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[35632] 『ネタ』真・恋姫夢想~義侠の空
Name: 南斗星◆b1f32675 ID:71d9ab84
Date: 2012/10/25 04:21
はじめに
この作品は以前にTINAMIに掲載した『真・恋姫無双』の二次小説を改訂した作品です。
作者のご都合が入っておりますので、原作及び正史などと大きく違う点などがあります。
また、少々蜀アンチっぽい表現で書かれておりますのでご注意下さい。




[35632] 第一話
Name: 南斗星◆b1f32675 ID:71d9ab84
Date: 2012/10/25 04:23
――冷たく激しい雨に打たれながらも、張任は城壁から鋭い視線を送っていた。
全身から滴り落ちる大きな雨粒が、足元に貯まっていく。
もう何刻そうしていたのだろうか、口を開くことなく、唯決意に満ちた表情だけを張り付かせ、その尋常ならざる眼差しをある一点にと注ぐ。その視線の先にあるのは城を覆い尽くさんがごとく囲んだ劉備軍の軍勢だった。



西暦211年、益州の牧の劉璋は五斗米道の張魯の脅威から益州を救うべく荊州牧の地位にあった劉備に援軍を要請する。だがこれは重臣の中にいた野心家の張松・法正・孟達らが、劉備の軍師諸葛亮・龐統などと謀り益州を劉備に売り渡そうと画策したことだった。
これに気づいた時、王累・黄権・劉巴らが反対したが、劉璋は取り合わなかったという。

劉備は自ら数万人の兵を率いて、蜀へ赴くと内密に劉璋の治世に不満を持つ部下達を懐柔し、その配下にと取り込んでいく。さらに劉備は張魯に対すべく前線に赴任はするが、その地で張魯を討伐するよりも民達を自身に心服させることに勤める。
そして蜀占領に向けて準備を整えた劉備はその本性を現し、劉璋に牙を向く。

西暦212年、劉璋から付けられた監視役の高沛と楊懐の二将を謀殺した劉備は、蜀の首都成都へと向けて侵攻を始めた。劉備は仁道を御旗とし、益州の民達を味方にと付けさらに黄忠・厳顔・魏延などの猛将が劉璋を見限り劉備へと寝返ったことにより、劉璋は次第に追い込まれていく。
そして劉備本軍が涪城を占拠し綿竹の勇者である李厳を降伏させ、荊州から進軍してきた諸葛亮や張飛らも加わりさらに李恢の働きにより馬超を味方に引き入れると成都は完全に包囲された。
暗愚の劉璋にこの事態を収めることは出来ず、劉璋はただちに降伏した。

こうして劉備の蜀の乗っ取りは功を成したように見えたが、ただひとつまだ劉備に従わない者がいた。
雒城に立てこもる張任である。
雒城に残った兵力は五千、対する劉備は即動かせる戦力だけでも十万を超えていた。
劉備は張任を高く評価しており、何としても配下に収めたかったので再三使者を送り降伏を促したが、張任はこれを断固拒否。兵力差もあり降伏してくるだろうと思っていた劉備は落胆したが、後顧の憂いを無くすべきだとの諸葛亮らの進言を受け自ら五万の兵を率い出陣した。





それはすでに意味のない戦いであったろう。
すでに国は奪われ主である劉璋は劉備にと降った。
民達は仁君と評判の高い新たなる主を歓呼の声を持って受け入れている。
すでに降った元の同僚達も心服しているというし、恐らく今ここで降れば劉備は張任を厚く遇するであろう。

だが、それでも張任は降ることを良しとは出来なかったのである。
己が降将との謗りを受けるのが怖かったわけではない。
先に降った他の将たちを責めるのでもない。
ただ劉備という人物を張任は受け入れることが出来なかったのである。

