろう。そろそろガスがやばい」
「よし、そうしよう!」

 本部に向かう。ガスがなくなったら機動できない。機動できないってことは巨人の餌になるってことだ。

「しかし、本部の補給班はどうしたんだ! ぜんぜん補給にこないじゃねぇか! あとで吊るす!」
「もしかして本部が巨人に?」
「……ありえるな」

 巨人は人が多くいるところに集まる習性がある、本部は補給班が残っていたから襲われることはあり得る。

「あらら、案の定だよ」

 本部が見えてくると多数の巨人が本部に群がり、腕を突っ込んで探っていた。

「あ~あ、せっかく助かったと思ったのによぅ」

 レオンがぼやいやところで、カーン、カーンと撤退の鐘が聞こえた。ようやくか。

「レオン、壁登るのにガス足りるか?」
「たぶん……足りねぇ。壁を登る分はギリギリ残っているが、たぶん、壁に着くまでに使い切る。そっちは?」
「似たようなもんだな。つーことは、だ。俺たちが生き残るには本部の補給所まで行って、ガスを補給しなきゃならんわけだ」
「だ、な。で、どうする? 斬り込むか?」

 レオンが剣を本部へ向ける。


「冗談。俺ら2人で斬り込んだところで巨人に喰われるだけだぜ」
「だよなーでも、策があるんだろ?」
「もちろん。それもとびっきりの奴がな」

 そういって後を振り向く。なんだかんだで俺たちの後ろをついてきた緑の巨人がいた。
 この緑の巨人。人が襲われていると巨人を狩るのより優先して助けてくれるらしく、それを利用して巨人に自ら突っ込むことでここまで誘導してきた。
 近くの屋根に飛び移り、緑の巨人に向かって叫ぶ。

「おい、あんた! 俺の声が聞こえるかい!!」

 15メートル級の首を握りつぶしていた緑の巨人は振り返った。しかし、わからないという風に頭を左右に振る。
 言葉は通じないか。でも、意志があるなら十分。

「向こうだ! 向こうを向いてくれ! 巨人が群がっている建物が見えるだろう! あれを何とかしてくれ!」

 叫びながら本部の方を指さすと緑の巨人は本部の方を向いてくれた。そしてまるで分かったというように頭を縦に振ると右手で胸を叩いた。

「……驚いたな、俺たちの敬礼を理解しているのか? おい、レオン」
「ああ、分かってる」

 緑の巨人に向かって敬礼を返す。
 それからの緑の巨人の行動は早かった。まずは、俺たちの周りの巨人を排除すると、次いで本部までの道を突破、本部に辿り着くと巨人どもを引っぺがして地面に叩きつける。

「行くぞ、レオン! しっかりついてこいよ!!」
「合点承知!!」

 緑の巨人が進撃するのにあわせて本部まで辿り着いた。道中は緑の巨人のおかげで楽だったが、さすがに本部は群がっていた巨人が多かった。
 圧倒的な強さの緑の巨人も少々手に余っているようだった。だが、ここまできたら飛び込むだけだ。

「ひゃっふぉおおおーー!!」
「ちょ、ガス切れた! 助けて! ウェスカー!!」

 本部の窓にアンカーを撃ちこんで、いざ飛び出す段になってガスれを起こしマジ泣きをするレオン。その襟を掴み、ガスを最大出力で噴出させてワイヤーを巻き取り、窓に飛び込んだ。

「いてて、このボケぇええ! あのタイミングでガスを切らすんじゃねぇよ!!」
「うう、ごめん。まさか切れるとは思ってなかったわ」
「ごめんで済みゃ憲兵団はいらねぇんだよ!!」

 まったくとっさに掴めなかったら置いていく所だった。
 飛び込んだのは本部の3階。巨人に探られたのか中は荒れ放題だった。

「ウェスカーにレオンじゃないか! よかった、生きてたのか!」
「おーう、ライナーじゃねぇか。そっちも生きてて何よりだ。ひょっとしてお前もガス切れか?」
「あぁ、でも補給所の巨人を制圧してボンベを確保した。すぐに撤退する、下に来てくれ」
「分かった。助かるぜ」

 声をかけてきたのは同期のライナー。ライナーについて2階に降りると仲間が大勢いて立体機動装置にガスを補給していた。その中で見知った顔を見つける。

「ミカサ! 無事だったか」
「ウェスカー。あ、レオンも生きてたんだ」
「俺は生きてちゃいけないのかよぉお……ぶふぅ!?」
「うるさい、黙れ」

 嘆いてうるさいレオンに空のボンベを叩きつけ、黙らせる。

「しかし、なんでミカサがここにいるんだ? 後衛はとっくに撤退しただろう? ま、わかるけどさ」
「中衛を援護するために戻ってきた」
「エレンを守りに来たんだろう? ったくエレンの野郎、果報者め」
「……」
 ミカサは沈黙するが俺にはわかっている。というか同期連中でミカサがエレンを異常なまでに大切にしていることを知らない奴はいないんじゃないか?

「それでエレンは? もう撤退したのか?」
「……」

 ミカサがいつも通り表情に乏しいながら苦しそうに顔を歪めた。

「まさか……」
「ごめん! ウェスカー。エレンは僕のせいで……」
「アルミン」

 アルミン=アルレルト。同期内で一番体力がなく、一番頭がいい。そしてエレンと同じ班だった。

「ごめん、く!」
「アルミン!」

 ボロボロと涙を流して謝るアルミンの肩を掴む。

「事情は知らないが今は、悔やむときじゃない。生き残ってから悔やめ! 死んだら悔やむこともできなくなるんだ! エレンを忘れるのか? 今は生き残ることを考えるだけでいい」
「ウェスカー……」

 エレンは死んだ。それ以上でもそれ以下でもない。だったら生きている俺たちに出来ることは死んだ連中の分まで生きてやるだけだ。

「全員、ガスは補給したな? 一斉に出るぞ!」

 ライナーの号令で補給の終わったものからどんどん飛び出していく。幸い巨人はほとんどいない。

「ウェスカー、俺たちも行こう」
「おう、だけどちょっと寄り道していく。来なくていいぞ」
「ちょ、どこいくんだよ!?」

 レオンを置いて本部の屋上に登る。本部の周りにはもう巨人がいなくなっていた。緑の巨人だけが立っている。

「おい、ウェスカー!! どこ行くんだ……よ?」
「助けてもらったんだ、礼くらいな。おーい!」

 声を張り上げ、手招きをする。たぶん、分かるはず。
 緑の巨人もかる相手がいなくなったからか、ゆっくりと近づいてきた。

「ウェスカー!? なにしてるの! 逃げないと!」
「緑の巨人? また新種?」

 レオンに続いてアルミンやミカサ、他にも数人が屋上に上がってきた。みんなびびってるなぁ、当たり前だよな。

「大丈夫だ、アルミン、ミカサ。こいつは人の意志が分かる。襲ってこない」
「襲ってこない? この巨人も?」
「この巨人も? どういうことだ、アルミン?」
「えっとね」

 アルミンが説明しようとしたところにまた緑の巨人が話しかけてきた。やはり言葉はわからない。

「……なぁ、ウェスカー。今、この巨人しゃべらなかったか?」

 一緒に登ってきたライナーが唖然としている。わかるわぁ、俺もそうだったもん。

「ああ、この緑の巨人は他の巨人と違うみたいだ。言葉は分からないが意思は通じるようだ」
「嘘だろ……あの巨人みたいなのがもう一体いたなんで……」
「あの巨人? なぁ、ライナー。さっきから何のことなんだ?」
「あ、ああ。実はな」

 ライナーが説明しようとしたときにまた緑の巨人が言葉を発した。

「だ・か・ら!! わかんないんだってば!」
『少し、わかる』
「ミカサさん!? 今、なんて言ったの?」

 ミカサが聞いた事のない言語で話した!?

「ミカサ、もしかして緑の巨人の言葉が分かるのか?」
「少しだけわかる。お母さんが教えてくれた、古い言葉」
「マジかよ……緑の巨人はなんていってるんだ?」
「言葉はわかるか?って言ってる。向こうも私たちの言葉は分からないみたい」

 すげぇ、これは人類にとって頼もしい味方ができたかもしれない。
 緑の巨人とついに会話ができたことに驚いているともっと驚くべきことが起こった。
 緑の巨人が屋上のギリギリまで近づいてきて、なんとその黒い胸が上下に開いたのだ。
 そして、その胸の中から……


 人間が降りてきた。



[35622] 第5話 邂逅
Name: 烏天狗◆264e7e68 ID:79f0a82a
Date: 2012/11/04 21:18
「いたいた。まさか日本語が通じるとは思わなかったな。まぁ、通じるならなんでもいいや」

 やっと言葉が通じた。それが日本語でもいい。あとはあの少女に通訳してもらって、落ち着いたら言葉を覚えるなり、翻訳ソフトをでっちあげるなりすればいいんだ。

「しかし、このままじゃ話しにくいか。近くに巨人は……と、あの仲間殺しの奴と数匹、距離は十分にあるな、よし」

 機体を建物の屋上に近づける。やっぱびびってる。まぁ、こいつら巨人と戦ってるみたいだし、モビルスーツも同じように見えてしまうんだろう。全然、違うと思うんだけどな。
 ヘルメットはいらないな。どのみちエアは余分にない。ここの空気が吸えなかったらお陀仏だ。こいつらの見た目は同じ人間みたいだし、たぶん、いける、だろ?

「念のためコイツだけは持っていくか」

 収納スペースから拳銃をホルスターごと取り出し、脚につける。もう一度、レーダーを確認してからハッチを開ける。
 昇降用のワイヤーのフックに脚を引っ掛け、屋上に降り立つと兵士達がめちゃくちゃ驚いている。
 俺は鬼にでも見えるのか? それとも巨人から出てきた小人か?

『俺の言葉が分かるんだな?』

 唯一、反応した黒髪の少女に話しかける。
 おい、警戒するのはわかるが一斉に剣をむけてくるんじゃねぇよ、外野!

