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[36260] ペルソナ4 ~Ten years after incident~ (本編から10年後。オリキャラ多数)
Name: 月子◆3000f17e ID:d61427ea
Date: 2012/12/24 11:01
はじめまして月子といいます。
タイトルのとおり本編から10年後の話です。

 作品自体はP4Gを軸にし、オリジナル主人公の片霧秀、十年後の高校二年生になった堂島菜々子を主役にした二次創作です。
 自己解釈の設定、作者の自己満足の後日譚があると思いますので、なんか違うと思ったら感想版まで書き込んでください。
 P4Gの設定は変えないつもりなのでよろしくおねがいします。
 後日譚を作る上で、皆さんとは考えが違うところも多々出てくると思います(カップリングとか、その後の職業についてとか)が優しい目で見てくださると助かります。
 ちなみにペルソナ3要素も多いので注意してください。



[36260] 4月9日(昼) sunny (視点:片霧 秀)
Name: 月子◆3000f17e ID:d61427ea
Date: 2012/12/27 23:46
 4月9日
 俺、片霧秀は8年間過ごしてきた街と別れて、新しい街で生活することになった。
 それは突然のことで、母が仕事の都合上アメリカで二年間住み込みで働くことになって、俺も一緒にアメリカの学校に転校するのかと思った。
 が、母が自分の息子をいきなり海外の学校へ行かせるのも抵抗があるので、俺は四歳年上の従姉妹が働いているところでお世話になることに。
 ―――いや、俺がアイツをお世話する感じになるとおもうのだが。
 いきなりの転校で驚きはしたが、別に前の街に特別な思い入れがあるわけでもないので、辛い思いをしないで前の街と別れた。

 俺がこれから住む稲羽市は、最寄りの都市から電車で乗り継いでも三時間という土地柄で、通勤圏からも産業地としても外円にあり、大型の道路網も国道の市の南部に300メートルかすめる程度・・・と、ネットで事前に調べた知識がこれだ。
 実際、八年前、前にいた街に住む前にワケがあって母と一緒に従姉弟の家で二ヶ月間住んだことがあるが、本当になにもない場所だと感じた。
 たしか、当時の俺はなにもなくて退屈だったから家で伯母さんの手伝いをしていたんだっけ。
 多分、今の俺もここになにもなくて退屈だと感じるだろう。

 やがて電車が八十稲羽駅に止まり、俺は電車から降りた。
 長いこと電車に揺られていたせいか若干気持ちが悪い。
 しかし、電車から降りると、都会の濁った空気とは全然違う田舎特有の澄み切った空気を感じ、すぐに立ち直ることができた。
 四月なので普通に温かいというわけでもなく、涼しげな風が吹いている。 

 駅のホームをぬけて改札口へ行くと、駅の内装・・・いや建物自体が変わったことに気づく。
 ―――そういえば、俺が稲羽市をでてから駅が改装されたって言っていたな。
 外にでると八年前と変わった場所があって少し驚いた。
 バスターミナルができていたのだ。
 そして振り向いていたら、面影は残っているが八年前とは違う駅の外見がそこにあった。

「八年もすれば変わるもんなんだな」

 ふいにそんなガラでもないことを口から漏らしてしまう。
 なに、ジジババみたいなこと言ってんだよ俺は。

 駅についたら従姉弟の布袋結菜が待っているはずだが、どうせアイツのことだし遅刻してくるだろう。
 それまでベンチに座ってウォークマンで好きな音楽を聞くことにした。

―――しばらく会っていなくてもヤツは人を待たせるのが得意らしい。
 ベンチに座ってから一時間も経った。
 最初は10~20分は待つと覚悟をしていたが、ここまで待たせるのか!?
 何もすることがなく、ベンチに座ってほおけていると見知らぬ他人に声をかけられた。

「キミ、さっきからずっとそこに座っているけど誰か待っているんですか?」
「待っていちゃ悪いのか?」
「いや、そんなことはないですよ」

どこか頼りなさそうな雰囲気を出している男だ。
でも、俺はこの男の顔をどこかで見たような気がする。

「私は生田目といって、この稲羽市の市長です」
「ああ、そういうこと」

俺は自分だけ納得してそんな声を漏らしていた。
見覚えがあると思ったら、ここの市長だったのか。
おおよそ、結菜の家に住んでたときのニュースやなんかで見たんだろう。
でも、なんでこんな場所に市長がいるんだ?
 俺はその疑問をそのまま口にして彼に聞いてみた。
 すると彼はこう答えた。

「ああ、ここは私の大切な場所なんです。市長になる前によくここで演説をしていました。それで、こうして考えが行き詰った時によくここにくるんですよ。まあ、駅は当時と全然違う形になりましたけどね」
「大切な場所・・・・・・ね」
「そういえば、見かけない制服ですね。もしかして、どこかの街から転校してきたんですか?」
「ん、ああ」

 生田目という男は俺の隣に座る。
 そして、そのまま俺にいろいろ質問してきた。
 他人に自分のことを話す義理もないので、確信に触れた答えは言わなかった。
 といっても、質問してくる内容はこの街に来ての感想とか、そういう街の事に関しての内容ばかりだった。
 さすが市長というべきなのか、街のことだけ考えている単純バカというべきなのか。
 
「やはり、都会と違って田舎はなにもないですよね」
「まあ、たしかにな。でも、都会にはなくて田舎だったらあるものとかあるだろ?」
「例えば?」
「・・・・・・知らねぇよ」
「まあ、ここに来たばかりだから仕方ありませんね」

 言われて、少し自分が言ったことに後悔してしまう。
 この男は、年下に対しても言葉遣いが丁寧語だったり、なんか弱々しい雰囲気といい
どうも一緒にいると調子がくるう。
 まあ、市長という役職だからそうなったかもしれないけど。
 やがて、生田目は立ち上がって俺に浅く一礼をした。

「私は仕事にもどるよ。こんな長い話に付き合っていてありがとう」
「いや、俺も暇だから。いい時間つぶしになった」
「それじゃ、また会えたら。早く新しい友達を作ったほうがいいですよ」

