まるで体中に耳が出来たようだと思った。
衣擦れの僅かな音まで聞き取れる。
激しすぎる心臓の鼓動も、風の音も。
後ろから聞こえる、彼女の命の証も……
『じゃ、死んで』
だが、これだけは……聞き逃したかった。
ゾッとするほど平坦な声。
その声を最期に。
彼女は、もう何度目かも判らない死を迎える。
「―――ハッ!!」
だが飛び起きてみれば、眼に入るのは豪奢なホテルの一室。
治療が施された自分の体には、死に至る傷は無い。
そのことにいつもと変わらぬ安堵をして、ハルカはベッドに再び体を横たえた。
「……」
眠れない。
この三日間、その大半の時間をベッドで過ごしたはずの彼女は、尚も霧に覆われたような意識の中にいた。
四次試験で負った傷と疲労。無論、それもある。
だが根本的な原因はそれではない。
単純に、眠れないのだ。
身体がどれほど睡眠を求めても、意識がそれを許さない。
ほんの僅かな物音にも反応して飛び起きてしまう。夢の中で死を迎える度に、自分の体を確かめる。
浅い眠りと覚醒を繰り返すハルカの肉体には、確実に疲労が蓄積していた。
ムリなのだ。
どれほど自分に言い聞かせても、忘れられない。
幾度となく夢に出る。
自分の最後を覚悟した瞬間が。
死んだ。
死んだと思った。
その瞬間は一枚の静止画のように思い出せる。
暗闇に落ちる木々の一本一本。
木の葉のざわめき。
またたく星々と月の冷たい光。
うるさいほどに高鳴る鼓動。
静かに、しかし疾く来る魔弾。
奈落のような瞳。
後ろから聞こえる、彼女の息遣い。
本来ならば視認すら出来ない筈の針が、寸分違わず自分の眉間を射抜くであろうことまで、その瞬間だけは理解出来た。
麻痺していた恐怖が、後からジワリジワリと忍び寄り、心を侵す。
あの時、ヒソカが来なかったならば私は死んでいた
そのことが嫌というほど理解できて、恐怖は鎖のように彼女の精神を縛る。
眼をきつく締めて、彼女は毛布を頭から被った。
この三日間、碌に外にも出ていない。
思い出したように起きては軽い食事を取り、また寝る。
どのみち体中に出来た怪我が未だに痛み、特に右足の具合が悪いので立ち上がるのにも困難している有様なのだが……
そんな自分を見て、ハルカは―――
「……情けない」
そう、自嘲した。
「死んでいた。絶対に、あのとき……私は死んでいた」
それは不慮の事故のような不幸でも、油断でも何でもない。
純然たる、絶望的なまでの実力差。
運などというモノでは回避できない、天災のような死の気配。
生き残れたのは、幸運などでは到底足りない。奇跡と言わざるを得ない。
情けない。震える身を抱きしめて、心からそう思う。
甘く見ていた。
『死』の怖さなんて、想像上のものに過ぎなかったのだ。
怖い。
心の底からそう思う。
冷たい腕が背中に差し込まれたように身が竦む。
けど、それを招いたのは自分の選択なのだ。
原作キャラを見たいと、今から思えばふざけた願いで試験に参加して、その結果がこの様だ。
しかも、最大の友人すらそれに巻き込むところだった。
もしもあの時、アゼリアが死んでいたら……
それは、自分のせいだ。
自意識過剰でも何でもなく、自分のせいだ。
その最悪だけは避けられた……そのことは、嬉しい。
だがそれでは足りないのだ。
絶対に、足りないのだ。
彼女は自分を守ろうとするだろう。それこそ、彼女の意思で。
それは何故だ?
弱いからだ。
自分が、弱いからだ。
だから彼女は私から目を離せない。
その身を危険に晒す羽目になる。
すでに彼女には護らなければならないヒトがいるというのに、その身を割かねばならなくなる。
そのことが、ハルカは今ならばはっきりと理解出来た。
「強く、なりたい……」
心の底から零れ出た一言。
どんな努力も厭わない。
苦しくても、もうこんな思いはしたくない。
一片の虚飾もなく、ハルカはそう思った。
それは明確な、そして純粋な「力」への渇望だった。
「今の私に出来ることをやらないと……」
体が動かなくとも出来ることはあるだろう。
「練」も「絶」も「凝」も、それとも「燃」の修行をするべきだろうか?
