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[36639] ひかげ荘にようこそ(ネギまでオリ主)
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2014/11/30 20:14

プロローグ 乙姫むつき

 何故自分は、こんな職業を選んでしまったのだろうか。
 教科書を持つ手とは逆の手で黒板にチョークで文字を書きながら、溜息混じりに思った。
 そろそろ石の上にも三年目に突入していたが、限界が近いのかもしれない。
 ちょっとした下心がなかったと言えば嘘になるが、もう少し夢があったはずだ。
 少々古いが、金八先生やGTOのような、後者は少し違うがそんな夢を。
 だが黒板に書いた文章の意味を説明する自分の声がどこか遠い。
 熱に浮かされ夢うつつのまま動いているような。
 背後から聞こえる姦しい声が、自分の声どころか存在そのものを押し流すようだ。

「でさでさ」
「ちょっと、声が大き……嘘、本当!?」

 嫌々、仕方なく振り返っては、眉を潜めながら注意する。

「煩いぞ、少し静かにしなさい」

 出来るだけ教師らしく落ち着いた声色を使ってそう言った。
 心の内部に潜む怒りを押し隠し、注意した声もまた押し流されていく。
 思春期まっさかりの女子中学生がそれぐらいで黙るはずがない。
 いや、多少は静かにはなったが必死に笑いを堪えているようにも見えた。
 いつまた騒がしさが復活してもおかしくはなかった。

「続けるぞ」
「あ、先生そこ字が間違ってるネ」

 黒板に振り返って間もなく、背後からそんな指摘が飛んで来た。
 彼だけでなく、他の教師でさえ舌を巻く、最強頭脳からの指摘である。
 慌てて教科書を開きなおし、一体何処がと黒板を眺めようとし、肘に何かがあたった。
 教卓に置いておいたチョーク入れだ。
 肘に押し出されては見事に教卓からダイブを謀り、無謀のままに床に落ちてはケースが跳ねた。
 グロテスクではないが、飛び出した中身が方々に飛び散っては砕けていく。

「あっ、しまっ!」

 なんともいえない小さな失敗にカッと顔が熱くなり、慌てて走りよってしゃがみこむ。
 素早く拾い直そうとするも、砕けたチョークは直りはしない。
 しかも小さな破片になっては方々に広がり、結構な手間がかかる。
 小さな欠片も丁寧に拾っていると、不自然さを感じもする優しい声が降りてきた。

「先生、手伝ってあげようか?」
「ああ、すまんな鳴滝。手伝ってくれると」

 しゃがんでいた状態からふと視線を上げると、その軌跡がどうしても通過する。
 最後に見上げきってから小学生なみの童顔の鳴滝と目があった。
 その目に手伝おうという優しい光はなく、悪戯好きの怪しい光のみだ。
 またかと思わないでもなかったが、到底制止が間に合うはずもなく。

「あーっ、先生のエッチ。私のスカートの中、見た!」
「えーっ、先生そういう趣味。風香が趣味とか、正直危ないよ、それ」
「お姉ちゃん、さりげに自爆してるよ」
「いくらなんでもそれはない」

 再び、堪え切れなかった笑いを炸裂させるように、教室内が騒がしくなる。
 覗いたか、覗かなかったかはどうでも良いのだろう。
 箸が転がっても、そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
 もういいやと、細かく飛び散ったチョークに見切りをつけて立ち上がる。
 しかしさすがに騒がしすぎるので、何か言おうと口を開いたタイミングで、

「皆さん、先程から騒ぎすぎです。あっ、先生どうぞ」

 先にクラス委員の雪広が立ち上がり、皆を沈めてしまう。
 一応、授業中という意識はあったのか、速やかに静かになっていく。
 それから彼が口を開いていた事に気付き、先を促がされる。
 だが振り上げた手の落としどころは既に失せており、授業を続けるしかなかった。
 どこまでやったかと、教科書を開きなおしてそこで終了のチャイムが鳴ってしまう。

「やっと終わった、お昼ごはーん!」
「まき絵、まだ授業中」

 ピンク頭の佐々木が両腕を上げては、後ろの釘宮に背中をつつかれている。
 だがその声が皆の小腹を刺激したようで、誰もがもはやお昼ご飯と休憩に心を奪われてしまっていた。
 成長期だから仕方がないとは言え、もう少し自制心をもてないのだろうか。
 キリの良いところまで続けるべきか、今ここで終了を告げるべきか。

「雪広、終了だ」

 結局キリが良いかどうかではなく、この場にいたくないという思いからそう伝えた。
 何人か、やったと小さく呟いたのが聞こえたが、もう怒る気にもなれない。

「起立、礼」

 きびきびとした号令とは裏腹に、おざなりな礼を受けてむつきはほっと息をついた。
 なんとか終わったと。
 後は、夕方の終わりの会で顔を付き合わせるだけで済むと。
 麻帆良女子中、二年A組の副担任乙姫むつきは、そそくさと教室を出て行った。









-ほぼ前書き-
ども、えなりんです。
後書きは第一話の方に。

本作は、基本的に日常が奇数話、エロが偶数話となっています。
あくまで基本的にで長編のお話の場合は少し崩れますが。
あと作者はブログ「CrossRood」を運営中です。
同時更新していますので、有事の際はそちらへどうぞ。
十年以上に渡る作者の過去作品も一気に読めちゃいます。
2000年当初のものは、さすがに恥ずかしいできですけどねw



[36639] 第一話 終わった、俺の人生
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/01/26 20:22

第一話 終わった、俺の人生

 乙姫むつきはうつむいた顔全体を覆うように手の平を当てていた。
 その格好から分かるように表情は優れず、顔色にいたっては真っ青であった。
 下半身を埋めた硬いシーツの中には、自分以外の柔らかい女の子の温もりがある。
 決して触れぬように身じろぎして遠ざかろうとすれば、聞き覚えのある声でその子が寝言を漏らすようにうめく。
 僅かな隙間に寒さでも感じたのか、不満そうなその声に耳を塞いで振り払うように少しだけ頭を降った。
 むつきがベッドの上で上半身を起こし、顔を手で覆っているのはその事実を認めたくないからだ。
 聞き覚えがある、それこそはっきりと顔、性格、成績その他をしっかりと思い浮かべられる相手が自分と同じベッドにいる。

「終わった、俺の人生……」

 今むつきがいるのはビジネスホテルのシングル部屋である。
 まかり間違っても、そう言う事をいたす場所ではない。
 だからと言って、教師生活三年を過ぎ二十台半ばに差し掛かる彼が女性とそういった行為をする事は誰に責められる事でもなかった。
 問題なのは、彼が麻帆良女子中の教師だという事だ。
 そう問題、となればその隣に寝ているのは、彼の生徒である。
 やっぱり夢なんじゃと、指の隙間から見下ろしてみるが、現実は非常だ。
 事実は、決して変わらない。
 深く被られたシーツの中からは、窓のカーテンから漏れる朝日の加減で、深い紫色にも見える艶やかな髪が見える。

「んんっ……」

 聞き覚えのある声で、今まで聞いた事のない少し艶かしい吐息を漏らしていた。
 やはり事実を認められず、震える手でシーツを持ち上げてみる。
 奥に覗く事のできた顔は穏やかで、母親の腕という揺り篭に揺られている赤子のようでもあった。
 寧ろ血色が異常に良いようで、昨晩の情事の余韻がまだ残っているかのように赤い。
 事が強引に進められたわけではない事は、その表情から明らかだが、何の慰めにもならない。
 間違いなく、彼の隣で裸で寝ているのは麻帆良女子中二年A組の柿崎美砂である。
 髪の色とは対称的に、白い肌の上には赤い斑点、キスマークが点在していた。
 この春先に蚊にでも刺されたのかという冗談では済まない。

「どうしてこうなった」

 過ちを犯した人間が過去、幾度となく呟いた台詞を彼も全く同じように呟いた。
 ベッドの直ぐ脇にある据付けのテーブルの上に、ビール缶が複数転がっている時点でどうしてもこうしてもないのだが。
 発端の発端を探るように、むつきは二日酔い気味で動きの鈍い頭を必死に働かせて記憶の糸を辿り始めた。









 溜まっていた事務仕事を土曜日一杯使って片付けた後の事である。
 時間もとうに深夜に差し掛かろうとし、むつき自身はまだ電車に揺られている途中であった。
 普段このような状況であるならば、頭の中は罵詈雑言の嵐であるはずだ。
 担任の癖に謎の出張ばかりを繰り返し、副担任に全て押し付けてくる某担任へと。
 だがこの時のむつきは、かなり上機嫌であった。
 大切な休日のうちの一つが無残にも潰れたというのだ。
 先を急ぐ電車が不必要に大きく揺れ、隣り合い吊り輪を捕まる見知らぬおじさんと体が激しくぶつかっても笑って済ませられる程に。
 何しろ彼の頭の中は、コレから訪れるであろう花園の事で頭が一杯であった。

(待っててくれよ、俺の舞ちゃん。今日は大枚はたいて、俺だけの舞ちゃんにしてやるからな)

 お気に入りの風俗嬢の事で頭が一杯だったのだ。
 電話予約もばっちりで、朝まで、翌日の昼までお持ち帰り込みで存分に愉しむ予定なのだ。
 袋の中がすっからかんで、一週間や二週間使い物にならない覚悟である。

(まあ、実際そうでなけりゃ……やってらんないよな、女子中のセンコーなんて。イカン、イカン。奴らの事など思い出すな、俺は今、舞ちゃんの虜)

 ふと浮かび上がる担任の生徒達の顔を振り払い、愛しい風俗嬢の事だけを思い出す。
 幸か不幸か、恐らくは不幸に傾く事なのだが。
 むつきの副担任として担当するクラスの生徒は、異常な程に美少女率、はたまた美女率が高いのだ。
 中学生など、まだまだ子供などと侮ってはならない。
 いや、ごく一部には侮るどころか、こっちから願い下げな格好の者もいるにはいる。
 そんな極々一部を除いても、有り余るほどに良い女が多いのだ。
 男の性欲をかきたてるという意味で。
 中学生のくせに、妙に人妻臭がする者や、モデル顔負けのスタイルを持つ者。
 成績の悪い普通の中学生よりも、アイドルになった方が大成するんじゃないかという者。
 というのに、大半は彼氏がいないという不思議なクラスでもあるのだが。
 無垢な美少女というのも、男の下衆な部分を刺激して止まないのだ。
 こうして薄い財布が更に薄くなるのを覚悟で、風俗嬢につぎ込まねばまともに仕事などできやしない。

(イカン、結局思い出しとるやないか)

 ハッとし、頭の中で関西弁で突っ込むと同時に電車が減速を始めた。
 夜の東京行きの最終電車が到着しようとしてるのだ。
 暇つぶし程度にはなったかと、今度こそ姦しいクソガキどもの顔を頭から追い出し扉の近くに移動する。
 後数分も経たず駅に到着し、後は桃源郷へと一直線。
 少々そわそわと落ち着かなく、扉の窓外で流れる景色を目で追い、最後の時間を潰す。
 減速に減速を重ね、ついに電車が終着駅に到着し、空気の圧縮音の後に開いた扉をひょいっと軽く飛び降りた。
 今にもすきっぷを始めそうな程に足取り軽やかに、人もまばらな構内を行こうとして立ち止まった。

「ん? なんだ、アレ?」

 埼玉、東京間の電車が最終なら、東京から埼玉行きの電車も最終である。
 向かいの電車もそろそろ出ようかというところだが、構内に人だかりができていた。
 土曜日の夜なのだから、オールナイト予定の若者など、人がいること事態は別に珍しい事ではない。
 だがそうではない、年配のお父さん方など、家路に着こうという者さえ一時は人だかりへ振り返っている。
 既に予約はしているので、急ぐ事もない。
 軽い気持ちでむつきも人だかりへと近付いていき、その瞬間、むつきの運命があらぬ方向へと歩き出したのだ。
 電車を降りた時のはやる気持ちのまま、風俗に直行していれば、数時間後にベッドの上でどうしてこうなったと呟くこともなかった。
 人だかりに近付いてみると、何やら女の子が泣きじゃくっているような声が聞こえる。
 酔っ払いか、はたまた彼氏に盛大にふられた子が泣き崩れているのか。
 気分が下がる光景を見る事もないと思うのだが、どうにも何かが頭の中で引っかかった。
 その時は気付かなかったが、後にして思えば声に聞き覚えがあったからだろう。
 見えない釣り針に釣り上げられるように、人だかりをかきわけ最前列へと進み出る。

「はい、ちょいとごめんよ」

 そして目の前に見えたのは、予想通り泣きじゃくる女の子を介抱している駅員の姿であった。

「うぅ……ぐっ、ごめんね。ごめ……」
「君、大丈夫か? とりあえず、駅員室の方に来てくれるとありがたいんだけど」
「だって、怖かったんだもん。あぁ……」

 崩れ落ちうつむいて泣きじゃくる女の子の顔は良く見えない。
 だが、年恰好から成人しているようにはとても見えなかった。
 着ているのは温かい春らしく、長袖の黒いワンピースだが、袖や襟にあるフリルがやや少女趣味だ。
 いっていて高校生、もしくは中学生かと一度今にも発車しそうな最終電車を振り返る。
 この泣き崩れている子が埼玉行きの電車に乗るかは不明だが、この構内にいる限りはそうなのだろう。
 麻帆良の生徒じゃないだろうなと、やや腰をまげ屈むように顔を覗きこんで驚いた。

「おま、柿崎! ちょっと待て、電車。乗る、この子ソレに!」

 慌てて振り返りなおした直後、その麻帆良に続く唯一の電車が発車して行ってしまう。
 待てと伸ばした手が虚しく落ちていく中、むつきの肩に新しく誰かの手が落とされた。

「君、この子の知り合いかい?」

 それは先程まで美砂を介抱しようとしていた駅員であり、人だかりの視線もむつきに集まっていた。
 今さら言い逃れも逃げる事もできない。
 そんな事を考える前に、教師として選択できるはずもない答えは即座に消える。
 さよなら舞ちゃん、キャンセル料の大枚達と心で泣きながらむつきは頷いた。

「この子の、副担任です。柿崎、お前こんな所でなにやってんだ。終電行っちまったが、釘宮や椎名は帰らない事を知ってんのか? ていうか、まず立て。ここは目立つ」

 むつきの声に反応した美砂は一瞬ビクリと震えたが、見上げて直ぐに何処か安心したように再び涙を零れ落ちさせ始めた。

「うぐっ、せんせぇ……うっ」
「とりあえず、立てって。駅員さん、すみませんが手を貸してください。あと駅員室を貸してもらえるとありがたいんですが」
「まあ、知り合いがいるなら。最近は、無理に動かそうとして触れたりすると後が大変で。さあ、お嬢ちゃん立とうか」

 やや年配の駅員の手を借り、未だ泣き止まぬ美砂を両方から抱え起こし駅員室へと引きずるように運ぶ。
 好奇の視線の的だが、もはや何も言葉もない。
 女の子とはいえ、脱力した人間一人運ぶのは一苦労で、駅員室のさらに休憩室に運びこんだ時にはお互い汗だくであった。
 年配の駅員は知り合いだけの方が良いだろうと気を利かせてくれた。
 あまり、むつきにはありがたい状況ではないが、もはや放っておける状況でもない。
 少しは気分が落ち着き始めたのか、しゃくり上げる事が少なくなってきた美砂に駅員が淹れてくれたお茶の湯のみを勧める。
 すすめられるままに熱いお茶に唇をつけてしまい、「熱ッ」と小さくこぼす。
 ソレで尚更、我に変える事が出来たようで、何度か小さく深呼吸を繰り返した後に上目遣いで恥ずかしそうにむつきを見上げてきた。
 それっきり何を言うでもなく、黙りこくってしまう。

「とりあえず、全部お茶飲め。話はそれからで良い。こっちもやる事がある」

 まだ落ち着ききっていないと見て、むつきは先に用事を済ませることにした。
 別に今ここで風俗のキャンセルの電話をするわけではない。
 麻帆良女子中は完全全寮制ではないので、門限という概念はないが、外泊となると話は別だ。
 タクシーで帰れない事もないが、その金は誰が出すのかという事になる。
 一万越えは確実で、下手をすると二万はかかる。
 もちろんその場合、誰が払うかといえば当然の事ながらむつきだ。
 風俗のキャンセル料に加え、さすがに教師でもそこまでできやしない。
 可能かどうかではなく、心情的に。
 登録してはいるが、あまりかけたくない相手の番号をメモリから探し出し通話ボタンを押す。

「あ、もしもし。深夜にすみません、高畑先生」

 内心こんな時ぐらい生徒の為に働けと毒づきながら、申し訳無さそうに電話に向けて話す。

「構わないけれど、珍しいね乙姫先生が僕に電話するなんて」
「実は、東京の駅で終電を逃した柿崎を見つけてしまいまして。あらぬ疑いが掛かる前に、報告しておこうと思いまして。今晩は、ビジネスホテルに柿崎を止めます。隣の部屋に僕も。念のため、寮と学園長に連絡をお願いします」
「ああ、そう言うことか。柿崎君はどうして?」
「理由はまだ」

 一度受話器を口から遠ざけ手で押さえると、お茶をさまそうと息を吹きかけていた柿崎に小声で尋ねる。

「高畑先生に何処まで言っていい?」
「ふ、普通に……電車を逃したって」
「後で、俺だけには説明しろよ」
「うん」

 やはりまだ内心動揺は残っているようで、幼い子供のような頷き方であった。

「現地の友達と遊び惚けて、逃したみたいです。後日、本人からも説明させますのでよろしくお願いします」
「乙姫先生も、休日にご苦労様だね。分かった、寮の方と学園長には伝えておくよ」
「いえ、教師ですから。それでは」

 教師の部分にイントネーションを強く置いて、やや乱暴に電話を切った。
 その事について美砂は少し驚いたような顔をしていたが、他の事に気が回るようになったという事は落ち着きだした証拠だ。
 気にするなと、手を振ってからむつきは改めて理由を美砂に尋ねた。

「それで、お前はあんな所で何をしていたんだ?」

 そこで再びの沈黙であった。
 時間が経つにつれ、動揺がぶり返したのか声こそ抑えられているが美砂がすすり泣き始めた。

「何時も通り、彼氏とデートしてて……」

 ぽつり、ぽつりと言葉を詰まらせながら美砂が語り始めた。
 その内容は、聞いて頭が痛くなるような内容であった。
 言葉の始まりは中学生らしい、甘酸っぱくなるような内容であったが。
 問題はデートの終わり、それも終電間際の事であったらしい。
 終電がと焦り始めた美砂を彼氏が変に引き止めるような事を始めたそうだ。
 その時点で、だいたいむつきも分かり始めた。
 最終的な場所こそ不明だが、彼氏としてはそろそろ美砂と一線超えたかったという事だ。

「私はそんなつもり全然、なくて」

 少々彼氏の方が空気を読めず、美砂に振り切られてしまったという事だ。
 頭の痛い話ではあるが、自分も大枚を逃した手前、その彼氏にざまあみろと思わざるを得ない。

「いや、もういい。分かった、もう何も言うな。俺は何も聞かなかった。お前は時間を忘れて遊び惚けて、終電に乗り遅れた。それだけだ」

 これ以上は一教師、それも男が踏み込むべきではないと、話を断ち切った。
 既に美砂はその彼氏を振り切った後であり、正しい事をしたのだ。
 泣いていたのは、好きな彼氏の期待を裏切ったからか、単純に怖かったからか。
 正直なところ、むつきの手に余る問題である。
 今日は美砂が終電に遅れ麻帆良に帰れなかっただけで、何もなかった。
 後日、美砂が彼氏に対してどうするか、相談されたら答えるだけで能動的に何かする必要は無い。
 こういう時、男の教師は役立たずだと思わずにはいられない。
 やりたい盛りの彼の気持ちは分かっても、美砂が感じた躊躇や恐怖を理解できないのだ。
 ただ、美砂のすすり泣きを聞いていると、何か言ってやれる事はないかと探してしまう。
 だからだろうか。
 模範的な、見知らぬ彼氏にすまんとあやまりたくなる常識的アドバイスをしてしまった。

「とりあえず、俺から言えるのはこれだけだ。逃げた事を負い目に感じて、安易に彼氏に体を許すな。呼び出されても直ぐに会わずに、まず電話にしろ。男は逆上すると怖いぞ。あと、電話する時は釘宮か椎名にも一緒にいてもらえ」
「でも、怒らせちゃったかもしれないし……」
「だからだ。その彼氏に対して、お前はもう正常な判断なんてできねえんだ。冷静に、お前に親身になってくれる奴が近くにいた方が良い。いいか、絶対そうしろ」

 一人というのはやはり不安だったのか、完全に納得したわけではないようだが美砂はしっかりと頷いてくれた。
 それっきり二人は無言で、美砂がお茶を飲み終えるまで駅員室にお世話になった。
 それから年配の駅員に二人で頭を下げてから、近くのビジネスホテルを目指した。









 どっかりとベッドに尻を落とすと、むつきはそのまま後ろ手に体を支えて天上を見上げた。
 溜まりに溜まった疲れを溜息とともに口から吐き出すと、体を起こしなおして今日もご苦労さんと自分で肩を揉む。

「あ~……疲れた、マジで」

 既に美砂は、このビジネスホテルの隣の部屋に放り込んできた。
 正直なところ、一人にするのは不安が残るがそこは先生と生徒といえど、男と女だ。
 ツインの部屋でなんて持ってのほかであるし、むつきの方から願い下げである。
 今日はまる一日休日出勤して、楽しみの風俗も潰れてクソガキの世話に終始しただけ。
 先生業はもうお休みとベッドに倒れこみ、そこでようやく夕食がまだだと思い出し、空腹である事に気付いた。
 だが流石に今から出かける元気もなければ、既に寝ているだろうとはいえ、美砂を隣の部屋に置いて出て行くのもなんだか怖い。
 先生業はお休みと考えたくせに、煮え切らない事この上ないが。
 熱血って柄ではないとつらつら考えこんでいるうちに、むつきはうとうととし始めた。
 若いとは言え体力に限界はあるとばかりに、寝入り始める。
 静かに吐息を漏らし、今日一日の疲れをゆっくりと癒していく。
 ドンドンと叩かれるドア、連続して押されるチャイムの音さえなければ。

「な、なんだ。誰、今何時だ!?」

 けたたましい来訪音に跳ね起きたむつきは、軽い混乱を引き起こしていた。
 チェックアウト時間を過ぎて、誰かがたたき起こしに来たかと思ったがそれにしては乱暴すぎる。
 慌ててポケットの携帯を取り出すと、チェックインから一時間程度、寝入って三十分程度であった。

「せんせぇ~、開けて。もう寝ちゃったのかな? せんせぇ!」

 ドアの向こうから甲高い能天気な声が聞こえ、混乱は去り、唖然としてしまう。
 相変わらずドアをドンドン叩き、チャイムを鳴らしては大声を上げているのは美砂であった。
 泣いた烏が笑うにしては短すぎる気もするが、それどころではない。
 何せ美砂は先生とむつきを呼びながら騒いでいるのだ。
 もしこれが誰かに見られでもしたら、どんな疑惑を呼ぶやら分かったものではない。

「あんのアホ!」

 慌てたむつきは、転びそうになりながらもドアに駆け寄り開け放った。
 そして突然開いたドアに少し驚いた様子の美砂の腕を掴んで引っ張り込んだ。
 誰かにこの騒ぎを見られていないかドアの外を見渡し閉める。
 廊下には一応、誰もいなかったようでほっと息を付くが、苦情ぐらいいったかもしれない。
 それからようやく、美砂を叱ろうとしたのだが。

「へへっ、先生。ご飯まだでしょ、一緒に食べよ」
「ああ。悪いな、気をきかせて……」

 意外な行為に虚をつかれ、差し出されたビニール袋を受け取る。
 その間に両手が開いた美砂は、袋からジュースらしきものを引っつかんでいった。
 不気味なぐらいにハイテンションな様子でスキップしながら、むつきが先程まで寝ていたベッドに腰掛けた。
 ぴょんと軽く跳ねて腰掛ける様子は、本来の彼女に近く立ち直ったようにも見える。
 なんにせよ、元気な事は良い事だとご相伴にあずかろうとし、固まった。
 コンビ二のビニール袋の中には、お握りやお菓子と空腹を満たすに困らない。
 ビールやチュウハイといった、酒類さえはいっていなければ。

「おい、柿崎。お前まさか、飲んでないよな!?」
「んっふふ、まっさか。酔ってなんかいませんよー」

 良く良く見てみれば赤く火照った顔で説得力が皆無である。

「この野郎、マジでなにしてんだ。俺の管理不行き届きになるじゃねえか」
「やだ、先生のエッチ。今、胸触ろうとしたでしょ」
「マジで、マジで温厚な俺でもそろそろキレるぞ!」

 手にしたチュウハイを取り上げようとするも、痴漢呼ばわりで抵抗されてしまう。
 本気で乳の一つでも揉んでやろうかと思ったが、我慢に我慢を重ねる。
 何故急に酒など買って来たのかは不明だが、そろそろむつきも素面では無理であった。
 ビール缶を袋から取り出すと、半分ぐらいは一気飲みで飲み下していく。
 疲れや不満、苛立ちを全部飲み込んでしまうように、苦い泡で腹に飲み下す。
 腹にまでそれらが辿り着くと、カーッと熱くなって逆に頭が冷えていく感じがした。

「あぁ、ちくしょううめえ」
「それより、聞いてよ先生!」

 俺は小さな余韻に浸る事も出来ないのかと、袖を引いてくる美砂の隣に座り込んだ。

「分かった、聞いてやるから。なんだよ、今度は……」
「ひっどいの。さっき、彼氏から電話があって。迷ったんだけど出てあげたら」
「そこがもうおかしい。言ったよな、一人で電話するなって。お前、少しは俺のいう事を……」
「でねでね!」

 もはや美砂は自分が喋りたいだけで、がっくりと徒労にうな垂れるむつきの様子など気にもしていない。
 というより、最初は気づかなかったがかなり怒っているようで叩いてくる手が痛い。

「電話に出て、開口一番に何て言ってきたと思う。ああ、もうなにアレ!」
「お前の態度でだいたいわかった。謝るどころか、キレられたんだろ。それで、デートにどんだけつぎこんだとか、愚痴られた」
「凄い、先生。そのまま。別に何時も奢られてたわけじゃないし。三回に一回、ぐらい? それに頼んでないのに、胸張って当然の様にドヤ顔で奢ってくれて。気にすんなって言ったし!」
「お前の彼氏が幾つか知らねえけど学生だろ、たぶん。彼女に見栄はりたかったんだよ、内心今月小遣いどうするかハラハラしてたんだよ」

 もはや何も疑う必要はなく、電話越しに喧嘩をし、腹立ち紛れに酒に走ったようだ。
 恐らく最初は一人でこっそり飲んでいたが、酔った勢いと愚痴をぶちまけたくなったと。
 不純異性交遊未遂に飲酒、それに教師の注意を無視と三藩。
 後一つ何かあれば満貫じゃねえかと、相変わらず叩いてくる美砂の手が痛いと思いながら飲む。
 一応、美砂があまり飲み過ぎないように注意しながら。

「もう、腹が立つ。最後なんていいからやらせろって、私は彼女だったけど玩具か何かじゃないんだから。先生、聞いてる!」
「聞いてるよ、ていうかお前こそ俺の注意もろもろ聞いてたのか? なんでお前らって、簡単な注意が聞けないかな。無意味に反発しあっても疲れるだけだろ」
「なに、先生。あんな奴の味方なの?」
「ああ、ダメだ。会話が通じなくなってる」

 お互い酔いも手伝って、教師や生徒の立場を超えて本音が漏れ始める。
 それにしても、相変わらずバシバシ叩かれて痛いと思っていると、ふいにソレがやんだ。
 寝たか、それともゲロかと身構えそうになって気付いた。
 ベッドの上で隣り合って座ってはいたが、こんなに距離は近かったかと。
 太ももが殆ど触れ合っており、美砂の火照った体の匂いが香る事もある。
 ガキは好みではないが、多少の役得は必要かと改めて注意しなかったが。
 それよりも、ゲロだけは勘弁と言う気持ちが強く美砂を観察するが、違ったようだ。

「ねえ、先生。なんで男の子って、そんなにエッチしたいの? デートして、愉しんで。時々キスして、それだけじゃダメなのかな?」

 ハイテンションは一時なりを潜め、率直な疑問を先生ではなく一人の男に聞いてきた。
 美砂にそのつもりはないだろうが、むつきに男としての意見を求めている。

「ぶっちゃけ、可愛い女の子とセックスしたいから」
「セッ、セックちゅって。あっ……」
「噛むな、素に戻るな。ほら、気持ち悪くならない程度、舐める程度に飲んどけ。てか、エッチもセックスも意味は一緒だ」

 今さら美砂もむつきとの距離に気付いて、少し距離を空ける。
 酔い以上に赤くなり言葉を失う美砂を一瞬可愛いと思ってしまったが、続けた。

「柿崎の彼氏がそうとは限らねえけど。男が女に優しくするのは、結局その子とセックスしたいからだ。お前らより多少長く生きてる俺だって愛なんて高尚な感情わからねえんだ。純粋に好きだからとか、愛とか。そもそもそれならセックスしたいなんて言わねえよ」
「したいだけ、なんだ……」
「ああ、もう泣くな。あくまで一般論、もしくは俺の極論だ。彼氏の気持ちはまた、落ち着いてから自分で確かめろ」

 再び飲む前と同じくテンションダウンしうつむき始めた美砂の頭を、振り回すようにかき回す。
 少々気安くしすぎかとも思ったが今更である。
 生徒の前でセックスなどというNGワードをぶちまけているのだ。
 毒を喰らわば皿までと、ビールを一缶飲み干し、次の缶のふたを開け放つ。
 生徒とサシで飲むというなれない行為からか、少しペースが速い。

「ほら、満足したか。してないなら、もう少しだけ不満ぶちまけとけ。今日だけだぞ、俺がココまで優しいのは。あと、酒もな。てか、良く買えたなお前」
「優しい……」

 やや語弊があるが、むつきの腕の中にいた美砂が不意に見上げてきた。
 セックスと言う単語を聞かされた時以上にその顔は赤い。
 そして急にソワソワし始めたかと思うと、キョロキョロと挙動不審になる。
 別に今度は距離も開いたままだし、何を照れる事があるのか。

「せ、先生も……私とセックスしたいから、優しくしてくれて、にゃわ!」

 言葉を返す前に、もう一度美砂の頭をわやくちゃにかきまわす。

「教師舐めんな。お前が俺の生徒で、俺がお前の先生だから。無償の愛……じゃなくて、仕事だからだこの野郎。それにガキはお呼びじゃねえんだよ。お前さえいなけりゃ、舞ちゃんと……」
「嘘、普段だれかが授業の質問とかいくと、妙に挙動不審になるくせに。ていうか、舞って誰?」

 半オクターブ、美砂の声が下がった事に気付かず、酔った勢いでむつきの方がぶちまけた。

「今俺一押しの風俗嬢。いいぞぉ、舞ちゃんは。仕事柄ちょいと化粧は濃いが、男好きする肉付きでな。ああ、しくったな。あの時、真っ直ぐ舞ちゃんに会いに行ってれば……」
「風俗嬢……私だってCあるもん。もうちょっとでDだし。それに綺麗な処女だもん」
「何張り合ってんだよ。女が処女で喜ぶのは童貞だけだ。めんどくさいだけだ、んなもん。ああ、くそ。セックスしてえ。お前ら中学生の癖に発育良すぎなんだよ。一週間後、身が持つか俺?」

 普段より速いペースで飲んだせいか、むつきも段々思考が怪しくなってきていた。
 愚痴役と聞き役が逆転してしまっているのが良い証拠だ。
 そのむつきがうっかり零してしまった愚痴を耳にして美砂がニヤリと笑った事にも気付かない。

「先生」

 頭に乗せられたむつきの腕を掻い潜るように、美砂が甘えた声と共にもたれかかってくる。
 頭の上にあったむつきの手を胸元に抱え込み、まるでむつきが抱き寄せたような格好だ。
 手の甲には、美砂が誇った胸の感触がワンピースとブラ越しに感じられた。
 本能的に手を裏返して包み込みたくなる衝動に駆られたが、まだ踏みとどまれ。

「そういうことは、今頃死ぬ程後悔してるか、キレ続けてる彼氏にしてやれよ。セックスは無理だけど……アカン、絶対押し倒されるわ。止めとけ」
「やだ、あんな理不尽な奴。それより、先生ちょっと手が動いてる。ねえ、本当に教師で仕事だから? 嫉妬とかなしに、止めろって言ってる?」
「こっちが聞きてえよ。なんで俺、こんな頑張ってんだ。ダチに意外と世話好きって言われた事があるが、今理解したよ。お前らに振り回されてばかりだけど、知らず楽しんでんのかね。教師って仕事好きなのかね、やっぱ」

 むつきとしては、はぐらかしているわけではないが美砂は不満だったようだ。
 美砂も同じように酔ってはいたが、一つだけはっきりとした感情が自分に芽吹いているのを感じていた。
 今や心情的に最低と化した元彼よりも、よっぽどむつきの方が好ましい事に。
 泣きじゃくる自分を見つけ介抱してくれ、寮の方にも高畑経由で連絡してくれた。
 もちろん、むつきの言う通り仕事だからという面もあるだろう。
 だがこうして酔って素が見えてもまだ、色々と美砂の事を考えたり、面倒を見てくれている。
 元彼の行動の反動ではあっても、今美砂が一番異性に求めているのは思いやりだ。
 自分の欲求を最優先するのではなく、何より美砂を優先して考えてくれる心。
 釣り橋効果である事までは、美砂も理解していない。
 ただ、むつきが風俗へ行こうとしていた事を聞いて最初に感じたのは嫉妬だ。
 潔癖な中学生として、相手を不潔に感じるよりも先に。
 だからつい張り合った自分に気付いて、好きになり始めている事を理解した。

「ねえ、先生……私にセックス、教えてよ」

 だから自然とその言葉が出た事には驚かなかった。
 少なくとも、むつきなら怖くない、きっと優しくしてくれると確信できた。

「保健体育を真面目に受けろ。てか、そろそろ寝ろよ。俺も眠いんだよ」
「もう、先生のばか!」
「んぐっ」

 間違ったのは一体何処からか。
 駅で人だかりに気をとられたことか、美砂を介抱した事か。
 それとも無理してタクシーで送り返さなかったことか、それとも酔った彼女を招き入れた事か。
 いずれにせよ、もはや後戻りが出来ない程にお互い酔っ払ってしまっていた。
 飛びつくように抱きついてきた美砂の唇を受け止め、その勢いのまま共々ベッドに倒れこむ。

「なんではぐらかすの。今私、すっごく先生の事が好きになり始めてる。元彼思い出しても腹立つだけだけど。先生を見てると凄いドキドキする。ほっとする」
「酔って鼓動が早くなってるだけで、お前の行動は彼氏に対する当て付けだよ。それでも」

 押し倒したのは美砂だが、それも瞬時に入れ替わってしまう。
 元々、男と女で年齢も男であるむつきの方が圧倒的に上なのだ。
 素早く美砂と自分の体を入れ替え、抵抗を押さえつけるようにその両腕を押さえつける。
 言葉こそ美砂を諭してはいたが、行動はその間逆をいっていた。

「柿崎……美砂、もう洒落じゃすまねえぞ。ぶっちゃけ、俺もそろそろ我慢の限界だ。風俗で玉ん中すっからかんにするつもりだったから、暴発寸前なんだよ」
「やっぱりちょっと怖いけど、なんだろう……先生だと、元彼よりも怖くない。先生はまだ私の意志を確認してくれてる。私の事を先に考えてくれてる」
「綺麗ごとだよ、んなもんは。俺の頭の中も、そいつの頭の中もかわんねえ。お前を抱きたい、それだけだ」

 今度はむつきの意志で、組み伏せた美砂の唇を塞ぎ若く瑞々しいそれを堪能し始めた。
 やや甘く、爽やかな匂いはルージュではなく、リップのためだろうか。
 そこで美砂がチュウハイを飲んでいた事を思い出し、一部それの味かとその唇を舐める。
 舐められると思っていなかったのか、組み伏せていた美砂がビクリと震えた。

「んんッ」

 思わずむつきが組み伏せていた手を話すと、幅のある川を飛び越えるように思い切ったように美砂が両手を背中に回してきた。
 きつく閉じていた瞳も目一杯開けられており、次第にこれ以上ないぐらい赤面し始める。
 そしてこれ以上ない程に体を密着させてから、むつきを睨んできた。
 恥ずかし過ぎるぞこの野郎と、訴えるように。
 先程は美砂をガキと呼び、風俗嬢を褒めちぎったが実際やってみると評価は上々だ。
 唇一つ舐めただけでここまで過敏な反応が返ってくるとは、面白すぎる。

「美砂、セックス教えてやるよ」
「優しくしてね、先生」

 もはやむつきも止める気はさらさらなく、深く、ねじ込むように美砂の唇をこじ開けた。









-後書き-
ども、えなりんです。
お久しぶりの方も、そうでない方もよろしくお願いします。

連載が終了し、若干の今更感もありますが。
書いてしまいましたネギまのオリ主ものを。
とはいえ、主人公は完全な一般人。
魔法については殆ど触れず、エッチな学園ものを目指します。
若干、アンチっぽい表現が見られますが、やさぐれている主人公の主観です。
またアンチかと言われるのが嫌なのでネタバレですが、ちゃんと高畑とも和解します。
一応はハーレムものですが、しばらくはメインヒロインのみです。

特に、普段スポットを浴びない子にスポットをが今回の命題。
絶対の命題ではありませんが、早速そのスポットに当てられたのが柿崎美砂。
彼氏が居た設定と別れた設定を利用させていただきました。
彼女がメインヒロインであり、十数話まで彼女が主人公を独占します。

とういうか、珍しくプロット無しで書いているので結果的にそうなったというか。
この物語の向く先は、私の指先のみが知っています。
現在、手元にて四十六話まで、二年の夏休み直前まで進んでます。
ガンガン鋭意製作中ですので、お付き合いください。

それでは引き続き、第二話むしろ本編をお楽しみください。



[36639] 第二話 うん、イチャイチャしよ先生
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/01/26 20:33

第二話 うん、イチャイチャしよ先生

 大気中の酸素ではなく、お互いの肺にある酸素をむさぼりあうように求めあう。
 穏やかで温かみのあるキスなどすっ飛ばし、艶かしく唾液を交換するような大人のキスであった。
 キス自体は初めてではないが、ココまでの行為は美砂も始めてである。
 軽いパニックに陥りながらも、侵入しては蹂躙してくるむつきの舌を受け入れた。
 最初はもちろん、されるがまま。
 おずおずと伸ばした舌を絡めとられては弄ばれ、互いの唇の隙間から喘ぎを漏らすのが精一杯。
 酸欠に陥りそうだが、今止めてしまえば行為そのものを止められそうで止めてと言えない。
 むしろ求めていますとアピールするように必死にむつきにしがみついていた。

「んぅ……ぁ、せんッ」
「どうした?」

 ただ、どうしても我慢できずにかすかに漏らした言葉で終わってしまう。
 止めないでと言いたいが、さすがにふしだらな台詞は恥ずかしく思いついた事をそのまま口にする。

「ちょ、ちょっとだけ苦かった」
「そうか、ビール飲んでたし。考えても見たら組み伏せられるのも怖いわな」

 ちょっとだけ良いかと、抱きついている美砂の手を背中から外し、ベッド脇に腰掛ける。
 それからむつきは、息を切らせて喘いでいた美砂の体を、抱え込んだ。
 脱力して力のない美砂の体だが、多少意志があるだけ駅の時より全然マシであった。
 膝の上に横向きに座らせると、胸に抱き寄せて落ち着けるように撫で付けた。

「悪いな、怖い思いさせて。お前が安心するまで、待ってる」
「全然、平気だけど。うん、少しこうさせてて……」

 再びむつきの背中に手を回した美砂が、むつきの胸板に耳をそっとつける。
 心音に聞き入るようにしながら、怖がるどころか安心しきる自分を感じていた。

「先生……」
「おう」
「今、凄く……さっきまでよりもっとずっと、先生を好きになりはじめてる。どうしよう、すっごく大好き。元彼と喧嘩したその日に、そんな子嫌い?」

 限度を知らず膨れ上がる好意とは裏腹に、不安にもなり始めた。
 先程まで一方的に元彼を勝手と罵っていたが、現状は自分もそう代わらない。
 まだ正式に分かれる前、勝手に元彼と呼んで、早くも心変わりしている。
 しかも、好意に気付いて直ぐ、体の関係を結ぼうとしているのだ。
 いやらしい子だと思われたら、嫌われたくないと好意と同じぐらい不安が膨れ上がる。

「知ってるか。教師になって三年、生徒を名前で呼んだのは美砂。お前が初めてだ」
「嬉しいけど、分かり辛い」
「それだけお前が特別って事だ。今さら嫌うわけねえだろ」
「うん、先生大好き」

 今度は小鳥のようについばむようにキスをし、

「今度は私から」

 美砂が覚えたからと、むつきの唇の中にまで舌を伸ばしてきた。
 ただそこからどうして良いか、むつきの舌や歯に触れては引いて、ちょろちょろ迷う。
 そんな美砂を誘うように、むつきから舌を触れさせスパゲティを絡めとるように絡めてやる。
 私からって言ったのにと若干不満気にした美砂であったが、観念して手伝って貰う。
 手と手を触れ合わせるように、互いの口の中で舌を触れ合わせた。
 ずっと口を開けているので溜まった唾液が零れ落ちそうにもなって、指で拭おうとしたが止められる。
 どうしてと視線でむつきに問いかけると、悪戯好きそうな普段より子供っぽい笑みを向けられた。

「んおっ!?」

 思わずキスをしながら、嘘と叫んだのは飲まれたからだ。
 溜まった唾液を唇を伝い吸い取られ、大きく喉を鳴らしながらむつきが飲んだのだ。

「んーっ、んーっ!」

 さすがに恥ずかしさの余り我慢できずに、背中に回していた手をはなしてむつきの胸を叩く。

「んはぁ……せ、先生今私の」
「甘かった」

 先程も見せた悪戯小僧っぽい笑みと言葉に、真っ赤になりながらむつきの胸板をぽかぽか叩く。
 恥ずかしくて恥ずかしくて、けれど甘いなんて褒められたのか、ほんの少し嬉しくて。
 兎に角、むつきにされる事なす事、温かな陽の感情しか生み出さない。
 もはや完全に言葉では言い尽くせない程に大好きで、持て余すほどであった。
 そしてまた、美砂が落ち着くまで、胸板を叩くのを止めるまで待ってくれたのが嬉しい。
 一際そう大きく感じたせいか、興奮状態でもハッと自分の状態を敏感に察してしまった。

「あ、あぅぁ。せ、先生……私、あの私その」
「分かった分かった。ちょっとだけ、腰上げろ」

 それも難しかったようで、美砂はむつきの首に両腕を回し縋るように腰を持ち上げた。

「見ちゃやだからね」
「分かってる」

 すがり付いてきた美砂を一度ぎゅっと抱きしめ、ワンピースのスカートに手を伸ばす。
 性格には、スカートの中にある下着へとだ。
 手が太ももに軽く触れると、殊更美砂が抱きついてきた為、首を無理に曲げて首筋にキスを落とした。

「大丈夫だ、任せろ」

 耳元でそう囁き、スカート部分をたくしあげた。
 そのまま尻を伝うようにして手探りで下着を探すように、太ももを撫でる。
 絶対に口にはしないが、やはり若さとは武器であると思った。
 普段美砂達をクソガキと心で呼び、風俗嬢の舞を神聖化するように比較していたが。
 はっきり言って、逆の意味で比べ物にならない。
 異常に張りのある滑らかな肌触り、薬品で無理やり引きとめずともそれら全てが満たされていた。
 何時までも触っていたかったが、小さな訴えがソレを許さなかった。

「うー、セックス始めてからなんだか先生意地悪」
「悪い悪い、ただ。まだ始まってもいねえよ」

 純粋にむつきは美砂の肌に心を奪われていただけだが、焦らされていると感じたらしい。
 首筋に美砂があまがみしながら訴えてきたのだ。
 そして今度こそ、美砂の両腰の隙間から下着に指を指しいれ、脱がしていく。
 脱がすたびに美砂が抱きつく力を強め、もはや二度と開けてなるものかとばかりに瞳を閉じている。
 その訳は、むつきが目で確かめるまでもなかった。
 まだほんの少しではあるが、下着の極一部、一番大事な部分を守る場所が濡れていたのだ。

「ほら少し足を持ち上げろ」

 膝まで脱がし、完全に両足から脱がさせる。
 それから改めて美砂の下着を見ようとすると、瞬く間に手の中から消えてしまう。
 もちろん奪ったのは美砂であり、ワンピースのポケットが破れる程に強くねじ込んでいた。

「み、見た?」
「本当、面白くて可愛いなお前」
「だって、だって恥ずかしいものは恥ずかしいんだから。あと、可愛いは言って良いけど、面白いは余んっ」

 見られたくないのは、下着ではなく濡らしてしまった部分のようだ。
 分かっていた事だが、可愛すぎる美砂の行動に我慢できずその唇を塞ぐ。
 ただ、これまでより時間はかけない。
 だいたい始めてからまだキスしかしておらず、むつきもズボンの中で暴発など洒落にならないのだ。

「全部脱がすぞ」
「え……このまま、するんじゃ」
「濡れたって言っても少しだから、今のままじゃ痛いだけだぞ。それに着替えもないのに着衣なんて出来ねえよ。ゴムもないから外だしするしかない」
「分かった……私も脱ぐから、先生も」

 はいはいっと足元が少々危うい美砂を立たせ、むつきは服を脱ぎ始めた。
 ただやはり女は強かというか、隙がないと言うべきか。
 先にむつきが羽織っていた上着とシャツを脱いだ瞬間、脱兎の如く駆け抜けた。
 次の瞬間には、部屋のあかりが消え、あたりは全くの暗闇であった。
 そして再び脱兎の如くベッドの脇に戻ろうとし、痛みを訴える美砂の声があがる。

「痛ッ、うぅ~……」
「なにやってんだよ。ほら、って見えねえ」

 何処かで足をぶつけたらしく、蹲っているであろう美砂を手探りで探す。
 だが、さすがに急に真っ暗になったので視界もゼロである。
 仕方なく、先にベッドの頭の方にあった電灯を探してそちらをつけた。
 オレンジ色の小さな光がともり、膝を抱えている美砂を見つけられた。

「先生、痛い……キスしてくれたら治る」
「治るか馬鹿。ほら、先に脱げ。これぐらいの明かりなら恥ずかしくないだろ」

 先に脱いで再びベッドの脇に座り込んだむつきは、無遠慮に美砂が脱ぐのを見ていた。
 暗闇という安心感からか、観察されているとも知らず美砂は先程までの羞恥が嘘のように脱ぎ始める。
 ワンピースの胸元のボタンを外し、一瞬躊躇った後に一気に脱いだ。
 ただし、片手だけはすぐさま下腹部を隠すようにし、片腕だけを背中に回しブラのホックを外そうと試みる。

(まさか、生徒の脱衣をまじまじと眺める日がくるとはな。麻帆良女子中に就職が決まった時の、アイツらの嫉妬が分かった気がする)

 言いようのない優越感に浸りながら、どうせ暗闇だからとニヤニヤ笑う。
 ただ片手で事を成そうとする美砂が、上手く行かず梃子摺り始めていた。
 そして完全な暗闇でない事を思い出し、むつきへと振り返ってからは殊更に手で必死に体を隠そうとし泣きそうな声をあげる。

「先生ぇ……」
「子供か」

 実際、法的には子供だが、仕方がないとむつきが美砂の手をひいた。
 先に自分がベッドに座り、膝を叩く。
 同じように横向きに座り込もうとした美砂を止め、

「こっち向いたまま」

 対面座位、まだ入れはしないがそれを求めて両腕を開いてやる。

「だって、そんな蟹股になんなきゃいけないじゃない。さっきの横向きが良い」
「実際始めたら、こっちの方が楽だぞ?」
「じゃあ、ベッドの上で普通が良い。もう、覆いかぶられても平気だし」
「シーツが汚れるのは避けたいんだが」

 むつきの言葉で、そう言えばここは普通のビジネスホテルだった事を美砂も思い出したようだ。
 喉の奥でううっと唸る事数秒、先生のいう事なら多分正しいと諦めた。
 むつきの前で目を瞑っててと頼み、一瞬で膝の上を跨いで座り込んだ。
 その時、美砂の秘部にむつきの一物の亀頭部分が重なりあっていた。
 危うく挿入という結果は免れたが、秘部の上を滑りそのまま後ろへ美砂の尻を割るように滑り込む。

「ひぃっ」
「あぶね、落ち着け。ほら、大丈夫大丈夫」

 自分でも危うかった事を感じた美砂が小さく悲鳴を上げていた。
 本当に手間のかかると、折角和らいだ緊張がぶり返した美砂を撫でてやる。
 先に外れかけのブラをとってしまい、縋ってきた美砂にまたキスを落とす。
 ただし今度はそれだけに留まらず、さえぎるもののなくなった胸に触れる。
 Cとサイズを誇ったそれなりの大きさの果実を支えるように、手の平で包み込んだ。
 最初から過激な事はすまいと、軽く持ち上げたり、マッサージの様に揉みあげた。

「はぁ、ふぁ……先生、キスと同じぐらいふわふわする」
「これぐらい序の口。少しレベルをあげるぞ」
「え、うそ。んっ、体がキュってした」

 時折キスをしながら、人差し指で乳首を軽く弾く。
 美砂が評したように一瞬体を強張らせ、今度は逆に弛緩させる。
 ソレが自分でも分かったのか、膝の上から落ちないように首に腕を回してきた。

「先生、もっと……もっと触って」
「ああ、お望み通り」

 嫌がる様子がないならと、弾いた乳首を指先で転がしたわたな乳房に埋める。
 何かアクションを起こす度に、美砂が面白いように反応を返してくれた。
 摘めば体全体がそうされたようになり、こねればむず痒さをあらわすように体を擦り付けては甘い声を上げる。
 ただされるがままと言うわけでもなかった。
 美砂なりに気持ちよくなろうとしたのか、むつきを気持ちよくさせようとしたのか。
 自分からキスを求めたり、拙い動きではあるが腰を動かしていた。
 愛液が増し、滴るほどになった秘部を、股座から尻の割れ目まで伸びる竿にこすり付ける。
 少々加減があやうく落ちそうになるので、乳房を弄っていた片手を尻に添えてやったが。

「先生の手がお尻に。凄い、怖いぐらいに気持ちいい」
「ああ、俺も気持ちいいぞ」

 美砂の愛液が止め処なく流れ落ち、潤滑油には事欠かないほどであった。
 にちゃにちゃと卑猥な音が響き、さらに美砂の体を高ぶらせる。

「あぁ、先生、先生……エッチになる。エッチになる自分が止められない。先生、好きって言って。エッチな私を嫌わないで」
「嫌うかって、大好きだこの野郎。今のお前は凄い綺麗だ。綺麗でエッチって、お前。男からしたら最強の女だぞ。もっとエッチになってくれ。お願いしたいぐらいだ」
「なっちゃう、先生が望んでくれるならもっとエッチになる。気持ちいい、おっぱいも。あそこも、先生が触ってくれる全部がんんっ!」

 理性から解放されるように、美砂が場所も構わず気持ちのままに声をあげる。
 少々声が大きいと唇で塞いだのだが、それが切欠になったようだ。
 むつきの腕の中で殊更美砂が体を小さくし、反動でビクンと大きく体を震わせた。
 大きな波を一つ乗り越えたようで、縋りつくのではなく、くたりともたれかかってくる。

「もしかして、美砂。お前凄くね?」
「はぁ……ふぅ、なんか今凄かった。頭真っ白で」
「処女でイクとか、お前。どんだけ最強なんだよ」
「あっ、凄く先生の硬い。それに熱い、お尻火傷しちゃう」

 いったばかりだというのに、美砂がいとおしげに腰を動かし尻でむつきの一物を押す。
 硬いと評された通り、美砂の尻で押されても一物は反逆するようにそそり立つ。
 理性などもはや殆ど二人にはなく、体をさえぎる着衣もない。
 濡れた女の秘部と、そそり立つ男の一物があれば、辿り着く先は一つしかない。

「先生、いいよ。して?」

 発情し、涙で潤んだ瞳での美砂のお願いに答えないはずがない。

「少し痛いかもしれんが、暴れるなよ。どうしても我慢できなけりゃ、俺の首筋でも噛んでろ」
「うん、そうさせて貰うね」

 弱々しい力で再び抱きついてきた美砂のお尻を、両手で抱え込むように持ち上げる。
 股座から尻の間を割った時とは逆に巻き戻すように、尻の間を滑り秘部へと亀頭が移動した。
 最後の確認をするように、むつきは美砂を見下ろす。
 美砂も小さく頷き、首を伸ばしてむつきの唇へとキスをねだった。
 もはやこれ以上ない程に二人は全身を密着させ、密着の更に上を目指した。
 持ち上げた美砂の体を落とし、ピッタリと閉じた割れ目を亀頭でこじ開ける。

「んっ……」

 自重も加わりゆっくりとだが、むつきの一物が美砂の秘部を潜り始めた。
 密着以上、むつきが美砂の中に入り、完全に一つとなろうとする。
 それを邪魔するものは、もはや誰もいない。
 いるとすれば美砂自身、秘部の中の本当の入り口、膣口の先にまつ門番、処女膜だけであった。
 僅かな抵抗感でむつきは、そこに辿り着いた事を感じ、美砂を見下ろす。

「いいよ」

 かすかに消え入りそうな声だが美砂の覚悟の声と共に、むつきはソレを実行した。
 美砂と一つになる為に、邪魔者を力ずくで排除したのだ。
 美砂を通してミチミチとそれが破れる音を幻聴しながら、突き破る。

「痛ィッ」

 再びの小さな声であったが、すぐさま続けてと懇願される。

「くっ……私、一杯先生に気持ちよくしてもらったから。今度は先生が、私で気持ちよくなって。私でイッて?」
「ああ、分かった。ただし、お前も一緒にな。ある程度入れたら、小休憩だ」
「ぅぁ、入って……先生が私の中に。くぅ、痛いけど嬉しい。先生の女になれたから?」
「可愛い事を言うなよ、我慢できなくなるだろ。もう少し、全部は……無理か。だが十分だ。良く頑張ったな、美砂。撫でてやりたいが、我慢してくれ。両手を放すと、一気に深く刺さるからな」

 じゃあこっちで褒めてと、何度しても飽き足らないというふうにキスをねだってきた。
 唇が磨り減るかと思う程にキスを繰り返し、痛みをできるだけ和らげ忘れさせようとする。
 ただそれもどこまで効果があったものか。
 美砂の瞳には涙が滲んでおり、顔はこわばり、キスをしている間ずっと唇が震えていた。
 なんとかしてやりたいが、なんともしてやれないもどかしさ。
 先程から美砂ばかり自分から好きだと言って、むつき自身は好きと言ってとねだられてからしか言わなかった。
 だが本当に今さらだが、美砂の事が好きだと感じられた。

「好きだ。ねだられたからじゃない、俺がそう伝えたい。好きだ、美砂」
「嬉しい、先生」

 破瓜の血が零れ堕ちる秘部から、それを押し流すように愛液が溢れてくる。
 もっと、もっと愛し合いたいと美砂の意志を体がくんだように。
 美砂自身、多少の痛みが気にならなくなる程に、求めて欲しいと思った。
 自分の体でむつきに気持ちよくなって、あの間隔を一緒に味わいたいとさえ思った。

「先生、もう我慢しないで。先生のしたいようにして。私はもう大丈夫だから」
「馬鹿、もう少し慣れるまでいいんだよ。お前の中にいるだけで十分気持ち良い」

 言葉通り、むつきは美砂の中にいるだけで十分に満たされていた。
 風俗嬢などもはや比べ物にならない、比べようとする事が失礼だ。
 こんな最高の女には今まで出会った事はないとさえ思えた。
 膣の中に無遠慮に侵入したむつきを、たっぷりの愛液で向かえ、肉壁が圧迫してくる。
 美砂が喋る度に、むつきを意識する度に、それこそ美砂の心臓が鼓動を叩く度に。
 全てを受け止めてあげるとばかりに、締め付けてきた。
 気を抜けばこのまま中で出てしまうと不安になるぐらいに。

「違うの、我慢してるわけじゃない。先生が言ったんでしょ。一緒にって。これは私の我がまま、イキたいの。先生と一緒に、イキたいの」
「お前はこの野郎、本当に……」

 美砂の我がままとやらに、もはや胸が一杯で言葉にならなかった。
 代わりにベッドのスプリングを軋ませ、ゆっくりと美砂を突き上げた。
 慎重にあまり強い刺激にならないように、思いやりながら。

「あっ」

 より深く貫かれたのが分かったのか、自然に美砂が喘ぎ声をあげた。
 美砂の体を持ち上げては深く刺さった一物を、ぬちゃりと音を立てながら少し抜き、貫く。
 膣の中の愛液から空気が抜けるじゅぶりと下品な音があがる。

「んっ、深ぃ」

 もう一度、今度は美砂より先にベッドに落ち、スプリングを縮こまらせる。
 二人の距離を慌てて縮めるように落ちて来る美砂の体。
 スプリングの反動で浮いたむつきの体が抱きとめ、スパンと肌がぶつかる音が響く。
 やや甲高い音に秘部であふれる愛液の音はかき消されたが、より強くより深く美砂の体にむつきが埋もれていく。
 繰り返し繰り返し、むつきは自分の分身を美砂に打ち込んでいった。

「美砂、お前は最高だ。こんなに気持ち良いのは初めてだ」
「先生、私もこんなの始めて。はぅ、ぱんぱんもっと」

 むつきだけではなく、美砂も能動的にこの行為を楽しんでいた。
 破瓜の痛みなどもはや遥か彼方のようで、つい先程処女を喪失した事を思わせない。
 長い髪を振り乱しては、体に浮き上がる珠の汗を振り払う。

「ぁぅ……はっ、奥にもっと私の奥まで来てぇ」

 当初、むつきの竿が余っていたはずが、根元までずっぽり埋め込まれていた。
 膣の最奥まで蹂躙しては、ここは俺の居場所だと形を覚えさせようと往復する。
 美砂も必死にむつきの形を覚えようと体が反応し、より深い到達点を差し出そうとしていた。
 膣の終着点、好意の目的、あるものを受け入れる為の肉壷。

「あんっ」

 膣の奥に子宮口が現れ、むつきの一物の亀頭とぶつかり合った。
 目の前がちかちかするような衝撃を受け、美砂が体を震わせる。
 自分の最奥までむつきのものになるのだという期待、それと少しの不安。
 小さな不安は瞬く間に期待と快楽に押し流されていく。

「先生……ぁぅ、今までより凄いの。ごちんって」
「分かるか、美砂。この一番深いところ。くそ、ゴムさえあれば、もっと凄い事をしてやれるのにな」
「もっと凄ぃっ、したい。もっと気持ちいぃぅ、ぁ。だめ、先生もう。私、イクかも」
「俺もそろそろ限界だ。イクぞ、イクぞ美砂!」

 これまでで一番大きく腰を打ちつけ、射精の前に美砂を打ち上げる。
 痙攣し、コレまで以上にうねり精液を搾り取ろうとする美砂の中から抜け出す。
 叫び声を上げようとする美砂を抱き寄せ唇で口を塞ぎ、再び密着する二人の間でむつきの一物が大暴れ。
 二人の間で何度も震えては、白濁の液体をお腹に撒き散らす。
 しばらく二人共きつく抱き合い、息を整えながら力尽きるようにベッドに倒れこんだ。

「はぁ……はぁ、やべ。すげえ出てる。てか、大丈夫か? かなり激しくやっちまったけど」
「凄かった、頭真っ白になって。これが、先生の精液……えい」
「あ、こら」
「うっ……えほっ、ぐえ不味い」

 好奇心は猫をも殺すという言葉通り、お腹の上の精液を指ですくった美砂がそのまま口に運んだ。
 当たり前だが、その味、その匂いに耐えかね舌を出して顔も崩れている。

「たく、余韻が吹き飛ぶような事するなよ」
「だってぇ」

 むつきの胸の上で頬を膨らませ、聞いてた味と違うと勝手に拗ねる。
 どこで聞きかじった情報か知らないが、まあ中学生という事だ。
 今度こそ情事の余韻を楽しむように、しっとり抱き合い息を整えようとする。
 したのだが……

「先生……」
「すまん」

 二人の間で力を失っていたはずの一物が、早くも力を取り戻し始めていた。
 余韻どころか、今からでも十分に二回戦に突入できそうではあった。

「もう一回、する?」
「したいが、さすがに精液まみれのコレを突っ込む勇気はないな」

 少し体を起こせば二人の間で硬さを取り戻したソレを見ることができる。
 押し込められた肌と肌の間で暴れたため、にちゃりと精液が糸を引く。
 それを吐き出した張本人は、自分自身をも白濁で汚していた。
 もっとしたかったと美砂が眉根を潜めるのを見て、むつきはならと思いついた。
 美砂共々、上半身を起こし、そのまま彼女を横抱きに抱きかかえる。

「え、先生……この格好、ちょっと嬉しいけどなに?」
「さすがにゴム無しはこれ以上無理だが。風呂でシャワー浴びながらイチャつこうぜ。多少洗えば、できなくもないだろうし」
「うん、イチャイチャしよ先生」

 大歓迎とばかりに美砂がむつきの首に手を回し、レッツゴーと風呂場を指差す。
 この後、風呂場が狭い事を良い事に、シャワーを浴びながら素股で一回。
 溜めた湯船の中でイチャイチャしながら、手コキで一回、美砂だけ別途三回と二人は大いに初夜を楽しんだ。









 全てを思い出したむつきは、とりあえずの結論を出した。

「悪いの全部、俺じゃねえか」

 生徒に誘われ、先生が手を出した。
 生徒と先生でそれぞれ一藩、未成年と言う事でさらに一藩。
 生徒に酒を飲ませ一藩で満貫、だが美砂はむつきの管理下にあったはずで管理不行き届きが加わる。
 他にもここがビジネスホテルだったり、他にもあるかもしれないが跳満は確定だ。
 一万や二万を惜しんでタクシーで送り返さなかった結果がこれである。
 しかしながら、あの時に戻れたらと聞かれたらこう答えるだろう。
 もう一度、美砂を送り返さずに同じ事を繰り返してやると。

「酔ってた事は酔ってたけど、嘘つきになるわけじゃねえ。むしろ本音が出やすくなるんだから、嘘偽りはない。なら、後は俺がどうするかだけだな」

 むしろ、昨晩の事を後悔してたまるかと思っていると、シーツの奥から美砂がひょっこり顔を出した。
 そのまま起きるかと思ったが、また再びずるずるとシーツの奥に潜ってしまう。

「なにしてんだ、お前?」
「とって」

 くぐもった声でそう言われるが、直ぐにはピンと来ない。

「私の服、今の私は裸なんですけど」
「ああ、そういう……へいへい」

 流石に素面ではこんなものかと、ベッドを抜け出し立ち上がる。
 その瞬間、美砂が小さく悲鳴を上げたが、当然の事ながらむつきも裸だ。
 シーツの中で開いた視界の中で、むつきの下腹部を見てしまったのだろう。
 取り乱したり、大きな悲鳴を避けたりと記憶はしっかり残っているらしい。
 元々、一緒に風呂に入った時点で、酒気も半分以上は抜けていたであろうし。
 美砂の服をかき集めるのと同時に、自分の服も手元に寄せておく。

「服着れるか? なんなら、後ろ向くか何かするが」
「大丈夫」

 器用にもぞもぞシーツの中で動き、やがて衣服を纏った美砂が出てくる。
 当然、男であるむつきの方が早く、待っていた状態であった。
 美砂の方は身なりを整えるにもシーツの中では限界があり、さすがに髪は乱れている。
 ベッドを降りると、むつきに目を合わさずまずは服を軽く払ったりして皺を伸ばす。
 それっきり何かを迷うように、黙りこくり、思いつめたように顔を上げた。

「あのさ、先生」
「その前に、俺からだ」

 そんな美砂の行為を目前で止め、こういう時は男からだと言った。

「俺は昨日の事を後悔しない。むしろ、なって良かったと思ってる。俺と付き合ってくれ、美砂」
「あっ……うん、先生!」

 一番美砂が恐れていたのは、常識という壁からなかった事にと言われる事だったのだろう。
 そう言われるぐらいなら、自分から一時の気の迷いと言い出そうとしたところに付き合ってくれという言葉である。
 嬉しい不意打ち、望んだ言葉を率直に与えられ、感極まるように飛びついていた。
 そんな美砂を正面から受け止め、抱き返す。
 間近で向けられたこの笑顔を前に後悔してたまるかと、気持ちを新たにむつきはこれからを考え始めた。









-後書き-
ども、引き続きえなりんです。

まあメインヒロイン回と言うわけで。
色々と波乱万丈なメインヒロイン回でもありましたが。
元彼と別れるのも意外とあっさり、その後の無茶もA組らしいかなと。
でもまだ主題のひかげ荘は影も形もw
あっ、言い忘れていましたが。
このお話はラブひなとも若干クロスしています。

主人公は乙姫むつみの従兄弟ぐらいの血縁者です。
実は思いつきで主人公を乙姫むつきって考えてたら、
そういえばと乙姫むつみの存在を思い出したわけですが。
たぶん、頭の片隅でむつみを覚えていて、間違ってむつきと名づけたんでしょう。
ラブひなを知っていれば、ひかげ荘がひなた荘と対になっている事ぐらいは想像つきそうですが。
その辺は次回以降、おいおいと。

次回更新はできれば水曜です。
最近、ちょっと忙しいもので多分、おそらくは。
それではえなりんでした。



[36639] 第三話 そう、あれがひかげ荘
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 20:43
第三話 そう、あれがひかげ荘

 件のビジネスホテルは早々に、逃げるようにチェックアウトした。
 何しろ昨日、部屋や風呂で声も気にせずに散々楽しんでしまったのだ。
 幸い隣は元々美砂の部屋だったので無人だったが、逆側は不明である。
 苦情や余計な突込みを受ける前にというわけだ。
 ただまだ朝も早く、昨晩は結局まともにご飯も食べられなかったので喫茶店に向かった。
 麻帆良でもチェーン展開されているスターブックスである。

「お会計はご一緒でよろしかったでしょうか?」
「一緒でいいよ」
「あっ、先生。私、自分で……あっ」

 カウンターでコーヒーとサンドイッチを頼み、会計の店員にむつきが答えると美砂が渋った。
 元彼の事もあり、奢られる事に抵抗を示した美砂だが生憎、その財布は空である。
 今さらその事を思い出し、シュンとした美砂を撫でイチャつくなら他所へ行けと笑顔の中に少しの苛立ちを見せる店員に千円札を渡す。
 お盆でものを受け取り、美砂の手をひいてまだ早朝のせいか空いている店内の特に人がいない席に陣取る。

「あのなあ、美砂。金のない学生と比べるな、こっちが悲しくなる。何でもかんでも好きなもんを奢るとは言わないが、飯ぐらい出させろ」
「昨日言ってた、男の見栄?」
「それもあるが、風潮もな。明らかに年上の男の俺がお前と割り勘でもしてみろ。周りがあの男なにって心で毒づくぞ」
「私の先生なんだから、関係ないのに……」

 だから素直に奢られろと、やや命令口調で伝える。

「あとその先生っての、学校内はそれで良いが、デート中は勘弁してくれ。他にも付き合う上で注意事項は満載だ」
「それはなんとなく、分かる。さっきはうっかりカウンターで先生って言っちゃったけど。やっぱりこの関係って隠さないといけないんだよね」

 昨晩の分別のない行動は兎も角、美砂も中学生だけあってそれなりには世間を知っている。
 テレビのニュースを時々、偶々チャンネルがあっていれば見るぐらいには。
 月に一度は言い過ぎかもしれないが、生徒に手を出した教師というニュースは見ることが多い。
 今現在、美砂は犯罪をされたなんて思いもしないが、世間はそうとらない。
 二人の関係が公になれば、瞬く間に美砂は不幸な少女にカテゴライズされ、むつきは犯罪者に一直線である。

「うーん、下手に呼び方変えると学校でぽろっと言っちゃうかも」
「俺も、生徒を苗字で統一してるから気をつけねえとな。それと美砂、携帯だせ。俺の連絡先送るから」
「あ、うん。欲しい、ちょうだいちょうだい。あ、元彼の消しとかないと」
「ちょい待ち」

 自分の携帯を取り出し、嫌な顔をした美砂を逆にむつきが止めた。

「まだ直ぐに消すな。しばらく着信拒否にして、ほとぼり冷めた三ヶ月後とかに消せ」
「言われて見れば……うーん、入ってる事自体嫌だけど、仕方ないっか」

 ぷっくり頬を膨らませる美砂を前に、男としての勝利に少し機嫌を良くしながらむつきも携帯を出した。
 互いに連絡先を交換し、一安心とは行かない。

「お前の携帯って常時ロックって掛かってるか?」
「なんで、面倒だからそんな事はしてないけど?」
「できればかけとけ。俺が掛けた時とか、メールを椎名とかに見られると面倒だろ。俺の連絡先知ってるのは、今の所お前と雪広ぐらいだ。知られたら、絶対騒がれるだろ」
「うん、説明書見てやっとく。それよりも、なんで委員長が先生の携帯番号しってるの?」

 そっちの方が大問題だとばかりに、美砂が向かいの席から身を乗り出し凄んでくる。
 理由次第じゃただじゃおかねえと、瞳が言葉以上にものを言っていた。

「お前、自分で答え言ったろ。委員長だからだよ。高畑、先生は常時出張ってな具合だからほぼ俺が担任みたいなもんだろ。緊急時とか、一人ぐらい教えておかないと困るだろ。今の所、かかってきた事はないけどな」
「うぅ……仕方ないけど、なんかやだ」
「教えちまったもんを今さらな。さすがにコレは勘弁してくれ。本当に何かあった時、困るのはお前ら全員だ。すまん」
「あやまんなくても、今のは私の完全なわがままだし。じゃあ、これで許してあげる。あーん」

 鳥の巣の小鳥のように口を開けて来たため、サンドイッチを手頃なサイズに千切り放り込んでやった。
 指についていたマヨネーズもちろちと舐めとり、ご満悦の様子である。
 安い奴めと思わざるを得ないが、逆の事をされたら自分もそうなりそうで何も言えない。

「うん、愛が篭ってて大変美味しい。他に、何かある?」
「まあ、基本はまわりに気をつけるって事だけだ。とりあえず、お前が中学さえ卒業すれば、付き合ってもヒンシュク買うだけでお咎めはないだろう」
「まだ二年近く……あっ、それまでデートって何処で。先生、確か先生用の寮だったよね。家デートも出来ない、どうしようそんなの嫌なんだけど」

 コロコロと表情が変わり、今にも泣き出しそうで本気で嫌がっている。
 確かに今は早朝と言う事もあって、気軽にデート感覚でいるが昼とかは無理だ。
 麻帆良の学生は気軽に東京にまで遊びに来る事も多く、あっさりみつかりかねない。
 麻帆良市のなかなど問題外で、普通の女子中学生の思考ではまず無理だと行き着くだろう。

「車でもレンタルして遠出すれば良いだろ。それに家デートなら、考えがある」
「車、確かにその発想はなかった。けど、家デートは無理でしょ。先生と急に仲良しになったって、頻繁に遊びに行くのも変だし」
「ん、なら今日するか家デート。午前中は無理だが、午後なら。あ、その前にお前は帰ったらまず、同室の椎名や釘宮に終電遅れた事を説明しとけ。んで、寝ろ」
「結局昨日、連絡してないし。分かった、謝っとく。けど、寝るのはなんで?」

 サンドイッチを頬張り、コーヒーで流し込みながら気付いてないなと指摘してやる。
 ただし、やや声は潜めるようにして。

「そもそも昨日、寝るのが遅かったし。まだ興奮状態かもしれねえ。一度寮に帰ってリラックスして休め。午後は家デート、後は分かるな? 体力蓄えとけよ」
「あ、うん……そうだね。だったら、着替えも一緒に」

 色々と思い出したのか、それとも下腹部の違和感が残っているのか。
 恥ずかしげに赤面してうつむきながら、美砂がなんどか座り直す。
 ただし、嫌とは決して言わず、むしろ率先して着替えと言い出す始末だ。
 エロくて結構と、思ったむつきだったが、とてつもない思い付きをしてしまった。
 とてつもなく怖ろしい、だが男としてコレを願わなければ死んだも同然。
 しかしながら、美砂の機嫌を著しく損ねかねない非常に危険なある意味罠でもある。
 悩み悩んだ挙句、美砂の才能とエロさに掛けて、提案する事にした。

「時に、美砂君」
「先生、もう目がエッチ」

 やかましいと自覚があるだけに呟き、コホンと咳払いしてから言う。

「チアコスの予備など、持ってはいないだろうか」
「先生」
「くっ、ダメか。一世一代の割と勇気のいる提案だったんだが」

 少々の冷たい目線だけで、機嫌を損ねたわけではない事にほんの少し安堵する。

「持ってる。今の予備もあるし、一年生の時使ってて色々とサイズが合わなくなったのも。いいよ、先生の為だけに応援してあげる。色々と元気になってくれたら、私も嬉しいし」
「お前、サイズきつめのチアコスとかやっぱ天才。幸せ過ぎて怖いぞ、この野郎」
「でも、エッチばっかりは嫌だからね。お話してお互いの事を知ったり、エッチ抜きでイチャイチャもしたい。忘れないで」
「あっと、ちょい浮かれてた。そうだな、考えとく」

 よろしいと、若干手綱を握られた感があったが、概ね二人は幸せであった。
 付き合う上での注意事項も、基本はバレないようにという本心である。
 呼び名、携帯電話、デートの仕方、とりあえず今思いつく事は全てあげた
 なのであとは、貴重な時間を使う為に、再びサンドイッチを食べさせあったり、結局はイチャついた。









 麻帆良に戻ってきたのは十時少し前であり、一先ずむつきは美砂を女子寮に送ってきた。
 一応麻帆良市内に入ってからは、指示通り普段の関係の薄い副担任と生徒の間柄。
 互いにそっけない別れをして、お互いに寂しさを抱えると言うジレンマを起こしもしたが。
 それから直ぐに、麻帆良女子中に向かい、何故かその建物内に存在する学園長室へと向かった。
 とりあえずは、昨日の結末の報告と、今後の方針の決定である。

「2-A副担任の乙姫むつきです」
「うむ、入ってくれてかまわんよ」

 無駄に豪華な学園長室の前で名乗りとノックをし、学園長の返答を待って失礼しますと言って入室する。
 毎度の事ながら、平教員が麻帆良全体の学校の長に会うと言うのは緊張するものだ。
 まさに雲の上の人、実際に雲の上に住んでいそうな雰囲気の人ではあるが。
 学園長室で待っていたのは、当然の事ながら学園長その人。
 それから美砂の担任である高畑、学年主任の新田。
 他には風紀委員や寮長、指導教員のしずなの十名には満たないがそれなりの人数である。

「さて、これで全員揃ったわけだが、まず張本人の乙姫君に子細を聞こうかの」
「昨晩、東京の駅で2-Aの柿崎美砂を保護しました。終電を過ぎており途方に暮れていた為、近くのビジネスホテルに泊めました。現在は寮に帰り、ルームメイトに謝罪と共にゆっくり休めと伝えてあります」

 美砂が彼氏云々で終電を逃した事や、自分とのっぴきならない関係となった事は当然伝えない。
 普段以上に緊張しているのは、それがあるせいかとむつきは唾を飲み込んだ。

「うむ、終電をのう……」
「学園長、やはり寮生である以上、門限がないと言うのが今回の一番の問題ではないでしょうか。せめて門限があればそれに注意し、逃したとしても帰寮不可能などという今回のような問題は発生しません!」

 ちらりと学園長がとある方向を見た瞬間、間髪入れずその人物が問題を提起した。
 その人とは教師一筋四十年、鬼の新田こと学年主任の新田である。
 やっぱりこの問題が出たかと、むつきは当然のように思っていた。
 麻帆良の数ある寮は、強制ではなく通えない者が入るというスタンスで強制ではない。
 言ってしまえば学園が用意したアパートであり、厳格なルールなど殆どなかった。
 あるとすれば大浴場の利用時間や食堂の利用時間といった、公共の場のルールぐらいだ。

「私も新田先生の意見に賛成です。今回は乙姫先生が偶然居合わせた事で事なきを得ましたが、こんな偶然早々あるとも」
「風紀委員としましても、別に十八時までと厳しい事は言いませんが。せめて二十時など常識的な門限は必要かと」

 寮長に続いて風紀委員の先生も同様の発言を行なった。
 普通に考えたら、寮と名が付き、生徒を預かっている以上その提起は避けられない。
 ただし、条件がと個人的な意見も交え、むつきも手を挙げて発言した。

「基本、僕も新田先生達の意見には賛成ですが、仮に門限を定めるにしてもワンクッションおいていただけないでしょうか」
「ワンクッションとな?」

 新田を含め、学園長もむつきの意見にどういう意味かとその真意を促がしてきた。

「はい、先程も意見のあった通り厳しい門限も問題ですが。現状の無法地帯にいきなりルールを定めれば当然不満も出ます。しかも即座にであれば、当然その原因が何処かと生徒は考え探します」
「確かに、柿崎君が原因と知れたら……うちのクラスはまだしも、ちょっと柿崎君の立場が悪くなりかねないね」
「ええ、ですので一定の期間。もしくは、段階を経て最終的に門限を規定とした方が良いと思います」

 今まで黙っていた高畑が急に食いついた為、若干不審に思ったが真意を汲んでくれてはいたので何も言わなかった。

「確か、今回の柿崎君の件はどこまで広まっていましたかな?」
「彼女のクラスの委員長である雪広さんとルームメイトの椎名さんと釘宮さん。私が把握しているのはそれぐらいで……2-Aの事ですから、何時の間にか全員知っていてもおかしくはないかと」
「うちのクラスですからね」
「僕のクラスだからね」

 異口同音でむつきと高畑が同意し、他の先生もほぼ同意見のようだ。

「分かった。まずはこの件を職員会議に上げて、再度意見を求める事としようかの。当事者の皆も、今一度意見をまとめ発言してくれるとありがたい」

 この時、当然のように張り切ったのは新田であった。

「分かりました。試案を纏めておきます。乙姫君、その時は若い君の意見も聞きたいのだが構わないかね?」
「ええ、もちろんです。一番の当事者ですから」
「うむ、君も休日出勤の上にリフレッシュ中に柿崎君を保護してしまい疲れているだろう。今日はもうあがって休みなさい。試案は明日までに私がまとめておく。学園長、かまいませんね」
「うむ、皆も休日にご苦労じゃった。あと高畑君は少し残ってくれんか。相談、したい事があるからの」

 新田とむつき、学園長と高畑と平とお上の微妙な関係が一瞬見えたようだが。
 一先ずこの件に関しては、もっと公の場で話し合われることとなった。
 むつきも一歩間違えれば生徒間で美砂が槍玉に挙げられるような事態は避けられ、ほっとした。
 そして早速と言うべきか、それでは失礼しますといの一番に学園長室を後にし、美砂との家デートの計画を練り始めた。









 椎名や釘宮、委員長に簡単に謝罪した美砂は、言われた通り午前中一杯はベッドの住人であった。
 自分でも気付かなかったが、本当にまだ軽い興奮状態だったらしい。
 何時もの部屋に戻って直ぐに睡魔に襲われ、同時に股の間にぴりぴりとした痛みを感じた。
 破瓜により血が出たのだから怪我には違いないと、昨晩の情事を思い出す。
 パジャマに着替え、ベッドの上でゴロゴロ転がっていたら釘宮に引かれたりもしたが。
 何時の間にかと言う感じで、意識を手放し寝入ってしまっていた。
 次に起きたのは、携帯のメールの着信音であり、時間を確認すると十一時半であった。
 メールはむつきからであり、ネットの地図が添付されていた。
 起きたら飯を食わずに、添付した地図の場所に来てくれと特に時間指定はなしでだ。

「先生の寮がある方角じゃないよね、絶対」

 メールを受け取って直ぐに、美砂は愛しい人に会う為に準備を始めた。
 上機嫌でシャワーを浴びて身だしなみを整え、服を選び軽くメイクをする。
 昨日は黒のワンピースだったが、家デートを考えごろごろしやすいショートパンツ。
 ただし、まだまだ夕方や夜は寒いので黒のストッキング。
 黒で続いてしまったので上着は白い花柄シャツと、羽織るだけのカーディガン。
 そして忘れちゃいけないと、着替えも選び、チアコスの予備をバッグに詰めた。
 実は最後のが一番難しく、予定もなくテレビを見ていた釘宮の目を避けるのに苦労したものだ。
 そして現在、美砂はメールに添付された地図を片手に、その場所を目指していた。
 学生寮からは少し電車で揺られた先にある森に程近い近い坂道の途中。
 結構遠いかもと、バッグを持つ手に痺れを感じながら行き着いた先は、階段であった。
 山の頂上まで続いているのではと思えるような、長い長いのぼり階段。
 まさかと思い確認の為に電話を掛けてみようとすると、

「おお、グッドタイミングだな美砂。ようこそ、ひかげ荘へ」

 ビニール袋を手にしたむつきがいた。

「昨日というか今日と言うか、お嬢様ちっくな格好も良いが。お前の元気さが一目で見える今の格好も良いな」
「そう、ありがとう先生……じゃなくて、嬉しいけど!」

 褒められて照れ照れと笑ったのも一瞬のこと。

「先生、ひかげ荘ってなに。っていうか、山に続く階段しかないんだけど」
「ここはちょい木の陰に隠れてるが、少し上れば分かるぞ。ほら、荷物持ってやるから」
「やっぱり上るんだ。うぇぇ……」
「まあ、初めてだとそんな感じか。俺は慣れてるからな」

 うな垂れる美砂の手荷物を持ってやり、ついでにその背中を押してやる。
 はなはだテンションダウンした美砂であったが、それもこの階段の向こうにあるものを見上げるまでであった。
 階段の最初の踊り場のように広い場所にでると、その先にある建物が見えた。
 三階、または四階建てに見える木造の旅館のような何か。

「先生、アレ」
「そう、あれがひかげ荘」

 名前とかではなくと、美砂はもどかしくなって自分の足で階段を駆け足で上り始めた。
 百段は楽にありそうなそれを走って登れば、幾ら若い美砂でも息切れは必死だった。
 だがそれ以上に、目の前に見えた建物に心を奪われていたのだ。
 階段を上りきった頃には薄っすら汗をかき、息も上がって真っ直ぐ立てなかった。
 それでもなんとか膝に力を入れて、目の前の巨大な建物を改めて仰ぎ見る。

「うわぁ……」

 麻帆良市の古い西洋のモダンな街とは対照的な、和装木造の旅館。
 年期の入った古さがまた味をだしており、入り口の引き戸から女将が出てきても驚かない。
 本当にコレは何かと振り返ってみると、ゆっくり階段を上ってきたむつきが答えてくれた。

「俺の爺さんが所有してる元旅館、学生寮を経て今は使われていないひかげ荘。爺さんは世界中を飛び回ってるから、俺が管理してるんだよ」
「凄い、凄い。ここなら誰にも気兼ねなんていらないじゃん」
「まあな、街外れだし、山の周辺一帯は爺さんの土地だから誰も来ない。でも驚くのはまだ早いぞ。簡単に案内してやるから、待ってろよ」

 これまた年期の入った古臭い鍵で正面玄関を開けると、少々埃っぽい匂いに迎えられる。
 今は使われていないというだけあって、人の出入りが殆どないからだろう。
 たまには掃除しないとなと苦笑いするむつきに、確かにと美砂は同意するしかない。
 だが多少埃っぽくてもひかげ荘を間近にした興奮は収まらなかった。
 荷物を管理人室らしき、唯一掃除が行き届いた場所に置き、むつきの後に続く。
 元旅館や寮だけあって内部構造は単純で中央の階段を中心線に対象の造りらしい。
 部屋も一部屋一部屋大きな違いはなく、日当りや部屋の位置の高さぐらいということだ。
 木造の軋みを上げる階段を登り、辿り着いたのは一番上の三階部分。
 その一室に連れてこられ、やはりそこも埃っぽかったがむつきの見せたかったものはもちろん別だ。
 三階の窓の先から広がる光景。
 それは山の中腹部分であるこのひかげ荘から一望できる麻帆良の街並みであった。
 ひかげ荘へと歩いてきた最寄りの駅はもちろん、遠くには麻帆良女子中が見えた。
 もちろん、麻帆良市のシンボルともいえる世界樹などばっちりだ。

「わぁ……」
「街並みは夜の方がもっと綺麗だぞ。それから、あっち見てみろ」
「あっち?」 

 むつきが指差したのは眼前に広がる光景の何処かではなく、殆ど真下。
 正面玄関からはずれた旅館の側面。
 高い塀と屋根で見え辛いが、何やら煙が立ち上っているのが見えた。
 ゴミを燃やすような黒い煙ではなく、水蒸気のように白い煙である。

「なにあれ、湯気が見えるけど」
「まあ、普通どの部屋からも覗けない場所にあるからな。温泉だよ、温泉」
「温泉!?」

 まさかそんな物がと美砂が振り返った速度は首が跳んでいきそうな程だった。

「売るほどはねえけど、山のどっかに源泉があるらしい。浄化装置の点検もかねて、午前中に動かしておいたから何時でも入れるぞ」
「入りたい、入りたい。旅館に温泉、二人占めなんて……」

 もはや何処から喜んで良いやらといった様子の美砂であったが、さすがに出来過ぎであった。
 昨晩まで、むつきの事など欠片も知らない美砂であったが、少しは知っていた。
 正直社会科の授業が面白くなかったり、女生徒に人気というわけでもなく。
 まあ年齢が割合近いため、気安い態度をとられてはいたが。
 舐められているのではという疑いが、紙一重ともいえた。
 彼女がいたという話は聞いた事がない、下世話な話だがこれ程までに物持ちなのにだ。
 女の視点から見て、こんな良い物件はそうそうないと思えた。

「先生、二つ質問。正直、先生って玉の輿? なんで彼女いなかったの? それとひかげ荘って、暗そう。ひなた荘の方が良いんじゃない?」
「こんな宝物、おいそれと親しくもねえ奴に教えねえよ。ダチでもほんの数人しか知らねえ。教えたら二度と温泉に入れたり、無料で泊めさせないって口止めしてる」

 つまり、それ程までに美砂に入れ込んでいるという事でもある。
 美砂としては今の自分が彼女なので、いなかった理由はどうでも良くなった。
 玉の輿は嬉しいが、順番的に本人を好きになったのが先なのでそこまで感情を左右するものでもない。
 ただ、ひかげ荘という暗い名前だけはなんとも気になるものである。

「名前は正直、爺さんの恥部になるんだが。昔から爺さん、幼馴染だった婆さんにぞっこんで、世界中飛び回っているその人の尻を未だに追いかけてるんだわ」
「一途って言っていいのかな?」
「ストーカーのレベルだよアレは。ただ、爺さん意地っ張りで九十近いのに未だに素直じゃなくてな。その婆さんがひなた荘って旅館を持ってて、俺の方が凄いとか幼稚園児並みの事を言い出して」
「このひかげ荘を作ったと……会いたいような、会いたくないような」

 情熱は認めるがいささか粘着質だと、しかも捻くれ屋でと笑うしかない。
 確かにそれは恥部だが、温泉等々恩恵に預かる身としては頭が下がる思いである。
 例え本人の恋が成就せずとも、孫の恋が上々であれば本望だろう。
 甚だ、美砂の勝手な思いではあるのだが。

「まあ、その辺は飯でも食いながら話してやるよ。俺は結構、お前の事を知ってるつもりだが。お前、俺の事殆ど知らねえだろ?」
「だって、昨晩まで本当にただの先生だったんだったし。あ、でも一つ知ってる」
「ん、生徒に知られるようなまともな情報なんてないと思うが」

 一定の距離は取ってたつもりというむつきに、悪戯っぽく笑った美砂が囁いた。

「生徒にチアコスさせてエッチしようとする変態」
「変態は認めるが、訂正しろ。美砂にチアコスさせた上でエッチしたいんだ」
「ちゃんと持ってきたけど、お預け。家デートが先、それも私をちゃんと満足させたら。持ってたビニール袋ってなんなの?」

 この俺にぬかりはないとばかりに、両腕を組んで誇らしげにむつきが答えた。

「お好み焼きの材料。用意が簡単だから、イチャつきながら準備ができる。作るのが簡単だからイチャつきながら作れる。食べるのが、以下略。どうだ?」
「うん、良い。そういうのがしたかった。先生、早く準備。もうお昼過ぎてるし、おなかぺこぺこ。美味しいの一杯食べたら、シェイプアップも兼ねてチアコスで踊っちゃう、先生の上で」
「くそ、可愛いな俺の彼女はこの野郎。ついてこい、美味しい奴を食わせてやる」
「あー、美味しいの食べさせて一杯踊らせる気だ。やーらしー」

 片腕に美砂を抱きつかせ、はやくもイチャつきながら二人は管理人室に舞い戻る。
 布団のないコタツテーブルの上に置かれたビニール袋が待っていた。
 早速駆け寄った美砂が、材料を確認するように一つ一つ取り出していく。
 どうやら、普段使っていないだけあって食器の類もないようで紙皿と割り箸さえ入っている。

「先生、これからここ頻繁に使おうよ。私、色々持ってくるから。毎回、紙のお皿とかなんだか風情がない」
「風情って、まあ言いたい事はわかるが。ああ、なんなら好きな部屋一個自分の部屋にしていいぞ。どうせ誰も使ってないし。掃除は必要だが」
「んー、凄い魅力的だけど先生はこの部屋なんでしょ?」
「土地の権利書とか、大事な資料とかもあるからな」

 他の部屋は、あって歴史と埃ぐらいのもので空っぽだが管理人室は違う。
 憧れの婆さんに対抗して作った寮だが、それなりに爺さんの思い出も詰まっている。
 当時の学生の写真など、勝手に物を捨てるなとはきつく言いつかっていた。

「だったら、この部屋が良い。もしくは、隣? 折角の家デートで別の部屋とか意味わかんない」

 キャベツに紅しょうがと材料を歌うように取り出しながら、美砂がそう言った。
 欲のないといえるのか、欲に正直なのか。
 美砂がそれで良いならと、むつきも特に何も言わずに材料や食器類、ペットボトルなどをより分ける。
 そしてふと、ビニール袋が空になったわけでもなく、美砂の手がとまった。
 頬を少々赤くし、しょうがないなと照れ笑いながらそれを取り出した。

「コンドーム、もう普通食べ物と一緒に入れるかな。しかも十箱、先生やる気出し過ぎ」

 体持つかなと美砂も嫌がった様子はない。
 むしろ初めてみるコンドームに対し、どうやって使うのかと興味深々である。

「どんな絶倫だ、俺は。買い置き用や持ち運び用を含んでんだよ。考えても見ろ、盛り上がったときにゴムがなかったら買いに行くのに十分や十五分で戻ってこれないぞ」
「あの階段もあるし、辺鄙なのが珠に傷かあ」
「昨日は酔った勢いで生でしたが、もうしないぞ。きちんとした避妊は、お前を守る事にも繋がるんだ。好きだからこそ、つけるもんだ」

 本音の本音は生で好きなだけ中だししたいが、それではただのクズである。
 生徒に手を出したクズ教師ではあるが、人間としてそこまで落ちる気はない。
 決意を込めて呟くと、突然美砂が立ち上がってとことこ近付いてきた。
 むつきの前でクルリと回転して背を向けると、胡坐の上に座り込んでくる。
 猫のように丸くなりながら、赤い顔をコンドームの箱で隠しながらむつきを見上げて呟く。

「昨日の今日だからあまり遅くまではいられないけど、一杯これ使おうね」
「俺を悶え殺す気か。腹ごしらえが先、空腹じゃ一回で限界だぞ」
「美味しいお好み焼きたべて、頑張ろう先生。一杯先生の上で可愛く踊るから」
「既に家デートの目的が変わっている件について。望むところだが、食うのが先。じゃねえと、先にお前から食っちまうぞ、この野郎」

 かばりと覆いかぶさろうとすると、嬉しそうに悲鳴を上げながら美砂が逃げだした。
 ご飯とイチャつくのが先とばかりに、材料の選別に戻る。
 むつきも異論はないようで、ホットプレートを出したり粉溶き用の水を持ってきたり。
 たった二人だがわいわいとはしゃぎながらお好み焼きを作り始めた。









-後書き-
ども、えなりんです。
arcadiaが落ちていた間の分は一斉更新です。
後書きは八話で。



[36639] 第四話 L・O・V・E、大好き先生
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 20:44
第四話 L・O・V・E、大好き先生

 時刻は午後二時の春の風が温かな昼真っ盛り。
 もう食べられないとばかりに、美砂は畳の上に仰向けに寝転がる。
 最後にはお好み焼きを三枚も完食してしまい、自分でも驚く程の食欲であった。
 ただ直ぐに寝転がるのもはしたないと起き上がろうとするが、お腹が重くて動けない。
 無理に腹筋に力を入れると、戻してしまいそうでもある。

「うぅ……先生、動けない。助けて」
「まあ、こうなるんじゃないかと薄々感じてはいたが」

 むつきの方は、少々余裕を残しての三枚完食で、最後の一口を放り込む。
 一先ず、ホットプレートの電源を切り、最後の一枚を紙皿の上に退避。
 これは後で小腹が空いた時用にと残し、一先ず昼食は完了させる。
 それから自分の直ぐ左手で袖を引っ張ってくる美砂へと手を伸ばした。
 小さく四角いコタツテーブルで隣あっていたので、本当にすぐそこであった。

「あっ、先生……まだちょっと待って」
「なんもしねえよ。まだ、の一言が付くけどな」

 そこはダメとシャツの裾を押さえる手をすり抜け、むつきが手を滑り込ませた。
 薄い花柄のシャツを潜り、少し膨らんだ感じの美砂のお腹を撫でてやる。
 最初は恥ずかしがっていた美砂も、張ったお腹を撫でられ気持ち良さそうに丸くなった。
 それだけに飽きたらず、頭をみつきの膝の上に乗せようともぞもぞ動く。

「こら、動くな。猫かお前は、撫でにくいだろ」
「にゃん?」

 美砂がむつきを見上げ、作った猫手を顔にまで持ち上げそんな一言を呟いた。
 反射的に、まるで目の前の女性のスカートが捲れ上がり中を見てしまったかのように顔を背ける。
 ふるふると震えており、ぎこちない口元を隠すように手で押さえてもいた。
 指の隙間からは、はっきりとむつきがニヤついているのが見て取れる。

「にゃ~ん、にゃ?」
「待て、やめ……」

 むつきの反応に気を良くした美砂が、太ももに頬ずりしながら続ける。
 一旦離れさせようとする力も、手が震えていてかなり弱い。
 猫手のままむつきの体をよじ登るようにし、ペロリと頬を舐めた。

「ああ、くそ。可愛過ぎるぞ、この野郎。魔女か!」
「きゃッ!?」

 美砂が素に戻るような悲鳴を上げる程に、むつきは我慢できずに抱き寄せた。
 胡坐をかいていた自分の上に座らせ、抑え切れない気持ちのまま締め付けるように抱きしめる。
 顔に触れる美砂の深い紫の髪がくすぐったいが、それだけ甘い匂いが感じられた。
 使っているシャンプーの匂いか、それとも美砂そのものか。
 それを確かめるように美砂の首筋に鼻を埋めるように、深く深呼吸をする。
 似てはいるが髪とはまた別種の甘さ、ただしくどさはなく何処までも爽やかで。
 ただ、少し酸味のあるこれはと舌で舐めると、かすかな塩味、汗だった。
 あの階段を登ってきた上に、食後という事もあって体温も上がっているせいだろう。

「せ、先生……痛い」
「あっ、悪い」

 切実な訴えを耳にし、慌てて力を緩める。
 腕の中の美砂は猫の真似をしていた時とは一転して、少し強張ってさえいた。

「ごめん」
「優しくギュってしてくれたら許してあげる」

 言葉通り、加減して優しく抱きしめなおす。
 顔の強張りも直ぐにほぐれたように、美砂が力を抜いて体を預けてくる。
 お互い既に一線を越えているとはいえ、美砂はまだまだ初心なのだ。
 あまり強引に求めすぎると、男の力強さに恐怖を感じても仕方がない。
 これは反省しないとと、幼子をあやすように髪を梳いて撫でつけつけた。

「んっ、なんか子ども扱いされてる気がする。キス、して先生」

 ただそれはそれで不満を抱かれたらしく、瞳を閉じて唇を突き出してきた。
 この年頃は難しいなと苦笑いしつつ、言われるままに唇を落とす。
 それだけでは満足、もしくは子ども扱いされた気分を払拭できなかったようだ。
 美砂の方から少し唇を開かせ、大人のキスをせがんでむつきの唇を突いてきた。
 断る事などまずありえない。
 その舌を受け入れからめとると、流れ落ちるむつきの唾液を美砂が喉を鳴らして飲み込む。
 肌と肌以上の、口内同士の接触。
 体液の交換とも言えるキスを鼻で必死に呼吸しながら続けた。
 それが終わるのは、完全に息切れし、酸欠にも近い状態になってからであった。

「はぁ……もう、無理。先生の唇、ソースとお好み焼きの味」
「お互いにな。腹八分目だったが、残りの二分を埋められちまった」

 とろんとした潤んだ瞳で、小さく馬鹿と呟き、むつきの胸板に額をぐりぐり擦り付けてきた。
 しばらくしたいようにさせてやると、何かに気付いたように膝の上から降りていく。
 といっても、むつきの隣に小さくちょこんと座っただけだが。
 その表情は満足したというよりも、赤味を増して照れているようにも見えた。

「先生、おっきくなってる」

 ちらちらと、視線をむつきのズボンに向けては背けている。

「さすがにな。あんな可愛い姿を見せられて、キスまでしたんだ。こればっかりは……」
「じゃあ、する?」

 小首を傾げながら上目遣いにそんな提案をされ、今再び理性が振り切れそうになったが。

「その前に、片付けと歯磨きしようぜ。もう当分、お好みソースは食いたくない」
「うっ、口周りべとべと」

 むつきの指摘に、ハッと気付いた美砂が口周りをハンカチで慌てて拭いていた。
 ただし、お互いの唾液だけならまだしも、お好みソース交じりである。
 強めに拭っても、拭いきれた感はまったくない。
 拭う事は諦めつつ、それでも観られたくないとハンカチで口元を隠したままである。

「俺が片付けとくから、顔洗ってこいよ。洗面所はあっち。ビニール袋に歯ブラシと歯磨き粉もあったろ。持ってけ」
「そうさせてもらう。後で一杯サービスするから」

 直ぐそばにあったビニール袋を手掴み、逃げるように美砂は洗面所へと向かった。
 それから直ぐに、もう少し待ってろと股間を一度叩いてからむつきも腰を上げた。
 汚れたホットプレートの上に使用済みの髪皿等々を積み上げ、一気に炊事場へと持っていった。









 簡単に片づけを終え、一度美砂と入れ替わるように洗面所で歯を磨いたのだが。
 管理人室に戻ってきても、美砂の姿は何処にも見えなかった。
 バッグもなくなっており、まだ何か女の子としての身だしなみを整えているのか。
 ただそれも十五分を過ぎた頃になると、少しばかり不安になってきた。
 襲われたのが怖くてまさか帰ったのかと、みつきがそわそわし始めた頃であった。

「先生」

 美砂の声に振り返ってみれば、閉じられた襖の向こうからである。
 少々戸惑ってしまうぐらい、テンションを上げた声であった。

「じゃーん!」

 華々しく開けられた襖の向こうから現れたのは、チアコス姿の美砂であった。
 オレンジ色のウェアに同色のミニのフレアスカート、足元は白のハイソックス。
 手には淡い黄色のぽんぽんを当然の様に装備し、ふりふりふられている。
 一瞬、おおっと美砂と同じようにテンションが上がろうとはしたのだが、心の何処かにブレーキが掛かってしまう。
 むつきが故意に踏んだわけではなく、自動のエンジンブレーキだ。

「背景と甚だミスマッチだな」
「言わないで、それが気になってたからテンションあげあげで着たのに!」

 ひかげ荘の木造旅館のような雰囲気に、チアコス姿の美砂が激しく浮いている。
 本人も自覚していたからこそ、急にハイテンションにして現れたらしい。

「そんな事を言うなら、着替える」
「わっ、ちょっと待て美砂。似合ってる、可愛い。世界で一番可愛い!」

 ぷいっとそっぽを向き、着替えに戻ろうとした美砂を立ち上がって追いかけ止める。
 機嫌を直してと、必死に、それはもう必死に引き止めた。
 腕を掴んで抱き寄せ、逃がすかと足で襖を閉める。
 それから後ろから包み込むように抱きしめ、これでもかと褒めちぎった。
 実際、むつきにとって美砂が世界で一番可愛いと思っているので嘘はないが。

「世界で一番?」
「一番」
「クレオパトラより?」
「何故クレオ……知らねえけど。よりより」

 世界三大美人よりと言われ、よく分からないが機嫌は直ったらしい。

「よろしい、信じてあげる」

 機嫌を表すようにぽんぽんをしゃんしゃん振りながら、美砂がお尻を左右に振る。
 後ろから抱きしめているむつきの股間を、お尻で刺激するように。
 思わず腰が引けそうになったむつきは気付いた。
 ぽんぽんと一緒に小さく飛び跳ねる美砂の胸が、やけに弾んでいる事に。
 スポーツブラをつけているとばかり思ったが違う。
 薄いウェアの無防備な隙間から見えたのは、束縛から解放された胸であった。
 肩の上から覗き込むようにすると、辛うじて先端のぽっちも見えた。

「頑張れ頑張れ、先生」

 少し振り返り謎の応援を始めた美砂の流し目が言っていた。
 頑張って手を伸ばして摘んでねと。

「天才か!」

 もうこの二日で何度そう思った事か。
 飛び跳ねる美砂のウェアの隙間に手を滑り込ませ、美砂と一緒に飛び跳ねる胸を追う。
 頑張れと続く応援に答えようとするも、意外と難しい。
 胸そのものはある程度簡単につかめるが、乳首となると目標が小さすぎた。
 こっちかと手を伸ばしても、指の隙間をくぐり抜けかするのが精一杯。

「んっ、先生惜しい。もうちょっと、頑張って」

 その度に美砂が艶かしい声と共に応援してくれるがらちがあかない。
 美砂が用意したこのゲームは、言わば美砂の領域。
 言われるままでは相手の手の平の上、意外と言われる行動でまず主導権を奪う。
 この状況の唯一の利点、それは背後をとっている事だ。

「ひゃっ!」

 まず美砂の揺れる耳、飛び跳ねてはいても上下運動の少ないそれをあまく噛んだ。
 やはり予想もしていなかったとニヤリと悪い笑みを浮かべ、片乳首をゲット。

「先生、それズルぅ」
「俺のルールブックにあるのはただ一つ、ルール無用。それだけだ!」

 なんだか漫画の悪役のような言葉が自然と飛び出してしまったが。
 片方の乳首は掴み損ねたが、もはや美砂は飛び跳ねる事も中断していた。
 体を縮こまらせ、ポンポンも体の震えにあわせて揺れているのみ。
 舌で耳の輪郭をなぞり、耳たぶを噛みながらねぶっている間に人指し指と中指で挟みこむ。
 こねこねと両方の乳首を転がしてやると、美砂の足に力が入らなくなってきていた。

「勝ち、先生の勝ちでいいから。あんまり……んぁ、ぁぅ」
「賞品は?」
「賞ひ……ひぅ、考えて、なかんんっ」

 ゲームを仕掛けておいて賞品がなしとはけしからんと少し力を込めて摘む。

「じゃあ、このまま立ちバックで一回」
「でも、まだそんなに濡れて、ゴムもぁん」
「少しは濡れてるなら素股、でいいだろ?」

 美砂が震えながら頷いたので、また後でと乳首を弾いてからスカートに手を伸ばす。
 スカートをたくし上げると、白いアンスコがお尻を包み込んでいた。
 さすがにノーパンは恥ずかしかったのか、寧ろご褒美ですと撫で回す。

「先生、支えて貰ってないと辛い」
「そっちの壁に手をついてみろ、痛くないか?」
「うん、ぽんぽんがクッションになるから」

 なら遠慮なくと、腰を突き出し張り付くようにフィットしているアンスコを指先で横にずらす。
 同時にズボンのベルトを外し、トランクスの中から取り出したそれを隙間に差し込んだ。
 ぷっくり膨れた性器の谷間から小さな甘露が膨れていたのを、一物で潰し伸ばす。
 ぴったり腰を押し付けると、ずらしたアンスコが少し戻り美砂の尻と一物を纏めて包み込んでくれる。
 竿の上部と下部でそれぞれ異なる滑らかさで、不思議な感覚でもあった。

「熱い、それに変な感じ。アンスコの中にあるから、私から生えてるみたい」

 美砂のふたなり発言に刺激されるように、ぐっとさらにむつきが腰を押し付けた。
 押し出されるように弓なりとなろうとする美砂の体に手を伸ばす。
 今度はウェアの上から胸を軽く掴んで乳首を浮かせ、指先で弾いたり転がした。
 目的は美砂を苛めるというより、支える為だ。
 壁に手を付いているとはいえ、何時崩れ落ちてもおかしくない状況はこわい。

「美砂、いくぞ」
「中で一杯だしていいよ、先生」

 ゴムあり前提では、決して聞けないはずの中だし許可である。
 実際はアンスコの中にという意味が含まれるが、それでも十分であった。
 美砂のまだ未発達な割れ目をなぞるように腰を引き、打ち付けた。
 ビジネスホテルでの初夜では辛うじて回りに気を使っていたが、ここなら遠慮はいらない。
 泣こうが叫ぼうが誰も来ない、もちろん美砂にそんな事はしないが。
 あえて美砂にエロイ事をしている事を教えるように、パンッと音を立てさせた。

「ぁっ」

 狙い通り意味が通じたようで、カァッと少々火照っていた程度の首筋が真っ赤に染まる。

「美砂の中、凄く温かくて気持ち良い」
「ん~~~ッ!」

 先程のお返しだとばかりに、腰を打ちつけながら耳元で囁く。
 羞恥を煽られ、口を堅く噤んだまま美砂が頭を振っていた。
 だが体は正直なもので、とろとろと愛液が最初の甘露など比べものにならない程に流れ出している。
 むつきの先走り汁など、瞬く間に飲み込まれてしまう。
 尻に腰を打ちつける音に加え、竿でわざとにちゃにちゃとこねる様に音を鳴らす。
 ただ羞恥を覚えるたびに美砂の体から力が抜けてしまっていた。
 壁についた手はずりずりとさがっており、余り長持ちはし無さそうだ。
 素股とゴムありだが美砂の本当の意味での中とでどちらが良いか。
 ちょいと早いがと少しだけ自分の快楽を優先させ、アンスコの中を汚していく。

「美砂、出すぞ。お前の中に」
「だ、出して……」

 少しは開き直ったか、持ち直したのか美砂が答えてきた。

「先生の赤ちゃん、妊娠しちゃうぐらい。濃いの一杯」
「おま」

 開き直るどころか、俺の上をいくかと仰天発言に理性が少し振り切れた。
 本番かと見紛う程に、それこそ妊娠させてやるとばかりに腰を激しく打ちつける。
 当然素股なのでそんな事はないが、もはやそんな事は関係ない。
 むしろ美砂が履いているアンスコが子宮なのだとばかりに。

「出すぞ、美砂の中に。妊娠するぐらいの元気な奴を」
「いいよ、生んっであげる。先生の赤ちゃん、元気な赤ちゃん。あっ、ぁ……」
「ああ、くそ。出る、孕め美砂!」

 最後の一突きでコレでもかと腰を密着させ、種を生みつける。
 美砂の中、性器とアンスコの間にどろり濃厚なそれを。

「んっん……あはっ、一杯出てる。先生のも温かい」

 出すたびに小さくお尻を突かれ、幸せそうに美砂が受け入れる。
 最後の一滴まで搾り取るようにお尻を振り、さらなるむつきの射精を促がす。
 だが最初が激しい濁流なだけに、そう長くは続かなかった。
 むつきが腰砕けに座り込むのと同時に、美砂も引っ張られるようにその膝の上に着地する。
 そしてぜえぜえと息を切らせるむつきに振り返り、満面の笑みで美砂が言った。

「私の逆転勝利?」
「完全勝利だこの野郎、なんつー台詞を。一応確認しとくが、プレイの一環だよな?」
「当たり前でしょ。私まだまだ学生でいたいもん。遊び足りないし、先生と二人きりでイチャイチャしたり、エッチしたり。もうちょっと先の事」

 言葉尻を掴まえれば、何時か生んであげるともとれる言葉であった。

「先生、本当に一杯出したんだ。こんなに私に赤ちゃん産ませたかったなんて、もう変態なんだか、ら……」

 言葉とは裏腹に頬に手をあて喜んでいた様子の美砂の言葉が、ふいに途切れる。
 それも当然の事だろう。
 まだアンスコの中にあったむつきのそれが、力を取り戻しつつあったのだから。
 美砂も嫌ではないので、元気でよろしいとアンスコの中のそれを一指し指で突いた。
 それと同時に、むつきが抱きしめてきて、囁き問いかける。

「美砂、お前の中に入りたい」
「うん、いいよ。でもその前に、ゴムかして付けてあげる」

 抱きしめてきたむつきの腕に触れながら、美砂が頷いた。
 そして何処に片付けたのと聞こうとしたが、即座にそれが差し出される。
 数時間前に見た覚えのあるコンドームのパッケージの箱であった。
 むつきが半脱ぎのズボンの尻のポケットから、それを取り出したのである。
 準備がよろしい事でと、ちょっと半笑いになった美砂であった。

「付け方はわかるか? それと爪は切ってるか?」
「描いてあるかと思ったんだけど……ない、教えて先生。爪は、伸ばし中」
「ならダメだ。教えてはやるが、今度から爪切っとけ。最近のは薄いのが多いから、迂闊に傷つけると簡単に破れるからな」
「えー……」

 膨れてもダメと言って、美砂の手からコンドームのパッケージを取り上げる。
 一度美砂を正面に座らせ、いざやるとなると微妙だと思いながら教え始めた。
 教育に良いのか、悪いのか分からない内容を教師らしく。
 二度目以降はまず精子を拭い、それから箱を開けてコンドームを一枚取り出す。

「汚れてちゃダメなの?」
「汚れ……まあ、いいけど。現実は何が起こるかわからないからな、破れたり、脱げたり。本当は一度風呂に入るのが一番良いんだけど」

 昨晩はゴムがなかったのでしてしまったが、先走りにも精子はある事をちゃんと教えておく。
 知っていた方が、仮にゴムがない場合も生でする事を躊躇うようになるだろう。

「それで、こうパッパッパっと」
「ああ、なんで途中からはぶくの。早い、わかんなかった!」
「次、三回目の時はもう少しゆっくり教えてやるよ。ぶっちゃけ、美砂に視姦されて我慢の限界です」

 本当のところは、着ける所を見られるのが恥ずかしかっただけなのだが。
 チラリと、コンドームを装着したソレを見て、納得してくれたらしい。
 室内だというのに風でも吹いているかのように震えるように揺れているのだ。
 美砂に見られまたピクリと反応したのを見て、これ以上のお預けは可哀想とでも思ったのだろう。
 近くに置いてあったぽんぽんを手に持ち直し、むつきの体を軽く押してきた。

「じゃあ、応援の続き。約束通り、先生の上で踊ってあげる。美味しいお好み焼き、一杯食べさせてくれたし」

 抵抗なく倒れたむつきの上に跨ってきた。
 ゴムの上から刺激するように、愛液流れる割れ目で一物を押し倒しながら。

「それぐらいはお安い御用だ。でも多分それお前が思っているよりレベル高いぞ」
「それぐらいできるって。まず、ちゃんとゴムを濡らして」

 言い張るならと、とりあえずむつきは美砂のしたいようにさせる事にした。
 腰を一物の上で前後に動かし、自分の愛液をぬりつけ始める。
 もはやソレは意地なのか。
 敏感に感じて止まりそうになりながらも、ぽんぽんとしゃんしゃんと振っていた。
 むらむらと下から突き上げたくなる衝動に駆られながら、我慢する。

「はぅぁ、濡れたかな? んしょ、それで入れるん、あれ?」

 何処にどう入れようとしているのか、竿の裏筋にこすり付けているだけでやっている事が変わらない。
 手を使おうにもぽんぽんを手にしていて使えず、気持ちよくなって力が入らない様子だ。
 困り顔は、自分だけ気持ちよくなってしまった罪悪感からだろうか。
 しばらく頑張ってはいたが、最後にはぺたりとむつきの胸板の上に倒れこんできた。

「先生ぇ、手伝って……」
「おう、少しずつ覚えていこうな。支えててやるから、入れてみな」
「うん」

 むつきが手で竿を垂直に立たせ、美砂が下半身で場所を探りながらゆっくりと腰を落としていく。
 指でちゃんとほぐしていないので、まだまだ初期抵抗は高い。
 だがそれでも着実に、ゆっくりとだが美砂が自分の中にむつきのそれを埋めていった。
 徐々に徐々に、そして根元まで埋めきるとふるりと体を震わせ倒れこんできた。

「先生、全部入ったよ。まだ、ちょっと立てないけど」
「よく頑張ったな。痛くないか? 本当は指でほぐしたりしてからの方が良いんだが」
「ちょっとピリピリするけど平気、あとゴムのせいかな。ちょと違和感。でも指でって事は、先生に中まで見られちゃう。それは、ちょっとまだ恥ずかしい」
「まあな、俺も美砂にまじまじと見られたら、恥ずかしかったからな。今度、頑張ろうな」

 撫でられうんと頷いた美砂が、唇へと吸い付いてきた。
 ついばむ様にキスを繰り返し満足してから、腕に力を込めて体を起こしていく。
 何度かへたり込みそうになりながら、自分の中にあるむつきの竿を軸に立ち上がる。

「んっ、奥がごりごりする。けど、フレフレッ先生。頑張れ頑張れ先生。わーぁッ」

 約束通り、本当にそれを守ろうとむつきの上で美砂が応援を始めた。
 さすがに上半身だけではポーズの数にもバリエーションは少ないのだが。
 ぽんぽんを動かししゃんしゃんと慣らしながら、一生懸命膝を使って飛び跳ねる。
 その度に妊娠しようと降りてくる子宮口を叩かれ、へたり込みそうになれば膣を締めてむつきの竿を掴み耐えていた。
 そんな姿がいじらしいやら可愛いやらで、むつきの竿も硬度を増していく。

「んっ、凄い……どんどん硬くて大きく。私の応援で、嬉しい。L・O・V・E、大好き先生」

 もうむつきも、見ているだけでは耐えられそうになかった。
 これで頑張りたくないなんて言う奴は不能である。
 美砂の為に頑張りたい、最終的に赤いものが何か出てもヤリ遂げたい。

「頑張んっ、先生突いちゃだめ。応援、できない。あんっ」
「十分だ、未だかつてない程に俺はエネルギッシュ。美砂の応援で最強だ、もう無理って言うまでイかせてやる」
「駄目、耐え……られぁぅ」

 畳の上で腰が少々痛むが構ってなどいられない。
 美砂を突き上げる、美砂を打ち上げる。
 もっと美砂の奥まで、教師として自分の形を覚えさせようと抉りあげた。
 怒涛の突き上げに、応援の声は途切れ、耐え切れないように再び美砂がむつきの胸に倒れこむ。
 瞳は完全に快楽の虜ではあったが、それでも手だけは僅かにぽんぽんを動かしている。
 いや、それだけではなく、むつきに耳を澄ます余裕があったら聞こえたはずだ。

「んっ、んっぁ……せん、れ。あんっ、ぁぁ。フレぅ」

 突き上げに耐え切れずにいるにも関わらず、まだ応援しようとする声が。
 聞こえたのか、ただの偶然か。
 その声を直接貰おうとばかりに、むつきが首を曲げて唇を奪った。
 後に残ったのは、むつきが突き上げ肌がぶつかる音、愛液が空気と混ざり合う卑猥な水音。
 最後に二人の代わりに心音を流すように時を刻む時計のみであった。

「美砂、気持ち良いか。何処が良い? 教えてくれ、お前が気持ちよくなれる場所」
「そんっ、なこと。恥かしぃ」
「なら、探すぞ。ここか、こうか?」

 美砂の喘ぎ声を頼りに、むつきが突き上げに変化を加え始めた。
 突き上げられ着地してきた美砂の体に対し、石臼を回すように腰を回す。
 強かに打ちつけられた子宮の口をこじ開けるように亀頭をこすりつける。
 はたまた小刻みにとある一点、恥骨の近くにあるGスポットを探したりもした。
 そして見つけた。
 そこを突いた瞬間、美砂の膣の中が収縮し、一際大きく艶やかな声をあげたのだ。

「あっ、駄目そこ。先生駄目、凄いのぁぅ、凄いの来る」
「躊躇うな、イケ。美砂、大丈夫俺が抱きしめてる」
「来る、来ちゃう。昨日よりもっと、せんせぇッ!」
「美砂!」

 次の瞬間、美砂の体が一際大きくはね感電したかのように弓なりになった。
 むつきもこむらがえりを興したように足を伸ばし、一物が爆発したかのように感じた。
 美砂の中ではなく、ゴムの中に何度も射精し少しずつ意識を取り戻していく。
 一旦美砂を隣に横たえ、ずるりと一物を抜いてゴムを脱いで口を結ぶ。
 たぷたぷと、一度目より多いのではと思うような量が吐き出されていた。
 直ぐに美砂がその事について小生意気な事を言うかと思ったが、突込みがない。
 はてと思って隣にいる美砂を見ると、ぐったりと横たわったままであった。

「美砂、もしかして気を……」

 少し慌てて頬を叩くと、うめき声が上がったので気を失っているらしい。
 どうしても興奮すると激しくし過ぎると、再びの反省である。
 昨日まで処女だった相手にGスポットを責めるなどやり過ぎだ。
 俺の自尊心しっかりしろと叱咤していると、妙な音が聞こえてきた。
 蛇口の水を閉め忘れたような、水が流れ落ちるようなかすかな音である。
 何処からか知ったのは、香ってはいけないその匂いを嗅いでしまった事からだ。

「美ッ!?」

 大声を上げそうになった口を慌てて閉じ合わせる。
 気絶しているからこそ、まだ大丈夫。
 この状態で起きたら泣く、絶対に泣き喚いて許してくれなくなる。
 挙句もう嫌だの別れるなどと言われたら、人生の終わりだ。
 黄色く温かなその液体は美砂の下腹部からこんこんと流れ出していた。

「起きるなよ、絶対起きるなよ。振りじゃねえから」

 そう気を失った美砂に無駄と思いながら言いつけつつ、むつきは足音を忍ばせ走った。
 普通のタオルでは足りないと、確かどこかにあったはずとバスタオルを取りにだ。
 美砂が起きるまでの時間との勝負。
 結果、その努力は報われどうにか嫌われる事だけは避けられたのだが。
 証拠隠滅の為に、勝手に全裸に脱がした事についてだけは激しく糾弾された。
 罰としてエッチは切り上げ、甘いスイーツを買いに走らされたりと自業自得とはいえ散々であった。








-後書き-
チアコス、それを着ないなんてとんでもない。



[36639] 第五話 まあ、自分で選んだ事だからな
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 20:35
第五話 まあ、自分で選んだ事だからな

 月曜の朝礼では早速、緊急の職員会議が新田の口から発表された。
 議題は当然、無法地帯となっている寮の門限についてであった。
 詳しい事はその場にてと安易な情報の拡散は避けられ、後は普段通りである。
 今週の各種イベントの確認や、各自の特別な予定、出張日の確認。
 高畑は当然のように出張で薄板こそ出張の札が張ってあったが、今さら確認はされなかった。

「それから今日は体育の小宮山先生が親戚筋に不幸があり欠席です。各自、担当クラスの体育の監督をお願いします。スケジュールに空きがなければこの場で代役を募るが」

 そう言えばと、むつきは小宮山という名に反して体の大きな先生を探した。
 当たり前だが欠席と教えられたのでいるわけがなかった。
 確か2-Aは月曜の五限目に体育があったはずだが、むつきもその時間帯は授業はない。
 数人の先生が空きがないと申告し、代役を勤められそうな先生が手を挙げる。
 新田がそれら先生を見事に采配して瞬く間にスケジュールを埋め合わせていく。
 三年目とはいえ、まだまだ若輩のむつきには到底不可能な辣腕ぶりであった。
 全ての確認が終わると、解散となるが直前に新田と目が合い引きとめられた。

「乙姫君、昼までにこれに一通り目を通して意見をくれないか。職員会議で使う資料の草案だ」
「あっ……」
「ふむ、その様子だと。日曜の朝に私が頼んだコレの事を忘れていたようだね。しっかりせんといかんぞ」
「すみません、意外と疲れてたようで……これ、結構厚いですけど。新田先生まさか昨日」

 何も言わず微笑を浮かべてむつきの肩を二、三度叩いて新田がすれ違っていく。
 美砂とのデートで頭が一杯で約束一つ忘れていたむつきとは違う。
 いつか、ああなれるのかねと疑問に思いながら、資料を自分のデスクの中に厳重にしまった。
 草案とは言え、あまり生徒に見られて良いものではないので鍵付きの引き出しにだ。
 それから一限目で使う教科書と資料を手早くまとめ、2-Aへと向かう。
 教師の朝礼の後は、生徒の朝礼だ。
 時刻は八時半の少し前で、騒がしい教室は幾つもあるが、廊下にいる生徒はいない。
 少し騒がしいぐらい構わないが、とある教室へと向かうにつれ特別騒がしい声が響いてきた。

「あいつら、相変わらず元気だな」

 何時もはその騒ぎを聞くだけでげんなりするが、今日は違う。
 美砂にたくさん応援してもらったし、あのクラスに美砂がいるのだ。
 彼女同伴で仕事ができるって何そのホワイト企業と思わざるを得ない。
 反面、気軽に触れるどころか大っぴらに声もかけられないジレンマも存在するが。
 格好良いところを見せる為に、窓を鏡代わりにネクタイを締めなおし背筋を伸ばす。
 いざ、突撃と扉を開ける。

「おはよう。ほら、お前ら席につけ」
「なんで」
「高畑先生は例によって出張中、神楽坂席に着け」

 先に言葉を封じるように立ち上がってなんでアンタがと言いたそうな神楽坂を座らせる。
 高畑に惚れているともっぱらの噂、というか事実だが。
 オジコンの神楽坂には、アンタがいるからと理不尽に嫌われていたりする。
 当初はそれはもう、その理不尽さに泣いたものであった。

(まあ、今は……)

 しぶしぶ席についた神楽坂の左隣、むつきから行って席を一つ右に視線をずらす。
 残念でしたと落ち込んだ明日菜をからかっている美砂がいた。
 神楽坂一人どころか、他の生徒全員に嫌われても平気とさえ思える。
 実際そうなったら、ちょっと凹むかもしれないが。

「今週の火曜、まあ明日なんだが」
「センセー、週末は竜宮城にいってたんですか?」
「ちょっとお姉ちゃん、先生が喋ってる途中」

 早速名前をからかってきたのは、鳴滝風香、止めているのが史伽である。

「知り合いに浦島って婆さんがいて、うちの爺さんが尻を追っかけ中だ、この野郎」

 普段はさらっとかわすのだが、つい素でそう返してしまった。
 しまったと思っても、もう遅い。
 割と真面目で面白みのないと思われているむつきの、突然の冗談のような発言である。
 別に冗談でもなんでもなく、事実なのだが姦しい彼女達にそんな事は関係ない。

「なにそのお話、もっと聞かせて!」
「現代に生きる乙姫と浦島、性別逆転TSキターッ!」
「ていうか、今先生。この野郎って……」

 途端に爆発するように騒がしくなってしまい、誰が何を言っているのか識別も不可能だ。
 大半の生徒に詰め寄られ、面白くもない冗談としらけているのが数名。
 そして美砂はというと、私だけが知ってる情報をなんでと怒っていた。
 必死に平常を装って頬杖ついてそっぽを向いているが、その手が震えている。
 不可抗力もあるが怒らせてばっかりと、かなり凹んだがそうとばかり思ってられない。

「冗談、冗談だ。ほら、座れ。今朝お天気占いの結果が良かったから、キャラ変えてみようと思っただけだ。今日も俺は」
「人騒がせな、詰まんなーい」

 誰が言ったかは不明だが、自虐で詰まらん教師と言う前に言われてしまった。
 激しくダメージを受けたが、美砂にも言われた事があるのでなんとか耐えられた。

「とにかく、明日は身体測定だから雪広頼むな」
「はい、分かりました」
「それと無理に朝食抜いたり無理なダイエットはするな。普段の自分じゃなく、その場その場で良い数値とっても無意味だぞ」
「微妙なセクハラ?」

 ご自慢の胸を持ち上げながらの朝倉和美の発言は今度こそスルーする。
 心配して言ってんだこの野郎と喉の奥で罵りながら。

「あと体育の小宮山先生が欠席だから五限目は俺が監督する。場所は確か屋上のコートがとってあるはずだが、何をしたいかはお前らで決めておけ」
「大怪談大会!」
「大射的大会!」
「いやここは大拳闘大会アル!」

 再度の鳴滝姉こと風香と、バスケ大好き明石裕奈に拳法少女の古菲である。
 パラエティに富んで良い事でともはや諦めの境地で、念のための注意を行なう。

「怪我はないようにな。昼休み前までぐらいには決めて教えてくれ。道具を使うなら申請がいるからな。最後に雪広」
「はい、なんでしょうか。五限目については、私が責任を持って決定しておきますが」
「後でちょっと話がある。手早く済ませたいから、社会資料室に来てくれ。授業に遅れたら、俺からの用事と言えば良い」
「はい、分かりました」

 それじゃあ一限目の授業の用意をしていろと、委員長の雪広を連れていく。
 社会資料室は、教室と教室の間にある隙間を利用して作られたいわば倉庫である。
 巨大な世界地図、地球儀、ビデオ映像など社会科で必要な資料を押し込んだ場所だ。
 倉庫なだけあって埃も多く、実は生徒には不人気の場所だったりする。
 雪広は内心快く引き受けてくれたが、内心はうわっと思っている事だろう。
 その資料室の鍵を開け、生徒が尾行などしていない事を確かめ、雪広を招きいれた。

「それでなんでしょうか」

 やはり内心では嫌だったようで、ハンカチを口に当てていた。
 誰も掃除しないもんなとその点は怒るまでもないので要点だけ伝える。

「土曜の柿崎の事だ」
「あ、その事ですか」

 これは真面目な話かと、雪広の顔にも真剣みが帯びる。

「これはオフレコでお願いしたいんだが、あの件で寮に門限をつけるか否かって話が今日の職員会議で議題にされる予定だ」
「そうですわね、先生方の思いは私も当然と思います。避けられたはずの事故でした」
「大人だな、雪広。ただ、俺からも頼んではあるんだが。急に門限をつけたりすると、絶対犯人探しが始まるだろ」
「承知いたしました。もしもの場合は、柿崎さんを守れと」

 こいつ本当に中学生かと、身体的特徴とは別に驚いてしまう。
 話が早いのは良い事なのだが。

「俺も気をつけるが、教師が気付ける事なんて極一部だ。うちのクラスならたぶん大丈夫だが、他のクラスはわからん。だからお前に頼みたい」
「お願いされずとも、当然の事ですわ。この雪広あやか、クラスメイトを守る為になら力を惜しむつもりはもうとうありません」
「そうか、それを聞いて少しは安心した。もっとも、俺達も厳しい門限をつけるつもりもないし、段階的に生徒の反応を見ながら決めるつもりだ。もしもの場合の保険、それを念頭においてくれると尚更ありがたい」
「ふふっ……」

 真剣に頼み込んでいると、埃を嫌う顔、クラスメイトを守る真面目な顔。
 微笑を浮かべ微笑んでくる第三の顔を見せられ、どぎまぎとしてしまう。

「少し、先生の事を誤解しておりました。私の台詞ではありませんが、歳若い頼りない先生だと。授業も少々お上手ではありませんので」
「当人の目の前で言うかね、それ」
「見直したのですから、それを伝えない理由もありません。授業の仕方については、要努力ではありますが。それではそろそろ、授業が始まりますので」
「おう、済まなかったな雪広。さっきの事は頼んだ」
「こちらこそ、力及ばない時は頼りにさせていただきます。それでは、失礼します」

 ぺこりと頭をさげ、あくまで礼儀正しく優雅に去っていく。
 誇りっぽかったはずの資料室に、どこかフローラルな匂いを置き土産にだ。
 良い女だなと少しばかり浮気心が疼いたが、それも直ぐに消える事になる。
 雪広が締めたはずの引き戸が再び開き、

「あれ、どうした雪ッ!」

 代わりに周囲を伺いながら、美砂が入ってきたからだ。
 ただし、うつむいたその顔から表情をうかがい知る事はできない。

「ちょっと待て美……じゃなくて、柿崎。誤解、してないよな?」

 パチリと後ろ手に鍵が掛けられ、掛けた当人の美砂がツカツカと歩いてくる。
 ほんの出来心でとビクついたむつきであったが、ぽふりと胸の内に収まって美砂が止まった。

「美、柿……鍵かけたよな。美砂、どうした?」

 それでも少し声を潜めて、抱きついてきた美砂の頭を撫でる。

「委員長だけ呼ぶから扉に背中預けて耳を済ませてたら、聞こえちゃった。全然、あんな話してくれてない」
「公私の区別は、多少つけてる」

 学校でこうして抱きつかれていては、あまり説得力はないが。
 というか、他の誰かがつけてこなくて良かったと本気で安堵した。
 一応この件はまだ教師でも知らない者がおり、生徒に対しては教えるなと注意されている。
 つい先程、雪広に喋ったばっかりだが、美砂の為だと少しそこを破っている。

「俺が勝手にやってる事だ、気にするな。お前が俺とイチャイチャしたりエッチしてくれてるだけで満足だ」
「昨日……」
「ん?」
「昨日はごめん、スイーツ買いに走らせたり。先生が脱がした理由、実は気付いてた」

 消え去りそうな声での告白により、より強く美砂が抱きついてきていた。

「私を思って先生は隠してくれたのに、恥かしくて誤魔化したくて勝手に怒ってなかった事にしようとした。先生、いつも私の事を考えてくれるのに。私は私の事だけ考えて」
「美砂、顔上げろ」

 拒否されたのでやや強引に、その顎に手を添え上を見上げさせ唇を奪った。
 雪広の置き土産にときめいたが、こっちの方が良いと美砂の唇をしっかりと味わう。

「元々は、俺がお前に無茶なプレイさせたからだ。女の子が恥かしく思って怒って当然、気にすんな」
「もう、ずるい。何でもかんでも許されたら、甘えてばかりで駄目になりそう」
「心配すんな。その分、ちょっと激しかったり、エッチな要求一杯するから」
「うん、可能な限り叶えてあげる。ううん、叶えてあげたい。先生の事を受け入れてあげたい。まだ月曜だけど、土曜が恋しい。先生にエッチな要求されたい」

 ああもう可愛いなこいつと、時間も忘れて抱きしめあっていたい。
 だがそれは望んでも叶わぬ望みという奴である。
 一限目の鐘が何時鳴るとも知れず、今すぐに鳴ってもおかしくはなかった。

「ほら、美砂涙拭け。授業が始まる。このまま時間切れで慌てて別れるのと、最後にキスしてから別れるのとどっちが良い?」
「キスが良い」

 お望み通りと、再度のキスをしてやり、サービスと涙の粒を唇で吸い取った。
 そして入り口の方に体を回して向けさせると、その尻を軽く叩く。

「ほら、行ってこい。泣いてるお前より、元気なお前の方が俺は好きだ。俺が好きなら、俺の好きな美砂でいてくれ」
「うん、行ってくる。大好き、先生。隙あり」

 最後の最後、美砂の方から不意打ちでキスすると、ペロリと舌をだして悪戯っぽく笑う。
 こいつとむつきが振り上げた手をかわし、スキップするように部屋を出て行った。
 それで良いと美砂を見送り、気分を入れ替える。
 浮かれていると朝のような失敗をまたしてしまう。
 思いがけず美砂と触れ合えたのだから、大事にいこうと職員室へと足を向けた。
 一限眼は担当授業がないので、まず新田の資料を読まなければならない。
 頑張るぞと軽く伸びをして、気合を入れた。









 気合を入れた以降は、普段通り仕事をこなしていった。
 大きな失敗はなく、小さな失敗はそれなりに積み上げながらが普段ではあるが。
 新田の資料も何箇所か気になった点があったので告げると、なるほどと頷いて貰えた。
 その事については、心の中でこっそりガッツポーズをした程だ。
 教師一筋云十年の新田の盲点を指摘できた、それはある意味自分の成長を意味する。
 授業に加え、時々美砂からメールが来たのを返したりと、瞬く間に午前中は過ぎ去っていった。
 お昼は業者のお弁当で済ませ、少々の侘びしさを感じたりもし、五限目である。

「全員そろってるか?」

 屋上のドアを開くと、思い思い生徒達が喋ったり準備運動したりやりたい放題であった。
 点呼一つとれやしない状況である。
 一応昼休み中に雪広からバレーに決定したと聞き、道具の申請だけは済ませておいたが。
 籠一杯のバレーボールはちゃんと持ち込まれていた。

「小宮山先生、普段頑張ってるんだろうなあ」
「一度、本気で雷を落とされてからは、多少大人しくはなりました。先生、点呼は済ませてあります。どうされますか?」

 そう告げてくれたのは雪広であり、こいつ一人いれば自分が入らない気もした。
 追加情報については、覚えがあった。
 小宮山が高畑に向かって本気で怒り、学園長が介入する騒ぎになったアレだ。
 最終的になあなあで済んでしまい、新田が学園長は一部の先生を個人的感情で優遇し過ぎると飛び火していた。
 生徒には絶対漏らせない話だ、特に学園長の孫の近衛木乃香には。

「怪我等で見学したい奴は今のうちに教えてくれ」
「マグダウェルさんが体調不良で保健室へ、絡繰さんが付き添っています。他には特に申告はありません」
「分かった、把握してるなら問題ない。それじゃあ、準備運動後に外周を三週してから試合形式で始めろ。チーム分けは任せる。怪我のないように、それだけだ」

 えーっと重なる不満を黙殺して、落下防止フェンスが埋まる台座の縁に座って見守った。
 本当はこの時間で済ませたい仕事があったのだが、今日も残業かと溜息がつきたくなる。
 終始生徒を見ている必要はなく、もう少し要領が良ければこの場でもできたのだが。
 見ていると言うか、見張っていないとこのクラスは不安なのだ。
 雪広のとりまとめでラジオ体操を始めた彼女らを、ほけっと見ていると一人が振り返った。

「先生!」
「ん、どうした?」

 この時、振り返ったのが鳴滝風香並みに悪戯好きな、春日美空と気付くべきだった。

「視線がちょっとやらしくない?」
「はぁ?!」

 まさかそんな事を言われるとも思わず、素っ頓狂な声が出て目が点となってしまう。
 そう言う目で見る事が絶対にないとは言わない、美砂の件もある。
 ただし、完全に潔癖だと主張できるが、男のそんな言葉など信用されない。
 男慣れしていなかったり、気の弱い一部の生徒などは身を守るように自分をかき抱いたり、誰かの影に隠れたりもしていた。

「おやめなさい、春日さん」

 この時、珍しくというか初めて助け舟を出してくれたのは雪広であった。
 春日の突飛な発言よりよっぽど驚いてしまう。

「皆さんも、教えを請う相手を安易にからかってはいけません」
「え……どうしたの、いいんちょ。お昼に変なものでも食べた? ショタコンのアンタが先生を庇うなんて」
「失礼な、オジコンの癖に。私のは不純な貴方とは違う、そう母性愛。見目麗しい少年を包み込む無限の愛ですわ!」
「キィ、誰がオジコンだ。高畑先生は素敵な人よ。この変態が!」

 既に話題はむつきから二人の取っ組み合いに移っていた。

「明日菜に五百円!」
「いいんちょに三百円!」
「ドローに千円!」

 しかもキャットファイトに対し誰も止めるどころか、賭けも始まっていた。
 もう本当になんなのか、つい先日この仕事を楽しんでないかと疑問に思った自分を絞め殺したい。
 だがその前にこのキャットファイトを止めねばと、飛び出した。
 無謀にも、そう無謀にも。
 方やお嬢様でその可憐な姿とは裏腹に護身術を叩き込まれた女武道、方やバイトその他で異常に鍛えられた暴力女。
 結果は火を見るよりも明らかであり、

「あっ、やば」
「先生!」

 二人の間に飛び込んだむつきへと、神楽坂の拳が腹部に、雪広の掌打が頬に打ちつけられていた。

「水入りだ、ドロー。またまた桜子の一人勝ち!」

 そうじゃねえだろと突っ込みたいが、危険な部位に特に神楽坂の拳が入って声がだせない。
 情けない事だが、雪広の肩を借りて避難する。

「申し訳ありません、先生。まさかこのような事になるとは」

 ちょっと脂汗も浮かんでおり、さすがにこんな時ばかりは心配された。
 再びフェンスの台座の縁に座らされると、生徒達が心配そうにわらわらと集ってくる。
 悪い奴らではないんだけどと、映画ジャイアンの法則が発動しそうだ。
 けれど、悪い子達ではないのは本当の事である。

「先生、大丈夫。明日菜は馬鹿力だから急に飛び込むと危ないにゃあ」
「保健室行くなら、ウチが……無理やろか」
「その時は、私が肩を貸すよ」
「アスナ、さすがに謝りなよ」

 順に明石裕奈、保険委員の和泉亜子、背が高めの大河内アキラ。
 非難を込めて神楽坂に意見してくれたありがたい存在は佐々木まき絵である。
 目視で確認はできないが、皆の視線が集中したのかうっと罪悪感に唸った声が聞こえた。

「その……悪かったわよ。殴って」
「明日菜、もっとちゃんと謝らんとあかんえ」
「ああ、大丈夫大丈夫。気にすんな」

 脂汗はそのままに痛みを堪えて立ち上がり、なんとか笑う。

「ほら、お前ら……ぐっ、どうせならバレーで決着つけろ。神楽坂チームと、雪広チームに分かれて。事故だ事故、忘れろ」

 全然そうは見えず、見栄を張っている事はばればれだが少しずつ皆がはなれていく。
 多少はいう事を聞いてくれる気になったのか、二人をリーダーに分かれた。
 それからやっと普通のバレーが始まった。
 肉体的ポテンシャルが高い者が多いので、クラス内対抗の割には高度なバレーだが。
 それを確認してから、腹をおさえて息を整え痛みを体外に逃がす、つもりになる。
 正直、彼女達の前で昼飯をリバースしなかっただけ奇跡だ。

「よくこんなクラスで平気な顔で笑ってられるよな。高畑って、実は凄いのか?」

 ふうふうと息を吐き、ようやく落ち着いてきた。
 そこでようやく、彼氏が殴られたのに美砂が大人しかった事に気付いた。
 いや、関係を隠しているのだからそれはそれで正しい行動なのだが。
 雪広チームに混ざって普通にバレーをしているのが、少々悲しい。
 心配して欲しいが正面きってそれもして貰う事もできず、改めてジレンマを感じる。

「まあ、自分で選んだ事だからな」

 コレぐらいの役得は良いよなと、腹を押さえながら美砂を見守る。
 動くたびに揺れてきらめく深い紫の髪、体操服からすらりと伸びる白い手足。
 もはや芸術品の域だよなと、春日の突っ込みを受け流せない見方をしていた。
 そして極自然に、男として愛とは別に目移りを始めてしまう。
 最初はやはり、雪広であった。
 好みとかではなく、初めてからかいから庇ってくれた、きっと認めてくれた。
 ハーフかクォータだったか、モデルにでもなれよといいたくなる均整のとれた体である。
 さらには結構な巨乳で、もう文句の付けようもない程だ。
 容姿端麗、成績優秀なお嬢様、ドラマから飛び出してきた存在かと言いたい。

(しかし、改めてみるとなんでコイツら彼氏いないの?)

 女子中とはいえ、麻帆良には無駄にテンションの高い男もごろごろしている。
 拳法少女の古菲はある意味、毎日汗臭い男共に言い寄られてはいるのだが。
 土日に美砂に相手をしてもらっていなければ、この場で少し動けなくなった事だろう。

(さて、やらしい視線もここまで。折角見直されたり、心配されたのに詰まらん突込みを受けるのも馬鹿らしい)

 勝負は中盤、正式な得点ルールでしていればだが。
 そもそも点数先取でやっているのか、時間一杯なのかルールは決められているのか分からない。
 でも十二対十五と雪広チームの統制が取れたチームの方が若干勝っていた。
 神楽坂は根性論が多く、むしろそれで喰らいついているのが凄い。
 そして神楽坂チームのサーブから始まり、驚く事に神楽坂がジャンプサーブをしたのが発端であった。

「でりゃあッ!」

 乙女にあるまじき気合と共に放たれたそれは、轟と音が聞こえるかのような一発であった。
 離れてみていたむつきさえそうなのだ。
 コート内にいた者にとっては、大砲と見紛う一発であった事だろう。
 しかもあろう事か、その大砲の正面でレシーブの格好をしているのは美砂であった。

「馬鹿、受けるな!」

 思わず声が出たが、遅かった。
 何を考えているのか真正面からそれを受けた美砂が吹き飛ぶように倒れこんだ。
 一瞬時が止まり、撃ち放った神楽坂でさえ青ざめていた。
 そんな彼女らの止まった時間を動かしたのは、むつきであった。

「柿崎!」

 奇跡的に、もしくは美砂という呼び名がまだ慣れず素がある意味で出たのか。
 棒立ちの彼女らを掻き分けるようにし、美砂のもとまで駆けつける。
 手早く頬を叩いて意識の有無を確かめ、ないと判断。
 背中と膝に手を差し込み、抱き上げた。

「和泉、ついて来い。保健室の勝手が分からん。他は、少し早めに授業終了。雪広、あとは頼んだ。状況は逐次知らせるから、無駄に騒いだり、保健室に押しかけるな!」
「は、はい」

 有無を言わさずそう告げると、美砂を抱えて走り出す。
 一応、一度だけ和泉が後をついてきているかを確かめ、先を急ぐ。
 和泉に何度か待ってくださいと言われたが、聞こえない振りで起きざりにする。
 目的地が同じなら、多少置いていっても構わないという判断であった。
 保健室に辿り着くとドアを蹴り破るようにして、入室した。
 運悪く保険の先生はおらず、和泉を同行させたのは正しかったようだ。

「柿崎、大丈夫か」

 ベッドに美砂を寝かせると、その当人がペロリと舌を出してきた。

「大丈夫、全然平気。亜子が来たら話しを合わせて」
「はっ、お……おう」

 全く要領を得ないが、吹き飛んだのは演技であったらしい。
 今にして思えば、いくら神楽坂が馬鹿力でもバレーボールで人が吹き飛ぶのはおかしい。

「先生、柿崎はどうですか。何か薬、冷やすものをひゃー」
「痛ッ、いたた……亜子、慌てないでちょっとビックリしただけだから」
「意識戻ったん!?」
「一瞬、目の前が真っ白になっただけ。皆にも知らせてあげて。びっくりさせてごめんって」

 混乱して目をグルグルさせる和泉に、美砂が今気がついた振りをしてそう告げた。
 まだ不安げだが美砂が笑いかけるとほっとしたように、皆に知らせに行った。
 残されたのは、むつきと美砂の二人きり。
 一応名目上、マクダウェルが休んでいるはずだが姿は見えず、恐らくはサボリなのだろう。
 それは良くはないが、一先ず棚上げし、心配したんだぞこの野郎と美砂を睨む。

「ごめん、怒んないで先生」
「怒るに決まってるだろ。心配させんな、本当に……」

 想像以上に怒らせ心配した様子のむつきに美砂がもう一度謝る。

「我慢できなかったから。皆、先生の事を軽く見過ぎ。私の彼はちょっとエッチだけど、思いやりがあって。やる時はやる凄い人って。教えてあげたかった」
「お前なあ、なんて卑怯な理由だよ。怒る気が完全に失せちまった」
「でも、皆の前でお姫様抱っこまでするなんて思わなかった。想像以上に、格好良かったよ先生」

 上から覗き込むむつきに唇を伸ばしてきた。
 迷った挙句一度だけそれを受け入れ、それっきりにした。
 何時保健の先生が来るかわからないし、来るなとは言ったが彼女達が破らないとも限らない。
 というか、付き合い始めて最初の平日に校内でキスしたり抱き合ったり危ない事この上なかった。

「美砂、一応保健の先生を呼ぶから言われる通りにしてろ。俺はクラスに戻る。本当に大丈夫だって俺から伝えとく。神楽坂なんて顔真っ青だったぞ。もう少し考えて行動しろ」
「うっ、そこまで……考えてなかった、かな。アスナには悪い事しちゃった。でも、先生の事をなぐったし、お相子?」
「馬鹿、あれは事故だ。いいから、大人しくしてろ」

 職員室に出向き、電話を受けていた保険医を見つけ事情を話す。
 それからむつきは、皆が戻っているであろう教室へと向かった。
 さすがに美砂の演技とは言え、あんな事があったばかりでは静かなものである。
 二つ、三つ遠いクラスの廊下からでも平気で声が聞こえるのに、それがない。
 今が授業中という事もあるが、普段からこれぐらいと思いながらドアを開けた。
 その瞬間、出迎えたのは歓声とも思えるような彼女達の声であった。

「ヒューヒュー、格好良いところもあるじゃん先生!」
「見たアレ、美砂を抱えて駆け出して。映画か、ドラマみたい」
「先生、美砂を抱きかかえた感想は。ちょっとぐらい、変なところとか触った?」

 一部歓声とは違う、何時ものからかいも混じっていた気がしたが。

「お前ら授業中、静かに、静かにしろ」

 むつきが抑えろと身振り手振りを交えてそう言うと、ピタリと歓声が止まった。

「え、なに……お前ら、ちょと気持ち悪い」
「アカン、いつものちょっとキョドった先生やわ」

 残念そうに近衛が呟くと、クスクスと笑われる。
 だが、そこに何時ものからかいや腹立たしくなるものはない和やかなものだ。
 なんというか、美砂の思い通りというか、彼女達が単純なのか。
 理解不能だと彼方の女、彼女達の事を理解する事を一旦諦める。
 そして、青ざめてこそいないが元気のない神楽坂へと安心させるように言った。

「神楽坂、柿崎は平気だから沈みこむな。アレこそ、スポーツの中での事故だ。柿崎はピンピンとしてるよ。本人から、びっくりさせてごめんだとさ」
「あ、うん……それであの、ごめんなさい」
「は? 何が?」

 突然頭を下げられ、一瞬なんの事か分からず惚けてしまった。
 再びくすくすと笑われたのは、神楽坂かむつきのどちらなのか。

「屋上で殴っちゃった事、私謝ったから。ふん!」
「ああ、悪い悪いその事か。柿崎の事で半分忘れかけてた。気にするな、神楽坂」
「とっくに気にしてないわよ」

 なんにせよ、多少機嫌は損ねたが元気が戻って何よりである。
 チラリと時計を見上げると、まだ終了まで十分近く残っていた。
 自習にするには短く、かといって他のクラスは授業中で好きにしろとも言えない。
 予定外の事に少し動揺しかけ、指摘されたばかりだが挙動不審となりかける。
 そんなむつきを救ったのは、和泉であった。

「先生」
「あっ、なんだ和泉」

 挙手をしてから起立した彼女が、少し躊躇してから言った。

「あんな、さっきの先生な。迷いがなかった。私の足が遅いから置いていかれてまったけど。任せておけば柿崎は大丈夫って思えた。それで、あの……」
「つまり、亜子が言いたいのは自信を持てって事かにゃ? 私は自信というか、素を見せてほしいかな」
「先生とは先を生きると書くネ、先達。先に生きた経験を教え導く。教師という名にとらわれず、まずは自分の生きた道そのものを見せるのが先ヨ」
「教師という肩書きではなく、乙姫むつきさんとして。貴方をまず見せてください。そうすれば自然と私達は迷わずついていけますから」

 麻帆良の頭脳である超鈴音や、この歳で失礼ながら母の貫禄を持つ四葉五月に諭されては聞き入れるほかない。
 確かに尊敬する教師はと聞かれれば、新田先生と答え、ああなりたいと思う。
 生徒の事を真摯に受け止め考え、苦労を厭わず。
 ただそんな上っ面の事だけではなく、新田先生は鬼の新田と一部に嫌われてもぶつかっていく。
 あの先生の本当の格好良さはそこにあるのではないのだろうか。

「俺の素、か。ちょっと怖いが、分かったよ。見せてやるから引くんじゃねえぞ、この野郎。朝言った俺の爺さんが浦島って婆さんを追いかけてるのは本当の話でな」

 一先ず、この残り十分を切った僅かな時間で、そう関係あるようでない話を始めた。
 爺さんをネタにして、他人の褌で相撲を取る形だが、まだこれが限界。
 興味津々で珍しく大人しく話を聞く生徒を前に、爺さんを語った。
 ただし、美砂がいない時に話した為、あとで理不尽に怒られる事にもなったが。









-後書き-
主人公、結構生徒に舐められてた



[36639] 第六話 先生に一杯私を見て欲しい
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 20:33
第六話 先生に一杯私を見て欲しい

 たった数日の事で、人生が良い方へ良い方へと流れ始めていた。
 未だぎこちないところは自覚できるものの、随分と授業がしやすくなった。
 周りが変わったのではなく、変わったのはむつきの方である。
 今までは心のどこかで何か間違えてはないか、上手く伝わっているかと自問自答が多かった。
 だが先日、超達に諭された通り、上手く行くかどうかではなく、自分はこうなんだと自分のやり方で伝えてみた。
 もちろん間違っていれば、分かりにくいと生徒は答えてくれるので直せば良い。
 そうして少しずつ、正しい事を正しく伝えられるように自分を研磨していくだ。

「うむ、最近生き生きしとるね乙姫君」
「あ、新田先生。少し、生徒に教えられまして。素の自分で思い切りやってみる事にしました」
「それで良い。若い時は体当たりの全力で、若さが生徒に追いつけなくなれば経験で。ゴルフと一緒だとは思わんかね?」

 珍しい新田のドヤ顔であったが、ゴルフを知らないむつきにはピンとこなかった。
 新田も外したと即座に分かったようで、咳払いをしていた。

「君の今のやり方は私も賛成だという事だ。少し前まで、君は教師であろう教師であろうと無理をしていたからね。ただ……」
「ただ?」
「あの言葉使いはいかんよ。どうも口癖みたいで悪意はないが、この野郎はいかん。君のクラスの生徒は比較的明るい子が多いが繊細な子も当然いる」
「す、すみません。中々、とれなくて。気をつけてはいるんですが」

 誰かを傷つけてからでは遅いと言い、最後に口うるさくて済まんなと言って新田が去っていく。
 基本的にその口調は生徒の前だけでのはずだが、何処で耳にしたのか。
 案外、その繊細な誰かが相談したのかなと想像する。
 少々興奮したり、口元が滑らかだと直ぐに出てしまうこまった口癖だ。
 気をつけようと心のメモ帳に赤字でメモし、鞄を手にデスクから立ち上がる。
 今日は久々の残業なし、週も半ばを過ぎようとしていた。

(今日は美砂とゆっくり電話ぐらいできるか。後二日、そうすれば連休のひかげ荘でエッチ三昧だ。エッチなお願いされたいとか、天使か!)

 思わずニヤケそうになる顔を必死で抑え、お先にと仕事が残る方々に頭を下げた。
 廊下に出ると放課後真っ只中で、生徒の姿がちらほら見える。

「あっ、先生!」

 呼びかけに振り返ると、レオタードにジャージの上を羽織っただけの佐々木がいた。
 子犬のようにひょこひょこ走ってくると、唐突に片手を上げてくる。
 よく分からないがハイタッチのように見えたので手をあげてみると、パチンと叩かれた。
 間違ってはいなかったようだが、その意味を謀りかねて尋ねる。

「なんか良い事でもあったのか?」
「何がです?」

 小首を傾げて、なんの事とばかりに問い返してきた。
 なんとなくしたかっただけで意味はなさそうだ。

「それはともかく、お前その姿なんとかならんのか。女子中だからいいが、せめて下もジャージ履いてこい。この……」

 ついさっき新田に注意されたばかりなので言葉を噤んだが。

「野郎」
「なんか溜めを作られた!?」

 佐々木が繊細とも思えず、そのまま言い放った。
 びっくりはしたが傷つきはしなかったようで、何か変かなと自分の姿を見始める。
 しばしうんうん唸っていたが、ようやく気付いたようだ。
 長袖のジャージはやや小さめの佐々木の体を股上数センチまですっぽり包みこんでいる。
 中にレオタードを着てはいるが、ジャージの裾から三角形の食い込みのみ見えていた。

「もしかして先生。私の姿を見てドキドキしたとか? ついに私も大人の色気が」
「するか、常識的視点だ。あと鏡見てこい、現実がしっかり見えるから」
「わーん、絶対綺麗になってやるぅ!」

 何やら泣き真似をしながら去って行き、途中で何かを思い出したように帰ってくる。

「わ、忘れてた。二ノ宮先生に用事があったんだった」
「コントか。二ノ宮先生なら中にいたぞ。職員室内で大声で呼んだり、騒ぐなよ」
「はーい、先生ばいばい」
「ばいばいって、お前。部活頑張れよ」

 小学生かと言いたかったが、落ち着きなくすでに佐々木は職員室の中だった。
 注意したのに大声で失礼しますと入っていく。
 怖いもの知らずとは、ああいうのを言うんだろうなと思ってしまう。
 この中学を卒業する頃ぐらいまでには直るかどうか、直してやらにゃと思った。
 それから職員用玄関に向かおうとして、ふと思い出したように手持ちの鞄を探る。

「あれ、やっぱり。教室か?」

 スケジュール張が見つからず、見えもしない教室の方角を見上げた。
 生徒に見られてはいけない情報は入っていないが、クラス別の授業の進度など失くすと困る一品である。
 今日は残業をしていないし、置き忘れるとしたら教室であった。
 少し小走りになって教室に戻ってみると、まだ生徒が残っていた。

「きゃはははは」
「あれ、先生どうしたの?」

 残っていたのは椎名と釘宮で、お喋りをしていたらしい。
 椎名が死にそうなぐらいに腹を抱えて笑っているが、釘宮は殆ど素だ。
 一体何を話していたのやら、単に椎名の笑いの沸点が低いだけか。

「ちょっと忘れもの」

 教卓の下を探ると、目的のスケジュール張があったので回収する。
 改めて二人をみやり、トリオの最後の一人である美砂がいない事に気付く。

「あれ、お前ら部活はどうした? 柿崎もいないみたいだが」
「美砂なら用事があるって。私らも、それならってサボり」
「慌てて飛び出してったよ」
「ふーん、たまにはいいけどサボリすぎんなよ。癖になったら、終わりだ」

 気のない返事を返しながらも、その用事とはと思いをめぐらせる。
 特にメール等は来てなかったはずだが、むつきには全く関係ない用事か。
 後で聞いてみようと決めて、今度こそ帰路に着こうとする。

「先生、帰っちゃうの? 折角だから、お喋りしてかない? またお爺さんのお話聞かせてよ」
「お前らだけに話すと、他が煩いだろ。それにしても爺さん、大人気だな」
「苗字が苗字だし、九十年一人の人を追いかけてるとか、ちょっとロマンチック?」
「お爺ちゃんじゃなけりゃ、完全にストーカーだけどねー」

 一応一度は別の人と結婚したのだが、その辺は華麗にスルーされている。
 勘の良い者は、そうでなければむつきがいるはずがないと気付いているが。

「それじゃあ、俺は帰るが。お前らもサボリならサボリではやく帰れよ。もう三十分程で見回りの先生くるぞ。サボりなんて言ったら、行けって怒られるぞ」

 はーいと間延びした返事が帰って来たので、あとは自主性に任せ帰路に着いた。
 生徒が少ない事を良い事に、美砂にメールをうちながら廊下を歩く。
 その時、画面に集中していたので気付くのが遅れた。
 突然誰かに腕をがっしり捕まれ、あやうく携帯を落としかける。
 本当に唐突でビビッてしまったが、それはどこか思いつめた表情の美砂であった。

「びっくりした……柿崎、釘宮と椎名なら。あれ、用事はどうした?」
「先生こっち!」

 引っ張られるままに足を動かすと、そこは社会科資料室のドアの前であった。

「開けて、早く!」
「ああ……」

 周囲を見渡し警戒するような美砂に急かされ、とりあえず鍵を開けると背中を押された。
 説明ぐらいしろと不満も溜まるが、とても口を挟める様子ではなかった。
 ぐいぐい押され二人が資料室に入ると、誇りとカーテンに夕日を遮られた薄暗い空間に閉じ込められる。
 美砂が鍵を閉めた事で、尚更この空間に閉じ込められた事になった。
 その美砂は感極まったように駆け寄り、そのままぶつかるように抱きついてきた。

「先生、やっと二人きりになれた。直ぐそこに先生がいるのに、見てるだけなのが切ない」
「美砂、寂しいのは俺も一緒だから、あんまり学校で無茶すんな。一応他の社会科の先生もこの部屋の鍵を持ってんだぞ。比較的安全だが、絶対じゃないんだ」

 そう言いながらも、むつきも美砂を抱き寄せ髪や首筋に顔を埋めては匂いをかぐ。
 説得力のない行動だが、嘘は言っておらず、校内に安全にイチャつける場所などない。
 麻帆良市の中でもそれは同様で、絶対といえるのはひかげ荘ぐらいだ。

「だって、最近の皆ちょっと私の先生に馴れ馴れしすぎ!」
「それが一番の本音か。お前なぁ、自分で切っ掛けつくっといて……」
「あれは彼氏が素敵な人って自慢したかっただけで、馴れ馴れしくして欲しかったわけじゃないの!」

 そう地団駄を踏んだ美砂があれこれと、むつきと生徒の触れ合いをあげはじめた。
 先程もしたまき絵との無意味なハイタッチや、お昼のお誘いなんてものもあった。
 ただそれは、爺さんの恋の軌跡を聞きたいと言う目的つきだったが。
 むつきにとっては生徒との距離が縮まり、授業もしやすく良い事尽くめだった。
 最近はあの神楽坂でさえ、朝に出会えば挨拶をしてくれるのだ。
 直ぐにそっぽをむいてしまい、近衛に毎回フォローされてはいたが。
 しかし美砂としては、同年代の女の子がまとわりついてと嫉妬せずにはいられなかったようだ。

「すまん、仕事が上手くいって良い事ばっかりだと思ってた」
「私こそ、先生を困らせてごめん」
「嫉妬してくれるのは正直、嬉しいけどな。ただ覚えておいてくれ。お前は俺の可愛い彼女、アイツらはただの生徒」
「ん、私にだけ可愛いって修飾子がついててよし。先生、分かってる」

 むつきが意図したわけではないが、美砂の自尊心を程良く刺激したらしい。
 今度は感情に任せるままではなく、両腕で包み込むように抱きついてきた。
 ただそれでも寂しさや切なさ、嫉妬も含め全て解決というわけでもないようだ。
 力こそ強く込められてはいないが、しっかりと密着するように抱きつき、むつきの胸板に顔をうづめていた。
 すんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅いだりと、あらゆる手段でむつきを感じようとしている。

「満足したか?」
「う、うん……まだちょっと」

 一度頷きかけたが、まだまだ足りないと離れる様子はない。
 むつきも寂しいと言葉にした通り、もう少し美砂を感じていたかった。
 頭を撫でていた手を腰に伸ばしてぐいっと抱き寄せる。
 多少股間を密着させたが嫌がる様子もないので、今夜のおかず要にぐりぐり感触を味わいもした。

「週末、どうする? ひかげ荘でも、遠出でも。美砂のリクエストになんでも答えてやる」
「ひかげ荘……先生に一杯私を見て欲しい」
「なら前借り、良いか?」
「え?」

 返答を待たずに、美砂のスカートの中に手を伸ばした。

「美砂とキスがしたい」
「いいけど、キスだけでいいの?」
「美砂の下の口にキスしたい」

 やけに表面積の少ない下着だと思いながら撫で回していた尻のラインをなぞり、秘部へと指先を動かす。
 ここ、この口にキスがしたいと、薄い布の奥で閉じられた口を少し開いた。
 むつきが何処にキスをしたいのか遅ればせながら察した美砂が、カッと頬を火照らせる。
 分厚いカーテンで夕日が遮られたこの部屋の中でも十分それが見て取れた。
 羞恥に困惑するこの顔を見れただけでも、お願いした意義はあったかもしれない。

「い、いいよ。お休みには全部見せてあげるつもりだったし」
「恥ずかしいかもしれんが、その分気持ちよくしてやるからな」

 ちょっと待ってろと、保険の為に出入り口の引き戸につっかえ棒を差し込む。
 これ数学の道具だろと突っ込みたい、黒板用の巨大な三角定規をだ。
 数学教師の誰かが横着をして放り込んだのかもしれない。
 そんなどうでも良い疑問は、美砂とのキスの前では小さな事である。
 再び美砂の前に戻り、もじもじとスカートの裾を弄ぶ手に視線を合わせるように座り込む。
 スカートから伸びる白い足、柔らかそうな太ももをまじまじと眺めはしても触れない。
 まだ、自分からはと美砂を見上げて、意地悪そうに言った。

「美砂、スカートをたくし上げてくれ。エッチな言葉でお願いしてくれるか?」
「知ってたけど、先生の変態。見られるだけでも恥ずかしいんだけど」

 抗議ならぬ抗議を嬉しそうに口にしながら、美砂がスカートの裾を弄ぶのをやめた。
 震える手でスカートの裾をつまみ直し、ゆっくりと持ち上げていった。
 白い太ももがさらに根元まで、普段絶対に日の目を見ないはずの場所をさらしていく。
 そんな太ももも眼福だが、そこだけに目を奪われるわけには行かない。
 堅く口を結び、夕日以上に顔を赤くしながら羞恥に耐える美砂を見上げる。
 性欲と同様にむくむくと悪戯心が膨れ、白い太ももの上につっと指を走らせた。

「んっ……悪戯しないの。もう」

 キュッと瞳を閉じて体を震わせては、弱々しく言った美砂がたまらない。
 ここが学校でなければ、美砂の名前を叫びながら暴走していた事だろう。

「すまん、すまん。凄く綺麗な足だったから、ついな」
「むう、困ったら直ぐそういう事を言うんだから。嬉しいけど……」

 この時、別の意味でニッと美砂が笑った事に、むつきは気付かなかった。
 美砂の羞恥顔を堪能し、再び現れる太ももに目を奪われていたからだ。
 段々と付け根、股ぐらに近付き厚みを増していく太ももが、逆のカーブを描きだした。
 もう下着が見えるまで数センチという事だろう。
 今一度美砂を見上げ、囁くように見せてと言うと無言でこくりと頷かれた。
 再び上昇を始めたスカートの奥から、ついに美砂の下着がその姿を現す。

「え?」

 その色は見間違いでも、夕暮れのせいでも間違いなくない。
 いや先程、尻を撫で回した時に布地の少なさにもっと違和感を感じるべきであった。
 股と腰のT字に覆うタンガ、フリルや編みこみも丹念にされている。
 何よりも意外と叫びたくなる真っ赤なそれは、もはや男を興奮させ誘う為だけにあるようなものだ。
 誰が予想する、活発で可愛い女子中学生のスカートの奥から、世の女が勝負パンツに選びそうな一品が出てくると。
 少々唖然として、美砂を見上げると悪戯成功とばかりに笑顔が張り付いていた。

「昨日の夜に通販で買って、さっき寮にとってきた。本当は週末に着ける予定だったんだけど、もしかしたらって……可愛い?」
「くっそ、お前の方が何十倍も可愛い。預言者か」

 未来が読めたのか、襲うと見透かされたむつきが分かり易いのか。

「じゃあ、次の予言。先生はこれから私にすっごくエッチな事をしちゃうの。私が少しぐらい嫌って言っても意地悪な顔で強引に」
「そりゃ確定事項だ」

 外れちゃったと笑いながら、美砂が改めてスカートを持ち上げなおして言った。

「先生、学校にエッチな下着を着けてきた美砂に教育的指導して。男の人にこんなエッチな下着をつけて見せると、どんないやらしい事をされちゃうか実技で教えて?」
「ああ、指導してやる。こんないやらしい女の子には、男の怖さをたっぷりと教えてやらなきゃいかんな。覚悟しろ、この野郎」

 多少理性を捨て去り、むつきは美砂の秘部に抱きつくように顔を埋めた。
 むつきは美砂に聞こえるように深呼吸をして、その匂いを胸の奥、杯の隅々にまで吸い込んだ。
 新品というだけあって、まだ下着そのものは下ろしたての味気ない匂いであった。
 多少こういう時の為に、何かの花の匂いはしみこませてあるようだが、それでも味気ないものは味気ない。
 そこに味をつけたのは美砂自身だ。
 釘宮の話では急いで教室を飛び出したので、寮と学校を急いで往復したのだろう。
 ほんのり蒸れた汗の匂いと、先日も嗅いだこの微かな匂いは生理現象、言うなればおしっこか。
 可愛い彼女のだとおしっこさえも、どうしてこう良い匂いに変化してしまうのだろう。

「やんっ、先生犬みたい」

 嬉しそうに言った美砂が、言葉とは裏腹に軽くむつきの頭を抑えてきた。
 当然、手放されたスカートの裾はむつきの後頭部を覆い、包み込んだ。
 生徒のスカートに顔を突っ込んで深呼吸するなど、完全無欠のアウトな行為。
 それも生徒が部活動でいそしむ時間帯に、密室でとか残りの理性も吹き飛びそうである。
 押し倒して鳴かせたい、何もかも捨て去って中に出して孕ませたい。
 そんな欲望を堅固にも押し留めたのは、先日欲望に任せて美砂を抱きしめ怖がらせた事だ。

「先生?」

 ぴたりとむつきが止まったのを不審に思い、スカートの中へと向けて美砂が尋ねてきた。
 その中でむつきは落ち着けと深呼吸をして、美砂の匂いを吸い込み失敗したり。
 時間を掛けて落ち着けてから、スカートから頭を引いて美砂を見上げていった。

「美砂、もう一度スカートを持ち上げて。脱がすから、美砂の大事なところを見せてくれ」
「うん、先生だから見せてあげる」

 先程とは違い、それほど時間をかけずに美砂がスカートを持ち上げなおした。
 改めてカーテンから漏れる夕暮れの陽の中で、美砂の悪戯の一品と対面する。
 そしてその下着が真の意味で勝負下着である事を理解した。
 というより、美砂はそれに気づいているのか。
 美砂の秘部を包む部分に両側から手を伸ばし、生地を伸ばすように開いた。

「先生、破らないで。変えは持ってきたけど、ちょっとお小遣い的に痛かったから」
「お前これ、いくらなんでもセックスアピールが過ぎるだろ。自重しろ、中学生」

 そう呟きつつ、開く事で現れた美砂の秘部の谷間を直接指でなぞる。

「ひゃっ。あれ、なんで……先生まだ脱がして」
「勝負下着なんてセックス前提だが。これはまたその一個上だろ」
「何が、破れじゃ。何それ、だめ見ちゃだめ!」
「くっ、すまん美砂。予言に従い体が勝手に……」

 やはりそういう機能に気付いてなかったようで、美砂が手で秘部を隠そうとする。
 美砂の秘部は、甘露をぷっくり膨らませる細部まで丸見えであった。
 挿入用に空けられた下着の股間部分にある穴から。
 それを隠すなんてとんでもないと、伸ばされた手を素早くむつきが掴んだ。
 いかにも不本意だという言葉を口にしながら、意地悪そうな笑みを浮かべて。
 もはや完全に美砂の予言が的中してしまっている。

「エロくていやらしい彼女がいて、嬉しいですよ俺は」
「手離して、先生。もう、絶対あのサイト使わない。帰ったら直ぐ解約して、んっぁ」

 怒りに任せ少し暴れた美砂を大人しくさせようと、割れ目から膨れる甘露を唇で吸い取った。
 一瞬で腰が引けた美砂を追いかけ、まだ花開く様子のない幼いとも言える割れ目を舌でなぞる。
 砂糖水よりも甘いと痺れる脳で誤理解しつつ、流れ出てきた新たな甘露を舐め取った。
 それこそ一匹の大型犬になったつもりで、舌で舐めては口付けをした。
 上の口のファーストキスが貰えなかった分を取り返すように、執拗にだ。

「せ、先生……もう、隠さないから。手を、離してお願い」
「ほら、恥ずかしいなら顔を隠せ」

 美砂は瞳の方はキュッと閉じて、口元の方を両手で押さえ始めた。
 どうやら、声がでそうなのをがまんしたかったらしい。
 確かに耳を澄ませば校庭で部活動にいそしむ生徒、はたまた廊下か何処かでお喋りしている声が微かに聞こえた。
 聞こえるという事は、余り大きな声だと逆に聞こえてしまうという事でもある。
 最も姦しく喋る彼女らに聞こえるようにするには、拡声器でも必要そうだが。

「ん、ご馳走様でした」

 美砂が口元を抑えたのを良い事に、むつきはさらなる段階へと進んだ。
 ふやける程に舐めて口付けていた秘部から顔を離して、谷間の両端に親指を添える。
 そしてほんの少しの力で動くようになったそこを、クッと開いた。

「んんッ!」

 甘露など生優しくはない、まさに肉汁が溢れ出てきた。
 これがもう少し寒い二、三ヶ月前なら湯気でも出たのではと思うような蒸れた匂いもする。
 太ももにまで流れていこうとする肉汁を丹念に舐めとり、改めて美砂の秘部を眺めた。
 まだ数回した使った事のないそこは、綺麗な桃色であった。
 クリトリスは恥ずかしそうに皮の奥深くであり、小陰唇も花びらのように美しい。
 下着のややきつめとも言える赤が、尚更淡い美砂の陰唇の美しさを引き立たせてもいた。
 天才、魔女、天使、預言者、他に何があると例える言葉が思いつかなかった。

「せ、先生……」

 今自分の全てが見られていると、美砂の訴える声も儚いほどに小さい。

「凄く、綺麗だよ美砂」

 後頭部を覆っていたスカートを払うようにし、美砂を見上げて伝える。
 本人は喜んでよいやら、恥ずかしがって良いやら。
 軽く混乱して口元を押さえたまま頷いたり、首を振ったりととても忙しい。
 そんな美砂へと喜んで良いのだとばかりに、むつきは今一度口付けた。
 谷間を作っていた大陰唇ではなく、そのもっと奥、むつきに晒された膣口にである。
 溢れる肉汁がむつきの唇を汚したが、むしろ飲み干すとばかりに口を開け舌を伸ばした。

「あッ、ぁぁ。うそ、入ッ……」

 また引き始めた美砂の腰を手で押さえ、舌をうねらせ膣内へと侵入させた。
 伸ばせる限り奥へ、時々は中の肉壁を味わうように伸びたり縮んだり、回ったり縦横無尽に駆け巡る。
 もう湧き水のように溢れる肉汁は、むつきの顔を汚し、顎の先から床に滴ってさえいた。

「先生、気持ち良ぃ。声が、もうがまん……」

 腰を引く事もままならず、むしろ砕けそうになってむつきの頭にしがみ付いてきた。
 慌てて片手だけ口元に置くが、コレまでの様に上手く機能してはいなかった。
 むつきもまだまだと、直接的な刺激だけでなくこれぐらいならと音を立てる。
 今自分が何をされているか、耳でも理解するように肉汁となる愛液を舐め、舌でかき回す水音を。

「イク、イッちゃう。先生、助け」

 今正に美砂がイこうとした瞬間、

「あー、面白かった。くぎみー、面白い」
「くぎみー言うな。いや、桜子が笑い上戸なだけだと思う。明日は晴れるかなって呟いただけで何故笑う」
「きゃははは、房州さんだ、房州さん」
「さっぱりわからん」

 親友二人の声が廊下から響き、美砂は再び力を取り戻したように口元を押さえた。

「それにしても、美砂慌てて何処行ったんだろ」
「んー、なんとなくまだ学校に、ん? 戻ってきた気がする」
「って、そこ社会科資料室。先生しか鍵持ってないし、いるわけないじゃん」

 何故わかると、むつきまでも椎名の勘の鋭さに舌を巻いた。
 実際、美砂の膣の中で巻くどころか回転していたが。
 見上げた美砂があまりにも必死に口を押さえているので、悪戯心がわいた。
 一度舌を抜いて、代わりに中指を温かいその中へと埋めていく。
 その方が奥まで届くし、美砂の羞恥にさらに怯えが混ざった顔が近くで良く見える。
 なかなかに下衆い感情が湧き出したが、男として止められない。

「美砂、いっそ扉の前の二人に教えちまえば我慢しなくて良くなるぞ。私はここにいるって。先生に大事な所を舐められ、今は指入れられてるって」

 囁きに対して、必死に首を振った美砂の目尻には涙さえ浮かんでいた。 
 くにくにと膣内で指を曲げると、上の口の代わりに止めてと訴えるように締め付けてくる。
 多少嫌がっても意地の悪い顔でという予言が頭を過ぎり、その通りだと抗えない。
 ぞくぞくと湧き上がる黒い感情を更に刺激され、その涙を唇で吸い取り続ける。

「それとも指だけじゃ、足りない? 美砂の大事なところに俺のを深々と挿して登場するか? セックスしてるの、大好きな先生と赤ちゃん作ってるのって。二人はどんな顔するだろうな」

 そこが我慢の限界であったようだ。
 元々締め付けの強い美砂の膣内が、より引き締まったようにむつきの中指を締め付ける。 美砂本人も咄嗟に抱きつき、声だけはとスーツの上から噛んできた。
 ビクビクと体を振るわせ、イキながら二人が去るまでその強烈な波に抗った。

「桜子、そんな何もないドアみてないで行こう。美砂には後で聞けば良いし、今日の晩御飯の方がよっぽど大事」
「ましゅまろ豆乳鍋!」
「却下、そんなわけわかんないもん」

 えーっと言う椎名の謎の抗議を最後に、二人のお喋りの声は遠ざかり消えていく。
 それでもまだしばらく、むつきにしがみ付いていた。
 そして最低でも一分後ぐらいに、力を失いむつきの体の上を滑り落ちていった。
 へたりと地面に座り込み、はあはあと荒い息で安堵の息を同時についていた。
 むつきの方は、いやいやハプニングでしたと可愛い美砂が見れて大満足だったが。

「ん~……」

 息が整い次第、そんなむつきを見上げて美砂が睨みつけた。
 そして飛び掛るようにむつきに体当たりし、両の拳をぽかぽかぶつけ始める。

「先生の馬鹿、馬鹿。すっごい恥ずかしかった。円と桜子がいたのに、もう。見つかったらどうしようって焦るのに、意地悪するし。なんなの、無茶するなって言ったの先生なのに」
「痛っ、割とマジで痛い。あんまり大声出すな、まだ他に誰か」
「もう知らない。優しく可愛がってくれなきゃ、もうさせてあげない!」

 結局それはするのが前提の気もするが、すっかりへそを曲げてしまったようだ。
 確かにやりすぎたし、危険な行為だったと背中を向けそっぽを向く美砂を抱きしめる。
 頬に頬を当て、囁くようにごめんと呟きご機嫌を伺う。
 だが少しばかり根は深いようで、ぷいっとそのままそっぽを向かれてしまった。

「知らない」
「次は絶対やさしくする。意地悪はなし、甘々、イチャイチャのとろけるようなセックス」
「甘々、イチャイチャ。それもとろけるような……コンドームは?」
「鞄の中に常備してる」

 ほんの少し振り向かせる事に成功したが、まだ少し疑っているようだ。
 しばし向けられたジト目に対し、出来るだけさわやかイケメンを目指し微笑む。
 イケメンの部分は、美砂に対してのみ有効な部分ではあったが。
 少しは効果があったらしく、今再び悩んだ美砂はむつきのとある部分を見た。
 スーツのズボンは完全に盛り上がっており、静まるまで絶対外を歩けない。
 誰かに見つかれば、即座に通報ものである。

「死ぬ程恥ずかしかったけど、一応は良かったし。一度だけ、一度だけ許してあげる」
「そっか、悪いな美砂」

 まだこっちは向いてくれないが、お許しを頂けたので抱く腕に少し力を入れた。
 美砂も少し体を預けれくれ、優しい時間を過ごす。
 付き合い始めてまだまだ五日目。
 本当は毎日でも、一分と欠かさず共にいたいが、それが叶わぬ身の二人である。
 その腕の中でもぞもぞと美砂が動き、少しずつ向きを変えて正面から抱き合う。
 そして確かこの辺にと、むつきの鞄に手を伸ばし、コンドームの箱を取り出した。

「美砂、あのな」

 むつきが言う前に、ちゃんと切ってますと短く切ってかつ磨き上げた爪を見せる。
 美砂としては伸ばしてネイルとかに挑戦してみたかったのだが、しょうがない。
 こっちの方が大事だもんと、箱から取り出したコンドームを掲げてニンマリ笑う。

「場所はそこでいっか、なんとか座れそう」

 半分物置と化した椅子を目ざとく見つけてから、むつきの前にしゃがみ込む。
 鼻歌交じりにベルトを外して、ズボンとトランクスを脱がす。
 飛び出してきた一物に少し硬直してしまったが、恐る恐る手で触れる。
 初夜に一度、むつきに促がされてお風呂の中で触ったが、自分の意志では初めてだ。
 こんな物が中に入ってたんだと、驚愕と恐怖、好奇心に刺激されながらコンドームを付け始めた。
 むつきに教えられたとおり、ややおっかなびっくり。

(美砂は楽しそうだけど……なんだろ、俺すごい間抜けな気がする)

 生徒である美砂にズボンを下げられ棒立ちと、むつきは遠くを見ていたが。

「あはっ、上手にできた。イチャイチャセックスしようね」
「どこに向かって喋ってんだ。彼氏はこっちだ、この野郎」

 最後に少し思い切ってゴムをつけた一物にキスして準備完了であった。
 今度はむつきの方が機嫌を損ねかけたが、美砂相手に大人気ないとなんとか耐える。
 また本能に任せて苛めたりすれば元の木阿弥、今は俺が天使、むしろ仏と広い心で許してしまう。
 それから美砂が見つけた椅子になんとか腰掛け、両腕を広げる。
 こんな汚い部屋に美砂を寝かせられないので必然的に対面座位であった。
 この二人、何度かセックスしているものの、未だ正状位でした事は一度もない。
 クンニや手マンも、さっきが初めてと、色々順番がチグハグだったりもする。

「初めてした時の事を思い出すね。先生、私にセックス教えて?」
「ああ、教えてやるよ美砂。お前の知らない事を一杯な」

 あの時とは違い、むつきもはぐらかさずに喜んでと答え返す。
 それでもガ二股はちょっとと、むつきの一物を飛び越えるようにピョンと美砂が抱きついて来た。
 その美砂を受け止め、腰を掴むとそそり立つ一物へと美砂の秘部を誘導する。
 穴あきの勝負パンツなので、脱がす必要もずらす必要もなく完全着衣。
 しかも美砂は学校の制服と、男の夢を一人占めした気分のむつきであった。

「ほら、入れるぞ」
「んっ……ぁ、あっ」
「丹念に準備しただけあって、何時もよりぬるっと入ってくな。美砂、大丈夫か?」
「うん、凄く入れやすい。随分楽だし。あれだけ恥ずかしい思いしたんだから、コレぐらいの恩恵は当然」

 途中からむつきは美砂の腰を手放してみたら、美砂だけでちゃんと最後まで入れることができた。
 根元までずっぽりと、とても数日前まで処女だったようには思えない。
 ただそれでも、やはり最初の挿入は一苦労だったようで入れきった直後にはもたれかかって来ていた。

「はぁ~ぁ、ぁ……先生が私の中に、ぴくぴくしてるのが分かる。先生、私の中」
「気持ちいいよ、美砂。きゅうきゅう締め付けてくる。ちょっと俺も深呼吸、気を抜くと一人でイキそうだ」
「私も……」

 それは深呼吸と言うべきか、お互いの体、衣服に鼻を埋めて匂いを吸い込む。
 むつきは美砂の女の匂いを、美砂はむつきの男の匂いを。
 胸いっぱいに吸い込んでむつきの一物がぴくりと反応すれば、美砂も反応してキュっと膣を締める。
 ある意味でwin-winの関係を構築しつつ、徐々に腰を使い始めた。
 古臭い椅子の上なのでやけにギシギシ煩いが、二人の耳にそんな無粋な音は遠くもあった。
 何故なら吐息が、興奮してふうふうと獣のように喘ぐ互いの息遣いの方が耳に残ったからだ。
 異性である自分と肉体的に触れあい息を乱している、ソレは何故か。
 受け入れているから、むしろ触れ合う事で好意を増しているから。

「美砂、好きだ。今は立場を忘れて、美砂の事だけを考えたい」
「私も、先生の事だけ考えたい。今なら言える。円や桜子に見られても、セックスしてるのって。先生が好きだから、赤ちゃん作ってるんだって」

 恥ずかしいと叩いてきたのはなんだったのかと問いかけたくもなる美砂の言葉にむつきが反応した。
 無論、下半身的な意味で、美砂の膣の中で一回り大きくなった。

「言いたい、俺達は付き合ってるんだって。ばらして楽に、大っぴらに付き合いたい。一緒に寝て起きて、朝夕と飯作ってくれ。一緒に学校にくれば良い」
「私も、皆に言いたい。私の彼氏だから、馴れ馴れしくするの禁止って。先生のをくわえ込んで良いのは私だけって」

 校舎、制服、スーツ、二人を邪魔するものに囲まれ本音が漏れる。
 一緒にいたいずっと一緒に、自慢したい独占したいと。
 薄いゴムでさえも、邪魔と破り捨てたくなりながら、せめてもと口付ける。
 下の口が無理ならと、上の口で舌を挿入しては吸い付き舐めあう。
 夕暮れも落ち着き次第に薄暗く静寂が広がり始める中で、人知れず交わりあった。

「んぅ……もっと、キス。ぁぅ、先生。好き」
「全部、お前の全部俺のもんだ美砂」

 お互いに高めあい刻一刻と、最後の時を迎えようと口と腰を動かす。
 そんな時であった。

「誰かいるの?」

 コンコンとドアをノックされ、廊下の側から女性の問いかける声が聞こえたのは。
 高ぶった気分が一瞬にして冷え込み、特にむつきの一物が小さく収縮した。
 体内の圧迫感を突然失い、喪失感に美砂も少し我を取り戻す。
 二人して口をパクパクと言葉も出ず、意志も疎通できずに、だが同じ事を願っていた。
 さっきのは嘘、ばれたくないばらしたくない、今のままでも十分幸せですと。
 その間にも外にいる誰かは、開いているのかとガタガタドアを揺らし始めた。
 いくら鍵が、つっかえ棒があってもドアが外されてしまってはなんの意味もない。

「います、乙姫です!」
「なんだ乙姫先生ですか。電気もつけずに……というか、今日は先に帰られませんでしたか?」
「いやあ、教室に忘れ物を取りに来て。ふと資料室の混雑を思い出しまして。整頓でもと」

 外にいたのは見回りの先生、先程佐々木が職員室に会いに来た二ノ宮である。
 むつきと同年代で、担任こそないが新体操部を任されたまだ若い教師であった。
 視線で美砂に喋るなと厳命し、なんとかこの場を取り繕おうとした。

「なんでしたら、少し手伝いましょうか?」

 その申し出に、思わずなんでそんな面倒臭い申し出をワザワザと思ってしまう。
 社会資料室の評判の悪さは留まるところを知らず、二ノ宮も知っているはず。
 まさかと二ノ宮の若干男らしいさっぱりとした笑顔を思い出したのが悪かった。
 美砂の中にいながら別の女性を思い、下半身が反応してしまったのだ。
 やばいと思った時には、美砂が敏感にソレを察して首を絞めにかかってきた。

「馬鹿、やめろ。そんな場合じゃぐぁ」
「今、二ノ宮先生で反応した、絶対した。ほら、また大きくなった」
「お前が暴れるから刺激されただけ、ちょっと本気でまずい」

 器用に小声で痴話喧嘩を繰り広げ、返答が遅れたのもまずかった。

「乙姫先生?」

 お願いだから名前を呼ばないでと、叫び返したかった。
 もはや美砂の中にいる限り、誰に呼ばれても反応する始末だ。
 暴れる美砂の両手をとって、なんとか万歳の格好で押さえつけ、ようやく返事を返す。

「大丈夫です、ちょっと想像以上で。ちょっとやそっとじゃ、整頓は無理だと見切りをつけようとしたところなのでッ!?」

 早口でまくし立てたものの、あろうことかせめてもの抵抗と美砂が腰を使い始めた。
 両腕こそ封じられているが、それは逆にむつきの手を封じているも同然。
 聞こえたらどうすると不安になるぐらいに腰を上下させ、愛液の泡を生み出す。
 美砂同様、大人しくしていれば良いのに下半身の野郎も元気を取り戻してしまった。
 ふふんと勝ち誇る美砂を竿一本で支えるように、見事に貫いていた。

「あの、今何か……」
「大丈夫で、す。ちょっと、暗くて……ぐぅ、足の小指を。はっ、二ノ宮先生はどうぞ。見回りを、続けてください。釘宮と椎名が先程帰りましたが、他にも生徒が」
「気をつけてくださいね。怪我をしてはあの子達が心配しますよ。最近、まき絵……あっ、佐々木の方が分かり易いですか。先生の話を良くするんですよ、主にお爺さんの事ですが」
「はっ、ははっ……思いの他、受けたみたいですね」

 長話すんなこの野郎と、先程の期待とは全く別の罵詈雑言を心のなかでぶちまけた。
 相変わらず美砂はこんな状況でさえ、こんな状況だからこそ激しい腰使いで責め立てて来る。
 誰がそんな事を教えたと、完全に自分の行いを棚に上げてさえ思った。

「先生、私の中でびくびくしてる。イッちゃうの? 二ノ宮先生とドア越しに会話しながら、私の中に射精して妊娠させちゃうんだ。変態鬼畜教師」
「天使どころか、悪魔かこの野郎」

 甘々、イチャイチャでとろけるようやセックスは何処へ行ってしまったのか。
 本当に勘弁してと、今さらながら上と下で男は別々の生物だと思い知らされる。
 頭では止めてと思ってはみても、下半身は美砂の中で暴発したがっていた。
 刻一刻とその刻限は近付きつつあるにも関わらず、

「まき絵で思い出しましたけど」

 そういえばと軽い気持ちで、二ノ宮がドア越しの会話を継続させ始めてしまう。
 続くのソレと、良い年して少しむつきは泣いた。

「あの子、レオタードの上に上着のジャージを羽織っただけで職員室に来たんです。天真爛漫さはあの子の魅力の一つなんですが、さすがに周囲がまだ良く見えてないみたいで」

 二ノ宮の言葉に強制的に、佐々木のあの三角地帯を強制的に記憶から引きずり出される。
 あの時は本気で色気も素っ気も感じなかったが今は状態が状態だ。
 悲しいかな、やはり別の生き物である下半身が反応してしまった。
 ますます美砂が激しく腰を使ってむつきを責め立て、ここでようやくむつきも覚悟を決めた。

「二ノ宮先生、ちょっと待っててください」
「はい?」

 一旦会話を中断させ中腰に立ち上がり、美砂を駅弁スタイルで持ち上げる。
 初めての体位に怒りに任せて攻め立てていた美砂も、狙い通り虚をつかれたようだ。
 美砂の膣の深度最新記録を見事に樹立し、この時ばかりはまずいと口を押さえていた。
 出来るだけ音は出さないように注意しながら、それでも腰を目一杯振り上げる。
 一度や二度、スパンと良い音が鳴っても無視し責め立てた。

「今何か、あのお忙しいようでしたら」

 大丈夫もう終わりますからと、快楽に目を回しそうな美砂の顔色で判断する。

「美砂、絶対に声は出すな。絶対だ」
「んっ、んっ……」

 ならイケとばかりに、最後の一突きで暴発させた。
 馬鹿な痴話喧嘩ばかりだった二人も、こんな時ばかりは息がばっちりで美砂も果てる。
 お尻に手を添えられ支えられながら、ピンッと足を伸ばしてむつきの腕の中で痙攣した。
 再び椅子に座りなおしたむつきは、美砂が落ちないようにきつく抱きしめる。
 それと同時に、射精感に従ってより深く結合しようと下半身をやや持ち上げ、美砂を抑えこむ。
 びゅるびゅると射精するたびに、コンドームの精液駄目部分が膨らみ美砂の膣内で膨らんだ。
 美砂もそれが分かるのか、射精をコンドームのふくらみで感じ、続けて何度か果てた。
 ドアの向こうの二ノ宮に聞こえないよう、必死に声を押し殺し、喘ぎながらなんとか喋る。

「はっ、はは……すみません、二ノ宮先生。くしゃみが出そうで、止まっちゃいました」
「ああ、埃っぽいですからね」
「ふぅ、僕はそろそろあがります。二ノ宮先生も、見回りの方をお願いします。佐々木には、僕も職員室の前で会って注意しました。明日また、一応注意しときます」
「ええ、お願いします。ごめんなさいね、長話しちゃって」

 なんとかそう会話を切り上げ、二ノ宮が遠ざかっていく音が響いて遠ざかる。

「先生、二ノ宮先生だけじゃなくまき絵のレオター……先生?」

 改めて彼女を抱きながら他の女に反応するとはと、問い詰めようとした美砂であったが。
 美砂を膝にのせたまま俯くむつきを不審に思って、その顔を覗きこんだ。
 そして、言葉を失った。
 もはや暗がりといっても差し支えないこの場でも、はっきりとそれが見えた。
 むつきの目尻から溢れ、キラリと光る水滴が流れ落ちている。
 頬の曲線にそって、流れ落ちていくのは涙以外の何ものでもなかった。

「せ、先生?」
「怖かった、もう駄目かと思った」

 鼻をぐずぐず鳴らしながら、むつきがボロ泣きしていた。

「美砂、俺辞めたくない。もっと教師やりたい、生徒に手をだしたけどこの仕事続けたい。やっと仕事が思い通り、面白くなって……」
「泣かないで、先生。私がやり過ぎた、ごめんなさい」

 キュッと美砂の心臓を握りつぶしたのは、罪悪感と母性愛。
 泣かしたのは自分だが、守ってあげないと頭ごと包むように抱きしめ頭を撫でる。

「捕まるのが怖かったんじゃない、美砂と別れるのが、教師を辞めなきゃいけないのが怖かったんだ。美砂、ごめん。美砂も怖かったろ?」
「大丈夫、私は全然平気。よしよし、泣き止んで先生。泣き止んでくれたら、えっと……おっぱい、おっぱい飲ませてあげる」
「うん」

 焦ってわけのわからない提案をしてしまったが、むつきが子供のように頷く。
 頷くんかいと突っ込みたくもなったが、制服の前をたくし上げた。
 下着とセットで買った赤い下着には目もくれず、美砂がずらして現れた乳房にむつきが吸い付いた。
 まだしゃくり上げてはいたが、吸い付いただけで何もしない。
 性的に乳首を転がす事もなく本当に飲もうとしようとしているようだ。

「赤ちゃんプレイ? まあ、可愛いからいっか」

 恐らくその意見は、十人中十人がないと言い切り、美砂だけが言い張りそうなものだ。
 美砂は当分の間、むつきが泣き止むまで動く事もままならない状態である。
 その割りに、むつきの頭を撫でたりと、苦痛どころか幸せそうな表情のままであった。







-後書き-
行為中はSだけど、Sだから責められると弱いの



[36639] 第七話 絶対キモイって思われた
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 20:35
第七話 絶対キモイって思われた

 濁流のような怒涛の一週間がようやく過ぎ去ろうとしていた。
 週末金曜日の現在時刻は午後四時、帰りの夕会の時間であった。
 今日も高畑の代わりに教卓に立ったむつきは、自分の生徒達を見渡していく。
 皆、これからの連休に向けて瞳がキラキラと輝いていた。
 落ち着きのない鳴滝姉や春日などは、そわそわと貧乏ゆすりを繰り返している。
 一人やや元気のない神楽坂は、週の殆どを高畑と会えず落ち込んでいるだけだ。
 そうやって一人一人見渡し、神楽坂の直後に一度だけついっと視線が泳いだ。

「さて、待ちに待った週末だが。実家に帰る奴は、ちゃんとルームメイトと寮長に連絡をいれろよ。帰って来ないって騒がれるぞ」
「長期休みでもないのに、実家に帰るのはちょっと大変やなぁ」

 京都出身の近衛がそう言うのはある意味仕方ないが、だよねと数多の声があがる。
 彼女らにしてみれば、実家よりも騒げる仲間のいる寮は天国なのだろう。
 思春期らしく、厳しく鬱陶しい親の監視の目がないという意味でも。

「親御さんは可愛いお前らが帰ってこないか、週末毎度期待してると……」
「先生、私はお父さんと週末はデートするから問題ないよ!」
「出たぁ、ゆーなのファザコン発言」

 元気よく手を挙げて発言したのは、まき絵の評した通りの明石であった。
 皆もやれやれと呆れ顔だったり、アレはアレでありなんじゃと唯一呟いたのが神楽坂である。
 もはや神楽坂の年上好き、オジコンもここに極まれりだ。
 麻帆良大の教授という話だが、むつきはその人と会った事がない。

「あー、話の腰が折れたが。月に一度ぐらいは帰れってことだ」
「先生」
「なんだ、那波?」

 このクラスでも格段年齢と見た目のそぐわない、人妻臭がする那波が手をあげた。
 特にあの制服のボタンが弾け飛びそうな巨乳が体を持て余した団地妻っぽい。
 他にも常に絶やさない笑みだとか、あと泣き黒子。
 あまり渋谷とかに行かないで欲しい、絶対AVとかのスカウトされるから。
 中学生団地妻、ちょっと見てみたい気もするのだが。

「今、なにか不穏な事を考えませんでした?」

 そして異常に鋭い勘を発揮し、おぞましい目に見えるような黒い波動を出しながら尋ねてくる。
 位置的には廊下と窓際でかなり遠いが、同室の村上がぷるぷる震えていた。
 常日頃からあの波動に当てられ、もはや条件反射の域のようだ。

「不穏ってなんだよ、逆に教えてくれ」
「いえ、なければ一向に。お爺様がご帰宅なさる事はないのでしょうか?」
「わ、私もできればお話を」
「お前ら、俺の爺さんに何処まで興味津々なんだよ」

 この時とてつもなく珍しく、内気で男が駄目な、宮崎までもが小さく手を挙げていた。
 この子は読書好きで少々夢みがちな性格なので単純な憧れだろう。

「一度お話を聞いて。現代に生きる浦島と乙姫で、園の子供達に新しいお話を作ってあげられないかと」

 園とはボランティア先の、身寄りのない子供達の事である。
 そういう割とまともな理由ならあわせてあげたいのだが。
 あいにく、爺さんはひかげ荘以外に麻帆良内では帰る場所もない。
 あそこは絶対教えたくない場所であるので、適当にごまかしておく。

「帰って来たら、教えてやるよ」
「ええ、お待ちしていますね」
「のどか、よく頑張りました。挙手をして先生に質問など、格段の進歩です」
「ゆえゆえ、頑張ったけど。もう、だめ」

 少々無駄話が過ぎたので、ぱんぱんと手を叩いてこれからは挙手も無しと教える。
 何かあればこの後にしろと、最近使い始めた合図でもあった。
 ちょっと猿回しっぽいのでアレだが、皆ちゃんと静かにしてくれた。

「部活に遊び、ほんの少しの勉強。精一杯休みを楽しめ、怪我のないようにな。以上」

 そう締めくくった瞬間、わーっと教室内が歓声に包み込まれた。
 ただの休日だがまさにお祭り状態。
 何処行く、何時遊ぶと皆がわいわい騒ぐ中で、睨むように見てくる美砂と一瞬目があった。
 即座に視線をついっとそらしたむつきは、騒ぐ生徒達に隠れるように逃げ出した。
 それはもう、素早く。
 まき絵のばいばいという声にも軽く手を挙げた程度で、脱兎の如く走り出す。
 残された生徒達の一部は、その事に気付いたように小首をかしげる。

「ばいばーいって、行っちゃった。慌ててたけど、何かあるのかな?」
「先生も忙しいし、と言いたいけどちょっと変やったな」
「そりゃ、先生も男って事っしょ」

 ちゃんと挨拶を返してもらえず残念そうなまき絵のそばで、亜子も首を傾げていた。
 そこへ訳知り顔で現れたのは、春日である。

「美空ちゃん、何か知っとるん?」
「花の金曜日、男がいそいそと帰るなんて一つだけ。女、デートしかないっしょ!」

 春日の信憑性ゼロの発言に対して、週末の予定を話していた殆どの者が止まった。

「アホらし、お先」

 クラス内で数少ないノリの悪い長谷川は、興味なさげに帰って行ったが。
 身近な教師の恋愛話とあって、食いつかない女の子は少ない。
 美空の周りに瞬く間に円陣を組むように集まり、声を潜めて話し合う。

「誰なのかな、知ってる人かな?」
「実は意外と身近に。同じ先生の誰かだったりして!」

 どきどきと鳴滝妹が呟けば、火に油を注ぐように鳴滝姉が根拠もなくあたりをつけた。

「歳の近い人は、しずな先生とか二ノ宮先生?」
「二ノ宮先生、そういえば前にレオタードで職員室行った時なんだけど」
「まき絵、羞恥心持った方がええよ?」

 割と大人しめの大河内が食いつき、おぼろげに思い出すようにまき絵が呟いた。
 レオタードでと言う点についてだけは、和泉がしっかり突っ込んでいたが。

「先生に一度注意されて、二ノ宮先生にも注意されたけど、後でまた先生に注意された」
「よし、わからん。誰か通訳!」
「つまりこういう事ヨ、裕奈サン。乙姫先生に一度注意されたのに、再び注意された。二ノ宮先生が個人的に乙姫先生に頼んだとネ?」

 翻訳と言うより推察に近い言葉であったが、面白さは常に真実に勝る。
 ゴシップとはつまりそういうものであった。

「さすが超りん、万能天才。それで個人的にってやはり密室、夜お部屋って事でファイナルアンサー? しっぽり濃密なラヴ臭ッたたた、痛い美砂ちゃん何故に私の触覚を!」

 大盛り上がりを続ける中で、最大の禁句を述べた早乙女のアホ毛を握り締めていた。

「あぁ?」

 何故にと訴えた早乙女の言葉を、スケバンも真っ青の凄み一つで黙殺させてしまった。
 良い所なのにと文句を言おうとした面々も、思わず後ずさっている。
 まるで見た目と実年齢の差を指摘された那波に匹敵するオーラをまとっていたからだ。
 アレに逆らってはいけない、既にそういう共通認識であった。

「千鶴姉の殺意の波動が、殺意の波動が伝染した!?」
「うふふ、夏美ちゃん。少し、向こうでお話良いかしら?」

 一番ソレに敏感な村上がそれだけは勘弁と、半泣きで叫んだところを那波に連れて行かれる。
 誰か助けてと訴えたが、視線合う者すべてが触れるまいとそらしていた。
 それは兎も角、一体何故という周りの疑問は、やっちゃったと半笑いの釘宮が持っていた。

「昨日から美砂、すっごく機嫌悪いから特に恋愛話は隠れてした方が良いよ」
「痛い、イタタタ。そういう事は早く行ってよクギミー」
「クギミー言うな」
「ああ、そっちの触覚まで。千切れる、二本同時は不味いって!」

 二本あるうちのもう片方も釘宮に引っ張られ、もはや死に体の早乙女であった。

「直接聞いたわけじゃなくて、聞こえちゃっただけだけど……言っていいのかな」

 暴走中の美砂ではなく、釘宮に問いかけたのは隣の席にいる神楽坂であった。
 本人は話が出来る状態ではないのでその親友に振ったが、良いんじゃないと軽く帰って来た。

「別れたらしいわよ、彼氏と」

 神楽坂の爆弾発言に、今再びの驚愕の大合唱であった。
 もはやむつきの事など捨て置かれ、張本人がそばにいる話題へと興味が移る。
 ただし、本人が別人のようにキャラが変わっているので聞けやしない。
 となると矛先は、そのルームメイトであり親友、つまり事情に詳しそうな釘宮に移った。
 本人の代わりになんで、どうしてと揉みくちゃにされ、釘宮は慌てて探す。
 もう一人のルームメイト兼親友の椎名を。

「さ、桜子!」
「桜子さんなら、つい先程帰られましたわ」

 助けを求めた釘宮にニコニコと答えたのは、雪広であった。
 ショタコンと主に神楽坂に他称される彼女も、女子中学生らしく興味があったらしい。
 本人に好きなタイプはと尋ねたら、愛らしい少年と即答するのだろうが。

「一人で逃げるな、私も連れてけ!」

 そんな釘宮の叫びも虚しく、怒涛の質問攻めの中に埋もれていった。









 週最後の残業を、むつきは何時現れるとも知れない美砂に怯えながら済ませた。
 現在時刻は午後八時二十分、ひかげ荘へと向けて街灯の少ない道のりをとぼとぼ歩いている。
 あれから、美砂の前でボロ泣きしてから連絡は途絶え気味になってしまった。
 途絶え気味というのは、少し正しくはない。
 美砂からのメールの数は以前と変わらず、結構な頻度で送られてきている。
 途絶えているのは、むつきからの返信であり、返しても今ちょっと忙しいといった文面であった。
 もちろん、忙しいなどという言葉は下手ないいわけである。

「はぁ……良い歳して泣くとか。好きな子の前でしかも号泣、おっぱい理由にちょっと泣き止んで赤ちゃんプレイとか。もう、なんか死にたい」

 足取りはさらに重くなるが、ひかげ荘には行かなければならない。
 ひかげ荘はもう誰も泊まる者がいなかった為、食器類はもちろん布団もなかった。
 そこで美砂と使う為に、シーツや枕も含め、一式を通販で頼んでおいたのだ。
 仕事があるので、その受け取りは八時半に指定してある。
 あるのだが、そのままお蔵入りしてしまう未来が頭をどうしても過ぎった。

「呆れられたろうな、絶対キモイって思われた。でも別れたくない、別れたくねえよ」
「何時誰が呆れたって言った? キモイって言った、別れたいって言った、この野郎」

 突然背後から掛けられた聞き覚えのある声に、思わず背筋が伸びた。
 振り返ったその先にいたのは、一週間前に会った時と同じ黒の長袖ワンピースであった。

「可愛い彼女の目の前を、気付きもせず通り過ぎる普通?」
「美砂、どうして。結局、週末の約束してないのに」
「寮に帰省の連絡入れてきた。円と桜子にも失恋旅行行って来るって言ってきた。何かあっても実家に電話しないで携帯にかけてって」

 失恋と言われて美砂の手元をみると、大きな旅行バッグが提げられていた。
 もう何がなんだか分からず、失恋という言葉だけがむつきの頭を飛び回った。
 ちょっとまた泣きそうになったが、次の美砂の行動が少しは救ってくれた。
 以前と変わらず、笑顔でむつきの腕に抱きついてくれたのだ。

「先生、バッグお願い。まだあの階段、もの持って登れる自信ないから」
「あ、ああ……分かった、任せろ」

 もうわけが分からず、混乱しきりでむつきは何時自分が布団一式の受け取りをしたかさえうろ覚えであった。
 時間が誰かに消し飛ばされたように、目の前の光景が変わっていた。
 場所は管理人室、コタツテーブルは隅にどけられ、真っ白な布団が敷かれている。
 真新しいパリッとしたシーツも被せられ、枕も二つ仲良く並べられていた。
 残念ながらYES、NO枕ではない。
 欲しかったが登録中の通販サイトになかったのだ。
 それを抜きにしても夫婦が新婚初夜を迎える為に、丁寧に整えられた寝床のようでもあった。
 そこでハッと我に返った、夫婦という二文字に自分と美砂を重ねたことで。

「新品ふかふか、先生新しいの買ってくれたんだ」
「ああ、ちゃんと干さないと使えないのや。黄ばんだシーツばっかりだったから」
「そこだけがネックだったけど。うん、これなら大丈夫」

 布団を満足そうに叩いた美砂が、楽しそうに振り返ってニッと笑って言った。

「先生、一緒にお風呂はいろ」

 一応ひかげ荘には、室内の風呂もあるのだが美砂がそれを知るはずもなく。
 何を指しているかは一つしかなかった。









 先週の日曜日、カレンダー的には今週の日曜日だが。
 その日の家デートの時に、一度だけ美砂はひかげ荘の露天風呂に入っていた。
 結局本人の知るところとなったお漏らし事件の際に、一人でだ。
 二回目となる今回であったが、それでも感動するには十分な光景であった。
 全開は昼であり、今回は夜という事もあるが、それだけではない。
 溢れる湯気が舞い上がり、星々あふれる夜空を覆い隠していく。
 お湯を囲む岩場は数点のライトに照らされなければ浮かばず、闇にひっそりとしている。
 本当にここは麻帆良かと疑いたくなる和の光景あふれる露天風呂。
 これで感動するなと言う方が無理というものだ。

「わぁ、夜だとなおさら良い雰囲気。先生、早く早く!」

 全裸のままタオルで隠しもせず美砂が小走りになって、露店風呂に近付いた。
 やや使い古された感のある木の桶で湯船をすくい、掛け湯をする。
 流れるお湯が湯気となって美砂の体を真っ白な湯気で覆い隠していく。
 湯気は徐々に薄れていくが、その向こうから現れたのは温まり桜色に火照る美砂の体であった。
 白い桜が一瞬で桃色に変わったような、一種幻想的な光景でさえある。

「ん、先生どうしたの。見惚れちゃった?」
「クレオパトラなんて比べ物にならない、見返り美人だ」

 まだ不可解さは残るものの、美砂がいてくれる事で少し調子が戻り始めていた。
 美砂もその事に気付いたようで、見返り美人と言われたこと以上に喜ぶ。

「先生も早く、マナーだけは今日は無礼講で」
「わざとか、間違った使い方するな。日本語は正しく使え」

 先に湯船に足をつけた美砂を追うように、むつきも掛け湯を行った。
 春先のまだ時折冷たい風を吹き飛ばす熱さに包まれ、少しほっとする。
 そしてお湯に足を突っ込んだが、何故か美砂は肩まで浸からず立ったままである。
 何かを待つようにむつきを見ており、訝しげにしながら湯船に浸かった。
 すると美砂がむつきに少し近付き、くるりと背中を向けてから沈み込む。
 お湯の中に生まれる波紋を熱く感じながら、お湯を蹴ってむつきに背中を預けた。

「もう、気が利かなくなってる。可愛い彼女と一緒に温泉に入って、背中を預けられたら?」

 恐る恐る伸ばされたむつきの腕を、美砂が掴んでお腹に乗せる。
 流石にそこまでされれば、むつきも腕の輪を小さくするようにして抱きしめた。

「ちょっと熱いけど、気持ち良いね先生」
「そうだな」

 二人して瞳を閉じて、耳を傾ける。
 春風が山の木々の葉をざわめかせ、直立する幹の間をすり抜けていく。
 露天風呂の湯気が露に還元され、どこかにぴちょんと落ちた。
 もっと耳をすませば、それこそ山から風に流された葉が湯船に落ちる音さえ。
 そうした自然の音に耳を傾けていると、より大きな音に気付く事ができる。
 他のどの音よりも近く、温かくて安心する鼓動。
 肌と肌で触れ合う事で直接聞き取れる、二人の重なるような心音であった。
 熱いお湯の中なので若干普段より早いが、トクトクと響いている。

「少しは落ち着いた?」
「この二日間、動揺しっぱなしだったのが良く分かる。仕事の方で大きな失敗をしなかったのが不思議なぐらいだ」
「だったら、私の話をちゃんと最後まで聞いて。あれ、メールも全然読んでないでしょ。定型文何度も寄越して分かってるんだから。怒ってたんだから」

 抗議の意味を込めて、お腹をさわさわ触るむつきの手を抓った。
 慌てて引っ込もうとする手を逆に掴んで、引き止めもしていたが。

「私ね、先生の事が好き。告白された日曜の朝よりも、このひかげ荘でエッチした時よりも。月曜にキスしたり抱っこされた時より、水曜に甘々、イチャイチャセックスした時よりも」

 水曜の件で再び逃げようとした腕を、逃がすかと美砂が引っつかんだ。

「嬉しかったんだから、私。先生が弱みを見せてくれて。私も仕事も好きで大事だって、泣いてくれて。全然格好悪くない、キモクない。縋られて、おっぱいあげて支えてあげたいって思いさえした」
「でもやっぱ、良い大人がさ。俺は美砂より十歳以上も上だし」
「そこ、私が気付いたのは」

 むつきの腕の中でくるりと回り、美砂が湯船の底に手を付いて見上げてくる。
 女の子らしい長いまつげのむこうにある大きな瞳で。

「先生って他人、生徒を思った時は強いけど、自分の事になると途端に弱気になる。異常にメンタルが弱い。晒してないよ、事実だとは思うけど」

 美砂に指摘されて思い返してみる。
 生徒を思った時といわれても、最近は主に美砂しか見ておらず、生徒と言うか彼女だ。
 美砂が駅でボロ泣きしていた時、異常にテキパキと高畑に連絡をとったりした。
 これは彼女になってからだが、屋上のバレーで美砂が倒れた時、周りなど見えていなかった。
 誰よりも早く駆けつけ抱えお越し、雪広に支持を出してから介抱に走っていた。
 反面、自分が中心の授業はふん詰まり、自信なさげに何度も教科書を確認したり。
 教室の生徒を静かにさせられない事を嘆き、あげくクソガキと心で蔑んだりもした。

「今回だって、私のメールも見ずに自己完結に走って勝手に勘違いしてウジウジと」
「すまん、泣きそう。これ以上、苛めんな」

 美砂から視線をそらし、ずずりと鼻をならしたむつきを無理やり振り向かせる。
 少々首がゴキリと鳴ったが、多少の荒療治は仕方がない。

「だから思ったの。誰かが先生を支えてあげなきゃって、応援してあげなきゃって。それは誰の役目。委員長? 二ノ宮先生? まき絵は、まあいいや。それとも世界で一番可愛い彼女?」
「佐々木ぇ……てか、なんで二ノ宮先生まで?」
「うっさい、思い出したら腹立ってきた。二本あるんだから、片方むしっとけばよかった。あの存在意義の不明な触覚」

 慈愛の表情から急にやさぐれた美砂に、何があったと思わざるを得ない。
 二本の触覚と言えば、一人思い浮かぶ者もいたが。
 何やらよからぬ暴走でもしたんだろうと、何時もの事だとさらっと流す。

「美砂が良い、世界で一番可愛い美砂に支えて欲しい。こんな俺でも良かったら、だけど」
「うん、一杯応援してあげる。今日もチアコス持ってきたし、違う種類のもね」
「やっぱり天使か」

 久しぶりに自分の意志で美砂を抱きしめ、膝の上に乗せた。
 お湯の中で美砂の性器やゆらめく陰毛に触れ、一物がむくむくと大きくなる。
 対面座位のような格好となったので、徐々に大きくなるそれがピッタリ美砂の谷間にフィットした。
 入りたい、美砂の中に入りたいと思ったが、唇に指を置かれてしまった。
 先手をとってまだお預けと。

「もう少し、我慢して先生。もう一つ、話があるの」

 いきなり完全回復はないが、むつきの心は癒され始めている。
 ならば他に何があるというのか。
 美砂がそういうのなら、むつきは幾らでも待つつもりだが。

「私、少し先生の事を誤解してた。元彼の事でどん底やけっぱちだった時に優しくされて、屋上での事もあったし。格好良いだけの、都合の良いヒーローみたいに思ってた。ちょっとエッチな」
「それ、最後の落ちいるか? 俺はできれば、美砂のヒーローになりたい」
「じゃあ、エッチはもうしなくても良い?」
「もし可能なら常時繋がってたい。もっと一杯、色んなプレイを美砂としたい」

 少し脱線しかけるが、美砂が話を戻す。

「後でね、先生。改めて知った先生はヒーローじゃなかった。そう見える時もあったけど、自信がなかったり、からかわれて戸惑ったり。夢をなくしそうになって泣いたり」
「あっ……」

 するりとむつきの腕の中から抜け出した美砂が立ち上がる。
 辺りを包む湯気と星明り、スポットライトのような明かりの中で振り返った。
 胸も性器も隠さず、身に纏うのは湯気だけで両手を広げてむつきに全てをさらしながら言った。

「酔った勢いでも、憧れでもない。本当の先生を知った上で、あの日の初夜をやりなおしたい。もう、処女じゃないけどもう一度。同じぐらい先生にも本当の私を知ってほしい」
「俺の知ってる美砂は……可愛くて、ちょっと嫉妬深くて、欲求に正直な女の子。エッチにも積極的で、大抵のリクエストに答えてくれる最高の彼女。だった」
「今の私は先生にどう見えてる?」
「実はびっくりする程、男前で。とびっきりの良い女。あんま、変わんないかな」
「男前はちょっと微妙、だけど先生がそう感じたならそれが私」

 そう呟くと、お湯に入りなおしてむつきの腕の中に帰ってくる。
 ただし、やはり全てをさらけ出すのは恥ずかしかったようだ。
 口元までお湯につかるようにして、体を小さく丸めていた。
 そんな美砂のお腹に腕を回して引き寄せては抱きよせる。
 美砂が彼女でよかったと、あの時の偶然の出会いに感謝しながら思う。

「俺は、美砂に会う為に生まれてきたのかもしれない」

 小さく丸くなる美砂の肩に顎を乗せ、胸の内に浮かんだ言葉をそのまま呟いた。
 ちょと臭かったかなと、呟いてからそっぽを向いて鼻の頭を指先でかく。
 そしてふと気付くと、美砂の体が震えていた。
 案外、ツボに嵌って嬉しさにたまりかねているのか。
 なんてことはなかった。
 あろうことか、こんなくそ真面目な場面で噴出した、盛大にそれはもう。

「ぶはっ、もう駄目。先生、映画の主人公にでもあはっ、お腹、痛ッ。ひぃ、台無し。今までの全部台無し!」
「ちょっ、そこまで言うか。俺だってちょっとは臭いと思ったけど。ソレぐらいお前の事が、頭きた。絶対、もう言わねえ。頼まれたって、言ってやらねえ!」
「ごめん、先生怒らないで。もう一回、私に会うたっ。あははは」
「この、そんなにひいひい言いたけりゃ。存分に犯してやろうか!」

 あまりにも美砂が笑う為、両腕を振り上げて掴まえようと追いかける。
 当然美砂も、笑いすぎて膝に力が入らないままではあったが逃げだした。
 ばしゃばしゃと、小さな子がビニールプールで遊ぶように。

「誰か、助けて。犯される。変態教師に、犯されちゃう。エッチな事一杯されちゃう!」
「はっはっは、叫んでも無駄だ。ひかげ荘には俺とお前だけ。何処に逃げても、探し出して調教してやる。俺の事はご主人様と呼べ」
「許してご主人様。エッチな事だけは、エッチな事だけは」

 つい先程までの真面目な話はなんだったのか。
 正真正銘そんなものは吹き飛んでおり、この場にいるのはただの馬鹿ップルだ。
 むつきが逃げる美砂の両腕を捕まえたが、抵抗にならない抵抗をされる。
 言葉とは裏腹に、むつきの一物にチラチラと期待を込めた視線が注がれていた。
 もちろんむつきもそれに気づいて、この淫乱がとお湯の中に押し倒し胸を揉む。
 そんなじゃれあいを数分も続ければどうなるか。
 露天風呂の岩場にぐったりともたれかかる二人が、その答えであった。

「熱い……暴れ、暴れるんじゃなかった。逆上せそうだ」
「ずっと喋ってたから。でも先生、すっかり元気になってる」
「そうか?」

 尋ねられて直ぐには分からなかったが、言われて見ればそうであった。

「真面目な話はこれで最後。先生、前に言ってくれた。泣いている私より、笑ってる私が好きで、そんな好きな私でいてくれって。私も、同じだから」
「ん、良く分かった。落ち込んだ俺より、頑張ってる俺の方が良いよな」
「そゆこと。はぅ……長かった。先生、そろそろ出よう。初夜、やり直そう?」
「わかった、たっぷり可愛がってやるよ。覚悟しろよ、この野郎」

 二日ぶりのその口癖に、美砂もたっぷり可愛がってと笑顔で答えた。









-後書き-
主人公は生徒と共に成長するタイプの教師。
あと、糖分に溺れてラヴ死しろ。



[36639] 第八話 もっと甘くて、切なくて綺麗な
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 20:36
第八話 もっと甘くて、切なくて綺麗な

 少々逆上せ気味で露天風呂から上がった二人は、ゆっくりと体を冷ましながら廊下を歩いていた。
 身につけているのは、旅館時代に使われていた浴衣である。
 体が必要以上に火照っているので、早くも着崩しているが問題はない。
 どうせ管理人室について十分と経たずに、お互い生まれたままの姿となるからだ。
 だが今はまだ、温泉旅行に来たカップルのように、手を恋人繋ぎして歩いていた。
 それだけではまだ足りないと、美砂は体を摺り寄せごろごろとむつきの肩に頬ずりも。
 逆上せている事もあったが、おかげで少し美砂の足がおぼつかない。

「大丈夫か、美砂?」
「うん、ちょっと何か飲んだ方が良いかも」

 全力でむつきを奮い立たせようとした時とは違い、笑顔の中に僅かな儚さが見える。
 むつきでさえくらっときたぐらいなのだから、少女である美砂には相当の疲労だったのだろう。

「初夜、か」

 ふと、これから管理人室で行なう行為を思い出し、呟いた。
 決断は一瞬、恋人繋ぎの手を放して立ち止まり、半歩美砂を先に歩かせ腰を屈ませる。
 えっと美砂が振り向くより早く、重心を低くして手を膝裏に滑り込ませた。
 後は腕に力を込めて支え、重心を上に元に戻していく。

「きゃっ」

 悲鳴をあげた美砂が、直ぐにむつきの首に腕を回してきた。
 以前にも何度かした事があるが、お姫様抱っこという奴である。

「ふぅ、びっくりした。先生、やる前に声を掛けて」
「ちょっとしたサプライズも、初夜っぽいだろ?」
「うん、お布団までお嫁さんを連れてって。私の素敵な旦那様」

 美砂の望み通り、管理人室までの廊下を抱き上げたままイチャイチャと進んでいく。
 管理人室の入り口である襖を足で開ける事になったのは、少し格好悪かったが。
 予め美砂が枕を二つ並べて綺麗に敷いた布団へと、そっと降ろしてやる。
 多少名残惜しそうに腕は伸ばされたが、慌てたベッドインは初夜に相応しくない。
 そう思った美砂は腕を放し、近くに置いてあった旅行バッグに手を伸ばしてペットボトルを取り出した。
 まずは大事な本番前に休憩と、キャップを切って、お茶を飲み干し始める。

「ちょっとぬるまってるけど、美味しい。先生も、少し飲む? 汗一杯かいたし、またかくし。凄く一杯」
「恥ずかしいなら、言わなきゃいいだろ。ちょっと飲んどく。ちょうだい」

 自分で言って照れた美砂から三分の一程減ったそれを受け取り、さらに三分の一を飲み干していく。
 残りは行為の後で喉が乾いた時用にでもと、むつきはコタツテーブルに置いた。
 それから布団の上で女の子座りをしていた美砂の正面に正座で座り込んだ。
 一時の沈黙は、時計の針の音では埋まりきりはしなかった。
 お互いにそわそわとし始め、意を決したようにむつきが美砂の肩に手を置いた。
 その手がまだ何も言わぬうちから、じりじりと浴衣の襟を両肩の外側へとずらし始める。

「美砂の全部、見せてくれ。明かりは消さない。胸も大事なところも全部見たい」
「うん、先生の手で脱がして」

 美砂の言葉が終わるや否や、その両肩に置かれていたむつきの腕がそっと開かれた。
 浴衣の襟元に親指を滑り込ませ、引っ掛けながら。
 ただそれはただの切っ掛けでしかなかった。
 ほんの少しずらすだけで、あとは水が下に流れるがごとく浴衣が肌の上を滑っていく。
 美砂の肌のキメ細やかさを証明するように、絹のような衣擦れ音と共に。
 浴衣の下から現れたのは、火照ったままの桜色の肌である。
 上半身に残されたのは、純白にピンクのリボンが刺繍の様に縁を彩るブラだけ。
 少し上目遣いに見上げ、むつきに頷かれた美砂が背中に手を回してホックを外した。
 小さくプチりと外れる音がし、脱ぐと同時に美砂は腕で隠すように胸を持ち上げる。
 その間にむつきの手は、半分脱がされた美砂の浴衣の帯を手にしていた。
 元々きつくは結ばれてはおらず、端を握って引っ張ればするりとほどけていった。
 そこで美砂の浴衣は着衣としての意味を失い、布団のシーツと一体化するように落ちた。

「ゆっくり、寝かせるぞ」
「うん」

 そんな美砂を支えながら、シーツの上に広がった浴衣の上に寝かせていく。
 美砂を覆う着衣はもはや、ブラと同じ白いパンツのみであった。
 火照った体を更に火照らせて、美砂が無言でわずかに腰を浮かせる。
 言葉などもはや不要とばかりに瞳で意志の疎通をはかり、むつきが手を伸ばした。
 力を込めれば簡単に引きちぎれそうな下着をつまみ、脱がせていく。
 丸みのあるお尻を脱がす為に引っ張り、山を一つ超える間に丸まったそれをさらに降ろしていった。
 太ももから膝へ、美砂の両足を片手で持ち上げつつ、脱がしきる。
 まだ温かいそれを手の中に感じつつ、むつきは改めて美砂を見下ろした。

「綺麗だ」

 他に言葉が、むしろ余計な修飾子こそ無粋だとさえ思えた。
 真っ白な布団に広がる浴衣、その上に胸を腕で隠し、大事な部分を体を捻り太ももで隠すようにしている。
 クラスの中でも大人びた方とはいえ、まだ十四の中学生。
 大人と子供の中間、妖艶な幼さ、美の矛盾の集大成とも言える存在がここにあった。
 だがその美は、完成というにはまだ早かった。

「美砂、隠さず全部見せてくれ。美砂の全てを」
「せ、先生。恥ずかしぃ」

 か細い消え去りそうな声で訴えたが、ゆっくりと胸を支えていた腕が退けられる。
 体を捻り隠していた秘部をさらけ出すように、少しずつ体が伸ばされていく。
 その間ずっと美砂はきつく瞳を閉じており、体全体が羞恥に震えていた。
 一度、露天風呂で自ら全てをさらけ出したが、明かりこそあれ半分は暗闇だった。
 だが今は天上では釣られた蛍光灯が煌々と灯っており、視界を防ぐ影一つない。
 見られている、大好きな人に今全てを見られていると美砂は震えてさえいた。
 サイズ的には十分巨乳の類に入る胸は、無様に重力に押し潰されてなどいない。
 若く瑞々しい張りのある肌が、球体のまま今にも弾みそうな弾力で持ち上げられていた。
 綺麗にくびれた腰は、若さのみならずチアリーディングのおかげか。
 今再び膨れるのは大きなお尻、その中心にはうす目の陰毛がお宝の目印のように生えている。
 女性の宝とも言える秘部、今はまだ割れ目にしか映らぬそこからはとろとろと岩清水が期待を込めて流れ落ちていた。

「私はもう、見せたよ。先生も」
「ああ、分かった」

 時間を掛けて脱いでいった美砂とは対照的に、むつきは無造作に手早く浴衣を脱いでいった。
 それは、はやく美砂と一つになりたいという欲求でもあったのだろう。
 帯を紐解き、羽織っていた上着程度のように浴衣を脱ぎさる。
 特別鍛えていたわけではないが、それなりに厚い胸板があった。
 他にも美砂とは比べものにならない程の毛深い陰毛の中から一本の竿がそそり立つ。
 その余りの見事さに、美砂の方が恥ずかしそうに顔を両手で覆っていた。

「美砂、恥ずかしがらず俺も見てくれ」
「う、うん……」

 心の奥底まで見れない変わりに、体の全てを見せ合う。
 そうすればいずれお互いの心の底まで見ることができると錯覚したように。

「先生、そろそろ来て」

 飽きる事なく互いの体を見つめあったが、羞恥に耐え切れなかったように美砂が呟いた。

「美砂、好きだ」
「私も、先生の事が大好き」

 小さなその体を覆うように、むつきが美砂に覆いかぶさった。
 好意を伝え合い、唇を触れ合わせては離れ、また触れ合わせる。
 小鳥が餌をついばむように何度も唇を触れ合わせ、段々とむつきが美砂の体を降りていく。
 唇から顎筋、首、鎖骨と唇で小さく跡をつけながら美砂の体を降っていた。

「んっ、先生ちょっと痛い」

 美砂の訴えに珍しくむつきが返答を返してくれない。
 まだまだ初心な美砂は小首をかしげそうになりながら、時間を掛けて気付いた。
 そして気付いた瞬間、カーッと頭の中まで火照る様に熱くなった。
 鎖骨に終わらず肩や胸の上に至るまで、少々の痛みを伴なうキスを繰り返すむつき。
 自分の体に印、跡を付けられているのだと、美砂は気付いたのだ。
 美砂が誰のモノであるかの証、むつきの唇で行なう押印、マーキング。
 それも跡が確実につくように、各部位でも肉の柔らかな場所が重点的に狙われていた。

「先生、もっと。私が先生のものって証、ちょうだい」
「ああ、誰が見ても分かるぐらい。美砂に俺の印を刻んでおくからな」

 乳房の下や、腋の下にまで行なわれたが、まだマーキングは続く。
 お腹からへそ周りと続き、いよいよかと美砂の体が少しだけ強張っていた。
 一番大事なところにマーキングされる、むつきのものだと証をつけられる。
 そんな期待の大きさが、秘部の割れ目から流れ落ちる愛液の流れが増す事ではっきりと分かった。
 へその下にキスマークを付けられ、むつきの顔に柔らかな陰毛が触れた。
 いよいよだと期待と不安が入れ混じる中、ついっと唇はあらぬ方向へと動いていく。

「え?」

 右足の太もも、膝、ふくらはぎ、足の甲にさえ。
 むつきが美砂の足を持ち上げてさえ、念入りにキスマークをつけていく。
 足を広げられ割れ目が少し開いてますます愛液の流れは強まるが、むしろむつきは遠くなるばかり。
 次は左足、今度は逆に足の甲からさかのぼってふくらはぎと戻ってくる。
 そういう順番なのだとむつきの拘りを感じ、美砂はじっと羞恥に耐えながらその時を待った。
 左足の上を這い上がるようにむつきの唇が登っていき、足の付け根にまで上ってきた。
 いよいよだと二度目の期待は、またしても裏切られる事になった。

「美砂、うつ伏せに。そう、いくぞ」

 布団の上をころりと転がされ、お尻にキスマークを付けられた。
 右と左、お尻の割れ目を境に平等な数になるようにいくつもだ。
 角度によればお尻の穴さえ見られたかもしれないのに、それどころではない。
 何故どうしてそんな疑問ばかりが頭に浮かぶ。
 そこじゃない、そこにして欲しいわけじゃないとお尻を振って抗議する。
 さらに言外にここなのと訴えたのは、秘部の割れ目から流れ落ちる愛液であった。
 うつ伏せになった事で真新しいシーツに秘部が接触して、どこまでも染みを広げていく。

「先生ぇ」

 ついに溜まらずむつきを涙交じりの声で呼んでは、しかるべき場所にキスマークをせがむ。
 それが伝わっているのかいないのか。
 あろうことか、むつきの唇はお尻から腰、背中へと逆に離れていく。
 もはや愛液のみならず、零れ落ちそうな涙で美砂はシーツを濡らそうとしていた。
 だからこそ、再び首筋にまで登ってきたむつきを決して逃がしはしなかった。
 たった一度、首の後ろにマーキングされると、上半身だけを捻りその首に抱きついた。

「先生、切ないの。私の大事なところが、まだ。そっちにも、そこに一番欲しい」
「美砂、ちゃんとお願いしてくれ」

 もう見慣れた感のある、エッチをする時の意地悪なむつきの顔であった。
 わざと、わざと大事な部分にキスをせず、こうして美砂が耐え切れなくなるのを待っていたのだ。
 そして美砂が後で思い返した時に、死にたくなる程恥ずかしい事をさせるつもりである。
 弄ばれているようで悔しいが、とても逆らえやしない。
 美砂は震える腕で体を起こし、そばの枕を腰の後ろに置いてもたれかかった。
 むつきの目の前でやや仰向けになるように座り、M字に足を広げてあれ程までに嫌がっていた蟹股となる。

「せ、先生……」

 こんな事をさせられ、自分は普通の女の子に戻れるのか不安さえ抱く。
 抱くのだが、愛液溢れるその場所に証を貰わなければ正気にさえ戻れない。
 それさえ貰えるのなら、キスマークで大事な部分に淫乱と刻まれても良い気がした。

「私のここに、証拠をちょうだい。先生のものだって、証を」

 ぴったりと閉じた秘所の割れ目、そこを自らの手を添えて左右に開かせる。
 よりあふれ出す愛液の向こうから、以前むつきが花と評した場所が現れた。
 卑猥な割れ目を自らの意思で開き、好きな人とはいえ男を淫らに誘う。
 少女から女へ、清い体でさえ武器の一つの女にさせられていくと言いようのない興奮に包まれる。

「良い子だ、美砂」

 自分で女に変えさせておきながら、悪魔のように子供扱いで頭を撫でる。
 まるで美砂の心のバランスを弄ぶようにだ。
 そしてむつきは、ついにそこへとキスマークを落とした。
 美砂が開いた大きな花びら、秘部の割れ目の片側へ、次はもう片側へ。

「あっ、ぁぁ……」

 一つ落とされるたびに、喜びに身を降るわせ天井を仰いで美砂が喘いだ。
 小さな花びらのある内部はさすがに危険なので、むつきも自重したらしい。
 キスマークでうっ血させる事はせず、代わりにと何度もキスして愛液をすすり上げた。
 美砂はもはや、後ろ手に両手をついて、腰を浮かせている。
 より強い刺激を求めるように、秘部を恥ずかしげもなくむつきの顔に押し付けた。

「先生、もっと。もっとキスして」

 もはやそれはキスなどではなく、ただの愛撫であった。
 犬が皿の上の水を飲むように、むつきが蜜壷から溢れる愛液を伸ばした舌でさらう。
 ピチャピチャといささか下品な音さえ鳴っていたが、美砂に嫌がる様子はない。
 むしろより強く、より深くと浮かした腰を彷徨わせていた。
 そしてついに、そんな美砂の要求に応えるように、膣の中を抉るように舌が侵入していった。
 狭い穴を舌が回転しながら押し広げるように、美砂の中へと入っていく。

「はぁ、はぁ……先生、気持ちぃぃ。私の中、どんなぁっ。感じ?」

 今度は答えないのではなく、答えられない。
 声を出す為に必要な舌は美砂の中で、答える代わりに舌を動かした。
 魚が大海を泳ぐように自由自在に、そこが楽園ですとばかりに泳ぎ回る。

「ぅぁ、ぁっ。んぅ、くっイク」

 緩急をつけて泳ぐたびに美砂の喘ぎも代わり、途切れ途切れに息が漏れる。
 そして一際強く、むつきが舌を伸ばしかつ、膣口に吸い付いた時、美砂の限界が訪れた。
 むつきの頭を抱え、縋るものを見つけたように腰を押し付け飛び跳ねる。

「ひぅ、イッイッちゃぅ!」

 体を弓なりに痙攣でも起こしたようにビクビクと体を震わせる。
 何の前触れもなく虚脱状態となり、布団の上へと背中から落ちていった。
 ぜえぜえと喘ぎ、後ろ手に支えていた手を額に乗せて焦点の合わない瞳で天上を見上げた。
 天井に見つけた年代ものの染み見つけ、何気なく数えては自分を取り戻していく。
 そんな美砂を真上から見下ろすように、むつきが覗き込んだ。

「美砂、おい。大丈夫か、ちょっと強すぎた?」
「ううん、素敵だった。先生、顔べとべと。えっと……い、嫌だったら言って?」

 手探りで何か拭けるものをと探し、美砂が手にしたのが自分の下着だった。
 浴衣は背中の下で動くのは億劫だし、一応聞いてからそれでむつきの顔を拭いた。
 だがむつきは嫌がるどころか、鼻の近くを拭かれるたびに忙しげに鼻を動かしている。

「匂い嗅がないで、もう」
「美砂の良い匂いがする」
「お風呂出て、少ししか履いてない。そんな体臭強くないから」

 これでお終いとむつきの顔に塗りたくられた愛液を拭き終わる。
 すると極自然に見つめあい、再びのキスを行なった。

「先生、私もその……先生のに。してあげた方が嬉しい?」
「俺的には少し微妙」

 美砂が言っているのは、むつきの一物を咥えてあげようかという事だ。
 口淫、またはフェラチオと呼ばれる行為である。
 自分ばかり汚いところを舐めさせてという気持ちなのだろうが、もちろん違った。
 むつきは美砂の大事な秘部であるなら、よろこんでキスをすれば舌も使う。
 ただそれが逆となると、やはり気が進まないらしい。

「いくら美砂が相手でも、フェラした後にキスしたくないから。今はまだいい。そのうちな」
「一応拭いたけど、自分の愛液塗れになった先生とキスさせられたんですけど」

 勘違いされがちだが、良い気分がしないのはお互い様。
 そう言いたかったが、言及は避けた。
 今は詰まらない言いあいよりも、むつきと文字通り深く愛し合いたい。
 それも何一つ邪魔される事なく、直接触れ合っていたかった。
 だから禁忌とも、むつきが決して承諾しないであろう頼みを願い出た。

「先生、私の一生で一度のお願い」
「ん、なんだ今さら。美砂のお願いなら大抵の」

 恋人の願いならばなんなりとと優しい眼差しのむつきも、次の言葉には態度を変えた。

「今日だけ、ゴムはなしでしたい」
「駄目だ」

 普通の男なら、むしろお願いする立場の願いをむつきは即断で退けていた。
 何しろ二人の間柄が既に普通ではないのだ。
 お互いの為にもそれだけは受け入れられないと、強い意志のある言葉で拒絶する。

「念入りに計算してきたの。一週間前も今もまだ安全日だから」
「あくまで、比較的なんだぞ」
「中で出してまでは言わない。出すのは外で良いから、先生」

 つい先程までの幸せそうな顔から一転、今にも泣きそうな声で懇願される。
 むくむくと湧き上がるのは、美砂を泣かせた罪悪感。
 それと同時に生でできると期待にふくらみギチギチに勃起する一物であった。
 深くついた溜息は美砂の我が侭に対してか、それとも節操のない自分に対してか。
 今にも涙が零れ落ちてきそうな程に瞳を潤ませた美砂の頬にふれる。

「今日だけだぞ。本当に、今回だけ」
「うん、先生大好き」

 とても良い顔、小憎らしい程の笑みを向けられ、思わず釣られて笑みを浮かべる。
 ああ、やっぱり惚れてるんだと、危険な我が侭さえ聞いてやって良かったとおもってしまう。
 枕と自分の位置を直し、布団にぽふりと倒れこんだ美砂のあの期待の眼差し。
 惚れた俺の負けかと、伸ばされた腕に誘われるように美砂に覆いかぶさっていく。

「先生、どうぞ私を召し上がれ」
「折角の美砂の我が侭、好意だ。心行くまで堪能させて貰うよ」

 自分から倒れこんだ美砂を、改めてむつきが押し倒した。
 一度キスをしてからその首筋に顔を埋め、舌で舐め上げながら片手で一物を握った。
 手探りならぬ、亀頭探りで入り口を探し、割れ目を探し当てる。
 挿入の直前に美砂の意志を瞳で問いかけ、こくりと頷き返された。
 その瞬間、ほとんど間髪いれずにむつきはずぶりと美砂を突き貫いていく。
 処女膜のない初夜のは、躊躇いのない深い深い挿入であった。
 美砂の肉壷の奥へ奥へと侵入しては、狭い膣内で居場所を失った愛液が流れ出す。
 そんなむつきの侵入、蹂躙が止まったのはコツンと最奥で硬いものにぶつかった時だ。
 珍しく強引なまさに犯すという言葉に相応しい挿入で子宮を小突かれ、美砂が声を張り上げた。

「あっ、んんぅぁっ!」

 膣内で蠢くひだが、一斉にむつきの竿から精液を搾り出そうと握り締めてくる。
 美砂の急な大きい喘ぎからも分かる通り、むつきを受け入れただけでイッたのだ。
 体中にキスマークを付けられ、散々愛撫された事もあるがそれは主原因ではない。
 遠くを見るように天井を見上げていた美砂が、ぽつりと美砂が呟いた。

「凄い、コンドームがないだけで。こんなにも先生を感じてる」

 一番最初、一度だけ生でした時は、初めての飲酒で美砂もかなり酔っていた。
 それも初体験のおまけつきで、何がなんだか分からなかったのが本音だろう。
 対面座位で上下に揺さぶられたのだからなおさら。
 だが今は風呂上りでもあり、全身をめぐる血液の音が聞こえそうな程に意識がはっきりとしている。
 むしろ過敏ともいえる状態ですらあった。
 体位も正常位と仰向けで寝るだけで、美砂は挿入される一物だけを感じていればよい。
 だからこそ、むつきの一物を受け入れる、それだけの事で果てる事になったのだ。
 意識が少し遠い状態でも、むつきの一物が刻む鼓動でさえ敏感に感じられた。
 それはむつきも同様で、射精を耐えられたのはひとえに経験の違いに他ならない。
 美砂と同じぐらい初心で経験不足であれば、きっと入れた瞬間に射精していた事だろう。
 現在の美砂の膣内は、それ程までに活発化の様相をみせていた。

「美砂、動いても大丈夫か?」
「大丈夫だけど。どうしよう、コンドームつけない事に病みつきになったら」

 一生に一度は誰しも何度も呟く台詞なのだが、美砂は早くも次を欲していた。
 今後も生でと期待を込めた瞳で、むつきを見上げてしまっている。
 だが今回だけとそんな美砂の頭を撫でて宥めつつ、むつきは微笑みかけた。

「満足させてやるから、心配するな。コンドームがあっても満足できるよう、可愛がってやる。だから、安心して貴重な今を楽しめ」
「うんぁ、ぁぅ」

 返事も終わらぬうちに、むつきが腰を引いて、再度の挿入を行なった。
 互いの下腹部がぶつかり肌と肌で拍手のようにパンと鳴り響く。
 再びの激しい快楽に、美砂はとっさにむつきの背中に腕を回していた。
 結合部からの衝撃、揺さぶりに対し、押し流されまいとするようでもあった。
 ただそれでも抗い切れはせず、なんとか快楽を逃そうと両足を目一杯伸ばしている。

「美砂、気持ち良いか。俺は最高だ、美砂の中が温かい。凄く締め付けてくる。必死に我慢しないと今にも出そうだ」
「わかんない、凄すぎてわかんない。これがセックス、本当の。赤ちゃんをつくるための。今私、先生と赤ちゃん作ってる!」
「ああ、今俺達は赤ん坊をつくろうとしてる。コンドームなんて無粋なものもない、本当のセックスだ」

 二度、三度と膣内を竿で蹂躙され、美砂が喘ぎ、むつきの背中に爪を立てる。
 痛烈な痛みを背中で感じながらも、むつきはやめなかった。
 むしろ美砂をさらに快楽の渦に招き入れるように、技巧を凝らす。
 ただ猿の様に腰を振るだけでなく、美砂の膣を味わいながら様々な方法で責め立てた。
 腰を回し、深く挿入した状態で膣を竿でかき回す。
 はたまた、挿入の角度を変えては亀頭やカリ首で膣の肉壁をこそげていく。
 これまでに様々な手段で得た知識から、美砂を感じさせようと実践していた。

「んっ、んっぁ。気持ち良い、今までで一番。ぅぁ、せんっせぇ」
「どうしくっ、どうした美砂」
「これ、これでぁん。中に出されたら、どうなっちゃうんだろ」

 小さな小さな好奇心がうずき、美砂の足が動こうとした。
 必死に腰を打ちつけるむつきを、抱きかかえるように逃げ出せないように捕獲しようと。
 腕で背中を抱くように、足でむつきの腰を抱こうとする。
 そうなれば、むつきはもはや美砂の中で出すまで抜け出せない。
 美砂に請われるままにその奥、さらに子宮の中へと精液を吐き出すのみだ。
 間一髪、本当に間一髪それを察したむつきが、閉じ行く美砂の両足の足首を掴み取る。
 なんという怖ろしい事をする子なのか、愛し合う場で僅かにも苛立ちを感じてしまった。

「この悪戯娘、こうしてやる」

 初夜であろうと、甘くするのもココまでだと掴んだ足を上に持ち上げた。
 そのまま操縦桿のように前へと押し倒すと、むつき自身も前のめりになっていく。
 美砂を蟹股のまま丸めさせ、顔がキスできそうな程に近付いていった。

「やだ、こんな格好。許して、先生。ちょっとした好奇心だっただけで!」
「駄目だ、我が侭娘にはお仕置きだ。それに悪い事ばかりじゃない」

 正常位から代わってまんぐり返しと、まだまだ初心な美砂には辛い体位を取った。
 案の定と言うか、こんな格好はと美砂がいやいやと顔を振る。
 泣きそうな声で腰ではなく体全体を揺すって抵抗するが、それも直ぐに止んでしまう。
 悪い事ばかりじゃない、そんなむつきの言葉を信じたわけではない。
 その目で見て、理解してしまったのだ。
 自分の頭上、視線の先で繰り返される光景、秘所に深々と挿入され続けるむつきの一物。
 美砂は初めて挿入の瞬間、そのものを見た。
 今までは対面座位や立ちバック、騎乗位と美砂の視界の外である事が多かった。
 だが今この時、美砂は快楽でも言葉でもなく、視覚で強制的に教えられた。
 自分の股座に激しく打ちつけられるむつきの腰。
 その度にテカテカと愛液で滑り光る黒い肉棒が、美砂の秘所へとめり込んでいく。
 深く根元まで入っていく事が確認でき、溢れる愛液は空気と混ぜられ泡立てさえいる。
 何度も何度も、繰り返し挿入される度にその光景が見えた。
 酷い時には跳ねた愛液が顔に飛んで、顔の上を愛液が滴り流れていく。

「あっ、ぁぁ……」

 好意や快楽といった形のない感情ではなく、言葉と言う形のない音とも違う。
 強制的に二人の結合部を見せ付けられた現実。
 百聞は一見にしかずとは良く言ったもので、改めて教えられたこれがセックスだと。
 大人が愛し合い、赤子を作る過程で快楽を得る生々しい行為である。
 我知らず、その現実を否定するように美砂は首を横に振っていた。

「美砂、見えるか。俺とお前が繋がってるのが」
「嘘、嘘。こんなの、違う。私と先生は、私達は恋人同士でもっと甘くて、切なくて綺麗な」
「目をそらすな、これもセックスの形だ。綺麗な感情も言葉も捨て去れば、残ってるのはこんな現実ぐらいだ。それでも、俺は美砂が好きだ」

 もはやむつき自身、自分で何を言っているのか。
 グロテスクな光景を見せつけながら、最終的に行き着いたのがそれであった。
 重大な前振りを全て捨て去り、自分で否定した言葉を持って来たような。
 多少良いように言い換えれば、最後まで捨て切れなかった感情と言葉だろうか。
 醜くもある現実を前に、縋れるものをみつけて美砂も必死に飛びついた。

「先生、好き。大好き。先生がこれもセックスって言うなら、私受け入れる。かけて、私を現実で先生の精液で汚して!」

 コレまでよりも更に膣が締まり、むつきの射精感を促がしてきた。
 美砂を押し潰すように挿入を繰り返すのも限界であった。

「美砂、出すぞ。美砂の火照った体を白く染めてやるから、覚悟しろこの野郎」
「いいよ、先生だから。何されても、私を先生で染めて!」
「いく、いくぞ。美砂、いくぞ!」

 再三の宣言の後、むつきは美砂の中から一物を取り出した。
 鞘から刀の刃が解き放たれるように、膣の中から抜き出し、精液が弾けとんだ。
 温かい膣から冷たい外気に触れて収縮する間もなく、膨張しきって吐き出した。
 勢いよく飛び出しては直ぐに勢いを失い、ぼたぼたと美砂の体の上に零れ落ちていく。
 精の雨を全身で受け止めながら、美砂も二度目となる絶頂を迎える。
 もっとと欲しがるように全身を布団の上で伸ばし、落ちてくる精液を全て受け止めた。

「熱い、先生の精液。汚れちゃった、先生に汚されちゃった」
「つ、疲れた。主に腰が、美砂ぁ」
「先生、重いよ。けど、嫌じゃない。先生、こんなにも重かったんだ。一人で支えられるわけがない。私が、支えなきゃ」

 覆いかぶさるようにもたれかかってきたむつきを、美砂が抱きとめた。
 一度はどの重さに眉根をひそめもしたが。
 改めてその重さに気付き、そうだったんだと納得して、今一度しっかりと抱きしめる。

「ごめん、先生。もう、我が侭は言わないから。一生の思い出になる初夜だった」
「ホールドされそうになった時は、本当に焦ったぞ。美砂の足を咄嗟につかめたのは、我ながら神業だった。とはいえ、悪かったな。恥ずかしい格好させて」
「ううん、悪いのは私だから。でもその代わり、今はちょっとだけ甘えさせて」
「ん、こうした方が甘え易いだろ?」

 むつきも美砂を抱きしめ返し、ごろりと布団の上で転がった。
 上下を入れ替わり、胸板の上で美砂を受け止めなおし、髪を梳くように撫で付ける。
 美砂もむつきの胸の上で顔をぐりぐりして匂いをかいだり、猫のように甘えた。
 少々ハプニングもあったものの、美砂の初夜のやり直しは、以降穏やかに甘く過ぎ去っていった。









-後書き-
ども、お久しぶりでございます。
復活、arcadia復活!
このフレーズ、前作か前々作の時も同じ状態で使った覚えがw

今回のような事態の為に、ちょっと宣伝。
作者はブログ「CrossRood」を運営しております。
同時更新していますので、arcadia不調時はそちらへどうぞ。
落ちてた間も、そちらでは平常更新してました。

さて、八話になってもメインヒロインの柿崎ぃ!
信じられるか、これってハーレムのお話なんだぜ。
十三話ぐらいまでずっと美砂のターンです。

ちなみに、arcadiaが停止中に六十三話まで手元で進みました。
夏休みの八月に突入しています。
約四ヶ月のお話を六十話かけて書いています。
ネギが来る頃には百話行ってそうです。

他に色々書いたんですが、投稿失敗で喪失。
私の記憶からも喪失w

残念無念、また次回。
水曜日更新予定です。



[36639] 第九話 きっと向いてると思う
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 20:36
第九話 きっと向いてると思う

 休日は、愛しい人とのセックスの為にある。
 そんな言葉をぼんやりと思い浮かべる程、美砂は浮かれ放題であった。
 初夜の後は疲れて直ぐに、幸せのまどろみの中で寝てしまったが。
 翌日、起きてまずした事は、近くてちょっと遠いコンビ二へ土日の食べ物を買いに言った事だ。
 それからはもう朝食を食べてはセックス、終わったらお昼ご飯を食べてセックス。
 終わったらイチャイチャを挟んで夕食、露天風呂でのセックス。
 風呂上りに喉を潤しデザートを食べてまたセックス。
 土曜日は本当に一日中であり、日曜日はさすがにむつきがギブアップをした。
 美砂も大事なところが少しひりひりとしたので、一時休憩には賛成であった。
 なので午前中は朝食も食べずに、布団の中でイチャイチャとお喋りを。
 お昼ご飯後に、次は来週の土曜だからと、最後の一回をしっとりと時間を掛けて。
 恐らくはこの土日で、一生分に近い好き、愛してるという言葉を使ったのではないか。
 名残惜しいが夕方少し前にひかげ荘を出て、美砂は日が落ちる前に寮へと帰って来た。

「たっだいま。柿崎美砂、帰ってまいりました!」

 名目上、失恋旅行と言う事で寮を空けていた事も、はるか忘却の彼方である。
 勢い良く部屋のドアが開けられ、ゲームをしていた釘宮と椎名はきょとんとしていた。
 出て行った時と、帰って来た時の美砂のあまりの変わりように。
 ちなみに二人は早めのお風呂を済ませたのか、既にパジャマ姿であった。

「なんか、すっかりリフレッシュしちゃって。楽しかった?」
「すっごく、超幸せ一杯」

 若干引いている釘宮に対し、両手を頬に当ててにへっと美砂が笑う。
 これでおかしいと思わないはずがない、どんな鈍い人間でも気付く。
 木曜に続き金曜も彼氏と別れてブチ切れ状態、それがたった二日でどういう事か。
 失恋の傷を癒すどころか、以前に増して元気になってしまっている。
 普通に考えて、これしかないかなっと釘宮が尋ねてみた。

「もしかして、復縁した?」
「あ?」

 誰があんな奴と、幸せ気分を壊され、再び美砂に修羅が舞い降りる。

「めんどくさい、今の美砂が凄くめんどくさい」
「んー、たぶん新しい男?」

 実際、その新しい男は一週間前から存在するが、当たらずとも遠からず。
 社会科資料室での一件といい、異常な程に鋭い勘を発揮する椎名であった。

「なんだ、新しい男ね。桜子、続き。スタートボタ……ン?」
「それじゃあ、再開」

 一時、なら浮かれもするかと納得しかけた釘宮は、我が耳を疑った。

「じゃない、待った。何、なんて言った?」
「新しい彼氏」

 釘宮の疑問に答えたのは、いやんと体をくねらせながらの美砂であった。
 それがむつきである事はもちろん秘密だが、彼氏ができた事ぐらいは問題あるまい。
 正直、この幸せ一杯の気持ちを隠しとおせるとは到底思えなかった事もある。

「あっ、クギミーのクッパ落ちた」
「待てって言ったでしょ。加速に時間が掛かるのに、じゃない!」

 桜子は深く突っ込まず、スタートボタンを押してゲームを再開させていた。
 おかげでレインボーロードを外れ、クッパが奈落へ落ちていく事に。
 突っ込みに忙しいと、まだしっとりと濡れる髪をかき乱しながら釘宮は決断した。
 色ボケと素ボケに対し一人では戦力不備だと、援軍を呼ぶ事をだ。
 さっと玄関に走り寄っては開け放ち、あらん限りの力で叫びあげた。

「美砂が男こさえて、帰って来た!」

 夜の静寂に落ちていこうとする廊下へと、その声は何処までも響いていた。
 廊下に反響し、山彦さえ聞こえたかのようだ。
 そして真っ先に反応したのは、二つばかり離れた部屋の主であった。
 ぎぃっと、静かに開いたドアからその人物は現れた。

「私は生まれてからずっと腐の世界で生きてきた。だから腐った乙女とリア充な乙女との区別は臭いで分かる」

 何やら怪しげな雰囲気をかもし出しつつ、帽子を目深に被りながら出てきた早乙女である。
 つつつとこれまた怪しげな歩方を見せて、廊下から部屋内の美砂を指差した。

「こいつはくせぇ、ラヴ臭がぷんぷんするぜ。こんなリア充には出会った事がねえ程に。失恋が変えた、違うね。コイツは生まれついてのリア充だァ!」
「口上が長い上に、腐の世界とか激しくどうでも良いです」
「ハルナ、邪魔。男ってどういう事、別れたばっかじゃん!」
「どういう事なの。金曜に私千鶴姉に絞られ損じゃない?」

 綾瀬の突っ込みはまだ良いほうで、春日には蹴り飛ばされ、村上には踏まれ。
 続々と集ってくるクラスメイトの波の中にハルナの姿は消えていった。
 皆に揉みくちゃに踏まれ、辛うじて這い出てきたところを綾瀬と宮崎に回収されていた。 それはともかく、多すぎる援軍の数に呼んだ釘宮も面食らっている。

「誰々、失恋旅行中に出会ったの!? まっ、私もお父さんとデート楽しかったけど」
「ゆーな、それはええて。それより、どんな人なん? やっぱ年上で、慰めてくれたとか?」
「男はやっぱ強さアル。きっと凄く強い奴カ?」
「おめでとうございます、美砂さん。これお祝いです」

 明石や和泉、古に料理の試作品を差し出してきた四葉と、兎に角人が集ってくる。
 さらにクラスメイトどころか、遠巻きには何事だと別のクラスの人も。
 さすがにこれには美砂も、色ボケてはいられない。
 ピンク色に染まった頭に活を入れて、急いで喋って良い事と悪い事を整理していた。
 大抵、こういう場合にしゃしゃり出る特定人物がいるのだ。
 その人物が皆を仕切るまでが勝負だと、蕩けていた脳がしゃかりきと働いていく。

「はいはい、皆落ち着いて。一辺に喋っちゃ、聞きたい事も聞けやしない。と言うわけで、私が仕切らせて貰うよ。聞きたい事がある人は、挙手」

 やはり仕切ったのは、報道部であり麻帆良のパパラッチと呼ばれる朝倉であった。

「はい」
「んじゃ、大河内。大人しそうに見えて、こういう時に結構前に出るよね」
「うん、気になるものは気になるから。何処でどう出会ったの?」

 あまり深く突っ込まれるとまずいと、今さらながら美砂はかなり焦っていた。

「えっと、旅先で元彼思い出してぽろぽろ泣いてたら声を掛けてくれて」

 ファインプレイ、むつきとのあの出会いを少々の捏造と共に話す。
 あんな奴を思い出して誰が泣くかと、自身に心の中で突っ込みながら。

「す、凄いドラマやお話みたい。はい、あの……年上ですか?」
「こらこら、宮崎。順番は守りなよ。まあ、いいか。年上? あとイケメン?」

 おずおずと手を上げながら尋ねた宮崎の質問に、勝手に朝倉が質問を付け足す。

「ちょっと、年上だけど……」

 実際ちょっとどころではないが、美砂はもう一つの質問に対し考え込んだ。
 正直なところ、イケメン度で言えば元彼の方が頭一つ、二つ分上である。
 本当に正直、くやしいが。
 だが男としての器が違う、年上だからかもしれないがそれでも。
 きっとあっちの方だって元彼より大きい、元彼のは見た事ないが絶対にだ。
 そう考えて直ぐにハッと我に返り、ピンクは後だと心中で自分を叱咤する。

「世間一般的には、違うと思う。けど、私にとっては」

 よくむつきが美砂に言ってくれるように、

「世界一のイケメン、かな」

 自分もまたそう思えた。

「そうよね、柿崎。好きな人が、世界で一番イケメンよね!」
「明日菜、ちょっとこっち来てようか」
「ちょっと、なによ木乃香。良いじゃん、高畑先生、格好良いもん!」

 美砂の手を力強く握り締めた神楽坂を、近衛が引き剥がしてはずるずるとどこかへ連れて行く。
 きっと最後の台詞が一番主張したかったのだろう。
 引きずられていく神楽坂を皆で生温かくみまもり、見送った。
 それから改めて、悪戯っぽく笑った朝倉が、録音マイクを美砂へと向けた。

「じゃあ、そろそろ核心いこうか。何処のどういう人、ぶっちゃけ誰?」
「誰って……」
「いいじゃん、いいじゃん。隠さなくても。そこまで言われたら、一目みたいってのが友達でしょ?」

 明らかに美砂が戸惑った様子を見せても、ちょっとやそっとでは朝倉は引きそうにない。
 他の皆も何処の誰だと、美砂を失恋から救い上げた現彼氏に期待を寄せている。
 今度こそはっきりと、美砂は血の気が引いていくのを感じた。
 何処のどういう人で誰なのかなんて言えるはずがない。
 何しろ麻帆良女子中等部の教師で、最近生徒の人気が徐々に上昇中の乙姫むつきという名前だ。
 もしもこの場で、二年A組の副担任だと言ってしまったら。
 美砂は兎も角として、むつきの破滅であった。
 何故うかれた、セックス三昧、甘々でとろけてたからだ。
 だったらしかたないじゃん、いやしかしむつきの教師生命がとぐるぐる考える。

「あっ、えっと」
「誰、大人しく吐いちゃえば楽になれるよ。ほら、ほら」

 朝倉が焦らす事ないじゃんとばかりに、さらに美砂に録音マイクを突きつける。
 誰一人それを咎める者はおらず、もっとやれと瞳が言っていた。
 先生助けてと、女子寮の中で美砂が無駄な願いを飛ばすも、もちろんむつきは現れない。
 ぐるぐると色々と考え、最終的に美砂が取った行動はこれであった。

「誰でも良いでしょ、他人の色恋よりも。彼氏作れ、この野郎!」

 彼氏どころか、男友達さえ満足に居ないクラスメイト達への暴挙であった。
 ぐはっと十数名が廊下に沈み、勢いがそがれたところを追い出しにかかる。

「円、桜子も。手伝って!」
「あんた、私達も結構なダメージなんだけど。騒動の種蒔いたの私だし、仕方ないか」
「美砂、後で私達にだけ教えてね」
「教えないって言ってるでしょ!」

 三人で力を合わせて追い払うも、ちょっとやそっとじゃ負ったダメージは癒せない。
 しばらくは亡者のように怨念を撒き散らす彼女達に、ドアを叩かれ続ける事となった。









 翌日、月曜は学校の何処にも美砂の居場所はなかった。
 昨夜の暴挙のおかげで、授業中以外は四六時中クラスメイトに追いかけられていたのだ。
 極一部、余裕の笑みで苦笑するだけで味方でいてくれた者もいたが。
 主に浅黒い肌の年齢詐称疑惑がある人とか、これまた何故か朝倉とか。
 少々長めのお昼休みなど、逃げ続けるのにも限界があり、美砂は隠れる事とした。
 学校の屋上、普段は鍵の掛かっているそこをこっそりむつきに開けて貰ったのだ。
 もちろん下手な疑惑を呼ばないように、携帯で連絡をとりながらすれ違ってであるが。

「お前なあ、職員室でも少し噂になってるぞ。主に女性の先生だけど、羨ましいとか羨望が多いのが哀れみを誘うが」
「だってぇ……」

 そして現在、社会科資料室にいるむつきと、携帯で喋っている。
 というよりお叱りを受けていた。

「まあ、ちょっとした罰だ。しばらくそこで、頭を冷やしとけ」
「そっち、行って良い? 本番は駄目だけど、ちょっとぐらいエッチな事してもいいよ?」

 むしろしてとお願いにも聞こえる疑問系の言葉であったが、返答は無情であった。

「さっき、二、三度入れ替わりアイツらが来た。速攻見つかるぞ。それに、むしろこない方がックシ」
「え、どうしたの。大丈夫、先生」
「ああ、埃が……ほら、水曜に二ノ宮先生に整頓云々って言っちゃったろ。マジで少し整頓しないと。マスクでも持ってくりゃ良かった」
「が、頑張って先生」

 即座に意見を変えて、美砂は応援に留める事にした。

「おう、やる気がみなぎって来た。お前はあまりフェンスぎわに近付くなよ、危ないからな。それと寒くないか?」
「平気、先生と話してたらぽかぽかしてきた」
「なら、良い。そのうち、アイツらも飽きるだろ。頑張れよ。好きだぞ、美砂」
「うん、ありがとう。私も大好き、先生」

 電話を切ると、繋がっていた事を実感するように胸元に携帯を抱え込んだ。
 体が繋がっていなくても、心は繋がっている。
 まだまだ肌寒い春風に吹かれながらも、比喩ではなく心からほっこり温かい。
 ただやはり若さか、心の温かみを感じていると、体の温かみも欲しくなって来る。
 むつきに触れられたい、キスされたい、ぶっちゃけセックスしたい。
 美砂は屋上のドアの脇に座ると、抱えていた携帯を目の前に持ち上げた。
 ポチポチとボタンを操作してネットに繋げ、いつも使っている通販サイトにつなげる。
 大人っぽいセクシーな格好でむつきを誘いたかったのだが、とある事件が頭を過ぎった。

「うっ……」

 大事な部分に穴の空いた赤い下着の件であった。
 結局あの後、むつきが凄い悦び可愛がってくれたので解約はしなかったのだ。
 ただし、恥ずかしい事は恥ずかしかったので、直ぐにそのサイトを使う気にもなれず。
 一旦ネットを落として、立ち上げなおし検索サイトを開いて指をぶらつかせる。
 大人びた格好以外に、むつきを下半身的な意味で奮い立たせる方法はないものか。
 深く考えるまでもなく思い至ったのは、良く使うチアコスであった。

「コスプレ、か」

 チアコス以外となるとナースやメイド、単純にそれぐらいしか思いつかない。
 一体どんなものがあるのかと、検索サイトで適当に検索してみる。
 すると出てきたのが、コスプレイヤー、ネットアイドルのランキングであった。
 アニメか何かのキャラクターの格好をした子が全身図の写真にて縦に並んでいた。
 写真の中で精一杯媚びを売っては、微笑みかけてきている。

「私の方が可愛くない?」

 いきなり一位を見るには、色々な意味で心の準備が出来ていない。
 なので二十位ぐらいから順に上に上がっていく。
 それを自信と見るべきか、自信のなさとみるべきか微妙な位置であった。
 当初の目的から少し外れ、勝った、ほら私の方が可愛いと上り五位近辺まで上りきる。
 そこで初めて、美砂の手が止まってしまった。

「ぐぬぬ」

 とあるネットアイドルの箇所で、食い入るように小さな携帯の画面を見つめた。
 唸ること数秒、ついっと視線をそらして四位以上を見て行く。
 すると、再び勝ち続け不思議と四連勝。
 はてなと五位に戻ってみると、サイトの開設期間が他より短かった。
 解説して三ヶ月未満と、他のランカーのは一年や二年は当たり前と、登頂しきるのにあと半年もいるまい。

「同点、ドロー……わた、美砂ちゃんだって十分に可愛いし?」

 若干、声を引きつらせながら何かに勝ち誇ろうとし失敗した。
 美砂はあまりこういう事に詳しくないので、フォトショ修正なんて知らないのだ。
 卑怯、なんか卑怯だしと意味のない批判をしたりして、それでも食い入るようにみる。
 そして他のネットアイドルとの一番の違いに気付いた。

「あっ、この子。衣装が綺麗なんだ。けばけばしく、妙にキラキラしてたり。安っぽい、もさもさ、がさがさ感がない。自分で作ったのかな?」

 比較対象として正しいかは兎も角、あの赤い勝負下着の値段を思い出してげんなりする。
 かといって、美砂に服を作ったりするような技術はなかった。
 むしろあったとしても、服一枚に時間をかけるよりはむつきとイチャイチャしたい。
 けれど可愛がって貰うためにも、可愛い格好を見せても上げたかった。

「ネットアイドルちう、か。この子が友達だったら」

 ずいぶんと物欲に負けた友達もあったものだが。
 なんとなく、友達百人できるかなと歌いながら、ちうのサイトに接続する。
 いいなあ、いいなあと可愛らしい衣装の数々を羨ましげに眺めていった。

「くそ、うぜぇ。リア充を追っかけて何が楽しいんだ。虚しいだけだろ。運よく開いてるし、たまには静かに屋上でネットでも」
「あっ、やば。ん?」
「あん? げっ!」

 突然真横にあった扉が開き、美砂は咄嗟に見つかったのかと逃げる為に立ち上がる。
 だが入ってきたのは追いかけっこに混ざっていないはずの長谷川であった。
 何時も通り、分厚いめがねで顔を隠すようにした根暗にも見える格好だ。
 その長谷川も関わりたくないとばかりに、嫌そうな声を上げていた。
 ただし、美砂はそんな長谷川の荒っぽい言葉使いは初めて聞いたのでついじっと見つめてしまった。
 分厚い眼鏡で気付かなかったが、結構可愛い顔をしている。
 若干目付きが厳しいが、切れ長と言いかえる事もでき、顔も小さく丸い。
 しかし、つい最近どこかで見たような、負けてないがドローで終わったような。

「な、なんだよ。私は別に追いかけっこに加わるつもりは」
「ちう?」
「な!?」

 ぽつりと零した言葉に、長谷川が極端に過敏な反応を見せた為、ピンときた。

「その反応、ねえそうだよね。ほら、これ!」
「なんで屋上でそんなもん。違う、そんなネットアイドル知らねえ!」
「なんで一発でネットアイドルって分かったのよ。ほら、そっくりそのまま」
「この野郎、人がどれだけフォトショで修正したと思ってやがる!」

 屈折した劣等感を刺激でもされたのか、長谷川が否定を止めて指摘してくる。
 一瞬の硬直、お互いにだが、やっぱりそうだと美砂が食いついた。

「やっぱりちうだ、絶対逃がさない。こんなチャンス絶対、ない!」
「リア充が何を。放せ、この。私はネットアイドルちうでも、リア充に引っ付かれる趣味もねえ。放せ、私は一人で静かに。そう、ネットをする時は救われてなきゃいけねえんだ!」
「コスプレに興味があるの!」
「な、なに?」

 美砂の必死の言葉に、長谷川は思いもよらず食いついた。
 リア充と思った相手の意外な趣味に、そして同好の士に出会えた事を喜んだ。
 認めるか、それとも受け入れるか、長く悩んだ末に認めてしまう。
 その事を悔やむのは、放課後に美砂を自室に招いてからの事であった。









 放課後までクラスメイトを振り切り続けた美砂は、部活もサボって帰寮していた。
 逃げ込んだ先は、屋上で掴まえたちうこと長谷川千雨であった。
 失礼ながら、クラスの中に友達がいない長谷川の部屋は避難場所としても最適だったのだ。
 それ以上に、目的は彼女が所有するコスプレ衣装である。
 部屋の中は至ってシンプルで、必要最低限の家具とパソコンが何故か数台あるぐらい。
 ネットアイドルというよりは、メカオタクな女の子の部屋といった感想を抱く。

「長谷川、コスプレの衣装はどこ?」
「自分の部屋に連れて来ておいても、マジ信じられねえ。柿崎がコスプレをね」
「何度か経験はあるんだけど、お金がね。続きそうになくて」

 お互いに少々認識にズレがありながらも、会話としては違和感はない。
 確かに美砂はコスプレをした事もあるし、興味もある。
 日本語として、長谷川が思っている事といささかのズレもないのだ。

「自作も凝ってると変わらねえぞ。むしろ、高いぐらいだ。クローゼット、開けてみろ」
「これこれ。凄い一杯!」

 クローゼットの中には、色とりどりのコスプレ衣装が所狭しとかけられている。
 感嘆の声を上げる美砂を見て、長谷川も何処となく自慢げに胸を張っていた。
 全て手作りである衣装を褒められ、自尊心が疼いた事もあった。
 だが本当に長谷川を悦ばせているのは、同好の士を得られた事だろう。
 あまり人に言えない趣味を持つものが共通して持つ劣等感。
 ソレに加え誰もがひっそりと周囲に隠れている為、仲間を得にくいのだ。

「ねえ、長谷川。これ、このメイド服が可愛い。着てみても良い?」
「私のお古だけど、気に入ったのならやるよ。一度来た衣装も、よっぽどの事がないと着ないし。メイド服はバージョンを色々そろえてあるから、問題ない」
「え、本当。あっ、猫耳……猫、これも着けてみよ」

 女同士、恥ずかしがる必要もなく、美砂は長谷川の目の前で制服を脱いでいった。
 一番最初に長谷川が違和感を感じたのはそこである。
 いや、厳密に何に違和感を感じたのかは不明だが、何かを感じ取っていた。
 だが自分の衣装を誰かに着て貰うと言う貴重な体験の方が、大切だったのだ。
 多少の違和感など投げ捨て、美砂が着終わるのをそわそわと待っていた。

「あはっ、生地もすべすべ。思ったより、しっかり出来てる。市販品みたい」
「おいおい、柿崎。コスプレ衣装に市販品みたいってのは、褒め言葉じゃないぞ。大量生産品と比べるな。言わば、私の作品はハンドメイドだ」

 ふふんと鼻高々に言いながら、長谷川が鏡の前でスカートをはためかせる柿崎を眺めた。
 濃紺のスカートと同じく、美砂の深い紫の長い髪が一緒にはためいている。
 カーテンを閉め切った窓から漏れる僅かな茜色の陽の光を受けてきらきらと。
 笑う表情も、こちらが恥ずかしくなるぐらいの満面の笑みであった。
 純粋無垢な少女、なのに何故だろう何処となく。
 妖艶とまではいかないのだが、時折見せる瞳を細め頬を火照らせた表情がエロイのだ。

「気のせいか。それにしても、この野郎。フォトショがいらねえ、なんだこの逸材は。サイズの方はどうだ?」
「ちょっと胸がキツイ気が、腰は空いてるけど」
「まて、怒るな私」

 自分で聞いておきながら、思わず長谷川が拳を握り締めていた。

「長谷川、サイズいくつ? 見た目、変わらなさそうだけど」
「胸が八十二で、腰は五十七」
「あれ、胸は同じで腰は私の方が一センチ大きいはずだけど。胸ちょっと大きくなった? 腰も一回りシェイプアップされてない?」
「聞かれてもな。何か心当たり、部活じゃねえの。チアリーディングだろ、確か」

 最近は部活以上に心当たりがあるのは、むつきとのセックスしかない。
 胸を揉まれたり、その他にも色々と女性ホルモンがばんばん出る行為ばかりだ。
 良く良く思い出してみれば、ブラも少しきつくなってきていた気もする。
 それを愛の力だと美砂は自己解釈を行い、大きくなった胸を服の上から持ち上げた。
 それから猫耳を被ってポーズをとってみたり、昼に携帯で見たネットアイドルのごとく媚びを売ってみたりもする。
 もちろん、不特定多数に安売りするネットアイドルと違い、買い手は予約済みであった。
 ウィンクや投げキスをしてみたり、ちょっと際どい所までスカートを摘み上げてみたり。
 一緒ににこにこしていた長谷川が、これはもう誘うしかないと美砂に言った。

「柿崎、興味があるなら私のサイトに写真アップしてみないか。私ら二人なら、瞬く間にランキング一位になれるぞ。別途姉妹サイトを立ち上げてワンツーフィニッシュも」
「えー、やだ」

 思わぬ言葉にえっと、長谷川が固まる。
 こいつは一体、何を言っているのだろうと、さらに混乱を招く美砂の台詞が飛び出した。

「知らない人に見られるのは、何されるか分からないし」

 ネット上に写真を公開する危険度は承知だが、そんな事でコスプレイヤーが務まるか。

「ちょっと待て。じゃあ、なんの為にコスプレを?」
「なにって、それは燃え上がるようなセックスする為。あっ」
「セッ!?」

 やばいと美砂が咄嗟に口元を抑えたがもう遅い。

「ごめ、間違えた。エッチ、彼氏とエッチする為!」
「どっちも同じ意味だ。そんなこったろうと思ったよ、このリア充が!」
「ああ、もう。昨日から、私浮かれすぎ。長谷川、皆には言わないで。大丈夫、彼社会人だから常識もあって、毎回コンドーム付けてくれるし」

 もう、口を開けば失言のオンパレードと、留まるところをしならい。

「社会人って中学生相手に犯罪者じゃねえか。てかそんな事よりも、返せ。何が悲しくてリア充のギシアンの為に、大事な衣装をくれてやらなくちゃいけないんだ!」
「だって貰ったもん。あんなに一杯あるんだから。長谷川だって、一杯あるから良いって言ったじゃない」

 長谷川が返せとメイド服を引っ張り、美砂も貰ったものだと抵抗する。
 事情が変わったんだよと、長谷川も諦めなかった。
 何しろ美砂の目的は、男に欲情して貰う為にコスプレ衣装を欲していたのだ。
 自分が一度は着た衣装で、他人がセックスをするなど考えられない。
 しかも丹精込めて作った衣装を精液で汚されるのは、自身が汚されるも同然である。
 良いから返せと、破らないように慎重にだが力強くひっぱり、ふいに美砂のうなじが目に映った。
 点々と、何か虫にでも指されたような跡が複数ある。

「さっきの違和感が分かった。お前、体に点々と赤い虫に刺されたみたいな。キスマークか、全身に。兎に角返せ、彼氏の事をばらすぞ!」

 必死に抵抗していた美砂の態度は、長谷川のその言葉で激変した。
 自らメイド服を脱いでは綺麗に畳んで、それから制服を慌てて身につける。
 長谷川もこのチャンスを逃すまいと、メイド服をしっかり抱いて死守しはじめた。
 お互いに距離を測りつつ、相手の出方を伺う。

「長谷川、お願い。誰にも言わないで。何でもするから」
「兎に角、落ち着け。泣きそうになるな、メイド服は返して貰ったし」

 とりあえず、座れと床を指差し、長谷川は勉強机の椅子に腰掛けた。
 正座し瞳をうるうるさせる美砂を前に、頭が痛そうに一つ溜息をつく。
 それから、これまでの情報を整理しながら、まず一番大事な事を聞いた。

「まず大前提だ。私は喋るつもりはない。弱みを握られたのはお互い様だ。柿崎は私のコスプレ趣味を、私は柿崎の彼氏をだ」
「なんでコスプレ趣味が弱みなの。衣装が作れるなんて、立派な一芸じゃない」
「コスプレ衣装が作れたとして、誰が喜んで着るよ。一部の特殊な」
「子供なら、そうおかしくないでしょ?」

 あくまで普通の一般人的思考での美砂の指摘に、長谷川の目が点となった。

「大人がさ、アニメの衣装とか着てるのはやっぱり正直抵抗ある。けど、小さな子供とかが憧れのヒーローとか、ヒロインの格好をするのはありじゃない?」
「まあ、誰もが通る道だわな」
「でしょ、だから衣装を作れることは恥ずかしくない。ネットアイドルだって、技術力の広告みたいなもんでしょ?」

 この時点で、長谷川は一生美砂と分かり合えないと思った。
 ネット上でのみ輝けるアイドルと、何処までもリアルが充実した現実の恋に生きる女。
 確かに長谷川は衣装を作る技術に誇りこそあれ、やはり中心はネットアイドルだ。
 他のネットアイドルを押しのけ、ランキングの上位に食い込むあの感覚が好きなのだ。
 同じくネット上でしか主張できない下らない男を操り、他のネットアイドルを蹴落とすのが。
 競争相手がサイトを閉鎖し、先日までその子こそが命だと叫んでいた男がちうこそ最高とのたまうのが滑稽で大好きだ。
 そんな長谷川と美砂では、根本的に視点が違ってしまっている。

「長谷川なら、デザイナーとか服飾関係の仕事につけそうだけど」
「考えた事もなかった」

 美砂はちらりと空いたままのクローゼット、そこに納まる衣装を見ながら言った。
 確かに一生ネットアイドルなど出来るはずもなく、何時かは長谷川も現実にぶつかる。
 だがただ就職してOLとなり、社会の歯車になるよりは自分を生かせだろう。
 そういう生き方もありかもなと長谷川は一部認めつつ、それでも今はと告げた。

「リア充がどうなろうと知った事じゃないが。本当に大丈夫なんだろうな、そいつ。食い物にされてるだけじゃないのか?」
「それだけは絶対に違う。今はまだ大っぴらに付き合えないけど。私が中学を出たら正式に付き合って、高校を出たら結婚しようって言ってくれた」

 けっと心でやさぐれながら、長谷川は美砂の言葉を心の中で反芻した。
 噂では先週末に元彼と別れ、土日の失恋旅行で出会ったらしいが。
 どうにも妙だ、美砂が相手に置く信頼が大きすぎると思えた。
 失恋中の心の隙間に忍び込まれたといわれればソレまでだが、違和感がある。
 この土日で出会って付き合う事になったとして、何故もう結婚が口に出るのか。
 それに中学を卒業したら正式に付き合うというのも、何だかおかしかった。
 確かに社会人と中学生では世間に大っぴらにはできないが、黙っていれば問題ない。
 幸いにも美砂は大人びた方であり、格好次第では十分に社会人ともつりあいがとれるだろう。
 何故中学を卒業したら、などという条件染みた言葉が出てくる。
 それは逆に美砂が中学を卒業しなければならないという事ではないのだろうか。
 その条件に加え、美砂が多大な信頼を寄せてもおかしくはない人物とは。
 体中に押印されたキスマーク、体に触れる、つい最近触れた男が一人だけいた。
 だが、最近人気が少しずつ上がったとはいえ、多大な信頼という項目は満たさない。

「まさかな、まさか。ありえん、あんな冴えない。はは、悪い冗談だ」
「長谷川?」
「乙姫先生とか、つりあわないにも」
「な、なんで分かったの!?」

 この時、深く重い溜息をついたのは長谷川であった。
 隠せよと、もっと演技を磨いておけと勝手にかまをかけられ明かした美砂に。

「普通だと思ったのに。この麻帆良でも数少ない、常識的な人間だと。淫行教師」
「は、長谷川あの、秘密に」
「するしかねえだろ。大問題だ、この野郎。明かす事になんのメリットもねえ。私の穏やかな生活がマスゴミの餌食になるのが目に見えてる」
「だ、だったら……」

 両手の指先をもじもじさせる美砂の口から飛び出してきた次の言葉に、長谷川は意識が飛びかけた。
 いや、実際に飛んでしまえたら、どれだけ楽だっただろうか。
 始まったのは美砂による、むつきへ最上級ののろけであった。
 むつきのどんな所が格好良い、または可愛いか。
 時にどんなふうに可愛がってくれ、どんなプレイをしたのか猥談も含め。
 今まで誰にも自慢できなかった鬱憤を全て晴らすように、美砂が喋り捲る。

「でさでさ、先生ったら最後にイク時は絶対好きだって言ってくれて。大事なところがキュンキュンして、幸せになるんだって。でね、先生キスも上手で」
「おい、ちょっと待て。誰がそんなリア充のことなんか」
「入れられながら、深いキスされると。本当にもう溶けちゃうの。とろっとろ。ああ、早く来週の土曜日来ないかな。先生と布団でとろけたい」
「死ね、氏ねじゃなくて死ね」

 最初は聞きたくない、聞きたくないと耳を塞ぎ徹底抗戦を選んでいた。
 だが段々と聞かされるうちに、長谷川の目も虚ろとなり、ぶつぶつ呟きはじめる。

「ねえ、長谷川聞いてる?」
「あぅぁ……」
「長谷川、やっぱりそのメイド服くれない?」
「う、がぁ。やるから、やるから帰れ。二度と来るな!」

 最後の力を振り絞り、そばにあったメイド服を美砂に投げつけ蹴り出すように追い出す。
 力尽きるように扉を背に崩れ落ちると、その向こう側から声を掛けられた。
 正直まだいたのかと怒鳴りたいが、そんな気力があるはずもなく。

「これありがとう。それと、さっき言ったのは本当の事だから。きっと向いてると思う。服を作ること」
「うっせ、帰れ。二度と来んな、リア充」
「また来る、色々聞きたい事もあるし。だから、また明日ね」

 去っていく美砂の足音を聞きながら、二つの事を長谷川は思った。
 趣味のコスプレ作成から一歩踏み出した服飾について、それと美砂の最後の台詞。
 その台詞を聞いたのは何時以来の事か。

「また明日な」

 クラスメイトとコレだけ喋ったのも久々だと、深々と溜息をついた。









-後書き-
ども、えなりんです。
先程(23:40)、ようやく仕事から帰ってこれました。
水曜に間に合いませんでしたが、ご容赦を。

今回、主人公はちょっとだけしか出ませんでした。
美砂が主人公じゃねってぐらい大活躍w
ドジってむつきとの関係ばらすぐらいに。
まあ、若さ故というか美砂はちょっと危機感ありません。
一応隠さなきゃとは思ってますが、何処か甘い。
そう言うのが解る、美砂視点のお話でした。

ちなみに千雨が巻き込まれるのはデフォ、テンプレ、お約束。

それでは次回の更新は土曜日です。
それでは、えなりんでした。



[36639] 第十話 リア充って、実は凄くね?
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 20:37
第十話 リア充って、実は凄くね?

 長い階段の途中で、それを仰ぎ見るようにした時の長谷川の反応は、かつての美砂と同じであった。
 まるで別世界にでも迷い込んだような、不思議な感情が胸に灯る。
 近代とモダンの融合した麻帆良から、古き良き日本を体現した世界へ。
 青々と晴れ渡る空をバックに立つのは、和装木造のひかげ荘であった。
 耐震構造、なにそれとばかりの古い古い建物。
 まさかと言う気持ちで来た長谷川は、そのまさかを目の前に茫然としていた。

「長谷川、こっち。早く」
「待て引っ張るな、衣装ケースが。それに普段運動してねえから、息が上がって」

 美砂に案内されひかげ荘へとやって来た長谷川が、旅行鞄を片手に引っ張られる。
 階段は一本道だが、こんな所においていかれては異次元にでも迷子になりそうだ。
 階段の長さ故に、それと春の陽気に少々の汗をかきながら上っていく。
 そして見えてきた一階の玄関部分を含くめ、改めてひかげ荘の全体図が瞳に映った。
 年月を経て黒味を帯びた木目、やや傾いて見えるのは気のせいか。
 この麻帆良で瓦屋根の家など、一体どれだけ残っている事か。
 それに加え、個人の持ち物としては大きな、山一帯そうだというのだからとんだ土地持ちだ。
 季節柄、桜の花びらでさえ風に吹かれて、山の何処からか飛んでくるぐらいである。

「マジで、これあの乙姫先生の持ち物かよ」
「正確には先生のお爺さんの持ち物だって。でも、いずれ先生が貰うんじゃない。確認した事ないけど」
「おい、て事はあの先生、何気に玉の輿じゃねえのか?」
「あ、言っておくけど好きになったのが先。教えて貰ったのは付き合ってから。その証拠に、クラスのほかの誰もこの場所の事を知らないでしょ?」

 失礼なといいたげな視線にさらされ、素直に悪いと長谷川が返した。
 しかしながら、そう思っても仕方ない程にインパクトがあるのだ。
 いくら金を積んでもおいそれと買えない雰囲気が、このひかげ荘にはあった。

「あと、アッチに湯気が見えると思うけど温泉もあるよ」
「外で湯気が見えるとか、まさか露天か。こんな場所を二人きりでとか、どんな贅沢だよ!」

 簡単に説明を受けつつ、驚きの連続で突込みが忙しい。
 あの冴えない先生がと、改めて玉の輿過ぎるだろと心で呟きつつ玄関を開ける。
 これは和装のコスプレに栄えると、早くも撮影に心を奪われそうになったのだが。
 出迎えたむつきを見て、あっけにとられ、それはもう盛大に引いた。

「お願いします。美砂との関係はなにとぞ、秘密に。美砂、お前も頼めこの野郎」

 女将のお出迎えじゃあるまい、玄関先での見事な土下座であった。
 頭を下げながらふるふると震えており、なんとも玉の輿以上にインパクトがある。
 良い年した教師が、生徒でもある女子中学生に土下座など。
 謝罪は真剣そのものだが、何処か滑稽で、そういうプレイかと聞きたくもなった。
 ただ、一応世間一般的には犯罪を犯している自覚はあるようで、安心もした。
 念の為にと、護身の為に隠し持って来たスタンガンは不要そうだ。
 中学を卒業したら正式に付き合い、高校を卒業したら結婚という言葉にも多少信頼が持てる。

「先生、長谷川は約束してくれたから大丈夫」
「本当に気をつけてくれよ。はしゃいで口を滑らせるとか。あっ、泣けてきた」
「よしよし、大丈夫大丈夫だから」
「くそっ、問題を起こした張本人の手なのに。悔しい、でも甘えちゃう」

 土下座の格好から飛びつくように美砂に抱きつき、そのお腹にぐりぐりと顔を埋める。

「なんとなく二人の関係が見えてきた。先生はやっぱ、まともな感覚だ。柿崎、お前はもっと危機感持て。見ていて可哀想だぞ」

 鼻をずるずると鳴らすむつきを慰める美砂を見て、長谷川はそう突っ込んだ。
 はしゃいでうっかり口を滑らせたりと、美砂の方がよっぽど危なっかしい。
 一先ずむつきを安心させるように、長谷川が喋りません秘密にしますと宣言した。
 それからようやくむつきも少しは冷静になれたようで、二人を管理人室に案内する。
 少しずつ、色々と持ち込んだお蔭で家具も増え、コタツテーブルにお茶を三つ用意した。
 特にその内の一つ、長谷川の分は慎重にゆっくりどうぞとむつきが差し出す。

「割りとお高いお茶をご用意させていただきました。決して粗茶などではないので」
「何処まで卑屈なんですか。まあ、正直……二人が付き合おうが、ナニしようが構わないですが」

 お茶を一口飲んでから、まず長谷川がそう切り出した。
 というか、出さざるを得なかった。
 まだむつきは顔色が悪く少々挙動不審で、美砂は慰めるのに忙しい。

「経緯だけ、話してもらえませんか。じゃないと、安心してここ使えないんで」
「長谷川、ちょっと話し方が堅くない?」
「やかましい、外ではこれがデフォだ。まがりなりにも教師の前ではしゃげるか」
「ふーん、まあいいや。じゃあ、私と先生の馴れ初めを」

 うきうきと、仕方ないなと照れ照れ笑う美砂を当たり前だが長谷川が止めた。

「待て、乙姫先生が説明しろ。お前のは経緯とかじゃなくて、ただの惚気だから!」

 リア充の惚気程苦痛なものはないと、断固拒否の構えであった。
 ご指名を受けたむつきは一瞬びくりとしたが、直ぐに居住まいを正していた。
 美砂は多少不満そうだが、むつきの口からでもと楽しそうに耳を傾け始める。

「先々週になるか。美砂が、元彼とデートしてた土曜の夜の事だ」

 むつきはぽつりぽつりと、裁判所の被疑者の告白のように神妙に語り出した。
 とても馴れ初めなどと、甘酸っぱいお話をするような雰囲気ではなかった。
 美砂が元彼に強引に迫られ、逃げ帰り駅で泣き崩れたまま終電を逃したのが始まり。
 それをむつきが見つけ、方々へと連絡しビジネスホテルへと連れて行った。
 様々な注意をして部屋に放り込んだしばらく後、美砂が酒によって突撃して来た。
 むつきも疲れていたので酒宴で愚痴を聞いてやったのだが。
 美砂がセックスしたいのかとむつきに聞いたり、話が妙な方向に流れ出してそのまま。
 酒に酔ってむつきと美砂が一夜を共にし、そのまま付き合うことになったと。

「こんなところですが」
「つーか、先生の一方的な主観の割りに反論がないって事は概ね事実だと」
「概ねじゃなくて、全部事実。一つも嘘はなかったよ」

 美砂の言葉が何処まで信用できるかはともかく。
 嘘がないと仮定すると、と長谷川は聞かされた内容を胸の内で反芻する。
 そして、なんだか思っていた事と随分と開きがあったとあきれ口調で言い放った。

「これ、先生悪くなくね?」
「はっ? いやいや、それはないだろ」

 当然、思ってもみない長谷川の言葉に、むつき自身が反論していた。

「俺は教師で、美砂は生徒で。今は好きで付き合ってるが、襲ったのは事実だぞ」
「まあ、世間一般的な意見ではそうですが。擁護のしようがないぐらい、柿崎がなあ。忠告を無視して元彼の電話に出る。勝手に酒に酔って、若い男の部屋に突撃。愚痴を聞いてもらって、アレをしたいのかって聞いたり。これ、明らかに柿崎が誘ってます」

 ほんの少しぐらいそう思っていたのか、むつきが押し黙る。

「柿崎、お前本当にもっとしっかりしろ。さっきも言ったが、世間一般的には先生が悪人だ。クラスの奴らにばれたら、先生は音速で豚箱行きだぞ」
「美砂、俺からももう一度頼む。俺だってお前と付き合えて、舞い上がる事もある。だけど、今の関係は本当に綱渡りなんだ。もう少し、注意しような?」
「うん、ごめん先生。長谷川も、はっきり言ってくれてありがとう。先生、ずっと俺が悪いって私の事をなんでも許しちゃうから、甘えちゃって」
「ま、まあ……私は平穏な学生生活が送れればなんでも良いけどな。勝手に二人でよろしく、やってくれ。それよりも、口止め料の件」

 それは長谷川が二人の秘密のアイランドである、ひかげ荘に案内された事を意味している。
 長谷川自身は、ネットアイドルという弱みを握られ、お互い様だと思っていた。
 ただむつきの方がそれでは安心できず、美砂の反対を押し切って案内させたのだ。
 寮は寮で、自分のスペースがあるが、やはりある程度の自重は求められる。
 だがこのひかげ荘ならば、二人が休日にセックスに励むように、自重はいらない。

「美砂、長谷川を上に案内してやってくれ。部屋は何処をどう使ってくれても構わない。欲しいなら、合鍵だってくれてやる。管理人室は、俺がいない時は立ち入り禁止だが」
「好きにって、結構広いぞこの建物。ま、まさか……三階部分ぶち抜きで使っても?」
「ああ、いいぞ。むしろたまに来て空気を入れ替えてくれるなら頼みたいぐらいだ。一人で全部管理するの、結構大変なんだ」
「長谷川、こっち。案内してあげる。先生は少し、ここで休憩してて。まだ顔色悪いよ」
「誰のせいだと思ってやがる、この野郎。この一週間、気が気じゃなかったんだよ」

 本当に顔色は悪く、頬もどこかげっそりした印象を受ける。
 むつきが言った通り、この一週間はずっと調子が悪そうでクラスメイトから随分心配もされていた。
 男は常に若い女を求めるらしいが、これはこれで大変そうだと長谷川は思った。
 特に普通の男女ならまだしも、教師と生徒なのだ。
 自分に関係がばれてから、むつきがどんな眠れない夜をすごしてきた事か。
 直ぐに自分には関係ないけどと、心の中で切って捨てて考えもしなかった。
 そんな事よりも興味があるのは、ひかげ荘の自由使用権である。
 これだけの広さ、それこそワンフロア全部使ってもとは豪胆すぎると思えた。
 実際は豪胆ではなく、それだけむつきが暴露に脅えているともいえるのだが。
 管理人室を出て、美砂の案内に従い改めてひかげ荘内を歩いていく。

「こっちが階段、使い古されて角が丸まってるから気をつけて」
「これまた年季の入った。撮影の夢が広がるじゃねえか」
「長谷川のクローゼット、衣装でぽんぽんだったでしょ。ここなら、いくらでも置き場に困らないから。嬉しいでしょ」
「まあな。ただし、勝手に私の衣装をナニに使うんじゃねえぞ。マジ、切れるから」

 また強引に頼み込まれるかと思いきや、分かってると意外とすんなり受け入れられた。
 迂闊な暴露でむつきを脅えさせた事を少しは気に掛けているのか。
 だからリア充の事など逐一気に掛けるなと、長谷川は自分を叱咤しつつ、最上階である三階へと辿り着いた。
 あまり掃除は行き届いていないようで、埃の塊が見える事もあった。
 それでも左右に広がる廊下や、襖の数々と部屋の多さ、広さには顔が勝手にニヤけてしまう。
 寮の部屋という限られたスペースでチマチマやりくりする事から一気に解放される。

「柿崎、今ならお前を親友認定してやれそうだ。マジでこれ、衣装置き場どころか専用の撮影室、衣装作成室だって。なんでも出来るぞ。創作意欲が湧き出て脳汁吹き出そうだ!」
「脳汁って……けど、先生の言った通り自由に使って良いと思うよ。私も初日に、どこでも好きに使えって言われたし。主に管理人室にいるから、使ってないけど」
「あの先生、小物なのか大物なのかわかんねえ。柿崎、たまに。たまになら、コスプレ衣装作ってやろうか。ただでここ使うとか、いくらなんでも悪すぎる」
「それは凄く嬉しい。写真をネットにアップされるのは嫌だけど、可愛い衣装着たりとか色々とつきあっても良いよ。むしろ、着てみたい。先生に見せてあげたいし」

 割と貴重な長谷川がはしゃぐ姿を前に、美砂もにこにこが止まらない。
 それからどの部屋をどう使うか、ぶつぶつと一人考え込み始めた長谷川を置いて階下へと降りていく。
 だが直接管理人室には戻らず、少し寄り道してから降りていく事となる。









 美砂が長谷川を上に案内をしている頃、むつきは盛大に溜め込んだ空気を肺の中から吐き出していた。
 重い、二酸化炭素よりもずいぶんと重いそれは口元からぼとぼとと落ちていくようでもある。
 美砂から長谷川にバレたとの連絡があったのは、今週の月曜であった。
 正直、心臓が凍り付いて、そのまま倒れてしまうかとさえ思えた。
 もちろん直ぐに秘密にしてくれる約束をしたとも教えられたが、納得して安心などできない。
 それは表面上の事で、実は今この瞬間も職員室に駆け込んでいるのでは。
 それとも警察、学園長室に直々になど、悪い想像は留まるところを知らなかった。
 その日は一睡も出来ず、目に隈を作って学校へいけば周りからかなり心配された。
 自分を案じるそんな視線にさえ、心の奥ではともはや疑心暗鬼ですらあったのだ。
 気の休まる日、それこそ時間さえなく、本当に倒れるまで時間の問題だったろう。
 美砂に連絡先を聞いた長谷川から直々にメールで、秘密にしますからと貰うまで続いたのだ。

「はあぁぁぁ、長かった。この一週間。ノイローゼで死ぬんじゃないかって。長谷川、普段はそっけないが結構良い奴だな」

 感情的にならず、先生は悪くないと言ってくれた事も心の棘が抜けた思いだ。
 もちろん、全て美砂が悪いとは言わない。
 ただ一人の責任だけではないと考えるだけでも、心理的にはかなり違う。
 正直、美砂との秘密の場所を明かしたのは痛手だが、この際はしょうがない。
 ひかげ荘の一部を提供する事で、秘密の厳守という確約も得られるのなら喜んで差し出そう。
 改めて、心配事から解放され冷め始めたお茶を飲んでいると美砂から話しかけられた。

「先生、もう大丈夫?」
「美砂か、長谷川はどうしてる?」

 何故襖の向こうから声だけと疑問に思いつつ、問い返す。

「凄くはしゃいでる。しばらくは降りてこないと思うから」

 何かを期待するような声色で、美砂が向こう側から襖を開けてきた。
 以前のチアコスの時と状況は良く似ており、事実その通りであった。
 襖の向こうから現れたのは、ひかげ荘には少々不釣合いな可憐なメイドである。
 白と黒のコントラストに、ふんだんにあしらわれたフリルとレース。
 足元もニーソックスと黒のスカートと白のソックスに挟まれた太ももが眩しい。

「長谷川から貰ったの。先生、エッチしよ?」

 スカートの裾を持ち上げ、一礼しながらのお誘いであった。
 普通ならここで理性が振り切れてもおかしくはないが、乗り気にはなれなかった。
 天井を見上げ、その視線の先に長谷川がいるかのように指差して言う。

「何時降りてくるか、わからないだろ?」
「大丈夫、大丈夫。衣装一杯持ってきてたし、整頓とか。部屋のレイアウト決めるだけでも時間かかるし。先生は、こういうの嫌い?」
「大好きに決まってるだろう、この野郎。けどなあ」

 これだけ誘ってもまだ煮えきらぬむつきに対して、少々美砂が攻勢に出た。
 むつきの目の前に跳ねるように、スカートの奥から女の匂いをふわっと溢れさせる。
 わざとその匂いをかがせ、さらには四つん這いでぐっと顔を近づけ耳元で囁く。
 文字通りむつきのやる気を引きだすように、言葉と吐息でくすぐった。

「先生、ドキドキしない? 何時降りてくるかわからない長谷川がいて。私は凄いドキドキする。それに、長谷川は知ってるよ。私達の関係」
「策士か」

 美砂が言いたいのは、第三者の存在がいる事へのバレないかという焦りのスパイスだ。
 だが焦る事は焦るが、見つかったとしても長谷川は既に二人の関係を知っている。
 怒られはしても、今さら関係をばらすと態度を変えるとも思えなかった。
 二人の秘密の場所が明かされても、ただでは終わらない。
 長谷川に明かされたら明かされたで、それさえエッチのスパイスにしようというのだ。
 むつきの決意はぐらぐらと、メイド服の開いた襟元から見える美砂の胸の谷間に視線が釘付けである。
 美砂に揺さぶられ揺らぎまくるむつきへと、最後の止めがさされた。

「ご主人様、うっかり喋った美砂にお仕置きしてください。ご主人様が大好きなエッチなお仕置き。最初にお口でご奉仕しますから」

 むつきの股座に顔を突っ込んだ美砂が、口でズボンのファスナーを下ろした。
 小さく、練習したんだと告げられ、もはやむつきも我慢の限界であった。

「美砂、上手にできたらご褒美をやるからな。やり方は分かるか?」
「えっと、教えて先生」
「小悪魔か」

 いやらしい迫り方をしておいて、初心とは何事かと突っ込む。

「まだ手を使わず口だけで、パンツの中からは無理だろ。手でずらして、取り出してくれ」

 言われた通り、美砂はむつきのパンツ、トランクスを引っ張った。
 先程美砂がスカートをはためかせた時と同様、濃い男の匂いがあふれ出す。
 匂いを嗅ぐまでもなく、鼻先をくすぐられ、少し美砂の瞳がとろんと変わる。

「先生の匂い、凄く濃い」
「嫌か?」
「全然、逆に。エッチな気分になるかも。先生の匂いだけで発情するよう、調教されちゃった。エッチな体にされちゃった」

 可愛いなこの野郎と、むつきの頭の中から長谷川の事は完全に消えてしまった。
 頭を撫でてやりながら、先を促がすように軽く股間へと押してやる。
 美砂も恐る恐るだが、むつきのトランクスを引っ張ってずらし取り出した。
 まだまだ初心なので、おっかなびっくり、二本の指で摘むように。
 むつきも気分が高揚しきっていないので半立ちのそれは、美砂の手の中でしなっている。
 小さく熱っと呟きながら、どうしようとにぎにぎしながら美砂が見上げてきた。

「まだ皮が半被りだから、優しく脱がして。軽くさすってくれ。時々、袋の方も揉むように。そうだ、上手いぞ」
「ますます匂いが濃くなって。凄いどんどん硬く、熱く。ちょっと面白いかも」

 自分の手の動きに正直に反応してくれるのが嬉しいのだろう。
 こすこすと上下に右手を動かしながら、左手で袋を握り転がす。
 時々、切なげに眉を潜めるむつきを可愛く思いながら、美砂が続けた。
 するとそれ程時間も経たないうちに、亀頭の鈴口からぷっくりと水滴が膨れ上がる。
 初めて見る光景に美砂の手が止まり、これってと目で問いかけてきた。

「先走り汁。エッチな気分になって美砂が濡れるのと同じ」
「先生もエッチな気分になると愛液が出るんだ。だったら」

 いつものお返しとばかりに、美砂が唇を近づけてちゅっと吸い取った。
 突然の好意に、美砂の柔らかな唇の感触にむつきの腰がひけそうになる。
 途端に嬉しそうに美砂が何度も唇でキスを繰り返し、さらなる汁を出そうと手を忙しなく動かした。
 多少強めになったが竿を一生懸命さすっては、袋を刺激して先走り汁を出させる。
 その度に吸い取っていたが、次第に追いつかなくなってきた。

「先生、エッチな音が」

 竿を上下する手が皮を巻き込み、汁をひろげ、竿のみならず美砂の手も汚していく。
 手が動くたびにその範囲はひろがり、何時しかにちゃにちゃと音を立て始めた。

「美砂、胸元広げてくれるか。先に一度出しておかないと、俺が無茶させそうで怖い」
「うん、こうで良いかな?」

 胸元を締め付ける紐を解くと、程良く胸元が露となった。
 この数週間でDの大台にのったそれを抱き寄せ、むつきの一物を挟もうとするが。
 座り込んでいるむつきの股座で、寄せた胸で挟むのは意外と難しい。

「体勢辛い。先生、一度立ってくれる?」
「ああ、いいぞ。ちょっと待ってろ」

 パイずりの為ならお安いご用だと立ち上がり、美砂の目の前にそそり立つそれを差し出した。
 改めて突きつけられ、少し美砂は恥ずかしそうであった。
 だからあえてむつきも、もっと良く見てと軽く美砂の頭を抑えて目の前に突きつける。
 最初は、美砂も恥ずかしさに負けて、チラチラと横目で眺める程度だ。
 だがやがて意を決したように見つめると、服の空いた胸元からそれを挟み込む。
 体勢の辛さはあまり変わらなかったが、むつきが喜んでいるのが直接知れた。
 胸の谷間に挟み込んだ瞬間、今にも射精しそうに一気に一物が膨らんだからだ。
 なんだか嬉しくなり、膝立ちで必死に胸を上下させた。

「私の胸、気持ち良い?」
「柔らかく包み込んできて、温かい。美砂の中とはまた別の快感がする」
「先生、おっぱい大好きだから」
「おっぱいはな、夢が詰まってるんだよ。男の夢がな」

 今にも腰を動かし、射精したい気持ちになりながらも必死にむつきは我慢した。
 美砂が奉仕してくれているのだから、折角だから美砂の奉仕で射精したい。
 まだまだぎこちない動きだが、胸の大きさは十分であらゆる角度に対応して包み込んでくる。

「美砂、単純に挟むだけじゃなくて。強弱をつけたり。こう、竿を中心に交差させるように出来るか?」
「最後のは良く分からないけど、こう?」

 胸をこねるようにして挟み込み、思わずむつきの腰が動いた。

「気持ち良いぞ、美砂。もう、出そうだ。出して良いか、美砂の中に。おっぱいの中に」
「メイド服は汚さないでね。先生のをおっぱいで受け止めてあげるから」
「やばい、気持ち良過ぎる。出すぞ、美砂の中に」
「良いよ、先生。美砂のおっぱいを先生ので汚して。全部受け止めてあげる」

 最後に美砂の名前を呼びながら、むつきが果てた。
 ぶるぶると腰を震わせながら、美砂の胸の谷間の中に射精していく。
 美砂もそれらが飛び散らないように胸の谷間をさらに強調させるように挟み込んだ。
 あばれるむつきの一物を、大人しくしなさいと押さえつけるように。
 二度、三度とむつきが体を震わせ、深く息をつくと共に胸の谷間が静かとなった。

「美砂、ひろげて見せて」
「ねちゃねちゃしてる。先生の匂いも凄い。おっぱい汚されちゃった」

 言われた通り美砂が胸を広げると、粘着質な白い液体が胸の谷間に橋をかけていた。
 これまた美砂が胸をくねらせ、精液をこねる姿がいやらしい。
 一度全てを吐き出して萎えたはずの一物が、美砂の目の前で再び元気になっていく。
 もう一度あの柔らかな谷間でとも思ったが、主賓は胸の谷間ではなかった。
 誰が主賓か、教えるように膝立ちで見上げてきていた美砂が口を開けた。
 赤い舌を差し出すように伸ばし、こことばかりに唇を丸くする。

「先生、こっち。不安だけど、私のお口の初めて。先生にあげるね?」
「既に精液塗れで苦いかもしれないが、頑張れるか」
「大丈夫、たぶん。先生が私で気持ち良くなってくれるのなら、なんだってできる」
「ああ、もう。可愛いな俺の彼女は本当に。ますます元気になるだろ、この野郎」

 思わず喋っている途中のその口に突っ込みたくなったが、自重してむつきも膝を折って抱きしめる。
 多少なりとも辛い行為をさせる前にと、好きという気持ちを形にするように。
 それで美砂も愛されている事を実感して、欲しかった温もりを前に抱き返していた。
 そこまでは普段通り、ヤル事しかほぼ頭にない二人の休日であった。
 だが忘れてはならない、今このひかげ荘には第三者となる人物がいる事を。

(ナニをしてんだあの二人は!)

 襖を少しだけ開けて、中での情事を覗き込んでいた長谷川である。

(私はただ、三階のレイアウトをゆっくり考えたくて。露天風呂で考えるのもありだなって許可を取りにきただけなのに!)

 何やら言い訳がましく、脳内で叫ぶが長谷川は隙間から覗いたまま動こうとしない。
 割とソフトとはいえ、女子中学生にはどぎつい性交に腰がぬけた事もある。
 美砂が汚された胸をこね回すところなど、抜けた腰に何かが走った程だ。
 廊下で一人女の子座りをしたまま、動くに動けない状態となってしまった。
 まさか気付かれるどころか、既に覗かれているとも知らずに二人は抱き合う事に満足して続きを始めてしまう。
 美砂の目の前に立ち直したむつきが、精液でぎらつく一物を直立させた。
 それを手で支えて少し自分に押し倒した美砂が、大きく口を開けてくわえ込もうとする。

(ちょっとこれ以上はやばい。てか、マジか。あんなグロイもん、なんで平気。嬉しそうに咥え、咥えやがったァッ!)

 もはや覗く罪悪感さえ麻痺し、長谷川の視線は二人の行為に釘付けであった。
 リアルは嫌い、ネットにこそ居場所があるとの自認のなんと弱い事か。
 割と一般的な、それこそ普通とも言える性交の一種に混乱も最高潮である。

「歯は立てないように気をつけてくれ。口を窄めたりしながら首を動かして、そう。そうだ。気持ち良いぞ、美砂。舌で竿を舐めるのも忘れるなよ」
「んご、んぶぅっ」

 まともに返事も出来ず、乙女らしからぬくぐもった声で返していた。

(生々しい発言するな、淫行教師!)

 何処までも脳裏で罵詈雑言を吐き出しながらも、長谷川の混乱は続いていた。
 覗きという行為を取り止める事ができないほど、自制が全く利かない。
 かと思えば、むつきの美砂へのお願いに何故か反応してしまった。
 うかつにも、口をすぼめ舌を使いながら首を動かし、仮想の一物を加えたように。

(やめろ、私はネットアイドル。ネット上で最も輝く、リアルなんかいらねえ。そんなもん、粘液と幻想が作り出すまやかしなんだ!)

 その幻想に頭をやられ、気がつけばパンツの中に本来ならありえない湿り気を感じる。
 嘘だろと、抜けた腰を何とか動かし指で触れてみればぬるりと指が湿っていった。
 違う気のせいだともう一度動かしてみれば、体が嘘をつくなとばかりに反応した。
 快感を感じたろうと教えるように、体に痺れが走りピクリと震えたのだ。
 頭では違う違うと繰り返すが、その思いに反してパンツの上を勝手に指が走る。

「美砂の口、凄く良いぞ。今なら、美砂を口から妊娠させられそうだ」
「んんっ、はんぐ。んっんっ!」

 苦しいのか嬉しいのか、目尻から涙を浮かばせながら美砂がさらに首を動かす。
 妊娠と言った、馬鹿らしいことだが口で妊娠させると。
 むつきに口から妊娠させられると、美砂の体が軽くイッたように震えた。
 左手をむつきの腰にまわし、口をぴったりと陰部に合わせ、右手はスカートの中へ。
 両手で腰に抱きついていたのに、急に片手が離れれば嫌でも気付かれる。
 そう気付いたむつきは、メイドプレイを前ににやりと悪い笑みを浮かべた。

「美砂、何でスカートに手を伸ばした? 口に俺のを突っ込まれて感じているのか? いやらしい子になってくれて嬉しいぞ。俺のを加えながらオナニーしてるんだな」

 違う違うと美砂がくわえ込んだまま首を振るが、それがまた新たにむつきに快感を与える。
 そして一方、長谷川もスカートの中に伸ばしていた手を硬直させた。
 一瞬ばれたかと思い、いやらしい子と言われたようでゾクゾクとさえ感じてしまった。
 一体今自分は、何に感じてしまっているのか。
 クラスメイトの性交、それともオナニー、はたまた覗き行為そのものにか。

(やばい、これ。クセになるかも)

 もはや自分で弄る事に対しての嫌悪感などなく、長谷川もまた二人の行為に合わせて快楽を求めていた。
 むつきの腰の動き、美砂の首の動き、それらに合わせて指が動く。
 湿り気を帯びたパンツの布地を弄り、もう良いやと自分で割れ目を開き滑り込ませる。
 美砂の口が犯されるのを見て、自分の下の口を弄り倒していった。

「美砂、そろそろいいか?」
「んぐっ」
「必死に腰に抱きついてろよ」

 今度はなんだと、もはや長谷川も襖にぴったりと体をつけてかぶりつきであった。
 そんな長谷川の覗く中、むつきは美砂の頭を抱えるように掴んだ。
 今までは美砂に全てを任せていたが、もはやそれだけに任せてはいられない。
 美砂の口が膣口であるように、腰を引いては突き出す。

「んぁっ!」

 子宮口にするように、喉の奥にまではぶつけないように注意しながら。
 美砂の口で、擬似的なセックスを開始する。

(おいおい、柿崎の奴少し苦しそうだぞ。確か、そうイマラチオ。男に無理やり口を犯される。犯す……本当に犯されてるだけか)

 それは誤用で、イラマチオが正解なのだがそれはともかくとして。
 僅かな理性を総動員して、改めて長谷川は美砂を観察してみた。
 苦しそう、それは変わらない。
 当たり前だ、口を男の一物で塞がれたまま腰を振られているのだ。
 がんがんと頭は振られ、呼吸だってまともにできているのか怪しいぐらい。
 もはや淫行教師による生徒への強姦にしか見えないが、そう言いきれないものがあった。
 頭は確かに抑えられているが、美砂もまた必死にむつきにしがみ付いていた。
 本当に嫌なら突き放せば良いのに、むしろ美砂の方から腰に抱きついて居るのだ。

(苦しいのに、辛いのになんでそこまで……嫌なら、嫌って言えよ。まさか、嫌じゃない? あんなグロイ気持ち悪いもんを口に突っ込まれて。だって、あそこから排泄だってするんだぜ。リア充って、実は凄くね?)

 好きだから、彼氏だからそんな感情を飛び越えた先にいるように思えた。

「美砂、いいか。出すぞ、お前の中に。口から妊娠させてやるからな」
「んっんッ!」

 馬鹿らしいことだが、この時長谷川は人間が口から妊娠できるのではと本気で思えた。
 それだけむつきが必死に腰を振り、美砂が受け止めようと頑張っていたから。
 本当に馬鹿らしい、馬鹿らしいがそんな感情を誰かに抱ける美砂を少しだけ羨ましくも思えたのだ。
 リア充とは対極にいるネットアイドルでは、辿り着けない場所だと寂しくなる程に。
 そこまで考えた所でハッと我に返り、髪を振り乱すように顔を振った。

(べ、別に羨ましくなんか。私だって、毎晩知らない男達の妄想の中でもっと凄い事を。口だって尻だって。首輪されて奴隷みたいに精液漬けにされて)

 だがそれは一方通行、見知らぬ男達の欲望にただ汚されるだけ。

「美砂、孕め。俺の子供を、美砂。好きだ、孕んでくれ!」
「んーッ、んん。んァッ!」

 ついにむつきが限界と共に射精し、美砂の口の中へと全てを吐き出した。
 びたびたと喉の奥を精液で叩かれ、美砂が未知の感覚にむつきの腰に縋りつく。
 決して零しはしないと、より強く抱きついて全てを口内で受け止めていった。
 最後の時を迎えた二人と時を同じくして、長谷川も絶頂を迎えていた。
 そこまで深く指を入れた事のない場所まで、ついつい指を伸ばしながら。
 声をあげまいと、必死に口を押さえて一人廊下で体を震わせる。

「んっ、んふぅ!」

 少々声が漏れたが、夢中な二人にはきっと聞こえなかった事だろう。
 今までにない程の大きな波が体を駆け抜け、あまりの愛液の多さにお漏らしでもしたかと少し焦った。
 それ程までの快感を得て、波が去った後はふうっと大きく息をついた。
 こんなに気持ち良かったのは初めてだと、とろとろ指から滴る愛液を眺める。
 少し快楽の虜になっていた長谷川であったが、次の瞬間には現実に引き戻されていた。

「ごほっ、おえ。ぶぇ……りがい」
「ほら、無理すんな。飲めるわけないだろ、このティッシュにぺってしろ」

 なんとも色気のない、咳き込み妙な声をあげた美砂によって。
 背中をむつきにさすられながら、必死に精液を吐き出していた。
 つい先程うかつにも心に染みた憧れの感情など、簡単に吹き飛ぶ光景だ。
 絶対に憧れてたまるかと、さらに心を硬い殻へと押し込める。

「良く頑張ったな、美砂。凄く嬉しかった。気持ちよかったのもそうだが、受け止めてくれて」
「けほっ、うえ。まだ苦い……先生が喜んでくれて私も嬉しい。何回かイッちゃったし」

 ただ二人が幸せそうに微笑む光景は、エロイ事を抜きさえすれば微笑ましい。
 馬鹿っぷるは、馬鹿っぷるなりに。
 だから愛液に濡れた手をハンカチで拭き、四つん這いでそろそろと逃げ出す。
 これ以上はお邪魔かなと、捨て台詞を残しながら。

「リア充、爆発しろ」

 そんなネット特有の恨みごとにも似た言葉も、二人には関係ない事だろう。

「先生、こっち。今度はこっちに飲ませて。上のお口で飲めなかった駄目なメイドさんに。下のお口に一杯のませてあげて。無理矢理、妊娠するぐらい濃いの」
「ちょっと三回連続はちょっと。けど、美砂。俺頑張るよ。美砂、頑張るから。けど、ゴムはちゃんと付けるからな」
「え……あっ、着けちゃうの。着けちゃうんだ。う、うん。先生、エッチな私にお仕置きして!」
「えっ、あ。うん、美砂。行くぞ、コレが終わったらちょっと休憩な!」

 少々のすれ違いをしつつ、お疲れ気味ながら第三ラウンドに。

「まあ、柿崎がもう嫌だって言わない限りは隠し事に付き合ってやるよ。そうとう本気なのは改めて教えられたし。しばらく、オナネタにも困らないしな」

 それ以上に、専用スタジオを逃せるかと言い訳のように呟きつつ、四つん這いのまま階段の上へと消えていった。









-後書き-
ども、えなりんです。
土曜に間に合いませんでしたが、なんとか更新です。
えっ、日曜も仕事とか、ちょっと意味がわかんないんですけど。

さて、もはや執筆時間の確保には睡眠時間を削るよりない私はさておき。
巻き込まれちゃった千雨の、微エロ。
なんと言うか、覗いた。
覗キング、千雨の爆誕です。
まだ全くむつきに好意のない千雨ですが。
こういうおかしな方向で、かかわって行きます。

でもって美砂は相変わらず。
ただちょっと生でする事に目覚め中。
反省しろ、お前のエロでむつきの胃がやばい。

さて、ひかげ荘に千雨を迎えつつ、十話となりました。
次回から五月に突入し、微妙に新章に。
それでは次回は水曜です。



[36639] 第十一話 生徒が教師に迷惑掛けるなんて当たり前
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 21:02
第十一話 生徒が教師に迷惑掛けるなんて当たり前

 温かな陽気の中で、時折こ寒い風が吹く四月は過ぎ去り、完全な春が訪れる五月。
 むつきが美砂と付き合い始め、一ヵ月が過ぎようとしていた。
 その間、長谷川に関係がばれた事以外、円満に過ぎ去っていった。
 少し変わった事と言えば、美砂と長谷川が親友と呼べるまでに仲良くなった事ぐらいか。
 休日に二人してひかげ荘に現れては、時々むつきを置き去りにコスプレではしゃいでいる。
 それぞれ可愛い格好をしたい理由は別々だが、それはそれで認め合っているようだ。
 本当に稀、長谷川の機嫌が良い時は、むつきも撮影会に呼ばれる事もある。
 主に撮影機材など重い物を運んだり、力仕事の人足としての意味合いが強いのだが。
 可愛い女の子がそれも二人、コスプレではしゃぐ姿はそれなりに眼福だ。
 そう職員室のデスクで思い出していると、机の上に湯気をたてるコーヒーが置かれた。

「ご機嫌ですね、乙姫先生。コーヒーどうです?」
「あっ、二ノ宮先生。すみません、頂きます」

 どうやら微笑を浮かべている場面をばっちり見られてしまったようだ。
 恥ずかしそうに照れ笑いをしながら、むつきは差し出されたコーヒーを受け取った。
 熱々のそれを覚まそうと息を掛けていると、マジマジと観察される。

「な、なにか?」
「ちょっとした噂と言うか、興味で。乙姫先生、四月を少し過ぎた辺りから急に格好良くなった気がして。女の先生で、噂してるんです。彼女ができたんじゃないかって」

 どうなんですっと興味津々、若干親父臭い笑みで尋ねられた。
 以前、社会科資料室で美砂とこもっていた時、手伝おうかと声を掛けられたが。
 どうやら楽しそうに質問する様子を見る限り、アレは本当に他意はなかったらしい。
 他意があったにせよ、今の俺なら余裕で断りますと心で呟き質問を返す。

「まあ、親しくしている女性はいますよ。今は仕事が楽しくて、余り考える事はありませんが。結婚も視野にいれてますよ」
「あら、お熱い。コーヒーは、もう少し温めでも良かったかしら」
「いえいえ、コレぐらいで丁度良いですよ。ありがとうございます。今度は僕が二ノ宮先生に淹れてあげますよ。このコーヒーみたいな味は保障しませんが」
「期待していますよ。乙姫先生、そろそろ見回りの時間では?」

 指摘されて時計に振り返ってみれば、時刻は七時を回ろうとしていた。
 まだ慌てるような時間ではないが、見回る範囲はかなり広い。
 何しろ一つの学年で良いとは言え、二十近い教室を全て見回らなければならないのだ。
 そこに加え、指定された施設、例えば体育館やプール施設などもある。

「二ノ宮先生のコーヒーパワーで頑張ってきますか」
「浮気すると、彼女さんに怒られますよ。いってらっしゃい、乙姫先生」

 他の独身教師にこの野郎と思われつつ、むつきは職員室を後にした。
 まずは教室にと手始めに二年A組へと向かう途中で、携帯がブルブル震える。
 本当はいけないのだが、携帯でメールを見ながら廊下を歩く。
 差出人は案の定美砂であり、長谷川の新作衣装を貰ったそうだ。
 この土日は期待しててとハートマーク付きのメールであった。
 すっかりむつきとのセックスの虜で、実は車をレンタルして遠出デートは一度もない。
 当初、セックスだけなのは嫌だと言っていたのは美砂なのだが。
 それで良いのかと少々疑問に思ったりもする。

「ん?」

 返信の途中でさらにメールが入り、長谷川からであった。
 内容は美砂と然程変わらず、改心の出来だから期待していろという文面だ。
 他に足腰立たなくなって死ね、変態鬼畜教師とも。
 これはこれで愛がある文面と捉えるべきか。
 何よりも先に美砂へと返信し、次いで長谷川にも挨拶程度の文面を送る。
 俺の世界一可愛い彼女を着飾ってくれてありがとうと、最大限にのろけてだ。
 そして教室に辿り着くと、まず誰も居ない事を確かめた。

「生徒の居残りなし、電気も消してあって。鍵も全部閉まってる」

 A組の教室で全ての窓を確認し、生徒が居ない事を指差し確認。
 廊下の窓も同様で、一つ一つ時間を掛けて確認していく。
 これが男子校ならまだ良いが、女子中だからこそ念入りに調べなくてはならない。
 むつきは他人の事をとやかく言えないが、女子中学生好きという迷惑な変態もいるのだ。
 過去に何度か、魔法おじさんもしくは、おばさんに撃退されたという謎の噂もあるが。
 念入りに確認していくと、全ての教室を回るだけでも一時間近くはかかってしまう。
 不真面目な先生は本当に眺める程度で済ませる人もいる。
 だが現在のむつきは仕事と恋の両方に燃えていた。
 窓が閉まっているかは一枚一枚確かめ、生徒が隠れていないか死角にも目を通す。
 一歩間違えれば要領の悪い人間だが、今はまだそれで良いと思えた。

「先は長いな、ちょっとだけ寂しいぞこの野郎」

 途中小休憩を含め、美砂に寂しい会いたいとメールを送る。
 するとこれで元気出してと、柔らかそうな胸の谷間の写メが送り返された。
 別の意味で元気になりそうになって、文字通り立ち往生したりもしたが。
 一応確認だけはちゃんとして、一つ一つ確実に済ませていく。

「ようやく、全部確認終了。校舎外は、確か体育館と室内プール場か」

 時刻は既に八時十分前と、部活動も終了して生徒は帰宅している時間帯である。
 五月とは言え、すっかり窓の外は暗く、街灯がなければまともに歩けない。
 おかげで未だ教室に残っている生徒は皆無であった。
 今からさらに時間を掛けて向かうとなると、電気すら灯っていない事だろう。
 誰もいないだだっ広い体育館などは、大人で男であるむつきでさえ寒々しくて少し怖い。
 だがこの程度はと気合を入れて、校外の施設へと向かう。
 さすがにその途中では急いで帰る生徒を数人見かけ、早く帰れよと声を掛ける。
 体育館に着いたとき、入り口から丁度出てきた明石達も同じであった。

「あ、やば……先生、これはちょっと帰るのが遅くなっただけで」
「そ、そやて。ゆーなの大会が近くて!」
「まあ、バスケ部は弱いから。こんな時間まで練習しても、あまり意味ないけど」
「って、おい!」

 バスケ部の明石とサッカー部マネージャの和泉、それから新体操部の佐々木。
 一人和泉だけこの場にいるのはおかしいが、気にする程でもない。
 この三人に大河内を加えた四人は仲良しで、大方一緒に帰る約束でもしていたのだろう。
 同じ寮へと帰るのに、一緒に帰る約束とはいささか必然性を感じないが。

「お前ら、いくらなんでも遅すぎだぞ。早く帰って宿題しろ。そろそろ、中間テストも近いんだぞ。和泉や大目にみて明石は兎も角、佐々木。お前は特に勉強しろ」
「私どうせばかだし」
「勉強しなくてもうちはエスカレーター式だから問題ないって先生」
「先生の前でそれを言うのはどうやろ。うちが、教えてあげるから。二人共少しは勉強しよな?」

 少しの注意で済ませるつもりが、長話が始まりそうだったのでそこで止める。
 勉強しないと二ノ宮先生にチクるぞと佐々木を脅しつつ、三人を帰寮させた。
 なにやら妙にちらちらと振り返っていたが、シッシと手を振って帰す。

「犬じゃないもん!」
「似たようなもんだろ。ほら、帰れ帰れ」

 最後の捨て台詞は佐々木のわんと吠えた声である。
 それから、あの三人が最後かと周囲を見渡してから、まず体育館の確認に入った。









 室内プールには現在、大河内一人しかいない。
 煌々と照らす天井のライトも、八レーンもある肩幅二十五メートルの巨大なプールも独り占めだ。
 だがそんな状況を喜ぶような素振りは、一切見せてはいなかった。
 プールの真ん中を割っていくように、クロールですっと水を掻き分け鋭角な波紋を生み出す。
 その表情は真剣で、タイムアタックを行っているようだ。
 時刻は当に八時をまわっており、監督の先生も居ない状態では校則違反であった。
 大河内もそれは分かっていたが、大会が近いのだ。
 部の代表として選ばれた四人のリレー選手の中で唯一の二年生が大河内である。
 水泳部の全国大会などは夏に行なわれるが、今回の大会はその前哨戦。
 優秀な成績を収めれば夏の全国大会地区予選のシード権すら得る事ができるのだ。
 一人ではストップウォッチが使えないため、壁に手をついて直ぐに壁の上の時計を見上げた。

「だめ、全然タイムが上がってない」

 比較的大人しい彼女には珍しく、焦りを浮かべては悔しそうに唇を噛んだ。
 三年生を差し置いて、唯一二年生から選ばれた選手。
 それも一年生時に個人競技の部で優秀な成績を収めてしまい、麻帆良の人魚姫と噂されたプレッシャーもある。
 ぜえぜえと肩で息をして、明らかにオーバーワーク気味であった。
 それでも一度も水の上に上がる事なく、大河内は振り返って少しだけ息を整えた。
 時計を見上げ、秒針が十二を指した途端にスタートする。
 もう何度この二十五メートルを繰り返し泳いだ事か、それで記録が上がるわけはない。
 本来なら誰かがそれを指摘するべきなのだが、今の室内プールには誰もいなかった。

(もっと早く、もっと。本当の人魚姫に)

 呼び名にプレッシャーもあったが、同時に誇りも抱いていた。
 その名に相応しい人魚に、誰よりも早く向こう岸へ。
 だがオーバーワークは、確実に大河内の体力を奪い、ついに悲鳴をあげさせた。
 彼女がプールの中央辺りまで泳ぎきった時である。
 一瞬、ピリッと足に痺れが走ったかと思った次の瞬間、痙攣した足が痛みと共に伸びきった。

「痛ッ!」

 水中で半分水を飲むようにして痛みを訴え、患部に手を伸ばそうとする。
 だが完全に伸びきった足に手は届かず、むしろ水中でバランスを崩すだけだった。
 ごぼごぼと瞬く間に体は沈み始め、危険を感じた大河内がコースロープに手を伸ばした。
 せめて手が届けばなんとかなる、そんな思いも虚しく自分で起こした波を吸収する為に浮き上がって手で弾くに止まってしまう。
 湧き上がる恐怖心、水の中にいてはじめての事であとは水と同じくパニックに溺れるだけ。
 もはや自分が沈んでいるのか、浮かんでいるのか。

(だ、誰か!)