『分かる。お母さんの言葉。お母さん以外では初めて聞いた』
『そうか。状況的に余裕はなさそうだから要点のみを話すことにしよう。俺はジオン公国軍、ソロモン要塞防衛隊所属のコウスケ=フルカワ中尉だ。あんたは?』
『ミカサ=アッカーマン。第104期訓練兵団、17班。貴方は人間なの?』

 ああ、やっぱりザクから降りてきた俺の事を巨人の仲間だと疑ってんのか。

『人間だ。最低でも人を食うような趣味は持ち合わせてないな。だから剣を下げてもらえないか?』

 俺が答えるとミカサは剣を構えていた兵士達に違う言葉でなにかを話した。たぶん、害意がないことを伝えてくれたんだろうな。渋々といった感じだけど、外野が剣を下げてくれたし。

『ありがとう。いくつか質問したい、答えられるものでいいから答えてくれ』
『分かった。でも、少しゆっくり話して欲しい。全部を聞き取れない。それと時間がないので手短に』

 どうやら本当に日本語はメジャーじゃないらしい。

『悪かったな。まず、ここはどこだ?』
『どこって、トロスト区。この建物はトロスト区の兵団本部』

 ミカサと名乗った少女は場所を尋ねた俺を奇妙なものを見るかのような目で見てきた。当たり前をなぜ聞く? そんな目だな。

『トロスト区? ここは地球のどの辺なんだ?』
『地球? わからない。なんのこと?』
『は? 地球がわからない?』

 なんだかすげー嫌な予感がしてきたぞ。

『よし、その話はひとまず置いておこう。次だ。あの巨人はお前らの敵か?』
『敵。貴方は奴らの仲間?』

 おぉ、こえぇ。凄まじい殺気だな。冗談でもはい、といったら即座に斬られそうだな。

『さっきも言ったろ、人間を食う趣味はない。そういうことなら俺としては、そっちに協力する用意がある』
『協力?』
『ああ、俺はこのザクのパイロットだ。今はなにがなんだが状況が分からない。が、あのくそったれどもは俺も嫌いだ。原隊に復帰するまではそっちに協力してもいい。見た奴に聞けば分かるだろうが、奴らを蹴散らすには十二分の戦力だぜ』
『ザク? パイロット? これは巨人ではないの?』
『違う。ザクは兵器、パイロットは操縦者だ。ザクはお前の腰についている奴と同じと思っていい。パイロット、つまり俺はお前みたいなそれを使う奴のことだ』
『立体機動装置と同じ? パイロットは使用者……うん、理解した』

 頭の回転は速いみたいだな。話が早くて助かる。

『じゃあ、次の質問だ。お前らはこれからどうするんだ?』
『ウォール=ローゼ、この先の壁まで撤退する。私たちの任務は住民の避難が終わるまでの時間稼ぎだから、さっきの鐘で任務は達成された』
『そうか……そこに俺もついて行って構わないか?』
『なぜ?』

 ミカサが疑うような目をした。

『協力する用意があるといったろ? ここで暴れるのもいいが効率よく狩るなら作戦が必要だ。お前らの指揮官に会わせてくれ』
『……相談する。少し待って欲しい』
『早めに頼む。今のところ、奴らは遠いがまた来るぞ』

 ミカサは頷くと仲間のところへ戻っていった。
 とにかく協力するにしても指揮官に会わなければならない。
 それにどうも状況が怪しい。GPSはだめだったし、試してない無線機もなんとなく駄目な気がする。友軍どころか連邦軍すらいないような、そんな最悪な場合が頭によぎる。
 そうなると補給はまったく望めない。核融合炉は異常ないようだからしばらく動力に問題ない。問題は弾薬と推進剤、機体のメンテナンス、それに俺自身の飯と寝床だ。
 弾薬は節約できる。ヒートホークと徒手空拳、レーザートーチなんかを使えば巨人は楽勝だろう。だが、推進剤は……あの壁を越えるのは大変そうだな。よほど節約しないと壁の中から出れなくなりそうだ。
 機体のメンテナンスは現状維持程度ならなんとか搭載している工具で間に合わせることができる。まぁ、交換部品が皆無だから故障したらやばいけど。やっぱ手に職があると役立つよなぁ、おやっさんに感謝。
 あとはなんといっても食い物だ。いくらかの非常食と水、収納スペースの私物の食料はあるがいつまでも持たない。
 とりあえず、彼女らの軍に協力して、出来れば武器弾薬燃料の補給を、最低でも衣食住くらいを引き出さないと。よし。

『待たせました。協力の件については私たちでは判断できません。上官に直接話してください』
『そうか。で、俺はこの辺で巨人を狩っていればいいか? 城壁に近づいていきなりズドンは勘弁だぜ』
『はい。話をまとめたら赤色の信号弾を打ちます。それから城壁に近づいてください』
『分かった。ならとりあえず、城壁の近くまで俺が道を切り開こう。その方が味方っていうアピールになるからな……ん、あれは?』

 話がまとまってコクピットに戻ろうとすると俺達がいる建物から離れたところであの仲間殺しの巨人が両腕を失い、複数の巨人に押さえこまれていた。

『共食いしてんのか? なぁ……ミカサ、だっけ? あいつらって共食いするもんなの?』
『今まで聞いたことがない。あの巨人は特殊。貴方と同じで人も襲わない』
『だから俺は巨人じゃねぇ。じゃ、助けたほうがいいのか? 巨人を倒してくれるなら役に立つだろう?』

 戦力は少しでも多いほうがいい。俺だけでも全部やれそうだが、なんせ数が多いからな。それに他の巨人より強いといっても邪魔になったら斬ればいいだけの話だし。
 とりあえず助けようかとザクに乗り込もうとすると、喰われる一方だった両腕がない巨人が咆哮した。まとわりつく巨人を振り払い、目の前を通りかかった巨人の首筋に食らいつき、振り回して別の巨人にたたきつけた。
 巨人が起き上がる前に首を踏み潰して止めをさす。

『助けるまでもなかったか、でも、もう限界か?』

 群がっていた巨人を排除した両腕のない巨人が膝をつき、前のめりに倒れた。他の巨人と同じように消えるんだろう。

『ん、なんだありゃ? なぁ、ミカサ。あれってなに……ってどこいくんだ?』

 消滅するかと思った巨人の首筋が盛り上がると人の形を取った。ミカサと同じくらいの少年?
 モビルスーツみたいに人が乗り込んでいるのか? この世界の機動兵器の一種なのかね。しかし、なんでミカサがそれを見た途端に屋上から飛び降りて駆け寄っていくんだろうか。というか、お前に行かれると話しが通じなくなるんだが。

『あ、戻ってくる。おい、ミカサ、いったいなんなん……だ?』

 思わず言葉に詰まった。ミカサが連れ帰ってきた少年を抱きしめたまま大きな声で泣き始めた。金髪のひ弱そうな少年も、ミカサが連れ帰ってきた少年の手を握り、何がなんだか分からない顔をしている。

『なぁ、おい。これは一体どういう状況なんだ?』

 隣にいた大柄な兵士に話しかけるがやっぱり言葉は通じず、首を左右に振られるだけだ。


 はやく泣き止んでくれないかな、ミカサ。



[35622] 第6話 繋
Name: 烏天狗◆264e7e68 ID:79f0a82a
Date: 2012/11/04 21:15
ミカサが泣き止んでから事情を聞くと巨人から出てきた少年の名はエレン=イェーガー。巨人に喰われて戦死したと思われていた兵士とのこと。ミカサの幼馴染で、事情があって同じ家に暮らしていたらしい。死んだと思っていた家族同然の幼馴染が生きていた。まぁ、我を忘れて泣くのも分かるな。

『しかし、家族か……』

 ザクを駆り、巨人を蹴散らしながらサイド3に残してきた妹のことを思い出す。
 開戦前、農業ブロックで働いていた親父とお袋は死んだ。連邦の監視省が隕石を見落としたせいだ。その見落としも連邦がサイド3政府に圧力をかけるため強引な演習を行なったことが観測の妨害になったといわれている。

『ハルカは元気にしているかな?』

 ただ1人残してきた妹のことが気がかりだ。戦争は遅かれ早かれ負けるだろう。国力の優る連邦がモビルスーツまで配備し始めたらジオンに勝ち目はない。
 激戦でベテランは磨り減り、前線に送られてくるのは学徒動員の少年兵ばかりだった。ハルカもいつ徴兵されるかわからない。

『こいつらも兵士なんだよな』

 ミカサ達を護衛した後、合図の信号弾が上がるまで巨人を狩っていることにしたのだが、ちらほらと逃げ遅れの兵士がいた。
 ミカサ達が撤退する前にボンベを用意してもらい、そういった兵士をみつけては拾い上げてボンベを渡してやる。もらった兵士はおびえながらもガスを補給して城壁に向かって撤退する。
 
『しかし、数が多いな』

 倒しても倒しても巨人は一向に減らない。一体どれだけの巨人が侵入しているのか。もう塞いだ城門が突破されたのか。まぁ、元々が応急修理用の器材だったしな。

『なんだぁ!? 城壁の内側から?』

 突然、ウォール=ローゼとかいう城壁の内側から砲声が響いた。

『いったい、なんだってんだ?』

 巨人はまだ次の城壁を越えてない。内側で砲を撃つことはないはず……まさか。

『あのエレンとかいう奴がまた巨人化したのか、それで味方から攻撃を受けたと……ミカサが危ない!』

 話を聞く限りミカサはエレンを大切にしている。エレンに何かあったら必ず守るはず。
 すぐさま機体を城壁に向かって跳躍させる。たちまち砲弾がいくつか飛んでくるが関係ない。

『待ってろ! 俺の通訳!!』

 砲声が聞こえたあたりまで行き、スラスターを全開にして上昇する。さすがに高い。

『案の定かよ! ちょくしょう、なにやってんだか! 今行くぞ、ミカサ!』

 一旦、城壁上に着地。なるべく兵士がいないところを選んだが、大砲はいくつか踏み潰した。請求書はジオン国防省にでもツケといてくれ。
 エレンともう1人の少年、アルミンとか言ってたか。その2入を背にして抜刀したミカサが立っていた。もうもうと土煙が上がっているのは砲撃を受けたからか。でも、周囲に弾痕はない。まさか砲弾を斬った? いや、漫画じゃないんだからさ!