時間を無駄にするな。
今の一時で出来ることを……!
そして、何よりもやらなければならないのは―――
「……アゼリア?」
「―――! ああ、起こしてしまったか。すまない……」
この友人に、これ以上心配をかけないことだろう。
音をたてないようにそっと入ってきたアゼリアに、ハルカは努めて明るい声を作り、話しかけた。
未だに眠気の残る頭を何とか誤魔化す。
湧いて出たやる気が僅かな活力となったかのようだった。
「とっくに起きてたわ! もうね、三日も寝てるとむしろ体がだるくて……心配かけた? え、別にお前のことなんか心配してないって? アゼリアってばツンデレ?」
「そんなこと言ってない! けど……まぁ、多少は心配させられたぞ、バカ」
「うわ、今の言い方ちょっとかわいいかも! デレ要素出るの早いわね!!」
「……やっぱり心配するの止めようか」
アゼリアは疲れたように溜息をついた。
この三日間、ハルカは寝るたびにうなされ、碌な睡眠がとれていなかったことをアゼリアは知っている。
心に負った傷は、治るのが遅い。
初めて身近に感じた「死」が残した影響は少なくないだろう。
そのことが心配で、レオリオとの試合で頭に上った血を冷ましがてら、ハルカの様子を見に来たのだが……すっかり元の様子に戻った彼女に、内心でほっと息をついた。
……いや、正しくは元の様に振舞おうとしている、か。
あの恐怖はまだ彼女を捕えているだろう。
だが、それでも良いとアゼリアは思った。
虚勢でも、それを張れるならば回復の兆候だ。
この三日間で、多少は彼女の中に整理がついたのだろう。
そのことにアゼリアは安堵したのだ。
そんな考えはおくびにも出さず、アゼリアもまた普段通りの素っ気なさで口を開いた。
普段通りに振舞う事がハルカのためになると考えたのだ。
「ま、それだけ元気なら心配はもういらないな」
「ええ。いらないわ。私はもう、大丈夫……」
「……なら、私は会場に戻るよ。キミが変なことを言い出さないうちにな」
試験の前に見にきてよかった、と。
そう思って、アゼリアはその部屋を後にしようとした。
「……ねえ、アゼリア」
その背に、ハルカは呼びかけた。
これだけは、今覚悟を得た内に……何よりも先に、言っておこうと思ったのだ。
「私ね、この試験が終わったら、天空闘技場に行ってくる。ちょっとね、一から鍛え直してくる」
「……決めたのか?」
「うん。半年くらいは帰らないかな」
アゼリアは一度だけ振り向いた。
正面から、ハルカの眼を見据える。
未だに寝不足に赤く充血した彼女の眼は、しかしはっきりとした決意を宿していた。
だから、アゼリアは頷くことにした。
「頑張れ」
激励を言霊に乗せて。
それだけを残して、アゼリアはドアを閉じた。
ハルカはその言葉を噛みしめて、頷いた。
聞く人のいなくなった部屋の中で。
「頑張る」
ギュッと手を握る。
決意を決して放さないというかのように。
一から鍛え直そう。
自分の身は自分で守れるくらいには。
体も、そして弱い心も。
頑張る。
そうもう一度口の中で呟いて、今度こそしっかりと回復しようと横たわった。
そういえば、ゴンとキルアも闘技場に来るんだったか。
いい加減眠りに落ちそうな頭で考える。
そうだ。そこで二人は念を覚えるんだ。
主人公組の才能が一気に開花する時だった。
あれ、けれど……彼らはすぐに闘技場に行ったんだっけか?
いや、違う……試験が終わったら、まずはゾルディック家に行ってたはずだ。
なんで、そこに行くことになったんだっけ……?
