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[36104] 【ヒカ碁de一発ネタ】もしも、佐為の入水自殺を阻止したら?【逆行?】
Name: ちよこれいと◆0f4468b4 ID:8ac0928e
Date: 2012/12/10 02:17

※進藤ヒカルが佐為の入水自殺を間接的?に阻止する話。逆行というかトリップネタかも?
※トンデモ展開にトンデモ設定とご都合主義がブレンド。
※ニコ動でヒカ碁が放送されると知ってwktkしてやった、後悔はしてないw

◆◇◇◆

進藤ヒカルは瞬間的に感じた。あ、コレ夢だ、と。自分がまるで宙に浮かんでいる様な不安定ながらにして心地の良いと言う矛盾に、目の前に広がる時代錯誤な風景から判断をしたのだが間違ってはいないだろう。更に年齢を重ねていくうちに運度不足からか動かすのも億劫に思っていた肉体すらも若変えっていた。

(珍しいよな、夢って分かる夢をみるなんて)

見渡せば人が集っていた。中央に二人向かい合って座しており、その周りに沢山の人たちが集っている。身につけている衣服は現代では殆ど見ないと言っても過言ではない着物っぽい服に、へんてこりんな帽子。よく見ようと目を凝らせば、途端に胸に切なさが押し寄せてくる。まるで佐為みたいな格好をしていたのだから。
五月五日に突如として行方不明になってしまった佐為。もしかしたら成仏したのかもしれないとすら考えていた時があったものの、まだ神の一手を極めた訳でもなく、ずっと一緒に過ごしてきたヒカルに挨拶も無く消えるのは有り得ない。では、どこかに行方を隠しているだけなのではと微かな手掛かりを片手に探しまわった記憶が脳裏を巡る。と、感傷にどっぷりとつかりたくなった己を叱咤した。一旦考えてしまえば延々と続くのは目に見えているからだ。

それにしても今、誰一人としてヒカルに注目する人物など存在しない。再び、気持ちを落ち着けて周りを観察したヒカルはそう思う。

軽く息を吐くと強く足に動けと脳から命令を発する。力をありったけ込めたら最初は強固に縛り付けられていたしがらみが解けた気がした。右足が大きく踏み出せたなら次は左足。勢いが付き過ぎて三、四歩一気に進んでしまった。しかし、それすらももどかしい!近づくにつれて気のせいではないと言う確信が得られると足が余計に早まった。我武者羅な掛け足になって傍まで駆け寄ると今度は真逆に両の足から力が抜けた。

(佐為…―!!)

そこには碁盤を前に静謐な空気を纏う藤原佐為の姿がある。ピンと背筋を伸ばし、盤上を睨んでいる。対しているのは鼻の下の髭が特徴のあるオッサンだった。あれだ、佐為が綺麗な顔立ちをしてるせいだろう。嫌でも比較してしまった事により圧倒的に老けてみえる。

「佐為! 俺だよ!」
「……………」
「佐為っ!」
「……………」

兎に角、必死でヒカルは呼びかけた。今までずっと思ってきた万感の思いをぶつけるかの如く何度も名前を呼びかけた。しかし、応答はない。

胸に空虚な思いが押し寄せる。姿を見て期待をした分、落胆をした時の大きさは尋常ではないのだ。と、その時――、不自然なモノを見た。へたり込んだまま必死で呼びかけていたヒカルだけが気付けたのだ。佐為の対戦相手が『袖元に碁石』を仕込んでいる事を。

途端、悲しみから頭が怒りで一杯になった。
―――コイツ菅原顕忠か。

平安時代、佐為と共に大君に仕えていた囲碁指南役の一人で、力は互角位でも卑怯な手口を使って負かした奴だ。これが切っ掛けで佐為が入水自殺を起こす。

(コイツのせいで)

誰にも見えない時点で、ヒカルは現代での佐為――幽霊みたいなモノだ。何も出来ないし無意味なのは充分に頭では理解していた。
でも、ヒカルにはどうしても我慢が出来なかった。碁盤にぶつからない様に佐為の方向から、菅原顕忠へ手を振りかぶる。

「ぐえっ」
「!?」
「な、何が起こったのだ」

吹っ飛んだ。盛大な音を立てて見事に菅原顕忠は後方へと転がったのだった。
実態が無いのに一体どうしてだろうと、ヒカルが両手を眺めている間に自体は進む。

周囲が呆然としていたのから、一気に騒然とした雰囲気へと姿を変えたのだ。まぁ、当然だろう。何せ行き成り人がひとりでに空中に浮いて転がったのだから驚きもする。
ましてや、平安時代――佐為が生きているとしたら当然の時代――の場合は妖怪の仕業とでも思われたのかもしれない。

人々とは真逆にヒカルは実にスッキリとしていた。グーで殴った手は感覚を伴って若干の痛みを主張していたが、菅原顕忠の額に残る間抜けな拳の痕を見ると満足感すら浮かぶ。
しかし、当の殴られた本人は怒りに戦慄いていた。位置からして佐為が自分に勝てないとして暴力をふるったと言いだしたのだ。指を真正面に居る佐為へ向かって伸ばし、口から罵倒が飛ぶ様は何とも醜かった。ぎゃーぎゃーと見苦しい。当然、佐為は事態に困惑しながらも否定をするし、ヒカルとしても余りの言い方の酷さに今度は足をのばしてやろうかとまで思った。無論、全力で踏みつける方向で。……最早、夢だからという免罪符を持って全身全霊でやりたい放題する気満々だったりする。