 そう言って生田目は立ち去ろうとするが、一回振り返って・・・・・・

「言い忘れていたよ・・・・・・この街にようこそ」

 そんなことを言い残していった。
 やがて、生田目の姿が見えなくなると俺は空を見上げた。
―――友達ね。
 
別れる際に発せられた生田目の言葉が脳裏によぎる。
 転校する前の住んでいた街にそう自信を持って呼べる人物はいなかったし、つくる気にもならなかった。
 友達なんかいらない。といえば、中学二年生の気持ちを捨てられないヤツらと同じに聞こえてしまうだろう。
 だが、それでも俺はそういう存在はいらないと感じている。
 大抵のことは俺が一人で片付けてしまうし、一人でいても寂しいという感情は芽生えない。むしろ充実感を感じるくらいだ。
 そのことを喋ればメンドくさいことが起きるから、心の中に本心を締まってるだけ。

 やがて、待っていた人物が車に乗って現れた。
 一時間半の遅刻。
 本当にどういう神経しているんだ。あの女は・・・

「ごっめーん、待たせた?」
「おい」

 俺はできるだけイラついているアピールしながら彼女を睨んだ。
 だが楽天的な彼女はマイペースで言い訳をする。

「そんな怖い顔で睨まないでよ。急な呼び出しだし仕方ないじゃん!」
「・・・・・・まあいい。さっさと行くぞ」

 まあ、そこまで怒る内容じゃないし。
 仕事が理由なのにいつまでもイラついているというのは、なんか大人気ないから彼女を許すことにした。

「その上から目線、まだ治ってないんだね」

 ―――余計なお世話だ。
 この大声で五月蝿い女が従姉弟の布袋結菜。
 沖奈市にある服屋【CROCO*FUR】という場所でバイトしながら、たまにモデルや俳優の衣装をデザインしたりしている。
 正直、彼女がデザインする衣装は万人受けするし、従姉弟の立場である俺でもセンスがあると思える。
 人を褒めるのは柄でもないけどな。
 
俺は彼女の車の助手席に乗った。
 結菜は楽しげな表情を浮かべて車を発進させた。



[36260] velvet room① (視点:片霧 秀)
Name: 月子◆3000f17e ID:d61427ea
Date: 2012/12/27 23:46
おそらく車の中で寝てしまったのか、俺は夢の中にいた。
何故、すぐに夢だと思ったのかというと、夢の舞台が俺と縁のない場所だったからだ。
第一、さっきまで車の中にいたのにいきなり一人で違う場所にいるというのもおかしい。

 夢の舞台は教会。
 だが、ここを教会と認識するのは少し時間がかかった。
 その理由は、部屋の一面がほとんど青で統一されているからだ。
 はっきり言うと、あまりにも青一色なのでこの部屋を見た瞬間、俺は少し気分が悪くなった。

 ここが教会だと認識したのは、一定の感覚で並べてある黒いベンチ、十字架が刻まれている教壇、部屋の奥にある女性の姿が描かれているステンドグラスのおかげだ。
 そして、教壇の横には神父姿の少年がいた。
 神父姿といってもやっぱり上着は青主体の服でズボンが黒だった。
しかも、着ている人物の外見が俺と同じくらいの若さに見えるので学生服と勘違いしそうだ。
 髪型はショートヘアーだが前髪が少し長いのが気になる。前髪が右目にかかっていてどこぞの幽霊族の少年みたいだった。
 やがて、そいつは俺がいることに気づいて話しかけてきた。

「はじめまして。僕はミナト」
「・・・・・・別にアンタの名前なんか聞いてねぇよ。つか、ここどこだよ?」
「ここはベルベットルーム。キミはなにかの形で契約をしてここに来たんだ」
「契約?」

まったく覚えがない。
 いつ契約したんだ?
 ―――いや待て、もしかしてあの時か?


■一週間前■

 
引越しに先駆け、いらない物といる物を仕分けしていた時の話だ。
 母から俺宛に「手紙が来ている」と言って封筒を俺に渡してきた。
 封筒の中身を見てみると、英語で書かれている書類が入っていた。
 
contractって契約って意味だよな?
 なにかの契約書だろうか?
 
―――怪しい。
 
まあ、出すかどうかは名前を書いてから決めればいいか。
 俺は自分の名前を書いて机の上に放置した。


■現在■


―――あの時か。
すげーバカみてぇ。
俺は自分の行った行為に後悔をして少し頭を抱えた。
 そういえば、あの後、あの契約書が紛失したんだっけ
 まあ、考えた結果、怪しいから出さないと決めていたから当時はあまり騒がなかったけど。
まさか、こういうことだったとは。

「キミはその契約でベルベットルームの客人になった」
「契約ってどういう内容なんだよ?」
「難しいことじゃない。キミの選択に相応の責任をもつだけだから。まあ、君なら心配ないと思うけど」

 ミナトが無表情で紛失したはずのあの紙を摘んでヒラヒラと俺に見せびらかす。
 ―――クソ、なんかムカつく。
 
 思ったのだが、ここは普通の夢とはなにかが違うような気がした。
 なんか、こう、まだ起きているような雰囲気というのか?
 はっきりと自分の意思を伝えることができるし、見ている景色が曖昧なものじゃない。
 このミナトという少年が放つミステリアスな雰囲気といい、ベルベットルームといい、この契約書といい、なんか特別な感覚がある。

 俺はとりあえず情報を得るために、ミナトに質問をしてみることにした。

「お前は何物だよ?」
「キミの手助けをする、旅のお供だよ」
「助けるお供って・・・・・・俺は誰の助けも必要ねぇよ」
「いや、必要になる。キミはいずれ力を磨かなきゃいけない時がくる。その時、キミは必ず僕の力が必要になるよ」
「・・・・・・」
「納得いかないって顔してるね。でも、いずれわかるよ」

 ―――絶対わからないと思うがな。
 しかし、ミナトが言った『力を磨く』とはどういう意味なんだ。
 なにか引っかかる。

 俺の考えをよそに、ミナトはポケットから何かを取り出して、それを俺に投げ渡す。

「ここの鍵。そのうち自分で来ることになるから一応もっておいた方がいい」
「・・・・・・まあ、一応もらっておく」
 
 渡された鍵を俺はポケットの中にしまった。

「じゃ、また会うと思うから」

そうミナトが言い残したら、俺の視界がブラックアウトした。

■■■■

夢から覚めると、ポケットになにか入っている感覚があったので、調べてみると夢であの少年から貰った鍵があった。
 どうやら俺の推測通り、あの夢はただの夢じゃなかったらしい。
 となると現実でここからあの部屋に行くことができるのか?
 それに、ミナトは「そのうち自分で来ることになる」といった。つまり、俺が自らの考えで行くことになるのだろう。
 まあ、そうなることは到底思えないけどな。
 すると、隣で運転している結菜が話しかけてきた。