 上下左右の感覚も失い、水を飲んでは苦しみ後はただただ沈んでいくだけ。
 ふと思い浮かんだのは、昔話にある人魚姫のラスト。
 このまま自分も泡と消えるのかと、苦しみの中で涙が滲んだ。
 その涙さえプールの荒波に消えて、大河内はプールの奥底へと沈んでいった。









 体育館の見回りを終え、隣接する室内プールを見上げた時に、むつきは違和感を感じた。
 何故先程、気付かなかったのか。
 体育館は既に明かりが消えていたというのに、室内プールにはまだ明かりが見えた。
 唐突に思い浮かんだのは、様子が少々おかしかった三人の生徒である。
 むつきを見つけた三人は焦ったように懸命に話しかけ、何かから視線をそらすような。
 それに仲良し四人組の一人、水泳部の大河内が一緒にいなかった。
 まだ室内プールに明かりが灯っているとなると、その大河内の校則違反の可能性が高い。
 職員室内で小耳に挟んだ大会が近い部活をつらつらと頭に並べると、確かに水泳部も該当していた。

「あの真面目な大河内が、珍しい。チラッと注意で済ませて帰してやるか」

 仲良し四人組でも一歩後ろに控えたような印象が強い。
 その大河内が校則違反とは、よっぽど今度の大会にかけているのだろう。
 真面目な生徒に少しぐらいご褒美だと、室内プールの建物へと足を踏み入れていった。
 玄関から少々入り組んだり、下る階段を降りて室内プール場に辿り着いた。
 だが明かりは灯っているものの、大河内の姿は見えない。
 ただの消し忘れか、首を傾げてプールの全体を眺めた時に気付いた。
 プールの丁度中央にて泡立つ気泡、それが幾つも底から上がってきている。
 消毒の薬でも放り込んであるのか、歩いて近付き、気付いた。
 気付く事が出来た、プールの奥底で長い髪を揺らめかせ沈んでいる人影に。

「大河内ッ!」

 その人影がそうとは核心こそなかったが、他に考えられなかった。
 頭の中から全てが吹き飛び、気がつけばプールの中へと飛び込んでいた。
 飛び込んだせいで気泡が沸く水中にて、目を凝らす。
 ソーダ水の中に飛び込んだような水泡の向こう、沈んでいる大河内がはっきりと見えた。
 水を吸って重くなるスーツに四苦八苦しながら必死に泳いぐ。
 プールの中央に辿り着いては大きく息を吸って潜り、力なく横たわる大河内を抱え上げた。
 急げ、もっと急げと心の中で自分を叱咤し、何処にそんな力があったのか大河内を持ち上げプール際にごろりと投げ出させる。
 自分も即座にプール際へと上がり、仰向けに寝かせ直した大河内の頬を叩く。
 肌の色はプールで漂白されたように青白く血の気はなく、うめき声一つあげない。
 一体どれだけの時間が溺れてから経っているのか、それすらも分からなかった。

「そうだ。き、救急車!」

 急ぎ携帯をスーツのポケットから取り出す。
 先程プールに飛び込んで、ぐっしょりと濡れたスーツから。
 当然の事ながら、取り出した携帯も水浸しでボタンを押しても画面は真っ黒のままだ。

「この野郎、俺はアホか。ショートしてんじゃねえか!」

 うんともすんとも言わない携帯を叩きつけて壊し、そんな場合じゃと振り返る。
 大河内はぴくりと、身じろぎ一つしない。
 一人慌てて大騒ぎするむつきを、微笑み見ることもなく、死んだように眠っていた。
 そう死んだように、死んでしまう。
 かつてはどいつもこいつも小生意気で騒がしく、好きになどなれなかった生徒が。
 今は徐々に好きに、教師としてきちんと向き合いたいとさえ思える大事な生徒がだ。

「死んでねえ。死なせてたまるか。地獄の底からでも引きずり出してやるから、覚悟しろよ!」

 もはや手段は選んでいられないと、寝かせた大河内の顎と首に手を沿え気道を確保する。
 実際の経験はないが、教師という職業柄、講習は何度も受けていた。
 不貞腐れていた当時なので、余り真面目に受けてはいなかったが、必死に今思い出す。
 意識の有無は既に確認し、次に気道を確保、それもやった。
 それからと手順を思い出しつつ、躊躇の暇もなく大河内の鼻を塞ぎ唇に自分の唇を重ねた。
 強制的に空気を二秒ほど送り込み、中断しては胸が膨らんだ事を確認する。

「膨らんでねえじゃねえか。呼吸しろってんだ!」

 再度試しても胸が膨らまず、肺にまで空気が届いてさえいなかった。
 むつきは人工呼吸を一時中断して、胸骨圧迫、確かそんな名前だったかそれに切り替えた。
 真横に座り込み、手の付け根を鳩尾の上辺りに当てて押す。

「一、二、三、四!」

 三十まで続けては、再度の人工呼吸。
 理屈までは不明だが、いけたかと期待をこめるが胸はまだ膨らまない。
 今度こそと胸骨圧迫を行いどうだと人工呼吸を行なう。
 それでようやく大河内の胸が膨らみ、肺にまで空気が送り込まれた事がわかった。

「やった、膨らんだ。大河内、聞こえるか。戻ってこい。中間テスト、全教科零点でも良いのか。そんなにバカレンジャーの仲間入りがしたいのか!」

 なんでも良いから帰ってこいと、必死の思いで自分が酸欠になっても諦めず人工呼吸を繰り返す。
 その想いが報われたのか、小さく声が聞こえた。

「ぅ」

 本当に小さな希望の声、そして次の瞬間、口付けた口の中に消毒臭い水が溢れ出した。
 思わず吐き出したが、大河内の口から次々に水が溢れてくる。
 そして体が大きく痙攣しては、咳き込んだ。

「ぅ、ごほ。うぇ……ごほ、かっ」

 反射的なものもあるかもしれないが、無意識に体をまるめ水を吐き出そうとしている。
 むつきは大河内の背中をさすり、それを促がさせた。
 水を吐き出せ、息をしろ、時間を掛けてでも良いから意識も取り戻せと。

「慌てるな、ゆっくりで良い。ゆっくり、全部吐き出せ」
「ごほ、ぜぃ……えぅ」

 何時までも咳き込んでいるかのような長い時間をかけ、それも小さくなっていった。
 涙と鼻水、胃液も少しあるかもしれないが、顔をくしゃくしゃにした大河内が振り返る。
 体を起こそうともしたのか、体に全く力が入っておらず転びかねない。
 慌ててむつきが支えてやると、そのまま跳ねるように抱きついてきた。

「怖かった、怖かったよぉ。先生、せんせぇ」

 正直むつきも泣きそうだが、先に泣かれてしまっては我慢しなければならない。
 教師である以前に男の子なのだ、小さな意地で慰める事に終始する。

「もう、大丈夫だ。安心しろ、大河内。怖かったな、一杯泣け」
「ぐす、もう駄目かと。人魚姫みたいに、泡になって消えちゃうって」
「お、おう?」

 一瞬、なにそれと聞きかけたが、そんな弱気を吹き飛ばすように言葉をかける。

「消えてたまるか。お前が泡になっても、何度でも掴んでやる。泡の底からでも何度でも引きずりだしてやるから、安心してろ。俺は絶対、お前を放さない」

 しばらく泣きじゃくる大河内に胸を貸してやっていると、落ち着いてきたようだ。
 まだしゃくり上げているが、それも鼻をするる程度である。
 それに鼻水だらけの自分に気付いて、両手で隠す余裕さえでてきた。
 もうそろそろ良いかと、大河内の反応を見ながら胸から引き剥がす。

「あっ……」
「何処にも行かねえよ」

 寂しそうに伸ばされた手を掴み、安心させるように微笑みかける。

「それより、シャワーを浴びて着替えろ。一応、病院へ行っておいた方が良い。親御さんにも連絡するから、来てもらえ」
「う、うん。じゃなくて、はい」
「よし、良い返事だ。皆、お前ぐらい素直で可愛けりゃいいんだが。立てるか?」
「か、かわ……あっ、だ。駄目!」

 途中まで立ち上がった大河内が、むつきの手を振り払ってしゃがみ込んだ。
 何かを堪えるように丸くなり、ぽろぽろと大きな双眸から涙さえ零していた。
 先程までの恐怖とは違う、妙に血色も良く見える赤味が頬にさしてさえいる。
 ふと思い出したのは、Gスポットを責められて美砂がお漏らしした時だ。
 大河内相手にはなはだ失礼な話だが、恥ずかしがりようが何処となく似ていた。
 消毒水の匂いで正直分かり辛いが、そうなのだろう。
 溺れて死に掛けたのだ、怖くてお漏らしぐらいしてもおかしくなんてない。
 だからと言って無垢な少女がお漏らしをした事に対するフォローの仕方など知らないのだが。
 美砂の時は思い切り失敗して、スイーツを買いにいかされたし。
 今ここで大河内を置いてスイーツを買いに行くのは、間違いなくフォローではないだろう。

「あーっと、何も気にするな。全部俺がなんとかしてやるから」
「でも、私……プールの中でしちゃったかも、しれない」
「こんな事の後だ、しばらくプールは使用禁止だから」
「駄目、それは駄目。大会が、近くて。先輩達に迷惑掛けちゃう」

 死に掛けた直後に、先輩の迷惑とはどこまで他人思いなのか。
 ガシガシと頭をかきながら、むつきは決断をくだすしかなかった。

「分かったよ、明日の朝連までに水抜いて洗っとく。それで良いだろ。お前はとにかく、体を休めろ。溺れたんだ、お前は何も考えず休めば良い」
「ごめんなさい、先生。迷惑かきゃっ!」
「ああ、もう。うだうだと。生徒が教師に迷惑掛けるなんて当たり前、迷惑ついでだ。これ以上何か言うなら、シャワー室で体の隅々まで洗っちまうぞ!」

 話が一向に進まないし、長話して良い状況でもないとむつきは大河内を抱え上げた。
 これ以上何も聞きませんとばかりに、シャワー室へと連れていこうとし。
 少しばかりその場をうろうろしてから、腕の中で小さくなろうとする大河内に訪ねる。

「おい、大河内。シャワー室ってどっちだ。わからん」
「へ? あ、あっち……先生、面白い」
「笑うなよ、格好悪いって自覚してるんだ」

 指差された方へとプールを迂回して移動し、シャワー室へと連れて行った。
 その時に気付いたが、何故自分は馬鹿正直にプールの端から飛び込んだのか。
 回りこんで横から泳いだ方が、沈んだ大河内まで近かったというのに。
 だが反省は後だと、大河内の状態を今一度確認してからシャワー室に放り込んだ。
 さすがに隅々まで洗ってやるは冗談である。
 それから近くに内線電話はないかと探そうとして、大河内の悲鳴に引き戻された。
 シャワー室の前まで逆戻りし、大声で問いかける。

「どうした、大河内!」
「な、なんでもない。シャワーの水が急に、びっくりして」
「驚かすな、こっちがびっくりするわ。そうだ。大河内、内線ってどこかにないか?」
「ごめんなさい。よく分からないけど、多分顧問の先生がよくいる監督室とかなら」

 シャワーが終わったら着替えていろと言いつけ、教えられた監督室に急行する。
 贅沢にも室内プール場には二階部分が観客席であり、放送室さえありそこが監督室を兼任しているらしい。
 今の大河内を一人にするのが心配だったので、本当に急いで。
 先程の悲鳴も、シャワーの水に驚いたにしてはかなり切羽詰っていた。
 監督室には何故か鍵はかかっておらず、デスクの上に内線が見つかった。
 最近は携帯での連絡が多く、少々思い出すのに苦労したが二年の職員室にかける。
 コールが二回とわりと早く出てもらえた。

「はい、二年職員室」
「二ノ宮先生ですか、乙姫です」

 ちらりと時計を見ると既に八時半をも回っており、まだいたのかと若干驚いた。
 だがそれどころではないと、室内プールの一件をかいつまんで伝える。
 おかげで数秒の間、内線の向こうで二ノ宮が固まっていた。

「大河内の両親に連絡と、救急車も念のため呼んでもらえますか。あと男ものの着替えがあったらそれも」
「分かりました、全て手配しておきます。それにしても乙姫先生。着替えって、本当にスーツでプールに飛び込んだんですね。良くそれで先生が溺れなかったですね」
「故郷が故郷なんで泳ぎはわりと。ただ携帯がぽしゃりました。まあ、大河内が無事だったから安いものですけど」

 最後にお願いしますと内線を切って、急いでシャワー室へと戻る。
 声を掛けてみても反応はなく、ならば更衣室かとそちらへと向かった。

「大河内、着替え中か?」
「うん、もう少し待って」

 元気一杯とはいかないが、しっかりとした口調に安心もした。
 先程の悲鳴は、本当にシャワーの水に驚いただけか。
 ほっと力を抜いて小休憩とその場に座り込んだ。
 火事場の馬鹿力とでも言うべきか、スーツでプールに飛び込むとか自殺行為である。
 二ノ宮が驚くのも、無理はない。
 重いし泳ぎにくい、あれで大河内に半端に意識があればもろとも溺れていたかもしれない。
 携帯もぽしゃって連絡がとれないし、やる事成すこと裏目とは言わないが要領が悪かった。
 大河内を助けに飛び込んだ位置についても、回り込んでいれば半分の時間で済んだ。
 これで大河内が助からなければ、美砂の力を借りてもきっとむつきは再起不能だったろう。
 ぶるりと体が震えたが、改めて助かって良かったとがっくりうな垂れた。
 少し楽になりたいと上着を脱いでその辺に投げ捨て、鬱陶しいのでネクタイも取り去る。
 それから数分後、おずおずと周囲を伺うように大河内が更衣室から出てきた。

「先生、お待たせ。私の台詞じゃないけど、大丈夫?」
「お前よりよっぽどな。荷物貸せ、持ってやるから」
「あ、大丈夫」
「なわけねえだろ。いいから言う事を聞け、何を遠慮してんだ。控えめなのも良し悪しだぞ。お前は甘えるぐらいで丁度良い」

 あまり背丈の変わらない大河内の額を、立ち上がってから一指し指でつんつんと突く。
 あうっと可愛らしい声を上げて瞳を閉じ、お願いしますと荷物を渡してくる。
 それを受け取って歩き出すと、迷子の小さな子のように濡れたスーツの袖を掴んできた。
 やはり誰かを掴んでいないとまだ不安なのだろう。
 時々、後ろをついてくる大河内へと振り返り確認しながら、職員室へと連れて行く。

「一先ず、大げさかもしれんが救急車で病院にいけ。着替えがあればつきそうが、なかったら二ノ宮先生に頼む事になる。知ってるよな、二ノ宮先生」
「うん、まき絵の新体操の顧問の先生だし。喋った事もある。先生、今気付いたけどその格好。私のせい?」
「別に誰のせいでもない。なんか前にも誰かに言ったが、スポーツ中の不幸な事故だ。なんなら俺も一つ謝るぞ。緊急とはいえ、人工呼吸しちまった。すまん」

 当たり前の反応だが、大河内が立ち止まり掴んでいたスーツの裾が手から離れた。
 溺れた時はアレだけ青白かった顔も、見る見るうちに火照り赤味を帯びていく。

「わ、悪くない。先生は……助けてくれた。それだけで十分」
「そう言って貰えると助かる。夢中だったから、今にして罪悪感が」
「いい、気にしないで。あまりぐだぐだ言うと、えっと。なんか凄い事するよ」
「なんだそれ、期待していいか?」

 凄い事とはなんぞやと問い返され、何故か大河内がより赤面して俯いた。
 立ち止まって動けなくなった大河内の手をとり、引っ張り歩く。
 背は高いのだが大人しく後ろをちょこちょこついてくる様子がヒヨコか何かだ。
 思わずちょっと可愛いと思ってしまってから、頭を振り払っていると校舎が見えてきた。
 その校舎前にて二ノ宮先生が、救急車とともに待っていた。

「乙姫先生、大河内さんのご家族には連絡をいれておきました。それからすみません、着替えの方が。大河内さんには私が付き添います」
「なんとなく、そんな気がしてました」

 二ノ宮もむつきに気付いたようで、手を振りながらここだとアピールしてきた。

「大河内、ほら荷物。ちゃんと医者に見てもらって、両親に甘えて過ごせ。いいな、しっかり甘えろ。それで落ち着いてから、色々と考えれば良い。後の事は任せとけ」
「はい、先生ありがとう。ちょっと行って来るね」

 名残惜しげに振り返りながら、救急隊員の手によって大河内が救急車に乗せられた。
 荷台のベッドのような場所で脈拍を測られたり、健康状態をチェックされる。
 ただし、当人は何時までも貰われていく子犬のようにむつきを見ていたが。
 何か凄く悪い事をしている気分になったが、びしょ濡れではついていけない。
 行ってこいと笑いかけるのが精一杯で、二ノ宮にお願いした。

「二ノ宮先生、大河内の事をお願いします。俺は、俺でできる事をしておきますから」
「学園長の方にも連絡をいれておきましたので。後で連絡が……乙姫先生、確か携帯」
「こっちから一報入れます。理由あって、これから大掃除なもので」

 その意味を二ノ宮が察する事はなかったが、なんとなく大変だという事は理解して貰えた。
 頑張ってくださいとの応援を告げて、二ノ宮も付き添いで救急車に乗り込んだ。
 サイレンを掻き鳴らしながら救急車が出発し、二人を病院へと連れて行った。
 その救急車を見送ってから、むつきはまず着替えをどうにかする事を考え始めた。
 近くの水道で、濡れてから初めてスーツを絞り水を切って、職員室へ。
 残業で残っていた先生は殆どおらず、かつ大事件で大わらわであったが。
 適当な女の先生に声をかけて購買へ付き添ってもらい、生徒用のジャージを入手して身につけた。
 大河内のような大きめの生徒もいる為、なんとか着られるサイズがあった。
 それでも背丈は兎も角胴回りなど、全体がピチピチでどんな羞恥プレイだと、思いもしたが。
 それからまず学園長に連絡して事情を説明。
 親御さんへの連絡は二ノ宮がしてくれたので、他にできる事は殆どない。
 ただし別件で学園長に、どうしてもプールの水を抜いて清掃したいと訴えた。
 大河内の名誉の為に理由は伏せ、頭をさげて縁起が云々とでまかせも加え了解を取り、再びプールに舞い戻る。
 そして殆ど丸々一晩をかけて、むつきは水を抜いてから掃除を行なった。









-後書き-
ども、えなりんです。
又しても更新が……ちょっと考えます。

今回、むつき超頑張った。
もし仮に、美砂と付き合ってなかったら。
やさぐれ時代のままなら大河内死んでた。
見回りもぱっと済ませ、プール場の電気も消し忘れかとグチグチ文句言って終わりで。

ちなみに、ちょっと分かりにくいかなと解説。

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|       ア       |←こっちからのが近い
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        む

長い方から飛び込んだ馬鹿の図。
さすがにあがる時は近い方からですけどねw
要領が悪いってぐちったのはこのあたり。

それでは次回は土曜日です。
頑張り過ぎたむつきの充電回です。



[36639] 第十二話 いいよ、先生。一杯泣いて
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 20:38
第十二話 いいよ、先生。一杯泣いて

 たった一人でのプール掃除が終わり水を入れ終えた時刻は、午前三時を回っていた。
 手伝おうかと言う先生方も数人いたのだが、理由が理由なだけに断ってしまったのだ。
 それから軽く仮眠をとって始発で教師の寮に、新しいスーツに着替えてまたとんぼ返りである。
 即座に麻帆良女子中の大会議室に他の教師と集ったが、むつきは部屋の前に並ばされた。
 ある意味張本人であるので、学園長もいる前で改めて事件の詳細を説明させられたのだ。
 麻帆良女子中の全教師というだけで百人以上、その視線を一身に浴びて視線が泳ぐ泳ぐ。
 多少しどろもどろだが、出来るだけ詳しく述べた後に、ようやく視線から解放される。
 それから責任の追及が行なわれた。
 大河内の校則違反もあるが、責任とは大人がとるべきでこの場合は水泳部の顧問であった。
 どうも監督不行き届きは、以前から何度もあったようで謹慎処分。
 割と軽めなのは、大河内が検査結果も良好であった為で、何かあったら懲戒もありえた。

「それから、顧問が謹慎という事もある。しばらく、水泳部は活動禁止という事になるかのう。大会も近く、可哀想じゃが」

 そう学園長が締めくくろうとしたところで、むつきが手を挙げた。
 再び集った視線に、ちょっと吐きそうになる。
 その上、学園長の決定を遮るなど畏れ多いが、大河内の為には仕方がない。

「どうかしたのかね、乙姫君。それと、今日は残業せずに早めに上がりたまえ。顔色が悪いようじゃぞ。何も一人でプールを掃除せんでも」
「無理をいったのは僕ですから。それより水泳部の活動禁止、どうにかなりませんか?」

 あいまいなむつきの発言に、学園長が意味を謀りかねたように眉根をひそめている。
 ただそれは学園長に留まらず、しゃがれた声の男性教諭の発言が大会議室に響いた。

「どうにかと言ってもね。教師は兎も角、その生徒も校則違反をしたわけだ。罰は与えんと他の生徒に示しがつかんだろう。ねえ、学園長」

 正直、先生の数が多すぎて発言した年配の方が誰なのか分からなかった。
 妙にねちっこい声で、生徒を下に見た感じもしたが、正論だ。
 顧問の監督不行き届きもあるが、そもそもの発端は大河内自身の校則違反である。
 ズキズキと妙に痛む頭で上手い言葉が出てこず、唇を噛み締めるので精一杯であった。
 大河内の事だ、活動禁止となったら絶対に凄く気にするだろう。
 私のせいでと水泳部をやめようとさえするかもしれない。
 何か言わないと、このままじゃと焦る気持ちに反して何一つ言葉を続けられなかった。
 自分の無力感に打ちひしがれ、唇を噛み締めるのが精一杯なのが情けない。

「ううむ、小金君の言う通り。大河内君には可哀想だが」
「学園長、発言をしてもよろしいでしょうか」

 その時に助け舟を足すように手を挙げてくれたのは、新田であった。

「違反者に対する罰則は必要でしょう。ですが、同時に示しなどと大人の事情は生徒には無関係です。それに大河内君は既に十分過ぎる程に罰を受けています」
「確かに、相当に怖い思いをしたようだしのう」
「一番必要なのは、生徒が危険を自覚をする事です。罰に脅える事ではありません。その自覚の為に、同世代の実体験者の言葉は教師の言葉よりも響きます。もちろん、厳重な注意は大河内君に対しても必要ですが」

 新田の言葉に学園長がううむと唸り、今しかないと声を大きく勢いで押し切れと頭をさげた。

「あの、顧問不在の代わりは僕が勤めます。だから、お願いします。水泳部の活動禁止は見送ってください。大河内にも、厳重に注意します!」

 むつきに続き新田まで頭をさげての言葉に、良くも悪くも人情家の学園長の心が動いた。
 他の先生方の意見は、少し耳を傾けると半々なのだが。
 麻帆良の学園教師間はある意味で、独裁社会である。
 学園長が黒と言えば黒、白と言えば白、こんな時ばかりは利用するしかない。

「うむ、分かった」
「学園長!」

 了承の言葉に小金と呼ばれた先生が異論を唱えようとするが聞き入れられるはずもない。
 既に学園長自身がこれを白と決断を下したのだ。

「大河内君には復帰後、新田君から厳重注意。水泳部は、乙姫君が顧問を勤める事で活動を許可しよう。ただし、二度目はないと思って欲しい」
「ありがとうございます!」

 最後に学園長から他の部でも、最近顧問の監視の目が緩いのではと全体の引き締めがあった。
 それから緊急会議は終了となり、ぞろぞろと先生方は職員室へと戻り出す。
 他に先生方がいなくなってから、改めてむつきは新田へと頭をさげた。

「助け舟、ありがとうございます。新田先生、どうにか水泳部の活動は禁止にならずに済みました」
「うむ、まだ礼を言うのは早いと思うがね。学園長が言った通り、二度目はない。それだけ君に重い責任が課せられたのだ。それを自覚して頑張ると良い」

 いつもの様に肩を二度程叩いてから、新田はニヤリと笑って乙姫とすれ違っていった。
 ニヒルというか、肩を二度叩くのが好きなのだろうか。
 その背中に改めて頭を下げた時、ズキンっと痛烈な刺激が頭を駆け抜けた。
 だがそれも一瞬の事でな側頭部を指先でぐりぐりしながら、むつきも職員室へと戻っていった。
 早朝からの緊急会議もあって、職員室は何時もより時間がなくあわただしい。
 自分も急がないととデスクに座らずに出席簿を用意している間も、何度か頭痛に襲われる。
 風邪でも引いたか、幸い一時限目は授業がないのでまた仮眠でもと思う。
 寒気も少しするかと体を震わせていると声を掛けられた。

「乙姫先生、大河内さんの事ですけれど」

 それは昨晩、大河内に付き添ってくれた二ノ宮であった。

「ああ、二ノ宮先生。昨日はありがとうございました。お手数をおかけして」
「乙姫先生程ではないです。本当は昨日のうちに直接連絡したかったんですけど。大河内さんですが、検査で異常なし。今日も午前中は両親に甘えて、それから学校に来るそうです。両親は今日も休ませたかったようですけど、先生にお礼がしたいと」
「大河内らしいですよ。しっかり甘えとけって、念を押しとくべきでしたね」
「乙姫先生、大丈夫ですか? さっきも学園長に指摘されてましたけど、本当に顔色が。仮眠室か保健室でも使われてはどうです?」

 よほど笑みに力がないように見えたのか、二ノ宮が急に微笑を失い問いかけてきた。

「ちょっと風邪でも引いたかもしれませんが、大丈夫。そろそろ朝会がありますから」

 彼女がいるのに少し強がって見せたのは、悲しい男の見栄であった。
 実際、風邪かもしれないが熱も感じられず、頭が痛いのみで症状はそれぐらいだ。
 若いんだから気合いで治ると、痛みを無視してしまう。
 安易に休んで授業の遅れなどない方が良いし、教師の欠勤は色々と影響が大きすぎた。
 何しろその影響を一番受けるのは授業を受ける生徒である。
 たかが一日と思っていると、試験日までに授業が進んでいないなんてことも。
 再度心配そうに声を掛けられたら、手をひらひらと元気をアピールして教室へと向かった。









 教室へと向かう途中、何度か伸びをしては眠気と頭痛を何度か追い出す。
 そんなつもりになっただけだが、生徒にまで心配されるわけにもいかない。
 途中、少し心に余裕が出来て携帯が壊れた事を思い出した。
 ないと不便なので直ぐに欲しいが、水泳部の事があるので平日の夕方は無理だ。
 昼休みの間にご飯もそっちのけ、或いはファーストフードで済ませ急いでいくか。
 そう考えたが今日は顧問の件を、水泳部のせめて部長には伝えなければならない。
 さらに伝えなければならないのは良いが、誰だか分かりもしなかった。

「大河内、昼から来るらしいし。助かったか。それにしても携帯は、休みまで無理か。ちくしょう、しばらく見てるだけとか拷問か」

 昨日送ってもらった美砂の胸の谷間画像も失くし、より落ち込みかける。
 だから少し気付くのが遅れた。
 A組の教室が近付いても、耳慣れた彼女達の騒ぎ声が一向に聞こえなかった事に。
 何も考えずに教室の扉、引き戸を開けると耳に破裂音が届いて尻もちをついた。

「な、なんだ。何が起きた!?」

 慌てて周囲を見渡すと、覆いかぶさってきたのは細く長いカラフルな紙切れだ。
 鼻腔をくすぐる花粉のようなそれは火薬の焦げた匂い。
 疑うまでもなく鳴らされたのはクラッカーであった。
 なんのお祝いだと目をぱちくりさせているむつきを、生徒達が皆笑っていた。
 もちろん以前とは違うので嘲笑に似たそれではなく、単純にむつきがこけた為だ。

「もう、先生格好悪い。折角の武勇伝なのに」
「ささ、こちらでござる」

 佐々木に笑われながら、特徴的な語尾の長瀬に手を引かれ立たされる。
 それから背中を押されて教卓につれていかれ、ようやく気付いた。
 黒板に張り出された校内新聞、報道部が自作している不定期新聞である。
 校内で起きた事を面白おかしく書きたてるいわばゴシップ紙のようなものだ。
 そこに書かれていたのは、教師と生徒の濃厚キス疑惑という大きな文字だった。
 衝撃的な見出しの割には、記事の内容は割りとまともである。
 簡単に読むと、昨晩室内プールで生徒Aが溺れ、見回りに来たむつきが人工呼吸で助けたと。
 ただ人工呼吸という言葉が、やけに繰り返し出てきていた。

「どうよ、先生。久々に、改心のできっしょ。飛ぶように売れる、売れる。できれば本人の独占インタビューも聞きたいな」
「聞きたーい。アキラからは、大丈夫って連絡貰ったけど。先生の口から、アキラの唇どうだったかにゃ?」

 茫然とするむつきに、近付いてきた朝倉が囁くように呟いた。
 次いで明石も茶化すように人工呼吸の部分を、キスと勘違いしたかのように言った。
 途端に笑い声に満たされていた教室内が、普段以上に姦しく騒ぎ立てる。
 仕方のない事なのかもしれない。
 クラスメイトは溺れこそすれ無事で、教師に人工呼吸で、キスで助けれらた。
 思春期まっさかりの彼女達が、乙女心を過分に刺激されたとしてもおかしくはない。
 だからむつきは教師として、話してやらなければならないと思った。
 笑い祝福するかのような彼女達に振り返り、視線を集めるように多少もったいぶって言う。

「分かったよ。教えてやるから、席に着け朝倉。お前らも少し静かにしろ」

 一部、そんなむつきの言葉にアレっと思ったものはいたらしい。
 それは不謹慎だと常識的な感覚を持つ数名だ。
 長谷川や龍宮、那波や雪広あとは四葉もそうか。
 一応美砂も騒いではいないが、憮然として不機嫌なだけなので常識的思考とは少し違う。
 やったお話だと、生徒達が席につきわくわくと目を輝かせたところで言った。

「息、してなかった」

 教卓に腰掛け、祈るような格好で両手を合わせそこに頭を乗せてだ。
 途端に静まり出したのは、彼女達に少しは節度があったからだろうか。
 そのまま、しっかり聞いてくれと落ち着いた声のまま先を続けた。

「プールから担ぎ上げた大河内、息してなかったんだ。声を掛けても、頬を叩いても反応すらねえ。見えない手でぶん殴られたように感じた。だって、息してないんだぜ」
「せ、先生さ」
「朝倉さん」

 それこそ、昨晩の大河内のようにクラス全体がプールの底に落とされたようでもあった。
 なんとか明るい方向に持っていこうとして立ち上がった朝倉も、隣の雪広に止められた。
 さすがに不謹慎を悟る彼女達であったが、むつきは語るのをやめない。
 一度本当にこの怖さを知って欲しいと思った。
 不謹慎かどうかよりも、二度とこんな事故が起きないように。
 新田が言ったように生徒である彼女達には、日常に潜む危険を自覚をして欲しかった。
 もしくは情けない事だが、能天気に事故を話す当事者としての苛立ち、ただの八つ当たりか。

「人を呼びたかったけど、俺馬鹿だから携帯ごとプールに飛び込んでぽしゃってたし。他に誰も助けを呼べないから、講習を思い出して必死に人工呼吸して」

 薄目を開けると気の弱い宮崎などは、少々顔色を青くさえしていた。
 自覚ではなく、恐怖を与えたのは間違いだったかもしれない。
 だが例えそうだとしても、一度語り出したむつきは自分の口を止められなかった。
 今さらながら、昨晩の事を思い出して震えが起きていたのだ。
 恐怖に怯え悲鳴を上げるように、昨晩の体験を語り続ける。

「幸い、何度か繰り返して大河内が水を吐いた。それからしばらく咳き込んで、背中をさすってやった。意識が戻って、まず大河内がなんて言ったと思う?」

 重い頭を上げて、教室内を見渡すと誰もが視線が合う事を避けるように俯いていた。

「怖かったって、ぼろぼろ泣いて。当たり前だ、そばに誰もいなくて。きっと助けを呼んでも誰も答えてくれるはずもなく。そのまま水に沈んで、死にかけたんだ」
「先生、私……新聞回収してくる。全部できるか、わかんないけど。他の報道部にも声掛けて」
「ああ、行ってこい。授業に遅れても俺が許す」

 慌てて飛び出していった朝倉を見送り、黒板の新聞をはがしてから纏めた。

「確かに人工呼吸で俺は大河内と唇を合わせた。本人が無事だって聞いたんだよな。安心したお前らがそこに着目して、はしゃぎたくなったのも多少分かる。けど、大事なのはそこじゃねえ」

 改めて皆を見渡すと、目尻に涙を浮かべている子もいた。
 特に大河内と仲の良い和泉などは、零れ落ちる涙を何度も拭っている。
 方法の良し悪しは別として、自覚はしてくれたのかもしれない。
 教卓に手をついて立ち上がり、むつきは最低限の確認をおこなった。

「雪広、欠席者は?」
「アキラさんを除いて、いません」
「大河内は昼から来るそうだ。他に何もなければ以上だ」

 出席簿にソレをつけると、後は自分達で考えろとふらふらと教室を出て行った。
 少し教室がざわめいていたが、はしゃぎたくてという雰囲気ではない。
 今頃、色々と皆で討論でもしているのだろう、いやしていて欲しかった。
 もしかすると、後で謝りに来る者もいるかもしれない。
 その時は出来るだけ笑顔で許してやろうと思ったが、ふいに背中をどんと押された。
 振り返った先にいたのは、美砂と長谷川であった。

「先生、社会科資料室に急いで」
「しゃあないから、授業が始まるまでは見張っといてやるよ」

 ずんずんと社会科資料室まで押され、周囲に人影がない事を確認してむつきが開けたそこに二人だけが滑り込んだ。
 その二人とはもちろん、むつきと美砂である。
 長谷川はそのまま締められた扉に背をつけ、カモフラージュ用のイヤホンをつけていた。
 美砂以外、誰もいない社会科資料室に押し込まれ、何事だと確認する余裕もなかった。
 社会科資料室に鍵を掛けて、二人きりになった途端、美砂に抱きついていた。
 その細い体を手折ってしまいそうな程に、強く、強く抱きしめる。

「怖かった」

 自分が世界で一番安らげる場所にて、昨晩からずっと溜め込んでいた言葉を漏らす。

「死んじまうんじゃないかって。俺の生徒が目の前で。怖かったよ、美砂」
「うん、私もごめん。先生がアキラに人工呼吸したって聞いて、馬鹿みたいに嫉妬するだけで。全然、分かってなかった。先生、こんなに苦しんでたのに」
「美砂、美砂ぁ。ぐっぅぁ……」
「いいよ、先生。一杯泣いて」

 幼い子供をあやすように美砂の手が背中をぽんぽんと叩いてくれた。
 とうに決壊した涙腺が、さらに壊れて涙が溢れ出て止まらない。
 立っている事もままならず、膝が折れて美砂の腕の中をずるずる滑り落ちていく。
 両膝が床についた頃には、むつきの顔は美砂のお腹の上にあった。
 そのまま年上のお姉ちゃんが小さい子をあやすように美砂が撫でてくれていた。

「ありがとう、私のクラスメイトを助けてくれて。皆もきっと、今頃感謝してる。だから、今は一杯泣いていいの。ほら、こっちの椅子に座って」

 美砂が座り込もうとするむつきの腕を引いて、なんとか立たせようとしていた。
 以前よりもかなり整頓され、綺麗になった資料室にて以前も使用した椅子に座らせる。
 それから上着を脱いで、シャツのボタンを一つずつ外していった。
 あれだけ言われたのに不謹慎な子だと自分では思いもしたのだが。
 泣きじゃくるむつきを前に、胸をキュンキュン締め付けられ服を肌蹴てさらした。
 薄い青のブラをも外してから、むつきの膝の上に大胆に跨り、包み込むように抱きしめる。

「美砂、頭も撫でてくれ。頑張ったって、褒めぐぅ」
「うん、頑張ったね先生。ご褒美上げるから、私のおっぱいあげる」

 もはや言葉にならず、涙で見えないため手探り口探りでむつきが胸を捜した。
 頬に触れるふにふに感の中で、唯一のアクセント。
 少し硬くなった桃色の乳首を感じて口を向けて、舌を伸ばしながらそれを含んだ。
 腹を空かせた赤子のように、ちゅうちゅと音を立てて吸い付く。
 恐怖を少しずつ薄れさせ安堵を抱きながら。
 その証拠に、美砂を抱きしめる手が緩み始め、涙の川も緩やかになってきた。

「よしよし、頑張ったね先生。もう、大丈夫。怖いことは何もない」
「うん、美砂の心臓の音が聞こえる。安心する、帰って来たって」
「嬉しい、先生の帰る場所はここだから。帰りたい時に、帰ってきていいよ」

 改めて互いに少し力を込めて抱き合う。

「落ち着いた?」
「少し、悪いまた泣いちまった。格好」
「悪くない。まだちょっとネガってる。けど、元気になってきた」

 大きくなったむつきの一物が、美砂のお尻を押し上げるようにしていた。
 パンツ越しにそれが分かったのか、元気元気と腰を振る。
 柔らかな割れ目の肉を押し付けて、入りたくないと下半身に直接聞いた。
 返答はより硬くなり、美砂を押し上げる事であった。
 だがむつき本人は下半身とは裏腹に、少し渋っていた。

「美砂の中に入りたいけど、今コンドーム持ってねえ。お前も授業が……」
「じゃあ、仕方ないね。うん、仕方ない。生でするしかないよ。安心して、安全日だから」

 久しぶりだと、ますますむつきの膝の上で美砂が体をくねらせた。
 普段は安全日であろうと生でむつきがしない為、こんな時ぐらいしかチャンスはない。
 むつきも珍しく迷っているようで、後一押しと美砂が身を乗り出した。
 一瞬だけ不謹慎でごめんと視線で謝りつつ、目の前で艶かしく唇を動かしては囁く。

「先生、私さっき言ったよね。嫉妬したって。先生をアキラから取り返そうって、もう濡れてる。私に先生を奪わせて。きっと凄く、気持ち良いよ」

 あくまで美砂が望んだ事だからという免罪符さえ用意し、男であるむつきを誘う。
 ギンッと囁く誘惑に負けて、むつきの一物が完全に臨戦態勢に入った。
 本人も理性の限界と目をぎらつかせ、美砂の両肩を力強く掴んだ。
 そんな反応に美砂もやったと心中では小躍りし、生で犯される事を喜んでいた。
 そんなおり、二人を邪魔をするようにコンコンと扉が叩かれた。
 まさか誰かに気付かれたと驚く二人だが、長谷川が何も言わず消えるはずもない。

「そろそろタイムリミットだ。柿崎の事は、気分が悪くなって保健室って言っておいてやる。それから、少しだけここ開けろ」
「さっすが親友。だけど、どして?」

 むつきと見詰め合ってから頷かれ、美砂が上半身半裸のまま鍵を開けた。
 するりと空いた扉から何かが放り投げ込まれ、コツンと床で跳ねる。
 扉は直ぐに閉められ、よく分からないままに美砂がまた鍵を掛けた。
 そして投げ込まれた正方形のパッケージを拾い上げ、顔を引きつらせる。
 この野郎と、今は閉めた扉の向こうで笑っているであろう親友を睨んだ。

「こんな事もあろうかとって、ひかげ荘からくすねといた。見つかったら私が危険だったんだが、今はお前の方が危険だからな」
「わあ、嬉しい。さすが親友。ちっ、余計な事を」

 隙間から投げ込まれたのは、コンドームのパッケージであった。

「舌打ちすんな。女が生を強要するとか、妊娠しても知らねえぞ。私は絶対助けてやらねえからな」
「悪いな、長谷川。気を利かせて」
「今回の事も騒がしいアイツらには、たまには良い薬だ。んじゃ、しっぽりやってろリア充ども。ギシアンで学校揺らすんじゃねえぞ」

 最後に憎まれ口を叩いて、長谷川は教室へと戻っていった。
 それから程なくしてチャイムが鳴り響き、美砂はさぼり決定である。
 これからむつきとの個人授業、もちろん教科は保健体育の実技だ。
 不満気にコンドームの箱を開けている美砂の頭を撫でた。

「美砂が付けてくれるか? それから折角の長谷川の好意だ。新しい体位でしてやるよ」
「本当、どんなエッチな事されるのか、ドキドキする」

 美砂が目の前のむつきのズボンを脱がし、コンドームを付け始める。
 完全に勃起状態のそれは、血管が浮き出て脈打ち、美砂を視覚的に犯しさえしていた。
 言葉通り、これからどんな事をと美砂はうっとりと見つめ一物に手を伸ばす。
 もはや何十枚、着せ付けてやってきたことか。
 馴れてきた手つきで美砂が、張り切るむつきの一物にコンドームをつけてやる。
 それからよろしくねとばかりに、挨拶のキスをコンドーム越しにしてから立った。

「そこの棚に手をつけて、お尻は突き出さなくていい」
「立ちバックなら、でも。突き出さないと。えっ?」

 美砂の後ろで少し屈んだむつきが、その片足を掴んで肩に掛けて立ち上がった。
 突然の、それも片足の浮遊感に慌てた美砂が、棚を掴んでバランスをとる。
 片足は爪先立ちで、もう片方の足は高くむつきの肩の上。
 バランスの悪さも去る事ながら、大股開きさせられ、パンツが異常に秘部へ食い込んでいるのが分かる。
 恥ずかしくて手で隠そうにも棚を掴むので必死で、伸ばす余裕などない。

「先生、待って。パンツが、食い込んで……あっ、濡れ。引っ張らないで」

 首を竦めて開かれたスカートの中を覗き込み、食い込みを楽しげに見つける。
 それだけに飽き足らず、もっといけるはずと根拠もなく美砂のパンツを引っ張った。
 色と生地、両方の意味で薄いそれは美砂の恥部にうずまり紐のようだ。
 陰部を刺激され蜜も滴り、いやらしいことこの上ない。
 紐と化したパンツを指でずらし、柔らかな肉の谷間に指を入れて開く。

「美砂、どうしてこんなに濡れてるんだ。とろとろ、湯気が出てるぞ」
「嘘、濡れてるけど湯気なんて」
「顔を近づけなくても女の子の、美砂の匂いがする。俺のちんこを咥え込もうと、とろとろの。咥え込んで放さない、悪いおまんこの匂いだ」
「いやらしい言い方はしないで。おま……だなんて。あそことか、他に言い方が」

 羞恥に顔を火照らせ瞳を閉じ、美砂が震える
 最近、淫らに雌の顔を時折見せる事もあるが、まだまだ初心な所が抜け切らない。
 そんな恥ずかしさもあるのだろうが、それだけでなく込められたのは期待。
 どうされるのか、なにをされるのか。
 指で大事な所をかき回される、それともこのまま一気に貫かれるのか。
 心中の期待の現われの様に愛液が割れ目から溢れ、紐と化したパンツをぬらしていく。

「美砂も、そろそろ覚えてみるか。ほら、ここ。なんて言うんだ?」

 食い込むパンツの上から亀頭でぐりぐりと、むつきが腰を回して刺激する。
 ほら、言ってごらんと、その可愛い唇でと。

「そこは、あそこ。女の子の大事な」
「俺先生だけど社会科だからな。美砂は、保健体育を特に真面目に受けてるだろ。俺に思い出させてくれ、なんて言うのか」

 実際、保健体育での呼び方は正式名称で俗語など教えるわけがない。
 プレイの一環だと分かっており、美砂も無粋な突込みをしなかった。

「言ったら、入れてくれる?」
「ああ、もちろん。美砂がもう駄目って言っても、それから三回ぐらいイクまで」

 恥ずかしがる美砂の耳元で囁きつつ、既に亀頭はぬぷぬぷと出たり入ったりを繰り返していた。
 食い込むパンツごと、美砂の中に押し入ろうとしている。
 全挿入よりは小さく、けれど確実に入っている事が美砂には分かっている事だろう。
 中途半端な寸止めに近く、バランスの悪い体位とは別の理由で美砂の足が震えた。
 何故入れてくれないともどかしさに、体が欲しがってしまっている。

「先生のおちんちんを。私のおま、んこに入れて。一杯びゅっびゅってして、受精させて」
「ああ、種付けしてやるよ。美砂なら良い母親になれる。俺が保障、する!」
「ひぃぁっ!」

 パンツを亀頭でどかし、一気に美砂を貫いていった。
 決して小さくはない悲鳴を美砂があげるも、むつきはより深くと腰を突き出した。
 今や完全にむつき専用の受け皿と化した美砂の膣内が、むつきを受け入れる。
 いやそれだけに留まらず、子宮は孕ませる場所はここだとさらに内部に誘う。
 ぴったりと一物と同じ形で、少しだけ圧迫するように狭く。
 コンドーム越しだと分かっているはずなのに、精液を搾り取ろうと蠢いていた。

「先生、これ深い。気持ち、ぃぃ……」
「寝転がってこれするともっと深いが。今度ひかげ荘でしてやるよ。それより、今は」
「んぁ、声抑えられない」
「俺は腰が、止められない」

 限界まで開かれた美砂の股座へと、むつきは遠慮なく腰をぶつけた。
 愛液で濡れた肌がぶつかり、パンと湿った音が鳴り響く。
 床へと美砂の愛液が飛び散り汚すが、細かい事だと気にもしていられない。
 多分、後で必死に掃除する事になるが、美砂に夢中になりたかった。
 今や苦しそうに棚の上に身を乗り出し、声が出ないように堪える美砂をさらに攻め上げる。

「美砂、全部堪えなくて良いぞ。少しは可愛い声を聞かせてくれ。もっと、もっと頑張ってやるぞ」
「だって、叫んじゃう。おまんこ気持ち良いって、先生のおちんちんで」

 瞳に涙を滲ませ真っ赤な顔で声を潜め、なんとか振り返りながら伝えてくる。
 俺は生徒に、恋人になんて事を言わせているんだと悪い顔で笑ってしまいそうに。
 ぞくぞくとしたものが背筋を上り詰め、ますます元気になってしまう。
 壊れたおもちゃの様に、ただただ腰を振り続けた。
 電池が、むつきの精力が切れるまで延々と、美砂を攻め続ける。

「先生もっと、もっと私のおまんこ突いて。これで生だったら、くぅ。長谷川の奴」
「結婚したら、いくらでも生でしてやる」

 乙女の心を刺激する二文字に、ビクンと美砂が体を震わせた。

「毎晩、出勤する直前でも。美砂が受精するまで何度でも。中だしだって好きなだけ」
「先生、先生。ぁぅ、今が良い。今、受精させて」
「今、生んでくれるか。俺の子供を。このお腹で育ててくれるのか?」
「今直ぐ、何人でも生んであげる。先生、ここに。子宮に一杯だして」

 肌けられたお腹の上にむつきが手を置き、美砂が子宮はここと教える。
 お腹のここに一杯出せば受精してあげると。
 小さな種と卵から、一抱えもある子供へと育ててあげると。

「美砂、美砂。そろそろ、出そうだ」
「うん、私も先生と一緒に」

 快楽の中に結婚、受精、子供と様々なキーワードが頭を駆け巡った。
 下半身だけは未だ壊れたおもちゃのようだが、理性の中に愛情を見つけた。
 もう何度も思い、話しあった事か。
 むつきが教師である事、美砂が生徒である事。
 同じ世代に生まれていれば、けれど同じ世代ではきっと出会えなかったと。
 どこまでもジレンマが存在する恋人関係の中で、それでもできる事はある。

「イク、イクぞ美砂。準備はいいか」
「うん、私の中の卵に一杯かけて。先生の子供、孕んであげる」
「美砂ぁッ!」

 一際大きくむつきが美砂を突き上げ、コンドームという邪魔物の中に射精した。
 受精させてなるものかと、美砂の変わりに全てを受け止める。
 徐々に膨らむコンドームを感じ、美砂も切なく少し分けてと体を震わせた。 
 数秒の間二人は体を痙攣させるように硬直し、それから脱力していった。
 むつきが萎えた一物をずるずると美砂の中から引き出して座り込んだ。
 美砂も棚にしがみ付くのが限界で、ずるずると滑り落ちてはむつきの上に着地した。

「はぁ、ふぅ……先生、気持ち良かった」
「ああ、美砂の中。最高だった、見ろこれ」

 脱がしたコンドームの中に溜まった精液を、こんなにと美砂に見せる。
 それだけ美砂も愛された事を感じたが、同時に不満も感じた。
 コンドームがむつきの愛を半分ぐらい奪ったようだと。
 この野郎とむつきの手から奪い取り、口を縛ってその辺に捨てた。
 べしゃりと床でひしゃげたそれは、破れる事なくつぶれたのみであった。

「おいおい、破れたら掃除が」
「いいの、先生は私のもの」
「物に妬くなよ、しかもコンドームに」

 可愛いのかそれと、可愛い事にしてむつきは抱きついてきた美砂の頭を撫でた。
 ぐりぐりといつもの様に行為の後に猫と化す美砂を愛でる。
 今日は果てる時に抱きしめあえなかったせいか、妙に甘えてくる時間が長い。
 くんくんと匂いもかがれ、お返しだとこっちも匂いをかいでやった。
 甘い、発情したフェロモンもあるのか、とろけるような甘さに陶酔してしまう。

「先生、気持ちよかった。確かに気持ちよかったよ。けど、最後にギュッとできないのがいや。正常位とか対面座位、ギュッとしてくれるなら立ちバックとか。そういうのが良い」
「そうだな、いくら気持ちよくても。俺も少し、一方的によがってるだけみたいで。こうして抱き合ってする方が好きだ」

 時々、美砂の肌蹴た胸の突起をついて悪戯し、今は甘々タイムと怒られたり。
 ならとろけてしまえと、長い長いキスを繰り返しゆっくりと床に押し倒し組み伏せる。
 一瞬やべっと思ったが美砂も嫌がっておらず、後で謝ろうと後に回す。
 さすがに精液だらけの一物で挿入は出来ないが、もっとと喘ぐ下の口を擦りあげた。
 上と下でキスをしてはくぐもった声で喘ぎ、恋人らしく絡み合う。
 学校と言う空間で、全く異なる恋人の空間を作りあげていった。

「そういえば、好きで思い出したけど」
「どうしたの、先生」
「俺らって妊娠プレイ好きだよな。毎度、ゴムつけてるわりに」
「だって、先生に中だしされたい」

 美砂のお腹を押さえながらの爆弾発言に、サッと気分も冷めてむつきが青くなる。

「美砂、頼むから冗談でもそういう事を言うな。お前最近、妙に生でしたがるし。待ってくれ、あと五年。お前が高校を卒業するまで」
「だって、先生。生でしたの二回の初夜だけだし。たまにぐらい」
「中だしされたいとか言われて、余計できるか。頼むから、コンドームに穴あけたりするなよ。その瞬間、暴露覚悟で別れるぞ?」
「しない、絶対しない。先生と別れるぐらいなら、我慢する。我が侭言わない、良い子でいるから。先生こそ、そんな事を言わないで」

 脅しが過ぎたのか、美砂も顔を青くしてごめんなさいと抱きつきながら呟いてきた。
 ごめんごめんと慰めつつ、絶対にするなとむつきは厳命する。
 それから甘々タイムの再開と、美砂を見上げさせてのキス。
 ついばむような可愛いキスを繰り返し、一時限目が終わるまでずっとイチャつく。
 おかげでなんとか、むつきも昨晩の事件の恐怖から解き放たれた。
 ただ、頭痛だけは相変わらず張り付いた泥のようにむつきを時折襲っていた。









-後書き-
ども、えなりんです。

今回、お話の都合上、ちょっとエロは控えめ。
まあ、先生がクラスメイトと人工呼吸したら騒ぐと思うんです、あのクラス。
だから、むつきには半切れしてもらいました。
そして美砂と赤ちゃんプレイしながら号泣。
前回、妙にむつきが格好良いという意見があってびびりましたが。
こういう弱い部分もあるのですよ。
いずれ千雨がむつきをどういう人間か評しますが。
強かったり、弱かったりとまあ色々です。

さて、最近仕事が忙しく全然執筆できてませんでしたが。
手元で六十九話まで進みました。
夏休みのお盆前ぐらい。
七十話以内で夏休み終わるかしら。
週二で投稿してますが、それ以上にストック増えてます。

それでは次回は水曜です。
大河内がそろそろ本気出す。



[36639] 第十三話 姫って名がつくなら、目指せハッピーエンド
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 20:39
第十三話 姫って名がつくなら、目指せハッピーエンド

 全ての授業が終わり、終わりの夕会の場でのことであった。
 むつきも今朝は言い過ぎたと、恐る恐るといった感じで教室に足を踏み入れていた。
 夕会と朝会は授業とは違い、礼などしない。
 それなのにむつきが教卓につくと同時に雪広が号令を出した。

「起立」
「ん?」

 何がと目を丸くするむつきの目の前で、皆が深々と頭を下げた。

「ごめんなさい」

 今朝の思慮の足りなさを反省して。

「ああ、俺も突然不機嫌になって悪かったな。知って欲しかったのは、事故の怖さだ。座れ、お前ら。これで終わりにしよう」
「では、皆さん。着席」

 再びの号令で皆が座ったが、一部立ったままの者がいた。
 一人は事件を引き起こしてしまった張本人でもある大河内であった。
 午後から出席していたとは聞いていたが、見る限りは元気そうである。
 その大河内を、親友である和泉や明石、若干席の遠い佐々木はみているだけだったが。
 いや、うずうずとはしているようで、溜まらずその輪に加わっていく。
 三人で少し慌てる大河内の背を押し、教卓まで連れて来た。

「えっと、先生。直ぐにお礼言いたかったんだけど。休みの時間は、皆に捕まってて」
「気にすんな。お前が元気ならそれで良い」
「うん、先生ありがとう。助けてくれて」

 それだけ伝えると、背中にいた三人を押しのけるように席に戻っていく。
 救助とは言え、色々と人工呼吸したり背中を直にさすったり。
 今にして思えば胸骨圧迫も、美砂より一回り大きな胸に触れそうだった。
 半分以上、大河内に意識はなかっただろうが、想像ぐらいつくだろう。

「アキラ、なにしてんの。先生に好きですとか、言わなくて良いの」
「今言えば、皆公認になれちゃうよ」
「ちょっと二人共、朝怒られたばっかやん。アキラも困ってるし、お礼だけにしようって」
「感謝してるけど、好きとか……そういうのはちょっと」

 明石と佐々木は何やら乗り気そうだが、和泉と大河内が止めていた。
 ひそひそ話をしているつもりだろうが、しっかりむつきにも聞こえている。

「明石と佐々木、お前ら社会科の宿題追加な」
「げげっ、今日社会なかったのに!」
「おーぼーだ!」
「喧しい。自覚が足りないみたいだから、次の授業までに調べものして発表しろ。学校と言う場で、普段どんな事故が起きてるのか。何に気をつけるべきか」

 二人の訴えはあっさりしりぞけ、何人か他にホッと胸を撫で下ろした者をめざとく見つける。
 どう見てもあの乗りに加わらなくて良かったと思っている顔だ。
 自重できた者にまで罰を与えるつもりはなく、席に着けと大河内以外の三人に言う。

「鬱陶しい、しつこいと思うかもしれないが。本当にお前ら、はしゃいだりするのは良いが気をつけろよ。まあ、今日はそれぐら……っと」

 そうそうと思い出し、まず一人とむつきは雪広に言った。

「雪広、俺の携帯が壊れてしばらく使えん。緊急時には高畑先生、がいるかわからんから。他の先生に掛けてくれ。繋いで貰えるよう頼んどく」
「はい、了解しました」

 言外に、美砂と長谷川にも壊れた事を伝えておく。
 長谷川は兎も角、美砂はなんですとと連絡手段の喪失に頭を抱えていた。
 平日は気をつけて社会科資料室で会うか、携帯で連絡をとるしかないのだ。

「先生、高畑先生何時帰ってくるの?」
「本人に聞け。あの人のスケジュール、本当にどうなってるのか解らん。把握してるの学園長ぐらいじゃねえの?」
「木乃香ぁ」
「ほいほい、今度お爺ちゃんに聞いとく」

 最近本当に姿を見ず、親友に助けを求めるように神楽坂が机にうつ伏せになりながら手を伸ばしている。

「それから、大河内」
「はい?」

 雪広の次に自分に振られるとは思ってもみなかったようだ。
 ちょっと惚けたきょとんとした顔で振り向かれる。
 背が高く大人びた姿に反して幼い子供のような仕草が微笑ましい。

「部長から連絡回ってるかもしれんが。三日間だけ、理由あって俺が水泳部の臨時顧問になった。色々教えてくれ。実際は、そこにいるだけなんだが。良く知らんし」
「うん、わかった」
「先生、なんか嬉しそう。理由って、先生が女子中学生の水着に目覚めたとか?」

 大抵、微エロに繋がりそうな突込みは鳴滝姉である。
 実は心の中では低身長の幼児体形を気にしているのかもしれない。

「先生、そこんところどう? 最近人気上昇中、若き教師の心の花園。そういう記事なら問題なさそう」
「結局ゴシップじゃねえか。俺をターゲットにしても売れねえだろ」
「そう思ってるのは案外先生だけかもよ」
「はいはい、良かった良かった。お前ら、ひそひそ密談すんな。そこまで飢えてない」

 朝倉をあしらっている内に、多くの者がむつきを見ながらひそひそ密談している。
 美砂は私で発散してるもんねと、にこにこ顔で、長谷川はやれやれといった感じだ。
 他に懲りない明石と佐々木はチャンスチャンスと、大河内にピースサインをしていた。
 あまりにしつこいので、知らないとそっぽを向かれていたが。

「よし、今日も授業は全部終わり。部活や放課後、楽しんでこいこの野郎」
「はーい」

 わっと皆が諸手を挙げて、むつきの締めの言葉を喜んだ。









 女子中学生である美砂と付き合いながらも、むつきは少々女子中学生というものを甘く見ていたのかもしれない。
 色気のない競泳水着とはいえ、数十人が目の前に集れば壮観の一言である。
 小さな胸から大きな胸まで、腰つきやすらりと伸びる足も各種色とりどり。
 午前中に美砂に抜いてもらわなければ、正直危なかったかもしれない。
 まずはそろった部員の前で、部長の口からむつきが臨時顧問として紹介された。
 最初にむつきが顧問として行ったのは、昨晩の事故の説明である。
 さすがに元顧問が謹慎中や、そのための代理とは明かさなかったが。
 勘の良い者はその辺りに気づいている事だろう。
 それから大河内もご心配をお掛けしましたと皆の前で頭をさげさせた。

「まあ、なんにせよ無事で何よりだが。これだけは知っておいてくれ。今回、事故もあって一時水泳部が活動禁止になりかけた」

 当然の事ながらなんでと声も上がり、おちつけとむつきが鎮める。

「なりかけた、だ。学園長の温情に訴えて、なんとか許して貰った。大会も近いらしいしな。だが、二度目はない。小さな事故でも、今度こそ活動禁止だ」

 特に今年が最後の三年生らしき生徒達が、ごくりと唾を飲み込み喉を鳴らした。
 どうやって三年生かと判断したかといえば、他の子と見比べた発育具合だが。
 この次期に活動禁止となれば、夏の全国大会への影響は必死である。
 むつきの言葉に体を強張らせ、緊張の一つもするだろう。

「だから、怪我・事故のないように。それだけは気をつけてくれ。一、二年生は三年生の言う事を良く聞くように。三年生は言うまでもないよな」

 後がないという状況は必要以上に三年生を引き締めたからこその台詞だ。

「じゃあ、解散。普段通り、練習してくれ」

 むつきが解散すると、改めて部長が気合を入れさせていた。
 大会が近い事もあるが、気を引き締めると言う意味でも。
 青春だねえと懐かしき日々を思い出しつつ、眩しくむつきはそれを眺めた。
 生徒達が入念に準備運動に入ったは良いが、自分が何処にいれば良いかわからない。
 迷子のようにウロウロとしていると、それに気づいた大河内が近付いてきた。

「先生、顧問の先生はだいたいあの椅子にいるよ」

 指差されたのはプール際、大きな波が起きれば足がぬれそうな位置に置いてある白い椅子だ。
 その場所から考えて、顧問の先生は生徒と同じ水着だったと考えられる。
 ただし、現在のむつきは足こそ素足だが、他はいつものスーツ姿であった。
 まだ頭痛は完全に治まっておらず、ふらりと倒れてどぼんは避けたい。
 春もののスーツも残りこれ一着で、夏物はまだ早いし、冬物はもう熱いのだ。
 椅子をプール際から逆、壁際にまで寄せてから座り込む。

「ありがとうな、大河内。と言うか」
「せ、先生どうし……」
「体を庇いながら無言で遠ざかるな、違うっての」

 大河内が昨日と同じ水着姿である事に気付き、まじまじと見つめているとすすっと逃げられた。
 教室での鳴滝姉の突っ込みでも思い出したようだ。
 そそられるか否かで言えば、そそられない事もない。
 ただし、そこは美砂が着たらという一文を付け加える必要があった。

「お前、昨日の今日で大丈夫なのか?」

 純粋にそう疑問に思って尋ねる。
 それに加え、ふとシャワー室での不可解な悲鳴を思い出しもした。

「うん、二年生で選抜されたの私だけだから。先輩達の最後の全国大会の為にも、絶対にシード権が欲しいんだ」
「大丈夫なら良いが、もう行け。怖い先輩が睨んでるぞ、だべってるなって」
「人魚姫、憧れの王子様にばっかり構ってないで準備運動しろよ」
「ち、違います。止めてください、先輩!」

 睨み顔から一転、ニヤケ顔でそう部長が突っ込んでいた。
 慌てて大河内がこの場を離れて、何度も違いますといいながら戻っていく。
 泣いたり笑ったり照れたり、この二日で今まで知らなかった大河内の顔を良く見る。
 なんだか一ヶ月前に駅の構内で泣きじゃくる美砂を見つけた事と重なった。

(まさかね。俺は美砂一人で十分幸せだし。感謝はしてるけどって、本人も言ってたしな)

 そんな事よりも、ちゃんと監視しないとときっちり座り直す。
 といっても、まだ準備体操中でそう慌てる事はない。
 慌てる事はないのだが、むつきの意思以上に眼球が忙しなく激写してしまう。
 前屈した時に突き出され、濃紺の水着に包まれた白く丸い尻の数々。
 跳躍運動した時など、揺れる胸、揺れない胸、あいつ乳首立ってねと発見が多い。
 腰を回して体を捻った際に、水着がよじれるだけならまだしも腰肉が余った者などマニアックすぎた。
 水泳部の顧問、少しいいかもと生徒を叱れない不謹慎な考えが鎌首をもたげる。
 実際、あれだけ美砂を楽しんだ下半身が鎌首をもたげそうだ。

(やべ、ちょっと反応しちまった)

 大人しくしてろと、足を組んで太ももで挟むように押さえつける。
 自分の太ももで挟んでも嬉しくともなんともないが。

(まあ、実際。水泳部は強豪らしいし、俺みたいなド素人でしかも男が無理だよな。男の先生は文系に回されやすいし)

 高畑が運動は得意と聞いているが、美術部の顧問である事などが良い証拠だ。
 下手に夢を見るとあとが辛いぞと、今一度真面目に監視を再開する。
 そろそろ準備体操も終わりで、ゆっくり観賞が終わりだと言う事もあった。

「まずウォームアップ、二十五メートル五本。何時も通り、後ろに追い越されたらレーンを降格。追いついたら昇格」

 八レーンに部員達が分かれて並び、列を作り始めた。
 第一レーンに大河内がいると言う事は、第一から第八までレベルがあるという事だろう。
 部長の言葉を聞く限り、ウォームアップで既に競争が始まっている。
 列もきちっと並んでおり、強いわけだと統率感と練習メニューから納得させられた。
 これは本気でいやらしい視線を送るのは失礼だ。

「始め!」

 ピッと部長が笛を吹くと、まず最初の者が飛び込んだ。
 シュッと水の中にその姿が消えると、しばしの潜水の後で浮かび上がり水をかき始める。
 ただシュッと消えたのは第一から第三辺りまで、第四レーンからは飛沫が強い。
 約三秒程経ってから再びの笛。
 次に並んでいた者が飛び込み、一つ前の者を追いかけ始める。

「お、次は大河内、か?」

 生徒間で差別は良くないとは言え、担当クラスの生徒となるとやはり別だ。
 だが飛び込み台に立った大河内を見て、違和感が駆け抜けた。
 つい先程までは何も感じなかったが、じっと見つめ観察する。
 白い、元々白かったがその肌は、顔色は白い。
 案の定、ピッと部長の笛がなっても飛び込み台に立ったまま大河内は飛び込まなかった。
 それどころか、スタートの構えさえ見せず水面をじっと見つめていた。

「大河内、スタートだよ。ほら」

 早くと、後ろの者が大河内の背中を押そうとする。

「押すな!」

 立ち上がり、突然叫んだむつきの声に驚き、幸いにもその手が止まる。
 何事だと視線が集るのも構わず、むつきはスタート台の大河内へと走り寄った。
 近くで見ればはっきりと解る震えを確かめ、大河内の手をとって降ろさせた。
 足元もおぼつかないようで、昨日のように横抱きにして自ら離れさせる。
 壁際に座らせ楽にも垂れさせ、唇まで血の気を失い震える大河内の頬を軽く叩いた。

「大河内、しっかりしろ」
「ど、どうしよう……先生、どうしよう」

 自分の状況に多少自覚はあるのか、ぽろぽろと泣きじゃくっていた。
 他の部員達も何事だと、二人を囲むように集ってくる。
 その部員をかきわけ、水泳部の部長が事情を聞きにやってきた。

「先生、大河内がどうかしましたか?」
「わからん、わからんが……心当たりはある。大河内、お前昨日あの時ちゃんとシャワーを浴びたか?」

 首を横に振られ、やっぱりかと思った。
 シャワーの水でさえ怖かったのだ、プールの水の中に飛び込めるはずがない。
 溺れた事によるトラウマか、これは少しむつきの手にはあまる。
 特に部長を筆頭に何人かも大河内の事情に気付き始めていた。

「これ、まずいんじゃない。大会、もう二週間しか」
「大河内なしで……シードなんて取れるわけ」

 三年生のある意味情けない台詞に、大河内がびくりと肩を震わせた。
 正直な話、腹は立ったが怒るわけにも行かない。
 せめてと努めて明るく振舞うぐらいだ。

「よし、お前らは練習を続けろ。やっぱ、昨日の今日だ。大河内も体が回復しきってないみたいだ。休ませて様子を見よう。部長、ほら練習練習」

 大河内を庇うように、両手を叩いて部長にそう伝える。
 上手く意図を汲んでくれと願うと、伝わったようだ。
 力強く頷かれ、むつきの望んだ通りに動き出してくれた。
 さすが、強豪チームの部長ともなると、他の生徒より頭一つは出来が違う。

「はい、ウォームアップ続けるよ。皆、並びなおし。一度泳いだ人は列の後ろね」

 その統率力を少しは分けてくれと願いたくなる力で、他の部員を纏めていく。
 部長の声に促がされて部員たちもレーンに並びなおす。
 その間にむつきはなんとか大河内を起こして、連れて行った。
 といっても外や遠くではない。
 更衣室の扉の前にまで連れて行き、着替えて来いと指示を出した。

「大河内、着替えたら今日はもう帰れ。とりあえず、正式な顧問が復活するまで」
「見学、します」
「なんでそこだけ頑固かな。だったら、俺のそばにいろ。ふらつかれると、不安だ」
「はい」

 更衣室の前で待ちながら、プールの監視も同時に行なう。
 といっても、あの部長がいる限り大丈夫な気がしてきた。
 もはや彼女の方が半ば顧問のように、指示を出したり、フォームの指摘をしたり。
 むつきのそんな視線に気付いたのか、振り返り大河内をお願いしますとばかりに頭を下げられた。

「完璧か。麻帆良って雪広やら、超やら。完璧な奴が多すぎ。こっちは楽だけど……」
「先生、お待たせ」

 水着を抜いだせいか、それだけでも精神的に解放されるようで顔色はそこまで悪くない。
 だが歩き出したむつきのスーツの腕部分の袖をそっと掴んできた。
 まるで昨日、溺れた直後にそうしてきたように。
 体は回復しても、まだ心の方が全然回復していないらしい。
 その大河内を連れて、顧問用の椅子にまで戻っていった。
 むつきがその椅子に座ると、右手のやや後方に体操座りで座り込んだ。
 なぜやや後方かという理由は、椅子の隙間からむつきのスーツの裾をつかむ為らしい。
 大変可愛らしい行為だが、その表情は真剣で食い入るように皆の練習を見ている。
 水が怖いのに、その心は水泳から全く離れてなどいなかった。

「遠くから見てる分には怖くないのか?」
「それもあるかも。ただ、こうしてると怖いって感情より、不思議と安心する。先生言ったから、私が泡になっても掴んでくれるって。泡の底からでもって」

 強烈なトラウマも植えつけられたが、救いの言葉も植えつけられたらしい。
 なんかパターン入った気がすると、少々の嫌な予感もするが。

「それなんだが、なんで泡なんだ。さっきも部長がお前の事を人魚姫って呼んでたが」
「えっと、男の人に話すのは恥ずかしいけど。去年、水泳大会で新人賞を取った時に、麻帆良の人魚姫って呼ばれたの」
「なる程、それで人魚ひ……大河内、もう少し横に座ってくれ。もしくは場所少しあけるから、椅子に」
「先生?」

 人魚姫というキーワードを思い浮かべつつ、大河内へと振り返ったのがまずかった。
 本人の気が緩んでいた事もあるが、制服のスカートで体操座りである。
 大人びた格好とは裏腹な、可愛らしいクマさんパンツが見えた。
 ある意味で、大河内らしいと言うべきか。
 美砂は大人びたものか、勝負下着とあまり可愛いものは履かないので新鮮だ。
 ただ本人はそんな事が思いもよらないらしく、小首をかしげていた。

「天然か。可愛いクマさんがこんにちはしてるって言ってるんだ、この野郎」
「あっ」

 即座に右手でスカートをおさえる大河内だが、それでも左手は離さない。
 がっちりむつきのスーツの裾を掴んだまま、相当な重傷だ。
 いや、さらに腕の肉ごとスーツをつまんで抗議だけは忘れなかった。

「痛い、お前結構力強いのな。本当痛い、ごめんなさい。許してください」
「先生、皆をエッチな目で見たらもう一度だから」
「いや、見てねーし?」

 若干声が裏返ってしまい、余計に疑惑の目を向けられてしまった。

「とりあえず、さ」

 だから、お喋りはここまでと話題を本筋に持っていった。

「大河内、お前しばらく様子見ろ。今晩、風呂で試してみろ。何処まで駄目なのか。あっ、絶対に一人で試すなよ。パニックになって風呂で溺れたくないだろ。明石や佐々木、和泉も呼んどけ」
「うん、わかった。先生……もう少し、こうしてて良い?」

 袖ぐらい、好きなだけ掴んどけとだらだらお喋りしながらその日の部活は終了していった。









 結局、その試みは失敗と終わったらしい。
 九時少し前に寮に帰って来て直ぐに、瀬流彦からむつきへと連絡が回ってきた。
 経緯その他は全て省き、大河内が大浴場で暴れたと。
 幸い、クラスメイトも多くいたらしく、長瀬や古が取り押さえたらしい。
 その暴れた本人が泣きながら、むつきの事を呼んでいるそうだ。
 たまには動かしてあげないとと言った瀬流彦から彼の愛車とキーを受け取り一路女子寮へ。
 少々速度制限を越えたりしながら女子寮へと辿り着くと、クラスメイトが勢ぞろいであった。

「おい、大河内はどうしっ。ぐふぅ」

 車を降りて聞いた声が終わらないうちに、黒い何かが胸の中に飛び込んできた。
 体当たりともとれるそれを放ったのは、大河内その人だ。
 文句の一つも出かけたが、胸の中で震えられては叱る事もできない。

「で、誰が何をしたんだ? 部活後に分かれた時は、ここまで酷くなかったぞ」

 携帯さえあれば美砂か長谷川に聞けたのだが。
 美砂は色々と膨れ中で、長谷川も肩を竦めるのみ。

「ごめんなさーい。アキラ、許してぇ」

 申告したのはちょっと泣いている佐々木であった。

「あんな、アキラが水が駄目だって聞いて皆で大浴場に行ったんよ。けど、水が駄目でもお湯ならってまき絵がアキラを押して」
「そんな深くないのにパニクッたアキラが大暴れして」
「偶然その場に居合わせた拙者と」
「私が取り押さえたアル。本能的に暴れたアキラは中々に手ごわかったアルヨ」

 和泉から明石へ、さらに長瀬に古と流れるような説明台詞であった。
 練習してないよなと疑いたくなるほどに。
 実際そんな余裕はなかったろうが、お風呂で良かったとも思えた。
 部活中、あの時大河内の背を押そうとした部員を止めなければ同じ事がプールで起きていたはずだ。
 その時、むつき一人であばれる大河内を取り押さえられたかどうか。

「とりあえず、大丈夫だから落ち着け大河内。お前以上に佐々木が泣いてるぞ」

 友達思いな大河内の性格を少し利用して、

「アキラぁ、ごべん」
「う、うん。もう落ち着いたから。怒ってもないし。まき絵、泣かないで良いから」

 プールの時のようにむつきのスーツの袖を掴みながら、佐々木に手を伸ばした。
 慰める立場が逆にも思えるが、頭を撫でられ佐々木がしゃくりあげる。
 むつきから大河内へ、さらに佐々木へと手が繋がり変な構図であった。

「どうでも良いけど、アキラはなんで先生を呼んだの? こういう場合、まき絵は抜きとしても亜子とかゆーなの出番じゃない」

 少々刺々しい言葉を放ったのは、美砂であった。
 どうでも良いと前置きしつつ、かなり気にしている様子である。
 彼氏と連絡が途絶えている間に、特定の女の子と親しくされれば不機嫌にもなるだろう。
 ただ、このような不特定多数がいるような場ではもう少し自重して欲しいが。
 長谷川もあくびをし興味なさげを装っているが、内心はらはらしている。
 風呂上りというわけでもなさそうなのに、その頬に一筋の汗が過ぎっていた。

「たぶん、条件反射って奴だ。昨日、溺れたのも強烈な印象らしいが、その後に俺に言われた台詞も印象的だったみたいでな」
「ほほう、それは興味深いですにゃあ」

 にやにやと笑う明石は捨て置き、弁解するように特に美砂に向けて言った。

「大河内、水泳部で人魚姫って呼ばれてるみたいで、溺れた時に泡みたいに消えるんだって思ったらしくてな。俺が泡になっても、何度でも掴んでやる。泡の底からでも何度でも引きずりだしてやるって」

 言い訳の仕方を間違えた事は、美砂の反応から明らかであった。
 浮気かこの野郎と周りをはばからず、剣呑な瞳をむつきにむけていた。
 長谷川も言うか普通とばかりに、深い溜息をついている。
 だがその二人の認識は決して間違いではなかったようだ。

「凄い……また不謹慎って怒られるかもだけど演劇みたい。人魚姫と王子様だ」
「おぉ、久々のラヴ臭が。アキラ、あんた既に先生にぞっこんラブじゃないの。絶対そうだって、パニックになった時に先生を呼んだのが良い証拠だって!」
「美砂ののろけは正直腹立つけど、大河内の控えめな恋は面白い。いいぞ、もっとやれ!」
「人魚姫と王子様。お爺さんの乙姫、浦島話並みに凄いです」

 村上に始まり、もっとも火を注いだ早乙女、知らず親友の恋敵を応援する釘宮。
 それからこそこそっと呟いた宮崎等々。
 もう既に九時を回ろうと言う時間を前に、寮の前で大騒ぎであった。
 大河内は皆に詰め寄られ必死に違うといっているが、むつきも大いに困っていた。
 詰め寄る皆の輪に加わらず、こめかみを引きつらせている美砂である。
 凄くややこしい、正式に付き合っている自分達は必死に隠しているのに、そうでない大河内とのありもしない関係が歓迎されるなど。

「お前ら、夜に騒ぐな。いいから、部屋に戻って寝ろ。大河内も、誰か部屋に」
「せ、先生。お風呂、入りたい。昨日はお母さんに濡れタオルで拭いてもらったりしただけで。怖いけど、先生が手を握っててくれたら」
「お前もなに言ってんの!?」

 一先ず皆を追い返し帰ろうとしたところを、手を握られ止められた。
 プールで抓られた時も思ったが、凄く力が強くて振りほどけない。

「くそ、どいつもこいつも!」

 そう叫んだ瞬間、一瞬目の前がぐらりと揺れた。
 頭に血が上りすぎたかは不明だが、この騒ぎを鎮める方が先だ。
 これで騒ぎの原因が大河内ともなれば、今度こそ水泳部が活動禁止になりかねない。
 そうなってしまえば、もはや大河内の居場所は水泳部になくなってしまう。
 大声を出さずにしかも騒がしい彼女達を静かにさせる方法などあるか。
 何かないかとぐるぐる考える中で、もはや怒り心頭の美砂と長谷川が見えた。
 美砂ではない、長谷川である。
 その時、記憶の中で長谷川をどん引きさせたとある行動が思い浮かんだ。

「お願いします!」

 頭の中で歯車が合致した案とは、土下座であった。
 スーツが汚れるのも構わず地面の上に、勢いをつけ過ぎて額をぶつける程に。
 狙い通り自尊心を投げ捨てる事で、一瞬にして周りが静まり返った。

「頼むから騒がないでくれ。限界なんだよ、後がないんだよ。今何か問題起こしたら水泳部は活動禁止。自分のせいでそうなったら大河内がどうするか、わかるだろ?」
「せ、先生いいよそこまで。私が、水泳部を止めれば……もう、私泳げないし」
「簡単に止めるって言うんじゃねえ、この野郎。人魚姫が泳ぐの止めたら、そこでお話が崩壊するだろ。姫って名がつくなら、目指せハッピーエンド」
「真面目な場面で非常に無粋ですが。人魚姫はどちらかというと悲恋です」

 本当に無粋だこの野郎と綾瀬の突っ込みでむつきは立ち上がった。

「うるせえ、実は人魚姫のお話なんて知らねえんだよ。俺は乙姫だ。別の話出身なんだ悪いか。兎に角、お前らは部屋に戻って寝ろ」

 誠意が伝わったようで、皆ばつが悪そうに主にアキラにちゃかした事を謝ってから戻っていく。
 同じ日に二度怒られてむつきに謝り辛いという事もあるだろう。
 何かを言おうとチラリとむつきを見ては、ペコリと謝るぐらいで精一杯の者もいる。
 むつきとしても、今は速やかに各自部屋に戻ってくれればそれで良い。

「私も部屋に。先生我が侭言って……あっ、おでこ。血が」
「お、石か何かで切ったか? かすり傷だ、それより。お前まで帰ってどうする」
「え?」
「風呂、入りたいんだろ。女の子だもんな。それと良い考えを思いついた。良いところに、連れて行ってやるよ」

 戸惑う大河内を、瀬流彦から借りた彼の愛車の助手席に押し込んだ。
 瀬流彦はまだ誰も乗せた事ないけどと笑っていた事もあったが。
 心の中で謝っておく。
 生徒とは言え、借りた自分の方が先に女の子を乗せてしまったと。
 星空の向こうで、瀬流彦が何時もの笑みを浮かべている気がした。
 それから運転席に回ろうとすると、周囲を気にしながら誰かが寮から出てくる。

「先生」

 かすれるような、けれど確実に聞き取れたその声は美砂であった。

「タオルと絆創膏、使って」
「お前、怒ってたんじゃ……」

 その二つを受け取りつつ、むつきも声を潜めて返す。

「怒ってたけど、騒いでたのは皆だけだもん。先生の目、私の大好きな強い瞳だった。先生が先生してる時の目だった」
「そっか、ありがとうな。それと、理由あって大河内にひかげ荘教える。正確な場所までは教えないから、勘弁してくれ」
「ん、私は世界一可愛い彼女だから我慢する。アキラの水恐怖症、直してあげるつもりでしょ。それに、お風呂に入れない気持ち解るし」
「大河内がいなけりゃ、抱きしめてた。んじゃ、行ってくる」

 せめてと美砂とハイタッチし、むつきは今度こそ運転席へと回った。
 美砂から借りたタオルで額の血を拭き、バックミラーを見つつ絆創膏を張る。
 この程度なら、関係を疑われるまでもないだろう。
 愛の力を額に貼り付け、準備は万端。

「大河内、飛ばせば三十分ぐらいで着くから。もう少しだけ、我慢してくれ」
「うん、もう我が侭言わないって決めたから」

 大河内の了承を得て、むつきはギアを入れてからアクセルを踏み込んだ。









-後書き-
ども、えなりんです。

それにしても主人公、順調に正常な判断を失い中。
あとあと千雨が突っ込みますが。
色々アウトな行動をしっぱなし。
さて、順調といえばアキラもなんですが。
一応は自分で望んでひかげ荘にIN。
そして次回が偶数話ともなれば……分かりますね?
人魚姫なのに蜘蛛の巣ことひかげ荘に。

その内心はつり橋効果どころか、刷り込まれてます。
恋って勘違いだから良いよね。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第十四話 全部なくなるまで、私にかけて
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/04/03 22:25
第十四話 全部なくなるまで、私にかけて

 大河内がひかげ荘の場所を把握できないよう、むつきは何度か市内をぐるぐる回る。
 今回は本当に特別で、むつきはひかげ荘の全てを明かすつもりはない。
 それこそ向かっている場所の正式名称、ひかげ荘でさえ。
 せいぜい説明したのは、知り合いの元温泉宿を借りたという嘘ぐらいだ。
 大河内はそれでも疑う事はせず、顔が広いんだ程度の認識で納得してくれた。
 道中は部活中のお喋りを再開させ、三十分など瞬く間ですらあった。
 そして辿り着いたひかげ荘へと続く階段を前に、むつきは大河内の態度を想像していた。
 階段を不思議がり、少し登ってからはひかげ荘を前に呆気に取られる。
 美砂がそうであったし、長谷川もそうであったと聞いていた。
 爺さんの持ち物とは言え、管理しているのは自分なので少し誇らしい気持ちにもなる。

「ん、あれ? 大河内?」

 だが階段の前に立った大河内は、くるりと振り返るとむつきに走り寄ってきて服の袖を掴んだ。
 何か脅えているような、水を前にした時程ではないがそう見えた。

「えっと、マジでどうした?」
「だって、暗くて……階段の向こう側が殆ど見えない」

 良く良く考えてみれば、現在時刻は十時前であった。
 昼間と違い周囲は真っ暗で、階段を見上げても闇ばかりでひかげ荘の影も形も見えない。
 春風が吹けば木々が揺れて一緒にその闇が蠢くようにさえ。
 大河内が怖がるのも当然で、なんでこんな所にと疑問を抱かれても仕方のない状況だ。
 なんか妙に頭が回っていないと、軽くコンコンと叩くとズキリと痛む。
 それも一瞬の事で、別にへんな所に連れ込もうとしているわけではと、慌ててむつきが説明する。

「ここを登った先だ。今の俺、すげえ怪しいけど。元温泉宿がある。そこなら、なんとか一緒に入ってやれるから。違うよ、違うから」
「信じてるよ、先生の事は。それでも、ちょっとこの暗いのは……」

 慌てた弁解は余計怪しさを増しただけだが、嬉しい事に大河内は信じてくれた。
 それでも、この薄暗さに対する恐怖は薄れはしなかったようだ。
 しかし階段の下で喋っていても仕方ないので、怖がる大河内の手を引いて上り始めた。
 信じているとは言っても、やはり繋いだ手から緊張が伝わってくる。
 振り払うべきか強張ったり、放すのが怖くて握ったりと忙しい。
 少々居た堪れなくなりつつ、むつきはアレだと見えてきたひかげ荘を指差した。
 ただ、改めて指摘されると全く電気のついていない大きな建物のなんと気分のある事か。
 もちろん、怪談とか恐怖的な意味で。
 暗闇とは別の黒が輪郭だけ見え、こちらに覆いかぶさってくるようにも見えた。

「先生」

 ますます怖がらせてしまったようで、服の裾どころか腕に抱きつかれた。
 現在大河内は厚手の制服ではなく、シャツとベストの割と薄手の格好だ。
 美砂より一回りおおきい胸がむにゅりと押し付けられ、ちょっと嬉しくなってしまった。
 そんな自分に即座に気付いて、咳払いと共に正気を取り戻す。

「ん、んんっ。直ぐに電気つけてやるから。鍵も預かってきてる」
「何時の間に……」

 あまり迂闊な嘘はつかない方が良いのかもしれない。
 言葉にこそされなかったが何処で誰にとも聞かれそうで、急いでひかげ荘の玄関を開けた。
 まず大河内を管理人室へと案内し、前も美砂と使った浴衣を探し出してくる。
 もとより、お互いに裸で大河内と温泉に入るつもりなどない。
 専用の浴衣ではないが、何処かの温泉では浴衣を着たままと聞いた事もあった。
 バスタオルと浴衣を持って戻ると、大河内は興味深げにキョロキョロしていた。

「大河内、この浴衣を着ろ。俺は廊下で着るから」
「あ、そういうシステムなんだ」

 システムじゃなく、裸を見ない為のフォローだと説明はするまい。
 妙に従順な大河内をわざわざ照れさせ、扱いにくくする事もなかった。
 念のために、帰りの為に中には何も着るなとだけは伝えておいた。
 廊下に出て襖を閉じ、裸になって浴衣を着ると気温は温かいが体がぶるりと震えた。

「それにしても、頭痛ぇ……俺も風呂で温まって、今日は早く寝よう。あまり遅くまで付き合わせると、それはそれで問題だからな」

 プールでびしょ濡れになり、それから一晩中プールを掃除して、完全な寝不足。
 翌日も早朝から職員会議に加えはしゃいだ生徒を叱ったり大忙しだった。
 社会科資料室で美砂と楽しんだのも、体力をすり減らす意味では悪かったかもしれない。
 いくら若いむつきでも、体力が底をつくというものだ。
 腕をさすって暖めていると、襖を開けて浴衣を着た大河内が出てきた。
 先程まではポニーテールだったが、髪を後頭部で一纏めにしている。
 浴衣姿もあいまり、白いうなじがみょうに色っぽく見えて困った。
 クラスの中では飛び抜けて背が高い方だから、それだけ大人っぽくみえるのだろう。

「お待たせ、先生」
「昨日と今日で、三回ぐらい聞いた気がする。全然、十分前に来たところだから」

 ちょっとおどけてみると、クスリと笑われひかげ荘前での緊張はとけたらしい。
 あれ、俺ってセンス若いと考えるあたり、もう若くない。
 というか、若干テンションが高い気がしつつ、こっちと案内する。
 ひかげ荘の一番の目玉、名所とも言える露天風呂だ。
 暖簾を潜り脱衣所から見える電灯でライトアップされた露天風呂を前に、大河内が瞳を輝かせた。
 ただし、ココからが一番の難所。
 もしも大河内がお風呂の中でパニックを起こしたら、むつきが一人で助け起こさなければならないのだ。
 露天風呂への引き戸を開け、むせ返る湯気に迎えられながら、大河内の手を引いて促がす。
 しっかりと、離さない様にその手を握られ、緊張がまた戻ってきているのがわかった。

「大河内、俺が言った台詞覚えてるか?」
「うん、私が泡になっても先生が掴んでくれる。泡の底からでも引きずり出してくれる」

 まるで勇気を貰う呪文のように呟き、大河内が一歩を踏み出した。
 と言っても、まだ露天風呂のお湯を目の前にすらしていない。
 やはり、いざ露天風呂の岩場に到達し、お湯を前にするとその足が止まった。
 むつきの手は痛い程に握り締められ、大河内の震えが直接伝わってくるようだ。
 だからまず、むつきが先にお湯の中へと足を踏み入れ、大河内へと振り返る。
 握った手はそのままに、大丈夫と頷いてやった。

「泡になる前から掴んでんだ。泡になりようがねえ。来い、大河内」
「うん」

 腕を引かれるままに、大河内が片足をお湯の水面へと向ける。
 浴衣の裾から白い足が伸ばされ、指先がお湯の表面に波紋を描く。
 その波紋が広がりきる前に、素早くその足が引っ込められてしまう。
 思わず逃げ出そうとした大河内を、繋いだ手で逆にむつきがつなぎとめた。

「大河内、逃げるな。人魚姫の王子様役には、ちょいと役者不足だが」

 多少自虐的に他人思いな大河内を引きとめつつ。

「この露天風呂が今日の舞台で、俺が王子役だ。人魚姫に逃げられたなさけない王子にしないでくれ」
「役者不足なんて事はない。先生は泡になりかけた私を救ってくれた王子様だから」

 狙い通り大河内は立ち止まってくれたが、恥ずかしい台詞に恥ずかしい台詞が返される。

「この露天風呂のお湯が溶岩でも、信じて入れる。だって、先に王子様が入ってるから、怖がる必要なんてない」

 お互い夜も更けた事でテンションが高まりつつあるようだ。
 頭のどこにそんな辞書が入っていたのか、普段使わないような芝居気のある台詞が飛び出しだす。
 大河内もその気になったようで、今度こそとお湯の中へと足を忍ばせていく。
 やはり一度、お湯の表面で波紋を描いて足は止まったが、逃げない。
 ゆっくりと温泉の熱さを確かめるように入りだす。
 やがてその足が露天風呂の底につくと、後は度胸とばかりに飛び上がるようにもう片方の足をお湯の中に飛び込ませた。
 少々勢い余って、お湯をばたつかせながらむつきの胸の中に飛び込む形となった。

「おっと、大丈夫か。ちょっとまだ、震えてるな」
「先生、絶対離さないでね」

 飛び込んだはよいものの、大河内は瞳をギュッと閉じて身動きできない状態だった。
 まるで猫が高い場所に上ったはよいが、降りられなくなったように。
 股下までお湯に浸かり、浴衣の裾がお湯の流れに従いゆらゆらと揺らめいている。
 そのまま十分程抱き合った形のままで、少しずつ大河内の緊張をほぐしていく。
 本来トラウマを素人が挑戦的に対処して良いかは不明だが、今の所は上手くいっている。
 むつきが大丈夫と何度も繰り返し、背中をさすっていると震えも収まり始めた。

「ゆっくりしゃがむぞ。ゆっくり、慌てる事はない。屈伸するのと一緒だ」
「ゆっくり、屈伸。ゆっくりと……」

 むつきの言葉に全幅の信頼を寄せたように、言われた通り大河内が屈伸していく。
 膝を曲げ、腰から上に徐々にお湯に浸らせていった。
 時折お湯を見ては目を瞑り、助けを求めるようにむつきの瞳を覗きこんで安心したり。
 本当に時間をかけていったものの、大河内は肩までならお湯に浸かる事ができた。
 まだまだ体は強張っているが、大躍進である。

「そのままちょっと後ろに、岩があるだろ。もたれかかってみろ」
「こう? 温泉とお風呂で違うけど。普段通りに近い。あっ、先生。手を」
「離さないって。ずっと握っててやるから」

 でも少しだけとむつきは移動し、大河内の隣で岩場にもたれかかった。
 それから大きく息を吐いて白い湯気を吹き飛ばしては、温泉にじっくりつかる。

「少し温いか?」
「え、そんな事はないけど。熱いぐらい」

 大河内も少しはリラックスできたようで、足を伸ばしてぶらぶらさせ始めた。
 お湯の中で浴衣がゆらめき、太ももなど際どい部分まで露となってしまう。
 だが当人は、多少なりとも水を克服できた事の方が嬉しいようだ。
 鼻歌さえもかすかに口ずさみ、両手でお湯を救って顔を洗うか迷いさえしていた。
 近付けたり、遠ざけたり、顔にお湯をつけるのはまだ無理のようであった

「大河内、慌てるな。大会まで二週間もあるんだ。これから毎日、ここに連れて来てやる。他に人がいないとちょっとぐらい泳げるんだぜ、ここ」
「うん、凄く嬉しい。実はお風呂で泳ぐの好きなんだ。時々だけど、寮の大浴場に早めにいって泳いでる事がある。禁止だけど」
「真面目なばかりだと思ってたが。結構、お転婆なところもあるんだな。A組の生徒らしいよ」
「特に裕奈とかまき絵、元気だから。一緒にいて楽しいから良いけど」
 お喋りする口も滑らかで、お風呂程度ならもう心配いらないようだ。

 しばし、お喋りを続けていると、ふと思い出したように大河内が言った。

「思い出した。私が泳ぎ始めた理由」
「そう、なのか……」
「私、小さい頃良くお父さん達に銭湯に連れて行って貰って、はしゃいで泳いでた」
「今と同じ、じゃねえか」

 そうかもと照れながら、大河内は昔を思い出しつつ話した。

「何度注意されても止めなくて。だったら、好きなだけ泳いで来いってスイミングスクールに入れられたんだ。それで泳ぐ事がもっと好きになって」

 夢中になって幼い頃を話す大河内であったが、ふとむつきの合いの手が途切れた事に気付いた。
 あれほど離さないでとお願いした手からも、握る力は殆ど感じられず。
 もはや重ね合わせているだけと言った方が近いぐらいに、むつきの意志を感じない。
 お湯の熱さに息を乱す吐息さえも、途切れ聞こえなかった。

「先生?」

 どうしたんだろうと振り返り、大河内は信じられない光景を見た。
 むつきが寝入るように瞳を閉じながら、ずるずると体勢を崩してお湯の中に沈もうとしていたのだ。
 ただ事ではないと、慌ててむつきを引き上げてみると、温泉に入っていたのに全然体が温まっていなかった。
 顔色も蒼白で唇は紫色と、夏のプールで体が冷え切ってしまったかのようだ。

「なんで、どうして……先生!」
「さ、寒い」

 ガチガチと震える唇で唯一答えられた言葉がそれであった。
 水恐怖症も頭から吹き飛び、大河内はむつきの腕を肩に回して担ぎ上げた。
 多少足元はひきずってしまったが、自分でも信じられない程の力を発揮して運ぶ。
 脱衣所まで戻りベンチにむつきを寝かせると、改めて額に手を置いたが異常に冷たかった。
 自分は拭っても拭っても汗が出るぐらいなのに、外から湿気で浮いた水滴以外に汗すらかいていない。

「やっぱり、体が冷え切ってる。でもどうして……わからない、そうだ!」

 考えても分からず、だったらと籠の中の服から携帯電話を取り出した。
 振るえ体を丸めようとしているむつきをチラチラ見ながら、アドレスから目的の人物を探し出す。
 発信ボタンを押し、コールが鳴り響く間ずっと早くと念じ続けていた。

「もしもし、どうしたん?」
「亜子、どうしよう。先生が、先生が!」
「えっ、なんなん。先生って、アキラお部屋に戻らんかったん。どこにおるん!?」
「先生が連れてってくれたどこかの温泉宿。先生とお風呂入ってたら、先生が急にお風呂に沈み始めて。寒いって、温泉に入ってたのに寒いって!」

 必死に危機を伝えようとするも、和泉も要領を得ずに理解が遅れていた。
 クラスメイト全員部屋に戻れと言われたのに、何故むつきが大河内を連れ出したのか。
 大河内がお風呂に入りたいと叫んだのは覚えているが、それで温泉宿が結びつかない。
 一体二人は何処まで、それこそ麻帆良市を出てまでと情報が纏まらない。
 しかもむつきが画策した通り、大河内は現在場所が解らず説明があやふやでもあった。
 パニックになる大河内も大半は先生がと叫ぶのみで、状況は一向に進展しない。
 その間にも体が完全に冷え切ったむつきは、咳き込み始めてさえいた。

「先生が死んじゃう、死んじゃうよ亜子ぉ」
「あかん、私も全然わからへんねん。委員長、委員長呼んでくる!」

 ついに泣き出した大河内の声で、火急の件である事だけはようやく伝わった。
 バタバタと亜子が走る音だけが受話器から伝わり、そのまましばし声が途絶える。
 その携帯電話を握り締め、大河内はいまだ寒そうに苦しむむつきに縋りついた。
 何かしてあげたいのに、どうしたら良いか分からない。
 あれだけ色々とむつきが自分の為に動いてくれたのに、助けてくれたのに。
 いざ立場が逆になると、何もできない自分が悔しくて情けなくてさらに泣けてくる。

「先生、しっかりして。目を開けて」
「アキラさん、あやかです。聞こえますか!」

 そして力強い雪広の声に、反射的に受話器を耳に当てた。

「亜子さんから火急の件だと。良いですか、私の問いにまずは答えてください。指示はその後に出します。良いですね?」
「うん、うん。早く、先生が」
「今の現在地は分かりますか?」
「分からない!」

 そんな事よりと言う意味を込めて、大河内が向こう側にいるあやかに泣き叫ぶ。

「無理もありませんが、感情的にならずに。携帯にGPS機能はありますか?」
「なにそれ、知らない。他には、何が聞きたいの。指示、早く指示してくれないと」
「では先生の状態は、お風呂上りとの事ですが。濡れていますか?」
「濡れて?! そうだ、拭かないと。拭けば少しは」

 なんでそんな簡単な事に気付かなかったと、大河内が管理人室で渡されたバスタオルを籠から引っ張り出した。
 携帯を耳と肩で挟みながら、むつきの浴衣を肌蹴させて上半身を拭いていく。
 やはり先程思った通り、体は冷え切り拭いた後から汗が滲みもしない。

「体が濡れていると体温が奪われます。まずは全身を拭いてあげてください。髪も出来ればドライヤーなどで乾かしてください」
「うん、今拭いて……」

 上半身を拭き終わったものの、当たり前だがむつきには下半身もある。
 浴衣なので脱がせるのは簡単だが、一人の乙女として楽な作業ではない。
 だがこれ以上容態を悪化させるわけにはと、浴衣を脱がせ始めた。
 とある一部を見てしまいカッと頭が熱くなるが、照れている場合ではない。
 その一部を拭く時だけは瞳をきつく閉じていたが、なんとか全身の水を拭き取れた。
 髪の毛は元々長くないので、バスタオルで拭けば殆どそこから乾いていった。

「委員長、全部拭いた。それでどうすれば良い?」
「どこかのお部屋に運んで、お布団に寝かせてください。それから出来るだけ、温かくなるようにお布団をあるだけ掛けてあげてください」
「うん、分かった。先生、もう少し待ってて」

 今度は担ぎ上げるどころか、大河内はその細い両腕で裸のむつきを抱きかかえた。
 溺れた時や、スタート台で固まっていた時に、むつきにされたように。
 今は大河内がむつきをお姫様抱っこして走り始めた。
 一度しか通らなかった廊下なので、時折迷いかけつつ。
 管理人室に戻ってきては、押入れから敷き布団を引っ張り出してむつきを寝かせる。
 それから厳重に掛け布団でむつきを覆い、温かくなるように何度も布団を叩いて空気を抜いた。

「委員長、寝かせたよ。まだ寒そうにしてる。全然震えが止まってない」
「落ち着いて、まだ二、三質問に答えてください。亜子さんに助けを求めたという事は、他に誰もいないのですね?」
「知り合いの元温泉宿を借りたって。来た時は真っ暗で、誰も居なかった」
「そうですか……では、まず大河内さん。貴方もきちんと体を拭いて、髪を乾かしてください」

 一瞬の間、そんな事よりと叫ぶより前に先を読んで委員長が語りかけてきた。

「先生の為です。特に髪はしっかり乾かして、湿り気を残さないように念入りにお願いします」
「全然分からないけど、分かった。直ぐに乾かしてくる」

 最終的には、自分よりもよっぽど委員長が冷静だと従った。
 改めて振り返ってみれば、むつきを運んできた廊下はかなり濡れている。
 とんぼ返りで脱衣所に戻り、もう一枚のバスタオルで全身を拭いた。
 それから何台もあったドライヤーの一つを手に取り、髪を乾かしていく。
 幸い、纏めたまま髪を洗う事もなかったので、普段の十分の一以下の時間で乾かせた。
 服もしっかりと身につけ、先生待っててと廊下を駆け抜けていった。

「委員長、髪までしっかり乾かした。他に何をすれば良い?」
「それは……改めて聞きますが、現在地は本当に不明ですね?」
「だから分からないって。先生の車、ぐるぐる回ったみたいに北も南もわからない」
「自分の居場所も分からず、他に誰もいない。大河内さん、先生の様子をもう一度見てきてください」

 今向かってると叫んで返しながら、大河内は管理人室へと戻ってきた。
 外れてしまうかと思う程に強く襖を開け放ち、駆け寄る。
 状況は全くと言って良い程、変わってなどいない。
 厳重に布団で包み込んだにも関わらず、むつきは未だに震えたままであった。
 元々冷え込んだ体を布団で包んでも、布団を暖める体温が自分にないのだ。
 確認の為に布団に手を差し込んで見たが、冬の布団のように冷たいままである。

「まだ震えてる、布団の中も全然温まってない」
「アキラさん、これが最後の質問です。落ち着いて、良く考えて答えてください」
「う、うん……」

 これまでも真剣だったが、なおさら真剣味を帯びた雪広の声色に大河内も少しだけ冷静さを引き戻された。
 むつきがいる布団の前に正座で座り、一言一句聞き逃さないように耳を傾ける。

「先生の為に、どこまでご自分を捧げられますか?」
「は?」
「今から行なう指示は、正直なところお勧めできません。倫理、常識、あらゆる観点から。けれど貴方が望むのなら、この雪広あやか。一切の事には目を瞑り、口を閉じます」
「アキラ、先にその方法を聞いちゃったけど。私もちょっと、絶対にやれって言えない。アキラが、自分で考えてまず答えて。先生の為に、どこまでできる?」

 要領を全く得ない問いかけだが、それはもはや愚問とさえ大河内は感じられた。
 すこしばかり冷静になってみれば、むつきが倒れた理由ぐらい簡単に分かる。
 いや、昨晩からのむつきの行動を全て知っている大河内だからこそだ。
 発端はきっと、自分自身の我が侭からだ。
 勝手に溺れたところを助けて貰い、プールの水を変えて掃除まで。
 今考えれば、一人でプールを掃除するなど何時間掛かったかも分からない。
 温かくなったとはいえ、今の季節は春で夏じゃないのだ。
 むつきが恐らく風邪、それを引いたのは言ってしまえば大河内が発端であった。

「先生の為なら、なんだってできる。私は、先生の人魚姫だから」
「そのお覚悟に敬意を評します。私からの最後の指示です。先生を貴方の人肌で暖めてさしあげてください。足りない体温は誰かが与えるしかありません」
「アキラ、あの……頑張って」
「うん、頑張る」

 なんとなく、想像がついていた答えでもあった。
 寒さに震え、歯をガタガタ鳴らしているむつきを見ると、多少の羞恥は耐えられた。
 黒のベストを真っ先に脱ぎ捨て、チラリとむつきを見てからベージュのシャツをまくり上げる。
 一時の躊躇、それでもと一気に脱ぎ去った。
 すぐさま腕で薄い紫の、フリルより刺繍の多いやや大人向けのブラを隠す。
 何時もはもっと大人しめなのだが、夕方にむつきにクマのパンツを見られたせいだ。
 次いでグレイのキュロットスカートを脱いで、後は上下の下着のみ。
 色々な意味で、クマさんパンツを履き替えておいて良かったと思えた。

「えっと、不束者ですが末永くよろしくお願いします。では、し……失礼します」

 正座で三つ指をつき、色々と間違った挨拶を繰り広げて、掛け布団を持ち上げた。
 数枚重ねられたそれを持ち上げ、大河内はその隙間から中へと滑り込んでいった。
 本人はもちろん、まだ繋がっている電話の向こうからも生唾を飲み込んだ音が二つ聞こえた。
 手探りでむつきを探し、冷たいままのその手に触れる。
 そこなんだ待っててと布団の中を更に移動しようとして、手首をつかまれた。
 あっという間、つかまれたと思った瞬間には深く布団の中に引きずり込まれてしまった。

「きゃッ!」

 悲鳴をうっかりあげてしまい、電話の向こうの二人が慌てた。

「アキラさん、どうしましたの。まさか先生の容態に急変が!?」
「それとも先生が起きちゃった!」

 布団の外に置き去りにされた携帯電話から、二人が状況を予測しながら問いかける。
 まだまだ初心な中学生、どんな理由にせよ男と女が同じ布団にはいるとどうなるか想像力が足りない。
 しばしの沈黙の後で、ひきずり込まれた布団からひょっこり大内が顔を出す。
 反対に、むつきの顔は何時の間にか布団の中に潜り込んでしまっていた。
 大河内の頬は林檎のように赤くなっており、のっぴきならない状況なのは明らかだ。

「えっと、押し倒された?」
「はぁ!?」

 二人の声がハモり、一体何がどうなってと聞きたそうであった。

「元々倒れてたけど。先生が私の上に圧し掛かって。あっ、ブラとられた。先生、どうしてホックの位置が。手馴れてるみたい」
「どうしてそう冷静なん、アキラ。それ、先生起きてない。起きてるでしょ、実は!」
「いえ、これはまさか。生き物は皆全て、死に掛けた時には本能的に子孫を残そうという意志が働くそうです。人もまた例外ではありません。つまり、先生は今アキラさんと子づぷぺっ。亜子さん、今私をお殴りに!?」
「委員長、今になって混乱してへん。アキラ、アキラ。大丈夫、まだ膜は無事!?」

 雪広を殴ってでも止めたようだが、和泉も膜などと結構な混乱振りだ。
 原因はむつきというより、大河内のような気もするが。
 二人があせあせと焦れば焦る程、当事者の大河内の方が冷静になってしまった。
 むしろなんだろう、むつきに押し倒されているのに触れ合った事の安心感の方が勝る。
 今なら温泉のお湯だって顔につけられるかもしれない、それぐらいにだ。
 冷たく震えるその体をおしつけられ、むしろもっと体温を奪って欲しいとさえ思えた。
 そう思っていると布団の中のむつきがもぞもぞと動き、胸が始めての感覚に襲われる。

「んっ、そこおっぱい。どうしよ、先生に先っぽ吸われちゃった。ちょっとくすぐったい」
「えっと……もはや、私達にできる事はありませんし。これ、電話をお切りになった方がよろしいのでは。主に、先生の先生としての尊厳の為に」
「私はむしろ、親友の初エッチを中継されたようで微妙な気持ちに。アキラ、本当に大丈夫? 間違ってそういう事になったら、お互いに後悔すると思う」
「うん、最後の一線だけは死守する。恥ずかしい声が出そうだから切るね」

 そう言って大河内が布団の外にある電話へと手を伸ばそうとし、その腕を掴まれた。
 子孫を残す為の雌を逃してなるものかとばかりに、むつきの手が掴んだ。
 腕も一纏めに、大河内の体を抱きなおし、胸に顔を埋めたまま舌を使い始める。
 本人に意識はないのだが、美砂との行為でなんども行なった事であった。
 胸の突起、乳首を含んでは吸い付き舌で転がし、逆側の胸は大胆に手で揉みしだく。
 乳首を吸うだけなら幼児返りだが、胸の揉み方がすでに大人である。

「んぁ、先生……そんな一生懸命、私は逃げないよ。男の人って、皆こうなのかな」

 独白のように呟き、大河内は自分の胸にすいつくむつきを抱きしめた。
 もっとと促がすように、むつきを受け入れながら。
 それが伝わったのか、吸い付くのをやめたむつきが胸の谷間で顔をぐりぐりし始める。

「だめ、くすぐったい。小さな子供みたいで、ちょっと可愛い。よしよし、良い子だから暴れないで」

 頭を撫でながら懇願すると、不思議な事にむつきが本当に止めてくれた。
 すんすんと匂いをかがれるような音がし、かなり恥ずかしかったが。
 むつきは乱暴を働く事もなく、迷子が母親にするように大河内を抱きしめたままだ。
 しばらくは大人しかったむつきだが、やはりまだ寒いのだろうか。
 時々、胸にうずもれた顔が動いたり、指が大河内の体をはったり温もりを求めてきた。
 その動作は遅々としたもので、必死に何かを我慢しているようでもある。
 段々と可哀想に感じてしまい、大河内は布団の中で見えないむつきの頭を撫でて言った。

「先生、優しくしてくれれば何してもいいよ。ただし、パンツだけは脱がさないで。その……エッチな事と言うか。今がもう、エッチな状況だけど。最後までしないで」

 手を置いた頭が、こくりと頷いたように感じた。
 それは勘違いなどではなかったようで、布団の中にこもったむつきが動き出す。
 大河内の胸の谷間、その谷底に唇を押し付けてちゅっと音を立ててすった。

「んっ、先生。むず痒い」

 思わずむつきの頭を抱きしめ、大河内が胸を更に押しつけた。
 その間にも、むつきの両手は大河内の胸とは裏腹にスレンダーな体曲線をなぞる。
 すすすと、十の指先を氷上を滑るスケーターのように滑らせていく。
 胸の丸みの上を登っては降り、細くくびれている腰へと勢いをつけて滑った。
 途中、下り続けた勢いで登り上げ、小さなくぼみ、おへそに登頂を果たす。
 その喜びを表すように、おへそを中心に指がコンパスになってフォークダンスを踊る。

「せ、先生くす……くすぐったい、あんっ。駄目、あまり悪戯すると。おっぱい、お預け」

 あまりのくすぐったさに、軽く警告を告げると指のフォークダンスが止まった。
 シュンと、体全体をまるめたように、むつきが小さくしょげた。

「先生、どうしよう。凄く可愛い。嘘、いいよ先生」

 現金なものでお許しが出た途端、フォークダンスが再開された。
 けれど感謝もしているようで、胸の谷間はキスの嵐であった。
 後でそこを見てみれば、キスマークで真っ赤になっているかもしれない。
 なんとなくそれを察した大河内は、印つけられちゃったとさすがに照れ笑いである。
 同時にキスマークを付けられた場所が、キュウッと締め付けられたようにも。
 決して嫌な感じではなく、少しでも長くそれが残るようにとなおさらむつきを抱いた。

「良く分からないけど。私、先生の事が好きなのかな? 自分が男の人と同じ布団にいる事なんて想像もしなかったのに。でも、全然嫌じゃない」

 温泉で温まる以上に火照り始めた頭で、そう大河内は考えた。
 このまま泳げなくなったら、先輩達に迷惑をかけて夏の大会のシード権を逃したら。
 そんな水泳の事ばかり考えていたはずなのに、今は殆どそれがない。
 泳げなくなる恐怖、大好きな水泳で尊敬する先輩達に迷惑をかける恐怖。
 眼と耳を塞ぎたくなるようなそれら不安と恐怖が、和らいでいた。
 今の頭の中の大半を占めるのは、むつきの事だけだ。
 助けたい、寒さから救ってあげたい、もっと自分の体温を奪って感じて欲しい。
 最後まではさすがに駄目だが、それ以外ならなんでもしてくれてよかった。

「あっ、先生。私もちょっとは恥ずかしいんだよ」

 フォークダンスに踊りつかれた指が、滑り降りて腰元のパンツの細くなった部分で大ジャンプ。
 見事に着地を決めて体の中で一番大きくまるいお尻に辿り着いた。
 十の指で踊るには広すぎたのか、諦めたように寝そべり、手のひら全体でさすられる。
 悪戯小僧が思春期を追え、大人びていくように。
 いや、一足飛びで本当に大人になったように、手つきがいやらしくなってきた。
 まるで俺の子供が生めるのか、そうお尻の大きさを確かめられているようだ。

「先生、まだだから。まだ、私。今は生んであげられない。もう少し待ッ」

 悪戯小僧の相手ならまだしも、さすがに大人の相手など大河内も経験はない。
 お尻の上を這う手の指が、パンツとの隙間に差し込まれた時など体がビクリと震える。
 そのままパンツはむつきの指で伸ばされ、ある程度引っ張られたところでパチンとされた。
 確かめられた。
 絶対今、これなら埋めるとむつきに確かめられたと感じた。
 生々しい大人の情事に、甘酸っぱい好意など既に吹き飛んでしまっている。

「お願い、先生。最後までは……」

 必死の大河内の願いもむなしく、むつきの腕は膝裏へと回され、ぐいっと持ち上げられた。
 生めると確かめられた尻も少し浮かされ、挿入準備に入られてしまった。
 深く抱きついていたはずのむつきも少し体を浮かし、覆いかぶさるような格好に。
 もう駄目だ、もう生むしかないと半ばパニックのまま決意をしたが。
 想像した痛みは与えられなかった。
 大事な部分に何かを押し付けられ感覚はあったのに、貫かれる事がなかったのだ。
 あったのは、お尻に腰を打ちつけられた痛みにも到達しない、軽い衝撃だけ。

「そっか、私まだ履いたまま。先生、そこ守って。ぁっ、先生そこ熱い!」

 まだ自分がパンツを履いたままだという事を、すっかり忘れていた。
 だが次々に訪れる謎の感覚に、それさえ構っていられなくなってしまった。
 シュッシュと素早い衣擦れの音は、太く長い沿った何かがパンツと擦れる音だ。
 大河内の大事な部分、秘所の割れ目を覆った、薄くそれでも今は頼りがいのある一枚のパンツ。
 その上を、代替行為とばかりに、何かが押し付けられ擦りあげられた。

「先生のが、私今。先生、そんなに擦らないで!」

 あまり触れた事すらない部分を、恐らくは勃起した男性器でこすられている。
 割れ目を先端でぐりぐりされたかと思いきや、反り繰り返る竿でなぞるように。
 挿入こそしていないが、もはやセックスと代わりない状況に、自然と涙が零れ落ちていた。
 恐怖ではない、恐怖ではないが、自分が別の何かになるようで。
 背丈こそあるが、体こそ大きいが、まだまだ少女だったはずなのに、相応の何かに。
 その何かとは、衣擦れの音に別の音が混じり出した事で、教えられた。

「嘘、私……んっ、濡れぁ」

 衣擦れの音が鋭いものから鈍く、鈍重なものに。
 染み出した愛液で濡れては摩擦が大きくなり音が変わってしまった。
 だがその中でかすかに、くちゅくちゅりと愛液そのものの音も聞こえた。

「先生、抱きしめて。怖くないけど、怖い。泡になっちゃう。私泡になって消えちゃうの」

 見知らぬ段階へとまだ変身する準備が出来ていないと、叫んだ。
 その時、大河内の太ももを膝裏から持ち上げていた腕が動いた。
 大河内が求めたように泡になって消える彼女の両手を、その手で掴み取った。
 王子様、お風呂での話を再現するように消え行く人魚姫の手を確かに掴んだのだ。

「あぁ、好き。好きだよ、先生」

 もはやその言葉を告げるのに、思考や考察など不要であった。
 そしてその言葉を聞かされたむつきも、改めて腰を降り始める。
 手をとりながら、その体の腕を上下に何度も通り過ぎては勃起するそれを擦りつけた。
 大河内もそれに答えるように、今度は私がとばかりに足でもむつきの腰を抱きしめる。
 挿入こそしていないが、中に出される事を強要するように。
 そこまで受け入れてますとアピールするように、抱きしめた。

「いいよ、先生。そのまま出して。先生がそうしたい時に」

 女になる事を静かに受け入れ、大河内がそう囁いた。
 それに反応するように、ピタリとむつきの腰の動きが止まった。

「先生?」

 どうしてと問いかける必要はなかった。
 即座に再開された腰の動きは、これまでをはるかに凌駕する。
 先程まではまだどこかで大河内を気遣うような所があったのだろう。
 だが今は、そうではなかった。
 頑なに挿入こそしなかったが、それでも秘所の谷間の上からでも、パンツ越しでも孕まそうという気概が見えるようでもある。
 この向こうに、この向こうに孕ませるべき場所がと、何度も擦り押し破ろうとパンツを擦りあげていた。
 大河内の愛液のみならず、むつきの先走り汁もまじり濡れたパンツを見れば向こう側が透けてさえいたはずだ。

「先生ぇ、激し……ぁぅ、ぁん。恥ずかしい声ぁっ。止まら、なぃっ!」

 もう駄目だと一際強く抱きついた時、むつきの体がびっくりする程跳ねた。
 それこそかぶっている布団数枚が吹き飛ぶかと思う程に。
 暗く蛍光灯の光が届かない布団の中で、何かがほとばしった。
 ぽうっと頭が真っ白になり、天井の染みをなんとなく数えていると意識を覚醒させられた。
 布団の隙間から噴き出す艶かしい風に混じるツンとする匂いである。
 匂いに少し顔をしかめながらも、噴き出した風の生暖かさに少しだけ安堵もした。
 大河内自身、体が火照って仕方ないが、布団の中は十分に暖められていたようだ。
 本来の目的を少し外れていたが、むつきの体も十分に熱かった。

「お腹の上、熱い。先生、私の体で気持ち良くなってくれたんだ。これ、お布団まで大丈夫なのかなァ?」

 最後に声が裏返ったのは、文字通り体をひっくり返され裏返しにされたからだ。
 誰と考えるまでもなく、大河内の他にはむつきしかいない。
 体温まったんじゃないのかと、なんとか首を捻ってみるとむつきがいた。
 それは当たり前だが、うつ伏せにさせられた大河内の上に覆いかぶさってもいる。
 瞬間的に思い出したのは、人間以外の哺乳類、動物の交尾であった。

「先生、まだ硬くて熱い。ひぅッ!」

 お尻にくいこむパンツに隙間を無理やり作り、その熱くて硬いものがすべり込ませられた。
 パンツとお尻の割れ目の間で、ぬるぬると滑るソレが挿入を繰り返させられる。
 子孫を残す為には、この立派なお尻で生ませる為には、もっとと主張するように。

「待って、先生。お尻、熱い。焼けど、んぅっ」

 イッたばかりで敏感な時だというのに、むつきは止まってくれない。
 何時になったら止まるのか、意識のない今それは恐らく力尽きる時だ。
 もしくはこれで大河内を孕ませられたと確信するまで。
 意識のないむつきがどう確信するのか、それは恐らく一滴もなくなった時だろう。
 漠然とそれを察した大河内は、拒絶を諦め、むしろとばかりにお尻を掲げた。

「付き合うよ、先生。全部なくなるまで、私にかけて」

 喉の奥から小さくはあったが獣のような唸り声をあげて、むつきがさらに腰をふりあげた。
 パンパンとお尻を打ちつけ、次なる射精の準備を整え始める。
 その音までもしっかりと届いていた。
 組み伏せられる大河内にではなく、未だ通話中のままの携帯電話の向こうまで。

「アキラ、大胆すぎ。委員長これ、二回目始まってまった。そろそろ切った方が」
「いえ、大河内さんの無事を確認する手段はこの一本の通話のみ。仕方ありません、仕方ないのです。この雪広あやかがそう言うからには間違いありません!」
「委員長、声大きすぎ。まき絵が起きてまう」

 あれだけ和泉が騒いでも、一人ぐーすか寝ているルームメイトの佐々木はさておき。

「でも、仕方ないやんね。アキラの事が心配やし。興味本位とか、そういのとは違うし」
「そう、これはクラスメイトへの愛ゆえ。ちなみに、今どういう体位だと思われます?」

 どう聞いても興味津々の二人は、結局最後まで二人の行為に耳を傾けていた。
 壊れて動かなくなったおもちゃのように、むつきが崩れ落ちるまで。
 午前二時を過ぎてもまだそれは続き、それでも聞き入る二人の目はさえたままであった。









-後書き-
ども、えなりんです。

主人公、やっちまったw
これ完全にレイプである、大河内ノリノリだけど。
でもやっぱり、レイプですよね。
しかも、電話越しに聞かれて弁解不能。
翌朝、起きた時に終わったって言うのが容易く想像できます。

あと、千雨に続き覗き行為をやっちまった亜子とあやか。
何故私はこうも頑なに覗きをする女子中学生を書いたのか。
今となっては凄く謎なのですが。
もう亜子とあやかも、招くしかないひかげ荘に。
千雨同様に、まだまだ手は出しませんが。
しばらく、彼女達三人には主人公達三人の関係の覗き役にw

あと、まきえぇ……
良い子は、寝てる時間でした。

それでは次回は"月曜"です。
試しに更新スピードあげてみます。
えなりんでした。



[36639] 第十五話 俺も覚悟決めるから
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 20:39
第十五話 俺も覚悟決めるから

 目が覚めた時、まずむつきが感じたのは温かく柔らかな双球であった。
 若く張りのあるぷるんぷるんのそれに、自分の顔が埋め込まれていた。
 少し寝ぼけていた事もあり、他にそれが誰か思いつかなかった事もある。
 ぱふぱふだと胸一杯に香しい体臭を吸い込みながら、胸の感触を楽しんだ。
 だが幸せ一杯、男の夢、胸一杯の心境も長くは続かなかった。

「あれ……美砂、胸大きくなった? 香水はあまりつけないはずなのに、匂いも違う」

 胸の大きさが一回り、さらにもう一つとふた周りほど違う。
 最近美砂の胸は急成長を始めたが、それでもさすがにココまでは大きくはない。
 布団の暗がりの中で目を凝らしてみれば、乳首の形も記憶のなかと違う気がする。
 悲しい男の性かな、おかしいおかしいと思いつつもそれを口に含んで転がしてしまう。

「いや、マジでおかしいだろ。今日まだ、木曜だぞ」

 平日に美砂が自分とベッド、ここは布団だが。
 それを共にするのは明らかにおかしいと、被った布団をまくってこの巨乳の持ち主を見上げた。
 まだ朝日は低いが眩しいそれが隙間から差込み、うっと瞳を細める。
 その陽の向こうにいた誰かを見て、即座に持ち上げた布団を閉じてしまった。

「おかしい、おかしいなんてもんじゃない。乙姫が浦島に玉手箱を渡すぐらい意味不明で不条理な現実だ」

 布団を共にしている事がそもそもおかしいのに、その布団の中に逃げ込んだ。
 頭を抱えて、視線を彷徨わせ、時々巨乳に目を奪われ。
 違う違うと首を振っては混乱し、他にも大河内の体に付着する情事の跡を発見した。
 しかもちょっとどころではなく、べっとりと、ありったけ。
 お前一体ナニをしたと妙に痛い金玉が、朝なのにへなへなと元気がない反面、どこか満足そうだ。
 もしも死に顔なんてものがあれば、安らかに真っ白に燃え尽きている事だろう。

「んっ……ぁ」

 俺の知らないうちになに一人で満足してんのと、殴りそうになっていると。
 頭上の方から大河内の意識が目覚める声が聞こえ、数秒と経たずに布団が持ち上げられた。
 朝日のせいか菩薩でも現れたような、穏やかな笑顔であった。

「先生、おはッ!?」
「ぐぇッ!」

 むつきが起きている事に気付くまでは。
 一瞬でカッと朝日以上に顔を赤くし、しなやかで白く長い足の膝が持ち上げられる。
 むつきの腹部を突き破る程に蹴り上げて、布団から追い出した。
 空っぽの腹からでさえ、何かが出そうだった。
 そう言えば昨晩ご飯を食べていないと、走馬灯の様にどうでも良い事を思い出しもした。

「かはっ。ちょ、息……息ができ」
「先生、しっかりして先生!」

 自分で蹴りだしておきながら、かき集めたシーツを体に巻き付けたまま大河内が手を伸ばした。
 一昨日とは逆で、呼吸が止まったむつきの背中を撫で付ける。
 呼吸困難で苦しみながらも、その優しい手つきが最悪の事態だけは避けられたと知った。
 強姦、レイプ、風呂で大河内に欲情したまま襲いかかったという。
 ただ、どちらにせよ最悪を避け、最善だとしてもきっと救いはない。
 というか、この状況での最善とはなんだろうか、誰か教えてくれ。

「ぜぇ、はひぃ……」
「ごめんね、先生。その昨日、先生凄かったから。それ思い出して、恥ずかしくて」

 ほら、終わったと止めの一撃を大河内から頂いてしまった。
 体に巻き付けたシーツの中に亀のように首を竦め、上目遣いでの告白である。
 もはや神や仏が生めよ増やせと言っても、教育委員会が許さない。
 パターン入ったとどこかで感じたのは、間違いではなった。
 昨晩生徒の前で土下座して問題起こすなと言いつつ、自分が一番の問題を起こしてどうする。

「それでね、先生昨日露天風呂で気を失って……先生、聞いてる?」
「あ、ああ。聞いてる」

 明らかに聞いていない様子だが、一応と大河内は全てを語った。
 むつきが倒れ、冷え切った体を温める為にはコレしかなかったと。
 仕方なかったと、他に方法がなかったと。
 半分放心状態のむつきが、全く聞いていないにも関わらず。

「うんうん、分かってる。俺も覚悟決めるから」

 何やら一人で自己完結をして、むつきは布団の上から大河内の肩を掴んだ。

「大河内、とりあえず体を洗ってこい。お前を寮に送るから。それと、今日のお昼休みに時間をくれ。話がある」
「分かった。入ってくるね」

 キョロキョロと辺りを見渡した大河内が、布団を纏ったまま衣類の回収に入った。
 ベストやシャツ、キュロットと畳まれもせず脱ぎ散らかされた光景がもう、アレだ。
 胸の中で砕け散った僅かな希望の欠片すら、ロードローラーで踏み固められていく。
 車体と同じく黄色い服を着た運転手が、ロードローラーだと楽しそうに叫んでいた。
 想像の中でその黄色い人に殴りかかったら、見事に殴り返された。
 無駄無駄とラッシュされながら、妄想でさえ勝てないとかもう駄目だ。

「先生」
「ん?」

 体に巻き付けたシーツを衣服代わりに、お風呂へ向かう大河内が振り返った。

「元気になったみたいでよかった。力になれて、嬉しかった」

 こっちが恥ずかしくなるぐらいの、嬉しそうな笑顔に顔を背けたくなる。
 先程した決意が揺らぎそうで、パタパタと廊下を走っていく大河内を見送ってから頬を叩いた。
 ヤッてしまったものは仕方がない。
 もう後は、出来るだけ周囲に迷惑を掛けないように潔い決断を見せるだけだ。
 短い、とても短い夢だった。
 上手く行かなかった辛く苦しい三年間と、最近の楽しかった一ヶ月を思い出した。

「本当に楽しかったよな。泣くな、俺」

 今直ぐにでも美砂によしよしと慰められたいが、もはやそれも叶わない。
 潔い決断、それは決して美砂にとって良い決断ではないかもしれないのだ。
 混乱した頭で下した決断だが、それでも大人として教師として下さねばなるまい。
 何もない畳の上で座る自分を見下ろし、次いで主のいなくなった布団を見る。
 まだ二人分の温もりが残って良そうなそれは良いとして、大河内がいない。
 当たり前だ、お風呂にいかせたのだから。
 水恐怖症の大河内を一人で、お風呂にだ。

「ちょっと待て、大河内!」

 行くなと手を伸ばしても、その辺りに大河内がいるはずもない。
 既に最後の言葉から数分は経っているのだ。
 女の子は服を脱がす、ではなく脱ぐのも一苦労だが、今の大河内はシーツ一枚。
 今頃は既に湯船の中でパニックを起こしているかもと、襖を蹴倒し走り出した。
 途中こけそうになりながらも露天風呂を目指し、暖簾をくぐって脱衣所へ。
 次いで脱衣所をばたばたと駆け抜け、引き戸を開けて露天風呂に飛び込み叫んだ。

「大河内、無事か。何処だ、しっかりしろ。泡になってないか!」

 湯煙をかきわけ、露天風呂の岩場に駆け寄るも、その姿形も見えない。

「え、先生?」

 いや、むつきの後ろにいた。
 体の洗い場で椅子に座り、お湯でカラスの濡れ羽色になった髪を洗っていた。
 ちゃっかりシャワーを浴びながら、全然平気そうに。

「き、きゃーッ!」

 だが昨日とは違い、その格好は全裸であり、再びそのしなやかな足が振るわれた。









 お昼休み、美砂と長谷川は珍しくと言うべきか、進路指導室へと足を向けていた。
 普段あり得ない事なのだが、隙を見つけてむつきが話しかけてきたのだ。
 お昼休みになったら、進路指導室に来てくれと。
 長谷川はその時の真面目な顔つきに感じるものがあったが、美砂は別の意味に受け取っていた。
 何しろむつきの携帯が壊れてから、一切の連絡ができないのだ。
 放課後も待てずに、お昼休みの間だけでもと。
 イチャイチャかそれとも濃厚なセックスか、今から下腹部がジンっと期待してしまう。

「ねえ、長谷川。忙しくない? いいよ、私だけで行ってくるから。ほら、言ってたじゃない。ネットは一人で静かに、救われてなきゃって」
「絶対、お前が考えてるようなお誘いじゃねえから。私までも誘われた時点で、気づけ」
「あっそうか、うんうんそっか。エッチしてる間、見張りは必要だし。御免ね、長谷川。一人だけ幸せになっちゃって。今度なにか奢ってあげるから」
「うぜぇ、このリア充マジでうぜぇ」

 そんな美砂のおピンクモードも、進路指導室の扉を開けるまでであった。
 扉を開けたその先に、先客がいたからだ。
 むつきではなく、大河内に和泉、それから委員長までと少々珍しい取り合わせで。
 三人は部屋の中央にぽつんと鎮座させられている机に椅子を持ち寄り、なにか喋っていた。
 そして二人に気付くと、何故にと、いささか赤味のさした頬と一緒に小首をかしげる。

「どうしたの、柿崎。それに長谷川まで」
「あれ? どゆこと、私らは乙姫先生に呼ばれて」
「そうなん? 私達もやけど。正確にはアキラだけど。私達は付き添いと言うか。ね、委員長」
「その通りですわ。これも麗しいクラス愛」

 大河内に尋ねられ美砂が答えると、和泉と雪広が頬を染めつつそう返してきた。
 少々芝居がかかった雪広の身振り手振りは、何時も通りだ。
 今にも背後から飾り立てられた御花がぶわっと咲き誇りそうである。

「ねえ、長谷川。私、すごく嫌な予感がするんだけど」
「奇遇だな、私もだ。何かやらかしたか、また先走ってるな。あの豆腐メンタル」
「誰が豆腐メンタルだ、この野郎。遅れてすまんが、早く入れ」

 そう特に長谷川が辛辣な言葉でむつきを評すると、その本人が現れた。
 表面上は何時も通りに、特に何かある様子でもなく。
 遅れた理由は特別どうという事もなく、瀬流彦にしつこく纏わりつかれただけだ。
 朝になって車を返しに来て、お風呂上りの女の子の良い匂いつきともなれば怒りもするだろう。
 僕だってまだ女の子を乗せた事なかったのにと、アレな方向の怒りだったが。
 とにかく入れと、二人の肩を押して進路指導室に入れる。
 そのまま自分も入ってくるが、雪広と和泉の存在に少しだけ固まった。

「えっと、ちょっとこれから三人の個人的な進路相談なんだが」
「先生、うちら知っとるし。昨日、直前にアキラに相談されて。パニクッた私が」
「この雪広あやかを頼ったというわけです」

 何故かむつきから視線を大きくそらしつつ、そう説明してきた。
 大河内に視線で確かめると、カーッと赤くなって俯いてしまった。
 どうやら、一線を越える前に親友である和泉に相談し、雪広にまで広まったと。
 そんな余裕があったら逃げろよとも思ったが。
 覚えていない昨晩を思い出そうとしても、下手な希望を抱くだけなので無視した。

「オッケー、分かった。今さら、一人や二人増えても一緒だ。柿崎も長谷川も椅子持って来い。机の周りに集まれ」

 進路指導室は元々使われなくなった教室を再利用したものであった。
 教室の後ろ側、黒板とは間逆の位置にはこれまた使用されなくなった机が押し込み、片付けられている。
 そこからむつきのを含め、三つの椅子を持ってきて座った。
 席順としては、むつきを基準にして右と左にそれぞれ美砂と長谷川が。
 机を一つ挟んだ向こう側、正面に大河内で、左右に和泉と雪広である。
 その一人一人を順に、まずはむつきが見渡していった。
 美砂は不安そうな顔でむつきを見ており、長谷川は何したと剣呑な顔だ。
 大河内はきょとんとしており、和泉と雪広は相変わらず顔を赤くしてむつきを直視していない。
 最後の二人はむつきも良く分からないが、深呼吸を一つして最後の覚悟を決めて言った。

「こちら」

 右手を上げて手のひらを上に、バスガイドがするようにして。

「現在、俺が結婚を前提にお付き合いしている柿崎美砂です」
「は?」

 重なった声は、もちろんそれを知らなかった大河内に和泉、そして委員長だ。

「な、何を突然暴露してるだァー。許さん。私の今までの苦労を返せ!」
「いやぁ、まいったな。先生いきなり、心の準備も。そうです。彼女してまーす」
「お前も惚気相手が増えたみたいに簡単に喜ぶな。これフラグだから、上げて下げるパターン!」

 冷静と言うべきか、一人突っ込みに忙しい長谷川は正解であった。

「美砂、よく聞いてくれ。こちら」

 再びバスガイドのように、手のひらを上にして大河内を見るよう促がした。
 一瞬まだ隠しとおせると迷ったが、迷うなと自分を叱咤してさっさと言い放った。

「俺が浮気をしてしまった大河内アキラさんです」
「ァー」
「ほらみろ、言った通りじゃねえか」

 壊れたファミコンのように一定の音を口から出しながら、美砂が固まった。
 本当にナニかしやがったと、千雨は崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。
 そこで先に固まっていた三人が復活し、あたふたと不思議な踊りを始める。
 誰が何か言うべきか、おろおろと。
 委員長である雪広さえ普段の冷静さを失ってしまい、結構珍しい光景だ。

「ア、アキラ。先生としちゃったの!?」
「一部始終電話でこの耳に致しましたが、そのような事は一切。音だけですので、全く気がつきもせず!」
「してない、してない。風邪でダウンした先生をその、裸で暖めたけど。そこまでは。先生も最後だけは守ってくれたし!」
「ちょっと待った!」 

 そんな三人に対して、話がおかしいと待ったを掛けたのがむつきであった。
 その顔からはだらだらと汗が流れており、想定外の事態である事は明白だ。
 今にして思い出したが、そういえば悩まされていた頭痛も今朝からない。
 どれだけ混乱してるの俺と、今さら気付かされもした。

「大河内、風邪ってなに? 俺、お前に浴衣を着せて風呂に入れてから記憶がなくて。起きたらお前が全裸で一緒に寝てて。ついムラムラと襲っちまったんじゃ」
「違う、襲われない。あの時、パンツだけは履いてたし。先生意識もなくて、その状態でちょっとだけ襲われたけど」
「やっぱ襲ってんじゃねえか!」
「先生お待ちください。アレを襲うと表現して良いかは別問題。命を落としかけ、生物としては止むない事かと。この雪広あやか、裁判上でも証言いたします」
「さりげに委員長、先生が捕まる前提やん。あかん、あかんてそんな事は!」

 一つの教室に六人もいると言うのに、誰一人として冷静な者はいなかった。
 本来こういう場では、教師であるむつきが静めるべきだが、事の張本人だ。
 しかも生徒を自宅のような場所に連れ込みレイプしたかどうかの瀬戸際。
 冷静になれという方が無理で、となると次は委員長である雪広である。
 ただし彼女も盗聴行為で色々な意味で興奮して、実は寝不足気味であった。
 後は似たり寄ったりで、長谷川などは勝手にしろと椅子にだらしなく座って不貞腐れてさえいた。

「全員、黙れやこの野郎」

 そこで両腕を胸の前で組み、いわゆるガイナ立ちで威圧したのは美砂であった。
 以前、むつきが意図して連絡を断った時と、全く同じ状態である。
 那波が発する黒々しいオーラと遜色ないものを発しながら、ギロリと全員を睨みつけた。
 思わず、砕けた格好で座っていた長谷川も、姿勢正しく座りなおしている。
 修羅場が形勢される前に、既に美砂に修羅が下りてきていた。

「アキラ、もう一度説明。昨日、ひかげ荘に先生が連れて行ったのは知ってる。それで?」
「浴衣を着て、先生と一緒に露天風呂に入った。ちょっとずつ水を克服して、肩までなら浸かれるようになって。ゆっくりお話してたら、先生が倒れてお湯に沈んだ」
「で、そこで亜子と委員長は?」
「私は、アキラから泣きながら先生が死んじゃうって連絡受けて。でもアキラ、パニック起こしてて良くわからんくて。委員長呼んで」
「居場所もわからないとの事でしたので、私が指示を。先生を拭いて、寝かせて。それから本人の許可をとって人肌で暖めなさいと」

 相変わらず腕を組みながら、美砂が視線を彼氏ことむつきへと向けた。

「風呂のついでに水を克服させようと一緒に入って、昔の話。確か、小さい頃に銭湯で泳いだのが好きになった切っ掛けとか。そこから記憶がない」

 今ようやく昨晩の出来事を思い出し、心中を搾り出すように言った。

「だから、まずは美砂達関係者に説明してから。皆がどうにか納得できる形で罪を償って、その上で教師辞めようかと」

 途中までうんうん間違ってないと大河内は頷いていたが、罪を償う止めるという部分でガタと椅子を鳴らした。
 この時ばかりは、美砂もぴくりと眉を動かしており、和泉や雪広も決断にびっくりしている。
 お互いの状況説明は済んだので、美砂はこれ以上むつきが馬鹿な事を考える前にと判決を長谷川に促がした
 さすがにこの状況で自分が冷静ではないと理解しているようだ。
 その長谷川は、やっぱりそうなるかと、聞かされた内容を頭の中で咀嚼した。
 それが終わると、これしかないなと後頭部の髪を無造作にかきながら言った。

「判決、先生のギルティ。有罪だ」
「待って、長谷川。私は襲われたなんて思ってないし、水もちょっとは克服できて」
「落ち着け、大河内。問題はそこじゃねえんだよ。好いた惚れたは、当人達の自由。例え教師と生徒でも、それを否定したら柿崎の否定にも繋がるし」

 自分だけでは止められそうにないので、美砂の射抜くような視線で止めてもらった。

「まず、一つ。自分の体調管理も満足していなかったこと。社会人としてあるまじき行為だ。学生の私の台詞じゃないけど。体調が悪いのに、生徒を乗せて車を運転するな。事故ったらどうする。それに結局、助けようとした大河内が迷惑してる」
「はい、おっしゃる通りです」
「その二、アンタは教師であって医者じゃない。悪化したらどうする。運良く、効果のある治療行為だったみたいだが」
「すみません」

 みるみるうちに座席の上でむつきが小さくなっていく。

「これで最後、大河内という生徒に入れ込みすぎた事だ。校内で溺れたのを助けたり、水泳部の危機に尽力したのは良い。だが寮から車で連れ出したのはアウト。公私の区別がついてない」

 最後の最後で、ふらりと力尽きたようにむつきは机の上に倒れこんだ。
 腕を枕にして、肩を震わせ鼻をすする。
 疑うまでもなく、限界を超えてしまったらしい。
 いつもの事だと言えば、それまでなのだが。
 そこでようやく美砂も大魔神を止めて、隣に座って慰め始めた。

「先生、今回はちょっと頑張り過ぎちゃっただけ。よしよし、泣かないの」
「泣いてぐぅ、ねえ。ちょっと玉ねぎが目に染みただけだ」

 普段とは違うちょっとの強がりは、大河内達がいるからだ。

「玉ねぎなんて何処にあるんだか。強がらなくて良いの。この場に皆いるけど、世界一可愛い彼女もいるんだから」

 止めてやさしく背中を撫でないでと願うも、言葉にしなければ止めては貰えず。
 駄目泣いちゃう、我慢我慢と心で呟くのも限界であった。
 教師として男として、恋人にしか見せない弱みがチラチラと頭を見せる。

「一杯泣いて、また頑張ろっか」

 そう美砂が呟いたのが、最後の一線だった。
 もう無理だ、見栄を張るのも限界だと、むつきが体の向きを変えて抱きついた。

「美砂、美砂ぁ……」

 大河内や雪広、和泉の前でさえ、もはや我慢できなかったらしい。
 何時も通りと言えばその通り、美砂の名前を呟きながら泣き出した。
 唖然としている三人の前で、子供のように。

「百年の恋も冷めるような光景だろ?」

 呆気に取られる大河内達へと、長谷川がにやりと笑いながら今の状況を評した。
 むつきの有罪は本音だが、その後はわざと追い詰めるように言ったのは間違いない。

「え、だって。以前は頼りなかったけど、最近は先生ちょと格好良いところもあって」
「私も、見所のある方だと見直して……」

 長谷川の台詞に対して、大いに戸惑い頷きかねない和泉と雪広であった。
 新人特有の堅さを三年も掛けて溶かし、ようやく目が出始めた希望の塊。
 生徒の人気もようやく高まり始め、和泉などにも格好良いと時折思われるぐらい。
 そのむつきが、半分に近い年齢の少女に抱きついて泣いているのだ。
 弱くてなさけなくて、格好悪いだけの男。
 思春期まっさかりの恋と憧れの区別もつかない頃合の少女には、そう見えてもおかしい事はなにもない。

「私も知ったのは最近だけど。男なんて、上っ面の見栄を剥いちまえばこんなもんだ。弱っちくてなさけなくて。でも支えてくれる誰かがいれば、一時的にでも神より強くだってなれる」
「長谷川の言葉、なんとなく分かる。溺れた私を助けてくれた先生は、神様よりもずっと力強い王子様だった。けど、昨日は、震えて弱った先生は小さな子供みたいだった」
「こいつは、想定外。柿崎のためにも諦めさせるつもりだったんだが。王子様の正体がこんななさけない男だって思わせて」
「それは嘘、長谷川は罪だって言わなかった。私が先生を好きになって、覚悟の上で温めてあげた事を。意味はちょっと違うけど、先生と寝た事を」

 普通に、人命救助だしと長谷川は深くは突っ込まなかった。

「先生に彼女が、既に柿崎がいた事は正直いって悔しい。それでも私は先生が好き。だから、彼女でなくてもお嫁さんになれなくても良い」

 あれこいつ何言ってるのと、台詞のおかしさに一番最初に気づいたのは長谷川だ。
 和泉や雪広はこれが愛とばかりに、大河内の台詞に聞き入っていた。

「私、先生のお妾さんになる」
「ぶばぅッ、げほ。やば、変なところに何か」
「先生しっかり、ほら落ち着いて」

 泣いていたむつきでさえ噴き出し、むせる程の破壊力であった。

「な、何を考えてんだ。頭大丈夫か、お前。あのリア充どもを、これ以上調子つかせんな!」
「そうだよ、せめて柿崎から奪うとか。もっとまともな手段だってあるやん?」
「亜子さん、それはとてもまともな方法とは。えー、多重婚可能な国に国籍を移し、至極全うに。ご安心を、クラスメイトの為にもこの雪広あやか。雪広財閥の全てをかけて」
「アホ、何処が全うだ。思い切り、金の力でものを言わせようとしてんじゃねえか!」
「ですが柿崎さんも大河内さんも、私の大切なクラスメイト。少々強引な手段をとろうとお二人が幸せになれるのなら」

 さりげにむつきを省き二人を幸せにとボケた委員長を、長谷川が叩いて黙らせる。

「落ち着いて、皆。ちゃんと考えた上でのことだから」

 それの何処がと突っ込みたいが、むせ終わったむつきも、ギュッと抱きついた美砂も大河内を見た。
 一体それのどこがちゃんと考えた上での事なのか。

「人魚姫って、真実を伝えて王子様を村娘から略奪しようとして、どうしようもなくなっちゃって泡になって消えたから。大人しくお妾さんになれば、悲恋にならなかったんじゃないかって」

 当たり前の事ながら、それの何処が良く考えた上でだと五つの声が重なった。









 結局のところ、全員が全員納得できる償いなんてあるはずもなく。
 その日の放課後は、帰りの夕会が終わって直ぐに皆でひかげ荘へと向かった。
 むつきは本当は水泳部の顧問があったのだが、周囲には大河内を病院にと臨時代行の臨時代行を出した。
 変わって貰った瀬流彦にはお詫びだと、水泳部のエロさを淡々と語り、ガッチリ握手を交わしたので問題ない。
 色々と教師としては、お互いに大問題だが若いのだから仕方がない。
 そして、皆とは美砂と長谷川は当然として、大河内、それから和泉と委員長だ。
 全員が浴衣を見に纏い、露天風呂にて思い思いの場所、岩場に腰をかけた。
 岩場から浴衣から伸びる素足だけをお湯につけ、足湯のごとく温めている。
 浴衣の下は裸なので肩まで浸かっても問題ないのだが。

「ほら、大河内。頑張れ、頑張れ。一回だけ、顔つけてみろ」
「アキラ、頑張ってや」
「うん、んー……ぷはっ」

 泳ぐにしては広いとも言えない露天風呂内を、応援を受けながら大河内が泳いでいた。
 むつきに両手を引っ張られ、水面上に顔を出しながら小さな子が泳ぎを教えて貰うように。
 バタバタと足を漕ぐので、肩まで浸かっていては飛び跳ねる水滴で気分が台無しである。
 最も、全員がそんなアキラを疎ましく思わず、むしろ微笑ましく見つめていた。
 大河内もまだお湯に顔をつける時は目を瞑っているが、この分では復帰も早い事だろう。

「それにしても、驚きましたわ。麻帆良にこのような場所が。風情溢れる温泉旅館。私のランキングでも上位に食い込む場所ですわ」

 やや冷たくなってきた春風に、夕日で黄金に光る髪をたなびかせながら委員長が評した。
 風は出てきたが、足元のお湯が温かいので全く気にならない。

「あんたの基準は一体どうなってんだ。まあ、私らの知らない世界だろうけど」
「私は先生さえいれば何処でもパラダイスだけど」

 きっちり浴衣を着込んだ皆とは異なり、セクシー気味に着崩した美砂が惚気る。
 またかこの野郎と顔を崩したのは長谷川ぐらい。
 委員長は少し考え込むようにし、大河内の応援中でもそれが聞こえたのか羨ましそうにする和泉。
 大河内自身は、泳ぐのに必死であまり聞こえてなさそうだ。

「それで、どうなさるのです柿崎さん」
「ん、なにが?」
「決まってんだろ、大河内の事だよ」
「私も混ぜてや。アキラの大事なことやし。結局、先生も柿崎も答え返しとらへんやん」

 委員長の問いかけに呆けた美砂へと、長谷川や和泉が聞きたいと言ってきた。

「うーん、どうしよ」

 それは拒絶でもなく、認めるわけでもなくどっちつかずの呟きであった。
 大河内による衝撃の告白から、時間を置いた事もある。
 感情的になるには時間が空きすぎ、かといって答えを出すには短すぎた。
 だから今は、思ったままを言葉にするしかなかった。

「一ヶ月」
「ん?」

 短く区切られた単語の呟きに、どういう意味だと長谷川が眉をしかめた。

「だいたい一ヶ月の差なんだってば。私が先生を好きになったのと、アキラが先生を好きになったの」
「それがどうかしましたか?」
「だって、私が元彼に強引に迫られたのが一ヵ月後だったら。きっとアキラの方が先に先生と付き合ってた。そう思わない?」
「よう分からんけど。言われてみれば、せやな。溺れたところを助けてもらって、水恐怖症を一緒に治そうと頑張って、逆に風邪引いた先生を暖めて」

 美砂のいないむつきが、プールに飛び込み大河内を助け出すバイタリティがあったかは別として。
 今回の件が、そっくりそのまま行なわれたらそうなったであろう。
 一方が教師で一方が生徒であれ、現在までむつきと美砂は付き合ってきた。
 その美砂がいなければ、責任を取ってむつきがアキラと付き合っていてもおかしくはない。

「んな事、考えたってしょうがないだろ。現実、お前が先に先生と付き合って、大河内は後だ。恋愛なんて早い者勝ちだろ? 例え、切欠の偶然が先か後かでも」
「そうなんだけど、その偶然だからこそ怖いの。たかが偶然に振り回されて。立場逆なら私絶対にふざけんなって叫んでた。なんで、どうして私じゃ駄目なの。たった一ヶ月の差なのにって」
「言い出したら、きりがありませんわ。例え偶然に振り回されたとしても、好きになった気持ちは互いに嘘ではなかったはずです」
「その証拠に、生徒の前でうっかり泣いちゃうぐらいだし」

 乱暴粗暴、強引で見栄っ張りで女の子の事をちっとも理解してくれない男の子の弱さ。
 正直なところ、美砂に振られたらむつきは自殺でもするんじゃないだろうか。

「例え偶然に振り回されても、なんかむかつく。ねえ、先生」
「おう、どうした美砂。大河内、ちょっと休憩。オーバーワークは、また事故るぞ」
「うん、そうだね。休憩、休憩」

 むつきに言われ、つつつっと大河内が遠慮がちに距離をとっていく。

「既に、正妻と妾で上下関係が生まれている件について」
「やかましい、長谷川」

 長谷川の突っ込みは、腕を振ってしりぞけ、むつきは腰に手を当てて美砂を見た。
 別にそのポーズそのものにはあまり意味はない。
 美砂とおまけで長谷川、それから好意を寄せてくれた大河内。
 その三人はまだしも、和泉や委員長にまで泣いているところを見られ恥ずかしいのだ。
 一人身の時は酒でも飲まないと泣く事すらできなかったが、最近凄く涙腺が弱くなっている気がする。
 違うぞ、俺はもっと強いんだぞというポーズでもあるのだが。
 これが男の見栄かと、既にその弱さを知った彼女らには見抜かれていたが。

「私の事とか、教師だとか。そういうの全部抜きで思ったように答えて。先生、好きって言ってくれたアキラと付き合いたい? セックスしたい?」
「えほっ、な……なんてはしたない言葉をお使いになるのですか!」
「セック、セッ」
「おーい、和泉がしゃっくり起こしたみたいになってんぞ」

 昨日と今日で、お嬢様らしくなく何度噴き出してしまったことか。
 和泉もまともに使った事も、目にした事もあまりない言葉に完全にショートしていた。
 しかも親友の視線は問いかけられたむつきに釘付けである。
 女の友情などそんなもんかと、仕方ねえなとばかりに長谷川が背中をさすってやった。

「お、俺は……」

 俺の彼女は一体何を言い出すのかと思いつつ、むつきはチラリと大河内を見た。
 一瞬目が合い、期待を込めたそれに耐えかね、視線をそらして行った。
 昨日のように黒髪は綺麗に結い上げられ、濡れた浴衣ははだけ気味。
 今朝方に埋もれたあの巨乳が、チラリと見えている。
 胸から腰までは帯のせいでガッチリガードされているが、股下辺りからまた無防備だ。
 むつきの腹を二度も抉ったあのしなやかな足が魔性の魅力と衝撃の恐怖でもって誘ってくる。
 あの体を昨晩、自由に蹂躙しつくしたなど全くもって覚えていない。

「ありゃ、性欲に負けてる顔だな」
「長谷川、ちょっと黙れ」

 ええいと被りを振って、改めて体ではなく大河内を真正面から見つめた。
 お妾さんでもと、ある意味で都合の良い女でとまで言ってくれた大河内。
 たかが溺れたところを助けただけでとは言わない。
 正直、むつきでも美女に助け、と考え俺はイケメンじゃねえしと捨てた。
 ちょっと悲しくなった。

「いきなり落ち込まれましたけど……」
「これが豆腐メンタル? なんか引け目を感じたみたいやん」

 長谷川のみならず、雪広や和泉にまで内心を見抜かれてしまった。
 違う、本当の俺はそうじゃないと背筋を伸ばし、

「男のちっぽけな見栄はいいから。先生、どうなの?」
「はい、すみません。もう少し、時間を下さい」

 正妻にまで見栄を奪われた。

「あー、だからアンタ駄目なんだよ。大河内とセックスしたい、孕ませたいって言うだけだろ。何を迷う必要があんだよ」
「長谷川さん、女性は常にエレガントに。しかしながら優柔不断、この決断力のなさは正直……」
「変態、先生の変態。アキラをそんな目で見てたなんて。いややわ。先輩も、上辺やなく中までちゃんと見たらそうなんやろか」
「なにこれ、俺を晒す会なの? なんで好きな子と、好きになってくれた子の前で苛められてるの?」

 ずぶずぶと、お湯の中に沈みこんでいくむつきの前に手が差し伸べられた。
 正妻である美砂は、まだ露天風呂の岩場の上である。
 他にブスブスむつきを刺している三人はありえず、残るは一人だけだ。
 さし伸ばされた手に触れると、にっこり笑いながらキュッと握られた。

「先生が選んだ選択肢なら、私は全部受け入れられる。例え、断られたとしても。だから、好きです。私を先生のお妾さんにしてください」

 正直、あざといと言わざるを得ないが、煮え切らないむつきには効果的な言葉であった。

「好きかどうかは、まだ分からん。けどセックスしたいって思うぐらい魅力的に感じる。というかアキラを孕ませたい、孕ませたい。今、ここで!」
「え、先生ちょっと待っ」

 くるりと大河内の体をコマの様に回し、背中が見えてから両肩に手を置いて止める。
 それから軽く背中をおして、目の前の岩場に手をつけさせ腰を掴んだ。
 背中を押したのとは逆に、腰を引いて突き出させ、そこまでであった。

「勝手にここでとかつけたすな!」

 長谷川に投げつけられた風呂桶が、見事むつきをヘッドショットした。

「今、今ここでと申しませんでした。柿崎さん、貴方達普段ここで」
「してるよ。大丈夫、ちゃんと洗ってるから。浄化装置だって動いてるし」
「おいぃぃぃ、私も初耳だぞそれ。なんてもんに私ら、浸からせてんだ。妊娠したらどうする!」
「妊し、あふぅ」

 まさか自分が衝撃的な大人の世界に巻き込まれるとはと、和泉が真っ先に気を失った。
 ぱしゃりとお湯に沈むが、またしても親友はヘッドショットされたむつきを助けるので忙しい。
 親友の面倒ぐらいみろと、これまた長谷川の出番であった。
 先に逃げ出した雪広の手もかり、和泉の救助を行なう。

「あははは、先生と二人きりも悪くなかったけど。やっぱ賑やかなのも好き。心の準備はまだだけど、今まで通り楽しくやっていけるんじゃないの?」

 救助される和泉や、眼を回し大河内改め、アキラに介抱されるむつきを指差し美砂が笑う。
 お猪口に注いだ酒でもあれば、くいっと飲みかねない雰囲気であった。
 女子力の戦闘力は不明ながら、またしても男子力があがっている。

「なに、勝手に綺麗に纏めようとしてんだ。柿崎」
「許せませんわ、この風情あふれる情緒をふしだらな世界に巻き込むとは。柿崎さん」
「けほ、少し飲んじゃった。柿崎ぃ」

 その美砂の後ろに、怒りをそなえた三人の乙女達が立っていた。

「は、ははっ……やっぱ、だめ?」

 精子に溺れて溺死しろ、三者三様の言葉ながら要約するとそうだった。
 背中を蹴りだされた美砂が、むつきに重なるように落ちてお湯を盛大に跳ね上げた。
 当然の事ながら、その後露天風呂や食堂など公共の場でのセックスは禁止された。









-後書き-
ども、えなりんです。

一応、表面上は二人共納得ずくで、二股決定。
二股というか、アキラがお妾さんポジ。
そもそもなんで二番目がアキラだったかというと、
この人魚姫ネタの為ってのも結構大きい。
本当に、昔話は不条理なのも多く。
乙姫が浦島に玉手箱渡したり、人魚姫がお妾で満足しなかったり。
玉手箱の件はググって色々調べたんですが、明確な回答はないみたいです。

と言うわけで、ひかげ荘には美砂と長谷川に続き三人がチェックイン。
割と良識派が入ってますね、ブレーキ役というか。
進んでアクセル踏んじゃう子はもう少し先です。

それでは次回は水曜です。
えなりんでした。



[36639] 第十六話 普段は良いけど、今はだめ
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 20:39
第十六話 普段は良いけど、今はだめ

 無事、水恐怖症を克服したアキラは、麻帆良女子中の選抜選手として大会に出場した。
 結果はここ、ひかげ荘の管理人室が、折り紙の鎖や花で飾られている事からも明らかである。
 失礼にも神棚の前に、でかでかと大会の優勝と大会記録おめでとうと看板が掲げられていた。
 本日は土曜日で大会があった当日。
 クラス全体でのお祝いは明日の昼間で、一部の特別な情報を共有する面々が集っていた。
 クラスのまとめ役、委員長の雪広に、精一杯応援した親友の和泉。
 色々な意味でのジャッジメント長谷川、あと本人は絶対否定するが夜の衣装係。
 このひかげ荘の持ち主の嫁候補美砂と、今回新たに候補に加わったアキラだ。

「それではこの雪広あやかが乾杯の音頭を」
「アキラ、優勝おめでとう。大会新記録、それから念願の初夜を祝ってカンパーイ!」

 そわそわと雪広が立ち上がったそばから、美砂が容赦せんとばかりに音頭をとった。

「ああ、柿崎さん。最近皆さん、私の頭をパンパン叩いたり、扱いが軽いですわ。訴えて、勝ちますわよ!」
「もう、委員長。空気読もうよ、アキラ困ってるやん」
「ハッ……これは失礼を。ささ、大河内さん。どうぞ」

 上座に座るアキラが、雪広に勧められ照れ照れとジュースを両手で持ちながら言った。

「ありがとう、皆。皆が応援してくれて凄く頑張れた。後……先生、まだ食堂の方で準備中なんだけど」
「おーい、先生遅いぞ。大河内が、待ちきれないってさ、先生の肉を」
「お前はオヤジか。心配せんでも、アキラには上の口にも下の口にもたくさん肉を食わせてやるよ」

 下ネタに下ネタで返しながら、たっぷりのお肉と小山の野菜をむつきが両手に大皿で持ってきた。
 メニューは大勢で囲むのに楽しい焼肉である。
 ホットプレートは既に熱々で、油もばっちり湯気がたっていた。
 腹を空かせた小鳥たちが、ピーチクパーチク小うるさいのも仕方ない事だろう。

「先生、私も先生のお肉一杯食べたーい」
「そうだな、今焼いてやるから待ってろ」

 美砂が隣に座ったむつきの肩に頭を乗せて甘えるように言ったが、あっさり流される。
 もちろん食べたいのはむつきの肉、そこに棒がつく意味でだ。
 元々今日はアキラの初夜と決められていたので、特に食い下がりはしなかったが。
 というか、そう言い出したのは美砂からであった。
 破瓜の痛みでフォームを崩すとまずいから、大会当日のご褒美にしようと。
 その時は、アキラがむつきを独り占めしても何も言わないとさえ。

「先生……」
「ん、肉が焼けて皆に回ったらな」

 四角いコタツテーブルに六人は、かなり狭い。
 上座の一辺をアキラが一人で使い、アキラから見て左側にむつきと美砂。
 逆の右側に和泉と雪広で正面が長谷川だ。
 むつきは一応正妻の隣だが、手を伸ばせば妾であるアキラにも簡単に手が届く。
 恥ずかしそうな、それでいて切ない響きはコタツの下で伸ばされたアキラの手が意味していた。
 和泉側に座れば左手が使えたのにとテーブル順を悔やみながら、むつきがホットプレート上を肉と野菜で埋めていった。

「これでよし。めんどくさくなったから狙った肉は自分で焼けよ。てか、俺の両手は忙しいんだぞ。んじゃ、俺もビールと。おいでアキラ」
「うん、先生。先生のおかげで、私凄く頑張れたんだ」

 ぷしゅりとビール缶を開けて左手に持ちながら、右手を待ち遠しそうにしていたアキラの手を握った。
 指と指をすれ違わせるように、重なり合わせた。
 左手側は美砂が腕を組み、右手でこっそりアキラの手をとる形だ。
 大っぴらにイチャつく正妻と、忍んで手を握る妾の図がある意味正しく出来上がった。

「しかし、改めてみるとこれ学園七不思議に入れるんじゃねえか?」
「お前、最近容赦ねえな長谷川。てか、つい何時ものノリで喋ってるが……お前ら、全然動じなくなったな。雪広、それに和泉も」

 あくまで優雅に肉を焼いていた雪広と、慎重に焦げ目を見ていた和泉が同時に顔を上げた。
 この奇妙な連帯感は、何時の間にか生まれたものだ。

「まあ、流石にもう慣れましたわ。元々、社交界では酔った殿方が下衆な事に卑猥な言葉でからかってくる事もありますし。平時にそれをされると流石に動揺しますが」
「私も、どこか汚れちゃったんよ。男の子を普通に見れへんくて、憧れてた先輩もなんやなあって。何かする度に格好つけてチラチラってこっち見て。前はそれがキラキラしてたんやけど」
「言外に、主に生徒に手を出しまくる下種野郎(先生)が原因と言われている件について」
「俺一人のせいにするんじゃねえ。今日はお前が始めたんだろうが」

 実際のところ、今ここでむつきがセックスと叫んでも誰も反応しないだろう。
 美砂は別の意味で反応してじゃああっちの部屋でといいかねないが。
 しらっとして、何言ってんのコイツと冷たい視線を浴びるのが関の山だ。
 新人時代の洗礼を乗り越えたOLじゃあるまいし、女子中学生としてそれはどうだろう。

「先生、お肉焼けた。はい、あーん」
「ん、サンキュ。アキラ、あーん」
「ぱくっ!」

 繋いだ手を放してまで、アキラが箸で熱々のそれを食べさせてくれようとしたのだが。
 美砂が横から首を突っ込んでトンビが油揚げをさらうように食べてしまう。

「美砂、お前この野郎。肉を焼いてくれないどころか、お前アキラが……ん、どした?」

 ちょいちょいと服の袖を引かれふりかえると、食われたはずの肉が箸の上にまだあった。
 一体どういうマジックか、食べた振り、いや違う。
 美味しいともぐもぐしている美砂は、本当に肉を食べていた。

「なんとなく、こうなるんじゃないかって。もう一枚、焼いておいた」
「天使か。あーん」

 一度奪われ嘆いた直後の、この一枚のなんと美味しい事か。
 可愛い可愛い、もう一つおまけに可愛いアキラが焼いた肉ならなおさら。
 ただむつきは知らなかった。
 美味い美味いと涙まで滲ませ食べる中で、その後ろでアキラと美砂が合図しあっている事に。
 良い大人が女子中学生に手玉に取られ、遊ばれている図である。
 今日はアキラにとって特別な夜となる為、色々と美砂が気をまわしているとも言えた。

「確かに、これを見て男に憧れ抱けってもな。お前らも、結婚できなけりゃ先生に貰ってもらったらどうだ?」
「えっと……私にも選ぶ権利があるって言うん? ちょっと年上過ぎるっていうか。あはは」
「私の理想は高いのであしからず」

 和泉は多少返答に困っていたが、雪広などばっさりだ。
 普段のように高らかに少年愛を叫ばないのは少々違和感がする。
 アキラのお祝いの場なので自重しているのだろうか。

「けけ、ざまぁ。振られてやんの。プギャー!」
「長谷川、お前テンション振り切れ過ぎ。飲んでねえよな? 世界一可愛い彼女がいるから、他の女の子にどう思われようと一向に構わん!」
「先生、私も」
「そうだな、でも。世界二位も可哀想だし……世界一可愛いお妾さんってのも」
「だったら、柿崎が世界一可愛いお嫁さんで、私がその。彼女って事で」
「それ、採用。美砂が世界一可愛い嫁さんで、アキラが世界一可愛い彼女な。俺、明日事故で死ぬんじゃなかろうか」

 再び、今度はアキラがむつきに見えないように美砂に親指を立てていた。
 知らぬはいつも男ばかり、年齢差がある恋人達にもそれは適用されるようだ。
 むつきがデレデレと雪広と和泉の男への憧れを壊し、時々長谷川が辛辣な毒を吐く。
 アキラは甲斐甲斐しくむつきの世話をし、美砂は軽く甘える程度。
 なごやかに下ネタも混ぜつつ、お祝いのパーティは夜の十時近くまで続いた。








 脱衣所の入り口に男マークを付けた暖簾を掲げて、むつきは一風呂浴びた。
 焼肉の匂いをぷんぷんさせたままアキラの初夜を行うなど許されない。
 服も脱ぎ易い浴衣に変えて、簡単に帯を結んで終わりだ。
 アキラは既に、自分に割り当てられた管理人室横の部屋で待っている。
 美砂は相変わらず管理人室に常駐しているので、その隣に。
 本当この現代で、リアルお妾さんかと思わざるを得ない。
 こんな俺にと卑下もしたくなるが、それをすると怒られるので言葉を飲み込む。

「お前ら、もう寝たか?」

 途中、管理人室の襖を静かに開けて、中には入らず伺い見る。
 匂いが再び付着するのを避ける為であった。
 雪広と和泉は仲良く並んで寝ており、長谷川はダウンするように大の字で。
 美砂は良く見えないが、先生と呼ぶ寝言が聞こえたのでたぶん寝ている。
 何分、アキラの部屋は隣なので、気を使うのだ。

「良く寝てる。これなら少々アキラが喘いでも大丈夫だろ」

 一安心とばかりに、襖を閉めていそいそと隣の部屋に向かう。
 正妻の目を盗んで会いにいくようでいささか格好悪い。
 だが多少の格好悪さなど、これから訪れるアキラの初夜の前にはゴミみたいなものだ。
 すぐそこ、五メートルも離れていない隣の部屋の襖を叩く。

「アキラ、良いか?」
「うん、いいよ先生」

 許可を貰って襖を開けると、部屋の中は暗かった。
 廊下の方がよっぽど明るく、部屋を照らすのは蛍光灯の赤玉のみ。
 それでもアキラの姿ははっきりと、むつきの瞳で捉える事が出来た。
 敷かれた布団の横に、三つ指をついて待っていてくれたのだ。
 のみならず、その姿、格好が暗闇を吹き飛ばすほどに浮きあがって見えた。
 だぶつく程に大きな袖を持つ白衣に、正座の膝にぴっちり収められた紅の袴。
 髪型こそ普段のポニーテールだが、黒髪ロングの巫女さん、あと巨乳がそこにいた。

「先生、不束者ですが末永くよろしくお願いします」
「あ、はい。よろしくお願いします」

 慌てて正座して礼を返したむつきだが、顔を上げてから視線が外せない。
 というか、ニヤけそうになる顔を必死に真面目にするので手一杯だ。
 犯人が誰かなんて考えるまでもない。

「これ、長谷川が用意してくれたんだ。先生が絶対喜ぶからって。女の子に可愛い格好をさせて喜ぶ変態だからって」
「うん、最後の報告はいらなかったね。てか、それ当たり前のことじゃねえの?」

 格好こそコスプレだが、彼女に可愛い格好をさせたいなど普通の事だ。
 なんでも変態とつければ良いものでもない。
 内心良くやったと褒めていると、何故か脳内でさえプギャーと笑われた。
 人の頭の中でさえ、大人しくできず、辛辣な奴であった。

「まあ、あの阿呆の事は一先ず捨て置いて」
「捨てるんだ」

 クスリと笑ったアキラに、正座の格好のまますすっと近付いていく。
 中腰となって頭一つ分、アキラより高くなると、包み込むように抱きしめた。
 宝物を腕の中に抱くように、大切に、優しくだ。
 アキラも静かにむつきの背に腕を伸ばし、抱き返してくる。
 二人暗闇の中で、そのまま時計の音だけをBGMに抱きしめあった。

「アキラ、髪が良い匂いする。特別なシャンプーでも使ってる?」
「ううん、普通の市販品」
「なら、これがアキラの匂いか。覚えとこう、何処にいても分かるように」
「恥ずかしいよ、先生」

 くんくんと髪の匂いをかぐと、例えようのない陶酔的な甘い匂いに包まれる。
 匂い自体が麻薬のようで、かげばかぐ程にくらくらしてきた。
 これは忘れようにも忘れない。
 例え、アキラがその場から移動した十分後でも、かぎ分けられる自信があった。
 言ったら引かれそうなので、絶対に口にはしないが。

「先生も匂いがする」
「え、風呂にはちゃんと入ったぞ」
「違う、焼肉じゃなくて。先生の匂い。胸がキューっとする匂い」

 本当に胸がキュッとしたように、両手を祈るように胸元へと持っていく。
 もう今ここで押し倒してガンガン突きたい衝動に駆られるが、ひたすら我慢だ。
 折角のアキラの初夜を、理性を放り出した獣のまま襲って終わりでは可哀想である。
 アキラが幸せになれるように、大切な思い出になるように。
 大切な思いを抱いたように祈っているアキラの、後ろに回りこみ再び抱きしめた。

「声、我慢しなくて良いからな。アイツら、全員寝こけてたから」
「起こしたら可哀想だよ。我慢する」
「本当に、こんな事をされても?」

 後ろから抱きしめたまま、白衣の襟の中へと片手を滑り込ませていった。
 さすがに正式なものではないので、中に襦袢を着ている事はない。
 ただノーブラとは予想外で、胸に指先が触れてすぐに止まってしまう。

「んっ」

 清楚な巫女さんがノーブラとは、ギャップがあり過ぎて困る。
 びっくりして固まったとは知られたくないので、慌てて続けた。
 少々大げさに、白衣を着崩させるようにアキラの胸をまさぐった。
 ゴム鞠を潰すように、ただ力は優しく胸を揉みしだき手のひらの上で乳首を転がす。
 衣擦れの音は意外と大きく、隣の部屋まで聞こえるかと思うほどである。

「先生、そんなに音を立てないで。亜子達に聞こえちゃう」 
「仮に起きてたとしても、聞かないふりしてくれる。皆、今日が大事なアキラの初夜だって知ってるんだから。誰も邪魔なんてしない、させない」
「でも、ぁっ」
「我慢しなくて良いから。ほら、声を上げて」

 まさぐっていた胸の乳首をつまみ、キュッと少し力をいれて絞った。

「んんぁ、あんっ!」

 布団の方へとやや体勢を崩して手をつき、体を小さく丸めながらアキラが声を上げた。
 切なげに、好きな男に体をまさぐられるという初めての行為に。
 二週間前に一度むつきが色々致したが、あれはノーカンだ。
 殆ど意識もなく獣状態で、連続で七回もしたなんて今考えてもありえない。
 しかも五回目辺りでアキラは気絶し、それでもまだ続けるなど鬼畜の所業だ。
 自分でやらかした事だが。
 過去より今、今なんだよと大きく息をついているアキラをもう一度抱きしめた。
 今度は白衣の上からあの大きな乳房を、零れ落ちそうだと思いながら弄ぶ。
 揉んで胸同士を押し合いへし合いこね回し、白衣の上から乳首をつまんで引っ張った。

「先生、お願い。許して、声ぁん。我慢できぅっ」
「アキラが可愛すぎるからだめ」

 必死の懇願もガキの理屈で退け、耐え切れなくなったアキラと共に布団に倒れこんだ。
 一瞬だけ自分で倒れこんだむつきがおろしたてのシーツに先に受け止められた。
 その直ぐ後にアキラが仰向けに、むつきの胸に受け止められる。
 ポニーテールが鼻にかかってくすぐったいが、モグラのように鼻でかきわけ、うなじにそっとキスした。
 当然の事ながら、胸を弄ぶ事は続行中で白衣もすでに半分程脱げてしまっている。
 ただアキラはキュッと口を噤んでしまったので、なんとか開けさせなければならない。

「どうして口を閉じてるんだ?」
「んんっ、んーっ!」
「アキラが声を聞かせてくれないなら、俺が叫ぼうかな。最高だ、アキラの体最高だ。気持ち良い。このまま中にって」
「それ、だ。んんっ!」

 振り返ろうとしたアキラの唇を塞ぎ、力を込めてその双球を強く握った。
 突然のキスと強烈な刺激に、小さくピクッピクッとアキラの体が震えていた。
 その小さな震えが収まったあともキスを続け、しばしの後に離れさせる。

「可愛かったぞ、アキラ」
「ふぁ、先生意地悪だ。前も凄かったけど、今も凄く意地悪」

 虚脱してふうふうと息を吐くアキラの体を支え、布団の上に寝かせていく。
 真っ白なシーツの上に、白衣を紅袴のアキラを。

「勿体無いけど、全部脱がすぞ。確かに興奮したけど、今日はアキラが主役だ。他の要素はいらない。アキラだけ、それだけを感じたい」
「うん、いいよ先生。先生が私の全部を脱がせて」

 任せとけと、紅袴の帯を緩め、まずそちらから脱がせ始める。
 全てがそうか分からないが、白衣は袴の裾辺りまである事もあるのだ。
 なんと無駄な豆知識化と自分で突っ込みつつ、アキラが浮かせたお尻から紅袴を脱がす。
 白衣により円筒状の裾に覆われた両足を持ち上げ、紅袴を脱がしきった。
 それを無造作に布団の横に置いて、アキラの両足もそっと布団の上に戻した。
 まだ白衣が残っているが、恥ずかしいのかアキラはそっぽを向いている。
 それでも脱がすのを邪魔しないように、手をぴったり体につけているのがいじらしい。
 白衣の帯、といっても紐のようなものだがそれを解いて最後だ。

「アキラ、良いか?」
「うん」

 一度は恥ずかしそうに身をよじったものの、答えは決まりきっていた。
 白衣の襟元に片手を差し込んで軽く開き、今度は両手で完全に開ききった。
 ぴくりとアキラの両手が動き、隠そうとするも震えながら我慢している。
 背に比例するように大きな胸が、本当に零れ落ちた。
 ぷるんと落ちては、反動で元に戻ろうとふるふる震えている。
 思わず手が伸びかけたが、今はと視線を落としていく。
 胸とは逆に美砂よりも細く見える腰があり、お尻は少々小さめ。
 それは良いが、このパンツはなんだろうか。
 俺だけでもここは死守するとばかりに、アキラのお尻を覆うクマさんパンツだ。

「ギャ、ギャップが……あの、長谷」
「もういい、何も言うな。萌え殺す気か。やばい、ツボに入った」

 もうクマさんしか見えないと、むつきは不覚にも顔を手で覆い動けなくなった。

「もう、やっぱり笑われた。折角の初夜なのに」
「泣くな、アキラ。笑ってたわけじゃない、可愛すぎてどうにかなりそうだったんだ。ほら、これが証拠」

 くすんと泣き出したアキラの肩の上に手を置き、涙を唇ですいとり下で舐める。
 そしてもう片方の手でアキラの手をとり、伸ばし触れさせた。
 ガチガチに勃起し、ビクビクと今にも爆発しそうに痙攣する一物にだ。
 触れたときに驚きビクっと震えた手で、にぎにぎと確かめるように握られた。

「先生、凄く硬くなってる。私で、興奮」
「凄くしてる。もう少しで理性が消し飛んで、また獣になりそうだった」
「恥ずかしいはずなのに、嬉しい。裸を見られて欲情されたのに、私喜んでる」

 そのまま来てとばかりに、アキラの手が伸びて抱きしめられた。
 最低限足に力を入れたりして全体重を掛けたりはしなかったが。
 もう一度今度は唇にキスを落とし、露となった胸をふわふわと支えて揉み上げる。
 そのままむつきの独壇場かと思いきや、アキラも負けてはいなかった。
 一度握らされた一物を手放さず、両手を伸ばして手に筒を作るようにして竿をしごく。
 手つきはたどたどしいが、一生懸命なのが良く伝わって燃えてくる。
 この子を気持ちよく、最高のセックスを教えてあげたいと。

「アキラ、そのまま続けて。こっちも」
「ぁぅ」

 アキラの手を膣に例えるように腰を振りながら、アキラの耳たぶを噛んだ。
 べろべろとそのまま耳の穴まで舌をさし込み、奥まで舐め上げた。

「手、止まってる」
「ご、ごめんなさい。ひゃっ」

 アキラの手が再び動いたのを下半身で感じると同時に、逆側の耳たぶを甘く噛んだ。
 今度は舌を使わず、キスを繰り返しその音を聞かせる。
 何度も何度も執拗に、時々アクセントにふっと息を吹き込むと面白いように反応してくれた。
 ただ延々とソレだけでは、アキラも慣れてしまう事だろう。
 アキラが愛撫の一つ一つになれないうちに、次々とあの手この手を繰り広げた。
 キスをしながら唇をこじ開け、前歯にチュッとキスをしてみたり。
 吸血鬼のように首筋に吸い付いては、激しいキスでキスマークをつけてから耳元で囁く。

「これで、アキラは俺のもの」
「私、先生のものになっちゃった」
「他の男がアキラを見ても、このキスマークであの男の女かって。もう絶対に放してやらないからな」
「うん、絶対に放さないでね」

 絶対にと呟き約束して、頃合かと最後のキスをして一度放れる。
 待ってと手を伸ばされたが、大丈夫だからと手を繋ぎ、頷く。
 ゆっくりと手を放し、むつきはアキラの股の間に座り込んだ。
 あいもかわらずアキラの聖域をクマさんが守っている。
 しかしながら、聖域の奥から染み出す愛液に目をやられて、泣いていた。

「泣くなこの野郎。次からは俺がアキラを守ってやるから」

 安らかに眠れとばかりに、クマぱんに手を伸ばし脱がせ始めた。
 さすがにこの時ばかりは、アキラも手を横にそっぽを向くだけにすまなかったようだ。
 両手を顔に持っていき、どんな顔をしているか見られないように抑えている。
 大丈夫と一度太ももをさすってやり、浮かされたお尻からクマぱんをねじらせながら脱がす。
 最初に片足を曲げさせ脱がし、次の足ではなんとなく足首にかけたままで。

「綺麗だ、アキラ。綺麗な縦筋からあふれ出してる。力を抜いて」

 下腹部の陰毛は美砂より幾分濃く、髪と同じ真っ黒な色であった。
 さらに下をながめ、ぴったりと閉じた谷間から流れ落ちる流水を発見する。
 これなら潤いは十分だがと谷間の脇に手をそえ、親指を引っ掛け開いた。
 アキラの下半身が強張るが、柔らかな肉の谷間の底からむわっと匂いが広がった。
 髪を嗅いだ時よりも、もっと濃いアキラの匂い、発情した雌の匂いだ。
 谷間の底では膣口がぱくぱくと口を開けて、蹂躙者をまっている。
 待っているがまだ直ぐにはと、むつきは手のひらを上に向けた右手の中指を伸ばして触れさせた。
 そのままゆっくり、愛液の流れに逆らって奥へと進ませる。

「あっ、ぁぁ……何、か。入って」
「力を抜いて、駄目か」

 どうしても体は強張るようで、指が浅いまま挿入を繰り返す。
 そしてアキラに覆いかぶさるようにし、豊満な胸の上にある突起を口に含んだ。
 意識する場所を分散させるように、左手は太ももをさすり指を這わせる。
 一番意識させたくない膣はゆっくりと、数秒を掛けて一センチ進ませる気持ちで。
 反対に胸は激しく音を立てて乳首を吸っては、大口で胸を食べるようにかぶりついた。
 左手も忙しく左の太ももから脹脛に、膝を負けさせ股を開かせる。
 中指は変わらず強く締めつけられていたが、第二間接を超えて第三間接に到達しようとしていた。

「アキラ、何処まで入ったか分かるか?」
「はっ、はぁぅ。凄く深いところに」

 そう、ちゃんと深いところまで受け入れられるんだと、逆に意識させた。
 それが功をそうしたのか、ふわりと少しだけ締め付けが緩んだ。
 若干中指をくの字に曲げて、少しだけ広く拡張された膣の中を行き来させる。

「先生、はぅ。ぅぁ、ぁっ!」

 むつきのリズムに合わせアキラも喘ぎ、両手は既に顔にはなかった。
 快感に浮き始めた腰を支えるように、布団の上でシーツを握り締めていた。

「気持ち、良い。先生、もっとぉ」
「素直だな、アキラ。エッチに素直な女の子は好きだな。だから、大好きだぞ」

 キュキュっと大好きというキーワードに反応して膣が何度か収縮する。
 単純な快楽も悪くはないがやはり言葉も大事なファクターらしい。
 ずいぶんとスムーズになった指の挿入を行ないながら、身を乗り出し耳元に口を寄せる。

「愛してるよ、アキラ。俺の子供を生んでくれるか?」
「ぁあっ!」

 腰だけでなくお腹から反るように浮き上がったアキラがイッた。
 ビクビクとそのまましばらく震え、やがて力尽きるように布団の上に落ちてきた。
 体には大量の汗が滲み、荒く息をついてはぽーっと天井を見上げている。
 体の痙攣にあわせて膣の中も何度か締まっては、精をむつきの指からでさえ搾り取ろうとした。
 実際あり得る事ではないが、それでもだ。
 その指を抜くと、コルク栓を抜いたワインの瓶のように置くから愛液が染み出してくる。
 指を二本に増やし、処女膜に気をつけて膣を開いてみると随分と柔らかくなっていた。
 これなら大丈夫と、両腕をアキラの膝の下に回して小さなお尻ごと持ち上げる。

「アキラ、分かるか。ここ、今から入れるぞ」

 まだ遠い世界にいるアキラの目の前で手を振り、意識を呼び戻す。
 もちろん手だけでは無理であり、亀頭を膣口に添えての事だ。
 はやく帰ってこないと入れちゃうぞと、先っぽだけぬぷぬぷと入れてみたり刺激する。

「ぁ……先生、私」
「お帰り、アキラ。それから、新しい自分にこんにちはだ。もう一度聞くが、分かるかコレ」
「うん、前にもそうやって先生に悪戯された。先生、私の初めて貰ってくれますか?」
「貰わないでか。ありがたく頂戴するよ」

 脱力して重いアキラの足を持ち直し、前屈みになって狙いを付ける。
 既にロックオン済みなので、あとは進むだけ。
 未通の穴、膣をむつきの一物で掘り進んでいくだけだ。
 頑張れ、小さくアキラにエールを送ってから、むつきは腰を押し進めた。
 腰から生える一物も押し出され、アキラの膣を広げては何かに引っかかる。

「いくぞ」

 むつきの合図にアキラも頷き、上半身を曲げてむつきに抱きついてきた。
 二人して同じ動物のように体を丸め、むつきの腰だけは前へ。
 アキラの処女膜を広げ破り、破瓜の血を垂らさせながらもっと奥へと進んだ。
 ミシミシと、一物を通して無理やり進んでいく音が聞こえそうだった。

「くぅ、ぁ……痛ッ、ぅぁ」

 息苦しく痛みに耐える声にもう少しだからと伝え、最後まで侵入しきった。
 それを教えてくれたのは、肌と肌の接触。
 もちろん抱き合っているので全身そうだが、秘所の谷間と一物周りの肌がと言う意味だ。
 小さな拍手がゴールを知らせるように、肌とのぶつかりでパンと鳴った。

「アキラ、大丈夫か?」
「今日で良かった。慌てて捧げてたら、絶対にこれフォームが崩れてた」
「ん、俺の世界一可愛い嫁さんに感謝だなァッ、痛った。アキラ、何を」
「今先生の目の前にいるのは世界一可愛い彼女だけ。普段は良いけど、今はだめ」

 突然肩に噛みつかれ、痛みに潤んだ瞳で訴えられた。
 境界線がやや難しいが、確かに行為の最中に他の女の子はタブーだ。
 ごめんと抱きなおし、お詫びの印と唇に口付けた。

「そろそろ、良いか? あまり我慢してると、このまま出そうだ」
「ちょっとは痛みが和らいできた。ちょっとぐらい激しくてもいいよ」
「俺は何時だって優しいよ。特に布団の中では」
「嘘つき、意地悪ばっかりするくせにんっ。ほら」

 嘘つきじゃありませんと抗議するつもりで、腰を一度引いてから突き立てた。
 まだ子宮は降りてきてないらしく、肌と肌、その奥の骨盤同士がぶつかり止る。
 それからぐりぐりと腰を時計回りに回転させ、もう一度引いた。
 来ると体を強張らせたアキラの鼻の頭に、チュッと唇を落とす。
 えっとアキラがこちらを見上げた瞬間を見計らい、意地悪にも一物を突き立てた。

「ふぅん、ぁ……やっぱり、意地わぅ」

 違います愛ゆえにですと、腰で喋るように何度も何度も突き立てる。
 その度にアキラが天井を見上げては喘ぎ、切なげに吐息を吐いた。
 その吐息の暇も与えぬ程に、むつきの突き上げは激しさを増していった。

「くそ、アキラの中。凄く締め付けて。痛いぐらいだ。なんだこの締め付け。いくらなんでも精を欲しがり過ぎだ。もう少し待てないのか」
「そんな事はない、普通。普通なのぉ」
「違う、アキラがエッチだから。俺の子供を孕もうと必死なんだろ。そんなに、俺の種が欲しい?」
「違う、違うの。いやらしくない、私先生が好きなだけ。先生の子供が欲しいだけ」

 一部は否定されたが、一番肝心な部分を肯定されてしまった。
 しかも初夜という事もあって、今は生で挿入している。
 せすじにゾクゾクと黒い快感が上り詰めてきた。
 アキラが望んでいる、自分の子供を。
 そのまま出しても問題ない、むしろ喜んでくれるはずさと悪魔のささやきだ。
 妊娠して親に勘当されてもここに住めば良い、皆で育てるのもきっと楽しいと。

「アキラ、アキラ俺」
「先生、いいよ。中に、安全な日だから」
「孕ませたい、アキラを。このまま出して、俺の子供を」

 黒い快感が急げ急げと、射精の快感を連れてくる。
 むつきに一物を抜く暇を与えてなるものかとばかりに。
 そんな事できるかと思えば、それだけで精神がガリガリと削れていく。

「出すぞ、アキラの中に。孕め、孕んで……うぁっ!」
「いいよ、そのまま。先生、先生ぇっ!」

 白く粘つく液体が、飛んだ。
 勢いよくむつきの一物の先端、亀頭の鈴口から大量に吐き出されて飛んでいった。
 ぼたぼたとアキラの白い肌を、別種の白で染め上げていく。
 自分の体にかかるのを全て把握しているかのように、浴びるたびにビクビク震える。
 例えそれが小さな一滴であろうと、ちゃんと感じ取ってくれた。

「あっ、ぶね……あやうく、誘惑に負けるところだった。アキラの体、気持ち良過ぎ」

 息を整えると、そのままアキラの隣にぽてんと倒れこむ。
 よく頑張ったねと、抱え込むように抱きつき、ピロートークの始まりだ。

「そう、かな。先生が気持ち良くなってくれるなら、いっかな? けど、そんなに締まってる?」
「水泳のせいか。でも締まり過ぎんのも考え物だ。コンドームが脱げたり……ワンサイズ落とそうかな。ピルなんて飲ませたくないし」
「あの……一つ、良い考えが」
「ん、何かあるのか?」

 あのねと、愛液と精液で濡れまくった一物を握られた。
 在庫一斉放出した袋もにぎにぎとして、再生産を急がせる。

「一杯、エッチして。私が先生の形を憶えれば、たぶん大丈夫」
「もう、本当にこの子は。良い考え過ぎる。アキラ、そのまま続けて。俺も」

 横向きに向かい合って寝たまま、お互いの性器に手を伸ばした。
 アキラは濡れに濡れた一物を手をぐちゃぐちゃにしながらさすり。
 むつきは、破瓜の血が残るそこに今度は指を二本に増やして入れてみた。
 一度は一物を受け入れたのだから、指が一本増えようと大差はない。

「先生、ちょっと硬くなってきた」
「アキラも、かなりほぐれてきた。じゃあ、次いいか?」
「うん、何度でも。あの日と同じぐらい、一杯して先生」
「俺も男だ、七回でも八回でも。アキラが望んだ数だけ頑張ってみる」

 でもその前にと、布団の上から箱ティッシュと浴衣のポケットのコンドームに手を伸ばした。
 流石に今からはお風呂にいけないので、可能な限りティッシュで拭く。
 それから以前にも美砂に教えたように、こうやって実際に見せて教えながら着けてみせる。
 準備完了と横寝のままずりずりと近付き、再びの挿入であった。
 アキラの言った通り少しは形を憶えてくれたようで、スムーズなものだ。
 コンドームのおかげで、刺激はちょっと減ったが十分である。
 キスマークどころではなく、大事な部分の形を変えようとむつきは頑張った。
 頑張ったのだが、やはり三回目を超え、四回目には時間がかかり過ぎた。
 コンドームの中でさえ射精が上手くできないまま萎むだけ。
 無駄に自分を傷つけ、落ち込ませるだけであった。
 反面、アキラはというと何度でも愛されとても満足の行く初夜であったそうだ。









-後書き-
ども、えなりんです。

今回、あまり印象に残る台詞がなく。
アキラのこの一言を選択。
一先ず、このお話を最後に次の章へ。
二年次春の中間テストです。

ああ……後で思い出したのですが。
ゴールデンウィークネタがない。
あと、美砂とアキラは五月生まれだったはず。
差し込む余裕がなかったんです。
気付くのが凄く遅かったんです。
そのうち誰かの誕生日ネタぐらい挟みたいですねえ。
明日菜は割りとテンプレなので、それ以外で。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第十七話 絶対なんてこの世にはないけど、それでも絶対に
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 20:41
第十七話 絶対なんてこの世にはないけど、それでも絶対に

 黒板にカッカとチョークを走らせ、むつきは二人の人物の名を書いた。
 最澄と空海、具体的に何をした人か知らない人はいても、名前を聞いた事がある者もいるだろう。
 二人の名前を円で囲み、矢印を左上の唐という字へと向かわせた。
 リズム良く最後にカッとチョークを黒板に叩きつけ記述はお終い。
 それから後ろへと振り返ると、やはり何人かは聞いた事があるのか、思い出そうとしている。

「この二人が平安の時代にわざわざ中国、当時は唐と呼ばれていた国に勉学の旅に出かけた。何を学びにかは、彼らが帰って来た日本で広めたものが関わってくる」

 唐から再び矢印を右下、日本に引いて、天台宗、真言宗と黒板に書いた。

「ここテストに出るから。最澄か、空海の名前が出たら兎に角、どっちか書いとけ。宗教とか仏教って書いても点やらねえからな」
「はい、先生質問アル!」

 皆が最澄と空海、それから天台宗と真言宗どちらがどちらかノートに写している時だった。
 なんとも珍しい事に成績不振からバカイエローと呼ばれる古が手を挙げていた。
 しかも授業中に質問など、明日は雨ではなかろうか。
 かなり失礼な考えだが、それでも生徒が勉学に興味を抱く事は悪い事ではない。
 出身国である中国の話が出たのだから、何か気になることでもあったのだろう。
 俺も生徒の興味を引くような授業がと内心感動したのは内緒だ。

「おう、なんだ古。何が聞きたい?」
「最澄って、どれぐらい強かったアルか!」

 一瞬何を言われたのか理解できず、んーっと額に手を当てて考える。
 奇妙な質問内容に同じバカブルーの長瀬や、何故か桜咲までもそれは知らなかったと身を乗り出す。
 そこでピンと来た、何故そんな見当違いな質問が飛んできたのか。
 古は中国武術研究会で桜咲は剣道部、長瀬は散歩部最強の女、最後で気付いた。

「最強じゃない、最澄だ。てか、ここに書いてあるだろ。漢字が違う」
「じゃあ、強くはないアルか?」
「お前は強いか、強くないかの二択しかないんかい」

 教えてもまだ拘る古に突っ込みつつ、いやいやと考える。
 折角、古が興味を持ってくれたのに、強くないとだけ言って終わらせるのは勿体無い。
 それではじゃあいいと、興味を失ってそれっきりだ。

「昔は、今みたいに義務教育なんてないし、普通の農民なんて食うに困る時代。勉強する坊さんって上流階級とも言えてな。もちろん、いい所の出以外の坊さんは食う為に畑も耕したろうが」
「ふんふん」
「山に篭ったり厳しい修行もするから、武術の一つでもおさめてたかもな。気になったら、調べてみな。実は凄い達人かもしれんぞ」
「分かったアル。最澄、最澄」

 実際のところ、勉学に忙しくてそれはないかもしれんが。
 呟きながらノートをとる古に、空海も忘れんなよと加えておく。
 それから改めて、他に質問はと見渡すと、何か妙にうずうずしている綾瀬がいた。
 時計をチラチラと見上げ、あと授業は五分もないが。
 トイレでも我慢しているのだろうか、しかしさすがに直接聞くわけにはいかない。
 セクハラだと騒がしくなるのは、目に見えている。

「おーい、綾瀬どうした。何か言いたそうだが」
「ああ、先生気にしなくて良いよ。夕映は神社・仏閣マニアだから。最澄と空海について語りたいだけ。けど今から喋ると嫌いな授業が延びるからジレンマに陥ってるだけ」
「いえ、全くパルの言う通り。なんたるジレンマ、神社・仏閣の素晴らしさを広める好機でありながら、あと数分で授業が終わりとは。コレが授業の開始直後であれば、時間稼ぎも兼ねて切々と語るのですが」
「お前な、大昔の坊さんですら国を超えて勉学をしに行ったというのに……」

 どいつもコイツもと、心配になって他のバカレンジャーへと視線を向けてみる。
 バカレッドこと、神楽坂は幸せ一杯にハートを飛ばしていた。
 中間テストが近い事もあって、高畑が帰って来たからだろう。
 本人が学校にいるのに、普段通り先に朝会を始めてしまった時の、気まずさと言ったら。
 いいよいいよと許して貰えたが、ちょっと高畑の顔が引きつっていた。
 最近、副担任のむつきが当然のように仕切っていた為、なんで高畑先生がここにという視線を生徒から受けた事もある。
 神楽坂だけは逞しく、皆酷いとポイント稼ぎも兼ねて一生懸命擁護していたが。

「高畑先生、格好良かったなぁ」

 この野郎、おおっぴらに惚気やがってと思わざるを得ない。
 平日ではなかなか正面きって会いにすら、それこそ見つめる事すらできないというに。
 残り最後のバカレンジャー、佐々木はどうかと見てみれば。

「えっとサイキョーと、くーちゃんっと。アレ? なんでくーへが……まあ、いいや。会いたいみたいだし」
「佐々木ぃ……」

 何故そこに気付いたのに、まあいいやで済ませてしまうのか。
 折角古が興味を持ったのに、それが妙な形で影響が出てしまうのか。

「凄く不安になって来たから、次の授業で簡単な小テストするぞ」

 当たり前だが、突然のむつきの提案にえーっと抗議の大合唱である。
 その気持ちは良く分かる、むつきだって学生時代はそうだった。
 だが現在は立場が違う為、面倒だよなと気持ちは分かってやれても同意はしてやれない。

「煩いぞ、静かに。中間までに、何処が分からないか、覚えていないか教えてやるって言ってんだ。感謝して敬え、この野郎」

 成績トップの面々は特に無反応だが、そこそこの成績優秀者はうんうんと頷いてくれた。
 主に抗議の声を上げたのは、バカレンジャーを筆頭に、成績不振者だ。
 美砂とかろうじてアキラも残念ながらそこに加わっているが、反応はそれぞれ。
 にこにことむつきを眺めて微笑んでいる美砂と、頑張ろうと気合をいれているアキラ。
 前者は成績を全く気にしておらず、後者はむつきの教科だからとでも考えているのだろう。

「何時もすまんが、雪広と超、葉加瀬は聞かれたら教えてやってくれ。俺に聞いてくれても良いが、クラスメイトの方が聞きやすいだろう」
「了解ヨ、ここは最近開発した強制睡眠学習装置の出番ネ」
「凄いですよ、これは。夢という時間とは無縁の仮想世界で延々と勉強し続け、しかも最大の目玉は。一定成績を収めるまで目覚める事すらないのです!」
「それ、成績不振者がつけると永眠しかねないか?」

 頭は良くてもネジが飛んでる奴は論外だと、最後の砦にお願いする。

「雪広、本当に頼む……雪広?」

 珍しく頬杖をついたまま、雪広が遠い世界を見ていた。
 それも授業中にと目の前で手を振って意識を確かめても気付きやしない。
 雪広を他の面々同様に教科書で叩いたりもできず。
 困ったなと頬を掻いていると、皆からの視線でも感じたのかハッと雪広が我に返った。

「おーい、雪広。どうかしたか?」
「え、あっ……き、起立!」

 我に返って直ぐに、立ち上がって言ったが殆ど誰も付いてきていない。
 え、立つのと隣の席の者とささやき相談しあったり。
 間違いに気付いた雪広が、カッと頬を赤くしてうろたえていた。
 だがそれも短い時間の事で、自分で自分を落ち着かせてはコホンとかるく息をついて言った。

「申し訳ありません、少々手違いを」
「まーた、道端で会った美少年の事でも考えてたんじゃないの。このショタコン」

 からかいが飛んだのは神楽坂からであり、立ち上がった彼女は臨戦態勢だ。
 普段ならここで言い争いが勃発するはずだが、雪広は反応すらしていなかった。
 思ったような反応も得られず、神楽坂も構えをとくべきか迷っていた。
 少しの間を置いて、雪広が神楽坂へと振り返り、今度こそと身構える。

「アスナさん、授業中です。お座りなさい」
「あ、はい。ごめん……」

 オジコンと返す事もなく、拍子抜けして神楽坂が座った。

「雪広、俺が言いたかったのは皆に勉強を教えてやってくれって事だ。ん、以上」
「承りました。それでは改めて、起立」

 雪広がそう言うと同時にチャイムが鳴り、皆が立ち上がった。
 礼っときびきびとした号令で皆が頭を下げ、ご苦労さんとむつきも軽く下げた。
 それで途端に騒がしくなるのだが、休憩時間なので何も言うまい。
 それよりも気になったのは、雪広の様子、態度である。
 休憩時間が始まると、再び頬杖をついて遠くを見始めた。
 ある意味親密なのでどうしたと聞きたいが、他の生徒がいる場ではどうしても人目を引く。
 雪広を気にしながら廊下へと出て、少し急ぎ足でむつきは職員室へと向かった。








 自分のデスクにつくと、教科書を放り出し、スケジュールを確認してから携帯を手にする。
 次の三限目は空き時間なので、多少余裕があるなと新規メールを立ち上げた。
 送り先は色々な意味で特別親しい生徒数人である。
 嫁と恋人である美砂とアキラ。
 関係性が今一分からなくなったが相談役の毒舌長谷川に、最近親しくなった和泉だ。
 もちろんメールの内容は、雪広の態度であり、何か知らないかである。
 メールは続々と返信され、とりあえず順番にと美砂のから見ていく。

「ふーん、やっぱ皆も気になってるか」

 どうやら他のクラスメイトも気にしているようで、神楽坂などに聞いているようだ。
 少々プライベートだが、昔に亡くなった弟の命日は三月らしいが。
 その日に見せる表情にどこか似ているそうだ。

「喧嘩ばっかしてると思いきや、仲良いんだな。アイツら。喧嘩する程、仲がって感じか」
「ほほう、メールかね?」

 気を緩め、少し椅子にふんぞり返っていた為、背後からの声に慌てて座りなおした。
 それから隠す事はないのだが、無意識にメールを閉じてポケットにしまってしまう。
 余計怪しい俺と思いつつ、むつきは声を掛けてきた新田に振り返った。

「えっと、すみません。生徒とメールをしてました。少し、雪広の様子がおかしかったので何か知らないかと……」
「なるほど、だが咎めるつもりはない。時代が変われば、生徒への接し方も変わる。私はもっぱら、怒鳴り声と拳骨だがね。ふうむ、それにしても雪広君がかね?」
「ええ、そうなんです。珍しく授業中に呆けて、我に返ったはいいですが突然礼の為に起立の号令をしたり」
「いやあ、相変わらず彼女達のパワーが凄い凄い。疲れましたよ」

 新田と話していると、何時もの男臭い笑いを浮かべた高畑が授業から帰って来た。
 早速というべきか、職員室での人気ナンバーワンの巨乳教師であるしずながコーヒーを淹れて渡している。
 すみませんと当然のように高畑が受け取り、一部の男子職員がこの野郎と睨んでいた。
 むつきも以前、美砂と付き合う前は妬む側だったのだが。
 もっとも、今は若くて可愛い嫁と恋人がいるため、嫉妬なんてするわけがない。
 いやあ、お熱いことでと妻帯者側の先生方と同じような目線であった。
 丁度良いので今朝、ホームルームをした高畑にも聞いてみようか。
 むつきは直ぐにやってきた高畑にバトンタッチしたので、雪広の様子にまで気が回らなかったのだ。

「高畑先生、今日少し雪広の様子がおかしかったんですが。何か気付きませんでしたか?」
「ん、僕は何も気付かなかったけど。彼女達なら大丈夫、何か問題があっても皆で乗り越えていけるさ」

 口にした答えは確かに、ある一面では正しい。
 生徒を信頼し、遠くからそのやり方を見守り、危険な場合や助けを求められた時だけ手を差し伸べる。
 正しい意味での放任主義とはそういうものなのだろうが。
 ちらりと見上げた新田は、何も言わなかったが静かに怒りをたたえている事が分かった。
 学校にいる場合は知らないが、そもそも出張続きの高畑が生徒を見守れる場所にいないのだ。
 正直なところ、放任ではなく放置主義と言われてもおかしくはない。

(別に俺も人に自慢出来る程、立派な主義主張はないけど。て言うか、主義主張以前にアレだけど。無駄に新田先生を怒らせんな。隣で押し黙って、超怖いんですけど!)

 以前のむつきなら、仕事しろこの野郎と内心怒ったのだが。
 もうそう言う人だと諦めたし、自分の事でテンパって余裕がある高畑への嫉妬とも認められた。
 確かに学校に全然来ない意味不明な教師だが、一応は学園公認の出張だ。
 それに悔しいが自分の授業より、高畑の授業の方が分かり易いと長谷川や和泉にも言われた。
 それにそんな教師間で静かにくすぶる対立よりも、雪広の事である。

(肩入れし過ぎって長谷川怒るか。いや、校内の事だし。本当はいけないけど、あいつはちょっとだけ特別な生徒だし)

 美砂と付き合った直後、それとは無関係に教師として最初に認めてくれた子なのだ。
 それにひかげ荘や美砂、アキラといった秘密を知っている相手を心配して悪いわけがない。
 そう決断すると、怒り心頭で何処かへ行ってしまった新田を見送りながら仕舞った携帯を取り出した。
 メールの宛先を雪広にして、お昼休みに社会科資料室で話があると送った。

「乙姫先生ぇ」
「うわっ、びっくりした。瀬流彦先生、何を泣きそうに」

 再び、突然後ろから喋りかけられ、又しても携帯はポケットの中に。

「君に彼女が出来たっていうか、僕の車をデートに使ったよね。お詫びは貰ったけど。あつかましいのは重々承知だけど誰か紹介してくれない? 彼女の友達とか」

 瀬流彦の視線は、コーヒー片手に談笑する高畑としずなにあった。
 どうやら瀬流彦もかつてのむつきのように、嫉妬する側であるらしい。
 しかしながら、むつきの彼女の友達は女子中学生というか、生徒なのだが。
 一瞬、それで良いか聞いてみたくなったが、そんなバカな事で人生破滅したくない。

「一応聞いておきますが、期待しないでください」
「うん、社交辞令的返答をありがとう。はあ、虚しい。僕も彼女を助手席に乗せてどこかに出かけたいよ。出かけたいな、誰かさんみたいに」

 チラッチラと数秒おきに恨めしそうに振り返られた。

「この人は……」

 まかり間違っても口にはしないが、うざっと思ってしまった。
 男のむつきから見ても、顔の造形も悪くないし、ぶっちゃけ麻帆良の教師は高級取りだ。
 理由は良く分からないのだが、他の公立校に行った大学時代のダチに愚痴られた事もある。
 顔もそこそこ金もあって、車だって持ってると思った所で気付いた。

(ああ、この人どこか頼りない)

 自分の事を棚に上げて、それじゃねえのと思ったむつきであった。









 お昼休み、手早く業者のお弁当を詰め込むと、むつきは社会科資料室で待っていた。
 普段はカーテンが敷かれた窓から、校庭や芝生でお弁当や菓子パンを食べる生徒を眺めつつ。
 そのお弁当で気付いたが、親がいない寮で彼女達は自分で作っているのだろうか。
 先程食べた業者のお弁当の味気なさが思い出された。
 決して不味くはないのだが、商売第一の大量生産品である。
 つい先程食べたものがなんだったか、肉類以外は殆ど思い出せない。
 真実は不明だが、愛がないのである愛が。

「美砂の奴、エッチばっかりは嫌とか最初言ってたくせに。休日はいつもセックス三昧だからな。アキラはまだ分からんけど、弁当作ってくれないかな」

 一応職員室では彼女持ちで通っている為、それぐらいは問題あるまい。
 愛妻弁当ですかと、他の男性教諭に冷かされ妬まれてみたいとも思った。
 いや弁当でなくとも、一度手料理が食べたいと思い始める。
 後で頼んでみようと思っていると、背後が扉がノックされた。

「入ってまーす」
「失礼します」

 通じないだろうなと思ってそう返すと、やはり普通にそう返した雪広が扉を開けた。
 後ろ手で横着に締めず、ちゃんと振り返ってから扉を閉めるのがなんとも丁寧である。

「お話ということですが」
「まあ、長くなるかもしれんから座れ」

 用意しておいたパイプ椅子を勧め、その向かいのパイプ椅子にむつきが座った。
 何やら躊躇するように、考え込んでから雪広もやや大げさに椅子を引いて座る。

「話ってのは、お前の事だ。本当は、こういうことは担任の高畑先生の役目なんだが。何か、あったのか? 午前中での授業でも様子がおかしかったが」
「先生にまで気付かれてしまうとは、この雪広あやか。一生の不覚ですわ」
「おい、辛辣なのは長谷川だけで十分だ。誰でも気付く」

 この野郎と思っていると、それもそうですわねとしれっと言われた。
 本当に、丁寧さだけでなく、妙な強かさをも手に入れたらしい。
 主に、むつき達が乙女にはどぎつい、恋愛事情を生々しく見せてしまったからだが。
 一種自業自得のようなものであった。

「先生はご存知ですよね、アスナさんが私をどう呼ぶか」
「その言い回しは委員長ではなく、ショタコンの方か?」
「ええ、そちらの方です」

 以前までなら違いますとムキになるはずが、自分から言い出すとは。
 雪広の悩みがよく見えない。

「今でも愛らしい少年は好きですわ。道端で見かければ色々とお世話をして構ってあげたい。満面の笑みを私に見せて欲しいと」
「別にそれショタコンじゃないだろ。普通の女の子の母性だろ」
「いえ、以前なら家に連れ帰って一緒にお風呂に入ったり、添い寝したりと」
「ショタコンじゃねえか、しかも重度の」

 一応、危ない奴だなとこれまた自分を棚に上げて突っ込み気付く。
 雪広は以前ならと前置きを置いたのだ。
 以前の雪広は正直、その愛らしい少年の意向を無視してさえ、行動に移しかねなかった。
 だが今は、その愛らしい少年が笑ってくれさえすれば、時折笑いかけてくれればと言ったのだ。
 随分と趣旨変えをしたものである。

「良い事だと思うが、それでお前が悩む理由がわからんぞ」
「先生は私に昔弟がいた話をご存知ですか?」

 間接的に聞きかじってはいたが、首を横に振った。
 プライベートな情報を中途半端に知られていたというのも嫌だろうという配慮だ。

「以前の私は、亡くした弟の代替行為として愛らしい少年達に歪んだ愛情を向けていました。今にして思えば、かつての少年達にわびたくなる程に」
「そこまで言わんでも。別に実際襲ったわけじゃなく、頭を撫でたり可愛がった程度だろ?」

 幼少期に綺麗なお姉さんに可愛がられた思い出は、その子を化けさせる可能性さえある。
 一歩間違えると勘違い小僧になりかねないが、それでもだ。
 ちゃんと正しく、あんなお姉さんに相応しい男になりたいと恋に花を咲かせるのもいい。
 自分が小さな子供の時に、雪広に可愛がられたらそれはもう勘違いする。
 絶対にお姉ちゃんと結婚するんだと、多少見当違いな努力をする事だろう。
 経験者が言うのだから間違いない。
 体の弱い親戚の姉ちゃんを守るんだと、ジャッキー・チェンの映画は一杯見て真似もした。
 それで喧嘩も少しぐらいは。

「別にそれを思い悩む必要はないと思うぞ。特に男の子は単純だ。綺麗なお姉ちゃんに可愛がって貰ったやったぜって思ってるだけだ」
「いえ、それを思い悩んで……はいますが。もっと別に大きな悩みが」
「本筋じゃなかったんかい」
「いえ、関連性はあります。そもそも、この事に気付かされたのは先生達のおかげですから」

 切欠が自分と、達というのは美砂やアキラの事か。

「教師と生徒でありながら、結婚を前提として一目を忍んでさえ逢瀬を重ねる先生と柿崎さん。報われない恋ならいっそと、妾である事を自分から言い出した大河内さん」

 なんと相槌を打てば良いのか、むつきにははかりかねた。
 とりあえず、聞いてはいますよとアピールするように何度か頷いておく。

「本音を言えば、歪んだ関係だと思います。けれど、先生方は常に相手を思いやっています。自分のエゴだけでなく、相手を深く受け入れています。特に年上の男性に泣きつかれたら私なら引きます」

 雪広の批評に当たり前だが、むつきは凄く微妙な顔であった。

「では、私が少年達に向けていた愛は? 歪んだ愛情、エゴだとは気付きましたが。では私の本当の気持ち、恋はどこにあるのでしょうか?」
「好きな奴でも出来たってわけじゃないよな。迷走して、訳がわからなくなったと」
「それだけならまだマシです。以前少し漏らしましたが、雪広財閥の娘として社交界へと出席しなければならない義務があります。もちろん、殿方との出会いを含め」

 ここまで聞いて、ようやくだがむつきにも雪広の悩みが分かり始めた。
 アキラのおめでとうパーティをした時に、和泉が言っていた悩みの拡大版だ。
 以前の雪広であれば、どんな下衆な男が目の前にいても妄想で潜り抜けることが出来た。
 私には愛らしい少年があると、冷ややかな笑みと共にでもあしらえたのだろう。
 しかし、そんな男達が自分に向ける感情を、自分も少年達に向けていた。
 さらにそんな男達の中から本物を見つけなくてはならない事に気付いたが、その方法がわからないと。

「小説とかドラマでしか知らないが。そんなに上辺だけなのか?」
「上辺だけの男なら、流石に看破する自信があります。厄介なのは、世渡りに長けた人物です。一見して相手を見下しているのか尊敬しているのか分からない人物」
「そうか……」

 もはや理解の範疇を超えてしまい、それっきりむつきは何も言えなくなった。
 何か解決策でなくとも、助言ぐらいするべきなのだろうが。
 雪広の背負ったものが大き過ぎて、何がどう正しいのかすら分からない。
 気軽に自分の目を信じろとか、付き合ってみないと分からないとかは言えなかった。
 シンッと社会科資料室の中が静まり返り、窓の外の校庭や廊下から生徒がはしゃぐ声のみが聞こえている。
 何か、何かないかと必死に考えているうちに、雪広の方が行動に移した。

「さて、このお話はここで終わりと致しましょう」
「え、ちょっと待て。俺はまだ何も」
「解決策がおありで?」
「いや、そんな直ぐには……」

 両手をぱんと叩いて、努めて明るく雪広がそう終わりにと言った。
 策もないのに食い下がれば、問い返されやはり黙るしかない。

「ご心配なさらずに。これは雪広あやかが生涯を掛けて取り組む問題。それに長女がいますので、まだ幾分には気が楽ですわ。いま少しだけ、私は普通の女子中学生です」
「すまん、呼び出しておいてなんの力にもなれなかった」
「いえ、こちらも先生に思いを吐露して少しは楽になりました。相談とは、悩みを共有し共に考える事。決して解決策に辿りつけなくても良いのです。一人ではない、そう気付かされるだけでも」

 再度お気になさらずにと言われ、むつきも暗い気分になるのは止めた。
 きっとまだそんな直ぐの話ではない。
 雪広自身が言った通り、生涯をかけて解決していく問題である。
 また何時か、雪広が行き詰まった時にでも、どうしたと声をかければ良い。
 今度は自分だけでなく、美砂やアキラ、雪広に幸せになって欲しいと願う者と一緒に。

「どっちが教師だかわからん台詞だな」
「いえ、とても教師らしくありましたよ。人格は兎も角として、教師として先生は及第点だと思われますわ」
「及第点……まあ、頼りないと思われるより、は……んっ、人格?」

 人格と言った、人格と。
 人格って何さ、教師として及第点なのに人格が駄目ってどういう事だ。

「説明を要求する。人格は兎も角って、ちょっとひどくね?」
「あら、そうでしょうか。教師と生徒という事は一先ず置いておいても、未成年にふしだらな事をする人間は失格だと思われますが。法でも定められていますよ?」
「何一つ言い返せないが。お前や和泉、長谷川もか。良くある、教師に対する友達感覚というか。俺からは口にできないが、親しみのあるそういう間柄だと」
「友達というのはちょっと」

 軽く拳を握った手を口元に当て、苦笑いをされてしまった。

「いやいやいや、お前。アキラの祝勝会とか、あれだけ俺の金で飲み食いして。入りたい時に入りたいだけ露天風呂に入っておきながら」
「先生、ご自分の胸に手をあてて御覧なさい」

 言われた通り、当ててみる。

「未成年者略取」
「ぐふっ」

 雪広の感情の篭らない言葉が、深々と突き刺さった。

「未成年者誘拐」
「ちょっ」
「ご自分の管理建築物、ひかげ荘に生徒を招いてみだらな行為をしているのです。該当しないとは言い切れませんよ」
「待って、お願い待って」

 椅子からもずり落ち、ギブギブと床に膝をつきながら、懇願する。

「先生、忘れないで下さい。私が願っているのは、クラスメイトが笑顔であること。先生を訴えないのは、柿崎さんと大河内さんが幸せを感じているから。もし、お二人の笑顔を奪うような事があれば、お覚悟ください」
「絶対に不幸にはしない。絶対なんてこの世にはないけど、それでも絶対に。約束する。それに俺自身、あの二人だけは絶対に手放さない」
「よろしい。それでは、長々と失礼いたしました。相談にのって頂き、ありがとうございます。それと、ご友人と言う言葉は、考えておきます」

 雪広がもう一度失礼しましたと、社会科資料室の扉を開けて退室していいく。
 扉が閉められて直ぐに、むつきはへなへなと座り込んだ。
 大河内の件も含め、何も言ってこなかったので勝手に許された気になっていた。
 和泉だって内心ではどう考えているかは不明だ。
 長谷川は一応美砂の親友となったが、ひかげ荘の三階を使いたいというドライな関係。
 その長谷川がある意味で、一番心を許せるのではなかろうか。

「当然と言えば、当然だが。ショックだったな。一番最初に教師として認めてくれた雪広だけに……だからこそ、あの態度なのかな」

 ほげっと大切なものを落としてしまったかのように、むつきは天井を見上げていた。
 一緒にご飯を食べたり、着衣ありで露天風呂にさえ入ったのに。
 彼女のクラスメイトに手を出しておいて、好かれていると思う方が間違っていたのかもしれないが。
 なんだか何もやる気がしない。
 まだお昼休みは二十分を回ったところだが、午後の授業までに心は回復するだろうか。
 温かな日差しの中でリフレッシュの為に、一眠りでもした方が良さそうだ。
 座り込んでいた床から立ち上がり、お尻を払ってからパイプ椅子に座る。
 その数秒後に、再び社会科資料室の扉が廊下側から開かれた。

「先生、みっけ」

 ひょっこり顔を覗かせ、素早く入ってきたのは美砂だ。
 注意深く周囲を見渡しながら、その後ろからアキラも続いて扉を閉め、鍵を閉めた。

「委員長が教えてくれたんだ。先生が落ち込んでいるかもしれないからって」
「なにアイツ、ツンデレなの。もう、俺がどう思われてるか分からんくなってきた」
「先生を支えてるのは、世界一可愛いお嫁さんや彼女だけじゃないって事。私達、今度一度身体チェックを受けなさいって手配してくれてるし」
「ああ、アイツまさしく委員長だわ。クラスメイトの事を本当に考えてる」

 確かに二人共に体つきこそ大人顔負けだが、まだ十四の少女でもある。
 口では愛してる好きだと言っても、むつきはそこまで頭が回っていなかった。
 雪広はクラスメイトの美砂やアキラの事を、本当に大事に考えているのだろう。
 だが、ふとむつきは思った。
 雪広財閥の娘として、自由な恋愛を望めない反動でもあるのかと。
 あの雪広の心の内を同性ですらないむつきが、言い当てられるかは激しく疑問だが。
 とりあえず、好意には甘えようと美砂を膝の上に乗せた。

「先生、一杯慰めてあげる、それとも応援? アレで結構、委員長も先生に気を許してはいるんだから」
「そうか? ボロクソ、言われたけど。アキラはこっち」
「ひかげ荘での委員長、教室に生徒だけでいる時並みに生き生きしてる。もし本当に心底から先生を嫌ってたら、そんな顔さえ見せてくれないはず」

 隣にパイプ椅子を並べ、そこに座ったアキラの手を握る。
 慰められているだけか、本当の事かは良く分からないが。
 やはり先程思った通り、また行き詰った時には皆で相談にのってやろうと思えた。









-後書き-
ども、えなりんです。

今回はあやか回、と言っても恋愛感情なんてあるはずもなく。
むしろマイナスからのスタートです。
主人公もあやかが悩んでいた事までは気付きましたが、
友好な解決策・または助言が出来るわけでもなく。
ちょっと無力な感じでした。

あと前半の授業風景。
割と頑張って想像して見たのですが。
多分、あんな感じですよね。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第十八話 世界一可愛いお嫁さんを忘れんな!
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/18 23:37

第十八話 世界一可愛いお嫁さんを忘れんな!

 若い男女が密室にて密着していれば、後はもう自然の流れであった。
 例えそれが教師と生徒、それも生徒が複数であても。
 アキラと繋ぐ手とは逆、右手で膝の上にいる美砂の腰を抱き寄せる。
 意図を察した美砂が、嬉しそうに瞳を閉じてから唇を突き出した。
 もう本当に何度繰り返した行為か数えるのも馬鹿らしいが、お互い一向に飽きる事はない。
 そっと口付け合い、それがより濃いキスになるのに時間はかからなかった。
 顔を互いにクロスさせるようにしねぶるように吸い付いていく。

「ふわぁ」

 驚きの吐息を上げたのは、濃厚なキスを間近で見せられたアキラであった。
 経験者ではあるのだが、他人の行為を見る事なんて初めてなのだ。
 ドキドキとする心音を手から伝えるように、むつきの手をギュッと握り締めている。
 そして見られている側の美砂も、少しだけ気分が高揚するのが普段より早い。

「んはぁぅ。先生もっとぉ」
「美砂、飲んで」

 食い入るように見つめるアキラへ見せ付けるように、むつきがやや首を伸ばし上から覗き込むように。
 そのまま美砂の口内を犯すように唾液を垂らした。
 受ける側の美砂も、頬を紅潮させながらこくこくと喉を鳴らす。

「わっ、わわわ」

 互いというよりは、アキラの反応を楽しむように続ける。
 唇の距離を開けてわざと見えるようにして、舌を絡ませあう。
 最後には美砂の背中を手折ってしまうかのように強く抱きしめ、長く長く。
 唇が離れた時には互いに酸欠状態で、荒い息をつく唇の間に唾液の糸が見えた。
 美砂は濃厚なキスがご満悦であるようで、むつきの胸の中でごろごろと甘えている。
 女の子である美砂よりも体力のあるむつきは、その間にとアキラへ振り返った。

「アキラもおいで」
「うん、先生。お願いします」

 美砂にしたように今度は左手をアキラの腰に回し、抱き寄せる。
 その力には逆らわず、けれど美砂が胸の中にいるので手のやり場に困りつつむつきの肩に。
 ちゅっと可愛らしい音の後で、強引にそれこそ陵辱するように吸い付く。
 苦しげにアキラがむつきのスーツを握り、皺を寄せさせる。
 唇を完全に塞がれ、必死に呼吸しようとする鼻息がこそばいい。
 気がつけばアキラはむつきの舌を受け入れており、口内を嘗め尽くされた。
 舌の裏と表も、歯の一本一本、磨かれるように執拗にだ。
 ようやく唇が離れた時には、軽くイッた後のようにぽうっと瞳を潤ませていた。

「先生、アキラにまだあまり激しくしちゃだめだってば。先生の愛と性欲に溺れちゃう」
「そ、そうか? アキラ、大丈夫か? 激しい時は言ってくれ、なんとか優しくするから」
「ううん、激しいのもちょっと好きかな?」

 言わなければ良いのに、むつきを奮い立たせる一言を放ってしまっていた。
 息も整わぬうちに再び唇を塞がれ、むつきの腕だけではと自分でも反対側の肩に腕を回す。
 腰を基点に反り繰り返り、むつきへとしっかり抱きついた。

「先生の唇とられちゃったか。なら、仕方ない。うん、仕方ない」

 美砂が何事か呟きながら膝の上から降りて、むつきの正面にしゃがみ込んだ。
 スペースが空いたので、むつきもアキラを抱えなおし腕の中で締めるように抱きしめた。
 もちろん、唇は相変わらずアキラの口内を蹂躙しながら。
 むつきだけでなく、アキラの口からも唾液があふれ、唇の端から溢れ流れていった。
 激しい事でと笑った美砂は、むつきのベルトを外して目的のものを取り出した。
 アキラとの濃厚キスで半勃起状態のむつきの一物である。
 以前、フェラチオの後はキスしたくないと言われたが、今日はアキラがいるので問題ない。
 いただきますと、美砂は顔の前に垂れる髪を耳の後ろに流しつつ、大きな口を開けてまだ柔らかい一物を口に含んだ。

「んほっ」
「んぅーっ!」

 唇同士を溶接されたかのようにキスしていたむつきが、唸った
 一物をあまがみされ、手では袋を転がされ、一杯出してねと美砂に弄ばれる。
 ただ意地でも唇は放さないつもりらしく、アキラは大変苦しそうだ。

「アキラも、先生の唇と唾液で溺れられれば本望かな?」
「んっんぅっ!」

 助けてと伸ばされた手を美砂がひょいと交わし、フェラチオを続ける。
 ある程度膨らんできたら、口に含むばかりでなく、裏筋を丹念に舐めたり。
 他には半被りの皮を剥いてあげて、カリの部分を舌の先端でなぞったりもした。
 こういう時の為に色々と勉強してきたのだ。
 末端部を刺激する場合は、ちゃんと手で竿を擦り上げ先走り汁ですべりを良くもさせる。

「ぷはぁ、もう駄目だ。アキラの唇が美味しいし、美砂の舌が気持ち良いし」
「はぁ、はぁ……やっと解放され。潜水より、辛かった」
「じゃあ、もうしたくない?」

 意地の悪い美砂の言葉に、アキラは一瞬答えるのを躊躇した。
 もっとしたいと言えば、またむつきに窒息させられる程のキスをされかねない。
 かと言って、したくないなんて口が裂けても言いたくなかった。
 最終的に困った挙句にうーっと唸るのが精一杯である。

「悪い悪い、ほら優しいキス」
「んっ、こっちも好き」

 逃げ場を与えたのは、事の発端とも言えるむつきであった。
 触れる程度のキスを息も絶え絶えのアキラに与え、頭をぽんぽんと叩いて安心させる。

「もう一押しかな」

 一方美砂はむつきの一物の具合をふにふに指先で弾力を確かめる。
 まだ完全勃起とは言えず、あっちえふらふら、こっちへふらふらと忙しい。
 そのもう一押しの為に、むつきの腕の中で幸せそうなアキラをつんつんと突いた。

「あ、ごめん。すぐどくね」
「はぐらかさないの。ほら、ちゃんと履いて来たでしょ」
「やっぱり、するの?」

 気の進まなさそうなアキラを起こし、むつきの一歩手前に両隣で立った。
 これから何が始まるのか、突然置いてきぼりにされたむつきは眉を潜めている。
 そんなむつきの前で二人は、少しずつ制服のスカートをたくし上げ始めた。
 悲しい男の性で、露となっていく太ももを見つめてしまう。
 しかも二人の美少女が、同時にたくし上げてくれているのだ。。
 思わず身を乗り出し、食い入るように見つめてしまっても誰も責められない。

「じゃーん」
「くぅ……こんなの」

 楽しそうに美砂が見せたのは、あの赤い下着であった。
 既にその機能を知っている為、準備も万端。
 予め穴あきの部分を広げておき、蜜が珠となる秘所の谷間が見えていた。
 手を伸ばして指先でその甘露を簡単にすくえる距離だ。
 エッチな下着を楽しそうに見せ付ける美砂と対称的なのがアキラである。
 それもそのはず、美砂よりもよっぽど恥ずかしい下着であった。
 一応色は黒だが、もはや色なんて関係ない。
 腰を一周して下着の基点となる場所をつくり、そこから幾重の紐が秘所に向かっている。
 本当にそれだけ、秘所の谷間で紐が一つに束ねられ、股座を通って恐らく腰の背中にあつまっているのだろう。
 もしくは束ねたまま広がらず、Tバックのようになっているのか。
 どちらにせよ、もはやこれを下着と呼んでよいものかどうか。

「えっと、美砂のは前にもみたけどアキラさん。それ、買ったの?」
「先生、アキラだけさん付け」

 美砂に笑われ、どれだけ喜んでるのと苦笑いである。

「ううん、私が買ってアキラにあげた。さすがにこれ、恥ずかしいし」
「自分で恥ずかしいと思った下着をアキラに、悪魔か」
「ふぇ、先生もうスカート下ろしていい?」

 アキラは今にも涙が零れ落ちそうで、よっぽど恥ずかしいらしい。
 俯き加減の顔は真っ赤で、声もそれはもう小さく、震えていた。
 それはそうだろう、まともな精神じゃこんな下着つけるだけで恥ずかしいはずだ。
 だが履いているのはアキラであって、当たり前だがむつきでも、美砂でもなかった。
 恥ずかしいのはアキラ一人。
 紐が食い込んだ秘所の谷間や丸見えの陰毛など、見ている分には興奮してしょうがない。
 美砂の手のひらの上だなと思いつつも、悪魔にならざるを得なかった。

「そのまま見せてくれ。いや、こっちに来てもっと近くで見たい」
「そんな……」
「ほら、アキラ。先生がもっと見たいって。はやく、はやく」

 美砂に背中を押され、アキラが無理やりむつきの目の前に立たされた。
 もはや羞恥心は最高潮のようで、俯きがちにきつく瞳は閉じられている。
 スカートを持つ手も震えており、今にも下着への視界が閉ざされそうだ。
 けれどアキラは見せたくないものを必死にむつきへと見せていた。
 そのアキラへと悪魔の申し子が、さらなる囁きで背後からアキラを惑わせる。

「アキラ、先生が見てる」

 耳元に吐息を吹きかけるように、まさに悪魔の囁きである。
 キュッとアキラが身を縮こまらせるように小さくなった。

「食い入るように見てる。ほら、アキラも見て。先生のアレ、ガチガチになってる」
「ぅ、本当?」

 きつく閉じていた瞳を薄く開け、アキラはチラリと覗き見る。
 勃起以前に、スカートの中を食い入るように見ていたむつきがいた。
 見られている、大好きな人にこんなはしたない下着を履いているところを。
 ついに羞恥心は限界突破を果たし、ぶるぶるとアキラが体を不自然に震わせた。
 背後の悪魔がにやりと笑い、もう一人の悪魔がさらなる心の隙を見つけてしまった。
 その隙とは、捩じれ一本になった紐から滴る一滴の雫だ。

「アキラ、俺まだ何もしてないぞ。これ、なに?」

 雫を指先で掬い取ったむつきが、人指し指と親指の腹でにちゃにちゃとこねる。
 アキラの目の前でよく見えるように、ねばつく糸をつくりながら。
 視線がゆっくりそらされていっても、追いかけては見せ付けた。

「あ、愛液です」
「おかしいな、俺まだキスぐらいしかしてないけど。なんで?」
「それは、先生が……」
「私の大事な所を見るから。見られて感じちゃった?」

 途中で途切れた台詞を継ぐように、美砂が代わりにそう呟いた。
 アキラは唇を真一文字に引き締め、零れ落ちそうな涙を必死に絶えている。
 恥ずかしい下着を履かされ、まるで自分が淫乱かのように言葉責めされて。
 けれど見られて感じて、軽くイってしまったのもまた事実で。
 ついに耐え切れないように大粒の涙が零れ落ちそうな、その時であった。

「はい、羞恥プレイはここまで。良く頑張ったな、アキラ。よしよし、もう我慢しなくて良いぞ」
「先生、先生。恥ずか、恥ずかしかった。ばか、先生のばか」

 本当はもっとあの黒い紐を引っ張ったり、ソフトSMチックな事もしたかったが。
 苛めはしたいが泣かせる趣味などありはしない。

「ありゃ、ここでアキラがエッチに目覚める予定だったんだけど」
「なんの予定だ。罰として、お前後な」
「先生だって、のりのりだったじゃん。アキラを言葉責めして楽しそうだったし!」

 何故目覚めさせようとしたかは置いておいて、美砂にそう言いつける。
 不満そうにしながらも、ちゃんと美砂はコンドームをつけてくれた。
 最近、社会科資料室の使用率が高い為、厳重に隠してるのだ。
 むつきの股間に今一度しゃがみ込み、美砂がこそこそ着せてくれている間にアキラの空いてである。
 まだ腕の中でぽかぽか叩いて来ており、顎に手を掛け上を向かせ、唇を奪う事で止めさせた。
 現金なのはお互い様、甘いキス一つでアキラも大人しくなっていく。

「ほら、入れていいぞ」
「うん……先生、好きだよ」

 そのアキラを一度立たせると、むつきの膝を対面座位になるよう跨がせる。
 胸の割りに小さめのお尻を両手で支え、少しずつ座らせていく。
 真の意味で紐パンを指先でずらし、隠すに隠せなかった秘所の谷間に亀頭を添えた。
 ゆっくりとアキラが腰を沈め、膣の中にむつきの一物を収めていった。
 まだまだむつきの形が覚えられていないので、抵抗感が甚だしい。
 それでも着実にアキラはむつきの一物を飲み込み、お尻が足の付け根に着地した。
 一仕事を終えて、くてりとアキラがむつきの胸にもたれてくる。

「はぁぁ、深い。それに熱いよ、先生」
「良く頑張りました。アキラの中も狭くて熱い」

 力をなくしたアキラを抱きしめ、ポニーテールの頭を撫で付ける。
 背中に流れるポニーテールをつかみ、なんとなくあの匂いをかいだ。
 陶酔的な麻薬のような香り、アキラの香りを。

「先生、くすぐったい。あっ、笑うと余計深くに」
「大人しくしてなさい、良い子だから」
「だったら、耳に息をかけないで」

 イチャイチャとむつきが悪戯を仕掛ける度に、アキラがそれは駄目と叱る。
 それはそれで正しい恋人の姿だが、忘れてはならない。
 恋人ではあるが、二人だけではないのだ。

「あのぉ、世界一可愛いお嫁さんがほったらかしなんですけどぉ」
「わ、忘れてたわけじゃないぞ?」

 準備してあげたのにと、頬を膨らませている美砂である。
 ちょっとどもったその言葉は、半分は嘘だが。

「ただ三人でなんて俺も初めてで、ほら指でしてやるから機嫌直せ」

 多人数が慣れていない等という言葉は本当であり、ごめんと謝りつつ手招いた。
 少しむすっとしながら、最初にアキラが座っていた隣の椅子に美砂が座った。
 正妻と妾の位置が逆転しているが、まあしょうがない。
 むつきは椅子の上でとんとんっとリズムを刻んでアキラを突き上げながら、左手を伸ばした。
 隣のパイプ椅子に座る美砂のスカートの中に手を伸ばし、太ももの感触を楽しみながら奥を目指す。
 手に触れたレースの覆い生地は恐らくあの下着だ。
 直接確認はできないが、その生地の上をなぞっていくとやはり辿り着いた。
 四方を生地で囲まれながらも、ぽっかりと空いた肌に続く道。
 そこだとばかりに、左手の中指をむつきは埋もれさせていった。

「んっ、そういえば私。あまりこれ経験ない」
「じゃあ尚更、やってあげないとな」

 赤い下着の穴から秘所の割れ目を探し出し、さらに奥へ。
 指をうねらせ膣口を見つけると、まずは第一間接まで埋めて挿入を繰り返す。
 美砂はパイプ椅子の座席の後部に両手をつき、腰を浮かせていた。
 浅い挿入がもどかしいのか、もっと奥までと誘うようにいやらしく腰を振る。

「先生、こっちも」
「はいはい、よっと」
「ぁん」

 アキラにも強請られこれは忙しいと、混乱してしまいそうである。
 例えていうなら右手と左手を全く別の動きをさせるかのようだ
 どちらかに集中すると、もう片方の動きが止まってしまう。
 美砂とアキラ、二つの膣の違いを楽しむ余裕もない。
 一生懸命腰を振ってアキラを突き上げ、指先で美砂の膣を拡張する。

「先生、私……んっ、少し頑張る」

 そこで助け舟を出してくれたのは、アキラだった。
 むつきの両肩に手を置いて、自分から飛び跳ねては挿入を繰り返す。
 途中何度かずり落ちそうになり、腰が横に動くのがまたアクセントとなって良い。

「先生、指だけじゃ。フェラしちゃったけど、良いよね?」
「ああ、もうなんか良いや。美砂の唇をくれ」

 二本に増やされた指でも我慢できなかったらしく、美砂が椅子から立って近付いてくる。
 手の角度が無理だったので、一度入れなおしてもいた。
 上から落ちるように押し付けられた美砂の唇を思いっきり吸った。
 ギシギシと鳴るパイプ椅子、ぐちゅぐちゅと接合部が愛液で泡立つ音が聞こえる。
 乱れた喘ぎ声はアキラのものだ。
 ポニーテールを振り乱し、自分でむつきの上を飛び跳ねる。

「んぁ、好き。先生、大好き」
「美砂、もっとくれ」
「わ、私もちょっとだけ」

 指でされながら美砂が唇をつけていたが、アキラも混ざってきた。
 三人で舌を伸ばし唇を突き出しながら、誰が誰とキスしているのか分からない。
 美砂やアキラの膣口付近で愛液が立てる音に負けず、唾液を絡ませ吸い付いた音を立てる。
 この時になって、ようやくむつきも余裕が出てきた。
 いや、むしろなくなったのか。
 パイプ椅子が悲鳴を上げる程に、腰を突き上げアキラを打ち上げる。

「んぁ、はっ……ぁっ」
「アキラ、もう少し。もう直ぐだ」
「うんぅ、いいよ。先生が好きな時に」
「先生、こっち」

 イク事をアキラに告げていると、美砂に無理やり首を向けさせられた。
 アキラにした濃厚窒息キスを、今度は美砂からされる。
 腰を使いながら、運動しながらなので酸素の消費が激しい。
 苦しくて呼吸をしたいが口はぴったり美砂が押さえつけている。
 鼻息で美砂の頬を叩きつつ、その時は訪れむつきは無理やり美砂をはがした。

「はっ、ぐ。出た、アキラ。出たぞ」
「ぁっ、分かる、分かるよ先生。コンドーム、私の中で大きくぅっ!」

 アキラへと抱きつき、制服の上からその胸に顔を埋めながら射精する。
 何度も何度も、コンドームが破れて精子が溢れるのではと不安になるぐらい。
 しばらく二人でイッた余韻に苦しみ喘ぎつつ、抱き合い続けた。
 むつきは極自然にアキラを撫でつけ、当人もそっとむつきの胸板に頬を寄せる。
 互いにイッた後の気だるいが甘い時間を過ごし、やがて見合ってはキスをした。

「ふぅ……アキラ、動けるか?」
「ちょっと、無理かも。椅子に、そこに座らせて先生」

 腰がぬけたようで膝の上のアキラを、挿入したまま抱き上げた。
 駅弁スタイルでより膣を抉り、またアキラが小さく震える。
 そして言われた通りに隣のパイプ椅子に座らせ、ずるりと一物を抜いていく。
 膨らまされた風船のようにコンドームは精液を溜め込んでいた。
 口を縛って漏れないようにすると、それをアキラの目の前で見せつける。

「ほら、アキラへの愛の証」
「うん、私で興奮して出してくれたんだよね。嬉しい、かな?」
「アキラ」
「先生」

 情事の余韻冷めやらぬ中で、ちゅっちゅと可愛いキスを繰り返す。

「だーかーらー、世界一可愛いお嫁さんを忘れんな!」
「痛ぇっ!」

 目の前でイチャつかれ、普段の自分を棚にあげて美砂がむつきの尻を殴った。
 気がついてみれば、美砂は床の上に女の子座りで座っていた。
 お前なにやってんのという言葉を寸前で飲み込めたのは、ファインプレイだろう。
 何をしているのかもなにも、むつきが吸い付く美砂を引き剥がしたのだ。
 指で弄られ足腰が震えていたので、座り込むしかなかった。

「悪い、謝るから。機嫌直してくれよ」
「いやだ、甘々なのしてくれなきゃいやだ」
「あっ、するのは前提なんだ」

 初夜はまだしも、また独り占めしてと美砂がアキラを睨む。

「ほら、喧嘩はNG。よっこいせ」
「乙女を抱き上げるのによっこいせとか言うな」
「わぁ、美砂って羽根みたいに軽い」
「当たり前でしょ。全然、褒め言葉じゃない」

 美砂の両脇に手をさしこみ抱き上げ、多少本人にも手伝って貰って膝の上に座らせた。
 まだまだ酷使されるパイプ椅子の上で、背面座位の体位で座る。
 少々わざとらしかった言葉で、世界一可愛いお嫁さんはご機嫌斜めのままだ。
 これは言葉だけでは足りないかと、アキラに視線を送る。
 疲れてる所悪いけど、手伝ってくれと。
 それから美砂の髪を鼻先でかきわけ、首過ぎにちゅっとキスして頼む。

「機嫌直してくれ」
「もっと、もっとしてくれなきゃいや」

 ならと、長い髪に隠れたうなじなら見つからないとキスマークをつける。
 白かったうなじが全体的に赤味を帯びて見えるぐらいにまで。

「先生、二人同時にちゃんと可愛がる方法を勉強しておいて」
「普通に考えるとありえん言葉だが。分かったよ。アキラ、悪いけどコンドーム付けてくれ。美砂を抱きしめてて手が届かない」
「分かった。けど……」

 首筋はもうキスをし尽くしたので、振り返った美砂の頬に口付ける。
 今の良い、凄く良いと言われ反対側にも。
 更に耳をあまがみしては、性交の穴かとばかりに耳の奥まで舌を伸ばす。

「あはは、くすぐったい。先生、それくすぐったい」
「だから、暴れるなって。アキラ?」
「えっと、ごめんなさい。上手く付けられない」

 やけに時間がかかると思って見れば、アキラは精液で汚れた一物を握ったままであった。
 一応、コンドームは袋から取り出していたが、どうつければ良いのか迷っていたのだ。
 初夜の時につけ方は見せてあげたが、覚えられなかったらしい。
 その間ずっと一物は握られており、次第に元気を取り戻したから怪我の功名だが。
 ただ今は美砂を抱えるのに手一杯で、笑っている美砂に教えてあげてと頼む。

「本当は生の方が気持ち良いんだけど。こうやって、邪魔なコンドームを」
「おい、なんつう怖ろしい教育をかます。アキラ、信じるなよ」
「えっ?」
「驚くな、違うのって小首を傾げるな。今週の土日はコンドーム教室だこの野郎」

 言葉とは裏腹に、付け方はまともだったが、お仕置きとばかりにきつく抱きしめる。
 痛い痛いと美砂は笑っていたので、効果のほどは知れないが。
 美砂の膝下に手をさし込み、蟹股以上の格好で持ち上げた。
 目の前に座っていたアキラが咄嗟に目をそらしたのは、見てしまったからだろう。
 美砂のお尻を包む赤い下着、そこに空いた穴から見えた割れ目を。
 何しろむつきが弄りまくったので縦筋が筋ではなく、やや開いて中が見えたのだ。

「アキラ、俺のものを垂直に立てて」
「う、うん。こう?」
「殆ど見えないから、手の感触で感じるしかないけど。多分そう」

 アキラが打ち立てた肉の杭へと、美砂を降ろしていく。

「んぅ」

 つぷりと先端の亀頭が秘所を割り込み、膣口へと添えられた。

「アキラ、意地悪の仕返しチャンスだぞ」
「え、なに?」

 突然のむつきの言葉にうろたえたのは、美砂であった。
 ただでさえ間抜けな格好なのに、その股座にアキラが座り込んでいるのだ。
 それにあっと気付いて、暴れようとするが、むつきにがっちり押さえ込まれている。
 何しろ、小さな子が親におしっこをさせる格好なのだ。
 普段なら絶対こんな格好は嫌だが、油断していた。
 予め、甘々なセックスを要求しただけに、これも甘々の一環だと思ったのがいけなかった。

「変態鬼畜教師の言う事なんかきかないで」
「アキラ、いまどうなってる? 美砂の大事なところがどうなってるか、俺に教えてくれ」
「あぅ……あの、濡れてる」

 簡潔な、見たままの感想でもあったが、美砂がカッと頬を赤らめた。
 元々興奮していたが、そうではなくて羞恥の赤さだ。

「それで?」
「それでって、あの。先生のアレの先端が、出たり入ったり」
「んーッ!」
「あっ、愛液がどんどん出てきた」

 素直なだけなのか、それとも狙っているのか。
 見たままをアキラがどんどん説明し、美砂の顔はもう真っ赤だ。
 最近セックスに慣れだし、なかなかお目にかかれない顔に興奮する。
 これはアキラを羞恥責めした罰だと、自分に言い聞かせながら促がす。
 一番アキラを苛めたのが自分のくせに。

「アキラ、説明は的確に正しい言葉で。テストでもそうだろう。美砂の大事なところはおまんこ。俺のはおちんちん、先端は亀頭だ。ほら、もう一度」
「お願い、甘々なのがいいの。甘々セックスがしたいのに」
「柿崎、可愛い」

 どうやら美砂の懇願が、アキラの閉まっていた扉を開いたらしい。
 これまでのように戸惑いながらではなく、嬉々として説明を始めた。

「柿崎のおまんこ、先生の亀頭が出たり入ったりして愛液がどんどん溢れてくる。おかげで穴あきのエッチな下着が染みて色が濃くなってる」
「いいぞ、その調子だ。ほら、状況が変わるぞ」
「ぁっ、ぁっはぁぅ」

 抱え上げていた美砂を降ろし、膣の奥に滑り込ませていく。
 アキラが説明したとおり、潤滑油である愛液は十分で、ぬるぬる入っていった。
 一ヶ月の差は大きく、美砂がそれだけむつきの形を覚えているとも言えた。

「凄い、先生の太いおちんちんをなんていうんだろう。一口で、柿崎のおまんこが一口で飲み込んじゃった。ここまで入るんだ。お腹、凄い奥までぽっこりしてる」
「んんっ!」

 アキラがここまでと膨れたお腹に触れると美砂がイッた。
 言葉責めだけで、まさかアキラが触れるとは思わなかったのだろう。
 思わぬ不意打ち、それに外から中を刺激されたのもある。
 これにはむつきもうっかりいきかけた。
 美砂の中からアキラの指先の動きを感じるなど、卑猥すぎる。

「ほら、美砂。こっちむいて。ここからは甘々セックスだ。ただし、アキラも一緒にな」
「甘々、ん。先生、キス」

 振り返るようにして伸ばしてきた美砂の唇を吸ってやる。
 抱え上げていた足も下ろさせ、両手は美砂の腰にそえて軽く上下させた。
 もちろん腰も使って打ち上げるが、あくまでこれも軽く。
 激しくしないのには理由があった。
 美砂とキスをしながら、いいなと見上げてきていたアキラに目配せする。
 ふわふわと上下するたびにたなびく美砂のスカートをつまみ持ち上げ、ここだと。
 むつきと美砂が結合した部分をアキラに見せ、後は瞳で語った。

「わかった」

 どうにか通じたようで、アキラが美砂のスカートの中に頭を突っ込んだ。

「えっ、アキ」
「美砂はこっち」

 驚き振り返ろうとした美砂の顔を固定し、キスを続ける。
 激しく突き上げなかったのはこの為、アキラに結合部を舐めさせる為だ。
 ちろちろと、アキラが竿の付け根を舐めてくれた。
 時々その感触がなくなったりするのは、美砂の方も舐めているからだろう。
 快楽の声を上げたそうな美砂の口はむつきが完全に塞いでいる。
 喉の奥で何かを叫んでいるが、二人共お構いなしだ。
 その美砂が突然暴れるように痙攣し、足もピンと伸ばして震えた。
 むつきでさえ突然の事に驚き、思わず唇を放してしまった。

「美砂? おい、しっかりしろ」
「らめ……あひら」

 完全にとろけた瞳と言葉で、意志の疎通が殆ど出来ない。
 ただ辛うじて聞き取れたのはアキラという名前だけ。
 それで十分だったかもしれない。
 見下ろしてみれば、アキラがこそこそと美砂のスカートの更に奥に隠れようとしていた。
 なんとか手を伸ばして、ポニーテールを引っ張り引きずり出す。

「先生痛い、痛い」
「頭隠して尻尾隠さず。怒らないから、何をした?」
「えっと、皮を被ったお豆さんみたいなのがあって。先生のは剥けてるし、剥いた方が良いのかなって」
「そりゃ、クリトリスだ。この野郎」

 知らなかったとは言え、限度があるだろうとお仕置きを言い渡す。

「パイプ椅子をそっちに持っていって、後は見てなさい」
「ごめんなさい」

 しゅんとしたのは可哀想だが、慰めるのは後回し。
 ぺちぺちと美砂の頬を叩いても反応は薄く、これならいっそと体位を変える。
 背面座位から対面座位に、美砂の足を巻けたり体をそらさせたり、苦労しながら。
 挿入したままなので膣内の肉壁が多少ねじれたのか。
 奇妙な感覚に美砂が気付けられて、意識を取り戻していった。

「なんか、凄いのが来た。先生、私またお漏らししてない?」
「アキラがうっかりクリトリスいじってな。もっと慣れてからのつもりだったんだが」
「凄すぎて、もう一回って言えない。アキラ、今度してあげる。本当凄いから」
「い、いい。大丈夫、先生とキスしてる方が好きだから」

 さすがに自分のせいとはいえ、美砂の感じ方に恐怖を感じたらしい。
 パイプ椅子ごと後ずさり、断りをいれてきた。

「じゃあ、今度こそ甘々のセックスだ。嘘偽りはなし」
「ごめん、先生。全然力はいらないから、シェフのお任せで」
「だったら美砂の踊り食いがお勧めだ」

 言うや否やむつきが美砂の唇に吸い付いた。
 といってもコレまでのように激しくはない。
 本当にかるくねぶるように吸い付いては、ついばむようにもキスする。
 それから美砂のお尻に手を添えて、持ち上げては落とす。
 クリトリスへの刺激のせいか、子宮口が降りてきていたようだ。
 コツンとぶつかり、ぶるりと美砂が震えた。
 あまり強くなり過ぎないように、石臼をひくように腰を掴んでまわす。

「美砂、好きだ。凄くお前を孕ませたい」
「うん、なんどこのやり取りしても飽きない。いいよ、孕んであげる」

 その一言でむつきの一物が一度射精しているとは思えない程に硬くなった。
 第二射は弾丸の補填も十分で、何時でも発射ができる。
 だがこの甘い時間を直ぐには失いたくないと、必死に我慢していた。

「孕んでって言ってから、凄く締め付けてくるぞ」
「嘘じゃないから。先生の事が大好きだから」

 社会科資料室で二人きりのように、周りが全く見えないまま愛し合う。
 だがこの場にはもう一人いるのだ。
 むつきを好きになった女の子がもう一人 今度は忘れたわけではなかったのだが。

「先生、ごめんなさい。謝るから、一人にしないで。手を放さないで。どんな事でもするから、どんな事でも」

 最初は二人の行為を見て自分で慰めるだけだったが、耐え切れなくなったらしい。
 二人が愛し合うパイプ椅子の正面で、そのどんな事を見せる。
 足を下品なぐらいに開いてスカートをたくし上げ、紐パンの紐を引っ張った。
 先程愛してもらったばかりの秘所の谷間で紐を引っ張り割れ目を見せ付けた。

「いいよ、そこまでしなくて。一緒にしよ、アキラ。先生も、ね? 反省してるみたいだし」
「まあ、お前がそう言うなら。アキラ、おいで。キス、しようか」
「ごめんなさい、先生。柿崎も」
「ほら、泣かない。先に私とちゅう」

 驚いた事に美砂がアキラにキスをねだり、美少女同士のキスが展開された。
 ねっとりと歳若い少女達がいやらしく唇を合わせ舌を絡めあう。

「そのまま、凄く良い」
「女の子同士のキスで先生また大きく。本当に変態なんだから」
「私達もだよ、たぶん。柿崎、もっと」

 我慢できるわけないだろうと、甘々セックスを早々に止めてしまった。
 目の前で行なわれる倒錯的な光景を前に、燃え上がるままに突き上げる。
 そのせいでかなり二人はキスがしにくそうだが。
 触れたり離れたり、必死にキスしようともがく光景がたまらない。

「美砂、イクぞ。美砂の中に」
「いいよ、先生。私が子宮で孕んでぅ、んっ。そのままアキラに、口移し」
「うん、私が口から先生の赤ちゃん孕んであげる」

 もはや快楽の前に理屈など消し飛んだ世迷いごとを口にし始めている。
 だがそれで二人同時に孕ませられるならと、むつきは思い切り吐き出した。
 美砂からアキラまで、二人にまで精液が十分に届きうるようにと。

「きた、きたよ。先生の精液。アキラ、私から吸い取って!」
「うん、貰うね。先生の精液」

 コンドームの中に全てを吐き出したむつきは、パイプ椅子にぐったりともたれかかった。
 その目の前では精液のやり取りをするように美砂とアキラがキスしていた。
 ちょっとばかり嫉妬してしまう程に、二人仲良くだ。
 それも時間が経つにつれ興奮がさめ我に返り、照れくさそうに離れていった。
 そして恥ずかしかったとばかりに、二人同時にむつきに抱きついた。

「凄く可愛かった。可愛かったぞ、お前ら」
「なんだろこれ、凄く恥ずかしい。ベッドがあったら、絶対ごろごろしてる」
「そうだね、なんだかごろごろしたい」

 その気持ちは、今一共有できなかったが。
 胸板に額をぐりぐりしてくる美砂を少し離し、両脇に手を差し込んで持ち上げる。
 滴る愛液と共に萎えた一物と、それに被さるコンドームが出てきた。
 それを外して口を縛り、もう一滴も出ないとぐったり椅子にもたれる。
 パイプ椅子なので体が痛いがそれでももたれたい程に疲れ果てた。

「二人一度はやっぱきつい。漢方薬か何か飲もうかな」
「超さんとか、何か持ってそうな気がする」
「でも説明できないって。彼氏が元気になる漢方頂戴ってさすがに私でも言えない」

 だよねと見合わせた美砂とアキラが、何か思いついたようにむつきを見上げた。

「先生ならエッチしてもおかしくない年齢だし、頼んでみる?」
「お前、あの完璧超人に何が悲しくてセクハラせないかんのだ。社会的に抹殺されたらどうする。精々、コンビ二とかの赤マムシだろ」

 馬鹿言ってんじゃないと、二人の可愛いお尻を軽く抓る。
 痛いと訴え甘えるように二人が抱きついてくるが、ここは学校でお昼休みだ。
 そういえば今何時と時計を見上げてみれば、十三時五分とお昼の授業が既に始まっていた。
 何時チャイムがなったのか、全然気がつかなかった。
 まさかと議論する暇も惜しい。

「お前ら、さっさとその卑猥なパンツ履き変えて授業行け。俺も急がねえと」
「アキラ急いで、私の制服変に乱れてない?」
「私も、たぶん大丈夫。行こう」
「待て待て、そのたぷたぷしたコンドーム置いてけ。教室に何を持っていこうとしてる。大事件じゃねえか!」

 このアホどもと、精液に満ちたコンドームを取り上げ、むつきは二人を蹴り出すように追い出した。









-後書き-
ども、えなりんです。

主人公、初の3Pにたじたじの巻き。
普通に考えて、そう言う状況を妄想はしても経験ないですしね。
複数人では、美砂達と同様にお勉強中です。
あと、ちょっと美砂達をもてあまし気味。
二人一辺に満足させる程、精力あるわけでもなく。
その辺はこれから改善していきます。

それでは次回は水曜です。



[36639] 第十九話 別に。怖くねーシィ?
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 21:02
第十九話 別に。怖くねーシィ?

 今この状況は果たして喜ぶべき状況なのか、それとも悲しむべき状況なのだろうか。
 先日二年A組に対して宣言した社会科の小テストが終わったのが昨日の金曜日。
 結果はそれなりに期待していたのだが、惨敗。
 十点満点で平均が三点だったのである。
 採点中から薄々感づいてはいたのだが、結果を知った時には職員室のデスクをひっくり返そうかと思った。
 もちろんそんな腕力はないが、憤りにも似た感情がそれぐらいあったのだ。
 案の定と言うべきか、古菲は天台宗と書くところでなにか武術っぽい流派を羅列するし、空海と答えを書くところで佐々木は古の呼び名のくーへと書くし。
 まだ空欄で出すか、禁止されても宗教とか仏教、または兎に角有名な人名で埋めて貰った方がマシである。
 昨日はそのままやけ酒を飲み、ひかげ荘に来た美砂とアキラに慰めて貰った。
 といっても、性的な意味ではない。
 俺教師としての才能ないかもと美砂の膝に縋って泣いたのだ。
 ちなみにアキラには、指差して大爆笑した長谷川を追い出して貰っていた。
 雪広と和泉は、またやってると冷たい視線だけを置いて露天風呂に直行だ。
 嫁と彼女以外、家主への敬意がこれっぽっちもありゃしない。
 そして今、むつきは湖の中央にある巨大な施設へとやって来ていた。

「これが図書館島か、でっけぇ」

 慰めて貰ってそれで終わりでは進歩がないので、貴重な土曜に勉学に励みにきたのだ。
 美砂やアキラとイチャイチャしたいのも我慢して。
 それがまず悲しむべき状況。
 瀬流彦からまた借りた自動車を職員用駐車場に止めて、見上げていた。
 真っ白な壁と赤い屋根の麻帆良らしい異国の情緒溢れる建物であった。
 たぶん誰かに聞けば、何々調のうんたらと建築様式がわかる事だろう。
 遠くには何故か塔まで見え、むつきは車で来たが、学生は基本的には定期船を利用する。
 湖の真ん中にあるため、橋こそあるが自転車ではかなりのガッツがいるのだ。
 今まで麻帆良女子中の図書館は利用した事があったが、こっちは初めてだ。

「しっかり勉強して、腹空かして。モリモリ食べるぞ!」

 やや目的からずれた発言をして、玄関口を目指して看板を見ながら歩く。
 別に食べるといっても、図書館島は名物ジュースはあっても食べ物はない。
 むつきが持っているのは風呂敷に包まれたお弁当。
 美砂とアキラが、頑張ってと朝も早くから作ってくれた一品だ。
 どうも酒に酔って泣いた時に、お弁当食べたいとか言ったらしい。
 それが、唯一の喜ぶべき状況だ。
 ほんの少しだけ足取り軽く進み、玄関口からサービスカウンターに向かう。
 外で見たより天井も高く、兎に角蔵書が多くてキョロキョロしてしまった。
 瀬流彦から預かった専用カードがなければ、見たい本の一つも見つからなかったかもしれない。
 そう、わざわざ図書館島に来たのは、瀬流彦がはかどりますよとカード、あと車も貸してくれたからだ。

「すみません、このカードを見せれば教師用のスペースに行けるって聞いたんですけど」
「はい、間違いありません。所属とお名前をどうぞ」
「麻帆良女子中の二年A組の副担任、乙姫むつきですけど」
「は?」

 聞かれた事を答えたら、何を言ってんのという意味不明な返答をされた。
 三角形の鋭角的な眼鏡をした知的美女、纏め上げた黒髪がちょっと塔みたいになっている。
 美人司書に眉を潜め聞き返され、こっちが怒られたように感じてしまう。
 だが直ぐに何かに気付いたように、その美人司書が改めて問いかけてきた。

「失礼ですが、このカードは何方から?」
「同じ麻帆良女子中の担当クラスはなし、瀬流彦先生から使ってと渡されたんですけど。これ個人所有らしいですけど、なんで僕支給されてないんですかね。来た事がないから?」

 単純に疑問に思って聞いてみたのだが。

「そうですか、そうですか。あのクソ糸目、ぶっ殺すぞ」
「え?」
「失礼」

 美女司書から聞いてはいけない言葉が一瞬飛び出したが、気にしない方が身のためだ。
 当人も失言と感じたのか、一言謝罪して軽くコホンとあらぶった声を整えた。  

「ではこちらのカードをどうぞ。新規に作成いたしましたので、あちらのエレベーターから四階にどうぞ」
「あれ、十五階って聞いて」
「四階にどうぞ」

 改めて、反論すんなこの野郎とばかりに、強く微笑まれそれ以上何も言えなかった
 カードだけ受け取って、そそくさと去るのが吉である、きっと恐らく。
 あの発言もさっさと記憶の中から除去しておこう。
 そして瀬流彦も性格はきつそうだが、美人の知り合いいるじゃんぐらいと思っておこう。
 下心ありありでまた車を貸してくれたが、女の子の紹介はいらないだろう。
 そそくさというか、こそこそとサービスカウンターを離れ、あちらと言われた方向に歩いていく。

「あー、珍しい人発見や」

 そんな折、やべ見つかったと肩を竦めたくなる言葉に呼び止められた。

「せんせぇー、こんな所でどうしたん?」
「木乃香さん、声大きいです。あ、あの……おは、おはようございましゅ」
「近衛、声でかいってよ。それと宮崎、落ち着け。別にとって食やしねえよ」

 すみませんと蚊の鳴くような声で返されたが。
 五メートル程離れているので小さな声が本当に遠い。
 おかげで近衛への注意も全く届いていない。

「普段会わへん先生に会って、てんしょん上がってもうた。私らは図書館探検部の活動やけど、先生はお休みなのにスーツやん?」
「図書館に来るなんて本を読むか勉強だけだろ。ちょいと落ち込む事があってな、色々と取り戻す為に勉強しに来た。こうして生徒に会う可能性もあったしスーツなの」
「先生になっても、勉強は続くんですね」
「まあ、人間だからな。て言うか、宮崎。電話で話すか? 聞き取るのが大変なんだが」

 五メートルも離れていると、宮崎が独り言を言っているようで周囲の目を引いている。
 むつきが声をかけているので、何であの距離でと思われる程度だが。
 一部微笑まし気というか、頑張れと眼差しを送るのは図書館探検部の先輩等だろうか。

「図書館探検部って確か他に」

 まだ他にいたと思いだす前に、それは現れた。

「甘い、甘酸っぱい濃厚なラヴ臭。意外、それは手作り弁当!」
「俺の宝物に怪しい台詞と共に近付くんじゃねえ、早乙女。この乙姫、容赦せん!」
「おっ、本当に意外と先生そっちもいける? それはまた別の日に問い詰めるとして、先生それ彼女の手作りでしょ。私のラヴ臭センサーが壊れそうな濃度だよ」

 離れろと早乙女の顔面を掴んで遠ざけているうちに、近衛と宮崎の気を引いてしまった。

「彼女がおるって噂、本当やったんか。手作り弁当で休日にお勉強か。彼女さんも作りがいがあるえ」
「お、応援しますぅ」
「応援されるまでもなく、ラヴラヴだこの野郎。休日はいつもしっぽり楽しんどるわ」

 ついうっかり、ひかげ荘でのノリを出したのが間違いだった。
 忘れてはならないが、彼女達は基本的には純粋無垢な乙女達なのだ。
 宮崎の距離が十五メートルともはや壁際に移動し、近衛も三メートル程離れた。

「あーあ、やっちゃった。また五メートルに戻すのに三ヶ月はかかるんじゃない?」
「早乙女がむしろ距離を縮めている件について」
「あっはは、あんなのジャブにもなんない。先生も知って見る? ようこそ、腐女子の世界へって感じで。私の最近のお勧めのカップリングは」
「止めろ、聞きたくない!」

 眼鏡を上げての早乙女の台詞に、正直怖気が走る。
 どこぞの偽博徒のような無駄な足掻きを秘めた声が出てしまった。
 一先ず、早乙女はなんとしてでも遠ざけつつ。
 風邪はアキラの愛で治ったはずだと、流れ出る嫌な汗をハンカチで拭う。

「宮崎、怖がらせた俺の台詞じゃないが。もう少し頑張ろうな。お前その位置、教室だと隣の部屋になっちまうぞ。あと近衛は、その後ろ手に持ったトンカチ仕舞おうな」
「正当防衛やから、理論武装もばっちりや」
「学園長の孫になんかするって、首がいくつあっても足りねえよ。俺はそろそろ行くから、お前らあんま危険な場所に近付くなよ。だから、お前は俺の宝物に近付くな!」
「いいじゃん、ちょっとぐらい見せてよ先生。白いご飯にハートマークとか? それともノリを刻んでスキとか。もー、ラヴ臭がたまらん!」

 もの凄くイラッとして拳骨の一発でもと思ったが、自重して振り払い逃げ出した。
 先程の美女司書の視線が痛かった事もある。
 あと数秒騒いでいたら、Mっ気のある人物にはたまらん知的眼鏡美女の叱責が飛んだ事だろう。
 セックス中にはSっ気があるむつきには、全く下半身が反応しない仕打ちだが。
 いや、表面的にはSなのだが、責められると実はどMというシチュに燃えなくはない。
 そこまで考え、俺はここに何しに来たんだと妄想は追い払う。

「全く、早乙女の奴は本当に」

 ブツブツ言いながらエレベーターの前で、階下へ降りる為のボタンを押して待つ。
 まあ、先程のやりとりも、肩から力を抜く為のコミュニケーションだとでも思っておく。
 扉の上部にある移動階が分かるランプを目で追っているとチーンと音が鳴った。
 開いたエレベーターに入って四階のボタンを押して、扉を閉める。
 四階とは地下なのだが、五階までしかなく瀬流彦の言う十五階とはなんだったのか。
 カードや車を貸しておいて十五階とか小さい嘘を、嫉妬か。
 可愛い彼女がいる自分への嫉妬かと、広い心でゆうゆうと許してしまおう。
 もちろん、月曜には美人の知り合いがいるじゃないですかと女の子の紹介を断ってやる。
 決してからかわれたのが悔しいからじゃないと、つらつら考えボタンを押した。
 そして動き出したエレベーターの中で突然、何者かの声があがった。

「ほほう、四階ですか。これは好都合、私達中等部は三階までしか許可が下りませんから」
「どうわっ!」

 誰もいなかったはずの室内からの突然の声に思わず変な悲鳴がでた。
 幽霊でも現れたかのリアクション後、恐る恐る振り向いてみればいたのは小さな女の子。
 心臓が口から飛び出る程に人を驚かせたのは、綾瀬である。
 ジャングル探検隊のような格好とリュックの装備で、むつきの脇から覗き込むように階層のボタンを見ていた。
 確かに二年A組の図書館探検部は四人で、先程三人にまで会った。
 だがそれでも、上で会わなかったから、綾瀬がここにいるでは辻褄が合わない。

「綾瀬、お前一体何時からどうやって」
「先生が職員用のエレベーターを使っているのを見て、こっそり背後から」
「お前なあ、来たいなら素直にそう言え。無駄にびびらせんな」

 まだドキドキする心臓を押さえながら言うと、これは意外という視線を向けられた。

「帰れとは言わないんですか?」
「俺は図書館島は初めてなんだよ。ここ結構広いみたいだし、慣れた奴がいた方が本も探し易いだろう。ただ、先にお前の目的を言え。教師フロアに生徒を入れるのは少し問題だし。それ次第では帰らせる」
「まだ見ぬ、ジュースの探索です。この図書館島には、摩訶不思議な飲料が売っていますので。丁度、一本持ってますが飲んでみますか?」

 手渡されたのは買ってから時間が経っているのか、温くなっていた。
 それだけならまだしも、名前が男汁だ。
 誰が飲むかと、叩きつけようとしたら飛びつかれて止められた。
 ジュースは奪い返され、こんなに美味しいのにと綾瀬が飲み始める。
 男汁を小さな少女が飲む、人によっては欲情ものだが、生憎むつきは普通の嗜好だ。
 めでたく五月に十四歳となり、当時は十三歳だった女の子に手は出したが。
 外見上は殆ど大人と代わらないのでと、そこだけはなんとか自己弁護。

「お前よくそんな気持ち悪い名前のジュース飲めるな」
「名前は名前、味は味。問題ありません」
「割り切ってるのね。でも限度ってもんがあるだろ」

 これ言っていいのかなとちょっと迷ったが、驚かされた仕返しだ。

「男汁ってようは男の汗か精液だぞ」
「ぶふぉっ!」

 ほらみろと真実を伝えたら噴き出してむせた綾瀬を、勝ち誇ったように見下ろした。

「純粋無垢な乙女に、なんという暴言を。この濃厚男汁に謝ってください!」
「そっちかよ。純粋無垢ってさ、宮崎とか近衛はわかるけど。お前とか早乙女ってなんか違うだろ」
「パルと同列とはこれまたなんたる暴言」
「おい、早乙女の親友。まあ、いいや。ジュースぐらい何本でも奢ってやるから。ちょっと本を探すのを手伝ってくれ。なんか、想像してたより広くて大きいんだここ」

 男汁で汚れた口元をハンカチで拭いつつ、交渉成立ですと言ってきた。
 特に交渉したつもりもないが、手伝ってくれるのなら問題ない。
 そんな無駄なやりとりをしつつ、ようやくエレベーターは四階に着いた。
 ただ場所が問題だった。
 エレベーターを出て直ぐに出迎えたのは、轟々と風が蠢く音が聞こえる絶壁。
 足元は本棚でできた一本道が奥へと続き、落下防止柵もなければ手すりもない。
 本棚の縁から恐る恐る絶壁を覗けば、広がっているのは風が渦巻く闇のみだ。
 試しにその辺にあった小石を落としてみると、何時まで経っても着地音がなく、視界からそのまま消えていった。

「ではまいりましょう」
「待て、待て待て。聞いてない、危ない。なにこれ、作った奴頭おかしいんじゃないの!」

 早速と歩き出した綾瀬の肩を掴んで止める。

「何をこの程度。これしきの絶壁、スキップしながら渡れなければ図書館探検部など勤まりませんよ」

 当たり前の様に呟いた直後、綾瀬が何かに気付いたようにフッと笑った。

「もしかして、怖いんですか?」
「カッチーン、別に。怖くねーシィ?」

 語尾が激しく変な音で上昇したので、更に半眼でフッと笑われた。
 多分、男汁の件で噴き出させられた事への小さな反撃なのだろう、本人が小さいだけに。
 なんと腹の立つ冷笑であろうか。
 本来ならこんな危険な場所から綾瀬を帰らせるべきだが、あの冷笑が心に火をつけた。
 綾瀬が先生助けてくださいという状況になるまで、帰らせない。
 後で後悔する事になっても知るかと、むつきは先を歩く綾瀬の後を追った。
 ずんずん歩いて先を歩かない所が、いかにも小心者である。
 それから目的のフロアに、二時間かけてまだ着けないとは思わなかった。
 絶壁の次はロッククライミング、しかも降りた先が湖であったのだ。
 水深こそ膝までだが、またさらに水の中を十数分も歩かされ革靴の中に水が入って重い。
 ジャングル探検隊のような綾瀬の格好が正しかった事を知った時には、全てがボロボロであった。
 スーツは埃だらけで、糸が解れて穴が空いた場所まである。
 膝下も水で濡れ、革靴などまだ歩く度に中に入った水がじゃぶじゃぶ溢れてきていた。
 現在は、途中に見つけた休憩所のベンチにて小休憩中であった。

「瀬流彦、あいつ俺もぶっ殺す。ニコやかにとんでもないもん渡しやがって。せめて先に説明しろよ。午前中に本を探して、昼から勉強のつもりがもう昼じゃねえか!」
「私は未知のジュースがたらふく、しかも無料で飲めて結構ですが。ああ、このマヨネーズ林檎グラッセの甘酸っぱさと言ったら」
「しかも綾瀬のジュースが……小さな紙パックで三百円とか、観光地かよ。樋口さんが一枚吹き飛んだぞ、この野郎」

 激しい道中で宝物である手作り弁当を死守できた事だけは、救いであった。
 これさえ失った時には、きっと瀬流彦を惨殺死体に変えていた事だろう。
 膝の上に風呂敷を広げてみると、真っ白なご飯の上にはノリで頑張っての文字がカタカナでつくられていた。
 もの凄く心に染みて、涙で前が良く見えなくなった。
 おかずも卵焼きは当然として、から揚げにマッシュポテト、カボチャの煮物と定番の品々だ。
 だがそれが良い、そういうのが食べたかったのだ。
 涙を拭いていただきますと手を合わせると、ぐーっと腹の虫が鳴った。
 待ち望んでいたむつきではなく、少々気まずそうにしている綾瀬のである。
 同じベンチの隣の彼女を見てみれば、遠い眼をしながら相変わらずジュースを飲んでいた。
 いや、何時の間にかマヨネーズ林檎グラッセから、飲めるラー油トンコツ味に代わっていたが。

「お前、飯食わねえの? ほら、十二時過ぎてる。ダイエット中か?」
「必要に見えますか、失敬な。ないものをどう食べろと?」
「何言ってんの、お前」
「だから、ないのです。食べるものが」

 言葉の意味を理解するのに時間が掛かったが、とりあえず弁当を遠ざける。
 綾瀬が決して届かない、はるか頭上へと。

「明らかに恋人の手作りのお弁当をねだるほど、非常識ではありませんよ。既に十分奢って貰ってますし。ジュースでお腹が膨れます」
「その厳重装備のリュックにカロリーメイトすらないのか?」
「本来なら、装備を補充して午後に潜る予定でしたから。しかしながら、職員用エレベーターの前に先生を見つけたチャンスを前に躊躇はありませんでした。自業自得です。お気になさらずどうぞ」
「ならいいけど。じゃあ、改めていただきます」

 お昼はお弁当だが、夜はお前らを食べちゃうぞと意気揚々とお箸を伸ばした時、再びぐーっと綾瀬のお腹が鳴った。
 しばし互いに無言であったが、何かを諦めたようにむつきは箸をおいた。

「あのさあ、コントじゃねえんだけど。食わせろよ、弁当。初めて作って貰ったんだよ。さらに初手料理とダブルビンゴなんだよ!」
「しつこいですね。ですから」

 今度はぐーだけでなく、ぐるぐるとお腹が緩くなりそうな音さえ聞こえた。
 明らかに水分の取りすぎであり、これ以上飲ませると危なそうだ。
 帰ったら謝ろうと決心し、せめて頑張ってのノリを片側に寄せる。
 それからご飯からおかずに至るまで全て、半分だけ食べて綾瀬の横に置いた。

「食え、この後におよんで断ると俺も怒るぞ。俺の彼女の飯が食えねえのかって」
「そこまで言われては、申し訳ありませんが頂きます」

 ちゃんと謝罪ができるだけ、まだマシか。
 これが早乙女ならいやーごめんねと、笑って済ませかねない。
 本当に世話のかかる生徒が多いと思っていると、綾瀬がまず箸だけを手に取った。
 そしてハンカチを取り出すと、箸の先端を拭き始める。

「分かるけど、そうしたくなるのは分かるけど。女の子だもんね、潔癖だもんね。想像以上だよ、まだ何も気にせず笑いながら食う早乙女の方がマシだよ!」
「失礼は重々承知ですが、さすがに間接キスとなると躊躇が……」
「たく、ちょっとトイレで頭冷やしてくる。ちゃんと片して、包んどけよ」
「申し訳ない」

 再度の謝罪に、大人気なかったかなと反省しつつトイレへ向かう。
 少々時間を空ける為に、個室で二人にメールを送った。
 大変美味しゅうございましたと。
 それから未だ目的地に付けない事も添え、帰りは遅くなるかもとも。
 美砂からは露天風呂で体を磨いて待ってるとキスマークが、アキラからは頑張って作ったから先生も頑張ってと。
 返信内容から、微妙にアキラのみ頑張った感じを受けるのだが。
 他にメールがないか確認すると、長谷川からであったが良い予感はしない。
 先生の事を面白おかしくブログにアップしたら、超ウケたとあった。
 思わず携帯を投げ捨てかけたが、お弁当により胸に灯った愛で耐えた。
 他には雪広からひかげ荘の特にぼろい部分のリフォーム相談、和泉の格好良い男の子がいないという愚痴だった。
 前者は爺さんに相談してみると返し、後者には理想が高すぎると返しておいた。
 そうこうしているうちに十五分は過ぎたろうか。
 食が細い女の子でも、一人黙々と食べれば終わっているだろうと個室を立った。

「おーい、綾瀬。食い終わったか?」

 トイレに行く前と変わらず、ベンチの上にいた綾瀬に後ろから声をかける。
 すると突然の事で驚いたのか、ビクリと震えた綾瀬が風呂敷包みを落とした
 大切なものをとばかりに、あたふたと拾っていたが中身は既に空だ。
 さすがに空箱を落とされて怒るほど、心は狭くないつもりである。

「あー、気にすんな綾瀬。それとさっきは言い過ぎた。早速、目的のフロアに行くぞ。トイレはちゃんと行ったか? この先、どこに休憩地点があるかわからないし。お前随分と水分とってたろ。行っとけよ」
「ら、大丈夫です。先を急ぎましょう」

 噛んだ頬をパチンと叩いて、綾瀬が先を歩き始めた。
 なにやら、酷く動揺しているような。
 そんなに彼女の弁当を半分奪ってしまった事を気にしているのか。

「綾瀬、本当に気にするな。結局、弁当は半分は食べたんだし。美味かったって送ったら、ちゃんと頑張ってとか、帰りを待ってるとか可愛い返事が帰って来たよ」
「そうですか、それを聞いて安心しました」

 先を歩いていた綾瀬が振り返り答えたものの、何か口元が引きつっていた。
 もはや、様子がおかしいと怪しむレベルではなく、確実に何かがおかしい。
 トイレに行く前と、帰って来た後で何が違う。
 空腹が満腹になった事がまずあげられたが、それが何かおかしいだろうか。
 綾瀬の体は小さいので半分とはいえ男の弁当の量が多かったとか。
 ただそれで腹が下ったり、動けないのなら、もう少し休憩所にいればよかっただけだ。
 綾瀬は先を急ぐように歩いており、引き離されないように足を速めると綾瀬もまた離れていく。
 まるでむつきから逃げるようにも見えた。
 確かに綾瀬を叱るような事を言ってしまったが、謝罪したし聞いて安心したとも。
 ならば他にと、一番最初に違和感を感じた時点にまで遡った。
 声をかけた時に体を震わせ、弁当箱を落とし、やけに慌てて拾っていた。

「弁当箱」

 ビクンと綾瀬が体を震わせ、歩くのを止める。
 やはりかと、風呂敷の包みを解いてみると、名刺サイズの紙片が二枚零れ落ちてきた。
 最初は気づかなかったが、それを裏返してみるとメッセージカードであった。
 一つは美砂から、もう一つはアキラからである。
 要約すると二人共に日頃の感謝と、好きになって良かったという意味を込めたメッセージだ。
 もはや考えるまでもない、メッセージカードを読まずに弁当箱を渡し、綾瀬が気付いた。
 差出人には、美砂とアキラという名前がしっかり書かれている。
 苗字がないが、二枚のメッセージカードの差出人は、彼女も知る生徒の名前である。
 それに美砂は兎も角、アキラとカタカナで書かれる女の子の名前は珍しい。
 確信にはまだ至ってなさそうだが、時間の問題だろう。

「とんだサプライズだよ、この野郎」

 このメッセージカードが綾瀬の興味を引いたかは別にして、危険分子である事に代わりはない。
 危険分子の対処は、排除か取り込むかだが。
 生徒を排除なんてできるはずもなく、結局は取り込んでしまうしかない。
 誠心誠意、関係を説明して、土下座してでも内密にと。









 結論から言えば、綾瀬は内密にする事を約束してくれた。
 というより、綾瀬自身せざるを得ない心境に追い込まれたのだ。
 綾瀬を連れてひかげ荘に帰った時、当たり前だが大騒ぎになった。
 管理人室に皆を集め、事情を説明するとまずアキラがぼろぼろと泣き始めた。
 むつきが抱きしめて慰めても、一向に泣き止む気配はなかった。

「ごめ……ごめんなさい。私が、メッセージカード入れようって」
「もう、いいから。綾瀬も秘密にするって約束してくれたし。大丈夫だって」
「アキラは私が満足に手伝えなくて、それで気遣ってメッセージカードって提案しただけ。どちらかというと、私のせいだから」

 泣き崩れるアキラをむつきが抱きとめ、後ろから美砂も抱きしめ背中をぽんぽんと叩く。
 教師と生徒の恋愛、それも二股なのだが、この光景を見せられては言葉を噤むしかない。

「改めて確認ですが、先生は柿崎さんとアキラさんと付き合っていて。他の方は? 全員が全員、ひかげ荘に囲われた愛人ではないと?」
「当たり前だ。誰がこの豆腐メンタルに体ひらくか。私はどちらかというと、先生の天敵だ。ジャッジメント、裁定者」
「そうなると私は、最終的な断罪者でしょうか。お二方が不幸を感じた場合には、容赦なく先生を訴え潰します」
「二人とも酷い、そんな事を考えてたんだ。でも、私もそんなに先生の事は好きじゃないかな。二股はするし、下ネタ言うし。おかげでまともな目線で男の子を見れなくなったし」

 順に長谷川、雪広、和泉の言葉を聞いて、綾瀬が眉根をひそめた。
 このクラスメイトと副担任の先生の関係が理解出来ない。
 ひかげ荘という秘密の場所を共有しながら、友人や恋人よりも敵が多い。
 しかも内部で堂々と私は敵ですと潜みもしない敵だ。
 ただ、その敵は先生のあそこが駄目、ここが駄目と良い笑顔で笑いながら喋っている。
 あげつらっていると言うよりは、影のない笑い話に興じているかのように。

「味方よりも、敵が多いハーレムとは意味不明過ぎます」

 哲学研究会の一人として弁論で理論的な発言をするだけに、不条理な関係が分からなかった。

「お前ら、俺がアキラを慰めるのに忙しいからって好き勝手言いやがって、この野郎」
「怒るなよ、先生。大河内もそろそろ泣き止めよ、先生困ってるぞ」
「まだ、無理……うぅ、先生」
「それに、今回は誰も悪くないと私は思う」

 まだしゃくり上げているアキラを慰めるように、長谷川が言った。

「メッセージカード、注意深く弁当箱の下に隠したんだろ? 差出人も名前だけで苗字はなし」
「うん、ひっく……間違って、先生以外に見られたら大変だから」
「でだ、肝心の先生が見逃したわけだが、別に悪くない。どうせ、弁当を作って貰えた事に舞い上がってたんだろうけど。それでも隠されたサプライズのメッセージカードだ」
「飯に頑張ってってメッセージが既にあったしな」

 まさかメッセージが二つもあったとは、思いもしなかった。
 これでメッセージカードが、弁当の上にあれば別だが、それだと誰かに見つかり易い。
 第三者がなんだこれと冷かしただけでも終わりだ。

「綾瀬も、ジュース目的で先生について行ったわけだが。多少強引だったが先生が引率を了承してるし、弁当も先生から食えって差し出されたんだ」
「ごり押しはしたつもりですが、ルールを侵したつもりはありません」
「最後に、綾瀬を連れて来た先生の判断は正しいと思う。こいつ、絶対先生の彼女が誰か調べたぞ。それだけなら良いが、図書館探検部の面々に相談してみろ。特に早乙女。事実の確認もせず、そうに違いないって噂広めてたぞ」
「実際そうだったわけですが。パルの親友として、それは保障します。絶対、そうしてます」

 嫌な保障もあったものだが、親友が言うからにはそうなのだろう。
 例えここに綾瀬がいなくとも、満場一致でそうすると言われたろうが。

「まあ、誰も悪くないってのは逆に言えば皆が少しずつ悪かったって事なんだけどな」
「第三者に見られる可能性のあったメッセージカード」

 最後に大番狂わせで全員が悪いと言い出した長谷川の言葉を聞いて、美砂が呟いた。

「俺は弁当があったのに、黙って着いてきた綾瀬の同行を軽々しく許したこと」
「私は、他人のメッセージカードを迂闊にも読んでしまったこと」
「確かに、皆さん少しずつ悪いですわね」
「これ、もう良いんやないかな。犯人探ししなくても」

 綾瀬までも自分の悪かった点を挙げ、雪広や和泉も言葉は違うが意見は同じだった。
 皆が少しずつ悪く、けれど大事にはならなかったのでとりあえず問題ないと。

「隠し事なんて何時かばれるもんだけど、これを期に先生だけでなく私や委員長、和泉。今回加わった綾瀬も気をつけようぜ」
「私や」
「うちも?」

 綾瀬は視線を向けただけだが、雪広や和泉は私もと尋ね返していた。

「ひかげ荘ってさ、乙姫先生が管理してるだけあってまさしく竜宮城なんだよ」

 長谷川の言葉に、最初は誰しもが首を傾げていた。

「外界から隔絶された、本来の自分でいられる場所。先生達は言うまでもなく、教師と生徒と言う立場を隠さなきゃいけないけど、ここなら何しても良い」
「実際、してらっしゃいますわね。週末に遊びに来るたびにギシギシと」
「もうちょっと節度は持って欲しいやんか。先生がデレてるとイラッとするし」
「なんと言われようと構わん。俺は絶対美砂やアキラと幸せになる」

 両腕に二人を抱きかかえ、そうむつきが豪語していた。
 全員、それが成就するよう助力はするつもりだが、イラッとするのは仕方がない。

「でも本来の自分って、長谷川達ってなんかあった?」
「お前が言うか、柿崎。表向きは地味な生徒だが、裏ではコスプレネットアイドル。だけどここではそのどちらでもない。衣装作成が趣味の口の悪い女子中学生だ」
「それが長谷川の見つけた本当の自分か。だから最近、お前テンション振り切れてたのか。てか口が悪いと思うなら自重しろ、俺はナイーブなんだよ」
「知ってるけど、止めらんね。先生、絶対Mの素質あるって。先生が相手なら、一日中でも悪口を言い続けられる自信がある」

 止めてお願いと、むつきが耳を塞ぐように美砂に抱きつき、アキラに頭を撫でられる。

「雪広財閥は、麻帆良都市全体に多額な出資をしています。この麻帆良にいる限り、私は財閥令嬢の立場をとらされます。例え学校でも。もちろんクラスメイトの皆さんは好きですが。このひかげ荘だけは、雪広財閥とは無縁です」
「成績優秀、容姿端麗の委員長でもそういうのあるや。私はなんやろ、やっぱ背中の傷かな。けど最近、気にならなくなってきた。むしろありがたい? これ、良い男の人を見分ける道具にもなるし。傷を見ても、私を手放さない人。それが多分、私の理想」
「よく分かりました。皆さんは、先生と仲間とか絆とかで結ばれているわけではなく、このひかげ荘が好き。それが共通の認識なんですね。ならば、改めて私も秘密を共有する事を誓いましょう。本当の自分とやらをここで見つけるつもりはありませんが」

 綾瀬が思う本当の自分は、一年生の頃に見つけ済みだからだ。
 同じ二年A組、同じ図書館探検部、宮崎のどかの隣にいる自分の事である。
 そんな綾瀬の誓いに、先程までぼろぼろ泣いていたアキラが一番ほっとしていた。
 ここに来る理由は各自それぞれだが、このひかげ荘が好き。
 色々と問題を起こすむつきの事もあるが、ここが好きだからもう少し付き合ってやろう。
 むつき本人としては微妙な関係だが、訴えられるよりはマシである。
 だからこんなにこの場に惹かれるのかと、皆もしんみりしていたのは数秒の事だ。

「よし、なら気持ちも新たに先生の奢りで寿司の出前でもとるか」
「待て、こら長谷川。お前らちょっと前にたらふく焼肉食わせたろ。何をまたたかろうとしてんだ。雪広、お前……お前、えっと」
「なにか?」

 先程、財閥とは無関係と言った雪広に今ここで財閥の娘だろなどとは言えない。
 雪広はにっこり笑っているが、言ったら殺すと微笑みで殺しに掛かってきている。

「なんでもねえよ、畜生。分かったよ、寿司だな。特上でもなんでも頼んでやるよ。くそ、今から美砂との結婚資金溜めようとしてたのに。計画倒れだよ、この野郎」
「先生、私グアムが良い。外国でパーッと、クラスメイト全員連れて」
「俺の話聞いてたの、世界一可愛い嫁は。計画倒れ、できるかそんなもん」
「甲斐性ねえな、先生。柿崎、安心しろお前のウェディングドレスぐらい私が作ってやるよ。エロエロ初夜仕様も込みで」

 口の悪い女子中学生が、男もいるのに下ネタを含み言い始めた。

「本当、長谷川。ならいっそひかげ荘でやっちゃう? 皆の前で、先生が私に入刀とか」
「俺の世界一可愛い嫁が下ネタに目覚めた件について。訴えるぞ長谷川」
「あの先生……私も、ウェディングドレス着たい。チャペルとかまでは望まないから。二人だけで静かに」
「俺にはまだ天使が残ってた。婚姻届と結婚式は別だからな、普通に教会でやれば良い」

 下ネタで盛り上がる美砂と長谷川を放置し、健気な事を言い出したアキラを抱きしめる。
 この子だけが唯一の癒しとばかりにだ。
 もう皆に見られてもいいから、このまま押し倒そうとして背筋が凍った。
 雪広が耳に当てている携帯の向こうへ喋りかけた言葉に。

「はい、最特上の寿司を七人前でおいくらに。時価? 全く問題ありません」
「凄い委員長、最特上って初めて聞いた。どんな凄いお寿司やろ」
「金箔を乗せた寿司が一つは絶対にあるです。委員長、わさび醤油ジュースとかないか聞いて貰っても?」
「何してんのお前ら、最特上なんて俺も初めて聞いたよ!」

 携帯を取り上げたむつきが、電話の向こうにペコペコ謝りながらキャンセルでと頼んでいる。
 その動きは油の切れたロボットのようにギシギシとぎこちない。
 よほど、背筋が凍るような気分を味わったようだ。
 雪広を含め、むつきの天敵と証した長谷川達がブーイングすると睨んでくる程に。
 だからむつきは、精一杯の抗議として百円寿司に電話し、普通のお寿司のサビ抜きを頼んでやった。
 クソガキ、お子様と最大限の皮肉を込めて。









-後書き-
ども、えなりんです。

今回も後半以外は凄く普通のお話でした。
あとネギまなのに十九話にして、少しだけ魔法でました。
ニアミスですけどw
幻の十五階に何があったかと言えば、魔法先生用の学習スペースです。
この一冊で貴方も立派な先生に的な本があるところ。
瀬流彦、女の子紹介してもらおうとちょい必死すぎ。
速攻バレた瀬流彦の運命は、少し後の話で出てきます。

今回のように、主人公は魔法にはニアミスはしてもかかわりません。
魔法関係者が隠す感じですかね。
瀬流彦は……うん、別にばらすつもりはなかったんですけどね。
凄く勉強になった → ありがとう、瀬流彦先生 → 女の子紹介します
と狙ってただけなので。
瀬流彦ェ……

と言うわけで、次回は土曜日。
エロパート、千雨達ハーレム外の四人のメイン回です。



[36639] 第二十話 頭が沸いてるとしか思えませんです!
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/23 20:26

第二十話 頭が沸いてるとしか思えませんです!

 ひかげ荘のとある一室、そこには色彩豊かな衣装を纏った少女達がいた。
 へそだしミニスカのセーラー服らしきものを着て、狐耳を頭につけたのが長谷川である。
 濃い目のピンク色のナース服が和泉で、白を基調としたフリルがふんだんな西洋ドレスが雪広。
 最後は黒いローブと三角帽子を被った綾瀬であった。
 四人は一つのテーブルを囲んで、紙の上にシャープペンシルを走らせていた。
 その速度は個々によって違い、一番早いのは雪広で、遅いのが綾瀬だ。
 むしろ綾瀬は何故こんな事をと、動きはかなり鈍い。

「この程度、この雪広あやかにかかれば……自己採点終了、十点満点ですわ」
「漢字の間違いと年号のミスで五点や。まあまあかな?」
「歴史ってさ、何があったかと順番が重要で詳しい年号まで覚える必要あるか? 三点、綾瀬に期待だな」

 四人が行っていたのは、金曜に行なわれた社会科の小テストの自己採点だ。
 むつきから未記入のテスト用紙だけを貰い、今一度この場で行なったといいうわけである。

「長谷川さん、舐めないで頂きたいです。歴史、こと宗教に関して私に隙はありません。宗教と無関係な場所で減点されましたが六点です」
「おいおい、マジか。バカブラックがいて最下位とか、普通に落ち込むわ」

 ふふんと勝ち誇る綾瀬に対し、長谷川はコタツテーブルについた肘でかくりと落ちた頭を支えていた。
 やがて仕方ないなと立ち上がり、襖を開けて何処かへと行ってしまう。
 最下位であったので、食堂までお茶を淹れにいき、茶菓子をとりにいったのだ。
 長谷川を行ってらっしゃいと雪広と和泉が見送る。
 その後で改めて、綾瀬がこの小テストの意味を尋ねた。

「何故、休日にまで勉学を。この格好は……先程の長谷川さんの言葉から推察するに、彼女が作成した衣装なのでしょうが。少々、偏りはありますが」
「彼女の独創的なドレス、私は好きですよ。今度、社交界に着ていって周囲の評判を聞いてくる約束をしています。今日は、サイズあわせ等、試作品の試着です」
「長谷川、本当に衣装作るの好きやもんね。時々、何時間も三階に篭って、降りてきた時にいたのって聞いちゃったことあるし」
「好きこそものの上手なれ。時間を忘れ打ち込める趣味があるという事は、羨ましい事です。馬術も華道も、嫌いではありませんが。財閥令嬢として当然という意識ですし」

 雪広はお嬢様っぽいと他人から良く言われるが、少し気にしているのかもしれない。

「おーい、茶が入ったぞ。綾瀬は来たばかりだから、普通に来客用な」
「どうもです。飲めるのであれば器にはこだわりません」

 湯気がふわふわと出てくる湯のみをうけとり、あちちと言いながらコタツテーブルに置く。
 他の面々も専用の湯のみを貰い、長谷川は低位置に座ってから茶菓子を中央に置いた。
 茶菓子といっても、特別なものではなく、普通のスナック菓子だ。
 既に口が開いており中身も少ないので、以前食べきれず残しておいたものだろう。
 では一つ拝借と皆が手を伸ばす中で、思い出したように綾瀬が言った。

「あっ、衣装の件はお聞きしましたが。先程の小テストの意味は?」
「ああ、説明してなかったっけ。金曜の夜さ、先生が全員の小テスト採点したらしいんだが」
「まだ未発表なので平均点は聞いていませんが、惨敗とだけ」
「先生、俺教師の才能ないかもって酔って泣いて。珍しくセックスなしで、慰められてたんよ。それで、少しぐらい中間は平均上げようかって。どうしたん、夕映」

 主に和泉がセックスと口にしたところで、綾瀬がコタツテーブルに頭をぶつけていた。
 一瞬意識を失ったとも見えるように、綺麗なヘッドバットであった。
 可愛いおでこが赤くなって、ひりひりと痛そうである。

「これは懐かしい反応ですわ。私達も、数週間前はこうでした」
「うちも呼吸困難起こしたし」
「綾瀬、早く慣れた方が良いぞ。ここにいると、寮よりどぎついガールズトークになるから」
「これ、皆さん乙女として致命的なのでは」

 綾瀬の精一杯の抗議は、軽くスルーされてしまう。

「ああ、セックスで思い出した。ちょっと覗いて来たけど、そろそろ始まりそうだったぞ」
「そうですか、それでは準備を」
「イヤホン、イヤホン……あっ、三つしかないし。夕映は私の片方で聞く?」
「すみませんです。何かラジオですか? 勉強はしませんが、本を読む時はむしろ耳栓をするタイプなのですが」

 しかし折角の好意なのでと、綾瀬は和泉のイヤホンの片方を左耳に入れた。
 位置関係から、和泉は右耳にのみであった。
 最初イヤホンからはなんの音も聞こえず、殆どがノイズのようである。
 これ壊れているのではと思っていると、長谷川が何かリモコンのようなものを操作していた。
 設定はこれからかと思っていると、何気なしにチラリと隣の和泉を見る。
 妙にわくわくしているような、雪広も神妙に背筋を伸ばしながら頬が少し赤い。
 そんなに面白いラジオ番組なのか、ノイズがふいに消え、声が聞こえた。
 開始のBGM一つなく、しかも同年代の少女のような声であった。

「先生、お仕置きしてください。先生に迷惑をかけた私に、これで」
「待て、ソフトSMでもまだ早い。美砂、嬉々としてアキラを縛ろうとするな」
「そんな事言って、先生大きくしてるじゃん。正直、私もアキラを苛めたい」
「ば、馬鹿野郎。これは、仕方ねえだろ。メイド服で上目遣いにお仕置きとか」

 再び、綾瀬がコタツテーブルに頭を先程より強かに打ちつけた。
 コタツテーブルの上の湯のみが四つとも、少し浮き上がってカチャリと鳴る程に。
 その中身が少々溢れ、湯のみの上を雫が伝わっていく。
 綾瀬が本当に痛い思いをしているのに、他の三人は心配もせず大笑いである。

「かはっ、先生これ絶対内心喜んでるぜ。ひぃ、腹痛い。絶対生唾飲み込んでやがる!」
「アキラってセックスの時って、苛めてオーラ凄いやんね。ちょっと、そこは弁護してあげたいかな?」
「全く、殿方と言うものは。どうしようもありませんわね」

 長谷川はお腹を押さえて打ち震え、和泉も口元を押さえては必死に我慢している。
 雪広はしれっとした台詞ながら、唇の端がピクピクしていた。

「どうしようもないのは、あなた方です!」

 ついに耐え切れず立ち上がった綾瀬が、左耳からイヤホンを外して叩きつけた。
 しかし、三人から返って来たのは、街中でいきなり奇声を発した人を見るようなものであった。
 何を突然叫んだのか、意味不明で寧ろ怖いとさえ思っているような。

「これ盗聴ではないですか。しかも、聞くからにアレが始まりそうな」
「落ち着けよ、綾瀬。座れって……ところでさ、委員長。年号の覚え方ってゴロ以外になんかないのか? 正直、あれ逆に脳のメモリを余計に使ってる気がするんだが」
「でしたら、反復法で叩き込むしかないかと。私はむしろ、こちらで覚えます。教科書から年表を作成し、何度もそれを複写すれば暗記ぐらい直ぐです」
「なんや最澄さんや、空海さんやないけど。お経を写すお坊さんみたい」

 違いないと年頃の少女らしくキャッキャと笑う。

「何故そこで普通の中学生に戻るですか。これ管理人室にいる先生達ですよね!」
「ちゃんと柿崎と大河内に許可とってるし、まずい時は向こうから切れるから問題ねえよ」
「まあ、先生だけは知りませんが。皆さんお静かに!」

 何かを感じたのか、雪広が口元に指を当てて静かにさせる。

「アキラ……いいのか、本当にいいのか?」
「うん、私先生になら何されても。先生の所有物にしてください」
「アキラはおっぱい大きいから、こう強調される縛り方がないかな?」
「あ、美砂。俺はパンツの上から割れ目に縄が食い込むアレがみたい」

 能天気な美砂の声は専用の本でも読んでいるのか。
 ペラペラと何かが捲られる音の中で、素に戻ったむつきがマニアックな注文をだした。

「-----ッ!」

 もはや声にならないと、長谷川が腹を押さえて笑い転げてバンバンと床を叩いている。
 雪広や和泉も長谷川程ではないが、笑いを必死に堪えていた。
 雪広は口元に手を当ててそっぽを向き、和泉は頬を膨らませながら俯いている。
 二人共肩が小刻みに震えており、余程必死なのがわかった。
 もう我慢せずに笑ってはどうかと問いかけたくなるほどに。

「なっ、何があったです。アレの最中に何故爆笑するような事が!?」

 つい先程イヤホンを外してしまった綾瀬は、決定的瞬間を逃していた。
 一体どんな面白い内容がと、逆に興味を引かれてしまう。
 常識思考ならば、今直ぐにでもこの盗聴を止めさせるべきだ。
 しかし、ここはひかげ荘という名の外界より隔絶された竜宮城なのである。
 だったら仕方がない、仕方がないのですと綾瀬は座りなおし、イヤホンを左耳にいれた。

「ここをこうして、アキラ縄はきつくない?」
「んっ、大丈夫。胸とか色々圧迫されて変な感じはするけど」
「綺麗だ、とても綺麗だよアキラ」

 今度真っ先に噴き出したのは、綾瀬であった。

「駄目です、倫理観が吹き飛びます。教師が生徒を縄で縛って。それを綺麗とか、頭が沸いてるとしか思えませんです!」

 言葉こそ、この状況を嗜めているようだが、目が完全に笑ってしまっている。
 なんと言うか、聞く限りエッチな雰囲気など全く感じない。
 実際はメイド服姿の中学生が縛られている倒錯的な光景なのだろうが。
 相手があのむつきである。
 きっとくそ真面目に綺麗だと批評しているのだろうが、笑いしか浮き上がってこない。

「はひぃ、はひぃ……これだから、止めらんねえ。おい、社会科の勉強するぞ」
「申し訳ありませんが、もう少しお待ちを。顔の造形が、笑いすぎて顎が」
「アキラ、どんどん大人になっちゃって。後で感想聞いてみよう」
「これ、勉強できるのですか? 笑ってはいけない系の勉強になりそうですが」

 一頻り笑った後に、なんとか腹の痛みを耐えてシャープペンシルを手に取った。
 教科書を開き、先程の自己採点をした小テストで間違えた箇所を調べる。
 特に歴史は前後関係が大事なので、間違えた箇所だけでなくその前後もだ。
 学年トップ成績の雪広が教師役となり、各自で調べ尋ね書き取りなどを行なう。
 もちろん、イヤホンは耳にしたままなので時々手は止まったりもした。
 その反面、横隔膜や腹筋が痙攣して苦しむ事もあったが。

「そういえば」

 むつきがハッスルするはしゃぎようを耳にしながら、和泉が思い出したように言った。

「先生って、あんまり自分の事を喋らへんよね」
「そう言えばそうですね。出身大学とか、生まれなど聞いた覚えは……」
「そりゃ、聞かねえからだ。聞けば普通に教えてくれるぞ。最も、ひかげ荘のメンバーがって条件はつくが」
「そうなのですか?」

 なら自分でも良いのかと、綾瀬が尋ねる。

「先生、確かに自分の事は喋らないけど。一度心を許したらあとはがら空きだからな。確か、出身は沖縄で大学はどこだったか。確か東京の割と良いとこ行ってるはずだ」
「びっくりしたわあ。一瞬東京大学かと……」
「東大は親戚の姉ちゃんが行ってたらしい。その人に勉強を教えて貰って、沖縄を出てきたらしい。で、大学時代に例の爺さんから宿代代わりに管理を任されたって」
「学生時代にこの広大な敷地と建物の管理を任されるとは、優秀だったのでしょうか?」

 それは失礼ではなかろうかと、皆が雪広を見たがそう言う事も理解できた。
 特に四月始めに初めて副担任として出会ったむつきは、常にテンパっていたのだ。
 クラスメイトにからかわれるたびに大慌てし、失敗を繰り返す。
 きっとあの精神の弱さなら、何度一人で枕を濡らしたか分からない事だろう。

「先生、あれで結構あなどれな」
「イクぞ、アキラ。アキラ」

 言葉の途中だったが、四人全員が耳を傾け集中した。
 どうやら最高潮の一度目だ。

「いいよ、先生かけて。私にかけて」
「来た、ビクビクって。アキラ、一杯来てる。先生の精液、来た!」
「イク、ぐぁっ!」

 状況的に耳で聞くのみだが、縛ったアキラを前に美砂の手コキである。

「イッたな」
「イキましたわね」
「先生、興奮し過ぎ。いつもより早い」

 その後は数十秒の間、三人共に半眼で前をみつめたまま沈黙が訪れる。
 やはり生々しい状況を聞かされ、想像してしまったのだ。
 特に射精により飛んだ精液がメイド服で縛られたアキラを汚していった光景を。
 何やらアイスキャンディーを舐めるような音が聞こえてきたが、美砂のお掃除フェラだろう。
 ただ綾瀬だけは、生まれて初めての男性の射精と喘ぎ声に顔を赤くして硬直していた。
 三人とも、沈黙したままもぞもぞと座りなおし、会話を再開する。

「えっと、そうそう。先生な実務はからっきしだったけど、事務は無茶苦茶得意だったらしい。良くある秀才タイプ。私らの副担任になったのもそこで抜擢されたんじゃねえ?」
「高畑先生、中間テストが近くなるまで全く来ませんでしたから。一年生の時は、まだ出張は多くて週三日でしたが。先日も、先生の朝会中に遅れて入ってきた時、アスナさん以外何故という顔をしてしまいましたし」
「全く来なくなったの、先生のせい言うか。おかげなん? あの時の高畑先生、思い切りひきつってたけど」
「仕方ありません。以前他所のクラスの人にA組の担任の先生だけどと話を振られた際、普通に乙姫先生を指しての事でした」

 あーっと、誰もそれは酷いとは言わずに納得の声であった。

「沖縄出身、東京の良い大学、ひかげ荘の管理。これだけあれば、一応学生時代はもてたんちゃう?」
「ああ、それかあ」

 行為の盗聴さえしている状況で、初めて長谷川が口を濁した。
 聞いてはいるが、どうにも言い辛い話があるらしい。
 しばらく考え込んだ末に、綾瀬はまだ微妙だがこのメンバーならと話し出した。
 以前、むつきが酔った時に口を滑らせた内容を。

「先生さ、このひかげ荘の事を今までずっと黙ってたろ。柿崎に教えたのも、付き合い始めたからだし。その辺、聞いてるか?」
「うん、誰にも教えてなかったって。他の教師の先生はもちろん、生徒の誰にも」
「だいたい、想像つきますわ」
「まあ、ありがちなお話だとは思うです」

 雪広や綾瀬が想像した通りで間違いはなかった。

「初めての都会の生活で、先生も舞い上がってたらしい。学生らしく、このひかげ荘を友達に自慢して、ここで宴会ひらいたり。そこで親しい女の子もできたらしい」
「なんや、私も分かってきた気がする。気分悪くなりそうや」
「想像してるもう一段上だと思うぞ。で、その噂が広まって見知らぬ女に続々と迫られたらしい。彼女がいたから断り続けて、一度理不尽にキレられたらしい。ひかげ荘がなければお前みたいな奴って感じで」
「それは先生の台詞ですわね。勝手に迫ってきておいてと」
「まあな、それで先生もキレてその女を殴ったら。復讐されたんだと。先生にじゃなくて、その彼女に。あいつは玉の輿狙いの腹黒だとか噂広められて。それでもう耐えられないって」
「酷い話もあったものです」

 聞かなきゃ良かったと、むつきがイッた時と同じぐらいの沈黙が訪れる。
 だが沈黙の長さは、その時の比ではなかった。
 沈黙の短さという点において。

「でもまあ、今の先生。普通に犯罪者だし、可哀想って思いにくいよな」
「唯一の救いは、女生徒を貪る鬼畜ではない事でしょうか。もしそうなら、社会から抹殺したのですが」
「普通は脅された子を救う為に、訴えたりするけど。先生を訴えても、誰も幸せにならないやんね。先生は逮捕、柿崎とアキラはどうしてって泣いて。クラスにマスコミが押しかけて」
「なるほど、それで委員長さんの断罪者というのが出てくるのですね。お二人が不幸になったらと。と言うか、今現在は私達も犯罪者なのですが」

 綾瀬の突っ込みはまたしてもなに言ってんのという視線でスルーされた。
 そのまま手が止まってるぞと、長谷川が全員に突っ込んだ。
 いけないいけないと再開しようとするが、ブツリと音が聞こえた。
 それはイヤホンからであり、うんともすんとも言わなくなった。
 先程長谷川が言った通り、向こう側から切られたらしい。
 これでこの狂乱の盗聴も終わりかと思った綾瀬だが、それは甘い考えである。

「あの野郎……」

 イヤホンを見てそう呟いた長谷川が立ち上がり、軽く飛んで床が抜けるかと思う程に足を叩きつけた。
 そして再び、イヤホンが繋がった。
 配線の接触不良かとも思ったが、それでは長谷川のあの野郎という発言につながらない。
 全くと呟いて座り込んだ長谷川の言葉を待った。

「ん、ああ……柿崎だよ。多分順番的にあいつの番で。自分だけは聞かれたくないとかでスイッチ切ったんだ。別に先生を特別慰める日でもないのに、切る必要性が他にねえ」

 長谷川の弁はその通りであったらしい。
 再び繋がったイヤホンから、部屋での声が聞こえてきた。

「なに暴れてんだ、アイツら。おーい、美砂? こっち、アキラと向かい合わせで」
「先生待って、んっ」
「もう無理。美砂、アキラにかかったの舐めて綺麗に。さっき俺にしてくれたみたいに」
「無理、そんなに突かれたら。んっふぅ、アキラ。んはぅ」

 確かに美砂の番らしいが、状況が今一分からなかった。
 スイッチを切りにいった事を不審に思われ、腕か何かを引かれたのは分かるのだが。
 そう思ったのは綾瀬だけらしい。
 長谷川はニヤニヤおやじ臭い笑みを浮かべ、雪広や和泉は視線を向け合って笑う。
 声や物音、何かがぶつかり合う音だけを頼りに状況を把握しているらしい。
 美砂やアキラの喘ぎ声と謎の叩き付け音、水音に眉をしかめる。
 するとそれに気づいた長谷川が、先程の小テストを裏返し、絵を描き始めた。

「インスピレーションが足りねえぞ。こうだ、こう。大河内は椅子の上で緊縛、柿崎を向かい合わせで膝に座らせ、美少女同士の百合プレイ。で、先生はそれを楽しみつつ、後ろからガンガンと」
「ですが普通に跨るだけでは挿入の角度が。柿崎さんは前のめりに、先生が腰をこう支え」
「けど一度安定したら、先生絶対アキラの胸にこう悪戯すると思う。最近はいつも、いかに二人を同時に可愛がるか色々工夫してるし」
「いるですか、そのインスピレーション?」

 長谷川の絵の上から、雪広が美砂の腰の位置に修正をかけ、和泉もむつきの腕を修正した。
 大変分かり易い図解なのだが、やはり初日の綾瀬には刺激が強いようだ。
 これはまた倒錯的なと、興味津々なのは素質があるが。
 ただやはり、一ヵ月近い経験差というものはいかんともしがたい。

「美砂、そろそろイクぞ。アキラも良いか?」
「良いよ、先生中で出して」

 ガタガタとコタツテーブルを揺らし、美砂の台詞に綾瀬が過剰に反応していた。

「先生、切ないおっぱいが切ないの。そんなに引っ張らないで」
「美砂を孕ませたら、次はアキラだ。我慢せず、胸でイッちまえ」
「先生、孕ませて。中に、一杯。先生の精液一杯!」
「イク、イクぞ。美砂、そのお腹で孕めァッ!」

 むつきの獣のような唸り声と共に、二人の美少女が甲高い嬌声の声を張り上げた。
 その瞬間を耳で聞き入りながら、綾瀬は見てしまった。
 切なげな表情のまま、首を竦めるようにしてキツく瞳を閉じていた三人に。
 頬の赤味は風邪を引いたようにさえ見え、ブルブルと震えていた。
 一体何がと思っていると、ふうっと息をついた三人がそばにあった箱ティッシュを互いに配りあった。

「手がべとべとだ。あのリア充ども、本当に腹立つけどこれがなぁ」
「長谷川さん、もう少し追加で。私人より少し多いようで」
「そんな事ないって、私もパンツぐしょぐしょだし」
「履いてくんなよ。私最近、何時でもいいように基本ここではノーパンだぞ。先生にそれ教えたら、無茶苦茶キョドってやんの」

 彼女達は一体何を話しているのか。
 何故妙に手が滑り輝いており、それをティッシュで拭いているのだろう。
 そして部屋の中が何やら、匂う。
 ただ初心な綾瀬といえど、流石に和泉のパンツがという台詞で気付いた。
 バッと伏せるようにしてコタツテーブルの左右と向こうを覗き込んだ。
 左手の和泉は良く見えないが、太もも辺りをティッシュで吹いている。
 右手の長谷川も同様で、向かいの雪広が一番分かり易い。
 高そうな白いレースの下着は濃く色を変色させ、濡れ切っていた。
 ちなみに、何故パンツが見えたかといえば、自分でドレスのスカートをまくって手をいれていたからだ。

「もはや、一体どこから突っ込むべきか。本当に寮でのガールズトークより酷いです!」
「しょうがねえだろ。アイツら四六時中、ハメまくるし。私らもどこかで発散しねえとさ」
「お恥ずかしながら、結構なストレス解消でして。週末はこれがありませんと、特に家の事情で連れ出された週は次の週が持ちませんわ」
「私も、格好良い彼氏欲しいけど。しばらく、みつかりそうにあらへんし。けど欲しいから、結局こんな形で」

 いやあと照れ笑いする三人に、もはや綾瀬は我慢の限界であった。
 うかつにも盗聴に参加してしまったのは、誤りと認めよう。
 それでも、限度があるだろうと。
 階下の管理人室で行なわれた行為で、むつき達はなんと言ったか。
 孕ませるといったのだ。
 これは介入すべきだとばかりに立ち上がった。

「百歩譲って皆さんは良いとして、今先生なんと。孕ませるなど、生徒を!?」
「流石に、そのような場合は私が立ち入ります。先生は柿崎さんとの結婚を考えているだけに、きちんとその辺りは避妊していますし」
「先生ら妊娠プレイ好きやから。けど寧ろ、最近は柿崎とアキラの方が危ないやんね。よう、生でしてって迫っとるし」
「一度その辺、マジで……ちょっと失礼」

 失礼どころではなく、長谷川が隣で立っていた綾瀬のローブの裾をまくった。
 膝を超え、腰が見える程にまで。
 そこまでまくり上げてしまえば、生足どころか付け根まで見えてしまう。
 要は、彼女が履いているパンツが丸見えだ。
 慌てて綾瀬がローブを抑えるも、全ては遅きに失していた。
 見られた、体つきのわりに覆う面積の少ない紐パンのとある一部が濡れているのを。

「我慢は体に良くないぞ、綾瀬。我慢せず、オナっとけ」
「可愛らしい紐パンですわね。私達の事はお気になららず、どうぞ」
「紐パンと言えば、アキラに聞いたんやけど」
「この人たちは……」

 本当の意味で紐しかないパンツを履いてむつきを誘惑したと猥談である。
 どうやら竜宮城にいる期間が長すぎて、すっかり頭をやられてしまったらしい。
 やはり、改めて思ったがここでは自分だけが本当の自分は見つからないだろう。
 ここに来る前から、既に自分の居場所は決まっているのだから。
 図書館探検部、宮崎のどかの隣である。
 せめてこの場所でできるのは、歪な関係、歪な場所での物語の結末を見届ける事ぐらい。
 普段、夢に望んだファンタジー。
 非日常ではないが、これはこれで非日常の類である。
 裁定者でも断罪者でもなく、傍観者として見ているのもありだろう。
 だから傍観するですと座り、立った時に外れたイヤホンをはめなおした。
 もはや、手遅れなのかもしれない。

「先生、私にも先生のを」
「アキラ、たんま。三回連続はさすがに……コンドームも上手くつけられねえ」
「だめだよ、先生。ちゃんと愛してあげないと。手伝ってあげる、アキラ」

 美砂がそう言った直後、ごそごそと衣擦れの音が聞こえ途切れる。

「私のおまんこに、先生のをください」

 アキラの台詞に対し、耳が痛くなる程の大音量でむつきがその名前を叫んだ。

「最近、マジで先生頑張ってんな。三連発とか、明日からからに渇いてんじゃね?」
「最高七回ですし、本気を出せばまだまだ。それにしても、今回は難問です。柿崎さんと大河内さんは、どのように先生を文字通り奮い立たせたのか」
「うーん……やっぱりアキラのおまんこ発言?」
「いえ、それでは柿崎さんの手伝う発言の意味が。例えば、着衣を……いえ、もしやこうですか?」

 先程三人が書いた絵を模写しながら、新たに絵を書き加える。
 変わらずアキラは椅子に縛られていたが、ずり落ちるように上を向いていた。
 ただまだ完璧ではなく、美砂が出てこない。
 うーんと考えていると、三対の視線が集っている事に気付いた。
 ハッと我に返りカーッと頬が熱くなったが、長谷川にばしばし背中を叩かれる。

「痛っ、うざ。うざいです、なんですか!?」
「惜しい、五十点」
「では模範解答を、このように柿崎さんが後ろから大河内さんのおまんこを指で開いてみせて、大河内さんがおねだりしたと」
「アキラ、時々凄く大胆なんだから。やったのは柿崎やけど」

 さらさらと二人が迷う事なく、現在の状況を小テストの裏に描いていく。
 つまり、難問だというのは全くの嘘。
 誘導されたのだ、綾瀬がこの猥談に自分から加わってくるように。
 そんなに猥談が好きかと、良く分からない感情に心を占領される。

「アキラ、好きだ。愛してる、俺の子供を生んでくれ」
「ぁぅん、生む。わたっ、しぅ。せえの、子供ぉっ!」
「アキラ、アキラ、アキラ!」

 ごくりと、その時が来るのを待ち構えていると聞こえた。

「世界一可愛いお嫁さんがまたしてもほったらかしの件について」

 美砂の乾いた声での訴えが。

「---ッ!」

 今度声にならない声をあげたのは、コタツテーブルの四方にいる全ての乙女であった。
 雪広や和泉までも床をバンバンと叩き、呼吸困難に陥っている。
 綾瀬もそれは例外ではなく、痙攣するお腹を押さえて喘いでいた。
 龍宮城は、いくら警戒しても踏み込んだ時点で、人をおかしく変える場所なのかもしれない。









-後書き-
ども、えなりんです。

エロくないエロパート、というか馬鹿パート。
覗きから一足飛びに盗聴をしております。
もちろん、行為の最中のみでストーカーじゃないので普段はオフです。
それでも知らぬは主人公のみ。
もう染まり過ぎて、千雨達は現世に帰れませんw
基本、お話は主人公視点ですが、千雨達もこんな感じで過ごしてます。
今回はそういうお話でした。
楽しそうで本当になにより。

それでは次回は月曜です。
また日常パート、日常しかねえです。



[36639] 第二十一話 下ネタとか超越してね?
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/30 20:07
第二十一話 下ネタとか超越してね?

 その日、二年A組の教室内は早朝からおおきくざわめいていた。
 何時も通りと言えもするが、その理由が違う。
 バカレンジャーのバカブラックこと、綾瀬が図書館探検部の面々とお喋りに興じる事なく勉強していたのだ。
 そんな彼女に触発されたように宮崎も勉強していたが、彼女は元々真面目な子なので驚くべきところではない。
 どうやら教科は数学のようで、隣の早乙女の席を借りて勉強していた宮崎に色々と聞いている。
 一つ質問するたびにざわ、さらに質問すればざわ。
 なる程そういう事ですからと呟き納得すれば、ざわざわと顎が鋭くなりそうなざわめきであった。

「しかし、ハルナに電流走る。馬鹿な、ユエが勉強だと。何を考えている、そんな事をしてなんの得が。はっ、まさか。ラヴ臭!?」
「先程から煩いです、パル」
「ええことやん。ほなら、先生が来るまで私も勉強しよかな。中間まで一週間やし」

 のほほんと近衛もまた神楽坂の席を借りて、近くで教科書を広げた。
 元々彼女の席は、神楽坂の右隣なのでそう距離は変わらないが。
 七百人以上いる二年生の中で、宮崎はトップ五十、近衛も百位以内と成績は良好だ。
 教師役に困らない恵まれた境遇の綾瀬の勉強は、はかどりそうであった。
 すぐそこ、耳元でと言って過言ではない距離で早乙女が騒がなければ。

「いやいや、おかしい。ユエが勉強するなんて、ヤマジュンでさえも予想外。これ絶対、なんかあったでしょ。土曜日の部活中に先生について図書館島の四階に行ったって話だし」

 今度は別の意味でざわっとしたが、まさかねと皆懐疑的だ。
 早乙女の発言なだけに、信憑性はゼロであった。

「本当に煩いですよ、パル。まだ未返却ですが、社会科の小テストの自己採点結果が六点だったのですよ」
「ゆえゆえ、歴史の特に宗教関係強いもんね」
「そこで私は気付きました。今回、社会科の点数は期待できます。これ程までにバカブラックの卒業が効率的に、楽にできるチャンスはないと」
「え?」

 この時、こっそりまさかと声を上げたのは桜咲であった。
 他にもバカレンジャー候補はマグダウェル他、絡繰やレイニーデイといるが彼女達は最初から無関心だ。

「と言うわけで、桜咲さん。バカレンジャーの後はよろしくお願いします」
「え、いや……待っ」
「せっちゃん、心配せんでも私が教えてあげるから、一緒に勉強しよ」
「くっ、失礼します!」

 一瞬迷いを見せた桜咲が謎の謝罪を置いて、走って何処かへ行ってしまった。
 途端にしゅんとする近衛を宮崎がなんとかなぐさめようと声をかけている。

「まあ、今一納得し辛いけどユエ吉が勉強を始めた理由はそれらしい。で、なんで美砂まで勉強してるの?」
「あっ、馬鹿。早乙女、今の美砂に話しかけるな。死にたいの、あんた!」
「耳塞げ、死にたくなかったら皆耳をふさげー!」
「んー?」

 釘宮と椎名が止めるも間に合わず、早乙女の手はすでに美砂の肩の上だ。
 俯き加減であった彼女が振り返った時、思わず早乙女は後ずさった。
 大事な二本の触覚を守るようにしながら。
 何故なら振り返った彼女の顔は、以前の騒動を彷彿とさせる黒々しいオーラを発していたのだ。
 また彼氏と何かあったのかと釘宮と椎名の制止の意味を知ったが、それは外れていた。
 何故か美砂が、ぱっと花が咲き乱れるような笑顔を見せる。

「彼氏がさぁ」

 にへりと笑った美砂を見て、そっちの意味でやっちゃったと思った。
 早乙女は愛から溢れるラヴ臭は好きだが、基本的に甘酸っぱいのが好きだ。
 言わば土曜に出会ったむつきが持っていた、彼女が頑張って作った弁当とか。
 美砂のようにどろっどろの砂糖菓子のような惚気など、下の下である。

「テストが終わるまで、しばらく連絡断とうって。でも良い成績とったら、凄いご褒美くれるって。もー!」
「ぎゃー、聞くんじゃなかった。ちっとも嬉しくないラヴ臭!」

 逃げようとした早乙女の腕をがっちり掴み、延々と美砂が惚気を耳に直接吹き込む。
 ごめんなさい、許してくださいと早乙女が珍しく懇願してもおかまいなしだ。
 たまには良い薬だと誰も助けず、聞いても痛いだけだと助けられず悲鳴に耳を塞ぐ。

「ねえ、中間はどうでも良いけど。終わったら、殆ど直ぐに麻帆良祭だよね。今年はどんなのか楽しみだね!」
「今回はあのパレードに出てみようかにゃあ。四人で申請してみない?」
「裕奈もそやけど、まき絵。夕映が勉強しとるし、私もってならへんの。教えてあげるから、というか見てや。私ら勉強しとるやん?」

 もうこの子達はと、和泉が軽く注意しても聞いた様子はない。
 中間テストよりも、麻帆良祭の方に完全に心を奪われてしまっている。
 既にバカレンジャーだからなのか、本当に危機感ないなあと苦笑いだ
 その和泉は、会話に加わっていないアキラをちらりと見た。
 和泉の席の隣は宮崎なので、その空いた席に座ってアキラは黙々と勉強している。
 美砂が言った通り、むつきと約束したからだ。
 良い成績をとったらご褒美をあげると、ピロートーク中に。
 ちなみに和泉達は全員、それを盗聴器越しに聞いていた。

「頑張ろうね、アキラ」
「うん」

 キャッキャと佐々木と明石がはしゃぐ中で、和泉がこっそり応援する。
 振り向く間も惜しいとばかりに、アキラはノートに目を落としながら頷くのみだ。
 それでも、ご褒美を想像してしまったのかぽっと頬が赤くなった。
 可愛いなあと思いつつ、和泉は改めてはしゃいでいる二人を嗜め始める。

「おっはよー、危ない。あやうく遅刻しかけた。高畑先生がいる時に、遅刻なんて絶対に……あれ、なにこの妙に違和感のする雰囲気」

 そこへ少々荒々しく扉を開け放ち、ちりんちりんと鈴の音と共に神楽坂が飛び込んできた。

「おはよう、アル……」
「くーふぇ、アンタなにしてるの。楓ちゃんまで、本なんか読んでるふりして」
「共同で最澄殿の来歴を調査中でござる」
「最澄って誰?」

 あっけらかんと言い放った神楽坂に、本をひろげてうんうん唸っていた古が顔をあげた。

「八百四年の七月に、当時の日本から唐に弟子の義真と天台教学を学びにいったお坊アル」
「ごめん、なに言ってるのか全然わかんない。え、日本語?」
「アスナ殿、歴史でござる。以前から継続して調査してるでござるが、これがなかなか。来歴を隠すのが上手く、武術のぶの字も出てこないでござる。これは相当の使い手!」
「絶対あばいてやるアル。このまま調べていけば、きっと何時か隠れた達人を見つけて手合わせてきるアル。待ってるアルよ、宗派天台!」

 この時、神楽坂は格闘技の人ねと考えるのを止めてしまった。
 自分の席で木乃香が勉強していたので、その木乃香の席で両肘をついて手に顔を乗せる。
 入ってきた扉とは違う、黒板に近い方の扉を眺めにやにやし始めた。
 早く高畑先生が来ないかなと、鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気であった。

「全く、アスナさんときたら……」
「おい、こらいいんちょ。学校で私に近付くな、目立つだろ」
「偶には良いではありませんか。あのメンバーの中で、どこのグループにも所属していないのは貴方と私だけなのですから」
「アンタ、アレだよな。皆と等しく仲が良いけど、親友がいないタイプ」

 失礼なと長谷川ではなくにへにへしている神楽坂を見て思ったが、半分は当たっている。
 本人も自分も否定するがあえてあげれば、神楽坂だ。
 しかし、それはどんな事でも張り合うライバルという意味合いが強い。
 静かに時を過ごしながらお茶をしたりするのとは違う。
 同室の那波とも仲が良いが、お互いに大人な性格なのでどうしても節度ある付き合いだ。
 村上はひかえめというか、大人っぽい相手にコンプレックスがあるので姉に接するよう。
 馬鹿話、それも猥談をしながら転げまわれる相手など、初めてなのだ。

「アンタ、意外と寂しがりやだよな。それにしても、これもしかするとバカレンジャーの半分が入れ替わる、番狂わせが起きるんじゃないのか?」

 騒がしい教室の中で声を潜める必要性は少ないが。
 声を潜めた長谷川の台詞に、これまた小さな声で誰かが驚いたように聞き耳を立てた。

「なに?」

 その呟きは長谷川達には届かず、気付きもせずに続けた。

「綾瀬は元々やればできるのにあえてしないタイプだから脱バカレンジャーの筆頭、まず確実だろう。古と長瀬も、歴史だけは異常に勉強してるし。まさかのってな感じだ」
「まき絵さんとアスナさんは、残留確定ですが。確かに……すると、失礼ながら。絡繰さんにエヴァンジェリンさん、ザジさん。あと桜咲さんが候補ですわね」

 じっと姿勢正しく前を見ている絡繰、形態模写でもしたかのように同じ格好のザジ。
 何故かだらだら汗をかいているエヴァンジェリン。
 病弱と聞いているので心配して雪広が動こうとすると、向こうから手を振られた。
 とても珍しい事だが、心配するな大丈夫だとでも言うように。

「柿崎と大河内は餌に釣られてるだけだけど。先生、別に教師の才能がないなんて事はなくね?」
「殆どがあの場所のメンバーで、宮崎さんと近衛さんは元々勉強を苦に感じないタイプ。実質先生が動かしたのは、古菲さんと楓さんの二人ですわ」
「少ない……しかも、なんか色々勘違いしてるし。やっぱないわ、ないない」

 ですわねと言葉とは裏腹に、微笑ましそうに笑った。
 内心どう考えているかは、その笑みを見れば一目瞭然である。
 お互い、同じ事を考えていたと目を合わせて、またくすりと笑う。

「やあ、おはよう。出席をとるから、席についてくれるかな?」
「はーい、ほら木乃香。皆も席に、キビキビと。いいんちょ、ほら早く!」

 そしてやってきた高畑が出席簿を見せながら言ったことで、神楽坂が近衛の席を立った。
 テキパキと、普段の彼女とはえらく違う態度で皆に指示を出す。
 恋する乙女の典型的な行動である。
 その言葉に雪広はわかっていますわと答えて、長谷川との会話を終えた。









 時計を見上げそろそろかと思ったむつきは、デスクの上の棚から教科書を取り出した。
 それからと、もう一つの探し物をするが見つからなかった。
 あれ、どこへやったっけと棚を漁るが、元々小さな棚には数冊の本しかない。
 全てを一つ一つ確かめるのに時間はいらず、全てを見終える。
 そしてサッと顔を青くしてから、慌てた様子でデスクの引き出しをあさったりした。

「どうしたんです、乙姫先生?」
「ないんです、出席簿が。やばい、失くしたとか。始末書ものだ!」

 後ろを通りがかった二ノ宮に話しかけられ、つい最後の方は生徒を前にしたように素で叫んでしまう。

「ぷっ、乙姫先生。中間テスト前で高畑先生が戻ってて、出席簿を返しませんでした?」
「え?」

 軽く噴き出した二ノ宮に笑われ、きょとんとする。
 そして、つい先程出て行ったばかりの高畑が出席簿を持っていた事に気付いた。
 他の担当クラスのない先生方にも、笑われたり、しっかりしろと嗜めるようにみられたり。
 すみませんと、照れ笑いで誤魔化すように、デスクに座りなおした。
 そして残り少ないカップのコーヒーに口をつけ、しっかりしろと自分でも嗜める。
 ただ、気を入れなおしたのは良いがどこか寂しい、今日はA組の授業がないからなおさらだ。
 以前ならそんな余裕ないと言っただろうが、担当クラスが欲しいものであった。
 出来れば賑やかで少し手のかかる、要はA組なのだが。

「まだ少し、授業まで時間があるなら、お代わりいります?」
「あ、すみません。そっか、二十分近く余裕あるのか」
「二ノ宮先生、僕も良いですか?」

 ちゃっかり瀬流彦が便乗し、はいはいと大人の態度で二ノ宮がコーヒーを淹れにいった。
 ただお茶くみは新人の一部仕事と化しているので、給湯室はデスクから近い。
 二ノ宮も瀬流彦も、むつきと年齢が近い教師間の若輩メンバーである。
 その連帯感からか、他の先生方よりもむつきは仲が良い仕事仲間といえた。

「それで、乙姫先生」

 隣の先生のデスクが空いていたので椅子を持ってきて瀬流彦が座った。

「この前の話ですけど、誰か良い人いないか聞いてくれました?」
「朝から、瀬流彦先生……」
「あら、楽しそうな話ですね。ご相伴に預かろうかしら」
「あ、いやちょっと。そんな面白い話でも」

 当然の結果といえばそうなのだが、恋愛の匂いを感じてコーヒーを持ってきた二ノ宮まで加わった。
 あいにく椅子がなかく、行儀は悪いがデスクに半分腰掛けるようにだ。
 なんだか仕事ができる女の雰囲気が感じられたが、男の乙姫達が座って、女性の二ノ宮にほぼ立った格好をさせるのは外聞が悪い。
 そそくさと瀬流彦が席を譲り、自分がデスクに腰掛けるようにする。

「んんっ!」

 理不尽にも、瀬流彦がそうした時だけ、年配の教師が嗜めるように咳払いをした。
 何故と、心で涙を流しながら、瀬流彦がちゃんと立って話に加わった。

「それで何の話です?」

 わくわくと、目をギラギラさせて二ノ宮に聞かれた。
 今さら秘密ですともいえず、いいよと視線で瀬流彦に許可を貰い喋った。
 男としてはあまり、二ノ宮など女性には聞かれたくない内容の話を。
 なんとなく、格好悪い気がするのだ。

「彼女の知り合いを紹介して欲しいって頼まれたんですよ」
「ああ、乙姫先生の……思ってたより、うーん普通」

 何を期待していたのか、なーんだとばかりに椅子に深く腰掛け腰掛けに片腕をかけた。
 どことなく、居酒屋でみるオヤジっぽい格好だ。
 むつきと美砂、アキラの関係を暴露したら訴えるより先に凄い食いつきそうだ。
 結局その後に、色々と訴えられるだろうが。

「出会いがないんですよ、出会いが。この業界、早婚な人は早婚ですけど。晩婚な人は本当に晩婚で。高畑先生とか、全然そんな気配がないですし」

 この時、とある先生がぴくりと耳をそばだてていた。
 気付いたのは二宮ぐらいのものだろうが。

「それ別に業界関係ないと思いますけど。乙姫先生とか、ちゃんと彼女がいる人もいますし」
「でも、僕も晩婚組みになりそうですよ。彼女、今が楽しいらしくて」
「仕事に生きる女性かぁ」
「今も試験があるとかで、連絡断ちしてます。あ、それで思い出した」

 瀬流彦が勝手に勘違いしただけだが、とりあえず利用しておいた。
 ただ瀬流彦は、そう言う人が余り好みではないらしい。
 だが出会いがないと嘆いているぐらいならと、むつきはとある人物を押してみた。
 あの口ぶりだと、出会った瞬間に八つ裂きにされそうだが。

「瀬流彦先生、出会いがないわけなさそうじゃないですか。土曜に初めて図書館島に行きましたけど、そこのサービスカウンターで受け付けをしていた人」
「えっ……なんで乙姫先生からその人の事が? まさか、何か喋ったとか?」
「そりゃ、喋りますよ。僕行った事ないんですから。それで瀬流彦先生から借りたあのキーを見せて。直ぐに別のキーをくれましたけど」

 この時、瀬流彦の顔がさっと青くなっていた。

「僕、教師用フロアのエレベーターの十五階って、サービスカウンターなんて行かず真っ直ぐいけば」
「そのエレベーターの場所も分からなかったですし。エレベーター五階までしかなかったですよ。どういう方向のお茶目ですか?」
「あ、ごめん間違えた。四階、何処か別の図書館と勘違いしちゃったかな」

 さらに顔を青くしていく瀬流彦が、慌てて訂正していた。
 なにかまずい事でもあるのか。
 むつきは二ノ宮と顔を見合わせ、互いに知らないと首を振り合った。
 そうこうしていると、見知らぬスーツ姿の男性が職員室に現れた。
 女子中等部の教師ではなく、浅黒い肌を持つ異国の人であった。
 最初ほとんどの先生が誰かと思い聞こうとしたが、その後ろに件の女性がいる。
 彼女は図書館島の司書としてある程度知名度があるため、誰か尋ねようとした先生の殆どが座りなおした。
 中等部の人ではないのだろうが、麻帆良内の教師なのだろう。

「瀬流彦君、今直ぐに学園長室に来てくれ」
「はひ」

 睨みつけるように指示され、瀬流彦が直立不動で返事をしていた。
 声はかなり裏返っていたが。

「ちょっと、学園長室に呼び出しとか何したんですか。それにあれは誰です?」
「ははっ、ガンドルフィーニ先生。麻帆良女子高等部の先生です」
「僕なにかまずい事をやっちゃいました?」

 もう顔が青いどころか、顔も引きつり、半笑いと良く分からない表情だった。
 話の展開的に、あの司書の人がいるのでそうむつきは尋ねてみた。
 だが返答を貰うより先に、瀬流彦は連れて行かれてしまった。
 それはもう強制連行される囚人であるかのように、特に煤けた瀬流彦の背中が。

「お騒がせしました」

 そうガンドルフィーニは礼をして、退室していった。
 高等部の先生が現れた事もそうだが、学園長室に呼び出しとは穏やかではない。
 俺なにしたんだよと、むつきまで不安になってきた。
 ただガンドルフィーニも司書の人も、むつきには目もくれなかった。
 それだけが唯一の救いと言えるかもしれない。
 瀬流彦には可哀想だが、美砂やアキラの事がある手前、事情も知らないまま助け舟は無理だ。
 どこにどう飛び火するかわからないから。
 美砂やアキラと連絡を断っている今は、本当に勘弁してほしかった。
 心が折れたら、自分から約束を破って連絡をとりかねない。

「でも、不安だ……」
「まあまあ、大丈夫ですって。そう、中間が終われば麻帆良祭が近いですよね」

 慰めるように大丈夫と言ってから、明るく努めて二ノ宮がそう言った。
 男の小さな見栄を総動員して、自分から約束を破るまいと二ノ宮の言葉にのる。
 実際、むつきも楽しみにしていたことは確かだから、それ程苦労はしなかった。

「楽しみですね。中間が終わればまた高畑先生は出張でしょうし」
「あ、それって下克上発言ですか?」

 からかうように、二ノ宮が上目遣いに言ってきた。

「そんな大げさな。ただ、A組で色々出し物を考えたり、今までと違った麻帆良祭になりそうですから。二ノ宮先生は何かご予定は?」
「彼氏とデート、って言いたいんですけど。A組だと、まき絵。彼女が所属する新体操部の演技項目をとりしきらないと。顧問をしてると一日ずっと楽しむって事が難しいんですよね」
「顧問か、水泳部の出し物に顔出そうかな」

 ぽつりとそう呟いた理由は、アキラと付き合う切っ掛けとなった事件の事である。
 あの件で一時的、実質二日だけだが顧問として顔をだしたのだ。
 特にあの部長には世話になったので、他意はなく顔を見たい。
 しかし、瞬く間に濃厚な毎日を過ごす彼女らが、覚えていてくれるものか。
 いや、アキラが出場した大会には美砂を含むチア部や、一部クラスメイトと行った。
 覚えていてくれる可能性は少なからずあるだろう。
 まあ、アキラが望めばそれぐらいお安い御用と顔ぐらい出すが。

「けど誰って顔されたら、凹むどころじゃない」
「ああ、水泳部ですか。それはないと思いますよ。大河内さんの水恐怖症を治したのが先生だともっぱらの評判で。夏のシード権までとれたじゃないですか」
「二ノ宮先生たんまです。ハードル、というか期待させないでください」
「期待しても問題ないと思いますけど。あっ、もうこんな時間。そろそろ授業の準備をしないと」

 二ノ宮が時計の針の位置に気付いて、席を立った。
 それじゃあと短く言葉を残して、むつきのカップも一緒に洗いに給湯室へと向かう。
 助かりますと声をかけ、むつきは教科書とチョーク入れだけを小脇に抱えて職員室を後にした。
 出席簿がない分、妙に軽い手荷物に戸惑いながら。









 三限目はB組の授業であり、それが終わるとむつきは当然ながら退室した。
 後ろ手に引き戸の扉を閉めて、職員室に戻ろうとして一歩か二歩で止まる。
 これは中間を前にしてA組がどうしてるか確認するだけ。
 別に美砂とアキラと連絡をとるわけじゃないと、心で何回も言い訳を繰り返した。
 そして極自然にさりげなく、A組の前の廊下に移動し中を覗き見る。
 すると愛しのお嫁さんはとても分かりやすいぐらい自己アピールをしてくれていた。

「でさでさ、その時彼氏がさ」
「もう勘弁して、死ぬ。これマジで糖死する。腐臭か、ラヴ臭を……」
「しょうがないなあ、ハルナ。ラヴ臭ってことはまだ聞きたいって?」

 あのアホと、壁に手をつきながら崩れ落ちそうになる体を必死に支え、あきれ返った。
 何故そうなったのか、美砂が延々と早乙女に惚気続けている。
 早乙女はどうでもよいとして、勉強しろと念を送るが届くはずもなく。
 仕方がないので長谷川に視線を向けると、気付いた彼女がいやだねとばかりに手を振った。

(天使、俺の天使は!?)

 急いでアキラを探すと、自分の席ではなく、何故か宮崎の席にいる。
 どうやら亜子と一緒に勉強しているようで、凄くほっとした。
 ただ直ぐにいやいやいやと、思い直す。
 別に、アキラが勉強をしていた事が悪いわけではない。

(嫁に呆れて、彼女にほっとするとか。これ崩壊の兆しじゃねえか)

 仕方がないので見つからないように隠れながら、メールという禁断の手段に訴えた。
 あまり長居するのも怪しいので、かつてない程に素早く指を動かし送信。

「あっ、ごめーん。彼氏からメール来ちゃった。もう、連絡断つとか言って仕方ないなあ」
「た、助かった……」

 へなへなと力なく早乙女が逃げ出し、体をくねくねしながら美砂がメールを見た。
 そして、瞬く間に顔を青くして、振り返った。
 仕方がないので、メールに送信した内容と同じように目を吊り上げ睨む。

「あは、ははは」

 もちろん、送ったのは勉強しろという内容で、お前だけご褒美やらんぞと怒りマークをつけておいた。
 乾いた笑いを浮かべた美砂は、すっかり頭が冷めたようだ。
 大人しく教科書やノートを出して勉強を始める。
 しかし、早速携帯電話が震え、メールの到着を知らせてきた。
 反省しろマジでと見ると、長谷川、雪広、和泉から続々とメールが入った。
 そういえば、綾瀬に教えてないと思い出しつつ、それを見る。
 長谷川からは、「早速破ってんじゃねえ、豆腐メンタル」と教師を教師と思わぬ内容だ。
 雪広は、「注意はしたのですが。助かりました」と努力のアピールとお礼を。
 最後の和泉は、「アキラにだけご褒美あげれば?」とさりげに親友を押してきた。
 和泉は良い人が欲しい時期なので、それだけイラッとしたのだろう。
 とりあえず、返信は保留して職員室に帰ろうと振り返った。

「おや、乙姫先生。今日は社会科の授業はないはずヨ。それでもクラスを心配して覗きにきるとは担任の鑑ネ」
「びっくりした、超か。あとわざと? 俺は副担任……まあ、いいや」

 じゃあなと分かれようとして立ち止まり、ニコニコしている赤ほっぺの少女を見る。
 思い出したのは、美砂やアキラの台詞だ。
 そもそもの発端となったのは、むつきの思いつきでもあったが。

「なあ、超」
「なにカ?」

 呼びかけておいてから、いや待てよと止めた。
 完璧超人が相手とは言え、聞いてよいものか。
 彼女と長く楽しむ為の漢方薬ないかなどと、完全にセクハラである。
 言い方を少し考える必要があった。

「ここで話し難い事なら、社会科資料室を使ってはどうカ?」
「いや、ここで良い。お前、東洋医学研究会だよな。それって漢方の研究も?」
「もちろん、漢方から気の扱い。世間一般的に認知された方法から、科学的立証が不可能ながら効果のあるものまで。東洋は神秘の国ネ」
「良くわからんが、漢方が分かるならちょっといいか。最近ちょっと疲れ気味でな。中間テストも近いし、何か体力が。食べ物で言う精がつく、漢方ってあるか?」

 うん、上手いぞ俺と内心わくわくしながら、答えを待つ。
 現状では、美砂とアキラを同時に相手にするとそれぞれ一回。
 頑張ってどちらかがもう一回と、非常に少なく、不公平なのだ。
 漢方一つでその問題が改善されるのなら、いくら苦い薬でも喜んで飲む。
 ただ言い回しを上手いと思ったのは、少し麻帆良最強頭脳を甘く見過ぎであった。

「え、なに?」

 ニコニコからニンマリへと笑みが変わった超が、ちょいちょいと耳を指差した。
 耳を貸せという意味らしく、とりあえず言われた通りにする。
 古典的だが、ふっと吐息を掛けられ、背筋がぞくぞくしてしまった。

「あはは、冗談ネ。今度こそ本当よ」
「本当だろうな。今度したら、中間テストで詰まらないミスを必死に探すぞ。五教科で四百九十九点とかにしてやるからな」
「甘い、甘いネ。むしろ、テスト問題の過ちを見つけて添削しておくネ」
「社会科の先生を代表して言います、勘弁してください」

 思わず本気でペコリと頭を下げてしまったが、改めて耳を貸す。

「彼女達が思わずアレな顔になるぐらいの絶倫仕様で良いカ?」

 耳に息を吹きかけられた時と同じ、それ以上の速さで飛びのいた。
 それから全くの正解だが、正しく言い当てられたと顔を手で覆って後悔する。
 唯一の救いとでもいうべきか、超が軽蔑の視線を向けてこない事だ。
 実際、そのニンマリ顔の向こうにどんな感情を抱いているかは不明だが。
 もう開き直って正直に話す。
 そもそも自分程度の人間が、麻帆良最強頭脳に何かを隠そうというのが不可能なのだ。

「普通に、回数が増やせるので良いよ」
「ふむ、アレなら彼女達も喜んでアヘ顔ダブルピースぐらいしてくれると思うが、控えめネ」
「なに、下ネタが平気とか。お前、どこまで完璧超人なの?」
「超鈴音に不可能はないネ。あとそういう批評をしたのは先生が初めてヨ」

 それじゃあこれと、小さな木製の箱を渡された。
 開けてみるとベージュ色の粉末が入ったビニール袋が五つ程入っている。

「とりあえず、市販品ネ。服用後、三十分程で効果が現れ、効果時間は三時間程。回数は個人差があるのでなんとも言えないネ。服用後は効果が切れて一時間は間隔をとること。あと、あまり激しいとアレが炎症起こすから軟膏もおまけヨ。女性にも使えるから気遣いは忘れてはいけないネ」
「お前、下ネタとか超越してね? あとなんでこんなもん常備してるの?」
「気にしたら、負けネ。使用したら効果の程を教えて欲しいネ。先生用にカスタマイズも受け付けるヨ」
「ああ、サンプリング商品ね。お前、こっち系にも手を出してるのか」

 そういう商品は武器より高く、確実に売れると教えられてしまった。
 例えそうだとしても、女子中学生がしかも、学校に持ってくるなと思う。
 受け取ってしまった後では、なんとも注意し辛いが。

「とりあえず、ありがたく頂いとくよ」
「頑張って彼女達を満足させてあげると良いヨ」

 貰った漢方と軟膏を懐にしまいつつ、浮き足立ちそうな足でむつきは職員室へと向かった。
 だから気付かなかった。
 超が常に彼女達と、複数形を使っていた事に。









-後書き-
ども、えなりんです

瀬流彦に敬礼!
まあ、未遂でしたし軽い罰で済みますけどね。
あんまり弄りが酷いと、貶めてる感じが出てきますので。
ただ、彼が報われるのは凄い後の方なので。
前も書きましたが、原作キャラは基本ハッピーエンドです。

あと、今回新たにというか超と普通に会話しました。
先生からすれば、これほど怖ろしい生徒もいないでしょうね。
テスト問題添削されたら、面子も何もありませんよ。
職員室では大人しいけど頑張り屋、宮崎みたいな子が人気です。
暴れん坊をまとめてこそって職業ですけど。

それでは、次回は水曜です。



[36639] 第二十二話 独り占めしておけばよかった
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/30 19:17
第二十二話 独り占めしておけばよかった

 見事と言うべきか、ひかげ荘のメンバーの中間テスト結果は良好であった。
 一番良かったのが学年トップクラスの実力を持つ雪広である。
 学年三位を取得し、A組は超、葉加瀬、雪広でトップスリーを独占だ。
 次が和泉で初の全教科平均越えで三百位圏内と百五十位以上順位をあげた大躍進。
 肝心の美砂とアキラだが、それぞれ順位を五十位、百位と上げることに成功した。
 ある意味で、本人達より注目株だった綾瀬は、見事バカレンジャーを卒業。
 新たにその地位についたのは、ザジでありホワイトの名を冠する事となった。
 古と楓は社会科こそ平均点以上を取ったが、他の教科が大きく下がり変わらず。
 最後に長谷川は現状維持と、この野郎と拳を握るむつきの前でけけけと笑っていた。

「先生、そろそろ機嫌なおして、ね。ほら、凄い綺麗な景色」

 結局、クラス単位の成績も数名が成績をあげたぐらいでは変わらず、学年最下位。
 それはもちろん惜しいが、むつきが不機嫌なのには別の理由があった。
 現在、ひかげ荘メンバーは空の上の人となっていた。
 雪広財閥が所有するセスナにて、個人所有の南の島に雪広が招待してくれたのだ。
 そのセスナの座席に座っているむつきは、肘掛に頬杖をついてむすっとしている。
 美砂が窓の外を指差しはしゃぎ、アキラが何も言わず手を握ってもなかなかその機嫌は直らない。

「相変わらず、人間が小せえな先生」
「うるせえぞ、この野郎。俺だって、車レンタルして旅行とか色々考えてたんだ」

 後ろの座席から、枕部分をガスガス叩いてくる長谷川にぶっきらぼうに返す。
 そう、それは美砂とアキラが頑張った時のご褒美の件だ。
 必死に考えた結果、雪広の誘い一つで計画が移されれば不機嫌にもなる。

「万が一という事もあります、ご容赦を」
「そりゃ、危険は避けるに越した事ねえけど……」

 機嫌は兎も角、計画変更をむつきが受け入れたのは雪広の言葉であった。
 旅行先で誰か知り合いに見つからないとは絶対に言えないと。
 むしろ、偶然そこでという言い訳が出来ない分、危険度は増すのだ。

「先生、不満はしゃあないけど。不機嫌撒き散らして台無しにするのは違うんやない?」
「そうですね。窓の外は白い雲と青い海。ある意味でファンタジックな世界観が、先生の不機嫌オーラで台無しです」
「分かったよ、俺も大人だ。五年、せめて二年か……長いよなぁ」
「それを承知の上で、お付き合いしているのでしょう。それと、先を思うよりまずは身近な両側を見るべきでは?」

 情けない事に、和泉、綾瀬、それから納得しても雪広と。
 次々に注意され、ようやくその両側を見る余裕ができてきた。
 むつきの右腕を抱きしめるようにしている美砂と、左で恋人繋ぎをしているアキラだ。
 その二人を胸元に寄せるようにして、抱きしめる。
 ようやく機嫌を直したむつきに、美砂は笑いながらキスをし、アキラが瞳を閉じてそっと体を預けた。
 むつきの機嫌も直ったところで、楽しい旅行の仕切り直しとばかりに。

「おい、今ここでギシアンするなよ。セスナが落ちる」
「お前、中間テスト結果といい。色々と台無しにし過ぎだろ」

 本当にしてやろうかとも思ったが、そんな度胸がむつきにあるはずもなく。
 せめてもと、二人と精一杯イチャイチャして、セスナの中を甘ったるくしてやった。
 今さらその程度と、もっと甘い時間を知られているので効果は薄かったが。
 七人を乗せてセスナはそれから一時間程で目的地へと辿り着いた。
 空から見たその島は小島と言うには大きな直径三キロはありそうな島であった。
 島から伸びる桟橋の先端にセスナが止まると、運転手がテキパキとセスナと桟橋の間に渡り橋を掛けてくれた。
 少々揺れたが、危なげなく全員渡っては南国の日差しと風に出迎えられる。
 沖縄出身のむつきにとっては懐かしさ、郷土の香りを感じさせるものだった。
 まだ先の話だが、いつか二人を連れていかなければなと感慨深く思ってしまう。
 そんなむつきの感傷を吹き飛ばすように、美砂達が桟橋から直接海に飛び込んだ。

「海だー!」

 桟橋はビーチの砂浜から伸びているのだが、そこまで待ちきれなかったらしい。
 美砂と和泉が激しい水しぶきをあげ、アキラは綺麗な飛び込みフォームで。
 長谷川と綾瀬は、やれやれとばかりにそれでも楽しそうに海に飛び込んだ。

「先生、こっち早く。気持ち良いよ!」
「先生、一緒に泳ごう」

 世界一可愛い嫁と彼女が水面から手を振って誘ってくるがそうはいかない。
 荷物をとセスナに振り返ると、運転士の人が全てを運び出した後であった。
 しかもお任せくださいと、セスナから取り出した台車で運んでいく。
 雪広が当然そうに、何も言わないのでそういうものなのだろう。

「もう少し、待ってろ」

 先に泳いでろと二人に言うと、むつきは隣にいた雪広に尋ねた。

「至れり尽くせりだが、お前は良かったのか?」
「なにがでしょう?」

 南の日差しと風の中で微笑まれると、一瞬ドキっとしてしまう。
 セスナ内の個室で水着に着替えた他の面々とは違い、雪広は白のカジュアルドレスだ。
 白いドレスが風にたなびき、同じくさらわれそうな金髪の髪を手で押さえていた。
 本人は嫌がるかもしれないが、本当にお嬢様という言葉が似合う。
 はしゃぐ皆を微笑ましく見守る表情は穏やかで、ここに十人男がいれば十人は惚れる。
 むつきも、美砂とアキラがいなければ、危ないどころかそうなっていただろう。

「俺や美砂、アキラは気兼ねなくデートとかできるけど。ここ雪広財閥所有の島だろ? お前、前言ってたじゃねえか。ここ雪広財閥令嬢でいなきゃいけない場所だろ?」

 雪広自身、財閥の令嬢である事が嫌で嫌で仕方がないわけではない。
 ただそれでも、偶にはそれを重荷に思う事ぐらいある極普通の少女だ。

「それこそ、以前相談に乗っていただいた時に言いましたわ。私は次女ですから、重荷はそれほどでもと」
「聞いたな、確かに」
「柿崎さんも大河内さんも、何も言いませんが。外で会えないストレスは不明です。その解消の為もあります。お気になさらず、私からのご褒美だとでも思ってお楽しみください。まあ、ご褒美はここへ連れてくる事だけではありませんが」
「まだあるのかよ。ただそういう理由なら、そうだな。美砂とアキラの為に、楽しむとするか。ありがとな、雪……っておい、馬鹿止めろ!」

 何を思ったのか、急に雪広がカジュアルドレスの止め紐を解きするりと脱ぎ始めた。
 脱いだというのは少々間違いで、カジュアルドレスが重力に惹かれるようにするりと落ちたのだ。
 するすると、肌の上を滑り一切の引っ掛かりを見せず。
 思わず手で顔を覆ってそっぽを向いたむつきだが、やはり男なのでちらりと見てしまう。
 ちょっとは期待したが、やはりそんな事はなく雪広はカジュアルドレスの下に水着を着ていた。
 布地の表面積が限りなく小さい白と黒のストライプのビキニである。
 自慢かどうかは不明だが、巨乳がその小さなブラに押し込められそれはもう窮屈そうだ。
 雪広は悪戯っぽい笑みを見せて、また遊ばれたと苦笑いのむつきを前にくすくす笑っていた。

「お前、俺をからかって楽しいか?」
「ええ、とても。友人ですから」

 そう最後に微笑んで、アキラ並みに綺麗なフォームで雪広は海に飛び込んでいった。
 和泉や綾瀬が泳いでいる場所まで、合流しようとこれまた綺麗に泳ぐ。
 残されたむつきは茫然と、雪広の珍しい悪戯っぽい笑みや、友人発言に心を奪われていた。

「ちょーしこいて雪広に手を出そうとして、遊ばれている件について」
「長谷川、てめえこの野郎!」

 その淡々とした声は、桟橋の真下から。
 思わず足を叩きつけ威嚇するも、すーっと気にした様子もなくどこかへと泳いでいく。
 その背中を見て、絶対にいつか口喧嘩で勝ってやると心に誓う。
 ただ勝てるかな、勝てるといいなと直ぐに弱気になってしまったが。
 珍しくそれで落ち込まず、むつきも羽織っていたパーカーを脱ぎ捨て海に飛び込んだ。









 沖縄出身だけあって、むつきは泳ぎには少し自信があった。
 以前、アキラを助ける為にプールにスーツで飛び込めたのも、少しはそこが関係している。
 本職であるアキラに勝つ事はさすがにできないが、食い下がる事ぐらいはできた。
 アキラもそれが嬉しいのか、こっちと手を伸ばしながら先をどんどん泳いでいく。
 透明感のある青い海の中を水面から水中にまで自由自在に。
 麻帆良の人魚姫の看板に偽りは欠片もない。
 ただ、そんな二人とは裏腹にチア部でそれなりに運動しているものの美砂は畑が違う。
 やや距離を離され、追いかける事を諦めそうになっていた。

「アキラ、ストップ」
「え……あっ」

 むつきに呼ばれアキラもそれに気づいたようだ。
 置いていかれた美砂は、ちょっと悲しそうにビーチに戻ろうか迷っていた。
 途端に調子に乗りすぎたとしゅんとしてしまう。

「俺、ちょっと美砂をビーチに連れて行く。結構疲れてそうだ」
「うん、だったら私も」

 そう言ったアキラの頭に手を置き、むつきは笑いかけた。

「こんな綺麗な海で泳げる事なんて滅多にないぞ。後でまた付き合ってやるから、楽しんでろ。それじゃあ、また後でな人魚姫」
「んっ、うん。王子様、また後で」

 軽くキスをすると、照れた顔を隠すようにちゅぽんと海の底へと潜っていく。
 本当に人魚姫だなと思いながら水中に顔をつけて、最後に手を振ったアキラを見送った。
 それからむつきは、諦めてビーチに戻り始めた美砂を追いかける。
 相当疲れていたようでその進みは遅く、直ぐに追いつく事ができた。
 後ろから近付き、その肩を抱き寄せるようにしてビーチへと連れて行く。

「あれ、先生。アキラは?」
「人魚姫は海の中で遊んでる。お前これ、一人で戻れたか? 全然手足に力ないぞ」
「だって、先生とアキラが凄く早いし。色々、悔しかったから」

 少々視線を反らされ呟かれ、むつきは少し方向を変えた。
 ビーチでは和泉達がビーチバレーに興じていた為、二人きりになれる場所を目指す。
 泳ぎながらそれをさ探すと、それは直ぐに見つかった。
 ビーチの外れに岩場があり、他から視界を遮るような入り江となっている。
 あそこならと、五分ほど美砂を抱えて泳ぎ入り江へと辿り着き、膝下の浅瀬にあった丸みのある岩に座らせた。

「あー、地面に足がつくのって安心する。アキラ、凄いよね。あのまま何時間でも泳いでそう」
「楽しくて時間を忘れそうだから、程ほどに迎えにいかないとな」
「はあ……」

 かなり距離はあるが、一度水面に出てまた潜っていくアキラを見つめると溜息が聞こえた。
 ここにはむつき以外に美砂しかいないので、当然ながら彼女の溜息だ。

「どうした、美砂。本当に……」
「敵わないなって、アキラに。料理も勉強も、さっきだってアキラどころか、先生にもついていけなくて。悲しくなって、ちょっと後悔しちゃった。独り占めしておけばよかったって」
「すまん、俺があの時」
「たきつけたのは私だから。それにアキラの事は私も好きだよ。一緒に先生に愛されるのも。だけど今だけは、独り占めしたい。先生ここでして?」

 見上げながら言われ、何を馬鹿な事をと言う前に、むつきは周囲を確認していた。
 和泉達がいるビーチは入り江からは全く見えず、向こうからも同じだろう。
 アキラは水面に上がれば気付くかもしれないが、見られたからといって別に構わない。
 しかしながら、今現在は当然の事ながらコンドームなど持ってはいなかった。
 美砂もそれは承知なのだろうが、見上げてきている笑みが何処か儚げだ。
 今ここで断れば、そのまま美砂が消えてしまいそうな不安さえ抱いてしまう。

「美砂、今じゃなきゃ駄目なんだな?」
「うん、今して欲しい。それに安全日とかじゃなくて、別の意味で大丈夫だから」

 別の意味でとは不明であったが、今の美砂は手放せそうになかった。
 手を差し伸べ、繋がった瞬間に強引に立たせて抱きしめると同時に唇を奪う。
 ハイビスカスが描かれたワンピースタイプの水着の上から腕を回して腰を抱く。
 美砂もむつきの背中に腕を回して抱き返してきた。

「ん、美砂」
「先生、れぅぁ」

 優しいキスから瞬く間に、大人の舌を丹念に使ったキスへと変える。
 海に潜ったせいか、唇周りがちょっと塩辛い。
 美砂が少し眉をしかめているのは、そのせいだろう。
 ただそれも程なくして、唾液に洗い流されお互いの味だけが残っていった。
 それでもまだ足りないとばかりに、三分ぐらい時間を掛けてキスを続けた。

「はぁ……先生、ちょっとストップ。足が」

 元々泳ぎ疲れていた事もあり、美砂が先にギブアップの声をあげる。
 震える足は全くの役立たずでむつきにしな垂れかかるも、今にもずり落ちそうであった。
 その美砂を支える為と自分も楽しむ為に、両手をお尻に伸ばして抱え上げた。
 お尻の大きさは美砂の勝ちだと、内心思いながら。

「もう少しだけ頑張れるか? まだちょっと、コレで支えられない」

 水着の生地に包まれた尻肉を揉みながら、下半身を押し付ける。
 同じく水着の中で膨らむ途中のむつきの一物を。
 どういう体位をむつきが考えているのか察した美砂が頷く。
 縋りつき、引けそうな腰はむつきが尻を抱える事で引き戻し、美砂はむつきの肩に手を置いてしがみ付いた。
 それからせめてこういう事ぐらいはと、動かない手足の変わりに舌を使い始める。

「先生、唇だけじゃなくて全部塩辛い。頬も首も、鎖骨も。はむ……うぇ、から」
「塩分取り過ぎるなよ。それにしても美砂の尻、良い手触りだ。この水着の生地との対比もまた、なんとも言えない」
「相変わらず、変態なんだから。どんどん硬くして」

 少しは動くようになった手で、美砂がむつきの一物をまさぐった。
 ただ海に潜って冷えたせいか、普段よりも硬くなるスピードが遅い。
 ちょっと待てないかもと、美砂がいきなり切り札を切った。

「先生、委員長から聞いてる? ご褒美の件、ぁっ」
「この南の島の他にも、何かある程度にはな。いつもより、ちょっと温度低いな」

 美砂のお尻を弄っていた手、指先が水着をずらして美砂の秘所へと入り込んだ。
 後ろから手を回している為、挿入度は浅く、くにくにと入り口を広げるように指が動く。
 今度は別の意味でずり落ち始めた為、逆側の手で改めて美砂を抱える。
 そして、息を乱し始めた美砂の耳元に、そのご褒美を知っているのか尋ねた。

「先生、待って。その前にもっと奥に。浅いとこばかりで切ないから……」
「ちょっと待ってろ。一旦、さっきの岩に俺が座る」

 再び両手で美砂のお尻を持って支え、丸みのある岩の上に座った。
 それから対面座位の格好で膝の上に美砂を座らせた。
 そのまま挿入できそうだが、正直言って硬い岩の上では尻が痛すぎる。
 ここで出来るのはやっぱ前戯だけと、早々に見切りをつけてから再開した。
 ただし、今度は肩に掛かる水着の紐を外し、肌蹴させて左手で現れた乳房を揉みしだき、右手は再び美砂の中に潜る。
 南国の日差しのしたでみる美砂の乳房もまた格別だが、会話の途中であった。

「それで、ご褒美って?」
「委員長が私とアキラに調整した専用のピルくれたの」

 その一言だけで、一物が大きくぴくりと反応してしまった。

「先生、中に出していいんだよ。私の中に、子宮の奥まで」
「待て、本当かそれ。お前、最近生でしたがってたし痛ッ!」

 一瞬、以前にアキラにもされたと思い出したが、美砂にはっきりと跡が残るぐらい強く鎖骨を噛まれた。

「先生にそんな嘘つかない。というか、生でするだけならまだしも。中だしとか、さすがに私も分別ぐらいある」
「分かったから、噛むの止めろ。ちょっと萎えたじゃねえか。これ、変な跡残らないだろうな」
「私達にはいつもキスマークつけるくせに。あれ、時々痛いんですけど」
「要はうっ血させてるだけだからな」

 一時話はずれたが、戻す。

「改めて聞くけど、本当にピルを飲んだのか?」
「うん、副作用とかもまったくないわけじゃないけど。ちょっと生理が重くなるぐらいって。委員長が用意してくれたものだから信用できる」

 いくら大丈夫だと言われても、男としては疑惑はつきない。
 僅かな可能性でも、本当に飲んでいるのか、効果はあるのか。
 ただそれは、美砂もかわらない。
 もしできてしまったら、今ここでこうしていられる人生が全く変わってしまう。
 だがその危険を考慮した上で、中にと言ってくれた美砂にも応えたかった。
 もちろん、男として自分の女の子宮の奥まで汚したい欲望も確かにある。
 その欲望に一番忠実な場所が、瞬く間に熱膨張を始めた。

「先生、体は正直だね」
「それは男の台詞だ、この野郎」
「やん、先生急に激しい」

 乳房の上にピンと立っていた乳首にかぶりつき、吸い上げ舌で弾く。
 のみならず、止まりかけていた右手の指も美砂を深々と貫かせた。
 美砂もむつき同様に中だしに期待していたのか、潤いが随分と増している。
 これならと指を二本に増やし、奥に潜らせるだけではなく、膣内を広げたりもした。

「先生、同時とか。ぁっ、壊れちゃう。そんなにぅ、私に中だししたかった?」
「当たり前だろ、あの馬鹿はいつも豆腐メンタルって言うが。自制心だけは人一倍だぞ。いつもコンドームつけて、俺だってできれば生で。中だしだって」
「そうぅっ、だったんだ。いいよ、先生。中でっ、出しても」

 足元でさざめく波間よりも激しく、美砂の膣をかき回して水音を立てる。
 とろとろと絶え間なく溢れる愛液は、むつきの腕を垂れて肘まで到達するほどだ。
 だが初めての中だしならば、もっと最高の状態に持っていきたい。
 調理前の肉を柔らかくする為に、工夫するがごとく。
 乳房を刺激しては愛液を出させ、それがソースの元だとばかりに指でかき回す。

「先生、まだ? イク、イッちゃう。入れて貰う前に」
「寧ろ、一度イかせるつもりだ。遠慮するな、美砂が一杯イけばイク程、俺が後で気持ち良い。ほら、イクか。もうイクか?」
「イク、飛んじゃう。先生、先生!」

 暴れ馬にでも乗ったように、美砂が激しく暴れ海水に濡れた髪を振り回す。
 もう今にも美砂がイキそうな時に、むつきはある事を思い出した。
 美砂が腰を振って乱れ、水着が邪魔で見辛いがそれはほんの少しだけ顔をだしている。
 届くか、挿入を少し甘くし、親指を伸ばして爪で弾くように被った皮を剥いた。

「イクゥッ!」

 精一杯むつきにしがみ付きながら、思い切り美砂は叫び上げる。
 これはビーチにまで聞こえたのではと不安になるぐらいだ。
 そのまま体をそらし、海に仰向けに落ちていきそうなところを慌ててむつきが抱えた。
 自分の胸へと抱え込むようにし、まだ小さく痙攣し続ける美砂の背を撫でる。
 ただ余程敏感になっているのか、その撫でる手つきで一度軽くイキもした。
 しばらく抱きしめていると、長い時間をかけて美砂が戻ってきた。

「先生、中だしってこれより気持ち良いのかな。私、先生に殺されちゃうかも」
「そこまで言われると男冥利につきるが。美味しそうにできあがったな」

 一度キスをしてから、美砂の膣を挿入した二本の指を開いて広げた。
 まだ使い込むという程経験もしていないので、少女特有の硬さは残る。
 ただそれでも、十分に柔らかい。
 それに対し、もうむつきの一物は水着を破りそうな程に元気であった。
 美砂の肉壷は柔らかく、むつきの肉棒は硬く。

「美砂、もう我慢できない。いいか?」
「もうちょっと休みたいけど、いいよ。先生の、さっきからずっとお尻にあたってた。苦しそうだから、自由にさせてあげないと」

 美砂を左手で抱えながら、少し腰を浮かして自分の水着を脱いでいく。
 中途半端に脱ぐとこける心配があるので、全部脱いでしりの下に押し込んだ。
 それから改めて美砂のお尻を持ち直し、持ち上げた。
 そそり立つ自分の一物の高さより高く。
 もう直ぐ入れられると、美砂は露となった胸をむつきの顔に押し付けるように抱きついた。
 思わずしゃぶりついてしまったむつきだが、主役が違うと直ぐに止める。
 美砂を少しずつ降ろしていき、亀頭が滑る美砂の秘所の割れ目に当たった。
 ビクンと美砂がイキかけ、抱きついてくる力を強めた。
 そして、挿入が開始される。

「んっ、んんぅ。はぁくぅっ」
「柔らけえ、美砂。一気にいくぞ、一気に」
「駄目、本当に死んじゃう。気持ちよ過ぎてェッ!」

 もう待てないと、むつきは美砂を一物で貫きながら立ち上がった。
 挿入によって腰が打ち付けられた衝撃だけでなく、むつきが立ち上がったことで体がずり落ちもう一度貫かれる。
 二度も連続して深く貫かれ、美砂は息も絶え絶えに青い空を見上げていた。

「はっ、ぅぁ」
「ほら、しっかり足をからめろ。落っこちるぞ」
「はぁはぁ……先生、中だしは今度にしない?」

 息を整えての第一声が、小首をかしげて努めて可愛らしくしての懇願であった。
 あまりの気持ちよさに、怖くなってきたらしい。
 二度に渡る初夜以来のコンドーム無しのセックスだ。
 その上、他の誰に気兼ねする事なく、燦々と照りつける太陽の下での青姦であった。
 念願の生、初めての青姦、そして中だしがまっている。
 お願いと改めて可愛くお願いされたが、それは自殺行為だ。

「あの……先生、どうしてさらに大きく」
「美砂が可愛いから」

 端的に応えて返すと、腰を引いて打ち上げた。
 腰を引けば当然美砂は支えを失い落ち始め、強かに腰を打ちつけられる。
 むつきが一気に立ち上がった時ほど強くはないが、今度は連続だ。
 一瞬で過ぎ去る快楽ではなく、何時まで経ってもそれが終わらない。
 体が浮遊してはお尻を叩かれ、膣の中を奥まで抉られる。

「せ、せん……気持ち、けどぅぁ。しる、本当に」
「俺も気持ち良いぞ。冷えた体が暖まる。美砂は最高の嫁さんだ」
「うん、およめさんに。んぁっ、んんっ」

 腰の動きはそのままに、体を丸めるようにしてむつきが唇を塞いだ。
 塞がれた口からの、喉の奥での喘ぎ声以外の声は全て封殺された。
 意味のある言葉を失い、原始人のようにむつきが腰を振り続ける。
 場所が浅瀬の海の中で入り江となった岩場である事からもそうとしか見えない。
 むつきは全裸であり、かろうじて二人が現代人と分かるのは肌蹴られた美砂の水着のみ。
 その水着も器用にさらにむつきが脱がしていくが、今二人は深く繋がっている。
 完全な原人に戻る事は、どうにか避けられた。

「むぁ、美ぅ」
「んんぅ、ぁぅ」

 美しい小波の音を喘ぎ声と、腰を打ちつける音で台無しにしながら高まる。
 開いた口が塞がらなくなったように美砂の膣からは愛液が漏れ出していた。
 むつきが一物でふたをしているのにも関わらずだ。
 溢れる愛液を掻きだされ空気を混ぜさせられ、じゅぶじゅぶと音を新たに追加する。

「美砂」

 放っておけば死ぬまで腰を振り続けそうだが、当然だがそうはならない。
 僅かに残った理性を総動員して、むつきがみさを見下ろした。
 唇を放し、目がとろけ口も半開きな美砂へと言った。

「出る、もう……美砂の中に、本当に。奥まで子宮の中まで」
「いい、よ。ひぅ、先生なら。私の中、子宮まで」

 最後の意志を確認しあい、またしても言葉を失う。
 ブラジルのダンサーも顔負けに腰を振り続け、むつきが美砂を犯す。
 ふうふうと原人らしく、唸り声をあげながら。
 そして一際大きく美砂を突き上げた時に、それは来た。

「うがぁっ!」

 長谷川がこの場にいたら容赦なく、原始時代に帰れと言いそうな唸り声であった。
 これまでずっと果たせなかった欲望の迸りを、美砂の膣の中で行なう。
 最奥、子宮口にピッタリと亀頭、それも鈴口を合わせて流し込む。
 体を痙攣させるたびにびゅっびゅと射精を繰り返し、子宮内部を染めていく。
 孕め、孕めと願うように子宮内部で卵子を捜してむつきの精子が暴れる。

「あっ、あぁ……温か、先生が」

 美砂も初めての感覚にうわ言のように呟いている。
 お互い、体に跡がつきそうな程に抱きしめあい、長すぎる射精に耐えた。
 それだけ、普段からむつきが自制していたのだ。
 このチャンスを逃さないとばかりに、ありったけの精液を流し込む。
 それも一頻り終えると、崩れ落ちそうな足を何とか支えてむつきが息をついた。

「ぁ……はぁ、すげえ出た。これコンドームあったら、破けてるだろ。マジでそれぐらい。美砂、大丈夫か?」
「はぅぁ、待って」

 まだ息は整わず、声も絶え絶えの美砂を抱えなおす。
 まだ繋がったままなので、またイッたようだが仕方がない。

「先生」

 そして息が整うや否や真っ先にむつきに抱き付いてきた。
 元から腕はむつきの首に回し、足は腰に回してしがみ付いていたが。
 まだ距離がありすぎるとばかりに、首元に頭をこすり付けて甘えてくる。
 猫のようなこの仕草は、癖なのかもしれない。

「不安、全部吹き飛んじゃった。先生が、私の中にいる。本当に奥の奥まで」

 甘えながら片手を放してお腹の上から子宮の辺りをさする。

「たぷたぷしてるの分かる。一杯、出してくれた」
「美砂の体、最高だったからな。ご機嫌ついでに、こういう楽しみもあるぞ」
「え、ひゃ。ぐりぐり、なすりつけないで。先生の匂いが染み付いちゃう」

 角度を変えて、子宮内ではなく精液にまみれた一物を膣の肉壁になすりつける。
 キスマークとはまた違う、体の中に行なうマーキングだ。
 これは俺の女だと、美砂が言った通り染み付かせていく。

「休日明け、教室で先生の匂いがするって気付かれちゃう」
「南の島でセックスして、中だしして貰ったって言うか?」

 もちろん、言えるわけはないが美砂の膣がキュッと締まる。

「言っていい?」
「だめ、代わりにもっとしてやるから」
「こっちにも先生の匂いちょうだい」

 美砂の膣の肉壁に、精液がない場所がない程に竿でなすりつける。
 同時にキスで唾液を流し込み、両方の口にむつきの体液で匂いを染み付けさせた。
 そのまましばし、マーキングを行ってから気付く事になる。
 もはやお約束のように、岩場に置いたはずのむつきの水着がずり落ち流されなくなっていた事に。









-後書き-
ども、えなりんです。
一足先に、南の島へ。
あと生解禁。
以上。



[36639] 第二十三話 私から離れて、柿崎を連れて行く
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/03/30 19:30

第二十三話 私から離れて、柿崎を連れて行く

 普段より大きく見える南国の太陽が、水平線の向こうに消えていこうとする時間帯の事である。
 宿泊施設として立ち並ぶ水上コテージの一角。
 宿泊の為ではなく、食事処として建てられた建物のテラスにて夕食であった。
 これも青い海の上に建てられた建物で、波音は絶え間ない。
 しかもテーブルに並べられた料理は、専用シェフが雪広の友人の為にと腕を振るった高級フランス料理だ。
 水平線の見える夕日の風景、自然が織り成す小波のBGM、雪広家専属のシェフが作ったフランス料理と全てが贅沢でありながら、雰囲気だけは場違いですらあった。

「ひぃ、死ぬ。笑い死ぬ。もう、先生辞めて芸人になったら良いんじゃねえのか?」
「水着が波に浚われたとか、何してたかまるわかりやん」
「全く、折角の料理が台無しです」
「俺のせいかよ。何時間経っても笑ってるお前らのせいだろ!」

 むつきの反論も、夕日以外の理由で顔が赤い為、逆効果であった。
 長谷川は遠慮なくばんばんテーブルを叩いて笑い、和泉も笑いが止まらないと口を押さえているが効果はない。
 言葉こそ冷静な突っ込みだが、今にも笑いそうに綾瀬の口元は引きつっている。

「先生、そうムキになさらずに。この晩餐を楽しみましょう」
「おい、雪広。手が震えてジュース零れてるぞ」
「大丈夫です、ワインですから」
「おい、酒を飲むな。お前らのそれも葡萄ジュースじゃなくてワインか。没収だ、この野郎!」

 そもそも大丈夫の意味が違うが、そっちも駄目だと取り上げる。
 雪広のグラスだけでなく、皆の前にあったグラスも全てだ。
 付き合う切欠になったとはいえ、色々と前科がある美砂のは雪広の次に真っ先に取り上げた。
 例によって長谷川だけ抵抗を見せたが、こればっかりは譲れない。
 席を立って移動してでも取り上げた。

「ご心配なさらずに、先生。我が家のシェフが違法となるものを飲ませるはずがありません。と言うより、先生がそういう方だと先に伝えておきました」

 ノンアルコールですと最後に付け足され、それならとグラスを返していく。
 改めて席に座ると、ことんと肩に誰かがもたれかかってきた。
 右側だったので確認するまでもなく、美砂だとわかった。
 本人はうつらうつらとしているうちに、体勢を崩しもたれかかってしまったらしい。

「大人しいと思ったら、おい。飯は食べとけ。後で小腹空いたからって、コンビ二とか近くにないぞ」
「んー、眠いー。先生、ベッドに連れてって」

 両手を伸ばして甘えられたが、本当に少しで良いから食べて欲しい。
 雪広なら夜中でも誰かに摘めるものを用意させそうだが、なんだか悪い気がする。
 顎で誰かを使うような生活は、生憎送ってはいないのだ。

「普通、四六時中泳いでいた大河内さんの方が疲れてそうですが。平気そうですね」
「うん、慣れてるし。長時間泳いでた気がしない、あっと言う間に夕方になっちゃった」
「先生と泳げて、嬉しかった事もあるやんね。アキラ、見た事ないぐらいはしゃいでた」

 ぽっと頬を染め、アキラが美砂の頬を叩いていたむつきの服の裾を掴んだ。
 隣の和泉がこのっと肘で突くとますます顔を赤らめる。
 一度、和やかになりかけはした雰囲気だが、あえてそれを壊す者がいた。

「ていうかさ、柿崎。初めての中だしどうだったよ」

 もう場所とかBGM、料理と全てをひっくり返す発言であった。
 だと言うのに、誰もがそれを咎めずほほうと耳をそばだてるとはどういう事か。
 お前ら性的な事に興味を持ちすぎだと、むつきも呆れ果てて怒れない。
 むつきのせいという事もあるが。
 雪広はないだろうが、将来OLとなった時の歓迎会とか不安だ。
 上司にどぎつい下ネタをふられ、平然とそれ以上の下ネタで返して場が凍りつく。
 絶対、恐らく、間違いなく凍りつくと思う。

「凄かった」

 眠そうに目をとろんとさせながら、美砂が長谷川の問いかけに反応した。

「先生がじわって、もちろん最初は乱暴に子宮を勢いよく精液で叩かれたけど。その後で先生がじわじわ中から広がって。今でも温かい」
「ちょっと待て、説明するな。当時を思い出して実況するな!」

 長谷川達がおおっと身を乗り出すと同時に、美砂の口を塞いだ。
 だが夢うつつは継続中で、料理の匂いもあったので見事に噛まれた。
 痛いと叫んで床を転げ落ちるが殆ど誰もむつきを注視してやいない。
 慌ててアキラが駆け寄って抱き起こしてくれたが、意識は半分美砂の言葉に奪われている。
 特に、美砂がここにじわじわと撫でているお腹に。

「それから、射精が終わってからも先生。膣の中をおちんちんでぐりぐり。精液をなすりつけて、俺の女だっていうマーキングだって」
「止めて、そんな目で見るな。普通だよ、男なら誰でもする事だ。美砂、死ぬ。死んじゃう、俺が精神的に!」

 夢うつつな美砂は兎も角、長谷川達の視線がもう冷たい。
 いや内心面白がっているかもしれないが、もうこの世のクズをみる目だ。
 ピルを渡したのがそもそも雪広なのに、その彼女にまで。
 まかり間違えば、今直ぐにでも友人発言を取り消されるかもしれなかった。

「アキラ、次はアキラの番だね。覚悟して置いた方が良いよ。うん、先生これまですごく優しくしてくれてたのが分かる。それぐらい激しいから」
「えっ……うん、実はちょっと知ってる。最初、本当に凄かったから」

 美砂に振り向かれ、次にむつきと目を合わせ、小さく頷いた。
 最初とはおそらく、無意識にアキラを抱こうとしたあの時の事だろう。

「私もう、今日はギブアップ。寝るから、一晩先生独り占めしていいよ。じゃ、お休み」
「おい、美砂……ああ、寝ちまった。雪広、悪いんだけど」
「ええ、夜中に起きた時に摘めるものを用意させておきます」

 しょうがないので美砂を抱え上げると、コテージの方へとつれていく。
 そのむつきを冷たい視線のまま長谷川達は見送った。
 そして元から遠慮はないが、唯一の男がいなくなり長谷川達は一斉に身をのりだした。
 テーブルの中央に、これからそれが待ち受けるアキラを除いて。

「冷たい視線でごまかしたけど、マジ凄い事されてたな。まだ緊縛とか、青姦とかプレイに凝った方が笑えたぞ。いや、青姦だったみたいだけど」
「委員長、本当にピル大丈夫なん? 柿崎、あれ妊娠しちゃうやん」
「その辺りはぬかりありませんが。私もいささか予想外で。殿方は本当にそのような。アレまみれのアレを、私達のアレにぐりぐりなどと」
「委員長アレばかりです。気持ちは分かりますが、流石に刺激が……」

 皆汗をだらだら流し、綾瀬などは上を見上げて首の後ろをとんとんしている。
 そしてごくりと生唾を飲み込んで、次の生贄となるであろう少女を見た。

「あの、皆……目が怖い。大丈夫、先生なら優しく」

 一応弁護は試みたものの、可哀想な生贄を見る目付きは変わらなかった。









 夕食後しばしの歓談の後に、皆それぞれ割り振られたコテージの鍵を渡された。
 と言っても、夕食が早かった事もあり、まだ午後の八時半と寝るにはまだ早い。
 長谷川達は、騒ぎ足りないと一つのコテージに揃って入っていった。
 むつきとアキラが向かったのはそれとは別。
 美砂を先に寝かせた、家族用に広く設計された別棟のコテージである。
 コテージの玄関から入って、まず電気をつけようとしたむつきの手が止まった。

「先生?」
「起こしたら、可哀想だろ。星明りが結構あるし、どうせ直ぐ消す事になるしな」
「そ、そうだね。あの、先生これ」

 後はベッドの上で二人仲良く踊るだけだと暗に言われ、アキラが俯き加減に頬を染める。
 その顔を見られないようにしてか、手に持っていたお握りの乗ったお皿を見せてきた。
 美砂が夜中に起きた時用の夜食であり、飲み水は各個室の冷蔵庫に色々とあるらしい。
 南国の陽気で生ものは傷みやすいが、一晩もてば十分だ。
 分かり易いベッド脇のテーブルにとアキラに伝え、美砂の様子を覗き込むようにしてみる。

「よし、寝汗もないしぐっすり眠ってるな」

 五月後半、本土でも時折夏が感じられるが、ここでは真夏も同然。
 暑苦しいそうにシーツは蹴飛ばされていたが、本人は代わらず幸せそうに眠っていた。
 熱いだろうがお腹が冷えるとかわいそうなので、シーツを掛けなおして頬をつつく。
 最初むず痒がっていたが、やはり空腹を感じているのか赤ん坊のように口に含んだ。
 可愛いは可愛いがむしろ、少し面白い。
 ただ指を離すと悲しそうな顔をする為、起きるなよと念じつつ頭をごしごし撫でた。
 それで不満は少しは解消されたのか、再び穏やかな寝息と共に寝入り始める。

「眠り姫の相手はここまでで、人魚姫は……あれ、アキラ?」

 ベッド脇から立ち上がって振り返っても、アキラの姿が見えない。
 テーブルの上にはちゃんとお握りがのった皿が置かれている。
 一体何処にと思っていると、中途半端に冷やされた生温い風が部屋の中に紛れ込んできた。
 風を頼りに首を向けると、テラスへと続く窓件引き戸が半分程開かれている。
 大きく風に揺さぶられるレースのカーテンの向こう側、テラスにアキラがいた。
 ポニーテールに纏めなおした髪と、真っ白なワンピースを同じく風にはためかせながら。

「こら、あんまり海が恋しそうにばっかしてると。王子様が嫉妬するぞ」

 アキラの後を追い、テラスを出て後ろから抱きしめる。
 最近慣れてきた王子様という台詞を呟くも、反応が何時もより遅い。
 というより反応が返ってこず、無茶苦茶恥ずかしくなってきた。

「ア、アキラさん……凄く、恥ずか。アキラ?」

 様子が変だと思い、少し力を入れて肩を掴んで振り返らせる。
 薄い紫のような闇の中でもはっきりと見えたのは、真珠の様に光る涙であった。

「ごめんなさい、なんでもない。気にしないで先生」
「気にするに決まってるだろ」

 胸元にアキラの頭を抱え込むようにし、少し力を込めて抱きしめる。
 気にはしたし、なんでもないはずがない。
 その何がなんであるか、むつきには多少の覚えがあった。
 明確な答えでこそないが、涙こそなかったが昼間にも似たような表情を見せられた。
 見当違いな憶測かもしれないが、そうでなければ本人に聞けば良い。
 だから逃がしてたまるかと、抱きしめる腕にさらに力を込める。

「美砂が、どうかしたのか?」

 その名を聞いて肩が大きく震えていた。
 どうやら、そう大きく間違った憶測でも無さそうだ。
 アキラの返答を待ち、辺りの闇より黒いその髪を撫で付ける。

「勝てない」
「実はな、美砂も昼間に言ってた。アキラには敵わないって。お前らさ」
「違うの、私は勝てない。そう思ってる。柿崎は私を認めてくれてる。だから敵わないって。けど私は……勝てないって。先生を、柿崎から奪う事ばかり考えてる」

 一体この子は何を言っているのか、咄嗟にむつきは理解する事ができなかった。
 奪うも何も、何時もアキラは控えめにそばにいるだけだ。
 最初にだってお妾さんなどと、現代人の感覚から逸脱した事を言いもした。
 二番で良いと、一番になれなくても良いと勝ちを度外視していたはず。
 少々混乱するむつきの腕の中で、アキラが嗚咽を交えて心の奥底を吐露する。

「だから得意な泳ぎで先生と柿崎を引き離した。柿崎に噛まれて倒れこんだ先生にこれ幸いと駆け寄った。けど、先生はいつも柿崎を見てる。柿崎を優先してる。私から離れて、柿崎を連れて行く」

 もう自分の足では立っていられないように、むつきにすがりながらアキラが座り込んだ。

「先生に嫌われたくない。こんな事を考えている子なんて、こんな汚い子だなんて。けど、先生の前で泣いて弱って気を引こうとしてる。分からない、懺悔なの。それともただの誘惑。自分の気持ちが分からない」

 溜め込んだ気持ちこそ方向性は違ったが、本質は結局のところ同じである。
 同級生のクラスメイト、それも友人同士で同じ人を好きになった。
 普通ならばありえないが、二人同時にその人と付き合い体の関係まで。
 これがまだ単純に二股をかけられ、互いにその事を知らなければまだよかった。
 だが互いに納得、したかは別にして、知った上で付き合ってきた。
 きっとこれが、雪広が言っていた不明のストレスなのだろう。
 美砂もアキラも、これまで自覚があったかなかったかは別にして抱え込んで来たのだ。

「あのなあ、天地が引っくり返っても俺がお前らを嫌うわけないだろ。俺がお前らの前で何度泣いた、弱ったところを見せた。一度や二度でナマ言ううんじゃありません」

 座り込んでしまったアキラにあわせるようにしゃがみ、ゴチンと額をぶつける。

「いたい」

 ロマンチックの欠片もないむつきの行動に、アキラが思わず素に戻った。
 ただその双眸から流れ落ちる涙は、まだ止まってはいない。

「俺だって、お前らを平等に愛したい。けどさ、実際はそんな事は不可能なんだよ。交わした言葉、好きだと言った回数、それこそセックスの回数、プレイの内容。できるか、そんな事?」
「で、できない……」
「だろ? なら平等ってどうやって決める? 要は二人が等しく満足してるかだ。今の美砂は満足してる。けど、アキラはしてない。つまり不平等だ。ここまではいいか?」
「うん、ちょとこんがらがって来たけど。いたい、いたい」

 大事な事だから頑張れと、頭突きで赤くなったオデコをぴしぴし叩く。

「結論、アキラに不満を抱かせた甲斐性なしの俺が悪い」
「え、でも」
「不要な反論は聞く耳なしだ。俺が聞きたいのは、お前の希望だ。別にいいんだよ、勝ちたいって気持ちは。勝ちたいから、何をしたい。どうしたい?」
「……して欲しい」

 何をだこの野郎と、むつきがオデコをくっつけぐりぐりする。
 何時の間にか止まっていた涙が、別の意味で零れそうなアキラが慌てて言った。

「柿崎より、一杯。好きって言って欲しい、セックスして欲しい、私で気持ちよくなって欲しい。それから、一杯、私の中に出して欲しい」
「ん、よく出来ました。それがお前の希望なら、俺には叶える義務がある。まあ、どれもむしろお願いしますって頼みたいぐらいだけどさ。と言うわけで」
「あっ、エッチな顔」
「好きな子からセックスを頼まれたからな」

 それじゃあまずと、ようやく涙が止まったアキラを立たせる。
 そしてアキラの目の前で両手をあげ万歳のような、ハイタッチのような格好をとった。
 狙った通り、アキラが両手の手の平を合わせようと腕を上げた瞬間、素早く下げる。
 と言うよりも、下げた手で真っ白なワンピースのスカート部分の裾を手に取った。
 あれっと予想外のむつきの動きにアキラが硬直し、これぞ好機とばかりに手を持ちあげた。
 もちろんスカートの裾は掴んだままで、当たり前だが脱げる。
 後は勢いばかりと、抵抗の間を与えず薄いワンピースを頭から、ポニーテールの髪に至るまで脱がしてしまう。

「せ、先生、ここ外!」

 器用に声を潜めたまま声を張り上げ、体を隠すようにアキラがしゃがみ込んだ。
 ただ、外じゃなければ問題ないという言葉であったが。
 薄紫色の闇に細々と落とされる星明りの元、その白い肌は淡く輝いているようにも見えた。
 腕から零れ落ちそうな二つの胸も、太ももに隠れた秘部も同じく。
 何故か隠すものが自分の肉体以外に何一つなく、白い明かりを提供している。

「アキラ、何故にノーパン、ノーブラ? これには俺も予想外。また長谷川か、ギャップか」
「亜子が……」
「よりによって和泉か、痛っ。痛い痛いイタタタタ!」
「委員長がカジュアルドレス脱いだ時、先生が見惚れてたからって」

 普段大人しい割りに、やはり水泳部で次期エースとなり得るだけに負けん気は強い。
 美砂への感情もそうだが、男としての悲しい性すら許してはくれないそうだ。
 久々の痛みは、以前に学校の室内プール場でくまパンを見て以来の抓り攻撃である。
 アキラの目の前にあったむつきの太ももが、捻り千切れそうであった。

「ごめんなさい、甲斐性なしのくせに。何でもするから許して」
「じゃあ、追加で十回好きって言って」

 一瞬、レートが安くはないだろうかと思ったのは秘密である。
 お安い御用ですとばかりに、むつきはまずその前に来ていたティーシャツを脱いだ。
 ジーンズのハーフパンツもトランクスと一緒に脱いでおく。
 二度と同じ過ちはと、着衣は全て室内へと放り込んでおいた。
 それからむつきの全裸を手で隠した指の間から見ていたアキラを、横抱きに抱え上げる。
 テラスから見える海に続く、降り階段へと足をかけながら言った。

「好きだぞ、アキラ」
「うん」
「アキラの綺麗な黒髪が好き、そっと握ってくれる長い指が好き、温かい体温が好き。大っぴらに甘えたいのに美砂がいるから、控えて切なそうな瞳の感じが好き」

 本人としてはあまり嬉しくない部分も含めつつ、十回を超えて好きといい続ける。
 好きという言葉は留まるところを知らず、降り階段の方が先に尽きた。
 抱っこはここまでと、二十幾つ目かの好きを終えて海の中にアキラを降ろす。
 海といっても深さはそれ程でもない。
 全裸の二人が辛うじて水面に性器を出していられる程度だ。

「先生?」
「アキラ、海好きだろ。ここでセックスしようぜ」

 むつきの言葉に一瞬ぽかんとしたアキラが、クスクスと笑い出した。
 余程おかしかったのか、それともツボに入ったのか。
 珍しく笑いが止まらないとばかりにアキラが笑っていた。
 もし仮にこれが屋内のベッドの上でならば、転げまわっていた事だろう。
 最初から馬鹿な事だと自覚ぐらいはあったが、こうも笑われると流石に恥ずかしい。
 とりあえず、誤魔化すように抱きしめ、唇を塞ごうとしたが手で頬を押さえられ止められた。

「嫌だったか?」
「ううん、十回目。忘れてる」

 もちろん、十回など当に超えているがまだ足りないらしい。

「欲張りさんめ。好きだ、アキラ。セックスしたい、中に出したい」
「いいよ、先生。私で気持ちよくなって」

 左手を腰に、右手を後頭部、ポニーテールの下に差し込んで固定する。
 しっかりと抱き寄せては、吸い付くように唇を合わせた。
 唇のみならず、互いの胸も、陰毛、性器とあらゆる場所を密着させる。
 まるで体全体でキスするように、隙間一つないようしっかりと抱きしめあった。

「すべすべの肌が好き」

 一旦唇を離すと、右手を首のうなじから背中へとおろしすべやかな肌の上を滑らせる。
 むつきが腰を抱き寄せている為、心配な程に反っている腰へ。
 そこを越えると山登りだ、やや小さめのお山を足場を固めるようにぷにぷにしながら通り過ぎた。
 それから足の付け根と太ももを滑るが、腕の長さがそこで限界に達した。

「大きなおっぱいが好き、エッチな気分で硬くなる乳首も」
「んっ、きゅぅ。先生、さっきから……エッチなぁっ」

 逃げる為にか誘う為にか、むつきの腕の中でもがいたアキラを今一度抱きしめなおす。
 首筋顔を埋め、左手は相変わらず腰に、背後から海に落ちていく格好のアキラの胸に右手を添えた。
 波間のリズムに合わせふるふる震えるそれを大胆に掴み、絞るように頂点へ。
 硬く勃起し始めた乳首を指先でコリコリとこねては、ピンッと弾く。

「先生、乳首伸びちゃう。あまりいじめないで」
「どうせ俺以外、誰も見ないだろ」
「お風呂とか、だめっ!」

 もはや体をそらしすぎて、アキラのポニーテールの半分は海の中であった。
 意外と俺力あるなと頭の片隅で思いつつ、首筋に夢中だった唇の標的を変えた。
 駄目といわれたらしたくなる、苛めっ子の精神で乳首を食んだ。
 唇で横に回すようにこね、吸い付きながら伸ばしていく。
 左乳首を伸ばしきったら次は右乳首、それを何度も繰り返していった。

「はぁ、ふぁ……先生、乳首長いほうがんっ、好き?」
「アキラの乳首が好き」
「だったら、そんなぁっ!」

 自由になった右手をアキラに気付かれないうちに、下へ下へと忍ばせていた。
 やや濃い目の陰毛の草原を指先でさっと駆け抜け、とろとろと岩清水が湧き出る割れ目に辿り着く。
 胸に夢中で気付くのが遅れたアキラが、ほんの少しだけ体を硬直させる。
 まだ心の準備ができていなかったのだろうが、今日は元よりお互いに全裸であった。
 遠慮はしないとばかりに、むつきの指先が割れ目をこじ開けた。

「物欲しそうに涎を下の口から垂らすアキラが好き」
「んぅ、んはぁ。んんぅっ」

 反りすぎた体は自分だけでは戻せず、アキラはせめてと声を抑えようと指を噛む。
 途中から気付いてはいたが、もはやむつきは好きではなく、言葉責めの為に利用しているにすぎない。
 それでもどんな内容でも好きといわれる度に反応してしまう。
 いやらしい、赤面して涙が滲みそうな内容でも、愛液が増すのが分かった。
 こんなにいやらしくてもかと、まるでむつきを試すように、自分を晒していく。
 むつきもそれに気を良くしながら、中指を膣口からつぶりと侵入させた。
 もちろん、時折口で乳首を苛め続ける事も忘れない。

「膣の中が温かいアキラが好き、指からでも俺の精液を搾り取ろうとするアキラが好き」
「はっ、ぁぅ……嘘、それは嘘。してなぃ」

 ただ心では羞恥に耐え切れなくなったのか、ついに否定された。
 もちろん、それを許すむつきではない。
 ゆっくり挿入を繰り返していた指の速さを早め、小波に愛液が混ざる音を付け足した。

「ほら、アキラ聞こえるか。俺の精液を搾り取ろうって、愛液が凄いぞ。膣圧も奥に入るたびにキュって、限界まで。ほら、キュキュって来た」
「うぅ……先生、認めるから。指足りない、もっと」

 素直になったご褒美に、二本に増やしバリエーションで攻め上げる。
 単純に指を二本並べての挿入から、奥から抜く時に指を開いて肉壁をひっかいたり。
 手首を回転させて抉るように激しくしては、膣内を広げるように丹念に拡張もした。

「先生、イク。イキそう、なの。先生も」
「さすがにそれは無理だから」

 アキラの乱れように完全勃起状態、太ももに擦り付けたりしてはいたがまだ高ぶりが足りない。

「アキラのイク姿がエロくて好きだ。いいぞ、思い切りイって」
「んぁ、わか……った。先生、ぁっ。見て、私がイクとこ」

 これで見やすいとばかりに、アキラが口元に寄せていた手を胸に置いた。
 むつきの唾液で汚れた胸を、自分の手で捏ね上げ、唾液を広げていく。

「凄く、いやらしいぞ。もしかしたら、一緒にイケるかもな」
「本当、一緒に先生」

 ビクリと小さくだがアキラの体が震え、目ざとく気付いたむつきがスパートに入った。
 二本指でのテクニックは投げ捨て、ただただ激しく。
 奥へと突っ込み、浅く抜いてはもっと奥へ。
 びしゃびしゃと飛び散る愛液を海へと垂らし、アキラを攻め上げる。

「ぁっ、激しッ。先生、イク……もっと見て、先生。イクとこ、イクゥっ!」

 激しくしてからそう時間は掛からず、アキラがその身を激しく暴れさせた。
 咄嗟にむつきが左手に右手を追加し、その背中を支えなければ海へと一直線だった。
 それから改めて、イッた直後のアキラを見下ろす。
 激しい運動をした直後の様に、仰向けになって口を大きく息を吸い込んでいる。
 瞳は閉じられ殆ど見えないが時折開けられた瞼の向こうに、潤んだ瞳が見えた。
 纏めた髪の殆どは海の中でアキラ自身もはや半分以上、海の中であった。
 海上にあるのは顔と自己主張の激しい胸、そこから続くお腹の下腹部の一部。
 特に下腹部は、膣に海水が入ると危なそうなので気をつけてはいたが。

「はぁ、はぁ……先生、私。本当に海が好きになっちゃった。先生が、一杯可愛がってくれたから」
「そいつは良かったんだか。アキラを海に取られないようにしないとな」

 水面に浮かぶアキラの下腹部、秘所の割れ目に亀頭を添えた。
 両手は腰の裏までは無理なので、わき腹辺りに添えてアキラを支える。
 本人も少し腹筋に力をいれて、この海でのセックスに協力してくれた。

「いいか。いくぞ、アキラ」
「うん、先生には私で一杯気持ちよくなって欲しい。それで、一杯ここに。私にも」
「ああ、美砂より一杯出してやる。ただし、秘密な」

 最後に悪戯っぽく笑いかけ、ゆっくりと慎重にアキラの中へと入っていく。
 特殊な場所という事もあり、慎重にそれこそアキラが処女であるかのように。
 ただそれは必ずしも、アキラにとって楽と言うわけでもなかったようだ。
 ゆっくりだから、むつきが自分の中の何処にいるのかはっきりと分かる。
 それだけにもどかしい、もっと奥へとと小波に揺れたのを言い訳に腰を振った。
 だがむつきがしっかりとアキラを抱えている為、効果は薄い。
 それどころか、大きく腰を振ると危ないとばかりに挿入が止まってしまう事もある。

「先生、先生……お願い、意地悪。切ないの、早く奥まで」
「段々と正直に希望を言ってくれて嬉しいが、だめ。ほら、触ってみろ。今ここだぞ」

 なんとかアキラの手を一つとって、お腹の上に乗せて触らせる。
 ほんの少しだが挿入により膨らんだ膣の形に沿って。

「まだここ、待てない。早く、先生」
「ほら、やっと半分だ」

 もうアキラはこっそり小波に紛れてではなく、大段に腰を振って誘っていた。
 人魚姫の名の通り、海を魚のごとく滑らかに激しく横に腰を振る。
 普段控えめな女の子がここまで乱れてくれるのは、本当に男冥利につきた。
 いっそここで、一気に挿入して子宮の中に出してあげたい。
 処女でこそないが、まだ誰にも犯された事のない子宮を自分の精液で満たしたかった。
 だがそれでも、何度も奥歯が欠けそうになるぐらい噛み締め絶える。
 絶えてむつきは、ついにアキラの最奥へと到達する事ができた。
 終着駅は子宮口、電車が連結作業をするようにコツンと亀頭を連結させる。

「ぁっ」

 アキラもまたやっとの願いが叶い、ふるりと体を震わせた。
 待ちに待った到達に歓喜の感情を体全体で表現したようなものである。
 それに対し、むつきの感慨もひとしおであった。
 一方的にアキラを苛めているようで、結構むつきも大変だったのだ。
 膣の肉壁は柔らかく愛液も申し分はないが、アキラはずっと腹筋に力を込めていた。
 ただでさえ水泳で鍛えられた膣圧が、倍々、今にも搾り取られそうだった。

「動くぞ、アキラ。直ぐにアキラが大好きな精液をやるからな」
「うん、先生。私の中に一杯ください」

 本当は今にもイキそうなのを隠し、あたかもアキラが望んだからと言い訳する。
 ちっぽけな男の見栄なので、いつもの様にばれているかもしれないが。
 腰を引いて尻の向こうの海水を押しのけ、叩きつけた。
 パンと肌がぶつかり、波が生まれて海水がアキラに掛かってしまう。
 これは超に貰った軟膏が早速役立つかもと思いつつ、とりあえず超は頭から追い出す。
 そして繰り返す、亀頭で子宮口を叩き、腰で生み出した波をアキラにかける。

「気持ち良い、先生。ぁぅ、ぁっ……先生、んぁ先生ぇ」
「柔らかい膣で包み込んでくれるアキラが好きだ。精液を搾り取ろうときゅうきゅう締め付けてくれるアキラが好きだ」
「欲しいから、ぅぁ。先生の精液、ぁぁっ。んはっ、ぁ」
「本当に、いやらしいアキラが大好きだ!」

 もはや我慢の限界だと、海水が邪魔だと叫びたくなるぐらい腰を素早く叩きつけた。
 この時ばかりはアキラを思いやる余裕も少し失せてしまった。
 自分が気持ちよくなる為に、もっと膣圧を増やす為にはと邪な事を考え思い出す。
 それは美砂に手淫した時、一番膣が締まったのはどんな時か。
 一心不乱に腰を振りながら、相反するように最新の注意を払って右手を自由にした。
 手を伸ばした先は、海水塗れでぐっしょり濡れたアキラの陰毛。
 そこを通り過ぎた先にある秘所の割れ目の始まり。
 手探りでそこを探すと、早くもアキラが反応してくれた。

「ぁっ、なに。凄ッ!」

 周囲に触れただけで、この反応。
 外気に晒せばどうなるか、どこまで締め付けてくるのか。
 試さずにはいられないと、むつきは探し当てたそれの皮を一気に剥いた。

「ぁっ、あぁっ。イッ!」

 イクという言葉すら途中で放棄するように、アキラの体が海水の上を跳ね跳んだ。
 握りつぶされるかと思うような締め付け、それを緩和するような愛液。
 最高だと、もはや他に何もできないと、むつきも背筋を登る疼きに抗わず射精した。

「アキラ、お望みの精液だ。好きなだけ、飲め!」

 もはやアキラから反応は返ってこなかったが、構ってはいられなかった。
 改めてわき腹辺りに手を沿えアキラを支え、かつ引き寄せる。
 一滴も零させてなるものかと、子宮口にぴったりと亀頭の鈴口を貼り付けさせた。
 体内で爆弾でも破裂したかのような衝動で、吐き出す。
 兎に角中へ、孕んでも構わないとさえ一瞬は思いながら、射精し続ける。
 勢いはまちまちだが、一回、二回とそれだけに留まらず。
 射精の回数だけ子宮内を精液で叩き、アキラをイキ続けさせた。

「やっぱ生かつ、中だしができると勢いが違うわ」

 射精感に終わりが見えてくると、むつきの頭も多少は冷えてきた。
 何時までも海の中だと体が冷えるので、アキラを抱えて駅弁スタイルとする。
 その時自重で精液が溢れ零れてしまったが、それはまた頑張れば良い。

「おーい、人魚姫大丈夫か。王子様に海から起こして貰うって違くね?」
「待っ……先生、喋ら」

 むつきが言葉を発する震動でさえ、敏感な状態では辛いようだ。
 もたれかかって来るアキラの濡れた髪を撫でつけ、落ち着くのを待った。
 その間に再び射精してしまい、時間延長が起きてもいたが。

「ん、落ち着いた。けど……」
「はいはい、アレね」

 呼吸を整え会話が可能になりながらも、アキラが言葉なくリクエストを投げてきた。
 射精後に何をして欲しいかなど、一つしかない。
 食事前に美砂が夢うつつに喋った事は、むつきも悪い意味でしっかり覚えている。
 抱えたアキラのお尻を持ち上げ、ゆっくりと降ろす。
 快楽はもちろんあるが、目的はまた別で精液に塗れた竿で、膣内を塗りたくる。
 むつきの精液が濡れた事のない場所がないように丹念に、アキラの膣を汚していく。

「どうだ、満足したか?」
「うん、お腹の中が温かい。私の中も全部先生で……最後は本当に凄かったけど。柿崎が幸せそうにしてたのがわかる。凄い、今幸せ」

 そうかと、頭を撫でながらテラスに戻ろうと海の中を歩いていく。
 歩くたびの震動は、アキラの中を染め上げるのに丁度良い。

「どうする、もう一回ぐらいなら頑張れるけど」
「ううん、もう十分に幸せだから。でも……」

 まだ何か希望がと俯き加減となったアキラを覗き込む。

「シャワー、浴びたい。先生と一緒に。柿崎みたいに、実はイチャイチャしてみたかった」
「ああ、もうこの子は。今のであと二回は頑張れそう。いくらでも付き合ってやるよ」
「うん、先生大好き」

 アキラのキスを受け、待ちきれないとばかりにむつきは急いでテラスを目指した。









-後書き-
ども、えなりんです。

今回、奇数話ですがエロ話です。
特別なイベント中は奇数が日常、偶数がエロという法則が乱れます。
前回美砂だったので、今回はアキラの心中の吐露でした。
ちょっと、腹黒いかなとも思いますが、女の子はこれぐらい普通かな?
そんなもんじゃねえと仰る方もいるかもしれませんがw

次回も南国での旅行話、もちろんエロ話をしてから新章です。
麻帆良祭のお話ですね。
準備から開催、麻帆良祭後の連休まで。
三十八話までかけてやります。
やるのですが……

申し訳ないですが、週三更新から週二更新に戻します。
まだストックは余裕あるのですが、先の執筆が進んでおりません。
この三月、殆ど進んでません。
四月からリアルが急がし、というか現在急がしなので。
申し訳ない、水曜、土曜更新に戻します。

それでは次回は水曜です。
余裕できたら、また週3に戻しますんで。



[36639] 第二十四話 私達が先生を一杯気持ち良くしてあげる
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/04/03 23:43
第二十四話 私達が先生を一杯気持ち良くしてあげる

 好きな人の腕の中を独占、それはまさに至福の時であった。
 いや既に昨晩自分の醜い心中さえ吐露した上で愛され、独り占めとかいう感情はない。
 ただただこの逞しい腕の中にいる事だけで十分幸せで、眠りの中でありながら笑みが耐えずにいた。
 もぞもぞと身じろぎし、互いに無意識ながらこいつめと腕に力が込められればなおさら。
 その笑みが耐えたのは、無遠慮なゆさぶりで誰かに邪魔された事であった。

「アキラ、アキラ起きて」

 本人は邪魔をしているつもりもなく、声を潜めて呼びかけてきている。
 むずがりながら逃げるように丸くなってもそれは止まらず、執拗に揺さぶられてしまう。
 ついに根負けし、少し恨めしそうに半目を開けてそちらを見た。

「んぅ、柿崎。今何時、起きる時間?」
「まだ六時ぐらいだけど」

 それならまだこの腕の中にいたいと熱烈に思ったが、はたと我に返る。

「もっと寝た……柿崎?」
「おはよ、ちょっと良い?」

 揺さぶっていたのは美砂であった。
 しかも既に身支度は済ませているらしく、無地のティーシャツにホットパンツ姿だ。
 健康美という言葉を体言するその姿にて、美砂は玄関の外を指差していた。
 ちょっと良いとは、外へという意味だ。
 それだけで幸せ一杯から一転、サッと顔色が青くなり良くない想像が頭を駆けた。
 確かに独り占めして良いとは言われたが、既に美砂は起きている。

「ご、ごめん。直ぐに代わるから」
「こらこら、全裸で外に出ようとしない。ちゃんと服着てからでいいから」

 直ぐにむつきの腕から抜け出し、ぱたぱたと外へ向かおうとして止められた。
 当たり前だが、全裸である事を怒られてしまった。
 美砂もアキラが何を思ってそうしたのかぐらい、直ぐには察せられる。
 しょうがないなと一つ溜息をついて、まだ申し訳無さそうにしているアキラのお腹を指で突いた。
 そのままこの辺りかなっと指先を滑らせる。

「んっ」

 昨日の余韻がまだ残っているのか、アキラが敏感に体を震わせた。
 さらに赤ん坊でも宿っているかのように、美砂がお腹を撫で続ける。

「別にそんな事ぐらいで怒らないし。先生、言った通り凄かったでしょ?」
「うん、気絶しちゃうかと思ったけど。幸せだった。お腹の中から先生が広がって、その後もぐりぐりしてもらった」

 ならよしと、もう一度声を潜めて美砂がむつきが起きないよう気にしながら言った。

「アキラをどうこうとかじゃなくて、真面目な話。良い?」
「うん、直ぐに何か着るから待ってて」

 先に美砂が玄関からコテージの外へ出ると、程なくしてアキラが現れた。
 健康美の美砂とは対照的に、お嬢様然としたあの白い清楚なワンピースである。
 そしてそっと玄関を閉めると、改めてお互いに向き合った。
 まだ美砂の意図が良い取れず、アキラは少し挙動不審で視線が彷徨っている。
 仕方ないなと安心させるように美砂が正面から抱きしめ、シャツをたくし上げた。
 そしてコレぐらいならとアキラのスカートもたくし上げ、お腹をくっつけ合った。
 背丈が違うので、美砂は少しだけ背伸びをして。

「同じ場所を同じ方法で幸せにしてもらった子同士、無粋な事は言わないから。私らが喧嘩でもすれば先生二度としてくれないよ?」
「それは嫌、凄く。でもだから仲良くとかじゃなくて。私ね、好きだよ柿崎の事。昨日までは色々考えてたけど。先生がそれでも良いって言ってくれた」
「私だってそれは同じ。アキラの事が羨ましくて仕方なかったけど、先生が全部吹き飛ばしてくれた。だから、このお話は幸せでしたのハッピーエンドで一先ず終了」

 抱き合うのを止めて、お互いに乱れた着衣を整えなおす。
 宿泊施設付近は、長谷川達以外に誰もいないはずだが、雪広家のスタッフの誰かが通りがからないとも限らない。
 手早くまくったスカートやシャツを下ろして、簡単に皺を伸ばす。
 それから並んで玄関の扉に背をつけ、手をつなぎながらまだ色の薄い青い空を見上げた。