「口を閉じよ、見苦しい」

奥の方、他よりも一段と高い位置に座っている人物の一声で場が静まり返った。恐らく帝だろう。鶴の一声とばかりに事態の収拾を図ると、対局の続行を告げた。尚、皆が対局の成り行きを見守っていたため、佐為の動向にも注意が自然と及ぶ。当たり前だが佐為が殴る姿を誰一人見ていないという大多数の証言により、疑いは全くなかった。

しかし、もう一人はそうはいかない――、「菅原殿、そのこぼれた碁石はなんであろうか?」思わぬ問い詰めが入った。
自分の今打っている碁の色とは正反対のその色は持っているには余りにも不自然極まりないのだ。殴られる直前でも、佐為の方の石を持つ場面は一切なかった。にも関わらず何故裾から飛び出てくるのか。これは当然の疑問だろう。偶々持っていましたとは流石にそんな道理が通る筈がない。自然周囲の者が口々に追及する形となる。

「い、いや、これは……その」

しどろもどろに菅原顕忠は矛先を逸らそうとするも上手くいかない。喚いて収拾がつかない事態に二度目の帝の介入があり、今度こそ対局が続行となる。佐為に不要な疑いが掛った時思わず、これで集中力とかに影響が出てしまう事を心配したのだが、疑いが――目の前の者を除いて――全くなかった事が功を奏したらしく順調に打っているようだ。ホッと胸を撫で下ろすと、今度は碁打ちの性で無性に対局の内容が気になった。何せ、性格は彼方に置いておくとして実力はあの佐為と互角と言われていた戦いなのだ。気にならない訳はない。夢なのに夢じゃないみたいだ。という印象を抱いていただけに俄然興味が湧く。そして高鳴る鼓動を、そのままに盤面を覗きこもうとした瞬間、視界がぶれた。

「え、まさか」
こんな所で、そんな!

ヒカルの心残りに全く配慮されずタイムリミットはやって来た。

―――その後、対局は藤原佐為が勝利を収めた。この騒動は後に『菅原顕忠が帝の御前で不正を働こうとしたが故に神より天罰が下った』と広がった。当然と言うべきか、身の置き場を失った菅原顕忠はすごすごと内裏を辞す。その一方で栄誉を手にした佐為は『碁の神が真に選らんだに相違ない指南役』と箔が付き、この一件は語り継がれたと言う。また貴族の身分にも関わらず、民に積極的に碁を普及させた変わり者としても名が後世まで残る事となる。ちなみに途中で思わぬハプニングがあったため「今一度、菅原顕忠殿との対局を最初からやり直しをしたい」と栄誉を辞退し掛けた佐為を帝自身の身を以てして説得したという逸話があったりする。

◆◇◇◆

「!」

飛び跳ねる様に目を覚ました。どっと背中に汗が伝うのを感じる。同時に体全体に急激な脱力感を感じて、後ろに倒れ込んだ。盛大に頭が床に打ちつけられ、派手な音がなるも今のヒカルにとっては些細なことだった。最後まで見届ける事は出来なかったけど、不正を暴いた事で佐為は入水自殺はしなくて済んだかもしれないという気持ちで満たされていたからだ。
本当は話したかった。しっかりと気持ちを伝えたかったという強い想いも確かに存在はする。するのだが、姿だけでも見れたという嬉しさとそれを上回る安堵で一杯だった。自然と口元も綻ぶ。

(嗚呼、こんな気持ちになったのって何時ぶりなんだろうな)

ずっと佐為の影を追い求めて来て常に虚無感に包まれてきたヒカルにとって、心地よさに包まれるのは本当に久方ぶりだ。

「ちょっと! ヒカル大丈夫?」
「な、なんだよ」

ところがせっかくのイイ気分を焦った声色が遮った。苛立つも、本気でヒカルを心配する気持ちがダイレクトに伝わって来たために、怒るに怒れない。取りあえず返事を返す。

「行き成り、蔵の中を歩いてた途中で倒れこんじゃうんだもん。幾ら呼んでも全然っ、返事がなくって凄く心配したんだから……」
「大丈夫、大丈夫だってば」

最後には声が震えている。泣かれたら困る! その一心で慌てて身振り手振りで平気だとアピールする。そのひと言で相手は一応は落ちついたらしい。

しかし、ヒカルは気付いてしまった。
――暗がりの空間に目が慣れ、目の前の存在が『小学生の』藤崎あかりである事に。
そして、ヒカルは疑問を持ってしまった。
では、幼い頃特有の男にしては高めの声が出ていた己は『小学生の』進藤ヒカルではないだろうか? と。

覚めない永い夢はどうやら続いているらしい。ただ、頭を床にぶつけた時の痛みは一体何なのだろう。という最大の疑問を残して。



END.

◆◇◇◆

やふー!放送が楽しみなのと、ネタを思いついて衝動的に一日で書き上げちゃいましたw
もっと書いてみたい気がするも、私の執筆能力ではこれが限界だと思うのでこれで終わりです\(^o^)/



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