「カワイイ寝顔も変わってないんだね」
「・・・・・・うるせぇ」
「ハハッ、照れちゃってるし」

口にくわえているチュッパチャプスをカラコロと鳴らしながら、ニヤケ顔で結菜は俺の方を見てくる。
―――女じゃなかったらそのチュッパチャプスの棒を手のひらでおもいっきり喉の奥まで押し込んでやりたい。

彼女のこのテンションは昔からウザったい。
 まあ、慣れたからいいんだけど。

「もうすぐ着くよ。十年経っても駅以外あまり変わってないでしょ」
「そうだな」
「あ、そうだ。家に入るときはちゃんと『ただいま』って言ってよ」
「は、なんで?」
「いくら二ヶ月とはいえ昔はこの家に住んでたんだから。そっちのほうがあってるでしょ?」
「めんどくせぇ」

 俺はため息をついてそっぽを向いた。
 はあ、これからの二年間ちゃんとやっていけるだろうか。
できるなら平和に過ごしたい。



 2021年
このクソ田舎に異変がおき、それをキッカケに多くの仲間ができることを。
そして、あいつらと一緒にこの正体不明の異変の真実を求めることになることになる



[36260] 4月9日(夜) rainy (視点:片霧 秀)
Name: 月子◆3000f17e ID:d61427ea
Date: 2012/12/28 08:51
「おじゃまします」

 結菜の家に入って、俺はすぐに結菜の母親である莉子伯母さんに挨拶をしに行った。
 ―――たしか、二階が莉子さんの部屋だったような。
 俺は階段を上っていきすぐそこのドアを開いてみた。
 そこには、茶髪のゆるふわパーマが特徴的な四十代前半の女性がパソコンとにらみ合っていた。
 この女性が俺の伯母である莉子さん。
 四十代前半といっても、見た目は二十代後半にしか見えないルックス。
 お世辞でも女性を「綺麗だ」といわない俺でも、横顔を見ただけで素直に「綺麗だ」と言えるくらいだ。
 莉子さんは俺がここに来たのがわかったのか、作業をやめないでパソコンと睨み合ったまま話しかけてくる。

「や、秀くん。元気にしてた?」
「何とかやってるよ」
「そっか。ちょっと、待っててね。今、手が離せないから」
「・・・・・・わかった」

 多分、彼女は作曲で忙しいのだろう。
 莉子さんは、元はオリコンの月間チャート五位以内に入るほどのバンドのギタリストだったが、今は解散して作曲家として活動している。
 動画サイトに投稿したり、アイドルに曲を提供したりと音楽の業界じゃ有名な人らしい。
 やがて全ての作業が終わったのか、ヘッドフォンを置いて俺の方をむいた。

「改めてようこそ、秀。これから二年間よろしくね」
「ああ、よろしく。和泉さんは?」
「今日は仕事でいないけど明日には戻ってくる。アイツも秀が帰ってくるのを楽しみにしているから。まあ、そこのとこよろしく」

 和泉さんという人は莉子さんの旦那のことで、プロのファッションデザイナーだ。
 よく、バラエティで芸能人が着る服を選んだり作ったりしている。
 ファッション雑誌でもインタビューなど大きく取り上げられているのをよく見る。
 ちなみに、結菜が尊敬する人でもあり、目標に掲げている人物だ。

「俺の部屋はどこなんだ?」
「ここの隣。届いた荷物もそこに置いてあるよ」
「わかった」

 部屋のことで思い出した。
 まず部屋の整理をしなくてはいけないんだった。
 ああ、めんどくせえ。

 すると、莉子さんは腕まくりする仕草をみせて言った。

「さて、私は久々に来た秀のために少し本気だして料理しますか」
「手伝うか?」
「いらないよ。それより、さっさと部屋を片付けな」
「・・・・・・それもそうだな」
「ま、今日の夕飯を期待しながら片付けるんだな」

 そう言い残して莉子さんは下の台所へ向かった。
 ―――さて、部屋の整理でもするか。

■■■

 部屋の片付けもある程度終わって晩飯の時間になった。
 さっきの本気を出すという言葉のとおり、様々な種類のおかずが並べってあった。
 なにげに俺が子供の頃好きだった料理が多い
 ―――たしか子供の頃、料理の好き嫌いとか莉子さんに言ってなかったよな?
 言ってもいないのに人の好きな料理を当てるなんて・・・なんか見透かされているようだな。
 俺は出された料理を残さず食べた。

 ご飯を食べたあと一時間くらい質問攻めにあった。
 その後、莉子さんが風呂に入り、結菜がバラエティ番組を見始めた。
 俺も暇になったので外にでて夜の町を徘徊をすることにした。

といっても、ここから駅までの道のりを確認するだけだけど。
出る前に風呂上がりの伯母さんに「こんな夜中、一人で・・・・・・不良とかに絡まれるよ?」と心配されたが、俺は「大丈夫」と答えた。
それを聞いていた結菜は「大丈夫だって、むしろ会った瞬間に不良がスライディング土下座すると思うよ」と言ってきた。
コイツ・・・本当に俺のことをなんだと思ってんだ。
とりあえず、俺は家から出ていった。

外は昼までの晴天が嘘だったかのように大雨だった。
行くときに借りた伯母さんの傘をさして歩いていく。
夜の道を歩くのは子供の頃から好きだった。
なんか気分が落ち着くし、考えもまとまる。

 明日から学校か・・・・・・
 二ヶ月だけここの街の小学校に入学していたけど、短い期間だったから忘れられているだろう。
 まあ、俺もアイツらの名前をロクに覚えていないからどっちもどっちか。
 ―――いや、一人だけ覚えている奴がいる。
 たしか、瑠璃堂だったか。
 クラスで一番うるせぇやつでよく廊下に立たされていたっけ。
 苗字も珍しい苗字で、かなりうるさかったから覚えている。
といっても顔と下の名前は覚えていないけど。
アイツも八十神高校にいるのだろうか?