「実は、夜中の三時ぐらいに目が覚めて。テーブルにあったお握り食べながら考えてたの」
「うん……あっ、ちょっとお腹すいてきた」

 相槌を打ちながら、そう言えばとばかりにどうでも良い事をアキラが呟いた。

「アキラ、凄く幸せそうだったから先生が頑張ったんだなって。お昼も私に頑張ってくれて。それで思ったの。私達って先生に何かしてあげてるのかなって」

 美砂の言葉を聞いて、そう言えばとアキラも思い出す。
 二人共経緯は異なるが好きだという言葉を受け入れてもらい、付き合ってきた。
 中学生らしい健全な付き合いとは違うが、大切にしてもらっている。
 不満を口にしても受け入れられ、俺が悪いからと全てを許された。
 そればかりか、精一杯愛してくれ、思わず幸せで気絶してしまうかと思うほどだ。
 では何をして上げられたかと考えると、あまり思いつかない。
 しいてあげれば、この間に図書館島へいくむつきの為にお弁当を作った事ぐらいか。

「それだけ?」

 思わず殆ど何もしてあげていないと、アキラが驚いたように呟いた。
 もちろん、当人であるむつきの前でそう言えばこの野郎と怒られることだろう。
 普段仕事で疲れたり、心折れそうな時にどれだけ支えられてきた事か。
 実際何度も折れかけては、泣いて縋って頭を撫でてもらってきた。
 笑いかけられたり甘えられたり、慰められたり。
 些細な事で良いのだ。
 それこそ朝起きた時に、おはようと一通のメールが携帯に入っているだけでも。
 日々不安なく、体の何処かでエネルギーが作られ続ける彼女達にはまだまだ理解できそうにない。

「返さないと。何して良いか、わからないけど」
「それで悩んでたんだけど……先生が喜ぶ事ってなんだろね」
「うーん」

 二人で頭を悩ませること数分、辿り着いた答えはだいたい同じであった。

「先生変態だから、変態的なこと?」
「ちょっと変わったエッチ?」

 感謝されているのか、されていないのか。
 美砂もアキラも苦笑いしながらの、提案であった。
 でも変態的なエッチとはなんだろうと、その足は自然と答えを求めて歩き出す。
 とりあえず、皆の意見を聞く為に、皆がいるコテージへと。









 美砂とアキラが不在の朝食を終え、コテージの前に戻ってきたむつきは小首を傾げた。
 戻ってくる間にも何度も傾げてはいたのだ。
 何やら皆の様子が変、普段の学校生活はともかく、ひかげ荘のメンバーは常に変だが。
 二人の居場所を聞いても露骨に話をそらされ、ニヤニヤと。
 さらに今日は雪広がゆっくり致しましょうと、ビーチにはいかないとまで。
 帰りの時刻は十七時を予定をしており、それまでゆっくりと疲れを癒しましょうと。
 おかしすぎる、二年A組の中では比較的大人しいメンバーが多いとは言えおかしすぎる。

「けほっ、ていうか最後に出てきた野菜ジュース。なんか粉っぽかったんだが」

 喉がおかしいと、水が飲みたくなってきた。
 それとトイレに行きたいわけではないが、妙に股間辺りがむずむずとする。
 超に貰った軟膏の出番かと、いそいそと玄関を開けて固まった。

「お帰りなさいませ、ご主人様」
「お帰りなさいませ」

 マイクロビキニ姿の美砂とアキラに出迎えられたのだ。
 ちなみに美砂が黒でアキラが白。
 アキラは恥ずかしそうに局部を何度も腕で隠そうとしており、美砂は寧ろ私を見てとばかりに腰に手を当てポーズをとっている。
 間違えてそういうお店に来たのかと、勘違いしそうであった。
 だがそんなはずがあるはずもなく、思わず喉の奥の粉っぽさも忘れ、ぽかんと立ち尽くしてしまう。

「ちょっと長谷川、先生呆れてるんだけど!」
「やっぱり、メイド服とか……柿崎あれ」
「お?」

 頭を抱えて美砂が叫び、代替案をアキラが呟いた時、気付いた。
 アキラが指差したのはむつきの股間、ズボンがはち切れそうにテントを張ったところだ。
 ハッと我に返ったむつきが咄嗟に隠すももう遅い。
 にやにやとそっか、そうなんだと笑いが止まらない二人にむつきは両腕を抱えられた。

「ちが、そう朝。朝だからさ、飯の時も隠すのが大変で」
「長谷川、ありがとう。先生やっぱり、こういうの大好きなんだ」
「生地も薄くて乳首が透けたり恥ずかしいけど、先生が元気になってくれるならいいかな?」

 必死にいいわけをするも、二人に聞いてもらえずずるずると連れて行かれる。
 何処へかと言うと、昨晩もアキラと一緒に入ったバスルームにであった。
 コテージに備え付けのバスルームだが、かなり広く空間を作って設計されていた。
 それこそ、浴槽の外にエアベッドマットを敷いても十分空きがあるぐらいには。
 実際にベッドマットがあり、まだ余裕があったのでその広さは一目瞭然だ。
 もはや何が何だが、思考停止中のむつきの服を二人が嬉々として脱がし始める。

「君達、俺の服を一生懸命脱がす前に説明をしなさい、説明を。確かに正直嬉しいけど、素直に楽しめないだろうが」
「簡単に言うと、いつもエッチで気持ちよくして貰ってるから」
「今日は私達が先生を一杯気持ち良くしてあげる」
「説明に全然なってないぞ、この野郎」

 いくらなんでも突然過ぎるし、方法がまたアレだ。
 むつきも二人と付き合う前は風俗三昧で、マットでのローションプレイは慣れている。
 情報源は長谷川か誰かだろうが、突然それをしようと思った二人の思いが分からない。
 何を切欠に、どう思って。
 ただ二人が余りにも一生懸命なので、問い詰めるのも悪い気がしてきた。
 二人のやりたいようにと、脱がせてくる手に抗わず、むしろ率先して動いて服を脱いだ。
 すると自分でも不思議な事に、一物は完全臨戦態勢であった。
 可愛い嫁と彼女がエロイ格好をしているとはいえ、一瞬で身構えるとは歴戦の戦士過ぎる。
 もちろん身構えた獲物はグレートソードであった、たぶん。

「じゃあ、私がここに座るから先生はうつ伏せで。膝の上にどうぞ」

 マットの上に美砂が正座し、ぽんぽんとその膝を叩いてきた。
 戦士が猛り来るっているので、折れないように苦戦しながらうつ伏せに寝る。
 それから言われた通り美砂の膝、谷間となったそこに顎を乗せるように顔を乗せた。
 直ぐ目の前は美砂のおへそと、マイクロビキニで強調された割れ目が目の前だ。
 今気付いたのだが、マイクロビキニの割りに陰毛が全く見えない。
 旅行の為に剃ったのか、それともこのプレイの為に慌てて剃ったのか。

「アキラの準備、もう少しかかるから。先生はこっち、なんて言うんだっけ?」

 ぬちゃぬちゃと後ろでする水音、ローションを混ぜる音がその準備だろう。
 えっと、と思い出しながら美砂が濃紺の瓶からコルクを抜いてワインを膝の間に流し始めた。
 ただし、角度が悪くて太ももとお腹の三角地帯に留まらず流れ出す。
 普段の膝枕のつもりでいたので、前方向に足が僅かに傾いていたせいだろう。
 むつきの顔が置かれた膝の方にであり、慌ててむつきが流れていたワインをすすった。

「あ、あれ?」
「慌てるな、このまま飲めるから。もう少し、体重を後ろに掛けてみろ」

 流れてくるワインを吸いつつ、河を遡って池に到達する。
 それからずずっとワインを飲むに相応しくない音を立てて飲みきった。
 後で罪悪感に凹む予感はかなりするが、今さら止められない。
 ワインの味が欠片もしなくなるまで、美砂の足とお腹の谷間を舐め続けた。
 剃った後でも、ワインでもワカメ酒というのか。
 かなりどうでも良い疑問を思い浮かべている間に、アキラの準備も完了したようだ。

「先生、冷たいかもしれないけど。少しだけ我慢して」
「お、了解」

 とろりと背中から尻へと、むつきがローションでデコレートされていく。
 ひんやりしたのは一瞬で、直ぐに温かい体温を持ったアキラが背中に抱きついてきた。
 全身ローションまみれで、むつきの背中の上を滑り始める。
 どうやらマイクロビキニは脱いだようで、直接的なアキラの胸の感触があった。
 高級スポンジも顔負けの柔らかいそれが、むつきの背中の上を転がっていく。
 ただ全身なだけあって、お腹も太もももあらゆる部分を押し付けアキラが動いた。
 美砂のワカメ酒と同じく、動きは拙いが一生懸命さが良く伝わってくる。

「先生、気持ち良い?」
「ああ、いいぞ。元気になり過ぎて、お前ごと持ち上げられそう。美砂、美砂もビキニ脱ごうぜ。ワカメ酒に、正直無粋」
「先生がそう言うなら……ちょっとだけ、ごめんね」

 一つ断りを入れてから、美砂がマイクロビキニを脱いでからもう一度膝を置いた。
 それからお代わりのワインを、今度こそ零さずに注いでいく。
 今度は一気に貪らず、一生懸命奉仕してくれるアキラの体を楽しみつつ、ちびちび飲んでいった。

「先生、美味しい?」
「最高、だけど。お酒より、正直一度出したい。うつ伏せでいるの辛いわ」

 元気がありあまり、体で抑えるのも限界でむつきは中腰の様になっていた。
 そのせいでアキラも動き辛そうで、困ってさえいる。
 ただし、辛いと言われてもどうすれば良いかまだ良く分からないらしい。
 だったらと、テキパキとマットプレイのやり方を語られても困るが。
 あたふたとする二人へと、結局むつきが過去の経験からこうだろと指示を出した。

「俺が仰向けになるから、アキラの位置に美砂が。アキラはフェラしてくれ」
「分かった。アキラ、ローションまだある?」
「うん、たくさん」

 むつきは美砂の膝から頭をどけると、仰向けとなって両腕を頭の下に敷いた。
 エアマットだけで、枕までは用意できなかったらしいので仕方がない。
 ローションを体に掛けて跨ってきた美砂を眺める。
 少し悩んでから最後に残っていたマイクロビキニのブラを脱ぎ、体を密着させてきた。
 ぬるぬるにちゃにちゃと、ローションを刷り込ませるようにむつきの体の上を滑った。
 それだけでなく、むつきの乳首とキスしたり普段されるように転がしてみたり。
 段々と予想はしていたが、むつきへの奉仕だけを目的としているらしい。
 アキラの方も、むつきの開いた足の間に座り込んで一物へと手を伸ばしていた。
 これまたローションまみれの手で、まず一物全体を濡らしては滑らせていく。
 マッサージするように玉袋をもみ上げ、クックッと刺激して精液を作らせる。
 それから竿を手コキして、最後にぱっくりとそそり立つソレをくわえ込んだ。

「うほっ」

 目の前に美砂がいた為、くわえ込む瞬間に心構えがなく、妙な声を上げてしまった。
 竿の周りをアキラの唇が包囲し、ずぶずぶと飲み込んでいく。
 ローションのおかげですべりもよく、アキラの口が本当に膣の様に感じられた。

「先生、お酒」
「お前なあ。今回だけだぞ」

 むつきの胸の上で騎乗位のように腰だけを動かし始めた美砂が、ワインの瓶を持っていた。
 そして瓶の口をくわえ込み、クイッと瓶を傾け一口分だけ口に含んだ。
 先にむつきの許可は貰っていたので、体を丸めて口付ける。
 一瞬で終わっては勿体無いと思ったのか、少しずつちょろちょろ流し込まれた。
 最後の一滴まで口移しすると、まだ残っているとばかりに侵入してきた舌に口内を味わわれる。
 舌と舌、歯茎から歯の裏に至るまでワインの味が尽きても嘗め尽くされた。

「美味い……アキラ、イク。イクぞ!」
「んっ、んっんーーーっ!」

 奉仕されているのに躊躇は失礼と、一瞬の躊躇いなくむつきはアキラの口の中に射精した。
 腰が浮き美砂を跳ね飛ばしそうになりながら、アキラの口を蹂躙していく。
 咄嗟に頭の下に敷いていた腕も伸ばし、美砂で見えない向こう側のアキラの頭を掴んだ。
 まだまだ出るとばかりに押し付け、喉の奥にまで精液を迸らせる。
 必死に動くアキラの舌もさらなる射精を促がし、驚く程に射精感が長い。
 これは相当なと思っていると、射精感が終わった後にアキラが立ち上がってきた。
 とことこと近寄り、寝転がるむつきの横にしゃがみ込んでくる。

「れんれぇ」
「我慢するな、苦いなら捨て」
「んくっ」

 口を開けて精液を見せたアキラが、目の前でそれを一気に飲み込んだ。
 今こことばかりに、喉から胸、胃へと手で通り道を教えてくれさえ。
 終着点は胃であり、はっきりと分かるのかアキラが手でその部分を撫でた。

「アキラ、大丈夫か? なにも飲まんでも」
「まずかったけど、先生が出してくれたものだから」
「アキラ、凄い。先生も言葉ではこう言ってるけど、喜んでるみたいだし。先にどうぞ」
「いやいや、これさすがにおかしい。出したのに萎えもしないって」

 むつきの一物は出す前と変わらず、天を突くように立ち上がったままだ。
 むしろ一度出した事で余計な肩の力が抜けたぜとばかりに、軽快な動きさえ見せていた。
 歴戦の戦士はやはり新米戦士とは格が違ったが、むつきはそこまで歴戦ではない。
 さすがに、ここまで来ればむつきも分かった。
 あの野菜ジュース、妙に粉っぽかったが何かを盛られている。

「お前ら、俺に何した。すっげえ不安になって来た」
「変なものは入れてないって。先生、超りんから漢方薬貰ったでしょ」
「先生がご飯の間に荷物をちょっと探して、見つけたそれを厨房で」
「なんだ超の漢方か……ん?」

 それなら元々美砂達と使う為に貰った物なのでと思った所で、ある事に気付いた。
 そう言えば、漢方薬を貰った時に超が妙な事を言っていなかっただろうか。
 確か、彼女達そう言った。
 彼女はまだしも、何故複数形でそう言ったのか。
 もはやこの美砂やアキラとの関係でさえ、実は見透かされているのかもしれない。
 戻ったら一度ちゃんと話してみる必要がある、もちろん最初は美砂達の事は伏せてだ。
 仮にばれているとしても、ここまでお膳立てしておいて、世間にばらすとかはないと思いたい。
 こういう系統の漢方薬の臨床試験とかやらされそうだが。

「アキラ、自分で入れてみろ。美砂も俺の顔に跨ってくれ」
「先生、ちょっと御免ね」

 美砂が顔の上に跨り、指で開いた秘所の谷間を口の上に落としてきた。
 完全に視界は美砂の股座で閉ざされ、目の代わりであるかのように舌を伸ばす。
 甘く味付けされたローションの味を味わいつつ、熱い膣の中へと舌を伸ばしていった。
 まずは膣口にたどり着く前に、その周りの分厚い肉をより分ける。
 蛇が蠢くように侵入していき、膣口からは一気にもぐりこんでいった。
 むつきの舌が膣内で蠢くたびに、顔の上で美砂が腰をくねらせ踊る。

「ぁっ、んぁ。気持ち良いけど、奉仕に」
「俺がやりたいようにやってるだけだ。アキラも、おいで」
「うん、先生いれるね」

 美砂の膣を口で味わいつつ、今度はアキラの膣を一物で貫いていく。
 むつきによる前戯こそなかったが、ローションプレイで十分に中は潤っていた。
 それでもアキラは慎重に腰を下ろし、ゆっくりと受け入れてくつもりであった。
 しかしやはりそこはまだローションプレイに不慣れなせいだろう。
 もはやお約束であるかのように、三分の一を挿入したところで足を滑らせた。
 必然的に尻もちをついたは良いが、残り三分の二を一気に挿入してしまったのだ。

「ぁ……先生、出てる。私まだ何んぅ」

 天井を見上げて喘ぎながら、子宮を汚されるのを感じてアキラが呟く。
 アキラも子宮を突然突かれてイッたらしいが、むつきもそうらしい。
 もっともむつきは、超の漢方薬のおかげとも言えたが。

「お前がくっ、びっくりさせるから。ふぅ……美砂、後ろ向いて寝転がれ。アキラと俺の結合部を舐めてくれ」
「はーい、溢れてる。アキラも頑張ったし、えい。やっぱ、まずけど。なんとか」

 動きが鈍ったアキラの代わりにむつきが腰を使って、突き上げる。
 ローションに加え、精液も新たに加えもはや水音ですらない卑猥な音を立てた。
 ぐじゅぐじゅと溶けず混ざりあうような下品な音だ。
 その音の源を美砂に舐めさせ、お腹で胸の感触を、口で以前と秘所の割れ目を舐め上げた。
 美砂の足を開かせ腕で包むように太ももを抱え、卑猥に割れたそこをである。

「アキラ、突いてもらってばかりじゃ奉仕になんない」
「む、無理……柿崎手伝って」
「しょうがないなぁ」

 完全に腰が砕けたアキラの代わりに、美砂がそれを手伝った。
 結合部に舌を伸ばしながら、アキラの腰に両手をそえ石臼のように回転させる。
 中でどうなっているかは、普段自分がされているので良く分かった。
 子宮口でむつきの亀頭を刺激するように、アキラの腰を回転させた。
 ただしそれは、アキラも刺激され続けるのと同じ意味であった。

「待って、柿崎待って。感じ、感じすぎちゃう」
「駄目、先生が気持ちよくなるのが一番大事。先生、アキラの子宮口気持ち良い?」
「たまらない、今直ぐにでも出そうだ。しかも、これ開いてきてる。いずれ、子宮の中にも挿入できるんじゃないか?」
「アキラ、良かったね。もっと強く子宮の中を精液で叩いてもらえるかも」

 羨ましいなとばかりに、美砂はさらに強く下に押し付けるようにアキラの腰を回した。
 だがされているアキラの方は溜まったものではない。
 ただでさえ、滑った際の強制挿入でイって射精されているのだ。
 敏感なところに、子宮口を亀頭でぐりぐりと刺激され続ければ、気絶してしまう。
 むつきに奉仕して満足させようなどと、浅はかだったかとちょっと後悔していた。

「先生、ごめんなさい。次イッたら、しばらく動けない」
「気にするな、その間は美砂に相手をして貰うさ。気がついたら、直ぐに相手してやるよ。本当に全然萎える気がしねえ。漢方凄いな、漢方」
「ちょっと、もはや別の薬の気もするけど」
「まあな、それじゃあ。アキラは少し休憩だ。ほら、イクぞ!」

 アキラの中での二回目の射精であった。
 この時はむつきも手を使ってアキラの腰を押し付け、思い切り吐き出した。
 子宮口をこじ開け、中に直接放つように。
 一度目や二度目の射精量と変わらぬ精液で、子宮内を満たしていく。
 もはやアキラは言葉も発せられないようで、半分目をまわしていた。
 それでもむつきは射精感の度に腰を打ちつけ、最後の一滴までしっかり射精する。

「はあ、本当にこれ凄い。アキラ、少しだけ休憩な」
「先生、私は? どういうプレイが良い?」

 気絶一歩手前のアキラをむつきが胸の上で抱きとめていると、そう美砂が尋ねてきた。
 今回のテーマが奉仕となると、あまりむつきが積極的に動くわけにもいかない。
 アキラの場合には結構腰を使ってしまったが。
 ならばと、少し意地の悪い笑みを浮かべて提案した。

「なら美砂、俺の足の間で向こうを向いて四つん這いに」
「バックから?」
「ちょっと違う、向こうを向いたまま自分で入れてみな」
「向こうを向いて四つん這いで……」

 一体どういう体位か、気付いた途端にカッと美砂の顔が赤くなっていった。
 仰向けに寝ているむつきとは逆方向に四つん這いで伏せるよう挿入。
 腰を上下に振ってみせろとむつきは言っているのだ。
 入っているところはもちろん、必死に美砂が腰を上下に振るところさえ丸見えである。
 なんたる意地の悪い、それも変態的な提案か。
 この変態と思わず睨みそうになりながら、美砂は今日だけはと我慢した。
 言われた通りむつきの開いた足の間に座り、足が伸びる方向へと四つん這いになった。

「先生、いれるから。これ以上は意地悪しないで」
「はいはい、分かったよ」

 竿を振って挿入の邪魔をしようと思ったが、先に注意されてしまった。
 大人しく美砂の奉仕を楽しみますかと、抱いたアキラの胸を揉みながら眺める。
 美砂が後ろへと、むつきの方へと振り返りながら、お尻を下ろし始めた。
 ただ慣れない体位である事や、視界から遠い事もあり少し手間取っている。
 だがむつきが手を貸す前に、自分で後ろに伸ばした手で竿を固定し始めた。

「んぅ、全然硬い」

 散々舌で舐めて柔らかくされた膣口へと、まずは亀頭を飲み込んだ。
 それから徐々に膣の中へとむつきの竿を一口で飲み込んでいく。

「気持ち良いぞ、美砂」
「恥ずかしいけど、気持ち良い。はぅ、先生のせいで私まで変態になった気分」

 むつきの竿を全部飲み込むと、間をおかずに美砂は腰ではなくお尻を上下させた。
 これは奉仕、動かないむつきの変わりに、お尻を上下に振って挿入を繰り返す。
 むつきからすれば、こんなに楽しい光景はない。
 美砂の大きなお尻が自分の股座で必死に振られているのだ。
 お尻の谷間の奥では勃起した一物が咥え込まれ、ローションと愛液で光っている。
 見た目美しいとはいえないそれを、美砂が咥え込んでいた。
 愛液をまぶしてすべりを良くし、何時射精しても良いよとばかりに。
 世界一の幸せ者だと、自分の事を思わざるを得ない。

「先生、先生気持ち良い? 私の中、気持ち良い?」
「いいぞ、可愛いお尻が必死に咥え込んでる。美砂のいやらしいところも丸見えだ」
「先生のえっち」

 もう本当に恥ずかしいとばかりに、腰とお尻の動きはそのままに美砂は完全に顔を伏せた。
 体も四つん這いではなく、女の子座りから体を伏せたように。
 むつきとの接触部分を増やしながら、顔を見られないように腕を枕の様にする。

「んぅんっ、ふぁ。はっ、先生まだ?」
「四回目だからまだ少し、硬いけど射精は少し遅くなるな」
「頑張るけど、我慢しなくていいから。時間はまだあるから、一杯好きな時に出して」

 なんたる幸せ者、今再びそれを実感し高ぶりが背筋をぞくぞくと上り詰めた。
 美砂を貫いていた竿が一回り膨れ上がり、射精が近くなった事を知らせる。
 さすがに体を重ねてきた事もあって、美砂もそれに気づいたようだ。
 さらにお尻を振るスピードを速め、むつきの射精を促がそうとし始めた。
 まだびらびらに開いてもない綺麗な花びらでしっかりむつきの竿を扱きあげる。

「先生、私に精液。赤ちゃんの種ちょうだい。お腹に植えつけて」
「いくぞ、美砂。好きなだけ、今日は何回でも出してやるぞ」
「その為に、色々手をまわしたから。先生は好きなだけ、何回でも私達を孕ませて」
「じゃあ、美砂は一回目だ。一杯孕めよ、ほら来た。イクぞ!」

 美砂が降ろしてきたお尻にあわせ、一度だけむつきが腰を跳ね上げた。
 タイミングはばっちり、歯車がかみ合ったようであった。
 体位的に遠かった子宮口へとなんとか辿り着き、亀頭の鈴口を合わせる。
 あとは玉袋の中の精液をありったけ注ぎこむだけ。
 びゅるびゅると未だ衰えない勢いのまま、美砂の子宮の中に種付けしていく。
 まだまだ出るとばかりに、美砂の膣もさらなる射精を促がして締め付けてきていた。

「凄い、来てる。先生が一杯、昨日よりもっと!」
「すげえ、もう溢れてきた。ほら美砂、膣をもっと締めろ。溢れてるぞ」
「無理、足に力が入らないし」

 足どころか腰もぬけたようで、美砂は挿入され射精されたまま動けないようだ。
 アキラもまだ完全に復活していないが、むつきはまだまだ元気である。
 というか、これ本当に何時か萎えるのか心配にさえなってきた。
 夕方にまで萎えさせないと、帰りのセスナの中でも立ちっぱなし。
 また恥ずかしい笑い話を提供するだけになってしまう。

「アキラ、ちょっとだけ起きて」
「ぁっ、先生」

 美砂の中から一度出て、その美砂をゴロンと仰向けにさせる。
 それからアキラを少しだけお越し、美砂の上にうつ伏せに寝かせた。
 失礼にも重いと美砂が訴えたが、それに反論する力はアキラにはなさそうだ。
 これ幸いにと、むつきはそのうつ伏せにさせたアキラへと覆いかぶさるようにして挿入した。

「美砂、こっちキス」
「先生、んっ……甘い」
「先生私も」
「アキラはフェラしたし悪い、こっちで我慢してくれ」

 背中の上を滑るようにして、膣の中を楽しみながらうなじを舐め上げた。
 両手は二人の胸が重なる桃源郷へと。
 三人でナメクジの様にローション塗れの中を絡み合う。
 キスを貰えなかったアキラは悲しそうに、美砂へと唇を奪って貰う。
 現在時刻は十二時過ぎと、帰りまでの残り時間は四時間。
 三人はセスナの時刻ぎりぎりまで使い、奉仕は別にして求め合う事になる。
 そしてむつきもそれまでになんとか漢方の効能を抜く事に成功した。









-後書き-
ども、えなりんです。

主人公のパワーアップ回(笑)
それはともかくとして、今回までが厳密にはアキラ編かも。
美砂の言う通り、一先ずはハッピーエンドという形で。
多分、以後は二人共心に黒い感情を抱く事も減るでしょう。
ハーレムへの布石というか、下準備。
ギスギスしたのは、好きじゃないですしね。

それで、次回からは新章の麻帆良祭編。
更新は土曜日です。



[36639] 第二十五話 だから、必死に我慢した
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/04/06 20:19

第二十五話 だから、必死に我慢した

 中間テストも終わり陽だまりが麗らかな五月は過ぎ去って、夏の気配が色濃くなり始める六月。
 日々蒸し暑くなり始めると同時に、生徒達は浮き足立ち始めていた。
 いや、浮き足立ち始めるどころか、実際に浮き足立っている生徒の方が大半である。
 厳しくも辛い中間テストも、結果が良し悪しに関わらず待っているのは麻帆良祭。
 仮装や被り物姿で登校するぐらいは大人しいもの。
 各部の出し物の宣伝の登りを立てたり、ロボットを走らせたりやりたい放題。
 一般入場者用の門も、麻帆良工大の土木作業部の手により製作が開始されていた。
 他に気の早い、または当日の宣伝効果を狙って一足早くお店を開くものもいるぐらいだ。
 最も、それは余程の人気のお店か、問題を起こさない保障のある者にしか許可されない。
 その数少ない出展、超包子にむつきは朝食の為に立ち寄っていた。
 電車を改造した調理場とカウンターに、数点のテーブルが露天に並べられている。
 カウンターの隅にこそっと隠れるようにしながら、むつきは飲茶を口にしていた。

「超、お前何処まで知ってるんだ?」

 背後の席は満杯でかなり賑やかなので、誰に聞かれる事もないと目の前の店長に尋ねた。
 二年A組の麻帆良最強の頭脳、超鈴音がこの超包子の店主なのだ。
 他に四葉五月が料理長、古菲がウェイトレス兼用心棒である。

「全てお見通しヨ。お望みなら、先生の預金残高から、ひかげ荘を他人から隠す元になった女性の名前まで。全部あげてみようカ?」
「怒っていいやら、笑っていいやら。そんな事を調べてお前、結構暇人だな。教室で喋られたら、残高はともかく後者は怒るが」
「プライバシーという言葉ぐらい知ってるネ。調べたのはあくまで、個人的趣味ヨ」

 個人的趣味でも調べて把握した時点でプライバシーもなにもないのだが。
 とりあえず趣味が悪いと悪態つくと、私もそう思うとニッコリ返された。
 じゃあするなよと思いもしたが、重要なのはそこではない。

「それで、学校には黙ってて貰えると解釈していいか? わざわざ、漢方くれたってことは」
「もちろん、委員長と同じくクラスメイトの幸せを願うのは同じヨ。それも女の幸せとあれば尚更ネ」
「それが聞ければ十分。おーい、四葉」

 話は終わりとばかりに、別の車両で料理を作り続けている四葉に声をかけた。
 熱い火の前で汗だくになって、重たい中華鍋を一生懸命振るっている。
 料理人を目指すだけ合って、試食が多いのか他のクラスメイトよりスタイルは正直悪い。
 だが夢に向かって駆けるあの汗は、可愛いなど失礼で綺麗の域だ。

「美味かったぞ。このまま頑張れば、何時かちゃんとした料理人になれるかもな」
「はい、ありがとうございます。一生懸命作るので、また来て下さい先生」

 精霊の囁きのような不思議な声が返り、ペコリと頭を下げられた。

「五月は既に一人前の料理人ヨ?」
「学生、十四歳。そういう枕言葉があるうちは、一人前って言えねえよ。言わせんな、恥ずかしい。本当に俺なんかが、恥ずかしい」
「二回言ったという事は、本当に恥ずかしいと思ってるネ」
「そうなんだよ、だからニヤニヤ顔を覗きこむな。あ、そうだ。それとアレ、色々楽しめたよ」

 生徒に対してどうかと思うが、最後に漢方薬のお礼を言ってむつきは職員室へと向かった。
 超包子で食事する為に、元々早めに寮を出た為、何時もより早めについた。
 他の先生方の姿が何時もより少ないが、理由はそれだけではないだろう。
 特に広域指導員をしている先生、例えば新田などはこの次期は大忙しだ。
 何しろただでさえ色々な問題を起こす生徒が、さらに麻帆良祭で浮き足立っている。
 その状態で問題を起こすなという注意が何処まで意味のあるものか。
 もはや見回りも何かが起こることが前提で行われている事だろう。

「あれ、乙姫先生早いですね」
「瀬流彦先生……あの、大丈夫ですか?」
「え、何が? ハハハ、僕は何時も通りですよ。はぁ……」

 糸目なので目は見えないが、無理矢理開いてみれば死んでいる事だろう。
 頬もげっそりとこけて、もはや別人。
 暗がりで出会えば思わず恐怖から悲鳴をあげてしまうかもしれない。
 図書館島のカードキーを借りた件で瀬流彦が学園長室に呼び出されて以来、ずっとこうだ。
 何がまずかったか聞いても教えて貰えず、むしろもう聞かないでくれと懇願さえされてしまう。
 しかし、これはもう誰か女の人を紹介するしか謝罪のしようがない。
 むつきが謝罪する事ではないかもしれないが、仲の良い同僚の為である。

「瀬流彦先生、もし良かったらですが僕の親戚の姉ちゃんですを紹介しましょうか?」
「その話、詳しく。癒し系? 今僕は凄く誰かに癒されたいんです!」

 くいついた、他に誰も思いつかず言って見たらすごい食いつかれた。

「僕より二つ三つ年上ですが、まあ癒し系ですね。ややぽっちゃり系ですが胸も大きいし。ただ目を放すとふらっといなくなったり、血を吐いて倒れたりしますけど」
「姐さん女房、しかもちょっと病弱で儚い癒し系。あと巨乳!」
「最後、男としてわかりますけど」

 一瞬、紹介を躊躇ってしまったが、ここで止めればこっちが殺されかねない。
 一先ず麻帆良祭に呼んでみると伝える。
 すると途端にこけていた頬さえ戻りそうな勢いで、コーヒーさえ淹れてくれた。
 揉み手で肩凝ってませんかと、もはや卑屈な舎弟の状態であった。
 さすがに外聞が悪いし、肩こりなどは休日のマットプレイでスッカリ消えたので止めてもらったが。
 むしろ、あの神聖なプレイの後で男になど触れて欲しくはない。

「おはようございます、乙姫先生。瀬流彦先生。なんだが、面白いことになってますけど、どうしたんです?」
「乙姫先生がついに、癒し系巨乳お姉さんを紹介してくれるって」
「瀬流彦先生、テンション上がりすぎ。大声で巨乳とか言わないで下さい。他の先生方、特に女性の先生から睨まれてますよ」
「その話、詳しく」

 だが全員が全員ではなく、女性であるはずの二ノ宮は全く気にせず食いついてきた。

「君達」

 しかしながら、三人で顔を寄せ合った瞬間に、やや怒りを抱いた声が落とされた。
 やばいと振り返ってみれば、いやににこやかな笑みを浮かべている新田であった。
 三人とも同時に、あっこれは怒られると悟っていた。
 朝から職員室内で大声で巨乳と言ったり、学生のような事をしていれば当たり前だ。

「学生に釣られ、教師まで浮き足立ってどうする。こういう時にこそ、生徒の模範たる教師がまず見本を見せねばならないというのに。しっかりしたまえ、もう君たちも新人というわけでもあるまい」
「はい、すみません」
「仰るとおりです」
「以後、気をつけます」

 三人同時に頭を下げ、流れるような連携で謝罪の言葉を連ねた。
 その余りの見事さに、職員室のどこかでくすりと笑いが起きるほどだ。

「と言うわけで、その話は今日の放課後にでも超包子でするとしよう。教師も人間だ、時と場所を選べば多少は謝意でも問題ない。ちなみに私の奢りだ」

 あっ、鬼じゃなくて神だと三人これまた同時に頭を上げた。
 そしてその意図を察して、即座に全員自分のデスクに帰って授業の用意を始める。
 ここで本当ですかとはしゃげば、奢りが取り消しどころか雷の追加だ。
 にやけそうになる顔を押さえつけながら、授業そして担当クラスのあるむつきは朝会の準備を始める。
 と言っても、朝会の準備などはクラス名簿の用意と連絡事項の確認ぐらいだが。
 どちらにせよ物で釣られるとは学生と変わらないが、新田は満足そうにテキパキ動き始めた三人を眺めてから自分もデスクについていた。

「あっと、クラス名簿がないと思ったら」

 そして準備中のむつきは、クラス名簿が高畑の手にある事を思い出した。
 中間テスト中はずっと戻ってきていたが、恐らくまた何処かへ長期出張だろう。
 何時もの事なので、高畑のデスクへと向かい渡されている合鍵で勝手に引き出しを開ける。
 本当に何時もの事なので、他の先生方も他人のデスクを勝手に開ける事は注意しない。
 右手の一番上の机の引き出しから、生徒名簿を取り出して脇に抱える。
 やはりこれがないと最近、妙に落ち着かない。

(麻帆良祭か、どんな出し物するのか。去年、アイツらなにしてたんだろ)

 今年から二年A組の副担任となったので、実は知らないのだ。
 そこを含め、色々と話を聞きたいなと思っていると、思わぬ人物が入ってきた。

「おはようございます。いや、やはりこの次期の生徒はパワーが凄い。取り押さえる方も、一手間だ」

 ハッハッハとタバコの匂いを振り撒きながら現れた高畑であった。

「えっ、あれ。高畑先生、出張じゃ」
「ん……ああ、ごめんごめん。乙姫君に言ってなかったかな? こういう時ぐらい、あの子達の担任として面倒を見ないと忘れられちゃうからね」

 以前、むつきのホームルーム中に入ってきて、何故という目で見られた事が堪えたのだろう。
 僅かに残る引き釣りを表情に表しながら、高畑が笑っていた。
 その言葉から、しばらく出張は控えて集中するという事だ。
 麻帆良祭の間中、当たり前だが担任の高畑が二年A組の面倒を見る。
 つまり、副担任であるむつきの出番は、本来の役目どおり控えに降格であった。

「そういう事だから、乙姫君もたまにはゆっくり麻帆良祭を楽しんでくれ。大変だろう、あの子達の面倒を毎日みるのは」
「は、はは……そう、ですよね。たまにはゆっくり、楽させてもらってすみませン」

 最後の方は、思い切りむつきが引きつり、声が裏返って妙に職員室内に響いていた。









 他の生徒達に負けず劣らず、いやそれ以上に二年A組の教室もにぎわっていた。
 その話題の中心はもちろん、麻帆良祭、それもクラスの出し物であった。
 何しろ麻帆良では、学生の自主性を尊重すると、麻帆良祭での金儲けも許されている。
 クラスの出し物で得た利益もそのまま生徒のお小遣いに流れる仕組みだ。
 普段、欲しいモノが両手では数え切れない思春期の女の子には美味し過ぎる話であった。
 もちろんそれは、利益を出せばと言う話なのだが。
 二年A組にはあらゆるエキスパートが揃っているので、余程の馬鹿をしない限りはほぼ確実に儲けは出るだろう。

「超包子で良かったろ、超包子で。めんどくせえ」
「それは無理でしょう。余りに儲けを出しすぎて、クラスの出し物としては禁止。聞こえが良い方では殿堂入りしてしまいましたし」

 余りの騒がしさに頭が割れそうだと、抱えていた長谷川が呟いた。
 それに答えたのは、最近その隣が定位置と化した雪広である。
 二人が超包子と言っているのは、朝にむつきが立ち寄った超の店とは同じだが少し違う。
 今年超は超包子を個人出展しているが、元々は一年の時のA組の出し物だったのだ。
 麻帆良最強頭脳と当時から呼び声は高かったが、経営の手腕はまだ未知数。
 四葉の腕前もまだそれ程広まっておらず、A組の出し物として超が全てを取り仕切った。
 そして、儲けを出しすぎてしまったのだ。
 全員で利益を割っても百万単位でばら撒かれる始末で、さすがにストップが掛かった。
 これが高校生、大学生ならまだしも一年前までランドセルを背負っていた子供である。
 とりあえず三万ずつ渡され、残りは親が用意した通帳へと直行、管理された。
 それから超包子は殿堂入りとされ、以後は超の個人出展しか認められなくなった。

「でも、言葉とは裏腹に楽しみだと顔に書いてありますよ長谷川さん」
「まあな、麻帆良には色々と思う所があった私だが。最近は気にならなくなってきた。だってさ、もっと異常で普通な恋愛この目で見てるんだぜ?」
「異常で普通、言いえて妙ですが。確かにその通りですわ」

 互いに笑いながら、その渦中の人物へと視線を向けた。
 美砂は今日だけは惚気る事なく、皆と一緒の麻帆良祭の話題の渦中であった。
 話し合い手は同じ部活の椎名と釘宮だ。
 机に腰掛けて少々行儀が悪いが、雪広を含めて誰も注意しない。

「やっぱり、時代はメイド服でしょ。彼氏も超喜ぶし」
「でもさ、それって客層選ばない? 男しか来ないとか、いきなり半分のお客を捨てるのと一緒じゃない。小さい子がいる家族連れもこなさそう」
「美砂みたいなカップルもね。もてない、非イケメンばっか来るよ。どうせならイケメンが集る企画がいいよねー」

 聞き耳を立てていた数名が、椎名の言葉に確かにと頷いていた。
 女子中で日々勉学に励み、部活にいそしんいるのだ。
 他校の男子生徒との出会いなど余程の偶然に期待するしかない。
 図書館探検部の様に、麻帆良全学区合同の部もあるにはあるのだが。
 それはそれでライバルが異常に多い。
 他校の男子のみならず、他校の女子からそれも年上を含む人たちも虎視眈々と男子を狙っている。
 必然的に、偶発的な出会いが狙えると言う矛盾したこの麻帆良祭はお金儲け以上に大切な催しでもあった。

「あと肝心なのは、部活での出し物と被らない事だよね。うちは、演目だから関係ないけど。裕奈達は部活で何するの?」
「ウチはおおもめ中だにゃあ。水泳部みたいに恒例のたこ焼き屋とか決まってたら楽なのに」
「そうでもないよ。伝統の味は守られてるか、店構えは立派か。OGが覗きに来るし。さすがのキャプテンも普段と勝手が違うし手間取ってる」
「伝統の味って、水泳部なのに……」

 部活に力を入れている者は、そちらの方でも気が抜けないらしい
 佐々木のように演目、または作品の展示となるとそれぞれ別の苦労がある。
 前者は部の宣伝にもなるので演目の為の練習があるし、校舎は期日までに作品を仕上げねばならなかった。
 そんな風に長谷川と雪広がむつきの恋人達を眺めていると、最後の三人が登校してきた。
 時間ギリギリ、超包子で朝の時間一杯を使っていた超、四葉、古である。

「疲れたアル。超、ウェイトレスのバイトをもっと増やすアルよ」
「そうネ。茶々丸もそろそろ、ファジーな対応に挑戦しても良い頃合ネ。よろしいか、エヴァンジェリン」
「ふん、好きにしろ。後々、私の為になるからな」
「それでは、そのように今日中に装備の換装と行きましょう!」

 珍しい事に超がマグダウェルに話し掛け、これまた珍しい事にまともに返事が返っていた。
 可愛らしい西洋人形のような姿とは裏腹に、態度の大きそうな言葉であったが。
 ただ、四葉にありがとうございますと頭を下げられ、赤くなってはそっぽを向くのがなんとも可愛らしかった。
 そして、二年A組が全員揃ったところで、教室の前の扉が開けられた。
 既に生徒が全員揃っているので先生以外には考えられない。
 雪広もそれを察して長谷川に別れを告げて自分の席へ、他の席でしゃべっていた者も席に戻る。

「やあ、おはよう皆。ホームルームを始めるよ」
「高畑先生!」

 思わぬ高畑の登場に真っ先に反応したのは、やはり神楽坂であった。
 立ち上がって両手を胸の前で祈るように重ねあわせ、普段の性格とは裏腹に乙女チックな態度である。

「今日も明日菜君は元気がいいね。けど、座ってくれると嬉しいかな」
「あっ、はい。ごめんなさい」
「なんで?」

 だが神楽坂が座るとほぼ同時に、茫然と呟きながら長谷川がつぶやいていた。

「長谷川君。ああ、僕がいるのが珍しいかな? はは、乙姫先生にも同じように見られたよ。でもこんな時ぐらい皆の為にいないとね」

 むつきも笑っていたからと冗談めかして、高畑が長谷川にそう笑いかけた。
 確かにそれは大半の生徒には通用し、笑いを誘ったのは確かだ。
 皆もあの事件の事は良く覚えている。
 むつきのホームルーム中に高畑が入ってきて気まずい状態となったアレだ。
 そりゃそうだと、高畑の冗談を受けてクスクスと笑う。
 しかし、全員が全員笑ったわけではなく、むしろ怒りを買う結果となった。

「ふざけんじゃねえ!」
「ひゃたっ」

 怒れるままに長谷川が机を蹴り、ずれたそれが前の席の近衛の席の背もたれにあたった。
 驚き次いで軽い痛みを訴えていた。
 どちらかというと、驚きの方が大きかったようでアキラのような立派な黒髪が波打っている。

「あっ、悪い近衛」
「ええよ、びっくりしただけやから」
「お嬢様に何をする!」

 咄嗟に謝罪し、大丈夫と手を振ってもらえたが、間が悪かった。
 誰のかは不明だが、何故か突然立ち上がった桜咲が竹刀袋を手に立ち上がる。
 普段クールな彼女の怒声と異常に鋭い眼光なだけに、かなり長谷川もびびった。
 いや、びびったのは長谷川だけではないらしい。
 桜咲の前の鳴滝姉はピンと背筋を伸ばして硬直し、左隣の気の弱い宮崎など半分白目を剥いている。
 右隣の釘宮など壁に背中を張り付けるようにして及び腰だ。
 座席が遠い近いに関わらず、皆似たようなもので豪胆な者ほどそれを受け流している。

「桜咲さん、長谷川さんの態度は確かに問題でしたがそれを使って何をするつもりですか?」

 その豪胆な人の一人である後ろの座席の四葉が、別種の威圧感で桜咲を責める。
 いくらなんでも竹刀を持ち出すのはやりすぎだと。

「せっちゃん……あかんよ。千雨ちゃん、ちゃんと謝ってくれたし」
「ぁっ、申し訳ありません」

 近衛からも振り上げた拳の下ろし場所を完全に塞がれ、小さくなって座った。
 あと座っていないのは長谷川だけであり、皆の視線が集中する。
 怒気をそらされた長谷川も、コレには困ってしまう。
 完全にお祭りムードは霧散しており、最悪の状態だ。
 嫌な汗が噴き出し小学生時代の思いだしたくもない思い出までもが、頭の中を駆け巡る。
 常識と現実の狭間で誰からも理解されない、頭がおかしい奴だと言われ続けた闇の時代。
 その闇に吸い込まれそうな長谷川を救い出したのは、光の髪を持つ数少ない友人であった。

「高畑先生」

 挙手をして立ち上がり、長谷川に集っていた視線を自分へと手綱を取るように集めた。

「長谷川さんは今日は重い日なので保健室に連れて行きます。私も少々……」
「えっ、ああ。そう、そうか。じゃあ、しょうがない」

 生理を理由にされると、それ以上男性教諭は深くは踏み込めない。
 そこにどんな不条理な思いがしてもだ。
 事実、困ったなと高畑は後頭部に手を当てて、笑っている。

「さあ、長谷川さん」
「ああ、悪いな委員長」

 本当に助かったと、泣きそうな顔を肩を借りるようにして隠して退室する。
 扉を閉めてすぐに教室はざわめきだし、高畑が必死に鎮めている声が遠い。
 当たり前だが、一番騒いでいるのは高畑に惚れている神楽坂であった。
 理由は不明ながら、不明だからこそか正当な理由なく高畑が怒鳴られたのだ。
 恋する乙女ならば、好きな相手の擁護に経つのが当然だろう。
 それはともかく、雪広は少し足早に長谷川を教室から遠ざけていく。
 足元がおぼつかなく、ひかげ荘内での元気さを微塵も見せず、むしろ弱々しく呟いた。

「やっちまった、最悪だ。柿崎や大河内ならまだしも、私が真っ先にぶち切れてどうするよ」
「気持ちは分かりますが。いえ、むしろ良かったかもしれません。下手にあのお二人に感情的になられたら、何を口走った事か。良くやったとは口が裂けても言えませんが、最悪の事態こそ避けられました」
「ああ、くそ。先生の気持ちが良く分かる。辛い時、優しくされると凄く泣きたくなる。てか、涙もう流れてた」

 袖口で無造作に涙を拭いながら、長谷川が心境を吐露する。

「なあ、可哀想だろ先生。アイツ、単純だから絶対自分がしきるつもりでいたぞ。そりゃさ、高畑も去年一年は世話になったさ。けど、感謝する程じゃねえ。普通に、普通の先生だ」
「私も、神楽坂さんとの喧嘩で行過ぎた場合には何度か止められていますわ。あの方の教育方針は基本的には放任。本当に危険な場合等にだけ、手を貸したり止めるですから」
「それは知らねえけど。てか、どうでも良い」

 去年は去年、それも高速で現在という時間を生きる女子中学生なのだ。
 一年も前の事を言われても、濃い毎日に記憶は瞬く間に塗りつぶされていく。
 特にむつきと美砂の関係を知ってから、濃厚で楽しい毎日を生きてきた長谷川にとっては。

「去年はそれなりに評価する。だけど今年はだめ教師だろ。この二ヵ月で、どれだけ担任として働いたよ。良くて二割、八割は先生だろ。中間はまだしも、麻帆良祭ぐらいとか。引きこもりの癖に修学旅行だけ行くとか言い出す学生かよ」
「否定はしませんが。忘れてはいけません、先生方は教師。大人は組織の序列に従う義務があります。そして高畑先生は担任、乙姫先生は副担任。補佐である乙姫先生が、高畑先生の役目を奪って良いわけではありません」
「知るか、大人の事情なんて。勝手にルール作って、私らに関係ないだろ。私を宥めるためだろうけど。あんまり、高畑の味方みたいな事を言ってると友達止めるぞ」
「そのような何でも意見を合わせるような友人はこちらから願い下げですが。それでも、私にも思うところぐらいあります」

 今にも泣き喚きそうになる長谷川に四苦八苦しながら、雪広も静かに怒りの炎を胸に燻らせていた。









 久方ぶりの進路指導室にて、むつきは頭を抱えていた。
 テーブルを挟んだ向こう側にいる長谷川も似たようなもので、二人して机に頭を乗せている。
 真面目に進路指導をする態度ではないが、必死さはその比ではない。
 二人、そばに雪広も控えているが、話題はもちろん長谷川のぶち切れ事件である。

「お前、なにしてんの。ホームルーム後、戻ってきた高畑先生にすまないねとか肩に手を置いて謝られた俺の気持ちにもなれよぉ」
「ぶち切れた理由悟られてんのかよ。てか、勘の良い奴は大抵気付いてんな。もう、教室に戻れねぇ。大人しい眼鏡美少女のキャラ設定が」
「自分で美少女とか、この野郎。それどころじゃ、ねえっての」

 うわあ、嫌だあと二人して同じように机の上の頭をごろごろした。
 現在は一時限目であり、本来はむつきも授業に向かわなければならない時間帯である。
 ただ、やはり生徒が教師にむかって怒鳴りつけた、いわば事件であった。
 放置などできず、むしろ率先して新田が授業の調整をしてくれた。
 君の方が親しいからと長谷川の話を良く聞いて、しかも報告してくれと。
 正直、出来るかと放課後のおごりを放棄してまで叫びたかった。

「皆さんからも、私に絶えずメールが舞い込んでいますが。これは授業になっていませんね」
「正直怖いんだが、少しだけ読んでくれよ」
「適当に、いくつか。春日さん、長谷川って乙姫先生好きなの? 朝倉さん、教師と生徒の怪しい関係? 夏美さん、付き合ってるのかな?」
「死のう」

 突然席を立ち、それだけを呟いて長谷川が進路指導室の窓をからからと開けた。
 前者二人はある意味馬鹿なので良いが、真面目な村上にさえそう思われたのだ。
 さよなら私の人生と、最後の最後だけは楽しかったとお別れを告げようとする。
 当然の事ながら、むつきにはがい締めにされて止められたが。

「死ぬ程嫌か、この野郎。お前にどう思われようと構わんが、ちょっぴり傷ついたぞ!」
「お願い、本当に死なせてくれ。こんな変態鬼畜絶倫教師を好きだと思われてるとか、屈辱以外のなにものでもねえよ!」
「先生が可愛そうだって泣いていた人とは思えない発言ですわね。もしや、これが噂のツンデレという奴でしょうか?」
「言うなよ、本人の前で。誰だ箱入りな委員長にツンデレなんて俗語……教えたの私だ!」

 顔を真っ赤にして委員長に詰め寄ろうとするも、はがい締めにされたままだ。

「落ち着けって、長谷川。照れんなよ」
「にやにやしてる顔が隠しきれてねえんだよ、キメェ。私に浮気してみろ、十秒でお前のストロー食い千切ってやるよ!」
「すまん、長谷川。俺眼鏡属性ってないんだ」
「調子にのりやがって、ぶっ殺す。世界のネットアイドルちう様を振るとか、私の信者どもが黙ってねえぞ、この野郎!」

 うがあっと一頻り暴れ、疲れた長谷川がようやく大人しくなった。
 まだ一時限目は開始から二十分程なのでまだ余裕はある。
 長谷川は元より、むつきも今一度深呼吸をしては心を落ち着けた。
 雪広が立ちっぱなしだったと、今さらながらに気付いて椅子を勧める。
 そんな事にも気づけない程に、長谷川もむつきも動揺していたのだ。

「まあ、冗談はここまでにしてだ」
「気分の悪い冗談もあったもんだ。よし、先生そこの窓から飛び降りてくれよ。私の胸がスッとするから」
「本調子に戻ってくれて結構。でも、改めて聞く事もそうないんだよな。報告の仕方を考える必要はあるけど」

 長谷川もこの期に及んで否定はすまいが、要はむつきを思って怒ったのだ。
 方法はもの凄く悪かったのだが。
 もう少し色をつけて、むつきに世話になって楽しみにしてたが、高畑が横から入り込んで担任を奪って怒ったぐらいか。

「駄目だろ、これただの高畑先生の悪口じゃねえか」
「良いから、そのまま報告しろよ。高畑の野郎、担任止めろって言ってたって」
「だから職員室での立場とか色々考えてくれ。大人は面倒なの、特に派閥とか」

 ついうっかり口を滑らせ、長谷川に何ソレという目をされた。
 咄嗟に口を塞ぐがもちろん遅く、興味津々の視線にさらされてしまう。
 余程漏らしてはいけないことなのか、興味を移した長谷川ににやにや詰め寄られる。
 そこへ助け舟を出してくれたのは、雪広であった。
 聡い彼女ならば、教師間の微妙な力関係すらある程度把握している可能性もあるが。

「失礼ながら、また社会科資料室にて泣き崩れているのかと思ったのですが」
「本当に失礼だな、この野郎」

 ただし、その助け舟は底に穴が空いていたようなものだったが。

「他のひかげ荘メンバー、特に美砂とアキラには言うなよ?」

 美砂やアキラから、長谷川大丈夫というメールを思いだしつつ。
 この二人ならばと、先に事件こそ起こしたが長谷川と雪広を信頼して口を割った。

「今朝、高畑先生が現れた時は、麻帆良祭の間は任せてくれって言われた時は頭が真っ白になったよ。けどさ、担任がいるからって副担任が教室に顔を出しちゃいけないわけじゃないだろ?」
「でもよ、アンタ取り仕切りたかったんだろ?」
「まあな、でも俺が仕切るよりお前らが楽しむほうが大事だ。だから、必死に我慢した。変なしこりを残さず、目一杯楽しんで欲しかった。俺がいつもの様に慰められたら、下手すりゃA組が真っ二つに割れるだろ」

 神楽坂の高畑派にひかげ荘の乙姫派という意味でだ。
 それ以外のクラスメイトがどっちにつくかは、また不明だが。
 そうなったら麻帆良祭どころではなく、A組の存続の危機ですらあった。
 まだ二年は始まったばかりで、卒業まで二年近くある。
 ここで妙なしこりを残せば、まだたくさんある中学生活の良い思い出が作りづらくなってしまう。

「聞かなきゃ、良かった。私がもうやっちゃったじゃねえか。割れる前兆ありありだよ」
「そこは俺がなんとか、お昼休みにおどけにでも」
「それは少々お待ちください」

 むつきが道化にでもなって笑われにでも行けばと提案した所で、雪広から待ったがかかった。
 そして見せてきたのは、彼女の携帯電話である。
 その画面に映し出されているのは、一通のメールだ。
 差出人は神楽坂であり、文面は怒りの四つ角マークから初めっていた。
 内容は長谷川の居場所を尋ねており、一度ガツンと言ってやるわとお怒りモードだ。
 高畑が麻帆良祭を取り仕切ると、幸せ絶頂時に長谷川が怒鳴ったのである意味当然か。

「アイツに腕力でこられたら、私軽く死ねるぞ」
「ご安心を、アスナさんは私以外に余程の事がなければ暴力は振るいませんわ」
「それもどうかと思うが。前兆どころか、もうひびはいってるじゃねえか。アイツが耳元で喚いたら、長谷川二度目のぶち切れ確実だろ」

 もうどうしようと、再び机に頭を乗せて二人がごろごろする。

「既にひびの入った壷を修復しても、値が元に戻る事はありません。一度それを捨て、土から焼き上げるしかありませんわ」
「高度な言い回しをありがとう、つまり?」
「下手に取り繕うより、いっそ割ってしまいましょう」

 何を言ってんのこの人と、むつきのみならず長谷川も雪広を見上げていた。









-後書き-
ども、えなりんです。

新章、のっけから主人公が弾き飛ばされました。
話の中心が若干、千雨とあやかに。
前回以前三回連続でエッチ回だったので、今回は三回連続日常回です。
いや、麻帆良祭編ってだけで既に日常じゃないですが。

誤って千雨大爆発。
それをフォローするあやかとか、これ美砂より親友チックです。
なんだかんだで仲が良い二人です。

ちなみに、高畑が全然学校に来ない理由はちょっとしたら出てきます。
まあ、簡単に想像できるでしょうが。

それでは次回は水曜です。



[36639] 第二十六話 今は悪魔が微笑む時代なんだよ
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e
Date: 2013/04/11 00:10

第二十六話 今は悪魔が微笑む時代なんだよ

 本日の六時限目は、麻帆良祭の出し物を決める為の特別授業時間であった。
 その六時限目になるまでずっと、二年A組は微妙な雰囲気に支配され続けていた。
 教師側からの特別な介入もない。
 なにしろ雪広に頼まれたむつきが、新田へと様子を見させて欲しいと伝えたのだ。
 その原因である長谷川は表向き、親しい友人がクラス内にいない。
 最近、そんな彼女を心配して委員長が良く話しかけていると認識されてはいるが。
 皆から質問攻めにあった雪広も、のらりくらりと珍しくかわす始末だ。
 ならばと乙姫×長谷川ネタを朝倉と早乙女が広めようとした時は、ならA組は麻帆良祭の間ずっと謹慎ですねと呟いた。
 その瞬間、二人がクラス全員から取り押さえられる結果となったのは言うまでもない。

「それじゃあ、今年のクラスの出し物の件だけど、君達に任せるよ。雪広君、君が皆を纏めてくれるかな?」

 そう高畑が教卓上で喋っているのを聞きながら、ついに一人の少女が動いた。
 長谷川の左隣の席である綾瀬である。
 席が近い事を良い事に、綾瀬が前を向いたまま皆に聞こえるように尋ねた。
 ひかげ荘メンバーによる筋書きのある演劇の始まりでもあった。

「長谷川さん、少しよろしいでしょうか?」

 何人かはおおっと、綾瀬の度胸に唸り、一人はそんな奴に話しかけるなと睨んでいた。
 今にも噛みつきそうな獰猛そうな瞳のその子は、神楽坂である。
 だが、長谷川も負けず劣らず、眼光には劣るも言葉の棘は負けてはいなかった。

「神楽坂、ウザイから愛しの高畑先生でもこりずに眺めてろ。それと桜咲、近衛をとって食いやしねえから、お前も前を見てろ。本当にウゼェ」
「確かに心地良い視線とは言えませんね。既に教室が息苦しい理由の半分は、自分達だと自覚して欲しいものです」

 長谷川の乱暴な言葉使いに、神楽坂はおろか桜咲までもぽかんと口を開けていた。
 寡黙で大人しい眼鏡少女、周りのそんな認識の外にある態度であったからだ。
 耳をそばだてていた他の面々もそれは同様であった。
 あんな子だったっけと、記憶の底を掘り起こし余りの印象の薄さに誰もが失敗する。

「長谷川さんは、乙姫先生の事が好きなのでしょうか?」

 しかし、綾瀬の核心を突いたような問いかけに再び耳をそばだてた。
 雪広が教壇に立ったまま、何も喋り出さない事を気に止める者すら居ない。
 教室内のほぼ全員の視線は、長谷川と綾瀬が握っている。
 その視線を浴びながら、長谷川は努めて冷静に問いかけに答えた。

「ああ、好きだよ。友達としてな」

 周りの驚きは中途半端に、煮え切らないように燻っただけであった。

「私はこのクラスの全員が、一年の頃から本当に大嫌いでさ。無意味に騒いで煩いし、ガキっぽいし。下らない事しては怒られて反省せず、またやらかして」
「ガキっぽいというのは否定しません」
「腐ってた私を救ってくれたのがあの馬鹿。実際、色々とやらかしてくれただけだけど。一生懸命空回って、上手く行かなくて落ち込んで。それでも頑張って」
「恩人と言うわけですか。ならば、今朝の態度も納得です。無粋な邪推を失礼したです」

 本人には絶対言うなよと釘を刺す振りで、一先ず会話は終わりである。
 聞き耳を立てていた連中も、それなりに満足したようだ。
 長谷川が朝のホームルームでぶち切れた理由も含めて。
 ここまで語って聞かされれば、朝のどうしてという呟きも含めて想像は容易い。
 特に恩人というキーワードに反応を見せたのが、神楽坂であった。
 何しろ彼女が想いを寄せる高畑もまた恩人、そして教師。
 長谷川に対し、共感を覚えないはずがない。
 許すか許さないか、一人で悩み頭を抱え始めてさえいた。

(第一段階は成功、次は頼むぜ委員長)

 そして自分の役目は一先ずと、高畑に代わり教卓に立った雪広に視線を投げた。
 その雪広がパンパンと手を叩いて、皆の視線を自分に引き戻す。

「それでは、二年A組の今年の麻帆良祭の出し物を決めたいと思いますが」
「はーい、メイド喫茶!」
「ゲームセンター」
「超包子2!」

 まだ雪広の言葉の途中であったが、椎名、鳴滝姉、明石が次々に意見を出した。
 メイド喫茶はまだしも、ゲームセンターなど具体性が皆無である。
 それに一度殿堂入りさせられた超包子を再び上げた明石も明石だ。

「超包子2ってなんだか、強そう」
「殿堂入りしたじゃん、裕奈!」

 早速佐々木や釘宮からそれは無理だとの言葉があがるが、本人は余裕でチッチと指を振っていた。

「超包子2は超包子とは違うから、だって2だから!」
「などと意見がまとまりませんので。まずは私から提案させていただきます」

 拳を握って力説した明石を座らせ、雪広が仕切りなおした。

「私から皆さんに提案させていただく二年A組の今年の出し物は、麻帆良学園都市全域の教師人気投票トトカルチョです」
「麻帆良学園都市全域の」
「教師人気投票トトカルチョ?」

 雪広の言葉を理解しかね、キーワードを呟いたのは佐々木と春日であった。
 ただし、全く理解しかねていた佐々木に対し、春日は特にトトカルチョの部分に興味を引かれていた。
 そこへ待ったをかけるように手を挙げたのは、美砂である。
 含みを持った笑みがやや隠しきれてはいなかったが、妙に行儀良く手を挙げてから発言した。

「でもさ、委員長。それって許可下りるの? 人気投票って、紙に書いてもらって投票して貰うだけで殆どの人は何もできないからクラスの出し物って認められないんじゃ」
「美砂……なに、凄い真面目な反論してんの? 頭良く見える」
「うっさいわね、くぎみー」
「くぎみー、言うな。アンタ、普段円って呼んでるよね!?」

 怪しまれたというか、早速釘宮に突っ込まれていたが。

「そこはぬかりありません。投票用紙、集計機については既に超さんと葉加瀬さんに依頼済み。人手は殆どいりません」
「なおさら、あかんのやないやろか。また超りんの手ばっかり借りてたら、しかもアンケートやったら手抜きやって」
「そうでもありませんわ、亜子さん。我々の役目は、主に人気投票対象者の宣伝活動。各々が一押しの教師を選び、麻帆良祭の発表期間まで街頭演説やウグイス嬢を行ないます」
「なんとなく分かってきたえ。ほなら、他所のクラスや別の学校の子も、好きな先生が一番になれるよう応援団長やったりもできるやんね」

 ナイスアシストと、ぼんやり浮かんだ考えを呟いた近衛に誰かがグッと拳を握る。
 一人や二人の少人数ではない事は確かであった。
 ただ近衛の言う通りこれは、票を集計して発表して終わりではない。
 票を集計する前から、教師人気投票トトカルチョは始まっているのだ。
 一押しの先生を応援すればする程、上位に食い込みやすくなる。
 上位入賞者に賞金をつければ、後で奢ってもらえると尚更応援団も力がはいるだろう。

「だったら、私は乙姫先生の応援する。色々お世話になったし。一番になれたら、先生もっと自分に自信持ってくれると思うし」
「あのアキラがついに動いた。じゃあ、私も乙姫先生の応援!」
「私も乙姫先生の応援するアル!」
「あれ、くーふぇも?」

 別の意味でアキラを応援しようと明石が諸手を上げて賛同した。
 ソレに続けと佐々木が立ち上がろうとし、思わぬ立候補に疑問の声を上げる。

「宗派天台は結局見つからなかったアルけど、おかげで隠れた格闘家を見つけて先週戦ってきたアル。凄く楽しかった、これも乙姫先生のおかげアル!」
「うむ、あれは楽しかったでござるな。そう言うことなら、拙者もせめてものお礼でござる」
「待った。応援と言ったら忘れちゃいけないチア部。円と桜子もやるでしょ?」
「モチの」
「ロン!」

 流石に一瞬ではチア衣装は着れないので、せめてもとぽんぽんを両手に二人が立ち上がった。
 古や長瀬に続き、美砂が声をかけると釘宮と椎名が乗ってきた。
 筋書きの決まった出来レースであったが、思いの他にむつきは人気があったらしい。
 こうなれば後は雪崩の如くである。
 だったら私もと鳴滝姉妹や、那波、村上とクラスの大半が集り始めていた。

「ちょっと待った!」

 そこへ面白くないとばかりに、待ったをかけたのは神楽坂であった。

「なんでそこで乙姫先生? A組の担任は高畑先生なんだから、そこは高畑先生を押すべきでしょ!」

 彼女らしい言葉と言えば言葉なのだが、少々空気が読めなかったようだ。
 何しろむつきを応援すると一番に言ったのはアキラである。
 まだ記憶に新しい、あの事件を考えるとそれは当然の考えであった。
 ただし、他に集ってきた生徒もおり、理由はそれだけではない。

「でもさ、明日菜。高畑先生を押すってどうやって?」
「どうって、色々あるじゃない。格好良いとか渋いとか!」

 明石の疑問に神楽坂がぐるぐる目を回しながら説明するが、完全に自分の好みの話である。

「ていうか、高畑先生ってなんでもそつなくこなすから応援のしがいがあらへんやんね」
「んー、そう言われるとそうかも。その点、乙姫先生って」
「ふふ、私達が支えて上げないと、何処までも転げ落ちて行く。母性本能をくすぐるタイプね」
「ちづるの言う通り、僕らが手の平の上で捏ね上げて一人前の男にしてやるです!」
「お姉ちゃん、意味分かって言ってる!?」

 こればっかりは、和泉も狙って言った訳ではなく本心であったのだが。
 村上から那波、鳴滝姉妹と続々とむつきをこき下ろしながら味方の宣言をしてきた。
 本人が聞いていたら、またそっと美砂やアキラを涙で濡らしたことだろう。
 それは兎も角として、味方のいない状況の神楽坂は、心底焦っていた。
 憧れの高畑が軽く見られている、そればかりか誰からも応援されないなどあってはいけない。

「ムキァー!」
「まあ、落ち着けや。神楽坂」

 焦ってテンパリ、奇声を発した彼女の肩に腕を回し抱き寄せたのは長谷川である。

「なっ、なによ。元はと言えば」
「だから聞けって。見てみろよ、高畑先生をよ」

 ちょいちょいととある方向を指差され、その高畑の様子に初めて神楽坂は気付いた。
 当初、パイプ椅子に座って笑っていた彼は、肩を落としてずんと沈み込んでいる。
 それもそのはず、自分の担任クラスの大半の生徒が、副担任の応援に回ったのだ。
 しかも神楽坂が孤軍奮闘すればする程、それが浮き彫りになった。
 僕はこんなに人気がなかったのかと、今朝の長谷川の怒りを心底理解していた。

「高ッ!」
「だから、聞けって」

 即座に駆け寄ろうとした神楽坂の口を塞ぎ引きとめ、長谷川は囁いた。
「落ち込んだ男の目の前で騒ぐ馬鹿がいるか。そういう時は静かに、相手の心に染みるようにまず名前を呼ぶんだ。アピールしろ、自分と言う味方を。貴方は一人じゃない、私がいるんだって」
「ちょっと、なによそれ。それじゃあ、まるで」
「そうさ、心の隙間につけいって何が悪い? お前そんな綺麗ごとで教師と付き合えるとでも思ってるのか? 言葉巧みに相手の心を握れ、意のままに操り恋を成就させろ。今は悪魔が微笑む時代なんだよ」
「そ、そうだったんだ!」

 長谷川の言葉を理解したのか、していないのか。
 肩に回された腕を外し、ありがとうと何度か握って振ってから神楽坂は駆け出していく。
 落ち込み俯いたままの高畑の前に立ち、神楽坂は胸の前で手を組んだ。
 そして呟く、恋心を花開かせた相手の名前を。

「高畑先生」
「明日菜君?」

 長谷川の言う通り、染み入るような穏やかな呼び声に引かれ高畑が顔を上げた。
 そこまでは良かった、良かったのだ。
 しかし、神楽坂が冷静でいられたのは高畑の顔を正面から見ていなかったからだ。
 その高畑が顔を上げれば当然、神楽坂と瞳が合ってしまう。
 一秒、二秒と神楽坂が何も言わない事に高畑も目をぱちくりとしている。
 次第に、神楽坂はカタカタと震え出し、頭に血が上り、皆は確かに聞いた。
 水を沸騰させたやかんがそれを知らせる時に鳴らすピーっという音を。
 発生源はもちろん、神楽坂の頭の天辺からだ。
 次の瞬間、落ち込んだ高畑の両肩に、神楽坂は思い切り手を叩きつけていた。
 それはもう全力で、バシバシと何度も何度も。

「せ、センセェー。わた、私は一人じゃないから。高畑先生が、悪魔で操り人形で!」

 瞳をぐるぐる回し、既に長谷川から教えられた囁きも何処へやら。
 落ち込んだ高畑の前で、一人から回って騒ぎ捲くっていた。
 当然の事ながら、目の前で意味不明に騒がれ高畑はぽかんとしている。

「駄目だ、こりゃ」

 長谷川の呟きは、皆の気持ちを代弁したものであった。
 完全に暴走した神楽坂は、高畑の気持ちも無視して喚いているだけだ。
 割と本気のアドバイスをした長谷川も、望み零だと思わざるを得ない。
 ただそこへ、小さな助け舟となる存在が手を挙げた。

「明日菜、あのままやと取り返しのつかん事をしでかしそうやし。うちは、高畑先生の応援にまわるわ。夕映とのどか、あとついでにパルはどないする?」
「えっ、わ……私は夕映が応援したい先生の方に」
「のどか、自主性をもっと重んじるです。あまりにワンサイドゲームでは、賭けも盛り上がらないというものです。高畑先生の応援にまわるとするです」
「そこで、私だけ乙姫先生の応援ってのもね。正直、そっちの方が興味あるけど、感謝しなよ明日菜」

 理由が理由であったが、近衛を含む図書館島探検部の面々が高畑派に回った。
 こっそり長谷川にピースサインを送る綾瀬の意図は、そういう事なのだろうが。
 未だむつき派が圧倒的人数を抱え込んでいるが、まだ全ての生徒が派閥に属したわけではない。
 超や葉加瀬は、投票用紙や集計機作成の任務がある為、中立は必須だ。
 しかしながら、まだ立場を表明していない生徒も多かった。
 龍宮やレイニーデイ、桜咲、絡繰、マグダウェル。
 他に、言いだしっぺの雪広や朝倉、四葉。
 催しごとに興味のない連中と、性格的に中立を謳いそうな面々ばかりである。

「必ずしも、誰か先生を応援しなければいけないというものでもありません。中立派の方には、投票の管理委員に回っていただきましょう。皆さん、一度席に着いていただけますか?」

 ぱんぱんと改めて手を叩いて、雪広が皆を席に着かせる。
 まだ麻帆良全域の教師人気投票トトカルチョの説明は、触り程度なのだ。

「麻帆良全域と銘を打ったからには、女子中等部のみならず大学から小学校まで。我々の手には少し余る催しとなる事は目に見えています」
「だろうね。それにさ、委員長。高畑先生みたいに、広域指導員をしてる人は色々と顔が売れてるけど。乙姫先生みたいに女子中等部限定で顔が売れてたり。その辺のハンディキャップは?」
「良い質問です、朝倉さん。ですので、私はこの麻帆良全域の教師人気投票トトカルチョを二年A組だけの出し物ではなく、各学部から一クラスの協力を取り付けます。その上で、人気投票は大学部、高等部、中等部、小等部、トータルの五部門の投票にしたいと考えています」
「これだけ金と人が動きそうな出し物、直ぐに他の部が食いついてきそうだね」

 報道のしがいがあると、早速朝倉は雪広を一枚の写真におさめた。
 それから机の中から原稿用紙を取り出し、ガリガリと号外用の原稿を書き始める。
 夕方に報道部から号外が出れば、明日の朝には申し込みが殺到する事だろう。

「以上、簡単にですが私からのA組の出し物の提案をさせていただきましたが、他に何かやりたい出し物がある方はどうぞ挙手をお願いします」
「ありませーん、やろうよ。大人気間違いなし。教師人気投票トトカルチョ!」
「桜子大明神のお墨付きだし、盛大にやっちゃおう!」

 椎名と明石が諸手を挙げて、雪広のひかげ荘メンバーの案に食いついてきた。
 先程までの加熱振りを見れば、それも当然の反応か。
 何一つ、滞りなく彼女らの望み通りにA組の麻帆良祭での出し物は決定した。









 放課後も朝と変わらず、超包子は大賑わいであった。
 登校の妨げにならない分、夜の方がテーブルも多く設置でき、寧ろ客足は多いぐらいだ。
 流石に小等部の生徒は見当たらないが、中等部から大学部と客層も拾い。
 酒やお話の肴はもちろん、麻帆良祭についてが殆どである。
 クラスの中心的な人物がいれば、期日まで如何するか話のネタは尽きないだろう。
 他に学部は違えど、先生の姿もちらほらと見え、むつき達もその集団の一つであった。
 メンバーは朝方に新田におごりを宣言されたむつき、二ノ宮、瀬流彦の新人組。
 さらに六次限目に多大なダメージを負った高畑と付き添うようにやって来た源である。

「僕だって、出来るならあの子達の面倒をずっと見ていたいんですよ。けど、今のうちに色々と片付けておかないと来年が」
「わーッ、ちょっと不味いですって高畑先生。しずな先生、お願いします」
「はいはい、高畑先生ほらお水でも」

 お酒が入って早々に、何やら高畑が普段の渋みを投げ捨て泣き崩れていた。
 聞いている限りでは、何時もの出張は不本意であるらしい。
 しかしあの高畑も辛い時は酒に酔って泣くのかと、とても親近感が沸くむつきであった。
 特に源に慰められ、涙声が大きくなる所など特にだ。
 当たり前だが、人間、それも男だなあと思わざるを得ない。

「それにしても来年って、何かあるんですか? 普通は受験ですけど、うちは殆ど全員がエスカレーターですよ?」
「いや、僕も詳しくはそれよりも。A組の出し物ですよ!」

 何時の為に何の為の準備なのか、聞き出そうとしたら遮られた。
 むつきや二ノ宮と仲は良いが、瀬流彦は一応学園長派なので何かあるらしい。

「そうそう、聞きましたよ。A組の出し物、麻帆良全域の教師人気投票トトカルチョなんですって?」
「あの子達は、本当に面白い事を思いつくね。良いんじゃないかね。偶には生徒が教師を採点しても。流石に全ての教師をあげつらい、点数を点けるのは今後の授業を鑑みても避けては貰いたいが」
「その点は大丈夫ですよ、発案者が雪広ですし。そもそも、生徒の応援団がつかなければエントリーされませんし、発表も上位数名だそうですよ」

 現在、雪広は他部のクラスから運営委員の選別中であった。
 放課後、朝倉が執筆した報道部の号外が出されるや否や、応募が殺到したのだ。
 我々にも一枚かませろと。
 他にもアンケート部なる部活からも協力申請が届いて大わらわの様子である。
 やや負担が雪広に掛かりすぎなので、要注意であった。

「僕の方は、A組の一部が応援団をしてくれるみたいですけど。新田先生達はどうです?」
「私は担任がありませんけど、新体操部の子達が応援してくれるって。まき絵は、乙姫先生にとられちゃいましたけどね」
「まあ、私は……まさか、応援したいと言ってくれる子達がいるとは。くっ、思いもせず」
「センセェー!」

 誰かがそう声をかけると、超包子にいた全ての先生が私かとその声に振り返った。
 むつきや二ノ宮、新田のみならず、他の席で飲んでいた先生方もだ。
 あの高畑も泣き崩れていた涙も何処へやら、ちょっと希望をこめて顔を上げていた。
 甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていた源に一目礼を言うのも忘れて。
 やや遠くで手を振っていたのは、麻帆良女子中等部の生徒である。
 それだけで違ったかと何人かの先生方が、がっくりと肩を落とした。
 もしかすると、まだ応援団のついていない先生なのかもしれない。
 本当に報道部の力は侮れず、もはや麻帆良全域にこの話は広がっているのだろうか。
 やがて呼ばれた方も分かっていないと、その生徒達が近付いてきた。
 鞄とは別に、手に水泳袋を提げていれば何処の部で、誰を先生と呼んだか丸わかりだ。

「おお、部長じゃないか」
「先生、冷たい。大会の応援を最後に、全然部の方にも顔を出してくれないし。そんなんじゃ、水泳部一同投票してあげないよ」
「正式な顧問の先生がいるのに、素人の俺が顔を出したら迷惑だろ。部の出し物の準備か何かか?」
「水泳部は毎年恒例だから機材は殆ど揃ってる。はい、たこ焼き無料券。アキラがいる時でも良いから来てね。それから、人気投票の演説にはいくから」

 それじゃあと、来た時同様嵐の様に騒いで帰っていく。
 受け取った無料券をふりふり振って、何時までも手を振っている彼女らに答える。

「乙姫先生、顔でれっでれ。彼女さんに怒られますよ」
「はっは、乙姫君も男だ。可愛い生徒が応援してくれるとあれば、仕方あるまい。しかし、運動部は横のつながりも相当だからな。案外、上位に食い込めるのではないかね?」
「新田先生こそ、広域指導員で顔は知られてますし慕われてますから上位候補者ですよ」

 いやいやとお互い褒めちぎり、この人たちはと呆れた顔で二ノ宮に見られてしまった。
 しかし、はたと気付いてみれば、やけに瀬流彦が大人しい。
 高畑が何かを口走った時には、妙に声を大きくして教師人気投票トトカルチョに誘導したくせに。
 まさか酔いつぶれたわけではと見てみると、席にいない。
 カウンターの隅の陰で、しゃがみ込んで地面を涙で濡らしのの字を書いていた。

「えっと、もしかして瀬流彦先生」
「何故、僕に応援がつかないんだ。そりゃ、糸目ですけど、生徒からすれば大人しくて目立たないかもしれないけど」

 むつきの懸念どおり、どうやらまだ生徒からの応援団がついていないらしい。

「まだ昨日の今日じゃないですか。それに、乙姫先生の親戚のお姉さんを紹介して貰うんでしょう。どっちもどっちなんて、贅沢ですよ」
「そう言えば、教師人気投票トトカルチョに話題をさらわれていたが、元はその話題で飲もうとなったんだったな」
「そうだ、僕にはそれがあった。乙姫先生、飲んでますか。お注ぎします!」

 二ノ宮がフォーローし、新田が今日の飲みの本題をようやく思い出した。
 瀬流彦自信、ややそれを忘れかけていたようだが、即座に思い出してビールの瓶を手に取った。
 まだ半分も減っていないむつきのコップに注ぎ出す。
 かなり溢れたが、慌てて唇で泡を吸い取って、コップの縁から一センチ下まで飲み干した。

「それで、乙姫先生。その方のお名前は、写メなどあれば……」
「あっ、写メは私も見たいです」
「私は学歴等、現在の生活も気になるところだが」
「最近の写メはあったかな?」

 大学受験後、しばらく連絡はとっていたが卒業と同時にとらなくなっていた。
 先生業が上手く行かず、不貞腐れていた事もある。
 ただし、あの姉が連絡もせず結婚などはしないだろうから、多分まだフリーのはず。
 そう思いながら携帯電話を操作していると、見つかった。
 真冬にマフラーをしながら、スイカを持っている一番新しい写メである。

「この人です。大学生時代の写真ですけど、あまり今と容姿は変わってないはずです。乙姫むつみ、今は二十八ぐらいですかね」
「凄い美人、しかも微笑が優しそう。こういう人を探していたんです」
「うわっ、瀬流彦先生に勿体無い。こんな美人で独身とか、周りは何してるんですか!」

 むつきの携帯を奪うようにした瀬流彦の肩口から、二ノ宮も覗き込んで言った。
 かなり失礼な発言でもあったが、感涙している瀬流彦には届いていない。
 しかしさすがと言うべきか、学歴を気にしただけに新田は写真にはあまり興味は無さそうだ。

「東京大学の四年生時の写真ですね。三浪ぐらいしてから入ってますけど」
「ほう、東大かね。二人の反応を見る限り、才色兼備じゃないかね」
「まあ、それを補って有り余るほどに放浪癖や病弱で良く血を吐いたり、気を使いすぎて使いすぎるって事はないですよ」
「ふむ、多少失礼ながら天は二物を与えずか。しかし、多少の欠点は寧ろ長所だよ。完全無欠の人間など詰まらん。寧ろ欠点がある、手の掛かる生徒の方が可愛いものだ」

 喋っている内に酔って来たのか、新田の論点が生徒に転換されてしまっていた。
 がははと豪快な笑いを見せながら、くいっと軽く日本酒を飲み干してしまう。
 それは良いのだが、瀬流彦と二ノ宮が携帯の写メを凝視しながら固まっている。

「瀬流彦先生?」
「東大……美人で優しくて、勉強も出来る。無理だ、高嶺の花過ぎる!」
「確かに、既に天が三物与えてますよこの人。そりゃ、男がいないわけだ。絶対、惹かれた後に引かれてますって」
「俺にとっては、普通の良い姉ちゃんですけど」

 じゃあ、この話はなかった事にと携帯を取り上げると、がっしりつかまれた。
 しかしそれ以上瀬流彦も動けず、思い切り苦悩している。

「とりあえず、会うだけなら良いんじゃないですか。本当、普通の……いや、ちょっと放っておけない人ですから」
「会うだけ、会うだけなら自由だし。お願いするよ」
「既に心が負けを認めてますけど」

 しっかりしろと二ノ宮が背中を叩くも、瀬流彦の背中は曲がりきっていた。
 仕事で失敗を仕出かしたようにカウンターに、がっくりとうな垂れている。
 その様子に心配になったのか、四葉がそっと中華スープを差し出していた。
 これを飲めば胃が休まりますよとばかりに。
 本当、今朝はああ言ったが既に一人前の料理人、というか飲み屋のママ気質である。

「先生、ほっかーく!」
「おっと」

 そろそろ時期も考え、誘いのメールの一つでもと思っていると誰かに後ろから抱きつかれた。
 スーツと制服後しだが、その胸や香ってくる匂いで特定は容易だ。

「柿崎、今返りか?」
「うん、先生の応援団の結成式で超包子でご飯にしようって。先生も来て、一緒に食べよう」
「いや、俺は他の先生方と飲んでるから」
「行ってきなさい、乙姫君。こちらは、瀬流彦君を叱咤激励しているから。全く、相手の学歴で知りごみするとは、気合が足りんぞ!」

 半ば追い出されるように新田に背を押され、美砂に手を引かれた。
 向かった先では、机や椅子が足りずにもはや立食パーティ状態である。
 A組の大半が来ているのではと思えるような人数であった。
 その皆が、むつきを見つけるや否や、わらわらと群がってきた。

「主役の登場だ。先生、前祝に奢って。私らが、中等部の部で一位にしてあげるから」
「あっ、二ノ宮先生だ。後で、ごめんねって言っとこ」
「瀬流彦先生が怒られとるけど、今度はなにしたん?」
「何もしてねえよ。ほら、瀬流彦先生に俺が親戚の姉ちゃん紹介するって話になってな。これがその姉ちゃん。東大卒って聞いたら、ちょっと尻込みしてな」

 来て早々、明石の妄言を飛ばされたが、軽くスルーしておく。
 和泉のみならず、他にも瀬流彦が新田に怒られている光景が気になったようだ。
 酒の上での席の事なので、新田も本気で怒っているわけではないのだが。
 軽く事情を説明して、先程も瀬流彦や二ノ宮に見せた写メを見せてやる。

「あらまあ、何故かとてもお話が合いそうな」
「ちづ姉……乙姫先生のお姉さんと話が合うって、ハッ」
「なにか言った、夏美ちゃん?」
「ひぅッ!?」

 早速、那波の精神攻撃に村上が捕まっている。

「綺麗な人、沖縄人なのに全然焼けてないし。てか、何故に真冬にスイカ」
「きゃははは、真冬にスイカ。ミスマッチもいいとこだ」
「沖縄、琉球王国アルか!」
「ほほう、これはまた何やら達人の匂い。いや、これは残り香?」

 釘宮や椎名の突っ込みは当然だが、古や長瀬の言葉は若干危ない。
 あの病弱な姉に攻撃されたら、攻撃が当たる前に風圧で魂が飛んでいく。

「麻帆良祭に呼ぶ予定だが、止めてくれ。体の弱い人でな」
「皆、先生のお姉さんはまた今度。今日は先生の応援団の結成式」
「アキラの水泳大会以来、チア部も本領発揮で応援しちゃうよ」

 むつきの携帯は手の中に持ってまま、アキラと美砂の言葉に合わせおーっと手が上がる。
 まだ教師人気投票トトカルチョの詳細は不明ながら、何をやらされる事やら。
 こんな形でとは予想していなかったが、麻帆良祭が楽しみになってきたむつきであった。








-後書き-
ども、えなりんです。

題名を見て、何があったと思われた方は多数でしょう。
明日菜、若干ウザめに書かれていますが。
今後ちゃんと良いところも書いていきますよ。
明日菜がいなかったら、むつきが人生詰む場面も出てきますし。
というか、原作で千雨がウザい時があるみたいな事言ってませんでしたっけ?

あと、トトカルチョのアイディアはあやか。
他に演劇は千雨や夕映と、むつきの出番はほぼなし。
主人公(笑)
まあ、なんでもかんでも主人公が出張れば良いってわけでもないですし。
むつきとA組の全員が主人公と言う感じが理想です。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第二十七話 僕はA組の担任の座を狙ってます
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/04/13 20:12

第二十七話 僕はA組の担任の座を狙ってます

 麻帆良祭一週間前ともなれば、授業は全て免除され、生徒達は準備に追われる事になる。
 と言っても、今回のA組の出し物は教師人気投票トトカルチョであった。
 他のクラスほどに忙しいわけではない。
 何しろ他所の学部から一クラスが協力者として名乗りを上げるばかりか、部活動まで協力を申し出てきたのだ。
 アンケート部や、特設ステージ作成の為には土木作業部等々。
 大掛かりな仕事は殆ど、専門の部活動に割り振られ基本的に残った仕事は教師の宣伝活動だ。
 なんとしてもむつき、または高畑を上位入賞者に押し上げなければならない。
 トトカルチョに加え、上位入賞者には賞金まで出ることになったのだ。
 他の学部はまだしも、部活動まで参入してきた結果、もうけは日に日に割れて行く。
 ならば稼ぐ場所と言えば、教師人気投票トトカルチョの掛け金。
 それから応援するむつき、または高畑を上位入賞者にして賞金を手にする事だ。
 賞金は教師のものだが、そんな建前などあってなきが如しである。

「もういっそ、乙姫先生を脱がそう!」
「野郎が脱ぐところなんて誰が見たい。私の傑作品の衣装を脱がすんだ、それなりの意味があっての事だろうなぁ!」
「千雨ちゃん、その言葉使い怖い。でも先生沖縄出身なんでしょ。脱いだら凄いが普通にできるかも」
「先生、実際脱いだら凄いよ。ほら、溺れた私をスーツで泳いで助けたぐらいだし」

 明石の意見を即座に却下し、長谷川がこの野郎ともはやかつての姿の面影なくすごむ。
 伊達眼鏡も既に止めており、佐々木は言葉使いもあって少しびびっている。

「どうしよ、どうしたら高畑先生の魅力が皆に伝わるの。男の渋み……ああ、でも伝わりすぎたら高畑先生が大人気で、擦り寄ってくる変な奴が増えたり」
「心配せえへんでも、流石に渋みに惹かれる女子生徒やなんて明日菜ぐらいのもんやて」
「そんな無駄な心配よりも、どうすんの。麻帆良祭開催パレードでの衣装。向こうにちうっちがついてる分、かなりうちら不利だって」
「渋みの強調ならば、下手に奇をてらう必要はないです。普段のスーツ姿にタバコの紫煙、これだけで十分です。以前誰かが仰ったように、我々のやりがいは減ですが」

 一人勝手に盛り上がっては髪を振り乱す神楽坂に、近衛達は振り回されて話が進まない。
 唯一まともな意見が綾瀬から出るも、どこまでそれが聞かれている事か。
 如何に派手に目立たせ、入賞を勝ち取るのか話し合う中で特に忙しそうなのは雪広である。
 何しろ数多くの学部と部活動を一手に取りまとめているのだ。
 女子中等部という歳若さもあって、一度舐められては企画を全て奪われかねない。
 あまりの忙しさに、さすがの彼女も身だしなみに解れが見え、髪が乱れてさえいた。
 そんな彼女が、ふいに携帯電話を取り出して耳に当てる。

「はい、二年A組雪広です。ああ、その件に関しましては既に麻帆大格闘団体の方々に……今から? そんな困ります、不平等だと仰られても。ちょっと、お待ちになって!」

 なんだどうしたと、慌てた雪広に皆が視線を集めていると、彼女が立ち上がった。

「長谷川、お前俺にこんなもん着てパレードに」
「乙姫先生、ちょうど良かった。少々揉め事が、お付き合いください」
「ちょっと待て、雪広。お願い、先にこの衣装」

 そして教室の扉を開けて入ってきたむつきの腕を取って走り出した。
 余程慌てているのか、むつきの言葉の一割も届いていない様子である。
 走りにくい格好をしたむつきを引きずるように、廊下から玄関へ、校外にまで連れて行く。
 すれ違っていく生徒達から乙姫先生可愛いと声をかけられても、本人は兎も角やはり雪広には届かない。
 そんな雪広がやって来たのは、世界樹広場付近に設営され中の特設ステージであった。
 麻帆良祭当日、教師人気投票トトカルチョの結果を発表するステージである。
 現在そこは麻帆良土木作業部が設計し、格闘部と協力して設営中。
 そのはずであったのだが、

「おら、帰れ帰れ麻帆良工大のハイエナども。金の匂いを感じてやってきやがって。寝技みてえなチンタラした技が主体なだけあるぜ!」
「んだと、取り消せオラ。お前らみたいな貧弱部に任せたら折角の催しが台無しだ。あと、寝技が打撃に劣るだと。今ここで決着つけてやろうか!」
「おいおい、喧嘩なら他所でやってくれ」

 ステージ設営も途中のまま、麻帆良大学の格闘部と麻帆良工業大学の格闘部が揉めていた。
 今にも手が出そうな雰囲気で、土木作業部が遠巻きに止めている声も届かない。

「お待ちください、教師人気投票トトカルチョ統括の麻帆良女子中の雪広あやかですわ」

 そこへ颯爽と現れた雪広であったが、それも何処まで効果のある事か。

「土木作業部の人足は既に麻帆良大学の格闘部の皆さんにお願いしています。申し訳ありませんが、麻帆良工業大学の格闘部の方々はお引き取りください」
「大体、女子中のガキが統括なんてするから話がおかしくなるんだ。麻帆良工大に権利寄越せよ。そしたら、真っ先に麻帆良大の格闘部なんか飛ばしてやるぜ」

 もはや金が欲しいのか、格闘部同士の意地なのか主張が滅茶苦茶である。

「そのようにはいきません。乙姫先生、ガツンとこの方々に世の道理というものを教えてあげてください」
「道理ね、そうしたいのは山々なんだが……この格好で説得力なくね?」
「ぎゃははははっ、なんだコイツ。馬鹿じゃねえの。何処の絵本の世界から迷い込んだ!」
「乙姫、乙姫だってよ。妙ちきりんな名前しやがって!」

 そこで初めて、雪広もむつきがどういう格好をしているのかを知った。
 乙姫なのだ、まさに浦島太郎に出てくる乙姫様の格好をしているのだ。
 誰作など今さら考えるまでもなく、長谷川の渾身の衣装を着ていた。
 十二単の様に幾重にも重ねられた生地が色艶やかで、羽衣さえ微風にフワフワたゆたっている。
 確かにそんな格好で世の道理を説けと言う方が無理がある。
 いっそ別の世界が開けてしまうかもしれないが、生憎むつきはノーマルであった。
 おかげで、邪魔をしに来た麻帆良工大の格闘部どころか、麻帆良大の格闘部や土木作業部からも笑われていた。
 さすがの雪広も、同行人の格好にカーッと顔を赤らめてしまった。

「どうしてそのようなふざけた格好をしているんですの!」
「長谷川から衣装合わせだって言われて着たら、こんなんだったんだよ!」
「寝言は寝技を差し置いて打撃最強ってのだけで間に合ってんだよ、このボケが!」
「雪広、危ねえ!」

 最も短気な者の一人が、邪魔をするなとばかりに殴りかかってきた。
 寝技最強は何処へ行ったのか、握った拳でだ。
 咄嗟に雪広を胸元に抱きかかえ、庇うように背を向けた。
 元々動き辛い格好で、むつきに喧嘩は兎も角、格闘の経験などない。
 まだ普段のスーツ姿、また雪広がこの場にいなければ飛び退るぐらいはできたのだが。
 現状出来たのが身を屈めるように小さく硬くなる事である。
 そのまま自身も痛みに耐えようと瞳を閉じたが、想像した痛みは訪れはしなかった。
 いや確かに拳が当たったパシンという音こそ聞こえてはいた。

「間一髪、楓の言う通り後を追って来て正解だったアル」

 何時の間についてきていたのか、古が手の平でその拳を受け止めていた。

「乙姫先生に代わり、世の道理を拙者らが伝えて進ぜよう。弱肉強食でござる」
「菲部長に散歩部最強の女……逃げッふ!」

 古が受け止めていた拳を払いのけ、男の懐にもぐりこみ尖らせた肘を鳩尾部分へとねじりこんだ。
 ピンポン玉のように吹き飛ばされたその体が、後ろにたむろしていた男達をも巻き込んで吹き飛ばされる。
 そこからは、肉食獣が草食獣を蹴散らすが如くであった。
 古が腕や足を軽く振るうたびに、屈強な男達が面白い程に吹き飛んだ。
 また楓の姿がふっと消えた直後には、数人の男達がばたばたと倒れていく。
 お前ら本当に中学生かと、別の意味で突っ込みたくなる光景だがこれが現実である。
 一先ず危機は去ったと、格闘団体の悲鳴を聞きながらむつきは十二単の中に埋もれた雪広をみた。

「雪広、お前少し顔色悪くないか?」
「いえ、少し怖い思いをしたせいで……」

 とてもそうは思えず、一先ずむつきは古と長瀬に声をかけた。

「二人共、程々にな。雪広が逆恨みかったら怖い。それから、土木作業部と麻帆良大の格闘部の皆は作業を続けてくれ。アレらは、広域指導員の先生を呼んで連行して貰うから」
「揉め事が収まればやる事はやるが。あんたは、一体誰だ?」
「この子の副担任、担任は高畑先生な」
「げっ、この子の担任デスメガネか。今回ばかりは、麻帆良工大の格闘部もやり過ぎたな。しばらく活動禁止だぞ」

 ご愁傷様と、最後の一人が蹴飛ばされた麻帆良工大の格闘部の面々に同情さえ送られた。
 広域指導員としての高畑も、そうとう顔が売れているようだ。
 しかもむつきは知らないが、かなり恐怖の対象として。
 デスメガネとはなんぞやとも思いもしたが、雪広の顔色の悪さの方が気になった。

「ああ、それから」

 雪広を連れて行こうとすると、土木作業部の一人が声を掛けてきた。

「アンタも、副担任ならもう少しその子を手伝ってやれよ。まだ子供なのに、他の学部のクラス委員や部活動の部長に一歩も引けをとらずやりあってんだから」
「とりあえず、常にあの二人のどちらかは護衛としてつけるよ。特に今回みたいなのが一番怖いからな」
「ご心配なさらずに、これでも雪広流柔術の免許皆伝ですので」
「生白い顔で説得力あるか。おーい、古に長瀬。そろそろ教室に戻るぞ」

 しれっと言った雪広にコツンと拳を落としてから、むつきは暴れていた二人に声をかけた。









 古と長瀬の二人を護衛に、まずむつきが向かったのは保健室であった。
 麻帆良祭の準備中なだけあり、普段より少々込みあっていたがベッドは確保できた。
 込み合っているといっても、大工道具で指を切ったり、金槌で指を叩いたとか軽傷が多かった事もある。
 仕事があるからと渋る彼女を無理矢理寝かせ、仮眠をとらせようとする。
 ただし、この麻帆良祭の一週間前と言う独特の雰囲気の中で眠れるかは不明だ。
 なにしろ多少の怪我なので、それはもう保健室も賑やかなものなのであった。
 主に笑いを提供しているのが、乙姫スタイルのむつきのせいの気もするが。

「古、お前は超に連絡とってしばらく雪広の代役を頼めないか聞いてくれ。駄目でも良くても連絡はちゃんとくれな。それから長瀬は悪いんだが」
「しばし、委員長殿の護衛でござるな。承知、拙者らは長谷川殿達の様に応援団員として手伝える事は極僅かでござるからな」
「超を探してくるアル。委員長、ちゃんと寝てるアルよ」
「悪いな、二人共」

 大丈夫ですと起き上がろうとした雪広を、押さえつけるように寝かせる。
 これも麻帆良祭の魔力か、自分を省みずと言う雪広も珍しいものだ。

「良いから、少し寝てろ。お前が倒れでもしたら、折角の麻帆良祭を皆が楽しめないだろ。普段のお前なら、とっくに気付いてるぞ。まあ、年頃の娘らしくてほっともするが」

 A組の他の生徒とはまた別の意味で大人びた姿ばかり普段見せられているので、尚更だ。

「委員長殿も拙者も年頃でござる」
「何故そこで自分もと強調した。護衛頼んだ事、実は根に持ってないか?」
「にんにん」
「忍者か」
「忍者ではござらんよ?」

 何このやり取りと思っていると、何が受けたのか雪広がくすくす笑っている。
 何処が面白かったと長瀬に視線を送るが、瀬流彦のような糸目の奥で肩をすくめられた。
 どうやら同じ年頃でも、少々笑いのツボは異なるようだ。
 ただ少しは気が紛れたようで、雪広の耳元に唇を寄せてそっと囁くように言う。

「まあ、なんにせよ。ちょっと寝ろ。今回はお前の頑張りすぎだ。別に俺は、高畑先生に勝ちたいってばかり思ってるわけじゃねえぞ」
「存じておりますし、勝ち負けを殊更強調するつもりもありませんわ。大々的にしたのは、少々私の我が侭を含んでおりますので」
「良く分からんが、だったら少し自重しろ。何かして欲しいことはあるか? 冷たい物が飲みたいとか」
「では、眠るまで……お手をよろしいでしょうか?」

 病気にでもなった小さな女の子のような申し出であったが、断る理由はない。
 何か心細くなるような事でもあったのか。
 良く白魚と表現されるような、細くて長い爪の綺麗な手をそっと握った。
 これでむつきが普段のスーツ姿なら、もう少し絵になったのだろうが。
 あいにく、未だ十二単の乙姫スタイルである。
 誰かが保健室に来るたびに、びびったり、声を押し殺して指差し笑うのだけは勘弁してほしい。
 しばらく無言で様々なプレッシャーに堪えていると、雪広の手からふっと力が消えた。
 確認してみると、吐息も静かに眠り始めており、手を布団の中にそっと戻す。

「それじゃあ、長瀬……悪いけれど雪広の事をしばらく見てやってくれ。麻帆良女子中にいる限りは、危ない事もないだろうけど」
「にんにん、先生が知らぬだけで女子と言うのは時に残忍なものでござる。しかと、護衛の件を承ったでござる」
「怖い事をいうなよ。なんにせよ、頼んだ」

 女子中の教師なだけに、女の子の粗雑な部分も知ってはいるつもりだったのだが。
 まだまだむつきには遠く考えの及ばぬ領域と言うものもあるらしい。
 現在、雪広達は二年であり、最高学年ではないのだ。
 恐らくはそういう部分でも、色々とあるのあろう。
 上級生を差し置いて、麻帆良学園都市全体を動かすような催しを仕切ったりする事に。
 そんな危険をおかしてまで貫こうとした、雪広の我が侭とはなんであろうか。
 全て終わったら話してくれるのか、そう思いながら教室へ向かう途中、高畑が現れた。
 何故か着流しに普段のタバコとは違い楊枝をくわえ、刀を一本差した格好で。
 時代劇に出てきそうな風来坊といった格好が無精ひげもあいまって良く似合う。

「高畑先生、その格好」
「乙姫先生こそ」

 これは気まずい所をと、互いに苦笑いしながら同時に立ち止まる。
 どちらともなく、近くの窓を開けて外の空気を吸いながらまず高畑が口火を切った。

「麻帆良工大の格闘部の連中には、きつくお灸を据えておいたよ。麻帆良大の格闘部と麻帆良工大の格闘部は昔から仲が悪くてね。一方だけが、今回の特別なイベントに参加したのが気に入らなかったみたいだね」
「勘弁して欲しいですよ、本当。しかも、雪広に手を挙げようとして。古や長瀬がいなかったら、俺一人で守れたかどうか。なさけないですよ」
「そんな事はないと思うけど。格好は兎も角、土木作業部の子達も君が雪広君を庇ったところを見たと言ってたしね。沖縄出身って聞いたけど、何か特別な格闘技でも?」
「あったら、逆にのしてますって。海で育ったので体力に自信はありますし、喧嘩も少しはしましたけど。本当子供の喧嘩ですよ」

 今気付いたのだが、担任と副担任でありながら、日常会話はこれが始めてだ。
 事務的な会話は今まで何度もしてきたのだが。
 確かに高畑は出張が多く、一年次はともかく二年A組はむつきが率いてきた自負がある。
 ただし、その為に長谷川が切れたり、雪広が必要以上に頑張ったり。
 これ以上、高畑との溝をむつきが、それも一方的に作るのは止める時期かもしれない。
 教師の間でのみ通用する学園長派とその他の派閥はどうしようもないが。
 むつき個人が高畑個人をどう思い、どう対応していくかは自由である。
 だから、腹を割るなら今このタイミングを置いて他にないかもしれない。

「高畑先生、少し真面目な話を良いですか?」
「どうしたんだい、改まって」

 一応ここは廊下なので、不用意に生徒が近付いていないか確認してから言った。

「正直に言うと、四月に副担任になって五月中頃まで僕は貴方の事をあまり好ましくは思っていませんでした」
「耳が痛いね、だいたい想像はつくよ」
「彼女達が一年の頃は、そうではなかったようですけど。理由の不明な出張三昧。担任の仕事は全部下りてくるし、副担任の仕事だって。僕自身、余裕のある教師じゃなかった」
「君に甘えていた事は僕も認めるよ。あまりに事務が的確で、これなら大丈夫だと」

 確かに書類作成だけなら、むつきとしてはお手のものであった。
 ただし、実務である授業や彼女達を纏める仕事が壊滅的だったのだ。
 負のスパイラルどころか、どん底まで直滑降、日常茶飯事である。

「けど、とある女性のおかげで立ち直れて、むしろ僕は担任になりたいとさえ。今回だって、どうせ高畑先生は出張だからって担任のつもりでいました」
「僕も、思い知らされたよ。自分がどれだけ身勝手だったか。自業自得とはいえ、殆どの子達に慕われなくなってたからね。高畑先生、高畑先生って言ってくれるのは明日菜君ぐらいだ」
「まだ間に合うと思います」

 少々自虐が過ぎる高畑へと、むつきは改めて向き直った。

「高畑先生、理由が明かせないような出張は止めにしませんか? 彼女達は日々を楽しみ、時に悩み。気軽に相談できる大人を欲しています、人に相談できない子は喋りかけれらる事を待っています」
「すまないが、それは出来ないんだ。彼女達以上に、それこそ日々食べる事さえ困っている人達が僕を必要としてくれているんだ。その人達の為にも」
「ですが、それは海外青年協力隊とか自衛隊の出番です。先生はこの麻帆良女子中の教師です。中途半端をするなら、どちらかに集中すべきです。彼女達か、その困っている人たちか」
「そのどちらも選べないんだ。今僕が行っているNGOでの活動は憧れだった人の仕事の一部を引き継いでいるんだ。そして、二年A組にはその憧れの人から託された明日菜君がいる」

 むつきは腹を割って全てを話したつもりが、高畑の話は要領を得ない。
 教師としてというよりは、その憧れだった人というのが中心となっていた。
 高畑と神楽坂の関係も、全くの初耳であったのだが。
 高畑にとってはその憧れの人が全てで、教師という仕事にはあまり興味がないのだろうか。
 何故教師と言う仕事を選びつつ、その憧れの人の仕事を継ごうと思ったのか。
 むしろ教師と言う役職は、自分を縛るだけの足かせなのではないのか。
 互いに良好な関係を築くwin、winという言葉があるが。
 現状、高畑とA組はlose、loseのような関係であるかのようにも思えた。

「高畑先生、ずるいですよ。僕ばっかり腹を割って、全然割ってくれてないじゃないですか」
「すまないね、どうにも喋る事が出来る内容にも色々と制限があってね。そうだな、僕から言える事はただ一つ。麻帆良祭が終われば、また僕は海外だ。彼女達の事を頼めるかい」
「頼まれなくても、それに覚悟しておいてください。僕はA組の担任の座を狙ってます。あまり出張ばかりしてると、今度こそ高畑先生の居場所はありませんからね」
「そいつは怖い話だ。出来るだけ、顔は出すようにしてみるよ」

 それだけはせめて約束するよと、最後にむつきの肩を叩いて高畑が歩き出す。
 お互いに事情は色々とあるようだ。
 ただし、手加減はしませんよと、楊枝をタバコのようにしている高畑の背中に語りかける。
 結局、殆ど腹を割りあうこともなかったが、宣戦布告はしてしまった。
 元々そこまでするつもりはなかったのだが。
 これでむつきも、高畑がいない時には遠慮なくA組の担任代理として頑張れると言うものだ。









 色々と胸の内に支えていた物を吐き出し、心の内を軽くしながらむつきは教室に戻った。
 元々衣装合わせで呼ばれ、その結果がこの乙姫スタイルなのである。
 改めて、これを作成した長谷川に文句を言う為に、扉を開けた。

「長谷川、てめえこの野郎。こんなん着てパレードに出てみろ。俺の教師としての威厳なんざ粉みじんだ」
「ぎゃーっはっはっは、似合ってんじゃねえか先生。さすが浦島太郎の登場人物!」
「先生可愛いじゃん、似合ってる似合ってる」
「私もそう、思う。可愛いよ、先生」
「お前ら女子は、直ぐなんでも可愛いって言う。男はそんな事を言われても嬉しくともなんともねえんだよ。しかも、雪広のおかげでこの格好で外を爆走しちまったし」

 指差して爆笑する長谷川はまだ普段通りといえるが、美砂とアキラの評価も似たようなものであった。
 まるでフォローのつもりのように、似合ってる可愛いと。
 嬉しくないと言っても、全然むつきの気持ちが伝わった様子がない。
 それどころか、外を爆走したというキーワードに食いつかれる始末だ。

「先生、それでそれで。ちゃんと自分の名前を大声で叫んできた?」
「アピールしなきゃ、上位入賞できないよ」
「はい、やり直してきて」
「悪魔か、お前らは」

 さも当然のように佐々木には聞かれ、椎名や釘宮からはもう一回行ってこいと言われる始末だ。
 もしもできる事なら、そんなんだから彼氏ができないんだと叫びたい。
 その瞬間、彼女達の乙女心もろともA組の担任になるという野望も粉みじんだろうが。

「ちょっと、こっちも負けてられない。って言うか、高畑先生はどこよ!?」
「いやあ、木枯らし紋次朗が良いなら由美かおるのかげろうお銀でもいけるかなって」
「どういう方向転換ですか、渋みを他所に。パルがセクハラかましたせいで、逃げられたです」
「女装男子が嫌いな腐女子なんていません!」

 そんな早乙女の妄言は置いておいて。

「高畑先生の苦々しい顔、初めて見た」
「タバコ吸ってくるから言うて、爪楊枝を指で挟んでたやんね」

 どうやら高畑のあの格好は神楽坂達の、主に早乙女の悪ふざけの産物らしい。
 やはり高畑も麻帆良祭ともなると、彼女らにふりまわされるようだ。
 宮崎の言う通り、あの高畑が生徒に対して苦々しい顔を見せるなどよっぽどである。
 近衛が見た爪楊枝をは、むつきも見たので相当本人は動揺していたのか。

「まあ、高畑先生は良いとして。長谷川、これマジでどうにかなんねえか。無茶苦茶重いし、動き辛い。あっ、脇のところが糸解れてら」
「私が端整込めて造った衣装を早速壊すんじゃねえ!」

 動きが激しい脇部分と言う事もあったのだろう。
 ほつれに気付いた途端、ますますソレが大きくなり、あろうことか尻を蹴られた。
 さすが十二単は防御が厚いが、それでも衝撃は受け止め切れなかった。

「痛ぇ、理不尽。なんたる理不尽、お前俺をなんだと思ってやがる!」
「あっ、ここも解れてるです。ひっぱっちゃえ、良いではないかゴッコです!」
「お姉ちゃん駄目だよ、そんな事をしちゃ」
「チビっ子共も止めろ。仮止めし直せば、マジで止めろって!」

 調子に乗った鳴滝姉が、ほつれを見つけては糸を引っ張り破壊していく。
 慌てて長谷川が怒声混じりに止めるが、余計に鳴滝姉を調子付かせたようだ。
 ますます解れた糸を引っ張りそれらが全てぷつっと切れた。
 一体どういう構造だったのか、途端にばらばらと糸ではなく十二単そのものが崩壊する。
 折り重なっていた布地が、ばらばらと四方八方にちらばるように。
 当然の事ながら全ての布地が落ちてしまえば、残るのは下着ぐらいのものであった。

「コントか、なんだコレは。長谷川、お前どこまで仕込めば」
「こんな神業仕込めるか。私の腕もまだそこまで行ってねえ!」
「あらあら、まあまあ」

 頬に手を当てて微笑んだのは、那波であった。
 ハート柄の狙ったようなむつきのトランクを目の当たりにしてだ。

「淫行教師、生徒の前で突然脱ぐ。先生の人気投票、終わったねこりゃ」
「きゃー、先生なにそれ。彼女の趣味、趣味なの!」
「ハート柄の、ハー……ふぅ」
「のどか、しっかりするです。あんなのただの布キレですよ」

 朝倉には写真を撮られ、顔を隠しながら指の隙間から佐々木には見られ。
 ある意味正常な反応で宮崎は気を失い、綾瀬は努めて冷静にただの布切れと評した。
 ただ、そのハート柄を彼女の趣味と言われ、反論できず美砂とアキラは無言であった。
 ずばりそのまま、その通りだったからである。
 少しばかり冗談も含め、似合うんじゃないかと以前にプレゼントしたのだ。

「お願い撮らないで、朝倉。先生、もう色々と限界で泣きそう」
「先生、そのしな垂れ方色っぽい。もう少し、足出して。意外に白いね」
「エロカメラマンか。涙も引っ込むわ。おい、柿崎。社会科資料室に俺のスーツあるから持ってきて。この格好で廊下に出たら、速攻通報だよ」
「はーい、ちょっと待ってて」

 美砂が妙に嬉しそうにスキップしながら出て行ったので心配になった。
 スーツをくんかくんかされそうだったので、アキラも次いで向かわせた。
 油揚げを差し出したトンビが二匹に増えただけかもしれないが。
 特にアキラの良心に期待しつつ、かき集めた十二単で体を隠す。
 主に生徒達の視線を男である自分の汚物から守る為に。

「やっぱ普通の手縫いじゃ、十二単はきつかったか。もう、普通の着物にすっか。先にお披露目しちまったし。先生、新しい衣装代くれよ」
「お前なあ、入賞すらしてないのにそんなに俺に金があると思うなよ。それに割り当てられた活動費用内で宣伝しないと罰則もんだぞ」
「ちっ、仕方ねえな。手先の器用な奴は手伝ってくれ。衣装縫い直すから」

 むつきから元十二単の布切れを奪うようにして、長谷川が縫い直しに取り掛かった。
 その周りにわらわらと人が集り始めるが、誰も手伝おうとは言い出さない。
 何しろ既に長谷川の腕前を見てしまった手前、おいそれと手伝うと言えなかったのだ。

「千雨ちゃん、私がちょい手伝うから。余った布切れ、借りてええ? 高畑先生の衣装、大分煮詰まってきてし」
「色艶やかな女ものばかりだぞ。それでも良けりゃ。ほら、手伝う気がない奴は散った散った。街宣用ののぼりとか、多少雑な性格でもやれる事はあるだろ」
「私、演劇部で衣装も造るから千雨ちゃんを手伝えるよ。どうすれば良いか、指示だけ頂戴」

 村上は言い出す切欠が欲しかっただけのようで、指示通り衣装を縫い始める。
 近衛のお陰もあるが、もう高畑派も乙姫派も関係ない。
 皆が麻帆良祭の一大イベントへと向けて、黙々と作業に入っていった。
 当初、雪広がいっそクラスを割ってしまおうと言った時は耳を疑ったのだが。
 案外上手くいくものなのかもしれない。
 神楽坂も、特に早乙女が役に立たないと思ったのか、乙姫派の面々にも意見を求めたりしている。
 それが役に立っているかどうかは、また別にしてもだ。
 そんな彼女達を教卓の影に隠れるようにしつつ、むつきは微笑ましく眺めていた。

「先生、スーツ持ってきたよ。にやにやして、エッチな事を考えてる?」
「馬鹿たれ、ちがわい。なんだかんだで、仲良くやってくれて良かったって思っただけだ」
「意見が違う事は合っても、皆は仲良しだから」
「雪広も、これで少しは気が楽になったんじゃねえのか」

 今はまだ保健室で寝ているであろう雪広を思い、そう呟いた。
 両手の側に立っていた二人のお姫様の機嫌を多少損ねる事になると思わず。
 そっと伸ばされた二人の指が、嫉妬の心の赴くままにむつきの太ももを抓った。









-後書き-
ども、えなりんです。

長谷川、伊達メガネを捨て自分をさらけ出し始めました。
言葉使いもあってまだ敬遠されてる部分もありますが、何れ周りも慣れるでしょう。
生徒側がどんどん変わる中、主人公(笑)
まあ、ちょっとずつは成長してるんですよ?

あと今回、高畑とちゃんと(?)会話しました。
三ヶ月経ってやっと日常会話とか、飲みニケーションも前回が初。
なんやかんや高畑を中途半端と言ってますが。
主人公も結構、変態と教師の間で中途半端です。
中々自分って見えないもんですよね。

さて、日常回三連続も終わり、次回はエロ回。
なんというか、夕映が加入直後の盗聴回と同じぐらいアレです。
それでは次回は水曜日です。



[36639] 第二十八話 俺はもう、駄目かもしれない
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/04/20 20:26
第二十八話 俺はもう、駄目かもしれない

 麻帆良祭前の最後の休日。
 いよいよ切羽詰り始めた学生達は、休日返上で準備に追われている事だろう。
 だが、今年の二年A組は出し物が出し物なだけに追われる事はあまりない。
 それはそれで、少々盛り上がりに欠けるかと思いきやそうでもなかった。
 散歩部である鳴滝姉妹は保護者である長瀬を連れて、一足先に出展している屋台を見に出かけた。
 他に部活の方の出し物がある者はそちらへ、那波はいつもの様に村上を連れて子供の引率である。
 高畑派の神楽坂達は、最後の追い込みに掛かりたくても掛かれない状態だ。
 神楽坂達は別にして忙しくないならないで、麻帆良祭前の今にしか楽しめない楽しみを求め皆寮を出て行った。
 ひかげ荘のメンバーもおよそ、そのような感じである。
 朝のまだ低い日差しの中、湯煙を胸いっぱいに吸い込んで濡れた岩場に背中を預けた。

「他の学生が必死こいて働く中、優雅に朝から露天風呂ってもの贅沢だよな」
「この程度の役得、当然ですわ。幾度と、問題を起こされたことか。その度に連れ出されては、力量が足りない、権限寄越せと。もう聞き飽きましたわ」
「委員長、本当に忙しそうだったやんね。珍しく先生のファインプレイで、折れる事もなく。委員長がいなかったら、空中分解は目に見えてたし」
「一言多いぞ、和泉」

 男のむつきがいるので、相変わらずの浴衣姿での入浴であった。
 それでも当初よりずっと慣れたのか、少し動けば着崩れた隙間から大事な部分が色々と見えそうだ。
 むつき限定なのかもしれないが、随分と男の視線に鈍感になったのかもしれない。

「いえ、実際のところ感謝していますわ。私としたことが、オーバーワーク気味でした。反省しなければいけませんわ。超さんにも多大なご迷惑を」
「私は、慣れてるネ。気にする事はないヨ。それにこうしてご相伴に預かってる身ネ。いや、これはお金では買えない桃源郷ネ」
「徹夜明けの朝日が眩しい中、清々しく目が覚めます」
「何時の間にやら、超さんと葉加瀬さんがメンバーに加わっている件について」

 綾瀬の言う通り、何時の間にやらである。
 何時の間にやらというのなら、高畑派に一度属した彼女がここにいるのも問題だが。
 誰ともなく、一緒に露天風呂に入ろうぜと来て見たら、何時の間にかいた。
 超は兎も角として、葉加瀬もまたあの秘密を知っているのか。
 実はさり気に、気が気でないむつきであった。
 とはいえ、美砂もアキラもむつきの隣で体を預けるようにもたれかかっている。

「しかし、お前ら何時の間に来てたんだ? あと俺としては……」
「研究室も麻帆良祭で発表する機械類で一杯で、他に投票マシーンの研究場所と置き場がなかったせいネ。場所も地下に勝手に作らせて貰ったから問題ないネ」
「私は既に科学と言う名の悪魔に魂を売った女なので。今さら乙姫先生が肉欲の悪魔に魂を売ったところで気にしません。むしろ、同士です」
「誰が肉欲の悪魔に魂を売った男か。愛だよ、愛。人としての崇高な魂のあり方だよ。あと、人の管理物件の地下に勝手に研究室を作るな」

 多少愚痴のような文句も出たが、秘密にして貰えるならと二人を抱き寄せた。
 温泉の湯よりも熱いだろうとばかりに、イチャイチャぶりを披露してやる。
 これが愛だと、悪魔には触れもできない崇高な魂のあり方だと。
 実際のところ、慣れ過ぎて長谷川達はあくびをしたり、しらけた視線を送るだけだ。
 超は何時ものニコニコ顔で、多少葉加瀬が頬に赤味をさし、私は科学に魂を売った女と苦悩めいたリアクションを見せてくれたが。
 一番恋愛に疎そうな彼女が、一番純情な反応なのはいかがなものだろうか。

「しかし、順調にばれていってんな。既にクラスの四分の一にバレてんじゃねえか。このペースだと、まずくね?」
「二ヵ月少々でこのペースですから。秋頃には、クラス全員に知られている事でしょう」
「その前に、朝倉かハルナにでもバレた時点で加速するやん。もうちょい、早いんやない?」
「できれば、この露天風呂は静かに大切にしたいものですが」

 長谷川の疑問に綾瀬が予想を立てるが、和泉に早速もっと早いと言われてしまう。
 雪広などもはや、殆ど諦めの境地とも言って良い。
 彼女達にそのつもりはないのだろうが、不安を刺激された美砂とアキラに見上げられる。

「心配すんな、アキラ。美砂も。今までも何とかなったし、何とかしていく」
「うん、信じてる。例え、大事になっても肉体関係さえ黙ってれば清い交際で済むし」
「その場合、私は黙ってた方がよさそう。下手に二股とかバレるとまずいから」
「お前らは、そんな事を考えなくても良い。頼りないかもしれないが、任せとけ」

 二人の頭に手を置いて、改めて抱き寄せる。
 むつきだって全部自分で何とかできると確約は出来ないが、それでも年上の男だ。
 下手な不安は抱かせたくもないし、二人を最後まで守る義務がある。
 最も一人で全部なんとかしようとすると、長谷川辺りに殴られそうだが。
 応援してくれる者や、協力してくれる者だっているのだ。
 これで上手く行かせられないのならば、何をしたって一緒である。

「さて、風呂で魂まで洗ったら今日はどうするか。雪広、お前もそろそろ手は空き出すだろ?」
「先日の件より、作業を可能な限り分担致しましたから。むしろ、今日一日ぐらいはゆっくりさせていただきたいものです」
「なら、全員で屋台でも冷やかしにいくか。ソレぐらいなら、幾らでも奢ってやるぞ」
「おっ、ついに先生が私らに対する奉仕の心に目覚めたか」

 長谷川には即座にこの野郎と言ったが、そういう気分になる時ぐらいある。

「麻帆良祭前だし、私ら先生の応援団だから多少外でイチャついても不自然じゃないし。グループデートだよ、グループデート」
「先生と屋台で食べ歩き。いいかも」

 普通のデートが出来ると乗り気な美砂の言葉に、アキラも嬉しそうに呟いた。

「グループと言っても男性は先生のみですが。むしろハーレムデートです」
「確かに、これむしろ先生が喜ぶだけじゃ。超さんと葉加瀬はどないする?」
「投票マシーンは微調整を残すのみ、偶にはクラスメイトと遊びに出かけるのも悪くはないネ。葉加瀬もそれでよろし?」
「適度なリラクゼーションは、頭の回転を進め、思考をクリアにしてくれます。というわけで、偶には。こういうのも悪くはないでしょう」

 本人が言うからには、本当に稀なのだろう。
 超と葉加瀬という珍しい人材を加え、屋台めぐりと相成ったわけで。

「それなら、先に上がるから。お前らも上がれよ。女の子の準備が長いのは重々承知だが、あんまり待たせるなよ」

 先に温泉から上がったむつきが、脱衣所の方へと消えていった。
 そこからがガールズトークの始まりである、例え事前に待たせるなと注意されてもだ。

「どうしよ、外で。先生とお祭りデート、なに着てこう。こんな事なら、浴衣とか持ってきておけばよかった」
「外でデートなんて貴重だもんね。委員長に連れて行ってもらった南の島以来。長谷川、何かない。とっときの衣装!」

 早速、興奮気味にはしゃいだのは、アキラと美砂であった。
 美砂の言う通り、教師と生徒、隠れ付き合っているだけに外でデートなど貴重過ぎる。
 しかも、むつきからの突然の提案なので準備などできているはずもない。
 こんな日が来るとは思いもよらず、お祭りに定番の浴衣は寮のクローゼットの奥だ。
 衣装で困ったらと美砂が長谷川を頼ってしまうのは当然の成り行きである。

「しょうがねえな、こんな事もあろうかと。私のとっておきの衣装出してやるよ。これを着れば、今夜の先生は凄い事になるぞ」

 それは一体どんな衣装か、美砂もアキラもそれぞれ想像の中でむつきに押し倒され生唾をごくりと飲み込んでいた。

「それならば、二人の為に私も協力するネ」

 お祭りを通り越して、夜の打ち上げ花火に身もだえする二人を前に超がそんな事を言い出した。
 ひかげ荘での衣装係りである長谷川はまだしも、今回新規参入の超がである。
 一体どう協力するつもりなのか。
 私らのレベルは高いぞと、麻帆良最強の頭脳を先輩達が上から目線で待ち受けた。

「超さん、まさか。アレですか。しかし、同級生相手に」
「モニターの数が足りず、参入できなかった部門ネ。けれど、そのモニターが目の前に現れたら躊躇は不要ヨ。てけてけん、ピンクローター!」

 葉加瀬は一応躊躇を見せたが、そんなの関係ないとばかりに超がそれを取り出した。
 むろんあそこからではなく、露天風呂に持ち込んだ各種女の子グッズが入った桶から。
 当然、先程まで身悶えていたはずの美砂やアキラでさえ固まっていた。

「ピンクローターってなんですの?」

 たった一人、それの存在意義を知らぬ雪広以外。

「ぎゃあ、委員長のピュアな反応みると偶に自分の薄汚れ感が嫌になる!」
「安心すると良いです。知らないのは、どうやら委員長さんだけなので」
「あんな、委員長。あれはな」

 一番苦悩したのは、普段雪広にネットで聞きかじった知識を吹き込む長谷川であった。
 耳年増と分かってはいても、豊富な知識に優越感を感じないわけではなかったが。
 あまりにも雪広が純過ぎると、時折自分を省みてうわっとなる事もある。
 綾瀬が慰めている間に、和泉がこそこそっと雪広に存在意義を吹き込んだ。

「そ、そんなに気持ち良いんですの?」

 しかも、結構くいついていた。
 そして次に当然出てくる疑問に、答えられる者は誰もいなかった。
 何せそれを手に入れる為には、そういった店に行くか、ネットで購入するしかない。
 中学生である彼女達に前者という選択肢があるはずもなく、ならば後者なのだが。

「興味はあったけど、知らないうちにとどいて同室の円とか桜子に見られたら」
「ちょっと無理、かな」

 むつきとのプレイを含め、使ってみたかったが寮住まいの身では危険すぎる行為だ。
 特にネットに強い長谷川としては、よりその危険に敏感であった。

「私は一人部屋だけどさ。怖いんだよ。ネットで良く、中身丸分かりの状態で送られて来たとか話を読んだ事があるし」

 興味はあるが、誰も手に入れられない一品を何故か超がこれ見よがしに持っていた。
 そして改めて超の手でぶらぶらしているそれを見て、皆が思った。
 もの凄く欲しい、使ってみたいと。

「私と葉加瀬が共同で作成したものネ。んー、そうネ。これから私が提案する方法でモニターとなってくれたのなら。そのまま無料で進呈するネ」

 この時の反応は概ね、二つであった。
 即座に欲しいと訴えた美砂とアキラ、既に処女を喪失した怖いもの知らずだ。
 そしてもう一方が長谷川達、処女娘の一体何をやらされるのかという反応である。
 それでも、今この場を逃しては当分手には入らない一品である事も重々承知。
 苦悩する四人の中で真っ先に折れたというか、興味が先行したのは雪広だ。
 一方で雪広の次に条件付きでモニターをすると言ったのが長谷川である。
 後はもう、自分が少数派になれば飛び込むしかない和泉と綾瀬であった。









 麻帆良祭は、学園都市のお祭りだが、麻帆良市と麻帆良学園都市はほぼイコール。
 麻帆良市の特に中心部にいたっては、普通にお祭り騒ぎである。
 学生とは無縁な的屋が屋台の軒を連ね出展していた。
 ひかげ荘から近い場所にある小さな神社も、例外ではなく的屋が多く見られた。
 もしや、年始の初詣の時より多いのではないのかと思うほどだ。
 的屋だけに射的屋、まだ季節としては早いが水風船釣り、輪投げなんてレトロ過ぎるものさえある。
 食べ物も綿菓子からリンゴ飴、袋詰めのポテトなどいいから兎に角出店しろとばかりのラインナップだ。
 そんな古き良き日本の香りが残る中を集団で闊歩するのは、メイド服の少女達である。
 言わずもがな、ひかげ荘のメンバーであり、周囲の視線が集りまくっていた。

「俺はもう、駄目かもしれない」

 黒一点、メイド服姿の彼女達の後ろを歩いていた浴衣姿のむつきが、とあるものを操作する。
 ピンク色のソレは、回転式ダイヤルと弱から強というスライド式のスイッチがあった。
 ダイヤルを七に合わせ、この野郎とばかりに強まで一気に押し上げた。
 その瞬間、メイド姿の集団の中で、シニョンキャップで髪を纏め上げていた少女がビクリと体を震わせる。

「んくっ、執拗に……浮気、ばかり駄目あるヨ」
「超さん、あまり引っ張らないでください。私も、余裕があるわけでは」

 頬を普段よりも赤く染め、内股気味になっては隣にいた葉加瀬のメイド服の袖を掴む。
 何処からか聞こえるおはやしの音や人々のざわめきでかき消されているが。
 静かなひかげ荘にでも戻れば確実にその音は聞こえたはずだ。
 彼女のメイド服のスカートの奥、下着のない秘所の割れ目の奥で震えるローター音。
 少し屈めば、割れ目から伸びたピンクのコードさえも見える事だろう。

「先生、私も。さっきから、超りんばっかり」
「イキ、イキたい。イかせて、先生」

 明らかに乱れた息使いと、潤んだ瞳で懇願してくるのは美砂とアキラだ。
 他にも長谷川から雪広、和泉や綾瀬にいたるまで。
 全員が全員、ピンクローターを装着済みで期待を寄せた瞳で見つめてきていた。

「俺、普通に屋台を皆でさ。この、阿呆が。麻帆良最強頭脳とは名ばかりの、阿呆が」
「壊れ、私の大事な所が壊されるネ。はべらせた生徒にピンクローターをつけさせた鬼畜教師の手んぁっ!」
「だから引っ張んんっ」

 必死に声を押し殺した超と葉加瀬が、ついに耐え切れず公衆の面前で果てる。
 とはいえ、人数が人数であった。
 決定的瞬間は誰にも見せやしないと、雪広や長谷川がしっかり周囲の視線からガードしていた。
 自分達も若干足が震え、足元がおぼつかないのによくやるものである。
 ちなみに、何故かむつきだけはそのガード対象から漏れていた。

「成り行きとはいえ、皆装着した以上この場で取り出すわけにも行きません。精々、楽しんではどうでしょう」
「チラチラ、期待しながら見るんじゃねえ。お前ら、俺をどうしたいの? そこまで心が強くねえんだよ。知ってるだろうけど、むしろナイーブなの」
「男の人ってこういうの好きなんやないの? 射的、射的やろ、先生」
「和泉、お前の中の男像はどうなってんだ。あと、急に素に戻るな。ついていけん」

 適度にダイヤルをいじって、美砂やアキラのご機嫌を伺いつつ射的屋の前にいった。
 屋台の前には、へっぽこ空気銃があり、さあ来いとばかりに的が並べられている。
 どう考えても揺らぐ事すら無さそうな重そうな人形から、簡単にとれそうな御菓子まで。
 一先ず、人数分のお金をまとめて、射的屋の親父に渡して弾を貰った。
 まるで物語の中から飛び出してきたようなはげた頭に捻り鉢巻の親父である。

「おう、毎度あり。でもよ兄ちゃん、こんな可愛い子に囲まれてんだ。こんな弾より、良い弾一杯持ってんじゃねえのかい?」
「ごめん、おっちゃん。親父ギャグにまともに返せねえ」

 折角の親父ギャグだが、精神的にちょっと追い詰められている状況では心に刺さるだけだ。

「んじゃ、一番イカせて貰おうか」
「俺の心が汚れているのだろうか。不安な台詞に聞こえた」

 名乗り上げた長谷川に弾を渡し、皆で後ろからその自慢の腕前を眺めて見る。
 だが次の瞬間、やっぱりそう言う意味かと後悔させられた。
 長谷川達はもはやメイドとは名ばかりの、ミニスカートのメイド服である。
 それが射的の的を落とそうと、台の上に身を乗り出してみればどうなるか。
 しかも下着を履いていないのだから、色々と丸見えであった。
 慌ててむつきが隠そうとするも、これまた雪広達が鉄壁ガードである。
 ただし、今度ばかりはむつきもガードの対象だ。

「何そのチームプレイ」

 そしてもはや諦めの境地で、むつきはリモコンを操作する。

「もう、戻れないのはお互い様だな」
「やかましい、もうさっさとイケ」

 長谷川の三番にダイヤルを合わせ、一気に最強の位置にまでボタンをスライドさせる。
 途端に台の上に乗り上げた体がビクリと震え、そのままずるずると落ちてきた。
 顔を伏せた一瞬で何度かイキもしたようで、当たり前だが弾は見当違いな方向に飛んだ。
 理解は及んでいないようだが、長谷川に一瞬見惚れた親父の額に。

「おい、嬢ちゃ痛って……お、おわっ!」

 弱々しい弾に弾かれ、親父が大げさにこけたので、皆で大笑いしたのが最大の収穫か。
 景品は一つも落とせなかったが、照れ笑いの親父から駄菓子を一人一個ずつ貰った。
 もちろん、男であるむつきのはなかったが。

「乙姫先生、あれはなんでしょうか?」

 そう雪広が指差したのは、水風船釣りであった。
 普通の女子中に通ってはいるが、箱入りな彼女は以外に世間に疎い部分がある。
 もしかすると、こうして神社の屋台をひやかしに繰り出すのも初めてなのではないだろうか。
 そんな彼女を引きつれ、またしてもむつきが全員分のお金を払って釣り糸を貰う。
 今度は親父ではなく、若い兄ちゃんが屋台の主人で凄く鼻の下が伸びていた。

「誰か、経験者雪広に教えてやれ。俺は色々と忙しい」
「私これ得意だよ。委員長、みててこうするの」

 忙しいとはもちろん、ローターのリモコン操作にである。
 なんだかんだ言ってはみたものの、少し楽しくなってきていたのだ。
 私がと立候補したアキラの釣り糸の動きに合わせ、ローターの強弱で邪魔をした。
 その度に、水風船の輪に掛かりそうだった釣り針はスッと目標を外れていく。
 最初は少しもうっと頬を膨らまされたが、まんざらでもないらしい。
 そしてついに何度目かのチャレンジで、ビニールプールに浮いた水風船のわっかに針が掛かった。

「ねっ、委員長。こうやって釣り、つ……んっ、先生。今良いとこぁっ」

 すぐさま、今が狙い目とむつきがスライドを強にまで上げたのは言うまでもない。
 途端にアキラの手が震え、輪から釣り針が外れてしまう。
 一度諦めたアキラが、むつきの後ろに回り、顔を押し付けながら馬鹿と呟いてくる。
 妙にぞくぞくしたので、イカせてあげる事にした。
 細い腰に腕を回し、抱き寄せてからローターを最強に設定して刺激する。

「んっ、ふぅぁんぅ!」

 むつきの浴衣を噛む様にして声を押し殺し、アキラが体を震わせながら果てた。
 水風船釣りの方は、一度お手本を見せて貰ったので、雪広と和泉が合わせて挑戦中だ。
 ただ、何時の間にかビニールプール内の水の流れが随分と速くなっていた。
 おかしいと思ってみれば、それもそのはず。
 屋台の兄ちゃんが、わざと水の流れを早く、それも乱していたのだ。
 正直、少し気持ちの分かるむつきであった。
 流れる水風船を追って、雪広と和泉がきゃっきゃ、きゃっきゃと大はしゃぎ。
 それも迂闊に立て膝でもつけば、短いスカートの奥が御開帳のハラハラドキドキ。
 ちらっと目が合ってしまい、いやあと苦笑いされた程だ。
 とりあえず、視姦されてるぞとローターの強弱を繰り返して教えてやる。

「あん、中々上手く行きませんわ。亜子さん、あれ。大きくはありませんか? このような大きなもの、見た事がありません」
「私、入るやろか。あっ、駄目。もっと右、そこそのまま奥に……んっ、駄目力が。手が震えては入れられへん」
「お手伝いしますわ、亜子さん。そっと、大きなあれへと。先っぽを入れたら、一気に」

 絶対にわざとだと言いたい台詞の数々に屋台の兄ちゃんは前屈みだ。
 むつきも、正面に抱き寄せた美砂のお尻に押し付けていなければ直立も難しい。
 男って馬鹿だなと、端から見ていると本当に良く分かる。
 結局、水風船は一つも取れなかったが、屋台の兄ちゃんが一人一個おまけしてくれた。
 良いモノを見せてもらいましたとばかりに、とても良い笑顔だった。

「さて、次は……どした、綾瀬?」

 次の屋台はダーツか、輪投げか、大当たりのないくじ引きか。
 まだまだ続く屋台の並木を眺めていると、綾瀬に浴衣の袖を引かれた。
 その顔は赤く、瞳も潤んでおり、待ちきれず直接むつきに交渉し始めたのか。
 だが、次に彼女が放った台詞でお祭り気分と、ローターによる悪戯心は一気に鎮火した。

「漏るです」
「そっちかよ!」

 もっと早く言えと、小柄な彼女を横抱きに抱えて走り出した。

「お前らは後から来い。走ってこけるな、恥ずかしいどころじゃねえぞ」
「ユエちゃん、先生貸したげるから頑張って我慢しなさいよ」

 美砂のそんな台詞に見送られながら、急いでむつきが駆けていく。
 屋台と屋台の間に立てられたお手洗いという看板の矢印に従い、こっちかと屋台の陰を曲がった。
 しかしながら、今日は縁日さながらの込み具合である。
 案の定と言うべきか、神社の脇のコンクリート製のお手洗いは列が出来ていた。
 長蛇とまではいかないが、女性は色々と時間が掛かるので三十分できくかどうか。

「ちなみに、綾瀬。大きいのか、それともぐぇ」
「乙女になんて事を聞くです。も、漏る……小さいのです」

 聞かれた瞬間、むつきの顔を殴りつつ、それでも緊急事態だからと答えていた。
 恥も外聞もなく、抱かれたまま股に手を差し込み、ぷるぷる震えている。
 忘れそうになるが、ローターもそのままなので相当な刺激になっている事だろう。
 ならばと、殴られた顔の痛みにしかめつつ、綾瀬をさらに連れて行く。
 お手洗いを通り過ぎ、神社の奥、木々がうっそうと立ち並ぶ林の藪の中へだ。
 そして周囲に人の目がない事を確認すると、小柄な綾瀬を器用に抱えなおした。
 横抱きの状態から四分の一回転、自分の胸と綾瀬の背をあわせ、膝の下に手を差し込み抱え上げる。

「何をして、させているですか!」
「うるせえぞ、この野郎。緊急事態に、方法も格好もないわ。さあ、やれ」
「出ると思う方がどうかしてるです」

 先程までふるふる震えていたくせに、今度は出ないとはどういう事か。
 仕方がないので、取り出したのはローターのリモコンだ。
 綾瀬の六番にダイヤルを合わせて、スライドを強に上げていく。

「ぁっ、止め。止めるです」

 下腹部を丸出しで密着しているせいか、ローターの震動音が良く聞こえる。
 ちょっとぐらい良いよなと覗き込んでみると中々に卑猥な光景であった。
 幼い無毛の割れ目が小刻みに震え、とろとろと愛液が染み出しては流れていた。
 格好が格好なだけに、流れ出した愛液はお尻の穴の方にまで流れている事だろう。
 ただ強く刺激するだけでは芸がないので、強弱を一定のタイミングで繰り返す。

「漏る、変な感じぁっ。先生、漏るです」
「我慢は体に悪いぞ。これで最後だ。イケ、じゃなくておしっこしろ」
「ぁぅっ!」

 最後にローターのコードを引っ張り、奥に埋まっていたそれを一気に抜いた。
 にゅぽんと抜き取れ、むつきからは見えないが膣口がぱくぱくと喘いでいる。
 普段決してさらされる事のない場所が外気に触れ、体が冷えて尿意が加速していった。
 既に綾瀬の抗う気力も弱く、ふるりと体を震わせてからちょろちょろとお小水を漏らし始めた。
 黄色い液体が放物線を描いて、目の前の木の根元に掛かり始める。

「ぁっ、ぁぁっ……み、見るなです」

 見るなといわれても、アンモニアの匂いと生温かさでまる分かりである。

「はいはい、もう少し。良く切って、ハンカチは?」
「右のポケットの中です」

 お小水の流れが弱まってくると、綾瀬の体を揺さぶって流れをきってやる。
 それから片手で抱えなおし、ポケットをあさってハンカチを取り出した。
 後で洗えば良いかと、それで綾瀬の大事な部分が蒸れないように丹念に水気を吸い取る。
 ふにふにと無毛な大地を綺麗に拭き取り、途中何度か別の液が垂れたのでそれも拭き取りつつ。
 ハンカチは自分の浴衣のポケットに入れた。
 それから綾瀬をおろしてやり、まくれたスカートも戻してやった。

「感謝、少しだけするです」
「今さらながら、生徒に凄い事をやっちまった」

 未だ顔を上げるのも難しい彼女の頭をぽんぽんと叩きながら、少しだけ移動する。
 お小水で汚れた木のそばでは、彼女も気が気でない事だろう。
 その場で少し待っていると、数人の待ち人がやや早足でやって来た。

「先生、ユエちゃんは間に合った?」
「美砂、お前も大声で聞いてやるな。それから綾瀬、股の間でローターがぶらぶらしてるぞ」
「これはお恥ずかしい。んっ、膜が破れないかドキドキするです」
「また入れんのかよ。復活、意外と早かったな」

 逞しい奴めと軽く頭を叩き、こっちだと美砂達に手を振って知らせる。
 それから遅れ目にやってきた超へと、ローターのリモコンを投げて渡した。

「もう、満足あるカ? 個人的には、もう少し先生に楽しんで欲しかたガ」
「それなりに楽しめたが。やっぱり、世界一可愛い嫁と彼女が一番良い。ぶっちゃけ、我慢できないからここでセックスしてる。財布やるから、お前らは遊んで来い」
「私も、楽しかったけど先生の方が良い。動き単調だし、小さいからもどかしい」
「中だしもしてくれないし、やっぱり機械は機械。先生の方が何十倍も良い」

 可愛い事を言ってくれた二人を、力一杯両脇に抱きかかえる。
 我慢できないというのもあるが、もうここで何発か抱いておかないと戻れない。
 今にも浴衣の裾の間から、膨張しきった一物がこんにちはしそうなのだ。
 子供が多い屋台が出ている神社で、成人男性が勃起状態で現れれば大惨事である。
 これまた財布も長谷川に投げて渡し、行って来いと犬を追い払うように手を振った。
 だが誰一人として、この場から去ろうとする者はおらず、寧ろ腰を落ち着けようとしていた。

「いや、お前らなにしてんの? セックスしたいの、我慢の限界なの。世界一可愛い嫁と彼女を孕ませたくて仕方がないんだが」
「玩具とはいえ、機械が人に負けたとあっては聞き捨てなりません。先生のテクニックをこの目で見て、それを超えるローターを作ります。お気になさらず、どうぞ」
「そういうわけで、葉加瀬と私はここで先生のセックスを研究させて貰うネ」
「馬鹿だろ、お前ら実は馬鹿だろ。何が麻帆良最強の頭脳だ。ばーか、ばーか」

 葉加瀬と超の突飛過ぎる台詞に、思わず童心に帰って馬鹿を連呼してしまった。

「先生、いいから柿崎と大河内をヤッちまえよ。ここで私ら、見ててやるから」
「私、耳で聞く事は数多あれどこの目で見るのは……なんだか、緊張してきましたわ」
「アキラのセックスか。先生、うちは最中のアキラの顔がみたい」
「人に死ぬ程恥ずかしい格好をさせたのですから、お互い様になる為にも先生も見せるです」

 この子達の頭の中身は一体どうなっているのだろう。
 もはや新人類だとか、そういった領域を遥かに超えた場所にいるのではないのか。
 色々と言いたい事はあるが、本当にもう限界なのである。
 早く早くと袖を引っ張ってくる世界一可愛い嫁と彼女を、思う存分犯したいのだ。
 ひいひい言わせて、その愛液滴る肉壷の奥に種付けをしたいのであった。
 犯したい性欲と、教師としての残り僅かな理性。
 当然の事ながら勝ったのは性欲の方であった、残念ながら、本当に残念ながら。

「美砂、そこに木に手をついて。アキラは俺の横に立って」
「バックは寂しいから、ちゃんとおっぱいも苛めてね」
「うん、大体先生のやりたい事はわかるから」

 もうむつきの頭の中は、世界一可愛い嫁と恋人を犯す事で一杯であった。
 周りで興味深そうに身を乗り出してみている長谷川達など眼中にない。
 目の前の木に手をつき、どうぞお好きにと突き出された美砂の腰を両手で掴んだ。
 短いメイド服のスカートをまくり、白いお尻の奥で涎を垂らす秘部へと亀頭を押し当てる。
 ローターは既に股の間で揺れており、侵入を阻む者は誰もいない。

「美砂、入れるぞ」
「ぁっ、んぅ。はぁぅ」

 最近少し蒸し暑くなってきた気候よりも、濃い愛液で竿が蒸らされるように包みこまれた。
 ローターで何度もイカせたせいだろうか。
 魔法でも使ったかのように膣壁が柔らかく、むつきの一物をしゃぶってくる。
 挿入されるたびに腰を振り、美砂が更に奥へと竿を誘って飲み込んでいった。

「先生、私も」
「アキラ」

 美砂の膣を楽しみながら、アキラに懇願されてそちらへと振り向いた。
 途端にキスで口を塞がれたが、それだけに愛撫は留まらない。
 アキラの手が尻を回り、股下を通って玉袋を細く長い指で包みぎゅっぎゅと握っている。
 美砂に種付けする為の精液の生成を促がすようにだ。
 そんなアキラを抱き寄せるように片腕を回し、背中から一周して片方の乳房を掴む。

「先生、ずっと我慢してたから硬くて、大きい」
「それだけじゃないぞ、美砂」

 腰を前後に振って、美砂のお尻をパンパン叩きつつ教える。
 挿入によりやや余裕の出てきた思考にて。
 今自分達が何処でセックスをしているか、誰の目の前でセックスをしているのか。

「美砂、皆が見てるぞ。俺達の子作りをばっちり、将来自分達が誰かとする為に俺達のセックスを見て勉強してるんだ」
「ぁっ、見られてる。先生とのセックス、見られてる」
「ちょっと、早いが。美砂、これが種付けだって見せるぞ。ほら、出る。中で出すぞ、美砂」
「長谷川、見て。私、先生に孕まされるの。お腹に種、仕込まれちゃう」

 浴衣の長い裾に隠れたむつきの尻がキュッと絞り込まれた。
 アキラが刺激し続けた玉袋も収縮し、圧力を高めてその射精の瞬間を待つ。
 そして次の瞬間、むつきはなんの遠慮もなく美砂の中へと精液を放った。
 膣よりも奥、命を育む部屋である子宮の中へと。
 我慢に我慢を重ね、溜めに溜め込んだ精液をどくりどくりと流し込んだ。
 やがて飲み干しきれなかった精液の一部が、二人の結合部から流れ出した。
 それを見て、息の飲んだのは誰か。
 物欲しそうにも聞こえる息を飲む声で、溢れる精液を見つめていた。

「凄い、出てる。一杯出てる。長谷川、私が孕まされるところ、見てる?」
「これ、思ってたよりマジでやべえ。超、お前責任取れよ。夢に出てきたら、マジで責任とらす」
「孕んだら責任取るのは先生ネ。それにしても、ここまでとは。ピルを飲んでいるとはいえ、孕まないのが不思議なぐらいの量ネ」
「敗北、機械の科学の。まだ、まだ負けてなど……」

 がっくりと両手両膝を地面についてうな垂れる葉加瀬は置いておいて。
 むつきは美砂の腰をしっかり掴んで、ぐりぐりと竿で膣をかき回した。
 射精そのものは終わっているが、恒例のマーキングタイムである。
 美砂の膣の隅々まで、むつきの匂いが落ちないように精液を擦り付けてまわった。
 それから腰の砕けた美砂を、一時的に長谷川に預け、

「アキラ、おいで」
「うん、一杯。私にも出してね、先生」

 可愛いお願いに答えるように、アキラを背中から抱きしめ両膝の下に腕を回した。
 先程、綾瀬にしたように、小さな子におしっこをさせる格好で抱き上げる。
 綾瀬自身それに気付いたのだろう、思い出したように頬をカッと赤く染め上げていた。
 そんな綾瀬と、リクエストを投げた和泉に見せ付けるように挿入していった。
 二人の結合部が良く見えるように、アキラにはスカートの裾を口に咥えさせたまま。

「んっ、んんぅぁ」
「和泉、見えるか。俺のがアキラを貫いてるところが。綾瀬、コレぐらいの事をされてから文句言えよ。おしっこぐらい、軽い軽い」
「夕映、凄いよアキラ。先生のを咥え込んでまだだらだら愛液出とる」
「亜子さん、テンション上がり過ぎです。それにしても、これはいささか。私も将来的には……もっと先の話です」

 もっと見せ付けるように、腕の中で丸くなるアキラを跳ねさせた。
 浅くから深くへ、混ざり合う愛液と精液をびたびたと飛ばしながら。
 アキラの秘所を黒々と滑り光る一物の竿で、押し入っては舐らせまた挿入する。
 これがセックスだとばかりに、興味ある年頃の少女に実演で見せ付けた。
 むつきもまた、二人だけでなく雪広や長谷川達の視線を感じて悦にいっていた。

「アキラ、気持ち良いか? 皆、俺とお前が愛し合ってる所を見てるぞ。特に繋がってる部分を。ほら、俺とアキラは繋がってる」
「先生、恥ずかしぃ。見られちゃってる、繋がってる所。私と先生が一つになってるところ」
「正に足りないモノを埋めあう、生命の神秘ヨ。今のアキラさんは、やや矛盾している表現ながらおぞましい程に綺麗ネ」
「命を作る為の無駄のない無駄な行為。なんと矛盾した美しい行為。敗北を認めざるを得ません。自分が浅はかに感じる程に、今私は打ちのめされています」

 葉加瀬はあくまで拘るつもりらしいが、むつきにそんな思考はもはや残されていない。
 今の相手はアキラだが、いかにして孕ませるか。
 ピルを飲んでいるのでそれはないと分かってはいるが、孕ませることだけだ。
 その為にはもっとアキラを感じさせ、排卵を促がさなければならない。
 促がした排卵で出てきた卵に、たっぷりと精液を掛けて受精させる。
 それが二人で作り出した新しい命だと、溜まり始めた精液が玉袋を大きく見せた。

「アキラ、出すぞ。ちゃんと孕むようにありったけ」
「いいよ、先生。私の中に、私も先生の子供が欲しい。柿崎みたいに、孕ませて」
「行くぞ、アキラ。孕め、俺の子供を。その腹の中に!」
「ぁっ、んぁぅ。出て、お腹の中に先生が、出てるゥっ!」

 子宮口にピッタリと亀頭をあわせて、射精と共に精液を打ち上げた。
 子宮の口から奥、壁のいたる所へ精液を打ち上げてはべっとりと付着させる。
 しつこく、こびりつくように。
 それこそ、ピルの効果が切れた途端にアキラが受精するようにと。
 だがそれでも受け入れる量には限界があり、ぷしゃっと溢れたそれが流れ出した。
 竿と膣の隙間から、最初は勢いよく後からはどろりと濃厚なそれが流れ出す。

「駄目、流れちゃ……赤ちゃん、先生との赤ちゃん」
「泣くな、アキラ。まだ何度でもできるから、いくらでも出してやる」

 もはや、長谷川達に何か言葉を喋る余裕などなかった。
 これまで盗聴という行為により、耳にしてインスピレーションは磨いてきた。
 しかしそれでもまだ、耳年増でしかなかった事を教えられてしまった。
 生のセックスは、いくらインスピレーションを磨いても追いつかない。
 体内へ異物ともいえる相手の精液を受け入れる。
 体から溢れてしまえばそれが悲しくて泣く、アキラの精神状態など理解の範疇外だ。

「美砂、ほら綺麗にしてくれ。次はお前の番な。どうして欲しい?」
「んむっ、はぅ……駅弁スタイルで。私ももっと皆に見て欲しい。先生とのセックス、中だしされる瞬間まで」
「そうか、美砂がそうしたいなら。ほら、アキラも綺麗にするの手伝って」
「もう少し、少し待っ。あんっ、先生のせっかち」

 二人からフェラをされ、精液に塗れた一物を綺麗に舐め取って貰う。
 綺麗という言葉ももはや比喩も同然で、精液に濡れたか唾液に濡れたかの違いしかない。
 そして今しがた二回出したと言うのに、萎えもせずにむつきが美砂を抱えあげた。
 首にしがみ付いてもらい、お尻に手を回してゆっくりと降ろしていく。
 愛液と精液に塗れた美砂の秘所、膣口へと亀頭を合わせ、沈めていった。
 美砂とは二回戦、合計で三回戦目に突入しては、変わらぬ硬度で美砂を突き上げた。

「全然、硬い。先生、最近凄い。前から凄かったけど、今はもっと」
「超から貰った漢方のお陰か。レポート書くから、また分けてくれよな」
「もちろん、こちらから喜んで進呈するネ。これだけ楽しんで貰えれば、東洋医学の研究のしがいがあるというものネ」

 釘付けとなった長谷川達の視線を浴びながら、むつき達のセックスは夕暮れになるまで続いた。
 美砂とアキラがもう駄目とぐったりするまで、執拗に何度も。








-後書き-
ども、えなりんです。

普通、ピンクローターネタって羞恥プレイだと思うのです。
恥ずかしがる女の子を男が苛める的な。
何故にこの主人公、逆に追い詰められているのだろうかw
SMプレイが一周して、Mが無理矢理Sを演じさせられているよう。

あと、夕映の漏るネタは本来図書館島でやる予定だったのですが。
お弁当ネタで無しになったので今回入れました。

最後に、超。
勝手にひかげ荘の地下に研究室作ってます。
あまり活用されない設定なのでネタバレにもなりませんが。
鬼神とか色々います、もちろんむつきには秘密で。

それでは次回は土曜です。
やっと麻帆良祭始まります。



[36639] 第二十九話 セックスフレンド、そういうのもあるんだ
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/04/21 05:15
第二十九話 セックスフレンド、そういうのもあるんだ

 麻帆良祭は全三日ではあるが、厳密には初日よりさらに一日前から始まる。
 前夜祭と呼ばれる麻帆良祭の開始前夜から徹夜で行なわれるお祭りだ。
 県内外からの一般入場者は初日からの為、前夜祭は大半が学生のお祭りであった。
 二年A組は、一部を除いて準備も殆ど終わり、皆が徹夜でそれを乗り切りその翌日。
 正式な開催日となってからが大忙しの始まりであった。
 麻帆良祭の一般入場が始まってから行なわれる麻帆良祭開催パレード。
 そこで二年A組主催、協賛他多数のクラス、部による教師人気投票トトカルチョの参加者の紹介が行なわれるのだ。
 パレードの出発地点では、人ごみはもちろんの事、巨大バルーン、歩行ロボットとごった返していた。
 その中には例年にはない数多の仮装をした教師達の姿もあった。

「どうしよ、どうしよう。結局間に合わなかったー!」

 そしてパレード参加者と言うわけでもないのに、普段の制服姿で頭を抱えている神楽坂の姿も何故かあった。
 髪の毛も女の子らしからず乱れており、頭を振り回す度にふらふらと少し危うい。
 前夜祭どころか、その前から寝ていなかったかのように見える程に目が血走っている。
 間に合わなかったという台詞から、本当に数日の間は寝ていないのかもしれない。

「落ち着け、神楽坂。間に合わなかったって、さっき高畑先生見たけど普通にスーツ姿だったぞ?」
「それがな、色々意見は出たんやけど。一々パルが引っ掻き回して、回りまわって普通のスーツが一番やって。答え出たんやけど、この期に及んで明日菜がやっぱり駄目って」
「だって、他の先生皆仮装してるのに。高畑先生に合わせる顔がないわ」
「大丈夫です、無難な答えで逆にほっとしてましたから」

 例の乙姫の仮装姿のむつきが尋ねると、本人に代わり近衛が説明してくれた。
 宮崎のフォーローはどうかと思うが、泣いている神楽坂ほどに周りは焦ってはいない。
 今頃思い出してみれば、確かブレーンたる綾瀬は普通にひかげ荘に来ていた。
 ストッパー役がおらず、早乙女が好き放題に高畑を玩具にしようとしたせいだろう。
 その当人は無責任にもこの場にはおらず、何処をほっつき歩いている事やら。

「近衛、悪いがパレードで高畑先生の出番が来るまで神楽坂を救護室にでも連れて行って休ませてやれ。コイツ、パレード中にでも飛び出して高畑先生に駆け寄りかねないぞ」
「せやな、ここ数日全然寝とらへんし。ほら、明日菜。ちょっと向こうに行こか」
「だって、だって私のせいで……」
「明日菜さんのせいではないです。どちらかと言うと主にハルナが」

 ぐじぐじと折角の麻帆良祭にて、神楽坂は親友と宮崎に慰められながら歩いていった。
 流石に可哀想なので、それとなく高畑に伝えて優しい言葉でもかけて貰おうと思う。

「誘惑に負けず、きちんとパルの面倒を見るべきでした。反省です」
「早乙女も悪いが、神楽坂も少し力を入れすぎだ。お祭りなんだから、きちんとやろうとかそう言うのは二の次で楽しまないと」

 ばつが悪そうに、むつきの陰に隠れていた綾瀬がしょんぼりしながら出てきた。
 誘惑とはもちろん、ひかげ荘で皆で遊ぶ件である。
 過ぎた事ではあるし、お前ももう気にするなとメイドに仮装中の綾瀬の頭を軽く叩く。
 最初ビクッと体を震わせ、頬も何処か赤くなったようにも見えた。
 もちろん、前回よりもスカートの丈は長く、当たり前だがローターはない。
 ないのだが、先日の狂乱をほんの少し思い出しでもしたのだろうか。

「高畑先生の紹介文は出してあるんだろ。なら、お前も皆のところに行け」
「ですね。しょんぼりしていては、後々神楽坂さんが気にしかねません。皆の所で先生の勇姿を見守るです。それでは」
「気をつけていけよ」

 ちょっと慌てたように早口でまくしたて、神楽坂を連れて行った近衛たちを追いかける。
 そんな綾瀬の背を押して見送ってから程なくして、花火の音がドーンと響き渡った。
 周囲の賑やかなざわめきの間を裂いて響く程に大きな音である。
 この場のほぼ全員が同時に空を見上げ、さらなるざわめきの元となる声を上げた。
 現在時刻は午前十時、一般入場の開始、そして麻帆良祭開催の祝砲であった。
 その花火に次いで、麻帆良大の航空部の自作プロペラ飛行機がカラフルな飛行機雲を生み出し空を滑っていく。
 麻帆良都市全域に撒き散らすように紙吹雪も蒔かれ、アナウンスが流れた。

「只今より、第七十七回麻帆良祭を開催します」

 そのアナウンスにより、ざわめきは歓声へと代わり、人波が動き始めた。
 どこかでパレードの先頭が動き出し、市内の歩行者天国を歩き出したのだろう。

「あっ、いたいた。乙姫先生」
「二ノ宮先生に、瀬流彦先生」

 声に振り返ってみれば、言葉にしたとおりの二人がこちらへやって来ていた。
 むつきの仮装に負けず劣らず。
 二ノ宮は新体操部の顧問で、過去に経験者である事からレオタード姿にリボンを手にしている。
 さすがに佐々木と比べるまでもなく、出るところは出て引っ込む所は引っ込んでいた。
 この麻帆良祭の浮ついた雰囲気がなければ、視線のやり場に困るところであった。
 そして瀬流彦はと言うと、緑のボロマントに古い西洋のチュニックに青いズボンと一見してロビンフッドのような仮装だ。
 腰に剣のようなものがさされているので、ロビンフッドではないようだが。
 アニメか何かのキャラクターの仮想、またはコスプレであろうか。

「これ学生時代のなんですけど、まだ入って良かったぁ」
「全然良いんじゃないですか。佐々木に新体操部の演目来てくれって券貰いましたけど。二宮先生が演目してくれるならお金払ってでも行きますよ」
「あれあれ、彼女さんは来てないんですか? また、そんなおだてても何も出ませんよ」
「そんな事より、むつみさんは。乙姫先生、むつみさんは何処です!?」

 むつきのお世辞に私もまだまだと二ノ宮は照れながら笑っていたのだが。
 瀬流彦にそんな事呼ばわりされて、謙遜中とはいえ額に青筋が浮かび上がる。
 優しさと癒しに飢えているので仕方がないとはいえ、思い切り足を踏まれてしまった。

「ていっ、成敗」
「ぐえぇ」

 それからリボンを軽く振るうと蛇のように滑らかに動いたそれが瀬流彦の首に巻きついた。

「あっ、まだこれできたんだ」
「新体操経験者は誰でもできるんですか、それ」

 佐々木もたまに落ちたペンなどをリボンで取るのだが、新体操経験者なら常識なのだろうか。
 そのまま必殺仕事人のように、二ノ宮がリボンをキュッと引くと瀬流彦が面白い悲鳴をあげた。
 足の痛みと首の苦しみに耐えかね地面を転がる瀬流彦を他所に、とあるスピーチが聞こえてきた。

「その体形から好きな食べ物は一目瞭然。小等部のお父さん、肉まんピザまんフカひれまんとなんでもござれ。俺の知らない肉まんがあれば持って来い。二重院先生」

 歓声にかき消され聞こえなかったが、既に小等部の先生の紹介が始まっていた。
 この場慣れした、滑らかで明るく盛り上がるスピーチは朝倉か。
 投票マシーンで超や葉加瀬が、スピーチで朝倉がと要所要所で二年A組の面子が出てくる。
 それは結構な事だが、既に小等部の教師の紹介が始まっているなら中等部も直ぐだ。
 これはいかんと、苦しんでいる瀬流彦をたたき起こしてパレードの入場門へと急いだ。

「中等部の先生方は、入場門付近にお集まりください。予め、指定された順番通りに並んでください。間違えますと、スピーチが混乱しますのでご注意を」

 入場門近くで拡声器で叫んでいたのは、二年A組とは無関係の生徒であった。
 パレードを取り仕切る何処かの生徒会役員であろうか。
 職員室にて良く顔を合わせる見知った教師が続々と集り始めていた。
 その殆どは仮装をして普段とは全く異なる朗らかで、やや興奮した笑みを見せている。
 以前、新田には生徒同様浮ついてどうすると起こられたが、当日、しかも開始直後はどうしても仕方がない。
 当の新田でさえ、アフロのカツラに二本の角と、洒落にならない鬼の姿を見せていた。

「おお、乙姫先生達か。これはな、生徒達にどうしてもと断りきれず。私も高畑君のようにスーツ姿で威風堂々としていたかったのだが」
「明日菜君は頑張ったみたいですが、どうにも間に合わなかったようで」
「高畑先生、後で神楽坂にお茶の一杯でも奢ってやってください。あいつ、申し訳ないってボロボロ泣いてましたから。出来ればパレードの直ぐ後にでも」
「それは悪い事をしたかな。分かった、直ぐに連絡を入れておくよ」

 当人はスーツで問題ない、むしろほっとしていたが、神楽坂を思うとやはり喜んではいられなかったらしい。
 本当に直ぐに携帯を操作し出した高畑を見て、ほっとする。
 流石にこの三日間ずっと、申し訳ないと泣いて終わるのだけは避けてあげたかった。
 牛柄ビキニというホルスタイン姿の源の視線が、妙にむつきを突き刺して痛いが。
 というか、誰がアレを勧め、源に納得させたのかが気になる。

「中等部の先生方の紹介が間近です。中等部エントリナンバー一番、新田先生からどうぞ」
「おお、私からだった。皆、お先に」

 こういう場合でさえ年功序列と、新田が中等部での最初の紹介であった。
 鬼の仮装から当然の様に、鬼が島をイメージした専用やぐらに登らされていた。
 やぐらには鬼の新田とでかでかと書かれており、無礼講も良いところだ。
 そのやぐらが新田を乗せ、パレードの入場門を潜ってパレード用の歩行者天国へと入っていく。

「麻帆良全域教師人気投票トトカルチョ、次は中等部の部です。まず最初は、この人を知らなければそいつはもぐりの麻帆良学生だ。小等部から大学部まで、広域指導員も兼ねて幅広い認知度と教師愛にて雷を落とす鬼の新田。担当教科は現国だ!」
「こら、そこの学生。お前、男子高等部の三木谷ポイ捨てするんじゃない」

 すると朝倉の紹介直後、やぐら上から新田がとある場所を指差し叫んだ。

「小さな子もいるんだ。街は綺麗に、三日間清掃活動で終わらせたくなければ拾ってゴミ箱に捨てなさい」
「早速鬼の新田の本領発揮。えー、男子高等部の三木谷さんは速やかにゴミを拾って片付けてください」
「めざと過ぎんぞ、新田!」

 慌てて空き缶を拾った男子学生が、この野郎と新田に向けて叫んでいた。
 もちろん、先生を付けなさいと雷が反射して帰って来たが。
 仮装姿以外は殆ど素の新田なのだが、つかみはかなり良かったようだ。
 特に保護者の受けが良く、歓声に混じって拍手が巻き起こるなど新田らしい。
 そのように年齢の高い順から人気投票の出走者が紹介されていき、段々と若返っていく。
 その筆頭が、高畑でもあった。

「さあ、ここからがある意味で中等部の本領発揮。次代を担う生徒を育てる教師の次代は我々だ。新田教諭と同じく広域指導員として認知度、それから恐怖の対象として引けはとらない。デスメガネこと高畑先生。極々一部の生徒から凄まじいまでの歓声だ」
「先生、高畑先生ー!」
「明日菜落ち着いて。あんま暴れると、トンカチいくえ?」
「はい、すみません。高畑先生、ファイト!」

 極々一部とは語るまでもなく、神楽坂である。
 あれほどボロボロ泣いていたくせに、もう笑って目を回し今にもパレードに突入しそうだ。
 近衛がトンカチ片手にはがい締めにしていなければ、どうなっていた事か。
 その足元で既にたんこぶを作って倒れている早乙女は、もはやどうでも良いだろう。
 親友の宮崎にさえ、踏み台のように扱われ誰も救おうとする者はいない。
 ただ極々一部と言っても凄まじい歓声がであり、普通の歓声も当然あった。
 それこそ朝倉の言う通り、中等部や大学部、女子生徒からやや不良っぽい男子生徒まで。
 前者はこの前はありがとうと何やら恩を感じたように、後者はデスメガネと格闘技者のリングネームを叫ぶように。
 やはり広域指導員をしていると、顔は自然と売れていくらしい。

「私もプロポーションには多少自信がありますが、この人にだけは恐らく一生敵わない」

 そんな高畑の次は、源であった。

「もはやこれはセクハラでは? ホルスタインの仮装で現れたのは源先生。ちなみに、推薦者には他校の男子生徒も含まれています」
「ありがたや、ありがたや。後光が、あのでかぱいから後光が」
「あやかしてえ、あやかりてえ」
「推薦者は拝むより前に、周りを見てみましょう。冷たい視線が貴方を射抜いています」

 その他校の男子が、女子生徒から袋にされるのに数秒といらなかった。
 一応とは失礼だが、源にも女子生徒からの推薦者や応援団がついていたようだ
 主にその子達の声援に応えるように、源が手を振っている。
 むしろ袋にされている男子生徒をなかった事にするように。

「お次はプロポーションなら勝てないまでも引けはとらない。かつての妖精は、今や大妖精となり、かつての自分と同じ妖精を見守る日々。新体操部顧問、二ノ宮先生だ」
「ちょっと、この紹介文書いたの誰。大妖精って、気持ちはまだまだ妖精よ!」
「せめて長老と書かなかった生徒の思いやりも察してください。リボンがもはや、別の鞭的なアレに見えてしまいます」
「二ノ宮先生、まだまだイケてる!」

 晴れ舞台でそれはないでしょと、朝倉と新体操部員らしき女生徒の声援にうな垂れる。
 ちょっとやけくそ気味に、二ノ宮はリボンを振り回して踊り始めた。

「そしてお次は、ダークホース。最近ようやく人気も出始めて調子に乗り始めているぞ。一寸先は闇という言葉の意味を誰か彼に教えてあげて。社会科の乙姫先生だ!」
「二ノ宮先生はまだしも、なんで俺だけ紹介文が後ろ向きなんだよ。なんとかいえ、朝倉!」

 ついにむつきの出番が来たわけなのだが、あの紹介文はどういうことか。
 竜宮城をイメージしたやぐらの上から、朝倉を見つけ出し叫ぶもそっぽを向かれた。
 しかも聞こえませんとばかりに、小指で耳をほじっている。
 飢えた猛犬のようにやぐらの縁に掴みかかって、吠えそうな程に唸り声をあげた。
 だがそんな怒りも、長くは続かない。
 コレだけの人目を集めるのは初めての事だし、応援団の数なら既に上位である。

「先生、可愛い。来年、顧問になってぇ!」
「顧問になってくれたら、アキラを部長にしてプレゼントしてあげる!」

 プレゼント云々は意味不明だが、これは水泳部の面々である。
 流石に仮装もしているので一人一人の名は分からないが、部長だけは直ぐに分かった。
 ちなみにプレゼントとほざいたのが、部長であったのだ。
 来年お前はいないだろうと思いつつ、可愛い生徒の為に手を振ってやる。

「先生こっちも、こっちむいて。大好きだよ」
「私も、好きだよ先生!」

 どうせ歓声にかき消されるからと、麻帆良祭の雰囲気を利用して美砂とアキラが叫んでいた。
 だが流石に、むつきから俺もだと返答はできない、むしろ届いていない。
 ただ大勢のパレードを見に来た人並みから目ざとく二人を見つけ、手を振ってあげた。
 ふとその時、嫁と彼女の隣にいた長谷川と目があった。
 にやにやとした笑みに背筋がぞくりと恐怖に震え、大変嫌な予感がした。
 彼女がその手に持っているのは、リモコンのような何かにも見える。
 ああ、だから先日のあのローターかと頭のどこかで納得した途端それが押された。

「ぎゃーっ、やっぱりか!」
「おーっと、これは全くもって嬉しくないハプニング。生徒の手作り衣装が空中分解。乙姫先生の一張羅、ハートの柄パンがお披露目だぁ!」

 むつきの予感は嬉しくもないが見事に当たり、乙姫の衣装の糸全てがスッと抜けたのだ。
 たった一つのボタンで見事に繋がりを断たれ、布地が肌の上を滑り落ちていった。
 今の私には無理だと言いながら、挑戦しやがったのだあの長谷川は。
 折角応援してくれていた水泳部の方からも、妙に嬉しそうな悲鳴があがっていた。

「やっべ、ここまで上手く行くとは。腹痛ぇ、公衆の面前でパンツ一朝だぜ!」
「高畑先生やしずな先生、二ノ宮先生と強豪ぞろいの次ですのでこの程度のインパクトは必須ですわ。あの慌てよう、誰も意図されたハプニングだとは気付きませんわ」
「先生ちょっと可哀想やけど。私達に一杯エッチな事したし、お相子やて」
「皆さんはまだ良いです。私など放尿プレイとハンカチ越しとはいえ乙女の秘密の園に触れられてしまったのですから」

 散々好き勝手ほざくのは、何時もの四人である。
 一部、むつきが反論できないような内容も含まれていたが。

「あのローターのスイッチがこう応用されるとは、乙姫先生も予想だにしなかったネ。一寸先は闇、私の考えた紹介文もなかなか」
「皆さんも一寸先は闇という言葉を知る機会なのかもしれません」

 超も含め、大爆笑する中で葉加瀬が一人冷静な呟きを残していた。
 笑っている皆へは全くといって良い程届かなかったが。
 その代わり、彼女の頭を長い指の手ががっしりと鷲掴んで来た事で教えられた。
 生憎、そんな力のある手は二本だけだが、愛の力と黒い覇気でもう二本が加わった。

「ちょっとやり過ぎ、少し向こうの路地裏で話そうか」
「ひかげ荘ならいいけど、他の人がいる前では駄目」
「私は投票マシーンの最終調整があるから失礼するネ!」
「あの赤丸ほっぺ、逃げやがった!」

 長谷川達が美砂とアキラの手で路地裏に連れ込まれていく中で、要領良く超だけが逃げ出した。
 最強の頭脳を乗せた肉体を行使し、お猿のように路地の壁を伝い屋根まで上る。
 ただし、いくら麻帆良最強の頭脳であっても逃げられ続けるわけではない。
 何しろ投票マシーンはひかげ荘の地下にあるのだ。
 待ち伏せは必死、四名という葉加瀬を抜いた尊い犠牲を出して超の短い挑戦が始まった。
 もちろん、直ぐに終わる。









 パレードでは一悶着あったものの、内容は概ね良好であった。
 教師人気投票トトカルチョの概要も一般参加者に公表され、出走者のお披露目も済んだ。
 むつきは総合の部では欄外だったが、今の所中等部では倍率が三番人気。
 全く持って悔しいがあの意図されたハプニングのお陰だったりする。
 なにしろ、パレード前は十番人気に引っかかるのが精一杯だったからだ。
 麻帆良祭はまだ始まったばかりで、最終日までこの順位は色々と変動する事だろう。
 ほぼ午前中一杯かかったパレードも終わり、現在は初日のお昼時であった。

「はい、先生あーんして」
「佐々木、知ってるか。たこ焼きって中が無茶苦茶熱いんだぞ?」
「えいっ」

 事前の注意もなんのその、佐々木が嬉しそうに爪楊枝を刺したたこ焼きを放り込んできた。
 中身のみならず、焼きたてのそれは熱々、ほかほか。
 思わず席を転がり落ちそうになりながら、むつきは必死に冷まそうと口を開けて息をした。
 そんなむつきを気遣うでもなく、一緒にいた明石がアキラに報告する。

「アキラ、先生美味しいって凄く喜んでるよ。アキラが、作ったたこ焼きが美味しいって」
「先生、大丈夫なん? ほら、冷たいお水」

 現在アキラは水泳部のたこ焼き屋台の裏手でたこ焼きを焼いている為、和泉が水をくれた。
 多少気持ち悪いがそれを流し込んで、無理矢理にでもたこ焼きを冷まさせる。
 そうでもしなければ、口の中全体をやけどしてしばらく飯が楽しめそうになかった。
 最後に水ごとたこ焼きを飲み込み、食道が熱せられるのを我慢してようやく終了だ。

「やべ、涙出てきた。佐々木、無邪気なのは良いが気遣いを忘れんなよ。そんなんじゃ、何時まで経っても彼氏の一人もできやしないぞ」
「あれ、美味しくなかった?」
「まき絵、ほらあーん」
「あーん?」

 和泉が差し出したたこ焼きをぱくりと食べて、ようやく察したらしい。
 むつきのように椅子から転がり落ちかけ、瞳に涙を滲ませ右往左往。
 流石に可哀想なので、むつきが飲んでいた冷たい水の入ったコップを渡すと砂漠で迷っていた旅人の如くのみ干し始めた。
 年頃の子なら間接キスだなんだと躊躇しそうなものだが。
 佐々木がまだ思春期未満だからか、それともたこ焼きの熱さの前にそんな事を言っていられなかったからか。

「ご、ごめんなさい……」
「ん、分かればよろしい」

 熱かったなとぽんぽん桃色の髪を撫で、三人で唯一無傷の明石を見た。

「あ……あれ、なにその目。アキラ、先生達が。にゃ、にゃーっ!」

 和泉と佐々木に詰め寄られ、逃げ場を失った明石の末路は想像通りだ。
 和泉からは反省の色がないと、佐々木からは一人だけ無事は許すまじと。
 それも二人からそれぞれ一つずつたこ焼きを口に放り込まれていた。
 あまりの熱さに屋台前の地面の上をごろごろと。
 仮装がセーラー服なだけに、薄い青のパンツ丸見えであった。
 三人のじゃれあいを外見上は微笑ましく、内心は眼福眼福とちょっと拝む。
 すると横からそっとテーブルの上に、新たなたこ焼き入りの紙皿が置かれた。

「先生これ、少し冷ましておいたから。それと裕奈をエッチな目で見ちゃ駄目」
「ん、悪い。今夜、一杯アキラをエッチな目で見るから勘弁」

 さすがに可愛い彼女には全部お見通しらしい。
 こそっと小声で返し、うんと嬉しそうにはにかんで笑ってもらえた。
 キスしたりイチャつきたいが、外ではできず、せめてとむつきのスーツの裾をそっと掴むなど可愛いではないか。
 今夜は凄く可愛がってやろうと決意するしかない。
 それにしてもアキラは、たこ焼きを渡しに来たのは良いが屋台に戻る気配がなかった。
 何やらきょろきょろと、屋台のある背後へと振り返っては迷いやがてむつきの隣に座る。
 むつきも振り返って見ると、きゃあきゃあ黄色い声を上げていた水泳部員達の中で部長がぐっと親指を立てていた。
 どうやら水泳部そろって、アキラの好意を応援する腹積もりらしい。
 恋人的な意味でくっつく以前に、既に二人は物理的結合まで果たしているのだが。
 それはさておき、熱々たこ焼きの刑を喰らった明石も含め全員が改めて席についた。

「先生はパレードも終わったし、麻帆良祭の間はどうするん? 私らは部活の出し物もあるし、後は四人で色々と屋台巡りしたり」
「私、図書館島の探検ツアーがいいな。なんだか面白そう」
「私はお父さんの学部の研究発表がいいな。お父さんがいたら、もっと良いかにゃ」
「誘われた屋台や部の発表は全部見に行くが」

 佐々木に渡された招待券を見せながら、むつきはそう言った。
 新体操の演目はお昼からなので、たこ焼きを食べたら佐々木に案内して貰うつもりだ。
 他に美砂からチア部の演目と、村上からは演劇部の演劇鑑賞。
 四葉からは料理部の試食会に葉加瀬や超からは超包子の食事券と色々貰っている。
 一日ではとても回りきれないので、教師としての仕事がない時間を最大限に使って生徒の発表を見て回る予定だ。

「遊んでばかりもいられないんだ、これが。麻帆良都市全域がお祭り状態だが、一応は麻帆良学園都市が主催の祭りだから。教師は見回りとか、遊園地のスタッフみたいに迷子の対処やらやる事が一応あるんだ」
「なんだか大変そう。手伝う? あーん」
「んっ、お返し。あーん。教師の仕事に生徒を連れまわしたら、俺が新田先生に怒られる。目一杯楽しんでなさい。どうした、お前ら」
「先生、ナチュラルにアキラにあーんしてた」

 和泉に言われて初めて、むつき自身その事に気付いた。
 アキラも特に気付かなかったようで口の中のたこ焼きを抑えるように手を当てている。
 当然の事ながら、目の前で見せられた佐々木と明石は興味津々だ。
 それどころか、水泳部の面々までもがきゃあきゃあと黄色い声で騒いでいた。
 何しろアキラが溺れ、むつきに人工呼吸で救われた事件はまだ記憶に新しい。

「わ、悪い……彼女に何時もしてるからつい」
「謝らなくても、その嬉しかったから」

 取り繕おうとしたが、むしろアキラが失敗した。
 顔を赤くして俯きながら嬉しいとか、乙女の妄想を色々とかき立てるだけだ。

「アキラ、押しだよ、押し。ほら、頬にソースがとか言ってペロって」
「今の彼女から奪っちゃえ、奪っちゃえ。アキラの方が絶対可愛いから」
「こらこら」

 案の定、佐々木と明石がアキラの後ろに回って悪魔の如く囁きかけ始めた。
 乾いた笑いの和泉の注意も何処まで届いている事やら。
 そんななか、興味を抑え切れなかったのか水泳部を代表して部長が近付いてきた。
 背中を押してくる佐々木と明石に困り果てたアキラを横目に後ろから囁いてくる。

「先生、やっぱり水泳部の顧問になりません? アキラになら、手取り足取り。エッチな事をしても多少は目を瞑るから」
「お前らは本当、俺をどうしたい。中学生の水着になんか、興味ありません」
「嘘ばっかり。初日、エッチな目で見てたの勘が良い子は気付いてるよ」
「マジでか!?」

 思いもよらない言葉に慌てて振り返ってみれば、嘘と悪い顔で呟かれてしまった。
 かまをかけられたのだ。
 やっちまったと、手玉に取られ額に手を乗せて落ち込む。
 まだバレという意味では軽い方だが、するべきではない失敗ではある。
 いっそ瀬流彦共々落ちてやろうかとも思ったが、両肩に手を置かれさらに耳元に近い場所で囁かれた。

「全然気にしてないよ。けど、顧問の事は本当に考えておいてください。アキラ、絶対先生が顧問になったらもっと伸びる。もう、エッチしちゃったでしょ?」
「な、なんのことデスカ?」
「大丈夫、気付いてるの私ぐらい。あの大会後、しばらくアキラが泳ぎにくそうにフォーム崩してたから、これはって。分かるよ、だって私も非処女だもん。ほら、先生触ってみて」

 何時の間にか部長が背中に密着するぐらい近付いてきていた。
 それから後ろ手に制服のスカートの中に手を誘われてしまう。
 こんな人目が多いところでとかなり焦ったが、下手に動けばアキラ達に気付かれる。
 変な汗が吹き出そうな中で、指先が割れ目のあるなだらかな丘に辿り着いた。
 ほら早くと部長に急かされ、早く済まそうとパンツの布をどけて割れ目の奥の穴を探ると確かにない。
 女子中学生として、あるべき場所にあるべき膜が。

「元彼、下手糞だったから本当に痛くて最悪の思い出。けど、アキラは本当に幸せそうで良い体験だったみたい。羨ましかったんだから」
「とりあえず、わかったから手放してくれ。指が勝手に動いちまう」

 雄の本能で、冷や汗をかきながらも雌の穴を弄ってしまう。
 中指は膣壁の柔らかさを確かめ、また別の指では女の子の花びらをぴんぴん弾いたり。
 そうするうちに愛液も染み出し、より美味しそうになるから困りものだ。
 以前会った時は、プールの塩素の匂いでかき消されていたが、部長から雌の匂いさえ漂ってきているように思えた。

「先生、やっぱり上手。こんな直ぐに濡れたの初めて。来年顧問になってくれたら、絶対毎日会いにいくよ。アキラがいるから彼女にはなってあげられないけど、セックスフレンドならいいよ」
「生憎、間に合ってる。オイタもそこまで」

 指を膣で挟まれ逃がしてもらえなかったので、仕方なく少し本気を出した。
 アキラや美砂よりも、少しだけ肉付きのよい膣を指で擦りあげる。
 肉壁のひだが愛液と共にからみつき、ちゅうちゅうと指を吸い上げてきた。
 これまた締まりの良さそうな肉壷だが、本当に間に合っているのだ。
 手っ取り早く、皮の帽子を脱いでいるクリを転がしては何度か弾いてあげた。

「んっ、ちょっとだけ。良い、もっと」
「皆を纏め上げる優等生かと思いきや、とんだ淫乱娘だな。可愛い後輩の好きな人を誘惑するとか。ほら、こうして欲しかったんだろ」
「そんなぐちゅぐちゅ、音聞こえちゃう。聞こえ、んぁっ。んぅんッ!」

 終いには二本の指でクリを挟んでキュッと絞ると、部長がソレにあわせ体を縮め振るわせた。

「……ふぅ、気持ちよかった。これ私の番号、したくなったら何時でも呼んで」
「別の何かが待ってそうだから、遠慮しとく」

 最後にいけずと背中を肘で突かれ、ようやく部長が離れてくれた。
 アキラは未だに佐々木と明石の悪戯に手を焼いており、一先ず手を拭かなければならない。
 愛液に濡れた手をぶらぶらしていると、見られた。
 浮気現場を目撃してしまった家政婦のように、目を丸くしている和泉にだ。

「先生……今、水泳部の部長に」
「邪推、じゃねえけど。ちゃんと断った。セックスフレンド申し込まれて断るこの勇気、むしろ褒めろよ」
「セックスフレンド、そういうのもあるんだ」
「おい、何を学習した。ろくな事じゃないから、止めてくれ」

 手拭用に用意された箱ティシュから数枚失敬し、手に濡れた愛液を拭き取った。
 ただし、ここにいるとまた誘惑されそうなので、手早く席を立つ。
 アキラにじゃれ付いている佐々木をひっぺがし、午後からの演目の為の案内を頼んだ。

「じゃあ、俺は見回りがてら佐々木の新体操を見に行くから。お前らはどうする?」
「私も、まき絵の演技見に行こかな。アキラは屋台があるけど、裕奈は?」
「アキラ行っといで。それで先生のハートをがっつりキャッチ」

 和泉の言葉に対し、アキラが何かを言う前に屋台の向こうからキャプテンが行ってきた。
 握りこぶしの人差し指と中指の間に親指を挟んだ女握りで。
 一度むつきの前で非処女を宣言しただけだけに、もはや遠慮も何もない。
 ハートどころか、金玉掴んで来いとばかりに応援しまくっていた。
 ついでにセックスフレンドの件もよろしくと、むつきにウィンクまで飛ばしている。

「私もまき絵の演技を見に行って良いみたい」
「ここまで来たら、私だけ行かないってのもないでしょ。まき絵、いっそ私も踊る?」
「裕奈普通にボールでバスケしそう、台無しだから駄目」
「えーっ、面白いじゃんバスケ。こう、フープにダンクとか」

 もはやそれは新体操じゃないと佐々木でなくとも、文句の一つも言いたくなるものだ。
 そんな姦しいメンバー四人を連れて、むつきは見回りをしながら体育館を目指した。









-後書き-
ども、えなりんです。

全開、温泉とお祭りの間に何があったという感想が多かった為。
急遽、温泉とお祭りの間に加筆修正を加えました。
お馬鹿話が増えただけです。

そして今回、ハーレムの第一歩となる言葉がNEW。
セックスフレンドです。
早速和泉が学習してくれました。
さり気に出てきた水泳部部長、彼女が原因。

ちなみに、生徒の催しを全部書いては手間が掛かる為。
その辺りはぱぱっとキンクリの予定。
あと、ちょいパルの悪い所ばかりがクローズアップされてるのが気になってます。

それでは次回は水曜です。



[36639] 第三十話 セックスフレンドぐらいならいいよ
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/05/01 20:20
第三十話 セックスフレンドぐらいならいいよ

 もはやハプニングが起きない事を祈る方が無謀な麻帆良祭。
 その一日目を終えて、現在時刻は午後八時の中夜祭真っ只中。
 二年A組はスターブックス一店舗貸し切って、夜空に打ち上げられる花火を楽しんでいた。
 とは言っても、馬鹿正直に花火を見上げている者など稀である。
 話の焦点はもちろん、今日一日にあった濃厚な出来事であり、教師人気投票トトカルチョであった。
 今期一番の注目株の、それも原案が二年A組の催しなのである。
 テンションが上がるのはまだ良いが、悲鳴を上げるぐらい強く叩くのは勘弁して欲しい。

「乙姫先生、やった。やったわ、私」
「痛っ、超痛い。おい近衛、翻訳」
「あんな、パレードの前に高畑先生から電話あって。お礼にお茶でもって誘われたんやけど。まきちゃん経由で二ノ宮先生から、乙姫先生がフォローを頼んだって」
「高畑先生と麻帆良祭デートできるなんて、先生本当にありがとう!」

 その程度でお礼を言うぐらいなら、普段もう少し勉強もして欲しい所だ。
 このテンションマックスの神楽坂を前にそんな無粋な事は言わないが。
 もちろん、言うのは麻帆良祭が終わった後で、今回の件を盾に言うのが吉である。
 しかしながら、あの神楽坂にお礼を言われ、思う所がないでもない。
 むしろ当初は嫌われていたので実は滅茶苦茶嬉しかったりした。

「先生は例のお弁当の彼女は呼んでないの?」

 だから今にもラヴ臭がと騒ぎ出しそうな早乙女に尋ねられても、余裕で答えられた。

「呼んでねえ。パレードの後は大河内の水泳部のたこ焼き屋、それから佐々木と二ノ宮先生の新体操部、村上の演劇に、ああ……古の中武研のなんか踊るみたいな奴に行ったな。合間合間に見回りして迷子の親捜したり、生徒が落とした財布を一緒に捜したり」
「ご苦労様です。コーヒーどうぞ」
「ありがたいけど、宮崎、その棒のついたお盆、どっから持ってきた?」

 これでこの子も努力してるんだなと、紙コップに入ったコーヒーを貰いお礼を言う。
 その距離は六メートルと、五メートルに戻るまでもう少しだ。
 意外と早かったと思っていると、後ろから突然誰かに抱きつかれた。
 といっても、そんな過激な行動に出る者は限られてくる。

「先生、忘れちゃ駄目でしょ。チア部のチアリーディングで私らを嘗め回すように見てたくせに。私、先生のいやらしい視線で汚されちゃった。赤ちゃんできたら責任とってね?」
「柿崎……ああ、宮崎との距離がまた」

 美砂の過激な台詞のおかげで、また宮崎が店外にまで遠ざかってしまっていた。
 幸い、美砂の悪ふざけの産物なので、近衛は今回は変わらずである。
 着物の袖口にそっと隠されたトンカチの頭が見えるが、多分、恐らくは。

「先生も若いんだし、仕方ないんじゃない。うら若き乙女が見せパンとはいえ、パンツ見せながら生足で踊るんだもん。まき絵、アンタんとこでは変な目で見られなかった?」

 チア部のくせにチアリーディングをなんだと思っているのか。
 美砂に負けず劣らない釘宮の過激な台詞に、佐々木が上を見上げ人指し指を唇に置きながら考え込んだ。

「んー、そんな事はなかったよ。むしろ、踊ってる時は格好良いなって褒められちゃった」
「それ、褒めてるの?」
「まぜっかえすな、椎名。本人が喜んでるんだからそういう事にしときなさい」

 にへらと笑った佐々木に突っ込んだ椎名の口を塞ぎ、黙殺させる。
 佐々木もそれには気付かず、ついに私にも大人の魅力がと一人納得していた。
 絶対、お前そう思われてないよと周りの視線にさらされながら。
 大人の魅力云々は兎も角として、格好良いと思ったのは事実なのだが。
 普段の子供っぽい無邪気さがやはり、むつきの視力を妨げているのだ。

「乙姫先生、明日は私の馬術部の演目にお付き合いくださいね」
「分かってるって。明日は、午前中に鳴滝姉妹の散歩部に雪広の馬術部。午後から近衛達の図書館探検ツアー、レイニーデイのサーカスも」
「先生、これを飲んでおくとスタミナが持ちますよ」
「五月のスタミナ料理と、東洋医学研究会の秘薬の漢方の配合スープネ」

 前半はありがたいのだが、妙に後半部分が怖いのは気のせいか。
 スターブックス内で手料理披露とは、持ち込みのような気がしないでもないが。
 麻帆良祭だから大目に見てくださいと店内の店員さんに黙礼しておく。
 それからスープを口に含んでみると、病人食のようや優しい味付けであった。
 歩き回りながらちょいちょい屋台で摘んでいたので胃も疲れ気味である。
 コレは少しありがたい一品だと感謝しながら、一気に流し込むように飲み干した。

「うし、マジでスタミナついた気がする」

 ポパイも顔負けとはさすがにいかないが、みなぎる力を力瘤で表した。
 四葉の料理と超の怪しい漢方で元気を貰って、立ち上がった時だ。

「やあ、皆盛り上がってるね。乙姫君、残念ながら交代の時間だ」
「高畑先生!」

 丁度そのタイミングで、見回りを終えて高畑が戻ってきた。
 もちろん、それに逸早く気付いてコーヒーを持っていったのは神楽坂だ。
 普段は怒りっぽくて乱暴だが、こういう場合は本当に乙女である。
 くねくね女の子ぶるのか、ちょっと似合わないと言ってはいけない。

「ありがとう、明日菜君。この時間から大学部もお酒が入るから、気をつけてくれ」
「了解です。ピンチの時は遠慮なく連絡しますから。荒事には向かないもので」
「おっ、パトロールあるカ?」
「ふむ、先生にばかり頼るのも忍びないでござる。忍者ではござらんよ? よろしければ拙者らも。刹那や真名もどうでござる」

 むしろむつきでは頼りないと言われたようなもので、長瀬が勝手に声を掛け始める。

「餡蜜三杯で一時間、後は要相談だ」
「私は断る」

 後ろからデコピンしようとして見事に避けられながら、むつきの方から断った。

「この三日間だけは、学生の本分は麻帆良祭を楽しむ事だ。子供は大人しく、遊んでろ。ほら、高畑先生のコップが空。タバコは申し訳ないが、店外で。非常時までゆっくりしてください」
「ほら、皆。一時だけ手と口を止めて」
「それでは、乙姫先生行ってらっしゃいませ」

 雪広の号令で、行ってらっしゃいと見送られむつきは見回りへと出かけた。
 二年A組での主役の座を高畑に渡して。
 ただ以前のように嫌な事もなく、一方的にとはいえ腹を割ったかいがあったというものだ。
 流石に夜に小さな子の迷子はなかったが、未成年の学生の飲酒を発見したり。
 大学部が酔って暴れた場面に遭遇したりしながら、十時頃まで見回りを続けた。









 むつきがスターブックスに戻ってきた頃には、もはや八割方が撃沈していた。
 元気に溢れているとは言え、前夜祭から続く二連続の夜更かしは堪えたのだろう。
 一部の例外としては、責任感の強い雪広や面倒見のよい長瀬。
 他に二年A組の肝っ玉母さんこと四葉に、謎の中国人留学生の超ぐらいのものだ。
 四人はテキパキとテーブルや床に転がるクラスメイト達に毛布を配って歩いていた。
 その様子を前に、今なら大丈夫そうだと煙に気をつけて高畑がタバコを吸っている。

「お疲れ様、乙姫君」
「クラスメイトのお世話は私達でしますので、先生はごゆっくり」
「先生、皆には秘密ですがお酒です。これを飲むと、今夜はよく眠れますよ」
「悪いな、四葉。高畑先生もどうぞ」

 中国のお酒か、漢字が一杯のラベルが張られた瓶とグラス二つを渡された。
 その一つを高畑に渡して、透明ながら濃厚そうな中身を注いだ。
 特に言葉が思いつかなかったので、無言でグラスを掲げてチンッとぶつけ合う。

「連絡はなかったけど、見回りは大丈夫だったのかい?」
「一度酒に酔った麻帆良大と麻帆良工大の格闘部が、また闘争ざた起こしてましたけど。えっと、名前なんだったか。サングラスと顎鬚のダンディな先生と」
「ああ、神多羅木先生か」
「そうです、その人です。それと桜咲の剣道部の顧問の葛葉先生が、ばったばったとなぎ倒してくれまして。これも仕事だからと連行してくれました」

 神多羅木は兎も角、木刀一本でクールビューディが暴れる様は見物だった。
 学区どころか、中等部と高等部で殆ど接点はないのだが。
 何故か向こうはむつきの事を知っていた様子で、頑張ってくれと何やら応援された。
 パレードの最中のあの件を指しての事なら、少し凹むが。

「なんかこの学校、武術納めてる教師が多いですよね。俺も何か始めた方が良いんでしょうか」
「いや、君は今のままで十分だと思うよ。この子達に慕われているのが良い証拠さ」
「偶に、遊ばれてるだけの気もしますけどね」
「僕は直接見てないけれど、パレードの件は聞いてるよ。嫌よ、嫌よの例えじゃないけれど。好かれているから悪戯もされるさ。可愛いものじゃないか」

 多少心の方にぐさっとは来たが、最終的にはお祭りだからとむつきも許していた。
 人気投票の倍率も鰻上りで、上位入賞が果たせればそう悪い事ばかりでもない。
 実際雪広や長谷川を筆頭に、極一部は生徒というより友人と見ている始末だ。
 生徒間の差別に繋がりかねないので気をつけてはいるのだが。
 むつきも人間なので全ての生徒を平等にと、綺麗ごとを実行するのは骨が折れる。
 それに目の前の高畑だって、特別な生徒ぐらいいた。
 同じテーブルにうつ伏せで寝ながら、高畑のスーツの裾を掴んでいる神楽坂であった。

「幸せそうに。フォローありがとうございます、無茶苦茶喜んでましたよ」
「何もしてないよ、お茶を飲んだぐらいで。けど、改めて対面でお茶なんて久しぶりで。改めて、大きくなったなって思い知らされたよ」
「そんなに小さい頃から?」
「明日菜君が小学一年生の頃からね。その頃はタカミチ、タカミチって。高畑先生って呼ばれるようになったのは何時だったかな?」

 懐かしそうに高畑が神楽坂の頭を撫でると、にへりとだらしない笑みを浮かべていた。
 丁度良いが、目の前のむつきが写メで撮るのはさすがに気まずい。
 そう思っていると、カシャリと背後でシャッター音が響いてくる。
 誰がと思って振り返ると、携帯電話を二人に向けていた雪広であった。
 むつきに気付かれると、気恥ずかしそうに携帯電話を隠して後ずさっていく。

「どうせ後で送るんだから、隠さんでも良いのに」
「ん、どうかしたのかい?」
「いえ、不器用な友情を目の当たりにして、少し微笑ましく」

 含み笑いに気づかれ少々不審に思われたが、なんとか誤魔化す。
 すると喋り声にて少し起こされたのか、神楽坂が目元を擦りあげていた。
 寝ぼけ眼で完全に意識は目覚めてはいないようだ。
 そのまま高畑を見上げ、染み付いたタバコの匂いをかいでふっと笑う。
 普段のテンションの高い甲高い声はなく、幼い子供がかぎ慣れた親の匂いに笑うように。

「タカミチ、トイレ」
「おっ、そうかい。ほら、明日菜ちゃん。立って、こっちだよ」
「うん……タカミチ、タバコ吸って」
「もう君の前じゃ吸えないんだ。我慢してくれ」

 無表情ながら唇を尖らせ、精一杯の抗議を見せていた。
 普段からあれぐらい素直な感情表現だと、可愛いものなのだが。
 行ってらっしゃいと見送り、空のグラスにお酒を注ごうとして瓶を取り上げられる。
 飲みすぎと四葉に怒られると思いきや、相手は眠気を全く感じさせない目元の美砂であった。
 どうやら、今までは狸寝入りであったようだ。

「先生、話長いから何度か本当に寝ちゃいそうだった。アキラも途中まで頑張ってたけど」
「だいたい、分かった。雪広、少し野暮用」
「了解しました。適当に、気付かれた方はあしらっておきます」

 雪広のみならず、長瀬や四葉にも野暮用で押し通して美砂を連れて行く。
 酔った上での行動だが、四葉や長瀬ならば無用に騒ぎ立てはしないだろう。
 先日、秋までにクラス全員にばれると長谷川にも言われたがその通りかもしれない。
 麻帆良祭という事もあるが、バレた相手が増えて少々油断している。
 まあ、それも麻帆良祭が終わるまではと考える時点で駄目かもしれないが、美砂を連れスターブックスを離れていく。
 中夜祭と言っても、近隣に家を構えている者もいる為、十時過ぎに花火は禁止である。
 他にも大きな音が出るような騒ぎは、基本禁止されており静かなものであった。
 人気のない麻帆良祭の夜を手を繋いでデート気分で歩いていく。

「でも、流石に今からひかげ荘に戻れないし。ホテルなんて行けるわけもなく」
「先生、あそことかは?」

 美砂が指差したのは、路地も路地。
 人一人がようやく通れそうな建物と建物の間の裏路地であった。
 両隣の店舗は服飾店とアクセサリショップで既に灯は落ちている。
 街灯の光も路地の中には全く届いておらず、声さえ気をつければ問題ないだろう。
 最悪、壁に足をついて美砂を抱えたまま上に逃げられない事もない。
 酔っている今、かなり危険な行為なので本当に最後の手段なのだが。
 美砂を腕の中に抱きしめたまま、細い路地の中を滑るように歩いていく。

「流石にこの時期になってくると、密着してると暑いし汗かくな」
「お酒のせいでしょ。先生、凄く汗の匂いがする」

 昼間からチアコスのままの美砂も、汗の匂いが芳香となって香ってくる。
 お互いに忘れられない体臭を、体を抱き合いながら胸一杯に吸い込みあう。
 そのうちに、美砂が我慢出来ないとばかりにむつきの胸板に顔を埋めてきた。
 ぐりぐりと匂いを擦り付けるようにして、喉の奥を鳴らす。
 ちょっと久しぶりの猫モードであった。

「いやに甘えてくるな。どうかしたか?」
「亜子から聞いた。先生、水泳部のキャプテンにセックスフレンド申し込まれてたって」
「あのお喋り。安心しろ、ちゃんと断った。美砂とアキラで俺は凄く満足してる」
「本当に?」

 余程セックスフレンドの件が尾を引いているのか、絡むように美砂が見上げてきた。
 どっちが酒を飲んでいるか分からない行動である。

「前はそうでもなかったけど、超りんの漢方飲むようになてから。先生より先に私達の方がばてちゃってる。正直、先生を持て余しちゃってないかって。先生満足しきれてないんじゃないかって」
「何処の世界に、女子中学生の可愛い嫁と彼女がいてまだ足りんと言う奴がいる。この前もマットプレイとか、気遣われてるのが嬉しい。幸せなんだぞ、この野郎」

 だから満足してるんだとばかりに、美砂の唇をやや強引に奪い取った。
 一瞬嫌そうな顔をされたのは、お酒の匂いのせいだろう。
 ちょっと失敗したかなとも思ったが、美砂の方から口内を丹念に舐めてきてくれた。
 伸ばされた舌に吸い付き、溢れる唾液を美砂の口の中へとだらだら流し込む。
 鼻息を荒くしながら、一生懸命その唾液を飲んでくれる喉の奥の音が心地良い。
 人間は水分が八十パーセントと言うが、六十パーセントになっても良いのでもっと飲んで欲しくなった。

「美砂、まだいける?」
「はぁ、ちょっと待っ。ふぅ、んぁぅ」

 答えが待ちきれず、もう一度美砂の唇を塞いで今度は手も動かした。
 チアコスの裾から手を差し込み、肩紐のない見せブラを外させる。
 失くしたり置き忘れるとアレなので、しっかりスーツのポケットにしまいこんだ。
 暗がりで良く見えないが、ノーブラとなった胸を弄ぶ。
 手の平で支えるように持ち上げ、手の平の中心部分で乳首を円を書く様に転がしていく。

「先生、脱がしても良いけど汚さないで。これ洗ってまた明後日も使うから」
「どうせ中だしするんだから、汚れねえよ。それとも、ぶっかけ希望?」
「中出し、妊娠するぐらい濃いの」

 了解と普段通りの中だし希望に、嬉しくなってきた。
 一度美砂を百八十度回転させて、壁に押し付けるようにして胸を揉み上げては乳首を引っ張る。
 さらに待ちきれないと暴れる一物をスーツの上からだが、美砂のお尻に押し付けた。
 ぐいぐいと入りたいと主張するそれで、美砂のお尻を弄んだ。

「先生、キスマークも今日はだめ。隠し切れないから」
「首筋に一個、一個だけ」
「もう、駄目って言ったそばから。一個だんっ」

 許可が出るや否や、むつきは少ししょっぱい美砂の首筋に吸い付いた。
 汗の匂いといいシャワーは演目の度に浴びているのだろうが、季節柄追いつかないのだろう。
 そんな事を考えながら、見る者が見ればはっきりと分かるキスマークを熱く押し付ける。

「先生、ちょっと痛いかも」
「んっ、これでついたから」

 少々痛みを伴なったようで、赤く小さく腫れたそこを丹念に舐めて癒す。

「美砂、汗でちょっとしょっぱい」
「先生ぱっかり、ずるい。私も先生の事を食べたい」
「上の口か下の口、どっちで?」
「おまんこ、先生のおちんちんをおまんこに食べさせて」

 いやらしい台詞を口にするいけない子だと、むつきはスカートの中に手を伸ばした。
 見せパンを狭い路地でイチャイチャしながら脱がせ、これまたスーツのポケットに。

「美砂、ちょっと声大きい。誰かに見つかったらどうする」
「だって、二人きりって久し振りだし興奮しちゃうの。先生が塞いで」

 一瞬、この子は何を言っているのかとも思ったが。
 言われるままに後ろから手のひらで美砂の口を塞ぎ、目の前の壁にやや押し付ける。
 手の平や指の隙間を通るくぐもった美砂の吐息。
 息苦しいのか身じろぎし暴れる美砂を押さえつけていると、なんであろうか。
 凄くいけない事をしているような、ぞくぞくとしたものがあった。

「んふぅ、んぁ」
「やばい、興奮する。美砂を無理矢理レイプしてるみたいで」

 我慢ならんとばかりに、急いでスーツのベルトを外してズボンをズリ下げた。
 当然、美砂の口は代わらず塞いだままだ。
 それから元気な一物の竿をトランクスから取り出し、美砂の中心部目掛けて突き出した。
 前戯こそまた十分ではなかったが、この暑い中で狭い路地で抱きあっていたのだ。
 互いの匂いや直接触れ合う肌など、愛撫には困らずしっとり濡れ始めていた。
 最初の分厚い肉の谷間を分け入っては、その奥に隠された秘密の洞窟の入り口を開く。
 ぬぷっと生温かい美砂の体温に出迎えられ、スムーズに子宮を目指して進軍する。

「んはぅ、んんぅっ!」
「美砂、熱い。美砂の中が蕩けそうだ」

 ずんと一度一番奥まで突き上げては、自由な方の手で美砂の胸の乳首をこねる。
 興奮しきった喘ぎ声を美砂の耳元で聞かせ、腰を引いてもう一度突き上げた。
 溜まらず美砂は腰が砕け始めるが、何しろここは狭い裏路地である。
 崩れ落ちようにもむつきが挿入したままでは、倒れる事すら許されない。
 むしろ体勢を悪くして倒れ掛かれば、より深くむつきの一物を咥え込んでしまう程だ。
 自分で自分を苦しめる行為に、目の前の店舗の壁を手で必死に掴もうとしていた。

「気持ち良い、美砂の中は最高だ。ほら、分かるか。ガチガチに勃起して美砂を犯しつくそうとしてる。孕ませようとしてるぞ」
「ふぅふぁっく。んんんぅっ!」

 パンパンとお尻を突き上げるたびに、ふさがれた口の奥からくぐもった喘ぎが漏れる。
 苦しんでいるのか、喘いでいるのか。
 言葉からは殆ど美砂の感情は分からないが、一つだけ理解する方法があった。
 上の口で喋られないのなら、下の口である。
 しかし、改めて問うまでもなくだらだらと愛液を垂らして、むつきの一物を咥え込んでいるのだ。
 はやく出してと滑る肉壁で竿を絞り上げてくる。
 これで苦痛しか感じていないと言葉を貰っても、そうですかと納得できるはずもない。

「美砂、このまま。このままイクぞ。美砂、受け止めてくれ。美砂!」
「んぁぅ、んぅぁぁぁっ!」

 ガツンと美砂の体が震える程に強く突き上げ、降りてきた子宮口を亀頭で押し叩いた。
 乱暴にそれこそレイプのように無理矢理孕ませるように、子宮口を開けさせる。
 ほんの少しの隙間でさえも見逃さず、むつきは亀頭の鈴口を合わせてはなった。
 美砂が育む卵子へと辿り着くように、ありったけの精液をほとばしらさせた。
 びたびたと精液の塊を子宮の壁に付着させ、どろりと壁を滑り落ちらせる。
 ピルさえ飲んでいなければ、確実に受精していた事だろう。

「まだ出るぞ、今度こそ美砂が孕めるように」
「ぅぁ、ぅっ」
「美砂、美砂!」

 むつきの射精のリズムに合わせ、美砂も受け入れる喜びに体を震わせていた。
 そんな美砂の腰のハンドルをシッカリ掴み、むつきはこれでもかと射精を行なった。
 一体どれだけの量を吐き出したことか、竿を抜く前に膣口との隙間からどろりと溢れてくる。
 狭い路地なので抜いて綺麗にして貰う事もできず、挿入したまま口元から手を離してやった。

「良かったか?」
「先生の事、久しぶりに変態って思った。こんなレイプみたいに」
「嫌だった?」
「凄い興奮しちゃった。先生に犯されてるって」

 可愛いなもうと、後ろから抱きしめ汗で湿った髪に顔を埋めた。
 美砂の全てが愛おしい、丸ごと全てを手にしたいと強く抱きしめる。

「先生も興奮し過ぎ。まだガチガチ、私やアキラ以外をレイプしちゃ駄目だぞ」

 だから今ここで好きなだけ出させてあげると、むつきの一物を咥えたまま尻を振る。
 当然、肉壁がぐにぐにと形を変えては竿を圧迫し、さらなる射精感を促がし始めた。
 負けてたまるかと、むつきも同じ体位のまま二回戦に突入していった。
 ただし、また腰を振って胸を弄ぶだけでは芸がない。
 だからここて逆転の発想である。
 腰を振るだけでは芸がないのであれば、むしろ振らなくて良いのではないだろうか。

「あれ先生?」
「美砂が一生懸命俺を誘ってイカせてくれ。俺はこっち」
「やん、悪戯しちゃだめ」
「ほら、いやらしく腰を振らないとイカないぞ」

 ぱんぱんと美砂のお尻を叩いてから、両手の指をお尻の上で走らせた。
 汗をかいたままとは到底信じられない白い肌の上を滑り味わっていく。
 その指がお尻の谷間、尾てい骨に達した時、美砂がびくりと体を震わせた。
 つつつと動く指先が割れ目を降り始めたからだ。
 その先には何がある、到底口には出来ない別の入り口であった。

「先生、そこは駄目。お願い、他なら何でもしてあげるから。そこだけは」
「だったらほら、俺の気が紛れるようにいやらしく腰振って」
「踊る、いやらしく踊るから。待って、待って」

 やや慌てた様子で美砂が自分で腰を降り始めた。
 むつきが如何したら感じてくれるか、お尻の穴を弄ろうとするのを止めてくれるのか。
 気が気ではない様子で、何度も振り返ってはお尻を振った。
 時計回りに円を描いたり、縦に横に、それから亀頭を膣の肉壁で擦っても見たり。
 あらゆる手段を用いてむつきが快楽に溺れてくれるよう頑張った。

「いいぞ、美砂。凄く気持ち良い」
「嬉しい、もっと頑張るね」

 むつきの手がお尻の割れ目を離れ、丸みを帯びた全体に這わせられた。

「美砂の大きな尻が好きだ。安産型だな」
「産んで欲しくなったら何時でも言って。直ぐにピル飲むのを止めるから」
「今は美砂がいれば幸せだ。美砂のおっぱいも膣も子宮もまだ誰にも渡さない。それが俺の子供でもだ。俺だけの、俺だけの美砂」
「こんなエッチな事をさせてあげるの、先生だけだから。私は先生のものだから」

 限界が近付くにつれ、むつきは美砂のお尻を指が食い込むほどに掴んだ。
 真っ白なお尻に赤い手形がついてしまう程に。
 そして休憩は終わりとばかりに、再び美砂を突き上げ始めた。
 美砂が振ってくれるお尻の動きに合わせて、合致した時には子宮口をガツンと突き上げられるように。

「ぁぅっ、キツイの来た。先生、そこ」
「ここだろ、分かるぞ。美砂の事ならなんでも」
「先生、もっと体中を先生で染めて」
「美砂、イクぞ。俺だけの美砂、卵子に至るまで全部。イクっ!」

 二度目の射精は、もはや美砂の膣内、子宮内にでさえ精液の居場所はなかった。
 射精したそばから、ぷしゃりと精液と混ざった愛液が噴き出した。
 勿体無いと美砂が膣を締めても、竿のカリ首が奥から精液をかきだしてしまう。
 いっそ、まん繰り返しでもしなければこの量は受け止められない。
 それだけの量の精液をむつきは美砂の子宮へと送り込んでいるのだ。

「うぐっ、やばい、これ絶対あの麻帆良最強の馬鹿に妙な薬飲まされてんぞこれ」
「溺れる、先生の精液で溺れちゃうっ!」

 ついにむつきまでも美砂を支えきれず、壁伝いに座り込んでいった。
 それでも執拗に美砂の中から抜かなかったのは意地なのかなんなのか。
 もはや強力な磁石の如く、美砂の膣から硬さを失わない竿が離れていかない。
 ほんの少しだが、このまま繋がりっぱなしだったら如何しようとさえ思えた。

「二連続で、萎えもしねえ。ちんこが萎える前に、心が萎えるわ」
「先生、まだ出てる。壊されちゃう、私」
「俺の方でなんとかセーブするよ。ほら、こっち。恒例のイチャイチャタイム」
「先生、大好き」

 繋がったまま持たれて来た美砂を受け止め、抱え込むようにギュッと抱きしめた。
 妙な力の入れ具合でまた射精してしまったが、まあ構うまい。
 ふるりと体を震わせた美砂を宥め、ちゅっと軽く唇を奪う。
 何処かの学生が騒いでいる声が遠くに聞こえる。
 流石に冷え込んできた空気の中で、暖め合う様に身を寄せ合った。

「でも、本当にこれ萎えないね。硬いまま」
「後で超を問い詰める。これ、マジで勝手に肉体改造されてそうだ」
「元に戻らなかったら?」

 怖い事を聞くなよと思ったが、割と美砂の顔は真面目な表情であった。

「多分、この場にアキラがいても結果は同じ。恋人とか、甘いのはちょっとは気にするけど。セックスフレンドぐらいならいいよ」
「世界一可愛い嫁なら俺を信じろ、この野郎」
「んー、でも私達で発散しきらなくて、先生が他の子をレイプしても困るし」
「何処の野獣だ、俺は。信じる、信じない以前の問題だろそれ」

 お前から先にレイプしてやろうかとばかりに、精液で溺れそうな子宮を小突く。

「んぅっ、だめ。イチャイチャするの」
「はいはい」

 今一度美砂をギュッと強く抱きしめ、その頭をなでる。

「レイプ云々は置いておいて。あまり甘やかすと、付け上がるぞ。先週だって、長谷川達をローターで弄んで。綾瀬なんか放尿プレイとハンカチ越しに大事な部分に触ったんだぞ」
「普通、そこまでしたら手を出してる。先生、性的な事になるとびっくりするぐらい自制が利くから。委員長がピル用意してくれるまで意地でも生を拒否して、中だしなんて絶対駄目。そんな先生だからセックスフレンドの一人や二人、いいよ」
「いいよと言われても、凄く微妙な心境なんだが……」

 元より美砂とアキラの二股状態で、これにさらにセックスフレンドなど。
 長谷川のジャッジを受ける前に、雪広に断罪されそうではある。
 今さら水泳部のキャプテンにお願いしますとも言えないし。
 しばらく、この答えは保留する事で精一杯なむつきであった。









-後書き-
ども、えなりんです。

今回賛否分かれそうなお話ですが。
甘くなけりゃという条件付きですが、許可が出ました。
まあ、現状むつきにそんなつもりありませんが。
それも何処まで持つのやら。

それから、明日菜との関係が一気に改善しました。
本来なら一年後のはずの、高畑との麻帆良祭デートにて。
明日菜一人懐柔するのに三十話かけてます。
まだまだエヴァとか、懐柔すべき相手は沢山います。
先は長いですよ。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第三十一話 俺を嫌いなの、好きなのどっち?
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/05/01 20:24
第三十一話 俺を嫌いなの、好きなのどっち?

 麻帆良祭の二日目、梅雨時でありながら先日に引き続き好天に恵まれていた。
 基本的に麻帆良祭の本格始動は十時以降となっている。
 前夜祭、中夜祭で学生が夜更かしするのが当たり前となり、それを考慮してであった。
 午前中の十時から鳴滝姉妹と長瀬の散歩部の麻帆良都市ツアー。
 双子によって屋台の食べ物をかなり奢らされたが、特別な日である。
 申し訳無さそうな長瀬にも、たこ焼き等を食べさせた。
 それからむつき一人に対し、専属のガイド三人という贅沢振りで市内を歩き回った。
 お昼は途中で見つけた長谷川を連れて超包子でとり、オーナー直々に料理を披露された。
 だが、流石に長谷川には少し様子がおかしかったのを気付かれたようだ。
 どうせまた何時もの事だろうと、特別何かを聞かれる事はなかったが。
 しかしそれも、長谷川と超を連れて、午後から雪広の乗馬部の障害物走を見るまでであった。

「いかがでしたか、先生。私の乗馬も、なかなかのものでしょう?」
「乗馬ができる奴なんて初めて見たよ。やっぱ、真剣に何かをやってる奴は格好良いな」

 演目も終了し人がばらけ始める中で、雪広が馬を巧みに操って客席に近付いてきた。
 砂のダートコースと観客席を分ける鉄柵の前で、くるりと馬を回転させ横付けてくる。
 あまりのその見事さに、帰ろうとしていた一部の客はその足を止めてまで雪広に見惚れていた。
 他に同じ乗馬部の部員だろうか、あやか先輩と大きな声で声援を送っている者もいる程だ。
 その雪広が馬上からむつきを伺い見るようにして、怪訝そうに尋ねてきた。

「先生、どうかされましたか?」
「あ、悪い。ちょっと見惚れてただ」
「嘘つけ、この野郎」
「委員長には悪いケド、時折上の空になることがあったネ」

 上手く笑って誤魔化したつもりであったが、長谷川と超に突っ込まれた。
 超については、お前にまで分かるかと思わず思った程だが。
 むつきがこの少女達に隠し事をしようと思うのがまず間違いだったか。
 周囲に他の客がいなくなった事を確認してから、少し相談してみた。

「雪広は知ってるが。昨日の中夜祭で、ちょっと美砂と深夜デートしてきた」
「ああ、夜の街でしけこんでたのな」
「デートして来たんだよ」

 無用な突っ込みはやめいと、長谷川を牽制して続ける。

「まあ、目的はセックスなんだが。水泳部のキャプテンにセックスフレンド申し込まれたのが和泉辺りから漏れたみたいで。断ったとは伝えもしたが」
「そりゃ、大河内辺りにも漏れてるな。水泳部のキャプテンってあれだろ、短髪の。さばさばしてそうな、自分からさばさば系だって言うのじゃなくて、マジの」
「麻帆良女子中の三年F組、百六十四センチで上から七十九、五十二、七十二のスレンダータイプ。これはちょっと予想外ネ」
「男らしくお断りされたのなら、何か問題でも? ところで、セックスフレンドとはなんですの?」

 馬上で可愛らしく小首を傾げた雪広に、知らないのかよとずっこけた。
 俗語も俗語、普通に生活していても使う事はない言葉である。
 それでも予想ぐらいできそうなものだが、むつき達がこけた様子を見て慌てる雪広は本気だ。
 確かに愛し合う行為を友情の段階、むしろ快楽先行で求め合う事は理解の範疇外なのだろう。
 そんな雪広の初心な面に安心するやら、純朴すぎて不安になるやら。

「恋とか愛とか、面倒な感情は抜きで。セックスで気持ち良くなろうってのがセックスフレンド、何真面目に説明してんの俺」
「そのようなふしだらな。おセックスを気軽に」
「おセックスってなんだよ、初めて聞いたよそんな言葉使い」

 長谷川に突っ込まれつつ、ムキーと雪広が両手を上げていた。
 ムキになった瞬間は少し神楽坂と似ていたが、生憎今は馬上であった。
 馬が驚き暴れ、投げ出された雪広が鉄柵を乗り越えるように観客席へと転がり落ちてくる。
 かなり冷やりとする一幕であったが、なんとかむつきが抱きとめた。
 上下逆さまに受け止めた為に、雪広のブーツのかかとが思いきり額に当たったが。
 とりあえず、放心状態の雪広を隣に座らせてから額を押さえて悶絶する。

「ぐおぉ、罰が。早速罰がぁ、あかんのか。俺のようなふつメンが持てたら!」
「ああ、先生申し訳ありません。とんだ粗相を」

 介抱してくれたのは当の雪広だけで、長谷川と超は大爆笑中であった。

「マジで額が割れるかと……雪広、怪我はないか。それと馬は?」
「あ、三年生の部長が。申し訳ありません!」

 馬も手綱を握られ落ち着けられたようで、その部長とやらが連れて行ってくれたようだ。
 珍しく雪広がペコペコと謝る姿が見られた。

「ひぃ、お腹痛いヨ。委員長も、とりあえず座るネ」
「思い切り脱線しかけたが」

 先程まで埋まっていた観客席をバシバシ叩いていた二人が、涙目でそう促がした。
 改めてむつきに謝罪した雪広が、恥ずかしそうにむつきの隣に座った。
 そそっかしい姿がちょっと可愛かったので、ある意味眼福である。
 そんな邪な心を見透かされたように、超がニンマリと笑ってから説明を始めた。

「委員長、忘れてるようだけど。私達もある意味で先生のセックスフレンドと言えなくもないネ。先週の件、忘れたとは言わさないヨ」
「言われて見ると。この麻帆良最強の馬鹿にのせられたとは言え。やっちまった。ピンクローターを突っ込んでリモコン先生に渡して遊んだ。これ、セックスフレンド以外の何者でもない」
「ぁっ……」

 何故今頃気づいたと長谷川が顔に手を当て俯き、雪広もそそくさとむつきから距離を取った。
 唯一態度を変えていないのは、事の張本人の超だけだ。
 むつきに最近良く見せるニンマリとしたあの笑みである。
 ちょっとムカついたので、そのホッペを握りつぶすように手の平で顔面を掴み上げた。
 目の前にその潰れた顔を持ち上げ、この野郎と睨みつける。

「超、お前……いや、確かに生徒をセックスフレンドにして楽しんだ俺も悪い。けど、お前何考えてる? あの無駄に元気になる漢方と言い」
「ああ、先生落ち着け。ようやく、私も頭が働きだした」

 観客は既にゼロとは言え、まだ他の乗馬部の子達が練習していたりする。
 話し声こそ聞こえやしないが、流石に超の顔を掴みあげている様子は丸見えだ。
 暴力はまずいと、長谷川に止められしぶしぶむつきは超の顔を放した。
 尤も中国武術研究部の部長である古とタメを張れる超をどうにかできるとも思えないが。

「ひかげ荘のメンバーで、超だけが違う。葉加瀬は科学馬鹿だから、ひかげ荘に来る前から素で生きてる。けど超は違う。少なくとも、私はそう思う。誰か超の素、内面を理解してる奴はいるか?」

 最後の問いかけに対し、むつきも雪広も頷く事は出来なかった。
 麻帆良最強の頭脳やら、呼び名が幾つもある超だが、普段は普通の女子中学生。
 クラスの中で古と並び馬鹿をすることもあれば、騒動の種を率先して蒔く事もある。
 A組の生徒としてらしいと言えば、らしいのだが。
 そんな超の素となると、科学者、拳法家、漢方薬剤師など姿が多すぎてわからない。

「さすが長谷川さん。将来的、とある人のブレーンになるだけの事はあるネ」

 歪んだ赤丸ほっぺをふにふにと直しながら、謎の言葉を超が呟いていた。

「確かに、私だけ不純な理由で乙姫先生に近付いたネ。むしろ、先生にはもっと二年A組のクラスメイトと特別に親密になって欲しいと願っているから」
「超が麻帆良学園都市にやってきたのは一年前、先生が二年A組の副担任になったのは今年から。まさかな、まさかね」
「まさか、あるわけないネ。私が学園のコンピューターをいじって、乙姫先生をA組みの副担任に押し込んだなどと。本当に、まさかネ」
「そんな事はどうでも良い」

 怪しげに笑う超の頭に手を置いて、ぐりぐりと髪を乱すように撫で付ける。
 本当にそんな事はどうでも良さそうにだ。

「おい、今コイツ結構重要な事を」
「この麻帆良最強の馬鹿が仮にそうしたとして、誰か不幸になったか?」
「多少、不純異性交遊に柿崎さんや大河内さんが巻き込まれていますが特には」
「むしろ美砂やアキラとこうなった事に後悔はないし、幸福だと思ってる。俺自身、二年A組の副担任になっていろいろと救われた。高畑先生とも、仲良くなれ始めたし」

 何だかんだと言っても、先週の件だって長谷川も雪広も楽しんでいた。
 気持ち良かったし、今さらむつきがおぞましくなるわけでもない。
 中二の夏少し前のちょっとエッチな思い出ぐらいだ。
 ちょっと普通なさそうな思い出でも。

「改めて確認するのは、そうだな。超、お前は二年A組のクラスメイトをどう思ってる?」
「大切ヨ、幸せになって欲しいと願ってるネ。余計な運命に巻き込まれず、普通に人を好きになって愛し、子を産み、育てて欲しいネ」
「なんか急に壮大な話になったな。学園のコンピューター云々より、よっぽど」
「美砂とアキラは俺が幸せにする。で、麻帆良最強の馬鹿の話はここまでで。そもそも何の話をしてたっけ?」

 超のせいで主軸を外れ、思い出すのに少し苦労したが戻る事ができた。
 話の本筋は、美砂が許可を出してきたセックスフレンドについてだ。
 本当に、生徒に相談するような内容では決してない。
 それでも相談された長谷川や雪広も、今さら放り投げる事はできなかった。
 一応、自称裁定者と断罪者なのだから。

「柿崎さんや大河内さんを除く、ひかげ荘のメンバーは乙姫先生のセックスフレンドだと」
「実際、やるまでは言ってないが。私の見所では、先生が拝み倒せば和泉や綾瀬あたりがやれそうだ。和泉の奴、良い男がって愚痴るわりに必死に探してないし、あれで先生に心許してる」
「綾瀬サンは、放尿プレイとハンカチ越しとは言え手マンされても怒り狂わなかったネ。必死に頼めば、男の人は本当に仕方がないとか言う可能性ありネ」
「止めてくんない。今日この後で、図書館探検ツアーで顔合わせるんだけど」

 歳の割りに女っぽい美砂やアキラならまだしも、流石に綾瀬に反応したら終わりだ。
 こじんまりとしたあの体形に欲情したら、もはや認めるしかあるまい。
 この乙姫むつきは、ロリコンであると。
 美砂やアキラにそんな感情で接してはいないと信じたいが、自分の下半身ほど信じられないものもなかった。
 一応、あの神社での一件では反応していなかったので大丈夫だとは思うが。

「二人共、自分以外はあげつらてるけど、実際先生に拝み倒されたらどうするネ?」
「下げた頭で床をぶち抜くほどに踏み抜いてやるよ」
「私もさすがに通報して罪を償っていただこうと思います」
「お前ら、俺を嫌いなの、好きなのどっち?」

 とても冷たい視線と言葉の槍にむつきは泣きそうになって顔を両手で覆った。
 だから必死に感情を押し殺したような二人の本当の表情には気付かない。
 互いに気付いたのは長谷川と雪広。
 それから槍となって跳ね返る元となった槍を投げつけた超である。

「だったら、試してみるネ。丁度、先生はこれから図書館探検部のツアーヨ」
「綾瀬なら大丈夫だ。アレで結構論理的で冷静な性格だからな。賭けてもいいぜ。私らが勝ったら超包子の利益全部寄越せ」
「さすがに掛け率が高すぎますが。ひかげ荘メンバーの中でも日が浅いですし。私も綾瀬さんを信じていますわ。と言うわけで、綾瀬さんにベットですわ」
「言質はとったネ。行くヨ、先生。真実の愛を試しに。もちろん、私は先生の鬼畜さにベット」
「お前らなぁ……」

 意地になった長谷川と雪広を、むつきが止められるはずもなく。
 ずるずると首根っこを捕まれて、図書館島の方角へと連れて行かれた。









 図書館島は、麻帆良でも世界樹と並ぶ名所である為、図書館島探検ツアーは大賑わいであった。
 図書館探検部の大学生が陣頭指揮をとって、バスガイドの如く旗を振って案内していく。
 一番詳しい大学部が外から来た一般のお客をツアーガイドするようだ。
 高等部の生徒は麻帆良都市内だが、学園とは無関係な一般市民を。
 中等部が多少なりとも麻帆良に慣れている学生他、職員の案内係である。
 つまり、むつきが参加したツアーの中には好都合にも、二年A組の図書館探検部の姿があった。
 むつき自身は、全く好都合とは思ってもみていなかったが。

「こちらが、名物の北端大絶壁やえ」
「け、建築当時の資料は散逸している為……あのえっと」

 近衛と宮崎がツアー団体の先頭にて、一生懸命に説明を行っていた。
 渡り廊下のような通路の左手が、その説明の対象である。
 本棚による絶壁の上には木陰が見え、そこから大量の水が流れ落ちてきていた。
 ツアー客は、手すりを掴んで下を覗き込んだり、本に手が届くのか伸ばしてみたり。
 近衛達の説明文も右から左へと聞き流しては、降りかかる水しぶきを喜んで浴びている。
 そんなツアー客の最後尾にて、最後尾の旗を持った綾瀬と一緒にむつきはいた。

「おい、宮崎さっきからカミカミだぞ。助けてやらなくて良いのか?」
「いざとなったらお喋りのパルがしゃしゃり出るです。尤も、色々と喋りすぎるのでガイド役は先輩方から外されてますが。一年の時、ツアーそっちのけでBLを熱く語ったもので」
「成る程な、誰も彼もあいつには手を焼いてるってわけか」
「頑張るです、のどか。何時までも、私が貴方の隣で手助けできるとは限らないのです」

 本来の意味を振り払うように、応援の為に綾瀬は最後尾の旗を宮崎に向けて振っていた。
 二年A組は何かと親友が多いが、割と珍しい支えるタイプの親友である。
 美しいねえと、無垢な少女達の友情に目を細め、ちらりと綾瀬を盗み見た。
 身長が百四十センチないので、綾瀬はむつきのお腹の上辺りぐらいまでしかない。
 体つきもこの北端大絶壁に負けないぐらいで、むしろ上からみると分けた髪から覗くおでこに目が行く。
 無理、これには絶対反応しないわと改めて思わされた。

「先生、眺めているだけでは誘惑はできないネ。その甘くないマスクで甘い台詞をなんとか捻りだすネ」
「やれるもんならやってみろ。変態鬼畜ロリコン教師。ほら、言えよ。君のオデコは太陽より眩しくて君が直視できないって」
「先生、信じてはいますが。綾瀬さんをお誘いしなければ証明もできません」

 耳に入れた受信機から好き勝手な超達の台詞が届く。
 ちらりと後ろを見てみれば、誰もいないがいるのである。
 超特性の光学迷彩マントをかぶっている為、光が透過されて見えないだけで。
 この野郎と拳を握るも、相手が見えないのでは怒りもどこへ向けてよいやら。

「先生、どうしたです? トイレなら、もう少し歩いたところで休憩なので我慢してください」
「悪い、置いていくな。ここマジで迷うから」

 一先ず滝の飛沫を浴びて頭を冷やしつつ、先で振り返っている綾瀬を追った。
 今日の綾瀬はツアーコンダクターなので、図書館探検部共通のガイド姿である。
 と言っても、普通のバスガイドのような制服姿ではない。
 ベレー帽を被り、黒のハイネックのインナーの上に厚手のオーバージャケット。
 ホットパンツが先程ちらりと見えたが、綾瀬の背が背である。
 オーバージャケットが大き過ぎてワンピースのようにも見え、ニーソックスで肌も殆ど隠していた。
 そのおかげで細い太ももに絶対領域が出来ていたが、あまり目が取られる事もない。
 ロリコンじゃないから当然だ、当然なんだ、たぶん。

「しかし、本当にこの図書館は意味がわからんな。もはや図書館というより、一種のアミューズメントパークだ」
「ですね、だからこそ面白いのですが。苦労して手に入れた本、謎のジュース。だからこそそのありがたみが一層心に染み渡るです。飲みますか、先生の好きそうなジュースを予め手に入れて置きました。濃縮雌汁」
「逆セクハラって知ってるか、貰うけど。男汁より、なんぼかマシだ」

 時折、長谷川達が耳元で煩いが、それさえ除けば普通の探検ツアーである。
 綾瀬に専属のガイドになって貰い、贅沢にもツアーとは別で案内された。
 やはり好きこそものの上手なれ、少し用法は怪しいが。
 普段寡黙気味な綾瀬も、大好きな本やジュース、図書館島については喋る喋る。
 聞いてるこっちが楽しくなりそうで、休憩所までは直ぐに感じた程だ。

「それでは後半の打ち合わせをしてくるです。先生に構いっぱなしだと流石に悪いですので」
「ああ、行ってこい。俺はここで休憩してるから。案内代わるにしても宮崎は簡便な。置いていかれるとマジでしゃれにならんから」

 それはそれで妙案ですと、宮崎の男嫌いを直す手伝いをと言われてしまったが。
 綾瀬を見送り、ベンチに座り濃縮雌汁のパックを置いてやれやれと休憩する。
 休憩場所は周囲を円状に本棚で囲われた円筒の塔の天辺であった。
 塔といっても下が崖で低いだけで、階段から階下へ降りていけるわけでもない。
 一種空中庭園のようなもので、中央には一本の立派な木までもが植えられていた。
 近くには綾瀬の好きなジュースも売っており、ツアー客達は大喜びである。
 自販機の前には列ができ、出発前には一度トイレへと頭にたんこぶをつけた早乙女がスピーカーで喋っていた。

「このまま、なんとか無事に乗り切るか。先週、超に乗せられたとか言ってまた乗せられた二人にはキツイお灸でも据えますかね」

 ベンチの後ろは手すりもない断崖絶壁の為、油断していた事は否めない。
 まだこんなに残ってたかと、妙に重さを増した濃縮雌汁をコクリと飲んだ。
 何故かチーズ臭のしていたそれが、妙に薬臭くなっていた。

「ごふっ」

 匂いのみならず、味まで全くの別物であり慌ててパッケージを確認する。
 何時の間にか濃厚男汁にすりかえられていた。
 よりによってと唇の端から垂れたそれを袖で脱ぐっていると、目の前の光景がゆらりと奇妙に揺らいだ。
 流石に目の前に立たれると、多少の違和感ぐらいはするらしい。
 光学迷彩マントを羽織った超達の仕業である事は間違いない。

「一応、聞いてやる。何を飲ませた」

 なんだか予想はついているのだが、念のために聞いて見た。

「前回、委員長のプライベートビーチで使ったあれネ」
「お前、あれ飲んだら。勃起が収まらなくなるんだぞ、まだツアーの後半が」
「けけけ、これで綾瀬を誘うしかなくなったな。要は、先生の気持ちはどうあれ綾瀬が拒否すりゃ私らの勝ちなんだ。ぐずぐずしてる先生が悪い」
「申し訳ありません。私達もずっと覗いていられる程、時間に余裕があるわけでは」

 ならさっさと帰れよと言いたかったが、早速効果が現れ始めていた。
 むずむずと股間が疼き、体も熱っぽくてついつい種付けする女性を目で探してしまう。
 勃起を隠してツアーを続ける所の問題ではなかった。
 浮気はいかんと、必死に脳内で可愛い嫁と恋人を思い出したわけだが。

(脱ぐな、迫ってくるな。せめて夜まで待てんのかい!)

 瞬く間に二人がエロイ目付きと格好で迫ってきた為、逆効果であった。

「先生、お待たせしたです。もう直ぐ、ツアーの後半が始まるです。トイレは済ませましたか?」
「綾瀬?」

 必死にセックスを強請る二人を脳内であしらっていると、何時の間にか目の前に、目の下に綾瀬がいた。

「あまり私が楽しそうに話しているからと、のどかが気を使ってくれたです。後半も不肖この私が……先生、何やら顔色が。まさかお腹でもくだして、トイレ行けるです?」
「悪い、ちょっと肩を貸してくれ」

 こうなったら、トイレで萎えるまで、それこそ折れるまで自分でやるしかない。
 小さな綾瀬の肩を借りるのは、それはそれで体に負担だったが。
 それ以上にまずかったのが、密着する事であった。
 普段は全く気にならなかった綾瀬の甘いミルクのような体臭が妙に香る。
 薬のせいで鼻腔が敏感になっているせいか、この小さな体に女すら感じてしまう。
 せめて、どうかその感情が薬のせいである事を願いつつトイレを目指した。
 だが現在はツアー中であり、むつき達の団体以外にもツアー客はいるのだ。
 この前の神社での件と同様に、いやそれ以上に長蛇の列であった。
 順番が回ってくる前に、休憩時間が終わってしまうのではないだろうか。

「あう、これは……先生、我慢できるです? なんでしたら、皆さんにお願いして」
「教師の俺が率先してできるか。他にも我慢してる人がいるんだ、かぐっ」

 心配そうに顔を覗きこまれ、むずがっていた股間が勃起を始めた。
 不味いと思って離れたいが一人では立てず、綾瀬の肩を抱き寄せる他にない。

「本当は駄目ですけど、特例です。こっちに来るです」
「急に引っ張るな、マジで」

 急遽方向転換をした綾瀬が、ツアーを外れて別のトイレを目指し始めた。

「ゆえ、先生それどないしたん?」
「凄い汗、あの私腹痛の薬なら。ゆえに渡しておきます」
「最後尾は私が行くから。ゆえ吉、大丈夫? なんなら私が行こうか?」

 途中、当たり前のように近衛達に見つかり、酷く心配を掛けてしまった。
 しまったのだが、わらわらと集られると少女の匂いが香ってでなおさらやばい。
 特にぽっちゃり系だがその分だけ大きな、早乙女の胸から目が放せないでいた。
 あまり見ていると本当にバレるので、苦痛に顔をゆがめた様に瞳を閉じる。
 実際のところ、本当に痛いぐらいに股間が膨らみきつかった。

「薬はありがたく頂いておくです。先程まで普通にしてらしたので、多分直ぐに治ると思うです。直ぐに追いつくので、心配無用です」
「悪いな、お前ら。ちょっと綾瀬を借りるぞ。宮崎、直ぐに返ぐっ」
「あの、全然気にしないで下さい。ゆえも、早く連れて行ってあげて」

 脂汗も滲み会話も辛くなったので、珍しく間近まで近付いてきた宮崎にお礼もいえない。
 そのまま綾瀬の肩を借りて、休憩所を離れ、別のホールのトイレへと連れて行って貰う。
 そこまでは良いのだが、もう超の思惑にのるしかない状態だ。
 当初は自分でするつもりだったが、近衛達に見つかったのがまずかった。
 一人でオナっても、施設のトイレでは肉体ばかりで気分が高揚しない。
 一度出すのにも時間は掛かるだろうし、それでは折角のツアーが台無しだ。

「先生、ほらもう少しです。扉の前までなら、恥ずかしいですがお連れしますから」

 そう気遣ってくれている綾瀬に、手伝って貰うほかになかった。

(なんて、あの三馬鹿の思惑に乗ってたまるか!)

 何度も綾瀬に頑張れと言われながら、長い時間をかけてようやく辿り着く。
 次の瞬間、断腸どころか断金の思いで綾瀬の体を手放す事に成功した。
 そのままよろよろと、よろめきながら振り返って半開きの扉越しに綾瀬に振り返った。

「すまん、助かった。恥ずかしいから、遠くで耳塞いでくれよな」
「どんな爆音ですか、お尻が破れますよ。ではなく、お早く。私も直ぐに退散します」

 最後はやや恥ずかしそうに、本当に退散していく綾瀬を見送った。
 なに獲物を逃がしてんだと憤る股間に対し、握りこぶしを振り上げながら。

「これで良かったんだ。俺の嫁は美砂、恋人はアキラ。今夜はマジで寝かさないが、今は子の窮地を脱するのが先。浮気相手はこの黄金の右」

 手と最後まで呟く前に、足音が聞こえた。
 男子トイレには似つかわしくない羽の様に軽い女の子のような。
 その足音がぱたぱたと扉の前にやってきて、そのまま扉を開けてきた。

「せ、先生匿ってください!」
「何してんの、お前!」
「声が、いえ外に出ようとは。ですが、向こうから人影が!」
「お前も声が大きいよ!」

 ツアーから外れた場所の男子トイレに篭る教師と女子生徒。
 例えそれが誤解であろうと、見つかってしまえば誤解ではすまない。
 かなり慌てて騒ぐ綾瀬を静かにさせようと、むつきがとった手段は簡潔であった。
 綾瀬の口を塞いだのだ。
 ただし、その小さな体を抱き締め、お腹の上辺りで彼女の口、顔を塞ぐ事で。

「え?」
「喋るな」

 静かに囁くように忠告し、綾瀬を黙らせただ静かに時を待つ。
 確かに外では複数の足音が聞こえ、そこから二人の耳は少し仕事を放棄することになる。
 何しろ二人は耳をそばだてる事よりも、別の事に集中していたからだ。
 むつきは折角手放した綾瀬が舞い戻ってきたことで、かなり動揺してしまっていた。
 だから手のひらで口を塞ぐだけで良いのに、その小さな体を抱き締めると言うわけのわからない行動に出てしまった。
 対する綾瀬もむつきに抱き締められた事はもちろん、知ってしまった。
 自分の絶壁に押し付けられた硬くてスーツパンツ越しでもはっきりと熱が伝わる何か。
 ここが図書館島であるはずなのに、何処かひかげ荘に似た雰囲気、匂いが感じられる。

「せ、先生、あまり押し付けないで欲しいです」
「すまん、少し体勢を変えるか」

 もはや当初の口を塞ぐ理由も忘れたように、トイレの中で抱きあったまま一回転。
 何故かむつきが押し倒すように、綾瀬が便座の蓋の上に座る形となった。

「麻帆良最強の馬鹿に一服盛られた。以前、雪広のビーチで使った強力な奴。聞いてるか?」
「それは、あの一度や二度では全く萎えないあの」

 様式の蓋を閉めた便座の上に座らされた綾瀬が、カッと熱くなる頬を両手で挟んだ。
 どうやら、二人のどちらかからは聞いていたらしい。
 それと同時に、何故自分が便座の上に座らされたのかも理解していた。
 かなり混乱しているが、二年A組の中では割と冷静な方だと言う自負もある。
 そもそも、冷静さを失いトイレに舞い戻ってきたのはさておき。
 現在は図書館探検部の探検ツアー中で、体調が悪そうな所を近衛達に見られた。
 ただでさえ、宮崎がカミカミなのに最近頑張って話しかけていたむつきが体調不良となればさらに気が気でない事だろう。
 ごくりと喉を鳴らした綾瀬が何かを決意したように、むつきを見上げてきた。

「私にできる事があれば」
「思った通り、来たネ。賭けは私の勝ちヨ」
「緊急事態だろ、これ既に。それに最後まで行かなけりゃ私と委員長の勝ちだろ」
「お静かに、今いいところですので」

 またしても騒がしい三人の声が聞こえ、さすがのむつきも我慢の限界であった。
 耳からイヤホンを取り出し、床に落として迷わず踏み抜いた。
 他にスーツの襟からも集音マイクを取っては、床に落としてこれも激しく音が出るように壊す。
 今頃は破壊音が耳を貫通してもがき苦しんでいるだろうが、ざまあみろだ。
 それらの行動だけでも、十分に綾瀬には何故むつきが盛られる事になったかは予想がついたようだ。
 もちろん細部まで、自分が賭けの対象になった事までは分からない。
 ただ、盗聴は自分も何度もしている為、悪ふざけの一種だろうというぐらいには。

「これで馬鹿どもには聞こえない。聞こえないが、綾瀬……」
「ど、どうすれば。あの流石に知識は万全ですが」
「基本的に何もしなくて良い、俺もお前には何もしない。ただ少しだけ、本当に少しだけで良いから手伝ってくれ。頼む、凄く嫌、気持ち悪いかもしれないが」
「誰もそこまで嫌とか気持ち悪いとかは、のどかの為にも。そう、のどかの為にも仕方がないのです。早く戻って安心させてあげないといけないですから」

 必死に拳を握って力説した綾瀬を見て、ふとむつきはどうでも良い事に気がついた。
 方法はどうあれ、これは完全にパターンに入ったのではと。
 むしろ、超の手により入らされたのか。
 現在むつきが綾瀬をトイレに連れ込み、拝み倒している状態だ。
 何もしないよ、だけど少しだけと。
 状況が状況なら、先っぽだけで良いからと拝み倒しているも同然である。
 麻帆良最強の馬鹿の一人勝ちじゃねえかと、恨まざるを得ない。

「綾瀬、断るなら今しかない。もうそろそろ、本当に限界だ。良いんだな?」
「後で超さんを思い切り絞ってくれれば。不問に伏すです。先生は悪くないですから」
「そっか、聞き分けの良い生徒は好きだぞ」
「そういう言葉は柿崎さんとアキラさんに言ってあげるべきです」

 必死に赤くなった顔を隠そうとする綾瀬が凄く可愛く思えた。
 薬によって興奮状態になっている事もあるが、それでもだ。
 身長が小さいとか、絶壁だとか全く気にならない。
 綾瀬夕映という一人の女の子、目の前で恥ずかしがる女の子が愛おしく感じる。
 そっと頬に触れようとすると小動物のようにびくりとし、そのまま触れずにいるとおずおずと見上げてくる所など特にだ。
 パターン入ったのはこっちかもしれないと思いながら、むつきは自らに課したはずの一線を踏み越えようとしていた。

「綾瀬、帽子ちょっと借りるぞ」

 その第一歩として、綾瀬が被っていた帽子をそっと手で取り上げた。









-後書き-
ども、えなりんです。
なんとか再宣言の月曜に、間に合ってないw
三連休が三連勤とか、メタモルフォーゼにも程がある。

愚痴しかでないので、今日はここまで。



[36639] 第三十二話 のどかの前に出られない格好に!
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/05/04 20:22
第三十二話 のどかの前に出られない格好に!

 一応断りは入れたものの、ベレー帽を取り上げられた綾瀬は目が点であった。
 最近とみに抱負になってきた性知識を持ってしても、その行為の意味が分からない。
 つい先程までのむつきの言動からも、綾瀬の体に触れるつもりがないのは分かる。
 だがその代替行為と、ベレー帽が全く持って繋がらなかった。
 少しばかり状況を忘れて小首をかしげていると、むつきのもう片方の手がベルトを外し始めていた。
 しかし、片手では上手く外せず、カチャカチャと金具を鳴らすに終わっているだけだ。
 本人は必死なのだろうが、見ているほうとしてはもどかしくもあった。

「あの、その程度なら私でも」
「すまん、早速言葉を破っちまった」
「でも流石にパンツはご自分でお願いするです」

 まさか男性のズボンのベルトを外す日が、こうも早く訪れようとは。
 何処までも熱くなって火照る顔で、生唾を飲み込みながら綾瀬がベルトをはずしていく。
 ベルトを外し、チャックまで下ろすと完全勃起状態のそれが飛び出してきた。
 先走り汁がテントを張ったトランクスの中で染みを広げてさえいる。

「ひぅ」

 思わず便座の蓋の上で、悲鳴を上げて後ずさってしまう。
 その綾瀬の目の前で、むつきは我慢出来ないと躊躇の暇なくトランクスをずり下げた。
 今度こそ完全に解き放たれたむつきの獣が、涎を垂らしながら綾瀬の目の前でそそり立つ。
 グロテスクな塔の出現に、もはや悲鳴も上げられない綾瀬であった。
 湯気さえ出そうな顔を必死に両手で隠しては、指の隙間から凶悪なそれから目が放せないでいる。
 思い出したのは、アキラの陰部をそれで貫いた光景であった。

「綾瀬、靴下貸してくれ」
「靴しぁっ」

 何故そんなものをと、ようやく竿から目が離れむつきを見上げた。
 そこで綾瀬は自分のベレー帽がどうなっているかを知った。
 あろうことか、むつきはベレー帽の内側に顔を突っ込んで匂いを嗅いでいたのだ。
 これ以上恥ずかしくなれば、頭が爆発するのではないだろうか。
 そんな馬鹿な考えが頭に浮かぶ程で、靴下をどうするかなんて思考が吹き飛んでいく。
 むつきに言われるままに、ニーソックスを脱いで差し出された手に体温の残るそれを手渡した。
 もちろん、手が触れぬように上からふさっと落とし、便座の蓋の上を器用に後ずさった。

「後で新しい奴を買う金はやる。思い切り、汚すぞ」
「ぁぁ、ぅ。はい、です」

 脱ぐ事で長いニーソックスはじゃばら状に縮まっている。
 むつきは勃起状態の竿へと、そのじゃばら状になったニーソックスを被せた。
 まだ綾瀬の体温が残るそれの上から、握りつぶすように一物を握った。
 綾瀬のベレー帽の匂いを嗅ぎつつ、ニーソックスで扱きあげる。
 その当人が何も言えず、言葉にならない言葉を漏らしている目の前でだ。

「綾瀬」
「はひゅ」

 名を呼ぶと、先程ツアーコンダクターをしていた宮崎に負けず劣らず噛んでいた。
 しかし、名を呼ばれた意味は殆どない事に気付いたようだ。
 むしろ名を呼ぶそれさえ気分を高める行為だと気付き、何処へ目を向けて良いやら。

「綾瀬の匂い、甘いミルクの匂いがする。良い匂いだ。靴下も暖かくて生地がきめ細かくて、気持ち良いぞ綾瀬」
「あの、こういう場合は名前で呼ぶって。何を言ってるですか、私は!?」

 目の前で自分の靴下でオナニーされ、相当焦っているようだ。

「夕映、気持ち良いぞ。お前の靴下が、お前の中が。出る、出すぞ」
「ぁぅ、ぁぅっ」
「夕映ぇ!」

 元より腰を引いた中腰状態から、むつきが綾瀬の名を呼び急に体を前に倒す。
 危うく額同士がぶつかりかけたが、間一髪夕映がその一撃をかわしていた。
 しかし、逆にむつきの顔が近付き、目の前で快楽に蕩ける顔を見せ付けられてしまった。
 視線をゆっくり落としていけば、腰は震えており、じゃばら状の靴下が握られている。
 根元はしっかりと握りこまれ、余裕のある足の先端部分が何かに打たれ波うっては染みを広げていた。
 白い白濁液に、汚されている事がはっきりと分かった。
 その汚されたニーソックスは床に取りこぼされ、べちゃりと音を立てる。
 のみならず普段綾瀬の足を受け入れる穴から、どろりとした白い液体を吐き出してさえ。

「私の靴下で、先生が。靴下が犯されたです」
「あや、夕映。次、そっちの靴下も」
「こっちもですか。今、今直ぐに脱ぎます」

 もはやむつきの言いなり状態で、今度は左の靴下を脱いで渡す。
 また穴に入れるかと思いきや、むつきはじゃばら状のそれを伸ばした。
 わざわざ匂いを嗅いでいたベレー帽を綾瀬に返してまでだ。
 ニーソックスなのでそこそこ長く、それから太ももにしては細い穴に挿入する。
 何故という疑問も、もはや綾瀬が浮かべられず、ただただ自分の靴下が犯される様を食い入るように見ていた。
 だがさすがにむつきの次の行動には黙ってはいられなかったようだ。

「夕映の匂い、ちょっと臭いけど良い匂い」
「止め、止めるです。そんな汚い、恥ずかしすぎて顔から火が」

 ニーソックスを犯しながら、先端部分、綾瀬の足を包み蒸れた部分の匂いを嗅いだのだ。
 まるでベレー帽では足りなかったとでも言うように。
 綾瀬も相当混乱しているが、むつきもこれでかなり頭が沸いているらしい。
 蒸れた足の匂いがむしろ良いと、鼻に押し付けて深呼吸さえしていた。

「イク、夕映の足の匂いで。臭味で、イクっ!」
「嘘、私の足の……嘘です、こんなの酷いです」

 恥ずかしさのあまりついに、綾瀬がぽろぽろと涙を零し始めていた。
 ただし、今のむつきにはその表情でさえおかずにしかならなかった。
 泣き零れる綾瀬の涙を前に、嗜虐性を持った危うい心がぞくぞくと刺激される。
 より一層、綾瀬のニーソックスを汚しつくして、一度外側で竿を綺麗に拭きさえした。
 しかも一頻り綺麗にすると汚れきったそれを、綾瀬に見せ付ける。

「とても気持ち良かったぞ。ほら、こんなにたくさん出たぞ。夕映のおかげだ」
「ぐすっ、逐一見せるなです。この変態鬼畜教師、もう吹っ切れたです。でも靴下はもう品切れです。靴は駄目ですよ、歩けなくなってしまいます」
「ハンカチあるか、それとブラもしてたら」
「馬鹿にするなです、ブラぐらい。ちょっと待つです」

 ハンカチだけはお尻のポケットから直ぐに渡してくれた。
 それを使いまずは、綾瀬がぽろぽろと零していた涙を拭いてやった。
 だがブラジャーだけは、おいそれと外せない。
 何しろオーバージャケットはあるし、中にはハイネックのインナーもあるのだ。
 インナーのお腹の部分から手を差し込んで紐らしきものを肩から外す。
 後ろ手に背中に手を回さなかったのは、フロントホックだったからか。
 もぞもぞと時間をかけて脱いだブラは、スポーツブラであった。
 ただし、完全にスポーツを目的としたそれではなく、一応はふくらみを包む目的が優先されてた。
 真っ白な布地に縁に小さくフリルがあしらわれ、ある意味で中学生らしい一品だ。

「あまり、匂いは嗅がないで欲しいです」
「無茶言うな。それと口の中に、唾を溜めて」

 早速渡されたスポーツブラに顔を埋め、胸一杯に綾瀬の匂いを吸い込んだ。
 探検ツアーで一時間程度歩いたせいか、甘い匂いの中に酸っぱさが混じる。
 しかし不快どころか、甘さと酸っぱさが融合した果実の様にさえ感じられた。
 この人はと呆れながら、綾瀬は言われたとおりにもごもごと口の中で唾液を溜め始める。
 その綾瀬の口の前にハンカチが差し出され、れうっと溜まった唾を吐いた。

「甘酸っぱい夕映の匂い、唾液で滑って手が止まらねえ」
「想像はしてましたけど、私の唾液で。先生のアレが、黒光りして」

 先程までは靴下を犯していたので直視こそ避けられた。
 しかしながら今度は折り畳まれたハンカチで扱いているので、綾瀬から丸見えであった。
 文字通り黒く光る竿の上を、唾液を含んだハンカチがゴシゴシと強めに滑る。
 そんなに気持ち良いのか、羞恥を通り越して一回り、興味さえわいてきた。
 だがまだ綾瀬に手伝うような勇気はなく、見ているだけで精一杯だ。
 扱かれる度に唾液はひろがり、亀頭の鈴口からは精液と先走り汁が混じって出てくる。
 普段コレが美砂やアキラの中で同じ事をと、考えが廻らずにはいられない。

「夕映、また出る。今度は夕映のハンカチの中に」
「ちょっと待ってくださいです、そのままだと。私に、顔射され。のどかの前に出られない格好に!」
「夕映ぁ!」

 名前を呼ばれ間に合わなかったと、綾瀬がその時を待って瞳をきつく閉じた。
 しかし想像したような熱くてねっとりとした白い液体がかけられる事はなかった。
 鼻を突き刺す刺激臭こそあれ、そっと目を開けてみるとむつきがちゃんと制御している。
 射精しなかったわけではなく、扱いていたハンカチで亀頭を押さえていたのだ。
 小さな四角い布でたっぷりの精液を受け止め、又しても地面にそれを捨てた。
 一体どれだけ綾瀬の私物を汚せば収まるのか。
 むつきの一物は相変わらず天井を指差すように、萎える様子がなかった。
 しかもあろう事か、むつきは持っていた綾瀬のスポーツブラで竿の精液を拭っていた。

「先生、あとは渡せるものはパンツぐらいしか」
「やべ……つい、べとべとなのが気持ち悪くて。ちょっと使う気にはすまん」

 一応の謝罪を終えてから、むつきはスポーツブラも下に捨てた。
 そこで一旦冷静になってしまい、お互い無言となってしまう。
 むつきの一物はまだまだ元気で、むしろ大きくさえなっているようにも見える。
 だというのに、綾瀬が手渡せる着衣はもはやパンツのみ。
 オーバージャケットは論外だし、さすがにそれを使えば皮が擦り切れてしまう。
 ホットパンツも同様で、パンツを除けばあとはインナーぐらいだが。
 裸の上にオーバージャケットを着ても、到底隠しきれるものでもない。

「ゆ、綾瀬。ここで止めとくか。少しは萎えたから、腹痛のままって事で前屈みで誤魔化して」
「そんな凶悪なもの。隠し通せるとお思いですか。ちょっと向こう、向いていてくださいです」
「ああ、分かったすまんな」
「謝罪はもう、何度も聞いたですよ。それこそ、聞き飽きる程に」

 本当に男の人はとでも、今にも出てきそうな口ぶりである。
 言われた通り、脱ぎかけのスーツのズボンに四苦八苦しながら振り返った。
 そこにはトイレの扉ぐらいしかない。
 落書きの一つでもあれば楽しめるが、図書館島は清掃が行き届いているようだ。
 そもそも落書きするような連中は図書館島まで金を払ってまで来やしない。
 ごそごそと綾瀬が脱ぐ音に気をそらされつつ待つ、五分ぐらい長い時間を待った。
 それとも五分という長い時間は、むつきが内心焦って体内時計が狂っていたせいか。

「先生、もう良いです。これ、あまりジロジロ見ないで下さい。あと匂いを嗅ぐのも禁止です」
「あいよ。靴下同様、まだ温けえ」
「そう言う事も言わなくて良いです」

 早速借り受けた綾瀬の三角形の紐パンで、まだまだ硬い一物を握り締めた。
 綾瀬の体温とちょっとした湿り気は、何度もオナニーされて濡れたのか。
 もちろん、それをわざわざ指摘して確認する程に馬鹿ではない。
 柔らかな布地のせいか、シュッシュとやけに響く音を立てながら一物を扱いた。

「すべすべの生地が気持ち良い、これだけで何度でもイケそうだ」
「こんな連続で何度も。一体超さんは何を考えてこんな漢方を作って」
「後で聞いたら、俺にも教えてくれ。夕映、見てるか。お前のパンツを俺が汚してるぞ」
「他に目のやり場がないですから。混ざった液が染みてきたです」

 便座の蓋が冷たいのか、綾瀬が女の子座りに変えていた。
 少々窮屈そうだがそれを感じさせず、視線はむつきの一物に固定されている。
 自分のパンツが犯される様子を目を皿の様にして食い入るように見ていた。
 とても、目のやり場がないから仕方なくと言うようには見えない。
 そんな綾瀬にオナニー姿を視姦され、次なる精液が超特急で袋の中で生成されていった。

「夕映、また出そうだ。これで最後、最後だから」
「最後にしてもらわなければ困ります」

 また絶頂感が強くなり、前屈みになったむつきが綾瀬にキスできそうな程に近付く。
 綾瀬も少しはなれたのか、少し身を引くだけで耐えていた。
 生々しい男の、興奮した獣のような荒い息遣いに耳を犯されながら。

「クソ、超の奴絶対絞ってやる。その前に夕映のパンツを、ぐぁ出る。夕映!」
「私のパンツが。先程まで履いていたパンツが、どろどろに」

 これで最後だからと、あふれ出す精液は止まらない。
 綾瀬のパンツから溢れ、むつき自身の手を汚してもまだ終わらなかった。
 このまま履けば綾瀬が妊娠しかねない程に、汚しまくっている。
 そして布地よりも付着した精液の方が多い程になって、ようやくむつきはそれを捨てた。
 べちゃりと一番生々しい音を立てて、床の上に溢れた精液を流れさせていった。

「手がべとべとだ、久しぶりに最悪の気分だ」
「先生、これで手を。トイレットペーパーですが」
「悪いな、綾、夕映。ああ、もうめんどくさい夕映」
「どうか、その呼び名はここだけで勘弁してください。絶対にパル辺りに騒がれますから」

 普段から美砂やアキラをプレイベートと仕事で呼び分けているのだ。
 それぐらい朝飯前だと、主に右手についた精液を綺麗に吹き上げた。
 汚れたトイレットペーパーは、便座の蓋の下に押し込んだ、そこまでは良い。
 良いのだが、まだ全然一物が萎えていなかった。
 比較的柔らかい布地の数々で扱いてはいたが、単純な黒から赤黒く充血してさえいた。
 少しだけ萎えた感は出てきたが、殆ど臨戦態勢と代わらない。

「本格的にまいったな。もう、戻るのは諦めるか。夕映、すまんが先に戻ってくれ。連絡とって美砂かアキラに来て貰う」
「先生を一人残して戻れば、私がのどか達に怒られてしまいます」

 一つ溜息を漏らし、綾瀬が最終手段ですとオーバージャケットに手をかけた。
 本当はやりたくなかったがとさらに前置きし、震える手でボタンを一つずつ外していく。
 その時、初めてむつきは疑問を抱いた。
 オーバージャケットの下に、夕映はハイネックのインナーを着てはいなかったかと。
 今そのハイネックがオーバージャケットの襟口から見えないのだ。
 恥ずかしそうに顔を火照らせ何かを我慢するように綾瀬が唇を噛んでいるのは何故か。
 その答えは顔を背けると同時に、綾瀬がオーバージャケットを肌蹴た事でわかった。

「腰が抜けて、動けないです。どうぞ、好きにおかずにしてください」

 便座カバーの蓋の上でやや股を開き、両手は必死に蓋の縁を握り締めている。
 羞恥に耐える仕草で顔を背け瞳を閉じて、綾瀬が全てをさらけ出していた。
 ハイネックのインナーも、ホットパンツも今は彼女のお尻の下だ。
 オーバージャケットの下は何一つ身につけてはいなかった。
 ささやかなふくらみと桃色の二つのぽっちも、絶壁を下った先の無毛の割れ目さえ。

「綺麗だ、夕映。体が小さいとか、胸が小さいとか本当にどうでも良い」
「男子トイレの中で言われても、嬉しくなんて」
「夕映、こっちを向いて。その顔を見せてくれ」
「ぁっ、駄目……キスは、それはまだ」

 背けていた顔の頬に手を沿え、軽く力を込めればあっけなく正面を向いた。
 さらに顎に手をかけ、上を見上げさせるとむつきは顔を近づけていった。
 弱々しい抵抗の言葉もあがりはしたが、それで止められるはずがない。
 ただし、忘れてはならないのは、豆腐メンタルなむつきの精神力だ。
 特に性交に関する上での精神力は並大抵のものではなかった。

「ぁっ、おでこ」

 むつきがキスをしたのは、綾瀬の磨き上げられたおでこである。

「生徒の大事なファーストキス、こんな場所で奪うとでも思ったか。綺麗だって言葉に嘘はないがな。恥ずかしながら、思い切り誘惑されちまった」
「前以上に先生が元気に。私の裸を見て、なんですこの感情は。胸が締め付けられるようです」
「俺はなにも言わん。その感情はお前が答えを出せ」
「はいです。先生、私をおかずにしてくださいです」

 しないでかと、むつきは五回目にして始めて自分の手で竿を握り締める。
 自分の精液まみれで少々気持ち悪いが、視線だけは綾瀬の裸体に注いでいた。
 細い首から鎖骨、なだらかな丘となる胸に可愛らしい乳首がちょこんとあった。
 今直ぐにでも触れては摘み上げたいが、我慢する。
 我慢はするが右手はしないと、綾瀬の裸体をおかずにオナニーを始めた。

「綺麗だ、夕映。美砂ともアキラとも違う、別種の綺麗さだ。お前がこんなに綺麗で可愛い女の子なんて知らなかった」
「まさか、私が綺麗などと形容される日が来ようとは」
「何度でも言ってやる、綺麗だ夕映。今凄く、お前を汚したい。真っ白な肌を俺の白で汚したい。かけて良いか、ジャケットにはかけないから」
「掃除が大変なので、できればお腹の上にお願いするです」

 本当にそれこそまさか、許可が出るとは思いもしなかった。
 もう一度綾瀬の顔に自分の顔を近づけ、右手を忙しなく動かしながらおでこにキスする。
 何度も何度でも、唇が擦り切れ血が出るのではと思う程にだ。
 その幼いキス音の一つ一つに綾瀬が反応し、体を震わせていた。
 嬉しいのか恥ずかしいのか、目尻に涙さえ浮かべながら受け入れている。
 その証拠に、おへそから続く下腹部、そのさらに下の秘所の割れ目から愛液が流れ落ち始めていた。
 女の子座りに先程変えたのは、便座の蓋を汚す懸念があったからかもしれない。

「夕映、俺に汚すなって言いながら。可愛いな、こいつ」
「そ、粗相ではないです。むずむずして勝手に」
「知ってるよ。可愛い夕映がエッチな気分になって濡れたことぐらい」
「エッチじゃないです、決して」

 何を今さらと蚊の鳴くような声での抵抗は軽く聞き流した。
 右手をぐちゃぐちゃに汚しながら、綾瀬をもっと汚すために扱きあげる。
 もうこれで何度目の事であったか。
 回数さえ忘れては、綾瀬の裸体をおかずにオナニーを続けた。
 滴る愛液が増せば興奮したむつきも右手の動きを加速させる。

「夕映、そろそろかけるぞ。お前のお腹に、腹の上から妊娠させてやる」
「止め、それ反則です。そんな事はあるはずがないと分かっているのに、キュンキュンと切ないです。切ないのです」
「受け止めてくれ、夕映。夕映ぇっ!」

 羽織っているオーバージャケットにだけはかけまいと、むつきが身を乗り出した。
 片膝を便座の蓋の上に乗せ、綾瀬の細い首に腕を回して抱き寄せる。
 頭髪の甘い匂いで最後の駄目押しを行ないながら、綾瀬のお腹に一物を擦りつけた。
 滑らかな肌の上に亀頭を走らせ、びしゃびしゃと精液を衰えぬ勢いのまま吐き出す。

「ぁっ、熱い。熱いのがお腹の上に。犯され、汚されていくです」
「夕映、しっかり孕め。来年にはお母さんだ」
「母、この私が。お爺様、私もついに人の母に」

 ついに綾瀬からむつきは抱き返され、より密着してそのお腹の上を汚していった。
 オーバージャケットの件は辛うじて頭の隅にある程度だ。
 九割方を綾瀬を犯す事のみに費やし、可愛いおへそすら精液の海に沈めた。
 零れ落ちそうな精液は慌ててトイレットペーパーで拭い、再びおでこにキスする。

「もう少し、あと少しだ夕映。俺の為に、頑張ってくれるか?」
「はぁふぅ。が、頑張るです。先生、割れ目の辺りもお願いするです。お尻にまで垂れてしまって。拭きたいのですが動けません」

 少し腰をむつき側に引き、やや仰向けに綾瀬を寝かせるようにした。
 こういう時は、小さな体も割りと便利なのかもしれない。
 お腹の上の精液もあらかた拭き終わり、愛液にまみれた割れ目も吹き上げる。
 そんな時だ、綾瀬の携帯電話が鳴り響いたのは。
 突然現実に引き戻され、危うく綾瀬は便座の蓋の上から転がり落ちかけた。
 咄嗟にむつきがお腹に手を置いて安定させ、もう片方の手で携帯電話を手渡す。
 脱いだホットパンツの尻ポケットに入っていたのだ。

「ゆ、ゆえゆえ。大丈夫?」
「のどか?」

 相手はどうやら宮崎であり、全く戻ってこないむつき、特に綾瀬を心配したのか。
 相変わらず小さい声なのでむつきには聞こえないが、後ろで早乙女がはしゃいでいる声が丸聞こえだ。
 恐らくはガイド役も代わって貰ったのだろう。

「あの、先生が相当具合が悪いようで。まだ薬も」
「そうなんだ。先に飲んで、あっ……おトイレ中だったら渡す事も」
「だ、大丈夫です、のどか。先生のぉっ」

 あまりに綾瀬が宮崎を必死に構うので、むつきに小さな嫉妬と悪戯心が湧いた。
 現在綾瀬は、トイレの個室でオーバージャケットを敷き布団に便座カバーの蓋の上で仰向けに寝ている。
 ここがもし寝室で、布団の上なら正常位で男を受け入れる体勢なのだ。
 先程拭いてやった幼い割れ目からは、新たに愛液が染み出し準備は万端であった。
 と言っても、さすがにこんな場所で処女を奪うつもりはさらさらない。

「先生、何を」
「先っぽだけだ。処女膜は無事だから気にするな」
「まだのどかと電わぅぁ」
「ゆえゆえ?」

 膣口にさえ亀頭は触れさせず、大陰唇や小陰唇を弄ぶ程度である。
 それでも処女の綾瀬にとっては、パニックに陥る程の状態であるようだ。
 電話のマイク部分を手で押さえ、必死に声が届かぬよう気をつけていた。

「夕映、こうしてるだけでイケそうだ。セックスしたい、夕映とセックスしたい」
「今度させてあげますから、今は勘弁してくだぅ。なぁ、でもないです」
「そう? なら良いんだけど。あのね、こっちはね」

 綾瀬としては直ぐに電話を切りたいのだが、宮崎が話したそうにしていた。
 むしろ、むつきのトイレを待つ綾瀬が手持ち無沙汰にならないように気を使っているのかもしれない。
 大変大きなお世話なのだが、綾瀬としては宮崎を怒るに怒れなかった。
 その間にもむつきの行為はエスカレートの一途を辿る。
 綾瀬の両足首を手に持ち、大開脚をさせて綾瀬の陰部を亀頭で攻め立てた。

「夕映のおまんこが咥え込みたがってるぞ。とろとろ愛液垂らして、気持ち良い。夕映のおまんこ気持ち良い」
「うぅ、柿崎さん達を相手にする時の意地悪な先生です。はぅぁ、んぁっ」
「ゆえゆえ、もしかして。ゆえもお腹痛いの?」
「ら、大丈夫れす。少し疲れぅぁ、んっ」

 とても会話する状態ではない綾瀬を不審に思いつつ、宮崎がさらに気を使い始めた。
 綾瀬が我慢しているのではと、このまま電話が切られるのを待つのは勿体無い。
 挿入してしまわないように気をつけながら、むつきは前屈みに顔を近づけた。
 腰は時計周りに動かし、膣口部分を執拗に攻め続ける。
 その状態のまま、綾瀬のおでこにキスの嵐をお見舞いして電話越しに聞かせた。

「止め、お願いです先生。意地悪な男の人は嫌いです」
「夕映が可愛くて綺麗だから、止められない。宮崎にも聞いて貰おうぜ。俺達がどれだけ愛し合ってるか。実はトイレでセックスしてますって」
「まだ、セックスでは。のどか、少々取り込んでますので後でかけなおすです」
「う、うん。ごめんね、長々と。あの夕映もお薬ちゃんと飲んでね」

 ブチリと切れた電話を胸に抱え、綾瀬がよくもと睨み上げて来る。
 その瞳で、絶対のどかに腹痛だと思われたと抗議してきていた。
 ごめんと呟き、おでこにキスしても機嫌は変わらずだ。

「後で、誠心誠意のどかに説明してもらうです」
「その程度で許してもらえるなら、いくらでも。その前に、萎えるまで付き合ってくれ」
「本当、仕方のない人です。意地悪したかと思えば、図太くもお願いしたり。こんな呆れ果てるような人は会った事がないです」
「運命の出会いかもな」

 失敬なという憤りの言葉の後で、むつきは腰の動きを再開させた。
 まだ完全なセックスとはいえない。
 それでも一回のセックスは、五回のオナニーに勝る。
 次に一度完全に満足すれば、半立ち程度にまでは収まる気がする。
 もちろん、さらにそこから誘惑されれば即座に元気になってしまうだろうが。

「夕映、出る。このまま、夕映のおまんこにかけるぞ」
「中でなければ、もう構いません。今はこれが精一杯です」

 一瞬の隙、それをついて綾瀬が逆にむつきの頬に唇を押し付けた。
 カンフル剤としては十分過ぎる。
 腰が壊れかねない程にむつきは綾瀬の陰部を亀頭で攻め上げた。
 処女膜を傷つける事だけは気をつけ、それでも何度か膣口を亀頭で押し広げた。
 セックスのセの字ぐらいには到達しただろうか。
 処女の綾瀬を犯しながら、背筋を上り詰めてくる快感に抗わずその名を呼んだ。

「夕映、来た。これで本当、本当に最後だ。かけるぞ、夕映の大事な部分に」
「はぅふぅっ、良いです。本当に終わらせてください、お風呂入りたいです。ひかげ荘の露天風呂、先生と。浴衣なんてもういらないです。どうせ、全部見せてしまったのですから」
「今夜、皆で入るか。浴衣は禁止、裸で。夕映、イクぞ。夕映!」
「んくぅっ、ぁぅ。熱っ、お尻に大事な部分にも熱いのが。体中に先生が……」

 綾瀬の秘所ばかりか、小さなお尻までもを精液で汚し擦りつけた。
 自分の手で射精を絞りあげもして、股座から尻、お腹を登って胸、首、顔とかけていく。
 もはや完全に言い逃れは不可能だが、どこか満足したような気分にもなる。
 ありったけの精液で綾瀬の全身を汚しつくすと、むつきは処理に取り掛かった。
 トイレットペーパーで綾瀬についた精液を拭い、犯して地面に捨てた衣類も集めた。
 こんな証拠を安易に残せば、後々大問題に発展しかねない。
 力尽きたように喘いで起きない綾瀬の服も着せ、ぱしぱしと頬を叩いて起こしにかかった。









-後書き-
ども、えなりんです。
更新時間が不定で本当に申し訳ない。

三人の悪ふざけの結果がこれだよ。
何プレイですか、これは。
主人公(笑)がひたすら美少女の前でオナニーにふける。
もう意味がわからない、Lもサジを投げるレベルです。

あと、これは寝取りなのでしょうか。
答えは永遠に謎かもしれませんが。
とりあえず、夕映追加です。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第三十三話 爺さんの気持ちが今なら良く理解できる
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/05/08 21:37
第三十三話 爺さんの気持ちが今なら良く理解できる

 麻帆良祭二日目を終えて、本日の夜は二度目の中夜祭である。
 夜間パレートで今一度、教師人気投票トトカルチョの説明と最後の教師の紹介が行なわれた。
 パレードは五時に始まり、七時には全ての教師の紹介が終わってしまった。
 昨晩と変わらずハイテンションを維持する二年A組であったが、やはりそれでもまだ子供だ。
 特に体力のない体の小さな鳴滝姉妹や、それこそ平均的発育の佐々木や和泉も眠たげであった。
 お酒も入った周囲のドンちゃん騒ぎに、時折顔をしかめる程である。
 そんな超包子の一部を貸しきっての夕食後に、雪広がとある提案を行った。

「皆さん、現在は八時半ですが九時には切り上げ、明日に備えしっかりと眠りましょう」
「えー、良いじゃん良いじゃん。眠りたい人は眠れば、私はこの程度の修羅場は慣れてるし。むしろ、ここからが本番じゃない?」
「私は、はわぁぅ。委員長の意見に賛成やな。明日は後夜祭もあるし、ちょっと最後まで持たせる自信があらへん」
「まあ、ここで中休みもありかもね。後夜祭が始まる前から記憶がないとか、ちょっと避けたいしね」

 もちろん、そこでブーイングを行なう者がいないわけではなかった。
 その筆頭は徹夜慣れしている早乙女だが、反対意見。
 雪広の提案に賛同する声が近衛、釘宮等からもあがっては周囲がざわめいた。
 テンションに任せるタイプは早乙女のように、気絶した奴が悪い。
 やや大人な意見で長く楽しもうとするタイプが、近衛や釘宮のような意見である。

「高畑先生としては、いかがでしょうか?」
「そうだね、できるなら皆で足並みはそろえた方が一緒の思い出が作られて良いんじゃないかな。まだ来年もあるとはいえ、今年の麻帆良祭は今年限りだ」
「ですよね、高畑先生。ほら、楓ちゃんは鳴滝姉妹を抱える。テキパキ、寮に帰って寝る!」
「神楽坂、お前そのテンションで寝られるのか?」

 むつきの突っ込みも何のその、ふらふらのクラスメイトを神楽坂が起こして回る。
 もはやテンションが上がり過ぎて、高畑の意見とは間逆を突っ走っていた。

「明日菜、ストップ。のどかとか、起きてまう」
「アイタッ!」

 さすがに寝た子を起こすのはあかんとばかりに、近衛がトンカチで静かにさせた。

「興奮して眠れない方には、甘いホットミルク用意します。冷ましながらゆっくり飲めば、落ち着いてぐっすり眠れますよ」
「四葉、悪いけど俺と高畑先生のぶんも頼む。昨日に夜の見回りしたから、今日はないんだ。俺達も後は寝るだけ、ですよね?」
「特別な用事はないからね。僕の分も追加で」

 少々お待ちをと四葉が厨房の奥でミルクを火にかけ始めた。
 こういった事態を予測していたのか、人数分となると結構な量の牛乳を冷蔵庫から持ってくる。
 鍋に牛乳を小分けにして暖めたのか、五分ほどで四葉がクラスメイト分のホットミルクを持ってきた。
 半ば意識を失くすように寝ていた者も、甘い匂いに誘われ目を覚ましだす。
 そんな意識の危うい者に熱々のホットミルクは零すと危ないので、温めの気遣いが素晴らしい。

「それでは、麻帆良祭二日目の締めを乙姫先生お願いします」
「え、俺? 高畑先生じゃ」
「最終日ではありませんので」

 確かにと、雪広の言葉に促がされ、ホットミルクを片手にむつきは立ち上がった。
 皆の視線が集っている事を、ぐるりと視線をめぐらせ確認する。

「絶対に寝ろとは強制しない。ただし、眠りたい者の邪魔だけはするな。以上、長々話すのもだるいだろ。麻帆良祭二日目ご苦労さん、明日に備えてお休みなさい」

 締めと言っても雪広の言う通り、最終日でもないので軽めの言葉だ。
 むつきが真面目腐った締めを行ってもしらけるだけであるし。
 いの一番にホットミルクをむつきが飲み干して見せると、皆も微笑んでそれを口にした。
 砂糖がふんだんに入っているのか、それとも特別に甘い牛乳なのか。
 糖分が体の隅々にまで行き渡るようで、興奮状態でもさすがに疲れている事を教えられた。

「眠気だと。ま、瞼も重い……くぅ。な、なんて事だこのパル様が、眠たいだと。このパル様がホットミルクで眠気を刺激され。立つ事が、立つ事ができないだと」
「これは中々侮れない。拙者らもまだまだ子供でござるな」
「うふふ、ウィスキーを一滴垂らすともっと眠くなるのよ」
「ふっ、どこか懐かしい味だ。四葉にしてやられたな」

 早乙女を筆頭に長瀬、那波、龍宮と大人顔負けのプロポーション組さえも欠伸をかみ殺している。
 やはり二年A組でのあらゆる意味での最強は四葉なのか。

「それでは皆さん、少々お早いですが。お休みなさいませ。一人で寮に戻れる自信のない方は周囲と声をかけあってください。決して、お一人で寮に戻ろうとしないこと」
「僕が女子寮まで引率しよう。さあ、帰寮の第一弾は行くよ。もう少し、残る子は席を立たないでくれるかな。紛らわしいからね」
「夏美ちゃん、ほら起きて。あやか、先に戻ってるわね」 

 半分夢の世界の住人は、ルームメイトなどで声をかけたり肩を貸す。
 高畑は近衛に請われ、懐かしき日々を思い出すように神楽坂を背負っていた。
 どうやらホットミルクに止めをさされ、一気に眠気が来たようだ。
 高畑の引率で引き上げた第一弾が帰寮した後で、残ったのはどういうわけだろう。
 ひかげ荘のメンバーばかりであった。
 まだ営業している超包子のシェフである四葉や、ウェイトレスの絡繰が例外であるが。

「では、我々も寮に戻るといたしましょう。それでも十二時には寝る予定ですが」
「委員長がナチュラルにひかげ荘を寮と呼んだ件にふわっ、どうでもいいや」
「寝る前にお風呂入りたい、お風呂。色々と、お話も聞きたいし」
「セックスフレンドの件は聞いてたけど、まさか夕映ちゃんに手を出すとは思わなかった」

 途中で台詞を投げ出した長谷川は良いとして。
 美砂やアキラの台詞に、数人がビクリと体を震わせていた。
 もちろん、名指しされた綾瀬は当然として、事の発端となった超、雪広、長谷川である。
 特に後者の三人は、初日のパレードでむつきをひん剥いて怒られたばかりであった。
 ちなみにむつきも人事ではないので、肩を竦めたりしていた。

「あっ、私は超包子が」
「超さん、今日は早めに店仕舞いしますので。軽く摘めるものを包むので手伝ってください」
「はい、すみませんヨ」
「麻帆良最強の馬鹿を抑えられるって、やっぱり四葉凄いな」

 むつきの賛美にそれ程でもと、微笑んで超の首根っこを掴んで厨房の奥へと連れて行く。
 極々自然に、ひかげ荘やその他の件を知っていると暴露されたが。
 超包子のメンバーであるなら、割と知られているのかもしれない。
 超や葉加瀬、四葉の三人と来れば後は古と絡繰の二名がどうなのか。

「葉加瀬、他の二人は知ってるのか?」
「茶々丸は知ってますよ、あとその主のエヴァンジェリンさんも。古さんはこういった手合いの話は苦手そうなので教えていません」
「半分ほっとして、もう半分なに? マグダウェルはどっから出てきたの?」

 聞かなきゃ良かったと、ビックリ情報に頭を痛めるむつきであった。









 絡繰はマグダウェルのお世話があるからと帰宅し、四葉を伴ないひかげ荘にやってきた。
 高畑には、待っている間に全員撃沈したと電話で連絡を入れておいた。
 知り合いの経営するホテルが近いので、全員そちらに運んだとも。
 さすがの体力自慢も電話の向こうで眠たげで、むしろほっとしたようでもあった。
 眠いと童心に返る神楽坂の世話に少し手をやいたのかもしれない。
 そんな事を思いつつ、むつきは色々と用意に時間がかかる女性人を置いて一足先に露天風呂へ。
 まだ誰もいないので浴衣は小脇に抱え、手早く頭と体を洗ってマナーに従う。
 自分の管理物件なので何をしようが自由だが、嫁や恋人以外の女子生徒がいるのである。
 昼間に綾瀬相手に酷使した股間は優しく念入りに手洗いし、早速と湯船に。
 肩までしっかりと湯船に浸かり、湯煙を吸い込んでは思い切り吐き出した。

「あー、あぁー……癒される。けど、たまんね。そういや、姉ちゃんから連絡ないけど、また迷ってんのか。まさか埼玉についてすらないとか、ないよな?」

 あれだけ期待させておいて、瀬流彦に掠りもしなければ大惨事である。
 瀬流彦の疲れたハートにも、その後が怖いむつきとしても。
 一度連絡してみるかと、携帯をとりに脱衣所に向かおうとするとカラカラと出入り口の引き戸が開けられた。
 少し遅かったようで、明日の朝一にでもと思い直し、外に置いておいた浴衣へと手を伸ばす。

「おーい、ちょっと浴衣を着る時間をく」
「何言ってんのさ、乙姫先生。露天風呂に浴衣なんて邪道、邪道。先生がこんな物件持ってたなんて最近大人しくしてたかいがあったね、こりゃ」
「あっ、朝倉!」

 後頭部でパイナップルの葉のように纏め上げた髪はそのままに、二枚のタオルで胸と腰を隠していた。
 豊かな胸の上では首から提げたデジタルカメラがぷよぷよと浮いている。
 あの朝倉が、ばれてはいけない人間筆頭の彼女が何故かそこにいた。

「ちょっと、今聞き捨てならない人間の名前。うわちゃぁ、本当にいるし」
「えっと、ここは先生の知り合いの旅館で。あの……私達、眠くて動けなくて」
「学校からでも一駅ある距離を皆で移動して?」
「弁解の余地なしです」

 半脱ぎの美砂が顔に手をあて、アキラが説明しようとするも見事な反論だ。
 綾瀬もこれはきついとばかりに匙を投げてしまっている。
 後から続々と雪広や長谷川達が現れるが、その反応は似たようなものであった。
 青天の霹靂、まさか朝倉に尾行されてひかげ荘がばれてしまうとは。
 もはやむつきと美砂、アキラあとおまけで綾瀬との関係すらばれていると考えるべき状況だ。

「皆さん、慌てても状況は変わりません。落ち着いて、この素晴らしい露天風呂を堪能してから考えましょう」
「五月の言う通りネ。いざとなったら」
「この記憶消去君の出番ですね。凄いですよこれは、記憶操作の概念を根本から覆す装置です。何しろ、物理的に脳を破壊してしまうのですから。機密保持に持ってこいです!」
「それ、死人に口なしって昔からの考えじゃねーか」

 長谷川の突っ込みに、さすがの朝倉も殺されちゃうのと及び腰である。
 ただまあ、そんな事をむつきが許すわけもなく。
 こよなくひかげ荘を愛する面々が、殺人現場になる事は避けようと一先ず落ち着く事にした。

「でも、委員長と長谷川。それから超は外で正座ね」
「くそ、覚えてやがったか。朝倉の登場で有耶無耶になるかと期待したのに」
「私、最近怒られてばかりネ。でもちょと嬉しかたり。知らなかたネ、実は自分がM気質だたなんて」
「特別扱いに辟易していただけですわ。私と超さんではレベルが違いますが、それでも先達として、そう断言します」

 美砂の命により、三人はぶつくさ言いながらも脱衣所で浴衣に着替え正座を始めた。
 その前に岩場にお湯を流して暖めたのは、アキラの最後の思いやりか。
 一人、また一人と浴衣に着替えてきては、軽く髪と体を洗ってお湯に入ってきた。
 美砂とアキラは、もはや定位置と化したむつきの両脇でそっと体を預ける。
 昼間に精液まみれにされた綾瀬が少し体を洗うのに手間取っており、和泉が手伝っていた。
 少々遅れて、四葉と葉加瀬が超包子の余った甘味とジュースを大きな桶に入れて持ってきた。
 桶はすぐさま湯船に浮かべられ、二人もまた体を洗いに行った。

「えっと、私凄く浮いてない?」
「良いから、一先ず体を洗ってこい。うちの風呂スタイルにケチつける前に、マナーだぞ」
「はーい」

 結局長谷川達を除く全員が湯船に浸かったのが五分後。
 正座を解禁された長谷川達がそれから体を洗い、結局十五分近く揃うのに時間がかかった。
 全員でほっと息をつき、四葉の差し入れである甘味とジュースで喉を潤す。
 むつきにだけは寝酒用にと温めの熱燗が用意されており、折角だからお呼ばれしておいた。

「で、話題が二つあるわけだが」
「処理し易い、朝倉からで良いんじゃない。何時から、何処まで?」

 一先ず、話せば分かる時点で早乙女よりは楽なはずの朝倉の攻略に取り掛かる。
 むつきが軽く話題を振って、美砂がそれに続いて尋ねて見た。

「大河内が溺れた事件の少し後かな。急にクラス内での友人関係に変動が見えて。特に委員長とちうっち。他に和泉と綾瀬とか、接点薄かったのに良く喋るようになって」
「それも知ってんのかよ。舐めてた、麻帆良のパパラッチを舐めてたよ」
「ネットアイドルちうを知ったのは最近だけど。あれだけ衣装作りに造詣が深けりゃ、以前に何か趣味でしてたなって」

 長谷川の言う通り、小さなヒントを幾つも集め、辿り着いたようだ。
 そしてむつきの前に現れた時の、最近大人しくしてたかいという言葉。
 真実をその目にする為にあえて知らない振りをして、隙が大きくなる麻帆良祭を待ったと。
 恐らくはこのひかげ荘が最後の詰めで、それ以外はあらかた知っているのだろう。
 むつきが二人の肩を抱いていても、何も言わないのが良い証拠だ。

「当たり前だが、秘密にして欲しいわけだが。要望は?」
「先生、話が早い。ぱっと見てきたけど、皆それぞれ部屋を分けられたみたいだし。専用の現像室が欲しいかな。デジカメはお手軽だけど、素人感が抜けなくて」
「現像室か、なら余り人が立ち入らない方が良いよな。長谷川、三階って部屋余ってるか?」
「いくら私でも全部使い切れねえよ。衣裳部屋も半分は皆の衣装だし。一番奥なら日の当たりも悪いし、逆に良いんじゃねえ?」

 その程度なら安いものだと、とんとん拍子で決まっていく。
 これには申し出た朝倉の方がマジでと聞きたそうにしているぐらいだ。
 そこへなんとも申し訳無さそうに、四葉が手を挙げて珍しくもお願いしてきた。

「あの、乙姫先生。お部屋が貰えるのなら、食堂をお預かりしたいのですが」
「じゃあ、四葉は食堂と二階の一部屋な」
「気前よ過ぎでしょ、先生ってなに。玉の輿、ってだけじゃないの?」
「別に玉の輿じゃねえよ。厳密には爺さんの所有物だし。俺はただの管理人。でも貰えるなら他の遺産相続権全部放棄して、ここだけ欲しいって最近思うようになった」

 世界中を女の尻を追いかけているファンキー爺さんだけあって資産は相当なものだ。
 ただし、その資産も実家の沖縄のみならず、何故かそこかしこの土地にばらばらにある。
 全部相続しようとしたら忙しくて、教師をするどころではない。
 ここだと決めて、こうこうこういう理由でと頭を下げるのが一番だろう。
 孫の中でも気に入られている方なので、渋られはしないと思う。
 ちなみに一番気に入られているのが、件の姉ちゃんである。
 何しろ一度は浦島家と縁続きになりかけたので、爺さんは無茶苦茶応援していた。

「朝倉も秘密は守ってくれるようだし、最悪葉加瀬のアレで頭吹き飛ばすとして」
「この買い物、安かったのか高かったのか」

 何時でも準備万端と葉加瀬と超が装置を見せて、朝倉をびびらせていた。
 案外、この二人は抑止力として働くのかもしれない。

「あや、夕映こっちにおいで」
「えっ、名前……はいです」

 これ以上先延ばしにする事でもないと、和泉のそばで隠れるようにしていた夕映を呼んだ。
 一時、迷いを見せたようだが、お湯の中を歩いてきた。
 両側に美砂とアキラがいる為、それならここと開いた足の間に座らせる。
 ちょこんと小さなお人形さんのような体のお腹に腕を回して抱き寄せた。

「最重要案件、厳密には違うが夕映に手を出してしまいました」
「ですが、あれは超さん達の悪ふざけのせいでも」
「後悔はしていません。俺はあの時、夕映を綺麗で可愛いと思った。子供を生んで欲しいと思った。だから後悔はしない。むしろ幸せにする」
「ひゅー、言うようになったね先生。大河内の時とは雲泥の差じゃね」

 茶化した長谷川は美砂に睨まれ、大人しくすみませんと呟いていた。

「その節は申し訳ありませんでした。つい調子に乗ってしまい」
「以後、一服盛らないと誓うネ。ちゃんと先生の体質に合わせた漢方を無料で進呈もするヨ」
「ごめん、何度も話しの腰を折って。全然、ついていけない。手を出したって、なに? 大河内の時って、あれ? 二人共、玉の輿狙いで先生を誘惑してたんじゃ」
「朝倉、もしかして全然知らないんやない? 柿崎が先生のお嫁さんで、アキラがお妾さん。それで今回、夕映ちゃんが加わるのかどうかって」

 今度は逆に朝倉の方が青天の霹靂とばかりに目を丸くしていた。
 どうやらこの場にいるメンバーは、むつきのひかげ荘に関する秘密を知った者だと思っていたらしい。
 確かに教師が生徒に二股、三股をかけるよりは、よっぽど現実的な話である。
 玉の輿という言葉が示すとおり、失礼ではあるが美砂とアキラが誘惑してると考えてもおかしくはない。
 そんなんじゃないと、少々二人から厳しい目で見られていたが。

「玉の輿ついでに、部屋貰えてラッキーってレベルじゃない。なにこれ、ここなんなの?」
「乙姫先生管理の私らの竜宮城だよ。世間から隔絶された本当の自分を見つける場所。ちなみに、今日気付いたが先生のセックスフレンドの溜まり場でもある」
「そう言えば、四葉は平気カ? 普通の女子中学生の精神をしていたら、乙姫先生は乙女の敵にも等しいネ」
「思うところはもちろんあります。ただ、恋愛は他人が口を出すべき事でもありません。相談されたら誠心誠意を込めて答える。それで良いと思います」

 やはり普通の精神どころか、四葉は色々と女子中学生を超越していた。
 超のみならず、皆も後光がとばかりに四葉を見ては目を細めている。
 確かに、ただでさえ複雑な状況なので、他人がとやかく言えば拗れるのは目に見えていた。
 特に今回、超を筆頭に余計な事をして二股が三股に増える結果となったのだ。

「それで、先生は気持ちを口にしたけど夕映ちゃんはどうなん? 一番大事なのはそこやと思うやんね」
「誰もセックスフレンドに突っ込まない件について。おーい、朝倉?」
「ごめん、今情報の整理中。話しかけないで欲しい」

 どうやら理解の範疇を超えて、脳味噌がフリーズしかけているらしい。
 目を瞑り耳を両手で塞いで、見ていなければそのまま湯船に沈み込みそうで怖かった。
 現在、全員が夕映の答え待ちなので、むつきは視線で四葉に頼むとお願いしておいた。
 当人もお任せくださいと軽く頭をさげ、朝倉が沈まないように支え始める。

「わ、私は……」

 チラリとまず夕映が美砂を見て、次にアキラを見た。
 二人共見られて小首を傾げて怒っているわけではない。
 夕映自身、二人を恐れたり怒ったりしていないか確認したわけではなかった。

「正直、今でも乙姫先生をどう思っているかわからないです。美砂さんやアキラさんのように先生との劇的な恋に落ちる出会いがあったわけでもなく。ひかげ荘メンバーとしても日が浅いですし」

 もちろん、恋や愛情に時間などあってないようなものである。
 ただしやはり常に論理的思考を心がけている夕映にとってはそう思えないのだろう。
 皆も夕映の気持ちの整理を妨げないよう、紡がれる言葉を待っていた。
 焦らせず素直な気持ちを言葉にしやすいように。

「でもこうして腕をお腹に回され抱きしめられるると、ぽかぽかするです。生前のお爺様やのどかといる時とはまた別種の不思議な気持ち」

 おっかなびっくり、夕映はゆっくりと体重をむつきに預け始める。
 そしてお腹に回された腕に捕まるように手を触れもさせた。

「もし、この感情を探し認める事が許されるのなら。きちんとした形になるまで、先生には待って欲しいです。本番も、それまでお預けになってしまいますが。なにとぞ」
「何時までも待つよ。ああ、爺さんの気持ちが今なら良く理解できる。夕映が考えてくれるなら、何年でも何十年でもきっと待てる」
「そこまで時間は、適齢期などもありますし。だから、あの。少しだけ、今の気持ちを形にするです。私の、ファ。ファーストキスです」

 少しだけ体を捻り、夕映が必死に目を瞑って唇を突き出してくる。
 もはや半分は答えが出ているようなものだが。
 震える夕映の顎に手を振れ固定し、むつきは静かに唇を触れさせた。
 唇を触れさせるだけの幼いキスだが、夕映らしくて悪くない。
 誰が始めたのか拍手の音に押されるように唇を離し、薄目を開けた夕映のおでこにもう一度だけキスを落とした。

「きょ、今日はここまでです。失礼するです」

 そしてもう我慢出来ないとばかりに、むつきの腕の中から逃げ出した。
 ばしゃばしゃと湯船をけるようにして、和泉のそばで鼻先まで湯船に沈み込んだ。
 恥ずかしそうにむつきを見て目が合っては、今度は目元近くまで沈む。
 あまり見つめると、頭まで沈み込みそうなので目を放した。

「そう言うわけだ、美砂もアキラもすまん」
「アキラがいて、今さらだし。セックスフレンド勧めたの私だから。それで恋人の夕映ちゃん連れてきたのは予想外だったけどね」
「私も、文句言える立場じゃないし。夕映ちゃんと先生がソレで良ければ」
「駄目、全然理解できない。お湯熱い、もうなんで皆浴衣なんか着てるの。本当に熱い」

 少し逆上せたのか、ついに思考が破綻して朝倉が妙な事を口走り始めた。
 今や四人となった三股が理解できないのか、浴衣姿で露天風呂に入るのが理解できないのか。
 前者だと分かってはいるのだが、朝倉も一杯一杯のようだ。
 一番意外と言わざるを得ないが、むしろそんな朝倉の反応が正常なのである。
 いや、もっと言うなら泣き喚くようにして逃げ出すのが、一番正常か。

「怒らないで聞いて欲しいが。やっぱり賭けは超の一人勝ちだな。私ら、自覚なかったけど先生のセックスフレンドで間違いない」
「不本意ながら、自分のここにいる意味までは見失いませんが」
「自覚が出てきたところで、賭金を払って貰うネ。大丈夫、超包子の利益と同じ額を出せなんて無茶は言わないネ」
「長谷川、お前絶対に以後金銭が絡む賭けはするなよ。身を滅ぼすぞ」

 むつきに言われるまでもなく、身に染みたよと力なく手を振られた。

「個人的には、皆ももっと乙姫先生と親密になって欲しいネ。手始めに、この露天風呂では浴衣の着用禁止、水着もネ。それが私から提案する賭け金ヨ」
「えー、それって私もなん?」
「例外は認めないネ。恨むなら、無謀な賭けをした長谷川さんと委員長さんを恨むヨロシ」
「けどそれ、俺だけが得してね? 眼福だし、実は毎度浴衣を洗濯するの大変だったけど。好きに入って良いとは言ったけど、お前ら毎回浴衣着て入ってたし」

 和泉の文句も、超の言葉でばっさりである。
 むつきの俺だけがという台詞も、後半の洗濯が大変という言葉でフォローにもならない。
 むしろ、迷惑かけてたかと和泉でさえ、浴衣の襟元を捲って考え込んでいた。

「ちらっと、その辺聞いたけど。超りんは先生をどうしたいの?」
「少しぐらいなら良いけど、ハーレムとかそういうのはちょっと」
「そうネ、言っても信じて貰えるかどうか。半年後、とある世界で超有名人の息子がこの麻帆良学園都市に教師としてやって来るネ」
「聞くからにコネを使いまくる典型的駄目二代目っぽく聞こえるな」

 美砂やアキラに言われ、超が口を割ったが話半分である。
 長谷川も本気にはしておらず、半年後って中途半端だと話の構成が甘いと指摘していた。

「素直で良い子ヨ。本当に素直過ぎて、私の祖先ながらちょっとアレネ。私の目的はセワシ君の逆バージョン。祖先から幸運をほんの少し削り取り、未来を修正するネ」
「おい、葉加瀬。妄言翻訳機って発明ないか?」
「超さんに通用する機械を発明出切るぐらいなら一人で研究した方がはかどります」

 つまりは、そんな物体は存在しないという事だ。

「ああ、信じてないネ。何を隠そう、この超鈴音。中国人留学生とは仮の姿。未来の火星からやって来た火星人ネ!」
「うぅ、先生の前で素っ裸になるやなんて。お風呂だから当たり前だけど」
「私らとしては、先生に密着できて嬉しい掛け金だけどね。むしろ、もっとこの日々磨きをかけた珠のお肌を見て欲しい?」
「うん、先生とセックスするようになってから色々と成長が。背だけは、これ以上大きくなってほしくはないけど」

 もはや麻帆良最強の馬鹿の台詞は誰も聞いてなどいなかった。
 美砂やアキラは率先して浴衣を脱ぎ捨て、むつきの腕にそれぞれ豊かな胸を押し付けた。
 一番恥ずかしがっているのは和泉で大事な部分を必死に腕で隠している。
 朝倉は恥ずかしい以前に抵抗激しく、雪広や長谷川に両腕を押さえ込まれ脱がされていた。

「ああ、全然聞いてないネ!」
「火星とか未来とか、どうでも良いし。ここは竜宮城だ、時止まってんだよ」
「ほほほ、夢のあるお話ではありますが。生まれたままの姿を男性に晒すほうが一大事ですわ。郷に入っては郷に従え、ですわ朝倉さん」
「ちょ、やばいって。脱がすな、助け。見えちゃうって、全部大事なところが」

 抵抗むなしく、胸と腰に巻かれたタオルは瞬く間に奪われてしまっていた。
 即座にお湯に沈んだ朝倉だが、さすがにそれ以上の追い討ちは長谷川も雪広もしない。
 怒られたばかりだという事もあるし、その羞恥心が分からなくもないからだ。
 それから先に脱いでいた四葉や葉加瀬に追いつくように、帯を解いて浴衣をはだけた。
 浴衣から元はお湯の水しぶきを上げながら、長い髪が夜空と湯気の間を舞う。
 二人共髪が長いのに纏めていないので、それはもう綺麗な光景である。

「寂しいから私も脱ぐネ。あれ、夕映サンは脱がないカ?」
「いえ、もちろん歩調は合わせるです。ただ、あの恥ずかしいので先生にはその他を見ていて欲しくあるです。既に全部さらしたので今さらなのですが」
「ちょっと美砂とアキラ、悪い」

 夕映がそうお願いしたが、逆効果だったのかもしれない。
 二人に断りを入れてから立ち上がったむつきが、夕映の前まで歩いてきた。
 そして夕映の帯を解き、咄嗟に襟元を締めた夕映の手に自分の手を重ねる。

「夕映を脱がしたい、良い?」
「本当に意地悪です。断れるとでも? あまり意地悪すると嫌いになるです」
「好きな子を苛めたいのは、もはや男の本能だ」

 だからごめんと額にキスすると同時に、浴衣の襟元へと手を滑り込ませた。
 キュッと恥ずかしさを我慢するように体を縮めた夕映の体の上をなぞる。
 襟元の内側から外側へ、花開かせるように浴衣を開き幼さが大半を占める体を正面にて出向かえた。
 昼間見たときと変わらない、凹凸の少ない小さな体だ。
 そしてその体を見ての感想も、全く揺るぎはしなかった。

「綺麗だ、とても。可愛くて綺麗」
「ぽかぽかどころか、ほかほかするです。まともに先生のお顔を、しばらく何も見せないで欲しいです」

 何も見たくも聞きたくもないからと抱きついてきた夕映を抱きしめる。
 お互いに素っ裸のままで、皆に見守られるようにみながら抱きあっていた。









-後書き-
ども、えなりんです。

さらっと、朝倉登場。
さらっと、超が重大な秘密を暴露。
前者は兎も角、後者はそのうちに理由が出てきます。
もっとも、あっさりスルーされましたけどねw

乙女にとって、妄言より男に肌を晒す方が重大なのです。
着々と、皆がむつきのセックスフレンドに昇華中。
温泉話はもう一話続きます。
あと、久々にエヴァが話題に上がりました。
今の所、本当に影が薄いですね。

それでは次回は水曜日です。
GW特別投稿するはずが、そんな事はなかったぜ。



[36639] 第三十四話 実は先生意外とポイント高いんや
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/05/08 21:20

第三十四話 実は先生意外とポイント高いんや

 全員が生まれたままの姿で、開放的にひかげ荘の露天風呂を楽しんでいた。
 最初は恥ずかしがっていた和泉や朝倉も、時間差はあれ慣れ始める。
 唯一の男であるむつきが、思ったよりもじろじろ見る事も無く、自然体だったからだ。
 極々自然に、両隣の美砂やアキラ、結局胡坐の上に戻ってきた夕映とイチャイチャしている。
 それがむつきの自然体であった。
 他の面々も湯当たりしないよう、時々は湯船を出て岩場に腰を落ち着け夜風で体を冷ましたり。
 四葉が持ち込んだ甘味に舌鼓を打っては、温いが甘いジュースで水分を。
 皆が思い思いに楽しんでは、お喋りに花を咲かせていた。
 主な話題は自分を未来の火星人だと言い張る超の、妄言についてであった。

「だから、数百年後には人類は生存地を火星にまで広げたは良いが。日本のアニメは良くできてるネ。スペースノイドとアースノイドの戦争が激化したネ」
「まんま、ガンダムじゃねえか。さすが麻帆良最強の馬鹿も、ストーリーテラーの才能まではなかったわけか」
「厳密には戦争の理由は違うけどネ。他に聞きたいことは?」
「ほなら、私。その野菜みたいな名前の誰君だっけ。十歳の子供って聞いたけど、どうやってそんな子供が戦争の引き金を?」

 超自身、信じて貰うつもりがあまりないのか、もはや設定が凄かった。
 十歳の子供が教師として赴任してくるだけならまだしも。
 その子のおかげで世界が引っくり返って、数百年後にまで響く戦争の始まりだと。
 既にむつきも美砂やアキラ、時々夕映といちゃつくのに忙しくて聞いていない。

「その子は言わばニュータイプ、違うネ。どちらかと言うと最高のコーディネイター、こっちが合ってるヨ。誰よりも賢く、誰よりも強く。そんな人類の夢の塊ネ」
「アフターコロニーから飛んでシードかよ、本当に才能ねえな、この野郎」
「てか、それ超りんの事やん。誰よりも賢く、誰よりも強く。古ちゃん程じゃないにしても」
「だから私の祖先、言うたネ。そろそろ私も喋っていて、妄言の気がしてきたヨ」

 もはや酔っているのかと尋ねられるレベルの会話であった。
 この場にはむつき用のお酒が用意されてはいたが、ちゃんと見張りがいた。
 むつき本人と用意をした四葉である。
 間違えて飲まぬよう、間違えた振りをして飲まぬようにしっかりと。
 二日酔いにでもなられたら、折角早くこの二日目の夜を終わらせた意味がない。

「超りんも長谷川、亜子もさ。そろそろその詰まんない会話、止めない? もう、わけが分からなさ過ぎて頭が痛い。実際、超りんちょっとイタイよ」
「SF交じりで俺は楽しいが、割と男向けのヒーローものだったな。スーパーサイヤ人とか、当時は熱狂したよな。かめはめ波の練習はもはや必須だった」
「女の子にはちょっと、難しいかな」
「のどか辺りは、そういうライト向けの小説も読むのでそうとは限りませんよ」

 本当の事なのにと超は最後まで抵抗を見せていたが。
 美砂のようにブーイング交じりで言われては、止めざるを得ない。
 最も、元々そこまで拘って理解させつるつもりもなかった事もある。
 だったら次の話題はと皆が楽しそうな話題を探す中で一石を投じる者がいた。
 長い時間を掛けて、情報を整理してようやくこの度再起動を果たした朝倉であった。
 まだ口元が引きつって本調子では無さそうだが、何時もの悪そうな笑みを浮かべる。

「ふっふ、ようやく理解が追いついた。先生は玉の輿で、それを狙う乙女達」
「朝倉、いい加減怒るよ」
「あっ、すみません。ごめんなさい。まだ混乱してた。でも、柿崎と大河内、それで綾瀬以外はセックスフレンドって具体的にどこまでオッケーなの?」

 むつきでさえ玉がキュッとなりそうな美砂の凄みに、速攻朝倉が謝っていた。
 いっけねっと舌を出して頭をこつんと叩き、皆をイラッとさせながら。
 改めて、とんでもない爆弾を放り込んできやがった。
 全然、混乱を抜け出しておらず、むしろ突き抜けてさえいた。

「私はそういった事はまだ早いので、スタミナのつくお料理を作ってあげるぐらいです」
「私も、先生が科学の発展の礎になる程であれば、体を差し出す事もやぶさかではありませんが。先生、文系ですから」
「おお、四葉は割りと普通の。葉加瀬もらしいっちゃー、らしい答えだ」

 一応微分積分ぐらいならとむつきが主張してみたものの、葉加瀬に鼻で笑われた。
 できて当然とばかりの態度だが、実際テストでもされたら危ういだろう。
 超の陰に隠れがちで知名度は今一つだが、葉加瀬も十分に天才の範疇なのだ。
 その苗字で呼ばれる事が当然のように似合う稀有な存在ですらあった。

「それ、私もちょっと気になるな。今後、誰が先生のお手つきになる可能性があるか」
「既に、俺が誰かに手を出す事が前提の件について」
「胸に手を置いてみたら、たぶん納得できる」
「先生の気持ちを受け入れてしまった手前、何もいえないです」

 右腕に美砂、左腕にアキラ、正面の膝の上に夕映ともう場所がない。
 ないはずなのだが胸に手を置いてみると、絶対なんて口にできやしなかった。
 発育の良い美砂やアキラから、こじんまりとした夕映まで。
 より取り見取りの状態でありながら、視線は色々と泳いでしまう。
 たゆたう温泉の湯の中で、肌色の素肌を晒す雪広達へとだ。
 本当に罪深いと思い知らされるが、本能とは良くできていて抗えなかった。

「以前なら自信満々に、ふざけんなばーかって言えたけど。綾瀬のアレを見ちまうとな。拝み倒しって卑怯じゃね? あれだけ必死に頼み込まれると、断るのが悪いって勘違いさせられる」
「長谷川さん、まるで見てきたように」
「いえ、実際に見てました。超さんの光学迷彩を着ていましたから。盗聴器がなくとも、隣の個室の上から色々と覗いて。もちろん、いざとなったらお助けするつもりでは」
「靴下や下着プレイはまだしも、最後の夕映さんが先生の精液まみれ。余りの光景に三人とも固まて、いざとなったらアレ、役立たずだたネ」

 そもそもにして、夕映が誰か来たと引き返してきた足音は彼女達のものだ。
 この人達はと、普段の自分を棚に上げて夕映が立ち上がって掴みかかろうとする。
 もちろん、それはむつきが腰に抱きつき抱き寄せて止めたが。
 ただしまだ頭は冷えないようなので、首筋にキスをして無理矢理止めた。

「先生、キスは卑怯です」
「逐一こいつらの行動に腹を立てても仕方がないぞ。既に罰は与えた後だし、また今度な」
「先生、今日は夕映ちゃんに構いすぎ。ちゃんと私達にもキス」
「時々は隣にも目を向けて欲しい」

 可愛いおねだりをされ、忘れてないよと美砂にアキラにとキスをする。
 唇同士の恋人のキスに夕映の目は釘付け。
 一応するかと聞いてみたら、思い切り首を横に振られてしまった。

「飽きねえな、先生達も。そうだな、まあ拝み倒されたら胸ぐらいなら触らせてやらなくもねえな。サービスで乳首摘むぐらいも?」
「私は、えっと。手を繋いだり、腕を組んで少し胸を触れさせるぐらいなら。あとは頬にキスぐらいなら、普段パーティなどで親しい方にはされますし」
「んーっ、答えなきゃいけない流れやん。私は、そうやな。セックスは無理やけど、クンニとか膜が無事なら手でされるぐらい。もちろん、気持ち良くしてくれたらやけど」
「私は条件次第でセックスぐらいオッケー。それぐらい、先生の運命を捻じ曲げた自責の念はあるヨ。乙女として、一度ぐらいは愛されてもみたいしネ」

 性に興味のある中学生らしい長谷川や雪広はまだしも、境界線が段々とおかしくなっていた。
 麻帆良最強の馬鹿はともかく、問題は和泉だ。
 普段から良い男がと言っていたが、まさかそこまで飢えていたとは。
 親友であるアキラの方が、爆弾発言に恥ずかしくなったようにむつきの陰に隠れている。

「ちょっと待て、和泉お前おかしい。麻帆良最強の馬鹿は置いておいても。お前ソレ」
「そうですわ、おセックスしているのと代わりありませんわ。いえ、セックスフレンドですからそうなのかもしれませんが。それにしても!」
「そうかな。最近気付いたんやけど、先生ちょっとええ?」

 長谷川や雪広の突っ込みも良く届いていなさそうだ。
 少し考え込むようにした和泉が、むつきを呼んでからお湯の中でくるりと回った。
 さすがに胸と大事な部分は手で隠しつつ、背中を向けたまま立ち上がる。
 その意味は、誰しもが即座に悟っていた。
 和泉が背中を向けた意味、そのままむつきに見せるように立った意味。
 温泉のお湯で濡れた白い肌には似合わぬ、背中を裂く様に大きく残る傷跡だ。

「先生、これを見てどう思う? 正直にええよ」
「傷跡があるな。可愛い和泉にはちょっと不釣合いな。けど、傷跡って皮が薄いからピンク色に火照って、ちょっと色気ある」
「色気は予想外やけど、うん。先生らしい」

 満足したように、微笑んで和泉は嬉しそうにお湯にまた沈んでいった。

「前に言ったけど、もう傷の事はええねん。これを受け入れてくれる人が、私の好みやから。だから、実は先生意外とポイント高いんや。ごめんな、アキラ」
「ううん、良いも悪いもない。私だって、先生に横恋慕中だし」
「正妻たる私が許す。どんどん先生を好きになりなさい。それだけ、私の見る目があったって証明だし。今日みたいなあまり疲れたくない日は、人数多い方が良いし?」
「あの、先生が私のお尻の下で大きく。い、入れては嫌ですよ?」

 美砂がむつきの肩に顔を寄せながら、一物を握って軽く扱いてきた。
 お湯の中なので更に軽くなった夕映が持ち上げられる程だ。
 弁明の余地はなく、和泉に背中を見せられたのが本当に色気付いていた。
 綺麗だと思って夕映に手を出したばかりなのに、反応してしまった。

「へへ、ちょっと嬉しいかも」

 お湯の揺らぎで和泉からは見えないが、アキラからも頷かれ照れていた。

「なら、早速準備するネ」

 和泉とむつきがお互い照れくさそうに笑う中、何やらまた超が妄言を言い始めた。
 いや妄言ではなく実際、岩場をあがり湯の外に出ると床の上にお湯を流し暖める。
 咄嗟にまた正座かと長谷川と雪広は思ったが、もちろん違う。
 だいたい、正座は超も一緒だったので自分で準備するはずがない。
 M気質だったと昼間に言っていたので、そう言った意味では油断ならないが。
 これならと温まった床を手で触った超が、手招きをした。
 相手は和泉、長谷川、雪広の三名であった。

「セックスフレンドならセックスフレンドらしく。愛や恋は一先ず置いて、先生に気持ち良くして貰うネ。よろしいカ、柿崎さん」
「今日激しくされると、明日に響くしむしろお願い。アキラも夕映ちゃんも良いよね?」
「うん、高畑先生も言ってたけど。二年の麻帆良祭は明日が最後だから。先生も大事だけど、皆との思い出も大事」
「私は元より、昼間が色々と激しかったのでこれ以上は」

 夕映は許可というより辞退だったが、問題ないらしい。
 なにこの都合の良すぎる嫁や彼女、あと未定はとむつきの方が若干呆れた。
 元々、彼女達が異常に性に興味を持ってしまったのはむつきのせいだが。
 それにしても限度というものはある。
 あるのだが、和泉が率先してお尻をむけて岩場の向こうの床で四つん這いになっているのを見て、元気になってしまったので何も言えない。
 超に指示されながら、白く小さいお尻をふりふり大事なところも丸見えだ。
 これでその和泉以外誰もいなければ、即座にお湯を蹴るように駆け寄って後ろから押し倒している。

「長谷川サンと委員長サンは如何するネ。和泉サンがクンニの都合上、真ん中は譲れないネ。手でして貰うなら仰向け、胸なら先生の隣ヨ」
「はあ、竜宮城で綺麗でいようってのがそもそも間違いか。分かったよ、手マン希望」
「ストレス解消も私の目的の一部ですし、ですが大事な部分を見せるのは。先生のお隣でお願いします。ところで、超さんはいかがなさいますの?」
「女の子が四人もいて、気持ち良くして貰うだけでは可哀想ネ。おしゃぶり希望ヨ」

 結局、露天風呂の岩場の向こうで和泉が赤い顔を隠しながらお尻を向けて四つん這いに。
 長谷川は和泉の隣だが、岩場の腕に腰を下ろして自分で花園の谷間を開いた。
 超はその足元、直線状では和泉の真下でお湯に肩まで浸かっている。
 花びら大回転だなと思いつつ、むつきがお湯の中を歩き目の前に立った。
 それを見てから、躊躇しながらそっとむつきの左手側から雪広が寄り添う。
 和泉はクンニ、長谷川は手マン、超はフェラ、雪広は胸やその他を揉まれる形だ。
 花びら大回転どころか、花吹雪が湯煙舞い上がりそうである。

「壮観って、こういう時に使うんだろうな」
「先生恥ずかしいから、はよう。お尻だけは見んといて」
「やべ、広げてるだけで濡れて来た。馬鹿みてえ、けどぞくぞくする」
「失礼しますわ、先生。ああ、男の方の肩幅の大きなこと」
「ふふ、先生ガチガチに勃起してるネ。お湯は汚さないよう、私が全部受け止めるヨ」

 ではお言葉に甘えてと、むつきは花吹雪の中へと突入する覚悟を決めた。

「あんなに可愛い女の子を何人もはべらせて。私達の彼氏って凄い」
「そうなのかな。嫉妬がわきにくくなってる自分がちょっと不安。夕映ちゃん、大丈夫?」
「し、しっかり見るです。好きになれるかも知れない男性の姿をこの目で」

 色々と間違っている応援を背に受け、むつきはまず左手で雪広を抱き寄せた。
 その細い腰に腕を巻きつかせるように、少し左を向けたちょっと驚いた雪広の表情が良く見える。
 やがて抱き寄せられた事に、むつきと裸で密着する事に赤面していく。
 そんな顔を見られないよう、そっぽを向きながらむつきの方に頬を寄せていた。
 恥ずかしがりやな雪広を抱き寄せつつ一歩踏み出し、和泉の腰を無造作に掴み引く。
 お尻しか殆ど目に入っていないが、その時に超が一物に触れたのが分かった。
 手の平で玉袋を転がしながら、亀頭部分に唇でキスをされる。
 最近は馬鹿、馬鹿と呼んでいるが麻帆良最強の頭脳が、普通の少女のようにフェラをしてくれていた。
 人類を遥かに超えた頭脳で、原始人のように一生懸命一心に。
 世界で一番、恵まれた男かもと思いつつ、待ちすぎてふりふり振られていたお尻に顔を埋めた。

「んぅ、恥ずかしい。ぁぅ、舌でこれクンニ」

 超の頭を岩場にぶつけないよう注意しながら、前屈みに首を伸ばしてさらに舌を伸ばす。
 小ぶりなお尻の奥、実はしっかり見えているお尻の穴よりももっと下。
 まだ未使用な為にぴったりと閉じた割れ目に、まずは挨拶のキスである。
 最初に感じたのは、唇に触れた感触よりも未通の乙女の匂いだった。
 ピクンと和泉のお尻が震えるのを確認しつつ、舌で上に下に割れ目を舐め上げる。
 舌が一ミリでも動けば、それ以上にお尻を振るわせる和泉がとても可愛く思えてきた。

「先生、ほら右手。膜はマジで破らないでくれよな」
「んんぅ」
「やん、先生そんな所で喋らんといて」

 くぐもった声、震動がくすぐったそうに和泉が腰を振った。
 溢れる愛液とお尻を濡らす温泉で顔を濡らしつつ、長谷川の案内に従い右手を伸ばす。
 目の前は和泉の割れ目とお尻しかなく、案内でもなければ辿り着けない
 最初に触れたのは、しっとりと濡れた陰毛。
 肌の上にぴったりと張り付いており、指先でくるくるまくようにしながら弄ぶ。
 そこからはガイドは不要であった。
 つつっと指をおろしていき、長谷川の反応を指先で感じながら秘所を目指した。
 最初に濡れたと漏らしたように、確かに長谷川の秘所の割れ目は潤っている。
 指でそっと分厚い肉を外側に広げると、糸さえ引くのが分かった。

「自分でするのと全然違う。触られただけで、腰が浮く。岩から転げ落ちる」
「あの先生、ご指導を。さすがに何をすれば良いのか」
「感じるままにって奴だ。触りたいところに触れ、キスでもいいぞ」
「はい、失礼します。それと私の胸はここですわ。どうぞ、お好きになさって」

 了解とばかりに、中腰で近付いた雪広の胸を豪快に掴み取った。
 セックス三昧に溺れる前のアキラに匹敵する豊満さである。
 しかも抱き寄せた時の腰の細さから、胸の豊満さのギャップが激しい。
 目の前は和泉の秘所の割れ目しか見えない為、記憶を頼りに雪広の姿を思い出す。
 穏やかで優雅な、本人は嫌がるかもしれないがお嬢様という言葉がぴったりの。
 それこそテレビやお話の中から出てきたような、恐らくはむつきも心のどこかで憧れた存在。
 初めて教師として認めてくれたある意味で特別な、その彼女の体に胸に触れている。

「うぐぅ、けほ。急に大きく。先生も隅におけないネ。先生への好感度は和泉サンが高いけど、先生からの好感度は委員長が独占ネ」
「まさか、そんな。嫌ですわ、超さんもご冗談がお好きで」
「ふふ、男の人の下半身は正直ネ。咥えてると良く分かるヨ」

 まさにその通りなのだが、むつきの口から言えるわけもなく。
 沈黙こそが答えだと知りながら、なにもいえなかった。

「あ、さすがにちょっと嫉妬した。先生、何気に委員長を大事にしてるし」
「クラスの事以外でも相談したり、逆にして貰ったり。この前も、委員長が倒れそうなのを察して休ませて。ずるい、委員長」
「ぽかぽかがむかむかに、嫉妬ですか。人を好きになるとは、良い感情ばかりでもないですね。皆さん、プロポーション良すぎですし」
「だったら、先生に一杯中だしして貰ったら? 女性ホルモン、だっけ。凄い出てるのか胸は大きくなるし、腰は引き締まって愛の力は偉大だって」

 それは生理現象ではという無粋な言葉は、アキラの人差し指で止められていた。

「集中できんから、俺の事はあまり弄るな。仕方ねえだろ。雪広は美砂より先に、先生として認めてくれたんだ。綺麗な深窓の令嬢だし、憧れても良いだろ」
「純な男の気持ちの暴露。一枚激写」
「おい、撮るな。しかもデジカメって、流出したらマジでやばいだろ!」
「露天風呂を出る時には消すから。隠して持ち出しもしない。隠せる穴、いくつかあるけど先生に指で探って貰ってもいいよ?」

 少し場慣れし、普段の朝倉が戻ってきたらしい。
 裸でも首から提げっぱなしのデジカメを手に、笑いながらもう一枚撮っていた。
 しかし朝倉のちゃんと消すという宣言の後は、誰一人として文句は言わなかった。
 特に被写体として痴態を取られている長谷川達でさえだ。
 その理由を一番察していたのは、むつきである。
 和泉のぴったり閉じた割れ目からとろりと甘露が流れ出し、舌の上を流れていく。
 長谷川も第一関節まで挿入した指を、フラッシュを浴びるたびにキュッと締めつける。
 超はフェラや愛撫が巧みで分かり辛いが、左手の雪広もフラッシュを浴びては体を震わせていた。

「おかしな気分に。先生、私の大事な部分にお手を。切なくて立っていられませんわ」
「ちょっと背中に回って、持たれかかれ。圧迫された胸、首筋に掛かる髪と吐息。凄くいやらしいぞ雪広。程良く濡れて、挿入もスムーズだ」
「ぁっ、先生の指が。私の中に、おセックス。指でおセックスを」
「ちょっ、おセックス連呼するな。笑っちまうだろ。でも、気持ち分かる。先生、上手過ぎだろ。小刻みな指の動き、肉壁擦られるとイキそうだ」

 もう我慢できないと、岩場から飛び降りながら長谷川が抱きついてきた。
 雪広のように抱きついては胸をおしつけ、首筋にキスの雨を降らす。
「うふぅ、んぅ……先生は、柿崎サンと出会う前まで結構な額を風俗につぎ込んでたネ。意外に高級取りで金払いも良いから、風俗嬢に大人気。色々と手ほどきうけたせいね」
「思い出した、舞とかいう名の。私と東京の駅で出会った時も、無茶苦茶腹立ってきた」
「風俗、金銭で女性を買うなどと。先生が……でも、柿崎さんと出会う。私と出会う前」
「夕映ちゃん、男の人だもん。先生大人だし、昔の事だから」

 風俗嬢に嫉妬する前に、目の前でセックスフレンドと致すのは良いのか。
 基準が今一分からないが、むつきも少しそれどころではなくなってきていた。
 愛撫するだけでなく、背中から雪広、右手から長谷川がキスをしては体を舐めてくる。
 超も丹念に竿をしゃぶっては手で擦り上げ、技巧と言う点ではピカイチだ。
 さすがに鍛えられた風俗嬢には劣るが、二ヵ月抱いてきた美砂よりは上かもしれない。

「お前ら、一旦外に出ろ。特に雪広と長谷川。倒れられでもしたらフォローしきれん」
「あっ、ちょっと私もありがたい。さすがに膝とか痛いやんね」
「名残惜しいですが、少しでしたら。でも、指はどうかお抜きにならないで」
「無茶、我が侭言うなよ委員長。先生が温泉の湯を汚す前に、私らが汚してる」

 長谷川の言う通り、とろとろと溢れる愛液が温泉の湯に零れ落ちていた。
 オナニーとは違う異性からの愛撫に夢中で雪広は気付いていなかったようだ。
 ハッと我に帰っては、美砂達や四葉達にはしたない所をと平謝りである。
 そんな雪広の細い腰に腕を回して、むつきは岩場の外の床へと連れて行く。
 今一度超が床へと桶でお湯を汲んでは掛け湯をして、左から雪広、和泉、長谷川と川の字に仰向けで寝転がる。

「殿方の前で、今さらですが。はしたないですわ」

 雪広は一間の間に照れが戻り、胸と秘所を隠してやや体を丸めていた。

「委員長、余裕あるね。私、もう腕も足も動かへんから隠せへん」
「早めに寝る話、どこ行ったんだか。私もだるいけど、和泉触るぞ」
「んっ、ちょっとイキそうになってまった」

 ほぼ大の字でマグロ状態の和泉の秘部へと、横向きになりながら長谷川が手を伸ばした。
 むつきに良く見せるように、割れ目を指で開いて見せてくれたのだ。
 そして自分は片膝を立ててどうだとばかりに笑って大事な部分を見せつける。
 照れ、マグロ、意地の笑みと色々と素の性格が出ているのかもしれない。
 そんな三人を前にしてむつきは覆いかぶさるように倒れこんだ。

「先生、顔近い。唇にキスは駄目、大事なところで擦ってええから」
「そっちの方が凄くね? んくっ、はぁぁ……癖になる、この感覚」
「ぁっ、先生の指がまた。くちゅくちゅいやらしい音が、はしたなくて恥ずかしくて気持ちがんぅ」
「可愛いぞ、お前ら。もう直ぐ俺もイキそうだ」

 顔を背けた和泉の首筋に吸い付きながら、濡れそぼった割れ目をこすりあげる。
 といっても体勢が体勢なので、実際に擦らせたのは超だ。
 後ろからむつきに抱きつき、太い腰に腕を回して手コキしつつ亀頭を割れ目にあわせた。
 自然とむつきの腰が動くので、誤って挿入する事だけは避けながら。

「良い被写体、新聞記者も良いけどカメラマンも捨てがたい? 四葉や葉加瀬ももっと近付きなよ。なんだかんだ言って、乙女としては興味あるでしょ?」
「女の子ですから。人並みに恋愛には憧れます。ほら葉加瀬も、一緒に」
「わ、私……今まで大学生がいたりする研究室に平気で着替えとか下着も。怖くなってきてしまいました。実はこっそりオナニーに使われてないかと」
「実際、今日先生に靴下やら下着でオナニーされた身から進言するです。即座にやめるべきです。男性は本当に獣ですから、いえ。あの、先生になら構わないですが」

 朝倉に誘われた四葉や葉加瀬のみならず、美砂達もこっそり覗き込んでいた。
 何しろ露天風呂の岩場の向こうで励まれても、湯船に浸かっていては見えないのだ。
 自然と、岩場に張り付くように、乗り上げるようにしなければ目に見えない。

「ぁっ、ぁっ。先生、私イク。先生におめこされてイク」
「お待ちになって亜子さん、私ももう少しんぁ。腰が浮いて」
「やばい、マジでやばい。もう戻れない、オナニーじゃ我慢できない。イク、先生の指でイク。目の前が真っ白だ」
「超、もっと激しく頼む。擦り切れる程に」
「もう既に両手でゴシゴシやってるネ。慎重に漢方を調合したかいがあったネ。一回りは大きくなってるヨ。皆、覚悟はヨロシ。昼間の夕映さんと同じ目にあわされるネ」

 超の台詞に過敏に反応したのは、目の当たりにしていた雪広と長谷川だ。
 もはやむつきを変態と呼べない性癖になりつつある覗き行為で見てしまった。
 靴下や下着を使い果たし、私の体をおかずにとオーバージャケットを肌蹴た夕映。
 その夕映にむつきは、なにをしたのか。
 似たように仰向けで寝転がっていた夕映に、その小さな体に何をした。

「ぁぁっ、イッ。先生のお情けが、いけませんわ。そのようなぁぅ」
「えっ、なに急にどうしたん?」
「私も頭悪過ぎた。ぶっかけられる、先生の精液ぶっかけられるんだよぉっ」

 何をされるか叫んだ長谷川の台詞で、今にも和泉は叫びそうであった。
 当たり前だが、自分達に愛撫しながらむつきも超に愛撫されていたのだ。
 射精すれば、亀頭から精液を迸れば、どうなるか直ぐに分かるはず。
 長谷川の頭が悪すぎたという台詞ではないが、極度の興奮状態で頭がまわらない。
 むしろ、精液をかけられた姿が用意に想像できて、絶頂がぐんと近付いた。

「超、本当にお前どこでこんな。腰の陰毛まで使って刺激して、耐えられるか馬鹿」
「まだまだ乙女の秘密の闇は深いネ。そろそろ、準備はヨロシ。先生、何時でも好きな時にイクといいネ」
「イク、かけるぞお前ら。綺麗で憧れた雪広に、彼氏じゃなくて悪いが可愛い和泉に、小生意気だが時々可愛い長谷川に」
「私の事もよろしくネ、先生!」

 忘れないでと超がグッと竿を握りつぶすようにしたのが最後であった。
 もはやこれ以上は我慢出来ないと、欲望のままにむつきが精液を放つ。
 愛も恋も面倒な感情は捨て去って快楽だけを求め合う少女達へと向けて。
 超の愛撫で溜めこまれた精液をありったけ、湯煙を裂く雨のように降りかけた。
 ただし、雨のようにしっとりと濡れはせず、べたべたと汚していった。
 まだまだ無垢な大人の階段を登る途中の少女達の体を、大人の欲望で淫らに彩る。

「熱っ、こんなの耐え、られませんわ。ひぐぅっ!」
「顔におっぱいに、アキラこんな何時も凄いぁっ」
「イクっ、イっ。ぁぁっ、こんなの無理だろぅっ!」
「くそ、止まらねえ。もっと、もっとかけるぞ」

 ビクビクと腰を震わせては射精を繰り返し、まだまだ汚していく。
 超がむつきの竿を右へ左へ、言葉にすると少々間抜けだが。
 扱きあげては精液を搾り出して振り掛けるのを手伝ってくれていた。
 だがそれも、そう長く続いたわけではなかった。
 喉が詰まるほどにむつきが息を乱し、よろめくように岩場に座ろうと下がり始める。

「超、もういい。休ませてくれ」
「ふふ、一杯出たヨ。男の人はこれぐらいでないと。ゆっくり休んでると良いネ」

 一人汚れを避けた形となった超が、ぐったりと岩場に腰を落としたむつきの正面に回る。
 四つん這いで股座に近付き、同じく力を失いぐったりとした竿を手で取った。
 はしたなくも舌を伸ばしてそれを救い上げ、残った精液を飲むように吸い上げた。
 咥え込んだまま舌で竿の周囲も舐り上げては、綺麗にしていく。
 これは中々と朝倉の激写に対しても、片手でピースをする余裕のありようだ。

「くそ、また麻帆良最強の馬鹿に乗せられた気がする。気持ちよかったから、まあ良いか」
「ですわ、足に力が……このなんとも言えぬ倦怠感。先生の精も、匂いはアレですが。なんとも力強い。生命の息吹すら感じられますわ」
「おおげさな、けど。ちょい分かる気がするんは、駄目かな。ねえ、アキラ。中だしされると、もっと凄いの?」
「凄い、断言する。その生命の息吹が、直接お腹の中で感じられるから。子宮をびたびた射精された精液で叩かれて。もう、先生の事しか考えられなくなる」

 うんうんと肯定するように美砂も腕を組んで頷いていた。
 ただし、和泉よりは先に確実に夕映がそれを受け取る確率が高い。
 皆から頑張ってと視線を受けた夕映は、カッと火照る顔を俯かせ頷くので精一杯。
 あまりの恥ずかしさに、そのまま湯船へと沈んでいこうとさえしていた。
 その夕映を美砂とアキラが両脇から支え、誰にでもなく尋ねた。

「今って何時ぐらいかな?」
「ひかげ荘についたのが確か九時過ぎて」
「あ、デジカメに時間でるから、えっと十一時過ぎたところ。かれこれ、一時間半近くは入ってるかも。そろそろ出た方が」
「体調が悪くなった方はいますか? 私も明日に備え、そろそろあがりますのでお連れします」

 四葉がそう尋ねたものの、逆上せた者は今の所いないようだ。

「しばらく、立てませんわ。湯冷めしてしまいますので、誰かかけ湯をお願いできませんか。先生の精液まみれで入浴は流石に迷惑ですので」
「最初は熱かったけど、冷えてくるとべとべとでちょっと。髪に掛かってないのが幸い」
「先生、変なところで気を使うからな。髪は避けてくれたんだろ。それとも超か?」
「んぅんふぁ、私も女の子ネ。髪は女の命、自分がされて嫌な事は他の子にもしないヨ」

 献身的にも見える奉仕を中断してまで、そう言ってウィンクを飛ばした。
 実際、超のフォローがなければむつきもそんな気遣い忘れそうだったが。
 思惑はその胸に色々とあるようだが、ここまで奉仕されては放っておけない。
 麻帆良最強の馬鹿ではあるが、ひかげ荘のメンバーとしてちゃんと受け入れなければならないだろう。
 超の頭を撫で、感謝を行動で表すと、上目遣いで頬を赤くしにっこり微笑まれた。

「さて、湯冷めも怖いし。そろそろ本当に出るか。明日に響くと」
「ちょっと待った、先生」

 もう十分だと残りの精液も、超の口に放出しきったところでそう言ったが待ったがかかった。
 振り返るまでもなく、声だけでそれが美砂だと言う事は分かる。
 分かるのだが、待ったの意味だけは振り返って見るまで分からなかった。
 振り返ってみても、半分ぐらいしか分からなかったかもしれない。

「なに、やってんのお前ら」
「長谷川達に先生とのイチャイチャ見せ付けられて燃えなきゃ、女がすたる」
「時間も時間だし、体力的に本番は無理だけど」
「あの、何故私が中央に。体力を言うなら、一番小柄で消耗の激しい私がこの位置はちょっとおかしいです」

 対面となる露天風呂の岩場で、三人が岩に手をついてお尻を振っていた。
 つまりは体に火がついてしまったらしい。
 漢方の効果は既にないが、後一回ぐらいならとむつきは奉仕中の超を抱え上げた。
 横抱きに、美砂やアキラによくするお姫様抱っこでだ。

「超にはして貰ってばかりだったからな。今度は俺が良くしてやるよ」
「そういう心遣いは嬉しいネ。ありがたく、甘えるヨ」
「と言うわけで、特別に超はここな」

 美砂とアキラの両脇は不動だが、真ん中の夕映と向かい合わせ抱き合わせる。
 右手は美砂に、左手はアキラのお尻を弄り、何度も蹂躙した穴を探す。
 そしてまだまだ不慣れな夕映にはこれぐらいでと、超と合わせたお腹の間に一物を挿入した。
 超と夕映、二種類の肌を味わって、瞬く間に硬さを取り戻していった。

「お腹、熱いです。びくびくして、お昼に続きまたお腹を犯されるです」
「私もネ、夕映サン。ちょっと刺激が物足りないけど、こういうのも偶にはありネ」
「先生、こっちも忘れちゃ駄目だって。お嫁さんの穴と、お妾さんの穴。しかり蓋しないと涎でお湯が汚れちゃう」
「今日は布団も別々だから。お願いします、先生との思い出。また一つください」

 了解と上半身を駆使して左からアキラ、超、夕映、美砂にとその体にキスを落とした。
 それからじんわりだるい腕を酷使し両脇のアキラと美砂の秘部をかき回す。
 抱き合う超と夕映をおかずに腰をふり、最後の仕事にとりかかった。









-後書き-
ども、えなりんです。

朝倉のせいで確かに加速した、全然別方向で。
結局四葉や葉加瀬は回避でしたが、早期加入組みがぶっかけられた。
なんかこの小説、ぶっかけ描写がやけに多い気がする。
本番までが長いのです。

二年次の麻帆良祭も残り二話で終了でございます。
その後は日常話を経て期末試験へ。
超の加入により、絡繰とかエヴァとかあとザジも。
今までさっぱり描写のなかった子が表に出てきます。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第三十五話 貴方の親友の瀬流彦です
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/05/18 20:17
第三十五話 貴方の親友の瀬流彦です

 結局昨夜は十二時までに秘め事を終えて、ひかげ荘のそれぞれの個室に解散となった。
 夕映はまだ二階に個室があるので後日一階に引越しという事になったが。
 問題は部屋のまだない朝倉と四葉である。
 そこで朝倉は長谷川が引き取り三階へ、四葉は超と葉加瀬が地下室の部屋へと連れて行った。
 勝手に作られた地下一階は、まだむつきもしっかりと把握しきれていない。
 何時戻るか分からない爺さんの為にも、真相究明は急務である。
 普段管理人室に入りびたりの美砂とアキラも、この日ばかりは疲れを取る為に自室へ。
 といっても、美砂は部屋がないので管理人室の隣のアキラの部屋にお泊りだ。
 流石に同衾で何もせずにいるのは難しいので、妥当な処置であった。
 セックスは何時でもとは言わないまでも、毎週できるが中学二年生の麻帆良祭は明日が最後。
 万全の体調で望まなければ、勿体無いというものである。
 教師の寮ではともかく、ひかげ荘での一泊で一人きりの布団はやや寂しかったが。
 それもカーテンの隙間から入り込んだ朝日により、目が覚めるまでであった。

「全く、何時の間に。子供か」

 薄らぼんやりと、深く被った毛布の中でむつきは誰かが同じ布団に入り込んでいるのを感じた。
 美砂とアキラは同衾していたので一人ではなかったから、一人寝が寂しかった夕映だろうか。
 前にもこんな事はあった気がしたが、慌てる事はない。
 何故か懐かしい匂いで毛布の中は一杯なのだが、豊満な胸に顔を埋めた。
 ややはだけた浴衣の中から今にも零れ落ちそうだ。
 そこで失礼ながら絶対に夕映ではないと気付いたが、アキラよりも更に大きい気がする。

「また大きくなったのか。嬉しい奴め」
「んぅ、ぁん」

 こいつめと胸の谷間で顔をぐりぐりと擦りつけ、悩ましげな声が頭上より聞こえた。
 胸の谷間の奥にちゅうちゅうとキスマークも施し、ぐぐっと息子も起き始める。
 まだ朝日が低そうなので一発ぐらいなら出来るかと、自分と相手の浴衣も肌蹴た。
 改めて乳首を口に含んで転がし、肌蹴た足元の浴衣に手を差し込んで下着を脱がせていく。
 寝汗の香りがと下着をくんくんとかぎ、本当に何故か懐かしいと心底思った。
 一体なんの為に体力を温存したか分からない行動だが、むつきもまだ半覚醒状態。
 そのまま押し倒した格好で毛布を取り払い、唇を奪おうとしてようやく相手に気付いた。

「もう、むっ君たら。女の子を押し倒す年頃になっちゃって。相手の了解はちゃんと得ないと駄目だぞ、めっ」
「ね、姉ちゃん!?」

 まだ埼玉にすら着いていないと思っていた相手の突然の登場に一気に目が覚めた。
 小さな子にするように鼻面に人差し指を当てられ、怒られてしまった。
 思わず飛び起き正座をして、深々と頭をさげてごめんなさいをしてしまう。
 脱がして握っていた下着はとりあえず、浴衣のポケットに隠しつつ。

「先生、今度は誰。また誰か、まさか早乙女!?」
「それなら早く、葉加瀬の記憶消去君? あれで早乙女の頭を破壊しないと!」

 朝から物騒な台詞と共に、隣の部屋で寝ていた二人がむつきの叫びに気付いてやってきた。
 そして、管理人室の襖を開け放って固まった
 当然だろう、昨晩は体力温存にと別々の布団に入ったのに、朝来てみればこれだ。
 同じ布団に見知らぬ女性が、それも見た目の年齢上つりあう大人の女性。
 そんな人の前でおもわずやってしまいましたとむつきが頭を下げている。

「先生……誰、それ。舞、舞なの」
「葉加瀬の記憶消去君いらない。先生、握りつぶして良い?」
「待て、早まるな。姉ちゃん、俺の親戚の姉ちゃん。話はしてただろ。それにほら、どことなく似てるだろ」
「あらあら、懐かしい。ふふ、ひなた荘にいた頃のけー君みたいね。貴方達もそんな怖い顔しないで、むっ君の姉のむつみです。スイカ、食べます?」

 むつみはマイペースにも朗らかに笑い、当たり前のように取り出したスイカを差し出した。
 どんっと切られてもいないそれを前に、美砂とアキラはあっけに取られ。
 さっと顔を白く青ざめさせては、部屋にも入らず廊下で土下座であった。

「す、ごめんません。乙姫先生のお嫁さん予定の柿崎美砂です。そそっかしい所を、お姉様!」
「あの、ふつつかもので申し訳ありません。お妾さんの大河内アキラです。よろしくお願いします」
「ますますけー君、そっくり。けど、こんな可愛い彼女さんがいるのに何時までもお姉ちゃんのおっぱい恋しがってちゃ駄目よ。もう、こんな所にキスマークまで」
「お願い止めて、姉ちゃん。間違えたの、美砂かアキラ。途中で夕映じゃないって気付いたけど。もぐりこんでたと思ったから!」

 相変わらず肌けたままの浴衣をさらに自分ではだけ、むつみが胸の谷間を見せる。
 くっきりはっきり、特に美砂とアキラは見慣れたキスマークを目にした。
 怒りたいが姉の前ではしたない事もできず、ぐっとむつきを睨むに終わった。
 むつきも、こういうマイペースで突然な人だったと頭を抱えている。
 当たり前だが、そうこうしているうちに他の面々も集ってきた。
 朝食を用意中だったのか割烹着にお玉を持った四葉を皮切りに、走ってやってきた夕映。

「誰です?」
「途中からでよく分かりませんが、状況から察するに先生の親族の方では」
「アレやない。瀬流彦先生に紹介するたらなんたら」

 雪広と和泉、三階と地下はさすがに声が遠かったのかやってくるのも遅かった。

「先生のお姉さんもお食事を一緒にどうぞ。人数分、ご用意しておきましたから」
「あらあら、ごめんなさいね五月ちゃん。鍵も開けて貰った上にご飯まで」
「招きいれたの四葉かよ、言えよその時に」
「朝食の材料を仕入れに言った時、迷っていたむつみさんと偶然。報告しようとしたのですが、ぐっすり眠っていらしたので」

 怒るに怒れないわと、謝罪されたむつきの方が申し訳なくなってきた。
 とりあえず、朝食と呼ぶにはいささか軽過ぎる朝食中に改めて、むつきがむつみを紹介する事になった。









 ひかげ荘での朝食が軽過ぎる程に軽いのには理由があった。
 流石四葉の気遣いというべきか、元より腹を満たすのが目的でなく一時間程度持たせる意味だったのだ。
 何故ならむつみを加え、全員で超包子に向かうと長蛇の列の中に二年A組の半分がそろっていた。
 開店三十分前、一般入場者が入場前の前が開店なので現在時刻は八時半。
 仕込みは殆どひかげ荘で済ませてあったので、四葉、超、葉加瀬は厨房へ。
 残りの面々で席を確保し、ひかげ荘以外の二年A組のクラスメイトも集まりだした。
 早速昨晩の寮に戻らなかった事を問い詰められると思いきや、話題はやはりむつみである。
 見慣れぬ女性をむつきが連れていると、これがあの噂の彼女と当初勘違いもされたが。

「あらあら、むっ君のお嫁さん候補の子がこんなに一杯。ほら、貴方達もスイカ食べる?」
「だから、生徒だって姉ちゃん」
「でっかいスイカです。何処から出したです!?」
「楓姉、切ってください。ありがとうございます、先生のお姉ちゃん」

 鳴滝姉妹は少々季節はやめのスイカに大はしゃぎである。
 ならばと楓が空中から取り出したように見える短刀、クナイにも見えるそれを手にとった。
 軽々と片手でスイカを放り投げ、不安定な状態のそれに刃を素早く走らせた。
 朝日を反射した銀光が幾重も走り、スイカがどすんとテーブルの上に落ちる。
 その衝撃を最後にピッと線が生まれては、ぱらりと花開くように綺麗に割れた。
 これには二年A組とは無関係の普通の超包子のお客も拍手喝采であった。

「先生の姉上もお一ついかがでござる?」
「凄い凄い、まるで素子ちゃんみたい」
「素子? そのような芸当ができる素子とは、まさか青山という名では」
「あら、奇遇ね。貴方も素子ちゃんのお知り合い?」

 珍しくこういった場で桜咲が発言し、問い返され血相を変えた。
 スイカを選択中の近衛をかえりみては、何故か麻帆良祭の最中も手放さない竹刀袋を手に取った。

「西のッ!?」

 だが袋の口紐を外すより先に、柄頭を後ろから止められビクリと硬直する。
 そっと振り返った先にいたのがむつきであり、ぽかんとしていたが。

「おいぃ、桜咲。俺の姉ちゃんに何をしようとした。返答次第では、いくら大事な生徒でも許さんぞ。言っておくが、姉ちゃんを守る喧嘩でなら、一度も負けた事がねえ」
「刹那、今回ばかりは風向きが悪いぞ。先生の目付き、命を賭した目をしている」
「ああいう目をした人間は素人でも侮れないアル。文字通り喰らいつく目アルよ」
「四天王の二人から言われるって、完全にキャラ変わってるし。先生いざとなったら、何するかわからない怖さあるからなんとなく分かるけどさ」

 指をぼきぼきと慣らし、眼も暗く光って完全に世紀末の人間である。
 龍宮や古が止めておけと桜咲を止め、おいおいと釘宮が汗をたらし突っ込んだ。

「むっ君、女の子に暴力はめっ。本当に、昔はお姉ちゃんと結婚するんだって、体の弱かった私を苛めた苛めっ子を逆にこてんぱんにしたり。変わってないわね」
「苛めっ子、私が苛めっ子と同レベル」
「せっちゃんもめっ、やて。その竹刀袋、貸しや。預かっといたる」
「お嬢様、これは大事なお嬢様を守っ。駄目なのです!」

 涙混じりに逃げ出した桜咲を近衛が待ってやと追いかけるのは微笑ましく放置する。
 普段は口も聞かない桜咲も、麻帆良祭という事もあってどこか近衛と距離が近い。
 同じ京都出身なので何かあったのか、野暮な事はすまいと誰もが見てみぬ振りだ。

「先生、質問良いですか?」
「なんだ村上、改まって」
「たぶん、皆も思ってる事だと思うけど。たぶん、むつみさんは初恋の人だよね。そんな大事なお姉さんを瀬流彦先生に紹介していいの?」
「確かに、美人で頭も良くて人柄もこの通り。瀬流彦先生に勿体無い、てか。釣りあわねえな」

 控えめな村上の問いかけを、長谷川がオブラートを全て破り捨て言い放った。
 酷い言われようとも思ったが、賛同者はいても反対意見は皆無である。
 一応教師人気投票に生徒から応援団がついたはずだが、それは誰なのか。
 自薦じゃねえよなと、少し瀬流彦が心配になってきた。

「初恋も認めるし、姉ちゃんは大事だけど。もう適齢期だしな。東大入る前辺りは恋愛もしてたけど、それ以来さっぱりだし」
「ラヴ臭感知、聞きたい。東大の才女が恋する相手とは一体何者!」
「けー君の事ね。今でも好きだから、この歳になってもまだ良く覚えているわ」

 早乙女は何時もの事だが、それでも周りの耳が一斉に大きくなった程だ。
 東大出の才女、それも副担任の初恋のお姉さんの恋愛相手とは。
 年上好き、オジコンの神楽坂でさえ参考にと身を乗り出してさえいた。

「けー君とは幼い頃、ひなた荘って当時は旅館で出会ったの。今でもまだ完全に治ってないけど、体が弱くて病気療養の為に。お爺様の勧めもあって」
「病弱幼馴染設定、キタ。これで勝つる!」
「ハルナ、ちょっと煩いしうざい。それで、まさか東大で運命の出会いを?」
「ううん、ちょっと惜しい。再会したのは東大に三浪が決定したけー君が傷心旅行中に、私も三浪が決定した時に偶然、今はけー君のお嫁さんになったなるちゃんも一緒だった」

 ラヴ臭感知なる特技でテンションあげあげの早乙女を明石や佐々木が押しのけのりだす。
 さり気に三角関係を匂わせる発言に、周囲からもおおっと唸り声まであがった。
 おかげで三浪発言がわりと簡単にスルーされている。
 気付いたのは身を乗り出すまで、聞き入っていなかった夕映ぐらいか。
 何しろ彼女は、他人の恋愛話どころではなく、自身が現在進行形でお悩み中だ。
 美砂やアキラと同じく、ちゃっかりむつきのとなりに座ってはいるのだが。

「先生、今思い出したのですが。ひかげ荘と対になるひなた荘はもしや、入寮すれば東大合格間違いなしと人気の」
「ああ、それそれ。けー君ってのも、本名は浦島景太郎。爺さんが尻をおっかけ中の浦島家の長男。当時は浦島家と縁続きにって爺さんハッスルしてた、隠れて」
「ストーカーなのに、なんかそういうところちょっと可愛い」
「うん、何時かちゃんと会いたいね」

 美砂やアキラからも、若干爺さんへの好感度がアップしたり。

「それで色々あった上げく、けー君の約束の女の子はなるちゃんで。ひなた荘の皆は一応、身を引いたの。皆、今でもけー君の事が好きだと思う」
「なんか、色々ではしょられた。けど、約束の女の子に東大かぁ。私には雲の上の話だけど」
「男の一念、岩をも通す。一生懸命な男の人はやっぱり格好良いわ」
「イケメンだったら、会って見たい!」

 佐々木や那波が溜息と共に憧れ、椎名は率直な意見を述べた。
 しかし他の皆もこれはイケメンに違いないと乙女の欲望を想い描いている。
 確かに三浪、の部分はスルーされたが、幼い頃の約束を守りその子と東大へ。
 考古学を専攻して世界中を飛び回っているとあれば、イケメン認定も仕方がない。
 実際のところ、むつきは写真を見た事があったが、分厚い眼鏡のさえない男だ。
 他人にそう言えば、人の事が言えるかと絶対ブーメランが帰ってきたろうが。

「素敵なお話だったね、ゆえゆえ。何時か私にもそんな男の人と……できるのかな?」
「弱気は駄目ですよ。何かをするには、まず出来ると思うのが大切です」

 宮崎を注意しつつ、ちらちらと夕映はむつきを見ていたりもする。

「乙姫先生ッ!」

 そこへやって来たのは噂の始まりに遅れた瀬流彦であった。
 むつきがいるテーブルのそば、それもA組の面々に囲まれた女性がと目が爛々としている。
 普段のどこかぼやっとした雰囲気を投げ捨ててのはしゃぎようだ。
 むつきの連絡不備で一日目、二日目と空振りしたのでそれも仕方のない事か。
 良い大人が落ち着けよと、若干ながら皆の視線が冷たいが気にも止めない。
 仮装姿でなくスーツ姿なのは、見回りをしていたからか、バシッと決めたのか。

「乙姫先生、貴方の親友の瀬流彦です。さあ、むつみさんにご紹介を願います」
「同僚で歳が近いので仲良くはさせて貰ってますが、何時の間に親友に」
「細かい事を気にしてはいけません。ええい、もう自分で自己紹介します。むつみさん、瀬流彦と申します。今度僕の車でご一緒、あれ?」
「せ、瀬流彦先生にドライブに誘われたです。助けて、楓姉ぇ!」

 さっと手を取ったつもりが、肝心のむつみが忽然とその場から消えていた。
 しかもあろう事か、間違えて鳴滝妹の史伽の手を握ってしまい逃げられる始末。
 方々から冷たい視線が突き刺さり、慌てて弁解をし始めた。

「いや、違う間違えたんだよ。と言うかいたよね、ついさっきまでここに」
「確かに、拙者にも気付かれず忽然と姿を消すとは」
「私の魔眼でも捉えられないとは、やるじゃないか」
「おーい、龍宮が中二病発症してんぞ」

 冷やりと汗を流す長瀬に、疲れているのかと鼻頭を指で摘んだ龍宮が長谷川に突っ込まれている。
 中学二年生なのだから、別に発症してもおかしくはないが。
 次第に周囲でもいたよねと、忽然と消えたむつみを探して周囲を見渡す。
 瀬流彦もあらぬ疑いを避けられほっとしていたが、肝心のむつみがいないのではどうしようもない。
 おたおたと、テーブルの下やらマンホールの蓋をとっては探す。

「俺の姉ちゃんは鼠かなにかですか」
「先生、そんなのんびりしてていいの? 確か体が少し弱いんだよね」
「早く探さないと、そろそろ人通りも増えるし倒れたりしたら危ない」

 美砂とアキラも周囲を見渡し、迷子の案内放送でもとさえ意見が出始める。
 ただし、色々な意味で慣れているむつきは、落ち着いてコーヒーを飲んでいた。
 他の人の場合は知らないが、むつきに黙って消える事はあってもいなくなる事はない。
 昔からの経験則だが、何かに興味を引かれてふらっとそちらへ行ったのだろう。 
 多少心配だが、十分や十五分ぐらいならまだ慌てる時間ではなかった。
 案の定である。

「むっ君!」

 とてとてとのんびりな足音と共に、そのむつみがむつきの名前を呼んできた。
 なんだいるじゃないかと、皆もそちらへと振り返って唖然とする。
 いたはいたのだが、彼女が出てきたのは仮装用の貸衣装屋であったのだ。
 フレアスカートの茶褐色のワンピース。
 インナーとして着ていた白の長袖ワイシャツと大人の落ち着いた格好は何処へやら。
 よりによって、亀のキグルミ姿でぶんぶんと平たい手を振って出てきた。

「先生、初恋のお姉ちゃんのキグルミ姿を見て、一言」
「ああいう姉ちゃんだって知ってるから、悲しくないぞ?」

 朝倉にマイクを向けられ、二十八だろと頭が痛くなってきた。
 さすがに瀬流彦もどういうリアクションを取ればよいか迷っている。

「あっ、そう言えば思い出した。俺、姉ちゃんに瀬流彦先生を紹介する事を言ってねえわ」
「それだぁッ!」
「ちょっと、乙姫先生!」

 二年A組の突込みを総受けし、瀬流彦からも突っ込まれた。

「いや、ほら姉ちゃんまだ大学受験時の恋を引きずってるし。男紹介するって言ってもこないだろうから。麻帆良祭を案内するっておびき寄せたんだった」
「いや、それならそれでデートの理由には十分。乙姫先生は教職が忙しく、ここは僕が!」

 そう意気込んで瀬流彦が一歩踏み出した瞬間の事であった。
 相変わらずむつきの名を呼んでとてとてキグルミで走るむつみの背後が爆発した。
 厳密には、貸衣装屋を破壊突破するように、一匹の恐竜が飛び出してきたのだ。

「工学部のロボティラノが毎年恒例の暴走だっ!」
「恒例かよ、あった。確かに去年もあった!」

 長谷川の突っ込みも切れ切れだが、そんな場合ではなかった。
 むつみとの距離は僅か数メートル、まるで生きているかのようにその目が捕らえた。
 普段から鈍いのに、キグルミを着た今はなおも鈍い。
 あれっと振り返ったむつみは、まあまあと逆に近付きそうな雰囲気でさえある。
 姉ちゃんの危機と飛び出したむつきを、追い越したのは瀬流彦だ。
 とても人間技とは思えないスピードで、飛び散る貸衣装屋の瓦礫をぬって走った。
 一筋の風の如く、いっそ降りかかる破片が風圧で跳ね飛ばされたようにさえ見えた。

「おお、これは中々の瞬動術」
「隠れた達人、発見アル!」

 顎に手を当て、長瀬が動きを褒め、古も状況を忘れ大興奮だ。
 いや、実際武術に無関心の面々でさえ、映画のようなワンシーンに釘付けであった。
 むつみがキグルミ姿なので多少間抜けだが、男女の出会いにワイルドで危険なスパイス。
 これは瀬流彦が過去の失恋相手を越えるかと手に汗握る。
 そして何かタクトのようなものを瀬流彦が袖から取り出し、ロボティラノを吹き飛ばした。
 一体どうやって、まるで横から巨大なフックパンチを食らわせたようにロボティラノの長い首が陥没してさえいる。
 ただそうしたはずの、瀬流彦がぽかんと糸目のまま口を開けていた。

「あれ?」

 何かおかしくないかと、疑問の声をあげたのは一体誰であったか。
 もしかしたら、瀬流彦自身であったのかもしれない。
 何故なら、瀬流彦よりもむつみに近い場所で、何時の間にか立っていた男がいたのだ。
 立派な顎引けを整えサングラスをくいっと押し上げて立つダンディズム。
 首を抉られながらも倒れまいと踏ん張ったロボティラノの前で彼が踊る。
 パチンと指を鳴らすたびにロボティラノは謎の衝撃にぐらつき体勢を崩す。

「しょ、衝撃のアルベルト、なんつー渋いチョイス。けどやってる事は、素晴らしきヒィッツカラルド。あれ、なにこれ映画、CG!?」

 叫んだ早乙女の台詞を理解できたのは何人いたことか。
 ダンディズム、また衝撃のアルベルトこと神多羅木であった。
 彼のダンスは次第に勢いを増し、ロボティラノは近付く事は愚か後退させられていた。

「終いだ」

 そう最後の宣言の後の指が鳴って、ロボティラノの首が跳んだ。

「全く、何時になったら完成するのかしら。本当に毎年」

 そして飛んだ首を上空から落ちてきた葛葉が、木刀にて一突き。
 地面に頭部と胴体部を串刺しにして、終わりであった。
 最後の締めを惜しみなく譲るなど、悔しがるどころか笑みまで見せていた。
 タバコを一本吸おうとして、むつみに気付いて箱に戻すなど細やかな気遣いさえ渋い。

「大丈夫か、お嬢さん」
「あら、素敵なお髭。お爺様みたい」

 ただし、あまりその格好良さは伝わらなかったようで。
 亀のキグルミの手でむつみは、神多羅木の顎鬚を嬉しそうに撫でていた。

「あら、いたのですか。瀬流彦先生」
「いたんです、それが」

 そして、今気付いたとばかりに木刀を一振り抜き去った葛葉に言われる始末。

「もう、駄目じゃん瀬流彦先生。途中まで格好良かっただけに」
「良いとこない。なんの為にそこまで行ったの、何か一つぐらいしようよ」
「大丈夫の一言も、サングラスのおじ様にとられて。格好悪ぅ」

 明石、佐々木に和泉とボロクソであった。
 彼女達に悪気はないのだろうが、瀬流彦への酷評は続き心が折れそうである。
 がっくりと膝をついて、ぷるぷる足が震えてさえいた。
 生まれたての小鹿のごとく、実際は生まれるどころか人生が終わりそうだったが。
 彼のおかげで、皆の意識は謎の映画撮影を披露した神多羅木達からそれていた。

「むっ君、私このおじ様とお付き合いしてみようかしら」
「ぐはぁっ!」

 そして突然のむつみの発言に、吐血せんばかりに地面に倒れこんだ。
 つっと地面に広がる血で書いたダイイングメッセージはグラヒゲの文字である。
 それは良いとして、問題はむつみであった。
 むつきも神多羅木の事は一昨日の夜の見回りで初めて出会ったばかりだ。
 年の頃も三十代半ば辺りか、二十八のむつみとつりあいは問題ないのだが。
 相手に恋人や結婚相手がいないとも限らない。
 それこそ見事なコンビネーションでロボティラノを止めた葛葉だっている。
 瀬流彦そっちのけで、きゃあきゃあ二年A組の連中も騒ぎ出していた。

「すみません、神多羅木先生。僕の親戚の姉が。ところで、ご結婚などは」
「いや、まだだが。ところで、乙姫君。君のお姉さんが執拗に髭に触れてくるのだが」
「すみません、お爺様そっくりのお髭が。助けて頂いたこれも縁ですし」
「神多羅木先生、何を悠長にナンパなどいかがわしい!」

 折角独身情報を手に入れたが、異様に怒り狂った葛葉が割って入ってきた。
 こそこそと恋人ですかと聞いたら、彼女は最近離婚してなとこそこそ返される。
 元々関西の出であったらしいが、結婚を期に関東に移り住み歳を経ず離婚。
 確かにそれは荒れると、綺麗なのに勿体無いと思っていると思い切り睨まれた。
 ぶっちゃけ、チビるかと思ったが折角むつみが昔の恋を振り切ろうというのだ。
 お姉ちゃんパワーを全開にする時は今を置いて他にない。

「神多羅木先生、折角姉に来て貰ったのですが残念ながら僕は忙しくてまともに麻帆良の案内も。よろしければ、姉を案内していただけないでしょうか!」
「ちょっと、貴方。一昨日、不良グループの前でおたおたしていた先生ですね。何を勝手に、私達は見回りの途中です。部外者は、黙っていてください」

 喧しいばつ一がと叫びたいのを堪え、揉み手とにこやかな笑顔で対処する。

「その節はありがとうございました。ところで、今度瀬流彦先生を連れて合コンの予定なのですが。女性の数が足りず、何方か探しているのですが」
「ご、合コン……んんっ、瀬流彦先生を外して別の男性が入るなら。私も教師として大変忙しいのですが、どうしてもと頭を下げるなら数人心当たりが」
「助かります、葛葉先生。年上、下どちらが好みです? こちらが無理を言ってご参加願いますので出来る限り便宜を図らせていただきます」
「ちょっと貴方、こちらに来なさい」

 生徒達の目があるからと、往来の隅っこに呼ばれてごしょごしょと。
 もの凄く必死に細かい注文を多数受けたが、にこやかに頷いて返す。
 年下で可愛くて思いやりがあり、けれど男らしい一面もあって晩酌にも付き合え忍耐があり等々。
 途中から反芻するのも面倒になってスルーである。

「別に期待しているわけではありませんし、プレッシャーをかけるつもりもありません。貴方の顔を立てて出席するのですから、お忘れなく。えっと、乙姫先生?」
「もちろん、葛葉先生の好みに合わせ取り寄せますとも。ご期待ください」
「合コン、何ヶ月、年ぶり? 早く連絡を、シャークティ? 駄目だわ、シスターとか男が食いつく。しずなも、あの脂肪の塊に。私よりレベルの低い、普通の子を適当に」

 もはや興奮しすぎて、通りの隅に寄った意味があったのかなかったのか。
 あまりの必死さにほろりと涙を流す者もいたりした。
 神多羅木は相変わらずむつみに髭を弄られながら、やれやれと溜息だ。
 最後にその時に連絡しますと葛の葉に番号を渡し、とんぼ返りである。

「こっちは片をつけました。神多羅木先生、よろしければ姉を案内していただけないでしょうか」
「亀のキグルミでお恥ずかしいですが。よろしくお願いします、神多羅木先生」
「亀、好きなのか?」
「はい、何匹か温泉ガメも買ってますよ。神多羅木先生、あれ。あそこはなんですか?」

 神多羅木も悪い気はしないのか、適当に話題を振っては歩き出した。
 亀のキグルミで歩きにくそうなむつみに配慮しつつ、ゆっくりとそれこそ亀のように。
 普通の格好で腕を組んだ方がポイント高そうだが、あれが自慢の姉である。
 俺に出来るのはここまでと、麻帆良祭の喧騒の中に消えていく二人を見送った。

「いやいや、中々に面白い結果になったみたいだね」
「あれ、高畑先生何時から?」
「割と最初から、ね」

 むつきの気付かぬ事ではあったが、最初にロボティラノの首を陥没させたのは彼だ。

「高畑先生、凄かったんですよ。さっき、あのサングラスの先生? が、パチンパチンって」
「はは、そうかい。そいつは見たかったな」
「先生のお姉はんも運命の出会いやったし、めでたしめでたしや」
「後俺達にできるのは、上手く行く事を願うだけだ。頼むから、途中でデートを見かけても邪魔しないでくれよ。したら、容赦なくアイアンクローだ、この野郎」

 誰もしないよねっと、寧ろ見守る方向で了解してくれて一安心である。
 そして高畑もやってきて二年A組は九割方集った事になる。
 別に麻帆良祭の開始前に集るような義務はないのだが、仲が良い事は良い事だ。
 昨晩に引き続き、高畑は締めの挨拶なので雪広からお鉢をまわされた。
 さて何を言うべきか、一先ず最終日も快晴に恵まれ、健康状態も見渡した限りではばっちりである。

「麻帆良祭、最終日気合入れて」
「ちょっと、何を良い話風に締めようとしてんの。倒れてても誰も助けてくれないどころか、踏んだ上に背中の上でぴょんぴょんと」
「あっ、忘れてた」

 ちくしょうと男泣きに高畑がぽんぽんと肩を叩くが、もちろん効果は限りなく薄い。
 最終日出だしから鬱陶しいが、半分はむつきのせいなので面と向かってはいえなかった。

「ああ、見つけた瀬流彦先生!」

 そこへやって来たのは、むつきは見覚えのある少女であった。
 短めのツインテールをひょこひょこ揺らした、年の頃は二年A組と同じぐらい。
 というか実際同じで、D組の生徒である。
 皆も見た事位はあるのかDだよねと、胸の話ではないがこそこそ話していた。
 むつきが見たところ、Dなんてとても精々がBであろうが。

「なんで泣いてるんです? もう、本当に頼りないんだから。先生は私がいないと、本当に駄目。しっかりしてください」
「君か、あのね。僕が君の為に何度方々へ謝りに行った事か。聞いてないよね、何時も通り」
「ほら、教師人気投票トトカルチョのアピールは午前中まで。投票は昼から開始なんですから。最後のアピールチャンス、しっかりしてください」
「ああ、乙姫先生助けて。癒しを、せめてCのぎにゃぁっ」

 しっかり意味は伝わったようで、わき腹を思い切り蹴られながら引きずられていく。
 どうやら瀬流彦の推薦者らしく、どう見ても好意全開。
 気付いていないのは瀬流彦ぐらいなのではないだろうか。

「高畑先生、麻帆良祭なのでおおめに」
「僕はなにも見ていないさ」

 一先ず高畑も笑うだけで咎めはしないようだ。

「では気を取り直して、今日が一番忙しい三日目だ。教師人気投票トトカルチョもあるし、仕事が割り振られている奴はしっかりな。振られてない奴も、目一杯遊んで来い!」

 おーっとむつきの号令で二年A組の面々が勢い良く晴れ渡ったそらに拳をあげた。









-後書き-
ども、えなりんです。

本日は夜に予定があるため、早めの更新です。
さて、むつみが割かしフリーダムです。
原作読んだの何年前なのか、結構うろ覚えで書いてます。
ただ、たぶんこんな感じだったはず。
二十五にもなって姉ちゃんにむっ君と呼ばれる主人公。
今回微妙に影が薄い?