―――そこまで、考えて。
―――ハルカの脳内に、スイッチを入れたかのように電流が流れた。
「ああッ!!!!!」
絶望的な悲鳴を上げて、ハルカは飛び起きた。
ベッドから転がり落ちるように地面に降りる。
まだ穴の塞がらない足がガクリと落ちそうになるが、必死に堪えた。
忘れていた。
完全に、忘れていた。
最終試験。そこで起きるであろう出来事を。
「間に合って……いえ、むしろ何も起きないで……!!」
祈るように言って、ハルカは駆ける。
ふらつく足がどこまでももどかしかった。
アゼリアが会場に戻ると、その場に流れていた空気は異質だった。
張りつめている。
何か、黒く冷たいモノが。
「……キルア?」
部屋の片隅で抜け殻のように俯くキルアに、レオリオとクラピカが必死に話しかけている。
しかしキルアはそれに返事をしない。
何の反応も見せることなく、人形のようだ。
「一体何があった、クラピカ?」
「……ギタラクルだ。あいつが、キルアの兄貴だった」
ギタラクル? とアゼリアは聞き返した。
そういえば、先ほどの試合はキルアとギタラクルの戦いだった筈だ。
しかし、部屋を見渡すが、そこには大量の針を刺した不気味な人影はない。
いや……違う。
一人、先ほどはいなかった人物がいる。
四次試験の際に相まみえた人物と同じオーラだ、とアゼリアは思った。
アゼリアの体は自然と強張っていた。
「……何か言われたな」
「それは―――」
クラピカが口を開きかけたときだった。
立会人の声がホールに響いた。
「それでは第七試合、ボドロVSアゼリアを開始します。二人はホールの中央へ」
間が悪い、とアゼリアは舌打ちした。
後で詳しいことを聞かせてくれとクラピカに言い残し、ホールの中心で壮年の武道家と対峙する。
速攻で終わらせる。
そうアゼリアは意気込み、腰を低く落とした。
「始め!」
だが―――
立会人がそう叫んだ瞬間、だった。
一つの影がすっと動いた。
音もなく、滑るように。
間近にいたクラピカとレオリオにも気付かせることなく、キルアが飛び出した。
駄々漏れの、しかし研ぎ澄まされた殺気を纏って。
「な、にっ!?」
意図せぬ方向からの殺気に、アゼリアの体が強張る。
そして混乱する意思とは裏腹に、自然と体は迎撃の態勢を取っていた。
無意識下の防衛本能は一切の無駄を省いた反撃を用意し、収束したオーラは人体を破壊するに十分すぎる破壊力を秘める。
一方、キルアもまたその殺気に反応していた。
己の身の危険を感じ取り、即座に攻撃目標をボドロからアゼリアへと変更する。
キルアの攻撃は、貫手。
狙い違わず、アゼリアの心臓を貫かんと手が伸びる。
遠慮などない、恐ろしいまでの鋭さ。
だが、念で強化された身からすれば、まだ遅い。
容易く見切り、逆にその心臓を抉りとれる。
それが、アゼリアには出来てしまう。
「と、ま、れぇぇぇええええッ!!」
だからこそ……それが判ったからこそ、彼女は無意識に動く身体を必死に止めなければならなかった。
反射的に繰り出した反撃だからこそ遠慮のない一撃は、それを受け止めるために全精力を傾けねばならず―――それはアゼリアに致命的な隙を作り出した。
必死にキルアの腕を弾くが、間に合わない。
僅かに攻撃の軌道を逸らすのみで、止めるには至らない。
それもその筈だ。念の強化なしでの純粋な身体能力ならば、キルアの方が遥に上回る。
ぞぶり、と……キルアの手が腹部を貫く感触を感じて―――
「―――!! ―――――ッ!!!」
誰かの叫び声を聞きながら、彼女は倒れた。
ゴボリ、と一度だけ大きく血を吐いて……体中から命の水が抜け落ちていくのを感じた。
明滅する視界。
薄れていく意識。
何も聞こえず、何も見えない彼女の視界の中で。
自分に駆け寄ってくる少女の姿と、入れ違いに飛び出した銀髪の少年の姿だけがはっきりと映った。
―――簡単なことです。何も考えずに指を引きなさい。そうすれば仕事は終わっています
そう言った男に、小さな女の子が泣きながら首を振っている。
怖くて、辛くて、痛くて。
もう投げ出したいと心の底から思い、泣き喚いた。
そんな少女の髪を掴み、男は痛烈に平手を見舞った。
男は告げる。