 そんなことを考えていると駅についてしまった。
 というかよく手探りでこんなにも早く駅見つかったな。
 いくら一回車で通った道とはいえ、途中で寝てしまったし迷うのかと思っていた。

 駅の中に入ってみると、六歳くらいの黄色い雨合羽を着ている女の子が傘を二つもってベンチに座っていた。
女の子はふてくされた表情を浮かべている。
運が悪いことに目と目が合ってしまった。
関わったらめんどくさいことになりそうだなぁ。
 だが、このまま放っておくというのも気が引ける。
 ―――仕方ない。
 俺は女の子に声をかけてみた。

「ガキがこんな夜遅くなにしてんだ?」
「私・・・ガキじゃない。弥琴だよ」
「・・・弥琴はここでなにしてんだ?」
「お父さんとお母さんを待ってる」

 へえ、無愛想な顔をしている割に、やることはいい感じの子供なんだな。
 カワイイところあるじゃん。

「弥琴の親父・・・お父さん達は、いつ帰ってくるんだ」
「わからない。普段はお父さんと一緒にお母さんを待っているんだけど。今日はお父さんも遅いから。二人で一緒に帰るって」
「待て、今日はお前一人だったのか?」

 だとしたら父親と母親は最低な親だぞ。
 こんな小さい子供を家で一人だけにしといて・・・
 まあ、人の家庭環境なんて知ったこっちゃねぇし、俺がどやかく言う資格もないけど。

「違う。お姉ちゃんがいたんだけど・・・・・・」

よかった。
一応、家にお姉ちゃんがいたんだな。
でも、「いたんだけど」の次の言葉が気になる。

「お父さんとお母さんが心配になってここに来た。二人とも傘持ってなかったし」
「そのこと・・・・・・お姉ちゃんはわかってるのか?」
「バレないタイミングで家を出たから・・・・・・」
「はあ・・・・・・悪ガキなんだか、いい子なんだか、よくわかんねぇわ」

 今頃、慌ててこの雨の中で探し回っているコイツの姉貴に同情するわ。
 
さて、これからどうするか。
コイツを見捨てるのも気が引けるし。
でも、いずれ姉が来ると思うし、このまま帰ってしまっても大丈夫じゃないか?
―――どちらにしようか。

「めんどくせえなぁ」

そう言って俺はため息をついて駅から出て外の自販機へ向かった。
ちなみに、ため息の理由はめんどくさいからじゃない。
ガラでもないことをやろうとしている自分に呆れてため息をついてしまった。
俺は、ポケットの中に入ってある120円を使って自動販売機で温かい方のココアを買った。
そして、弥琴のところへ戻って買ったココアを渡す。

「ほら、寒かっただろ。これでも飲んどけ」
「・・・・・・ありがと」
「へえ、素直な所あるじゃん」

 俺がそう言って褒めてやると、弥琴は慌てた仕草をみせた。

「なななな、なし! やっぱり、今のなし! 嘘! ココアも返す!」
「・・・・・・黙ってもらっとけ」

 俺がそう言っても、その後も弥琴は恥ずかしがって俺に怒鳴ってみせたり、得意のふてくされた表情でココアの缶を睨んだりしたが、あきらめがついたのかプルタブをいじり始める。
 だが、まだ子供ゆえに一人でプルタブをあけることが難しいような感じだった
 ―――あー俺も子供の頃あまり上手く開けれなかったな。初めて一人で開けたのは小学校二年のときからだったけ?
 少しコイツに共感してしまう。
 俺はからかうように弥琴に提案してみた。

「俺が開けてやろうか?」
「やだ、自分であける!」
「・・・・・・そーかい」

 俺はだまって彼女が自力でプルタブを開けるのを待っていた。
 おお、すげー顔がぷるぷるいってる。
 でも、やっぱり開けることができなくて俺にココアを差し出した。
 弥琴も今度はなにもいわず、ココアをすする。

「ぬるくなった」
「開けてやるって言っただろ?」
「・・・うるさい!」

こうして俺は長い間こいつとこいつの両親を待っていた。
すると、三つ編みのおさげをした制服姿の少女が息を切らしながら駅に入ってきた。
 もしかしてアイツが弥琴の姉貴か?
 俺は弥琴に確認をとってみた。

「あれ、お前のお姉さんか?」
「うん、お姉ちゃんだよ。でも、本当はお父さんの妹だよ」

 つまり、伯母さんか。
 まあ、この歳で伯母さんっていうのもアレだから、そんな言い回しにしたのだろうか。
 もしくは【伯母さん】っていう言葉がまだわからないのか。
 いや、普通にコイツの姉貴分だから「お姉ちゃん」なんだろうな。

 とりあえずコイツの姉貴もきたことだし、俺は立ち去ることにした。
 立ち上がって歩こうとすると、弥琴に袖を引っ張られた。
 振り向くと弥琴は口を尖らせて上目遣いで俺を見ながら呟く。

「なんだよ?」
「・・・・・・名前・・・聞いてない」
 
 ああ、なんだそんなことか。
 別にもう会うことのない女の子に名前を教える必要ないと思うんだけど。
 さすがに無視は冷たいと思ったから手短に教えた。

「秀でいいよ」

 俺が言った後、弥琴に手を話してもらい、俺は今度こそ駅から立ち去る。
 弥琴の姉貴も俺たちに気づいたのか、こっちを見てきたので浅く一礼をして歩きだす。
 それで何かを察したのか弥琴の姉貴は深くお辞儀をして・・・

「弥琴の面倒をみてくれて、本当にありがとうございます」

 と感謝された。
 そう言われるとなんか恥ずかしい。
 ―――ああ、本当にこっちに来て早くもガラじゃないことをしてしまった。
 俺は、もう一回だけ美琴の姉貴に浅く一礼をして駅から出る。

 ―――はあ、なんか今日はすげー疲れた。
 俺は家に帰ってゆっくり休むことにした。




[36260] 4月12日(朝) cloudy (霧) (視点:堂島 菜々子)
Name: 月子◆3000f17e ID:d61427ea
Date: 2013/01/10 10:25
「菜々子・・・・・おきなさい、菜々子!」
「もう、お父さん。起きてるよぉ・・・」

お父さんの声で起床して高校二年になって初めての朝を迎える。
寝ながら振り向くと、着替えを済ませているお父さんが扉のところで腕を組みながら立っていた。
―――勝手に部屋を見ないで。って、いつも言っているのに。
 でも、いつも起きる時間より外が明るい気がする。
 いつもだったら誰にも起こしてもらわないで、まだ外が薄暗い時間に起きるのに・・・・・
 時間は・・・・・・7時40分!?