あと瀬流彦ェ……
何だかんだで特定生徒に異常に好かれています。
現在名前ないですが、いずれ瀬流彦との行く末を書きたいです。

それでは次回は水曜です。
次回は偶数話ですが日常回、麻帆良祭編もこれにて終了です。



[36639] 第三十六話 これも一種の未知のファンタジーです
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/05/18 20:17
第三十六話 これも一種の未知のファンタジーです

 最終日の午前中は、まず教師人気投票トトカルチョの最終アピールで始まった。
 これまでのパレード内での紹介が形式型としたら、最終日の午後は自由型だ。
 どんな格好、場所でもTPOさえ守られていれば何をしても許される。
 さすがに、瀬流彦とあのD組の生徒のバージンロードは意味不明であったが。
 高畑は今度ばかりはやっぱりあれだと木枯らし紋次朗の仮装でアピール。
 むつきはもうギャグ路線しかないので、むつみと同じ亀のキグルミでのアピールであった。
 乙姫むつきをお願いしますと午前中一杯は、チラシ片手に麻帆良都市を歩き回った。
 意外とこの時、鳴滝姉妹と長瀬との散歩部で練り歩いた事が幸を奏した。
 大通りは誰も彼もが先生が集る為に、どうしても一人一人の印象が薄くなる。
 そこで道は広くないが、確実に人がいる場所を練り歩いて精一杯のアピールを行なった。
 あとは投票と結果発表待ちと、昼前には解散。
 それから急ぎ着替えを済ませ、とあるお店で待ち合わせである。

「悪い、待たせたか。あっ、店員さん俺冷たいビール」
「待たされたのは、クラスメイトをまくためなので仕方がありませんが。着席するなりお酒ですか。好感度だだ下がりです」

 半眼でそう睨んできたのは、口調から分かる通り、夕映である。
 長谷川に新たにおろして貰った新式メイド服の仮装で本を手に持っていた。
 スーツに崩したネクタイと普段の姿のむつきとは微妙にミスマッチであった。

「大目に見てくれ、キグルミの暑いのなんの。シャワー浴びたけど、まだべたついてる気がするんだ。何読んでんだ?」
「ウィトゲンシュタインの論理哲学論です」

 答えを聞いて、むつきがどんな顔をしたかは察するべきか。

「あからさまに拒否反応を示さないで下さい。本当に面白い本は、とっつき難くても読んでいる内に引きずり込まれます」
「教師用のテキストは最近良く読むが、哲学には縁がないんだ」
「もう少し、私にもアピールしてください。人を待たせてお酒、それに好みの相違。二股、三股は恩恵に預かる身なので見過ごすとして。先生のどこに惚れる要素があるのか不思議の塊です」

 店員からビールジョッキを受け取り、メニューに目を通し始める。
 夕映の言葉を聞いていないわけではないのだろうが、空腹が優先か。
 もちろん夕映も昼食は食べずに待っていたので、お腹は空いていた。
 身勝手と心の内でつけたし、一緒に覗いてパスタ中心のメニューを選ぶ。
 ぶつくさ文句は言っても、仕方のない人、この魔法の一言でなんでも許してしまいそうになる。

「あばたもえくぼって言うだろ。小さいけど、意外と綺麗で可愛い夕映が好きだ。哲学大好きで論理思考だけど、時々破綻する夕映が好きだ。口うるさいけど最終的に許してくれる夕映が好きだ。まだまだ言えるぞ?」
「卑怯で意地悪なところが、大嫌いです。頼りないけど、時々行動的なところが、大嫌いです。私など子供っぽい相手に綺麗などというその口が大嫌い、大嫌いの塊です」
「饅頭怖いの類か、嫌よ嫌よもだな」
「全くもってその通りで憤慨です」

 最後に打てば響く会話も大嫌いとつけたし、メニューを決めた。
 むつきはミートスパの大盛り、夕映は海鮮スパの普通盛りだ。
 ついでにむつきはビールのお代わりも早速頼み、この野郎と夕映に睨まれた。

「麻帆良祭、最終日なんだから大目にな。こうやって教師と生徒が堂々とデートできるのも次は何時になる事やら」
「一応、柿崎さんや大河内さんとの日常は見てきました。けど、理解にはまだ及んでいません。色々と大変なのでしょうか?」
「そりゃな。カップルに聞けば何時も一緒で羨ましいとか言う奴もいるだろうけど。正直生殺しの面もある。目の前にいるのに触れられない、気軽に喋るわけにもいかない」
「気が滅入る話です、本当にこのまま好きになって良いのか」

 哲学書を胸に抱きながら、夕映が目をそらすように空を見上げた。
 終わらない紙吹雪に沈まないバルーン、時折航空部の飛行機や飛行船が空を舞う。
 日常をほんの少しだけ逸脱した、ほんの僅かな期間のファンタジー。
 教師と生徒、いっそ麻帆良祭と同じく僅かな期間のファンタジーで終わらせてしまえば。
 そう考えると、ズキリと心が痛んだ気がして特別な感情を自覚させられる。

「お待たせしました。ミートスパと海鮮スパです」
「はいよ、夕映? 海鮮スパ来たぞ。空、何か見えるか?」
「世界樹がほんのり光ってるです、昼間なので全く気付きませんでしたが」
「ああ、あの発光な。ちらっと噂で聞いたが、来年が周期的に、再来年だったか? 凄いらしいぞ。二十何年周期で発光が強くなるって、どっかの研究会が発表してた」

 お先にと一言断って、ミートスパを頬張りながら耳にした情報を口にした。
 やがてお腹が空いたからか、首が痛くなったからか。
 へえっと短く言葉を残して夕映が空を見上げるのを止める。
 そしてフォークを手に取ろうとして、目前でそのフォークが取り上げられた。
 また意地悪ですかと、目の前のむつきを半眼で睨んだがもちろん違う。
 むつきは取り上げたフォークで海鮮スパをクルクル巻き取り、差し出したのだ。

「あーん」
「手間がかかるだけの行為になんの意味が、あーん」

 呆れたように呟き口を開き、食べさせてもらった夕映が目を開く。
 呟かれた言葉は美味しいと驚き混じりで、フォークを奪って二口目を。
 そしてあれっと小首を傾げた。

「隠し味の愛情も馬鹿にならんだろ?」
「ですね、これも一種の未知のファンタジーです。お返しです、どうぞ」

 くるくると巻いた海鮮パスタを差し出され、遠慮なくぱくついた。
 ミートスパを食べていたので、少しフォークにミートソースの赤味が残る。
 うっと迷った夕映は、ナプキンに手を伸ばしかけては止めて、海鮮スパを巻いた。
 そのまま勢い良くぱくつき、新たに加わったミートソースの味も認め咀嚼していった。

「美味いか?」
「とても。先生のミートスパも少しください。目減りした分、しっかりと」
「跳ねないように気をつけろよ。ほら、あーん」

 メイド服にソースが飛ばないよう、むつきが慎重に巻いたそれを差し出した。
 ああ、馬鹿ップルだと思いはしたが、心が火照って周りが気にならない。
 関節キスの小恥ずかしさも今や甘酸っぱいスイパイスで美味しさアップ。
 踏み出してしまった一歩は、もはや取り返しがつかなさそうだ。

「先生、いくつか確認させてください。柿崎さんと付き合った経緯は?」
「正直なところ、飢えてた。余裕がなかったから、縋りつきたかった。もちろん、今はちゃんと愛してるし、大切にしたいと思ってる」
「では大河内さんは?」
「あれも必死だった。懸命に命引きとめ、告白されて。欲情もしてたし、欲張りになってた。欲しいと思ったから掴んで、もう絶対に放さない」

 綺麗な気持ちも汚い欲望も、包み隠さずむつきは語った。
 ありのまま、下手に論戦に持ち込んでも負けは目に見えている。
 それに、論戦などに意味はない。
 夕映が納得できる、むつきの心の底をしっかりと伝えなければ誠実とはいえない。
 現時点であれもこれもと手を出して、今さらなのだが。

「では特別な出会いも特になかった私は? 超さんの薬を盛られ切羽詰って、私も混乱から全て晒して。誘っただけのような気も」
「俺の姉ちゃん見たろ。あれが初恋で、正直なところ俺はむちむちした相手が好みだ」

 ぺたぺたと改めて触るまでもないが、夕映は自分の胸に触れて少し落ち込んだ。

「そんな俺が何故ほれ込んだか。もちろん、どろどろにぶっかけた罪悪もちっとはある」
「その部分ははしょってくださいです」
「羞恥に悶える夕映が可愛いからやだ。靴下で下着で、変態まっしぐらだ、それでも懸命に私でって脱いでくれた良い女。放っておけるか、他の誰かに渡せるか?」
「褒め殺しは卑怯です」
「どうやら俺は爺さん並みにストーカー気質らしい。絶対、手放さねえぞ。惚れた女は腕に抱いて犯して、いずれ子供も生ませる。それで幸せにする。ってところだ」

 さすがに最後の最後で照れくさくなり、そっぽを向いて照れ隠しである。
 気まずい空気も数秒の間は流れたが、呆れ果てた夕映の溜息が聞こえた。
 D組のあの子の台詞ではないが、私がいないと駄目とでも言いそうな目をしている。

「言ったら、言いっぱなし。返答も促がさず、仕方のない人です」
「お前が俺を惑わすからだろ。そう言うからには返答くれるのか?」
「のどかと天秤に賭けられる程には。今はこれが精一杯です。ご馳走様でした」
「どっちが卑怯だか。あんまり生殺しにすると、後ろから襲いかかるぞ」

 会計レシートを手にむつきが席を立った。
 喋っている間に、お互いのスパのお皿は見事に空になっていた。
 続いて立ち上がった夕映が、むつきに追いつき左手を手に取り握る。
 大きな手が余るので、指を三本ぐらいと若干控えめだが。

「意地悪ではなく、優しくしてくれれば対価は払うです。それで、今日のデートコースは何処です?」
「とりあえず散歩がてら歩いて、茶道部の野点。絡繰と、いたらマグダウェルとちゃんと会話したいしな。俺全くあの二人と話した事がないし、良い機会だ」
「恋する相手を隣において、別の女性の催しですか。最低です」
「仕事も兼ねてるからな。勘弁してくれ、これも我慢の一つだよ」

 会計を済ませぽんぽんとカチューシャのある豊かな髪をもつ頭を叩く。
 それから野点って行った事ないんだと、ちょっとした暴露である。
 当然、その為に連れ出したのかと文句は言われたが。
 アイス一つを奢る事で決着し、二人はのんびり会話をしながら野点海上へと向かう。
 ちなみに絡繰は出迎えてくれたが、マグダウェルは担当時間ではない為いなかった。









 麻帆良祭最終日の午後五時、薄暗くなり始めた赤焼けの空の下で世界樹の発光が強まっていた。
 朝方や昼間といった陽の光の下では全く見えなかった発光も、今ははっきりと見えている。
 電飾によるライトアップにも似た光景だが、規模が違う。
 目に優しくない電飾の光とは違い、どこか心を癒される温かい光だ。
 その光の真下、世界樹中央公園の特設ステージは今や大賑わいであった。
 最終日、最大のイベント麻帆良全域の教師人気投票トトカルチョの結果発表である。
 特設ステージを発端として、円状に設営された階段状の客席は満員御礼。
 押すな押されるなと、上空からは蠢く人の影が砂糖に群がる蟻のようにも見えた事だろう。
 ステージ前の空間には教師人が自分の応援団五人を引き連れ集められていた。
 ちなみに客席のチケットはプラチナチケット化しており、ダフ屋も出る始末。
 これはいかんと、麻帆良の地方テレビも動員され、大々的にテレビでも生中継であった。

「皆様、大変長らくお待たせいたしました。第一回、麻帆良全域教師人気投票トトカルチョ。司会は既におなじみ、麻帆良女子中二年A組の報道部朝倉がお送りしまっす!」

 朝倉の結果発表前の挨拶に、割れんばかりの歓声がどよめいていた。
 同心円状の客席の中央にいる教師は溜まったものではない。
 必死に耳を押さえなければ頭が割れそうで、次回からは耳栓が必須となる事だろう。

「ぐぁっはっはっは、こちとら刀子先生の十万一点買いじゃ。愛の偉大さを知れ!」
「何を、シスターシャークティの神々しさにおばんが勝てるか、十五万一点買いだボケ!」
「中等部の部は大妖精二ノ宮先生で決まりだろ、強敵ぞろいの高等部で張ろうって発想が既に博徒じゃねえ」
「盛り上がるところすみませんが。あくまで人気投票、張っていない相手をこき下ろした場合、最悪券の没収もありえますのでご自重をお願いします」

 さすがに女性教師の人気は高く、お金が潤い出す高校生以上は賭け額も大きい。
 新田がううむと腕を組んで唸っており、来年は賭け額に上限もかけられそうだ。
 まだ第一回という事もあり、雪広も頑張ったが改善点は目白押しである。
 もちろん、それで雪広を糾弾する者があれば、むつきも全力で徹底抗戦の構えであった。

「先生、実際自己評価はどう? 駄目押しで踊っちゃうよ」
「踊りなら、私もチア部に負けないよ。水があればアキラだって」
「シンクロは未経験だよ、まき絵。それにもうアピールタイムは終了してる」
「既に投票結果は出てるから大人しくしてろ」

 むつきの応援団は美砂を筆頭としたチア部三人と佐々木とアキラである。
 雪広は運営委員の統括で、長谷川は元々衣装作成係で表に出るタイプでもない。
 和泉は佐々木に場所を譲って、超や葉加瀬、四葉と後方支援組みだ。
 あと、夕映は高畑の応援に元々はスパイとして送り込まれていたのでいない。
 パレード時の発表順で並んでいるので、間に源や二ノ宮がいて少し遠かった。

「高畑先生、やる事はすべてやりきりました。後は勝つだけです、信じてます私」
「ありがとう、明日菜君。皆も、僕なんかを応援してくれて感謝してるよ」
「先生やもんな、来年もお世話になるんやし。色々と、な。明日菜」
「賞金でたら奢ってよ、高畑先生」

 鼻息荒い神楽坂達に囲まれ、笑っている高畑の真後ろ。
 ちょっと寂しそうにしているので、駆け寄って抱きしめたいが我慢我慢。

「ゆえゆえ、どうかしたの?」
「な、なんでもないですよのどか。さあ、小等部の結果発表が始まるです」

 宮崎に話しかけられ、夕映も空元気で似合わない拳を上げていた。
 ついに小等部の結果発表が始まったが、賭けている者はやはり小学生が多い。
 掛け金十円、高くても五百円と可愛らしい絵付きの券が順次空を舞った。
 やはり小学生では母親を連想しやすい女性の教諭が一位と二位を取っていた。
 そのなかで唯一男性教諭として残りの一席を勝ち取ったのはこの人だった。

「第三位、麻帆良小等部のお父さんはやはりこの人だった。賞金は皆で一緒に肉まんでも食べようか、弐集院先生。賞金は三十万となりますので存分に肉まんをどうぞ」
「はははっ、皆。肉まんを食べたいかー!」

 朗らかに笑った後にマイクを向けられての第一声がそれであった。
 小さな子達も賭けの勝ち負けには拘らず、食べたーいと大声で返していた。
 なんとも微笑ましい、さすがは小等部であった。
 こんな一幕には女性教諭の誰が一位か言い争っていた男子高校生達もほんわかしている。
 中等部発表を前にして、美砂達の肩に入っていた力もやや解れていた。
 クスクス笑い声も絶えず、気を取り直すように朝倉がマイクを手に取った。

「それでは次、中等部の部です。お年玉の半額なんてケチくさい事は言わない。外れたら年末まで涙を飲む覚悟は良いか。結果発表です」

 小等部の結果発表時もそうだったが、豪勢にドラムロールであった。
 周囲のライトも光度を落とされ、スポットライトが特設ステージ前、教師陣を照らしてまわる。
 本当にこれが学生の催しと誰が思うか。
 テレビ中継された先のお茶の間でも、どうせ大人が色々と思っているかもしれない。
 だがそんな他人の心の内は関係なく、皆は今この瞬間心を一つにしていた。
 対象はそれぞれ違うかもしれないが、大好きな先生が一番でありますようにと。
 ドラムロールが終わり、パッとスポットライトがとある先生を照らし出した。

「なに、私かね!?」
「中等部の部、第一位はこの人。私達は貴方のような古きよき先生を何時でも待ち望んでいる。金八先生よりも大好きだ、鬼の新田先生!」

 一瞬、朝倉がやべっと鬼のと無駄な前置きを置いてしまったが問題なかった。
 そんな細かい誤りは完成にかき消され、立ち上がった新田教諭は応援団の子に抱きつかれている。
 慌てふためく新田というのも珍しく、手を引かれて特設ステージ上の表彰台の一番上に招かれた。

「中等部の部、第一位の賞金百万円です。この賞金をどのように?」
「長年連れ添った妻を旅行にでもと言いたいが、より良い生徒指導の為に進路指導室、相談室などの整備、備品の購入に当てようか」
「そんな真面目過ぎる程に真面目な先生が大好き!」
「こら、やめんか恥ずかしい」

 応援団から大好き宣言が飛び出し、年甲斐もなく大照れの新田であった。
 鬼が真っ赤になったと多少の揶揄も飛んだが、麻帆良祭それも最終日である。
 こらっと新田の注意も普段の見る影もなく、普通の近所のおじさんレベルだ。

「まあ、妥当だよね。倍率一.一倍とか、当選確実視されてたし」
「本当の勝負は二位から二位から、負けないよ明日菜!」
「こっちこそ、まきちゃん。白黒付けようじゃないの!」

 美砂の言う通り、中等部は新田が出た時点でほぼ一位は諦められていた。
 賭けも絡むと生徒は本当に正直で、倍率が良い証拠である。
 だから佐々木や明日菜でさえそれは理解しており、指差しあって二位狙いだ。
 場外戦も順調に盛り上がっており、高畑とむつきは見合って苦笑いである。

「それではここからがある意味で中等部の本番。新田教諭の後継者は誰か、そちらも気になるところ。第二位の発表です!」

 再びライトが消され、ドラムロールが始まったが一位に比べてその間は短い。
 何しろまだ高等部の部、大学部の部、それから総合さえ残っているのだ。
 一位が確実視され二位からが本番とは、運営も共通認識だがそれはそれ。
 約半分程度のドラムロール後にパッとスポットライトが止まった。
 一体誰だとむつきは眩しいライトに目が眩み、あれっと思う。
 何故自分が眩しいと思ったか、右手左手を見ると明るいのは自分の所だけだ。

「第二位は企画発案の二年A組の副担任。脱がされたら色々と凄かった初日に一気にハートを掴んだぞ。その後もちょいちょい、各所で小ネタを挟んで堂々の二位だ」
「やった、先生二位だって賞金獲得だよ」
「やったやった、見事に二位を引き当てたよ。倍率はそこそこだけど、お年玉全額ぶち込んだから大もうけ」
「そっちか、桜子。でもちょっと分けて!」

 ぴょんぴょん飛び跳ねた佐々木は純粋だが、椎名は賭けの方を喜んでいた。
 注意した美砂もさりげに、分けてと彼氏ほったらかしである。

「ちなみにこれが小ネタの数々です。見回り中に不良グループに追いかけられ、生徒の乗馬を見に行っては転がり落ちた生徒にかかと落としを食らわされ。熱いたこ焼きを突っ込まれたり、本当小ネタに困りませんでした。報道部としても大変ありがたい!」
「ちょっと、朝倉さん。何故私の恥ずかしい場面を激写しっ、ちょっとお放しになって。私を誰だと、この催しの統括雪広あやかですわ!」

 わざわざ大スクリーンで小ネタの数々を写真で紹介されてしまった。
 雪広の慌てぐあいからも、完全に朝倉の独断なのだろう。
 被写体であるむつき達の角度から、黙っていれば雪広だとは知り合い以外分からなかったものを。
 さすがに彼女と間違ってむつみを襲った場面の写真はなかったが、持ってる気がする。
 この野郎と朝倉を睨んでいると案の定、ポラロイドらしき写真を振られた。

「高畑先生、お先に失礼します」
「まだ、まだ負けてない。総合の部では高畑先生が有利だから!」
「こらこら、明日菜君。すまないね、乙姫君」

 久々に神楽坂に噛み付かれたが、既に和解済みの二人は内心も穏やかだ。
 むつきもぺこりと頭を下げてから、表彰の舞台に上がってまず朝倉の写真を奪った。

「先生、それで第二位の五十万の賞金は。もちろん、奢ってくれるんでしょ?」
「おーい、二年A組と世話になった麻帆良女子中水泳部。この五十万でJOJO苑の奢りだ、この野郎。ただし、朝倉除く!」
「きゃー、先生だから愛してる。水泳部一同、コンパニオンだってやっちゃう!」
「さり気に水泳部まで、この変態教師。でも愛はこっちも負けてない!」

 当て付けで朝倉除くと言ったが、もちろん本気でハブにするはずもない。
 ちょっとしたおしおき程度の気持ちで、ごめんなさいの一言で許すつもりだ。
 だというのに朝倉ときたら、そっちがその気ならと徹底抗戦の笑みである。
 これにはむつきの方が冷や汗だらだらで、空気読めと念話を送るが通じるはずもなく。

「ああっと、手が滑っちゃった。てへぺろ」
「ぎゃーっ、まだストックあったのか!」

 朝倉がスイッチを押して巨大スクリーンに映し出されたのはアレだ。
 ポラロイド写真を奪って安心していたが、とある女性を押し倒した決定的瞬間。
 今朝、美砂やアキラと間違えてむつみを押し倒したあの現場の写真である。

「誤解を与えず言いますが、初恋のお姉さんを恋人と間違えて押し倒した乙姫先生の図です。いや、初恋って甘酸っぱい」
「見るな、見るな。だって姉ちゃんが起きたら布団にいるって普通思わねえよ!」
「むっ君、お姉ちゃんは気にしてないから。胸の谷間にキスマークつけられたけど」
「姉ちゃんも何故神多羅木先生の応援席に。もう、何も言わないでお願い。むっ君からのお願い」

 五十万円分の巨大小切手を手に、泣き崩れるように久々に落ち込んだ。

「さあて、少し時間が押してまいりましたのでちゃっちゃと三位の発表です。新体操部の大妖精、二ノ宮先生でした」
「扱い、軽ッ。乙姫先生みたいに、弄られまくるよりは良いけど」

 非常に微妙な表情で特設ステージの表彰台に上がってきた二ノ宮がまずむつきの肩を叩いた。
 もちろん、それはやったねとかお隣さんねというものではなく、純粋な慰めだ。
 さすがの新田も落ち込んだむつきは少々持て余していたのである。
 ただし、久々に精神的ダメージが大きいので美砂かアキラ、もしくは夕映でしか癒せない。
 巨大小切手を抱えてしゃがみながら、ぷいっと客席に尻を向ける始末だ。

「さ、さーてお次はお待ちかね。人気教師の激戦区、高等部の部です!」

 さすがにやりすぎたと額に大粒の汗を浮かばせながら、朝倉が先を続けた。
 対処を間違えたのは明らかで、美砂やアキラ、夕映のみならず他からの視線が痛い。
 特にクラスメイトからの視線が厳しく、内心はやっちまったと思っている。
 ただし、そこはさすがに謎のプロ根性。
 内心の焦りを微塵も見せずに、高等部の部の発表をそつなくこなしていった。
 第一位は男子高校生の得票率が高く、実は女子生徒からも支持の高い葛葉である。
 ちなみに彼女も合コンのセッティングを非常に感謝しており、朝倉を睨んだ一人だ。
 第二位は惜しくも敗れたシスターシャークティ。
 五十万は全て恵まれない施設の子へと寄付しますと、なんともシスターらしい回答である。
 第三位は男の渋みがものを言った神多羅木であり、何故かむつみを伴なっての登壇であった。
 朝倉のマイクを向けられ、私達結婚しますとむつみがぶちあげて神多羅木が慌てたり。
 続く大学部の部では、もはや教授が多すぎて誰が誰やら。
 第三位に明石の父である明石教授ぐらいで、今一ぱっとしない内容であった。
 そして総合の部、教師と名がつくなら誰でも良い、いわば無差別級である。

「さて、ここからは実力のみがものを言う。最強の教師を決める場といって過言ではありません。皆さん、散財の心の準備は万端か。総合の部、第一位の発表です!」

 何度目かのドラムロールの長さは過去最長。
 非常にもどかしい時間を遅らせ、スポットライトを浴びたのは何時もと違う場所。
 特設ステージ前の教師陣の待機場所ではなく、特設ステージの真上。
 既に中等部の部で第一位を獲得した新田であった。

「第一回教師人気投票から、もはや殿堂入りか。中等部の部と総合の部のダブル受賞しかも一位独占。我らが女子中等部が誇る古来よりのGTN、新田先生だ!」
「また私か。教師生活云十年、やり過ぎだと一部声もあったが伝わっていた。私の教育方針は決して間違いではなかった。なかったのだ!」
「おおっと、これはなんと鬼の目にも涙。やはり先生も人の子、生徒へくだす雷にも迷いはあった模様。大丈夫、生徒は貴方を信じています。愛しています!」
「すまないが、もはや言葉にならない。私も君達生徒を愛している、ただそれだけだ」

 もはや涙で前が見えず、足元もおぼつかない様子であった。
 これは危ないと二ノ宮が新田に手を貸して、総合の部の表彰台へと上らせた。
 さすがにこれはいじけている場合ではと、むつきも多少復活しはじめる。
 惜しみない拍手へと自分も加わり、男泣きが止まらない新田へ拍手を送った。
 朝倉も泣き崩れそうな新田へは、独断でインタビューを中断し次の発表に移る。
 その空気の読む力は、もう少し早く使ってほしかったものだが。

「それでは、総合の部のインタビューは後日報道部の新聞を見ていただくとして。第二位の発表です!」

 この時、誰よりも力強く両手を握り締め祈りを捧げたのは一人の女子中学生であった。
 一心不乱に誰よりも信じ、その後押しとして応援し、時には力不足に泣きもした。
 特別な感情を込めてこの三日間、それ以前から応援し続けた少女。
 その想いが通じたかのように、スポットライトが彼女の前の人物を照らし出す。

「第二位、新田先生と同じく広域指導員は伊達じゃない。幅広い活動範囲と治安維持活動により街の平和を守るもはやヒーロー、デスメガネと一部不良も認めた高畑先生!」
「やった、先生。高畑先生……うぅ、泣いてちゃ。喜ばなきゃいけないのに」
「ええやん、泣いても。頑張って応援したもんな、明日菜。一番頑張ってたの私がちゃんと見とったえ。よしよし」
「ありがとう、明日菜君。君のおかげだ」

 その一言でわっと神楽坂が泣き崩れ、感動屋さんめと貰い泣きがちょこちょこと。
 その大半は二年A組の面々だが、仕方のない事だろう。
 もはや高畑派、乙姫派などの派閥もなくし、ぼろ泣きの明日菜を皆で囲んで慰める。
 やや高畑は壇上に登り辛そうに何度も神楽坂を振り返っていたが。
 あまり待たせるわけにもいかず、皆に神楽坂の面倒を任せて表彰台に上った。

「やば、私も泣きそう。被保護者である生徒がぼろ泣きですが一言どうぞ」
「最近は出張が忙しくて、本当にこんな僕が応援されて良い立場か迷った事もあるよ。けれど、それでも応援してくれる子はいて、答えなきゃいけないと思ったよ。何歳になっても男の子だからね」
「あーぁ、子供みたいに応援団が抱き合って泣いてます。ちなみに、五十万円の使い道は?」
「中等部の部で二位をとった乙姫君が奢るんだ。僕だけポケットにしまうわけにはいかないよ。それにJOJO苑にクラスまるごと、水泳部も連れて行くと足りないかもしれないからね。乙姫君、君と僕とで割り勘だ」

 もちろんむつきに断る理由など何もない。
 水泳部員だけは凄く個人的な事情で連れて行くのでむつきの方で出すが。
 そして後は終息していくだけの総合の部、第三位である。
 とりと言えばとりだが、ちょっと選ばれた人は哀れにも感じる立ち位置であった。
 ドラムロールもそのせいか少し投げやりでばらばら。
 あたふたと闇を泳ぐスポットライトは迷いに迷って欄外へと消えていった。
 そしてドラムロールが止まる。
 スポットライトが向く先は、特設ステージの袖口であった。
 一体誰がとざわめき、うわちゃと朝倉は顔に手を当てていた。
 そしてスキップしながらスポットライトに照らし出され現れたのは、妙に頭の長い妖怪爺。
 麻帆良のぬらりひょん事、近衛近右衛門であった。

「えー、非常に組織票というものを疑いたくなる、盛り下がる結果でございます。総合の部第三位は麻帆良学園都市の長、長老、妖怪、女子中等部に学園長室ってロリコン爺。近衛近右衛門先生です」
「うほっ、二ノ宮先生より投げやりではないか。組織票など、わしは純粋に実力で」
「学園長、そう言いますけど。応援団は誰なんですか? ほら、唯一応援団に入ってくれそうなお孫さんは、高畑先生の応援団ですし」
「お爺ちゃん、私恥ずかしいえ。身内が権力にものを言わせて組織票やなんて。自首してや、待っとるから。何年、何十年でも、ひ孫ができたら面会にも行くえ」

 ちょっと待ってと、学園長は大慌てだ。
 しかし可憐な孫娘としなびた妖怪爺とでは、特に男子生徒からの信頼が違う。
 特に朝倉の言葉にもあったように、女子中に学園長室を作るロリコン変態だ。
 孫の近くにいたかったとしても、他にやりようはあったろうに。

「引っ込め、学園長。俺も女子中のフローラルな香りをはすはすしたい!」
「盛り下がるわ、だいたい掛け率何倍だよ。ダークホース、大穴も良いところだ!」
「かーえーれ、かーえーれ!」

 ブーイングはまだしも、空き缶ペットボトルさえ投げ込まれ暴動寸前。
 特に男子生徒の嫉妬はすさまじく、非常に物々しい雰囲気となってきた。
 これはまずいと統括の雪広がステージに飛び出した瞬間の事だった。

「おだまんなさい、ガキども!」

 客席にて立ち上がったのは、一人のおば様。
 それこそ、六十代近い初老に足を踏み込んだ女性であった。

「近衛先生の応援団は私達、当時の生徒一同よ。ロリコンに目覚めはしても、当時はそれはもう素晴らしい先生だったの。その近衛先生をブーイングだなんて十数年早いわ」
「非常に嬉しいのじゃがロリコンは否定してくれないのかのう」
「あらやだ、近衛先生ったら当時ぴちぴちの私達のお尻触ったり」
「そうそう、体育の着替えも何度か覗かれたわね。授業時間間違えちゃったとか。もう、思春期まっさかりの乙女の柔肌をねっとりと」

 がっはっはと豪快に笑うおば様方は良いとして、学園長に冷たい視線が突き刺さる。

「あら、このお腹。もしかして、あの時の近衛先生の子供が?」
「やーね、これはただ太ってるだけよ」

 おば様方は、自らが追い込んだ学園長の危機に気付く事もなく、笑っているだけだった。
 それはもう、先程むつきを弄りすぎた朝倉に対するそれの比ではない。
 本気で盛り下がり、騒いでいるのは当時を知るおば様方だけ。
 確かに不正こそしていなかったのは分かったが、それ以前の問題が発覚していた。
 その縁者である近衛がトンカチ片手に壇上へと上り詰めていく。
 やや俯き加減でその表情は伺い辛いが、確実に怒っている事だろう。

「木乃香、信じておくれ。わしはお前の事が心配で、お友達と仲ようしているか」
「次にお爺ちゃんは、だからちょっと時々間違えて着替え中に覗きにと言うえ」
「だからちょっと時々間違えて着替え中に覗き……はっ!」

 その台詞を仕込んだのは早乙女か。
 次の瞬間驚きに固まった学園長の頭を近衛のトンカチが正確に射抜いていた。
 ばっちりその瞬間も地方テレビであったが放映されてしまっている。
 第一回麻帆良全域教師人気投票は、前代未聞過ぎる結果にて閉幕した。
 ちなみに、第一回にして新田は殿堂入り、学園長は無期の出馬停止との処分になった。
 もちろん、学園長室も即座に女子中等部から撤去される事にもなる。









-後書き-
ども、えなりんです。
瀬流彦の人気にびっくりしてます。

これにて、麻帆良祭編は終了でございます。
ちなみに、順位発表が一位からなのは普通に作者のミスでした。
が、別にこれ学生らしいミスではと残しました。
まあ、最後の学園長の演出が都合が良かったのもありますが。

なんかどさくさで、学園長室が女子中から撤去されました。
あれ、着実に小さな所で未来変わってます。
しばらく、女子高近辺で近右衛門は針のむしろです。
おば様方の親愛ゆえの下ネタも思春期にはマジネタに聞こえるのです。

それでは次回は土曜日です



[36639] 第三十七話 俺と二人きりになったら全力で逃げろ
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/05/18 20:01

第三十七話 俺と二人きりになったら全力で逃げろ

 麻帆良祭最終日の夜は後夜祭、打ち上げの夜でもあった。
 二年A組と水泳部員は、むつきと高畑の人気投票入賞の賞金で豪勢な夜を過ごした。
 高級学食JOJO苑で全員が焼肉の食べ放題と飲み放題。
 水泳部員の一年生は沢山の上級生に囲まれ、少々居心地が悪そうだったが、それでも和気藹々と。
 高畑派、乙姫派とはなんぞやと対立の陰もどこへやら、騒がしい打ち上げであった。
 多少、水泳部のキャプテンがむつきを誘惑し、負けてなるものかと佐々木や明石がアキラを押したりした一幕もあったが。
 二年A組、他水泳部員の九割が睡魔で倒れるまで打ち上げは続けられた。
 後の処置も殆ど高畑とむつきの手で行なわれ、ひかげ荘へ帰って来たのは午後二時。
 これが学生時代なら、焼肉の匂いがなんぼのもんじゃいとそのまま寝入ったが。
 最後の気力を振り絞って風呂に入ってから寝入り、翌日にむつきが目を覚ましたのは午前十一時頃であった。
 三日間の快晴が嘘のように梅雨らしく、しとしとと小雨が降る蒸し暑い陽気である。

「あちぃ」

 蒸し暑さに耐えかね薄手の毛布を蹴り飛ばしながら、むつきは目を覚ました。
 寝汗が酷く、ぼりぼりと寝ぼけ眼で胸板を掻く始末である。
 そもそもひかげ荘に泊まったのは、麻帆良祭の後の二日は休日だからであった。
 全員が全員に合鍵を渡しているわけではないので、泊まったのだ。

「水……」

 冷たい水が欲しいと食堂へ向かうと、人の気配があった。
 現在、ひかげ荘の合鍵を持っているのは美砂、雪広、四葉の三名だ。
 超辺りは、勝手に偽造もしくは別途、入り口の一つもこさえていないとも限らないが。
 食堂での気配の主は、やはり四葉である。

「おはよ、早いな四葉。もう、厨房に手を入れてるのか?」
「おはようございます、先生。はい、何かと道具が入用で。自室はスペースが限られますし、お料理研究会では私物をあまり部室に置くのもどうかと思いまして」
「全然活用してないから好きに。それこそ多少のリフォームは言ってくれれば考えるぞ」
「ありがとうございます。ここなら、試食の相手にも困りませんし。私もこれ以上、太る事を気にしなくても大丈夫そうです」

 水道の前に立つと、冷たい野菜ジュースがと冷蔵庫を指差されたのでそっちにした。
 現在は掃除中なのか、休みにも関わらず四葉は体操服姿であった。
 やや酸っぱめの野菜ジュースを飲みながら、ちらりと四葉を覗き見る。
 確かにプロポーションや発育状態がおかしいA組にいると目立ちはするが。
 自分で太っていると気にする程か。

「どうか、されましたか?」
「んー、セクハラになりそうで微妙だけど。俺は実は、眼鏡よりもむちむち系が好みでな。言ってしまえば、長谷川より四葉の方が好みだぞ?」
「ふふ、ありがとうございます。けれど、麻帆良祭は昨日で終わりです。あまり、そういった発言はなさらない方が良いですよ」
「あっ、そっちで怒られたか」

 まとも過ぎる反論に、殆ど二の句が継げない状態である。
 確かにこの調子で先生業に挑めば、どの様なボロを、または失言をするか分かったものではない。
 自分より、よっぽど教師に向いているのではと思ったりする。
 しっかりしないとともう一杯、野菜ジュースをコップに注いでいるとお握りが差し出された。
 お皿に一個だけなのは、そろそろ一時間もすればお昼を考慮してか。
 おもてなしの心もピカイチだと感動しながら頬張っているとインターフォンが鳴った。
 百段近い階段の上にあるひかげ荘へとわざわざ訪れるお客など皆無である。
 それでも出迎えてみると案の定、雪広、朝倉そして夕映であった。
 雪広は白の清楚なロングワンピース、朝倉は胸を強調したキャミソールにホットパンツ。
 おおとり、むつきのなかでだが、夕映は黒のミニワンピースに同じ色のニーソックスだ。
 どうやら振り出してから寮を出たようで三人共にしっかり濡れた傘を持っていた。

「おはようございます、乙姫先生。失礼ながら、マナーでしたので」
「おっは、早速現像室造りに寄らせて貰った。昨日は御免ね、先生。はしゃぎ過ぎて、やり過ぎるのが私の悪い癖かな?」
「おはよう、二人共。昨日謝って貰ったし、慣れてる。気にすんな、友達にそれしなけりゃひとまずは大丈夫だ。で、夕映? なんか不機嫌オーラ出てんぞ?」
「別に、なんでもないです」

 そう言ってぷいっと背いた相手が、なんでもない事などまずないわけで。
 まず何よりも先に、自分が何をやらかしたのかを思い出す。
 実際、思い出すまでもなかったかもしれない。
 お酒で記憶は飛ばないタイプなので、それはもうしっかりと覚えていた。
 水泳部員をJOJO苑にて打ち上げに呼んだまでは良かった。
 前述した通り、水泳部のキャプテンに誘惑されちょっと胸に触ったりしていた。
 一応回りから隠れてだが、お尻も何度か触ったかもしれない。
 コレは絶対、夕映に見られていたのだろう。
 先日、露天風呂で雪広達にぶっかけたり色々したが、ちょっと分けが違った。
 昨晩のあれは、もはや酒に酔った上での醜態である。

「ご、ごめんなさい」
「別に謝られる事は何も。先生に告白はされましたが、私はまだ返していませんし。恋人でない以上、怒るいわれもありません」
「先生、弱いわ。格好悪い、なにそれ?」
「潔いと言え、自分が悪いと思ったら謝る。逆切れする方が、たぶん夕映の性格上嫌いな男だろうし」

 朝倉に苦笑気味に笑われたが、やかましいとばかりに反論した。
 そして性格云々の部分でそうだろと、下げた頭のまま上目遣いで問いかける。
 深々とした溜息をはかれてしまったが、背けた顔は戻してもらえた。
 ただまだその目は、完全に許してくれたようにも見えない。

「先生、私の部屋の私物。と言っても、あまりありませんが。手伝ってください、一階に運ぶのを」
「元よりそのつもりだ。引越しついでに、全員の部屋を把握するぞ。雪広、まだ来てない奴に連絡して入室の許可とっといてくれ。お前が立ち会うからって」
「了解しました。確かに、人も増えましたし。部屋割りの一覧や在室・不在の掲示板か何かもこの玄関に置いた方がよろしいかと。四葉さんの事ですから、色々と食を提供してくれそうですから」
「完全にもう一つの寮だね。学校とは無縁なだけに、こっちの方が色々と気楽だけど」

 特に発言者である朝倉や長谷川、四葉と言った面々は趣味の度合いが大きい。
 前者から現像室、衣装室、撮影室など、最後に厨房と。
 むつきと美砂、アキラは兎も角として、これまで雪広や和泉、夕映はここで何をしていたのやら。
 超や葉加瀬はこの二人は二人で、何をするつもりやらちょっと怖いぐらいだ。
 一度食堂に戻って四葉に三人追加とだけ伝え、その三人を連れて二階へ。
 実は最近、むつきは二階より上へは殆ど立ち入っていない。
 何しろ朝倉の発言どおり、半分女子寮と化しているのでおいそれと簡単には踏み込めないのだ。
 ひかげ荘の間取りは、そのままひなた荘を参考に作られている。
 むつきは知らぬ事だが、爺さんの執念、盲愛の賜物でもあった。
 正面玄関はホールもかねており、右手が食堂、左手の奥が管理人室と数室の空き部屋。
 ちなみに露天風呂へはホール左手の奥から廊下が伸びていた。
 途中に共同トイレや洗面所、いわゆる水場に関する施設があった。
 露天風呂に隠れて使用頻度は殆ど稀だが、一応屋内にもひのき風呂があったりする。

「私の部屋はこっちですので」
「私はこっちです」

 ホールからの階段を上がり、二階ロビーにて雪広が左手を夕映が右手を指差した。
 朝倉は早く自分の領土を作りたいのか、三階へ続く階段をちらちらみている。

「先に夕映の引越し済ますか。朝倉、三階の間取りは長谷川から聞いてるか? 俺に聞かれても、何処が空いてるとか知らんぞ」
「先生、管理人ならもう少し把握した方が良いんじゃないの。一番奥って聞いてるから大丈夫。撮影室は共同になりそうだけど。んじゃ、お先」
「私も、先生が覗かれる前に部屋を片付けます。その前に、亜子さんに一報を入れておきます。それでは、また後ほど」

 朝倉と雪広をそれぞれ見送り、夕映と二人きりであった。
 機嫌の事もあるので少し迷ったが、小さな手を握ってみた。
 振りほどかれはしなかった事を安心し、先導するように歩いたが直ぐに引っ張られる。
 やっぱり機嫌がと思ったが、振り返った先の夕映は完全に別方向を見ていた。

「先生、こっちというかここです」
「ああ、そう言うことね」

 雪広がホール左手の部屋ならば、夕映はホール右手直ぐの部屋だ。
 もっと奥なら少しでも長く手を繋いでいられたのだが。
 ちくしょうと握った手から力を抜くと、逆に力を込めて繋がれた。
 どうやら、多少は同じ気持ちでいてくれたらしい。
 俯き加減に赤い顔を隠しながら、夕映が目の前の襖を開いて部屋の中へ導いてくれた。
 そして、一歩を踏み込まないうちに、唖然として部屋の中を見渡す事になった。

「こいつは、また……たった一ヶ月で、よくもまあ」
「自慢の愛読書達です」

 ふんすと俯かせていた顔を上げてまで、小さな胸を張って夕映が説明した。
 間取り的に、十畳から十二畳と言った部屋の中は本の森であった。
 四方八方、本棚がないのは入り口の襖と光を取り込む窓ぐらい。
 押入れも襖のドアが外され、サイズに合わせた本棚が押し込まれている。
 ただし、厳選された愛読書というだけあって本棚の九割はまだ歯抜け状態であった。
 むつきが凄いと言ったのは、本棚の数と部屋の中心の小さな丸型テーブル、あと一人用のソファー。
 本の虫が部屋に篭る為だけにあるような間取りである。

「お前、良くこんな金があったな。無駄遣いしてないだろうな」
「委員長ではないので、そんなお金があるわけないです。全て寮内のリサイクル品だったり、ゴミ捨て場にあった良さそうなものを勝手にリサイクルです」
「寮内、あれだけでかい寮だ。そりゃ、誰かしら新しい家具買ったり、リサイクル品は出るよな」
「中学生ですから、お金がないのは誰でも一緒。そこはお互い、助け合いです」

 良く良く見てみれば、本棚に一切の統一感はなく木目模様もあれば安そうなベニヤ板のものもある。
 哲学好きな変わった子だが、そういう普通の女子中学生っぽいところは安心した。

「でも、これ全部運ぶの結構大変だぞ。むしろ、良く運び込んだな。俺の知らない間に」
「先生、普段の休日。ご自分が何をされていたか、胸に手を当ててください」
「美砂やアキラとセックスに励んでました。そりゃ、気付きませんね」

 三人があんあんやってる間に、密やかに運び込まれたようだ。

「て言うか、私物あまりないとか言ってなかったか?」
「委員長と話し合った結果、ここはもう図書室にしてしまおうかと。文庫本や漫画でも何でも。お互い知らず同じ物を買わなければそれも節約です。ですのでテーブルとソファー。後は、持ち出し中の本を置く小さな本棚一つぐらいです」

 それなら、引越しなどという大げさな言葉も時間も特にいらない。
 夕映一人でも新しい部屋と二、三往復するぐらいで終わってしまう。
 部屋内の置時計をみると、十一時四十分と引越しを始めるには微妙な時間だ。
 一気に終わらせる事もできるのだが、慌てて午前中に終わらせる理由もない。
 十二時過ぎに恐らく四葉が何か作ってくれるであろうから、それまでは自由である。
 むつきは一人用のソファーに座り、背持たれに首を乗せながら夕映を手招きして膝を叩く。

「引越しは昼にして、イチャイチャしようぜ」
「エッチなのはなしですよ?」
「信じて貰えないかも知れないが、休みにセックスばかりしてるわけじゃないぞ。普通にお喋りしたり、こんな事があったとか」
「そういう積み重ねは大事かもしれないですね。分かりました、失礼するです」

 一人用のソファーなので、むつきの座った膝の上にぽすりと夕映が収まった。
 そんな夕映を小さいなと心中で感想を抱きながら、後ろからむつきが抱き締めた。
 お腹に腕を回しキュッと抱き締め、可能な限り密着したが少し暑い。
 けれど、夕映から文句が出る事もなくちょっと顔を赤くして恥ずかしそうにするだけだ。
 可愛いのうと頬をつんつんしていると、慌てたように話題を振り始めた。

「ぅぁ……あの、ですね」

 だいたい彼女の話題は二種類に分けられる。
 最近呼んだ哲学書か、図書館探検部の面々、特に宮崎に関してだ。
 前者は何時の時代のこういう哲学者がこう語ったと、後者は宮崎のお世話に関して。
 あまり学校でも口数の多いほうではない彼女だが、二人きりだと良く喋る。
 むつきは丁寧に相槌を打ちながら聞き入った。
 時々悪戯をしては、エッチなのはなしですと注意されながら、小さな恋人と午前中精一杯イチャイチャした。









 十二時を過ぎるまでに和泉が現れ、気がついてみれば何時の間にか超と葉加瀬も。
 割と大人数となったが事前に各自から四葉へ連絡がされていたようだ。
 さらにお昼の途中で美砂とアキラ、長谷川と勢ぞろいしてもお昼ご飯が足りない事もなく。
 食堂に集って四葉お手製と贅沢なお昼ご飯を頂いた。
 小雨により蒸して熱い事を考慮し、さっぱりしたこうじ味噌のお味噌汁と白飯。
 おかずもまた喉の通りのよい春雨や冷たい生野菜と茹でた豚のゴマダレかけ。
 これまで出前やら焼肉、お好み焼きといった事を考えると食のレベルが上がりすぎである。
 全員、お腹が一杯になってお茶を飲む頃には、目がとろんとしているぐらいだ。

「四葉、とりあえず材料費だけでも出すぞ。友達から金貰うの嫌なら、俺が全部出すが」
「気にしないでください。麻帆良祭の超包子でのお金が余ってますから」
「超包子は四葉が要ネ、七色つけてお給金は払てるヨ。最も、オーナーの私が一番儲けさせてはいるけど」
「友情が壊れそうで、幾ら儲かったか聞くのが怖いわね」

 美砂の言う通り、とても怖くて幾ら儲かったか聞けやしない。

「ていうか、常識的に考えて。むしろ私らが先生にお金払う立場じゃない? 秘密基地的なこの建物で自由に部屋を使って良いなんてさ」
「なんでだよ。空気入れ替えたり、言わば管理の手伝いだろ」
「あら、そうでもありませんわ。施設とは使用するだけで何かとお金がかかります。電気、水道、ガス。他に各自の浴衣やお布団のシーツのお洗濯など」
「全然、気付いてなかった。先生……もしかして、無理してない?」

 新規入居者だけあってまともな朝倉の意見に、まさかと長谷川が反論する。
 だが即座に雪広が朝倉に同調した為、意見はそちらに傾いた。
 その為、かなり心配そうにアキラを筆頭に夕映や和泉からも見つめられてしまった。

「爺さんから毎月管理費用は入金されるし、どうだろ。さすがにここまで人数が増えると足がでる、かもな。その辺は……」

 明言し辛い所だが、色々と必要以上に返してもらっている。
 四葉はこの食事だけで十分で、朝倉と葉加瀬はまだだが。
 他の面々、恋人である美砂、アキラ、夕映以外からも体で払って貰ったも同然。
 出るところに出たら、むつきの一生が壊れるリスク付きでもある。
 とりあえず、その辺は誤魔化そうとしたのだが、

「心配入らないネ。きちんと、皆体で払えば済む話ネ」

 絶対わざとそう言った超の発言で、ほぼ全員が同時にお茶を吹いた。

「私、部屋代払う。愛してるもん、そんなつもりこれっぽっちも」
「私も、あまり大金は無理だけどなんとかして」
「そう言う不純なのは私も、できれば避けたいかと」
「ああ、この麻帆良最強の馬鹿はもう」

 真っ先に反論したのはもちろん、美砂やアキラ、そして夕映である。
 それも当然だろう。
 お互いそんなつもりはなかったとは言え、ひかげ荘の使用料代わりに体を差し出したなど。
 ムキになってお金を払うと言い出した三人を前に、むつきはわざわざ立ち上がっていた。
 もちろんそれは、馬鹿な事を言い出した麻帆良最強の馬鹿の頬を引っ張る為である。
 赤丸ほっぺをぐにぐにと、横に引っ張ってお仕置きしてやった。

「おい、この話はここで終了。金の話なんてろくな事がねえ。生徒から、しかも将来的に嫁にして子を産ませる相手から金が取れるか、この野郎」
「うにうに、失言だたネ。ただし」
「煩い、お前の妄言は聞かん。今後、ひかげ荘内で金の話は一切するな。俺も四葉にしない。だから、感謝を込めてご馳走様でした」
「いえ、お粗末さまでした」

 超の頬を引っ張りながらそう言うと、本当に嬉しそうな笑顔が返って来た。
 それこそが最高の報酬だとばかりに。
 だから美砂達も、四葉にご馳走様でしたと感謝を込めた言葉を送った。
 それと素人考えでも、ここが気になったと美味しいご飯の中の小さな疑問を口にした。
 十分ほど、四葉も皆の意見をきちんと聞いて、これはと思った部分はメモする。
 団欒とは多少異なるが、そうしてお茶を飲みつつ言葉を交わしあい、本題であった。
 食堂からぞろぞろと移動しつつ、まずは管理人室の前へとやって来た。

「ひかげ荘の部屋割りを確認しつつ、全員の部屋を見て回ろうツアー。ちなみに不要そうだから、管理人室は省略」
「管理人室(臭そう)、主にイカ臭い」
「ちゃんと空気入れ替えて消臭しとるわ。爺さんに相続権放棄させられたら困るだろ」
「否定はしないんだ先生」

 日々というわけではないが、休日はセックス三昧なのは今更である。
 長谷川に突っ込まれてもそれがどうしたという態度で、和泉も苦笑いであった。
 苦笑いはお互い様、美砂やアキラもだ。
 ちょっと反応に困ったのは、これからその一員になりかねない夕映ぐらいである。

「じゃあ、一番は私の部屋かな。管理人室の隣、お妾さん用の部屋」
「ちなみに、正妻である私の部屋は先生と一緒でーす」

 はいはいと美砂の惚気は皆で無視して、アキラは少し羨ましそうに襖を開けた。
 基本的にひかげ荘の部屋は全て和装である。
 壁紙なんて洒落たものもなく、地面も畳で扉など鍵の一つもない襖だ。
 プライベートが重要視される現代ではとても寮として機能しない。
 その部屋がある意味でファンタジックな光景で溢れ返っていた。

「また、増えてる」
「中学生になってヌイグルミとか卒業する子って多いから」

 またと言ったのは割と訪れる回数が多いむつきであった。
 補足するようにアキラが言った通り、増えているとはヌイグルミの事だ。
 自身の背の高さがコンプレックスでもあるのか、アキラは小さくて可愛いモノが大好きである。
 となれば女の子、ヌイグルミの一つも持っているのは自然なのだが。
 ちょっと不自然な量となっていた。
 周囲四方に数々のヌイグルミが山のように積まれ、部屋の中央に布団があるぐらい。
 ヌイグルミのお友達にエッチな所が見られているぞと、言葉責めしたのも一度や二度ではなかった。

「貰い物だけじゃないよ。ほら、ゲームセンターでUFOキャッチャーで取っても扱いにこまるやん。そういうの、だいたいアキラに回ってくるから」
「あっ、これこれ。このリッド君。私が一年の頃にとってきてあげたやつ」
「あらら、私がとってきたのもある」

 和泉がそう言うと、美砂や朝倉がこれは自分がと言い出した。

「ちょっと前まで、寮の部屋が何度かぬいぐるみで溢れて裕奈に怒られて困ってたんだけど、ここなら幾ら集めても誰も困らない」
「いや、俺はちょっと困るんだけど。主にセックスする時」
「前にちょっとヌイグルミにかかった時、先生ごめんなさいさせられたもんね。ヌイグルミに向かって」

 ださと主に長谷川辺りに笑われる中で、ぬいぐるみを懐かしそうに抱いていた朝倉が投げ捨てていた。
 気持ちは分からなくもないが、こらっとアキラに小言で怒られる。
 多少理不尽だが、今は彼女の私物なのでちゃんと謝っていた。

「で、その隣が私の部屋となる予定ですが。まだ引越し前でがらんどうです」
「それじゃあ、次は私と葉加瀬の部屋カ?」
「何があるか怖いから、最後。そこで心が折れたら、もうこのツアーが終了だ」
「別に普通の研究室ですけど」

 葉加瀬のフォローも、天才でも頭のネジが飛んだ人物の言葉などあてにならない。
 後だ後と、家主の権限をフル活用で二階へと移動する。
 二階のホール部分は談話室もかね、ソファーや机、かつては自販機が置かれていた跡も床には見えていた。
 さすがに小銭とは言え、彼女達から貰うのもなんなので今後は置いてもウォータークーラーぐらいだろう。

「では、こちら左手直ぐが私の部屋となります」
「その奥が私。四葉さん、部屋まだなら私のさらに隣? 右手の夕映ちゃんの部屋が図書室なら、向こう側は遊戯室とかになりそうだし」
「それなら、亜子さんの隣にさせていただきます」
「さすがに、この人数で管理人室はもうキツイからな。んじゃ、二階の右手は遊戯室って事で。実家のスーファミぐらい、送って貰うか」

 古いと言われた挙句、長谷川がそれならPC一台ぐらい提供してやると言われた。
 今時はPCで古いゲームぐらいできるらしい。
 むつきもそこまでPCには詳しくないので、軽く流してしまったが。
 娯楽室の件はまた、後日詳しく話を詰めるとして、今は各自の部屋の把握だ。
 一応むつきも、誰がどの部屋か、未来の構想も含めてメモぐらいとっている。

「それでは私の部屋ですが、アキラさん程のインパクトはございませんよ?」

 そう言って開かれた襖の向こうは、インパクトの塊であった。
 窓際のやや歪な木目調の棚に置かれたのは盆栽、壁には道と一文字だけ書かれた掛け軸。
 床に散らばるタロットカードに、コロコロと転がるのは占いに使いそうな水晶玉。
 何やら建物を作りかけのレゴブロックなど、もはや理解不能な空間である。
 お嬢様などという言葉は欠片も見つからない、多趣味とは名ばかりの飽きっぽい人間の部屋のようですらあった。

「雪広、お前なに迷走してんの?」
「失礼な、迷走など。これは私も、皆さんのように真に打ち込める趣味を見つけようと努力した結果ですわ。一度とて、報われていませんが」

 照れたようにぷいっと顔を背けるのは可愛いが、人はそれを迷走とも言う。

「委員長さんにも欠点がありましたね。自由すぎる無法地帯での意外なもろさ。人は何点か、そのような欠点があった方がかわいらしいと思います」
「四葉さん、褒められている気がちっとも。可愛らしい、お菓子作りにでも挑戦して……それはいささか、お嬢様っぽいでしょうか?」
「趣味を探してるっつーか、お嬢様から離れようとしてるだけじゃねえか。てか、既に私ら共通の趣味持ってるだろ。激しく、お嬢様から離れた」
「あー、確かに」

 長谷川の指摘に真っ先に同意の言葉を向けたのは和泉であった。
 この場にむつきがいるので明言こそ避けたが、長谷川、和泉、雪広、そして夕映。
 この四人のお嬢様どころか、女の子らしくない趣味。
 ぶっちゃけた話が、セックスする隣人の盗聴である。
 そう言えばとぽんっと雪広が手の平を叩いたが、最近は盗聴では済んでいない。
 自分達もその場に混ざり、もはやセックスフレンドではと疑いもした程だ。

「良くわからんが、興味がわいた事に手を出す事は悪い事じゃねえ。焦らず、なんでも試してみろ。釣りとかなら、俺も付き合えない事はないぞ」
「委員長とデートしたいが為の釣り乙」
「そうじゃねえよ」

 ぺしんと軽く長谷川の頭を叩こうとして避けられつつ、お次は和泉の部屋である。

「私の部屋は本当に普通やから。二階での、皆の溜まり場的な部屋やし」

 和泉の言う通り、妙なインパクトがあるわけでもなく。
 コタツテーブルと四方にはそれぞれ色も形も違うクッションが一つずつ。
 それぞれ部屋主の和泉から順に時計回りに、雪広、長谷川、夕映であった。
 他には読みかけの文庫本や漫画、食べかけのスナック菓子の袋など。
 普通の女子中学生の部屋と言えば、部屋なのかもしれない。

「あっ」

 ふいに何かに気付いたように、夕映は自分のクッションを回収して胸に抱く。
 これまたむつきの知らぬ事だが、盗聴組みから外れる事を意味していた。

「夕映ちゃん、怖なったら助けてって言えば駆けつけるから」
「さすがに、初夜だけは私達も自重いたしますが」
「まだ、ずっと先の事です」

 こそこそとむつきをチラ見しながら、三人がその日をわくわくと待ち遠しそうに話す。

「おーい、見るもん見たし。次は三階な」
「てか、私の衣裳部屋とか試着室、その他は殆ど全員把握してるだろ。朝倉の現像室、んなもん見ても詰まらんだろ」
「まあ、確かに」
「ねーえ、朝倉」

 長谷川とそう喋っていると、妙に朝倉がほっとしたように胸に手を置いている。
 隠れてこっそりなのだが、その直ぐ後で三階から何故か美砂が降りてきた。
 階段の途中で手すりを乗り越えるようにお腹で受け止め、何かを見せている。
 四角い、黒いプラスチックの箱のような写真立てであった。

「これ、朝倉の彼氏?」
「ちょっと、なんで人の部屋に無断で入ってんの!?」

 珍しく自分のゴシップを知られ、飛びついて美砂の手から写真立てを取り返した。
 そして、まずいばれたと焦った彼女が皆に振り返って見たのは哀れみの表情だった。
 もの凄く食いつかれると思いきや、意外すぎる反応に怖くなってくる。

「朝倉、あんな。先生の事をどう、思って……ちゃうな。彼氏とラブラブ?」
「そうじゃなきゃ、秘密基地にまで持ってこないって。まあ、クラスの連中に見つかると面倒だから寮に気軽に置けずってのもあるかな」

 その辺りの事情は兎も角、和泉の問いかけに肯定が返り、ますます哀れみの目に。

「さっきからなに? 先生の事とか言いかけてたけど、さすがの私も彼氏がいるのに先生のセックスフレンドにはなってあげられないよ。この巨乳を前に、先生が欲情するのはわかるけど」

 胸の谷間をあえて見せるつけるように、朝倉がキャミソールの胸を腕で押し上げた。
 哀れみの視線による不安を払拭しようという意図もあった。
 軽くコレでむつきをからかい、出来れば笑いにと。
 実際、むつき相手には成功し、なんとも言えない表情で照れたようにそっぽをむかれた。

「まあ、普通そう言いますわね。まだ竜宮城に来て日の浅い方は得に……」
「言うよな、私も以前は言ってた。先生の寧ろ敵とか、中二病らしく裁定者とか。言ってたんだよなぁ。別にさ、恋心とか欠片もないんだぜ、これ」
「うちも、寧ろ嫌いやとか。つい一ヶ月前の事やん。自分が尻軽なのか、ちょい不安になってきた」

 溜息混じりに今の現状と照らし合わせ、主に雪広、長谷川、和泉が溜息をついた。

「先生、喜ぶと良いネ。朝倉サンで、寝取りプレイができるヨ。彼氏との電話中にぬぷぬぷと、これで本当に真の意味で変態鬼畜教師になれるネ」
「お前本当に俺をどうしたいんだ。誰がそんな鬼畜な事」
「だよね、先生がまさか。彼氏と電話中の生徒を押し倒して、性的な悪戯するなんて。まさか」
「あの、私それに似たような事をされたのですが」

 朝倉が頬を引きつらせながらしませんよねと願うようにむつきを見ている。
 見ているのだが、その願いも虚しく夕映が既にされたと言い出した。
 似たようなと前置きしたので厳密には違うらしいのだが。
 次の瞬間、あれかとばかりに雪広と長谷川が、確かにしたと頷いてさえいた。
 カッと顔を赤くしつつ、別に言わなければ良いのに夕映が説明を始める。

「麻帆良祭の図書館島探検ツアー中に、超さんに一腹盛られた時のことです。男子トイレの個室で必死に頼まれ、その……のどかと電話をしている最中に先っぽだけですが、あの」
「超、俺既に変態鬼畜教師だわ。やりました。と言うか、似たような事なら美砂にも。社会科資料室で、釘宮と椎名が外にいる時に」
「ああ、あれね。先生もう、扉開けて子作りしてるところ見てもらおうとか。凄い言葉責めされて。恥ずかしかったなあ。また、ちょっとしたいかも」

 最後のちょっとアレな、美砂の呟きは置いておいて。
 ずざざざっと、朝倉がむつきから離れるように背後の壁へとぴたりとついた。

「諦めが肝心よ、朝倉サン。この麻帆良最強の頭脳が断言するネ、近日中に寝取りプレイされると。仲良く、先生のセックスフレンドの仲間入りネ」
「いや、しねえし。夕映にした時は、いや俺の責任ではあるが。この麻帆良最強の馬鹿が一腹盛ったせいもある。二度としないって、一応こいつも約束したし」
「先生、もはや超さんが先生を鬼畜にしようとする事については信用しない方が」
「科学に魂を売った同志ではありますが、そのところについてはアキラさんと同意見です」

 葉加瀬にまで言われ、さり気に早乙女並みに信用がない超であった。
 もちろん、むつきを変態鬼畜教師にと願う歪んだ想いについてだけだが。
 本当にコイツは何が目的だと、何時もの赤丸ほっぺをぐにぐに摘んでまわす。
 なんだろう、少し嬉しそうに見えるのは気のせいか。
 以前M気質と言っていた気もしたので、気持ち悪くなってやめた。

「俺も自分で心配になってきた。朝倉、悪いが俺と二人きりになったら全力で逃げろ。あとそこに超が加わった三人きりでも、むしろそっちの方が全力で逃げろ」
「き、きもに命じとく」

 彼氏の写真を胸に抱き、ここに来るのやめようかなとさえ呟いていた。
 それはそれで、むつきとしては秘密さえ守ってくれれば得にここにこなくても何も言わない。

「三階はもう良いや。長谷川、適当に見取り図書いて後でくれ。働け、三階限定の管理人」
「あいよ、私の領域だし。三階は制作室、四葉の料理と超や葉加瀬の発明は別だが。趣味とかで何か製作する時は基本三階な。素人が触ると危ない道具もあるだろうし」
「と言うわけで」
「お待ちかねの我々の地下秘密基地に皆さんをご案内ですね!」

 長谷川の台詞が終わるや否や、超と葉加瀬が盛り上がってきた。
 葉加瀬など特に、両手を拳に握り締めてはふんすと鼻息が荒かった。
 今にも意味もなく、こんな事もあろうかとと何か発明品の一つでも取り出しかねない。
 激しく不安を掻き立てられ、テンションダウン中の朝倉以外も軒並みダウンである。
 むつきも管理物件の地下にどんな部屋が作られてしまったのか。
 物によっては建物の倒壊、はたまた爺さんの不興を買うなど本当に怖い。
 前者については、曲がりなりにも麻帆良最強頭脳を信じたい気持ちではあった。

「では、まず一階に戻るネ」

 こっちヨと、バスガイドのように三角の旗を振る超の後に続く。
 二階から一階の階段の踊り場を曲がり、階段を降りきってからもう一度曲がる。
 露天風呂へと続く廊下かと思いきや、ぐるりと本当に曲がった。
 そこは玄関ホールの正面、階段の側面とも言えるデッドスペースだ。
 そのデッドスペースの壁にこそこそ手を触れ、超が何やらボタンらしきものを押す。
 すると目の前の壁に亀裂が生まれ、自動ドアのように開いた壁の奥に階段が現れた。

「さあ、こちらネ」
「なんていうか、ちょっと拍子抜けした。エレベーターでも現われりゃ、腰でも抜かしたかもしれんが」
「ふふふ、それはどうでしょうか」

 いかにもほっとした様子のむつきの背後で、眼鏡を押し上げながら葉加瀬が怪しく笑う。
 ああ、これは何かあるなとむつき以外の全員が気付きつつ階段を降りていく。
 最初はひかげ荘の雰囲気に合わせた木造の階段通路であった。
 明かりは薄らぼんやりとしていて少々暗いが触れた壁や手すり、足元の感触は確かだ。
 だがそれも十数段を降りた辺りで、硬質的で冷たい金属の感触へと変化する。
 薄暗かった階段通路も、優しく明るい蛍光色の光に照らされ階段の終わりまで見渡せるぐらいであった。

「おい、拍子抜けって言った奴誰だよ」
「俺だよ、凄い嫌な予感がして来た。いまさら」

 長谷川に突っ込まれつつ、超の後ろをむつきを筆頭についていく。
 そして階段の終わり、円筒状の直径二メートル程の小ホールにて超が扉前の端末にパスワードを入力した。
 のみならず、指紋、網膜、声紋認証とあらゆる厳重なパスを通過し扉が開く。
 流れ出てきたのは冷気であり、ドライアイスを溶かしたようなスモークが足元を冷やす。
 一体何がと部屋へと踏み込み見えたのは、人影であった。
 空中に吊り下げられた生首、千切れた首から伸びるコードのような紐。
 真下には腕がこれまた千切れた胴体があり、下半身は何処にも見当たらない。
 そこかしこに端末や液晶画面が並ぶ近未来的な光景の中に浮かぶ人の惨殺死体。

「ぎゃーっ、スプラッタ。斜め上過ぎるだろ!」
「ふぅ」
「亜子さん、お気を確かに。ふふっ、このドライアイスは腐敗を避ける為でしょうか。嫌な匂いが全く」

 いの一番にソレを見てしまったむつきが叫び、次いで和泉が魂が抜けたように崩れ落ちた
 なんとか雪広が支えてくれたが、彼女の意識も何処まで正常なのか。
 美砂やアキラも抱き合い震え、夕映はお漏らししそうに股間を押さえながらむつきの服の裾を掴んでいる。
 そんな中で多少の引きつりを表情に乗せながら、長谷川が部屋へと突入していった。
 何を考えているのか、惨殺死体へと近付いてはじっとそれを見つめる。

「お前、趣味が悪いな超」
「はて、なんのことカ」
「では、スイッチオンですよ」

 すっとぼけた超に代わり、葉加瀬が端末を操作しエンターキーを押す。
 うぃんうぃんと何処かでモーター音が鳴り響き、あろうことか惨殺死体の首が動く。
 電極を刺したカエルの足のようではなく、瞼も動いては意志の見えない瞳が現れる。
 そして無表情のままにむつき達へと振り返っては、口をひたらいた。

「超、それに葉加瀬。皆さんもおそろいで」
「シャベッターッ!!」

 気絶していた和泉に気付けを与えるような、大合唱であった。

「何を今さら、皆も教室で少しは会話してるはずね。絡繰茶々丸、麻帆良での最高傑作の一つネ」
「工学部の施設では、他の研究室の暴走が日常茶飯事で落ち着いて研究もできません。先生の管理物件の地下を借りられ、研究もはかどります」
「前から不思議には思ってたが、マジロボットだ。すげぇ、自分の意志で喋ってる。割には、成績悪いよな。現実にどじっ娘ロボとか誰得だよ」
「数学は得意なのですが。マスターと同じく日本語の理解、主に現国の情緒の描写は理解不能なことが多く、正解に辿り着けません」

 どうやら長谷川は以前から絡繰が人間ではなかった事に気付いていたらしい。
 だからこそ、惨殺死体だとむつき達が混乱する中、部屋に入れたのだろう
 絡繰茶々丸は、超と葉加瀬が作り上げた最高傑作。
 麻帆良最強頭脳ここにありとばかりの、宣言であったのは良いが。

「絡繰ってロボットだったのか!」

 事実を知らぬ者にとっては驚天動地の事実であった。









-後書き-
ども、えなりんです。
久々に山も谷もない日常回です。

最大の目玉は、やはりひかげ荘の地下に何時の間にか作られていた超の研究室。
茶々丸のメンテは今後、そこで行なわれます。
まあ、今回むつきの心が折れて表面部分しか出てませんが。
更に地下があり、例の鬼神軍団が貯蔵されてます。
しかも電力をわんさか使うのでこの月の電気料金を見てまた心が折れます。
挿入する場所がなく、書けませんでしたが電気料金だけは超から聴衆します。
金、金、話題を超が出したのはその為です。

あと、次回は超回、むつきとの二者面談です。
そして偶数話、あとは分かりますね?
それでは次回は水曜日です。



[36639] 第三十八話 先生の門戸が広がるのを待ってたネ
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/05/25 20:05
第三十八話 先生の門戸が広がるのを待ってたネ

 二年A組に生徒として所属する絡繰茶々丸が、実はロボット、正式名称はガイノイド。
 むつきの懸念通り、超の部屋を最後にしておいて正解であった。
 ただしそれは何か爆発するとか、一腹盛られるとかそう言う方面の懸念でもあったのだ。
 だがそれとは異なる驚愕の事実に、各自の部屋を廻るツアーは中断である。
 まだ続きがあるのにと、超や葉加瀬が更に部屋の奥を見ていたがなかった事にされた。
 しかも、今度こそとばかりに部屋の奥にあったのはエレベーターなのだ。
 地下何階あるのかエレベーターの入り口上にある階層を知らせるボタンは多かった。
 一先ず、むつきは皆に夕映の引越しの手伝いと、雪広を中心にひかげ荘の現在の見取り図の作成を簡単にだが頼んだ。
 他に必要なもの、午前中に雪広自身が言っていた在室、不在を知らせるような掲示板等。
 備品が必要だと思ったものをピックアップして欲しいとも。
 まあ、慌てる必要はないので皆で遊戯室の充実等、ゆっくりとした作業を頼んだ。
 麻帆良祭で疲れているであろうし、優先度は低めである。
 その真の目的は、皆を一時的にだが管理人室から遠ざける意味があった。

「先生、粗茶ですが」
「うん、ありがとうな絡繰。あと、それは自分の家に人を招いた際の台詞な。他人の家で淹れたお茶でそう言うのはちょっと失礼だぞ」
「失礼しました。記憶しておきます」
「うーん、まだ言語関係の取捨選択に怪しいところがありますね」

 管理人室にて、コタツテーブルを挟んで向こう側に超と葉加瀬を座らせている。
 他に人がいなかったのでメンテ前の茶々丸を葉加瀬が起動させ、お茶を淹れさせた。
 四葉のお茶と比べるとさすがにだが、濃さも上々で美味しいお茶であった。
 本当にガイノイドかと疑いたくなるが、彼女の耳など関節部を改めてみれば一目瞭然。
 そもそも肌が金属質で継ぎ目があり、静かなひかげ荘で耳を澄ませば各種駆動音がチュインチュイン聞こえる事もある。
 こんなにもあからさまなのに、何故長谷川以外誰も気付いていなかったのか。

「それでだ。あっ、絡繰も皆に混ざって遊んでこい。お前の親に用事があるだけで、お前自身は何も悪い事はないしな」
「お話の前からお小言だと分かるネ。先生、茶々丸はメンテ前だし少し単独行動は怖いヨ。お話は私が聞くから、葉加瀬も行かせてくれないカ?」
「あの、私はメンテを受けにきただけで遊びに来たわけでは」
「茶々丸が皆に混ざって遊ぶ……これは良いデータが。申し訳ないですが、速攻メンテを終わらせて遊ばせて見たいのですが」

 そう葉加瀬にまでお伺いを立てられ、少しむつきは考えて見た。
 正直な話、超と葉加瀬とでは迷惑度は桁違いである。
 何かと首謀者的に手を回すのが超で、葉加瀬は正直むつきから見ては大人しい。
 むつきに対する被害という意味でだが、構わないかと許可をだした。

「茶々丸、ちゃっちゃとメンテ終わらせるよ」
「あの、マスターのお世話が」

 何やら用事がありそうだったので、あまり無理強いはと言ったのだが葉加瀬がどこまで聞いていることやら。
 言葉をかけようとする絡繰の声を無視して、手を引き地下研究室へと連れて行く。
 子の意見を完全無視とは少々思う所があるので、次回それとなく伝えるとして。
 改めて超に向き直り、正座中の彼女と管理人室にて二人きりとなる。
 葉加瀬は白衣姿だったが、超は何時の間に着替えたのか。
 髪を纏めたシニョンキャップに三つ編みは普段通りだが、朱色のチャイナ服であった。
 しかも夏間近の蒸し暑さから水着のように上下が分かれており、胸元も谷間をなんとか作り出し見せ付けるように大きな切れ込みがある。
 現在はテーブルを挟んで向かい合って座っている為見えないが、可愛いおへそも見えていた。

「あっ、パターン入った。あれだけ、朝倉に注意しておいて要注意人物と二人きりじゃねえか。何故俺は絡繰や葉加瀬を行かせた」
「ふふっ、先生。隙だらけヨ。私はこの通り、予測して準備万端ネ」

 あろう事か、予想通りだとばかりに正座のまますすっと超が擦り寄ってきた。
 両腕で胸の谷間を更に作り、美味しそうな超包子の限定肉まんを見せつけながら。
 コタツテーブルの外を周り、額を手で押さえているむつきの隣へと。
 白い肌のもちもち、柔らかそうな肉まんを前に涎が出そうになったのは事実だ。
 だがさせてなるものかと、むつきも手を咄嗟に伸ばして超の赤丸ほっぺを遠ざける。

「話が先だ、もう有耶無耶にさせねえぞ」
「やりチンの癖に、先生は意外と細かい事にこだわるネ」
「もう今さら過ぎるがはしたない言葉を使うんじゃありません。ガールズトーク中か、彼氏とのプレイ中だけにしなさい。いや、あかんだろ。プレイは、一応中学生なんだし」
「そうやって、男と教師の間で揺れるては悩む先生も好きヨ」

 これ以上惑わすなと、珍しくヒットしたデコピンで少し遠ざける。
 アイタタと笑って額を押さえている様から、わざと避けなかったのか。
 尻もちをついてミニスカチャイナ服から延びる白いニーソックスの足が眩しいが。
 別にソレはわざとではないらしく、気付きぱぱっとスカート部の裾を直していた。
 一応、有耶無耶にし続けるつもりでもなさそうだ。

「以前、露天風呂で与太話は聞かされたけど、正直さっぱりだ。俺にはお前が全然見えん。頭が悪いと言われればそれまでだが。漢方の件、お前が俺を調べたとか、A組に押し込んだとか。なんとか君とか。あげく、とんでもない施設を管理物件の地下に造りやがって」
「露天風呂での件は失敗。本当は、そこまで喋る予定ではなかったネ。先生には何も気にせず、極々普通の先生としてA組の生徒を摘み食いして欲しかったヨ」
「あげて落とすな。今の俺はちょっと手ごわいぞ。お前の心が見えるまで、絶対に思い通りにはいかせんぞ、この野郎」

 実際、摘み食いしてしまっているので冗談ではすまない部分もあるが。
 なんとか超に喰らいついてその心の一端にでも触れようと踏ん張る。
 九十年以上生きて、まだ初恋を追いかけている爺さんの粘着質を分けてくれと願いながら。
 そんなむつきの気配を察したのか、超がコタツテーブルの対面に戻っていった。
 座り方も女の子座りから正座へと変え、時折何かに思い悩みながら表情を七変化させる。
 恐らくは話せる事と話せない事、もちろんそれがあって選んでいるのだろう。
 今ここで全て話せとはむつきも言わないし、そうされても恐らくは理解が追いつかない。
 最近は馬鹿と呼ぶ事が多いが、麻帆良最強の頭脳なのだ。
 彼女が考え選んだ返答こそ、恐らくはもっとも理解し易いだろうと答えを待つ。

「先生は、パラレルワールドをご存知カ?」
「まあ、漫画で良くあるアレなら。人並みにはな」

 何の話だと突っ込みたかったが、それさえ耐えてまずは全てを聞く。

「現代のスパコンを遥かに凌駕する世紀を超えたスパコンでシミュレートした事があるネ。本来の私が一年後に起こした行動で未来がどうなるか」
「どうなったんだ?」
「ある程度、望んだ未来は手に入れられたネ。戦争は結局止められなかったが。多少まともな未来に。けど、そのせいでA組のとある生徒が、クラスメイトと一生のお別れを決断させられたネ」

 正直なところ、また与太話かと思わないでもない。
 だが以前、超はA組のクラスメイトには幸せになって欲しいと言った。
 その超がA組のクラスメイトを名前こそ伏せたが、一生のお別れを決断させられたと、いかにも不幸気に言ったのだから与太話ではすまない。

「結局、その生徒も最後の最後で一応は救われた。だがそれは本当に? 彼女は、彼女の愛した少年達に会えたのか。彼女を愛した者達は愛した彼女に会えたのか。パラレルワールド、ここにいる超鈴音は納得できなかった。だから、あらゆる可能性を探りシミュレートしたネ」

 さすがにそこまで聞かされれば、むつきにだって想像ぐらいつく。

「バタフライの羽ばたき、湖面に投じられた小石。乙姫むつきという存在こそが、最も超鈴音が望んだシミュレート結果に至る一石ネ」
「その結果が、二股三股のしかも生徒をセックスフレンドにした変態鬼畜教師ってどうよ。そのスパコン壊れてるだろ。お前が望んだ未来の最終形は怖いから聞かないけど」

 超に比べれば、比べるのもすまない悪い頭で情報を整理する。
 余計な情報は切って捨て、むつき自身が理解し易いようにとことん単純に。
 麻帆良最強の馬鹿がスパコン使って未来をシミュレートした。
 何か変えたかった未来は変わったが、それでも気にいらない事はあった。
 だからもっとも気にいる未来を探し、その為のキーパーソンとして自分が選ばれた。
 うんうんと腕を組んで考え込む事数分、やはりこれしかないかとむつきは答えを出した。

「やっぱお前、麻帆良最強の馬鹿だろ」
「最近、先生にそう言われるとぞくぞくして嬉しいけど。理由を聞いても?」

 ちょっと興奮したように赤丸ほっぺをさらに赤く、コタツテーブルの上に身を乗り出してきた。

「いや、なんかお前結構悩んでたみたいだけど。それ、皆する事だぞ。未来の、本来の私はこうじゃない。だからこうなんだって。まあ、実際に行動できる奴は少ないけど。あるいはただの妄想だったり」
「私の悩みがえらく身近な、思春期特有のお悩みと同一視されたネ」
「実際にお前、思春期だろ。だから自分の出来る範囲で行動して、未来を想う形に作り上げたい。それが、周りの幸せさえ考慮に入れた行動ならなおさら結構。実際の結果がどうあれ、気にすんな。A組の奴らはそんなに弱くない」

 以前高畑が彼女達なら大丈夫と職員室で言っていた言葉をちょっと思い出した。

「アイツらだって、なりたい自分を目指して頑張ってんだ。宮崎なんか分かり易いだろ。あいつ男嫌い直そうって、結構俺に話しかけて頑張ったり。そりゃ、思う自分になれない奴もいるだろうけど。そこまでお前が責任を取る必要もない」
「責任をとる必要はない」
「それに、お前のせいで私が不幸になったって詰め寄る馬鹿もA組にはいない。だから安心してお前はお前の思うとおりに全力でやってみろ。ただし、俺もA組の生徒全員と関係持たせられようとしたら全力で抗うが」
「そこは副担任として協力してくれないカ?」
「するか、馬鹿。お前さ、考えても見ろ。既に美砂とアキラは確実、夕映はまだちょっと微妙だけど嫁にするとして三人だ。二人ずつ子供生ませてみろ。麻帆良の教師が高級取りって言っても所詮は教師だ」

 普段からセックス中に子供を孕めと叫んではいても、彼女達自身がまだ子供だ。
 むつきとて子育ての経験も、実際いくらかかるかも試算した事すらない。
 だが友人の中には既婚者もおり、養育費や日々の忙しさを小耳に挟む事は彼女達よりも遥かに多かった。
 そして三人のお嫁さんと子供を抱えたら、金銭的にきつい未来ぐらい想像できる。
 実際に考えて見たのは今回が初だが、ちょっとブルーになってきた。
 全く意味はないが妊娠プレイはしばらくお預けにしようかと思うぐらいに。

「あの、先生……」

 そこへ再び、超がすすっと畳みの上を滑り近付いてきた。
 赤丸ほっぺが普段以上に赤いのは気のせいか、恐らくそうではないだろう。
 恥ずかしそうにむつきの浴衣、最近ひかげ荘にいる時はだいたいこの格好だが。
 浴衣の袖をちょいちょいと珍しく可愛らしい女の子の姿で引っ張られた。

「絶対に負担はかけないネ。お金儲けは得意ヨ。だからあの……先生の四番目に」
「は?」

 何言ってんのと、目が点のままにむつきは見つめ返した。

「私だって女の子ネ。もちろん、クラスメイトの幸せは願ってはいるが、自分が一番大切ヨ。より良い未来と言う意味では、実は先生よりも良い一石となれる人はいたネ」

 確かに先程、超は自分が一番望んだ未来の為にむつきを選んだと。
 完全により良い未来を優先したのであれば、そこは皆の為にとか未来の為にと言った事だろう。

「え、お前趣味悪くね? 俺に一目惚れ?」
「世間一般的な嗜好だと認識しているネ」

 お前もかと、以前誰かに顔について評された事を思い出した。
 この野郎と赤丸ほっぺを両手で引っ張って苛め遊んでやるが、本人は嬉しそうだ。

「だけど、そうかもしれないネ。一石の候補者を色々と見ていて、妙に先生が気になって。そのうち、この人しかいないって思い始めて」
「ちょっと止めて、急に純な女の子の告白に移行するな。やばい、誘惑される」
「本当は直ぐにお近づきになりたかったけど、恥ずかしくて。告白して断られるのも怖かったし。だから色々手を回して、先生の門戸が広がるのを待ってたネ」

 美砂が終電に遅れたり、アキラがプールで溺れ偶然むつきが助けたり。
 まあ、さすがにそこまで酷い事はしないだろうが。
 大量のお嫁さんが居ても夜が充実するよう漢方くれたり、他に夕映の件は確実に門戸を広げる為に、わざとであろう。
 妙にセックスフレンドを強調したり、朝倉との寝取りプレイをと勧めてみたり。
 やはり麻帆良最強の馬鹿は、馬鹿であった。
 普通の女の子はまずそんな思考はすまい、好きな男の門戸を広げ受け入れてもらい易くしようなど。
 ある意味で、確実に勝利する為の戦略家なのかもしれないが。

「馬鹿な子程可愛いって、こういう事じゃないと思う。思うけど、ほれ来い。鈴音」
「出来れば小鈴って呼んで欲しいネ。ちゃんとか、年下の相手に使う意味ヨ」
「この歳で女の子をちゃん付けは……まあ、小鈴ならちょっと格好良い響きだしいいか。おいで、小鈴」
「普通の女の子のように一杯可愛がって欲しいネ」

 片腕を上げると、そこをくぐるようにして小鈴が体を預けてきた。
 そっと目を閉じ、普通の女の子のようにむつきの胸に耳を上げる。
 麻帆良最強の頭脳と羨望と揶揄、両方を受けてはいても中学生の女の子だ。
 まだまだむつきには計り知れない苦悩等あるだろうが、この腕の中にいる間だけでもと肩を抱き寄せた。
 そしてシニョンキャップから伸びる三つ編みをくるくると指先で弄ぶ。

「良い匂い。男の人の、憧れた先生の匂い」
「美砂も良く人の匂いを嗅ぐけど。俺からしたらお前らの方が、小鈴の方がよっぽど良い匂いだぞ。時々、肉まんの匂いする時もあるけど」
「はは、そこは勘弁して欲しいネ。けど、先生限定のお勧め肉まんどうカ?」

 照れ笑いを含め、小鈴がチャイナ服の胸元を広げた。
 歳相応の手頃なサイズの胸が露となるが、決してスリットから溢れる事もない。
 むしろ余白が生まれたせいで谷間が激減し、ふるんと球体をつくるぐらいだ。
 ブラジャーもしておらず、覗き込む角度を変えれば桜色のぽっちも見える。
 手の平サイズの肉まんに今直ぐにしゃぶりつきたいが、順番は順番であった。
 肩の上にあった手をへそだし中の腰に下ろして、ぐっと抱き寄せた。
 胸の前にあった小鈴の顔が押し出されるようにむつきの顔の下にまでせり上がる。

「そういう律儀なとこ、結構好きネ」
「最初だからな。フェラは前にして貰ったけど」
「本当はあの後、襲って貰いたかったネ。けど、柿崎さん達が一緒にって言うからしぶしぶ諦めたヨ。これ秘密ネ」
「お前、恋愛事に関しては変に臆病だな。宮崎なんかとは別の意味で」

 幾ら頭が良くても少女は少女、可愛くて宜しいと唇を奪った。
 先程も言ったが最初なのでそっと触れるように、それこそ肉まんを連想させる柔らかい唇を味わう。
 緊張しているのだろう、少し体の動きがぎこちなく硬い。
 キスをしながら追加で頭を撫でつけては、安心しろとばかりにぽんぽんと叩いた。

「んっ」

 唇の端から零れ落ちた小さな喘ぎは、緊張が少しでも解れた証拠か。
 むつきはより小鈴を抱き寄せては唇で唇を押し上げ、舌を侵入させていった。
 狭い隙間をうねる蛇のように、小鈴の唾液を吸いつつ小さな舌をちょんちょんとご挨拶。
 ぷるぷる小鈴が震え出したがまだまだこれからと口内を蹂躙していく。
 甘すぎる程に甘い唾液で満たされたそこに、肉まんの味でもしないかと探すように。
 それこそ奥の奥、親知らずの一本から丹念に、舌の下までくまなく味わった。
 そのうち耐え切れなくなったのか、ぽふぽふと小鈴がむつきの肩を叩き始めた。

「ぷはぁっ……ち、窒息すると思ったネ。先生に、全部汚されてしまったネ」

 ぜえぜえと呼吸を整えながらも、赤丸ほっぺに両手を当てて凄く嬉しそうだ。
 時折ちらりとむつきを見ては、続きを凄く楽しみにしているのはまる分かりである。

「妙に初心な反応だけど。お前実はこの前のフェラの時、実は凄いてんぱってたろ」
「な、なんの事あるカ?」

 ツッと泳いだ視線は当然のようにむつきから外れていった。

「恥ずかしいだろうけど、答えてくれるとありがたい。それ次第でプレイの内容も変わるし。お前、経験はある? なし?」
「諸事情で膜はないけど、初めてネ。特にその、好きになった相手は」

 良く分からない言い回しだが、全くないわけではないが豊富というわけでもないようだ。
 ならいきなりハードな妊娠プレイも悪いと、隣の小鈴を抱きかかえた。
 上半身と腕だけでは正直きついが、膝の上に乗せるまでの数秒の間の事である。
 胡坐をかいた上に横向きに小鈴を座らせ、もう一度キスで唇を奪った。
 そのまま胸元のスリットに手を差し込み、手の平サイズの肉まんをふにふにと揉む。
 あまり刺激が強くならないように、手の中で転がすように揉みしだいた。

「ふぁっ、ぁ……頭がふわふわ、数式がぼろぼろ零れ落ちていくネ」
「初めて聞いたよ、そんな台詞。小鈴らしくて、いいけど」

 これ以上キスは本当に窒息しかねないので、目の前で揺れていた三つ編みを咥えた。
 嫌がるかなとも思ったが、毛先をしゃぶっては濡らし、くいくいと引っ張る。

「やんっ、先生子供みたいな意地悪はやめるネ」
「知ってるだろうけど、セックス中はガキそのものだぞ。おっぱい大好きだし」
「手の平サイズで申し訳ないネ。こんな日が来ると知ってたら、もう少し育てておいたガ」
「手の中にすっぽり収まるのも悪くない。本当は巨乳派だったんだが、ちょっと主義が変わりそうなんだ。おっぱいに貴賎はない」

 そう言って、二人同時に小柄な特定人物を思い浮かべたがあえて口にはしない。
 実際、むつきは小鈴のおっぱいを十分過ぎる程に楽しんでいた。
 おっぱいまるごと手の平で転がし、コレぐらいならと乳首を指で軽く弾く。
 サイズが小さいと敏感と言われるが、小鈴もどうやら例に漏れないらしい。
 それこそ指が胸を数ミリ押し潰しただけで、ぴくぴくと体を反応させていた。

「先生、そろそろ下の方が切なくなってきたネ」
「パンツ、自分で脱ぐか?」
「濡れて恥ずかしいから自分で脱ぐネ」

 胸を弄ばれながら、小鈴がチャイナスリットに手を伸ばした。
 こそこそとスリット内でパンツの隙間に手を差し込み、一度上目遣いにむつき見る。
 なんとなく請われたようで、軽く唇にキスをすると決心がついたようだ。
 するすると膝を曲げて腰を浮かし太ももへ、ただやはり恥ずかしいのか体を少し丸めた。
 膝の瘤をこえてすらりとしたふくらはぎを通り足から脱いでいく。
 見えても分かり辛い為なのか、セパレイトのミニチャイナと同じ朱色のそれである。
 ぱっとポケットに隠そうとした小鈴の手をむつきが止めた。

「先生、私の手を止めるとは。なにカ?」
「見せて」
「何をカ、主語が抜けていては何の事だかわからないネ」

 恐らく分かっているのだろうが、恥ずかしいと視線をそらされた。

「パンツの濡れた部分、広げて見せて。愛液で濡れたところ、見たい」
「うぅ、変態鬼畜教師の本領発揮ネ。自分で望んだ事とはいえ、恥ずかし過ぎヨ」

 そう言いつつも、小鈴はちゃんとむつきの言う通りにしてくれた。
 もはら顔全体が赤く、赤丸ほっぺが赤味に消え入りそうな程になっている。
 朱色のやや厚手のパンツを両手で広げ、局部に触れていた部分を見せてくれた。
 愛液が染み朱色がさらに黒ずみ、されどてらてらと一部光を反射している。
 だがさすがにむつきがその部分に舌を伸ばし舐めようとした時には、目にも止まらぬ速さでポケットに隠されてしまった。

「なにをしてるネ。見るだけって!」
「じゃあ、舐めたい。くんくん匂い嗅ぎたい」

 もはや羞恥も限界突破し、目尻には涙さえ滲んでいた。
 だが叫んで返す余裕があるのならまだ大丈夫だと、むつきは止まらない。
 M気質なんだろと、小鈴を煽るように良い笑顔で無茶なお願いに出さえする。
 ううっと唸る事数秒、むつきの笑顔に負けて小鈴がパンツをポケットから取り出した。
 ただし、今度は広げるまでもなく、くしゃくしゃに丸められたそれをむつきが奪った。
 丸まったパンツを鼻に押し当て、小鈴の濃い匂いを嗅ぎ、ちゅうっと濡れた部分をしゃぶるように吸い付く。

「小鈴の匂い、味。絶対もう忘れない」
「先生、そろそろ。苛めるのは勘弁して欲しいネ。可愛がって欲しいヨ」

 我慢の限界だと、胸元に飛びついてきた小鈴がぐりぐりと頭をこすり付けてきた。
 他に胸に抱いた感情の発散方法が分からないとでも言うように。
 さすがに苛めすぎたかと、むつきも名残惜しいがパンツをぽいっと背後に捨てる。
 そしてごめんと囁くように、抱きつく小鈴の首筋に顔を埋めてキスを落とした。

「嫌いではないネ。でも、今は可愛がって欲しいヨ」
「俺からしたら、可愛がりの一種だけど。触るぞ」

 確認の意味も込めて言うと、無言のままこくりと頷かれた。
 相変わらず片腕は手の平サイズの胸を弄びながら、もう片方はミニスカのスリットへ。
 忍び込ませこれまた小さなお尻をなぞり、その谷間をくだる。
 二段重ねの谷間、その二段目こそが目的地、小鈴の愛液溢れる秘部であった。
 陰毛も愛液でしっとり濡れており何度か指先で弄び、お別れして谷間を指先で割る。

「くふぅ」

 変な笑いのような喘ぎを小鈴が漏らしたが、続ける。
 指先を瞬く間に愛液で濡らしながらさらに奥。
 愛液の源泉へと続く膣口、洞窟のようなそこへと探検隊たる中指を挿入させた。
 諸事情と言ったが、確かに膜はないが使い込まれてはいないようだ。
 指一本でもしっかりと締め付け、肉壁で刺激しては搾り取ろうとしてくる。

「小鈴の中、温かいよ」
「指だけカ? とある理由で治療が終わるまでは子供ができない体ネ。中だししてくれても、全然問題ないヨ」
「お前はちょいちょい、衝撃的事実を漏らすな。それも諸事情とか、とある理由とか。まあ、処女かどうかはさほどきにしてないけど」
「こっちは気にするネ。何時か、皆が幸せだと私が満足した時にでも包み隠さず伝えるネ」
「それも全部、俺次第ってわけか。望むところだ、この野郎。幸せ過ぎて怖くなるぐらい、幸せにしてやるよ」

 もう我慢できないと、肩を抱いたまま押し倒して胸にしゃぶりついた。
 構うまいと胸元のスリットに噛み付いて引っ張り結び目の糸を乱暴に千切り。
 さすがに零れた胸に吸い付き、舌で乳首を転がしては胸を丸ごと頬張ろうと吸いつく。
 右手の指も忙しなく、最初は浅くても素早く挿入を繰り返し開通を試みた。
 指による擬似的なセックスだが、指先まで抜けかけると行かないでと膣がしまるのがなんとも可愛いではないか。
 何処にもいかないよと、再び指を挿入しては少しずつ深度を増やしていく。
 繰り返す事で愛液も増えて肉壁がふやけるように柔らかく指先を迎え入れ始める。

「んんぁ、こんな。激しっ」
「すまんが、止められん。それこそ、諸事情で本番は無しだから。せめて思い切り可愛がる」
「なんとなく、想像はつくネ」

 増えすぎた愛液を畳みの上に飛び散らせながら、既に指は第三関節に踏み込んでいた。
 そこまで来ると挿入だけに飽き足らず、奥まで指を伸ばしては指先を曲げて奥を刺激する。

「先生、そこ。そこをもっとネ」
「最初からこれだけエロいとやりがいあるわ。可愛いぞ、小鈴」
「もっと、可愛いって言ってヨ。普通の女の子みたいに、可愛いって」

 やけに普通に拘るのもその諸事情のせいか。
 ある意味で雪広財閥令嬢の雪広のように、麻帆良最強の頭脳故の何かがあるのあろう。
 それもいつかちゃんと聞きたいと思いつつ、可愛がってやる。
 胸も乳首のみならず、外周を一周するように舌でなぞったり、柔らかく突いたり。
 正直、浴衣の中で一物が俺も混ぜろと暴れているが、また今度だ。
 今は小鈴を可愛がる事にだけ集中し、こいつめと膣壁の中から恥骨を探った。

「ぁっ」

 かつて美砂がお漏らしをして以来、誰にも試していない禁断の技である。
 例え漏らしても小鈴なら涙ながらに受け入れてくれそうなので試せた事もあるが。

「先生、そこは。子宮の奥までキュ、んぁ。ぁっ、来る、なにカ」
「小鈴、手で隠すな。イクところまでちゃんと可愛い小鈴の顔を見せてくれ」
「そ、そんな事を言われたらぅ。駄目、こんな見てはいけないネ。なのにイ、イクッ!」

 小鈴の腰が飛び跳ね、更にむつきの指を奥へと受け入れていく。
 顔を隠す代わりに、胸にしゃぶりついていたむつきの頭を抱きしめるように。
 その瞬間こそ少し見え辛かったが、抱きしめる力も直ぐにふっと消えた。
 荒く息をする小鈴が畳みの上にくたりと力なく横たわったからだ。
 アレだけ締め付けていた膣も弛緩し、残ったのは柔らかな肉壁の感触のみ。
 挿入はまた今度なとマッサージするように入り口を広げてから指を抜いた。

「小鈴、おしゃぶり」
「んぁ……んぅちゅ」

 上から覗き込み、小鈴の愛液で濡れた指を本人に吸わせた。
 本人からすれば美味しいものでもなかろうが、一生懸命吸い付いてくれる。
 そんな小鈴が可愛くて愛おしくて抱き起こして思い切り抱きしめた。

「可愛かったぞ、凄く」
「嬉しいネ。こんなに幸せな気分は、久しぶり。これ以上があるなんて、信じられないネ」
「教師だからな、教えてやるよ。お前に教えられる事なんてこれぐらいだしな」

 そんな事はないと震える声で言ってくれた小鈴をうつ伏せに。
 自分もその横で添い寝するように近付き、まだ弛緩する膣へと手を伸ばした。
 胸の奥で有り余る感情を他に表現できないと、一方的に二回戦を始める。
 抵抗する力もないが、するつもりもないと小鈴が意志をこめて唇を伸ばしてきた。
 舌は使わず唇を合わせて、それから何度も何度もむつきは小鈴を可愛がり続けた。









 もはやこうやって浮気を報告するのは何度目の事か。

「もう、呆れられるかもしれないが。すまん、美砂にアキラ、夕映。本番まだだけど、手出しちまった」

 人間変われば変わるもので、小鈴はむつきの右腕に抱きつきハートマークを飛ばしている。
 そんな小鈴を連れながら、二階の娯楽室にて遊ぶ面々の前でむつきは報告した。
 俺こんなに駄目な人間だったっけと、叱責覚悟で頭も下げたのだが。
 反応が返って来ないどころか、きゃっきゃ、きゃっきゃと大騒ぎしていた。
 反応になっていないがおかしいだろうと頭を上げてみる。
 何処にあったのか元夕映の部屋、現在は遊戯室のはずのそこに巨大スクリーンがあった。
 壁にかけられたそれに映るのは、昔なつかしスーファミのマリオカートである。
 ただし、最大四人プレイのはずが画面は八分割され、葉加瀬以外の全員がプレイしていた。

「ちょっ、絡繰のノコノコまじ強ぇ。誰か赤甲羅持ってねえか!」
「あっ、カミナリ取れた。えっと、使っていい?」
「アキラ、自分で考えないとあかんやん。けど、ブービーのアキラが使っても上位には食い込めないし。使い時何時なん?」
「なんですの、私何処を走っているのですか!? 怪獣さん、真っ直ぐお走りになって」

 ゲーム慣れしておらず、ヨッシーでコースを逆走しては彷徨い続ける雪広はさておいて。

「マリオって利点が微妙でやる気でないわ。委員長や大河内がいるから最下位はないし」
「では死んで頂きましょう。ルイージの下克上の為に。赤甲羅です」
「さり気に五月ちゃん長谷川に続いて三位じゃん。意外に慣れてる?」
「いえ、そこまでは。ただ、クッパさんに親近感が。頑張ります」

 どうやら順位は絡繰、長谷川、四葉、美砂、この辺りまでは割合混戦模様だ。
 特に絡繰の指の動きはもはや人間業ではなく、食い下がっている長谷川に頭が下がる。
 下位組である五位以降は朝倉、夕映、アキラ、雪広であった。
 雪広に対してはもはや、誰か隣でサポートについてやれといいたい。
 特にブービーのアキラについている和泉、雪広の方が問題である。
 他に余り者の葉加瀬は別途手元のノートパソコン眺め、絡繰に繋げたコードで何かデータを取っていた。

「素晴らしい、たかがゲームと侮るなかれ。十分で改造を施したチャチなゲームで、ここまで数値が伸びるとは。これは他のゲームを試して見なければ!」
「葉加瀬、あの……マスターの夕食の準備が」

 もしかすると、一番ハッスルしているのは葉加瀬なのかもしれない。

「ちょっとお前ら、コレが見えねえのか。出しちまったって言ってんだろ、この野郎!」

 もはやそれは何ギレなんか、むつきも分からず叫んでしまっていた。
 そしてピコンと電子音の後にゲームのBGMも画面の動きも止まった。
 全員が全員、空気読めよとばかりに恨めしそうにむつきを見てくる始末だ。

「先生、世界一可愛い嫁の台詞じゃないけどさ。超りん、この前なんて言ったか覚えてる?」
「この前って言われても心当たりあり過ぎてわからねえよ」
「先生が、亜子達に露天風呂で精液かけた時」

 もっと他に言いようはないものか、アキラの言葉に当人達はさすがに気まずそうだ。
 それで思い出して見たが、たぶんあれの事だろう。
 セックスフレンドとしてむつきと何処まで出来るかという朝倉の問いかけ。
 長谷川や雪広は割りと純な返答を出し、和泉はやや外れてクンニなど言い出す始末。
 その後の小鈴はなんと言ったか、条件次第で本番もと言った。
 実質、無条件のようなものだったが。

「皆、遅かれはやかれこうなるんじゃないかって思ってた」
「それに本番しなかったって、夕映ちゃんの事を考えてだよね。無理矢理とかじゃない、その辺りの気遣いがあるなら問題ない」
「正直、私のせいで申し訳なく。あの、私の決心はまだ先なのでお先にというほか」
「信頼されてるのか、理解されてるのか。なんていうか、ありがたいけど少しは嫉妬しろよ。倦怠期の夫婦じゃねえんだから」

 むつきの台詞もそこそこに、即座にゲームを再開させる始末。
 遣る瀬無い気持ちを抱えて、空きスペースに座って小鈴をはべらせる。
 胸元に抱き寄せてはキスをし、先程の続きのようにえいっと胸元のスリットから胸を突く。
 見せ付けるようにこれでどうだと美砂たちを見るが、視線は巨大スクリーンに釘付けだ。
 友達と楽しく遊んでるから仕方がないのかもしれない。
 むつきだってダチとマリオカートで盛り上がってる時に彼女から電話があれば無視もしたくなる。
 だがそれでも心が折れると、泣きそうになりながら小鈴を強く抱き寄せた。

「誰にも文句言えない立場だけど。小鈴、せめてお前だけでも慰めて。後でまた一杯可愛がってやるから」
「ふふっ、嬉しいヨ。親愛的」

 愛称で呼ぶと、一瞬では聞き取れない発音の言葉を投げかけられる。
 こっそり耳元で夫婦間などで使う呼び名の一つだと教えられた。
 もう涙が嬉し涙にさえ代わりそうな中で、ピコンと再びスタートボタンが押された音が鳴った。
 別に構わんとばかりに、小鈴に泣きつき頭を撫でられていると何か様子がおかしい。
 娯楽室内が急に静まり返り、絡繰の駆動音がキュインキュイン聞こえる程だ。

「先生、今超りんの事を何て呼んだ?」

 何故か美砂が、今にも大魔神が光臨しそうな覇気を出しながら振り返っていた。
 さすがに大魔神は美砂だけだが、アキラも夕映も信じられないとむつきを見ている。
 だが先程無視された手前、彼女達が何に怒りを感じているのかさっぱりだ。

「何って、小鈴。えっと、名前の前に小をつけるとちゃんって意味だから呼んでくれって」
「親しい間柄での特別な呼び名ネ」

 小鈴が赤丸ほっぺに何やら悪い笑みを浮かべている。

「言っちゃ悪いけど、超りん。後から来て、それずるくない。だったら、私もミサミサとか。可愛い愛称で呼ばれたい!」
「アキラ、アキラ……えっと、アッキー。あっ、でも偶に先生、人魚姫って」
「ゆえゆえ、いえこれはのどか専用の。ではゆえ吉、おのれパル許すまじ」

 嬉しくもない仇名を広げた早乙女に怒りを燃やす夕映はさておき。
 ちょっとむつきには理解しかねる三人の沸点であった。
 別に特別だからそう呼んでいるわけでもなく、呼んでくれと言われたから呼んだまでで。
 ただ、さすがにミサミサとかアッキーとか、歳を考えるとちょっときつい。
 ゆえ吉と呼ぶのも冗談は兎も角、ベッドの上では本当に勘弁願いたかった。

「そんな恥ずかしい呼び名できるか。小鈴は、別に中国語とか良くわかんねえし。普通の名前みたいだから呼んだが」
「悔しかったら中国籍用意するネ。柿崎サンは小美、アキラさんは同音の小明? 綾瀬さんはどちらかというと阿夕、カ」

 ニンマリ笑う小鈴に美砂たちはぐぬぬと歯を食い縛るので精一杯だ。
 頼めば本当に中国籍を取ってくれそうだが、そこまで咄嗟には踏み込めない。
 ならばと狙うはまだ攻略のしようがある、むしろチーズの様に穴だらけのむつきである。

「先生、ミサミサって呼ぶまでもうさせてあげない。したかったら呼んで!」
「人魚姫は他の人も呼ぶし、私も一度で良いからアッキーって」
「何一つさせず、望みのみ言うのも悪女で申し訳ないのですが。私も先生が良いと思った愛称で一度」
「お前ら、さっきまで俺を無視しといて。ちょっと嫉妬が嬉しいけど、俺の歳を考えろ。蕁麻疹が出るわ!」

 雪崩の様に襲いかかれるも、むつきもおいそれとそんな恥ずかしい事はできない。
 必死の抵抗を試みては、えいと胸に触ったり割と楽しんだりも。

「おーい、お前らマナーは守れ。このままスタートで再開すんぞ。もう言いや、超お前誰かの代わりに入れ」
「そうさせて貰うネ。夫婦喧嘩は犬も食わない。葉加瀬も加わるヨ、結果は記録して後で見れば良いネ」
「では失礼して……茶々丸、コントローラー二つに挑戦してみる?」
「問題ありません」

 コントローラー一つで迷走している雪広がいるというのに。
 二位で食い下がっていた長谷川はこの野郎と頬を引きつらせていたが。
 後方の四人の夫婦喧嘩には耳を塞ぎ、娯楽室はまだまだわいわいと賑わい続けていた。







-後書き-
ども、えなりんです。

ミサミサっていうと、デスノートを思いだします。
それはさておき。
だいたいコイツのせい、という便利な言葉。
もちろん、むつき自身頑張ってましたが、だいたい超のせい。
間違いなく、背中を押したのは超。
そんな感じで四番目のお嫁さんが超に決定です。

実際、鈴音をちゃんづけすると小鈴なのかは知りません。
雰囲気で書いてますので。
ただ、夕映をちゃん付けすると阿夕とか、別人でした。

次回からやっと期末試験編。
エヴァとかたつみーとか、ザジとかでます。
それでは次回は土曜日です。



[36639] 第三十九話 初恋は大抵叶わんもんさ
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/05/25 19:52

第三十九話 初恋は大抵叶わんもんさ

 この感覚久々だよなと、教室の扉の前でむつきはニヤケ顔が止まらなかった。
 麻帆良祭の終了は既に休みを挟んで三日前。
 毎年六月の第三週の金曜から日曜に掛けて行なわれ、振り替え休日が二日となるのだ。
 その二日間は新たに小鈴を嫁候補に向かえ、色々と充実した休日であった。
 愛称の件で一悶着もあったが、最終的に一度だけと約束して呼んで、布団に突入したり。
 結局夕映はまだ答えを保留中で小鈴も体の事があるのでしばらくは本番は禁止。
 これはむつきの方から完治するまで駄目と言ったのだが。
 そして本当に久々、むつきは現在出席簿を抱えて朝のホームルームの時間に二年A組の教室の入り口に立っていた。
 軽くネクタイを直して、騒がしい教室の扉を開ける。

「おはよう、元気が良いのは良い事だが、時間だぞ。席につけ」
「あっ、あー……あっと。先生、高畑先生はまたしても出張なのでしょうか?」

 早速神楽坂に指差されたが、ハッと気付いてその手は後ろに隠される。
 そして涙ながらに、礼儀正しく高畑の行方を尋ねられた。
 神楽坂の事は今更であるし、麻帆良祭を挟んで随分な進歩でもあった。

「喜べ、神楽坂」
「は?」

 そんな神楽坂へとむつきは笑いかけ、ここが良いかと黒板の隅に目を付ける。
 パソコンから印刷した簡単なエクセル表であり、近くの磁石で張り出した。
 一体なんだろうとA四サイズの小さな紙を、皆が手で望遠鏡を作ったりして眺める。

「高畑先生の出張スケジュールだ。毎朝、どっちが来るか一喜一憂するのも疲れるだろ。まあ、期末も近いし。七月中も以前程は出張ないぞ」
「ええ、本当ですか。コピー、その紙のコピーを」
「そう言うと思った。ほれ、他に欲しいやつは主に神楽坂のでコピーしてくれ」

 スケジュール表を掲げてきゃーきゃー言いながら、くるくる回る神楽坂も慣れれば微笑ましいものだ。

「良かったな、明日菜。でも今ホームルーム中やから座った方がええて」
「あっ、そうだった。先生、ありがとう」

 ここまで喜ばれると嬉しいが逆にこれぐらいでとこちらが恥ずかしくなる。
 色々と女子中学生を凌駕した存在に囲まれていると、神楽坂の純な想いが眩しいぐらいだ。
 特に神楽坂の位置をすっ飛ばした美砂達は、微笑ましいねと笑むぐらいであった。

「先生、明日菜ばっかりにずるい。私も何か欲しい」
「高畑先生のお陰で、賞金がまだ残ってるはず。食堂でまた奢るです!」
「お姉ちゃん、さすがにそれは図々しいよ」
「またJOJO苑か、美味しいけど体重がねぇ」

 佐々木に始まり鳴滝姉妹、止めるかと思いきや釘宮も涎を拭う仕草である。
 確かに十万かそこらは残りはした。
 休み中にも四葉には注意されたが、既に麻帆良祭は終わってしまったのだ。
 近くなり過ぎた教師と生徒の距離感も、修正していかなければならない。
 特に期末まで一ヶ月を過ぎたこの時期は特に。

「JOJO苑は無理だが、ちゃんとお前らにも素敵なプレゼントだ」
「あらあら、どうしましょう。最高級ヒレ肉定食を頂いちゃいましょうか」
「ふふ、やるじゃないか先生。金の力で生徒をガッチリキャッチとは。嫌いじゃない。休み時間中にメニューを一通り長めにいかなければな」
「いやあ、元の食生活に戻れなきゃ先生に責任とって貰うしかないね」

 最後の春日は兎も角として、珍しく那波や龍宮といった大人組みまで釣れた。
 やはり麻帆良祭の浮き足立ち感は、大人でさえなかなか拭いがたいらしい。
 これはプレゼントしがいがあるとむつきは笑い、一部の面々は苦笑いだ。
 その一部とはひかげ荘のメンバーであり、そのプレゼントを知っているからである。
 何しろ昨日、夜になるまで一生懸命むつきが作っていたのだから。

「ほら、これがそうだ。期末に向けての社会科の小テストだ。他の教科も作成して先生方に配ったから今日は小テスト地獄だ」

 ちなみに別の強化のは小鈴の手を借りての製作である。
 他の教科の先生からこれはありがたいとむつきの評価だけが上がったのは申し訳ないが。

「まき絵が余計な事言うから。今日のお昼はまき絵の奢りだかんね」
「先生、さっきのなし。嘘、プレゼントいらない!」
「別にたかが小テストでしょ。本番前なんだし、何点取ったって良いじゃん」

 涙混じりに明石が佐々木を指差し、当人もまた半泣き状態であった。
 麻帆良祭の気分も抜け切らぬ中での小テスト地獄にまさに教室内は阿鼻叫喚だ。
 ただし極一部、早乙女のように投げやりの者がいないわけではない。
 このクラスの悪い癖なのだが、エスカレーター式の学校だから、本番じゃないからと力を抜く事が良く良くある。
 麻帆良祭のように興味のある事に力を合わせた時は凄いのだが、興味がなくてもしなければいけない事に対しては凄く弱いのだ。

「ちなみに、平均点を下回った奴は放課後に居残りテストだ」
「ノゥ、そろそろ夏の祭典に向けてお布施本の製作中なのに!」

 頭を抱えた早乙女にざまあみろと笑い、いかんいかんと思い出す。
 神楽坂の件で順番があべこべになったが、出欠取りが先である。
 出席簿を開いてから阿鼻叫喚中の教室内をぐるりと見渡した。
 騒いだ生徒が席を立ったりしたら座らせながら、一席ずつ確認していく。
 そして気付いたのは、むつきから見て一番左手奥のマグダウェルだ。
 サボタージュの多い生徒で、殆ど会話をした事がない生徒の一人だ。
 桜咲、龍宮、レイニーデイ、マグダウェル。
 この辺りが特に喋った事がない連中で、桜咲や龍宮は事務的な事なら偶に。
 本当はここに絡繰も加わっていたはずが、一昨日、昨日の件でわりと喋った。
 主にマグダウェルのだらしのない私生活についてであったが。
 無口なレイニーデイと、同じく無口だが顔もあまり合わせた事のないマグダウェル。
 これはいかんと、期末が終わるまでに事務的な会話ぐらいと心で誓う。

「絡繰、マグダウェルどうした?」
「申し訳ありません。恒例のサボタージュです」

 もはや病弱設定も何処へやら、絡繰のせいかもしれないが堂々のサボタージュ宣言である。
 ならばこっちも考えがあると絡繰にマグダウェルへと伝言を頼んだ。

「絡繰、マグダウェルは放課後の居残りテストに強制参加な。理由なくサボったら、期末テストも受けさせんて伝えてくれ」

 実際、そんな勝手な事をする権限むつきにはないのだが。
 普通の女子中学生には十分に通用する脅しであろう。

「先生、容赦ないなぁ。強制的にバカレンジャー入隊やん」
「エヴァちゃん可愛いし金髪だから、やっぱゴールド?」
「私は既に卒業した身なのでノーコメントです」

 和泉を筆頭に美砂、夕映とマグダウェルのゴールド就任は確実視されていた。

「欠席はマグダウェルだけだな。なら、一次限目の準備をしっかりとな」

 そう言ってまだ小テスト地獄の宣言に苦しむ生徒達を置いて退室する。
 ただ少し心配なのは、全ての小テストを用意したのがむつきと知れ渡る事だ。
 折角ランキング二位を獲得したのに、瞬く間に転がり落ちかねない。
 先生方に誰が用意したのか口止めをした方がと緊急用の連絡網のメールを立ち上げる。
 ただこんな事で連絡網を使用して良いものか。
 ううむと悩んでいると、スーツの裾を後ろから誰かに引っ張られた。

「ん、大河……じゃなくて、レイニーデイと雪広か。珍しい取り合わせだがどうした」
「それが、先生。先程の小テストを見せて頂く事は可能ですか?」
「いや、駄目だろ。何言ってんの?」

 当然の返答にですわよねと納得した雪広が、耳打ちでレイニーデイに伝えた。
 すると彼女はメモ用紙を取り出し、何かを描き始める。
 そして一言二言雪広に問いただしては頷き、またメモに記述を繰り返していった。
 最終的にメモは無言でむつきに手渡され、それを見たむつきは思い切り青ざめた。
 先程見せたのは社会科の小テストだが、一字一句間違いなく写し取られているのだ。
 しかも、あろうことか全問正解といういわば模範解答込みである。

「まさかとは思うが、あの一瞬でザジが記憶して。雪広、お前答え教えた?」
「いえ、読めない字や文法の意味をお伝えしただけですわ」

 全開の中間テストで見事バカホワイトに生まれ変わった彼女が満点である。
 しかし意味がわからない。
 これ程の瞬間記憶術と満点を取る知識があってなぜ成績が悪いのか。
 何故だと鼻頭に指を置いて思い悩んでいると、またザジが何か雪広に話しかけていた。

「あら、まさか。一年以上も同じ教室で勉学に励みながら、この雪広あやか一生の不覚ですわ」

 一体どんな衝撃事実がと、というか何故直接ザジが喋らないのか。

「先生、ザジさんは日本語が殆ど読めないと。先程も、答案用紙は瞬間記憶のように絵として理解し、読めない部分は私が教え、聞かされた回答の字もお教えして」
「ちょっと待って……マジで?」
「マジです」

 初めてレイニーデイの声を聞いたのは良いとして、マジですぐらいは言えるらしい。
 もしかして普段喋らないのは、無口なだけでなく喋れないからなのか。
 良く良く考えても見れば、小鈴のせいで忘れがちだが。
 留学生の多いA組でマグダウェル、レイニーデイ、古の留学生組は成績も低空飛行だ。
 あれ実は、日本語が難しくてまともにテストが受けられなかっただけなのでは。
 古だけはちょっと怪しいが、その疑いはあながち間違っておらずむしろ濃厚である。
 まさかと二人をここに留めたまま、教室へと逆戻りであった。

「古、いるか?」
「先生、どうしたアル?」

 少々迷ってから、社会科の小テストを見せて尋ねてみる。

「お前、読めない日本語とか文法どれぐらいある?」
「んー、答えはわからないけど。コレぐらいなら、半分ぐらいは分かるアル!」
「おっ、まさか小テストの問題を見せてくれるのかにゃ?」
「違うわ、集るな奪おうとするな!」

 明石のトンでも発言を発端に、ならば寄越せとわらわら集ってくる
 そんな彼女達を掻き分け廊下へと戻り、一息ついてから言った。

「古も半分はわからんとさ。まさか、日本語が読めないとか予想外過ぎるだろ。一年の頃、どうしてたんだよ」
「超さん、古さん、マグダウェルさんと日本語を喋る事ならバッチリですので。ザジさんが喋る事すらと知ったのは私は割合初期の頃ですが。あまり上達しませんでしたわね」
「日常会話は問題ない。暗記した」

 暗記とはこれまた怪しい解答で、全く同じ意味の言葉、文法でしか分からないのでは。
 本当に極端な例えだと、千円出した時のお釣りが三百円なのか四百円なのか計算はできても文章としては分からないといったところか。
 実際は硬貨の数などで私生活としては問題ないだろう。
 あとザジの母国語を雪広がマスターしているのも少々気にはなるところだが。
 とりあえず、留学生組みは小テスト云々の前に日本語を鍛える必要がある。

「雪広、悪いが放課後に超共々付き合ってくれ。日本語講座だ。生憎俺はザジの母国語も中国語はもちろん英語もできん。方針だけは軽く決めるから」
「承りました。では古さんにも申し訳ありませんが強制的に放課後の特別授業に参加ということで」
「気付いてやれなくてすまんな。期末までにテストで用いる文法は大半覚えような」
「感謝します」

 気にするなと割合仲の良さ気な二人を見送り、少し教室から離れるように廊下を歩く。
 そして携帯電話を取り出すと、出張中の高畑へと電話をかけた。
 コールは何度も続き、出ないなと思いながら暑さに根負けして窓を開ける。
 外の風も梅雨だけに湿っぽいが、締め切った建物内の淀んだ空気よりましであった。
 窓の枠に肘をつくようにしてもたれかかり、なんとも言いがたい風に身を任せた。
 ひかげ荘は古いのでクーラーがなく、夏は大変そうだとせめて扇風機を買うか。
 打ち水なんかも、割合山の方なので効果はあると考えている内に繋がった。

「はわぁ、ごめん乙姫君。ちょっと時差がね。何かあったのかい」
「今夜ってほぼ間逆じゃないですか。夜分にすみません、ある意味で緊急事態だったもので」

 携帯電話の向こうからの第一声は眠そうなあくびからであった。
 一体何処へ出張に行ったのか。
 さすがにそこまでは把握しておらず謝って良いやら呆れて良いやら。

「レイニーデイの事ですが、彼女殆ど日本語が駄目みたいで。テストも殆ど答えは知ってるのに問題が読めず書けないありさまらしくて」
「本当かい。彼女無口だから、テストでも明日菜君達よりは好成績だったからね」
「確かに言われてみれば、読めないレイニーッ!?」

 ふいに体が意志に関係なく、風に浚われるように浮き上がる。
 弾んだわけでも、窓枠から身を乗り出したわけでもなく。
 なのに体は風に舞う紙風船のごとく、むつきの体を窓枠の外へと押し流していった。
 突然声が途切れ、高畑が名を呼んでいるが返答に思考を使う余裕はない。
 今むつきの頭を占めているのは、回転する視界、乗り越え落ちていこうとする体。
 窓枠の向こう、ここはまだ二階だがこの体勢なら恐らくは頭から落ちる。
 落ちる、そう理解したむつきを強い力が押し戻した。
 ガシャンっとガラスか何かが割れるような音が聞こえ、力強いその力が引っ張り込んだ。

「先生!」

 必死なその声の主、神楽坂が力一杯むつきを廊下側に引っ張り込んだのだ。
 思い切り尻餅をついて携帯電話も手の中から落ちて廊下の上を滑っていく。
 一瞬頭が真っ白になり、時間が経つにつれ廊下でのざわめきが耳に届き始めた。

「あれ、俺……」

 何がどうなったと半分放心状態で誰ともになく呟く。

「先生、窓枠に座ったらあかんよ。明日菜が掴んで引っ張りこまな落ちとったえ」
「窓枠、俺がそんな横着すると思うか。新田先生に見つかったら、雷どころじゃない」
「けど、ああ焦った。先生ふわふわって、外に落ちそうで」
「誰かが俺を押さなかったか?」

 当然ながら、神楽坂も近衛も顔を青くして首を横に振った。
 むつきの言葉を受け止めるなら、誰かが俺を殺そうとしなかったかと聞いたも同然。
 自分の失言を察したむつきは、引きつった笑みを見せながら携帯電話を拾いあげた。
 ざわめく他の生徒にもなんでもないと、むしろケツが痛いとおどけてみせる。

「買い換えたばっかなのに見事に割れてら。高畑先生と電話中だったのに切れてる。壊れたか?」
「えっ、もしかして私の……」
「気にすんな、助けられてラッキーだ。で、お前どうした?」
「そうよ、先生。これ、期末テスト後の夏休みの間ずっと高畑先生が出張中って!」

 話題を摩り替えようと話を振ってみたら、好都合にも高畑の話題であった。
 高畑大好きな神楽坂なら、鶏のように即座にむつきの失言も忘れてくれるだろう。
 その神楽坂が追いかけてきたのは高畑のスケジュールのせいらしい。

「長期休暇中に纏めて集中的に出張をこなして普段来る日を増やすとか言ってたぞ」
「折角麻帆良祭で距離も縮まったのに、今年の夏が早くも終わったわ」
「お前、本当に高畑先生好きだな」
「や、やだ。なに言ってんの乙姫先生。私みたいな子供が、高畑先生のっ!」

 ばれてないと何故思っているのか不明だが、そんなものなのか。
 バシバシ叩かれて痛いが、一先ず近衛に助けを求めて神楽坂をひっぺがしてもらう。

「全く帰って来ないわけじゃないと思うから、もう少し詳しく聞いておいてやる。俺ももう少し高畑先生と仲良くしたいし、遊びにでも誘った時はこっそりお前も偶然を装って誘ってやるよ」
「絶対、絶対ですよ。夏休みに高畑先生とデート!」
「明日菜、もう予鈴なるから戻りや。あんまはしゃいで皆にばれると、皆もこぞってついてくるえ?」
「はっ、それもそうね。秘密、ひみくふっ……乙姫先生ありがとう!」

 わーっと結局ははしゃいで神楽坂が教室へと戻っていく。
 悪い子ではないし、明るく真っ直ぐな子なのだがテンション上がりすぎると少しウザイ。
 A組だから良いが陰湿でありながら妙なリーダーシップを持つ子がいるクラスでは苦労しそうだ。
 バレーの時もそうだが、あれでリーダーシップはあるので、私の立場がとか苛められそうである。
 高畑ではないが、ちょっと心配な子ではあった。
 それじゃあと近衛にも別れを告げようとすると、スーツの裾をつかまれた。
 もしや引きとめるにはスーツの裾を掴めと、アキラ辺りから漏れているのだろうか。

「どうした、近衛?」
「先生こそ、顔が真っ青やえ? 誰かに押された、あれ本当なん?」

 高畑命の神楽坂は兎も角、さすがに近衛には誤魔化しは効かなかったようだ。
 とはいえ、むつきだって誰かを見たわけではないし、無意識に窓枠に座った可能性もある。
 今はまだ怖がらせる返答もできず、笑って誤魔化すしかないのだ。

「たぶん、気のせいだ。怖い顔するな、お前らしくない。ほわほわ笑ってる顔、癒されるから結構好きだぞ」
「なら、ええけど。先生、彼女おるのに生徒口説いたらあかんえ」
「口説いてねえよ。瀬流彦先生とか見てみろ、大人の男は常に癒しを求めてるんだ。その点、あのD組の子とか神楽坂。周りでキャッキャと騒ぐだけで逆効果で、正直上手く行くとは思えないけどな」
「ありゃりゃ、応援しとるかと思いきや。先生結構辛口やね」

 正直な感想なのである。

「初恋は大抵叶わんもんさ、経験者は語るだ。もう少し大人になって相手に憧れるだけじゃなく、思いやれるようになったら。まだ芽はあるんだけどな」
「明日菜の代わりに、うちが覚えとくわ。アドバイスありがとうな、先生。授業がんばってや」

 お前も名と手を振る近衛を見送って、むつきもまた授業のある教室へと向かった。
 あれは本当に自分の不注意なのか、自問自答を繰り返しつつ。
 背中にへばりつくシャツの冷えた嫌な汗を感じながら。









 それからと言うもの、ハリネズミのように周囲にアンテナを張りつつ過ごした。
 その結果、何かあったわけでもなく、とてつもなく疲れただけでった。
 逆に常時気を張り詰めすぎて気疲れを起こしてしまう程だ。
 職員室に戻った時など、期末前で気が入り過ぎではとさえ周囲に注意された。
 小テストを全教科分配った事も多少影響していたのだろうが。
 四葉に注意されてなお、麻帆良祭の後の興奮が抜けず、学生時代を思い出して窓枠に座っていただけなのか。
 放課後になって気疲れから、肩をほぐしながらA組の教室へと向かった。
 小テストはまだ未採点だが、ザジと古、それからマグダウェルへの特別授業である。
 昼休みに今一度雪広に小鈴、そこに葉加瀬の学年トップスリーを加え。
 日本語対策を話し合って簡単にだがテキストも作成した。
 この対策が上手く行けば、特にザジがかなりの得点アップが望める。
 古やマグダウェルまで得点アップとなれば、念願の学年最下位ですら突破できるのでは。
 A組の担任となる野望の為にも、是非是非ここは乗り切りたいところであった。

「って、そこを歩くはマグダウェル」

 むつきの視線の先は、窓の外の階下。
 校舎裏をとことこ一人で歩く小さなマグダウェルの金髪頭であった。
 教室を見上げる事もなく、今まさに手ぶらではあるが帰宅しようとしているようにも見えた。
 小テストこそ程々に受けていたようだが、それ以外の授業は殆どをサボタージュ。
 一体何の為に日本に留学してまで学びに来たのか。
 囲碁部や茶道部である事を考えると、興味のあるそれらはしっかりと学んでいるようだが。
 確かに留学生なら何れは母国に帰るので、日本の学校の成績など構うまいといったところか。
 それはそれで彼女の自己主張、考えなのかもしれないが。

「おーい、マグダウェル」
「ん? げっ、乙姫か」

 窓を開けてむつきが呼びかけると、いかにも面倒そうにだが反応をしてくれた。
 呼び捨てなのは、さん付けの習慣がないからか。
 本当に相手の国の事情をしらないと、留学生の相手は何処まで叱るべきか難しい。
 かすかに聞こえた声から、ザジよりは日常会話もくだけてできそうなのだが。

「折角憧れの日本に来たんだ。正しい日本語を覚える為の授業やるぞ。学年トップスリーも協賛の安心授業だ。囲碁とか、茶道の参考書を読む時なんか役立つぞ」
「貴様より、よっぽど日本の文化に詳しいぞ。舐めるな、この若造が」
「お前、やっぱり言葉使い無茶苦茶じゃないか。将来、日本のパーティとかに参加した時とか困るぞ。そうだな、物でつるのもなんだが。囲碁の面白い参考書、見せてやろうか?」
「な、なに?」

 プライドが高そうな割に、割と普通の手に引っかかった。

「今は手元にないけど、全巻揃えて読ませてやるからさ」
「全巻、多いのか。そんな参考書、聞いた事も。大抵は一冊か、上下巻。ぐぬぬ……」
「悩むぐらいなら、一度だけ。今日だけでも顔出してみろ。今行くから、待ってろ」

 マグダウェルが迷ったこの好機を逃してなるものかと、一方的に言いつけ走る。
 放課後なので多少はと階段を飛ばして走り、一目散にマグダウェルの元へ。
 階段を降りて校舎の裏手に周り、まだマグダウェルはいた。
 本当はいけないのだが、走って良かったと思いながら手を振って到着を知らせる。

「おーい、マグダッ!」

 マグダウェルの数メートル手前、振っていた手に何かが触れて痛みが走った。
 咄嗟に胸元に抱き寄せた右手の甲には一滴の液体が。
 煙を発して熱なのか、痛みが断続的に襲い慌ててスーツでそれを拭う。
 肌の上に伸びてはそこからまた痛みが走り、悪態をつきながら必死で拭った。
 一体なんだったのか、火傷をしたように引きつる手の甲の肌に息を吹きかけ見上げた。
 飛行機が何か輸送中の液体でも零したのか、想像できたのはそれぐらい。
 だが見上げた空は梅雨時らしく、液体の透明な色一色であった。

「バケツ」

 が引っくり返ったような雨と思う間もなく、謎の液体がむつきに降りかかる。

「若造!」

 その瞬間、金色の塊がむつきの腕を引っ張り体勢を崩させて投げつけた。
 ピンポン玉の様に比喩ではなく、本当に軽々しく割りと大き目の体が跳んだ。
 バケツの水とすれ違うように体が回転しながら空を舞い、やがて当然のように落ちた。
 ばしゃりと地面の上で弾けた水とは全く異なる場所の地面の上へと。
 背中から落ちたので肺の中の空気が一気に抜け咳き込んだが、全くの軽傷だ。
 ただ突然の連続、混乱の極みで息を整えるのに随分と手間取ってしまった。

「ごほっ、痛てぇ。一体何が、起こって……」

 這いつくばり、背中を後ろ手にした手で押さえながら振り返った。
 決して見間違いではない、あの水は地面の上で濃い煙を発生させていた。
 地面の土はまだしも、芝生といった草花がジュウジュウとおかしな音をたてて溶ける。
 もしくは高速で燃えてさえいるのか、さっぱり意味が分からない。
 ただ唯一あの液体が猛毒、もしくは硫酸のような劇薬であったという事だ。
 咄嗟に上の階を見上げると、校舎で窓が開いた階層があり、あそこは理科室のはず。
 誰かが間違えて捨てた、それとも狙われたのか。

「くっ」

 膝が笑い立てそうになく、心細さから思わず美砂達を呼ぼうとして止めた。
 携帯が壊れている事もあるが、こんな危険な事態にあの子達を巻き込めるはずもない。
 まずは新田に相談し、学園長それから必要であれば警察に。
 しかしこれで二回しかも一日でとなると、狙われた可能性しか考えられない。

「ちっ、私とした事が。しかし、笑えるな。爺が中等部を追い出され、タカミチは地球の裏側。聞かん坊の一人や二人出ると思いきや。狙ったのが若造一人とは」
「マグダウェル?」
「若造、生まれたての小鹿のように足全体が笑っているぞ。立てなければ、人を呼んでやろうか?」

 妙に挑発的でむしろ生き生きとした言葉に顔をあげ、そこでようやく気付いた。
 俺は馬鹿かと、笑う膝を殴りつける。
 笑っている場合かと何度も殴りぬけ、ガクガクと膝を揺らしながらも立ち上がった。
 膝を酷使して体を伸び上がらせたまま、スーツの上着を脱いだ。

「お、おい無茶はするな。すっ転んで酸に顔を突っ込むのが関の山だぞ」

 放心なんかしている場合ではない。
 心配そうな口ぶりに変わったマグダウェルの目の前で、スーツの上着を地面に叩きつける。
 ジュゥとスーツの上着が謎の液体に覆いかぶさり奇妙な音を立てるも、吸い込ませるように踏みならした。
 一時この場を離れても、泥だらけの汚いスーツなど誰も近付き拾わないだろう。
 それから奥歯が割れそうな程に食い縛り、地面を踏み抜くつもりでマグダウェルを抱え上げた。

「こら、気安く触るな」
「喋るな、直ぐに保健室に連れて行ってやる。犯人探しはその後だ!」

 マグダウェルの右腕が、あの液体を浴びてぼろぼろになっていたのだ。
 白い肌は見るも無残に血に塗れ、溶けた皮が血と肉と混ざりグロテスクとさえ言えた。
 彼女自身痛みに顔をしかめる事すらしないが、それは逆に痛みが超越しているからか。
 小さな女の子のしかも腕に痕でも残れば大惨事である。
 頼むからこけるな俺と膝が再び笑い出すのを堪えて走った。
 オリンピックに出れば世界新でも出そうな勢いで、一目散にだ。
 何事だと面食らう生徒達を縫うように走り、保健室のドアを蹴り破くように突入して保険医の沖田へとまくし立てた。

「沖田先生、マグダウェルを。理科室の下で酸か何かが降って来て、腕が。早くしないと痕が、治りますかね!」
「あら、これは……」

 なんて事と口に両手を当てて沖田が驚いていた。
 ただしその視線はマグダウェルの右腕ではなく、全体を捉えている。
 マグダウェルをお姫様抱っこしたむつきを含め、酷く落ち着く払ってだ。
 今にもくすりと笑いそうだが、焦っているむつきは気付かない。

「いい加減にせんか、眠りの霧!」

 最後に物理と付け加えたくなるような、謎の液薬が入った試験管での一撃であった。
 ぱりんと割れた試験管から漏れた液体が霧となってむつきの顔全体を覆う。
 かくんと膝が折れては崩れ落ち、保健室の床の上でごちんと頭を打っていた。
 もちろんマグダウェルはその前に腕の中を脱出しては着地を成功させている。
 怪我をした腕はだらんとしているが、逆側の腕は組むように胸元にあった。

「ふんっ……大げさな奴め。貴様も、何を笑っている。森、じゃなくて沖田」
「名前変わって五年なんだけどまだ慣れないのね。でもそりゃ、笑うわよ。天下の悪の魔法使いが一般人の男性にお姫様抱っこで担ぎ込まれたら。腕を見せて、そろそろ満月の頃とは言え、痛い事は痛いでしょ?」
「この程度、くそ。せめて満月だったら瞬く間に治っているものを」
「悪態ついても仕方がないでしょ。とりあえず、乙姫先生はぽーん」

 ややおっとりとした口調ながら、意外な豪腕にてむつきの体はベッドの上にダイブである。

「ほら、おいでエヴァちゃん」
「お前、それで良く立派な魔法使いを目指してるって言えるな」
「昔の話よ、エヴァちゃん並みにピチピチだった頃の。あん、悔しい何時触ってもすべすべで甘いミルクの少女臭がたまんないわ。うち男の子二人だし、エヴァちゃんみたいな女の子が良かったのに」
「欲求不満か。旦那にでも三人目を頼め。まだ十分にいけるだろ」

 椅子に座る沖田の膝の上で腕を杖に灯る不思議な光で癒されながら尋ねる。
 髪の上から首筋にくんかくんかされ、若干鬱陶しいが。
 かれこれ十五年の付き合いなので今さらでもあった。
 初めて麻帆良女子中に入学した当初、西洋美幼女だと周りが壁を作る中で今回のように初対面で抱きつかれくんかくんかされた頃が懐かしい。

「だって帰って来ても子供の遊び相手で疲れて、私の夜の相手までもたないんだもん。エヴァちゃんに貰った衣装、昔は嬉々として押し倒してくれたのに今じゃ疲れてるからって嫌そうにするだけで」
「一度、ぶちのめしにいって良いか?」
「駄目よ、彼一般人だから。旧友を暖めるのはここまで、何があったの?」
「ああ、どっかの魔法使いが若造を殺そうとしてたみたいでな。よりにもよって、この悪の大魔法使いの目と鼻の先で。舐められたものだ」

 沖田はふーんと言うだけで、特別驚いた様子も見せなかった。
 一応、誰かに恨まれるような人間じゃないと思うけどとむつきを擁護したが。

「人間程に歪な生命は他に類を見ない。確かに若造も若輩ながら色々と頑張ってはいるが。全ての人間がそれを歓迎するわけではない。特に我が道を邪魔されたと逆恨みした時は特に」
「あら、その様子だと犯人は既に心当たりがあるようね」
「私を誰だと思っている。目の前での犯行だ。直接姿こそ見ていないとは言え、後を追う方法は色々とッ!?」

 咄嗟に沖田の膝を飛び降りたマグダウェルが身構えた。
 膝の上にマグダウェルがいたため反応が遅れたが、沖田も白衣の袖からタクトのような物を取り出した。
 まさかマグダウェルがいる上に沖田までいるこの場に襲撃をかけるとは。
 余程の馬鹿か、世間知らずか。
 その馬鹿は、麻帆良最強の頭脳を持つ馬鹿はゆっくりと怒りを胸に灯して入り口から現れた。

「その話、詳しく聞かせて欲しいネ」

 マグダウェルですら咄嗟に身構える殺気をみなぎらせながら、小鈴がベッドに近付く。
 頭でも打ったのかうっと呻いているむつきの頬に触れ、怒りをさらに昇華させる。

「ホームルーム後、明日菜サンが触れたせいで魔力残照が崩壊して追跡が不能に。おかげで後手後手に回ってしまったネ」
「貴様か、驚かすな。別に教えても構わんが。私好みの結末ぐらい、対価として貰えるんだろうな?」
「当然ネ、超鈴音は基本的に戦わない。けど、今回のように親愛的に事が及んだ場合は別。私の全知全能を持って断罪を下すヨ」

 そう言った小鈴は携帯電話をとある人物へとつなげた。

「私だ、仕事の依頼かい。超」
「龍宮サン、スナイプして欲しい人がいるネ」
「この学園にいる間は、学園長から命に関わる依頼は受けるなと契約が」
「三億出すネ」

 途端に電話の向こう側の声は途切れ、阿呆かコイツとマグダウェルも沖田も超を見ていた。
 若干沖田は羨望の眼差しと言うか、今にも分けてと言い出しそうだが。

「超、私も人間だミスぐらいする。銃の暴発などアメリカでは日常茶飯事だ」
「そうネ、怖いよ銃社会は。本当に怖いネ」

 くっくっくと互いに笑い、ただ一言電話の向こうから契約成立だと呟かれた。









-後書き-
ども、えなりんです。
サスペンス風にしようとして失敗したお話w

ザジが喋らない理由はまだ言語を勉強中だからって事にしました。
そして、何故か魔界の言葉を喋れるあやか。
知らないうちに英才教育受けてます。

あと最後に出てきた保険医は半オリキャラ。
原作の麻帆良祭で、ネギと刹那に眠り薬盛った人です。
なんであんなことしたのかなと考えてたら、エヴァと同級生になってました。
変えられる過去なら変えてあげたい、そんな考えの持ち主です。
挫折しちゃってますけどね、けどエヴァとは今でも友人です。
後々、おもろい事になりますこの保健医。
エヴァの恋の応援団的な意味で。

次回はA組のゴルゴの活躍です。
直ぐにエロ話にいっちゃいますけどね。
水曜更新です。



[36639] 第四十話 まさか平日にチャンスチャンス?
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/05/30 07:33

第四十話 まさか平日にチャンスチャンス?

 何故私がこんな目に、彼女の頭の中はその言葉だけに占められていた。
 女性教師用の寮で部屋をひっくり返し、大切な物を旅行バッグに詰めている間も。
 以前に謹慎処分を受けた理由の顧問としての監督業務さえ放り出し。
 身の回りの最低限の荷物と金品だけを手に持って彼女は寮を飛び出した。
 通りすがりの顔見知りの教師や、外に出てからは生徒に出会っても顔も見ない。
 ただ一目散に、心中で悪態ばかりを繰り返していた。
 数々のすれ違った知り合い達が彼女の形相にぎょっと目を見張った事さえ気付かない。
 焦りと不安、何よりも怒り。
 それだけを胸の内で激しく焦がしながら、最寄り駅を目指して走った。
 そのスピードは時折原付きバイクや車さえも追い越し、風を巻き起こしさえした。

「何故、私が。アイツさえ、アイツさえ!」

 疾走する手足が忙しなく動く中で、思考だけは怒りをトレースして思い出させる。
 たった一度の過ち。
 いや、あれは過ちなどではない。
 限られた普通の部活動と同じだけの時間を練習に用いてどうして強くなれる。
 他よりも多く、濃密な練習を繰り返してこそ、だからこそ見て見ぬ振りをしたのだ。
 周りから強豪とまで言われるようになったのは誰のおかげか。
 一体誰が安い給料で時間と身を削り、教え導き、今の体制を作り上げてきた。
 それ程までに愛を注ぎ、厳しく指導をしてきた生徒達さえ奪われた。
 素人が顧問になって一体何が出来る、何をしてやれる。
 乙姫むつき、いてもいなくても同じ、担当クラスさえ貰えない若造が。

「あと一歩だったのに。あの小娘が触れただけで、私の念動力の魔法が破壊されるなんて。あげく、見られた。よりによって闇の福音に!」

 学園長の懐刀とも噂される学園最強の人物に見られた。
 姿こそ見咎められなかったが、そんなものは恐らく関係ない。
 残照する力、発汗する匂い、生徒達の目撃情報。
 彼女が少し動くだけでそれら全ての情報が統括され、答えを丸裸に導き出す。
 だから少しでも早く遠くへ、せめて麻帆良の外にと駅に辿り着いた。

「一先ず東京、人ごみでまいて。海外、出来れば高飛び。無理なら中国地方、対馬から中国へ大陸に渡ってしまえばなんとでもなる」

 切符を買って構内の階段を登っていくが、相変わらずすれ違う人々がぎょっと目を丸くする。
 一体何がそんなにおかしいと不満を露に睨みつけ、早く来いとやって来るであろう電車を眺めた。
 駅に近付くにつれ徐々にブレーキをかけては、減速し始める電車。

(馬鹿、ブレーキなんてよい。むしろ通過しろ、私ならそのまま乗れる。一度ついたスピードを消さなくてっ……消さ、消す。スピードを、エネルギーを、魔力を)

 脳裏に走る不可解な減少の光景、電車が減速するのを見て何かが頭に走った。
 加速した電車を減速させるブレーキ、魔力により得た念動力を消す力。

「まさか、あの娘。魔法無効化能ぅっ!」

 そんな時であった、無音のままに何か小さく鋭い何かがパシンとこめかみを打ち抜いていった。
 目でソレを追うと、足元にカツンと小さな小石のようなものが落ちているのが見えた。
 子供騙しの玩具の弾丸、一瞬それがBB弾にも見えたが違う。
 足元に落ちたそれは、最初から存在しなかったかのように砂のようなものになって崩れ落ちては消えていく。
 魔力は感じない、本当に砂を硬く固めた何かだったのか。
 まさかそんなものでと思いつつも足元は確実に揺れている。
 自分の意志に反してふらふらと、こめかみに走った衝撃に押されるように線路へと近付いていく。

「あぅ、ぁ……」

 脳震盪を起こしたように言葉が言葉にならず、直前の閃きも薄れ消えていく。
 今はただ助かりたい一心で、せめてと手を伸ばす。
 誰かこの手をと、握って線路とは逆側に引き込みなさいと。

「間もなく、電車が到着いたします。白線の内側をお通り下さい」

 頭上にあるスピーカーからは、お決まりの文句が響き流れている。
 だが無情にも誰も彼女の手を取る者はいなかった。
 一人、二人は確実に目があったのにおびえたように目をそらされた。
 何故手を、助けを求める人間の手を取らない。
 この麻帆良を守ってきたのだから、その程度を返す事もできないのかと。
 クズが、誰も彼もが分かっていない、学園長でさえ、我々特別な人間の尊さが。
 恨み辛みが普段は心の奥底に溜まっていたへどろのような心情を漏れさせた。
 そして時は訪れる。
 警告を与える汽笛のラッパを鳴らす電車がホームに突入してきた。
 ふらつく体は白線の外側、のみならずついにその足がホームを踏み外して線路に落ちる。
 上がる悲鳴、連続でならされる汽笛のラッパ、無情にも電車は従来通りにホームを横切っていった。
 その光景を遠くの建物の屋上からスコープで見ていた人物は冷めた表情で呟いた。

「逃げる前に、鏡を見るべきだったな。如何に自分が醜い顔をしていたか。貴方の心が汚れていたか。因果応報。結局のところ、貴方を殺したのは貴方自身だ」
「くだらん結末だ。ありふれた嫉妬と妬み、魔法使いも所詮は人間。おい、これで三億は貰いすぎだろ。情報提供者の私がいなければこの話はなかったんだ。半分寄越せ」
「闇の福音がけち臭い。みっともないとは思わないのか」
「やかましい。適齢期の同窓生が多いんだ。結婚しては、ぽんぽん生みよって。その度にご祝儀を出さなきゃいけない私の身にもなってみろ」

 十五年も中学生を繰り返していればそれも当然で、沖田もその一人である。
 彼女は特に特別、初めての一般人の友達で卒業と同時に魔法の世界へ。
 エヴァちゃんの吸血鬼を治すんだと魔法医学を習い、やがて挫折して今の夫と出会った。
 ぼろぼろと涙を零し、何度もごめんなさいと謝られた夜はまだ覚えている。
 彼女の結婚式ではこっちがボロ泣きし、他の同窓生からコスプレかと制服姿を笑われた。
 その後で着せ替え人形にされて、フラワーガールをさせられたのは良い思い出だ。
 何故かそれ以降、同窓生の結婚式では必ずフラワーガールをさせられるようになっても。

「私の時のご祝儀に二億くれるなら一億渡そう」
「何をありもしない夢を見ている。喜んで商談成立と言わせて貰おうか」

 ちっと互いに商談不成立に舌打ちし、生温い梅雨の風を浴びながら呟く。

「貴様、自分の身一つを守れん男の為に怒り、三億出せるか?」
「恐らく今頃、三億とケチった自分を心で責めてるだろうな」

 なんとも羨ましい事だと、そこまで誰かを愛せる小鈴に二人は心中でのみ羨望を覚えた。









 女性教師用の最寄り駅で大事故が発生している頃、むつきはその目を覚ましていた。
 場所は麻帆良女子中の少し消毒液の匂いがする保健室、そのベッドの上でだ。
 少しぼうっとする頭で天井を見上げていると、ふいに胸が苦しくなった。
 理由は不明なのだが締め付けられるような、美砂達と一緒にいる時のそれではない。
 誰かに直接心臓を握られたような命を握られたような感触。
 理由はわからない、何故自分がここに寝ているかも含め。
 ただただ、底知れぬ恐怖と心細さで涙さえこぼれ、シーツを目深にかぶって逃げ込む。

「もう、大丈夫ヨ。親愛的」
「小鈴?」

 頭を撫で付ける手と優しい声に導かれ、シーツを少し捲くりその人を見上げた。
 校内で思わず愛称を呼んでしまう程に動揺している自分に気付いたが。
 それでも普段の様に学校だからとか、そういった言葉は出てこない。

「今は安心して眠ると良いネ。柿崎サン達にもメールしたから、気付き次第」
「先生!」
「来た、みたいネ」

 真っ先にやって来たのは部活中だったのか、チア衣装で汗だくの美砂であった。
 一体何と知らされたのか血相変えて、寧ろその顔は青いくらいだ。
 小鈴に頭を撫でられているむつきを見て、安心したようにへなへなとその場に座り込んだ。
 続々とやってきた夕映や、和泉に付き添われたアキラも動揺であった。
 さすがにアキラは水着から着替えていたが、夕映も図書館探検部の活動の為に体操服姿である。
 全員が全員、むつきの無事な姿を確認してはへたり込む。
 ただし、身に覚えのないむつきは皆の姿を見て安堵するにつれ疑問に思った。

「俺、なにしたの。なんで寝てるの? ちょっと頭痛いけど、また風邪?」
「ああ、それはエヴァンジェリンがまほ。もとい」

 何やらマグダウェルの名前を出して、小鈴が言い直した。

「放課後の日本語特別授業の為に、サボタージュのエヴァンジェリンを呼びにいった時、急いで階段を降りてすっ転んだネ」
「で、小鈴が見つけて保健室に直行? 格好悪ぃ……」
「悪いじゃない!」

 俺何してんのと再びシーツに潜り込もうとして、ベッドの上に身を乗り出した美砂に怒られた。
 心配したんだぞとその表情は言っており、目尻には涙さえ浮かんでいる。

「そうやよ、先生。水泳部のアキラは部活終わるまで気付かないからって私にメールが来て呼びに行ったんだけど、教えた瞬間また溺れかけたし」
「亜子、それは秘密にしてって。先生が大丈夫なら、私はそれで。心配はしたけど」
「期末が近く、はりきって転ぶなど。子供ですか。心臓が止まるかと思いました。もう少し落ち着いた大人の行動を見せて欲しいです。未だに非常に惚れ難いのです」
「ごめんなさい」

 今度は別の理由で、恥ずかしくて情けなくてシーツの奥へとむつきが沈み込む。
 心臓を握りつぶされる感覚がだんだんと小さくなるのはありがたいのだが。

「まあまあ、先生も反省してるネ。それよりも、何か気付かないカ?」
「言われて見れば誰もいない。保険の先生も……ベッドに寝てる先生、ちょっと弱り中。まさか平日にチャンスチャンス?」
「正解ヨ、柿崎さん。しばらくこの保健室に人が来ないよう細工は流々」
「でも部活とかで怪我した子とか」
「流々と言ったネ」

 ニッコリ笑って美砂やアキラの意見を退け、問う。
 美砂の言った通り、チャンスですよと。

「何を怖ろしい相談しとる。それに、レイニーデイとかの特別授業が」
「委員長サンと葉加瀬が対処中ネ。親愛的の小鈴に抜かりはないヨ。それともこんなにお嫁さん候補がいてまだ足りないと。次のターゲットはザジサン、古、エヴァンジェリンの異国の青い果実というならば」
「お前なあ、ちゃんと貰ってやるからそれ止めろ。本当に、家計崩壊が目に見えてる」
「言われて見れば……」

 ついぽろっと漏らすと、割と冷静な部類の夕映が確かにと呟いていた。
 むむむと悩む仕草を見せるが、さすがにそれを理由に辞退は勘弁して欲しい。
 仕方がないので、もう小鈴の思惑に乗るしかなかった。
 未だに弛緩したように動かぬ体を大の字にひろげ、食わらば食えと死に体だ。

「俺も男だ、覚悟は決めた。ぶっちゃけ、まだ怖くて寂しくて泣きそうなので慰めてください」
「じゃあ、私フェラしてみたいかな」

 そこで真っ先に希望を述べた恋人ですらない和泉はなんなのか。

「亜子、そんな無理しなくても。苦いよ?」
「無理して言わないやんね、普通。単純な興味やて。先生も気持ち良いやろし」
「亜子さん、先生のセックスフレンドを爆走中です。いずれこのままだと、本当の意味でセックスフレンドになりかねないです」
「だって私の背中の傷、先生みたいな大人が相手やないと受け入れて貰えへんし。それって外見重視の中学、高校生じゃ無理やん? せめて大学生ぐらいにならな」

 自分よりよっぽど肉体関係だけは進む和泉に、割と焦りながら夕映が言った。
 その言葉を受けて、和泉は改めて自分の思いを語っていた。
 ただ、親友の乱れたお付き合いを目の当たりにしているせいか、付き合うとセックスがイコールで結ばれているようにも思える。
 中学生で元彼とそうなりかけた美砂が希少なのだが、ちょっと感覚がおかしい。

「心配いらないネ、亜子サン。超鈴音に不可能はない。処女膜の再生ぐらいお手のもの。事実、私も再生医療を駆使して処女膜も再生中ヨ。親愛的との初夜の為に」
「それなら別にしちゃってもええ? 黙ってればわからへんし、エッチ上手やったら喜んで貰えるやろうし」

 恐らくは、こうして小鈴が余計な事をする為、色々とおかしくなっていくのだろう。

「私は勢いで先生と散らしちゃったけど、もうやり直したし。私クンニ」
「亜子がいいなら。私も初夜には満足してるから。えっと、亜子と一緒におしゃぶり」
「親愛的への奉仕で負けるわけにはいかないネ、フェラヨ」

 全員が希望を述べて困ったのは夕映である。
 まだ厳密には心の整理がついておらず、まだ好きだとも言葉にしていない状態だ。
 時々おでこにキスされたり、イチャついたりもしたが殆ど経験はなし。
 だがここでそれではと分かれるほど薄情ではなく、どうしたものか。
 これはなかなかのピンチかもと思っていると、助け舟が出された。

「夕映、出来れば膝枕して欲しい。ここの枕、お前らに合わせてあるからちょっと低い」
「先生がそう仰るのであれば、膝枕で……頭を撫でます」

 ちょっとだけプラスアルファを組み込み、まず夕映がベッドに上がっていった。
 むつきの頭を手で支えては枕を引っこ抜き、ちょっと苦労して膝を入れる。
 そして膝の上にむつきの髪の感触と頭の重みを感じては、ちょっとあたふたと。
 エロさは一番したかも知れないが、これは甘さは一番なのではと思ったからだ。
 深呼吸まずは深呼吸と慌て、吸って吐いたところでバッチリ眼があった。
 これは精神的に嬉し恥ずかし、拷問ですとむつきの視界を遮るように手を伸ばした。

「せ、先生、どうです?」
「小さな手が気持ちよい、太股も。他に誰もいなきゃ、うつ伏せになってくんくんしてる」
「最後、褒め言葉ですか? 意外と悪い気はしないのでいいですけど」

 ああ、この人はこういう人だったと少しは冷静になれたらしい。
 ただ逆にいつもの様に呆れながら、夕映は出来るだけ心を込めてむつきを撫でつづけた。
 様々な負の感情から強張っていたむつきの体も、幾分ほぐれてくる。
 その間に、まずアキラと和泉がシーツをどかしてむつきのスーツのベルトを外した。
 むしろ和泉の方が楽しんでいるように、二人で一緒にむつきを脱がしていった。
 むつきのトランクスもきゃっきゃと笑いながら脱がし、でろんとまだ半勃起中のそれを外気に晒す。

「夕映ちゃんが撫でるたびに、びくびくしとる。なんやろ、それに凄い匂い」
「まだ大きくならないうちにパクってするのもいいけど。亜子もいるし、ここ。半分個しよう」

 そう言ってコレだけは駄目と竿をさすりながら、アキラが玉袋を口に含んだ。
 見ててと視線で亜子に合図し、唾液でふやけさせてはもごもごと口内で弄ぶ。
 今さらながらに赤面し、ごくりの喉を鳴らしながら、亜子もそれに挑戦した。
 最初は恐る恐る、ぺろっと舌先で皺々の袋を舐め。
 つんつんと舌先でつついては、ぱくりと口に含んで飴玉のようにころころ転がす。

「やば、顔隠してえ。夕映に変な、だらしない顔見せたくねえ。アキラも気持ち良いけど、和泉もなかなか。才能、あるんじゃねえの?」
「多少微妙な気持ちですが。気持ちが良いのなら仕方ありません」
「んふふ、才能あるって。変な感じ。ちょっとだけサービスやて、ちゅって」
「んんぅぁ、亜子。先生のおちんちんにキスしちゃ駄目。今日は、超さんのだから」

 あまりの気持ち良さに、動かなかったはずの手を伸ばし二人の頭を撫でる程だ。
 むしろもっとやれと、股間に押し付けただけかもしれないが。
 鬼畜街道に順調順調とニンマリ笑った小鈴が、むつきの胸の上に跨った。
 制服のスカートの中を見せつけるように、真っ白なそれのバックプリントが超包子とはちょっとしたギャグだが。
 そのまま体を前に倒して、アキラが手で支えてくれていた竿に唾液を垂らして濡らし始める。

「超りんやらしい。それシックスナインって奴?」
「そうヨ。本来は親愛的にこのまま悪戯して貰うけど、今日は柿崎サンに譲るネ」
「それは申し訳ない」

 じゅぶじゅぶといやらしい水音を立ててフェラを始めた小鈴に笑って美砂が答えた。
 別に正妻としておおとりを選んだわけではないのだが。
 改めてこの光景を眺めるとなんと淫猥な光景なのか。
 夕映は膝枕と思うことなかれ、女子中学生の体操服、それも短パンである。
 ブルマでこそないが、女子中学生に体操服で膝枕など巨額な金銭が発生する事態だ。
 小鈴は語るまでもなく、首を前後に動かして喉の奥にまで竿を受け入れていた。
 窄めた頬のふくらみや大きく飲み込んだ時のうめき声などでだいたいわかる。
 アキラや和泉も、親友同士でありながら同じ男の玉袋を一生懸命しゃぶり中。

「私の大好きな先生、これ本当。変態鬼畜教師だ」

 当初は真面目で誠実な人柄を好きになったはずなのだが。
 これはこれで、なんと言えば良いか分からない興奮があった。
 チアリーディングで爽やかにかいた汗が、瞬く間に別種のアクセントとなる。
 美砂は早速、むつきの胸の上を跨り、小鈴の小さなお尻をちょっと押す。
 大きなお尻に押されて小鈴は体を丸め、飲み込みすぎたのかちょっと苦しそうに呻いていた。

「あはは、ごめんね超りん。お尻おっきくて」
「けほっ、今のはさすがにうっと来たネ」

 ちょっと笑ってごまかしながら、手コキしながらけほけほいう小鈴に謝る。
 そして振り返りなおすと、むつきを見下ろして怪しく微笑んだ。
 太股が伸びるチアコスのスカート、汗と染みる愛液で蒸れるそこを捲くって見せた。
 夏が近い梅雨のせいだけではない、湿った空気がむつきの鼻腔をくすぐった。
 何度も自分の精液を注ぎ、自分の一物とピッタリ重なる発情した雌穴の匂いだ。

「あの、柿崎さん。シャワーを、恥ずかしくないですか?」
「恥ずかしいけど、先生変態だから絶対好きだと思う。今の私すっごく蒸れてる。ちょっと臭うぐらいかも。召し上がれ?」
「美砂、もっとこっち。美砂の匂い、汗の蒸れた匂い」
「先生、犬みたいにくんくん。やぁ、恥ずかしい」

 そんな言葉とは裏腹に、むしろ擦り付けるように美砂は腰を振って感じるむつきの鼻に割れ目を押し付けた。
 スコートの布地が愛液でズレ、肌で鼻先を感じても入れても良いんだよとばかりに。
 だからむつきも遠慮なく蒸れた臭い、匂いではなく臭いを嗅いではスコートごとしゃぶりつく。
 美砂の花園に、これまで幾度となく蹂躙してきた秘部に。

「美砂、美砂もっと美砂!」
「先生、いいよ。恥ずかしいけど、先生なら」

 狂ったように乱れる二人を一番目の当たりにしたのは夕映である。
 特にまだ乾ききらぬ美砂の汗の飛沫が、長い髪を振り乱すたびにかかる。
 唖然、茫然としたその視線を感じた美砂が、ぺろっと舌を出してはにかんだ。

「ごめんね、夕映ちゃん。先生一人占めしちゃった。ファーストキスは先生にあげたよね?」
「えっ、あ……んっ」
「最近、ちょっと女の子も好きなんだ。可愛いくて柔らかいから」

 待ってという言葉を封殺して、美砂が夕映の頬に手を当て唇を奪う。
 唇を合わせながら、蕩けた頭で唇の隙間から唾液を吸い取る。
 ディープなのはさすがに可哀想だから、これぐらいと。
 半分はさすがに恥ずかしくなってきた、むつきからの愛撫を誤魔化す意味もあったが。
 挿入された時の様に腰を振ってはむつきに擦り、上の口では夕映の唇に吸い付く。
 時々腰を引いてむつきの視界をクリアにしてはみせつける、二人のキスを。
 正妻と恋人未満の、幼くも淫らな女の子同士の浮気現場をだ。
 当然、そういう浮気ならもっとやれと、興奮増し増しのむつきである。

「夕映、可愛いぞ。美砂とキスする姿が綺麗だ」
「綺麗だって。私だってあまり言われないのに、悔しいから窒息死させちゃう」
「んぅ、待ってくだ。あふぁ、窒息するです」

 美砂の濃すぎる程に濃い匂いと味、さらに時折見せられる美少女同士のキス。
 瞬く間に、一物が完全臨戦態勢に入っていく。
 嬉しい事態なのだが、面白くない。
 特に必死におしゃぶりをして奮い立たせていた三人にとっては。
 あれだけ必死に後頭部を抑えて押し付けていた手も、今や美砂の腰を掴んでいる。
 正妻故に仕方ないが、それでも悔しいものは悔しいのだ。

「ふふ、いけない親愛的ネ。これはお仕置きが必要ヨ」
「アキラ、十分濡れてるよね。奪っちゃえ、奪っちゃえ」
「超さん、ごめんね。先に先生の貰っちゃう。先生……」

 反撃はここからだと背中を押され、アキラがむつきの腰の上に跨った。
 そして普段はあまり好きではない背の高さを利用して、覗き込んだ。
 美砂のチアコスのスカートが少し邪魔だったので、手で払いのけながら。
 美砂と夕映に夢中だったむつきと目を合わせて言った。

「私を美味しく食べて」

 物欲しそうな顔で開いた唇は唾液で糸を作り、出した舌を指でなぞった。
 後で絶対恥ずかしくなりそうないやらしい顔でお願いする。
 これでむつきが奮起してくれるのは分かっているが、目的はそれだけではない。
 これで恐らく、今週末はこれをネタに言葉責めをされるだろう。
 もう一度見せて、あの時みたいにいやらしいアキラがみたいと。
 蕩けた表情をしながらも、内心はエッチでいけない子になっちゃったと舌を出す。

「アキラ?」

 意識を少しでも向けられればと、腰を沈み込めさせ始める。
 最近成長を始めた美砂やアキラの胸のように、一回り大きくなったむつきの一物を。
 指で開いた秘部の穴から愛液で潤し、肉壁でねぶりながら奥へと。
 時間をかけてゆっくりとアキラの中へと沈み込ませていった。

「アキラ、ぁっ……柔けぇ、温かくて。アキラの中に」
「ぁぅ、太い。手で支えないと、奥まで一気にいったら気絶しちゃう」
「狂う、マジで狂う。早く、奥に。キツイ。アキラ、アキラ」

 待ちきれないとむつきの腰が暴れるが、コレはお仕置きである。

「亜子サン、しっかりアキラサンのお尻を支えるネ。私は親愛的の腰が暴れないようガッチリガードネ」
「アキラ、ゆっくりゆっくり。先生、早くアキラの中に入りたいってびくびくしとるけど。ちゅ、美味しいものは味わわへんともったいないやんね」

 小鈴と和泉が早期の挿入を許さず、数秒かけて数ミリと絶対に許さない。

「先生、美味しい。私のおまんこ、美味しい?」
「もう駄目だ、出す。半分も入れてないのに出る。美味過ぎる!」
「もちろん、駄目ヨ」
「駄目に決まってるやん」

 アキラの腰を掴んで突っ込もうとすれば、小鈴が足でベッド脇にガッチリ固めた。
 さらには和泉がまだ出しちゃ駄目と竿の根元を力一杯握り締める。
 数滴は射精したかもしれないが、無理矢理それを止められてしまう。
 なのにさらに小鈴がまだ未挿入部分にキスをしては舐め、和泉がアキラがいなくなり空いた分の玉袋までしゃぶった。
 無理矢理止めておきながら、さらに射精を促がし、精液の貯蔵が増えに増える。
 玉袋は膨れ上がり和泉の口に直ぐに収まらなくなり、一物がさらにはち切れそうに膨れた。

「二人とも待って、これ私も辛い。大き過ぎる、お腹一杯になっちゃう」
「ふふ、まだこの辺りだからやっと半分ネ」
「さ、触っちゃ駄目、超さん」
「小鈴止めろ、出したい。出したいのに!」

 触れたのは一物を受け入れぽっこり膨れたアキラの下腹部だ。
 普段はそこまで目立たないが、寸止めをされたむつきの一物を受け入れた結果である。
 まだ半分あるとアキラの柔肌の上をさわさわと触れた。
 これには当然アキラも溜まったものではないが、むつきもであった。
 ふにふにと小鈴がアキラのお腹を触れれば、わずかな感触でも一物につたわる。
 例え風がアキラのお腹を凪いでさえ気付きそうな程に敏感なのだ。
 触れられたのであればもはや、アキラの抜く壁越しに握られたのも同然。

「頼む、もう本当に駄目だ。イキたい、小鈴、アキラ。和泉!」
「えっ、あの超さん?」

 もはや泣き叫ぶほどにむつきが叫び、超がニンマリとアキラの腰を掴んだ。
 和泉はまだ不満そうだが、そろそろ可哀想だからと。
 掴んだ腰を一気に押し下げ、アキラの中へとむつきの一物を挿入させた。
 もちろん、和泉の指による縛りもなく、後は快楽に導かれるままだ。

「アキラ、ぐぁ。中に、アキラのお腹にイクぞ」
「ひぃ、待っ。熱い、子宮がびゅくびゅく叩かれ、はぅぁ。イクッ!」
「まだまだここからネ」

 アキラの腰を掴んだまま回転させ、コリコリと子宮口で射精中の亀頭をすり合わせる。
 和泉も出したものは仕方がないとさらにアキラの膣を締めようととある部分へと舌を伸ばした。

「亜子、そこ汚いのぉ!」
「大丈夫、アキラ水泳前に消毒槽入ったし。たぶん……」
「死ぬ、これ以上締めるな。打ち止めになる!」

 結合部を舐めるようにアキラのお尻に顔を埋めた和泉が、舌を延ばした先。
 汚いという言葉が示すとおり、お尻の穴であった。
 でもやっぱり苦いと一瞬顔をしかめながらも止めず、ちょいちょいと穴を刺激する。
 今までにないぞくぞくとした感覚に、当たり前だがアキラの膣はこれ以上ない程に締め付けた。
 長い射精は何時までも終わらず、出したら出したでむつきは泣きそうだ。

「死ぬ、本当に死ぬ。助けて、美砂。夕映」
「先生、しっかりして。死んじゃだめ。私にも同じ事をして」
「柿崎さん、さすがに無茶です。なんだか先生、げっそりしてるです!」

 本当にむつきは泣きだしており、そばにいた美砂や夕映に助けさえ求めていた。
 大き過ぎる快楽は時に地獄となる良い例である。
 一瞬気が遠くなる事もしばしばありながら、分単位で時間をかけて射精を終えた。
 命までそのまま終えてしまいそうな気分でさえあった。
 なんとか魂だけは現実に引きとめ、むつきは生還を果たした。
 精神的にかなりのダメージを受けて泣き崩れる結果となってしまったが。

「うぅ、セックス怖い。夕映、もっと撫でてくれ。もうやだ、帰りたい」
「先生、あの……縋られて若干は嬉しいのですが。好意がガリガリと削られて。本当に、仕方のない人です。駄目男に惹かれる女性の気持ちが良く分かります」

 実際、ベッドの上で蹲り正座する夕映の膝に泣きついていた。
 飽きられながらも頭を撫でられ、もちろん一物は萎えっぱなしだ。
 麻帆良最強の馬鹿の秘薬でさえ、心のダメージはそう簡単に癒せないらしい。
 そして、これではもう続きは出来ないと怒り心頭なのが美砂であった。

「私、まだ入れて貰ってないんですけど、どう責任とってくれるわけ?」

 大魔神を降臨させ、全裸にひん剥いた三名を保健室の床で正座させていた。
 美砂から見て順に左からアキラ、小鈴、和泉と。
 罪状の軽さ順に並べては、頭のたんこぶの大きさもそれに比例している。
 一応、平日にセックスチャンスを作った為に小鈴は二番目だが、それがなければ三番頭角であった。

「もっと強力な超包子特性の秘薬で」
「あぁ?」
「ごめんなさいヨ」

 ふざけた事を抜かした小鈴は、正妻パワーで黙らせ。

「ちょっと先生を私だけに夢中にさせたのも悪かったけどさ。先生を慰めなきゃいけない時に、暴走しちゃ駄目でしょ」
「うん、ごめんなさい。その通り、だね」
「先生、ごめんな」

 和泉が謝るもやはり根元を握られたのが記憶に刻み込まれたのかびくりと震えられた。
 しばらくは和泉を見ただけで顔を引きつらせたり、ダメージは大きそうだ。

「まあ、とりあえずアキラ達は終わるまでそこで正座。先生は私と夕映ちゃんで慰めるから」

 せめて手だけでもとアキラは言いたそうだが、ちょっと考えしょんぼり断念。
 和泉にこっそり謝られ、私も悪かったからと儚げに微笑んでいた。
 一応小鈴も、薬に頼りすぎかと手に持っていたそれを後ろに投げ捨てた。
 たまたまデスクの上に落ちたそれのお陰で後日、沖田が三人目を懐妊したのはまた別の話。
 またご祝儀かとマグダウェルが手痛い出費に嘆くのも。
 美砂は夕映に慰められ中のむつきの背中をそっと撫で付けた。

「先生、横になって。可能な限りイチャイチャしよ。夕映ちゃんも抱き枕になるぐらい良いでしょ?」
「この先生を見て、断れるとでも。先生、好きなだけ抱きしめてください」
「ごめんな、夕映。ちゃんと待つつもりだったのに」
「アレ駄目、これ駄目ばかりで男性をつなぎとめられるとは思ってません。女子中学生として、その思考はどうかと思いますが」

 さあどうぞと体操服姿で両手を広げたむつきがゆっくりと抱きしめた。
 ぽすりとベッドに倒れ丸くなるように胸の中に夕映を抱え込んだ。
 その背中から美砂も抱きつき、豊かな胸を背中に押し付け頭を撫でては抱きしめる。

「落ち着く、夕映の甘い匂い。美砂、こっち側にこれない? おっぱいのみたい」
「はいはい、仕方ないですねむっ君は。お姉ちゃんのおっぱい恋しい?」
「すまん、それは止めて。マジで姉ちゃん思い出すから」
「あれ好きだと思ったのに。じゃあ、普通にはい、おっぱい」

 むつきが美砂のおっぱいに吸い付き、若干夕映が微妙な顔になりつつ。
 ベッドの上でもぞもぞと愛を育みあった。
 失敗したネと小鈴は苦笑いし、アキラも羨ましそうに指を咥えていた。
 そして一人まだ恋人ですらないセックスフレンドの和泉はというと。

「最中は五番目でも良いかなって思ったんやけど。うん、もうちょっとだけ頑張れる人が良いかな。エッチは満点なんやけど」

 たははとやり過ぎこそ反省しつつも、良い人いないかなとしばらくはセックスフレンドの継続を呟いていた。









-後書き-
ども、えなりんです。
始発で帰宅とはこれいかに。

ちょっと気力ないのです。
次回は土曜日です。



[36639] 第四十一話 一万やるからジュースとお菓子買ってこい
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/06/01 19:22

第四十一話 一万やるからジュースとお菓子買ってこい

 そろそろ梅雨明けが見え始めた六月最後の平日の事である。
 また天気予報は外れかと土砂降りの様子を見せる雨模様の日。
 期末まで半年を切って、各教室は放課後にも関わらず居残り生徒が続出中だ。
 特に多いのはやはり学年最下位を爆走中の二年A組であった。
 ホワイトであるレイニーデイを加えた新バカレンジャーを筆頭に、成績不良者がちらほらと。
 ただし勉学に励むグループは三手に別れていた。
 純粋に勉強が出来ずに居残りテストを受けている神楽坂や佐々木がその例だ。
 バカレンジャーのレッドとピンクを筆頭に、早乙女と長谷川、釘宮である。

「しくじった、まさかこのパル様が。原稿、締め切りが」
「けけけ、くそつまんねえBL本なんて落としやがれ。ゴミが減って清々する」
「なんだろ、この二人と一緒にいると私とっても場違いな気が。帰りに松屋で癒されよ」

 ぶつくさ言いながら追加テストを行っているが、割と三人は余裕が見える。
 早乙女の言う通りちょっとしくじっただけで、頭を抱えてへたり込むレッドとピンクほどではないのだ。

「こらこら、小テスト中に私語は駄目だぞ。出来たら、僕に見せてくれ。一緒に採点しながら解説しようか」
「た、高畑先生と採点。放課後の教室で二人きり。あぁ、でも全然わかんない。全くできませんでしたなんていえない」
「明日菜、大丈夫。私も全然わかんない」

 監視監督役が高畑なので神楽坂のやる気は出たり減ったり、佐々木のフォローもあまり意味はない。
 他に留学生という枠で日本語の勉強をしているレイニーデイズに古、マグダウェルあとおまけの絡繰だ。
 教師役は小鈴と葉加瀬と、充実振りで言えば他に類をみない。

「茶々丸、頑張って。貴方は、経験さえ積めばロジックを見直したりデータの正規化でどんどん得意になるから」
「了解です、葉加瀬」
「ずるい」
「仕方ないネ、そういう生まれヨ」

 ハッスルする葉加瀬や冷静な絡繰を見て、率直な意見をザジが述べた。
 三文字の単語でありながら、そこに込められた想いは深く重い。
 ただ小鈴の言葉の意味は理解しているのか、こくりと頷いて読書を再開した。
 茶々丸は少し異なるが、彼女達が読んでいるのは小学校低学年用の童話や小説だ。
 基本例文は色々と叩き込んだので、楽しく学習する為に本を読むのである。

「凄いネ、この大きなカブ。大人数で頑張っても抜けないとは、修行にぴったりアル!」

 と、このように古などは割りと楽しんで読書を進めていた。

「よし、今日の課題は終了。これで日本語強化習慣も終わりだ。おい、タカミチ!」
「ん、どうしたんだいエヴァ?」
「ああ、なんかエヴァちゃんと高畑先生がさり気に親しげに!」

 これはまずい、麻帆良祭の人気投票の影響かと神楽坂がまた頭を抱えていたが。

「ほれ、今直ぐに寄越せ。若造、乙姫から預かってるんだろう。囲碁の参考書を!」
「参考書って、まさかこれの事かい?」
「そうだ、それ。は?」

 高やけに艶やかな色の拍子を持つ本を取り出した高畑から奪い取った。
 艶やかといってもデザインはシンプル。
 主題の下に一巻を示す一を円で囲み、その右手には一人の子供が真剣な眼差しで立っている。
 表紙の絵だけでは分かり辛いが、題名に碁とあるだけで一応主軸は分かり易い。

「あっ、これ知ってる。弟がなんか読んでた」
「ヒカルの碁ね。まあ、子供が囲碁に入門するには確かに参考書だね。これで随分、囲碁人口が増えたみたいだし」
「アイツ、馬鹿だろ。マグダウェルの囲碁レベルを調べてからにしろよ」
「ふっざけるなー!」

 思わず破り捨てようとしたそれは、勿体無いと長谷川が一応の死守である。

「あの若造、人をおちょくりよって」
「いや、割りと真剣に考えた結果だと思うぞ。リアル系漫画なら日常会話に困らないし、マグダウェルが興味のある囲碁の話だし。結構面白いぞ、本因坊とか本格的な事もでてくる。絵が綺麗だからオタク臭くなくてとっつき易い」
「本因坊、まさか本因坊秀策か?」

 別に長谷川はそこまで詳しくはないので、マグダウェルの食いつき用は謎だったが。
 返せと彼女が奪い取っていって教室の隅で読み始めてもやれやれと肩を竦める程度だ。
 さらに最近発覚した、小学校を殆ど通っていなかった長瀬と桜咲の存在である。

「今さら小学生クラスの勉強は思うところはあるでしょうが。基礎が何事も大事ですので。ここは一つ、お忍びあそばせ」
「忍者ではござらんよ」
「承知しておりますわ」
「なんですか、その会話は。私には使命が、お嬢様をお守りする。このような事をしている場合では……」

 などと雪広を教師役として、まずは基礎をと小学部の勉強を行っている。
 現在この場にむつきはおらず、高畑が全体を統括して勉強を教えていた。
 なんだかんだと零しても、サボタージュしないだけマグダウェルよりはましだ。
 二人共それぞれ理由は異なるが、真面目にテキストに取り掛かかり始める。

「これはウカウカしてられないな。本当に、真面目に教師しないと乙姫君にA組の担任をとられてしまうな、はっはっは」
「高畑先生、それどういう事ですか!」
「へえ、担任のお墨付きか。良いんじゃないですか、私は歓迎ですけど」
「ちょっと千雨ちゃん!」

 なんて事を言うのと、麻帆良祭前の派閥が勃発しかけたりしつつ。
 ぎゃいぎゃいと追加テスト中とは思えぬ賑やかさで放課後の授業が進んでいく。
 本人は笑っていたが危機感はあるようで、高畑も熱心に教えていった。

「そうだ、乙姫先生で思い出したけど。高畑先生がいる日は顔出してくれないんですか?」
「以前なら顔出してたろうけど、彼はちょっと水泳部の臨時顧問が決定してしまってね。以前の顧問の先生が、とある事情で転勤してしまってね」
「顧問したからって給料増えないんだろ、ご愁傷様だな」
「いや、水泳部の顧問でしょ。美少女達の水着見放題って喜んでるんじゃないの」

 佐々木の疑問に、少々言い辛そうに高畑が答え、長谷川と釘宮が食いついた。
 早乙女は大人しいが、小テストの裏の白紙に教師と水泳部員のいけない関係を描いていた。
 ただし、生徒の方も男子であったが。
 それはともかくとして、

「エヴァンジェリン、どうしたネ。そんなにボロボロ泣いて」
「マ、マスターまだ花粉症の季節では。まさか、腹痛生理痛では」
「私が生理痛になるか、馬鹿たれ。ぐす……」
「ちょっと、なんかマジ泣きしてるんだけど、この子!」

 超の言葉でエヴァンジェリンの様子に気付き、絡繰がおろおろと慌てていた。
 やや古風な口調で口の悪い、だが外見は可愛らしい子が泣いているのだ。
 例の漫画本を片手に、泣いてないとも言いたげに何度も目元を拭っている。
 高畑の事で軽い嫉妬をした神楽坂も、これにはびっくりであった。

「おいおい、エヴァ。どうしたんだい、登場人物がニンニク汁だらけにされたとか貰い泣きかい?」
「今は貴様の詰まらない冗談に付き合っている気分ではない。この六百年、私は一体何をしてきた。光に憧れつつ、他者を恨み何を積み重ねる事もなく」
「おーい、六百年とかマグダウェルが親父ギャグに目覚めたぞ」

 長谷川に百円を百万円とのたまう親父ギャグと同一視され、多少額に血管が浮き出ていたが。
 感動の方が上回り、なんとか耐えられた。
 むしろぶわっと涙腺が崩壊する。

「千年、ただただ神の一手を極めんが為に。相手の謀略に心を痛め入水し、死して肉体が滅びようと、ただそれだけの為に。なんという気高き精神、囲碁への愛」
「あちゃ、なんか琴線触れちゃったみたい。でもヒカルの碁なら、ヒカル×塔矢が主流だけど、私としては行様×佐為なんてお勧めで」
「ちょっと待て、お前は余計な雑念を入れてやんな!」
「待てよ、幽霊だと? 相坂、おい相坂!」

 早乙女を容赦なく後ろから殴りつけて気絶させていると、突然マグダウェルが立ち上がった。
 教室の隅、具体的には朝倉の席の隣にまで駆け寄り、空中に向けて喋りかける。
 当然の事ながら、高畑以外はどん引きだ。
 寡黙で多少口は悪いが、漫画に感動なんて意外と可愛いところがと思った直後なだけに。
 そんな風に周囲に思われたとも思わず、マグダウェルは彼女だけに見える妖精さんに話しかけるのを止めなかった。

「そうか、貴様も多少は囲碁が分かるか。ならば、丁度良い。貴様も際限のない生を持つ身だ。私と一緒に目指さないか、神の一手を!」
「エヴァ、出来ればそのへんに……」

 高畑でさえ多少の引きつりは隠す事もできず、賑やかに追加テストは続いていった。









 むつきは高畑の言う通り、女子中等部の室内プール場にいた。
 以前に問題を起こした顧問が急遽、転勤と言う事でならばとお鉢が回ってきたのだ。
 期末後の夏休みでは三年生の最後の大会があるし、出来れば見知った先生が良いだろうと。
 元々強豪部なのでしつけは行き届いており、部長が雑務をこなせる事も大きかった。
 むつきが全くの素人という事も今回は推された理由でもある。
 下手に知識がなければ大会直前で無理なフォーム改善等、我を通さないであろうと。
 ただ一点、先生が転勤と言うのは今一信憑性が薄い。
 特に新田などは、学園長による何やら隠蔽めいたものを感じるとか言っていたが。
 とりあえず、急に顧問に推薦されたむつきは、それどころではなかった。
 例の室内プール場のプールサイドに水着美少女を並ばせ、その視線にさらされている今は特に。

「知ってると思うけど、臨時の顧問になった乙姫だ。晴天の霹靂だろうが、まあ夏の大会に向けて頑張ろうな。その前に期末あるけど」

 最後の一言でキャーッと黄色い歓声が中途半端に消えていく。
 水泳部内でのむつきの人気は麻帆良祭で分かっていたので、照れはしても驚きはしなかった。
 ただ、水泳に詳しい顧問がいなくなった割には、誰一人として不安を感じていなさそうだ。
 ちょっと不思議なので、後で部長に聞いてみるのも良いかもしれない。

「へえ、先生も若い乙女の操縦方法分かってきたじゃん。やらし、生徒の一人や二人、もう食べちゃったんじゃないの。ラブハンドル使って右へ左へ」
「止めて、洒落にならないからそういう弄り止めて。おい、そこで何故大河内を見る!」
「違うよ、その何もないから」

 部長のせいでむつきの前に並んでいた全員が示し合わせたようにアキラを見た。
 興味、羨望、たまに嫉妬とその視線は様々である。
 ただ当然ながら事実はどうあれ、アキラは否定するに他ない。
 実はなんて言い出せば、永遠の別れは目に見えているのだから。

「これが女子部のノリか。知ってたつもりやけど、やっぱ違うなぁ」
「そして当然のように和泉が俺の隣にいる件について」
「食ったのそっちかぁ!」
「こら、部長。お前麻帆良祭で色々俺に相談してから猫被らなさすぎだ。前に顧問した時は、真面目で統率力のある完璧超人だと。雪広みたいな奴だと」

 コツンと拳骨を落とし、和泉を指差していた部長を涙ながらに止める。
 もちろん相談とは、セックスフレンドの件だが正直に言えるはずもなく。

「雪広のお嬢と比べられても、こちとら一般庶民だし。それに先生分かってない。前は色々アキラが大変な時だったし、ふざける場合でもなかったじゃん。それに乙女はどんな男が相手でも最低一枚や二枚は猫被ってるの。あの時、十枚ぐらい被ってた」
「それで今はゼロ枚と?」
「さて、それはどうかな?」

 ニヤリと笑われ誤魔化され、一体どれが本当でどれがプラフやら。
 以前使った完璧とは意味が異なるが、小鈴よりの完璧である。

「兎に角、顧問の先生が念願の乙姫先生になって超ハッピーだけど、浮かれてはしゃいで事故なんてのは勘弁ね、特にアキラを筆頭に親しい二年生」
「部長、何故かさっきから苛められてる気が」

 部長のお言葉にはいっと短いキビキビとした返事が返る。
 ただ真面目一辺倒ではなく、弄る事は忘れずアキラの顔は真っ赤であった。
 美砂のように普段誰かに惚気る事がない為、慣れていないせいだろう。

「大河内は置いておいて。本当、事故のないようにな。水泳素人でこれから勉強する身だから何も出来ないけど、それだけは注意しときたいから」

 はーいとやや間延びした返事が返るも、やはり少し浮かれた様子は見過ごせない。
 というか、何故誰もなんでこんな素人がとか、前の顧問が良かったとか言わないのか。
 やはり統率と言う面で返事からも分かる通り、ちょっと舐められているような。
 歓迎されたのも扱い易い先生が来たからとか、怖い想像が脳裏を過ぎる。
 この歳で生徒から苛められたら、相当なトラウマになりそうだ。

「て言っても、どうせ今週も僅かで直ぐに期末休みだし。浮かれて事故起こされるよりはいいかな。折角着替えたけど、今日は練習中止。どっかの教室で乙姫先生との交流会」
「部長、私のクラス一年D組だけど、一階で割りと近いし。誰か居ても私が頼めば、空けて貰えると思います」
「よし、のりりんその積極性は評価します。じゃあ、一年D組の教室で歓迎会って事で。ね、先生」
「仲良くしてくれるなら、多少の投資はする。ほら、麻帆良祭での賞金まだ残ってるし一万やるからジュースとお菓子買ってこい。せこいが、お釣りは返せよ。あとレシートも忘れるな」

 強豪部だけあって各学年で三十人から四十人はいる。
 これを一クラスに入れると狭いかもしれないが、この人数で学外の店舗とかはキツイ。
 主にむつきの財布的な意味でのダメージとしても。
 黄色い声の歓声も耳が痛いぐらいで、片目と片耳塞いで耐えたぐらいだ。
 群がる水着美少女達が破きそうだったので一万は部長に。
 それで彼女も両手を叩いて押さえつけ、まずは一年の着替えを指示した。
 もちろん、買出しの為にである。
 次は三年と最後に二年とし、車には気をつけてと一言忘れずにさえいた。

「んじゃ、俺は戸締りを」
「先生、それ後で三年がやるからこっち。ちょっと今後の方針を打ち合わせさせて。よかったらそっちの子も聞いてみる。見学的な意味で」
「え、私もですか? 見学って」
「よく分からないけど、行っておいで亜子。部長良い人だから」

 さすがに上級生のお誘いに和泉は戸惑い、アキラに助けを求めてそういわれた。
 少しだけと要領は得ないものの、むつきともどもついて行く。
 監督室かと思いきや、場所は更衣室の隣にあるボイラー室であった。
 水泳部は専用のシャワー室がある為なのだが、どうしてそんな場所に連れて行くのか。
 顧問と部長が二人で会話するには、近いし丁度良いといえば良い。
 ただ鼻歌でも歌いだしそうな部長の態度が気になり、何度か和泉と顔を見合わせながらボイラー室に入った。
 着替え前なのでシャワーはフル稼働であり、ボイラーがゴウンゴウン結構煩い。
 和泉は大きな音が苦手なのか軽く耳を押さえており、むつきだって耳がちょっと辛かった。
 会話には不向きにも思えたが、案の定無言で部長が二人を手招きした。

「急いで、交流会の為にあの子ら多分、普段と違ってカラスの行水だから。先輩を待たせないってのもあるけど」

 部長が小声にも聞こえる声で呼び、壁に貼ってあったポスターを剥がした。
 火気厳禁というプラスチック型の板のポスターであり何の意味があるのか。
 ここここと指差され覗くと、まあ途中から予想はしていたのだが。

「先輩達より先にシャワー浴びるって気分良い」
「でも急がないといけないから、最後で良いからちゃんと洗いたかった」
「キツイ練習もなくなって、超ラッキー。乙姫先生様々」

 更衣室から直通のシャワー室から戻ってきたのは、先に着替えを命ぜられた一年生だ。

「ちょっと、何先生でいきなりオナってんの」
「クロッチ部分がちょっと痒いだけだよ。ソレより見て、やっと生えてきたの。これで私も大人の女の仲間入り」
「処理が面倒なだけだよ。濃くなってくると毎日お風呂で。水泳部員ってそこ面倒だよね」

 猫さんのパンツを履いた少女が股間を弄り、後ろから突っ込みを受けては胸を揉まれる。
 しかし反論にとまたパンツを脱いではまだまだ薄い若草を自分で引っ張ったり。
 やや大人びた発育具合のものは、苦笑いしつつひりひりするしと陰部を撫でていた。
 当然の事だが、入れ替わり立ち代りシャワーに行っては全裸で戻ってくる。
 やはり数ヶ月前までランドセルを背負っていただけに、発育具合は少々。
 時折、これはという逸材もいるが、目の前は青い果実の肌色で一杯であった。

「お前、これ覗き穴。だって俺は例外だけど、毎年女の先生で殆ど男子禁制で」
「うわっ、被ってる猫まるでなし。うちらも一年生時はこんなんやったなぁ」

 むつきに代わって覗き込んだ和泉もやや懐かしそうにする程だ。

「これ、代々部長に受け継がれてるのぞき穴なの。これで各学年、個人は少し難しいけど本音を知って操縦していくと。トラブルの火種は、大きい大会前にわざと暴発させたり」

 顧問初日で、何やら強豪部の闇に一気に引きずり込まれた気がした。

「怖ぇ、何考えてんだ。和泉君、水泳部の顧問として生徒の本音をもう少し。ぶっちゃけそろそろ代わって。もうちょい見せて」
「何言ってんのや先生。浮気したら怒るて。それに覗きはうちの領分やん」
「お前こそ、なにわけわかんない事言ってんの。副担任命令です、代わりなさい」
「へえ、やっぱりその反応。貴方も先生の恋人、それともセックスフレンド?」

 びくりと覗き穴を争っていたむつきと和泉が体を震えさせて硬直させた。
 お互い青い顔で見合っては、ぱくぱくと声がでない言葉の応酬である。
 とりあえず、お互いの共通認識はこの部長怖いであった。
 一体この覗き穴から他人のどんな後ろぐらい部分を見てきた事か。

「お前、この前アキラのフォームが云々ってまさかここから?」
「フォーム崩したのに気付いたのは本当。ただし、疑問に思っただけ。偶々アキラが一人で更衣室に入った時に覗いたら、お腹の上から子宮抑えて先生、王子様って嬉しそうに微笑むんだもん」

 ちょっと気分が盛り上がったのか、そのままオナニーを始めたのは彼女の尊厳の為に黙っている優しい部長であった。

「和泉ちゃんだっけ。はアキラの友達らしいし、たぶんセックスフレンドの方かな。まあ、だったら私もって言うところだけど、今回は別件。ほら、先生覗いて」
「それは嬉しいが、何故ベルトを。おい、止めろ」
「先生、あまり大きな声あかんて。ボイラー煩いけど聞こえんとも限らへん」
「いいから、任せて。和泉ちゃんもほら、お口開けて。精液で壁を汚されると犯人ばれちゃうよ」

 後ろから抱きつくようにして素早くむつきのズボンを脱がせ、取り出した一物を握る。
 無理矢理振りほどけないこともないが、さすがに転ばせたりして大きな音をたてるとまずい。
 壁に押さえつけられ、部長に扱かれながら穴を覗き込んだ。

「和泉、すまん。これ抗えんわ。悪いんだけど」
「フェラやね。ええよ、でも最近私が奉仕ばっかやし、ちゃんと奉仕してや」
「週末な、五回でも十回でもイカせてやるよ。もう、マジでこれセックスフレンドだ」

 目の前で自分が押し付ける形となった和泉には、口で受け止める役を頼んだ。
 部長の言う通り、ボイラー室に精液の跡などあれば大問題。
 覗き穴など直ぐに見つかるだろうし、犯人が誰かなんて一人しかいない。
 基本的に男子禁制の場所に偶然許可が降りたのはむつきだけなのだから。
 初日にどうやって穴なんてという疑問など、恐らくは小さな事だ。

「なんやかんや言うて、先生。勃起しとるやん。数ヶ月前まで、ランドセル背負っとった子らやよ。夕映ちゃんの方がさらに小さいけど」
「馬鹿、これは部長が」
「好美、小瀬好美。先生、実は私の名前知らないでしょ。友達はよっしーって呼ぶよ」
「愛称は勘弁して、前酷い目にあったから」

 首筋にキスされ一物は白い手で扱かれ、亀頭部分は和泉がパクつき舌で愛撫する。
 まだまだたどたどしい和泉の舌触りを補助するように、小瀬の指が竿を摩ってきた。
 のみならず、出しちゃいなよとばかりに袋も丹念にぎゅっぎゅと絞ってくる。
 さすがセックスフレンドを所望するだけあり、ちょっと上手かった。
 頑張れ俺のセックスフレンドと、和泉の頭に手を添え少しだけ腰を動かした。

「ぅっ、うぅん」
「和泉ちょっと涙目で見上げるな、興奮するだろ」
「先生、和泉ちゃんばっかり。ほら、はやく覗かなきゃお宝映像逃しちゃうよ」

 なんだこの地獄はと思いながら、覗き穴を改めて覗いた。
 部長改め、小瀬に言われたからで覗きたいから覗いたわけではないと思いたい。

「それでさ、皆どう思う。乙姫先生の事。残念だけど、イケメンじゃないよね」
「でもからかいがいありそうだし、気前良いし。前のアイツよりは百倍まし」
「アレ、絶対サドだよね。もしくは若くて可愛い私達に嫉妬してるとか。本当、直ぐ怒鳴るし。的外れなアドバイスに先輩達ガン無視だったし」
「大河内先輩が大会記録出した時も、自信満々で私が育てたってドヤ顔だったもんね。水恐怖症植えつけといて、それ治したの乙姫先生って噂だし」

 小瀬が見せたかったのはこれの事であったのか。
 どうやら以前の顧問は随分と嫌われていたようだ。
 あの事件の時も、直接会った事はないので何処の誰なのか知らないのだが。
 ただ喋りながらパンツ越しにお尻をかくのは、夢が壊れるので止めて欲しい。

「先生、まだ一年生だけだけど。歓迎されてるのは本当、猫被ってるわけじゃないから。これで私をセックスフレンドにしてくれたら言う事なし」
「痛ッ、和泉噛むな。噛むな、また落ち込んだら復活に時間かかるだろ」
「うー、んぅふぁ」

 まだ不満そうだが、機嫌は損ねつつもフェラを継続してくれた。

「でも噂って言ったら、本当かな。大河内先輩と先生が付き合ってるって」
「少なくともアレ惚れてるよね。先輩、隠してるつもりだけど大好きオーラ出過ぎ。もう、格好良い上に可愛いとかなに。最強?」
「先輩体付きは肉食だけど、内面小動物系だもんね。告られたら、私なら食べちゃうな。うん、のりりんは残念。内面肉食だけど、外見小動物だから」
「うっさい、私の目指す場所は小瀬先輩だからいいの。目指せ、次期次期部長。私の手で全国制覇。うん、でも反面教師いたからもう少し皆の意見聞くね。とりあえず、ちょっと喋り過ぎ。怒られないうちに撤収、買出し!」

 小さい上にツインテールの短いちょんぼが小学生を抜け切らないが。
 なかなかの統率力でのりりんと呼ばれた少女が一年生をせかした。
 ただまだ未熟なせいか、少しばかりその統率力を発揮するのが遅かったようだ。
 更衣室の外からごんごんっと荒っぽいノックがされてしまった。

「一年、遅い。のりりん、こういう時にアンタの出番でしょ」
「す、すみません。ほら、キビキビ着替える。遅い人は乙姫先生にサービスショット!」

 のりりんの指示を最後に本当に急いで着替えを始め、押し合いへしあいしながら外へ。
 又しても遅いと怒られながら、三年生に追い出されていく。
 ああ、やっぱり子供だなと、キャンキャン喚く姿が小型犬を思い出させた。
 せめてこれぐらいの成長はと、真下で頑張ってくれている和泉の頭を撫でる。
 褒められたとなんとなく判ったのか、咥えながらにっこり微笑む和泉はある意味で成長のしすぎか。
 そこへ入れ替わるように入ってきた三年生の発育との差も余計に感じられる。
 悪く言えば寸胴型が多い一年から、ペチャパイは僅か、豊満な体を持つ者が増え出した。

「先生、興奮しすぎ。一回出す? ちょっと飲んで見たいしええよ」
「吐きそうだったら、私にパス。慣れてるから、楽勝」
「ちょっと苦しいかもだけど、頼む」

 股間から見上げてきていた和泉の頭を掴み、イマラチオで攻め立てる。
 手コキが出来なくなった分、小瀬はスーツの裾から手を差し込み乳首を摘んできた。
 指先でこねくり回し、顎で肩を突かれ振り返ってみれば突然のキスであった。
 さすがに愛撫されっぱなしは悪いので、和泉から片手を放して後ろ手に伸ばした。
 そう言えばまだ小瀬は水着だが、股間部分の布地を指の腹ですって刺激する。
 少し濡れた競泳用の水着の手触りは少しゴム的なものだが、肌触りが普段中々ないものだった。

「和泉、出すぞ。好きなだけ飲め」
「うぐぉ、んぅんぅ」

 こくこくと喉を動かしては精液を飲み下すが、量が量である。
 もう無理とむつきのお尻を叩いてギブアップ、むつきもある程度出したら少しは我慢できた。
 尻に力を込めて射精感を押さえ、その間に和泉が立ち上がって小瀬の隣に。
 ちゅっと唇を合わせて、精液を口移ししてはまた竿を加えてちゅぅっと吸い出す。
 少し面白いが笑ってしまいそうなので、視線を覗き穴に戻した。

「あっ、冷たい。一年、ベンチ濡れたら拭けっていつも言ってるのに。外で着替えさせるぞ」
「まあまあ、慌てて追い出したし。今日は勘弁してあげようよ。それに乙姫先生に顧問代わったから不味くない、それ」
「前の顧問は寧ろ死んでて欲しいけど。今回は小瀬のお気に入りだけど、正直皆どうなの?」
「水泳知識は一点、勉強するって言ってたから温情で。顔はちょい辛口で五点、お洒落三点、性格は七点、男気あるし気前良いけど時々視線がやらしいから。それがなけりゃ九点かな。あれ、絶対大河内とヤッてるよね」
「そりゃそうでしょ、人魚姫と王子様だもん。大河内に告られてヤッてないとか、もはやインポだって。あの胸、あの腰つき。私が男なら速攻妊娠させる自信ある」

 なんというか一年生からも三年生からも同じような評価とは。
 アキラは愛されていると言うか、同性からさえエロイ目でみられている。
 それもあるが、何故全員そろいもそろってヤッてる説なのか。
 一年生すら大好きオーラとか、正直さっぱり気付いてなかったむつきである。
 既に直接好きだと告られているので、当たり前過ぎて気付いていなかったのもあるのだろうか。
 唐突に最後の射精感に襲われ、一度目は一滴残らず和泉が受け止めてくれた。
 すみません、今はそのアキラの親友の口を犯してますと真下を見る。

「気持ちよかったぞ、和泉」

 本心からの言葉と共に撫でてやると、それはもうにっこり微笑まれた。

「へへ、先生一杯出してまだ元気やん。ちょっと口臭気になるけど嬉しかったり」
「思った通り、上手いだけじゃなくて絶倫系。見込んだ通りの先生だったわ」

 堪りませんなとでも言いそうな小瀬が、和泉の唾液とむつきの精液で汚れた竿を丹念に手のひらでなぶり摩ってくれた。
 射精後の敏感な頃合だけに、刺激が強くなり過ぎないように。
 男の弄び方は、最近セックス三昧の美砂やアキラよりも上のようだ。
 どうすれば男がよろこぶのか、的確に奉仕してきてくれている。

「小鈴に薬で肉体改造されたからな。あと、内面ナイーブだから取り扱い注意だ、この野郎」

 精液臭い口で耳元で囁くのは勘弁して欲しいが、自分が出した結果である。
 多少は我慢して、秘部を包む水着を指で押しのけ谷間を探ってやった。

「んっ、この指。久々にイケるかも」
「あ、ええなぁ。先生、本当に週末は奉仕してな。綺麗綺麗するから」
「はいはい、アキラと一緒に可愛がってやるよ。だから、今は頼む」

 頭を撫でて頼み、今一度視線は覗き穴である。

「ヤッたと言えば、みきたん。麻帆良祭のどさくさで彼氏とラブホ行ってきたんでしょ。どうだったのさ、処女喪失の感想は」
「嫌なこと聞かないでよ、最悪。よっしーの言う事、ちゃんと聞いておけば良かった。私の彼なら大丈夫とか、前の私を殴りたい。こっちは痛いって言ってんのに、良いか気持ち良いかってガンガンついてくるし。蹴り飛ばしてやった、もちろん振った」
「うわぁ、私もよっしーの言葉はちゃんと聞いとこ。時々正論にイラッとする事もあるけど、だいたい聞いておけば間違いないよね」
「てわけで、乙姫先生は合格って事で。でもなんであんなに気に入ってんのかな。初体験、殆どレイプだったって本人も言っててむしろ男嫌いだよね」

 その言葉に思わず和泉と同じく振り返り、小瀬を見てしまった。
 どうやらこれが聞かれたのは不本意らしく、たははと笑う表情も何処か弱々しい。
 今ほんの少しだが、被っていた猫の隙間が見えた気がした。
 むつきを選んだ理由は不明だが、ずっとこの子は助けを求めていたのだ。
 恐らくは、普段の明るく前向きで皆から慕われる完璧な姿は仮の姿。
 怯えを悟られないように犬があえて果敢に吠えるように、全てを押し隠していた。
 だからむつきにだけ助けを求め、方法はアレだが必死に呼んでいたのだ。

「小瀬、お前」
「止めて、そんな目で見ないで」

 途端に、語調を強めた小瀬が背を向けるように、視線から逃げるように背を向けた。
 だがそれも一瞬の事で、すっかり猫を被りなおした笑顔で頭をこつんとしながら振り返りなおす。

「失敗、失敗。さて、私も皆と一緒に着替えないと。最後に覗き穴から、よっしーのストリップショー見せてあげる。けど先生、ここを使う時は私は絶対に呼んでね。見つかった時、フォローできないから」
「小瀬、ちょっと待っ」

 咄嗟にのばしたむつきの手をするりと、小瀬が交わしボイラー室を出て行こうとする。

「待った、先輩」

 逃げるように振り返った小瀬の手を掴み取ったのは、和泉であった。
 フェラ中であった為、かなり強引に飛びつき、四つん這いになりながら。

「和泉ちゃん?」
「待った、逃げたらあかん。それじゃ、一生逃げ続けるだけや。助けて欲しかったら言わな、他人の王子様でもええやん。先生、既にお嫁さん候補四人とセックスフレンド……えっと直ぐに人数出せんぐらいおる」
「さすがに、予想外の数なんだけど。マジで、先生?」
「和泉、お前」

 何を暴露してんだと怒りたいが、その理由がわかりきっているので怒るに怒れない。

「マジだ、アキラは嫁候補の一人。しかも全員担当クラスの子だ。あっ、言ってて泣きそう。だけど頑張る、もっと泣きそうな子がいるから」

 和泉が掴んだその手をむつきも掴んで、強引に引き寄せ逃がさんとばかりに抱き寄せた。
 やはり動揺は隠しきれていなかったらしく、抱きしめた体は小刻みに震えている。
 安心おしとばかりに頭を、そしてその震える背中をぽんぽんと叩く。
 正面から抱きしめられ、むつきの肩口から顔を覗かせた小瀬は見た。
 突然何かを決心したように制服の上着を脱ぎ始めた和泉をである。

「先輩、傷ついた事は隠さんでええ。傷口見せるのが怖いのは分かる。ほら、私もな。よおく見えるねん。大きな傷やろ?」
「嘘、女の子なのに。そんな、か」

 和泉の背中の傷を見て、思わず可哀想と言い掛けた口を小瀬が無理矢理閉じた。

「アキラの言った通り、ええ人や先輩」

 それだけは言っては駄目だと、和泉のみならず自分の女の子の尊厳さえ掛けて。

「うち、今ものすごく先輩を癒したい。一緒に先生のセックスで気持ち良くなろ。先輩の傷、心の傷を。エッチで癒そう」

 和泉の言葉に倣う様にうんと頷いた小瀬の瞳からは一筋の涙が零れ落ちていた。








-後書き-
ども、えなりんです。
今回ほど、意味のない題名もないです。

さて、冒頭は珍しく高畑が教師してるシーンです。
エヴァとかに喰われてますけどね。
エヴァもむつきのおかげで道を踏み外し中。
ヒカルの碁を知った、佐為を知った、佐為が碁をする為によくしてた事は?
ちゃくちゃくと、ひかげ荘に来る理由を構築中です。

後半は例の水泳部顧問に就任したむつきの話。
のはずが、微妙に亜子が主役回。
部長こと小瀬好美の登場で、亜子頑張った。
ヒロイン頑張ると途端にむつきの影が薄まりますが。
棒がないとエロできないしね、影は薄くとも意味あったよ。
やったねむつき、家族(嫁)が増えるよ!

そんなこんなで次回、サブヒロインとの正規エロ回。
更新は水曜日です。



[36639] 第四十二話 先生の性奴隷にだってなっちゃう
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/06/05 21:16

第四十二話 先生の性奴隷にだってなっちゃう

 電気をつけても薄暗く、巨大なボイラーのせいでやや煩い室内。
 むつきはそっと幼子をあやすように小瀬を抱きしめ、その短い髪を撫で付けていた。
 三点と評価された安物のスーツの肩口で、嗚咽を漏らす彼女の涙を受け止める。
 聞きかじっただけでは、過去に何があったか細かい所までは分からない。
 けれど彼女がどれだけ傷つき、辛い思いをしてきたかは涙が教えてくれていた。
 今なら嗚咽に混じり、言葉こそ口にしないが助けてという声が良く聞こえる。

「小瀬、たんと泣け。結局俺も男だから、お前を優しく抱いてやるしか出来ない。お前がそれで良いって言うなら、抱くよ」
「うん、でもその前にもっと抱きしめて。もっと、もっと。和泉ちゃんも、背中から抱きしめて貰っても良いかな?」
「喜んで、先輩の背中綺麗。ちゅ」
「ひゃ、こら悪戯しないで。優しくぎゅってして」

 和泉が背中にキスをして、やけに可愛い悲鳴を上げて小瀬が軽く拳を掲げた。
 ごめんごめんと、何やら姉妹のように仲良く笑いながら和泉が小瀬を抱きしる。
 もうっと零れ落ちていた涙は止まり、軽く拭って小瀬がむつきに体を預けなおした。
 雪広ともそうだが、和泉は妙に人と仲良くなるのが上手かった。
 性格は大人しめだが、仲良し四人組の要は彼女なのかもしれない。

「私、ちょっと勘違いしてたかも。エッチが上手いから、アキラが幸せそうだったんじゃない。先生が優しくて大事にしてくれるから、幸せそうだったんだ」
「先生、豆腐メンタルって良く言われるけど。女の子には優しいから」
「何故お前らは人を持ち上げる前か後に、一々落とすのか。もういいけど、どうせナイーブだし。後ろ向きでも」
「良くソレで溺れたアキラ助けられたね、驚き。先生、キス……あっ、精液飲んっ」

 ディープでこそないが、お願いを途中で止めようとした小瀬の願いをこっちから叶える。
 まさかと驚きに目を見開いていた小瀬も、そっかと安堵しつつ瞳を閉じた。
 こういう人もいるんだと、嫌な思い出に霞をかけながら力を抜いていく。
 唇から伝わる温もり、唇の端や鼻から感じる吐息。
 キス一つで立っていられなくなる程に、蕩けてしまうなんて思いもしなかった。
 膝ががくがくと震えて力が入らず、小瀬の体重が掛かったのか和泉が小さく悲鳴をあげていた。

「セックスの基本はキスからだ。全然平気とは言わねえが、それは順番逆になっただけだしな。普通のキスだけど、良かったか?」
「丁度良い、ディープだったら腰抜けてた。和泉ちゃんごめん、重い?」
「正直言うと、ちょっと。でもどうするん? 先輩ピルなんか飲んでへんし、先生今さすがにコンドーム持ってへんよね?」
「まあな、しかも一回出してるからちょっと生はな」

 むつきの勃起中の一物の事もあり、今さら何もと言うわけにも行かない。
 ただ現実問題として、コンドームがなければ小瀬とのセックスはできないだろう。
 財布にでも入れておいてよと和泉に視線で攻められたが、落として拾われたら大惨事だ。
 一応今でも常備はしているが、それはハンドバッグの中にと言う意味である。
 小瀬は抱きしめられキスされただけで幸せそうだが、うんうん二人は悩んでいた。

「先生、中だしして平気な穴。一個忘れてる」
「は、いやいや。さすがの俺もそっちはあまり経験ないぞ」
「え、なに。どういう事なん?」

 久々に理解が追いつかない和泉の様子に、ちょっと安堵した。
 それはさておき、中だしして平気な穴とは何処か、考えるまでもない。
 詳しく聞く事は憚られるが、処女を奪われた男に調教されたのだろう。
 触るぞと囁き、頷き答えられて手を伸ばした。
 途中、濡れていた秘部の愛液で指を潤してからお尻の部分の水着を大胆にずらす。

「んくぅ」

 水着とすべすべの肌に手が圧迫され、もぞもぞと蠢くように奥を目指す。
 お尻の割れ目を手繰り、深い部分にある皺の多い穴に指を差し込んでいった。
 くにくにと関節を曲げて柔らかさを確認し、ぐいっと軽く広げても見る。
 思った以上に開発されているようで、苦痛よりも快感を感じているようだ。
 もじもじと腰を振っては、顔を赤らめ切なげに小瀬がむつきを見上げている。
 もう少し我慢してとキスで応えている内に、背中側の和泉がしゃがみ込んでいた。
 水着に押し返されそうなむつきの手を手伝うように水着に手をそえ覗き込む。

「あっ、もう一個ってお尻なん。凄い、広がっとる」
「お前、前もアキラの尻穴舐めたし。こういう事にアグレッシブだよな。どうだ、俺の入りそうか?」
「ちょい、狭そうやけど。アキラの膣口も最初は小さいけど先生の飲み込むしいけるんやない? 先輩もいける思ったから提案したんやし」
「和泉ちゃん、さすがにまじまじと見られると。先生、お尻でして。優しくしてくれれば、私はそれだけで十分だから」

 そこまで言われてしまっては、もはや断る言葉は持たなかった。
 むつきだってお尻にはお尻の穴の良さがある事位は知っている。
 ただ美砂達にアナルセックスはまだ早く、無理を言おうとは思わないのだ。
 むしろまだクリトリスの開発さえしておらず、何のだか不明だが順番は守りたい。
 自分で考えてよく分からなくなってきたが、小瀬が望むなら応えるまでである。

「俺の方が濡れてるし、もうあまり時間も掛けられないな。小瀬、そこの覗き穴がある壁に手をつけ。和泉は、クンニしてやってくれ。多少の苦痛が吹き飛ぶぐらいに」
「先輩、ご奉仕するわ。先輩に気持ち良くなって欲しいから。気持ちええのは私も好きやし」
「和泉ちゃん、私もう泣きそう。使い古された台詞だけど、なんでもっと早く出会わなかったんだろ。お願いします、力一杯私を愛してください」

 頭まで下げた小瀬に対し、当然とばかりにむつきも和泉も笑顔で返した。
 さすがに破れたり伸びたりすると困るので小瀬が水着を脱いでスレンダーな体を露に。
 ぺたりと小瀬が壁に手をついて、お尻をくいっと持ち上げる。
 肩幅に足はややつま先立ちで、その間に和泉がしゃがみ込んで下から見上げた。
 割れ目から陰毛、おへそを伝って親近感のわく小ぶりな胸まで。
 そして今一度小瀬に笑いかけてから、そっと岩清水を垂らす割れ目へとキスをした。
 和泉が最初に舌先に感じたのは消毒の匂いと味だ。
 しかし、それじゃないとばかりに割れ目の奥に舌先を伸ばし女の子の味を追い求める。

「んっ、和泉ちゃん。上手、女の子にぺろぺろされてる私」
「先輩、一杯気持ちようなってや。頑張るから」

 和泉の健気な台詞に、爪先立ちの足が悲鳴をあげてふるふる震えた。

「小瀬、気を紛らわせたかったら穴を覗いてろ。三年生の着替えは終わったか?」
「うん、今丁度。もう、一年生に怒ってくぅ。自分達もだらだらして」
「先輩もだらだらしとる」

 そいつは結構と、むつきは細い小瀬の腰を掴み念のためにと秘部に手を伸ばした。
 和泉の唾液と愛液を塗りたくり、小瀬の尻穴の周りに塗ってはつんつんと刺激する。

「ぁっ、弱い刺激が。先生、もっと奥に良いから」
「久しぶりだから慎重にやらせてくれ。本当切れたりしたらまずいから」
「なんでそんなに優しいの」

 正直、普通だろと思わないでもないが、よっぽど前の彼が酷かったのだろう。
 かなり怒りがわいてくるがそんな事よりも、愛撫に集中である。
 片手でお尻の割れ目をなんとか開き、露となった窄まりに指を入れては広げた。
 前はクンニで後ろは指でと、その快感はいかほどか。
 本当に気を紛らわせるように、小瀬は荒い息遣いで覗き穴の向こうを覗き込んでいた。
 女の子が女子更衣室を覗いて興奮しているようで、かなりえろい。

「小瀬先輩、先生とお話長いよね。大河内、うかうかしてると小瀬先輩に取られちゃうよ王子様。ちゃんとアタックしてるの?」
「だから違っ」
「もうさ、諦めたら? 皆、知ってるし。アキラさ、ふと気付けば無意識に先生見てるよ。先生が来る前は、先生が座ってた場所見たり。酷い時にはその場所で胸に手を当ててキュンキュン切ない顔して」
「そんな事してたんだ。知らなかった」

 本当に気付いてなかったんかいと、着替え中の全員から突っ込まれていた。
 これには小瀬もアキラらしいと苦笑いである。
 背が高いのに大人しく、大人っぽい外見なのに内面は子供っぽく。
 アンバランスな所がまた魅力的で、二年でリレーに抜擢された実力者ながらあれだけ愛されキャラというのも珍しい。
 普通は調子に乗ってると虐めが発生してもおかしくはないのに。

「本当のところハッキリした方が良いよ。正直、三枚目だけど麻帆良祭の人気投票二位は侮れないって。壇上での奢り発言とか気前も良くて、狙ってる子いるし」
「私も、何か情報ないって聞かれた事ある。アキラがさ、好きって一言言ってくれればそういう情報シャットするし。好き、嫌いどっち?」

 ああ、これは誘導されているなと小瀬は思った。
 好きかそうでないかならまだ良いが、好きか嫌いかで言ったらアキラの性格上答えは一つだ。

「嫌いなんて、そんな。好き、かな」

 駄目だよ、そこで言っちゃと思ったが届くはずもなく。

「よっし、言質は取った。目標は卒業までにアキラの乙女卒業。どうするどうする。更衣室でアキラが着替え中に、ゴキブリがとか言って先生を放り込む?」
「もう一回溺れて見せてさ、人工呼吸中に好きですって」
「あっ、それ止めた方が良い。当日さ、A組の子らが冷やかしたら怒られたって。アキラが息してない状況とか克明に説明されて。ほら、パパラッチ。あの子も新聞回収するぐらい反省してたし」
「う、うん。そう。だから止めて、先生結構真面目なところあるから」

 これ幸いにと止めてとアキラがお願いするが、聞いてもらえるはずもなく。
 既にない処女を散らす作戦をあれこれ上げられ、赤面しっぱなしだ。
 来年、部長に指名して大丈夫かと思って気付いた。
 ついつい忘れていたが、今の自分はお尻を弄られている。
 誰に、アキラが大好きな先生に、アキラの厳密には違うが目の前でだ。
 ぞくぞくと背筋をのぼる謎の快感に、これ以上はまずいと思ったがもう遅い。
 愛らしくも可愛がっている後輩の彼をこれから自分は咥えこもうとしている。
 弱みを見せて泣いて見せ、美少女と美女の中間にいるアキラの彼を。
 いけない優越感に浸りかけた小瀬が我に返ったのは、そのお尻に負荷が掛かったからだ。
 ずんっと軽い衝撃の後で、めりめりとお尻の穴が無理矢理拡張され始めていた。

「ぁっ、入っ……お尻、太いのが。急になんで、優しく」
「先輩、聞いてなかったん? 先生が入れるぞって言って、頷いたやん」
「嘘、待っ」
「待つけど、やっぱ止めるか?」

 尻穴を押し広げる衝撃に思わず待ったをかけると、本当にその衝撃がぴたりと止んだ。
 そればかりか、大丈夫かと心配げに声を掛けられ、泣きそうになってしまう。
 アキラといい、この優しすぎる先生や後輩といい調子が狂う。
 優し過ぎるのもある意味で問題だと、小瀬は首を振っていった。

「先生、先っぽ入れてやめるとか。奥までいいよ、和泉ちゃんも顎疲れるでしょ。指でもいいよ。多少乱暴でも、感じられそうだし」
「乱暴っていうか、先生セックス中は意地悪になるから先輩気をつけて」
「さすがに今回はしねえよ。美砂に怒られるかもしれねえけど、イチャイチャセックス。和泉、下は俺が弄るから。小瀬とキスしてやってくれ、胸も交代」
「うん、わかった。先輩、キスしよか」

 小瀬の目の前に滑り込むように、和泉が立ち上がった。
 壁についていた両手を自分の手で握り合わせ、逆に壁に押し倒されたように。
 精液渡しをした時とは違う、舌を唾液を絡ませあいながらキスをする。
 姉妹のような仲を見せた二人の美少女のキスである。
 むつきも奮い立ち、締め付けてくる直腸を跳ね返すように一物をみなぎらせた。
 ずるずると尻穴から引き抜いては助走をつけなおし、穴を再度拡張しつつ奥を抉った。

「はぁっ、先生まだ大きく。苦しいけど、気持ち良い。お尻、お尻壊れっ」
「先輩、そのまま嫌な思いでは壊そ。もっと、もっと気持ち良くなってや」
「和泉ちゃんも、和泉ちゃんも一緒が良い。先生、一緒に」
「和泉、ちょい辛いかもだけど胸張って」

 腕を伸ばして和泉の腰を抱き寄せ、えびぞりにさせるように小瀬に密着させる。
 かなり体勢は辛そうだが、小瀬の為だと健気に和泉が耐えていた。
 小ぶりな胸もピッタリと寄り添い、可愛らしい乳首が互いに擦れ合う。
 その瞬間を狙い、むつきは二人の乳首を指の間に一緒に捉え軽くつまみ上げた。
 乳房はやや引っ張る形となったが、こねこねと押し付けするように捏ね上げる。

「乳首、和泉ちゃんと私の乳首が」
「くっ付く、くっついてまう」
「和泉、キスが疎かになってるぞ」

 そんなの無理だという顔をしつつ、和泉は小瀬の首に腕を回した。
 一応壁に肩と後頭部こそついているが、正直なところそんな所で体を支えるのは痛いのだろう。
 だが何処までも小瀬の為に、その傷を癒す為に。
 小瀬も心に沸く温かな気持ちに答え、片手で壁に手を付き、もう片方で和泉の腰を抱いた。

「先輩、ありがとうな。気持ええ? 先生のおちんちん、うちのおっぱい」
「気持ち良い。お尻が壊れそうになるぐらい、乳首も溶けちゃう。あぁ、幸せ。これが欲しかった。愛されてる、想われてる。こんなセックスがしたかったの」
「小瀬、これからいくらでもチャンスはあるさ。ただ、俺にはお前に快楽だけしか与えてやれねえ。本当に好きな男が出来るまでは付き合ってやるから、頑張ってみようぜ」
「もう、先生。私のお尻犯しておいて、それ?」

 少し調子が戻ってきたのか、挑発的な笑みで小瀬が振り返った。
 お尻を懸命に振ってはむつきの一物を尻穴で飲み込み、直腸で締め付けてくる。

「お尻でまでさせてくれる良い女、そうそういないよ。セックスフレンドどころか、先生の性奴隷にだってなっちゃう。和泉ちゃんやアキラより一個上だから、待ち時間半分だよ?」
「すまんが両手、前後。全部予約済みだ。遠慮しとく。そろそろ、俺も限界だ。ちょっとだけ、激しくするぞ。和泉、指入れるぞ」
「先生、今はあかんて。落ち、落ちる。先輩、腰の手もっと力入れて」

 和泉がちょっと声を大きくしたので、若干ながら体位を変更していった。
 尻穴の奥まで犯すと同時に、小瀬のお尻を押して体の角度を甘く壁に押し付ける。
 首に抱きついていた和泉も自然と釣られ、普通に立つことができた。
 改めて和泉ごと小瀬を抱きしめ、逆側の手は和泉の秘部へ。
 小瀬の事を言えないぐらいに愛液が溢れ、パンツの意味がないぐらいであった。
 帰り如何するのか若干不安になったが、準備ぐらいしているだろう。
 塗れた布地の隙間に指を差し込み、布地をどかしながら割れ目を探って膣口に指を入れる。
 そのまま男の太目の指にて擬似的なセックスをしてやった。

「んぅぅ、先生の指が。ぁっ、先輩キス。んぁ」
「セックスフレンド名乗るなら、指ぐらいで喘いじゃ駄目だよ。未来の彼氏に膜とったきたいなら、和泉ちゃんもこっちどう?」
「ぁっ、先輩あかん。そこ汚い、あかっ。ぁぅぁ、おしぃ」

 壁に押し付けられ身動きが取れず、小瀬に去れるがまま和泉は受け入れてしまった。
 むつきに前を弄られながら、お尻の穴を小瀬に刺激され少しだけだが指を入れられた。
 拒絶の言葉も途中からは意味のないものとなり、口を開けて喘いでは涎を垂らす。
 吐息も乱れ瞳も上を見上げたまま蕩けており、普段の清純な姿もどこへやら生唾ものであった。

「慣れれば病み付きだから。後で、浣腸のやり方とか、洗浄の仕方も教えてあげる。うん、ちょっとだけ元彼に感謝できた。和泉ちゃんにお尻の使い方を教えられるから」
「私が、気持ちあかぅ、ぁぅ。先生も、弄ったら。気持ち、ええ。前も、後ろもぉ」
「やばい、和泉のあへ顔がマジでえろい。小瀬、ちょっと乱暴になるかも。てか、なってる。腰、止まらねえ」
「ぅん、いいよ。先生、何時でも出していいから。もう、十分過ぎる程に愛して貰ったから。受け止めてあげる。お尻で妊娠してあげる」

 もはや一枚壁を隔てた向こう側に遠慮も何もなかった。
 和泉は必死に快楽に耐えて喘ぎ、小瀬もまた尻を叩かれながら穴を犯され喘ぐ。
 必死に腰を打ちつけるむつきは喘ぎこそしないが、壊れるほどに腰を振っている。
 誰に主導権を渡す事なく、むつきが小瀬の尻を、小瀬が和泉の尻を犯す。
 もはや可憐な女子中学生の姿を投げ捨て、淫らな顔を和泉がむつきに見せて一周だ。

「和泉、こっちむいて」
「ぁっ、ぁぅ。先、んぅ」

 いや、耐え切れずにむつきが和泉の唇を奪ってしまって一周の完成か。

「小瀬の尻穴、和泉の唇。我慢出来るか、出すぞ。孕ませてやるぞ、小瀬」
「孕みたい、そんな気持ちになるなんて思わなかった。いいよ、孕んであげる。先生、お尻に出して。お尻で妊娠してあげる」
「何時もの妊娠プレイやん。けど……キス、先輩はまだしも。先生としてまった。へへっ、先生もう一回してや」

 まあいっかと、和泉は快楽に身を任せキスをもう一度ねだる。

「小瀬、和泉も。皆纏めて孕め、イク。イクぞぉ!」
「声、大きい。ぅぁ、来た。どろっどろのが、お尻の奥まで」
「先輩こそ、声。ひぅ、あかん。前と後ろ同時にイクゥ!」

 小瀬の尻穴の中でむつきが果てて、精液を迸らせる。
 卵子は何処だと直腸の奥まで流れ泳ぎ、遡っていく。
 精液の迸りを直接感じた小瀬が和泉の尻穴の奥まで指を入れ、結果は当然。
 連鎖的に和泉まで果てる結果となり、三人仲良く快楽の奥にまで沈み込んでいった。








 セックスに夢中になり過ぎ、何処へ行ったと探されたりもしたが。
 三人とも着衣を整えて、特に小瀬は着替えも済ませ、一年D組の教室へと向かい交流会と相成った。
 さすがに百人以上の人数では手狭で、ぎゅうぎゅう詰めの立食パーティ状態である。
 水泳部の一年生が買ってきたジュースを紙コップに注ぎ、全員に行き渡ったか確認。
 それを終えてから、代表として当然の如く部長の小瀬が音頭をとった。
 顧問とはいえ初日のむつきは、まだお客さん待遇で教壇の上の椅子に座っている。

「それじゃあ、我が水泳部の新しい顧問となった乙姫先生との交流会、始めましょうか。かんぱーい」

 一年から三年まで、似たような元気な声で乾杯と続く。
 わいわいとお菓子に群がったり、近くの者とお喋りしたり。
 この辺りは二年A組の面々と、さほど大差のない光景であった。

「先生、ジュース一杯あるから。無くなったら、直ぐに言ってね。注ぐから」
「ジュースばっかり、腹壊しそう」
「私もそう思う、んだけど」

 一.五リットルのペットボトルを持ちながら、アキラは待機状態であった。
 ただし、私もと言ってちらりと見たのは水泳部の二年生達である。
 どうやらまだ弄られているようで、点数稼いで来いと言われたらしい。
 困ったねと照れ笑いしながら、割と満更でもない様子だ。
 学校という空間で周囲公認で親しく出来る機会が嬉しいのだろう。

「もう、アキラ。それじゃ、駄目。てんで、駄目。コップに注ぐんじゃなくて、このおっぱい。でかぱいの谷間に注ぐのが乙女ってもんでしょ」 
「先輩、急に。止め、先生見ちゃ駄目。ぁっ、揉まないで」

 突然悪戯を始めたのは小瀬であり、制服の上からだがアキラの胸を大胆に揉みしだく。
 はっきりと分かるたおやかな胸のうねりに、何名もの乙女がくっと拳を握る。
 ただ大半はだいたーんと黄色い声を上げてもっとやれと煽る始末だ。
 少し感じてしまったのかアキラの口から艶やかな声が漏れ、ぴくりとむつきは耳をそばだててしまう。
 しかし、この乙女の花園で食い入るように見れば、冷たい視線にさらされるのは必死。
 ただでさえ、時々視線がエロイと二点減点を受けている身だ。
 だが、だがしかしと苦悩しては眉間に皺を寄せ、突っ込まれた。

「先生、顔に見たいって書いてある。我慢は体に良くないやん?」
「和泉、俺の折角の努力を疑問系で簡単にふっとばすな。小瀬君、もっとや。じゃなくて、あまり弄ってやんな。大河内も、嫌なら嫌って言った方が良いぞ」
「言って止めてくれたら、苦労はしないよ。亜子、助けて」
「うーん、やっぱアキラは押しが弱いからなぁ」

 しょうがないなとばかりに小瀬に言われ、ちょっとしょんぼりするアキラであった。
 でかぱいじゃないもんと胸を押さえて、つつつと小瀬のそばから退避していく。
 そのまま和泉の後ろまでいって、自分より小さな背中に隠れ直接助けを求めた。

「ふうむ」

 ただ小瀬は追撃もせず、少々考え込むように顎に手を当てていた。

「そう言えば、今まで忘れてたけど。和泉ちゃん、なんでここにいるんだっけ?」

 そして唐突に、本当に誰もが忘れていた疑問を今さらながら指摘してきた。
 一応水泳部とその顧問の交流会なのだが、今でも普通に参加してしまっている。
 一年生は二年生の和泉に意見できるはずもなく、二年生は顔見知りだっているし同い年なので気にしない。
 三年生は小瀬がちょっと親しげに和泉ちゃんと呼ぶので気にしていなかったようだ。
 小瀬の指摘にも、アンタが言うなという視線を向けるぐらいである。

「えっと、アキラの親友の和泉亜子です。実は先生に相談があって、どうせ先生何も出来る事ないし暇だろうから。丁度良いかなって」
「和泉、それが人に相談をしに来た奴の台詞か」

 事実その通りなのだが、改めて指摘されると切ないのである。
 だが、そんなむつきの嘆きはさらっとスルーして、和泉はその相談内容を口にした。

「サッカー部の先輩に告白されたん」
「ふーん……ぇっ」

 なんだとっと、むつきが驚くより先に、邪魔だどけとばかりに乙女達が群がった。
 年功序列関係なく、和泉を知る者も知らない者も。
 乙女の一大事に興味津々、相手は誰だと詰め寄り問いただそうとし始める。
 つまはじきにされたむつきであったが、内心穏やかではなかった。
 相談事を知らされた瞬間、驚きの言葉と共に胸に沸いた苛立ちの答えを求め眉間に皺を寄せていた。

「サッカー部って女子中等部に女子サッカーなかったよね。てことは、男子中等部のサッカー部? なに、マネージャなの?」
「うん、本当はサッカーやりたかったけど。女子サッカー部ないから、せめてって男子のサッカー部のマネージャやってる」
「イケメン、イケメンなの!?」
「どうやろ。一応、サッカー部のエースやし、持てとるんやないかな?」

 エース、男子サッカー部のエースって誰だと瞬く間に情報が整理されていく。
 何処から出てきたのか、誰かの携帯の写メまで公開された。
 青春の汗を煌かせシュートを決めた瞬間の一枚の激写であった。
 それでなくとも、サラサラヘアーに甘いマスクでファン倶楽部さえありそうだ。
 実際に、背景の隅に小さく写る女子マネの殆どの視線を集めていた。

「イケメン、これサッカー部の有名なイケメン。何を相談する事があるの、付き合うっきゃないでしょ。もしくは、代わって。紹介して!」
「アキラの周りは化け物だらけ。バスケ部のホルスタインとか、新体操部のお花畑とか!」
「て言うか、二年A組がおかしいんだって。男子中等部とか、あの組み分けAランクから始まりZランクで終わるとか噂してるし。悔しいけど、本当Aランクしかいないし!」
「はいはい、皆落ち着け。和泉ちゃん困ってるっしょ。どうどう、落ちつけぇ」

 黄色い声で嘶く乙女達を、小瀬が両手を上げて落ち着かせていく。
 ところで和泉の後ろにいたアキラは、肩越しに腕を回しキュッと抱きしめて何がしたいのか。
 案外、むつきと同じような理由で自己主張中なのかもしれない。
 それからいきり立つ乙女達を鎮め、改めて小瀬が和泉に聞いた。

「和泉ちゃん、見てる限り反応薄いけど、もしかして付き合う気ないの?」
「はい、ないです」

 そんな馬鹿なイケメンを振るなどと騒ぎ立ちそうな部員達を小瀬が手振りで抑え続ける。

「取り合えず、皆が納得できる理由をプリーズ。アキラ達と一緒の方が楽しいとか、ぶりっ子なしで」
「先輩、確かに顔は良いんですけど。それを鼻に掛けてるところがあって。ほら、さっきの写メも必死に隠してるけどさり気にカメラ目線やねん」
「言われてみると、皆どう?」

 小瀬が部員達に尋ねると、皆が一斉に携帯の小さな画面を覗き込んだ。
 和泉の言う通り、改めて指摘されると視線の向きがおかしく泳いでいるようにも見える。
 だがそれでも、イケメンならソレぐらい許されるという意見が多そうだ。
 ちなみにむつきは、いやまさかなと小さな苛立ちを隠し一人手酌でジュースを注いでいた。

「和泉ちゃんのタイプじゃないとして、どう断ろうか考えてる?」
「断るのは確定なんやけど。先輩、よりによって他の女子マネとか、部員がいる前で告白してきて。ちょっと困った事に……」
「うわぁ、空気読めてねぇ。ちなみにあっちゃん、彼何点?」
「情報少ないけど、エースだしサッカー十点、顔は九点。ただし性格0点。馬鹿じゃないの、自分の事ばっかで和泉ちゃんの事を全然考えてない」

 小瀬が話を振ったのは、更衣室でむつきを採点した子であった。
 ひかげ荘でいう長谷川のような立場なのか、手早く採点しては容赦ない言葉を送る。

「先輩の言う通り、他の子の視線が厳しくて。断っても受け入れても、ちょっともう女子マネ続けられそうになくて」

 溜息混じりに、本当に困ったと和泉は肩を落としていた。
 部活の中心的人物、それもイケメン。
 さらに言うならばかつては好きだった人だ、ひかげ荘に足を踏み入れるまでは。
 そんな男に告白されて、断りでもすれば他の女子マネから何様のつもりかと言われる。
 かといって受け入れてもまた、男漁りに来たのやらなんやら言われるのは目に見えていた。
 現状、受け入れたとしても短い付き合いになる事も同時に見えていたが。

「先生、どないしよ。それ、相談したかったんやけど」

 その相談内容に、内心穏やかではないが冷たいジュースでクールダウンだ。

「断る事が確定してるのに、試しに付き合ってみたらとは言えんし。考えるとしたら、サッカー部の女子マネを続けるかどうかだよな。元はサッカーやりたくて、なかったから女子マネに。和泉、お前女子マネは好きか?」
「うーん、前は半分女子マネやっとったのもサッカー部の先輩が好きやったからやし。正直、続けても続けられんでもどっちでも。けど振って女子マネ止めて、身の丈に合わないから逃げたと思われるのは癪やんね」
「よし、分かった。だったら、丁度良い!」

 突然小瀬がそう声を大きくして言い、考え中のむつきはあっけにとられた。
 相談されたの俺なんだけどと言いたいが、妙案があるわけでもなく。
 取り合えず、小瀬の何やら妙案を聞いてみる事にした。

「和泉ちゃん、サッカー部の女子マネ止めて、水泳部のマネージャになりなさい」
「え?」
「小瀬、話飛び過ぎてわかんねえ」

 和泉やむつきのみならず、アキラや他の水泳部員もどうしてそうなると疑問の顔だ。

「和泉ちゃんがやめ辛いなら、水泳部が引き抜くの。実際、水泳部としては和泉ちゃん欲しいし。三年全員でそのエース君に文句ぶちまけて、ボロクソにして」
「あっ、それ私やりたい。思いやりのない野郎は滅べば良いと思う」

 そう握りこぶしで黒いオーラを発したのは、素敵な処女喪失に失敗したみきたんだ。

「先輩、あんま過激なのは。それに水泳部に欲しいって、うち水泳素人やよ。先生と同じぐらい」
「そこで俺を引き合いにだすって、お前本当に良い性格になってきたな」
「別に今直ぐは期待してないし。期待してるのは一年後、アキラが部長になった時の話。水泳部の二年ってさ、皆仲が良いのは良いんだけど私や一年ののりりんみたいな子がいないの」
「あの、なんか既に私が部長になる事が確定してるんですけど」

 何故と声を上げたアキラの疑問に、もちろん小瀬は答えてくれた。

「言ったでしょ、リーダー的存在がいないって。だったら、実力順。ただ、この話になる前も言ったけどアキラって押しが弱いの。大人しいから皆を引っ張るのに向いてないし、それに部長って雑用多いから、部のエースにそれさせるのはちょっとね。実際、私水泳選手としては今一だし」
「ああ、やから私にアキラをサポートして欲しいって事なんやね。アキラは名前だけ部長で、その雑用は私がする。うん、それなら水泳部のマネージャやりがいありそう」
「亜子が良いなら、来年の部長してもいいかも。もちろん、頑張る」
「てなわけで、どうでしょうか。先生」

 何やらウィンク付きで尋ねられたが、文句があるはずもなく。
 ちょっと自分の存在意義に疑問を感じて泣きたいぐらいだ。
 アキラがお飾り部長になる前に、むつきがお飾り顧問になっている。
 心の中ではちくしょうと漏らしつつ、無理して笑顔を作って頷いた。

「和泉の件はもちろん、マネージャ作るってのは良い案かもな。もう二、三人追加しても良いぐらい。監視員って意味を含めて。人数多いから、俺の目も行き届かないし」
「んじゃ、今度募集かけますか。先生の合意も得られた事で、和泉ちゃんを水泳部のマネージャに引き抜くって事で。はい、挨拶」
「えっ、あの……なんや、そう言う事になったみたいで。よろしくお願いします。取り合えず、今出来ることとしては男子中等部のサッカー部の情報を公開するぐらいですけど」

 和泉としては軽い冗談のつもりが、何人かの目がキラリと光った。
 サッカー部のイケメンエースの正体が空気読めない性格0点とわかったのはつい先程。
 その逆で隠れたイケメン、良い男の情報が聞けない事もない。
 何しろここは女子中等部、男子の影など教師にしかなく言ってしまえば男に飢えた雌豹の巣だ。
 早速とばかりに手を挙げてはアピールして、和泉に言った。

「サッカー部のお勧めの物件は。隠れたイケメン、良い男情報頂戴、和泉ちゃん!」
「えっ、本当に公開するん? えっと、三年生やったらフォワードの染岡さんかな。体が大きくてちょい強面やけど、重い物持ってたらぶっきらぼうに貸せって強引に奪ってく。お礼言うと危なっかしいんだよって赤くなってそっぽ向く照れやな一面も。後輩の面倒見も良くて、慕われ度は断トツです」

 まさか本当に隠れたイケメンが出てくるとはと、誰もが唸っていた。

「和泉先輩、一年の朝日のり子です。のりりんって呼んでください。一年生のイケメン希望です」
「一年生でイケメン、うーん。イケメンかどうかはちょい怪しいけど。宇都宮君かな。まだ可愛い悪戯小僧って感じやけど。近所のお姉さんに可愛がられてるから、女の子の扱いも仕込まれてて女子マネに自然体で接してる。年下好きな人が好きそうなタイプ、同年代も彼の今後の成長に期待?」
「何この子、お宝情報の塊なんだけど。和泉ちゃん、和泉ちゃん。私クール系が良い」
「私、頭脳派!」

 段々と注文が怪しくなり始めていたが、サッカー部以外からも和泉が人名を挙げ始めた。
 さすがに麻帆良女子中でのみ活動する生徒より、男子中等部に混じる女子マネの方が男の子と触れ合う機会が多いからだろう。
 半分水泳部員に揉みくちゃにされながら、和泉は懸命に記憶を掘り出し答えている。
 二年の夏前という中途半端な時期に所属部を変えるのは勇気がいるが。
 この調子であるならば、友人にも先輩、後輩にも困る事はないだろう。
 隣で満足そうにうんうん頷いている小瀬には、もはやお手上げであった。

「和泉ちゃんはピンチの脱出、部員は男子中等部の情報が手に入って、もちろんアキラも親友と一緒の部活で皆ハッピー。私も先生のセックスフレンド仲間がいて楽しみだし?」
「最後の、大部分占めてるだろ。お前も、和泉の情報聞いて今度こそちゃんとした男、捜せよ」
「えー、しばらくはいいや。先生と和泉ちゃんがいれば。先生、今なら誰も気付いてないし、抜け出してセックスしよ。ゴム、その鞄の中にあるでしょ? 夕方の校舎でとか、乙女の憧れのシチュエーション。それとも、レイプレイする?」
「あるけど、部長がガガガ痛ッ」

 後ろから抱きつくようにしな垂れかかれ、耳に吐息を吹き掛けられていると二の腕に強烈な痛みが走った。
 万力のような強さで男でも柔らかい肉を狙うとはなんと非情な事か。
 誰かなど考えるまでもなく、こんな事をする人物は他にいない。

「先生、さっきやっぱり先輩と」
「アキラってば妬かないの。ちょっとアナルセックスしてただけ」
「アナル?」
「やぁん、もう。普通ならかまととぶってるだけなのに、アキラだから許しちゃう。お尻、お尻の穴に入れてもらってたの」

 ぼふりとアキラが赤面すると同時に、むつきも責め苦からなんとか解放された。
 カッターシャツの袖をまくるとそれはもう、真っ赤な抓りの痕がくっきりと。
 それにしても、普段嫉妬しないくせに、小瀬だと嫉妬して。
 今一、アキラを含め、美砂達の嫉妬の沸点が分からない。
 以前のように、ゲームに夢中でスルーされるよりは幾分ましだが。
 それはさておき、和泉の水泳部マネージャ就任が決まり、むつきとしても少し安堵できる結果であった。









-後書き-
ども、えなりんです。

久々に、原作乖離。
本来振られる側だった亜子が振る側に。
たぶん、背中の傷について開き直った結果、良い笑顔になったからでしょう。
というか、亜子が無茶苦茶むつきを頼りにしている。
流されたとはいえ、キスまでも。
五番目当確です。

あとサッカー部の染岡さんと宇都宮君はイナイレから拝借。
イナイレ×ネギまを書こうかとプロットまで書いた事があるので出さざるを得なかった。
需要なさ過ぎるだろうと断念しましたが。
ちなみに、イナズマイレブン、略してイナイレです。
面白いですよ。GOは全然見たことないですがね。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第四十三話 お前となら、どんな茨の道でも歩んでいける
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/06/12 20:49
第四十三話 お前となら、どんな茨の道でも歩んでいける

 前期の期末試験まで一週間を切った最後の休日。
 平日はまたむつきからの提案で携帯での連絡禁止、今日もセックス禁止令が出ていた。
 ただし前回を越えるご褒美など、そうそうあるはずもなく。
 せめてセックスを禁止して、玉袋の中の残弾を貯蔵。
 期末明けに太陽が黄色く見えるまで頑張ってあげようという魂胆もあったりする。
 そんなわけでひかげ荘メンバーは、前日の土曜日から泊まりこみで勉強会であった。
 特に今回は、なにやら和泉がやる気で徹夜も辞さぬという力の入れようだ。
 ただでさえ前回、百五十位程順位を上げており、さらに上を狙うつもりのようである。
 その為、むつきも多少はお付き合いをして夜食を差し入れたり、飲み物を持って行ったり。
 特に四葉に気を使わせないよう気を配ったりもしていた。
 それでも深夜の二時頃には、睡魔に負けて一人寂しく管理人室で寝てしまったが。

「ん?」

 そんなむつきを起こしたのは、玄関先で鳴らされたインターホンであった。
 寝ぼけ眼で時間を確認すると午前八時、普段より少し遅い起床である。
 一体誰だよと心で毒づきながら、着崩れた浴衣のまま頭を掻きながら玄関へと向かう。
 現在ひかげ荘には全メンバーが揃っており、他に心当たりがないのだ。
 恐らく、集合した和泉の部屋で撃沈しているであろう皆の眠りを妨げないよう多少早足で向かう。

「はい、はーい。ちょっと待ってくれい」

 再度インターホンが鳴らされ、割と朝の早い時間なのに待てんのかと毒づきが口に出る。
 そして玄関の手前にて、引き戸のガラスの向こう側に金髪が見えた。
 引き戸のガラス部分から頭ぐらいしか見えず、雪広かとも思ったが違うようだ。
 雪広の頭はあんな低い位置にはないはず。

「あっ、先生」

 それが確信に至ったのは、背後からかけられた雪広の声であった。
 ギシギシと木が軋む音は階段を急いで降りてきたからであろう。

「雪ひっ」

 おはようと振り返って声をかけようとして、息を飲んで言葉が詰まってしまった。
 やや寝ぼけ眼、髪も珍しく乱れ重力に逆らって跳ねている部分さえある。
 完璧を体現した彼女に似つかわしくない格好だが、特にそこは問題ではない。
 問題なのは、彼女が半裸であった事だ。
 彼女の肌よりも白いレースで半すけのブラとショーツ、そしてガーターベルト。
 本来清楚なはずの白が生み出すエロティックなガーターベルトである。
 まるでショーモデルが突然、家の二階から降りてきたような荒唐無稽さだ。
 しかも彼女が階段を降りてきた都合上、見上げる形となる
 つまり自然とむつきの視線は、局部へと向かってしまった。
 半ばシースルーのレースの向こうには、ブロンドのヘアーでさえ見えた気がした。
 セックス禁止令中で倉庫から弾丸が溢れそうな今、それは刺激が強すぎる。

「どうかされましたか、先生?」

 しかも本人は自分の格好に気付いておらず、前屈みとなったむつきに駆け寄ろうとさえしていた。
 非常に嬉しいが我慢できず襲ってしまいそうで、手を挙げて止める。

「雪広、待て。来るな、来るならそのセクシーな格好をどうにかしろ」
「セク……ぁっ、見ないで下さい!」

 ようやく自分の格好に気付いた雪広であったが、既にむつきに駆け寄り中であった。
 だがそこで止まったり、体を隠してしゃがみ込んだりもしない。
 むしろ彼女は自身を加速させ、照れを体にみなぎらせてむつきを追い抜いていく。
 そうかと思った瞬間、むつきの体は浮き上がっては背中から板張りの床へと落ちた。

「雪、雪広あややかっか。兎に角、雪中華ですわ。これは、部屋に七人も八人も集り。昨晩は熱帯夜であの。この醜態はお忘れになってください!」
「くぅ……痛ってぇ」

 むつきが痛みに呻く間にとでも言いたげに、雪広が言い訳も途中で踵を返した。
 一目散に、わき目も振らずに降りてきた階段を駆け上る。

「雪広、階段を走るな。こけたら危ない。委員長だろ!」

 そこへむつきは途切れそうな呼吸を無視して、声を張り上げて注意した。

「これは、粗相を。私とした事が、失礼しました」

 私とした事がと、今一度振り返りなおして頭を下げる。
 そして顔を上げてから彼女は気付いた。
 背筋を伸ばしお腹の手前で手を組み、姿勢正しく礼をした自分をむつきがマジマジと見つめていた事に。
 半分にやけた顔は、先程の注意の本当の意味を教えてくれていた。
 咄嗟に何故か手に持っていた消しゴムを手裏剣術の応用で投げつけ、それは見事にヒット。
 むつきのおでこに直撃し、胡坐を掻いていた彼を再び床の上に倒れ伏しさせた。

「もう、先生の事など知りません!」

 そのまま彼女は真っ赤な顔でそっぽを向きながら、階段を駆け上がっていった。

「なにあれ、超可愛いんですけど。てか、完全に勃起しちまった。金玉痛ぇ。嫁や恋人、セックスフレンドが家にいるのにオナニーとか、意味わかんねえんだけど」
「何を朝から床オナで盛り来るっている、若造」

 気を紛らわせ一物を鎮め様と床をゴロゴロしていると、そんな指摘の声が聞こえた。
 あまり馴染みのない声に、胡坐に座りなおして振り返る。
 鍵は如何したのか玄関が開いており、眩い朝日がこれでもかと注ぐ。
 その朝日を背にしているのは雪広と同じブロンドを持ちながら、プロポーション他が比べるまでもなく非常に残念なマクダウェルであった。
 こちらは本来エロティックさを助長する黒のセーラーの上着に、プリーツスカート。
 どこまでも可愛らしさが抜けきらない、お人形さんのような姿ですらある。
 くだけた言い方をすると非常にちんまい。

「マ、マクダウェル……いや、違うんだって。何もしてない、雪広には手をだしてない。下着姿だったけど、あいつら勉強してただけで。出してないから」
「何を慌てている。社会科資料室で度々柿崎美砂と大河内アキラとあんあん盛り狂う声を聞かせておきながら。今さら貴様が雪広あやかに手を出そうと驚かん」
「そうだった、知ってたんだっけ」

 可愛らしい外見から長谷川達に負けず劣らずの台詞が飛び出し、一瞬呆けてしまった。
 だが直ぐに、麻帆良祭二日目の夜に超達からマクダウェルも知っていると教えられた。

「て言うか、やばいじゃねえか。声は出来るだけ抑えてたのに、丸聞こえって」
「私の耳は特別性だからな。安心しろ、他の奴らには聞こえておらん。むしろ、自分の喧しい喋り声で聞こえるはずもない」

 酷くどうでもよさげに会話を断ち切り、マクダウェルは周囲を軽く見渡した。
 むつきも倣うように見て見たが、目新しいものなど何一つない。
 部屋を隔てる色あせた襖に、柱一つもワックスではなくニスと年月だけが見せる渋みがある。
 良く言えば年期の入った風情ある風景、悪く言えば古ぼけた時代の産物。
 マクダウェルがちょっとうきうきとしたように見えたのは、気のせいか。
 大人び辛辣な台詞を吐いている時とは別種の、歳相応の笑みのようなものさえ浮かべている。

「ふむ、これはなかなか風情が。茶々丸め、何故もっと早く教えん」
「ああ、お前日本の古いもんが好きだもんな。上がって茶でも飲むか? 四葉はたぶん撃沈中だから飯の一つも出せんが。お茶ぐらいなら、それとも温泉でも入ってくか?」
「温泉、後で頂こう。だが今回の目的は別にある。若造、この旅館はいんたーねっととやらは出来るのか?」
「若造は止めてくれ、日本語講座してやったろ。せめて乙姫って呼んでくれ。ネットは、長谷川がなんか。その後で超が何かしたか。ちょっと聞いてみる」

 先程、雪広が駆け上がって行った階段の脇、ロビーのデッドスペースへと向かう。
 そこに備え付けられていたのは、表にもあったインターホンである。
 超と葉加瀬の個室兼研究室に直通の呼び出し口だ。
 お互いが見える液晶画面付きと、表のインターホンより高性能である。
 そのインターホンにあるボタンを押すと、ピンポーンと音が鳴り待つ事数秒。

「何か、用カ。親愛的、今少し立て込んでて」
「茶、茶々丸落ち着いて。謝るから、折角積み上げた経験という名のデータが吹っ飛び」
「クケェーーーッ!」
「おい、なんだ今の凶鳥のような叫びは。茶々丸の声だったぞ!」

 どたばたと非常に忙しそうな、むしろ液晶に写る小鈴の後ろで茶々丸が暴れていた。
 首がクルクルと回っては髪を振り乱したり、目からビームを飛ばしたりも。
 後者は兎も角、前者は少し夢に出てきそうな怖い場面であった。
 普段の物静かな彼女は何処へやら、暴走したようにマクダウェルの言うような凶鳥のような声を上げている。
 背が届かないまでも、見せろとばかりにマクダウェルは必死に背伸びしていた。

「葉加瀬がらしくないポカミスを、手短に頼むネ」
「おい、茶々丸を出せ。貴様達、私の従者に何をした!」
「はいはい、落ち着けマクダウェル。大人はな、危険な事に首を突っ込まないもんだ。君子危うきに近寄らずって言ってな。マクダウェルがネットやりたいんだと」
「それなら、長谷川サンに聞いてくれれば良いネ。親愛的、我愛ヨ」

 一方的な、それこそ別れの言葉のような愛の告白後、ぶつりとインターホンが切れた。
 おいこらとマクダウェルがインターホンのボタンを何度も押すがうんともすんとも。
 やがて怒れて切れるままにインターホンをガツンと叩き、しゃがみ込んだ。
 どうやら、強く叩きすぎて、むしろ自分の手を傷めてしまったらしい。
 何をやってんだかと思いつつ、扉の開閉ボタンを押してみる。
 うんともすんとも言わず、扉も向こう側からロックされたようで開かなかった。

「完全ロックって、相当焦ってるな。マクダウェル、どうする? こうなったら、しばらく出てこないぞ。待ってるなら良いが、ネットやりたいなら長谷川に聞いてやるぞ」
「くっ、茶々丸。貴様の死は無駄にはせん。私には神の一手を極める野望が……」
「中学二年生だなぁ」

 あれで二年A組も中二病が多いと、マクダウェルを伴なって二階へと向かった。
 雪広の先程の台詞を聞くなら、全員が和泉の部屋に集っているはずだ。
 そして恐らくは全員が半裸でいるはずで、もちろんラッキースケベは回避である。
 雪広一人でも持て余したのだ、愛しい人を含め複数人の半裸を見たら下半身が持たない。
 最悪、そのまま弾薬庫が爆発炎上しかねないぐらいである。
 それを避ける為に、襖を軽くノックして中の起きている者に伺った。

「おーい、俺だ。長谷川、起きてるか? ちょっと、頼みたい事があるんだけど」
「起きてらっしゃいますわ。長谷川さん、あの一体なにを。長谷川さん?!」
「おはよっす、先生。私に用事って、柿崎達の変わりに抜いて欲しいのか?」
「おまっ、ちょっと待て!」

 襖を中から開けるなり、過激な台詞を発した長谷川だが、その格好はなおさら過激であった。
 何しろ、下の下着こそ履いて居たがブラはブラでも手ブラであったからだ。
 美砂より一回り小さいが、それでも和泉よりは断然大きな胸が圧迫されふるんと揺れる。
 その上に鎮座する桃色の乳首は、長谷川の手の指の間から見えそうで見えない。
 指の間を開いては桃色の何かが見えたと思った時には閉じられる。
 これもまたわざとであろうか、下着が引っ張られたように鋭角に割れ目に食い込んでいた。
 やや赤味がかかった茶色い髪と同じ色の陰毛が、レモンイエローの下着からはみ出ている。
 若草と呼ぶに相応しい柔らかそうなそれは、早朝の夏のやや涼しい風に揺れてさえいた。
 全身くまなく視線をめぐらせては、むつきは眩暈がした気さえしてしまった。
 鼻の奥がカッと熱くなり鼻血でも飛び出さんばかりに興奮してしまう。
 当然ながら一度は収まりかけた一物にも血があつまり、立って居られない程である。
 なのに長谷川がさらに挑発するように、上目遣いで手ブラで作った谷間を見せてきた。

「先生、どうしたんだよ。ほら、私に用があったんだろ。それとも、ナニか? 柿崎達との約束を守る為に、私らセックスフレンドで百発抜こうってか?」
「やめろ長谷川、この野郎。痛い、イタタタタ。俺を今、興奮させんな。勃起し過ぎると男は痛いんだよ。本当に襲って孕ませてやろうか」
「ヤッてみなよ、先生。私は今日、危険日だぜ。先生の豆鉄砲でも百発百中の的中率だ。私は女の子がいいな、可愛い衣装の作りがいがあるってもんだ」
「ちょっと、マジで。体が勝手に、雪広止め」

 体を摺り寄せられ吐息を首筋に吹き付けられ、もはや暴発寸前。
 必死に抵抗を試みるが、長谷川の挑発的な態度や台詞の数々に体が勝手に動き出す。
 挑発とはいえ、彼女が欲した可愛い女の子をつくる為に。
 雪広に助けさえ求めた瞬間、それは別の場所から与えられた。

「いい加減にせんか、このたわけどもがぁ!」

 一喝、その瞬間触れもせずに、むつきと長谷川が同時に宙を舞った。
 まあと目を見張った雪広が、おもわずパチパチと手を叩くほどである。
 先に床に落ちた長谷川の上に、むつきが落ちたのはやはりラッキースケベなのか。
 手ブラを失くした胸、その谷間の上にすっぽり顔から収まるように落ちた。
 そして素早く手ブラの役目を放棄した長谷川の両手首をがっちり掴んで押し倒す。
 最後の最後だけは、むつきの意志で行なったことだ。

「ぎゃあ、どこに顔を突っ込んでやがる。どけ、この野郎。動くな息止めろ」

 途端に女の子らしく長谷川が悲鳴をあげる。
 それを耳にしつつ、むつきは長谷川に見えないように背中越しにとある合図を送った。
 それが伝わったかは不明だが、伝わった事を前提に行動を開始した。

「んぁ、乳首吸うな。甘噛み、んはぅ」

 長谷川の程よい胸の谷間にて顔をもぞもぞ動かし、すっと鼻から深呼吸をする。
 熱帯夜でによる汗の芳香、決して嫌なものではなく寧ろ何時間でも吸っていたい。
 だがそればかりではと、乳房にしゃぶりついては汗の塩味を堪能した。
 舌先で面白いように形を変える乳房から、丹念に汗をぬぐいとるように。
 ぴくぴくと舌の動きに合わせ体を震わせる反応をみつつ、頃合かと顔を上げた。
 気恥ずかしさと見知らぬ行為の応酬に、長谷川の目尻には涙さえ浮んでいる。
 さらにそこへ追い討ちをかけるように、生真面目な顔で問いかけた。

「長谷川、本当に俺の子供を生んでくれるんだな。もう、我慢できない。お前となら、どんな茨の道でも歩んでいける。一緒に育てよう、可愛い女の子を」
「いや、何を。ちょっと待て!」

 当然暴れる長谷川だが、抵抗は許さんとばかりに男の腕力で押さえつける。
 両手は頭上に一纏めに片手で押さえ、半裸の体に覆いかぶさり体重で押さえつけた。
 ジタバタとされれば多少ぐらつくが、それでもたかが女の子一人の力で脱出は不可能だ。
 自由になったもう片方の手は、長谷川の下腹部へ、肌とパンツの隙間に滑り込ませた。
 指を掛けてするすると、汗をかいたとは思えないすべやかな肌の上をずり降ろす。
 そして膨張して痛みさえ伴なう一物を浴衣の上から秘部へと押し付ける。
 羞恥からか、恐怖からか亀頭の先が濡れた気がした。

「先生、冗談は止めろって。今日、本当に危険日だから」
「千雨、危険日だからこそだ。名前、考えないとな。俺とお前の子供の」

 呟きつつもわずかに腰を押し進め、まだ未通の割れ目を押し広げるようにした。

「私の名前を嘘、だろ。私は柿崎達と違ってピルなんか。せめて口で、口でするから許してよ先生!」

 ついに泣きが入ったところで、パンツのゴムを伸ばしてパチンと肌に当て終了である。
 押さえつけていた力も抜いて、そそくさと長谷川の体の上からどいてやった。
 あとわずか、思いもよらない処女喪失の危機から脱した長谷川はぽかんとしていた。
 怒涛の攻めからふいに解放され、まだ頭がおいついてないようだ。
 ほら帰ってこいと、そんな長谷川の頭に力をこめてぽんぽんと手のひらを叩くように置いて言った。

「男を誘うって意味をちゃんと考えないからだ。睨んでるマクダウェルと雪広に感謝しろ。二人がいなきゃ、本気で孕ましてるぞ。名残惜しいがここまでだ。もう、投げられたくねえし。でも痛い、絶倫も考え物だろこれ」

 最初の合図は、私は正常ですよとマクダウェルや雪広に手を振っていたのだ。
 当然、そうでなければマクダウェルは不明だが、雪広は止めに入ったことだろう。

「さっさとしろ、乙姫。こちとら貴様達の寸劇にはもう飽きたぞ」

 待ちきれずマクダウェルに尻を何度か蹴られつつ、股間を押さえて立ち上がった。

「全く、長谷川さんも危機感が足りませんわ。私もですが。皆が脱ぎ始め、部屋に逃げ帰った朝倉さんを見習わなければいけませんわ。少々、先生に心を許しすぎですわ」
「もう、何も言うな。くそ、やっちまった。口でするから許してとか、どんだけテンプレ。お母さんって叫ばなかっただけましか。恥ずかし過ぎる」

 長谷川も雪広にぺしぺし頭を叩かれつつ、脱いでいたブラを付け始める。
 付けてから、むつきの唾液に濡れた乳房を思い出しげんなりしつつ。
 ティッシュで拭いては、急速に敏感になった自分に戸惑いながら拭っていた。
 また逆に思わず口でするからと言ってしまった事に、馬鹿かと自分を叱咤し赤面も。
 少しは反省したのか、雪広同様に身なりを整え始めた。
 何故か蝙蝠の羽がついた黒いミニのセーラー服であった。
 これには怒り心頭中のマクダウェルが、何故かほほう貴様分かるなとばかりににやついていた。

「悪かったよ、先生。やべ、ちょっと涙出た。あと、覚えた数式二、三個も流れ出た」
「お前にからかわれて腹立つ事もあるけど、俺は嫌いじゃない。ただ、お前自身が傷つきそうになる事だけは止めろ。他の男なら、迷わず襲ってるぞ。水泳部にも処女喪失失敗した子がいてな」
「和泉から聞いてる。みきたん先輩だろ。はあ、迫った相手が先生で良かった。先生、たまに自制心おかしいし。そのおかげで助かったようなものだけど」
「はいはい、俺もいきなり乳吸って悪かったな。雪広、こいつ借りるぞ。あと、そこらで撃沈してる奴らにシーツ掛けておいてくれ。腹冷やさないように」

 まだ前屈みながら、これだけ騒いでも起きない面々の面倒を頼んだ。
 もとより雪広は、撃沈して寝扱ける美砂達にシーツを被せて回っていた。
 自身はいまだあのセクシーなガーターベルト姿であるというのに。
 あまり見つめるのもかわいそうなので、程ほどに頼んで和泉の部屋を後にする。
 まだショックが抜け切らない長谷川と、遅いと憤るマクダウェルを連れて。
 向かった先は、最近まで夕映の部屋であった現在は遊戯室となったそこだ。
 利用率はむつきが一番低いので知らなかったが、また遊具が充実し始めていた。
 あれだけガラガラだった本棚は、皆が持ち寄った漫画や小説で一杯に。
 他にパソコンが四台程設置されており、ゲーム機も古今東西そろい踏みである。
 もちろん、そのゲームをする為の巨大スクリーンも健在であった。
 長谷川は時折むつきをチラチラみながら、パソコンのうちの一つの電源を入れた。

「マクダウェル、大体想像つくが。一応聞いておく。ネットで何をしたいんだ?」
「当然、囲碁だ。四六時中、碁敵に困らない場所など思いも寄らなかった。当然、はんどるねーむとやらはsaiだ」
「あっ、そりゃ無理だ」

 マクダウェルがヒカルの碁にはまってしまったのは周知の事実である。
 むつきも高畑経由でそれは聞いているものの、長谷川の無理の意味までは分からない。
 普段ネットなど、YAHOOのニュースぐらいしか見ない身ではその程度であった。

「あのなぁ、ヒカルの碁のせいでsaiを名乗る碁打ちのネットユーザがどれだけいたと思う。既に予約されちまってる。まあ、やるならsai@evaってところだろ」

 googleで適当に碁の対戦が出来るサイトを探し、長谷川がマクダウェルのIDを作成した。
 どうせ説明しても分からないだろうからと、サクサク自分の最良で進めていく。
 ただマクダウェルもsaiの名があれば問題なしと、あまり気にはしていなかった。
 むしろ、弱者がsaiを名乗るなど許されるものかと、蹴散らす為に燃えてさえいる。
 それでも一点だけ、奇妙な注文を長谷川に出してきた。

「碁ができる登録をもう一つしておけ。名前は、sai@sayoだ。出来るか?」
「ID二つもって、たく。本気で中二病だな。そこまでヒカルの碁を再現したいか。sayoってのは分からんが。ほれ、作ってやったぞ。取り合えず、サイトの立ち上げからログイン、碁の対戦まで説明するぞ」

 意味不明そうに眉根をひそめたりしつつ、マクダウェルは長谷川の説明を聞いていた。
 時折、マクダウェルにだけ見える妖精さん、仮にこれをさよとして彼女にも確認しつつ。
 一頻り説明が終わると、実際に碁を始めるようであった。
 ただそこからは、ルールを知らない長谷川の出番などあってないようなものだ。
 カチカチと、たどたどしくマウスを操るマクダウェルをそっと見守る。

「最初の餌食は貴様だ。sai@kaora。この世にsaiを継ぐ者は一人、それはこの私だ!」
「中二病もここまでいくと、もはや清々しいな」

 それも数分の事、取り合えず順調に碁が進んだ事を確認して案内を終えた。
 そしてぼけっと見ていたむつきのそばに、そわそわしながら近寄ってくる。

「先生、さっきの事だけど」
「気にしてねえよ。何時も通り、小憎らしい口を聞いてろ。なんだかんだで、俺は普段のお前が好きなんだよ。それに竜宮城で自分を偽んな、ここにいる意味がないだろ」
「くそ、豆腐メンタルのくせに。先生、ちょっと耳貸せ」
「なんだ、マクダウェルには聞かれなくな」

 耳を貸そうと前屈みに、そして言い終わらぬうちにちゅっと小さな音が鳴った。
 思わず頬を押さえたむつきは、顔全外が真っ赤に染まった長谷川を見た。
 あまりの恥ずかしさに俯いては震えており、また目尻に涙の粒が浮かんでさえいる。
 本当に今日は長谷川の泣き顔を良く見る日であった。

「勘違いするなよ、そのあれだ。私は別に先生の事をなんとも思ってねえけど。ちょっとは悪いと思ったし、処女奪わないでくれたし。お礼、そうお礼だよ」
「もはや意味不明だが。ありがたく貰っとく。けど、頬っぺたかよ。ディープと言わないまでも、お礼ならせめて唇とかさ」
「私はまだファーストキスさえしてねえんだよ。お礼程度でやれるか!」

 さらに顔を赤くし瞳を釣り上げ、げしっと尻を蹴り上げられた。
 一瞬またやっちまったと後悔の表情を浮かべるも、中途半端に差し出した手のやり場にも困ったようだ。
 結局最後にはぷりぷりと、普段の長谷川らしく怒った振りして出ていってしまった。
 また和泉の部屋で勉強か、皆と一緒に昼間では寝扱けるつもりか。
 あれでなかなか可愛い奴だと、見送ってはさてどうするかと考える。
 マクダウェルはむつきと長谷川のやり取りすら眼中になく、パソコンの画面に夢中だ。
 意外とsai@kaoraは強かったのか、くぅっと額に汗を滲ませながら食い入っている。

「てか、勉強しろよマクダウェル。皆、寝てるか勉強かだし。俺は何するかね。まだ金玉痛いし、大人しく勉強でもすっか。確かこの辺に」

 水泳の入門書がと本棚からアキラお勧めの本を取り出し、ソファーに横になって読み始めた。
 マクダウェルがマウスをクリックする音をBGMに入門書を読みふける。
 正直な所、読むより泳いだ方が身につくことは多そうだが。
 いっそ学校のプールの使用許可を取って泳ぎに行くか。
 つらつらと入門書の文面など頭にも入らず、どうでも良い雑念ばかりが頭を過ぎる。
 誰も彼も可愛いのだが、一癖も二癖もある生徒達。
 身近な記憶では、容姿端麗ながら投げ飛ばしてくれた雪広、可愛らしいのに投げ飛ばしてくれたマクダウェル。
 やや思考に偏りはあるものの、あとは素直に可愛いところだけを見せてくれない長谷川。
 どこかに素直で可愛く従順な、そんな男の夢を体現した良い生徒はいないのかと。
 逆に誰も彼もがそんなでは、この稼業も面白みを失うといったところだが。
 カチカチ、今再びマクダウェルのマウスクリック音を聞きつつ、むつきはまぶたが重くなるのを感じた。









 次にむつきが目を覚ました時、いや我に返った時だろうか。
 夕暮れとも昼間ともつかない曖昧な光が窓から注ぐ、そこは麻帆良女子中の教室であった。
 二年A組の教室、その教卓に両手をついてやや体重を預けるように立っていた。
 あれっと思い、何かを思い出そうとしても記憶にもやがかかって思い出せない。
 何を思い出そうとしたのか分からない程に記憶が混乱してしまっている。
 何故自分がここにいるのか、そもそも休日、いや現在の日付曜日は何時か。
 何もかもが曖昧な世界で、やっと気付いたのは教室を出て行こうとしているマクダウェルだ。

「相坂さよ、連れて来てはやったから後は好きにしろ。sai@kaoraめ。中々やるではないか、さすがsaiの系譜。だが、佐為には及ばずとも六百年を生きた私が最も神の一手に近い事を証明してくれるわ!」

 わっはっはと謎の笑いを言葉を残して、扉の向こうへと消えていった。
 あいつ本当に碁が好きなんだなと、もはや微笑ましさ以外に何も感じない。
 しょうがないなと笑っていると、ふと教室内に自分以外の気配を感じた。
 はて誰がと思っていると、窓際の一番前の席に一人の少女が座っているのに気付く。
 朝倉の席の横、普段は誰も居ないはずのそこに一人の少女が座っていた。
 透明感のある白髪が、眉の上で綺麗に切りそろえられた長い髪の少女である。
 ただ制服が麻帆良女子中のものではなく、他の学区でも見た記憶のないセーラー服であった。

「乙姫先生、授業はまだですか?」
「えっ、あ。授業な、授業……」

 教室に生徒がいて、教師と言う自分がいる。
 そこで生徒が授業を欲すれば、してやらなければいけない気になってきた。
 見知らぬ少女が二年A組の教室にいたり、他の学区の制服を着ていても気にならない。
 教科書は何処だと思った瞬間、目の前に唐突にそれが現れてもだ。
 社会科の普段使い慣れた教科書を開き、授業を始めた。
 雪広の起立と礼の号令こそないが、期末試験も近い為に出題範囲のおさらいを始める。
 中間テストでは最澄と空海、平安時代の仏教についてまでであった。
 だが期末ではそこからもう少し進んで、同じ平安時代でも宗教ではなく文化そのもの。
 唐とは少し疎遠となって日本独自の文化が芽生え始めた頃である。

「それでは、平安時代の代表的な文学作品が三つ程あります。作者と作品、分かる人は挙手」
「はい、先生」

 教室内の生徒は一人だけであり、必然的にそれは窓際一番前の席の彼女であった。
 マクダウェルが相坂さよと読んだ、大人しくて控えめな少女である。
 ただ今はかなり興奮しているのか、挙手一つ取っても元気一杯で目がきらきらしていた。
 普通そこは目をそらしたり、私語をするところなのだが、特に二年A組では。

「じゃあ、相坂。答えてみろ」

 少々疑問は残るものの、穏やかで和やかな授業に心がほわほわ温かい。
 騒がしくしたり、人を無闇におちょくったり、心がざわめきそうになる事もない。
 それは相坂の人柄のおかげか、例え彼女が素っ頓狂な答えを口にしても許してしまいそうだ。
 十数分前に、誰かに投げられたり、おちょくられたりしただけに。
 その誰かがちっとも思い出せないが、まあ構わないだろう。

「紀貫之さん達の古今和歌集、それから紫式部さんの源氏物語。最後に清少納言さんの枕草子です」

 席を立ってすらすらと答えた相坂の答えは百点満点。
 歴史の登場人物にわざわざさんをつけるなど、必要ないがそれでも良い。
 こんな進めやすい授業は初めてだと、可愛さ余って許してしまう。

「正解だ、よく勉強してるな相坂」
「はい、これでも五十年近く中学生をしていますから」

 お褒めの言葉に良く分からない回答が帰って来たが、小さな事だ。
 思わず頭を撫でてさえあげたくなったが、生憎教師と生徒である。
 あまり馴れ馴れしいのも問題だと、各文学作品の詳しい説明に入った。
 古今和歌集はその名の通り、和歌を集めた作品であり、後の鎌倉時代には新古今和歌集もある。
 源氏物語は、これは有名で説明がいらない程だ。
 主人公の光源氏の成功と女性関係、それらに由来する苦悩など、さらにはその子孫にまで及んだ大長編小説であった。
 日常生活や四季の自然を観察した随想章段、と言われても大抵はピンとこない。
 ただ春はあけぼのという一文だけでも聞いた事がある者は多数いる事だろう。

「特に源氏物語と枕草子は、古代日本文学の双璧として色々対比されるわけだが。相坂は、どちらでも良いから読んだことは?」
「源氏物語はあります」

 着席したまま、セーラー服の胸元に両手を掲げ、胸に抱くようにして言った。

「光源氏の生き様は正直、共感は出来ないです。ただ、数々の女性と出会いながらなかなか真実の愛に辿り着けない様は、少し共感できるかもしれません」
「まあ、真実の愛ってのは良く聞く言葉だが。地球上にいる人の何割が、それにたどり着ける事やら」

 何か、何かを思い出したいが、頭にもやがかかって思い出せない。
 真実の愛、本当に自分は彼女達を愛しているのか。
 若く一部は幼いともいえる青い果実を貪る事に快感を覚えているだけでは。
 一人を愛しぬくのではなく、アレもこれもと手をだしているのが良い証拠では。

「先生、乙姫先生どうかしましたか?」
「あっ、いや……なんでも、何考えてたっけ?」
「私に聞かれてもわかりません。変な乙姫先生」

 くすくすと笑われるも、別に深いどころか心が温かくなる気さえした。

「素敵、例えこれが夢だとしても。こんな楽しい授業が受けられるなんて。マクダウェルさんには感謝しないといけません。例え、教室にいるのが私一人だとしても」

 唐突に笑みを寂しさで薄れさせながら、相坂がそんな呟きを漏らし始めた。
 その姿が朝か夕かも曖昧な光の中に薄れ消えていきそうであった。

「相坂?」
「乙姫先生、今日はご無理を言って夢にまで押しかけてもうしわけありませんでした。私は幽霊、この夢が覚めたらまたマクダウェルさん以外に見えない空気になります」

 実際相坂を含め、この世界そのものが薄れ消えていき始めてさえいた。
 二人を別つ数メートルが、濃霧が遮るかのように伸びていく。
 言い知れぬ焦りが一歩を踏み出させるが、同時に相坂も一歩を引いていった。
 こんな時、今まで自分はどうしてきた。
 どのようにして、相坂と同じように消えそうだった彼女達を掴み取った。

「もしも望んで良いなら、また先生の授業を受けさせてください。たった一人の、私だけの授業。ちょっと寂しいですけど、それではまた何時か」
「待て、相坂!」

 引きとめ何を言うつもりか、それさえ分からず濃霧に飛び込んでいた。
 必死に伸ばした手で、消えていきそうな彼女の腕をしっかりと掴んだ。
 無我夢中で、彼女引き寄せては胸で抱きとめ、逃がさないとばかりに抱きしめる。
 一体それが何になるのか、そもそもここは何処で何時なのか。
 様々な疑問を投げ捨て、消え入りそうだった相坂を感じるように腕に力を込めた。

「一人じゃねえ、俺がいる。教師と生徒、それぞれ一人だが。互いに一人きりじゃねえ。寂しそうで泣きそうな顔で消えていくな。明日から気になって、夜も眠れなくなるだろ」
「でも、そろそろ」

 思わぬむつきの行動に目を見開き、抱きしめられた羞恥も忘れ相坂が呟いていた。

「ちょっと待て、俺にも時間寄越せ。今まで俺は、そんな顔をした子にどうしてきた。くそ、全然思い出せん。いいから、何か一つ、一つで良い。思い出せ!」

 自分を叱咤する事で、霞がかかっていた脳裏に何かが流星のように流れ閃いた。
 まだ頭の中で明確な形とはなっていないが、確かな閃きを感じる。
 腕の中にいた相坂を少し引き離し、小さな背丈の彼女を見下ろしながら言った。

「相坂、結婚しよう」
「は、はい」

 階段を一段も二段もすっ飛ばした回答に、何故か相坂が了承の返事を返していた。

「あれ?」
「えっ?」

 そしてしばらくの間、無言で二人は見合い続けることとなる。









-後書き-
ども、えなりんです。
日常話ですが、見所が多すぎる。

まず、エヴァ。
ネット碁やりたいが為に、ひかげ荘に来ました。
何故か初対戦がカオラ・スゥですが私にも理由は分かりません。
あと、さよとは普通に碁仲間として仲良くしてます。
まあ、さよは普通にへっぽこ棋士ですが。

千雨、彼女ひかげ荘に足を踏み入れたのは二番目なんですが。
実はいまだにメインイベントが発生していません。
一応、予定としては夏休み明けの文化祭辺りを考えています。

最後にさよ、むつきは幽霊なんて見えないので夢に出てきてもらいました。
夢でも良いから授業を受けたいとかけなげです。
でも錯乱したむつきにプロポーズされ、思わず受けてしまいました。
どうなるかは、次回。

水曜更新ですよ。
それでは、えなりんでした。



[36639] 第四十四話 私も先生の事は結構好きだから
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/06/12 20:49

第四十四話 私も先生の事は結構好きだから

 何処とも知れぬ謎の空間、されど良く見知った二年A組の教室内での事だった。
 むつきと相坂は、机と椅子をどけた教室の中央にて正座をしながらお見合いしていた。
 生まれて始めてのプロポーズに、相坂は頬を火照らせ俯きっぱなし。
 時々むつきを見る為に顔を上げては目が合い、より顔を火照らせ俯いた。
 対するむつきは、閃き間違い、もしくはここにこうしている事こそが間違いかと。
 自問自答を繰り返しては無為な時間を過ごしていた。
 もはや色々と頭が混乱しすぎて、流されそうになる自分をせき止めるので精一杯だ。
 コチコチと時計の針の音だけが響く今日室内で、先に耐え切れなくなったのは相坂であった。
 一際、小さな肩を小さくキュッと縮め、思い切ったように顔をあげた。

「あの、乙姫先生……やっぱり、先生がいて私がいて。三人目は私達の赤ちゃんですか?」
「待て相坂。俺は今、凄く混乱している。結論を急ぐな、落ち着けさせてくれ」
「でも、私。勢いとはいえ、先生のぷろ、ぷろぽーずを受けてしまって。今さらなかった事になんて不誠実な事は。不束者ですが、よろしくお願いします」
「どこかで聞いた台詞を。お願い待って相坂、先生泣きそうだから」

 どうしてこうなったと今にも言いそうなむつきの目の前で、相坂は瞳を閉じていた。
 顔はやや上向き加減で、何を待っているかは一目瞭然だ。
 ただ良く良く見てみれば、赤味がさした頬はまだしも、顔が小刻みに震えている。
 セーラー服のスカートを握る手も、皺が残ってしまうのではと思う程に握り締めていた。
 はしたないなどと古風な物言いはもとより、授業中の態度から彼女の性格は概ね分かった。
 ほぼ初対面の異性を受け入れる程に淫らでも、愛や恋に積極的と言うわけでもない。
 古風ゆえに、プロポーズを受け了承してしまったという強迫観念があるのだろう。
 むつきがセーラー服の両肩に手を置くと、案の定ビクリときつく目を閉じて震えた。

「相坂」

 だから名を呼ぶと同時に、落ち着けとばかりにおでこに唇を触れさせた。
 誰かとは異なり、前髪に隠れている為、ほとんど前髪にキスしたも同然であったが。
 ふえっと驚いた彼女が、ようやくちゃんと正面きってむつきを見てくれた。

「やっと見てくれた。相坂、いや。さよ。正直混乱続きで、俺自身お前を好きだとか愛してるとかそんな感情は殆どない。放っておけない、それが一番近い」
「わた、私はぷろぽーずなんて。いえ、告白自体も初めて。でも胸がどきどきして、幽霊になってからこんな感情は初めてです。まるで生きてるみたいです」

 やや不可解な言葉交じりに精一杯アピールされ、小首を傾げそうになるのを堪えた。
 しかしながら、ただ一点わかったのはさよもまた求めてくれていると言うことであった。
 プロポーズに関する脅迫観念だけではない、彼女が感じたままの胸の高鳴り。
 それに答えてあげたいと、思えたのは本当であった。

「さよ、改めて。結婚してください、俺の子供を生んでください。あと、できれば味噌汁つくってください」
「お食事を作るのは得意です。あの、赤ちゃんの作り方は先生が、教えてください」

 相変わらず二人共混乱の最中であったが、二度目のプロポーズも結果は同じであった。
 むしろ、赤ちゃんの作り方をというさよの台詞に、むつきは生唾を飲み込んでいた。
 セーラー服の少女からそう言われるなど、どこのAVの世界だか。
 いや本当にここはAVの世界なのかと、おのれディケイドとならない事を祈るのみだが。
 またしても混乱しつつ、確かに目の前にいるさよへと触れた。

「ぁっ」

 丸い小顔の顎先に手を沿え、赤く染まった顔でむつきを見上げさせた。

「先生の授業は厳しいぞ?」
「頑張ります」

 両手を握って胸の前に掲げ、頬は赤いままにふんすと鼻息を吹く。
 ただ意気込みが良いのはそこまでで、動きが止まってしまう。
 むつきがじっと見つめるだけでわたわたと、ぐるぐる瞳が回り始める。
 その挙動不審ともいえる仕草が可愛く、何時までも見ていたい感情に駆られたが。
 それも可哀想だと、唇を奪う事でむつきはさよの挙動不審な行動を止めた。
 古風そうな子だからと最初からは激しくせず、唇を触れさせるだけの優しいキスである。
 そのままそっと肩を抱き、逆側の手でさらさらの白い髪を梳く様に撫で付けた。

「んっ」

 小さいながらも艶やかな喘ぎが漏れたところで、口付けた時と同じくそっと離れさせる。
 夢み心地で瞳をゆっくり開いたさよは、両頬に手をあて真っ赤に染まりつつある頬を支えていた。
 しかし支えきれるはずもなく、頬の手はずれていき顔全体を覆っていった。

「私、接吻で。接吻で気持ち良いって、はしたなくて合わせる顔がありません」
「女の子は多少はしたない方が魅力的だ」
「は、はい。先生がそう仰られるのなら、どうぞお構いなく」

 それは違うくはないかとも思ったが、それこそ構わずセーラー服のスカーフを解いた。
 するりと流れるようにほどけて行くそれを、床の上へと流していく。
 締め付けから介抱された襟元が空き、少し覗けば胸元がしっかりと見えた。
 もちろんブラジャーが付けられており、白い布地にしっかりとガードされている。
 ただレースやフリルといった装飾が一切ない、色気もそっけもないしろものだ。
 ちょっと気分が萎えそうになったが、気を持ち直してさよを万歳させセーラー服の上着を脱がせた。

「ぁっ」

 さよが恥ずかしげに胸を隠したので、軽く抱きしめた。
 見てませんよとアピールしながら、背中に回した手でブラジャーのホックを外す。
 色気もそっけもないなら不要とばかりに、これまた万歳で脱がしてしまった。
 ややこぶりな胸をさよは腕で隠して、体を縮めてしまう。

「恥ずかしい?」

 当然過ぎる事を聞いて、こくりと無言で頷かれた。

「さよの体が見たい、見せてくれるか?」

 ギュッと瞳を閉じているさよの唇に軽く自分の唇を触れさせてから呟く。
 さすがに躊躇はあったが、小さく頷かれた。
 ならとむつきはさよの細い腕に手を沿え、ゆっくりと開かせていった。
 何処へ見て良いやらさよは天井を見上げるように視線をそらし、されるがまま。
 次第に腕ブラをしていた腕が開かれ、小ぶりで桃色の乳首が上を向いたおわん型のそれがさらされる。
 異性に初めてさらされた事で、さよの顔は真っ赤に熟れきっていた。

「さわるよ」
「は、い」

 むつきの宣言に今度は辛うじての返事が返って来た。
 下から支えるように、綺麗な形を崩さぬように触れ手のひら全体でやわやわと揉む。

「先生、恥ずかしいです」
「恥ずかしがる事なんてないぞ。何処へ出しても恥ずかしくない綺麗な胸だ」
「うぅ、先生の前にしか出しません」

 嬉しい事を言ってくれると、ご褒美にぷっくり膨らんだ乳首を食む。
 唇で甘噛みしては、舌の先で軽く弾くように弄んだ。
 口は一つなので逆側の胸は指先でくりくり回しては胸に押し込んだり弄ぶ。

「先生と赤ちゃん作る前に、先生が赤ちゃんみたいです」
「さよお母さんのおっぱい飲んで良い?」
「母乳出ませんけど、それでもよければ。先生、一杯飲んでください」

 恥ずかしいだろうに、わざわざ自分で片方の乳房を両手で絞るようにしてくれた。
 色のみならず形でもより強調された乳首を、周りの乳輪ごとしゃぶってすいあげる。
 もちろん母乳が出るはずもないが、偉大な精気を吸い上げるがごとく。
 丹念に念入りに、口内に吸引した乳首を舌先であくまでしつこくつつき転がした。

「ぁっ、駄目。声がんぁ。先生、私のおっぱい壊れちゃいます」
「おっぱいは二つあるから、赤ちゃんにはもう片方で母乳あげれば良いから」
「そんなの意味が、わかぁっ」

 執拗に乳房を吸い上げた結果、さよが少し大きく体を震わせた。
 胸にすいつくむつきを抱きしめ、ふるふると余韻に浸りながら天井を見上げる。
 数十秒とその状態が続き、大きく吐息を吐くと同時に覆いかぶさってきた。

「イッた?」
「分かりません、けど。一瞬、頭が真っ白に」

 荒い息でむつきの頭上でさよがそう答え、結果を確かめる為に手を伸ばした。

「待ってください、先生」

 だがその手は、息も整わぬうちのさよの手により止められた。
 彼女のスカートまであと数センチのところでだ。
 ちょっと強引に事を進める事も出来ないではないが、乱暴はNGである。
 このお年頃の女の子は繊細で、これぐらいと男が思っても簡単に傷ついてしまう。
 だから一度腕から力を抜いて、引きとめてきたさよを見た。

「おっぱいだけでも恥ずかしいのに、これ以上は死んでしまいます。後生ですから、下は触れても見たり、スカートを脱がさないでください」
「さよが嫌がる事はしない。少しの間、暴れないで」

 床の上にしゃがみ込んでいた彼女の背中と膝の裏に手を差し込み抱え上げた。
 突然の事で小さな悲鳴をあげては、首に上を回してくる。
 そのまま何時間でも抱き上げていたかったが、さよを近くの机の上に座らせた。
 足は机の縁から垂らしたままで、お尻を角に引っ掛けるようにだ。
 それから背広の上着を脱ぐと、さよの後ろに広げてあげた。
 ゆっくりと肩を押し、背中を支えながら背広の上着の上に寝かさせていく。

「先生、お気遣いありがとうございます」
「良くなって欲しいからな」

 再びの腕ブラをしながらのさよの台詞に照れくさくなってそっぽをむいた。
 今一度、さよに触れるだけのキスをしてから手を伸ばす。
 足をだらんと下げたスカートの奥、約束なのでたくし上げはせずそれこそ手探りで。
 柔らかな太股の上を伝い、その付け根へと。

「ぅく、やぁ」

 一度軽く果てた成果、肌の上をむつきの手が這うたびにさよが小さく喘ぐ。
 だがお腹の上にたどり着く前、それこそ太股の付け根にたどり着く前に気付いた。
 触れたとも言うべきか、予想したパンツの肌触りではなかった。
 むしろ布地こそ薄手だが、スカートの中に履いたズボンとでも言うべきか。
 さよの下着はかぼちゃパンツであったのだ。
 こいつはさすがに予想外と、机の上に横たわるさよの正面に立ちなおした。

「さよ、ちょっとだけ腰上げて」
「はい、どうぞ」

 少しばかり受身な行為が多いが、素直である事は良い事だ。
 スカートの中に両手を入れなおし、浮かされた腰からかぼちゃパンツを脱がしていく。
 するすると、腰と小さなお尻を抜け、太股から膝、脹脛そして足。
 普段、彼女らを相手にする時は、目の前で下着の匂いの一つも嗅ぐのだが。
 胸を隠すか、顔を隠すかテンパっているさよを見ていると意地悪が可哀想になった。
 彼女らとは誰の事か、少しばかり疑問に思いつつ。
 三度腕をセーラー服のスカートに差し込んで、かぼちゃパンツに守られていたそこに触れた。
 日本人らしく薄めの若草に守られたそこは、しっとりと潤っている。

「触、触られ。先生に、大事なところをやぁ。先生、苛めないでください」

 くちゅくちゅと水音を立て、膣口やその奥を弄ばれ今度こそさよは選んだ。
 既に搾乳された乳房よりも、快楽に喘ぐ姿を見せまいと顔を両手で隠す事に。
 これ幸いにと、むつきはさよの秘部を指で拡張しつつ、体をまげてまた乳房を食んだ。
 ちゅうちゅうと軽く音を立てて吸っては舌で乳首を転がし、膣では指の第一関節まで到達していた。

「先生、お腹がかき回されて。はしたない子って思わないで、気持ち良い。先生、私こんなにはしたない子だって。嫌わないで下さい」
「感じるさよが可愛い。もっと感じて、はしたなくたって良い。俺だけにその姿をみせてくれるなら。もっと乱れてくれたって良い」
「ぁっ、激しぃ。駄目、先生。ぃゃ、ぁぅぁっ、うぁ、ぁっ」
「指が第二関節まで入った。まだ入る、さよが俺の指をくわえ込んでる」
「先生、先生、先生ぇっ!」

 腰が誰かに蹴飛ばされたかのように、さよが快楽に導かれ果てては跳ねた。
 机の上で体をそらしたままふるふると、同じ体勢を維持してそのまま落ちていった。
 机の上にくてりと落ちると、荒く息を乱してさよが胸を弾ませている。
 その動きに合わせて形の良い乳房がふよんふよんと元気良く震えていた。
 スカートの奥から取り出した手は、指先の愛液が手の平に落ちるまでに滴っている。
 準備は万端、膣壁の柔らかさもそれなりで、初めての前では十分であった。

「さよ、大丈夫か。ちょっと痛いかもしれないが」
「足が震えて、動けません。どうか、先生のお好きに。耐えるのは女の仕事ですから」
「ちょい前時代的で不安になるが。さよ、最後にもう一度」

 呼吸を整える邪魔にならぬよう、ちゅっと瞬間的に触れるだけのキスである。
 それから机の端から投げ出された足を開かせ、その間に立ってはさよの腰を掴んだ。
 机の上を滑らせるように引き寄せては、ズボンのベルトを外してトランクスも脱ぐ。
 今こそ出番かと飛び出してきた一物を、スカートの奥で待ち受ける穴にそっと沿えた。

「さよ、お前を愛したい。お前が産んでくれる子も一緒に」
「産ませてください、先生の赤ちゃん。あの、毎晩頑張って貰える様にお味噌汁一杯つくりますから」
「たらふく食べて、一杯してやるからな。いくぞ」
「はい、先生私の中にきてください」

 さよの腰を掴んだ手はそのままに、むつきは腰を前に進ませた。
 秘部の割れ目、その奥にあるラビアをどけて、小指の先程の狭い膣口へと。
 亀頭を触れさせ窄まっているそれを細い部分からねじりこみ、ミシリと震動が伝わった。
 まだ拡張されきらない膣壁、それからさよの処女膜による抵抗である。

「痛ぃ、けど。先生の赤ちゃんを産む予行演習って思えば耐えられる」

 瞳に涙を滲ませ余程痛いだろうに、なんといじらしい言葉なのか。
 これは絶対に生んでもらわなければと、竿に意志を込めてさらに貫いていく。
 処女膜を広げ裂いていく感触を味わいつつ、ピッと一際大きく鋭い震動が走った。

「はぅ、ぁっ」
「さよ、もう少し。さよ」

 最後にはブチブチとミチミチと処女膜を破り、膣の肉壁を押し広げながら。
 むつきの一物がさよのせまい膣の中を蹂躙していった。
 スカートに隠され今は見えないが、破瓜による血が流れ落ちている事だろう。
 半分程度埋めたところで一旦挿入を停止し、出来るだけ手を伸ばしてさよを撫でた。

「頑張ったな、もう直ぐさよもお母さんだ」
「はい、元気な赤ちゃんを産みます。だから、先生。一杯、子種を。先生の子種を私の中にください。このお腹で育みますから」

 ぽっこり膨らんだお腹を撫でつけ、さよがさらにその奥を望んだ。
 奥だけではなくその結果生まれる新たな命さえ。
 そんなさよの想いに答えるべく、むつきはミシミシとさらに奥へと向かった。
 時々は後退して愛液を馴染ませ、むつきの形を覚えさせるようにしながら。

「さよ、さよの中が温かい。ぬるぬるしてて、気持ち良い」
「先生、恥ずかしいです。説明はぁぅ、んぁっ」

 多少は痛みが和らぎ、喘ぐだけの余裕も出てきたのだろうか。
 まさかとばかりにさよは口を両手で押さえているが。
 彼女が喘いだ声、体が感じて愛液を増す快楽は、本物の事であった。
 血と愛液で濡れた秘部は当初五分五分の量であったが、今や愛液が余裕で勝る。
 自らの破瓜の血で汚れたむつきの一物を大量の愛液で洗い流していく。
 もちろん流すのみならず、肉壁でしっかりとしゃぶりついては拭ってもいた。

「さよ、ずいぶんスムーズになってきたぞ。これなら俺達の赤ちゃんも狭い狭いって泣かないぞ」
「すーむず? ぁぅ、赤ちゃんが喜ぶならもっと。んぁはぁぅ、先生もっと」
「さよ、好きになりたい。愛したい。お前は、お前の言葉も聞かせてくれ」
「当然、んくぅ。大好き、愛してます。こんな恥ずかしい事を先生にぁっ。添い遂げます、一生添い遂げさせてください」

 むつきがこれから始まるというのに、さよは既に大好きだと。
 それこそ赤ちゃんも産むといっては、一生を添い遂げるとも。
 男の征服欲がガンガンと刺激され、強すぎないよう気をつけてはいるが腰の動きが早まってしまう。
 まだまだ小さなさよの体を、机の上で突き上げては赤ちゃんの通り道を開通させた。

「さよ、そろそろ出る。赤ちゃんの種が出る」
「中に私のお腹の中に。はぁん、でもその前に接吻を。熱い接吻を」
「さよ、さよ、さよ!」

 おねだりをされて、ついにむつきは掴んでいたさよの腰を手放した。
 その代わり、上半身の全身で押さえつけるよう覆いかぶさった。
 手と手は重ね合わせ、小ぶりな胸をカッターシャツ越しに感じ、唇を合わせる。
 ただ合わせるのではなく濃厚な、下の口と同じぐらい涎を垂らし舌で絡み合う。
 最初は戸惑っていたさよも、それがむつきの望みならと受け入れていた。

「さよ、好きだ。愛してる。赤ちゃんの名前、名前決めないと」
「私と先生のんぅっ、はぁ。私とむつきさん、さよとむつき」
「さつき、漢字にすると誰かと被るか……誰かって誰だよ。兎に角、平仮名でさつき。さよも平仮名だから丁度良い」
「ぁぅ、さつき。お腹の中にいますか、さつき。お父さんとお母さん、今頑張ってるから。はぁぅ、一年後、会いましょう」

 ぱんぱんと腰を打ち付けあいながらの、宣言であった。
 もはや二人共に完全に赤ちゃんを作るつもりでセックスをしていた。
 普段避妊に拘るむつきも、そんな意識はさっぱりである。

「イクぞ、さよ。子種が、さつきが来た。来たぞ!」
「おいで、さつき。お母さんのお腹に、お父さんの袋から」
「さよ、イク。さよ、イグぞぉ!」
「ぁっ、お腹にさつきが、さつきが一杯。私も真っ白に、これイクってイキュぅっ!」

 既に名前が確定した何万という子種が、苗床たるさよのお腹に吐き出された。
 私こそがさつきとばかり、子宮口の狭い入り口を分け入り飛び込んで。
 子宮の壁にびたびたとはりついては、泳いでもう一つの自分を探し始める。
 精液が魂の元と例えれば、それは体の元である卵子であった。
 それを探してさよの子宮の中を何万と言うさつきの元が泳ぎまわっていた。

「まだ出る、もっとさつきが。さよ、さよお母さんの中に」
「無理、もう無理です。お腹一杯で、さつきが一杯」

 びくびくとむつきが腰を痙攣させるたびに、さよも連動するように体を震わせていた。
 机からだらんと垂らしていた足も、こむら返しを起こしたようにピンと伸びている。
 さよのスカートの中でつながり、何時までも果て続けた。

「さよ、もう一回。次のさつきを」
「はぁふぅ、先生少しだけこのまま。抱きしめていただいても」
「ああ、さよの望みは全部叶えてやる。だから俺の望みも、もっとお前の中で果てたい」
「はい、先生。私も先生に私の中で……」

 休憩中でありながら、キスだけは止まらず二人は全身で繋がり続けていた。









 むつきを文字通り叩き起こしたのは、本日何度目の事になるのか衝撃の一言であった。
 大きさこそこれまでの比ではないが痛い事は痛い。
 何しろマクダウェルの小さな足で顔面を蹴られたのだからそれも当然だ。
 がばっと跳ね起きては、慌てて周囲を見渡した。
 何時の間にか寝こけていたのか、ここはひかげ荘の遊戯室であった。
 瞬く間に気後れ薄れゆく夢で見た、何処か、もう忘れたがどこかとは違う。
 一体あの夢はと思っていると再度の衝撃、蹴り転がされては足で頬をぐりぐりと踏まれた。

「貴様という奴は、どこまで節操がないのだ。夢見の世界だったからとはいえ、さよにまで手を出すとは。いっそその白く汚れた液で汚れた一物を切断してやろうか!」

 もちろん、そんな趣味などないので退けようとしたのだが。
 マクダウェルの指摘によって、ようやく気付いた。
 浴衣の中に履いたトランクス、そのさらに中がねちょりと冷たく気持ち悪い。
 嫁も恋人もセックスフレンドもいて二十五歳なんだぞと、浴衣をはだけ覗き込んだ。
 ツンとする精臭と糸を引く液体が、むしろ弾丸貯蔵中の格納庫が暴発していた。

「嘘だろ……」
「sai@kaoraとの対戦中に急に部屋をイカ臭くしよって。なんとかギリギリで勝てたから良いようなものを。saiは負けてはいかんのだ。ええい、さよ煩い。悪いのはコイツだ。人間と幽霊が結婚して子供など作れるか。またご祝儀かと思ったぞ!」

 もはやマクダウェルが恒例の妖精さんと会話しても気にすらならない。
 むしろ、さよというキーワードでほんの少しだけ思い出した。
 二年A組のように騒がない、からかわない、一部を除いて勉強をしない。
 以前程ではないにしろまだどこかで心にひっかかっていたのか。
 夢の世界で理想の生徒をつくりだし、穏やかな授業に心を穏やかに安らいだ。
 のみならず、手放してなるものかとその理想の生徒を襲ってしまった。
 詳しい内容までは定かではないが、コンドームすらせず中だしまでしたはず。
 その結果が、この夢精で気持ち悪く冷たい股間の感触である。
 目の前が真っ暗に、頭の重さに耐え切れないように首がくらくらとしてきた。

「美砂達が徹夜で勉強に励んでる時に、俺なにやってるんだろ」
「ナニだ。さよを犯して子供を作らせ、そのまま夢精だ。自分でも何を言っているかさっぱ、さっぱ」

 威勢良くむつきを足蹴にしていたマクダウェルの言葉が、途切れては消えていった。

「ぐす、情けなねえ。情けねえよ、死にたい」

 ゆっくりと、鼻を鳴らしながらむつきが床へと倒れこんでいく。

「俺がしっかりしないといけないのに、A組の担任になりたいのに。あいつらを否定するように理想の生徒を思い浮かべて、さらに犯して意味わかんねえ」

 もう好きにしてとばかりに、起き上がろうとすることすらむつきは放棄していた。
 トランクスの中の汚れによる不快さも忘れ、泣き崩れる。
 さすがに口にこそしないが、もっと罰をと足蹴を許容さえしていた。
 足蹴にして見下ろしていたマクダウェルから見たその瞳は、今にも白く濁ってしまいそうでさえあった。
 俗に言う、ハイライトがないである。
 とっさにやりすぎたと、足蹴にしていた足をそっとどけるほどに。

「お、おい乙姫。くっ、煩いさよ耳元で喚くな。私は悪くない。そもそもお前が簡単に体を許すから若造が勝手に傷ついて。お、おいお前まで落ち込むな泣くな。私にどうしろと!?」

 しくしくと、二人分なのか一人分なのか泣き崩れる声が響く
 もはやマクダウェルもおろおろと、怒りさえ継続できずにおたついていた。
 もういっそ何もかも忘れてネット碁に戻りたいが、現在は非常に動揺している。
 そのせいで敗北を喫してしまえば佐為の意志を継いで神の一手など及ばない。
 何故こんな事にと、一番最初にむつきを追い詰めて置きながらそう考えた。
 何一つ建設的な行動ができなかったマクダウェルを救ったのは、ネット碁のやり方を教えてくれた長谷川であった。

「おーい、マクダウェル。さっき良い忘れたが、間違っても個人情報を……えっ、なにこの状況。マクダウェル、さすがの私も先生を怒らせた事はあっても、泣かせた事はないぞ?」

 ただし、完全な救い主とはなりえぬようで、あらぬ疑いさえ向けられた。

「ち、違う。私じゃない。ネット碁をしていたら、部屋が急にイカ臭く。寝こけていた若造が勝手に夢精したんだ。嘘じゃない、嘘じゃないぞ!」
「うっ、夢精かよ。まあ、普段やりまくってる時にセックス禁止令で溜まってたもんな」
「それだ。貴様や雪広あやかがセクシーな格好で迫るから、若造の股間が暴発したんだ!」
「くそ、これ幸いにと指摘しやがって。分かったよ、委員長連れてくるから待ってろ。くそ、柿崎達全員気絶するように寝てるんだぞ。私らがするしかないのか」

 囲碁同様、なんとかマクダウェルが勝利をもぎ取った。
 しかも長谷川はその件でからかい叱られたばかりで、強くは言い出せない。
 ちくしょうと髪をかき乱しては、両腕を組んで仰け反るように偉ぶるマクダウェルを置いて雪広を呼びにいった。
 これから一風呂浴びてリフレッシュのはずがとんだ飛んだ災難である。
 数分と経たず小走りとなった雪広が長谷川に付き添われて現れた。

「おい、早くしろ。さっきからこいつ、絶望しかけているぞ」

 どうやら必要なのはピンクの人ではなく、指輪の人らしい。

「事情は道すがらお聞きしましたが。これ、先程叱られた行為ですわよ。長谷川さん、後でアフターピルを用意しますので二人で飲みましょう」
「怖い事を言うなよ。大河内の時だって、言えば一線は守ってくれたんだ。一応まだ理性は残ってるだろ。あと、授乳役は委員長な。胸大きいから、別に悔しくねえぞ」
「仕方ありませんわね。先生、襲わないでくださいね」

 そう蹲るむつきに言いつけ、二人共に同じく衣服を脱ぎ始めた。
 長谷川は黒いセーラー服のようなコスプレ、雪広は胸の谷間が露な白い西洋ドレス。
 黒いセーラー服の下から可愛らしいレモンイエローの中学生らしい下着が現れる。
 一方の雪広はむつきにさえセクシーと言わしめたあの白いガーターベルトであった。
 雪広はそこからさらに、レースのブラジャーを外していたが。

「くっ、たわわに実りよって」

 下着姿となった二人を前に、マクダウェルが拳を握ったりしつつ。

「先生、さあお吸いになって。今回だけですわよ。きゃっ」

 泣き崩れるむつきの前に雪広がしゃがむと、早速押し倒された。
 普段よりも幾分乱暴に小さな子が大好きなお姉ちゃんに抱きつくかのように。
 危うく床で頭を打ちかけたが、なんとか大事には至らず。
 ちゅうちゅうと乳房を吸われて大きな子供ですことと、頭を撫で付けた。

「んぅ、はぁ……ちょっと感じてしまいますわ。長谷川さんも、先生のお背中から」
「もう、これ。わざとなんじゃないか。セックスフレンドとして、どんどん深みに嵌っていくよ。先生、でかぱいに飽きたら、程ほどの私のもあるからな」
「でかぱいとは失礼ですわよ、長谷川さん」

 そのような事を言うと渡しませんわよとむつきを頭ごと雪広が抱きしめる。
 良くやると、半ば呆れつつも長谷川もブラジャーを脱いでむつきの背中から抱きついた。
 雪広と二人でむつきをサンドイッチする形であった。
 長谷川は首筋や背中にキスをしては胸を押し付け、背中から心音を聞いてやったり。
 深層心理の中で転げ落ちていくむつきを必死に拾い上げようと体を差し出した。

「ごめんな、ごめんな雪広。長谷川、他の皆も。俺、お前らの事好きだから、それは嘘じゃないから。好きだ、神でも仏でも、何に誓っても良い。好きなんだ」
「うっ、答えに窮しますが。私もその、先生の事は……おな、同じ。その……」

 ただ行為はまだしも、雪広は突然の告白染みた言葉にうろたえるのが精一杯。

「直前で逃げんなよ。はいはい、私も先生の事は結構好きだから。おわ、急に振り返るな。次は私の搾乳タイムかよ。んっ、さりげに乳首転がして遊ぶなよ、たく」

 しかし、長谷川はそこまで意味深な好きではないと理解しての事か。
 きちんと言葉にした瞬間、振り返ったむつきに乳房を吸われていた。
 だが決して不快そうではない、先程はあれだけ押し倒された時に暴れたというのに。
 仕方がないなと照れ笑いさえする長谷川であった。

「もはや言葉もない」

 そんな二人を見てやれやれとでも言いたげに肩をすくめたのはマクダウェルだ。

「ぶっちぎりで先頭を突っ走るナギとは全然違う。それでも女が周りに集まるのは一応人望があるからか。イカ臭いのぐらい我慢するか。さよ、次はお前の番だぞ」

 そう彼女だけに見える妖精さんに声をかけたわけだが。
 当人は、むつきと同じく泣き崩れていたはずが、すっかり立ち直っていた。
 それどころか、赤らめた顔を両手で覆いながら、ひゃーっと悲鳴を上げながら搾乳プレイに興味津々だった。
 当然、そんな状態の妖精さんにマクダウェルの言葉が届くはずもなく。

「楽しいからいい。私には神の一手を極める使命が……楽しいもん」

 マクダウェルは自分のIDで次なるsaiを名乗る不届き者の成敗に向かった。
 共に道を歩むはずだった友達を取られた気がして、ちょっとすねながら。









-後書き-
ども、えなりんです。

さよ回なのか、千雨回なのか微妙なところですが。
この落ちが読めた方がいたら、脱帽ものです。
そりゃ、夢ん中でセックスすりゃ夢精ぐらいします。
直前で、刺激的なものを一杯見てましたし。
仕方ないね。

かつて、二次創作内で夢精する主人公がいただろうか。
繋がったまま寝てて目覚めると同時に中に射精とかは抜きで。
まあ、こんな主人公ですがもう少しだけ続きます。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第四十五話 ちょっと摘み食いぐらい
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/06/15 20:01

第四十五話 ちょっと摘み食いぐらい

 期末試験後の学年別成績順発表は、二年A組は見事念願の最下位脱出を果たした。
 全二十四クラス中、下から三番目の二十二位。
 ひかげ荘メンバーの頑張りからすると、躍進という程でもないのだが。
 それでも最下位脱出は脱出と、その時はお祭り騒ぎであった。
 またJOJO苑奢りと、むつきが奢らされそうになったり。
 既にあの賞金など懐にあるはずもなく、生憎高畑は出張中で助成もなし。
 夏真っ盛りのこの時期、外はきついのでクーラーの効いた教室が開催場所である。
 せめてと、諭吉さんを一枚取り出して菓子とジュースを買って来いというのが精一杯であった。
 最近出費が少し激しいように見えて、実はそれ程でもない。
 平時に行なわれる出費など、休日に使用される金銭と比べると微々たる物だ。
 しかしその休日も、最近はひかげ荘内でセックスに励んだり、遊んだりと金の使いどころは寧ろ減っている。

「おい、乙姫」

 お菓子を食べてはジュースを飲み、皆が騒ぐのを見守っていると喋りかけられた。
 二年A組の生徒でむつきを呼び捨てにする生徒など一人しか居ない。
 葡萄ジュースがなみなみと注がれたワイングラスを持つ、マクダウェルにである。

「お、最近やっと年上を若造って呼ぶ間違いが直ったな。まだちょっと荒いけど、少しずつ直していこうな。それでどうした?」
「とぼけるな、囲碁の入門書貸してやっただろ。貴様は精神が軟弱過ぎる。囲碁で特に心を鍛えてやるから、しっかり勉強しろ。休日、早速対局するぞ」
「ネット碁で連戦連勝中のsai@evaにド素人がどうしろと? 水泳の勉強もあるし、大変っていうか。今までずっと採点地獄だったわけだが?」
「言い訳はきかん。現実は常に準備不足、その準備不足の中で貴様がどう足掻くか。その力こそが心の強さとも言える」

 なんとも哲学的な言葉に、こっそり夕映が耳をそばだてていた。
 さすがに、夢精して泣いたばかりか、雪広と長谷川に泣きついた所を見られていては返す言葉もない。
 せめて陣地確保の基礎ぐらい覚えておくかと、苦笑いしながら了承した。

「おーっと、そこで気になる話題が。現在ネット上で話題のsai@evaってやっぱりエヴァちゃんだったか。期末前の居残り小テストの時のあれでタイムリーだと思ったもんね」
「圧倒的な強さで連戦連勝、他のsaiを名乗る面々はID変更の嵐だとか。対戦相手も一定以上の強さを持つ相手がさらに順番待ち、その中にはプロ棋士もいるとかいないとか」
「ほえぇ、エヴァちゃん囲碁部やもんな。うちのお爺ちゃんも囲碁やるし、時間あったら対戦してあげて欲しいえ。私、ルールがわからんくて相手してあげられへんし」
「今更だな、近衛木乃香。近右衛門はネット碁をするまで一番の碁敵だったぞ。あれで学生時代は囲碁部、というか奴が創始者だ。普通の囲碁部員では相手にならんからな」

 マグダウェルと喋っていると、耳ざとく早乙女が加わってきた。
 当然のように夕映や、喋ってはいないがむつきがいるので三メートルの距離を置いて宮崎が。
 他に近衛はマグダウェルと祖父の意外な関係にそうだったのかと驚いている。
 だが直ぐに何かに気付いたようにハッとしては、マクダウェルの両肩に手を置いた。

「エヴァちゃん、絶対一人で行ったらあかんえ!」
「最近は、茶々丸を伴なってるが。なぜだ?」

 安心したのも一瞬、真正面から問い返されマクダウェルを上から下まで眺め。
 言って良いのか、悪いのかちょっと悩み始めていた。
 恐らくは麻帆良祭の時の発言をまだ引きずっているのだろうが、マクダウェルが相手ではそこまで心配しなくても良いような。
 ソレはともかく、マクダウェルと学園長が碁敵ということだが。
 ネット碁で実力者と日々戦うマグダウェルは、日々学園の長として忙しい学園長を実力的に引き剥がしていく事だろう。
 最近は寮生活者じゃないからと言って、むつきから合鍵を奪ってひかげ荘に入り浸っている。
 まだ自分の部屋こそ持っていないが、遊戯室に着替えを持ち込んだりやりたいほうだい、時間の問題だ。
 一度、そんなにやりたけりゃネット回線引けと言ったが、山奥過ぎて無理らしい。
 電気水道はまだしも、電話回線すら繋がっていない林の奥のログハウスらしいのだ。

「でもさ、今回思ったより順位伸びなかったよね。私も結構頑張ったのに」
「アンタら、最近勉強し過ぎ。何に目覚めてんの」
「んー、亜子は何か夢に本当に目覚めてる気がするけど」

 何時ものように机に腰掛けて足を組み、ジュース片手に美砂がそんな事を言い出した。
 おかげで釘宮も多少順位を上げていたが、美砂は今回三百五十位と中間辺りだ。
 当初が約七百人中五百位ぐらいであったから、確実に成績を伸ばしてきている。
 そしてさらに成績を伸ばした者を、椎名がまたあの特別な勘で言い当てていた。

「ほえ、私?」

 そう振り返ったのは、最近ようやく寝不足が解消され始めた和泉である。
 期末後は教室で倒れ込むように眠り、一時騒然とさえなったぐらいだ。

「亜子、ついにトップ百にまでのぼり詰めたもんね。私も今回はちょっと頑張ったけど、六百九十九位でなんとか六百位以内には入れた程度だし」
「本当に、桜子の言う通り亜子なんかあった? 最近妙に綺麗でドキッとする事あるし。憧れてたはずのサッカー部の先輩に告られたのに振って、そのまま水泳部のマネージャに移籍しちゃうし」
「その辺りはちょっと色々と。少し前に傷ついて泣いてるのになかなか言いだせず苦しみ続けてる人に会ったんや。背中の傷見せてお話して分かり合って」

 ちらりとマグダウェルに囲碁授業をされているむつきを見て言った。

「うちな、お医者になろうと思ってんねん。だからその前に、自分の本気が何処まで通用するか試したかったん。結局百位以内には入れたけど、まだまだや」

 一瞬、何故という言葉よりも先にその理由を誰もが思い浮かべてしまった。
 どう聞くべきか会話が止まりそうにもなったが、そこは和泉が笑って見せた。

「私、背中の傷は消さずに付き合ってくつもり。これな、役にたつんや。心の傷は目に見えへんからいくら気持ち分かるって言っても伝わらん。けど、これを見せれば一発や」
「亜子がなりたいのは、臨床心理士。カウンセラーだね」

 横からのアキラの言葉に頷き、和泉が続けた。

「だから百位ぐらいでふらふらしとるようじゃ、あかん。恋愛も当分はせえへん、寧ろ邪魔や。だから一杯、これからも一杯勉強していく」

 くっ、眩しいとばかりに今回勉強をしなかった明石や釘宮が和泉の後光を感じていた。
 明るく楽しければ良いお気楽中学生にはない、夢を持つ若者のパワーである。
 七百人中トップ百に入ってもまだまだなどと、逆立ちしても言えやしない。
 むしろ逆立ちしても、まずそのトップ百にはいれないわけだが。
 恋愛さえ度外視とはと畏れ多いと唸る二人にだが、実際そこまでの程ではない。
 なにしろ和泉は、セックスフレンドおるしなとむつきをチラチラ若干おピンクモードだったりする。
 大事な花園を弄られたり、胸を弄られたりは長谷川や雪広と変わらない。
 ただしセックスフレンドの中でもキスしたのは和泉だけで、実は恋人とセックスフレンドの中間にいる彼女だったりする。
 例のご褒美についても、美砂達に混じって自分も貰う気満々なのだ。

「亜子、凄い。最近なんか凄い綺麗になったのそのせいかな。夢、夢があれば私も」
「あらあら夏美ちゃんはもう、夢があるじゃない。私と一緒に保育園を設立して一緒に保育士をするっていう夢が」
「それちづ姉の夢、小さい子の相手は楽しいけど。一生、ちづ姉に頭があがんない!」
「千雨さん、その時は子供達のお昼寝用の寝巻きとか頼めるかしら」

 聞いてと村上が縋っても、那波はすっかりその気で長谷川に話を振っていた。

「ん、ああ。別に良いぜ、その時々のキャラクター物とか。格安で作ってやるよ。その時、商売でやってるか、趣味でやってるかはわかんねえけど。まあ、若者らしく夢を語るのは良いとして、あれなんだよ」
「絡繰さんは期末前の事件のせいで、おいたわしや」

 よよよと雪広がハンカチで目元を拭ったのには理由があった。
 視線の先は、わいわいと騒ぐ皆とは対照的に教室の隅でどよんと落ち込んだ三名である。
 絡繰を筆頭に、神楽坂と葉加瀬の三名。
 期末前最後の休日に、些細なデータ入力ミスからデータの半分を消失。
 どうやら、期末後に記憶を纏めてバックアップ予定だったらしく、全て水の泡らしい。
 当然の事ながら日本語講座も意味をなくし、成績はがた落ちであった。
 しかもザジを筆頭に古やマグだウェルは、日本語特別講座で日本語を克服していた。
 飛躍的にとはいかないが、それなりに成績は改善されている。
 もとより頭は良いが言語の壁に苦しんでいただけに、古は五百位圏内に入りバカレンジャーを絡繰とバトンタッチであった。

「茶々丸、人間やればできるアル」
「いいええええ、お気。おききき使いなく」

 その古に肩をぽんと叩かれ、思い切り動揺したような素振りで返していた。
 他に長瀬も五百位圏内、桜咲は元々少しだけ良かったので四百位圏内に。
 実は今回七百位を切ったのが神楽坂だけというのが、彼女が落ち込んでいる理由であった。

「高畑先生に合わせる顔が、一杯小テスト作ってくれたのに」
「現国は高畑先生だけど、他は殆ど作ったの俺や超、雪広達な」
「作ってくれたのに!」

 一応むつきが突っ込むも、わっと泣き出した神楽坂には聞こえては居ない。
 バカレンジャーはほぼ半壊状態で、神楽坂、佐々木に絡繰の三名となってしまった。
 まだギリギリバカレンジャーだが、あと一人減ればバカライダーに改名かもしれない。
 特に神楽坂と佐々木が残れば、力の一号、技の二号と配役もピッタリである。
 そして最後の一人、葉加瀬はは期末試験程度で落ち込む事など、何一つなさそうなのだがそうではない。
 まだ皆には秘密であったが、葉加瀬は今回中学に入って初めてトップ二を逃した。
 雪広の逆転というわけでもなく、実際の順位は五十位にまで落ちてさえいたのだ。
 下位成績者が次々に成績を上げる中、躍進と行かなかったのはこの辺りも少し関係していた。

「葉加瀬、期末前から度々おかしかったが。やっぱり何かあったネ。何も相談してくれないのは科学に魂を売った同志、いや友達として寂しいネ」
「超さん……確かに、思考のループに突入した今を看破する為に相談というのも一つの手かもしれません。少し気付くのに遅れましたが」

 小鈴も心配して隅っこで落ち込み中の葉加瀬へとその気持ちを伝えていた。
 今まではずっと見守っていたが、そろそろ限界であったらしい。
 葉加瀬もそんな気遣いに気付いて、落ち込むのは止めて立ち上がった。
 そして超に頭を軽く下げて目の前を通り過ぎ、むつきの下まで来た。
 目尻に浮かんでいる涙は、落ち込んでいた影響か悩みのせいか。
 むつきも姿勢を正して葉加瀬の相談とやらを聞く体勢はばっちりだ。

「パンツが、一枚足りないんです」
「え?」

 唐突過ぎるそんな台詞に、教室内の視線が一斉にむつきを貫いた。
 盗ったのはお前かと。
 当然の事ながら、違うわ俺じゃねえとの無罪を訴えるむつきの声が響き渡った。









 少々冤罪を晴らすのに手間取ったが、現在むつきは祝勝会を抜け出し大学部へと足を向けていた。
 麻帆良大ともなれば、驚愕であり中等部より整然と整理された校庭を歩いていく。
 芝生一つ取っても、中等部だと踏み荒らされていたりするが、もちろんそんな事はない。
 道々に街灯があり、休憩スペースにはベンチや自販機と細かい所でも違いが多かった。
 初めて訪れる麻帆良大にキョロキョロしつつ、教えられた工学部へと向かいながら相談内容を思い出す。
 ちゃんと葉加瀬の話を聞いてみれば、大学部の研究室で脱ぎ散らかすのを止めたとか。
 研究とは無関係な私物、歯ブラシや櫛といったものもできるだけ撤去し泊まり込むのも止めたと。
 泊まり込みについては、ひかげ荘の地下があるので必要なくなったとも言えたが。
 そう言う意味では、もっと危ない狼の住み家に引っ越したと言えなくもない。
 一部から男子大学生に混じり泊まるなど止めて当たり前だとの意見も出たが、その時になって気付いたらしい。
 脱ぎ散らかしていたはずの下着をかき集めていると、パンツが一枚足りなかったと。
 新品ではなく、当然使用済みの葉加瀬のパンツが一枚、研究室から消えたのが悩みの原因だった。

「全く、その時に直ぐに言えよ。本当に頭良いのか葉加瀬は。何かあってからじゃ、遅いっての。いや、アレは夢の中だったしノーカン!」

 大学部へと向かう途中、理想の生徒であるさよを襲った一件を思い出してしまったが。
 自己突っ込みで落ち込むのを回避していると、はははと笑う声が聞こえた。

「いえ、自分は決して怪しい者では!」
「知ってるよ、乙姫先生。娘が何時もお世話になってるね」
「えっと、どこかで一度お会いしたような……」
「覚えてないのも無理はないよ。人気投票で僕が壇上に上がった時、乙姫先生は巨大小切手を抱えて落ち込んでたからね。明石裕奈の父です、麻帆良大で教授をしています」

 爽やかな笑みと共に差し出された手を、むつきは慌てて握り返した。
 大学部に来てまさか明石の父と会う事になろうとは。
 記憶はやや曖昧だが、確かにあの時に同じ壇上に居た気がする。
 大学部の部で明石教授は三位ぐらいを取っていたはずだ。
 その人気も分かるように、十四の娘がいるとは思えない程に若々しい。
 それだけでなく、落ち着いた物腰と教授という事から頭の冴えも良いのだろう。
 明石がファザコンとして成長してしまうのも、分かる気がする。

「すみません、覚えが悪くて」
「気にしてないよ。それより、乙姫先生は何故大学部に? また超君か、葉加瀬君が?」
「生徒のプライベートに関わるもので内容は言えませんが。葉加瀬が所属する工学部の研究室へ担当教授がいらっしゃるか不明ですが」
「確か朝お見かけしたのでいらっしゃると思いますが。案内しますよ、乙姫先生。大学部は広いですから、初めてだと迷って時間を無為に過ごしてしまいます」

 これは申し訳ないと、若干迷い始めていたむつきはお願いしますと頭を下げる。
 道中はやはり、普段の娘の生活が気になるのか色々と尋ねられた。
 勉強から部活動、交友関係は多少把握しているようで佐々木や和泉、大河内も顔見知りらしい。
 特に期末試験が終わったばかりで、今回は特に勉強の方が興味ありのようだ。
 ただ成績が悪いからと厳しく叱るつもりもないらしく、亡き妻の口癖だと元気が一番だと締めくくったのが印象的であった。
 明石に母がいない事は初めて知ったが、ファザコンにも色々と理由がありそうである。
 広い大学部を延々と歩いたわけだが、道中は飽きる事なく直ぐとも言えた。
 駅前のタワービルかと突っ込みたくなるようなガラス張りの建物に入り、エレベーターから十八階へ。
 建物自体が工学部の施設らしく、とある部屋の前まで連れて行かれた。

「ここが葉加瀬君が所属する研究室の担当教授の部屋だよ。うん、掲示板も在室になってるしいるみたいだ。理由は聞かないけど、頑張ってくれ乙姫先生。彼も葉加瀬君と同じ、科学に魂を売ったような人だから」
「ええ、行ってきます。道中の案内、ありがとうございました。明石にも、教授が色々と気遣ってた事は伝えておきます」
「照れ臭いから、それは勘弁願いたいかな」

 ははっと現れた時と同じように、爽やかな笑顔で別れむつきは扉をノックする。
 どうぞと返って来たので、失礼しますと名乗ってから扉を開けた。
 部屋の中にいたのは、何処の映画の登場人物かと思うような老人の教授であった。
 ぼさぼさで白髪のライオンヘアーにぐるぐるの瓶底眼鏡。
 顎鬚に鼻下の髭も真っ白で豊かに茂り、白衣も合わせて全身真っ白だ。

「君は見たところ学生でも、研究生でもないな」
「初めまして、教授。私は麻帆良女子中等部二年A組、葉加瀬の副担任です」

 当然の事ながら、おやっと眉を上げられ名乗りを上げた。
 直前で明石教授に脅されたが、そこまで常識がないというわけでもないようだ。
 ふむと考え込んだ教授は、思い出したようにぽんっと手の平を拳で叩いた。
 やはり麻帆良人気投票トトカルチョのおかげか、むつきの事を知っていたいるようである。

「やはり、そうか。ここで代入して、こう式をつなげれば」
「あっ、やっぱり超や葉加瀬と同じ人種だこの教授」

 前後の会話の関連性も無視して、デスクに振り返ってはパソコンに何やら入力を始めた。
 これは相手をするのが大変だが、大事な生徒である葉加瀬の一大事である。

「教授、葉加瀬の事でご相談が。今回、葉加瀬が重い悩みを抱えて期末テストでも五十位付近まで転落する始末です」
「なに、こんな無駄な計算をしとる場合ではない。さあ、話せ。超君に隠れ知名度は僅かに劣るが、彼女も科学の発展に必要な若人だ。遊び半分で大学に来た腐れ学生とは違う!」
「教師と教授って、違うんだな。やっぱり」

 義務教育との違いもあるだろうが、教授は成績の悪い生徒はすっぱり切り捨てそうだ。
 もちろんむつきはそんなわけにもいかず、一人一人に目を向け手を引かなければならない。
 さすがに大学生ともなれば、半分以上は大人で自己責任かと気にはなったがスルーする。

「葉加瀬は普段から、研究室に寝泊りしては研究を続けているそうですが」
「そうだ、あの年頃から科学に傾ける熱意は誰にも負けん。この私でさえ舌を巻く、それで」
「彼女、着替えや私物を持ち込んでいるそうですが。最近それを整理した時に気付いたそうです。下着が一枚、足りないと。この意味を理解していただけますか?」

 案に公表こそ求めないが、思いに葉加瀬の為に。
 犯人を見つけ出し、しかるべき処罰をと伝えたつもりが、教授は俄然興味を失っていた。

「なんだ、つまらん。彼女程の才女の悩みとはいかなるものか。それで良く、科学に魂を売ったと言える。見込み違いかのう」
「教授、貴方何を言って。貴方の研究室に犯罪者がいるんですよ。しかも葉加瀬の身に危険が及びかねない。彼女を必要と思うなら、守るべきじゃありませんか?」
「それこど、下らない犯罪をしでかす犯人に興味などない。葉加瀬君も、自己防衛の発明品ぐらい両手に余る程、持っている。私には君が何を興奮しているのかわからんのだが」
「悩んでいると言う事は恐怖を覚えているんですよ。そんな時に襲われて、冷静にしかるべき道具を使えますか。何かあってからじゃ遅いんですよ!」

 ヒートアップするむつきに対し、教授はあくまで何処吹く風。
 それも一応は葉加瀬を信用しての言葉らしいが、何かが違う。
 何故分からん爺と叫べばそれで終わりだが、それでは何もアクションを起こせない。
 一先ず冷静になれと手団扇で顔を仰ぎ、思い出す。
 自分と教授との立場の違い、見ているものの違い。
 いや思い出すまでもなかったのかもしれない。
 むつきはあくまで葉加瀬を中心に考えているが、教授はそうではないのだ。
 科学の為にという事もあるが、逆の意味としてそれに貢献しない学生に興味がない。
 全く見ている者が違う者同士、言い争っても意味はない。
 ここは目線を合わせるためにもアプローチを変える必要があった。

「彼女、もうこの研究室には来たくないと言っています」
「な、なんじゃと。そんな無責任な、彼女達の協力がなければプロジェクトが」
「プロジェクトに障害を来たしたくなければ、しかるべき対処をお願いします。ちなみに超も今回の件が対処されるまで、全ての研究。それこそ、全ての活動を拒否するそうです」

 もはや開いた口が塞がらないといった様子の教授はカタカタ震えていた。
 むつきも全ては把握していないが、超と葉加瀬による麻帆良大への貢献は計り知れない。
 工学部のみならず、各種部活、研究会など。
 工学部のせいでと噂が広まれば、それはもう他からの締め付けが凄い事になる。
 ただその場合、葉加瀬の失われたパンツの一件も広まりそうで避けたいところだ。
 だからこれは脅迫、自分の力が何一つないが葉加瀬の安全の為の脅迫であった。

「分かった、善処しよう」
「ちなみに、対処の内容は僕と超、葉加瀬にも一報ください。学園長には明かしませんから、内々に処理する事を誓います。けど、僕は兎も角、あの二人を出し抜けるとは思わない方が良いですよ。それでは、よろしくお願いします」
「絶対に対処する事を約束しよう」

 善処などと政治家のような言葉も封殺し、むつきは一礼して踵を返した。
 絶対、約束、科学者に対してそんな言葉が何処まで有効かは分からないが。
 一先ずネゴシエーターとしては役割は終わりだと、部屋を後にした。
 実際、生徒を手篭めにしている自分が言えた台詞ではない事も多々あった。
 犯罪者としての自分、良き教師であろうとする自分。
 ちょっとお腹痛いかもと思いつつ、歩いているとまたしても声を掛けられた。

「おや、奇遇ですね乙姫先生。先生も、用事はお済で?」
「明石教授。はい、丁度今。問題もなんとか解決に向かいそうで。まだ予断は許されませんが」
「それは良かった。僕も帰るところだから、途中まで送るよ。もう少し裕奈の普段の生活を聞きたいしね」
「こちらこそ、行きの道中は楽しかったですから。喜んで」

 来た時と同様に、明石教授を途中まで伴ないむつきは女子中等部の二年A組の教室を目指した。









 全部が全部、自分の力というわけにはいかなかったが。
 例え超と葉加瀬の希少価値が決め手だとしても、交渉は上手く行ったと意気揚々と帰って来た。
 やるじゃん先生、そんな言葉を期待していたが、何故か教室はもぬけの空であった。
 買ってきたジュースやお菓子はそのままに、散らかし放題のまま。
 時刻も時刻なので、教室内が西日に照らされ凄く物寂しい風景である。
 つい先程まで人がいたのに、瞬きする間に消えてしまったかのような。
 ちょっとしたホラーみたいなので、寒気がしたようにぶるっと震えてしまった。

「おい、雪広。お前まで片付けもせず消えるとか、絶対おかしいだろ。あと近衛とか四葉とか。おーい、出てこーい」

 キョロキョロとしつつ教室内を歩いていると、ふと気付いた。
 何故と言われても、もはや本能の領域なので仕方ないが。
 二メートル先の床にて落ちている、本来あってはならない布切れ。
 淡いブルーのパンツ、同系色の濃い目のリボンが散らされた一品である。
 俺どんだけ疑われてるのと、頭が痛くなってきさえした。

「恋人が履いてくれたとか、そういうのなら喜ぶけど。ぺろんと一枚置かれても嬉しくねえよ。怒るぞ、むしろこれ履いて出てくるぐらいの事はしろ!」

 思わずそう叫んでしまい、またしても宮崎との心の距離があいた気がする。
 ちょっと止めて、最近涙腺緩いのと思っているとドアが開けられる音が聞こえた。
 引き戸のそれをがらがらと、振り返った先にいたのは一人の少女であった。
 二年A組の生徒とは異なり背丈こそ低いがやや大人びた、高校生ぐらいであろうか。
 ウェーブの掛かった茶系の髪を前髪からオールバックに後ろまで。
 背中まで延びる長さであり、裾広がりに伸ばしている。
 格好は平日の放課後なのに、白の肩出しサマーセーターにピンクのキュロットパンツ。
 パンツから伸びる足には黒のストッキングとここは一体どこなのか。
 化粧もばっちり施して、今から彼氏と一発込みのデートにでも出かけそうな雰囲気だ。
 もしも自分が彼氏であるならば、早速しけこみたくなる可愛さである。

「あの、ここは麻帆良女子中の校舎なんですが。麻帆良女子高の校舎と間違えて」
「乙姫先生」

 若干しどろもどろになりつつ説明していると、目の前の彼女が小走りに駆け寄ってきた。
 そのままぽふりと胸のうちに収まり、ふわっと香るのは香水の匂いか。
 薔薇やラベンダーとも違うが何か花の匂い。
 脳髄を直接刺激するようなにおいに、一瞬くらっと頭が揺れ聞き覚えのありそうな声が頭から吹き飛んだ。
 一先ず女の子を引き剥がして、むしろてんわやんわであった。
 そのてんやわんやで思い出したのは、水泳部の着替えを覗いた時に誰かが言った言葉だ。
 むつきを狙っている女子生徒がいるという、あの情報。

「あのね、ここ今誰も居ないけど直ぐに戻ってくるから。用があるなら、表でって何を誘っとるか俺は。いや、絶対おかしい」

 仮にこの子がむつきを狙う女子生徒だとして、告白タイムだと皆が席を外すのがおかしい。
 特に美砂やアキラ、夕映さらには小鈴辺りが。
 ついでに、和泉も入れてもよいかもしれない。

「まさか!」

 振り返った先におちているのは淡いブルーのパンツ。
 焦っていたからか、どうでも良い事を思い出してしまった。

「まさか、この子ノーパンッ!」
「美味しっ、先生。私美味しそうですか?」
「ごめん、言葉のあやっていうか。いや、違う。美味しそうってか、ちょっと摘み食いぐらい。ああ、お前ら。絶対見てるだろ。助けろ、この野郎!」

 西日よりも赤くなった顔で美味しそうですかと尋ねられ、もはや限界であった。
 このままじゃ本当に襲いかねないと、ちょっぴり泣きをいれた。
 案の定、大爆笑をしながらぞろぞろと。
 二年A組の面々がなだれ込んできた。
 失礼にもむつきを指差しながら、ひいひいお腹を押さえて笑っている。
 途中から半ば予想はしていたが、それにしても目の前の子は一体誰なのか。
 二年A組の誰かだろうが、全くわからない。
 ヒントは浮気心を出したのに美砂やアキラ達が嫉妬をしていない事であろうか。

「先生、そこで肩を抱いてる相手は葉加瀬ネ。先生が、大学部まで話を付けにいっている間に」
「この前の休みに私が夏用に買ってきた私服と」
「メイクはこの雪広あやかが担当いたしました」
「髪は私が梳いて、簡単にウェーブかけて。私直毛やから、ウェーブの掛かりが良くて羨ましいえ」
「秘薬、ではなく香水は拙者が調合した材料は丸秘の代物でござる」

 超から始まり、釘宮と雪広に近衛、最後の長瀬の台詞が特に怪しいが。
 葉加瀬を綺麗に着飾ってむつきをからかったらしい。
 らしいのだが、わざわざ一度寮に帰ったりと悪戯にしては手が込みすぎている。

「先生、着飾った葉加瀬はどうだった?」
「どうも何も全然分からなかった。中学生でも女だな。背が低いからさすがに大学生とは勘違いしなかったが、普通に高校生ぐらいだと思った。あと、凄く可愛い」
「先生、そんな。私みたいな研究一筋の女の子が」

 春日に聞かれどうせ色々喋っちゃったからと、正直に答えてみた。
 今気付いたのだが、眼鏡もコンタクトに変えたのかしていなかった。
 眼鏡属性がない身としては、割とありがたく、むしろ高得点である。

「ほら、私らが言った通り、葉加瀬にも十分女の子としての魅力があるんだって。パンツの一枚も落ちてりゃ、とち狂う男もいるって」
「葉加瀬、ほんまこれを気にだらしないの直さな。痛い目におうてからやと遅いやんか」
「大学部で常に超や茶々丸がいるとも限らないアル」

 美砂と和泉、それから古菲と順に葉加瀬を注意してしょんぼりさせる。
 そこでようやく、この騒ぎの意味もむつきに理解する事ができた。
 女の子として色々と致命的だった葉加瀬に、自分の魅力を教えてあげたのだ。
 それに答えるようにむつきも色々と言ってしまったわけで。
 知らなかったとは言え、生徒を美味しそうとか教育委員会に知られたら怖ろしい事この上ない。
 もちろん小鈴がいるので、そんな馬鹿な情報流出はないだろうが。

「朝倉君、念の為にそのカメラを寄越しなさい」
「大丈夫だって後で葉加瀬にだけ晴れ姿の写真をあげるだけだからさ。生まれて初めて、そう言う目で男の人から見られた言わば記念日じゃない」
「記念日か、それ? まあ、いいや。葉加瀬、とりあえず研究室の教授には話をつけといたから。向こうから一報あるまで絶対に行くな。どうしてもって時は、超か絡繰のどちらか連れて行け。居なかったら長瀬とか古菲とか、あとは」
「私も報酬次第で請け負うよ。餡蜜、一杯だ。格安だろ」

 そう言った龍宮の事は捨て置き。

「もう少し、自分が女の子だって自覚しような。他は、ちょい佐々木が怪しいけど、概ね大丈夫だろう」
「なんで私!?」
「自覚ない事もないけど、時々まき絵危ない格好で歩き回るし。前もレオタード姿で職員室まで行ってきたらしいやん」

 そうそうと、無邪気さゆえの行動を、和泉を筆頭に皆から指摘され。
 まだショックが抜けきらぬ神楽坂ともども、教室の隅で落ち込んだり。
 あとは道中で明石の父に会ったと話題を振って、祝勝会をやり直した。









-後書き-
ども、えなりんです。

亜子回はここまでで一区切り。
厳密には今回は葉加瀬回ですけどね。
原作では看護師になりましたが、ここではカウンセラーを目指します。
他人の痛みを理解できかつ、自分もまた傷ついた一人だと理解させやすいですしね。
なんか、背中の傷にたいし、無茶苦茶ポジティブです。
頭の半分は、むつきの事で一杯ですけどねw

で、メインの葉加瀬。
原作での葉加瀬メイン回と言えば、麻帆良祭前の茶々丸のメンテの回。
それこそ、厳密には茶々丸回かもしれませんが。
一先ず、葉加瀬には自分が女の子だと自覚してもらいました。
方法はかなりアレですけどね。
以後、葉加瀬はちょっとお洒落覚えたり、女の子になっていきます。

それでは次回は水曜です。



[36639] 第四十六話 七月三十一日それが決戦の日です
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/06/19 23:46

第四十六話 七月三十一日それが決戦の日です

 期末中にさえ一悶着ありつつも、待望の夏休みまで残り一週間となった。
 最下位突破さえ果たした勉強のご褒美は、昨晩に果たされた。
 一時弾薬庫が炎上した事件こそあったが、在庫一層の大セールである。
 銃身が焼きつくまで打ち続け、美砂やアキラ、夕映に小鈴といった恋人のみならず。
 もはやセックスフレンドを寧ろ望む和泉を筆頭に雪広や長谷川。
 あと少しだけ好奇心に負けて、普段より真剣に観察していた葉加瀬など。
 むつきの花びらの舞によって八面六臂の大活躍で、ひかげ荘の乙女達がイカ臭く染められた。
 現在、殆どの乙女達が疲れから爆睡中で、面々の部活動は午後からとなっている。
 普段休日はひかげ荘でエッチ三昧にも思える彼女達だが、当然ながらそんな事はなく。
 各自部活動はおろそかにならない程度には参加しているのだ。
 むつきもまた午後からは水泳部の顧問としての仕事があり、午前中はせめて寝ていたかった。
 いたかったのだが、

「おい、早くしろ。長考など十年早い、下手な考え休むに似たり。しかし、貴様も精神は軟弱だが精力はタフだな。アレだけ撃ち放って、まだ残弾があるのか」

 早朝から露天風呂にて碁盤を持ち出し、湯船は無理だが外の岩場で対局中であった。
 夏なので温泉の湯気だけで体は十分に温められ、日差しがさらに肌を焼いてちりちりする程だ。
 むつきの対面にて胡坐から立て膝をつき、肘を立てかけ顔を支えているのはマクダウェルである。
 お風呂場故に全裸であり、むつきからは無毛の割れ目が惜しげもなくさらされていた。
 マクダウェルが残弾と言ったのは、碁盤を挟んだ対面に座るむつきがそそり立たせている一物だ。
 腕に抱えた少女の割れ目を隠すように、天を貫いている。

「膝の上には全裸の夕映がいて、立たない方がおかしい。もっとも、一分ぐらいはマクダウェルのお陰とも言えなくもない。恥じろよ、少しは」
「先生、恐らくこちらから攻めた方が戦術の幅も広がりそうです」
「ルールさえうろ覚えで戦術と言われてもな。とりあえず、夕映の言う通り打つけど」
「貴様なんぞより、綾瀬夕映を鍛えた方が早そうだな」

 強い弱い以前に、夕映がしかも全裸で腕の中にいて集中できるはずがない。
 長い髪は纏められており、滅多に見えない夕映のうなじの上を珠の汗が滑り落ちていく。
 湯気に混じり鼻腔をくすぐるのは、夕映特有の甘いミルクの匂いである。
 誘われるようにキュッとお腹に回した腕を締めれば、互いの汗で滑った肌同士が滑った。
 それが判るからこそ、気恥ずかしげに夕映が腕の中で小さくもがき、以下無限ループであった。

「理詰めのゲームは嫌いではないです、が。今は理詰めの効かない恋愛ゲームに必死ですので。機会があれば、としかお応えできないです」

 お断りの言葉の後も、もぞもぞと逆にむつきの一物にこすり付けるようでもあった。
 そんな恋人同士のアレなプレイはさておき、何時の間にか居ついたマクダウェルである。
 ネット碁会にてsai@evaは押しも押されぬ大人気棋士。
 その噂を聞きつけ、わざわざ別サイトから移籍してまで猛者が対局を申し込む程である。
 対局の閲覧数も断トツで多く、一部では戦績を纏めたファンサイトがあるほどだ。
 しかしながらチャットでの発言は一切なく、不興を買うような自己アピールもない。
 そもそも一切チャットで喋らず、黙々と勝ち星を拾い集め続けているのだ。
 むしろ何時チャットで投げられた質問に答えてくれるのか、向こうが待つぐらいである。
 まさか本物の佐衣かと囲碁の打ち筋など、検証サイトまである始末。
 互角の腕を持つ碁敵であった学園長が久しぶりに打ち、ボロ負けして近衛に泣きついた事件は記憶に新しい。
 その直後、セクハラはあかんとトンカチで撃退されていたが。

「最も、誰かを鍛えずとも今や向こうから強力な打ち手が現れる。まうすとやらでカチカチとやや情緒に欠けるが、ねっと碁とは素晴らしい発想だ」
「水泳と二束の草鞋はきつい。もう駄目、投了」
「盤上は真っ黒です。オセロですか。むしろ何故もっとはやく投了しなかったのか」

 膝の上の夕映を抱きしめつつ、負けた負けたとごろんと降参の姿勢である。
 だが買って当然、何の面白みもないとマクダウェルは若干しらけた顔だ。
 自分から対局だと持ちかけておいて、随分な態度もあったものである。
 そこで何やら思いついたのか、悪戯心をむくむく育てたマクダウェルが寄って来た。
 その視線は、体の上にいる夕映が転がり落ちないように支える第三の手にあった。

「乙姫、そのままでは辛いだろう。綾瀬夕映はセックスでは役立たずだ。手っ取り早く、私がイかせてやろうか?」

 質問の途中でありながら、マクダウェルアは寝転がっているむつきに足を伸ばしていた。
 夕映の股座からそそり立つ一物の竿を、小さな足で潰し、指先で挟んでさえ。
 器用に小さな足のさらに狭い指の間で、シュッシュと竿の皮を巻き込み擦り上げる。
 小さなそれこそ小学生とも見紛うブロンド幼女の足コキとは。
 人が人なら狂喜乱舞の状況だが、やはりむつきはむつきであった。

「やめろ、マクダウェル。本当に止めて、凄い事になるから!」

 ガバッと跳ね起きるようにし、足コキ中のマクダウェルの足を払いのけた。
 それにカチンと来たのか、マクダウェルは強引にでも継続しようとしたのだが別の方向からも制止の声があがった。

「本当に止めるです、マクダウェルさん。先生は責めるのは好きですが、責められると即座に心が折れるです!」
「ちっ、とことん私と相性が悪い奴め」

 湿気の多いだけでなく、別の理由からも目元があやしいむつきをみて溜息をついていた。
 むつきとてちょっと嬉しかったのは本当だが、限度というものがる。
 可愛らしいお人形さんのような容姿のマクダウェルだが、その内面は絶対にSだ。
 反発するどころか、一方的に折られかねないと夕映を抱き上げ少し距離をとる。
 そこで実際に詰まらんと捨て台詞を残して、碁盤を両手にマクダウェルは背を向けていた。
 ひょこひょこ振り返る事なく、足で引き戸を開けて出ていってしまった。
 実はあれで竜宮城に当てられ、欲求不満なのかもしれない。
 夕映がいるので直視は避けていたが、記憶を思い起こせば多少濡れていたような。
 囲碁を死ぬ程対局するという欲求もまた存分に満たしているだけに、本当にそうなのかもしれない。
 かといって、現状ならいただきますというわけにも行かず、仕切りなおすように言った。

「さて、最後に寝汗を流して、俺達も出ようか。夕映も午後から、図書館探検部だろ?」
「はい、ですが今日は夏休み前に大規模探検計画を行うだけです。そして恐らくは、その後でパルの原稿の手伝いになるかと」
「俺の可愛い夕映に強制労働か。良い性格してるじゃねえか、早乙女の奴」
「あれでも一応、認めたくはありませんが親友の一人ですから」

 徹夜とか無茶するなよと注意しつつ、夕映を横抱きに湯船へと向かう。
 当然、道中は恥ずかしがり胸を腕で隠し身を捩る夕映を視姦しつつ。
 最近ささやかな胸がささやかな成長を始めつつあるそうだ。
 実際にセックスしまくる美砂やアキラほどではないが、着実に。
 湯船に浸かり、改めて胡坐をかいた上に夕映を座らせ胸と一物のそりでがっちり固定する。
 少しだけと夕映に断っては、腰を掴んで前後に動かし性器同士をすりつけた。

「夕映の肌がすべすべで出ちゃいそうだ。お湯汚すからしないけど」
「先生、やっぱり私の中に入りたいですか?」

 ここまでしておいて、入りたくないなどと言えるはずもなく。
 急かすようで悪いのだが嘘はつけず、むつきは頷いていた。
 そうですかと呟いた夕映が突如立ち上がった。
 肌の上にお湯を滴らせながら、可愛い小さなお尻を見せながら。
 そして振り返ると、お湯で温められた肌以上に顔を赤くしながら振り返る。
 麻帆良祭以来、ひさしぶりにむつきに全てを晒して指で割れ目を開いて見せた。

「先生、ちゅってキスください」
「夕映がそうして欲しいなら」

 割れ目を開いた先は、まだ未成長のビラビラがあるだけで膣口まで直ぐに見えた。
 明るい場所で開いて見せるなど、余程恥ずかしいだろうに。
 舌を入れたくもなったが余計な事はせず、膣口に唇を触れさせるに留めた。
 注文通り、聞こえるようにちゅっと音を立てると、ざぶんと夕映がお湯に沈んだ。
 飛沫が跳ねて顔に掛かったが、大事な部分にキスが出来て悪い気はしない。

「す、すみませんです」
「なんのなんの」

 真っ赤になって俯きながらの謝罪に、どう致しましてと抱きしめる。
 背面座位から対面座位に変わり、おでこにももう一度だけキスをした。

「で、出血大サービスの理由は? いや素股しておいて説得力ないが、せかしてるわけじゃないぞ。別に中学卒業ぐらいまでは平気で待つし。その後だって待つぞ」
「気が長すぎるのも考え物です。これでも焦っているのです。先生、恋人でない亜子さんとキスをして、長谷川さんと委員長に先日慰められたと」
「何時も好意をがいがり削ってごめんなさい」
「責めているわけでは、それが先生だともはや理解していますし」

 夕映だってファーストキスは捧げたし、エッチな事も一杯されてきた。
 それでも和泉達セックスフレンドとは立場が違う、嫁とはいかないまでも恋人候補ぐらいのつもりではいたのだ。
 だと言うのに、和泉達がどんどん積極的に関係を強め始めている。
 特に和泉などは完全に信頼して、何時処女をと言い出してもおかしくはない。
 だからこそ、何時までも先送り先送りにする事に焦りが出てきてしまったのだ。

「先生、夏休みに入ったら一つお願いがあるです。一度で良いです。のどかの男嫌いが何処まで治ったか、確認の意味も込めてのどかとデートして欲しいです」
「ちょい複雑だが、期末の打ち上げでまた五メートルに戻ったぞ。最近やっと三メートルまで縮めたのに」
「春先、卑猥な発言で十五メートルの記録を出した時に比べればないも同然です」

 夕映が言っているのは、図書館島で彼女としっぽりと発言した時の事だろう。
 早乙女も戻す為にまた三ヶ月と言っていたが、思ったよりは掛からなかった。
 麻帆良祭の魔力なども手伝ったのか、頑張ればデートぐらいできるかもしれない。
 さすがに手を繋いだりは無理だろうが、普通に出かけるぐらいなら恐らくは。

「最近ののどかを見ていると、ややハードルは低いですが。のどかが最後までちゃんと男の人と、先生とデートが出来たのなら」

 キュッと一度は踏みとどまるように瞳を閉じ、深呼吸をしてから言った。

「先生と結ばれるです。のどかの為ばかりでなく、私自身も自分の恋に向かって歩みたいと思います」
「そうか、その勇気が凄く嬉しい」

 今一度キュッと夕映を抱きしめ、なんと夕映もまた抱き返してくれた。
 やや震える手でゆっくりとだが、大事なものを抱えるように。

「小さいけど柔らかくて温かい。宮崎とのデート何時にする?」
「逆に先生は大きくて硬いです。卑猥な意味ではなく。もう先延ばしはなしです。のどかに説明や特訓もありますので七月三十一日それが決戦の日です」
「分かった、それまでに手伝える事があれば言ってくれ。なんでもする。後、騒ぎそうな早乙女にもちゃんと隠さず説明しておいてくれ。変な勘ぐりされても詰まらん」
「あまり大勢に教えると付いて行きかねないのが心配ですが。図書館探検部とひかげ荘メンバーにはきちんと説明するです。後者も、先生を大っぴらにデートさせるのですから」

 むつきも見咎められて怒られないよう、担任の高畑はもちろん、親しい先生や新田には話を通しておくべきか。
 浮ついた気分となる夏休みに教師が生徒とデートしたなど格好のゴシップだ。
 大騒ぎにならないように、先手を打って最低限は説明をしておく必要がある。
 宮崎の男嫌いは割りと有名なので、その為と言えば通じるであろう。
 男嫌いが偶に傷だが、礼儀正しく真面目で努力家の彼女は先生方にも人気なのだ。
 今時、こんな素直で可愛い生徒がいるのかという意味で。

「上手くいくと良いな。いや、結果セックスできるからとかじゃなくて。宮崎の為にも、夕映の為にも」
「のどかの事はそれ程までには心配していません。春からずっと、先生を練習台に喋りかけさせていましたから。心配なのは、その後。上手く出来るか、今から胸が張り裂けそうです」
「心配するな、最高の夜にしてやるから」
「はいです」

 そのままむつきの胸に自慢のおでこをぽんと乗せ、抱きしめあう。
 まだ早朝で気温はそれ程高くはないが、現在は温泉に浸かり中である。
 のみならず少なからず想う相手と共に全裸で密着すれば気分は上限知らずに高揚した。
 むつきの一物はもはや夕映の股座で、ギンギンに膨れ上がって彼女を持ち上げる程だ。
 夕映も割れ目に食い込もうとするそれに、気付かないはずもない。
 お互いにどきどきと心音に耳を痛めながら、相手に聞かせるように抱きしめあった。

「夕映、ごめん。前借り頼んで良い?」
「こちらこそ、お願いするです。最後の一線さえ超えさえしなければ、何をしても。和泉さんのおかげで恋人の面子を守るのも大変です」
「夕映顔をあげて、こっちを向いて」

 まだ一ヶ月にも満たないが、久方ぶりのセカンドキスであった。
 サード、フォースにフィフスと英語で数え切れない程に繰り返す。
 それだけに留まらず、今日の夕映は少し積極的である。
 自ら舌を出してペロッとむつきの唇を舐め、パスタの食べさせ合いの時の様に口を開けた。
 もちろん、この場にバスタなどあるはずもなく、待ち受けているのは別のものだ。
 本当に恋人の面子を守る為に、真っ赤な顔で必死な様子である。
 むつきも直ぐに顔を交差させるように傾け、開けられた口にしゃぶりついた。
 ぐにぐにと小さな夕映の口の中を舌で蹂躙しては、唾液を啜り飲む。

「んぷっ、はぁこれが大人のんぅ」
「夕映、色々と触るぞ」

 相変わらず口を攻め立てながら、むつきはお湯の中の夕映の体に手を這わせだした。
 Aカップのささやかなふくらみを手のひらですっぽりと。
 むしろ乳首だけの方が楽しみがいがある胸に触れてはふにふに刺激した。
 まだ性感も未発達なのか、時々痛そうに夕映が顔をしかめてさえいる。
 なのでもっと刺激を落とし、十本の指先を這わせ、愛撫というよりはくすぐりに近い。
 揉むのではなく、肌の上を指先で触れるだけで、時折乳首を突いてあげた。
 くすぐったいのか、感じてしまったのか、これまた時折夕映が身震いをする。

「んぅ、痛くないですけどくすぐったいです」
「いずれそれが快感に変わるから、続けるぞ」

 丁寧に丁寧に、まだ硬いパン生地を徐々にこねて柔らかくするかのごとく。
 時間をかけて愛撫しては、段々と呼吸が荒くなり唇を塞ぐのは可哀想になってきた。
 そこで呼吸をさまたげないよう、キスをする場所をおでこやくびすじ、耳元と変える。
 特に耳元では耳の奥まで犯すようにちゅっと言う音を大きく聞かせた。

「キスマークは駄目です、パルに見つかったら」
「今は夏だから、虫に食われたで通用する。首筋は見え辛いから」
「聞いてはいたですが、先生マーキング好き過ぎです」
「夕映みたいな可愛くて綺麗な子、マーキングしとかないと不安でしょうがない。ただでさえ、大学部までの合同部にいるんだから」

 多少の痛みに顔をしかめつつ、それでも夕映はキスマークを受け入れていた。
 首の裏近い場所に吸い付かれ、うっ血させられ。
 目視こそ出来ないがしっかり赤くなっているだろう事は理解できた。
 本当に仕方のない人だと、呆れはしても少し嬉しくなったり。
 今日はキスマークを隠す為にも、少し熱いがハイネックのインナーを着ようと考えた。
 ならば、別にもう二、三個ぐらいは構わないのではないだろうか。

「先生、首の根元とかならもう少しだけ。それとも大事なところが。沢山の愛撫でむずむずと、あの」
「大事なところって?」
「おまんこですが、なにか?」

 直前までの恥ずかしがりようはなんだったのか、あっさり答えられてしまった。
 羞恥プレイ敗れたりと、今更これ以上赤くなりようがない顔でしれっと。
 どうやら夕映は言葉責めが余り効かないタイプのようだ。
 以前も濃厚男汁を名前は名前、味は味と割り切っていた。
 言語に関しては、なかなかに攻略が難しいようである。
 だが本当に効かないのか、ここまですればと耳元で囁いて見た。

「夕映は男の子と女の子、どっちが欲しい?」
「それは先生と私の赤ん坊という事でしょうか。これは中々、難しい。ただ腕白坊主は少々、しかし親としてそのような事を。生まれた子を有るがまま」
「男の子だったらゆづき、女の子だったらむつえとかどうだ?」
「ゆづきとむつえ、男の子と女の子。先生とぁっ、私の赤……赤ん坊」

 ゆっくりとその意味を染み渡らせるように囁き、それは成功を収めた。
 子宮が直接刺激でもされたかのように、お腹を押さえて夕映が丸くなった。
 俯き加減で良く見えたうなじもカッと赤く火照り始める。
 ちょっと痛い記憶から抜粋した言葉責めだが、やや遅効性だが効いたようだ。

「夕映お母さん、むつきお父さんとつくろうか。ゆづきとむつえに会える様に」
「先生、待ってください。ぁっ、背筋をぞくぞくと。私が母に、人の母に」

 思い出しても見れば、初めて関係を持った時もそうだった。
 普段の妊娠プレイをしたら、人の母親にと夕映は感動したように呟いていた。
 どうやら夕映も、むつきの理想の生徒であるさよと似たタイプらしい。
 孕め孕めと乱暴気味にするのではなく、子作りの為にと励む方が感じるようだ。
 前者が美砂やアキラ、小鈴もか、後者が夕映という事になる。
 胸を刺激する指を下ろしてみれば愛液がお湯に滲みながら割れ目から溢れていた。

「将来、目指せ一姫二太郎だな。夕映、しっかり濡れてる」
「先生が子供の名前まで。二人の名前を合わせるなど、字画を優先する今の風潮から外れた古風な。嫌いではありませんが」
「最低五年後だが、夕映が望んでくれるなら俺は頑張るぞ。産んだ後の方が大変だろうけど」

 お湯の中ではこれ以上は無理だと、夕映の脇に手を添えて共々立ち上がった。
 今まで背を預けていた岩場へと夕映に手をつかせ、腰を掴んでお尻を上げされる。
 もちろん挿入こそしないが、両足はかかとを付けるようにぴったりと。
 やわやわと産むにはまだちょっと小さなお尻を撫でつけながら、耳元に唇を寄せた。

「夕映、ちょっとお尻痛くなるかもしれないけど」
「構わないです、予行演習とでも思えば。ゆづきとむつえに会う為の、会う為の」

 余程気に入ったのか、ぽっと頬を赤らめ会う為にと繰り返す。
 可愛いなあと胸を締め付けられては、後ろから夕映を抱きしめた。
 自然とピッタリと閉じられた太股と性器の三角地帯に挿入されていった。
 当初、お湯で濡れているだけなので抵抗感があったが、それも性器に触れるまで。
 割れ目からあふれ出していた愛液が潤滑油となって滑る。
 もちろん、一度だけでは足りず、ぱんと竿の根元とお尻で拍手を行ないながら。
 引き抜いてはもう一度愛液を塗りたくるように、お尻を打ちつけた。

「くぅ、大事な所がこすれ。でも少しお尻が、先生あまり激しくは。真っ赤なお尻で行けば、部活後のシャワーで笑われてしまいます」
「夕映が望むままに、動き変えるぞ」

 パンパンとこれぞセックスとばかりにお尻をたたき上げていた動きから一転。
 腰の前後の動きを押さえて、むつきは素股への挿入の角度を色々変え始めた。
 浅い動きながら、お尻ごと突き上げるように、太股にこすりつけるように。
 はたまた幼い性器を割るが如くやや強めに背伸びして竿で夕映を支えたり。

「はぅ、先生のいやらしい腰使いが容易に想像つくです。先生に私と言う存在が犯されているです」
「夕映の愛液で、膣の中みたいにぬるぬるしてる。気持ち良いぞ、夕映の体が気持ち良い」
「正直、私も少々。んくぅ、気持ち良く。これがセックス、パルの手伝いで色々知ったつもりではありましたが。見るや聞くと、実際にするでは全然違います」
「本番はもっと凄いがな。夕映、どう凄いのか教えてくれ」

 ぬちゃぬちゃと愛液ですべり肌と肌、性器の隙間を汚す音が絶えない。
 両手も夕映の腰を離れては、ささやかな胸を指先で愛撫したり、うなじにキスしたり。
 その度に感じては素直に喘いでくれる夕映に囁き尋ねる。

「見聞は所詮、一方通行。ぁっ、けれどセックスは双方向。先生の熱くて硬い竿が、私のんぅ。太股と性器の間で暴れてるです。私の体、気持ち良いですか?」
「ああ、気持ち良いぞ。夕映が感じてくれるならなおさら。匂いも、夕映の髪、夕映の体臭。分かるか、夕映を感じれば感じるほど大きくなる」
「大き過ぎて、少し怖くなりさえ。嬉しい、先生に気持ち良くなって貰え。お互いに与え合う、これがセックス。セックスなのです。ゆづきやむつえには、真っ先に教えるです。この双方向、与え合う無償の愛を」
「夕映は将来、教育ママさんだな。けど、その為にはお母さんは勉強できたんだぞって言えるようになっておかないとな」
「ぁぁっ、バカレンジャーは既に卒業ぅ。したです。けど、もう少しだけ頑張るです。ゆづきやむつえに誇れる母に、先生もあん。もう少しだけ心を鍛えるですよ」

 こいつめと、少々刺激を強くして竿で割れ目を押し上げ夕映を持ち上げた。
 軽い夕映だからこそできる手だが、しっかりと伝わっている。
 足が届かず背伸び状態で、必死に岩場にしがみ付くように耐えていた。
 まだ未挿入ながら夕映の膣がキュンキュン締めているのが何故か分かった。
 気のせいかもしれないが、増える愛液だけは実際に感じられた。

「先生、少し辛いです。抱きしめて、立ったままお願いできないですか?」
「その代わり、しっかり太股締めてくれ。いくぞ、よっと」

 夕映の体を後ろから抱きしめるように抱き上げ、代わらず股を竿で支えた。
 完全に体が宙に浮いた状態で、夕映は荒く息を乱しながら両手両足をだらんとしている。
 感じすぎて全く体に力が入らないのか、これはこれでむつきも辛い。
 三本目の腕、または足がなければとてもとても支えられはしなかっただろう。
 夕映の背中と自分の胸をぴったりとつけ、脇下から回した腕でがっちりとホールド。
 少しだけ後ろを振り向いてもらい、口付けしながら腰振りを再開する。

「夕映、凄く軽い。早乙女とか実は嫉妬してないか?」
「その分、ぁぅ。何時も背や胸で、弄られるですぅぁっ」
「じゃあ、決戦が上手くいったら一杯ここに出してやるからな」

 ここにと、子宮があるであろう場所をなでてやると、夕映の腕が動いて重ねられた。

「柿崎さんやアキラさんが、言ってたです。女性ホルモンが出て胸は大きく腰は締まると。その時は思う存分にあやかりたいものです」

 だから一杯と振り返り潤んだ瞳で見上げられ、尚更一物がたぎってきた。
 今でこそ素股であるが、その時は夕映の中である。
 その時を想像しつつ、今は太股と性器の間で愛液に塗れつつ挿入を繰り返す。
 やや逆上せ始めたように二人して、はあはあと荒く呼吸を乱して密着しあう。
 段々むつきにも余裕が失せては挿入の角度が甘く、腰が強く振られ始めた。
 ぱんぱんとお尻を叩き、ごめんねと謝るように言葉なくキスで伝える。
 仕方のない人だとは先刻承知とばかりに頷き返され、許可を得た。

「夕映、赤くなったら小鈴謹製の軟膏塗ってやるからな」
「そのまま、ぁぅんっ。別のプレイに、移行はぁ、しそうですが」

 ただそれでもあまり激しくはせずゆっくりと高めあっていく。
 元々夕映は美砂やアキラと違い体がさらに出来ていないのでコレぐらいが丁度良い。
 ゆっくりと、だが着実に気分を高めあってはついにその時が来た。

「夕映、そろそろ」
「このままでは目の前の岩場に掛かって汚れるです。だから、そこに私を」

 限界が近く、内心焦りながらもむつきは夕映の提案に従った。
 岩場の上に夕映を座らせ、両足はぴったりと閉じたまま。
 足が邪魔でキスもできないが、もはや本当に二人共長くはないのだ。
 体位を変えてすぐに、むつきは夕映の両足に抱きつきながら再びの挿入である。
 お尻での拍手に咥え、愛液が潤う音もプラスして挿入を繰り返した。

「夕映、また夕映にかけるぞ。夕映を俺の精液で汚すから」
「先生を受け止めるです。ゆづきとむつえをお腹で、母としてお腹で」
「もう直ぐ、夕映。夕映、イク。ゆづきとむつえが、来たぁ!」
「んくぁっ、熱っ。二人共暴れないで、母のお腹がぁぅ、壊れて。しまうです!」

 びゅるびゅると迸った精液は、夕映のお腹の上に飛び散り広がっていった。
 体勢的に全ては受け止めきれず、多少は垂れてお湯の中へと落ちてしまったが。
 大半は夕映のお腹で受け止められ、卵子は何処だと夕映の言う通り暴れている。

「はぁふぅ。一杯出たです」
「気持ち良かったぞ、夕映。宮崎とのデートが成功したら、その時はな」
「お預けの連続だったですから。その時は、存分に私を味わって欲しいです」
「その通りなんだが……」

 夕映がお腹の上の精液を手でぬりぬりしながら言うも、むつきは少し気まずそうだ。
 その意味を直ぐに夕映も察して、頬をぽっと赤く染めていった。
 まだまだ一度程度ではむつきは元気であり、鈴口から精液をとろとろ流している。
 その時はと言うまでもなく、今直ぐにでも挿入抜きで夕映を味わいつくせそうだ。
 だからむつきは、夕映を横抱きにしてお腹から精液が垂れないよう注意しつつお湯から上がっていった。
 目指す先は、脱衣所ではなく体の洗い場である。

「すまん、もう少し付き合ってくれ。この聞かん坊、最近本当に言う事を聞いてくれなくてな」
「知ってるです。けど、あまり激しいのは午後に響くので。居眠りして原稿を涎で汚してはパルに叱られると言う屈辱的仕打ちさえありうりますので」
「早乙女って誰からも酷評されるが、嫌われないのが割りと不思議だ」
「夏の嫌な風物詩の蚊のようなものです。居たら居たで立腹ですが、居ないなら居ないでどこか寂しいというか、地球温暖化等を疑うです」

 それでも結局、酷評からは抜け出せなかったようで。
 最後にはどうでも良いやと二人に話題ごと投げ捨てられる早乙女であった。
 そしてむつきは夕映を抱えつつ、椅子に桶で掛け湯をしてから座り込んだ。
 膝の上に夕映をうつし、胸の立っている突起をつついては手で隠され。
 イチャイチャしながらお互いに洗いっこをしては、手コキをしてもらったり。
 皆が置き出すまでは二人きりで存分に愛し合った。









-後書き-
ども、えなりんです。

恋人未満という言葉が、もはや建前以下な件について。
もうこれ、夕映は立派な恋人だと思います。
当初、中途半端な立ち位置に立ったが故に、進むも下がるも出来なくなった的な。
あとは本丸が既に陥落している事に本人が気付くだけです。

もう数話、期末後のお話をしてから夏休み突入です。
そして夏休みが終わるまで、五十話近くあります。
これもう、ネギが来るまでもちませんw

それでは、次回は土曜日です。



[36639] 第四十七話 お前の夢に嫉妬しちまった
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/06/22 19:57

第四十七話 お前の夢に嫉妬しちまった

 夕映とイチャイチャして心にやる気を充電し、四葉の手料理でお腹を満たす。
 心も体も十二分に満たされた状態で、むつきは午後からの水泳部の活動に顔を出した。
 行き先が同じアキラや和泉をひかげ荘に残して、集合時間の一時間程早くにだ。
 顧問に就任してからの初めての本格的な活動である。
 初日と言うこともあって、少し気合を入れてむつきもまた水着姿であった。
 ただし、本物の水泳選手のようにブーメランパンツ一枚で来られるはずもない。
 まだまだ水泳素人で気恥ずかしさが抜けないという事もある。
 しかし一番の理由は、聞かん坊が暴れ出した時にどうしようもなくなるからだ。
 何しろ水泳部には恋人のアキラが、セックスフレンドの和泉とおまけの小瀬。
 特に後者から順に色々と誘惑をしてくる為、油断の一つも出来ない状況である。
 まだ集合時間には早く、室内プール場には部員の姿は殆ど見えなかった。
 飛び込み台の前で軽く体を動かしていると、驚きの声が背後から聞こえ振り返る。

「わっ、先生か。びっくりした、じゃなくて。おはようございます」
「おう、一足先に借りてるぞ。確か、一年のリーダーの日高、いや違う朝日か」
「はい、朝日のり子です。のりりんって呼んでください」

 短いツインテールを揺らし、元気良く主張されたが、そこは苦笑いである。

「愛称は勘弁してくれ。これでも一応教師だからな」

 思い出したのは、小鈴の呼び名に過剰反応した美砂達だが、生徒は基本苗字呼びと統一しているため、やんわりと断った。
 それからむつきは第八レーン、一番遅い者達の為のレーンの飛び込み台に立った。
 時計の秒針を確認しながら、十二時に合わさると同時に飛び込んだ。
 アキラ達成績上位者に比べると、見る影もない大きな水しぶきと共に沈んでいった
 潜水状態からバタ足へ、実家の海程ではないが青く透き通る水の中を突き進む。
 ハーフパンツタイプの水着は、水の抵抗が甚だしくかなり力を要したが。
 水面に浮上してからはクロール、参考書の内容を思い出しながら実践して泳ぐ。
 多少自分なりに試行錯誤もしながら、早いのか遅いのかも分からないまま。
 目の前に見えてきた二十五メートルの壁に手を付き、水しぶきを上げながら顔を振り払う。
 即座に頭上の時計を見上げようとして失敗した。

「おはよ、先生。結構早いじゃないですか」
「小そごふっ」

 対面の岸に小瀬が待っていた為、時計が見えなかった事もある。
 だがそれ以上に、制服姿でしゃがみ込んでいた小瀬が大問題だ。
 プールと岸の高低差から、むつきの視線を小瀬のスカートの中まで遮る物は何もない。
 しかも陰毛が全て剃られたパイパンの割れ目、その恥丘に文字が書かれていた。
 マジックか何かで割れ目に向けて矢印が引かれ、先生専用と、本当に馬鹿かと思う。
 しかもその馬鹿な行為を誇らしげに、ちょっと照れながら微笑まれた。

「へへ、先生嬉しい?」
「お前、本当どんなクズと付き合ってたんだよ。水泳部の三年は見る目ない奴が多すぎる」

 そう文句を言いながらも、悲しいかな。
 チラチラと自分専用と銘打たれた割れ目に目がいってしまいむくむくと。
 欲棒が専用だから構うまいと、臨戦態勢に入ってしまった。
 部活中が困るなら、部活前にこの子をボイラー室に連れ込んで出しつくしてしまえとばかりに。
 むしろ、小瀬は喜びそうだが、無理である絶対に。
 せめて水中で、施してきた勃起対策の結果を確認しつつ、しばらくは上に上がるまいと決心した。

「水性だから、着替え前にトイレで消すから安心して。セックスはして欲しいけど、大会も近いしキャプテンとして惚気てられないの」
「ちょっと安心した。ああ、一応他の奴に言っておいてくれ。俺が泳いでるから、制服でプール際に近付くなって」
「あっ、小瀬先輩。それに先生もおはようございます」

 少しばかりそれは遅かったようで、和泉が目ざとく見つけ駆け寄って来る。
 何々と楽しそうに小瀬の隣にしゃがみ込んで、またしてもむつきを噴き出させた。
 いや、見えると分かっていて見てしまったむつきも悪いのだが。
 これまた陰毛が剃られた和泉のパイパンの割れ目に矢印が、食べ頃と一言添えて。

「和泉、頼むから小瀬の悪い影響を受けるな。小瀬も和泉をそそのかして遊ぶな」
「可愛い小悪魔だから止められない。ああ、クロッチ部分が痒いかも」
「うちも、ちょい下着合わへんのやろか」

 むつきの注意も何処へやら、堂々とそんな事を呟き割れ目を指で割って中を見せてきた。
 ピンク色の生々しくも肉々しい美味しそうなそこをだ。
 和泉はまだしも、小瀬など愛撫される前から濡れており糸さえ引いている。

「何してるんですか、先輩。それに亜子も」

 ただそんな悪戯も、むつきが愛するアキラが現れるまでである。
 美砂並みに黒いオーラを背負って、二人の背後に仁王立ちであった。
 びくりと震えた二人はあたふたと危うくプールに落ちかけたりしつつ。
 てへぺろと笑って、仲良くキャッキャと騒ぎながら逃げていく。
 もうっと頬を膨らませたアキラは、ちゃんとスカートを押さえつつしゃがみ込んだ。

「先生、最近ここで油断し過ぎ。はしゃぐと危ない」
「俺よりも、あの二人にこそ言ってくれ。俺、普通に泳いでただけなんだけど」
「そう、なんだけど」

 キョロキョロと周囲を見渡し、誰もいない事を確認してからアキラが言った。

「あの、我慢できなくなったら何時でも呼んで」
「昨日、あれだけしたのに。俺の恋人はやりたい盛りだな」
「うん、先生にエッチな事をされたい盛りなの。だから、一杯して?」

 もう本当に勘弁してと、小首を傾げてのお願いにまた弾薬庫が爆発炎上しそうだ。
 これで二人きりなら絶対襲って抜かずの三発ぐらいは余裕であった。
 ただ今はそうもいかず、多少の照れ笑いを向けるので精一杯なのである。
 せめてキスしたいと可愛い事を言った唇を穴が空くほど見つめていた。
 だが次第に部員達の数も増えだし、どう誤魔化そうが不可能に近く我慢の一手。
 そんな時であった。

「アキラ、先生にパンツ見せて誘惑してないで着替えなよ!」
「あーっ、本当だ。アキラが先生にパンツ見せて誘惑してる。皆、早く来て!」
「うわ、マジだった。アキラやる、しかも見せてるのに気付いてない振りとか、あざとい!」
「先生、アキラのパンツ何色?」

 小瀬の大きな声の注意によってわらわらと。
 更衣室から半裸で出てくる部員でさえおり、アキラもむつきも今更ながらに気付く。
 最初こそアキラはスカートを膝裏に押し込んだりして、見えないようにしていた。
 だが喋っては身を乗り出したりしているうちに、それがほどけ。
 小瀬の言う通りむつきの位置から、猫さんプリントのパンツが丸見えであった。

「違っ、わざとじゃ。見せるなら、もっと大人っぽいの履いてくるから」
「アキラ、お前……」

 猫さんプリントも部員達にばれ、なおさらあざといと弄られる始末。
 度々救助を求める視線を受けたが、薮蛇になる事は明らかで。
 むつきは付き合いきれんと、再度タイムアタックを開始し始めた。









 意外と速いよねという言葉をプール際から何度も貰い、自尊心が刺激されたりしながら。
 集合時間になるとむつきはプールから上がって、部員達の前に立った。
 こそこそと数名の部員がなんでハーフパンツタイプと言い、立ったら困るからでしょと看破もされながら。
 実はハーフパンツタイプの下にはちゃんとブーメランパンツの水着を着ていた。
 そちらで一物ごとしっかり固定して締め付け、ふっくらハーフパンツタイプでごまかしの二重構造だったりする。
 パンパンと手を叩いて、部員達の視線を自分に集めなおした。
 当然の事ながら、強豪部としてしつけが行き届いており、私語の一つもない。

「改めて、今日からよろしくな。確か夏の全国大会の地区予選が八月上旬にあったよな」
「はい、八月の一日から地区予選です。そこで全国大会出場ともなれば、お盆明けの二十一日から三日間を掛けておこなわれますよ」
「地区予選はもう、十日ぐらいか。あまり時間もないが、無理してオーバーワークには気をつけろよ。小瀬、大会への出場申請は?」
「とっくに、出してあります。ただ、今年はアキラもいるので数年ぶりに全国大会が狙えますから。その時は、遠征のバスや宿泊施設の手配をお願いします」

 割と軽い気持ちで、お飾りだと思っていたがそういうわけにもいかなさそうだ。
 大会の申請等は小瀬でも出来るだろうが、金銭が絡むとさすがに弱そうである。

「その辺は任せろ。むしろそういった事務は超得意。三年生は中学生活最後の大会だろうし、頑張ろうな。後は何時も通り、小瀬の指示で」
「あっ、ちょっと待って先生。事務得意ならお願いしたいんだけど」

 小瀬がそう言ったとき、特に三年生の部員達の目がギラついた。

「もし全国大会に出場ってなったら、たぶん結構な確率で出場できると思うけど。その場合に強化合宿したいの。学園長の許可と、あと場所選びとかお願いできないかな」

 ここ数年は少し落ち目だったが、それでも麻帆良女子水泳部は強豪部である。
 今年から麻帆良の人魚姫が本格参戦して、小瀬の言う通り全国大会を狙えた。
 そればかりか全国でも一桁台の順位さえ狙えるのではないのか。
 さらにそれを現実にする為にも、強化合宿をという事だろう。

「強化合宿って言っても、麻帆良以上に施設整った場所ないだろ。寮から近いし、室内プール場だから雨天もそれこそ台風だって気にしなくて良いし」
「場所を変えれば、緊張と気合のノリが違うでしょ。ネタはあがってるの、和泉ちゃん」
「先生ごめんな、喋っちゃったん。出身が沖縄って」

 その瞬間、三年生のみならず大半の水泳部員達が食いついた。
 競泳水着姿でむつきに詰め寄り、壁際に追い詰める程に。
 実際追い詰めすぎて、胸やら太股やら本当に過ちで触れられてしまう者もいた程だ。
 いや、むしろわざと触れさせていたのか。

「先生、沖縄出身って。沖縄で強化合宿ですか!?」
「南国での素敵なひと夏。普段練習きついけど、水泳部に入って良かった!」
「沖縄、沖縄。ちょっと全国大会どうでも良くなって来た!」
「おい、落ち着け。詰め寄んな、やばい。誰だ胸押し付けた奴、俺の手を放せ。あと最後、目的を見失うな、この野郎」

 揉みくちゃにされて嬉しいやら、反面凄く焦るやら。
 背中に回りこんだ誰かが胸を押し付けふっと耳に吐息を吹きつけお願いと囁く。
 他に腕を掴んではこれまたお願いとおしつけてきたり。
 これ絶対、顧問と思われてないだろうとノリが二年A組とそんな変わらない。
 同じ中学生なのだから、仕方がないのかもしれないが。
 沖縄というキーワードを前に、部員達も殆ど周りが見えていなかった。
 だが次の瞬間ドンッと重低音が響き、頭を冷やせとばかりにプールの水が雨となって降り注ぐ。
 ざーっと雨に降られ、多少冷静になりながら皆が一斉に振り返った。
 何やら凄い事をしてのけたのは、プール際でしゃがみ込んでいるアキラらしい。
 誰かがぽつりと、二重の極みっと疑問の声を呟き。
 妙に黒いオーラに、先生お願いと誰もが振り返りなおしてきた。

「ア、アキラさん?」

 仕方ないので、戦々恐々と話しかけた。

「先生は気をつけ。皆も、ちゃんと整列。してね?」
「はい、整列しなおし」

 小瀬までもちょっと気迫に押され、大人しく皆に指示を出した。
 当初と同じく、正面にむつきを据えて、学年毎に並び順はばらばらで並びなおしていく。
 まだ心の弱い一年生の子など、ちょっと涙目になっている子さえいる。
 これ、別に来年和泉がいなくてもキャプテンできそうとむつきは思った。

「アキラ、私制服なんやけど……」

 そこへ勇気ある突込みを行ったのは、唯一水着でなかった和泉であった。
 梅雨時に雨に降られたように、制服がぐっしょりと濡れてしまっていた。
 スカートはまだしも、白いシャツが濡れてピンクのブラが透けてしまっている。

「あっ、ごめん亜子。だって皆が先生に」
「うん、普通に嫉妬したって言ったらあかんやん。それに特に一年生、びびっとるし。皆も悪いけど、アキラもちょっとあかん。はい、反省」
「ごめんなさい」

 和泉にぺこりと謝り、相手がちゃうとまた怒られた。

「小瀬、これ当初の予定と違くね? サポートじゃなくて、ストッパーじゃねえか」
「まあ、結果オーライ? 普段大人しいけど、怒ると怖いタイプか。よっしー、見誤っちゃった。だって、アキラなかなか怒んないから。愛されてるね、くぬくぬ」
「止めて、他の子がいるところで止めて」
「照れちゃって、代わりに私にぬぷぬぷしてよ」

 やかましいと小瀬のおでこにデコピンして離し、もう一度パンパンと手を叩く。

「取り合えず、合宿の件は分かったが条件が二つ。まず、地区大会を突破する事。あと、合宿するにしても施設や予算。目的は強化だから、沖縄とは限らん」

 えーっと特に後半部分にて、不満の声が多数というか大半であった。
 気持ちは分からないでもないが、本当に利点が薄いのだ。
 これが他の野外で行なう部活なら、特に雪や寒さを避け沖縄でというなら分かる。
 だが既に麻帆良に室内プール場があり、しかも今の季節は夏であった。
 移動費や宿泊費もろもろを考慮しても、部で遊びに出かけるようなものだ。

「取り合えず、監督室で過去の資料漁るから和泉も手伝ってくれ。他はほら、三年生最後の大会の為にも練習、練習。小瀬、頼んだ」
「了解、さあ沖縄合宿の為にもいっちょ練習しますか。頼んだよ、人魚姫。沖縄合宿の為にも。沖縄いけたら色々便宜してあげるから。王子様との真夏の夜の夢も可!」
「大会は先輩達の為に頑張るけど、止めてください。そういう……もう、良いかな? 頑張る王子様との真夏の夜の夢の為に」

 チラリとむつきを見てから、ついに観念したようにアキラが否定を止めた。
 さすがにこれ以上は否定しても回りが盛り上がるだけと思ったのか。
 関係こそ秘密だが想いの暴露で、それはそれで周りがついにと盛り上がる。
 たださすがにそこは練習と宣言した以上、小瀬が手を叩いて止めていた。
 問い詰めるのは練習後と、乗り気は乗り気であったが。
 一先ず、練習そのものは小瀬に任せておけば問題はないだろう。
 その実績も以前に臨時顧問になった時に見ているし、面倒見も問題ない
 だからむつきは、ずぶ濡れの和泉にタオルで拭いて来いと指示してから監督室に向かった。
 強豪部だけあって、麻帆良女子水泳部はかなりの部費と優遇処置を受けていた。
 この室内プール場もそうだが、専用の監督室まであるのだ。
 二階観客席部分に、本来は大会時などの放送席を改造した一室ではあったが。
 中に入ってみれば設備も充実。
 プール側は前面ガラス張り、外からはマジックミラーで、元放送席だけに放送設備も。
 監督室にいながら指示が出せ、視界も広いので監視監督もできる。
 さすがにそれは、プール際で行なった方がより安全ではあったが。
 後は顧問専用のデスクに、これまでの歴史を語る資料を収めた本棚であった。

「まずどこから、てか全部紙媒体か。夏休みは休みで忙しいが、顧問やってるとちょっと優遇されるしデータの電子媒体化でもするか」
「ひゃー、アキラのお陰でえらい目にあったわ。先生、鍵かけとくね」
「お、おう?」

 やって来た和泉に、何故にと振り返ると一目瞭然。
 タオルを頭から被ったまま、和泉が制服を脱ぎ始めたのだ。
 一応はむつきもいるのだが、眼があった途端にエロイ瞳でエッチと呟かれてしまう。
 しばし、和泉が脱ぐ衣擦れの音に耳を傾けまった。
 それほど時間をかけず、和泉がぺたぺた足音を立てて近付いてきた。
 そのままひょっこり、むつきが見ていた本棚の前まで来て覗き込んだ。
 自然とむつきも、もう良いだろうと振り返ったわけだが。

「和泉君、その旧式スクール水着を何処で? うちって、それ随分前に廃止したよな?」
「長谷川さんに貰った。先生変態だから、こういうの好きそうだって」

 胸元にはきちんと、「二-A いずみ」と平仮名で苗字が書かれていた。
 この場合、和泉の慎ましい胸に押し広げられ、程よい膨らみがまた良いものである。
 そう思った時点で、むつきの負けなのかもしれない。
 しかしながら否定、肯定で、選んだのはスルーであった。

「先生、私なにしたらええ?」

 特に好き嫌いは聞いたつもりもないようで、和泉の方から普通に話を続けてきた。

「俺もまだ分からん、しばらく待機。資料一通り眺めるまで待ってくれ」

 資料の束を抱えてデスクに置くと、その辺にあったパイプ椅子を和泉が持ってきた。
 デスクの安物の椅子の横につけて、むつきが座ると同じく座った。
 そしてひとしきり頭までタオルで拭くと、それを首に掛けて持たれかかって来た。
 普段美砂達がそうするように、安心したように体を預けている。
 思わずその肩に手を回し抱き寄せ、頭の一つでも撫でようかとしたが自分で待ったをかけた。

「なあ、和泉。最近、気にはなってたんだが。以前、風呂でも言われたし。お前、俺の事が好きなのか?」

 ただ、その待ったのかけ方は間違いだったようで、和泉が頬をぷっくり膨らませる。

「先生、失礼。好きでもない相手に、こんな事はせえへんよ」
「俺の恋人でお前の親友のアキラが、一生懸命窓の向こうで練習してるけど?」
「頑張れアキラ。その間、先生の性欲はうちがなんとかする」

 どういう関係っと突っ込みたいが、本当に今更でもあった。
 既にアキラは和泉がむつきのセックスフレンドだと認知しているのだから。
 自分で考えていて、ちょっと頭がどうにかなりそうだが。
 一応は資料を捲って目を通しながら、変わらず甘えてくる和泉と話を続ける。

「いや、割りと本気で。その好きが美砂達と同じなら俺も考えがあるんだけど」
「先生の事は好きやよ、気持ち良い事一杯してくれるし。長谷川さんと違って、襲われるの分かっててこうして誘惑しとるわけやから。処女あげてもええなって思っとる」
「言葉の端々に、微妙な含みが見えるんだが」
「好きってのは嘘やないよ。けど、今のうちの一番はお医者になる事やんね。だから恋とか面倒なのはちょっと。けど、女の子やから誰かに甘えたいし、気持ち良い事もしたい」

 その証拠に瞳を閉じて見つめられ、真面目なところなのでそっと口付けた。
 言葉なく離れると、無言でもう一度と唇を突き出され、おねだりを叶えてあげる。
 そのかいあって、凄く嬉しそうに両頬を手でおさえ身もだえし始めた。
 もちろん、その間ずっと和泉はむつきに体をあずけ、甘えっぱなしだ。
 もはや躊躇は入らないだろうと、肩を抱き寄せそのまま髪を梳く様に優しく撫でた。
 キスからここまで、大変お気に召したようで、猫のように喉の奥で唸っている。

「ほら、先生やったら小瀬先輩やみきたん先輩みたいに、彼氏に乱暴はされへんし。まだまだうちは、お気楽な先生のセックスフレンドでいたいかな」
「寂しさ半分、嬉しさ半分だな」
「先生お嫁さん多過ぎやもん。前ちょっと零してたけど、お金大丈夫なん? 超りん、お金持ちやし、ちょっとぐらい助けて貰ったら?」
「男の見栄もかなぐり捨てたくなる時もあるけど。それしたらさ、頭があがんないどころか更に倍々にお嫁さんが増えると思わねえか?」

 何処まで本当か不明だが、小鈴の目的はむつきが二年A組の面々と親密になる事だ。
 自身が親密になれた事で麻帆良祭のような暴挙に出る事はなくなったが。
 和泉もそれを聞いて、確かにと否定の言葉すらない。
 つらつらと無駄会話をしつつも、資料は眺め続けており見つけた。
 全国大会を逃し始めてから停滞していたが、確かに昔は全国大会前に合宿をしている。
 場所は別に沖縄ではなく、全国大会開催会場近くである事が多かった。
 恐らくは早めに現地に入って慣れたり、当日に迷ったりしない為と言うのもあるだろう。

「確かに合宿はしてたが、今年って何処だっけ?」
「あっ、ほんまや。けど、どこやろ。今の所、そういうの小瀬先輩しか把握しとらへん」

 小瀬が居なければ、この水泳部は回らないのではと心配になってきた。
 以前の顧問が居た時は不明だが、完全なワンマン運営であった。
 その負担はいかほどか、麻帆良祭での雪広の事もあるし、負荷分散は急務だ。
 大会前のこの時期はまだ無理だが。
 大会が終わった後には、早々にキャプテンをアキラに委譲し、来年の為に色々と教えてあげて欲しいものである。
 その対価に、体を求められそうだが、安い物というかむしろ嬉しかったり。
 ただそんな先の事よりも今は、目の前で窮屈な水着に潰されそうな可愛いおっぱいである。
 和泉が立ち上がってデスクの上の資料を覗き込んだからであった。
 頂きますと、小さな突起が見えた部分を口に含んでちゅうちゅう吸い上げた。

「やん、先生やっと誘惑されてくれたん。待っとったのに」
「わざとか、見事に誘惑されちまった。けど、一応部活の監督中だし」

 お前はここと、頬を染めながら喜ぶ和泉を膝の上に座らせた。
 和泉の短いが色素が薄くキラキラ綺麗な髪に鼻を押し付け、首筋にキスする。
 左手でふにふにと可愛い胸を愛撫しながら、ちゃんと右手で資料を捲っては眺める。

「取り合えず、後で小瀬に開催地聞いてそれからだな。正直、今から間に合うのか。他の強豪校とかに抑えられてそう。まあ、まずは」
「先生」

 つらつらと考えていると、和泉が切なげに声を上げてきた。

「うちも先生にちゅっちゅしたい」
「俺も水着の締め付け限界だから、ちょっと脱ぐか」

 和泉を一度降ろしてから、二重構造にしていたパンツタイプとブーメランパンツを脱いだ。
 まだ半勃起状態の一物を見て、へへっと和泉が笑う。
 本当にエッチな事が好きな奴だと、お腹を子宮目掛けてつんと突いていやった。
 やんと体を捩る和泉であったが視線は変わらず、食い入るように見ている。
 改めてデスクの椅子に座って、膝の上に対面座位の格好で座らせた。
 段々と起き上がり中の一物は、和泉の股下でいずれはお尻の割れ目のなかだ。
 早く元気になってとばかりに、むつきの首や鎖骨にキスしながら和泉が腰を前後に振る。
 濡れていない水着の摩擦が強めだが、普段の性活を考えると問題なかった。

「地区大会は一日から、その前に前日に宮崎とデートして。いや、さらにその前に思い切り遊ぶ為に、初日三日間で全員の勉強終わらさせてやるか。たまには実家にも、見合いでも勧められたら堪らんし結婚を前提に付き合ってる美砂達の、言えるかこの野郎」
「いつの間にのどかにまで、先生鬼畜過ぎ。超りんが何かするまでもないやん。のどか繊細な子やから意地悪エッチあかんよ」
「誤解すんな。てか、セックスそのものを止めろよ。夕映からのお願いだけど」
「寂しさ半分、嬉しさ半分やて」

 残念とばかりにしな垂れかかられた為、腰を抱き寄せ唇に深く舌を差し込んだ。
 和泉の唇ばかりか口内、唾液でさえ味わいつつ責め立てる。
 女の子の甘い匂いも相まって、飽きる事なくすい続けられた。
 ただ集中し過ぎるとまずいので程々に、時々窓から練習風景も監督しつつ。

「先生、ここも。先輩に方法聞いて綺麗にしてあるからええよ」

 そう言われ、和泉が振り返りながらむつきの左手を誘った。
 腰から下へとさすがに恥ずかしげにしながら、それでもだ。
 尾骨さえ超えて割れ目に、そこからは進行方向を変えてお尻を包む部分をまくり上げ皺のある窄まりへ。
 ただむつきが直前で察知し、少し寄り道をして割れ目で愛液をすくった。
 ローション代わりに愛液を塗りたくり、皺をなぞりながら徐々に指先を埋めていく。

「んくぅ、先生。お尻、うちお尻弄られとる」
「愛撫してるの俺だけど。小瀬、あいつ和泉をどうしたいわけ?」
「先生の最高のセックスフレンドやて」

 方向性あるのかよと思わず突っ込みそうになったが、ある意味で小瀬らしいのか。
 気を紛らわせてやろうと、キスをしてやったり。
 前の処女より後ろの処女を先になど、本当に鬼畜な事が頭を過ぎりもした。
 指の第一関節までいれると、それから手を開いてお尻を支える。
 あまり入れすぎないように気をつけながら添えた手で和泉を前後させていった。

「お尻気持ち良い、おまんこも先生ので擦れて。水着、いらんかったかも。んぅ、先生ちゅう」
「ちょっとまずい。可愛すぎて、恋人にしたくなる」
「あかんて、私はセックスフレンドのまま。恋人になったら、絶対先生が一番になってまう。先生のお嫁さんが夢になってまう」

 もう我慢出来ないと、窒息させる程にキスしてやろうとして邪魔が入った。
 ピピピッと電子音を奏でる携帯電話であった。
 デスクの上に放り出してあったハンドバッグの中、むつきの携帯電話である。
 吐息を乱し切なそうに喘ぐ和泉を放っておけないが、緊急連絡だったら。
 ちくしょうと、迷いに迷いながら手を伸ばしてハンドバッグを弄る。
 その間にでも切れてしまえと少しばかり願いつつ、掴みとってしまった。

「先生、キス。電話なんかええやん、うちとちゅう」
「和泉すまん。後で一杯可愛がってやるから」

 瞳を潤ませ懇願されたが、断腸の思いで受話ボタンを押した。

「乙姫先生」

 そして向こう側から掛けられた死を連想させる極寒の声に心臓が止まりかけた。
 声だけで心臓を掴み取られ凍らされそうな、氷の女王の呟きであった。
 和泉を愛おしいと思った気持ちも、股間に集った血の気も失い。
 一物が和泉の割れ目を離れて、へなへなとしおれていきさえした。

「はっはは……その声は、葛葉先生?」
「ええ、お久しぶりという程でもありませんが」

 一言一言、それこぞ一字一句口にするたびに、凍った心臓が殴られたようだ。
 殆ど挨拶ぐらいしか交わしていないのに、急速に記憶を掘り下げられていった。
 用件は一つ、麻帆良祭でのあの件しかないと。
 手がカタカタと震え、意図せず和泉を愛撫する形となってしまう。
 バイブも顔負けの高速震動で、姿勢制御もままならず和泉が倒れこんできた。
 しかもあろうことか、むつきが耳にする携帯電話のそばで喘ぎ声をあげた。

「先、ぁっ気持ちええ。もっと、んぁ。ぁぅんぁ」
「ちょっと待て、今本当に不味い」

 咄嗟に遠ざけたが、それは時既に遅く。

「昼間から、お盛んなようで結構ですね。ええ、別になんとも思っていません。合コン、あれ以来全く全然音沙汰無しであろうと。あまつさえ、貴方の姉が結婚を前提に神多羅木先生と付き合おうとぉッ!」

 極寒ブリザードも顔負けの女の叫びに、もはや一物は役立たずだ。
 耳元を放してもミシミシと聞こえてくる謎の音は何だが知りたくはなかった。
 なかったが、彼女が全力で携帯電話を握り締めている事は容易に想像がついた。
 すっかり忘れてましたなどと言えば、きっとむつきの命はないだろう。

「なっ、なにを仰るうさぎさん。いや、もう葛葉先生のご期待に応えようと、年下の可愛い男を取り揃えている最中でして」
「期待など、私は貴方に頼まれて仕方なく。この電話も、うっかりすっぽかしてはと念の為に。そこをお待ちがえなく!」

 もうこの人めんどくさいと、夫が逃げた理由がなんとなく分かった気もした。
 だが己の安全の為に、あまり先延ばしもと急いで返答をする。

「分かっています、分かっていますとも。本当に無理を言って、そうですよね。葛葉先生もお仕事がありますし。えっと、七月、七月の終業式直後は何かと忙しいですし三日あけて二十八日辺りはどうでしょうか?」
「七月二十八日ですね、分かりました。全ての障害は排除しておきます。物理的に」
「物、詳細は遅くとも今週中にメールいたしますので。葛葉先生も良い子をお願いします」
「ええ、それでは。こちらも綺麗な方を取り揃えておきます。とても綺麗な」

 とてもおどろおどろしい声を最後に、ブチリと命の綱が切れたような音と共に電話が切れた。
 ああ、これは自分より下のレベルの子しか絶対に連れてこないなと思った。
 だが元より葛葉のレベルが無茶苦茶高いし、別にむつきは女の子を狙うつもりもない。
 頼むぞ戦士たちよと、大学以来音信不通気味のダチを思い出し心で敬礼する。
 年上好きのみならず、人妻好きなアレな奴らまで心の電話帳を検索していく。

「先生、先生。もう、んっ」

 すっかり恐怖に縛られ、葛の葉の望み通り合コンのセッティングのみを考えていた。
 当然ながらそれに不満を持った和泉が、キスで無理矢理意識を奪い取った。
 凍りついたむつきの心を唇を通した愛情で癒し溶かしていってくれる。
 動きがぎこちなかったむつきも、携帯電話をデスクに放り出し和泉を抱きしめた。
 かつてアキラにそうされたように、温もりを求めて抱きしめていった。
 ただし心こそ癒されたものの、まだ気分は高揚とまではいかない。

「和泉悪い。と言うか、すまん。ちょっと気分が萎えちまって。あの人、本当に必死すぎる。姉ちゃんの幸せばっかで、約束忘れてた俺も悪いけど」

 少し和泉にどいてもらい、へなへなと脱力する一物をぷらぷらさせる。

「仕方あらへんな。先生を奮い立たせるのもセックスフレンドの役目やて」

 そう呟いた和泉が、場所を変えて座り込んだ。
 むつきの目の前、デスクの上にお尻を置いてかかとを縁に、M字開脚であった。
 何を思ったのか、そのまま手を股座部分へと進ませる。
 公開オナニーとでもむつきは当初思ったが、和泉は何かを探すように水着を弄っていた。
 そしてプチっと聞こえた小さな音。
 旧式スクール水着の股座部分がはらりと二分され、和泉の可愛いパイパンがお披露目である。
 のみならず、例の食べ頃矢印がむつきの前に現れた。

「消してなかったのかよ」
「うちは更衣室使う理由なかったし。先生、上の肩紐は先生が脱がしてや」
「お、おう」

 なんだか主導権を握られてしまったが、肩紐をずらし可愛い胸が見えるまで水着をズリ下げた。
 水着を半分脱がされた少女が、目の前でM字開脚している。
 食べ頃矢印を見るまでもなく、食べてとばかりに和泉が両手をむつきに差し出していた。
 ふるふる震える小さな胸も、小瀬に進められて開発中のお尻の穴も丸見えである。
 特に性器から流れる愛液がお尻まで滴り、卑猥な事この上ない。

「先生、うちの穴。お好きな方を食べてええよ。でもお尻はまださきっぽだけな」

 閉じた性器とその下の窄まりを、両手で同時に開いてのお誘いだ。

「くっ、なんでエッチな。和泉、セックスしたい。お前と、だけど」
「恋人やないからなんて、おめこ我慢する先生好きやよ。でも、こっちなら。処女膜あらへんし、先生召し上がれ。食べ頃矢印、こっちの間違い」

 恋人ではないけれど、望んでいるからとの免罪符付きだ。

「和泉、くそ。教師だけど、お前の夢に嫉妬しちまった。なんで俺が一番じゃないんだ。なんでもっとはやく、お前を俺のものにしておかなかったんだ」

 和泉がお腹のお肉を少し集めて、食べ頃の矢印の向きをお尻へと向ける。
 心底悔やみ、歯を食い縛るむつきを見て、和泉もまたぞくぞくと言いえぬ快感に染まっていた。
 悔し涙さえ流しそうなむつきに、愛されてると実感できる。
 他の誰かに見られればただの性欲だとばっさりかもしれないが、今はそれで良い。
 むつきが言った通り、和泉にとっての一番はお医者になる事なのだ。
 高尚な愛やら恋やらは二の次で、今は求め合う事ができればそれだけで十分。
 気持ち良く可愛がってもらえる、しかも乱暴される心配がないとすれば後は受け入れるだけであった。
 一度は絶対零度で縮こまったむつきの一物も、和泉の誘惑の前に雄々しく立っている。
 椅子からも立ち上がり、矛先が向いたのはお尻の方だ。

「和泉、入れるぞ。お前のお尻の処女を貰う。悔しいが先っぽだけでも」

 さすがに恥ずかしさはあるようで、和泉は無言で頷き、お尻の穴を両手で広げる。
 窄まりに先端を添えられるとビクッと震えたが、ゆっくりと広げられ始めた。

「ぁっ、広げ。くぁはっ、先生もっとゆっくり。息できぁっ」
「分かってる、ゆっくり。これが和泉の尻穴、最高だ、最高のセックスフレンドだ」
「嬉しいよ、先生。もっとぉ、奥。あかん、亀頭で一杯ぁぅ、はっ」

 亀頭部分で尻穴を拡張され、カリ部分で再び窄まったのがまずかった。
 一度ふっと気を抜いたせいで、それ以上は拡張できなくなってしまう。
 抜こうにもまた亀頭の分だけは拡張しなければならないのだが。
 しばらくは無理そうだと、後ろ手に天井を見上げ喘ぐ和泉の上に顔を持っていく。

「和泉、少しだけカリの谷間の分だけ動くぞ。キス、したいか?」
「して、キス。気を紛らわせんと、お尻。お尻壊れてまう」

 そっと唇を触れさせ、微妙に腰を振って和泉のお尻の穴でセックスをする。
 最初は愛液を潤滑油にしていたが、やがてとろとろと別の液が流れ出す。
 膣もそうだが挿入の為に愛液を分泌するが、いわばコレがお尻の穴から分泌される愛液。
 腸液によって少しずつスムーズに動き出した。
 前後する感覚も少しずつ大きく、しばらく続ければ拡張されて亀頭も抜けそうだ。

「凄く気持ち良いぞ。最高の尻穴だ」
「嬉しいけど、んぁ。ええのかな。うち女子中学生やのに、お尻でぅっ」
「俺が許す、もっとエッチに。和泉、俺だけのセックスフレンド」

 自分で望んだとは言え、セックスフレンドという浅い関係にちょっと妬けたのか。
 出来れば傷つけないよう丁寧に腰をふるむつきと、和泉はしっかりと見詰め合って言った。

「アキラ、ごめん。うち、半分は水泳部のマネになったの先生がいたからかもしれへん」

 セックスフレンドだが、もう少し先まで。
 和泉の小さな我が侭は、むつきの雄を刺激するには十分であった。
 なんて可愛い事をと、むつきもまたその少し先を望み始めた。
 深く挿入しないよう腰をあげ、それでも和泉を抱きしめる為に前傾姿勢に。
 キスをして顔中に下で唾液をまぶし、首筋も、体勢が辛いがふるふるの乳房も。
 全身で和泉を感じながら、お尻の穴を犯し続ける。
 和泉のお尻は壊さないようにされど、自分の腰は壊れてもと振り続けた。
 お尻の愛液で潤いじゅぶじゅぶとおまんこ顔負けの水音を立てながら。

「和泉、そろそろ出る。いいか、中に」
「ええよ、好きなだけ。お尻で受け止めたる」
「出すぞ、和泉のお尻に。来た、和泉、和泉!」
「ぁっ、お尻。壊れッ、びゅくびゅく。壊れ、イグゥ!」

 お尻に中に射精され、初めての中出しに和泉は本当に目の前が真っ白であった。
 クンニや手マンは幾度かあれど、ここまで気持ち良いものかと。
 本来は子作りの為に出すものがお尻の中で暴れまわる。
 こんなの知らないと、全くの未知の感覚に脳がショートでも起こしそうだった。
 むつきも以前小瀬とはしたが、ひかげ荘メンバーである和泉と始めてのアナルセックスだ。
 もう留まるところを知らないとばかりに、精液が迸って止まらない。
 これ絶対、後で和泉のお尻から垂れると思ったら、その分だけ残弾追加であった。
 最後には亀頭で栓をしたはずの尻穴からも、あふれ出し始めていた。

「おいおい、これ。和泉が尻穴で妊娠する程出たぞ」
「お尻、熱い。妊娠、赤ちゃんできてまう」

 すっかり和泉もお尻の虜で、うわ言のように同じような言葉を繰り返している。
 和泉をしっかりデスク上に寝かせ、ずるっと亀頭をお尻から抜いた。
 またビクリと小さく和泉が果て、それ程待つ事もなくさらに奥から溢れてきた。
 子宮がない為、行き先を失って出入り口に戻ってきた精液である。
 体を桃色に火照らせ、はあはあと喘ぎ尻から精液を垂らす姿のなんと美しい事か。
 むつきは少々可哀想に思いつつも、和泉の頬をぺしぺしと叩いて起こした。

「和泉、ちょっとだけ。起きれるか?」
「えっ、もう一回? 疲れたけど、ええよ」

 嬉しいがそうじゃないと、こいつめとキスしながら和泉を改めてデスクに座らせた。
 ふうふうと喘ぎ中の和泉をデスクの縁に。
 だらんと降ろした足も、縁にかかとを引っ掛けさせふたたびM字開脚に。

「ピースした方がええ?」
「いや、実践しようとした俺も俺だが、和泉も大概だな。何度も壊して、小鈴特性のガチガチセキュリティの携帯だから安心しとけ」
「だと思ったん。先生がそんな危ない事、うちらにさせるわけもあらへんし」

 だったら遠慮なくと、精液が垂れるお尻を見せながら和泉が両手でピースした。
 そこをむつきが携帯の写真機能で激写し、完成ではない。
 最近は色んな機能がある為、プリクラのように文字を書く事も。
 椅子に座ってデスクの上の和泉を膝上に座りなおさせ、イチャイチャと。
 携帯電話上で卑猥な姿をさらす和泉の上に、お尻の処女喪失記念と。
 書いたのはむつきだが、和泉もハートマークで囲ってくれ次のようにも書いてくれた。

「先生、大好きっと」

 こいつと頬にキスし、和泉も返してくれたが、次の瞬間また心が凍りつきそうになった。

「部活中はセックス禁止!」

 ガンッと監督室の扉が外から殴られ、二人して椅子から転げ落ちる。
 なんとかむつきは和泉の下敷きになる形に出来たが、不安を互いに埋めあうようにしっかり抱きあった。
 ドキドキ、心臓が壊れそうな程に音を立てていたが、後からその声が誰か理解し安堵もしていた。

「なんてね。これも来年の為だって、先を見据えた振りして三十分ぐらいアキラに任せてきた。開けてよ、私もセックスに混ぜて」

 何故セックス中とわかったのか、早く早くと急かしていた。

「小瀬か、心臓が止まるかと。てか、俺達の台詞じゃないが泳げよ、水泳部員」
「先輩、寂しなったん? またうちが癒したるわ」

 こらこらと止める間もなく、和泉が鍵を開けて小瀬を招き入れてしまう。
 夏休みのスケジュールも詰める必要があるのだが、まずは小瀬の尻穴に一物を詰める方が先になりそうであった。









-後書き-
ども、えなりんです。

最近セックスフレンド爆心中の亜子回。
なんかもう、亜子の位置づけが不明。
一応清楚キャラのはずが、一番セックス好きかもしれないw
まあ、亜子集中回もそろそろ終わりです。
もう二話程、別の子の回をしてから終業式です。

それから、長い長い夏休みの突入です。
それでは次回は水曜です。



[36639] 第四十八話 ベッドの中で貴方と私、しっぽりがお好み?
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/06/26 21:54

第四十八話 ベッドの中で貴方と私、しっぽりがお好み?