『そんなことより、今はミカサの救出!』

 城壁から機体をジャンプさせる。
 ミカサ達は仲間であるはずの兵士達に囲まれ、壁際に追い詰められている。対面にある城壁には複数の兵がいて、指揮官らしい兵士が片手を上げていた。その後方に装填作業中の大砲が見える。

『させるか!』

 地上につく手前でスラスターを噴射して勢いを殺す。本当なら全力で吹かしたいが、それだとミカサ達も焼き殺してしまう。
 最小限の噴射で着地して機体全身を使って可能限り衝撃を吸収させる。それでも脚部にかなりの負担がかかった。あとで整備班長にどやされるなぁ。ってかどやされるならどやされてぇ。

『ミカサぁああ! 無事か!』
『フルカワ?』
『無事でよかった! 状況がわからねぇ、どうすりゃいい?』
『待って。今はアルミンが説得しているから』

 ザクの足元を抜けてアルミンが前にでる。言葉は分からないが指揮官に向けてなにかを言っているらしい。
 こいつらの巨人に対する恐怖は深いようだから説得なんて難しいだろうな。勢いで飛んできたけど、こいつらにしてみればザクも巨人に見えるだろうし。むしろ、逆効果だったか。

『お、誰かきたな。おい、ミカサ。あれは誰だ?』

 片手を上げていた指揮官の腕を初老の男が止めた。禿げ上がった頭で口ひげを蓄え、胸にいくつも勲章のようなものをつけた他の兵士より偉そうだった。

『ドット=ピクシス司令。トロスト区を含む南側領土の最高責任者』
『司令官閣下か。ようやく話の分かりそうな奴が出てきたってところか。止めてくれたってことは話し合いの余地ありってことだろ。なんて言ってるんだ?』
『私たちの話を聞きたいって。貴方にも降りてきて欲しいと言ってる』

 アルミンがいろいろと説明してくれたらしい。話が早くて助かることだ。
 どうなることかと思ったがなんとかなりそうだな。





[35622] 第7話 奪還作戦(上)
Name: 烏天狗◆264e7e68 ID:79f0a82a
Date: 2012/11/05 21:49
『ジオン公国軍ソロモン要塞守備隊、コウスケ=フルカワ中尉であります。お会いできて光栄です、閣下。と通訳できるか、ミカサ?』

 城壁の上でピクシス司令にジオン公国式の敬礼をしつつ挨拶をする。


 ミカサとその仲間の兵士達との同士討ち騒動が治まった後、俺はピクシス司令に呼ばれ、ミカサ達と共に、城壁の上に招かれた。ちなみに呼ばれたのはミカサ、アルミン、エレンの3人だ。
 俺がザクから降りる時も一悶着あった。コクピットから出た瞬間に砲弾を打ち込まれたり、斬りかかられたら堪らんから、ミカサを通じてピクシス司令に頼み、安全を確保してもらった。ついでにノーマルスーツから制服にも着替えた。死に装束のつもりで持ってきておいてよかった。制服ならそれなりに見られるからな。第一印象は大事だ。
 コクピットを開けて、地上に降りる時は兵士全員が唖然としていた。2回目だったが人が一斉に唖然とする光景はなかなかに面白いな。
 ピクシス司令が気を利かせてくれたのか、それとも警戒されたのか……どちらかといわなくても後者か。監視のために1個小隊30名もの兵士が配置された。ついでの城壁上の固定砲座が4門ばかり照準を合わせていたが、無事にザクに戻れるんだろうか。
 ああ、城壁の上に登るときはなかなか面白い体験だった。本来は登るための階段もあるそうだが、時間短縮のために立体機動装置とかいう機械を使ったミカサに抱えられて登るはめになった。ザクの高速機動でかかるGと同じくらいのGがかかり、上への移動だけとはいえ、浮遊感を覚えた。かなり面白かった。ぜひとも事が落ち着いたら俺にも貸してもらいたいもんだ。ちなみにその立体機動装置を喪失していたエレンもアルミンに抱えられて城壁へ登った。
 そして、今はこの巨人に占領された街、トロスト区とこの国の南側領土の最高責任者というドット=ピクシス司令の前にいるわけだ。

『大丈夫。少し訳せない言葉があるけど、通じると思う』

 同席しているミカサが応じる。というかミカサがいないと会話にならないからな。

『まぁ、この際、概略が伝わればいいよ。ゆっくり話すから頼む』
『いや、それには及ばんよ、アッカーマン訓練兵』
『え?』

 今、渋くてダンディーな日本語が聞こえたけど、ミカサの声ってこんなに低かったか?

『あー、久しぶりに話すんでの。言葉は通じているかな、フルカワ中尉』

 はい、見た目通りの渋い声ですね、ピクシス司令。

『失礼しました、閣下。まさか閣下も日本語が話せるとは思っていなかったものですから』
『ほぉ、この言語は日本語と言う名前なのか。若い頃に考古学に凝っておってのぅ。大きな声では言えんが、禁書扱いの書籍もいくつか持っとった』
『では、独学で日本語を?』
『いやいや、さすがに発音まではの。昔の知り合いにこの言語を伝えている者がいてな。なんでも先祖が東洋という場所から逃げてきたらしい。彼女もこの言語の名前は伝えられていなかったが、親から教えられていたらしい』
『なるほど。ちなみにその日本語を教えてくれた彼女というのは、今?』
『わからん。結婚してシガンシナ区に移住したとは聞いたが、今となっては生死も不明だ』

 またひとつこの世界のことが分かった。少なくともこの世界が地球の可能性がでてきた。異世界に転移したとかわけのわからない、いや、今の時点でもタイムスリップだから十分、わけがわからないが、まぁ、それでもまったく分からない世界ではないことが分かって一安心だ。なにが安心だが更にわからないけどな。

『ピクシス司令』
『ん、なにかね。アッカーマン訓練兵』

 ミカサが口を挟んできた。なにか思うところでもあったのか?

『その日本語、を教えてくれた女性、でしょうか。その女性の名前を教えてもらえませんか?』
『ふむぅ……なんと言ったかな……すまん、ど忘れしてしまったようだ。彼女がどうしたのかね?』
『いえ、特に。ありがとうございます』

 ミカサは思案顔で引き下がった。そういえばミカサの顔立ちと髪の色はどことなく東洋系、それも俺のもうひとつの祖国、日本人のような感じだ。もしかしたらその女性が関係者だったのかもしれない。

『それより中尉。言葉が問題なく通じているのならこれからの話をしよう』
『はい。それでは……』
 
 俺が話し始めようとしたらピクシス司令に遮られた。

『時間がないとはいえ、まずは礼を言われてくれ、中尉』

 ピクシス司令は俺に向かって頭を下げた。

『報告は受けている。将兵達を救ってくれたそうじゃな、援軍かたじけない』
『人として当然であります、閣下。少なくとも人間を喰うような連中とは相容れません』
『なるほどの。それにしても我々以外で人類に生き残りがいるとはな。城壁の外は巨人で埋め尽くされているとおもっとった。ジオン公国という国はどこにあるんだね? 他に仲間は?』

 ピクシス司令は笑みを浮かべながら聞いてくるが、目は笑っていない。どうしようか。

『閣下、今は時間がないかと存じます。詳しい事情はこの事態が収拾してから説明したいと思いますが、自分にひとつ提案があります』
『ふむ、聞こう』

 まずは戦果をあげて、俺の力を見せないことには信用が勝ち取れない。だとすれば、ミカサ達に提案したようにこの軍に協力するのが早い。

『正直に申しまして、自分は援軍ではありません。現在、軍の指揮系統を失っている状況であります』
『脱走兵、ということか?』

 ピクシス司令の目が厳しくなる。どの軍隊でも脱走兵には相応の対応があるらしい。

『いえ、自分は不慮の事故でここにいます。そこで原隊に復帰するまで閣下の傭兵として自分を雇っていただきたい』
『傭兵……条件は?』

 そう、即断で条件を聞いてくるとは、いいね。

『まずは身分と衣食住の保証。次に武器弾薬燃料等の補給物資の提供、こちらは調達できるものだけでも構いません』

 正直、ここの文明レベルを見る限り、ザクに必要な補給物資が手に入るとは思えないが。

『ワシの権限で用意できるものはすべて用意しよう。して、その見返りは?』

 俺の出した条件を当然の如く飲む決断力。恐らく部下からの報告でザクの威力を聞いているのだろうな。きっと喉から手が出るほど欲しい戦力に違いない。
 条件を飲んでもらえるなら現状、俺に不満はない。あの巨人どもも気に入らないしな。

『この街を巨人どもから奪還して見せましょう』
『ほぅ、それは心強いの。しかし、奴ら相手にできるのかね?』
『自分が相手にしていた敵に比べたら余裕過ぎますな』

 連邦のジムや下手をすれば61式より楽な相手かもしれない。今のところ、ザクに傷ひとつ付けられない連中だからな。

『……わかった。当てにしているよ、中尉。では次にこの子らの話も聞かんとならん。少し待っていてくれるか』
『はい、閣下』

 ピクシス司令はミカサ達の方へ向かっていった。3人になにか話しかけているようだが、やはり言葉が分からない。こっちの言葉も早いうちに覚えないとな。まぁ、話せるのがミカサだけではないからきっとなんとかなるだろう。

『しかし……』

 ピクシス司令にはああいったが実際のところどうするか。
 巨人どもを殲滅することは簡単だ。ザクを使えば問題にすらならない。問題になるのは城門にあいた大穴をどうやって塞ぐかだ。トリモチはあと一発あるが、強度が足りない。瓦礫を掻き集めてバリケードでも作るか? いや、巨人どもの腕力だと木造建築の瓦礫で作ったバリケードなんてすぐに破壊されそうだな。

『ん~どうすっかなぁ。ここの工兵隊に穴を塞ぐ技術力なんてあんのかなぁ。いや、ないよなぁ……いっそ城壁の内側を崩してその石材で埋めちまうか』

 
 とりあえず、巨人を殲滅してから考えるでいいか。幸いにもまだこっちの城門は突破されていないみたいだし。どうしても名案が思いつかなかったら城壁崩そう、ちょっとだけ。

『フルカワ』
『ん、なんだ? ミカサ。話は終わったのか? っていうかお前、俺のこと呼び捨てなのな。一応、年上だぞ』
『終わった。エレンが穴を塞ぐ。フルカワに協力して欲しいとピクシス司令が言ってる』
『もとよりそのつもりだよ。つーか呼び捨ての件は無視かよ?』
『作戦を立てるから参謀を呼ぶらしい。フルカワも来て』
『ミカサさーん?』
 


 なんか納得いかねぇ。いかねぇけど、まずは仕事するかぁ!!