「ごめんお父さん! すぐご飯作るから!」

 私はすぐに起き上がって制服をとる。
 だけど、お父さんは慌てている自分の娘をみながらため息をついた。

「・・・・・・今日くらいは総司につくらせておきなさい」
「・・・・・・でも」
「総司もお前が二年生になるって張り切って料理作っているんだ。今日くらい何も気にしなくていいから、黙って学校の支度をしとけ」
「・・・わかった」

 お父さんは私の返事をきくと、扉を閉めて下へ降りていく。
 私は手早く着替えを済ませて居間へ向かった。
 部屋をでると従姪が通り過ぎたので挨拶をする。

「おはよー。弥琴ちゃん」
「ん、おはよ。菜々子お姉ちゃん」

 この少し無愛想に見える女の子が従姪の瀬多弥琴ちゃん。
 素直じゃないところもあるが、根は優しくていい子だ。
 
この前だって傘を忘れたお兄ちゃんとマリーさんに傘を届けようとして、あの大雨の中一人で駅へ行った。
 私も風呂から上がってから一緒に行くつもりだったけど、まさか弥琴ちゃんが一人で行ってしまうとは思わなかった。
普段は一緒にお風呂入るのに、昨日に限って断ったのはそのためだったと思う。
本当に注意力のないあの時の自分に腹立たしさを感じてしまう。
―――今度からもっと気をくばって美琴ちゃんと一緒に過ごそう。

 その後―――
 急いで、心配になって町を探してみると、弥琴ちゃんは駅で金髪の男性と一緒にいた。
 不審者かと思って少し警戒したけど、どうやらそんなに悪い人じゃなかった。
 私の方をみると男性は小さく一礼をして立ち去った。
 私も彼に対して感謝の言葉を告げた。
 ―――注意力ないせいで他人も巻き込んでしまったなぁ。
 
 あの人にも、今度、またどこかで会うことができたら、ちゃんと謝っておこう。

 すると、子供の後を続くように隣の部屋からマリーさんがでてくる。
 私をみると欠伸をしながら一声挨拶してきた。

「・・・おはよ」
「おはようございます。マリーさん」

 この人がお兄ちゃんのお嫁さんである鞠子さん。通称、マリーさん。
 娘と同じく、無愛想に見えるけど本当は優しい人だ。
 まるで自分が決めているかのように、必ず当たる天気予報で有名な人気のアナウンサーだ。
 現在も人気は衰えず、バラエティ番組とかたまに出演したりしている。

 実はポエムも書いていて、前に一回落ちていたのを見たらすごく感動できるものだった。
 落ちているポエムをマリーさんに返したら、すごく恥ずかしがっていた。
―――別に恥ずかしがるような内容じゃないと思うんだけどなぁ。
正直な感想をマリーさんに伝えると、少し戸惑っていたが嬉しそうだった。
そのことがきっかけで、マリーさんは、たまに自分で書いたポエムを私に見せてくれるようになった。今では、それが私の楽しみの一つになっている。
もちろん、ポエムのことを秘密にして。と、頼んだマリーさんの希望で、ポエムのことは私とマリーさん、あと、前から知っているお兄ちゃんだけの秘密だ。

ちなみにマリーというのは、お兄ちゃんが彼女のことをそう呼んでいるから私もそう呼んでいる。
 お父さんは普通に「鞠子さん」や「お母さん」と呼んでいるけど。

顔を洗おうと思ったけど、弥琴ちゃんとマリーさんが先に洗面所を使っていたから、私はご飯を食べてから洗面所に向かうことにした。

 居間にいくと、先にお父さんが食卓についていた。
 お父さん、堂島遼太郎は年が経ってもまだ仕事が忙しい。
 今でも休日も休みを取れなかったり、夜中にいきなり呼び出されたりしていて大忙しだ。
 しかし、今日は、めずらしくゆっくり出勤できるとのことで、こうやって食卓でゆっくりしている。
 別に平気。寂しくない。と、言えば嘘になるけど、ちゃんと学校の行事などには出席してくれるので今はそれだけでも十分すぎるくらい嬉しい。
 ―――本当は行事ごとも参加できない程、忙しいし疲れているのに。
 だから、お父さんに負担をかけないように家事や炊事は私がやるようにしている。

 ―――今日みたいに、たまにお兄ちゃんがやってくれることもあるんだけど。
 いずれ、一人で完璧にこなせるようになりたい。
 
やがて、顔を洗ってきたマリーさんと弥琴ちゃんも食卓につく。

「ご飯まだ? キミ、菜々子ちゃんより遅いよ」
「ごめん。今できるから少し待ってて」

お兄ちゃんが少しだけ大変そうだったので、私は手伝うことにした。

「・・・やっぱり、手伝うよ」
「助かる。ありがとう、菜々子」

 この落ち着いた雰囲気を出している男性が「お兄ちゃん」こと瀬多総司。
 本当は従兄妹なんだけど、子供のころから実の兄のように慕ってきたから今もこうして「お兄ちゃん」と呼んでいる。
 そのせいで、弥琴ちゃんは私のことを自分のお父さんの兄妹だと勘違いしている。
それに、いつまでも「お兄ちゃん」って呼んで甘えるのもダメだと思うので、高校生になってから「お兄ちゃん」って呼ぶのをやめて「総司さん」って呼ぼうとしていた時期もあったけど・・・・・・

 マリーさんからは、なんか不自然で気持ち悪い。
 弥琴ちゃんからは、前の呼び方の方がよかった。
 お父さんからは、いきなりどうしたんだ?
 お兄ちゃんからは、いままでのように呼んでもいい。

 と、言われたのでいままで通り「お兄ちゃん」って呼んでいる。

 お兄ちゃんとマリーさんの夫婦が来たのは、お兄ちゃんが大学を卒業した後、公務員に就職して稲羽市に来たときのことだった。
 住む場所をどこにするか迷っていたお兄ちゃんの話を聞いて、お父さんがここでまた住むことを提案した。
 お兄ちゃんも最初は遠慮していたけど、お父さんが説得してここに住むことを決心した。
―――お父さん、本当にありがとう。
 でも、最初にお兄ちゃんが帰ってきたときはびっくりしたなぁ。
お兄ちゃんに恋人がいて、千枝さんか直斗さん、雪子さん、りせさんの四人のうち誰かと思っていたけど、まさか連れてきた人があの『久須美 鞠子』だったんだから。