 月曜を明日に控え、ひかげ荘ではメンバーが日曜最後のご飯を食べていた。
 帰寮せねばならないので六時開始で七時半に解散である。
 今日も四葉が試作品を含めた手料理を披露してくれ、食堂は大賑わいであった。
 食事の内容は夏バテ回避用のメニューで冷麦であった。
 ただし四葉を侮る事なかれ、おつゆの種類が多く色々と楽しめる方式だ。
 さながら焼肉屋でたれが色々と用意されているがごとく。
 だしと醤油ベースの通常版から、さっぱり塩とポン酢風味、他に韓国風ピリ辛つゆ等々。
 賑やかな食事風景の中で、四葉が一人足りないとばかりに周囲を見渡し呟いた。

「あの、エヴァンジェリンさんはご飯を召し上がらないのでしょうか?」
「まだここのルールに慣れてないし、六時から確か対局があるとか何とか言ってなかった? お握りとか、そういうのなら食べるんじゃない」
「と言うか、朝倉さん。ひかげ荘で久しぶりに会ったような」
「こいつ、未だに先生から逃げ回ってるからな。朝倉、先生は寝取りゃしねえよ。ありゃ、麻帆良最強の馬鹿の妄言だ」

 四葉の問いかけに答えたのは朝倉だが、葉加瀬や長谷川に突っ込まれた。
 若干顔が引きつっており、マクダウェルに言える程には彼女も慣れていないのだ。
 皆がいる場所ではむつきと一緒で平気だが、少しでも身の危険を感じると逃げ出していく。

「実際、迂闊にもセックスアピールをして襲った振りで叱られた長谷川さんのお言葉は重いですわ。普通の殿方なら、頂かれてしまってますわ」
「反省したって言ったろ。問題はさ、竜宮城に来てんのに自分をさらけ出さず逃げてる朝倉だ。正直、止めて欲しい。襲われたら言え、裁定してやるよ」
「そう言えば、そう言う理由で当初はいましたね。朝倉さん、その時は私も先生を断罪するのにご協力いたしますわ」
「えっ、あんたら先生にラブラブじゃ。本当にわけわかんない。油断してるとこの寮、何処からともなく喘ぎ声が聞こえてくるし」

 朝倉が一番恐れているのは、襲われる事よりも心変わりする事だろう。
 むつきと彼氏を比べ、イケメン度では乙女フィルターを抜きにしても彼氏の圧勝だ。
 だが、一人の男として自分の彼氏がこんなハーレムを築けるか。
 もちろん答えはノーである。
 さらに言えば朝倉が知りうる男の誰も、こんなハーレムを築けるとは思わない。
 だからこそ、その見知らぬ何かを思うと、寝取られそうで、断りきれなかった時が怖いのである。
 その本人を前にすると、とてもそんな事がありえないとは思うのだが。

「ええやん、朝倉のペースで慣れてけば。本当の自分を探すも探さないも自由。あんまガチガチにさらけ出せってのもうちは違うと思うやんね」
「何だかんだで、穴と言う穴を先生に晒した和泉に言われても。それもあるけど、最近さ。なんかこの建物いない? こう、幽霊的な。先生、ここって昔女子寮……」

 和泉がアナルセックスをした事は当然、周知の事実であった。
 むしろ率先して気持ちよかったと本人が明かし、生唾飲み込んだ者が多数。
 主にむつきのお嫁さん候補達であったが、その張本人はというと。
 朝倉の言葉が途中で止まってしまうような事態となっていた。

「アキラ、ほらこのつゆ美味しいぞ。あーん……アキラさん、あーん」
「ぷいっ」
「アキラがいらないなら、ぱく」

 今にも平伏しそうな卑屈さで、アキラの気を引こうと必死であった。
 つゆを絡めた冷麦を食べさせようとして、可愛い声と共にそっぽを向かれてしまう。
 たかが三十分とは言え、キャプテン代行で大わらわであったのだ。
 助けて欲しい時に、むつきは和泉や小瀬と監督室でハッスル中。
 妬く妬かない以前に彼氏としてそれは駄目だと、珍しくアキラが拗ねていた。
 美砂は相変わらずマイペースに、トンビの如くむつきが差し出した冷麦にぱくついていたが。

「今回ばかりは親愛的が一方的に悪いネ。長谷川サンの手を借りるまでもないヨ」
「午前中に抜け駆けしてしまったのでノーコメントです。私の一存で、のどかとのデートも決定してしまいましたし」

 多少申し訳無さそうに夕映が言うと、誰も今更気になどしてさえいなかった。

「おう、それそれ。今度は宮崎か、一途そうだし。何かきっかけがあればバケるぞ。先生がうかつにも手を出して恋人にするに一票」
「いえ、彼女の慎ましさがあればきっと夕映さんと先生の関係にも気付いて身を引くはず。セックスフレンドに一票ですわ」
「私は乙女、なので会話に加わります。えっと、理論、理論が。しかし、私が勘などとあやふやな。うぅ、委員長さんに倣いセックスフレンドで。科学力が低い場合は高い人の模倣からです」
「おお、葉加瀬さんが乙女の会話に加わるなど大躍進です。というか、純粋無垢なのどかをこんな淫猥空間に引きずりこませませんよ」

 長谷川が賭けのような事を言い出し、雪広やまさかの葉加瀬までもがのった。
 掛け金を言い出さないのは、どうなるかという結果のみを論じているからだろう。
 ただ聞く人が聞けば、何処が乙女の会話かと突っ込まれるかもしれない。
 特に雪広の、身を引いたのにセックスフレンドとなる辺りが。

「機嫌直してくれ、アキラ。お願いだから、ぐす。もう、小瀬とはしないから」
「また泣く、先生最近泣き過ぎじゃねえ。大河内、もう少しお灸すえとけ。泣くのもそうだけど、最近マジで先生セックスし過ぎ。アナルもしたそうだし、性病とか大丈夫か?」
「確かに、夏休み中に一度、身体チェックを受けさせた方が」
「ああ、そこは大丈夫よ。親愛的はもちろん、皆の日々の身体データは私が責任を持って管理してるネ。四月から皆のスリーサイズの変化も一目瞭然」

 意外、という事は全然なく、小鈴がこっそりしていた方が普通に思えるから不思議だ。
 しかもスリーサイズの変化までとは、ありがたい事この上ない。
 皆が一斉に身を乗り出して食堂に空中投影された皆のサイズデータに食い入った。
 そして得に美砂やアキラのサイズ変化、胸のふくらみ強化、腰のくびれ強化、お尻の安産型への変化。
 今にも素晴らしいと叫び出しそうな程に、むしろ羨ましいと唇を噛んだ。

「うちも子宮に中だしされたら、おっぱいもう少し大きくなるかな」
「そんな和泉サンには超包子特性のピルを進呈ネ。さすがに胸が大きくなる前にお腹が大きくなったら困るヨ」

 これも雪広からの負担の不可分散か、むしろ小鈴への一極集中なのか。
 あまり不思議に思ってこなかったが。
 最近ひかげ荘内が妙に涼しく過ごしやすいのも、何かしているのだろう。
 全員の部屋の配置を確認した日、結局地下の研究室は一階しか見なかった。
 それより下に一体何があるのか。
 自衛隊ぐらいなら返り討ちにできる戦力的なものがあっても驚きはしない。
 むつきは何してんだと怒った後に、ちょっと心が折れるかもしれないが。

「アキラ、ちょっとだけ。ちょっとだけで良いからこっちむいてくれ」
「べーっ」
「おうふっ」

 そのむつきはやっと振り向いて貰えたかと思いきや、あっかんべーで止めを刺された。
 成人男性として、それはどうかという気もするが。
 食卓テーブルに頭を打ちつけて、しくしくと泣き始める。
 ちょっとやり過ぎたかなとアキラが手を伸ばすも、美砂に止められ唇に人差し指を当てられた。
 普段通りの態度ではあったが、美砂も部活中で少しは腹立たしかったようだ。

「なんだろう、こんな先生に恐れを抱いて逃げ回ってた私が馬鹿みたい。これ、襲われても口喧嘩で勝てるんじゃないの?」
「その時、パニクッてなけりゃな。押し倒された時、マジで焦ったぞ。思わず、口でするから許してってドラマでレイプ寸前の女優みたいな台詞口走っちまった」
「ですね。私も最初に先生に体をさらした時は、色々とパニックでしたし」
「おつゆ、薄まってしまった方はお代わりありますよ」

 唐突な四葉の話題変換だったが、誰一人として文句を言うものはいなかった。
 むしろ泣き崩れるむつきを放り出して、お代わりと全員がお椀を差し出した。









 結局、偶には良い薬だとアキラも美砂も許してはくれなかった。
 長谷川にさえ肩に手を置かれ、久々に一人で枕を濡らせといわれる始末。
 現在時刻は九時を回っており、本当ならむつきも寮に帰っている時間帯である。
 ただそんな気力も今はなく、管理人室手前の廊下、縁側にて一人飲んでいた。
 ぐずぐず鼻を鳴らしながら、月見酒とばかりに満月を見上げながら。
 網戸の向こうからは虫がりんりんと鳴く声が聞こえ、月夜の光で暗い空を流れる雲もしっかりと見える。
 だがそんな風流を感じる余裕もなく、むつきは飲みに飲んでいた。
 彼の周りに転がるビール缶は一つや二つでなく、五つは超えている。

「アキラ……ごべん、アキラ。寂しいよ、美砂。小鈴、夕映」

 女々しい、どこまでも惨めに泣きながら、かつての自分のように泣いた。
 今でこそ落ち込めば直ぐに誰かが慰めてくれたが、以前は、特に大学時代に彼女と別れた時もこんな感じであった。
 一つ違うのは女の子の名前を呼ぶ代わりに、自分以外の全てが悪いと悪態つくぐらいか。
 今もお嫁さん達の名を呼びながら缶ビールをあおるが、そのビールさえむつきを見限ったように零れ落ちてはこない。

「あっ、ビールもうない」

 吐くまで飲みたい、そんな気持ちと共に腰を上げようとして横から冷えた缶ビールが差し出された。
 月明かりに煌く緑髪は、放熱の為の機関だかなんだかと説明を受けたような。
 月と似たような、冷たい表情の絡繰が缶ビールを差し出してきていた。

「どうぞ、新しく冷蔵庫の中から。補充もしておきましたので心置きなく。おつまみの追加ですが、リクエストはありますか?」
「あのね、ガツンと一発頭に響くぐらいのキツイの」
「では、失礼をします」

 隕石でも頭に落ちたかのような、確かにキツイ一発が落とされた。
 目の前が一瞬で真っ暗に、廊下を凹ませる程に打ち付けられハッと我に返った。
 くわんくわんと揺れる頭を振りながら、何故ここに絡繰がいるのか。
 というか、おつまみを頼んで何故に殴られなければいかないのだろうか。

「絡繰君、説明を求む」
「頭に響くキツイ一発と仰られましたので。違いましたか?」
「うん、お前まだデータ吹っ飛んだ影響残ってんのな」

 女将のような和服姿で立つ彼女は、小首をかしげる事なく直立不動であった。
 まだ少し女の子らしくないが、元々そこまで超や葉加瀬が求めていないのか。
 むつきとしては、どうせなら無駄に高性能よりも可愛くにっこり笑ってくれた方が嬉しい。
 さすがにはわわとドジっ娘ロボット化されても困るが、無表情は女の子として致命的だ。
 ロボットとは言え、女の子、女の子なら可愛く笑ってくれる方が良い。

「痛って、それでなんでこんな時間まで? 明日学校なんだから、帰って寝なさい」
「帰っていますが? マスターは最近、ひかげ荘をねぐらとされていますので。もはや、この建物が生活拠点かと」
「初めて聞いたよ。寮に帰れよ、あの碁馬鹿。あいつ部屋割り当ててないよな。どこで?」
「遊戯室か、もしくは大河内さんの部屋です。後者は特にヌイグルミが一杯なので、こっそり自作の人形を追加したりも。あと、マスターは寮生ではなく別途自宅通いです」

 ヌイグルミに囲まれて眠る姿は、それはもうアキラよりもお似合いであろう。
 アキラというキーワードでちょっぴり涙が滲んだが。
 自宅通いというのも今この場で初めて知った。
 留学生なので色々と生活の常識の違いなどで難しいのかもしれない。
 しかし、ひかげ荘に常駐して囲碁仲間を増やそうとしたりする事もある。
 実は意外と仲間に入りたいが、あの口調もあり溶け込めず、けれどといったところか。
 これでは帰れと言いづらく、ううむと腕を組んで唸っているとそのマクダウェルが現れた。
 手に持った何かを振り回すように、妙にご機嫌な様子でだ。

「はーっはっは、勝った勝った。ざまあみろ、なにがプロ棋士だ。ねっと碁の最強アマなど敵ではないと、公の場に姿を現さない臆病者だと豪語したくせに。sai@kaoraの方がよっぽど強い碁敵だ。奴とさよだけはsaiを名乗るのを許してやる!」

 sai@kaoraとは、初戦こそ勝利をもぎ取ったが、それから何度か対局し一進一退。
 マクダウェルがネット碁会で名声を得る度に、最強のライバルとsai@kaoraの名もあがっていた。
 むしろ同じsaiの名を冠するユーザ同士が最強ライバルともはや話題に事欠かない存在ですらあった。
 彼女のネット碁ライフはまさに最高潮、とどまるところをしらないのだ。
 無茶苦茶上機嫌で大笑いしながら、むつきの想像を木っ端微塵に吹き飛ばす程に。
 思い起こしてみれば授業サボタージュの常習犯で、好きな部活だけは参加するちゃっかりさん。
 そんな繊細な奴かと、力になってあげようと思った自分がなさけない。
 本当、ふりっふりの白ゴス姿が良く似合うくせに性格のなんと悪い事か。

「おい、乙姫。今日は良い月夜だな。勝利の美酒に最高の酒を持ってきてやったから飲むぞ」
「飲むぞ、じゃない。この不良娘が。お前、そんなんじゃ背が伸びないぞ、この野郎」
「あっ、こら返せ!」
「良い子はさっさとねんねしなさい。お友達も待ってるから、ほら」

 格好と不釣合いなワインの瓶を取り上げ、首根っこを掴んでアキラの部屋に放り込んだ。
 お友達とはもちろん、アキラの所有するヌイグルミたちである。
 そこまではちょっとの怒りのまま行動できたのだが、アキラの部屋を覗いたのが悪かった。
 アキラの匂い、見慣れたヌイグルミたち。
 部屋にある一つ一つがアキラを思い出させる思い出の数々で胸が切なくなる。
 ちくしょうと呟きとぼとぼと、管理人室前にまで戻りどっかり胡坐をかいて座った。

「あ、あの乙姫先生」
「絡繰、お前もそろそろ休め。できれば興奮中のちみっ子が起きて来ないように寝るまで手を繋いでやってくれ。添い寝でも良いから」

 おろおろとその場を動かない絡繰に、頼むから一人にしてお願いと懇願する。
 それで最後に一品だけと彼女も引かず、おつまみをつくりに食堂へ行こうとしたのだが。
 冷たくしたのにごめんとその背に視線で謝っていると、すっと襖が開いた。
 隣のアキラの部屋であり、まだ寝ないかと注意しに立ち上がりかけ、止まった。

「え?」

 見間違いか、それとも目の前のアレは幽霊かと何度か目元を擦った。
 それでもそれは消えず、妖しい微笑と共にむつきを見つめている。
 マクダウェルとは似ても似つかない、大人びた姿のブロンド美人、あとかなり巨乳。
 胸元や長い足を強調した薄手の濃い紫色のナイトドレス姿で歩いてくる。
 百歩譲ってマクダウェルが大きく成長したらこうなるのではというような人だ。
 一体何故、どこからそもそもマクダウェルはどこにいった。
 混乱のうちにその彼女が目の前にやってきて、そっとむつきの顎に指を添え振り向かせた。

「満月が素敵な夜ですわね、ジェントルマン。ご一緒してもよろしいかしら?」
「ちょ、ちょっと待って。貴方は、マクダウェルに良く似て。まさか親族の?」
「アタナシア、そう呼んでくださいますか。エヴァの姉です、囲碁。あっ、違った。以後お見知りおきを。日本の素敵な侍ボーイ」
「ボーイって子供扱い。ああ、まずい。心の隙間に入られる。年上のお姉さんタイプはあかんのやて。でも胸が、おっぱいが胸に。良い匂いが、フローラルな匂いが!」

 止めてスキンシップはと和泉の口調が移り、アキラにつれなくされた恐怖が蘇る。
 その一方で寂しい一人寝の夜を色々な意味で癒してくれそうなナイスバディが。
 浴衣の中にすべすべの手がはいりこみ、這いずり回っては浴衣を着崩させ。
 匂いを嗅がれるようにすーっと深呼吸されては、微笑まれて頬にキスされ舌でべっとりと舐められる。
 理性が振り切れる一歩手前で、縦にするようにワインの瓶を掲げられたのは奇跡だ。
 性欲よりも愛が勝った、こんな美女を相手に美砂達を選ぶこの勇気、勇者だと自画自賛した。

「の、飲みましょうアタナシアさん。マクダウェルが、美味しいワインだとか。ご一緒させていただきますので。本当に一緒に飲むだけでお願いします」
「くっくっく、可愛いものだな」

 悪戯っぽい笑みを浮かべているとも思わず、むつきはワインを盾にぎゅっと瞳を閉じていた。
 だからアタナシアと絡繰の次のやり取りには全く気付かなかった。

「マスター、満月と言えどあまり魔力を」
「煩い、良いからお前は魔力が増えるつまみを作ってこい。ガツンと一発、頭に響くような」
「では失礼して、ふんっ!」
「痛ッ、何をする茶々丸。反抗期か!」

 むつきと同じ命令をして、同じ仕打ちを受けてはアタナシアが飛び掛った。
 どたばたと美女が絡繰とプロレスする現場を、運が良いのか悪いのか見逃していた。
 そして瞳を開けた時には、少々髪を振り乱し、ナイトドレスも一部が捲くれパンツ丸出しであった。
 局部を隠すだけのセクシーなマイクロショーツで、後ろはほぼTバックである。
 だがむつきからは丸見えだが、アタナシアは何故か肩で息をして気付いていない。
 どうする、どうすれば紳士だと頭をフル回転させ、気付かれないよう直す事に決めた。
 お願い振り返らないでと必死に願い、ナイトドレスにぱっと触れ直し、ぱっと手を引く。
 どうやら上手くいったようで、口笛の一つでも吹いて誤魔化そうとし振り返られた。

「あら、侍ボーイは紳士ですのね。お恥ずかしい所を。お礼ですわ」

 しっかりバレていたようだが、気に入られたようで突然のマウストゥーマウスであった。
 先程、自画自賛した勇気の二文字に、ピシリと亀裂が走る音を聞いた気がした。

「さあ、この素敵な夜を二人きりで、満月とワインでしっとり楽しみましょう。それとも、ベッドの中で貴方と私、しっぽりがお好み?」
「し、しっぽ……くっ、ぁ。じ、じゃなくて、しっとりで」

 今にも内臓がねじ切れそうな程に苦しみながらの選択であった。
 一つ彼女が微笑むたびに、既に勃起状態のそれと欲望を隠すのに精一杯である。
 ぜえぜえと呼吸は乱れ、脂汗も額ににじんでいると言うのに。
 こちらの気も知らないでアタナシアは、腕を組んでは自慢の胸を押し付けてきた。
 その豊満すぎる胸に、腕どころか乙姫むつきという存在そのものが沈み込みそうだ。

「こ、この座布団にお座りください。僕はこっちで」

 せめて離れてと座布団を三メートルぐらい、宮崎級に離したが逆効果であった。
 むしろ不自然すぎて彼女がきょとんとし、くすくす笑われもはや赤面状態。

「初心なのね、侍ボーイ。いえ、坊や。怖がらなくていいのよ。お姉さんが優しくしてあげる。さあ、こっちを向いてお口を開けて。大人のワインの飲み方を教えてあげる」

 もはやむつきはされるがままであり、幼い子供が食事を貰う時のように口を開けた。
 そこへ親指一本でコルクを抜いたアタナシアが、豪快にワインをラッパ飲みする。
 口から溢れたワインを拭いもせずに、唇から顎先、喉を伝って胸のふくらみでワインの皮が二手にわかれた。
 口を開けながらそれを見たむつきは器用に生唾を飲み込んだ。
 直後、狙ったかのようなタイミングでアタナシアがむつきの唇を奪った。
 彼女の唾液交じりのワインが流し込まれ、必死に飲むがそれも追いつかない。
 互いの唇の端から流れ落ち、首を伝って流れ落ちていく。

「ぷはぁ、何時もと立場逆だな。大変美味しゅうございました」
「ふふ、まだ終わりじゃなくてよ。坊や、ここに残ってるわ」

 そうアタナシアが指でつっと肌を滑らせ教えたのは、流れ落ちていったワインだ。
 指が滑るのは唇の端から喉、胸のお陰で二股に割れた流れの跡。
 口移しなどまだ序幕、大人のワインの飲み方とはむしろ流れ落ちた方らしい。
 確かに坊や呼ばわりも納得で、美砂達にこんな事をした覚えはない。
 一度だけわかめ酒をワインでしてもらったが、なんだろうエロさの深みが違う。
 その証拠にほぼキスだけで完全勃起してしまい、もはや抗えそうになかった。
 ごめんと心中で恋人達に謝り、アタナシアの唇の端に舌を沿えた。

「ワインの跡が消えるまで、そう何度でも」

 言われた通り、真っ白な肌の上に残る濃い紫色のワインの跡に舌を沿っていく。
 何度も何度も、アタナシアの首筋も鎖骨にできた溜まりはすすり上げ舐め取り。
 自慢の舌使いに喘ぎ一つ漏らさないアタナシアには若干カチンときたが。
 ただ胸に至ってはナイトドレスが邪魔で、どうしようもない。
 ここまでかと諦めかけては見上げた時、挑発的な視線で見つめられてしまった。
 唇だけが動き、声なき声で問われた、そこで終わりなの坊やと。
 これまでのあやすような響きではなく、蔑みと軽蔑を含んだ嘲りのような呼び方。
 実際にアタナシアがそう言ったわけではないが、瞳が確実にそうむつきを蔑んでいた。

「後で弁償します」

 そう断って、むつきは挑発されるままにアタナシアのナイトドレスを引き裂いた。
 セックスアピールの為に可能な限り薄手に作られたそれを破くのは簡単だった。
 ただただ犯す為に、乱暴するように、ナイトドレスを引き裂き胸を露にする。
 巨乳、巨乳だと思っていたアキラを遥かに凌駕する超重量級。
 いかにも重そうに揺れる胸の先端、紫に濡れてすらいない突起へとしゃぶりついた。
 やや強めに吸い付き、舌先で乳首を転がしては甘噛みと刺激の種類を変えては責め上げる。
 だが必死の口撃とは裏腹に、アタナシアは余裕の笑みでむつきを撫でる始末であった。

「ママのおっぱいが恋しいのかしら坊や。いいわ、好きなだけお飲みなさい」
「くそっ!」

 手玉に取られるどころか、相手にもされていないまるで子供扱いだ。
 坊やという呼び名も日本人だから子供っぽく見えるのではない。
 本当に彼女はむつきを坊や扱いして、子供に悪戯する感覚で誘っている。
 悪態つきながら乳首を強めに噛んでは引っ張り、逆の乳首もまた同じであった。
 感じろ、イケと願って愛撫を繰り返すも、むしろアタナシアの瞳は冷めてさえいた。
 不感症であるかのように、詰まらない喜劇でも無理矢理見せられているように。
 ぞくりと恐怖さえその瞳に感じて、愛撫の手は止まり唇から乳首も離れていく。

「ちっ、こんなものか……」
「アタナシアさん?」
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック。大気よ、水よ、白霧となれ。彼の者らに一時の安息を。眠りの霧」
「アタナァ」

 アタナシアの指先に白い光が灯り、弾け飛んでは小さな霧となってむつきに降りかかった。
 その霧は睡眠薬であるかのように、吸い込んだそばから急激な睡魔をむつきに強いた。
 崩れ落ちるようにして、そばにあったビール缶を巻き込んで倒れこんだ。
 カンカンと跳ねる缶が煩く、次の瞬間にはそれが氷の中に閉ざされ止った。

「私とした事が……」
「マスター、おつまみを」
「もう必要ない、いらん」

 乱暴に髪をかき上げては、おつまみを持参した絡繰を退けるように言葉を投げつける。
 いや、むしろ苛立ちを誤魔化すように、お皿を手に持ち流し込むように口に放り込んだ。
 怪しげな美女の姿をかなぐり捨て、改めてラッパ飲みしたワインで全てを押し流す。
 僅かだが満ちる力を実感しながらも、満月による力の増大を感じても何も満たされない。
 この十五年、光の中で生きて、そこで生まれた友を得て親しい者も幾ばくかできた。
 だが結局は、闇の世界でしか生きられない本質は変わらない。
 ネットの海の向こうで嘲ったプロ棋士の言う通りであった。
 幾ら闇の世界で最強だなんだと誇っても、公である光の世界に出られずにいる臆病者。
 現在と過去、六百年も経った今、向こうは無理でもこちらならやりようはあったはずだ。
 近右衛門があれこれ手を尽くしてくれたが、冗談じゃないと全てを拒んできた。

「私とした事が、少し光にあてられたらしい。毎日笑いで満たされ、仲間と今を共有し、偶の休みに愛を育みあう」
「マスター?」
「過去には私の手を引いてくれた者も居た。だが皆、諦める。憎くはない、仕方がない。生に限りのある人間にはそれが限界なんだ」

 両足の膝を引き寄せ、顔を埋めては誰にも見せぬようにして緩んだ涙腺を耐える。

「ナギ、やっぱり私は貴様じゃないと駄目なんだ。規格外の大馬鹿、世界の真理すら馬鹿野郎の一言で殴り倒す貴様でなければ。何故、死んだのだ」

 アタナシアがついに嗚咽をもらし、絡繰はおろおろとするだけでかける言葉もない。
 だが一人だけ、アタナシアの嗚咽に反応する者がいた。
 震えるように腕を動かすだけ、それも僅かに数センチ、だが届いた。

「こいつ!」

 嗚咽を漏らしていたアタナシアの長くて綺麗な金髪の一房を握る事ができた。
 手の中でくにくにと弾力のある艶やかな髪を弄び、さらなる覚醒を促がしていく。
 瞼どころか目玉まで落ちそうな程に睡魔がきついが。
 ぐっと腹に力を込め、腕を体の下に差し込んでは頭を持ち上げ、素早く手放した。
 当然、腕に支えられていたむつきの体は重力に引かれるままに落ちていった。

「はっ?」

 ガンッと思い切り床に額を打ち付け、のろのろと痛みを訴え転がり始める。
 何をしているんだこいつはと、とりあえずアタナシアの嗚咽は止まっていた。
 例えそれが、滑稽なむつきの姿であろうとだ。
 一頻り転がったむつきは、膝を殴っては鞭打ち、時に顔面を自分で殴り立ち上がっていく。
 そんな姿をかつて、アタナシアは見た事があった。
 酸を生み出す魔法で不覚にも腕を焼かれた時、死の恐怖に飲まれながら立ち上がったむつき。
 その時彼はどんな理由で立ち上がったのか、その時自分は彼の生徒であった。
 ならば、今は、何が理由で。

「ようやく分かった。俺、頭悪すぎ。んがっ、マジで眠い。マクダウェルか、俺は!」
「あぁ?」

 暗にちびっ子と言って、少しばかりアタナシアの機嫌を損ねつつ。
 ガンガンと柱に頭をぶつけて眠気を飛ばし、もちろん失敗したが。
 睡魔に痛みが加わり余計に頭がふらふらしていた。

「恋人が死んでやけっぱちの女の子に、性欲だけのほれ感じろ、やれイケってなそっけない愛撫で気持ち良くなって貰えるかってんだ」
「先生、あまりご無理を」
「絡繰、中学生……子供の時間はもう終わりだ。さっさとマクダウェルの添い寝にいけ。これからは大人の時間、俺はアタナシアさんと子作りするから」

 ほら行けと絡繰のお尻を蹴り飛ばそうとして空振りこけた。
 心配そうに駆け寄ろうとした絡繰へと、大丈夫と手を振って兎に角、アキラの部屋に向かわせる。
 それから這ってでもむつきはアタナシアの元へいって、見上げるように彼女を見た。
 涙で潤んだ大きな瞳に、無造作に手櫛を通したせいで髪も乱れ、ちょっとだけ鼻水も出ている。
 絶世の美女、クレオパトラも真っ青の彼女だが、今はちゃんと見えた。

「美女じゃなくて、女の子。見た目よりちょっと小さい女の子が泣いてる。アタナシアさん、俺にもう一度だけチャンスをくれ。ぶっちゃけ、俺にアンタを救う手立てはない」
「貴様、あほか。茶番劇ならガキ共とだけにしろ。チャンスもクソも、さっきのはちょっとした火遊びだ。一夜のちょっとした過ちだ」
「けど、その一夜の過ち。数時間の一夜だけなら、アンタを救える。ナギって男を忘れさせてやれる。俺を信じろ、アタナシア!」
「今まで私を救うと豪語した者はたくさんいた。だがその誰もが失敗した、挫折した。だが貴様はなんだ、最初から挫折して、でも一夜だけならだと」

 アタナシアが耐えられんと噴き出し、けらけらと大笑いを始めた。
 妖艶な美女としてはなく、むつきの言う通り見た目よりちょっと小さな女の子のように。
 お腹を押さえて髪を振り乱し、息が出来んと愛撫しても出なかった喘ぎさえ出た。
 少々、意味が異なるが文字としては同じだ。
 笑いのツボに上手く入ったようで、ひいひいと笑い続けていた。

「確かに、数時間なら貴様程度でもできるかもな。あーっ、笑った。なんというハードルの低さ、志の低さ。ここまで来ると、いっそ清々しい。こういうタイプの馬鹿もいるのか」
「いるんだよ、それが。言っておくが、俺は姉ちゃんを守る為の喧嘩じゃ負けた事は一度もねえ。だけど、その姉ちゃんも自分を守ってくれる男をちゃんと見つけた」
「あー、神多羅木の事か。こっちの住人だが、まあ悪い男ではない。少々間の抜けたのんびり屋の面もあるが。女一人ぐらい、タバコ一本吸う間に助けられる。で?」
「最近、そのお姉ちゃんパワーの向け先がねえんだ。だから、そのパワーでアタナシアを守る。ナギって男との喧嘩にも負けねえ。一夜だけだが、ぶん殴ってでもお前の心の中から追い出してやる」

 やれやれと溜息をつくように、アタナシアは仕方がないなとむつきの額に触れた。
 ぽっと青白い光が灯った瞬間、半ば虚ろだったむつきの瞳に光がもどっていく。
 二重、三重に見えていたアタナシアの顔がはっきりと確認する事さえできた。
 相変わらず打ち付けた頭やその他はジンジンと痛みを訴えていたが、それはそれ。

「あれ、眠気が吹っ飛んだ。愛の力?」
「たわけ」

 デコピン一発で、絡繰がそっと開けた管理人室へと吹き飛ばされた。
 誰かが予め敷いておいてくれた布団の上に転がり込んだ。

「茶々丸、今日はもう休め。これからは大人の時間、だそうだ」
「はい、了解しました。マスター」

 そう微笑んで絡繰を見送り、アタナシアは二人きりになる為に管理人室の襖を閉じた。









-後書き-
ども、えなりんです。

最近セックスのし過ぎで起こられた主人公。
なのに、その日に浮気とか駄目すぎるw
エヴァとの関係は基本こんな感じになります。
まだ未定ですが、もしかすると主人公は一生エヴァ=アタナシアを知らない感じかもです。

しかし、アタナシアの意味を知る人から見たら凄い変なのだろうか。
不死、不死って呼びかけてるみたいなもんだろうし。
意味を知らなければ普通の名前に感じちゃいますけど。

それでは次回は土曜日です。
またも、コメディチックなエロ回です。



[36639] 第四十九話 一緒にアイツを殴りにいこう
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/06/29 20:00

第四十九話 一緒にアイツを殴りにいこう

 不可思議な力で布団まで吹き飛ばされたむつきは、布団の上に叩きつけられた後頭部をおさえていた。
 酔いによる強力な睡魔に抗う為に、散々打ち付けた額や頬もかなり痛い。
 正直、可能なら今直ぐにでも美砂達に泣きついて撫で撫でされたいのだが。
 泣いている女の子を見捨てて駆けつければ、何してんのと怒られかねない。
 というか、そもそもアキラが不満に思ったのも小瀬について何も説明していないからだ。
 明日、朝一は無理かもしれないが、きちんと時間をとって説明しようと心に決める。
 だがその前にと、襖を後ろ手に閉めたアタナシアの下へと立ち上がって向かい、その手をとった。
 その時になって初めて、というわけでもないが、アタナシアのあられもない格好に気付いた。
 歩く度に乳房がたゆんたゆん、ふるんふるんではなくたゆんたゆんと揺れている。
 思わず手を繋がなかった方の手で顔を覆ったが、指の隙間から見てしまった。

「うわっ、ナイトドレス、破ってごめんなさい」
「ふん、構わんドレスの一着や二着。挑発したのはこっちだしな。それよりも、期待して良いんだろな。私の心に住む、ナギの馬鹿に喧嘩で勝つなど。俺は最強だと嘯く赤髪の最強馬鹿だぞ?」

 挑発的な言葉だが、先程までとは違い、多少面白がっている節があった。

「お姉ちゃんパワーを使った俺は無敵だ、任せとけ。てか、雰囲気なんか変わったな。蓮っ葉な感じがげぶっ!」

 何が悪かったのか、そう言った瞬間アタナシアに殴られた。
 もう顔面が陥没するかと思った程に、実際鼻の形がちょっとおかしいがきっと気のせいだ。

「貴様、あれほど日本語は正しくと言いながらよりにもよって蓮っ葉などと。あれは軽い女と同じような、蔑称にも近い表現だぞ!」
「あれ、そうなの? タバコを斜に構えて吸うようなイメージから来た」
「それは駄洒落で作られた俗説だ。ええい、気分が漏り下がる!」
「待って、帰らないで。お願い、謝るから」

 くるりと外へ向かって踵を返され、慌ててむつきはその手を掴み取った。
 なんだかとっても、さきっぽだけとか言いたくなるシチュであったが。
 そんな事をすれば本当に怒らせてしまうのは目に見えている。
 誠心誠意謝って、なんとか踏みとどって貰った。
 それから改めて布団まで誘い、先にむつきが座って胡坐をかいた膝を叩いた。

「もう、貴様の行動には突っ込まんぞ。ほら、座ったぞ。抱きしめろ」
「喜んで、ちょっと体温低めだな。さっきは、そんな事にも気付かなかった」
「低血圧だからな」

 やや体勢を崩し、丸まるように座ったアタナシアのお腹に腕を回す。
 それから肩に顎を乗せて頬を合わせ、小さな事だが気付いた事を呟いた。
 キュッと力を込めて抱きしめると、ふんっとアタナシアがそっぽを向く。
 これは相当な意地っ張りかなと性格の辺りをつけつつ。

「アタナシア、そのナギって奴の事を教えてくれないか?」
「ん、構わんが。貴様とは桁が違うぞ、止めておけ心が折れて泣くのが落ちだ」
「くそっ、マクダウェル情報か。あのちみっ子。良いから、喧嘩に勝つにはまず情報、聞きたいの。アタナシアが惚れた男の話を」
「惚れ、惚れとらんわ!」

 今度は真下から顎を狙われ、手のひらで打ち抜かれた。

「いった、ちょっと待って。今更なにそれ。だって、死に別れた恋人を」
「それは貴様が勝手に勘違いをしただけだ。べ、別に付き合っ、付き合ってなんかない。あ、アイツが付きまとうから仕方なく。その振り向いてやらんことも?」
「アタナシアが付きまとってたのかよ。まだ、やり逃げされたとかの方が。なにこれ、俺勝ち目ねえじゃん。乙女フィルター純度百にどう勝てと?」
「ええい、煩い黙れ。だいたい何時になったら雰囲気作りが始まるんだ」

 誰のせいだよとむつきが言えば、アタナシアは貴様のせいだと喚き。
 数分はそのまま言い合いを続けていただろうか。
 お互いぜえぜえと無駄な汗をかき、互いの体臭に言葉を詰まらせた。
 むつきは当然、フェロモンばりばりの匂いに一物がそそり立ってアタナシアのお尻をつんつんしてしまった。
 アタナシアの方はといえば、悪くないとばかりに鼻をふんと鳴らしている。
 サービスだとばかりに、少しお尻をふって一物で遊んでもくれた。

「えっと、何処まで。ナギってのを好きになって」
「なっとらん!」

 改めて情報を整理しようとしたが、やはりアタナシアは自分の気持ちを認めようとしなかった。
 あれだけ騒いで本当にもう、ここまで意地っ張りはちょっと爺さんを思い出す。
 口にしたら今度こそ鼻を折られるか、顎を砕かれそうなので絶対にしないが。
 ただちょっとばかり、アタナシアの攻略方法を見つけた気がした。
 かなり幼稚な手だが、意外と精神構造が幼稚なので効くかもしれない。
 改めてアタナシアを抱きしめる腕に力を込め、互いの体温を伝え合うように頬を触れさせた。
 少々長い金糸の髪がくすぐったいが、鼻先で掻き分けながら耳元で囁く。

「可愛いよ、アタナシア」
「ふ、ふん。当然だ。軽薄な奴は、私はすかんぞ」

 ピクリと耳をそばだて、それから数秒後に再起動してはそっぽを向かれた。

「アタナシアになんていわれても、構わない。ただ俺は伝えたい」
「だからなんだ。それで私が」
「可愛い、意地っ張りなアタナシアが。素直になれないアタナシアが。心で泣いてるのに必死に噛み付くアタナシアが可愛い」
「いや、別に私はなんとも」

 ただの言葉程度で心底、心変わりさせられるとは、むつきだって思っていない。
 ただ切欠が、ナギを一ミリでも追い出させられる切欠が欲しいのだ。
 純度百の乙女フィルターを破るには、それが必要であった。
 だから繰り返す、元より失敗する公算が大きいのなら突き進むまで。
 良く良く考えてみれば、こんな美女を恐らくは最強の美男子から奪おうというのだ。
 長谷川辺りに知られれば、はっと鼻で笑われ馬鹿じゃねえのと言われるだろう。
 それでも一夜限りでもと約束した以上は、努力するのが礼儀であった。

「低めの体温が気持ち良いアタナシアが、今ちょっと顔が赤くなってるアタナシアが可愛い。ワインを飲ませてくれたエロいアタナシアは、エロ可愛い」
「あれは、ちょっと貴様を」
「戸惑った時のアタナシアが、キュッと目を瞑った、ドキドキしてるアタナシア。他にも一杯、一杯可愛い」
「あの、ぁっ」

 露となっていた乳房の先端、乳首をピンッ弾くと小さく声が漏れた。

「アタナシアは俺の事は好き?」
「き、嫌い」
「うん、俺も大好きだ」
「待て、私は」

 何かを言い募ろうとしたアタナシアの唇に指をあて、やめさせる。
 今、アタナシアに喋らせてはいけない。
 頭の中の情報を整理する為に、喋らせてしまえば元の木阿弥だ。
 むしろむつきがするべきは、さらなる情報の投下。
 アナタシアが否定したい、認めたくない気持ちの情報である。

「今、俺が先制攻撃。まだ殴れてないけど、びっくりしてた。アタナシアの心に俺が少し入ってきて。おわ、てめえここは俺のだこの野郎って凄んできた」
「俺の、勝手に私を置き去りにしたくせに、図々しい。私を弄んだ罪は重いぞ、やれ。私が許す、私の心の中に巣食うナギをぶん殴れ!」
「了解、お姫様」

 ちゅっと頬にキスを落とすと、少し迷ってからアタナシアが振り返ってきた。
 むつきも首を回すようにして唇を重ね合わせる。
 西洋人故か、美砂達よりも若干唾液が多いような、それを吸い上げる。
 こくこくと喉を鳴らして飲むと、アタナシアが足をばたばたし始めた。
 エロい格好の割には意外と初心な所もあるようで、ちょっと笑いそうになった。
 だがそれでもナギにラッシュを叩き込むように、オラオラオラと唾液を吸い上げる。
 そしてちゅぽんと艶かしさとは程遠い擬音が聞こえそうな勢いで唇が離れていく。
 当たり前のように出来た唾液の橋は、アタナシアに見えるように舌で巻き取った。

「ぷはぁ、はぁふぅ……どうだ、あれだけの事をしたんだ。ボコボコにしただろうな」
「十発顔面殴られたけど、一発だけ。真っ赤な髪の毛を殴ってやった」

 どうだと満面の笑みであるむつきに対し、アタナシアは一瞬ぽかんとしていた。

「おい、全然駄目じゃないか。髪の毛って、間一髪でかわされとるだろうが。もっとしっかりしろ。そんなのであの馬鹿に勝てるか。代われ、手本を見せてやる」

 むつきの手を離れ立ち上がったアタナシアが、振り返り様にむつきの胸を蹴った。
 ヤクザキックの要領で、マイクロショーツが眼福な角度で見えたがあまり嬉しくない。
 むしろむつきとしては、かなり嫌な予感がしていた。
 布団に仰向けで寝転がされ、アタナシアが見下すように嗜虐的な笑みを浮かべている。
 つい最近どこかで、姉妹でありながら姿形が似ても似つかないちみっ子が似た様な笑みを浮かべていた事を思い出す。
 その予感は的中し、浴衣の薄い装甲部分を足で思い切り踏まれた。

「あんな奴、こうしてこうやって。それでこうだ!」
「止め、姉妹そっくりな。でもアタナシアさんだと屈辱的なこれが、けどあぁ!」

 器用に足だけで浴衣をまくり上げ、勃起中の一物を素足で直接踏みつけられたのだ。
 足の短い指先までも使って一物を挟み込み、かなり乱暴に扱きあげられた。
 ただマクダウェルの時よりも、怒りその他で愛撫とはとてもいえない。
 苛立ちをそのまま足の裏から伝えられ、快感よりも痛みが勝る。
 超絶美女の仕打ちとはいえ、元よりメンタルが弱いむつきには狂気の沙汰でさえあった。
 アタナシアはちょっと興奮したのか息を乱し赤い顔で楽しそうだが、反面むつきは顔の造詣が崩れるほどしかめていた。

「どうだ、百発ぐらい殴ってきたか!」

 何分経ったろうか、アタナシアが満足しきった所でむつきを見下ろした。

「生言ってすみませんって。謝って、ぐす。許してもらえず、ボコボコにされた」
「しまっ、こいつこういう奴だった!」

 彼女が望んだ答えは、もちろん得られなかった。
 責め苦から解放されるや否や、むつきは布団に伏せぐすぐすと鼻を鳴らし、ちょっと泣いていた。
 このちょっとという部分が、アタナシアに見せた小さな見栄だが通用するはずもなく。
 アタナシアは頭を抱えて、役立たずとお尻をげしっと蹴りつけてくる程だ。

「貴様は一体何をしているんだ。さっさと殴って追い出して来い!」
「だって、ナギを殴りに行ったらこの人を傷つけないでって、アタナシアが飛び込んでくるなんて」
「この私がそんな乙女チックな事をすると思うか!」
「おのれナギ、お前はどれだけアタナシアの心を独占すれば。おっぱい飲めばお前なんか。おっぱい飲めば。アタナシアのおっぱい!」

 チラッチラッと、自分の腕枕からアタナシアを振り返る。
 もう本当にむつきの本気が何処にあるのか、アタナシアは髪をわしわしとかき回す。
 そして深い、深い溜息を一つついて、仕方なく譲歩してやる事にした。
 布団にうつ伏せで足をばたばた駄々っ子するむつきの背中にのし上がった。
 欲した胸をむつきの背中で押し潰し、ふっと吐息を耳にかけて手は下腹部へ。
 勃起か、足コキのどちらかで熱くたぎっている竿を両手で包み込んだ。
 多少萎えていた事もあったので、ぎゅっぎゅと優しく握り摩るように扱きあげた。

(なんであの馬鹿を追い出して貰うはずの私が、逆に奉仕せねば……これ、あの小娘達と同様、嵌ってないよな? ないよな?)

 なんだかやばい所に足を突っ込んだ気もしたが、まだ約束を果たして貰ってない。
 キスと足コキ、ここまでしたんだやり逃げは許さない。
 飴と鞭、鞭が過ぎたから次は飴なんだと、よくわからない言い訳をしつつ囁いた。

「乙姫、私の胸をどうしたい。今回だけだからな??」
「アタナシアのおっぱい!」

 振り返っては抱きつき、そのままごろんと半回転して上下逆となった。
 顔全体が一つのおっぱいに埋もれる事も可能そうな胸に大口をあけてしゃぶりついた。
 乳輪ごと口の中に吸い込み、相応の大きさのある乳首をころころと舌で転がす。

「こら、勝手に吸い付くっ。んぁぅ、別に感じてなんか」
「アタナシア、行くぞ。今度は一緒に再挑戦だ」

 リベンジとばかりに、むつきはアタナシアの胸を必死に愛撫する。
 一方的にイケ、感じろではなく共に、一緒に同じ方向を向いて。
 しゃぶりついた方とは逆の乳房は、もう片方の手で鷲づかみである。
 人差し指と中指の谷間に乳首をセットし、揉みしだくと同時に引っ張ったりも。
 だがアタナシアもむつきの言葉を聞いて、今一度一物を握り締めた。
 自分の胸を搾乳されながら、むつきの一物から搾乳するように扱きあげる。

「アタナシアのおっぱい、最高のおっぱい」
「どれだけ、んぁ。夢中なんだこいつは……あぁ、悪い気はしないが。ちょっと、気持ち良いし。存分に吸って、殴りに行け!」

 言われた通り、限界までアタナシアの乳房に吸い付き、重量感たっぷりのそれを円錐型になるまで吸い上げた。
 それが口元から零れ落ちぶるんぶるんと震える様を眺めつつ、むつきが舌打ちをする。

「くっそ、惜しいとこまで行った。けどガードされた。で、二回殴られた!」
「もどかしい、が。押し返してきているな。次はどうする、何がしたい」

 それならこうだと、むつきがアタナシアのマイクロショーツを引っ張った。
 表面積の少ないそれの隙間にアタナシアが愛撫してくれた一物を差し込んだ。
 僅かに塗れる股下の唇をなぞり、お尻へと擬似的な挿入を果たす。
 二人の性器をぴったりとくっつけるように、マイクロショーツが押さえ込んできた。

「アタナシア、好きだ。俺の気持ちを受け取れ」
「断る、と言いたいが。奴を追い出す為だ、受けてやるから感謝しろ」

 マイクロショーツをひっぱりながら、腰を上下に振ってアタナシアの性器にこすりつける。
 正常位でのほぼセックスなのだが、一応は素股の一種だ。
 お腹や性器まわりの肌をぶつけあい、パンパンと乾いた音を何度も立てる。
 挑発的な言葉の応酬も含め、唇同士で鼓動を伝えながら高めあう。
 滴る汗も互いの肌と肌ですりつぶし、体臭を擦り付け合うように体を擦りあった。
 弾力のある胸もむつきの胸と合わせて押し潰し、乳首同士を擦り合わせた。
 さらに小さく万歳をするようなアタナシアの手にむつきが手を合わせる。
 キスの合間に小さく呼吸してはまたキスを、溺れるほどに繰り返す。

「アタナシア、凄く気持ち良いよ。アタナシアは?」
「べ、別にぁっ。私がこんな、ぁぅ。こんなの」
「十分伝わった、殴りに行くぞ。ナギのあんちくしょうを!」
「行って、あの馬鹿を殴りに。行って!」

 より激しくむつきが腰を振ってはアタナシアのお腹とで拍手を繰り返した。
 アタナシアも言葉では否定気味だが、しっかりと性器から愛液が流れ出している。
 拍手の中に確かな水音も加わり、感じ始めているのは誰の目にも明らかだ。
 恐らくそれを決して認めないのは、彼女自身であろう。

「駄目だ、殴ったけどカウンター喰らった。ドローだ、根性あるなアイツ!」
「私がかつて好……なんでもない。あと一押し、もう少し頑張ってくれ乙姫」
「ああ、後一押しだ」

 ヒートアップして叫び愛撫を繰り返していたむつきが、ふと冷静に一押しと呟いた。
 見下ろすように見つめたアタナシアとも、しっかり瞳があった。
 短いながらも激しい運動でかいた汗が、むつきの頬から顎へ、さらにぽたりとアタナシアの乳首の上に落ちる。
 そのままアタナシアが浮かべた汗と交わり、どちらの汗かもわからぬまま流れ落ちた。
 二人共にソレを見ていたわけではない。
 ないが、瞳を見つめ合わせたまま、何一つ言葉なく察していた。
 お互いに一つに共に殴りに行く為の最高のシチュエーションは整っていた。
 完全に勃起したむつきの一物は、むしろそれで棍棒のように殴れそうなぐらいだ。
 屈辱と言う意味では最高の武器だが、カウンターを喰らったら一撃死だが。
 対するアタナシアもナギへの気持ちが燻りつつも、性器から愛液が止め処なく流れている。
 むつきの愛撫に答え、受け入れる為の準備が終わってしまっていた。
 あとは、先程交じり合った汗のように、男と女、交わりあうだけであった。

「アタナシア、良いか入れるぞ。一緒にアイツを殴りにいこう」
「うん、一緒に乙姫」

 手は繋いだまま、腰だけを器用に使ってむつきは狙いを定めた。
 ちゅくっとアタナシアの割れ目に亀頭を沿え、そっと沈めていった。
 低体温のアタナシアらしい、温めの膣の中を奥へ奥へと。
 豊満な体を持つわりに締め付けは強く、何度か後退を繰り返しては進出する。

「んぁぅ、早く。早く殴りにぁっ」
「思い切り殴る為に、助走中。アタナシアもしっかり準備して」
「乙姫、こう?」

 手を押さえつけられる格好ではなく、アタナシアがむつきの背に手を回した。
 手をひかれるだけではなく、自分の意志で。
 心の中に住まうナギを殴りに行く為に、アタナシアが助走を始めた。
 それを感じて、むつきも残り数センチを一気に貫いていった。

「あぅんっ!」

 ゴチンと奥を突かれ、仰け反りながらアタナシアが喘ぎ声を上げた。

「アタナシア、殴りに行く途中でバテてちゃ駄目だ。ほら立って、行くぞ」
「行くゥっ!」

 ごつん、ごつんと突かれる度にアタナシアが無理とばかりに喘ぐ。
 ストーカー気質の割に、それともだからか。
 あまり経験はなさそうな反応であった。

「待っれ、死ぬぅぁ。馬鹿を殴る前に、私ら死るぅ」
「アタナシアは俺が守るから。絶対奴の前に連れて行く。それで思い切りぶん殴る!」
「乙姫、むつき。置いていかないで、一緒に。連れてって!」
「ああ、一緒にだ。俺は絶対にアタナシアを置いていかない。一緒に行こう」

 時々挿入の角度を変えたりしながらアタナシアを攻め上げ、連れて行く。
 手を繋ぎ、唇を合わせ、胸を擦り、一つに繋がりながら。
 彼女の心のほぼ百パーセントを占める赤毛の憎いあんちきしょうの下へ。
 一体どんな顔なのだろう、どんな性格なのだろう。
 アタナシアとは今日が初対面で当然だが、むつきが知らないアタナシアを一杯知っている。
 赤髪意外に殆どない男に嫉妬の心を燃やし、俺の女だと主張するようにアタナシアの手を引いていった。

「アタナシア、もう直ぐだ。もう直ぐ」
「行く、イクの。馬鹿の下まで持たない、むつき。むつき!」
「だったら走るぞ、アタナシア!」

 アタナシアの両太股を跨ぐようにし、そのまま足を閉じた。
 膣に挿入されながら両足を閉じられたアタナシアはどうなるのか。
 それだけではどうにもならない。
 どうにかなるのは、その状態でむつきに挿入を繰り返された場合だ。

「アタナシア!」

 引き抜いた状態からずるずるずるっと一気に挿入され、その距離だけ擦り上げられた。

「ぁっ、ああぅんぁっ!」

 挿入の長さの分だけ、竿の上っ面の部分でクリトリスを刺激され続けたのだ。
 引き抜くときもそう、ゆっくりと抜いていく為より良くアタナシアにそれを自覚させた。
 割れ目が途切れる恥丘にてぷっくり膨れるクリトリスである。
 それを行きも帰りも強烈に擦られては、本当にナギに辿り着く前に殺されかねない。
 だがむつきは太股をしっかりガードしているし、振りほどけない。
 力ずくでなら可能だが、それではこの思いがけない一夜が無駄になってしまう。

「早く、むつき。急いっでぁ」
「アタナシア、もう直ぐ頑張れ。頑張ッ」
「駄目、届か。ぁぅ、んぁぅっ!」

 諦め失速する、そんなアタナシアが息を吹き返すよう唇を奪う。
 その時、ピッと唇の端に痛みを感じて鉄の味が広がっていった。
 それでもアタナシアは気付いた様子もなく、それこそ血の混じった唾液を飲んだ。
 体ばかりか、体内まで一つになるようにむつきの血液を飲んでいく。
 かなり背徳的な行為に、むつきの背筋に言いようのない快楽が上り詰めていった。

「アタナシア、行くぞ。もう、ナギは目の前だ。拳を握れ、相手を見据えろ」
「ナギ、貴様など大嫌いだ。今この瞬間、瞬間だけはむつきが、むつきの事が!」
「どけ、色男。アタナシアは俺んだ。てめえなんかに、この野郎ォ!」
「あっ、来た。イク、一杯。むつきが、お腹に一杯。ひゃくぅっ!」

 幻なのか、それとも願望が目に見えただけか。
 子宮の奥まで射精の迸りを感じた瞬間、アタナシアは確かに見た。
 己の中に住まう絶対的な存在、恋して止まないナギを、一般人のど素人が殴りつける姿を。
 立派な魔法使いとも称される最強の魔法使いを、スーツ姿のただの教師がだ。

「アタナシア、見たか。殴ってやったぞ。お前は誰にも渡さない。俺の女だ!」
「んくぁっ、はは。ひぅ、ぁっ。射精を止めろ、感じすぎて。笑いが、んぁ」

 アタナシアの中に射精しながらぶるぶると身を震わせ、しっかりと抱きしめて来る。
 温かくも逞しいその腕の中で、かつてない安心感を胸にアタナシアは瞳を閉じた。
 今夜限りの、それこそ数時間で終わってしまう安らぎの時。
 何百年も苦しめられた光とか闇とか、十五年恋したナギも置き去りに。
 乙姫むつきというしがない一般人、ただの教職員の事だけを胸に秘める。

「アタナシア、俺の事は好きか?」
「うん、大好き」

 驚く程にすんなりと出た好意の言葉に驚きつつも、心地良い気だるさと腕の中の温かさに満足してアタナシアは眠った。
 それこそ何年ぶりの事になるのか、心底安らいだ表情を浮かべながら。









 翌朝、アタナシアことマクダウェルはむつきの腕の中で目を覚ました。
 まだ日は低く気温も上がる前で、涼しささえ感じる真夏日よりであった。
 寝ぼけ眼で猫のように丸くなりながら、自分を抱く男の胸に額をぐりぐり押しつける。
 だが昨晩に感じた満たされた気持ちは薄く、幸福感とまではいえない。
 何度か試しつつ、やがてある事に気付いて腕を掻い潜って抜け出し胡坐をかいて座った。
 身体と同じく、ナイトドレス改め、ちょっと破れているネグリジェの身だしなみを調える。
 そしてむつきを見下ろしつつぼりぼりと頭を掻きながら、やれやれと呟いた。

「たった一夜の魔法、数時間だけの。解けたかそれとも、夏の夜に浮かされたか」

 心の中でむつきとナギを天秤にかけてみたら、見事に壊れた。
 ナギが地面に陥没して、むつきがどっかに吹き飛んで行った。
 あの最強の魔法使いを殴り倒した勇姿は、一体なんであったのか。
 だらしないぞ、こいつめと鼻先をかるくデコピンしてやった。

「んぅ、アタナシア?」
「昨晩はお楽しみだったな、乙姫」
「くぁ、頭痛ぇ。お前、マクダウェル。姉ちゃんが会いに来てたからって、普通男と同衾してる布団に潜り込んでくるなよ。もう十四だろ、気を利かせ……アタナシア?」
「姉なら、早朝に帰ったよ。素敵な一夜をありがとう、侍ボーイだとさ」

 一応坊やは卒業できたようだが、アタナシアにとってまだ侍ボーイらしい。
 精一杯真似たであろうが、全く色気が足りないマクダウェルの頭をごしごし撫でる。
 止めろ鬱陶しいといわれるかと思ったが、意外と反発はなかった。

「マクダウェル、出来れば姉ちゃんの連絡先を聞きたいんだけど」
「生憎、私達姉妹は機械が苦手なんだ」
「マジかよ。てか、お前も小鈴の特別性携帯ぐらい持て。便利なんだぞ、色々と」
「気が向いたら、またふらっと現れるさ。特に満月が綺麗な夜にはな」

 それよりもと、むつき浴衣が肌蹴た胸を指で突きながら言った。

「浮気をして知らないと放っておかれた夜に浮気とはな。これが知られれば、大河内アキラはどんな顔をするか。柿崎美砂は? 他の二人はまだ許しそうだが」

 マクダウェルが楽しそうな悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。
 昨晩以前に比べ、妙に気安くころころと表情が変わっていくマクダウェル。
 だがそれに気付く余裕もなく、むつきの顔は真っ青になっていた。
 全く持って、マクダウェルの言う通りであったからだ。
 アキラに無視され泣いていたのに、その日の内に初対面の女性と関係を持ってしまった。
 小瀬の件に続き、説明する事が増えている。
 しかも余裕がなかったのでコンドームもせず、思い切り中だししてしまっていた。

「マクダウェル、俺をお義兄ちゃんと呼ぶ覚悟はあるか?」
「あるか、馬鹿。姉も大人だ、アフターピルぐらい簡単に手に入れる。現実逃避をするな、口止め料を払え」
「なにこの子、お義兄ちゃんに堂々とお小遣い強請ったんだけど」
「ていっ」

 もはや何度目の事になるのか、マクダウェルが軽く腕を振るっただけですっ転んだ。
 場所が布団の上だったのが幸いし、衝撃は思った程ではない。
 もしかして手加減されたかと思い、マクダウェルを見上げてみた。
 もの凄く、苦みばしった顔をしている。
 そして目が合った瞬間に、思い切り顔面を踏まれた。

「勘違いするな、姉の部屋だ。私はちょっと借りるだけだ」
「あっ、そゆこと」

 部屋ぐらいまだ余っているので、別に構わないのだが。
 それよりも、浮気して怒られた当日に浮気とは。
 もう死んだ方が良いのかもしれない。
 嫌だ死にたくない、けど嫌われたら捨てられたらどのみち死ぬしかなかった。
 うねうねと布団の上で、別に床オナをしているわけではないのだが。
 心の暗雲を表すように、蠢き続ける。
 なのにマクダウェルは慰めもせず義兄を見捨て、ぱたんと襖の向こうへ。

「ちくしょう、義妹にも見捨てられた。養豚場の豚を見る目で見られた。アタナシア、お前を助けておいて俺死ぬかも」

 文字通り、枕を涙で濡らし始めた頃、ピピピっと携帯電話が鳴った。
 目覚まし機能かとも思ったが、セットした時間にはまだ早いはず。
 一体誰がと液晶画面を見てみると、柿崎美砂と大河内アキラの両名の名が。
 同時ってどういう事と、受話ボタンを押してみると。

「先生、大丈夫。まだ生きてる!?」
「先生、冷たくしてごめんなさい。謝るから、置いていかないで」

 美砂とアキラ、二人同時ってどういう事という疑問もあるのだが。
 なんだかのっぴきならない状況だと誤解されている気がする。

「あの、口聞いてくれて嬉しいんだけど。なに、こんな朝早くに」
「茶々丸ちゃんが、先生が泥酔して泣きながら、私達の名前を呼んで」
「虚ろな目をして変な笑い方してるって、マクダウェルさんに言えって言われたって」
「茶々丸ッ!」

 二人の若干要領を得ない説明の後、廊下の何処か遠くでマクダウェルが叫んでいた。

「半分、分かってたんだろうが。普通に生きてるぞ。泣きながら飲んで名前呼んでたのは本当だけど。虚ろな目とか、変な笑い方とかは誇張だ」
「だろうなとは思ったんだけど、先生豆腐メンタルだから。万が一ってことも、ね?」
「う、うん。信じてたよ、先生やる時はやるから。絶対に、手は放さないって」
「しどろもどろになるなよ。どんだけ信用ないの、俺。てか、小鈴のこの携帯なに。もう、色々と良くわかんねえけど。気が抜けた」

 まだアタナシアの残り香がする布団の上で、のぺっと広がった。
 もちろん、携帯は大事に耳元にあてながらだが。

「えっと、時計……まだ、五時半か。二人共、提案」
「なになに?」
「どうしたの、先生?」

 時計を見て時間を確認すると、少し改まってむつきは電話の向こうに話しかけた。

「謝りたい、説明したい事があるから、六時半に社会科資料室に集合。それで、もし許して貰えるのならぎりぎりまでイチャイチャセックスしようぜ」
「直ぐ、直ぐ行く。よく分からないけど、もう許した。セックスしよ、先生」
「なんとなく、想像つくけど。先生の事だから、性欲に負けてってのはなさそう。だから、私も許す。その代わり、一杯して。その人よりももっともっと」
「俺の決意って一体……まあ、いいや。んじゃ、また後でな二人共」

 向こう側からも、また後で、愛してると聞こえた後に電話を切った。
 にやにやとした笑みが止まらず、むつきは叫んだ。
 甲子園でホームランを打った高校球児にも引けを取らない雄叫びを、ガッツポーズを。









-後書き-
ども、えなりんです。

ロマンチックなんてありゃしない。
エヴァとの初体験はこんなコメディ調になりました。
けどBGMはチャゲアスのヤーヤーヤーw
一発かましはしましたが、まだまだナギの1%にもなりません。
もうちょいちょいイベントをはさみつつ、という感じです。

さて、次回が丁度五十話。
一学期の終業式となります。
偶然ですが無茶苦茶きりの良い数字となりました。
それが終われば、夏休み編です。
それでは次回は水曜です。



[36639] 第五十話 死んでしまえ、このくそ野郎
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/07/03 21:30
 麻帆良学園都市の学期の終業式は、各学校毎に時間をずらしてとり行われる。
 何故わざわざ、学部、校区が違うからといって異なる時間に行なうのか。
 それは学園を統括する学園長が、終業の挨拶に向かうのが恒例だからである。
 学部、学区が幾つもある麻帆良学園都市、その長ともなれば多忙極まる。
 教師としての本分である生徒との触れ合いなどないも同然。
 だからこそ、せめて学期の終業または始業ぐらいはと挨拶に回るのだ。
 いや挨拶というのは建前で、学園長が自ら生徒達とふれあいに行くのである。
 今年の四月の始業式までは、おおよそそのとおりであった。

「え~、じゃから夏休みだからといってハメを外して夜更かし、暴飲暴食といった」

 燦々と真夏の太陽が輝く午前十時、日差しも気温もこれからぐんぐん上がりだす。
 そんな中で麻帆良女子中学の全学年の生徒、およそ二千人と少しは校庭に集められていた。
 学年クラスごとに整列し、壇上で冷や汗を流しながら喋るナスの妖怪を見ている。
 夏と言う季節に反逆するように絶対零度の瞳で、極寒の視線であった。
 もはや学園長も熱いから汗をかいているのではない。
 冷たい視線に耐えかね、冷や汗をかいているのだ。

「麻帆良祭のあの一件、まだ尾を引いてんのな」
「そりゃ、学園長自ら生徒にセクハラですから。ご愁傷様ですよ」

 生徒に向き合う形で並ぶ教師陣の中で、わかりゃしないとむつきが零した。
 何やらざまあと言いたげに答えたのは、右隣の瀬流彦であった。
 未だD組のあの生徒に付きまとわれ、かなり心がささくれ立ってきているようだ。
 自分だけ不幸になって堪るかと、かなり辛辣な視線、糸目だが向けている。

「もう、学園長話ながい。汗で化粧が落ちるっての。女子中に戻る切欠探してるんでしょうけど、話が長くて余計生徒の反感買ってるわよ」

 二ノ宮の言う通り、話が長引くに連れて生徒の視線も氷的な意味で下がり続けている。
 だがそれは教師陣も同じで、直立不動、汗一つないのは新田ぐらいのもの。
 こうしてむつき達が喋っていても誰も注意する元気さえなかった。
 ハンカチで汗を拭くならまだしも、大胆にも手を団扇の様にして仰いでいる者もいた。
 まあ、こういう学園長や校長といった老人の話が長いのはどこも同じなのだが。
 いずれ誰か生徒が誰か倒れやしないか、そっちも心配になってくる。
 顔色が悪い者が居ないか眺めていると、面白い事に気付いた。

(あれま、冷たい視線を送ってる奴が処女で、理解ありげにしてるのが非処女じゃね?)

 二千人越えの生徒の、極一部の膜事情を知っているからこそ分かった事だが。
 美砂やアキラは、学園長を見て苦笑い。
 他のひかげ荘メンバーも、呆れたり鼻で笑ったり、少なくとも視線は冷たくなかった。
 この辺りは、むつきを通して男を知っているのであまり関係ないが。
 小瀬もまた好き者だなっと自分を棚に上げた表情。
 同じ水泳部の処女喪失に失敗したみきたんは、むしろ死ねとばかりの怨嗟の視線だ。
 そう考えてみてみると、一年生の鳴滝姉妹並みの幼児体形でも非処女疑惑が。
 いかにも遊んでそうな染めた金髪頭の子が、冷たい視線の処女疑惑だったり。
 ちょっと面白いかもと、瀬流彦にも伝えたいが左隣が二ノ宮だと少しきつい。
 逆に、凄く食いつかれそうな気もして、そっちの意味でもきついかもしれなかった。

「わしらの若い頃はのう」

 夏休みの注意事項から、学園長がさらに過去の思い出話を始めた頃。
 処女、非処女疑惑でむつきが遊んでいると、ふと目に入ったのは宮崎であった。
 少し呼吸が浅く、ふらついているような。
 遊んでいる場合ではないかと、一歩踏み出した所でどすりと重い物が落ちた音がする。
 教師も生徒も、ついに誰か倒れたのかと音の発生点へと振り返った。
 学園長の話を無視して一斉にである。

「ややわ、落としてもうたトンカチ」

 だがそこにいたのは、頬に手を当てて恥ずかしげに笑う近衛であった。
 その足元に、地面を抉るように突き立っているのは一本のトンカチである。

「何時もお爺ちゃん殴っとるトンカチ。地面の上で良かったえ。誰かの頭の上やったら、怖いえ。例えば頭の長いなすびみたいな、誰とは言わへんけど。お爺ちゃんの頭の上やったら」
「言っとる、言っとるぞ木乃香。とにかく、気をつけるように。以上じゃ」
「学園長のありがたいお言葉でした、皆さん拍手」

 学園長が壇上をとぼとぼ降りていくと、わっと歓声までも上がりそうな、盛大な拍手が送られた。
 もちろん、その拍手の向き先は学園長ではない。
 トンカチを落として、殊更強調して長話をやめさせた孫娘の近衛へと。

「た、助かったです。のどか、しっかり」
「大丈夫だよ、ゆえゆえ。あはは、ゆえゆえが三人もいる。これだけいれば、一人ぐらい持ち帰っても。おっことぬしぃ」
「ぬぅ、のどか渾身のギャグだけど三点!」
「言ってる場合ですか、パル。お、重い。のどか、しっかり立つです!」

 特に騒いでいるのは宮崎周辺の夕映や早乙女であるが。
 整列させられた生徒達は、そこかしこでふらつく者が続出中である。
 この後も風紀委員長や広域指導員である新田の話などもあったのだが。
 それら全てが一言、二言の指導に留まり、早々に終業式は終了された。
 喜び勇んで生徒達がクーラーの効いた部屋に、走っていく間。
 壇上の脇、数多くの生徒や教師が見守る中で学園長は孫娘に怒られていた。

「お爺ちゃん、何考えとるんや。ただでさえ暑くて大変やのに。まさか、他の学校でもだらだら話しとらへんやろな。うつむかへんの、うちの目を見てや」
「違うぞ、木乃香。他ではここまで長く、木乃香の学校だからお爺ちゃんは格好良い、威厳のところをな。見せようとな?」
「思い切りありがた迷惑やえ。私が止めへんかったら、買わんでもええ恨み買ってしもたやんか。もう、うち恥ずかしくて皆に見せる顔あらへん」
「木乃香、泣かんといてくれ。お爺ちゃんはお前が可愛くて、可愛くて。すまんかった!」

 孫に怒られ、許してと懇願する姿を全校生徒、教師にさらし。
 孫の前で良い格好をしたかっただけの孫馬鹿かと、多少は理解を得られた学園長であった。
 だからといって、件のセクハラの件が許されたわけではなかったが。









 終業式が終わればお待ちかね、それは極一部の成績優秀者だけかもしれないが。
 期末テスト以上に結果を一喜一憂せねばならない通知表の授与である。
 クーラーのがんがんに効いた部屋に戻って早々、冷や汗を流す者もいる事だろう。
 だが一年次は毎期の中間・期末で学年最下位を取得し続けたA組も今年は違う。
 期末についに学年最下位を脱出して、一部を除き皆成績があがってきていた。

「じゃあ、相坂君は欠席だから。明石君からだね」

 二年A組もその例に漏れず、高畑の手から一人ずつ一言を添えて手渡されていた。

「元気も良いけど、もう少し勉強もね。明石教授も少し心配してたよ」
「もう、お父さん仕方ないにゃあ。亜子も頑張ってるし、二学期から。二学期から頑張る」
「頑張らないフラグ乙」
「千雨ちゃん、相変わらず突っ込みキツイ!」

 最初の明石は成績は上がりもせず、さがりもせず。
 父に釣られ夏休みを飛ばし二学期からと言っては長谷川に突っ込まれていた。
 本当に頑張る気があるなら、夏休みから頑張れるのだからまともな突っ込みではある。

「ははは、夏休みの勉強は毎日少しずつだからね。次は朝倉君」
「はいはい、この朝倉の姉さんに隙はありませんよ。見よ、この成績優秀な通知表を!」
「確かにその通りなんだけど、早とちりも多いし。もう少し落ち着きを持とう」
「藪蛇だから言わないでおこうかと思ったけど。朝倉、小学生の通知表じゃないんだから」

 豊かな胸をふるんと張って、普通は隠すべき通知表を朝倉が掲げた。
 情報の透明化をとでも言いたげに、五段階評価で五か四しかないそれをだ。
 だが最後の備考、教師の一言には高畑が口にした通りの言葉が載せられている。
 副担任のむつきからも、情報の裏取りはしっかりとと書かれてしまっていた。
 その辺りで、朝倉のみならず先に通知表を受け取っていた明石も気付く事になった。
 一年次までは高畑の一言のみであったのが、副担任であるむつきの言葉も添えてあるのだ。

「バカレンジャー卒業おめでとう。ただし勉強は一生続くものです。一時の達成感に満足せず、次なる目標を見定め頑張りましょう。貴方にはそれができるはずです。乙姫」

 次に高畑から通知表を受け取った夕映が、むつきからの一言を読み上げる。
 少々感動してしまい、通知表をキュッと胸に抱きしめ夕映が振り向いた。
 教室の後ろ、マグダウェルの少し後ろで立っているむつきへと。
 頑張った自分を見ていてくれた、貴方には出来ると期待し褒めてくれた。
 もしこの胸に湧き上がる気恥ずかしさと、温かさが恋とするならばなんと素晴らしい感情か。
 二股、三股、四股、他にセックスフレンド多数の困った相手だが、自分に嘘はつけない。

「おやおや、おやおやおや、おやおやぁ? ゆえ吉君、君からなにやらラヴ臭が」
「パル、急用を思い出したので今夜は原稿が手伝えなくなりそうです」
「えっ、ゆえゆえがそうなら私も。一人だとパルの原稿、恥ずかしい」
「嘘、ラヴ臭なんてしない。むしろ、私今日徹夜だから。一人で二徹はキツイの。お願い手伝って、締め切りがぁ。アレなページは私がやるから」

 一気に漏り下がった気持ちを返せと、通知表を抱えて縋る早乙女を足蹴であった。

「アキラ、柿崎もなんて書いてあった? うちは、夢に向かって頑張るのも良いけど、頑張り過ぎに注意やて。疲れた時は周りを振り返り、友達との時間を大切にって。なんや照れくさいやんね」
「私は、麻帆良の人魚姫って周りの言葉に振り回されるなって。他人がどう呼ぼうと貴方は貴方。自分がどうなりたいか、しっかりと見据えて頑張れって」
「何気に私ら出席番号連番か。私は、えっ? 彼氏を惚気るのは程々に。一人身の人には辛いものなので恨みを買いかねません。学生の本分は勉強と部活。それをお忘れなく」

 どの口でと、三人でむつきに振り返るとすまんと手を挙げられた。
 美砂は勉強も程々に頑張り、さりとて部活はアキラ程頑張ったわけでも。
 もしかすると、書く事に困ってとりあえず思いついた事を書いたのかもしれない。
 一応美砂を心配した一言だが、彼氏本人に惚気るなとは割と無茶な注文であった。

「ねえ、明日菜。成績悪い者同士なぐさめあおうよ。どうかしら?」
「えっ、いやなんでもないよまきちゃん。バイト、夏休み増やして軍資金を!」

 ふえっと半泣きで通知表を持ってきた佐々木を前に、神楽坂が若干の挙動不審である。
 こそっと近衛が後ろから通知表を覗き込み、合点がいったと微笑んだ。

「もう少し勉強を頑張りましょう。だけど、折角の夏休みだから思い出も大事に。貴方の夏休みの恋愛運は急上昇。知り合いから恋のサポートがあるかも。半分成績関係あらへん」

 知り合いとはもちろんむつきであり、恋のサポートとは依然した約束である。
 高畑を遊びに誘ったら、その時は偶然を装って神楽坂も合流させてくれるという。
 忘れるどころか、逆に文面で証拠さえと神楽坂はテンションマックスであった。

「明日菜さんたら。長谷川さんはどうでした? 私は当然、オール五。先生のお言葉も、この前のガーターベルトを着た私とおセックスしたいと。全く殿方は本当に、いやらしいですわ。生徒をそのような目でしかみれないとは」
「ああ、私は成績は黙秘だ。けど、次の危険日は何時だって。お前を孕ませたい、俺の肉棒特性ソースで孕むほど煮込んでやるって。ガキの名前まで書いてあって、キモイ」
「貴様ら、私の席で何を卑猥な会話を。私は、姉妹丼がやりたいだな。姉妹の百合プレイを眺めつつ、交互に突き上げ美女と美少女の膣の味の違いを堪能したいだとさ。鬼畜だな」
「史上初のガイノイドと人間との有機合体したいと。チャレンジ精神に溢れる変態かと」

 こそこそと、絡繰まで巻き込みちらちらむつきを見ながら周りを忍んでの言葉である。

「お前等、俺がどれだけ必死に一言をひねり出したと」
「そうネ、親愛的の愛が分からないのは可哀想ヨ。耳をかっぽじって聞くが良いネ。完璧過ぎて書く事がない。乙姫……親愛的?」
「いや、お前凄過ぎてアレ頑張れコレ頑張れってどの口がってなるじゃん」
「ある意味で、先生が必死に一言をひねり出した証拠でもありますね。私は、折角の夏なのだから自分を介抱してお洒落など新しい事にじゃんじゃん挑戦しましょう。勉強はもう十分、乙姫。です」

 同じ成績優秀者でありながら、長い文面に小鈴が暗い顔でむつきを睨んでいた。
 葉加瀬は最近お洒落を覚え、眼鏡をコンタクトにしたり、髪を無造作な三つ編みからウェーブの掛かったロングにしたり。
 そういった部分で書きやすかったのだ。
 超は元々、葉加瀬と同じ路線でありながらチャイナ服を着たり、シニョンキャップをさり気に変えたり元からお洒落だった。
 ただそれで納得できるかと言えば、そうでもなく。
 珍しくむつきにくってかかりそうな超を、まあまあと四葉が止めた。

「それだけ、超さんに不満がないという事ですよ。夫婦円満、良い事ではないでしょうか」
「そ、そういう考え方もあるネ。五月はさすが、良い事を言うネ」
「チョロイン乙」
「甲はありませんの?」

 雪広のボケは兎も角として、最後から二番目の四葉も通知表をその手にしていた。

「勉強も趣味もその調子で。ただし、夢に一途過ぎるのも問題かもしれません。貴方の道は一つではないはず。開拓の精神を持って夏休みを過ごしてみましょう。乙姫、だそうです」

 そう読み上げた四葉が、ぺこりと頭を下げてきた。
 そんな事は考えた事もなかったと言いたげで、思ったより感銘をあげられたらしい。
 最後のザジも高畑から通知表を受け取り、数分の間は生徒同士での見せ合いっこが続いた。
 本当は終業式最後の授業後にして欲しかったが、気持ちは分かるむつきと高畑である。
 しばし微笑ましそうに、彼女らの歓談を目にしてから高畑が皆を席に座らせた。

「さて、これで一学期も終わりなわけなんだけど」

 教卓に両手をつきながら高畑がそう言ったわけだが、苦笑いに変わった。
 皆が皆、夏休みを前に瞳がキラキラ、そわそわと。
 落ち着かない様子で、今ここで何を喋ったとしても右から左に流れていく事だろう。
 学園長の時とは違い、クーラーが効いた教室とは言え、長話は厳禁か。

「ちょっとの勉強、まあ宿題だね。それと部活に遊び、精一杯頑張って欲しい。以上、乙姫君からも何かあるかい?」
「殆ど、以下同文ですよ。言いたいことは通知表に書きましたし」

 でもちょっとだけならと、教室の後ろからであったがむつきが言った。

「ちょっとハメを外しすぎて困った事になったら、俺か高畑先生に連絡。だからと言って、八月三十日に勉強が終わってないって泣きつくのはなしな。手伝わねえから」
「えー、そう思うならせめて社会科の宿題だけでも減らすです」
「社会科だけ減っても、できれば現国も」
「はははっ、そういうわけだから毎日少しずつ。朝九時から十一時の二時間だけでも続ければ十分に終わるから。さあ、長くなりそうだからここで切ろうか。雪広君」

 高畑がそう言うと、雪広が起立と全員を立たせた。
 ガタガタと椅子を喚かせながら、待ちきれないと飛び上がる者もいたり。
 あと数分もいらず、数秒で夏休み。

「一学期終了、お疲れ様」
「一同礼」

 再びの雪広の号令にて普段の授業よりも少しだけ長い礼であった。
 そして数秒、頭を上げると同時に彼女達は心の底から歓喜と共に叫び上げた。

「夏休みだーッ!」

 学校全体を揺るがしてしまえとばかりの、心からの叫びであった。









 終業式の日ばかりは、教師の殆ども定時を過ぎた頃には殆どが学校を去っていた。
 生徒達とは違い、教師は明日も仕事で学校へと向かうわけだが。
 せめてこの日だけはと、仲間内、仲の良い者達で集って打ち上げの如く出掛けるのだ。
 むつきも例外ではなく、麻帆良女子中で比較的仲の良いメンバーと打ち上げである。
 若輩者らしくチェーン展開されている安い美味いが取り得の居酒屋であった。
 さすがに超包子には負けるが、それでも世間一般的には及第点。
 暑い夏には冷たいビールと枝豆さえあればとばかりに、五つのジョッキが掲げられた。
 テーブル席の上に突き出しのみの状態で、早くもジョッキの鐘が乾杯と鳴らされる。

「まあ、偶には先輩として大盤振る舞いしないとね。今日は僕が奢るから、どんどん飲んでくれて構わないよ」
「すみません、高畑先生。遠慮なく飲ませて貰います。あっ、店員さんビールお代わり」
「早っ、少しは遠慮しようよ乙姫先生。高畑先生に奢られるなんて畏れ多い」
「なに言ってんの、瀬流彦先生。相手が奢るって言ってるのに辞退するのは返って失礼なんだから。あっ、私は軟骨のから揚げとだし巻き卵、あとシーザーサラダ」

 遠慮なにそれとばかり、むつきや二ノ宮が頼み捲くり、何故か瀬流彦が恐縮しまくりだ。
 これが新田であれば瀬流彦も同じのりなのだが、何を遠慮しているのか。
 そこで遠慮するなら、さり気に高畑の椅子に自分の椅子を寄せる源に配慮して三人で離席しろというものだ。
 店員さんが持ってきた料理を取る振りをして、ホルスタインもびっくりの爆乳を押し付けたり、アピールタイムが尽きない。
 高畑も「ははは、僕邪魔ですかね」と少し席を遠ざけるなど、源ががっくりきていた。

「もはや修行僧の域ね。あんな事されたら、女の私でも襲うっていうのに」
「ちくしょう、僕だって。乙姫先生、誰か。癒しを」
「んー、直ぐにはちょっと。姉ちゃんの知り合いに良さそうな人が居ないか聞いてみますよ」
「肩こってませんかね、乙姫先生。あっ、ビールが少なく。店員さん、大ジョッキ追加で」

 何処まで卑屈なんだと、二ノ宮と共にむつきも瀬流彦の態度にぶわっと涙が止まらない。
 ちょっと興味本位でD組なのにDじゃないあの子はどうなったと聞いてみたいのだが。
 そうしたら、今度は瀬流彦がぶわっとなりそうで聞くに聞けない。

「そういえば、前から気にはなってたんですけど。乙姫先生の携帯って、何処のメーカーですか? 色々パンフを見たんですけど、似たようなのがなくて」
「ああ、これですか?」

 カッターシャツの胸ポケットから、シルバーのタブレット式携帯を取り出した。
 二ノ宮のみならず、他の先生方、特に電子機器に詳しい方からも聞かれたりする。
 そんなに興味を引くものか、必要は必要だが機種とかには執着しないむつきには分かりかねる感覚だ。
 何処のメーカー、どんな機種よりも、小鈴手製という所の方がよっぽど大事であった。

「僕この一学期の間に二回携帯壊してるんですよ。壊しすぎだし、勿体無いって超から貰ったんですよ。ほら、超包子のマーク」

 タブレットの真裏には赤字で超包子と、定番のマークが刻みこまれているので見せた。

「なんでも千の雷にも耐えうる超耐久性とかで」
「ぶほっ!」
「きったな、瀬流彦先生!」

 何故か耐久性の説明中に、ビールを飲んでいた瀬流彦が噴き出した。
 いや、周囲のざわめきに埋もれ既に消えてしまったが、他にいくつもあったような。
 確かに千発の雷にさえ耐えうると銘打つのは、誇張が過ぎると言うものだが。
 象が踏んでも壊れないと古めかしい言い回しも、現代の若者には通用しないだろう。
 むしろ、誇張しすぎれば笑いを誘って、興味を引くと言うものであった。

「なる程ね、超君か」
「高畑先生、おひげに泡が」

 どうやら高畑も噴き出した一人のようで、これ幸いと源がお手拭で顔を拭いてあげていた。

「失礼、なにやら不穏な台詞が。むっ!」

 そこへ突然、他のテーブルでウーロン茶を飲んでいた人が突撃してきた。
 褐色肌にやや分厚い唇のその人は、むつきや二ノ宮も一度だけ見た事があった。
 以前、瀬流彦が学園長室に呼び出しを喰らった謎の事件で、職員室へ現れた人だ。
 確かガンドルフィーニと言ったか、ウルスラ学園の英語教師という事だが。
 その人が酔っても居ないのにぬっと顔を出し、むつきを見るなり視線をぎらつかせた。

「君は確か乙姫君。その節はすまなかった、我々の同士が!」
「は、はぁ……」
「ちょっ、ガンドルフィーニ先生。あっ、これウーロン茶じゃなくて、ウーロン杯!」

 突然謝罪され頷く事しかできず、慌てた様子の瀬流彦がウーロン茶改め、ウーロン杯を誰が飲ませたと取り上げていた。
 どうやら、見た目に反してあまりお酒には強くはないらしい。
 別に絡まれたとは思ってないので、ソレぐらいは構わないのだが。

「ガンドルフィーニ、それぐらいにしておけ。乙姫、すまんな。コイツは酔うと少しばかり虚言、妄想癖があってな」
「ははは、乙姫先生。裕奈の通知表、早速見せて貰ったよ。良いね、君が娘を良く見てくれているのが良くわかるよ。元気も良いけど、勉強も。なかなか聞かなくてね」
「ガンドルフィーニ君、ほら酔い覚ましの肉まん食べるかい?」
「二重院先生、吐きそうな人になんてものを。お水を、こちらを飲んでください」

 もはや義兄となる日も近い神多羅木から、明石の父である明石教授。
 一体どういうつながりか、ガンドルフィーニの口に肉まんを突っ込もうとする二重院。
 小等部の人気投票三位である事は覚えている、というか体形と肉まんが印象的過ぎる。
 一番的確にガンドルフィーニを介抱しているのは、高等部人気投票二位のシスターシャークティであった。
 居酒屋にシスター姿のシスターがいて良いものか。
 シスター姿そのものは良いので今度長谷川にリクエストをしてみるのも良いかもしれない。

「なにこれ、麻帆良教師人気投票の上位陣が続々と。どういうつながり?」
「さぁ……はっ、殺気!?」
「乙姫先生」

 その高等部第一位、葛の葉が割り箸を握り、むつきの首に突きつけながら背後から現れた。

「合コンの事、今この場で口にしようものなら刺します」

 恐らくは源やシャークティに知られたくないという事なのだろうが。
 確かにこの二人ならば葛の葉にもひけはとらず、むしろ三人ともレベル高すぎ。
 本当にこの人はどれだけ必死なのだろうか。
 たかが割り箸と侮る事なかれ、つんつんと突かれると針のような傷みがある。
 甘噛みのように痛みと痒みの丁度中間のような刺激だが、ピリッとそれが痛みに傾いた。
 次の瞬間、テーブルの上に置いてあったむつきの携帯電話がブルッと震え光った。
 淡い光は蛍光灯の光に飲み込まれる程度で、殆どの人が気付かなかったことだろう。

「なっ、割り箸が!?」

 確実に気付いたのは、突きつけていた割り箸の先端を切り裂かれた葛の葉であった。

「あれ、刃物でも突きつけられない限り発動しないって聞いたのに。これ、なんか自動でバリアが張られるとか。冗談だと思ってたんですけど。凄いな、超」
「バリアって、千の雷でもって割りと信憑性が。あの……皆さん、何故そばのテーブルから椅子を。狭いこの席に居付こうとしてるんです?」
「ははは、我々の事は置きになさらずに。少々、その携帯に興味があるもので」

 明石教授が朗らかに笑って言ったので、そうなんだと思いたいのだが。
 何故皆して食い入るように携帯、ではなくむつきと二ノ宮を見てくる。
 付き合っていると勘違いされたのか、それとも何か他に理由があるのか。
 お前、特にガンドルフィーニとは知り合いだろうと、防波堤事瀬流彦を探すのだが。
 重役に釣る仕上げを喰らった新人の如く、瀬流彦がテーブルの隅で縮こまっていた。

(この野郎、お前の知り合いだろうが。すっごいやりにくいんですけど!)
(濃い集り過ぎて、周囲の視線も集り過ぎなんですけど!)

 追い詰められた鼠のようにぷるぷるしている瀬流彦にかなり鋭い視線を送るもそらされた。
 誰か紹介しようとしているむつきの視線から逃げるなど、相当な理由がありそうだ。
 ここは瀬流彦の為にも、穏便に済ませるべきか。
 むつきと二ノ宮は、とりあえず明石教授の言う通り普通にする事にした。

「えっと、バリアは兎も角、他に何か他の携帯にない機能とかあるんです?」
「超セキュリティですかね。例えば、写メ取りますよね。ここで言うのもなんですけど、彼女と楽しんだアレな写真も、ほら」
「モザイクが余計に卑猥に。ダブルピース? 乙姫先生、彼女に何させてるんですか」
「いや、これ俺がさせたんじゃなくてこいつが自分から」

 むつきが見せたのは、先日和泉のお尻の処女喪失記念の写メであった。
 ただし、この場にむつき以外の人間がいる為、自動で写真がモザイク処理されていた。
 ちなみにむつき以外とは語弊があり、厳密にはひかげ荘メンバー以外である。
 恐らく声紋とかもろもろの情報を集め、自動で状況を把握し処理しているのだろう。
 おかげで和泉の姿はモザイクの向こうで、個人特定はおろか、背景の場所すら不明だ。

「で、普通に見せても問題ない写真……あれ?」
「ちょっと、これまさか乙姫先生の彼女。嘘、超絶美人。しかも外国人、あとおっぱいでか!」
「アタナシア?」

 二ノ宮の特に後半の台詞で、瀬流彦達のみならず周囲の客もぴくりと反応したのは兎も角。
 取った覚えのない写メを前に、むつきは茫然としながら携帯を手に取っていた。
 恐らくは、むつきの腕の中で眠っていた頃か。
 穏やかな笑みを浮かべ愛する者の腕に抱かれた時のように穏やかな表情を見せている。
 ちなみに二ノ宮がおっぱいでかと言ったのは、シーツの盛り上がりと上乳からの推測であった。

「乙姫君は、彼女持ちだったね。そのアタナシア君が、彼女ってわけかい?」

 これまで微笑んでばかりの高畑が、この日初めて話題に食いついた。

「彼女ってわけじゃないんですけど。あれ、高畑先生ってマグダウェルと親しいんですよね。彼女の姉がアタナシアなんですけど」

 この日二度目、取り囲むように飲んでいた神多羅木達が一斉に噴き出した。
 周囲四方八方で誰かしらがビールや日本酒、その他を噴き出し大惨事であった。
 その惨事具合は、高畑でさえ取り乱したように噴き出しむせた事からも分かるだろう。

「いかん、いかんぞ乙姫先生。君のような若く未来のある人間が闇のもがふぁ」
「ガンドルフィーニ、お前少し表で頭を冷やしてこい。乙姫先生、その写メを見せてもらっても?」
「ちょっと待ってください、上乳だけでもモザイクを。ああ、なんか余計卑猥な感じに。ちょと待ってお願い。アタナシアをエロイ目で見ていいのは俺だけだ!」
「乙姫先生、必死すぎて口調が素に。あと、さっき彼女じゃないって言いませんでした?」

 二ノ宮の割と重要な突っ込みも他所に、どうすればどうすればと断れば良いのに焦る。
 大事な一枚の処理に失敗し、パイずり画像の様になってしまい半泣きに。
 元に戻れと色々操作をし、自動バックアップ機能という超の手際の良さに泣いたり。
 四苦八苦しながら、エロくならないようにバストアップ画像に改造してから見せた。

「ふむ、幸せそうだな。どう見ても、事後という感じだが」
「いやいや、まさか彼女がね。やるなぁ、乙姫先生」
「しかしこれ、実際はあの子ですよ。倫理的に問題が」
「くっ、巨乳の超美人だけどその中身は。羨むべきか、哀れむべきか」

 何やらぶつぶつと瀬流彦も加えた先生方が、なにやらぶつぶつと。
 特に瀬流彦の超美人という単語のところでは、かなり自尊心が満たされたりも。
 鼻息荒そうになるむつきの目の前に、突如差し出されたのは十字架であった。

「問題はその他色々とありますが、正式にお付き合いしているわけでもない女性と関係を持つとは。私が神の名の下に裁判を」
「シスターさん落ち着いて。まあ、ぶっちゃけ行きずりの関係なんですけど。あと、十字架だから大丈夫だと思いますけど。どっか尖ってるとバリア機能が」

 むつきの忠告は少しばかり遅かったようで、十字架の頭がスパッと切れた。

「かはっ、神が科学に敗北」

 がっくり膝をついたシスターさんは置いておいて。

「ちょっとそこのところ、詳しく聞きたいね。何がどうして、そうなったのか」

 なんだか妙に食いついてくるのは良いのだが。
 むつきの携帯に写るアタナシアを射殺さんばかりに、源が睨みつけていた。
 もしや高畑の好きな女性のタイプは、アタナシアのような美女なのか。
 胸こそ規格外だが、日本女性を体現した源は実は全くタイプではないのかもしれない。
 ここは一発、高畑にちょっかいを出される前に主張しておくべきだろう。
 アタナシアのおっぱいは俺のだと、ここで高らかに宣言であった。

「細かい事情ははしょりますけど。麻帆良都市内の温泉旅館で、飲もうって話になったんですよ。ちょっとエロイ、ワインの飲み方とか教わったり。男と女ですし、そういう雰囲気に」
「乙姫先生、もしかして意外と軽い人?」
「ひ、否定できない自分が悲しく。ただ、その途中で思い切り冷たい目で見られて。彼女、今はもういないナギって赤毛の男が大好きだったんですよ」

 二ノ宮の突っ込みには視線をそらしつつ、ありのままのあの夜を語った。
 ナギという男の名を呟いたことで、高畑が方眉を上げたのは何故なのか。

「今はもういないって、そのナギって人は死んじゃったんですか?」
「そうみたい、だけどアタナシアはずっと何年も忘れられなくて。僕を誘ったのも半分やけだったのかな。けど途中で冷めたらしくて。僕も急に寝むたくなったり。一度は完全に落ちましたね、アレ」

 今になってもあの睡魔の謎は解明できないままなのだが。

「ただ気の強い言葉は使っても、彼女は泣いてただけなんですよ。会いたい、惚れたナギって男に会いたいって。けど相手はもう死んでるし。俺にできるのは、心に住むナギを一晩だけ、数時間だけでも追い出してあげる事だけで」

 神多羅木が持っていた携帯を返してもらい、改めてその寝顔を眺めた。
 穏やかな、それこそ愛したナギから、一時でも解放されのか。
 解放されたのだろう、マグダウェルから聞いた伝言を考えれば。
 次に会えた時は、もう一度その言葉を本人から聞きたいものだ。
 あと出来れば、解放される最長時間を更新する為に、再挑戦させて欲しいものである。
 いや、純粋にアタナシアの為に、アタナシアを思ってであり、おっぱいの為ではない。
 アタナシアを想って、アタナシアのおっぱいを食みたいので問題ないのだ。

「綺麗に締めたつもりでしょうけど、これ浮気ですよね?」
「ああ、彼女知ってますよ。ごめんなさいして包み隠さず話しましたから。むしろ、良くやったって褒めてもらいましたけど」

 なにそれ天使かと、特に彼女の欠片もない瀬流彦がお手拭を噛み締めている。
 にこにこと、思いがけないアタナシアとのつながりを手に入れ飲んでいると、携帯が震え始めた。
 はて、誰か一人寝が寂しくて掛けてきたのか。
 ちょっとトイレと断って立ち上がりかけたむつきは、驚いた。
 携帯電話の大画面部分に映ったのは、アタナシアというカタカナであったからだ。
 一体この携帯のデータ構造はどうなっているのか。
 入れた覚えのない相手からの電話であったが、即座に受話ボタンを押して出た。

「アタナシア?」
「ふん、出るのが遅いぞ。この私がかけてやったのだ、ワンコール目で出ろ」

 少しもったいぶった上から目線の語り口調は、アタナシアのもので間違いなかった。
 マグダウェルから機械が苦手と聞いたのだが、もしやむつきの為に買ってくれたのか。
 そんな甘い幻想を抱きつつ、耳が潰れるほどに携帯電話を耳につけた。

「アタナシア、今どこ。もしかして、麻帆良に」
「残念、国外だ。妹が友達から携帯電話を貰って送ってくれてな。別にお前にかける理由もなかったんだが、その……練習だ、練習。ハイテクは苦手だからな」
「うんうん、真っ先に掛けてくれて凄く嬉しいよアタナシア」
「か、勘違いするなよ。別に満月の夜が待ちきれなかったとか、違うからな。他にかける奴もいなかったし。その、今日はなんだかベッドが広くて」

 もうこのツンデレさんは、なんて可愛いんだろうと顔が溶けそうににやけてしまう。
 完全無欠にナギが住み着いた心の、わずか一パーセントでも入り込めたのか。
 二ノ宮の妄想じゃなかったんだという驚きの表情や、ガンドルフィーニらのこの世の終わりのような顔も気にならない。
 体をくねくね、二ノ宮にキモッといわれても、他に感情表現方法がなかった。
 会いたい、愛おしいこの狂おしい程の気持ちを込め、呟こうとした矢先の事である。
 あろう事か、むつきの手から高畑がひょいと携帯電話を取り上げていった。

「やあ、久しぶりだねアタナシア」
「タ、カミチ?」

 しかも親しげにアタナシアとの電話に出る始末で、当然ながらむつきは取り返しに掛かった。
 やはりアタナシア狙いかと、あのおっぱいは俺のだと。
 だがそんなむつきの行動を止める様に神多羅木を始め、他の男性の先生方に止められた。

「ちょっ、皆グルですか。高畑先生、俺のアタナシアをどうするつもりですか。事と次第によっちゃ、お姉ちゃんパワーを使ってまでも張り倒しますよ!」
「落ち着け、乙姫。他意はないはずだ、源も視線で人が殺せる鬼気を見せるな」
「これも君の為なんだ。彼女はいかん、彼女だけは……しかし、いやいかん!」
「親友として、君の尊厳を守る為に。別にあのおっぱいを好きに弄った事が羨ましいわけじゃ。そうこれは友情、君と僕との友情の為!」

 くそ放せと義兄予定の神多羅木にまで暴言を吐きつつ、返せと手を伸ばす。
 二ノ宮もシャークティや葛の葉とお喋りに花をさかさず、手を貸してほしいものであった。

「いや、君のナギへの想いを乙姫君経由で聞いちゃってね。良い機会だったのかもしれないよ。神多羅木先生や、ガンドルフィーニ先生。他にも、本当の君を知って貰えて」
「ちょっと待て、何故貴様が乙姫と。他にも……あの馬鹿、何を喋った。ナギについても許せんが、その他にもまさか!」
「まあ……色々と、酔ってた事もあるし。見逃してあげてくれないかい。お互い大人なんだし、そういう関係になる事だってあるさ」
「乙姫ッ! 代われ、奴に代われ。その騒がしさは店か。貴様らも、奴の恐ろしさを知るが良い。死なばもろとも、もはや謝っても許してやらんぞ!」

 何やら興奮中のアタナシアの言う通り、不可解ながら高畑はむつきに携帯を返した。
 すぐさま、携帯電話を高畑から遠ざけながら、むつきは耳に当てる。

「アタナシア、変な事を言われなかった。付きまとわれてるんだったら、俺が」
「乙姫、落ち着いてよく聞いて」
「うん、アタナシアの声は好きだから何時でも落ち着いて」
「死んでしまえ、このくそ野郎」

 ピシリと、石にでもなったかのようにむつきが固まった。
 その間にブツリと携帯電話は切れてしまい、再起動を果たした時にはもう遅い。
 冷や汗をだらだら流しながら、リダイヤルをしてコール音はならなかった。
 さりとて、アタナシアが電話に出たわけでもなく。

「おかけになった電話はお客様の都合によりおつなぎできません」

 ハイテクが苦手なくせに、見事な着信拒否であった。

「はっ、はは……」
「乙姫先生?」

 糸が切れた操り人形のように椅子に座り、様子がおかしいと二ノ宮が呼ぶ。
 その手が肩に触れるか触れないかの瞬間、むつきはテーブルの上に倒れこんだ。
 腕を枕代わりに顔を伏せ、駄々っ子も可愛く見える程の声量で叫び上げた。
 わんわんと酔いも手伝い良い歳をして、同僚や同職の面々を前に泣き喚く。

「嫌われた、アタナシアに嫌われた。死ねって、くそ野郎って。何もしてないのに。アタナシアが、ぐす。あぁぁぁぁっ!」
「ちょっと、号泣って。本当に何をしたんですか、高畑先生。これ尋常じゃなく、泣いてますよ。男の人がここまで号泣するの初めてみましたよ!」
「いや、僕は別になにも。久しぶりって彼女に言っただけで」
「乙姫先生、声が。周りの視線が!?」

 二ノ宮が苦笑い中の高畑に詰め寄るように非難を浴びせ、瀬流彦はおたおたと。
 この時、源やシャークティ、葛の葉はというとちゃっかり別の席に避難していた。
 私達、関係ありませんからと女子会の如くお酒とつまみに舌鼓をうっている。

「おっと、そろそろむつみに電話を入れる時間だな。義弟よ、強く生きろ」
「私も娘を寝かしつける時間だから、お先に失礼しよう」
「僕も肉まんを食べ過ぎたか。そこの袋の残りは、乙姫君にあげてくれないか」
「明日は裕奈が帰ってくるし、深酒は厳禁なもので」

 さらに男性人も、そそくさと高畑を見捨てて言い訳と共にさっていく。
 あれだけ酔って虚言、妄言を吐いていたガンドルフィーニさえ、素の表情であった。

「ちょっと、皆。僕にだけ押し付けて」
「アタナシア、お願いだから捨てないで。アタナシア!」
「てか、彼女じゃないでしょ。ああ、もう仕方がない。はいはい、捨てない捨てない。良い子だから泣きやもうね」

 二ノ宮が居なければどうなっていた事か、この後十分程でむつきは泣き止む事となる。
 慰められなければ、三十分でも一時間でも泣き続けた事だろう。
 散々泣き喚いたむつきは二ノ宮に手を引かれ、迷惑料込みで高畑が飲食代を払い、瀬流彦が方々に頭を下げる事でなんとか場を収める事が出来た。
 夏休みの本当に数時間前、生徒を笑えない教師達のハメを外した数時間であった。









-後書き-
第一部完的なお話。



[36639] 第五十一話 俺がどれだけお前を可愛いと思ってるか
Name: えなりん◆87c0410a ID:b379f023
Date: 2013/07/13 19:53
 ひかげ荘は小さな山の中腹にある為、木々に覆われ真夏はセミの声が途切れる事はない。
 夏の風物詩とはいえ少々煩いと、吊るされた風鈴の安らぐ音で緩和しつつ。
 夏休み初日の二十六日、ひかげ荘メンバーは寮に帰宅届けを出して早速やってきていた。
 寮も夏休みの間は、一度帰宅届けを出せば、本当に帰宅しようが寮にいようが関係ない。
 そこは麻帆良学園都市の寮の悪い部分でもあるのだが。
 ひかげ荘メンバーとしては、寮とひかげ荘のどちらにも居られるので都合が良い。
 皆早速、旅行バッグを手に朝も早くから、ひかげ荘に集った。
 ただし、ご飯時でもないのにむつきの命により、全員が食堂に集められていた。
 食事の代わりに並べ置かれたのはテキストの山、お箸の代わりに握ったのは鉛筆である。

「ちょっと、マジで三日で宿題終わらせるのかよ。初日ぐらい、ゆっくりしようぜ」

 期末が終わってそう経っておらず、やる気が出ないと長谷川はテーブルの上にうなだれている。

「そうだ、そうだ。イチャイチャセックスさせろ。ただでさえ、最近人数が増えてイチャラブ濃度低めなのに。私の夏の目標は、先生の精液を上の口でごっくんすること」
「えっ、目標。あの……私も、亜子みたいにお尻で。三穴制覇、かな?」
「少々お二方にくらぶれば低い目標ですが。む、結ばれるです」

 ひと夏の素敵な思い出とばかりに、恋人達が生々しい願いを呟いた。
 だがもはや記事にもならないと、朝倉が意外と真面目にテキストを進めている。
 雪広や葉加瀬、和泉も含む、成績上位者は黙々と。
 少々恋に気を取られた面々を置き去りに、テキストを消化し続けていた。
 特に成績上位というわけではないが、四葉や絡繰も似たようなものだ。
 ただし、長谷川はともかく、美砂達にやる気が起きないのはそれだけではなかった

「マクダウェル、喉渇かないか? ジュースあるぞ、ジュース。それとも疲れたなら囲碁、囲碁で気分転換するか?」
「ええい、鬱陶しい。貴様のようなへっぽこ棋士など相手になるか。三日で終わらせるのだろう、邪魔だ、あっちへ行け。夏休みの間は対局の予定で忙しいのだ」
「うぅ……アタナシアに連絡とってくれよ。酔ってたとはいえ、俺……せめて一言、謝りたいんだ」
「復縁は絶望的だろ。知らなかったから仕方ない部分もあるけど、知り合いにセックスした事を大暴露されたんだ。普通、愛想つかされて終わりじゃね?」

 長谷川の言葉はもっともだが、何故あの時と頭を抱えながらも諦めきれないのだ。
 未だアタナシアは着信拒否のまま。
 代わりに連絡を取って貰おうと、マクダウェルに構いっぱなしのむつきである。
 だが妹も妹で、なしのつぶてでアタナシアとの関係も一夜にして、元々一夜だけだが絶望的であった。

「そんな皆に、朗報ネ!」

 ますますやる気を失う美砂達の前に、小鈴がパチンと指を鳴らしながら現れた。
 その合図と共に、食堂内の天井近くにとある映像が東映される。
 人数分の棒グラフが伸びておりその頂点に皆の顔をデフォルメした絵があった。
 さらにその顔絵の上にはパーセンテージが。
 小鈴の百が最高で、長谷川の三が最低のパーセンテージである。

「小鈴なんだそれ? あと、お前も宿題しろよ」
「皆の宿題の進捗率ネ、つまり百パーセントの私は既に終わっているヨ」
「よし、見せろ超!」
「見せろ、じゃねえ。それは最終手段だ。まずは、お前自身の力でできるとこまでやれ」

 誰かの宿題を見る事を全て否定こそしなかったが、そこはむつきも一応は教師である。
 長谷川の暴言を退け、できるところまではと座らせた。

「超りん、さすがって言いたいけど。どこが朗報なのよ。最終手段が確保されたってのは、確かに朗報だけどさ」
「たかが進捗率と侮る事なかれ。初日の今日中は十パーセント枚に十ポイントの入手が可能ネ。つまり、最高百ポイント。二日目は十パーセントで五ポイント、三日目は三ポイント。三十ポイント枚にむつき君人形が進呈されるネ」

 何処から取り出したのか、小鈴が十五センチ程度のデフォルメ人形を取り出した。

「ですが、たかがポイント表示されたからと言って。先生の姿を模した人形は一つぐらい欲しいですが。三個もさすがに……今日中に終わらせたら百ポイント。十ポイント余るです」
「今日中に終わらせれば、残りの十ポイントで特別に一個進呈ヨ。たかがポイント、たかが人形と侮る事なかれ。人形一つにつき、親愛的が可能な限り、願いを叶えてくれるとしたら?」
「人形も欲しいけど、先生がなんでもお願いを。今何パーセント、まだ八。あと二十二パーセントで一個、せめて一個は欲しい。けど願いを叶えたらなくなるなら、もう一個」
「おいおい、本人の許可もなしに。まあ、可能な限りって制限があるなら。このままじゃ、元から三日で宿題終わらせてそうな奴ばっか終わらせられるだけだし」

 良いんじゃねえかと、むつきが許可を出す前に極一部がスパートをかけた。
 美砂とアキラ、二人共にイチャイチャセックス、またはお尻でと呟きながら。
 さりげに夕映も、テキストのみに視線を落としてシャープペンシルを走らせ始める。
 あとは既に五十パーセントを超えていた和泉ぐらいだろうか。
 のこり十パーセントで二個目なのだから、やる気はましましであった。

「先生に惚れてる奴ら、和泉はまあもういいや。私ら、そんなメリットあるか?」
「んー、万が一襲われそうになったら防波堤に?」
「人形一つで殿方の性欲が制御できれば苦労はありません」

 ただやる気ましましは、長谷川の言う通りごく一部であった。
 朝倉が一応使い道を提案してみるものの、役に立つかとばかりに雪広に切って捨てられる。
 恋人でない人間には使い道がないよなという結論が出る直前、四葉が立ち上がった。

「丁度、三十パーセントです。超さん、お一つむつき君人形をもらえますか?」
「ふむ、今直ぐにと言うのは、叶えて貰いたい願いが既にあると?」
「はい、前々から少し考えていた事が」

 小鈴からむつき君人形を受け取った四葉が、早速とむつきの下へ。
 普段彼女は、コック姿や超包子の制服、割烹着と料理関係の服装である事が多いのだが。
 半そでのグレイのパーカーにデニムのショートパンツと、割と珍しい私服姿である。
 特にショートパンツから伸びるむちましい足は、むちむち好きなむつきには嬉しい姿であった。
 そんな四葉がどんな願いを言うのか、美砂達ですら一時手を止め見つめた。

「先生、お願いがあるのですが」
「頑張ったご褒美だ、可能な限りは努力する」
「いえ、それほど難しい事では。少々お高いお店に行く時の保護者をお願いしたいんです。もちろん、お代は超包子の稼ぎから私が出します」
「あのな、自分の分は自分で出すよ。分かった、四葉のお願いは高級店とか、保護者同伴が要りそうなお店に、俺について来て欲しいことだな」

 確かに、美味いラーメン店や普通の飲食店ならいくらでも行けるだろう。
 ただし正装が必須の高級店等、方向性が変われば四葉一人ではいけない。
 例え麻帆良最強頭脳である小鈴がいたとしても、難しい事には変わりなかった。
 中華料理店であれば、妙なコネで入れそうではあるが。
 あと、店長を札束で殴ったりと、少々古臭くも強力な手段にて。

「でも他の道って中華を離れておフランスとかそういう意味でもないんだけど。お前、本当に料理作るのが、食べて貰うのが好きなんだな」
「先生のお心遣いには感謝しますが、自分で選んだ道ですから」

 淀みのない真っ直ぐな瞳での言葉に、降参ですとばかりにむつきは人形を受け取った。
 そして、ふと気付くと四葉の後ろには同じくむつき君人形を持った雪広がいた。
 ちらりとモニターに視線を向けると既に七十パーセントに進捗率が到達している。
 三十パーセントに到達したばかりの四葉とは異なり、二つむつき君人形を持つ権利があった。
 恐らく、四葉の願いを聞いて、それから何かを思いついたのだろう。
 お先ですと下がった四葉に頭を下げられたあやかが、返礼をしつつむつきの前に歩みでた。

「私も、一つお願いしたい事が。この夏休みの、何時でも構いません。ひかげ荘メンバーはもちろん、クラスメイトも可能な限り連れて旅行に連れて行ってください」
「おいおい、修学旅行は来年ちゃんとあるんだぞ。ただ、それなら四葉の願いと多少。バス一台借りて、一週間ぐらいかけて日本の美味い物を食べ歩きとかも良いな」
「内容はお任せしますわ。先生のご予定に合わせてで構いませんので。ただ、出来ればお盆前が個人的には。多少、強行軍になっても構いませんから」
「ああ、俺も水泳部が全国大会行ったらそっちがあるし。お盆前な、スケジュール見直しとく」

 四葉と雪広の願いを受け取ると、何時の間にやら長谷川までもがテキストの消化に意欲を見せ始めていた。
 特に雪広の願いのスケールが大きく、そこまでの効果がと感じたからだろう。
 私語の一つもなく、皆が皆、マクダウェルも含め、懸命に宿題を片付け始める。
 むしろ、むつきがうろうろする事は、逆効果なのではないだろうか。
 特に苛立たしげにしているマクダウェルにとっては。
 二つのむつき君人形を手に、むつきは一先ず食堂を後にする事にした。
 教師としての仕事もあるし、本当に一度はスケジュールを見直す必要が出てきたからだ。
 既に宿題が終わり、権利のむつき君人形を四つも持つ小鈴を連れて管理人室へと戻っていった。









 管理人室のコタツテーブルに座り、既に宿題を終わらせた小鈴を膝の上に。
 今日はチャイナ服ではなく、色こそ同じような朱色だがキャミソール姿であった。
 その格好にあわせてシニョンキャップも外し、纏めた髪にかんざしのような飾りが挿されていた。
 小さな鈴がついているようで、動くたびにチリンチリンと猫のように音を立てる。
 ちょっと神楽坂を思い出すが、健康的な太股や肩、鎖骨が眩しく、エッチにも移行し易く嬉しい事だ。
 ただし、まずはその前に本当にスケジュールの見直しが必須であった。
 キャミソールの上からお腹の肉を摘んだり、ノーブラの乳首を指で弾いたり。
 程々に小鈴の相手をしながら、コタツテーブルの上に件の携帯電話を置いた。

「活用してくれてるみたいで嬉しいネ、親愛的。葉加瀬がもう終わらせる頃だが、それまでは親愛的を独り占めネ。昨晩のうちに終わらせておいて正解ヨ」
「終業式後に、終わらせたんかい。相変わらずというか、むつき君人形とは関係なくご褒美だ。頑張りやさんめ」

 綺麗に纏められた後頭部の髪に手を沿え、唇を強めに押し付けた。
 ディープでこそないが、やや長めの吸い付くようなキスである。
 暑さとは別種の熱さに、元々赤い小鈴のほっぺがさらに赤くなっていった。
 そのまま後頭部に添えたのとは逆の手が、小鈴のキャミソールの肩紐を外そうとしたがグッと我慢。
 さすがに皆ががんばっている時に、一人だけセックスではしゃぐわけには行かない。
 そんなむつきの葛藤とは裏腹に一度唇を離せば程良くできあがり、ごろごろと小鈴が胸板に頬ずりしてきた。

「いかんいかん、スケジュールの見直しだった」

 はっと思い出し、小鈴を可愛がりながら、スケジュールの画面を呼び起こした。
 今年は水泳部の顧問がある為、職員室の待機や教育委員等への提出資料の作成等、夏休みの間の教師としての仕事は少し免除される。
 その代わり、水泳部なので彼女達が部活中はプール場に必ず居なければならない。
 コレがもう少し別種の、例えばバスケ部等ならば多少居なくても許されるのだが。
 それはさておき、近日中のイベントとは何なのか。

「二十八日の夜に合コンの幹事、連絡も店の手配も終わってる。あっ、二十七日って夏祭りだっけ」
「季節柄、的屋の都合が付かず平日の二十九日ヨ。けれど楽しみにしていると良いネ。改良版、ピンクローターの準備もしっかりとできてるネ」
「またあれ、やんのかい。それから三十一日は宮崎とのデート、たぶんそのまま夕映との初夜。特別初心な宮崎とのデートだから、古本めぐりとかそういうのか?」

 自動モザイク機能がある為、とりあえず三十一日の部分にハートマークと初夜と記入。

「八月一日は、水泳部の地区大会。全国に行ったら、二十一日から三日間。他に、確か五日に佐々木の新体操の大会があるとか、二ノ宮先生が」
「ふむ、さすが変態鬼畜教師。まき絵さんのレオタードを視姦しつつ、惜しくも県大会優勝を逃した彼女を更衣室で慰めつつ、その未成熟な体を貪り食うと」
「おい、俺の恋人の一人。もう、全く説得力ねえけど。しないから、これ以上嫁さん増やさないから。俺の夏休みの目標は、これ以上嫁さんを増やさない。これにつきる」

 この野郎と携帯電話を手に、冗談半分で小鈴を押し倒すと嬉しそうに悲鳴をあげていた。

「レイプ、先生にレイプされるネ。キャミもびりびりに破られて、濡れ始めたばかりの膣を指でかき回されそのまま極太のアレを突っ込まれてしまうヨ」

 チラチラと、何やら期待の眼差しで見上げてくる。
 アキラはどちらかというと苛めてオーラが凄いだけで、特別Mというわけではない。
 だが、超は以前から度々自身でもらしているとおり、むつきに束縛されたいM気質だ。
 普段美砂達を怖がらせないよう自己制御を特別しているだけに心が疼く。
 小鈴が望んでいるのなら、多少乱暴にしても許されるのではないのかと。
 心の奥底に住む獣を解放して、愛ではなく性欲のみで小鈴を蹂躙してしまいたい。
 いやいや、皆が頑張っている中で自分だけ、小鈴もだがセックスではしゃぐわけにはとまた思いなおす。
 しかし駄目押しとばかりに、這って逃げた振りの小鈴が高くあげたお尻をふりふり。
 キャミソールのスカート部分をはだけ、わざと見せた朱色のパンツには小さな染みが。

「しゃ、小鈴ッ!」
「キャー、ネ。心の獣を解放するヨロシ、親愛的!」

 わざとらしい悲鳴を上げた小鈴へと、飛びつくように覆いかぶさろうとする。
 非常に残念ながら、その時管理人室の襖が廊下側から開かれた。

「超りん、むつき君人形四つ頂戴。って、あら」
「超さん昼間から一体何を、というか先生ですねこの場合は!」

 小鈴自身、多少予想していた事だが、宿題を終わらせた和泉に加え葉加瀬が現れた。
 これにはむつきの獣もすごすごと、特に葉加瀬がいるので心の奥に帰っていく。
 むしろ襲った場面を見られたと、下半身もすごすごと萎んでいった。
 改めてコタツテーブルに座り、小鈴を隣に座りなおさせ一応取り繕う。

「はや、速かったな。特に和泉」

 思い切りどもってしまったが。

「私も超さんと同じで、昨日の夜からばりばり進めてたやんね。アキラはコツコツ派だから今日中はちょっと無理かな? へへ、先生私も混ぜてや」
「時間切れ、ネ。もう少しで真・変態鬼畜教師に先生が進化したというのに、残念ヨ。先生に二人でご奉仕するネ」
「先生は動かんといて、そのままスケジュール管理」

 抱きついてきた和泉が、超と示し合わせてコタツテーブルの下に潜り込んだ。
 床にお腹をべったりとつけ匍匐前進。
 浴衣姿で胡坐をかいているむつきの股間まで、反対側からコタツテーブルに潜り込んだ超と共に突き進む。
 見ていて少し頭を打ちそうだったので、動くなと言われたがむつきは少し体を引いた。
 むつきの獣は引っ込んだが、雌豹が二人に増えてしまいもはや抗えない。
 こんなに意志の弱い人間だったかと、ちょっと情けなくなった。

「葉加瀬、突っ立ってないで入れ。絡繰も勉強中だし、やる事ないんだろ?」
「あっ、はい」

 これまでなら、研究があるのでとそのまま退室するのが葉加瀬であったが。
 自分が乙女である事を自覚してからは、男というか性に関心を抱き始めていた。
 少しばかり階段を飛ばし過ぎな気もするが。
 今日も研究用白衣姿ではなく、眼鏡もコンタクトにして髪も三つ編みからおろしている。
 格好は白黒ゼブラのキャミソールだが、その上に白い上着を羽織って少し清楚に。
 まだ借り物の衣装かもしれないが、健康美を強調するよりは清楚な格好が好みなのか。
 むつきがぽんぽんと叩いた隣の座布団の上に、正座で座ってきた。

「これで真冬であれば、あれネ。可愛い彼女が遊びに来たけど、実はコタツの中ではというシチュ。大変、鬼畜でヨロシ」
「超りん天才。セックスフレンドにフェラさせながら、そ知らぬふりで自分は可愛い彼女と家デート。先生やらし」
「あの、超さんや和泉さんに比べ私など。まだまだお洒落初心者なので」
「お前等、俺の股間で喋るな。しゃぶれ、セックスフレンドに性奴隷。どこまでやったっけ、佐々木が五日に大会あるんだっけ?」

 セックスフレンドと言われ和泉が照れ照れ、性奴隷といわれ小鈴が少しぽうっと目元をとろつかせ。
 浴衣の帯を解いて、再び硬さを取り戻し始めた一物を取り出した。
 最近、長谷川に倣ってひかげ荘内ではノーパンになってきたむつきであった。
 脱がす楽しみが彼女達にあるかどうかは不明だが、セックスに移行し易いのだ。
 夏の陽気で蒸れやすい陰部に鼻先を近付け、二人が胸一杯に蒸れた臭いを吸い込む。
 はあっと陶酔した吐息を漏らし、短く可愛いその舌でぺろぺろと舐め始めた。

「お盆前って言ってたし、となると六日以降か。いっそ六日からお盆まで北海道から沖縄まで股にかけるか。お盆に皆を帰さなきゃいけない気もするが。葉加瀬はどう思う?」
「えっ、あの何がでしょうか!?」

 問いかけから少々の間を置き、ハッと我に返って葉加瀬が聞き返してきた。
 その視線は元々むつきの股間に注がれており、和泉と小鈴のダブルフェラに見入っていたようだ。
 顔を火照らせ焦る葉加瀬がとても可愛く、思わず肩に手を伸ばしそうになった。
 その手を止めたのは、一物をギュッと強く握った和泉である。
 寸止めを強行された嫌な過去の記憶を掘り起こされ、体全体が硬直した。

「フェラに夢中で忘れとった。先生にこれ言わなあかへんかったんや。先生、さっきの柿崎の言葉忘れたらあかんよ?」
「美砂のどれだ?」
「イチャラブ濃度低めって、あれちゃかし気味だけど不満しっかり漏れとったやん。セックスフレンドの私が言うのもなんやけど。ちゃんと可愛がったらなあかんよ」

 確かに先日もアキラにそっぽを向かれたり。
 許されるからといって、少し方々に手を出し過ぎなのかもしれない。
 アタナシアの件でマクダウェルに懇願したり、普通ならふざけんなと大喧嘩だ。
 大喧嘩でも傷は浅いほうか、それこそ長谷川の言う通り愛想をつかされても文句は言えない。
 反省しなければと思っていると、ちゃぶ台をひっくり返すように和泉が言った。

「反省して、柿崎達を可愛がるならええ。さ、葉加瀬に手だしや」
「止めないのかよ」

 お前が言い出したんだろうと、和泉を見るも本人はあっけらかんとしていた。

「私は先生が誰と恋人になってもええもん。私が本物の恋をするまでは、エッチでお互い気持ち良くなるええ感じのセックスフレンドやもん」
「相手に寛容なのが、セックスフレンドの良い関係ネ。葉加瀬も、科学者ならば好奇心に殺される暇はないネ。むしろ好奇心は全て知り尽くして殺すぐらいで丁度良いヨ」

 おい俺の恋人と突っ込みたいが、何気に彼女も四番目である。
 葉加瀬に手を出すつもりもないのだが、黙りこくるのも違う気がした。
 意識せずに極々、自然体で。

「六日からお盆ぐらいまで、十日ぐらい使って皆で旅行って話だ」
「はい、それでは失礼して」

 そう尋ねなおしたのだが、何やら気合を入れて葉加瀬がすすすと近付いてきた。
 一度座布団から降りて中腰になり、むつきが座る座布団の真横に自分のを近づけ座る。
 何やら好奇心どころか、むつきを色々な意味で殺しにかかって来ているような。
 わざとなのか、素なのかむつきの手元の携帯電話に身を乗り出して覗き込んできた。
 格好がキャミソールなのでそれなりに育ち始めている双丘の谷間がありありと見えてしまっている。
 さすがお洒落初心者、ビギナーズラックでの攻めが強い。
 さらに画面を操作しようと手を伸ばし、腕や肩がぴとぴと接触を繰り返す。
 ちょっとむつきがどぎまぎして良い匂いと思っている間に、操作が終わったようだ。

「六日からなら、そうですね。超包子の電車を改造してバスに改造を。先生も運転手など煩わしい事から解放されるよう。アンドロイドの田中さんにソフトをインストールして。十分に間に合いますね」
「そっちか、そっちのスケジュールか。まあ、収集できる人数次第だけど。生徒を連れてとなると学園長の許可が。他に引率の先生もせめてもう一人欲しいな。高畑先生は外国だし」

 ついでにネットで北海道から沖縄まで、四葉が行きたがりそうな高級店をピックアップ。
 旅行そのものは雪広の提案だが、四葉の高級店にというリクエストもあるのだ。
 今から予約となると難しいかもしれないが、昼間ならまだ空いているだろう。

「北海道ならカニだけど、今夏だし。あれ、夏でも旬のカニってあるのか」
「私もそれはしりませんでした。お刺身も良いですが、夏にあえて鍋というのも面白いかもしれませんね」

 旅行を計画するカップルのように、色々とネットで検索しておしゃべりをする。
 ただし、忘れてはならないが、現在むつきは和泉と超のダブルフェラ中であった。
 一件普通に葉加瀬と接しているが、時々快感に負けて顔が歪みそうになっていた。
 なんだか妙に葉加瀬も一時的な接触、ボディタッチのような事をしてくる。
 葉加瀬を左手に置き、右手で持った携帯を二人の間に。
 先程からずっと、空いた左手が葉加瀬を抱き寄せる寄せないで葛藤の嵐であった。

「葉加瀬、すまん。ちょい我慢の限界。抱き寄せて良い? それ以上、何もしないから」
「あの、ずっと待ってたのですが。先生、何もしれくれないので。自信失くしそうにきゃ」

 聞くや否や、むつきは葉加瀬の肩に手を回してもたれさせるように抱き寄せた。

「前も言ったけど、超可愛い。自信持て、正直美味しそう。あと、俺以外の男にうかつにやんなよ。特に二人きりで、速攻押し倒されるから」
「し、しませんよ。こんな恥ずかしい事」
「初心な反応が凄く新鮮で良い。こいつらみたいに、エッチなのも好きだけど」

 葉加瀬をより強く抱き寄せつつ、二人へのフォローも忘れない。
 何しろ今はフェラをされているが、一物を人質に取られたも同然である。
 携帯を持ったままで悪いが、気持ち良いぞと二人の頭をそれぞれ撫でた。

「んふぅ、んぅんっ。先生、出したかったらいつでもええて」
「んぁ、玉袋もぱんぱん。このお口で受け止めるネ、親愛的の性奴隷なら当然」

 今にも射精しそうだが、もう少しだけ我慢我慢である。
 何時でも好きな時にと普段からしていると、早漏になりそうで少し怖いのだ。

「そうだ、もし可能であれば今この場で私もむつき君人形を使いたいのですが」
「葉加瀬に俺がしてやれる事ってあるか? 可能な限りだから、一応聞くけど」
「あのですね、先生にこのひかげ荘に常駐していただけないかと」
「どういうこと?」

 それが教師を止めてと言う意味なら断るが、そうではないようだ。

「一応、あられもない姿の女性がたむろする場所ですから防衛システムは完備しています」
「俺の知らないうちに、ひかげ荘が防衛地点になっている件について。いや、確かにふらふらと浮浪者が来そうな場所だしありがたいかもしれないが。山の中だし」
「システムの説明はいずれ。ですが、やはり心の許せる男性がいてくれるのは心理的にも安心できます」
「そもそも、なんで先生って教師用の寮におるん? ここから女子中一駅やし、近いやん」

 当然ながら当然の和泉の質問に、想定の範囲内だと即座にむつきは答えた。

「こんな馬鹿でかい建物に俺一人で居られるか。普通に孤独死するわ。けど、今はマクダウェルが住んでるし、それに付き合って絡繰も。葉加瀬や小鈴は何時の間に地下にいるし」

 葉加瀬はパンツ紛失事件以降、あまり麻帆良大の工学部に顔を出さなくなった。
 一応件の犯人は停学処分を受けて研究室を追い出されていた。
 しかし話が違うと工学部の教授から連絡があったが、葉加瀬の意向だ知るかと言っておいた。
 現状、研究室はひかげ荘の地下にもあるし、研究結果報告はメールや電話で十分だ。
 つまり現在、ひかげ荘は平日でも稼動中で昼間は兎も角、夜は誰かいる事になる。

「夏休み中に引っ越すか。格安寮とはいえ家賃は掛かるし、電気代他も。夏休み中は本当に誰かしらいるし。良い機会だ」
「善は急げ、あの調子なら皆遅くとも明日中には宿題終わらせるネ。明日から明後日の夕方までに荷物は全部運び込むネ」

 本当に急げだなと思うが、そうでもしなければ夏休み中など無理だ。
 なにしろ予定が詰まりすぎていて、うかうかしていると夏休みが終わる。
 夏休みといっても、生徒達のであって教師のなどお盆ぐらいしかない。
 忙しい夏だこそと携帯のスケジュール張を見ていると、背筋にぞくぞくと大きな波が。
 気がついても見れば、会話に加わっていなかった和泉が、竿をかなり深いところまでくわえ込んでいた。
 自分の唾液とむつきの先走り汁を混ぜ合わせ、じゅぶじゅぶとわざと音を立てている。
 ぐっと射精感を堪えたのがわかったのか、上目遣いにウィンクしてきたのは恐らく小瀬の仕込だろう。

「そろそろ、出そう。葉加瀬、ここ。跨ってくれるか?」
「はい、失礼して。超さんも、和泉さんも少々失礼します」

 胡坐の上を跨がせ、対面座位の格好で葉加瀬を座らせた。
 先走り汁と唾液塗れの一物が服につかないよう、一応断ってからお尻を抱える。
 先程も香ったが女の子の良い匂いに混じり、柑橘系のコロンか何か。
 以前の眼鏡に無造作な三つ編み白衣姿、言ってしまえば野暮ったい格好からは想像もつかない可愛い女の子だ。
 ついに和泉はディープスロートにまで達し、小鈴には玉袋をくわえ込み甘噛みされてしまう。
 本当日に日に上手くなっていくなと少女達の成長加減に苦笑いしつつ、大事な事だと葉加瀬に尋ねた。

「なんだか、妙に積極的だけど。葉加瀬、無理はしてないか?」
「今はまだ本当に好奇心ですが。美味しそうなんて言われたの初めてで。先生に可愛いと言って貰えると女の子として凄く自信がつくんです。あの私、可愛いですか?」

 自分の胡坐の上、対面座位で見上げてくる女の子に返す言葉など一つしか知らない。

「もう、超可愛い。良いか、お前等。こういう純で初心な反応を忘れんな。男はな、馬鹿だからこういうのに弱いんだ。葉加瀬は素だけど、演技だと分かってても嬉しいんだって」

 葉加瀬をぎゅっと抱きしめ、性にオープン過ぎる和泉と小鈴を見下ろす。
 別にそれが悪いわけではなく、それはそれで好きだが。
 時々でも良いからアクセントとして、女の子女の子している所もみたいのだ。
 忘れんなよと、左手で葉加瀬を支えつつ、右手で二人の頭をぐりぐり、股間に押し付けた。

「あかん、もう限界。出そう」
「ぷはっ。超りん、先生を受け止めてあげて。うちは……葉加瀬、ちょっと濡れとる」

 小鈴に咥え役を譲った和泉が、葉加瀬のキャミソールの中に手を伸ばした。
 角度的に直接は見えないが、むつきが尻を支えていたので作業経過が手で触れることで明らかだった。
 それはもう大胆に和泉が葉加瀬の下着を下したのだ。
 さらにお尻を支えるむつきの手に和泉の頬が触れそうな程に、彼女の陰部に唇をつけた。

「和泉さん、駄目です。そのような所は、んくぅ」
「いつでも大丈夫ネ、親愛的。んぅぁ、んっんっ」

 無垢な少女から大人へと、和泉の愛撫を受けるたびにピクリと葉加瀬がむつきの腕の中で暴れた。
 その表情の変化だけでも十分に楽しく、想像力が刺激され抱き締める力が強くなっていく。
 むつきから視線をそらしたのは、大陰唇を強引に開かれたからか。
 小さく「ぁっ、ぁっ」と悶えたのは、その更に奥膣の中にまで和泉の舌を受け入れてしまったからか。
 愛撫一つ一つに可愛く反応しながらも、むつきに抱きしめられている為に逃げも隠れもできない。
 腕ごと抱きしめられている為、顔を隠す事すらできない状態である。

「和泉、お前も本当に天才。葉加瀬の可愛い顔がどんどん見える」
「先生今はあまり、可愛いなどと。変な、変な感じがぁっ。体が痺れてぅ」
「葉加瀬、先生が可愛いやて。きっと、今までよりもっと美味しそうって思っとる」
「うん、ちょっと我慢できない。葉加瀬、キスして良い?」

 もはや言葉もないようで、顔を真っ赤に目尻に涙さえ浮かべ僅かな躊躇いの後に葉加瀬がこくりと頷いた。
 その涙を唇で吸い取った後に、むつきはそっと葉加瀬の唇を奪った。
 本当にお洒落に予断がないというか、薄いリップでこちらまで唇が潤いそうだ。
 さすがに初めてなので蹂躙系はせずに、長く時間をかけて唇を合わせ続ける。
 それだけでも助けを求めるように葉加瀬が抱きついてくれ、より一層その体の高ぶりが手に取るようにわかった。
 何時イってもおかしくはない状況で、助けてとばかりに潤んだ瞳で訴えて来る。
 もちろん、そんな訴え方を聞き入れる男などいるはずもなく、むしろ逆効果としかいえない。

「お前の前ではテレビのアイドルだって十把一絡げ、霞んじまう。可愛いぞ凄く、自信を持っていいぞ葉加瀬」
「はい、少し持てそうです。だから、先生もう一度、自信下さい」
「くそっ、マジで可愛いなこいつ。喜んで自信やるよ」

 瞳を閉じて唇を突き出しながら見上げられ、我慢の限界であった。
 ほんの少しだけ乱暴に、唇を押し付けて吸い上げ、舌を唇の中へと侵入させる。
 だが葉加瀬も思ったよりは嫌がらず、たどたどしい舌使いで応えてもくれた。
 体と同じく和泉の愛撫に震える舌で、お洒落と同じく手探り状態で絡めあう。
 ふうふうとお互いに鼻で荒く息をつき、時々アクセントに葉加瀬が体を震わせる。
 詳細は不明ながら、どうせまた和泉が愛撫の段階をあげたのだろう。
 ならばその分とばかりに、むつきは葉加瀬を愛撫ではなく、愛でることで可愛がってあげた。

「どいつもこいつも、本当可愛い。これだけ奉仕されたんだ、一回出したら一杯可愛がってやるからな。夏休み初日に腰抜かすなよ」

 ディープキスから普通のキスに戻し、恋人であるかのように葉加瀬の頭を撫で付ける。

「これ以上なんてとても。先生、そんな恋人みたいに。駄目、です。大事な所が。私の女の子がとろとろに、ふやけて。和泉さんっ!」
「うん、葉加瀬凄くエッチで可愛い。下のお口のファーストキス、うちが貰っちゃった」
「親愛的もそろそろ限界ネ。サービス、ヨ。このまま葉加瀬のお尻を汚すネ」

 小鈴がフェラから手コキに変え、和泉も譲ってあげるとばかりに葉加瀬の秘部にむつきの亀頭を添えた。
 小鈴がむつきの一物をたぎらせるなら、私は葉加瀬の体をとばかりに腰を掴み前後左右に振り回す。
 下手をすれば挿入してしまいそうな状況で、むつきの亀頭と葉加瀬の割れ目が一時的な接触を繰り返していった。
 ちょっと抱き寄せたり、抱きしめるだけのつもりがずるずると。
 むつきの頭も考える事を止め、止まる気力もなく可愛い葉加瀬を心行くまで味わっていく。
 ほんの少し、葉加瀬を抱き上げる力を緩め、触れるだけだった割れ目に少しだけ亀頭が埋もれる。
 くちゅくちゅと、膣口を探し、穴あらば広げようとばかりに丹念に探索の手を広げた。

「葉加瀬、俺がどれだけお前を可愛いと思ってるか。大事な部分にぶっかけるから、これで自信持て。お前は可愛い」
「はい、先生。私に自信を女の子としての自信を」
「イク、出るぞ。葉加瀬にぶっかけるぞ、イク。葉加瀬、これがお前の自信の元だッ!」
「ひぃゃ、熱っ。どろどろと熱いのが、お尻を私の女の子を!」

 びゅくびゅくと迸った精液が、葉加瀬のお尻や秘部に射精されては飛び散った。
 丸みを帯びたお尻を流れ落ちては、さらに次の精液が付着されまた流れ落ちる。
 精液の川が葉加瀬のお尻に生まれるほどであり、その熱さに葉加瀬の目もとも流れ落ちそうな程に蕩けていた。
 精液はそのままぼたぼたと畳を汚しながら、それ以上に葉加瀬を汚していく。
 だがそうされた葉加瀬は、嫌がるどころか寧ろ誇らしげに。
 自分が魅力ある女の子だと強制的に理解させられながら、満足そうに虚脱していった。
 むつきの胸にもたれかかりながら、何処にでもいる女の子のようにだ。

「お疲れ、葉加瀬。疲れたなら、布団敷くけど?」
「すみません、お願いします。ただ、もう少しだけこうさせてください。先生の匂い、凄く安らぎます。理由なんてどうでも良い。そんないい加減な事を考えたのは初めてです」

 理解を放り出した葉加瀬を撫でつけ、視線で二人にお願いした。
 押入れから布団を出して敷いてくれと。
 十二分に葉加瀬を愛でてあやした後に、そこに寝かせてあげる。
 お尻は和泉と小鈴が赤ちゃんにするように足を持ち上げ綺麗に拭いてあげていた。
 それからお腹を冷やさないよう、しっかりとタオルケットをお腹にかけている間に寝てしまった。
 それからむつきは小鈴と和泉を連れ、続きをする為に隣のアキラの部屋に向かった。









-後書き-
ども、えなりんです。

第二部開始。
メインヒロインは、次回。



[36639] 第五十二話 まだ、私は処女なのです
Name: えなりん◆e5937168 ID:b379f023
Date: 2013/07/17 21:03

第五十二話 まだ、私は処女なのです

 今日の夕食は、ピリ辛しょうが焼きとたっぷり野菜のスタミナ料理であった。
 もちろん作ったのは四葉であり、長い夏休みに備えてという心遣いである。
 まだ宿題が終わっていない者は、四葉には悪いが味わう暇も惜しんで平らげた。
 そして即座に宿題に取り掛かったが、数時間で時間切れであった。
 徹夜はむつきが許さずその時間切れは夜の十時。
 結局本日中に宿題を終わらせられたのは昼間の三人に加え、雪広と朝倉それから絡繰の三名。
 絡繰はガイノイド故に少々ずるい気もしたが、それが彼女なので文句が出るわけもなく。
 残りの面々は全員が五十パーセントを超えたが、惜しくもと言うところであった。
 長谷川やマクダウェル等は、明日には終わるなと気楽な夏休みに希望を抱いていた。
 だが特に惜しんだのが、むつき君人形四つ欲しかった美砂やアキラ、夕映である。
 恋人達の中で言いだしっぺの小鈴だけが四つとなおさらであった。
 机に噛り付いてでも宿題を続けようとした為、一人ずつむつきが風呂へ運んでいく。
 他は全員、夕食の片づけをした四葉も含め、風呂を浴びて遊戯室であった。
 夏場恒例の稲川何某の怪談話がテレビでやるらしく、部屋の電気を消して視聴するらしい。
 一方のむつきは、一番最後まで駄々をこねた美砂を、お姫様抱っこで露天風呂の脱衣所まで連れて行く途中であった。

「やだやだ、まだやるもん。二時間あれば終わるの!」
「一日かけて六十五パーセントがどうやれば、あと二時間で終わるんだよ。今日はもう時間切れ。こら、大人しくしなさい」
「むつき君人形四つ欲しいの、二つじゃなくて四つ。いやしんぼなの!」
「誰だよ、その台詞仕込んだ奴。はいはい、分かったから暴れんな」

 手や足がげしげし当たって少し痛いが、落とさないよう気をつけて歩いた。
 アキラや夕映はもう少し大人しかったのだが、本当にもう駄々っ子である。
 しょうがないので最終手段、喚く美砂の唇を奪って舌を入れた。
 一人最後までわがままをいう言葉を聞く耳持ちませんと、風呂の前に歯磨きだとばかりに。
 食べ残しの欠片一つでもあれば、絡めた舌で受け渡しては食べさせる。
 こくこくと美砂の喉をむつきの唾液ごと飲み下す音が、静かに廊下に染み渡る。
 まだ歯磨き前であったのでピリ辛味、恥ずかしさもあったのか段々と大人しくなった。
 代わりに首に腕を回されもっとと強請られたが、暴れられるよりはよっぽど良い。
 いい加減離れようとするがしがみつかれ、恋人の攻防を何度か繰り返しようやく唇が離れる。
 やや蕩けた瞳になった美砂を上から覗き込むように、むつきは美砂へと両天秤に掛ける問いを投げかけた。

「ん、美味い。夏休み初日をイチャラブセックスで終えるのと、一人で食堂で必死に宿題して寂しく追えるのとどっちが良い?」
「イチャラブセックス」

 直前のキスもあって迷いなき即答かと思われたが。

「だけど。むつき君人形も欲しい」

 諦めきれないと大きな瞳にじわりと涙を浮かべながら、唇を突き出された。
 欲求に正直な事でと、まずはお風呂ともう一度キスをしてから連れて行った。
 脱衣所の暖簾は恋人が使用中と、丸字に男でも女でもなく愛の一文字である。
 一体誰が用意したのか、考えられるのは長谷川なのだが。
 先に連れて来ていたアキラと夕映の姿は見えず、美砂を降ろして着替えを命ずる。
 脱衣所の適当な籠に、自分も浴衣を脱いで入れるが、下着もないので手早いものであった。
 のろのろと脱いでいる美砂に振り返り、その頭をぽんと叩いた。

「ほら、そんな顔すんな。良い事を教えてやるよ、まだ四つ手に入れられる方法。あんま落ち込んだ顔見せてると、教えてやらねえぞ。アキラと夕映が待ってるからお先」
「えっ、本当。待って、先生待って!」

 こそっと呟き、置いていく素振りを見せると慌てて美砂が衣服を脱ぎ出した。
 といっても、むつき程ではないが夏真っ盛りのこの時期である。
 薄着が基本である事から、脱ぐだけなら女の子でも時間はかからない。
 ちゃんと待っていてくれたむつきに追いつき、その腕に抱きつき自慢の胸を直に押し付けた。
 普段よりもかなり濃い湯気に出迎えられ、東屋でお喋り中のアキラと夕映に手を挙げて知らせ、まずは洗い場へ。
 美砂が早速、椅子に座ったむつきの上に座って洗いあおうとしたが既に二人を待たせ中である。
 残念だが隣の椅子に座らせて、さっさと頭や体を洗ってしまう。
 髪の長い美砂が多少苦戦していた為、そこだけは手伝ってから腕を組んで湯船へ。

「悪い、美砂がすっごく駄々をこねてな。ゆっくり宿題の疲れを癒せ」
「先生こそ水泳部の顧問、お疲れ様。私がさぼったこと、先輩達何か言ってた?」
「選抜メンバー全員休んでた。小瀬の話だと、本気で全国狙ってるから気兼ねせず水泳に打ち込む為にも今日中に終わらせるんだと。むしろ、アキラも狙う気だって喜んでた」
「ちょっと罪悪感。全国は行きたいけど、欲しかったのはむつき君人形だし」

 てへっと笑うアキラも左手で誘い、次いで夕映にも手を貸し全員で湯船の中に。
 ちなみに小鈴は昼間に十分に楽しんだと、葉加瀬と共に地下の研究施設へ。
 旅行用の移動バスを超包子の元電車を改造するのだと、張り切っていた。
 なのでむつきは遠慮なく背中を露天風呂の岩場にもたれさせ、肩まで浸かった。
 美砂を右手に、アキラを左手、夕映を正面に対面で座らせ皆でほっと一息、つく間もなく美砂に強請られた。

「それで、先生早く教えてよ」
「ああ、我々がむつき君人形を四つ手に入れられる方法ですか。ちなみに私は七十パーセントの進捗率です」
「私は八十かな、頑張ったけど九十も届かなかった」

 現状ではアキラが三個目を貰える可能性があるが、美砂と夕映は無理だ。
 何しろ二日目は十パーセントの進捗率で五ポイント。
 明日中に終わらせても美砂は二十ポイント、夕映は十五ポイントしか得られない。
 現在美砂が六十ポイントと夕映が七十ポイントなので九十ポイントにはならないのだ。
 最大個数を得た超や、一つ足りないだけのアキラとの差が大きく、美砂が急かすのも分かるというものだ。

「ただの特別ルール。俺の恋人は三日間の間に終わらせれば、兎に角四つ貰えるんだとさ。多分、小鈴が後付で考えたルールだろうけど」
「なっ、なんですと。あの頑張りは、正直期末より頑張ったあの頑張りは一体!?」
「そんな事だろうと思ったです。多少の序列こそあれ、皆は等しく先生の恋人。明確な差。それも超さんが作ったルール内で彼女が優位に立てば反感を買う。至極全うなルールです」

 美砂も夕映もぶつくさ言っているが、内心はかなりほっとしている様子だった。

「そっか、ちょっと安心した。明日は午前中で切り上げて部活行こう」
「私も最近色々とサボリがちなので。パルの原稿は今日もどたキャンしてしまいました。夏の売り上げでバイト代を払うと、木乃香さんや明日菜さんを誘うと言ってましたが」
「明日菜に原稿に墨落とされてる場面が容易に想像できるわね。けど私も、午前中次第では部活行こう。円や桜子と付き合い悪くなってるし、夜はご飯一緒に食べに行こうかな」
「おう、部活もしっかりな。イチャイチャしたいけど、自分の本分は守らないとな。俺も顧問で色々と優遇はされるが、やらなきゃならん仕事もあるし」

 正直、こんな資料作って何の役にたつのかという仕事さえある。
 市や教育委員会に、常に生徒の事を考え日々改善していますというアピール資料だったり。
 そんなものを作るぐらいなら、全ての生徒に一言二言語りかける方が断然マシだというのに。
 まあ、彼女達も大人になって社会に勤めれば理不尽な仕事の一つや二つあるだろう。
 深読みではあるが、そう言った点では宿題というのも理不尽を感じながらしなければならない事に対する練習とも言えるのかもしれない。
 そんな未来への考察はさておいて、何しろ今は夏休みだ。
 まずは正面でほっとしながら見上げてきていた夕映の唇をちゅっと優しく奪う。

「アキラ、美砂も」
「先生、大好き」
「最後だからべろちゅぅ」

 言葉通り最後なのを良い事に、美砂とだけは少々長く濃厚なそれを。
 これぞ本妻の特権とばかり、飽きるという言葉を知らない程にねっとりと舌を絡めあう。
 終わり際に唾液の橋を作り上げながら、むつきは三人に笑いかけた。

「欲しかった物も手に入れられそうで気兼ねもなくなり、イチャラブセックスしたい人」
「はい、一杯ご奉仕するから一杯可愛がって欲しい」
「先生、私達で気持ち良くなって」
「うぅ、自分で期限を決めたですが、逆にもどかしくも。ちょっとだけ、参加です」

 真っ先に美砂が手を挙げながら頬にキスを、アキラもむつきの体に愛おしげに手を這わせる。
 正面にて腰を抱かれた夕映も、少し迷ったが小さく手を挙げ主張してきた。
 全員、イチャラブセックスがお望みだと。
 ならばむつきにも断る理由はなく、全力で可愛がってあげる所存である。
 和泉の昼間の台詞も少し気になるし、そのお詫びも含めそれはもう全力でだ。
 まずは夕映を自分へ持たれかけさせ両手を自由に、左右の美砂とアキラの腰を抱き寄せた。

「先生、キスの続き。体より先に唇がふやけるまで。んぅ、ぁっエッチ」
「少し分厚くなってる気がする。逞しい胸板が、ちょっと好き」

 手馴れた美砂が中腰になって上からむつきを襲うように強引に唇を。
 腰を離れた手はするすると、お湯と同じく美砂の体を流れ落ちてお尻で曲線を描きある一点へ。
 お尻とは別の割れ目にたどり着いては、早くも潤い始めているそこへと滑り込んだ。
 溢れ出す愛液を広げるように膣口周辺を指先で弄んだ後、つぷりと指を奥へと飲み込ませていく。
 僅かに太股を閉じられ抵抗ならぬ抵抗を受けるが、指で挿入を繰り返しくちゅくちゅと刺激する。
 左手のアキラもむつきの胸に頬を寄せて、首筋から順に鎖骨、乳首と舌を這わせてくれた。
 手も逞しさを確認するように、へそからお腹お尻に太股と男女逆転したかのような動きだ。
 女の子だって愛しい男の肉体には触れたくもなるのだろう。
 少し興奮したのか、胸板の上で陶酔したようにはあはあと息づくアキラが非常にエロい。
 美砂と同じように、腰にあった手がお尻を滑り落ちてとある穴を指先が上るのに時間はいらなかった。

「えっと、私はまだあの自分からは」

 そこで少し焦ったのは、むつきからの愛撫で受身にしかなれない夕映である。
 どうしようとオロオロしているうちに、むつきの一物が起き始めてしまった。
 既に半分もたれかかっている以上、それはお尻の割れ目を裂く様に押し上げてきた。
 思いついたのは、自分のお尻や股座で擦りあげる愛撫だが、レベルが高くできるはずもない。
 まだ自分から手コキやフェラですらしたことがないのだ。
 今この時もお尻の割れ目をぐいぐいと力強くも熱い肉棒に割られ、カッと赤くなって固まってしまう。
 そんな夕映を救ったのは、彼女の状態に気付いて微笑み、頬にキスしてあげたアキラであった。

「夕映ちゃん、怖がらなくて良いよ。先生を思ってした事なら、先生は全部受け止めてくれる。思ったままに、先生を愛せば良いの。もちろん、恥ずかしいけどね」
「あっ、やっぱり恥ずかしいんですか。一緒だった、なら。一人だけ萎縮するのも馬鹿らしいです。同じアホなら、恋人ならというところです」

 アキラに手を引かれるように、夕映も自分の思うままに行動してみた。
 少し中腰になってお尻の割れ目にあった一物を超える。

「んぁっ」

 ちょっと目測を誤り、大事な部分の割れ目の方まで亀頭に擦られ変な声がでてしまった。
 今のはちょっとなしと、むつきをチラリと上目使いで見たのだが。
 美砂とのキスに忙しいようで、助かったようなちょっともやもやするような。
 そのもやもやに促され、無毛の割れ目を使って反り上がる一物を逆に押してみた。
 ぐっと圧迫しては押し返され、はずみで性器同士がこすれあう。
 これまで未経験というわけではなかったが、自分からむつきへの愛撫という点では初めてだ。
 なんという恥ずかしい事を乙女の身でありながらと赤面が止まらない。
 けれど同じ恋人ならと、さらにむつきの胸に同程度のふくらみしかない胸をこすり合わせた。
 乳首同士がこりこりこすれあうように、すぐそばでむつきの鎖骨を食むアキラと同じように興奮して息遣いが荒くなる。

「先生、拙い動きですけど。感じてくれるですか」
「ああ、気持ち良いぞ。つるつるおまんこが、乳首も擦れて最高だ」
「顔、満足に見れないです」

 わざわざ美砂がキスを中断し、思いもよらない返答をむつきから受けてしまった。
 まさか返って来るとはと、動きはそのままに夕映は俯いた。
 そしてお湯の中での自分とむつきの性器の摩擦を目にして余計顔が火照る。

「夕映ちゃん、可愛い。危ないから暴れないでね」
「あっ、アキラさん。指、入り口を弄って」

 一人だけ弄られないのは可哀想だと、アキラがお尻の側から腕を伸ばし夕映を支えた。
 その手の指先を一本伸ばし、隙間をぬって膣口をちょいちょいと刺激する。
 近々むつきが貫通する予定なので、前準備にとほぐしておくかのように。
 もはや自分から体全体を使ってむつきを愛撫するどころではない。
 ただただ指の動きに合わせて喘ぎ、意図せず体をくねらせむつきの体の上をはいずりまわる。
 とても体に力が入らず、しがみついているつもりでもずるずるとむつきの体から落ちていってしまう。

「夕映が沈む。アキラ、悪いけど指抜くぞ」
「三人同時はまだ難しいね。だから、先に柿崎。私と夕映は慰めあいながら見てる」
「先生、もうガチガチ?」
「夕映ちゃんのつるつるおまんこで愛撫されたんだもん。ガチガチ、はやく私達の中に入りたいって」

 美砂に答えるというよりも、アキラは殆ど夕映の耳元で囁くようであった。
 耳を犯されるとはまさにこの事とばかりに、ぞくぞくと体を震わせている。
 そんな夕映をアキラがむつきの膝から、両脇に手を添え連れて行く。
 自分で岩場に背中から持たれ、むつきに変わって膝の上に抱っこするように抱えた。
 右手はつるつるの割れ目、その奥の膣穴へと伸ばし、まだまだ狭い穴を細い指でなじませていく。
 一方の左手もちゃんと仕事をしており、可愛い乳首をこりこりと弄り倒していた。

「夕映ちゃんも、私のおまんこ弄って良いんだよ。むしろ、弄って。これから先生と柿崎が愛し合うから、私達も愛し合いながら見よう?」
「アキラさん、昼間とは別人。首筋のおっぱいが、右手が左手が全方位が気持ち良くてふわふわするです」
「怖がらなくて良いから、ほらキス。先生とは違うキュンキュン、夕映ちゃん可愛い」

 あるいはそれはアキラがヌイグルミに抱くのに似た感情なのか。
 もう必要ない程に背丈が高いアキラはそれがコンプレックスである。
 逆に背が引く過ぎる夕映を前に、コンプレックスが刺激され、ヌイグルミのように可愛がってしまう。
 今夜は一緒に寝て抱き枕になって貰おうかと、チラリと頭の片隅で考えるほどに。

「見せ付けてくれちゃって。美砂、俺達も見せ付けてやろうぜ」
「うん、先生ちょっと耳かして。やりたい体位があるの。少し大変かもしれないけど」

 こそこそと美砂に耳打ちされ、大いに納得した。
 お互いにおまんこを弄りあって吐息を漏らすアキラと夕映の前に立った。
 後ろから立ったまま美砂を抱きしめるように、股座に一物を差し込んだ。
 割れ目は既に美砂が自分で開いており、股座から伸びたソレを受け入れるだけ。
 お尻も突き出していないので、さすがに挿入は浅い。
 だがまだコレは序の口、あえて挿入の浅い体位となったのだ。

「ぁっ」

 美砂の考えた通り、顔がとろけ気味の夕映が小さく声を漏らした。
 喘ぎ声に混じって消えそうな程に小さい呟きだが、何かを思い出したように。

「夕映ちゃん、ほら。先生のおちんちんが私のおまんこに入ったり出たり。この体位、どこかで覚えは?」
「うぅ、つい先日先生にされたです」

 その時は挿入こそなかったが、後ろから抱かれ立ったままで素股をされた。
 だが夕映の脳裏に呼び起こされた記憶では、何故か挿入をされている。
 そんな馬鹿なと思い出しなおしても、目の前の強烈な映像で上書きされてしまう。
 まだ処女なのに、むつきを受け入れた事がないはずなのに、記憶の中では非処女であった。
 美砂と同じような格好で、後ろからむつきに貫かれ、愛液を垂らしながら犯されている。

「ぁっ、嘘……まだ、私は処女なのです。まだ、なのに」
「急に濡れてきた。先生、頑張って。挿入されてるの柿崎なのに、夕映ちゃんが感じてる」

 うわごとのように夕映がつぶやき、アキラは指先が急にスムーズになったのを感じたのだろう。

「それも、嘘です。アキラさんが弄るから」
「でも、きゅうきゅう締め付けてる。夕映ちゃんも先生の精液欲しいんだ」

 これは大変珍しい、アキラの言葉責めである。
 アキラに全身を弄られ、それこそ耳の奥にまでささやく様に犯され、まさに夢心地だ。
 ただ一方、夕映とは異なり体もそれなりにできている美砂にこの体位はつらい。
 口が裂けても重いなどとは言わないが。
 小さくごめん無理とむつきはささやき、美砂を抱えながら少しお湯の中を歩いた。
 より結合部を夕映に見せ付けるように、目の前まで近づき軽く美砂の背を押して岩場に手をつかせる。
 お湯に浸かるアキラと夕映の目の前で、前のめりになる美砂に追随して抱きしめ胸を揉んだ。
 当然、腰は美砂のお尻にピッタリと、奥を抉るように挿入していった。
 アキラと夕映が、二人の結合部がよく見えるよう、飛び散る愛液の一滴さえ見えるよう。

「バックでも、こうして抱きしめられてするのは好き。アキラ、ちゃんと見えてる? 夕映ちゃんに見てもらえてる。私と先生が愛し合うところ」
「しっかり見えてる。柿崎、凄くいやらしい。ね、夕映ちゃん。ほら、ああやって腰振って先生を誘ってる。お腹に欲しいから、子宮にびゅってして欲しいから」
「ぁっ、ぁんぅ。アキラさん、おまんこ。弄らないでくださいです。ひぅ」
「夕映、自分ばっかり気持ち良くなってちゃ駄目だぞ。アキラのおまんこも弄ってやれ」

 パンパンと美砂の尻を打ちながら、ひょいと背中越しに覗き込んでむつきが言った。
 アキラに弄られ小さくなる夕映は、どうして良いか手を彷徨わせていた。
 その片手をあろうことか、美砂が自分とむつきの結合部に伸ばさせる。
 ずりゅずりゅと愛液で滑り挿入を繰り返す自分の下腹部へと。
 もう直ぐこうなるんだよと教えるように、濡れそぼったそこへと手を誘った。

「こっちの手は、私のおまんこ。柿崎のおまんこ、どうなってる? 先生の硬い?」
「ぬるぬるしてて、柿崎さん柔らかい。反面、先生のが硬くて熱いです」
「触られた、先生とセックスしてる部分。気持ち良い、んぁ。何時も以上に感じちゃうぁっ」
「すっげえ締まる。美砂、感じすぎだ」

 ますます美砂を岩場に押し付けるよう、夕映に結合部を見せ付ける。
 殆ど無意識のうちに、もはや夕映の目と鼻の先十センチ程だ。
 きっと夕映の目を覗き込めば、二人が愛し合う光景が映り込んでいることだろう。

「美砂、もうイク。大丈夫か、イケそうか?」
「んぅ、先生が出してくれたら何時でも。あはっ、夕映ちゃん。見てて、私の子宮に射精されちゃうの。ぁっ、んぁぅ。先生の赤ちゃん、孕まされちゃうのぉっ」
「美砂、イクぞ美砂。美砂の中で」
「いいよ、受け止めてあげるからぁっ。びゅっびゅって、子宮を犯して」

 もはや盛り狂う二人の獣であり、夕映は半分目がぐるぐるとしていた。
 しっかり見てとアキラが頬をぺちぺちと叩き、その遠くなりかけた意識を呼び起こす。

「イク、来た。孕め、孕め美砂!」
「ぁっ、ぁぅんぁ。精液、先生の。イク、イクゥっ!」

 夕映とアキラに視姦されながら、美砂がむつきの射精と同時に果てた。
 まだ乾ききっていない温泉の湯と、新たに体から浮かんだ玉の汗を散らしながら。
 髪を振り乱して愛する男の精をお腹で受け止め、子宮へと飲み込んでいく。
 だが漢方で肉体改造されたむつきは量が多く、許容量を超えたようにあふれ出した。
 まだ挿入されたままの膣口から、ぶしゃりと溢れた精液が飛び散った。
 普段はそのままお湯の中に消えるだけだが、数センチ先には見上げる夕映がいる。
 黒いその髪に、掻き分けたおでこに、頬に唇に。
 むつきの精液と美砂の愛液がブレンドされた体液が、雨の様に降り注いでいた。

「ぁっ、ああぅ。お湯より温かいです。顔射されたです」
「後で、髪の毛洗ってあげる。ほっぺた、ついてる」

 茫然と呟いた夕映の頬の体液を、アキラが勿体無いとばかりに舐め取っている。

「はぁぅ、ぁっ。気持ち良かった、先生素敵だった。次はアキラの番だね」
「俺も最高だったぞ。その前に、キス良いか?」
「うん、大好き先生」

 遠くにいきそうだった意識を呼び戻し、美砂がむつきに抱きついた。
 首筋にごろごろと甘え、最後にキスで一時のお別れをして交代である。
 まだ茫然自失中の夕映をアキラから譲り受け、今度は美砂が抱き上げる番だ。
 小さくて可愛いと、アキラと似たような感想を抱きつつ。
 自分達がかけた体液を舐め取りつつ、大きくなあれと胸をさわさわ刺激したり。
 愛撫を繰り返し、ちゅくっと割れ目を指先で割って膣の中に指を埋めていった。

「夕映ちゃん、柔らかい。キュンキュンしてる。もう少し、八月になったら先生に一杯愛して貰おうね」
「柿崎さんの中がとろとろではなく、どろどろに、粘っこい、先生の精液」
「今夜は特別だぞ、ちょっとわけてあげる」

 順番通りとお互いに愛撫をしてから、見上げた。
 夜空をではなく、自分達に覆いかぶさるように後ろの岩場に手をついたアキラをだ。
 今回はさすがのむつきもギブアップして、最初から普通にバックの体位であった。
 視覚的には、大きな相違こそないが、今にも落ちてきそうな胸の迫力がまた凄い。
 すると何かを察して美砂が夕映の脇に手を沿え、持ち上げてくれた。
 ぐんぐんと近付いてくるアキラの胸、その突起が目の前で舌先でちろっと舐める。

「先生、アキラのおっぱい貰って良い?」
「いいけど、変わりに美砂と夕映のおっぱいくれ。背中から密着するのにおっぱいがないと意味が分からん。アキラ、凄く濡れてるから前戯もいらないよな」
「いいよ、先生。先生の欲しくて、早く入れて」

 この時、夕映がお湯に浸かったままなら、また目を回したことだろう。
 アキラは岩場についていた片手を放し、股座へと伸ばしていったのだ。
 そして愛液が潤い、お湯に時折滴る程に濡れた秘部を自分で開いて誘っていた。
 愛して欲しい、赤ちゃんの種を植え付けてとばかりに。
 それに応える様に、むつきもアキラの腰を掴んで狙いを定めた。

「アキラ、入れるぞ。今、赤ちゃんの種をやるからな」
「うん、先生来て。私の中に、ぁっ」

 お風呂で逆上せたようにぱくぱくと空気を喘ぐような膣口に、むつきは亀頭を添えた。
 それだけでじわりとまた愛液が増え、引っかかり一つ感じるはずもなかった。
 ぬるりと潤滑油の役目をしっかりと果たし、むつきの一物がアキラの膣の中に滑り込んだ。
 お風呂で温められ、拙い技巧だが夕映にも愛撫されぐねぐねと肉壁が艶かしく動く。
 早く精液を寄越せとばかりに、射精直後で敏感なむつきの竿を締め付けてくる。

「こいつは堪らん。美砂、それに夕映も。アキラのおっぱい弄って気をそらしてくれ。直ぐに終わるのは、さすがに可哀想だ」
「はーい、夕映ちゃん。一緒にアキラの赤ちゃんになろう。アキラお母さんにおっぱい貰おう?」
「実母に多少申し訳ないですが。プレイの一環です。アキラお母さん、おっぱいください」
「止め、待って。お母さんって呼ばない、駄目。んぁ、乳首感じすぎちゃう」

 美砂の助力があったとは言え、夕映とアキラの立場が逆転していた。
 先程までは良い様に遊ばれた夕映が、授乳プレイでおっぱいを弄ばれる。
 出るはずのない母乳を求め、妊娠して張ってもいないのに大きなおっぱいを吸い上げた。
 乳輪ごと頬張り、舌先で乳首を転がしてはちゅうっと母乳を求めるように。

「アキラ、一足早くお母さんになった気分はどうだ。ほら、お父さんって呼んで」
「先、お……父さんっ、意地悪しないで。ふぁ、美砂と夕映におっぱいあげられない。感じちゃうんぅの。三人目、できちゃう。三人目、妊娠しちゃう」
「お母さん、おっぱいでない。お父さんに絞られすぎちゃった?」
「アキラお母さん、このままでは飢えてしまいます。次の子を妊娠してまた出るようになってください」

 饒舌でエロイ娘もいたものだが、囁かれるたびにアキラがびくびく震える。
 膣内の強烈な圧迫感こそ薄れたが、今度は精液を搾り出そうとなまめかしく締め付けてきていた。
 三人目がと言葉で否定しながらも、アキラのお腹は三人目を欲していたのだ。
 まさに膣は口程にものを言うといったところか。
 むつきもこれには頑張りがいがあるというものであった。

「美砂も夕映も、俺が飲む分は残してくれよ。それとも、お前らが飲ませてくれるか?」

 一生懸命アキラの乳を吸う二人の乳首を、指先で摘み上げては軽く引っ張る。

「やん、アキラお母さん。お父さんに悪戯された、乳首摘まれた」
「お父さんをちゃんと叱ってください。娘の乳首を摘んではいけませんと」
「お、お父さんぁ。美砂と夕映のぁぅ、んぁんぅっ。意地悪しちゃ、ぁっ」

 それ以上言わせてなるかと、邪魔するようにむつきもアキラを突き上げた。
 パンパンとお尻を叩きながら、迫り来る射精感に導かれるまま。

「もう、駄目。お父さん、精液頂戴。三人目、三人目がほしいぉ」
「分かった、アキラ。ちゃんと孕むよう、一杯出してやるからな。夕映、来年にはお姉ちゃんだ。嬉しいか」
「望めるなら妹が、やんちゃ坊主はあまり好きではありませんので」

 夕映の殆ど素の返答に、返ってアキラは羞恥を呼び起こされたようだ。
 プレイの一環で多少おふざけが入った言葉なら、まだ一緒に盛り上がれる。
 だが素の返答をされてしまっては、どうしても普通の想像が脳裏を過ぎってしまう。
 いつか、最低でも五年後、ピルの服用もやめた時に、むつきにおねだりする自分を。
 籍こそいれられないが、チャペルで結婚式を挙げその夜に赤ちゃんが欲しいと。

「先生、んぅお父さんに。私の赤ちゃんのお父さんに、ぁぅ」
「順番が逆だ、アキラを孕ませて晴れてお父さんとお母さんだ。ほら、来た。三人目が上ってきたぞ、アキラ。出すぞ、イクぞ」
「赤ちゃんの種、一杯。先生、一緒にお父さんとお母さんに」
「なってやる、二人でも三人でも」

 二人が上り詰めるのを見て、美砂と夕映も懸命にアキラの胸を吸い上げた。
 のみならず、お互いに秘部には手を伸ばしたままでくちゅくちゅ弄りあう。
 互いの愛液で手を、夕映はむつきの精液も加え手を、またはお湯を汚しながら。

「イク、イクぞアキラ。受け取れ、俺の種を!」
「んうぁっ、先生。先生の種が一杯。イク、イッちゃうっ!」

 目一杯むつきが腕を伸ばし、アキラのみならず美砂や夕映までも抱きしめた。
 四人で一緒に、何処か遠くへ意識を飛ばすように果てては体を振るわせあった。
 密着する事で、むつきの射精とアキラが受け止める鼓動さえ聞こえるかのようだ。
 二人のみならず、夕映はもとより今一度美砂も体を震わせては大きく果てた。
 うっかりしていれば、四人もろともお湯の中に倒れこんでいた事だろう。

「おっと、危なっ。やべ、踏ん張ったらまた出た」
「んくぅ、ぁっ。先生まだ出てる、凄い一杯」

 後ろに足を引いて耐えたは良いが、まだ袋の中で燻っていた一部が射精されたようだ。
 既に飲みきれない程に精液をだされ、アキラもまた秘部からだらだら垂れ流しであった。
 そんな三人を支えながら、むつきはそろそろと涼みの為にある東屋へとつれていく。
 夜とは言え現在は真夏であり、体が冷える事もなく湯気だけでも逆上せそうだ。
 くてりと抱き合いながら倒れる美砂と夕映をまず、ベンチに横たわらせ。
 そのベンチの隅で、アキラと繋がったまま座り込んだ。

「駄目、二回連続で足腰立たない。夕映ちゃん、大丈夫?」
「です、が。少し体力が、素股は勘弁願いたいです」
「今の季節は湯冷めもしないし、ゆっくりここで休んでろ。アキラ、可愛かったぞ」
「う、うん。でも恥ずかしかった。今更、凄く恥ずかしいよ先生」

 ノリノリの時はそうでもないが、やはり素に戻ると羞恥が勝るらしい。
 顔を伏せて持たれてくるアキラを胸で抱きとめ、しっとり濡れた髪にキスをした。
 布団の上ではないが、時折は美砂や夕映に手を伸ばし、撫でたり頬を突いたり。
 虚脱感に苛まれながら、ピロートークのようにゆったりとした時間を過ごす。

「ねえ、先生。私やっぱり、明日は宿題の出来に関わらず昼から部活行く。体力つけないと、体が持たない。超りんに先生と同じ漢方貰おうかな」
「既にピル飲んでるし、大丈夫かな。でも、夕映ちゃん得に小さいし。ちょっと心配?」
「御気になさらずにと言いたいですが、さすがに。これは疲れます。今まで先生からの愛撫ばかりでしたので。ここまで疲れた事は」

 アキラの言う通り、特に夕映は肩で息をする程につかれきっていた。
 これで美砂やアキラのように挿入までされたら一回目で気絶するのではないだろうか。

「なんにせよ、小鈴の漢方は勘弁してくれ。元々は、俺が持たないからって貰ったんだぞ。ここでお前らまで体力つけたら元の木阿弥。俺が干からびるわ」
「でも、まだまだ硬いよ?」

 ほらとばかりに挿入され続けているアキラが、腰を振って硬さをアピールする。

「まあな、そろそろ長風呂も過ぎるし。これで最後、フェラして貰って良いか? どうしても続きがしたけりゃ、管理人室に来い。最初から美砂はいるけど」
「じゃあ、夕映ちゃん真ん中。私とアキラは、お袋を一つずつ」
「夕映ちゃん、起きられる?」
「ちょっと駄目です。先生、抱っこ良いですか? 動けないので好きに愛撫してください。私がではなく、先生が気持ち良くなれる方向で」

 あら積極的と、喜んでむつきはアキラにどいて貰い代わりに夕映を抱き上げた。
 小さいから本当に抱き締めがいがある夕映を、少し力を込めて抱き締める。
 下手にイカせると本当に気絶しかねないので、愛撫は主にキスと未成熟な胸の開発だ。
 顔射を思い出したがまあいいかと、夕映の顔のいたるところにキスの雨を降らす。
 その間に美砂とアキラも、ベンチの前にしゃがみ込んではフェラをしてくれた。
 もう少しだけ、夏休み初日の夜は続きそうな雰囲気であった。









-後書き-
ども、えなりんです。

エロ2連発で第二部発信です。
次回は、お待ちかねの刀子メイン回の始まり。



[36639] 第五十三話 俺のアタナシアを下世話な会話で汚すな
Name: えなりん◆e5937168 ID:b379f023
Date: 2013/07/20 20:06

第五十三話 俺のアタナシアを下世話な会話で汚すな

 夏休みの二日目にしてひかげ荘メンバーは、全員が宿題を終わらせる事ができた。
 おかげで全員が生き生きと、中学二年生の夏を部活に遊び、はたまた趣味に恋にと楽しんでいた。
 最後のはむつきの恋人に加え、おまけの和泉ぐらいのものだが。
 こんな開放的な夏は初めてだと、あの長谷川がむつきに礼を言う程だ。
 さらにむつきの恋人達以外は、多少の差こそあれ全員むつき君人形を二個以上手に入れている。
 夏休みをどう過ごそうか胸をときめかせつつ、お願いの権利をどう使うべきか思案に暮れていた。
 ただむつきは今年は水泳部の顧問があるので、あまり遊んでばかりもいられない。
 地区大会の出場申請こそ提出されているが、当日の予定の確認や移動方法。
 特に部員が多いのでバスではなく電車移動で、切符は事前入手であったり。
 遠出では引率が足りないので、誰か手の空いていそうな先生を探したりもした。
 出来れば女性の教師が良かったのだが、見つかったのは瀬流彦ぐらい。
 しかし、他校の学生がいる以上、更衣室で事件等あればやはり女性が望ましかった。
 そこで交換条件として二ノ宮に、新体操部の大会当日は男手として引率に行く事で引き受けて貰うことができた。
 さらには全国大会出場時の合宿の件もと、監督室でのんびり監視しとは行かなかった。
 元々事務系は得意なので、それも部活が終わる午後六時までの事であったが。

「お尻、お尻良い。先生、太くて硬い。最高、お尻壊れちゃうっ!」
「先輩こんなにくわえ込んで。うちまだ無理や。んぅ、おまんこもとろとろ」

 デスクの椅子が壊れそうな程に軋ませ、むつきは背面座位で小瀬の尻を貫いていた。
 調教経験があるだけに、きつく締めあげるだけの和泉とは違い、むつきの竿を扱いてきさえしている。
 むつきと出会うまではさぞ体を持て余していたのだろうと、ピンと立つ乳首をきゅうっと摘み上げた。
 それに合わせ尻穴もキュッと締り、堪り兼ねた小瀬が天井を見上げては嬌声をあげる。

「おっぱいも、おまんこも。全部、私の穴全部壊されちゃうの!」

 他の水泳部員は全員帰った後で、残っているのは監督室の四人、残り二人は和泉とアキラだ。
 全員が全裸であり、現在お尻を犯されている小瀬が順番としては最後。
 和泉はお尻から、アキラはおまんこから貰ったばかりの精液を大量に垂れ流していた。

「んー……先生、こっち向いて。キスしよ」
「ああ、アキラずるい。私もらぶちゅうしたいのぉっ!?」

 少々アキラは不満そうだが、小瀬から奪うようにむつきとキスをして少しは直機嫌が直ったか。

「自重しろよ、部長。自分ばっか楽しんじゃダメだろ。ほらイクぞ、尻穴に出すぞ。お前の大好きな精液出すぞ!」
「だって、部長って気を使うんぁ。お尻、大きくなって。来た。びゅっびゅ来たぁっ!」

 三度目ともなると普通は射精まで長くなりそうだが、平気で十回以上できるむつきはこのぐらいなら敏感になって逆に早くなるぐらいだ。
 自分の上でよがる小瀬の腰をしっかりつかんで、竿の根元まで抉れる程に押し込んだ。
 膣とは異なり、際限の無い奥行きのある尻へと射精を感じた小瀬が、椅子が悲鳴をあげる程に暴れた。
 むつきがしっかりと腰を掴んでいる為に、転げ落ちはしないが。
 小瀬の尻とむつきの股間の密着率はさらに上がり、余計に快楽を得てしまっているようだ。
 蟹股に開かれた両足はぴくぴくと痙攣し、まさに足の指先に至るまで感度が広がっているのだろう。
 おかげでクンニをしていた和泉は、小瀬の濡れたおまんこに顔を突っ込んでいた。
 偶にはこんな失敗もあると、愛液が目に入って少々苦しんでいる。

「ぁっ、ぁぅっ……本当、三回連続でまだ硬いまま。んぅ、先生抜かないで。もう一回、一回り頑張って」

 永遠に続くかのような射精も、当然終わりは訪れ小瀬も遠くに行きかけた意識をなんとか持ち帰る。
 ただし、さらなる快楽を求めるあたり、返って来たとは言いがたい。
 むつきの膝に両手をつき、自ら腰を振っては穴と竿の隙間から精液が溢れだしていた。

「これ以上はアキラが怒るから駄目。それに今日は」

 小瀬の尻から強引に一物を抜いてはちょっと下品な音をたてつつ、デスク上の携帯を見た。
 注視したのは現在時刻であり、十九時半であった。
 そろそろ急いで戸締りをして、お店に向かわなければならない。
 小瀬をアキラに任せ、和泉にお掃除フェラをして貰いつつさっさと指示を出した。

「アキラ、悪いが小瀬を着替えさせて。お前も着替えて来い。一応、水着着てから監督室出てけよ。全裸で行って誰かに見られたら大問題だ」
「うん、わかった。先輩、立てる? 駄目なら抱っこするけど」
「さすがアキラ、力持ちさんぐへっ。アキラ、さん?」
「もう一回言ったら、またちょっぷします」

 ごめんなさいと小瀬を謝らせ、二人共に身だしなみを整えてから監督室を出て行く。
 アキラも随分と、水泳部内で弄られる事も少なくなってきていた。
 一体誰のおかげか、きちんと自分の中で境界線を持ち、叱る時は叱るようになった。
 ただその際、高確率で手がでるのだが、矛先が主に小瀬となっているので止めるべきか微妙である。

「アキラ、来年はちゃんと部長できそうやね。うち、水泳部に必要かな?」
「いるだろ、普通に考えて。滅多にないけど、前みたいにアキラが本気で怒ったら俺でも駄目だ。たぶん、お前とか明石、佐々木ぐらいか。止められるの」
「特別ってええな。はい、お掃除終わり。ご苦労さん。また夜に会おうな」

 竿をウェットティッシュで綺麗に拭きとり、最後は名残惜しそうにお別れのキスである。
 思わずピクリと反応してしまったが、本気で遅れたらまずいのだ。
 手早くスーツを身に纏い、和泉には最近ここに常備した消臭用のスプレーを掛けて貰う。
 女の子の匂いをぷんぷんさせて、街中を移動するのはさすがに体裁が悪いのだ。
 ちなみに本来の使用方法は、換気がし辛い監督室の性臭の匂い消しである。

「やべ、ちょっと間に合わないかも。和泉、知ってると思うが今日は俺飯いらねえから。あと、戸締りしとくから室内プール場の明かりと玄関口の戸締り頼むな」
「はいはい、高等部の葛葉先生の為の合コンやろ。幹事やから対象外って聞いとるけど、調子に乗ってお持ち帰りしたらあかんよ」
「お前は俺の彼女か。しねえよ、幹事は接待で忙しいから。わざわざ呼んでおいて、トンビの如く掻っ攫ったら俺がダチに殺される」
「先生、もう行ってええよ。監督室も閉めとく。気をつけてな。先生?」

 彼女じゃないと言った手前少々躊躇したが、軽く泉を抱き寄せおでこにキスした。

「行ってきます」
「なんか照れるやん。お尻でセックスした後やのに。行ってらっしゃい。あとでアキラにもしたげなあかんよ?」

 一緒にお小言をもらってしまったが和泉からも頬にキスをしてくれた後、手を挙げて別れた。
 急ぎ監督室を去り、更衣室前に寄って呼び出したアキラにも同じ事を。

「アキラ、行ってくる。すまんが、小瀬の世話を頼むな」
「うん、わかってる。楽しんできて、先生」

 小瀬は更衣室内のベンチで幸せそうに蕩けていたので、キスはいいやと先を急いだ。
 室内プール場を飛び出して向かったのは、麻帆良女子中の最寄り駅である。
 そこから電車に乗って学区とは間逆の位置にある、目指すは歓楽街であった。
 学園都市と言っても、大学部もある為、麻帆良にも一応こういった街ぐらいある。
 ただし、学園都市だけあって健全な店ばかりで売春紛いのものは一切ない。
 あるのは居酒屋やゲームセンター、およそ学生が主利用者の歓楽街といったところか。
 大学生が本気でそういった施設を利用する場合には、いつぞやのむつきのように東京までの出張だ。

「おう、俺だ。集合場所に皆、いるか?」
「遅いぞ、乙姫。三人とも昼から飲んで待機しとるわ。急がんか。女子中の水泳部顧問になって、何人かつまみ食いでもしとったんじゃないだろうな」
「天下の往来でアホな事を抜かすな。大人しく待ってろよ。待ってる間に、ナンパとかすんじゃねえぞ。マジで、ちょい硬い人もいるから」

 電話で喋りながら走り、腕時計を確認するがちょっと電車では間に合いそうにない。
 少し待ち時間が長く、乗り合わせが悪いとしか言いようがなかった。
 仕方がないのでタクシーを広って飛び乗り、予約しておいたお店の名を運転手に告げた。
 兎に角、直ぐに行くからと言いつけ、タクシーに急いで貰う。
 運転手への奮発するからと焦った発言も、そうだなっとのんびりした言葉で返された。
 むつきがお店の前の集合場所に辿り着いたのは、本当に時間ギリギリであった。
 何せ夏休みという事もあり、大学生が大量に流れ込み、タクシーも途中でストップ。
 結局自分の足で走るはめとなり、監督室で無駄な体力使うんじゃなかったと結構後悔した。

「ぜえ、おえ……お前等、久しぶりだな。今日はよろしく頼む。一人は確実に年上の超絶美人だから、ほか二名は知らんが。なっ、酒呑に観音、あと天狗」
「がっはっは、鍛え方が足りんぞ乙姫。見よ、歳を経ても酒を飲んでも衰えぬ俺の筋肉美を。だが、お前も少しばかり筋肉が増えたか?」
「懐かしいですね、乙姫。我ら昔話四人衆が揃うのは何時以来か。壮健そうで何より」
「なあ、その一番の美人が元人妻ってマジか。燃えるわ、他人が染め上げた女を自分好みに染め直すとか。天狗らしく、浚っちまうか?」

 赤ら顔でティーシャツにはち切れそうな肉体を収めているのが酒呑。
 元ラグビー部で、現在はその豪快な性格と肉体で工事現場の監督業をしている。
 唯一穏やかに微笑むのが観音、カノンとハイカラにも読める丸坊主の男であった。
 名は体を現すと言う通り大学卒業後、実家のお寺を継ぐ為にお坊さんの修行中だそうだ。
 最後の金髪ピアスのチャラ男が、年上の人妻を食って歩く趣味のある天狗である。
 一人だけ無職というか、ヒモをして日々体を持て余す人妻からお金を貰って暮らしていた。
 なんでこいつと友達なのか不思議だが、それは観音が言った昔話四人衆が関連している。
 身なりも性格も全てばらばらだなのだが、全員が全員、昔話に出てきそうな名前なのだ。
 おかげで何処へ行くにもひとくくりで扱われ、ひかげ荘で友好を深めるうちにと言う奴であった。

「葛葉先生はまだいないか……」

 まだ女性人の、葛葉の姿が見えず取り合えずお店に入る事に。
 予約した乙姫という名で店員が半笑いになったが、後ろの三人の方がよっぽど爆笑していた。
 奥の座敷、掘りごたつの部屋に案内され、席の片側を空け酒呑達が並び、むつきは下座だ。
 ちなみに奥から酒呑、観音、天狗の順番である。
 それから学生時代の昔話に花を咲かせたり、酒呑が後でひかげ荘で飲むかといったり。
 さすがに後者はひかげ荘がばれた生徒が遊びに来てると勘弁して貰ったが。
 酒呑だけはそうかとあっさり引き下がったが、観音と天狗はにやにやと。
 観音には両手を合わせご愁傷様と礼をされ、天狗にはロリコンかと弄られたり。
 特に天狗には、何人食ったと、生徒の母親紹介してくれと突かれた。
 生徒ではなくその母親をというところがまた、彼らしい。

「失礼、ここが乙姫先生がご予約されたお部屋と伺いましたが」
「乙姫先生、はは……刀子に誘われて。来ちゃいました」

 仕切りとなる襖を開けて入ってきた女性は二人。
 一人は以前に図書館島で多少言葉を交わしたあの鋭角眼鏡の司書の女性だ。
 お堅い性格を現すように変わらぬスーツ姿で、パリッと決めてきている。
 もちろん頭の上でまとめた髪の毛もあの日のように神の頂へとばかりにタワー型であった。
 一方、申し訳無さそうに謝るのが、保健医の沖田、もちろん既婚者。
 もうあの人はどれだけこの合コンに掛けているのか。
 一人は自分以上にお硬そうな司書の人で、もう一人は既婚者である。
 自分以外はレベルの低いとかいうレベルではなく、別階級を連れて来たイメージだ。

「あっれ、左手の薬指に指輪って事は人妻さん? 駄目じゃなーい、夫に怒られちゃうんじゃない。んじゃ、俺は一抜けでこの女性のお相手。いや、実は俺も数合わせのこれなんで」

 そう天狗がポケットから取り出して見せたのは、薬指にピッタリな指輪であった
 当然、沖田のそれとは違う結婚指輪などではない。
 どうしてそこまで息を吐くように嘘がつけるのか、これが天狗の手である。
 あの指輪も本来は右手用で、今もこれと見せはしたが左手の薬指とも既婚者とも言っていない。
 不倫沙汰になったら、ピンチなの俺ではと少し嫌な汗が出できた。

「あの、沖田先生」
「はいはい、葛葉先生は少し遅れて来るそうです。まあ、察してください」
「そうか、そうか。斉藤さんは図書館の司書さんか。建て替える時は言ってくれ。格安で引き受けるぞ。あっ、声が煩いのは勘弁してくれ。ぼそぼそ喋るのは合わんでな」
「豪快な事で、男らしくて素敵ですよ。酒呑さんは、何を飲まれますか?」

 沖田と天狗の不倫を危惧するあまり、何時の間にやら図書館島の司書改め斉藤が酒呑と喋り始めていた。
 意外とアグレッシブと言うか、少々耳が辛そうにしているが悪い印象は抱いていないようだ。
 一緒にメニューを眺めては、コレが飲みたい、アレは美味いとお酒で盛り上がり始める。
 あのドSそうな斉藤が意外だが、仕事を離れるとそんなものかもしれない。
 幹事って一体なんだろうと、ちょっと泣きそうになった。
 むつきと違い、バイタリティあり過ぎの肉食系過ぎる。

「乙姫、そう落ち込む事なかれ。何時もの事ではなからんか、ほれ店員を呼ぶぞ。遅れた方の相手は私がしよう。幹事はお前だ、頑張れ」
「観音、やっぱりお前だけが俺の味方だ。店員さん、注文。注文プリーズ!」

 呼び鈴を迷惑にも連打しながら、手を振ってアピールであった。
 もう素面ではいられないと、やって来た店員さんにまずはお酒を注文する。
 天狗は沖田にお勧めのカクテルを語り、斉藤と酒呑は兎に角日本酒、それも一升瓶で。
 もはやこれは席替え不要な雰囲気で、葛葉の相手は本当に観音に頼むしかない。
 これまで他の面々とは違い、女性の好みは聞いた事もないのだが。
 最初から年上と言ってあるので、特別拒絶反応などは示さない事だろう。
 一頻り注文し、女性店員がまさに去ろうとした瞬間、部屋の外から追加注文の声が聞こえた。

「店員さん、私にもお冷を」
「は、はい……」

 何故か女性店員の声はかすれ、ぽうっと顔を赤らめながら逃げるように去っていく。
 ただ声だけでも色々聞きなれたむつきは、判別する事が出来る。
 遅れるといっても数分の事、襖がスッと空いて両膝を床について葛葉が現れた。
 しゃなりと音が聞こえそうな艶やかな濃紺に白い朝顔が描かれた着物姿。
 これからお見合いでもと突っ込みたくなる、気合を入れまくった葛葉の登場であった。
 ちなみにここは安さと速さが売りなだけの一般的な居酒屋であって、懐石料理などでるはずもない。

「遅れて申し訳ありません。葛葉刀子と申します、よろしゅう」
「アイタタタタ」

 なんというか、ちょっと遅れて登場してインパクトを植え付けるという手は古くはなかろうか。
 しかもちょっとタイミングが悪く、酒呑も天狗も相手を見定めた後である。
 店員に日本酒を頼んだ事から、もう少し速ければ酒呑の食指が動いたものを。
 彼女の自己紹介をちゃんと聞いていたのは、ニコニコと仏顔で待っていた観音ぐらいのもの。
 第一印象こそ悪くなかったかと、葛葉に近付き簡単に説明する。

「葛葉先生、遅れたのは多分仕事だから仕方ないですけど。既に二人が盛り上がってしまっていて、彼の相手を取り合えずお願いします。お望みなら席替えも後でしますから」
「丸坊主、少々故郷を思い出しますが。落ち着いた態度と、微笑。見ようによっては可愛いかも。構いません」

 どうやら葛葉の方も観音の第一印象は悪くなかったようだ。
 一先ず葛葉を観音の正面に座らせ、店員が持ってきた飲み物を各自に配った。
 取り合えず、まだ喋り始めるなと視線で酒呑と天狗に厳命し、幹事として音頭をとる。
 もう後はなるようになれと、半ば他人任せではあったが。

「それでは簡単に自己紹介を」
「沖田です、麻帆良学園女子中等部で保健医をしてます。乙姫先生とは同僚のようなもので、既婚者ですので今日は同じ数合わせの天狗さんとお喋りしてますのでお気になさらずに」
「只今、ご紹介に預かりました天狗でっす。いや、申し訳ない。乙姫にどうしてもって頼まれて。こいつ友達いないもんで。俺もこれなんですみません」

 せめて順番は守ってと頭を抱えるむつきを放って、二人が喋りだした。

「おう、俺は酒呑だ。名は体を現す通り酒好き。酔いつぶれた事は未だかつてない。一緒に楽しく酒を飲める女が好みだ」
「斉藤です、麻帆良の図書館島の司書をしています。気が向いたらどうぞお越しを。お酒には少々自信が。酒呑さんは酒豪だそうで、期待しておりますわ」

 止めて、開始早々ロックオンしないでとある意味主賓である葛葉が心配になる。

「葛葉です、麻帆良の高等部で教師を。趣味は刀剣集めと、腕にも少々自信が。よろしくお願いしますえ。失礼、しますわ」
「葛葉さんですか、言葉使いから関西の方だと。奇遇ですね、私も関西の出です」

 さすが親友、葛葉の小さな情報に合わせて、親近感を抱きやすい言葉を放ってくれた。
 葛葉も着物ごしで分かりにくいが、腕に微妙に力が入ったことから、テーブルの下でガッツポーズか。
 関西と関東で味の違いで喧嘩はよく聞く話で、高得点だったのかもしれない。
 これで全員がお目当てと合致したと、むつきはホッと一息。
 やれやれとネクタイを緩めつつ、冷たいビールで少々汗臭い体をクールダウンさせる。
 ただし、それも次に観音が自己紹介をするまでであった。

「観音と申します。京都神鳴流の葛葉さんとは一度、お話をして見たいと考えていました」
「なっ!?」

 途端にピンッと空気が張り詰め、葛葉どころか沖田や斉藤までも観音を見ていた。
 ほっと一息ついていたところなので観音が何を言ったかは不明だが、なにを驚いているのか。
 異様ともいえる緊張感が場を占める中、空気の読めない二人がむしろありがたい。

「おい、空気読めよ観音。お前のボケは詰まんねえんだからよ。何言ったか聞いてなかったけど、女性陣固まってるじゃねえか。すみませんね、沖田さん」
「あっ、いえ……特に、そう言うわけでも」

 咄嗟に察知した天狗が、軽く観音の頭を叩いておどけるように笑った。

「おい、酒が進んどらんぞ。乙姫、追加注文だ。次々に酒が来れば嫌でも飲むわい。斉藤さんや、ほれ。杯が空じゃないか。これを飲んでみろ、美味いぞ」
「関節キス、いえ。私は大人、この程度呑み干してしまうぐらいの度量を」

 次いで酒呑が斉藤に杯を勧めて飲ませ、良いのみっぷりだと豪快に笑い飛ばした。
 一瞬で何故か凍った空気をこれまた一瞬で解凍してしまう。
 ありがとう、もう皆親友と涙ながらにむつきは呼び鈴の連打である。
 相当お店側には迷惑なのだろうが、もう色々と涙が止まらない。
 手が届くならむつきもきっと、観音の頭を叩いていた事だろう。

「お客様、申し訳ありませんが呼び鈴は一度でお願いします。ご注文ですか?」
「おう、日本酒のここからここまで全部頼む」
「沖田さんも、俺のお勧めはこの辺り。甘いのじゃなくて辛いのだったらこっち」
「ふふ、盛り上がったまいりましたね。葛葉さんも、お代わりはいかがでしょうか?」

 一度は元に戻った空気も、観音が喋るとまた微妙に、葛葉は素早く両脇に目配せをする程に。

「すみません、お化粧直しに。お酒はまだ少しありますのでお気になさらずに」
「直ぐに戻ります。酒呑さん、自分だけ飲まないで下さいね。お酒にお詳しいなら、教えていただけますか?」
「天狗さん、ちょっと失礼しますね」

 三人揃ってお化粧直しに、まあ誰が誰を狙うかの相談だろう。
 今更に沖田は兎も角、斉藤が酒呑の相手を譲るとは思えなかったが。
 女性陣に行ってらっしゃいと手を振ったり、杯を持ち上げたり。
 完全にその姿が見えなくなってから、こちらもこちらで作戦会議である。
 というより、むしろつるし上げに近い。

「おい、こら観音いい加減にしろ。京都なんらたらとか、坊主知識ひけらかして相手をどんびきさせんな。俺はまじで沖田さんを狙ってる。今夜一発決めてみせる!」
「狙うなボケ、既婚者だっつってんだろ。頼むよ、俺の友達が不倫仕向けたとか職場に居場所が。観音は良いから自重しろ。それと酒呑、お前は今のままでいてくれ」
「私は常に自重していますが。仕方ありません」
「何をチマチマ喋っとるか。男はどんと構えて、酒でも飲んでいれば女は勝手に寄ってくる。だから天狗はいかんのだ。女の尻ばかり追いかけて、地に足がついておらん」

 少しは酔って来たのか、酒呑がいらん事を言い出した。
 これでも生き様に誇りを持ってる天狗である、もちろん聞き捨てならない。

「おう、それでお前は今まで何人の女が食えたんだ? 二人か、三人か。まさか風俗ばっかの素人童貞じゃねえだろうな、あ?」
「吠えてろ、小僧が。生っちょろい貴様など、腕の一振りで木っ端微塵だわい」
「ちょっ、お前等喧嘩すんな。観音、こんな時はお前の口八丁の出番だ。坊主らしく、この馬鹿共を悟らせてくれ」
「しかし、先程自重しろといわれてしまい。私も流石に他人様の主張にまで口を挟むのはいかがなものかと」

 何微妙にすねてんのと、一食触発の二人に挟まれあたふたと。
 そんな時であった、彼女達が向かった化粧室の方向でガス爆発のような騒ぎが起こったのは。
 本当にガスでも爆発したのか店内を突風が吹きすさび、雷が落ちたような轟音も。
 トイレで水漏れが発生し、漏電事故でも起きたのだろうか。
 これが学校なら即座に席を立つが、居酒屋というよそ様のテリトリーなので見に行ったりはしない。
 いや、見に行かなくてよかったかもしれない。

「ふざけんじゃないわよ、なんの為にアンタ達を呼んだと。沖田は良い、チャラ男は任せた。けど斉藤、代わりなさい。ちょっと汗臭そうだけど、豪快な人は嫌いじゃないわ」
「そっちこそ、何様よ。ばつ一が。先に彼に唾つけたのは私よ。同じ関西出身同士、坊主とよろしくやってなさいよ。彼関係者みたいだし、隠し事なく付き合えるじゃない」
「関東に抜けた私がどの顔で関西の彼と付き合えるのよ。それならまだチャラ男の方がマシよ。けどにたにた気持ち悪いから嫌、そっちの男寄越せやコラ!」
「ちょっ、気とか魔力とか。ここ普通のお店。止め、止めてエヴァちゃん助けて!」

 どうやら、発端は不明だが葛葉と斎藤の好みが合致してしまい、酒呑を巡って争っているようだ。
 しかし何故そこで沖田が、マクダウェルを呼ぶのかは不明だが。
 気がそがれたように、天狗も酒呑も拳を下ろしてどっかり座りなおした。
 人の振り見て我が振り直せ、さすが社会人になってそれなりに自重できるようになったらしい。
 向こうも大騒ぎになっているが、そのうち醜態に気付いて戻ってくるだろう。

「いやいや、聞いていた通りの性格で。争いとは醜くも虚しいですね」
「よく分からんが、種を蒔いたお前がいうな観音」
「種を蒔いたって言えばさ、乙姫よ」

 自画自賛したくなる程の的確な突っ込みの後、天狗がなにやらニヤニヤ笑いかけてきた。

「お前マジで何人か生徒に蒔いたろ。何人だ、それだけでも教えろよロリコン」
「ぶーっ!」

 突然お前は何を言い出すと、天狗の口を塞いで辺りをうかがった。
 何しろここは麻帆良の歓楽街なのでふらっと知り合いに会ってもおかしくはない。
 そもそも今日の合コン相手は麻帆良学園関係者ばかり。
 何故、何故ばれたと嫌な汗がだらだら、冷静さを取り戻そうと冷えたビールを飲み干しても止まらなかった。

「お前が使ってる匂い消し、俺も使ってるからな。それに、ついさっきまでお前部活の顧問してたって言ってたろ。それでピンと来たね。ああ、喰ったなって。なっ、ロリコン」
「声が大きい。頼む静かに。てかロリコンちゃうわとさえ言えない現状に泣きそう。酒呑、ちょっと日本酒分けて。騒ぎで追加注文来そうにない」
「はっはっは、嫌な事があったなら飲め。酒は百薬の長だ。観音も妄言吐く前に飲め」
「されど万病の元、ただ親しき友人の勧めを断るは人として失格。受け取りましょう、その杯を」

 女の醜い争いをBGMに久々の友好を深める為に、お酒が進む。
 もちおん、むつきは味なんてそれこそ温いかどうかさえわかりそうになかったが。

「ねえ、この話題止めない。お願い、つい先日それで死ねくそ野郎って言われたばっかりだし」
「お前、それで良く自殺しなかったな。人数だけ、人数だけ教えろよ」
「うざ、しつこい。て言うか、とっさに何人に蒔いたか数えなきゃわかんねえ俺って一体。ねえ、蒔いたってお尻オンリーは入る? ぶっかけただけは?」
「マジで、マジでか。俺はいつかお前はやると思ってた。安心しろ、逮捕後に友人代表としてインタビューされたら言ってやるから。何時かやるんじゃないかって思ってたって」

 だから声を押さえろと、人の背中を無責任にばんばん叩く天狗に握った拳が壊れそうだ。

「あの一途だったお前がなあ。人間、変われば変わるものだ。だが、愛があればとるべき責任さえとれば問題ない。天狗と違い、やり捨てるつもりはないのだろう?」
「当たり前だ、俺は全員。責任とって、全員嫁にして幸せに。くそっ、でも金が。爺ちゃん、マジでひかげ荘俺にくれないかな。ていうか、今世界のどの辺りにいるのよ」
「先日連絡を取った際には、スイスでひなたお婆様を追いかけ中と」

 なんで孫の俺が知らないのに、観音が知ってるんだと割り箸をぺいっと投げつけた。
 ピッと指先で挟んで止められたが、生憎むつきはもちろん、天狗も酒呑も気付いていない。
 特にむつきは「よし、上手いこと話題がそれた」と、女性人の化粧直しをうかがう余裕さえできた。
 ただ、入り口ぐらいしかうかがえないが、まだまだのようだ。

「だいたい、あの乙姫ってなんなのよ。くそ糸目も安易に関係者専用の図書館島のカードキー渡すし。学園長のお孫さんと親しげだし、関係者。関係者なの!?」
「完全無欠の一般人よ。だけど、エヴァンジェリンと行きずりの関係になったりわけわかんないのはこっちよ。アイツの姉のせいで神多羅木も結婚目前だし!」
「ちょっと、今の話を詳しく。エヴァちゃんと寝たってどういうこと!?」

 なんだか矛先が怪しく、むつきへと向きだしていた。
 それと寝たのはマクダウェルの姉のアタナシアであって、マクダウェルではない。
 あれと寝たら速攻通報だろうと、何故そんな誤解が広まっているのか問い詰めたい。
 というか、そろそろ本当に警察を呼ばれかねないのではなかろうか。

「留学生まで食ったのかよ。流石に俺も外国人の人妻はねえな。やっぱさ、味って違うのか?」

 しかも、また話題がぶり返し正直ちょっと舌打ちしてしまった。

「うるせえ、俺のアタナシアを下世話な会話で汚すな。次の満月何時よ。アタナシアぁ」
「女々しいのは相変わらずか、例の彼女と別れた時も三日三晩、泣き続けていたな」
「懐かしいですね。あの時の無礼な女は、全力で呪ってやったものです」

 また妄言かと思っていると、何時の間にか化粧室付近が静かになっている。
 そしておろおろとする沖田を後ろに従え、葛葉と斉藤が戻ってきた。
 地面を踏みしめ踏み砕くぐらいの気迫を見せながらだ。
 その道すがらカウンターから一人一本ずつ日本酒の一升瓶を奪ってきた。
 そして二人してどん一升瓶をテーブルに置いて酒呑の前に座り、お猪口に酒を注いで一気に飲み下した。
 叩きつけるように空のお猪口をテーブルに置いた二人の目がすわっている。

「酒呑さんは酒豪な女性が好みだとか」
「今からコイツと私とで呑み比べを行ないます。勝った方とお付き合いをお願いします」
「ほら見ろ、良い男には黙っていても女が寄ってくるもんだ。よし、存分に飲め。なんなら二人共酒豪の場合は俺も乙姫に習って、両方娶るのもいいかもしれんな」
「この店の日本酒全部もってこい!」

 全く同じ言葉を葛葉と斉藤が姿も見えない店員へと向かって叫び上げた。
 先程の騒ぎに加え、女性が男を掛けて飲み比べによる勝負に出たのだ。
 これで盛り上がらなければ、麻帆良在住の人間とはとてもいえない。
 しかも、現在は夏休み中で大学生が多く、お座敷の襖は瞬く間に撤去された。

「おい、あれって巷で密かに人気の図書館島の司書さんじゃねえか」
「それにあの麗しい着物美人はまさか、刀子先生!?」
「はい、賭けた賭けた」
「司書さんに五千円!」
「刀子先生が負けるか、一万円。あっ、でも勝ったらあの男と嫌だ、そんなの嫌だ!」

 麻帆良祭のノリ再びとばかりに、近くでは賭けも始まる始末であった。

「乙姫先生、そのエ……アタナシア? 彼女について少々お話が」
「沖田さんそんな奴より俺と一緒に抜け出して」
「ちょっと黙ってて貰えます? こちとら、十五年来の親友の幸せがかかってんのよ!」

 もしかして連絡先を知っているのですかというむつきの言葉は、沖田の剣幕に飲み込まされた。
 さらには胸倉をつかまれる形であの日の夜を無理やり、しかも洗いざらい喋らされた。
 またこれで嫌われると半分放心中のむつきを前に、さすがの沖田もばつが悪そうだったが。
 そんな間にも斉藤と葛葉との呑み比べは続いていた。
 何故か酒呑も一緒に飲み比べに参加していたが、一向にほろ酔い以上に酔わない。
 やる気を失くした天狗はナンパに行って来ると夜の街へ消えてもいった。
 なにこれ、同窓会にもなりゃしないと、もう知らねと槍を投げるだけだ。

「乙姫、ここに霊験あらたかなお守りが一つ。一人になりたい時は、これを首に掛けなさい。きっと素晴らしい効果がある事でしょう」
「ちょっと、貴方関係者でしょ。上の空の人になにを渡そうとしてるの?」
「ええ、その通りですが。ちなみに彼らは全員一般人ですよ。それにこれは軽い認識疎外のお守り。自分を周囲からそらす簡単なもの。害はありませんよ」
「なんでそんなものを」
「いえ、この後で必要になるかと思いまして。さて、私もそろそろお暇しますか。では乙姫、いずれまた。壮健であれ」

 せめてと友の去り際に、貰ったお守りを掲げまたなと言った。

「ちょっと、幹事投げっぱなしだし。私がコイツらの面倒、帰ろう。エヴァちゃんの家で色々と聞かなきゃならないし」

 次いで沖田も、お会計だけむつきに握らせいそいそと帰って行った。
 完全な失敗にも見える合コンであったが、一組ぐらいはカップルができそうなだけまだマシか。
 ちなみに、酒の飲み比べは斉藤の完全勝利であった事をここに記す。









-後書き-
ども、えなりんです。

今回のお話は次回への繋ぎ以外のなにものでもありません。
大事な合コンに失敗した葛葉、後はわかりますね?
あと、瀬流彦の為の合コンはもっと後の話。

それでは次回は水曜です。



[36639] 第五十四話 お嬢様や刹那のようなピチピチの女の子の方が
Name: えなりん◆e5937168 ID:b379f023
Date: 2013/07/27 19:58
第五十四話 お嬢様や刹那のようなピチピチの女の子の方が

 嗚呼、見たくない見たくないと思っても、現実は非情である。
 着物姿の京美人が、繁華街の片隅それも電柱の足元で蹲り嘔吐する様など。
 スポットライトのように照らし出してくる街灯が恨めしい。
 もう深夜近いというのに、くっきりはっきりゲロまで纏めて宵闇を照らしている。
 もう女性と言う名の幻想が、ガラスの様に砕けては粉雪の様に吹き飛ばされていく。
 美砂達はまだ少女でありちょっと毛色が違うので大丈夫。
 唯一の役得と言えば、背中をさすった時に触れるさらさらの髪だろうか。
 同じ京都出身でも、近衛や桜咲の黒髪とは違う、染めたような茶髪がやや惜しいが。
 髪にゲロが掛かるのは可哀想なので失礼と一言断って、勝手に纏めて持ってあげていた。

「葛葉先生、少しでも歩けます? ここじゃ、タクシーも拾えないですから」
「うげぇ……もう少し、さするのを止めないで。うっ」

 一体どれだけ飲んだのか、本当に店の日本酒が底をついたのではないのか。
 結局気分が悪くなった葛葉を連れて店を出てきたが。
 斉藤と酒呑は、まだまだこれからとほろ酔い気分で二人きりの二次会へ。
 まだ酔いつぶれてはいないが、気分の悪くなった人の介抱も幹事の仕事の一つと諦めるしかない。

「酒呑、あいつ部下とかにもあんな飲ませ方してないだろうな。未だに、前時代的な一気飲みとかパワハラしてそうで怖い」
「飲むとか、今はうっぷ。ぅっ」
「もう、ここで全部吐いちゃいましょう。ねっ、タクシーの中とかクリーニング代も掛かりますし」

 まだゲロゲロしている葛葉の背中を摩りながら、逆の手で携帯電話を操作する。
 既に寝ている子もいるかもしれないが、一応全員にメールであった。
 葛葉の名誉の為に個人名は伏せて、ゲロった人の世話で遅くなると。
 続々と返信が返って来るが、見ている暇もないので携帯はそのままポケットに。
 改めて背中を摩っていると、胃液が逆流する時のうっという声が途切れている。
 もう全部吐いたかなと思っていると、今度は別のものを葛葉が吐いている事に気付いた。

「うっ、ぅぁ……折角の、合コン。なんで、あの坊主がせめて西の」
「関西出身者、喜んでたじゃないですか。逆に関東人が良かったんですか?」
「違う、わよ。ぐす、既婚者の沖田を連れて来たまでは良かったのに。まさか、斉藤がプライベートではそこまで硬くないなんて。チャンスだったのに」
「泣かないでくださいよ、また開きますから。他にもダチが一杯とか言いませんけど、ほらガテン系好きなら酒呑の部下とか。可愛い男だって見つかりますって」

 嗚咽を漏らす葛葉に肩を貸し、若干引きずるようにして歩き出した。
 ただふらふらの葛葉に翻弄され人通りの多い道で吐かれそうで、慌てて路地に連れ込んだのだ。
 若干現在地が分からず、道を聞こうにも酒飲みにとってまだ夜はこれからという時間にも関わらず殆ど人影がない。
 学生に大人気で有名人の葛葉を連れ出した時、多くの者がつけてきた為、観音のくれたお守りに殺されませんようにと願って首にしたのが悪かったのか。
 変にお守りが効いて、本当に誰一人ゴーストタウンのように人を見ない。

「怖っ、なんで誰もいないの。ちょっと、ここ何処よ」
「それは……そう、そういうつもりだったのね」

 観音がくれたお守りに葛葉が気付き、やけっぱちに似たひくついた笑みを見せた。
 酔ってふらふらだったはずの葛葉の重みがふっと肩から消えてしまった。
 やばい落としたと思った瞬間、腹部にズドムと重たく鋭い衝撃が。
 以前、アキラにもあのしなやかな足で腹部を蹴られたが、愛がない分万倍痛い。

「い、きが……」
「合コンで人を絶望させておいて、認識障害まで使って私をこんないかがわしい場所に連れ込んで。エヴァンジェリンもその手にやられたのね。チャラ男の友人は所詮チャラ男」

 腹を押さえながら葛葉を見上げて、ようやく気付いた。
 ネオン輝く繁華街ではあったのだが、お泊りご休憩何円の看板がちらほら。
 酔った葛葉を抱えたまま迷子かと焦っていて、本当に気付いていなかった。
 ラブホ街、待ってなんか色々と誤解がと、特にマグダウェルと手を伸ばすが何もつかめず。
 いや、むしろその葛葉にがっちりと腕を捕まれ、米俵のように抱え上げられた。
 最近細マッチョ化し中のむつきを軽く抱え上げるとは、どういう腕力をしているのか。

「いいわよ、いいわよ。幸せな奴が憎い。貴方、チャラ男のくせに可愛い彼女がいるそうね。覚悟しなさい、壊してやる奪い取ってやる。この際、チャラ男でも構わないわ」

 全部吐いたけど、この人酔い過ぎと抱え上げられたむつきは混乱続き。
 的確に鳩尾を打たれた事や、軽々と米俵の様に抱え上げられた事。
 義兄さん助けてと神多羅木に電話をしたいが、腕も纏めて担がれポケットに手が届かない。
 そのままややふらついた足で葛葉が向かうのは、目の前のラブホテルであった。

「かはっ、ちょっと葛葉先生。それはまずい。誰かに見られでも、てか待ってる。家では大事な子が待ってるの。可愛い彼女が俺の事を」
「寮から引っ越したとは聞いてたけど同棲とか、婚前交渉とか。羨ましくなんかないわ、むしろぶっ壊してやる。覚悟しなさい、カップルは皆不幸になれば良いのよ!」
「嘘だろ、マジで。天狗、観音。ふらっと現れろ、届け親友にこの思い。あと、酒呑は大好きな酒に溺れて溺死しろ!」

 そこで都合良く、ナンパに出かけたりふらっと帰った二人が現れるわけもなく。
 ついでに一部、発端ともなった酒呑を呪うも、それはないだろううわばみだもの。
 むつきは女性に担がれラブホテルに突撃すると言う、衝撃的体験をしてしまった。
 ロビーの受付に誰も配置しないタイプらしく、そちらの助けもない。
 走る葛葉が足を止めたのは部屋を選択するパネルの前でだけ。
 僅かな理性で好みの部屋、和風のそれを選び取って鍵が出るなり猛ダッシュ。
 エレベーターなど待っていられるかと、本当にこの人の体力はどうなっているのか。
 むつきを未だ担いだままで階段を数段すっ飛ばしながら、三階へ。
 壊れるほどの勢いでドアを蹴破り、むつきはそのまま布団の上に投げ出される。
 もう駄目だ、葛葉に犯されると、むつきはぷるぷる捕食寸前の小動物のように震えていた。

「せ、せめて優しく」

 そんな覚悟なのか諦めなのか分からない台詞も呟いた直後。
 ぽふりと隣に葛葉が寝転がってきた。
 ちょっとドキドキ、触れた髪の質と匂いに、まだ残るゲロの匂いにうっとしつつ。
 何秒、何分と経っても何もアクションがなく、ちらっと目を開けて葛葉を見た。
 よく分からないが、葛葉は仰向けで若干大の字、目を瞑ってふるふる震えている。
 なにこれ、どういう状況と体を起こして葛葉を改めて見つめた。

「な、何をしているのですか。早くしなさい。あれですか、雑誌で見た焦らしプレイという奴ですね。さすがチャラ男、良いわよ付き合ってあげるわよ!」

 あのもしもしと、ラブホテルの演出か何かで体が淡く光る葛葉に触れる。
 びくりと震えた彼女はさらに光を強め、なんか凄く体が硬く、鋼鉄のようだった。
 マグロはマグロでも、冷凍マグロなんて馬鹿な言葉がふっと頭を過ぎる。
 挿入したら一物の皮が違う意味で剥けて、凍りつきぽっきりいきそうな程に。
 ちょっとキュッと股間を股間を掴みつつ、脅えるのは止めてむつきは立ち上がった。
 物理では葛葉には勝てそうにないが、どうやら男女関係では負けはなさそうだ。
 特にその領域であるラブホテルで葛葉相手に脅えるのも、馬鹿らしくなってきた。
 部屋は和風の畳の上に敷かれたやや大き目の布団に枕元には行灯を模した電灯。
 ちょっと布団をまくってみたが、ちゃんとベッドマットがある安心設計である。
 天井もエセ板張りで、お風呂場はヒノキに見せかけた別の木製風呂であった。
 美砂達中学生と付き合っていると、ラブホテルを使う事もないので少し新鮮である。

「あの葛葉先生がマグロとか。本当に結婚してたのか、別れた原因ってセックスレスじゃねえだろうな。まあ、過去は良いとして。吐いた後だし、温めに」

 温度設定に気をつけながらお風呂にお湯を溜め込み始めた。
 また若干流された気がしないではないが、ここまでされると放っておけない。
 今のままではきっと何度合コンを開いてあげても同じである。
 人の事は言えないが、恋愛に不器用すぎだと肩の力を抜いてやるぐらいは構うまい。
 湯船が半分ぐらいまで溜まって湯加減を見てから、部屋に戻ってみると葛葉はまだ寝たままだった。

「うぅ、なんですか。なんで何も、あの人と一緒。そんなに魅力ないですか」

 しかしながら、きつく閉じた瞳からぽろぽろと涙を零し始めていた。
 寝転がった状態は同じながら、何もされない不安から子供の様に体を丸めている。
 緊張した体もカチカチに硬直しており、良い大人がと少し笑えてもきた。
 むつきを良く知る人には、お前が言うなと言われるかもしれないが。
 そんな葛葉の隣にしゃがみ込み、意外と可愛い人だとコンコンと拳の裏でその固い体を叩く。

「葛葉先生」
「んっ、乙姫……先生?」

 泣き顔から一転、ぱっと少女のような笑みを一瞬見せてくれた。
 だが直ぐに少し冷静にもなったようで、若干顔色が悪くもなり始める。
 一応は性格的にも真面目そうなので、男をラブホテルに担ぎこんだ事を気にしているのだろう。
 だから気にするなとばかりに、むつきも微笑み返して言った。

「お風呂入りましょう」
「えっ、お風呂ってきゃっ」

 一瞬呆けた葛葉を、今度はむつきが抱え上げた。
 ただむつきもこれ以上は有無を言わさず、さっさと風呂場に葛葉を連れて行く。
 激しい抵抗がないのは、まだ少し酔いが残っているからか。
 布団の上でと同じく、殆どマグロ状態の彼女の着物を脱がそうとしたのだが。

「あっ、あれ。これどうやんの?」

 以前、アキラの巫女服を脱がした事はあったが、あれはエッチ前提。
 スムーズにエロに突入できるよう、およそエロには邪魔なものを排除していた。
 だがお堅い葛葉がそんな目的で着物を着てきたわけでもなく、ガチである。
 帯の一つの解き方もわからず、おたおたしていると葛葉の手が伸びてきた。

「乙姫先生は、先に湯船に。お任せすると、着物が捨て置かれそうで。皺になってしまいます。私は遅れていきますから」
「ん?」

 何かおかしい、まるで葛葉が一緒に入るようなことを言っているように聞こえ小首を傾げる。
 むつきの怪訝な顔を見て、葛葉もそのすれ違いに気づいたようだ。
 着物の帯をほどいていた手を止めて、わたわたと言い訳を始めた。

「え、だって。着物を脱がそうとするから。ここはそういう場所ですし!」
「手伝った方が楽かなとは思いましたけど、全部脱がす気は……」
「良いから、男がぐだぐだ言わない。一緒に入りなさい!」

 もはや何を言っても手遅れで、何切れなのか葛葉が両手を上げてまくしたてた。
 本当にこの人は、一度沸騰すると無茶苦茶というか、これはこれで可愛いか。
 折角の葛葉の好意なので、これ以上断るのも悪いか。
 断り続けたら、一緒にお風呂に入る価値もないうんたらと泣かれそうな気もする。

「それじゃあ、お先に」
「え、あっ……はい」

 散々だった合コンの幹事として、手さえ出さなければこんな役得も構うまい。
 手早く衣服を脱いで、言葉通り葛葉より先にお風呂場へと向かった。
 先に体を洗おうと、スーツを脱いで浴場へと向かう。
 シャワーでさっと体を流し、備え付けのシャンプー等で髪や体を洗い一足先に湯船へ。
 やや温めの温度設定は、やはり夏場のお風呂では良い湯加減であった。

「ふぅ、今日も一日お疲れさん。酒呑は良いとして、観音と天狗にはちょっと悪い事したな。二人共気にして無さそうだけど、メールぐらい後でいれとくか」

 目を閉じたまま首を風呂桶の縁に預けて天井を見上げながら呟く。
 一先ず、お風呂で酔いを醒まし、恐らく電車は間に合わないのでタクシーで葛葉を送ろう。
 それからひかげ荘に戻って、起きていればお嫁さんの相手か、他の誰かの遊び相手か。
 ちょっと下半身が反応してしまい、そっちの遊びじゃねえしと自分で突っ込んだり。
 やがて考える内容もなくなり、まだかなっと出入り口に振り返って葛葉を待つ。
 結局葛葉がその扉を開けたのは、むつきが入ってから十五分近く経ってからであった。
 やはり、一度冷静になってみるとただの同僚以外の何物でもないむつきとのお風呂に戸惑ったのか。
 ラブホに続き、風呂にまで入れと脅した当人とは思えない程に、おどおどしていた。
 明るい場所で改めて見てみると、葛葉の髪は綺麗な直毛だがあり得ない程に白い。
 染めたというよりは、髪の色を可能な限り抜いたといった方が良いだろうか。
 一枚のタオルで豊かな胸元から下腹部を隠し、女性らしいラインに沿ってタオルが揺れている。
 タオルの上からでも十二分に分かる大きな胸は歩く度に揺れ、それを支える下半身もまた生唾ものだ。
 確実に安産型と分かる大きなお尻や、むちましい太股がまた美味しそうである。
 薄いタオルに隠れた陰毛は地毛の黒が少し見えていたり、生唾ものであった。

「お待たせしました。ですが、ジロジロ見ない!」
「はーい」

 ちょっと普段の葛葉、というか普段も全く知らないが。
 何回か言葉を交わしたむつきの知るお堅い葛葉が戻り始めていた。
 チラチラと、彼女が髪や体を洗う様を覗きみたりして時間を潰しつつ。
 彼女が湯船に入ってきたところで、その手にそっと触れる。
 ピクリと布団の上とは別種の緊張が伝わってきたが、それも直ぐにフッと消えた。
 ただし、またあの布団の上での緊張感が戻り、彼女の体が金色に光り出す。
 一体このラブホテルは何処に力を入れているのか、女性のみ常にライトアップとか小鈴並みの科学技術ではなかろうか。
 それにしても直立でマグロ状態とか、新しすぎる。

「葛葉先生、ほら落ち着いて。一緒にお風呂に入るだけですから」
「はっ、別に緊張など。これぐらい当然です。処女じゃありませんから!」

 我に返っても、まだガタガタと若干震えている状態で凄まれても怖くはない。
 というか、何故今処女じゃないとわざわざ言ったのか。
 結婚していたのだから当然だと思うが、立ち上がって葛葉の後ろに回りこんだ。
 落ち着けさせるように胸などには触れないよう、肩越しに首に腕を回した。

「落ち着いて、何もしません。ゆっくりとしゃがんで、お風呂入りましょう。葛葉先生」
「分かりました。ただ今は、その先生を止めてください。刀子、特別にそう呼ぶ事を許可します」

 改めて刀子さんと呼び、ちょっと赤くなった彼女と共に湯船の中に。
 まだあのライトアップは続いており、彼女の体に触れてもコチコチであった。
 ただ自分で動く分には問題ないのか、ようやく密着状態でお風呂に入れた。
 長かったと、彼女の背と髪を胸で受け止め、迷った末にお腹に腕を回して抱き寄せる。
 殆ど勃起状態の一物が彼女のお尻に触れないよう一応、気をつけながら。
 一瞬の迷いの後で、刀子もわずかながらに背を預けてくれた。
 それと密着して分かったが、時間が掛かったのは着物を脱ぐだけが理由ではなかった。
 まだ吐いてから一時間以内で、口を濯いだりと身だしなみに時間が掛かったのだろう。

「す、少し温いですね」
「夏ですから、コレぐらいで丁度良いですよ」

 耳元で囁くように言うと、キュッと刀子が体を縮め、またライトアップが強く。
 元から硬いので分からないが、気持ち硬さも上がったような。
 ちょっと長そうだと、気をそらす意味も込めて適当な話題を振って見た。

「刀子さんは、どうして髪を染めているんですか? 元々は綺麗な黒ですよね。京美人、男からすると少し勿体無い気も」

 引っかかり一つない髪を好き、さり気に綺麗だ美人だと褒めつつ尋ねる。

「それは、これぐらいなら……貴方のクラスの刹那、桜咲ですが」
「桜咲? 意外な、でもないか。あいつ、剣道部だし。確か近衛と同じ、京都出身。まさか三人とも同郷とか?」
「私とお嬢様はそのようなもので。刹那は少々事情が。彼女が小さい頃に剣の手解きをしたのですが、一週間程の短い期間ですが。それはもう小動物のように怯え。実際小さかったですけど」
「あの桜咲がですか。ピンといつも張り詰めて、臆病さの裏返しか?」

 かもしれませんと、何故か刀子がむつきの腕に手を重ねてきた。

「彼女には人に言えない秘密がありますから。だから、私が染めたんです。一緒だねと。周りからは散々、その……不良娘的な事を言われましたが。その反発も会って前の旦那と駆け落ち同然で関東へ。刹那ともそれっきり」

 刀子は明言こそ避けたが、桜咲は元々黒髪ではなく白髪という事なのだろうか。
 周りの反応もちょっと前時代的だと思ったが、年齢の事もあるので口を噤んだ。
 ただなんだろう、今凄く嬉しい。
 懐かしそうに微笑む刀子は、外で今まで出会ってきた彼女とは全く違う。
 彼女の体を覆っていたライトアップも、今は空気を読んで収まりつつある。
 緊張も程良く解け始め、コチコチだった体に女性らしい柔らかさも。

「それで、こっちに来ても貴方を慕って剣道部に?」
「ええ、強くなりたいと。最も、今は厳しくし過ぎて少し怖がられてもいますが。先程も言いましたが、彼女には事情があるので優しい姉でばかりいられません」
「そんな事はないと思いますよ。そりゃ、厳しくされれば時には萎縮もします。けど、何時かそれこそもう分かってるかもしれませんよ。周囲の反対を押し切って髪まで染めてくれた優しいお姉ちゃんだって」
「だと良いのですが」

 そう呟いた微笑を最後に、こてんと刀子が背中だけでなく首も預けてくる。
 頬と頬が触れそうな程に近く、凄く潤んだ瞳で見上げられた。
 だが今度はこっちが緊張しそうなほどで、弱いのである。
 アタナシアに引き続き、弟や妹をそっと見守るようなお姉ちゃんには。

「刀子さん、ごめんなさい何もしないって約束、破りそう。凄く、刀子さんが可愛い」
「かわっ、年上をからかうものでは。男の人は、それこそお嬢様や刹那のようなピチピチの女の子の方が」

 現状のひかげ荘を見ると全く持って図星だが、天狗よその口の軽さを今俺にと言葉を連ねる。

「彼女達のような子が好きという人は確かに居ますけど、大半は違いますよ。ただ、ありのままの姿を見せて欲しいだけ。彼女達はあっけらかんと隙だらけですから。けれど大人は、中々難しいですしね。僕も四月頃までは生徒に対して必要以上に壁を作ってました」
「本当に、私が可愛いのですか?」
「ええ、とても。その証拠にほら。刀子さんが魅力的過ぎて痛いぐらいです」

 今までずっと触れないよう気をつけていた一物を、彼女のお尻に触れさせた。
 安産型の肉厚のそれに埋もれさせるように強く押し付けもする。
 またしてもピクリと体を震わせた彼女だが、何故かライトアップはなかった。
 装置が壊れたのかもしれないが、正直目の前の刀子が可愛過ぎて気にもならない。

「硬い、それに大きい。びくびくして」

 おっかなびっくり触れた葛葉であったが、ふいに言葉を途切れさせうつむいてしまう。
 やりすぎたかと焦るむつきに聞こえぬよう、葛葉はつぶやいていた。

「少しだけ。そう、これはお礼……」

 むつきの一物に触れていた手に少し力を込めて握り、葛葉は意を決したように振り返った。

「私に、何かしてあげられる事はありますか? こういう事は不得手というか、その経験が」
「そのまま優しく摩ってください。昔転んだ桜咲を宥める為に撫でたように」
「こう、ですか。痛そう、もう大丈夫ですよ」
「刀子さん、僕も少し失礼しますね」

 正直、年上の女性に優しく撫でられ、辛抱溜まらん。
 このままガンガン突いて孕ませたくてしょうがないのだが、彼女は正直初心だ。
 年齢からは信じられない程なので、処女を相手取るように優しくゆっくりと。
 耳元でその体に触れる事さえ許可をとって、それからそっと腕をお腹から離れさせた。
 後ろ手に一物の竿を摩ってくれる刀子の豊満な胸を鷲掴んで最初は触れるだけ、順に揉み上げていく。

「そんな、胸まで」

 完成された女性の肌はしっとりと、若さにあかしたそれとはやはり違った。
 指先の一つ一つが豊かな乳房に埋もれ、一体化していくような柔らかさである。

「大きい胸、刀子さんの胸。気を付けないと、手が一生離れなくなりそうですよ」
「そんな、いやらしい触り方。あかんえ……」

 突然の近衛のような方言に、気を取られびっくりしてしまう。
 だが和泉もそうだが、男は若干暑苦しい所もあるが、女性の方言は何故こうも可愛いのか。
 もっと聞きたいと胸をもみ上げ手のひらで乳首を転がし、吐息以上に言葉を誘う。

「刀子さん、ほら。如何されると気持ち良いか教えてください。こう、それともこうですか?」

 大胆に手のひら全体を使って揉みしだいたり、指先のみつっと乳房の上を走らせたりあの手この手で触れ方を変えてみる。

「あかん、そんな事をしたらあかんえ。うちのお胸、玩具とちゃう。けど、んぅぅぁ。気持ち……ちゃう、そんなんしたらあかんえ!」

 右手でむつきの竿を摩りつつ、左手は何時の間にか声を我慢するよう口元へ。
 鍵爪型にした人差し指を自分で噛み、それでも耐え切れずもっとと喘ぐ。
 体の硬さなど何処へやら、むしろ普段の鬱憤を晴らすかのような乱れようだ。
 うなじや肩にキスをしつつこれならと、胸だけでイカせるという夢が叶えられるかも。
 もちろん、前回のアタナシアの事もあるので、あくまで刀子への気遣いは忘れずに。
 乳房をこねる様に弄んでは順に乳首へ、クリクリと弄って弾いて刀子の反応を楽しみつつ。

「凄く可愛い、刀子さん。もっと見せて、乱れた刀子さんを。ありのまま、いやらしいその姿を見せてください」
「違う、うちそんなんや。そんなんちゃう、ちゃうのに。ぁっ、駄目。気持ちよ過ぎて、怖いの。怖いの来る。んぁっ、ぁぅ」
「怖くない、俺がいるから。刀子さん、受け入れて。もっと俺を」
「怖いの。ギュって、もっと強くギュってぇっ!」

 胸を弄びながら抱き締め、首筋に甘噛みした事でようやく刀子はそれを受け入れた。
 快楽に抗わず、むつきに誘われるまま。
 お湯に濡れた髪を振り乱し、声が反響して耳に痛い程に叫び上げた。
 果てた嬌声を、胸だけを弄られはしたなくも淫乱にイッてしまった事を。

「はぁ、ぁぅ。怖なかった、むつきがギュってしてくれたから」
「言ったでしょ、大丈夫だって。けど、まるで初めてイッたみたいな反応ですね。ちょっと騙されちゃいましたよ」
「は、初めてやから。も、もちろん。エッチやなく、イッたのが」

 思わぬ言葉にえっと、目が点になった。
 やはりセックスレスが分かれた原因かと。

「あんな、うちいつも緊張して体に力が入るんよ。それで、何時もえっちの時にはガチガチに強張って。初夜の時、あの人が入れた瞬間……体がこわばり過ぎてポキッと」

 衝撃の告白に、刀子にさすって貰っていた一物がキュっと一回り縮んだ気がした。

「それでそのまま……上手くいかへんくなって」
「が、頑張れよ元旦那。刀子さん、こんなに可愛いのに。楽しむ前に、悦ばせてやろうよ。なに、俺って魔法使い? 何年付き合ってたか知らないけど、俺数時間なんだけど」
「エヴァンジェリンの気持ち、少し分かる。むつきは、心の隙に入り込むのが上手いんや。情けないかと思うと格好良くて、それこそ人の前で泣きもして。気が付くと目の前におる」
「間違えないで、それの姉のアタナシアだから。それにそれって詐欺師の才能じゃないですか、やだあ。もっと格好良い才能が良い」

 言われたそばから少し泣きそうで、可愛い人だと刀子が遊ばれたばかりの胸で抱き締めていた。
 むつきは柔らかな乳房に埋もれ、少々しこりのある乳首を食んで。
 現金にもむつきは胸をしゃぶりながら、右手を刀子の下腹部へと伸ばしていった。
 髪とは異なる黒く肌に張り付いた陰毛を少々指で弄び、更に下へ。
 割れ目の先端、その先では皮が半かむりのクリトリス。
 それから尿道を通り過ぎて、やはりそこだけは刀子も少し緊張を取り戻した。

「刀子さん、力を抜いて」
「無理、せめてお布団。普通にしてくれな、いやや」

 仕方がありませんなと、その場で刀子を横抱きに。
 体を拭く間も惜しんでそのままびたびたと、ベッドマットの上の布団へ。
 そっと刀子を降ろして、覆いかぶさった。
 彼女が望んだとおり、普通に、正常位の体位である。
 だが既に受け入れる覚悟は刀子にもあるようで、マグロではなく腕を伸ばしてきた。
 覆いかぶさったむつきの首に腕をまわし、濡れた肌同士を密着させるよう引き寄せる。
 元々水風呂だったので表面の水滴は冷えて冷たいが、互いの肌がそれ以上に火照って熱い。
 それこそ蒸発していく水滴の水蒸気さえ視認できそうな程であった。
 互いの濡れた肉体を艶かしく動かし擦りつけては、求め合う。

「刀子さん、キスしますよ」
「うん」

 まるで少女のような返答の直後、唇に吸い付いた。
 もはや互いの体表面の表側の八割、九割は密着した状態であろうか。
 刀子は自分の上をはいずるむつきの首に腕を巻いて離さず、足と足を絡め逃がさない。
 むつきも唇はおろか口の中までも蹂躙し、風呂で弄んだ胸をまたもや揉みしだく。
 だがそればかりではなく、利き腕はいずれ胸を離れお腹の上を滑る。
 珠のとなる雫を指先で蹴飛ばしながら、小休憩におへそを弄っては下腹部へと。
 本日二度目となる陰毛を指先に絡め、キスを中断して見詰め合う。

「ええよ」

 小さな刀子の呟きと頷きで、一度肌を離れた指先は直接そこへと触れた。
 触感では割れ目から濡れたびらびらが顔を出しており、にちゃりとそこを開く。
 乳房と同じくしっとりと吸い付くような肌触りを味わいながらその奥に触れる。
 肌を覆うさらさらのお湯とは異なる、粘つく愛液に導かれ入り口から膣に指を入れた。
 指先が沈む度に刀子の体が打ち震え、小さな喘ぎ声を漏らしている。

「ほら、ここまで指が入った。全然、大丈夫。ほら、聞こえる?」
「音たてんといて、恥ずかしいえ」
「俺は嬉しいよ、刀子さんがその気になってくれた証拠だから。俺も、ほら」

 太股を閉じ止めてと言った刀子の耳元で囁き、完全に勃起した一物を筆のように操りお腹をなぞる。
 丁度子宮の上辺りだったのか、ピクリ、ピクリと体を反応させ愛液も増えていった。
 さすがに熟れた体を持つだけあって、経験不足こそあれやわらかいものだ。
 受け入れる準備は万端で、放っておいても指が飲み込まれていく。
 貪欲に今が孕ませ時だからと、むつきの精液を欲してぐねぐねと膣壁が指を締め付ける。
 引き抜いた指に付いた愛液を刀子の目の前で舐めて苛めたいが、それはまた今度。

「入れるよ、刀子さん」
「怖いの、ギュって。むつきの腕でギュってしてや」
「うん、強く抱き締めるから大丈夫。刀子さん、もう一度キス」

 一度足を抱え自分の膝で固定してから、前屈みに刀子を抱き締めキス。
 まだあまり自分で動けない刀子の代わりに、手で入り口を開き腰の角度を改める。
 今一度、刀子の目を見て行くよと呟く、とろりと愛液が滴る膣口へと亀頭を添えた。
 ぐっと力を込めると処女並に狭い膣の肉壁が広がり、刀子の体へと僅かなライトアップが。
 しかしじっとむつきが見つめるとそれも失せ、涙ながらに刀子が頷いた。

「んくっ、行くぞ」
「ぁっ、来た。大きいのが、久しぶりに。むつき、もっと抱き締めて。ひぅっ!」

 恐らくは何年も使われていなかった刀子の膣を、使用頻度の高いむつきの一物で抉った。
 同時に刀子の手がむつきの背中を爪で少し抉ったが、なんのこれしき。
 いや実際かなり痛いが、刀子も久しぶりの感覚で苦しいのだろう。
 だが同時に二人共に、快感も感じていたのだ。
 特に熟れた肉体で少女のような狭さで締め付けてくる刀子の中は反則である。
 少しぐらいならと、お互いびしょ濡れで普段より高く大きな音を立てて突き上げた。

「刀子さん、凄く気持ち良いよ。狭くて、搾り取ってくる。気を抜くと出ちゃいそう」
「お腹が一杯、こんなん。こんなにも、知らへんえ。男の人がこんなに。ぁぅ、奥コツンしたらあかん。んぁぅ、ふぅぁっ」

 ぐちゃぐちゃと派手にかき回す音を立てながら、刀子を攻め立てる。
 当初の硬さはもはや微塵も姿は見せず、刀子もむつきの下で乱れに乱れていた。
 むつきの顔を胸で抱きとめ、まだ足りないと頭に顔を埋めすんすんと。
 下腹部を貫かれ、はしたなくも開かれた足は今にもむつきの腰を抱き締めそうだ。

「刀子さん、分かる。ここまで入ってる、俺のが。刀子さんの、ここまで」
「お腹にむつきが、んふぁ。ぐりぐり、そんなん恥ずかしいえ。えっちな事はしたらあかん」
「だって刀子さんの体、気持ちよ過ぎる。刀子さんがエロイのが悪い」
「うちそんなんちゃう、むつきがぅ。んんっ、はぅっ」

 もはや囁く言葉の応酬も、快楽の海に翻弄され殆ど帰っては来ない。
 ただただ刀子はむつき、むつきと今夜初めて読んだ名前を繰り返すのみ。
 今でこそ別れたとはいえ、一度は別の男を愛して結婚した女性が自分を呼ぶ。
 言い表せない征服感、ゲスい黒い感情が背筋を上り、少しだけ親友の主義に共感できた。
 もう俺のものだと、彼女を貫く一物にさらに力が、孕ます為の残弾が装填される。
 たださすがに、そんな考えで一杯なのは失礼なので、数秒のことで頭から追い払う。

「刀子さん、そろそろ出そう。ゴムしてないから外に」
「駄目や!」

 恐れていた事態、むつきが外にと言った途端に刀子が足で腰を抱き締めてきた。
 慌てて抜こうとしても、信じられない程の力で再挿入を促がしてくる。
 抜こうと腰を引き、また腰を進められて挿入とこの応酬でさえ危うい。

「でも妊娠したら、っ。やば、足放して!」
「沖田にアフターピル、用意させるから。抜かんとして、欲しいんや。むつきの子種。責任とれなんて言わへん。彼女がおるのも知っとる。だから中に、むつきの子種!」
「刀子さん、くっ。もう、駄目。刀子さん、刀子ッ!」
「ぁっ、あぁぅ。んぁっ熱い。熱いの、お腹の中が火傷してまう。熱いぇ!」

 むつきの射精を子宮で受け止め、天井知らずの幸福を感じて刀子が暴れる。
 果てを感じて体を痙攣され、子宮の壁を精液で汚されては体を弓なりにそらし。
 この期に及んでもはや避妊も不可能だと、むしろむつきは刀子の腰を掴んでより多くの精液を流し込んだ。
 半分、死なば諸共、毒を喰らわばの精神でありったけの精液で刀子の中を汚していった。
 第一射の弾薬が打ちつくされ、むつきは力尽きたように刀子の上に倒れこんだ。
 もはやお湯なのか汗なのか、一部は愛液なのか分からない飛沫を飛ばしながら。

「刀子さん、ごめん。中で……」
「ええの、うちが望んだ事やから」

 お互いに謝り、後味が悪い事後の気だるさだけは回避しキスをする。
 ちゅっちゅと、特に刀子は今まで失った時間を取り戻すように貪欲に。
 その間に、実は底の方に残っていた弾丸が暴発したりもしたが。

「刀子さん、俺」
「ええよ、何も言わんといて。彼女がおるの知っとって誘ったのはうち。けど、今だけは。もう少しだけの間は夢みさせてや」
「うん、まだしばらくは。無粋な事も言わない。だから」
「次、ええよ。体力には自信あるえ。お礼に、むつきがしたいこと全部させたる」

 それじゃあと、むつきは息を見出し喘ぐ刀子を挿入した状態からさらに突き上げた。
 むつきは久方ぶりに刀子一人を相手に、全力を尽くす所存であった。
 小鈴に肉体改造されてから初めて、たった一人に全てをつぎ込んだ。
 抜かずの二回戦、刀子をひっくり返して後ろからの三回戦、続けて四回戦と五回戦。
 中だけでなく、京美人である葛葉の真っ白な体を散々別種の白で汚したり。
 まだまだと、一度体を洗いに風呂場へ行ってそのまま壁に押し付け、はたまた湯船の中で。
 もはやどれが一回分や二回分などの回数もあやふやで、兎に角刀子を孕ませ捲くる。
 全く体力が衰えぬ様子の刀子を相手に、十回それ以上を放ち、先にギブアップしたのはむつきであった。










-後書き-
ども、えなりんです。

というわけで、刀子回でした。
次回も続くというか、エヴァ参戦。
あと、すごくどうでもよい人が再登場。
夏祭りのお話です。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第五十五話 俺のアタナシアに触るんじゃねえ!
Name: えなりん◆e5937168 ID:b379f023
Date: 2013/07/31 20:27
第五十五話 俺のアタナシアに触るんじゃねえ!

 的屋の都合で例年とは異なり、平日の二十九日に開催された夏祭りであったが。
 だから如何したという人の多さであった。
 何しろ元々麻帆良学園都市の名が示すとおり、学生が主体の街なのである。
 都市内で点在する神社で一斉に、とり行われた夏祭りの出店は麻帆良祭を思い出させた。
 当然、そこに足を運んだ学生達も夏休み最初の大イベントとその数も多い。
 特に女の子は浴衣姿の晴れ姿で彼氏とデートしたり、夏祭りの出会いを夢想したり。
 数多くの女の子を様々な理由でお世話するむつきもその夏祭りに来ていた。
 ただし、以前のひかげ荘近くの小さな神社ではなく、麻帆良都市内最大の龍宮神社にである。
 その理由は、待ち合わせ場所の大鳥居の柱の前に一緒にいる人物に関係していた。

「夏祭りか、久しぶりだな。悪いね、乙姫先生。誘って貰っちゃって。例年は、何時もすっぽかしてて。明日菜君と来たのも何時以来だっけ」
「いえ、ちょっと生徒が集り過ぎてしまって。一人では引率も大変なので、少しでも請け負って貰えたらって下心もありますから。ところで、彼女達が参加者を募って旅行に行く話ですけど」
「うん、僕も出来れば引率したいけど期間がね。今日はたまたま帰国してたけど。特に京都は、ちょっと大変そうだし」
「観光客の人は多そうだし、盤状に作られてて慣れてないと迷うらしいですからね」

 人通りが多いので火をつけていないタバコを吸いつつ、何故か高畑が苦笑いをしていた。
 高畑も京都で迷った経験があるんだろうなと、むつきは勝手に想像していたが。
 良い歳をした男が二人、夏祭り会場入り口の鳥居で寂しく待ちぼうけるのもそこまでであった。

「お待たせして申し訳ありません。むつき先生。あの刹那は?」

 やや小走りに、主にむつきへと向けて駆け寄ってくる大輪の花が一輪。

「まだ生徒は誰も。その浴衣お似合いですね、とても綺麗ですよ」
「はい、一張羅を見ていただきたく。むつき先生も男らしくて素敵ですよ」

 キョロキョロと桜咲の姿を探しながらやってきたのは、今朝方ラブホテルの前で別れた刀子である。
 イチャイチャしながら出たら、隣のラブホテルから天狗が見知らぬ女性と出てきたのはまた別のお話。
 黒に近い濃紺の生地に、小さいが色とりどりの花をちりばめた少し可愛い浴衣姿だ。
 白い髪も一纏めにして、首の後ろから肩にかけて前に降ろしていた。
 これで巾着袋の一つも持てば完璧だが、彼女の手には不釣合いとも言える紙袋があった。
 今回の秘密兵器とでも言うべき一品であり、桜咲はどこだと目を光らせている。
 お互いを褒めあう一連の恋人のようなやり取りに、あれ僕お邪魔かなと若干高畑がそっぽを向いていた。
 実際、高畑から見て刀子の物腰が普段より柔らかく、微笑む表情にも硬さがない。
 名前を呼んで人違いですといわれたら、そのまま信じてしまいそうだ。

「あー、葛葉先生。こんばんは」
「あっ、高畑先生いらっしゃって。失礼しました。今日はご無理を言って申し訳ありません。偶には刹那を年頃らしく遊ばせて上げたかったもので」
「うん、良いんじゃないかな。そう言う事なら、助力を惜しみませんよ」

 しかし高畑が喋りかけた途端、いつも通り、桜咲に関して以外は彼の良く知る刀子であった。
 生徒を待とうとする立ち位置も、むつきの隣に迷うことなく寄り添うように。
 楽しげにむつきを見上げては、何気ない会話でころころと年頃の少女のように笑う。

(うーん、これはさすがの僕でも)

 周りから朴念仁と評される彼でさえ気づいてしまう程の距離感であった。

(エヴァの事、どうするんだろう。行きずりで終わりってのは。友人としては、出来ればナギさんの事を忘れさせて欲しいけど)

 どうするんだろうと、少しむつきが心配になる高畑であった。
 当人に言えば、他人よりも自分の周りに気付いてくださいと注意されるだろうが。
 気づかせてしまえば、きっと泣いてしまう生徒が一人いるのでむつきはそんな事は言わないだろう。
 だがそんな彼の心配も、その生徒の登場で直ぐに頭の片隅から追い出される事になる。

「高畑先生ぇ、その浴衣お似合いデス!」
「明日菜、明日菜。落ち着いて、高畑先生普通にスーツやん?」
「ああ、しまった。折角、このフレーズを滑らかに言えるまでになったのに練習損!?」
「ははっ、こっちこそごめんね。なんだか悪い事をしたみたいで。うん、浴衣が似合うようになったね明日菜君」
「に、ににに似合ってる。これ、可愛いなんてそんな!」

 現れたのは、むつきが高畑を遊びに誘った際に連絡すると言っておいた神楽坂であった。
 学生の身ながら精一杯お洒落、水玉模様の可愛い浴衣姿での参上である。
 ただし、自前のではなく、お金がない彼女は木乃香のお下がりなのだが。
 もちろん黙っていれば分からないので問題はない。
 今日も今日とて大丈夫かと心配になるテンパり様である。
 出だしから蹴躓き、あせあせと何時も以上に焦って嬉し恥ずかし半分涙目だ。
 そんな彼女の可愛らしい行動ににこにこ笑いながら、近衛がむつきへとこそっと喋り掛けてきた。

「先生、ありがとうな。明日菜、この日の為に一杯バイトしてな。珍しくリップとか香水とか女の子っぽいもん買ってみたり。鏡の前でさっきの言葉練習する明日菜、可愛かったえ?」
「そいつはちょっと見てみたかったな。おう、近衛も似合ってるぞ。可愛い、可愛い」

 淡いピンクの生地に濃いめの花が咲き乱れる浴衣は、今日美少女に良く似合っていた。
 ただし、美砂達とは違い、あくまで生徒に対する気軽な褒め方である。
 それでも褒められてうれしくないはずもなく、近衛がむつきの前で袖を手にくるりと回ってみせた。

「えへへ、明日菜にお下がりするからってお爺ちゃんに強請って買って貰ったんよ。今のお爺ちゃん、大抵の事は聞いてくれるから。ところで、葛葉先生がなんで一緒? 例の恋人って葛葉先生なん?」
「残念、大人は色々あるんだ。それとちょっと失礼」
「ほえ?」

 今日はリボンまでしてお洒落している近衛の両肩に手を置き、キョロキョロと周囲を見渡す。
 桜咲の姿は全く見えないのだが、後ろからこそっと葛葉が見つけましたと教えてくれた。
 見つけたと言われてもさっぱりである、近衛の専属ボディーガードと教えられてはいたが。
 取り合えず、桜咲が逃げないよう近衛はこの場にガッチリ抑え、葛葉に頼んだ。
 もちろん、葛葉としても大切な妹分を頼まれるまでもないだろう。
 ふっと息を付く間にむつきの背後から気配が消え、ひやっと背筋が凍りかける。
 その素早く消えた葛葉は、鳥居から境内に続く大通りの両脇にある林の中へと足を踏み込んでいた。
 草場の陰というわけではないが、木々の影で遠くから近衛を見守る桜咲を発見。
 何を考えているのか非常に剣呑な表情で竹刀袋から得物を取り出しそうであった。
 葛葉の思った通り、激昂すると気配が一瞬漏れ、背後の警戒が疎かで簡単に背後から肩に手をかけた。

「刹那、隙だらけですよ」
「何者って、刀子さん!? 今は、お嬢様が。お嬢様、その細く可憐な肩に乙姫先生の汚れた手が。払いのけてください、だがお嬢様はお優しいお方!」

 嗚呼、血こそ繋がってはいないが、似てるなと妹弟子を改めて刀子は見た。
 思い込んだら一直線、いずれ刀子がしたように木乃香をラブホテルに連れ込みやしないか。
 恐らくもう少し大人になってから、それこそ女同士という概念を知ったらもう。
 要治療がやはり必要だと、刀子は有無を言わさず桜咲の手を取った。

「刀子さん、今はお嬢様の護衛中で」
「高畑先生が直ぐそばにいるのですから、貴方程度がいたところで。良いから来なさい」
「お、お嬢様、お嬢様。龍宮、頼むお嬢様をぉ!」
「貴方、唯一の友人にお金を払ってまで頼むのも止めなさい。友達失く、すわよ?」

 いや、昨晩も思い起こせば沖田は笑っていたが、斉藤には色々と言ってしまった。
 やばい関西出身で幼馴染もいないここでは、数少ない友人なのである。
 同年代でさらに未婚、彼氏なしとなると本当に少ないのだ。
 お互い色々と思うことはあれどと、後でメールで謝ろうと決意した。
 今はそれより、お嬢様と暴れている妹弟子を、兎に角人目のない、届かない林の奥へ。
 あまりにも暴れるのでお札をオデコにビタンっと貼り付け、僅かの間でも動きを止めて脱がす。
 ぽいぽいっと折角の夏祭りに獲物と制服姿で現れたお馬鹿さんを遠慮なく素っ裸に。

「刀子さん、ついにそのような趣味に。いけません、私にはお嬢様が。初めてはお嬢様が!」
「既に不毛な道に一歩。貴方は女、鞘にしかなれないというのに。殿方の鞘に……」

 ちょっと昨晩の激しいアレを思い出し頬を染めつつ、姉の特権を最大限に利用してひん剥いた。
 それから持っていた紙袋から自分のお下がりの浴衣を取り出し、着付けていく。
 途中、今もそうだが、過去の自分よりも小さいとちょっと姉としての優越感に浸りつつ。
 ぱぱぱっと、桜咲を一端の護衛から普通の女の子へと変身させた。
 薄い青の生地に女の子らしい桃色の朝顔がちりばめられた浴衣である。
 髪も無造作なサイドポニーから下ろさせ櫛を通して、これも朝顔の髪留めでオデコを少し出してあげた。
 一瞬何が起きたのか、べりっとお札を剥がされた桜咲は茫然としている。

「刀子、さん?」
「刀子お姉ちゃん、さあ行ってらっしゃい。この姿ならお嬢様の隣にいても不自然ではありません。高畑先生直々に護衛も引き受けてくれたので夕凪も没収です」
「待ってください、何が何だか。刀子お姉、さん? それがないと、それに私はお嬢様の」
「やはり、直ぐに昔のようにはいきませんね」

 少しは興味があるようで、身につけた浴衣を見ては惜しげに夕凪をと刹那が縋る。
 急には無理だろうと刀子も急がず慌てず、まず桜咲の頬に手をあて落ち着けさせた。
 中学以前のさらに昔、あの頃は手解きと言うほどでもなく、期間も一か月あったろうか。
 自身でも思い出すように、小動物から少し大きくなった桜咲の頭を撫でた。

「刹那、今の貴方には誰も武力という意味で護衛を期待していません。貴方は同世代の中では強い方ですが、上には上がいます。貴方に求められている事はまた別にあります」
「しかし、私にはお嬢様の隣にいる資格など。汚れた血が清廉なお嬢様を汚すくしゅっ」

 言葉の途中で、刀子の髪の毛の毛先で鼻を擽られ可愛いくしゃみが出た。

「ほら、お姉ちゃんと同じ。と言っても、子供の浅知恵ね。いくら髪を染めても、見た目だけじゃ。もう、騙される歳でもないかしら?」
「いえ、今でもよく覚えています。あれがなければ私は周囲の視線に怯え、才能を眠らせたままお嬢様をお守りする事さえ」
「なら、守りなさい。貴方に求められているのは、誰よりもお嬢様の傍で守る事。それも力で守るでなく、心で心を。ただのボディーガードではお嬢様の心まで守れない」
「ただのボディーガードでは、お嬢様の心まで……」

 それこそ心に染みこませるように、桜咲が刀子の言葉を呟いた。

「お嬢様が仮に怖い思いをした時、赤の他人に大丈夫と言われ心からはいといえる? お嬢様なら相手を気遣って言うでしょうけど。友達だからこそ、本音で怖かったと言って貰えるわ」
「刀子お姉ちゃん、私は」
「最近、少しは成績が上がったなら聞き分けなさい。貴方の本当の役目を思い出して。今の自分に出来る一番の守り方を。力で守るのはまだまだ先の話です」

 桜咲の返答を待たず、これ以上は自分で考えなさいと手を引いて歩いていった。
 行き先はもちろん、集合場所である大鳥居である。
 少しあやすのに時間が掛かったおかげで、二年A組、桜咲のクラスメイトが勢ぞろいだ。
 マクダウェルの姿まであるのは、いささか不自然さと心に引っかかりを覚えるが。
 今はこの引かれるままに歩く小さな手の持ち主を連れて行くことが先。

「お待たせして申し訳ありません、お嬢様」
「あっ、せっちゃん!」

 早速というべきか、二人が現れた途端に、近衛が目ざとく桜咲に気づいた。

「お嬢様、刀子お姉ちゃん」

 体をビクリと硬直させた桜咲は、何時ものように逃げこそしないが、こそこそと刀子の後ろに隠れていく。
 だがそれより先に、回りこんだ者が大勢いた。
 むしろ桜咲とついでに刀子を囲むように、二年A組の生徒達が集った。

「ちょっ、刹那さん。誰かと思った、くぅー浴衣が似合う京美人。このかちゃんに引き続き、ちくしょう!」
「いえ、あの。明石さんも、大変お綺麗で」
「可愛い浴衣。ねえねえ、後で浴衣交換しない? 私もそれ着てみたい!」
「これこそ本物の良いではないかごっこができるです、その時は手伝うよ!」

 わらわらと集る明石や佐々木、鳴滝姉と続々と言葉を投げかけられおろおろと。
 某お笑い芸人のように冗談ではなく、普段の切れたナイフのような雰囲気はどこへやら。
 他の面々よりほんの少し仲の良かった龍宮やら長瀬に微笑ましく見つめられ顔を赤くしたり。
 普段のギャップもあって大人気の桜咲が、不覚にも近衛の接近に気づかずキュッとその手を取られた。

「せっちゃん、可愛え。小さい頃を思いだすな、一緒に遊ぼ?」
「え、うぁ……このちゃ、お嬢さ」

 如何するべきか即座に迷いは晴れず、ただお嬢様と呼びなおして近衛がしゅんとする。
 つい先ほどまで笑顔だった近衛を、誰がそんな風に沈みこませてしまったのか。
 自分のうぬぼれでなければ、きっとその顔も笑顔に変える事は容易いのだろうか。
 言葉だけでは伝わらない、心で心をという自分だけができる警護の意味が少しだけ理解できた。

「このちゃん、うちと遊んでくれる?」
「うん、お爺ちゃんから一杯お小遣い貰ってきたからせっちゃんにも奢ったる。一杯、一杯遊ぼうや。ほらこっち、明日菜お待たせ。せっちゃん来た」

 瞬く間に花開いた近衛の笑顔を見て、うぬぼれじゃなかったと握られ引かれた手にキュッと力を込める。

「桜咲さん、いや良いけど。高畑先生の周りにあんまり美人連れて来ないで。霞む、私が霞んじゃうから!」
「仙人じゃないんだから、君は霞まないよ。さあ、僕らは先に行こうか」

 高畑に促がされ、近衛が真ん中となって神楽坂と桜咲の手をとりご満悦で歩き出す。
 いよいよ出発かと、いざ我らも続けと明石達も歩き出すどころか走り出した。

「ちょい待った、明石。それに佐々木も」
「うげっ!」
「貴方達も、お待ちなさい。おチビさん達」
「くっ、この人。楓姉並みに素早い!」

 首の後ろの襟をむつきや刀子に捕まれ、迂闊にも女の子が出してはいけない声が。
 即座に振り返り、文句を言おうとするが二人の大真面目な顔に言葉を失う。
 そこで珍しく多分に空気を読んでくれ、話を聞いてくれた。

「なんか俺も詳しくは知らんが、桜咲は事情があって幼馴染の近衛と疎遠だったらしい。今見たとおり、今日だけはそっとしてやってくれ。あと神楽坂は言うまでもない」
「その代わり、今日は私とむつき先生で貴方達の遊興費は持たせて貰います。麻帆良祭での人気投票の賞金が殆ど余ってますし」

 主に奢り発言に心を奪われ、二人以外も何度もうんうんと高速でうなづいていた。

「あらあら、良く良く見てみたら確か葛葉先生ではありませんか」
「くぅ、これが夏休み前ならまたJOJO苑だったのに。でも全然問題ない、今日は夏祭りだし。これも桜子大明神のおかげ?」
「んー、多分違う。どちらかと言うと、乙姫先生? 昨日の夜になんかあったみたい」

 那波や釘宮のようにはしゃぐのはまだしも、またしても椎名である。
 本当にこの子はエスパーか何かではないのだろうか。
 的確に人の心情や隠し事を何時も、何時も読んで来る。
 しかも夏休みでテンションアップ中の彼女達に、極大のゴシップ提供であった。
 いや、椎名のセリフに喜んだのは彼女達だけではなかったようだ。

「あら、可愛い子ね。もっと言って、むしろ広めてください。中等部の乙姫先生と高等部の葛葉先生が怪しいと、心が通い合っているのではと」

 良いぞもっと言え、むしろ広めろとばかりに刀子が椎名を可愛がるように頭を撫で始めた。

「おおっ、これはまた久々の。高等部人気投票一位と、中等部の二位の人気教師の熱愛発覚。けど、これ広まったら普通に乙姫先生死ぬけどね!」
「先生、お守りあげる。死なないでね?」
「止めろ、朝倉より椎名。本気で心配そうな顔向けんな」

 椎名の勘はほぼ絶対なので本気で何かありそうで怖い。
 というか、きっとあるのだろう。
 彼女程の勘がなくとも、高等部から大学部まで男子学生に大人気の刀子である。
 それがしがない教師と付き合ってると噂が流れれば、きっと怖ろしい事となるだろう。
 色々な意味で危険な気配に敏感な村上も、若干青い顔で古に尋ねた。

「先生、私も心配になってきた。くーちゃん、格闘部とか荒っぽい人達にも葛葉先生って人気あったよね」
「そうアルね。葛葉先生は剣の達人、達人? 勝負、勝負。今までコネがなくて刹那もなしのつぶてで断られたアルが。手合わせ願うアル」
「ちょっ、忘れてたこの子。お願い止めて、乱暴だって思われるでしょ。お淑やかでいたい乙女心を察しなさい」
「見た目に釣り合わぬ、なんたる甘酸っぱいラブ臭。やっぱ隠してるだけで、先生の彼女って葛葉先生でしょ。うひょ、あのお弁当も絶対そうだって!」

 これに食いつかないはずがないのが早乙女である。
 若干目の下にクマが見えるが、何時もと代わらぬテンションでぶちあげた。
 ちなみにそのお弁当を作ってくれた本当の彼女達だが。
 もはや何時もの事だと、帰る場所は私達だからとにこにことある種の風格さえ見せていた。
 実際、夏休みに入ってから半同棲状態なのだから事実そのとおりであった。
 わいわいと桜咲とは別の意味で群がられ、むつきは困り顔、刀子はもっと言ってと頬に手を当て可愛いわねと余裕の笑みである。
 とても昨晩、ピチピチの中学生がと叫んでいた人と同一人物とは思えない。
 だが一人、一人だけこの状態を快く思わない者がいた。

「ふん、でれでれしよって。別にあんな若僧どうでも良いが。帰ってネット碁やりたいが、鍵も取られひかげ荘の電源ごと落とされたからな。茶々丸も奴らの味方だし」

 退路を断たれたのも、引篭もり過ぎて夏祭りぐらいと連れ出されたのが理由だ。
 ただ今夜は予定の対局もなかったので、しぶしぶ出てきた。
 決して黒地に少々の白いフリルをあしらった今時の浴衣、それも長谷川の手作りが用意されたからではない。
 髪もツインテールに同じ黒と白フリルのバンドで止めているが、別に気合はいれてない。
 なんとなく、別にそういうつもりではないが、満月まだかなと吸血鬼らしく星が綺麗な空を見上げる。
 そして、そんな自分に気づいて、イライラと足元の石ころをけ飛ばす。
 そんなマクダウェルをどこからか、音量を落としてこそこそと呼ぶ声が聞こえ始めた。

「エヴァちゃん、エヴァちゃんこっち」
「沖田、お前そんなところで何を。旦那と子供達はどうした?」

 マクダウェルを呼んでいたのは旧友の沖田だが、何故大通りを外れた茂みの中からなのか。
 まだむつき達は刀子が彼女かどうかで言い争っており、出かける気配はない。
 置いていかれはしないだろうと、手招かれるままに近寄っていく。
 沖田の手が届く範囲に入り込んだ瞬間、手を掴まれては茂みの中へと引きずり込まれてしまった。

「痛っ、枝が。何をする沖田!」
「ごめん、ちょっと慌てて」

 折角のゴスロリ浴衣がと、自分より浴衣を気にして怒るが沖田は軽く謝る程度で顔を近づけてきた。

「良い、エヴァちゃん。貴方結構なピンチよ、ほら見てみなさい。昨日合コンで最後何があったか分からないけど、刀子あれ絶対なにかあった。もう、なんかオーラ出てる。彼女面オーラ」
「合コン? ああそう言えば、そんな事を……だが、幹事をするだけと聞いたが? と言うか、貴様何故それを。まさか参加して」
「いや、それはまあ……置いておいて?」

 視線をそらし、エア箱を正面から脇に置く懐かしのギャグを披露しつつ。

「兎に角、私の血を吸いなさい。牙が無ければ、嫌だけどちょっと手切るから」
「ちょっと待て、お前なんの話を。確かに血を飲めば多少は魔力が戻るが」
「ナギさん程でないにせよ、好きなんでしょ?」
「はあ? い、一体なんの話だ。何故私が魔法障壁の一つも張れないあんな若僧を。見ろ、あのだらしない顔を。葛葉刀子程度に言い寄られデレデレと」

 はんっと、鼻で笑ったつもりが、あまり沖田は聞いてはくれていなかった。

「なに六百歳のくせに、詰まんない意地張ってるのよ。気にしてないなら、怒ることないじゃない。ちょっと心の隙間に入られちゃったんでしょ? 十五年、待つには長すぎるもの。私は応援する、アタナシアに変身しよう」
「闇の福音、大魔法使いを魔女っ子みたく言うな。というかあの若造、沖田にまで喋ったか!」

 心を抉るだけでは足りなかったかと怒ったマクダウェルを沖田が押さえ込んだ。

「そりゃ、知り合いに関係喋っちゃったのはいけない事だけど。見せびらかすように自慢したんじゃなく、惚気ただけじゃない。年上なんだから、でこピン一発で許す度量を……あっ、死ぬわ。ああ、もう面倒くさい。良いから飲め!」

 未だ意地っ張りで素直になれない親友の口に、そのまま自分の腕をくわえさせた。
 チクッとした針が刺さったような痛みに少し顔をしかめつつ、無理矢理にでも血を飲ませる。
 そこに嫌悪感はなく、十五年前から続く女の子同士のちょっといけないスキンシップだ。
 案の定、口ではなんやかんや言いながら、マクダウェルの喉がこくこくと動く。
 それに伴い、小さな身なりに多少の魔力が補填され、ぽむっと煙を出して姿が変わっていった。
 ふりふりゴシック浴衣が良く似合うロリロリな少女から、浴衣を妖艶に着こなす金髪美女へと。
 肩から豊満な胸の上部まで露に着崩した格好で、足元もチャイナ服のスリットのように太ももまでがばっちり見えていた。
 ただ本人は多少ぶすっと不満そうに、そっぽを向いたままであったが。

「ふん、別にあんな若造なんてどうでも良いが。処女じゃないが血も飲めたし。勘違いするなよ。ほろ酔い気分で、夏祭りを楽しんでやろうというだけだからな!」
「はいはい、処女は旦那に上げちゃったし味が落ちても文句言わないの。動かないでね、髪も綺麗に梳いてこう纏めて、はい。出来上がり。金髪美人の浴衣姿ってそそるわ。負けんじゃないわよ、刀子に。私はエヴァちゃんの味方!」
「そ、そこまで言われては仕方がないな。お前が煩いから、しつこいから行くだけだぞ!」

 くすくす笑われながら行ってらっしゃいとハンカチを振られ、ずんずんと藪の中から表通りに足を踏み入れた。
 通りを行きかっていた大勢の祭客が、金髪の浴衣美女の登場にその足を止めて見入っている。
 自分に集る鬱陶しい視線を払いのけるように鼻で笑い、睨むように特定人物へと視線を向けた。
 極一部、クラスメイトがマクダウェル改めアタナシアに気付き、こっち向かってないと囁かれる。
 刀子にデレデレするむつきは数メートル先、この野郎と謎の、本当に謎の怒りが増してきた。
 美砂達は守られる側のお子ちゃまだからまだ良いが、アレはダメだ。
 唯一頼れる大人、誰とは言わないが時に甘えられる相手は、特別でなければならない。
 げふんげふんと多少の咳で声を整え、髪をかき上げようとしたが後頭部で纏められているのを思い出す。
 手の置き場に困って、ちょっと迷ってから胸元をさらに開けるようにして手団扇だ。

「ふん、どうしてこう日本の夏はこうも暑い。ああ、暑い喉が渇いた」

 割と声が大きくなってしまったが、むつきに聞こえるようそう自分をアピールしたは良いが。

「お姉さま、どうぞお茶です。ちょっと温くなってますけど」
「どけ、クソが。こっちのポカリ、キンッキンに冷えてます」
「俺が先に話しかけたんだ、どけ。冷たいのはお腹が冷えるだろ、俺の思いやりだ」
「さあさあ、麗しのお姉さま。どうかこの僕に貴方をエスコートする栄誉を」

 鼻息の荒い胸元ばかりを見る望んでもない虫がわっと集り、鬱陶しいやら面倒臭いやら。

「五十歩百歩だ、どけガキども!」

 邪魔だとぽいぽい這いずり寄って来る虫を千切っては投げ、千切っては投げ。
 昔からこう、なんで寄って来てと頼んだわけでもないのにこういうのだけは集まるのか。
 早く気づけ、謝りに来いチャンスをやるから、頼むから来いお前だお前と心で叫ぶ。
 その願いが通じたのか、十数人目を遠くの林にまで放り込んだ時、それは聞こえた。

「アタナシア、てめえらどけ。俺のアタナシアに触るんじゃねえ!」

 ちょっとキュンとしたのは気のせいだと思いたい、あれむしろ私は怒ってなかったかと。
 魑魅魍魎のごとき、頭の湧いた学生の中から駆け寄って来たむつきをチラッとみる。
 腕の一振りで吹き飛ばせないのかと、乱闘の中で何度か殴られ鼻血を出す姿にあきれた。
 ただ、直前までデレデレした相手を放り出してまで、乱闘の中に飛び込んでまで来てくれたのだ。
 少しくらいは許してやらなくてもないかなと、思う間もなく手を誰かに掴まれた。
 反射的に今度は誰だ、馴れ馴れしいと投げ飛ばそうとしたのだが、その相手を見るなり手が止まる。
 気が付けば俺のだと主張するように公衆の面前で抱き上げ、そのまま唇を塞がれていた。

(あれ、まだ謝られて……)

 突き放して張り手の一発でもと思いチラッと片目を開けたのだが。
 殴られ赤くなった頬や唇を通して染みてきた鼻血の味に、まあ良いかと思わされてしまった。

(折角だし、頂けるものは頂いておこうか。血がね、鼻血だけど。血が飲めるから、吸血鬼だから私。だから受け入れて良いんだ。主に血ね、キスじゃないから。たぶん……)

 ただ色々と自分を納得させるだけの言い訳は早口で心で呟き、陶酔するように甘いキスに痺れた。
 周囲には百人近いギャラリーがいたまま、カメラワークが二人を狙ったように。
 嘘で乾いたといった喉に、むつきの血と唾液を受け入れ潤していく。
 沖田の主張がほんの少し、一ミリ程は正しかった事を受け入れ首に腕を回した。

「おうおう、まるで映画のワンシーンじゃねえか。拒絶されないって事は向こうも結構、おいエヴァンジェっていねえ。何処行った?」

 こりゃまいったねと長谷川が笑い、アタナシアの妹を探すも姿が見えない。

「うーん、流石にここまでされるとちょっと嫉妬が。ひかげ荘知ってるらしいし。お似合いの二人って言えないのが唯一の救い?」
「いいな、二年。二年か。私もその時にはお願いしたいな」
「なんなら今夜にでもお願いすると良いネ。竜宮城でならオールオーケー、ネ」
「先生、意外と情熱的なところがあるです。のどか、流石に三十一日は。のどか、のどかっ!」

 これには嫁達もさすがに嫉妬を感じたようである。
 特に自分達は関係を隠さなければならないだけに、公衆の面前で求められたアタナシアが羨ましくも。
 今夜は一杯可愛がって貰おうとせめて期待に胸を膨らませ。
 刺激的なシーンに気絶したのどかを必死に抱き起こす夕映に、皆で手を貸してあげた。
 その間にも映画のワンシーンのようなキスは終わりを迎えたようだ。
 唇に鼻血まじりの唾液の橋を作りつつ、むつきがアタナシアを見つめた。

「アタナシア、ごめん。俺、謝らなきゃいけないのに」
「ふん、情けない顔をするな。私を押し倒しかねない程の情熱的なキスはまぐれか? ほら、根性見せてみろ。私が惚れ直すぐらいの情熱的なのを」

 さらなる挑発に、もしここがひかげ荘なら、むつきは即ベッドインであったことだろう。
 特にひかげ荘を知らない明石達も、また行くかと手に汗握りやがて気付いた。
 自分達の背後にてとてつもない覇気を繰り出す大魔神の存在を。
 忘れてたと、修羅場の予感を感じて多大な恐怖とちょっとの期待感と。
 いや得に早乙女はちょっとどころか、大いに期待して叫んでいたが。

「修羅場キターッ、もうたまらん。よだれジュピ、もう三徹突入する程に創作意欲がぺっ」

 ただし、空気を読まなかったせいで刀子に首をこきりとされ、どさりと石畳の上に崩れ落ちた。
 どうやらこのまま三徹はなくなりそうだ。

「むつき先生、それは。そいつは、あの。そうだ。生徒の模範となるべき教師が公衆の面前でキスなど如何わしい。貴方も離れなさい、日本は奥ゆかしさの国です!」
「はん、むつきに無視され苦し紛れに何を言うかと思えば……」

 指を突き付ける様に放った刀子のセリフは、そのままアタナシアに打ち返されてしまった。

「自分の魅力のなさをお国柄のせいにするとは、それこそ教師の姿か!」
「へえ、魅力ですか。そちらこそ、良く良く言えたものですね。真実の姿を隠し、偽の姿でむつき先生へと迫り。自分こそ、魅力がないからこそそんな姿に」
「モラルを考えろ、あのままだとコイツ速攻豚箱行きだろうが。むつき、このまま二人きりで良い事しないか。あの日の続きを、な?」

 ぐぬぬと刀子は唇を噛み締める間にも、アタナシアのむつきへの誘惑は留まるところを知らない。

「全く、先生は相変わらずただれてますわね。あちらこちらへと、後で泣くのはご自分だというのに」
「ああ、ただれている。火遊びは火傷の元だと思うが。どうなる事やら」
「しかし、少しは純真乙女の視線に気付いて欲しいでごぜる。これこれ、暴れてはいかん。お主らにはまだ早いでござる」
「楓姉、見えないよ!」

 雪広に続き龍宮や楓にまで、ただれていると半眼で見つめられていた。
 いや楓だけはいつも糸目なのでこれ以上塞ぎようはなかったが。
 その分、見てはいけませんと保護者として鳴滝姉妹の視界を大きな手で塞いでいた。
 だが十五禁ぐらいまでは行くであろう大人のいけない修羅場も、そう長くは続かなかった。

「まあまあ、生徒の手前。おい、お前らちょっと手間取ったが遊びに行くぞ」
「いや、そこで誤魔化しちゃ駄目でしょ先生。正直、どっちが本命?」
「本命? なに言ってんの、俺ちゃんと彼女いるけど?」
「え?」
「え?」

 逃がさんとばかりの春日の台詞に素で返し、お互いに疑問符を浮かべる。
 春日のみならず、ひかげ荘メンバーではない他の生徒たちもなにそれと目が点だ。
 そして事情を悟るなり、避難轟々であった。

「先生、それじゃあさっきの情熱的なキスはなに? どう見ても、アタナシアさんが本命で葛葉先生はなんだろ。兎に角、見た感じはそうじゃないの!?」
「はっ、気絶してる場合では。先生、そこん所もっと詳しく。まだ他に本命がいるとか。さえない振りしてどんだけ淫猥な日々を送ってんの。スケッチさせて!」
「やりチン」
「ちょっ、誰だ。ザジに、使い道が決して無さそうな日本語を。使い道作ったの俺だよ!」

 明石や早乙女に詰め寄られ、ザジには衝撃的な言葉を投げかけられ。
 日々、雪広達と共に日本語講座をしていたむつきは、両方の意味で頭を抱えていた。
 ただ、まともな非難に対してもあまり説明できない関係である事は確かだ。
 龍宮達の言う通りただれた関係ではあるが、それだけではないのだ。
 特にアタナシアの事情は重く、流石に生徒を前に説明できることではない。
 もうこれ、普通に夏祭りを楽しむのは無理かと思い始めた所でアタナシアが生徒達に進み出た。
 割合身長が高い為、ちょっと前かがみになるようになった。

「私は昔、想っていたかもしれない、いやちょっと親しい、そんな感じの赤毛馬鹿が死んでな。むつきを火遊びで誘ったつもりが、火傷したのだ。俺が忘れさせてやると、事実ここに少し住まわれたようだ」

 ちょいちょいアタナシアが突いたのは、良く見える胸の谷間であった。
 一部の生徒はそれに近いものを持っているが、大人の女だけが持つ果実にこれがっと生徒達の視線が集まる。
 当然、他の男達の視線も集まりかけていたが、皆ことごとく失敗していた。
 何故か上から焼け落ちた提灯が落ちてきたり、突風で吹き飛ばされてきたフランクフルトの串がおでこにささったり。
 某魔法人妻の暗躍は、ごく一部の者だけしか気づかなかったことだろう。

「うわ、マジ過ぎてちょっとはしゃげない。現実は小説より奇なりとまではいかないけど。この私がちょっと引いた」
「先生、やはり時々突きぬけるアル。さすがの私も赤面を避けられないアルよ」
「はっは、お前達には少し早かったか。さあて、ところで同じく横恋慕中の葛葉。貴様、どういう成り行きだ? ほら、説明してみろ。この純真無垢な少女達を前に!」
「こいつ、知っている。その理由を。情報源は恐らく、沖田か」

 早乙女でさえ目が覚めるようなロマンチックなストーリーに、アタナシアが笑みを浮かべる。
 それは勝利を確信した笑いであり、実際に彼女は確信していた。
 なにしろ単純にただれた関係ではなく、そこにロマンチック要素を盛り込んだのだ。
 死んだ男を想い悲恋に日々枕を濡らす女、そこに現れた一人の男と共に再び愛の道を。
 なんて、アタナシアの断片的な言葉から、思春期の乙女達は想像の翼を広げるだろう。

「ねえねえ、先生何発ぐらいしたんだろ。絶対、パイずりはしたと思うんだけど。私あれ、苦手なんだけど。アキラ結構得意だよね」
「先生が喜んでくれるから。でも逆にフェラが苦手で……」
「ふふっ、先生のお口の恋人を呼んだカ?」
「お尻の恋人見参。ふふっ、自分だけってちょっと優越感やん?」
「出お、出遅れたです。三番目なのに……すまたの恋人、くっ。なんだかインパクトが弱いです」

 一部、むつきの嫁と恋人は、自分たちの翼、胸とアタナシアと比べての批評忙しそうだ。
 ただ普通の女子中学生である明石達はちゃんと、刀子にはどんなロマンチック要素がと目をキラキラさせている。
 だが刀子に説明できるわけがない、むつきに横恋慕する切欠を。
 合コンの呑み比べで大敗しては男を奪われ、むつきの前でゲロってラブホテルに担ぎ込んだ。
 そこで思い出したが、自分はゲロってしまった。
 前の旦那を好きだった頃に匹敵する気持ちを抱くむつきの前で、盛大にゲロっていた。

「ほらほら、さっさと吐いてしまえ」
「吐くとか言わないで。凄くショック受けてるんです!」
「はいはい、そこまで。喧嘩はしない。このまま喋ってると、夏祭りが終わっちまう。今日の主役は生徒だし。この話はまた今度」

 悪い顔で頭を抱えしゃがみ込んだ刀子をアタナシアがほらほらと追い詰める。
 内心、お姉ちゃんを助けてと桜咲に願ったりしていると、別の場所から救いが。
 その手はむつきのものであり、アタナシアと肩を組み、刀子へも手を伸ばした。

「今日は小遣い、気にすんな。俺と刀子さんの奢りだ。屋台の食べ歩きに、ゲームその他に大いに楽しめ!」
「ちょっと釈然としないけど、オー。お話はいつでも聞けるけど、夏祭りは今夜だけ。先生、射的私射的やってみたい!」
「私は焼きそばが。何故屋台のあれは、実際の味以上に美味しいのか。不思議ですね」
「まき絵、さりげにずっこい。先生の右腕は貰った。アタナシアさん、お先!」

 佐々木が左腕を引っ張り射的屋を指差し、四葉がこそっと願望を述べ。
 アタナシアに一応断ってから、実は本命の一人の美砂が右腕をとった。
 四角から五角、六角関係に進化かと、他の面々も歩き出した。
 少々アタナシアの勝利に傾き、決着がつきかけそうな二人を置いて。

「こら、待て。どちらかの腕を貸せ、そこは私の席だ。特に佐々木まき絵、お前が何故そのポジションにいる。せめて、大河内アキラだろそこは!」
「あれ、エバちゃんのお姉さんだけあって詳しい。アキラ、ごめん。ここ空いてるよ。特等席、ご案内!」
「う、うん。先生、手繋ごう」
「それこそ、あれ。アキラがなんか凄く積極的に!」

 お妾さんまで左手で手を繋ぎ、これには佐々木のみならず明石もびっくりだ。
 好意をカミングアウトした件は、まだ水泳部内でしか広まっていないのかもしれない。

「嗚呼、待って。ピチピチ、やっぱりむつき先生もピチピチが好みで」
「馬鹿な事を言ってないで貴様も来い、葛葉刀子。こいつはこいつだ、酸いも甘いも。食べられるものはなんでも食べる、いわば悪食だ」
「アタナシア、止めて。最近、少し気にしてるんだから」

 二人の美女の闘争も程々に、生徒の方が大事とばかりに夏祭りへとむつき達は突入する。
 流石に夏祭りとはいえ生徒と腕を組んだり、手を繋いだりするのは体裁が悪い。
 佐々木や明石からブーイングを受けたが、右腕はアタナシアに左手は刀子に代わってもらった。
 二人もソレぐらいと、正妻と一号さんの余裕で快くその場を譲ってくれた。
 なので洋風着物美女と和風着物美女を両脇にはべらせ、周りには大小の美少女軍団である。
 それはもう持てない男の嫉妬の視線は厳しく、カップルの喧嘩を引き起こしたり。
 男としての自尊心はかつてない程に刺激され上機嫌であった。
 だが一応夏祭りの主役、主賓は生徒達である事までは忘れてはいない。
 まずは佐々木のリクエストである射的屋を探して歩き、むしろ向こうから喋りかけられた。

「おう、この前の兄ちゃんじゃねえか」

 それは以前、ひかげ荘近くの神社で麻帆良祭前の祭事が行なわれた祭りでの事である。
 その時に行った射的屋のはげた頭に捻り鉢巻の親父と同一人物であった。
 これだけテンプレートな、見た目と性格のおっさんなど忘れようにも忘れられない。
 美砂も良く覚えていたようで、他にも射的屋はあるのにここが良いと飛びついた。

「あー、おじさん。久しぶり、ねえ先生ここでやろ。おじさん、人数分の弾頂戴!」
「嬢ちゃんもな。毎度あり。それにしても、やるねえ兄ちゃん。今日はお手製打ち上げ花火も盛大に上がりそうじゃねえか。たまや~ってな」
「おじさん、乙女達を前にそのきっつい下ネタはないよ。お客さん減っちゃうよ?」
「こっちも将来別嬪さんになりそうな。これだけ来てくれたんだ、多少減っても元はとれるんだ。はいよ、一人六発三百万円ね!」

 釘宮に苦笑いされてもなんのその、親父はさらなる親父ギャグを被せてきた。
 普段なら冷笑ものだが、なにせ今は夏休みでさらには夏祭りである。
 仲の良いクラスメイトがいることも加えて、皆して笑う笑う。
 他の客もやけに人の入りの良い射的屋だと、足を止めては見入って客足はさらに増えそうだ。

「はいはい、って人数分って幾らだ。最終的に使った弾数でいいや」
「先生前から思ってたけど、変に金銭にルーズやんね。あかんよ、そんなんじゃ」

 チクッと和泉に結婚資金溜めなよと怒られつつ、まあまあとやっぱりルーズに。
 流石に二十人近いので二つしかない空気銃は、順番に整列して手渡されていくことに。
 まずは一番お子様な鳴滝姉妹に渡されたが、そもそも身長が足りない。

「ほら、暴れずしっかりと狙うでござるよ」
「はいはい、史伽ちゃんも」

 長瀬や那波に後ろから抱えられ、ていっと狙うも弾のコルクはあらぬ方向へ。
 もとからへっぽこな銃に加え、足場がなくぷらんと宙づり状態なのだから仕方がないだろう。

「全然駄目です、イカサマだー!」
「ちづ姉、ありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして」

 鳴滝姉は空気銃をカウンターに叩きつけ親父に文句を言い、鳴滝妹は那波にぺこりと。

「ふん、大した腕もないのに何を道具のせいに。貸してみろ」

 そこで進み出たのがアタナシアで、空気銃にコルクを一つ詰めてまずはパカンと試射。
 見事に外れてしまったが、ふむとその弾道を軽く見定め、残りの弾で次々に景品を落とした。
 三発目、四発目と見事に的に的中し、のみならず的確に景品を落としてはゲットしている。

「これは中々、流石は闇の福音」
「おーい、また龍宮が中二病を発症してんぞ。お前、かなりディープだよな。なんか妙に似合ってて。もしかして、コスプレとか興味あるか?」
「千雨さん、どんどんオープンに。龍宮さんはバイアスロン部でしたね。ここは一つ、のどかに射的を教えてあげてください」
「お、お願いします」

 千雨の言葉に私のイメージがと龍宮は唇の端を引きつらせるも、夕映とのどかの願いを快く了承する。 内心、普段はクールだが時折優しい一面もと中二病を貫いているかは、彼女のみしるところであった。
 普段あまり交流のない者同士も、夏祭りという浮ついた場では交流が進むものだ。
 他の皆もむつきや刀子のおごりだからと、次々に代わっては景品を狙う。
 親父ギャグを飛ばしていた親父は、古き良きゲームを楽しむ少女達を前にこれだからやめられんとにこにこ顔だ。
 そんな折、一発のコルクが何故かむつきへと飛んできてコツンと当たった。

「おっと、すまん」

 別に痛くもないが、犯人を探すまでもなく、空気銃を肩にかけたアタナシアがにやにや笑っていた。
 そしてもう用はないと空気銃を順番待ち中の村上にひょいっと渡しむつきの下へ。
 これまでよりも強めに腕を抱き寄せ胸の谷間に沈ませ、悪戯っぽく笑って言った。

「手元が狂ってしまったものはしょうがない。これで今夜一晩、貴様は私のものだな。私も仕方なく付き合ってやろう。存分に私の中に花火を打ち上げるといい」

 もはやこれはどんな口説き文句か、生徒達の手前むつきも真っ赤である。

「ちょっと、もう。これどんなネタの宝庫。どうしたら、そんな台詞が。師匠、師匠って呼ばせて。あと出来ればその打ち上げ花火、私も見たい。ネタ的な意味で!」
「女性から誘うとははしたないはずが。うむ、異国の女性はあっけらかんとしていて卑猥さを感じさせぬでござるな。ちなみに、お主らにはまだ速いでござるよ」
「良く良く考えたら、葛葉先生とのゴシップは危険だけど。アタナシアさんとのゴシップならまだ大丈夫。ねえ、椎名的にはどう?」
「うん、たぶん大丈夫っぽい。多少やっかみは受けるだろうけど。アタナシアさんだと、皆知らないからまたガセかで済むかな?」

 早乙女がアタナシアを拝み、長瀬は再び鳴滝姉妹の耳を器用に左右の手で塞ぎ。
 激写とばかりに写真を撮る朝倉は、一応の確認を椎名にとっていた。
 その椎名も、刀子とのゴシップよりはとおせおせである。
 他にも黄色い声は数知れず、来年は子連れで来店かと親父も笑っていた。
 だがそうは問屋が卸さないのが、ライバル視されている刀子であった。

「あっ、私も手元が」

 遅れてなるものかと、むつきを狙って空気銃を発射である。
 へろへろっとしたその弾は割りと正確にむつきに向かっていたのだが。
 ハエ叩きの如く、手首のスナップを利かせたアタナシアが見事に刀子の弾丸を掴み取った。
 むしろそうなることが分かっていたかのように、掴み取ったそれを見せつける様ににやりと笑う。

「おっと危ない。意地汚い、どこぞの女が狙ったか。全く、他人の男を欲するとは。貴様達も、ああいう意地汚い女にはなるな。アレは悪い例だ」
「くっ、貴方だって横恋慕は同じでしょ。むつき先生には本命の彼女が」
「だからどうした。むつきは私に言ったぞ、ナギを忘れさせてやると。私が奴を忘れるまで、付き合う義務がある。もっとも私が忘れるまでずっとな?」
「いけしゃあしゃあと」

 ぐぬぬと口で叶わぬ事を察したのか、清楚な京美人を脱ぎ捨て刀子が歯軋りする。

「はーっはっは、見よ妙技二丁拳銃!」
「ゆーな、ゆーな。誰も見てないよ。あっちの修羅場の方が面白いし」
「なんですと!?」

 そこでちょっと空気が読めなかったのは、二丁拳銃でばんばん景品を落としていた明石である。
 命中精度の悪い空気銃、しかも両手でてきとうに持っているのに何故当たるのか。
 妙な才能を彼女が発揮するも、佐々木の言う通り皆の視線はむつき達にあった。
 ちくしょうと、棚の殆どの景品を貰おうとする明石だが、そこはむつきがストップさせた。

「明石、他にもやりたい子がいるんだから根こそぎは止めろ。てか、お前一人で何発使ったんだよ。奢るとは言ったが、欲張りは駄目だぞ」
「へーい、じゃあ取れなかった人に配る分だけ。おじさん、これ返すにゃあ」
「おっ、コイツはありがたい。よし、一杯やってくれたし射的代は半分で良い。代わりに、他の屋台でも一杯遊んでくれや。兄ちゃん、頼んだぞ」
「気前がいいね。分かったよ、それじゃあ次行くぞ」

 時々調子に乗るも、基本的には良い子なのである。
 結局、龍宮に教えて貰っても取れなかった宮崎や、村上等に駄菓子の景品を配った。
 ただクラスのうち、景品が取れなかった子の方が少ないとはどういう事なのか。
 妙なアーム機械を伸ばしている葉加瀬や絡繰は兎も角として。
 二十数名のうち、取れなかったのは十人に満たない。
 とれたとれないと数えていると、誰か一人足りない事に気付いてさっと顔が青くなる。

「アタナシア、お前妹はどうした?」
「え?」

 本当に今更、この人ごみで逸れたのかマクダウェルの姿が見えない。
 アタナシアも全く気付いていなかったようで、質問に疑問で返された。
 これは本当にまずいと、周囲の生徒にマクダウェルを見なかったか訪ねて回る。

「おい、誰かマクダウェル見なかったか?」
「あれ、確か先生がアタナシアさんにディープかました時ぐらいから見なかった気も。その辺にはいると思ってたけど」

 長谷川を筆頭に、割と初期から居なかったと今頃になって気付き始める。

「やばい、あんな小さい子。しかも特殊な性癖を持った方々を引き寄せそうなマクダウェルを。刀子さん、引率任せた。アタナシア、探しに行くぞ」
「そ、その手があったか。そうだな、いかん探さねば。今頃一人で寂しい思いで!」
「ちょっと待ってください。先に電話を。彼女も最近、携帯電話を手に入れたと聞いています!」

 意気揚々とむつきの手を取り、駆け出そうとしたアタナシアを刀子が止めた。
 しかも割りと正論で、無闇に探し回るより効率的だ。
 ええいしっかりしろとむつきが携帯電話を取り出すと、反対に焦り出したのはアタナシアだ。
 何故かこれはやばいとばかりに、だらあら汗を流し始め、刀子に詰め寄った。

「貴様、携帯は私が持ってるんだぞ。ここで鳴ったら、不自然だろうが!」
「ふん、貴方が何度も出し抜こうとするから。いっそ、バレてしまえば良いのよ。ちくしゃが。彼を年増ロリとの禁断の道から救うのよ」
「アホか、良く考えろ。正体がバレるって事は、魔法がバレるって事だ。むつきだけではなく、ここにいる生徒達全てにだ!」
「あっ」

 アタナシアがこそこそと、されど強めに言葉を投げかけ叱り始めた。
 今度ダラダラと汗を流し始めたのは、刀子であった。
 二人してあたふたと慌て、思いついたのはやはり誤魔化しの一手である。
 アタナシアは屋台脇の茂みに咄嗟に飛び込み、刀子は絡繰を抱え同じ茂みに。
 誰にも見つからず見えぬよう、それはもう素早くだ。
 その間にようやくむつきも携帯電話でマクダウェルを検索し終わって、電話をかけた。

「はい」

 そこで電話に出たのは、絡繰であった。

「あれ、絡繰お前さっきまで。なんでマクダウェルの携帯に?」
「マスターは……はい、はい。人ごみで気分が悪くなり、私が人の居ない場所に連れて行ったと言えと」

 何やら電話の向こうでげしっと蹴られたような音が聞こえた。

「そ、そうか。取り合えず、保護者同伴なら。全く、先に言えよびびるだろ」
「申し訳ありません、我が侭なマスターで。本当に我が侭で」
「茶々丸、さり気に怒ってるだろ。我が侭をアピールするな!」
「なんか妙に元気そう、声がちょっと普段より低いか? 回復の見込みがなければ、可哀想だが家に連れて行ってやってくれ。大丈夫そうなら、お前も戻って来い」

 本当に世話がやける子だと、携帯を閉じると今度はアタナシアと刀子がいない。
 かと思えば、何故か屋台の裏の茂みの中から肩で息をしながら現れた。

「あれ、二人共なんでそんな所から。マクダウェルなら、気分が悪くなって絡繰と別の場所で休んでるって。そんなに慌てて茂みに飛び込んで、アタナシアは妹思いだな。刀子さんもすみません、マクダウェルが勝手に」
「はっ、はは。だ、大事な妹だからな。妹思いなのだ、私は」
「ぜえ、ぜえ……私も教師ですから。それにしてもあの子、凄く重かった。げぺっ」

 何かロケットアームのようなものに刀子が後ろから殴られたようにも見えた。

「おい、一先ず休戦だ。決着は、余計なコブが消えてから。むつきの事だ、八時から一時間の締めの花火を見て十時前には解散させるはず」
「良いでしょう。六百歳のエセ中学生になんか負けるわけがありません」

 ガッチリ、互いの骨が折れる程にぎりぎりと手を握り合い、二人の間でそう協定が結ばれた。









-後書き-
ども、えなりんです。

書きたいように書いていたら、普段の倍近い長さに。
刹那の事情とか、修羅場とか本当にいろいろ書きたかったのです。
というか、刹那のせっちゃん化に主人公ほとんど何もせず。
一応刀子をかどわかしたりはしましたが。
主人公がパンピーなので、良いお姉ちゃん化した刀子に代わりにやって貰いました。
ネギが本来すべきことを、主人公以外がとんとん進めます。
自分でも(略

あと、どうでもよい的屋の親父が再登場。
ちなみに作者はマジで、「○百万円」と言われたことがあります。
都市伝説ではなく、マジでそういう人いますよね。

それでは次回は大人の部、とのぞきの部。
水曜の更新です。



[36639] 第五十六話 結婚してくれなきゃ、死ぬ。死んでやる!
Name: えなりん◆e5937168 ID:b379f023
Date: 2013/07/31 20:36

第五十六話 結婚してくれなきゃ、死ぬ。死んでやる!