[35622] 第8話 奪還作戦(中)
Name: 烏天狗◆264e7e68 ID:79f0a82a
Date: 2013/05/16 00:49
「注もぉおおおおおおおおくっ!!」

 50歳は越えていると思うピクシス司令が大音声を発する。

「これよりトロスト区奪還作戦について説明する!」

 続く言葉も眼下に整列する兵士達に届くように発する。まるで大昔の将軍だ。

「本作戦の成功目標は破壊された扉を塞ぐことである!!」

 兵士達が不安そうにざわめいてこちらを見上げてくる。50mも下だとさすがに顔までは見えないが、きっと不安だろう。
 ちなみに俺もピクシス司令の隣に立っている。俺の隣がミカサ。さっきからピクシス司令の話を小声で同時通訳してくれている。

「穴を塞ぐ手段じゃが、まずは彼から紹介しよう。訓練兵所属、エレン=イェーガーじゃ」

 ピクシス司令の隣に立ち、こちらの敬礼をしたまま直立不動なエレンを差す。

「彼は我々が極秘に研究してきた巨人化生体実験の成功者である! 彼は巨人の体を精製し、意のままに操ることが可能である! 巨人と化した彼は前門付近にある例の大岩を持ち上げ、破壊された扉まで運び、穴を塞ぐ!」

 8割は脚色された情報だが、兵士に事実をすべて伝える必要はない。
 ミカサ達の話を聞き終わったピクシス司令が参謀を交えて発案した作戦は概ね、今、話した通りだ。
ただ巨人化生体実験の被験者だの、意のままに操ることができるだのといったことは嘘であり、正しくない。エレン=イェーガーは巨人化生体実験なんて受けていないらしく、なぜ、自分が巨人化したのも分からないらしい。しかも、巨人化中のことはろく覚えていないときた。ただ巨人に対する殺戮衝動があり、それに従って行動していたという。そんな状態を意のままに操ると言えるのか? また前門付近にある大岩を使って扉の穴を塞ぐと言ったが、いくら巨人の怪力とはいえ実現できるかは怪しい。俺は突入の際にちらっと見た程度だが、ザクの出力じゃ無理そうだ。
が、そんな事実を兵士にすべて伝えるのは指揮官としては正しくない。
エレンが何故か巨人化できること、ある程度とはいえ、それを操ることができること、大岩を持ち上げて扉を塞げる可能性があること。これらも事実だ。しかし、これを兵士に伝えて彼らは何を思うだろうか。
それはきっと不安だ。指揮官とは戦いの前に兵士の不安を払拭し、鼓舞し、士気を上げねばならない。
だからこその嘘を交えた情報。それで士気が上がり、作戦の成功率が上がれば問題ない。

「諸君らの任務は彼が岩を運ぶまでの間、他の巨人から守ることである!」

 ま、この世界に着たばかりの俺でさえ、巨人化できるなんていうことは眉唾ものだから下の連中が信じるかどうかは知らんけど。

「そして、もう1人紹介せねばならん。遥か遠方の地より援軍にやって来てくれたジオン公国軍のコウスケ=フルカワ中尉である!」

 おっと俺の番か。決められていたように敬礼をする。

「諸君らの中にも見た者も、また助けられた者もいるだろう! フルカワ中尉は諸君らの目の前にいる緑の巨人を自在に操り、巨人どもをなぎ払うことが出来る!」

 ピクシス司令の言葉に合わせて遠隔操作でザクにこちら式の敬礼をさせる。
 整列した兵士達から驚嘆の声が漏れる。

「フルカワ中尉には諸君らの護衛についてもらう! 15m級すら問題にならん! 頼れるぞ」

 今回の作戦は二段階に分かれている。
 第一段階は街中に侵入した巨人を破壊された扉から最も離れた一角に誘引すること。巨人は人を積極的に襲ってくる、より人の多いところに集まってくるという習性があるらしく、それを利用する。つまり兵士を囮に使うのだ。
 第二段階は巨人の誘引が完了した時点でエレンと護衛の精鋭班が壁上を伝い、大岩付近に移動して降下。エレンが巨人化して大岩を持ち上げ、穴を塞ぐ。この際、誘引しきれなかった巨人、扉から新たに侵入してくる巨人の襲撃が予想されるため精鋭班がエレンを守る。
 俺の任務は第一段階で巨人を誘引する囮班の援護、第二段階で精鋭班とともにエレンを護衛する。
 やることは変らない。巨人を蹴散らす。ザクで穴を塞げない以上、エレンに頼るしかない。

「諸君、我々は長きにわたり巨人に怯えながらも戦ってきた! しかし、今日、この日! フルカワ中尉という援軍が我々の元にやって来た! 諸君、我々は孤独ではない! この壁の向こうに、まだ見ぬ地に、人類は生き残っているのだ!」

 という設定になっているらしい。

「我々はこの戦いに勝たねばならん! この壁の向こうのどこかでいまも同胞達が戦っている! ならば我々が負けるわけにはいかんのだ! 諸君、今一度、今一度、勇気を奮い立たせ、人類のために戦って欲しい!!」

 ピクシス司令が締めくくった。なかなかに役者だな。
 上から見る限り兵士達に動揺は少なく見える。エレンという不確定要素があれど、こいつらから見れば異国の服を着て、ザクという緑の巨人を操る俺の姿には多少の説得力があったかな。



 作戦は開始された。
 囮班を持って巨人を誘引する。俺はその援護。そのためにまずは壁を越えねばならない。越えなきゃ、いけないのか……

『推進剤……補給の目処がついてないのに……』

 壁を越えるのにまた飛ぶ必要があった。扉は既に巨人が群がっていて開閉不能。開けてくれと言ったらピクシス司令にまた飛んでくれと言われた。
 あと何回壁越えできるかな、あとで計算して割り出さないとな。ソロモン地表面の配置でよかった。遊撃任務になんてまわされていたらこんなに残ってなかったもんな。ま、地上仕様だったから地表面にまわされたんだけど。あ、増設した姿勢制御用のブースターに残ってる推進剤を転用できないかな。すぐに宇宙に上がることもないだろうから……たぶん、ないから推進剤を抜いた後は撤去して、バラしてから使える部品は補修用に。この機体、通常のJ型より機動性が高い代わりに推進剤を余計に喰うからなぁ。

「ま、今は仕方ないかぁ。行くか!」

 ザクの周辺から人員を退避させてもらい、ついでの壁上の一部も開けてもらう。入ってきたときと同じ要領でブースターを吹かし、壁上で一旦着地。飛び降り、今度はブースターを全開に噴かして衝撃を殺す。ちょうど着地地点にいた巨人をまとめて踏み潰し、緩衝の足しにする。一連の行動の間に集音マイクが捉えた兵士達の驚きの声が心地いい。癖になりそうだな。

「よし。まずは囮班っと」

 俺が出撃したのを皮切りに次々に兵士達が街に散っていく。俺もその後に続き、囮班の兵士を援護するとともに兵士にとって脅威になる15m級(ミカサ達は大きさで巨人を区別しているらしい)を中心に巨人を狩る。

「しっかし、どいつもこいつもおもしれぇ面しやがって!!」

 宙を舞っていた兵士を捕まえた巨人の腕を斬り飛ばす。捕まれていた兵士は巨人の手を切り裂いて脱出した。腕を切り落とされた巨人は俺に向かってきたが、首を斬りおとして始末する。

「おっと!」

 後から10m級が飛び掛ってきた。犬みたいに四つん這いな奴だ。かなり素早く普通なら不意打ちになったが、レーダーにしっかり写っていて、俺にとっては不意打ちではなかった。ヒートホークを前方に振り、反動を利用して振り向き様に肘鉄を決める。10m級は吹き飛び、二階建ての建物に突っ込んだ。起き上がってこないところを見ると急所を破壊できたようだ。

「奇行種ってやつか」

 ピクシス司令から聞いていた巨人の変種。通常の巨人の行動原理とは違う行動を取り、兵士達にとっては厄介な相手らしい。しかし、ザクにとっては問題にすらならないな。
 助けた兵士がこちらに手を振り、次の巨人を引き付けるべく飛んでいく。俺もレーダーを確認して、より高い熱を発している個体を探していく。大きさによって熱量が違い、レーダーはそれも感知してくれているので大型の奴を探すのは楽だ。


「さて、エレン達はうまくやれるかねぇ」

 壁上にカメラを向けてズームする。ミカサとエレン、それにアルミンと護衛の精鋭班が走っていく。



[35622] 第9話 奪還作戦(下)
Name: 烏天狗◆264e7e68 ID:ac286c01
Date: 2013/05/20 16:14
『フルカワ中尉、ピクシスだ』

飛び交う兵士を援護しつつ、巨人を狩っているとピクシス司令から無線が入った。

「ピクシス司令、感度良好です。どうぞ」
『ほぉ、先ほど試したときも驚いたが本当に離れていても声が届くのだな。この作戦が終わったら是非とも仕組みを教えてほしいぞ』

意思疏通のために渡した無線機だったが、うまく使えているようだ。

「戦力の強化になるでしょう。あとでゆっくりと説明します。それで?」
『ふむ。巨人の誘引がほぼ完了した。損害は軽微、重傷者は何名かいるが戦死者はおらん。助かる』

第1段階は順調に進んだらしい。なによりだ。レーダーには1ヶ所に固まりつつある熱源が表示されている。

「それはなにより。それで次はどうしますか? そちらの巨人の駆逐に回りますか? ミカサ達はまだ行動できてないようですが」
『こちらは大丈夫そうだ。奴ら固まりすぎて身動きも取れんよ、イェーガー訓練生達、精鋭班の援護に向かってもらいたい』
「了解しました。あ!」

 なんだ、赤い信号弾? ミカサ達が向かった方じゃないか。ズーム。ええい、くそ! 邪魔なんだよ、雑魚ども!
 集まったとはいえ、まだ襲ってくる巨人。かなり腕力はあるようだから装甲はともかく動力パイプをやられたらことだ。

「司令、今の信号弾は?」
『どうやら向こうに深刻な問題が発生したらしい。早急に支援に向かってほしい』
「了解しました!」

 信号弾が上がった方向に向けてザクを走らせる。ジャンプでいけば早いが、推進剤の残量を考えると節約せざるを得ない。いちいち建物が邪魔で、わらわらと湧いてくる巨人は更に邪魔だ!