「じゃあ、これ出来上がっているから運んでいいよ」
「わかった」

私はお兄ちゃんがつくった料理を食卓に運ぶ。
そして、お兄ちゃんもご飯の仕度を終わらせて食卓について、五人で朝食を食べた。





ご飯も食べ終わり、顔を洗って学校へ行く準備が整う。
お兄ちゃんもスーツに着替えていて会社へ行く仕度を済ませたようだ。
―――本当に何を着ても様になるなぁ。
お兄ちゃんは弁当箱を二つ持って私に話しかける。そして、二つ持っている弁当箱の内の一つを私に渡した。

「菜々子、弁当まだ入れてないだろ? ほら」
「ごめんね。明日はちゃんと早く起きるから」
「気にするな。いつも、菜々子が作ってくれるから、たまには俺がつくるよ」

お兄ちゃんは、微笑みながら私に笑いかけた。

「さ、早くしないと遅刻するぞ」
「うん、そうだね。じゃあ、行ってきます」

 私は、お兄ちゃんが作った弁当をカバンに詰めながら学校へ向かった。

■■■

 学校についてから、最初に玄関前に貼ってあるクラス分けをみた。
 まだ人ごみが多くて見ることができない。
 ―――知っている人がいればいいんだけど。
 すると、成績表の前にいた女子が振り向いて、強引に人ごみをかき分けていく。
 そして、偶然にも脱出した場所が私の目の前だった。
 少し疲れたのか、ため息をついてボヤいた。

「もうちょっと落ち着いて見ることできないの!? 
―――あー、窒息死すると思った」
「おはよ、美和ちゃん」

私は、人ごみから脱出してきた親友に軽い挨拶をした。
それで彼女も私がいることに気づいたのか、私の方を見て挨拶をする。

「おー、菜々子。いつもより遅いね。てっきり、もう教室にいるのかと思ってた」
「少し寝坊しちゃって・・・・・・」
「菜々子が寝坊って珍しいね」
「あはは・・・・・・そういえば、クラス替えどうだった?」
「2組。菜々子も同じクラスだよ。あ、それから葉もね」
―――また、一年間よろしく!」
「うん、よろしく!」

 幼稚園からの親友の河野 美和。
 髪を赤っぽく染めていてサイドテールにしている。
 制服も下はスカートの丈を短くして、学校指定の制服を着ないでワイシャツの上に黒いカーディガンを着ている。
 こうやって制服を着崩しているせいで、美和ちゃんは一年の頃の担任だった大谷先生に嫌味を言われたりしている。たまに、それがエスカレートして「性格が歪んでいる」とか見下すこともあったりした。
 制服を着崩している美和ちゃんも悪いけど「性格歪んでいる」は言いすぎだと思う。
 もちろん、美和ちゃんの性格は歪んでいない。今風の女子高生に見えるけど、ピュアで誠実な女の子だ。 
 なにより、好きな男の子を幼稚園から想い続けているなんて素敵だと思う。
 まあ「そこまで想い続けているんだったら、なんで告白しないの?」と聞かれると何もフォローの言葉が見つからないんだけどね。
 
 ―――でも、なんか今日の美和ちゃん、すごく楽しそうな顔をしているなぁ。

「美和ちゃん。いいことでもあったの?」
「いやぁ、わかる?」
「わかるよ。―――もしかして同じクラスに竹吉くんがいるの?」
「正解! さっすが菜々子! やっぱ、幼稚園からの親友は違うねぇ!」

 憶測でいってみたけどあたっちゃった。
 少し嬉しい。
 そっか、竹吉くんも同じクラスなんだ。
 やっぱり、クラスに知っている人が多ければやっぱり安心するなぁ。

 私たちが内履きを履いていると、もう一人の親友がやってきた。

「よう。今度は3人とも同じクラスになったね」
「あ、葉ちゃん!」
「おー、葉。おっはー」

 彼女は、小学校からの親友である小早川 葉。
 顔が整っていて、髪がサラサラで艶のあるショートヘアー。
 性格も落ち着いていて、成績も優秀、運動神経も中々で私が知っている人の中で二番目くらいに「完璧」という言葉が似合う人だと思う。
 ただ、彼女自身は完璧じゃない。と、謙遜している。
 それが、なぜなのかはわからないけど。

 葉ちゃんが靴を履き替えるのを確認して、私たちはたわいのない話をしながら教室へ向かった。

■■■

朝のホームルームが始まるチャイムが鳴り、クラスの人たちは徐々に席に着き始める。
 だけど、話し声は止むことはなかった。
 チャイムが鳴ってから程なく、新しい担任がやってきた。
 新しい担任は氷室先生だ。
 その氷室先生のあとに続いて、男子生徒が教室に入ってきた。
―――って、弥琴ちゃんと一緒にいたあの人だ!

「お前ら静かにしろ。って、なんだよ、前の席が男だらけじゃねぇか」

 氷室先生がそうぼやくと、前にいる男子生徒たちがすかさず野次を飛ばす。

「別にいいじゃねぇかよ」
「先生、それセクハラじゃね?」
「今更、このセクハラ教師に何言ったてを無駄だろ?」
「ってか、セクハラ教師になのに無駄にイケメンってのが腹立つ!」

 男子生徒の大半は、氷室先生のことを「セクハラ教師」と言っているが。
 その女子が、そう思っている人が多いか少ないかと聞かれると、少ないという答えが正しい。
 私は少しセクハラ気味かな。って、思っているけど、氷室先生の女子に対する愛情が激しいだけで、それを覗くと普通に生徒の面倒をみるいい先生だ。
 
氷室先生は女子の憧れの的らしいけど。
このクラスだと例外が二人いる。
 葉ちゃんと美和ちゃんだ。
 葉ちゃんは『これ先生がイケメンだからいいけどさ、もし先生が豚みたいな体格で典型的なブサイクだったら教育委員会かPTAで問題に取り上げられるよね』と言っている。
 美和ちゃんは『え、私、竹吉くん一筋だし。というか、私、あまり肉食系の男性とか苦手なんだよね。なんか・・・・・・ガッツキすぎで怖い』と言っている。
 やっぱり、二人の意見は辛口だった。