 射的の他にも、大勢で屋台を回り射的屋の親父以外にもあの水風船釣りの兄ちゃんもいた。
 以前に増して美女と美少女を引き連れ、貴方が神かと大歓迎されたり。
 ここでハッスルしたのが、前回から密かに特訓を重ねてきた雪広であった。
 釣り糸一本で十個もの水風船を釣り上げ、得意と豪語していたアキラをしょんぼりさせる事に。
 妙な所で友好を築いて、是非来年にもとむつきは水風船釣りの兄ちゃんとガッチリ握手。
 他にフランクフルトを皆で食べ、美砂がエロイ食い方をして皆に彼氏にしてあげたのと聞かれたりも。
 そうして屋台めぐりをして八時から恒例の打ち上げ花火を皆で観賞であった。
 その頃には別行動中の高畑班とも合流し、親戚筋の龍宮のコネで特別に境内の建物の窓から人ごみに押される事もなく打ち上げ花火を見ることができた。
 途中で帰宅したマグダウェルは可哀想だが、せめてと土産話を手に解散である。

「それじゃあ、皆気をつけて帰るようにね。決して一人で暗がりに行ったりしないように、出来れば手を繋いで。雪広君、寮まで皆を頼んだよ」
「はい、この雪広あやかにお任せください。それでは皆さん、出席番号順にお並びください」

 高畑にそう言われ、出席番号順に並んできちんと手を繋いだ。
 特に背丈の小さい鳴滝姉妹は、二人が手を繋いでもあまり意味がないので長瀬が間に。
 龍宮神社の境内前で遠足のように、寮に付くまでがお祭りですとばかりに帰って行った。
 今日はひかげ荘メンバーも、興奮冷めやらぬまま寮で過ごす予定である。
 ここからは大人の夏祭りだと、むつきも今から夜の打ち上げ花火に胸がわくわくだ。

「決着を」
「つけます」

 二人の雌豹が自分の両脇で、眠れる獅子の如く目をぎらつかせたとも思わず。

「そ、それじゃあ、乙姫先生僕はここで。葛葉先生と、エじゃなかった。アタナシアもこれで」

 直接的ではないが、間接的に身の危険を感じた高畑がそそくさと去っていく。
 とある理由で正義の味方を目指す彼らしくなく、子羊を一匹雌豹のそばに置き去りにだ。
 もちろん、その子羊は自らの危機に気付く事もない。
 むしろちょっと上機嫌ですらあり、二人の雌豹へとにこにこ顔で振り返った。
 丁度その頃、寮に帰るまでがお祭りですと帰寮しようとする一向は。

「あー、楽しかったぁ。夏祭りで散財してないのに、ここまで遊べるなんて本当天国!」
「普段だったら、明日からお小遣いどうしようかとか若干思っちゃうよね」
「浮いた分は、明日からの分に回すアル」
「私達も、なんだかんだで高畑先生に奢って貰っちゃって。ねえ、これただの妹的な立場じゃないの。乙姫先生が皆を見てる感じだと思うんだけど」

 まだまだ元気一杯と明石が飛び跳ね、続いて私が花火だとばかりに佐々木も跳ねる。
 普段はここで夏のお小遣いが半分になってもおかしくはないのだが。
 何しろ遊び代の殆どを奢ってもらったのだ。
 例外は皆で同じものを奢って貰う時以外、個人的に喉が渇いたとかお腹が空いた時である。
 それでも微々たるものであった。
 唯一心配事を呟く神楽坂は、無情にも皆から視線をそらされていた。

「ココネも連れてくれば良かったかな。シャークティ、あまり先生の事が好きじゃない
みたいだからな。面倒見って点では良い先生じゃん」
「うちらも、久しぶりで楽しかったえ。せっちゃんも一緒やから何時もよりずっと。せっちゃん、また遊ぼうな」
「このちゃんがそう言ってくれるなら。それにしても刀子お姉ちゃんが、乙姫先生と何時の間にそのような関係に」
「私ですら気付かなかったけど。本当、何時の間にねぇ」

 良く面倒を見ている褐色半眼の妹分を思い出しながら春日が私は好きだけどと呟く。
 その好きじゃない理由も、アタナシアと刀子の態度でだいたい想像がついたが。
 近衛も久しぶりに幼馴染である桜咲と思い切り遊べて上機嫌であった。
 これまた幼い頃の様に手を繋いで帰寮できるなど、夢のよう。
 桜咲もそれは同じようで、こんな幸せを暮れた姉こそ幸せにと願わずにはいられない。
 少々含みがある笑みを朝倉が一部の者と見せても、気付きはしなかった。

「ところでさあ、先生これから家で打ち上げ花火すると思う?」

 ここで爆弾を投じたのはアタナシアのエロさを師に仰ぎたいと願う早乙女であった。
 今にも涎を流しそうな口元を手で拭い、どれだけ濃厚なと目をぎらつかせた。

「あれさ、絶対に家まで持たないよね。実は、その辺で始めちゃってんじゃないの?」
「ああ、あり得るかもね。葛葉先生はわかんないけど、アタナシアさんってどう考えても肉食系だし、むしろ先生が食べられてるかも」

 釘宮が半分赤くなりながら呟き、美砂が違いないと苦笑い。

「エッチな話は止めようよ、興味はあるけど。折角、楽しかったんだし」
「ふっふっふ、無粋な事ヨ村上サン。皆がそうまでして望むなら、一科学者としてその願い叶えて進ぜよう。先生の携帯電話のGPS機能が一目で表示、先程からまだ然程に動いてないネ!」

 もちろんこういう話に免疫のない者、例えば村上などはちょっと及び腰だ。
 そこで皆の期待にと、自分の願望も含め携帯電話を取り出したのが小鈴であった。
 個人的な目的に誘導しようという魂胆見え見えだが、一部にはバレバレである。
 もちろんそれはひかげ荘メンバーだが、覗き大好きが大半を占めるので止めるはずもなく。

「拙者は双子の世話があるので辞退するでござる。高畑殿にも注意されたでござるしな。他に帰寮する者があれば護衛も兼ねて引率するでござるよ」
「んー、先生にはお世話になってるから気になるけど、私も帰寮かな。高畑先生に注意されたしね。暗いところへ行くなって」
「私もそっちがいい。長瀬さん、寮まで連れてって。お願い」
「私も遠慮しておきます。節度あるお付き合いを今後も先生とはしたいので」

 双子はもとより長瀬の腕の中でうつらと寝入っており、神楽坂や村上、四葉が私もと言う。
 後は覗きに行っては七月最終日のデートが台無しだと、夕映が宮崎を連れて脱落。
 だが大半はまだ興奮状態でちょっといけない覗きツアーに参加する気満々であった。
 その数、総勢二十一人とそれで覗きが出来るのかという怪しさでもある。

「私もと言いたいが、これだけの数だ。古一人では手にあまるし、刹那がこの調子だ。こっちは任せろ、楓。うちの境内が卑猥な体液で汚されないかも不安だしな」

 そういうわけで夏休みに加え、夏祭りの興奮に負けて高畑の注意もどこへやら。
 帰寮チームとは分かれて、大半のメンバーがむつきの青姦目指し道を外れて藪の中へ。
 がさがさわいわいと、これからの目的を忘れた賑やかさでもあった。
 先導である小鈴がこっちネと携帯電話を見ながら、誘導していく。
 来た道を藪の中から戻るように、打ち上げ花火を見上げた境内の建物の方に向かう。
 これには龍宮がこめかみに血管を浮き上がらせたが、建物の中ではなかった。
 ある程度、藪を進んだ所で、小鈴が手を挙げて覗き集団を引き止めた。

「超りん、もしかしてもう見つけた? こんな事もあろうかと、赤外線カメラ買っておいたんだけど。どこよ?」
「シッ、これ以上は気付かれるネ。皆も、この超包子特性のステルスマントを被るヨ。姿は消えて多少の防音効果も。それに薮蚊は乙女の天敵、人数分あるから心配いらないネ」
「雨合羽のように首を通してフードを被るだけです。装着者同士は見えますので。それと後できちんと回収するので悪あがきはしないでください」
「くっ、こんな便利な悪戯アイテム。仕方がないっか。ココネ、連れて来ないで正解だったかも」

 以前、むつきを図書館島で尾行した時から、さらにバージョンアップを重ねた品である。
 夏用に蒸れ、害虫とあらゆる状況を想定して対策を施していた。
 夏休みだけに時間だけはあったので、隙のない一品でもあった。
 ステルスマントを皆が見につける間も、布地が枝に触れても音は小さく、衣擦れ音もない。
 何処の蛇の世界だとも突っ込みたいが、それが麻帆良最強の馬鹿の世界だ。
 売るところに売れば巨万の富間違い無しなのに、覗き行為に使うとは。

「くぅ、この緊張感。長谷川がはまるの分かるかも」
「覗き部とかあったら作りてえ。おい、委員長はやくしろよ」
「か、髪が引っかかって。装着に難ありですわ」
「私も葉加瀬も、普段は纏めているから。これは盲点だったネ。その貴重な意見、ありがたく受け取っておくネ」

 初めて覗く側に回った美砂や、最近は半分参加者のため、久々に覗きがと長谷川等は目じりに涙を浮かべ拳を握っている。
 さらに、小鈴のステルスマントを着てみると、視界良好、まるで昼間とは言わないが明け方程度には視界が明るかった。
 ナイトスコープ、見えないバイザー付きかよと長谷川や和泉辺りの覗き大好き人間が大喜び。
 潜入工作員気分でこそこそと、現場へと向かう。
 場所は小鈴が一度、一行を止めた場所から二百メートル程先の林の中であった。
 境内の建物を出てから直ぐの場所。
 恐らくは、建物を出てからこれからどうしようと相談する直前で連れ込まれたのだろう。
 既にむつきとアタナシア、刀子の三人だけの打ち上げ花火は始まってしまっていた。

「おお、早速始まって。フェラ、それともパイずり?!」

 早速、早乙女がぐびっと食いつき、前に出すぎるなと小鈴が首根っこを掴んだ。
 小鈴謹製のステルスマントだが、身につけているのが素人とあっては万全ではない。
 特に現在、むつきに自慢の巨乳で奉仕している二人は並みの人物ではなかった。

「アタナシア、俺はお前に」
「その気持ちがあれば十分、今日は私にさせてくれ」
「むつき先生の濃い匂い。このような方法で男性を悦ばせる方法があったなんて」

 多少開けた林の中で、むつきは一本の松を背に持たれかかっていた。
 自分の股間部分にしゃがみ込んだアタナシアと刀子に浴衣の裾を肌蹴られている。
 つい癖でトランクスを履かずに来た為、ひかげ荘まで持たずに暴れ始めた一物が飛び出してしまった。
 慌てて隠そうとした手は止められ、二人にガチガチに勃起したそれの匂いを嗅がれてしまう。
 途端に二人が雌のまなざしとなり、はあはあと荒い息遣いのまま自分の浴衣をはだけ始めた。
 零れ落ちるように現れた胸の中に、瞬く間にむつきの一物は沈み込んでいった。

「どうだ、むつき。お前は私の胸が大好きだからな。こういうの、好きだろ?」
「大好き。もちろん、アタナシアのことも」
「ばか……」

 右も左も、四方を巨乳に挟まれ、内に沿った星型の隙間から亀頭だけが見えていた。
 二人が膝をあげれば巨乳に沈み、膝を屈めば亀の頭がこんにちわである。
 その亀の頭を赤い舌を伸ばしたアタナシアが、可愛がるように丹念に舐め始める。

「か、亀。亀さんが、刀子お姉ちゃんのお胸から亀さん。このちゃん」
「昔にお風呂でお父様の見た時と全然違うえ。ほんまに亀さんや。せっちゃん、手を繋ご。怖なってきた」
「私も昨日、お風呂でお父さんの見たけど。あんなに大きく、お父さんもなるのかな?」
「裕奈それ危ない。娘の前で、お父さんがおっきくなったら危ないて!」

 亀が亀がと桜咲が目をぐるぐる回し、意外と冷静に近衛が食い入るように見ている。
 明石は若干、危ない台詞を零しつつ、和泉にソレは駄目だと怒られていた。

「気持ち良いよ、二人のおっぱい。ちょっと蒸れてるせいか、程良く扱かれる。アタナシアはその調子。刀子さんは、もう少し乳首とかも使って」
「何時でも出していいからな。んっ、塩味。全く、こんなに蒸らして生徒を引率しながら何を考えていた事やら。私を犯す事ばかりか、ん?」
「舐め、舌で。そんな汚、むつき先生。私も、それで貴方が気持ち良くなってくれるなら」

 胸の谷間鳴らぬ僅かな隙間から亀が飛び出す度に、刀子もまたアタナシアへの対抗心から舌でちろちろ舐める。
 二人の胸同様に、夏の熱気で蒸れた匂いを放つ一物を舐め取った。

「勉強になるわね、私の胸でもできるかしら」
「君が言うと、嫌味にしか聞こえないが。私も、負けてはいないぞ。先生のライフル銃ぐらい、簡単に扱ってみせる」
「余裕の表情であんな事を言ってる。アキラ、私の希望はアキラに任せた。最近、また胸大きくなったアキラならいけるから!」
「う、うん……実はもう何度かしてるけど。結構、あれ難しいんだけど」

 龍宮や那波の巨乳艦隊の余裕さに、多少なりとも落ち込んだ佐々木が夢を託した。
 託されたアキラは、もう試したもんと自分以外に聞こえないように零していたが。

「くぅ、ごめん。出そう、アタナシア。刀子さん!」
「いいぞ、全部飲んでやる。遠慮なく出せ。何処で受け止めて欲しい、口か胸か?」
「胸は兎も角、く……口で何て、さすがに」
「口で、アタナシア。出るよ、アタナシア!」

 二人に奉仕されながらも、積極的なアタナシアに軍配が上がった。
 亀の口から白い白濁液が飛び出す直前、むつきはほぼ無意識に体を向けていた。
 刀子の胸にも奉仕されながら、口を開けて受け入れる気まんまんのアタナシアへと。
 そしてその頭の後頭部に手を当て、射精の瞬間に押し付けた。
 柔らかな胸の中から弾力のある唇、そこをこじ開け膣のようにうねる口内にまで。
 唇で吸いつかれ舌で鈴口を刺激され、もはや限界であった。

「アタナシア!」

 一ヶ月にも満たないが、久しぶりの逢瀬だと遠慮なく口の中に解き放った。
 白い体液、精液をアタナシアの口の中にだ。
 噴き出す勢いと量に負けず、射精中もアタナシアが鈴口を舌先で弄った。
 ますます射精の勢いは強まり、むつきは耐え切れず松の幹を少しずり落ちる。
 それでうっかりアタナシアの唇を亀頭が離れ、口ではなく空に打ち上げられた。
 顔に胸に、後で怒られそうだが浴衣にも多少飛び散り、美女二人を汚していった。

「打ち上げられたな」
「打ち上げられましたわね」
「打ち上げられたやんね」
「ちょっ、なんでそこそんなに冷静?!」

 順に長谷川から雪広、和泉とむしろ覗きが趣味ですという面々は視線が遠い。
 美砂達恋人達は、自分の彼氏を改めて見て、凄いなと感心したり。
 もちろんそんな感情は事情を知らぬ者には読み取られなかったが。
 おかしいでしょと釘宮に突っ込まれる程度であった。

「思ったより量が。うーん、やっぱ漫画だと誇張し過ぎか。顔射だと本当にどろどろなんだけど。リアルはリアル、誇張はしとこ」
「ハルナもある意味で、冷静すぎや。あれ保険体育でやった赤ちゃんの種やえ? うーん、せっちゃんもアレ出えへんの? 出たら結婚できるえ?」
「このちゃん、このちゃんが望むなら何処か外国で改造手術でもして!」
「皆さん、先程から声が。防音機能にも限界ぁっ」

 葉加瀬が止めるも少し遅かったようだ。
 顔に飛び散った精液をすくっては舐めていたアタナシアが、何かに気付いたように見た。
 誰もいないと一瞬顔をしかめたが、直ぐににやりと。
 あろう事か、全員を眺めるように一人一人視線を合わせて笑って見せた。
 一部は何故ばれたと思ったが、特に小鈴と葉加瀬はやっぱりと思った。
 彼女の正体を知っているのであれば、ばれないと思うほうがおかしい。
 ここまで彼女を誤魔化せた事こそが、返って表彰ものである。
 ただし、そこでお前達出てこいと怒らないのもアタナシアらしかった。

「むつき、こっちへ。綺麗にしてやろう。今度こそ、私の口の中に」
「そ、そんなにしつこく舐らなくても。あっ、アタナシア」

 自分の方へとむつきの一物を向けさせる振りをして、その実は違う。
 覗き連中に見せ付けるように、むつきの一物をしゃぶる様子を事細かに見せつけた。
 口を窄めて亀頭にキスし、飲み込む。
 窄めた頬がその大きさに膨れる所も明確に、喉の奥まで深く受け入れた。
 残り汁まで吸い尽くすように、竿に唾液の跡を残し、一つ残らず吸い尽くしてしまった。
 刀子は殆どそれをあわあわ、尻もちをついてみているだけである。

「流石ネ、好きで身につけたではなかろうに。勉強になるヨ」
「技術、か。うーん、覗きに来て良かった。と言うか、葛葉先生。綺麗だし格好良いのにこういう場面じゃ、駄目駄目だね」
「うん、完全に勝負になってない。それに、先生。アタナシアさんは呼び捨てなのに、葛葉先生はさん付け。なんだかちょっと壁があるみたい」
「言われて見れば、そうやんね。もしかして、お嫁さんにする気ないんやろか?」

 ちょっと回りには漏らせない批評を小鈴や美砂が行なった。
 そこへ鋭い指摘を行なったのがアキラであり、和泉も続いて指摘した。
 基本的にむつきは抱いた相手は名前を呼び捨てにしている。
 美砂やアキラ、少し違うが夕映や小鈴もだ。
 先生は二番目と本人にも言った和泉は、むつきの心情からも仕方のない事だが。
 同じ年上らしきアタナシアでさえ呼び捨てているのに、刀子だけが少し壁があった。

「しかし、むつき。お前は葛葉刀子をどうするつもりだ?」

 まさか呟きに等しい、それもステルスマント越しに聞こえたわけではあるまいし。
 今まさにアキラ達が呟いた疑問を、アタナシアがそのまま伝えた。

「どうって、なにが?」
「貴様が言ったのだろう、本命がいると。私は別に構わん。お前が誰と結婚しようと今の関係を今さら失くすつもりも、別れろというつもりもない。だが葛葉刀子は違う」

 そう呟き、視線を向けられた刀子は縋るような視線をむつきに向けていた。
 彼女はアタナシアと違い、むつきの本命が何処の誰なのか知らない。
 むつきはアタナシアに教えた覚えはないが、出会ったのがひかげ荘でマグダウェルの姉だ。
 今の口ぶりからも、何処の誰で何人かまでも把握しているのだろう。
 そして、刀子が望んでいるのは、むつきとの結婚、それも出来るだけ早期にだ。

「刀子さんとは、結婚できないよ」
「え……ぁっ、ぐっ」

 そこであっさり、決定的な言葉を放ったのは縋られたはずのむつきであった。
 本来なら無関係であるはずの明石達や、応援できない立場の美砂達でさえ何やら怒りが。
 当然当人に至れば思わず瞳に涙を浮かべ、逃げ去ろうとした刀子であったがこけた。
 それはもう盛大に、緊迫した場面を破壊するには十分過ぎる威力で。
 小さな女の子がバランスを崩してこてんと転んだような様ですらあった。

「刀子さん、大丈夫!」
「早とちりをするな馬鹿たれ、大方やり捨てられたとでも思ったのだろうが」

 極一部、龍宮や桜咲ぐらいしか見えないそれは糸であった。
 アタナシアの指先から伸びる不可視に近い、細いが強靭な糸が刀子の足に巻きついていた。

「だって、出来ないって。あんなに愛してくれたのに、出来ないって。やだぁ、結婚してよ。結婚してくれなきゃ、死ぬ。死んでやる!」
「ああ、もう。ごめん、ちょっと唐突過ぎた。泣かないでよ、刀子さん」

 こけたまま起き上がりもせず、駄々っ子のように刀子が泣き喚き始めた。
 抱き起こそうとしても手は払われ、近付く事もままならない。
 何度か殴られ、さらには噛み付かれながら抱き起こすと、今度は抱きつかれた。
 そのまま胸の中で泣かれ、これにはアタナシアも少々ばつが悪そうだ。

「刀子お姉ちゃんを泣かせ、放せ龍宮。お姉ちゃんが!」
「今出て行って何になる。エヴ、アタナシアも言っただろう。やり捨てるわけじゃないと。先生の考えを聞いてからでも遅くはない」
「せっちゃん、龍宮さんの言う通りや。もし本当に先生がそんないい加減やったら、そん時は止めへん。好きなだけ、殴ってき」

 一方、ギャラリーの方も特に桜咲が暴れ、一悶着していた。
 姉妹関係が復活したばかりとはいえ、恩人という二文字も加わっているので当然か。
 ただ、その怒りには一定の理解を示した近衛が、条件付きで許可を与えていた。

「あのね、刀子さん。俺さ、今の彼女とはわけあって後五年は結婚できないんだ。彼女、寛容というかなんと言うか。アタナシアとの関係も認めてくれるぐらいだし。刀子さんとの事だって多分、許してくれる」

 なにそれと、普通ならばここで疑問が浮かんでもおかしくはない。
 実際、那波や古と言った事情を知らない者はそれは彼女かと疑問を浮かべている。
 ただし、一応はアタナシアの事情も聞いているし、微妙なところだ。

「けど、彼女と結婚する五年以内は絶対駄目だ。彼女も許してくれないし、俺も許せない。ねえ、刀子さん。五年も待てる? 待てないよね、俺達はもう適齢期だし」

 当然、待てないと涙ながらに刀子に訴えられた。
 むつきでさえ五年後は、三十歳の良い歳であり、刀子は尚更。
 それ以上になると子供を生むのにも心配事が増えるばかりである。

「五年も経てば、俺だってどうなるか分からない。彼女達に捨てられてる可能性もなくはないし、このままだらしない男で終わる可能性も。五年も待つだけの価値、俺にはないよ」

 最後、少し言葉を濁したが、言いたいことはリスキーだという事だ。
 結婚すると五年も待たされ、その間にどう互いが心変わりしている事か。
 むつきが一途から恋愛にだらしなくなったように、人格ごと豹変している可能性さえ。
 いざ結婚となって相手がそうなっていれば待っていた五年は無駄となる。
 そうなってから刀子が今一度と思っても、その時は三十も半ばだ。
 それから恋愛相手を探しても、その殆どは既に子持ちか、それこそ人として何処か問題がある人が殆どだ。
 もちろん理由あって独身を貫いている人もいるだろうが、結局その人も結婚してくれないという意味では同じである。

「だから俺が今、刀子さんにして上げられるのは。離婚の原因だったセックスレスを失くしてあげること。セックスは怖くないって教えてあげること。それに一度は出来たんだもん、きっとまた結婚できる。俺も協力するから」
「こんなに好きなのに、好きなのむつき先生。待てる、ちゃんと五年待つから」
「冷静にって言っても、無理か。アタナシア、ごめん」
「まあ、元は私が原因だ。気もそがれたし、また今度だ。またな、むつき」

 涙と鼻水を流し待てると言い張る刀子の顔をハンカチで拭いてやるも追いつかない。
 半ば諦めて抱き締める事に従事し、アタナシアに苦笑いで謝った。
 アタナシアも仕方がないと、むつきのおでこにキスして背中を向けた。
 せめて今夜だけは二人きりになると良いと、着崩れた浴衣を直しつつ歩く。

「おい、ガキの好奇心もそこまでだ。帰るぞ、大人は色々あるんだ。特に一部は、むつきも不安を抱く事がある事ぐらい胸に秘めておけ。良い社会勉強ぐらいにはなったろ」

 途中、そう虚空に呟き、見えざる相手数名を引き連れ帰っていく。
 残された二人、特に刀子はしばらくの間むつきの胸の中で泣き続けていた。
 好きと言うよりは、結婚を焦りそう思いこんでいた可能性は否めない。
 だがそれと同時に、あそこまで体を求め合い、気持ちよくなれたのも事実であった。
 結婚していた元旦那とも辿り着けなかった場所に辿り着けた男なのだ。
 だから今、むつきがどう言おうとその当人を求める以外に方法は思いつけないでいた。

「むつき先生、抱いてください。私の体に夢中になって。結婚したくなるほど、結婚してって言いたくなるほど。私を滅茶苦茶にして」
「滅茶苦茶にはしない。けど、抱くよ。刀子さん、大丈夫。きっと見つかるから。見つけて見せるから。刀子さんを幸せに出来るだけの、俺なんかより凄い男を」
「嫌、先生が。むつき先生が良いの。早く、早く抱いて。全部、夢だって。忘れさせて!」

 今は何を言っても、意固地になるだけかとむつきは説得を諦めた。
 刀子を地面に寝かせ、帯を解いて浴衣を敷き布団に生まれたままの姿にさせる。
 月は細く、より星明りの明るい夜空の下で、髪から肌まで真っ白な刀子を見つめた。
 黒い瞳、胸の先端の乳首、それから染めていない陰毛。
 白以外が見つかるのはそれぐらいのものだろうか。
 刀子は裸にされても抵抗せず、むしろ私を見てと隠しもしない。
 元より今日はそのつもりだったのか、下着も身につけておらず陰毛まで星明りに照らされた。
 むつきも浴衣の帯紐を解きながら、覆いかぶさっていった。
 直ぐに刀子が腕を伸ばしてむつきの首に抱きつき抱き寄せ、唇をふさいできた。
 拒絶せずにそれを受け入れ、むつきもまた刀子を求めるように胸を揉みしだく。
 求めようが良く伝わるように少し強めで、刀子が少し痛みを感じるぐらいに。

「ああ、良い。むつき先生、もっと強く。私に貴方を刻み込んで」
「刀子さん、綺麗だよ。白い肌が星明りで闇に浮かび上がって。髪もキラキラしてる。ほら、触って。刀子さんを見て、俺興奮してる」
「凄い、カチカチに。私で、興奮して。早く、早くこの逞しいので私を貫いて!」
「ちょっと早いけど、行くよ。刀子さん、入れるよ」

 求めが強すぎて愛撫もままならず、まだ濡れが足りない気もしたが。
 刀子の求めに応じて、むつきはびらびらがはみ出した割れ目に亀頭を添えた。
 びらびら、ラビアをかき分けくちゅりと沈め、膣口へと押し進めていく。
 やはりまだ濡れが足りず抵抗があったが、押し進めるうちにそれも薄れ消えていった。
 刀子の早急な求めに応じて愛液が増え、むつきの一物を受け入れ始めた。

「ぁっ、入って。むつき先生が、もっと奥に。そのままもっと!」
「刀子さん、刀子さん。ごめん、一気にぐっ!」
「入ッ、くぁはっ……ぁっ、ぁぁぅった。奥まで、子宮に」

 ゴツンと一気に子宮口を叩かれ、刀子が顔を上にそらして喘いだ。
 強烈な衝撃に意識を飛ばしそうになりながらも、むつきの一物を一生懸命締め付ける。
 子供をと、結婚の踏ん切りをつけさせる為のファクターを欲して。
 即座に逃げられないよう、むつきの腰に抱きつくように足を回して抱きとめた。
 だがあえて、むつきも逃げずにさらに刀子を突き上げる。
 浴衣の上でその体がずれる程に、奥へ奥へと突き上げた。

「深ぃ、駄目。それ以上、壊れ。むつ、壊れ。壊して、私を壊して」
「刀子さん、気持ち良いでしょ。セックスは怖くない、気持ち良いものだから。本当に愛した相手ならもっと、もっと」
「もう、言わないで。今はただ、私を抱いて。私、うちを。おめこして、おめこぉ!」
「分かった、刀子さん。ちょっと激しく、行くよ」

 抱きとめる足から逃れるように腰を引き、次に力に抗わず奥へと刀子の穴を穿つ。
 何度も何度も腰が壊れそうになるまで刀子を突き上げ、もちろんキスも忘れず。
 背中に手が回されているので繋ぐことは諦め、突き上げながら胸を弄ぶ。
 愛より性欲を強く押し出し、刀子が望んだようにその体を貪り食った。
 勢いが強すぎて正常位から刀子の腰が上がり、やがてまん繰り返しの格好へと。

「嫌、だけど嫌じゃない。むつき先生がしたいなら、どんな体位でも」
「刀子さん、一回目。出すよ、中に。刀子さん、刀子さん!」
「中に、出して。赤ちゃん、赤ちゃん欲しいの!」
「ふぐぅ、刀子さん!」

 ありったけの精液を、まさに蜜壷と化した刀子の中へと注いでいく。
 あまりの量に溢れた精液は壷から噴き出しとびちり、刀子の顔にまで降り注いだ。
 普通ならそこで休憩だが、今は事情が事情である。
 崩れ落ちる暇も惜しんで、むつきは仰向けだった刀子を抱え上げた。
 少し腰に来たがコレぐらい軽いと、刀子を抱え上げそのまま揺さぶった。
 ズン、ズンッと彼女自身の自重でさらに深く一物でえぐりあげた。

「ぁっ、んぅ。ふぁっ、深っ。もっと、おめこ。むつき先生。キス、キスして。んぅぁ、んふ。むつき先生、好きです。愛して」
「ごめん、好きだとも愛してるとも言ってあげられない。未練になるから。だけど、これぐらいなら。綺麗だよ、刀子さん。凄く素敵だ、気持ち良いよ」
「嬉しい、けど。お願い一度、一度で良いの。んぅ、ぁぅもう、我が侭言わないから。結婚してって強要しないから。ふぁっ一度で、むつき先生!」
「刀子さん、ごめんね。ごめん、言えない。言ってあげられない。だから、せめて感じて。綺麗だ、可愛いよ刀子さん。刀子さん!」

 二度目、もはや放ったそばからむつきの精液はあふれ出していた。
 のみならず快楽に溺れすぎて、ぶしゅりと刀子も潮を吹き、ちょろちょろとお小水が漏れ出す。
 むつきの股間を、足を生温かい液体が流れ落ちるも二人共気にしない。
 ただ求めるままに、次は一度刀子を降ろして先程までむつきが背中をつけていた松の幹に両手を付けさせた。
 まだお小水が止まらないまま、お尻を上げさせ後ろから突き上げる。
 精液、愛液、お小水とあらゆる体液を飛び散らせながら、肌と肌をぶつけ合った。

「刀子さんのおしっこ温かい。もっと、もっと良くなって。セックス、どう。気持ち良いですか?」
「ぁっ、ぁっ……良い、気持ち良いえ。これがセックス、おめこ。こんな歳なのにおしっこ漏らして恥ずかしいえ。けど、止まらない。気持ち良過ぎて」
「駄目だ、バックは密着できない。刀子さん、こっち来て!」

 挿入はまだしも、触れ合えないと両太股に手を沿え持ち上げた。
 かなり腰に負担はかかるが、お小水を漏らしている刀子にお似合いのスタイルだ。
 全裸、それも足袋と雪駄のみの刀子を子供のように抱え上げて犯しつくす。

「むつき先生、もっとうちを滅茶苦茶に。おしっこ漏らしたうちを」
「そんなに気になるなら、僕がします。刀子さん、刀子さんの中に良いですか。僕もセックスでもよおしてきちゃいました」
「ええよ、うちの中に。子宮の中をむつき先生が洗ってや。ぁっ、あぁ。温かい、おしっこ!」
「刀子さん、出たよ。おしっこ、止まらない。刀子さん!」

 お互いに夢中で、膣の中でおしっこなどむつきも初体験のプレイであった。
 だがここで運が悪いと言うべきか、それとも口止めが出来てよかったのか。

「ぎゃあ、夢中にスケッチし過ぎた。ぶわっ、掛かった。ぺっ、口にも。もう、最悪。折角のネタの宝庫だったのにぺっぺ」

 突然虚空より上がった謎の声、思わず刀子の中にいたむつきも萎んでしまう。
 咄嗟に刀子がその声の近くを蹴りぬけると、その指先に何かが引っかかり脱げた。

「あっ」

 やばいばれたと地べたに座り込んでオナニーしながら、スケッチブックを抱えた早乙女であった。
 唯一、アタナシアの言葉に従わず、己の欲望の向くままに行動に移した結果である。
 努めて冷静に、まずむつきは刀子を降ろして地面の上の浴衣を払い手渡した。
 そして自分も身なりを整え、それから生まれて初めて拳骨という体罰を行なった。
 それが教師としての愛か、個人的な恨み辛みかと言えば、恐らく後者なのだろうが。
 ゴンッと割と強めな拳骨音が、祭りの後の夜にしみこんでいった。









-後書き-
ども、えなりんです。

集団どころではない、覗きツアー。
良識ある人は帰りましたけどねw

さて、今回は刀子に対するむつきの考え、対応のお話でした。
大人組でハーレムを作れない最大の理由が今回でました。
大人組相手だと、マジで結婚できてしまうので、余計できない。
アタナシア(エヴァ)は、まだ結婚とか考えてないので問題ないのですが。

あと、一応むつきにも自分がダメになってる自覚ありです。
でもまだ、刀子みたいに据え膳になったら頂いちゃうので自覚足りないところも。
刀子とのやり取りだけだと、ネギま?っとなりそうですが、ハルナがありがたいw

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第五十七話 間違えて宮崎の胸にパイタッチするかも
Name: えなりん◆e5937168 ID:b379f023
Date: 2013/08/07 21:37
第五十七話 間違えて宮崎の胸にパイタッチするかも

 夏休みに突入してそろそろ一週間近い、七月最終日の三十一日。
 今日も快晴だが少し分厚い入道雲が高く積み上げられた蒸し暑い日であった。
 ただ気温については、文明の利器であるクーラーに冷やされた喫茶店内。
 麻帆良都市内のとある喫茶店にむつきはいた。
 グラスの表面に大量に汗をかいたコーヒーを飲みながら、時折深く溜息をつく。
 手にして見ているのは小鈴謹製の携帯電話であるが、何時まで経っても繋がらないのだ。
 もちろん、特定個人に対して繋がらないという意味である。

「折角、刀子さんを宥められそうだったのに台無しじゃねえか。昨日からずっと、着信拒否だぞ」
「あはは、ごめんね先生。でもおかげで良い本が出来たってば。お尻じゃなかったけど、俺の尻にがマジで見れて良かった。あっ、店員さんお代わり頂戴」

 こいつに反省という言葉はないのだろうか。
 目の下のクマがまた一段と濃くなっているが、それに比例してテンションが上がっている早乙女である。
 タンクトップにショートパンツ、その上に漫画作業用のエプロンと。
 傍目には裸エプロンに見えかねない非常にエロイ格好で、少々人目を集めていた。
 だがそんな事は気にしないとばかりに、豪快に笑ってはコーヒーのお代わりを求めている。

「ちょっとパル、あんたお代わりし過ぎ。眠いなら、寮に帰って寝なさいよ。原稿の入稿も終わったんでしょ。木乃香と先生は?」
「悪いな神楽坂、頼むわ」
「うちも、こう暑いと喉が渇いてしゃあないやん」

 文句を言いつつ、冷えたコーヒーの入ったポットを手に現れたのはバイト中の神楽坂だ。
 平時は新聞配達のみだがこの夏休み中は、雪広の斡旋などで色々とバイト三昧なのである。
 白のブラウスに紺のタイトスカート、ちょっとふりふりのエプロンという姿であった。
 本人はふりふりが似合わないと思っているようで、少々顔がひきつっている。
 もしくは、先程から何度も呼びつけてはお代わりを請求する早乙女のせいだろうか。
 バイトの邪魔というか、仕事を増やして申し訳ないがむつきも近衛もお代わりを貰った。

「神楽坂、バイトも良いけど毎日少しずつは勉強もしろよ」
「うっ、してるわよ。かなり木乃香に手伝って貰ってるけど。皆で旅行行くのに、私だけ残ってバイトとか嫌だし。稼がないと」

 夏祭りは高畑にそこそこ奢って貰ったようだが、件の旅行は足代こそ殆ど無料なのだが。
 目的の四葉が望む店にはお高いところもあるので、稼ぐのも大変なようである。
 勤労処女、ではなく勤労少女は色々と大変そうだ。
 最終手段としてむつきが援助という手もあるが、それは神楽坂に稼ぐ気があるうちは言わない方が良いだろう。

「うちもせなあかんし、何時でも教えたるな明日菜。夏祭りの次は、皆との旅行もあるしな。せっちゃんと今度は旅行とついでに帰省もできて。ええ、夏休みやえ」
「生徒全員連れて専用バスで日本横断とか、ハーレムじゃん先生。色々お世話になったし、学園長じゃないけど着替えぐらい覗いてもいいよ? それとも、三徹で履き続けたパンツ欲しい?」
「そんな汚えもんいるか、アホ。それに高畑先生には忙しいからって断られたけど、引率の先生は探し中。できれば女の先生が良いから二ノ宮先生か。アレがなければ、刀子さんに頼む予定だったのに」

 お前のせいでと、早乙女を睨み話が最初に戻り掛ける。。
 その間に神楽坂はマスターと交渉して、休憩時間を貰って近衛の隣に座った。

「旅行の話はまた今度。先生、今日は本屋ちゃんとデートなんでしょ。ねえ、どうやったら先生と生徒でデートできるの? そこんところ、教えて」
「学年主任の新田先生から風紀委員、果ては学園長にまで。他意はありません。宮崎の男性恐怖症を治すためですって、綾瀬と一緒に懇切丁寧に説明すればできるぞ」
「教師と生徒って禁断の関係が、夢がないよ。夢が、こうさ。周りに隠れてねっとりと、夏だからこそ汗に塗れて絡み合うようなガッ」
「一トンカチ、明日菜そういうの苦手やからあかんよ」

 実際、早乙女の言う通り汗に塗れて、むつきは毎日美砂達とセックスはしているのだが。
 神楽坂が初心な為、近衛が先手をとって早乙女をトンカチで殴りとめた。
 これが普通の女子中学生の反応だよなと、顔を赤くし戸惑う神楽坂が新鮮でうれしくなる。
 そのままどさりと倒れこんだ早乙女は、徹夜疲れもあって良く眠れる事だろう。
 むしろ、これから宮崎との大事なデートが控えているので、むしろ起きない方が望ましいか。

「はあ、教師と生徒って難しいんだ。前の夏祭りで、高畑先生が私に向ける視線にちょっと気付いちゃったし。一歩踏み込まないと、ただの生徒か妹で終わっちゃう」
「それに気づけただけでも、大進歩やて。ほら、先生。前に言うてたアドバイス。今なら明日菜、ちゃんと聞いてくれるえ?」
「なにそれ、アドバイスって。どうすれば良いの!?」
「アドバイスって程でも。ただ、高畑先生の前で無駄にテンション上げてはしゃぐな。大人の男は癒しを求めてるから、元気な時は良いが疲れてるときは駄目だ。特に高畑先生は出張続きで疲れてるし」

 え、嘘っとばかりに神楽坂が顔色を青くして引きつらせてもいた。

「今のお前に言っても難しいだろうけど。憧れじゃなくてさ、ちゃんと相手を見て。支えてあげるつもりで接しろよ。何時もご苦労様ですとか、お弁当を作ってメッセージカード添えたり。ちなみに源先生がお弁当じゃないけど、コーヒー注いだり色々アタックしてる」
「ぐぁっ、嫌な情報も一緒に。なに、しずな先生ってやっぱりそうなの?!」
「そうやないかと思っとったけど、これは強力なライバルやな」
「落ち着け、高畑先生全く気付いてないから。飲み屋で胸押し付けられても、邪魔だったかなって席を遠ざけるぐらいだから。あの人、相当な朴念仁だ」

 胸を押し付けるというキーワードで、気絶していた早乙女がぴくりと反応していた。
 どれだけエロが好きなのか、夏の原稿の仕上げで頭が出来上がっているらしい。
 一応念の為、近衛のトンカチを借りてとどめをさしつつ。
 神楽坂の無謀な恋の為のアドバイトスを近衛と共に行い、やがて連絡が来た。
 震える携帯電話を手に取ると夕映という文字であり、どうやら向こうも準備完了のようだ。
 電話に出るとまさにその通りで、待ち合わせ場所へと向かった。









 待ち合わせ場所は、神楽坂のバイト先の喫茶店から程近い場所の小さな公園であった。
 残念ながら、バイトがある神楽坂とは喫茶店にて別れている。
 それから近衛と早乙女を連れて指定された待ち合わせ場所に向かうと、夕映と宮崎がいた。
 夕映は黒地のティーシャツに白いスカートと主役の宮崎の為に、地味目の格好だ。
 むつきとしては、むしろ夕映とデートに出かけたいところだが、今日のお相手は宮崎である。
 彼女の親友とデートとか、少女漫画なら三角関係の始まり以外のなにものでもないが。
 その宮崎は、白のワンピースだが肩紐やスカートの裾にフリルがあしらわれたふりふりの格好である。
 たしかに宮崎を見た後だと、神楽坂がふりふりが似合わないといった理由が少しわかった。
 腰もとはベルト代わりに黒い紐で縛られ、さらにワンポイントで小さな向日葵のついた白のカチューシャもしていた。
 髪型も普段のショートから、多少強引に纏めて後頭部で小さなポニテ。
 そんなお洒落満載な彼女だが、唯一の難点は目元を隠す長い前髪だろうか。
 そんな惜しいとばかりの視線に夕映が気付き、小さな溜息と共に説明してくれた。

「頑張ったのですが、意外とのどかも頑固で死守されてしまいました」
「あの、すみません。素敵な彼女さんがいるのに私なんか、やっぱり帰ります」
「そうはいきませんよ。先生も忙しいのに時間を取ってくれたのですから。のどかには迷惑を掛けた事を恩返しする義務があるです」

 早速というべきか、まだデートが始まってもいないのに逃げ出そうとした宮崎の手を夕映が掴んだ。
 恩を着せるかのような夕映の台詞は、宮崎の性格を把握した上での事だろう。

「なんや、今日の夕映はちょい強引やな」
「え、そ……そうですか?」
「まあ、それぐらいじゃないとのどかも先生とデートの一つもできないから良いんじゃない?」

 ただ彼女自身、これでむつきと結ばれるかどうかの瀬戸際で多少の焦りもあったか。
 近衛の指摘にどもった夕映であったが、珍しい、本当に珍しい早乙女のフォローに助かったと胸をなでおろしている。
 逃げ出そうとした宮崎も、わざわざ付き合ってとむつきを見上げその足を止めた。
 真面目な彼女は迷惑をと目をぐるぐるさせながら、迷いに迷って戻ってくる。
 回る目をキュッと結んで、ふるふる手を伸ばしながら二メートルまで距離を縮めた。

「きょ、今日はよろしくお願いしますです」
「綾瀬の言葉使いがちょっと移ってるぞ。炎天下で立ち話もなんだし、まずは歩くか。綾瀬達は付いてくるならそっちな」
「のどか、初心者なのですから困ったら私達を探すです。指示はパルのスケッチブックで出すですから」
「うんうん、こういう風に」
「はい、二トンカチ!」

 ニヤニヤと、笑いながら早乙女が掲げたスケッチブックには噴水で濡れてすけブラ見せろとあった。
 本当にこりないというか、早速近衛に後ろからトンカチで殴られていた。
 この愉快犯は本当にどうにかならないものか、夕映が話すべきじゃなかったとため息をついている。

「近衛、早乙女が暴走したら何しても良いから。教師として、早乙女の素行が普段から悪かったからって誠心誠意、警察だろうが検察だろうが証言するから」
「うち、力ないからトンカチ弱いんやろか。刺付きとか、どっかに売っとらへんかな?」
「はい、我慢する。誠心誠意、応援致します」
「その言葉も、どこまで。それこそ、何時間持つことやら……では、先生。のどかをよろしくです」

 最後にむつきへと切なげなけれど期待を込めた視線を送り、夕映が近衛と共に早乙女を引っ張り連れて行った。
 とはいっても、見失わない程度に尾行はするので本当に少し離れただけだ。
 それでも宮崎は行かないでと手を伸ばしていた。
 小さな子が初めて託児所に預けられ、母親へと手を伸ばしたかのようである。
 だがなんとか、彼女らが見える範囲であったので我慢できたらしく、キュッと目を閉じ我慢していた。
 くすっと笑ってしまうと、それに気づいた宮崎が慌てて伸ばした手を後ろ手に隠す。
 一瞬ちょっと気まずい空気が流れそうだったので、会話の為の小道具にとむつきは携帯を取り出した。
 予めダウンロードしておいた、麻帆良周辺の地図を表示させる。

「宮崎、この中で行った事のない。普段なかなか行けない古本屋ってあるか?」
「あっ、はい。どれですか?」

 不思議なもので、携帯の液晶画面を向けると限界二メートルがあっという間である。
 宮崎が一歩を踏み出し、むつきが手に持っている携帯の液晶画面を覗き込んだ。
 本人にはあまり自覚がないのか、むつきからはふりふり揺れる短いポニテが良く見えた。

「あの、それならここが。少し遠いですが、大きめのお店だそうで。一度、行ってみたいと。ぁっ」

 だがそんな魔法は効果も一瞬、むつきを見上げると同時に今度は三メートルだ。

「よし、なら駅から電車で行くか。行くぞ、宮崎」
「ま、待ってください先生」

 だから宮崎に深く考える隙を与えず、むつきは手こそ差し出さなかったが歩き出した。
 慌てて宮崎もついてきて、多少距離はあるが二人連れ立って最寄りの駅へと向かう。
 むつきが特別早く歩いたわけではないが、互いの距離は一メートルに減ったり三メートルに増えたり。
 時々、あれ何処行ったとむつきが振り返ると、宮崎が夕映のカンペを見ていたりも。
 むつきもカンペを見てみたが、基本的にはもっと寄れであった。
 こけてパンツ見せなさいという間違いなく早乙女のは、即刻本人ともども修正された。
 スケッチブックを顔面に押し付けられ、近衛のトンカチでその上からガツンと。
 夕映は数時間と言ったが、一時間も早乙女の我慢は持たなかった。
 そんなこんなで、電車の中では座席の間を空けすぎて赤の他人に間に座られたりもした。
 即座にむつきは立ち上がり、慌てる宮崎の目の前に立ち、その人と微妙に苦笑いも。
 ちょっとギクシャクした出だしであったが、それも古本屋に着くまでであった。

「先生、このお話読んだ事あります?」

 それこそ見上げる程の古本を前に、ここは私の領域とばかりに宮崎が活き活きし始めた。
 水を得た魚とは、こういう時に使うんだろうなと思うぐらいに。
 これ懐かしい、続きがあったんだと次から次に本を手に取ったのだ。
 さらには、お勧めの本をむつきに見せて数ページ読み聞かせる。
 前髪に隠れて表情はあまり読み取れないが、きっと良い笑顔である事だろう。
 やはり夕映とも話し合って古書めぐりは、大当たりのようであった。
 あれもこれもと一抱えも本を持ち、さすがに散財しそうでむつきが止める事も。
 最終的に一冊は自分で、もう一冊はむつきからのプレゼントと言う事でお店を出た。
 後者は少しかさ張る一冊だったので、最寄りのコンビ二で寮へと郵送する事になった。

「先生、ありがとうございます。どうしても欲しくて、次が何時になるか。それこそ次に来たら売れてしまっていそうで」
「ちょっと痛かったけど、初デートの記念って奴だな。もし、同世代と付き合っても強請るなよ。そいつと即別れたくなければな」
「それは、もう少し先の話なので。大丈夫です」

 コンビ二を出ると、むつきとの距離も随分と縮まっていた。
 まだ一メートル圏内、触れ合うには手を目一杯伸ばさなければいけない距離だが。
 今日は触れ合う予定も、今後も触れ合う予定はないので十分と言えば十分だ。

「さて、思いがけず一店舗目で大当たりを引いちまったからな。古書廻りはここまでだな」
「ですね、これ以上は。また強請ってしまいそうで」

 これ以上はいけませんと両の拳を握って自制する姿は少し可愛かった。
 強請ると言ったが、プレゼントしようかと言ったのはむつきである。
 欲しいがけれどと、宮崎も迷いに迷って色々と焦り慌てた姿を見せてもくれたが。
 お金をあまり使わないデートとなると、まず思い浮かぶのはウィンドウショッピングだ。
 この太陽が眩い真夏日に外では不可能で、大きなデパートにでも行くべきだろう。
 ただ、女子中学生とのデートでそれはどうなのだろうか。
 宮崎の性格から考えても男と服を見に行っても、古本廻り程にはしゃげるとも思えない。

「ふう、それにしても暑いですね」

 ぱたぱたとはしたなく手団扇するまで砕けた宮崎が、ぽつりとそう呟いた。
 喫茶店でお喋りか、カラオケなどが手頃でそれらしいだろうか。
 特に前者は喋るネタを古本屋で仕入れ、涼みにも丁度良い。
 まだ時間はあるので一度涼んでからでも遅くはないと、宮崎に振り返ったその時だった。

「宮崎ィ!」

 突如、宮崎を必死に呼ぶ叫びが上がり、腰を基点に思い切りむつきは衝撃を受けた。
 ゴキッと美砂達との子作りに大切な腰から嫌な音が鳴り、ごろんごろんと熱されたアスファルトの上を転がっていく。

「熱ッ、痛ッ。なに、あれか。ついに刀子さんのファンが襲撃を。お守り、観音がくれたお守り効果ねえじゃんか!」
「せ、先生!?」
「宮崎、大丈夫か」
「ひぃ!」

 地面の上でのたうちまわっていると、何故か心配されたのは宮崎であった。
 折角緊張感が取れた宮崎の悲鳴まであがり、何事かと起き上がる。
 そこで見たのは、宮崎と同年代らしき少年が彼女に詰め寄っている状況だ。
 まるで変態に言い寄られたクラスメイトを助けたような。
 恐れられているのはむしろ、詰め寄った少年の方なのでちょっと変な状況だが。

「こらこら、少年。先生に飛び蹴りかました挙句、宮崎を怖がらせるな」
「宮崎に近寄んな、変態。知ってるぞ、お前この前の夏祭りで生徒や美女をはべらせてたちょっと有名な変態教師だろ。今度は宮崎に手を出そうってんだが、俺が見つけたからにはそうはいかねえぞ!」
「マジで有名になってやがった。俺の麻帆良教師生活、大丈夫なのか」

 ちょっと止めてと、周囲を見渡すも襲撃者は偶然通りがかった少年のみだ。
 見つかったといえば、折角のデートがと憤慨しながら向かってくる夕映達であった。

「先生、ひざに血が。これ絆創膏。使ってください。私どんくさいので、小さな薬箱持ち歩いているので」
「悪いな、痛てて。泳ぐ時、しばらく染みるか。あれ、ネバ……あっ、折れるひっつく」
「先生、私が……動かないでください。よいしょっと、はいこれで大丈夫です」

 宮崎が少年をかわし、絆創膏をくれたので擦りむいた膝に貼り付けようとする。
 ただ絆創膏など久しぶりで粘つくのりにちょっと手間取っていると、宮崎が丁寧に張ってくれた。

「宮崎、そんなやくわっ。早乙女、離せ。変態教師に宮崎が」
「懐かしい子に会ったわね。たっくんストップ、のどかが脅えるっての。先生、とりあえず喫茶店にでも入ろ。ゆえ吉も、怒らない。こういう子だから」
「誰ですか、この失礼な人は。突然人様に、それもデート中にとび蹴りとか非常識極まりないです。折角のどかの緊張がほぐれ、これからだというのに」
「まあまあ、夕映はたっくんの事を知らんからな。久しぶりやえ」

 何がなんだが分からないが、一先ず少年も加えて近くの喫茶店へ。
 十分も経っていなかったが炎天下の最中にいたので、そろそろ汗が噴き出してきた。
 むつきも直ぐには上手く歩けないので、ひょこひょこ歩きながら。

「おーい、はやいはやい。待ってくれ」
「先生、足痛いですか?」
「このやぐぇっ」
「チョーク、チョーク。あんまり騒ぐと締め落とすよ?」

 立場上夕映は難しかったが、特に宮崎が心配をしてくれた。
 おかげで少年、たっくんの燃える心に油を注いでもしまったが。
 ただ、そこは早乙女がヘッドロック気味に絞めてくれたのでむつきも宮崎も襲われることはなかった。
 というか、早乙女は敵なのか味方なのか正直、はっきりして欲しいものである。
 感謝して良いのか、それこそ早乙女を絞めて良いのか非常に判断に困ってしまう。
 なんとかかんとか喫茶店に辿りつき、人数が人数なので大テーブルに案内された。
 片側に奥から宮崎、むつきに夕映と並び、反対側に奥から近衛、早乙女、件のたっくんと二人の距離は対角線上に空けておいた。
 そうでもしないと、たっくんに脅えて宮崎が小動物のように震えるのだ。

「で、たっくんとやら。なんか宮崎を俺から救おうって飛び蹴りかましたみたいだけど」
「ふん、てめえなんかに話す言葉はねえ。宮崎、こっちに来い。変態が移るぞ」

 まさに取り付くしまもない、もはやその両目には敵意の炎しかみえない。
 だが宮崎に手を差し伸べると遠ざかれる始末、それでまたむつきへの敵意にガソリンが注がれるの繰り返しだ。
 互いに対角線上の席なので手は届かず不可能であり、宮崎もむつきの影にさえ隠れ始める。
 ただその怯え様が、普段の男性恐怖症より酷いようにも見えた。
 なにせ恐怖対象のむつきの影に、守ってくださいとばかりに隠れているのだから当然だ。
 なんとなくだがピーンときて、事情を知るらしき近衛や早乙女に視線を向ける。
 たははと苦笑いされ、恐らくはその通りなのだろう。
 この夏の日差しに良く日焼けし、鼻頭に絆創膏を張ったこの子が男性恐怖症の根源だと。

「この子な、涼宮卓郎って子で小等部の時に同じクラスメイトやったん」
「今は男子中等部の野球部のだっけ? ただこういうおせっかいな性格で、内気なのどかに色々話しかけたは良いけど、がさつだから」
「脅える宮崎が悪いんだろ。俺は何もしてねえ、それからお前は離れろ!」
「く、首。折れ、ちょっ痛い痛い。宮崎取り合えず離れて、その前に俺の首が離れそう」

 二人共言葉は濁したが、好きだからこそ構って嫌われての負の連鎖に陥ったのだろう。
 それで余計にどうしたと構って嫌われ、やがて宮崎も男そのものが怖くなったと。
 確かにこの直情的な涼宮に毎日話しかけられれば、繊細な宮崎は尻込み以上をするだろう。
 むつきの首を折ってやろうかという勢いの涼宮に、もはや宮崎は小さくなって半泣きである。
 あまりに必死に隠れようとして、先ほどからむつきの腕に胸が当たるほどだ。
 そんな時であった、このクーラーで冷えた心地良い空気の中でパンっと乾いた音が響いたのは。
 振り上げた手を振り切った夕映と、一瞬何が起こったのか赤くなった頬に触れ目を丸くしている涼宮である。

「一体、なんなのですか。本当に、空気が読めずがさつで思いやりがなく。私が一番嫌いな男性のタイプです。貴方こそ、のどかから離れなさい。迷惑千万極まるです」
「痛って、てめえなにしやがる。俺は女だからって容赦しねえぞ。表にでろ!」
「待った、喧嘩すんな。綾瀬、謝れ。手は出しちゃいかん。涼宮も、拳を握るな。男ならその程度って笑って済ます度量をだな」
「だいたいてめえが、宮崎の傍にいるから」

 夕映に頬を張られて涼宮はもう、周りが見えずテーブルに乗り上がって飛び掛らんという勢いだ。
 もはや本当に蹴りこそないが、殴る蹴るでむつきはボコられ。
 むつきが殴られさらに夕映が憤慨して手を振り上げては、本人に止められ。

「はい、ちょいストップや」
「ガッ痛。あ、はい。ごめんなさい」

 そこで得に涼宮を止めたのは、彼を後ろからトンカチで殴りつけた近衛であった。
 今日は早乙女に始まり涼宮と、トンカチの一斉大奉仕である。
 小等部の頃の知り合いだから幼馴染だけあって、その恐ろしさは染み付いているようだ。
 熱した鉄板を水に浸したようにジュッと頭が冷えて、謝罪さえしていた。
 ただその向き先はむつきや夕映、宮崎でなく、近衛に対してであったが。

「たっくん、その性格直さないと彼女一生できないよ。たっくんのせいで、のどかも男性恐怖症になっちゃったし。今日はそれを治すのが目的で、本当の意味でデートじゃないから」
「それと先生を殴ったらあかん。甲子園に行くのが夢や言うとったやろ。喧嘩したら、出場停止とか良くあるえ。その性格、直さなあかんえ」
「煩せえな、俺は別に宮崎がおどおどするのがイラつくだけで」 

 宮崎と言うよりは、まだむつきへの敵意の方が強い。
 恐らく、小等部時代に話しかけていたのも好きだったからだろう。
 憤慨する夕映や脅える宮崎はさておき、近衛や早乙女の意味ありげな視線が全てを語っている。
 さてどうしたものか、もはやこれではデートの続きなどできやしない。
 宮崎は完全に脅えた小動物のようで、夕映もまた貴方などにと涼宮に敵意を向けていた。
 特に夕映、彼女程ではないがむつきも初夜の為にもう少し頑張りたいのだ。
 ならば二人きりのデートは諦め、涼宮を巻き込みグループデートが妥当か。
 宮崎の男性恐怖症の根源が彼ならば、そこをなんとかするのが一番早い。

「よし、お前ら。これから全員で、ボーリング行くぞ。ボーリング」

 仕方がないので金は俺が出すと、涼宮も一緒にそう遊びに誘った。









 約二名、夕映と涼宮がぐちぐちと文句を垂れてはいたが。
 このまま自分だけ帰るという意見は出ず、やって来たのはボーリング場である。
 前宣言通り全員の靴代や入場料をむつきが払い、レーンは両隣の二つを借りた。
 現在、マイボールとなるボールを探すために、全員が別行動中だ。
 ただし、これ幸いにと憤る夕映を宥めるために、むつきは夕映のそばでボールを選んでいた。
 ちなみに涼宮が宮崎に襲い掛からないよう、近衛と早乙女は護衛につけてある。
 近衛がトンカチをちらちらさせれば、鞭に怯える猛獣のように涼宮も大人しいものだ。

「全く、先生も先生です。グループデートに移行は仕方がありませんが、あのようなガサツな男性まで。何故連れて来たですか」
「お前も意外と男に偏見あるのな。がさつは要修正だけど悪い奴じゃなさそうだ。宮崎が早乙女や近衛と仲良くなる切欠もあいつが宮崎を怖がらせたのが原因らしいし」
「それはそうですが、もやもやするです」

 一応、周りを確認してから安置されたボールの前でしゃがむ夕映の頭をぽんぽんと叩く。
 夕映が宮崎達と仲良くなったのは、それこそ出会ったのは中学かららしい。
 つまり、四人の中で夕映だけが小等部の共通した思い出がないのだ。
 涼宮との事で宮崎が男性恐怖症となったのを知ったのも今日が始めてだとも。
 図書館探検部の四人の中で、少し疎外感を感じてしまったのだろう。
 クラスの中で割合精神面では早熟な夕映が子供みたいに拗ねるなど、そんな彼女を宥められるなどちょっと得した気分だ。
 出来るなら暗がりに連れ込んで愛でて撫でる、愛撫したいができないよなっと周囲を見渡すといつの間にか隣に涼宮の姿が。
 ニヤッと暗黒面に落ちたかのような陰険な笑みが浮かび、何かやるなと頭に警告の鐘が鳴った。

「おっと、手が滑った」
「危なっ。涼宮、お前。お約束だけど、そう言う事をするな!」

 お約束とは、一番重い十六ポンドのボールをむつきの足目掛けて落とした事だ。
 冷やりとした夏場とて嬉しくないものが背筋を上り、素早く足を引っ込めた。
 足の爪が割れる程度で済めばよいが、下手をすれば骨折だってありうる。
 本当にそうなりそうな場合、小鈴の携帯がバリアを張っていたかもしれないが。
 だがそんなむつきの注意も何処へやら、そっぽを向いて耳をほじる始末であった。
 これではむつきが我慢しようとも夕映が黙っていられない。

「もはや我慢の」
「待て、綾瀬おさえろ。俺のボールこれだから頼む。ちょっと便所、涼宮も来い」
「くっ、放せ。こいつ意外と強、痛い。解った、解ったから放せ!」

 いくら青春真っ盛りの野球部員といえど、それは中学生レベルの話である。
 最近は水泳でかつての肉体を取り戻しつつあるむつきからすれば、子供も子供。
 まだまだ腕力では大人には全く敵わない。
 ひきずる途中で何度か蹴られもしたが、平気へっちゃら、少しは痛いがトイレへ連れて行く。
 腕力で敵わず、今までの行動に涼宮の顔色が少し悪くなり始める。
 だが別に焼きを入れるつもりなどなく、連れて来た目的を知って欲しかったのだ。

「へっ、別に怖くなんかねえぞ。逆に焼きいれてやる」
「だから落ち着けって。お前が宮崎の事が好きなのは解ったから」

 頼むと宥めるつもりが、そう言うと青かった顔が今度は逆に真っ赤に。

「別に好きじゃねえし。お、俺が宮崎を。あんな根暗、俺はもっと運動が出来て」
「アイツ図書館探検部だから別に運動音痴じゃねえぞ」
「頭も良くて」
「学年トップ三十だが?」
「ほら、アイドルみたいに可愛い」
「俺は見たことないけど、ちゃんと前髪分ければ可愛いらしいぞ」

 最後のは本当に未確認情報なのだが、夕映がそう言うならそうなのだろう。
 一つ一つ退路をふさいでいくと、頭から湯気を出しながら涼宮が硬直した。

「宮崎の男性恐怖症、お前も困るだろ。協力してくれよ。ボーリングってさ、ストライクとったらハイタッチとか女の子と触れ合える素敵なゲームだぞ?」
「へっ、俺は球技は野球一筋。女とチャラチャラボーリングが」
「ハイタッチする時、胸が結構無防備なんだよな。間違えて宮崎の胸にパイタッチするかも。するだろうな、いやしよう。男性恐怖症を治す為に、仕方がねえな。仕方がない、デートの許可は学園長にまでとってあるもん。パイタッチだって込みだよな?」
「宮崎は俺が守る。てめえの思い通りに行くと思うな。早く来い、ボーリングで決着つけてやる!」

 本当、分かりやすいたら操縦しやすいたら。
 指差し挑発してきた涼宮の後から、やれやれと当時の自分を思い出し微笑ましくも。
 レーンに戻ると、まだ怯え中の宮崎を夕映達がなんとか解きほぐしていた。
 どすどす気合を入れて歩き、ボールを磨き始めた涼宮の後ろからお待たせと手を挙げる。

「先生、順番はてきとうに決めておいたけど。木乃香とのどかがちょっと苦手で、お手本見せてあげてよ。手取り足取り、そういうの得意でしょ?」

 苦手なのは本当だろうが、恐らくは早乙女なりのパスである。
 ただし、早速ボディタッチの発生とエロを含んではいたが、良いパスには違いない。
 最後のおちょくりさえなければ、最高だった。
 ボールを夢中でタオルで拭き続けている涼宮も、お手本で格好良い所をと呼んだ。

「投げ方より大事なのがこれ。足元とレーンの直ぐそこに印が横並びになってるだろ。投げ始めの立ち位置は何時も一定、それでレーン上の何処に投げると何処へ行くか知るのが大事」
「そんなまどろっこしい。球技は任せろ、おりゃあ!」

 だが説明の途中で涼宮が豪快に十六ポンドのそれを投げつける。
 球技なら任せろとばかりにそれはコースに乗って、見事にピンを蹴散らしていった。
 ちょっと勇み足だがストライクなのだから、むつきが手を差し出した。
 一応は礼儀だと鼻息荒く叩かれ、ひりひりと痛いぐらいだ。
 それは構わないのだが、次いで差し出した木乃香にまでも同じ勢いで叩いたのはまずかった。

「あたっ」

 さすがに女の子にそれはないと、涼宮の耳元で囁く。

「馬鹿、俺は兎も角手加減しろ。宮崎がひいてるだろ。合わせるだけで良いんだよ」
「うるせえ、誰がお前の言う事なんか。宮崎!」
「はひッ!」

 もはやそれはハイタッチではなく、殆どホールドアップであった。
 その両手へとちょんと触れ合う程度に合わせられる。
 これには宮崎の方がビックリしており、見つめ返した相手はそっぽをむいていた。

「脅えるから、怒鳴りたくもなる。もっと堂々としてろよ。お前、前髪なけりゃか、かわ……」

 当然だが、言いよどむ涼宮の手に今度は宮崎がパチンと手を合わせた。

「す、ストライク。凄いね」
「はっ、はは。まあな、あんなもんどうって事はねえよ。おい、お前ら何を笑ってやがる。お手本は見せてやったんだから。一球ずつ練習できるだろ!」

 もう、これが笑わずにはいられようか、特にむつきは尻を蹴られたが止まらない。
 普段早乙女がラヴ臭がと騒ぐ理由が少し理解できそうな程だ。
 なんという甘酸っぱさに、照れくささか。
 むつきも出来るなら夕映を物陰に連れ去って、抱き締めてキスをしまくりたい。
 早乙女など、何故あと数日前にこれを見なかったと呼吸困難さえ起こしていた。

「知っていたつもりでしたが、これが男性ですか。不器用にも程が」
「しょうがないさ、男の子は基本的に馬鹿だから」
「先生、他に気をつける事ってあるん? もしかして、ボーリング詳しいん? 今度せっちゃんに教えたいから、教えてや」
「ああ、待ってろ。大学時代にボーリング部のダチがいて、色々と教えて貰ったんだ」

 それから簡単にボールの持ち方から投げ方まで、教えられた事をそのまま教えてやった。
 途中、多少のボディタッチが発生したのはご愛嬌。
 触れられる度にわざと喘ぎ声をあげた早乙女は、余った腰肉をつまんでやった。
 なんでこんなに余ってるのと囁いたら、先生に悪戯される為と普通に返されたが。
 宮崎もまだまだ涼宮に対する態度は硬いが、進んで教えて貰ったり。
 このデートが上手く行ったかどうかは、ゲーム中に夕映から貰ったメールに書いてあった。
 今晩、よろしくお願いしますと。









-後書き-
ども、えなりんです。

のどかの男性恐怖症、そもそも何故かと考えてたらこうなりました。
ガサツな男による過剰な干渉で苦手になったと。
わりとありがちですが、それだけそんなもんかと。
あと、今回夕映だけが中学生で知り合ったと書きましたが。
厳密にはこのかがどのタイミングか、完全に模造です。
原作の夕映回だと、微妙に名言されてないもので……
このお話では図書館探検部で夕映だけが、中学で知り合ったことにします。

最後に、涼宮のたっくんは完全な当て馬です。
ネタバレにもなりませんが、でも寝取り系じゃないですよ?
寝取り担当は朝倉です。

それでは次回は水曜です。
やっとこさ、夕映の本番回です。



[36639] 第五十八話 絶対に、そばを離れません
Name: えなりん◆e5937168 ID:b379f023
Date: 2013/08/07 21:24

第五十八話 絶対に、そばを離れません

 その夜にひかげ荘の食堂に掲げられたのは、祝処女喪失というとんでもない横断幕であった。
 四葉の夕飯も今日は日常を逸脱して、少々豪勢に。
 特に夜に奮闘するむつきと夕映の為に、精のつく食材をふんだんに使っていた。
 ニラのお浸しにネギ生姜のタレ、馬肉とトンカットアリのサラダ、豚肉とニンニクの醤油炒め。
 明日一日は外へ出れないのではないかと言う品々である。
 特に明日は水泳の大会で必ず外へ出なければ行けないアキラは、臭いが残らない別メニューも用意されていた。
 大切な日だからとむつきの隣を美砂に譲られた夕映は、赤面しっぱなしであった。
 ただそれで終わらず、経験者の二人に色々と気をつけるべき事を尋ねていた。

「あの、やっぱり最初は痛いのでしょうか?」
「ちょっとね。けど、それ以上に幸せになれるから気になんない。夕映ちゃんは小さいから多少痛みも大きいかもだけど、その分先生に全身ギュってされやすいし」
「先生、大事にしてくれるから大丈夫。任せておけば、大切な思い出にしてくれるから」

 美砂もアキラも、痛かった事は痛かったがと特別な笑顔で当時を思い出し語る。

「うーん、さすがに七月中には間に合わなかったネ。でも私も夏休み中には体を癒して親愛的に膜を破って貰うネ」
「ちゃんと治ったらな。下手に傷つけて子供が出来なくなったとか嫌だから。葉加瀬、俺じゃわからんからそのところ、気をつけてくれるか?」
「超さんと違い、普通の人間の体は専門外ですが。やってみます」
「葉加瀬、その時は私も超の為にお手伝いを」

 教師業のみならず、水泳にまで手を出して本当に手が回らないのだ。
 例えまわったとして、医者じゃないのからお手上げである。
 そこは超と同じ天才にお鉢を回し、絡繰も手伝ってくれるのなら安心できた。

「しかし、アレだな。結局、宮崎はその鈴宮ってのと連絡先は交換したけどお友達か。他人に可愛い子を譲るとか、鬼畜路線止めたのか?」
「いえ、これは一度純愛に染めてから寝取りの一手かと。賭けは続行ですわ」
「昼間は中学生同士の拙い恋愛、夜は濃厚に大人の調教か。大人しい奴程、夜は乱れるそうだが。楽しみな事だ」
「ええなあ。先生、本屋ちゃんを調教とかするならうちも呼んでや。二人同時に調教とか燃えへんの?」

 長谷川や雪広、最後の和泉などはもう今更なので、突っ込みの一つも出ない。
 問題は背伸び発言をしたマクダウェルだ。
 これまでと違い、皆と一緒にご飯を食べるようになったのは良い。
 ニラやニンニクをちょいちょい避けるのもまだ良い、女の子だし四葉も認めている。
 だが長谷川や雪広、泉達と言った普通の意味とは違う悪童に交わらないで欲しい。
 マクダウェルが朱に染まってしまっては、アタナシアに合わせる顔がなかった。

「長谷川、お前賭けに懲りろよ。それと朝倉、お前寝取りって言葉に拒絶反応示さなくなったな。いや、俺としてはありがたいけど。小忙しくなくて」
「さすがに、勢いで生徒を襲わないってもう分かってきたし。もし、寝取られたらむつき君人形使って麻帆良都市内を素っ裸で走らせるから」
「それで巨乳美少女中学生抱けるって、安いんだか高いんだか」
「何人も何時でも、美少女中学生が抱ける先生にとっては高いでしょ?」

 まあ確かにと今夜抱く予定の夕映を軽く抱き寄せ、オデコをくっつけあった。
 本当はキスしたかったが、食事中で汚れた唇では夕映も嫌だろう。
 もう数時間後に訪れるその時を思い、夕映がますます赤面しつつある。
 ただ決して嫌がる様子はなく、むしろ好奇心に心を躍らせる程だ。
 時折、むつきの下半身へとチラッと視線を向けてはそらしたりと、むっつりさんであった。
 その夕映が何かを思い出したようにハッとし、長谷川に視線を向けた。

(さすがに、初夜を聞かれたくはないのですが)
(個人の部屋に盗聴器はねえよ。安心して女にしてもらって来い)

 このひかげ荘でむつきが知らぬ秘密を抱え、アイコンタクトである。
 当然、むつきに気付かれる事もなく、心置きなく望めるというものであった。
 四葉特性の精がつく料理で体力と気力を整えつつ、身も心も準備を始めた。









 普段、ひかげ荘内では浴衣で過ごすむつきは、管理人室でネクタイを締めていた。
 最近に教師寮から引っ越した為、身の回りのものは全て揃っている。
 着慣れた仕事着でもあるスーツに着替えていたのは、夕映のリクエストであった。
 別に夕映がスーツフェチで、初夜をスーツでと魅力を感じたわけではない。
 彼女らしい、いささか生真面目な理由がある。
 正式に恋人になる上で、舞い上がり過ぎないよう多少の戒めも含んでいるのだ。
 恐らく将来に向け、鮮明に残るであろう初夜の記憶を教師と生徒として刻みたいと。
 むつき君人形まで持ち出した為、その心意気を前にきちんと受け取った。

「うし、馬子にも衣装。言ってて悲し」

 朝の出社前と同じく軽く髪に櫛を通し、初夜の為の身支度を終えた。

「それじゃあ、行って来る」
「行ってらっしゃい。頑張って、夕映ちゃんに良い思い出あげてね」

 布団の中から横たわったまま、美砂が行ってらっしゃいと手を振った。
 倦怠期の夫婦かと突っ込みたいが、これから正妻以外に突っ込みに行くのである。
 ある意味でありがたい事かと思いなおし、管理人室を後にした。
 隣の部屋の前を通りがかると、和泉とアキラの秘め事がばっちり聞こえてしまった。

「アキラ、凄い濡れとる。ほら、聞こえる? 今頃、先生は夕映ちゃん抱いとるんやろうな。なあ、アキラどんな気持ちや? 夕映ちゃんだけを見て、先生が愛をささやいとるよ」
「亜子、意地悪しないで。四葉さんが、あんな料理一杯。もっと、奥までぇ」
「して欲しかったら、アキラ自分で開いて。奥までぺろぺろしてあげる」
「亜子ぉ、はやく」

 思わず立ち止まって襖の隙間から見たい衝動に駆られたが、我慢である。
 というか、美砂が布団から出て来なかったのは、すでに一人で始めていたのではないか。
 考えてもみれば、これから燃え上がる夜を過ごすむつきや夕映は良いが、同じ料理を皆も食べたのだ。
 頭上を見上げ、雪広達もと思ったところで、必死に頭を振った。
 本当、一人を愛したい時には誘惑が多いひかげ荘は色々と毒である。

「おーい、和泉。アキラは明日大会なんだから、早めに寝ろよ」
「せっ、ぁっ。んんぅっ!」
「マネなんやから、無茶はさせへんよ。もう、先生のせいで一回アキラがイッてまった」

 本当に和泉は何処へ向かって性長しているのか。
 今度一度、ちゃんとおしかけ教育係的な小瀬を問い詰めるのも良いかもしれない。
 再度改めて早く寝ろと言いつけてから、むつきは本命であるさらに隣、夕映の部屋の前に立った。
 管理人室の鏡で髪は何度も整えたが、縁側のガラスを使って再度確認。
 身だしなみは問題ないとふりかえり、襖を軽くトントンと叩いた。

「夕映、入っても良いか?」
「構わないです」

 襖を軽くノックして入ると、夕映は何時もの座椅子で本を読んでいた。
 割と普段通りの態度であるが、本を閉じて目の前のテーブルの上の写真立てをパタンと伏せた。
 記憶が正しければ、それは彼女が祖父と写る写真であり、良く見れば本の著者もそうだ。
 もしかすると、読書をしていたのではなく、亡き祖父を偲んで語りかけていたのかもしれない。
 そんなむつきの視線に気づいたかのように、真面目な顔で座布団を用意しつつ夕映が言った。

「今まで、私を支えてくれた人が二人いました。一人は言わずもがな、のどかです。そしてもう一人は今は亡きお爺様です。こちらへ、どうぞです」

 進められるままに布団の横に用意された座布団に、むつきは正座で座った。
 向かいの座布団に夕映も正座で座り、話を続けた。

「のどかとあの鈴宮さんがどうなるかは、神のみぞ知るところ。私もこれ以上、支えているつもりでのどかに支えられ続けるわけにもいきません」
「それがダチだろ。急に夕映が離れたら、宮崎の方が寂しがるぞ。昼間、共通の話題が持てず拗ねてたみたいに」
「アレは、忘れてください。先生は私の期待以上に応えてくれました。そして、お爺様に縋るのも今日まで。何かあれば私は真っ先に先生を思い浮かべます」
「うん、夕映らしくて良い告白だと思う」

 先に言わないでくださいと多少睨まれつつ、こほんと咳払いし改めて夕映が頭を下げた。

「私とお付き合いしてください。先生が困った方だという事は先刻承知。一人二人で支えられるとは……この言い方は卑怯ですね。私も支える一人となりたいです。絶対に、そばを離れません」
「俺も夕映に支えて欲しい。正直、この先何度泣くかわからない。そんな時、そばに居て欲しい。夕映が欲しい、全部。夕映の全てを、くれないか?」
「はい、今日はそのつもりで。制服で正装も、どうかお召し上がりください」

 顔を真っ赤にしつつ、上向きに見上げた夕映はキュッと瞳を閉じていた。
 踏ん切りをつけたと言っても、それはまだつけたつもりになっただけ。
 直ぐそこに訪れている破瓜の瞬間を前に、緊張しているが良く解った。
 正座をする膝の上で握られた小さな手の拳は力の入れ過ぎて小刻みに震えていた。
 オオカミを前にした小動物のようにとは大げさかもしれないが、怯えてしまっている。
 だからむつきも、まずはその緊張をほぐすように、良く見える額にちゅっとキスを落とした。
 それからそっと夕映を抱き締め、静かに深呼吸してその匂いを肺の奥にまで染み渡らせる。

「夕映の甘いミルクの匂い。ちょっと別の匂いもするけど、もしかして化粧してる?」
「特別な夜ですから。柿崎さん達が、色々と貸してくれました。先生の匂い、お爺様の記憶が日々薄れる中、代わりに染み込むです。寂しいですけど、これが大人になるということでしょうか?」

 お互いに連れ合いとなる相手の匂いを骨の髄まで吸い込み染み渡らせた。
 何時までもそうしていたいが、そうしていては初夜は迎えられない。
 多少の名残惜しさを胸に、互いに見詰め合って唇を触れ合わせる。
 小さな夕映の唇に唇を合わせ、ねぶりその中へと舌を侵入させていった。
 見下ろす形なのでむつきの唾液も一緒に侵入し、夕映を犯していく。
 舌同士を絡めあい唾液に塗れて水音を立て、直接触れ合っていない耳からも犯し合う。
 全身の五感を使い、お互いの存在をあらゆる方法で把握し、気分を高揚させていく。
 夕映が宣言した離れないという言葉を体現するようにキスを続け、そっとむつきは手を動かした。
 ノースリーブのブレザーのボタンをぷちりと一つ外す。

「んぅっ」

 それに夕映が気付かないはずもなく、来たとばかりに体を振るわせた。
 それでもむつきは手を止めずまた一つ、さらに一つと続けたボタンをはずして行った。
 その度に夕映は体を震わせ、ボタンの数がもう少し多ければ最後にはイッたのではないだろうか。

「夕映、脱がすよ」
「さ、先に布団の上に。腰が抜けそうです」
「じゃあ、抱えるぞ。相変わらず軽いな」

 遠慮なくむつきは夕映を抱き上げたが、軽いと言われなぜか夕映は胸を隠すように腕を交差させた。
 そうじゃないよと、そっぽを向きかける夕映をキスで止め、わかったかと視線で問いかける。

「相変わらず、ずるいです……ばか」
「あんまり、可愛い姿を見せてるとなかなか布団にたどり着かないぞ?」

 歩いて二歩か三歩、そんなはずはないのだが、キスしてばかりでなかなか進まない。
 その間ずっと夕映を抱きかかえているのだが、軽い体重に改めてその未成熟な体を知らされた。
 美砂やアキラはまだ大人っぽいが、本当に夕映は子供といって差し支えない。
 僅かながらに躊躇が浮かんだが、それを悟ったように夕映がむつきの顔に手を伸ばす。
 そしてもう大人ですと、自分から抱えられた状態でキスをせがんできた。

「先生、好きです。先生からすればまだ子供かもしれませんが、この気持ちは。抱かれたいと望んだ気持ちだけは大人に負けないつもりです」
「そうか、解った。もう躊躇しない。ちゃんと抱くから、夕映を俺のものにする」
「してください、先生のものに。私はそれを自分の意志で望みますから」

 その言葉を最後にキュッと抱き合い、むつきはそっと布団の上に夕映を横たえた。
 ボタンを外したブレザーから両腕を外させ、そのまま布団の上に広げる。
 横から添い寝をするように顔を近づけ再びキスを再開し、シャツのボタンを外して行った。
 一つ外すたびに、乳首を弾かれたかのように反応する夕映が可愛い。
 もっと、もっと恥じらい感じて欲しいが残念ながら、シャツのボタンも有限である。
 そのシャツの隙間に手を差し込み、楽園の扉を開くように大切にゆっくり開いた。

「可愛いよ、夕映」

 現れたのは薄い桃色のローティーン用のブラジャーであった。
 ささやかなふくらみをしっかりガードしていた。
 夕映の体を軽く支え、背中のホックを外してそれも取り去る。
 一枚一枚丁寧に、ブレザーから白シャツ、そして薄い桃色のブラと上着はこれで最後。
 ブラジャーの置き土産のように体の上に浮かぶ桃色の乳首までしっかり確認できた。
 相当恥ずかしいのだろう、夕映の腕がそれを隠すかどうするか、迷い浮いている。
 その手をとって自分の手と重ね、覆いかぶさると同時に布団の上に押し付けた。

「我慢しなくて良いから、隣のアキラと和泉も楽しんでたから聞こえない」
「それでも恥ずかしいです。早く、先生。羞恥以上のものをください」

 しつこいように繰り返したキスの唇を、首筋から下ろし、時折キスマークをつけつつ。
 先程見えた乳首の上で停止し、口に含んで甘噛みする。

「ぁっ、先っ生。胸が、前はそれ程でもなかったのに妙に切ないです」
「今の俺、凄く神経が研ぎ澄まされてる。あの料理のせいか。夕映の胸の膨らみが、手に取るようにわかる。ほら、ここから膨らんでここが頂点。頂点は一目瞭然か」
「なぞっ、くすぐったい。それと同時に変な、声が。くぁ、ぁっ」

 ふくらみの始まりと頂点となる乳首を舌先でなぞり、特に後者はくりくりと弄ぶ。
 目が冴え意識が覚醒しているのはお互い様のようで、夕映も良く良く乱れてくれた。
 普段は勉学をする為の制服を布団の上で脱がされている事も多少は関係しているのか。
 スーツ姿のむつきに布団で押し倒され、互いに淫らな行為に及んでいるのだ。
 教師と生徒、決して交わってはいけない間柄のはずであった。
 なのにこれから否が応でもセックスをするのだと、愛する人と結ばれる事をありありと自覚させられた。

「小さなおっぱい。五年後、赤ちゃん生むまでに二人で大きく育てような。やっぱ、哺乳瓶よりしっかり授乳した方が良いらしいし」
「んぅ、先生が。もっと触れるだけでなく揉んで、大きくしてください」
「夕映、夕映のおっぱい。お肉集めれば十分揉めるか。ほら、大きくなった」
「先生、反対側もお願いするです」

 背中やお腹からも集め、残念おっぱいが微乳ぐらいまでには大きくなった。
 もちろん一時的なものだが、揉みしだく為には最低限それぐらいは必要だ。
 肉を集め、かさ増ししたそれにしゃぶりついては手や唇でもみ上げ刺激する。
 唇と手、それぞれ一つ使えば自然と手は一つ余ってしまう。
 その手のひらは胸を弄ぶ合間に一人狂乱の宴を離れ、別の場所での宴を目指した。
 なだらかな胸を滑り落ち、すべやかな肌の上を通り、柔らかいお腹の上を通りその向こう側へ。

「ぁっ、ぁぅっ。先生、そこ」

 腰を通り過ぎた先で待つのは、チェック柄のちょっとお洒落な制服のスカートであった。
 これまたホックを外してジッパーを下げ、片手で器用にお尻を持ち上げ脱がした。
 全て脱がしてはわざわざ制服を着こんだ意味はないが、破瓜の血がつくのはまずかろう。
 女の子なので生理と言い訳は利くだろうが、恥ずかしい思いをするのは夕映である。
 なので嫌でも夕映の視界に入るよう、彼女の顔の横にそっとスカートを置いた。

「ぁぅ」

 脱がされたと、より赤面する夕映を楽しむためではない、そもそも彼女のリクエストなのだから。
 それから同時に胸を弄んでいたむつき自身も、夕映の体の上をキスをしながら下り股座へ。
 乙女の聖域を守るには心もとなく、むしろオオカミを呼び寄せる少々大人っぽい過激な紐パンツであった。
 夕映の三角地帯を等倍に広くしたような桃色の布切れが、肌にぴったりと張り付いている。
 夕食で精をつけ過ぎたせいか、紐パンの上からでもはっきりと割れ目がわかるぐらいにしっかり濡れていた。

「夕映」
「はいです」

 短いやり取りで意志の疎通を終えて、両側の紐をすっと引く。
 普段大丈夫なのかと疑いたくなる程にするっと結び目がほつれていった。
 そのままぺろんとお腹側をめくると、濡れた部分が愛液とで僅かながらに糸を引いた。
 薄く面積の小さい紐パンツの奥には、綺麗なパイパンの割れ目が見える。
 これまで幼い性器を見たのは何時以来か、水泳部の秘密の覗き穴だろうか。
 蜜の甘い匂いに誘われるように、夕映の両膝を抱えながらそっと唇を触れさせた。

「んぅっ」

 初夜の前に何度か本番以外を経験させた為、ちょっと大胆な行動であった。
 ただ夕映も初夜でいきなりのクンニに嫌な顔をする事もない。
 むしろ自分からもっと見てと言葉にこそしないが、自分で割れ目を広げさえした。
 乳首以上に桃色の美味しそうな花園が狭い隙間から見え、むつきは遠慮なくキスをする。
 以前に下の口のファーストキスは貰っていた為、セカンドキスであった。
 染み出す愛液を拾い上げるようになんどもキスをし、ディープキスへと移る。
 舌先で狭い膣口を広げる様に動かし、その少し先にある今夜限りの膜へと触れた。

「夕映、わかるか。ここ、夕映の処女膜」
「はぅぁっ、先生。そこ、触れられるとお腹の奥がキュンと。もっとなぞって、触れてください」

 今夜を過ぎれば二度とないであろう、処女膜への愛撫に夕映がわずかに腰を浮かせ始めた。
 舌が触れるだけならまだしも、腰が揺れれば引っ張られ感じているようだ。
 これは負けていられないと、処女膜を舌で広げたり押したり、舌を巻いて内から表にひっぱったりも。
 あらゆる舌使いで処女膜へと愛撫を集中させ、夕映を愛してあげた。

「先生、軽いのですけど。来るです、引っ張って。私の処女膜を」
「夕映、そのままイッてくれ。可愛い声を聞かせてくれ」
「可愛い、褒められると。イク、イクです。ぁっ、あぅぁっ!」

 夕映の腰がグンと持ち上げられ、軽いブリッジをするように痙攣し始めた。
 行き場のない手は、快楽に耐えるように敷布団のシーツを握り締めている。
 そのまま弓なりになること数秒、やがて波が去ったように夕映が降りてきた。
 コテンと布団の上に落ちては脱力し、はあはあと荒い息遣いで下腹部のむつきを見つめる。
 潤んだ瞳で自分の股座にいる男を見る目つきは、すでに少女の殻を破ろうとしていた。

「ふぅ、はふぁっ……先生、私のあそこ。入りそうですか?」
「まだちょっと狭くて硬いけど。多分、もう二、三回イッとくか?」
「疲れて寝てしまいそうです。先生、良いですよ。そのまま入れてください」

 もう少し愛撫してあげたいが、夕映がそう言うのならとむつきもベルトに手をかけた。
 可愛い喘ぎと乱れように、スーツのズボンは随分前からテントを張っている。
 早く出せと暴れるそれを解き放つ為に、夕映の体をまたぐように上から覆いかぶさった。
 改めて夕映を見下ろすと、体全体がぽうっと桜色に紅潮し喘ぐように呼吸をしていた。
 その小さな体もさる事ながら、脱がした衣服が制服だと心に来るものがあった。
 もちろん抱くのは綾瀬夕映という個人だが、自分は教師で夕映は生徒というカテゴリなのだと。

「夕映、これからお前を抱くぞ。俺だけの夕映に」

 だからもう一度確認するように聞いてしまったのは、踏ん切りの為だろうか。
 まだ呼吸が乱れ応え辛そうな夕映は、潤んだ瞳でただ一度だけ頷いてくれた。
 それならもう何も迷わないと、自分もカッターシャツを脱ぎ捨てズボンを下げる。
 一緒にトランクスも脱いで夕映に覆いかぶさりつつ、狙いを定めた。
 無毛の割れ目、先程イクまで愛撫した処女膜のあつ膣口へと亀頭を添える。
 最後にもう一度だけ、いやキスしたまま挿入する為に深く長いキスをした。

「うっ、ぁぁくっ」

 キスの途中でも我慢できず、夕映がまずあげたのは苦悶の声であった。
 喘ぎには少し遠い、まあ濡れが足りないと挿入に梃子摺るむつきの一物のせいだ。
 いや潤いとしては十分であったが、お互いに大きさが合致していないせいである。
 夕映の小さな膣口、それも膜付きとあればとても受け入れられるサイズではない。
 だがそれでも受け入れるのだと、苦痛に顔を歪めながら夕映が足でもむつきを抱いた。
 退路の道はないと、自分のみならずむつきの退路を断った。

「もう少し、夕映。耐えてくれ」
「痛っ、痛い、痛いです。体が裂ける、おまんこ壊れるです!」

 美砂やアキラが見せなかったあまりの痛がりように思わず躊躇してしまう。
 だがそれでも夕映は退路を開けず、腕でもむつきの背中に手を回し始めた。
 躊躇すればより痛みを与えるだけかと、決断を迫られる。
 せめて苦痛は、特に破瓜の痛みが一瞬で済む様に。
 退路がないなら前進あるのみと、それもむつきは駆け足で駆け抜ける事に決めた。

「夕映、ごめん。一気に行くぞ!」
「耐えるです。痛い、けど。先生、先生ぁっ。ぎぃぁかっ!」

 ズンッと夕映があげる悲鳴の中を駆け抜けるように、むつきは一気に突き上げる。
 入り口は愚か、まだ未通の狭く少し長い膣の中をむつきの一物が駆け抜けていった。
 貫かれた夕映は体の向く枕の向こう側を見上げるようにしていた。
 お腹が文字通り一杯で呼吸するのも難しいと、口を何度もぱくつかせる。
 ぽろぽろと瞳から零れ落ちる涙は、決してうれし涙の類ではないのだろう。
 せめてその痛みが過ぎ去るまではと腰や一物の動きに注意し、せめて気がまぎれる様にとキスを繰り返す。
 息が出来ないならと、密着した夕映の鼓動にあわせ人工呼吸のように息を吹き込んだ。
 心臓の鼓動に集中したせいか、一物の根元に愛液とは違う液体の流れを感じる。
 貫通した破瓜の血をしっかりと感じ、同時に夕映の意識が返ってくる事も感じられた。

「はぁ、聞いていた。痛っ、聞いていた以上に、これは」
「喋らなくて良い。お腹、撫でてやろうか?」
「お願いします、申し訳ないですが。しばらくあまり動かないでください」

 ただ正常位で密着した状態でお腹を撫でる事は難しく、体を一度起こすしかない。
 少し動いただけでかなり痛そうなので気をつけて、痛そうなら止まり、また動くを繰り返した。
 そうして体を起こすと、むつきの一物でぽっこりふくれたお腹を撫でてやった。
 素敵な思い出の夜になるはずが、ごめんねと多少申し訳無さそうに。
 美砂やアキラの時が上手く出来過ぎで、むつきに油断もあったのかもしれない。
 夕映が落ち着くまで、撫でることだけを繰り返し続けた。

「先生、そんな顔をしないでください」

 余程落ち込んだ顔をしていたのか、辛いのは自分なのにそう言われてしまった。

「確かに聞いた以上の痛みは感じてます、現在も。けれど、好きな人を受け入れここが。ぽかぽかしているのも事実です。これもまた柿崎さんやアキラさんから聞いた以上に」

 そう夕映が両手で包み込むようにしたのは、やや膨らんだ感のある胸であった。
 むつきに下腹部を貫かれ痛みこそあるが、それでも幸せ一杯だと。
 だから申し訳無さそうにお腹を撫でるむつきの手を夕映はとって微笑んだ。

「先生、私一人だけで幸せを感じても嬉しさ半減です。この気持ち、私と分かち合ってください。共にこれからを寄り添う者として」
「俺が悪かった。痛みを感じさせた事じゃなくて、大事な初夜にしょんぼり顔なんて見せた事が。多分、一生落ち込んだり笑ったりの繰り返しだけど、一緒に居てくれるか?」
「当たり前です。先生は私達が居ないと、何処までも落ちていくですよ。本当に、難儀な人に惚れてしまったものです。そろそろ、良いですよ」
「ゆっくりするから。一緒にな、この幸せを分かち合おう。夕映、いくぞほら」

 両手は繋いだままに、そのままの格好でむつきが腰を引いていった。
 血と愛液が混ざり、一物がかなりグロテスクな状態になっていたが。
 ずるずると狭い夕映の中から抜き出していく。
 ただし、抜くのは万が一にも抜け切らないよう、竿の半分程度までだ。
 きっと一度抜いてしまえば、今夜は二度と挿入は無理そうだから本当に慎重に、確認までする。

「いれるよ」
「はいです」

 再び膣内を進むのにも、辛そうに片目を瞑って顔をしかめる夕映に声をかけた。
 どんなに夕映が辛そうでも下手な思いやりはご法度だと、膣内を竿で抉り進む。
 狭く苦しいが膣壁は早く種をとむつきの一物をねぶり刺激してくる。
 ただし急げば夕映が苦しみ、察知して遠慮すれば悲しまれてしまう。
 まさに天国と地獄だと、夕映の体を味わいながら慎重に挿入を繰り返していった。

「はぁ、ぅっ。これがセックス、今私は先生とセックスしてぁっ」
「ああ、セックスしてる。今は避妊してるけど、将来的には子供作ろうな。沢山は無理だけど、俺も頑張って働くから。夕映、俺の子供を生んでくれ」
「早くても、五年後ですよ。私もそれまでに、たくさん食べて体を作るです。今のままでは本当に生む時に体が裂けるです。先生、もっと慣らしてください」
「毎日、毎日抱くぞ。夕映の体が日々できあがるよう。毎日だ」

 のろのろとしたゆっくりなセックスだけに、二人共饒舌に口が動いていた。
 特に夕映は気を紛らわす意味もあったのかもしれない。
 ただ子供、生むというキーワードが出た時には、体が歓喜に震えていた。
 今直ぐにでも生むのだと言いそうな程に、狭い膣内が更に収縮していった。

「夕映、夕映の中が狭くて気持ち良いぞ。もっと、慣れる様拡張してやるからな」
「先生、初めてが先生で心の底から嬉しく幸せです。もっと激しくしたいでしょうに。事実、素股の時は激しく。思いやりが、想われてる事実が嬉しいです」

 一瞬、褒められて思わず腰が動きそうになったが、挿入の速度は変えない。
 のろのろとそれこそ亀の様に挿入し、優しいキスの様に性器まわりの肌を重ねる。
 抜く時も同じく夕映の膣内をむつきの形に整えるようにであった。
 だがそんなセックスも、同じくゆっくりとだが終わりが見え始めた。
 特に夕映は自分の中でふくれ、ぴくぴく動き始めた竿で理解できた事だろう。
 重ねた手のひらにキュッと力を込めて、涙目の表情に笑顔を浮かべて言った。

「良いですよ、先生。私の中に、子宮にください。これも予行演習です」
「夕映、あと二回、二往復したら出すから。妊娠一歩手前まで」
「んっ、ちょっとだけ快感が。おまんこがぴりぴりする中に、ぁっ」
「夕映が感じるところ、解った。ほら、ここ」

 夕映が感じた膣内を亀頭で擦りながら、挿入していった。
 すると今度ははっきりと快楽を感じたのか、確かに夕映が喘ぎ声をささやかにだが漏らした。
 今日はここまでが限界であろうか、再びの抜きでもそこをなぞり次が最後だ。

「夕映、出すぞ。中に、夕映の子宮の中に」
「ください、先生の精液を。私の中に」

 ずぶずぶとこれで最後だと夕映の中を進み、コツンと当たったのは子宮口だ。
 もう我慢しなくて良いのだと、むつきはそこで全てを吐き出した。
 激しく腰を動かせなかった代わりのごとく、子宮口と亀頭の鈴口をピッタリとあわせ。
 その中へと精液を思い切り飛ばしては流し込んだ。
 普段の激しさは影を潜めた大人しいが大量の精液を夕映の中に注いでいった。

「んぅ、先生が。私の、出てるです。これは、ぁぅ。温かく気持ちが良いです」
「抜ける、魂まで。夕映、俺の今夜の種は今全部だすから。全部受け止めてくれ」
「はい、もちろんです。ありったけを、私の卵が溺れるぐらい。先生、好きです。もっと」
「俺も好きだぞ、夕映。これから毎日、一杯しような」

 びゅくびゅくと精液を子宮に注ぎながら、二人はそっと抱き合った。
 あくまでゆっくり、言い方を変えればねっとりとしたセックスで互いに果てた。
 全てを注ぎ込んだ後は、横抱きに抱き合いつつ布団の中で飽きる程のキスである。
 夕映は望んだがマーキング行為はまた今度と、せめてと互いに繋がったまま目を閉じた。
 抱き締めあったまま幸せに包まれながら、二人は初夜の夜をゆったりと過ごしていった。
 一枚の襖を隔てた向こう側、廊下に全ての住人が揃っている事にも気付かぬまま。

「ふぅ、先生でもさすがに夕映ちゃんレベルだと気持ち良いだけじゃすまないか」
「ひやひやしたが、上手くいったな。綾瀬の悲鳴が聞こえた時はマジで焦ったぞ。綾瀬には悪いが、これも一種の友情だ」
「うちらも、イキそうなのが引っ込んでまった。アキラごめんな、体うずく?」
「幸せそうな二人を見てたら、疼きも消えちゃった。明日、一杯お願いしよう。水泳の予選突破のお祝いに」

 美砂や長谷川がふうっと静かに息をついて、手に汗握った額の汗を拭った。
 特に和泉やアキラは隣の部屋にいたので、淫猥で火照った体も吹き飛んだようだ。
 ただ襖の隙間から覗いた光景に、もう続きを始める雰囲気でもない。
 今夜はせめてと互いに抱き合って寝るぐらいであろう。

「うむ、私の時は如何すべきカ。親愛的に、鬼畜道を歩んで貰う為に少し狭めに。葉加瀬はそうするネ?」
「私はまだそういう関係では。茶々丸こそ、まだそういう機能ないけどどっちが欲しい?」
「では、マスターをぼこひぎぃと言わせられる馬並みを希望いたします」
「何故私をだ。こっちこそ、らめぇと言わせてやろうか」

 ここで喧嘩すんなと、マクダウェルは速攻長谷川にはがい締めされ口を押さえられた。

「悲鳴に釣られ、つい覗き行為を。明日の朝は、夕映さんの好きなメニューにします」
「一応、そこは悟られないように上手くね。釈迦に説法だけど。それにしても私生活はアレだけど、先生セックスには滅法強いね。アレでガンガンいかないとか」
「実は一番の特技だったりしますから。時に皆さん」

 珍しく四葉の姿まであり、もし動揺しているならと朝倉がフォローしている。
 ただそのフォローに多少付け加えた雪広が、皆に改まって問いかけた。

「体が疼いて仕方のない人は、十分後に遊戯室に集合で。今夜の先生は夕映さん専用ですので、互いに慰めあいましょう」
「私は明日大会が……」
「ちなみに、先生のこれまでのセックスを映像化した特別DVDの上映会も」
「あるけど、先生が人魚姫って言葉に惑わされず自分らしくって言ってたから良いよね?」

 小鈴の台詞にあっさりと意見を百八十度変え、結局全員参加である。
 もちろん優しい仲間思いの皆は、アキラの心変わりには何も突っ込まなかった。









-後書き-
ども、えなりんです。

やっと三人目の処女喪失。
亜子はまだお尻だけですから、ノーカン。
よくもまあ、こんな進みの遅いお話にお付き合いいただけているモノです。
今回主眼は夕映との初夜なのですが……
他の面々も、ちょいちょい変わり始めた点が。
特にエヴァと茶々丸。
普通に皆に交じってます。
ご飯も一緒に食べる様になりました。

まだまだ夏休みは続きます。
それでは次回は土曜日です。



[36639] 第五十九話 あの人、微妙に俺の事を怨んでないか
Name: えなりん◆e5937168 ID:b379f023
Date: 2013/08/10 20:35

第五十九話 あの人、微妙に俺の事を怨んでないか

 麻帆良男子高等部の教師である葛葉刀子は、数日ぶりに太陽の光を見た気がした。
 夏の鋭い光を一身に浴びて背伸びをするとゴキゴキなる体に歳を感じもする。
 だがこれ以上引きこもっていては、必死に再婚の為に踏ん張ってきた毎日が全て無駄に。
 だからこそ女性教師用の寮にある自室にて、その数日ぶりにカーテンを開いたのだ。
 あの夏祭りの日からずっと、大切な妹分に心配させつつ引きこもってきた。
 全力で自分を愛してくれそうな年下の可愛い男に振られ、踏ん切りをつけるのにも失敗し。
 一応今なら、五年後などと自分を想って振ってくれた事ぐらいは理解できている。
 それに五年もあればきっと、もっと良い男の一人や二人、たぶん捕まえられるはず。
 そして文字通り引きこもって泣いて暮らし、教師としての仕事もはるか彼方ですらあった。
 学部合同の剣道部顧問としてもサボリまくり、その辺りは食事も含め本当に妹分の世話になってしまっていた。

「八月一日、ですか。魔法先生としても、随分と迷惑を……神多羅木はもう少し苦しめば良いのよ。一人だけ勝手に、ふん」

 多少胸の内で燻る感情は、長い付き合いの同僚に全て押し付けた。
 携帯電話を手に持ち、毎日定時に送られるむつきからのメールを開く。
 そして一緒に頑張りませんかという内容に、諦める代わりに是非とようやく返事を返した。
 まだ完全に吹っ切れたわけではないが、本当にこれ以上は駄目であった。
 現在時刻は朝の七時半、そろそろ妹分がと思っているとチャイムが鳴らされた。
 久しく掃除をしていない部屋のゴミを蹴飛ばし、玄関に出迎えに。

「おはよう、刹那。ご飯、用意してくれるのでしょう?」
「刀子、お姉ちゃん。何時も私が部屋に入っても布団の中で」

 合鍵を探し、制服のスカートのポケットに手を突っ込んでいた桜咲が唖然としていた。

「まあ、これ以上駄目なお姉ちゃんでいるのも悪いわ。まだ先の長い人生、ゆっくりやるわ。それに折角お嬢様と仲直り出来たのに、三十路のお姉ちゃんのお世話に時間を取られる妹分が可哀想だし」
「うん、私もできる事があればなんでも手伝う。乙姫先生も手伝ってくれるそうだから、一緒に頑張ろう。刀子お姉ちゃん!」

 駄目姉が立ち直ったと、感極まって桜咲が刀子へと抱きついた。
 ただとある事情で人並み以上に鼻が利いてしまう桜咲である。
 上下の下着のみの刀子に抱きついて直ぐに、体臭が臭って固まった。
 クーラーの効いた室内とは言え、真夏に何日も風呂に入らず引きこもっていたのだ。
 これは再婚以前に人として駄目だと、すぐさま離れて部屋の中へと押し込んでいった。

「刀子お姉ちゃん、シャワー浴びてください。そのうちに、ご飯の支度をしますから。今日はあまり時間がありません。大河内さんの水泳大会をお嬢様と応援に行く約束を」
「そんなに臭うかしら。久しぶりに、私も剣道部に……」

 吹っ切れついでに少しずぼらにもなったようで、臭いかと腕の匂いを嗅いだりする。
 自分では良く分からないと、お尻をかきながら風呂場に向かう途中でピンと閃いた。
 桜咲が、お嬢様と長年冷え込んでいた幼馴染と復縁した事で。
 あれだけ期待させてくれたむつきへの、ちょっとした意趣返しを含めて。
 ただまずは身支度だと、再婚にはそれが必要だとばかりにシャワーを浴びに向かった。
 シャワーでさっぱりすると、改めて自分が臭っていた事が自覚させられた。
 もはやアレは異臭の域だと改めて自堕落だった自分を戒め、まずは朝食である。
 早炊きされた白米に恐らくはお嬢様お手製のお味噌汁に、レンジでチンされた塩鮭。
 あとはパリパリ海苔とある意味で自堕落の始まりの切欠と向かい合った。

「本当に悪いわね、刹那」
「刀子お姉ちゃんのお世話が出来て、少し嬉しかったですから。さあ、頂きましょう」
「本当、大きくなったわね。私も歳をとるわけだわ」

 自虐は駄目と少し睨まれ、苦笑いしつつお互いに頂きますと一礼した。
 お互い心は親しくとも元来饒舌な方ではなく、それはもう静かな朝食であった。
 器を置いた音や、海苔をパリパリと食む音などそれ以外には何もない。
 喋ってはいけないゲームをしているようでもなり、声が復活したのは食後のお茶である。
 ずっと互いに緑茶をすすり、はあっとお腹が満たされた時の溜息がそうだ。

「うん、これで最後にしましょうか。刹那、明日からは大丈夫。大人ですから、自分でなんとかするわ。でも、たまになら一緒にご飯食べましょう」
「はい、わかりました。また体育館で稽古をつけてください。今はまだ未熟ですが、私は前以上に自分を強く鍛えたいです。お嬢様の為に、心も体もお守りする為に」
「良い覚悟です、刹那。本当に良い覚悟」

 話すなら今かと、刀子は照れ照れと笑う妹分へと温かな眼差しを送り言った。

「刹那、以前の夏祭りで私が貴方を脱がした時、何を口走ったのか覚えていますか?」
「えっ、アレは言葉のあやというか。決して刀子お姉ちゃんが男に飢えて女同士に目覚めたとか本気で思ったわけでは!」
「へえ、そうですか。そのような事を考えていたわけですか!」
「え、あれ……もしかして別の。いえ、それこそ言葉のあやといいますか!」

 あの時は幸せの絶頂でスルーされたが、今度はそうはいかないと飛び掛られる。
 体育館まで待てないとばかりに、刀子が桜咲を押し倒した。
 妹分の成長を確かめてくれるとシャツの上から胸に手を這わせ、まだまだと余裕の笑みだ。
 さすがに下は生えているかと確かめようとしたが、それこそ絶対死守と拒絶された。
 しばし、本物の姉妹の様に喧嘩気味に成長具合を確かめつつ。

「今日はこのぐらいにしておきますか。私が言いたかったのは、初めてはお嬢様がという貴方の台詞です。言っておきますが、お嬢様は正常な方ですよ?」
「いえ、それこそ、それこそ本当に言葉の。お嬢様は本当にお綺麗な方で、私などはおろか釣り合う男性がとても、全く、全然いない有様で」
「女同士でお嬢様と添い遂げられる方法が一つあるのですが」
「くっ、詳しく。その方法を詳しく教えてください!」

 直前までの躊躇や卑下は何であったのか、桜咲は身を乗り出して必死であった。
 やはり素質があるからなのか。
 私を捨てはせずとも無駄に期待させた罪を少しは償えと、刀子は薄く笑っていた。
 それがまた、一騒動起こす事になるとは、妹分の人生を根幹から変える事になるとは思わずに。









 八月一日は麻帆良女子中の水泳部の全国大会予選、つまりは地区大会であった。
 麻帆良のとある水泳施設に埼玉中の中学校生徒が集り、三日間を掛けて全国大会出場を争うのだ。
 全国大会への出場は優勝と準優勝の二校である。
 もちろんそれはリレーの話であって、各種目の個人の部も当然ながらあった。
 麻帆良女子中等部、期待の星であるアキラの出場はリレーとクロールの個人の部。
 特に自分の力を出し切れさえすれば良い個人の部は、非常に期待が掛かっていた。
 二年A組のクラスメイトもこの日の為にと、階上の応援席からの応援にも熱が入った。
 だがその応援を受けたアキラは、顔色が悪く非常に体調が悪そうである。
 プールサイドを歩く間もふらふらと、何時プールに落ちやしないかとハラハラしっぱなしだ。

「アキラ、お前どうした。和泉、お前まさか昨日の夜に無茶させてないだろうな」
「あはは、させたというか。アキラがしたっていうか。ちょい返答に困ったり」

 乾いた笑いを見せた和泉に、ますます不安は募るばかりだ。
 今さら言っても詮無い事だが、なんで大会前日にと思わずには居られなかった。
 それが夕映を悪い意味で鳴かせたむつきのせいと知ったら、平謝りになるだろうが。

「リレーが最終日で良かった。アキラ、いけるか。お前周りから無茶苦茶意識されてるぞ」
「先生、大丈夫落ち着いて。予選は軽く流して、油断を誘う。午後の本選では一気に勝負をかけるから。ただ、その為に」

 そこからはこそっと耳打ちで、むつき君人形を使わせてとの事であった。
 お願いは、予選後のお休み中に何処かで充電させてとのお願いである。
 もちろん比喩的な意味で、セックスではなく、心の充電という事だ。
 選手のケアは顧問のむつきの仕事であるし、むしろ望むところなのだが。
 他にも出場選手がいるので、むつきはアキラ一人に構いきれないのも事実である。
 一先ずこの場は和泉に任せ、急ぎ別の生徒の下へと向かっていった。

「小瀬、そっちはどうだ?」
「んー、なに慌ててるの? 元々、個人の部もある程度、出場選手は実力で絞ってるし。一年生は数人、二年生は去年で経験済みだし。むしろ、先生が落ち着いたら?」
「落ち着けるか、こちとらにわか顧問だぞ。あれ、朝日。お前も出場だっけか、いけるか?

 一人で勝手に右往左往して、小瀬の隣にいた朝日に気付いた。
 思わず気軽にも競泳水着姿のその肩にばんばんと手を置いてしまった。

「来年以降の為に出ておけって小瀬先輩が。あの、私が言うのもなんですが落ち着いたらどうです? 先生がテンパってるのをみてると、逆にこっちが落ち着きますけど」
「よし、なんか知らんが役立ったか。大丈夫なんだな、大丈夫なら大河内の方に戻るから。あいつ、今日ちょっと調子悪いみたいで」
「先生、自重しなよ。大会前夜にやり過ぎとか特にリレーでは気をつけて」

 当然その小瀬の声は小声だが、違うわいとむつきは小瀬の頭を軽く叩く。
 ちょっと口が滑って別の子の初夜がと言ってしまい、唇を吹かれた。
 さらに誰、どれと応援席にいる二年A組の子らを指指され、しどろもどろに。
 夕映と目があい、彼女がぼっと赤面してすっかりばれてしまったが。
 兎に角、他の生徒は任せたと小瀬に丸投げし、再びアキラの元へ。
 だがその移動中にピストルの火薬の炸裂音が、一言投げる間もなくスタートしてしまった。

「アキラ、頑張れアキラァ!」
「変顔、隣のレーンも早い。変顔で笑わせれば一発だにゃあ!」
「競泳水着ってさ、良いよな。食い込みを直す指とか浪漫だよな。直しても直しても常に食い込む強制水着。どう作る、材質は。くっ、自分の未熟さが恨めしいぜ」
「ちうちゃん、一緒にビッグサイト行こうってば。あれ、旅行って確かお盆。旅行中じゃんか。アイタタタタ、すっかり忘れて。でも私だけコミケとか、ただでさえ腐ってるのに私だけ共通の夏の思い出がないとか痛過ぎる」

 一生懸命応援しているのが佐々木や明石といった親友組である。
 他にチア部である美砂や釘宮、椎名も負けず劣らずチアコスで踊っていた。
 一方全く別視点で悟った顔で語っているのが長谷川とショックを受けた早乙女だ。
 当然、クラスメイトの晴れ舞台にと雪広と近衛からキツイ一発を貰っていた。
 それは兎も角として、アキラである。
 いやこれはもはやなんと言うべきか、言葉もないというような状況であった。
 アキラは軽く流してと言い、部活で何度も見ているので軽く流しているのはわかる。
 ただ元々がアキラは周りから浮く程に実力のある水泳選手、麻帆良の人魚姫なのだ。
 軽く流しただけで頭一つ二つぐらい抜けている、むつきが慌てただけ無駄と言うものであった。

「先生、はよこっち。アキラ一番、アキラ一番」
「おう、そうか。麻帆良の人魚姫は伊達じゃないな」

 むつきもぴょんぴょん飛び跳ねる和泉に手を取られ、一緒に大喜びだ。
 顧問として生徒一人に入れ込みすぎだが、勘弁して欲しい。
 アキラは恋人なので色々と特別なのだ。
 一応他の生徒は小瀬に任せてあるので大丈夫なのだろうが。
 逸早く向こう岸に辿り着いたアキラは、振り返って二人に手を振る余裕さえ見せていた。

「ぶっちぎりなんですけど、アキラやっぱ凄いわ」
「これは、午後からも応援のしがいがあるね」
「いよっ、人魚姫!」
「ぶい」

 チア三人組の美砂や釘宮、椎名に応え、小さく呟いたそんな声さえ聞こえたかのようであった。
 ただ流したと言うだけあって、上位グループで予選突破こそしたがタイムが振るわない。
 次は午後だと一応他の生徒の結果を小瀬から聞いて、むつきはアキラを連れ出した。
 和泉から体調不良の原因も聞きだし、この野郎と今夜はお仕置き決定である。
 それはもう盛大に鳴かせてやるつもりだが、今はアキラであった。
 全員の予選が終了し、朝日がちょっと涙を零した事もあったが、全員に昼食と休憩を言い渡した。
 お昼の部の前の集合場所も決め、一人でうろうろするなとだけ注意である。
 それから小瀬、和泉、朝日に各学年の取り纏めを頼み、アキラを連れ出した。
 施設内では場所がないので悪いが一度着替えさせ、目指したのは漫画喫茶だ。
 特に完全個室のあるそこで軽く食事をさせてアキラを寝かせるつもりである。

「あれ、小鈴は?」

 途中、極自然に美砂と夕映が合流した為、一人足りないとそう問いかけた。

「何時もの含み笑いして、どっか行ったけど。超りんの事は良く解んないし」
「また何か悪巧みでしょうか。あっ、待ってください。あそこがヒリヒリ歩きにくいです」
「夕映ちゃん、先生のスーツのそでに掴まって歩くといいよ」

 結局その行方はわからず、解った事と言えばまた夕映が破瓜の痛みに苦しんでいる事だ。
 だから左手はアキラがとっている為、夕映には右手を貸してやる。
 昼間のそれも麻帆良市内の為、直接手は握らずそでを貸す程度であった。
 一人余った美砂には悪いが、携帯で調べた喫茶店に入店した。
 一応カモフラージュの為に二部屋借りて、カウンターでも少し寸劇を行なう。
 何せ三人とも学外での行動の為、制服着用なのだ。
 ちょっと声を大きく、アキラを休ませてやってと頼み三人を先に行かせた。
 むつきは軽く暇つぶし用の漫画を物色してから、三人が居る方の個室へ向かった。
 ドアに覗き窓もない完全個室の、床全体がベッドマットになった部屋である。
 四人はさすがに狭いが、密着したいのでそれはそれでありがたい。

「アキラ、確か四葉が専用の消化の良い弁当くれたろ。先に食べるか?」
「うん、軽く食べて……先生早くドア締めて。予選突破のご褒美欲しい」

 プールで冷えた体を気分で紅潮させ、そうおねだりされてしまった。
 美砂や夕映にはちょっと待ってとお願いし、まずは今日の主役のアキラである。

「よく頑張ったな、偉いぞ。けど今後、大会前は控えような?」
「うん、身に染みた。リレーが最終日で本当に良かった。んっ」

 唇を触れ合わせる大人しいキスだがしっかりと味わい、アキラの体から無駄な力が抜けていく。
 アキラの臨むままに堪能させ、やがてよしと気合を入れて拳を握った。
 充電はそれなりに出来たようで、鞄からお弁当を出して食べ始めた。
 正方形の個室にてアキラを最奥に、次にむつきで膝の上に夕映を、ドア側に美砂の配置である。
 むつき達も一緒にご飯を食べたがやはりアキラは過度の緊張と運動の後であった。
 一人ぱくぱくとお腹に詰め込んでは、むつきのスーツの裾を掴んでコテンと寝てしまう。
 お休みとまだ湿り気のある髪を撫で、美砂と夕映の相手に戻る。

「夕映、体の方は大丈夫か。痛かったら撫でるけど」
「気分が盛り上がってしまいそうで、局部でなくお腹をお願いするです」
「先生、私も。キスして。さすがにアキラは寝てるから、本番は良いから」
「美砂もかい。良いけど」

 膝の上にいる夕映の頭の匂いをかぎつつお腹を撫でてやった。
 手当ての言葉が示すとおりまだ違和感と僅かな痛みが残るそこを撫で付けた。
 それから逆の右手で美砂を抱き寄せ、存分に唇に吸い付き唾液を貪る。
 狭い個室で密着し、くうくう良く寝るアキラを起こさないよう声を押し殺して。
 夕映がお腹の上のむつきの手に手を合わせ、キュッと体を丸めた。

「ピリピリしてたお腹がじんわり温かく、もっと撫でてくださいです」
「夕映ちゃん、一応パンツ脱いだ方が良いよ。着替え、ないでしょ? 脱がしてあげる。前からこの紐パン、脱がしてみたかったんだ」
「おい、あまり声出すなよ。アキラも寝てるけど、防音なんて……そうだ、携帯」

 小鈴が極所的な防音効果も出来ると言っていた事を思い出し、念のためにそれも設定する。
 その間に夕映が自分でスカートをたくし上げ、美砂が紐パンの紐を楽しそうに引いた。
 脱がすの楽しいと鼻歌交じりで、面積の少ない布切れ同然のそれをむつきへ渡す。
 そして自分はと、夕映の可愛い割れ目をぺろりと舐めた。

「夕映ちゃんの味、痛くないようぺろぺろしてあげるね」
「お、お願いするです。先生、キスしてください。あとパンツの匂いをかぐのは」
「夕映の濃い匂い。ほらこっち向いて、夕映。直接匂いくれ」
「んぅ、先生。ぁっ、柿崎さん。まだ開くと痛いです」

 上と下の口を同時に責められ、特に下の口に反応していた。

「ちょっとだけ破瓜の血の味、ちゃんと洗わないと。私が綺麗にしてあげる。んぁ、んふ」
「まだ痛くてきちんと洗えなかったです。けど今は痺れるです、先生。もっとキスを胸もまた揉んでください」
「手、入れるぞ。ノーブラか、おませさんめ」

 リクエストに応え制服の裾から手を差し込むと、胸に直接触れるのに邪魔が一切なかった。
 だから胸周りのお肉をかき集めて、一端とまではいかないまでもおっぱいに仕立て上げる。
 どうやら夕映はこれがお気に入りのようで、そのままふにふに揉んでやった。
 普段はないふくよかさに、もう夕映は夢中である。
 小さなぽっちも、嬉しそうに顔を上げてはぷっくり膨れ上がっていた。
 しかし本人は、声を抑えようと鍵爪型にした指を咥えて必死に声を押し殺している。
 股座で美砂が懸命に破瓜の痛みを舐めとり癒してくれている事もあるだろう。
 良い正妻さんだと、ご褒美に撫でつけてやるとその手にごろごろ甘えてきた。

「美砂、続けてあげて。夕映、声我慢できるな?」
「毎回痛いのは可哀想だもんね。私も女の子の拡張手伝ってあげる」

 夕映は応える余裕もないようで、コクンと頷くのみ。
 美砂が割れ目を少し開いて舌をくねくねさしこみ、膣穴を探す。
 小さな水分さえ見逃さぬようモグラの鼻先のように、愛液を見つけてその水源へと向かう。
 膣穴を見つけては拡張するように舌をうごめかせ、昨晩まで膜のあった膣を嘗め回す。
 むつきも夕映を振り返らせては唇を奪い、もぞもぞと制服の中で手のひらを動かした。
 ビクビクと時折夕映の体が震え、絶頂も近いようだ。

「何時でもイッて良いから。破瓜の痛みが消えるまで、何度でも」
「んぅっ、くぅ。んんっ」
「甘い蜜出てきた。ほら、夕映ちゃん。イッちゃえ、気持ち良いんでしょ」

 ほらっとまだまだ狭い膣に小指を入れて、美砂もむつきの上に、夕映の上に跨ってきた。
 ちゅっちゅっと百合百合しいキスをし、俺も混ぜてとむつきも参加だ。
 三人で代わる代わるキスをして、その時は来た。

「イッ、んぅっ!」

 思わず声が上がりそうな夕映の唇を、美砂がしゃぶりつくように塞いだ。
 美砂の口内にその絶頂の声は閉じ込められ、二人して呻いては唇の端から唾液を漏らす。
 勿体無いとむつきがそれらを舐めとり、二人に挟まれ夕映がイッた。
 ビクンビクンと体を震わせ暴れ、こらっとさらにサンドイッチされる。
 その波が収まる頃にはぽうっと頬まで紅潮させ夢心地であった。
 可愛いなあとむつきと美砂の二人でキスの雨を降らし、精一杯可愛がってあげた。

「んぁ、も……漏るです」

 ぷるぷると今までとは異なる意味で夕映が体を震わせるまで。
 慌てた美砂が紐パンをむつきから奪い返し、付けさせようとしたが断念。
 ちょっと行ってくると夕映を抱えてトイレへと連れて行った。
 残されたむつきは、ちょっと手持ち無沙汰で大人しく寝ているアキラを撫でる。
 むうむう微笑む様が微笑ましくこいつめと頬を突いたりしているとノックされた。
 まさか他の客からのクレームで店員がとビクついたが、そうではなかった

「親愛的、私ネ。隣のお部屋にお客さんよ」
「小鈴か。先に電話してくれ、ビビッたじゃねえか。それに客ってこんな場所に?」
「大事な生徒が人生を賭けた相談ネ。教師にお休みはないヨ」

 小鈴が同行しなかったのはそのせいか、一体誰がとカモフラージュに取った隣へ向かう。
 寝ているアキラだけだと無用心なので、伝言も込みで小鈴を残していく。
 そこで待っていたのは、何時もの竹刀袋を傍に置いた桜咲であった。
 本当に何やら深刻そうにベッドマットの上で正座をし、両の拳は膝の上。
 私は思い悩んでいますとばかりに、俯いたまま顔も上げる気配はない。
 むつきが来た事には気付き、一度だけ視線を向けたが軽い会釈の後でそのままうつむいてしまう。

「桜咲、お前なんかあったのか? 夏祭りの時は、凄い楽しそうだったじゃないか」
「その節は、大変お世話になりました。刀子お姉ちゃんから、経緯は聞きました」

 正直、どの経緯か謀りかねるのだが、ひとまず頷きベッドマットに上がりこんだ。
 桜咲の正面にて、胡坐でどっかり座り込む。
 行為の途中で半立ちだったので少し苦労して位置を直し、改めて向き直った。

「超の話だと、悩みがあるみたいだけど。幼馴染の近衛と無事復縁できて、まだ何かあるのか?」
「その件で、お嬢様。でなく、このちゃんの件で」

 まだ慣れていないせいかついお嬢様と呼び、すぐさま呼びなおしていた。
 本人がいないのに言いなおすとは、どうやら心から復縁はなったようだ。
 しかし、その上となるとむつきで聞きいれ解消する事ができるのか。
 以前、雪広の悩みを解決し損ねただけに、及び腰となってしまう。

「おう、言って見ろ。学園長のお孫さんに、俺が何してやれるかわからんが」
「さ、妻妾同衾という言葉について、どう思われますか?」

 ぽかーん、桜咲の問いかけを聞いた時のむつきの表情はまさにそれであった。
 聞き間違いか、近衛について相談されたはずが。
 確かに近衛が男でいずれ学園長の地位を譲られたりすれば、あるかもしれないが。
 近衛はそもそも女であり、麻帆良学園都市は学園長の権限こそ強いが近衛家のものでもない。
 つまり、普通に今後を暮らしていって近衛が継ぐような事もまずはないだろう。
 近衛が妻妾と同衾、この場合は桜咲が正妻か妾か。

「すまん、さっぱりわからん。と言うか、質問の意味も意図も。登場人物をまず、整理しよう。正妻、これ誰?」
「このちゃんです」
「じゃあ、妾は?」
「私です」

 確かにそうであれば妻妾はそろうが、そもそもの同衾の主役がいない。

「登場人物終わったじゃん、もう意味不明過ぎる。お前、ちゃんと夏休みの宿題やってる? 夏休み終わったら実力テストあるんだぞ」
「いえ、最近は刀子お姉ちゃんのお世話が忙しく」
「ごめん、それ俺のせいだわ」
「あれ、今朝には復活されましたが。例の旅行の件も含め、先生に連絡すると」

 それは朗報と携帯電話を確認してみると、確かに一通のメールが届いている。
 開いてみると、ご迷惑をお掛けしましたという一文がまず読めた。
 それから再婚まで交際とは違う意味でお付き合いくださいというお願いであった。
 他には頼んでいた旅行の引率も、何故か特に京都はと強調され了解された。
 後はむつきが相応しい相手にめぐり合えるよう手伝うだけだ。
 いやいや、一応一安心かとほっこり笑顔で携帯を閉じ、桜咲と目が合った。
 忘れていた、一瞬本気で忘れていたと頭を抱え、もう少し情報の整理を試みた。

「刀子さんは一先ず置いておいて。近衛と桜咲でそれぞれ、妻妾。なんとなく、お前の魂胆も見えてきた。女同士ってのもありっちゃーありだけど、近衛は?」
「お、このちゃんは純粋やから。それに私が勝手に、このちゃんも同じ気持ちなら嬉しいって。いや、きっと同じはずや!」
「叫ぶな、ここ漫画喫茶。もう、何この子。刀子さんに通ずる何かがあるよ」

 思い込んだら一直線、周りの迷惑も顧みるどころか手を掴んで引きずりこむ感じだ。
 既に巻き込まれた身としては、恐らくは逃げ出せない事だろう。
 何故こんな面倒を持ち込んだと、生徒の相談だが小鈴を恨まずにはいられない。
 そう、小鈴なのだこのお話をそもそも持ち込んできたのは。

「ちょい、待て。待て。そもそも妻妾同衾なんて古臭い言葉、誰から?」
「刀子お姉ちゃんが、このちゃんとずっと一緒に居たかったらって。何処の馬の骨とも知られない相手に奪われるぐらいなら。せめて、私が認めた人に一緒に」
「あの人、微妙に俺の事を怨んでないか。まあ、幸せになる為の助力は惜しまんが。お前が近衛を大好きなのは解った、多少独り善がりだが。で、肝心の相手は?」

 何故かそこでじっと見つめられ、胡坐をかいたままふいっと体を傾けた。
 それを追うかのように桜咲の視線も追いかけてきたので、一度立って位置を変える。
 それでもまだ執拗に、発信機でもあるかのように追跡されてしまった。
 いやまさか、これまで教師と生徒とはいえ、殆ど関連という関連もなかったのに。

「お前、超に何を吹き込まれた?」

 疑うとすればそこ、小鈴以外に思い当たるものが他になかった。

「私とて、今の時代に妻妾同衾を行なえる男性が少ない事も承知しています。が、仮にできる人と言えばあまり人柄が良くない事も。最初は刀子お姉ちゃんでしたが。なんと言えば良いか迷っているところへ、超さんが」
「いやね、俺も正直に言うとお嫁さん候補とお妾さんがいるの。誰かは言えないけど。けどお前完全に、目的と手段があべこべだ。好きだから一緒になるの、手放せないから両方抱くの。正妻と一緒にいたいから取り合えずとか、ないわ」
「誰も先生に決めたとは言っていません。あくまで、候補。刀子お姉ちゃんを泣かせはしましたが、幸せになる手伝いをとは見込みがあります。運良く、今は夏休み。見定めさせてください」
「なにこれ、一人に認められたら次とか。バトル漫画のインフレじゃないんだから。一体俺は後何人の処女を食えば許される。あと、何人お嫁さんを作れば……」

 泣きたくなってきたと、せめてもの抵抗に困れ桜咲とばかりにむつきはその場で倒れ込んだ。
 美砂や夕映、寝ていたアキラまでもが察知して慰めにやってくるまで。
 一体どうしてと戸惑う桜咲の前で、うつろな瞳で天井を見上げ続けた。









-後書き-
ども、えなりんです。

ちょっと今回、わかりづらいところがあるかもしれません。
そもそも、何故刀子が妻妾同衾を進めたのか、とか。
本来本文中で説明すべきことかもしれませんが。
要は、生徒から妻妾同衾を前提に迫られ苦しめと。
もちろん、手を出してはいけないことが常識的に前提となってますが。
そこへ超が乗っかったと、そんな感じです。

完全に、恨み返しミスってますね。
その生徒を前日頂いちゃったばかりですし。
西のお姫様が動けば、次はどうなるか。説明するまでもありませんね。

それでは次回は水曜です。



[36639] 第六十話 それこそ世界だって親愛的にあげるネ
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/08/14 23:08

第六十話 それこそ世界だって親愛的にあげるネ

 一先ず、桜咲と近衛のひかげ荘への入寮は数日の間、先送りにして貰った。
 桜咲も近衛への説明等、色々とあるので了承してくれた。
 むつきはもはや教師と名乗る資格もあるかどうか、されど公的には麻帆良女子中の教師である。
 それも水泳部の顧問として、八月三日の夕方までは水泳部に専念する必要があったのだ。
 そのおかげ、というわけでもないが水泳部は三日間の戦いに無事打ち勝ち全国出場を果たした。
 個人の部ではアキラが埼玉代表として、リレー部門でも選抜メンバーが優勝。
 特にアキラは両方で全国と言う事もあって注目の的であった。
 麻帆良スポーツ新聞等にもインタビューされ、顧問として呼ばれたむつきは無知をさらしただけだ。
 これで強化合宿は決定かと、頭の中では合宿計画を練っていたので仕方がない部分も。
 そうして特に顧問として不慣れなむつきにとって、忙しない三日間がようやく過ぎ去っていった。
 現在はひかげ荘の食堂にて、少しむつきも金銭を出してのご馳走であった。
 椅子は片付け立食パーティ状態で、アキラを囲んでこの三日間の大会を肴にお喋りである。
 ちなみに、ここにいないクラスメイト達とは昼間のうちにおめでとう会を実施済みだ。

「アキラ、ダブル優勝おめでとう。今まで一杯、頑張ったもんな」
「うん、けど。泳いでいる時よりも、その後のインタビューとかの方が疲れたかな」
「確かに凄かったな。私らも友人代表とか、まあそこは早乙女に熱くBL語って貰って難を逃れたが。大河内、そういう楽な生き方も覚えろよ」

 乾杯の音頭をむつきがとると、まだ目がしぱしぱすると大量に浴びたフラッシュにアキラが苦笑いしていた。
 その被害はどうやら二年A組の応援団にも及んでいたようだ。
 ただそこは長谷川が機転を利かせて早乙女バリアーを張って撃退したらしい。
 しかしながら、インタビューされたかったと残念がる者がいた事が容易に想像できた。

「長谷川さんはふてぶてしくなりすぎです。それではお嫁の貰い手がありませんわよ」
「なに言ってんだよ、委員長。私らには最終兵器、先生があるだろ。直ぐ泣くのが珠に傷だが、悪くないんじゃねえの。なあ、先生?」

 裁定者や断罪者の件は何処へ行ってしまったのか。
 長谷川がジュースを持ち上げながら、気楽にそう問いかけてきた。
 半分は冗談だと分かっているので、美砂達も苦笑いするだけであった。
 普段はむつきも眼鏡属性がと笑いながら断る所なのだが。

「あっ、ああ。止めとけ、ろくな事がないぞ」
「先生、どうかしたの。ちょっと元気ない?」

 思い切り自嘲的な笑みが零れてしまい、美砂に心配されてしまった。
 美砂のみならず、折角の祝いの場だというのに皆が何事かと見つめてくる。
 だからグッと奥歯を噛み締め、無理に笑ってでも答えた。

「お前より先に、桜咲と近衛が予定に入ってる。お前はその後だよ」
「今度は和風お嬢様とボディガードか。先生、生徒を狙い過ぎでしょ。ちうちゃん、残念でした。お呼びでないってさ」
「はいはい、先生は眼鏡属性ないもんな。葉加瀬、お前ずっとコンタクトでいた方が貰って貰える確率高いぞ。それに面倒だろ、一々変えるの」

 狙い通り、朝倉がからかい長谷川は肩を竦め、話の矛先を葉加瀬へと向けてくれた。

「ですが、機械を弄る時は保護の意味もあるのでずっとコンタクトも出来ないんです。あっ、いえ。先生に貰って欲しくないわけでも。なかったり、その……」
「激しい動悸の変化に心拍数の上昇を検知、これらの数値から推測するに」
「無粋な事は止めろ、茶々丸。好いた惚れたは他人が口を挟む事ではない」

 げしっと絡繰の足を蹴ってマクダウェルが止め、ワイングラスを煽っている。
 雪広がそのワイングラスに指を突っ込み一舐めし、なによりもまずそれを取り上げた。

「なにをこっそり飲んでますの。アタナシアさんのように素敵なレディになれませんわよ」
「あんな姉ちゃんいたら、背伸びしたくもなるけど。酒飲んでんじゃねえよ」
「痛っ、止めんか。私を誰だと」

 酒を飲むな、酒をと雪広や長谷川から頭をぼこすか殴られていた。 
 随分とひかげ荘にも馴染んだようで、食事時には対局を中止してくる事もあった。
 わいわいと楽しむ皆の輪から外れ、女性ではないが壁の花のように壁際で背を付ける。
 誰よりも食べて誰よりも笑い喋る美砂、短い言葉に沢山の意味を込めて微笑むアキラ。
 冷めた瞳の中にも熱い感情を込めて言葉を交わす夕映。
 そんな時はと何時もの怪しい発明を危機として葉加瀬と共に見せる小鈴。
 特に最後、小鈴を見つめ思わず溜息が出そうなところで目の前に何かが差し出された。

「甘い桃まんです。疲れた時や、頭を働かせる時には最適です」
「四葉か、悪いな。お前も厨房は良いから、混ざって来い」
「はい、そうさせていただきます。それと、迷った時は初心に帰るのが一番ですよ?」
「もう我慢できんから言うわ。お前、良い女だな」

 その賛辞は通じたようでにっこり笑い、四葉が皆の輪に混ざり始めた。
 自分で作った食事を食べて、皆の意見を聞いて頷いたり調味料で再度整えたり。
 俺の初心は何処だろうと、四葉に言われた言葉を思い浮かべているとチャイムが鳴った。
 玄関先からであり、俺が出るからと手をあげ雪広を制止してむかう。
 向かった先に待っていたのは、入寮の先送りをお願いしていた二人である。

「あっ、先生こんばんは。ここ先生のお家なん? お泊りにきたえ。なんや賑やかな声が聞こえるなあ。皆の靴っぽいのも、なんで明日菜達には秘密なん?」
「先生、数日の間だけかもしれませんがお世話になります」
「それは良いが、見るからに近衛に説明してないだろお前。もう良い、あがれ。夕飯がまだなら、食堂そっちに行けば皆いるから」

 なんだか疲れたと、むつきはビール缶と桃まん片手に案内を放棄して管理人室に向かった。









 そのまま疲れと酔いでうとうとしていたむつきを起こしたのは美砂であった。
 しゃがみ込んだ美砂に肩を揺さぶられ、起き上がった時に体がバリバリと鳴る。
 布団も敷かず畳みの上で横たわっていたので汗で張り付いたのだ。
 腕や頬にもしっかり跡が残っており、痛そうと頬をつんつんと突かれる。
 その手を取って手当てとばかりに頬に当て、寝ぼけ眼でどうかしたと語りかけた。

「先生、やっぱり変だって。桜咲さんや木乃香が来て、ひかげ荘ですらおおっぴらにエッチできなくて機嫌悪い?」
「そこは直ぐに桜咲が説明するだろうから、別に。今何時、あの二人はどうした?」

 体を起こし、跡のついた腕をほぐしながら問いかけると、隣を指差された。

「一応遊戯室にお布団敷いたけど、偶々アキラの部屋を覗いた木乃香が気に入っちゃって。拝み倒されてアキラも断りきれなかったみたい。女の子だし、あのヌイグルミ部屋に憧れるのは解るけどね」

 つまりは、桜咲がきちんと説明するまでは、管理人室での行為も禁止という事だ。
 確かにそれは多少ストレスが溜まるが、やっぱり原因はそこではない。
 胸にわだかまりがたまり、どうしたいのか中々答えにたどり着けなかった。
 その時、心に浮かんだのは四葉が言った初心に返るという言葉である。
 初心とは何だ、今胸に抱えているわだかまりの初心とは何処だ。
 目の前、ぼけっと畳の上に座るむつきの前でしゃがみ、にこにこ飽きもせずみている美砂に他ならない。

「美砂、今から風呂は入らないか。二人きりで、俺とお前だけで」
「二人だけ、先生と私だけ。えっ、それってむつき君人形なしに?」
「なんで恋人と風呂入るのに命令権の行使だよ。風呂、入ろうぜ」
「うんうん、直ぐ。直ぐに準備するから」

 素早く立ち上がった美砂は、スパンと押入れを開けて化粧品箱を取り出した。
 まだまだ中学生なのでほんのりとしたものだが、化粧を落として拭っていく。
 女の子は大変だとちょっと笑みが戻り、むつきも準備を始める。
 といっても新しい浴衣ぐらいで髭剃り用の洗顔もバスタオルも全て脱衣所だ。
 箪笥から一枚浴衣を取り出すのに一分とかからない。
 それから十分も待たされたがそれぐらいと、美砂と腕を組んで露天風呂へと向かった。
 何時の間にか時刻も夜の十時と食堂は静かで、騒がしいのは二階の遊戯室だ。
 後で一応、夜更かしし過ぎるなと注意使用と決意し、脱衣所の暖簾を愛印に変えた。
 ニコニコ笑顔満載の美砂を隣に従え浴衣を脱ぎ、お先にと体を洗いに。
 偶にはと烏の行水で頭を洗い軽く流して湯船の中へ。

「考えても見れば、二人きりで風呂ってのも何時振りだ?」
「んー、もう覚えてない。だって、付き合って一ヶ月でもうアキラとか、皆いたし」
「我ながら、どうしてこうなったか」

 体を洗い中の美砂に問いかけつつ、お湯を救って顔を洗った。
 真夏の暑い夜に熱いお湯と、汗をだらだら流しながら沈み込む。
 空の月は細く綺麗でアタナシアを思いだしたが、今日だけは直ぐに追い出した。
 初心に返る、その為にも頭の中を今だけでも美砂一人に絞り込んだ。
 そうしていると、真っ白で細い足が視界の端でお湯に入り込んできた。

「先生、肩良い?」
「そりゃこっちの台詞だ」

 隣でお湯に沈んだ美砂がむつきの肩にこてんと首を傾けてきた。
 その代わりむつきも美砂の肩を抱いて抱き寄せる。
 幸せそうに微笑む美砂の深い紫の髪をくるくる指先で弄び、耳元で囁く。

「美砂、好きだぞ」
「私も大好き。先生どうしたの、なんか付き合い始めた当時みたい。私もちょっとこの感じ忘れてた。何時もより、胸がキュンキュンする」

 たまりませんとばかりに、むつきの胸に張り付くように抱きついてきた。
 たゆんと弾む胸をむつきの胸に押し付け、ゴロゴロと頬を擦り付けては喉を鳴らして甘えてくる。
 行為の後は良くするが、何もしないうちというのは稀だ。
 むつきも密着が足りないと、美砂を正面に来るようお湯の中を泳がせた。
 まだするつもりはないが、対面座位の格好でお互いにギュッと抱き締めあった。

「癒される、好き過ぎて一生こうしていたい。美砂が可愛い過ぎてどうにかなりそう」
「先生、もう本当に今日はどうしたの。悶え死ぬ、キュン死する!」

 ちゅっちゅとこれも当時を思い出し小鳥のようなキスを繰り返してみた。
 もはや新しいプレイかと、美砂の機嫌も上限知らずに上がっていく。
 最近は本当にセックスにも慣れ、伝えあう事が薄れ快楽優先だった気もしてきた。
 ただ全部が全部ではないのも確かで、そうでなければ初夜を終えたばかりの夕映に申し訳ない。
 だから今だけは欧米人にでも鳴ったかのように、キスの虜になった。

「ふぅ、やっぱ俺。凄い美砂の事が好きだ。俺だけの美砂、絶対離さないから。美砂が中学を卒業したら付き合って、高校を卒業したら結婚する。してくれ」
「いいよ。中学を卒業したら正式に付き合って、高校を卒業したら結婚。んー、子供はどうする? 流石に直ぐに生んでちゃんと育てられる自信はないかな」
「生みたくなったら、ピルを飲むのを止めれば良い。美砂、もう一回キス」
「先生が好きなだけ、私は先生のものなんだから。求められてるって、そう思うだけでイキそう。キスだけで、ぁっ。んぅっ!」

 少し長めのキスを行なうと、むつきの腕の中で本当に美砂が体を震わせた。
 もちろんセックスの時のそれよりは小さいが、体を震わせぽうっと紅潮し蕩けた顔となる。
 お互い人の事は言えないが、好き者だなっと抱き締めあった。

「先生、そろそろ話して。ラブラブな二人の間に秘密はなし。お妾さんまでいる先生が、今さら隠すような事もないと思うけど。桜咲さんと木乃香のこと?」
「いんや、違う。美砂、一つだけ確認させて。俺ってやっぱり付き合い始めた当初から変わった?」
「全然、変わってない。こうしてちゃんと愛してくれるし、生徒の為にって帆走して。今はアタナシアさんとか葛葉先生も含めてるから、ちょっとその辺の幅は広がったかな? でも、基本的なところ。泣き虫だけど強くて格好良いところは、全然変わってない」
「若干、色眼鏡ありそうだけど。美砂がそう言うなら、俺はその言葉を信じる。美砂もアキラも夕映、小鈴も全員幸せにする。惚れた子は全員」

 美砂が変わっていないと言うのなら、妻妾同衾ぐらいやってのける。
 この頼りない腕に抱いた子はせめてもと。
 多少和泉や葉加瀬、他にひかげ荘メンバーも良い男が見つかるまでは面倒を見よう。
 そこは少し欲張りになったかもしれないが、きっと悪い事ではない。
 大なり小なり、きっとむつきがあの子達に惚れる要素はあるのだから。
 そう、むつきが惚れてその子を幸せにしたい、それがきっと原点、初心であった。

「美砂、俺ちょっとイラ付いてた。折角のアキラの晴れ舞台の日だったけど、隠しきれないぐらいに」
「えっと、やっぱり桜咲さんか木乃香ぐらいしか心当たりないけど」
「だから二人は違うって。俺は小鈴にいらついてた」

 それまたどうしてと、小鈴のむつきへの傾倒ぶりを知るだけに驚きであった。

「俺は美砂みたいに惚れた相手には尽くしたいし、幸せにしてあげたいよ。けどさ、小鈴ってなんか俺に一杯女の子抱かせようとするだろ?」
「ああ、なんかクラスメイト全員だっけ。天才の考える事は良くわかんないね。でも、男の人なら可愛い女の子ならどんどん抱きたいんじゃないの?」
「そう言う奴もいるし、俺も全部は否定できん。けど、なんか違うだろそれ。俺は単に可愛いから抱きたいんじゃない。美砂達にそれぞれ良い所があって、こんな俺に惚れてくれもして。だから抱きたい、幸せにしてあげたいの」
「ん、やっと解った。競馬の種馬じゃないんだから、内面もわからないうちに次々に可愛い女の子用意されても嫌だよね。私だって、イケメンどうぞって差し出されても蹴り飛ばすし。先生だから抱かれたい、尽くして奉仕もしたい」

 二人して納得し、やっぱり麻帆良最強の馬鹿だねと笑った。
 小鈴にも目的があってだけどむつきが好きでなど、分かりきっている。
 ただ良かれと思ってとった行動の全てを、むつきが受け入れるとも限らない。
 むつきだって大好きな小鈴だからと、全てを受け入れる必要は無かった。
 すっきりさっぱり、特にむつきは喉もとに刺さっていた小骨が取れたとばかりに。
 美砂をこれまで以上にキュッと抱き締め、匂いをかぎつつ囁いた。

「美砂、今凄く美砂を愛したい。ちょっと、いやかなりエッチな方法だけど、良い?」
「いいよ、だけど。私からもリクエスト、お互いに奉仕し合いたい。シックスナイン、やってみたい。んー、そこの東屋のベンチで」
「流石俺の美砂。昇天する程、良くしてやるから。抱えるぞ」

 対面座位中で横抱きは難しく、股座に立ち上がり中の一物をさしこんだ。
 第三の腕として利用し、駅弁スタイルでお湯の中から美砂を持ち上げた。
 そのままえっちら、おっちら。
 もちろんそんな掛け声はせず、お湯から上がって涼しい空気の中を歩いていく。
 涼みどころの東屋まで美砂を抱えて、ベンチの上に寝かせてあげた。

「どうしよう、凄くドキドキしてる。フェラともまた違う、お口でセックスされちゃうんだ。ずぼずぼされて、最後にびゅって」
「最初からそんな激しくはしない。奉仕し合うんだろ。美砂、跨ぐぞ」

 胸を押さえ体を縮める美砂を、むつきはベンチごとまたいだ。
 お互い上下逆向きに、むつきは美砂の下腹部を、美砂はむつきの下腹部を。
 美砂はシックスナインと言ったが日本語の四十八手では椋鳥とも言う。
 早速むつきは、美砂の濡れた若草を食んではひっぱり軽い挨拶から。
 美砂もこの先の行為に胸を高鳴らせながら、むつきの一物にキスをした。
 何時も気持ちよくしてくれてありがとうとお礼を言い合う様に互いの性器を口付ける。

「美砂、もう濡れてるぞ。いやらしい所も好きだぞ」
「先生がいやらしい目で見て、おちんちん硬くするから。超りんお馬鹿だけど、これだけは感謝しないと。ちゅっ、ここは大きく変わっちゃったかな?」

 割れ目から次々に染み出す愛液をむつきが舐め取り、さらには吸出しもした。
 負けてられないと美砂も、特に竿の裏筋にキスを繰り返す。
 まだ最初だからと互いに大人しい愛撫で、気分を高めあう。
 だが子供のお遊戯ではないのだから、気分を高めるだけで終われるわけもない。
 まず最初に攻勢に出たのはむつきであった。
 ぺろぺろと舐めていた割れ目を、沿えた両手でそっと文字通り花開かせた。
 ピンク色の綺麗な花園にそっとキスしたのも一度だけ、今日の目的は膣ではない。
 おへそを下った割れ目の始まり部分、そこの奥に恥ずかしそうに隠れた淫核だ。
 全く顔も見えないそれを、淫核包皮の上から指先でとんとんと刺激した。

「んっ、先生なに。今のピリッて、前になんか」
「直接じゃないけど、クリトリス刺激したんだ。ほら、前にアキラに皮向かれてイッたろ? お前がしゃぶってるおちんちんの女の子版だな」
「そっか、先生もしゃぶられるとこんな感じなのかな。んっ、先生腰もっと降ろして喉の奥まで飲んであげる。んごぅ、ふぅぁ」
「美砂の口の中、温泉より熱い。美砂、皮剥くけど噛まないでくれよ」

 ベンチで頭を打たないよう気をつけて軽く腰を振りつつ、むつきは皮剥きに挑戦だ。
 むしろこれは、美砂の挑戦か。
 これまで何度かセックスしてきたが、勃起状態で顔を出した事はない。
 先程も言ったが好奇心に負けたアキラが思わず剥いてしまったその一度だけ。
 愛液だけじゃ足りないと唾液も垂らして濡らし、そっと慎重に剥いていく。

「んぅ、んんっ。先、んぐぅ」
「美砂、喋ると舌噛むぞ。ほら、先端見えてきた。ちょっと臭うか。恥垢、綺麗にしような」

 何か言葉を発しようにもむつきの一物で口を塞がれ、美砂は何一つ伝えられない。
 出来た事と言えば羞恥に導かれるまま、むつきを抱き締めるだけだ。
 それもむつきの太い太股を抱き寄せより一物を喉の奥までくわえ込む結果になるだけ。
 その間にもむつきは徐々に顔を出すクリトリスを垢ごと綺麗に舐め取っていた。
 舌が痺れる程の味と臭いだが、愛おしい少女のそれならさほど気にはならなかった。
 むしろ自分が一物をしゃぶられる度に、同じような舌使いで美砂のクリトリスを舐め上げた。

「美砂、腰浮いてる。感じてくれてるんだな、俺の愛撫で。俺も気持ち良いぞ、もっと。美砂に奉仕させてくれ。ほら、もう直ぐ全部外に出るぞ」
「んぐぅ、うっ。うぁっ」

 相変わらず返事はくぐもった声だが、感じてくれているのは一目瞭然。
 もっとと強い刺激を求めるように美砂の腰が浮き、下腹部をむつきの顔に押し付けてくる。
 ならば遠慮は何一つする必要はなしと、むつきは美砂の全てを外にさらけ出す。
 そして美砂の最も敏感でデリケートなそこに、ちゅっとキスをしてあげた。

「んぅ、がはっ。イッ、だめ。私だけ。イ、イクぅっ!」
「そのまま、美砂。イッてくれ」

 フェラも限界だと口を離した美砂のクリトリスを、指先で軽く弾いた。
 次の瞬間、むつきが転げ落ちそうな程に美砂が暴れ腰を浮かせ弓なりとなった。
 殆ど悲鳴に近い嬌声を挙げ、さらには尿道からびゅっと透明な液体が飛んだ。
 最初に三十センチ程それが飛び、二回目三回目は飛距離がぐっと落ちている。
 女性の射精とも呼ばれる潮吹きに違いない。

「美砂、少し強すぎたか?」
「はぁはぁ……先生、ちょっと待っ。ふぁ、痺れて下半身の感覚が。ちゃんと私の足とか大事な部分とかついてる?」
「ついてる、ほらこれが太股で。こっちがおまんこ、これクリトリス」
「ぅっ、触ら。ないで。ふうふうもしちゃ駄目。気持ち良過ぎて怖いの」

 悪戯駄目と今せめて動く首で、竿を甘噛みされてしまった。
 美砂は精一杯の抗議だろうが、される側としては結構怖い抗議だ。
 仕方ないので美砂を寝かせたベンチに座って頭を撫でてやった。
 本当は膝枕でもと思ったが勃起中にそれは、もはや嫌がらせの域である。

「私、クリ弄られるのあまり好きじゃないかも。感じ過ぎちゃって、もっと長くイチャイチャしてたい。けど今日はご奉仕のし合いだから、今度は私の番」

 あーんと美砂が上を見上げるように口を開いて、誘ってきた。
 どうかこのお口を犯してくださいと、次は私の番だからと。
 イチャイチャセックスが好きなのに、どうしてそこまで健気になれるのか。
 もうこの気持ちが抑え切れないと、むつきは腰を動かして狙いを定めた。
 普段は膣口に添える亀頭を、美砂の可憐でぷるぷるな唇へと。
 子宮口に鈴口を添えるようにピッタリあて、ぐっと押し入り割って入っていった。
 何より先に出迎えたのは美砂の口内の熱気である。
 入った傍から溶かすようなそれに出迎えられ、次にねっとりと植物の蔓のように絡む舌だ。
 何時の間にここまで上手くなったのか、竿に舌が蒔きつくようである。
 口は窄められ頬肉が膣壁の代わりとなって、むつきの一物の射精を促がしてきた。

「あ、くぅ。気持ち良い、美砂の口まんこが。吸い付き具合はまんこ以上だ」

 普段からさり気に呼吸で鍛えられている分、本当に吸い込まれそうだ。
 むつきの苦しそうにも聞こえる喘ぎに、美砂は嬉しいとばかりに腰に抱きついてきた。
 そのまま首まで使い、動きの鈍くなったむつきの腰の代役を行なう。
 エッチな女の子が彼氏の上で腰を振るように、むつきの舌で首を前後に振る。
 本来の使い道とは異なる、口まんこで思い切りよがり楽しんで欲しいとばかりに。

「んぅ、んっんんぁっ」
「やばい、今度は俺だけ。美砂、俺も」

 ベンチの上に肘をつき、なんとか美砂に奉仕しようとするが動けない。
 股間からせり上がる快楽に腰が痺れ、ベンチを跨ぐ足にも限界が訪れた。
 支えられず腰が落ち、思わず美砂の頭を押し潰しゴチンとベンチに落とし当ててしまう。
 いつもなら即座に大丈夫かと言えたが、今は無理だ。
 何しろまだ美砂は痛みを押してむつきの一物をしゃぶり舐め取り、奉仕を止めていない。
 本当にどこまで、どこまでその身を捧げてくれるのか男冥利に尽きる。
 尽きるからこそもう本当に何も遠慮はしないと、むつきは更に腰を振り上げ下ろした。
 この口まんこで犯し妊娠させてやるとばかりにであった。

「ああ、美砂。気持ち良いよ。美砂、ほらどんどん硬く大きく。玉触ってみろ、ぱんぱんだ。その中の精液をお腹一杯出してやるからな」
「んんぅ。んごぉ、んふぅっ」
「美砂、出る。美砂の口に射精する、我慢。もう、美砂、美砂ぁ!」

 美砂が震える手で玉袋を絞ってくれたのが最後であった。
 もう無理だと美砂の喉の奥まで突きいれ、口内ではなく喉内に直接射精した。
 子宮口に見立て喉の窄まりに鈴口を当て、お望み通りびゅっびゅっと射精し続ける。
 美砂の口からは喘ぎともとれない苦痛の悲鳴が上がっていたが、止められない。
 もう少し、もう少しだけと股間を押し付け何度も射精した。
 その度に一緒にイクように美砂の足がピンと伸びて張り詰め、その足を摩った。
 まだ、まだ出ると止まらぬ射精感に腰がぬけそうだが、そうはいかない。
 少しでもソレが引いたら、無理にでも腰を動かしずるっと美砂の口から引き抜いた。

「ごほっ、ぇぅ。えほっ、し。死ぬかと、飲んだんじゃなくて。直接胃にださぅ」
「美砂、背中摩ってやるから抱えるぞ。ほら、頑張ったな。凄く良かったし、嬉しかった」
「うん、ぁっ。多分今の私、凄く口が精液臭い。うがいするから、キスんぅ」
「愛が勝ればこれぐらいできる」

 確かに美砂の言う通り精液塗れの口にキスするのは抵抗あるが、できないわけではない。
 むしろうがいなどさせると、この高揚感が薄まりそうでさえあった。
 だから美砂の言葉の途中で犯したばかりの口に唇を触れさせた。

「俺も、美砂に奉仕してあげたい。何して欲しい、クリがだめならGスポットか。なんでも言ってくれ。兎に角、美砂に何かしてあげたい」
「もう、先生。分かってるでしょ、私はイチャイチャセックスが好きなの。もっと強く抱き締めて、キスして。あとちょっと背中撫でて」
「うん、うん。全部してやる、可愛いな俺の美砂は。じゃあ、続きは布団の中だな。明日は久しぶりに何もないし。一晩中、イチャイチャするぞ」
「でも、独り占めし過ぎるのも良くないし。アキラ達も呼んであげよう。皆で一緒にイチャイチャ。そうだ、長谷川達も皆、皆呼んでさ」

 ちょっとそれはどうだろうとも思ったが、本番さえしなければそれもありか。
 むつきは美砂を抱きかかえ脱衣所に行こうとしたが、ストップされた。
 やはり口が気になるようで、先に皆を呼んで待っててとむしろ追い出される。
 もしかしたら、強引に精飲させられた精液を吐いていやしないか心配になったが。
 何度か大丈夫かと聞いて、はやく行けと尻を蹴り飛ばされた。
 そこまで言われたら仕方がないので、脱衣所で体を拭いてかるく浴衣を羽織って帯で縛った。
 足取り軽く賑やかに楽しむ声が聞こえてくる遊戯室へと向かう。
 襖の前で一度深呼吸をして、初心である美砂とのイチャイチャセックスを思い出した。

「よし、行くぞ。お前ら」

 ちょっと声を大きくして突入したのがよかったのか。
 相変わらずの八分割マリオカート中ではあったが、皆が一斉に振り返った。
 ただ、何人かが私がとスタートボタンを押した為、画面が静止と動作を繰り返した。
 止めろ押すなとちょっと騒がしくもなったがそれも数分で終わる。
 改めて見渡すと、近衛や桜咲も巨大スクリーンとは対極の位置の、部屋の後ろにいた。
 二人で同じソファーに座り、ジュースを片手に皆のゲームを見ていたようだ。
 ただし、ジュースを持たない方はしっかりと恋人繋ぎでラブラブもしていたが。

「先生、機嫌が直ったように思われますが。柿崎さんは?」
「今は俺に喉の奥に射精されて口濯いでる」

 この時、ぱしゃりと水が床に落ちた音は、近衛が取りこぼしたコップからジュースが零れた音であった。

「ちょっと、木乃香。これ委員長が皆の為にって、持ち込んでくれた高い絨毯やて!」
「拭くもの、委員長。一番部屋近いだろ、タオルとか。和泉でも良い!」
「分かりましたわ、何かしら。いえ、この場合は食堂が確実かと」
「落ち着け、風呂上りの俺の肩にあるのは何だ。ほれ、桜咲。お嬢様の粗相はお前がなんとかしろ。お前がちゃんと説明しなかった不始末だろ」

 和泉や長谷川、他の面々もそうだが絨毯に染みる前にと大わらわだ。
 雪広でさえ大慌てで自分の部屋に向かおうとした所を、腕を掴んで引き止める。
 むしろ少し抱き寄せる感じで雪広を抱きとめ、肩に掛けていたバスタオルを投げた。
 むつきの体を拭いたそれが近衛に覆いかぶさりそうで、叩き落すように桜咲が掴んだ。
 キッと睨まれたが今の俺はみなぎる愛で無敵とばかりに受け流した。

「先生、何やら悩まれていたようですが、ふっきれた感じがするです。柿崎さんとお風呂に入ってなにかあったですか?」
「ナニをしていたわけだが。とりあえず、アキラと夕映はこっち来い。今から管理人室で一晩中イチャイチャし明かすぞ。もう止めてってぐらい可愛がる」

 夕映の問いかけには直接答えず、別の答えを与えたのだがそれはもう反応される。
 コントローラーを放り出し、雪広が正面にいたので横や後ろから抱き付かれた。

「あの、恋人の語らいに私のような軽度のセックスフレンドは。和泉さんはまだしも」
「俺、実は雪広の事が結構好きなんだ。何か切欠一つで恋人にしたいって思うぐらい。だから、切欠探しにお前を巻き込む。和泉に葉加瀬、長谷川もか。少しでもそういう気があるなら、来い。どうなるか、俺にも分からんが。イチャイチャお互いを知る為にも喋ろうぜ」

 蜘蛛に捕食される寸前の蝶のように、雪広は頬を紅潮させ固まっていた。
 他に和泉は今さらだが、少しでも好意が見える者全員へとむつきは呼びかける。
 セックスをするつもりはなく、本当にイチャイチャして遊ぶ為だ。

「先生、それ乗った。うちもイチャイチャしたい。長谷川さんも葉加瀬も行こうや」
「えっ、私はまだそんな。好意とか、可愛いとか美味しそうとか言われると嬉しいですが」
「そこで引くな、飛び込めよ。仕方ないから、私も参加してやるよ。朝倉は?」
「一応まだ彼氏がいる私は駄目っしょ。けど興味はあるから、観戦席で写真撮ってる」

 早速と和泉が葉加瀬の手を引き、長谷川も戸惑う彼女の背を押しながら朝倉に話を振った。
 そこで一人足りないと気を利かせるように四葉が小鈴の背を押してきた。
 当人である小鈴は自分だけ呼ばれなかった不可思議さに、少し戸惑っている。
 さらにその明晰な頭脳により解を導き出しているのか、顔色も悪くなり出していた。

「なあ、小鈴。お前が俺を好きだってのは、今さら疑わない。けどな。俺は惚れた女は自分で口説きたい。偶に刀子さん見たいに据え膳みたいな事にもなるけど。それでも抱くかどうかは自分で決めたい」
「私、余計な事をしたカ? 親愛的に嫌われたカ?」
「うん、ちょっと嫌いかけたかも。だから、もう俺の為か自分の為かはわからんが。無理に誰かを連れてくるな。今回はもう良い。だけど次、そうした場合。俺はお前と、別れようと思う」

 あの麻帆良最強の頭脳、かつ馬鹿が、むつきの一言で膝を折った。
 雪広が用意したという絨毯の上に崩れ落ちるように、四葉に支えられながらだ。
 思わずむつきも、腕の中の雪広にちょっとごめんと断り、駆け寄ってしまう程に。

「親愛的、捨て……捨てないで。なんでもするヨ。お金だって、女の子だって。それこそ世界だって親愛的にあげるネ」
「だから、そういうのがいらない。いや、ちょっとお金は欲しいけど。五年後の為にも。だけど、俺は小鈴の力や能力の結果手に入るもんが欲しいんじゃないの。小鈴って女の子が欲しいの。解ったか、この麻帆良最強の馬鹿」

 普段の理解力はどうしたと、割と強めのヘッドバッドであった。
 くらっとしたところを、横抱きに抱えもう強制連行の刑である。

「最近大人しかったけど、久々に見たな。突き抜けた先生。おい、委員長。顔赤いぞ、眼がキラキラ乙女になってる。まさか、惚れたか?」
「いえ、私が一番欲しいお言葉でしたので。少し超さんが羨ましく」
「漏れとる、本音が漏れとるて」

 長谷川に突っ込まれ否定したつもりが、やっぱり惚れたかこのっと和泉に突かれる結果に。

「近衛、ひかげ荘っていう竜宮城はこういう場所だ。まだ良く解らんなら、とりあえず来い。お前も朝倉と同じ観戦席だ。説明は桜咲に受けろ」

 一頻り思いの丈を吐き出し、俺間違ってないよなと念の為に長谷川を見た。

「そこで確認すんなよ。間違ってない。超の目的とか、そう言うのはもう面倒だから捨てておいて。けど、好きだから何しても良いわけじゃない。先生も私らも、人形じゃないんだから。嫌な事は嫌って言って良い。それもこの竜宮城での権利の一つだ」

 長谷川のお墨付きを聞いて、まずアキラが手を挙げて言った。

「私はもっと、もっと先生にエッチな事をされたい。もちろん、イチャイチャも」
「以下同文、では味気ないです。まだちょっと股が痛いので、心地良く受け入れる為にも日々マッサージを。いえ、イチャイチャと言うのであればそれはそれで」
「親愛的、すまなかったネ。もう、私だけの我は通さない。私と親愛的、二人の我を通す時だけ、存分にこの力を振るうネ」
「分かってくれれば良い。既に多くを望んでる気はするけど、俺はこうしてお前等と愛し合ったり、時々喧嘩したり、また笑ったり。そういう普通の生活を望んでる」

 さあイチャイチャタイムだと、小鈴を抱えたまま皆を引き連れてむつきは返って行った。
 殆どの皆がそれについて行き、残されたのは桜咲とまだ固まっている近衛だ。
 あとは零れたジュースの掃除中の絡繰、後片付け中の半お母さんの四葉。
 それから、少しは逞しくなったかとニヤつきファンタグレープをワイングラスで煽るマクダウェルであった。

「ねえ、せっちゃん。全然わからんかったけど、先生は皆と付き合っとるん?」
「いえ、私もここまでとは。複数の女性と付き合っているぐらいしか。皆はただ遊びに来ているだけだかと……」
「柿崎さんが正妻で、続いて大河内さんに夕映さん、超の順です。他はセックスフレンドですが、一部和泉さんが突出していますね」
「まさか、お嬢様こち」

 四葉の言葉にそこまでと、近衛の手を引き逃げようとした桜咲の前にマクダウェルが立ちふさがった。
 一度竜宮城に踏み込み、自分の意志で逃げられると思うなとばかりに。

「超鈴音の不手際もあるが。他人の家に土足で踏み込み、そのまま逃げられるとでも? よりによって、近衛木乃香を連れ込むとはな。さすがの爺も動き出すだろう」
「まだ付近に魔法先生の反応はありません」
「ま、ほう?」
「お嬢様なんでもありません。私がこのような場所に」

 必死に近衛の耳を塞ぐ桜咲だが、それでは何かあると言っているようなものだ。

「くくくっ、竜宮城に別の国の姫を迎え入れどう摩擦が起きるか。追い詰められたのは竜宮城の主か、それとも別の国の姫か。楽しませてくれる」
「魔法先生間の通信を傍受。マスターの在住場所であるとも知られています。突入は恐らく月が沈む早朝になるかと。迎撃システムのメンテを開始します」
「私も偶には働くか。秘密兵器とやらがあると聞いているしな。むつき君人形もある事だし、報酬には困らん。案外この姿で抱かれるのもそれは一興か。俺にはアタナシアがと困り悩むむつきの顔が思い浮かぶ」

 今現在、困り悩む桜咲と近衛を置いて、二人までも何処かへ去っていった。
 今度こそ今ならと近衛を連れ出そうとした桜咲だが、またしても引きとめられた。
 その連れ出そうとした近衛自身に。

「せっちゃん、うちな。ちょっと嬉しいんよ。何を考えて連れて来てくれたか、ちょっと解るから。だから、逃げても同じや。まともやない手段取って、まともな人探そうやなんてどだい無理な話や」
「このちゃん、でも」
「うちかて、まだ子供やし。特に恋愛なんて解らんことだらけや。でもな、皆凄い幸せそうに笑っとった。先生にはそれだけのなにかがある。確かめるだけのなにかが」
「お望みなら、玄関でも管理人室にでもご案内しますよ。マクダウェルさんの雰囲気を察するに、お二人がここにいる事はひかげ荘にとって良くありません。個人的にはお帰り願いたいですが。本当の自分でいたいという願望を叶えるのが、この竜宮城ですから」

 四葉にも決断を迫られ、近衛に手を取り頷かれ、桜咲が折れるように首を落とした。









-後書き-
ども、えなりんです。

これ以上、嫁さん増やさない(笑)
まあ、主人公の決意なんてそんなもんです、エロ小説的に。
なんだかんだで、セックスフレンドが嫁に昇格するやも。

あと、超は企み過ぎてピンチに。
主人公の言葉で膝が折れましたが、たぶん内心は主人公も泣きかけ。


次回は、ひかげ荘への魔法先生たちの襲撃回。
更新は土曜日です。



[36639] 第六十一話 ただの女の子のお前が、お前が欲しい
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/08/17 20:33

第六十一話 ただの女の子のお前が、お前が欲しい

 むつきが瞳をパッチリ、心地よい気怠さと共に感じたのは、部屋に充満する女の子の匂いだった。
 朝といってもまだ陽は青く見える程で、夏場を考慮しても四時か五時だろうか。
 鼻腔を擽るのは花畑にでも放り込まれたような数多の花々の匂い。
 その大半が全裸、身につけている者でもブラジャーかパンツのみ。
 たまたま右隣にいた雪広を、花畑から手折るように抱き寄せ首筋に鼻を埋めて匂いをかぐ。
 あの日、自分を教師として認めてくれた日と同じ可憐でちょっと高貴な香りである。
 顔を流れる金糸はきらきらと、美しさで飾り目を楽しませてくれた。
 唇にもかかっていたので手で外してやると、そのまま目が放せなくなってしまった。
 身につけている白のレースのブラジャーに、ガーターベルト。
 これは昨日、わざわざ身につけてくれたもので、すすっと肌触りを楽しむように撫でた。

「あやか」
「んぅ、先生?」

 起こしてごめんと小さく謝罪し、そのまま唇を奪うもそのまま受け入れられた。
 首に腕を回されもっとと、夢うつつのままに抱き締められる。
 我慢できないとごろんと半回転、あやかを押し倒す格好でより深く唇の奥に舌を差し込んだ。
 おずおずと控えめに伸ばされた舌と絡めあい、くうくうと皆が寝息を建てる中で、二人静かにねっとりと絡み合う。
 満足するまで絡み合った後で、至近距離で穴が開く程見つめ合い思うが儘に呟いた。

「あやか、お前が欲しい。ただの女の子のお前が、お前が欲しい」
「ああ、先生。いけませんわ。そのような、離れられなく。私は雪広財閥の」
「そんなの関係ない、お前は嫌いか俺の事が」
「駄目、先生。今はまだ、これが精一杯ですわ。ここに、この隙間にきてください」

 いやいやと身を捩り、それでもむつきの一物を下着を持ち上げ中に誘ってきた。
 昨晩何度も挿入し、随分とゴムも伸びて二度と使い物にならない事だろう。
 それでも今はそれがあやかの精一杯ならと、ぐいっとねじ切るように突き上げた。
 しっとり塗れ金糸の陰毛の森を駆け抜け、あやかの性器を強引に擦り挙げる。

「先生、これが殿方の荒々しさ。私の体が蹂躙される、これは悦び」
「官能小説かよ、お楽しみのところ悪いな。先生、私も一緒に可愛がってくれよ」

 むつきとあやかの間に割り込んできたのは、一糸纏わず眼鏡も外した千雨であった。
 貝合わせだとばかりにあやかの上に跨り、胸を合わせキスをする。
 むつきもあやかの下着を脱がして協力し、ぴったり寄り添う貝を強引に貫いた。
 まだ男を知らぬ未通の割れ目が、むつきの一物で強引に形を変えられ包み込む。

「熱ぃ、長谷川さん。唇を、先生の代わりに」
「尻にパンパン凄い。代わりって親友に向かって言うか、ポルノも真っ青に乱れて可愛いなくそ。どいつもこいつも」
「千雨も十分可愛いぞ。ほら、こうすると二人の乳首がこすれあうだろ」

 以前、和泉と小瀬でしてあげたように、重なる二人の乳首同士を擦りこねた。
 キスを中断してまでも二人がよがり、もっとと刺激を求めて腰を振ってむつきを誘う。
 夢中になって二人を可愛がっていると、さらに誰かが千雨の上に跨る。
 さすがに二人は重いのか、少しあやかがむぎゅうと色気のない悲鳴をあげていた。
 千雨の上に寝そべったその子の背中には、見覚えのありすぎる大きな傷があった。

「あはは、委員長ごめんて。先生、うちもお尻とおまんこ。両方苛めてや」
「和泉さん、あまり負担を。先生の男性より、そっちが気になって」
「私がちょっと踏ん張ってやるよ。これなら少しは楽か? それにしても処女の三段重ねとか、一人は尻穴開発されてるし。エロゲー主人公だな」

 嫌かと千雨には突き上げる事で問いかけるも返答はなかった。
 改めてあやかとのキスに夢中で、投げっぱなしかと和泉の穴に手を伸ばした。
 何時から覗いていたのか秘部の割れ目からはとろとろと蛇口が壊れたように愛液が流れ落ちている。
 それらを指で救っては皺のある穴に塗りたくり、指で二穴責めをしてあげた。
 随分と尻穴も拡張されたようで、ずぶずぶと指を飲み込んでいく。
 むりそ前の穴よりも懸命にむつきの指を飲み込んでは、埋もれさせしゃぶりついて来る。

「亜子、お前の夢が医者ってのは分かってる。何処まで手伝えるかわかんねえけど、一緒に勉強だってする。だからそれ以外の時間を俺にくれ」
「ええよ、うち先生の事は好きやし。勉強の合間に愛して癒してくれるなら。お医者って婚期遅れそうやし、うちの事を貰ってや」
「おい、なんで私を飛ばした。擬似セックスしといて、それはないだろ」
「お前みたいな根暗なネットアイドル、俺以外に誰が貰ってくれるんだ。て言うか、お前まだそっち活動してたっけ? 衣装作りが忙しくてしてねえだろ」

 一度は憤慨した千雨も、あれ最後に更新したの何時だっけとのとぼけようだ。
 趣味の衣装作りは時間が増えたが、そちらは忘れるぐらいしていなかったらしい。
 最後にはまあいいやと蹴り飛ばし、あやかと亜子に挟まれ夢心地であった。

「先生、先に始めちゃうなんてずるい。ほら、夕映ちゃんのおまんこ癒してあげないと。それと私のおまんこはここ」

 さすがにこれだけ騒げば、部屋の中にいた他の面々も起き始めていた。
 小鈴や葉加瀬、マクダウェルに絡繰と一部姿を見かけないが。
 割とマイペースな面々なのでひかげ荘内にはいる事だろう。
 他に四葉も見かけないが、こちらは多分皆の朝食でも作りにいったに違いない。
 美砂が夕映を亜子の上にさらに寝かせて、処女でこそないが四段であった。
 そして空いていた右手を陰部に誘い、腕に胸を押し付け頬を舐めてくる。
 最後にアキラも背中によりそい、背中を流すように大きな胸で摩ってくれた。

「ここまで痛くなくなったです。もう少し、先生お願いするです」
「先生、腰疲れたら言ってね。手伝うから。私も夕映ちゃんのおまんこ舐めてあげる」

 後ろ手にここまで開くようにと見せてくれた夕映の割れ目に、アキラと共に舌を伸ばした。
 一体、何人同時、数えるのも億劫で皆で愛し合う。
 愛し合う様子を眩いフラッシュで写真に収められ、より気分が高まった。

「このままポルノ写真家になっちゃいそうで怖いね。おっ、桜咲に近衛も起きたか」
「ひゃぁ、先生まだ頑張っとるん。これ絶倫って言うんやよね。せっちゃん? 濡れ濡れしとる。ほら、暴れたらあかんえ?」
「このちゃん、そんな所触ったら汚い」
「せっちゃんに汚いところなんてあらへん。あったら、うちが先生みたいにぺろぺろ舐めて綺麗綺麗したる。どこや、どこが汚いんや?」

 一部開き直ったというか、ラブ度を増して桜咲と近衛が部屋の隅で絡み合う。
 責めが近衛で受けが桜咲で、どこやと聞かれこことM字開脚で下着を桜咲が晒す。
 濡れて白から変色したそこを、犬か猫のように近衛が匂いをかいで舐め取っていく。
 さらにその絵面を朝倉が写真に収め、ほらこれと楽しそうに近衛に見せたり。
 まだしばらく、四葉が呼びに来るまでは花園の蜜は絶えそうにもなかった。









 むつき達がたった二時間の睡眠でまた乱れ始めた頃。
 ひかげ荘の玄関を出て直ぐの場所に超とマクダウェル、そして絡繰の姿があった。
 彼方のまだ薄い朝日に瞼を瞬かせながら、何処へともなく視線をぐるりとめぐらせた。
 正面の百階段から脇の林をめぐって、露天風呂の湯気とひかげ荘、そしてまた林で一週である。
 小さな山の中腹にあるため、視界の半分は山の傾斜と青々とした木々ばかりだ。
 改めて日本独特の古風な場所だと、ふるちと感動に両腕をかき抱いてマクダウェルが震えた。
 その格好は黒のふりふりワンピースにグレイのコルセット。
 これからパーティにでも赴きそうな、気合の入れた格好であった。

「ひいふう、みい。と、数えるのも面倒だな。爺、焦り過ぎだろう。この場所の管理者を調べれば、普通ここまで戦力を出さんぞ」
「恐らくは、こちらの戦力調査が主ネ。不死の魔法使いが第二の住み家に選んだ場所だからネ、責任をとるヨロシ」
「マスターと超鈴音、お二人が合わさったからこそだと思われますが」
「これは一本、茶々丸にとられたネ」

 違いないと微笑を浮かべたマクダウェルに対し、小鈴もころころと明るく笑う。
 シニョンキャップや胸元の超包子の文字こそ普段通りだが、その格好もどこか違う。
 夏場に関わらず服と一体化した分厚く裾の長い黒いコートを羽織り、足元は動き易い白いパンツにロングブーツであった。
 両肩の上で浮かぶ機械的、ファンネル的なそれはもはや語るまい。
 当然、二人が気合を入れているのだから茶々丸も、メイド服や割烹着ではなかった。
 ノースリーブのカッターシャツにネクタイ、下はストールを巻き、恐らくはミニのスカートだ。
 気合と言う点では二人に負けそうだが、腕が銃砲身と巨大なガンナイフと凶悪さはピカ一である。

「魔法先生達が動き出しました。防衛システム起動します」

 三人の耳に聞こえたのは地下の研究施設にいる葉加瀬からの通信であった。
 空を見上げれば目視もかなり難しい薄い膜がひかげ荘周辺の山まで覆っているのが解る。
 むつきの携帯にも搭載されたバリア機能だが、その規模も威力も段違いだ。
 麻帆良に六つある魔力溜まりの一つであるひかげ荘、そこから魔力を引いていた。
 その影響下にてマクダウェルも封じられた魔力が幾ばくか戻っていく。
 ぽんっと煙に包まれ、魔女っ子の如く妖艶な美女、アタナシアの登場である。

「ほう、こいつは凄いな。全盛期の一割だが、十分だ。それで作戦は?」
「クイーンやナイト、ビショップの出番はまだまだネ。ポーンにはポーンを」
「一体何が始まるんですか? ドキドキわくわくしてきました、心臓ないですけど」

 あれっと四人目の登場に小鈴までも少し目が点であった。

「相坂さよ、お前くっきりはっきり見えているぞ」
「えっ、本当だ。先生、今なら先生に会えますかね!?」
「話には聞いていたアルが、私のステルスマントもまだまだネ。エヴァンジェリン同様、旅行にはなんとか連れて行くネ。だから今は耐えて欲しいヨ、親愛的の心臓の為にも」

 むつきは相坂の事を自分の妄想、理想の生徒としか思っていないのだ。
 それが突然会いに来れば、心臓発作でも起こしかねない。
 残念そうにしゅんとする様は可哀想だが、今は迫る危機を退けるのが先であった。

「葉加瀬、量産型田中さんと茶々丸の出撃ネ。地下に貯蔵された鬼神は温存ネ」
「はい、さすがに魔法先生。梃子摺りながら、次々に障壁を突破しています。量産型の田中さん、および茶々丸の姉妹を出撃させます」
「頑張って、私の妹達」
「茶々丸の妹、妹? あっ、しまった。茶々丸の姉、茶々ゼロ。地下に仕舞いっぱなしだ。連れて来れば……まあ、いいか。別に」

 最近忘れられがちなログハウスの地下で、小さな殺人人形がおいっと突っ込んだかは兎も角。
 お手並み拝見と、四人は高みの見物の如く、正面に浮かび上がったモニターを眺める。
 宙に投影された幾つものモニターには、紛争地ばりの戦闘映像が映しだされていた。
 フードとマントを被った杖の持ち主達が、炎を風を雷をと自然現象を操っていく。
 一方、アンドロイドとガイノイドの田中さんと絡繰の妹達は銃器で応戦であった。
 コンピューター統制されたコンビネーションと時にフレンドファイアも辞さない銃火である。
 実際は、体すれすれを通り過ぎる弾丸など、計算し尽された編隊で防衛線を展開していた。
 さらに木にカモフラージュされた自動迎撃システム、地雷原などが、侵入者を撃退し始める。
 これは溜まらんと逃げ出しても、山の外、遠く離れた駅の屋根から狙撃も。
 防御の障壁を張る暇もなく、BB弾という子供騙しの一撃に沈んでいった。

「これで一億。持つべきものは、払いの良いクライアントだ」

 とある褐色肌のスナイパーが、今日もゴルゴ並みに荒稼ぎであった。









 ひかげ荘に程近い、平屋建ての古臭いアパートにその進攻拠点はあった。
 一棟借り切ったアパートに各種機材を持ち込み、取り纏めているのは明石教授だ。
 一応、今回の近衛木乃香奪還作戦の部隊長に抜擢されたのだが。
 その表情は普段の朗らかさを失わず、余裕とも油断とも付かない笑みを見せていた。
 むしろ、これは凄いなとひかげ荘の防衛システムに興味津々である。
 これがあれば深夜残業が減るなと、交渉してわけて欲しいぐらいであった。

「こちらA班のゼロ、部隊は壊滅状態。サイトもタバサもやられた。これから帰還し情報をぐぁっ!」
「ゼロ、応答してください。A班全滅、他突入を開始したBからE班も大なり小なり、被害を受けた模様です」
「いやあ、気合入ってるな。皆、怪我だけはしないようにね。演習としてもそれなりに効果があるか。いいなあ、僕も昔の血が疼いてくるよ」
「真面目にやりましょうよ、明石教授」

 オペレーターの女の子に突っ込まれ、でもねえっと明石は苦笑いであった。
 テーブルの上には広げられた周辺の地図とひかげ荘の間取りの図面がある。
 特に後者、その図面の他に管理者の名前や所有者の名前まで一通りあるのだ。
 明石教授が気楽なのにも、また学園長の早とちりか何かと決め付けられていた。

「それじゃあ、全部隊一度撤退。体勢を立て直そうか。これ以上は、各個撃破で悪戯に被害を広げるだけだ」
「撤退だと、何を馬鹿な。この先は悪の巣窟、それも学園長のお孫さんだけでなくあのクラスの生徒の目撃情報も多数あるのだ。私は一人でも行くぞ!」
「命令無視を通信でされても、小金先生。彼が悪の親玉だとしたら、稀代の詐欺師ですよ」
「ふん、懐柔されよって。行くぞ、立派な魔法使い達よ。正義は我にあり!」

 脂ぎったガマガエルのような顔の先生を思い出し、彼に数人が追随したようだ。
 明石教授は心中でそっと彼らの為に十字を切った。
 それから改めて全部隊に撤退命令を発して直ぐ、通信からそれが聞こえた。
 どうやら十字を切るのは、きちんと間に合ったらしい。
 奇襲を仕返され先手は取られたが、意外と先見の明はあるのかなっと思った。

「ごちゃごちゃと建前ばかり、並べよって。だから立派な魔法使いは好かんのだが。どこぞの赤毛のように気に入らん。その一言だけで攻めてこい!」
「貴様、闇の福音。エヴァンジェリン・マグダ……何故、昼間に月ガッ」
「逃げ遅れた部隊を発見、掃討に入ります」
「超鈴音は基本的に戦わない、けど。あと少しで親愛的に捨てられかけ、実はこっそり苛立ってるネ。自分の迂闊さに、憂さ晴らしネ!」

 それはもう酷い悲鳴と撲殺、銃殺音にオペレーターが無言で通信を切った。
 助けて救援をとも最後に聞こえたが既に撤退命令を無視した後である。
 その上助けてとはあつかましいと、明石教授も通信を切った事は何も言わない。
 それよりも、大事な娘が泊まりに来ているのでお昼ご飯までに帰られる事の方が重要問題であった。
 困ったなあと、近くの住民の意識をそらす認識障害を展開している庭先に出た。
 続々と撤退した魔法先生が集ってきたが、半分は満身創痍と言ったところだ。
 肩を貸し合い安全地帯に辿り着くなり崩れ落ちたり、塀の壁に背を預けるだけならまだまし。
 ぜえぜえと大の字で寝転がり、何故かパンツ一枚でちくしょうと心が折れそうな者さえいた。
 それでも大怪我した者が、先程の小金先生達は別にして、全くいないのが凄い。
 戦力差がここまでありますよと、教えられたようなものである。

「うーん、まともな指揮官なら一時じゃなく。撤退命令が妥当だけど、ガンドルフィーニ君。実際に突入した君の感想を聞こう」
「魔法生徒を、高音君や佐倉君を連れてこなくて良かった。以前行った紛争地そのものだ。信仰を胸に聖戦だと襲ってくる人達に、絡繰君の姉妹の無表情さが似てた。トラウマになる事は確実だ」

 スーツ姿で体操座りをし、膝の間でぜえぜえと呼吸しているガンドルフィーニがそう言った。
 さすがに体力こそ消耗しているが、紛争地経験者だけあってスーツの汚れ以上に傷は見当たらない。

「あのぅ、葛葉先生や神多羅木先生が彼と親しいからって作戦から外されたのに。親友の僕がしかも突入部隊なのが理解できないのですが」

 恐る恐る手を挙げ、なんでやねんと突っ込んだのは瀬流彦であった。
 紛争地経験者はあって軽傷、純粋培養者の魔法先生が痛手を被っている。
 一応純粋培養者でありながら、目立った傷を見せない瀬流彦が凄いのだが。
 本人はそんな事にも気付かず、お願い返してと懇願している。
 ただ本人としてはまかり間違ってむつきを傷つけ、女の子を紹介して貰えなくなる方が重大問題であった。

「葛葉先生や神多羅木先生のコンビは、うちでもぴか一だからね。飛車角落ちといったところかな。うん、はは。困った困った」
「あの、明石教授。何故に目をそらし。うぅ、普通の教師でいた方が良かったかも。魔法先生の方が給料良いからって。人生最大の過ちだった」
「瀬流彦君いいかい。結婚した後は、そのお金が夫婦円満を助けてくれる事もあるんだよ?」
「そんな先の事よりも、今彼女が欲しいんです!」

 弐集院の慰めは止めでもあったようだ。
 もう嫌だ帰りたいと誰かさんを思いださせる泣きぷりを瀬流彦ていた。
 おかげでどよどよと部隊内に動揺が広がってしまう。
 ますます困ったと思っていると、とある魔法先生が手を挙げて立ち上がった。

「明石教授、貴方達の会話を察するに目標の拠点の主と知り合いの様に思われますが。我々は学園長のお孫さんである木乃香嬢が連れ込まれたとしか知らされていません」
「西の呪術教会が木乃香嬢を浚ったと聞いたが?」
「いや、木乃香嬢は護衛のほら。あの桜咲刹那が裏切って連れ込んだと。刀子さんが外されたのはそのせいだと思っていました」
「そうなのか。俺はついに学園長が闇の福音に見切りをつけたと小金先生から。最近はネット碁にはまって警備にもこないし。こっそり対戦したけど、マジ強いのこれが。さすが大魔法使いの貫禄、画面真っ黒」

 各部隊どころか、各隊員で目的意識がばらばら。
 情報も錯綜してしまっていた。
 これは一重に、突入前に詳しく内容を述べなかった明石教授の失態なのだが。
 そうせざるを得なかった理由もまたあった。
 ただし、この期に及んで秘密にも出来ず、仕方ないかととある資料を手に取った。
 念の為にと持ってきた、先程まで司令室のテーブルの上にあった資料だ。

「皆静かに、聞いてくれるかい。実はこの先の建物が何で誰の所有なのか全部分かってるんだ。落ち着いて聞いてくれ、あの階段の上にあるのは元旅館で学生寮でもあったひかげ荘」

 まだこの時は、だから西の拠点に利用されたとか、普通に考えられた。

「現在の管理者は、麻帆良女子中等部の乙姫むつき先生」
「闇の福音が付き合ってると噂の男じゃないですか。教授、いや学園長は我々に死ねと!?」
「それは本当ですか。しかし問題は、どちらを抱いたか。小さいほう、大きいほう。ちなみに私はどちらもいけます。おっぱいに貴賎はありません!」
「おまわりさーん、私達です」

 だから言いたくなかったんだと、明石教授は苦笑いであった。
 それに言いたくなかった理由は他にもあるのだ。

「ひかげ荘には温泉もあってね。彼は学生時代の苦い思い出から、隠してたんだけど。最近二年A組の生徒の一部にバレたらしい。若い女の子が温泉入り放題って聞いて普通どうする?」
「入り浸ります、むしろその乙姫先生を紹介してください。闇の福音といえど、小さいほうなら魅力的な意味で勝てます」
「おっぱいは辛勝だけぐはっ、痺れ。しびびっ!」
「こらこら、魔法の射手を使わない」

 胸の小さな女の魔法先生が瞳をキラキラさせた後、手痛い突っ込みに魔法を使っていた。
 一部、むつきとそれなりに親しいガンドルフィーニや瀬流彦も新情報にあれっと頭を悩ませる。
 それなら何故、自分達はトラウマものの突入をかまして、何をしようとしていたのか。
 むつきが完全無欠の一般人である事は明らかで、近衛木乃香に迫る危険などないも同然。
 現在のように、西の呪術師が現れても、マクダウェルか超に追い出されるだけだ。

「明石教授、それでは何か。これは、近衛嬢の家出を心配した学園長の私情ではないのか?」
「家出ではないよ、寮には帰省届けが出ているからね。ただ、木乃香嬢の重要性は皆も知るところだし。防衛強度を知りたかったんだろうね。結論、我々にさえ無理だったけど」
「じゃあ、早く解散しましょうよ。何時、マクダウェルさんに見つかるか」
「貴様はむつきの親友らしいな、ならば手加減してやろう」

 びくびくと瀬流彦が脅えた瞬間、頭を鷲づかみにされぽいっと後方に捨てられる。
 更に待ち受けていた絡繰が銃砲身を、頭から落ちてくる瀬流彦に向けた。
 ああ、僕死んじゃうんだという思考を最後に、瀬流彦はゼロ距離射撃で黄色い液体を撒き散らしながら吹き飛んでいく。
 手加減とは一体なんだったのか、恐怖の悲鳴が上がり阿鼻叫喚の図、となるはずだった。
 満月でもないのに一部魔力が戻ったアタナシアが、テンションあげあげで叫んでいたのだから。

「はっはー、脅えろ竦め。魔法の詠唱も出来ぬまま、死んでいっ」

 しかし突如、ぽんっと煙が発生し、悪の大魔王が小魔王になるまでは。
 ばいーんから、ちょいーんという擬音が似合う可愛い女の子にならなければ。
 たらりと汗を流してから、むん、むんっと腕を振り上げても姿が戻る事はない。

「今よ、皆。彼女を取り押さえて!」
「くそ、ひかげ荘から離れすぎたか。若造がこしゃくな、魔力などなくても貴様ら程度のひよっこなぞ!」

 十人近い魔法先生に腕やら足やら掴まれても、余裕さえマクダウェルは見せていた。
 今のうちにと、むつきを紹介してと頼んだ女の魔法先生がマクダウェルに並んだ。
 そっと同じ方向を向いて真横に、そのまま自分の胸に手を置きすっと横に滑らせる。
 手のひらはマクダウェルの寂しい胸の上にまで移動し、一センチ程の隙間があった。
 これ、これだけの差がと横ではなく上下の幅に手のひらを動かす。
 微妙な沈黙の後で、その女の魔法先生は諸手を上げて悦びの踊りを踊り始めた。

「やった、勝った。あの闇の福音に。これで温泉付きの玉の輿は貰った!」
「おっとそうは行かないわよ!」

 そこへ割り込むように現れたのは、どっちの味方なのかマクダウェルの親友だ。
 何しにここへと聞きたくなる程に、周囲の仲間を置き去りにマクダウェルへと駆け寄った。

「さあ、エヴァちゃん私の血を吸って。アタナシアに変身よ!」
「沖田、お前いたのか!?」

 まとわり付いてきた有象無象を振り払う事に忙しく、無理やり血を吸わされた。
 処女でこそないが十五年も馴染んできた血故に、条件反射のように変身してしまう。
 一応これで逆転だと、小躍りしていた女の魔法先生に、たゆんと胸を張った。
 日本人では一握りしか辿り着けない夢の塊に、その魔法先生が崩れ落ちた。

「くはっ、儚い……儚い夢だった。温泉付き、玉の輿」
「あれ、あれを思うがまま揉みしだいたというのか。アレをぉ!」
「くそ、密かに憧れていたのに。立派な魔法使いと悪の魔法使いの禁断の恋。ああ、マクダウェルどうして君はマクダウェルなんだ。君のその細く長い足で僕のピーッを踏んでおくれ」

 ちなみに一部の魔法先生は直立できず、股間を押さえて前屈みでもあった。
 立派な魔法使いとして、自主規制音は最後の良心なのだろうか。

「君達も大概だね。誰か白いハンカチ貸してくれないか。降参、降参するよ。絡繰君、無表情に掃討戦に入るのは止めてくれないかな? おっと、危ない」
「明石さんのお父さん、これは失礼をしました」
「君、トリガー壊れてないかい。僕撃ち続けられてるよ。夫婦喧嘩で撃たれるのには慣れてるから良いけど」

 それでも銃弾を避けたり掴んだりと、部隊長を任されるだけの事はあった。

「それでは、こちらの指揮官としてその降参を受け入れるネ。葉加瀬、敷地内の気絶した魔法先生は回収後、コンテナに詰め込んで学園長室に輸送ヨ」
「そろそろ時間的にも人が多くなるから、ある意味でありがたいけれど。とりあえず、ガンドルフィーニ君と弐集院君、それから瀬流彦君にマクダウェル君対策の沖田君も来てくれ。他の先生方は、普段通りの生活に戻り指示を待ってください」
「僕もですか!?」
「えー、エヴァちゃんと乙姫先生の恋の進捗具合を聞きたかったのにぃ」 

 今にも逃げそうな瀬流彦はガンドルフィーニにスーツの襟を掴み取られていた。
 そのままずるずると作戦司令室へと連れ込まれていく。
 今やアタナシアと化したマクダウェルは、交渉に興味はなかったが沖田が手を離してくれない。
 結局、主要人物の殆どが狭いアパートの一室に身を寄せる事になった。
 まず部屋に入るとテーブルを挟んで魔法先生とひかげ荘一派に別れる。
 それから明石教授自らペットボトルのだが、お茶を紙コップで全員に配り、それから始めた。

「うーん、何から話すべきかな。とりあえず、悪かったね。朝からお騒がせして、申し訳ない。木乃香嬢は色々と微妙な立場の子だから。それで、そちらが求める要求は? 悪いのはこちらだし、可能な限り飲むつもりだけど」
「乙姫むつきに対する不干渉、これに尽きるネ」
「つまり、ひかげ荘への接触はなしだけど。例えば教室や学校であそこに関わった生徒に話を聞くのはありかな?」
「当然、普通の教師としてなら。ただし、記憶を覗いたり自白魔法も却下」

 誰かとは言わないが、先走りそうだなっと明石教授は一先ず頷いた。

「一応、命令無視しような人達への警告の為にもペナルティを聞いても?」

 出来れば過激な人を牽制する強烈なのがと明石教授が求めると、上を指差された。

「軌道衛星上から、太陽光発電によるエネルギーの一斉掃射。軌道衛星砲が麻帆良を襲うネ」
「夕子とか、そういうの好きそうだな。僕もちょっと浪漫を擽られるよ。でも、少し過激過ぎるかな。わかった、適当に言い訳はこちらで考えておくよ。ははっ」
「笑い事ではないですよ、明石教授。君はそれだけの科学力がありながら、何故それを世界平和の為に、周りの為に使わない!」

 あくまでも軽い性格の明石教授に変わり、激昂したのはお堅いガンドルフィーニであった。

「では、ガンドルフィーニ先生。今の奥さんや子供と別れてくれるカ? 私の計算では数年後に、二人はあなたの仕事に巻き込まれ精神的にも肉体的にも消えない傷を負うネ。それが互いの幸せヨ?」
「なっ、そんなの……家内と娘は私が守る!」
「ほら、私が最善を提示しても人はそれを拒む。もっとも、これは嘘なので安心して欲しいネ。けれど、他の人も同じ。私がいくら最善を示しても、最終的には拒み、未来は避けられない」

 絶句したガンドルフィーニに謝りながらも、小鈴は澄まして言った。

「乙姫先生は言ってくれたネ。皆が皆、なりたい自分を目指して頑張ってる。私がそこまで責任を負う必要はないと。私には力があっても志がない。そう言うことは志がある人がするべきヨ。超鈴音は、この力を乙姫むつきの為にのみ使うネ」

 周りの努力の否定だとか、貴族の義務だとかそんな哲学はどうでも良かった。
 小鈴にとって乙姫むつきが全てであり、世界平和などついででしかない。
 当然だが、隣人が銃殺でもされればむつきは酷く恐れ、世界を憎むだろう。
 だから最低限、この狭い島国だけでも戦争を遠ざけられれば十分だ。
 ニュースで世界のどこかで戦争がといわれても、忙しいむつきは十分でそれを忘れる。
 あの無力だが、時に神をも超える力を発揮する男一人助けられればそれが幸せ。

「超君、さっきから聞いていると。君は乙姫先生に特別な気持ちを抱いているように聞こえるんだけど?」
「完全無欠、惚れてしまっているネ。おっと、恋愛感情は自由。無粋な言葉は不要ネ」
「か、彼と僕にある差は。一体何が、給料、顔、性格。そこまで違わないはずなのに。あと絡繰君に撃たれたお腹がさり気に痛い」

 馬鹿正直に訪ねて来た明石教授や、ちくしょうと泣き崩れた瀬流彦は置いておいて。
 彼が申し訳ありませんと反対側の背中を摩られ、ガイノイドにキュンとしたのも。
 特にその件については、彼自身が墓の下にまでもって行く事だろう。

「ふん、ピチピチの女子中学生がなによ。エヴァちゃんの方が、ロリロリとでかぱい。一粒で二度美味しいんだから。あれ、ロリロリは食べて貰った?」
「沖田君、闇の福音とはいえ。あからさまに、教師と生徒の恋愛を進めるべきではない。もはや魔法を明かしてしまいたいが、それも止められ。何故もっと早く明かさなかった」

 目頭を押さえ、悔やみはしてもガンドルフィーニは無理を通さないつもりらしい。

「近衛木乃香の件も、ひかげ荘にいる限り。乙姫むつきの傍にいる限りは、我々が責任を持って全力で守るから、安心するヨロシ。学園長が納得せねば、説明に出向きもするネ」
「いや、必要ないよ。それぐらいは、こちらが責任を持って納得させる。それより、あつかましい相談なんだけど。ここの防衛システムの技術提供は受けられるかい?」
「国家予算を持って来い、と言いたいが。無理ネ、魔力溜まり。竜脈を利用しているから、そこまで汎用性のあるシステムでもないヨ」
「そうか、残念だ。それじゃあ、そろそろ僕らも。そうだ、明後日から二年A組が行く旅行の件だけど。葛葉先生に加え、神多羅木先生も彼の実家に挨拶にって名目で付いていく事になったから。伝えておいてくれるかな?」

 そんな朗報、伝えないわけにもいかないと小鈴は快く了承する。
 一度は領土を巡り争った者同士なのに、それじゃあと手を振り合って和やかに別れた。
 元々、魔法先生側のやる気、統率その他が低かった事もあるのだ。
 全力ではあったが命を賭してという程でもなく。
 小鈴としては、むつきが魔法に関わる可能性が大幅に減って大満足であった。
 自分達は魔法も応用するが、基本的には科学者で、科学ですで押し切れもする。
 明石教授達も、誰と誰が過激派で、命令無視による失態を掴めたり。
 後は孫である近衛の為に暴走しがちな学園長を叱責できるチャンスにありがたいぐらいだ。
 多少痛手を負った者もいるが、得られたモノの方が大きかった。

「微妙に暴れ足りないが、適度な運動にはなった。四葉五月の美味い朝食前に風呂でさっぱりするか。そうそう、超鈴音。私を旅行に連れて行くとは、このはいてくの応用か?」
「ご明察ネ。移動型バスに、魔力集積回路を組み込むヨ。木乃香サンを筆頭に魔力的な意味でハイスペックが多いクラスネ。さらに登校地獄対策に、バスに学校の破片を至る所に埋め込みも」
「今はまだ小型化に至らず、バスに乗せる程の大きさですが。何れ小型化も。相坂さんも濃い魔力で実体化出来るならいけるはずです。今は見えませんけど」
「そうか、京都のみならず。この日本を津々浦々。今から待ちきれん!」

 主にマクダウェルがはしゃぐ中、ひかげ荘へ戻ろうとすると百階段をむつきが降りてきた。
 キョロキョロと不審そうに周りを見渡しながら、浴衣に突っかけ姿であった。
 多少、キングがウロチョロするなとも思ったが、事は済んだ後でもある。
 のんきに今さらこちらに気付き、ひょこひょこスキップで駆け寄ってきた。

「お前等、何処行ってたんだ。なんか周囲が妙にこげ臭いし、変なロボットや絡繰に似た子達が山の中でごそごそしてたけど。あれ、小鈴の仕業?」
「山は適度に手を入れないと上手く育たないネ。男性タイプはアンドロイドの田中さん。例の旅行の運転手も勤めるネ。それで親愛的は何処へ?」
「四葉が醤油が足りないって、何時も使ってるっていう朝一のスーパーにお使い」
「夫婦か。おい、むつき抱っこ。お菓子買ってくれ」
「はいはい、仕方がないな。一個だけだぞ。暇なら、散歩がてらお前らも行くか?」

 もちろんと抱きついてきた小鈴は、さすがに外では駄目とむつきがかわし。
 待って下さい、私もと通信で言い出した葉加瀬を待ってから朝一のスーパーに向かった。
 魔法も戦闘の残り火もなく、僅かな匂いだけを残したまま。
 賑やかに歩いていく五人、プラス見えない一人を見ていたのは、とあるスナイパーだけであった。

「私もそろそろ、本格的にクライアントを乗り換える時期かな」

 そう呟き、一人寂しく誰もいない寮の部屋へと帰って行った。









-後書き-
ども、えなりんです。

前回大げさに書きはしましたが、襲撃されたけどそこまで大げさではなかったり。
明石教授がほどほどに、負けて得る方を選んでくれましたし。
けれど、いずれ娘が喰われた時は、どういう反応するんだろう。
きっとそれを知る頃は、佑奈が孕んだ頃でしょうが。

しかし、これ襲撃が誤って成功してたらむつき終わりでした。
なんだかんだ言って、このハーレムは超なくして成功しません。
彼はそれに報いるために、ちゃんと超を幸せにする義務がありますね。

それでは次回は旅行前夜のお話。
前振りあったとおりさよ回です。



[36639] 第六十二話 お嫁さんになりにきました
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/08/25 16:19

第六十二話 お嫁さんになりにきました

 一足早い修学旅行を前に、ひかげ荘の面々は寮へと帰って行った。
 十日間を超える旅行の準備なので、ひかげ荘に持ち込んだ衣類のみでは足りないのだ。
 今が夏場であり、暑ければ浴衣で過ごしたりと元々それほど多く持ち込んだわけでもない。
 それに持っていくお菓子の買出しなど、ひかげ荘メンバー以外との交流も大事なのである。
 だから半徹夜の後でさらに朝食を挟んで昼間までは、管理人室でイチャイチャと。
 互いの愛液に塗れてネチャネチャだったかもしれないが、それで解散となった。
 それでむつきが完全に暇となるかと言えば、そうでもない。
 かなり忘れがちだが、むつきはひかげ荘のみならず周辺の土地の管理者なのだ。
 新たな従業員兼警備兵の田中さん達や絡繰の妹達と大掃除である。
 個体数が多いのでマクダウェルにも手伝ってもらい、あれやれこれやれと。
 上から目線はマクダウェルだけで、むつきはちゃんとお願いしていたが。
 普段の性臭の残り香一つなく、ひかげ荘が綺麗になったのは午後五時を過ぎたところであった。
 ひかげ荘まわりの山中にまで手を入れ、幾分風通しさえ良くなった気がした。

「疲れた。最近忙しかったとはいえ、溜めると碌な事がないな。絡繰の妹達が手伝ってくれるとはいえ、楽を覚えるとまっさかさまだからな」

 夕飯も四葉が作り置きをしてくれた為、慌てて用意する事もない。
 畳の上に寝転がって伸びをしていると、管理人室の襖が開けられた。

「おーい、むつき。すまんが、遊戯室に来てくれ。しばらく旅行で対局できないと連絡したいんだが、やり方がわからん」
「そう打てば良いだけか? 特定の操作がいると、いきなりは解らんぞ」
「今、対局が終わったところだ。長谷川千雨の言う通りであればちゃっとうぃんどうがあるからそこで打てば良いらしい」
「聞いた限りでは大丈夫そうだな。解った、よっと」

 早めの筋肉痛で少し体が痛んだが、まだまだ若いとハンドスプリングに挑戦である。
 上手く成功しへっへと笑って見せると、それがどうしたと冷たい目であった。
 若い子にはこの凄さが解らんかと、マクダウェルを抱いて二階の遊戯室へ向かう。
 絡繰はおらず、一人でネット碁をしていたようで画面上に貴方の勝ちです百五十三勝三敗と出ていた。
 勝ちすぎだろうと突っ込んだら、その三敗も全てsai@kaoraという人物だけらしい。
 当然、勝ったり負けたりと最大の碁敵だと嬉しそうに笑っていたが。
 パソコンの前の椅子に座ったマクダウェルの肩越しに画面を覗き込んだ。

「なんか凄い勢いでチャットが流れてるけど、いきなり打っていいのか?」
「観戦者を含めた対局後の検討だ。別に今日は対した相手でもなかったし良いだろう」
「ふーん。明日から十日間、クラスの皆と旅行に行く為に対局できませんっと。これで良いか?」
「凄く楽しみにしているようで不満だが、まあ良いだろう」

 実際楽しみにしているだろうと、顎で頭上を突きつつエンターキーを押す。
 マクダウェルのIDでチャットに書き込んだ瞬間、画面が一切停止した。
 あれだけ検討で流れていたログがピタリと、あれ壊れたかと思った。
 その次の瞬間、再び一斉にチャットログが流れ始めた。
 そのどれもが大体同じような内容で、マクダウェルが喋った事への驚きである。
 さらに、次にログが読み込まれようとした瞬間、ブラウザが真っ白になった。
 英語でなんとかエラーとあるが、ほぼ素人にそれが分かるわけも無く。

「やべ、何もしてないのに壊れた。うんともすんとも、マクダウェルそっちのパソコンは?」
「お、こっちもだ。何故急に壊れた……なんだ、他のページは見られるぞ。私の戦績をまとめたサイトがあるのだが。こっちには、ん?」
「何々、sai@evaの新たな伝説? プロ棋士を完全撃破、一言喋っただけでサーバダウン。良くわからんが、壊れたのはウチじゃなくて接続先のサイトか」

 他にも学生疑惑等、むつきが打ち込んだ文面から想像の翼が広がる広がる。
 学生だが強さに反し自己主張の大人しい事から、女学生ではないのか。
 誰かが面白半分に「ぅゎょぅι゛ょっょぃ」と打ち込み幼女説まで。
 さすがにそれは違うだろと、実際は半分当たっているが否定されたり。
 とりあえず分かった事は、ネット碁界ではマクダウェルが大人気だという事だ。

「意図は伝わったみたいだし、良いか。それより、マクダウェル。お前少し埃っぽくて汗の匂いがするぞ。飯の前に風呂に入るか?」
「うむ、朝から暴れたり珍しく働いたからな。構わんが、悪戯するなよ?」
「えっ、俺も一緒に入るの?」
「むしろ、入らないのか?」

 ちょっと認識のズレがあったが、まあいいかとむつきも了承した。
 主に悪戯しないという方向性について、特にである。
 マクダウェルに手を出せば、アタナシアに申し訳なさ過ぎるのだ。








 湯煙に濡れた岩場に背を預け、タオルを頭に置いて見上げるは満天の星空である。
 理系ではないので星座に詳しくはないが、あれはオリオン座とどや顔。
 もちろん星座ですらなく、担当教科以外の知識などこの程度であった。
 ひかげ荘の管理というか清掃に疲れた体をほぐし、極楽極楽と疲れをお湯に溶かす。
 あとは風呂上りに美味しい四葉のご飯を食べてビールをキュッと一杯。
 他にやる事はないので、久々にマクダウェルの碁に付き合うのも良いだろう。

「いやいや、小生意気な子猫でも。一人じゃないっていいなあ。美砂、アキラ、夕映、小鈴。もう、いいや。亜子、あやか、千雨。結婚しようぜ、子供作ろうぜ。金ないけど」

 ああ、俺最低だと思いはするが、どの子も可愛くて好きだからしょうがない。
 他に葉加瀬や、どうなるか不明だが桜咲や近衛なども。
 副業でも始めた方が良いかもしれないが、一度誰かに相談してみようか。

「朝倉は芽がないけど、四葉ってどうなんだろ。凄く支えられてるけど、あいつはあれが普通だし。そこん所、どう思うかねマクダウェル君」
「あいつは、和泉亜子の強化版だ。絶対の夢があって、ブレない。しっかりとした自分を持っているから竜宮城でも惑わされない、揺るがない」
「そっか、凄いなあいつ。俺はブレまくりだ。美砂一筋だって叫んで、アキラを抱いて。両手に花を喜んだのもつかの間で夕映に手を出して、さらに小鈴まで。夏休みにこれ以上嫁さん増やさんと息巻いて。亜子も千雨もあやかも嫁にしたいって思い始めた」
「四葉五月と比べるまでもない。貴様は未だ、未完成だからな。ところで、何時まで見上げている。触れるか、舐めるかさっさと決めろ。それとも足の裏がお好みか?」

 全裸で腕を組みそうマクダウェルが言ったのは、互いの位置に意味があった。
 むつきは湯船の中から空を見上げ、マクダウェルは岩場の上で仁王立ち。
 今丁度、脱衣所から入ってきたのだからしょうがない。
 それでむつきはずっと、マクダウェルの幼い割れ目に向かって喋っていたのだ。
 中学生になっても産毛一つない、ぴったりと閉じた綺麗な割れ目である。
 いくら下のお口といっても、そこから喋るわけでもあるまいに。

「思わず見入って視姦しちまったけど、アタナシアの妹にそんな事ができるか。ほら、今日は俺らだけだし体は後で洗え。義兄ちゃんのお膝に座りなさい」
「誰が義兄ちゃんだ、誰が。全く、仕方がないから座ってやる。ちゃんと支えろよ」

 そう言ったマクダウェルはあろうことかお湯に飛び込み、飛沫がこれでもかと飛ぶ。

「ぶわっ、飛び込むな馬鹿たれ」

 そのままお湯に沈んだマクダウェルの頭をぺしりと叩き、大人しくしろと座らせる。
 夕映とはまた違うすべすべのお肌と、お腹に腕を回し抱き寄せた。
 途中、よし反応しないから俺は正常と内心ほっとする。
 マクダウェルが沈まないよう気をつけながら、頭に顎を乗せてそのまま喋った。
 夕映とはまた違う、ミルクではないが何か甘い匂いと思いながら。

「なあ、アタナシア次何時来るの。夏祭りの時は、折角会えたのに有耶無耶になっちまったし。アタナシア、結婚してくれ。ナギの野郎、早くアタナシアの心から出てけよ。あのおっぱいは俺のだ」
「そうか、そうか。姉とも結婚したいか、姉は魅力的だからな。どんな所が好きだ、言ってみろ。内容次第では応援してやらんこともないぞ?」

 妙にうずうず、頬がにやけそうにぴくぴくしているが、遠くを見ているむつきは気付かない。

「ちょっと勝気で意地っ張りだけど、笑うと可愛いところもあって。当然、綺麗だしおっぱい大きいし。情けない俺を引っ張ってくれる姉御肌も、良いねえ。あれ、完璧じゃね?」
「そうか、完璧か。全く、貴様べた惚れでは……ええい、煩い。もう少し、今良いところ。耳元で叫ぶな。解った、解ったから止めろ」

 なにやら照れ照れと勝手にくねくねしていたマクダウェルが、一人で喋り始めた。
 最近、同い年の女の子と交流し、妖精さんは見えなくなったと思っていたのだが。
 まだまだ、彼女にしか見えない彼だか彼女だかが見えているらしい。
 そんなのより、義兄さんとお話だと捕まえようとしたが、するりとかわされてしまう。
 しかも何を思ったのかお湯からあがって脱衣所に向かって歩き出した。

「おい、マクダウェル。頭と体、洗えよ。髪の毛洗うの面倒なら手伝おうか? それとも絡繰呼んで洗って貰うか?」
「ちょっと待ってろ、直ぐ戻る。それから、そろそろその他人行儀は止めろ。エヴァと呼ぶ事を特別に許してやる。ありがたく、尊敬の念を込めて呼べよ」
「なんだ、照れ隠しか。エヴァ、こっちおいで」

 可愛いなこんちくしょうと猫撫で声で呼ぶと、ぴしゃりと脱衣所への引き戸が締められた。
 まさか照れ隠しでなく、本当に出て行ってしまうとは目が点になった。
 可愛がっていた子猫が撫でてくる手を鬱陶しく思って逃げ出したような。
 ぽつんと広い露天風呂に残され、胸がキュウッと寂しさに鳴き声を上げそうだ。
 あまりの寂しさに、ちょっぴり目尻に涙が滲む。
 最近は、甘々で賑やかな事が多いので、かなり耐性が弱くなっているようだ。
 あまりの寂しさに、アタナシアも義妹と添い寝ぐらい許してくれるよなと考えた頃である。
 良く聞こえないが、脱衣所で何かエヴァが喋っている声が聞こえた。

「茶々丸、防衛システム起動だ。魔力寄越せ、なに。何時までそこに居れば良いかだと。起動後に、そこに詰める必要もあるまい。好きに過ごせ。と言うか、お前もそろそろむつきに部屋を貰え。趣味の一つでも見つけろ」

 最後の方だけ少し聞こえ、そう言えばと絡繰に部屋をあげてなかった事を思い出した。
 本人が欲しいと言わなかった事や、元々地下の研究所にいた事もある。
 旅行後は桜咲や近衛も増えそうだし、今一度ひかげ荘内の部屋割りを考える時期か。
 まずは正式にお嫁にと言った和泉を一階に、まだ厳密ではないあやかと千雨は現状維持。
 いや、もう一階だなんだと拘りを捨てるべきか、全部嫁と思いきろうかという時だ。
 ぱっと一瞬空が煌いたように思い空を見上げる。
 大き目の流れ星、または何処かで打ち上げ花火でもと思っているとガラリと脱衣所の扉が開かれた。

「エヴァ、戻ってき」
「親しげに呼び捨てて、私の嫉妬狙いか? どうせするなら、背面座位であの子を貫きながら現れてみろ。それとも、贅沢に姉妹丼なんて考えているのか?」
「アタナッぐはっ」

 全裸で赤い舌に指を乗せねぶる嫌らしい仕草のアタナシアの突然の登場に、慌てたのが悪かった。
 お湯から上がり、岩場を駆け上って駆け寄ろうとして滑った。
 鼻っ面から思い切り突っ込み、痛みに目が眩んで頭の後ろからお湯に沈んだ。

「むつき、お前大丈夫か。凄い音が」
「ファイトォ、一発。全然平気、タウリン配合!」

 アキラではないが、泡と消えて溜まるかと再び立ち上がる。
 ちょっと鼻血をお湯に流しながら、今度こそお湯を上がって駆け寄った。
 だがあと一歩の所で、アタナシアに制止の手を挙げられお預けである。

「全く、お前は本当に。慌てるな、今日はちょっと紹介したい奴がいてな。一応知ってはいると思うが妹はあれで病弱でな。病院先で知り合った子なのだ。おい、出て来い」
「あの、乙姫先生。二年A組、出席番号一番の相坂さよです。覚えて、いらっしゃいますか?」

 アタナシアの後ろから、同じく全裸でもじもじと一人の女の子が現れた。
 無理矢理染めた刀子のそれより、白く光の加減で銀にも見えかねない白髪。
 日本人らしい、アタナシアがいる為余計にだが、控えめな体形。
 小さな背丈や丸い顔、手頃な手のひらサイズの揉み易そうなおわん型の胸。
 ただし貞淑さの証のように下腹部だけはタオルで必死に隠していた。
 引きずり出された記憶は、結婚を約束したままセックスした夢ともう一つ。
 深い霧が晴れたように、出席簿の最初に刻まれた相坂さよという名前であった。

「ちょっと前に、妹が病院から勝手に連れ出してお前の授業を受けさせたんだ。その時に妙な薬を使って、お前は夢うつつだったらしいが」
「マジで、あれ現実だったのか。現実……え? 相坂、じゃなくてさよ。俺に」
「はい、お味噌汁作ります。お嫁さんになりにきました。あの日の続きも、していただけたら。頑張りますので」

 カァッと赤くなりながら瞳を閉じ、さよがまたあの日の続きをと言って来た。
 もちろん、こちらこそと言いたいがその前に告白しておくべき事があった。
 あの時は本当に勢いと言うか、大人しいさよを言うがままに押し倒したのだ。
 夢であれば問題ないが、現実であればまず言っておかなければならない事がある。

「さよ、俺さ。お前のほかにも、アタナシアだってそうだ。一杯、嫁さんがいて」
「何を今さら深刻そうに。私が連れて来たのだから、先刻承知だ。それを踏まえて、嫁になりたいと来たのだ。断れば愛想付かして、二度と私が来ないぞ」
「先生、柿崎さんや大河内さん。他にも凄く可愛らしい、今時の素敵な方がいて。私は古臭いかもしれません。けれど、この気持ちは負けません。抱いてください!」
「さよ、お前そこまで俺の事を。さよ、さよ……さよ!」

 この野郎とさよ目掛けて駆け寄ったは良いが、一本の白くしなやかな腕が差し出された。
 丁度ラリアットのようにむつきの首を絞め、ぐぇっとカエルが潰れたような悲鳴があがる。
 もちろんそれはむつきのだが、浮き上がった体を抱き寄せられ舐められた。
 垂らした途中のお湯に溶けた鼻血をである。
 さすがに鼻の穴までは吸い舐められなかったが、出た分は綺麗にされてしまった。
 赤い舌をさらに赤くし、ワインでも口にしたようにアタナシアが微笑を浮かべた。

「ん、ごちそうさま。むつき、私を忘れるとは生意気な。私の良さをしっかり刻んでやるからな。初心者のさよもいる事だ。二人で可愛がってやろうじゃないか」
「そうだな、一緒にさよを可愛がるか。凄く、良くしてやるからな。俺とアタナシアが組めば、瞬く間に昇天だぞ」
「先生が求めてくださるのなら、妻として受け止めます。マグ、じゃなかった。アタナシアさんもよろしくお願いします」

 そうと決まればと、三人で湯船に戻ろうとまずむつきが岩場を乗り越えた。
 それから手を差し出しさよを招いて胸で抱きとめ、次にアタナシアを。
 これまた胸で抱きとめようとしたが既に定員オーバーだ。
 ごめんと視線で謝ると、ならば対価を寄越せとばかりに唇を奪われた。
 魂ごと吸い取られるように唾液を啜られ、思わず腰が砕けそうにもなった。
 辛うじてそれが避けられたのは、私も忘れないでとむつきの胸の上でいじいじ指をこねていたさよである。
 可愛いなあと相手を変え思い切り唇を奪おうとして、ハッとした。
 さよはまだお嫁さん初心者なのだから、アタナシアのように激しいのはご法度だ。
 軽く触れるように忘れてないよとだけ伝わるようにキスし、湯船にしっかりと浸かる。

「さよは、こっちの膝の上。アタナシアはこっち」
「はい、貴方様。失礼します」
「和洋折衷か、悪い男になったものだ」
「おかげさまで」

 湯船の中で胡坐をかくと、左手の膝にさよを座らせ、逆側にアタナシアを。
 少し足が絡み合って狭そうだが、そこは工夫を凝らしてなんとか据わって貰う。
 さよがそっと肩に頭を傾け、アタナシアが大胆に首に腕を回してくる。
 和洋折衷とは良く言ったもので、さよの控えめなおっぱいとアタナシアの自己主張の激しいおっぱいが目の前で踊っていた。
 これは本当にどちらから頂くべきか迷うところで、目移りして仕方がなかった。
 さよのおっぱいは、こぶりながら形が綺麗で可愛い乳首もそっと置かれ、手のひらで大事に大事に包むように触れてあげたい。
 方やアタナシアのおっぱいは、クッションかと思うような迫力で、何もかも投げ出してその谷間に沈みたい、やや乱暴に揉みしだきたい。

「おい、むつき。一緒にさよを可愛がるのだろう、目移りしている場合か。全てさよに神経を注げ。一度か、二度で気を遠くにしそうだからな。私とはそのあとでねっとりと楽しめば良い」
「了解、と。さよ、キスしようか」
「貴方様の望むままに」

 左手を袂に引きつけるようにさよを抱き寄せそっとその唇を奪った。
 かつての夢のようなあやふやな記憶の中と変わらぬ、小さく柔らかな感触だ。
 むさぼりたい、滅茶苦茶にしたいと欲望が湧きあがるがそれでも無茶はなし。
 その欲望を受け止めてくれたのは、アタナシアであった。
 スッと蛇が肌の上をからみ滑るように二本の腕が体を這って下腹部へ。
 欲望の源である一物を顎で飲み込むように、手のひらで包み摩ってくれた。

「お前は何処までも優しく、欲望は全てこの私が受け止める。さよを愛し、慈しめ。さながら上半身はさよに、下半身は私だな」
「さよ、ちゃんと支えるから暴れないで。少し押し倒すよ」
「はい、信じていますから」

 じっとしているなど耐えられず、言葉通り腕で支えながらさよを押し倒す。
 お湯の中で前屈みに唇から唇を離して、今は桜色に火照る首筋に吸い付いた。
 あくまで優しく、キスマークなど持ってのほかとでもいうように。
 キスのちゅっという音だけを鳴らし続ける。
 一方で前屈みとなったむつきに、アタナシアが覆いかぶさるように背中にもたれた。
 ご自慢の胸でマッサージをするように、手のひらは変わらずむつきの欲望を掴んだまま。

「あぅ、貴方様くすぐったいです」
「可愛いよ、さよ。白い肌が桜色に火照って凄く色っぽい。ほら、腕上げて」
「そんな、腋に接吻なんて。ぁっ、はずかしぃ」

 自分でも良く解らないが、首筋を降りて胸に行かず文字通り腋にそれた。
 無駄気一つないすべすべのそこにキスを繰り返し、鎖骨を通り逆の腋へ。
 舌で唾液を馴染ませ、ここなら良いかと一つだけキスマークをつける。
 ただでさえ腋などはしたない場所にキスされ、少し艶やかな声が漏れてしまう。
 そんな事、できない認められないとキスされた腋とは逆側の手で口元を押さえていた。

「やるじゃないか、むつき。さよは、へそも中々に可愛いぞ」
「素敵な情報をありがとう、アタナシア。さよ、少し立ってそこの岩場に背中をつけて」
「アタナシアさんのおばかさんですぅ」

 これから何をされるか、しっかりと聞こえてしまっていた。
 弱々しい抵抗の声を上げるも逆らえず、さよは真っ赤な顔のまま言われた通りにする。
 必死にそこを隠したいが貞淑な妻にとって夫の言葉は絶対。
 せめてと両手で顔を覆い、小動物のように小刻みに体を震わせた。

「怖がらないでくれ、さよ。俺はただ愛したいだけだ、さよが可愛いから。余りにも可愛いから。おへそ、んっ。ちょっと苦い?」
「嘘、嘘です。ちゃんと洗って、ないかもしれないですけど。苦くなんてないです」

 膣に舌を挿入させるように、お腹の奥に続くおへそを舌でぐりぐりとほじる。
 舌先に感じた痺れのような苦味は、洗い手が届かない故の垢かなにかか。
 もちろん女の子のさよはそれが認められず、しどろもどろに否定する。

「お前は本当に変態だな。キスならまだしも、腋、へそと移動する度に硬くなってきているぞ。私の手もお前の先走り汁でべとべとだ」
「アタナシア、あまり袋を絞らないでくれ。さよを孕ます前に、出ちまう」
「愛する女を前に、早漏は感心しないな。我慢しろ。女をはべらせるには、それだけ女を満足させる義務もあるんだ。そんな事じゃ、さよに愛想をつかされるぞ?」
「ぐぅ、我慢する。後で覚えていろよ。アヘ顔になるぐらい、犯しまくってやるからな」

 期待していると頬にキスされ、二人きりの会話はそれまで。
 むつきはさよのおへそを離れ、くるりとさよを半回転。
 背にしていた岩場は今やお腹の下でやや乗り上げるように、むつきの目の前には可愛いお尻がふりふりと。
 ああ、はやくこの奥の穴に好きなだけ注ぎたいと喉がごくりと鳴った。
 だがアタナシアの言う通りならば、まだまださよを可愛がり足りない気がした。
 多少、夕映との初夜に失敗しかけ、凄く痛がらせた事が心に残っていたのかもしれない。

「あ、貴方様。駄目です、そこは。そこだけは、き……たなぃ」
「凄く綺麗だから。さよのお尻。さよは気持ち良くなる事だけを考えなさい」

 両手で小さな白いお尻を割るようにし、その奥にある窄まりへと顔を近づけた。
 不思議と嫌な匂いどころか、アレの色も殆どなかった。
 多少色は黒ずんでいたがほぼ白に近く、抵抗感なくそこへと舌を伸ばす事ができた。
 一本一本皺をなぞるように、十分に塗らしてから奥へと舌をうねらせる。

「ぉっ、しりぃ。貴方様の、舌が。ぁぅ、はぁ」
「上手いぞ、むつき。私の手でお前が勃起するように。お前の舌でさよが欲情しているぞ。もっと舌を使え、尻穴を優しく拡張してやれ」
「さよ、美味しいよ。さよのお尻が美味しい。ほら、もっと奥まで」
「駄目、それ以上。お尻で、私。お尻でぇ」

 必死に岩場にしがみつきながらも、さよの足は完全に浮いて伸びきった。
 腰元も不自然な程に弓なりに、お尻が浮き上がってさらにむつきを誘っていた。
 ぴくり、ぴくりと幸せそうなリズムを刻み、津波のような巨大な波の到来を知らせる。
 舌はお尻の中なので上手く喋れず、変わりにむつきは薄い若草に触れた
 じょりじょりと束にするように擦り合わせ、くいくいと引っ張った。

「あな、貴方様。私、変に。子種を貰う為でもなく、自分だけ。貴方様ぁッ!」

 到来を知らせるリズムは長く、過ぎ去る時は一瞬で、さよは思いのたけを叫び上げた。
 愛しい人を呼びながら、はしたないと頭は羞恥で一杯で、押し流される。
 そして快楽の波が過ぎ去った後は、力なくくてりと岩場をすべり落ちていく。
 はあはあと、まるで岩場がむつきであるようにしがみつきながら。

「さよ、可愛かったぞ」

 そんなさよを抱き止める様に支えたむつきが、よしよしと湯気に濡れたさよの髪を撫でた。
 キスの一つもおでこにしたいが、さすがにお尻を舐めた後である。
 うーんと迷っていると、トントンと肩を叩かれた。

「んぐぅ」

 振り返った瞬間、口を塞がれ温かい液体が流し込まれ舌でかき回された。
 洗濯機に放り込まれた衣類の気持ちが分かる程に洗浄され、次は脱水である。
 流し込まれた液体はそのまま吸い取られ、アタナシアの口に逆流していった。
 最後の一滴まで全て吸い取られた後で、アタナシアがそれを湯船の外に捨てた。
 なんというか、マナーが悪いはずなのに妙に絵になるのが困る。
 注意する方が場の空気が読めていないようで。

「何を呆けている。何の為に口をゆすいでやったと思うのだ。ほら、さよを貸せ。メインディッシュだ。美味しく召し上がれ?」

 アタナシアがむつきの腕からさよを奪い、背中側から抱き締め両膝を抱えた。
 小さな子におしっこをさせる格好で、自分はそのまま岩場にお尻から乗り上げる。
 膝の下から伸ばした両手を器用に伸ばし、さよの幼いともいえる割れ目に添えた。
 のみならず、くいっと力を込めて愛液滴る秘部を開いてさえむつきに見せる。
 にちゃりと秘部の肉が愛液の糸を引き、同じく開いた花びらの奥には膣口が。

「んぅ、あ……なた。さま?」

 さよの痴態に目を奪われ固まるむつきの目の前で、さよが遠くから戻ってくる。
 当然の事ながら、自分の痴態には即座に気づいて開かれた秘部を隠そうと暴れた。

「エヴァ、アタナシアさん。止め、貴方様。見ないで、駄目です。あぁ、見られてます。私の女の子が。はしたない、感じてしまってます」
「愛する男に見られ感じるのは当然の事だ。何を恐れる事がある」
「そんなはしたない。貴方様に嫌われてしまいます。女の子は貞淑でいないと。貴方様、嫌わないで。見られて濡れる悪い子な私を嫌わないでください」
「あれが、お前を嫌っているように見えるか? 私には、発情した雌を孕ませようと盛る一匹の雄にしか見えないが? なあ、むつき?」

 ぽろぽろと涙さえ零し懇願するさよの頬に肩越しに頬を触れさせ、アタナシアが囁く。
 ほら見てみろと頬の摩擦で視線を誘導し、目の前に雄々しく立つむつきを見せる。
 二重の意味で立つむつきは、さよを求め犯そうと涎さえ流していた。

「さよ、俺だってお前を見て凄く興奮してる。さよが自分をはしたないって言うなら、俺はど変態だ。さよの下半身を見て、孕ませたいしか考えられない変態だ」

 ふらふらと、さよの魅力に負け操られるように、近付いていく。

「貴方様、私を」
「嫌うわけないだろ。そんな馬鹿な事を二度と口にしないぐらい、可愛がってやる。ほら、入れるぞ。一杯、一杯注いで孕ましてやるからな」
「子種を、貴方様の子種をください。えっちではしたない私の中に」

 もはや言葉を発する事さえ無粋かと、アタナシアはにやりと笑うのみで再度さよの花園を開いた。
 にちゃりと愛液で潤うそこへと、そそり立ち反り返る一物の亀頭を向ける。
 散々アタナシアに愛撫されたそれは、自身の先走り汁でてらてらと光っていた。
 さらに鈴口から漏れる汁は止まらず、ツッと滴ってはさよの秘部へと落ちていった。
 愛液の溜まりに落ちては、ほんの僅かな波紋を描いて混ざり消えていく。
 それを見たさよは思う、こんな風に今からむつきと溶けて混じりあうのだと。
 その時が訪れ、むつきが腰を押し進め第一の波紋を描くようにさよの膣口を広げた。

「んぅ、ぁっ」

 体の中から広げられる感覚、さよが慣れぬそれに身を震わせた。

「さよ、もう直ぐ一つだ。一つになるぞ」
「はい、貴方様。私の中に」

 そっと添えるようにさよのお尻に手を沿え、さらにむつきが腰を押し進めた。
 ぐにゅりと信じられないぐらいに膣口を広げ、むりやり一物を飲み込ませていく。
 夕映程ではないが、さよもまだまだ小さな幼いともいえる体である。
 そんな体で漢方で色々と鍛えられたむつきの一物をどんどん咥え込んでいった。
 お腹はぽっこりと膨れ、何処まで挿入されたか一目瞭然だ。

「さよ、まだ頑張れるか。頑張れるよな、お母さんになるんだもんな」
「うっ、はい……貴方様、奥まで。子宮に直接子種を注げる位置までください」
「もうちょっと、もうちょっとだぞ」
「貴方様、接吻。接吻をしてください、お願いします」

 八割挿入した所で途端に進みが悪くなり、さよも随分と苦しそうであった。
 快楽も感じてはいるようだが圧迫感の方がまだ強いらしい。
 それを忘れる為にもとさよらしくキスを強請り、むつきは無理をしない程度に体を曲げた。
 できるだけ負担はかけないように前屈みに唇を伸ばして、さよと求め合う。
 しとやか、貞淑にと言ったさよにしては珍しく、激しく求めて舌さえ伸ばしてきた。
 それに応えしばし圧迫感を忘れさせてやっていると、コツンっと小さな衝撃がさよの体を駆け抜けていった。

「んくぅ」

 衝撃の次にふるりと小さな快楽を受け、少しだけさよの瞳がとろんと蕩けた。
 だがそれも、まだまだ残るお腹の圧迫感により、覚まさせられたようだ。

「まだまだ、要修行だな。どうだ、むつきの。愛する者の一物を受け入れた感想は?」
「お腹が苦しいんですけど。辛くはないんです。幸せが、体全体に広がって。貴方様、我慢はしないでください。私の体で、どうか存分に」
「さよの中、凄く温かくて気持ち良い。だから、無茶だけはしない」

 唇を離す前にもう一度あけキスをして、むつきは上半身を名残惜しいが離れさせた。
 さよのお尻に手を添えなおし、腰を引いてずるずるとカリで膣壁を擦りあげた。
 お互いの呼吸をあわせ、今度はずぶずぶと再び沈みこませ愛液を滴らせる。
 そろそろと言っても過言ではない動きで、ゆっくりと子宮口にこつんと当てた。
 決して激しくはない想いやるようなセックスの仕方に、さよは忘れていく。
 自分の中を強制的に広げられ拡張される圧迫感を。
 こつん、こつんと優しく子宮口を突かれその度に小さく喘ぐ、その連続である。
 自分はこんなにも愛されている思われているのに何故だろう。
 胸に募る切なさは、もっと激しく求められたい、滅茶苦茶にされたくなってさえきた。

「私達女は我が侭だな、さよ」

 そんな想いを理解してくれたのは、むつきではなく支えてくれていたアタナシアであった。
 両膝を抱える彼女が、手首をクイッと操ると子宮を小突かれるたびにぷるぷる震えていた胸の先端がキュッと締まる。
 優しいセックスに目覚め中のむつきは気付かない。
 さよの乳首の根元が何か糸のようなもので縛られ、釣り上げられるように引っ張られたのを。

「激しいセックスだけだと、愛がないと言う。優しいセックスだけだと、より求められたくなる。こういうのはどうだ、むつきは何処までも優しく、私は激しくだ」
「アタナシア?」
「むつき、お前はそのままで良い。激しい、サディスティックは私の領分だ」

 余りにも細いそれに気づかず、気付かせずちょっと失礼と一度だけアタナシアがむつきの唇を奪った。
 その際、二人の間に挟まれたさよがきゅうっと小さく悲鳴を漏らしたが。
 今は主役を譲っているのだから我慢しろとばかりに、アタナシアが笑う。
 良くわからない顔のむつきは、さよへの思いやるセックスに戻った。
 大きく安産型へとマッサージするようにお尻を撫でならが、挿入をゆっくり繰り返す。
 アタナシアに言われたようにそのまま、続けていく。

「さよ、一杯。お前が一杯気持ちよくなったら、種を中に出してやるからな」
「はっ、んきゅぅ。あなた、さ……ぅん」
「いいぞ、前は優しく。さて次はサディスティックタイムだ」

 言葉通りそこは私の領域だと、アタナシアが動き出した。
 何時の間にか両膝からも腕は離れ、何か細い糸のようなものが腕の代わりを。
 太股が一部ハムのようになっているが、何時の間にか腕も後ろ手に二本結ばれている。
 夫の優しいセックスの裏、ただ本人が夢中で気付いていないだけだが。
 アタナシアの手でSMチックにさよが縛られていく。
 御椀型だった綺麗な胸も乳首が上に引っ張られ、今や釣鐘型になってしまった。
 くいっくいっと引っ張られるたびに、膣への挿入とは別にさよが喘ぐ。

「んぅ、ぁっ。切ないのが痺れに、引っぱ。ぁぅ、あぁ!」
「さよ、そんなに感じてくれて嬉しいよ。もっと、優しく丁寧に愛するから」
「貴方様、ちが。あそこが、優しくされ過ぎぃぁっ」

 体中を縛られ緊縛されているのに、乙女の花園は優しく責められ。
 アンバランスなセックスを同時にされ、さよの頭は混乱しっぱなしであった。
 優しく抱かれているから激しくされたい、だがアタナシアが激しく責めたたている。
 ならば優しく求められたいが既にそれは叶えられており、一体自分がどちらを求めているのか。

「さよ、私が縛る程度で満足する女だと思ったか?」

 なのにさらに混乱を呼び起こすように、アタナシアがさよの耳元で囁いた。
 宙吊りにされたさよの背中の上を、すっと擽るようにアタナシアの長い指が滑る。
 くすぐり、それぐらいならと思ったさよは甘い。
 降りる、どんどん腰さえ超えてアタナシアの指がお尻にまで降りてきた。

「アタナシアさん、そこは」
「駄目だ」

 何一つ言わせやしないと、無情にもアタナシアの指がお尻の穴に埋められた。
 夫の慈しむセックスの裏で、お尻の穴に指を入れられずぼずぼと。
 貞淑さを胸に秘めるさよを心から苛めるように、背徳感に落とし込めて行く。
 さらに埋めた指からアナタシアが糸を幾つも伸ばし、その細い先端でチクチク直腸を突き始めたからたまらない。

「ぁっ、お尻。痒い、つんつん駄目です。アタナシアさん」
「私に夢中になってどうする、さよ。それはお前を優しく抱く夫、むつきへの裏切りではないのか? それとも、私の方が上手いか?」

 そう耳元でささやかれ、ギュッと心臓を握られたかのようにさよは震えた。
 快楽ではない、むしろそれは恐怖に近い。
 むつきは相変わらず、慈愛にも似た表情でさよだけを想いセックスしてくれている。
 なのに自分はその裏で友人のアタナシアに尻を弄られ、気をとられてさえいた。
 違う、そう言いたいのに今や快楽の中心はお尻になってしまっているのは事実。
 泣きたい、ぽろぽろ涙を零したいが気付かれては全てお終いだ。
 この時、ふっと両膝を縛り支える糸が緩んだのは、アタナシアの優しい罠なのだろう。
 さよは貞淑さなどという言葉を捨て去り、むつきの腰を足でギュッと抱き締めた。

「わっ、どうしたさよ。イキそう?」
「貴方様……はげ、激しくしてください。もっと、強く突いて。セックス、私を滅茶苦茶に、貴方様の肉棒で私のおまんこを滅茶苦茶にしてください!」

 もはやお尻の快楽を忘れるには、より激しいものを前の穴に求めるしかない。
 まさに顔から火が出るようなはしたない、それこそ自分がびっくりするような言葉が出た。
 だがそのかいはあったようだ。
 さよの口からそんな言葉がとむつきが驚いたのも、一瞬の事である。

「さよ」

 夢うつつのように名を呼んだむつきが、この日初めてパンッとセックスらしい音を立てた。
 自分の下腹部とさよの小さなお尻との間で、響きわたるような小気味良い音を。
 当然、そうされれば挿入の最奥である亀頭は、やや乱暴気味に子宮口を叩く。

「はぅぁっ!」

 さよも優しいセックスから突然の移行に思わず仰け反った。
 だがそれが欲しかったとばかりに、お尻のそれを忘れさせてとさらに足で抱き締める。
 だからむつきはちょっと勘違いをしつつ、パンパンとさよをリズミカルに突き始めた。

「ごめん、さよ。違った意味で独り善がりだったかな。さよは優しいセックスより、激しいセックスの方が好きだったんだ。勘違いしてた、こうだろ。こういうのが好きなんだな」
「それもちが、ぁぅっ。貴方様、だめ。言葉が、んぁっ。貴方様、貴方様!」

 すっかり勘違いしたむつきが、確かめるようにさよを突き上げた。
 毎度角度を微妙に変えつつ、マッチを擦るように膣壁を擦り上げながら。
 確かに優しいセックスで膣は柔らかく愛液も潤い、突かれる事だけは問題なかった。
 だが今度はその激しすぎるセックスによる快楽に、耐える荒行が待っていた。
 何しろ現在もまだ、アタナシアのお尻への責めは続いているのだ。

「くっくっく、前も後ろもぐちぁぐちゃだな。むつきも猿のように腰を振って。おっと、胸の糸は外しておかないとな。悟られてしまっては興ざめだ」

 タイミング良く、アタナシアが胸を解放した瞬間にむつきが手を伸ばしていた。
 当初はそっと包み込むように触れたいと思ったのはなんだったのか。
 むしろさよは激しい方がと、可愛らしい小ぶりな胸を手の平の中でぎゅっぎゅと潰す。
 元々先端の乳首を縛られていたせいか、不思議とさよに痛みはなかった。
 むしろじんわりとする乳首の切なさが解消されたようでもある。

「うそ、私……んぅぁ、感じて。激しく抱かれ、ぁっ。貴方様ぁ!」
「意外と、本当にそうだったのかもな。貞淑さの裏返し、激しいのが好きなんだよ」

 まさかの思いをアタナシアにも肯定され、もはや抗えない。
 胸の次に腕が糸から解放されると、その腕でしっかりとむつきへと抱きつく。
 足でも腕でもむつきに抱きついて密着し、より深く激しいセックスを求めた。

「さよ、嬉しいよ。さよ、もっと激しくしてやるから。それと」
「ん?」
「忘れてないから、アタナシア。さよが終わったら、セックスしような」

 今までずっと忘れられていたと思った矢先、瞳が合ってそう微笑まれた。
 ずるいだろそれはとアタナシアは思ったが、胸がキュンと震えたのは事実であった。
 さよの密着を手伝うように、間に挟んでむつきへと腕を伸ばし抱きついた。

「アタナシアさん、押し付け。奥がごりごり、だめですぅ!」
「すまん、私も振り切れそうだ。むつき、私も。セックスしたい、お前と。さよみたいに激しいセックスしたい。お前が良い、良いんだ!」
「ああ、待ってろ。明日の事は明日考える。やり遂げるぞ。まずはさよだ!」
「貴方様、そんな激しく。目の前がチカチカ、来ます。来ちゃいます!」

 皆で一緒にと、むつきがこれまで以上にさよを突き上げる。
 アタナシアもさよのお尻を散々弄り回し、早く早く変わってと目的が少し変わっていた。
 前の穴も後ろの穴も突いては弄られまくり、もはやさよの目元はとろけっぱなしだ。
 よだれさえ唇の端から流れ落ちそうで、ちゅっとむつきに吸い上げられる。
 もう、離れられない、体が一つになった以上にもはや心が縛られてしまった。
 一生添い遂げようとさよが決心した時、それは来た。

「貴方様、イキます。貴方様に抱かれ、イキュ」
「さよ、そうか。出してやるからな、孕むまで。いっぱ、あっ!」
「貴方様ぁっ!」
「むつき、ほらイッていいぞ。イキなさい!」

 さよに加え、アタナシアに玉袋を握られ、何かを思い出したにも関わらず我慢できなかった。
 待って、出しちゃ駄目だと思っても抗えず、さよの中に子宮の中にほとばしる。
 むつきの精液が、さよを受精させる精液が子宮の壁に叩きつけられ広がっていく。
 その久しぶりの感覚にさよは体を弓なりに震わせ、アタナシアの胸に後頭部を埋もれさせた。

「あ、ああ……中だし、生徒に。さよは嫁だけど、避妊。最近生ばっかで、慣れ過ぎて忘れてた」
「何をショックを受けている。私がそれを忘れるとでも思ったか。安心しろ、避妊は万全。お前は今はさよを愛する事だけ考えれば良い」
「あり、ありがとうアタナシア。今夜は一杯可愛がってやるからな。もう止めてって言うまで五パーセントはナギを忘れさせてやるから」
「余計な事は言うな、馬鹿たれ」

 ごちんと殴られはしたが、今はさよである。
 むつきとアタナシア二人の間でよがり、遠くに気をやりそうになりながら抱きついていた。
 そんなさよへと、まだ続く射精が終わらないままにマーキングを開始する。
 子宮のみならず膣の隅々にまで、むつきの嫁の証だと精液を塗りたくった。
 ぐにぐに膣壁に、足りないかと思えば無理に尿道の奥から精液を搾り出す。

「貴方様、もう無理。幸せ過ぎて、今日はお先に休ませて……」
「さよ、おーい。さよ? 気絶というか、疲れちゃったかな?」

 しばらくは快楽に酔いしれとろんとしていた瞳が、別の意味でとろんとし始めた。
 それに欠片も抗えず、さよはこてんとむつきの腕の中で寝てしまった。
 後は頼みますと辛うじてアタナシアにアイコンタクトを送りつつ。

「湯疲れもあるかな。俺達もそろそろあがろう、アタナシア。管理人室で、しっぽりといくか。あっ、隣でエヴァが寝てるか?」
「妹は一度寝たら起きないから安心しろ。それと、手を出しても良いんだぞ? その、なんだ。お前なら私も色々と安心できるしな。げふんげふん」
「エヴァが良いって言ったらな。もうね、俺は来る者拒まず抱くよ。だけど、相手に好意あっての上。それだけが、最後の一線だよ」
「安心しろ、それを超えたらひかげ荘の住人全員でお前をなぶり殺してやるから」

 なら安心だと、さよを横抱きにして、アタナシアを腕に抱きつかせ。
 むつきは続く大人の夜の為に、露天風呂を後にした。



[36639] 第六十三話 言いたい事があるなら言った方が良いぞ?
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/08/25 16:24

第六十三話 言いたい事があるなら言った方が良いぞ?

 昨晩、はたまた今朝と言った方が正しいか。
 旅行当日になっても燃え上がった情愛は止まらず、むつきとアタナシアは逢瀬を楽しんだ。
 美砂達と違い、何時会えるのか解らないといった点もそんな無茶の後押しをした。
 何時寝入ったのかも分からず、指定した覚えのない携帯電話の目覚ましに起こされる。
 掛け布団はタオルケット一枚で、捲る必要もなく手を伸ばす。
 現在時刻は午前四時、旅行の集合時間は午前五時に女子中等部の校庭にである。

「か、体重てぇ。アタナシア、さよ……て、あれ?」

 全然寝た気がしない重い体に鞭打ち、起こそうとしたら二人が居なかった。
 また知らぬうちに帰ってしまったのか、布団を共にしているのはエヴァだけだ。
 お姉ちゃん恋しさにまた潜り込んだかと、ふにふに丸い頬を突く。
 するとあむっと赤ちゃんがするように指先を口に含まれ、ちゅうちゅう吸われた。
 ちくちくするのは八重歯か何かか、可愛い子猫だことと逆の手で頭を撫でる。
 子猫はそのままふにゃりと赤子のような無邪気な笑みを見せた。

「アタナシアは手を出しても良いって言ったけど、キスしたいかって言われると。うーん、解らん。可愛いけど、妹的な」

 しゃぶられた指を抜いてその辺で拭いて、うりうりと頬を突いた。
 今度はかぷりとされたも避けて、またうりうりと。
 すると獲物を連続で逃し、悔しげに唸り拗ねるようにむずがった。

「うぅん、んぁ。むつき?」
「おはよう、エヴァ。お姉ちゃんは、さよと一緒に帰ったみたいだぞ。それと眠いけど起きような。お待ちかねの旅行だ。外もしっかり晴れてるみたいだ」

 自身がまず起きて、さあ起きろと体を起こさせたがそのままだらんと。
 寝た子はまだまだ目元が怪しく、起きる気配は殆どなかった。
 さすがに午前四時はこの子にとってはまだまだ夜中といったところなのか。

「まだ眠い。むつき、ちゅう」
「ちゅう? ああ、キスか。お休みのキスか?」
「違う、恋人のちゅう」
「恋人か、このおませさん。俺、お前の姉ちゃんと恋人、みたいなもんだけど。エヴァは俺の事が好きなのか?」

 ひょっとしてこれまでも影では、姉に対して妬いていたのか。
 実は布団に潜り込んできていたのも、姉を恋しがったのではなく精一杯の反抗だったりして。
 せめて好きなら応えようもあるのだが、まずはやはりそこをハッキリして欲しかった。
 眠たげなエヴァを可愛そうだがゆらゆら揺すり、おーいと答えを求める。
 困ったように髪の毛と同じ色の眉毛を八の字に傾け、うつらうつらしていたエヴァがおき始めた。
 とろんとしたいた瞳にも意識の光が灯り、ハッと我に返ったようにぱっちりと。
 そして次の瞬間、むつきの体が走る車のタイヤもびっくりな速度で回転し引っくり返った。

「貴様人が寝ぼけている事を良い事に、何を言わせようと。か、勘違いするなよ。貴様が私に惚れているのだ。この、この!」
「なるほど、竜宮城の魔力で色々と勘違いしちゃったのね。うんうん、俺も好きだよエヴァ。ほら、おはようのちゅう。はい、起っきようね」

 足蹴にされながらなんとか近付き、真っ赤なエヴァのおでこにそっとキスをする。

「ああ、しまった。ついうっかり、チャンスだったのに。違う、す。誰が好きか、この野郎!」

 慌てて訂正しようとするも、意地っ張りが突然直るはずもなく。
 またしてもくるりとむつきは布団の上で宙返りさせられる始末だ。
 だがこれもやんちゃな義妹の愛かと、エヴァが欲しかった方向からさらに遠く。
 携帯の時計を見ると四時十五分と、そろそろ本気で準備にかからねばならない。
 構って欲しがりなエヴァを片腕であやしつつ、むつきは少し声を大きくした。

「おーい、絡繰」
「はい、ここに」

 何処にいるか解らないのでとりあえず呼んだのだが、まさか襖の向こうにいるとは思わず。
 すっと開けられた襖の向こうに、制服に着替え正座で待機していた絡繰に驚いた。
 ただ何故だろう、絡繰は片手をスカートの奥に忍ばせ、じーっとむつきとエヴァを見ている。

「絡繰君、君は一体何をしているのかね?」
「布団の上で戯れるマスターと先生を撮影していました。オナニースタイルは、盗撮時のマナーと学習しております。あっ、お気になさらず続きを枯れ果てるまで、どうぞ」

 ここにも悪い意味で竜宮城の影響を受けた可愛そうな子が一人。
 と言うか、さり気にこの子は撮影だとか言わなかっただろうか。

「このばかロボ、撮影するな。誰にも見せるな。葉加瀬にも超にもだ!」
「しかし、メンテ中に記憶領域を」
「うるさい、うるさい。巻いてやる、こうして。こうしてやる!」
「絡繰、お前ゼンマイ式だったのか。最新式のくせに、なんだそれ」

 茶々丸を蹴倒したエヴァが、何処からか取り出したゼンマイを後頭部に挿した。
 そのままキリキリと、小さな手で一生懸命巻き始める。

「ああ、マスター。そんなに巻いては、らめえひぎぃ」
「なんたる棒読み、舐めているのかこの私を。おい、むつき手伝え!」
「ちょっとだけだぞ、本当に準備しないと。これで良いのか、よいせ」
「ぁっ」

 むつきが一緒にゼンマイを巻くと、棒読みは何処へやら妙に艶かしい声が絡繰から漏れる。
 絡繰自身、それには驚いているようで口元を押さえて固まっていた。
 当然、先程まで一人騒いでいたエヴァも、ただ直ぐににやりと悪い笑みを浮かべる。
 自分の手を包んでいたむつきの手から逃れ、逆に自分がむつきの手に触れるようにしてゼンマイを巻く。

「はっはっは、私を舐めるからだ。おい、むつきお前は心を込めろ。どうだ、茶々丸。ここか、ここがええのんか!」
「心を込めてゼンマイを巻くとか。何プレイよ。まあ、いいか。五分だけだぞ。絡繰、もう一回お前の可愛い声を聞かせてくれ。ほら、気持ち良いか」
「やめ、マス。ぁっ、先生ぇ。んぅっ、だ、だめぇ!」

 世界初、ゼンマイを巻かれ喘ぐガイノイドを巻き巻きと責め立て始める。
 その結果、三人は集合にちょっと遅刻する事になった。
 絡繰が予め荷物をまとめておいてくれたからちょっとで済んだのだが。
 それがなければ、置いていかれても文句が言えなかった事であろう。









 むつきやエヴァのせいで旅行早々にスケジュールは五分遅れとなった。
 先に見送りとして来ていた新田や二ノ宮にお小言を言われたぐらいである。
 特に二ノ宮には、何故私に引率を頼まなかったとお高いお土産を色々と要求された。
 遅れはしたが、公共の交通機関を使用するわけではないので特に問題はない。
 この日の為に超と葉加瀬が丹精込めて造り上げた超包子特性のバスだ。
 電車をバスに仕立てたそうだが、外観上は一両の路面電車にしか見えない。
 おかげで生徒達も今は見慣れたそれより、お喋りに夢中であった。
 ただ十日で日本を横断できるはずもなく、色々と秘密が盛り込まれているのだろう。

「見るからに、普通の電車だな」
「魔力的なものは何も感じられませんね。さすが、超鈴音といったところでしょうか」

 電車に興味心身に触れたりしているのは、黒いスーツ姿の神多羅木とワイシャツに白の上着、濃紺のタイトスカートと同じくスーツ姿の刀子である。
 二人共引率なのだから、当然として。
 麻帆良女子中の二年A組の催しなのに、高等部の教師二人とはこれいかに。
 むつきの色々な意味で親しい人だからと言う事もあるだろうが。

「二人共、学園長もいらっしゃいましたし。始めましょうか、ところで。姉ちゃんはいないんですか?」
「ああ、北海道から降る途中で一度東京に寄って拾う予定だ。この時期、あまり長くは喫茶店のウェイトレスを休めないらしい」
「けっ、幸せそうに。学園長、こちらへどうぞ」
「うむ……気にせんでええよ。というか、刀子君。君の気が怖いのじゃが」

 多少やさぐれ唾を吐くマネをした刀子に対し、学園長がびくびくと進み出た。
 何処へとは、当然の事ながら校庭に集るA組の面々の前にである。
 普段のこの時間は、さすがに静まり返っているはずの中等部の校庭は現在大賑わいだ。
 一応、学校公認の旅行なので現在は全員制服姿だが。
 整列こそしているが旅行バッグに座ったりと、わいわいお喋り中であった。
 その話題の中心は旅行かと思いきや、ずっと病気で休学していたさよである。
 きちんと学校指定の制服を身に纏い、皆のパワーに押されながら仲良くしていた。
 何故かその姿をほろりと涙を零しそうに学園長が見ていたのは謎だが。

「おーい、お前等静かにしろ。出発前に、色々と骨を折ってくださった学園長の挨拶だ」
「皆さん、お静かに。お喋りはバスの中でもできますわ」

 ぱんぱんとむつきが手を叩くと、雪広も協力して皆を静めてくれた。
 早くもテンションは振り切れ気味で少し普段より時間を掛けて静かになっていく。
 それから改めてどうぞとむつきが、学園長へと丁寧にお辞儀をして促がした。

「ごほん、あー」
「あっ、お爺ちゃん。これ使ってや」
「おお、すまんな木乃香。マイ、クじゃないのう」
「やん、間違えてもうた。せっちゃん、お爺ちゃんが怒るぅ」

 一体、近衛の中での学園長の評価はどうなっているのか。
 喋る直前で渡したのはマイクではなく、トンカチであった。
 明らかにわざと渡したそれで長話は厳禁とまさに見えない釘を刺し、自分は堂々と桜咲に抱きついて甘えていた。
 ある意味で学園長の孫らしい、強かな性格である。

「生徒の為に骨を折るのは教師の本分じゃ。楽しんで来るように。乙姫君、頼んだぞ。神多羅木君も刀子君もな。以上」
「はい、学園長の素晴らしいお言葉でした。お前等、拍手。拍手!」

 せめてそれぐらいしろと、やや語尾を強めて拍手しなさいと強制した。
 パチパチパチとまばらなのは、三十人程度だからだと信じたい。
 止めてもっとして、特に俺の教師生活の為にとむつきも混ざって必死に拍手した。
 その必死さが伝わったのか、ちょっと悪い事をしたかなと近衛がまた動く。
 しゅんとして背を向けた学園長へと、うしろから飛びつくように抱きついたのだ。

「お爺ちゃん、行ってくるえ。もう、特に暑い日は長話したらあかんえ。お土産一杯、買ってきてお話もしたるから。お仕事頑張ってな?」
「おうおう、木乃香。お爺ちゃん頑張るぞ。刹那君と仲良うな。皆も木乃香の事をよろしゅう頼むぞ。行ってらっしゃい、孫達や」

 わあっと、先程のまばらな拍手とは違う、心からの拍手が今度こそ送られた。
 なんというか以前のむつきと少し被るような。
 学園長という殻を脱ぎ捨て一人の老人として、孫達を見守った方が評価が高かったようだ。

「学園長行って来ます。足りなかった旅費は夏休み中のバイトで返します!」

 近衛とは別の意味で孫同然の神楽坂がまず、声を高らかにそう言った。

「私もお土産買ってくるから、お爺ちゃん!」
「よおし、一番学園長が喜ぶお土産買ってくるか勝負だにゃあ!」
「それ、木乃香の圧勝やないん?」
「悦び過ぎて心臓麻痺を起こさないよう覚悟するです!」

 続き同じバカレンジャーの佐々木がお爺ちゃんと呼び、明石がお土産勝負を言い出した。
 亜子の言う通り近衛の圧勝は目に見えていたが、それはそれ。
 楽しければ、そのファクターであれば良いと鳴滝姉も乗り気であった。
 次々に生徒からお爺ちゃんと呼ばれ、もはや学園長は涙腺が崩壊中である。
 さすがに、麻帆良人気投票で歴代の生徒の票を集め総合の部で三位を取ったのは伊達ではない。
 ちょっと足元が危うくさえあり、つきそいのしずなに手を取られていた。

「さて、出発前にまず記念写真か。朝倉、カメラ。俺が撮るから、刀子さんと神多羅木先生も入って、入って」
「副担任のお前が入らずにどうする、俺が」
「はい、そこでちょっと待つネ。順番が違ったが、今回のバスの運転手を紹介するヨ。我が科学技術の粋を凝らしたアンドロイドの田中さんネ」

 そう小鈴が手を向け紹介したのは、超包子の電車に向かってである。
 窓にスモークが張られた運転席のドアを開け、のそりとその田中さんが姿を現した。
 むつきは既に彼ら達に一度会っているので驚きはしなかったが。
 朝倉も顔負けのパイナップルの葉のような長いツンツンの白髪が飛び跳ねている。
 おでこが出ているのでやや面長に見る顔には黒のサングラス。
 多少神多羅木と被る部分もあるが、兎に角大きなガタイが被っているとは思わせない。
 百九十は軽く超えそうな体躯はこの暑い時期に関わらず、皮のジャンバーとズボンに包まれている。
 誰もが思った、言うぞ、さあ言うぞと。
 その思いが通じたかのように、田中さんが空気を読んで腕を挙げ拳の親指を立てた。

「I'll be back」

 さらに著作権はどうなっているのか、声はあの有名映画の吹き替えの人だ。

「言った。言うと思った、ターミネーターだ。リアルターミネーター!」
「凄い凄い、ハイタッチ。ハイタッチして!」
「High five. OK. Give me five」

 早乙女が特に大喜びし、早速と椎名がハイタッチを求めていた。
 英語で言われ一瞬椎名は小首を傾げたが、そこは田中さんが手をあげる。

「Up high, down low, too slow」
「はは、桜子避けられた。お約束、ちょっとマジ凄いんですけど」
「超りんこの人、英語しか喋れないの?」

 上でパチンと一回、次は下でと手をさげられたがそこはお約束。
 桜子が下でもパチンとしようとして避けられ、指を指して釘宮が笑っていた。
 だが登場からずっと英語で、楽しいけど不便そうと美砂が小鈴に尋ねる。

「いや、日本語喋れますけど。どーも、毎度おおきに。もうかりまっか、ぼちぼちでんな」
「日本語覚えたばっかの外国人。テンプレ、テンプレ!」

 もはや何処まで生徒の心を掴めば良いのか、千雨が笑いすぎで呼吸困難さえ起こしていた。
 これにはつい先程、感動を頂いた学園長も、むつきさえも嫉妬せずにはいられない。
 映画とかでロボットに仕事が奪われると、ストライキを起こす人の気持ちが良く解る。
 そして先生とは別途、生徒の中でも嫉妬の炎をちらりと燃やした者が一人。

「くっ、弟のくせに」
「茶々丸、アイツの方が流暢に喋ってないか? ユーモラスもあるし」
「マ、マスター!? わ、私の方が、きっとえっと、そう強いです!」

 ガイノイドとアンドロイドの力量勝負で、突然強さに移行するのはどうだろうか。
 もっと他に介護とか食事の作り方とか、勝負どころは色々とあるのだろうに。
 あっさり興味も奪われ、エヴァはビーム出すかなとかわくわくしていた。
 ビームぐらい私もと、絡繰が空へと向けて撃ったは良いが、誰一人として喜ばれるどころか見ても貰えず。
 さすがに可哀想なので、凄い凄いとむつきは頭に手をぽんぽん置いてやった。
 ただ髪の毛が放熱中で少し熱かったが。
 そして皆にわいわい詰め寄られ、空にビームを撃ち放った田中さんにカメラを渡す。

「田中さん、悪いけど集合写真頼むよ。使い方解るか?」
「OK. Boss」

 朝倉のデジカメを受け取った田中さんが、何故かむつきの事をそう呼んだ。
 もしかすると先日、大掃除をした時に一度会っているのかもしれない。
 田中さんは量産型なので、なかなか見分けが付き辛いから解らなかった。
 後日小鈴に頼み多少見分けを付かせ、きちんと田中や佐藤と呼び分ける事を提案しよう。

「はい、皆さん真ん中に寄って。小さい子は前に、少し大きい子は前屈み。特に龍宮さん。屈んで胸を強調すると、Goooood!」
「おい、超。さりげにセクハラされたんだが」
「おかしいネ。そんなプログラム組み込んだ覚えは」
「すまん、それ仕込んだの俺。相手がガイノイド、絡繰の妹達でも女の子には優しくって教えている間に脱線して」

 アンドロイドとはいえ、ひかげ荘で数少ない男だったので楽しく喋りたかったのだ。
 恋人とセックスフレンド以外はNGとばかりに、アキラにお尻をこっそり抓られた。
 他にやるじゃん先生とばかりに、春日にわき腹をつつかれもしつつ。
 そんなむつきの居場所は後ろの何故か中央。
 刀子と神多羅木は多少遠慮して列の両サイド後ろに立っていた。
 全員が満面の笑みでピースサインなどをしつつ、田中さんがお決まりの台詞を言った。

「一足す一は?」

 誰がどう答えたかは、ご想像にお任せしつつ。
 二年A組の特別修学旅行の幕はあがった。









 超包子の電車は現在、日本上空を飛んでいた。
 決して比喩ではなく、麻帆良女子中等部のグラウンドからジェット噴射で上空に。
 それから翼を生やして一路北海道へと北へと向けて一直線であった。
 ただ一両の電車とはいえ超包子の車両は普通のものに比べやや小型。
 屋根に飛行船でも着ければ飛びそうで、羽根とシェット噴射で飛んでもおかしくはない。
 普通はもっと突っ込みを受けそうだが、車内はもっと驚きが待っていたからである。

「先生、はい一枚どうぞ。そうしていると、本当のご兄妹みたいですね」

 妹とは、胡坐をかいたむつきの膝の上でうつらうつらとしているエヴァであった。
 バランスを崩してこてんといかないよう、時折顎で頭をこっちと揺らす方向を指定したりする。

「まかり間違えば、義妹の可能性もあるからな。これ、と。あちゃあババか。那波?」

 超包子の車両内にて数人で集ってババ抜き中である。
 順番は時計回りに、むつきの一つ前は那波でありババをつかまされたは良いが。
 一瞬あの黒い覇気が漏れ、いけないっと繕いうふふと那波が笑う。
 突っ込むまいと、ぷるぷる震えていた村上へとトランプを扇状にして見せた。

「うーん、ババが一枚。ちづ姉、ゲームの話ね?」
「あら、他に何があるのかしら夏美ちゃん?」
「なんだろうね。はは、それにしても本当に凄いよね超さんの科学技術。超包子の小さな電車の中がどうしてこんなに広いんだろう」

 那波の覇気に気圧されつつ、話題よ変われとばかりに村上が話を振った。
 日本の空を縦断して行く超包子の車両は一台、だがその中は広かったのだ。
 入って直ぐは全員が雑魚寝できそうなぐらいの広さで、そこから更に部屋が幾つか。
 空間を無理矢理広げたうんたらと、四次元とドラえもんの世界に突入したので詳しい説明は全員で辞退した。
 各先生、後で合流予定のむつみを含む個室に、四つの班に分けられた各生徒達の部屋まである。
 班が四つなのは引率者が四人であり、むつみが合流するまでは田中さんがソレを勤める予定であった。
 むつみ合流後は田中さんは運転手兼、警備員にもどる。
 もちろん窓もあり夏の青い空と白い雲が流れていく光景が良く見えた。
 さすがに高度があるので高所恐怖症の人の為に、窓が見えなくなる眼鏡も配られる気の配りようだ。
 高所恐怖症と言うわけではないが怖いと言う事で村上は眼鏡をしている。

「これ、よしセーフだ」
「まあまだゲーム序盤で確率甘いからな。むしろ一発で引いた俺って」
「先生、運悪すぎなんじゃ。はい、龍宮さん」
「ふふ、村上。私が欲しいカードはこれだ。はい、揃った」

 まるでカードが透けて見えるかのように、宣言通り龍宮が引いたカードをペアにしてそのまま捨てた。
 そして次にカードを引くのは、なにやら龍宮と因縁めいた雰囲気を見せる長瀬である。
 普段こういう場合、長瀬は双子の保護者役なのだが。
 田中さんに色々と触発された絡繰が、双子の手を取りメリーゴーランドとばかりに振り回していた。
 弟に負けるわけにはと本人は必死だが、きゃっきゃと双子も喜んでいるので良いだろう。

「さて、決着をつける時が来たか楓」
「さて、ババからっと。飛行機内で銃は厳禁でござるよ?」
「勘違いするな、撃つのはお前じゃない」

 パンッとモデルガンで龍宮が撃ったのは彼女の頭上にある糸で釣られた鏡であった。
 綺麗に糸を打ち抜き、落ちてきたそれを手で受け止めふふんと笑う。
 長瀬もむむむと唸ったがまだ何か仕掛けを施してあるような微笑を僅かに浮かべた。
 二人してにやりと笑みを浮かべ、これまた同時にむつきにごつんと拳骨を落とされる。
 それからむつきは何よりもまず、龍宮が持っていたモデルガンを取り上げた。

「龍宮、危ないもん持ってくんな。誰かに当たったらどうする。長瀬もゲームでずるすんな。長瀬兎に角、一枚引け。お前等の間に俺が入る」

 長瀬が仕方なしとてきとうに龍宮のカードから一枚引いてひくっとひきつる。
 どうやらペアを作る事には失敗したようで、今のうちにと龍宮とむつきは席を代わった。
 次は春日が引く番で、気付いてみればむつきと交流の薄い面々が集っていた。
 春日の次はザジであり、その次は那波で一周である。

「ねえ、先生。班決めだけど、もう一度話し合わない? できればあっしを別の班に」

 長瀬のカードを引きながら、何故か酷く卑屈げに春日がそう言い出した。
 一応、勝手にこちらでというか、神多羅木や刀子とも話し合った班で反対意見は特になかったはずだが。
 二班が何故か一人少ないが、そこまで拘るような硬い旅行でもない。
 それにしても皆の前では何か言い出しにくい事でもあったのか。
 ちなみに班分けは以下である。
 一斑の引率はむつきで、班長が美砂、アキラ、夕映、小鈴、亜子、千雨、あやかにさよだ。
 二班の引率は刀子で班長が神楽坂他に近衛、桜咲、古菲、春日、長瀬、龍宮である。
 春日の事情はさておいて、
 三班の引率はむつみと田中さんで、班長を那波にし村上、鳴滝風香、鳴滝史伽、四葉、葉加瀬、エヴァ、絡繰であった。
 最後の四班は神多羅木が引率で、班長が明石、佐々木、椎名、釘宮、早乙女、宮崎、朝倉、ザジだ。
 一部不安なのは最後の四班の宮崎ぐらいだが、特に反対意見はなかった。
 鈴宮のたっくんとどうなったか不明だが、教師相手ならまだ拒絶反応はないらしい。
 いや、エヴァが一斑に入れろと言ったが、含みのある班なので別途。
 葉加瀬や四葉だって別なのだからと、結局膝の上で妥協させるのに苦労した。
 それで春日の不安とはなんぞやと、改めて聞こうとしたのだが。

「へっへ、それがですね旦那ぅっ!」

 突然首でも絞められたように、春日があうあうと言葉を詰まらせていた。
 細い細い糸は殆どの者に見咎められず、春日の首を絞めている。
 ピンッ、ピンッと弾かれ糸電話のように振動で、明かせば殺すと殺意を伝えられた。
 だらだらと春日が妙な汗を掻き出し、急になんでもありませんと意見を引っ込めてしまった。

「おい、春日。どうした? 言いたい事があるなら言った方が良いぞ?」
「な、なんでもないでやんす。ほ、他にも殺意が。死ぬ、京都に辿り着く前に死ぬッス」

 突然泣き出した春日にとりあえず元気出せと懐から出したお菓子を恵んでやる。
 集合場所に向かう途中で、立ち寄ったコンビ二で急いでてきとうに買ったものだ。
 ありがてえ、ありがてえと春日に拝まれたが、当然一人だけとはずるいと視線が。
 仕方がないので一番の奴の商品なと詰まれた捨て札の上にお菓子を放った。

「さて、生徒と遊ぶのも良いが」

 一応は引率なので、監視の目を怠るわけにもいかない。
 基本的に個室は寝るときだけで、特別な理由はない限りは広間にいろと言ってある。
 特にこれまで触れ合う機会のなかった得に神多羅木がどうしていることか。
 ところが心配は無用とばかりに、神多羅木は落ち着いたものであった。
 美砂やアキラ、他に恋愛に興味のある宮崎や神楽坂とむつみとの恋を問い正されていた。
 本人も満更ではないように、火のないタバコをふかしつつ答えている。

「普段、大人はどういうところでデートするんですか? やっぱり、先生もむつみさんに癒されたりするんですか。特に後者を詳しく!」
「無用な意地なのかもしれないが、男は簡単に他人に弱みを見せるわけにも、弱気を吐くわけにもいけない。だがどうしても耐えられない時、そっとそばにいられたらな」
「それでそれで、しっぽり慰めあたっ」
「子供にはまだ早い。そういう恋愛は大人になってからだ。俺は憧れだけで突っ走る恋も悪いもんじゃないと思う。頑張れ、神楽坂。相手は手強いぞ」
「明日菜、どこまでその話広がってるんだろ」

 エロイ質問をしては美砂がデコピンされ、高等部の教師にまでバレてるとアキラが苦笑いしていた。
 ただ神楽坂は憧れだけも悪くないという意見に、思い悩んでいる。
 むつきのはしゃがず支えろという意見と間逆だからだ。
 一体どちらが正しいのか、あるはずのない答えを探して今日も恋に忙しい。
 宮崎も誰を相手に夢想しているのか、顔を赤くしながらうんうん頷いている。
 一方刀子はというと、元々夏祭りでも引率経験があるので良くも悪くも馴染んでいた。

「いやぁ、ごめんね葛葉先生この前は。お詫びに、先生とのイチャイチャ場面のスケッチあげる」
「貴方には一度、教師という相手への敬意を。それに誰がそんな……貴方、凄く絵が上手いわね、これは中々の。今からでも記憶を探って描けるかしら」

 ばんばんと失礼にも肩を叩かれながら早乙女に謝罪され、少し青筋が浮いていた。
 だがそれも早乙女のエロエロスケッチを見るまでであった。
 浴衣を乱し、後ろからむつきに抱えられ貫かれた姿が克明にスケッチされている。
 まだ想いの残り火が燻っているようで、怒りも霧散し食い入るように見ていた。
 あの日の思い出にと当時の浴衣の自分とむつきを依頼し始める。
 さらにカラーでポートレートっぽくと、残り火どころかまだ燃えているようにさえ。
 近衛や桜咲、亜子や千雨もこのグループで、おおエロイエロイと一緒に見ていた。

「大輪の一輪挿しだな。おい、お前らその覚悟はあるか。先生に一輪挿しされる」
「うーん、うちはまだないえ。せっちゃんといたいだけやし。でもお爺ちゃん、次々にお見合い勧めてくるし。防波堤、は無理やな。先生首になってまう」
「お嬢様との二輪挿しなら、極普通の相手であれば特にこだわりは」
「そらあかんな。先生、好意のないドライなの嫌いやし。セックスフレンドにもある程度そういうの求めるし。長谷川、うちらどないする。何時頃、一輪挿しされる?」

 今の二人の自分本位な考えが抜けないうちは、無理だなっと千雨と亜子が笑う。
 それよりと、周りや刀子に聞こえないように自分達はと相談だ。
 特に亜子はちゃんとむつきに告白しており、あとはタイミングだけである。
 実はこの旅行中にはと心に秘めており、ついに残り一穴を奪って貰うつもりであった。
 そんな事はつゆ知らず、むつきは全員楽しそうでなによりと笑っていた。
 教師の周りにいない子もそれぞれグループを作ってカードゲームをしたりしている。
 全員仲が良くて何よりだと笑い、龍宮に先生の番だと突かれゲームに戻った。
 まるで寮ごと移動するかのように超包子の電車は一路北海道、稚内へと向かっていく。









-後書き-
ども、えなりんです。

麻帆良祭以降、扱いの悪かった学園長をちょっと修正入れました。
ずっと犯罪者扱いなのもね。
ただ、ひかげ荘に襲撃命令かけといて素知らぬ顔で、やはり面の皮は厚かったり。

さて、ひかげ荘の二部ですが大半はこの旅行話になります。
普段教室ではなかなかむつきと縁のなかった子と交流したり。
相変わらず嫁とエッチしたり、最後まで気づかないけど魔法側に巻き込まれたり。
そんなお話となります。

それでは次回は水曜です。



[36639] 第六十四話 楽しむ気満々じゃねえか
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/08/28 21:24
第六十四話 楽しむ気満々じゃねえか

 本来、日本一周の旅をするならば所在住所から出発し、海沿いをなぞって一周だろう。
 もちろん、北海道を始め大きな県やそもそも海がない県もある。
 厳密にはなぞらない時もあるが、概ねそのはずだ。
 だから今回の二年A組の旅行は日本一周ではなく、日本縦断と言った方が正しい。
 三時間を掛けて八時半頃に北海道の稚内空港へ辿り着いて降りた。
 もちろん、自家用ジェットが軽々しく降りられるはずもなく、そこは雪広財閥の力を少し借りてしまった。

「ねえ、いいんちょ。確かこういう特別扱いっていうか。お金任せ、嫌いじゃなかったっけ?」
「えっ、あの……当然ですわ。今回は、特別です」

 神楽坂に正面から尋ねられた時の困ったような微笑が、やけにむつきの心に引っかかっていた。
 ただ引率者としてあやか一人に構ってばかりも居られない。
 空港に降り立ち、やけに腰の低かったお偉いさんとは通信でお礼を述べた。
 雪広財閥になんと言われたのか、こちらが恐縮してしっかり感謝を伝える。
 それから超包子の特性路面電車は、車のタイヤを変形機能で取り出し空港を後にした。
 残念ながら窓は開けられず北海道の涼しい夏は、まだ直接感じられないが。
 生徒達は皆、北海道のそれも最北端に興味深々で窓に張り付いていた。

「先生、今から何処行くの。何時、外に出られるのかにゃ!?」
「明石、テンション上がり過ぎだ落ち着け。それに修学旅行のしおりとまではいかないが。スケジュール表ぐらい渡したろ。ほら、一旦整列しろ」

 さすがに今回ばかりは、むつきがぱんぱんと手を叩いても効果は薄い。
 真面目なアキラや近衛辺りは直ぐに集ろうとしたが、他が動かないのだ。
 お互いに顔を見合わせごめんと手でむつきに謝り再び窓際へ。
 むつきもこれは参ったと、神多羅木や刀子と苦笑いであった。
 だからせめて声を大きくして初日のスケジュールを発表した。

「今から約二十分後に日本最北端の地で有名な宗谷岬に着く。そこでだいたい一時間だな。それからちょっと早めの昼食、ロシア料理を出す店があるからそこで昼食」
「北海道なのにロシア。そうなんだ、知ってたまきちゃん。北海道ってロシアだったんだって」
「何時の間に日本が侵略されて、まさにおそロシアだね明日菜」
「えっ、何言ってるのこの子達。凄く真面目な顔して」

 早速おばかな神楽坂と佐々木がごくりと生唾を飲み込み真面目にボケていた。
 普段の彼女達をまだ知らない刀子は、大丈夫なのとむつきに問いかける。
 さすがの神多羅木もここまでのと、驚きにサングラスがずり落ちかけていた。
 こういう子達なんですと涙ながらに卒業までになんとかしますからと訴える。
 一応この二人以外は成績を上げてきた実績がむつきにはあるのだ。

「北海道に来てロシア料理ってのもあれだが。昼食後には札幌へ向けて出発。途中、あまり時間は取れないがちょいちょい寄り道はする」
「あの先生、聞く限りでは。折角の北海道があまり堪能できない気がしますけれど」
「スケジュール表みて薄々気付いてはいたけど、超包子の電車に揺られるだけってのも。全然、それこそ空港に着陸する時も揺れなかったけど」
「私もできれば、皆だけじゃなくて北海道ならではの写真取りたいかな。ねえ、先生。今夜は少しサービスするからさ、ねえ良いでしょ?」

 那波や村上の意見は最もで、擦り寄ってきた朝倉は手で遠ざける。
 寝取られる不安がなくなったからといって、随分とまあ大胆になったものだ。
 これがひかげ荘ならばいただきますだが、今は教師としての意識が強い。
 強いだけで絶対ではないのだが、それはさておき。

「そもそも十日で観光しながら日本縦断ってのが無茶なスケジュールだからな。考えても見ろ、修学旅行だって京都付近を観光するので三日ぐらい使うんだぞ」

 確かにと数人には頷かれるが、だからと言って我慢出来るはずもなく。

「良いじゃない、夏休みなんだからさ。十日間ってお盆の翌日まででしょ。まだ半月あるからゆっくり観光しようよ先生」
「うむ、コレを期に日本中の甘味を制覇というのも悪くない。そうだな、少しぐらい私もサービスしよう。どうだい、先生?」
「僕らもサービスするです、というわけで脱いで史伽」
「お醤油とってぐらいの軽い気持ちで何を言うですか、まずお姉ちゃんが脱ぎなよ!」

 釘宮が子供らしいお気楽なおねだりをし、龍宮までもが余計な事を言い出した。
 正直ちょっと食指が動き、あの褐色肌を白く染め上げとも思ったが。
 お前が脱げと喧嘩を始めた鳴滝姉妹を引き剥がし、保護者である長瀬に引き渡す。

「まだお前らには理解できないだろうけど。俺や刀子さん、神多羅木先生は仕事があるの」

 他に神楽坂など、金銭的に余裕のない子もいるのだ。
 もちろん、皆の前でそんな事は言わないが、神楽坂は自覚があるのでそれは無理っとむつきに向かって手を振っていた。
 さすが勤労少女は、お金というものを他の子よりもちゃんと分かっている。
 後は普段、良く自炊をする近衛といった子や、以外に明石もそうであった。
 父子家庭なので、もしかすると時々は明石教授の家計簿などを見るか、つけるかしているのかもしれない。

「俺も広域指導員や、乙姫や刀子は部活の顧問もな。女の我が侭は大抵が可愛いもんだが、時にぐっと我慢して見せるのも大人の女の魅力の一つだぞ」
「大人の女。これは皆さん、我慢のしどころですよ。この我慢で例えば、佐々木さん。貴方の新体操の演技にも妖艶な魅力が一つ」
「ほ、本当? じゃあ、私我慢する。先生、私凄く大人っぽい?」
「うわあい、佐々木の魅力にめろめろだあ」

 妙に食いついた夕映にそそのかされ、佐々木が真っ先に皆に反旗をひるがえす。
 かなり棒読みだがむつきがそう言うと、アキラがいるから駄目っとお断りされた。
 微妙に納得いかないやり取りだったが、少しずつ我慢するという声が増えていく。
 そもそも我慢も何も、彼女達はむつきに連れて行って貰っている立場なのだが。
 まだまだ、お世話になる事や、自分の楽しみ以外の相手への思いやりなど学ぶ事は沢山ありそうだ。

「ところで、神多羅木先生。先程の台詞、後日に乙姫さんに報告しても?」
「別に、それぐらいで俺達は揺るがんさ」
「くっ、今に見ていなさい。私も、私も良い男を」

 むつきの背後で少し神多羅木と刀子がギスギスし、切ない視線を刀子から受けたが今はスルーしつつ。
 六時前後に札幌に着く予定で三時間の自由行動、もちろん班単位である。
 見知らぬ地で保護者同伴とは言え、あまり遅くまで行動させられないのだ。
 これでも善処した方で、当初の予定は八時と悩み悩んだ末の決断であった。
 以降は超包子の車内で零時の消灯まで、車内限定の自由行動。
 それで本日の予定は終わりだと、お喋りに忙しい生徒の前でスケジュールの確認を終えた。









 スケジュールの確認を終えて殆ど直ぐ、最北端の地である宗谷岬へと到着した。
 ここで始めて、全員が麻帆良を発って始めて北海道の地を踏んだ。
 今が夏だという事を忘れさせるような涼しさに、すっかり生徒達も静かになった。
 真夏の日差しは変わらないはずなのに、どこか陽の光に優しささえ感じられた。
 超包子の車両を降りてからずっと、目の前の光景に視線を釘付けにされている。
 眼前には麻帆良のある埼玉にはない海が広がり、潮の香りを風が運んできていた。
 その風がまた海で冷やされており、つい肌寒ささえ感じてしまう気になった。
 水平線を前に異国にでも来たノスタルジックを感じているのか。
 小鈴の未来技術のお陰で旅行とは程遠い移動であったが、正にこれが旅である。
 などと、むつきもまたノスタルジックな気分に浸っていられたのはここまで。

「こ、このちゃん、一緒や。雰囲気は全然ちゃうけど、足元は麻帆良と同じや」
「せっちゃん、そこはアスファルトやえ。こっち、北海道の大地はこっちや」
「このかさん、そこは立ち入り禁止の芝生。ゆえゆえ、どうしよう」
「お、落ち着くです。既に我々は北海道の地に。そのアスファルトも芝生も、言わば北海道産ということに!」

 足元にぱたぱた足を叩きつけ、ここだけは同じと桜咲が微笑ましい行動に。
 くすくす笑っている近衛も舞い上がりようは同じであるらしい。
 ほら違うとこちらでもぱたぱた、ただしそこは人の手が入った芝生だ。
 そう注意した宮崎もおろおろとどうして良いか解らない。
 助けを求められた夕映も、当然の事実を指摘するだけで有効的な解決策もなく。
 ただあるがままの事実、ちょっと頓珍漢な事実でもあったが。

「よーし、皆。最北端目指して、競争だ!」
「桜子に負けるな、私らも続けぇ!」
「最北端、最北端で合体。宗谷岬×オホーツク海とか。くぅ、寒さに負けず萌えてきた!」
「ちょっ、お前ら勝手に動くな!」

 最北端は貰ったと椎名が飛び出し、負けてなるかと美砂が早乙女が走り出す。
 むつきの制止など耳に入らず、駐車場で危険にもわき目も振らずだ
 止めて危ないから止めてと、ちょっと涙目で止めるも走り出した子達は止まらない。
 むしろ周りを助長させ、私も私もと次々に走り出してしまう。

「待つアル!」

 そこへ周囲一体へ響く、思わず皆が立ち止まるような声が広がった。
 一体誰が、そう思う間もなく特徴的な語尾でそれがわかる。
 寧ろお前も走り出す側じゃと思い振り返るが、後ろに古の姿はない。
 良く皆を立ち止まらせたと褒めてやりたいのだがいないのだ。
 一体何処だ何処だと、立ち止まった椎名達も声の主を探し周囲を見渡した。

「あっ、いましたわ。あそこですわ、皆さん!」

 あやかがなんて事と指差したのは、宗谷岬でも一般人が立ち入りを許された最北端。
 傾き立つ二本の角が先端で融合したかのような日本最北端の地の碑。
 その目の前にあろうことか古は既にいたのだ。
 そして皆の視線が集った事を確認すると、こほぉっと独特の呼吸を生み出し動く。
 体勢は自然体で両腕をだらりと落とし、スッと足を忍ばせるように半歩前へそして叫ぶ。

「アイヤ、日本の最北端で崩拳!」

 ボッと空気を貫くような音が広がり、周囲の観光客達も一時その足を止めてさえいた。
 シンッと静まり返った周囲の中で、照れ照れと古がちょっと赤くなった。
 佐々木と似たようなものでやってみたかっただけで、意味はないようだ。
 だが素人にもその凄さは伝わったようでパチパチと拍手され、おひねりさえ投げられた。
 それで結局のところ、

「くーちゃん一人だけずるい、私にもやらせて。日本の最北端で崩拳!」

 何一つ状況は変わらず、ムーブメントを作っただけたちが悪かった。
 早速と春日が目にも止まらない速さで碑の前まで駆け出した。

「超さん、アレはどのような原理で」
「古と私は流派が違うから少し違うネ。けれど、基本は同じでこう崩拳!」
「こうですか?」
「ふむ、面白いな。茶々丸、覚えろ。私も覚えてみるか?」

 突然小鈴が崩拳講座をはじめ、どうせやるならと皆が足を止めて見入っていた。
 崩拳講座を始めた小鈴と切欠を作った聡美は後で超絶可愛がる。
 動きを真似た絡繰やエヴァも、皆の足止めに協力してくれたので同様だ。
 兎に角、この場を神多羅木と刀子に一時任せて、古と春日を連れて戻ってくる。
 もちろん、潮風に染みるであろう大きなたんこぶを思い切りこさえさせながら。
 おひねりもその辺にあった募金箱に纏めて放り込んだ。
 それから少ない滞在時間がさらに短くなろうと、構わずにちょっと説教である。

「お前ら、頼むから勝手に行動するな。特に駐車場で走るな、この野郎。お願いだから、楽しく旅行したけりゃ公共のルールを守れ」
「すみません、アルよ」
「正直とばっち、いえ。なんでもないッス。ごめんなさい」

 単独行動は厳禁だと、兎にも角にも謝らさせた。

「少し、早まったかもしれんな。正直、旅行と結納気分だったんだが。気合をいれんと、こいつはキツイ」
「私も、次に単独行動を行った子には一人ぐらい見せしめに」
「後ろの二人は気合を入れすぎです。厳しく、だけど萎縮させないよう。繊細なんです、この子らは。普段忘れがちになりますが」

 何故かフィンガースナップで手首を暖め始めた神多羅木や、木刀を取り出した刀子もたいがいである。
 男子高校生以上の猛者を相手に日々鍛えた技をこの子達に振るうのは止めて欲しい。
 こそっと小さな声で注意しつつ、ひとまず超包子の車両の前で整列だ。
 夏休み中の旅行とはいえ、学園長が公認として認めた以上は半修学旅行である。
 単独行動は許しませんと、二列で綺麗に並ばせ手を繋げさせた。
 クラスは三十一人なので一人余ったエヴァの手は、むつきが。
 一部から、その手があったかとエヴァを羨む視線が幾つも飛んでいる。
 義妹だから許してと、むつきが予定のコースを歩き始めた。
 神多羅木と刀子は一番後ろから、逸れたり余所見で迷子が発生しないよう監視であった。
 ちなみに、田中さんは車両でお留守番であり、キュッキュとショットガンを磨いていた。
 きっと気のせい、もしくは龍宮のと同じモデルガンだと信じたい。
 まさに寄らば撃つと言っているようで抑止力としてはありだが、戻ってきたら警察に連行されていたとか止めて欲しかった。

「はい、最北端ばかり注目され忘れられがちですが。この人の名前が解る人」

 刀を差し、ちょんまげ姿のとある銅像の前で立ち止まり、振り返りながら問いかけた。
 もちろん足元には名前が書いてあるのでむつきが立ちふさがり隠す。
 うーんとほぼ全員が悩み、さすがに小鈴は解るらしいが聡美やあやかも唸っている。
 聡美は科学とは直接関係なく、あやかもちょっと解らないらしい。
 この人ではなく、師にあたる人ならきっと半分ぐらいは知っているのであろうが。

「ヒント、日本の地図を書いた人です」
「ああ、伊能忠敬さんですね。江戸時代の、この方が……思っていたより、若いですね」

 むつきのヒントでピンときたらしいのはさよだが、惜しいところだが違う。
 それこそがこの人物のお師匠様、日本地図を最初に作った偉い人だ。
 ぶっぶーっとむつきが両腕を交差した事で、さよは瞬く間に真っ赤になった。
 相坂の訳知り顔の答えに、皆がそうだったのかと頷いていただけに余計にだ。
 手を繋いでいた絡繰に、気にしてはいけませんと慰められている。

「ほかにいなさそうだし、回答。相坂は惜しかった。この人はその、伊能忠敬のお弟子さんで間宮林蔵さん。宗谷岬周辺の地図を書いた人なんだ」

 日本の地図を書いたのは伊能忠敬だが、当然の事ながら一人で全ては不可能だ。
 北海道も全ては回れず、特に宗谷の周辺は弟子の間宮林蔵が作図していた。
 言わば伊能忠敬の地図の北海道部分は、弟子との合作という事になる。
 ただ少し、その偉大さは皆には今一伝わらなかった。
 たかだか三時間で麻帆良市のある埼玉から北海道までくればそう思いもするだろう。
 電車もない車もない時代に、歩いて北海道を回って衛星もないのに地図を描いたのだ。
 まあ、何れわかる時も来るだろうと、テストには出ないが覚えておけよと締めくくる。

「むつき先生、普段はああいう授業を素晴らしい」
「別に普通に、普通だな」
「黙りなさい、神多羅木。殺すわよ」

 だからギスギスするなと、最後尾の二人へと止めてと視線でお願いする。
 それから今度こそお待ちかねの最北端の地の碑の前にやってきた。
 途中、あまりにも特に刀子が一方的にギスギスするので、妹分の桜咲のそばにつけてやった。
 最初から狙ったわけではないが、ちょうと列の真ん中辺りなので丁度良いといえば良い。
 最北端の碑の前でも同じ観光客の人に頼んで記念写真を。
 あまり大人数で長く占拠するのも悪いので、最後に全員で日本の最北端で崩拳っとやった。
 全員大笑いで、しばらく古菲の持ちネタになるのかもしれない。
 後日テレビで観光客の間で広まり噂になってしまう事をまだむつき達は知らない。









 日本の最北端で盛大に笑った後は、少々早めのお昼ご飯であった。
 お腹が空いていないという意見もあると思いきや、皆お腹ぺこぺこという様子である。
 移動中お菓子や何やら食べてはいたのだが、極度の興奮は彼女達からたくさんのエネルギーを奪っていったらしい。
 宗谷岬周辺にあるロシア料理のレストラン、センチメンタルが昼食のお店だ。
 三十人越えの大人数なので予約はもちろん、むつきがばっちりしておいた。
 あまり大きなお店ではないので、もう貸切の方が迷惑をかけずに済むと借り切った。
 店内はシックな雰囲気の為に明かりは少なめに、昼間なのに分厚いカーテンで薄暗く。
 その代わりに壁の空白部分、白い壁紙が浮かないよう適度に油絵があった。
 モチーフは様々で色とりどりの果実がテーブルに転がる様子や、恐らくはロシアの森を描いたもの。
 真っ白なテーブルクロスを被せられた四人掛けのテーブルが所狭しと。
 本当にもう、無理を言ってしまって後でむつきは頭をさげっぱなしだろう。

「北海道をロシアから取り返さないと。一杯食べて体力つけよ、まきちゃん」
「そうだね、明日菜。それにしても良い匂い、おそロシア。おそロシアん」

 再び、そんな事を囁きあっていた二人は、はやく席につけとお尻を叩いた。
 ちょっとセクハラ気味だが、二人は素直にはーいと返事をしてそれぞれ分かれていった。
 班の人数とテーブル掛けの人数が会わないので、兎に角奥から押し込んでいた。
 ぺちゃくちゃお喋りは今は止めず、ひいふうみいと点呼である。
 ちゃんと三十一人、引率を含めて三十四人全員そろっていた。
 油断こそできないが、食べている間は大人しいだろうと一時だけは一安心であった。
 それから店主直々のご挨拶をうけた。

「日本人だね」
「日本やからね」

 当然というわけではないが、こそこそとアキラや亜子のように呟いたのが数人。
 行く所へ行けばロシア人シェフの店もあったのだが。
 引率で忙しい上にロシア人とはと、日本語もできるのだろうが、むつきが避けたのだ。
 大人数の若い女の子に食べてもらえると、五十過ぎの店長はそれはもうにこにこと。
 ちょっと話が長くなり過ぎ、くうっと誰かがお腹を鳴らすまでお話が続いていた。
 その誰かさん、いや数人村上や宮崎、ザジと一部は平然としていたが一部は真っ赤に。
 それでようやく長いお話は終わってロシア料理とのご対面であった。

「コース料理ですから、まずは前菜。西洋ではオードブルと言いますが、ロシアではザクースキ、単品だとザクースカと言います」

 料理が運ばれる前から、四葉がロシア料理の前菜を語り始めた。
 他の者からすれば豆知識だが、料理人を目指す彼女にとっては普通の知識だろう。
 本人の性質もあってひけらかしであるはずもなく、皆ふんふんと頷いている。
 一部、料理を運んでいたウェイターや店主もこの子はできると瞳を大きくしていた。

「お嬢ちゃんは詳しいね。それじゃあ、ここで皆にもおじさんからクイズだ。前菜ザクースカの語源はザクシーチって言うんだけど、その意味はなんだろうね?」
「前菜じゃないアルか?」
「それでは語源とは言えないネ。むしろサクシーチって言う方が自然ヨ。私と五月、あと宮崎サンも知っていそうな感じネ」
「はい、以前図書館島で読んだ本に書いてあるのをみました」

 仮に麻帆良最強の頭脳である小鈴がいなくとも、このクラスは全員そろえば完璧なのではないのだろうか。
 まさか三人も知っているとはと、店主がなにこの子達とびっくりしていた。

「検索完了しました」
「ずるをするな、茶々丸」

 一部、ネット検索をした絡繰をエヴァがぽかりと殴ってもいたが。
 一応店主さんの名誉の為に、ここは一つ模範解答をとむつきが促がした。

「軽くつまむって意味だね。空腹は最高のスパイスだけど、最高過ぎるスパイスは料理人としては腕の振るいがいがね。まずは小腹を満たして味わって欲しいんだよ」

 さあ召し上がれとクイズの間に、各テーブルには前菜が並べられていた。
 これが前菜かとフランス料理を思い浮かべて連想していただけに驚きだ。
 お皿にちょろっとあるどころか、お皿がテーブルの上に所狭しと。
 深めの大皿にざくぎりされたきゅうりやキャベツブロッコリーを放り込んでドレッシングであえたサラダ。
 他にイクラを乗せた薄切りのパンや、スライスした焼きナスの上に同じくスライスした生トマトにハーブをまぶしたサラダ。
 基本冷温料理であるが、量も多ければ種類も多い。

「これ、多くない? 少食だと、これだけでお腹一杯だって。さよちゃん、見るからに少食だけど食べ過ぎるともたなそう」
「ですねえ。釘宮さん、よければ少しずつ分けませんか?」
「店主さんが仰られたように、軽くつまむ程度でよろしいですよ。これでお腹一杯になってしまえば、本末転倒ですから。私は全て、頂きますけれど」

 釘宮がこれは自分含め無理でしょと、さよの心配をしていた。
 サラダなど最初から分かれているのは無理だが、パン等は半分個する事にしたようだ。
 四葉もそこは問題ないですよと太鼓判を押し、けれどと全種類制覇を目指すらしい。
 良く良く考えてみれば、最初に四葉が前菜の説明で単品だとザクースカと言っていた。
 複数形、単体系とあるならば恐らくはこうして大量に出されるのが普通なのだろう。
 皆も自分にあった適量で、小柄で少食な子は分け合いながら食べ始める。

「ところで、俺達のテーブルにだけあるこの小さなグラスは」
「匂いから察するにウォッカだな」
「これぐらいの量なら、少しぐらいは」
「ふん、つまむ程度であれば問題ないのだろう。頂こうか」

 そしてこっそり混ざろうとした小さな四人目は、当然ぽかりとむつきに殴られた。
 最近、軽めとはいえ生徒に手を出す事が増えたので自重すべきか。
 ただし、本当に油断のならないこの義妹だけはと、ぺいっと保護者に投げ渡す。
 当然の事ながらその保護者とは絡繰である。

「全く、油断も隙も。まだ初日なんですけど疲れ、ああ。良く考えたら、全然寝てなかった。そりゃ、疲れて眠くもなるわ」
「でしたら、寝酒の意味も含め午後からは少し寝られますか? 移動が殆どで、途中も高速のパーキングや市場の販売店に寄る程度ですし」
「乙姫、お前大事な前日に何をしていたんだ」

 もはや生徒達はロシア料理に夢中なので、これぐらいはと肩の力を抜いた。
 神多羅木などすでにウォッカをちびちび、始めてしまっている。
 ちょっとぐらいのろけても良いよねと、むつきも舐めるように飲んだ。

「アタナシアが、来てたんですよ。妹の旅行が心配だったのかな。それで朝方までちょっと楽しんじゃいました」
「へえ、そうなんですか。だから移動中、あの子は眠そうに。膝の上で、羨ましい」

 あ、地雷踏んだと、刀子がグラスを割りそうな雰囲気でエヴァを睨んでいた。
 だからエヴァではなく、姉のアタナシアだというのに。

「お前、乙姫の事は諦めたんだろう。さっさと良い男を紹介して貰って結婚しろ」
「これ以上引きこもれなかったし。諦めたわよ、諦めたけど」
「あのチラチラ見ないで貰えます? ごめんなさい、責任とって再婚まで付き合いますから」

 改めて、どんな男が良いんですかと麻帆良祭り以来に聞いて見た。
 あの時は本当に欲望が振り切れていたので、かなり無茶な注文もされたものだ。
 ただし、好きになりかけたむつきの手前それは抑えられ。
 可愛い男とだけ、またしてもチラチラ潤んだ瞳で見られる結果に。
 未練たらたらじゃないですかと、振った自分を棚にあげむつきはウォッカをあおる事に。

「ねえ、長谷川。なんていうか、葛葉先生には悪いけど。自尊心疼かない? あんな美人からさ、私達先生を寝取ったんだよ」
「まあ、私は軽いプレイしか許してないけど。確かにな、ちょい疼く。それよりさ、先生の班決め露骨だよな。楽しむ気満々じゃねえか」
「そう言う長谷川さんも、超さんに頼んで衣装部屋。作っていただいたのでしょう? 先生、昨晩は激しかったようですし。今日は癒してさしあげませんと」

 こそこそと料理に舌鼓を打ちつつ、美砂と長谷川、それに雪広が夜の相談を始めていた。
 自分達の班だけ、実はこっそり広めに部屋を造ってあるのだ。
 製作者がそうしたのだから、押し込められた自分達は抗いようがないのである。
 仕方がない、仕方がないから今夜は全員メイド服で、むつきをもてなし癒すのだ。
 その為にも、体力付けておこうと少し多めにザクースカをとる彼女達であった。

「さあ、皆お待たせだ。これぞ日本で一番有名なロシア料理、ボルシチだ」

 前菜もそこそこ進んだところで満を持してといった感じで店主がウェイターに命じる。
 量が少なくなったり空になったお皿は、もう少しと希望した子以外からは下げられた。
 運ばれてきたのは前菜の次にあたるスープ、ボルシチであった。
 女の子達を前に年甲斐もなくちょっとはしゃいだ店主の手により次から次へと。
 一応コース料理なので決められた順と量だが、ロシア料理が運ばれてくる。
 スープの次はメイン・ディッシュ、最後はもちろんデザートで締めであった。
 生徒達は美味しい美味しい、それこそおそロシアとばかりに食べまくる。
 そこまでお高いお店ではないが普段食べられない料理に、リクエスト者の四葉も大満足であったらしい。
 後でこっそり店主と連絡先を交換し、色々と限られた時間で質問する場面も。
 そんなこんなで美味しい昼食も、早めの時間に関わらず堪能できた。
 最後に店主やウェイター一同にお礼を言って、名残惜しまれたがお店を出て行く。
 田中さんがショットガンを磨きつつ待つ超包子の車両に戻り、次は一路札幌であった。









-後書き-
ども、えなりんです。

山も谷もない、淡々としたお話でした。
エロイ話は次。
いわば課外授業ですが、授業風景は久々の気がしました。
以前も書いたかもしれませんが、この旅行で今までむつきが絡まなかった子と積極的に絡む予定です。

では次回は土曜日です。



[36639] 第六十五話 女の子は受け入れられるようにできてる
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/08/31 20:10

第六十五話 女の子は受け入れられるようにできてる

 消灯の午前零時となり、広間に神多羅木と刀子を残し先にむつきは休ませて貰うことになった。
 二人には、明日のスケジュールを確認して貰っているのだ。

「それじゃあ、お休みなさい。お二人も、あまり無理はしないでください」
「スケジュールの確認ぐらいさせろ。乙姫、あと九日。それじゃあ持たないぞ」

 神多羅木の言う通り今からこの状態ではと、むつきはふらふら自室へと入った。
 結局むつきは、ロシア料理を堪能後に仮眠をとる事すらなかったのだ。
 あの後宗谷岬から北海道の西の海岸線を南下。
 途中で予約しておいた海鮮を道々で止まっては購入して、一路札幌を目指した。
 その移動時間たるや約六時間、本当に国内かと疑いたくなるような時間である。
 だが普通の車とは違い、解放感溢れる超包子特性の車両内は広く窮屈感などない。
 放って置けば、皆夏休みと半修学旅行の解放感で天井知らずに浮かれてしまう。
 そこでスケジュール表には記述しなかった項目を発動したのだ。
 逃げられない密室には三十一人もの生徒、対して教師は普段の三倍の三人である。
 最低二時間と銘打って、強制的に夏休みの宿題時間であった。
 当然、寮長の許可を得て合鍵を使用し、彼女達の白紙の宿題は回収済み。
 悲喜交々、特に既に終えていた千雨やエヴァは騙されたと頭を抱え。
 勉強後には、買い集めた食材で四葉の特性海鮮料理がと餌で釣って始めさせた。
 こっちの方が引率よりは余程楽だと神多羅木と刀子も乗り気で手伝ってくれたのだ。

「もう何度目だ、この台詞。つ、かれたぁ……」

 何やら近未来的なスライド式の鋼鉄の扉を閉め、ずっと締めていたネクタイを緩める。
 今からお風呂はちょっと面倒だが、清潔にせねば可愛い恋人達も一緒なのだし。
 教師の個室は生徒達の大部屋と違い、ビジネスホテルを彷彿とさせる狭さだ。
 女性である刀子の部屋はもう少し大きいらしいが、目だった家具はベッドぐらい。
 あとは小さな冷蔵庫や用途も知れない小さな丸型テーブル。
 一応トイレとお風呂もあるが、ユニット式で省スペースが行なわれている。
 空間を広げるのにも色々と限界はあったのだろう。

「おっと、眩暈か」

 安定を求めベッドを椅子代わりにしようと歩く途中で、ふいに世界が揺れた。
 確かに寝不足で急に気温が低い北海道にきたが、初日から風邪は勘弁してほしい。
 ブンッと何かハエでも耳元を通ったような耳鳴りに近い音も聞こる。
 すると次の瞬間には、ぱっと世界が明るく輝いた。
 のみならず、むわっとした湿気と妙に香しい女の子の匂いに出迎えられる事になった。

「一名様、乙姫むつき先生のご案内!」

 ぴょんっと腕に抱きつくようにしてきたのは、メイド服姿の美砂であった。
 もちろん、千雨お得意のエロ仕様のメイド服だ。
 襟元が大きく開けられ、大きく強調された上乳が見え、スカートも限界以上に上げてすそが股上数センチという状態である。

「先生、今日も一日ご苦労様。スーツ、脱がしてあげるね」
「ズボンのベルトも。先生、危ないから動いたらあかんよ」

 後ろはドアのはずが、何故かアキラが腕を伸ばし上着を脱がしにかかっていた。
 足元では亜子がしゃがみ込んで嬉しそうにベルトを外し出す。
 全く意味が解らない、自室に帰ったはずがここは一体どこなのか。
 ギョドると同時に周りを見渡してみれば、少し広めの浴場のように見える。
 壁はピンクのタイル張りだが、窓がない変わりに換気扇の音がかすかに聞こえていた。
 大きな風呂桶には泡が立ち、お尻が丸見えのメイド服姿のさよが湯加減をみている。
 他に夕映と千雨、あやかが手分けしてマットを敷いたり、ローションを溶いたり。

「親愛的、落ち着くネ。ここは私達の部屋のお風呂ヨ。製作者故に、これぐらいの優遇は当然の事ネ。ちなみに、葉加瀬はまだ早いからと辞退、エヴァンジェリンは言うに及ばず」
「さすがに、あんな小さい子をエロエロワールドにはね。夕映ちゃんみたいに先生の恋人ならまだしも。先生、ちゅう」
「全然、落ち着けねえよ。キスも待った。ワープか、空間をつなげたとか。多分、びっくりワードが出てくるんだろうけど。お前らのその格好なに?」

 一人抜け駆けしキスを強請った美砂を後でと少し遠ざけて訪ねた。
 いや、だいたい想像はついているのだが。

「北海道、それも札幌って言ったらすすきのだろ。自由行動後、超がこそっと抜け出してさ。高級店に突撃して店長札束で殴ってナンバーワンは無理だったけどツー連れて来た」
「皆で軽い講習を受けて、技術を学ばせていただいたです。その、女性側も挿入時に痛みをやわらげる方法なども」
「凄く恥ずかしかったですけれど、先生の為ならどんな事でも頑張れます」
「というか、本当に相坂さんも先生のお嫁さんでしたのね」

 千雨がとんでもない事を暴露し、夕映はこれで私もとぽっと頬を染めている。
 さよも似たようなもので、唯一違うのは呆れ顔のあやかだろうか
 とりあえず、ほんの少しだけでも状況を理解したむつきはとりあえず小鈴を小突いた。
 自分の為にしてくれたのは嬉しいが、せめて事前に相談しろという意味を込めて。
 以前の分かれる発言もあり、異常にびくびくされたが微妙に恍惚と。
 別れやしないよとたんこぶを撫でている間に、クロスアウトが完了していた。
 周囲のお嫁さんたちの期待のまなざしを一心に受け、俺の出番かと息子が起き始めている。

「それでは、僭越ながら私が」

 ローションで濡れたマットの前で、するりとあやかがメイド服を脱いでいった。
 以前の南国の島でのあやかの脱ぎっぷりを思い出すが、もちろん水着などない。
 モデル並みのプロポーション、恥ずかしそうに胸や局部を隠しながらマットに寝転ぶ。
 そこへ夕映が冷たいですよと一言断って、桶の中のローションを体に垂らしていった。
 甘い蜂蜜をデコレーションするように、折れてしまいそうな腰や金色の陰毛もしんなりと。
 夕映がむつきの為にあやかを美味しく仕上げて行ってくれる。
 それからマットの上で髪を波うたせひろげながら、あやかがどうぞと両腕を広げてむつきを誘う。

「先生、どうか私の上に」

 上にと聞こえてはいたのだが、頭が勝手に中にと脳内変換してしまう。
 ふらふらと、全裸でデコレートされたあやかを犯そうとふらふら吸い寄せられかけた。

「いかん、意識が飛びそうだ。このまま初夜はアウト?」
「アウト。先生は今日は何もしなくていいんだって。ローションプレイで癒してやるって事だよ。後で私の処女膜も舐めさせてあげるからさ」

 既にローションに濡れた手で千雨に背中を打たれ、まあいいやと全て放棄した。
 あやかがマットの上で誘ってくれているのだから、断る理由は何もない。
 転ばないよう、最初から膝立ちでマットに上がり、あやかに覆いかぶさる。
 細くくびれた腰や可愛いお尻、胸の上で潰れる巨乳の上のアクセントになる乳首のこりこり感。
 目の前では気恥ずかしそうに視線をさまよわせるあやかと、むらむらと貪りつくしたくなったが、我慢我慢である。
 あやかと体を正常位で重ね合わせ、コレぐらいならとキスしようとして思い出した。
 全てを放棄するのはそれからだと、目の前のあやかに問いかける。

「そういや、あやか。お前空港で少し、なんか変じゃなかったか?」
「気のせいですわ。いえ、今はお忘れになって。旅行が終わったら、話しますから」

 相談しますと言われ、以前とは違い頼られているんだと男の自尊心が満たされる。

「あやか、お前が欲しい。初夜、初夜何時にする?」
「先生、そのように私の。滑ったら入って、最終日。沖縄からの帰りんっ」

 ぬるぬるとあやかの細いが柔らかくもある体の上を滑りながら尋ねた。
 今、今直ぐにでもと見えないがあやかの縦筋を亀頭で何度も擦り上げる。
 後で他の子に怒られようとも、今はあやかだけを見て互いの体を擦りあう。
 思わずといった感じであやかが答えてしまい、拒否はなしだとむつきは唇を奪った。
 そのまま我慢できずに今から始めようと、胸板に押し潰されていた胸に手を伸ばす。
 ちょっと暴走気味に最終日なんて待てず、今からとばかりにだ。

「はい、ストップ。もう、先生相変わらず委員長の事が好き過ぎる。ちょっと妬けたぞ」
「先生は今から動いちゃ駄目。長谷川、今のうちに」

 あやかの腕を狙った腕は美砂とアキラの手により引きとめられてしまった。
 既にローションまみれなので滑るが、それでも何度も何度もつかまれた。
 そのうち大人しくしろと、プロレスの腕ひしぎのように固められてしまう。
 高級店の現役ソープ嬢の講習とはなんだったのか。
 肩甲骨の上辺りで二人の足が絡み合い、腕はお腹を通って二人の胸の隙間に。
 痛気持ち良くて何が何やら、あやかもちょっとどうして良いか困っていた。

「いででで、お前ら痛い。ごめん、ちょっと忘れてただけで」

 ただそこまで求められていたのかとぽっと、今さら頬を染めたりも。

「はい、ダウト。アキラもう少しだけ力入れよっか。正妻と一号は私達なんだから」
「嫉妬じゃないよ。うーんっと、ちょっとした主張? 私だって胸大きいもん」
「お前ら、ローションで滑るんだから勢い余って折るなよ。んじゃ、私も失礼して。先生、無理に耐えなくて良いから。下に気持ち良い肉のクッションあるだろ」
「完全にフィットしててこけたらあやかが危ないから。我慢する」

 重くてごめんねとせめて優しいキスからねちょねちょと口の中を犯していく。
 頭はまだあやかが半分ぐらい占めていたが、ちゃんと全員を感じていた。
 両腕の付け根には嫁と一号さんのお尻とぬるぬるはローションなのか愛液なのか。
 それから程なくして、背中の上に張り付いてきたのは恐らく千雨なのだろう。
 あやかとは違うリズムで背中の上をはいずり、胸がふにふにと形を変えていた。
 体の下にはあやかが、背中には千雨、両腕はそれぞれ美砂とアキラのおっぱいの中である。
 柔らかな女体に文字通り包まれ、そのまま溶けて消えてしまいそうであった。

「やべえ、溶ける。疲れも俺自身も、力入らねえ。勃起し過ぎて痛い。亜子、それとも小鈴? 撫でて……あれ、じゃあ夕映とさよは?」
「まだまだ初心な我々ですので」
「先生、足に跨ってしまいますがご容赦を」

 足を少し広げ伸ばされ、アキレス腱から脹脛、膝裏を通って太股まで。
 角オナをするように可愛い二人が、貫通されたばかりの割れ目を擦りあげた。
 パイパンで陰毛の感触が全くない夕映と、僅かにあるさよの退避もまた面白い。
 しかし、彼女達の中で初心とは一体どういう意味なのか。
 頭の辞書を覗かせてと思いもしたが、気持ち良いので良いのだ。

「先生、お口も動かさず全てお任せを。拙い技巧ですが、ご奉仕させていただきますわ」
「んーぅ、あぅらぅぅ」

 あやかに言われ、本当にむつきは全身の力を抜いてしまった。
 重いであろうにそれでもあやかは嫌な顔一つせず、唇をいやらしく広げ受け止めてくれていた。
 だらだらと力なく垂れた涎さえ綺麗に舐め取られ、性的な要介護者の様だ。
 手は指先の一本に至るまで美砂とアキラが舐めては舐り、腕は胸の谷間である。
 背中は千雨が胸でマッサージしてくれ、肩こりをほぐす様に甘噛みしてくれた。
 足もまた夕映とさよが一生懸命、奉仕なのかオナニーなのか若干あやしいが。
 ふうふうと息を乱しながらも、まん擦りで足をほぐしてくれ力の入る隙間もない。
 全包囲を嫁の淫らな肉体に包囲され、残るは一番大事な子孫繁栄のある意味で利器である。

「満を持しての登場ネ。親愛的、痛い痛い大事な部分はお任せネ」

 あやかしか見えない状態で解らないが、なんとなく腕を組んだ仁王立ちの様が見えた気がした。
 ごそごそと足元、両足の間に座り込んだ音が聞こえ、思わず少し腰が浮いてしまう。
 ほらほら、あやかの処女を奪う前にと、秘部へと亀頭を少し入れて催促だ。

「先生、いけませんわ。まだ、もう少しお待ちください」
「滑る、落ちる。先生、動くなって歯型が残るまで強く噛むぞ」
「それはせめて親愛的の為に服を着たら見えない部分にするね」

 一人抜け出してソープにでも行ったと思われたらお終いである。
 いや、実際のところ可愛い恋人達にソープ同然の行為をされてはいるが。
 千雨の言葉を聞いて大人しくなったむつきの股座に、嬉しそうに小鈴が座り込んだ。
 今にもあやかを犯しそうなむつきの一物、その上には千雨の割れ目がふりふりと踊る。
 まだ未完成だが、もう少しだけと頑張ってと小鈴は手を伸ばした。
 とろとろにローションで濡れた手で袋を転がし、痛みが和らぐよう手で竿を摩る。
 何時でも出して良いからと射精を促がすように、くにくに指で竿を刺激も。

「親愛的、数年。たかが数年ネ。そうしたら、思う存分お嫁さん達を孕ますヨロシ」
「誰が最初に妊娠するんだろうね。今度、桜子に聞いてみよっか。ちょっと濁して、クラスの中で誰が一番最初に結婚の大当たりするかって」
「私達以外が指名されたらちょっとショックやん? それとも、他の部屋で今は寝とる先生の未来のお嫁さんかな」
「んーんぅ、あやか。また飲んで……そう言えば、亜子。お前は?」

 美砂の疑問に楽しそうに答えたのは亜子なのだが。
 あやかがあーんと開けた口に唾液の糸を垂らしながら、むつきが問いかけた。
 何しろ上と下、両腕両足に一物と、他にもう場所がないのである。
 振り返る事もできず、言葉だけなげたのだが何故かその返答は無言。
 聞こえなかったのか、それとも返答自身を聞き逃したか。
 あれっと思っていると、なんとなく気配で亜子がしゃがみ込んだのだけがわかった。
 そして亜子の手のひらが、両手がお尻に添えられた。

「先生、息んだらあかんよ」
「ちょっと待て、お前。あっ、ちょマジでか。さすがに経験、うぁ!」

 排泄器官をうねうねと何かが逆流していく、感じた事のない感覚が襲い来る。
 それが何かまで考えるまでもなく、恐らくは亜子の指であろう。
 生徒の唇、胸、まんこ、お尻を蹂躙し尽して来たが、逆に蹂躙される側になるとは。
 あやかとのキスも中途半端に、声にもならず思わず涙が出そうになった。
 セックス中は基本的にサド気が強いが、その分攻められると弱いのだ。

「先生、私を見てください。何も怖い事はありませんわ。私達が貴方を信じるように、貴方も私達を信じてください。愛しています、先生」
「ほら、泣かない泣かない。もう、言っちまえ。私らあんたの事がたまらなく好きなんだよ。癒されて気持ち良くなって欲しいからソープ嬢の真似事もできるんだぜ?」
「なにさ、結局委員長も長谷川も先生の事が大好きだったんじゃん。前にも言ったけど、正妻たる私が許す。先生の子供を遠慮なく孕みなさい」
「その先生、まだぽろぽろ泣いてるけど」

 美砂の言葉に照れ照れと一度はそっぽを向いたあやかと千雨であったが。
 アキラのほらっと指差す場所を見て、これはいかんと慰めを再開する。
 そもそも、亜子がソープ嬢に男の人のお尻の弄り方を聞かなければこんな事には。
 本人はそれはもう夢中で目の色を変えており、聞こえているのかいないのか。
 もしかすると、セックスへの興味という意味では一番亜子が強く、好奇心もあるのかもしれない。

「先生、好き。うちも処女もあげるな。好きな時に奪ってええから。うちのおまんこ、食べ頃やから」
「なら、一杯癒されたこの後でな。別に怒ってないぞ。それはもう、亜子がアヘ顔になるまでしてやるからな」

 ついに涙を自分で堪えたむつきが、そう声を絞り出した。
 無理している感はありありだが、一層嬉しいと亜子がお尻の愛撫に戻っていく。

「亜子、そんな勢いで大事な処女を」
「私は良いと思うよ。私だって酔った勢いだったし。亜子はもうお尻の処女上げてるし、今更でもあるし」
「確かに、何時何時の日にしようと。心の準備が万端にしてくれた先生が大事にしてくれすぎです」
「そういやさ、相坂はどうだったんだ? 正直、何時の間にという奴なんだが」

 この班に加えられている時点で、薄々気付いてはいた。
 核心に至ったのはソープ嬢の講習中のさよの扱いに困り直球で尋ねたのだ。
 もちろん答えは可であり、外で作ったお嫁さん候補と判明。
 ただし、二年A組であったので真偽の末に無罪と確定された。
 ともかく、まだ皆はむつきもそうだが、さよの事は多くは知らないのだ。
 当然の疑問を口にした千雨の言葉に、私ですかと口にする前からぽっと頬を染める。

「あの放課後の学校でプロポーズされまして」
「学校でプロポーズ!?」

 まさかそんな場所でと、若干羨ましそうに美砂が叫んだ。

「お味噌汁を作って欲しいと」
「お弁当はあるけど、それない」

 くぅっと特有の負けず嫌いをアキラが発揮したり。

「そのまま教室で」
「ちょっと待て、教室ってA組のか!?」

 いやいや待て待てと千雨でさえちょっと焦りの表情を浮かべていた。

「机の上に押し倒されて、スカートだけは履いたままです」
「大変鬼畜でヨロシ。けれど」

 超はむしろ歓迎するような台詞を呟いていたが。
 皆の気持ちは概ね一つであった。
 自分達は望んだ事とは言え、ひかげ荘で世間から隠れるように逢瀬していたというのに。
 それを放ってむつきは同じA組の生徒と教室で会っていたのである。
 しかも一度は憧れる放課後の教室で、机の上に押し倒されての着衣エッチだと。
 まだちょっと涙目のむつきは、ふるふると震えていたが。
 この恋人達は容赦せんとばかりに、全員が渾身の愛撫を再開し始めた。
 いや、それは愛撫と呼べるようなものなのか。
 両腕は美砂とアキラで腕ひしぎ、下からあやかがカニバサミ、上から千雨が噛みつき。
 もはや亜子はただ夢中なだけで尻穴の皺の一本一本まで丹念にすりあげ。
 小鈴はやれ出せ、直ぐ出せと雑巾でも絞るかのように玉を絞り上げ始めた。
 大人しいのはいやんとくねっているさよと、あわあわと止めたいが止められない夕映ぐらいだ。

「待て、お前ら癒し。強すぎ、痛い。ごめんなさい、可愛がるから。今夜も頑張らせていただきますから。アタナシア、助けてアタナシア!」

 多分、その助けを求める先は一番最悪の答えだったのかもしれない。
 全包囲を教え子のまんこに囲まれながら、下腹部以上が痛みを伴なう愛撫だ。
 美砂とアキラの腕ひしぎは言うに及ばず、あやかや千雨もかぷかぷと噛み付いてくる。
 痛気持ち良いではなく、もはや本当に痛い。
 その上、小鈴こそ優しく撫で撫でしているが、亜子は何処まで開発するつもりか。
 これ絶対指が根元までと何が何やら。
 ぶわっと崩壊した涙は止まらず、それはもう泣きはらしたものだ。









 前にもこんなことがあったなと、夕映は自分の膝に縋り泣くむつきを慰めていた。
 ちょっと違うのはあの時はまだ処女だったが、現在は開通済みという事か。
 あの後、というか現在も、全包囲を大好きホールドされむつきは昇天しかけた。
 いや実際、精液でおもにあやかの秘所を表面だけ汚していったのだが。
 素人の半端な知識でしかも付け焼刃、亜子が前立腺をぐりぐりやってしまったのだ。
 おかげで出るわ出るわ、あやかが精液漬けになるぐらい大量に出た。
 自分の意志とは無関係に汚しつくし、むつきの心はそれでぽっきりと折れてしまった。
 よしよしと慰める夕映とは異なり、しかりつけるのはさよの役目である。
 ぷんぷんと皆を正座させ叱りつけていた。

「良いですか、皆さん。女性はもっと慎ましく、男性を立てなければいけません。確かに私が誘発させたところもありますが。一方的なそれはもはや愛ではありません」
「せ、正妻の座が。先生、ごめんなさい」

 まだちょっと自分本位が残っており、正妻とか関係ありませんとぺしっとされた。
 アキラやあやかもしゅんとし、さすがの千雨もばつが悪そうにしている。
 ちなみに亜子は正座以上、穴という穴をふさがれていた。
 尻穴は太いディルドで拡張され、前の穴にはバイブ、口元はギャグボール。
 極め付けにそのまま正座で目隠しされ、放置プレイ中であった。

「先生、今日はもうこのまま寝ますか? さよさんと私で添い寝しますが」
「うぐぅ、頑張る。夕映、ちょっとだけパワーちょだい」
「恥ずかしい事を涙目で。ど、どうぞです」

 日々成長しとるんじゃいとばかりに、むつきは顔を上げてキスを求めた。
 そっと触れ合うような心を伝え合うキスをして、実際に心にパワーを貰う。
 ひび割れた心もキスという名の接着剤でくっつけ、ゆっくり立ち上がった。

「亜子って、聞こえてないか? お前の処女はまた今度な」
「あ、あふぁ。れんれぇ、んぅ。ちゅう、せっくちゅ。せっくちゅして」
「あかん、完全にできあがっとる。ほら、しっかりしろ。ちょっと妬いたじゃねえか、道具に心を奪われるな。どうせなら俺のちんこでアヘれ」

 ぺしぺしと頬を叩き、さよがどうぞと何処からか持って来た冷水を口に含んだ。
 亜子へとキスをすると同時にその冷水を流し込み、こくこくと飲ませていく。
 その冷たさに目を見開き、これまでとは別の意味で瞳をとろんとさせる。
 唇同士がつながり声が出ないので、代わりに舌を使ってほら起きろと、絡めあっては会話する。
 覗いた瞳にはちゃんとむつきが映っており、道具から寝取り成功であった。

「とりあえず、やり直し。お前ら、俺に奉仕しなさい。これより、夕映とさよ以外は先生って呼ぶの禁止。ちゃんとメイド服着て、呼ぶときはご主人様。破ったら、放り出す」

 特に全裸であった千雨やあやかへと、脱ぎ捨てられていたメイド服を投げつける。

「うげっ、私ら既にローションでどろどろなのに。しまった、癒し組になるべきだった。でも、御主人様を苛めるの好きだし。ああ、もう。くそ」
「ご主人様に許していただけただけでも御の字ですわ。あら、意外とこれは。心に来ますわね。所有物にされるいけない気持ちが」

 あやかはむつきをご主人様と呼ぶ事で少し新しい扉を開いてもいたが。
 むつきは改めてこけないよう、マットの上に立った。

「あやか、膝枕。んー、他は好きにしろ。それと夕映とさよは、ご褒美。一人は右腕で抱いて、一人は騎乗位。お好きな方を選べ」

 そう言って、むつきはさっさとあやかの膝枕を堪能しはじめる。
 ただ選べと言われても、夕映もさよもガツガツする方ではない。
 視線でどうしましょうと見合い、どうぞどうぞと手を差し伸べた。
 それがどちらを指した物言いかも言わぬまま。
 おかげでお互いにじゃあ私がと同じ方、騎乗位を選んでハッとしたり。

「あの、あっ……私は昨晩、可愛がって頂いたので。夕映さんがどうぞ」
「ですが。いえ、それでは申し訳ないですが。遠慮し合っていては、決まるものも決まりませんので。それに、今度こそ痛みを忘れ愛し合う事に挑戦するです」

 ぐっと拳を握っている間に、既に全員が配置についてしまっていた。
 亜子は腰がぬけ気味で動けず、左腕側に添い寝し乳首へとしゃぶりついている。

「ご主人様、今夜だけは堪忍な。一生懸命、ぺろぺろするから」
「仕方がないメイドさんだな。しっかり舐めろよ。乳首が溶けてなくなるぐらいに」
「はい、ご主人様」

 美砂とアキラは普通にむつきの足をマッサージし、小鈴は引き続きセックスの準備とばかりに一物を立たせていた。

「ご主人様、気持ち良い? 結構凝ってる。あはっ、楽しいかも」
「柿崎、遊んじゃだめだ。ご主人様が一番。愛を込めて、ぎゅっぎゅって」
「ふふん、そこは任せるネ。ご主人様と奥様のセックスの為に。ああ、雄々しい。うっとりするネ、ご主人様

 ただ小鈴はご主人様と隷属される事だけでも、十分に感じているようだ。
 そして千雨は宣言通り、あやかと向き合う形で顔面騎乗位であった。
 そのまま処女膜を舐められ、腰がぬけるとばかりにあやかに支えられている。

「処女膜、舌でびんびん引っ張られてる。かはっ、腰。腰が砕け散る」
「長谷川さん、これは奉仕ですわ。自分がよがるでなく味わっていただかないと。それと後で代わってくださいな」

 自慢の胸のクッションで千雨を受け止め、こそこそそんなお願いも。
 しまった出遅れたと慌ててちょっと滑って転びそうになりつつ。

「先生、失礼します。うぅ、既に千雨さんに夢中で。いえ、大事なのは気持ち、愛です。お慕い申し上げます、先生」

 するとその気持ちが伝わったように、むつきの逞しい腕でぐいっと抱き寄せられた。
 そのままそっと分厚い胸板に頭を乗せてさよはそっと幸せを感じ瞳を閉じる。
 うっかりすれば幸せに包まれ寝てしまいそうだが、問題ないだろう。
 奉仕係のメイドさんが何人もいるのだから、体の始末も含めやってくれるはずだ。
 それから夕映も、ちょっと気合を入れてむつきへと跨った。

「超さん、すみませんです。先生のアレを」
「奥様、しっかり準備万端ネ。奥様に種付けしたくてほら、この通りヨ」
「のめり込み過ぎです、超さん」

 そそり立つ一物に恍惚とした表情で頬ずりまで、ちょっと夕映は引いていた。
 仕方がないのでもう少しだけ貸してあげますと奥様の余裕を見せる。
 別に好きで見せたわけではないが、恍惚とした超から取り上げるのが怖かったわけでもない。
 たぶん、きっと、恐らくは。
 ぺたんとむつきのお腹に手を、おへそ辺りに尻もちをついて呼びかける。

「先生、先生の種をいただきに来たです。千雨さん、少しだけ先生と会話を」
「んぅ、はぁっ……と、悪いつい夢中に。ご主人様、奥様が来たぜ」
「たく、微妙に言葉使いの悪いいけないメイドだ。後でお仕置き決定な」
「あんっ、まったく。奥様への種付けが、ぁぅ」

 呼び方以外、全然なってないと腰をあげた千雨のお尻をべちんと叩いた。
 ちょっと感じたようにぷるんとお尻を振った千雨のさらに反抗的な言葉につぶりととろとろの割れ目に指を突っ込んだ。
 前起きなく、予告なくであり膝も腰も砕けて千雨はあやかに倒れこんでいった。

「あやか、ちょっとの間。千雨のお尻支えて。今からちょっと夕映とちゅっちゅするから」
「はい、ご主人様。その前にお顔を綺麗に。えっと、ブリムがありましたわ。失礼します、ご主人様」

 頭の上にあった髪止めの布切れで、キスの前にと拭いてくれた。
 本当に駄目なメイドの千雨と違い、行き届いたメイドである。
 ブリムもあやかの髪の香りが染み付いていてまたよろしい。

「んっ、よし。おいで、夕映。小鈴、そっちはもう良いから、夕映の前戯しろ」
「はぁはぁ、ご主人様。はっ、いけない。まあ呆けるには早いネ、ご主人様にはさらなる鬼畜道を、アタッ」

 はよせいと、そそりたつ一物で小鈴をアッパーカットしつつ。

「先生、ちょっと様になり始めてるです。色々な意味で大丈夫ですか?」
「たぶん、な。俺は俺だ、麻帆良女子中の二年A組の副担任。ちょっと気弱な駄目教師で、お前ら嫁がいないと明日どころか今日も戦えない。支えてくれよ、夕映」
「弱さの自覚と日々の努力、伸びはわずかずつですが。誰が見捨てられますか。仕方がなさ過ぎて、支えるです。手を引いてあげるですよ」
「悪いな、夕映。だからせめて、夜ぐらい俺がリードするから」

 何故そんなところばかり才能がと呆れつつ、互いに惚れた弱みがあるのだ。
 ちゅっと小さく口付け、両腕が塞がっているので主に夕映から口付けた。
 右手はさよを抱き寄せ、左手はかわらず千雨の処女膜で遊び中。
 とんでもない人に惚れてしまったものだと、少し笑いさえこみ上げた。

「小さい、夕映は本当に小さくて可愛くて。でも綺麗だな、おでこにも一回」
「どうぞです。小さい、小さい言わないでください。これでも気にしてるですよ。でも小さいからこそ、小等部の制服。着てあげましょうかぁっ?」
「あれ、聞こえてなかったカ? 奥様、割れ目に失礼するネ」

 ちょっと悪戯心を出してなれない誘惑をしたせいか。
 小鈴の前置きが聞こえておらず、突然指をねじ込まれ最後に変な声が出た。
 ちょっとイラッと来たが、悪いのは聞いてなかった自分だし愛撫が結構上手い。
 許してあげますと二度目の奥様の余裕で、ちらりとむつきを見下ろした。
 お誘いの結果やいかにと。

「夕映の小等部時代か。いや、見たいけどプレイをしたいと聞かれると。そうだ、今度皆でアルバム持ち寄ろうぜ。沖縄帰りに俺も取って来るから」

 あろうことか、興奮するどころかちょっと話題が外れそんな事を言い出した。
 皆も今なら良いのかとメイドプレイを脇に置いて、見たいみたいと答えている。
 ちょっとぐらい、拗ねても許されると言うものであった。
 そんな夕映の背中をつんつんと、突いたのは小鈴である。
 指を夕映の可愛い割れ目に挿入しつつ、こそっと耳元で囁いた。

「あれ、親愛的の照れ隠しネ。しっかり、アレが反応してたヨ。小等部のコスプレした奥様と繋がりたいと。ビキビキ、膨らんでたネ」
「いえ、嬉しいのですが。あまり膨らまれると、私が辛く。ソープ嬢のお姉さま、ナンバーツーと微妙な不安はさておき。お教えを実践するです」
「安心するヨロシ。私も四千と数世紀分の中国的手腕でお手伝いするネ」

 ああ、あの与太話かとも思ったが、麻帆良最強の頭脳がブレインなら申し分ない。

「先生、そろそろ。愛と快楽のバランスが取れた、素敵なセックスを目指すです」
「すまんな、俺の技術不足で。でも一人で頑張らなくても、一緒に頑張ろうな?」
「はい、共に。皆と共に頑張っていくです。その言葉はそっくりそのままお返しするですよ」

 私達が支えるからと逆にエールを送りつつ、夕映は膝に力をいれで中腰となった。
 忘れがちだがローションまみれのマットの上なのでちょっとよたよたと。
 そこは小鈴が腰を掴んで支えてくれ、ペコリとお礼をしつつ。
 膝で後ろに滑ってから腰を屈めて、むつきの一物をそっと添えた。

「夕映ちゃん、頑張って。痛くなってもほら、また私とアキラがぺろぺろしてあげるから」
「なんでだろう、夕映ちゃんだと本当に応援したくなる。頑張って」

 後ろに振り返るとこけそうなので、ピースサインで応える。
 あやかや千雨も、さよや亜子それから腰を支えてくれている小鈴。
 皆の応援を受けて心強いと、夕映はついにその腰を下ろし始めた。
 慎重にちょっと怖くてキュッと目を瞑ってしまったが迷いはない。
 ちゃんと小鈴のサポートは続き、割れ目を押し入った亀頭が膣口にキスをする。

「ふぁっ」
「千雨、それにさよも一時たんま。小鈴変われ、やっぱここは俺の出番だ」
「ご主人様ならそう言うと思ったネ。私は奥様の割れ目を支えるネ」

 性器同士のキスでぴくんと夕映が振るえ、たまらずむつきがそう言い出した。
 そろそろ良い時間なので亜子は寝てしまっており、アキラにもそれを頼む。
 大事な時はちゃんと一対一で、皆と楽しむ時は皆一緒にケジメは大事だと。
 さよに支えられ体も起こして、夕映を深く抱き締め頭を撫でた。

「ほら、怖くない。ギブアップは悪くない、諦めなきゃいいの」
「はいです、息を吸って吐いて。力まず自然体で、女の子は受け入れられるようにできてる」

 一部ソープ嬢の言葉を思い出しつつ、また夕映は腰を下ろし始めた。
 むつきの腕の中で無理だけはすまいと、心配かけないよう。

「んぅ」

 でもやっぱり苦しい、亀頭を飲み込んだところで圧迫感がちょっと辛い。
 ただ痛みというものは、殆ど感じられなかった。
 受け入れる、そういう風に女の子はできているのだ。
 愛する人の体の一部を受け入れる。
 周囲に応援され、これぐらいはと親友の宮崎にもこっそり力をと願い。
 いやいや力んじゃだめとちょっと、あたふたもしつつ。

「はっ、ふぁっ。ふぅふぅ……」

 息苦しそうにして、むしろ周囲の皆にぐっと拳を握らせ力ませもし。
 膣をむつきに拡張され、改めて女の子は受け入れられるようできている事を理解した。
 何故なら受け入れられたからだ、子宮の口と亀頭がキスするまで。
 コツンと小さな衝撃によりキュッと瞳を閉じて、ふわっと何かが解放された。

「先生、入ったです。お腹、ぽっこりしてるですけど。痛くない、むしろちょっと気持ち良くて。先生、あっ。涙、先生私が泣いて。先生ぇ」
「良く頑張ったな。そこまで喜んでくれて俺も嬉しいよ。おめでとう、夕映。俺の大事な嫁さんは、凄い頑張り屋さんだ」

 解放されたのは涙腺であったようで、ぽろぽろと涙が零れ始めていた。
 誰ともなく、泣いてしまった夕映におめでとうと拍手をし始める。
 嬉恥ずかしいとばかり、本人は直ぐにむつきの胸に飛び込んでしまったが。
 そんな周囲の声に眠っていた亜子も、目元をこしこし夢うつつに手を叩く。

「ここで夕映の頑張りに応えなきゃ、男じゃないな。後は任せろ。ほら、メイドプレイもここまでだ。皆で、夕映を可愛がろう。亜子、無理しなくていいからな」
「んぅ、良くわからへんけどあとちょっとなら頑張る」

 ならよし皆来いと夕映を対面座位で胡坐の上に置き、むつきは手を広げた。
 後ろからあやかと千雨が背中に抱きつき、小鈴は最後までと夕映を後ろから支える。
 美砂とアキラも頑張ったねと夕映にキスの嵐であった。
 最後に眠た気な亜子に苦労しつつ、さよが私もと共にむつきへ倒れこんできた。
 むつきの愛撫の為の手は足りないが、皆一緒にと互いに愛し合い求め合う。

「んぁ、ぁっ」

 その中心にいる夕映をむつきが下から突き上げ、唇にキスをふらせる。
 腰の動きは変わらず、次々にキスの相手を変えては愛してると囁く。
 夕映も同様にこっちむいて、こっちむいてと大人気であった。
 途中首がつりそうにはなったが、突き上げられてつっている場合でさえない。

「狭いけど、確かに夕映が俺の形を覚えてる。嬉しい過ぎるぞ、この野郎」
「恥ずかし過ぎぁぅ、先生。あまり、持たないです。小さいのですけど、来る。来るです、恐らくは体力、気力的にもそれで今夜は最後」

 未成熟と言う意味でなく、こんな素敵な夜が短くなる体力のなさがと夕映が悔やむ。
 だがこれから一生付き合う体、添い遂げるのはむつきである。
 まだ次の夜が直ぐにとも思い、むつきに唇を伸ばした。

「間に合うか、やべ。そんな直ぐは、くそ。夕映、もうちょっと耐え、無理か」
「んぅ、無理。先生、来る。素股の時と同じぐらいのが、ぁぅ」
「何か、直ぐいける。あれしか、あれしかないのか。夕映の為に、膣での始めてのオーガズムの為だ。亜子ぉ!」
「イク、先生。皆、見てください。私が、先生に貫かれ。イクですぅ!」

 未成熟な体を乗り越え、愛する人を受け入れ本当に幸せそうに夕映が果てた。
 小さな体を一杯に引き伸ばし弓なりに、そのまま倒れないよう小鈴にささえられつつ。
 それだけでなく、むつきからの愛の証である精液も子宮内部にまで吐き出される。
 びたびたとお腹の隅々までぶちまけられ、さらにはぬりぬりと憧れのマーキングまで。

「柿崎さん、アキラさん。これ、マーキング。先生の匂い、私からするです?」
「ぷんぷんしてるね、アキラ。明日、本屋ちゃんに会う時は気をつけて」
「近付きすぎると、言われるよ。なんで先生の匂いがするのって」
「ぁっ、のどか。違う、です。先生の、先生のぉっ!」

 追加でビクンと体を震わせ、可愛いと両側から美砂とアキラがキスのサンドイッチだ。
 膜をむつきに破って貰った三人は奇妙な連帯感できゃっきゃと。
 ちょっと忘れられた小鈴も、余裕の笑みで何れ私もと薄く笑う。
 それは良いのだが、間に合わないと叫んだむつきが何故丁度射精できたのか。
 むつきの尻穴から伸びる女の子の手の指、寝ぼけ眼の亜子のそれが示していた。

「先生、そこまで夕映さんの事を。この雪広あやか、感服致しました。そして、改めて貴方に出会う事ができて良かったと思いましたわ。愛しています」
「前立腺での強制射精とか。和泉、そろそろ抜いてってまた寝てる。ふわぁ、私も眠い。でも、初めてだよ。先生が格好良いって思えた。傍目には格好悪いけどな」
「うるせえ、それより亜子の指。まだ動いてる。次が出る、抜いてくれ。やべ、涙だけじゃなく鼻水まで。さよ、ちょっとだけ甘えさせて」
「はい、喜んで。素敵な覚悟でした、貴方様。正直当初は勢いで押し倒されましたが、それで良かったと思います。私達の貴方様」

 きゅぽんと亜子の指を抜いてもらい、ぺろぺろと涙を舐めてもらった。
 あやかや千雨も偉い偉いと、身動きできず硬直中のむつきを慰め始める。
 ともあれ、小さな犠牲で夕映は初めて膣でのオーガズムを射精付きで得る事ができた。
 一応はハッピーエンドという解釈で、恐らくは間違いないはずであった。









-後書き-
ども、えなりんです。

やはり人数が多すぎると話の焦点がぼやけてしまいます。
絞らないと誰が中心の話なのかさっぱりですね。
多くてむつきいれて四人ぐらいが限界でしょうか。

それでは次回は水曜です。



[36639] 第六十六話 それ全然頼りになんない
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/09/05 01:01

第六十六話 それ全然頼りになんない

 半修学旅行の二日目から、超包子の移動車両は東北地方の青森に入っていた。
 札幌での自由行動後の夜間に、田中さんが札幌から三時間程掛けて函館に向かった。
 そこで夜中の二時初の青森行きのフェリー、あさかぜ五号に乗船。
 料金は車両台の約二万円と田中さん一人分の千五百円。
 他の人の分はと思われるかもしれないが、払っていない、払えないのだ。
 一体誰がどうやって、世間に知られていない近未来的な超包子車両の説明をする。
 誰も出来ないし理解できないだろうと、むつき一人の心に仕舞われた。
 そんなこんなで青森に到着した午前八時。
 起床時間は七時なので、生徒達はお腹空いたとくうくうなるお腹を押さえている。

「先生、お腹空いた。ちょっと、ちょっとだけだからお菓子食べて良いでしょ?」
「お腹の音、止まらない」
「起きた時、こっそり食べておけば良かったやんね」
「我慢しましょう、亜子さん。空腹は最高のスパイスですよ」

 主にぶうぶう言っているのは、むつきのお嫁さん達だったりする。
 他の子達もお腹空いたとさすってはいるが、ブーイングする程でもない。
 あまりにも我慢できず、美砂がちょっと甘えてしな垂れかかってきていた。
 さらにアキラが上目遣いでじっと見つめ、亜子は閉ざされた部屋をチラチラと。
 必死に宥めるさよも、時折くうっと鳴るお腹を押さえむつきをちらっと見たりする。
 昨晩、夜中にハッスルし過ぎたせいもあったりした。

「ほら、お前らもう少しの我慢。良いか、どうせお前らスケジュール見てないだろうから改めて説明するぞ」
「先生、その前にしつもーん」
「おう、なんだ佐々木。できれば後にして欲しいが、言ってみろ」
「なんでエバちゃん抱っこしてるの?」

 だろうなと、質問される事は解りきっていた為、後回しせず正解だったようだ。
 佐々木のみならず、明石達も自分が寝ぼけてたわけじゃなかったんだとちょっとほっとしたり。
 だが改めて見ると、何故にと思わずには居られないだろう。

「昨晩ちょっとな。義兄ちゃんが恋しかったみたいで、離れてくれんのだ。ちなみに、現在エヴァは絡繰と一緒に俺の家にホームステイ中。アタナシアに頼まれた」
「ふん、嘘をつけ。お前が寂しい、寂しいと言うから住んでやっているのだ」

 ひかげ荘を明かすつもりはないが、これぐらいの情報は構うまい。

「ちょっと先生、アタナシアさんのみならず妹にまで。姉妹丼、爛れ過ぎでしょ。しかし、エヴァちゃんか。ぼこぉひぎぃが現実に、じゅる」
「アタナシアさんは兎も角、エヴァちゃんはないでしょ。先生の趣味って、西洋美人みたいだし」
「でも、エヴァちゃん今はああだけど。いずれあんなボインボインになるだからねえ?」
「先生、エヴァンジェリンさんに妙な事はしていませんよね?」

 早乙女は予想通り食いつき、釘宮がないないと半分ぐらいは味方してくれていた。
 ただし、明石が余計な事を言ったお陰で、なるほどっと妙な納得をされてしまう。
 那波も小さな子をお世話するのが好きなだけあって、黒いオーラがもれている。
 おかげで村上がぷるぷると、春日までも汗をだらだらながしているのだが。
 どうや春日までも、那波のあのオーラに当てられているようだ。
 しかし、一体俺はどれだけ爛れた人間だと思われているのか、ちょっと悲しい。

「はいはい、気をそらした俺が悪かったけど。しばらく、このままで頼む。満足したら離れるだろうから。刀子さんも、無駄に睨んでエヴァを怖がらせないでください」
「私は冷静です!」

 ぐぬぬと刀子が歯軋りするものだから、すわっまた修羅場かと騒がしくなりかける。

「おい、乙姫。馬鹿話している間に、着いたぞ。田中から連絡が入った」
「本当ですか、説明がまだ。ええい、百聞は一見にしかずだ。表へ出ろ、お前ら」

 神多羅木の報告により、むつきが出入り口を開放する。
 夏の割りに涼しい風が車中に流れ込み、さわさわと何かが大量に擦れ合う音が聞こえた。
 待っているのは、温かくて美味しい朝食ではないのか。
 小首をかしげながらもそれでもご飯だと、ちょっと小走りで皆駆け出していく。
 この時、落ち着きのある者は、窓から外を見てある程度気付いてはいた。
 全く気付かなかった者は空腹で、窓の外の風景を見る余裕さえなかったのだ。
 北海道では水平線さえ望める海岸風景であったが、今度はその間逆である。
 超包子の車両は、のどかな田園風景のあぜ道にぽつんとあった。
 盆地なのか周囲は青々とした山に囲まれ、さらに周辺はまだ実り始めたばかりの稲穂が風に揺れていた。
 さわさわという音は、稲穂やその葉が風で揺れて擦れる音であったらしい。

「日本最北端に続き、これは撮りがいのある。風景の写真も捨てがたいね」
「玉置浩二」
「ザジちゃん、よう知っとるな。田園、せっちゃんは知っとる?」
「えっ、知っていますが。今目の前に」

 デジカメでこの田園風景を朝倉が激写し、ザジが某ミュージシャンの名前を呟いた。
 誰かが仕込んだのか、元々知っていたのか。
 近衛も知っていたようで、桜咲に話を振ったがどうやら知らないらしい。
 普通にこれですよねと、目の前の風景を指差しくすくす笑われる。

「郷里を思い出す光景でござるなあ」
「それはともかく、お腹空いたにゃあ!」
「にん!?」

 しみじみと呟いた長瀬の哀愁を、明石が両腕を上げて思い切り吹き飛ばした。
 折角の感動も、続いて何人かがぐうっとお腹を鳴らしここまでだ。

「育ち盛りだし、もったいぶるのもここまでだ。と言うわけで、はい。あいさつ、この周辺一体の田んぼの持ち主の三浦さんです」

 隠れていたわけではないが、超包子の車両の裏から二人の人が現れた。
 一人は土に塗れたGパンと夏なのに長袖のティーシャツ姿のおじさんであった。
 陽に焼けすぎて年の頃が一目で判別は出来ないが確実に六十は超えているか。
 頭には某野球チームの帽子と、首には汗拭きようのタオルを巻いている。
 むつきに言われ皆が挨拶すると、皺だらけの顔をにこにこさせて言った。

「めごいお嬢さん達が一杯。こしたら大もてしたごどがね。わのえの孫の嫁さ来んか。まだ三歳じゃが。がぁっはっはっは」

 農家の人なので泥に塗れた格好はわかるが、方言がまた凄かった。
 一部では日本語とお互い、隣同士ささやき合う事も。

「お爺さん、若い子の気を引こうとわざとなまっても気味悪がられるだけですよ。さあ、お嬢さん方。朝ご飯のお握り、たんとありますからどうぞ。喉が渇いた子は、お茶もありますからね」

 もう一人、後ろから現れた女性が、方言を放ったおじさんをの頭をバシンと叩く。
 さっさとどきなさいと足蹴にして田んぼに蹴り込み、大きな寿司桶を抱えて差し出した。
 その寿司桶には、キラキラ光ってさえ見える粒の綺麗なお握りが湯気を上げている。
 ごくりと生唾を飲み込んだのは誰であったか。
 涎を垂らしそうになりながらいいのと、まずお婆さんに視線で尋ね頷かれ。
 次にむつき達教師陣に振り返り頷かれ、わっとお婆さんへと群がった。
 厳密には、お婆さんが両腕で抱えている寿司桶の上のおにぎりにだ。

「美味しい、なにこれ。梅、酸っぱ。ちょっと涙でた。あはは、美味しい過ぎる」
「きゃははは、明日菜。泣いた、本当に泣いてる!」
「ぐぬぬ、この絶妙な塩加減。超包子の肉まんが世界を制する壁になり得る美味さネ」
「大変アル、超は。私は美味しい物はなんでも食べて強くなるアル!」

 空腹もさる事ながら、何でこんなに美味しいのと神楽坂が涙を零す。
 指差し笑っている椎名も同様で、超は強敵現るとばかりにうなっている。
 古は相変わらずだが、美味しさに感服しているのは変わらない。
 皆美味しい、美味しいとお握りを食べ、お茶を貰っているとお爺さんが復活した。
 さらに泥だらけになり、田んぼの水で濡れながらも逞しく這い上がってくる。

「婆さん、そいつはわしが一人一人手渡しで。お握りだけに、そっと手を握がっ」
「ごめんね、うちの人が煩くて。こういう時はね、こうするの。将来の為に、覚えておきなさいね」
「そうか、年甲斐もなく妬い痛っ。やめ、婆さん止めろ。すみません、ごめんなさい!」

 田んぼのあぜ道の高低差を利用し、お婆さんが長靴でお爺さんを蹴るわ蹴るわ。
 あと将来の為にとか止めて欲しい。
 むつきの嫁が数人、なる程と頷いているので。

「あー、犬も食わないアレは程ほどに。改めて、農家の三浦さんご夫婦です。東北地方のテーマはこれ。日本の主食、お米だ」
「お握り、まだまだあるから一杯食べていってね。今年とれたばかりの新米だから」
「先生と一緒です、新米教師!」
「お姉ちゃん、一応先生三年目だから新米じゃあ。あれ、お米って秋じゃないんです?」

 自覚があるだけに鳴滝姉の言葉は否定できず、妹も妹でそれフォローなのか。
 ただその途中で、三浦さんの今年という言葉がひっかかったようだ。
 現在は八月の上旬で、当然の事ながら秋ではない。

「今ここから見える稲は違うけれど。早植って言ってね。早期に植えて、早期に刈り取る。そういう稲作方法があって。そのお握りは正真正銘、数日前に収穫したお米なのよ」
「秋は台風が来るだろ。それを避けたり、東北とか寒い地方は冷害もある。そういう農家の方が努力を重ねたお陰で。我々は美味しいお米が食べられるの」

 そっかと納得後、皆で声を揃えてありがとうの大合唱だ。
 あらあら可愛いと三浦さんは微笑ましいとばかりににこにこ顔である。
 彼女の夫が、田んぼの中でどざえもんの如く倒れているにもかかわらず。
 もっとも、下手人も彼女なので毎日の事なのかも知れないが。

「良い子達ねえ。アンタ、独身だっけ? 一人ぐらいつばつけときなさいよ。女は数年で変わっちゃうんだから。ねえ、先生?」
「へっ、昔は可愛かったのに。今じゃ、皺くちゃ。嫁にするんじゃなかったわ」

 そう三浦さんが呼びかけたのは、ようやく田んぼから上がってきた夫である。
 えっと、意味がわからず三浦夫婦の間を、多種多様な視線が行ったり来たり。

「私が中学生の時の先生なの。今は定年しちゃって、しがない農家のお爺さんだけど。昔はあれでもモテたのよぉ。今じゃ見る影もないけど」
「そりゃもう、並み居る女生徒に手を出しては問題になり、手を出しては問題になぁっ!」

 またしても蹴られ、田んぼにおっこちた三浦さんの夫は兎も角。
 あいたたたたと、むつきは目頭を押さえる事になった。
 まさか社会見学を依頼したお宅が、先生と生徒の間柄の夫婦とは。
 それはもう、美砂達は先輩だ、大先輩だと目がキラキラしている。
 むつき自身も、手を出しては問題にと繰り返した三浦さんに親近感が沸く始末だ。
 表だって問題にこそなっていないが、手だけは際限なく出してしまっていた。

「とりあえず、お腹も満たせたところで注目」
「先生、声が裏返り過ぎ。変な事、考えてないよね?」

 真面目な村上にそう思われる程、むつきは動揺していたようだ。
 げふんげふんと咳払いして喉を調整しつつ、改めて言った。

「さっきも言ったが、東北地方のテーマはお米。今回は三浦さんの田んぼでとれたつがるロマンって品種だ。これから、一杯農家を回って色んな品種の米を食うぞ」
「利き米大会」
「ふむ、利き米でござるか。五色米を操る手前、これは負けれいられないでござる」
「私はどちらかというと、利き米よりも利き酒に興味のある年頃なんだが」

 ザジの利き米という言葉に対し、妙にのりきな長瀬は兎も角として。
 問題発言をかました龍宮には、特別製のむつきの拳骨をプレゼントだ。
 本当にモデルガンの件といい普段大人しく大人びているだけにびっくりである。
 やはり姿形はどうあれ、A組はA組の生徒かと要注意と心にメモしておいた。
 それはともかくとして、ザジの利き米という意見は大いに興味を引いたようだ。

「なら、今のうちにつがるロマンの味を覚える為に一杯たべるにゃあ!」
「あっ、ゆーなずるい。私も、私も!」
「もっと食べるですぅ!」

 明石に続き、佐々木や鳴滝姉の風香まで。
 さらにほけの面々も今のうちに味を覚えるぞと、改めてお握りに手を伸ばした。

「ちなみに、利き酒は俺達用に。今晩、生徒が眠ったら飲むか」
「ええ、喜んで付き合ってあげるわ。ただし、途中で聞き酒ついでに気を利かせなさい」

 何処で買い付けたのか、一升瓶を両腕に抱える二人は割りと上機嫌だ。
 この旅行の為に尽力してくれた学園長や新田の為のお土産という面もある。
 ただ半分、三分の二、いや九割がたは自分達が楽しむ為なのかもしれないが。
 生徒も教師もお米が原料の食べ物や飲み物を手に、大はしゃぎだ。
 そんな調子で、二年A組の一向は東北地方の農家を順々に回っていく事になる。
 青森でもう二つの農家を回り、むつほまれ、まっしぐらというお米を入手。
 そこから秋田にくだり、有名なあきたこまちやひとめぼれ。
 その日はそのまま移動でつぶれ、やったといえばやはりお米の授業であった。
 日本にあるお米の品種の種類から好んで食べられるブランド米など。
 主食、お米といっても色々あるんだぞというのが主な内容である。
 そして半修学旅行の三日目に山形を通過。
 はえぬきやコシヒカリを手に入れ、そろそろ良いかと利き米大会である。
 その時になって実はと、北海道で入手したきらら397やななつぼしも投入。
 現在、超包子の車両は四日目の為に千葉に向けて走っているが、車内はそんなの関係ねえとばかりにお祭り騒ぎだ。
 さらば福島、栃木、茨城とばかりに車内は盛り上がっていた。

「第一回、二年A組の利き米大会ッ!」

 以降にとり行われるかは別にして、マイク片手に朝倉が叫んだ。
 ちょっと気合が入りすぎて耳を塞ぐ者がちらほら居たが、わくわくしている者の方が多い。
 何しろこの二日間、お米の美味しさを嫌と言う程知らされたのだ。
 二日目の朝に食べた三浦さんのお握りに始まり、お昼は皆できりたんぽを作って食べた。
 他に四葉がイカ飯にしてくれたり、おやつにお米を引いた粉でお団子も。
 もう本当にお米尽くしで、皆はもうお米の虜だったりする。

「おっ米、おっ米!」
「いえぃ、おっ米ラヴ。あきたこまち、可愛いっぽいから好き!」
「松屋って何処のお米使ってるんだろ、って悩む時点で私無理。だから応援!」

 全く揺れない車内なので、美砂や椎名、釘宮がチアコスでふりふりと踊り捲くる。
 もはや利き米をする者ではなく、お米自体を応援しているようであった。
 ちなみに、利き米に参加するのは、クラスメイトに加え教師三名全員である。
 チアコスで踊っている三人も例外ではない。
 元々大量に用いるわけではないが、それでも十分な量を農家から頂いてきたのだ。

「明日は千葉のデジャブーランドで宿題なし、マジ遊びのみの日だから。食い過ぎで腹痛とか起こすなよ。利き米だからな、別にお茶碗一杯ずつ食べなきゃいけないわけじゃないぞ」
「えっ、そうなの!?」
「やっぱり、まき絵勘違いしとったん。一人だけどんぶりでおかしかったもん」

 むつきが念の為に注意すると、案の定というか佐々木が驚いていた。
 亜子の言う通り、皆が小皿を手にしているのに一人だけどんぶりである。
 配られたのは皆同じ小皿のはずなので、自前で持ってきたのか。
 何やら失敗したとばかりに、すごすごと懐から小皿を取り出していた。
 どうやら一人どんぶりでスタートダッシュをはかろうとしていたらしい。

「あの利き米は、普段とは違い少量でもゆっくり噛んでお米と会話をするように食べるのがコツだと以前。お米百選の本で読みました」

 皆宮崎の豆知識に感心するより先に、何故それを読んだとも思ったが。
 それが本屋と仇名される所以でもあるのだろう。
 皆、利き米用の小皿を手に、まだかなまだかなと思っていると良い匂いが漂ってきた。
 大広間から続く厨房の奥から、この二日で嗅ぎなれたお米の炊ける匂いである。
 そしてガラガラと台車の上にお釜を乗せて、四葉が炊き立てのそれを持って来た。

「さあ、第一問が炊けました。順番に並んでください」

 農家の皆様から預かったお米を大事に、電子ジャーではなく釜で炊き上げたのだ。
 わっと群がるクラスメイトに、四葉が釜がまだ熱いのでと注意する。
 それから四葉に加え、近衛やアキラが手分けして皆の小皿に炊きたてご飯をよそって行く。
 利き米大会と言っても内輪の催しなので、ルールや規定などありはしない。
 いきなり一口でという者はさすがにいないが。
 まず匂いを嗅ぐもの、はたまた一粒だけ摘む者、粒を眺める者とやり方は様々だ。
 むつきは一先ず、一粒だけでもと指先で摘んで食べてみる派であった。

「んー、なんだろ。これ、そもそも何種類あったっけ?」
「先生、ご自分で旅行を企画しておきながら。九種類ですよ」
「てきとうに答えても、九分の一だな」

 那波が丁寧に答えてくれたが、ある意味で神多羅木が身も蓋もない言葉を漏らす。
 本人もちゃんと味わっているが、事実を単純に述べたまでなのだろう。
 ただそれでも確率云々を言いだしたらと、早乙女がとある絶対王者に視線を向けた。

「でもそれを言ったら、桜子の一人勝ちになっちゃうんじゃないの?」
「んー、私だってちゃんと考えて食べるよ。勘はなし、その方が勝算少ないから!」

 なんだそれと皆で笑い、あれっと一瞬だけむつきは妙な違和感を感じた。
 ただそれが何か具体的な事は何も思い浮かばず。
 小皿と一緒に配られたパネルに、これかなと品種名を書いていく。
 なんだと思うと見せ合いっこする者には、相談はなしだぞと注意しつつ。

「では正解の発表です。北海道産、ななつぼしでした。お米の基準は、外観・香り・味・粘り・硬さで良く審査されますが。ななつぼしは、そのバランスが最も取れているとされ丼ものに良く合うと言われています」

 北海道産は農家での説明がなかった為、補足付きで四葉が発表した瞬間、当たった、外れたと大騒ぎだ。
 ちなみに今回は全問正解したり、正解数が一番だからといって特に何もない。
 テーマがお米なだけに、無粋な商品はない。
 ただただ、お米を知る為に、お米で楽しんで、お米を美味しく頂くのが目的だ。
 そこでやはりふと気になり、美砂や釘宮と喋っている椎名を眺めた。
 外れちゃったと皆と一緒に笑いながら、次こそはと拳を握っている。
 あの以上に勘の鋭い椎名がたかだか九分の一を外したのだ。
 その気になれば、砂漠に落とした針でさえたぶんこっちと当てられそうなものなのにだ。
 やはり放っておけず、チア部三人の近くにひょこひょこ歩いていく。

「あれ、先生どうしたの?」
「おう、俺も外れちまってな。ちょいと、外れ仲間に入れてくれ」
「えー、先生運が悪そうだから。一緒にいると余計外れそう」
「いらっしゃい、先生。好きなだけ入って良いよ」

 まず最初に気づいた椎名に問われ、答えを書いたパネルをぶらぶらアピールだ。
 ただ冗談交じりとはいえ、割と本気で釘宮にそういわれてしまった。
 確かに運が良いとは言えないのだが。
 とりあえず、括弧の注釈で私の中にと付いていそうな美砂の台詞はスルーした。
 そして三人のフリップを順々に眺め、やはり全員が外れている事が解った。

「米の味って言われても、単品だと美味い不味いぐらいしかわからねえよな。せめて、食べ比べたりとかさ」
「あっ、でも私。松屋のお米なら、食べればたぶん分かりそう。お肉とお味噌汁があればなおさら。肉だけ買ってきて、ななつぼしで食べるのも面白いかな?」
「それ、もはやアンタが食べたいだけでしょうが。この松屋好き、味噌汁があるからって貧乏臭いよ。私は色々種類があるすき屋かな。桜子は?」
「私はどっちもだけど。選ぶなら、松屋? すき屋ってネギ系多いから、あれ食べるとしばらく猫が寄ってこないんだよね。先生は?」

 などと牛丼屋談義に花を咲かせている間に、第二問である。
 やれ炊き立ての米を貰えとばかりに、お釜を運んできた四葉の周りに集まった。
 飴玉に群がるありんこの様に、それいけと並び始めた。
 皆の視線はもう新しい利き米ようのご飯に釘付けだ。
 なら丁度良いかなと、周囲にあまり聞かれないようとんとんっと椎名の肩を叩いた。

「ん、どうしたの先生?」
「ちょっとした疑問というか、な」

 他意なく、二人きりでちょっと会話したいと伝える。
 小首を傾げながら椎名が頷き、いいよっと近衛にお米をよそって貰ってから壁際へ。
 この時、めざとく見ていた美砂がちょっと気を利かせて釘宮を足止めしてくれた。
 自覚はないが、むつきが真面目な教師の時の顔をしていたのかもしれない。
 二人で壁際、高速道路の風景が流れる窓の傍にて壁に背を付けてしゃがみ込んだ。
 それからさり気なく小皿の上の炊きたてご飯を眺め、尋ねた。

「なあ、椎名。お前これ何処の米だと思う。食べる前だから、勘で良いけど」
「んー……試さなくて、いいよ。先生だし。山形のはえぬきかな」

 殆ど迷う事なく、椎名はそう呟いた。
 利き米には匂いや見た目など食感以外も重要だが、嗅ぐ事も見る事もなく。
 勘とはいえ、普通もっと迷うだろうと思いつつまずは粒で食べるが違いなどわからない。
 もういいやと半ば放棄して一口でぺろりと。
 いや、意外ともちっとしているような、うんでも解らんと飲み込んだ。
 隣で座る桜子もうーんと咀嚼しながら勘ではなく頭で考えている。

「正解は山形産のはえぬきです。日本穀物検定協会が認定する食味ランキングにおいて特Aと魚沼産コシヒカリと同等の評価なのですが。作付け面積が少なく、知名度はいまいちです。その分、価格も安くお得なお米です」

 四葉の説明にほほうと、数名目を光らせる者が。
 近衛や明石、あと神楽坂と言った誰かの胃を握ったり、お金事情がある者だ。
 最近ひかげ荘は人数も増えてきたので安くて美味しいのならねらい目か。
 亜子にはお金にルーズと怒られたことだし、考慮する必要ありである。
 ただ今は、見事勘の一言で正解を言い当てた椎名であった。

「前々から思ってたけど、凄いなお前。テストとか、山勘し放題じゃねえか?」

 正直に思った事を口にしたが、少々それは失言だったようだ。
 何時もニコニコ、能天気な椎名の顔に珍しい事に影がさした。

「一年生の頃、山勘でテスト問題言い当ててちょっと問題になったんだ。それから、やめたよ。だからあの成績なんだけどね」

 たははっと力なく椎名が笑って言った。
 この三年間むつきはずっと二年生の教科担当だったので、記憶には薄い。
 ただ一年生がテスト問題を盗んだのではと、騒がしかった事があったような。
 やさぐれ時代の記憶は本当に曖昧で、何時何処で誰が何をしたのか色濃く刻まれる最近とは雲泥の差だ。

「あったような、なかったような」
「先生、私のこの髪型どう思う?」
「面白くて可愛いと思うぞ?」

 女の子故に他のクラスメイトも髪の手入れには予断がない。
 ひかげ荘の露天風呂でもエッチの時意外は、美砂達は何か色々付けて洗ったりしている。
 時々、そこまで薬品付けにしたら余計に痛まないかと思う事も。
 そういった隠れた努力以外にも、髪型と言う意味では椎名が一番気合が入っている。
 三つ編みだけに留まらず髪を纏めて縛り、リボンやゴムを使わずツインテール。
 それだけで朝は確実に三十分以上、手をとられそうなものだ。

「ありがと、けど好きでこうしてるわけじゃないの。私の運が良すぎるのを心配して、親が風水とか調べて運気が最大限にまで下がる髪型探してくれたの」
「はっ? 運気がって何もったいない。ていうか、最大限に運気下げてそれなのお前。どれだけ運気余ってるの。ちょっと俺にくれよ」
「できたら、そうしたいんだけど。先生、運が悪そうだし」
「やかまし」

 自分で振っておいてなんだが、この野郎と手を振り上げる。
 もちろんそのまま振り下ろしはしないが、一応椎名も楽しそうにきゃっと避けた。

「あれ、でもお前賭け事好きじゃなかったっけ?」
「うん、好きだよ。賭けで勝つ人は一人じゃないから。誰かが外しても、私のせいじゃないもん」

 よく意味が分からず、思わずむつきは眉根をひそめてしまう。

「例えば、くじ。一等があったら、絶対私が引いて他の人の運を取っちゃう。テストでもそう。私が勘を使うと、特にマークシートだと努力した人を差し置いて一番になっちゃう」
「ああ、だからあの台詞に繋がるのか。勘は使わない、頭で考えるって」

 百パーセント、勘だけで行動すれば椎名は恐らく最強だ。
 もしかすると髪型さえ変えれば、麻帆良最強の頭脳の小鈴を超える事さえ。
 それは解らないが、そうなる可能性さえあるかもしれない。
 だからこそ、そんな自分を自覚して誰かの運や努力を食いつぶさないよう使うべき場所を選んでいる。
 元来根明な性格であるのだろうが、日々あっけらかんと能天気に過ごす裏では常に気をはっているのかもしれない。
 多少大げさかもしれないが、椎名も椎名でちゃんとお年頃な悩みがあるのだ。

「しっかし、雪広やお前といい。もう少し俺になんとかできる悩みにしてくれ。部活とか友達、あと恋か。どうにもしてやれねえんだよ」
「恋、か明日菜じゃないし。そういえば私意外と恋愛運はないかな。主に金運ばっかり」
「俺は逆に恋愛運ばっかで金運なんかありゃしねえ」

 はふうと二人同じタイミングで溜息を吐いて、どっちが相談をして受けているんか。

「まあ、お前の運気を俺なんかがどうにかできるもんでもないが。その運気で困った事になったら俺を呼べ。解決できるかわからんが、一緒にあたふたするぐらいの事はできるからな」
「先生、それ全然頼りになんない。けど、うん。そうさせてもらう」

 にへっとこれまた同じく笑い合い、

「では第三問、炊けました」

 四葉のそんな言葉を聞いて、皆と同じように利き米の炊き立てご飯を貰いに並んだ。









-後書き-
ども、えなりんです。

むつきは暇があれば、生徒のお悩み相談室してる気がします。
言い換えれば、困ってる子はいないか、気が弱ってる子がいないか。
と、付け入るスキを探しているともw
まあ、本人はいたって真面目なので、そんなつもりはありませんが。
結果はどうあれ。

当たり前ですが、桜子の髪型ネタはオリ設定です。
なんであんな妙ちきりんな髪型かなと思いまして……
いくらなんでもセットが面倒そう、何か意味がある。
桜子は異常に運が良い、なら運気を下げる為だと。
そういう設定を考えるのも二次の醍醐味ですねえ。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第六十七話 無力だな、俺って
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/09/07 19:36

第六十七話 無力だな、俺って

 複数の花の匂いと温もりに包まれるまどろみの中で、むつきは目覚めた。
 夏の特別修学旅行の四日目、まだ時刻は午前四時と慌てるような時間ではない。
 美砂をリーダーとした大一斑の寝室の中央にて、むつきは大の字で寝ている。
 足やお腹、至る所に美砂達が情事に疲れたまま重なり、眠っていた。
 昨晩も何時も通り、エロに好奇心旺盛なお嫁さん達を全員満足させたところだ。
 あやかは最終日だが、亜子と千雨の処女何時食べるかなと夢うつつに考える。
 そこでふと隣を見ると、都合が良い事に千雨がむつきの腕枕で幸せそうに眠っていた。

「なんだかんだで、コイツも凄い美少女なんだよな」

 色がちょっと抜けた茶髪に見える髪にはさらさら柔らかく。
 時々毒舌が酷いが、こうして寝ていると可愛いもので、思わず軽いキスをする。
 だけのつもりが、朝に異常に元気となる男の子の性質としてそのまま舌を差し込んだ。

「結婚してくれよ、千雨。ちゃんと幸せにするから。俺の子供を孕んでくれ」
「んぅ、別に良いけど」

 当たり前だが、そこまでされれば起きるのも当然である。
 返答された事に驚いたむつきの方が少々抜けているという事か。

「おは、おはよう千雨。今日も可愛いな、先生思わず襲っちまった」
「夫婦でも強姦罪になるから気をつけろよ。まあ、そんな事で訴える馬鹿は先生のまわりにいねえけど。私含めて。ほら、キスするんだろ。早くしろ」

 相変わらず口が悪いが、そこに愛があればそれも一つの愛嬌となる。
 横向きだとし辛いので千雨に馬乗りとなり、貪るように唾液を交換しあう。

「んぁ、ぁぅ。先生、起き抜けだからちょっと口、臭うぞ。全く、準備ぐらいしとけよ」
「じゃあ、千雨が飲ませてくれ。喉渇いた」
「変態、女子中学生の唾で喉を潤すとか。異常性癖者」
「それで千雨と愛し合えるなら、全然構わん」

 以前みたいにちょっとはキョドれと、小さな不満を口にしごろりと二人で転がった。
 むつきが下に、千雨が上となってキスを続けては唾液を直接口で受け渡す。
 こくこくとむつきの喉が鳴るのを聞きながら、千雨は小さくながら腰を振っていた。
 朝立ちで下から押し上げてくるむつきの一物に、未通の性器を一生懸命擦りつける。
 まだ互いにぬれていないので肌と肌が擦れる音が良く聞こえた。

「一生懸命腰振って、可愛いな」
「うっせ、真性ロリコン。昨日、見てたぞ。椎名に粉かけてたろ」
「違うわ、妬くな。ちょっとしたお悩み相談室だ。相変わらず、役に立てなかったけど」

 何時になったら一人前の教師になれるのかねと呟くと、千雨が腰の動きを止めている。
 また毒舌家と一瞬身構えると、何故か千雨に抱きつかれ懐深くで抱き占められた。

「あんま無理すんなよ。超とか葉加瀬とか手伝ってるとはいえ、三十人も引率して日本横断。その上、個別にお悩み相談とか。キャパ超えてるぞ」
「大丈夫だよ、先生は俺一人じゃないし。こうして可愛い嫁が毎晩慰めてくれるんだ。孕ませたいってむしろたぎる」
「孕ませたいのは分かってるけどさ」

 完全勃起状態のそれとぬれ始めた割れ目をこすり付けているのだから分かって当たり前。
 私もちょっと孕まされたいしと、染み出る愛液で自分の気持ちをちょっと知ったり。

「先生さ、たいした事できやしないのに頑張り過ぎるのが良い点でもあり欠点でもある。だから皆、あんたを支えたいと思う。けど、支えきれなかったら」
「おい、こんだけ嫁がいて支えきれないとか。どんだけ弱いんだよ、俺は」
「ただでさえ馬鹿が多いクラスだぞ。それを生徒だけでなく、嫁として迎えて支えきれると思うなよ。ああ、もう。自分の性分がいやだ」

 いきなりどうしたと、頭を抱えた千雨をギュッと抱き締める。

「先生に愛されてセックスして幸せ。それで終われば良いのに、アンタが潰れたらとか。怖い想像ばっかしちまう。どんだけ、アンタが好きなんだ私は」
「うん、嫁に不安を抱かせる俺は夫失格だな。千雨、お前もっと馬鹿になれ。もう、今夜。今夜にお前の処女奪って、アヘ顔ダブルピースさせてやる。俺の前だけでもさ、はっちゃけろ。ストレス解消しろ」
「そうやって、アンタは直ぐ抱えもできないのに全部抱えようと。私、先生を舐めてんのかな。それぐらい、私一人ぐらい増えても平気か?」
「当たり前だ。プライベートでは、美砂の次に付き合い長いんだぞ。安心して寄りかかってろ。駄目な時は、ちゃんと相談する。ジャッジメント長谷川にな」

 懐かしささえこみ上げる呼び名だと、千雨は愛欲を一時押さえ腰を振るのをやめた。
 今まで周囲に流されたり、楽しいからと混ざってきたが改めて思う。
 ひかげ荘という物件だけでなく、そこを管理する一人の男も愛しているのだと。
 女の子にはない分厚い胸板に倒れこむように頬を寄せ、心臓の鼓動に耳を済ませる。
 ネットアイドルをしているだけでは、決して男から手に入れられなかった安心感。
 愛欲を抑えたはずが、何故かより股の間からは愛液が染み出し、孕みたいと思った。

「でも、ちょっとたんま。明日にしてくんない。デジャブーランドで疲れ果てて、なんだか解らない夢うつつで終わるのはちょっと」
「あー、体力残す為に楽しまないのも勿体無いな。なら明日?」
「和泉の事もあるしさ、明日二人一緒に。連続処女食いでもしてみるか。鬼畜な先生?」
「それこそ和泉は、俺にデジャブーランドのトイレに連れ込まれて犯されても喜びそうだけど。さり気に、一番俺とのセックスの虜だぞ」

 足元にでむつきの股間を捜し、無意識に手を彷徨わせている亜子を見た。

「それでも、毎日セックス前に勉強してんじゃん。葉加瀬と一緒に、超に授業受けたり。子供生む前に、私も二、三年ぐらい働いとくか」
「それも良いと思うぞ。社会を経験しとくと視野が広がるし。どちらを選んでも俺は味方するから。安心して、やりたいようにやれ」
「よし、言ったな先生。だったら、今からやろうぜ。腰抜ける程、可愛がってくれよ」

 了解っと呟き、むつきは千雨をうつ伏せに組み伏せた。
 一物を尻の間に挟むように、とろとろと濡れる割れ目にそってつける。
 千雨もこれで胸が揉めるだろと腕で上半身をちょっと起こしてくれていた。
 なら遠慮なくと、尻をぱんぱん叩きながら首筋にキスをしつつ贅沢に胸も。
 あやかやアキラよりは小さいが、それでも一般的な中学生よりは大きな胸を揉みしだく。
 ネットアイドルをしていただけに、千人単位でこいつを抱きたいと男に思わせた千雨を好きなだけ抱いた。
 途中、眠りが浅く起きた夕映やさよを加えつつ、朝からむつきは思い切り嫁を堪能する事になった。









 デジャブーランド、それは日本中の夢と希望が集められた一大テーマパークである。
 大人も子供も、いやむしろ普段の生活に疲れた大人が童心に帰ろうとやって来るのだ。
 日本人なら一度は訪れたい場所ランキングでは、常に一位を獲得する人気であった。
 ちなみに麻帆良の学園祭もトップテン入りしていたりする。
 麻帆良祭で面白い出し物を提案した人物は、ヘッドハンティングされるという噂さえ。
 そのデジャブーランドに二年A組一向は、特別修学旅行の四日目の日程として訪れていた。
 夏休みは特別に開園が一時間早まる為、現在時刻は午前七時半。
 駐車場に超包子特性車両を駐車させ、うずうずしている生徒を並ばせ整列させる。
 気の早い明石などは、今からネズミーマウスの耳パッドを頭につけていたりも。

「ゆーなずるい。それどうしたの」
「去年お父さんと来た時に買って来た奴にゃあ」
「ねずみの飾りを頭に付け、猫言葉とはこれいかに」

 夕映にこっそり突っ込まれるも、皆いいないいなと視線が釘付けだ。
 初日にちょっと怒られた事もあり、突然入場門を目指し走り出す者もおらず。
 神多羅木や刀子と連携しつつ、続々と入ってくる車に気をつけて移動である。
 入場門は既に人だかりで、開園と同時に人並みが動き出すのは目に見えていた。
 それに待ち合わせの事もある為、入場門から外れた場所にて待機であった。
 移動時は二列だったが、四つの班別に四列に並びなおさせ、むつきは人数を数えた。

「ひいふうみいと。よし、全員いるな。よーし、お前ら注目」

 わいわいがやがやと、静寂は無理ながら話を聞けと手を叩く。

「まずどこ行く、どこ行くです。サウザンドサンダーマウンテン行きたい!」
「えー、怖いの嫌だ。僕は、ネズミーハウスが良いですよ」
「あらあら、そっちも良いわね。風香ちゃんもまずはそっちにしない。大きなアトラクションは身長制限もあるし」
「はっ、幼児体形は大変だな。お子様は精々、幼稚なアトラクションで楽しむが良い」

 普段とは異なり、やはり開園前のデジャブーランドを前に興奮はなかなか収まらない。
 那波でさえはしゃく鳴滝姉妹の引率だけに留まらず、自身も楽しみと笑っていた。
 両腕を組んで大人ぶるマグダウェルを手馴れたように撫で撫でも。
 この班大丈夫かなと、村上は相変わらず苦笑いで大人しかったが。

「ほら、楽しいデジャブーランドで逸れて泣きたくなかったら聞く!」
「お前達、しっかり楽しむ為には入念な準備ってのが必要だ」
「お嬢様や刹那も、聞きなさい」

 神多羅木や刀子の手を借り、二十分程かけてようやく静かになった。
 ただおかげで開園時間まで十分しかなく、手短に注意事項と確認事項を述べた。

「デジャブーランド内では札幌と同じく班行動だ。改めて確認するが、皆自分の携帯に引率者全員の番号入ってるな。前後、隣同士で確認しろ」

 一人でも逸れれば、捜索の為に先生は全員動因せねばならない。
 となれば自然と他の班員も行動が制限される為、何度も注意して確認させる。

「財布落としたり、不足の事態にはスタッフの前に俺達に連絡な。引率者が一緒に行くから。絶対に一人で勝手に行動するな。俺も夢の国で怒りたくないから」

 はーいと小学生のような元気な声が返り、返ってちょっと心配になったりも。
 大丈夫かなと思っていると、千雨とちょっと目があった。
 潰れそうになったら慰めてやるよと、呆れ顔の中にも愛を感じたが今は教師である。
 予め決めておいた注意事項も、一通り説明し終えた所でどうやら開園したようだ。

「先生、開園。開園したよ、はやくはやく!」
「まき絵、落ち着きや。凄い人並み、今行ったら危ないし絶対はぐれるやんか」
「和泉の言う通り、もう少しだけ待て。それから、まだ合流予定の」

 他の面々にも同様の注意をした所で、その懐かしさを覚えるとぼけた声が聞こえた。

「神多羅木さーん」

 呼ばれた相手が自分ではなく、神多羅木であった事に奇妙な違和感を感じつつ。
 声の方に振り返ると、むつみが手をふりふりしながらとてとて走ってくる。
 ただ愛する人しか目に入っていないのか、大胆にも駐車場を一直線。
 あやうく古臭いバンにも轢かれそうになり、急ブレーキをかけられたりも。

「ちょっとむつみさん、危ない。前見て、前。あと、右も左も!」
「へぇ、あれが神多羅木さんか。うちの旦那より渋くて格好良いかも」

 どうやら送って貰った眼鏡夫妻であるようで、てへっとむつみが笑っていた。
 というか、妻の方は初見だがあの日焼けした眼鏡男はけー君ではなかろうか。
 気軽に呼んではいるものの、写真越しでしか会った事はないのだが。
 神多羅木含め、よろしくお願いしますと遠目で黙礼され、教師三人もペコリと一礼。
 改めてちょっと周囲を見渡してから、むつみが神多羅木に一直線であった。

「神多羅木さん、今日もお髭が素晴らしく」
「君はあれか、髭フェチか」

 結納直前のカップルらしいかは兎も角、むつみが何よりも先にお髭をさわさわと。

「くっ、神多羅木のくせに」

 止めてください、相手が俺の姉ちゃんですと刀子を宥めつつ。

「あらあら、むっくんのお嫁さん達もお久しぶり。スイカ、食べるかしら?」
「出た、謎のスイカ。しかも何故か冷たいし。うん、春頃より良い音してる」
「では今夜のおやつにでも。田中さん、申し訳ないですが車両の冷蔵庫の方に」
「OK.Mam」

 もはやあいさつ代わりにむつみがスイカを取り出し、釘宮が音を確かめている。
 ただスイカよりも今はと皆の意識は、開演中の入場門に釘付けだ。
 四葉が田中にスイカを頼み、片付けに言ってもらっている間に最後の注意であった。

「一応通達しておいたが、三班は姉ちゃんと田中さんの二人で……」
「むつみ、離れろ。今日は一日別行動だ」
「えー、折角神多羅木さんと会えたのに」

 よくよく考えてみれば、それでむつみがごねるのもある意味当然である。
 折角恋人と会えたのに、夢の国で離れ離れでしかも引率のなれない仕事付きだ。

「先生、むつみさんは四班の引率で良いのではないでしょうか?」
「折角神多羅木先生に会えたむつみさんを引き離すのも。こちらの要注意人物は鳴滝姉妹にエヴァンジェリンさんだけですから」
「おい、四葉。何故そこで私と双子を同列に」
「田中さんがいれば、暴漢が現れようと対処可能です。もちろん、茶々丸もいますし」

 何故私がと憤慨するエヴァは置いておいて。
 絡繰の提案に四葉や葉加瀬も、自分達や特に保母経験のある那波がいればと言った。
 当の本人や村上も大丈夫なのではと、頷いて返してくれた。
 大変もうしわけないが、そうした方がふらふらむつみが何処かへ行く事もないか。
 きっと園内ではずっと神多羅木と腕を組んで歩くだろうし。
 別にそれがどうしたという事も無いし、当の昔に終わった初恋なので別に。
 ぶんぶんと頭を振って、むつきは神多羅木担当の四班にも意見を聞いた。

「全然問題ないんじゃない。神多羅木先生、むつみさん。こっちむいて、はいチーズ」
「結婚間近のとろとろラヴ臭が。それを嗅ぎながら夢の国とかもう、昇天しそう!」
「こ、今後の参考に」
「もーまんたい。大丈夫だ、問題ない」

 朝倉は早速二人の思い出にと写真を撮って、是非結婚式で使ってと売り込んでいる。
 他に早乙女や宮崎も多種多様な思惑ゆえに快く了承を。
 最後にザジ、それを仕込んだのは小鈴か古か。
 一応後で後半のネタはともかく、それは中国語だからと教えておこうとむつきは思った。
 厳密には広東語なのだが、そんな知識をむつきが知るはずもなく。

「じゃあ、四班は姉ちゃんを頼んだぞ。あれ、引率? まあ、いいか。三班は田中さん、あっ戻ってきた。頼むな、変な奴がナンパとかしないよう鎮圧も可」
「OK. Boss」

 最後は冗談だったのだが、ガシャンとショットガンに装填するのは止めて欲しい。
 遠巻きに、ここUSJだっけと他のお客に呟かれたのもご愛嬌。

「じゃあ、そろそろ人垣も多少はましになったし移動するぞ。雪広、一班は入園後ちょっと待っててくれな。団体入場だから、俺は最後に入って確認するから」
「はい、承りましたわ。皆さん、ではこちらですわ」

 先頭をあやかに頼み、まずはむつきが窓口で入園手続きを取った。
 それから改めて入園の列へと並び、先頭から係員と一緒に点呼である。
 申請した人数、ぴったり問題なしと判断され入園章も全員ちゃんと配られた。
 一応点呼後なので動かないでと指示され、むつきは一斑ながら最後尾となった。
 そして一番最後尾にいた釘宮や椎名と昨日振りと軽くハイタッチである。

「何時ぐらいぶりだろ、小さい頃に連れて来て貰ったらしいけど。先生は来た事あるの?」
「大学時代はずっとこっちだったからな。そん時に何度か。彼女と来て、お泊りもあるぞ」
「きゃははは。えろーい、先生えろーい」

 その時は二人で見たパレードが云々と、嫁が遠い事もあってちょっと当時を思い出したり。
 普通学生の修学旅行では、パレードを見るまで行動は許されないのだが。
 各班には引率の先生が張り付くし、そもそもお泊り可能な移動車両付きだ。
 パレードを全て見て、余韻に浸ったままお泊りできて普通こんな事は不可能である。
 こいつら、最高の学生時代をすごしてるなとちょっと羨ましくもなったり。
 ただ彼女達がそんな学生時代を送れるなら、千雨が多少不安を抱いても頑張りたいものだ。

「ただ、なんだろ。今日はちょっと当時と雰囲気が」

 二人の相手をしながら、当時との記憶の不一致があるようで小首をかしげる。
 何がというわけではないのだが、係員の行動にもやや合点がいかないことも。
 何故一緒に点呼したむつきは最後尾から動いてはいけないのか。
 団体入場で申し込んでと思った所で、気付いた。
 そう団体で申し込んだのに、並ばされているのは一般入場者の列だ。
 当時は最初から一般入場だったが、団体入場は列の移動が早く楽そうだと思った記憶がある。

(変だ、絶対変だこれ。なんで団体で申し込んで一般入場)

 団体入場用のゲートは何故か閉ざされ、他の団体客も並ばされていた。
 ただいくら考えても理由はわからず、雪広を先頭にA組の入場が始まった。
 貰ったばかりの入園パスポートを一人一人チェックされ列が進む。

「ねえ、パパ。まだ、早くネズミーハウス行きたい!」
「もうちょっと、今お姉ちゃん達が並んでるからその後で」
「修学旅行かしらね。懐かしいわ」

 ふとそんな声が真後ろから聞こえて振り返ってしまい、目が合ってしまった。
 後ろは一般客で小さな四、五歳ぐらいの女の子を連れたご夫婦だ。
 目が合ったついでに思わず目礼し、釘宮と椎名は女の子に手を振っていた。
 それから少し屈んで、楽しみだねっと話しかける。

「お姉ちゃん達も、凄く楽しみ。行きたいところは?」
「あのね、ネズミーハウス。それから、それからね」

 一応聞こえてはいたのだが、釘宮が問いかけると指折り数え始める。
 可愛いなあと思わずむつきも、日々嫁を孕まそうとしているだけに目尻が下がった。
 今は学生だしピルも飲んでいるので無理だが、いずれ早くても五年後にはだ。
 誰が一番に孕み、可愛い我が子を生んでくれることか。
 デジャブーランドとは全く別件でわくわくとしてしまった。

「あっ、たぶんそれ私」
「は?」

 ふいに、むつきを見上げて椎名が呟き、あれっと自分で何の事と首を傾げた。

「先生、今私に何か聞いた? 思わず勘で答えちゃったけど、次のバカレンジャー?」
「えっ、嘘。マジで、マジでお前なの? お前の剛運で大当たり?」

 まだ手を出してないんですけどと、だらだら嫌な汗が。
 椎名も何を聞いたのと食い下がってくるが、この場で正直に言えるはずもなく。
 俺の子供を最初に生むのは誰かなどと。
 一応それで生徒に手を出した事まではばれないが、何しろ椎名の勘だ。
 何がどうなってそんな事にと、やっべえと嫌な汗がまだまだ止まらない。
 夏場である事に加え、汗を拭くハンカチを一杯お代わりしたい気分であった。

「おじちゃん、だいじょうぶ?」
「こら、お兄さんでしょ。すみません」
「いえいえ、はは」

 小さな子におじさんと呼ばれる事よりも、椎名が最初に子供を産むとかの方がダメージでかい。
 教師と生徒として普通の接点はあったが、内面に踏み込んだのは昨日が初めてだ。
 ちょっと待ってお願いと、恋愛の神様にお願いしても何一つ止まらず。
 デジャブーランドへの入場も同じく止まらず近付いていた。
 ついに四班の入場となって、最初に引率の神多羅木とむつみが。
 それから順に明石、佐々木と続いて早乙女に宮崎とザジ。
 お先にと女の子に手を振って釘宮が入園パスのチェックを受けようとした時であった。

「あっ、お先にどうぞ。靴の紐ほどけちゃって」
「行列で危ないなあ。ぱぱっと結んじゃったら?」

 突然椎名がそう言い出して脇にどいてしゃがみ、早く入りたそうな女の子に先を譲った。
 釘宮もむつきがいるとはいえ、椎名だけ置いていくわけにはと同じく譲る。

「わーっ、おねえちゃんありがとう。おとうさん、おかあさんはやく!」
「こら、待ちなさい。貴方、あの子をお願い」

 女の子はそれでやっと自分の番だと、スタッフどころか親御さんの制止も聞かず走っていってしまう。
 妻に言われ夫も、失礼とスタッフに一言断って女の子を追いかけ掴まえていた。
 椎名も早く入園したいので、釘宮の言う通りしゃがみ込んでぱぱっと。
 三人家族の後ろ、妻が入園チェック中にむつきと一緒に並びなおし、入園を待つ。
 この時、もう少し良く周りを見ているべきであった。
 非常にまずいといった顔をしている入園チェックのスタッフの表情を。
 そして改めて入園時に先は貰ったと椎名が無情にも、釘宮より先にチェックを受けた時である。

「お、おめでとうございます。お客様で丁度、デジャブーランド入園十億人達成です!」
「えっ?」

 この時、椎名のみならず一連の光景を眺めていた全員が凍り付いていた。
 これは完全にスタッフの失態である。
 女の子が勝手に入ってしまったとは言え、順番を守ってくださいと止めるべきであった。
 おかげで本来はあの小さな女の子が十億人目のはずが、椎名が十億人目に。
 スタッフは必死におめでとうございますと盛り上げようとしているのだが。
 十億人目の入園者となってしまった椎名は、顔面蒼白であった。
 どうしたのと父親の腕に抱えられ小首をかしげる無垢な瞳が余計に辛い。

「丁度十億人目となったお客様には、デジャブーランド年間パスポートと」
「いらない」

 涙を堪えての椎名の呟きに、スタッフもまた記念すべき行事の滞りに顔面蒼白だ。
 だが円滑な運営もわかるが、もう少しこっちの気も察して欲しかった。
 椎名でなくとも、こんな状態で喜べるわけがない。
 昨日聞いたばかりだが、誰かの運気を吸い上げるのは椎名が最も嫌う所だ。

「椎名、それから釘宮もこっちこい」

 だから咄嗟にむつきは、泣きそうな椎名を抱きかかえ、無粋なフラッシュから守った。
 恐らくフラッシュの大本は、入園十億人をひかえ呼ばれていたマスコミだろう。
 隠れて控えていた彼らは場の空気がわからず、やれ十億人目のラッキー少女だと撮り捲る。
 それも椎名がとびっきりの美少女だから絵になると、本人の了解も得ぬままにだ。
 椎名の涙も、彼らにとっては嬉し涙に見えているのかもしれない。
 だからむつきは椎名をスーツの上着で隠し守りながら、強引に入園していった。
 そして二人を連れて、女の子以外茫然としている三人家族に話しかけた。

「すみません、順番通りなら貴方達が十億人目。厳密にはその子が。我々は団体行動中で手を取られると困るので。申し訳ないですが再交代していただけないでしょうか?」
「え、ええ……それは、むしろこちらから。あの、その子泣いて」
「ああ、えっと。桜子、この子カメラのフラッシュが苦手で。一斉にたかれると泣いちゃう性分なんで。お気になさらずに!」

 釘宮も親友故に椎名の内面を知っているのか、黙ってむつきに協力してくれた。
 そのまま三人家族に伝え、やれ逃げろと遠巻きに見ていた面々の尻を蹴り上げる。
 入園と同時に班単位で解散なので、残っていたのはむつきのお嫁さんの一班と四班だ。

「乙姫、マスコミはちとまずいな。急ぐぞ。ほら、解散前に移動だ。雪広、お前らも来い」
「むっくん、桜子ちゃんは?」
「姉ちゃん、話は後で。二人一組で手をつなげ、さっさと移動!」

 引率者を三人とし一班と四班は一緒に、入園ゲートから逃げ出した。
 一先ず落ち着ける場所にと、来園の記憶が新しい明石の案内で飲食店に。
 そこで一斑と四班を纏めて神多羅木に預け、むつきはその場を一度離れた。
 もちろん、まだ動揺中で泣いている椎名も一緒だ。
 釘宮やそれから美砂も、ついてきたそうにしていたがそれはむつきが断った。
 椎名も折角のデジャブーランドを自分のせいでこれ以上盛り下げたくはないだろう。
 飲食店をちょっと離れたベンチに連れて行き、まずは椎名を座らせた。
 それからぽんぽんと頭を叩いて慰め、むつきはちょっと悪いと断って電話であった。
 コール三回、連絡先を聞いておいて良かったと受話された向こうに話しかけた。

「学園長、乙姫です。ちょっと問題が」
「ふむ、聞こうかのう」

 電話に出た瞬間こそ孫の様子を聞きたそうな雰囲気が伝わったが、それも直ぐに止んだ。
 さすがに先生歴が長いだけあって、むつきの声の調子からある程度伝わったのだろう。

「スケジュール通り、デジャブーランドの入園を済ませたんですが。椎名が誤って入園十億人をとってしまいまして」
「誤ってとはどういう事じゃ?」

 問い返され、俺も意外と動揺しているとちょっと深呼吸する。
 それから改めて、どういう状況でとってしまったのかを説明した。
 本来十億人目となるはずだった女の子の事や、直前で靴紐を直す為に順番を交代した事。
 咄嗟に再交代して貰って椎名を連れ出したのは良いが、一番まずいのは随分とマスコミに写真を撮られてしまった事だ。
 妙なゴシップを書きたてられる前に、できればなんとかしたいのだが。
 むつきにそんな力があるはずもなく、学園長に期待するしかない。

「あい、解った。デジャブーランドの方には、麻帆良学園から圧力を掛けておこう」
「えっ……期待してはいましたが、どうやってです。あのデジャブーランドですよ?」
「あそこの親会社はな、麻帆良祭に随分と注目しとるんじゃよ。毎年社長、理事長自ら訪れては学生をヘッドハンティングもな。卒業生が偉いさんになったりもしとる」
「それはもう、なんて言ったら良いのか。凄いですね、うちの学生」

 日本の一大テーマパークからも注目される麻帆良祭とはと思わざるを得ない。
 大人も手伝っているとは言え、確かに学生だけ、それも突貫で街一つをテーマパークに仕立て上げるのだからそれも当然か。

「分かりました、圧力の方よろしくお願いします。椎名個人の方は僕が。あと可能かどうかは不明ですが、超にも少し手伝って貰っても構いませんか? その時は連絡します」
「うむ、学園で抑えられるのはデジャブーランドだけじゃからな。マスコミ各社、それも個人となると。多少荒療治でも良いじゃろう。連絡はいらん、存分にやりなさい」
「ありがとうございます、また何かありましたら申し訳ないですが連絡させていただきます。あと、近衛木乃香ですが。楽しんでますよ、桜咲と一緒に」
「そうか、そうか。一言、京都には気をつけてなと。それにしても、血は争えんのう。乙姫君の孫がなあ。そっくりじゃて」

 電話を切る直前、何か懐かしそうに学園長が呟いていたがそれどころではなく。
 やべ聞き逃したと思っても、もはや遅いし、今は椎名が最優先だ。
 しゃくりあげる頻度も少し収まり、今はすんすんと鼻を鳴らす程度。
 時折スタッフが心配そうに伺ってくるが、椎名を見ては少しばつが悪そうに。
 怖ろしい速さで広まっているのかもしれないので、急いで小鈴にメールであった。
 即座に既に対処済みで、ネット上の火消しは千雨と絡繰で分担だそうだ。

「無力だな、俺って。学園長に超、長谷川に絡繰。皆の面倒を見てもらってる神多羅木先生。なーんも、できねえ。すまん、椎名。俺嘘つきだわ」

 何かあったら俺に言えと言っておきながら、結局は他力本願で丸投げばかり。

「先生、そんな事ない。助けを求める前に、助けてくれた。咄嗟に庇って、連れ出して。私がとっちゃった運気、あの子に返してくれた」
「そう言って貰えると助かる」
「うん、ちょっと格好良かった。アキラも溺れたところを助けて貰った時、こんな感じだったのかな。ちょっと胸がドキドキしてる」

 泣き止んで笑ってくれたのは、良いのだが話が妙な方向に。
 今気付いたのだが、意外と大きなお胸を両手で押さえるようにし呟くのか。
 まるで驚きではなく、ほのかな温かい気持ちでドキドキしているような。
 やばい、パターン入りそうだと、せめて最初に生むのは嫁の中からと話題を変える。

「えっと、それにしても聞いた以上だったな。お前、髪型以外にも運気下げる何かしたらどうだ? うーんっと、姓名判断?」
「きゃはは。先生、名前はずっと同じだ……あれ? 乙姫、桜子?」

 なにやら思いついたようにむつきの苗字と自分の名前を椎名がくっつけた。
 自分に止めを刺したのは俺でしたっと、むつきは心の中で叫んでいる。

「乙姫桜子、凄い。たぶん、勘だけど。髪型と合わされば、普通の運気になりそう!」
「待って、待った。良く考えろ、別にさ姓名判断だけじゃ」
「だってちょっとやそっとじゃ、変わらないもん。髪型だってふいに乱れる事もあるし。先生、結婚しよう。中卒は無理だから、高校卒業したら!」

 ついに逆プロポーズまでされ、うぎゃあっとむつきは頭を抱えた。
 動機はちょっとアレだが、椎名の中ではちゃんとした恋心も芽生えているかもしれない。
 完全に好意度外視でやってきた桜咲や近衛とは全く違う。
 きっと絶対に、求められ続けたらむつきに断る言葉も理由も無くなってしまう。
 だからここは、日本人それも政治家がお得意のあの手であった。

「椎名、まずその話はまた今度な。皆待たせてるし、今日はデジャブーランドで夢体験だ!」
「先生、私も一斑になりたい。そうだ、もう一班と四班は合同で行動しよ。私色々あって動揺しちゃった。先生、いいでしょう? うりうり」
「やべ、おっぱい押し付けるな。ほら、他の人が見てるから。お前の人生の前に、俺の人生が終わっちゃう。あっ、立つな。ちょっと止めて!」

 桜子の無邪気なそれでいて割りと豊満な体に下半身が反応してしまった。
 デジャブーランドの夢と希望でさえ、むつきの愛欲は止められないところまできているらしい。










-後書き-
ども、えなりんです。

ちょこっとだけですが、景太郎となるが登場。
相変わらず、師匠から譲り受けた高性能バンに乗ってます。
あと未だ幼馴染同士、むつみと仲良くしてる感じです。
たぶん彼女の結婚話を親並みに喜んでいそう。

さて、今回早くも前回のフラグを回収したむつきですが。
少しだけ今までの嫁と異なる点があります。
ずばり、乙姫という苗字を欲しがり嫁になりたがってます。
つまり、書類上でも嫁になりたいと言っている点です。
現時点では美砂と桜子の両立は成り立ちません。
その辺、旅行が終わった辺りで書こうと思います。

それでは次回は水曜です。



[36639] 第六十八話 一晩中、忘れられない夜になるぐらい!
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/09/15 20:06
第六十八話 一晩中、忘れられない夜になるぐらい!