「ミカサ!」

 信号弾があがった下にミカサと護衛の精鋭班。それに頭部が損壊した巨人が建物に寄りかかって倒れていた。

『フルカワ! エレンが! エレンが!』
「落ち着け! エレンがどうしたんだ? こいつに殺られたのか?」
『違う。この巨人がエレンなの。暴走して私達に襲いかかってきて……』
「なんだって!?」

 エレンは自分の意思でコントロールできる訳じゃないのか? 味方を襲うなんて厄介な。しかし、なんで再生しない? 頭部は吹き飛んでいるが、急所じゃないはずだ。

「ミカサ、エレンはどうなっている?」
『わからない! 倒れてから動かない!』

 どうする? ザクの出力じゃあの岩は動かせない。トリモチじゃ強度が足らない。こりゃいよいよ壁を崩してバリケードを作るしかないか。誘引しそこねた奴や新手も入ってきている。迷っている暇はないな

「ミカサ! 精鋭班を集めろ、全力でエレンを守れ。俺は援護しつつ、穴を塞ぐ」
『塞ぐ? どうやって?』
「なに、これだけ厚い壁だ。ちょっとくらい崩しても平気だろ。説明任せた!」

 どうせ、他の連中には言葉が通じないから説明はミカサしかできない。俺は俺のやれることをするだけだ。
 まず、エレンに近い巨人から狩る。数はそこまで多くない。門に開いた穴から新手が入ってくるが、1度に通れる数に限界があるらしく問題ではない。
 壁を壊す旨をピクシス司令に伝えると、なるべく門付近から離れた上部を破壊してほしいと言われた。強度的な問題だろう。

「って、なんか妙に巨人が集まってきやがるな。ここにいる人より向こうの方が圧倒的に多いだろうに」

 エレンの周りの巨人を排除して穴の封鎖に向かうはずが巨人がいっこうに減らない。新手はともかく誘引した巨人も集まってきている? なにかに引き寄せられているのか? 俺か、それともエレンか? どちらにせよ、これじゃ壁に向かえない。

「あー! うざったいなぁ、もう! 駆動系の磨耗だってバカになんねぇんだからな!」

 ピクシス司令に言って増援をもらうか? 護衛の精鋭班も善戦しているとはいえ、数が違いすぎる。かといって集まりすぎると余計に巨人も集まってくるしな。

「やっぱ俺が何とかするしかねぇのか……と?」

 正面に立ったでかめの巨人を唐竹割にしたところで精鋭班の面々が後ろを、エレンが倒れていた方を見つめているのに気づいた。

「ずいぶん、寝坊助じゃねぇか、エレン」

 大岩を担いだ巨人のエレンがいた。無事に復活できたらしいな。

「よぉおっし! 露払いは任せろ! どけどけ雑魚ども!!」

 ミカサ以下の精鋭班がエレンの左右と後ろを守る。前に立ち塞がる奴は一瞬で切り伏せる。ゴールは見えた。穴から新手。

「おっとお客さん。もう店仕舞いだ。鉛弾で良ければくれてやるからとっとと帰りな!」

 腰にマウントしたマシンガンを取りだし、穴に向け発砲。120㎜砲弾は10発もかからず3体の巨人をひき肉に変える。
 穴の左にいた巨人は眼鏡をかけた精鋭班の女兵士が、右にいた巨人はミカサが仕留めた。もう立ち塞がる巨人はいない。
 大岩を担いだエレンが一歩一歩、ゆっくりと前進して、そして、その大岩を穴に向けはめ込む。
 生き残った精鋭班が歓声をあげ、作戦成功の信号弾が上げられる。無線からも歓声が聞こえた。

「よし。あとはエレンの保護と残敵の掃討だな。ミカサ! エレンは任せたぞ」

 大岩を運び終えたエレンはばったりと地面に倒れて身体中から煙を噴いている。力尽きたんだろうが、無事だといいが。
 エレンを応じたミカサと精鋭班に任せて残りの巨人を狩るべく機体を市街地の方に向ける。モニターに陰?

「うぉっ! 誰だ! 目付きの悪いチビ? 増援か?」

 カメラを回すと両手に剣を構え、屋根に立つマントを羽織った兵士。剣は両方とも折れているが、目は敵意に満ちている。

「ひょっとして、俺、斬られた? ま、剣程度で装甲を斬れるはずないから折れるわな。ってか、おいぃ! 俺は味方だ! ミカサ!!」

 刃を交換して更に攻撃を仕掛けてこようとする兵士。ヒートホークとマシンガンを手放して、両手で待てと合図をする。言葉が通じないならボディランゲージ。いくら損傷しないとはいえ、傷はつくし、相手だって危ないんだ。

「ってか! 登ってきた! ザクの手を走ってるぞ、コイツ! ミカサ! 止めてくれ!!」

 差し出した手を登る、と言うか走ってきた兵士。どんな身体能力してんだよ!
 兵士が登りきり、剣を振りかぶったところでミカサがザクの方に乗ってきた。兵士に向かって叫ぶ。目付きの悪いその兵士は疑いの目を向けたまま、同じくザクの肩に乗る。いや、そこもシールドがあるからって可動部だから危ないんだが。

『フルカワ』
「フルカワ中尉、もしくはフルカワさん、だ。遅いじゃねぇか、ミカサ。地味に怖かったぞ」
『エレンを見ていた。この人は調査兵団のリヴァイ兵士長。顔を見せろと言ってる』
「相変わらず、無視か。つーかまだ巨人は残ってるんだがな。右の手のひらに乗れ」

 ミカサとリヴァイという兵士を右の手のひらに乗せる。コクピットの前まで持ってきて、コクピットを開く。

「っ! なんの真似だ、おい!」

 開けた瞬間、首筋に剣を突きつけられた。またか、またこの展開か。

「おい、剣をどけろ。俺は敵じゃねぇ」

 凄まじい目付きでおれを睨む兵士。
 ミカサが話しかけ、渋々といった表情で剣を引く。壁から降りてきた他の兵士をまとめると巨人のいる市街地へ飛んで行った。

「なんなんだよ、いったい」
「まずは置いといてやる、状況が落ち着いてから見定めてやる、って」
「何様なんだ、あいつ。それでミカサ。エレンはどうだ?」
「なんとか引き剥がすことができた。これから壁上を通って本隊に合流する」

 エレンの方を確認すると巨人の体はあらかた消えてぐったりとしたエレンだけが残っていた。破壊された家屋の残骸を使って担架を作っている。あれで運ぶんだろうな。

「わかった。俺もピクシス司令に今後を確認する。壁上なら奴らもいないだろうが、気を付けろ」
「わかった」

 ミカサはザクの手のひらから降りてエレンの元にむかった。しかし、本当に身軽な連中だな。
 ピクシス司令に作戦成功とエレンの後送、調査兵団とやらの増援が来たことを伝える。エレンについては迎えを寄越すそうで、俺についても1度に本隊の位置まで戻ってくるようにと。
 調査兵団とやらは壁外にでていた部隊で街の異変に気付いて急遽引き返してた精鋭部隊らしい。今まで戦っていた駐屯兵団とは指揮系統も違う上に、状況も飲み込めていないから態勢を立て直すためにも帰ってこいと。

「えっと、また、壁登るの…………か?」



[35622] 第10話 一時
Name: 烏天狗◆264e7e68 ID:ac286c01
Date: 2013/07/16 01:43
『あ~暇だ……』

 門の封鎖作戦から数日。やることもなくベッドで横になる日々が続いている。
 作戦成功のあと、残った巨人の殲滅を行った。まぁ、俺がしたのは主に援護でほとんど兵士達が奴等を倒した。被害が減って助かるとピスシス司令に感謝された。
 その後は無事だったウォール=ローゼとかいう街で待機を命じられた。待機と言えば聞こえはいいが、実質、軟禁状態だ。駐屯兵団、兵士達の部隊名らしいがその建物のひとつが俺の寝床。平屋の木造建築。街と呼ばれるところからは十キロほど離れているだろうか。
 食事は日に三度。芋がメインのスープに固めのパン。お隣さんは完全武装、なのかは知らないが腰に剣を下げた兵士が一個中隊。ドアの外には常に従卒という名の見張りが立っていて、トイレにいくにもザクに行くのにもついてくる。
 そのザクにも常に一個小隊が張り付いていて、俺が整備のために近づいたりすると即座に臨戦状態に入ったりする。うざいことこの上ない。
 ピクシス司令は事後処理があるとかで居なくなるし、ミカサもエレンについていってしまった。
 見張りの連中はまるで化け物みたいに俺を見てくるから話もできない。まぁ、言葉が分からないけど。それでも身ぶり手振りで手伝わせてなんとかザクの整備をすることはできた。
 推進剤はまだ余裕があった。各関節の摩耗も許容範囲。動力炉にも異常なし。弾薬はほぼ消耗しなかった。
 機体については問題なしってわけだ。

『これからどうすっかなぁ』

 傭兵として雇ってくれ、とピクシス司令に持ちかけたのはいいがその次だ。どうもここの連中の科学技術はそれほど高くないらしい。補給については期待できそうにない。食い物には困らないが、困ったもんだ。いずれザクも使い物にならなくなる。それまでに元の世界に帰る手段を見つけなくてはならない。こんな物騒な世界にザクなしでいるなんて無理だ。
 ザク以外の武装といえばコクピットに標準装備の拳銃が一丁、9発入り弾倉が3つ。銃身を切り詰めたライフルが一丁、30発弾倉が2つ。なんでか紛れ込んでいた手榴弾が1、閃光音響弾が2つ。ナイフが1。
 対人戦ならともかく、巨人相手なら自殺もいいところだな。
 改めて装備を見直したところで、ドアがノックされた。

『開いてるよ、勝手に入ってくれ。っても通じないんだろうけど』

 飯の時間には早い。なんだろうか。

『フルカワ』
『ミカサ! やっと来てくれたのか。それとさんをつけろ』

 ドアをあけて入ってきたのはミカサだった。作戦の時と同じ格好。さすがに剣を構えてはいないが。

『状況は? ここの連中ときたらなにも教えてくれないんだ。まぁ、言葉が通じないんだから仕方ないんだけどな』
『トロスト区の戦後処理は落ち着いた。戦死者の収容や弔い、エレンが塞いだ門の補強も』
『そうか、そりゃよかった。で、俺は? このままってことはないだろ?』 
『ピクシス司令が呼んでいる。私は迎えに来た』
『わかった』

 何のために呼ばれるかは分からないが、現状、やれることをやるだけだ。少ない荷物を纏めてザクに向かう。

『フルカワ、そのザク? は置いていって欲しい』

 ザクに乗り込もうとするとミカサに止められた。

『なんでだ? これがないと仕事になんないだろう?』
『私たちは分かるけども、街の人達が驚く。私たちには巨人にしか見えないから』
『そっか、それもそうか……』

 一緒に戦った兵士、見てた兵士はともかく初めてザクを見る奴にとってはザクも巨人か。余計な誤解を招くよりはおいていった方がいいか。

『じゃあ、置いていく。その代わりここの連中に言ってくれ。ザクに指一本でも触れやがったらこいつが大暴れするってな、俺に何かあってもおんなじだ。巨人より手強いぞ、こいつは』
『……わかった。伝える』

 ミカサが監視の兵士に話しかける。隊長らしき兵士は話を聞くなり顔を青くしてザクから5歩は離れた。
 遠隔操作と事前入力である程度は動かせるとはいえ、大暴れはできないが保険としては十分か。ザクのことをまだあまりわかってないみたいだし。