「お前ら、いいたい放題だな・・・・・・てか、転校生、お前も白い目で俺を見るな!」

 氷室先生は、そう言って転校生に苦笑いでツッコミ入れる。
 男子生徒に自分のペースを乱された氷室先生は、咳払いを一回して話題を変える。

「まあ、いい。ということで、コイツが転校生だ」

先生がそう言うとクラスの視線が一気に転校生へ移る。
私もこの前は焦っていて大まかな特徴しかわからなかったので、転校生をよく見てみた。
身長はお兄ちゃんと比べて少し低く、目が女性みたいに大きいが、つり目だ。顔も小さく、肌の色も白すぎず黒すぎず。髪が金髪の美青年だった。
多分、顔の作りだけだったら、非の打ち所がないイケメンといえば早いと思う。
ただ表情が無愛想だった。
というか、どことなく雰囲気がマリーさんとかぶっているような気がする。
容姿端麗なのに無愛想なところとか特に。

「都会から来たジャニ顔イケメン男子、片霧 秀だ」
「・・・・・・よろしく」

 ―――先生、その紹介の仕方はどうかと思う。
 先生が名前を言うと、片霧くんもあの日と同じく、小さくお辞儀をして低い声で「よろしく」とつぶやいた。

「席は・・・そうだな。堂島の隣にしよう。わからないことがあったら堂島に聞け」
「・・・・・・はい」

 そう言って、片霧くんは私の隣の席に座った。
 私はこの前のお礼がしたくて、片霧くんに話しかけた。

「この前はありがとう」
「・・・ん? ああ」
「今度、改めてお礼がしたいんだけど。迷惑じゃない?」
「・・・・・・別に」

 片霧くんは、そう言ってそっぽを向いた。
 ―――とりあえず、これは肯定の意味でいいのかな?
 私がすこし戸惑っていたら、突然、校内放送が流れた。

『全職員、全生徒にお知らせします。学区内で事件が発生しました。
 ―――通学路に警察官が配備されます。
 それに伴って、職員室で緊急会議を行います。職員はただちに職員室に集合してください。
 また、生徒の皆さんは各自の教室で待機。
 指示が出るまで下校しないでください』

「―――お前ら、絶対、教室からでるなよ?」

 放送が終わり、先生はそんな言葉を残して教室を出た。
 クラスの人たちは『事件』という言葉を聞いて、ざわめき始める。


 今思えば、このときだったかもしれない。
 ―――私たちがお兄ちゃんの様に事件の真実を求める話の始まりは。



[36260] 4月12日(放課後) rainy (視点:片霧 秀)
Name: 月子◆3000f17e ID:d61427ea
Date: 2013/01/18 22:43
 結局、ここで起きた殺人事件のおかげで学校は早く終わった。
 俺は帰ろうとして道具を鞄につめていたら、前の席の男子生徒が振り返って俺に話しかけてきた。

「ヒデちゃん、俺のこと覚えてる?」
「・・・しらない」

 初対面なのに人のことをヒデちゃんって・・・・・・苛立ちを通りこして気持ち悪い。
 というか、声がでかくて鬱陶しい。
 今時の高校生でこんなハイテンションなやつっているのか?
 てか、ハッキリ言ってうぜえ。
 男子生徒は大げさに残念がって話を続ける。

「あちゃー、やっぱり忘れてるか。お前がいたのって短い期間だったしなぁ。
―――なあ、オレ、瑠璃堂っつうんだけど、やっぱ覚えてない?」
「・・・ああ、お前か瑠璃堂って」

 俺が唯一覚えている名前だ。
 外見は変わっているが、どうやら五月蝿いのはあの時と変わってないようだ。
 瑠璃堂の表情がガラリと変わって笑顔になる。
 ―――ああ、段々思い出してきたわ。こいつ、たしか喜怒哀楽が激しいんだったけ?
 
「おお、覚えてた! そうそう、瑠璃堂 楓。いやあ、覚えていてくれてたのかぁ!」
「・・・苗字とお前がうるさいヤツっていうのだけな」
「それでも嬉しいわぁ。
―――やべぇ、話がそれたわ。まあ、本題に入るけど、お前の歓迎会ということで一緒に愛家行かね?」
「断る」

 人とはあまり関係を持たない。
 それは昔の知り合いでも変わらない。
 というか、コイツと一緒にいても疲れるだけだと思うんだけど。
 だが、俺が冷たくあしらっても瑠璃堂は構わず話を進める。

「まあ、そんなツンツンするなって。
―――あ、ごめん、もしかして予定があったか?」
「・・・・・・別にねぇよ」
「だったら行こうぜ! 
―――どうせ、変に他人と距離を取ろうとしてるんだろ? お前も昔から変わんねぇな」
「・・・・・・てめぇには言われたくねぇ」

 瑠璃堂は俺に構わずさらに人を集めた。

「あ、勇太! 今日はバイトないんだろ? コイツと一緒に愛家行かね?」
「別にいいけど・・・・・・お前、教師も巡回するんだぞ。もし見つかったらどうするんだよ?」
「見つかったときはその時はそのときだ! 竹吉、お前も行くか!?」
「どうせ断っても無理やりつれていくんでしょ?」
「当然!」

 瑠璃堂は、勇太という長身のやつと、竹吉という温厚そうなやつを呼んだ。
 そして、二人とも仕方なさそうなかんじで瑠璃堂のところに集まる。
 すると、俺があまり行きたくないことを察したのか、竹吉と呼ばれた男子生徒が心配そうな表情を浮かべて俺に耳打ちをする。

「飽きたら適当な理由をつけて帰ればいいし。一応、ついてきてよ」
「・・・・・・仕方ない。行ってやるよ」

 俺はクラスメイト三人と愛家へ行くことにした。

■■■

―愛家―

「おい、俺、本当に財布もってきてねぇぞ」
「あ、いいよ。俺らの誰かがおごることにしたから」
「じゃあ、食わねぇで帰るよ。他人に借りとか作りたくない」
「遠慮すんなよ。俺達が食べているのに、お前だけ食わねぇって俺達が嫌だから・・・な」