 早朝に千雨が予想した通り、超包子の車両に戻ってきた頃には皆疲れ果てていた。
 入園当初、ちょっとした騒ぎもあったが、その後は何事もなく。
 と言ってもデジャブーランドなので、何処へ行ってもお祭り騒ぎであったが。
 夢の国を堪能し、締めのパレードや打ち上げ花火を見て、そこで体力の限界であった。
 普段は消灯時間が来ても、ぶうたれてなかなか自室にて寝ないというのに。
 今夜ばかりは、もう気力、体力の限界とばかりに自ら寝室へと向かっていった。

「先生、お休み。桜子に夜這いしにこないでよ。私達もいるんだし」
「私はいいのに。だったら先生、一緒の部屋で寝よ。本番は駄目だけど、胸ぐらい触っていいよ」
「桜子大胆、アキラ負けてらんない。脱ぐ、脱いで誘う!?」
「裕奈、止めて。神多羅木先生とかもいるのに」

 体力の限界ってなんだろうと思いもするが、半分以上目がとろんと意識が危うい。
 特に恋に目覚めかけの桜子が、釘宮の台詞を発端にうりうりとまたパジャマ姿で胸を押し付けてくる。
 やめなさいとデコピンで引き離しては釘宮に預けていると次である。
 負けるなアキラとばかりに、明石や佐々木がアキラの背を押して抱きつかせてきた。

「ほら、お前達もいいから寝ろ。明日からも旅は続くんだから、体調管理はしっかりと」
「皆さん、続きはまた明日ですわ。班長の方々も」
「くぅ、折角の教師×生徒ネタなのに体力が持たない。誰か、腐臭もしくはラヴ臭を」

 ただし、あの早乙女でさえへろへろと、宮崎や夕映の手で部屋に放り込まれていた。
 半修学旅行の四日目ともなり、やはり疲れも溜まっていたのかもしれない。
 やっぱり最後はぶうぶうと、それでも部屋に向かって終身してくれただけましか。
 テンションマックスの麻帆良祭でさえ三日、その三日を超えているのだ。
 明日もまた移動時間が長い為、消灯の一時間前には大広間から生徒の姿は全て消えていた。
 全員を部屋に押し込み、こちらからパネルを操作して強制消灯である。
 それからようやく静かになったと田中さんを抜いた四人の引率者がやれやれと腰を下ろした。

「明日でようやく半分だな。さすがにこう引率の連続だと俺達も疲れが来るな」
「あらあら、それじゃあ後でマッサージしてあげますね」

 明日以降の打ち合わせの途中で神多羅木が肩をゴキゴキ回し始めた。
 彼は男子校の教師なので、女子中学生を相手にするのはなかなか骨が折れるのだろう。
 それに加えて今日からはむつみの引率というか、エスコートも加わったのだ。
 そんな神多羅木へと、むつみが甲斐甲斐しい台詞を投げかけつつ肩を預ける。

「それじゃあ、今日は僕らも早めに寝ますか。明日でようやく折り返し。まだまだこの旅は続きますからね。体力、蓄えておきましょう」
「そうだな、それじゃあ。お先に、むつみ行くぞ」
「はい、神多羅木さん。むっくん、刀子さんもお休みなさい」

 むつきの言葉を聞いて神多羅木が立ち上がり、むつみもその後についていく。
 良い大人の二人、さらには結納直前と二人が向かう部屋は一つ。
 どういうマッサージをする事やら、ちょっと微妙な気分のむつきであった。
 自分で仕向けた部分はあるとは言え、むつみは初恋のお姉ちゃんなのだ。

「むつき先生?」
「いえ、なんでもないです」

 どんな顔をしていた事か、刀子に心配そうに顔を覗きこまれてしまう。
 そう答え、今の自分には愛する嫁達がいると心を奮い立たせる。
 椎名や近衛、桜咲とまだちょっと増えるかもしれないが。
 一応、こちらからアプローチをするつもりはなく、最低でも現状維持だ。

「さて、僕らも寝ましょうか。刀子さんも、鳴れない中学生の引率で疲れているでしょ?」
「いえ、体力には自信がありますから」

 以前も聞いた台詞なのは良いが、何故そこでむつきのスーツの裾を掴むのか。
 ちょっとうるっとした瞳には期待の二文字が浮かび、頬も少し赤い。
 神多羅木とむつみが先に部屋に戻った為、大広間にいるのは二人だけだ。
 別にこのまま自分達が一つの部屋に戻ったところで目撃者がいるわけでもなく。
 いやしかし、椎名に告白された当日に、結婚する気のない相手とするのも。
 俺の人間性は一体何処へ向かっているのか、誰か本当に教えて欲しい。

「少し、僕の部屋で飲みますか?」
「はい、お供させて貰います」

 多少の苦悩は、ぱっと花開いた刀子の笑顔に比べれば小さなものなのか。
 五年待たせる前に、お婿さん探してあげないとなと思いつつ。
 内心に反して寄り添ってきた刀子の腰に手を回し抱き寄せたりと。
 お互いに、今夜は燃え上がる気満々で、二人はむつきの部屋に消えていった。









 二人はしばらく東北地方を通り過ぎた際に買い求めた日本酒を酌み交わしていた。
 あまり広い部屋ではないのでベッドを椅子代わりに、触れ合う程に近くに座りながら。
 お互いに体の隅々まで知る間柄なので、そこに遠慮はほとんどない。
 刀子はむつきの手に触れたり肩に頭をあずけたり、むつきもさらさらの髪に触れたり肩を抱き寄せたり。
 美砂達の若くて張りのある肌も良いが、歳を重ねた女盛りのムチッとした肌もまた良いものだ。
 時々そ知らぬ顔で太股に触れても、怒られないのでさわさわとセクハラを続ける。
 そんな行動に反して会話の内容は本当に取り留めのない、というかむつきの苦労話であった。
 普段、A組の子らがどんなに騒がしいか、手に掛かるが可愛い生徒なのか。
 刀子がちょっと嫉妬して触れた手を抓る程度には、むつきが生徒でのろけていた。
 だからだろうか、刀子が少々強引に話題を変えたのは。

「むつき先生は、乙姫さんとは小さな頃から?」

 あまりに急な方向転換のため、ちょっとむつきは固まっていた。
 酔いが適度に回り、思考が鈍っていた事もあるだろう。

「姉ちゃんの家は特に兄弟が多かったんですけど、俺は一人っ子なんです。だから余計、姉ちゃんに懐いたんですかね。小さい頃は、カルガモの子供みたいに付いて回って」

 ただしそれは、むつみの体の弱さと対するむつきの成長により変わっていった。

「姉ちゃんが周りの子より体力的に遅れ始めて、言い方は悪いけど皆の遊びの足手纏いになり始めて。軽い苛めに合いかけた頃には、俺が姉ちゃんを守るんだって」

 以前雪広にちらっと漏らしたが、むつみに可愛がられて色々と勘違いしていた。
 自分は姉を守る為に生まれてきた特別な存在だとか、あとかめはめ波の練習も。
 それこそやり過ぎるぐらいに喧嘩を繰り返し、殴り殴られ余計むつみを心配させ。
 今にして思えば、あれは全くの逆効果だったのだろう。
 そして高校に上がる前にむつみは東大受験の為に東京へ。
 何一つ始まる事もなく、むつきの初恋は自然消滅していった。

「姉ちゃん、今頃」

 神多羅木の体の上か下か、そのどちらかでむつきの知らぬ声で鳴いているのか。
 結婚する事に対する祝福の気持ちはあるのだが、何故か心中が微妙に煮え切らない。
 そう思った時には自然と、涙がぽろっと落ちていた。

「えっ、嘘マジで。ちょっとたんま、今のなし。やべ、止まらねえ」

 若くて可愛い嫁が一杯いるくせに、それはないだろうと止まらぬ涙を拭い続ける。
 次の瞬間、隣に居た刀子にその大きな胸の中へと抱き寄せられていた。
 何も言わず語らず、ただむつきの涙を受け止めるように髪を梳いて撫でてくれる。
 ちょっと昔の姉ちゃんに似てるかもと、むつきは涙を拭う事をやめた。
 それから改めて、自分が涙を零した理由を考え思い至った。
 今やっと、十数年越しにむつきの初恋は終わったのだと。
 自然消滅したかに思えたそれは、ずっと心の奥底で仕舞われ眠っていただけ。
 十数年、相変わらず自分を女々しいと思うが、どことなくすっきりもしてきた。

「刀子さん、すみません。もう大丈夫です、ありがとうございました」
「気が付いたら、抱き締めていました。セックス以外に。こういう、殿方の慰め方もあるんですね。もう少し、練習させていただいても?」
「喜んで、こちらからお願いしたいぐらいです」

 改めて、刀子が差し出した両手の間に、むつきは正面から抱きついた。
 カッターシャツとブラ越しの少々の硬さはあるものの、少々だ。
 豊満な胸に顔を受け止められては弾み、きゅっと抱き締められながら押し倒す。
 二人重なり合ってベッドの上で少し弾んでは、求め合うように抱き締めあった。
 夏場である事に加え、お酒を飲んだ後なので刀子の汗の匂いが香しい。
 だが一日を過ごし酒を飲んだ汗の中に、僅かに漏れ出したのは女の匂いだ。
 男を淫らに誘う、発情した女の匂い。
 最近セックスを覚えたばかりで、刀子も熟れた体を持て余しているのだろう。
 むつきの男としての体に、刀子の手が這って行く。
 早く犯して、滅茶苦茶にしてとばかりに、むつきの下半身を弄ってくる。

「刀子さんの匂いがする。年上だからかな、怒られるかもしれないけど。姉ちゃんと似た匂い。刀子さん、俺我慢できないかも」
「むつき先生、お誘いに乗ったのは私です。いえ、むっくん。お姉ちゃんって呼んで? 今から私はむっくんのお姉ちゃんよ」
「と、刀子さん……姉ちゃん、姉ちゃん!」

 まさかのお姉ちゃんプレイに、一気にむつきの理性は振り切れた。
 いくら美砂達が大人びていても年下である事には変わらない。
 以前も美砂にお姉ちゃんプレイを持ちかけられたが断った事も。
 今を逃したらこの先一生できないかもと、理性の方から今日だけだぞと許されたようだ。
 ボタンが弾け飛ぶ程に強くカッターシャツを引っ張り、その豊満な胸を露にする。
 黒いレースのブラに半分以上を覆われたその胸に顔を埋めていった。
 そのまま夏の汗の匂いを胸いっぱいに吸い込み、ぐりぐりと顔を深く差し込んだ。
 やがてこれ邪魔とばかりに、ブラを強引にずらしピンと経つ乳首にしゃぶりついた。

「駄目よ、むっくん。私達、姉弟なのに」
「そんなの関係ない。姉ちゃん、俺ずっと前から姉ちゃんの事が!」

 こんなプレイもできるようにと、刀子の成長ぶりに関心する余裕すらなく。
 むつきはもう必死に刀子の体を貪っていた。
 過去に風俗で鍛えられたちょっと自慢の技巧も捨て去り、性欲の赴くままに。
 もはやプレイに留まらず、まるで心中までも青臭い学生時代に戻ったようにだ。
 好きだと言いながら相手を想わず不器用に相手の体を貪るだけ。
 これで互いが本当にそういう年代なら、刀子を脅えさせただけだろうが互いに良い歳だ。
 良い歳だからこそ、それが欲しかったとプレイを受け入れ喜んでいた。
 タイトスカートを強引にまくり上げ、見えたのはストッキングの奥の黒い下着。
 ブラジャー同様に、邪魔だとばかりにストッキングを破り去った。

「姉ちゃん、セックス。セックスさせて、何時も勉強教えてくれるみたいに教えてよ」
「駄目、むっくん。お口、お口でしてあげるから許して」
「嫌だ、胸も。何時も、想像の中で揉んでオナニーしてた胸も使って!」

 刀子もやや乱暴ながら、むつきに必死に求められ盛り上がっているようだ。
 元より、桜咲の姉貴分と言う事があったからかもしれないが。
 なかなかの姉プレイぶりで、むつきを誘ってくれていた。
 むつきも自分のスーツを破り捨てる勢いで、ベルトを外して一気にトランクスまで下ろしていった。

「解った、解ったから乱暴しないで」

 言葉ではそう言いつつも、潤んだ瞳がもっと乱暴にと言っていた。

「お胸でもしてあげる。お口でも、だからセックスは駄目。お姉ちゃんのいう事を聞いて?」
「いいよ、ぱいずり。姉ちゃんのおっぱいで、孕ませてやる。姉ちゃんを孕ませて」
「熱ぃ、むっくん落ち着いて。お姉ちゃんのお胸壊れちゃう」

 刀子の体に跨り直して、黒いブラを半脱ぎにさせた胸の谷間に挿入させた。
 大きな胸はブラの中に押し込められており、乳圧は十分であった。
 柔らかな乳の弾力に挟まれながらも、愛液がない為に一物への刺激が強い。
 それもむつきの先走り汁がとろとろ溢れるまでである。
 まるで刀子自身が胸から愛液を流したように、胸が濡れてにちゃにちゃ音が鳴り始めた。

「ああ、むっくんにお胸犯されてる。お姉ちゃんなのに、犯されてる」
「姉ちゃん、口も。口も使って。ほら、谷間から俺のが出てくるだろ」
「待って、慌てないで。こんな事、初めてで」
「ほらこうやって、首伸ばして。舌も、ほら。ほら、舐めてよ」

 もはやプレイなのか、むつきの本心なのか。
 胸を犯しつつその頭に手を添え、舐めろ舐めろと腰を押し付ける。
 刀子も必死に答えようと、自分の胸の谷間を裂く一物に舌を延ばしていた。
 現れる一瞬を逃さないよう、むしろ亀のように引っ込まないでと切なげに。

「うぅ、気持ち良い。出る、出すよ。姉ちゃんを汚すから、俺だけの姉ちゃん!」
「今日だけ、今日だけだから。また明日から、普通の姉弟だからね。今日だけ、むっくんのものになってあげるから」
「姉ちゃん、出るよ。姉ちゃん!」

 強かに刀子の胸に股間を叩きつけた次の瞬間、むつきはありったけの想いを吐き出していた。
 胸の谷間を裂いて現れた亀頭から、刀子の顔を目掛けて精液がほとばしった。
 刀子もこれが欲しかったのとばかりに口を開けて受け止めてくれている。
 だからむつきも、一滴も残さないつもりで射精し続けた。
 口内のみならず、受け止めきれずに綺麗な顔も白濁で刀子が汚されていく。

「顔にむっくんの熱いのが。むっくんが一杯、一杯出ましたね」

 うっとりと呟いた刀子の言葉は、最後の方は素に戻っていた。
 それに伴うように、むつきも頭が素に戻り始め少し動揺し始める。
 やってしまったのはこの際良いとして、刀子をむつみに見立て犯したのだ。
 こんな失礼な事はないと、顔が青ざめてさえいた。

「むつき先生?」
「す、すみません。つい、あの……俺とんでもない事を。そういうプレイだったけど、刀子さんを姉ちゃんに見立てて」

 しどろもどろな謝罪にも、刀子は怒るどころか何を今さらと小さく笑っていた。
 腹筋を使い上半身を起こし、むつきの頬にちゅっとキスをする。
 少量とはいえ精飲した後だが頬なら構うまいと、目の前でにっこり笑った。

「胸でされるのも気持ち良かったですよ。軽く一度、イってしまいました」
「ほ、本当ですか。怒って」
「ないです。先に始めたのは私ですよ。それより、続きどうされますか? むつき先生のお姉ちゃんでも、刀子さんでも構いませんが?」
「刀子さん!」

 なんでそんなに懐が深いのと、改めてむつきは刀子をベッドの上で押し倒した。
 先程の問いの答えは、名前を叫んだ事で出ている。
 刀子も喜んで押し倒されむつきを抱きしめ、早く犯してと足でも腰を掴み取った。

「刀子さん、なんでもいう事を聞いてあげる。何して欲しい、どうされたい!?」
「だったらけっ……いえ、滅茶苦茶に。思うが侭に朝まで犯してください。一晩中、忘れられない夜になるぐらい!」

 一瞬、結婚してと言いかけた口を噤み、刀子はむつきのありったけを求めた。
 一番最初に教えて貰ったのは、セックスは怖くないという事だった。
 続いてその気持ち良さに虜になり、むつき自身を求めてしまった事も。
 それは断られてしまったが、こうして今日また一つ教えて貰う事ができた。
 貪りあうだけでなく、気落ちした男を奮い立たせる事も出来るのだと。
 離婚の原因はセックスレスだけでなく、思いやりが足りなかったかとちょっとだけ自覚もできた。
 様々な事をむつきに教えられ、もうこれ以上は頼れない。
 ならば後は、むつきが望むようにこの熟れた体で恩返しをするしかなかった。
 もちろん、恩返しと共に自分も乱れる事が出来れば、お互いの為でもある。

「いいよ、朝まで。皆が起きて来るまで、ずっとしてよう」
「むつき先生の匂いが体中に染み付くまで。刹那やお嬢様になんでって聞かれるぐらい」

 もう言葉を紡ぐ事すらもどかしいとばかりに、むつきは刀子の唇をふさいだ。
 精飲も多少の事なので、唇を割って舌を伸ばして唾液を交換し合う。
 その間に余計なものはと、刀子がむつきのスーツの残りを脱がしに掛かった。
 上着からカッターシャツのボタンまで、喘ぎながらも一つずつ。
 むつきも刀子のスーツを脱がし始め、お互いに下着一枚のみの姿に成り果てた。
 スーツは纏めてベッドの外へと蹴り落とし、これでもう何もないと絡み合う。

「刀子さんのおっぱい。乳首コリコリになってるよ、ほら」
「もっとくりくりして。おめこも、うちのおめこも弄って。早く犯して!」

 最大限までに気分が盛り上がり、ついに刀子が生来の京都弁を口にしだした。
 言われるままに片手を下腹部に伸ばしてみれば、何もいう事はなかった。
 割れ目から飛び出すラビアまでも、朝露に濡れたように愛液で濡れている。
 早く犯してという言葉に偽りはなく、むつきを待っていた。
 もう我慢できないと、愛撫もそこそこにむつきは、一物での狙いを定める。

「犯すよ、一晩中。刀子さんの中に!」
「来た、これ。これが欲しかったえ。むつき先生のおちんぽ!」

 下腹部からむつきに一気に貫かれ、苦しむどころか嬌声さえあげて刀子が喜んだ。
 貫かれた秘部もより愛液の量を増して、むつきとの結合をスムーズにさせている。
 挿入したむつきも、私を孕ませてとうねる膣内に思い切り歯を食い縛っていた。
 体の芯から刀子はむつきを、その精までも求めてきている。
 これはうっかりしていると、中途半端なままで射精しかねない。
 意識を分散させて気分を抑制しろとばかりに、さらにキスに夢中に。
 両手もゆさゆさ揺れる胸において、乳首が取れるほどに揉みしだき形を変えた。

「ぐぅ、刀子さんの中が気持ち良過ぎる。直ぐに出ちゃいそうだ」
「遠慮せんといて。一晩中やから、射精しながらうちを犯せばええやんか!」

 その発想はなかったと、一瞬むつきの気が緩んだ時であった。
 我慢の文字が取れ去り、射精をしながらむつきが腰を振って刀子を突き上げた。

「お腹の中に、今度はお腹にむつき先生がぁ!」
「腰止まらない、俺本当に。射精しながら、刀子さんを犯してる!」

 欲しかったものを欲しかった場所に貰え、刀子も抱きしめる力が緩んでいた。
 今ならとむつきも挿入しながら、刀子の足を掴んで曲げては体を一回転。
 刀子のつま先でうっかり胸の上を擦ってしまったが、それぐらいはご愛嬌。
 うつ伏せの格好にさせて、背中の上から刀子に覆いかぶさっていった。

「捩じ、うちのおめこ捩じれ」
「捩じれやしないよ、刀子さん。ほら、続き続き」

 挿入されながら体を回転させられ、未知の感覚に刀子は心を奪われていた。
 うわ言のように捩じれたと呟き、半失神状態。
 直前に射精され意識を飛ばしかけていた所なので尚更だろう。
 にも関わらず、むつきは休む間を与える事なく、今度は後ろから犯し始めた。
 胸同様に、熟れきった安産型のお尻を思うがまま腰でたたき上げる。
 ほんの少し、美砂達も何れこんな尻で我が子を産むのかとも思ったが。
 姉ちゃんに続き恋人達に見立てては、もうむつきの心の方がもたないので追い出す。
 今抱いているのは同僚の刀子さんと、別の意味で心がくじけそうにもなったが我慢だ。
 さらば俺のまともな人間性と、刀子以外は全てを捨て去り腰を時計の様に回す。

「刀子さんの中、愛液と精液でぐしょぐしょ。ほら、聞こえる?」
「いやらしい音、うちのおめこいやらしい」

 蜜壷と化した膣内を竿でかき回し、溢れる愛液をぐちゃぐちゃと鳴らす。
 本来順番的には、挿入前に指でソレをして愛撫とするのだが。
 もはやそんなものはどうでもよかった。
 刀子も自分のいやらしさを恥じるでもなく、もっとと腰を振ってくれている。
 ああ、そう言えばとそこで不意に最後の授業を忘れていた事を思い出した。

「刀子さん、女の子にもおちんちんがあるって知ってました?」
「え?」

 ベッドとお腹の隙間に腕を差込み腰を浮かせ、結合部の前面へと手を伸ばしていった。
 そんなものあるわけと、表情は見えないが声の調子から刀子が困惑しているのが解る。
 多少手探りとなったが、むつきは女の子のおちんちんと言ったそれを探り当てた。
 美砂達と違い、年齢もあって皮も随分と向きやすい。

「ぁっ、ぁぅ!」

 前置きなくむつきがクリトリスの皮をむくと、刀子の腰が跳ねた。
 両手はベッドのシーツをこれでもかと掴み、必死に快楽の刺激を受け流そうとしている。
 これまで何度も刀子を抱いては来たが、この愛撫は始めての事だ。
 今までにない痛烈とも言える刺激に、跳ねた腰はへなへなと落ちていく。

「むつき先生、今の。すみません、一人で少しイってしまいました」
「良いですよ、何度でも。倒れるまでしてあげますから」
「待って、強い。強すぎます!」

 もはやどちらが素なのか。
 皮を剥かれたクリトリスを連続で指で弾かれ、刀子は標準語に戻っていた。
 時に指の爪でかりかりと引っかいたりするたびに、刀子の腰が暴れていく。
 すると当然、現在は挿入中の為にそちらの快楽も。
 今や何をしても何処を向いても快楽しか与えられず、刀子は快楽に浸る暇もない。
 さらに女の子のおちんちんを苛めるのは右手の恋人に任せ、左手は胸へ。
 こちらも勃起中の乳首をこねこねと、刀子の全ての快楽地点を同時に苛める。

「ほら、もっともっと教えてあげます。セックスの凄さを」
「凄い、凄すぎりゅ。先生、むつき先生。もっとしてぇっ!」

 むつきに組み伏せられながら、体中を弄り倒され刀子が乱れる。
 これが普段、男子校高校生のみならず卒業し大学生、社会人となった彼らの憧れの女子教師のもう一つの姿であった。
 クールビューティ、寡黙な美女、それらの賞賛は全て上っ面の事だ。
 誰が知る、刀子がベッドの上ではここまで乱れると。
 実はセックス大好き、しかも激しいのがお好みの淫らな女性なんだと。
 今も変わらず、膣内はぐねぐねうねり次なる射精を求めてむつきを締め付けていた。

「刀子さん、あれだけ注いでまだ精子欲しいんですか?」
「欲しいの、むつき先生の精子欲しいんやえ。うちのおめこ真っ白にまるまで、注いで!」
「分かりました。溺れるぐらい、注いで上げますよ」

 三回目、いやもう四回目か、むつきが刀子の膣奥深くで射精した。
 子宮の口にぴったりと亀頭の鈴口をあわせて中までしっかり犯しつくしていく。
 次の旦那ができるまで、ここは俺のものだとマーキングも欠かさない。
 ぬりぬりと、熟れきった刀子の肉体に自分の匂いを残していった。

「びゅっびゅって来た。おめこの奥に。もっと、もっとぉ!」
「ほら、次行きますよ!」

 まだ足りないと体を捻って手を伸ばされた為、その手をとった。
 両手を後ろに引っ張り中腰で無理矢理上半身だけ立たせ、奥を突き上げる。
 馬の手綱のように腕を操り、引き寄せるように引っ張っては逆に腰を打ちつけた。
 あれだけ綺麗に敷かれたシーツも、今は見る影もなく。
 ぐしゃぐしゃになり、二人の体液で汚れ、今またその体液が無残にも降り注ぐ。

「刀子さん、夜明けまで後何回できると思います。まだまだ、俺はいけますよ」
「何回でも、うちのおめこが壊れるまで!」

 なら遠慮なくと、普段嫁にはあまり見せない遠慮のない攻めを始めた。
 大人の女だからこそ受け入れられる男の本気で今日もむつきは絶倫振りを発揮する事になる。
 きっと次の刀子の旦那は、毎晩激しく求められるのだろうが。
 頑張れ、そうとしか未来の刀子の旦那に送れる言葉はむつきは持たなかった。










-後書き-
ども、えなりんです。

今回、うわぁってなる人がいるかもです。
姉弟プレイ、まさかの刀子再びですよ。
もう何度か、刀子回あります。

それでは次回は土曜日です。
 → 再来週、次に延期します。



[36639] 第六十九話 全部、全部いらないネ!
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/09/18 21:39

第六十九話 全部、全部いらないネ!

 一つ忘れてはならないが、この旅行は半修学旅行。
 名目上は勉学の為に学校が特別に許可をした、学校行事でもあるのだ。
 なので四日目のデジャブーランドは特別も特別。
 移動時間にはしっかりと、生徒には秘密だったが勉強時間が確保されている。
 その上、旅行先は社会勉強や実際の社会が勉強できる場所が選択されていた。
 北海道に始まった日本最北端の地では、伊能忠敬の弟子間宮林蔵を。
 東北地方では日本の主食であるお米をテーマに、米利きのイベントはついでだ。
 四日目は関東地方の一大テーマパークで生徒の息抜き。
 そして折り返し地点となる五日目は、歴史の授業であった。
 関東から夜間のうちにまた移動を済ませ、ここは東海日本の真ん中辺り。
 それも戦国時代に三〇〇年という平和な時代を打ち立てた御大のお城である。
 現在は観光地化と共に公園にもなっており、駐車場近くの花時計前に集合中だ。
 むつきが集合して座る皆の前に立って、松平元康像の向こうの林の更に向こうを指差した。

「と言うわけで、あれがあの有名な徳川家康の生まれたお城。岡崎城だ」
「金の鯱どこ、ちょっとぐらい持って帰ってもばれないかな!?」
「イケメン、おもてなし武将隊は!? リアル信長×家康のお兄ちゃんとショタっ子!」
「徳川田信秀のお城、地味!」

 ああ、たかが一日それも一時間早く寝ただけでコレかとむつきはがっくりきた。
 この子達はその目に何が映り、何を考えているのか。
 確かに名古屋城と違って鯱は金ではないし、イケメンのおもてなし武将隊もいない。
 ちなみに最初が、バイトができずちょっと金に目が眩んだ神楽坂。
 おもてなし武将隊を探しているのは、スケッチブックにペンを走らせる早乙女だ。
 彼女の言う通り、現代のイケメンを集めて武将のコスプレをしたのがおもてなし武将隊である。
 名古屋城にいけば、会えるかもしれないがあいにくここは岡崎だ。
 あと春日、一体どれが誰の事なのか、ミックス大名を教えてくれ。

「地味じゃなくて、意外に渋くていい感じじゃない? ファインダー越しにみると尚更。私は結構好きだけど?」

 そこへ朝倉がデジカメで岡崎城を撮影しながら、そんな嬉しい事を言ってくれた。

「うむ、うむ。最北端や米どころも良かったが京都の前にこのような立派な城が見られるとは。感涙ものじゃないか」
「私も、こういう雰囲気は神社仏閣に通じるものがあるので好きです」
「三河武士、最強」
「サイキョーあるか、三河武士。勝負、勝負!」

 ザジや古は、一先ず置いておいて。
 朝倉に同意してくれたエヴァを可愛い可愛いと抱っこしながら撫で付ける。
 今晩は千雨と亜子が主役の日だが、その前に夕映も超可愛がろう。

「東海地方のテーマはこれ、戦国時代の天下人三名。はい、全部言える人」
「はーい、徳川田信秀ぇ。痛い、痛い痛い、なんで!?」
「はい、ふざけた人は梅干の刑だ。最近、お前らがあまりにもふざけるから、体罰に目覚め始めたぞ。どうしてくれる。俺が新田先生みたいに怒りん坊になっても知らねえぞ」
「先生、まき絵たぶん素だよ。春日のさっきの冗談をまに受けただけで」

 佐々木の発言はおふざけの結果かと思いきや、アキラがそんな事を言い出した。
 梅干を止めて見下ろすと、潤んだ瞳がなんであってたのにと言っていた。
 早とちりを正直に謝るしかない。

「すまん、佐々木。まさか、お前がそこまでとはまだ見通し甘かった」
「うぅ、アキラを撫で撫でしてくれたら許してあげる。アキラ、頑張って。桜子も狙ってるから、一歩リード」

 転んでもただでは起きないと言うか、親友想いと言うか。
 そんな佐々木を良い子良い子してからアキラに手渡した。
 そして事の発端である春日を掴まえようとしたのだが、一歩早く逃げられた。

「はーっはっは、新田先生を継ぐなら私ぐらい捕まえてぐぇっ」

 オリンピック選手もびっくりの加速を見せた春日が、何かを首に引っ掛けたように引っくり返った。
 前を見ずに走るから、首に木の枝でも引っ掛けたのか。
 パンツ丸出しで周囲の人に笑われながら、見事にステンと転んでいた。
 おい大丈夫かと駆け寄ろうとしたのだが、その前に皆が駆け寄った。
 だが大丈夫かと心配するでない。
 むつきが新田かして、日々びくびくしなければならなくなったらどうするとボコスカリンチである。

「すまんな、春日。クライアントは、安易にアーティファクトを使ったお前が気に入らないそうだ。学友をリンチするだけで餡蜜一杯、汚れてないか私?」
「構うな、龍宮真名。こいつは一度、締めておかないと。京都では奮闘して貰うんだ」
「このちゃんの前で、気付かれたらどうするんですか!」
「ひぃ、ごめんなさいッス。なまはげは、なまはげだけは!」

 一部、何か酷く個人的事情でリンチしている者もちらほらいたが。
 はいはいそこまでと、むつきが手を鳴らすとさっと皆がはなれていく。
 残されたのはちくしょうと、悪戯のしっぺ返しをくらった春日のみである。
 考えても見れば、春日はふざけて徳川田とか言い出しただけなので責める言われもあまりなかったり。
 制服もほこりまみれで仕方ないなと立たせて、ぱっぱと払ってやった。

「先生、ありがとうッス。私を地獄に叩き込んだ張本人だけど。キュンってした」
「やっすいな、お前のキュンは。あとお前らも、むしろ偶にはと良いかとも思ったが。友達をリンチすんな。体罰は俺の仕事だ。これでちょっとは大人しくなれよ?」
「ぎゃぁぁ、酷いッス。やめるッス。なんで結局。教育委員会、体罰。体罰教師がここに!」

 特に謝罪の意味を込めて佐々木へと向けて、春日を梅干の刑である。
 まあ、普段から色々と悪戯を仕掛けられる方としては、日頃の恨みが漏れたというか。
 ざまあと皆も春日を指差し、鳴滝得に姉は自分も今後は気をつけようとうんうん頷いている。

「乙姫先生、あまり騒いでは他の観光客に迷惑でござるよ?」

 春日には悪いが、ちょっと笑い者になって貰っているとそんな注意を受けた。
 一体誰と思うまでもなく、その特徴的な言葉使いで改めて思い浮かべるまでもない。
 むつきよりも背の高い、長瀬が周囲を忙しなく見渡していた。
 そんなに神経質な子であったろうか、だが正論でもあった。

「それじゃあ、これから簡単に岡崎城内を見学するぞ。その際、学習シートなんてもんを貰ってるから勉強込みな。良い点とったら今夜のデザートはプラスアルファだ」
「小学校五、六年生を対象としたシートしかないが。お前らには丁度良いだろう」
「受け取り拒否しても、良いけど。希望には縋った方が良いわよ」
「はーい、並んで並んで。先生の真似ごとも楽しいわね。はい、これどーぞ」

 施設の管理団体が学童用の為に用意してくれている学習シートである。
 それを引率四人で各班の班員に配っていく。
 ただこの五日間で神多羅木達も、随分とA組の子達の対応になれたようだ。
 特に神多羅木の小学校五・六年を対称とした問題が丁度良いとは分かっている。
 いや、一部それどころか考古学者も顔負けの連中も一部には一応いるのだが。
 頑張れよと一言添えてシートを配っていると、ふと挙動不審な長瀬が目に付いた。

「おい、長瀬。さっきから何をキョロキョロ。トイレか?」
「そ、そうでござる。直ぐに追いつくでござるから、皆は先に行っていて欲しいでござる!」
「そんなわけに行くか。仕方ねえな、ほかに行きたい子は挙手」

 はーいと嬉しそうに手を挙げたのは椎名であり、絶対目的が違うと却下。
 ちぇっと言っているので、間違いはないだろう。
 他には誰もおらず、かといって長瀬一人単独行動させるわけにもいかない。

「神多羅木先生、刀子さん。申し訳ないですが、この子達をお願いします」
「あっ、むつき先生少しお待ちください」
「直ぐに追いつきますから」

 何かに気付いたように刀子が止めるも、そんな少し遅れるだけである。

「ほら、長瀬漏らす前に急ぐぞ」
「ちょっと、待つでござる。まずいでござる、拙者一人で十分」
「なんで俺が手伝うみたいな風になってんだよ。馬鹿言ってないで来い。確か、トイレがこっちにあったはず」

 何故かだだをこねる長瀬を引っ張り、事前に覚えておいた地図を思い浮かべ連れて行く。
 背も高いがその分、手もでかいなと驚かされる。
 それでも一端の女の子なので、漏らす前にとトイレの前へと連れて来た。
 ほら行ってこいとけり込む様にトイレに押し込み、出入り口前で抱えなおした。
 一体何をと改めて疑問を浮かべると、金髪の可愛い子猫が腕の中にちょこんと鎮座している。
 普通にエヴァを抱いたままであった。

「おわ、お前何時からそこに!?」
「抱き上げたのはお前だろう、ばかたれ」

 相変わらずの小生意気な言葉にあれっと思い浮かべれば、そうであった。
 岡崎城を褒めた直後に抱きあげて可愛い可愛いした。
 いやしかし、その後で佐々木や春日に梅干の刑を執行しているのだ。
 まさかその後でナチュラルに抱き上げたのか。
 最近、抱っこが多かったので本当に無意識にという奴であった。

「お前もおしっこ行っとくか? 一人でできるか、手伝おうか? ただし、その場合は男子トイレな?」
「そういうプレイなら、構わんが」
「このおませさん、十年早い」

 抱っこしたままエヴァの頭にこんと顎を乗せ、ぐりぐりと。
 そのままアタナシア何時来るの、お義兄ちゃんって呼ばないと時間つぶしに兄妹のスキンシップだ。
 すると突然、一陣の風が吹き荒れたかと思った次の瞬間。

「ぐぎゃあっ!」

 何者かの汚い悲鳴が背後であがり、何事かと振り返った。
 するとなんという事であろうか。
 真っ黒な格好をした男が、女子トイレに駆け込もうとしていたのだ。
 直前で何かに蹴躓いたらしく、入り口そばの壁に顔面からダイブしてずるずると倒れていく。
 白昼堂々なんという大胆な覗きであろうか。
 しかもトイレの前でむつきが待っているにも関わらず。

「へ、変態だぁっ!」
「ち、違う。拙者はそのような!」
「エヴァ、近付いちゃ駄目。見ても、誰か。警察!」
「おのれ、やはりあの時足にかかった糸は。貴様が下手人か!」

 しかもなにか変態が逆上して襲いかかってきたではないか。
 エヴァを抱えなおし逃げようとした所で、思い出してしまった。
 トイレの中にはまだ長瀬が、置いて行けない、だが現在ピンチと足が中途半端に止まる。
 目の前では明らかに銃刀法違反であろう刃物を、男が取り出したではないか。

「エヴァ、お前だけでも逃げろ。トイレの中の長瀬は俺が!」
「やばい、まずった。むつき、はやく放せ身動きが制限。超鈴音、むつきが!」

 二人であたふたする間にも刃物が振り下ろされようとしたのだが。

「へぶろぱっ!」

 またしてもなんだか解らないうちに、黒装束の変態が吹き飛んでいった。
 車にでも轢かれたように吹き飛んではごろごろち地面を転がっていく。

「うわっ、こっちに転がって来たぞ。逃げろ、変態が来るぞ!」
「OH、ローリング土下座。ニンジャ、ニンジャー!」

 観光客達も変態が転がってきたと大惨事、しかし一部外国人観光客は嬉しそうに写真を撮っていた。
 女子トイレに駆け込んだ変態が忍者だと、覚えて返って欲しくはないものだ。
 一体何がと振り返りなおせば、男を殴ったらしき腕を伸ばした長瀬がいた。
 さすがクラスでも話題の武道四天王の一人、むつきのような男顔負けの腕前らしい。

「た、助かった……長瀬、すまん。まさが途中で出てきてないよな。パンツは無事か?」
「先生、セクハラが過ぎるでござるよ。混乱して無理はないでござるが。それよりも、警察への連絡が先でござる」
「そ、そうか。そうだったな、警察。なんか別の意味で呼んだ方が良いか?」

 この変態と周りの協力者も黒装束の男をリンチに掛かっていた。

「犯罪者に人権はねえんだ。その汚ねえ忍者刀折ってやんよ!」
「偉大な地で犯罪に走りやがって、家康公に謝れ。おら、謝ってみろよ!」
「ち、違っ。拙者は」
「犯罪者は皆そう言うんだ!」

 逃がさないように気をつけてとお願いし、むつきは急いで警察に連絡である。
 その間に、むつきから解放されたエヴァは、長瀬を睨みつけて手招いていた。

「おい、一体奴は何者だ。怖ろしく巧妙に気配を遮断していたが」
「見ての通り、忍者でござる。忍者ではござらんよ?」
「それはもういい。貴様、ふざけていると怖ろしい目にあうぞ。裏の人間にむつきが傷つけられてみろ。超鈴音がその科学力を総動員して潰しにかかるぞ」
「拙者の里の人間ではござらんよ。恐らくは古き因縁、といっても拙者にはさっぱりでござるが。伊賀の者ではないかと」

 怖ろしく端的に言えば、徳川幕府体制下で恩恵を受けた伊賀忍者。
 対して豊臣側にて徳川を監視していた甲賀忍者。
 その対立と因縁は推して知るべし。
 実は長瀬は甲賀の古い家系の人間なのだが、里自体が既に過疎化も進んでいた。
 忍術といった技術こそ受け継いでいるが、実は知識の方がそれはもうさっぱり。
 失伝していた事もあって、疎すぎる程に疎いのだ。

「しかし、これまで外を出歩いて襲われた事など一度もないでござる」
「伊賀と甲賀か。聞いた事はあるが、それが何故お前を襲う」
「そこは社会科教師の力を借りるでござるよ」
「おい、不用意に奴に尋ねるんじゃない」

 エヴァが止めるも、大丈夫でござるとにんにん言いながら長瀬がむつきに尋ねた。
 警察への連絡も終わり、変態もよってたかってボコボコにされ簀巻き状態。
 危険はないかと、むつきも振り返ってなんだと問い返してくれた。

「甲賀忍者と伊賀忍者との違いはなんでござるか?」
「また変わった事に興味を示す奴だな。やっぱり、お前って忍者なのか?」
「忍者ではござらんよ、にんにん」

 やっぱりそうだろっと冗談めかしてむつきが長瀬に言ったのを見て、覆面の中で顔を青ざめさせたのは伊賀忍者である。
 一般人に手を出したと、うねうね簀巻き状態でもがき苦しみ。

「なんだこいつ、急にうねうね。やっぱり変態だ、縛られて感じてやがる!」
「おらおら、ここがええのんか。ここがええのんかぁ!」
「ち、違っ。拙者は」
「犯罪者は皆そう言うんだ!」

 会話が若干無限ループに差し掛かっていたが、そろそろ悪は滅びそうな感じだ。

「俺もそこまでディープな歴史は知らないけど。甲賀って、忍者のイメージと違って忠義があるんだってさ。逆に伊賀は傭兵っぽい扱いだったって大学の知り合いの忍者マニアが言ってた」
「ほほう、つまり現代でも伊賀忍者は傭兵業を続けていると」
「いるわけねえじゃん、忍者なんて。そりゃ、江戸村とかに行けば職業忍者はいるだろうけど。だが、変態。貴様は男の子の夢である忍者を汚した、この乙姫容赦せん!」

 近付くのは怖いので、小さい小指の常より小さい石を拾ってなげつける。
 一応生徒の引率中なので、過激な方法は避けたいのと逆恨みも怖かったのだ。
 やっていることは過激だが、どこかしょぼい男であった。

「おい、実は近衛木乃香は関西のそれはもう大切なお姫様でな。現在、麻帆良にいる事はそいつらにとって不本意でな」
「明日以降、三日間京都見物でござるな。巻き込まれたの、拙者ではござらんか?」
「爺の思う壺だな。関西に雇われて情報収集に現れれば、護衛らしき甲賀忍者が」

 とりあえず、勘違いかこの野郎とエヴァと長瀬も投石に加わった。
 もちろん、直ぐにむつきが気付いてお前らは駄目とちょっと怒られたが。
 やって来た警察にむつきはそれと知らず伊賀忍者を引き渡し、敬礼しあう。
 それから岡崎の平和はこれで保たれたと一汗拭って振り返った。

「ちょっとハプニングがあったが、急いで皆に合流するぞ」
「全く、早とちりも良いところだ。長瀬楓、古いしがらみまたは使い潰されるのが嫌なら後日、ひかげ荘を訪ねるが良い。忍者として生きたいなら、そのまま爺の下へいけ」
「ひかげ荘。最近、教室などで皆の囁きから漏れ出る場所でござるな。ふむ、拙者はじじばばから見聞を広めて来いと言われただけでござる。何も知らされず、派閥に取り込まれるのは少し。一度お邪魔するでござるよ」

 お前も自分程じゃないが、耳は良かったなとエヴァはむつきと手を繋ぐ。
 抱っこされては、また突然のハプニングに対処できないからだ。

「ちょっと小走りになるぞ。エヴァは辛かったら言えよ。駆け足は駄目、他の観光客もいるからな」
「はい、でござるよ」

 一度やっぱり抱っこするかとむつきが尋ね、エヴァが断ったりしつつ。
 三人は急ぎ足で、A組の集団である岡崎城の見学へと向かった。
 花時計から岡崎城までは、一度ぐるりと林を迂回せねばならない。
 その途中、城の石垣前の水堀と林に囲まれた若干視界の悪い場所があるのだが。
 突然、糸が切れるように観光客の足並みが途絶え始め、通り雨前のように静かになった。
 曲がりくねってはいたが、一本道でしかもお城が右手にあるのだから迷うわけもない。
 それでも体中を巡る違和感が、何処か別の場所に迷い込んだように思わせていた。

「あれ、お城あるよな。何で誰も」

 むつきが小首を傾げた瞬間、その周りに先程と同じ黒装束の男達が複数人現れた。
 しかも同心円状に、むつき達を中心にして囲むようにだ。

「おのれ、仲間の仇。警察を説き伏せ、丸く治めるのに幾ら掛かると思って居るのだ。命を賭けてただ働きとか、馬鹿じゃねえの。忍者の世界に保険はねえんだよ!」
「なにやら突然、世知辛い忍者の実情が赤裸々に語られたでござる」
「魔法先生も以前愚痴ってたし、魔法や裏の世界はもう時代じゃないんじゃないのか?」
「馬鹿に、馬鹿にしやがって。家族に正直に忍者って明かしたあの日。子供に螺旋丸やってと強請られ、出来ないって言った時のあの父に絶望した我が子の視線。貴様らに分かってたまるか。父ちゃんはナルトにゃ、なれねえんだよ!」

 一人が逆上すると、次から次へとそれが伝わり、また一人と愚痴り出す。
 彼女に明かしたらストーカー呼ばわりされた。
 はたまた、長年隠し通して先日ばれたしだいに、熟年離婚の危機に陥ったりと。
 悲喜交々、ちくしょうちくしょうと皆が忍者刀を手に太陽の光を反射させる。

「アンタ達!」

 そこへ率先して前へ進み出たのは、むつきである。
 エヴァや長瀬を守るように両腕を広げつつ、力強い瞳で言い放った。

「職業忍者の何が悪いってんだ、良いじゃん格好良いじゃん。子供だって何時かわかって、俺も父ちゃんみたいな忍者になるって言ってくれるさ!」

 力説、それはもう拳を握ってまで力説していた。
 その姿に未来の息子の姿を見たように、振り上げられていた忍者刀が落ちていく。
 次のむつきの台詞を聞くまでではあったが。

「だから集団で覗きに走ったあげく、逆恨みなんて。誇り持てよ、プライド持とうぜ!」

 周囲に人が消えた時以上に、シンと周りが静まり返っていた。

「そもそも貴様が、警察を呼ばなきゃこんな目に。アイツだって、結婚間近の彼女がいたんだよ!」
「この野郎、やろうってか。どうせ模造刀とかだろ。俺には姉ちゃんを守り続け、最近では生徒で磨き上げたこの拳が」
「もう、お前は喋るなややこしい。眠りの霧!」

 またしても物理っと聞こえそうな、エヴァによる魔法薬の入った試験管での一撃だった。
 発生した白い煙を吸い込み、むつきが崩れ落ちると伊賀忍者の刀も頭上を通り過ぎて終わる。
 やはり素人ではと勘違いしたのも一瞬。
 次の瞬間には、顔面を長瀬に貫かれ、水掘を石切のように弾んで石垣に衝突した。

「おい、私は面倒は好かんからむつきしか守らんぞ。トイレでは、むつきが襲われたと勘違いしただけで。貴様を助けたわけじゃない」
「結構なてだれもいるでござるが。拙者一人では少々時間が」
「アイヤー!」

 そこへ聞こえてきた奇声にもにた金切り声は、はるか頭上からであった。
 忍者達も一斉に空を見上げ、その内の一人が小さな拳を顔面に受け止めた。

「痛っ!」

 そこで逆に痛みを訴え顔をしかめたのは、強かに拳を打ちつけた古であった。
 びりびりと痺れる拳に、着地すると同時にぐらりとバランスを崩した。

「馬鹿め、気の扱いも知らず。ど素人が、死ね!」
「ふぅ、はっ!」

 忍者刀にて切りつけられるも古の瞳は、体のバランス程には揺らいではいなかった。
 髪一房、ほんの僅かに切れる程度に首を傾け、刃の銀光を見送る。
 大きく足を引いてはバランスを立て直し、一気に前へ。
 舐めていたのはお互い様、彼の言う気は知らないがそれはそもそも中国のものだ。

「はいヤァッ!」
「馬鹿が学しゅっ!」

 嘲り笑う忍の懐にて、ハンマーでも打ちつけたような鈍い音が響き空気が震えた。
 それこそ馬鹿なという台詞も口に出来ぬまま、忍の一人が地面に沈んだ。

「学習能力がないのは先刻承知アル。けれど、四千年の歴史は体に染み付いてるアルよ。とは言え、危なかったアル。楓、助っ人にきたアル!」
「おお、助かるでござる古。それに真名」
「学園長から、護衛代は貰っている。ついでに先生の護衛代と、この旅行は大もうけだ」

 どよめく忍者達も、龍宮の林の奥からの狙撃にて倒れ込む。
 慌てて上忍らしき人が散開と叫ぶも、もう遅い。
 周囲の確認もままならず動き出したところで、古や長瀬に回りこまれ不意打ち気味に意識がブラックアウト。
 取り出した刃物も次々に、狙撃で弾き飛ばされてしまう。
 やけくそで眠るむつきを人質にと思った者もいたが、そういった者が一番運が悪い。
 一番無防備に寝こけている人物が、その見たままに無防備であるはずがなかった。

「ほう、命知らずが。それとも実力に差があり過ぎて、理解できなんだか?」
「我ら忍者は、子供とて容赦しない。そこをどっ、ぅぐぁ」

 最後まで台詞を呟く事すら許されず、その忍者は糸で首を絞められ宙吊りに。
 もがき喉を引っかいても細い糸は爪にも引っかからず、肌に張り付いたように取れない。
 もちろん、エヴァは今更手を汚したくはないので適度に気を失った所で解放されたが。
 ここまでの間でエヴァはむつきのお腹の上に座ったまま、一歩も動かないどころか立ち上がってすらいなかった。

「良い事を思いついた。一人退けるたびに、一回キスしよう。おい、お前ら適度にこっちに敵を回せ。十連コンボで今夜はセックス一回だな」

 よし来いっとちょっとエヴァが気合いを入れた分、古と長瀬の動きが鈍りもした。
 幸運だったのは、そのセックスという言葉でエヴァとむつきが他人からは結びつかなかったことか。
 あれよあれよろ忍者達は数を減らし、ついには数の上でも立場が逆転してしまう。
 多勢に無勢と長瀬が困ったと呟いてから数分も立たずにというのにだ。
 残すは上忍を含めたったの三人であった。

「くっ、ここまでてだれがいるとは聞いていないぞ」
「使い捨ての忍者に何故そこまで情報を明かす必要がある。それに、貴様達は情報収集を望まれただけで戦闘員としてはあまり期待されていなかったのだろう?」
「おのれ、我々を侮辱するか!」
「そうヨ、侮辱は駄目ネ。誇り高い忍者の皆さんに失礼ヨ。謝罪するネ、伊賀の皆サン」

 エヴァが嘲り笑い相手が激昂したところで、満を持しての登場であった。
 姿こそ麻帆良女子中のものであるが、悪い顔で笑みを浮かべ小鈴が現れた。
 なら後は任せたと、エヴァはひいふうみいと指を折り数え、にんまりと笑う。
 くうくう寝こけているむつきの胸の上にちょこんと跨り、舌舐めずりしてから唇を奪い始める。
 呼吸をする間も惜しむ様に、倒した忍者の数だけ唇を奪い、たらっと垂らした唾液を飲ませた。
 小さな姿での行為も割りと背徳的だなと、ぞくぞくと身震いしてはキスを繰り返す。

「むつき、むつき」

 初心な古や長瀬も顔を赤らめており、マジでかと忍者達も目を丸くしていた。
 なにせ西洋美幼女が大の大人に跨りキスを繰り返すのだ。
 一人の忍者が、「ぅゎょぅι゛ょぇʒぃ」と股間を押さえ、上忍に殴られていた。

「さて、勝者は明らかにこちらネ。交換条件といかないカ?」
「それは我々の命という意味か。だったら、舐めるな。その一言に尽きる」
「おおう、時代遅れも甚だしいネ、橘圭吾さん?」
「何故、私の名前を!?」

 上忍が超の呟きに過剰に反応して、しまったと呟いていた。
 だが突然本名を呟かれてはそれも当然か。
 それから超は倒れている者も含めて、一人ずつ指を指しては名指ししていった。
 何もかも終わりだと、裏の仕事のみならず表での生活もと上忍以外が膝を折る。
 自分一人ならまだしも、彼らにも愛する家族が、表での普通の生活があるのだ。

「さて、貴方達の全てはこちらが握っているネ。大切な家族も、友人も」
「我らの家族は何も知らぬ表の者だぞ、腐っているのか!」

 自分を省みず上忍がそう口汚く罵った次の瞬間、ピッと光が空より放たれた。
 岡崎城の水堀に落ちたそれは、ボンッと水蒸気爆発を起こして飛沫を散らし始める。
 これにはエヴァも、本当に軌道衛星砲がと驚いていた。
 さすがの龍宮も、本当に時代じゃないのかと自分のライフルを見て肩を落とす。

「言葉には気をつけて欲しいネ。別に何を言われても良いガ、親愛的の前だとさすがにイラッとくるネ。それに親愛的を先に襲ったのはそちら」

 エヴァに性的悪戯をされているむつきを見て、ううむと色々な意味で上忍改め、橘が唸った。
 同じく超もううむと唸り、一度深呼吸してから要求の再開である。

「こちらの要求はそう難しい事ではないヨ。今直ぐ、西の仕事から抜ける事。もちろん、相応の対価は払う。先に掴まった彼の保釈にかかるお金は別として一人一千万」
「一千万だと、それも一人ずつ。信じられるか」
「何を言ってんですか、橘さん。関西呪術協会の依頼なんて、全員纏めて一千万じゃないですか!」
「信じた方が良いでござるよ。情報通ならば知っているはず。麻帆良の最強頭脳、超鈴音を」

 長瀬が助け舟を出すとぬぐぐと、橘が唇を噛み締めていた。
 確かに一人一千万は大金で、関西呪術教会の依頼金から個人個人が貰える金などはした金だ。
 それでも関西呪術協会からは、時々ではあるが仕事が落ちてくるのだ。
 今裏切って一時だけ一千万を得ても、今後忍として生きていけなくなればどうなるか。
 大金だが有限の金では家族をこれからも養え続ける事はできやしない。
 かと言って、今見せられた何かしらの方法で殺されては同じ事だ。

「さすが、背負うものがある人は目先のお金では動かないネ。解った、それなら一千万は取り下げるネ。変わりに、超包子の警備会社を一社立ち上げるヨ。橘サン、貴方がその警備会社の社長ヨ」
「は?」

 スケールのでかい話が右往左往して、橘も段々と思考力を失い出す。

「不安定で危険、保険さえも効かない世知辛い裏の世界で何時まで生きる、生きられる気ネ。いっそ裏を捨て、安らぎに満ちた光の世界に戻っては?」
「部下を纏めた事はあっても、経営などした事がない」
「もちろん、アフターケアはバッチリネ。超包子の名を冠した警備会社。私が手を抜くとでも? やるならいっそ、世界一の警備会社を目指すネ!」
「アンタの目的が見えない。まさか、世界中から裏の世界でも消す気か?」  

 もうなんとでもなれと、橘が自嘲的に呟いた。
 すると目を丸くした小鈴は、おおっと目を見開いてつかつか橘に歩み寄った。
 それから両手を握ってぶんぶんと盛大に握手して、ぱっと笑顔を咲かせた。

「その発想はなかった。橘サン、貴方天才ネ。親愛的と幸せになる片手間に、世界中から裏の世界を消すのも面白そうネ。魔法、気、忍いらないネ。全部、全部いらないネ!」

 ひゃっほうとクルクル小鈴が小躍りして、橘達のみならずこれにはエヴァ達もぽかんとしてしまう。

「裏の世界を、強者の世界を消すアルか?」

 そう茫然と呟いたのは、古であった。
 そんな親友の呟きに気付かず、小鈴はいらないいらないと歌って回っていた。
 裏を嫌うとか、憎むとかそういうのではなくいらないと捨てる。
 捨てさせる事が出来るとこの蝶天才は自分を信じて疑わない。

「ん~、ぷはっ。ちょっと物足りないが、続きは夜だな。ところで、私は吸血鬼なのだが?」
「さよサンを生き返らせる要領で、エヴァンジェリンの魂を新たな器に移すだけネ。それなら親愛的の子供だって孕めるネ!」
「おい、私は半魔というか。魔族の存在はどうするつもりだい?」
「鎖国、これに尽きるネ。どちらに住むかは龍宮サンやザジサンに任せるヨ。私はどちらでも、貴方達が望むようにするだけネ」

 こいつは真性のキチガイかと、橘やその部下ももはや二の句が継げない。
 長と話しあう時間をくれと、超からの手付けを貰い仲間を抱え去っていった。
 それから数分後で、元の人並みも戻ってくる。
 何時までもむつきを寝かせていられないので、長瀬が活を入れて気付けした。

「あれ、俺なにしてたんだっけ?」
「親愛的、何時までも長瀬サンをトイレに連れ込んで戻ってこないから心配したネ」
「小鈴、てか皆の前でそう呼ぶな。違う、違うからな。別に俺の家でとっかえひっかえ」
「先生、私は知ってるよ。楓や古は、今知ったんだけどね」

 突然目が覚め、気が付けばクラスの武闘派が勢ぞろいの中、やっちまったと頭を抱えた。
 もう本当に誰が知っていて、誰が知らないのか。
 待てシンキングタイムとむつきが手を挙げたところで、突然古が叫んだ。

「超!」

 だがそれはむつきへの詰問ではなく、矛先はとんでもない方向であった。

「親友として、人生を賭けた勝負を申し込むアル!」
「ううむ、少しはしゃぎ過ぎたネ。だが、古ならそう言うのは当然。しからば、親友としてその決闘受けるまでヨ!」

 むつきのあずかり知らぬ場所で、突然中国人留学生同士の決闘が決められている。
 ちなみにこの時、古の頭の中からむつきに関する卑猥な情報は殆ど忘れ去られていた。









-後書き-
ども、えなりんです。

今回、一部で機種依存文字を使っているので読めない個所があるかも。
そもそも使うなよって感じですが、許してください。
ちなみに「うわようじょえろい」の箇所です。

さて超無双という感じのお話でした。
しかし、超天才と書こうとするといつも蝶天才になってしまいます。
これが一番困る。
武装錬金のクロスを書き過ぎた過去から自動変換されてしまいます。
まあ、PCが新しくなった今ではそんなことありませんが。

それでは次回は土曜日です。
エヴァではなく亜子と千雨の初夜です。



[36639] 第七十話 私ももう少しだけ可愛がっていただけますか?
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/09/22 22:54

第七十話 私ももう少しだけ可愛がっていただけますか?

 キングサイズのベッドに小鈴を押し倒し、乱暴にその唇を奪い貪った。
 唇を味わう間も惜しんで舌を挿し込み唾液を絡ませ、遺伝子を交換し合う。
 朱色のチャイナ服で今日も魅惑してくれた小鈴のスリットにすっと手を伸ばす。
 ほっそりとしている小鈴の肉付きを確かめながら、手を上に滑らせる。
 小さなお尻をこれまた小さな下着が包み込んでいた。
 まだ本番こそNGだが、愛し合う方法は幾らでもあると指を引っ掛け脱がし始める。
 その時、むつきを抱き閉めていた小鈴の手がピクリと動いた。

「親愛的、今日だけはこれでお終いネ」

 キスを中断し、むつきの頬に手を当てそう言われてしまう。
 いやあらかじめキスだけといわれていたのに、むつきが勇み足をしてしまっただけだ。
 最後にもう一度だけど名残惜しげにキスをして、小鈴がむつきの体の下からすり抜ける。
 理由あって、今夜の逢瀬は小鈴だけ時間をかけられないのだ。
 その理由こそ知ってはいるが、意図が解らないとむつきの変わりにあやかが尋ねた。

「超さん、本当に古さんと決闘するのですか?」
「親友の人生を賭した決闘、受けぬわけにはいかないネ」

 チャイナ服のスリットから生足を出しつつ、グッと拳を握って小鈴が答えた。

「その決闘の意味こそ、不明なのですが」
「喧嘩は駄目ですよ」

 小鈴に逃げられ、寂しそうだったむつきに抱き締められながら夕映とさよがさらに問う。
 同じ中国人留学生として、同郷出身だからこそ二人は仲が良かった。
 超包子の協力者として、真っ先に声をかけたのも古が最初だ。
 葉加瀬のように科学知識があるわけでもなく、四葉のように料理ができるわけでもないのに。
 だというのに、人生を賭した決闘とはおだやかではない。
 むつきという男を賭けてではあるまいに、何故そうなったのか一切が不明だ。

「深い理由は言えないネ。けれど、親友とて道を違う事はある。それを受け入れ受け止めるのもまた親友の役目ヨ」

 相変わらずの秘密主義だが、その意志は揺るがないらしい。
 だったらこれ以上止めるのも無粋だと、むつきは寂しさを振り払い立ち上がった。

「夕映、それにさよも悪いな。ちょいと、ごめんよ」

 抱きしめていた二人に断りを入れ、拳を握っていた小鈴を抱きしめる。

「教師としては、両方を応援するしかないが。恋人としては、当然お前を応援する。良くわからんが怪我のないようにな。その前に、お前格闘できたっけ?」
「超鈴音に不可能はないネ。古の工夫には劣るが、なかなかのものヨ。親愛的も惚れ直す事間違いなし。それに負けられない理由があるのはこちらも同じネ」
「惚れ直したら、一杯可愛がってやるからな」
「楽しみにしてるネ。それと、親愛的に朗報ヨ」

 八月の夏休み終了直前、早ければ二十八日頃にはオッケーだと。
 こそっと囁いた事でより強く抱きしめられて、愛の充電は満杯、一杯だ。
 赤丸ほっぺを輝かせ、珍しくふんすと鼻息荒く小鈴が瞳を輝かせている。
 だがそれでも、今日の主役は自分ではないと、すっとむつきの腕から抜け出した。
 今度は寂しがる事なくむつきも見送り、小鈴はそのまま誰もいないむつきの部屋に。
 今日はしっかり体を休めて、無駄に気を発散させないよう明日に備えるのだ。
 事が終わったら添い寝しにいこうと、むつきは振り返った。

「くはっ、ぁっ。もう、声出して」
「アキラ、そこ。処女膜ぺろぺろ、ぁぅ。良い、いくぅ」

 それまで真面目な場面かと、声を押し殺していた二人が嬌声を同時に上げた。
 ベッドの上で仰向けになり、それぞれ親友に割れ目を舐められていた千雨と亜子だ。
 今日の主役、一緒に処女をむつきに捧げようと丹念に準備する二人である。
 といっても、丹念にという部分は主に二人の股座に顔を突っ込む美砂とアキラであった。
 エロ可愛くメイド服で着飾った二人のスカートに顔を突っ込み、お尻をふりふり。
 バター犬にでもなったかのように、舐め上げていた。

「美味しくなあれ、美味しくなあれ。お料理できないけど、女の子のお料理は実は得意な私!」
「アホか。ちょっと待て、柿崎。イキ疲れる、先生に突かれる前に疲れちまぅんっ!」
「亜子、濡れ過ぎ。顔がべとべど」
「だって、もう直ぐ先生に全部、先生のものにぃっ!」

 セックスフレンドからお嫁さんに昇華中の二人の準備は着々と進んでいる。
 それじゃあこっちもと、ベッドに上がりこんだ。
 既に小鈴とのキスで準備は始まっていたが、まだまだ半立ちであった。
 二人の為にしっかり立てておかないとと、まずはあやかを手招いて呼んだ。

「あやか、おいで。前座じゃねえ、しっかり可愛がってやるからな」
「はい、失礼しますわ。先生、どうぞ」

 むつきの膝の上に跨ったあやかが、メイド服の胸元を肌蹴て抱きついてきた。
 さらにむつきの求めに応じて深く抱き合ったまま口づけ合った。
 小鈴の味で満たされた口内が、瞬く間にあやかの味に塗り替えられていく。
 まだ処女なのにエロくなったなと、唇から首筋へと降りていき胸の突起を食んだ。

「ぁっ、先生。そんなに強く、まだお乳は出ませんわ」
「直ぐに出るようになるさ。こんなに立派なんだから、俺が直ぐに孕ませてやるから」

 早速立ち上がり始めた一物でも、あやかのお尻を割って秘部ごと擦りあげる。
 にちゃにちゃとあやかの愛液で竿を濡らし、こちらも丹念に準備を始めた。

「委員長さん、綺麗過ぎて困るです。さよさん、純潔の日本人としてタッグを組みましょう」
「はい、貞淑な日本女性として夫を立てるのは妻の役目。お供しますよ」

 今日は準主役とはいえ、セックスフレンドとは違い妻なのだと夕映とさよが手を組んだ。
 あやかの完璧プロポーショ、そのお尻を往復するむつきの一物。
 負けてませんよとうつ伏せになるようにして、二人で舌を伸ばした。
 竿の裏筋、はたまたぺたぺた揺れるお袋さんをぺろぺろ短い舌で猫のように舐める。

「夕映もさよも、上手いぞ。床上手になってくれて、凄く嬉しい」
「床上手と言われても、女子中学生としては正直ちょと微妙ですが。先生の為ですから、恥ずかしくても覚えるですよ」
「私も、貴方様の為ならこのぐらい。妻として当然の事です」

 なんて可愛い子達だと、なんとか腕を伸ばしてよしよしと撫でてやる。
 ここでむうっと珍しく頬を膨らませたのはあやかであった。
 あんなに自分に夢中になってくれたのに、今は目尻をさげてむつきは二人を可愛がっていた。
 妻となる事を決意した二人と、セックスフレンドでしかない自分との決定的な差。
 嫉妬を抱く事もお門違いかもしれないが、それでも好きな気持ちに劣るつもりなどない。

「失礼しますわ、先生」
「おわっ、んぐぅ!」

 だからあやかは、押し倒して一度深くキスをする事で無理矢理むつきの意識を奪った。
 それのみならず、むつきの体の上で半回転。
 上下を逆転させ、顔を真っ赤にしながら自分の秘部を見せつけた。
 何時の間にこんないやらしく男を誘うようにと、ふしだらな自分に気付きながら。

「先生、私の処女膜舐めてください。私も、先生のアレを咥えますから」
「急に積極的に、解ったよ。三人で仲良くな」

 フェラにあやかも参戦して、仲良くされど競いあうように愛撫を始めた。
 ぺろぺろ、はたまたちゅっちゅと可愛く愛撫するさよや夕映とは異なり。
 ほぼ完成された淫らさなら上だと、あやかは食事中でも見せた事のない大口でむつきの竿を飲み込んでいった。
 私だってむつきの為ならここまで出来ると、二人に対応して見せるように。

「んぅ、ぐっ。んふぅ、んぅんぅっ!」
「委員長さん、綺麗だけでなく。エッチに、完璧ですか。少しはその大きな胸を分けてくださいです。エヴァンジェリンさん急にちょいーんな私達に」
「あっ、私少しはあるんですよ?」
「何故そこで裏切るですか!」

 やいのやいの言いながらも、それならと袋を一口ではむはむと愛撫し始める。
 嫁とセックスフレンドの仲も良好で満足満足と、むつきは目の前のごちそうに視線を戻した。
 ディープにフェラをしながら、ふりふりお尻をふるあやかの股座であった。
 大人顔負けのプロポーションを持ちはしても、やはりまだ未通である。
 ぴったりと割れ目は閉じており、染み出る愛液が金色の陰毛を塗らしてさらに輝かせていた。
 その割れ目、大陰唇を指で開いて桃色の内部とご対面だ。

「あやかのおまんこ、こんなにしっかり見たの初めてか。ほら、キスだぞ」
「んんぅっ!」

 膣口に向けてちゅっとキスすると、あやかの腰がふるふると震えた。
 歓喜の涙を流すように、愛液が量を増して膣の奥から流れ落ちてくる。
 キスだけでイッたかと嬉しくなって、ついばむようにキスを繰り返していった。

「んぅ、んっぁ。ぁぅっ!」
「ああ、委員長さんがとても男性には見せられないお顔に。しっかりするです」
「貴方様、刺激が強すぎます。もっと優しくしてあげてください」

 これ以上どうしろとも思ったが、ちょっと考えて舌先でつんつんするだけに留めた。
 それならそれで、刺激が足りないとお尻を振られてしまう。
 どっちだよと、舌を横に丸め槍のようにして、膣口から突っ込んだ。

「ぷはっ。ぁぅっ、良い。先生、もっと。おまんこ、おまんこ良いですわぁ!」

 すると如何した事か、一物を吐き出したあやかが急に体を起こして天井を見上げ叫んだ。
 目の前で突然よがられ、夕映とさよは目をぱちくりさせている。
 むつきも突然の乱れようにちょっと驚き、あやかのお尻とおまんこで顔を潰された。
 ぐにぐにと顔面騎乗され呼吸もし辛いのだが、ちょっと納得もする。
 あやかは普段、雪広財閥の令嬢として自分を抑えている節があった。
 時にそれは幼い男の子に対して爆発する事もあったが、最近はそれも減っていた。
 自分の性癖を自覚しそこさえ押さえつけ、爆発寸前。
 そのはけ口をひかげ荘にてむつきに向けるようになったが、しばしばとても乱れていた。
 そして今、むつきに膣の中まで愛撫され、ついに爆発したのだろう。

「先生、もっと私のおまんこにキスを。愛して、私を愛してください!」
「うぷ、おう。自分だけよがっちゃむぎゅう。駄目だぞ。ほら、愛し合うんだ。夕映、それにさよも教えてあげてくれ。愛し合う方法を」
「委員長さん、声大き過ぎます。ほら、耐えられないならせめて手でにぎにぎと」
「聞こえてないですね。仕方ありません、夕映さん貴方様の愛撫はお任せしました」

 成績優秀容姿端麗だが、エッチは落第だとさよが立ち上がってあやかの唇を奪った。
 愛し合わなければ一方的では寂しいですよと、愛を込めたキスで大人しくさせる。
 むつきも視界の全てをあやかのお尻に潰されていたが、なんとか手を伸ばした。
 大きな胸を鷲掴んで強めに揉みしだき、離れては近付くあやかの膣に舌を伸ばして処女膜を舐め上げる。

「んぅ、さよさん。もっとキスなさって。先生も、私のおまんこどうですか。可愛いですか、キス。キスしてください!」

 むつきに加えさよからも愛撫を受けても、まだまだ満足できないらしい。
 こいつは飛んだ淫乱娘だと、受け身な顔面騎乗ではとても太刀打ちできなかった。
 さよと夕映に一時、離れていろと視線で合図し、むつきはあやかを押し倒した。
 後ろから前へ、あやかを四つん這いにさせてしっかりラブハンドルである腰を掴んだ。
 そもまま未通の割れ目に竿をこすり付けるように、お尻を叩き上げる。

「良い、最高ですわ先生。ぁぅ、そのまま。んぁっ、そのまま私を貫いて。貴方のものに!」
「だめ、後で絶対後悔するから。最終日って決めたろ。我が侭娘はこうだ!」

 まだ足りないかと、あやかを回転させて仰向けで寝かせると夕映とさよを差し向けた。
 二人同時にその豊満な胸をしゃぶらせ、乳首に悪戯させたのだ。
 さらにさよは率先して再び唇を奪い、夕映も金色の陰毛を指でくるくる弄んだ。
 三人がかりでようやくと言った所で、本当にあやかの乱れようにはビックリである。
 何時か誰かが言っていたが、貞淑な者ほど夜は乱れるという良い例だった。

「あやか、イキたくなったらそのままイケ。悪い、千雨に亜子。ちょい時間掛かったけど、あやかがイッたらそっち行くから」
「はやくしてくれ、死ぬ。イキ過ぎてぇっ、柿崎もういい。もういいから!」
「先生、私の食べ頃おまんこ。アキラが美味しくお料理してくれたよ。はやく、はやくぅ」
「と言うわけだ、あやか。ちょっとスピードあげるぞ」

 新たなお嫁さんをこれ以上待たせるわけにもいかず、あやかを突き上げた。
 と言っても割れ目を裂いて、竿で擦り付ける素股ではあったが。
 ぐっしょり愛液で濡れたそこを、火が出て陰毛に引火する程にこすりあげた。
 何度も何度も、叩きすぎて白いあやかのお尻が真っ赤になるぐらい。

「もっと、先生。ひぃ、来ましたわ。もう直ぐ、先生。熱いの、精液をかけてください!」
「ああ、ぶっかけてやるよ。もっと真っ白に。あやか、あやか!」
「気持ち良ぃ、愛して。愛していますわ、先生。私も、出来れば私も皆と一緒にぃ!」

 今何か、あやかの心の深い場所に触れたような。
 だが小さな違和感は二人のお嫁さんを待たせている状況で押し流されていく。

「あやか、あやか。イクぞ、思い切りぶっかけてやるから!」
「んぅ、先生。かけて、私に。先生ぇっ!」

 あやかが腰を跳ね上げ、押し出されるようにむつきの竿も宙に浮いた。
 そのまま亀頭の先からあやかへの愛衣があふれ出し、ふりかけていった。
 白くべたつく精液があやかのみならず、愛撫中の夕映やさよまで染めていく。
 大なり小なり、ちょと失礼かもしれないが。
 三人の女の子達をむつきの愛で白く、べとべとに染め上げていった。

「うし、準備運動ってか。殆ど本番だったけど。おーい、特にあやか大丈夫か?」

 夕映とさよを胸元で抱き寄せ、夢心地のあやかのほほをぺしぺし叩く。
 完全に意識は遠い場所で、抱きこまれた二人も大丈夫かと見上げる。
 そのエメラルド色の瞳に、しばらく経ってから意識の光が戻ってきた。
 それと同時に、彼女が捨て去った羞恥も、乱れた自分の記憶も一緒にだ。
 カァっと白い肌を一気に紅潮させると、赤い顔を両手で覆って体を丸め小さくなった。

「み、見ないでください。何かの、何かの間違いですわ!」
「こうなると思った。ほら、あやか。凄く可愛かったから。アレぐらいで俺が嫌うかよ。竜宮城の主の前で見栄はんな」
「ふしだらな子だと、思いませんか?」
「生憎、俺はふしだらな子が大好きでな。ますます、あやかに惚れ込んだ」

 恐る恐る指の隙間から尋ねたあやかに、望んだ答えとはちょっと違う答えを返した。
 セックスの度にここまで、気にされてはこの先あやかが持たない。
 乱れる事は別に恥ずかしくないと、教えるようにそっとキスをした。
 すると少し時間をくださいと、小さく呟かれる。
 また後でなとあやかの頭を最後に撫でて、さよと夕映に頼むとお願いした。
 まだ今夜は可愛がらなければならない、お嫁さんが二人もいるのだ。

「あやかも気になるけど、今日の主役は二人だ。凄い頑張るぞ、今日は。それで、どっちからか決めておいたか?」
「私からだよ。全く、委員長の奴。あっさり主役の座を奪っていきやがって」
「申し訳ありませんわ。この私が、あんな淫らに。そうこれは夢、目が覚めればきっと先生の腕の中に包まれ。目覚めのキスで爽やかに」
「残念、ここは現実です」

 千雨の少々毒のある突っ込みにビクリと震えたあやかは現実逃避であった。
 逃避先でもむつきに抱かれているのはちょっとあれだが。
 戻って来いと夕映にへしんとおでこを叩かれ、ハッと我にも返っていた。
 心に負った淫乱という傷はまだ少し、癒すのには時間は掛かりそうだ。
 まあその辺りは、むつきが一生をかけて癒してやるとしてである。

「なんていうか、改めても照れくさいが」
「まあ、アンタと私じゃ。甘い空間ってのもないわな。よう、豆腐メンタル」
「明るいコミカルな感じが俺達らしいか? よう、根暗なネットアイドル」

 美砂の変わりに、仰向けで寝転がる千雨の足元に胡坐で座り挨拶しあう。
 こうして一生憎まれ口を叩きあう夫婦がいても良いと思った。
 ふいに、爺さんとひなた婆さんを思い出しもしたが、そういう事である。
 千雨の短めのスカートをまくり上げながら、覆いかぶさろうとしたのだが。
 ちょい待ったとばかりに、千雨の両手がむつきの顔面を押さえ込んだ。

「やっぱ駄目だ、正面は恥ずかしい。バック、顔見られたくない!」
「初体験がバックとか、別にいいけど」

 よいせっと千雨の体を回転させてうつ伏せに、改めて千雨に覆いかぶさっていった。
 千雨自身のお手製のメイド服は、生地もさらさらで肌触りが抜群だ。
 きっと今夜の為に、ほつれを直したり、一生懸命着飾ったのだろう。
 相対した時は憎まれ口、影では可愛がってもらおうと一生懸命なのが可愛い。
 あやか達に準備してもらった一物も、千雨を犯そうとむくむく大きくなっていった。

「やべ、凄っげえ緊張してる。先生、準備は万端だからあまり焦らさないでくれ。一気に、やるなら一気に」
「解ったよ、ちょっと痛いかもだけど」
「柿崎、ちょっと手貸してくれ。私痛いのとか、話聞くだけでも駄目なたちなんだ」
「親友の処女を彼氏が奪う瞬間に立ち会うとか、私凄い貴重な体験してない?」

 皆に見守られながらの私もだよと、この異常な関係の中にいる全員へ向けて千雨が毒を吐く。
 違いないと皆で忍び笑いし、あやかも今さらかとちょっと笑っていた。
 程良く笑いで緊張が解けたところで、むつきは腕を回して少し千雨の腰を浮かせる。
 腰を掴んで尻を叩き上げるバックは寂しいので、ちゃんと背中から密着してだ。
 改めてスカートを捲くりあげ、見慣れたノーパンの千雨の秘部に狙いを定めた。
 その時、きゅっと千雨が小さくなっては美砂の手を痛い程に握り上げる。
 美砂が顔をしかめ、その強さも察する事が出来たが、むつきは躊躇しなかった。
 千雨が望んだ事でもあり、未通のそこを一気に腰を進めて貫いた。

「ひぐぅっ!」

 何かを突き破った感覚、それから一気に最奥、子宮口を突きあげる。
 千雨もむつきが感じた全てを、鋭い痛みと共に全て感じていた。
 膜を破られ女にされた瞬間、さらには子を育む為の場所まで突かれた事も。
 愛しい人に大事なものを捧げた、そうは思うが痛いものは痛いとぽろぽろ涙が零れた。

「千雨、大丈夫か?」
「超痛い。けど、我慢できない程じゃない。おい、ロリコン鬼畜変態教師。後で覚えてろよ。泣かすから、悪口大会で死ぬ程泣かすから」
「やっべ、復讐される前に刻み込んどくか。俺がどんだけ千雨を愛してるか。千雨がどれだけ俺を愛してるか。ほら、解るか?」

 言葉では挑発しつつも、慎重に必要以上に千雨が痛みを感じないように腰を引いていった。
 ずるずると破瓜と愛液で濡れた竿を千雨の中から引き抜いていく。
 ある程度抜いた所で、今度はずぶずぶと。
 再び千雨の膣内を掘り進んでは犯し、下半身で愛していると囁いた。

「ぁっ、やべ。変な声、んぅっ。止め、んぁんんぅぁ!」
「千雨エロ過ぎ。可愛い声で喘いで。皆、見てるぞ。千雨が俺に犯されてるところ」
「誰が、ぁん。一緒に処女喪失しようとか、私だよばかたれ。やだ、気持ち良い。素股やクンニと全然違う。先生、先生ぇ!」
「もう遅いよ、千雨。絶対放してやんねえ、お前の全部俺のもんだから」

 むつきの所有発言に、千雨は貫かれるのとは違うぞくぞく感を感じた。
 膜を破られ膣を貫かれた痛み、子宮を小突かれる不可思議な快感。
 見知らぬ感情に支配されながらも耳元で囁かれ、身震いが起きる程に感じてしまった。
 女になったのだと、まだまだ未成熟ながら自分は女にむつきのお嫁さんになったのだと。

「腰が勝手に。先生、子宮。ぐりってして。赤ちゃん産むところ、ぐりってして」
「初体験でエロイこと。千雨、愛してる。生んでくれ、ここで俺の子供を」
「ぁっ、ぐりって。ぐりぐり来た。柿崎、見てるか。私、先生に犯されてる。愛されちまってる。どうしよ、どうしたら良い!?」
「生んじゃないよ、先生の赤ちゃん。私と一緒に育てて、子供同士結婚させちゃう?」

 馬鹿じゃねえのと叫びたかったが、千雨の体は本人をさしおいて正直なものであった。
 むつきの子供を生む、それも美砂と一緒にと聞いてキュッと膣が締まる。
 その為の精を中に頂戴と、自分を犯すむつきの竿を徹底的に絞り上げた。

「先生、好き。大好き、赤ちゃん生む。もっとセックス、セックスしてよ」
「ああ、好きなだけ。これからは毎晩抱いてやるから。美砂も一緒に、皆も一緒に」
「んぅぅっ。なんでもっと早く、こんな気持ち良い事。ぁぅ、イク。イキそう」

 もっと早くからセックスしておけばと、そんな台詞も途中で中断させられた。
 まだまだ股座には痛みがあったがピリピリと痺れてそれ以外も感じてしまう。
 膣を広げるむつきの一物、背中から抱きしめられて夏場なのに暑苦しくもなく。
 むしろ感じたの事のない温かみさえ感じ、自ら胸もとむつきの手を取り誘う。
 もっと自分で感じて欲しい、気持ち良くなって欲しいのに限界だ。

「先生、イク前に聞かせて。私の体、気持ち良いか? もっともっと抱きたいか?」
「あったりまえだ。嫌だって言っても、抱くぞ。病み付きだ、最高だ千雨!」
「は、ははっ。最高んっ、だってさ。くっそ、すっげえ私喜んでる。やらしい自分を、もっと抱いてって。先生、イク。イッちゃう。中だししてよ」
「いいぞ、薬の効果を消し飛ばすぐらい。思いっきり出してやる。孕ましてやるぞ!」

 ついに孕まされると千雨もシーツを噛んでその時を待った。
 ガンガンと骨まで響く程に突かれ、腰が取れて飛んでいきそうだ。
 イキたい、終わって、でももっと愛してと頭ではぐるぐると考えながら必死に耐える。

「ひぐぅ、ひぃっ。んぁ、イク。先っ、いぐぅぅっ!」
「千雨、千雨ぇ!」

 もはや呼吸も満足にままならず、その瞬間にはさらに息を吐き出させられた。
 体の全身が弛緩して吐き出すだけで空気を吸い込めず、そのままぐるんと視界が回りそうにも。
 体の中で何かが爆発し、頭が真っ白に脳髄まで精液で染められたようにも感じてしまった。
 むつきの精を子宮内で受け止め、溢れる精液で子宮の壁をびたびた叩かれる。
 恋も愛も全てが吹き飛び、愛欲の喜びの中で必死に理性を求めた。
 このまま愛欲に溺れ戻れなくなると、美砂の手を、逆側の手でむつきの手を。
 これが最後の命綱とばかりに、必死に二人の手を繋ぐ事でわずかな理性をつなぎとめた。

「くっ……はっ、だめ。力入らない」
「大丈夫、最後まで任せろ。ほら、マーキングまでしっかりしてやるから」
「んぅ、らめ。ぁっ、ばか。先生、キス。キスして」
「首、こっちむけて。バックでとか言い出すから。ほら、頑張れ」

 ぐりぐり膣の中の隅々にまで精液を擦りつけながら、なんとかキスをする。
 ちょっと首が辛そうだが、陶酔しきったように目がとろけていた。
 そのまま瞼が閉じて疲れて寝てしまうまで、しっかりと愛してやった。
 浮き上がった腰も立てられず、へたり込んだ千雨からずるりと一物を引き抜く。
 破瓜の血と愛液、そこに精液までも加わってなかなかにグロテスクだ。
 千雨の膣口からも、同じく混ざった体液がどろりと流れ落ちていた。

「長谷川、寝ちゃったね。今日は添い寝してあげるかな。その前に、先生こっち」

 美砂が千雨の頭を持ち上げ、膝枕をしてあげた後で。
 枕元に用意されたティッシュで、丁寧にむつきの一物を綺麗にしてくれた。
 お掃除フェラでないのは、さすがに血は遠慮したかったからだろう。
 綺麗に拭き取ってから改めて濡らすと同時に、やっぱりお掃除フェラであったが。

「はい、綺麗になった。次は亜子だよ」
「ありがとうな、美砂。しかし、いや。もう何も言うまい」

 生徒の処女を二連続と思うところはあったが、もう考えるのはやめた。
 生徒である前にこんな自分の嫁になろうと決心した女の子なのだ。
 もうあとはそれに全力で応えるまでだと、待ち焦がれている亜子の下へ。
 今日はもう交代と、準備してくれたアキラにお礼のキスをして変わって貰う。

「お待たせ、亜子。三穴制覇、一番乗りだな。清純派のはずが、エロイ子になっちゃって」
「先生、責任とってな。今振られたら、新しい彼氏にあげるの何もあらへん」
「誰が捨てるか、馬鹿。捨てた瞬間、俺の心が折れるわ。むしろ、こちらこそこれから一生お願いします。支えてください、代わりに夢を手伝います」
「うん、ちょい思った以上に勉強大変やから。ストレス解消やったり、疲れた時はお互い様。真面目なのは、ここまで。先生、セックスしような」

 本当、エロくなっちゃってとむつきは、夢中で亜子に覆いかぶさりキスをした。
 ちょっとアキラの味がしたが、直ぐに亜子の発情した濃厚な唾液の味に変わった。
 処女を頂く前から慣れ親しんでしまったセックスフレンドの亜子の味だ。
 ただセックスフレンドは今日まで、もう直ぐお嫁さんの一人となる。

「亜子は正常位が良いのか?」
「もちろん、うちもキスしながら一杯中出しされたいし」
「何時もは尻でしてるけどな」
「うちの全部、ぜーんぶ。先生のもんやもん」

 可愛い事を言った唇を塞ぎ、これまた可愛い胸をメイド服の上から弄った。
 既に尻を開発済みになるぐらい楽しんだ仲である。
 むつきの揉み上げるリズムに合わせ、阿吽の呼吸で亜子が喘いでくれる。
 自分が楽しむのみならず、むつきの男としての自尊心をちゃんと満たすように。
 半分ぐらいは、小瀬の協力あっての事かもしれないが。

「先生、気持ちええよ。もっとおっぱい、食べ頃おまんこも待っとるよ」
「食っちまうからな、食べ頃なら食っちまうぞ」
「ぁん、食べられる。うち、先生に全部食べられる。もう離れられへん、一生一緒や」
「ああ、墓の中まで一緒だぞ。皆、お前の親友のアキラも一緒だ」

 そうだったと、千雨がそうしたように亜子もそばにいたアキラの手を掴んだ。
 これからもずっと、物言わぬ仏さんになってもお墓の下で一緒だと。
 アキラも二人の邪魔をしない程度に、亜子の手を頬に当ててこくりと頷いた。
 何処まで俺は幸せになれば、もう良い満足だと言えるのか。
 可愛くてエロい嫁さんが何人もいて、皆仲が良くて円満で。

「亜子、いいか。本当に食っちまうぞ。お前の最後の初めて、処女食っちまうぞ」
「うちずっと待っとったんよ。先生、手出すの遅すぎ。食べてや、うちを食べて」
「アヘ顔になるまで貪り食ってやる。その後で写真撮ろうな?」
「ダブルピースもしてあげる」

 もう我慢できんと、むつきは亜子をベッドに埋めるぐらいに強くキスをした。
 それからスカートを肌蹴させ、まずは手探りで入れるべき場所を探していく。
 以前剃ってからパイパンにのままのお肌をくだり、濡れそぼった割れ目を見つける。
 四葉とはちょっと意味が違うが、お料理上手のアキラの手で美味しく調理されていた。
 ふやけるほどに愛撫され柔らかく、ぱくぱくとむつきの指を食べようと喘いでいる。

「亜子、良いか。行くぞ、ちょっと痛いぞ」
「うち、淫乱やからきっと大丈夫や。痛いのも意外と病みつきかも」
「あれだ、お前は世界で一番淫乱な俺の嫁に決定だ。行くぞ、行くぞ!」

 グッと亀頭を膣口に当てて、見つめあいキスをしながらむつきは亜子を貫いた。
 抵抗は一瞬、というか殆ど抵抗らしい抵抗もなかった。
 膜が破れた感触も殆ど希薄で、ああお前かとばかりに亜子がむつきを受け入れる。
 じゅるっと一飲み、破瓜による血の潤滑油すら不要とばかりに。

「あれ、先生。入れ、入っとるよね。アキラ、これ血出とる?」
「えっと、うぅ……凄い痛そうなぐらい。亜子は見ない方がよい。痛く、ないの?」
「んー、うちにとって先生ってもはや異物やないんやろか。痛いとか、辛いとかあらへん。あるべき場所に、あるべき物が納まったって言うん?」

 あっけらかんと言い放った亜子に、さすがのむつきもぽかんとしてしまう。
 視線を亜子から下に向ければ、肌蹴たスカートの下には破瓜の血が。
 一物にそれが滴ってもいれば、真っ白なシーツには赤い花が幾つも咲いている。
 とんだ淫乱処女がいたものだと、むつきは亜子の唇をふさいで抗議した。
 一気に刺し貫きはしたが、これでも結構気を使ったんだぞっと。

「んぅ、ぷはっんぐ。先っ、乱暴過ぎ。感じちゃう」
「お前、本当エッチの時は無敵だな。絶対アヘ顔させたる。お尻の処女喪失記念と合わせて二枚。俺の一生の宝物だ、もう逃げられんぞ」
「やん、逃げたら脅迫されてもっと凄い事されるん? 逃げてええ?」
「こんちくしょう、今から凄い事してやる!」

 負けて溜まるかと、お嫁さん達に唯一勝てるエッチで主導権を握られたくない。
 これで負けたら一生尻の下だと、むつきも結構必死であった。
 本来ならば、大事に大事に初夜を楽しむべきだが。
 亜子はもうお尻を先に済ませたし、ちょっと激しい方が好みだから問題ない。
 そう自分に言い訳して、むつきは強引に亜子を突き上げた。

「ぁっ、コツンされた。子宮に、んぅっ!」
「ほら、こういうのもあるぞ。気持ち良いか?」

 深く亜子を貫きながら、腰をぐるぐる時計回りに回す。
 子宮と亀頭でキスしながら、ぐりぐりと刺激し続けているのだ。

「はぁっ、気持ちええ。先生もっと、おまんこ壊れるぐらい。アキラ、先生凄い。先生こそエッチの天才。うちらの彼氏、最高!」
「亜子、いつも以上にエッチなんだけど。手を握ってる私の方が恥ずかしいぐらい」
「うわ、亜子乱れ過ぎ。委員長、これぐらい乱れてから恥ずかしがったら?」
「今は、そっとして。けれど、嫌でも耳に。ちょっとだけ、なら」

 小さくなって夕映やさよに慰められていたあやかがちらりと視線を向けた。
 中学生としては普通だが、小柄な亜子を押し倒しむつきが犯している。
 もちろんそこに愛はあるのだが、結構衝撃的な絵面ではあった。
 なのに亜子は辛いとも苦しいともいわず、むしろもっととむつきの下で喘いでいた。
 私だけじゃなかったんだと、羞恥こそ残るがあやかも少しほっとした様子だった。

「女の子がセックスに悩んだら、まずうちに相談や」
「そう言った方面では天職か。まいりました」

 そんなあやかをちらりと見ては、ぺろっと舌を出しながら亜子が微笑んだ。
 これにはさすがのむつきも、頭が下がる思いであった。
 実際に亜子を押し倒して頭を下げた状態ではあったが。

「けど他人も良いけど、まずはお前が楽しめ。折角の一生に一度の初夜なんだ」
「うん、そのつもりや。けど、一つだけリクエスト。破瓜の血、見せんといてな。うち、血見ると駄目やから。気絶して終わってまう」
「あいよ、このまま最後まで正常位か、対面座位だな」

 着衣エッチなので騎乗位ぐらいは良いだろうが、間違ってもまんぐり返しはNGだ。
 もっと早く言ってくれよとも思ったが、最初からそんな体位はしないので問題なかった。
 だがちょっとだけ亜子の足を抱え前のめりに、より深く貫いては喘がせた。
 三穴制覇、さすがのむつきもここまで貪った女の子は初めてだ。
 今組み伏せている亜子の、可愛い亜子の全てがむつきのものになった。
 さすがに普段抑えている黒い感情が、下衆な男の感情が歓喜と共に湧き出てくる。

「亜子、本当に全部俺のもんなんだな。俺だけの、俺だけの亜子」
「そうやよ、何してもええよ。何してもええの」
「でも、一番の夢は医者なんだろ?」
「セックスされて、ちょい揺れとる。先生はどうして欲しい?」

 各種体液で膣を濡らしながら、かき回されながらそんな悪魔の問いかけをされた。
 思わず反射的に医者なんかよりも俺の嫁になれと言いかけた。
 お嫁さんになっても亜子の一番はお医者なのだ。
 全部くれたのに、何しても良いのに、それだけがそれだけが手には入らない。

「亜子、くそ。俺の俺だけの……」

 だが亜子の自由意志さえ無視して、全部俺のとは言いたいが言えなかった。
 応援すると約束した、手伝うからそれ以外の時間だけでとも。
 言いたい、それ以外ではなく全部の時間をくれと。
 言えないと歯を食い縛ったそばから、思わずぽろりと水滴が零れ落ちてしまう。

「ごめん、ちょい意地悪やった。先生やもんな、泣かんといて先生」
「こっちこそ、ごめん。亜子、嫁さんになってくれれば良い。幸せにする、それも約束に追加だ。お医者の夢も、可愛いお嫁さんの夢も両方手伝う」
「んぅ、うん。先生の可愛いお嫁さんもうちの新しい夢。よくばりかな?」

 そんな事はないと、もう既に可愛いお嫁さんなんだと子宮を小突いて教えてあげる。
 亜子も嬉しいと囁くように呟き、むつきの首に腕を回してきた。
 ちゅっと互いに唇を押し付け合い、次に深く舌を絡め両方の口で愛液を漏らす。

「んれぅ、先生。好き、凄く。愛してる子供も生んであげる」
「亜子、育児休暇は俺がとるから。お前はなんの心配もせず働け。たぶん、なんとかするから。今は育メンの時代だ」
「それは一緒がええな。お医者も大事やけど、先生や子供も大事。んぁっ、子供の話。んぅ、一気に来た。先生イク、うちイッてまう!」

 ならば最後の一頑張りと、むつきは腰使いをさらに早めた。
 あやかに続き千雨、亜子と三連続。
 精力は十分でまだまだ一物は硬いが、腰の方がさすがに悲鳴を上げ始めている。
 美砂やアキラ達は、騎乗位だなと思いもしたが直ぐに頭から追い出した。
 今は亜子の大事な初夜の最中、亜子だけに集中と突きに突き上げる。

「先生、お腹凄い。キュンキュン痺れて、精子欲しい言うとる。赤ちゃんの元が欲しいって」
「ああ、一杯飲ませてやるからな。孕め、好きなだけ孕め。亜子、愛してる。ずっと、一生大切にするから」
「うん、一生一緒や。んぁ先生、先生。大好きぃ、好きぁっ。好きやぁっ!」

 寄り一層亜子が強く抱きついてきた時に、それは来た。
 亜子の小さめの体が激しく痙攣し、びりびりと電流が流れたように震え始める。
 その瞬間を逃さずむつきも、亜子が欲しがった精液をありったけ流し込んだ。
 子宮の口にぴったりと鈴口を添えて、直接子宮の中にだ。
 びゅっびゅと弾け飛ぶ精液で、亜子に体のずいまで初めて男を受け入れさせる。

「ぁっ、熱い。先生がお腹に、広がっ。んぁ、イク。イキつづけりゅ!」
「まだ、まだ出るぞ。妊娠するまで、亜子。孕め!」
「孕む、お腹で。びゅっびゅまだしとる。イクっ、アキラ。凄い、凄い。止め、お腹壊れる。先生に壊され、イきゅぅっ!!」

 もう駄目だと抱きしめる事すら不可能になり、亜子はベッドの上で暴れまわった。
 むつきにガッチリと押さえつけられた腰を基点に、子宮に射精されるたびに。
 気持ち良い事が大好き過ぎた代償であるかのように、感じすぎる自分に戸惑っていた。
 アキラもさすがに暴れ過ぎて危ないと、亜子の両肩を押さえつける。
 両腕両足の動きを制限された上にまだ射精は続いており、亜子は殆ど半狂乱だ。

「お腹熱い、熱いの。先生、イきたくない。けど、イッちゃうのぉ!」
「亜子、もう少し。ほら我慢だ、いやするな。アヘれ。アヘ顔になれ!」
「なる、なってまう。だらしない顔に、先生。写真、写真撮ってぇ!」

 そいつは後だと、最後の一滴まで亜子に注入しよがり狂わせる。
 やがて亜子も随分と体力を消耗して、大人しくなっていた。
 その表情はとろけきって、むつき以外の男には決して見せられない感じだ。
 頬は紅潮しきり、目元はとろんととろけきって目に光が半分もない。
 息を乱し喘ぎ続けた結果涎もたらし、だらしなく口は開いたまま。

「ほら、亜子しっかりしろ。アキラ一枚頼む」
「本当に撮るの? 亜子、いいの?」
「いひょ。気持ち良過ぎれ。先れい、らい好き」

 半分意識は朦朧としつつも、背面座位で貫かれながら亜子は震える手でピースサイン。
 大丈夫かなと不安そうながらアキラが、むつきの携帯でぱしゃりと一枚。
 以前お尻の処女を貰った時のように、携帯を受け取りお絵かきタイムである。
 むつきがお尻に続いて処女喪失記念と描き、亜子も震える手でハートマークを。
 さすがに先生大好きとは書けなかったようで、そのまま意識を遠い場所に飛ばしてしまった。

「やれやれ、アキラ一旦亜子を頼む。満足してない子はまだ四人か。ちょいとタイム。さよ、ちょっと腰揉んで。駆け足でやり過ぎた」
「先生、今夜は私はいいや。長谷川、ひざからどかすの可哀想だし。凄く良い顔で寝てるし」
「私も、亜子が離れてくれそうにない。今日はこのまま抱き合って寝る」

 うつ伏せに寝転がり、さよに腰を揉んで貰いながらじゃあ二人かと思っていると。
 すすっと目の前にあやかが正座のまま進み出てきた。
 何事だと見上げてみると、顔を赤くしながらちょっと挙動不審気味であった。
 ちらちらとむつきを見下ろしては赤くなったり、だいたい予想はつくのだが。
 とりあえず、決心がつくまで待つかと勝手に膝を借りて枕にしつつ。
 さよに加え夕映ももう少しだけ頑張ってとマッサージに加わり極楽極楽と疲れを癒す。
 五分ぐらいマッサージを受けたら、よし頑張るかと腰を上げた。
 そこでようやくあやかも決心がいったようだ。

「あの、私ももう少しだけ可愛がっていただけますか?」
「喜んで、好きなだけ乱れろ。俺は逆に嬉しいから」
「はい、申し訳ないですわ」

 カッと頬を赤くしながら視線を伏せたあやかを、まず最初に押し倒した。









-後書き-
ども、えなりんです。

奇数話はむつきのセリフが表題のはずが、前回間違えましたw
まあ、もうこだわらなくても良いかな?

亜子と千雨の破瓜回。
のはずが、あやかがちょいちょいねじ込まれてくる。
うーん、もうちょい一人一人時間をかけた方が良かったかな?
ただ千雨はまだメインイベント起きてないんですよね。
秋の文化祭で発生する予定、のつもり。

それでは次回は水曜です。
最近予告が守れてないので頑張ります。



[36639] 第七十一話 なんだかんだで、俺甘いよな
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/09/25 21:09

第七十一話 なんだかんだで、俺甘いよな

 麻帆良女子中二年A組の出席番号十二番の彼女の名前は古菲。
 中国人留学生である彼女には、夢と使命があった。
 中国武術研究会にて部長を務める彼女の夢は、語るまでもなく武の道を究める事だ。
 古臭い、または女の子には無理だと人によっては言われるかもしれない。
 武術を始めた切欠も、古家に生まれたからであったが、古自身がそれを望んでいた。
 武術が好きだ、功夫を積み、強者とぶつかり拳を磨き上げる。
 その拳を磨き上げる相手と出会うことが稀である事だけは残念だが。
 それでも、武の道を究めてみたいという気持ちに偽りはない。
 その果てに多少恋愛感情を無視した強さで結ばれる婚姻が待っていようと構わない。
 課された使命、それこそが強き血を古家に取り入れるという事だ。
 自分の好みは、元から自分より強い相手なので普通の美醜にはとらわれないつもりだ。

「そして昨日、ついに見つけたアル。私が歩むべき道の先人達を」

 力量こそ大きな差こそなかったが、あの忍者が呟いた気という言葉。
 さらにはど素人とまで言われてしまう今の自分の腕前、いや無知だろうか。
 裏の世界に生きる者からすれば、自分は表の世界の張りぼてのチャンピオン。
 そんな栄光よりも身のある戦いが出来るならば、喜んで裏の世界へと足を踏み入れよう。

「なのに何故アルか。親友の超が、何故私が歩むべき世界を壊すアルか」

 良く陽に焼けた拳をもう片方の手のひらにパチンと当て握り締める。
 単独で見知らぬ国である日本、麻帆良にやって来た時の最初の友達であった。
 まだ日本語を喋る事もままならず、困っていた古に声をかけてくれた。
 同じ中国人だからと世話をやいてくれ、日本語だって教えてくれた超。
 その超が言ったのだ、裏の世界はいらないと、気、魔法……はわからないが全ていらないと。

「けれど、頭の良い超が言うならいらないアルか?」

 毎日毎日、クラスメイトが男の子やお洒落の話をする間も鍛え続けた。
 ある意味で一番もてていたかもしれないが、弱いと群がる男達を一蹴してきた。
 だいたい、美醜に関係なく強い男を婿にするとして、自分が醜いままで相手は納得するか。
 自分だって弱い上に醜い相手は、御免こうむる。
 相手だってわざわざ打ち負かした相手の婿になろうなんて殊勝なものはいまい。
 鍛え続けゴリラのようになった自分を前に、大事な婿は逃げていくのが想像できた。

「私も、結構可愛いアルよ?」

 ちょっと手鏡を取り出して、ニッコリ笑ったり手を振ってもみたり。
 そしてハッと我に返り、そんな事をしている場合ではと頭を振った。
 短いツインテールが高速に吹き荒れる風に大きく振り乱されてぼさぼさに。
 でもやっぱり気になると、手櫛でちょいちょい直しつつ。

「ああ、こんがらがってきたアル。兎に角、今は超に打ち勝ち、昨日の言葉を取り消させるアル。我が道は我が腕で守り切り開くアル。絶対、勝ぁつ!」
「くぅおらっ、誰だ走行中の車両の上にいるのは!」
「くーちゃんがさっき窓から出て行ったよ。あっ、しまった秘密にしてって言われてたんだ!」
「あわわ、まき絵。約束そのものを忘れてたアルか!」

 一人でセンチに沈む場所がなかったアルと、慌てて古は窓から車両内へと入っていく。
 現在、超包子の車両は、京都に向けて高速道路を移動中であった。
 当然の事ながら、車両内に戻ると同時に、古は手痛い拳骨を貰うこととなる。









 サービスエリアに用意された公園施設などがある、とあるハイウェイオアシス。
 京都入りを目前にして、最後の休憩としてこのサービスエリアに立ち寄っていた。
 超包子の車両内は決して狭くはない。
 それでも一部屋に長時間押し込められ、プライベートも何もなければ気心が知れた仲とはいえ疲れるものだ。
 教師なんて、言わば生徒の天敵のような存在がそれも複数いれば尚更。
 この旅行でむつきは元より、神多羅木や刀子も随分と懐かれてはいたがそれはそれ。
 人の手で整えられた緑豊かな公園内の芝生で、思い思いに生徒達は体の力を抜いていた。
 伸びをしたり深呼吸をしたり、真夏の日差しは少し強いが密閉された部屋よりも空気が美味しいとばかりに。
 普段ならここで、いっちょ童心に返って鬼ごっこでもと言い出しそうなものだが。
 皆から少し離れた場所で、向かい立ち会う二人の雰囲気に誰もそう言い出さなかった。

「なになに、くーふぇと超さん喧嘩でもしたの?」
「明日菜、なんで知らへんのや? 昨日から皆、その話でもちきりやったのに」
「だって、旅行も半分過ぎて残りのお小遣いの残金とか、バイトスケジュールとか」

 近衛に正面から問い返され、神楽坂は恥ずかしそうにしどろもどろ。
 直ぐに近衛も失言に気付いてごめんごめんと謝っていた。

「何かを賭けての決闘らしいけど、絶対男だって男!」
「ふーん、で真相は?」

 早乙女がいかにもそれらしく騒ぐも、鼻から嘘くさっと神楽坂に切り捨てられていた。
 ちょっとなんでよと食い下がるも、近衛がにっこり笑ってチラッチラとトンカチを見せる。
 そこで意見は百八十度変わって、私も実は知らないんだよねっとの暴露であった。
 さらばコミケ、さらば濃厚腐臭と東の空に向かって一人敬礼である。
 何やってんだかと、宮崎と共にいた夕映が呆れ溜息をついていた。

「ねえ、先生は何か知ってるの? 最近、超さんとかと仲良いじゃない」
「いや、なーんも。良く解らんが、意見を違えたらしい。それで男、じゃねえや。女らしく、でもないけど。兎に角、そう。親友らしく拳でぶつかるらしい、結局男じゃねえか」
「先生、結局何も知らないのね。なーんだ」
「神楽坂、お前高畑先生のスケジュールやったじゃん。夏祭りにデートさせてあげたじゃん」

 そういうと途端に先生大好きっと棒読みで抱きついてくれたが、嬉しくもなく。
 いや、美砂に迫る巨乳がちょっと腕に触れ役得であったが。

「先生、私も大好きぃ」
「おい、俺の苗字狙いが何を言うか。てか、暑い。離れろ、お前ら」
「あっ、何時の間にか先生争奪戦が。アキラ、急げ急げ!」
「いいのかな。行っちゃえ」

 神楽坂の意図せぬ行為に、真っ先に椎名が乗って次は明石に言われアキラが。
 あれ、何時の間にもてもてとも思ったが今は夏場である。
 ただでさえ日射が厳しいのに、まとわり疲れては日射病になってしまう。
 と思ったところで、周囲にちゃんと水分取れよっと注意を促がした。
 それから田中さんがビーチパラソルを幾つか持ってきたので、一緒に設営を始める。

「全く、京都間近だというのに緊張感のない。昨日もむつき先生が巻き込まれかけたというではありませんか」
「そうカッカするな。偶にこんなお祭り騒ぎでもなければ、働き疲れるぞ」
「神多羅木さん、はいスイカどうぞ」

 すまんなと極普通にスイカを丸ごと受け取り、神多羅木が指先でトンッと叩いた。
 すると包丁でも入れられたように、切れ込みが走ってわれていく。
 それを丁寧に一つずつむつみに渡し、むつみがお皿に並べて配り始める。
 スイカには利尿作用もあるので、おトイレはあっちですと言いながら。

「おい、龍宮。スイカ、食べるか?」
「頂こうか。しかし、どういう風の吹き回しだ。お嬢様を置いて、私のところなどに」
「いや、夏祭りの時な。刀子お姉ちゃんに、そのなんだ。と、友達は大切にしろと」
「で、その友達とは誰だ?」

 しゃりっとスイカを口にしながら普通に問い返され、えっと桜咲がスイカを取りこぼす。
 おっとと言って龍宮がナイスキャッチし、冗談だと笑って返した。
 だがそう簡単には許しては貰えなさそうで、スイカを加えながらそっぽを向かれてしまう。

「訂正する、貴様などただの仕事仲間だ」
「やれやれ、へそを曲げられたか。ユーモアのない奴だ。それじゃあ、ベッドの上でお嬢様を満足させられないぞ」
「そ、そうなのか? いや、寧ろ私はこのちゃんに可愛がって貰う方で」
「おい、刹那。今後、私の範囲三メートルに近寄るな。私はノーマルだ」

 一部、小さな友情に大きなひびがはいったりもしつつ。
 相対する小鈴と古の周りで、ちょろちょろしていた葉加瀬と絡繰が手をあげた。
 彼女達が何をしていたのかというと、決闘による余波を防ぐ装置の設置である。
 何しろここは麻帆良ではないのだ。
 何かあった時に、いつものようにあのA組かで許して貰えるはずがない。
 だから決闘前にむつきが、周りに迷惑をかけない事を絶対条件に出したのだ。
 試しに神多羅木があの謎の指パッチンを披露してみせた。
 何かが空気を裂く音が周囲に響き、瞬きの一瞬の後にバチバチっとスパークして消える。

「大丈夫そうだな。おい、そう睨むな。エヴァンジェリン、ちょっとしたお茶目だ」
「貴様、むつきの義兄でなければぶち殺していたところだ」
「可愛い可愛い、怖い顔しないの。むっくんと私は従兄弟だから、厳密には神多羅木さんは義兄じゃないのよ。似たようなものだけど」
「うっ、むつきに似た撫で感覚。しかも格段に上手い、もっと撫でろ」

 むつみにも抱っこされ、もう最強種の尊厳も何処へやらの人は置いておいて。
 一体なんの催しだと、観光帰りか行く道の人たちも集り始めた。
 簡易バリア機能にうっかり近付くのは危険なので、絡繰や田中さんが注意勧告をしている。
 試しに石を投げては弾かれ、バリアだバリアだと騒がしくもなったが。
 あと、無闇やたらとバチバチ言って、ちょっと目に優しくないのが難点だ。

「えー、モノを投げないでください。モノを投げないでください」

 そこへマイク片手に普段の調子で現れたのは、朝倉であった。
 何処へ行ってもでしゃばりというか、しきりたがりというか。
 後期の委員長に推薦してみるのも、意外と面白いのかもしれない。

「さあ、始まりました。因縁の対決。かつて彼女達は親友だった。だがそんな二人が道をたがえてしまったのは何時からか。昨日それもと一年前、さらには出会った時から!」

 麻帆良のノリでマイクパフォーマンスをすると、それなりにパチパチと拍手が。
 巨乳女子中学生の美少女という事もあって、時折写真も撮られたり。
 そこは田中さんがショットガン片手に、ホールドアップで事なきを得た。
 本当に得たのかは、永遠の謎にしておこう。

「アイツって、いつも即興でああいう台詞考えてるのか? だとしたら、記者よりアナウンサーとかリポーターの方が向いてるんじゃねえ?」
「あー、あるある。プロレスとか、K1の入場とか。何気に多芸よね」
「明日菜も腕力系なら多芸やん。中身の入った缶、前潰せたやろ?」
「なにそれ怖い」

 どんな握力だと、ちょっと間をあけると試してあげようかと指をボキボキされた。
 最近仲良くなって忘れていたが、暴力女の面目躍如。
 こういう場合に使う言葉なのだろうか。

「方や麻帆良最強の頭脳、ウルティマホラ優勝者。どちらが勝者となるか、一口五百円にて賭けをとり行っています。どうぞ、旅のちょっとした思い出に一口いかが?」
「超りんに五百円です!」
「先生、一緒に半分ずつ出して賭けよ!」
「やかまし。おい、麻帆良祭以外でしかも学外で金儲けをするな。誰だ、首謀者は!」

 鳴滝姉を筆頭にわらわらと、一般の方も五百円ぐらいならと長蛇の列だ。
 一先ず、何かとかまってとやって来る椎名の頭をぺしんと叩く。
 本当、ちょっと新田化してきたなと反省しつつ、それでもだ。
 売り子をしている早乙女や釘宮にも漏れなく拳骨である。
 ただし、既に一般の人にも何枚か売れてしまっている為、今さらなしはできそうにない。
 仕方がないので今回だけだぞと、注意しながら五百円を早乙女に投げた。

「なんだ、結局先生もやりたいんじゃん。どっち?」
「ドロー。どっちも応援できんって意味で。おい、椎名。二百五十円くれ。半分ずつだろ。なんだかんだで、俺甘いよな」
「だから先生好き。はい、二百五十円。一緒に見よ、一緒に」
「桜子、あんたマジなの?」

 椎名に腕を取られては引っ張られ、釘宮には信じられないと呟かれた。
 そんなに駄目かとも思ったが、駄目なのだ。
 教師と生徒なのだから、本当に今さらであったが。
 もう一人の椎名の親友、美砂はというとジェスチャーで腰大丈夫と聞いてきた。
 どちらの意味で心配しているのか。
 昨日使いすぎてなのか、それとも椎名までもお嫁さんにして大丈夫なのかと。
 どれだけむつきの腰が丈夫かは、今夜教えてやるとしてだ。
 今は小鈴と古の親友対決となる決闘であった。

「超、手加減しないアルよ。私が勝ったら、昨日の言葉を取り消して貰うアル」
「良かろう。私が勝ったら、そうネ」

 古が何を求めているかは、今さら考えるまでもない。
 武の極みへと続く、恐らくは気を掴む為の方法や裏の世界の入り口について。
 ならばと小鈴は、四方を覆う簡易バリアの向こうで椎名に抱きつかれながら芝生に座るむつきを見た。
 相変わらず、無自覚にというか、殆ど取り得もないのに着々と生徒を誘惑している。
 さすが自分が認めた男だとニンマリ笑い、まだまだこれからと振り返った。
 別にむつきになびくよう誘導しているわけではないのでセーフと心で呟く。

「古には、拳法よりも恋に生きてもらおうカ」
「こ、恋アルか!?」

 思いも寄らぬ対価に、割と珍しく古が顔を紅潮させあたふたと。
 今朝方に未来の婿についてあれこれ、手鏡に向かってにっこりしたりしたせいだ。
 妙にそういう色恋を意識している時で、タイミングが良すぎた。

「別に拳法を捨てろとは言わないネ。恋、それこそが今、古が強くなる為に必要な要素ネ」
「むぅ、超の言う事は相変わらず意味不明アル。けれど、決闘である以上何かを賭けるのは必須。了承したアル!」

 お互い、決闘に賭するものを決め、後はぶつかるのみ。
 真夏の日射に負けず呼吸を整え闘気を高め身構える。
 同じ中国人拳法家だが、それぞれ流派が違う。
 古は八極拳、超は北派小林拳なのだが二人共それ以外に色々とかじっていたり。
 巨大な中国大陸に様々な民族が混ざり合うように、学んだ武術を混ざり合わせた構えを見せる。
 ゆっくりと重心を下に、大地に近づけ腰を入れ、前後左右どちらにも飛び出せるように。
 それが終われば、後に待つのは開始の合図のみ、そのはずであった。

「呪文回路解放、封印解除。ラストテイル」

 小鈴の唇が僅かに動き、小さな呟きをもらしていた。
 それが聞こえたのは本人のみか、かろうじて古であろう。
 一体何をと怪訝な顔をした事から、古には聞こえて、いや見えたのだろう。
 夏の日差しに紛れ見え辛いがぼんやりと小鈴の体全体が淡い光に包まれるのが。

「それじゃあ、賭け券も程良く売れたところで。超りん対古ちゃん、レディーゴ」

 最後まで朝倉の言葉がマイク越しに伝えられる事は無かった。
 爆発、まるで地中から地面が爆発するかの如く爆ぜた。
 それをなしたのは、淡い光に体を包みこまれた小鈴である。
 瞬く間に古の背後に回りこみ拳を握り締めていた。
 あまりの速さに相対していた古はもちろん、外野席のむつき達でさえ一瞬見失った。
 人の限界を軽く飛び越えたかのような動きのままに、小鈴が拳を振り下ろした。

「くっ!」

 気配か何かでソレを察した古が、間一髪首を捻ってその拳をかわした。
 ボウッと空気が抉れる音が響き、髪数本が巻き込まれ吹き飛ばされていった。
 それで古が弱気になるはずもなく、むしろそれが見たかったと笑みを深める。
 直感的に感じたのは、自身が辿り着きたかった場所に、親友が既にいるという事だ。
 連れて行けとばかりに反撃の拳を向けるが無造作に払われた。
 相手の力を利用するとか、流れにそったとか中国拳法らしくない。
 ただ力任せに、弾かれた拳はビリビリと痺れを訴える。

「痛っ、考えるのは後アル!」

 何事か呟いてから超の雰囲気が変わった。
 体が淡い光に包まれているとかではなく、もっと別の所で。
 そうは思ったが決闘の最中、拳が弾かれる勢いのままにしゃがみながら一回転。
 踵から蟷螂のカマのように足を伸ばし刈り取るように超の足を狙う。
 遠心力を加え、今の古から見て重心の高い超の足を払う、つもりだった。
 ガツンっとビルの壁でも蹴ったかのような衝撃、小鈴は微動だにしていない。
 そんな馬鹿なと、伸ばされた手を避けるように背後に飛んで点々と小さくジャンプして離れていく。

「超?」

 今まで幾度となく拳を交えた事はあったが、根本から何か違っていた。
 そんな疑問を相手の名に込め、古は問いかけた。

「古の功夫を十とすれば、私は精々七か八。いや、今は技を一切使っていないからおおまけで一というところカ」
「私の九を補う、それが気アルか?」
「厳密には違うが、似たような力ではあるネ。古が求める道にこの力は本当に必要カ?」
「どういう事アル?」

 必要もなにも、今の状態で小鈴が残りの七の力を出したら。
 そう思ったら古は胸がドキドキわくわく、収まりそうになかった。
 皆がこの力を手に入れたならば、弱いと一蹴した相手さえ手ごわくなる。
 そして自身もその力を身につければより高みに、武術の極みへと近づく事が出来るだろう。

「この力は所詮、今ある腕力を単純に二倍、三倍にと等倍に増やしただけのみネ」
「あまり回りくどいと、理解できなくなるアル」

 外野から止まってるぞと野次を受け、一先ず小鈴も魔力を抑え人並みに。
 古も長年の付き合いから小鈴の心中を察して、演舞のような組み手を繰り広げた。
 といっても元よりレベルの高い武術を得た二人の動きはカンフー映画さながら。
 腕と腕が絡み、肘を突き出し、蹴りが合わさっては二度三度。
 野次も直ぐに止まって、拍手に切り替わるのに時間は掛からなかった。
 相手の手の動きを理解し、先んじて防ぎ返しの拳をと動きを読みあい拳を繰り出す。

「古の求める強さって何カ?」
「私の求める強さ」
「単純に腕力が強い事や、腕っ節だけの問題ではないはずネ。私の親友の古は、そんなに浅い女の子じゃないネ。強さって、強い人とはどんな人カ?」
「強い人とは、強き者に打ち勝つ者……アルか?」

 自分で呟き、小首を傾げそうになる自分を古は感じた。
 強き者に打ち勝つ者が強ければ、そのうち勝つべき強き者とはなんだ。
 また別の強き者に打ち勝った者なのか。
 ではまた別の別の、一番最初に打ち負けた強き者とは、矛盾してやしないか。
 拳を用いない舌戦に古は頭から煙が出そうで、次の瞬間。
 ハッと気付いた時には、小鈴の拳が顎下にありものの見事に打ち上げられる。
 ぐらぐらと脳を揺さぶられ、小さな放物線を描いてとさりと芝生の上に背中から落ちた。

「クリーンヒット、これは効いた。下手をすれば脳震盪か。しかし、この決闘明確なルールはなくもちろんテンカウントもありません。決着がつく時、それは心が折れた時!」

 朝倉はノリノリでシャウトしているのだが。

「何してんのか全然わかんねえ。映画だと丁寧にカメラワークが活躍してくれるんだが」
「でも格好良いから良いジャン。先生、カンフー少女が好き?」
「今気付いたけど。ねえ、桜子。どうやったら、そんな積極的になれるの。もの凄く満面の笑みで好きな先生の腕に抱きつけるの?」
「よしよし、明日菜はゆっくりいこな? あわてんでも、時間はあるえ?」

 目が追いつけねえとむつきが目頭を押さえ、椎名は何時の間にか胸を押し付けながらむつきの腕をかかえていた。
 私の方が片思い歴長いんだけどと神楽坂が少し落ち込み、近衛に慰められている。
 それはともかくとして、一般の方もこりゃすげえと感心しまくりであった。
 女子中学生のたわいのない催しかと思いきや、本格的なカンフー合戦である。
 映画よりも迫力があると、何処かに電話して興奮を伝えている人さえいた。

「古、武の極みとは腕力ではないはずネ。日々、地道に功夫を重ね。数十年という時を重ねてようやく至れるかどうかという道、そうではないカ?」

 ぐらぐらと揺れる脳で思考も難しそうだが、倒れる古に向かい小鈴が呟いた。
 気や魔力は確かに力を得る為には近道と言えよう。
 だが決してその先に武の極みがあるかと言えば、少なくとも小鈴は違うと思った。
 気を覚えれば、地道に功夫を積むより気の錬度を高める方が早い。
 相手の拳のさばき方を覚え反撃の手を覚えるより、気で強化して素早く殴る方が早い。
 気を極めれば極める程、むしろ武術の極みから遠ざかるようにさえ。
 だからこそ、古家は古に気の扱いを教えなかったのではないか。
 幼い頃から古に武の英才教育を施す程の家が、裏の世界や気について知らないはずがない。
 可愛い一人娘の婿に、何故簡単に強くなれる気を教えなかったのか。
 何れ運命に導かれ出会うと分かっていたからか、単純に不要だと考えていたからか。

「何より、明るい古には薄汚れた裏の世界は似合わないネ」

 あれこれ理屈をつけはしたが、結局のところ小鈴の本音はそこだ。
 裏と言われるだけあって、綺麗な部分を探すほうが難しいような汚れた世界である。
 天真爛漫、武術馬鹿の古にはそんな世界に足を踏み入れて欲しくないのだ。
 なんと身勝手な、友の道を遮るのが親友かと少し切なくなってむつきへと振り返る。
 バリアの向こう側で椎名をはべらせながら必死に目をこらしていた。
 魔力や気がバレないように、バリア機能でわざと視界を鈍らせているからだろう。
 体もズキズキと呪いの文様で痛いし、抱きしめられたいと思った。

「私が望むのは、ただ強者との戦いのみ」

 空を見上げる瞳はやや虚ろで、うわ言のような言葉が古の口から零れ出た。
 咄嗟に振り返った小鈴は、ズキリと痛んだ体を抱きしめながら後退する。
 そんな小鈴を半開きの瞳で見送りつつ、ゆっくりと体を震わせながら古が立ち上がった。

「立った、古選手。立っ……くーちゃん?」

 ざわざわと、周囲のざわめきも当然で古の意識はまだ戻りきってはいなかった。
 それでもしっかりと好敵手である小鈴を瞳におさめ、一歩踏み出した。

「私が望むのは、ただ強者との戦いのみ」

 そして繰り返されるうわ言。
 何度も何度も、その度に古の瞳には自我の光が、意識が戻り始める。

「少し、自惚れていたのかもしれないアル」

 完全に意識を取り戻した古、何よりもまず満面の笑みを超へと向けた。
 晴れやかにこの真夏の日差しを正面から受け止める向日葵の様に。
 にぱっと笑い、一般人の男性の中に数人ぽっと特殊な感情が芽生えるぐらい。
 なんという美少女と携帯電話で写真を撮ったそばから田中さんにホールドアップされたが。

「麻帆良学園に来てからも、満足に戦えたのは極僅か。それでもいたアル。楓や真名、極僅かでも確かにいたアル。超、その力もう使わない方が良いアル。なんとなく」
「ふむ、さすが武術のみならば私を凌ぐ天才ネ。これが何なのか本能的に察したカ」
「んー、良くわかんないけど。気の廻りが滅茶苦茶アル。痛くないアルか?」
「実は凄く痛いネ。あまり長時間続けると、親愛的との約束がまた伸びてしまうネ」

 親愛的と聞いてぴくりと古が初耳だと耳をピンっと立てた。
 親友にそんな人がいたとは初耳だが、今はまだ決闘の最中と一時興味をおいやる。

「我が生涯での最初の好敵手。なんとなく、今なら人生最高の拳が繰り出せそうアル。最後の我が侭、聞いてくれるアルか?」
「相手の我が侭を笑って聞き入れるのが親友というものネ。ならば、一瞬。一瞬だけ、私の全力を古にだけ見せてあげるヨ」

 謝々と小さく呟き、今一度決闘当初の様に、一定の距離を取って互いに身構えた。
 一度きり、それも拳のみと決めた。
 ならば後は呼吸を整え、丹田で気を練り、渾身の一撃を繰り出すだけ。
 特に古はこんな穏やかな気持ちでの決闘は初めてだと妙に心が澄んだ自分を感じていた。
 何処までも空を飛んでいくような澄んだ真冬の湖のよう。
 真冬の湖だが春風に包まれたような温かみ、夏の日差しとは違う穏やかな陽だまり。
 彼女はまだ自分の体を包み込む淡い光には気付く事は無かった。

(結局、私が古に教えたようなものカ)

 運命に導かれるように気を纏った古が拳を作り、練り上げた気を握りこんだ。
 爆縮され彼女の足元の芝生が凹み、足が深くねじ込まれた。
 葉加瀬や絡繰が用意したバリア機能がなければ、周囲の一般客が爆風に吹き飛んだ事だろう。

「凄い……小さな切欠で、これ程の気を練り上げるとは」
「表の世界では最強の部類だからな。切欠一つで後は裏の世界を駆け上がるまでだ」
「ううむ、拙者としては駆け上がる前に、慎重になって欲しいでござるが。共にひかげ荘にまいるでござるか」

 古と同じく、武道四天王と呼ばれる三人が新たな好敵手を前にそれぞれ感想を漏らす。

「なにやら言葉では伝えきれない迫力が。自身のボキャブラリーのなさを恨みます」

 最後まで朝倉は奇妙なプロ根性で解説を行っていたが。
 これ以上は、何を喋ろうと野暮と気付いてマイクを口元から降ろした。
 後は一般の人と同じく観客に徹して、二人の決闘の行く末を見守る。
 むつきもそれは同様であったが、我知らずしゃがみ込んでいた腰が浮き上がっていた。
 何かあれば何時でも飛び出せるように、教師または恋人としての勘か。

「ラストテイル、マイ・マジックスキル、マギステル。良く忘れないものネ。この言葉は」
「行くアル、超」
「忌々しい言葉だが、今だけは少し感謝するネ。親友を受け止める事が出来た事を」
「アイヤァッ!」

 踏み出す、小さな拳にありったけの気を練りこみ古がまず踏み込んだ。
 柔らかい芝生は瞬く間に細切れに、地肌を表しそれでも受け止めれず割れて行く。
 そのまま古が蹴り出し、砕け爆発した。
 加速する小さな体は一瞬に待ち受ける超の懐へ向かう。
 轟っと音が聞こえそうな程に拳を振り切ろうとするが、一歩遅れを取るとは言え超もまた武術において天才の類だ。
 古の目測を誤らせるように、半歩何時の間にか引いていた。
 超の鼻先を古の拳が通り過ぎ、がら空きのわき腹へと今度は超の拳が。
 だが古も負けておらず自分の拳に振り回されるように、体を捻り回転させた。
 超の拳が背中を抉るようにかするが、伝わったのは肌を波打つ風のみ。
 右手に全神経を集中させた今、下手な小細工は拳を鈍らせるだけ。
 あくまで決めては握り締めた右手の拳。
 古が左足を大きく轢いて地面に伏せるように、そこから体を回転させつつ拳を急上昇。
 対する超は、右手が生み出す轟音とは裏腹に軽やかに地を蹴る。
 宙返りと見紛う動きで空から、古の打ち上げられる拳とぶつかり合った。
 次の瞬間、膨大な魔力と気がぶつかり合い、あっさりとバリア機能を打ち破る爆発を生み出した。

「小鈴!」

 もれ出る爆風にあちこちで悲鳴が、スカートの子達から黄色い悲鳴があがった。
 むつきは周囲の男とは違いわき目も振らず一直線に決闘場へ。
 砕けたバリア機能の電気か何かがバチッと頬を焦がす事もあったが。
 爆煙で視界は果てしなく悪かったが、愛の力かしっかりと捉えていた。
 吹き飛ばされる小鈴を、こっちかと必死に足を駆けさせ腕を伸ばす。

「届けぇっ!」

 せめて古の方はまた別の誰かがと願いつつ飛んだ。
 下が芝生でよかったと心の何処かでほっとしつつ、掴んだ、引いた、抱きとめた。
 胸元に必死に抱きとめ肩から地面に落ちて一回転。
 小鈴だけはと地面に触れさせないよう頑張ったつもりで、地面を激しくかかと落とし。
 痛いと思う間もなく、むちゅっと唇同士がぶつかった。
 けれど恋人同士、皆に見つからなければ今さらと思った所で気付いた。

「あれ、小……どちら、様?」
「出席番号十二番、古菲アル」

 次の瞬間、顔を真っ赤にした古の拳がむつきを空へと打ち上げた。









-後書き-
ども、えなりんです。

今回、普通にラブコメっぽいおちでした。
暴力系ヒロインの名は明日菜ではなく、見事古菲に落ち着きそうです。
彼女、強い婿になら唇をと言ってましたが……
順番逆になったらどうするんでしょうね。
相手を鍛えるのか、ノーカンにするのか。
このお話ではまだどちらも未定です。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第七十二話 竹林の奥でこそっとしてくるッス
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/10/02 21:10
第七十二話 竹林の奥でこそっとしてくるッス

 特別修学旅行もついに折り返し地点を過ぎて六日目。
 当たり前の事ではあるのだが、今日も超包子の車両の上は風が荒く吹き荒れていた。
 髪の長いエヴァや刀子、龍宮などは酷く鬱陶しそうに自分の髪を押さえつけている。
 だが例え髪を束ねていたとしても、結果は同じであったろう。
 その結果が目の前に、長瀬や桜咲、古や小鈴と言った纏めた面々が鬱陶しそうにしていたからだ。
 黒一点、神多羅木もサングラスが吹き飛ばされやしないかと何度も掛けなおしている。
 ちなみに、何度集れと言っても現れず、逃げてばかりの春日は天井にエヴァの糸で貼り付けにされていた。
 誰がやったのか猿ぐつわまで、完全に罰ゲームのノリであった。
 それはともかくとして、刻一刻と迫る京都入りを前にのんびりしてはいられない。
 いられないのだが、もう少し何とかならないかと非難を向けられたのは小鈴だ。

「空間を広げるなんて芸当できるのだから、魔法関係者専用の部屋ぐらいできなかったのですか?」
「教師には個室まで用意したネ。そう言う意味なら、ダブルの神多羅木先生の部屋があったはずネ。少々手狭だが、入れたはず」
「むつみと楽しんだ部屋に生徒を入れられるか」

 刀子に当然のように言われ、小鈴はそのまま神多羅木へと疑問を丸投げした。
 返ってきた答えに、やっぱり楽しんだんだと、呆れや好奇の視線を向けられてもなんのその。
 自分のタバコの煙を正面から浴びた神多羅木はしれっとしたものだ。

「おい、猥談の為に集ったわけじゃないだろ。私はむつきを守る事以上の事はせんぞ」
「京都でまた裏の何かと戦うアルか?」
「ふむ、まずはそこのところから説明を求めるでござる。拙者や古ははんちくでござるよ」

 そうだったっけと、今さらながら特に刀子と神多羅木が疑惑の視線を向けている。
 正直なところ、下手な魔法生徒よりよっぽど強いのではんちくといわれるとその子達が泣きそうだ。

「簡単に言うと、西と東は仲が悪い。西のお姫様である近衛が東にいる。という事だ」
「龍宮、はしょり過ぎだ。お嬢様は、裏の事を何もご存じない。だが類稀なる資質を持った方でもあり、現関西呪術協会の長の一人娘であらせられる」
「むむむ、確かにトンカチを手にした時のあの迫力、ただ者ではないと思っていたアル」

 あれはまた別の何かなんだけどと誰もが思ったが、あえて指摘もしなかった。
 現在の状況では全く関係ないし、もっと大変な事情があったからだ。

「それで、誰。今日の宿泊先がお嬢様のご実家。関西呪術協会の本拠地にしたの」

 本当に頭が痛いと、髪を押さえるのを止めてうな垂れたのは刀子であった。
 そこに辿り着くまでに絶対に一悶着ある。
 その上自身は、一度関西を飛び出した身でどの面下げて向かえというのか。
 できる事なら今直ぐにでも麻帆良に返って、元旦那をボコボコにしたい。

「乙姫だな。なんとか旅費を安くしようと、現地の人。つまり、近衛の父親。近衛詠春に電話して宿の話をしたらどうぞどうぞと言われたらしい」
「先生は兎も角、長。このちゃんに会いたいが為に、一般人と同じ考え方で良いのですか」
「大問題だな。関西と関東が何時まで経っても、関係が修復されないはずだ」

 頭が痛そうに桜咲が呟き、龍宮もやれやれと呆れ顔であった。
 長瀬や古は事情が良く解らないので小首をかしげているが、小鈴やエヴァも似たようなものだ。
 特に関西呪術協会の長である詠春を良く知るエヴァは、なおさら。
 情けない所は似た者同士かと、むつきに対するようにしっかりしろと詠春に念を送る。
 誰も彼もがそうする中で、今思い出したように神多羅木がスーツの懐からあるものを取り出した。

「ああ、その件で。言い辛くて今まで黙っていたんだが、学園長からこんなものを預かってきている。関東魔法協会の理事から、関西呪術協会の長への親書だ」

 おいおい、止めてくれよと嫌な顔を神多羅木を含め、全員がしている。
 その火のついたタバコでうっかり燃やせと、物言わず瞳で言っていた。
 関西の長もそうだが、関東の理事も大概だと呆れてものが言えない。
 いっそ何もかもを、それこそ親書を捨てるかと視線で会話しあった時であった。

「あれ、なんか人数少なくねえか。古がいない、アイツまた!」

 車中から聞こえたむつきの声に、ビクンッと必要以上に震え硬直した古であった。
 一応あの決定的瞬間は誰にも見られなかったはずなのだが。
 こうまであからさまに、頬をぽっぽと火照らせれば少し想像力があれば直ぐに解る。
 数時間前の決闘時、バリア機能が破壊された爆煙の中で何かあったなと。

「二班、集れ。二班点呼するぞ!」
「まずい、私達もか。おい、一旦私達は中に戻るぞ」
「春日さん、何を遊んでいるのですか。急ぎますよ」
「誰がこんな、帰る。お家に帰る、ココネ。シスター、シャークティ!」

 ここ数日、割とむつきから拳骨を貰っていた龍宮が慌てていた。
 桜咲が持っていた太刀で春日を縛る糸を切断して、その首根っこを引っつかんだ。
 いやあと春日の悲鳴を無視して、古と長瀬も急いで車両内に窓から戻っていく。
 もちろん飛び込む前に反対側の窓を軽くたたいて車中の者の意識をそちらへそらしてから。
 やっぱり特別な部屋がないと不便だなっと、むつきの点呼の声を聞きながら思った。

「神多羅木先生、その親書を少し見せて貰っても? もちろん、中身は見ないネ」
「別に中を見てしまっても構わんぞ」

 つまりその程度の意味しかない親書だが、西の特に過激派はそうは思わないだろう。
 むしろ良いの機会だと、奪いに、または襲いに来るか。
 親書を受け取った小鈴は、裏と表を見て光にかざしたりと謎の行動をしていた。
 エヴァが捨てろ、破り捨てろと奪いに来たのを片手で制止していると車中に戻った古が戻ってくる。

「次、三班の点呼アル。エヴァンジェリン、戻るアル」
「おい、気安く私を呼ぶな。それと、お前またむつきを殴っていないだろうな」

 ここ数時間、むつきと相対する度に赤面しては殴り遠ざける古に尋ねる。

「はっ、恥ずかしいアルよ」
「おい……まあ、いい。私はもう戻らんぞ。むつきが無事なら、それで良いんだからな。私達に迷惑を掛けるな、それだけだ」

 いいなと念を押し、特にエヴァは刀子にアレは私のだと言外に伝え車両内へ。

「そう落ち込まない事ネ。星の廻りが悪かったと諦めるがヨロシ」
「子供に何がわかるのよ。諦めたわよ、もう。心残りはあるけど」
「それでも先生なら、きっと葛葉先生が幸せになれる相手を見つけてくれるネ。親書、確かに返したヨ」

 小鈴から再び神多羅木の手に親書は渡り、その間に古達がこっそり戻ってくる。
 悲しいかな、泣き喚く春日もしっかりと桜咲の手により連れ戻されていた。
 しくしく悲しむも、これもお上にというか関東魔法協会に所属する身。
 逃げられないものは、逃げられないのである。

「何故、私は普通の両親の元に生まれなかったッスか。あっ、昔こう言ったら両親泣いたから二度と言わないつもりだったのに。二人共居ないからセーフ、セーフ」

 悪い事を言っちゃったかと泣くのを止めた春日が素でそう呟いていた。
 その瞬間、ばつが悪そうに桜咲も首根っこを掴むのを止めてぺこりと頭をさげる。
 人には向き不向きがあるし、強制しても戦力にならないのだ。
 むしろ周囲の戦力を見渡すと、ちょっと足手纏いで春日自身が危ない。
 エヴァンジェリンは減ったが、改めて戻ってきた桜咲たちを含め円陣を組んだ時である。
 神多羅木が懐に戻そうとした親書が、一羽のツバメにパッと口で咥え持って行かれた。

「ど、泥棒ツバメアル!」
「あれは、式神。まさか、京都目前に。忍が現れた事を考慮に入れるべきだった。はっ、このちゃん!」

 古の叫びを前に一瞬親書に気を取られた桜咲だが、直ぐに近衛を心配し車両内へ。
 龍宮は護衛の契約以外は貰っていないので、最初から動く気がない。
 春日も敵は何処だと、車両の上をウロウロ、アーティファクトで妙に素早いので鬱陶しい。
 そこでやっと、長瀬が追うかと神多羅木を見たが、手で制された。
 奪われた当人は慌てもせず、タバコの灰をとんとん落としている。

「慌てるな、挑発行為に過ぎん。それにスペアなら何通か貰ってきている」

 親書のスペアってなんぞやと、少しだけ神多羅木に視線が集った。
 その神多羅木は変わらずマイペースで、小鈴に当然のように尋ねた。

「さっき渡した時に発信機か何かつけたんだろ?」
「ありゃ、さすがにバレてるネ。皆、不用意に視線は向けないで欲しいネ。右手の緑の薬屋の看板があるビルの屋上。衛星が捉えたネ」

 超が手元に浮かび上がる透明なスクリーンを立ち上げた為、皆で覗き込んだ。
 もちろん、言われた通り右手のビルの屋上へは誰も視線を向けない。
 スクリーンに映し出されたのは、衛星からの望遠画像であった。
 人数は三人、上からなので顔までは見れないが年恰好、年齢ぐらい想像はできる。
 女性が二人に、男性が一人。
 と言ってもそれぞれ一人ずつは、子供にも見えなくもない。
 年かさの方の女性は黒髪で、肩を出した着物をきてツバメを手に乗せている。
 恐らくは彼女が式使いで、関西呪術協会の正式なメンバーなのだろう。
 もう一人の少女は少しあせた金色の髪に白いドレスのような服を着ていた。
 手に持ったのは良く見えないが棒のような、刀か何か。
 そして最後の一人は、見る限り真っ黒、学生服か何かと思われる。

「この肩出し着物姿どこかで。こっちの少女は小太刀が二本」
「つんつん頭の子供がいるでござるな。ちと、想像していたものとは」
「伊賀の忍とは違うアル。拍子抜けしたアル」
「古、覚えておけ。この世界、姿形だけでは想像もつかない使い手はいる。エヴァンジェリンが、その筆頭なんだがな」

 確かにと龍宮の言葉に、全員が満場一致で頷いていた。

「ふむ、肩出し着物は天ヶ崎千草ネ。小太刀の少女は、神鳴流の月詠。性は捨てたカ? 最後の一人は犬上小太郎。関西呪術協会の下っ端ネ」

 素顔もあまり見えない頭上からの映像だけで、特定が早すぎるだろうと皆が小鈴を見た。

「もちろん、伊賀忍者の橘さん達からの情報ネ。さすが、忍。お金さえ払えば、相応の仕事はしてくれるヨ。ね、楓サン」
「にんにん、拙者は真名と違い金を取って仕事をしたことはないでござる。まだまだ中学生、若いでござる」
「楓、ここで決着をつけても良いんだぞ?」
「おい、喧嘩するなら車両を降りてやれ。で、相手を特定してどうする? まさか、あの有名な軌道衛星砲でも叩き込むのか?」

 奪われた親書は燃やされても構わないしと、むしろ神多羅木が促がしてくる。
 さっきは小規模ながらそれが発射された瞬間を逃してしまった。
 以前の明石教授ではないが、男の子として近未来的武器には憧れがある。
 ちょっとわくわくしながらいると、小鈴がゆっくりと首を横に振っていた。
 なにやら奇妙な、薄ら笑いを浮かべながら。

「そんな悲惨な事はできないネ。けれど、裏の世界の住人と言えど資本主義に生きる人間。おや、結構溜め込んでるあるネ」

 小鈴は楽しげに手元のスクリーンのエンターキーを押さない程度に指でカチカチ鳴らせる。
 その行為に一体何の意味があるのか、言葉の端々から凄く怖ろしい想像が出来た。
 当人は人生の危機にも関わらず、なにやら親書を読んで一人憤っている。
 特に社会人であり、結婚を控えた神多羅木のマイペースを崩し、ぶるりと振るわせた。

「あの、止めてあげてくれる。一応、私の顔見知りだし。路頭に迷われると夢に出そう」
「これは最後の手段ネ。でも葛葉先生がそうまで言うなら保留ネ」

 あくまで止めはせずに保留かと、一応の危機は去ったと刀子は息を付いた。
 悪魔、麻帆良最強の悪魔がここにいると、その手腕を誰もが恐れたのは間違いなかった。

「超、お前の恐ろしさは十二分に染みたが。仮に下っ端に対しそんな事をしても、意味はなくないか?」
「ふふ、龍宮サン。組織の崩壊は別に中枢からでなくとも可能ネ?」

 もちろん組織は関西呪術協会を指すが、崩壊はそれそのものでなく過激派だ。

「元々所属していただけに、大丈夫かしら。別につぶれてもいいけど。あと、観光先は嵐山なんだけど、やっぱり襲撃ポイントってあそこよね?」
「真昼間に襲うなら、あそこしかないだろうな」
「何処アルか?」
「竹林の道」

 向こうがこちらのスケジュールを把握しているとは思えないが。
 むつきが作成したスケジュールパターン等を考え、予想していてもおかしくはない。
 とりあえず、襲撃された際の迎撃パターンを幾つか話し合っておいた。
 基本迎えうつのは刀子と神多羅木、他は曲がりなりにも生徒なので一般生徒の護衛と。





 ハイウェイオアシスでのちょっとした騒動、ハプニングもありはしたが。
 ついに二年A組の一向は、京都へと足を踏み入れる事となった。
 京都は有名な観光地である事に加え、近衛や桜咲の故郷でもある。
 急ぎ足で通り過ぎたコレまでとは違い、一泊二日と少々時間を使う予定だ。
 その一泊も、近衛の実家に許可を取ってクラス一同泊めて貰う予定でもあった。
 個人宅でどれだけ広いのとも思ったが、刀子曰く学年丸ごとでも平気だそうだ。
 学園長の孫である事から薄々気付いてはいたが、近衛も相当なお嬢様らしい。
 桜咲というボディーガードがいる時点で、普通は気づきそうなものだが。
 そんな事をつらつら考えていると、田中さんが運転する超包子の車両が停車した。
 もう直ぐお盆も近く、かの有名な大文字焼きの季節で観光客が兎に角多い。
 なので一旦車両を路肩に止めて、田中さんには観光が終わるまで流して貰うつもりなのだ。

「よし、お前ら慌てずだけと急いで降りろ。いいか、降りても勝手に出歩くな。間違っても車道に飛び出すなよ」

 はーいと何時も元気だけは良い返事が返り、先にストッパーの刀子と神多羅木を降ろす。
 それから生徒達を一人一人見送るように降ろし、その途中で古と目が合った。
 次の瞬間、メコリとむつきの顔面に拳が埋まり、ついでに壁に埋め込まれた。

「これが因果応報、南無南無ッス」
「ちょっとくーふぇ、何してんの。先生が死んだら、誰が高畑先生の情報くれるのよ!」
「先生、大丈夫なん?」
「このちゃん、うかつに動いたらあかん。うちの手をしっかり握っとき!」

 春日に始まり、神楽坂と近衛はまだしも、桜咲。
 お前ら少しは心配しろよと、ぐわんぐわんする頭を振って意識をしっかりさせる。
 その間に顔を真っ赤にしてあわあわしていた古は、車両を一目散に降りていった。
 思春期に思いがけないキスをしてしまったのだから動揺するのは分かるが、何故殴る。
 アイツこの先、彼氏できるのかなとちょっと不安にさえなってきた。

「先生、うかつに気軽に構えていると足元をすくわれるでござるよ?」
「私はもはや何も言わないが。古なら、後ろから刺すでなく正面からぶち破るよ?」
「お前ら、見てたろ」

 見えたと正直に返され、お願いします秘密にしてくださいとお願いしておいた。
 そんな事をお願いしなくても、古のあからさまな様子に公然の秘密も同然なのだが。

「ラヴ臭、だねぇ。コミケを蹴っただけのことはっ」
「うるせえ、さっさと降りろ。余計な私語した奴は梅干の刑だ」

 にやにや鼻息の荒い早乙女を筆頭に、余計な事を言いそうな奴はけりだしてやった。
 特に早乙女は安産型かこの野郎とばかりに、弾力のある尻を押し出すようにだ。
 続いて私にもちゅうっと飛びついてきた椎名も纏めて。
 生徒が全員降りた事を指差し確認してから、最後にむつきも。
 今回田中が横付けしたのは阪急嵐山駅前のバス停であった。
 生徒達に動くなよと注意しつつ田中と打ち合わせの為に二、三言葉を交わし見送る。

「はい、貴方達。余計な私語はしない。今回は私が主に先導するわ。京都は故郷だし。ちょっと詳しいわよ」
「うちも、ちょいと詳しいえ」
「故郷だけど私はちょっと……刀子お姉ちゃん、偶には地で喋ったらどない?」
「そんならちびっとやけね?」

 そんな風に京都出身者が地元の訛りで会話し、それだけでおおっと皆が唸る。

「神多羅木先生、方言を喋る女の子ってどうしてこう可愛いんでしょうね」
「どうしてだろうな。きっとそれは、永遠の謎だ。浪漫だからな」

 外でぐらいとタバコに火をつけた神多羅木と、ちょっとだけボーイズトークである。
 もちろん、生徒がすぐ傍にいる為、軽めのであり、神多羅木はむつみに聞こえないようにだ。
 その刀子の案内で、一向は車通りに気をつけながら移動である。
 京都での修学旅行と言えば普通、清水寺から始まるものだが。
 それは本来の修学旅行のお楽しみと、少し沸きにそれた観光なのだ。
 といっても嵐山だって立派な観光地だし、見るべき場所、行きたい場所は沢山ある。
 まずそれが、一行がます最初に向かっている渡月橋だ。
 夏の暑い日差しに暖められた空気に時折流れる冷たい風、降り立ったバス停から直ぐそこ。
 法輪寺を左手に、右へ少し道を折れれば見える。
 大堰川に掛かる木造の大きな橋、と言っても橋脚と橋桁は鉄筋コンクリート製だが。
 木造部分があるので、木造と言っても差し支えないか。
 百五十五メートルにも及ぶ長さで、幅も十一メートルと大きい。
 色々と規格外な麻帆良にもない巨大な、それも見かけ上は木造の橋に生徒達は皆口が空いていた。

「うう、渡ってる最中に崩れそう。裕奈、裕奈先に行って!」
「押す、押すにゃあ。って、あ。普通に車渡ってるジャン。おっさき」
「こらこら、勝手に行動するとまた梅干されるよ」

 恐る恐ると言った感じで橋の端でちょいちょい足をつけていた佐々木が、やっぱり無理と後ろにいた明石の後ろに回りぐいぐい押した。
 当然、それぐらいで壊れるような脆いものではない。
 見渡す限りと言った感じで他の観光客も渡っており、時々自動車だって通る。
 全然平気じゃないかとばかりに明石が渡ろうとしたところを、朝倉がちょっと止めた。
 車どおりはそれ程ではないので大丈夫だろうが、現在は団体行動中だ。
 ちょっとは大人になったなと、感涙しそうにむつきが朝倉の頭を撫でた。
 パイナップルの葉のような髪がちょっとチクチクしたが。

「京都はやっぱ日本独特の雅を学ぼうな。はい、この橋の名前が解る人」
「解る人って、書いてあるじゃん先生」

 橋を渡る前にそうむつきがいつもの問題を出すと、美砂が苦笑いである。
 何しろ橋の欄干に名前が刻み込んであるのだ。
 そう思うのは当然かもしれないが、その名前にふりがななどあるはずもない。
 少し経ってから美砂も、他に笑っていた子達も気付き始める。
 渡月橋、これは一体どうやって読むのだろうかと。

「渡る月の橋、わたづきばし……じゃあ、たぶんないよね?」
「ムーンウォークブリッジ」
「ハイカラ、作った人はハイカラ!」
「お姉ちゃん、絶対違うよ。ザジちゃんの冗談だよ」

 村上がとりあえず言ってみるがもちろん違い、ならばとザジが英語読みだ。
 実際にマイケルジャクソンばりのムーンウォークを披露し、鳴滝姉がノリ良く叫ぶ。
 もちろんそれも違うのだが、ちょっとムーンウォークが上手すぎた。
 他の観光客、特にそれを見た外国人観光客がムーンウォークブリッジーと写真を取り捲る。
 ザジではなく、橋を取っていたので今はここにいない田中さんの出番はない。
 またしても間違った日本語知識がとも思ったが、訂正しにいくわけにもいかず。
 せめてもと少しだけ声を大きくしてこの思い届けとばかりに、正解を披露である。

「正解はとげつきょう。まあ、有名な観光地だし、知ってる奴も多かったな」

 出身地である近衛や桜咲はもちろん、千雨やあやかといった常識人枠も。
 あとは四葉や那波、こちらも常識人枠だが半分ぐらいは元々知っていたか。

「神社・仏閣ではありませんが。元々は昔の亀山という天王が名づけ親のようなものです。橋の上空を移動していく月を眺めてくまなき月の渡るに似ると感想を述べたのが始まりだとか」
「見た目は木造ですけど、橋脚と橋桁は鉄筋コンクリート製でしっかり作られてます。欄干が木造なのは、周囲の風景に溶け込ませる為です。なので映画やドラマなどで良く多用されてます」
「この二人がいれば、古い街並みが残る観光地のガイドいらないね」

 夕映と宮崎が補足をし、早乙女が正直な感想を述べていた。
 確かにとその意見は同調しつつ、それじゃあ行こうかと橋を渡り始める。
 道々、可愛いガイド二人が川の名前や、左手後方に見える嵐山を改めて紹介したり。
 地名じゃなくて本当に山だったのかと数人驚いたのは、非常に残念だが。
 大文字焼きを例にだすと、それなら知ってると返ってきたりも。
 ちなみに大文字焼きはお盆後の十六日なので、残念ながら見る事はできない。
 時間を掛けて橋を渡れば、次に目指すは竹林の道なのだが。
 道中の食事処や甘味処、お土産屋に気を取られる生徒を先導するのに苦労しつつ。
 特に縁結びの野宮神社前では、椎名を筆頭に何故か古にまで引きずりこまれそうに。
 そんな苦労が報われたかは不明だが、ようやく目的の竹林の道にまで辿り着けた。

「ここが」

 あくまで修学の旅行なので、いつもの様にうんちくをはさもうとしたのだが。
 とても珍しい事に、生徒達の大半が言葉を失っていた。
 夏のキツイ日差しは竹林の間を通る間に柔らかく、竹の葉が擦れる音は穏やかな風鈴のように囁くように風に声を乗せる。
 竹林という季節にでもなったかのように、夏はいずこかへと消えていく。
 風を肌や耳で楽しむその表情は、姦しい普段とは異なり少しだけ大人っぽく。
 ああ、やっぱり女の子なんだなと感受性の高さに微笑ましくもなったのだが。

「なんだこれ、なにこれ詫び、寂びって奴か?」
「おほほほ、一瞬我を忘れ。思わず大人の階段を登ってしまいましたわ」
「なに言うてんの委員長。大人の階段もなにも、ねえ?」
「うん、委員長はまだだよね」

 本当に一瞬だけ、即座に普段の彼女達に戻り、長谷川達など分かる人には分かる猥談だ。

「知ってた」

 苦し紛れに、分かっていましたよと呟いたが余計悲しく。
 亜子やアキラも、それを上るのは最終日でしょとあやかをこのこのっと肘でつついている。
 当のあやかも頬をぽっと赤らめ、潤んだ期待の眼差し、流し目をむつきへ送っていた。
 これが特別修学旅行でなければ、今直ぐ竹林の奥に連れ込み励むのだが
 そう思ったところで、俺も大概かとむつきはちょっと落ち込んだ。

「ねえ、木乃香。今の私大人っぽかった、高畑先生にお似合いだった? 写真、写メとって送らないと」
「決定的瞬間は逃してもうたな。せっちゃん撮ってたから」
「このちゃん、なにしとるん。うちやなくて、このちゃんこそ!」
「一番気合いれなきゃなんない人が、一番はしゃいでいる件について。帰りたい」

 むつきの恋人以外、神楽坂も普段通り、近衛や桜咲もある意味で何時も通り。
 大丈夫なのかと頭が痛そうな春日が元気がないのでちょっと後でお悩み相談か。
 ただ余りにも普段通り過ぎて、しんみり詫び寂びを楽しみたい他の方に大迷惑だ。

「ほら、静かにしろ。喋るなとは言わないがはしゃぐな。超迷惑だから。大人っぽい魅力的な女の子になりたい奴は静かに」

 そう言うと、それはもう見事な程にぴたっと静まり返った。
 鳴滝姉妹など、喋ってたまるかと両手で口を押さえていたりも。
 ただ強く抑えすぎて呼吸ができず、ぷるぷる小動物のように震えていた。

「昔から嵐山周辺、特に蘇我野は竹林が多くてな。平安時代の貴族が別荘や庵を持ったり。それはもう千年近く愛されてきた場所だ」

 特別修学旅行らしく、歴史をおりまぜたうんちくを披露しつつ竹林を歩く。
 むつきの言葉に耳を傾け、改めて竹林の美しさに心を奪われ。
 注意されるまでもなく、皆静かに雰囲気に心を現れながら竹林を歩いていった。
 てくてくと、それはもうてくれくと。
 そこまで一生懸命歩いたわけではないのに、何故だろうか。
 歩いても歩いても竹林は続くばかりで、中々終わりが見えてはこない。

「あー、それでな。夜にはライトアップされる時期もあってデートコースには」

 むつきも予め調べておいたお話のネタが付き始め、ちょっと脇道へそれたりしていた。
 だが、いくらなんでもおかしい。
 いくら時間の感覚を忘れるような場所とはいえ、時計を見ると十分ぐらい経っていた。
 先に調べた限りでは、竹林の道は百メートル程だったはずだが。
 歩いて十分となるとその五倍ぐらい歩いていてもおかしくはない。
 生徒達に振り返って見ると、物珍しさが先行してまだ気付いた者は少なかった。
 ただ近衛を始め、ある程度京都に馴染みのある者は訝しげにしていた。

「あれ、迷ったか?」

 一本道のはずが、むつきもぼけっと歩いて進入禁止地区にでも入ってしまったのか。
 ふいにそう呟いてしまい、謝って周囲に聞かれてしまった。

「えっ、先生迷ったの。しっかりしてよ、もう。けど一本道じゃなかった?」
「うん、特に脇道はなかったと思うけど」
「竹林に見惚れてたから自信はないけど、たぶん」

 美砂に聞かれアキラ、亜子と伝わっていく。
 それは彼女達が一班であり先頭を行く班だからであり、次に二班、三班と。
 皆が皆、一本道だったよねと隣、前後で喋り始める。
 本当に迷ったのかはまだ不明だが、周囲を見渡しても竹林以外には何もなく。
 仮にここで観光協会に電話を掛けても、現在地が説明できるかどうか。

「あれ、電話繋がらへん。お父様に、詳しい人に聞いて貰おうと思ったのに」
「本当だわ。電波は経っているのに、繋がらないわ。夏美ちゃんは?」
「んー、あ。私もだ」

 ちょっと勇み足で近衛が携帯電話を片手に、繋がらないと呟いた。
 那波や村上を始め、次々に繋がらないと皆が慌て出す。
 善意からした事なのだろうが、少し勝手な行動は謹んで欲しかった。

「おーい、静かにしろ。慌てるな。まだ陽は高いし、慌てる時間じゃない」
「むつき先生、ひとまずここで休憩なさっていてください」
「葛葉と俺で少し先を見てくる。何もなければ、引き返せば良い。そうだな、行きと帰りで二十分ぐらいか」

 ざわめく生徒達を静めていると、刀子と神多羅木がそんな事を言い出した。
 確かにここは一度誰かが本当に正しい道か確認しに行くべきだろう。
 一本道だったはずなので最悪は、このまま竹林を戻ればいいはずだ。

「すみません、俺がぼけっと先頭を歩いたばっかりに。お願いします」

 むつきが非常に申し訳無さそうに頭をさげると、何故か苦みばしった顔をされた。
 神多羅木は口ひげも濃く、サングラス姿なので分かりにくいが、刀子はそれはもうありありと。
 怒らせちゃったかなとむつきは思ったが、実はその間逆。
 むつきに意味なく謝らせたと怒っているのである。

「それでは、確認しに参ります。刹那、お嬢様を」
「はい、刀子お姉ちゃん」
「むつみ、あまりふらふらするな。鳴滝姉妹、むつみの手を片方ずつ頼む」

 鳴滝姉妹は珍しく頼りにされ、分かりましたと神多羅木に敬礼である。
 なんだか物々しいなとも思ったが、むつきは一旦休憩と生徒を日陰に移動させたり、しゃがませたり。
 後は気分が悪そうな子はいないかチェックしたりとできる事を。
 むつきが忙しそうに生徒をチェックする中で、一部の生徒がこそこそと話し合う。

「見られているでござるな。位置はまだ特定できぬが、竹林の何処かから」
「私の眼でもまだ、わからんな。しかし、こちらを襲うつもりはないか?」
「ふと思ったんだけど」

 裏の世界を知る知らないに関わらず集められた二班の中で、珍しく春日から言い出した。

「向こうって手先の忍者に裏切られて情報不足ッスよね。で、二人の魔法先生らしき人が離れた。ここまでは良いッスか?」
「刀子さんは、ある意味西では有名だし。神多羅木さんも長年コンビを組んで有名だろう。だが、それがどうかしたか? 大事なのはお嬢様の身柄だ」

 それこそが最重要だと桜咲が言ったが、春日は別の意味で顔を青くしていた。

「その二人が離れる前にこそっと会話したのがむつき先生。しかも、生徒全員を魔法先生と確定の二人に任されて」
「おい、馬鹿止めろ。下手をすれば、竹林の道が今日限り消えるぞ」
「しかし、美空殿の言葉も無視できないでござるな。隠れながら気配が漏れ出る事から察するに未熟か、血気盛ん故か。一応、超殿やエヴァ殿にも」

 注意をと長瀬が言おうとしたところで、ガサリと竹林の奥で何かが動く音が。
 何者と長瀬達が一斉に身構えた瞬間であった。
 いや長瀬達のみならず、この静かな竹林での突然の物音に殆どの者がそちらを見ていた。
 だから全くの逆方向から黒い影がむつき目掛けて飛び出したのに気付いたのは極僅か。
 黒い影が鋭利な爪らしきものを無防備なむつきへ伸ばした時だ。

「はァッ!」

 ゴンッと影に向かい拳をぶち当てた古が、殴り飛ばした影を追って竹林に飛び込んだ。
 あれ今何かとむつきが振り返った時には、その姿は既にない。
 まだ裏の世界を知って数時間の古だけに追わせては非常に危険だ。
 だがむつきはキョロキョロとしている為、咄嗟に竹林に飛び込む隙がなかった。
 近衛第一の桜咲でさえ、ちょっと慌てている。

「先生!」

 そんな時に真っ先に機転を利かせ手を上げたのは春日であった。

「おう、どうした春日。今突風あったけど、目にゴミでも入ったか?」
「漏れそうッス。二人が戻ってくるまで我慢できそうにないから、竹林の奥でこそっとしてくるッス。美少女中学生のアレだから、すくすく育つって事で!」
「以下同文でござる」
「遺憾ながらな。良い判断だ、春日」

 こら待てと怒鳴るむつきを無視して三人もまた古が追って行った影を追った。
 春日だけは非常に不本意そうに、やっちまったという顔をしながら。









-後書き-
ども、えなりんです。

むつき、無自覚だが死にかけるの巻。
殴りかかったのはご存知あの犬っころです。
古菲になんとか迎撃されましたが。

さて、今回と次回はさり気に美空の活躍回です。
流石に戦場では真名や楓の機転には及びませんが。
日常の中なら彼女の方が機転が利くイメージです。
日々悪戯とかしてて、その辺鍛えられてそうで。

それでは次回は水曜です。
エロ回はもう少し先です。



[36639] 第七十三話 人生最強更新中!
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/10/02 21:03

第七十三話 人生最強更新中!

 むつき達と別れ、先に道を確認しに行くと言った神多羅木と刀子であったが。
 やはり思った通り、行けども行けども竹林は延々と続き、やがて置いて行ったはずのA組の子達の集団の最後尾が見えた。
 恐らくは捻じ曲げられた空間を一周してきたのだろう。
 いくらなんでも先に行って後ろから現れては辻褄が合わない。
 もう少しだけ待ってくれと心中でお願いしつつ、再度引き返して距離を開けた。
 何か戦闘が発生しても、迂闊に巻き込まれないようにだ。
 改めて状況を整理する為に、落ち着こうかと言葉なく視線で意志の疎通をはかった。
 今回護衛対象が多いとはいえ、これぐらいの状況は今までに何度も潜り抜けてきた。
 神多羅木はタバコに火をつけ、刀子は長い髪を櫛で梳いてそれぞれ焦る心をリセットさせる。

「刀子、この呪術に覚えは? 空間系のようだが」
「私は剣士だから門外漢だけど。呪術師が良く使う手ね。破壊そのものは簡単なんだけど、力の源である印を探すのが面倒よ」
「そいつは困ったな」

 全く困って無さそうに、言いながらふうっと神多羅木が煙を吐き出した。
 もくもくとやけに煙が多い、女子生徒が多い為に吸えなかった鬱憤を晴らすように。
 いや、もはや小火と見間違えられてもおかしくはない量になりつつあった。
 刀子もタバコの煙にまかれながら文句一つ言わず、髪を梳き続けている。

「見つけた。竹林、傷つけるなよ。何処まで作られた空間かわからん」
「神鳴流は、そういうの得意なの。知ってるでしょ」

 ふいに呟いた神多羅木の言葉に何一つ疑問をさしはさむ事はなく。
 刀子は櫛を胸ポケットにしまい、代わりに軽く手を振って袖口から匕首を取り出した。
 そのまま神多羅木が見つけたと教えてくれた方向へと振り返らず、腕だけを振った。

「神鳴流奥義。斬岩剣、弐の太刀」

 竹林をそよがす穏やかな風を引き裂く鋭い風がピンッと走った。
 一瞬だけ竹の葉がそよぐ音が大きくなったかに思えたが、竹林は何も変わらず。
 穏やかな風に葉や節くれだった幹をそよがすのみ。
 それから数秒後、ふっと周囲が暗くなっては巨大な物体が落ちてきた。
 竹林の道を陥没させる程に重く、巨大なそれは岩で出来たような蜘蛛であった。
 大きな牙のある顔面には巨大な傷が生まれており、刀子が放った技のせいだろう。
 その巨大な蜘蛛の上には、肩を出すように着物を着崩した黒髪の女性がいた。
 ちょっぴり涙を零して半泣き状態の天ヶ崎千草である。

「あっ、ぶないやんか。旧友に、なにするんや!」
「人を突然空間系の呪術に閉じ込める人を旧友とは言わないわ」
「なんだ、知り合いか?」
「私が西に残り続けていたら、将来的にコンビを組む予定だった相手よ」

 どうりでと、衛生からの映像にて見覚えがあるような反応をしていた事を思い出した。

「ねえ、千草。お嬢様が実家に帰るだけじゃない。西は何をそんなにカッカしてるわけ?」
「ふざけへんで。お嬢様が帰省するだけならまだしも、それに西洋魔法使いはついてくる。さらにクラスまるごとどすえ。あれやれこれやれ、普段の仕事はスケジュールの無茶な短縮化!」
「苦労、してるんだな」
「他人事みたいに、事の張本人が黙っとき!」

 女には口では勝てんと、残り少ないタバコを大事に吸い始めた。
 またあの集団に戻れば、しばらく吸えない身である。

「今気付きましたえ。あんさん、刀子が西を抜けた時のええ人?」
「わ、別れた……」
「は?」
「別れたのよ、何よ文句ある!」

 流石にそれは禁句なので神多羅木が、むしろ早く戻りたいと視線をそらした。
 眼はサングラスの奥なのでそれが何処まで意味のあった事か。
 訝しげにした千草のおかげで、刀子から自分から少し言いづらそうに告白する。
 二度聞かれた為、気を使えとばかりに大声で言わされた。

「別れ、あは。あんだけ啖呵切って抜けておいて、別れた。あはは、騙されたえ。やっぱ東の魔法使いに騙されてたんやえ!」
「違うわよ。そのちょっと……セックスレスが、兎に角違うのよ。それにアンタこそ、もう若くないくせにまだそんな格好。どれだけ自分を安売りしてんのよ!」
「これぐらいせえへんと、若い巫女に勝てへんのや。はっ、ばつ一。やーい、ばつ一」
「それが何よ。今の私には可愛い年下の恋人がいるもん。一昨日だってすっごく可愛がって貰って。刀子さん可愛い、綺麗。すっごい激しく一生懸命で。もう私がいないと駄目、みたいな」

 男も女も、見栄の張り合いは虚しいなと神多羅木はもうしゃがみ込んでいた。
 自分に無関係な女のキャットファイトなど、見ていて楽しい程にサドでもなく。
 やはり女は癒し系だと、むつみを今夜は可愛がろうと決意したり。
 関西呪術協会からの手出しも、この程度なら然程気にする程でもない。
 と思った所で、凄く重要な事を思い出した。

「あーっ、天ヶ崎だったか?」
「なんや、西洋魔法使いが慣れ慣れしい!」
「アンタ帰ったら一応、自分の通帳確かめた方が良いぞ。あのクラスに、凄く科学技術に詳しい奴がいてな。衛星からアンタを発見して個人特定したばかりか、ボタン一つで残高ゼロのピンチだ」

 最初天ヶ崎はそんな神多羅木の言葉など信じてなどいなかったのだが。
 刀子がやばっと何かを思い出したように顔色を変えた所で、少しだけ信じる気になったようだ。
 だがたかが女子中学生が衛星を使ったり、勝手に他人の口座を弄ったりなど完全に信じられるはずもなく。

「わ、私の貯金。まさか……素敵な彼と、お座敷のあるお家で柴犬飼うて」
「いえ、まだ大丈夫……のはず。千草、あのなんて言ったら良いか。まずは貯金よりも、可愛い年下の彼じゃない?」
「私は年上が好きどすえ!」

 中途半端に天ヶ崎を怒らせる結果になっただけのようだった。

「もう絶対許したらへんえ。裏切りもんの刀子も、そこの髭……よう見たら、ちょっとダンディ」
「すまんな、ちょっと遅かった。これから沖縄に結納に行く予定だ」
「死ねぇ、全部全部死ねぇ。式神、ありったけ来や!」

 もう主義主張も全部かなぐり捨て、目の前の敵は滅殺とばかりに。
 天ヶ崎は着物の袖口から呪符をばらまき、式神を召喚しまくっていた。
 あまりに召喚し過ぎて許容量を超えてふらっともしていたが。
 巨大蜘蛛の追加から、小猿に大猿、前鬼に後鬼とよりどりみどり。
 ただ蜘蛛以外は本人の趣味なのか、可愛いヌイグルミのような外観であった。

「あの歳で少女趣味か」
「あの子、実力はあるんだけど。あの趣味のせいで気が抜けるって周りから敬遠されてたのよね。まだ治ってなかったんだ」
「ほっときやっ!」

 どうやら、まだまだ戦闘はこれからのようで。
 二年A組が竹林から抜けるのには時間が掛かりそうであった。










 一足先に謎の影を追った古であったが。
 別に危険に陥ったり、苦戦してなどはいなかった。
 かといって彼女が類稀なる才気にて、謎の黒い影をボコボコにしている事もなく。
 急いで追いついた長瀬、龍宮、春日はその光景を見て思い切り脱力した。
 一体この空間はどうなっているのか、竹林の中でも少し開けた場所での事である。
 衛生からの映像でも見た黒ずくめの少年、年の頃は小学校高学年から中一ぐらいだろうか。
 元気に飛び跳ねるツンツンの髪を持った学ランの彼、犬神は半眼でしゃがみ込んでいた。
 器用に膝に肘をついて手のひらで顔を支え、あきれ返った様子だ。
 ただ右頬は真っ赤に腫れあがっており、古の一撃が直撃した様子であった。
 同じく衛生で見たくすんだ金髪の少女は月詠、彼女は同年代ぐらいだろうか。
 小太刀日本を手にウキウキと、犬神とは対照的な様子で眺めていた。
 そう二人が何を眺めていたかと言うと、竹林の中でふんふん腕を上下に振っている古であった。

「おかしいアル。気が出ないアル。昨日とさっきは出たアルのに!」

 敵の少年少女に見守られながら、古は必死に気を出そうと奮闘していた。
 どうやらまだ気の扱いが不安定なようで、苦労しているようだ。

「姉ちゃん、初心者じゃん。凹む、女にしかも初心者に迎撃された。月詠の姉ちゃん、この姉ちゃんの相手任せた。ああ、俺もうやる気でえへん」
「うちかて、まだ御免どすえ。拳法家なのは不満ですけど、気を覚えたら大変美味しそうですから。もう少しだけ待ちましょう、小太郎君」

 ついに犬上はうがあっと寝転び、自分から襲いかかっておきながら職務を放棄。

「これ、どういう状況ッスか。乙女の羞恥をかなぐり捨てたアッシの勇気は!?」
「拙者らも同様でござるよ」
「出来れば、ここらで引いて欲しいのだが。強化BB弾とは言え、撃てば撃つほど懐が痛むんだ」
「もう、また女かいな。俺も千草の姉ちゃんの方に行けばよかった。西洋魔術師の男、一人だけやんか。さっきの兄ちゃん一般人やし」

 戦いたい戦いたいと、犬上はもはや駄々っ子同然。
 おいおいこれが関西呪術協会かと、下っ端とは言えどうにかならないのか。
 駄々っ子と言えば、古もちょっとそうなっていた。

「別に気がなくても戦えるアル。けれど、全力が出せないのは相手に失礼アル。でろー、気でるアル!」

 段々と駄々っ子が怪しい踊りに変化し始めもしている。

「古、落ち着くでござる。闇雲に力を望んでも古の心は答えを返してはくれんでござる。先程、何を思い乙姫先生を助けたでござるか? まずはそこからでござる」
「何をアルか?」

 長瀬に言われ思い出そうとするも、本当に咄嗟の事で殆ど覚えていない。
 何故、犬上の拳の迎撃は的確で体はちゃんと普段通り、いや普段以上に動いていた。
 何が違った、何の為に拳を拳法を振るった。
 云々と唸る事数十秒、ピンと閃いた瞬間に古は赤面していた。
 それはもうぽっぽと、その意味が分からなかったのは幼い犬上ぐらいか。

「先生を守りたかった。傷つけられるのは、嫌アル。先生は普通の人ある、小太郎の勘違いだったみたいだけど、理不尽な力に傷つけられるのが。あっ」

 なるほど、だからとすっと今までの疑問が心に落ちてきた。
 親友である小鈴が何故に、裏の世界を消そうとしたのか。
 拳法ではなく、恋に生きろと賭けたのか。
 純粋に自分を鍛える戦いのみ望んでいては、これに気付く事は無かったろう。
 力を得たものはそれを振るいたいと思うのは当然。
 古だって、日々鍛えた力を凌ぎあう為とはいえ振るいたいと考えている。
 だが、同じ拳法家や裏の世界の住人だけでなく、全く関係ない人に振るいたいと思う者が絶対にいないとは言えない。

「今まで私は自身の為に、古家の為に力を欲してきたアル。けれど、それじゃ駄目アル。この力は無辜な人の為に。乙姫先生を守る為に」

 そう自覚した途端、風が、黄金の風が古の体から自然とあふれ出していた。
 然程意識して練り上げていないにも関わらず、後から後から溢れてくる。
 これには女ばかりと嘆いていた犬上も、駄々っ子から跳ね起きていた。
 男女に関係なく、心がわくわくする。
 好敵手になり得る相手を前に、うずうずと好奇心旺盛な瞳を向けていた。

「姉ちゃん、関東からはるばる来たんや。関西とか関東とか、関係なしにやろうや」
「うむ、技術を比べる決闘は望むところアル。今の私は恐らく、まだ短い人生ながら最強。力は目的あってこそ意味を成す。愛、かどうかは分からないアルが。守りたい!」

 そう叫ぶように拳を握ると、あふれ出していた黄金の風が凝縮された。
 そのままフッと消えたかに思えたが、古の体をわずかに覆っていた。
 方向を見失い彷徨っていた風が、指標を得て安定して流れ出したかのように。

「まさしく天才。覚えたての気をあそこまで流暢に操るとは。ところで、真名、美空殿。どうしたでござる?」
「いや、世界が違うって言うか。龍宮さん、もっと右。背中が痒くて」
「同感だ。次は私だ。背中が痒くてたまらん」

 長瀬はこれぞ初恋と眩しげにうんうんと頷いていたのだが。
 春日や龍宮は見ていられないとばかりに、お互いに背中をかきあっていた。
 甘酸っぱいああいうのは苦手だとばかりに。
 ピンクとまでは行かないが、柑橘系の匂いがしそうな空間に少しばかり勘が鈍っていた。
 楽しそうに犬上と古が拳を交えあう中で、一人足りなくなっていた。
 月詠、そういう名であったはずの小太刀を日本持った少女が消えてしまっている。
 これまであえて指摘こそしなかったが、龍宮にはあの人種が何か匂った。
 古のように戦いを望む性質だが、その一歩先、血と戦場を求めるタイプだ。

「まずいぞ、呆れ果てて帰ったならまだしも。皆がいる方に行ったら」
「くーちゃん、くーちゃん。ドラゴンボールしてる場合じゃないッスよ。あの月詠って子がもしかしたら先生がいる方に!」

 春日の言葉に、楽しい時間を捨ててまで古が振り返っていた。

「なんだとアル!?」
「姉ちゃん、余所見しんといてや。こんな楽しいのは久しぶりや。女も捨てたもんやあらへんな!」
「し、親愛的ィ!」
「ごばっ」

 咄嗟に親友の口調が移り、古は犬上を上空へと竹の葉が擦れる空へと打ち上げていた。
 まだ十四年という短い生だが、生涯最強の名に恥じぬ一撃であった。
 そのままどさりと落ちた犬上を置いて、走って戻っていってしまう。

「嘘やろ、急に拳のキレが、なんでや。技術は劣っても気の扱いはまだ俺が」
「愛でござるよ、愛」
「あ、愛ってなんや……ぐふっ」

 生涯に渡る疑問を呟きつつ意識を失った犬上を長瀬が抱えあげた。
 捨て置くには忍びないし、根っからの悪人でもなさそうだ。
 他に誰もいない事を確認だけして、長瀬達も急いで戻り始めた。

「やばいッス、やばいッス。桜咲さん、このか一筋だし。くーちゃん正気じゃないし」

 下手に個々が強いだけあって、連携も何もないと一番焦っていたのは一番非協力的だった春日であった。








 一匹の獣が竹林の中を動き辛そうな白ゴス姿で駆け抜けていた。
 気に目覚めつつある才気溢れる拳法家の少女も美味しそうといえば美味しそうだったのだが。
 やはり好みから言えば、同じ剣術家が望ましい。
 天ヶ崎の方に一人そういった匂いの人がいるが、なんとなく歳が行き過ぎている。
 そんな折、竹林の間をぬって流れてきた匂いに、香しい匂いが混じっていた。
 同じ神鳴流それも普通の人間ではない、混じり者。
 自分と同じ歪みを持ち、同じ剣術家、それも同じ流派である可能性が高い。
 天ヶ崎の方の人が神鳴流を使った時の独特の気の流れが発生していた。
 ならば連れ立って来ている剣術家も恐らくはと考えるのが普通だ。

「あはっ」

 関西だ関東だと言いつつも、何処か甘い天ヶ崎や犬上とは異なる笑み。
 瞳の色が黒く染まり、三日月に割れ猫の瞳の様に金色に輝いていた。
 ニッコリ微笑んでいれば可憐とさえ評されそうな少女の正体は、古が恐れたばかりの、龍宮が予想した通りの血と戦場を求める悪鬼であった。
 二年A組の中の誰かに同族意識を強く持ち轢かれつつ、間逆の感情を抱く。
 切り刻みたい、轢かれた同族と死の果てまで切り結びたいと竹林を一気に飛び出した。

「見つけましたえ!」
「龍宮達は、このちゃん伏せて!」
「えっ?」

 飛び出した高さが高かった為、皆その言葉が何処で発せられたのか分からなかった。
 まさか上と見上げるより早く、月詠が振るった斬撃が集っていたA組の集団の中に落ちた。
 間一髪、夕凪という銘の太刀を桜咲が抜いて誰もいない場所に誘導したのだ。
 だがアスファルトが深くえぐれるように割れ、土煙が上がり一体何事だと悲鳴が上がる。
 パニックに陥るクラスメイトの中にて、桜咲が落ちてきた月詠と鍔迫り合いをしていた。

「何者!」
「あはっ、やっぱり神鳴流の。月詠と言います、よろしゅう」

 土煙の中、何時誰が飛び出してくることか。
 こんな場所で、一般人がいる場所で正気の沙汰ではないと桜咲の剣が鈍る。
 それは普通の事かもしれないが、決して表に出すべきではなかった。

「たぶん、せんぱい? せんぱい、どうして全力をだしてくれはりませんえ?」
「この状況で出せるはず」
「なら、出せるようにしてあげますね」
「え?」

 あろうことか、月詠がとった行動は異常も異常。
 一般人から裏を隠すどころか、裏を表にだそうとその一般人へとその凶刃を向けたのだ。
 土煙の中で咳き込み、涙目で現れたのは明石であった。

「ほら、一人ぐらい死んだ方がせんぱいもやる気が出るでしょ?」
「あれ、なにこれ。時代劇? 突然、時代劇の撮影が。桜咲さんって芸能人だったっけ!?」
「明石さん、逃げ」
「さよなら」

 桜咲の太刀を抑えた小太刀とは逆、もう一本の小太刀にて明石の首を狙い横一文字に振り払う。

「アデアット!」

 その凶刃が首の皮一枚を切りつけた瞬間であった。
 必死の叫び声を上げた何者かが、晴れ始めた土煙を裂いて飛び込んできた。
 神速を更に超えたスピードで、明石を抱きかかえ転がっていく。
 自分の剣速より速いと、ニヤリと笑った月詠の一瞬の隙を桜咲は逃さなかった。
 間合いが近いので太刀を翻し、柄頭で月詠の顎を跳ね上げたのだ。
 浮いた小さな体の腹部を更に蹴り上げ、降りてきた空へと蹴り上げ返した。
 間髪おかず、それを見ていた春日が目を回している明石を腕に抱きかかえながら叫ぶ。

「くーちゃん、上。狙って!」
「任されたアル。キツイ、愛の一撃アル。人生最強更新中!」

 顎と鳩尾、ダブルで急所を攻撃され意識が飛び中の月詠を、さらに竹林から飛び出してきた古が反対側の竹林へと殴り飛ばした。
 それこそ息の根を止める事を覚悟した一撃だったが、狂人は強靭だった。
 殴り飛ばされた衝撃で我に返り、くるりと猫のように体の向きを変え一本の竹に足をつく。
 しなる、千年の歴史を積み上げてきた竹林の竹一本が一人の少女を楽々と支えた。
 反発するように再び月詠は古へと撃ち出され、無防備なその一瞬を狙った。
 だがたった一人で戦う月詠とは違い、彼女達には味方が大勢いた。

「古、体を捻れ!」

 叫んだのは、まだ竹林の中に伏せていた龍宮であった。
 龍宮の言葉に宙で僅かに体を捻った古の表面積が減った部分へと銃弾が撃ち込まれた。
 小さな強化BB弾を次々に月詠は小太刀で弾いたが、次いで撃たれたショットガンは無理だった。

「古菲さん!」

 撃ったのは田中からショットガンを預かっていた絡繰である。
 同時多数ありったけ放たれた玉など、防ぎようがない。
 体中を強化BB弾に貫かれ、今度こそ竹林の向こう側へと月詠が吹き飛ばされていった。
 今度こそ竹林を少し破壊しつつ地面に叩き落されたが、それでもまだ狂気は消えない。
 土煙が晴れるまで時間もなく、このままではいっそ命を奪うしかないのか。
 誰もがそんな覚悟をした時、動いたのは状況をつぶさに観察していた小鈴である。
 ハンドガンに一発の銃弾を込めて、倒されながら起き上がろうとしていた月詠を撃った。
 銃弾を受けた次の瞬間、透明な球体少し風景が滲むそれに月詠が包み込まれた。

「こんなもの、せんぱい。まだ、まだ殺しあって」
「世界でも斬れない限り無駄ネ」
「強制転移、精々が三キロ程度。直ぐに直ぐに戻ってきますえ!」

 自分を包む力場を咄嗟に悟った月詠が、そんな捨て台詞と共に消えた。

「確かに三キロ普通に飛ばす程度なら。でも、地下に三キロだったら?」

 小鈴のその言葉を聞かぬままにである。

「超りん、それリアル石の中にいる。痛てて。うわ、足がぱっくり切れて。痛い、痛たた」

 間一髪、加速装置付きシューズという魔法の道具で明石を助けた春日が笑いながら痛みを訴えた。
 間に合った事は間に合ったが、右のふくらはぎがぱっくりと切り裂かれてしまっている。
 あまりに見事な切れ方か、または筋にそったものか出血はさほどでもないが傷は深い。
 この土煙の中で、あまり長時間放置しているとばい菌がはいりそうだ。
 ならばと犬上を抱え送れてやってきた長瀬が、懐から薬草を取り出し貼り付け胸に巻いていたさらしで応急処置であった。
 忍びだけあって手早い所作に、春日の訴えに反応したむつきが遅いぐらいだ。

「おい、その声は春日か。皆、土煙がはれるまで迂闊に動くな。ぶつかり合いたくねえだろ」
「動きたくても動けない。なにこれ」
「きゃははは、重力百倍」

 釘宮や椎名の楽しそうな声に続き、動きたくてもと次々に訴えがあがる。
 むつきは怪我でもと焦るばかりだが、その実は違った。

「パニックというものは、起きた後での怪我の方が多い。覚えておけ、ひよっ子ども」

 一般生徒が慌てて怪我をしないように、魔力の糸で抑えてくれていたのだ。
 といっても、当人はむつきが悲しむからという理由ぐらいであろうが。
 あと、一応は同じ秘密を共有するひかげ荘メンバーを守るためにも。
 聞いたら本人は一生懸命に否定するだろうが。

「うし、ようやく煙がって。なんじゃこりゃ!」

 緩やかな風も考え物で、時間をかけてゆっくりと土煙は晴れていった。
 改めてむつきが周囲を確認すると、なんという事だろうか。
 自分達が休憩していた丁度真ん中辺り、地面がアスファルトごと抉れていたのだ。
 まさかガス爆発でもとも思ったが、そこまで深いわけでもなく。
 特に異臭もしないと鼻をすんすん動かしては、残っていた土煙を吸い込んでくしゃみをしていた。
 先生汚いと笑われ、うるせえと鼻をずるっとしている。

「危ないかもしれないから、ちょっとだけ移動するぞ。それから点呼だ。おい、春日。お前その足、どうした?」
「たはは、瓦礫か何か飛んできて。楓ちゃんが忍秘伝の薬でぱぱっと応急手当してくれたッス。超痛い」
「秘伝ではござるが、忍者ではござらんよ」
「そっか。春日は俺が背負うとして、長瀬。お前は誰を背負ってんだ?」

 痛い痛いと喧しい春日には、普段よりちょっと優しくして背負ってやった。
 竹林を抜けたら一先ず、病院へ連れて行かなければならないか。
 そう考えていると、長瀬が抱きかかえていた一人の少年の存在に気付いた。

「どうやら、何処かの修学旅行生らしいでござる。巻き込まれたようでござる」
「なら一先ず一緒にだ。後でそいつの学校も探す」
「あ、いえ。何処か見覚えのある。恐らくは、現地の学生が遊びに来ていたのではないかと」

 探しても見つからないだろうと、京都出身である事を使って桜咲がそう言い出した。
 郷に入りてはではないが、むつきも桜咲がそう言うならと深くは突っ込まなかった。
 起きてから当人に聞けば良い問題でも有るし、ガス爆発か何かがあった場所から少し全員で離れていった。









 もはや竹林への被害を考慮できなくなっていた。
 刀子と天ヶ崎が知り合いといえど、そこは所属する組織が異なるだけのプロだ。
 多少私情にかられた口喧嘩こそあったが、仕事はきっちりこなす。
 天ヶ崎は召喚し過ぎた式神を全て一度に操ろうとせず、弱い者はオートで。
 これと見込んだ自信のある式神だけを操り襲いかからせた。
 そのこれと見込んだ式神が可愛い外観なのは、プロのこだわりの範囲か。
 刀子と神多羅木も、オートの式神は無造作に手当たり次第に破壊する。
 それが小猿のような小さな式神ならば問題ないが、特に巨大蜘蛛が問題だった。

「心が痛むな」

 そう呟きながら風の塊で巨大蜘蛛を吹き飛ばせば、当然竹林がへし折れ押し潰される。
 千年の歴史か人の命か、とりあえずそれが自分の命なら大事にするのが普通だ。
 呟きの内容に関わらず、神多羅木はあっさりしたものであった。

「これ、困るの関西呪術協会じゃないのかしら。千草、まだやる?」
「せやな。ここら一帯の式神全部倒したら終わりますえ」

 一帯といっても当初から半分以下に数を減らし、天ヶ崎はそれ以降召喚もしていない。
 さあもう一頑張りと、神多羅木もびっくりな気楽さであった。

「やる気を失くすな。目的は既に達した感じか」
「貴方、やる気を出した事があったかしら?」
「そうだな、最近だとむつみを抱いた時ぐらいか」

 そりゃやる気違いだと、青筋を額に浮かばせながら刀子はまた一匹鬼を切り裂いた。
 一応は周りへの被害を考慮して丁寧に対処していたのだが。
 天ヶ崎の様子からも、この空間内の被害は表に影響しないのだろう。
 もういいやと神多羅木に目配せし、準備に入らせた。

「ディグ・ディル・ディリック。ヴォルホール」

 当然、無防備になる一瞬を狙って式神が殺到するが刀子が代わりに一手に引き受ける。
 多少負担は増えるが、堪える程ではない慣れているという意味で。

「おっ、これが噂の詠唱魔法どすえ」

 巻き込まれてはたまらないと、天ヶ崎が距離を空ける様に後ろに跳んだ。

「逆巻け夏の嵐、彼の者等に竜巻く牢獄を」

 素早く神多羅木が詠唱を完成させ、刀子が目の前の巨大蜘蛛を蹴り飛ばし下がった。

「風花旋風、風牢壁」

 そう最後の詠唱を済ませた瞬間、神多羅木の間の前に巨大な竜巻が生まれた。
 竹林ごと包み込むような巨大な竜巻は式神を巻き込み巻き上げ、外周を集束させていく。
 そのたびに式神を巻き込み斬り裂き、一匹また一匹と元の呪符に戻していった。
 纏めて一掃、ただし最初に危惧したとおり竹林の一部もまた破壊してしまっている。
 さすがの神多羅木も、後始末が大変だと溜息をついている。
 そして竜巻を手の平で操るように、ギュッと拳を握り上げた。
 集束の速度が一気に上がり直径一メートルもなくなり、最後にはすべて消えた。
 あれだけいた式神もそれを巻き込んだ風も、あと少しの竹林も。
 残ったのは竜巻の名残である夏には嬉しい微風だけだ。

「さて、全て倒したわよ千草」
「倒したのは俺だがな」

 守ってあげたでしょと軽いやり取りの後、改めて尼崎を見ると肩を竦めていた。
 それからややおざなりな拍手と気安いものであった。

「腕が衰えるどころか、随分と鍛え上げたものね。離婚して、やる事なくなって剣術にでも打ち込んでたん?」
「ぶち殺すわよ」

 大怖いと相変わらずの女の戦いが繰り広げられそうであったが。
 さすがにもう十分だろと嫌々、神多羅木が間に割って入った。
 クラスメイトの方が戦力過多とはいえ、余り放っておくのも怖い。
 自分達コンビでもあの戦力は落とせないが、万が一という事もある。

「東の戦力調査ってところか?」
「ご明察、刀子が来るってんでうちにお鉢が回って来たんどすえ。知った仲、刀子は西も東も知っとるから。戦争なんてごめんやろ。すんません、内密にってところや」
「だと思った。長は本当にこの件を知らないだろうけど。やっぱり、貴方過激派に入ったのね」

 文句あるかと天ヶ崎が別の意味で剣呑な表情になったので、刀子も両手を上げて何も言わなかった。

「まあ、これから結婚する身なんで戦争なんて真っ平だ。俺はそれが答えだ」
「以下同文、馬鹿じゃないの。そんな事より恋の戦争の方が忙しいのよ」
「刀子は兎も角、お髭の魔法使いも話が分かりやすくて安心したわ。過激派でも色々おりますえ。慎重派から極右派。極右といえば、神鳴流から変なの使わされたけど、なんやったんやろ。小太郎と同じで大人しゅうしとけ言うたけど」

 嫌な予感がしてきたと渋面になる天ヶ崎を前に、刀子達は急いで戻る事になる。
 そして結果を知り、一先ず天ヶ崎は土下座する事になった。
 自分の貯金を守る為に、組織の面子も何も全部捨て去りとにかくそうした。









-後書き-
ども、えなりんです。

今回、特にむつきが目立ってなかったので、題名は古のセリフから。
滅多にない戦闘シーンはほぼ、魔法関係者のみ。
若干明石が巻き込まれましたが、もちろん足を突っ込みなどしませんよ。
折角、春日ががんばってくれたんですから。
今回のお話の半分以上は、春日を活躍させたかったからかもしれません。
普段ぶうぶう言ってるけど、最終的には身内が危なければ頑張りますよと。

まあ、彼女がやらなくても最終的にはエヴァがでばってはいたでしょうがw

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第七十四話 俺の教職としても道はどっちだ
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/10/05 21:32

第七十四話 俺の教職としても道はどっちだ

 竹林の道でむつきが道を間違えるというトラブルはあったものの。
 近衛の実家から派遣された天ヶ崎の手により、無事に通常の道へと戻る事ができた。
 謎の爆発についても各所への連絡はしてくれると言う事で、観光の続き。
 とは言っても竹林の道で随分と時間を使ってしまっていた。
 予定通りにスケジュールをこなすには時間が足りないので、近くの野宮神社の参拝に変更となった。
 むつきは学問の神様でと言う事で選んだのだが、同時に良縁、子宝の神社でもある。
 おかげでお嫁さん以外にも何故か複数の視線に晒されお腹が痛くなったりしつつ。
 陽も暮れ始めたので田中さんを呼んで、超包子の車両にて一路近衛の実家に向かった。
 途中何度か、天井が喧しくなり、また古かとも思ったが全員車両内にいた。
 小鈴が悪い笑顔でにこにこしていたのが、かなり気になったが。
 近衛の家についてから、それどころではなくなった。

「なにこれ、玄関とかじゃなくて鳥居じゃねえか。てか、家どこよ。滅茶苦茶、早まった気がする」
「桜咲さんがお嬢様、お嬢様って言うのが分かるッスね。てか、竹林被ってる。先生、竹林の道に行かなければ妙なトラブルもなかったんじゃ」
「おい、止めろ。俺の心が折れたら共々崩れ落ちるぞ」
「先生素敵、惚れた。もう、この背中から離れない」

 はいはいっと、足を怪我したままの春日を背中で背負いなおし改めて見上げた。
 朱色の大きな鳥居は何処の神社でも見られるのだが数が違う。
 竹林の道のように両脇を竹林に挟まれた道に一定間隔で鳥居が設けられている。
 しかもその道は一体何処まで続いているのか、見当もつかない。
 なにせ続く先が向こうに見える山に直結しているからだ。
 ひかげ荘も百階段や山の中腹にあるが、およそ規模が違ってしまっている。

「知ってはいたですが、木乃香さんお嬢様だったんですね」
「凄く広い憧れてしまいます」
「そんな事あらへんよ。辺鄙なところやし、せっちゃんが来てくれるまで友達一人もおらへんかったし」

 夕映や宮崎に率直な感想を言われ、近衛は少し困った顔で笑っていた。
 どうやらあやかと同じく、あまりお嬢様お嬢様とは言われたくないらしい。
 特に同世代のそれも友達から。
 小さい頃の唯一の友達とあらば、桜咲にべったりなのも多少は理解できた。
 そこで百合ん百合んになるのは女の子だからセーフだが、男はアウトだ。

「くっ、木乃香も刹那さんもなんで男に生まれなかった。古い家に生まれた跡継ぎと選ばれた友人。やがてその友情が愛情に、現代に蘇る衆道。ぢぐしょぉっ!」

 拳を握り締め早乙女が血涙でも流しそうになり、同じ思考だった事に少し凹んだ。
 それからキャッキャとはしゃぐ生徒を引率して、長い竹林を歩いていく。
 本当にもう、先にスケジュールを近衛の父親に知らせておくべきだった。
 春日の言う通り、竹林の道とほぼまる被りである。
 後ろの方からも、やけにチクチクと視線が突き刺さる気がした。
 思い切り被害妄想で、実際にチクチク刺されているのは背負われている春日であった。

「やばい、死ぬ。桜子とくーちゃんの視線だけじゃない、命。命キッケーン!」

 どんだけ生徒をたぶらかしたと、あらぬ方向から春日に疑いを掛けられた。
 鳥居のある竹林を過ぎると振るうの山になったが、それが普通かどうか。
 足が疲れたもうだるいと一部がぶうぶう言い始める程だ。

「先生疲れた。美空、そこ代わんなさいよ。アンタばっかずるい」
「ちょっと足、アッシの足見て美砂ちゃん!」
「おいおい、引っ張るな柿崎。体力足りない奴は有り余ってる奴に借りてろ」

 体の小さな宮崎や夕映、他に葉加瀬などクラスの中でも体力のなさそうな者はと見渡す。

「だらしねえな、姉ちゃん達。やっぱ女はあかんで、パワーが足りん」
「こら、小太郎。差別はいかんでござるよ。それにほら、拙者の方が小太郎よりパワーあるでござるよ」
「むぐぐぐ、負けるかあ!」
「君、どうしているの?」

 竹林からずっとついて来ている犬上少年は、むつきの問いかけに答えることもなく。
 頭を長瀬に抑えられ、言葉通り負けんとばかりに背伸びして跳ね返そうとしていた。
 微笑ましいわと那波などはうふふと笑っており、鳴滝姉妹は私もっと加わり始める。
 本当、体力のあるなしがもの凄く良く分かる光景だ。
 そんな感じで皆でえっちらおっちら山道獣道を歩き、ようやく見えてきた。
 明かりの灯る石篭に足元は石畳、目前にそびえるのは夕闇に栄える大きな門であった。
 門とひところで言っても、既に建物だろうと言いたくなるような大きな門だ。

「先生、私帰りたくなってきた」
「おう、実を言うと先生もだ。近衛、今から男を見抜く目を鍛えとけよ。もう少しおおきくなったら、絶対に逆玉狙いとか変な奴寄って来るから。あしらい方、雪広とかに習っとけ」
「ですわね。古い家柄とか、一代で財を築き上げた人がまず欲しがるものですし。何時でもお教えいたしますわ」
「さすが元祖お嬢様のあやか。頼りになるわ」

 貴方もでしょうがと、よいしょした那波から新事実がぽろりと零れたり。
 さあもうひとふんばりと門を潜ったところであった。
 もうお嬢様だとか、家が広いとかで引く、引かないのレベルではない。
 若いお姉ちゃん達、それも全員が巫女服のような白と朱色の祭事服である。
 ずらっと石畳の参道に並んでは、こちらを待ち受けていた。
 ぴったり動きも揃えて頭を下げて迎え入れられた。

「お帰りなさいませ、木乃香お嬢様。それからご学友の方々」

 むつきはもう何でもありだなとぽかんと春日と一緒に口を開けていたのだが。

「ちょっ、リアル巫女さん。バイト、バイトじゃねえよな。新種の巫女服。ちょっと一着くれ。もしくは見せて。覚えて自分で作るから!」
「やっば、本物。本物だよ、木乃香の友達で良かった。さらばコミケ、こんにちはリアル巫女さん。千雨ちゃん、私にも一着、一着ちょうだい!」
「ちうちゃん、パルも撮影の邪魔。うーん、ビューティホー」

 疲れたとかぶうぶう言っていたのは何だったのか。
 一気にテンションがマックスに立ち戻っている。
 勝手に服の構造を調べ始めたり、べたべた触り、写真を取ったりやりたい放題。
 これにはこちらが引くどころか、巫女さんの方が引いていた。
 負けじと美砂達も今夜は全員で巫女プレイと、着て見たいと名乗りをあげも。
 流石に近衛の実家で生徒を食うとか、何プレイと聞いてみたい。

「お前ら、はしゃぎ過ぎ。近衛、なんでにこにこしとる。お前の家の巫女さんがピンチだぞ」
「ええ、別ににこにこしとらへんえ。全然」
「このちゃん、皆に壁作られる事だけが心配だったんです。察してあげてください、先生」
「木乃香、皆委員長とかで慣れてるから今さらよ?」

 桜咲の説明で一応納得が行き、神楽坂も今さらとさらにフォローを。
 幼い頃の友人と言いい、やはり金持ちなら金持ちで色々と悩みはあるようだ。
 那波もお嬢様と知ったが、いずれ悩みを聞いてみるのも良いかもしれない。
 それが解決できるかは兎も角として、一緒に考える事ぐらいは自分にもできる。
 よし、頑張ろうと心を改め、巫女さんと同じく生徒の勢いに呆気に取られた天ヶ崎に案内を頼んだ。

「では本殿の方に」
「うん、知ってた」

 あちらと手で促がされたのは参道が続く本殿である。
 やっぱりかと、他に言葉は何も出てこなかった。
 靴を脱いで上がりこんだ本殿は、木の香りが鼻腔をくすぐる古き良き日本の香りであった。
 ひかげ荘を知らない生徒は、板張りの床を珍しがったりしながらはしゃいでいる。
 本当に神経が太いというか、根性が座った命知らずというか。
 本殿の両脇でも巫女さんがお出迎えでお囃子を奏でているのだ。
 他に正面脇には破魔矢らしきものを矢筒で背負った巫女さんも。
 下手な事をすれば邪を滅するとばかりに射抜かれそうで、実は凄く怖い。

「まもなく長がいらっしゃいます。お待ちください」
「はい、お構いなく!」

 巫女さんの一人にそう告げられ、ちょっと裏返った声で返す。

「先生、少し落ち着きましょう。ハッカの飴玉です。落ち着きますよ」
「あっ、さよちゃんずるい。内助の功。じゃあ、私は先生の隣で精神安定剤!」
「私は射抜かれた際に、矢を弾く役目アル」
「射抜かれる事が前提か。良いからこれまで通り班順で並べ。はい、座った座った。巫女のお姉ちゃん達に先生が格好良い所をみさせてくれ。あと俺に夢、みさせてくれ」

 椎名の言う通り、さよの内助の功で飴玉を転がし心を落ち着け。
 同じく何故か横に座ろうとした古を遠ざけ、パンパンと教室の要領で手を叩いた。
 ちょっとおどけて、先生エロイとからかわれつつ座らせていく。
 どうにかこうにか生徒を座らせ、神多羅木や刀子と共に点呼を取った。
 何故か犬上少年が那波の隣で頭を撫でられていたが、もはや何も言うまい。
 後で実家の電話番号だけ聞いて、誰かに送って貰う事にしよう。

「お待たせしました」

 お前ら静かにしろと二、三度注意した所で、正面の階段からそんな声が聞こえた。
 巫女さんの格好と似ているようで違う男性用祭事服。
 足元まで足袋できっちり締めた格好で現れたのが、恐らくは近衛の父親である。

「ようこそ、乙姫先生。木乃香のクラスメイトの皆さん」

 やや顔色が悪く、頬がこけて見えるのは長などと呼ばれる重職の為か。
 それでも皆さんと言いつつも、視線は愛娘に一心に注がれている。
 近衛の方も抱きつきたくてうずうずしているが、クラスメイトの前で恥ずかしいのか。
 ちょっと視線を向けて、むつきが行って来いとこっそり促すまでだった。

「お父様、久しぶりや」
「は、はは。これこれ木乃香」

 まさに懐に飛び込んだ可愛い娘を前に、近衛の父親も目尻が下がっていた。

「娘か、娘もいいなあ」
「先生」

 後ろからそう囁いてきた美砂の言わんとしていることは分かりきっている。
 さすがにこの場で反応はできないが、一瞬だけチラッと振り返り以心伝心であった。
 美砂のみならず、他のお嫁さんたち全員に。

「渋くて素敵かも」
「人の事は正直言えないけど、良い趣味だね」
「アキラ意外と辛辣。ん、小太郎君どうしたの?」
「父親、愛か……はっ。べ、別に。なんでもあらへん」

 アキラの呟きにたははと村上が笑い、傍にいた小太郎の様子が変な事に気付いていた。
 ただ当人は何か強がるようにそっぽを向いており、同じく気付いた那波が頭を撫でる。
 最初は直ぐに馬鹿にするなとばかりに振り払おうとしたが、その手も直ぐに止まった。
 ううっと犬のように喉の奥でうなり、しばらくは言われるがままだ。
 そこで多少事情に気付くのが、那波に加え村上の良いところか。
 親娘の再会の抱擁もそこそこに、申し訳ないとむつきも割って入った。

「近衛さん、この度はクラス一同泊めて頂きありがとうございます」
「皆さんも、礼ですわ」

 ありがとうございますと、三つ指とまでは行かないが授業の要領で頭をさげた。
 神多羅木や刀子、むつみに加えて、一応田中もだ。

「いえ、無理を言ったのはこちらの方です。いささか、ご迷惑をおかけもしたようで」
「えー、うち先生に迷惑なんてかけとらへんえ。お父様のいけずや」
「近衛……少しややこしいので、この場では木乃香君と。木乃香君は手の掛からない生徒筆頭で。本当にもう、手の掛かる生徒ばかりで。痛った。痛い、お前ら抓るな寄ってくんな!」
「君付けって高畑先生の真似は駄目。A組の担任の座は、いくら先生でも渡さないわ」

 などと神楽坂を筆頭に、今一度学園祭のような高畑派、乙姫派に分かれた戦争勃発だ。
 近衛の父親の前、他に巫女さん達もいるのに、生意気だ誰が手のかかる生徒だと抓る抓る。
 もう派閥とか関係なく、単にむつきが弄られているだけだ。
 一人一人座れと、見せしめに一番最初にやった神楽坂に梅干をして鎮めた。

「痛い痛い、ごめんなさい。感謝してます、超感謝してます」
「やべえ、ついに神楽坂にさえ勝てるように。俺の教職としても道はどっちだ。やはり、新田先生なのか。誰か教えてくれ」

 そっちじゃないっと、特に神楽坂が力説し一先ず終了である。
 騒がしくてごめんなさいと今一度、頭を深々とさげた。
 だから本当に近衛の父親が迷惑と言った相手が誰なのかは、一部以外分からなかった。
 名指しこそされなかったが、天ヶ崎はやべえと冷や汗ものである。
 と言うか、早く仕事を済ませ、通帳の無事を確認したい為の冷や汗でもあった。

「頭を上げてください、乙姫先生。今夜は宴の準備も整えてあります。今夜一晩、皆さんもここを自分の実家だと思って楽しんでください」
「宴会!? そんな無料で泊めて貰った上に。大丈夫です、コイツらなら山の中でバーベキューとか。それこそサバイバルでも!」

 聞いてない上に申し訳ないと断ろうとしたのだが。

「先生、それ卑屈ってか。最強の自由人じゃない。遠慮し過ぎるのも考え者だよ」
「えっ、それじゃあこの全自動ものみなBBQ君は必要ないですか!?」
「なんとこのBBQ君は、周囲三メートルにある全ての肉を美味しく焼き上げる優れ者ネ」
「カニバリズム」

 朝倉の軽い台詞は兎も角、最後のザジの止めでむつきの首が縦に折れた。
 よし終わったと天ヶ崎が脱兎の如く逃げたので、別の巫女さんに案内されていった。
 神多羅木や刀子がこの場にが残っているとも思わずにだ。









 宴会に釣られ、一般人と魔法生徒プラスその他が消えた本殿内である。
 呪術協会として残ったのは長と一部の護衛、魔法協会として残ったのは神多羅木に刀子であった。
 まず最初に神多羅木がしたのは、タバコを取り出しとんとんと叩いて一本取り出すことから。
 今日は形式ばったものではないし、円滑な会談の為の潤滑油を詠春に差し向けた。

「これはどうも」
「男が腹を割る時は、これに限る」

 女もいるんですけどと思ったが、刀子は黙って一席分離れた。
 今はもう慣れはしたが髪に匂いがつくのは常に避けたいのだ。
 良く良く見てみれば護衛のしかも女性も似たようなものである。
 お互いみあって男は仕方がないと、妙なところで西と東が仲良くしたりも。

「まずは親書なんだが、そう意味があるとは思えんのだが」
「なに、こういった小さな一歩の積み重ねが大事なのですよ。百人中一人が認識を改めれば。いえ、戦争を知らない若い世代がせめて正しく認識してくれれば」

 そういうものかと、組織を束ねる事を知らない神多羅木はそれ以上何も言わない。
 黙って近右衛門が書いた親書、少し遅めの書中見舞いである。
 血縁こそないが、法的には近右衛門が義父なので家族内の普通の手紙であった。
 そこに組織的な立場は殆ど関係ないが、何事も積み重ねだ。
 今は東から親書が来たらしい、この噂をばら撒く程度。
 少しずつ例えば一年後ぐらいには、もう少し表立って親書を正式に受け取るなど。
 その時誰が持ってくるかは、近右衛門の頭にもう形が出来ている事だろう。

「ではありがたく頂戴するとして。どうでしたか、過激派の反応は?」
「千草、天ヶ崎が言うには過激派でも色々あるそうで。私が言うのもなんですが、少し神鳴流との付き合い方を考えたほうがよろしいかと」
「闇に飲まれやすい流派だからな。元々、近衛嬢に手を出すつもりはなかったようだがその闇に飲まれた鉄砲玉を使わされていた。あの犬上という子は良くわからん」
「なる程、私が長となった事で神鳴流も随分と関西呪術協会内で発言力を得ていますし。対応を考えておきます。それと犬上君ですが、彼は天ヶ崎千草が引き取った子ですよ」

 彼女は幼い頃に西と東の抗争で両親を失い、東憎しの精神で過激派に所属しているのだ。
 あの犬上という少年は抗争で両親を失ったわけではないが、親がいないのは同じ。
 そこに過去の自分を見たのか、何かと目をかけて仕事を回したり援助している。
 ただ犬上が正式に関西呪術協会には所属しておらず、何故かフリーのままだが。
 何か考えあっての事かは本人に聞かないと分からない事だろう。

「細かい情報は後で学園長経由から渡すとして、こちらから一つお願いがある。今回の囮調査のあくまで個人的な見返りと取って欲しいのだが」
「話の内容によりますが」
「あのクラスには以後、絶対に手を出さないでください。京都のみならず、世界全土を火の海にしたくなければ」
「それは西と東の抗争が。そう言えば、過激派の伊賀忍者が全て買収されたとか」

 ついつい東のせいとも思っていたが、違うらしいと近衛の父親が興味深げに身を乗り出した。

「俺達西の魔術、東の呪術。それからなんと言うべきか、大陸の科学か」
「お嬢様のご学友の一人、超鈴音。彼女は数世紀先を生きる大天才でして。とある人物に手を出せば、軌道衛星砲で宇宙から狙撃されます」
「蘇我野からここに来るまでの間に、過激派が再度襲撃をかけた際の謎の光が。合点がいきました。科学、ですか。分かってはいたことですが、時代ですかね」

 表の世界でさえ五十年前には科学で戦争をしており、魔法世界が前時代的なのか。
 かつての友情と刺激に溢れた日々を思い出し、近衛の父親は寂しげに笑った。
 関西呪術協会が使役する鬼や治めている土地神や霊まで。
 今の小鈴の科学技術を持ってすれば制御可能と知れば、どんな顔を見せることか。
 西と東の小さな会談は、もう少しだけ続く事になる。









 まだまだ宴会の途中であったが、生徒をむつみと田中に預け一足速くむつきは風呂を浴びる事になった。
 案内された邸宅は、風呂は大きいが一つしかなく生徒とかち合うのを避ける為だ。
 近衛の父親に用があると聞かされた神多羅木は、逆に深夜に入るらしい。
 檜の風呂は行灯で照らされ、天井の四隅の壁にはお座敷のような欄間がある。
 欄間がある壁の向こうには砂利を敷き詰め石を配置し、竹を植えた庭園まで。
 祭事を取り仕切るのって金になるんだなっと、ちょっと不謹慎な考えも浮かんだが。
 まずは自分の体を洗い、次いで勝手についてきた金髪子猫の頭と体を洗ってやった。
 それからこの広い檜風呂を贅沢に二人占めである。

「どうだ、憧れの京都は?」
「ふん、余計なケチが付かなければ最高だったさ」

 言ってくれるな、俺も頑張ってるんだと膝の上のエヴァの頭に顎をつけた。
 そのまま喋るとガンガン震動が伝わるのだが、嫌な顔一つされず。
 結構気に入っているのかなと、そのままでいる。

「残りあと四日か。こうもひかげ荘を離れていると、ちょっと恋しくなってくるな」
「ネットじゃなくても良いから碁がやりたい。後で相手をしろ」
「明日以降のスケジュールの確認もあるし。それが終わったら、遅いが起きてられるか?」
「馬鹿にするな。この私を誰だと思っている」

 アタナシアと俺の可愛い妹ですと答えると、ふんっと鼻を鳴らされた。
 懐いた事は懐いたが、どこかツンが取れない猫である。

「そうだな、この旅行は半分ほったらかしだったし。偶には義兄ちゃんと寝るか?」
「な、なに!? ついに、この私の体に欲情すがぼがぼ」
「そう言う意味じゃねえよ。何処で覚え、俺だよ。エッチな事は忘れなさい」

 その身なりでエッチなのはいけませんと自分を棚に上げて、小さな頭を押さえつけお仕置きだ。
 ただなんだろう、エヴァががぼがぼ慌てているとそれはそれで可愛いような。
 いかん、いかん、いかんと新田化ではなく、サド化していた自分に気付いた。
 まさか嘘だろとまた自分の人格がおかしな方向に変化し始めているようだ。
 今のうちに矯正だと、ごめんね可愛い可愛いと可愛がった。

「良いように弄びよって。ふむ、一つ良い事を教えてやろう。実は、姉が京都に仕事できていてな」
「マジでか。呼んで、あかん。デリヘルじゃないんだから!」
「安心しろ、近衛詠春と姉は割りと気心が知れた仲でな」
「ほう、それはそれは初耳で」

 えっとその声にエヴァが振り向いてみれば、あろう事か近衛の父親が入ってくるではないか。
 むつきもコレには驚きでというか、傷だらけの体に驚きである。
 思わずエヴァを自分の影に隠しつつびびって腰がひけてしまった。
 祭事を司るとは、それは的屋のような意味でやのつく人だったのかと。
 学園長も若い時は血煙と硝煙の中でのし上がったのかと想像の翼が勝手に羽ばたく。
 しかし大事な義妹の純潔だけはと、しっかり抱きしめておいた。

「いやいや、失礼。本当は中々難しい木乃香の二者面談をしたかったのですが。エヴァの事ならご安心を。彼女の姉とは親しく、エヴァとも面識がありますから。この場で悲鳴を上げられない程度には」
「アタナシア、どんだけ顔が広いんだ。関係持ったのに、俺何も知らねえ」
「おい、余計な事を喋るな。違う、違うからな。ちょっと若造をからかっただけで!」
「はははっ、タカミチ君から電話で相談されたので知ってますよ。凄い慌てて、まだまだ初心で逆に彼が心配になりましたよ」

 何しとんじゃと、頭を抱えたエヴァを落ち着かせる。
 それから掛け湯して湯船に入ってきた近衛の父親の為に場所を空けた。
 それはもう凄く空けた、相手が銃でも持っていそうな感じで。
 ついでになりが小さいとはいえエヴァも女子中学生なので、マナー違反ながら胸と腰をタオルで縛ってあげた。
 というかマナー違反というならば、現時点で近衛父が一番マナー違反なのだが。

「これは昔、若い頃にはしゃいだ名残ですよ。祭事といっても、やのつく人とは無関係です」
「コレは失礼を」

 なんだ若い頃のバイク事故とか、そういうのかと謝罪して距離を戻す。

「えっと、木乃香君の普段の生活で良いですか?」
「ええ、普通の生活が聞きたいのです。貴方の口から」

 自分の口からとはどう言う意味か、図りかねたがかしこまるべきではないだろう。
 遠く離れた愛娘の普段の生活が知りたいと、親御さんに頼まれただけだ。

「木乃香君は非常に成績優秀でして、かと言って真面目一辺倒ではないですよ」
「ほう、そこは少し私の若い頃とは違いますね。彼女の血かな?」

 彼女とは恐らく、近衛の母親の事であろう。
 そう言えば全く姿を見せないが既になくなられているのだろうか。

「所属している部活が図書館探検部という、麻帆良学園都市にある図書館島の探検が主な活動の部活なんです。あそこはもう、体力がいりまして。僕の初挑戦は散々でしたよ」
「刹那君以外には、その部活に友達が?」
「うちのクラスに三人ですね。友達と言うならルームメイトの神楽坂もいますね。まあ、神楽坂はバイトで忙しいので朝食を作ってもらったり、木乃香君が半分お母さんという感じらしですが」
「そうですか、明日菜君と木乃香がそのような間柄に」

 神楽坂は初対面の反応を示していたが、どうも今の反応では小さい頃を知っているようだ。
 親戚筋というなら、あのバイト三昧の生活もちょっとおかしい。
 高畑が保護者という事だが、当然彼は結婚もしていないはずだ。
 亡くなった姉とか妹の子とか、少々ドラマチックと言うのは不謹慎だがそういう背景があるのかもしれない。
 そういう暗い過去があるのに、あの明るさはちょっとした奇跡なのだろう。

「むつき、そろそろ囲碁」
「もうちょっと待って。今大事なお話してるから」

 はやく上がって遊ぼうと催促する子猫をあやしつつ。
 何度もうんうんと頷いては愛娘の普段の生活を想像して楽しむ近衛の父親に付き合った。
 二社面談というよりは、預かった子の様子を伝える保護者の役目というか。
 時折桜咲や神楽坂の様子も含め、近衛周辺の友達から日頃の生活までとにかく話しつくす。
 それはもう、むつきがくらっと逆上せるぐらいに、語り明かした。









-後書き-
ども、えなりんです。

ここ数話は魔法関係者のお話ばかりで、嫁達が目立たず。
でも京都を離れれば、逆に魔法関係はしばらくありません。
今だけですな。

次回は千草回で水曜更新です。



[36639] 第七十五話 旅の恥は掻き捨て。知ってはりますやろ?
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/10/09 19:40

第七十五話 旅の恥は掻き捨て。知ってはりますやろ?

 東からの修学旅行生がどんちゃん騒ぎする騒音を耳にしながら、天ヶ崎は膝を抱えていた。
 宴会場とは同じ建物ながら遠く離れた縁側の片隅でのことである。
 そこで夜空に浮かぶ半月と葉桜を見上げながら、そっと虚しい溜息をつく。
 あの後、急いで預金通帳を確かめに行ったら一応貯金は無事であった。
 もう確認するまで凄く怖く、背筋が凍るとかそんなレベルではない。
 思わずキャッシング機の前で盛大に良かったと安堵の息をついてしまった。
 何事ですか、如何しましたかと警備の男性が寄ってきた事の方が困ったが。
 今日は仕事終わりに降ろしに行く予定だったので財布の中は、殆ど入っていなかった。
 軽い気持ちで過激派の依頼を承諾したばっかりに、明日からどうしようと本気で考えた。
 なんと言う恐怖、なんと言う他を省みない末恐ろしい行動か。
 後で刀子が実は嘘っと可愛く言ってきたら、神鳴流相手に呪術師が殴ったという大事件さえ起こせそうだった。
 しかし、しかしである。
 両親の為、復讐の為にと貯めた大事なお金ではあるが、なんだろう。
 まず最初に心配したのは、明日明後日のおまんまの事とはちょっと情けなくはないだろうか。

「はは、復讐の鬼や言うても。やっぱ本物の鬼にはなれん、人間様やえ」

 小太郎の飯代だって自分の通帳から出ているのだ。
 直ぐにだからどうしたと、底冷えした気分はなかなか浮上してくれない。
 小太郎は学校にさえ通っておらず、通わせる為に睨めっこした通帳でもある。
 結局その当人が、そんなもんより戦いたいと戦闘民族のような事を言い出して無駄に終わったが。

「おっしゃあ、腕相撲や。男の強さ見せたるわ!」
「第二ラウンドアル。こっちも負けないアルよ。愛は無敵!」
「じゃあ、私は小太郎君に掛けるわ五百円」
「えっと……じゃあ、私も?」

 その小太郎は明日、若さ全開ノリノリであの集団に混じっていた。
 小太郎に賭けてくれたのは特に眼を掛けてくれている年齢詐称っ子と、そばかす地味っ子か。
 厳密に手はだしていないが、あの教師に襲いかかった後悔とかないのだろうか。
 ないだろうな、あのお気楽能天気な性格ならと羨ましくもなった。
 いっそあの集団にこそっと紛れ込ませ、西も東もなく過ごして貰った方が良いのか。
 結婚もしてないのにお母さんかと、自分で突っ込んでもっと凹んだ。

「とぅっとぅっとぅっとぅる、とぅっとぅとぅ」

 全くの別方向から能天気な鼻歌が聞こえ、一気にムカッと来た。
 一体誰だと滲んだ涙を拭いていると、あの集団の教師にして唯一の一般人が歩いている。
 浴衣姿が妙にしっくりくる関東人がこちらの気も知らず。
 何処をどうやってきたのか、宴会場とは全く別方向に風呂上りほかほかでだ。
 そしてふと、目があった。

「あれっ、天ヶ崎さん。どうし……どうしました、何処か辛いんですか!?」
「えっ、ちょっ」

 割と暗がりなのに目元の涙に気付くとは、ぼけっとしているようで目ざとい。
 ずいっと詰め寄られ、涙も怒りも一気に引っ込んでしまった。

「いえ、お気になさらずにお客はんは宴会を楽しんでおくれやす」
「泣いてる女の人を放って置いて楽しめる程、神経太くないんですよ。話し辛い事なら、一杯やりながら愚痴ぐらい聞きますよ。そう言うの、割と得意ですから」
「強引なお人や。お客はんの接待やったら、サボってても煩い事は言われへんえ。ほな、乙姫はんやった? ちょいと待っとっておくれやす」

 はいはーいと能天気な返事を背中に受けながら、天ヶ崎が向かったのは厨房だ。
 食べ盛りが一気に三十越えと大忙しの中、口八丁でお手伝いとのたまいお酒とおつまみをゲットである。
 お盆にそれらを乗せて、こんな役得ぐらいとどん底気分は少しまともに。
 まだ明日は明日の風が吹くとまではいかないが、お客用の美味しいお酒とおつまみを摘むぐらい許されよう。

「お待たせ、乙姫はん。うちもご相伴に預からせていただきますえ」
「月見や葉桜も良いけど、綺麗な人と飲むほうが断然美味しいですからどうぞどうぞ」
「あらお上手。ほな、まずは一献」

 関東の男は軽いと思いはしたが、綺麗といわれて嫌な思いがするはずもなく。
 これで年上ならなと、僅かに少年期の名残がある若いむつきへと心で溜息をついた。
 もちろん歳を経た経験からそんな感情おくびにも出さずに、渡したお猪口に冷酒を注ぐ。
 それから二人縁側に並んでお猪口をチンッと乾杯である。
 むつきは男らしくグイッと飲んで、冷たさと同時に喉の奥が熱くなる感覚にくうっと唸った。
 余りの美味さにこっちが泣きそうと、お盆の上のお漬物を一つまみ。
 天ヶ崎はしっとりと女性らしくお猪口を両手持ちでちびりと舐める程度に喉を潤す。

「男らしゅうて、素敵どすえ。さっ、お次どうぞ」
「はい、どうもです」

 ほぼ初対面な為、何処まで踏み込み踏み込ませるか。
 ちょっと探り合う感じで天ヶ崎がむつきへとお酌していた。

「天ヶ崎さんは生まれも育ちも京都なんですか?」
「総本山、あっ。お嬢様のご実家で働く者は皆そう。少々理由がありまして、一度関東へ行くと戻り辛いん。刀子が良い例ですえ」
「そう言えば、刀子さんも関西出身者だっけ。観音がなんか言ってたな。京都ほにゃらら流とか。ん、祭事と剣術に何か関係が?」
「祭事はお偉いさんの役目ですから、昔から護衛の剣術家はつきものだったんですえ」

 豆知識だと朗らかに笑うむつきを見てると、一時忘れたはずの切なさが戻ってくる。
 貯金の事が頭をもたげたわけでもないのに、なんでと再び涙が零れそうになって気付いた。
 もはや記憶もおぼろげだが、こんな風景を見た事がある気がしたからだ。
 季節はもう少し過ぎた秋頃のお月見ごろの事である。
 親子三人で一緒にお月見をした事があった。
 自分はお月見団子を頬張り、母が父のお猪口にお酌する。
 喉が渇いて、いやもしくは母に構われた父が羨ましくて私も飲みたいと駄々をこねた。
 もう少し大きくなったらと父と母から頭を撫でられ、そのまま。
 何年経とうと、成長が止まっても、もうその大きくなった時が来ない。
 零れ落ちそうになった涙を隠そうと、お猪口をぐいっとあおってお冷ごと飲みほした。

「ああ、美味しいですえ」

 もちろん今の揺れ動く感情のままで味など分かるはずもない。
 無理にそう言って、まだ滲んでくる涙を隠そうとしただけだ。
 まだ収まらないかと自分でお猪口に注ごうとすると、そっと手で遮られた。

「あの、嫌だったら言ってください」

 おつまみがのったお盆を後ろへずらしつつ、むつきがそっと天ヶ崎の肩に手を伸ばす。
 当然その手が肩を掴んだ瞬間、自分の胸元へと強引に抱き寄せた。
 最初のお断りの一言以降、むつきは何も言わない。
 それどころか、胸元の天ヶ崎に視線を落とす事なく、そっぽを向く様に月を見上げていた。
 何も言わない、聞かない、行きずりだからこそ吐露できる思いだってある。
 どんな姿を見せても相手は明日には周りから消えてしまうのだ。
 旅の恥は掻き捨て、この際どちらが恥を晒すかは置いておいてそう言うことであった。
 ならば、もうこの涙をとどめる理由は何処にもない。

「お父はん、お母はん……どない、どないして死んでしまはったん? うち、もうお酒飲めるようになったえ。お酒、注いで注がれて。あの時みたいに笑いたかったんえ」

 もちろん亡くなった二人は応えてくれず、応えたのは肩を抱き寄せたむつきの手のみ。
 より強く肩を掴み、態度で大丈夫と口にするように。
 たまらず天ヶ崎は嗚咽を漏らし、むつきの胸に縋って泣きはらした。
 男らしい胸板の上で、男らしく抱き寄せてくれた行きずりの相手の腕の中で。
 例え相手が次のように内心思っていたとしても。

(やべえ、何故か超地雷踏んだ。重い、潰れる。潰れちゃう、重すぎて折れちゃう。助けて美砂、アキラ……いや、さすがに無理か。ならここは大人のアタナシア!)

 強く抱き寄せたのは過度の緊張から来るものであったが、どうせ伝わりはしない。
 天ヶ崎は今は泣く事で手一杯で、むつきもそっぽを向いているが功を奏した。
 しばし五分程天ヶ崎は泣き続けたが、むつきにはそれこそ時間単位で感じられた。

「初対面やのに、申し訳あらへん。うちの涙で濡れてもうた」
「い、いえ。お気になさらずに。あの、なんで浴衣をはだけ」

 涙で濡れたと天ヶ崎が浴衣が肌蹴たむつきの胸板を手で撫でつけた。
 自分の涙を塗りこむように、少しずつ刷り込ませながら浴衣が肌蹴ていく。
 天ヶ崎がはだけさせながら、身を乗り出しむつきへとしな垂れかかってくる。

「旅の恥は掻き捨て。知ってはりますやろ?」
「ちょっと待って、落ち着いて。天ヶ崎さん絶対に今正気じゃないから」
「年上は嫌い?」
「だ、大好き」

 咄嗟に答えてしまった瞬間、俺って意志あるのかと凄く疑問に思った。
 我思う故に我有りというが、我思ってもふわふわと自分が何処にいるのか。

「ここな、夜になると誰もこうへん。私の秘密の場所なんですえ?」
「嘘、だって俺。宴会場に行こうって」
「方向音痴、刀子の言う通り年下も可愛いかもしれへん。乙姫はん、下の名前。教えてんか?」
「ちょ、下は下でもそっちはちが。あっ」

 生徒達のどんちゃん騒ぎの声は遠く、されど聞こえる程度の距離の事である。
 半月の月と葉桜に見下ろされながらむつきは、天ヶ崎共々倒れこんだ。
 縁側の板張りは硬いが、それを忘れさせるぐらいに激しく天ヶ崎が浴衣の裾に手を差し入れ下半身を弄ってきた。
 下の名前と聞かれ、おちんちんと答えたくなりそうなぐらいに。
 もうどうにでもなれと心中で叫ぶのが、最後の抵抗ならぬ抵抗だった。

「天ヶ崎さん!」
「千草って呼んでおくれやす」

 亜子や刀子もそうだが、確かに方言を操る女性は浪漫だと押し倒し直した。
 寝具がないので仕方ないが板張りの廊下の上に、千草をである。
 仰向けで寝かせ足はそのまま縁側から投げ出しぶらつかせた状態だ。
 そのまま有無を言わさぬように、冷酒の味が残る唇を互いに貪らせた。
 むつきから進んで擦るより前に、千草の方から舌を絡ませむつきの唾液を飲み始める。
 肩を出すどころか、胸しか隠していない刺激的な着物を着ているだけあって激しい人だ。
 しかし、日々やりたい盛りの若い娘達と楽しんできたむつきも負けてはいられない。
 懸命に舌を絡ませ千草の体液をすすり、わざと喉を鳴らして飲み込んでいく。
 のみならず着物が胸を隠すパッド部分に指を引っ掛けずり下ろした。

「ぁっ」

 さすがに千草も声を出さずにはいられなかったようで、隠すように身を捩ろうとする。
 もちろんそれを許すむつきではなく、少し力を入れて肩を押さえつけた。
 そして手を伸ばし取ったのは冷酒が入った徳利だ。

「少し冷たいですよ」
「そんな、そないな飲み方。うち知らへんえ」

 月明かりに照らされた千草の胸に、つーっと冷酒を滴らせた。
 かつてアタナシアから教わったエロイワインの飲み方の日本酒バージョンである。
 乳首の上に冷酒の糸が滴り落ち、その冷たさにビクンッと千草が体を震わせた。
 冷酒はそのまま乳首を飲み込むように溢れ、重力に丸く潰れる乳房の上を流れていく。
 その流れを舌で舐め取り遡り、冷酒に飲まれた乳首を一緒に飲み干していった。

「冷酒が千草さんのおっぱいで程良く温められて美味しい」
「ほ、ほらなこういうのはどうや」

 最初は恥ずかしがっていた千草も、そこまで言うのならと腕で胸を挟み持ち上げた。
 もちろん寝転がったままでは無理なので、腹筋を使って少し体を持ち上げも。
 胸の谷間にできた三角推の穴に、心得たとばかりにむつきが冷酒を垂らす。
 隙間無く作られた胸の谷間で冷酒は受け止められ、谷底に湖が出来上がった。
 そのまま直ぐに飲んでも良いが、少し寄り道しても良いだろう。

「そこ違う」
「違わないよ、千草さん。零したらお仕置きだから」

 この状況を直ぐに終わらせるのは勿体無いと、胸の谷間ではなく首筋に舌を這わせた。
 当たり前だが皮の薄い敏感な場所だけに、千草は舐め上げられるたびに震える。
 だが胸の谷間に垂らされた冷酒は健在で、喘ぐ事も動く事もままならない。
 なのにむつきは次から次へと、首筋からうなじ、耳の裏から穴まで舐めてくるのだ。

「関東人は意地悪や。乙姫はん、はよう。零れてまう」
「ごめんね、意地悪で。今直ぐ飲むから」

 自分から進んでやったとはいえ、窮屈な状態からやっと解放される。
 そう千草が安堵した瞬間を逃さず、むつきはふっと耳元に吐息を吹きかけた。

「あんっ」

 虚をしっかりと突かれ、思わず大きく揺れた体から冷酒の飛沫が飛んで行った。
 量は限りなく少量、水滴と呼んで差し支えない量ではあったのだが。

「千草さん、こぼしちゃったね」
「違う、零れただけやえ」
「こぼしちゃったね、千草さんが」

 言い訳も許してくれない意地悪キングが逃すはずもなかった。

「それじゃあ、罰ゲーム」

 その内容は誰もいないのに、わざわざ千草の耳元で囁くように伝えた。
 すると月明かりだけの中でもしっかりと分かる程に千草が顔を紅潮させていった。
 そんな事は誰にもしてあげた事はないとばかりに。
 出来ないと言いたいが、それだけで許してもらえるのか。
 チラチラ許してと視線で言うが、にっこり笑顔だけで駄目っと言われてしまう。
 ならば今度こそ旅の恥はと、何もかも捨て去ってしまうしかない。

「冷酒は乙姫はんが垂らしてな?」
「喜んで」

 せめて教師失格と反撃してみるが、知ってますと返された。
 もう何一つ反撃の要素もなく、やるしかなかった。
 今再び縁側の板張りに仰向けとなり、足元の着物の裾を自分で肌蹴た。
 そのまま自分で足を上げて、途中から膝裏に手を添えぐっとお尻を上げて手を引く。
 自分でまん繰り返しの状態をつくりあげ、成熟した女性器へと手を添えた。

「乙姫はん」

 既にぬれ始めている割れ目を千草は開かされた。
 さすがにもう桃色とはいかないが、返って準備ができているとも言える。
 種を仕込めば何時でも孕めるそこに、むつきは精液ではなく冷酒を注いだ。
 乳首にしたように顔が見えるクリトリスに垂らし、冷酒はそのまま割れ目の中へ。
 正式名称はむつきも知らないが、あえて名づけるなら日本酒のあわび蒸しだろうか。

「ぁっ、冷たい。うちの中に、はよう吸って。吸ってや乙姫はん」
「今の千草さん、凄く綺麗」
「お世辞はええから、うちのおめこにキスしてや」

 そこまで頼まれてはと、むつきはようやく蜜壷ならぬ酒壷へと口をつけた。
 つっと吸うたびに千草がビクンと震えるのが楽しい。

「うち、おめこにお酒注いで吸われ、吸われとるん。乙姫はん、うちの酒壷どうなん?」
「凄く美味しい、お代わり……あれ、なくなっちゃった」

 一頻りすすり上げ、お代わりと徳利に手を伸ばしたがあいにく空だった。
 胸に垂らしたり色々していれば、小さな徳利ぐらい直ぐに空なのは当たり前。
 なんだと思っていると、全部吸ったはずの冷酒がまた溜まり始めていた。
 千草の酒壷の奥からとろとろと。
 指で救うとつっと糸を引いたそれは、お酒ではなく愛液だった。
 膣口の周りで少し指を彷徨わせ、それからつぷりと埋めるとそのまま奥まで誘われた。

「千草さん、中が温かい。とろとろ」
「そんな、ぁっ。気持ちええけど、太いの。もっと太くて硬いのおくれやす」

 それじゃあ足りないと腰を振った千草が、喘ぎながら懇願してくる。

「太くて硬い。地方の違いかな、なんの事だか」
「おちんちん、乙姫はんのおちんちんを。うちのおめこに」

 もはや捨てる恥すらないとばかりに、降参だと千草がそう懇願した。
 改めて膝を抱えなおし、酒壷から再び蜜壷、いや肉壷と化したここにと手で開く。
 はやくはやくと、上の口以上に膣口が喘ぐように誘っている。
 そこまで言われてはと、むつきも縁側に上がりなおして千草の尻を手で掴んだ。
 ばっと浴衣の裾を払いのけ、完全勃起中、千草を犯す為の一物を取り出した。
 ノーパンだったのはひかげ荘にいる時の癖でこの時ばかりはありがたかった。

「ほら、これが欲しいんですか」

 千草が開いた花園を反り返った一物の裏筋でずりずりと、擦り上げる。
 それですと千草が答える前に、陰唇がフェラをするように吸い付いてきた。

「んぅ、気持ちええけどちゃうんよ。中に、おめこにぶっさして!」
「行きますよ」

 酔ってるどころじゃないなと思いつつ、むつきは誘われるままに膣口へと亀頭を添えた。
 そのままずぶりと、成熟された体から潤う愛液を潤滑油に挿入していく。
 何時でも孕める準備は万端だと、千草の体もスムーズに受け入れてくれる。
 のみならず、はやく精を種を寄越せとばかりにねっとり絡み、搾り取ってきてさえいた。
 思わずキュッと尻に力を入れなければ、射精してしまっていた事だろう。
 まだまだお楽しみはこれからだと、若干歯を食い縛りながらむつきは一気に差し込んだ。
 子宮を強かに亀頭で打ち付け、板張りとのサンドイッチで千草を押し潰した。

「はぅぁっ、奥。深い、太ぃ。乙姫はんのおちんちん、凄い。キスも乱暴」
「じゃあ、優しく行きますよ」
「嘘、絶対嘘やぁっ。ぁっ、ぅぁっ、んぅっ!」

 御明察とばかりに、むつきは子宮とキスをしながら腰を臼のように回す。
 ごりごりと子宮口を引いて潰すように、あまりの感覚に千草の手は板張りを引っかいていた。
 快感が大き過ぎて、けれど止めてしまいたいわけでもなく。
 ただただぶつけさきのない感情を、物言わぬ床にぶつけるように引っかいただけだ。

「おめこ、おめこ壊れる。乙姫はん、もっとごりごりしてぇ」
「京美人が乱れるとか、凄い俺得してる。でも俺、セックス中は意地悪なの」

 激しく求められれば、優しくしてあげたくなるのも意地悪の一つだ。
 小さく腰をグラインドさせ、ちゅ、ちゅっと小刻みに小さく子宮口へとキスをした。
 そうすると余計に、その小さなチャンスを逃さないと子宮口がしゃぶってくる。
 チャンスの到来は直ぐなのだが、一度一度を決して逃さないとばかりに。

「ぁっ、だめ。感じ過ぎ。イク、意地悪なおめこでイッてまう!」

 じゃあ流石にと外出しの為に抜こうとすると、その前にがっしり腰をつかまれた。

「千草さん、ちょっと」
「お互い、ええ大人でっしゃろ。対処は心得とりまえすえ。な?」
「良い大人だから、って。もう、俺流されすぎ!」

 こんな時、もう知りませんからと投げやりになるのは男だからだろうか。
 相手が仮に孕んだ場合、俺のせいじゃないからと。
 そんな後ろ暗い思いが頭の片隅でチラっと浮かんだが、目の前の快楽には勝てない。
 むしろ孕んでしまえという思いの方が大きく、目の前の雌を孕ませようとたぎる。
 小さなキスは止め、グラインドは大きく、強かに子宮にキスを叩きつけた。
 ぐちゃぐちゃと飛び散る愛液で千草の顔を汚しつつ、こいつめとばかりに。

「これ、これが欲しかったんやえ。乙姫はん、うち。うち、イク!」
「遠慮なくどうぞ、良い大人なんですから」

 もちでもつくように、白い千草のお尻をぺったんぺったん叩き続ける。
 合いの手は千草の喘ぎ声でリズムを整えた。
 実際は、ぺったんなんて生易しい音ではなく、ぱんっと短い音だが。
 千草を孕ませようとそれはもう、一生懸命にむつきは腰を打ちつけた。

「乙姫はん、うちもう。あかんえ。最後に接吻、接吻してや」
「千草さん、好きなだけ。思い切りイってください」
「んぅ、乙姫は。イクゥ、うち。イクッ!」

 求められたキスに応じたが最後、むつきが振り落とされそうな程に千草が体を震わせた。
 幸いと言うべきか、果てる声はキスで抑えられたが体は喜びに打ち震えている。
 むつきもこれ以上我慢できず、子宮の中へと射精しているのだ。
 初対面、出会ってまともな会話すら殆どしていない相手へと。
 そんな相手を孕ませようとしていると、美砂達とは別種の背徳感がさらに射精を促がす。
 特別に濃く量も多い精液は直ぐに千草の子宮を見たし、蜜壷からあふれ出す。

「ぷはっ、ぁっ。熱い、溢れ。凄い、乙姫はん」
「射精止まらない、千草さんの体が気持ち良くて。ほら、硬いまま」
「ほ、ほんまやえ。んぅ、ぬりぬり。うちの中にぬりぬりしたらあかんえ」

 駄目だと言いつつ、千草の足はまだまだむつきの腰を放してはいなかった。
 むしろより強く抱き締め、膣壁にまでぬりつけてとマーキングを誘う。
 だったら遠慮なくと、始めたのは自分だがむつきも千草に自分の匂いを染み付かせる。
 旅の恥は掻き捨て、掻き捨てるままに京都美人に自分を残そうと。
 長い長い時間をかけて、マーキングも終えてむつきは、力を失い千草の上に覆いかぶさった。

「すみません、少しだけこのまま」
「ええよ、乙姫はんの重さ。嫌いやあらへん。接吻して」

 射精こそ止まったがまだ千草の膣を犯しつつ、名残惜しげにキスを繰り返す。
 まだ掻き捨てて去る時じゃないとばかりに、もう少しだけと。

「乙姫はん、ありがとうな」

 お礼を言うのはこっちだとも思ったが、その台詞を最後に一度だけキスをする。
 それからむつきは気だるい体を起こし、千草の中から一物も抜いた。
 着物の奥で見え辛いがきっとありったけの精液が流れ落ちている事だろう。
 やっちまったなとも思ったが、そこに意外と後悔はない。
 縁側の外、庭先で肌蹴た浴衣を直していると、千草もゆっくりと着物を直しだす。
 それからちょっとの沈黙、お互いに照れくさそうに笑った。

「うち、お冷のお代わり持ってきますえ。ちびっとお待ちを」
「千草さん」

 お酒はもう十分と、お盆に手を伸ばそうとした千草の腰に手を回し抱き寄せた。
 潤んだ瞳に浮かぶ期待の二文字から、恐らくは間違っていないのだろう。
 そうでなければ、お冷のお代わりなんて言いだすはずがない。

「僕の部屋で、今夜は過ごしませんか?」

 今さらだが恥ずかしそうにこくんと千草が頷いた。
 片付けは明日で良いと近くの使われていない部屋にお盆や徳利達を隠すように片付け。
 むつきに腰を抱かれ、千草は肩に首を預け恋人のように歩いていった。
 正直むつきは迷子状態だったので、お部屋はあちらと千草に案内されながら。
 もちろん、生徒達にバッティングしないよう気をつけてもくれていた。
 だが部屋が近付くにつれて奇妙な違和感が、いや違和感どころではない。
 向かう先の部屋からなにやら聞きなれた声が。

「いややわ、刀子の部屋も近くなんか」
「えっ?」

 忘れていたが、千草は京都出身の刀子の知り合い、最悪は友達なのだ。
 本当に今さら、これやばいんじゃと嫌な汗が噴き出し始める。
 それでも千草は短い逢瀬の時間を惜しみ、むつきをどんどん連れて行く。
 その表情は当初にこにこしていたのだが、廊下を歩くに連れて不審げにも。
 決定的になったのは、むつきの部屋の前に辿りついてからだ。
 行灯に照らされた障子の向こう側、今は影しか見えないが争う影が二つ。

「ちょっと帰りなさいよ、察しなさいよエヴァンジェリン。故郷での一夜とか今日限りなのよ。踏ん切りをつける良い機会なのよ!」
「やかましいばつ一が。私はむつきと囲碁を楽しんだ後にしっぽり。京都だぞ、京都。そっちこそ帰れ。さっさとどこぞの馬の骨とでも結婚してしまえ!」

 本人が居ない場所で超修羅場が発生していた。
 思い起こせば夏祭りの時も、刀子とアタナシアはと思い出した所で、んっとなった。
 今刀子はエヴァンジェリンと言わなかっただろうか。
 だからそれは妹の方だと顔に手を当てていると、障子がスパンっと開かれた。
 げっと思う間もなく、そうしたのは額に血管を浮かばせた千草であった。
 乱れた布団の上で顔をひっぱりあうキャットファイト中の二人が固まっている。

「お二方、乙姫はんは今夜。うちと過ごす予定ですえ。お引取りを」
「ちょっ!?」

 起こって殴ってくるどころか、正面から千草は戦いを挑み始めたではないか。
 刀子とアタナシア、やっぱりエヴァではなくアタナシアである。
 その二人もぽかんとしていたのは、一瞬の事であった。
 深い事情までは察しずとも、寄り添って現れればその目的は一目瞭然だ。

「むつき先生、へえ。これはお手が速い。うちをさっさと別の男に押し付けて、ご自分は京都の女漁りですか」
「私と囲碁の約束をしておきながら。古臭い、蜘蛛の巣が張ってそうな女を。覚悟は出来ているんだろうな」
「当然、うちとしっぽり楽しむ覚悟はできてますえ。なにせ、ついさっき楽しんできはりましたから。なあ、乙姫はん?」
「お、俺生徒達が迷惑かけてないか見回りに」

 当然の事ながら、逃がすかと三人の手によりむつきは引きずり込まれていった。









-後書き-
ども、えなりんです。

大人組が絡むと大抵こういう落ちになる。
もちろん、うやむやにせず次回は修羅場回です。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第七十六話 今夜はまだまだ続くぞ。覚悟は良いか?
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/10/12 19:55

第七十六話 今夜はまだまだ続くぞ。覚悟は良いか?

 自分の為に用意された自室に引きずり込まれたむつきはというと。
 刀子とアタナシアが暴れたせいで、滅茶苦茶にされた布団の上で正座していた。
 別にそうしろと言われたわけではないのだが、そうせずにはいられなかった。
 何しろ現在、三人の美女が自分の頭越しに腕を組み互いを威圧するようにメンチを切りあっているのだ。
 最近、椎名や古に迫られお腹が痛い事も多々あったが。
 全然楽、現状を思えば平気へっちゃら生温いとさえ言えた。

「さて、賞品はむつきとして掛け金は互いの命で良いか?」
「退魔は神鳴流の仕事、貴方の命でその依頼受けてもよろしいですよ?」
「はんっ、西と東の決着。今ここでつけようやないか、そっちの西洋鬼も纏めて」

 賞品というか、景品なのではないのだろうか。
 一体どうしてこうなった、何が悪かったと思いだすまでもなく自分だった。
 まな板の上の鯉、そんな言葉をこんな状況で心で理解したくはなかった。
 せめてもの反抗は、可愛いお嫁さん達を心でそっと思い出し涙する事だけだ。
 ごめんなさい、もうしません。
 明日は精一杯可愛がらせていただきます、それはもう大奉仕大会です。

「むつきがいる以上、アレはなしだ。使って良いのは己の拳のみ」
「神鳴流は無手でも十分に戦えます。拳もまた武器の一つ」
「うっ、うちが一気に不利に。けれど、恥を掻き捨てられるのは今日だけ」

 アレとは謎だが、ついに三人がボキボキと拳を鳴らすまでに。
 もう震えている場合ではない、何か何かを言わねば。
 それだせ、やれだせと頭を捻り出てきたのは、

「あ、あの。皆美人なんだから仲良く、えっと。ね、楽しくやろうよ。そうだ、麻雀。麻雀でもして親睦を、大人の親睦を!」

 ああ、大学時代の悪友達とは違うのだ。
 一体俺は何を言っているのか、もう駄目だ、お終いだと嘆いたのも少しの間だった。
 思いのほか、むつきの提案は好意的に受け入れられそうであった。

「確かに、ここで暴れてはむつきが死にかねん。これ以上部屋が荒れても、ムードもへったくれもない。折角の京都なのに。ならばここは体力ではなく、知力と運で勝負だ」
「文武両道、これでも教師よ私は。勝てるかしら、万年中学生と、中卒に」
「中卒、刀子言ったらあかん事をあんたは言いましたえ。昼間の決着つけたろか」

 以前ヒートアップしたままだが、断然方向は良い方向に流れ出した
 ボキボキ鳴らされていた手は納められ、メンチを切るだけに。
 ちょっと刀子は言いすぎだが、それでも胃痛はかなり柔らかく。
 良かった、このまま夜を明かして何事もなくと油断したのが不味かった。

「折角美女が三人もいるんだから、ここは一つ脱衣麻雀でもなんて」

 いやあ、良かった良かったと笑っていられたのもそこまでだ。

「そうか、そういう提案だったのか。よし、砲銃した奴は脱がしていくぞ。一枚一枚、爪を」
「なら、私は皮を。安心して、血は出ないわ。風が染みるけど」
「ちまちませんと、肉や肉いこうやないの」
「ちょっとぉッ! なに怖い発言してるんですか!」

 もはや、どうあっても思考が刀傷沙汰というか、修羅場一直線である。

「ええい、うるさい奴め。だいたい、私はベビードールだぞ。一枚脱いで終わりだ」

 ちらっと見上げたアタナシアは、シースルーの紫色のベビードール。
 豊満な胸も薄い布の中で窮屈そうで、私を解き放ってと語りかけてくるようだ。

「言われて見れば、私も浴衣一枚ですね」

 対する刀子は、近衛家が用意してくれたであろう浴衣一枚でノーブラなのか胸の谷間はバッチリである。

「うちは着物やけど、一枚みたいなもんや」
「俺も浴衣一枚」

 千草やむつき自身は今更であり、事後であるため、着崩れ放題。
 そもそも成り立たねえぞと三対の視線にさらされ、キュッとむつきが肩を竦めた。
 竦めたがここで意見を引っ込めてしまえば、後は三人の美女のキャットファイトだ。
 それだけでも大変なのに、ここは近衛の実家である。
 生徒はおろか、保護者である近衛の父までも露見してしまったら。
 しかも、学園長の親族、むつきの教師としての信用は失墜も失墜だ。

「分かった、俺も男だ。俺が砲銃したら一回いかせてやる。トンだら一発。これでどうだ!」
「よし、さっさとそれぐらい言え。それでこそ、男だ。茶々丸」

 パチンっとアタナシアが指を鳴らすと、むつきが引きずり込まれてきた障子が開く。
 これまた浴衣姿の絡繰が正座しており、スッと部屋の中に雀牌が入った鞄を置いた。
 それから何も言わず退室しようとした彼女を慌てて止めたのはむつきだ。
 当たり前だ、生徒がすぐ傍でこのやり取りを聞いていたなど思いもしなかった。
 匍匐前進も辞さない低姿勢で駆けより、半分泣きそうになりながら懇願する。

「絡繰、頼む。誰にも言わないで、お願い」
「では、ひかげ荘に帰った時に。あの、またネジを」

 無視されると思いきや、物凄く意外なお願い、または脅迫をされてしまった。

「お前、この状況分かってる」
「分かっているからこそ、お願いしたのですが? 現状、先生は私の願いを断れないと判断しました。もしや、違いましたか?」

 悪魔かっと言いたいが、確かに断れる状況でもなく。
 もう生徒に手を出す流れは止められないのかと、色々諦めそうにもなった。
 そんなむつきの心境も知らず、お三方はコタツテーブルにマットを広げジャラジャラと。
 席順も勝手に決めて洗牌中だ。

「おい、むつき。さっさと座れ。始めるぞ」
「良い牌使ってるわね。象牙?」
「麻雀ね。協会に入って直ぐ、先輩らに洗礼受けたのを思い出しますえ」

 自分から言い出した事だが、何この状況と言わざるを得ない。
 アタナシアの対面、左手に刀子を、右手に千草という席順でむつきも座った。
 洗牌中にあからさまに手でも握られると思ったが。
 そういう抜け駆けも得には発生せず、されど三人とも表情は真剣で。
 先程はああ思ったが、なあなあはいけないなと心に秘めた。
 アタナシアともそろそろ、自分達がどういう関係なのか決着をつけるべきだ。
 刀子は改めてお婿さん探しを、千草が一番困るが取れる限りの責任を。
 カチャカチャ牌を並べては積み上げ、とりあえずむつきが最初にサイコロを振った。

「自九で俺が親か。んじゃ、もう一回振るぞ」

 頷かれたので再度サイコロを振ると左八で、刀子が積み上げた牌からだ。
 まずはむつきからと、牌を拾っていく。
 親なのでむつきは十四牌、字牌は中と東。
 東場で親なので易々と東は捨てられず、中も少しだけ様子見で持つとして。
 ドラはピンフの四、必要ないのはと。

「ちょっと待ってね」

 またしても頷かれただけで、誰も声を出さない事に少々違和感が。
 牌を並べるので忙しいのだろうと勝手に自己解釈をして、選んだ。
 結局、どの牌も全くいらないものがなく、仕方なく中を切った。
 その次の瞬間、むつき以外の三人が同時に牌を倒した。

「ロン、地和。国士無双。ダブル役満」
「ロン、地和。国士無双。ダブル役満」
「ロン、地和。国士無双。ダブル役満」

 三人同時、もう馬鹿じゃないだろうか。

「貴様ら、積み込んだな?」
「なんの事かしら。貴方達こそ。ここで使うとか」
「積み込み言うたら、刀子あんさんが積み込んだ牌やえ?」
「お前ら、平然ともう全然判らなかったけど。いい加減にしろ!」

 再三のメンチ切りに、むしろ俺がとむつきがキレた。
 世間一般的に、誰が悪いと聞いたら節操のないむつきなのかもしれない。
 特に刀子に対しては結婚しないと明言しつつ、何度も何度もその体を楽しんできた。
 それでも、それなりに修羅場回避に色々考えたのにこれはないだろう。
 むつきを弾劾しても良い、ののしっても良い。
 けれど、和やかにしようとしたゲームでずるをするな、良い大人が。
 もうどうにでもなれという心中を現すように、むつきはコタツをひっくり返して立ち上がる。
 流石にキレたむつきに眼を丸くしているアタナシア達にまくし立てた。

「ああ、もう。あのさ、大前提として悪いのは俺だ。節操なく、全員抱いたからね。けどさ、それでも喧嘩して欲しくないから仲良くしようって。それで、それなのに」

 ちょっぴり涙が滲んだが、そんな場合じゃねえと自分で拭い。
 やっぱり、横恋慕し合いながら和気藹々と出来るお嫁さん達が一番特別なんだと思った。
 耐えられん、普通のこんな修羅場には耐えられん。

「良いか、これから罰符を貰う。嫌なら出てけ。いいな、返事は!」

 慌ててアタナシア達がはいと返すが、直ぐにアレッと小首を傾げも。
 結局むつきはぶち切れてはいるのだが、結局これは三人が望んだ事ではないかと。
 もちろん、二人きりが最上ではあるのだが。
 むつきが胡坐をかいたまま、浴衣を捲くったところでおおっと身を乗り出した。
 まだ半立ちですらないが、それが欲しいとばかりに。
 そしてここは一時休戦だとばかりに、お互い見合って頷いた。

「刀子さんと千草さんは舐めて。アタナシア、こっちに来い」
「吹っ切れたか。妙に強、きっわ」

 主導権だけはと言い募ろうとしたアタナシアの手を引いて強引に抱き寄せた。
 もう聞きませんとばかりに、その唇にしゃぶりつき手折る程に腰を引き寄せる。
 最初は驚いていたアタナシアも、唾液の交換が始まった頃には自分から身を任せていた。
 それにほか二人はフェラで自分がキスと、その格差に自尊心が満たされたのもある。
 元々、刀子と張り合ってはいても、抱いて貰えるなら人数はそこまで気にしないのだ。
 キスの最中に頭を撫でられ、もう一つの名が示すとおり猫と化す。
 奉仕はこちらからとばかりに、猫の様にむつきの唇から頬と舐め始めた。
 可愛い可愛いと撫でたむつきは、ちらりと横目で刀子と千草に命令する。
 下品に表現するならしゃぶれと目で命令された二人は、少しの戸惑いの後に互いを見合っていた。

「年下の可愛い彼氏が私に夢中やて?」
「もう何も言わないで、千草。同じ穴のムジナよ」

 千草に突っ込まれ、いざ別の男性を紹介された時に離れられるのか。
 ちょっと心配になりつつも、今日限りと心を決めて、本当にこれが最後と四つん這いに。
 特にアタナシアと千草には負けるかと、むつきの胡坐に顔を寄せた。
 何度貫かれたか分からない垂れている一物を手に取り、早くと扱きながら促がすように舐め上げる。
 すると直ぐに真横から千草も参戦してきて、旧知の間柄ながら同じ男の一物を舐った。

「うっ、気持ち良い。二人共、特に刀子さん。上手になったね」

 そう言われ頭を撫でられた刀子が、ビクッと体を震わせた。
 イッたわけではないのだが、言い知れぬ優越感というか満足感が胸を襲う。
 淫らな行為を複数でしている常識外の事だが、それでもだ。

「むつき先生、手でして貰えますか?」
「俺ばっかりじゃ悪いですから」

 刀子の浴衣を手で撫でるように遡り、突き上げる形となったお尻へ手を伸ばす。
 ちょっと腕が辛いが、肉付きの良い丸みを帯びたお尻を浴衣越しでしっかりと楽しみ。
 浴衣の裾を爪に引っ掛けまくり、何度かまくりあげ露となったお尻に直接触れる。
 最初からそのつもりだったので下着はない。
 何処かなっとお尻を辿ると、お尻の穴に触れそうになってまた刀子がビクッと。
 ちょっと面白いと思っていると、当然ながらアタナシアと千草が面白くないっと抗議である。

「乙姫はん、うちも。刀子みたいに」
「しまっ、私とした事が出遅れただと」
「了解、ちょっと待ってね。アタナシアはキスしてるからお預け。けど、最初にシテあげるから」

 しまったそっちがと、逆に千草がしまったという顔をしたりもしたが。
 出来るだけ全員可愛がってあげようと、むつきは下半身以外の全てを使っていた。
 両手はもちろん、刀子と千草のむちむちのお尻をなで上げ、いずれは秘部へ。
 既に一回戦してきた千草は十分に愛液と精液で濡れそぼっていた。
 また後でねっと精液を掻き出すように割れ目を開いては弄りあげる。
 対する刀子はまだ濡れ初めで、丹念に膣穴をちょいちょいと刺激する所から。
 条件反射とでも言うべきか、直ぐにむつきを受け入れる準備が刀子も始まった。
 両腕共にピンと伸ばしているので体勢は辛いが、二人の京美人の穴比べである。
 剣道で良く運動をするせいか刀子の方が締まりは強いがやや硬め。
 もちろん、千草が一回しているからという事もあるが、ぐねぐねと良く指からさえ射精を促がそうと忙しく舐っていた。

「ふふっ、むつき悪い顔をするようになったな。ほら、私も良く見てくれ」
「アタナシアの事はいつも見てる。凄く綺麗な色、今日も追い出してやるからな」
「それはもう良い。良いんだ、むつき」

 目の前、刀子や千草を跨ぐようにアタナシアが足を開いてむつきの前に立った。
 そして同じ金糸の陰毛から続く割れ目を自分で開いて見せてくれた。
 白い、京美人とはまた違う西洋人らしい白い肌。
 開かれた割れ目の桃色が良く際立ち、愛液もあいまり甘い匂いでむつきをさそった。
 花弁の甘露はいかにと、小陰唇を舌で舐め上げ愛液をすくい取る。

「さすがに、ちょっと恥ずかしいな。ぁっ」
「可愛い花びら。可愛いよ、アタナシア」

 珍しく頬を赤らめながら、アタナシアはそっとむつきの頭を両手で撫でた。
 と言うのはカモフラージュで、もっとと自分の陰部にむつきの顔を押し付けたのだ。
 もっと花弁を舐めて、その奥までと腰を振りながら。
 むつきも多少強引な所作に嫌な顔一つせず舌を使い花弁を弄び、その奥の穴も。
 直接蜜を吸うように唇を膣口に押し付け、唇と下の唇同士でキスをして啜った。

「んぅ、もっと。むつき、もっと吸って。ぁっ、ぁぅ。良い、むつき!」
「アタナシア、もっと名前を呼んでくれ。二人ももう少し頑張って」

 アタナシアに夢中な間もちゃんと一物を愛撫してくれた二人も忘れない。
 頭は撫でてあげられないので、忘れてないよと膣に指をずぶりと埋めていった。
 刀子も多少こなれてきており、良く染み出す愛液を絡め指を舐ってくれている。
 だが三人、それも全員がちゃんとした大人を相手にするとなるとのんびりはしていられない。
 特に刀子は女性ながら体力自慢だし、アタナシアも結構欲張りだ。
 行きずりの関係ながら、即座に二回戦へとむつきの部屋についてきた千草も大概である。

「二人共、ありがとう。それじゃあ、三人とも四つん這いで向こうを向こうか」
「という事は、良くあるアレやろか」
「なによそれ。良くって何であるのよ」

 いかん口が滑ったとそっぽを向いた千草は、官能小説か何かだろうか。
 教えなさいよとちょっと昔を思い出し、年頃の頃のようにじゃれ付く二人を邪魔するのは悪いが。

「むつき、もっと舐めれくれ。もっと愛して」
「最初に愛してあげるから、ちょっとだけ我慢。ほら、良い子だから」

 我が侭を言う様子は妹そっくりだと思いつつ、その妹にするように頭を撫でながらちょっとだけ体を押した。
 前に倒れペタンと両手をつかせたアタナシアのお尻を掴んだ。
 もっと上げてと突き上げさせ、今愛してあげるからと濡れそぼった割れ目をなぞる。
 一物は刀子と千草のおかげで準備万端。
 入れる前から二人の唾液で黒光りしており、その貢献者二人も四つん這いに。
 こちらはアタナシアと違い自分から、続きを急かすように腰を上げてくれた。
 成熟した女性の丸く大きなお尻がそれも三つ。
 壮観ですとちょっとだけ拝んでから、両脇には手を伸ばして愛撫の続きだ。

「んっ、指が深い。もっと太いの、むつき先生のおちんちん」
「かつての親友の乱れ姿を見るとか。うちの人生もわからんもんですえ」
「私が先だ。むつき、はやく。焦らすなど、生意気だぞ」

 ちょっとしみじみした千草も、何処かで諦めたようにお尻をふりふり。
 分かっていますよとそのお尻を撫でてから、むつきは正面を向いた。
 アタナシアのお尻、その割れ目に亀頭を添えて膣口を弄ると一気にいった。
 パンッとアタナシアのお尻をたたき上げ、よりお尻を高く突き上げた。

「んぁっ。ば、ばか、もっと優しく。何時もみたいに、優しく撫でるみたいに」
「エヴァにはしてるけど、そんなにアタナシアを撫でた事あったっけ? じゃあ、優しく。ほら、ぐりぐり」
「そこ、撫でる所違っ。ぁぅ、良い。むつき、もっと!」

 頭ではなく子宮口を亀頭でぐりぐりとちょっと乱暴になで上げた
 最初は抗議しようとしたアタナシアも途端にへなへなと力を失いへたり込んだ。
 口元はちょっとへの字口に悔しそうだが、抗えはしないらしい。
 乱れた布団のシーツを両手で必死に掴み、更に快感を得ようと腰を振っていた。

「エヴ、アタナシア。はやく代わりなさい、むつき先生。私、次は私に」
「止めろ、横から押すな。ぐりって、んぅ。ぁっ、むつき。くぅぁっ、ぁん」
「まあ、先にしてもろてるし。乙姫はん、うちの事も忘れんといてな」
「順番、順番にね。ほら、今はアタナシアの番」

 両手は刀子と千草の秘部を弄りながら、ちょっとだけ優遇してアタナシアを可愛がる。
 ふりふりと振られる腰にあわせ、ぐいっぐいっと腰を上げさせるように突き上げた。
 ちょっとだけ低い体温を示すように、夏にはありがたく膣内も少し温かい程度。
 アタナシアの中なんだなっと改めて教えられつつ、しっかりと味わった。

「むつき、ちょっとイキそう。まだイカないが、ちょっとだけだ」
「何その強がり。夜明けまで付き合うよ。ほら、遠慮しないでいいから」
「そ、そんなに突き上げるな。んぅぁ、んぅっ」
「アタナシアがイカないと、俺が先にイッちゃうぞ」

 そう言うと待って待ってと制止の声がアタナシアから上がった。

「イク、本当は凄いイキそう。むつき、イク。イクぅ」
「アタナシア、俺もイクぞ。アタナシアッ!」
「むつき、好き。大好きィッ!」
「ア、アタナシア!」

 思わぬアタナシアの告白に、いや順番はもの凄く逆なのだが。
 記憶が確かなら初めてのその言葉に、一気にむつきの中の臨界点が来た。
 一際ゴツンっとアタナシアの子宮口をたたき上げ、その奥へと強引にこじ開ける。
 後は生物の本能に従うままに、アタナシアの子宮内へと溢れるほどに射精した。
 びたびたと子宮の壁を精液で叩いては、だらりと滴らせていく。
 アタナシアもそれが分かるのか、腰を横ではなく後ろに押してくる。
 もっと奥に深くまでと、膣壁もさらなる射精を促がしてきていた。

「いひぃ、むつき。イグぅ。温かい、むつきが一杯」
「アタナシア、俺も好きだよ。愛してる!」
「私も、好きぃ!」

 愛しているその一言が一番大きなトリガーであった。
 半分涎を垂らし、シーツを濡らしながらアタナシアが大きく体を震わせていた。
 ぶるぶると小刻みに震える体はさらなる射精を促がすシグナルか。
 お腹一杯精液を飲まされ、やがて満足気に吐息を漏らしながらへたり込んだ。

「ふぅ、はぅ……ぁっ、ばか。ぬりぬりするな」
「イッた直後は敏感だから、気持ち良いだろ。ほら、アタナシア」
「本当に、ばか」

 止めてとは決して言わないアタナシアの中にマーキングを施していく。
 それから小休憩とばかりに、くてりとしたアタナシアにはシーツをかけて。
 次はと幸せそうなアタナシアを羨ましそうに見ていた刀子のお尻を掴んだ。
 ただし、そこで少しストップが。

「むつき先生、前から。お願いしても宜しいですか?」
「俺は良いけど、それだと千草さんの愛撫が」
「気にせんといて。こうすれば、全部解決ですえ?」
「ちょっと、千草ぁっ。むつ……」

 刀子の上に千草が跨り、京美人の二段重ねが出来上がった瞬間、我慢できなかった。
 アタナシアの時よりも一気に、刀子のみならず千草のお尻もたたき上げていた。
 音にして言うなら、パン、ゴン、グリ。
 刀子の子宮口に熱烈なキスをかまし、これまた一気に引き抜いた。
 亀頭のカリ首部分で膣壁をこれでもかと擦り上げつつ、一気に外へ。

「へ、ぁっ。どうして」
「乙姫はぁんっ!?」

 一体何事かと刀子の様子を不審に思い、千草が振り返ろうとしたときであった。
 今度はこちらとばかりに、むつきは千草の膣を貫いていた。
 刀子の時と同じく、パン、ゴン、グリ。
 いや、千草の尻の感触を腰で味わうように少しだけぐりぐりと。

「どんどん行きますよ」

 千草の膣を堪能したら、次は刀子に舞い戻る。
 京美人にも膣の味は色々だと、贅沢にも二輪挿しであった。

「んぅ、深ぁぃ。むつき先生、もっと私の中に」
「あかん、次はうちぃぁ。んぅ、乙姫はんまだまだ硬い」
「アタナシアも含めて、全員、寝かせませんよ。千草さん、こっちむいて」

 一度刀子の中で小休止して、ぬるぬると膣を味わいつつ。
 千草を背中側から少し抱き起こし、胸を捏ね上げながら振り向かせキスをする。

「乙姫はん、乙姫。れぁ、んんぅ。当たり、うち行きずりで当たりひいたえ」
「こっちの台詞ですよ、それは」
「むつき先生、私も接吻を。千草ばかりずるいです」
「忘れていませんよ」

 また後でと刀子の上に寝かせ、今度はその千草を後ろから覆いかぶさるように貫いた。

「うぁ、良いですぇ……」

 腰を時計回りに回し、奥をぐりぐりしつつ首を伸ばして刀子へと。
 そこは体勢が体勢なので、千草も負けじと参戦であった。
 そうして三人で仲良く絡み合っていると、アタナシアも一息ついたようだ。
 寂しかったとばかりに、むつきの浴衣の裾を引っ張ってきた。

「むつき、私も混ぜろ。もっとシテくれ」

 三人でとなると、もはやこれしかないだろうか。
 刀子と千草の膣を行き来していた一物を、二人の貝合わせとなった割れ目の間に滑り込ませた。
 二人同時に愛しながら、擦り寄って来たアタナシアを左手で抱き寄せる。
 腰を前後に振って刀子と千草を愛しながら、アタナシアにキスをしてはその巨大な胸の乳首をこねこね苛めた。

「んぅ、んっんっ。だめ、力入らない。千草、接吻してあげても良いわよ」
「こっちの台詞や。昔、思い出すな。よう、足りん知識で大人ぶってした事あったな」
「忘れたわ、そんな昔のこと」

 なら思い出したるとばかりに、千草が刀子に熱烈なキスを降り注がせた。
 むつきも顔負け、ちゅっちゅと互いにキスの雨を降らすがやや千草がリード気味。
 こうした、ああしたと当時を思い出して様々なキスをする。
 本当にディープまでしたかは不明だが、ちょっと夢のある思い出だ。
 もう少し二人の様子から当時を想像したいが、左手には忘れてはならない人が。

「アタナシア、俺達も負けてられないな」
「ふんっ、貴様に私がリードできるのか? 試してやる、ほらやってみろ」
「言ったな、さっきは俺にひいひい言わされたくせに」

 容赦しないぞっとばかりに、アタナシアの唇をそれはもう強引に奪い取った。
 下半身だけは刀子と千草の文字通り隙間だが、他全てはアタナシアに。
 アタナシアもすっとむつきの肌の上を摩りながら、背中にまで手を伸ばし抱きついてくれた。
 柔らかく大きな乳房は二人の間で押し潰され、コリコリと乳首が感じられる。
 一度放った膣を今一度指で愛撫しつつ、次の準備も怠りなく。

「んぅ、むつき先生。最後は先生で。千草も、悪くはないけど」
「ははっ、うちらレズちゃうし。うちも乙姫はんので」
「良い所だったのだが仕方あるまい。次は私だぞ。今日は枯れ果てるまで寝かさんぞ」
「望むところだ。二人共、一気にいきますよ」

 ちょっと待っててねとアナタシアにキスをして一時の別れである。
 千草の大きな尻に指が埋まるほど強く掴み上げ、二人の陰部に挟まれた一物を刷り上げた。
 反り上がるそれで刀子の割れ目をえぐり、亀頭で千草の割れ目を擦りあげる。
 愛液と千草の奥から流れた精液でもはやぐっしょりだ。
 どこからがどちらの愛液、または精液かも区別はつかず泡だっている。
 その尻や陰部をむつきは腰でたたき上げ、パンパンと小気味良く突いて行った。

「胸も、胸もお願いします。むつき先生、ぁっ。良い、イク」
「刀子、まぐろはあかんえ。女はな、男を楽しませてなんぼやて。ほら、こうやって」
「千草さんそれ、良い。腰がいやらしい、滾る。もっと!」

 基本まぐろが多い刀子に教えるように、千草が腰を縦横無尽に擦ってくれた。
 これならむつきも腰のめぐり合わせで、予期せぬ快楽がアクセントになる。
 上に圧し掛かられている刀子は難しいがそれでも同じように体をくねらせた。
 三人で人間以外、それこそ蛇のように腰をうねらせ性器を絡ませあう。

「ぁっ、もうだめ。イク、千草。接吻、千草。むつき先生!」
「うちが先かいな。まあ、付き合いうちの方が。今は突き合っとるけど」
「俺も、もう。刀子さん、千草さん!」

 ラストスパートだと、より激しくむつきが二人を突き上げた。

「んぅ、はっ。ぅぁ、むつき先生。イク、いきます。先生!」
「うちも、刀子。乙姫はん、うちまた、イクゥ!」
「思う存分、刀子さん。千草さん!」

 我慢出来ないとそのままむつきは二人の間で果てた。
 瞬間的に体を跳ね上げた千草を受け止めつつ、盛大に精液を射精していった。
 重ね合わせられた二人の体に隙間が生まれ、白濁液はそのまま刀子を汚していく。
 綺麗な髪も白い肌も、全部汚していった。
 全身でそれを浴びた刀子は、女として男を満足させた充足感に満たされつつ。
 ビクビクと体を震わせ果てた。
 千草もそれは同様で、抱きとめられた時に背中から包み込まれた時にある事を思い出す。
 それは遠い昔、むつきと体を重ね合わせた切欠ともいえた遠い昔の記憶。
 父親の胡坐の上で抱き締められた小さい頃の記憶。
 これはまずいかもと、心の隙間に入られた事を感じても踏みとどまれやしない。
 復讐よりやっぱり愛やと路線変更をこっそり心中でしつつ、今はむつきにもたれかかった。

「乙姫はん、もうちょいだけこのまま」
「流石にちょっと疲れた」

 むつきの腕の中で満足そうに千草がしていられたのは一瞬だった。

「ほう、流石のお前も大人三人はきついか。だったら、次は私に任せろ。良い声で鳴かせてやろう」

 順番は守れと、荒く息をつく刀子の方へとぺいっとアタナシアに投げられるまで。
 抗議はしたいが、職業柄あまり体力はないせいで元親友と体を重ねるのが精一杯。
 この西洋鬼と睨んだ瞳もちょっと力がなかった。
 そんな二人を満足そうに、後は任せろとばかりにアタナシアがにやりと笑う。
 この時の為に、最後は余計な邪魔をせず正当な理由で体力を奪わせたのだ。
 仰向けに倒れていたむつきの上に跨り、疲れたと言いつつ硬さを失わない一物を手に取った。

「むつき、今夜はまだまだ続くぞ。覚悟は良いか?」
「節操なく手を出した罰もある。ちゃんと全員満足させるよ。その義務が俺にはあるから」
「良い答えだが、義務はいただけないな。ほら、言ってみろ。抱きたいんだろ?」
「愛してるよ、アタナシア」

 それが聞きたかったとにやける顔は抑えられず、言葉だけで小さくアタナシアは果てた。
 ぞくぞくと背筋を上る感情は、長い人生でも感じた事はない。
 この男をと思った所で、ちょっと顔をぶんぶんと振りもしたが。
 こんなに必死なんだから、答えてやらんと可愛そうだしと考え直し。

「偶に、偶にだ。ちょっとぐらい、私が。その、してやろう」
「うん、一緒に。アタナシア、おいで」
「うん……」

 騎乗位からアタナシアが前のめりとなり、次が始まった。
 少しだけしおらしいアタナシアの頷きと共に。










-後書き-
ども、えなりんです。

修羅場は基本的に大人の間でしか発生しません。
でも、そろそろ打ち止めかもしれません。
刀子がそろそろマジで離脱するので。
シャークティは参戦するにしても状況が特殊な予定ですので。
修羅場事態もうなさそう。

とはいえ、このお話では修羅場といっても重くないですしね。
エロの前のアクセントぐらいの意味しかありませんし。
あとさり気に千草が趣旨替え。

それでは次回は水曜です。



[36639] 第七十七話 もう、この関係も終わらせないとな
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/10/16 21:10

第七十七話 もう、この関係も終わらせないとな

 特別修学旅行の七日目は、近衛家での朝食から始まった。
 正直むつきは二、三度顔を覗かせるだけで昨晩は夕食を食べ損ねたのだが。
 宴会場にも使われた巨大な客室にて、お膳で運ばれてきた。
 運んできたのはもはや少し見慣れた感のある巫女さん達である。
 むつきとしては、この光景が一番の土産話になるのではないだろうか。
 もちろん、羨ましいだろうと悪友達に自慢する意味で。
 ただ何故だろう、むつきの前にお膳やらお茶、ご飯をよそってくれた巫女さん達は皆同じような反応をしてきた。
 他の子達には一杯食べてくださいという笑顔付きなのだが。
 妙に表情を硬くし、ちらっと眼が合うとポッと頬を染めてそそくさと引き返していく。

(これ、千草さん経由で昨晩のアレが広まっているのではなかろうか)

 千草の姿は見えないが、刀子は隣のテーブルにいた。
 ちょっと視線を向けると眼があったが、さっと目を伏せてそらされる。
 恥ずかしがっているとかではなく、後ろめたさを胸に秘めたような。

(いい加減、結婚しないって言った手前。もう、この関係も終わらせないとな)

 だらしないのは自覚あり、重々承知なのだが。
 分かっていてそうし続けるというのも、かなり性質が悪い。
 刀子のお婿さん探しもしなければならないし、誰か伝を辿ってお見合いなど出来ないだろうか。
 とは言っても、自分の伝など大学時代の悪友しかいない。
 沖縄に行った時に爺ちゃんがいれば、聞いてみるのも良いだろう。
 どうかいてくださいと願っていると、トンッと背中に何かがもたれて来た。

「ん? て、明石どうした? お前、低血圧か?」
「あら、ごめん。アキラ」
「そっちに謝るのか」

 むつきが座る席の後ろは四班のテーブルであり、もたれかかって来たのは明石であった。
 眼不足のようにめをしぱしぱとさせ、ふらふらしながらアキラに謝っている。
 とりあえず、一番詳しそうな隣にいた佐々木に尋ねてみた。

「昨日の夜になんかあったのか?」
「普通に枕投げしてたけど。くーへが勝ったよ?」
「ありがたく泊めていただいた部屋で。いや、俺もか」

 むしろ枕投げの方が健全な分、ましだろう。
 色々と汚れてしまったシーツは、千草が笑いながら後始末をしてくれたのだが。

「何故か昨日は眠れなくて、うぅ……眠いにゃあ、先生今日は私がおんぶの日」
「あほか、アレは春日が怪我を。そうだ、春日。お前足の調子はどうだ?」
「ばっちりッス。良く効く薬を巫女さんから貰ったッスから」

 食事時前に少しお行儀は悪いが、昨日の夜まで包帯をしていた足をあげて見せてきた。
 包帯の姿は全くなく、陸上で鍛えたそれはもう健康的な足であった。

「うりうり、先生視線がちょっとやらしくないッスか。背負われている間、何度お尻をさわさわされたことか」
「お前、俺がお前を背負って山を登ってきたのがどれだけ辛かったか。触ってないぞ、本当だぞ。ひそひそ、すんな。何時も通りの春日だ」

 隣同士ひそひそと、もちろん何時もの事なので本気でそうしている者はいないのだが。
 その何時もを知らない巫女さん達が、むつきを指指しヒソヒソと。
 美砂とアキラも、むつきの両脇にて背中越しに次は春日かと。
 良いから前をむきなさいと、そんな二人をちゃんと座らせ。
 そろそろお膳も皆の前に行き届き、全員揃ったのだが今日は特別にもう一人。

「いや、申し訳ない。仕事が立て込んでいまして」
「お父様、こっちやで。明日菜とうちの間、大奉仕やて」
「詠春さん、お茶も淹れました。あっ、詠春さんだと割りと普通に会話ができた」
「急に娘が二人に、いやいや」

 近衛のみならず、おじさん分を補給だとばかりに明日菜もお世話に終始する。
 当人が口にした通り、娘が何人にもと照れ照れしていた。
 少し悪かった顔色もにこにこ顔でちょっと良く見えも。
 そんな近衛の父親が席についた所で、よそ様のそれも家長がいるが一度むつきが立った。
 ご馳走様の時に一言貰うかと思いつつ、少し声を大きくして言う。

「待ちきれないだろうから、手短に。賑やかなのは良いが、騒ぐなよ。んじゃ、両手を合わせて。頂きます」

 本当に手短に済ませてから合掌させ、頂きますと大合唱だ。
 そこからは、そこからもか。
 普段通り、朝からハイテンションな朝食の始まりであった。
 近衛家にて用意されたのは、山菜の炊き込みご飯と白味噌と大根の味噌汁。
 ごま豆腐にお魚の煮物にお新香、お好みで海苔や卵といった日本の朝食そのものだ。
 ただ関東勢が多い中で白味噌というのか、ちょっとしたアクセントか。

「これスープですか?」
「うわ、白味噌とか。初めて食べる。んっ、さっぱりしてて夏には良いかも」
「美味しいです」
「あらあら、こういうお味噌汁も良いわね」

 鳴滝姉はお椀を手に恐る恐る、釘宮がまず飲むのを見てからと微妙に慎重だ。
 特に気にせず飲んだ釘宮は、おっと顔を明るくしてまだ日差しの柔らかい陽の光を窓越しに見つめていた。
 松屋では赤出汁が基本なのだが、彼女としては合格のようである。
 毒見役というわけではないが、釘宮が美味しいと呟くと次々に皆が口をつけた。
 鳴滝妹も、那波も一口汁を啜っては、釘宮の様におっと顔を明るくして美味しいと呟く。

「美味しい美味しい、五月ちゃん白味噌って他にどんな料理があるの?」
「そうですね、お味噌汁と同じくお魚をぶつ切りに荒汁にしたり。他に汁ものではお雑煮なんかもありますよ。同じ味噌ですから、赤味噌で出きる事は大抵できます」
「ほほう、それは一度食べてみたいですね」
「白味噌って何処で買えるんだ。近衛、これ分けて貰えねえか?」

 むつきと同じテーブルでは、美砂もお気に召したようで四葉に調理法を聞いていた。
 ただそれは、自分で調理というわけではなく、ひかげ荘でのご飯を期待してだ。
 方眉を上げた夕映や図々しい事を言い出した千雨もそれは同じ。
 というか、むつき自身を含め、もう少し色々知りたい、食べたいとは思っていた。

「せやな、うちも白味噌は久しぶりやし。ちょっと持って帰ろうかな。明日菜は白味噌は大丈夫え?」
「うん、普通に美味しいわよ。釘宮も言ってたけど、夏は白の方が良いんじゃない? ほら、一晩経って煮詰まっちゃうと赤って辛いじゃない」
「煮詰まってしまっては、白もさほど」

 桜咲は京都出身だけあって、白の良さも悪さも知っているようだ。
 だが概ね白味噌は好評で、他のおかずも美味しい美味しいと食べている。
 この旅で皆が少しグルメになったように思えた。
 まあ、主に歴史など社会科の勉学の旅であったが、四葉の願いも含まれていたので当然か。
 ただ本来望んだのはお高いお店なのだが、そこの所はどうなのだろう。
 聞いてみたいのだが、四葉はちょっと席が遠いのでと思っていたところにである。

「早速お代わりを」

 四葉がそんな事を言いつつ、おひつのそばで待機中の巫女さんの下へ。
 途中すみませんと、一班と四班のテーブルの間を歩きむつきの背後を通る。

「大変、大切な事を教えていただきました。美味しいものは皆で食べてこそ。高くて美味しいお店と、私は少し子供っぽい憧れを抱いていたようです」
「いや、お前子供だからね。今度、な。そうだな。お前がドレスの似合う年頃になったら、俺もタキシードで決めてやるよ」
「その時はお願いします。その時まで、私の隣は空けておきますので」

 こっそりとした囁きあいだが、返しも見事、子供らしくない言葉であった。

「さっちゃんの隣は永遠に予約済み。うちと一緒やな、先生」

 そうにっこり笑って亜子に言われ、どう答えて良いものやら。
 四葉が望んだらなと考えてしまう辺り、もう戻れないのだろうか。
 教師としての自分、恋人としての自分。
 公私をできるだけ分けて、折り合いつけてやっていくしかないのだろう。
 完璧に公私をつけるなら別れるの一択だが、出来るはずもない。
 もはや、世間様にバレた時と同じぐらい目の前が真っ暗になってしまう。

「お前ら良く噛んで食べろよ。今日の観光は、今までとちょっと違うからな」
「どこへ行くのですか? すけじゅーるには、ここだけ詳細がありませんでしたけれど」
「そろそろお教えいただけても、よろしいのでは?」

 もぐもぐと行儀良く、口の中のものを飲み込んでからさよとあやかが尋ねてきた。
 別に喋ってしまっても特に問題はないわけだが、サプライズという奴である。
 楽しい旅も一週間近いので中だるみを避ける為もあった。
 秘密とウィンク込みでやってみたら、思い切り噴き出された。
 いやそこでポッと頬を染められても、それはそれで困るわけだが。
 和気藹々と、少しだけひかげ荘を思いだしつつ、美味しく京都の朝食を頂いた。
 その後は近衛の父親から、木乃香をよろしくお願いしますと挨拶があった。
 当然、皆ははーいと大合唱で、当人は照れ照れといつもの様に笑っている。
 巫女さん達も、自分達にもこんな頃がと微笑ましそうにされた。
 朝食後は、速やかに各自手に持つを纏めて、またあの大門前に集合であった。
 お出迎えと同じように、巫女さん達が石畳の参道に並んでお見送りである。

「それでは、大変お世話になりました。本当にありがとうございました」
「皆さんも、はい」
「ありがとうございました!」

 むつきが代表で近衛の父と握手した後、雪広の号令で皆が頭を下げた。
 最近寝泊りはずっと超包子の車両の中だったのだ。
 ちょっと特殊な民宿だったが、お風呂も広くて色々と解放的だったのだろう。
 それはもう、もの凄く良い笑顔でのお礼であった。

「こちらこそ、うちの娘をよろしくお願いします」
「お父様、それ二回目やて。恥ずかしいな、もう」
「詠春さん、木乃香の事は任せて。うん、私が責任を持って友達します!」
「神楽坂、お前お世話されてる方じゃなかったっけ?」

 オジコンが炸裂している神楽坂に突っ込むと、ギシっとその体が固まった。
 そして近衛の父にはにこにこしつつ、むつきの後ろに回りこんで背中を抓ってきた。

「先生、協力してくれるんじゃなかったの!」
「誰も言ってないだろ。てか、近衛の父親相手にマジになんな。高畑先生にチクるぞ」
「ごめんなさい」

 一瞬で神楽坂が大人しくなり、ほら班に戻れとシッシと追い払う。
 改めて、お世話になりましたとむつきが挨拶していると、視界の隅にあの人が。
 巫女さん達の後ろの方に、昨晩は別の意味でお世話になった千草だ。
 悪戯っぽい笑みで唇を一指し指でなぞり、投げキッスである。
 幸い生徒に見つかりはしなかったのだが。

「先生、別に外でナニしようと構わないけど。変な病気とか貰ってくんなよ」
「うるせえ、反省してんだよ。もう、俺はお前らだけだ」

 恋人達にはしっかりと見つかり、特に千雨に止めろよなと注意されてしまった。
 今夜はお前らだけだとハッスルするとして、本当にこれが最後。
 お世話になりましたと挨拶して、旅立ちであった。









 特別修学旅行七日目の最初の目的地は、京都タワーであった。
 これまでの歴史を絡めた観光地や、食事情を絡めた社会見学ともまた違う。
 ちょっと普通の観光っぽい場所である。
 ただし、むつきが組んだスケジュールが普通の観光であるはずがない。
 いや昨日は、もの凄く普通の観光だったが、京都故仕方がない部分も。

「京都タワーね。けど、東京タワーに比べると若干しょぼいよね。高さも約三分の一だし」
「聞かなきゃよかったかも、それ。なんかありがたみが減だね」
「でもでも、京都タワーは高さこそ負けますが色々と特徴があるんですよ。一切鉄骨が使われていなかったり、あの阪神大震災を耐えたモノコック構造だったり」

 朝倉がタワーを見上げて写真一枚と余計な事を呟き、村上が苦笑いしていたが。
 今日も小さなガイドさんである宮崎は絶好調であった。
 後半のモノコック構造はむつきも初耳だが、震災を耐えたという事でその凄さが分かる。

「のどか、なんでそれをもっとはやく。東京タワー×京都タワーじゃなくて、京都タワー×東京タワーだったなんて。これはイケる!」
「コミケが近いのにいけないジレンマでパルがおかしく……元からでしたね」
「皆、ウザなったら言ってや。うちがトンカチするから」

 ついにトンカチが名称から動詞に昇進していたが、皆一斉にウザいと言った為に早乙女は沈む事になった。

「はいはい、静かに。と言うわけで、説明するまでもなく。今日の目的は京都タワーだ」

 ぱんぱんといつものように手を叩き静かにさせる。
 これまた普段通り静かになる生徒達だが、これまでの特別修学旅行とは少し違う。
 何せ彼女達は理由も聞かされないまま着替えさせられていたからだ。
 今までずっと着ていた制服から、体操着にである。
 季節柄、上はともかく下は短いパンツとあって、結構一目を引いていた。
 もちろん、写真を撮ろうなどという不埒な奴は田中さんがホールドアップだ。

「先生、凄く嫌な予感がするッスけど。なんで体操服? 出来れば、女子中学生の健康的な生足が見たかったって理由が良いんッスけど」
「春日、お前もっと俺に感謝しろよ。何故エロネタを持ってくる。それと、嫌な予感は間違ってないぞ。今日はこれから、この京都タワーを特別に階段で上ります!」

 どうだっとばかりに、京都タワーを仰ぐように手を振った。

「えー、めんどくさいです。先生が一人で上れば良いじゃん!」
「旅行で筋肉痛とかありえない。あっ、もしかしてその後でエステとか」
「そんなお金出すぐらいならウサギ飛びで踏破してやるわよ!」
「ほほう、これはなかなか良い修行に。古、それに刹那も重りいるでござるか?」

 悲喜交々というか、嫌だと率直に言った鳴滝姉はまだ良い。
 美砂、お前は何を夢みているのか、少しはウサギ飛びと言い出した神楽坂を見習え。
 あと長瀬や古、桜咲は自重しろ。
 落とせばアスファルトが砕けそうな重りは何処から取り出した。

「でも、次の俺の台詞を聞いたら。お前ら、そんな事ばっかり言ってられないぞ。お前ら、この一週間ずっと超包子の車両内で食っちゃ寝してたろ?」

 昨日の近衛の家へ行く為の山登りは置いておいて、まさにその通りであった。
 移動は全て車両で、観光地についてはちょっと歩いてまた車両内。
 むつきのそんな指摘に、気付かなかったとばかりに彼女達の脳裏に思い浮かんだのは一つだ。
 一体どんな数値をたたき出すのか、思いだしたくもない体重計である。
 たかだか一週間でそこまで増加するとも思えないが、そこは若い乙女達であった。

「先生、登る前にラジオ体操しよう。どこか、場所ないかな!」
「フォアグラ」
「言うじゃないか、ザジ。ところで、楓。重りはまだあるか?」

 佐々木はまだしも、ザジの余計な一言で龍宮までも重りを欲していた。
 効果覿面だなっと慌てる彼女達を、悪戯成功とばかりに笑って眺める。
 すると、誰かが背中から抓るようにお肉を掴んで来た者がいた。

「先生も、少し運動なさった方がよろしいのではないでしょうか」

 それはちょっとむつきとしては歓迎したくない方向に内助の功を発動させたさよだった。

「いや、俺は先に上で待ってる予定で。神多羅木先生が後ろからお前らを」
「それなんだがな、乙姫。むつみが登ると死ぬし、一人でほうっておけん。悪いが、お前が登ってくれ。刀子をつけてやるから」
「むっくん、頑張って」

 ちょっと引きつりながら、当初の予定を口にしたわけだが。
 神多羅木がむつみを放っておけないと言い出し、話が妙な方向に。
 後は頼んだと、むつみの肩を抱いてそそくさとエレベーターホールの方へと行ってしまった。
 待って待ったとむつきが手を伸ばすも、乙女と言う名の亡者達に掴み取られてしまう。

「先生、私太ってないよね。痩せるから、一緒に頑張ろう」
「乙女の禁句にあっさり触れた先生が悪いやんね」
「やべ、私も途中で死ぬ。先生、潰れたら負んぶしてくれ。色々悪戯しても良いから」
「くっ、中途半端に体力のある自分が恨めしくも」

 一般のメンバー、要はひかげ荘メンバーにわらわらとまとわりつかれた。
 アキラや亜子、この辺りはまだ割りと普通なのだが。
 千雨は最初から諦めてしまっている。
 夕映はちょっと自信ありそうだが、その口ぶりからわざと駄目とか言い出しそうだ。
 やべえ失敗したと思っても、もう遅い。
 ひかげ荘は百階段だが、京都タワーはさらにその上の二百八十五段。
 しかもタワーなので登っても登っても風景は変わらず精神的な意味でもキツイ。
 行きたくねえと抵抗を見せたむつきであったが、結局は引きずり込まれる事になった。
 とは言っても、ひかげ荘の百階段に数年前から慣れているむつきである。
 確かに風景が延々と変わらないのは辛いものがあるが、黙々と登るだけであった。
 時折、走ろうとする者を注意しつつ、最後尾から刀子と一緒に登っていく。
 本当に黙々と、生徒達は騒がしいが最後尾だけちょっと沈黙が痛い。

「と、刀子さん。あの……運動が得意とは聞いてますが、大丈夫ですか?」
「はい、乙姫先生。さすがに季節柄、汗一つとはいきませんが」

 にっこり微笑んで返されたのだが、何故か呼び方が元に戻っていた。
 怒られない方がおかしいのだが、一体何処に怒っているのかビクビクしてしまう。
 思い当たる事が多すぎて、もはや分からない程に。
 そんなむつきの様子に気付いた刀子が、溜息を一つついた後にこう言った。

「怒ってなんかいませんよ」
「でも、呼び方」
「ええ、本気でそろそろこの泥沼をなんとかしないと。その決意の現われと思っていただいて結構です。それから乙姫先生も宜しければ、また葛葉とお呼びください」
「葛葉先生、ですか」

 言われた通り呟いては見たが、刀子の方がグッと強く唇を噛み締めていた。
 幾ら表面上では踏ん切りをと言っても、心の底からはまだ難しいのだろう。
 だから尚更表面を、まずは形からとでも言うように呼び方を変えたのか。

「女盛りと威張ってみても、もう三十ですから。駄目なら次と、割り切る事も必要ですから」
「すみません、惑わせてしまって。手伝える事があれば、何でもします」
「そう言う、中途半端な優しさが一番困るのですが。期待せずにいますね、乙姫先生」
「期待せずを良い意味で裏切れるようにしますよ、葛葉先生」

 改めて元に戻した呼び名を呟きあい、今までとは異なる笑みを見せあった。
 恋人一歩手前から、ただの同僚という立場に変えての笑みだ。
 ギスギスした空気も少し和らいだのは良いが、螺旋階段の手すり越しに覗き込む影が。

「こら、エヴァ。危ないだろ、止めなさい」
「ふん」

 何が気に食わないのか、不満気に鼻を鳴らしてトントン登っていってしまった。
 妙に懐いていた最近とは異なり、やや違和感のする態度だ。
 子猫は本当に気まぐれで、良く分からない事が多い。

「なんなんですかね、アレ」
「さあ、意外と張り合う相手が減って詰まらないとでも思っているのでしょう」
「張り合う?」
「こちらの事です、お気になさらずに」

 良く分からなかったが、刀子はエヴァと仲が良いのか。
 囲碁できるんですかと話を振って見たり、極々普通のお話をしながら階段を登る。
 コレまでとは違い、多少刀子から壁を作っている感じを受けたが。
 多少の寂しさは俺が悪いんだと自己完結をさせ、できる限り笑う。
 少しずつ関係が元に戻っていく事に互いに納得させ最後尾を歩いていく。
 その五分後ぐらい、ゆっくりと歩いていたので五十段を過ぎた頃だろうか。
 螺旋階段なので上は見えないが、ガコンと階段に何かがぶつかったような音が聞こえた。
 それから直ぐになにやら生徒達がざわめき始める。
 二人で不審げに眉を潜め見合い、何かあったかと次の階段に足をかけた時であった。

「先生、裕奈がこけた。眠さマックスでふらふらしてる」
「アイツ、そこまで。佐々木、お前は走るな。刀……葛葉先生、先に行ってみてきます」

 緊急時に咄嗟に以前の呼び名が飛び出しかけたが、即座に訂正して階段を一段飛ばしであがっていく。
 確かに朝食中から眠いとフラフラしていたが、運動中に寝入る程とは。
 判断ミスったと思いながら螺旋階段をぐるぐる回ると、立ち止まっている集団がある。
 個々の体力が有るため、さすがに今は班行動ではなく階段に座る明石の周りはバラバラの班員であった。
 と言うか、下に呼びに来た佐々木を除き、仲良し四人組のアキラと亜子だ。

「おい、明石大丈夫か? 螺旋階段だから、こけても下までごろごろはいかないと思うが」
「あはは、大丈夫。眠くてだらだら歩いてたら、思ったより足上がってなくて」
「裕奈運動神経良いから、咄嗟に腕ついてた」
「でもぶつけた腕が赤くなっとる。ちょい痛そう。昨日、美空が楓ちゃんから貰ったって薬貰ってくる」

 急ぎ階段を走ろうとした亜子を何よりもまず、引き止めた。
 こんな場所で慌てて走れば、二次災害は確実だ。
 階段に座り込んでいる明石に目線を合わせるように、むつきはしゃがみ込んだ。
 それから明石の腕を看て、一言断ってから足の方も傷の具合を看た。
 と言っても医者の知識なんぞないので、変に紫色になったりしていないか。
 他に明石自身に痛いかを聞いたり、まず確認したのは動けそうかだ。

「足より、腕が痛い。それ以上に眠い」
「痛い思いしたのにまだ眠いとか。とりあえず、俺が上まで背負うか。腕でも足でも、痛くてしょうがなかったら言えよ」

 階段の途中で明石に背を向け、負ぶされと背中を差し出した。
 眠いと言った通り、明石はまだふらふらしており、アキラと亜子の手を借りて負ぶさる。
 最初はかなりずり落ちそうな体勢だったが、むつきがよいせと背負いなおす。
 それでちゃんと背負えたのは良いのだが。
 ふらふらしている明石は当たり前だが、むつきの背中に密着しているのである。
 そして明石はアキラにサイズ的に迫ろうかと言う巨乳少女であった。
 つまりは、二人の間で大きなボールがむにゅむにゅするのである。

「アキラ、ごめん。おっぱい大きくて、当たってる」
「なんだ、その俺以外への気遣いは。余裕あるなら、歩かせるぞ」
「眠いにゃあ、動けないにゃあ」

 無理と必死に抱きつかれ、溜息をつきながら背負って立ち上がった。
 狭い螺旋階段での事だ、上に向かう為にくるりと百八十度回転する。
 するとバッチリ、お嫁さん二人と目が合った。

「裕奈、凄い。先生との背中でおっぱい潰れてる。けど、後ろに引っくり返ると危ないからちゃんとしがみついとらなあかんよ」
「先生、恥ずかしがっちゃ駄目だから。危ないよ」

 怒るどころか、当たり前だがそんな場合じゃないと注意された。
 いやむつきも分かっているのだが、小さな子供のように明石がぐずるので余計胸が押し付けられるのだ。
 反応してしまいそうで、非常に困る。
 反応したらぶっ殺すぞと脳内で息子を注意しつつ、追いついてきた刀子に説明した。
 特に問題はなさそうで、様子を見ましょうと。
 怪我に関しては刀子が少し知識があるようで、簡単に看てくれたが問題ないらしい。
 足もあって軽い捻挫ぐらいと、刀子が先に看に来た方が良かったかもしれない。
 一先ず、問題ないという事で最後尾の集団は上を目指した。

「裕奈、裕奈。本当に大丈夫?」
「平気、眠いだけ。うぅ……ゆっさゆっさされて、余計眠く。電車に乗ってる時みたい」
「分かる、心地良い揺れってあるよね」
「朝は終点やから良いけど、帰りとか偶に寝てて電車乗り過ごすやんね」

 刀子と二人だけの時とは違い、少女が集れば賑やかなものだ。
 といっても、短い時間とはいえ今明石は寝ておかないと今日一日に響きそうである。
 余り構って寝させないでおくなよと、一言注意であった。
 明石自身、喋られない事に残念そうだったが一時の事である。
 とりあえず、上につくまでの短い時間だけでも寝ておいた方が良い。

「うぅ、麻帆良祭でもここまで。悔しいにゃあ。でも、なんで眠れなかったんだろ」
「友達の家だから、興奮してたんじゃないのか」

 アキラ達が三人でお喋りするのをむつきの背中越しに見ながら悔しげに明石が呟いた。
 答え返すことでまた眠るのを邪魔するかもしれないが、本当に明石はふらふらだ。
 多少のお喋りは容認しても問題なかったかもしれない。

「違う、興奮してたとかじゃなくて。お母さん、思い出した」
「ホームシックか? クラス内で、親と近い位置で暮らしてるのお前だけだし」
「お父さん、ちょっと会いたいかも。お父さん、先生背中大きい。おんぶされたの何時ぐらいぶりだろ。お父さんの背中みたい」
「お前の年頃の娘とか、俺幾つだ」

 勘弁してっと言っていると、段々明石の口調が大人しく弱々しくなっていった。
 むつきの背中に揺られ眠くなったのもあるが、明石教授を思い出したからかもしれない。
 本格的にホームシックだなとは思いもしたが。
 父親代わりは今だけだと、ずり落ちてきた明石を良いせと背負いなおす。
 すると明石も今まで以上に、恐らくは無意識下でキュッと強めに腕を回してきた。
 同じぐらい胸も押し付けられたが、我慢我慢だ。

「桜子とくーへいなくて良かったね、先生。あっ、そうだ。アキラ、前からおんぶして貰う?」
「まき絵、裕奈寝ちゃったみたいだから」
「それに先生、動けなくなっちゃうやん」

 言外に、亜子は今夜違う意味で抱っこして貰うしと笑っていたが。

「むに、お父さん」

 そんな明石の寝言ごと背負いつつ、むつきはなんとか上まで京都タワーを制覇した。
 先程エヴァがしていたように、上の階段から手すり越しに時折見つめる人影がある事に気付かないまま。









-後書き-
ども、えなりんです。

察しの良い方でなくとも、裕奈の寝不足の原因はお判りでしょう。
そこで裕奈にフラグを立てつつ最後に誰かさんにもたてつつ。
次回までこの寝不足は引っ張ります。

あと、エヴァが不機嫌だった理由ですが。
刀子とは度々喧嘩してましたが、普通に男を取り合うというシチュが楽しかっただけです。
600年生きててそんなシチュなかったでしょうし。
本音ではもうちょっと楽しみたかったのでしょう。


さて、次回は土曜日です。



[36639] 第七十八話 二人で話せませんか?
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/10/19 22:41

第七十八話 二人で話せませんか?

 無事何事もなく京都での観光を終え、現在時刻は午前一時。
 超包子の車両は四国へと向けて、これまた夜間に田中が走行させていた。
 特別修学旅行も残す所、三日。
 四国、九州、最後に沖縄と長い旅にもついに終わりが見え始めていた。
 むつき達教師陣とむつみは、毎晩おなじみのスケジュール確認を大広間で終えた所だ。
 とは言っても、実際に確認をしていたのは神多羅木や刀子にむつみの三人だけ。
 一番肝心なむつきはというと、テーブルから遠く離れた壁際にぽつんと胡坐をかいて坐っていた。
 膝の上に、ピンクのパジャマ姿で丸くなるように眠る明石を抱え込む様にしながら。

(役得と言えば、役得なんだけど。これ後々、問題にならんのか?)

 きっかけは、消灯後に恒例のスケジュール確認の最中に、明石が部屋から出て来たことだ。
 謎の不眠、恐らくはホームシックなのだろうが。
 部屋でごろごろ寝返りをうっては皆が眠れないと、昼間の様にむつきの傍ならとなったわけだ。
 もちろん、そんな助言を彼女に行ったのは、別の部屋にいてメールで相手をしていたアキラや亜子であった。
 そんな馬鹿なとも思ったが、結果はこの通りであった。

「お父さ……ん、んぅ?」

 小さく身じろぎしながら、匂いかなにかが違うとばかりに明石が鼻をすんすん匂いを嗅いでくる。
 ちらっとスケジュール確認中の三人を見るが、気にした様子は全くない。
 とりあえず、彼女が身じろぎするたびにその体を抱え直す。
 何度かパジャマの隙間から見えるはちきれんばかりの果実に目がいったのはご愛嬌。
 生殺しですかと、脳内でお経を読むこと四回半、ようやく明日以降のスケジュール確認が終わったようだ。
 真っ先に振り返ったのはむつみであり、四つん這いの格好で近づいて来て明石を覗き込んだ。

「すっかり、寝ちゃって。むっくん、お父さんみたい」
「止めて、姉ちゃんまで。こんな大きな子供いたら幾つなの俺」

 むつみにくすくすと笑われ、体勢がずれていく明石を抱えなおしつつ苦笑いである。

「少し似てきたな、夕子さんに」
「そうですね」
「二人共、明石のお母さんを知ってるんですか?」

 何処か懐かしそうな視線を神多羅木や刀子が向けた為、気になって聞いて見た。
 明石が父子家庭という事は知っていたが、母親がどうしていないかは知らない。

「個人的な付き合いで少しな」
「彼女の母親は、この子が幼い頃に海外出張中に事故でそのまま」

 だからこそ、母親を失った寂しさを埋め合わせる為に必要以上に父親にべったりなのか。
 ファザコンと言われ全く気にしないのも、明石自身は家族愛を向ける相手は父親しかいない。
 明石にとって家族を愛する事は父親を愛すること。
 ちょっと行き過ぎな事もあるらしいが、当たり前の事なのだろう。
 ただそれでも七日やそこらでホームシックとは子供やのうとつんつん頬をつつく。

「むっくん、裕奈ちゃん折角寝たのに起きちゃう。お姉ちゃんにかして、部屋に寝かせに行ってくる」
「あの、むつみさんはさすがに落としかねないので。ここは私が。そろそろ、お休みにしましょう」

 むつみでは共々倒れ込みかねないので、刀子がむつきから明石を譲り受けた。
 軽々とひょいっと横抱きにし、四班の部屋のドアを開けて入っていく。
 その間に今日もお疲れと神多羅木とむつみが同じ部屋へと向かっていった。
 俺もそろそろ寝るか、もしくはお嫁さんの誰かが起きていればもう一頑張りか。
 そう思い部屋に足を向けようとした所で、全く別のドアが開く音が聞こえた。
 目の前、少し先の自分の部屋はまだ開いておらず、では誰が。
 刀子は出てくる可能性があるが、寝かしつけたにしては少し速い。

「乙姫先生、少しお話が」
「桜咲、近衛は良いのか?」

 振り返った先、開いていたのは二班のドアであった。
 ドアを開けたのは桜咲であり、何時もの竹刀袋を胸に抱きなにやら思いつめた表情だ。
 消灯時間を当に過ぎていると言うのに、制服姿である。
 チェックのスカートの下、太股辺りにスパッツが見えるなど普段通りの姿であった。
 その傍に近衛はおらず、最近は常にペアだったのにと思わず聞いてしまう。

「このちゃんは大人しく寝ていらっしゃいます。本当です、大人しいですよ?」

 途端に頬を染め、わたわたと桜咲が念を押すように言い出した。
 赤くなった頬、それも右側だけを手で押さえているから大体想像はつく。
 一緒に寝ていた近衛がよくキスでもしてくるのだろう。
 近衛は大和撫子を体現したような少女だが、意外におせおせな所もある。
 相変わらずでとチャカしもしたくなるが、その前の思い詰めた表情が気になった。

「刀子さんなら、明石を寝かしてるから。直ぐに戻ってくるぞ。俺で良いのか?」
「むしろ、先生が。二人で話せませんか?」
「二人きりか」

 桜咲の申し出にそう唸ったのは、理由があった。
 ここが学校で昼間なら良いのだが、現在は夜中であり、むつきの部屋ぐらいしかない。
 そこまで思ったのだが、桜咲は半ひかげ荘の住人である事も思い出した。
 まあ良いかと、まず最初に小鈴にちょっと待ったメールをしてから、部屋の扉を開けた。
 一応誰にも見つからないか注意しつつ部屋へと招き入れる。
 むつきの部屋は一番狭いので、用途があったと小さな丸型テーブルの椅子を桜咲に勧めた。
 それから自分はベッドを椅子代わりに、相談教室の格好であった。
 ただ竹刀袋をテーブルに立てかけた桜咲は、両手を膝に首をすくめるようにガチガチだ。
 緊張のし過ぎというか、それでは相談で本音を漏らす事もできないだろう。
 まずはそこをほぐすところからかと、からかい半分でむつきは言った。

「それで、改まって相談ってのは。近衛の寝相についてか?」
「違います!」
「それじゃあ、近衛が好き好き大好き過ぎて毎晩体が疼いて持て余してるとか?」
「ちゃいます、このちゃんはちゃんとうちを満足させてくれとる。最近、皆と相部屋でできなくてちょっと欲求不満、ハッ!」

 思いのほか緊張が解けすぎてふしゅうっと桜咲が頭から湯気を出した。
 むつきもガチレズな桜咲を前に、ちょっと反応に困ってしまった。

「失礼します、この話はなかった事に」
「待て、すまん。俺が悪かった。チャカして悪かった。大丈夫、誰にも言わないから。プライバシーは守る!」
「絶対やえ。バラしたら、うちも覚悟してひかげ荘の件を」
「思いつめるな、そこまで思いつめるな。お前はバレても、思春期で済むが。俺はそうはいかねえんだよ。マジ、止めて!」

 普段は寡黙で扱いに困らない生徒かと思いきや、もの凄く手のかかる子であった。
 腕を掴んで引きとめ、逆に肩を掴まれ凄まれたりと。
 お互いに冷静になるまで割りと長い時間が掛かってしまった。
 視線で牽制し合い、言うなよ、絶対に言うなよとダチョウ倶楽部並みの牽制である。
 言ったが最後、主にむつきは人生の破滅なので言えと言っているわけでは絶対にない。

「よし、仕切りなおしだ。チャカしはなし。来い」
「こほん、それでは」

 むつきが居住まいを正した事で、桜咲もそれならと咳払いで姿勢を正した。

「先生、明石さんの様子はいかがでしたか?」
「は? いや、最初は俺の膝の上で眠れないってごろごろしてたけど。なんの事はない、三十分経たないうちに寝ちまったけど」

 桜咲のお悩み相談で何故にいきなり、明石のホームシックの件が出てきたのか。
 もしや桜咲もかげではホームシックとでも言うのだろうか。
 いや、桜咲の故郷は京都であるし、父母も既に死別しているとも。
 逆に京都に来て、近衛が父と触れ合う様を見たりと近付いたが故にホームシックにでもなったか。

「では、改めて。先生、心を守るとは何ですか?」
「突然哲学染みた。すまん、さっぱり意味が……あっ、あれか。近衛のボディーガードの件か。明石全然関係ないけど」

 刀子から桜咲が近衛のボディーガード的な存在だとは聞いている。
 十四の女の子にそれをさせるのはどうかとも思うのだが。
 近衛の実家を見て、彼女が学園長のお孫さんだと考えると、おかしくない気もする。
 普通のボディーガードでは学生のそれも女の子に四六時中張り付くなんて無理だ。
 近衛が鬱陶しいと思うだろうが、その点において桜咲は最適であった。
 まず何より、近衛が桜咲を好き過ぎて離したくないと思っている。
 さらに桜咲も剣道に置いて優秀で、A組の中でも武道四天王と呼ばれていた。

「あれ、古は拳法。長瀬は忍者マニア、桜咲は剣道で。龍宮はなんだ?」
「えっ、あの……そう、バイアスロン。鉄砲が、違ッ!」
「ふーん、まあいいや。どうせサバゲーとか、女の子としては表に出しにくい事でもやってんだろ。必死になんな。誰にも言わねえよ」

 だからアイツそこかしこにエアガン持ってるのかと、むつきは勝手に一人で納得していた。
 以前も魔眼とか言って、千雨に中二病呼ばわりされていたが。
 恐らくはエアガンのスコープを覗いて私の魔眼とかゲーム中に言っているのだろう。
 そんなむつきを見て、これ絶対後で怒られると桜咲が頭を抱えていたのは少しの事だ。
 心の奥底ですまんと謝り、優先順位はこっちだからと忘れる事にしていた。

「夏祭りの時に、刀子お姉ちゃんからこのちゃんの心を守れと言われました。ですが、心と言われても具体体に。そこで先生に相談を」
「また凄いの来た。何故、お前達は俺にどうしようもない相談ばかり持ちかける」
「ですが先生は明石さんの心をお守りに」
「明石? 大げさな、あいつただのホームシックだぞ?」

 先程から度々会話がかみ合っていないというか、眼を見開いた桜咲がそうかと呟いている。
 良く要領は掴めないが、明石のホームシックをむつきが治した。
 直したとまではいかないまでも、一先ず不眠は解消されたはず。
 だからそれが桜咲には明石の心を守ったように見えたと、そういう事なのだろうか。

「とりあえず、俺の主観としてはだな。膝に抱えて一緒にいて、時々声をかけて喋ってただけ。後は勝手に寝ちまったけど?」
「それでは、さっぱり分かりませんね。はぁ……」
「おい、俺を前にして溜息をつくな。つく前に、お前チラッと俺見ただろ。役立たず的な意味で」

 そうでしょうかと、しれっと返されさすがのむつきもイラッと来た。
 チャカしは無しだとは言ったが、すまんアレは嘘だと心中で意見を変える。

「そうだ、桜咲。お前、ちょっとこっちに来い」
「こっちとは?」
「明石と同じ状況になれば、分かる事もあるんじゃないのか?」
「確かに」

 むつきがベッドの上で胡坐をかいて、ポンと膝を叩くと桜咲が普通に頷く。
 アレっと思ってももう襲い、むつきが疑問に思っている間にも桜咲は動いていた。
 ベッドの脇にまで歩いてきて、背中を向けるとむつきの胡坐の上に座ってきたのだ。
 先程まで明石がそこにいたので、随分とその大きさの違いが分かった。
 身長にして十センチも違うので、桜咲がそれはもう小さく思えた。
 サイドテールがふぁさっと揺れて女の子の匂いがし、思わずお腹に腕を回してしまう。
 腰もそれは細く、上から覗いた胸などそれはもう明石と比べるのがかわいそうなぐらい。
 当初は、彼女がそんな事は出来ませんと赤くなる事を予想していたのだが。
 もう人生何度目の事であろうか、どうしてこうなった。
 それだけ真剣に桜咲が相談してきていたのであって、チャカしてごめんなさいの二度目だ。

「ど、どうだ。何か分かりそうか?」
「すみません、ど。ど、どううしてこうなったのでしょうかッ?!」

 今さら言うなとも思ったが、すっぽり収まってから桜咲も気付いたらしい。
 その表情はうかがい知る事はできないが、変わりにサイドテールが動揺を現すようにピコピコと動いている。
 動揺した桜咲がキョロキョロすると筆で顔を擦られたように痒い。
 くしゃみが出そうで、どうにでもなれの精神で良くエヴァにするようにした。
 顎で小さな桜咲の頭、頭上をぐさっと差したのだ。

「大人しくしろ、良いから。暴れるな。今、どう感じてる?」
「どう、背中が密着してる背中が熱くて。ドキドキ……うち、このちゃん以外の人に」
「いや、それはもう良いから。安心する、とか。落ち着く、とか。あったら、多分それがそうなんじゃねえの。まあ、心を守るのにあれはいらないわな」

 桜咲が押し黙ってしまったので、代わりに思ったままをむつきは語った。
 特に彼女が普段から持ち歩いている竹刀袋。
 ボディーガードは痴漢撃退要員ではないのだから、アレは不要だろうとも。
 特に心をなどと思っているなら、まず心がささくれ立ちそうな武器は手放すべきだ。

「おおっ、ボディーガードで思い出した。昔な、ボディーガードって映画があったんだよ」
「映画、ですか?」
「ネタバレになるけど、良いか?」

 桜咲が見るかどうかはさておき、断っておいてから核心部分に触れた。
 直球な題名に心轢かれたのか、桜咲がむつきを見上げてくる。

「お前らと違って、当初は守られる方、女優がボディーガードを嫌ってたんだ。あれこれ、注文されるしプライベートはないし。けど時間をかけて信頼をつくりあげ彼女が人生最大の舞台に上がった時だ」
「どうなったんですか?」
「銃で撃たれた彼女をボディーガードが身をていして守った。その身に銃弾を受けてな」

 素晴らしいと目を輝かせた桜咲を見て、より強く顎を彼女の頭に突き立てた。

「馬鹿、話は最後まで聞け。犯人は確かに取り押さえられたが、信頼してたボディーガードが代わりに撃たれたんだぞ。それはもう女優の方が取り乱した。彼を助けて、私のボディーガードなのって」

 想像でもしてしまったのか、桜咲が少し顔色を青ざめさせていた。
 自分が素晴らしいと瞳を輝かせた行動が、守るべき相手を泣かせてしまったのだ。
 つまりは、今の自身の感性では自己満足で守ったつもりになるだけの可能性がある。
 仮にそのまま自分が死んでしまえば、大事なこのちゃんが泣き顔のままだ。
 誰がその傷を癒す、一番信頼されているであろう人が死んでしまってから。

「教訓は自分で考えろ。てか、一度その映画見てみろ。いや、その映画だけじゃない」
「他にもボディーガードの映画が?」
「ちゃうわ。今までお前は、近衛を身を挺して守るのがボディーガードだと思っていた。刀子さんに心をって言われてもだ」
「はい」

 素直な返事だと頭を撫でながら続けた。

「映画一つで視点がこうも変わるんだ。近衛だけじゃなく、中学生として色々な事に興味を持ってやってみろ。そうすりゃ、自然と見えてくる。心を守るとは何か。近衛にとって傷つかれたら悲しむ相手はお前一人か?」
「学園長に長、それから同室の神楽坂さん。図書館探検部の方達に、クラスメイト。それから、先生」
「ん、俺もいれてくれてありがとうよ。時には近衛と離れて別の友達、龍宮か? 遊ぶのだって悪くない。道は一つじゃない。周り回って、アレが必要ってのも構わない。何も見ず、試さずにアレだけだってのが一番駄目だ」
「龍宮には、ガチレズではないと説明しなければ……」

 違うのとも思ったが、ちゃちゃを入れるのもまずかろう。
 前よりは少しまともな相談室になったかなと、まだ見上げてきたいた桜咲を見下ろした。
 まだ色々と思案している表情だが、何処へ歩けば良いか迷った表情ではない。
 闇雲という状況ではあったが、心に指針のようなものが生まれた顔だ。

「映画がレンタルできなけりゃ、宮崎とか頼るのも悪くない。これですとか、あっさり原作の本を渡してくれるかもな。読んでる途中で寝るなよ?」
「す、少し自身が活字ばかりでは……」
「うっかりしてると、バカレンジャー入りだぞ。今は馬鹿スリーだけど。絡繰は次の中間で抜けるだろうから。力の一号と技の二号が、あいつらもなんとかしないとな」
「こちらとは違う先生も、意外と大変なんですね」

 こちらとは生徒を指したことだろうが、意外とはどういう事だと、顎でがすがす頭を突いてやる。
 痛いと笑う、そう珍しく笑っていた桜咲だがふいに気付いたようだ。

「ぁっ」
「ん?」

 頬が触れ合うぐらいに近い距離で笑いあい、お互いに目があった。
 今の自分の状況、抱っこされている状態を再認識させられ耐え切れなくなったらしい。
 ばっと飛びのくようにむつきの腕から飛び出し、ぱぱっとスカートを直していた。
 わたわたと慌てて身支度を整え、なにやら思い切ったように振り返った。
 それからキュッと一度瞳を閉じてから、いきなりその頭を下げてきた。

「申し訳ありませんでした。以前、このちゃんをひかげ荘に連れていった時。私はこのちゃんの事しか考えていなくて。先生の事をこれっぽっちも考えていませんでした」
「知ってたよ、お前近衛が大好きだからな。暴走する事ぐらいある。俺だって生徒相手に手出したり、度々暴走してるしな。お相子だ」
「次は、ちゃんと自分の意志で行きます。このちゃんがどうするかは、このちゃんに任せます。それでは、失礼します!」

 脱兎の如く、竹刀袋を手に取り桜咲は行ってしまった。
 今の反応は照れくさくなっただけか、それともパターンに入ってしまっただけなのか。
 とは言っても、ひかげ荘の半住人が住人になったところで何が変わるわけでもない。
 また一つ、むつきが表立って俺は教師だと豪語できなくなるだけ。
 それはそれで悲しいなと思っていると、部屋全体がぐらっと揺れた。
 何時もの一班への強制移動かとも思ったが、揺らぎが落ち着いても部屋は変わらなかった。
 その代わり、バスルーム内から千雨と小鈴が顔を覗かせた。

「あれ、二人だけ?」

 体にはバスタオル一枚を巻いた格好のままで。

「先生が待たすからだよ、何時だと思ってんだ二時だぞ。私は夜更かしなれてるからな」
「私もネ。今日はこの異色のタッグで親愛的に御奉仕ネ。お風呂、入らないカ?」
「喜んで」

 確かに今日も既に遅いし、今からしていては朝になってしまう。
 三人で一風呂浴びて、そのまま一緒というのも悪くはない。
 エッチするかどうかは、自然の流れに任せようとベッドを立ち上がった。
 部屋の鍵を改めて掛けて、それからスーツの上着をベッドに放り投げつつお風呂場へ。
 二人は既に湯殿らしく、もう脱ぎ散らかすように急ぎ服を脱いだ。
 案の定と言うべきか、二人はキャッキャと騒ぎながら体を洗いっこの最中だった。

「いやあ、世紀の大天才に一つでも勝るものがあるって良いよな」
「あはは、くすぐったいネ。しかし手頃派と巨乳派に分かれるとすれば、千雨サンはいささか中途半端ネ。時代は美乳ヨ。アジア人らしく、手頃なサイズが」
「負け惜しみ、乙」

 洗いっこというか、ボディージャンプーで体をあわ立てボディタッチ中だった。
 椅子に座った小鈴の後ろから、千雨が抱きつくように胸を弄んでいた。
 嫁が仲良く良い事で、この光景だけでご飯三杯は軽くいけそうだ。
 早速俺も混ぜてと、一物がふんがっと立ち上がりそうだった。

「小鈴、椅子あけて俺の膝に。千雨は悪いけど背中頼めるか?」
「んっ、千雨サンのすべすべの手がごつごつに。刺激が変わって良い感じネ」
「軽くシャワーかけるぞ。先生、背中ってタオルで? 胸で?」
「胸に決まってぶわっ、熱っ。温度確かめてからにしろよ」

 悪い悪いと笑ったままで、本当に千雨は処女を貰ってあげたのに態度が変わらない。
 そういう千雨が好きといった手前、今さらしおらしくなどとも思わないが。

「刹那サンのお悩み相談はどうだったカ? ちなみに、会話は全て聞いていないから安心すると良いネ。千雨サンが保証してくれるヨ」
「ずっと一緒にいたけど、確かに何もしてねえな。ぶっちゃけ、録音とかされてたらわかんねえけど。超に対して、他人のアリバイ証言ほど意味のないものもねえけど」
「的確な保証で泣けてくるヨ。親愛的、後輩嫁が苛めるネ」
「ぶりっ子、キメエ」

 小鈴がごろごろと喉を鳴らして甘えてくるが、千雨がばっさりである。
 むつきとしては、腹黒さのないぶりっ子は割りと歓迎なのだが。
 なんだかんだで、騙されているとは分かっていても可愛いと思ってしまうのが男だ。

「可愛いな、小鈴は。ほら、乳首摘んでやる」
「やん、親愛的。手つきがいやらしいネ。もっとして」
「千雨、無言でガスガス蹴るな。ちゃんと可愛がってやるから、滑りやすいここで片足立ちになるな」
「先生はまだ半立ちだけどな」

 お前本当に下ネタ好きだなと半笑いで、首を回して振り返った。
 ほらお駄賃の前払いとばかりに、キスである。
 それで少しは機嫌を直してくれたのか、両肩に手を置いて密着してくれた。
 もちろんその体はボディーソープであわ立てられている。
 ぬるぬると北海道で学んだソープ嬢仕込みの御奉仕であった。
 胸でむつきの背中を流しつつ、両手は半立ちと証した竿をこれまた洗ってくれた。

「うお、また上手くなったな。これぐらい普段も勉強熱心だったらな」
「その辺は超や委員長、和泉に任せた。エロイ勉強は柿崎や私に任せとけ。ソープ嬢とも度々連絡とっててさ。色々相談に乗ってもらってる」
「皆既に私と葉加瀬開発の携帯だから、検閲も完璧。危ない情報は載らないヨ」

 なら安心だと、その効果をしっているだけにむつきは超を可愛がった。
 さよと同じく小ぶりで手頃な胸を包み込むようにふにふにと。
 流し残しのある首筋にキスを落としては、片方の手をつっとお湯の流れにそって落としていく。
 小鈴もそれが分かるのか、むつきを見上げては早くと切なげに見つめてきていた。

「小鈴ってMだったよな?」
「突然、親愛的になら何されても平気ヨ?」

 そりゃ良い事を聞いたと、むつきは小鈴の膝の下に両手を滑り込ませた。
 そのまま両足を掲げ上げると、胸の上で小鈴の背中が滑っていった。
 ボディーシャンプーのお陰でそのまま一回転しそうだったがもちろんしない。
 小さな子のおしっこスタイルに小鈴を持ち上げ、椅子の上で一回転。
 背中を洗ってくれていた千雨とご対面であった。
 一体何事と千雨は眼を点にしていたが、むつきの悪い顔を直ぐに察してくれた。

「親愛的、さすがに恥ずかしいネ」
「我慢我慢、千雨」
「あいよ。両手をに良くボディーシャンプーを絡めて。冷たっ、マットしいときゃよかった」

 千雨が四つん這いになる。
 椅子に座るむつきと、そのむつきにおしっこスタイルをさせられた小鈴。
 自然と千雨の視線は小鈴の泡立てられた下腹部の割れ目へと向かった。
 にやりと笑った千雨は、良く泡立てた両手の親指を、その割れ目に掛けた。
 いきなりは少し怖いので、 大陰唇を開かせ花びらを覗き込んだ。

「うわっ、綺麗なピンク色。写真撮りたいぐらいだ。おいおい、超。濡れるの早過ぎ。ボディーシャンプーいらなかったなこれ」
「だって、親愛的のがお尻をツンツン。悪い顔しながら、犯したいって」
「小鈴、羞恥に震えるその顔がエロイ。もっと見せて。千雨、頼む」

 むつきに言われ千雨は小さな花びらを指でどけ、膣口へと両の人差し指をかけた。
 多少の抵抗があったが二本の指は第一関節部分ぐらいまで入った。
 この時点で千雨は処女膜がない事に気付いたが、恐らくは再生中なのだろう。
 拳法で大また開きでもした時に、破れたかと思って流した。
 それよりも今はと、小鈴の膣口を挿入させた指を左右に開いていった。

「んっ、千雨サン。ゆっくり、見られてるネ。親愛的にも見られた事がない所まで」
「千雨、小鈴の中はどうなってる」
「すげえの一言だ。これ、うねってる。ちょいグロイ。赤ん坊ってここを通るんだよな。女ってすげえ。いや、私も女だけど」

 もう凄いしか言えないのかと言うぐらい、凄いを千雨は連発している。
 ただそう言われる度に出産を想像したのか小鈴がふるふる打ち震えていた。

「小鈴、産んでくれるんだよね?」
「もちろんヨ。千雨サン、息が。かかって、イキそぉ」
「へっへ、行ってらっしゃい。よっと」
「ぁっ」

 膣を広げた事で周辺の肉や皮が引っ張られた結果なのだろうか。
 千雨が目ざとく割れ目の上の奥底に隠れていたクリを発見し、指で弾いた。
 効果はてきめん、同級生に体の奥まで覗かれていたのだ。
 もう他に恥ずべき事は何もないとばかりに、小鈴の体が大きく跳ねた。

「ヒィ、イグ。親愛、イクゥっ!」
「おっ、さすが天才。いま少し潮吹いたぞ。次は私な。ほら、どいたどいた」
「お前、容赦ねえな。早く変わって欲しくて無茶したろ。床にお湯流してやれ」
「へいへい」

 シャワーで千雨が床のタイルを暖め、そこに痙攣中の小鈴を座らせた。
 さすがに寝かせるのはかわいそうなので、むつきにもたれかかるようにだ。
 そして膝の上が空いた事を良い事に千雨が嬉々として座り込んだ。
 対面座位、それも座るや否や首に腕を回して密着してきた。
 夫婦のようややり取りの後で恋人にと、切り替えが少し忙しい。

「先生、ガチガチじゃねえか。うりうり、セックスしたい。ちうちゃん犯したいって言ってみな?」

 お腹とお腹の間にあるむつきの竿を、陰毛で刺激しながら挟み込んでくる。
 挑発的に笑いながら、淫らに腰を振って本当にエロイ嫁であった。

「可愛い子ぶるか、夫婦かはっきりしてくれ。どっちの千雨も孕ませるけどな」

 空いた手で千雨の下腹部に手を伸ばすと、確かめるまでもない程にぬれていた。
 むつきに御奉仕したり、同級生の膣奥を眺めてクリを弾いたり。
 そりゃ濡れもするかと思いつつ、一応大丈夫かなと指を入れて確かめていた。

「んぅ、先生の指。柔らかい?」
「破瓜の前に、俺が弄んでるからな。けど、まだ俺の形になってねえな」
「毎晩セックスして直ぐに覚えるさ。ここに受け入れた男は一生先生だけ。嬉しいか?」
「ちょっとな。指じゃなくて、もっと太いの入れるぞ」

 うんと少しだけしおらしい返事を聞いて、千雨のお尻に両手を支えた。
 そのままゆっくりと持ち上げ、UFOキャッチャーのように移動させる。
 もちろん、落下点をさがし、位置の微調整は何度しても問題ない。
 しっかりと千雨の膣口とむつきの竿の亀頭を合わせゆっくりと降ろしていく。

「ぐっ、最初はまだぐいっとくるな。先生たんま、先っぽだけ」
「落ち着け、ほら深呼吸」
「深呼吸よりキスしたい。先生、大す……き、かな?」
「照れんな、馬鹿」

 ちゅっと口付けて直ぐに、互いに舌を伸ばしては唾液を絡めあう。
 くぐもった声と唾液が絡む音で互いに気分を盛り上げていく。
 キスに気を取られた分、むつきの腕から力は抜けて千雨が降りてくる。
 自然と竿が千雨の膣を徐々に潜り込んでいき、貫いていった。

「千雨、可愛いぞ。俺も大好きだ、ほら。言ってみな」
「好き、先生が好き。んぁぅ、奥に来っ?!」

 好意を伝え合う途中で、急に千雨の声が途切れた。
 何事かと閉じていた瞳を開けると、千雨がイッた時のように天井を見上げている。
 呼吸困難を起こしたように短い吐息で喘ぎ、視線を下に何かを伝えようとしていた。

「フッフッフ、良くも親愛的にささげる初めてを二つも奪ってくれたネ」

 若干おどろおどろしく言ったのは、意識を取り戻していた小鈴であった。

「て、てめえ超。私の」
「膣奥を見られたのは親愛的が提案したプレイだから良いネ。けど、クリトリスは駄目ネ。私の全ては親愛的のもの。だから、罰としてお尻を貰ったヨ?」
「止め、お尻ぐりぐり。前と後ろ同時って、和泉じゃねえんだぞ私は」

 千雨が半分涙目の理由は彼女が口にした通り、お尻の方にあった。
 超が意識を取り戻してした反撃は、指で千雨を貫く事だったのだ。
 とは言っても膣は今むつきのそれで塞がっているので穴と言えばもう一つ。
 お尻の穴に小鈴の細い指が挿入され、くにくにと動かされていた。

「やべ、千雨の尻が刺激されて膣もぐねって気持ち良い」
「あくまでこれは親愛的への奉仕。多少私怨は混ざるが」
「超、後でぶっ殺す。次のお前の番は覚悟しとけよ」
「ほら、喧嘩すんな。小鈴も、千雨はお尻初めてなんだから優しくしてあげなさい。命令です。千雨も、腹立った分は俺が可愛がってやるから」

 その苛立ちを寄越せとばかりに、千雨の口にすいつき吸い上げる。
 口を小さく尖らせストローの要領でだ。
 もちろん、吸い上げられたのは怒りではなく唾液だが、千雨も満更ではなかったようだ。
 多少おでこ辺りに怒りの名残は見えるが、愛し合う場でそぐわないとも思ったのだろう
 素直に小鈴の指を受け入れ、むしろ腰を振る勢いでむつきの腕の中で踊っていた。

「先生、私の中は気持ち良いか? 絶品美少女中学生だぞ?」
「気持ちよくないわけがない。今にも出そうだよ、千雨がイクまでは我慢するが」
「絶倫になっちまったんだから、好きな時に好きなだけ出せば良いのに。律儀だな、そういう所も良いんだけど。超、悪いけどもう少し浅い場所が良い。ちゃんと準備してないから、不安になる」
「分かったネ。親愛的のお嫁さん同士仲良くするヨ」

 お詫びの印だとばかりに、むつきから一時的に小鈴が千雨の唇を借り受けた。
 熱烈なキスをむつきにみせつけるように、されどその指は千雨の中で蠢いている。

「んぅっ!」
「ここ、ここに親愛的の竿があるネ。千雨さん、分かるカ?」
「ぁぅ、擦るな。やべぇ、ぁっん。感じ過ぎっ、癖になったらどうする!」
「親愛的も感じるか?」

 そう尋ねられたが千雨が暴れた為、それはもう膣内がうねり捲くっていた。
 はやく精液をと射精をうながし、小鈴の細い指どころではない。
 これがディルドなどむつき並みのものであればまだ分かったのだろうが。
 そもそもそんな太いものを日本挿しでは千雨が持たない。

「先生、やばいの来る。ぶっちゃけ、初夜より凄い。来る、来ちゃう!」
「急に女言葉になるな、興奮するだろ」

 濡れた髪を振り乱し、口の悪さも引っ込んで千雨は少女ではなく女になっていた。
 このギャップに燃えねば男ではないと、むつきも臨戦態勢だ。
 再度コントロールの為に、両手はしっかりと千雨のお尻をガッチリ掴んだ。
 ボディーソープで多少滑っても問題ないぐらい強く。
 暴れる千雨の乱れようを壊さぬ程度に持ち上げては落として貫いた。

「良い、超もう少し奥まで。尻も馬鹿にならねえ。先生のが一番だけど」
「もう、なにさ。千雨、もっと言ってくれ」
「先生が良い、先生が。好きなの、大好き!」
「千雨、お前が可愛い。千雨!」

 もう千雨以上にむつきが暴れ、千雨は首に腕を回しながらへたり込んでいた。
 力が殆ど入ってはおらず、突き上げられるままに任せている。

「んっ、んんぅ。ぁっ。先生、イク、イクよ。先生!」
「良いよ、可愛いぞ千雨。イけ、存分に孕ませてやるから」
「孕む、孕んじゃう。先生の赤ちゃん、お腹で孕むぁぅっ!」

 むつきの体を突き飛ばすように体を起こし、千雨が思い切り体を震わせていた。
 同時にお腹の奥、子宮の奥に精を解き放たれ何度も何度も。
 本当の意味で性剛となったむつきの長い射精の間ずっとだ。
 しかも子宮の壁を精液だ叩かれるのみならず、むつき自身もより多くの千雨を求めていた。
 俯く顔を上げさせられては吸い付かれ、大き目の胸もさんざん弄ばれる。

「やべ、止まらねえ。千雨、大丈夫か。まだいけるか?」
「無理、もう無理。双子、三つ子になる。一度に沢山孕んじゃう!」
「遠慮せず、ぐぅ。また、孕め!」

 再三むつきに射精され、終わった頃にはもう本当に千雨はぐったりだった。
 改めてむつき達が体を洗う間も、精巧な人形のようにされるがまま。
 お腹を押さえて幸せそうに微笑んでいるだけである。
 そんな風に三人仲良く体を洗い終えて、それから湯船に浸かった。
 今からお風呂の本番なのだが、別の意味で本番は終えてしまっている。
 胡坐をかいた膝の上に千雨を、隣に小鈴を置いて腕で抱き寄せて仲良く入った。

「これ、凄く眠れそう。だけど、ちょっと時間足りねえか。明石の不眠を治して、嫁を不眠にさせるとか。鬼畜、変態鬼畜教師」
「それに惚れたのは誰だ?」
「惚れてねえよ、レイプされたレイプ。この犯罪者」
「はいはい」

 余程良かったのか体に力はないが、千雨の口は絶好調であった。
 口が悪くなる程良かったとは、千雨のバロメーターも分かりやすいものだ。

「小鈴、お前はどうだった? 満足できたか?」
「親愛的にあまり可愛がって貰った気がしないネ。お風呂を出たら、お願いするネ」
「私はパスだ。もう無理。尻もちょいヒリヒリするし、軟膏塗って寝る」
「じゃあ、親愛的は独り占めネ。夜型人間でよかったヨ」

 はいはいと小鈴を抱き寄せ、一先ずむつきの意見は無視で夜はまだ続きそうであった。









-後書き-
ども、えなりんです。

生徒にフラグを立てつつ、釣った魚(嫁)のご機嫌とりも忘れず。
むつきは忙しい男ですな。
本当はもっと裕奈と絡ませたかったのですが、長くなりすぎるのでカット。
刹那とのイベントもありましたし。
ちなみにボディーガードの映画は、女優ではなく歌手です。
執筆当時は作者が間違えてたのですが、むつきが間違えたことにしてもいいかなと。
物忘れしてたり、覚え間違いしてた方が人間らしいかと。

あと、千雨はデレてるけどそれを表に出さないのが良い。
他の嫁と違い、あからさまでないけど好き的な。
ちょっとしたこだわりです。

それでは次回は水曜です。



[36639] 第七十九話 この旅で学んだ事を早速忘れんな
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/10/23 23:07

第七十九話 この旅で学んだ事を早速忘れんな

 白衣を纏い斜め掛けに半袈裟を、手には金剛杖、頭には菅笠。
 時代劇から飛び出してきたような格好をしているのは、貸衣装屋から出てきたむつきだ。
 当初、深めに菅笠をかぶっていたので気付かれなかったのだが。
 菅笠をくいっとあげると、整列して座っていた生徒達がおおっと歓声をあげる。
 ここは徳島県鳴門市、霊山寺に程近い貸衣装屋であった。
 なんの貸衣装かと言えば、それはこれから生徒達にむつきが説明する所だ。
 現在時刻は午前九時、今日も太陽は燦々と散歩日和である。

「よし、お前ら聞け。この格好がなんの格好か分かる人」
「はーい、お遍路さんです。散歩部舐めるなです!」
「お遍路さんって散歩です?」

 見切りスタートと言うか、鳴滝姉が任せろバリバリっとばかりに手を上げて言った。
 妹の方が散歩かなっと疑問視していたが、当たらずも遠からずだろう。

「お遍路さん、言葉ぐらいは聞いたことがあるだろ。はい、綾瀬と宮崎は補足」
「元はお坊さんが霊場を巡る修行の為に歩いた道筋の事ですね。最近歴史で習った空海さんもこの四国で巡礼をしたそうです。縁の地がそこかしこにあるです」
「今昔物語の三十一巻にも、仏の道を行ける僧、三人伴なひて、四国の辺地と云は、伊豫讃岐阿波土佐の海辺の廻也。お坊さん三人で四国を回ったとあります。この辺地から、お遍路が来ているとも言われます」
「はい、俺より詳しくてありがとう。と言うわけで、今日はお遍路体験だ!」

 この時、えーっという声が少なからず上がったのは、むつきも気持ちは分かった。
 今日をあわせこの三日間、近衛の実家で山登りと降り、昨日は京都タワー登頂、そしてお遍路。
 体育が盛ん過ぎるだろうと思っても致し方がない。
 なにしろむつきだってちょっとスケジュールミスったと思っているのだ。

「先生、超包子の電車で行こう。最近のお遍路ではそういうのもありって聞いたことがあるッスよ。あいたた、足にひきつりが。登板ストップ」
「プロ野球の投手みたいな事を言い出すな」
「にゃあ、先生。私もまだ寝不足が、眠れない夜が」
「お前昨日は凄く寝てたろ。一番体力有り余ってそうな、お前らが言うな。俺の方が筋肉痛酷いんだぞ」

 近衛の実家は完全に予想外だが、体育の連続で実は誰よりも体が悲鳴をあげていた。
 何しろ山登りでは春日を、京都タワーでは明石を背負って肉体を酷使している。

「えっ、先生筋肉痛なの?」

 そこでまさかとでも言いたげに聞いてきたのは、神楽坂であった。

「えっ、なにいってんの。アレだけ動いたら、筋肉痛の奴は手をあげろ」

 それこそまさかと聞いて見たが、隣や前後でこそこそと話し合い始める。
 結果、誰一人として手を挙げなかった。
 お淑やかな近衛やさよ、他に頭でっかちそうな葉加瀬までも。
 一日飛んで明日になるよりマシだが、これやばいんじゃないのと変な汗が出てきた。

「分かっているとは思うが、お遍路とは霊場への巡礼本来なら一日で出来るわけないので一ヵ月以上スケジュールを立ててするが、今回は体験。一番から十番まで歩きます!」
「あそこに見える霊山寺から、十番は切畑寺ですね」
「本屋、あんた本当に色んな事を知ってるね。思ったんだけど、バスガイドとかなれるんじゃないの?」
「バ、バスガイド。む、無理です。知らない人と毎日会うなんて」

 宮崎に指差された霊山寺を遠くから写真に収めていた朝倉がふいにそんな事を言い出した。
 当人は顔を真っ赤にしてぶんぶん振っているのだが。
 皆がじっと宮崎を見つめ、脳内でバスガイドの格好をさせて見た。
 現在のようなあたふたがなければ、意外といけるのではなかろうか。

「そういや、お前麻帆良祭の時も図書館島のガイドしてたよな。まずはその恥ずかしがりやを治すのが先だが、友達の貴重なご意見は覚えとけ」
「は、はいでしゅ」
「のどか、噛んでますよ。ところで、霊場巡りは個人的にも嬉しいのですが」
「うむ、古い寺巡りなど。京都を出てまで出来るとは。褒めてやろう、むつき」

 偉そうに腕を組んでうきうきしてるエヴァにデコピンしつつ夕映の言葉の続きを待つ。

「お遍路を十番まで歩こうとしたら軽く三十キロはあるのですが」
「さっ」

 最初にそう言葉を詰まらせたのは一体誰だったか。
 誰でも良かっただろう、結局は殆どの生徒が三十キロと驚きの声をあげたからだ。
 そんな距離を歩く事は稀で、電車や車を使うのが普通である。
 だが彼女達は暇を明かした夏休み中の女子中学生でもあった。
 あれだけ動いても筋肉痛にならない肉体的ポテンシャル、要は元気。
 有り余っているのなら丁度良いぐらいだ。

「三十キロとか、馬鹿じゃねえの。マラソン選手だってへろへろになる距離だぞ!」
「せ、せめてセグウェイを」
「駄目に決まってるだろ。ひいひい言いながら歩け、若者よ」
「先生どS過ぎ。私らヘロヘロにさせてまた背負う気じゃ。美空は兎も角、裕奈。あんた背負われてる間、胸押し付けたでしょ。先生、病み付きになってるよこれ」

 早速体力ない組の千雨や葉加瀬が騒いだが、もちろん笑顔で却下であった。
 釘宮がうんざりと言った様子で人をどS指定である。

「先生、私背負っても胸あたんないから電車で……うぅ、ぐす」
「まきちゃん、自爆して何してんの。木乃香、あんた大丈夫?」
「図書館探検部は伊達やあらへんえ。せっちゃん、手繋いで歩こな?」
「はい、このちゃん。神楽坂さんも繋がれますか?」

 一人で勝手に傷ついた佐々木はさておき、何やら桜咲は新規の友人の開拓を始めた。
 手を繋ぐなど、方法はちょっとアレだが近衛的には大賛成らしい。
 昨日の相談から即座に動くとは、桜咲も近衛の為なら動きが早かった。

「今日は一日ずっと歩きだ。夏だから日差しもきついし、ちゃんと菅笠とかつけること。あと気になる奴は日焼け止めもな。気分が悪くなったら言う事」

 一先ずは着替えてこいと、むつきは生徒達を貸衣装屋に放り込んだ。
 お遍路さんには文字通り体験コースなんてものもある。
 しかしいくら体験コースだからといって、普段着で歩いては気分に浸れない。
 その為、自然とお遍路さんの為の衣装を貸す場所が増えるのは自明の理であった。
 その昔、本気で修行した人からは何事ぞと言われるかもしれないが、これも時代である。
 刀子とむつみは、試着室まで生徒達を引率であり、残されたのは神多羅木とむつき、それから田中さんであった。
 むつき以外の二人も、しっかりとお遍路さんの格好である。

「何事もなく京都を離れ、この旅路も残す所三日だな。俺の独身貴族時代も」
「Congrachuration, HAHHA」
「そういや、姉ちゃん。勤め先の喫茶店どうするんだろ」
「ああ、それなんだが。二号店を出すとかで麻帆良に開店するらしい」

 へえっとこれから親戚になる身なので、気楽に喋り始める。
 ただそこまで親しい間柄でもない為、やはり共通点となるむつみの話題が多い。
 元から田中さんは、共通点もなにもないのだが。
 喫茶ひなたか、それともひかげか。
 そんなどうでも良い店名について花を咲かせている時であった。

「Hey, HeyHeyHey. Freeze, Stop」

 突然、田中さんがショットガンを片手にとある方向にホールドアップであった。
 英語なので分かり辛いが、茶目っ気のある田中さんにしては切羽詰っていた。
 他のお遍路開始中の方々も、外国人風の田中さんの突然の行動に何事と視線が集る。
 そのホールドアップされた人と言えば、極々普通のお遍路さんの人だ。
 菅笠に白衣とむつきと代わらないが、少しだけ雰囲気が違う。
 恐らくは、むつきのような貸衣装の安いのではなく自前のだからだろうか。

「そう興奮なさらずに、私は乙姫の知人です。まだ一ヶ月にはならんか、久しぶりと言うには短く。出会いを喜ぶには十分な長さだな、乙姫」

 菅笠をくいっとあげて坊主頭の顔を晒したのは、観音であった。
 刀子と関係を持つに至った、あの合コン以来だ。
 大丈夫知り合いだからと田中さんのショットガンを下げさせ駆け寄る。

「すげえ所で会ったな。そういや、お前坊さんだったな。お遍路さんで修行か?」
「いえ、ここにはとあるお方からのご依頼で。乙姫の旅に同行する事になりました」
「依頼とは、近衛詠春からか?」
「そうやで」

 突然、観音の声が若く甲高い者になったが、発生源はもちろん違う。
 観音の後ろからつんつん頭の黒髪の少年、犬上がひょっこり悪戯っぽい顔を出した。

「兄ちゃんすっげえ弱いから守っ痛ッ!」
「これ小太郎、口を慎みなさい」

 むつきを半眼で見ながら呟いた犬上を観音が金剛杖、というかもはやあれは錫杖だ。
 金属らしいじゃらじゃら飾りのついた棒で頭を叩いた。
 もの凄く痛そうな音がして、犬上は涙目て頭を抑えながらしゃがみ込んだ。

「すまん、近衛の父親からって。さっぱりだ。ボディーガードなら間に合ってるぞ?」
「いつもそうやで。科学の発展は僕らから仕事を奪うんやで!」
「田中さん、少し黙ろうか。君が科学の発展の結晶だから。つい忘れがちだけど、君アンドロイドだから」

 おおうっと関西弁なのに欧米人のように肩を竦められたが。

「実は、この犬上を交換留学生として麻帆良に送るという案がありまして。突然知り合いのいない土地に送るのもと、今から知り合いを作らせておこうかと」
「何故急にそんな話に、てか。もう既に小太郎君は、うちのクラスの人間と仲良しだぞ」
「あっ、小太郎君!」
「ほらな」

 貸衣装屋からなにやら落ち込み胸を押さえながら出てきた村上が、指差しながら叫んでいた。
 するとぞろぞろと、那波や長瀬と小太郎の面倒をよく見ていた面々が出てくる。
 犬上も大人の会話より、そっちの方が気楽なのだろう。
 ぴゅーっと走って言っては、早速長瀬と両手を合わせて力比べを始めていた。
 長瀬と犬上だと、子供同士とはとても見えないが、すっかり仲良しであった。

「犬上の保護者はお前さんか?」
「いえ、天ヶ崎千草という名の女性です。ふふ……この方については、乙姫の方が詳しいですが」
「え?」
「彼女、すっかり乙姫にのぼせ上がってしまいまして。関西の人間も、もっと関東に出なあかんと。これまでの関東嫌いから一辺、何があったともちきりだそうで」

 だからかと、あの近衛家での朝食時の巫女さんの態度の意味が理解できた。
 もの凄く、もの凄く理解したくはなかったが。
 全く持って自業自得なのだが、どうして俺はこうなんだとしゃがみ込んで頭を抱える。

「で、真相は?」
「小太郎については、そのまま。ですが、私の同行はまた別件。乙姫のお爺様は、それはもう顔の広いお方で。お宅のお孫さんにご迷惑をと謝罪に。私も孫同然に可愛がって頂いていますので、適任だと」

 もちろん、むつき自身はそんな祖父の顔の広さなど知りませんがと観音は話を終えた。

「あっれ、小太郎じゃないアルか。楓、次は私アル。また戦ろうアル」
「おう、古の姉ちゃん。ちょい待っとれや。俺が楓の姉ちゃんをけちょんけちょんに」
「拙者、先程から一歩も動いてはいないでござるよ。ほれほれ」
「小太郎君、動けなくなったブルドーザーみたいになってるよ」

 次々に生徒達が貸衣装屋から出てきて、表の人間が増えてきた為であった。









 全員がお遍路用の衣装に着替えた後、観音の紹介がなされた。
 むつきは学生時代の友人で本物のお坊さんと言ったが、本人はもっと気軽にこう言った。
 近衛の父から紹介されたお遍路さん限定ガイドさんだと。
 この菅笠や錫杖、袈裟にいたるまで全て自前ですとなんのだか、猛アピールだ。
 そんな観音を急遽加え、お遍路体験スタートであった。
 まずは霊山寺の本堂でお参りした後、他にも見るべきところはあるがカット。
 あまり一箇所に時間を取られてもいけないし、あくまでこれは体験である。
 全てを叩き込んでもこのA組では覚えられない子もいるし、興味を持ってからでも良い。
 本堂から真っ直ぐに山門を潜って表へ出たのだが。
 燦々と輝く夏の日差しの下で歩く事、数分も経たずに美砂が手を挙げた。

「先生、というか。観音さんの方が良いのかな。お遍路って山の中とかを歩くんじゃないの? 普通の道路なんですけど」
「お遍路の中にはそういう道もありますよ。ですが今の時代、山中ばかり田園ばかりというのは稀ですよ。中には車でお遍路を巡る方もおられます」
「それってずるくないですか?」
「賛否はありますが。大事なのは気持ちです。自らの足で踏破したからといって、何も学ばなければ意味がないのと同じ。手段はどうあれ、何かを学ぶ事が大事なのです」

 美砂に続き、神楽坂も率直な意見を出したが観音はびくともしない。
 悪意のない笑みを見せて、見事な返しであった。
 唇を尖らせていた神楽坂はおろか、ぶーたれていた面々もおおっと唸る。

「人生を悟られた感じが、教師のようですね」
「少々、先生よりも先生らしく。人生と言う名の科目の先生でしょうか」
「先生の授業、私好きだよ?」
「なんの慰めだ。ちくしょう、俺が今の域に達するまで三年掛かったんだぞ。あっさりか、一瞬か」

 悪気こそないのだろうが、さよもあやかも胸に痛すぎる感想であった。
 アキラの慰めも、それのせいで余計心に刺さってくる。

「先生、私も先生が好きだよ!」
「麻帆良に帰るまでは、私もお父さんの代わりになれるぐらい好きだにゃあ」
「はわわ、桜子に続いて裕奈まで。わ、私もアル!」
「はいはい、列を乱すな車道に出るな。この旅で学んだ事を早速忘れんな、この野郎」

 もはや表立って好意を示される事に慣れてきた感さえあった。
 答えて欲しくば、ひかげ荘を見つけてみなと心の底では一線をひきつつ。
 テキパキとまではいかないが、ちゃんと引率として整列させる。

「なんや弱っちいのにあの兄ちゃん大人気やな。女はわからんで」
「大丈夫、小太郎君。私もわかんないから。良い先生だとは思うけど、ちづ姉は?」
「私も分からないけれど、あれだけ好かれるには何か理由があるんじゃないのかしら」

 何かしらねっと、ちょっとだけ村上と那波が正しいガールズトークを始める。
 同じように、というわけではないのだが。
 お遍路の為に列を作る最後尾にて、班員行動をやや乱しつつとある事情を共有する生徒が集っていた。
 ただし、その内の一人である桜咲は近衛のそばでガッチリガードであった。

「ちょっと大丈夫なんッスか。足をばっさりやられた身からすれば、怖いんですけど」
「正真正銘の大学時のお友達よ。合コンの時も、そう紹介されたわ。西の、神道系の近衛家とは別だけど。関西呪術協会に所属しているのは間違いないわ」
「合コン、あれか。私も沖田に聞いた。大学時代、むつきに酷い事をした女を呪って仕返したとか。仮に敵としても、殴りたくないな。むつきに嫌われかねん」
「乙姫と私は親友ですので。そうですね、止めた方が宜しいかと」

 突然耳元でと良い距離で観音の声が聞こえ、全員がぎょっと振り返る。
 そこに居たのは、観音を小さくデフォルメしたような姿の人形があった。
 背丈は小さく二十センチもあれば良いほうか。
 そのミニ観音がにこにこと怪しい笑みで笑いかけてきていた。

「言葉では信じていただけないかもしれませんが、私は親東派です。何しろ、乙姫のお爺様にはそれはもう可愛がって頂いてまして」
「まさか、乙姫先生のお爺様は裏の人間だとでも?」
「いえ、存在こそ歳の甲で知っておられますが表の方です。ただ、お爺様の人脈が。聞けば驚かれるでしょうが、乙姫も知らぬ事なので。生徒にも関わることですし」
「いらいらする言い回しをする奴だな」

 龍宮の質問は否定しつつ、意味ありげな言葉使いにエヴァがイラッとしていた。

「沖縄に行けば分かるでしょう。お爺様が帰っておられますから。乙姫もとある物件の継承の話を持ち出すでしょうし。後はプライバシーですので、あしからず」

 そうやはり意味ありげな言葉を残してミニ観音はぽんっと小さな煙と共に消えた。

「なんだか癪に障る奴だな」
「とりあえず、大丈夫だとは思うわ。アレから、彼の事は調べたけど。本当に偶々大学の時に乙姫先生と知り合ったみたい。むしろ、あの口ぶりだとお爺様と会った方が先かもしれないわね」
「表の人間ではあるが、なんだかんだであいつも数奇な人生歩いてるな」
「その意見には同感だ」

 最後に締めたのが神多羅木と龍宮だったのでちょっとハードボイルドチックだが。
 前の方の列では普通にお遍路が進んでいた。
 最初の方に宮崎が空海の名を出したとおり、観音がぺらぺらとガイド気分だ。
 怪しい怪しいとは思っては居ても、エヴァも日本かぶれである。
 私にも聞かせろと、その場の雰囲気をふりきりぴゅーっと前に走っていった。
 残された魔法先生、生徒も何かあるまではとお遍路の為に黙々と歩く事にした。








 数奇な人生を歩んでいると評されたむつきは、その人生を閉じようとしている。
 そんなはずはないのだが、本人は正にそう思っていた。
 夏の日差しにやられ、天井を見上げたままお絞りを顔にのせ、破裂しそうになる心臓を必死にクールダウン中だ。
 食事処で出された讃岐うどんに手が伸びる事もない。
 一応、お遍路のついでに名物の讃岐うどんのうんちくを垂れる予定だったのだが。

「うどんの伝来は中国から空海が持ち込んだという説もあり」

 餅は餅屋とばかりに、四葉に丸投げ状態であった。
 皆も四葉の話が半分ぐらいしか頭に入らず、大丈夫かとチラチラむつきを見ている。

「むっくん大丈夫? おかしいわね、私でも大丈夫だったのに」
「大学時代より体力は落ちてるけど、水泳部で泳ぐうぇ……駄目だ」

 喋る事も億劫で、申し訳ないが神多羅木からむつみをレンタル中である。
 病弱気味なむつみに看病されるのなど、初めての事ではなかろうか。
 そんな感慨を浮かべる余裕もなく、むつきは椅子の上でぐったりしていた。

「先生、お昼は超包子の車両の中にいたら? 車道にでも倒れられたら怖いんだけど」
「それもそうだな。むつみ、すまんが看病を頼む。引率は俺と刀子に任せて置け」
「すみません、神多羅木先生。それに葛葉先生も」

 美砂に本気で心配され、いつものように大丈夫だ、平気だと気楽にこたえられなかった。
 この体力のなさはおかしいと思うが、どうにも無理は出来そうにない。
 本気で申し訳ないが、神多羅木の申し出を受け入れる事にした。

「だらしないな、兄ちゃん。弱っちい男は格好悪いで」
「小太郎君、なんだか先生に容赦ないね」
「やっぱ男は腕っ節やで」
「小太郎の弁も確かな部分もありますが」

 村上の言う通り、容赦のない犬上の台詞に生徒達も微妙な顔であった。
 お嫁さん達はさすがに心配が先に立っているが、何しろ女の子でさえ平気な顔をしているのだ。
 男、それも大の大人がこの体たらくでは、呆れられもする。
 そこでこれではあまりに哀れと、動いたのはむつきの親友の観音であった。
 食事の讃岐うどんをさらさらっと平らげ、さっと席を立つ。
 そして向かったのは、こういう場所に必ずと言って良い程あるお土産コーナーである。
 アレがあれば幸いとばかりに、とある玩具を見つけあったあったと一時借用してきた。

「乙姫、これを一つ見せておやりなさい」
「んあ……また、懐かしい。一回だけだぞ、体力が」
「ルービックキューブ?」

 観音がむつきに放り投げたものを見て呟いたのは、夕映であった。
 誰か他の客の子供が遊んだのか、全ての面は揃っておらずばらばらである。
 むつみの手を借り、体を少し起こしたむつきは、ちらっと一瞥すると手を動かし始めた。
 体力切れ中の為、あまり素早い動きではなかったがそれは平時での話。
 ルービックキューブを手にしている状態ではあまりに早い。
 一度も手が止まる事なく、一面、二面と次々に面が揃っていく。
 おおっと唸ったのは誰であったか、初めて一分と立たずに六面全ての色が揃っていた。

「はい、お終い。もう無理」
「相変わらずのお手並みで」

 映像テープを逆回しにするように、むつきが観音へとルービックキューブを返した。
 ただし、間違い探しであるかの様に全ての面がバラバラだったそれは綺麗に揃えられている。

「凄い、見せて見せて。どうやったの。朝倉、今の撮ってた?」
「朝倉の姉さんに隙はございません。ほら、動画。てか、一時停止しないと見えないぐらい早いね。先生、そういえば単純作業は得意だっけ」
「ルービックキューブは、単純作業というのかしら。あら、今気付いたけれど先生意外と手先が綺麗な。お手入れしてるのかしら」
「ちづ姉、見所が違うよ。全然手が止まってない。ほら、小太郎君も見てみたら?」

 観音の手際により、集落したむつきの評価も急上昇である。
 明石の希望をしっかり叶えた朝倉のデジカメもあり、決定的瞬間はばっちりだ。
 那波や村上も、小太郎を手招きつつその動画に見入っていた。

「と言う風に、腕っ節のみならず。こういう一芸も男の魅力ではないでしょうか。ちなみに、私も乙姫程ではありませんが。この通り」

 一度自分でぐしゃぐしゃにしたルービックキューブを、観音は分かりやすいようにゆっくりめで揃えていく。

「別に全然凄かないわい。そんなん出来たってなんもならんやん」
「でも、小太郎。それは腕っ節も代わらないのではないアルか?」

 小太郎に一番賛同しそうな古の言葉に、それはもうざわっとした。

「どうしたのくーへ、変なものでも食べたの?!」
「まき絵、食べ物屋さんの中でそんな事を言ったらあかんよ。けど、どうしたん?」
「凄く意外な言葉が出てきた」
「そ、そうアルか?」

 まき絵を嗜めた亜子やアキラに突っ込まれ、古が照れ照れと頭を掻いた。

「別に先生は関係ないアルよ。腕っ節も要は使いようアル。観音さんも言ってたアル。腕っ節のみならずと。出来る事は多い方が良い、そして使い道は正しい方が良いアル」
「くーへ、アンタなに言ってんの?」
「つまりはネ。腕っ節が良くても、当然ながら弱い者虐めをする乱暴者は皆も御免ヨ?」
「そやな、乱暴な人は好かんえ」

 意味がわかんないと神楽坂が匙を投げたところで、超が翻訳を始めた。
 その翻訳、まだ最初だがソレを聞いて近衛や那波が当然と頷いている。

「いざとなったら守って貰える腕っ節は魅力の一つに過ぎないネ。先生の遊びへの造詣も魅力の一つ。魅力の数は多く、正しく振舞ってくれる男性が一番ネ」

 その一人がっと、色眼鏡ありありで小鈴はチラッとむつきを見ていた。

「確かに、正直強い人ってくーちゃんとか、楓ちゃんとかで見慣れてる感じ。色んな遊びを教えてくれる人の方が私は好みかな。分かりやすい話、一緒にカラオケ行って、全然歌わない人は論外」
「あー、分かる。俺下手だからとか、遠慮されると漏り下がるもん。誰もアンタの歌を聞きに来たんじゃない。皆で歌いに来たんだって」
「姉ちゃん達、何言うてんのや。全然、分からん」
「その分からないという事が人生、経験不足ですよ小太郎。それは貴方の弱さです。物事を色々な角度から見るのです。麻帆良へ行ったら、色々と教わり楽しみなさい」

 ほらっと観音からルービックキューブを渡された犬上は、少しぷすぷす頭から煙がたっていた。
 ただ弱いと言われた事だけはしっかりと理解できていたようだ。
 頭の煙を振り払い、犬歯をむき出しにしてルービックキューブをがちゃがちゃし始める。
 ただやはり急にはむつきや観音のようにはいかず、がるると唸り始めた。
 終いにはガブッと噛み付いてしまった。

「はん、別にこんなん強さと関係ないやんか!」
「小太郎君、それ売りもの。貸して、私もやってみたい」
「夏美ちゃん、次私ね?」

 村上の次に那波が名乗りをあげ、瞬く間に順番待ちであった。
 讃岐うどんの残りを急いで食べて、待ちきれない者はお土産コーナーに。
 観音がしたようにルービックキューブを取りに行ったのだ。
 もちろん、全員に行き渡る程に数はないので、別の玩具を手にする者も。
 けん玉やバネの玩具など、なつかしのグッズでわいわい遊び始める。
 最初はけっと、そっぽを向いていた犬上もチラチラと視線を向け始めた。

「うーん、一面なら揃えられるけど。駄目だ。はい、ちづ姉」
「難しそうね。小太郎君、手伝ってくれない? 一緒にやりましょう」
「ちづる姉ちゃんがそう言うんなら、手伝ってやるわ」

 そして那波に誘われ、いかにも仕方ないとでも言いたげに犬上も遊びに加わった。
 微笑ましく見守る観音の視線に気付く事なく、仏の手の平の上とも気付かず。
 ちなみにこの日、お店のお土産コーナーから数多くの玩具が売れた。
 しばらくの間、A組の中でルービックキューブがブームになる事になる。









-後書き-
ども、えなりんです。

京都を抜けたことで普通の旅行の続きに。
30キロって長いですが、普通に歩けば半日あれば十分です。
物凄く疲れますが。

あと最後は地味に小太郎強化フラグ。
ネギと会う頃には、これが俺の遊び心だとか753並のことを言うかも。
微妙に伝わりにくいネタかもしれませんが。
まあ、原作からして元々遊び心のある子でしたけどね。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第八十話 私の方が先生を愛してる
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/10/27 05:44

第八十話 私の方が先生を愛してる

 お遍路中に突如体調を崩したむつきは、その夜に高熱を出して病院へと緊急搬送された。
 生徒達が寝入った後であったのは、ある意味幸運であった事であろう。
 残されたのは大人だけであったので、速やかにむつきを病院へ連れて行くことができた。
 むつみが付き添い救急での診察を受けた結果は過労であった。
 自分以外にも引率がいたとは言え、中心となって四六時中生徒の面倒を見ていたのだ。
 特別修学旅行の全てを取り仕切り、水泳部の顧問で合宿の計画もある。
 さらに、毎晩お嫁さん達の為に頑張ってさすがに限界が来たようであった。
 過労プラス夏バテも加わり、点滴をうってもらい病院のベッドで寝入っていた。
 その間に神多羅木と刀子、むつみと観音が話し合って一時別行動という事になった。
 看護の為にむつみが残り、観音を加えた三名で福岡の観光をするという事に。
 むつきは体調が回復し次第、遅くても沖縄で合流という予定である。

「えーッ!」

 翌朝、神多羅木からその事を聞かされた生徒達の第一声はそれであった。
 そろそろ副担任という枠を超えた仲になりつつある生徒にとって当然の反応だろう。
 まるでクラスメイトが一人病欠で欠けたような反応である。

「神多羅木先生、乙姫先生は大丈夫なんですか?」

 中でも高畑との繋がり強化に協力して貰っていた神楽坂はそれはもう必死であった。
 ちょっと方向性はアレだが、貴重な協力者がという意味で。

「ただの過労だ。今まで担当クラスがなく、今年に急に半担任と部活の顧問。色々と無理が祟ったんだろう。点滴うって寝てるだけだ」
「旅行のスケジュールは、私達も把握しているから問題ないわ」
「ねえ、先生。今から四国に戻れない?」

 当然ながらむつき一人欠けても支障はないと神多羅木達は言ったのだが。
 既に九州は福岡を目前に、美砂がそんな事を言い出した。
 昨晩は、お遍路中から既に体調が悪かった為夜の相手はなかった。
 それ故に、気付くのが遅れてしまったのだ。
 美砂達、むつきのお嫁さんもむつきの不在はつい先程知らされたばかり。
 一体むつきの容態は、気が気でなく旅行どころではない。
 こんな時に傍にいられない生徒という立場に、久方ぶりにもどかしささえ感じてしまう。

「私も、できれば先生と一緒が良かった。福岡で観光より、お見舞いしたい」
「うちもアキラと同じ気持ちやて。先生が苦しんどるのに、楽しめへん」
「私もお見舞い行きたい!」
「私もアル!」

 アキラや亜子のみならず、桜子や古。
 ここまではお嫁かどうかに関わらず、むつきに特別な感情を抱く面々である。
 だがそればかりでなく鳴滝姉妹や長瀬などなど、気持ちは同じらしい。
 皆が皆、旅行よりもお見舞いの方が良いと。

「いやいや、愛されていますね乙姫は」
「何を気楽に。この人数でお見舞いに言ったら、病院にどんな迷惑が」
「お前ら、落ち着け。狭い病室に押しかけたら、乙姫も休むに休めないだろう」

 そう大人に諭されても、止まれないのが若さでもあった。
 行きたいお見舞いに行きたいと大合唱する生徒を前に、神多羅木達もたじたじである。

「私は反対だ」
「私も、お見舞いという意見には反対ですわ」

 そこへ一石を投じたのは、千雨とあやかであった。
 千雨はまだしも、リーダー格で普段からクラスを取り纏めるあやかの言葉は大きい。
 アレだけ騒いでいた生徒達も、何でと神多羅木達に詰め寄るのを止めていた。
 一部、特に同じむつきのお嫁さんからは、冷たくないかという厳しい視線も。

「考えてもみろよ。先生がぶっ倒れたから、楽しい旅行を止めてまでお見舞いに来たよ。元気になってねって言われて、先生が喜ぶと思うか?」
「少々言い方は鋭いですが。先生の性格を考慮すると、お見舞いにいった場合酷く落ち込まれます。俺のせいで楽しい旅行がと」
「ありそうやな、心配されると返って落ち込む。先生、結構ナイーブやし」
「手のかかる事ですが。一理有りますね」

 二人の言葉に近衛や夕映が確かにと頷いていた。
 二人のみならず、周りも次第にその時の事を想像したのか。
 しっかりしてよと、こめかみに手を置いて眉を八の字に苦笑いであった。

「んじゃ、逆転の発想でこうしない?」

 心配したいのにするなという二律背反の中で、意見を述べたのは朝倉である。

「今日も目一杯観光を楽しんで、いつも以上に私が皆を写真に撮るからさ。先生がむしろ、悔しがるくらい楽しいそうなところを見せない?」
「そうですね、それなら。先生も、一安心されるかと。朝倉さん、ないすあいであです」
「相手を案じさせないようあえて健気に元気に振舞う。皆、瞬く間に大人になっちゃって」
「ちづ姉、その台詞はちょっと……」

 さよはともかく、あらあらと頬に手を当てて呟いた那波に村上が突っ込んだ。
 それはさすがにアウト、アウトと。
 当然、何かしらっと黒いオーラを見せられ、条件反射で逃げ出した。
 最近手に入れた犬上バリアーと言う名の、少年の背後に。
 その犬上も、初めてみる菩薩が発した黒いオーラに冷や汗を流し硬直していたが。

「ちょっ、あれなんや。夏美姉ちゃん、押さんといてや。千鶴姉ちゃん怖ぇ!」
「頑張れ、小太郎君。主に私の為に」

 これでヒエラルキーの最下層は脱出とばかりに、代わりの最下層を押し出す。
 そんなちょっと姉妹喧嘩のようなのは放っておいて。

「というわけで」

 ちょっと仕切りなおしと、真っ先にお見舞いにと言い出した美砂が言った。

「今日も引率よろしくお願いしますわ」

 あやかがそう神多羅木達に頭をさげると、一斉にお願いしますの大合唱だ。
 無茶を言い出さなくて良かったと内心冷や汗ものだったが。

「それなら、今日は俺が仕切ろうか。福岡の観光は屋台廻りだ。昨日まで随分とエネルギーを使ったからな。今度は溜め込む番だ」
「福岡は特に屋台や美味しいもので有名ですから。一杯食べて、満面の笑みを先生に送りましょう」

 四葉のお勧めもあり、食うぞーっと言葉を変えて皆が意見を一致させた。









 福岡と言えばと聞けば、多くの人がまず明太子を頭に思い浮かべる事だろう。
 他に数多くの芸能人を輩出している事や、プロ野球チームがある事など。
 そして今回の特別修学旅行の目的では、屋台に焦点が当てられている。
 日本全体で言えば、その屋台という形式の飲食店は数を減らしていた。
 食品衛生法、消防法、道路法、道路交通法と法律が制定されていった事が大きい。
 それに個々の家庭が裕福になるにつれ味以外にも、上気法律に伴なう衛生面等々。
 中々苦しい面はあるのだが、今では形を変えた屋台もある。
 超包子がその良い例なのだが、昔懐かしい荷車式を止め、車と厨房を一体化させた屋台だ。
 上記の法律を潜りぬけつつ、移動販売のフランチャイズビジネスが成り立つ事も。
 ただ、今日はそんな細かい点は抜きにして、美味しいものを一杯食べようという事に焦点が当てられていた。
 場所は福岡駅前、屋台のイメージは夜間だが屋台のメッカだけに朝から営業しているお店も多い。

「博多、トンコツラーメン。ウマにゃー!」
「朝倉撮って撮って、ウマコツ。あれ、ニャーコツ? とにかくラーメン!」
「あいさ、はいチーズ」

 明石や佐々木に請われ、屋台のラーメンを堪能中の二人を朝倉がファインダーに収める。

「朝倉待った待った。私もいれて、先生残念でした。沖縄でたっぷりお土産話してあげる」
「桜子、メールレターじゃないんだから。トンコツ超美味しい!」
「私も入れて。エロいる? 先生が病院で看護婦相手にハッスルできるよう。パンツ、誰かのスカート捲る?」
「夏の悪戯風」

 椎名もどんぶり片手に割って入り、それ続けとばかりに釘宮もカメラの枠内に。
 同じ班員の早乙女も同様だが、何時も通り方向性がアレだった。
 その為、ならお前がやれとばかりに後ろからザジがちょいっとスカートを捲る。
 もちろん、言いだしっぺの早乙女のだ。
 ブルーの刺繍入りパンツがそれも屋外で惜しげもなく晒されていたる。
 それで朝倉が躊躇するはずもなく、むしろ嬉々としてその貴重な一枚を写真に収めた。

「ぎゃー、朝倉ストップストップ」
「はい駄目。何時もエロネタでクラスメイトをからかう罰。はい、送信っと」
「やばいって、先生が授業中私を視姦してるとか……いや、以外にそういうネタ。ってなんでやねん。ネタだから楽しめるの、リアルでするとか」
「ハルナ、まだザジさんスカート捲ったまま」

 屋台の親父が握りこぶしに親指を立てているのを見てようやくハルナも自分の惨状に気づいた。
 再度の悲鳴を上げながら、ザジの手を払いのけお前も見せろと追いかけ始める。
 当然の事ながら、曲芸手品部の身軽な彼女はひらりひらりとその手をかわす。

「なにやってんだか。それで、長谷川はなに落ち込んでるわけ?」
「ああ、なにがだよ?」

 今日は朝倉が皆の写真を撮る必要がある為、急遽判別行動を取り止めていた。
 引率者が一気に半分近くなった事もあるが。
 全ての班が同時行動し、今現在はトンコツラーメンの屋台を堪能中というわけだ。
 皆もハルナとザジの追いかけっこをトンコツラーメン片手に笑っている。
 そこでふと美砂が隣にいた長谷川へと、そう問いかけたわけであった。

「落ち込んでるって、そもそも先生に写真送ろうって長谷川が……本当に、元気ないやん」
「どうしたの、どこか辛い?」
「はあ、余計な事に気付きやがって落ち込んでるよ」

 それは気づかなかったと美砂の指摘に亜子やアキラと、続々と気づき出す。
 これは逃げられないと、千雨も諦めて本音を吐露した。

「気付いてたんだよ、先生が無理してる事に。けど、楽しかったし、大丈夫だって先生の言葉を信じちまった。信じてるけど、信じるべきじゃなかった」

 そうむつきが無理をしている事には気付いていたが、大丈夫と言う言葉に安心していた。
 可愛い嫁に一杯支えられているからと、千雨自身も含めて可愛がってくれたから。
 何故信じた、嫁になると決意する前ならきちんと止められたはずなのに。
 信じないなど、むつきの言葉を否定することなど考えられなかった。
 落ち込みながらも、改めて惚れ過ぎだろうと赤くなってしまう。

「ふふっ、千雨サンも今や戻れはしないネ」
「うるせえ、てか。先生が寝込んだってのに、意外と元気だな超は。てっきり、お前も私と同じで見落とした事があったり、落ち込んでるのかと思ったけど」
「そうね、確かに先生の健康管理を怠ったのは失態ヨ」

 千雨の指摘をあっさりと受け入れ、失態だと認めつつ小鈴は返って笑って見せた。

「天才は、反省こそすれ落ち込む事などしないネ。何故なら、落ち込む時間が無駄だから。反省したら改善点を見つけ、実行する。既に先生の強化プランは出来てるヨ」
「あまり、先生を妙な方向に改造しないで欲しいのですが。超さんの漢方でアレな方向に既に改造されていますが」
「アレはまだ第一段階ネ。第二段階は、先生の協力が不可欠。体力作りを兼ねて、太極拳を学んで貰うヨ。もちろん、武術的意味でなく近代的な太極拳を」
「先生既に水泳部で結構泳いでるけど、まだ鍛えるの?」

 夕映の制止もなんのその、むしろ聞いて驚けとばかりの小鈴の計画であった。
 運動なら既にしているというアキラの意見でさえ、チチチと指を振って蹴散らしてしまう。

「まだまだ足りないネ。今の先生では、我々の相手で精一杯。皆も気付いていると思うが、桜子サンや古。それに葉加瀬だって、桜咲さんもカ。まだまだお嫁さんは増えるネ」
「桜咲さんは分からないけど、超りんが何もしてないのに普通に好かれてるよね」
「私が言うのもなんですが、どうしてああもおモテになるのでしょうか」

 まだまだ増えるのは良いが、改めて考えてみると不思議なものだと美砂とあやかが言う。
 何しろ以前美砂が口にした通り、むつきは何も世間一般的にイケメンの部類ではない。
 極普通の石を投げれば当たるとまではいかないが、普通の男である。
 あやかの言う通り、惚れた者がいうのもおかしいが何故モテるのか。
 その答えを口にしたのは、さよであった。

「先生は凄く一生懸命な上に、女の子が気弱になっている場面に遭遇し易いんです。気弱になってる時に優しくされてしまっては、惚れざるを得ません」

 この時、何人かがサッと視線をそらしたのが何よりの証拠であろう。
 美砂を筆頭にアキラ、小鈴にそれからさよ本人。
 小鈴は若干違うかもしれないが、行き詰った時にむつきの存在を知り惹かれた一人だ。
 それから椎名や明石、桜咲と弱った時にそばにいたのはむつきである。
 古は若干勘違いも混ざってそうだが、思春期の恋など大半勘違いなので問題ないか。

「ま、まあなんにせよ」

 ちょっと声が裏返りつつ、冷や汗をかいた美砂が長谷川の手を取った。

「言いだしっぺが落ち込むとかないわ。ほら、先生も可愛いお嫁さん達が近くにいなくて寂しがってるはずだし。私達も朝倉に撮って貰おう」
「おい、引っ張るなって」

 空元気も元気のうちだとばかりに、落ち込んでいた千雨の手を美砂が引いた。
 トンコツの汁がどんぶりから零れないか、慌てて千雨も席を立った。
 すると何故かそこで美砂が立ち止まり、勢い余った千雨はそのまま二歩、三歩先んずる。
 次の瞬間、美砂の白く長い手足が蛇のようにするすると千雨に絡みついてきた。

「へ?」

 左足に美砂の左足がフックの様に掛かる。
 さらに千雨の右腕の下を経由して、美砂が左腕を首の後ろに巻きつけた。
 フィニッシュに背筋を伸ばすように伸び上がれば完成だ。

「ていうか、正妻さえ気付かなかった事に気付いておきながら落ち込むとか。自慢か、私の方が先生を愛してる」
「いでででで、馬鹿止めろ。零れ、つーか。痛ぇ、何処で覚えた!」

 グッと力をこめればもう、千雨は動けない。

「ピルを飲み始める前、生を強要し過ぎて一回先生にかけられちゃった。てへぺろ」
「可愛くねッ、痛いマジで伸びる折れる。委員長、タッチ。タッチ!」
「私、むさ苦しい技は好みませんの。技とはやはり、蝶のような優雅さが。はふぅ、これがトンコツ。少々濃いですが、悪くはありませんわ」
「飲んどる場合、かーッ!」

 千雨から必死のタッチを求められるも、あやかはトンコツスープをすすりほっと息をついていた。
 さすがにここまで騒げば、同じ場所にいるだけに別の班員がわらわらと集ってくる。