―――止めるというなら、貴方達姉妹は別の方法で金を用意する。それだけの話です
それも嫌だ、と少女は泣いた。
自分が傷つくのはいい。
だが、妹が死ぬのは嫌だった。それだけは何よりも怖かった。
けれど、誰かを殺すのも怖かった。
幼いながらも培われた倫理感が、そのことを忌避する。
もう嫌だ、と。昨日誰かの血を浴びたばかりの少女は叫んだ。
それはまさに子供の我儘。
選ばなければならない選択肢を、どちらも嫌だと泣きわめく。
泣き喚いても、何かが変わるわけではないというのに……
同情すべきは、その選択肢がどちらも少女にはあまりにも重すぎるということか。
だが、男にはそんな同情の気持ちなどない。
もう一度少女の頬を張り、冷たく言い放った。
―――まったく……これだから餓鬼は嫌いなんです。泣けば誰かがどうにかしてくれるとでも言うんですか? 私が仏心を出すとでも? 馬鹿馬鹿しい。無能な餓鬼ほど始末に負えないものはないですね
張られた頬の痛みに耐えながら、少女は嗚咽を何とか噛み殺そうとしていた。
そうして、渡された拳銃を握りしめる。
けど、訓練の様にはいかず。
相手を油断させるための幼い風貌は、緊張に強張っていた。
銃を構える腕は、恐怖にブルブルと震えていた。
それを見て、男は溜息をついた。
―――本当に無能ですね、貴女は……仕方がない。私が少し、手伝ってあげましょうか
その言葉に、少女はパッと顔を上げた。
今よりも、少しでも楽になるなら、猫の手でも死神の手でも借りたかった。
だが、それが果たして少女にとって幸せだったのかは判らない。
目の前に浮かぶ赤い髑髏。
それが消えたとき、彼女の手から震えは消えていた。
―――やるべきことは判りますね?
―――ハイ。標的の胸に三発、頭に一発、引き金を引クだケです
―――よろしい。危険は冒さず、確実に殺れると思った時に行動しなさい。警戒されずに近づき、ヤバいと思ったら距離を取る。勝ち目のない相手とは戦うな。それが教えです
―――かしコまりマしタ
―――それでは行きなさい
―――Yes, master
懐かしい、懐かしみたくもない夢を見た気がして、アゼリアは眼を覚ました。
そして盛大に顔を顰めそうになったのを必死で堪えた。
眼に入ったのはカーティスの顔だったのだ。
「おや、眼が覚めましたか」
「……カーティスさん。どうして、ここに?」
「貴女が大怪我をしたというのでね。どれほどのものかと思えば、たかが腹に穴が空いたくらいで三日も寝込むとは、情けないですね」
「……三日も」
いろいろと言いたいことはあるが、アゼリアは反論せずにその事実を噛みしめた。
攻撃を受けたときに、多少は念でガードした筈だ。内臓器官にはさほどダメージを受けていないと思う。
単純な刺し傷でそれほどの時間を寝込むとは、確かに彼女自身珍しい。
「ハンター試験は終了しました。貴女は合格とのことですよ。無能ながらも面目は保たれましたね」
「合格……? 私は倒れていた筈ですが」
「貴女が倒れた後、No191は降参したということです。そして貴女を刺したというNo99が―――なんでもゾルディックの者らしいですね。そこは流石と言うべきでしょう―――まぁ、その彼が最終戦を前に姿を消したので、不参加という扱いになり彼が不合格。というのが今回の顛末らしいですね」
それではこれは預かっておきますね、とカーティスは発行されたハンター証をポケットにしまった。
ハンター証に関する説明は代わりに聞いておいたので、お前は知る必要が無いとカーティスは言った。
「それでは、これ以上時間を無駄にする必要も理由もありません。早々に帰りますよ、アゼリア。急いで支度なさい」
病人服に包まれた彼女に、脇にたたまれたスーツを放り、カーティスは言った。
アゼリアはまだ重い体に鞭打って急いで着替える。
その際に右脇腹を見てみると、そこは隙無く包帯に覆われていた。
どうやらその下の傷は縫合され塞がっているようだった。
「それでは、行きますよ」
準備を終えてカーティスの後に続き部屋を出る。
そこでアゼリアは、予期せぬ顔を見た。
「あっ! 気がついたんだ!!」
「心配掛けやがって!!」