 俺は放課後を定食屋でクラスメイトの三人と一緒に過ごすことになった。
 で、今は俺と瑠璃堂以外の二人がトイレに行っていて、その間に瑠璃堂がトイレ組の二人がどういう奴なのか紹介した。
 南 勇太。少し軽い感じだけど、イジりがいのあるヤツ。母親想いのいいやつらしい。
 内藤 竹吉。温厚で優しい性格。絵にかいた様ないい人らしい。だけど、怒らせないほうがいい。

 二人がトイレから戻ってきて席に着く。
 ちなみに席の位置は、俺の向かい側が瑠璃堂。隣が内藤。斜め向かい側が南。
 隣の内藤が笑顔で話しかけてくる。
 しかし、俺にはその笑顔がどこかセールスマンがするような感情が篭っていない営業スマイルに見えた。
 まあ、そういうくだらねぇ事を考えるのはやめよう。

「今日はおごるよ・・・・・・勇太が」
「俺かよ!?」
「昨日、バイトのお金が入ったんでしょ。どうせ、遊ぶことにしかお金を使わないんだから、今日ぐらい人のためにつかったらどう?」

 ―――ああ、営業スマイルの原因はこれか。
 こいつ、ハナから奢る気がなかったんだな。
 内藤は俺に何を注文するか聞いてくる。

「片霧は何を食べる?」
「・・・・・・何が美味しいか知らねぇし、お前らにあわせる」
「あーいっちゃった。お前、本当にそれでいいんだな!?」
「シーッ。南、お前は黙ってろ。じゃ、あいかちゃん、スペシャル肉丼を4つ!」
「あいよー」

 瑠璃堂が注文して俺たちは出来上がる間、たわいもない話をした。

―――10分後

 店長が頼んだスペシャル肉丼を俺たちのテーブルに並べる。

「おーまち。雨の日限定のスペシャル肉丼」
「・・・・・・これを食えというのか?」

 肉丼の量がハンパない。
この馬鹿でかい丼・・・どこから取り寄せた!?
てか、丼の上に肉の山ができてる。
 俺は試しに箸を手にとって肉をかきわけるがご飯は見えてこない。
 肉、肉、脂、脂・・・そして、肉。
 ―――どんぶりの底どころかご飯がみえねぇ。
 俺は一度だけ店主の女性を見た。
 女性は少し頷いて「がーんばって」と言う。
 ―――これを全部完食するなんて無理だろ。

「おい、なんで俺が―――」
「おいおい、自分の言葉に責任を持てよ、転校生。お前、さっき『お前らにあわせる』っていったからな?」

 南がからかうように俺に言う。
 こいつは、『お前らにあわせる』って言った俺に責任があるって言いたいんだな。
 まあ、コイツの言ってる通りたしかに適当に頼んだ俺が悪い。
 内藤は俺にこのメニューについて説明する。

「お値段は三千円。ちなみに完食すれば無料だよ。時間制限は無し。さ、片霧もがんばって食べよう」
「てか、楓、早速食べてるじゃん」
「いや、俺、昨日の夜からなにも食べてないから。てか、俺、食べるのに集中するから、お前らにかまってられねぇかも」
「いや、お前が静かだったら平和で安心だ」

 クラスメイト三人が盛り上がっている中、俺はまじまじと肉丼を見た。
 ―――こんなのを完食なんて無理だ。
 だが、人に借りをつくるなんて絶対したくない。
 仕方ない。無料になるのを目指して、ここはたべるしかない。


―――二十分後。
 
 
 結局、俺と南の肉丼はあまり減っていない。
 それに対して、内藤と瑠璃堂の肉丼は順調に減ってきている。
 ―――ダメだ。元々、あまり食べない方だからこれはキツイ。
 限界そうな俺をみて、南はまたからかうように俺に言う。

「あれ? 転校生くんギブ?」
「うるせぇ、お前だって減ってないだろ!?」
「俺はここから挽回するんだよ」

 絶対に無理だ。
 心なしか南の顔が青くなってるのがわかる。
 すると、内藤は肉丼のどんぶりを少し押して、ため息をつく。

「僕は限界だよ。ごめんね、あいかさん。また完食できなくて」
「大丈夫」
「ほんとうにごめん。
―――でも、やっぱり、一番減っているのは楓だね」

内藤は、申し訳なさそうな顔で店主に謝って、瑠璃堂のどんぶりをみて感想を述べる
コイツ、限界って行っているけど、涼しい顔をしている。
―――本当に限界なのか?

 瑠璃堂も食べ始めてからペースを落とさずに食べ続けているし。

「オレ、昨日からなにも食ってねぇんだよ。はあ、マジ幸せ!」

 幸せそうな顔で食べ続ける。
 心なしか引っ叩きたくなる表情をしてる。
 すると、南はあまり減ってない俺を睨んできた。

「意地でも完食しろよ? じゃないと、俺の財布がとんでもないことになる」
「無論だ。借りなんか作らせるか」

 南に言われて、俺はなんか苛立ちを覚えて、本当は使いたくない最後の手段を使うことにした。
 
「店主、醤油はあるか?」
「おい、お前、まさか!?」
「はい、おーまち」

 店主から醤油を受け取って、少しだけ肉の上にかけた。
 多分、味に飽きているから食べ続けれないだろう。
 だから、この肉丼を好きな味にして何とかするしかねぇ。

「・・・・・・肉に醤油って・・・え? ヒデちゃん!?」
「あ、ありえねぇ」
「え、別にいいと思うよ? 日本人だし」
「いや、ありえねぇだろ」


―――40分後


「はい、合計一万二千円。まいどあり」

 結局、誰も完食せず各々三千円を出すことにした。
 財布がない俺は、南じゃなくて、住んでいる家が近い瑠璃堂に金を借りることにして、彼に帰りがてら俺の家によってもらって金を返すことになった。

 俺たちは会計へ足を運ぶ。
 店長が会計をした。
 瑠璃堂の話から聞くと、店主の中村あいかは看板娘として学生時代からここで働いていて、あの独特な口調や可愛らしげな顔が人気らしい。
 俺は店主から、いままでこれを全部食べた奴がいるのか聞いた・・・

「これ全部食べれたの。あまりいない私が知る限りでは3、4人」
「3、4人って、食べれたヤツいるのか?」
「なんでも、そのうちの数人はあいかさんの高校の頃のクラスメイトらしいよ?」
「うん。君たちも頑張って」

店主に見送られて俺たちは愛家から出て行った。
その後、解散して俺と瑠璃堂は家に向かった。
 



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