『終わった』
『お、それじゃ行くか』

 ミカサが乗ってきた馬車に乗る。幌なしの4輪馬車。馬は二頭立て。俺の隣にはミカサとミカサと同じくらいの黒髪の女性、といえか少女の兵士。向かいにはゴーグルをかけた女性兵士、背が高いな。その左右に兵士がふたりに御者台にひとり。雰囲気的にゴーグルの女性兵士が隊長っぽいな。
 しかし、乗り込んだ瞬間からいや、乗り込む前から感じてた視線はこいつか。殺気、ではないけどなんだろう、狙われている感じする。

 ぐ~

『ん?』

 正面からの視線に冷や汗を覚えていると間抜けな音が隣から聞こえた。
 ミカサの方を向く。相変わらず無表情。手持ち無沙汰なのかマフラーを弄っている。
 反対を向く。黒髪の女性兵士が顔を赤くしてお腹を押さえていた。
 腹減ってんのか? なんかあったっけ? 野戦服のポケットを漁る。弾倉しか入ってない 。腰のポーチを漁る。板チョコが出てきた。

『食うか?』

 黒髪の女性兵士に板チョコを差し出す。あ、戸惑ってる。この世界にはチョコもないのか。少し割って食べて見せる。さすが非常用。カロリー重視の激甘仕様だ。あ、なんかよだれ出てきてる。でも手を出してこない。

『ミカサ、こいつ腹減ってるみたいなんだけど、なんて言えばいいんだ?』
『ん、ほっとけばいいと思う』

 ミカサはそっけなく言う。

『隣で腹の虫ならされちゃ落ち着かないんだよ』
『……わかった』

 ミカサが女性兵士に何か言う。恐る恐る手を伸ばしてくる女性兵士。ひと欠片渡してやると口に含む。そしてすごく幸せそうな顔をした。

『うまいか?』

 言葉は通じてないだろうがニュアンスが伝わったらしく女性兵士はうんうんと頷いた。半分ほど割って更に渡してやる。

『それ、なに?』

 幸せそうに食べる女性兵士を見てミカサが聞いてきた。

『なにって、チョコレートだ。知らないのか?』
『知らない』
『食ってみるか?』

 手を差し出してきたミカサにも渡してやる。もぐもぐと食べるミカサ。なんか小動物的な感じだな。

『甘い』
『そうだろ? これは特別甘いやつでな』
『フルカワの世界の食べ物?』
『まぁな、非常食だからあんまりないけどな』

 食べ終わってまた手を出してくるミカサ。気に入ったらしい。残りを渡してやる。

『なぁ、ピクシス司令にあってから 時間があったらこっちの言葉を教えてくれよ』
『ん、わかった』

 チョコを食べる美少女ふたりに囲まれ、正面からはゴーグルの怪しい視線を感じつつ、馬車は街に向かって進む。



[35622] 第11話 会談
Name: 烏天狗◆264e7e68 ID:64885fa0
Date: 2014/01/19 20:13
 正面からゴーグルの女性兵士から熱い視線を送られ、隣の少女を餌付けしならがら馬車に揺られること30分。ようやく目的地についたらしく、馬車が止まる。
 着いたのは平屋の一軒家。ゴーグルの女性兵士と餌付けした少女、それにミカサが下りた。

『おい、ミカサ。ここはどこなんだ?』
『ピクシス司令の自宅』
『って、自宅かよ! 俺はなんで呼ばれたんだ?』
『知らない。自分で聞いて』

 まさかの自宅らしい。てっきり司令部やら行政府やらに案内されると思ったんだが、なにかあるんだろうか。
 ゴーグルの女性兵士に案内され、室内に入ると6人掛けのそれテーブルにピクシス司令と金髪で大柄な目つきの鋭い男が座っていた。

『おお、フルカワ中尉、よく来てくれた。やっと事後処理が終わっての。狭い所じゃが、まずは座ってくれ、お茶を入れよう』

 ピクシス司令にすすめられて椅子に座る。ゴーグルの女性兵士と同じ格好をした女性がお茶を持ってきてくれた。真黒な色をしているが珈琲、なのか? ミカサ達もそれぞれに座る。

『ありがとうございます。こちらの方は?』
『おお、そうじゃな。彼は調査兵団長のエルヴィンじゃ。それから君を案内してきたのが同じく調査兵団のハンジ分隊長。君の隣にいるのがアッカーマン訓練兵と同じブラウス訓練兵じゃ。ちなみにさっきお茶を運んできたのは儂の副官のリーンじゃ』
『は、はぁ。調査兵団というのは部隊名のことですか?』

 金髪の男が調査兵団長のエルヴィン、ゴーグルの女性兵士がハンジ、餌付けしていた少女がブラウスというらしい。

『そうじゃ。壁の守備及び修繕を担当する駐屯地兵団、治安維持を担当する憲兵団、そして壁外調査を主任務とする調査兵団の3つがある』
『なるほど。それで今日、私が呼ばれた理由はなんでしょうか?』 
『さっきも言ったがようやく落ち着いての。フルカワ中尉の話を聞くのがひとつ。それと今後のことについて話さねばな。ああ、言葉についてはアッカーマン訓練兵が通訳してくれるから普通に話してくれ』
 ミカサの方を見ると軽くうなづいた。

『ありがとうございます。しかし、言葉も早く覚えたいものです。護衛や世話をしてくれる兵士達はろくに会話もしてくれませんから』

 本当に言語の壁というのはでかい。なんとか言葉を覚えたくても近くの兵士は俺をを化け物のように見るし、食事を運んでくる兵士に至っては顔面蒼白で会話どころではない。せめて辞書でもあればなぁ、ザクのPCのなんとかなるんだが。

『ふむ。役に立つかはわからんが、儂の持っている書籍をいくつか渡そう。あとは時間を作ってアッカーマン訓練兵か儂で教えていくことになるだろう』
『ありがたいです』
『それで、まずはフルカワ中尉の話から聞きたい。簡単にでかまわん。君はどうやってここに来たのだ?』
『はい』

 俺はこの世界に来るに至ったことを掻い摘んで話した。自分がジオン公国の軍人であること。ソロモン防衛戦の折、連邦軍の新兵器と思われる攻撃を受けて気が付いたらこの世界にいたこと。衛星が使えず、無線も通じないこと。そんな時に巨人との戦闘に遭遇したこと。

『……なるほど。いや、じじいの頭ではなかなか理解できない話じゃな。あの、ザク? といったかな。あれがなければ到底信じられんよ』
『でしょうね。私も巨人をこの目で見なければ誰かから巨人の話を聞いても信じなかったでしょう』
『お互い様ということか。それで帰るあてはあるのかな?』

 帰る。あの攻撃を受けた時に俺は死んだと思った。最初もこの世界はあの世じゃないかと思ったくらいだ。あの新兵器が転移の原因だろうとは思うが、どうやって帰るかなんて検討すらつかない。

『分かりません。帰りたい、とは思いますが。帰る方法が見つかるまでは閣下のお世話になります』
『そうか。儂としてもありがたい。君の戦力は素晴らしいからの。それで今後の君についてなんじゃが、こっちのエルヴィンの指揮下で働いてもらいたい』

 ピクシス司令が隣に座るエルヴィン団長を示した。

『エルヴィン、団長、でよろしいですか? つまり調査兵団の指揮を受けろと?』
『その通りじゃ、詳しくはエルヴィンから説明させよう』

 ピクシス司令がエルヴィン団長にささやく。するとエルヴィン団長が立ち上がり、手を差し出して、何か喋ってきた。とりあえず手をだし、握手を交わす。分厚く、力強い手だった。あちこちにタコがある。

『調査兵団、団長のエルヴィン=スミスだ。エルヴィンでかまわない』

 ワンテンポ遅れてミカサが通訳をしてくれた。
 
 早く言葉を覚えてぇ……



[35622] 第12話 会談2
Name: 烏天狗◆e8af15f0 ID:20d7af22
Date: 2014/05/03 01:09
『エルヴィン、ですか? いや、貴方は指揮官ではないですか、呼び捨てにするのは』
『いや、構わない。君は閣下の傭兵とはいえ兵団の指揮系統に入っているわけではない。私に敬称をつけることもないだろう』
『しかし、部下に示しがつかないでしょう』

 流石にこの人を呼び捨てにする気にはなれないな。将官クラスと話しているような気がするし。

『私の部下には、私を呼び捨てにする者もいる。気にすることはない。まぁ、呼びにくいなら団長と呼んでくれればいい』
『了解しました。エルヴィン団長』

 見た目のわりにフレンドリーな人なのか。いや、人心掌握術ってやつか。

『さて、ピクシス司令から話があったように、フルカワ中尉、君には調査兵団に参加してもらいたい』

 珈琲のようなものを一口飲んだエルヴィン団長が切り出す。

『現在の私の雇主はピクシス司令です。命令があり、衣食住等の保証をして頂けるならそちらの指揮下に入ることは問題ありません。説明をしていただけると助かりますが』
『ありがとう。では、説明しよう。まず、我々には大きく分けて3つの軍事組織があるのは聞いているな? 3つの中で君の力を欲していて、かつ活かせるのは我々、調査兵団だけだ』
『それはどういった意味でしょうか?』
『ピクシス司令の駐屯兵団は主に壁内の守備と保全を担当し、憲兵団は治安の維持だ。前者は巨人の相手をするものの積極的にあたるわけではない。後者は対人に主眼を置いている。どちらも君の力を持て余すだけだろう。それどころか……』

 エルヴィン団長は言葉を切った。まぁ、なんとなく言いたいことはわかる気がする。

『駐屯兵団はともかく、おそらく憲兵団は君の身柄を拘束し、あの緑の巨人も接収して破壊しようとするだろう。最も、あれが破壊できるかはわからんが』
『やはり、この世界では巨人というのが恐怖の対象だから、ですか?』
『気を悪くしないでくれ。その通りだ。現に奪還作戦で功績をあげたエレン=イェーガー訓練兵も憲兵団にこうそ』

 あ、ミカサが通訳を止めてエルヴィン団長に食って掛かった。ものすごい形相。ブラウス訓練兵が羽交い絞めにして必死に止めている。なんかいろいろ叫んでいるみたいだが、言葉かわからん。

『ピ、ピクシス司令。ミカサの奴は急にどうしたんです?』
『あー、イェーガー訓練兵の監禁場所を聞いておる。同期じゃからな心配なんじゃろ』
『エレンの居場所ですか? ちなみに彼は今?』
『危険分子、ということで憲兵団の地下牢に拘束されておる』