「傷は深かったようだが……起き上がって大丈夫なのか?」
「もう、本当にアゼリアは心配かけてくれるわね!!」
てっきりもうどこかへ行ったのだと思っていたゴンたち四人組が、病室とされた一室の前に集まっていたのだ。
呆けたアゼリアは驚きに目を見開いて聞いた。
「……てっきり、キミたちはどこかへ旅立った後だと思ったがな」
「んなわけねーだろが!!」
「ちょ、レオリオ、痛い痛い!!」
バンバンと荒っぽく背を叩いてくるレオリオに、脇腹の傷が引き攣るように痛みアゼリアは細い声を上げた。
そんなレオリオをハルカが蹴り飛ばし、レオリオが何するんだと怒鳴る。
まるで変わらないやりとりに、自然とアゼリアの頬は笑みの形を作っていた。
「……アゼリア」
と、そんな眼を冷めた眼で見ていたカーティスが、低く不機嫌そうな声で呼びかけた。
有無を言わさぬその声に、その場の視線が集まる。
「三分だけ待ちます。表の車で待ちますので、早く来なさい」
「は、はい」
フン、とやはり不機嫌そうに鼻を鳴らし、じろりとその場の人間の顔の上に視線を滑らせてカーティスは廊下の向こうに消えて行った。
その背を見送りながら、レオリオが声を低める。
「……あれが上司か? 感じ悪い奴だな」
「性格は最悪だよ」
肩を竦めたアゼリアの肩をもう一度叩いて、レオリオは苦笑した。
「それで、君たちはこれからどうするんだ?」
アゼリアの質問に、四人は顔を見合わせると、言っていいものかと顔を見合わせた。
だが隠しておくつもりもなかったのだろう。意を決したようにクラピカが一歩前にでると、口を開いた。
「私たちは……キルアに会いに行く。彼がキミを刺すだなんて、その直前の様子と合わせて考えても尋常ではない。何らかの暗示のようなものでも掛けられていたと考えるべきだ。もしもそうならば、彼を解放しなければならない」
なるほど、とアゼリアは思った。
確かに、彼のあの様子や行動は、操作系の能力で何らかの強制力が働いていたと考えれば実に自然だ。
「自分を刺したキルアをキミがどう思っているかは判らないが……きっと、あれは彼の本意ではないだろう。怒らないでやってほしい」
その上で自分のことを待っていたのか、とアゼリアは思った。
キルアが気に病むことのないように、刺された自分がどうなったかを伝えるために。
そして、出来ることならば、彼との関係を保ってくれるような言葉を伝えたくて―――
「みんな。私は仕事の関係上戻らなくてはならないので、着いていくことは出来ないが……何かあったら呼んでくれ。出来る限り力になろう」
「あ、ああ」
「それと、キルアに会えたなら伝えてくれ」
―――そう思ったからこそ、アゼリアはこう言った。
「四次試験の時のパンチと合わせて、これでチャラだ、と」
その言葉を聞いて、四人はホッと安心したように表情を崩した。
もうすぐ、許された三分が経つ。
今度彼らと会うのはどれほど先だろうか。
その日のことを楽しみに。別れを惜しむのではなく、再会を期して。
全員がこう言った。
―――また会おう
〈後書き〉
ハンター試験編、これにて終了です。お付き合いいただきありがとうございます。
ここから数話をおいてヨークシン編。こっちが本命なので、作者自身書くのが楽しみな今。
一番難産だった所はこれで超えたことになるので、たぶん筆が進む……かな?
ところで、一か所、やってしまったー! となったところがありました。
感想でご指摘いただいたのですが、四次試験でハルカが投げたプレート、これがハンゾーのターゲットだったこと。
ヒソカ、キルア、アゼリアが四次試験で四枚のプレートを集めたので、残り合格者七人が二枚ずつでぴったり二十六枚。
よっしゃー! ぴったり!! これで勝つる!! とか考えていたのですが、ハンゾーのターゲットをヒソカが貰ってしまったので、それではハンゾーも四枚なければならないことに。
プロットと本文で微妙に食い違っているのに、指摘されるまで気付きませんでした。
いずれ修正したいと思います。
指摘してくださったmalativasさん、ありがとうございました。
それでは、これにて試験は終幕。
よろしければ今後もお付き合いください。
次回の更新の時に、また。