同族である劉璋を騙し欺き蜀を乗っ取る性根。ただそれだけなら戦国の世の習いとして受け入れていたかも知れない。だが張任が何より受け入れることの出来なかったのは、世に仁義を謳う劉備という人物がそれをおこなったことである。「この大陸すべての人物が幸せに笑うことが出来る世の中を作る為」そんな謳い文句を背に戦ってた人物が庇護をすべき同族を率先して裏切り、自らの私欲を満たしたと見たのである。
もちろん劉備にも事情と言う物があったのであろう。劉璋が国を治めるに足る人物か問われる資質だったのも否めない。だがそれを考慮しても劉備という人物に仕えるべき【義】というものを見出せなかった。



[35632] 第二話
Name: 南斗星◆b1f32675 ID:71d9ab84
Date: 2012/10/25 04:38
雒城を大軍にて包囲した劉備だったが、張任らの頑強な抵抗に合い一年立っても落とすことが出来なかった。それどころか軍師の龐統が矢に当たって重症を負わされる事態にもなった。この事態を憂慮した劉備は諸葛亮の献策を受け雒城内部の切り崩しを謀る。すでに大軍相手の勝ち目のない戦いで疲労の極みにあった張任軍は、この策で瓦解する。すでに三千を切っていた兵が僅か五十を残し劉備に投降してしまったのだった。これを受け劉備は張任と親交のあった厳顔を降伏の使者として城内へと送り、張任は厳顔を城へと招き入れたのであった。
そして両者の最後の対談が始まる。


「――久しいな茜(あかね)よ、元気にしておったか?」
城内へと招き入れられると同時に、厳顔は大声で語りかけた。
「あいからわず大きな声だな、桔梗よお前こそ元気そうで何よりだ。」
そう言うと張任は厳顔に歩み寄り、二人は笑いながら手を握り合った。

この二人今は仰ぐ旗を違えているが、まだ劉璋配下にあった頃は互いに【真名】を預けあい義姉妹の契りを交わすほどの仲であった。【真名】とは心から信頼の置ける者以外呼ばすことのない物であり、本人の了承なくして呼ぶことがあれば斬り捨てられても文句の言えぬ程のものであり、それだけに二人の仲が知れるものであろう。
そしてそれは互いに行く道が違った今も、変ることはなかった。

「さて互いに時間もあるまい。旧交を温め合いたいところではあるが、さっそく本題に入るとしようか。」
「うむならば桃香様、いや我主、劉玄徳からの口上を伝えよう。」
厳顔が劉備の名を出した所で張任が眉を顰めるが、厳顔はあえてそれを無視する。
「茜よお主達はこの寡兵でよく戦った、もう充分じゃろう…桃香様もお主の忠義に感心なされ厚く遇すると申されている…我が軍に降れ。」
「桔梗よ答えの分かり切っている事を問うなど愚かだとは思わぬか?あたしはあの小娘が好きにはなれぬ。口先では仁義を吐き、民には都合のいい理想を語り、叶わぬ夢を見せ、舌の根乾かぬうちに自らそれを覆す。偽善というのも甚だしい。」
「茜よ、あの方の理想はこの乱世において確かに甘すぎる綺麗ごとに聞こえるかもしれない。だがわしはあのお方ならそれを現実に出来るやも知れぬと思っておる。」
「笑止、今の時代清濁を併せ持つ気概を持たなければ英雄となりこの国を救うことなど出来ぬ。だが劉備はその現実から目を背け自身にとっての都合のいい理想を吐きながら、実際には自らその理想を裏切り、その事実をまた都合のいい言葉で塗りつぶす。やつの言葉に重みなど感じぬわ。」
「だが実際にはどうだ茜よ。桃香様の理想に皆も賛同し同じ理想を追おうとしておる。それこそあのお方が持つ徳と言うものだろう。劉璋の小僧のもとでは追えなかった平和な国作りが可能なのだぞ、新たなる蜀の為お主も力をかすべきであろう。」