 危険分子。ひどい扱いだな。エルヴィン団長がいうように作戦における最大の功労者だというのに。

『君は私の管理下、駐屯兵団預かりということにしとる。それでも憲兵団を納得させるのに監視部隊を置く条件をつけられたがの。それとも拘束されたいかね?』

 ああ、やっぱりあれ監視部隊だったのか。ザクに乗っていつならともかく俺一人にあんな人数はいらない気がするが……ザクも込みか。それならそれで歩兵なんてものの数じゃないな。連邦の対MS特技兵みたく厄介なミサイルもなさそうだし。

『閣下の御厚情に感謝します。私も好き好んで拘束されたくはありませんな。まぁ、もし私を拘束しようというのならそれ相応の損害は覚悟して頂きます』
『ほう、それは怖いな。一個小隊程度では止まらんかね?』
『そちらの装備が剣と旧式な銃や大砲であるなら一個師団来ようが関係ありませんね。まぁ、万が一追い詰められたとしても……』
『追い詰めたとしても?』

 窓の外に目線をやる。ここからでも壁が見える。

『あの壁の一部を盛大に吹き飛ばして自爆してやりますよ』
『それは困るのぉ。いやはや、君が味方でよかったわい。裏を返せばそれだけの戦力が手に入ったということじゃ』
『そういってもらえるなら良かったです。そろそろ終わったようですね』

 ミカサが椅子に座らされている。ブラウス訓練兵がぐったりしている。猛獣のようなミカサを止めるのは骨が折れたようだ。エルヴィン団長がごほごほと咳をしながら襟を直している。

『おいおい。ミカサ、落ち着いたか? 通訳いないと困るんだからさ。同期が心配なのは分かるが後にしてくれ』
『うるさい。やることはヤるから、早く終わらせて』

 めっちゃ殺気だってるし。なに? 俺、殺されんの?

『あー、エルヴィン団長、続きをお願いします』
『あぁ。今しがたアッカーマン訓練兵にも伝えたが、イェーガー訓練兵は憲兵団に拘束されていて、間もなく兵法会議にかけられる。そこで彼の処遇が決まる』

 軍法会議のようなものか。最悪、そのまま処刑で銃殺ってのもありえるか。

『エレンはどうなるんです?』
『君と同じく調査兵団で引き取る方針だ。現在、そのための根回しをしている。おそらく上手くいくだろう。憲兵団が多少抵抗するだろうが』
『なるほど。私とエレン、その戦力をもって奴らに対抗するわけですね』
『そうだ。ああ、それと君も兵法会議に出頭が命じられている。そちらも手回しはしているが、心構えはしておいてほしい』

 軍法会議に出頭。あまりいい感じはしないな。

『ま、フルカワ中尉の方は大丈夫じゃ。壁外の人類からの援軍ということになっているからの。説得は難しくないじゃろう』
『それはありがたいですね。ちなみに会議はいつ頃に?』
『3日後じゃ』

 へぇ、3日後。意外と早いなぁ、3日後!?

『それは、また急ですね。まだこちらの言葉もろくに話せないのですが』
『すまんと思っておる。しかし、なかなか時間が取れなくての。言葉についてはワシの書籍とアッカーマン訓練兵、ブラウス訓練兵、それにハンジ君けるからなんとかしてくれんか』
『なんとかって、3日でどうしろってんですか!』
『まぁ、当日はワシも補佐につく。ある程度解ればいい』

 鬼だ。違う言語を3日で覚えろって。

『努力はします。しかし、ミカサはともかくとして女性兵ばかりなのはどうしてです? それにブラウス訓練兵とハンジ分隊長はなんのために?』
『あーブラウス訓練兵についてはアッカーマン訓練兵を止める役目、ハンジ君は総括じゃ。かなりの秀才と聞いておるから役立つじゃろう。女性兵ばかりなのは、ま、ワシの心遣いとでも思っておいてくれ。君も男に囲まるよりは女性の方がよかろう?』
『一応、感謝はします。なんだかハンジ分隊長からは他の兵士から感じる恐怖とかそういった感情の視線じゃなくて、別の視線を感じて若干、身の危険を覚えるほどなんですが?』
『気のせいじゃろ。それでは、3日後にまた使いをやるからの。それまで窮屈じゃろうが、宿舎の方でよろしくやってほしい』

 副官のリーン、という女性が何冊か本を置いていく。それを受け取って席を立つ。同じくミカサとブラウス訓練兵、ハンジ分隊長が続く。ミカサからの殺気の籠った視線と、ハンジ分隊長のなんというか、新兵器を前にしたおやっさんと同じような視線が痛いんだが……大丈夫なのか、オレ?



[35622] 幕間
Name: 烏天狗◆e8af15f0 ID:e9dc84f8
Date: 2015/04/28 09:51
 ハンジ・ゾエの場合

 私は今、猛烈に興奮している。目の前にあの緑の巨人、その中の人がいるんだ。興奮しない訳がない。私だって最初の頃は仲間を殺された恨みから巨人に対しては憎悪しかなかった。しかし、それなりの巨人を狩って溜飲が下がった頃に私に芽生えた感情は好奇心だった。
 なぜ、巨人は人を食べるのか。なぜ、倒されると跡形もなく消えるのか。なぜ、軽いのか、熱いのか。知識はあるのか、感情は。首筋以外の弱点はないのか。なぜ、なぜ、なぜ……
 巨人とコミュニケーションが取れるならそんな疑問はすぐに解決できただろうけど、残念ながら未だに成功していない。あいつらはただひたすらに人を食おうとする。それでもいつか謎が解けるかもしれないと思って調査を続けてきた。
 そして、今。目の前に巨人を操る男が現れた。今すぐに質問攻めにしたい。通常業務を全てなげうって団長とリヴァイに直訴して彼の護衛役を勝ち取った。これで公に彼と一緒にいることができる。それこそ四六時中、ねっとりべっとりしっぽりと……ぐへへへへ
 彼は、フルカワ中尉はどんなことを知ってるんだろうか。巨人の動かし方? 外の世界のこと? ああ、彼が来ている服も独特だね。ちょっと触らせてもらえないかな。彼の体は私たちと同じなのか。巨人から出てきたんだから巨人みたいだったりして。あー見たい、知りたい、触りまくりたい。
 3日後の兵法会議に出廷するために3日でこっちの言葉を覚えなきゃいけないらしいけど、早く覚えてほしい。じゃないと色々聞けないじゃないか。あ~来る途中に訓練生たちにあげてた茶色い食べ物を私も貰っとけばよかったなぁ。あれはなんだろう、訓練兵たちは美味しそうに食べてたからなぁ、きっと巨人の食べ物なんだろうなぁ、いいなーいいなー。あとでお願いしたらくれるかな? でも、言葉が通じないしなぁ。あ、アッカーマン訓練兵に通訳してもらえばいいんだよね。それくらいいよね、減るもんじゃないし護衛役の役得だよね。エレンの場所に案内するって言えば絶対にやってくれそうだし。
 このふたりの訓練兵も暫定的に指揮下に入ってるだけだし、振り分けでどこの兵団に行くかは分からないけど、それまでに彼、こっちの言葉を覚えてくれないかなぁ。そうしたら通訳抜きで色々聞けるのに。あ、私が彼の言葉を覚えるのもいい? そうしたら言葉を教える代わりに彼からも色んなことを教えてもらえる? いい! それいいよね!! アッカーマン訓練兵と喋っているのとにかくメモしなければ。

 あ~早く分屯地に着かないなー楽しみだなぁ、でへへへへへ






[35622] 第13話 兵法会議
Name: 烏天狗◆264e7e68 ID:3b205a5c
Date: 2015/05/07 07:59
 ピクシス司令とエルヴィン団長との会談を終えた後、兵法会議に備えてこの世界の言語を学んだ。学ぶというか主にミカサとの会話だ。試験を受けるわけじゃないから読み書きはひとまず置いといてとにかく会話をした。多言語を理解するには話すことが一番だとなにかの本で読んだ気がするが、実際に俺の拙い言語能力でも1日目の夜には簡単な挨拶やらあれ、それといった受け答えはできるようになった。
 最初こそ講師はミカサで会話もミカサだけだったが、ある程度話せるようになったところでブラウス訓練兵、サシャも」交えるようになった。

『フルカワ、もうかなり話せるようになった。私はもう帰っていい?』
『ミカサさんや、教えてもらえるのは嬉しいんだがいい加減呼び捨てはどうにかならんかな? あとまだ1日目なんだけど?』
『呼び捨てに慣れた。私のことも名前で呼んでいるんだから諦めて。貴方が早く言葉を覚えてくれれば兵舎に帰れる』
『……講師がスパルタすぎて困る』

 どうやらこの世界の言語はひとつだけらしく、違う言語を覚えるという概念がないらしい。言語自体に名前がないが仮に人類語とでもいうべきなんだろうか。おかげでミカサも俺に教えるということができずにただ受け答えをするにとどまっている。ついでに受け答えをしてくれるのはいいが、エレンが拘束されているからかミカサの様子は落ち着かない。

「あの、フルカワ……あの……ない……すか?」
「あー、サシャ。もう少しゆっくり、話してください? 『おい、ミカサ。サシャなんていってんだよ?』」
『あの茶色い食べ物ないか? って言ってる』
『チョコレートのことか。手持ちはもうないんだよなぁ、あとで取ってくるから』
『練習。自分で伝えて』
『りょーかい』

 雑談程度だがサシャが混じってくれるのはありがたい。なんというか天真爛漫、悩みなんてない笑顔をされると少し癒される気がする。まぁ、ただ食い意地の張ったアホのようなんだが。サシャが入ってこないとミカサとマンツーマンだから困るんだよ、話題的に。こっちのことを考えずに喋るから聞き取れないことが多いけどな。

「…………」
「あーハンジ分隊長? そんなに見つめられると困ります?」
「…………」
「あのー……」
「…………」

 視線が痛い。宿舎に到着してからハンジ分隊長とはまともに会話をしていない。他の兵士と同じで恐れられているにかと思いきや、あの眼鏡の奥の輝きは絶対に違う。新しいおもちゃを前にした子供、研究対象を見つけた科学者、連邦のジムを鹵獲した時のおやっさんの笑顔。とにかく触れてはいけない気がする。

『な、なぁ、ミカサ。ハンジ分隊長は俺の言葉通じてるんだよな? な?』
『……通じてはいる』
『なぜに目線をそらすかな? ていうか俺らが喋るたびにすさまじい勢いでメモとっているし、なにかぶつぶつ言ってて怖いんだが!?』
『フルカワは早く言葉を覚えればいいと思う』
『……なんだろう、急に覚えたくなくなってきたよ』

 嫌な予感に襲われながらも言葉を覚える作業は続けた。

……………

 結論として付け焼刃の3日で言語を覚えるなんて無理でした! ちょっとした会話が限界だったね。こちとら天才じゃなくて凡愚なんだからな!
 そして頼るべきは文明の利器。ボイスレコーダーを使い、ミカサやサシャに人類語で喋ってもらい、ミカサにそれを通訳してもらう。それを記録して……とか作業を繰り返していくうちにとあることに気づく。この人類語は英語と中国語とフランス語、ロシア語、ポルトガル語その他いろいろと各言語が絶妙にミックスされているようだった。あまりにも混じりすぎて単語レベルですらわからないが。

「あーあー、ミカサ。わかるか?」
「わかる。フルカワ、急に言葉がうまくなった。あと声が変」
「おっし、調整はいいみたいだな。さすが、ナビ子ちゃん」
「なびこちゃん?」

 俺の喋った日本語はインカムを通してザクのコンピュータに送信され、俺が趣味で作っていたエセAI、ナビ子ちゃんが人類語に変換した後に小型スピーカーを通じて機械音声で発せられる。既存の翻訳ソフトをありったけぶち込んで、ミカサやサシャに喋ってもらったことを3日間でできるだけデータベース化、ザクのコンピュータの処理速度に物を言わせて無理やり最適化させた。ザクにナビ子ちゃん入れてなかったら終わってたな。

「まぁ、細かいことは気にするな。とりあえず、通じてるんだろう?」
「通じてる。サシャは?」
「あ、はい。わかりますよ。フルカワさんって頭いいんですね~こんな短期間で喋れるようになるなんて」
「あーあ、まぁ、そういうことにしとけ」

 さて、とりあえずの言語はなんとかなったか。欠点はザクと通信ができる範囲でしか使用できないのと基本的には一人分しか言葉が拾えないことか。兵法会議の場所ってどこなんだろ、ザクを持って行っていいか、せめて電波届くといいな。

『うぇえええええ!! なんでフルカワはもう言葉話せてるの? せっかく私もここまで覚えたのにぃいい!!』
『いや、あんたこそ、今の今まで黙ってたのに急に喋ってるんだ? しかも日本語』
『だって、これ覚えたらフルカワと話せるでしょ? そうしたらあの緑の巨人やフルカワについていっぱい聞けるじゃないか!』
『だから俺とミカサが喋ってる時にあんなにメモしていたのか……』

 なぜか3日間黙りっぱなしだったハンジ分隊長が日本語を完璧に話し始めて発狂した。ていうか案の定、この人、おやっさんと同じ人種だったのかよ。

『でも、今からでも遅くないよね! ねぇ、フルカワ! あれのこと教えてよぉおお!』
『いや、教えてもいいですけど、ハンジ分隊長。ちょっと近! 近いですよね!』
『私のことはハンジでいいよ! じゃ、じゃあ、さっそく……』

 近い。ちょっと動いたら触れ合えるくらいに近い。ただこれだけ女性と近い距離にいるのにドキドキ感は全くない。違う意味でドキドキはする。主に身の危険という意味で。

「分隊長、団長からの伝令です!」
「うぇ?」

 今にも食われ……尋問が始まろうとしたとき、兵士が入ってきてハンジを止めてくれた。

「え……そ、そんなぁああ! いや、エレンの方も行きたいけどさ! このタイミングなの!!」
 
 よくわからないが、ハンジが悶えてる。エレンの名前が出た瞬間にミカサがそわそわし始めたんだが。

「くっそう……いや、でもこのシナリオなら……よし……アッカーマン訓練兵、ついて来て。君にも出頭命令が来てる。ブラウス訓練兵、君はフルカワを審議所まで案内してきて。それじゃフルカワ、あとで会おうね、ゆっくりとね!」

 嵐のようにまくしたてるとハンジはミカサの手を引いて、いや、どちらかというと手を引かれて出ていった。残されたのは俺とサシャ。あと着いて行きそびれた伝令の兵士。あ、逃げた。

「さて、審議所とやらに案内してもらえるかな。場所はわかるのかサシャ?」
「あ、はい。さっきの伝令の人が地図置いてってくれましたから、大丈夫です」


…………


 幸いにも兵法会議の開かれる審議所はなんとか電波が届く範囲だった。途中、サシャに頼んで中継器を設置してもらった。あとで回収したい。

「さぁ、始めようか」

 審議所はズムシティの裁判所のような場所だった。中央に鎖につながれ、跪かされたエレン。正面の一段高い位置には左右の書記官っぽい奴を従えたいかにも偉そうな人物。左右には兵士が並ぶ。俺はエレンから見て左側、ピクシス司令やエルヴィン団長の近くだ。

「ピクシス司令、あの方は?」
「おや、わずか3日でよくそこまで話せるようになったのぉ。あれは総統のダリス・ザックレー。3つの兵団を束ねる軍の最高指揮官と言ったところかの」

 小声でピクシス司令に聞くとやはり偉い人物だったらしい。どれほど偉いのかはわからんけど。

「諸君、我々は異例の事態に直面している。本審議は通常の方が適用されない兵法会議とする。全ての決定権は私に委ねられていることを理解してもらいたい。我々が早急に判断すべき事由は現在、ふたつ。どちらもその緊急性において優劣をつけがたいものがあるが、まずはエレン・イェーガー訓練兵の件について審議する」

 俺のことはまず後回しにされるらしい。まぁ、ここは俺が口を挟むことではない。
 ザックレー総統が提示した議題はエレンの処遇だ。憲兵団と調査兵団、どちらかに任されることになるらしい。前の会談では調査兵団にと話していたが。っていうかこの連中、エレンを処刑する気か? 今日まで見聞きした感じ、巨人に押されまくってるらしいのにここで対抗手段を消してどうする。人類は滅亡するまで争いを止めないっていうがどこも変わらんのか。
 ってあれ? エレンがボコられ始めた。あれは……ザクに切りかかってきた目つきに悪いちびじゃないか。思わずエルヴィン団長の方を見ると無言で頷かれた。よくわからないが、計画通りらしい。だったら早く終わらせてくれ、ミカサの殺気が半端ない。隣の兵士が止めてるけど、いつ振りほどかれるやら。

「決まりだな……エレン・イェーガーは調査兵団に託す。しかし……次の成果次第では再びここに戻ることになる」

 エレンの処遇が決まったらしい。予定通りだということか。

「では、次にコウスケ・フルカワ中尉について審議する。フルカワ中尉は中央へ」
「はっ!」

 エレンの横に立つ。ぼろぼろのエレンが痛ましい。

「フルカワ中尉、報告書によれば君は遥か遠方より巨人の集団を単身突破、我が国への援軍及び周辺への超長距離偵察の目的でこの地にきたということだが、違いないかね?」
「はい、そのとおりであります」

 実際には違うが、ピクシス司令との打ち合わせていた内容だ。まぁ、連邦軍の新兵器にふっとばされて気が付いたらわけのわからない世界にいました、って説明よりはましだろうか。

「君の本国はジオン公国というらしいがここからどのくらい離れているのかね? 連絡は着くのか? 後続は?」
「途中で装置の一部が故障、現在地を見失い彷徨う内にここにたどり着きました。本国との連絡は不能。また両機ともはぐれてしまい、合流は絶望的であります」
「そうか……壁外に人類が生き残っていたという事実に喜ぶしかあるまいか……」

 ほぼ嘘は言っていない。本当のことを言っていないだけだ。

「君はピクシスと傭兵契約を結んだらしいな。原隊に復帰するまで身分と衣食住の保証、あのザクという巨人の補給物資を対価に人類に協力すると?」
「正確にはピクシス司令個人に、であります」
「ほう、ピクシスにか……」

 やはりザクは巨人という認識か。これは受け答えを間違うとまずいか、頼むぜ、ピクシス司令にエルヴィン団長。

「ありえん! 巨人に我々の貴重な物資を差し出すなぞ! 先のイェーガー訓練兵と同様そやつも悪魔に違いない。即刻、処刑すべきだ!」

 エレンの審議の時もわめいていた黒服が叫ぶ。ウォール教とかいう宗教集団の司祭らしいが。

「静粛に。司祭は許可された場合以外に発言しないように。これ以上の発言は妨害とみなして叩き出す」
 
 ザックレー総統が机を叩いて司祭を黙らせる。司祭が顔を真っ赤にして押し黙るが、ざまぁ。

「フルカワ中尉、私がピクシス以上の条件を出すと言ったら私に従うかね?」
「ありがたいお話ではありますが、私は既にピクシス司令と契約済みであります。契約が破棄されない限り新たな契約を結ぶのは筋が通りません」
「……司祭の言葉ではないが、この場で君の処刑を決めること、あるいは拘束することも可能なのだが?」

 ザックレー総統の言葉に衛兵が銃を向けてくる。先込め式の単発長銃。骨董品と呼ぶのすら躊躇うくらいの旧式だな。対人戦ならともかくあの巨人に対して意味があるのか? なぜ、もっと高性能の銃を開発しない? 

「総統、彼についてはその必要はないと思うぞ」
「ピクシス、この男をお前は御せるか?」
「御せるかはわからんが、少なくても無理やりに従わせるのはあきらめた方がいいと思う」
「あれは駐屯兵団では倒せないか?」
「生憎。精鋭揃いの憲兵団はどうかの?」

 ピクシス司令はエレンを処刑することを主張していた憲兵師団長に話を向ける。

「……十分な量の爆薬をしかければ……」
「通常の15m級が大人しく爆薬を仕掛けさせてくれるか? ましてや、緑の巨人は人が操っておる上に、刃は通らん」
「…………」

 流石に刃程度は通らないけどな。爆薬は……質と量と場所による。前面装甲、いや、背面装甲でもいけるか。バックパック、間接、動力パイプを狙われなければなんとかなるか。

「総統。ワシはフルカワ中尉との契約者という立場において人類のために戦って欲しいと要請する」
「ふむ。具体的にはどうするのだ?」
「イェーガー訓練兵同様に調査兵団にその指揮権を委託しようと考えておる。人類のために役立てるならばそれが一番いいじゃろうて」

 よし、シナリオ通りだな。あと一押し……

「総統閣下」
「なにか、フルカワ中尉」
「私単体という戦力提供の他にある程度の技術提供も可能であります。例えば、壁上にある大砲、あれの高性能化」
「機動砲の改良か……昔に比べれば随分とよくなったんだがな」

 あれでか! せめて照準くらい合わせられるもんを作れよ。

「よろしい。では、総統権限を持ってフルカワ中尉の処遇の一切をドット・ピクシス司令官に委任する。これをもって本兵法会議の平定を宣言する!」


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