言葉を尽くした二人は互いの目を見つめ合っていたが、ふと溜息を吐き張任が天を見上げた。
「これ以上話し合っても平行線だな、桔梗よもう行くがよい。幾ら語り合っても劉備の理想に私が共感することはありえぬ。私は死してこの国を守る鬼となろう…さらばだ友よ、もう語らうこともあるまい。」
そう言いながら背を向ける張任に、言葉を掛けようとする厳顔だったが、その背がもはや言葉を拒絶しているのを感じ首を振った。
「そうか、ならば最早語るまい…さらばじゃ友よ、もし戦場でまみえたら互いの武で語ろうぞ。」
そういい残し厳顔も背を向ける。
互いにこれが現世(うつつ)で語る最後の言葉であろうかと想いながら…。



[35632] 第三話
Name: 南斗星◆b1f32675 ID:71d9ab84
Date: 2012/10/25 04:46
雒城における最後の攻防が切って降ろされた。
否、もはやそれは戦とはいえぬ物だったろう。
劉備軍五万に対し雒城に残った兵力は僅かに五十、最早それは戦力とは言えぬものであった。
だが、張任率いる五十の兵は勇敢にも劉備軍へと突撃を繰り返す。
しかし一当てするたびに数を減らしていき、ついには張任ただ一人と成ってしまった。
だがそれでも張任は抵抗をやめない…。
右手に馬超、左手に張飛、後方に黄忠、そして前方にあの厳顔に囲まれながらもなお戦う。

「降りな張任!見なよお前の周りには最早敵しかいないぞ。このままじゃ無駄死にするだけだ。桃香様ならあんたを無下に扱ったりしないからさあ。」
馬超の言葉にも耳を貸さず。
「降ってちょうだい茜ちゃん!あなたをこんな所で死なせたくはないわ!」
真名を呼ぶ黄忠に目もくれず。
「にゃにゃにゃ~!!いい加減にしないと鈴々怒るのだー!!」
張飛の猛撃をも退け。
「っふ!」
もはや語ることなしと、豪天砲から放たれる厳顔の矢をもかわし。
「はあはあはあ…。」
それでも槍を振るう張任だったが、人の身である以上永劫に戦うなど出きる筈もない…。
ついには張飛に槍を跳ね飛ばされ、代わりに抜いた剣は馬超に折られ、黄忠に乗馬を射られ、厳顔によって叩き伏せられてしまった。
地に横たわった張任をすかさず雑兵が組み伏せる。
「くうっう…。」
張任が縄目を受けたのを見計らい、劉備がやってくる。
劉備は張任の拘束を解かせると、自らの理想を誠心誠意語り張任を説得しようと試みる。
もはや抵抗の素振りを見せず真摯に話を聞いてくれる張任に、厳顔や黄忠のように力を貸してくれるものだと確信し返答を期待する劉備。
だが張任の口から発せられた言葉は、劉備の期待したものではなかった。
「なるほど確かに劉備殿の理想は素晴らしい物に聞こえる。『誰もが笑っていられる国作り』ですか…皆がこの国を貴殿に任せようとするわけですな。」
「じゃ、じゃあ!」
「ええ、すばらしい甘言ですね。」
「え?」
「劉備殿…貴公はこの国に入って何をした?皆に理想を語る貴方が劉璋様に対して何をした?」
「そ、それは…。」
「貴方がした行為は『騙し討ち』であり『侵略行為』というのではないかな。」
「ち、違う。」
「皆で幸せに暮らす平和な世を語りながら、自らその理想を壊す輩に【義】など感じぬ、私は死んで蜀を守る鬼となろう早々に首を刎ねられい!」
その言葉に落胆しながらも、さらに説得しようと詰め寄る劉備に対し厳顔が首を振る。
「桃香様、もう話しても無駄でしょう。これ以上は張任の【義】を侮辱することになります。ここはやつの好きなようにさせてやってはくれませんかな。」
その言葉を聞いた劉備は暫くの間目を瞑った後、頷きながら後ろへと下がった。
「茜よ、お主の首はわしが刎ねよう。」
厳顔はそう言うと腰の剣を抜き張任の後ろへとまわる。
「すまんな」
そう言うと張任はもはや語ることなしとばかりに静かに目を閉じた。
厳顔は一瞬だけ躊躇したように止まった後、白刃を振り下ろした。
自らの首に刃が当たったのを感じた後、張任の意識は途絶えた。


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