「長谷川、アンタなにやってんのよ」
「私に言うな、技かけてる方に言え。ちょっとマジやばい、泣く。泣きそう!」

 神楽坂に無情な突っ込みを受けても退けてはいたが、本当に限界らしい。
 今や既に伊達眼がねのない目尻から、大粒の涙が滲んでいる。
 何しろ美砂は一度冗談でむつきに掛けられたが、その時は思い切り手加減されていた。
 さらに他人に掛けるのは初めてと、実は美砂は手加減の仕方を知らないのだ。
 必死の千雨の訴えも、内心痛くないくせにと思っているぐらい。
 そんな千雨の必死のタッチに応えた者がいた。

「あれ?」
「柿崎、苛め駄目」

 するすると、まるで蝶々結びを解くかのように。
 千雨の手にタッチしたアキラが、美砂のコブラツイストを解いていった。
 そのまま、小さな子に注意するように一言告げて、また自分も美砂に手足を絡めていく。
 コブラツイストの後継、オクトパス・ホールドである。
 美砂の右腕を後ろに締め上げ、左足は美砂の首に、右足は美砂の左足に。
 格好が格好なだけにパンツが見えそうだが、さりげにスカートの中は短パンだ。

「ちょ、なんでアキラが!?」
「実は私も……」

 ポッと頬を染めつつ、かつて生を強要し過ぎてむつきにされた事を思い出していた。
 あの時は布団の上だったので多少形は違うが、大体あっているはず。
 美砂がかけたコブラツイストよりも、よっぽど複雑で痛そうなのだが。

「なんだやっぱり痛くないじゃん。長谷川、大げさ過ぎ」

 技を掛けられた美砂はきょとんとしていた。

「あのね、その時はちゃんと手加減してくれてたんだよ。ここをね、こうすると」

 しかしそれも、アキラがグイッと四肢に力を入れるまでであった。

「やばい、超痛い。長谷川、ごめん。謝る、謝るから!」
「ちなみに、柿崎よぉ。ここに熱々のトンコツラーメンがあるんだが」
「火傷した時の為に、一応お冷を手に待機です」
「さすがに可哀想なので、お顔が汚れた時の為にお絞りを待機です」

 ガッチリホールドされた美砂へと、トンコツラーメン片手に千雨が迫る。
 さすがに自業自得だと、夕映やさよは火傷前提で待機であった。
 そんな事より千雨を止めてという美砂の訴えは、尽く退けられた。
 熱々の、ろくに冷ましもされていないラーメンを目前へと運ばれ悲鳴をあげる。
 それのみならず、涙目の決定的瞬間を朝倉に写真に収められる始末だ。

「うわぁ、美砂ちゃん熱そうやわ。せっちゃんは、ちゃんとふうふうしてな」
「はい、このちゃん。ふぅ、ふぅ……はい、あーん」

 桜咲が懸命に熱いトンコツラーメンの麺を自ら冷まし、近衛に食べさせる。
 近衛が美味しいと呟けばそれはもう、桜咲は満面の笑みになるのだが。

「刹那、お前は本当にガチレズを否定するつもりがあるのか? 二人が幸せなら、これ以上何も言わないが。春日、背中掻いてくれないか」
「ああ、うん。私も今、頼もうとしてたところ」

 あいもかわらず、ラブラブな近衛と桜咲はもはや周りからそっとしておかれていた。
 一部お幸せにと生温かい視線もあったが。
 その生温かい視線の主は朝倉であり、一応これもとぱしゃりと撮っていた。
 ちなみに龍宮と春日は、今日も違う世界を目の当たりにして背中を掻きあっている。
 もはや奇妙な友情すら感じてしまう、極々普通の感性を持った二人であった。

「こら、貴方達。少し騒ぎ過ぎよ、周りへの迷惑も考えなさい」
「最後に一枚、屋台の前で撮って次に行くぞ。田中、すまんが頼む」
「いえ、ここは私が。田中さんも入ってください、それから小太郎も」

 美味い美味いとトンコツラーメンの三杯目に突入していた小太郎が驚き振り返った。

「俺もか?」
「ほら、小太郎君。一緒に撮りましょう、こっちにおいで」
「ちづ姉、保母さん全開。旅行の間はずっと園の方にいけなかったもんね」
「OH, Nice Bo'z」

 何処のミュージシャンだと突っ込みたくなる呼び名と共に、田中が観音にデジカメを渡した。
 それからトンコツラーメンをご馳走になった屋台の前に大集合である。
 何故か小太郎を中心にして、その両脇に村上と那波がそれぞれ並んだ。
 そこからはもう自由に、背の高い低い関係なく押しくら饅頭でも擦るかのように。
 皆が皆、満面の笑みで心底楽しんでるぞこの野郎とばかりに集った。
 カメラに向かってピースをしたり、前の子の頭の後ろで鬼の角とばかりに指を立てたり。
 余計騒がしくなったのではと、集団の両脇に神多羅木と刀子が。
 最後尾中央では田中がショットガンにガシャコンと装填しながらポーズを決めた。

「それでは撮りますよ。はい、ニッコリ笑って。笑わなかった人は、閻魔様にその舌を引っこ抜いてもらいますよ」
「どんな脅し文句だ。別の意味で笑えねえよ!」

 一先ず、千雨も落ち込みは治っていたようで。
 観音の無茶振りにそれはもう、大きな声で普段通り突っ込んでいた。









 時は少々遡り、皆がトンコツラーメンを食べ始める正午過ぎの頃の事である。
 緊急搬送されたむつきは、夜中に倒れてから初めて目が覚め意識を取り戻した。
 まず最初に感じたのは極度の寝不足時のような気だるさであった。
 何より体は億劫で頭がぼうっとし、今自分がいる真っ白な部屋が最初認識できないでいた。
 ぼけっと呆けている事数秒、ひょいっとむつみが顔を覗きこんだ。

「むっくん、大丈夫? ん、熱は引いてるわ」
「姉ちゃん……」

 むつみに額同士で熱を計られ、そう呟かれた。
 熱が引いた、一体何の話だ。
 記憶の前後が繋がらず、ともすれば自分の歳が幾つなのかさえ忘れそうであった。
 何しろそばにいるのが昔から一緒にいた姉のみなのである。
 ただそれでも自然治癒により、少しずつ少しずつ記憶が繋がり、やがて思い出した。
 自分が何者で、もちろん歳が幾つで、職業も何をしていたのかさえ。
 最初に行ったのは時計を探す事であり、蛍光灯なく明るい時間にて十二時を指した時計を見て心底驚いた。

「寝坊しッ!」

 たと、最後まで言いきる事なく、飛び起きようとしたその体はベッドの上に落ちた。
 熱こそ下がったが、その為に使い切ったなけなしの体力が底をついていたのだ。
 体の上からずり落ちたシーツをむつみが掛けなおしつつ、教えてくれた。

「むっくんまだ寝てなきゃ駄目よ。酷い熱だったんだから、過労だって。昨晩、倒れたの覚えてる?」
「あんまり、ここ何処。旅行は?」
「四国の国立病院よ。旅行は神多羅木さん達の引率で皆は九州に向かったわ」
「そっか」

 半分は良かったと思いつつ、もう半分は。
 千雨が危惧した通りの形でむつきの心の中でじくじくと広がり始めた。
 むつみに掛けなおして貰ったシーツの中に、むつきがずるずると引きこもっていく。

「むっくん?」

 むつみに呼び止められても止まらず、頭まですっぽりスーツを被ってしまった。

「情けねえ。なにやってんだろ、俺。アイツらが楽しんでる旅行でダウンとか。はあ、前にもあったよな。自分の健康管理もできないなんて」

 特に千雨、怒ってるだろうなと泣けてくる。
 アキラを嫁に貰う切っ掛けとなった事件の時だって、千雨に怒られたのだ。
 社会人なら健康管理ぐらいちゃんとしろと。
 つい数日前だって心配してくれたのに、安易に大丈夫だと笑って済ませ。
 その結果が、これである。

「皆の為に頑張った結果でしょう? 皆も今頃は心配してくれてるわ」
「それが一番心配なんだよ。勝手に倒れた馬鹿を心配して折角の旅行が楽しめないのが」

 気弱になって落ち込んでいる反動か、むつみの言葉についつい語気を荒げてしまう。
 怒鳴りつけるほどではないが、むつみもこんもりとしたシーツの中からの言葉に慰めの言葉を失ってしまった。
 昔ながら、むつみが慰めれば一発で元気になったものだが。
 やはり何もかも昔のままとはいかないかと、少し笑顔に陰りが見えた。
 そんな時である、ぶぶぶっと傍の棚の上で何かが震えたのは。
 落ち込み中のむつきはまだシーツの中で、それを手にとる気配はない。

「あら」

 代わりにそれ、むつきの携帯電話を手に取ったむつみは液晶画面に映る名を見て驚いた。
 それから少し迷ったが、送られてきた内容を見てみる事にした。
 むつきが自分の手を離れている事を先程知り、この子達ならと思ったのだ。
 その勘は外れてはいなかったようだ。
 メールに添付された画像を見て、陰ったはずの笑顔をまた取り戻した。
 そして再びブルブルと鳴るむつきの携帯電話から、送られてきたそれを表示する。

「むっくん、起きて。ちょっとだけで良いから」

 しばしむつみがシーツの山を揺り動かしても反応は全くなかった。
 あのむつきが、初恋の相手で敬愛する従姉のむつみを無視する程に。
 さすがにぷっくり頬を膨らませるむつみだが、ぽんっと両手を叩き微笑んだ。
 二十八にしては少々悪戯っぽい、実際に悪戯を思いついたような笑顔である。

「お嫁さん達からのメールが来てるわよ」
「貸して!」
「あらあら」

 悪戯半分で言ったつもりが、思いの他に効果は覿面であたようだ。
 篭城していたシーツの中から、むつきはそれはもうあっさりと出てきた。
 ぐしぐしと涙を病院服の袖で拭いながら、むつみの手から携帯電話を奪い取る。
 まだまだ涙でぼやける視界で見た液晶画面には良く知った二人の少女の写真が映っていた。
 明石と佐々木が満面の笑みで、白いトンコツスープのラーメンを啜っている場面だ。
 特に明石はホームシックもなんのその、それはもう楽しい、美味しそうであった。

「俺は明石教授じゃねえんだから、しっかり発散してちゃんと寝ろよ」

 後で明石にメールを送っておこうと決意し、写真を捲った。

「ぶっ!」

 次の写真でも明石と佐々木はどんぶり片手だが、登場人物が増えていた。
 器用にカメラ目線でウィンクしながらトンコツラーメンを食べる椎名やそれに付き合う釘宮はまだ良い。
 隣でザジにスカートを捲くられている早乙女が意味不明だ。
 その後ろで宮崎が慌てているが、大体この場面が想像できてしまった。
 どうせまた早乙女がエロネタを振ってザジの逆襲にでもあったのだろう。
 青いパンツ、ごっちゃんですと厳重に保存しておいた。

「むっくんったら、泣いたカラスがもう笑ってる」
「おわっ、姉ちゃんたんま」

 早乙女の貴重な一枚を素早く隠しつつ次の写真を捲った。

「子ども扱いしないでよ、俺もう二十五だぜ」
「むっくんは幾つになってもむっくんなの。お姉ちゃんにも見せて」

 ベッドに座ってきたむつみが、むつきの手元の小さな携帯の液晶を覗いてきた。
 どうかエロネタはありませんようにと、次の写真を一緒に見る。
 何故かアキラにオクトパスホールドを掛けられた美砂が、千雨にトンコツラーメンを食べさせられていた。
 ちょっと半泣きな様子から、冷まされもせずもの凄く扱ったのだろう。
 なにやってんだかと笑いながらまた写真を捲ると案の定。
 夕映から冷たい水を奪って飲んでいる光景で、唇の端から落ちる水をさよが拭いていた。
 その様子をみたあやかと亜子、それから小鈴が思い切り笑いを我慢、出来ず指差し笑っている。
 本当の意味でのむつきのお嫁さん達も何をしているのか。

「ふーん」
「え、なに姉ちゃん」
「なんでもない、次は?」

 何か意味ありげに頷かれ、問いかけるもはぐらかされ次を促がされた。
 トンコツラーメンを食べさせ会う近衛と桜咲。
 その隣で何故か背中を掻きあっている龍宮と春日、どちらに対しても呆れている神楽坂。
 相変わらずの糸目で、ズズッとラーメンを啜っているのは長瀬だ。
 古はむつきにものを食べている場面を見られるのが恥ずかしいのか、普段の豪快さは何処へやら。
 麺を数本ずつ、ちびちびと食べては赤い顔でぎこちなく笑みを向けてきていた。

「らしくねえな。明石とは逆に、元気な方が良いって送ってやるか」

 四班、一斑、二班と来て、最後の三班である。
 テーブルにどんぶりを三つも重ね、四つ目を豪快に犬上が食べつくしていた。
 何故彼が中心かは不明だが、鳴滝姉妹が二人掛かりで対抗中。
 と言っても、二人共小柄でしかも女の子なので二人でどんぶり二つ目。
 結局は一人一杯と対抗になっていない。
 そんな小さな子三人を凄い凄いと那波が手を叩き、村上は呆れ混じりに半笑いだ。
 四葉はいつもの様に店主に何かを聞き、葉加瀬もそこに加わっている。
 屋台の機能性にでも興味を持って聞いているのか。

「お前もちゃんと混ざれよ」

 そう苦言を漏らしたのは、ちょっと不機嫌そうにトンコツラーメンを食べるエヴァだ。
 一応絡繰と一緒にはいるが、食い荒らそう犬上達を半眼で見ていた。
 本当は一斑になりたかったが、やむを得ず三班に入れてしまったが。
 合流したら一杯可愛がってやろうと思う、もちろん子供相手という意味で。

「なんで倒れちまったかな。俺も一緒にトンコツラーメン食いたかった」

 最後に屋台前で集合写真を撮った場面を見て、むつきはそう呟いた。
 何故倒れたと自分を後ろ向きに振り返るでなく、行きたかったと残念そうだに。

「次がまたあるわ。来年だってあるんですもの。さあ、むっくん。もう少しだけ休んで、私達も沖縄に帰りましょう。お爺様、帰って来てるらしいわよ」
「えっ、そうなの。何処情報?」
「観音さんが教えてくれたわ。退院手続きとって来るわ、それまでむっくんは寝てて」
「うん、ありがとう姉ちゃん。そうさせて貰う」

 すっかり憑き物が落ちたように、普段の明るさで持ってむつきはむつみを見送った。
 行ってらっしゃいと、扉を開けて出て行く姉へと手を振る。
 それから今一度病院のベッドに横たわり、もちろんその手の中には携帯電話があった。
 最後の集合写真はクラスメイトから神多羅木に刀子、田中さんに犬上と勢ぞろいだ。
 撮ったのは恐らく、観音なのだろう。

「思わぬ形で世話になっちまったな」

 観音にも礼をと思った所で、再び携帯電話がブルブルと震えた。
 各班と集合写真を撮って次は移動だと思われるが。
 移動中の超包子の車両内、または電車や歩き中の写真を想像していたが違った。
 胸元を開けるように人差し指で引っ張られ、そこから覗くのは大きな双球の谷間。
 ピンクのプラジャーに覆われてはいるが、柔らかく美味しそうなおっぱい画像だ。
 かなりの巨乳で、美砂やアキラより大きくあやかに迫る迫力である。
 一体誰のともう一枚の添付があったので写真を捲ると、投げキッス中のご本人が映されていた。

「朝倉、珍しく大サービスじゃねえか」

 そしてメールの本文には、今夜合流できなかったら使ってと素敵な電文が。
 ありがたく、ありがたくむつきはその画像を厳重に保管したのは言うまでもない。









-後書き-
ども、えなりんです。

朝倉の行動の理由は次回。

水曜日です。



[36639] 第八十一話 正直、彼氏といるより楽しかったから
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/11/01 21:22
第八十一話 正直、彼氏といるより楽しかったから

 超包子の車両は現在、青空の様に透き通る青い海の中を進攻していた。
 目的は当然、むつきやむつみの故郷となる沖縄である。
 当初、窓から見える海中の光景、魚や海の揺らぎに目を奪われていた生徒達だが。
 朝食後の八時頃に各自の携帯電話に入ったメールに話題はさらわれていた。
 差出人はむつきであり、一人一人異なる文面で送られてきたのだ。
 皆何が送られてきたとお互いに見せ合ったり、何度もその文面を読み返したり。
 特に読み返しているのは、古であった。
 最初は顔を赤くしたり、むむっと眉をひそめていた彼女だが、やがて決意したように立ち上がった。

「五月、肉まんあるアルか?」
「ありますが。くーさん、先程朝食を食べられたばかりでは? ちゃんと朝食時に食べておくべきですよ?」
「五月には申し訳ないアルが、食べる事が目的ではないアッ」
「隙だらけネ、古。ほほう、ふむふむ」

 背後から古の携帯をスッと取り上げた小鈴が、液晶画面に映る文面を黙読する。
 さすがに音読などと無粋な事はしないが、それはそれ。
 古が慌ててそれを取り返し、チャイナ二人のじゃれあいに若干視線が集ったりも。

「返すアル。プライバシーの侵害アル!」
「照れの余り、難しい言葉を使い出したネ。誰だって気になる相手には、良いモノを見てもらいたいのが乙女心ヨ」
「そんな古さんに朗報です。貴方の為にご用意しました。強制肉まん機、豊満君!」
「はい、くーさんのご要望の肉まんできました」

 プライバシー云々はまだしも、葉加瀬が持ち出した機械が嫌な予感がする。
 豊満君は、蒸し器に蛇腹状の腕を二本付けただけの形状だ。
 さらに四葉がタイミング良く肉まんを持ってきてしまった。
 豊満君が早速その日本の腕で頭の蓋を開けて蒸し器の中へと肉まんを詰め込み出す。
 全ての肉まんを詰め終えると、キラリと蒸し器の上に描かれた目が光ったようにも。
 次の瞬間、ホース状の腕を伝い蒸し器の中から肉まんが出てきて手のひらに握られた。

「ま、また今度アル!」

 逃げ出す古だが、一歩遅かった。
 むしろ背を向けたのが悪く、豊満君に背中から乗りかかられマウントポジション。
 次々に熱々の肉まんを口の中に放り込まれてしまう。

「朝倉サン、古がもう一度先生に写メを送って欲しいそうネ」
「先生に会えるまで一時間もないのに、愛だね。はい、くーちゃん。可愛くポーズ」
「出来るか、アル。やめ、もが。熱いアル!」

 豊満君に口一杯に肉まんを放り込まれた姿がパシャリと撮られてしまった。
 古の抗議もなんのその、もう直ぐ着くよっと先に沖縄入りしたむつきへメールである。
 そのメールを打った朝倉の肩口に、小鈴がこそっと囁いた。

「今日は胸の谷間画像は送らないかカ?」

 次の瞬間、バッと振り返った朝倉だったが、小鈴じゃしょうがないと苦笑いだ。

「ちょっとした悪戯心もあるけど、彼氏がね。折角の夏休み、全く連絡取らなかったら見事に振られちゃってね。一時の気の迷い」
「それで、親愛的からはなんと?」
「ご馳走様でしたってさ。いや、さすが和美さんのは破壊力があったみたい」
「親愛的の中で、朝倉サンはどう犯されたカ。興味が湧いたら、何時でも待ってるネ」

 そこで朝倉がちょっと迷いを見せたのは事実だが、意外と冷静だったらしい。

「これでも、結構動揺してる自覚あるし。またね、楽しそうなのは認めるけど」
「それは残念ヨ。竜宮城は何時でも貴方を待ってるネ」

 エロが絡むトークもそこまでであった。

「くーちゃん、ずるい。和美ちん、私も可愛く撮って。先生にアピール、アピーへっ?」

 私もっと目ざとく椎名が挙手をした次の瞬間。
 古のマウントポジションを取っていた豊満君が何故かその標的を変える。
 ただやはり無敵大明神の椎名は、意図せず何もないところでこけた。
 こてんと幼児のように綺麗なこけ方を見せた椎名の頭上を豊満君が通り過ぎていった。
 その先にいたのは、あろう事か那波である。

「ん?」

 一瞬早く、それに気づいた那波が来るのかっと黒いオーラを発した。
 そこで何故か那波の目の前で着地し、後ずさる豊満君。
 くるりと方向を変えて、村上の方へと飛び掛った。

「えっ、やだ。小太郎君、お願い!」
「お願いやあらへんがっ!」

 バリアとばかりに、村上が犬上を差し出し哀れにもマウントポジションを取られる。
 次々に繰り出される熱々の肉まんにもがき苦しんでいた。









 陸海空と日本の三界を制覇した超包子の車両はついに沖縄へと到達した。
 海坊主でも現れたかのように透き通るような青い海の水を盛り上がらせながら地上へと。
 流れ落ちる海水を振り払うように、やや強引に砂浜へと登っていく。
 沖縄の海と言うと観光客をまず想像するが、人影が殆どさっぱりみえない。
 車内の窓から外を見ていた生徒達も、別の秘島にでもと思っていたが違った。
 そう核心したのは、四国でひっそり別れる事になったむつきを見つけたからだ。
 スーツ姿ではなくシャツにハーフパンツと地元だけに気楽な格好である。
 ここだここだと教えるように、日傘を差したむつみの隣で手を振っていた。

「先生!」

 一番最初に超包子の車両を降りてそう叫んだのは誰だったか。
 我こそはと押すな、早く降りろと押しくら饅頭状態。
 都会の駐車場ではないので、今回ばかりはむつきも何も言わない。

「先生!」

 改めてそう叫び、一番に飛び出してきたのは美砂であった。
 秘密の関係なんて関係ないっとばかりに、飛びつくように抱きついてきた。
 一瞬どうすべきか迷ったむつきであったが、心配かけた手前避けるのも可哀想だった。
 抱き慣れた美砂の細い体を正面から受け止め、勢いを逃がすようにくるりと回る。
 つもりが、百八十度回転したところで誰かに背中を蹴られた。

「痛って!」

 美砂を庇いつつ背中から白い砂浜に倒れ込み、誰だこの野郎と太陽を睨むように見上げた。

「心配させやがって。なにぶっ倒れてんだ。罰ゲームだ、罰ゲーム」
「埋めちゃえ、埋めちゃえ!」
「先生ごめんね?」

 蹴ったどうはどうやら、内心と裏腹に攻撃行動に出た千雨であった。
 そして続いて亜子が砂を掛け始め、アキラに両手を取られて押さえつけられた。
 当然、砂を掛けられるのはと美砂はそそくさと逃げ出している。

「ああ、出遅れたアル!」
「続け、続け。私らも埋めろ、宝物は埋めるべし!」

 何故一番になれなかったと、古や椎名が続けば後は語るまでもない。
 良い大人が心配かけんなと立ち上がろうとしたむつきを蹴り転がしては砂をかける。
 三十人を超える女の子に襲われては大人と言えど、立ち向かえるものではなかった。
 実際、一人でも大人を負かしそうな武道四天王などと嘯く連中もいるのだ。
 むつきが砂の上で首から下を埋められるのに五分と掛からなかった。

「お前ら、俺は病み上がりだぞ。そっと扱え、雑なんだよ。お転婆どもが!」
「む、なにをしているむつき。すまん、見えなかった」
「この気巡れ子猫、後で覚えてろよ。お前ら、尻が赤くなるまでぺんぺんしてやるからな」

 挙句、エヴァには見えなかったと頭を踏まれ、砂の中でもがき吠えるのが精一杯だ。
 ならば今のうちにと、売り言葉に買い言葉で頭の上に座られた。
 この野郎と頭上を睨みたいが、下手に動けばスカートの中に顔を突っ込んでしまう。
 ひかげ荘ならまだしも、他の生徒がいる前ではちょっと避けたい。
 ちくしょうっと喉の奥で唸るだけで、何一つやり返す事ができなかった。

「相変わらず、よえー。兄ちゃん、喧嘩の仕方教えたろか?」
「馬鹿野郎、喧嘩歴なら俺も負けんが。生徒相手に喧嘩してどうする。それにな、小太郎君。君も既に同じ穴のムジナだ。見たよ、肉まん一杯食わされてる写メ」
「あ、あれはちゃうわい。夏美姉ちゃんが!」
「きこえませーん、きこえないんです」

 犬上に言われなれた言葉を突きつけられたが、そこはお互い様とやり返す。
 どうやら意外と効果はあったようで、ちょっとムキになられた。
 ちょっと胸がスッとしたが、それで良いのだろうかとおもわざるを得ない。
 ちなみに、まだ罪悪感という正常な感性を持つ村上は必死に耳を塞いでいた。

「それにしましても、先生方以外に何方もいらっしゃいませんね」
「そうねえ、綺麗な場所なのに。穴場なのかしら?」

 むつきへの罰が一先ず完了し、改めてあやかや那波が周囲を見渡し始めた。
 以前あやかがむつき達を招待した南国に似た光景である。
 燦々と輝く厳しい日差しは麻帆良と同じだが。
 海より寄せる潮風と共に岸辺へと打ち寄せる波間、文様を描く白い砂浜。
 海水浴には最適な場所でありながら、何故か観光客や地元の人間を全く見ないのだ。
 まるで良く似た異次元にでも迷い込んだような、異様ともいえる光景である。

「心配いらないわ。ここわね、乙姫家の私有地だから。地元の人か、うちのお客さんしか来ないから。あそこが、民宿の竜宮よ」

 不思議がるあやか達に説明したのは、埋められていくむつきを微笑ましく見ていたむつみだ。
 あそこと指差したのは、砂浜が途切れる切り立った崖の上。
 ひかげ荘を彷彿とさせる屋根瓦木造の民宿であった。
 むつきやむつみの父母が切り盛りしている民宿で、一族の大半はそこで働いていた。
 もう半分はむつきやむつみのように沖縄を出て元気にやっている。

「私有地ってことは、プライベートビーチみたいなもの?」

 あやかと同じだとばかりに、ふーんと呟いた神楽坂はとても良い子だった。

「先生なにげにボンボンじゃない。プライベートビーチとか。なに、この場所いずれ先生のもの? えっ、以前から何処か周りと違うって思ってた!」
「いや、実は私。背負われてる時、凄く悪戯されて。もう、先生の嫁になるしか。責任とってよ、先生」
「実は私も、何度か淫猥な視線にさらされ。汚された責任は取ってもらわないと。だ安心すると良い、直ぐに離婚するから。先生は慰謝料だけくれれば良い」
「お前ら、何処まで欲望に忠実なんだ。爺さん、相続人が多いから俺になんか全然回ってこないぞ。残念だったら、中学生(笑)」

 過去の経験もあって、早乙女や春日、龍宮に対してもの凄く辛辣な台詞が飛び出した。
 ほぼ無意識、条件反射のようなものであったがちょっとまずかった。
 現在むつきは砂浜に埋められているのである。
 体の九割は隠れているが、逃げも隠れも出来ない状態なのだ。
 特に最後の中学生(笑)で龍宮の怒りを買ったようで、顔目掛けて砂を大いに蹴られた。

「お前ら、乙姫が元気になって嬉しいのは分かるがそれぐらいにしておけ」
「むつみさん、先にお世話になる乙姫先生のお宅に挨拶をしたいのだけれど」
「それが、ちょっとまだ準備ができてなくて。お爺様も所用で他の島に行っているもので。お爺様のいないうちに挨拶を済ませると、拗ねられてしまいますので」
「他の島と来たか、さすが沖縄。と言うか、聞いた通りのお爺さん」

 三十人を超える、それもむつきの生徒とあって大わらわなのだ。
 本島ではないのでコミューンも小さく、他のご家庭からも人手を借りる始末である。
 年頃の男ともなれば、若く綺麗な嫁を手に入れるチャンスと張り切っている者も。
 残念、既に四分の一は俺の嫁だと、むつきが内心ふふんと笑ったのは内緒だ。

「爺さん、夕方には返ってくるから。それまでは自由行動。といっても、田舎に娯楽は皆無だ。精々、この青い海で気絶するほど遊ぶと良い。今日が旅行の最終日だ」

 明日はほぼ移動で終わるぞとむつきが言うや否や、生徒達は皆超包子の車両に逆戻りだ。
 むつきの言う通り、確かに娯楽はないが都会っ子にとって夏は海こそが最高の娯楽。
 やれ遅れるなとばかりに、水着に着替える為に、戻っていったのだ。
 誰か一人でも俺を掘り起こせよと思ったむつきだが、そこは田中さんが掘り起こしてくれた。
 彼にも旅行中は随分と世話になったが、もう一踏ん張りして貰わなくてはならない。

「田中さん、覗きや盗撮野郎がいたら容赦なく発砲を許可するから。住人は全部、血が繋がった親戚だし。何しても可」
「OK, Boss. 地獄で会おうぜ、ベイビー」

 むつきが頼んだ瞬間、早速田中さんは民宿竜宮へと向けてショットガンを発砲する。
 それで二階部分から、双眼鏡で覗いていたむつみの弟が落ちた。
 次いでさっさと働けと、むつきがチクりに行ったのは言うまでもない。









 田中さんのショットガン発砲により二階から落ちたむつみの弟。
 その名をつくもと言い、むつみの乙姫家で七女一男という唯一の男子であった。
 女系家族に唯一生まれた男だけあって、色々な意味でたくましい。
 二階の窓から真っ逆さまに落ちたというのに、ピンピンとしていた。
 そればかりか、同年代の美少女が自分の家の庭先で戯れているのに仕事などしていられるかと。
 むつきのチクりを逆に逆手にとって、自由をもぎ取ってきさえした。
 実際の所、無効一ヶ月無給で働きますと土下座してきたのだが、言わなければ分からないものである。

「と、言うわけで乙姫つくも。高校一年宜しくッス!」

 三十人以上もの水着美少女を前に、気後れする事なく良く日に焼けた顔で晴れ晴れしく言ってのけた。

「悪いな、どうしてもお前らと戯れたいらしくてな。すまんが、仲間に入れてやってくれ。痴漢でもしでかしたら、田中さんに撃たせるから。視線がエロイとかでも良いぞ?」
「て言うか、私ら先生のやらしい視線で慣れてるし?」

 早く紹介しろと肘でせっつかれむつきは嫌々紹介したわけだが。
 好意的と言って良いのか、美砂の言葉にちょっと憮然としても許されよう。

「つくもばっかりずるい。私らもむつき兄ちゃんと遊びたいのに」
「ばーか、短小包茎。学校でモテないからってがっつき過ぎ。気をつけてね、つくも馬鹿だから。暗がりに行くと、押し倒されるぞ」
「お兄ちゃん、後で遊んでね。頑張ってお手伝いしてるから」
「あかりもかがりも煩せえ、あとぽかり。お前の兄ちゃんはこっちな。むつき兄ちゃんは従兄だから」

 民宿の方からは、双子の妹や末の妹から非難轟々であった。

「後で小遣いやるから、我慢してくれ。相変わらず、お前家での地位が低いな。妹の誰からも兄ちゃんって認識されてないとか」
「むつき兄ちゃんのせいだろ。返ってくればほいほい小遣いやって可愛がって。俺の立つ瀬がねえんだよ。中学、高校と上がるたびにあの乙姫の弟かって教師からマークされるわ。女の子には今時、不良だ不良だって怖がられるし」

 ちくしょうとマジ泣きしそうな弟分にむつきも、視線をそらさずにはいられなかった。
 学生時代はむつきもそれなりにやんちゃで、そこそこ名の知られた悪だったのだ。
 と言っても、理不尽な暴力を振るうわけでなく、基本的にはむつみを守る為の件がだったが。
 すまんすまんと、弟分の頭を撫でつつ皆に仲良くしてやってくれと頼んだ。

「おう、俺は犬上小太郎や。女ばっかで窮屈やったから仲良うしよや。黒い兄ちゃん」
「なんだ、お前? えっ、なにハーレム。三十人もの美少女とToラベルとか」

 だが真っ先に仲良くしようぜと握手を求めてきた犬上を前に固まっていた。
 そして思春期としては当然の、妄想という逞しい翼が羽ばたいていった。
 大なり小なりはあれど、山盛り美少女の中で黒一点の少年である。
 しかもこの少年というのが曲者だ。
 銭湯だって十歳までは女風呂だって許される、つまりはそう言うことなのだ。

「おう、仲良くしようやチビ太郎」
「はっは、やっぱ男の方が好戦的でおもろいな」

 差し出された手を全力で握るもカラッと笑われ、更に力をこめるがビクともしない。
 やがて力を込めすぎて自分の手が痛くなってきてつくもから離した。
 だが、まだ諦めたわけではない。
 何しろ乙姫家の男子はちょっと粘着質なのだ。

「よっしゃ、小太郎。ビーチフラッグやろうぜ。海人の凄い所見せてやるぜ」
「ビーチフラッグってなんや?」
「ビーチフラッグってね」

 ちょっと自分に有利な舞台に持ち込もうとするセコイところも乙姫家の男児だ。
 犬上はビーチフラッグを知らなかったようで、村上にこそっと教えられていた。
 その気安い距離の近さもつくもの癪に障ったようだが、周りはそんな事は関係ない。
 ちょっとエッチな馬鹿が来たぐらいの認識で私もやるっと立候補者も。
 一部、付き合ってられんと呆れる者もいたが概ねは仲良くやってくれそうだ。
 そこからは二人のビーチフラッグを応援したり、別途ビーチバレーを始めたり。
 三十分も過ぎた頃には、役に立たないと思われたあかり達も仕事から解放されていた。
 今さら三人ほど保護対象が増えた所でたいした問題ではない。
 引率者がさらに一人、観音が増えていたので生徒プラスアルファには自由に遊ばせた。
 むつきもエヴァの相手をしたり、ぽかりがやってきてエヴァと肩車の位置を争ったり。
 程々に生徒達の相手をしていた時の事である。

「親愛的、ちょっと良いカ?」

 小鈴が背後にすすっと近付いてきて、むつきに囁いてきたのは。
 むつきの背中にぴったりと背中をつけてきていた。

「どうした、小鈴? つくもがエロい眼で見てきたか?」
「つくもサンは、どうやら巨乳派のようネ。悔しくないヨ、私は美乳だから」
「そんな事は小鈴の次に知ってるけど?」
「よろしい」

 もうここが公共の場でなければ押し倒したところだが、用件は違う事であろう。

「朝倉サンが、彼氏と別れたらしヨ。どうするかは、親愛的に任せるネ。また怒られたくないし」
「別れた、なんでまた?」
「それは本人の口から聞くヨロシ」

 告げるだけ告げて、そのまま再現と何処かへ行ってしまう。
 なんとも気になる情報だが、それでどうしたと聞きにいくのも微妙だ。
 現状、お嫁さんが一杯のむつきが近付くと、これ幸いにと考えているようでもある。
 一先ず、落ち込んでいるのかいないのか。
 朝倉の様子次第だと辺りを探してみると、相変わらずデジカメ片手に写真を撮っていた。
 現在は、仲良くなったエヴァとぽかりが作る砂のお城を撮影中だ。
 ちなみにお城の設計は絡繰が図面を書いて製作指導の模様、主にぽかりに。

「おーい、朝倉」
「ん、どったの先生。先生も撮って欲しい?」
「じゃあ、二枚ほど。ぽかり、ちょっとだけ」
「うん、ぴーす」

 ぽかりを抱き上げて頬を寄せるようにニッコリ笑って一枚。
 次いで期待の目でうずうずしていたエヴァとも同じように抱き上げて一枚である。

「先生、私もよろしいでしょうか?」

 と言うわけで、何故か絡繰も立候補したので肩を抱き寄せるようにして一枚の計三枚だ。

「先生、最後の。肩必要だった?」
「突っ込むな。やってからやべって思ったんだから。それより、ちょっと」

 追求を跳ね除け、あっちと指差したのはビーチの端っこであった。
 乙姫家のビーチは切り立った崖の下にあり、まるで大地を切り取ったかのような場所にある。
 自然が生み出したミニビーチは、両端がそのまま崖に直結するわけだが。
 東側にだけは、代々乙姫家の子供が共有秘密があるわけである。
 他に誰かついてこないように注意しつつ、秘密のお話が出来るよう朝倉を連れて行く。
 ビーチの端に行くと砂浜と小波、として切り立った崖と三点が重なる点がある。
 そのまま小波に足をつけて海側に歩み寄り、崖に沿って歩く。
 すると膝まで海水はあるのだが歩き続けられ、やがてビーチからの死角に小さな洞窟が見えてきた。
 最初は屈まなければ入れない小さな穴だが、入ってしまえば割りと中は広い。

「うわ、なにここ。自然の洞窟?」
「かもしれないし、そうじゃないかもしれない。乙姫家の代々の子供が入り浸る秘密基地。代々だから大人も知ってるけどな」

 昔はむつきやむつみも、宝物を色々と持ち込んだわけなのだが。

「おっ、こんな所になつかしの箱が」

 一抱えもあるぼろいが見覚えのある木箱があり、小走りに駆け寄った。
 昔つくもに教えた通りならと、箱を持ち上げるとその下の海水の中にキラリと光る鍵が。

「なにこれ、意味なくない?」
「こんな汚い箱。女の子はわざわざ手に持たないだろ?」
「女の子なら……もしかして、中に入ってるのって」

 朝倉の想像通り、むつきが木箱の鍵を外して開けると入っていたのはエロ本だった。
 女系家族であるつくもの方の乙姫家では、エロ本を隠すのも一苦労なのだ。
 ベッドの下だろうと、本棚の下だろうと明かされその日の内に食卓に置かれてしまう。
 昔泣きつかれた時に、むつきが使っていた木箱をあげたのだ。
 ちなみにその前はむつきの親父が、さらにその前は爺ちゃんが使っていたと聞いている。

「巨乳ものばっか。先生の家、代々巨乳好き?」
「かもな、姉ちゃんを初め。つくもの家の女の子は全員巨乳だ。六年生のぽかりでさえC、つまりは最低Cなんだよ」
「そんな英才教育下で育てば、巨乳眼も鍛えられるってわけ」

 やらしっと言いつつも、朝倉が両腕で胸を押し上げた。
 首から紐で提げていたデジカメや携帯が、ふくよかな膨らみにぽよんぽよん跳ねている。
 一件普段通りなのだが、エロ本を仕舞わずその辺に置いて木箱を閉めた。
 エロ本は後で食卓にでも持って言って浮かれているつくもに鉄槌を下すとしてだ。
 木箱を椅子代わりに座り込んで、ちょっと考えてから朝倉を手招いた。

「んー、まあいっか。失礼しますよ」
「案外、あっさり座ってきたな」

 以前の逃げっぷりが信じられない程に、素直に朝倉が膝の上に座ってきた。

「小鈴から、彼氏と別れたって聞いたけど。なにかあったのか?」
「なにもなかったから、振られたが正しいかな。夏休みに入ってから、報道部かひかげ荘か。ほら、夏祭りだって私皆と一緒にいたでしょ? 普通ならキレるって」
「思い出してみれば。悪い事したか?」
「そうでもないかな。楽しかったのは事実だし。正直、彼氏といるより楽しかったから」

 思ったよりというか、朝倉は全く落ち込んだ様子を見せずにしょうがないと笑っている。
 それも強がっているというようにも見えない。

「結構イケメンだったし、デートでは奢ってくれたからね。けど、大好きかって言われると微妙。向こうも、私ってよりは私の特にこれが好きって感じだったし」

 もちろん、これとは朝倉が両手で再び強調した巨乳である。
 相手が程々にイケメンで金回りも良く、相手も相手で可愛い巨乳だったから。
 思春期の恋愛として、それ程変な理由で付き合ってたわけでもなかろう。
 中身までちゃんと知ってから付き合おうとか思ってたら、既にその時は遅い。
 とりあえず掴まえて、合わなきゃ別れるし、合えばそれが続く。

「でも、それなりにショックではあるかな。初めての彼氏だったし。主に悪かったの連絡ぶっちしてた私だから罪悪感がね」
「大丈夫だろ、別に。連絡途絶えがちになっただけで、お前みたいな巨乳美少女振るとか。別の巨乳女が見つかったんだろ。気にすんな」
「先生、それ余計気にするんですけど。て言うか、ずるい。私にだけ美少女つけるとか。ぐらっと来た。ちょっとだけ、エッチしよっかな」

 そのままこてんと後ろに首を傾け、胸に髪を押し当てながら朝倉が見上げてくる。
 正直、むつきも気弱になっている朝倉の瞳にぐらっと来たのだが。

「弱気になってる女の子に手を出すの、刀子さんで懲りた。もうちょい、冷静になってそれでもってんならその時な」
「先生、偶にその自制心凄いよね。お尻、当たってるけど」

 巨乳美少女に儚げに頼られたら、男としては正常な反応である。

「ちょっとだけなら?」
「自制心何処行ったの」
「俺だって乙姫家の男児なんだよ」
「和美さん、巨乳美少女だから。先生がむらむらしても仕方ないね」

 そう言うと朝倉が背中に腕を回して自ら水着のビキニを取り外そうとする。
 のだが、そこはむつきが止めた。

「先生、やっぱしないの?」
「ちょっと待って、今凄く俺の中で死闘が起きてる。水着の着衣か、生巨乳か」
「そっちの死闘、先生……」

 はやくしないと気が変わっちゃうぞとばかりに、朝倉が腰をふりふり誘惑してきた。
 既に勃起をしはじめた一物をハーフパンツの上からお尻で押されたのだ。
 ここで押し返さなければ、乙姫家以前に男児とは言えない。
 即断即決、全裸はいずれと貴重な水着巨乳を堪能する事に決めた。
 水着で押さえつけられ布地からはみ出すように、溢れ出そうな朝倉の巨乳。
 圧迫されたその谷間など、お尻かと突っ込みたくなるような出来である。
 なんという重量感と下からその胸を支え、水着の下からでも分かる突起に指を伸ばす。
 贅沢にも巨乳と乳首の両方を同時に楽しんでみた。

「どう、和美さんの巨乳は?」
「超柔らかい。一日中たぷたぷしてたい。乳首もこりこりでエロイ。和美、キスして良い?」
「キスか、どうしようっかんぅ!」

 迷うという事はしても良いと思う部分があるはずと、答えを聞く前に奪い取った。
 元々上目使いに見上げてきていた和美の唇は、巨乳同様ぷりぷりだ。
 それこそ一日中キスしていたいと、唇をこじ開け舌を差し込んでいく。
 最初は驚きからむつきの腕の中で身悶えていた和美も次第におとなしくなっていった。
 むしろ自分からも率先して舌を絡め、エロイ子なのである。

「和美、可愛い。凄くお前が可愛い」
「んぅ、先生がっつき。ぁん、乳首気持ち良い。いつも写真撮ってるだけで、その後でこっそりオナニーしてた。先生に、なぶられるの想像しながら」
「オナニーしてる時の想像の中の俺と比べてどうだ?」
「全然違う、先生の方が凄く良い」

 潤んだ瞳で見上げられながら呟かれ、本番を我慢出来るか少し不安になってきた。
 その辺の海水で軽く手を洗い、来ていたシャツで指を拭きつつ。

「和美、触るぞ」
「うん」

 膝の上で可愛く頷いた和美のお腹を撫でるように辿りつつ、指先を下腹部へ。
 水着のなんともいえない手触りに指を絡め、少しどけて割れ目の近くに。
 珠のお肌の上に途端にチクチク感触は、和美の陰毛の剃り跡だろう。

「先生、乙女の努力の跡を弄るのは駄目じゃない? 今の私、明日菜と同じパイパンだよ」

 ついポロッともらしてしまい、やべっと和美が口を押さえていた。

「神楽坂、パイパンだったのか。アレで結構、良い体痛い、痛い!」
「喋っちゃった私も悪いけど、先生の腕の中の美少女巨乳女子中学生は誰かな?」
「和美です。昨日、ズリネタに使った和美ちゃんです!」

 ふとももを思い切り抓られ、ついついむつきもぽろっともらしてしまった。
 とは言っても、和美から使ってと送ってきたのだから何を恥じる必要がある。
 むしろ、そこで恥じ入ったのは送ってきた当の本人の和美であった。

「嘘、先生本当に使ったの?」
「お前が使えって言ったんだろ。妄想の中で七回、お前に中だしした。凄いアヘ顔させて、写真に撮りまくったった」

 この時、ブルッと和美の体が震えたのはこの熱い夏に寒かったからでは決してないだろう。
 そんな和美を見て悪戯心を起こしたむつきは、その首に下げられていたデジカメを手に撮った。
 改めて悪戯の前にと、和美を後ろからギュッと抱き占めその耳元に囁いた。

「和美、偶には撮られてみるか?」
「ぁっ……」

 思っても見なかった、ではなく。
 思っていた事を言い当てられたからか、和美が言葉を失い顔を赤らめていた。
 何時ものひょうひょうとした、悪戯心満載の悪い女の子の影もない。
 純な女の子が耳元でエロイ囁きをされた時のような恥ずかしがり様であった。
 これでむらむらしなければ、男ではない。

「和美、俺達のファーストキス記念。ほら撮るぞ」
「待って先生。それ皆との写真も」

 制止を聞かずむつきは和美の唇を奪いなおしたまま一枚ぱしゃりと撮った。

「大事な記念写真。制止したくせに、和美全然嫌な顔してないぞ。むしろ、陶酔したみたいに顔が赤くて。気持ち良かったか?」
「うぅ……やばい、先生スイッチ入ってる。柿崎達にSになる時の先生」
「なら、次は」

 もはや今のむつきに何を言っても無駄なのは、近くで見てきただけに分かりきっている。
 和美も抵抗は既に諦め、楽しむしかないかと彼氏を忘れる事にした。
 いや、忘れると言うよりは彼氏がいるのにという二律背反を楽しむ事にが正確か。

「胸の前で腕を組んで若干持ち上げ気味」
「こう?」
「そう、そのまま撮るぞ」

 むつきに指示された通りに腕を組むと、またしても一枚写真を撮られた。
 先程と同じように、その撮れた写真を直ぐに見せてくる。
 斜め上からの胸の谷間を強調したバストアップ写真となっていた。
 まだ和美の表情は少し硬いが、それでも十分過ぎる程に可愛い。
 自分でそう思うのもなんだか自画自賛っぽいが、決して自信過剰というわけではなかった。
 何しろ和美を抱き締めているむつきの腕が、殊更強く抱き締めてきていたからだ。

「お前、本当に巨乳美少女。まだちょい表情硬いけど、明るい感じがまた。巨乳を引き立たせる。超可愛い」
「先生、谷間だけで満足?」
「この野郎、満足なわけないだろう。もっとエロイ格好撮りたい」
「例えば?」

 自分でもびっくりな挑発が飛び出したが、誘惑しているのか混乱しているのか。
 お尻の下のむつきがごそごそ動き始めた。
 胡坐をかいていた足が体操据わりに、自然と膝の上にいた和美も持ち上げられる。
 次いでむつきが膝を開くと、その膝が和美の膝に引っ掛けられていた。
 むつきの膝に追いやられるように和美の膝が割れていき、開脚させられてしまった。

「動くな」

 思わず膝を締めようと胸の前で組んでいた腕が動いたが、一瞬早く制止させられた。
 もちろん、言う事を聞かないという選択肢もあったのだが選べなかった。

「先生、ちょい恥ずかしい。ちゃんとケアしてて良かった」
「そのまま笑ってピース」

 こんどはバストアップから遠ざかり、むつきがデジカメを持つ腕を目一杯伸ばしていた。
 こんなもんかなと勘で角度を決め、両手でピース中の和美を撮った。
 と言っても、むつきの膝の上にいるわけだから、自身も一緒にだ。
 さすがに危うい写真なので、洞窟を出る前には消さないとなと心のメモにつけておく。
 それはさておき、今この瞬間は撮れたばかりの写真の方が大事である。
 和美も早くとむつきの腕を引いており、一緒に覗き込むように小さな液晶画面を見た。

「うわっ、男の人の膝の上でとか。自分で言うのもなんだけど、エロイ。ヤラレちゃった後みたい。割れ目が浮き出てるし、先生なんでこんなの思いつくの?」
「俺が今まで読んできたエロ本の数を覚えていると思うのか?」
「はいはい、それだけ読んできたんだ。で、次はどうする?」

 もはや和美も止まれず、次は次はとむつきのリクエストを率先して聞き始めた。
 それに伴い和美の表情からも硬さが消え、淫靡な笑みが時折顔を出すまでに。
 リクエストされたポーズも、巨乳によりはち切れそうなビキニに自ら手を入れ乳首を摘んで強調させたり。
 頑なに水着の着衣は守りながら。
 開脚させられた足、陰部に張り付いた水着の割れ目。
 その割れ目を足の付け根の肉を左右に引っ張る事で開かされたりもした。
 その間、ずっとむつきは写真を撮るか、ポーズを指示するかの二つのみ。
 和美の足を開かせていた足だけは別だが、殆どは和美が自らポーズを取る格好だ。
 元々濡れていた水着なのでむつきは気付かなかったが、和美は当然気付いていた。

(あぁ、濡れちゃってる。戻れるかな、私。無理、かな。皆を見てると)

 むつきの指示を聞きながら、漠然と。
 何時か私もむつき相手に処女喪失する日を、嫌悪感なく想像してしまう。
 そしてその想像がさらに密かに濡れる陰部を更に潤わせる事になるのだが。
 次の瞬間、突然和美の胸元でブーンとバイブレーションで震え出した携帯に我に返った。
 突然の刺激に思わずイキかけたが、確認した着信名に背筋に寒いものがのぼる。

「せ、先生どうしよう。彼氏から電話掛かって来ちゃった」

 まるで浮気現場を直に見られてしまったかのように、声が震えていた。

「振ったの向こうなのに?」
「あっ」

 そうだ別れたんだと、今まで彼氏の事など本気で頭から吹き飛んでいたようだ。
 何故今さらと和美は思ったようだが、むつきには分かった。
 彼氏は別に本気で別れるつもりなどなかったのだ。
 振るのはやり過ぎな気もするが、ちょっと冷たくして気を引きたかったのだろう。
 私が悪かったと和美が言えばよかったのだが、恐らく旅行で忙しくそれもない。
 だから慌てて、俺が悪かったと悪くもないのに言おうというところであろうか。

「どうし、ねえ。先生どうしたら良い?」
「そうだな」

 もちろん、むつきの中では今さら和美を元の鞘に収めるつもりなど毛頭ない。
 まだ膝の上で可愛がっている相談を受ける程度なら良かったのだが。
 和美もまたひかげ荘の住人であり、嫁にしたいとちょっと思うぐらいにはなっている。
 だからこの時初めて、むつきは自分から動く事にした。
 まずは散々遊んだデジカメを自分の首に掛けて、両手を自由に。
 それから片手で和美自慢の巨乳を大胆に揉みしだき、片手は開かせた足の太股をなぞる。

「んぁっ、先生。待ってお願い。彼氏から」
「元、彼氏」

 改めて振られたんだろと、強調し和美にむつき自身を強く意識させた。

「和美、そのまま電話に出てくれ」
「このままって、本気で?」
「振られた意趣返し。もちろん、言わなきゃわからないさ。別れたくないぐらいに好きだったわけじゃないだろ。楽しめよ、和美」

 渋る和美に、ここぞとばかりに畳み掛けるように情報を植えつける。
 既に別れた、向こうから振った、俺といて楽しかったろと。
 これが証拠とばかりに、むつきは和美の太股から足の付け根に、張り付く水着をにちゃりと肌から離して指を滑り込ませた。
 直ぐに割れ目にはもぐりこまず、愛液でぬらついた肌の上で愛液をにちゃにちゃ弄ぶ。

「電話に出て。しばらくは、普段通り。ほら」
「駄目、乳首苛め。先生、柿崎達にする時みたい。嫌って言っても、エロイ事で言う事を聞かされちゃうんでしょう?」
「さすが、ひかげ荘の住人。分かってるじゃないか」

 ついに元彼からの電話の動揺よりも、一体何をされるのかの興味が勝ってしまっていた。

「も、もしもし?」
「和美ちゃん、ごめん!」

 第一声の謝罪は、無駄に大きな声が和美の耳を貫き機嫌を損ねただけであった。
 咄嗟に携帯を耳から離し、顔をしかめた和美を振り向かせた。
 何やら喚いている電話の向こうの彼氏をほったらかしにして。
 むつきは和美の唇へと自分の唇を強く押し付けた。
 最初は眼を白黒させていた和美も、何かに陶酔するように瞳を閉じ始める。
 電話の向こうの喚き声も、足元の海水の小波も遠く聞こえる程に。
 何時の間にか和美は体から力を抜くように、むつきへともたれかかっていた。

「んはぁ……先生、力入んない。キス上手過ぎ」
「ダウンにはまだ早いぞ、元彼待ってるぞ」
「元、彼か。元なんだよね」

 ちょっと面倒そうに携帯を耳に当てなおした和美が始めて言葉を向こうに投げた。

「ちょっとうるさい、静かにしないと切るよ」
「はい、ごめんなさい」

 不機嫌さが伝わったのか、イケメンとは聞いていたが何処か気弱な声が聞こえた。
 それはともかくとして、今はそういうプレイ中である。
 早くと視線で誘ってくる和美の割れ目に、ついにむつきは指を埋め込ませていった。
 オナニー経験はそこそこあると発言していたが、その通り。
 処女膜は確かにあるが、特有の硬さはあまりなくぐにぐにと美味そうな膣である。
 たわわに実る果実も同時に弄び、水着の中に手を差し込んで直接乳首も捏ね上げた。

「んぅ、胸がじんじんする。あそこも。会話なんて出来ない」
「ほら、元彼が待ってるぞ」

 腕の中で身もだえする和美の首筋にキスを落としつつ、ほらっと催促する。

「気を散らっ、んぁ。先生、なのに。で?」

 震える声を無理矢理押さえ、返ってそれが怒りを含んだような声にも聞こえた。
 むつきでさえそうなのだから、携帯の向こうの元彼はなおさらだろう。
 案の定、ご機嫌伺いをするような下手な声が聞こえてきた。

「あの、ごめんなさい」
「それさっき聞いた」

 相変わらずというか、若干わざとらしい不機嫌な声である。
 その和美の視線は、自分の乳房を弄び、陰部を弄るむつきの手にそそがれていた。
 元、彼氏だが、以前は散々メールや直接好きと言葉にした相手と電話しながら弄ばれている。
 もちろん、むつきという男を知っているから、既に嫁にする気満々だとも分かっていた。
 けれど、それでもまだ完全に切れていない相手との電話中の行為であった。
 二人の男の間を行ったり来たりする淫乱な女子中学生。
 そんな想像から愛液の量は更に増し、足元の小波よりも自分の愛液が絡む音の方が良く聞こえた気がした。
 だからこそ、わざと不機嫌な声を出さなければ、瞬く間に向こう側に喘ぎ声が漏れてしまうだ。

「別れるつもりなんて、全然なかったな。気を引きたくて。なのに連絡全然なくて!」
「ふーん」

 正直、そんな事情知るかとも思ったのだが、囁きかける。
 当然耳元から遠ざけた携帯ではなく、自分を弄ぶ淫行教師にであった。

「先生、気付いてたっしょ」
「まあな、俺も男だから。男特有の身勝手で馬鹿な行動ぐらい分かる。たぶん、電話の直前まで怒ってたぞこいつ。なんで掛けてこないんだって」
「本当、馬鹿……なっ、んだから」
「そういう所も可愛いと思えて初めて、立派な女だよ。まあ、その後でコントロールできなきゃ駄目だけど。結論、お前は俺の嫁」

 ああ、ここにも身勝手で我が侭、どうしようもないのがと和美が若干頭を抱えた。
 けれどその身勝手に身を許してしまったのは自分だ。
 しかも体を弄られて気持ち良くよがっていたのも事実。
 世間一般的にはむつきが完全に悪いが、自身が当事者ともなれば自分も悪いとも思える。
 だからもう流されちゃえと、今の流れに抗わず和美は色々な意味で身を委ねる事に決めた。

「ねえ、今私なにしてると思う?」

 再び耳元に近付けた携帯の向こう側へと、和美がそう言い出した。

「なにって、旅行。クラスメイトと旅行だろ?」
「そうじゃなくて、んぅ。今、現在ぁっ」
「和美、ちゃん?」

 まだ携帯の向こう側の元彼は、何を聞かれたのか計りかねているようだ。
 察しが悪いなあと、和美はむつきを見上げるようにお願いしてきた。
 もっと声が出るように、携帯の向こう側にまで届くように。
 お安い御用だと、むつきは優しい愛撫を終えて、少しだけ激しく、徐々に強くしていった。
 勃起した乳首のしこりを和美自身に教えるように摘み捏ね上げる。
 割れ目の奥に伸ばした指も、じゅぶじゅぶと音が聞こえる程に激しく挿入を繰り返す。
 足と足は絡めあい、目の前の和美のうなじにはこれでもかとキスを落とし始めた。
 全力で、全身で密着し、和美にむつきと言う名の男を刻み始める。

「ねえ、聞こえる。んぁ、ぁっ。私が、くんっ。あぁぅっ」
「和美ちゃん、もしかして」

 やっと分かったかと笑ったのも一瞬。

「俺に振られたのが寂しくて、一人慰めて。マジで、オナニーしてるのか!?」

 ああ、やっぱり男は身勝手だとちょっとだけ冷めかけた。
 だから気分が漏り下がらないよう、陰部を弄るむつきの指にあわせ腰を振った。
 どっちも馬鹿だが、自分が気持ちよくなる様気遣ってくれる男の方がマシだと。

「今、はぁ……何処に、一人?」
「分かってる、一緒にだろ。一緒に、今寮の部屋。俺だけだから」

 ごそごそと聞きたくもない衣擦れ音が聞こえたのを期に和美は携帯を手から離した。
 通話中のまま、一人でマスでもかいてろと首に下げなおす。

「もう一人の身勝手な人、せめて気持ち良くしてね。しばらくは、セックスフレンドで。本番はなし。んー、大事にしてくれるんだって思ったらお嫁になってあげる」
「十分だ、女の子を大事にするのは割りと得意だ。和美、こっち」

 また嫁が増えたが、それで色々と考えるのは後の事だ。
 今は和美を愛するのが先だと、胡坐をかき直して和美をこちらに向ける。
 少しだけ腰を浮かしてハーフパンツとトランクスを脱いで、和美の陰部、水着に寄り添わせた。

「本番は駄目だけど、素股ぐらいなら良いよ?」
「水着、変に伸びたら困るだろ。そこまでならないにしてもな。どうだ、大事にしてるだろ?」
「当たり前」
「お前が言い出したんだろ」

 そうでしたと笑う和美の唇を奪い、水着に覆われたお尻に両手を添えた。
 舌を使いながら互いを舐りあい、体を擦り付けあう。
 濡れた水着の表面は少し摩擦が強いが、それも自分のカウパーと和美の愛液が混ざるまでだった。
 水着越しに染み出す事はなかったが、ちゃんと布地と肌の切れ目から溢れだしていた。

「和美、可愛いぞ。絶対大事にする、幸せにする」
「そう言うのは後。今は気持ちよく、擦れて。熱い、硬い。先生ぇ」

 元彼が携帯の向こうで盛る声など、二人の密着した胸の間で音が途切れていた。
 洞窟内の小波さえも聞こえない程に、互いの吐息と喘ぎだけで耳がもう一杯だ。

「先生、ちょっとやばい。感じた事のない、キュンキュンが」
「遠慮せず、イケ。砂浜に戻るまで、三回はイカせてやるからな」
「うん。んくっ、ぁっ!」

 もう我慢出来ないと、和美もむつきの首に腕を巻くように抱きついてきた。
 初めての快楽から逃れるように腰が浮きそうにはなったが、そこはむつきががっしり抑える。
 なので自慢の巨乳を水着越しに、むつきの顔に押し付けただけであった。
 巨乳の谷間に顔を埋め、幸せに窒息しそうにもなったが、自分がよがるのはまた今度。
 今は和美をお嫁にしてくださいと、向こうかわ言わせる為にもむつきは頑張った。

「和美、ほら乳首たってむ」
「イク、乳首噛まれて。イク、ぁっ。んぁっ!」

 一際大きな喘ぎ声を上げて、和美がむつきの腕の中で喜びに体を震わせた。
 むつきも和美が膝の上から転がり落ちないようしっかりと抱き締める。
 和美のほうもしっかりと、むつきへ抱きついていたわけだが。
 しばし快楽の波に弄ばれぼうっとむつきの頭越しに遠い場所を見つめていた。
 だが時が過ぎるにつれて我に返り、自分の胸の中で窒息しそうなむつきを見下ろす。

「先生、生きてる?」
「なんとか。マジで窒息するかと。良かったか?」
「もう、一回?」

 つまりはそれが和美の答えであった。
 むつきも喜んでと答えたのは良いが、二人共既に通話中の携帯の存在を忘れていた。
 気がついた時には切れていたのだが、不用意な発言が聞こえていないか祈るばかりだ。









-後書き-
ども、えなりんです。

ここ最近は、連載開始時の慕われなさが嘘のようですね。
嫌われてはないにしても、軽んじられてたんですよこの人。
その代り教師としてはどんどん堕落してますが。

さて、彼氏持ちだった和美ですが……別れました。
別れたというか、彼氏の方が別れた振りして逆に捨てられた感じですが。
軽い寝取りですが、元彼が血の涙を流すような寝取りはありません。
むつきは元より、和美自身の身も危うくなりますから。
正式に嫁になるのはもう少し先です。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第八十二話 ここか、都会娘のおっぱいは!
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/11/06 22:08
第八十二話 ここか、都会娘のおっぱいは!

 旅行も終わりが見えてきているのに、相変わらずA組の面々は元気一杯であった。
 お昼一杯は海で泳ぎ、砂浜でビーチバレーなど遊び捲くったというのに。
 現在時刻は午後六時を十分程過ぎたところ。
 民宿竜宮の大宴会場にて、テーブルに並べられた海の幸を前に眼がキラキラしていた。
 大皿に豪快に盛られたお刺身は、当然の如く尾頭付き。
 他に捌かれた直後で、まだ微妙に動いている伊勢えびなどなど。
 お預けを喰らった子犬のように、早く早くとうきうきしっぱなし。
 だが、うきうきしているのは、空腹を前にご馳走を並べられたからだけではなかった。
 宴会場の小さなカラオケステージ、その壇上に置かれたお膳と分厚い座布団。
 そこに座るべき主を待っているのだ。

「ねえねえ、今さらだけど先生のお爺さんってどんな感じなの?」
「なんか凄い期待されてる感じがするけど。お前らが想像してるような純な人じゃねえぞ」

 四つの班で分けられている為、隣にいた美砂に尋ねられたわけだが。
 失望するよりはと、先に釘を刺しておいた。

「純情、どうしてそんな事になってるの?」

 するとA組の子達よりも先に、エヴァに料理の説明をしていたぽかりが反応した。
 他に働いていた乙姫家に連なる人たちも、立ち止まって唖然としていた。
 現在爺さんはつくもが港まで迎えにいっている。
 だから次々に、被害者の会とも言える人達が、そんな事があるはずないと力説し始めた。
 主に未婚者であるむつみ側の乙姫家、次女ちなみから末娘のぽかりに至るまで。

「アレは純なんてもんじゃない。昼間につくもに会ったでしょ。アレがそのまま爺さんになっただけ。ひなたお婆ちゃんも可愛そうだって」
「下手に土地とか、妙な人と繋がりあるから。日本じゃ相手が危ないからって、あれ国外に出会い求めにいってるよね。私ら今でも油断すると、間違えちゃったとか言って一緒にお風呂入って来ようとするし」
「イラッとするけど、一応老い先短いお爺ちゃんだし。だから、イラッとした分はそっくりなつくもでストレス発散するんだけどね」

 つくもが不遇な理由がさり気に暴露された気がしたが。

「あっ、でも今日は大丈夫だよ。むつみお姉ちゃんが返ってくると、お爺ちゃんの狙いはそっちに注がれるから。むしろ、お姉ちゃん帰って来て」
「と言うか、お姉ちゃんが甘やかすからお爺ちゃんも全然反省しないし。私らも、都会に行きたい。むつき兄ちゃん、ホームステイさせてよ」
「じー……」
「無茶言うな。お前らの面倒まで、見てられねえよ。ぽかり、期待の眼差しで見ても無理だって」

 出るわ出るわ、近辺では沖縄美人姉妹として有名な従妹達から。
 爺さんの被害報告が。
 着替え中に突撃された、お風呂に突撃された、布団に突撃された等々。
 下着がなくなったとかより、被害も犯人特定も容易いが反省のない常習犯である。
 宴会場のテンションが少々下がりそうな爺さんの評に、騒がしさが少し納まっていた。
 現代に蘇った乙姫と浦島の純愛とはなんだったのか。
 聞いていた話と違うと、何故かむつきにどういう事だという視線が集った。

「俺はちゃんと、爺ちゃんがストーカーだって言ったぞ」

 即座に祖父を売ったわけだが、そこへ丁度良いのか、悪いのか。
 その絶妙なタイミングにて、宴会場の外から慌しい声と足音が聞こえてきた。

「何処だ、都会もんの凄いおっぱいは何処だ。大きさは、形は!?」
「アレ、ちょっと前にテレビでやってたスイカップ。むつみ姉ちゃん級が一人。都会の中学生マジ凄い!」
「中学生でむつみ級か。まだ成長が見込めるとは、逸材。まさに逸材じゃあ!」
「ちょっ、爺ちゃん足速過ぎ!」

 何処の高校生が馬鹿話をしながらとも思われる内容なのだが。
 確かにつくもは高校生だが、爺さんはそもそも高校に行った経験があるかどうか。
 戦争に行った事がと聞かされる方がまだ現実味がある歳だ。

「ここか、都会娘のおっぱいは!」

 とんでもない事を口走りながら現れたのは、腰程もない背丈の小柄な老人だった。
 格好こそ着物に杖と一本と小奇麗な格好ではあるのだが。
 しかし、そこはさすがに年の功。
 宴会場の雰囲気を察知するや否や、顎鬚を撫でながらはたと冷静になったようだ。
 そして地面に突かず真ん中辺りを握り締めていた杖を、端っこを持つように持ち直した。

「この馬鹿タレが!」
「なんで!?」

 そのまま、自分の後ろを走っていた可愛いはずの孫へとを強かに打ちつけた。
 頬っぺたを杖で抉られ、その何故という悲鳴の言葉も当然の事だ。

「お前はお客様の前でなんちゅう恥知らずな言動を。幾つになったと思っておる!」
「痛ッ、ちょっ。むつみ姉ちゃん、むつき兄ちゃん助けて。なにこの癇癪爺、無茶苦茶だよ。知ってたけど、腹が立つ!」
「あらあら、だめですよ。お爺様。つくもちゃんを苛めちゃ」
「つくも……後で、小遣いやるから元気出せ」

 この時、駆け寄ってきたむつきに、半泣きになりながらも一万と呟いたのは強かな証拠だろうか。
 それはそうと、この時全員が思った。
 超我が侭、スケベ爺が来たと。
 その我が侭爺は、後ろからむつみに抱き抱えられるや否やその豊満な胸に顔を埋めていた。

「むつみ、また一段と大きくなりよって。むほ、ほほぉ。浦島の馬鹿息子め。こんな可愛いむつみを捨てるとは、罰当たり過ぎる」
「お爺様、けー君は良い人よ。それよりも」

 よしよしと、むつみが爺さんの頭を撫でながら、チラっと意味ありげな視線を送った。
 その送られた相手とは、さすがにこの状況でサングラスがずり落ちそうな神多羅木だ。
 しかし、ハッと我に返るや否や、目上を前に失礼かとそのサングラスを取り外した。
 この時、個々で時間の差はあれ、誰もがえっと呟く事になる。
 サングラスの奥に隠れていた神多羅木の瞳は、獲物を狙う鷲のような切れ長な瞳であった。
 黒いスーツや顎鬚などから、昔の刑事ドラマの熱血役のような雰囲気であったが。
 サングラスを取るや否や、現代でも通用しそうな渋めのイケメン俳優のようだ。

「超良い……」

 プルプル震えながらテーブルの上に突っ伏した神楽坂が、太鼓判を押すほどだ。

「えっ、えー!」

 そして最も、声を大きくして避けんだのが一番付き合いが長かったはずの刀子だった。

「ん、何故お前まで驚く。そういや、プライベート以外で外したのは初めてか?」
「なんで、なんで常時サングラス掛けてるのよ!」
「昔、散々言い寄られて対応が面倒になってな。不機嫌そうにサングラス掛けてれば、誰も近寄らなくなったから。そのままだ」

 もはや嫌味にもならない程の、見たままの理由であった。
 しかも極自然と、決して自慢するわけでなく言ってのけた神多羅木に同じ男のむつきは嫉妬も沸かない。
 いや少し、全く別の理由で言い寄られた事はあったが、次元が違うと納得する程だ。
 むつきとしてはそれで良いが、直ぐ隣にいたイケメンを逃した刀子のダメージは大きい。
 何故もっと神多羅木という一人の男性に踏み込まなかったのか、心底悔やんでいた。
 変な奴だなと、うな垂れる刀子を置いて神多羅木がむつみに抱かれている爺さんの前に歩んで行った。

「お孫さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいています。神多羅木と言います」
「おうおう、近右衛門君から聞いとる聞いとる。おお、昔のわしにそっくりなイケメンじゃて。女子は、初恋の人の面影を追うらしいのう」

 この時、何をぬかす爺とむつみ以外の乙姫家の全員がイラッとしたわけだが。

「ほえ、近右衛門君? 珍しい名前やから、そうやと思うけど。うち、近衛木乃香言うんやけど、うちの爺ちゃんとお知り合いなん?」
「ふむ、やや小ぶり。美乳タイプ……はっ、げふんげふん」

 質問にまともに答えずまず乳に眼が行く、このエロ爺はどうにかならないものか。
 たださすがに、むつきの生徒に対しては駄目とむつみの視線に気付き咳払いだ。
 それから、むつきも気になる呟きに対して答えを返してくれた。
 それはもう、衝撃的な、むつきにとっては今世紀最大とも言える答えをである。

「わしと近衛近右衛門君、それからひなたの婆は同窓生でな。ほれ、むつきが麻帆良学園都市で教師をしとるのもわしの伝じゃからな」
「え?」

 その疑問の声は近衛ではなく、むつきであった。

「爺さん、なに言ってんの?」
「あれ、言ってなかったか。就職が決まらんと、お前が嘆いとったからな。近右衛門君に頼んだのはわしだ。もちろん、駄目なら切って良いとは言ったがの」
「え?」

 改めて疑問の声を上げたわけだが、既に残酷な答えは目の前にあげられていた。

「うわああああ。就活時代、もっとも憎んだ縁故採用の奴らと同じ。俺も縁故採用だった!」
「せ、先生落ち着いて。良く分からないけど、大丈夫?」
「そんなに落ち込む事ですか。慰め方がさっぱりわからないです」

 頭を抱えたむつきを、近くにいたアキラや夕映達が慰めようとはしてくれたのだが。
 大学生が陥る就活地獄の悲惨さが中学生に想像できるはずもなく。
 右往左往するのが精一杯である。
 しかも、むつきをそんな地獄を思い出させるような発言をした祖父はというと。

「さて、そろそろ飯にしようか。お前達もお腹が空いているであろう。おーい、酒じゃ。酒、可愛いむつみの門出じゃ。神多羅木君、当然君もイケるのだろう?」
「嗜む程度には、お供します」
「うむ、それでこそ男じゃ。ところで、君の派閥は何かな? むつみを娶るからには巨乳じゃと思うのじゃが」
「えっ?」

 女子生徒や同僚がいる前でそれを答えるのかと、神多羅木にターゲットが移っていた。

「はーい、それじゃあ。お爺ちゃんの許可も出たところで。一杯食べてくださいね。ご飯はもちろん、おかずもお代わり一杯ありますからね」
「おう、既に頂いとるで!」
「小太郎君、勝手に一人で食べちゃ駄目だって。皆と足並みそろえないと。ほら、零れてる」

 さすがにむつみの母や、むつきの母は慣れたものだ。
 爺さんの我が侭もあっさりスルーして、焚きたてご飯等を運びこんでくる。
 マイペースと言う意味ではある意味同レベル、犬上が頂きますの前に口をつけていた。
 それを嗜める村上は、良いお姉さんと言ったところか。

「ほほう、姐さん女房ですか」
「そうなんですよ、観音さん。夏美ちゃんったら。可愛い男の子に眼がなくて」
「ちょっとそこ、ちづ姉なに言ってんの。小さな子に眼がないのはちづ姉でしょ!」

 すっかり犬上のお世話係りとなった村上がからかわれつつ、特別修学旅行の最後の晩餐が始まった。

「やべ、超凹んだ。縁故採用って……」
「先生、そう気にする事はありませんわ。所詮縁故も切っ掛けの一つに過ぎません。その切っ掛けを手に、二年と数ヶ月しっかりとご自分の足で歩んできたではありませんか」
「そうそう、悔いてんのかなんなのか分からねえけどさ。良いじゃん、今先生はちゃんと先生してるんだから。それとも、縁故だから駄目教師なのか?」
「誰が駄目教師だ。豆腐メンタルは認めるが、それだけは認めんぞ」

 あやかに慰められ、認めんのかよと長谷川に笑われようやく気分が戻り始めた。
 縁故採用だった事実は確かに凹んだが、千雨の言う通りちゃんと先生になれ始めている。
 一部、生徒を嫁にする予定の駄目教師分も含むが俺はやっているのだ。
 やれているんだと言い聞かせるようにして、笑って見せた。

「先生、はいご飯です。たくさん、つけましたから一杯食べてくださいね」
「おう、悪いな相坂。んー、久々のお袋の味」

 厳密にはお袋ではなく、乙姫家のもっと言えば沖縄の味なのだが。
 昼間は和美とエッチしていた為、今ここでようやく帰って来たとの感慨が湧き上がる。
 そう、故郷に帰って来たむつきにとってなにもかもがお袋の味なのだ。
 美味い美味いと健啖ぶりをみせるむつきを前にして、美砂達はようやく気付いた。
 ここがむつきの実家なのだと、自分達の知らないむつきが育った土地、家、空間。
 さらにそのむつきを愛し育ててきた母親。

「あれ、私ら。普通にお客さんしてていいの。数年後、挨拶に来た時そんな子いたかなって眼で見られたら泣きそう」
「もうちょい耐えろ、波風立てんな。いずれ、ちゃんと連れてくるから」

 食事中なのに慌てて居住まいを正し、今にも化粧直しにとでも言いそうな美砂にそう言った。
 いや美砂だけでなく、続々とその事実に気付き始めるアキラ以下お嫁さん達に。
 爺さんのインパクトが強すぎて、忘れていたのだろうが。
 今ここで嫁だなんだと暴露されても困るのは、むつきである。

「えー、桜子ちゃん。むつき兄ちゃんが好きなの!?」

 そう嫁を宥めていた丁度その時、三女ななみがとんでもない事を大声で叫んだ。

「わ、私もアル!」
「なにを張り合ってんだ、お前は!」

 次いで負けてはいられないとばかりに、真っ赤な顔で立ち上がったのは古だ。
 ただお茶碗をそれでも離さないのは、彼女らしい。

「うわ、私らと同じ中学生。それも生徒とか、引いた。乙姫家で唯一まともな男だと思ってたのに。もう一緒にお風呂入ってあげない」
「お兄ちゃん、私らとお風呂入った後で変な事してないよね。私らも、結構育ってきてるんだけど? お小遣い弾んでくれなきゃ、一人で入ってね?」
「ぽかりは良いよ。お風呂でお兄ちゃん独り占め」
「ぽかりは兎も角、お前らは俺が入ってたら突撃してくるんだろ。爺さんと同レベルだっての!」

 双子のあかりとかがりの談だが、そこだけは必死に否定しておいた。
 従妹に欲情、いや初恋がむつみだなけにそちらには欲情したこともあった。
 しかしむつみは従姉で、あかりたちは従妹。
 読みは同じだが絶対に違うと、視線こそ向けないでお嫁さん達にアピールしたわけだが。
 既にロリコン変態の本性を知っているだけに、そこには別にくいつきもしなかった。

「もう、アンタはなに慌ててんの。お嫁になりたいって可愛い女の子が言ってんじゃない。ありがたく貰っときなさい。ちょっと線が細いけど、老い先短いお爺ちゃんの為にひ孫でも見せてやりなさい」
「母さんも何言ってんの、中学生だからね。それに教師首になっちまうよ。そ、そうだ。俺ちゃんとした彼女いるから。結婚もするつもり」

 さすがに、そこで隠れてドヤ顔してる美砂を筆頭に。
 むつきの母親が直ぐそこにいる為、微妙に居住まいを正したアキラ達とは言えない。
 言えないので、他に思いつかず慌てて携帯を操作しこの子とまず母親に見せた。

「ほら、この子。アタナシアって言うんだけど」
「ぶーっ!」
「エヴァちゃん?」

 他に誰も思いつかず、とりあえずアタナシアの写真を見せたら何故かエヴァが噴き出した。
 可愛くけほっとむせているところを、ぽかりに背中を撫でられる。

「ふーん、アタナシアさんね。で、アンタの妄想は良いとして」
「妄想じゃねえし、あのちっこいエヴァの姉ちゃん。ほら、この場にいる全員アタナシアに会った事あるし。思い出してみれば、濃厚キスシーンも見せてた!」

 当然ながら、美人過ぎる上に日本人とも思えぬ容姿に疑いの目がふりかかった。

「でもさ、先生。アタナシアさんとは結婚する気ないって言ってたじゃん。本命がほかにいるからって。刀子先生も振っちゃうし、その本命ってどんな完璧超人?」
「本人達が納得して別れたのに、混ぜっ返す……あっ」
「はぅっ!」

 さすがに早乙女の言動を見逃せなかったのか、刀子が持っていた箸を投げつけた。
 棒手裏剣のように綺麗に飛んだそれは、綺麗にスコンっと早乙女の額に突き刺さる。
 ツボにでも刺さったのか、そのまま早乙女は白目を剥いて倒れこんでしまった。
 まあ、早乙女が状況を引っ掻き回すのは何時もの事としてだ。
 当然ながら、絶技を見せた刀子へとあの子がと視線が集るのは必然。
 はしたない所をと、ぱっと手を後ろに回しカァッと顔を少女のように赤くする。
 正直、何故振ったとむつき自身が今さらふいに思ってしまう程だ。

「いえ、あの。私達は別に付き合ってたわけでは。好きでしたけど、乙姫先生に彼女がいた事は知ってましたし。横恋慕というか、なんというか」
「いえいえ、こちらこそ。こんな不出来な息子を好いてくれたのに。申し訳ないわ。むつき、ちょっとこっち来なさい。お話があります」
「痛い、耳千切れる。ちょっ、生徒の前なのに」
「生徒の前だろうが、なんだろうが。アンタは私の息子でしょうが」

 と言う風に、耳を引っ張られながらむつきは連行されていく事になった。









 腹いっぱいの夕食の後は、この特別修学旅行の締めとも言える花火大会であった。
 ありったけ購入してきた花火を、飽きる程に砂浜でするのだ。
 夏場とはいえ、九時にもなれば夕日も既に水平線の向こう側。
 花火が栄える夜の闇の訪れである。

「うりゃ、両手持ち大回転!」
「お姉ちゃん危ないよ」

 まあ、普通の花火を買ってきてはいても、A組が普通の花火で満足するはずもなく。
 早速鳴滝姉が、両手に火のついた花火を持ってくるくる回転しはじめる。
 傍目には綺麗に違いないが、妹の言う通り飛び散る火花がちょっと危ない。
 これで最後だとはしゃぎたくなる気持ちも分かるが、一言注意しとくかと腰を上げる。
 そこではたと気付いた、はしゃいでいるのはA組の子達だけではないと。

「よし、つくも。こっちは八つ墓村バージョンで対抗じゃ」
「火傷する、絶対これ火傷する」
「馬鹿者、だからお前は駄目なんじゃ。男のワイルドな部分に、女子は股座をじゅんっとさせるのだ。さあ、我が孫ならいけ」
「マジで!」

 乙姫家の筆頭馬鹿の爺さんとつくもであった。
 鉢巻をした額に花火を何本も差し、両手には放出型の花火がそれぞれ持たれている。
 それに点火すればどうなるか、少し考えれば分かりそうなものだが。

「アチッ、熱つ。千鶴ちゃん、見てる。俺超、頑張ってる。輝いてる!」
「風香ちゃん、危ない事をしちゃ駄目よ」
「はーい」

 だが生憎、意中の那波は危ない事をした鳴滝姉を注意中であった。
 駄目じゃねえかとつくもが爺さんを追いかけるが、歳をとっても健脚は変わらず。
 先にばてて恥を晒すに終わってしまう。

「爺さんもつくもも、変わんねえな。ぽかり、あんまり揺らすと落ちるぞ」
「うん、エヴァちゃん。線香花火ね、こうすると一つになるよ」
「おお、火の玉が一つに。ぽかりは物知りだな」

 乙姫家で唯一まともと思われているむつきは、ぽかりとエヴァの面倒を見ていた。
 他の妹たちは程度の差こそあれ、A組の子達と花火に興じている。
 元より、むつみと仲良くなるのも早かったので他の終いとも早い早い。

「乙姫」

 そんなむつきへと幽鬼のようなおどろおどろしい声質で喋りかけたのは神多羅木であった。
 その為、ぽかりがビクッと体を震わせ閃光花火の玉がぽたりと落ちてしまう。
 じわっとぽかりの瞳に涙が浮かびそうになり慌てたのは神多羅木だ。
 何しろこれから、そう遠くないうちにぽかりは義妹になる予定である。
 今から機嫌を損ねてしまえば、むつきの帰省時に肩身の狭い思いをするのは必須だ。
 しかしさすがの神多羅木も小さな女の子の相手は、経験不足らしい。
 やたらめったら慌てふためかないのは良いが、反面硬直してしまっている。

「ほら、ぽかり。次のがあるだろ。エヴァ、ちょいと面倒頼む」
「まかせろ。おい、ぽかり。次はもっと束ねるぞ。そうすればもっと大きな玉になる」
「うん、オジちゃん御免ね」

 逆にぽかりに謝られ多のは良いが、オジちゃん呼ばわりに再び微妙な顔だ。

「さて、神多羅木先生どうかしました?」
「いやな、両親への挨拶は滞りなかったが。やはり、あのお祖父さんがな」
「面食らいますよね、あの爺さん。別に巨乳派ってばれたぐらい軽いですよ。俺の親父の時は、親戚一同の前で夜の生活は大丈夫か、こう言う体位があるって説教くらったらしいですよ」

 勘弁してくれとばかりに、さすがの神多羅木も困り果てているようだ。

「そのうち慣れますって。あんな爺さんですけど、裏表がない分、好かれてるか嫌われてるかははっきりします。神多羅木さんは好まれてますよ」
「普通、嫌いな相手の派閥など気にはしなさそうだからな」

 やれやれと何処か力が抜けたように座り込み、神多羅木は火のないタバコを咥え始めた。
 そんな神多羅木を目ざとく見つけ、線香花火を手にむつみが近付いてきたのでバトンタッチ。
 さて俺は何処へと、むつきは周囲を軽く見渡す。
 ぽかりはエヴァと仲良く線香花火中で、面倒は絡繰が見ていてくれている。
 あかりとかがりは、椎名や古と中学生らしく恋話で盛り上がっているので近寄りがたい。
 誰か俺の相手をと寂しくなっていると、騒ぎからやや離れた場所にいた葉加瀬と四葉がいた。

「おーい、俺も仲間に入れてくれ」

 ちょっと不思議に思いながらも、その辺に余っていた花火を手に近付いていく。

「あっ、先生」
「今日もお疲れ様です」

 早速四葉が火のついた花火を差し出してくれたので、貰い火をする。
 花火の勢いでの貰い火で、直ぐに燃え移り華々しく火を噴き出し始めた。
 ちょっと煙の火薬の匂いが鼻にしみるが、それもまた花火の醍醐味か。
 無心に燃え盛る花火を見ていると、四葉が周囲を見渡してから尋ねてきた。

「先生、柿崎さんが先程一度消えて戻ってきたのですが。トイレにしては長い間」
「良く見てるな。飯の時に母さんに連れて行かれたろ、あの時ゲロった。生徒と付き合ってて、結婚もするつもりだって」
「えっ?」

 思わず大きな声をあげかけた葉加瀬は、咄嗟に口を閉じていた。

「さすがに、他にもいるってのは言ってないけどな。アタナシアで納得してくれるのが一番だったけど。まあ、しゃあない。一発殴られたけど」

 日焼け跡で隠れてはいるが、実は右頬がちょっと腫れているのだ。
 その痛みのかいあり、美砂の聴取の後はお咎めなしの状態である。
 何を聞かれたのか、喋ったのかは美砂からも聞いていない。
 ただ今言葉を交わすと感極まって抱きつきそうだから、近付かないでとは言われている。
 たぶん、了承を貰ってしまったとかそう言うことなのだろうが。
 思わぬ形で嫁を実家に連れてくるハメになってしまった。

「お嫁さんですか、私も何時か。えっと、私はまだ」
「ひかげ荘にいるからって強制はしないって。四葉みたいに特別な約束とか。本当、何時からひかげ荘は妙ちきりんな竜宮城になったんだか」
「約束ですか?」

 その件はむつきしか聞かされていないので、葉加瀬が尋ね始める。
 四葉も隠すような事ではないと、将来素敵なレストランにドレスを着てとあの約束を話していた。

「その日の為に、先生が恥ずかしくないよう私も少し見た目に気をつけようかと」
「俺は別に今の四葉が良いけど?」
「それで納得しないのが女の子です」

 女の子のお洒落は口では可愛いと思われたいと言うが、内心は自己満足だ。
 四葉がそれで納得できるなら、綺麗になった四葉といずれである。
 その時、食事だけで終わるか、その後そういう場所へ行くかはその時次第。
 絶対、行くよなっと椎名ではないが勘が囁く。

「四葉さんも、ついに。少し焦ります」
「ついにとか言うな、あと焦る必要もない」
「でも、一度だけされてしまっている身としては……」
「誤解を招くような、いや。ぶっかけたけどね」

 なんだか周りがそうしているからと、流されそうな葉加瀬に釘をさしておく。

「研究と俺、どっちか取るならどっちとる?」
「えっと、申し訳ないです。研究です」
「そんなんで怒らねえよ。俺はそれで良いと思う。それでも、研究中に頭の中で俺がちらついて邪魔なら俺のところに来い。そのちらつき、解消してやる」

 どうやってと尋ねるまでもなく、葉加瀬の顔が赤く染まっていく。
 元々花火で照らされていたが、それでもはっきりと分かるぐらいに。
 それから三人の手元の花火がそれぞれ鎮火し、残り火を残した後で呟いた。
 周囲の騒ぎにかき消されそうな蚊の鳴くような声で。

「その時は、お願いします」
「おう、無茶苦茶可愛がってやるよ。研究は研究、恋愛は恋愛。けじめを付けられるのが良い女になる為の一歩だ」

 そう言うからには、むつきも先生は先生、恋愛は恋愛。
 けじめをつけてこれからも、生きていかなければならない。
 生徒に偉そうに語っている場合ではないと、新たな花火を二人に配りながら思った。









-後書き-
ども、えなりんです。

ようやくにしてむつきの爺さんが登場。
あと以前から情報チラつかせてはいましたが。
爺さんとひなた婆さんと近右衛門とさよは、元麻帆良の同窓生。
さよは別にして、同世代にアレな人材が集中してた感じ。
特に爺さんとひなた婆さんにその気がなかったとはいえ、
仮に三人が協力してたら、たぶん日本の裏の世界は統一されていたと思う。

そして今現在も何も知らないむつき。
人を殺したことや、辛い過去に悩む出なく縁故採用に悩む主人公w
ヒロインたちに慰められてますがなんか違う。

それでは次回は水曜です。
もう少しだけ沖縄回、次回は爺さんでずっぱり。



[36639] 第八十三話 ひかげ荘を俺にください
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/11/06 22:02

第八十三話 ひかげ荘を俺にください

 花火大会が終了した後、生徒達は判別でお風呂で汗を流してから就寝となった。
 その際、那波の風呂を覗こうとしたある意味逞しいつくもは、当然見つかっていた。
 現在、美人姉妹総がかりで簀巻きにされ、屋根の上から吊るされている。
 なんとまあ、今の時代にあそこまで肉食系になれるものだ。
 同じ乙姫家の男児として、血がちゃんと繋がっているのか不思議にもなるのだが。
 今はそれどころではないと、愛する愚弟の事は頭から追い出した。
 目の前にして立つのは、民宿竜宮にある建物の最奥の部屋。
 現在の乙姫家の全てを束ねる爺さんの私室の部屋の襖の前に、むつきは立っていた。

「爺さん、入って良いか?」
「むつきか、うむしばし待て」

 少し待てなど言われた事なく少し不審に思ったが、言われた通りに待った。
 中で少しぱたぱたと軽い足音がし、一分と経たない内に入れとの言葉が帰って来た。

「爺さん、少し話がって。なんで部屋が暗い、電気つけろよ。まさか、就寝前だった?」
「た、たまにはそういう気分になる時も。あっ、待てむつき」

 なんか怪しいと部屋の電灯を点けて見れば、それもそのはず。
 爺さんの頬には何かがぶつけられたような張れ跡が。
 吊るされたつくもにも姉妹から殴られた以外で、似たような張れ跡があったはず。

「爺さんもかよ、良い歳こいて。俺も男だから、分かるけど。姉ちゃん達には黙っとく」
「そうかそうか、さすが。むつきは分かっとるの。捕まるつくもが鈍なんじゃ」

 目標が那波という事だから、怒らないわけで。
 これが一班の美砂達を狙ったものなら、スルーで済むはずもない。
 ただこれから爺さんに願う事柄を考えると、本当にそうだったらどうしたか分からない。
 むつきは開いた襖を後ろ手に閉めると、座布団の上でタバコをふかし始めた爺さんの前に座り込んだ。
 崩した胡坐ではなく、これから物事を頼むに当たって正座である。
 そんなむつきの態度を察し、さすがの爺さんも真面目な話かとタバコの火を消していた。

「それで特別な話か?」
「うん、単刀直入に言うよ。ひかげ荘を俺にください。他は何もいりません。結婚したい子達がいる。大勢養わなきゃいけない、だからあそこが欲しいんだ」
「ほほう、子達か。娘からは、生徒一人としか聞いとらんが」
「母さんには内緒で、爺さんにだけ話すよ。こっちは強請る立場だし」

 とてつもない財産を強請るだけあって、口先だけで済ますことは出来なかった。
 血の繋がった家族だから甘い判断をという願望がないわけではない。
 しかし、これから先の長い年月を口先だけで継承したひかげ荘で過ごす事はできない。

「美砂一人だけじゃない。俺の嫁になりたいって子がたくさんいて、どの子も可愛くて選べない。だから全員、嫁にする為にひかげ荘が欲しい」
「ほほう、して乳の方は?」
「巨乳から貧乳まで。爺さんには悪いが、俺は改宗した。おっぱいに貴賎はない」
「そうか、そうか!」

 あれ、なにこの会話と祖父相手ながらちょっと微妙に思ってしまった。
 真面目な話をしに来たのにやはり、矛先がそちらへ向いてしまう。
 このブレなさは、見習うべきなのだろうか。
 ブレブレの人生を爆心しているロリコンとしては。

「ええよ、ひかげ荘はやろう」
「えっ、軽ッ!」
「なんじゃ、いらんのか?」
「いや、無茶苦茶欲しいけど。あっさりくれ過ぎて。条件とか色々、付けられるのかと思ってたから」

 あっさり過ぎて現実感がなく、内心とは裏腹にそれで良いのと返してしまう。

「理由は色々あるぞ。おっぱいに貴賎はない、わしはその領域に達する事ができなんだ。孫がわしを超えたのみならず、両手一杯の嫁じゃと。浦島の子せがれは、嫁一人で手一杯だというのに。はっは、勝ったぞひなたの婆め。わしの孫息子の方が上じゃ!」
「ああ、そういう理由ね」

 爺さんらしいやと、ある意味で納得してしまう答えであった。

「お前も妙なところでついとるの。今日このタイミングで言い出さねば、むつみの新居にと明け渡せと言うつもりじゃったからな」
「あっ、ぶねぇ……そうだよ、その可能性も。椎名のおかげか。姉ちゃんには悪いけど、ひかげ荘だけは譲れないんだ」
「むつみより大切な子か。うんうん、知らぬ場所で孫は大きくなるもんじゃ。近右衛門君のところに預けて正解じゃったわい。っと、そうそう。近右衛門君で思い出した」

 先程まで乳を理由に優良物件を譲ったとは思えぬ真面目な顔に爺さんが変わる。
 改めて、何か重大な話がとむつきも姿勢を正す。

「木乃香ちゃんじゃったか。あの子に手を出す時は、それなりの覚悟をせいよ」
「は?」

 一体なんの話しだとは思ったが、現時点で木乃香はひかげ荘に足を踏み入れてしまっている。

「風の噂でな。彼女はやんごとない身の上らしい。やんごとないと言えば、あの集団にはそういうのがごろごろしとったがな」
「はあ……近衛の実家は既に見てきたから、やんごとないのはわかるけど」
「ええ、ええ。生徒に手を出すなら覚悟しろ、そう受け取れ。お前は知らんでも良い事じゃ。孫息子の成長を前に、少しわしも口が滑ったようじゃ」

 からからと笑い始めるのは良いのだが、そういう笑いの時はごまかしだ。
 爺さんが人に知られたくない、または知らせたくない時は大抵この笑いを浮かべる。
 ただそう言う時は、素直に身を引くのが互いの為とも知っていた。

「うん、わかったよ。爺さん、ひかげ荘はありがたく頂戴します」
「うむ、必要な書類は後日送ろう。これまで管理しとったから、改めて増える手順は微々たるもの。頑張れよ、むつき」
「頑張るさ。幸せにしなきゃいけない女の子が沢山いるから。他の男の何倍も頑張らないとね。ひ孫を産むのは姉ちゃんが先だけど、数はこっちが上だから」
「おうおう、待っとる待っとるぞ。ひなたの婆が悔しがる光景が眼に浮かぶわい」

 最後にもう一度だけ、感謝と就寝の挨拶を述べてむつきは爺さんの部屋を去っていく。
 その足取りは、当然の事ながら軽い。
 念願のひかげ荘が、爺さんから直接譲渡されたわけだからだ。
 口約束ではあるが、その事実は文書などよりも重い。
 エロ爺で困った爺さんだが、多くの孫に対して嘘だけはついた事がないからだ。
 るんるんと自宅兼民宿の廊下をスキップするほど、浮かれ捲くったむつきが歩む。
 その数分後、入れ替わるようにやってきたのは観音とエヴァであった。

「失礼します、お爺様」
「うむ、邪魔するぞ」
「おお、来よったか。入れ、入れ。エヴァとやらはめんこいな、飴玉でも食うか?」

 やって来た観音とエヴァに対し、爺さんはむつき対するそれと代わらぬ笑顔で迎え入れた。

「全く、人間はちょっと歳をとると直ぐに図太くなるな。私の正体を知っての行為だろ」
「お前の正体など知らん、知らん。鬼子か何かだとは年の功で分かるが。ふむ、あとむつきが口にしたアタナシアもお主かな。我が孫ながら、面白い恋愛しとるのう」
「ちなみに、お爺様に嘘や見栄は通用しませんので。自然体でどうぞ」
「この禿げ頭、これが私の自然体だ」

 失敬なとばかりに観音の足を蹴り上げ、エヴァはずかずかと部屋に入っていった。
 近右衛門の理事長室に入る時と同様に遠慮は微塵もなく、勝手に座布団に腰掛けた。
 そんなエヴァの対応に観音は内心はらはらだが、爺さんが何も言わないので従った。
 自分だけでも失礼しますと礼儀正しく入室しては、正座で相対する。

「それでは改めて、ご無沙汰しております。お爺様」
「そんな禿げ頭下げんでもええ、お主もわしの孫同然じゃ」
「おい、その孫の愛しい客人がおいてきぼりだぞ」

 私も仲間に入れろとばかりに、平伏した観音のわき腹をげしげし蹴っていた。

「なに、観音君の事は以前から知っておったのだがな。とある一件でむつきが世話になっての」
「お世話になったのはむしろ私です。乙姫が、大学時代にひかげ荘の件で数々の女性に迫られた件はご存知ですか?」
「まあ、聞きかじった程度だが」

 大学時代、ひかげ荘を自慢し友人を招待しては宴会を開いていた事があった。
 沖縄のど田舎から上京し舞い上がっていた事もあったが、純朴な田舎者でもあったのだ。
 そこにつけいるように腹黒い女性が群がり、断り続けた挙句に事件は起きた。
 とある女性が暴言を吐いた挙句、むつきに殴られたのだ。
 恨んだ女性は当時むつきがつき会っていた女性をターゲットに復讐を行なった。
 当然、その結果二人は別れる事になったのだが、この話には続きがある。

「大学で偶然乙姫と友人になった私ですが、それはもう若さに任せ立腹しまして」
「まさか」
「そうです、その女性を呪ってしまったのです。良い男を見る度、変顔をしてしまう程度の軽い鈍いですが」
「レベル低ッ。いや、現実に生きる女には死活問題だが」 

 一応、西洋魔術師が掲げる立派な魔法使いは別にしても一般人への手出しはご法度。
 普通ならば、観音がこうして外を出て歩いているのも不思議なぐらいんなのだが。

「もちろん、即座にばれました。西へ呼び返され、審問沙汰になったのですが。そこへ現れたお爺様が、弁護をしてくれまして。お一人だけでした、私の味方になってくれた方は」
「大事な孫息子の仇敵を呪った友人をどうして見捨てられよう。どうじゃ、良い男じゃろ?」
「ああ、お前は自分でそう言って駄目にするタイプなのは分かった」

 顎鬚を撫でながら自画自賛した爺さんは、こう言う奴だとエヴァは早くも学習した。
 したのは良いが、当たり前の疑問が残った。
 どう見ても目の前の小さなファンキーハッスル爺さんが、裏の世界に一石を投じられるとは思わない。
 魔力や気の欠片も感じないし、言ってしまえばむつきと同じ一般人だ。
 一体どんな裏技を使った事か、俄然興味が湧いてくる。

「それで、一体どうやって?」
「掟が、掟がと煩いからな。言ってやったわ。そんなに嫌ならわしの土地から出てけとな」
「は?」

 なにその正攻法と、意味が分からなかった。

「日本の霊場の五分の一ずつ関西呪術協会と関東魔法協会が手中にしています。また残り五分の一をその他大勢の勢力が抑えています」
「まさか、残りの五分の二をこんな爺がと言わんだろうな」
「ええ、まさか。残りの五分の一ずつを、お爺様と浦島のひなたお婆様が所有してらっしゃいます」
「似たような者じゃないか!」

 ここにちゃぶ台があればと、せめてエヴァはお尻の下の座布団を叩きつけた。
 資本主義に押されすぎじゃないかと。
 本当に魔法は時代じゃないなと心から、座布団を叩きつけていた。

「ほれ五十年前に戦争あったじゃろ。あの頃から、ひなたの婆はムカつく事に何かと張り合ってきてな」
「その実、張り合っていたのはお爺様です」
「ええい、通訳などいらん。だいたい分かる」
「戦時中に資料が色々と燃えたのを幸いにちょろまかしてやったんじゃ。誰でもやっとる、やっとる。時効じゃ、時効」

 はっはっはと笑う爺さんを前に、エヴァは頭を抑えていた。

「開き直った老害ほど、手のつけられんものはない良い証拠だ。ああ、認めてやる。お前は爺の近右衛門の正しく友人だ」
「あんな、茄子妖怪と比べられてもなあ」
「本当にイラッとする爺だ。むつきは大丈夫だろうな、こんな爺になられたら私は泣くぞ」
「乙姫は、家系の中でも少々変わり種ですので。つくも君を見ていれば分かります。あれが、本来の乙姫家の男児です」

 むつきがあんな野獣になれば、A組の生徒全員が妊娠するのに一ヶ月はいらない。
 今のむつきで良かったと心底ほっとしつつ、ハッと我に返っては顔を振った。
 なんだ今の惚れた相手が正常でよかったような反応はという意味で。
 もはや手遅れなのに、未だアタナシアの姿でなければ認められない恥ずかしがりやである。

「ち、違う。あいつが私の魅力にめろめろで。惚れているからであって」
「そっくりですね、お爺様と」
「な、なにを言うか。わしは違うぞ。ひなたの婆がわしの邪魔ばっかり、鬱陶しいことにその辺をちょろちょろするから仕方なく」
「この爺と同族」

 観音の一言に反応した爺さんを見て、エヴァがそれはもう落ち込んだ。
 私ももう少し素直になろうかなっと思う程に。
 同族嫌悪を思う前に、人の振りを見て我が振りを直そうと思った次第である。

「さて、エヴァ殿が我を省みて乙姫に股を開く覚悟を決めたところで」
「妙な解釈をするな禿げ頭!」
「これは剃ってるだけですが?」
「揶揄に生真面目に返すなぼけ!」

 ぶんっと殴りかかれば割とあっさり避けられ、どうにも古い友人を思い出した。

「いえ、至って真面目な。乙姫の状況についてです。正直に言いますと、かなりまずい状況です。エヴァ殿は、既にご承知でしょうが」
「ん? 近右衛門の孫にはまだ手を出して無さそうだったが?」
「まだ、確かにまだですが。恐らくは時間の問題かと」

 ひかげ荘の秘密を知っているかのような言葉に、エヴァが方眉をあげた。

「と言うか、さらっとお前ひかげ荘の全てを知ってそうだな。お前、本当に奴の親友か?」
「ええ、神に誓って」
「坊主が神に誓うな、仏はどうした。お前のそういうところが、本当に信用ならん。むつきを裏切ってみろ、私が即座に八つ裂きにしてやるからな」
「と、このように伝説の魔法使いはそのへんの石ころのような乙姫にそれはもうベタ惚れで」

 どうしてもそっちへ持って行きたいかと、髪を掻き毟りながらエヴァも覚悟を決めた。

「ああ、そうだ。好きなんだよ。小石を投げれば当たるような何処にでもいるような無力なくせに頑張りやなアレが。好きだ愛してると甘く囁かれながら貫かれたいんだよ。奴の子供を生みたい。どうだ、これで満足か!」
「なんか、孫は可愛いが持て過ぎてもアレだな。男として腹立つのう」
「お前らは本当、私をどうしたい!」

 爺さんの言い草に、姉妹には百五十フィート圏内を絶対零度にしてやろうかと思った。
 思ったが、そんな事をすれば愛しい、今しがたそう認めてしまったむつきも氷の中だ。
 本当ちょっと魔法で小突けば死んでしまうか弱すぎる男である。
 なんであんなのにと、そう思ってしまうのは二度目であった。
 以前もなんであんな馬鹿にと思ったが、今回はなんであんな弱いと思い方が変わっただけ。
 ぜえぜえと肩で息をするエヴァへと、ぬけぬけと観音は言ってのけた。

「安心しました、貴方が心底乙姫を想っている事が分かり」
「次、私に疑念を抱けば殺っ。氷柱でその尻を貫いて痔にしてやるからな」
「乙姫の嫁に疑念など、愚問です」

 本当にぬけぬけと、面の皮の厚い坊主もいたものだ。

「話を戻そうかの。それで、何がまずいんじゃ?」
「お爺様もご承知のとおり、近衛近右衛門の孫娘である木乃香嬢はやんごとなきお方。その方がいるクラスがまともであるはずがありません」
「私がいるぐらいだしな」
「さらに、タレ込みが。来年の二月頃に、西洋魔法使いのさるお方のご子息が麻帆良学園にやって来るとも。それも二年A組の教育実習生として」

 この時、さも重大そうに観音が口にした割には爺さんもエヴァもきょとんとしていた。
 察しが悪いとかではなく、それの何処が重要情報か情報そのものが不足している。
 さるお方のご子息と言っても、さるお方など五万といる。
 どこぞの国の皇太子から、大臣はたまた貴族級なのか。
 ただ、箸にも棒にも掛からないさるお方のご子息を孫娘のクラスに放り込むだろうか。
 あの近右衛門が、爺さん曰く茄子妖怪が。

「うわっ、凄く嫌な想像が頭を駆け巡ったぞ。もしかして、赤毛?」
「仏教徒ですが、イエスと答えさせていただきます」
「どこぞの世界を救っちゃったり、大群相手に千の雷を放っちゃったり」
「このままイエスと言い続ければ、改宗したと認めさせられそうな程にイエスです」

 うわちゃあっとエヴァが小さな手のひらで顔を覆っていた。
 ただ、一般人の爺さんは今一掴み損ねていたが、そこはやはり年の功である。

「赤毛に救世主、千の雷。アレか。魔法世界を救った坊主の話か?」
「と言うか、貴様本当に一般人か? 色々と、知り過ぎだろう」
「ひなたの糞婆のせいじゃ。奴が世界全土、あちらこちら哀れに流され捲くるから。助けるこちらの身にもなってみろ。世界中探しても見当たらないと思ったら火星にいるとは」
「火星?」

 何故魔法世界の話から火星が出てくるのか、ついにボケたかとエヴァはスルーした。

「兎に角、その赤毛馬鹿の大事に大事にされたひよこが預けられるクラス。良く良く考えれば色々と集めたものだ。仮に従者にするにしても……」
「既に乙姫に半数近く、喰い散らかされています」
「いやらしい言い方をするな。アレはアレで精一杯愛そうとしているのだ。口を開くな、禿げ。ううむ、未来の英雄候補が従者を取られたとか汚点以外の何モノでもないな」
「…………」

 つまりそういう事かと、エヴァが視線を向けたが観音は無言のままだ。

「…………」

 考え事かと待ってはみても、無言のまま。
 もうちょっと、あと少しだけ、そう我慢してみようと思ったが無理だった。

「喋らんか!」
「いえ、私のような若輩がぺらぺらと。口を出すなと仰られましたし」
「ええい、本当に面倒くさい性格だな貴様。拗ねても可愛くないわ」
「そうでした、失礼を。エヴァ殿の好みは……」

 チラッとむつきが向かった自室方面へと観音が視線を向けたが、エヴァは我慢した。
 過去どれだけ思い起こしてもこれだけ我慢した事は始めてだと思う程に。

「ふぅ……落ち着け、私。つまりは、汚点の原因であるむつきが無かった事にされる可能性もあると?」
「幸い乙姫はお爺様の孫ですから、そこまでは。ただ裏のひかげ荘を知らずとも、関東魔法協会の理事長が想定した以上に乙姫は生徒と絆を深め過ぎました」

 穿った見方をすれば、女子中学という極度に男性の少ない環境で純粋培養されてきた女子生徒達。
 唯一の男性である担任の高畑も出張三昧で接触は極度に低い。
 そこへ男性と呼ぶには早くとも、男の子と呼べる異物を放り込めば化学反応は必須。

「くだくだと面倒臭いのう」

 もはや近右衛門を悪に例えるように顔を突き合わせていた観音とエヴァを切って捨てたのは爺さんであった。
 右手の小指で鼻をほじり、鼻くそをこねこねした後でピンと指で弾きながら。
 大事な孫のピンチであるのにくだらんとでも言いそうな態度である。

「お爺様、これは本当に乙姫の」
「裏を知りはしても踏み込んだ事のない貴様にはわからんかもしれんが。近右衛門は本当に侮れん老害だぞ。貴様とは違った意味で」
「んな事言っても、わしはわしの知る近右衛門君しか知らんし。待っとれ」

 二人に説得されても聞く耳を持たない爺さんは、着物の袖口から携帯電話を取り出した。
 本当に爺かと思うような指捌きでコールをかける。
 エヴァや観音にも聞こえる大きさで、着信前のトゥルルと言う音が何度も鳴った。
 四回、いや五回目の途中でその音は途切れ、特にエヴァが良く知る声が聞こえてきた。

「おおう、珍しい事もあるもんじゃ。なんか用かのう、乙ちゃん」
「懐かしいのう、あんまり連絡せんですまんの近ちゃん」

 真面目な雰囲気の話し合いの直後に、老人同士の軽い挨拶にずっこけた。
 いや、幼馴染とはいくつになってもそんなものなのかもしれないが。
 特に幼馴染など当に墓の下で微生物に喰らい尽くされたエヴァには共感など無理だ。

「電話という事は、わしの可愛い孫達は無事に着いたようじゃのう」
「着いとる、着いとる。ほんに可愛い孫達よ、千鶴ちゃんなど特におっぱいでかくてわし好みじゃわい。近ちゃんも、悪い男よのう。未だに生徒の尻を撫で回しとるのか?」
「それがのう、ついに女子中を追い出されて。いやいや、乙ちゃんには負けるわい。まだひなたちゃんを追いかけ回しとると聞くが?」
「はっ、あの糞婆がぽっくり行っとらんかこのわしがわざわざ出向いて確かめてやっておるんじゃ。なのにあの婆、笑いもせず一言目には帰れじゃて」

 なんだか老人同士の長話が始まりそうで、エヴァと観音は必死にさっさと切ってのブロックサイン中だ。
 当然、分かっとるとばかりに、爺さんは握りこぶしに親指を立てて返していた。

「ところで、近ちゃん。わしの孫が、随分と近ちゃんにとって邪魔者らしいと風の噂で聞いたんじゃが?」

 全然分かってねえっと、もはやエヴァも観音も慌てるばかりだ。

「…………はぁ?」

 もうこいつら、馬鹿なんじゃないんだろうかと言うような近右衛門の聞こえないふりだ。
 必死こいて近右衛門の悪巧みを暴こうとしていた自分達の方が馬鹿なんじゃないかと思うぐらいに。
 それとも、爺さんのペースに巻き込まれたか、単に幼馴染に弱いだけか。
 誰しも、他人が想像もしないような部分に弱点があるのかもしれない。

「ついに耄碌したか。まあ、ええわい。近右衛門君、わしは君を信頼して孫を頼んだ」
「う、うむ……彼は良くやって」
「その孫に手を出してみろ。わしは、全てを賭して近右衛門と争うぞ」

 あれ、このお爺さんはもしや、やる時はやる爺なのか。
 出来れば若い時代に会ってみたかったと、エヴァが思ったのも刹那の間であった。

「孫に手を出せば、わしが昔代筆したさよちゃんへのラブレターを全国生中継で朗読してやるからな!」

 次に受話器へと向けて叫んだ爺さんの台詞にやっぱりかと肩を落とした。

「ちょっ、なんでアレを。アレは結局初心なわしには手渡せんで。焼いて捨ててくれと」
「がっはっは、こんな事もあろうかとな。表面上とは違い、近ちゃんは初心じゃからな。スカート捲って嫌われるのが関の山なのが哀れでな。その純な気持ちを大事に……」

 はて、調子良く喋っていた爺さんが何かを思い出したように言葉を止めた。
 その間、携帯電話の向こうで喋っている近右衛門は放置である。

「エヴァ、確かむつきの生徒に相坂さよという御椀型おっぱいの子がおらんかったか?」
「その形容はいるのか。確かにいるが、それがどうかし……ん、さよ?」

 今しがた、爺さんは携帯電話の向こう側の近右衛門にさよちゃんに宛てたと言わなかっただろうか。
 さよ本人の生前の記憶が曖昧で、分かっているのは五十年以上前に死んだ事だが。
 爺さんの確認や表情のにやつきから、エヴァの想像はそれ程間違ってはいまい。

「ちょっと貸せ」

 そう言うや否や、エヴァは爺さんの手から携帯電話を奪っていた。

「おい爺」
「ひょっ、エヴァ何故乙ちゃんの携帯に?!」
「面白い話を聞かせて貰ったぞ。そうか、さよは貴様の初恋の相手か」
「いやあぁ、一番知られたくない相手に。わしの初心で青臭い青春時代の思い出がぁ!」

 イカ臭いの間違いだろうと突っ込みたいが、おちょくるのはまた今度だ。

「知ってると思うがな、近右衛門」
「これ以上いたいけな爺を」
「私と乙姫は付き合っていてな。もちろん、幻術で姿を変えた方で」
「マジで。あのおっぱいと尻と太股を好き勝手に?」

 どうして男はこうなんだとも思ったが、そういうものなのだろう。
 さっさとしなびた爺は枯れろよとも思ったのだが。
 目の前でこんなのにとエヴァを品定めしている爺や、電話の向こうで生唾飲み込んだ近右衛門と言い。
 戦前から生きる爺はどうしてこう、肉食系を通り越して性欲魔なのか。
 むつきにこの十分の一でも、

「性欲魔人と化して押し倒し、ちょめちょめしてくれたらなぁ」
「私の心中を代弁するな、というか。ちょめちょめって、古いな貴様!」

 邪魔するなと、観音を振り払うように裏拳を放ったが見事にかわされつつ。

「兎に角、二度目はない。以前もむついは、魔法使いに殺されかけているんだ。知らんとは言わせんぞ。わ、私の。その、なんだ。か、彼氏に手を出してみろ。麻帆良は即日、コキュートスと化すぞ!」

 最後の方はテンパって良く意味の分からない事を叫んでしまったが。
 と言うか、にやにやとこそこそ耳打ちする爺さんと観音を腕をぶんぶん振って追い払う。
 言ってしまった、彼って言ってしまったと赤面しながら。
 ムキーっと何に対してかムキになるエヴァの手から、するっと爺さんが携帯を取り返す。
 しかも手際よく、エヴァのぐるぐるパンチの処理を観音に任せつつ。

「そういうわけじゃ、近ちゃん。この件は、ひなたの婆にも伝えとくからな。妙な事をすれば、現在近ちゃんに貸してる土地は全部引き払うつもりで。それで関西の方に渡すから」
「そんな事をすれば、東西のバランスが。裏の世界で戦争が」
「わし、表の住人じゃしぃ? 孫の方が大事じゃしぃ? なあ、近ちゃん。最近思っとったんじゃが、近ちゃん変わったのう」

 今までのようなからかいとは違い、少々寂しげな呟きに携帯電話の向こう側の近右衛門は無言であった。

「わしも、先達がぽろぽろ死んでしまう昨今。大人と呼んで差し支えない歳じゃ。わしの知らん苦労を一杯近ちゃんが抱えとる事は想像つく。けどな、変わらないものはあってしかるべきだとも思う」
「乙ちゃんは、昔から変わらずおっぱい大好きで。ひなたちゃんを追いかけ回しておるのう」

 いやそこは変われよとは、突っ込んではいけない時なのだろう。

「ひなたの糞婆は、すぐ傍に良い男がいるにも関わらず何処じゃ何処じゃと世界中を探しまわっておる。なれど、近ちゃん。近ちゃんはどうじゃ? 今の近ちゃんは、あの頃と同じ気持ちでさよちゃんへのラブレターの文面を思いつくかのう?」
「つかん、のじゃろうな。純粋に相手を思う前に、それが東の魔法使いの為にどう役立つか、為になるか。さよちゃんの事など、これっぽっちも考えとらん」
「なら、考えるべきじゃろうて。何時までも純でないなら、ちゃんと前に立ってラブレターを渡せ。新たに書き直して、当時の文面のまま近ちゃんに送る」
「ちゃんと前に立って。そうか、気付いてしもうたか。さすが、服の上からとは言え一度みたおっぱいは忘れんのう、乙ちゃんは」

 何故こいつらは、良い話の途中で落とさなきゃ気がすまないのか。

「おっぱいこそ女体の至高の神秘。あのふくらみ柔らかさ、ちょっとのアクセントの乳首。全てにおいて完璧、もはや他になにもいらない!」
「なにおう、女体の究極の神秘は尻じゃ。何故男と女であそこまで違う。そこに意味が、無限の宇宙があるんじゃ。良い女は尻がでかい。まずはそこからじゃ!」
「うん、云十年前と変わらぬやり取り。またな、近ちゃん」
「お互い、論破し合える時まで。まだまだ死ねんわい」

 ピッとろくでもない別れの挨拶の後に、爺さんの手により携帯電話は切られた。
 切られたのは良いのだが、なんであろうか。
 一仕事やり終えた顔の爺さんは良いとして、エヴァと観音のこの脱力感は。
 爺さんの影響なのか、おふざけ大好きな観音はまだしも特にエヴァの脱力感が凄い。
 麻帆良の爺一人でも面倒なのに、もう一人追加されただけでここまで疲れるとは。
 男はやはり若いのに限ると、当然のように思い出したのはむつきだった。
 肌の上に浮かんだ汗さえ一瞬にして気化するように、ぼふりと赤面により湯気が舞う。

「い、言っちゃった。彼って、私の彼氏。恥ずか死、産まれて初めて。死ぬぅ!」

 赤面する顔を両手で抑えながら、ごろごろと畳みの上を転がる幼女。
 爺さんを相手取った脱力感より、羞恥心の方が上回ったらしい。

「これでも、この方。六百歳を超える大魔法使いにして不死の吸血鬼でして」
「まともに恋愛もした事の無いおぼこなど、子供じゃ子供」
「そう言えるのは、お爺様だからですが」

 偉大な方だと爺さんを横目でみつつ、転がるエヴァに視線を落とした。

「恥ずかしいけど、気持ち良い。キュン死もするかも。むつきにギュってされないと死ぬ! でも余計にキュンキュンしてまた死んじゃう。不死で良かった。何回でもキュン死できるよ!」
「たった今、私もそう思った次第です」

 相変わらずごろごろ転がるエヴァを前に、観音も考えを改めるのに時間はかからなかった。









-後書き-
ども、えなりんです。

このお話の一番のチートは爺さんとひなた婆さんに違いない。
あとその二人に敵対されたら、近右衛門が詰む。
今回はそんなお話でした。
あとアルなみに厄介な観音と、キュン死したいエヴァでした。

それでは次回は土曜日です。
もう少しだけ沖縄のお話なんです。



[36639] 第八十四話 好きなだけ、私を犯せ
Name: えなりん◆e5937168 ID:198d9d4c
Date: 2013/11/09 20:53

第八十四話 好きなだけ、私を犯せ

 ひかげ荘の相続を確かなものにしたむつきは、昔懐かしい自室へと戻っていた。
 部屋を使わなくなって久しいが、まだ沖縄を出て行く当時のままだ。
 記憶と異なるのは、本棚からは抜けとなった漫画本ぐらいだろうか。
 現在はぽかりやあかり、かがりの遊び部屋と化しているらしいから当然か。
 勉強もしろよと、今は眠っているであろう可愛い従妹達へと歯抜けの漫画を指先で叩きつつ苦笑する。
 現在時刻は夜の十時半、消灯時間はまだ遠いが、大半の者は疲れもあって眠っている事だろう。
 むつきも病み上がりの為、欠伸をかみ殺しながらベッドの上に背中から落ちるように身を預けた。

「俺がぶっ倒れちまったせいで、あやかとの約束伸びちまったな」

 お話したいが、生徒は全員襖を取っ払った大部屋にいるので難しい。
 せめてメールでと文面を考えているところへ、逆にメールが入ってきた。
 即座に確認した差出人は美砂であり、文面は嬉しすぎて眠れないと。
 むつきの母親との挨拶が凄く上手くいったのか、単に認めて貰えて嬉しかったのか。
 明日には麻帆良に帰るわけだが、その日一日は旅行疲れを取る為に休みを貰っている。
 短い時間かもしれないが、話せる事があれば話してくれと一言メールで打って返した。
 即座にメールは返り、一杯話したいことがあると。
 文末におやすみという一言で締められていた為、こちらも短くお休みと打った。
 あやかへもぐだぐだすると急かしているみたいなので、簡潔にメールを送っておいた。
 もう一度チャンスをくれと、謝罪とお願いがごっちゃになる格好で。

「さて、返ってくれば起きてる。返らなきゃ、寝てるわけだが。俺はどう時間を潰すか」

 過去、自分が使っていた懐かしい自室にて、開ききった眼で周囲を見渡した。
 漫画本が歯抜けの本棚は先程見たが、他に殆ど使われる事はなかった勉強机。
 他にハンガーのみとなった衣装棚、薄汚れ表面がつるつるになったバスケットボール。
 子供の部屋かと自分でも思ったが、男はそんなものだろう。
 何気なくバスケットボールに眼を引かれ、弄ぼうとまずベッドを立ち上がった。
 その時だ、ふっとブレーカーでも落ちるように前ぶれなく室内の電気が消えたのは。

「あいつら、超か葉加瀬か。絡繰の充電でも」
「む、つきぃ!」
「どわっ!」

 何者かが突然、音も立てずにしかも真正面からぶつかってくれば悲鳴も当然あがる。
 そのままベッドの上に押し倒されたのだが、その相手は直ぐに分かった。
 美砂達にはまだ足りない、大人の豊満な肉付、というか下着のみの半裸だ。
 なのにその肉付きに反して、冷え性の様に低めの体温。
 触れたそのどれもは記憶の中と一致する人物なのだが、何故だろう。
 暗闇から聞こえる声や雰囲気が決定的に違っていた。

「多分、アタナシア?」
「なんだその自信なさげな、声は。この私が会いに来てやったんだぞ。もっと喜び勇んで平伏、はしなくていいから。ギュってしろ」
「微妙に何時ものアタナシアだけど、やっぱちがう」

 そう、決定的に違うのは、その恋人との甘さを求めるような猫撫で声だ。
 上から目線のちょっと高飛車で、照れやなアタナシアらしくない。
 言われるままに、ギュッとはしたが。

「アタナシア、大丈夫。変なもんでも食べた? それとも、冷え性だから沖縄の日差しにやられた? ていうか、毎度唐突過ぎる。せめてメールぐらいして」
「それぐらい、あ……愛で察しろ」
「そんな無茶な、けど。丁度良かったかな」

 改めで腕の中でゴロゴロ猫のようになっているアタナシアを抱き締めた。
 言葉無く、足りなかった愛を補填するように。
 ぎゅっぎゅとおにぎりでも握るかのように、何度か抱き締め、ちょっと離す。
 体を起こして、一緒にアタナシアも起こして目の前に座らせた。
 ようやく暗闇に瞳が慣れ始め、わずかな星明りでさえも反射するアタナシアの髪が見える。
 むつきはベッドの上で正座になると、そんなアタナシアの両肩を掴んだ。

「大事な話がある。ひかげ荘、正式に爺さんから相続することになった」
「お前こそ唐突だな、私は別に財産な」
「だから一緒に暮らそう、アタナシア」
「どッ!」

 初心な少女のように、告げられた途端アタナシアの両手が頬に行くのが見えた。
 暗闇の中でもはっきりと赤く火照る顔を必死に抑えるかのように。
 その両手は震えている、両手のみならず唇も、瞼の奥の瞳も振るえ涙が滲む。

「い、いいのか。私はまだ、むつきに秘密が一杯で。多分、一生打ち明けられないかもしれない。いや、するつもりはない」
「女の過去は、言わなきゃないも同然。どっかの誰かが言ってた。それに、良いのかって聞くのはこっち。俺浮気性らしく、他にも嫁さん一杯で。アタナシアの為だけには生きられない」
「凡夫の癖に、馬鹿な夢をみるものだ。が、そういう馬鹿に私は弱い。途中で諦めようものなら、その尻月にまで蹴り上げるぞ」
「望むところだ。アタナシアみたいな、勝気な姐さん女房は大歓迎。尻引っ叩いてくれ」

 そうむつきが笑ったのを期に、アタナシアの瞳から大粒の涙が確かに零れ落ちた。
 何もかも秘密で、むつきはアタナシアの事を何も知らない。
 だからこそここまで真剣に求めてくれるのかもしれないが。
 仮に真実を打ち明けても、この男なら受け入れてくれると確かに思えた。
 幻想、夢想、アタナシアの思い込みかもしれない。
 実際の所は分からないが、大丈夫だと思えた男は恐らくは初めてだ。

「むつ」
「アタナシア、もう我慢できん!」

 感激に任せ抱きつこうとしたら、逆に押し倒された。
 あれっと眼を白黒させるアタナシアの前で、むつきが震える手で浴衣の帯を解いている。 一緒に暮らそうと決心した相手、それも年上の爆乳さんが半裸でいるのだ。
 むしろここまで真面目に自制した事を褒めて欲しいとさえむつき当人は思っている。
 少々乱暴に押し倒した事は悪いと思いつつ、それでも思いの丈を吐き出した。

「子供、作ろう。今直ぐ、三人ぐらい!」
「三、馬鹿そんな直ぐに。それに私は」
「言ったよ、我慢できないて」

 タンマと言ったアタナシアの唇を自分の唇で塞ぎ、浴衣の次に邪魔なトランクスをズリ下げた。
 折角、ローレグのセクシーな下着で決めてくれたアタナシアには悪いが。
 先っぽでソレをずらし、ラビアがちょっと顔を出す割れ目に照準を合わせる。
 正直な所、さすがに前戯なしは無理だと思っていたが感じたのはぬめりだった。
 くちゅりと、抵抗無く先っぽが五ミリ程埋まっていた。

「アタナシア?」
「うぅ、仕方ないだろ。私の後見人みたいな爺に、迂闊にもお前を私の彼って言ってしまったから。恥ずかしいけど、凄く会いたくなって。我慢できなかったのだ」

 恥ずかしそうに顔を隠しながら、アタナシアはむつきをチラチラ見ながらの弁護だ。
 これでいきり立つなと言う方が、無理である。
 訪問もそうだが、アタナシアの方がセックスしてと濡らしているこの事実。

「アタナシア!」

 誰か騒ぎに気付いてきたらどうするという気遣いも彼方に、むつきは一気に腰を押し進めた。
 ベッドの下に組み敷いたアタナシアが、上にガツンとぶれる。
 感激から瞳に溜めた涙が、全く別種の感情からぽろぽろと零れ始めてもいた。
 愛する男に名を呼ばれながら貫かれる悦び。
 足りないモノを埋めあう人のように互いを埋めあい、あと少しの快楽。
 特殊な生態故に低めの体温を内側から暖めてくれる熱い肉の迸り。

「むつき、大好き」

 未だかつてこれ程までに素直に、己の感情を言葉にした事があっただろうか。
 言葉だけでなく、体の方ももっとと両足がむつきの腰を抱き締めていた。

「俺もだ、愛してるよ。今日は何度でも朝まで。アタナシアが孕むまで」
「うん……あっ、でもあまり無理は。倒れただろ」
「心配かけて、ごめん。けど、大丈」

 腰を引き、アタナシアの膣をカリで擦りあげつつ。

「夫!」

 再度、抉るように膣内を進軍して蹂躙していった。

「あぁっ!」

 こんなにも硬く熱いのなら、喘がせられるのなら大丈夫と信じさせるように。
 迂闊にも、アタナシアはそんなむつきの行為に疑問を挟む事なく快楽の声を上げてしまっていた。
 のみならず、もっともっとその肉を食いたいと涎と同じ愛液が止まらない。
 男に制服される喜び、けれどやはりアナタシアはアタナシアであった。
 如何に感情のブレから、可愛く恥じらいを持つことはあっても。

「アタナシア、今日はずっとおっ?」

 鳴かせ続けてやると、言いきる前にむつきの視界が暗闇の中で回転した。
 僅かな星明りが、ギュンっと円形に伸びて夜空の写真のように見えるぐらいに。
 次の瞬間、むついとアタナシアの上下関係が逆転してしまった。
 もしくは、最初からむつきの反逆などなかったのかもしれない。
 金糸の髪を開けっ放しの窓からそよぐ潮風に揺らがせながら、アタナシアがむつきを見下ろす。

「一方的に鳴かされるのは、性に合わん。今から、むつき。貴様が喘ぎ続けろ」
「アタナシア、腰ぷるぷるしてるぞ」

 普段通りの勝気な台詞も、砕けそうに震える腰を見ればやせ我慢は一目瞭然。
 両手もむつきの胸の上に置かれ、必死に支えているのがまるわかりだ。
 試しにわずかにでも腰を突き上げれば、アタナシアが必死に喘ぎを我慢するのが分かる。
 一突きするたびに、頬がぷく、ぷくっと膨れ喘ぎを飲み込んでいるのが分かった。

「ほら、しっかり立ってないと俺を喘がせなんてできないぞ」

 嘘つきさんは罰ゲームとばかりに、むつきが激しくアタナシアを突き上げた。

「待っ、んぁっ。深い、熱いのが奥でチュッチュ。待って、むつき」

 もちろん、待たないとばかりにむつきはしっかりアタナシアの腰を掴んでいた。
 突き上げに合わせ腰を引かせ、密着時には腰を回し、竿を抜く段階で腰を浮かさせる。
 アタナシアが今再び、素直になれるように全力で。

「ふん、このぁ……程度で私が。ほらんっ、もっと暴れろロデオだ」

 もちろん、むつきの意図などアタナシアはお見通しなのだが。

「アタナシア、肘折れてきてる。前屈みにもなって。そんなに俺とキスしたかった?」
「ぐぅ、そうだ。キスしたかったから、仕方なく。勘違いするなよ」

 蕩け今にも上の口からも涎を垂らしそうになりながら、それでも強がりは収まらない。
 ああ、この二人は姉妹だなっと時々そっけない子猫を思い出す。
 それにしても、ちょっとこのツンケンしたセックスに嵌りそうだ。
 明らかにセックスの虜なのに、理性ではこの私がと。
 気の強い女性を屈服させたような征服感はなんとも言いがたく、今までになかった。
 基本、むつきの周りのお嫁さんは大好き大好きの連呼だからだろうか。
 そう言う意味でも、アタナシアが嫁になってくれる意義は倦怠期回避の意味でもありがたい。
 アタナシアからの熱烈なキスを受けながら、そう思った。

「むつき、んぅぁ。私の唾液はどうだ、美味いか?」
「アタナシアの味しかしない。俺の中にアタナシアが満ちてくる」
「可愛いやっ、え?」

 だからこそ、勝ち誇った笑みを少しでも見せた途端、手が勝手に動いていた。
 勝気な台詞は構わないが、あくまで蕩けてほしいと、主導権を握っていたかった。

「ぁっ、お尻。むつき、指がそこ違う。お尻」
「違わないよ。フェラはしてもらった事あるしセックスも。でもお尻はまだだったから」
「やめ、違う。この程度、お尻ぐらいでこの私がぁん」

 あくまで負けを認めない、それが良いとむつきはアタナシアの下から動き始めた。
 挿入はそのままに、ベッドの上でアタナシアを仰向けに。
 自然とむくきは正常位で挿入する事になるが、もちろんそれで終わるはずが無い。
 右手の指がアタナシアのお尻の中なので、左手だけで順次足首を持って回す。

「馬鹿、よじれる。私の中が!」

 ついに勝気な言葉も尻すぼみで、アタナシアを後ろから組み伏せる形となった。
 挿入の尺度は甘くなったが、その分だけお尻が弄り易くもなる。
 今アタナシアがどんな顔をしているのかが見えないのは残念だが。
 真っ白で重量感たっぷりのお尻を左手で撫で上げ、飽きる間もなく谷間へと。
 今右手がどうなっているのか、暗がりでもはっきりと分かるように谷間を割っていく。

「止めろ、見るな。見るなぁ」

 暗闇の中でもはっきりと見えるのは、アタナシアの肌がそれだけ白いからか。
 むつきの右手の中指をくわえ込んでいる皺のある窄まり。
 アタナシアが見るなと言う度に、呼吸をするように喘いでいる。
 中指は第二関節まで埋もれているが、第一関節部分をくいっと曲げてみた。

「あぅ、ん」

 僅かな動きを敏感に察したアタナシアのお尻が浮き上がる。
 辛うじて挿入はそのままだが、ベッドから浮いた分、愛液が肌とベッドで橋を作るのが見えた。
 入れたい、これだけ敏感なお尻に入れたらアタナシアはどうなるのか。
 勝気なまま、それとも屈服してしまうのか。
 ずるりとアタナシアの膣から竿を抜き、むつきはアタナシアに背中から覆いかぶさった。
 まだ入れない、お尻の割れ目に竿をぐいぐい押し付けつつ耳元に囁いた。

「アタナシア、良い?」
「駄目、子供作るんだろう。後ろじゃ、できん」

 聞く耳持たないとばかりに、そっぽを向かれてしまう。

「子供も作る。後ろにも入れたい。アタナシアの全部が欲しい。本当に、駄目?」
「ちゃんと、作る分も残せよ。絶対だぞ」

 なんて我が侭なと眉根こそひそめられたが、アタナシアも観念したようだ。
 ちょっと睨むようにそこだけは譲れんと、約束を求めてきた。
 当然、むつきはそれに対して頷いて返す。
 すると何かごにょごにょ、口の中で言葉を繰り返したアタナシアがベッドのシーツをつかんでいた手を動かし始める。
 後ろ手に自分のお尻をそれぞれ掴み、見え易いように割って見せてくれた。

「は、初めてだから。勝手が。どんな顔するか分からんから、見るなよ」
「うん、約束する。行くよ、アタナシア」
「ぁっ、んぐぅ」

 本人はその気になっても、返って力が入ってしまったのだろうか。
 窄まりがキュッと縮まり、添えた亀頭を埋めても入ってくるなとばかりに押し返される。
 竿は十分に濡れているし、今の状態では愛液を窄まりに塗りたくっても同じだろう。
 だから、少し遠回り。
 むつきは緊張に体を強張らせるアタナシアを、背中からそっと抱き締めた。
 うつ伏せになり圧迫される胸へと手をのばし、揉みしだき乳首を転がしながら囁いた。

「普段と同じだから。普段通り、受け入れてくれれば」
「べ、別に緊張など」
「アタナシア」

 振り返ったアタナシアのその震える唇へと、普段通りむつきは口付けた。
 普段通り、場所は違うが受け入れて欲しい。
 胸への愛撫も普段のまま、乳首をキュッキュと摘むと下半身が弛緩していく。
 キスをしながらそれを続け、やがて頃合かと股座の愛液を指で救い上げお尻へと。
 最初の頃よりも抵抗は随分と減っており、愛液のお陰でスムーズに挿入できた。
 後はすべりを良くする為に、何度も割れ目と割れ目を手に往復させる。

「良い?」
「うん」

 最終確認の後、もう一度だけキスをして再チャレンジである。
 再びアタナシアの手はギュッとシーツを掴もうとしていたが、その力は弱い。
 お尻への恐怖もキスと愛撫でやわらいだのか、単に弛緩し始めているだけか。
 むつきはアタナシアを抱き締めたまま、腰だけを使って狙いを定めた。
 アタナシアのお尻の谷間を竿で割り、その奥にある窄まりへとそっと近付ける。
 ピッタリと窄まりと亀頭が触れ合った時、アタナシアの体がピクリと震えた。
 だが、むつきはそれ以上何も言わなかった。
 確認は取った、愛撫もした、後はアタナシアが受け入れてくれるかどうかだけ。
 ぐっと腰に力を入れてすぼまりに対し、垂直になるよう進めた。
 同時にぐっとすぼまりに力が加わるのが分かったが、最初ほどではなかった。
 押し進めるたびに、僅かながらに受け入れられていく。

「んぅ、ぁぁっ」

 普段とは異なる大人しい、けれど深みのある喘ぎであった。
 そんなアタナシアの声に耳を澄ませたいが、むつきも余裕があるわけではない。
 思った以上に狭く、今でもむつきの竿を僅かでもひり出そうという抵抗があるのだ。
 食い千切られるのが先か、ひり出されるのが先か。
 どっちも嫌だねと、むつきはぐいっと力をこめてよりアタナシアの尻穴を攻め込んだ。

「ひぐぅ」
「アタナシア、ごめん。もう、少し!」

 喘ぎが瞬く間に苦しみの声になった事に謝罪しつつ、最後の数センチを一気に攻め上げた。
 途端に、むつきは力尽きたようにアタナシアの背中に倒れこんだ。
 白いすべやかなアタナシアの背中に僅かな湿り気、汗とその匂いが感じられる。
 相当に必死だったのだろう、トクトクと心臓の音色と今も小さいながら続く喘ぎが直接感じられた。
 このまま朝までとまどろみたくなるむつきへと、アタナシアが苦しげに振り返った。

「ど、どうしよう、むつき」
「アタナシア?」

 カァと顔を赤くしながら、困り果てたようにアタナシアが呟いた。

「苦しかったんだ、本当に苦しかったのに。どうしよう、ある一線を越えたら……気持ち良くなった。むつきの鼓動でさえ、手にとるように。セックス、してくれないか?」

 苦しんでいると思った、なのに当人はなんと言ったか。
 そのままセックスして欲しいと、お尻が気持ち良いとまで。
 まどろんでいる場合ではない、まるで叱咤されたかのようにむつきは腕を使って体を起こした。
 本当にまどろんでいる場合では、この次には大事な子作りもあるのだ。
 朝まで何度でも、アタナシアが孕むまで。

「行くよ、アタナシア」
「お尻、お尻が熱いんだ。鎮めてくれ、お前ので鎮めてくれ!」

 奥に奥にと、これまでの抵抗が嘘の様にアタナシアのお尻が竿を飲み込んでいく。
 また普段とは異なる異物の逆流に、アタナシアの腰がお尻が歓喜に震える。
 もっととお尻が浮けば、むつきの挿入に尻肉ごとベッドに押し付けられた。
 パンパンと肌がぶつかり合う音が激しく高鳴り、夜の静寂を破壊していく。
 それはアタナシアが上げる喘ぎ声も同様であった。

「お尻、お尻気持ち良い。むつきのが熱い、もっともっと!」
「すっかりお尻の虜だな」
「知らなかった、こんな。凄い。お尻壊れる、さよすまん!」

 以前、ひかげ荘の露天風呂でむつきと一緒にさよを可愛がったのだが。
 こんなに激しくも熱く、今さらさよがお尻が壊れるといった理由が分かった。
 体の奥から抉られ、むつきという男に入り込まれる。
 ほんの少し、このままお尻が壊れたらという不安も確かにあった。
 あったが、津波の如く何度も押し寄せる快楽の並みの前では無力に等しくもある。

「おし、おじりぃ」
「う、ぐぅ。出すよ、アタナシア。アタナシアのお尻に!」
「妊娠、お尻で妊娠するのぉ!」
「アタナシア!」

 もうこれ以上はと、掴み切れない程に肉々しいアタナシアの尻肉を両手で掴み。
 押さえつけるように固定しては、肉体の境界線を越える程に叩きつけた。
 少しでも奥に、腸壁から肉の壁を経て、子宮にまで滲むようにと。
 ついにむつきの亀頭の先から、アタナシアの腸内へと白くべとつく精液が迸った。
 不浄の穴を、むつきの精液が白く浄化していく。

「ぁっ、ぁっんくぅ。ぅぁっ!」
「まだ、まだぁ!」
「くぅぁっ」

 俺の浄化力はこんな者じゃないとばかりに、竿を押し付けた状態からまた少し奥へ。
 ぐりっと尻穴を拡張しつつ、ねじ込まれアタナシアが悦びの声を上げる。
 その悦びの声が途切れたのは、全てを出し切りむつきが倒れこんで来るまでであった。
 互いに汗ばんだ体の上に、折り重なるようにし、共にベッドのシーツに向けて荒い息遣いを向け始めた。

「ふぅ、はっ。ほ、本当に尻で妊娠するかと思った。ちゃんと、残弾残ってるか?」
「俺が普段から、何人相手にしてると思ってるんだ。しかも、滅多に会えないアタナシアが腹の下にいるんだ。たぎる、無理矢理にでも」
「おっ、おお。こら、馬鹿。尻穴で大きくなって。そっちじゃない。んぁっ」

 行為の後の気だるさにむつきがもがけば、精液に溺れる尻穴がかき回される。
 そっちじゃないと、アタナシアがお尻を振ればずるずると滑ってまた奥へ。

「そっちじゃ、赤ちゃん欲しいの。むつき、そっちじゃない」

 ついにあのアタナシアが今にも鳴きそうなか細い声で訴え、むつきも我に返った。
 悲しいわけではなかろうが、それでも泣かしたいわけじゃない。
 一緒に燃え上がり同じ快楽を共に味わいたかっただけで。
 慌ててお尻から一物を抜き、尻穴から垂れる精液にも目もくれず。
 小さく丸くなろうとするアナタシアを仰向けにし、御免と平謝りである。

「ごめん、調子に乗りすぎた。俺から赤ちゃんつくろうって言っておいて、本当にごめん」
「ぐすっ、私こそ。すまん、というか忘れてくれ。この私が、セックス中に泣いたなど」
「絶対に言わない、誰にも。前にもそれで嫌われかけたし。二人だけの秘密」
「二人だけの秘密、か」

 そうか二人だけかと呟いたアタナシアの機嫌が、何故か回復し始める。
 後見人にむつきを彼氏と言って照れたり、二人だけの秘密に憧れたり。
 普段高飛車で、女王様気質の割には、普通の恋愛に憧れでもあるのか。
 ともあれ、機嫌が回復しつつあるのなら、畳み掛けるのは今だろう。
 仰向けにむつきを見上げているアタナシアの唇を、そっと奪った。
 二人だけの秘密と照れていたアタナシアの瞳が、むつきだけに注がれた。
 最初は直ぐに離れた唇であったが、見つめあうこと数秒、再び触れ合った。
 繰り返し何度も、離れては暇を惜しむように押し付け合い、やがて度合いが深くなる。

「んぅ、むつき。もっと、今度こそ」
「アタナシア、可愛いよ。凄く胸が苦しい」

 このもどかしさをどうにかしてとばかりに、むつきのキスが唇を離れていく。
 喘ぐアタナシアの首筋を、鎖骨を通り、乙姫家の男児として避けては通れぬ胸へ。
 美砂達、少女では決して到達できぬ、いや一人だけその資質を持つ者を知っているが。
 普通の少女では辿り着けぬ、アタナシアの巨乳を通り越した爆乳である。
 やはり俺は爺さんの孫だと、血の濃さを改めて思い知りつつ顔から飛び込んだ。
 むにゅりと形を変えクッションのように乳の肉が受け止めてくれた。
 この為に生きている、そう言って過言ではない程に、鼻先で乳首を探し口に含んだ。

「痛っ、馬鹿。強く吸い過ぎ、まだでない。お前が妊娠させないと」
「出る、こんなに大きいんだ。出る、そうだろ?」
「本当に、馬鹿ばっかだ男は。好きなだけ飲め」

 呆れ果てながらも抱き締めてくれ、むつきは遠慮なく乳の海に飛び込んだ。
 外側からは両手で押し上げるようにし、胸の谷間で溺れて死んでしまいたい。
 何時までも、何時までもとお話の終わりの様にしたいが、今日はちょっと事情が違う。
 血の涙を流すほどに口惜しいが、二度もアタナシアを悲しませる事はできなかった。
 宣言したのだ、一緒に赤ちゃんを作ろうと。
 父親が母親の乳に溺れているだけでは、赤ちゃんなどできようはずも無い。
 この乳は俺だけのもの、そんな願望を死ぬ気で汗をだらだら流しつつ振り切った。

「むつき、どうした。凄い汗だぞ」
「俺は今、男として一皮向けた」

 一皮ってとアタナシアが、むつきの一物へと視線を降ろしたのは仕方の無い事だろう。

「お前はたまに意味がわからんな。おしゃぶりは、もう良いのか?」
「ああ、方乳だけ。方乳だけなら、俺の子供に譲る決心がついた」
「本、当。に馬鹿だな」

 心底呆れられてしまったが、アタナシアの唇の端がひくついていた。
 怒りからではない、喜びからだ。
 今むつきは言ったのだ、自分とむつきの子供にこの乳の片方を譲ると。
 正直全部譲れよと思わなくもないが、一緒に育ててくれる気になったという事だ。
 胸の切なさが、股座に伝わり涎が止まらない。
 目の前の男の肉棒をくわえ込みたいと、割れ目のみならず、尻穴までもがひくついた。

「むつき、我慢は体に毒だ。乳を片方譲る分、こっちにな?」

 そう相手を諭すように、実は自分が一番欲しがっている事を悟られぬよう。
 アタナシアがむつきの竿に手を添え、自分の大事な部分にあてがった。

「好きなだけ、私を犯せ。好きなだけ、高ぶりを吐き出せ。私が許す」
「アタナシア、アタナシアッ!」
「ぁんぅっ!」

 一度目それから、尻穴を犯された時とは比べ物にならない突き上げであった。
 肌と肌がぶつかり愛液が飛び散り、その粘液がさらにぶつかり合いの音を高める。
 抉られる喜びと抉る喜び。
 互いに似て否なる喜びに身もだえしつつも、視線はそらさなかった。
 相手の一挙一動、それこそ心情の震えさえ見逃さぬように。
 喘ぎながらも決して相手から視線をそらさず、別の生き物のように腰だけが動いていた。

「溶ける、アタナシアの中に溶けそうだ。もっと、熱く硬くならねえと」
「んぅんぅぁ。くっ、むつき。キス!」
「アタナシア!」

 視線どころか、触れ合わぬ場所がない程に抱き締めあい唇を触れさせあう。
 喘ぎ声も唇から互いに直接聞かせ、欠片も漏らさない。
 くぐもった声で僅かな呼吸だけを漏らしつつ、夫婦のようにまぐわい続ける。
 そんなおり、一ミリの隙間もない程に求め合いながら、ついに視線がそれた。
 見開かれたアタナシアの瞳が、むつきではなく、その古く染みのある天井を貫いていった。

「うぐぅ、ぁぁっ。んぅぅ!」
「うぁ、タナシア。ぐぁ!」

 アレだけつき続けられていたむつきも腰も、途端にピタリと止まり小刻みに震え始めた。
 最近、水泳で引き締まり始めた尻も、何かに耐えるようにキュッと力が込められている。
 そのままブルブルと震え、その波が去った直後。

「まだ、まだ行ける。三回、五回。分からん」
「うぁ、待っ。休ませ、女は連続でひぐぅっ!」
「小さい波、ちょっと早いけど。アタナシア、イクよ」
「馬鹿、イキ死ぬ。赤ちゃん孕む前に、私が」

 そんなアタナシアの待ったの声も聞かれず、再びむつきがその中へと射精した。
 ただでさえ、子宮内に大量に射精された直後である。
 許容量を超えた事を示すように、二人の結合部からも精液があふれ出した。

「勿体無い、アタナシア。ちょっと抱えるよ」
「ひぃ、溺れる。受精した、孕んだ。もうお腹一杯」
「駄目、確実に孕むように」

 いっそ祝言前の従姉より先にとばかりに、むつきはアタナシアの両足首を手にとった。
 ぐるりとまんぐり返しの格好になるように自らも震える足で立ち上がる。
 もちろん、これはアタナシアの羞恥をあおる為ではない。
 精液が流れ出さないよう、むつきの一物でしっかりと蓋をする為だ。
 これで大丈夫と持ち上げられたお尻にのし上がるよう体重を掛けたのは良いが。
 既に許容量一杯なのである。
 より深く一物が差されば、アタナシアの膣内と子宮の容量を一物にとられてしまう。
 つまり、結局はより溢れてしまうわけなのだが。

「駄目だ、アナタシア。溢れちまう。こうなったら、一晩中注ぎ続けるから」
「おい、冗談じゃ。ひぐっ、馬鹿言ったそばから。お腹の中が新しい精液に」
「父ちゃんスパルタだから、受精できない弱い精子はいらん。弱肉強食、次行くぞアタナシア!」

 バグってんじゃないと、暴力的な突っ込みを受けるまでむつきの暴走は続く。









-後書き-
ども、えなりんです。

普段、プレイ中に孕めたらさけんでますが。
たぶん今回が最初のちゃんとした子作りかもしれません。
そのおかげでちょっとむつき暴走してますけどw

さて旅行もあと残すところ一話。
最後にもう一個、フラグ建てて終わります。
相手がだれかは次回。

水曜更新です。



[36639] 第八十五話 だってお前が可愛く笑うから!
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2013/11/13 20:31

第八十五話 だってお前が可愛く笑うから!

 朝目が覚めると、やっぱりと言うべきか雲か霞のようにアタナシアの姿はなかった。
 何時寝たのかも覚えてない時間まで、共に子作りに励んだと言うのに。
 時計をチラリと確認すると午前四時、実際全然寝ていなかった。
 アタナシアがいなくなった寂しさから目が覚めたのか。
 代替行為であるかのように、これまたいつもの様に潜り込んでいたエヴァを抱き締める。
 豊満で肉々しい肢体を持つアタナシアとは違い、小さくてふにふにの体をだ。
 キュっと抱き締めると寝顔がにへらと笑い、可愛い子猫だとおでこにキスをした。
 が、余り可愛がっていると手を出してしまいそうで程々に。
 さて、今からもう一眠りか、懐かしの故郷に一人別れを告げるように散歩するか。

「結局、昨日はゆっくりできなかったし。ぶらっとするか」

 生徒が起きて来るまでの数時間。
 それだけでもと、パンツを履いて身だしなみを整える。
 とは言っても後はティーシャツにハーフパンツとラフな格好で出かけるだけだ。
 古い民宿なので板張りの床が無闇に鳴らないよう気をつけつつ。
 裏口を出て昨日、皆が死ぬ程遊んでいた砂浜へ。
 さすがの沖縄の太陽も、午前四時ともなれば大人しく、爽やかな潮風が吹いていた。
 ただそれでも、肌にはじわりと汗が吹き出そうで今日も暑くなりそうな気配がする。
 麻帆良の夏との違いを全ての五感で味わい、背伸びをしながら砂浜に足を踏み入れ気付いた。
 先客がいたのだ。
 朝日の日差しに瞳を細めつつ、その先客へと眼を凝らすと那波であった。
 海を眺めているので表情は不明だが、後ろ姿の寂しそうな雰囲気がもはやアレだ。
 亡くした夫を忍んで一人傷心の旅に出た未亡人のよう。
 もっとも、ラフなテーシャツにホットパンツ姿なのでギリギリ学生に見えたが。
 ここで中学生に見えないのがみそである。

「おーい、那波。早いな、おはようさん」
「あっ、先生。おはようございます」

 直前までかなり失礼な事を考えていた事はおくびにも出さずに声をかけた。
 一瞬チラッとあの黒いオーラが出かけたが、にっこり笑って挨拶を返される。
 危ない危ないと内心ほっとしつつ、那波の隣に経って共に海を眺め始めた。

「随分早いが、眠れなかったとかか?」
「いえ、楽しい旅行もコレで終わりかと思うと寂しくなってしまって。何時までも一緒にいられるわけじゃないのに」

 台詞の前半と後半で微妙に意味が違って聞こえたのは気のせいか。
 後者は特に、仲の良い皆と何時までも一緒にと聞こえた気がしたが。
 チラっと横目で那波を見ると、確かに旅行の終わりがとは別の表情にも見えた。
 那波の事は学校から提供された資料以上の事は知らない。
 あとは、あまり大っぴらにされていないが、あやか並みのお嬢様であるらしい事だ。
 ただあやかと那波の最大の違いは、お嬢様と言う事を受け入れているか否か。
 あやかは雪広財閥の令嬢である事を殊更強調もしなければ否定もしない。
 だが那波は令嬢である事を殊更隠しもしないが、誰かに明かしもしない。
 両者にているようだが、少し違う。

「那波、お前は何処に行ったのが、一番楽しかった?」
「そうですね。やはり、京都。小太郎君と出会えた事が一番です」
「小太郎君ね。麻帆良に来るから、何時でも会えるだろうにあえてそこを上げるか」
「子供の世話は大好きですから」

 旅行の思い出を聞いて、犬上少年との出会いを真っ先に上げるとは那波らしい。
 らしいが、普通の中学生として考えるとどうだろう。
 そもそも、むつきは旅行で一番楽しかった場所はと聞いたのにだ。
 直前の、何時までも一緒にという言葉も踏まえると。

「那波、なんか悩みでもあるのか?」
「ありますよ。つくもさんが胸ばかり見てくるとか、お爺様が胸ばかり見てくるとか。先生も、我慢はしてますが時折胸に視線が泳ぐとか」
「うん、仕方ないね。男の子だからね」

 それもまた悩みの一つではあるのだろうが、結構手ごわい。
 警戒していると言うよりは、まだ悩みを打ち明ける程までにはむつきを受け入れていないのだろう。
 さて、そこをどう解きほぐすべきか。
 もちろん、嫁にする為ではなく、一生徒と向き合う為である。
 クラス一の巨乳だが、そういう感情は持ってないと自分に言い聞かせつつ。

「胸の件は置いておいて。まあ、いっか。悩み話したくなったら、聞かせてくれ。相談ぐらい受け付ける。ただ、俺に解決できる範囲にしてくれな」
「先生、それはちょっと相談し辛いのですが」
「個々の相談内容は秘密だが、どいつもこいつも俺に解決できないのが殆どなんだよ。俺が学生時代の悩みのレベルとは次元が違う感じで」
「先生の学生時代の悩みですか、例えばどのような?」

 相談させるつもりが、逆に自分の学生時代を問われてしまったわけだが。
 学生時代は何を考えて、どう悩んでいたか。

「正直、高校までは姉ちゃんの事ばっか考えてたな。小学校時代は、姉ちゃんを苛めるアホを懲らしめる事ばかり。中学から、姉ちゃんに言い寄る馬鹿を懲らしめる事ばかり」
「初恋でしたっけ?」
「まあな、たぶん姉ちゃん気付いてないけど。大学になったら、やっと他に眼がいって。モテたいとか。遊びたい、お金欲しい。ってなところだ」

 ひかげ荘の件で、散々好きでもない女から言い寄られ苦慮した事もあったが。
 さすがにそれをあっさりこの場でいう事は憚られた。

「モテたいですか」

 そう反復するように呟いた那波の手は、無意識だろうか。
 見下ろし始めた自分のたわわな胸の上にそっと置かれていた。
 先程は冗談めかしていたが、それで悩んでいるのは本当なのだろう。

「先生、男性は何故すぐに胸を見るんですか? こんなもの、私の一部でしかないのに」
「ん、胸は母性の象徴だから」

 多少言いづらそうに、珍しい事にやや頬を染めつつ那波がついに悩みの一部を口にした。
 恐らく一番悩んでいる事ではないだろうが、それでも構わない。
 むつきは考える間もなく、那波の何故に即答していた。
 まるで脊髄反射のような返答に、問いかけた那波が少し眼を丸くしていたほどだ。
 率直過ぎたかなと、改めてむつきは少々噛み砕いて説明した。

「男女の体で違う箇所は二つ。胸と陰部なわけだ。照れるなよ、俺は割りと真面目だ」
「はぁ……」

 お前が照れると俺も照れると釘を刺しつつ。

「けどさ、普段生活していてその違いが眼に見えるのは胸だけだ。何故膨らむ、何故揺れる。触ったら柔らかいの、なんて思春期の妄想を駆り立て易い。女の子だって、胸を強調した服着る事あるだろ。見せられる男は尚更だ」

 この時、那波が八の字眉毛になったのだ、自分が殊更強調したことはないと思ったからだろう。
 あくまで那波は無意識のうちに、何をしていても強調した事になってしまうからだ。
 それこそ普通に歩いていてさえ。
 分かりづらかったかなと思いつつも、始めた説明は最後までちゃんとする。

「あとさ、那波も言ったが。確かに胸とか見た目って、その人の人格のほんの一部でしかない。と言うより、見た目は人格とあまり関係ない」
「はい、夏美ちゃんもそばかすを気にしている事がありますけど。そんな事よりも、夏美ちゃんの可愛い所は私が一杯知っています。本人に言っても全然信じて貰えないですけど」
「那波に言われても逆効果だと思うが。まるっきり、人格と関係ないわけでもない。寝癖がついてたり、目やにがあったり。服にお昼ご飯の汚れがあったり、だらしない人だと分かる」
「小さな子だと可愛いで済みますけど、大人だと確かに」

 ちょっと着地点を見失いかけたが。

「胸も、女の子の一部に過ぎなければ。胸ばかり見る男もその人の一部に過ぎない。那波がまず鍛えるべきは、本当にその人が胸ばかり見てるかかな?」
「内面を見抜く眼を鍛えろということですか」
「まあな。男ってさ、身勝手な生き物なんだ。お前が仮に、胸ばかり見るなと注意したとする。男はこう思う、なんて自意識過剰で心の狭い子だと。そんなの詰まらんだろ。そんな低俗な相手はお断りだとしても」
「本当にお断りですけど」

 表情は笑っているが、眼が笑ってないぞと心の中だけで突っ込みつつ。

「逆にこう考えろ。男は胸を見ている間は無防備だ。逆に見抜け。その人はどんな人だ。外見からでも分かる事はある。だらしない人、実は清潔な人。その間に、私はお前を見抜いてるぞって」
「先生」
「おう、なんだ」
「めやについてます」

 そう指摘され、慌ててむつきは腕で目元をごしごしと擦っていた。
 自分でだらしないと評した人物像が自身に当てはまるとは、情けなさ過ぎる。
 もう蒸発しろ、二度と来るなとばかりに猛烈に擦りあげた。

「いや、あの。おき抜けで散歩でもって。故郷だし、気が抜けててね?」
「ふふ、今さら取り繕わなくても。先生の内面はある程度は知っているつもりです。嫌いになんかなりませんよ。ちょっとだらしないとは思いましたが」

 さようですかと、折角の力説も台無しでガックリ来てしまう。

「あー、それで俺のお悩み相談室は何点?」
「大まけで七十点です。身だしなみをきちんとしていただけていれば。あと、時々私の胸をチラ見しなければ」
「ごめんね、男の子で」
「いえ、先生のおかげで以前より視線は気にならなくなりました」

 少しは役にたてたかと、直前の自分のだらしない格好は一先ず頭から追い出し。
 最後に寝癖とかもないよなと、髪に触れるとしっかりあったが。
 改めて背伸びをぐぐっとして体を起こすと、その隣で那波も真似て背伸びをしていた。
 腕を上に上げて体をそらすと、爆乳もまた太陽に負けじと空を上る。
 双子の太陽だっとチラッと見てはいかんいかんと顔を振ったわけだが。

「先生、また見てます」
「お前が強調……わざと?」
「なんの事ですか?」

 にこにこと笑う表情にわざとですと、書いてあった。
 こいつめっと手を振り上げると歳相応の楽しそうな声と共にきゃっと那波が逃げた。
 砂浜で爆乳少女と追いかけっこ、それこそ世の思春期が本気で夢想する世界に突入である。
 しかし、その夢想の世界もそう長くは続かなかった。
 目の前を逃げていた那波の背丈が、突然低くなったのだ。
 いや、即座に視線を下に向ければ那波の足が膝ぐらいまで埋もれていた。
 これがただの落とし穴であれば問題なかったのだが、ただの落とし穴ではなかった。
 膝から太股、瞬く間に那波が埋もれていき、慌ててむつきがその手を掴んだ直後。

「きゃっ!」
「うお、深けぇ!」

 二人共々、その穴に吸い込まれて周りが一瞬で真っ暗となった。
 互いの悲鳴の後に聞こえたのは、どさどさっと何かが落ちて覆いかぶさる音だ。
 そして気がついてみれば、二人は暗く深い穴のそこで折り重なるように倒れていた。
 何メートル三メートル以上深い、ふざけた落とし穴であった。
 自分でも良く覚えていないが、落ちる途中で那波の下敷きになったらしい。
 あお向けて湿った砂の上に転がるむつきの胸の上に、那波の顔がある。
 キュッと強く瞳を閉じてはいるが、痛みなどの苦痛によるそれは見られずとりあえずほっとした。

「那波、大丈夫か。痛いところとかないか?」
「先生が咄嗟に……すみません、直ぐにどきます」

 先程悩みを打ち明けた胸が、むつきの胸で押し潰されており、そそくさと那波が立ち上がる。
 照れたように背中を向け、体についた砂を那波が払っている間。
 むつきも大変なお胸様でと思いながら、立ち上がっては砂を払った。
 一時、微妙な沈黙が二人の間に流れたが、恥ずかしがるよりも先に擦るべき事がある。
 見上げた空は砂浜にいた時よりも遠く、穴の入り口もまた遠い。
 穴の全長は三メートル、周囲は半径二メートルか。
 乙姫家の人間にとって砂浜は一種の商売道具なので、こんな悪戯はしない。
 となれば、昨日訪れたばかりのA組の誰かに決まっている。

「鳴滝姉か春日か。アレだな。昨日の花火中に作って、だけど誰も引っかからず。何時の間にか自分達も忘れたパターン」
「後できつくお仕置きしないといけませんね」

 那波の黒いオーラも、風向きが自分以外でかつ味方であればなんとも頼もしい。

「とは言え、脱出できるかどうか微妙な高さだな」

 ぴょんぴょん飛び跳ねてみても、穴の入り口まで手が届きもしない。
 ならばと砂の壁を登ろうにも足をかけただけで、壁そのものが崩れ落ちてしまう。
 あまり弄くって壁が崩れてきたら怖いので、触らないほうが良いかもしれなかった。
 二人してどうしようと考える。
 まず現在の季節柄、寒さでどうにかなる事はなく、穴のお陰で日差しも届かない。
 体調面では問題ないが、早朝の事なので見つけて貰うまでに時間単位でかかる。
 生憎、おき抜けでむつきは携帯を持っておらず、那波も同様だ。

「三メートルぐらいか」
「ぐらいですね」
「那波、身長いくつ?」
「百七十二センチですけれど」

 二人の身長を足せば三メートル五十センチは余裕である。
 運が良ければ、肩車でも手が届くかもしれない。
 そうと決まれば、話は早い。

「那波、肩ぐる……どうした?」
「落とし穴、掘ったのは先生じゃないですよね?」
「お前が先に走って落ちただろ」
「いえ、私が逃げる方向を誘導しつつ」
「狩人か」

 それにどういう目的でと、気付いたのは那波を肩車してからであった。
 胸と同じくずっしりと思い那波のお尻が肩に圧し掛かってくる。
 華やかな芳香をはなつむっちりとした太股が視界の脇を挟みこんできていた。
 しゃがみ込んだ状態から那波を担ぎ立ち上がった時、その股座が首後ろに食い込んでも。
 この時になって、確かに那波が疑うのも当然かと気付いた。
 気付いたが、それど頃ではなくなったのも事実だ。

「那波、あまりふらふらすんな」
「すみません。実は私バランス感覚があまり」
「そうだった、お前重心が上にあるから」

 あまりに胸が大きく、那波の重心は上の方にあってバランスが悪いのだ。
 むつきが必死に踏ん張っても、あっちにふらふら、こっちにふらふら。
 那波も必死なのは、キュッと両の太股を締めてきているので分かる。
 ただ、既にそのすべやかな太股がむつきの両頬を挟みこんでいた。
 唐突に、むつきが鳴滝姉か春日といった犯人の評価を上方修正したとしても仕方がない。
 那波の両足をシッカリ抱き締め踏ん張り、那波が落ち着くまで苦労して耐えた。
 最終的に、脆い砂の壁に手をつく事で、那波も落ち着いたのだ。

「ゆっくりで良い。入り口に手は届くか?」
「辛うじて。けれど、私の腕力ではとても。先生の肩に立てば、なんとか」
「肩に立つか。俺は良いけど、那波いけるか?」

 んーっと、そこで悩むなとも思ったが、高さ的な意味で怖いのは那波だ。
 少しばかり何してんだろう俺達と負のスパイラルに入りかけたが。
 落ちきる前に、那波が決断してくれた。

「行きます。先生、痛かったら言ってください」
「おう、頑張れ那波」

 改めて土台となるむつきが踏ん張り、那波がそっとその上で動き始めた。
 砂の壁に手をつき、体重をそちらへかけつつ、まずは右足を持ち上げる。
 むつきの頬に太股が擦れ、どちらも気づいていた。
 気付いていたが、妙な考えを浮かべるだけで危ないと何も言わなかった。
 そのまま那波は持ち上げた右足を曲げて、踵をむつきの肩に置いた。
 ぐっと力をこめて踏ん張ると、さすがにむつきも右肩が悲鳴を上げる。
 が、事前に言われた事とは逆に悲鳴は口の中で急きとめ、頬をぱんぱんに腫らして耐えた。

「先生」
「全然平気、一気に行け。途中で止めると、尚更怖いぞ」
「はい、失礼します」

 それから本当に一気に、勢いをつけるように那波が左足も肩にかけて中腰に。
 そろそろと砂の壁に手をつけながら、立ち上がっていく。
 すると手が穴の入り口にかかり、背を伸ばしきった時には肩口まで穴の上に出る事ができた。
 そこから踏ん張るのは那波の仕事であった。
 穴の入り口にシッカリ手をつき、脱出できるよう背伸びして這い上がる。
 しかし、運命というべきものなのだろうか。
 やはりここで邪魔になったのは、那波のご立派な胸であった。
 巨乳少女は総じて、匍匐前進が苦手なのである。
 這い上がろうにも胸がゴム鞠のように下敷きとなってバランスが悪いこと悪い事。

「ん、くぅっ」
「那波、頑張れ。これで登れなきゃ、何時間も穴の底だぞ!」
「はっ、んくっ。ぁっ」

 内心、那波が頑張る声がいやらしく聞こえてしまったが、きっと本人は必死だ。
 じたばたと足が動き、ちょっと蹴られたりするのが良い証拠である。
 その肩から離れた両足を、むつきは両手で支え持ち上げるように助成もした。

「先生、もう少し……」
「いいぞ、そのままいけ!」

 むつきからは、どうあと少しなのか全く見る事も予想する事もできなかったが。
 かつてない程に足元を踏ん張り、体全体で那波を押し上げる。
 両腕も頭の上以上に押し上げ、まだかまだかと耐え忍ぶ。
 そんな折、非常に嫌な音が何故かはっきりと聞こえてしまった。
 ビリッと何かが破れるような音である。
 踏ん張りすぎてハーフパンツのお尻でも破れたのか、まだその方が良かった。

「ぁっ、駄目」

 悲鳴のような声を上げたのは、那波であった。
 一体何がと落ちてくる砂に苦慮しながら、むつきが上を見上げた時である。

「先生、上を見ちゃ」

 あろうことか、前だけ見ているべきの那波が何故かむつきを見下ろしていた。
 しかし、これをしかるべきかは、全く答えが見つからない。
 那波の着ていたティーシャツが、落とし穴の砂を支えていた棒切れに引っかかっていたのだ。
 先程ビリッと破れたような音がしたのはそれである。

「那波、ほっとけ。そのまま」

 女子中学生としてはけしからん、赤いブラジャーが見えたが見えない振りだ。
 正直、全身がぷるぷるしていて再チャレンジなど夢のまた夢である。

「駄目、破れ。ブラも、ぁぅ。もう、無理……」

 那波の足も徐々に下りてきて、むつきが持ち上げようにも持ち上がらない。
 しかも一気に脱力したせいで両足は、手を滑り落下。
 危ないとむつきが次に支えたのは、那波のおおきなお尻であった。
 むずっとそれはもう、両手で鷲掴んでいた。
 薄いホットパンツなので直に触っている感触と変わらず、とても良い尻だ。
 安産型の良い子が今にでも産めそうな、むしろ産んで欲しくなるような。
 そんなむつきの嗜好は刹那の間に満たない間でされたが、本当に刹那であった。

「先生、んぅ。手が、指が」

 受け止めた手が我知らず愛撫となっていたようで那波が腰をくねらせる。
 落下した那波を受け止めた奇跡もそれまで。
 頭上で那波が腰をくねらせればバランスも何もあったものではない。
 手の上からずり落ちた那波が次に落ちた先は、むつきの頭上であった。
 首が胴体に埋もれてなくなってしまいそうな衝撃の後、落とし穴に落ちた時同様に重なり合って倒れこんだ。
 その時、周囲の砂の壁も崩れ落ちたが些細な事であった。

「痛ッ」
「那波、大丈夫カッ?!」

 改めて、むつきが仰向けで下敷きに、那波がその上に胸板に顔を預けるように倒れこんだわけだが。
 一度目と決定的に違う点があった。
 そう落ちる直前、那波のティーシャツが落とし穴に使用された棒切れに引っかかっていた。
 シャツが破れただけなら良かったが、何故かブラジャーも引っかかったまま。
 那波は上半身裸、ホットパンツオンリーというあられもない姿でむつきに重なっていた。

「奇跡か。那波、どこか怪我は」
「駄目、先生!」

 怪我はないかと抱き起こそうとしたが、逆に那波に必死に抱きつかれてしまった。
 ちょっと止めて、間違いを犯しそうともむつきは思ったが那波も必死だ。
 大人びた彼女に珍しく、純情な少女のように顔を火照らせ慌てふためいている。
 体を離せば胸が見られてしまう、けれど隠すにはむつきに密着するしかないわけで。

「見ないでください、先生。恥ずかしいんです」
「分かった、分かったけど。この状態……」

 深い穴の底で上半身裸の爆乳人妻臭美少女と抱き合う形である。
 いくら昨日、アタナシアとハッスルしたと言っても一眠りして体力はある程度回復しているのだ。
 しかも朝、世間一般の男性が夜並みに元気になってしまう時間帯。
 むつきも例に漏れず、那波のたわわな果実を押し付けられ、たってしまった。
 必死に抱きつく那波のホットパンツ姿のお尻が、不自然に盛り上がる程に。

「先生?」

 これはどういう事かと那波が黒いオーラを出すが、むつきも必死だ。

「お前に欲情したわけじゃないから、朝はこういうものなの!」
「先生、言い訳禁止です」

 むしろ喋るなっと言葉を禁止されたわけだが。
 それで状況が好転するはずもなく、ただただ抱き合うだけで時間を浪費していく。
 というか、逆にこの状況はむつきにとって致命的だ。
 美砂達はまだしも、美砂だけと付き合ってると思っている母親に知られれば。
 ビンタや拳の一発程度では到底済むはずもない。

「先生……」

 どないしよう、どないしようと必死にアレコレ考えていると、突然那波が弱々しい声で訴えてきた。

「何か、喋ってください。私……」
「那波?」

 今まで必死にそらしていた那波を正面から見つめると、何故か瞳に涙が溜まっていた。
 あの時々怖いが、普段は穏やかで母性全開の少女が、弱々しい光を瞳にたたえている。
 一体なにがどうして、切っ掛けは。
 少なくとも、好きでもない男と抱き合う形となり気持ち悪いとかそうではない。
 そうだったら良いという願望もあったが、恐らくはちがう。
 胸が露となり慌てていた時とは違う、那波の体が小刻みに震え、むしろ必死に抱きついてきていた。

「私、駄目なんです。孤独を感じる事が。狭く、暗い穴の底。孤独を象徴するものが駄目なんです」

 それは軽い気持ちで相談してよと持ちかけた時には引き出せなかった那波の心の底だ。

「常に孤独を遠ざけるように誰かを傍に置かないと。先生、はしたないですが。抱き締めてください。勘違いしないでくださいとか、お願いするのも厚かましいですが」
「ん、分かった。勘違いしないから、安心しろ。大丈夫、一人じゃない。馬鹿でスケベな教員の俺だが、ここにいるから」

 まだ事情は上手く飲み込めないが、震える那波を安心させるように抱き締めた。
 上半身裸なので直接肌に触れてしまうが、気後れは寧ろさせずしっかりと。
 ここで変に躊躇すれば余計に警戒を与えてしまう事だろう。
 昨晩アタナシアにしたようにしっかりと抱き締め、撫でるようにその髪を梳いた。
 時間をかけて、那波の孤独を震えを取り去っていく。
 ただただ那波を想い、おかげで一度はいきり立ったアレが大人しくなる程に。

「んっ」

 気持ち良さそうな声が那波の唇からも漏れ、孤独はなりを潜めたのだろう。
 しかし、一つ残った疑問は那波の孤独に対する恐れだ。
 人間誰しも孤独は嫌いだが、稀に孤独が好きと嘯く物好きもいるが。
 那波の怖がり様、恐れ様は少し異質だ。

「ありがとうございます、先生。もう大丈夫です」
「とは言え、何も状況は好転してないけどな」

 震えが止まっても変わらず抱き合い、むつきが髪を梳きながら互いに黙り込む。
 沈黙の音が耳に痛いが、それでも那波は孤独は感じないようだ。

「私、私はあやかが羨ましい」

 そんな那波が漏らした呟きは、意外過ぎる一言であった。

「那波重工は、あやかの実家並みに資産こそあれ。歴史は浅く、成り上がりの家です。家族同士の結びつきが薄く。いえ、むしろ財閥令嬢でありながら、家族の絆が深く愛されているあやかが稀なのでしょうか」

 那波の独白のような言葉に答えず、むつきは髪を手櫛で梳く事で応えていた。

「何処へ行くにも一人。もちろん、お手伝いさんや面倒を見てくれた人はいましたが、彼らは全て仕事でした。あやかの家のように、愛してはくれなかった」

 だからこそ、那波は小さな子へと愛情を注ぐのか。
 かつて自分が与えられなかったモノを、漏れなく与える為に。
 それに子供は無垢で、鑑のような存在だ。
 愛を与えればそのまま子供からの愛が自分へと返ってくる。
 しかし、今の那波の独白を聞く限り。

「愛を見返りに愛を与える事は、間違っているでしょうか?」
「別に、いいんじゃね?」

 いかにも深刻そうに問いかけた那波の言葉に、努めて明るく軽くむつきは答えた。

「お前ら、似た者同士だな。お前だから言うが、似たような相談を以前雪広にされた。詳細は秘密だが。その時も俺はこう応えた」

 もう随分前のような気もするが、つい数ヶ月前の事である。

「小さい子は単純だ。特に男の子は、綺麗なお姉さんに可愛がって貰ったやったぜってな。それで恋に花を咲かせるのも良いし、お似合いになれるようにって努力するのも。女の子だって憧れて努力したら、尚良し」
「でもそれが純粋な愛でなければ」
「んー、那波さ。ちょい、とらわれ過ぎじゃねえか?」

 幼少のトラウマとまで行かないかもしれないが、嫌な記憶のせいか。
 目に見えない純粋さ、この場合純粋な愛を求めすぎている。

「もしかして、無償の愛って信じてる?」
「もちろん、信じてます」
「ないない、そんなもん」

 えっと、とても教師らしからぬ言葉に那波の眼が点となっていた。

「ちょっと違うかな。世間様が言う、無償の愛。何も求めず、見返りを求めず。ただただ愛しなさい。俺はあれ、違うと思う。愛は、目的があってしかるべきだ」
「愛に、目的があってしかるべきですか。それは不純では?」
「だってさ、親が子に向ける愛ってその子が健やかに愛を知った人になって欲しいだろ。ほら、目的あるじゃん。けど、不純じゃない。普通だろ?」

 他にも親でなくとも、小さな子には笑顔でいて欲しい等々。
 目的のない愛など、むしろ無情の域でとても人の感情ではない。

「お前が愛して欲しいから愛するってのも、別に不純じゃない。不純ってのは、そうだな。例えば、金持ちの家の子を懐かせれば後々便利だなと思いながら愛することとか?」
「そんなこと!」
「まあ、不純なだけあってその子に気付かれるまでは愛、気付かれたらただの策謀だ」

 ちょっと話がそれかけたが。

「那波が小さい子が好きなのは、確かに愛して欲しいからってのもあるかも知れない。けどさ、それだけで中学生のお前が休日潰してまで面倒見にいかないだろ。普通は、友達と遊び呆けてる」
「確かに、最初は私が口にした通り愛して欲しかったから。けど今は……」

 そこで思いをめぐらし、違うという事に行き着いたのだろう。
 良い笑顔に、親が子を温かく見つめるような良い女の笑みを浮かべ始めた。
 良い母親になれるだろうなと、改めてそんな那波を抱き締めている現状に反応してしまった。
 一度はぺたんとついた那波のお尻が、むつきのせいでくいっと上に持ち上げられた。

「先生?」
「ごめんなさい、だってお前が可愛く笑うから!」
「これはさすがに不純では?」
「痛い、痛い!」

 下半身に手を伸ばされ、黒いオーラと共にキュッと締められた。
 何て事をを思いはしたが、痛みの前に色々な考えが吹き飛んでいった。
 だから痛みにわめいている間、さり気にぽっと頬を染める那波には気付かない。

「先生、今気付いたのですが」
「ごめんなさい、千切らないで」
「いえ、あの……先生のティーシャツをお借りできませんか?」
「あっ」

 その手があったかと、本当に今さらむつきも気付いた。
 ジッと疑わしげな視線にさらされたが、本当である。
 というか、そうしようにも駄目と先に抱きつき放さなかったのは那波だ。
 それで協議を重ねた結果、まず二人一緒にテーシャツを来て、むつきだけが抜ける。
 上手く行けば、この密着状態だけは抜け出せるはずだ。

「先生、見ないでくださいね?」
「お前もしつこいな」

 まずは那波が胸を隠しつつ上半身をむつきから見て下の方に引いた。
 それからむつきがティーシャツの裾を持ち上げ、那波がもぐりこんでいった。
 夏場だから大き目のティーシャツとは言え、さすがに二人で着るには小さい。
 那波も途中から胸を隠す事を断念し、むつきの胸の上を這うように登って行く。

「やべ、くすぐったい那波あちこち触るな」 
「すみません、もう少し」

 うんしょ、うんしょと那波が動くのは良いのだが、その爆乳が胸の上で擦れるのだ。
 たゆんたゆんと形を変え、時に乳首がこすれ今直ぐ押し倒したくもなる。
 だがまだひかげ荘の存在すら知らない那波にそんな事はできない。
 襲いたい、その胸を揉みしだきたい、入れたいと思いながら我慢の連続だ。
 やがて胸を這いずり終わった那波が、首の襟元から頭をぐりぐり登ってきた。

「ふう……なんとか、ぁっ。おはようございます」
「お前、実はかなりテンパってるだろ。おはようございます」

 首を出してから、目の前に急接近したむつきに気付き突然那波が挨拶してきた。
 むつきもそういいつつ、かなりあせっている。
 今さらながら、これ後ろを向いている間に自分が脱いで、手渡した方が良かったんじゃないかと思う程に。
 実際、互いに離れ那波が背中を向けるまでに、絶対に眼を閉じていられるかは分からないが。
 それに那波もその両腕で何時まで爆乳を隠していられたことか。
 しかし、こうなってしまった以上、今度はむつきが抜ける番だ。

「那波、あんまり暴れるなよ。この一枚が破れたらもう手はないぞ」
「先生こそ、エッチなのは駄目ですよ? 眼はちゃんと瞑ってください」

 ちょっと黒いオーラを滲ませ脅されてしまった。
 言われた通り目を瞑り、伸びきった襟元を那波がさらに酷使してのばしシャツの中へ。
 すっぽり収まったは良いが、最初に感じたのはやはり那波の爆乳である。
 瞼を通す光の加減で既に自分の頭がティーシャツの中なのは分かっていた。
 頬に触れる那波の柔肌も、これはチャンスなのでは。
 むくりとそんな欲望が顔を出し、今ならぱふぱふ出来るのではと邪な考えも。
 いやいかんと生真面目に思った挙句、下した結論は見るだけであった。

「先生、まだですか」
「待て、慎重に。触れないようにこっちも気をつけてんだ」
「すみません」

 那波が譲歩したように謝ったが最後、ここだっとむつきはその眼を見開く。
 偉大なる山が目の前に、しかも二つも現れた。
 なだらかな丘などなく、究極の美とも言える曲線がそこにあった。
 今にも登頂したいと思う山の天辺には、桜色の太陽にも見えるキュっと締まった乳首が。
 しかも度重なるふれあいからだろうか、ちょっと立っているようにも見えた。

(爺さん、やはり巨乳は偉大だ……俺もまだまだ、真のおっぱいに貴賎はないに辿りつけてないのかもしれない。先は長いよ)

 そんな感慨を浮かべ、決して邪な思いではなく、偉大な誓いを胸に抱いていた。
 何時までも拝んでいたい気持ちにかられたが、怪しまれては意味がない。
 名残惜しむように後ろ髪をひかれつつ、別れを告げようとしたその時だ。

「先生、やっぱり眼上げてません?!」

 何を根拠にそう思ったのか、那波が急に体を捻り捩った。
 不可抗力、本当にそこからは不可抗力でティーシャツの中で頭ごと引っ張られた。
 せめて触れまいとした胸に顔から突っ込み、全ての努力は水の泡である。
 いや、このまま二人で陰部を泡塗れにしたいと思ったが、それは別。
 ふよんと那波の胸に突っ込み、受け止められ、さらに那波が身を捩って滅茶苦茶だ。

「ちょっ、暴れんな。これで触るなとか、無理!」
「先程から、先生のアレがぐいぐい押し付けられて。怒りますよ!」

 バレたのそれが原因かとも思ったが、もはや本当にどうしようもなかった。
 那波が聞く耳持ってくれないし、むつきも頭をシャツの中から抜くに抜けない。
 もはや誰かに見つかった瞬間、むつきが犯罪者一直線の中で第三者の声が聞こえた。

「うひょー、早起きはするもんじゃ。浜辺に、爆乳ブラジャーが流れついとるわい!」

 さすが老人は朝が早い。
 どうやら、落とし穴の入り口に引っかかった那波のブラジャーに気付いたらしい。
 二人して一度動きを止め、助かったと喜びの声を上げようとしたところで。
 ビリッとむつきのティーシャツが限界の悲鳴をあげた。
 引き裂かれる無残なティーシャツ、露になる那波の胸、そこに覆いかぶさっているむつき。

「むつき、ひ孫はそんな慌てんでもええぞ。二時間後ぐらいにまた来るわい」
「待って爺ちゃん、助け」
「先生、動かないでください!」

 しかもあろう事か、爺さんは那波のブラジャーだけ回収して行ってしまった。
 せめてティーシャツの方を投げ込んでくれとも思ったがもう遅い。
 那波が再び胸を隠すようにむつきに抱きついている間に、嬉しそうに消えていった。
 残された二人は、互いに上半身裸とさらに過激な格好でさらに二時間程密着し続ける事となる。
 結局、母親にばれたむつきは、殴られた挙句皆の前で那波に土下座させられた。









-後書き-
ども、えなりんです。

那波の嫌いなものが孤独なのは、確か公式設定です。
子供好きとかと掛け合わせ、こういう内容になりました。
那波の家が金持ちってかなり最後の方に明かされましたしね。
赤松御大の思い付きかもしれませんがw

恒例のむつきのお悩み相談室。
最近ようやく及第点がとれるようになりました。
今後は、むつきが悩みがないか聞くより先に、生徒が相談しに来る感じです。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第八十六話 あやかの女の子に先生の殿方を
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2013/11/16 20:59

第八十六話 あやかの女の子に先生の殿方を

 ついに長丁場の特別修学旅行が終わったのは、既に昨日のこと。
 八月の十七日、特別修学旅行はむつき達にとって半分仕事の為、旅行疲れを取る休みを貰っている。
 その為、今日だけは完全フリーなわけだが、また明日からむつきは忙しい。
 帰ってきて直ぐに、今度は三日間の水泳部の強化合宿に行かなければならないのだ。
 しかもそれが終わって直ぐに今度は水泳部の全国大会。
 顧問初体験のむつきには死ぬ程忙しくなる為、今日を置いて安らぎの日はない。
 そして、そんなむつきの目の前には安らぎの象徴が小忙しく働いていた。

「えっと、後はパンをトースターで……」

 ぱたぱたとエプロン姿で台所を駆け回っているのはあやかである。
 ただ台所になど滅多に立つ事はなく、たどたどしい手つきが幼な新妻のようで微笑ましい。
 可愛いなあと、テーブルに両肘をついて頬に手を当てているむつきの目の前にはあやかが用意した洋風の朝食が取り揃えられていた。
 プレーンオムレツに焦げ目をつけたハムに、プチトマトが添えられている。
 サラダ代わりの野菜スティックには、手作りのマヨネーズもある手の込みようだ。
 デザートのヨーグルトには雪広が家から持ち込んだジャムが数種類。
 後足りないのは、あやかが口にした通り主食となるパンぐらいだった。

「あやか、慌てなくて良いぞ。可愛い新妻が頑張って台所に立つ姿を見てるだけでお腹が膨れてきそう。うん、腹は減ってるけどね」
「新妻……もう、少々。一分も掛かりませんわ」

 パンをトースターにセットした後、むつきの言葉を耳にしてあやかが頬を赤くする。
 パンが焼ける間、急に手持ち無沙汰になり、エプロンの裾を弄ったりむつきをチラ見したり。
 もうたまらんと、後ろから襲いたくなったが我慢我慢である。
 そもそも、何故こういう状況になったかというと、特別修学旅行最終日前にむつきが倒れたからだ。
 おかげであやかとの約束が伸びてしまい、他の皆が気を利かせてくれたのだ。
 現在、ひかげ荘にはむつきとあやか以外、誰も居ない。
 半分済んでいるエヴァや絡繰でさえ、久方ぶりに家の方に帰って行っている。
 今日の午前中だけは、むつきはあやかの独り占め、そして昼間だが初夜なのだ。
 初夜も待ち遠しいが、あやかの愛がこもった朝食も待ち遠しい。

「はい、お待たせして申し訳ないですわ。この雪広あやか渾身の朝食、冷めないうちに」
「あやか、そっちじゃない。こっちこっち」

 ふんすと腰に両手を当ててどや顔し、対面に座ろうとしたあやかをむつきが手招いた。
 最初、何故向き合って食べないのかとあやかが不思議がったのも数秒。
 むつきが引いた隣の椅子に座り、差し出されたフォークが全ての答えであった。

「あやか、功労賞にまず一番に。ほら、あーん」

 むつきが差し出したフォークには、今しがたあやかが作ったプレーンオムレツが。

「あーん……あら、試食時よりも随分。味付けが馴染んだ気が」
「愛情の魔法って奴だ。あやかも、食べさせてくれ」
「ぁっ、はい。そ、それでは、先生。どうぞ、お食べになって」

 次にあやかもプレーンオムレツをフォークで切り、一口サイズを持ち上げ差し出してくれた。
 超幸せと満面の笑みでむつきはそれをパクリと一口で咥え込んだ。
 熱々でふっくら卵の中からとろりとした半熟のそれがあふれてくる。
 味付けはちょっと甘めに、体の隅々までそれが行き渡り体が芯から起きて来る様だ。
 あまりの上手さにキュッと瞳を瞑り、目尻に涙が出てきた。
 しかも、ちょっと眼を開けると、美味しいですかと上目遣いで心配そうなあやかが。
 一旦フォークをテーブルに置くと、心配ご無用とばかりに肩を抱き寄せた。

「超美味しい。あやかの愛情たっぷり、料理の上手い嫁さんがいて嬉しい」
「良かった、何しろあまり自ら台所に立つ事はありませんので。昨晩は五月さんに随分と無理を言ってご指導を」
「慣れてない事を一生懸命、なお嬉しい。腹ごなしして、一緒にお皿洗ったら……なっ。可愛がってやるから、幸せにする」
「はい……」

 それ以外返す言葉がないと、刻一刻と迫るその時を思いあやかは赤面しっぱなしだ。
 初期と言って良いか、ひかげ荘の初期メンバーの中でのおおとりである。
 むつきもこれ以上は伸ばせないと気合が入っており、あやかもそれに気づいていた。
 たった一人で気合の入ったむつきを満足させられるのか。
 そしてその攻めに自分は耐えられるのか、段々と朝食の味が判らなくなるほど焦ってくる。

「大丈夫、無茶はしない。あやかが嫌なことも」
「信じています、先生の事は」

 その信頼には絶対応えて見せると、むつきは次に野菜スティックにマヨネーズをつけた。
 もちろん、自分で食べる為ではなく、あやかに食べさせる為に。
 ポッキーゲームの要領で食べたかったがこれもなんとか我慢しつつ。
 最後まで互いに自分の手で食べる事なく、食べさせあい続けた。
 おかげで普通なら十五分で済みそうな朝食をたっぷり一時間近くかけてしまった。
 休みの日だから良いものの愛情たっぷり朝食も、考えものだなという結論に至る。
 それから仲良く二人で一緒にお皿を洗い、その時が近付くにつれ口数も少なく。
 それじゃあ、三十分後にと食堂で別れ、互いに初夜の為の身支度へと入った。









 初夜の為の身支度と言っても、むつきには改めてする事など殆どなかった。
 した事と言えば、歯磨きぐらいで普段着の浴衣姿のままだ。
 しばしそわそわと、管理人室で朝のニュースを見ながら時間を潰していた。
 恐らくその間、あやかの方はお肌のお手入れ等々大わらわになっているだろう。
 ついにあのあやかとの初夜である。
 まだか、はやく回れ、地球加速しろと時計をちらちら見ては貧乏揺すりだ。
 今から期待に胸ではなく股間もふくらみ、本当に慌てん坊であった。
 過去これ程までに時間の進みが遅いのかと思う程だったが、ついにその時は来た。
 時刻が丁度八時半、朝食の終わりから三十分経った所でむつきは立ち上がった。

「うし、待たせたな息子よ。気合入れろ、俺。あやかの大事な初夜だ」

 失敗は許されないとばかりに、両頬を手でパンパンと張る程の気合のいれようだ。
 それからほぼ無人のひかげ荘内を歩き、一階玄関口のホールから二階へ。
 あやかの部屋は二階に登ってするの右手、直ぐそこ。
 時折ギィっと鳴く廊下を歩み、雪広あやかと看板の掲げられた襖を軽くノックした。

「あやか、良いか?」
「はい、どうぞ。先生」

 最後に襖に手を触れていくぞと気合を入れ、襖を開け放った。
 最初に感じたのは、アロマか何かの鼻腔をくすぐる芳香だ。
 昼間だからだろうか、カーテンは厳重に締められ光は最小限に薄暗くなっている。
 ただ、昼間なのに必死に暗くしようとする事事態、ちょっと背徳的だ。
 それから一番重要なあやかは、部屋の中央。
 畳の上でなかなか寝付けないあやかが持ち込んだベッドマット、これまた高そうな刺繍入りのシーツを被せられたそれの上にいた。
 その姿は以前むつきが渇望して止まなかった白のガーターベルト姿である。
 薄暗いと言っても夜にはとても叶わず、細やかな刺繍の一つ一つがしっかりと眼に映った。
 クォータ故に、少々日本人場慣れした端整な顔立ちと金髪に反し、日本人らしく正座で三つ指ついて待っていてくれたのだ。
 むつきも襖をしっかりと閉め、そんなあやかの前に進み出ていった。
 失礼と一言呟き、ベッドの上に上がりこんであやかの対面に座り込む。

「先生、本日はどうかよろしくお願いいたしますわ」
「おう、任せとけ。最高の夜、じゃないけど。初夜にしてやる」

 あやかの礼に礼で返し、頭を上げてから互いに見詰め合う。
 それからむつきは正座のまま半歩進み出て、そっとあやかの顎先に手を触れた。
 軽い力で上を向かせ、感情の高ぶりから潤みきった瞳をあわせ、唇を奪った。
 そっと触れるだけのまずは大人しいキスである。
 やはり思った通り、唇を通してあやかの緊張が震えとして伝わってきた。

「大丈夫、優しくするから」

 そう呟きつつ、あやかの両肩に触れては手折るようにベッドの上へと押し倒した。
 既に全裸こそ見せあった中ではあるが、改まっては恥ずかしいのだろう。
 白のブラジャーとショーツ、ガーターベルトがあるとはいえ、必死に両腕で隠している。
 その照れ、羞恥は大事ですと、シーツの上に金髪を広げたあやかの唇を再度奪った。
 ただし、今度は触れ合うだけの大人しさとは無縁である。

「んぅ、先生。急に、ぁっ」
「あやか、好きだ」

 まだ理性は残ってますよと伝えるように、名前と好意を呟いた。
 それだけでもあやかの緊張を少しは解きほぐせるようだ。
 わずかながらにもふっと力が抜けた一瞬を見逃さず、あやかに覆いかぶさった。
 丹念に唇であやかの唇を舐り、隙間から漏れる吐息とまだ小さな喘ぎを感じながら。
 頂きますと改めて心中で呟き、あやかの唇の隙間から舌を差し込んでいく。
 ある程度こうして事が進むと、本番こそなかったがあやかも多少は慣れている。
 そういう順番かと、出迎えが現われ入ってきたむつきの舌とちょんちょんご挨拶。
 流れ落ちてくるむつきの唾液も懸命に喉を動かし、こくこくと飲んでくれていた。

「先生の味、落ち着く。先生が私の中に広がって」
「俺もあやかが飲みたい」
「よろこんで、お召し上がりになって」

 ベッドの上でひしと抱き合い、ころんと転がる。
 上下逆となり、今度はむつきがあやかを体の隅々にまで受け入れていく。
 深く口内で結びつき、流れ落ちてくるあやかの唾液を富士の雪解け水かと思うぐらいに一生懸命のみ干していた。
 自分が飲む時もそうだが、逆に飲まれるときも、ああ受け入れられていると瞳を閉じていたあやかの頬が赤みを帯びていった。
 ちらりと片目を開け、あやかの緊張が刻一刻と解きほぐされるのをむつきは確認していた。
 そろそろ良いかと、抱き締めあい背中に回していた手を滑り落とさせる。
 すすっと、ブラ紐はまた後でと飛び越え、なだらかな曲線の背中を降り、また登り始めたお尻の登頂だ。
 ピクッと体を震わせあやかも気付いたが、まだキスの途中である。
 むしろ羞恥を忘れようと、さらにキスに没頭し止める言葉を呟く事もない。

「んぅ、ふぁっ。んんぅ」

 一度始めると、割と歯止めが利かないのがあやかのセックスの特徴である。
 そして歯止めが利かなくなった後で我に返り、死ぬ程恥ずかしい思いをするのもだ。
 これはまた後で、特大の羞恥に悶える姿が見えるなと思いつつガシッとお尻を鷲掴む。

「んふっ」

 あやかの芸術的なお尻の曲線を包む、シルクか何かすべやかな手触り。
 この布キレの奥にあやかの秘部があると思うだけで、一物がいきり立ってくる。
 お前の出番はもう少し後と、まずは折角来てくれたあやかのガーターベルトを味わった。
 視界はあやか一色だが、手だけでも十分に楽しめた。
 お尻の肉を掴み、時に指先でなぞり弄びつつ、お尻を降ると足の付け根だ。
 直接肌に触れられたが直ぐにニーソックスへと辿り着く。
 きめ細かい刺繍を指先で感じ、こんなのかなと想像しつつ、少し先へ。
 もう少し肉付きが良くてもと思うぐらいに細い太股は、健康的にちょっと心配だ。
 けしからんモデル体形だと、ギュッギュと揉むようにする。
 マッサージするように丹念に触れていると、何故かあやかがもぞもぞとお尻を動かした。

「んんぅ、ぅん」

 唇同士が繋がっているのでその訴えの意味は分からなかったが。
 間近で見つめあい、あやかの瞳が少し開いた事で知ることができた。
 違いますと否定するように瞳を潤ませ、顔がコレまでにない程に赤い。
 さて、お尻がどうかしたのかなっと指先が逆戻りを始めるとそれはもう反応される。
 折角のキスでさえ中断しようとしたので、左手はあやかの後頭部を押さえつけた。
 強引にキスを続け、逆の右手は順調に太股からお尻へと向かった。
 駄目とふりふりお尻を振られたが、なんのそのと予想したそこへと辿り着いた。
 途端、観念したようにあやかは暴れるのを止め、カァッと頬を赤らめ瞳もギュッと瞑り、小刻みに震え始める。
 むつきが触れたのはショーツに包まれたあやかの陰部。
 しっとりどころか、大いに濡れたそこに触れるだけでショーツから染みた愛液に指先がぬれてしまった。

「ぷはぁっ」

 もう、あやかが可愛すぎて、折角のキスの最長記録でさえどうでも良くなった。
 空気、一先ず息がしたいとぜえぜえ言う間に、あやかははむつきの胸板にしっかり顔を隠していた。
 まだ殆どキスだけで、愛撫らしい愛撫もないままに準備万端となってしまったのだ。
 それは恥ずかしいだろうと、ニヤニヤしつつ顔を隠しているあやかを覗き込む。
 当然、今は顔を見られたくないとぷいっと背かれるように隠れられてしまった。

「あやか、ほらこの指見て。ショーツの上から触っただけなのに」
「し、知りません。違います、濡れてなど」
「俺は濡れてるなんて言ってないけど」

 こんな簡単な引っ掛けに引っかかる程に混乱しているらしい。

「先生、優しく。意地悪しないでください。なんでもしますから」

 それは男に言ってはいけないトップスリーぐらいの台詞なわけだが。
 あやかが言ってしまったからには、仕方がない。
 もうちょっと意地悪して可愛がってあげたかったが、濡れたのはお互い様。
 浴衣の中、さらにトランクスの中の一物は暴発寸前である。
 折角目の前に半裸のあやかがいるのに、それでは残念過ぎた。

「あやかのおっぱいでしてくれる?」
「先生がお望みなら。その、私の方も落ち着きますし」

 盛大に濡れてしまった陰部から離れてくれるなら、という意味であろう。
 俺はむしろ嬉しいけどと、最後にもう一度だけ触れるだけのキスであった。
 それから改めて抱き合ったまま一回転。
 最初とは逆周りすることで、ベッドの中央に戻ってきた。
 今からここでとブラジャーに盛り上げられたあやかの胸の谷間にもキスしつつ、こっそり浴衣をはだけてトランクスを脱いだ。
 さすがにこの状況で、ちょっとたんまとその辺で立って脱ぐのは格好悪過ぎる。
 見事隠れてクロスアウトを果たしたむつきは、仰向けに寝転がったあやかの上半身へと跨った。
 そそり立つ息子をさあ見ろとばかりに、あやかに見せ付けた。
 亀頭の先端から我慢できず流れ落ちる我慢汁をだ。

「先生、先生も……お濡れになって?」
「俺もあれだけで濡れちまった。別に、恥ずかしい事じゃない。朝からさ、好きな人と一緒に飯食って、ベッドインしたんだ。濡れて当然」
「ああ、先生愛していますわ。私の為に、そのような恥ずかしい見せ付ける行為を。存分に私の胸で。おセックスを」

 感動しているところ悪いが、むつきは逆に好きな子に見せ付けるのはある種快感があるのだが。
 その感動を壊して良い事など何一つ無い。
 ブラジャーで盛り上がった胸をあやかが両腕でさらに盛り。
 その隙間、現在のひかげ荘メンバーの中で最大級の巨乳の谷間に亀頭を添える。
 乙女の柔肌中の柔肌の谷間を男の見苦しい愛液で濡らし、あやかに視線で問いかけた。
 言葉なく、こくりと返されぐっと腰を突き入れた。

「ぁっ、熱い!」

 男の愛液では量が足りず、随分と摩擦が起きたらしい。
 もしくは言葉通り、むつきの一物の熱さに堪え身もだえしたのか。
 突如として大きくあやかが喘いだが、むつきも谷間の柔らかさに少し余裕がなかった。

「あやかのおっぱい、柔らかい。包み込まれて、気を抜くとイッちまう」
「先生、胸が」

 そんなあやかの訴えに先走りすぎたかと、抜こうとしたのだが。

「ちが、抜かないでください。むしろもっと、私の胸を熱く」
「あやか?」
「私の胸を滅茶苦茶に!」
「あやか!」

 そうだった、あやかは一線をさらに越えると突如淫乱な女の顔が出てくるのだ。
 財閥令嬢として我を抑え振舞っている為に、押さえつけられた女としてのあやか。
 そのあやかが望むなら、全て叶えてあげたい。
 ぱいずりで胸を滅茶苦茶にして欲しいなら、土下座してでもこちらから頼みたいぐらいだ。
 胸の谷間の割れ目を、陰部の割れ目に見立て腰を突き立てる。
 地殻変動で谷間を突き崩すよう、やや乱暴に、あやかの胸を蹂躙したゆませた。

「あやか、先端。先端舐めてくれ」
「ああ、先生の香り。ん、ちゅ。ぅっれぅ」

 あやかもむつきの言葉に応えてくれ、谷間を突き破ってきた亀頭に首を曲げ舌を這わせてくれた。
 むつきが腰を引き、谷間の奥底へ亀頭が引っ込むと、行かないでと舌を伸ばす程に。
 こんな可愛く綺麗で淫乱な少女が、処女だと誰が信じようか。
 自分だけのあやかを他の男に見せようなどと、欠片も思わないが。

「あやか、判るか。俺が、お前を孕まそうって俺の意志が!」
「熱い、先生が私の胸で。びくびく、鼓動が迸り。私に、私にかけてください!」
「イク、イクぞあやか。お前の綺麗な顔に!」

 あの高嶺の花を体現したあやかに、そう思っただけで一物が二倍にも三倍にも膨れ上がる気がした。
 その高ぶりのまま、あやかの胸の谷間を攻め上げ、ついに悲鳴が上がった。
 あやかでもむつきでもなく、あやかがしていたブラジャーから。
 むつきの攻め上げにホックが壊れたのか、弾け飛びあやかの胸がまた弾け飛んだ。
 ぶるんぶるんと抑えるあやかの手からさえ零れ落ち、むつきの一物を擦り上げる。
 もう駄目だと、むつきは越しまわりの高ぶりを全て解き放った。
 びゅるびゅると音が聞こえそうな程に、白く粘つく精液が亀頭の鈴口より飛び出した。
 あやかの胸の谷間から溢れ出るように、そのままあやかの顔へと。

「あやかぁ!」

 日本人離れした端整な顔を、粘着質の液体でべっとり彩っていく。

「ああ、あっ。先生がこんなにも、私の愛がこんなにも!」

 何度も何度も、むつき自慢の濃い精液であやかのお色直しである。

「あやか……綺麗だよ」
「せんせ、え?」
「大丈夫、あやかは可愛い!」

 折角の初夜、あの日の二の舞はしないとあやかが内に篭る前にむつきはそう叫んでいた。
 憧れの少女を自分の精液で汚し、彩りきった愉悦に染まる事なく。
 即座にあやかの両肩を掴み、一物さえ胸から遠ざけ腰を引き、あやかの唇を奪う。
 多少自分の精液で汚れていたが、そんな事より大事なことがとばかりに。
 あやかもむつきの行動に驚きこそすれ、取り乱す事なくそっとその背を抱き締めていた。

「凄く可愛かった、それに気持ちよかった。いやらしい女の子は大好きだから、好きなだけ乱れろ。折角、自分をさらけだす竜宮城にいるんだし」
「はい、先生とても男らしく素敵でした。その次は……」

 落ち着くなり次を求めるとは、本当にむつき好みの淫乱さんである。
 そのあやかの視線の先は、変わらずそそり立つむつきの一物と、自分の下腹部。
 一度は拒絶した愛撫無しに大量の愛液が染みだした陰部。
 請われるままにそっとむつきが手を伸ばせば、さらなる愛液に濡れていない箇所がない程だ。

「次は、私を気持ち良くしてくだしさい」

 視線でむつきに少しどいてもらい、あやかが自ら両膝を抱えお尻を持ち上げた。
 丸くボリューム感たっぷりなあやかのお尻、編みこみが綺麗な太股を包むニーソックス。
 ただ今回ばかりは、魅力的なそれら以上のものが。
 レースの編みこみのあるシルクのショーツ、その網目から覗く金髪の陰毛。
 べっとりと愛液で濡れたさらにその奥、染み出す愛液の送り先、あやかの割れ目だ。
 あやかのショーツに指を引っ掛け、膝まで脱がし順次足の先まで脱がしていった。

「ぁっ、ぁ」

 改めて、むつきもあやかのお尻を支え、ねっとりとあやかの陰部を視姦する。
 視られている、乙女の一番大事な部分をとあやかが吐息を漏らす。
 その声に導かれ、とぷりとあやかの割れ目からまた愛液の波が染み出してきた。
 愛液を割れ目から直接舌ですくい取る。

「はぅ」

 耐えられずあやかが膝裏の手を離してしまい、咄嗟にむつきが支えた。
 むしろそれ以上、あやかも自分を見ろとばかりにマン繰り返しの格好だ。

「せ、先生」
「気持ちよくしてやるよ」

 あやかの太股に頬ずりしながら、恥ずかしげに顔を両手で隠すあやかに囁いた。
 もう少し太股の感触を楽しみたいが、あくまで今度はあやかが気持ちよくなる番だ。
 また今度なとキスで別れを告げ、再びあやかが一番敏感に感じる場所へ。
 まずは胸一杯にあやかの女の匂いを胸に貯め、あやかに見えるように舌を伸ばす。
 ちゅくりとふやけたように柔らかいあやかの割れ目を尖らせた舌先で突き崩していく。

「んっ」

 くるくると舌先で大陰唇をより分け、小陰唇はまだ小さくより分けるまでも無い。
 両足を支えている為、その綺麗なピンク色を見る事は叶わないが。
 舌先に伝わる痺れるような愛液の苦味と処女の味わいである。

「んぅ、先生。そこ、もう少し奥が」

 閉じよう閉じようとする大陰唇から奥、膣口を探し当てつんと突く。

「んくぅ」

 喘ぎが耐えられず、けれど恥ずかしくもあり。
 両手は自由なので口を塞ぎたいが、事前にむつきが言ったいやらしい女の子が好きという言葉。
 どうするべきか、身を捩らせながら迷うあやかのなんと可愛い事か。
 そのあやかの膣口から奥へ、これがその処女膜かとチロチロ愛撫である。

「ぁっ、そこは、そこは!」

 もう二度と訪れる事はない、処女膜プレイであった。
 もう直ぐ破るからと、ビンビン弾くように舌で弄ぶたびにあやかが体を捩っていた。

「駄目、先生。奥が切なく、いれてくださいまし!」
「あやか、もう良いのか? もっと気持ち良く」
「切なくて気が変になりそうですわ……先生、私の。あやかの女の子に先生の殿方を」

 溢れる愛液のみならず、もはやあやかは気持ちまでもが溢れ返っていたらしい。
 淫乱なのに恥ずかしがりやという困った性質のはずなのに。
 そのあやかがマン繰り返しの格好から、さらに自分の両手で割れ目を割ってまで誘ってくれた。
 いやらしくも可愛いお嫁さんからの必死の嘆願である。
 種を付けてくださいと、その奥まで満たしてくださいと。

「あやか、このまま?」
「はい、共に一つになる瞬間を私も共有いたしたく」

 ならばもはや初めてたからとか、正常位には拘るまい。
 むしろ共有したいなら、破瓜の瞬間を見たいなら今の体位が一番であった。
 膝を支えていた手をまたお尻に戻し、更に上げていたお尻をあやかの頭上へと持ち上げた。
 ちゃんと見えるように、一緒になった瞬間も、種付けの瞬間さえ。
 あやかのお尻を持ち上げては支えて固定し、むつきはそそりたつ一物を割れ目に添えた。
 過剰な潤滑油により腰を落とすまでもなく、それは膣口の辺りにまで沈み込んだ。
 あと一押し、むつきが腰を落とせばあやかは少女から女へと生まれ変わる。

「あやか、行くよ?」
「はい、先生のものに。お嫁に貰ってください」

 喜んで、そんな返答をするようにむつきはあやかの中へと腰を落とし進ませる。
 僅かな抵抗、輪ゴムが耐え切れず切れたようなプチッという感触が感じられた。
 愛液に混じりじわりと破瓜の血が混じっては溢れ、ぽたぽたとあやかの顔に滴り落ちて行った。
 その瞬間、あやかが僅かに痛みに耐えるように片目を瞑っていた。
 しかし、痛みそのものはそこまで大きくはなかったようだ。
 直ぐにむつきを安心させるよう、赤味を帯びた蕩けた笑顔を向ける余裕さえあった。
 ならば躊躇は不要と、ずぶずぶむつきはあやかの中を突き進んでいく。

「はっ、くぁ。ぁっんんっ。先生、私の中が先生で」
「あやか、俺だけのあやか!」
「そうですわ、先生だけの。私は先生だけのぉ!」

 種が欲しい欲しいと愛液で呼び寄せていた膣内が、むつきの竿を舐り搾り取ってくる。
 その膣壁をあやかのむつきだけのものという台詞に後押しさえ、膨らんだ一物で押し返す。
 種は後で溺れるほどにくれてやるが、今はまだ駄目だとばかりに。
 貯めに貯めた竿であやかの中を満たし、一番奥へ。
 それこそ一番種を欲しがっているあやかの子宮、その唇へと亀頭でごちんとキスをした。

「あっ、ああ!」
「判るか、あやか。ここが、お前の子宮口だ。ほら、ここここだ」
「ぁっ、ぐりぐり。先生もっと、私の奥でキスをなさって!」

 つい数分前まで処女だったとは思えない程の乱れようだ。
 喘ぎ身を捩じらせ、自ら膣の形を変えてはむつきの竿を肉壁で擦り上げ。
 むつきの腰にあわせあやかの腰が共に揺れていた。
 今度はあやかが感じる番、よがる番だとは分かっていても理性が限界であった。
 ずるずるとカリで膣壁を擦りあげつつ、限界まで抜いていく。

「ああ、お抜きにならないで。私の中に、気持ち良くないですか。種を付けたくは」
「気持ち良くないわけがないだろ!」

 あるはずがないと、抜いた竿を今度は勢い良く貫いた。
 それこそ子宮口をこじ開けてその中にまで挿入する勢いで。
 亀頭で子宮を小突かれグンと体内を押し潰され、続いてむつきの尻も叩きつけられた。
 二重の衝撃、中と外からの同時の攻め上げに一瞬あやかは息が詰まったようだ。
 形容しゅる表現が見つからない、全く未知の、しかし恐怖を超える快楽の波。
 男女の違い、何故女は穴なのか肉体で直接教えられたような。
 しかし、それら全て頭に思い浮かんだ事は言葉にならず、口から漏れた声は全てが喘ぎであった。

「ぁっ、くぁ……奥、衝撃が。蹂躙される、喜び。もっと、先生もっと私を!」
「ああ、気絶するまで。何度でも、あやか!」

 ずん、ずんっと言葉通り腰を持ち上げては落とし、あやかの膣を穿つ。
 挿入など生易しい表現ではなく、まさに穿つ。
 男の一物で女の穴を穿つ。
 教師と生徒、そんな世間の認識など関係なく、ここに居るのは一組の男女。
 互いに腰を打ちつけ振り回し、破瓜と愛液、むつきの先走りも含めシーツに染みを造り上げる。
 女の奥に男の精を流し、次の世代となる子をつくる為に、それに伴う快楽を求め。

「あやか、これから毎晩。毎晩だ。俺の匂いがあやかからするまで何度でも!」
「ください、先生の精を。ぁっ、んぅ。お気持ちを、私の中に。気持ち良い、おまんこが良い。こんなの今までの行為が児戯と感じるほどに。良いですわ!」
「いいぞ、その調子だ。ちゃんと見てるか。俺がお前をどう、貫いてるか」
「んぅぁっ、はっ。くっ、もちろん。先生の逞しいアレが、私のおまんこを。いやらしい、これが雪広あやか。もう一人の、先生だけの雪広あやか!」

 びたびたと飛び散る愛液も愛おしそうに、舌を伸ばし口を開き受け入れるように。
 これが、男ではむつきだけが知る他には誰も知らないあやかの姿。
 深窓の令嬢、高嶺の花、住む世界が違う。
 そんな羨望で終わる男達とは違い、むつきを愛してさらけだしてくれているのだ。
 応えたい、あやかからの気持ちの数十倍は愛して返したい。
 世界中の誰よりも幸せにしてあげたいと、またもや一物が膨れ上がった。

「ひぅっ、お腹が。壊れ、先生。もう、奥に。私の奥に!」
「駄目だ、イクまでお預け。俺の種が欲しかったら、もっともっと喘げ!」
「無理、先生。気持ち良いんですの。こんなの、もっと先生のおちんちんでいやらしく。この雪広あやかを犯して。先生だけのものに!」

 今、何かが壊れたとばかりに、ビクンッとあやかの体が震え膣がキュッと締まった。

「あやか、今の感じ。ほら、もう一度、もう一度」
「いや、はしたないけれど。気持ち良い、おまんこ。おちんちんで、ヒぐぅ。精子が欲しいですわ。あやかのおまんこを、先生の精子で一杯にいぃッ!」
「イクぞ、あやか。ほら、俺の精子だ。受け取れ!」

 何時もむつきが見上げるようにあやかを見ていたのとは違う。
 あやかから、一般庶民であるむつきのそばに降りてきた。
 下世話な言葉を操り男の下に組み伏され、淫らに喘いでは精を欲しがり。
 けれど普通の女の子、何処にでもいるむつきが手を伸ばせば届く抱き寄せられる女の子。
 そんな新しいあやかの子宮へと、これでもかとむつきは精液を吐き出した。
 短い距離ながら重力での加速も加え、打ち付ける。

「ぁぁぅ、んぁ。熱い、精子熱いですわぁっ!」

 縦横無尽の乱射撃、穢れのないあやかの聖域とも言える子宮を精液で汚していく。
 何度でも何度でも残弾が無尽蔵であるかのように。
 子宮がもう飲めないと悲鳴をあげても、あふれ出さないようぴったりと一物で蓋をする。
 そこへさらに精液を流し込み、むしろ悲鳴を上げたのはあやかだった。

「いぐっ、先生。お腹が熱いですわ、死んで。死んでしまいます。おやめになって!」
「あやか、我慢だ。もっと、お前が望んだ精子を」
「変に、戻れなく。元の雪広あやかに、戻れなくぅ!」
「戻れなくなったら、一生俺の横に居れば良い。お前の帰る場所はここだ!」

 何一つ取り繕う必要はなく、あるがままあやかという女の子で居ればよい場所。
 その場所で全てを受け入れてくれる異性、男。
 もはや痙攣と見紛う勢いであやかが体を大きく震わせ、突如力を失った。
 あやかからの反射行動を失い、危うく倒れかけたむつきであったが。
 なんとか踏みとどまり、持ち上げていたあやかのお尻をベッドへと下ろしていく。
 当然、挿入したままなので改めてあやかと添い遂げる形となったわけである。

「あやか?」

 瞳も虚ろで、光が失せたあやかの頬をぺしぺしと叩く。
 何やら呻き声のような、呟きか囁きのようなものをあやかが唇からもらしている。
 だったら、王子様のキスでと、そんなあやかに返って来いと唇を合わせた。
 戻るまでこの唇は離さないと奇妙な近いさえ心に浮かべ、そのまま数分経ってしまう。

「んっ、お帰りあやか」
「せ、先生。気が遠い所へ、先生が呼び戻してくださらなければ戻れない所でしたわ」
「言ったろ、お前の帰る場所はここだって」

 改めてキスをして、互いに抱き締めあった。

「初体験、どうだった?」
「途中から、何が何やら。大変お恥ずかしいところを。先生、いやらしい女の子は?」
「大好き、俺は雪広あやかが大好き。ほら、まだ硬いだろ」

 このまま四回でも五回でもと、あやかの膣内をかき回してやる。
 多少それで精液があふれてしまうが、それ以上に注ぎ込む覚悟はあった。

「そ、それが申し訳ありません。腰が抜けてしまい」
「そっか、ちょい残念だけど。一人で俺の相手は大変だろ、また今度な?」
「そうですね、残念ですが。先生は皆の先生ですから。あながち、超さんによる先生の肉体改造は間違っていなかったようで」
「逆に二人きりの時、攻めすぎて無茶しちゃうから困り者だけどな」

 次は俺も気をつけるよと、あやかの中からずるりと一物を抜いた。
 それから改めて別途に同衾し、仰向けになったむつきへとあやかが幸せそうに寄り添った。
 時計ではまだ十時少し前、皆がやって来るまでの二人きりは二時間近くある。
 このままゆっくり、何を喋るでもなく小さな空間で二人きりで寄り添いあっていた。










-後書き-
ども、えなりんです。

念願のあやかの初夜回。
でもちょっと突っ走った感があるような。
ここ最近の話とくにエッチ回ではそうですが。
もうちょっとねっとりしたのを書きたいです。

それでは次回は水曜です。
夏休み編も残り十数話のはず、まだ描き切れてませんが。



[36639] 第八十七話 髪留め、似合ってるぞ
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2013/11/20 23:11

第八十七話 髪留め、似合ってるぞ

 特に京都近辺で極度の緊張を強いられていた桜咲は、寮の自室につくやぐっすりであった。
 最近関係の良好、良好すぎてアレな道に踏み込み中のお嬢様こと近衛とお風呂に入ったり添い寝する事もなく。
 少々気を解放しすぎて、熱いなとタオルケットを蹴り飛ばし、同室の龍宮にやれやれと掛けなおされたりもした。
 当然、そんな事は当人である桜咲は気付かないわけだが。
 そんな桜咲を目覚めさせたのは、来客を知らせる、客人が知らせるインターフォンであった。
 ピンポーンと電子音が深い眠りから引っ張り上げられた。

「うん……龍宮、誰か来たぞ」

 これで良し、後は龍宮に任せればと一度は眠りこけかけたのだが。
 ハッと自我を覚醒させるや否や、タオルケットを何度目の事になるのか蹴り飛ばした。
 お嬢様をお待たせするわけにはと、二段ベッドの階段を駆け下り。
 慌てて玄関先の扉を開けてみれば、思いもよらない人物の来訪に眼が点となった。
 そして、インターフォンを鳴らした客人も、勢い良く空けられたドアにビクッとしていた。

「ぁっ、宮崎さん」
「おは、おはようございましゅ!」

 それでもなんとか再起動を果たしたのは、宮崎の方が先であった。
 日々、男性恐怖症と戦っているせいか、頭を再起動させる手順が頭の中に完備、マニュアル化されているのだろう。

「おはようございます」

 桜咲も内心、半分寝ぼけた頭をフル回転させ、そう挨拶をひねり出した。
 だが、元々口数が多いほうではない二人の事である。
 唯一のつながりと言えば、近衛ぐらいの二人にとってそこからの会話が続かない。
 いや、そもそも挨拶だけではまだ会話とすらいえないだろう。
 しかしながら、こういう場合にはお約束というものがあった。

「あの」
「あの」

 重なる声、ギシッと固まる両者。
 心底困ったと顔が引きつるせつなに、あたふたする宮崎だった。
 今度先に復活したのは、桜咲のほうであった。

「宮崎さん、お嬢……ではなく、このちゃんなら来ていませんが?」
「いえ、あの……桜咲さんに。頼まれた映画、図書館島で見つけたので借りてきました」
「ぁっ」

 そうだ忘れてたと、自分から頼んだ事なのにすっかり忘れていた桜咲であった。
 映画とは、旅行中にむつきに教えてもらった古い映画の事である。
 ボディーガード、一度ぐらい観て見ろと言われ、宮崎を勧められたのだ。
 確かにお願いはしたのだが、まさか旅行が終わって疲れているだろうに翌日にしかも午前中に探してくるとは。
 さらにそれを桜咲自身が忘れてしまっているとは、恐縮せずにはいられない。

「ありがとうございます、恩にきります」
「そんな大げさな。私も久しぶりに名作の名を聞き、昨日夜遅くまで原作読んでしまいました。それで、早く桜咲さんに観て貰いたくて。すみません」
「こちらこそ、無理なお願いを。本当に、ありがとうございます」

 お互い玄関先でぺこぺこと、いえいえこちらこそと本当にお互い様なやりとりだ。
 両者共にそう思ったのだろう、くすりと笑ったのはどちらが先か。

「ありがたく、拝見します。何時ぐらいにお返しすればよろしいですか?」
「旧作ですので、一週間ぐらい余裕があります。木乃香さんと一緒に観てください。それでは、感想できれば聞かせてください。原作も持ってますので、よければそちらも」
「活字は……ははっ、善処しますです」

 人見知り同士、ぎこちなかった当初とは違い笑い合い小さく手を振って分かれた。
 自分の為に良い人だと、図書館島貸し出し用の袋を胸に抱き桜咲は宮崎を見送った。
 といっても、同じ寮内の事で直ぐそこにある自室に宮崎は戻っただけだ。
 それから自室の玄関を潜り、気付いた。
 起き抜けで寝癖がつきっぱなしで、しかもパジャマ姿であった事にだ。
 宮崎は旅行直後とはいえ、午前中からちゃんと私服に着替え活動していたというのに。
 ちょっと気を抜きすぎたかなと、借り受けたものを茶の間のテーブルに置いたところで龍宮の全身が映る姿見が目に入った。
 就寝中だったのでサイドテールを解いた自分、木乃香が何処からか買ってきたせっちゃんと筆書きされたプリントのパジャマ姿。
 着崩れた胸の隙間から覗くのは、中学に入り膨らみ始めた胸を押さえるサラシだ。
 思い出したのは、お世話になったばかりの宮崎である。
 髪もしっかりと櫛で梳いてさらさらで、内気な性格のわりに短めの赤いスカートにブラウス。
 去り際にちょっと良い匂いがした気がしたが、コロンか何かだろうか。

「女の子、か」

 テーブルに置いたDVDをチラっと見やり、思い出したのは宮崎から一緒にと言われた近衛ではない。
 これを勧めてくれたむつきの事だ。
 時計を確認すると現在時刻は十一時、お昼まであと少し。
 今頃むつきは、確か伝え聞いているのはひかげ荘であやかとの初夜のはず。
 そう思い出して、キュゥと胸がするのは何故か。
 それから意を決しクローゼットや箪笥を開き、桜咲が絶望するのは数分後の事だ。









 あの後結局、桜咲に残された手は近衛に協力を願い出る事だけであった。
 本当ならば、近衛には近衛できちんと考えて決めて欲しかったのだが。
 昼になるや否や、手を繋いで共にひかげ荘にやって来てしまった。
 玄関先で、格好が変じゃないか改めて見てみる。
 そしてちょっと落ち込んだ。
 何故、木乃香に可愛い服をと頼んだ結果、普段の制服姿なのだろうかと。

「このちゃん、今さらやけど。これ……」
「可愛えよ? せっちゃん、いきなり全部変えると目移りしてもうて見て貰えへんえ?」

 何時の間にか、頼み込んだ目的さえ看破されている気がするが。
 普段のカッターシャツにネクタイ、赤のチェックのスカートにスパッツ。
 ここまでは普段の制服姿だが、一点違うのはサイドテールを降ろしたボブスタイル。
 ワンポイントに猫の髪留めを使って、左側の額の髪を纏めたぐらい。
 確かに変にめかし込むのもおかしな気はするが、髪留めが気になりついつい触れてしまう。

「や、なくて。このちゃんはええの?」
「確定やないけど。せっちゃんが選らんだ人やもん。それにうちかて、少しは先生の事を知っとるえ。お爺ちゃんが持ってくるお見合いの人たちよりよっぽど」

 気になったら行けば良い、確かめれば良い。
 意外とおせおせな近衛の正確は知っていたつもりだが、まだまだだったらしい。
 その積極さを分けて欲しいとばかり、繋いでいた手をキュッと握った。
 にこにこ覗き込む近衛の前で一、二度程深呼吸を繰り返しインターフォンを鳴らした。
 現在時刻は十二時半と、きっと初夜は終わっているはず。
 インターフォンを鳴らしてから、もっと時間を空けるべきだったか。
 気を利かせろよと言われるような気がして。
 いや、そもそも初夜とはどれぐらい掛かるのか、何度ぐらい出来たのか。
 夏の日差しも加わり、頭がぐらぐら煮詰まってくる気がしてきた。

「せっちゃん可愛え」

 呼吸も浅く、眼がグルグルしだした桜咲の頬を楽しそうに近衛が突く。
 普段ならこのちゃんこそと言っていたろうが、そんな余裕もなく。

「おう、お前らか。早いなって、相変わらずだな」
「へっ?」

 玄関を開けて出迎えてくれたむつきが、そう言うまで現状に気付く事さえなかった。
 相変わらずとは、幼馴染の可愛さに我慢できず頬にキスした近衛の事だ。

「こ、このちゃん!」
「えー、ええやん。そんな恥ずかしがらんでも。先生、今日はゆっくり映画観ませんか。せっちゃんがのどかに、例の映画借りてきたんよ」
「さすが宮崎、こういう仕事は早いな。よし、これから皆で遊戯室の大スクリーンで観るか」
「あっ、うちら早いと思ったのに遅いぐらいやったんか」

 これまた驚きの情報に、驚いたのは桜咲だけだが、眼が点となっていた。
 気合を入れてきたのに、既に他のメンバーが揃っていればそうなるだろう。

「ははっ、そうですね。皆で……」

 空回り過ぎると、半涙目になった桜咲は少しここが何処か忘れているようだ。
 ひかげ荘、自己の内面を惜しげもなくさらけ出しても許される場所。
 そういう場所だったと、思い出すのはもう少し後である。
 がっくり来た桜咲の手を近衛が嬉しそうに引き、やって来たのは遊戯室であった。

「先生の殿方が体を引き裂くように貫き、内側から蹂躙され。ですが、言葉とは裏腹に広がったのは快楽と興奮。愛を感じる暇もなく、嬌声をあげてしまいましたわ」

 そこでは乙女達、半数は非処女だが、あやかを中心に質問タイムであったらしい。

「やべえ、委員長に淫らになられたら趣向を凝らさないと、影が薄くなっちまう。より一層、エロコスチュームに磨きをかけねえと」
「貧乳はステータス、あれこれ意外と私だけの武器なのでは?」
「うーん、うちみたいな標準が一番困るわ。長谷川さん、うちにもエロエロ貸してや」
「聞いてたら、濡れてきそうに。久しぶりに、チアコスで先生の上で踊りたいな」

 あやかを中心に誰もがうずうずと、目の前に手を付き前のめりであった。
 コスプレから、服飾系から更にエロコスと千雨の未来の方向性は何処へいくのか。
 夕映は新たな自身の魅力に気付き、亜子は中途半端だと胸に手を置き困ったり。
 美砂は、何時も通りエロイ事大好き、今からでもと言い出しそうな程だ。
 この場にいるのは上記面々に加え、アキラぐらい。
 割と初期からいるメンバーばかりであった。

「おーい、エロ漫談もそこまで。出来れば俺の夢を壊さないように、レディーストークは俺のいないところでやってくれ。ほれ、桜咲。DVDは?」
「はい、ここに……どうやって観るのでしょうか?」
「なんだ、映画か? うわ、健全な家デートみてえ。貸してみろ桜咲」

 こういうAV機器は私の領分だとばかりに、千雨が桜咲からDVDを受け取った。
 即座に察したあやかが、カーテンを閉めようと立ち上がりかけたのだが。
 ピリッと股座に走った痛みで、お尻を数センチ浮かすのみに終わる。
 それで午前中の情事を思い出し、一人カァッと顔を赤くしたあやかに皆が頷き肩を叩いた。
 その気持ち分かるとばかりに、亜子や夕映が変わりにカーテンを締めに行く。
 むつきも何か言ってあげたいが、今は何を言っても逆効果だろうと何も言わなかった。
 それから家主の特権とばかり、巨大スクリーン正面のソファーに陣取る。
 当然、美砂とアキラがその両隣を狙うわけだが、今日は少し違っていた。

「美砂ちゃん、先生ちょい貸してくれへん?」
「あれ、木乃香も先生にラブラブ?」
「ううん、せっちゃんが。恥ずかしがりやさんやから、うちが言い出さへんと何も言わへんから。ほら、せっちゃん。先生のお膝の上、空いとるえ?」
「このちゃん!?」

 おや、それは何時の間にとむつき含め、皆の視線が集った桜咲はたじたじだ。
 はようと木乃香に進められても、一歩も歩み出せないぐらいに。

「先生、何時の間に。旅行中、なにかあったの?」
「聞かれてもさっぱり。あっ、ほら千雨がセットしてるDVD、勧めたの俺。なんか桜咲は、近衛のボディーガード的な存在らしくてな」

 アキラに尋ねられても、好かれるような事はなにもと返すしかない。
 確かに旅行中に一度相談こそされたが、膝に座らせてすりすりセクハラしただけだ。
 ほらほらと、亜子までもが桜咲の後ろにまわり背を押すも、当人は足元で踏ん張っている。
 少々、近衛の早とちりというか、まだちょっと興味がというところであろう。
 これでは、折角のDVDも気もそぞろで集中できないのではないだろうか。

「ほら、お前ら。あんまり桜咲を苛めてやんな。恥ずかしがってんだろ」
「しゃあない、せっちゃんが座らへんなら。先生、失礼するえ?」

 お先っとばかりに、ぽふりと近衛がむつきの胡坐の上に腰を降ろしてきた。
 脊髄反射的に、そんな近衛のお腹に手を回してしまったわけだが。
 一瞬思い出したのは、爺さんの台詞だ。
 近衛に手を出すならば、それなりの覚悟をしておけと。
 うーんと迷いはしたが、抱き締められ見上げてくる近衛を見ていると親しいお兄さんに甘えているような感じである。
 ノーカン、手は出していないとスカートの裾にフリルのあるワンピース姿の近衛を改めて抱き締めた。
 黒い日本人らしいストレートの髪に鼻先をうづめ、すんすんと匂いを嗅いでしまったが。

「やん、先生あかんえ。うちまだ、そういうつもりあらへんから」
「美少女が膝の上にいるのに無茶いうな。ちょっと抱き締めるだけ。おーい、俺の傍はあと両隣だけだぞ。早い者勝ちか?」
「うーん、折角委員長が初夜したばっかだし。右側が委員長ね」
「あ、あの……思い出したら、腰が。何方かお手を」

 美砂の仕切りであやかが右隣となったが、四つん這いで腰をぷるぷるしている。
 セックスアピールなら尻の向け先が違うと、DVDをセットする為にしゃがんでいた千雨のお尻で押されていた。
 簡単にぺしゃっと転んだおかげで、むつきの手が届きひっぱりあげる。
 残り一席となったわけだが。

「うちとアキラは、明日から水泳部の合宿で先生二人締め、小瀬先輩いれると三人締めだから今回は辞退しとく」
「うん、亜子の言う通り」
「私もパス、映画とか集中してる時に悪戯されるとキレるタイプだから」

 亜子とアキラ、それから千雨が辞退したわけで残るは美砂と夕映だ。
 しかし、そうなってしまえば、答えは簡単だった。
 まず美砂が私っとばかりに跳んでむつきの左手に陣取り、両手を広げた
 なる程と、その意味に気付いた夕映がとことことやって来て、美砂の腕の中に収まる。
 小さい事はやはり良い事かと、正面、両隣に加え四番目の居場所であった。
 女の子が一杯で嬉しいと、美砂とあやかの腰を抱き、共に夕映も抱き寄せ、正面の近衛は語るまでもない。
 これ映画に集中できないだろうという、千雨の呆れ顔もなんのその。
 亜子もじゃあ私はアキラの腕の中と、別のソファーに座り、千雨は一人で別のソファーを独占だ。
 そこで全員気付いたが、まだ桜咲が所在なさげにぽつんと立っていた。
 何処へ行けばとおろおろしようにも足の向けばも判らない始末であった。
 意外と、日常生活では近衛がいないと何をして良いかわからないタイプか。

「せっちゃん、ここ空いとるえ。夕映と亜子ちゃん見て、気付いたえ」

 そう近衛が誘ったのは、むつきの胡坐の上の近衛のさらに膝の上だ。
 ちょっときついと思いはしたが、むつきは当然目して語らず。

「えっ、あの……」
「桜咲、お前が持ってきたDVDだけど、早くしろよ」
「お前はどんだけDVDが見たいんだよ」
「ぶっちゃけ、先生が好きな映画、好みを知りたいだけだ。言わせんな恥ずかしい、乙女的に。あぁ、恥ずかしい。セックス、セックス!」

 純な自分が恥ずかしくなったのは、下ネタ大好きとばかりにわざとそういい始めた。
 十人近い乙女がこの場にいて、セックスと言う言葉に照れたのが三人とはどういうわけか。
 二人はもちろん、近衛と桜咲、後は午前中に処女を失ったばかりのあやかだ。

「やめろ、馬鹿。俺の上に近衛がいるんだぞ、勃起したらどうする」
「大丈夫、トンカチ持って来てるえ?」
「お前最初から……ええい、桜咲。座れ、十秒以内に座らないと近衛に悪戯するぞ」
「やーん、せっちゃん助けて。先生にエッチなことされてまう」

 えいっと近衛の頬を突けば、それはもう素早く、風のような動きで桜咲が近衛の膝の上に座った。
 セックスと叫んだ千雨と、頬を突かれエッチなことと言った近衛。
 どうしてこうなったといわざるを得ない差だが、千雨をそうしたのはむつきだ。
 考えまいと、手を伸ばし桜咲がずり落ちないようシッカリ引き寄せ抱き締めた。

「やっと、人数多いと大変や」
「長谷川、照れてないでそろそろ」
「どんな映画だろう?」
「私はのどかから聞いてますので、題名は知ってます。内容は詳しくありませんが」

 苦笑した亜子を腕の中に置き、アキラが照れ中の千雨を促がす。
 ちくしょうと震える手でリモコンを操作すると、巨大スクリーンの上で映像が流れ始めた。
 題名すら聞いてないと呟く美砂に答えた夕映に、ネタバレは気をつけろよとむつきが腕を回し撫で付ける。
 ふいに、誰の話し声も聞こえなくなったのは、条件反射である。
 だがどうしてDVDは別映画のコマーシャルから始まるのか。
 始まったかと思いきや、これは面白そうだと思った直後に、全然違う映画だったなど一度や二度ではない。
 またかと、一気に脱力したような溜息が、複数上がっていた。
 思わずむつきも脱力して、近衛の肩に顎を置いて頬を寄せ合ってしまった。
 その気はまだないと言われたのでまずかったかとも思ったが、チラリと眼があった。

「先生、私の手見とってな?」

 むつきにだけ聞こえるような、小さな呟きである。
 美砂や夕映、あやかはスクリーン上のコマーシャルを興味深げに見ていて気付いていない。
 近衛の手とは何の事なのか。
 肩越しに見下ろしてみると、桜咲の腰に手を回しているのはまわしている。
 ただし、横腹から急降下しては股座に、そっとスカートをたくし上げていた。

「このちゃん、あかんて気付かれてまう」
「動いたらあかん。それこそ、先生に気付かれてまう」

 こそこそと耳元で囁きあうのは良いが、現在むつきの顔は近衛の直ぐ隣だ。
 気づかれぬよう前を向いている為、桜咲はソレに気付かない。
 カーテンを閉めた暗がりの中で、近衛の手がごそごそと桜咲のスカートの中で動いているのが判る。
 ついに長い宣伝も終了し、本編が始まりそうなのだが。
 桜咲をまさぐる近衛の手は止まらなかった。

「んっ」

 小さな桜咲の喘ぎは、幸運な事に直前に千雨が音量を上げた事でかき消されていた。
 ちょっと大きすぎるが、好都合なので構わない。
 眼を凝らせば、喘ぎこそかき消されているが、ピクピクと桜咲の肩が震えて居るのがわかった。
 本当、近衛は意外とおせおせと言うか、S気質である。

「せっちゃん、もう濡れ濡れしとる。こすこすするつもりが、ぎゅっぎゅって気付かれてまうえ?」
「堪忍やえ。先生に聞かれて」
「ほなら、先生にも触れて貰うえ。その為のスパッツやん」

 辛うじて聞こえた弱々しい桜咲の訴えを、にっこりとした笑顔でばっさりだ。
 ああ、そうなんだと、Sは嗜虐的な顔をせず、あえて笑うんだといらん知識が増えた。
 しかしながら、見ているだけとはなんともどかしい。
 しかもスパッツ、この為に普段の制服姿でスパッツとは、触れたいすべすべなんだろうなと妄想が止まらないのだが。
 これ、俺に対してもSっ気が向いてないかと、気付いた。

「先生、せっちゃん可愛えやろ。気付かれとるのに、気付かれへんかビクビクしとる」
「なんていうか、お前なんか変じゃねえか? 普段のラブラブとちょっと違う気がする」
「だって、うちの知らん間にせっちゃん先生もラブなんやもん。これからは、ずっと一緒やえって約束したのに。恋愛ぐらいしてもええ、けど秘密にされるのはやや」
「お前おおらかと思いきや、束縛するタイプだったんだな。桜咲限定かもしれんが」

 数年の間、疎遠となっており、ようやく復縁した反動か。
 おしおきだとばかりに、桜咲を愛撫する近衛を落ちつけよと頬ずりした。
 やはりまだその気がないせいか、さすがにそこまでされると近衛の手が止まった。

「親友だから、なんでもかんでも相手に明かす。そうして欲しい気持ちは分かる。けどな、親友だからこそ話せない事だってあるんだぜ?」
「そんなの、だって……うちが、せっちゃんの一番やもん」
「誰かの一番になりたい、その気持ちは大事だ。けど、ああしろ、こうしろって束縛するのは違う。桜咲だって、近衛のいう事はなんでも聞いてあげあいだろうさ。けど、嫌々はお互い気持ち良くないだろ?」

 離れた近衛の頬を追うように、また頬をつけた。

「良く聞け。俺だって、できる事なら四六時中美砂達とセックスしてたい。朝昼晩、平日だって社会科資料室に引っ張り込んで過激な事もしたい。けれど、しない」

 もちろん、社会的に危ない事はしたくないという気持ちも確かにある。

「俺には俺の、美砂達には美砂達の生活がある。恋人だろうが、嫁だろうが踏み込んじゃいけない部分だってあるんだ。もしそこに踏み込んで全て言いなりにさせたら、もう対等じゃない。言いなりの人形だ」
「ちが、うち違う。せっちゃんが好きやから、何処にも行って欲しないから」
「思春期だから、ちょいたがが外れただけだ。大丈夫、お前は優しい子だから、そんな事はしない。悪い、言い過ぎた。泣くな、慰めたくなる。もちろん抱いて」

 ふるふると震えた近衛の瞳から零れた涙を、唇で吸い取り受け止めた。

「まあ、なんだ。お前らにエッチな事を教えた責任はとる。ちゃんと毎回、心は通い合わせとけ。親しき仲にも礼儀あり」
「こ、このちゃん……意地悪せんといて、手止まってまっとる」

 むつきの言葉の途中で訴えられた桜咲の呟きに、二人して目を合わせクスッと笑う。
 桜咲が求めてるなら仕方がない。
 近衛も、一方的ではまだなかったかと、少しほっとした様子だ。
 ちゃんとむつきの言葉も身に染みたようで、いつものほわほわした笑顔だった。
 しかしながら、その笑顔の中に少しだけ男を誘うような笑みが含まれていたような。

「先生、責任ちゃんととってな。うち、せっちゃんに一杯気持ち良うなって欲しい。女の子の弄り方、教えてんか。うちの体を使って、実習で」
「その気、なかったんじゃないのか?」
「ないえ。本番はさせたらへんけど。これも授業や。実地教育。うちが先生に悪戯された通り、うちもせっちゃんに悪戯する。気持ちええこと、教えてや?」
「この状況で難しい事を……」

 美砂やあやか達に気づかれぬよう、まずはそれとなく近衛の腰に手を回した。
 それから、あえて両隣の二人へと声をかける。

「すまん、美砂。それにあやか、体勢が。ちょい座り直すわ」
「うん、良いよ」
「どうぞ、お気になさらずに」

 椅子へと深く腰掛けた一瞬、近衛の腰を引きつけ手はそのまま浮いたスカートの奥へ。
 ビクンっと近衛が大きく震えたが、同じように桜咲の腰を引いたようだ。
 これはこれで面白いプレイかもしれない。
 再び近衛の肩に顎を置き、話しかける振りをして頬にちゅっと唇をつけた。
 明かりいらないなと思う程に近衛が赤くなり、困ったような照れ笑いだ。
 それから実際愛撫の始まりだが、桜咲のスカートの奥の状況は不明。
 しかしながら、意地悪しんといてと近衛の手が止まっていた事を考えるとまずはである。

「ゃっ」

 スカートの奥、近衛の太股に手を這わせ、秘所から遠い場所での愛撫である。
 小さく戸惑いの声が近衛から漏れたが、優しくするからと耳たぶを食んだ。
 唇でこりこりしつつ、指先でくすぐるように太股の上を滑った。
 徐々に股下へと近付いていくように、閉じようと膝が動くがもちろん出来ない。
 足の間に桜咲がいる為、閉じられないのだ。
 誘った割には焦ってるなと、太股の付け根に近付いて直ぐにユーターンである。

「手が止まってる。桜咲にも同じように」
「ぁっ、はい。ごつごつの手、せっちゃんと全然ちゃう」

 そりゃ違うはずだと、そのごつごつの手で恐らくは白いすべやかな太股を堪能する。
 桜咲はスパッツだったはずなので、近衛がこれを味わわないのは惜しい。
 それに秘部に触れて欲しいのに何故と、焦らしプレイにもなるはずだ。
 近衛は結構直球的な正確なので、焦らしプレイなどした事もないだろうし。

「せっちゃん、気持ちええ?」
「なんや、ちゃう。いつものこのちゃんちゃう、はよう。はよう、触ってや」

 桜咲も理由は不明ながらソレに気付いたようで、居辛そうにお尻を揺らしている。

「良いか、焦らしプレイは如何に相手にどうしてって思わせるかがポイントだ。遠くから近くに、相手にやっとかと思わせる」

 最初にしたように太股の浅い部分から奥に、徐々に秘部に指先を向かわせた。
 付け根の小さな谷間を声、肌とパンツの境に到達する。
 最初から焦らしと聞いていた近衛はまだしも、桜咲がキュッと小さく体を縮めた。
 次の瞬間、秘部からまた遠ざかりお腹の上におへそを指先でくすぐった。

「このちゃん……」

 切なげな呟きと共に、桜咲が涙を一杯溜めた横目で振り返ってきた。

「一体なんの事だってにっこり笑え。その気がないんじゃって、不安にさせるんだ」
「せっちゃん、ほら今ええところやえ。映画、集中せんと」
「だって、このちゃんから」

 自分から誘ったのにと、今にも涙が零れ落ちそうだ。
 ぞくぞくと消え入りそうな桜咲の呟きに、近衛が身震いを起こしていたのがはっきりと判った。
 本当に思い込みによるものだけでなく、Sっ気が多い事。
 そんなS気に答えるように、おへそをいじる事から一点、中指を強めに割れ目に押し付けた。
 まだむつきは触れた事はなかったが、やはり思ったとおりしっかり濡れていた。
 ぬるりとパンツ越しに近衛の割れ目の中へと指が沈み込む。
 あれだけ桜咲をねちっこく苛めていれば当然か、かなり激しく近衛が打ち震えた。
 それと同時に、桜咲もスパッツ越しに指を突っ込まれたらしい。
 何処までも同じ愛撫でと、近衛が快楽の中でもしっかりと桜咲を攻め立てていた。

「ひぐっ」

 一際大きな悲鳴のような喘ぎ、ちょっとだけ力加減を誤ったらしい。
 なら次は意地悪を止めて、ごめんねの意味をこめて優しく陰部を撫でさせようと思ったのだが。
 シャーッと、カーテンが開かれ夏の燦々太陽とご対面で眼が眩んだ。
 近衛も桜咲も突然の事で、光に目を貫かれソファーの上で転がってしまう。

「馬鹿、誰だ。急に、眼がチカチカ。痛てえ!」
「馬鹿じゃない、この淫行教師!」

 意地でも近衛を放さなかったむつきを誰かが蹴ったが、そんな事をするのは一人だけだ。

「言ったよな、私。映画とか、途中で邪魔されるとキレるタイプだって。なに、映画館プレイしてんだよ!」
「いえいえ、これはこれで。気付かれてないと思って、徐々に楽しみ始める恋人を覗くプレイもなかなか。先生、出来れば次は私もその映画館プレイを」
「委員長一人だったもんね。夕映ちゃん、気持ち良かった?」
「先生に出会う前なら、柿崎さんと禁断の愛に目覚める程に」

 可愛いなあもうっと、美砂が夕映を抱き締めるのを見てさらに千雨が青筋を浮かべていた。
 さすがに同じソファーで致していてれば、あっさりバレるものらしい。
 見せる顔がないと、両手で恥ずかしそうに顔を隠しているのは何も知らなかった桜咲ぐらいだ。

「アキラも上手になったね。うちも、あと少しでイケたのに」
「私からすると亜子小さいから、壊しちゃいそうで加減が。普段は攻められる立場だし」
「お前らもかよ。もう、良い」

 宣言通り、半ギレの千雨はプレイヤーからDVDを抜き始めた。

「ごめん、千雨。謝るから」
「嫌だ、先生とのセックス好きだけど。こればっかりは嫌だ。旅行連れてって貰ったし、強請ってばっかだけど。あっ、ちょっと待ってろ。いいか、待ってろ!」

 そう指を突きつけた千雨が、遊戯室を飛び出しばたばたと、あの足音は階段を登っていく音だ。
 ちょっとばつが悪そうに、皆でしょぼんとしていると似たような足音で千雨が戻ってきた。
 部屋に入るなり、むつきへと投げつけられたのは例のむつき君人形だ。
 千雨も確か三つぐらい所有しているはずで、そのうちの一つだろう。

「先生はこれから、私の部屋で一緒にDVDを見ること。もちろん、エッチはなし。イチャイチャは可。もちろん、それを抜いてからもなし、今直ぐにだ!」
「どういうキレ方。判ったよ、怒らせたのは俺だ。千雨、DVD貸せ。今のお前、壊しそう」

 憤った千雨からDVDを取り上げ、パッケージに仕舞い図書館島の袋に丁寧に入れた。
 それから、忘れちゃいけないと赤面する顔を未だ隠し、女の子座りの桜咲の目の前にしゃがみ込んだ。
 おーいと呼びかけるも、無言で顔を隠しながらぶんぶんと振られてしまう。
 注意されたばかりなのにやってもうたと近衛が言ったが、むつきとて同じだ。
 なのでせめてもの罪滅ぼしにと、その髪留めをつけた髪をそっと撫でた。

「髪型、何時もと違うな。髪留め、似合ってるぞ」
「先生?」

 少しだけ指の隙間から見上げられ、良い笑顔で笑ってあげた。

「これから二時間、俺は千雨のもんだから。その後で、また一緒に観ような。今度はエッチなし、お前は俺の膝の上」
「は、はい……」

 あとは任せたと、近衛の頭もぽんと叩き、遅いと尻を蹴り上げる千雨を伴ない彼女の部屋へ。
 残された形となった美砂達だが、あやかの初夜に続きお話のネタには困らない。
 むしろ、何時から何があったと、むつきを乙女の瞳で見つめる桜咲へと質問の嵐である。
 しどろもどろで要領を得なかったが、お嫁さん候補がまた一人増えそうな事だけはわかった。
 それから親睦会だとばかりに、如何に女の子同士で気持ちよくなるか。
 桜咲も仲間に加わり易い話題で持って、実践付きで続きをはじめることになった。









-後書き-
ども、えなりんです。

むつきは特別キザでもないのですが。
わりと普通に女の子を褒める。
確か夏祭りの時も木乃香の浴衣姿を見て普通に可愛いって言ってたし。
本当に日本人か。

あと最後に千雨が投げたむつき君人形。
旅行の話ばかりで、読者も忘れていたのでは。
そしてすべての人形が消費されることはたぶんないでしょう。
誰が何個持ってるのか、作者も忘れてます。

次回は土曜日です。



[36639] 第八十八話 先生の太くて硬い。こんなの初めてぇ
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2013/11/23 20:37

第八十八話 先生の太くて硬い。こんなの初めてぇ

 さすがに個人の部屋にテレビはないのでポータブルのDVD再生機での鑑賞である。
 遊戯室のテレビの十分の一以下の画面サイズだが、映画の鑑賞中はお互い完全にずっと無言であった。
 俺たち恋人同士だよなと頭の片隅でちょっと疑問に思ってしまうぐらいに。
 言葉通り、千雨は集中する時はとことん集中するらしい。
 用意しておいた麦茶も、映画が始まれば一切口をつけず、食い入るように映画を見ていた。
 古い映画ではあるが、その点についてはお気に召したようだ。
 むつきも久々に見ることになった名作を前に、それなりにくぎ付けではあったのだが。
 やはり可愛い嫁が自分の胡坐の上にいると、とことん集中とはいかなかった。
 なにしろ千雨はタンクトップにホットパンツ、あまりにもラフな格好であったからだ。
 集中していた為か、千雨が静かに呼吸するたびにタンクトップの裾から見える丸い横乳も小さく揺れる。
 涼しく気温調節されているひかげ荘とはいえ、まだ陽の陰りも見えない夏の日差しはさんさんとしている。
 真剣なまなざしを送る千雨から香しい汗の芳香を感じとって集中しろという方がまず無理であった。

「ん~……まあまあ、面白かったな。妙なファンタジー要素もないし、正統派。もう、こんな作品は出なさそうだよな。猫も杓子もCG、CGの世界だし」
「まあな、最近の流行はファンタジー要素があるもんが多いな」

 映画がエンドロールに差し掛かったところで、ようやく千雨も体の力を抜いたようだ。
 背伸びのついでに伸ばされた腕をかわしつつ、ずり落ちるぞと後ろから抱きしめる。
 そのむつきの手をそっとにぎりながら、千雨が頭上を見上げるようにしてきた。

「先生、悪いなさっきはぶち切れちまって」
「悪かったのは俺だからな。映画見ようって誘っといて、他ごとしてたんだから。皆も気にしてないだろうけど、一応は後でお前からそう言っとけ。なにも言わないよりは良い」
「あいよ。でも、もう少し。独り占めさせてくれ」
「お前にしては、やけに甘えるな。何時のも憎まれ口はどうした?」

 セックス後の美砂とは言わないまでも、むつきを見上げたまま伸びをした時の手で顔をぺたぺた触ってくる。

「いや、その……」

 なにか言いづらそうに、千雨が視線をそらしていく。
 そして何を思ったのか居住まいを正すように、むつきの胡坐の上にきちんと坐りなおした。
 むつきからは後頭部しかみえないが、ややうつむき加減で照れているようにも見える。

「先生のことだから、気づいてねえかもしれねえけど。私と先生って、二人きりになったことないだろ?」
「あれ、そうか? ん、そう言えば……初夜も、亜子と一緒に。初家デートじゃねえか」
「皆と一緒の時はほら、ノリでなんとかなるけどさ。二人きりだとちょっと、どうして良いかわかんなくて」
「どうしてって……例えば、えい」

 美砂と二人きりの時のように、唐突に千雨の胸を一指し指でつついた。
 タンクトップの脇から覗く、白く柔らかい横乳がとても良い弾力であった。
 ずっとこの男を誘惑する丸い球体が気になってしかたなかったのだ。
 さらにこの流れで、千雨がやんっと可愛い悲鳴をあげてイチャイチャするつもりである。
 しかし、予想に反してというべきか、体をビクリと震わせた千雨が硬直し、腕で胸を隠してしまう。
 その表情を覗き込むまでもなく、大照れで反応にこまった初心な感じであった。

「ば、ばか……急に、そんな」

 決してむつきと視線を合わせぬよう、胸を抱いたまま体を丸めていく。
 千雨の反応に別の意味で胸がキュッと締め付けられ、誘惑されてしまった。

「予想外過ぎる可愛い反応。千雨、ちゅーしようぜ、ちゅー」
「や、やめろよ。こんな明るいうちから、やだ。先生ぇ、だめ」

 わざとらし過ぎるぐらいに唇を突き出すと、千雨が力が全く入っていない手で押し返してくる。
 強引に押し倒せばそのままセックスまでいけそうだが、それでは面白くない。
 普段は口が悪いくせに、意外と初心な面もある千雨をもう少し堪能したい。
 むしろ、いやだ、だめと力弱く呟く千雨を少しずつほどき、いやいや言わせながらしたくなった。
 両手も千雨のお腹を抱き留めるだけでなく、指先でおへそ周りをさすったり悪戯するなら今、とばかりに。
 ついにはむつきの膝の上から逃げようとした千雨をしっかり抱き留め、さする。
 ホットパンツから伸びる白く悩ましい足を、元々インドア派なので腰回りにぷっくりついた肉を。
 愛撫ではなく、セクハラといった方が正しい手つきで千雨を追い立てた。

「千雨から部屋に誘ったんだ。期待、通りの結果だろ?」
「ちが、そんなつもりじゃ。手つきがいやらしい、本当にだめ」

 が、はやり千雨は千雨であったらしい。
 もしくはむつきのセクハラが過ぎた結果か、ブチっといった。

「やめ、ろって言ってんだろ!」

 それはもう、見事な肘鉄がむつきの鼻っ面にヒットした。
 思わず肘鉄した千雨がやべっと顔色をかえるぐらい、非の打ち所のない一撃である。
 逆に千雨がびっくりするぐらいむつきが吹き飛び、畳の上に頭をぶつけてしまった。

「ぐほっ、んが。ボキって、変な音。千雨、俺鼻血出てねえ?!」
「わ、わりい先生。大丈夫、鼻血は出てない。鼻回り赤くて、涙ぽろぽろ出てるけど」

 猛烈な痛みに苦しんでいるむつきには悪いが、千雨は内心ため息をつきたくてしょうがなかった。
 当たり前だが、千雨だってごく普通の女子中学生だ。
 普段、むつきと憎まれ口をたたき合ってはいるが、美砂達のように甘いひと時を過ごしたいと思う。
 恐らく先ほど胸を触られた時だって、美砂ならば笑みの中に期待を込め、仕返しとか言いつつむつきの頬にキスの一つでもしそうだ。
 しかし千雨の場合は、どうしてもむつきを前にするとしおらしくいられない。

「でもまあ人生、諦めが肝心かもなぁ……」

 ネットの上でしか自己主張できなかった自分が、イケメンではないとはいえ彼氏ができたのだ。
 例えそれが自分の副担任かつ、クラスメイトに手あたり次第手を出す変態鬼畜教師でも。
 あまり望み過ぎても罰があたるよなと、ちょっと自己完結である。

「千雨?」
「なんでもない。ほら、動くなよ」

 ちょっとだけ自己完結をして、むつきの顔を手に取り、ティッシュで涙や脂汗を拭いてやる。
 しばらくして痛みも引き始めたらしいが、むつきはじっと千雨を見つめていた。
 稀にしかみることのできない、結構貴重な千雨が、皆が好きなむつきの力強い瞳だ。

「はい、綺麗になった。よっ、立派な女たらしの顔だ。純性和風天然お嬢様と、その護衛の女武道が待ってんぞ。挿しても良いけど、刺されんなよ」

 一足先に立ち上がり、さあ行って来いとごまかしたが、もちろん通用するはずがない。
 遅れて立ち上がったむつきを送り出す前に、逆に引き留めるように腕を掴まれてしまった。

「なんだよ、先生。近衛たちの前に、一発ちうちゃんで抜きたいのか?」
「千雨」
「ん?」

 この夏場、そんなにも見つめられたら火が付くと思えるほどにむつきから見つめられる。
 根負けというわけではないが、じりじりと視線が泳ぎ出したのは千雨であった。
 恋人らしく甘くイチャイチャしたい、けれどそれは諦めたのだ。
 けれど諦めきれない、そんな気持ちを瞳が代弁するようにむつきの視線から逃れようとしてしまう。

「いずれ夫婦になるんだから、遠慮すんなよ。俺は遠慮なんかしてないぞ。千雨とイチャイチャしたいし、エッチもしたい。子供だっていずれは産んで欲しい。それから」
「ああ、くそっ!」

 あけすけに欲望を、決して嫌ではない欲望をぶつけられ馬鹿らしくなった。
 なんで自分だけ勝手に諦め、やりたいことを我慢せねばならないのか。
 そんな苛立ちを込めた小さな握りこぶしは、ぺちんとむつきの大きな手のひらに受け止められた。

「そうだよ、私だって先生にもっとエッチなことされたいし。子供だって……でもその前に、イチャイチャしたい。普通の恋人みたいに二人きりで、ほっぺたえいってされて、やだもうとか他人から爆発しろって言われるようなことしたいんだ。文句あるか!」
「ねえよ、むしろ望むところだ」

 間髪入れず、突然叫んだ千雨を前に驚きもせずの返答であった。

「うわっ……一瞬、先生がイケメンに見えた。死にてえ。死ねよ」
「なんで対象が変わってんだよ。それより、ほれ。さっきの続き、座れよ千雨」

 ちくしょうと小さく呟きながら、腕を引かれるままに千雨はむつきの胡坐の上に逆戻りである。
 そのままちょこんと座ったのは良いが、千雨は落ち着けない。
 そわそわと、ちょっとむつきへと振り返っては視線が合うより先に前を向いてしまう。
 顔を赤くし俯き加減で足をばたばたさせたかと思えば、蚊の鳴くような声で呟いた。

「何かしろよ」

 それがイチャイチャするための切っ掛けのためというのは明らかなのだが。

「ん~? なにが?」
「うわっ、超むかつく」

 あれだけ誘っておいて、知らん振りかと再び殴りたくなったが我慢。

「しょっと」

 このまま待っていても意地悪キングは手を出してくれなさそうなので自分から動く。
 まずはむつきの胡坐の上で九十度、向きを変えて横向きに座る。
 ちょっと収まりが悪かったが、むつきが黙って背中を支えてくれた。
 本当に意地悪するのか、優しくするのかどちらかにしてほしい。
 欲しいんだぞと、むつきの頬を両手でつまみあげようとしたが、そうじゃないと手を宙にさまよわせる。
 それでは何時もの憎まれ口夫婦だ。

(マジでイチャイチャするのって難しい。あいつら、普段どうやってんだよ)

 むつきが期待に胸膨らませ待っているのを良い事に、少しだけ想像してみる。
 例えば親友の美砂は、かなり想像しやすい。
 二人きりの時、唐突にちゅーしてと言いだすのだろう。
 いざむつきがしようとするときっと自分から先手をとるようにキスをする。
 そのくせ、先生からじゃなかったからもう一度と言うのが簡単に想像できた。
 それからむつきがする前に自分から何度もキスをして、もう一度と何度も強請る。
 馬鹿じゃないかと思う、同じことの繰り返しでそこになんの生産性も見受けられないのだが。

(羨ましい、なんでそこまで素直に行動できんだよ!)

 自分の想像の中の美砂へと叫ぶが、千雨の叫びを無視してむつきに繰り返しキスして甘えていた。

(後で一発、殴ろう)

 かなり理不尽な決意を胸に秘め、もう破れかぶれだとすべての思考を放棄する。

「ぁっ、痛っ」

 首をちょっとだけ伸ばし、着崩れたむつきの浴衣の襟元に見えていた鎖骨にかみついた。

(よりによって、何してんの?! 先生、普通に痛がってんじゃねえか!)

 意味不明な行動が余計な焦りを呼んで、もはや何が何だか。
 痛いなら治療、唾つければ良いじゃんと電波が舞い降り、鎖骨をぺろりと舐める。
 目の前、直ぐそこにあるむつきは、くすぐったそうに笑っていた。
 頭の中が沸騰しちゃうとテンパりながら、千雨はちょっとしょっぱいむつきの鎖骨を舐め続ける。
 ちょっと骨太な薄い皮と肉もまとめて猫がミルクを舐めるようにチロチロ舐め上げた。

(止めて、誰か止め。先生しかいねえよ!)

 そのむつきは、千雨のテンパり様を楽しそうににやにや見ているだけだ。
 もうこれは突き進むしかないと、千雨は中腰になってむつきの胸を押す。
 完全に予想外だったのか、非力な千雨でも驚くほど簡単に押し倒すことができた。
 できてしまったというべきか。
 あろうことか、むつきは文句を言ったり止めるどころか、にやにやと続きを促してきたのだ。

(あかん!)

 脳内で関西弁を披露した千雨は、どうにでもなれの精神で再びむつきの鎖骨に舌を落とし始めた。
 両手は使わず、押し倒したむつきの浴衣を鼻先でかき分ける。
 窓から注ぐ夏の日差しにより浮かぶ汗、そこに交じる男の匂いが嫌でも分かった。
 愛する男の芳香を胸いっぱいに吸い込み、お礼とばかりに鎖骨からその熱い胸板へと標的を変えた。
 能動的にむつきが動いてくれない不満を爆発させるように、むつきの体をむさぼった。
 普段は自分が舌で愛撫されるであろう胸を、代わりに唾液で濡らし愛撫する。

「んっ」

 小さな乳首を千雨が口に含んだからだろうか、むつきが小さく声をあげた。
 男でも艶のある声を出すんだと、乳首周りを重点的に舌で攻め上げる。
 若干口は疲れてきたが、まだまだ先は長い。
 馬乗りになってからずっと、俺の出番はまだかとむつきの一物が千雨のホットパンツに包まれた股座を押し上げてきていた。
 もうちょっと待ってろとばかりに、まだ体に引っかかっている浴衣をはだけながら右手を肌に沿って下へと伸ばして撫で上げる。

「ぁっ」

 膨らみ始めていた一物は次第に硬さを増し、より一層の熱を帯び始める。
 むつきの胸からあばら骨へと舌を這わせつつ、期待に胸を膨らませながら一物への愛撫も続ける。

(もう、これどういう状況だよ)

 むつきがかたくなにというべきか、なにも言ってくれずにいる。
 だから男を押し倒して衣服をはだけさせたりと、男女の立場が逆転した行為を止められない。
 にちゃにちゃと右手で愛撫する一物が水音をたて始めていた。
 例え互いに無言であろうと、もはや止まるなど無理だろうか。
 もう行くところまで行ってしまえと思ったところで、千雨はあることに気づいた。
 胸から肋骨を通り過ぎてたどり着いたむつきの腹筋である。
 胸板や肋骨とはまた違う硬さ。
 普通の女の子にはなかなか縁遠い筋肉の硬さ、肉がはっきりと浮き沈みし、肌の張りも良い。
 つるつると舌が滑り、少し力を入れるとグッと押し返してくる力強さが何とも言えなかった。

(やば、はまるかも。私、腹筋フェチかもしれねえ)

 一度気づいてしまえば、大事な一物への愛撫がおろそかになるぐらい一生懸命になってしまう。
 舌で舐めるに留まらず、キスして跡を残したり、頬ずりしてみたり。
 へそはちょっと苦かったので後悔したが。

(先生、意外とセクシーだな。なにこれ、割れかけてる。なにこの硬さ、弾力。あっと)

 あまりにも愛撫を放置したせいか、俺を忘れるなとばかりにむつきの一物がぴくぴく震えていた。
 名残惜しいが、非常に名残惜しいがしばしの別れである。
 そしてお詫びとばかりに、千雨はむつきの膝下、脛の辺りに跨った。
 しなだれ落ちる髪を邪魔そうに耳の後ろに引っ掛け、改めて両手でむつきの一物を掴む。
 荒々しく膣を抉る普段のいきりたち様にはまだ遠い。
 だがそれももう直ぐだとばかりに千雨は赤い舌を伸ばすように口を開き、先走り汁があふれる亀頭を咥えこんだ。

「あんぅ」

 イチャイチャもそうだが、何気に初フェラであったが嫌悪感は殆どなかった。
 あれだけの快楽で可愛がってくれるむつきの分身であるからだろうか。
 唇、頬肉をすぼませ口内すべてで包み込む様に喉の奥へと飲み込んでいく。
 ジワリと口内で湧き出す唾液と先走り汁がまざり、味なんて感じる暇もない。
 ただはっきりと分かったのは、むつきの一物が膨らみ千雨の口の中で何時もの硬さを取り戻したことだ。

「んっ、んふぅ。ぁぅ、んぅんぅ」

 口内で暴れる一物を舌で愛撫していると、解るもんだなと思った。
 何処をどうされると嬉しいのか、気持ち良いのか。
 一物の震えやわずかに量が変わる先走り汁の量など。
 世間一般的には少女のカテゴリーのはずが、上の口も下の口も立派な女であった。
 それもちょっと悪い方向の女を演出するように、むつきの玉袋を手のひらで転がし遊ぶ。

「ぐっ」
「んふっ」

 明らかに射精を我慢した声に、一物を咥えこみながら笑い声が漏れた。
 ほらほら我慢するなと転がすだけにとどまらず、お手玉するようにちょっと激しくも。
 ガリガリと畳をむつきが指先で引っ掻いた瞬間、これまで以上に一物が膨らんだ。
 それでも我慢するようにむつきの腰が浮き上がった為、千雨は拳銃のトリガーを退く様にギュッと握りしめた。
 暴発した拳銃が恐ろしいまでの数の弾丸を千雨の口内に吐き出し始める。
 すぼめていた口を押し広げるように生臭い臭気と共に溢れ出したが、まだもっとと吸い上げた。

「ぁっ、くぁ!」

 一滴残らず吐き出させるように竿を手で扱き、やがて打ち終わると同時にむつきの腰が畳の上に落ちる。
 口の中いっぱいに精液を蓄えた千雨は、ぜいぜいと喘ぐむつきを見下ろした。
 手を伸ばして小さく膨らんだ乳首を指で弾き、むつきの意識を向けさせ飲み下す。
 下の口で飲み下すべきそれを上の口で。

(まっず、咳でそう……けど、ムードねえし。我慢、我慢)

 ムードを壊すのはまだ早いと、僅かに硬さが消えながらもまだまだ硬いむつきのそれを握りしめる。
 同時に逆の手で、用途不要となったホットパンツを脱ぎ始めた。
 精飲のせいか妙に腰がしびれて脱ぎづらいが、むつきの上で体をくねらせる。
 普段ならむつきが悪戯の一つでもしそうだが、なぜかされなかった。
 それでも嫌がるはずがないと、脱いだホットパンツを楽しげにむつきの顔の上に落とした。
 これで千雨はタンクトップ一枚のみ、なかなかにエロイ恰好である。
 その証拠に、完全に硬さを取り戻したむつきの一物がはやくはやくと千雨を押し上げ催促してきていた。
 はやくその中に入りたいと。

(このやりチン)

 むつきの腹筋に左手を置いて体を支え、腰の上に跨った。
 さすがに手を使わず入れられるほど熟達も、穴も広がりやすくないので右手でむつきを支える。
 後はそろそろ慣れ始めたものだ、いれるだけ。
 何度も受け入れたむつきの一物を。
 すぼまっている膣穴が亀頭で押し広げられ、千雨の穴が拡張されていく。
 にゅるんと亀頭が入ってしまえば後は、少しずつ奥へと受け入れていくだけである。
 自分の中が抉られていく感触、物理的に愛する男を受け入れる感覚。

「ぁっ、うぁ。んっ……あはっ」

 全神経が自分を抉るむつきの一物に注がれ、あれだけ名残惜しかった腹筋に触れる手も今は感触が殆どない。
 一番奥まで受け入れ、なおかつ子宮口を小突かれた時など特にだ。
 軽くイキかけたのを歯を食いしばって耐える。
 波を耐えきった後で吐いた息がちょっと自分でも精液臭かったが、不快な感情は一切今はいらない。
 セックス、それによって得られる何物にも代えがたい快感と、少しの愛。
 他には何もいらないと、右手もまた腹筋に置いて体全体を支え腰を少しだけ浮かす。
 一物が抉る深度が浅くなるにつれ少しだけ寂しさが胸に広がる。
 だがそれも腰を浮かす力を抜いて、むしろお尻をむつきの腰にたたきつけるまでであった。

「あんっ」

 落下に従い再び奥を抉られ、子宮口と亀頭による濃密で熱烈なキッスである。
 勢いよく口づけあうだけでなくディープキスをするように腰を回す。
 もっと奥までと更なるつながり、それと快感を求めるようにむつきの上でダンスを踊った。
 それは青春白書のような学園祭ダンスではなく、女が男を求めるみだらなダンスだが。

「はぁ、ぁっ。硬っ……んぅぁ、ぁぅ」

 拍手喝采の代わりに、にちゃにちゃと愛液が絡まりあう音を耳にしながらダンスを続ける。
 フィナーレにはまだはやいとこの時の永遠を願いながら、また逆に促すように。
 自分の意志とは裏腹に膣内が収縮し、一物とは別の物を受け入れようとしていた。

「まだ、まだ駄目だ。んくっ、もう少し。少ししたら出して良いから」

 そう口にしながらも、きっと今射精されたら確実にイッてしまうとは思った。
 しかし、もっと先があるとも思えた。
 最高の瞬間に出されたら、子宮の中を白く染められたら、それこそ受精するぐらい。
 考えただけで頭が真っ白になり、自然と顔が天井を見上げていた。
 それは喘ぎ声を上げ続ける口から涎が流れ落ちそうになったからか。

「ひぅ、イッ……せい」

 今自分がどんなアレな表情をしているか、想像すらできない状況であった。
 それでも確実にその時は迫り、腰の加速が止まらない。
 畳の上に互いの汗や愛液が飛び散っても気にならず、一心不乱に腰を擦り付け合う中でそれは来た。

「出し、出して。ビュッて、先生。私のらかにィ!」

 一際大きくお尻をむつきの腰に落とし、股座から頭の天辺まで電流が駆け抜ける。
 体全体がしびれを感じ、きっともう腰は動けない。
 反対に頭の中は精子が欲しい、それ一色だ。
 そんな気持ちに応えるように、これまで沈黙を保っていたむつきがたった一度だけ能動的に動いた。
 千雨を下から突き上げる、ただそれだけ。
 腰の痺れから亀頭と子宮口をわずかにすり合わせるしかできなかった千雨を、渾身の力で突き上げた。
 子宮の中に少し亀頭がねじ込まれるぐらい強く突き上げ、無理やりその中へと射精する。

「ぁっ、ああカッ。来た、先生の精子。私の中に、赤ちゃん来たぁ!」

 先ほどまで真っ白だった頭の中を、まだ生ぬるいと子宮内以上に白く染め上げる。
 チカチカと点滅する視界内では、お腹の中の子宮に向かう無数の精子が見えた気がした。
 無上の快楽の中で、愛する男との間に新しい命を育む幸せが下半身から広がっていく。
 耐えられるはずがない、自分を支えていた腕は肘からあっさり折れ曲がり倒れ込む。

「んっ、はぁぅ。ぁっ、まだ出てる。赤ちゃん、できちゃう」

 むつきの胸の上に倒れ込みつつ、やや虚ろな言葉づかいで幸せそうに千雨が呟いた。
 けれど受精する幸せだけではあと一歩が足りない。
 何故だか分からないが、そんな意味不明なことを思ってしまったがその理由も直ぐに知れた。

「よく頑張ったな、千雨」
「ぁっ」

 むつきが汗で湿り気を帯びた髪をそっとその大きくて無骨な手で梳いてくれたのだ。
 同時に頭も撫でてくれ、千雨は胸板に頬を寄せながら瞳を閉じてごく自然に甘えられた。
 自分でも驚くぐらい自然にだ、憎まれ口が飛び出す隙もない。

「先生、もっと撫でて。ちゅーしたい」
「ほら、こっちむいて」

 濃厚なそれではなく、唇を触れ合わせるだけであったが充分な破壊力であった。
 とろける、子宮一杯に精液を受け止め、恋人のキスと肉体的にも精神的にも満たされ。
 イチャイチャできないという考えなど、吹き飛んでいく。
 いや、今なら少しだけ素直にできそうだ。

「先生、一回だけ。一回だけで良いから、ちーちゃんって呼びながら撫でて」
「ちーちゃん、凄く良かった」
「そうか、へへっ。ちーちゃんだって、歳考えろよ。むーちゃん」
「おう、ちーちゃん」

 ちょっと普段の憎まれ口が飛び出したが、きっとイチャイチャできているはずだ。

「二回も呼べなんて言ってない。罰として、もう一回呼べ」
「ごめんね、ちーちゃん」

 これ、これだよっとちーちゃん呼ばわりされてむつきの胸にぐりぐり額を押し付ける。

「満足したか?」
「した、すっごくした。けど、先生まだ私の中で硬いまま。もう一回するか?」
「いや、もう少しこのまま繋がってたい」

 射精こそ収まったが、むつきの一物は硬いままだ。
 挑発的に千雨は再度踊ろうとしたが、さすがに体全体が倦怠感に包まれ無理であった。
 せめてとむつきの胸に頬ずりし、あとちょっとだけ手を伸ばしてかたくなに腹筋にこだわり触れる。

「しかし、まさか千雨にレイプして貰える日が来るとはな」
「あ?」

 唐突にこの男はなにを言い出すのだと、幸せが三割吹き飛んだ様子で千雨がむつきを見上げた。

「いや、突然押し倒されてさ有無を言わさず服脱がされて、しゃぶられたと思ったらいれられて。逆レイプだろ。大変結構なお点前だったけどさ」
「あれはいろいろテンパってて。途中で私もチラッとそう思ったけど。てか、先生だって止めろって言わなかっただろ!」
「怖くて言えなかったわー。なにがなんだかわからないままレイプされたわー」
「くっそ、返せ。私の達成感とかいろいろ返せ!」

 本当にこの男はああ言えばこう言う、教師として最悪の人間だ。
 握ったこぶしで結構強く胸を叩いたのだが、悲しいかな女性である以上に千雨はインドア派であった。
 むつきのたくましい胸板の前に自分の手の方が痛くなってしまう。
 もう知らんとばかりに、拗ねて猫のようにむつきの上で丸まった。

「悪い。てか、繋がったまま拗ねんな。せめて抜いてくれ、身動きが……千雨?」
「へへ……」

 気怠さに包まれたまま挿入した状態は気持ち良いが、むつきにはこの後にもまだ用事がある。
 チラチラと時計を気にしながら千雨のご機嫌をとろうと、その顔を覗き込んだのだが。

「うわぁ……」

 拗ねたはずの千雨は、むつきの腹筋に頬ずりしたり手でなぶったりして悦に入っている。
 行為の後で胸にすり寄ってくるのはまだしも、それはちょっと引いた。
 男だって女の胸や尻、足など部分的なフェチはあるのだが、実際される方になると凄く微妙だ。
 きっと自分が彼女らの胸や細い腰など、体の一部に異常な興味を示した時はこんな微妙な気持ちにさせているのだろうか。

「千雨、マジやめて。なんかさ、愛し合った後なんだからもう少しこう……」
「やだ、先生とイチャイチャするのは諦めた。だから先生の腹筋とイチャイチャしてるから、気にすんな。先生は、チンコ乾かないうちに、近衛たちの方に行っていいぞ。ただし、腹筋置いてけ」
「九州の武士みたいに、その首置いてけみたいなこと言うな! 千雨、ちゃん。ちーちゃん、なっ。イチャイチャの仕方教えるから。嬉し恥ずかし楽しいぞ? ちゅっちゅしようぜ?」
「先生の太くて硬い。こんなの初めてぇ」
「腹が太いって微妙、硬いけどね。あと最後のセリフ、お前の中で萎え始めてる息子に言ってあげてくんない?!」

 多少の自業自得がありながら、むつきと千雨の初めての家デートは痛み分けとなった。
 二人が普通の甘い恋人同士のやりとりを覚えるには、もう少し時間がかかりそうである。









-後書き-
ども、えなりんです。

ちょっとだけ新しい試みとして女性視点。
基本的にむつきがリードする側でしたが、千雨がちょい奮闘。
途中色々と暴走してますけど。

あと題名は狙いました。
腹筋って太いって表現するんでしょうかね。

もうストックが残りわずか。
次回は土曜日更新にしときます。



[36639] 第八十九話 腰周りも随分と充実してるだろ?
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2013/11/30 21:39

第八十九話 腰周りも随分と充実してるだろ?

 麻帆良市の近隣にあるとある森、そこには人里を離れるようにポツンと建つログハウスがあった。
 ここ二ヵ月程、誰も足を踏み入れる事はなかったその建物に久方ぶりに明かりが灯されようとしていた。
 何故か標準の高さより低めに設置された電灯のスイッチへと、小さな手が伸びる。
 日本人の肌とは違い、白さと肌の決め細やかさが目に付くソレはエヴァのものだった。
 そしてパチンとスイッチを入れ、明かりがつくと同時にくしゅんとくしゃみをした。
 実は花粉症を患っているエヴァは、夏場はまだしも場所が悪かったのだ。
 何しろひかげ荘に入り浸るようになってから二ヵ月ぶりの帰宅である。
 溜まりに溜まったほこりが空気中に充満しており、電灯の静電気もあり浮かび上がったのあろう。
 内心、もう売っちゃおうかなと思っているのだが、そんなわけにもいかない。
 ひかげ荘に持ち込むには、触れて欲しくない、知って欲しくないものがごまんとあるのだ。

「くちゅっ、へくち」
「マスター、お鼻を」

 背後に控えていた絡繰にちり紙で鼻をかんで貰ったが、まだむずむずする。

「ほええ、素敵なお家です。お人形さんも沢山、憧れます」
「人形使いらしい、部屋ネ」
「見た目は普通の人形ですが……この人形がエヴァンジェリンさんを長年」
「どう見ても、普通の人形にしか見えませんね」

 明かりに照らされたログハウス内は、外観と同じく家具から何から木材で統一されている。
 主に屋内を飾り立てるのは、さよ達が手に取り眺めたエヴァ作のお人形達であった。
 今は昼であるし、電灯で照らされているが、夜間明かりがない場合は怖いぐらいの量だ。
 特に科学こそ世の歯車を信条にする葉加瀬は、一体どうやってと関節を弄っている。
 ただ、一番最後に入ってきた四葉から、普通の人形ではといわれていた。

「四葉五月の言う通り、それらは趣味で作った人形だ。なんの変哲もない、お人形さんだ。あまり弄って壊すなよ、結構手間かかっているんだ」
「そのまま大きくすれば、私達でも切れそうなお洋服です。囲碁にお茶、エヴァンジェリンさんは器用で女の子らしいですね」
「そ、そうか? まあな。無人の建物でひっそり飾られるよりも、誰かに愛でられる方が人形も嬉しいだろう。気に入ったものがあれば、持って行って構わないぞ?」

 友人と認めたさよの言葉に上機嫌となり、そんな事を言い出した。
 この時、良いんですかと人形を眺めたのはさよと四葉だけ。
 いや、元々一行がしばし訪れなかったエヴァの家に来たのはそれだけ理由があるのだ。

「後でゆっくり見せて貰うネ。それで、目的のものは?」
「慌てるな、私が案内しよう。茶々丸は、すまんが掃除を頼む。妹達を綺麗にしてやれ」
「はい、マスター。可愛い妹なら是非、マッチョな弟は死ねば良いのに」
「え?」

 今何か言わなかったと尋ね返す前に、絡繰はまず空気の入れ替えをと窓に駆け寄っていた。
 尋ね返すまでもなく、その対抗意識ありありの弟が誰かはまるわかりだが。
 旅行が終わりお役御免と思いきや、ひかげ荘の周囲をショットガン片手に警備中だ。
 ちなみに、田中の名前は彼だけのものとなり、他の期待には順次鈴木や佐藤、渡辺など名づけられる事になっている。
 むつきたっての希望であった。

「おい、茶々丸は大丈夫なのか。そのうち、姉弟対決とかしださないだろうな」
「いえ、今の茶々丸を直すなんてとんでもない。以前は、命令された事しかできませんでしたが、強力なライバルの出現に自意識が急速に芽生えています」
「自ら交渉して、親愛的にネジ巻きを依頼するぐらいネ。本当、悪い男ヨ。担当クラスの女子生徒の全制覇も」
「いけませんよ、超さん」

 そう四葉に注意され、小鈴がおっといけないとお口にチャックである。

「五月を連れて来たかいがあると言うものネ。また、私が道を外れかけた時はお願いするヨ」
「先生に関する事は、既に他人事ではありませんから」

 さよはまだしも、傍若無人、科学一筋などなど暴走前の最後の良心である。
 そうまでして、小鈴が慎重に押し進めたい事があったのだ。
 超鈴音は、とても忙しい。
 むつきのばら色の人生のサポートもあれば、自身が女の子として幸せにもならなければならない。
 はたまた、むつきを脅かす者があれば戦い、その未然予防も。

「こっちだ」

 そう言ったエヴァンジェリンの案内で向かったのはログハウスの奥。
 切れ込みのある床の蓋を開けた先の地下室。
 一階分程続いた階段の先は、どうやら倉庫か物置のようだ。
 少々埃っぽいそこで待ち構えていたのは、見知らぬ少女の恨み節であった。

「オイ、シバラク見ナイウチニ随分ト肌ガ若返ッテルジャネエカ」
「腰周りも随分と充実してるだろ? 迎えに来たわけではないが、偶には連れて行くか」
「迎エニ来タンジャネノカヨ」

 一体何処からと葉加瀬や四葉が周囲を見渡す中で、答えたエヴァがしゃがみ込んだ。
 埃だらけの床に落ちていた一体の人形を手で払いつつ喋りかけている。
 この光景をむつきが見たら、また寂しかったかとぶわっと涙を流しそうだが。
 見えない妖精さんに続く、お人形さんのお友達というわけではない。
 先程の少女の声はエヴァの裏声でもなく、きちんと人形の口から零れ落ちていた。

「ほほう、コレがエヴァンジェリンの長年の相棒ネ。超鈴音、貴方のご主人とは何れ竿姉妹になる予定ネ」
「オイオイ、知ラネエ間ニ随分ト面白イコトニ。ナギノ奴デモ」

 次の瞬間、エヴァが喋る人形の頭を乱暴にぽかぽか叩いたのは許されるべき事か。

「ふん、ナギよりむつきの方が何倍も凄いぞ。それはもう、私に夢中でな。一緒に住もうってプロポーズもされた。いや、奴が知らないだけで既に一緒に住んでるが」
「誰ダ、コノ雌豚ノ眼ヲシタゴ主人似ノ誰カハ? マア、良イ。ソイツ斬ッテ!?」

 手に持つ包丁のような刃物は飾りと思いきや、人形が両手で二本刃をシャンシャンと鳴らす。
 そうしたのは良いのだが、次の瞬間人形を襲ったのは敵意の塊だ。
 ご主人と呼んだエヴァのみならず、小鈴からも絶対零度の視線が射抜く。

「マサカ、一般人?」
「イエス、です?」

 ぶっ殺すぞという視線を止めないエヴァと小鈴の代わりに答えたのは葉加瀬だ。

「目ノ前ニ暴漢ガ現レタラ?」
「状況にもよりますが、他に誰も居なければ必死に逃げます。生徒が居れば、犯人に殴られつつ引きとめ逃げろと叫ぶ人です」

 続く質問に答えたのはさよで、聞くや否や人形は反応に困ったようだ。

「ドウヤラ俺ハ、長年放置サレ壊レタヨウダ。スマンナ、ゴ主人。先ニ逝クゼ」
「人形が死ぬか、馬鹿。お前はむつきとは違う意味で、人生最良のパートナーだ。放置してすまんな。ひかげ荘に連れていくから人生を嘆くな。だが、あまり目立つ行為はするなよ」

 包丁のような刃物を持つ人形、これを絡繰の姉、茶々ゼロというのだが。
 茶々ゼロの首根っこを掴み、エヴァは再度案内を始めた。
 とは言っても、この倉庫もそこまで広いわけでもなく。
 少し視線をめぐらせれば、お目当てのものは即座に見つかる事となった。
 エヴァ一人では抱えて持ち上げられなさそうな、台座に安置されたボトルシップだ。
 ただし、巨大な瓶の中は帆船ではなく、ビーチと一体化した塔の模型である。

「ふん、相当の実力者でなければ所有し、維持もままならない一品だ」
「倉庫デ埃カブッテルケドナ」

 喧しいと再度茶々ゼロを殴りつけたエヴァが、そのボトルシップの前に立った。
 薄暗かった倉庫内を照らす魔方陣がボトルシップの台座を中心に広がる。
 次の瞬間、エヴァの姿は倉庫内の何処にも消えてしまう。
 良く良く眼を凝らせば、ボトルシップ内の塔の屋上にその姿を見受けられたろうが。

「はわわ、エヴァンジェリンさんが消えてしまいましたよ!」
「全く、エヴァンジェリンはせっかちネ」
「一時間、待ちぼうけですか。テーブルに使えそうなものは……」
「私、絡繰さんに紅茶セットを貰ってきますね?」

 一人慌てたのはさよぐらいのもので、小鈴以下はやってしまったと苦笑いだ。
 早速、とある理由で一時間暇になってしまったと行動に移った。
 薄暗い倉庫の中でのお茶会だとばかりに、テーブルや椅子を倉庫内であさったり。
 ほっと一息、絡繰も掃除を中断して、旅行中の思い出話に華を割かせる。
 それから丁度、一時間後半泣き状態のエヴァが再び辺りを照らす魔方陣と共に現れた。

「き、貴様ら。何故直ぐにやってこん。一日も、待ちぼうけを食らわされ。出るに出れないしぐす……茶々丸は裏切ってお茶をしているし」
「申し訳ありません、マスター。まさか、たった一日でお体が夜泣きなさるとは。即座に先生にお慰めいただき。私もそろそろネジ巻きを」
「妹マデ、一体俺ノ知ラネエ内ニ何ガ。怖ロシイナ、ソノ乙姫ッテ奴ハ」

 ぺこぺこ謝っているのはさよぐらいのものだ。

「エヴァンジェリンが早とちりしただけネ。貸して欲しいとは言ったが、中に入るつもりは毛頭ないネ。親愛的と共に歩む時間を自ら削るとか、馬鹿げているヨ」
「そうですね、他者より時間を有効に使えるようにみせかけ、その実きちんと寿命を削ってしまいます。もっと、有効に時の流れが違う空間を使うべきです」
「何を言っているのだ、貴様ら」

 あのボトルシップ内は、現実空間と時の流れが違い現実の一時間が一日となる。
 反面、一度入れば二十四時間は扉が開かない制約もあるのだが。
 現実の短期間で濃密な作業・修行が出来ると魔法使いの間では喉から手が出る程に欲しい一品だ。
 その使い方が謝っていると指摘されても、生粋の魔法使いであるエヴァンジェリンはなんのことやら。

「確かに施設は借り受けたいネ。けれど、中に入るのは茶々丸の姉妹のみ。私達は外から指示をするだけ。研究所ではなく、工場。プラントという意味ネ」
「経過は別荘内で。結果だけを見て指示を出す。研究時間の短縮か。お前らしい使い方だ。なら、これは後で貴様の研究所に運ぶよう手配しておこう」
「高価なものネ。それなりの対価は」
「いらん」

 値段にすれば億はくだらない一品だが、まさかの対価は不要という発言である。

「当時、私はその場にいなかたが。ひかげ荘内で金の話はするな、そうむつきが言ったんだろう。だから、いらん。だが、私とさよが人になる研究は優先しろよ?」
「横入りで申し訳ないですが、私からもお願いします。私もいずれ、ちゃんと先生との赤ちゃん欲しいですし。二学期から、復学の予定ですのでどうか」

 そうだったよなと、エヴァが確認した視線の先にいたのは四葉だ。

「お友達同士、物の貸し借りで金銭はいけません。先生が知れば怒られます。正しいと思いますので、今夜はエヴァンジェリンさんがお好きなおかずを作りますね?」
「おっ、これはラッキーだ。と言うわけだ、いらんもんはいらん」
「ならありがたく借り受けるネ。エヴァンジェリンはまだしも、さよさんの復学については一先ずこれを」
「お守りですか?」

 小鈴がふよふよ浮かんでいたさよに手渡したのは、お守りであった。
 安産祈願と書かれているのは、ご愛嬌。
 目の前で頷かれたさよがそれを首に掛けると、体に急激に重みが加わった気がした。
 さらにあるのかないのか、ハッキリしない足もしっかりと。
 倉庫の埃っぽい地面について、トントンっと足元を叩くことさえ出来た。

「超包子の特性車両にも使った手段ネ。小型化した魔力集積回路が、お守りの中に入れられてるから首から提げている間はほとんど人間と代わらないネ」
「わあ、ありがとうございます。エヴァンジェリンさん、ちょっと失礼します。うぅ、小さいです。可愛いです」
「こら、撫でるな。良かったな、さよ」

 旅行からまだ時間は経っていないが、ひかげ荘外でのスキンシップにまた感動ものだ。
 エヴァも照れてはいるが、振りほどきもせず。
 心底良かったなと囲碁仲間、もはや親友と呼んで差し支えないさよの背中を撫でた。
 一体、このご主人に似た誰かは誰だと苦悩する殺人人形を床にぽとんと落としつつ。

「さて、親友同士感動の対面を果たしたところで。これなら、おっと」

 葉加瀬や四葉と同様に、満足気に頷いた小鈴が呟き、鳴り響いた携帯電話を手にとった。
 ディスプレイに映し出された名前は、朝倉の二文字だ。

「もしもしヨ」
「超りん、予想通り学園長が食いついてきた。場所も確保したし、これから一時間後で良い?」

 現在、和美がいるのは女子中を追い出されて以降、場所を移した学園長室だ。
 学園都市の中央、すべての学校から足を向け易い場所だ。
 通信機器が発達した現代、中央という意味は薄れ気味だがそれでも学園統括の長。
 やはり責任者は中央にという古いが、理に叶った場所に新たに建てたられた。
 その学園長室へと、和美は取材と称して尋ね、さよの名前を零して来た所なのだ。
 食いついたとは当然、学園長がさよに会ってみたいと言ったということである。

「十分ヨ、これから向かうネ」
「了解、なんの悪巧みか知らないけど。先生に怒られない程度にしときなよ。私も嫌われたくないから、覗きは遠慮しとく」
「これは珍しい。皆と竿姉妹になる決意でも?」
「さっ、それはどうかな。んじゃ、また夜にでもひかげ荘でね」

 ぶつっと携帯電話が切れ、それはもう悪い顔で小鈴は笑ってみせた。

「ちょっと悪い事をしてくるネ。だから四葉と葉加瀬はここまでヨ。大丈夫、保険的意味合いが強いから、親愛的にも怒られない範疇ネ」
「うーん、超さんがそう仰るなら。私はエヴァンジェリンさんの別荘をプラント化できるよう先に茶々丸とひかげ荘に帰ってますね」
「私も、お夕飯のお買い物にいかないといけません。茶々丸さん、この別荘を運んだ後でおつきあい願えますか? お礼に先生の好きなおかず、レシピと一緒に教えてさしあげます」
「是非、喜んで。代わりに、マスターの好みをお教えします」

 何故か敬礼付きで四葉に返答した絡繰は置いておいて。
 超は鍵となるさよを連れ、あとは物見遊山のエヴァと茶々ゼロを連れ目的の場所へと向かった。









 安産祈願のお守りを身につけたさよは、一人ぽつんと麻帆良都市内の小さな公園にいた。
 これまた小さな公園にお似合いな小さなベンチで人を待っているのだ。
 一体誰が来るのか、あえて教えて貰ってはいないが、直前の小鈴と和美の電話は聞いている。
 恐らくやって来るのは学園長なのだが、その学園長が何故自分に会いたいのか。
 それがさっぱり判らない。
 生前、会った事があるのかもしれないが、そんな記憶など欠片もなく。
 小鈴やエヴァも何も教えてくれず、あるがまま思った通り受け答えれば良いとだけ言って何処かへ言ってしまった。
 少々手持ち無沙汰で、ポケットサイズの囲碁教本を取り出し読みふける。
 sai@evaは連戦連勝中のネット碁界きっての最強棋士だが、sai@sayoはへっぽこもへっぽこ。
 十回中一回はむつきに負ける程だ。
 しかし、夫婦で碁敵というのもそれはそれでと、お互い切磋琢磨できるので嬉しいものだ。
 はやくひかげ荘に帰り、キュッと抱き締められ可愛がられたいと足をぶらぶら。
 直ぐにハッとなっては、昼間からエッチなのはと囲碁教本に眼を落とした時だ。

「囲碁はお好きかのう?」
「えっ、囲碁と言うか。囲碁を通じて、人と通じ合える事が」

 通じ合えるというか、物理的に繋がる事が出来るのが一番嬉しいのだが。
 ふいに問いかけられ、思うがままを答えた相手は学園長であった。
 この熱い日差しの中、ご老体にも関わらず日傘も差さず、されど肉体のないさよと同じように汗もかかず。
 さよの答えに髭同様に長い眉で隠れた瞳が、少しだけ驚くのがわかった。

「若いのに感心じゃ、一手どうじゃ。老人の我が侭を聞いてはくれんかのう」
「私のような、へぼ棋士でよければ」

 着流しの懐へと学園長が手を差し込むと、ぬっと碁盤と碁石が出てきた。
 明らかにその質量が入るはずがといった大きさのそれがである。
 一応エヴァ達から裏の事を聞いているさよは、本物の魔法使いさんだと驚いていた。
 なにしろ、秘密を明かされはしたものの、エヴァ達は普段なかなか魔法を使わない。
 手品みたいとまっすぐきらきらした瞳で碁盤を見つめていた。
 それから互いに碁石を握り合い、先手後手を決める。

「先手は私ですね。あっ、始めまして。相坂さよと申します。よろしくお願いします」
「おうおう、これはわしも礼儀知らずで。近衛近右衛門じゃ、この麻帆良学園で学園長をしとる」

 知ってますとにっこり笑った後、麻帆良女子中二年A組ですとさよがつけたしゲームスタートであった。
 宣言通り、先手となったさよが囲碁教本を片手にちょこんと白石を置いた。
 このちょこんというのがみそであり、人差し指と親指で摘んでである。

「ほっほ、まだこう格好良くは置けんかのう」

 どうじゃ見ろとばかりに、学園長が一指し指と中指で黒石を挟み、盤上にパチンと良い音で落とした。

「はぁ、格好良いです。憧れますぅ」
「ほっほ」

 次の手番、さよも真似て見たが直ぐに上手くいくはずもない。
 碁石を挟んだ二本の指はぷるぷると震えており、そんな状態で盤上に置けるはずもなかった。
 盤上から数センチ上、そこまできてようやくパチンと置こうとしたのだが。
 叩きつけた瞬間、碁石が指先から弾け飛び盤上の上をつるつると滑っていた。

「あっ」

 意図した場所とは全然違う場所に石が置かれてしまい、そっと学園長を見上げた。

「かまわんよ。置きなおしなさい」
「すみませんですぅ」

 結局、人差し指と親指でちょんっと摘み上げ、ちょんっと置いた。
 恥ずかしすぎると白い肌を紅潮させ、さよはあせあせと教本の影に顔を隠す。
 そんなさよを前に学園長は朗らかに笑っているだけだ。
 肉体がないので汗は出ないが、それでも汗が出るような気がしてハンカチで額を拭う。

「木陰とは言え、夏場はやはり暑いのう」

 着流しをぱたぱたしつつ学園長がそう呟くと、蒸し暑さを押し流す爽やかな風が吹いた。
 気持ち良いですと、数秒瞳を閉じてその風に吹かれているとパチンと音が鳴った。

「昔のう、君にそっくりな子がいたんじゃ」

 碁石を新たにちょこんと摘んでいると、そんな呟きが耳に届いた。
 自分にそっくりな、まさか幽霊か。
 怖いですと自分を棚にあげ、碁石を持つ手がぷるぷる震える。
 ふっと笑った学園長の笑みにて、もちろん違う事は直ぐに察せられた。
 同級生さんかなと、碁石を盤上に置きながらそのそっくりさんを思い浮かべる。

「わしも、当時は奥手でのう。こうして、女子と差し向かいで碁を打つなどとても。振られても、振られてもアタックし続ける親友が羨ましゅうて」
「凄いですね、そんなに迫られたら断りきれるか自信ないです」

 もちろん、むつきと出会う前ならと心の中だけで呟きを付け足す。

「そうか、そうか。なら、今からでもアタックしてみようかのう。どうじゃ、相坂君。こんな爺でよければ、付き合ってみるかの?」
「学園長さんは、木乃香さんのお爺さんです? ならご結婚されて、浮気は駄目です」
「なあに、先立たれて数年。ノーカンじゃ、ノーカン」
「学園長さんの手番ですよ」

 とりあえず、求婚を交わす為に、あせあせと順番を促がした。
 ただほっほと笑っている学園長を見上げ、からかわれた事には直ぐに気付いたが。
 頬をぷっくり、絶対に勝ちますと囲碁教本と睨めっこしつつ盤上を眺める。
 盤上に穴が空くほど視線を込め、うんうん唸るさよを前に懐かしげに学園長が眼を細めた。

「懐かしいのう」

 その小さな呟きはもちろん、さよに届かない。
 女子と差し向かいで碁を打つなどと言いはしたが、当時一度だけ碁を打った事があった。
 それは初恋の相手へと話し掛ける事もできなかった近右衛門を心配し、親友がセッティングしてくれたのだ。
 一人で碁を教わるのは恥ずかしいからと、生前のさよを誘って。
 その時もこんな暑い夏場であった。
 ただそれ以上、その時自分がさよを前にして何を喋ったのか全然覚えていない。
 むしろ親友の方が親しげに話しかけ、もの凄く嫉妬したような。
 懐かしき遠い、今となっては取り返す事もできない若き青春の一幕だ。
 ただ一つ、明確に覚えている事があった。

「三つ子の魂百まで、かのう」

 さよが口にした、囲碁を通じて、人と通じ合える事が。
 彼女が覚えていて口にしたのか、自らその答えに辿り着いたのか。
 当時、囲碁が好きなんですねと問いかけられ、学園長が答えた台詞がそれだ。
 盤上に碁石を打ちつつ、思わず涙が零れ落ちそうな目元にぐっと力をいれた。

「ちょっと待っててくださいね」

 そう呟いたさよは、当時五十年以上前からちっとも変わらない。
 可愛らしい外見も、祖父ほども離れた相手と真剣に囲碁を挑む純真さも。
 当時に時が止まり幽霊をしていたから当然なのだが。
 それだけに眩い、当時から変わらぬ初恋の相手と、何もかも変わってしまった自分。
 大人となり年老い、社会の裏を知り、むしろ裏から社会を操る身分となった。
 汚い事も、意に反した事も、仕方のない、これも魔法世界または東西の為と。
 染みる、さよの眩しさが、変わらない彼女が。
 先程の告白紛いの言葉さえ、純白の彼女を汚したようで恥ずかしくなる程に。

「どうかしましたか? やっぱり、暑いですか?」
「ぁっ」

 何時の間にか手番が回ってきていた。
 さよに覗き込まれるように見上げられ、ハッと我に返る。

「ほっほ、いかんいかん。もしわしに勝てたらジュースでも奢ってやろうかと思っておってな」
「ジュースですか。はい、頑張っちゃいますよ。覚悟してくださいね」

 もう、何もかも遅いと、取り返すには全て遅すぎたとその笑顔の前で思った。
 これ以上彼女に触れて、当時の思い出さえ汚してしまわないように。
 親友に言われ、何かを取り戻せるかとも思ったが、過ぎ去った過去は変えられない。
 そんな事は数十年も前に分かっていたはずなのに。

「これで最後じゃな」
「むぅ、まだ負けてませんよぉ」

 最後の意味が違うが、どちらの意味でも同じである。
 これでさよに会うのはコレで最後。
 と言うよりも、心が決まった。
 今さら引き返して、元の位置に戻るまで人生の時間が残されているとも限らない。
 折角の親友の助言ではあったが、引き返すことはならない。
 例えそれが汚れた道だろうと、一度そこに足を踏み入れたなら後は突き進むだけ。
 例え世の人々から老害といわれようと、その老害を倒し世を正すのは何時も若者。
 その若者に立ちはだかる悪となり、正しく若い次なる世代に倒されるのもまた一興。

「うーんうーん、どこに置いて良いか判らないですぅ」
「ほっほ、ただでは負けてはやらんて。わしにも意地があるからのう」
「学園長さん、意地悪ですぅ」

 そう、立ちはだかるからにはギリギリ超えられない壁でなくてはならない。
 そうでなければ、若者も倒しがいがないというものだ。
 精々、悪い老害になって意地悪してやろうかのうと悪い顔で笑う。
 せめてもう少しだけ、懐かしき日々に浸り最後のお別れを心の中だけで呟きつつ。
 祖父と孫、そんな間柄のように囲碁を打つ二人から少し離れた場所。
 公園内の茂みの中に、例の光学迷彩マントを被り、更に気配まで消す影が二つあった。
 それは二人のやり取りの全てを覗いていた小鈴とエヴァである。
 特に小鈴の手には周囲の隠しカメラやマイク、更には衛星からの画像を操る小型端末があった。

「ふん、ここで今さら清く正しくなどと言い出せば一思いに人生を終わらせてやったものを」
「エヴァンジェリン、涙拭くね」
「誰も泣いとらん、これまでの自分に重ねたり!」

 良いから拭けと差し出されたハンカチで、うるうる潤んだ瞳にそっと触れさせる。
 実際、これまで幾多もの人間を置いて生きてきた為に、学園長の気持ちが少なからずわかったのだ。
 判ったのだが、完全に同意仕切れないのはやはり隣の小鈴のせいであった。

「お前、これ本当に全部録画しているのか?」
「当然、先生のお爺様が切った奥の手。しかし、相手に知られて手は奥の手とはとても。銀髪の鋭い目付きの人が言ったネ。奥の手を使うなら、さらに奥の手を持てと」
「生徒に告った学園長、ワイドショーの格好のネタだな。爺も、さすがに麻帆良祭に続きこんなゴシップが公になっては学園長を降りざるを得まい」

 面倒臭い奴に眼を付けられたものだと、自分を棚に挙げ溜息をつくエヴァであった。
 ちなみにさよと学園長の囲碁対決は、もちろんさよの負け。
 だが楽しかったと学園長にお茶を奢ってもらい、一人明るい場所でご満悦のさよであった。









-後書き-
ども、えなりんです。

さよと学園長の50年ぶりぐらいの邂逅話でした。
むつきの祖父に指摘されてほいほい改心するようではだめだめです。
なので、老害と認識したうえで学園長には突き抜けて貰うことにしました。
悪には悪の美学があるとは、誰のセリフだったでしょうか。
未来ある若者に倒されるまでが学園長の美学です。
まあ、このお話でそんな戦闘寄りのシリアスなんてありませんが。

それでは次回は来週の土曜更新です。



[36639] 第九十話 せっちゃんどんどん濡れてくるえ
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2013/12/14 20:30

第九十話 せっちゃんどんどん濡れてくるえ

 千雨とDVDを観た後で、もう一度同じDVDを桜咲や近衛と共に観る事になった。
 これが数日後とかならまだしも、一時間も開けずに二度目の視聴である。
 ちなみに場所は、これから二人の部屋になる予定の部屋での事だ。
 遊戯室からソファーを一つ借り受け、視聴機器は千雨から。
 中央にむつきが座り、大きく開いた足の間に桜咲と近衛を座らせていた。
 二人は一言も言葉を漏らさず、手を繋ぎあいながら食い入るように画面を見つめている。
 場面は既にクライマックス、ヒロインが映画界に認められアカデミー賞の授賞式に出席したところだ。
 以前桜崎には女優と言ったがむつきの記憶違いでヒロインは歌手らしい。
 そして今正にアカデミー賞の授賞式が行なわれようと、ヒロインが壇上に上がった瞬間。
 ビデオカメラを片手に彼女を映す一人のカメラマン、これを見て主役が何かに気付いた。
 瞬間的に場面が移り、主人公の過去の記憶に蘇ったのはかつての仕事仲間。
 それが何故、この会場にいるだけならまだしも、カメラを回しているのか。
 咄嗟に走り出す主人公、アカデミー賞受賞の壇上に駆け上がり、彼女を庇うように飛び出す。
 銃声、大音量だった事とクライマックスの緊張から二人の肩がビクリと震えた。
 庇い撃たれた主人公、真っ赤な血が飛び散りそれがヒロインに降りかかる。
 犯人はすぐさま周囲にいた警備員に取り押さえられたが、場面はもちろん撃たれた主役にあった。

「誰か、この人を助けて。私のボディーガードなの!」

 そんなヒロインの叫びに、桜咲と近衛が繋いでいた手に更に力を込めた。
 恐らく二人の脳内では、同じ場面がそれぞれの姿で想像させられたのだろう。
 そして映画内では時が流れ、役目を終えた主人公とヒロインの別れの場面だ。
 何処かの空港、チャーター機の前で親密ながら守る者、守られる者という仕事の間柄として静かに別れを告げる。
 このまま二度と会えないと思いきや、突如振り返り走り出すヒロイン。
 それを黙って受け入れた主人公が抱き占め、キスと同時に有名なあの曲が。
 紆余曲折を経てのハッピーエンド、テーマ曲をBGMにスタッフロールであった。

「ぐす、うぅ……良かったえ。せっちゃん、死んだらあかん。一生そばにいてや」
「絶対に死にません。一生、このお命はおじょ。このちゃんと共に」

 涙をぽろぽろと、鼻をぐずぐず言わせながら抱き合う美少女。
 それは良いのだが、二人の世界に入りすぎてのけものにされたようでちょっと悲しい。
 泣き崩れる二人をそっと置き、DVDは再生中のまま部屋のカーテンを開けた。
 昼から二連続でDVDを見ただけに、そろそろ夕方、空には立派な入道雲があった。
 明日からまた、水泳部の合宿で空けるのかとだらだらするのも数時間と名残を惜しむ。

「せんせぇ」

 映画中ずっと二人を抱え、疲れた体をのびでごきごきさせていると。
 涙で震えた声で後ろから近衛に抱きつかれた。

「わっ、びっくりした」

 振り返り、どうしたと頭を撫でてやるとちょっと鼻水を出しながら見上げられた。

「ありがとうな、ええもん教えてもろて。私、絶対せっちゃんに無理させへん。せっちゃんも絶対、二度とこの命に変えてとか言わさへん」
「絶対このちゃんを一人にせえへん。約束する、絶対死なへん」
「おお、そうかそうか」

 なんて感受性の高い子達なんだと、大人としてはちょっと二人に押され冷めそうだ。
 視聴二回目という事もあるが、この現代日本で何処にそんな危険があるのか。
 むつきが知らない上流階級は不明だが、中学生だなっと思わざるを得ない。
 桜咲まで抱きついてきたので、よしよしと慰めていると二人が落ち着くのに十分近くかかった。
 それは良いのだが、この状況はなんだろうか。
 ソファーに座ったむつきと、その膝の上にちょこんと座った近衛はまあ良い。
 この状況とは、二人の目の前で土下座するように頭をさげている桜咲であった。

「先生、どうかこのちゃんをよろしくお願いします」
「おい、思春期ガール。唐突過ぎて意味がわからん。近衛もぽかんとしてるぞ」
「せっちゃん?」

 ぽかんとはしていたが、妙に桜咲が余所余所しく感じたのか近衛が赤子のように手を伸ばす。

「映画を観て、私はこのちゃんの為に絶対に死ねないと思いました。けれど、この世は残酷です。私程度の力量では、絶対などとても」
「お前は一体、どういう世界で生きてんだ。ただの中二病なのか、マジなのか」
「だから、このちゃんをお嫁さんに貰ってください。万が一、私に何かあった時、このちゃんを慰めてくれる人が必要です。愛し、気遣ってくれる方が。先生の周りにはさらにクラスメイトの方々も」

 もう本当、何処まで思いつめているのと言葉もないのだが。
 桜咲の必死の願いの最中、むつきは千雨も泣いてたもんなと思いだすのが精一杯。

「あかん」

 返答に困ったむつきに変わり、少し怒りを込めた言葉で叱責したのは近衛であった。
 彼女には珍しく、ぷんすかと眉を逆八の字にし頬をぷっくり膨らませていた。
 予想しろとも思ったが、いかにも予想外とばかりに桜咲が伏せていた顔を上げる。

「せっちゃん、全然考え方変わっとらへん。私はボディーガードのせっちゃんはいらん。お友達のせっちゃんが欲しいの。そんな事、考えたらあかん」
「確かに進んだようで、進んでないな。それに桜咲、俺言ったよな。色んな事を経験しろって。この映画勧めたの俺だけど、たかが映画一本だぞ。もっとさ」
「せや、私はせっちゃんの一番でいたいけど。私だけを見て欲しいとは思わへん。せっちゃんには大事な人が少な過ぎやからそんな考えが浮かぶんや」
「し、しかし」

 むつきの言葉を途中で遮り、やや興奮気味の近衛がそんな事を言い出した。
 まあ、間違ってはいないだろう。
 近衛一人が大切だから、近衛だけ良ければと仮に死んだ場合にむつきに託そうとするのだ。
 もっと大切な人が多ければ、この人はあの人に、じゃあこっちの人はあっちと。
 託して託しての繰り返しで、最終的には生き残った方が早いと思うだろう。
 ただし、それは桜咲が本当の意味で生き死に関わるようになってからだろうが。
 この平和な現代日本で。

「だからせっちゃん、皆みたいに先生の子供産みや」

 発言者の近衛は兎も角、桜咲もむつきもその言葉を前に時間が止まっていた。

「私だけじゃあかん。一杯、一杯大事な人つくらな、死にたがりになってまう。私だけやなくて、先生も好き好きになれば絶対死なへんって思う。さっきの映画かて」

 だから映画に影響されるのも程々にと思うのだが。
 やはり感受性の高い中学生である。
 ボディーガードと歌手の女性のラブシーンを思い出し、二人共にぽっと頬を染めた。
 愛故に命をかけて守り、愛故に生き残り相手を抱き締める。
 これ、もはや逃げられないのではと、若干むつきは諦め気味だ。

「このちゃんも、このちゃんもあかんよ?」
「せっちゃん?」
「このちゃんも、うちの事が好きなのは嬉しいけど。ちゃんとそばにええ人おるの気付かなあかん。うちの台詞やないけど、一緒に先生の子供産もう?」

 小さく桜咲自身にだけ聞こえるように、後を追われても困るしと呟いていたが。
 二人揃ってお嫁に貰ってくださいと、頼まれてしまった。
 どうしてこうなった。
 たかが一本の映画を勧めただけで、お嫁さんが二人も増えた。
 ひかげ荘を正式に継承出来る事になったは良いが、それだけではこの子達を養えない。
 などと、駄目と言う前にお嫁に貰うこと前提で考えている時点で手遅れなのだろう。
 副業でも始めるか、ああ他に刀子のお婿さんや、そろそろ瀬流彦の為に合コンを開いて上げなければ。
 忙しい人生なので、確かに癒してくれる相手が多いのは嬉しい事で。

「とりあえず、急な事だから本番は俺が水泳部の合宿から返ってきてからな」

 乙姫むつき、そろそろ鬼畜道を歩む事に抵抗を捨てる時期なのかもしれない。

「刹那、俺の膝の上に。木乃香は目の前に立って」
「ひゃい、失礼します」
「目の前でええん?」

 返事を噛んだ刹那が、四つん這いで近付いてきてむつきの膝の上に座り込んだ。
 所在なさげに小さくなるように肩をすくめているのが可愛い。
 普段のサイドテールとは違う、髪を下ろしたボブスタイルのソレをさらさらと撫で付ける。
 ますますカッと顔を火照らせる刹那を前に、木乃香も可愛えとご満悦だ。
 白いフリル付きの可愛いワンピースを来た木乃香は、夕暮れの少し涼しくなってきた風にスカートの裾をはためかせている。
 可愛い刹那を前に、一人立たされた事はそこまで疑問に思っていないらしい。

「刹那、今までベッドの上では木乃香に可愛がられてたろ。今日は俺達二人で可愛がるか」
「それはもう、このちゃんは可愛らしくて。えっ?」

 耳元で囁かれた言葉に刹那は我が耳を疑ったようだ。
 しかし、その前からむつきの可愛がるという言葉の意味を木乃香は正しく認識していた。
 何せわざわざむつきは、ベッドの上で可愛がられていたと言った。
 刹那が好き好き大好き過ぎて、木乃香がどう可愛がっていたかは察するべきか。
 何故そんな仕打ちをと畏れ多く思いながら、ぞくぞくと刹那が身を震わせる。
 自分がまさか、敬愛すべき木乃香を前にそんなと、良いのかと震えたのだ。

「こ、このちゃん。スカート巻くってうちと先生にぱ、ぱんつ見せて?」
「せっちゃんのえっち」
「す、すみません。今のはやはりなしの」
「ええよ」

 木乃香の言葉に胸を貫かれ、必死に弁解しようと試みるが悪戯っぽく笑った木乃香が了承した。
 直ぐにはSが抜け切らないらしいが、やはり刹那だけでなくむつきがいると恥ずかしいらしい。
 慌てふためく刹那は気付いていないが、木乃香はちらちらとむつきを見ている。
 ええよと言ったは良いものの、そんな恥ずかしい事をとスカートの裾をモジモジとさせるに留まっていた。
 そこへ助け舟を出したのはむつきである。

「刹那、一人だけエッチな事させられるのは恥ずかしいってさ。これから触るから、自分が何をされたか木乃香に説明してみな」
「えっ、そんな。急に、ぁっ。だ、だめぇ……」

 後ろから抱き寄せた刹那の制服の胸に触れるか触れないか。
 刹那自身に見せ付けるようにゆっくりと指先を近づけ、乳首がありそうな辺りをちょんと突いた。
 ビクッと臆病な猫のよう桜咲が小さくなった。
 そのまま制服の胸の上に指を滑らせると、殆ど触れていないのにピクピクと反応される。

「刹那、黙ってちゃわからないぞ」
「このちゃん、先生の指が。うちのお胸の上を、触れそうで触れて。んっ、そこ乳首。うちの恥ずかしいところ一杯。だからこのちゃんも」
「う、うん。恥ずかしいけど、見せたるえ」

 最後にチラッと近衛がむつきを見て、しっかりと目があった。
 桜咲同様、恥ずかしげに内股に体を小さくしつつも、そっとスカートの裾を持ち上げた。
 清楚で奥ゆかしい性格だけにスカートの裾は膝下だ。
 それも戸惑いながら、羞恥に体を震わせながら持ち上げられてはもどかしい。
 その合間にもむつきは、刹那の胸に手を這わせ身もだえさせながら木乃香の痴態を見させた。
 敬愛するお嬢様が自らスカートの裾を持ち上げ、乙女の花園を下着越しとは言えさらすのだ。
 触れた胸はやけに押さえつけられたような感触だが、それだけに心臓の鼓動が指から伝わるようである。

「このちゃんが、うちのこのちゃんが」
「せっちゃんが命令したんえ。うちにこんな恥ずかしい」
「とんだボディーガードだな。守るべきお嬢様に脱げだなんて」
「ちが、違うえ。うちやない、うちやない」

 むつきに胸を弄られ身もだえしながらも、必死に涙を零しながら刹那が首を振っていた。
 それでもそれなのに、両手で覆った顔は指の隙間からシッカリ捉えている。
 露になった木乃香の膝小僧、それでもまた止まらないたくし上げられるスカート。

「刹那、見たいんだろ。言ってやれ。遅いって、本当は命令されて嬉しいんだろって」
「言えへん、そないな事は。うち絶対」
「言え、刹那」

 いやいやと首を振る刹那へと、少々強めに命令し、胸を指先で突いた。

「あ、ぁっ……ごめんな、このちゃん。うち命令されて、仕方なく。仕方ないから、こんな事は言いたくないんや。遅い、本当は命令されて嬉しいんやろ?」
「うん、せっちゃん何時も受身やから。先生の代弁でも、そう言って貰えて求められてるって嬉しいんや。淫乱さんやな、うちは」
「このちゃん、見たい。このちゃんのぱんつ見たい、うちも見たい。先生の代弁やない。このちゃんのぱんつ、ブラ。おっぱい、大事なところ。全部、全部見たい!」

 願望、ありったけの刹那の欲望の言葉を前に、木乃香の体が歓喜に打ち震えた。
 何時も自分から求めるばかりで、ここまで求められた事はなかった。
 もちろん、刹那が自分を大事にしてくれている事は知っていたが、やはり言葉にされると全然違う。
 嬉しいのだ、ちゃんと伝えて貰えて、ちょっと濡れてしまう程に。

「先生、先生にも見せたる。うちのぱんつ。せっちゃん以外では初めてやよ」
「おう、俺も木乃香のぱんつすげえ見たい。ほら、刹那も」
「このちゃんのぱんつが見たいです」

 もう赤くなる場所がない程に赤面しつつ、刹那からの切なる願いである。
 この子も可愛いなあとキュッと抱き締め、同じく照れ照れしている木乃香にむつきも願った。
 するするとたくし上げられて行くワンピースのスカート。
 真っ白で美味しそうな太股がさらされ、双曲線が股下に近付くにつれ寄り添っていく。
 もう後少し、そこで一旦スカートの上昇が止まった。

「緊張してもうた」

 てへへと笑った後、えいっと勢いをつけて木乃香がスカートを一気にまくった。
 この子は大人しそうに見えて、意外と思い切りが良い。
 刹那に対するアタックもそうだが、たくし上げではなく、まくり上げた。
 淡い空色、フリルとリボンが可愛いパンツが木乃香の小さなお尻を包んでいる。
 夏らしく涼しげなそれだが、同じく夏らしく極一部に湿気が集中もしていた。

「このちゃん可愛い」
「せっちゃんこそ、濡れ濡れしとるやろ」

 けどなと、木乃香に恥ずかしげに視線を向けられ、むつきは頷く。
 木乃香のパンツに見惚れていた刹那の下から抜け出し、お尻を引き下げた。
 ソファーの上の事なので簡単にずるりと、刹那の姿勢が仰向け気味になった。
 突然の事で眼を白黒させつ刹那の前に、にっこり笑った木乃香が言う。
 このにっこりは、肉食獣が草食獣を前に獰猛さを隠す為の笑みだ。

「せっちゃん、うちにいやらしいお願い一杯したえ。うち恥ずかしゅうて」
「だって、あれは。先生が、うちや」
「ボディーガードがお嬢様に肉欲塗れじゃ駄目だぞ。大事なのは愛だ、愛」
「うらぎぅっ」

 裏切り者と叫ぶ直前、ぽふりと木乃香が刹那の口を塞いでいた。
 先程見せてくれた淡い空色のパンツを履いた可愛いお尻で。
 ソファーの上で仰向けとなる刹那の上で顔面騎乗位、美少女同士のエロイおしおきである。

「やん、せっちゃんの息がくすぐったい。暴れたら、あかんよ。先生、せっちゃんの下半身わけわけしたる。感謝してな?」
「俺、さりげにスパッツプレイって始めてなんだけど。お前、狙って履かせてないよな?」

 なんの事ですかと赤い頬で小首を傾げる木乃香を前に、どうでも良くなってくる。
 ばたばたと暴れる刹那の足に苦労しながら、よいしょとまん繰り返しだ。
 大事な部分を刹那の顔に押し付け、身悶える木乃香の前にまた餌を与えた。
 体育会系の剣道部の割りに、ほっそりとした刹那の太股が黒くぴっちりとしたスパッツに包まれている。
 当然、まん繰り返しの格好なのだから、スカートなんて重力に負けて落ちていた。
 下着代わりのスパッツに小さなお尻も包まれ、無理な体勢で割れ目も張り付いている。

「先生、せっちゃんえろえろ?」
「すげえエロイ。ほら、木乃香も触ってみろ。じゅんってなってる」
「ほんまや、濡れ濡れしとる。うちに恥ずかしい命令しといて濡らしとったんや」

 そんな木乃香の言葉が届いていたのか、もしくは彼女がつんつん触るからか。
 宙に浮いた刹那の両足は、電流が流されでもしたかのようにピクピクしていた。

「なんか、木乃香が刹那を苛める理由ちょっとわかったかも」
「せっちゃん可愛えもんな」

 そう良い笑顔で笑った木乃香に対し、むつきは苦笑いである。
 アキラも結構苛めてオーラが凄いが、刹那は似ているようで違う。
 普段寡黙で鋭い眼光を持つ少女なのに、こう言う場では子兎のように臆病に震える。
 そのギャップがたまらないのであった。

「俺もそろそろ本領発揮、の前に。木乃香、良い?」
「ん、私の初めて。男の人やとやけど、ええよ。先生のお嫁さんになるえ」

 むつきが指先でなぞった唇を差し出し、ちゅっと小さくキスをする。
 初めて貰いとむつきが笑うと、木乃香からもう一回と再度のキスであった。
 何故か二回目から急に照れ出し、両手で頬を挟みやんやんと身もだえする木乃香。
 ただその股下にいる刹那は苦しそうだが。
 こらっと注意ついでに三回目のキスをしてから、一緒に見たのは刹那の秘部だ。
 敬愛するお嬢様の秘部に押し潰され、スパッツを通し愛液が染み出している。

「木乃香は、刹那のこれ可愛がってやってくれ。俺はスパッツを楽しむ」
「先生もせっちゃんと同じぐらい変態さんや。私のお婿さん変態さん」
「知ってて嫁になるって言ったのそっちだろ。それに、見ろ刹那のお尻。スパッツにぴっちり包まれて丸くて美味しそう」
「うん、私も結構変態さんや。せっちゃん、小さい方の割れ目いただきますえ」

 むつきにそうしたように、刹那の秘部の割れ目、もう一つの口へとちゅっと木乃香がキスをした。
 刹那のお尻が嬉しげに打ち震えたのは気のせいか。
 二度、三度と木乃香がキスをする度、やはりぷるぷると刹那のお尻が震える。
 可愛えと喜ぶ木乃香の唇には、スパッツ越しに染みた愛液の糸が伸びていた。
 気をつけてとばかりに、むつきが唇から舐めとると二人して数秒見つめあった。

「木乃香」
「先生」

 顔を交差させるように、大人のキスである。
 互いの唾液を下で絡ませ飲ませあうように、一心不乱に舐りあう。
 もちろん、その間に刹那への愛撫も忘れない。
 スパッツが張り付き盛り上がった大陰唇へと、木乃香が指を埋めては弄りあげた。
 むつきも黒い布に包み込まれた桃尻を、スパッツの感触を楽しむようになで上げる。

「先生、せっちゃんどんどん濡れてくるえ。本当はご飯でしてあげたかったけど、あーんやえ?」
「あーん、んっ。酸っぱいけど美味しい。じゃあ、お返し。あーん」
「あむ、へへ。恥ずかしいけど、せっちゃんの味」

 お互いスパッツからすくい上げた刹那の愛液を舐めさせあい、ちょっと異常な新婚夫婦状態である。

「んー、んーーっ!」

 刹那の抗議なのか喘ぎなのかわからない声はスルーの方向で。

「先生、そろそろお股。きつくあらへん?」
「実はな、ちょっと痛い」
「ほうか、ほうか。ならお嫁さんとして、ちゃんとお婿さんのお世話はしたらんと。ちょい待っとってな?」

 そう言った木乃香は、舐めさせあった刹那の愛液したたる陰部に手を伸ばした。
 両手で割れ目を強調するように、大陰唇の外側に手を、指を配置する。
 よいしょと笑顔で力をこめると、あら不思議。
 伸縮性抜群に見えたスパッツの、一番大事な部分、厚くあるべき場所がぺりぺりと避け始めた。
 裂けたスパッツの奥から濃厚な湯気が。
 夏の湿気ではなく、刹那の愛液で蒸れた匂いが広がり、黒い生地の奥から白い肌と割れ目が現れた。

「おぜう様、これは一体どんな魔法で?」
「こういう時用のスパッツなんやえ。特定の方向に力を込めると破れるえ」

 何故か制服姿で現れた刹那だが、当初から木乃香に謀られていたのか。
 さすがにスパッツが破れ肌が外気に晒されたのは、刹那もわかったのだろう。
 けれど、おいたは駄目とばかりに木乃香がえいっと刹那をお尻で押さえつけた。

「先生、せっちゃんを召し上がれ。気持ち良うしたってな。その代わり、気持ち良くなってええから。私も協力するえ」
「マニアックなプレイを……美味しく頂くよ、木乃香」

 改めて刹那のお尻を支えて彼女自身の頭上高くに。
 それからむつきは自分の浴衣をはだけ、そそり立つ一物をさらけ出した。
 小さくぁっと呟き木乃香が一瞬眼をそらしたが、大事な事だからとそらされた視線が戻るまで待った。
 ちらちらと、興味はあるが恥ずかしい。
 刹那にここまで意地悪しておいてなんだが、木乃香が恐る恐る凝視した。
 良い子だとその頭を撫でつけ、いざ未知の領域へ。

「ん、これ難しいな。スパッツがピッタリ張り付いて」
「先生、うちが。ほら、この隙間やえ」
「内助の功、立派なお嫁さんだな」

 ややわと照れる木乃香が行なったのは、刹那のスパッツを摘み肌との隙間を作ったのだ。
 そこへむつきが挿入角度をつけて、勃起した一物をねじり込む。
 刹那の溢れる愛液のおかげで挿入は楽勝だが、なんともいえぬ感触だ。
 京美少女の白くすべやかな肌の感触と、スパッツのすべやかだが何処か抵抗のある肌触り。
 貝合わせともまた違う、二種の肌触りに混乱しそうだ。

「やべ、これがスパッツプレイ。腰抜けそうだ」
「やって。せっちゃん良かったえ、先生喜んであんな腰振って。うちも濡れ濡れしてきたえ。せっちゃん、ここ。この隙間から」

 肌とスパッツの隙間にむつきが必死に挿入する様をみて、木乃香も盛り上がってきたらしい。
 自分のお尻へと手を向けて、パンツの隙間に指を入れては端へ寄せた。
 せつなと同じく、にちゃりと糸を引く陰部をさらし舌をを誘う。

「んっ、せっちゃんの舌入って。先生、うちもせっちゃんに弄られとる」
「見えないのが残念だ。けど、木乃香。こっちに顔向けて」
「先生とのキス、うち虜になってまう」

 上を見上げ喘ぐ様が丁度良いと、刹那のお尻を叩きながら木乃香の唇を奪う。
 前傾姿勢が少々苦しいが、あまりの気持ち良さに射精を抑えている今よりましだ。
 刹那の割れ目、恥丘、少しの陰毛に竿の裏筋が擦られ、上からはスパッツの押さえつけ。
 セックス並みに気持ち良いと、ますます挿入により刹那の尻を叩き上げた。

「気持ち良いぞ、刹那。木乃香はどうだ、刹那は上手か?」
「先生、ご褒美あげて。せっちゃん、上手。犬さんみたいにぺろぺろしとる」
「んっ、んぅーっ!」

 刹那のうめき声はもっとしてなのか、止めてなのか。
 どちらにせよ、ご褒美なら仕方がないとむつきの腰がスピードを上げた。
 刹那の尻を叩く、未通の割れ目を擦り上げる、愛液を飛び散らさせる。
 合間、合間に木乃香とキスをしては、片手だけ刹那の尻を離れ木乃香の胸に。
 ちょっと固めのブラジャーが邪魔で、木乃香にとって貰いノーブラとなったそこにわざわざワンピースの上から掴み上げた。
 少々こぶりだが、直前に触っていた刹那のそれに比べてば歳相応。

「先生、うちのおっぱい小さない?」
「いや、十分。可愛いおっぱいを持ったお嫁さんで嬉しいよ」
「へへ、何度言われても恥ずかしいえ。お嫁さんやなんて。ずっと先の事や思っとったのに。旦那様、ちゅう。もっとちゅう」
「我が侭なお嫁さんだ。もう一人のお嫁さんは苦しくても頑張ってるのに」

 刹那が舌で咥えるから、私は上やと良くわからない理屈を捏ねてキスである。
 まあ良いかと、むつきも流されるまま。
 近付く射精感にも抗わず、刹那の尻を掴み上げてのラストスパートであった。

「そろそろ、出るぞ。刹那のスパッツの中に」
「せっちゃん、もう少しやえ。私も、もうちょい」
「んぅ、はっ。ぁっ、んんっ」

 頑張れ頑張れと木乃香が腰をくゆらせ、むつきは反面強く叩きつけた。
 今頃木乃香のスカートの奥に隠れた刹那はどんな表情をしていることか。
 一瞬眼が合った木乃香とむつきは、互いに何を考えていたか察していた。
 同時に、ははっと心が通じたかのような感覚に笑みが零れる。
 だがそれについて何を確認するまでもなく、行なったのは口付けであった。

「んっ、んぁ。ぅぁっ!」
「ふんっ!」

 口付け合いながらそれでも離れないと押し付け合いながら木乃香が体を震わせた。
 そんな木乃香を離すまいと、片手で後頭部に手を回しながら深くキスをする。
 一方で刹那のスパッツの中には、どろどろの精液が大量に放出されていた。
 刹那とスパッツの間に盛大に中出しであった。

「あかん、うち。本気に、先生のこと」
「俺は最初から本気だ。木乃香も刹那も二人とも嫁に、まだ出る。刹那!」
「んーぅッ!」

 遠い場所に気をやり倒れこんできた木乃香を受け止め、刹那の上からどかしてやる。
 隣同士、ソファーの上で寝かせてやると、木乃香が手を伸ばしてきた。
 何処にも行かないよとその手を握り締め、しばらくぶりの刹那とのご対面である。
 普段凛々しいその顔を蕩けさせ、木乃香の愛液塗れにして可愛いものだ。
 頬にキスするついでに木乃香の愛液を舐め取ってやった。

「先生、うちもキス」
「はいよ、お姫様」

 半分意識が飛んだ状態で求められたが、しっかりと答えてあげた。
 念入りにここまで木乃香の味がと、刹那の唇を丹念に舐め上げる。

「はぁ、ふぁ……なんやろ、せっちゃんとしてた時と全然ちゃう。凄く疲れたけど、気持ちええ疲れ」
「このちゃん、ここ触って。先生のがぷりぷりしとる。赤ちゃんできてしまう」
「せやったら、一生懸命二人でその子守らなあかんな」
「こら、二人とか寂しい事を言うな。俺も混ぜろ」

 仲間外れにする悪い子は何処だと二人を押し潰すように上から抱きついた。
 楽しげに悲鳴こそあげるものの、二人共気だるそうに動く気配もない。
 三人で代わる代わるキスの嵐を互いに降らせあい、お昼寝の一つでもと思ったが。

「先生、もう一回頑張れる?」
「んー、飯までまだ時間あるし。全然出来るけど?」

 時間ではなく、体力的な意味で聞いたんだけどと木乃香は苦笑いである。

「私も先生に一回、愛されたいえ。せっちゃんも、先生が頑張ってる格好良えとこみたいえ?」
「それは、さっきはこのちゃんしか見えてへんかったし」
「そう言う事なら、こうだ」

 刹那の横で寝ていた木乃香の腰を抱き、ごろんと一回転。
 これから木乃香が刹那を犯しでもするかのように、跨らせた。
 そのこのかの濡れた下着と刹那の破れたスパッツとか貝合わせの格好だ。
 もちろん、むつきは未通の割れ目が布越しにぴったりくっつき合う隙間に狙いを定める。
 木乃香のお尻を優しく両手で包み込み、一回程度では衰えぬ一物を添えた。

「うちに一杯出したのに、まだこんなに熱いえ」
「俺が普段から何人の嫁さん相手に頑張ってると思ってんだ。お前らが満足するまで、なんどでも付き合う、よ!」

 そう呟いた次の瞬間、むつきの一物がねじ込まれた。
 木乃香の淡い空色のパンツが生み出す割れ目へと、刹那の破れたスパッツが生み出す白と黒の境界線上へ。
 強かに木乃香のお尻をたたき上げ、ぱんっと小気味良い音が鳴った。

「熱ぃ、先生手加減して。私初心者やえ?」
「今まで刹那と散々予習してきたろ。頑張れ、優等生」
「このちゃん、かたなったらあかん。力抜いて」
「せやかて、先生。がぁんんっ。お股熱い、お尻ちょい痛いえ」

 剣道部で日々鍛えられる刹那と違い、木乃香は生粋のお嬢様だ。
 同じお嬢様のあやかは少々淫乱の気があったが、木乃香はSなだけで打たれ弱いらしい。
 ちょっと可哀想かなと、いきなり激しくはせず、むつきも加減して木乃香のお尻を打った。
 二人が気持ちよくなる事を最優先に、気をそらす目的で木乃香のうなじにキスをした。

「先生、くすぐったいえ。それにキスマーク、お爺ちゃんに見つかったら」
「刹那に付けられたって言えばいいさ。今はまだ。五年後、結婚したら挨拶にいく」
「せっちゃん、一緒に先生と結婚式やろ。ウェディングドレス、それとも白無垢?」
「う、ウェディングドレス……」

 恥ずかしいと顔を隠そうとした刹那の手を木乃香が掴んだ。

「せっちゃん可愛え、隠したらあかん。先生が凄いところ見なあかんし」
「このちゃん気付いてへんけど、ちゃんと見えとるえ。うちらのお股の間から、亀さんが。先生の亀さんがひょこひょこ顔出しよるんよ」

 可愛い表現だことと、むつきはちょっと笑いそうになっていた。
 だが雰囲気的に噴出すのはアウトかと、我慢の為にも木乃香の耳たぶを食んだ。
 ぷりぷりの耳たぶを舌で転がし、両手の指先は木乃香の背中を登っていく。
 ぞわぞわと木乃香が身震いをすると、それだけ愛液の量がまし衣擦れの音に水音が加わった。
 もはや木乃香も刹那も履いている下着が下着の体をなしていない。
 愛液に塗れ変色し、もはやむつきの一物を愛撫する為だけに存在するかのようだ。
 凶悪な一物をさらに黒光りさせる為に、愛液を用い下着で塗りこんでいるかのよう。

「木乃香、脱がすよ」
「なに、やん!」

 咄嗟に木乃香が胸を抱えるようにしたのは、むつきの悪戯のせいだ。
 背中を登った指先が目指したのは、ブラジャーのホックである。
 それをプチッと外し、ワンピースのスカートから手を入れ奪い取ったのだ。
 初日だが少しハードかなとも思ったが、木乃香の汗ばんだ匂いをブラジャーから嗅ぎ取った。

「先生、嗅がんといて。うち、映画観とるんぅ。汗一杯」
「だからこそ。ほら、刹那。木乃香の良い匂いするぞ」

 返してと体を捻ろうとした木乃香を両腕ごと後ろから抱き抱え封じる。
 そして指先だけの反動でブラジャーを投げて寄越した先は、刹那だ。
 受け取った刹那は、止めてと懇願する木乃香と、嗅げと悪い笑みのむつきの板ばさみ。
 ならば決断するのは刹那の希望、願望、欲求。
 迷わずこれがお嬢様の汗ばんだ匂いと、ブラジャーの内側をくんくん嗅ぎ始めた。

「このちゃんの匂い、このちゃん。これだけで、うち」

 おいおいと渡したむつきが戸惑うぐらい興奮したらしく、今にもイクと言いそうだ。
 けれどさすがにむつきは二回目、木乃香もまだ直ぐにはイケない。
 羞恥を与えられる側の木乃香もあたふた、ここでむつきが取った行動はこうだった。
 ノーブラとなった木乃香の胸を鷲掴んだのだ。
 木乃香は暑い夏場を考慮し、薄手の白いフリルのあるワンピースである。
 ただでさけ透け易い白い生地、その上からノーブラのおっぱいを揉んだらどうなるか。
 答えは透ける、特に乳首などはピンク色がはっきりと分かる程に。

「こ、このちゃん!」

 ちょっと暴走気味に、新しい餌を与えられた動物のように刹那が上半身を起こした。
 その勢いのまま、むつきが掴み浮かび上がらせたピンク色にしゃぶりつく。

「やっ、暴れたら。くぅ、先生が食い込んで。せっちゃん落ち着いてぇ」
「このちゃん、いやらしい。どうしてこのちゃんはここまで私を惑わして。好き、大好きこのちゃん。一生お仕えします、結婚しましょう!」
「嬉しいけど、今は」
「何故、あんなに毎日愛し合って。子供なら、先生がたっぷりと種を注いでくれますから!」

 吹っ切れたのか、単に暴走しているだけか。
 刹那の瞳にはパンツ越しだが、その子種を注ごうとしているむつきでさえ眼中にない。
 最初に好意を示したのは刹那なのに、木乃香の方がはっきりすぐらいだ。
 子種を注ぐといわれ、自身の下腹部を見下ろし、次に振り返り。
 一瞬の隙を突かれ、むつきにちゅっとキスさえ真っ赤に頬が火照っていた。

「産む、私も産む。先生の赤ちゃん、一緒に三人で。先生はやく、私赤ちゃん欲しい」
「なんか、結局木乃香の方が俺へのラブが深いような。まあ、いっか。可愛い嫁さんに頼まれたんだ。旦那としては、頑張りますか。ほら、腰抜かすなよ」
「この、こっ。ぁっ、お股熱い、このちゃん!」
「せっちゃんが、赤ちゃん言うから。ぅぁ、はぅ。お股すりすりされて、気持ち良え。せっちゃん今度は一緒に、一緒にいこな。一緒に先生に一杯アレ貰おう」

 二度目とは言え、お互いまだまだ若い。
 セックスの目的、新たな命の為にとむつきの腰がそれはもう激しく動いていた。
 愛液に塗れた二人の下着から火がつくのではと思う程に。

「やべえ、京美少女の肌、パンツ、スパッツ。属性過多だろう。腰止まんねえ。木乃香、刹那準備は良いか。卵、お腹の中に入ってるか?」
「お腹、キュンキュン。私おっけーやえ。赤ちゃん育てる準備万端やえ」
「うちも、お股ぬるぬる。先生、お情けを。ありったけのお情けを!」
「いいか、仲良し同士。同時にだ、同時に。おら、孕め。コレで双子の誕生だ!」

 一際強く大きくむつきが木乃香のお尻をたたき上げると、迸った。
 刹那が亀さんと称した亀頭の先から、精液が飛び散り卵は何処だと飛び出していく。
 だが生憎、二人の卵はお腹の中。
 迸った場所はパンツとスパッツに挟まれた、魅惑の谷間である。
 ならばせめてとばかりに、仰向けとなっている刹那のお腹に、制服または顔に降りかかった。
 その熱い迸りを受け、コレが生命の元なのかと木乃香と刹那が打ち震えた。

「熱ぃ、これうちの中に。中に、赤ちゃんの元やえ!」
「先生、先生との赤ちゃん!」

 何故中じゃない、外では受精できないとより切なさが増したようだ。
 元からある快楽が寸での所で受精できず、爆発したような。
 事実下腹部で何かが爆発したように、大きく彼女達の体が震え上がり弓なりに身悶えた。 一度目のそれとは比べ物にならない、生命力の放出。
 その波が去った頃には、今度こそ二人共虫の息であった。

「はぁ、はっ。ふぅ、せっちゃ。ついとる、舐めて。へへ、苦いえ」
「このちゃんも、折角のお洋服。綺麗に、うぇ」

 それでも放出された生命を少しでも取り返そうと、互いについた精液を舐めあう。
 やれやれと二連続の射精に一息ついたむつきだが、思う所があった。
 互いの服や顔に飛んだものを舐めあう必要は無い。
 折り重なる二人の枕元に移動しては、新鮮なものがここにと未だそそり立つソレを見せた。

「綺麗にしてくれるか?」

 力なく笑みを見せられたが、もぞもぞと二人が動き始める。
 キスだって先程が始めてなのに、抵抗感はなかった。
 子猫のようにチロッと舌先で舐めとり、確認してはぺろぺろと。
 丹念にお掃除フェラを始めた木乃香と刹那の努力を無に帰すように三度目の射精は近い。









-後書き-
ども、えなりんです。

木乃香は口で言う程、まだむつきを好きではないです。
刹那と一緒という点の比重の方が大きいはず。
そのうちきちんとイベント書いて、きちんと好きになって欲しいです。

では次回は来週の土曜日です。



[36639] 第九十一話 あっ、流れ星
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2013/12/21 20:30

第九十一話 あっ、流れ星

 高く詰まれたような雲こそあれ、今日も晴天に恵まれ絶好の合宿日和である。
 ひかげ荘の玄関前では、旅行用のボストンバッグを手にしているむつきの姿があった。
 その両隣には、夏休み中にも関わらず制服姿で同じくボストンバッグを手にするアキラと亜子の姿も。
 今日これから三日間、水泳部の強化合宿である。
 強化合宿と言うよりは全国大会前の最後の追い込みという方が正しいだろうか。
 合宿後に一日休みを挟んで次の日が全国大会の開催日だ。
 現在時刻は午前の五時半、普段なら昨晩の情事の疲れもあって皆で一緒の布団の中のはずだが、家主兼旦那の出立を前に皆が勢ぞろいだ。
 唯一の例外は、ネット碁を遅くまでしていえ、茶々丸に抱えられ船を漕いでいるエヴァぐらいか。

「それじゃあ、行って来るから。全員が不在になる時は、ちゃんと鍵しろよ。火の元は四葉、頼むな。それから、変な奴が来たら……たぶん、田中さん達がなんとかしてくれるから、余計なあぶない事はするなよ?」
「先生、小さな子じゃないんだから。それに、生水飲んじゃ駄目とかこっちの台詞」

 色々と注意をしていると、美砂にそう指摘されくすくすと周りが笑い出す。
 しかし、将来嫁にするとはいえ、世間的には大事なお嬢さんをあずかっている立場だ。
 色々と喰い散らかしている手前、偉そうな事はいえないが。

「先生が不在の間はお任せを。私も少々不在にする場合もございますが」
「基本、私はいるからお任せネ。エヴァンジェリンもいるし、警備は万全ヨ」
「おい、最後凄く不安な台詞が混じってたぞ」

 アレが警備上で役に立つかと、相変わらず茶々丸の腕の中で船を漕いでいるエヴァを見た。
 天使の寝顔かと思いきや、夢の中でも囲碁をしているのか勝ち誇ったようにへへっと涎交じりに笑っている。
 警備というか、一部異常精癖者にとってはむしろ餌なのではと思う。
 義兄ちゃんのお出かけだぞっと、頬をつついてもあむっと咥えられちゅうちゅう吸われただけであった。
 赤ちゃんかと思いつつ、涎交じりの指先をズボンの尻で拭こうとしたら、亜子に止められハンカチで拭われた。

「それじゃあ、行って来るから」
「ちょっとちょっと、そんな味気ない別れ方はないんじゃないの?」

 最後に戸締り気をつけろと、手を挙げ行こうとしたらデジカメ片手の和美に止められた。
 味気なくない別れとはと思ったが、直ぐにわかった。
 歩み寄ってきた美砂が背伸びしながら、唇を突き出してくればわかるに決まっている。
 わざわざ、皆が早起きしてまで玄関前に勢ぞろいして、お見送りの理由がようやくわかった。
 行ってらっしゃいのチュウがしたくて、全員ここにそろっていたというわけだ。
 現在、立場を保留中の四葉や葉加瀬は、純粋にお見送りなのかもしれないが。

「行ってらっしゃい、先生。アキラ、亜子も。あんまりセックス強請っちゃ駄目だからね」
「水泳の強化だって。行ってきます、美砂」

 人数が人数なのでちょっと手早く、触れるだけのキスである。
 その瞬間を、逃さないとばかりに和美が綺麗に写真に収めてくれていた。

「決定的瞬間を逃さない良い練習だね。さあ、じゃんじゃん行こうか」
「それでは、僭越ながら。行ってらっしゃいです、先生」

 小さな夕映は背伸び程度では届かないので、むつきが屈んでキスを受け止め易くしたり。
 同行するアキラや亜子を除き、小鈴、千雨、あやか。
 それから昨日、ついに入寮したさよや、新たにお嫁に加わった木乃香と刹那。
 船を漕いでいるエヴァや、あやしている絡繰、四葉と葉加瀬は頬やおでこにキスだ。
 嫌がられては居なかったので、問題なかろう。
 可愛いお嫁さん達や、候補者に行ってきますのキスを終えてからむつきは集合場所である学校へと向かった。
 両隣にアキラと亜子を従え、階段を降りるまでは腕を組みながら。









 半修学旅行から帰宅しての翌々日、椎名は量の自室のちゃぶ台前で深く考え込んでいた。
 とはいえその表情に深刻さはなく、眉を顰めたり頬を染めて照れ笑いしたりの百面相であった。
 一体誰のことを考えているかは、一目瞭然である。
 昨日はお盆に帰宅できなかった実家に、お土産一式を手渡しとんぼ返りしてきていた。
 久しぶりなのだからもう少しと強請る両親に全てを打ち明けたら、それはもう良い笑顔で送り出してくれたものだ。
 相手が教師、だからなにとばかり、そんなことより我が子の幸せの方が大事だとばかりに。
 二人とも我が子の絶対幸運を心配し、運気が下がる髪型や鬼才が多い麻帆良学園に送り出したほどの親であるため反対などしない。
 そうして両親からの了解はきっちり得たので、あとは最愛の人をガッチリ射とめるだけなのだが。

「むう、夏休み明けまで待ってらんない」

 そう、射とめる以前に現状椎名がむつきに会うためには、夏休みが明けるまで待つ必要がある。
 水泳部の顧問なので遊びに行けば会えなくもないが、部外者がちょろちょろしていては減点行為だ。
 しかも今日から水泳部の合宿で三日、そのまま大会に突入なので四日は帰ってこない。
 その四日目のアキラの全国大会の応援で会えることは会えるが、その日の主役はあのアキラであった。
 目下一番のライバルであろうアキラが主役の日に、ちょっと勝ち目はなさそうだ。
 むつきが水泳部の顧問であることからも、そう間違ってはいないだろう。
 それにしたって、むつきに好意を寄せるのはアキラだけではなかった。
 椎名のみたところ、古もあやしいし、ファザコンのはずの明石だって油断はできない。
 しかも沖縄の最終日、落とし穴に落ちたとはいえあの那波と互いに半裸で二人きりで数時間過ごしも。
 けれど、なんだろうか椎名の勘にひっかかるものがあった。

(もっと強敵が他にいる気がする。しかもたくさん。なんとなく……例の本命の彼女さんとか、アタナシアさん以外にも)

 目に見えているライバルのみならず、強敵が他にも伏せているように思えてならなかった。

「よし、決めた!」

 なにかを思いたったその時、寮の自室の部屋が開けられ釘宮が何処からか返って来た。

「ねえ、裕奈とかが……なにしてんの?」
「桜子、カラオケ行こう。カラオケ、そこでアキラの全国大会の応援練習しよ」
「水泳部の合宿にはついていけなかったから、こっちもこっちで合宿しよう!」

 釘宮に続き、飛び込む様に部屋に入って来たのは裕奈や佐々木である。

「むっ、ライバル登場?!」
「お? ライバルってなにが?」

 勝手にライバル認定され、腕のクロスガードを向けられた明石はきょとんとしている。

「乙姫先生争奪戦のライバル候補のことだけど。裕奈も先生のこと好きでしょ?」
「へっ?」
「えーっ、裕奈。だって、アキラが。ど、どっちを応援すれば?!」

 おろおろする佐々木に触発されたのか、ちょっと考えるそぶりを見せた明石は慌てて手を振った。

「え? あれ……や、やだな桜子。藪蛇に」
「藪から棒って言いたいの?」

 ある意味で藪蛇であっていたのではと、釘宮は一人一歩引いた場所でそっと突っ込んでいた。

「悪いけど、私パスするね。私これから先生の家を探しに行くから」
「探しにって。桜子なら探し当てれそうだけど。先生なら水泳部の合宿で三日間留守でしょ? そのまま水泳部の全国大会に行くって」
「だから、先生のいない間にお部屋のお掃除とか点数稼ぎ?」
「そ、それにさ。家に鍵かかってるんじゃないの?」

 直前にされた椎名の突っ込みからテンパっている明石に代わり、珍しく佐々木がそう常識的な突っ込みをしたわけだが。
 相手はあの絶対幸運の椎名である。
 あっけらかんにそれが当然、運命であるとばかりにこう言ってのけた。

「先生の家を探してる間に、鍵拾うから大丈夫!」
「言い切った?!」
「あるわけないって言い切れないのが、桜子だしね」
「そういうわけで、ぁっ」

 一人抜け駆けするように部屋を飛び出そうとした桜子が、ぴたりとその足を止めた。
 突然どうしたと見つめる三対の視線の前で、何かを思い立ったように考え込んでいる。
 しかしそれも一分にも満たない間であり、やはり彼女独特の感性で呟いた。

「ボディーガードがいないと危ない」
「ボディーガード?!」

 一体それはどういうことかと佐々木が目を白黒させる。
 しかし発言者が椎名であるだけにこれまた、釘宮も明石もそれを否定することができなかった。

「ねえ、桜子。別に邪魔したいわけじゃないけど、止めておいたら? 日が悪いとか、そういうんじゃないの? 何時ものアンタなら、危険そのものを察知する前に回避してるよ?」
「そうそう、ここは私たちと一緒にカラオケで声出しに行こう?」
「じー」
「だから違うって私は別に先生がどうこうとか、むしろチア部の桜子を応援しちゃったりなんかしちゃったり」

 椎名にジト目で見られ、慌てて明石が否定する。
 するのだが、返ってなんで私はこんなにあせっているのだろうと自問自答もしていた。

「あっ、くーへ。楓ちんに龍宮さん。ちょうど良かった。ねえ、これから先生の家にいかない?」
「せ、先生の家にアルか?!」
「むっ、ひかげ荘の件が何処から洩れた?」
「これ、連れて行っては非常にまずくはござらんか?」

 何故か佐々木が割と乗り気な気分で、廊下をたまたま通りがかった三人に手を振った。
 やばい見つかったとばかりに三人はこそこそ耳打ちしあっていたが。

「ちょっとまき絵、確かにその三人がいれば大抵のことは大丈夫だけど!」
「むむっ、くーへかぁ。ん? でもこの三人ならいけそう。むしろ誰かが欠けても危ない」
「ああ、駄目だ。桜子が自ら危険に飛び込むだなんて」

 慌てて明石が止めるも、もう遅い。
 立ち位置的に三人が見えない位置にいた桜子にもその存在はしっかりと伝わっていた。
 安心の桜子印のお墨付きまで。
 釘宮もこれはもう止められないかと、半分諦め始めていた。









 結局、むつきの家を見つけようツアーの参加者は以下となった。
 絶対幸運の持ち主でありすべての行動のキーマンである恋する乙女の椎名がリーダーである。
 女子寮の玄関前で元気いっぱいに両手を突き上げ、やる気は十分といったところだ。

「よーし、数年ぶりに本気だしちゃうぞ!」

 それから最強のボディーガードであるがちょっろ後ろ暗いところもある古に長瀬、龍宮の三人。

「古に楓、ミッション追加だ。彼女らがひかげ荘に到達するのを阻止するぞ。ただ働き、くっ。胃に穴が開きそうだ。よし、料金は先生につけとこう」
「何故じゃまするアル?」
「古はエヴァ殿の推薦があるでござるよ。それに傷は浅いうちでないと、気の持ち主が暴走すると危ないでござる。拙者は、古い人間なので理解はあるでござる」

 普通の女の子が真実を知って、そんな人だとはとパチンと平手ぐらいなら良いのだが。
 古の場合だと、バチコンとむつきの胴体が千切れかねない理由もあった。
 最後に興味本位の佐々木と自問自答中の明石、来てしまったことを絶賛公開中の釘宮だ。

「桜子、あっち私の勘ではあっちって出てるよ!」
「そうアキラのため。私はアキラのために桜子をけん制してるんだ。私が好きなのはお父さん。よし、そういうわけで、私はあっちに一票!」

 若干、明石にやけくそ気味な空気が漂っている。

「桜子、行く前に身の安全は保障してよね?」
「うん、大丈夫!」
「桜子大明神がそういうなら」
「だって私の運、全開にするから!」

 私にお任せとばかりに、釘宮へと振り返った椎名は、あろうことかその髪の毛のみで出来た三つ編みお団子を解き放った。
 普段から終始まとめ上げている髪を振りほどけば、意外と背中までくるぐらいに長い。
 夏の温い風にあおられ、さらさらとそよぎちょっとだけ桜子は鬱陶しそうだ。
 お風呂場以外で髪をとくのはみたことないなと、呑気にしていられたのは釘宮以外。
 桜子の髪型の意味を知っていた釘宮は大いに慌てた。
 お風呂場で髪をほどく時は、運気が下がる他のアイテムで一時的にごまかしたりしていたのだ。
 現在、黒のミニスカキャミソールを着ている桜子は、どう見てもそんなアイテムを持っていない。

「ちょっ、ちょーっ!」
「えっ、なになに。なにが起こるの?」

 一人慌て奇声っぽい何かを釘宮があげて周囲を伺い、それに乗る様にまき絵がわくわくと。
 実は仕事柄、桜子の事情を知らされていた龍宮が、古と長瀬に視線で警戒をと告げる。
 しかし、意外と何も起こらないというかのどかにセミが煩いぐらい。

「さあっ、行ってみよう!」

 釘宮の心配もなんのその、元気よく拳を空へと突き上げて桜子が歩き出した。
 特に当てもない様子ながら、何処へ向かって歩けば良いかわかっているかのように。
 案ずるより産むがやすし、ちょっとだけ事情を知る者の頭にそんな言葉が流れていった。
 桜子の後に佐々木と明石が続き、やれやれとばかりに釘宮達も続いた。
 最初に何も起こらなかったので、心の内は幾分楽になり暑い暑いと愚痴りながら歩く。
 すると直ぐに気づくことだが、歩き道は見慣れた通学路であった。
 この区域は学生の寮やアパートが多く、学生のみの住宅街の様な場所である。
 どうやら桜子の足は麻帆良女子中への登校時にも使用している駅へと向かっているらしい。
 しかし、普段は朝方に歩く道のりであり、十時になろうかというこの時間は夏場もあいまって暑いにもほどがある。

「暑っ、ねえ誰か飲み物もってない? 考えてみれば、朝起きてからあんまり水分とってない」
「生憎、拙者らも手持ちはござらん」

 はしたなくも舌を出して歩き出しそうな釘宮の言葉に楓を始め、誰もが首を横に振っていた。
 唐突だったのは皆も一緒、ただし楓たちは数分でたどり着く予定だっただけだが。
 そこで道端の自販機をふと目に停めた椎名が、なんとなく思いついたようにぽつりとつぶやいた。

「先生、旅行中に一度倒れたし。ちゃんと水分とってるかな?」
「水泳部でプールに入るから大丈夫じゃないかな?」
「まき絵、プールの水を飲むわけじゃないってば」

 明石の突っ込みにあははと三人が笑おうとした時である。

「むっ」

 なにかを見咎めたように長瀬がとある方向へと視線を向ける。
 しかし全く違う場所、桜子が見つめていた自販機にこそ事件は起き始めた。
 ぶすぶすと黒い煙を天井部分から吐き出し始める自販機、誰がどう見ても故障以外のなにものでもない。
 咄嗟に古と龍宮が他の面々を庇うように前に出たが、次の瞬間目を丸くすることになった。
 ガコンと黒い煙を吐き出していた自販機がジュースを吐き出したような音を立てた。
 数秒後にまたガコンと、もう一度、それが続き終いにはパチンコ屋の一斉大放出とばかりにありったけのジュースを吐き出し始めたではないか。
 瞬く間に取り出し口からジュースが二車線ギリギリの道路に溢れ、亀が卵を産卵するがごとくであった。
 これで道の両端がコンクリートの塀でなければどこまで広がっていったことか。

「ちょっ、桜子ジュース欲しがるの止めぇ!」
「そうだよね、それぞれ一本貰ってちゃんとお金は払わないとね」
「私、つぶつぶオレンジ」
「んー、ならサイダー?」

 一本だけだぞっとばかりに椎名が拾うと、釣られて佐々木と明石も一本拾った。

「ちょっと、拾う前に集めて返さないと」

 一人突っ込みが忙しい釘宮に言われ、そうだったと皆で道一杯に広がったジュースを集め始める。
 しかし自販機にこんなに詰まっているんだと驚くような本数であった。
 ちょっとめんどくさいと椎名が思っても仕方のない事だろう。
 そう思った直後、一本の缶ジュースがころころと転がり始めた。
 待てと椎名が慌てて手を伸ばしたが、誤って蹴飛ばしてしまい余計に転がって行ってしまう。

「待つでござる!」
「わっ」

 そんな椎名の手を握り引き留めたのは、ずっと別の方角を見ていた長瀬であった。
 直後、ジュースが転がっていった先の交差点に、横から小型トラックが猛スピードで飛び込んできた。
 異常過ぎるスピードで飛び込んできたそれは、タイミング良くというべきか。
 後輪で転がるジュールの缶を踏んづけた。
 直進していたとはいえ、猛スピードで走る途中で予期せぬ段差が現れればどうなるかは自明の理である。
 完全に制動を失い前後くるりと回転するように、交差点脇の電柱に車体後部をぶつけていた。
 心臓が一瞬で収縮する程の大轟音を立てたにも関わらず、トラックはすぐに切り替えし行ってしまう。
 鍵が壊れ開いた後部の扉に気づくことなく、そこから何かをぼとぼと落としたまま。
 かなり重そうなジュラルミンケースであり、なんとなくその中身が察せられた。

「ちょっ、け、警察!」
「いや、警察は既に追跡中でござる」

 楓がずっと気にしていたのはパトカーのサイレンであったらしい。
 一台はそのままトラックを追いかけ、後続はジュラルミンケースを守る様にパトカーを止めだす。
 それは良いが、このジュースまみれの状況をどう説明すべきか。

「に、逃げろぉ!」

 リーダーがそう言うなら仕方がない。
 満場一致でその場からジュース一本を手に、警官の言葉を無視して駅へと向けて逃げ出した。
 ジュース一本の為に駅まで全力疾走。
 汗だくになってこれはむしろ桜子の運気が下がっているのではないのだろうか。
 しかも駅についてやれやれと思いきや、たぶんあれとばかりに桜子がちょうど駅について電車を指さした。
 慌てて言われるままに切符を買って階段を駆け上がって、発車ベルが鳴る最中に飛び込んだ。
 釘宮といった一般人代表は膝に手をついて息を荒げ、あの長瀬たちでさえ額がうっすらと汗ばんでいた。

「あー、走った。もう、無理。うぅ、サイダーを開けるのが怖い」
「良かったつぶつぶオレンジで」
「同じく中国ウーロン茶アル」
「拙者は五右衛門緑茶でござる」
「私はコーヒーブラック無糖ABCだ」
「私もコーラなんだけど」

 被害にあったのは、明石と釘宮である。
 そしてエネルギー補給用炭酸飲料であるエドゲインを購入した椎名もそれは同じなのだが。
 明石や釘宮のようにうんざりした顔ではなく、物凄く嬉しそうにニコニコしていた。
 満面の笑みの彼女の手の中には、寮の鍵ではない見たことのない鍵が収まっている。
 まさかねと、全員で顔を見合わせたのだが、聞かずにはいられない。

「桜子、それ……」
「へへ、先生の家の鍵ゲット。ついてる、ついてる。普通に歩いてたら間に合わなかった。足元に落ちてた。きっと先生がここで落としたんだ。きっと私の愛の力」
「どう考えても、運でしょ」

 代表で釘宮が聞いたが、足元と指さされたのはこの電車の車両内である。
 しかも椎名の言葉を肯定するように、鍵には乙姫という名とひかげ荘なる印字があった。
 ひかげ荘はともかくとして、乙姫なんて名前がそうごろごろしているとも思えない。
 あのまま駅までの道をだらだら歩いていたら、きっとこの車両にかち合うことはなかったろう。
 あの自販機からのジュース大放出や強盗らしき暴走車はこの布石にすぎなかったのだ。
 もはや幸運云々ではなく、運命そのものを都合よく改変しているだろうと疑わざるを得ない。

「うん、無理だな。ミッションは辞退だ。諦めよう」
「で、ござるな。下手に邪魔をすると後が怖いでござる」
「もしかしてA組最強は桜子アル? でも、負けないアル」

 そしてついでとばかりに、ボディーガードたちの暗躍を粉みじんに砕くのであった。









 行先も分からぬまま飛び乗った電車は、そのまま終点まで乗っていった。
 もはや桜子の絶対幸運を疑ったり、異論を唱える者がいるはずもない。
 降り立ったことのない駅で初めて降りたものの、そこはひかげ荘の最寄り駅にほかならない。
 麻帆良市内にしてはちょっとさびれた感じで民家が点々としていた。
 さあもうひと踏ん張りと、桜子が皆を引きつれるように駅構内から一歩を踏み出した時である。
 思いも寄らない人物から、声をかけられた。

「あら、貴方たち。奇遇ね」
「刀子先生こそどうして?」

 釘宮が驚き反射的に問い返したように、話しかけて来たのはスーツ姿の刀子であった。
 彼女のプライベートは、夏祭りぐらいしかしらないがスーツ姿なのでプライベートではないだろう。

「私はちょっとね。学園長からお嬢様を探してきて欲しいって頼まれたのよ」
「木乃香を?」

 そんなの携帯で呼び出せばよいとばかりに、椎名が疑問の声をあげた。

「携帯が繋がらないらしいの。今日の夜はどうしても外せない用事があるのに。見かけたら教えてね。それで貴方たちは? 遊びに出かけるには、ちょっと向かない場所だけれど」
「私たちはむぐぅ」

 世間話の一環として気楽に答えようとしたまき絵の口を閉じさせたのは明石であった。
 しかし、自分で何故止めたのかわかっていないようで、ちょっと混乱している。

「私たちは麻帆良の隠れ甘味処めぐりでーす」
「ほう?」

 こちらは咄嗟に意図して嘘を吐いた椎名のセリフに、龍宮がちょっと過剰反応である。

「良いわね、できれば一緒にいきたいところだけど。でも、どうして私一人で探さなきゃいけないのかしら。いつものSP使えば良いだけの話なのに」
「刀子先生一人でアルか?」
「そうなの、学園長直々に頼まれちゃって。お嬢様の護衛の中で、正直刹那の次に仲が良くなっちゃった自覚は少しはあるのだけれど。そのせいかしら?」
「ふーむ、それは確かでござるが。ちと妙な感じがしないでも」

 古は単純に一人という非効率的なところに目を向けただけだが、長瀬と龍宮が素早く目配せをしていた。
 ひとまず刀子の相手を古以下、ちょっと思案顔の椎名や釘宮達に任せ小声でささやき合う。
 特に龍宮はひかげ荘に他の面々よりは詳しく、木乃香がそろそろむつきに食べられそうだという情報も知っている。
 そこで偶然とはいえ、ひかげ荘周辺で学園長に頼まれたと刀子を見かければ推理は容易い。

「それとなく、刀子先生にひかげ荘を発見させて修羅場発生。刀子先生も情を通じた相手だけに、表ざたにだけはせずひかげ荘終了といったところが狙いか?」
「その辺の機微は拙者にはいかんとも。ただ、学園長殿が一石を投じたがっているのはしかと」

 正直なところ、むつきと刀子は既に関係が切れている。
 さらにはひかげ荘にはエヴァがいるので口八丁でなんとでもなりそうでもあった。
 総じてといっては失礼かもしれないが、近衛詠旬や刹那、刀子も含み神鳴流の剣士たちは戦場はともかく言葉による駆け引きに弱い。
 ただ、たとえそうだとしてもわざわざ騒動の火種を連れて行っては、特に長瀬としてはエヴァの心証を悪くするだけなので避けたいところだ。

「ああ、もう面倒くさい。見つかりませんでした、てへっ。で済まそうかしら。ねえ、私もその隠れ甘味処めぐりに参加して良いかしら? 少しなら奢るわよ?」

 自分でもびっくりすぐらい不真面目な提案を、刀子はすんなりと言葉にしていた。

「あっ、流れ星」

 その言葉が終わるか終らないかのうちに、椎名が唐突に空を見上げてそんなことを言い出した。

「桜子、流れ星ってこんな昼間に……本当だ。飛行機雲みたいな。ねえ、あれって当たらずとも遠からず。別の何かじゃない?」

 つられて空を見上げた釘宮が同じものを空に見つけ、誰かに答えを求めるようにつぶやいた。
 刀子も含め、そこで全員が空を見上げると何かが空を横切っている。
 肉眼で視認できるぐらいの粒がそらを横切り、飛行機雲のような尾を引いていた。
 確かに流れ星に見えなくもないが、ちょっと流れ星にしては時間が長かった。
 空に筆でさっと色を塗る様に進んでいる。
 何気なく全員でその流れ星を見ていたら、やがて視界の端に別の飛行物体が目に入った。

「あれ、まずくないアルか?」

 古の言う通り、流れ星の通るであろう空に一機の飛行機が通りがかろうとしていた。
 飛行機をきっかけにしたわけではないが、ここにきてようやくあれがなにか分かった。

「もしかして、あれ隕石なんじゃないの?」

 半信半疑といった口調で刀子が呟いたが、満場一致でそうだろうと頷いた。
 その隕石はどうしているか。
 気づいているのか、いないのか悠長に空を飛んでいる一機の飛行機に今まさに突っ込もうとしていた。

「と、刀子先生。警察、早く連絡しないと」
「ちょっと待って、学園長の定時連絡がウザくて携帯切ってて」
「ぶつ、ぶつか。ぁっ」

 慌てふためいている間に、隕石が飛行機に直撃した。
 音が全く届かないので現実味は薄いが、小さな赤い小爆発が起き、飛行機の翼が片方千切れ飛んだ。
 そう、神鳴流は言葉の応酬こそ苦手であれ、現場であれば優秀の一言に尽きる。
 携帯電話の電源をオンにしようと慌てふためいていた刀子はもういない。
 だらけ不真面目アラサー女子から、一端の剣士へと表情から雰囲気の全てを変えた。

「古菲さんは、この場で椎名さん達の護衛。長瀬さんは折れた翼の処理、龍宮さんは細かい破片を狙撃。本体への人命救助は私が!」

 即断即決、有無を言わさぬ勢いでいうだけ言って駆け出した。
 さすがに椎名たちがいる目の前でいきなり民家の屋根から屋根に飛び移るわけにはいかない。
 一秒でもはやく彼女たちの視界から消え、全力を出せる状況にしなければと動く。
 遅れて一秒未満、事情を察した長瀬と龍宮もまた彼女の指示が正しいと動き始める。

「古、この場は任せたでござるよ」
「救助代は学園長につけておこう」
「任されたアル!」

 あっという間に消えていった三人を見送り、残された一般人枠はぽかんの一言であった。
 たった一人、良くも悪くも自分の絶対を信じている椎名以外は。

「さあ、あっちは刀子先生に任せて。こっちは先生の家の捜索だぁ!」
「おー!」
「ここで帰ると負けた気がするから、おー!」
「乙女的にここで一人帰るとかはないので、おーアル!」
「この状況でまだ続けるの?!」

 今更ながら、恋する乙女たちを前に自分なんていてもいなくても変わらない程度の抑止力だったと釘宮が気づき始めていた。









-後書き-
ども、えなりんです。

桜子の豪運の前には2-Aの武闘派もさじを投げるレベル。
今回ちょっと中途半端な場所で話が終わりましたが。
最後の飛行機はネタではなく、刀子イベントの複線です。
本来、しかも後書きで指摘するこっちゃないですが。

三話ほど、水泳部のお話してから戻ります。
そこでちょいと、アンケートっぽいものを。
九十二話から四話まで水泳部のお話で、小瀬、亜子、アキラのH回です。
特に亜子、単独エロ回が多い気がします。
最近この子ないんだけど、この子はよって意見あれば聞かせてください。
ストックもほぼゼロですので、融通は利かせやすいです。

できれば百話で第二部の夏休み編を終わらせたい。
では次回は来週の土曜日です。



[36639] 第九十二話 夜鳴きした体にオナニーはもう飽きちゃった
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2013/12/28 20:37
第九十二話 夜鳴きした体にオナニーはもう飽きちゃった

 水泳部の合宿は三日間、三泊で行われ四日目にそのまま会場入りとなっている。
 もちろん大会前に三日間休む暇もなく練習三昧というわけではない。
 二日間はそれなりに練習するが、三日目は大会会場の下見だったり体を休める日としていた。
 その辺りは部長である小瀬や、次期部長のアキラ、マネージャの亜子とも計画したのだ。
 まあ、時々セックス交じりに、むしろそっちが主の時もあったが。
 現在、プールサイドのビーチチェアに座っているむつきは、どこで間違えたと頭を押さえていた。
 視線を覚られないようかけているサングラスの向こうでは、うら若き乙女たちが個人所有の水着に身を包んできゃっきゃと遊んでいる。
 オレンジだったりピンクはまだ可愛いもので黒のビキニと、誰をターゲットにしているのか。
 眼福と言わざるを得ない光景だが、これなんてデジャブだろう。
 夢うつつに楽しかった旅行最終日を思い出している気分にもなっていた。

「あれ、旅行ボケ? 一昨日に沖縄から帰って来たばっかだよな?」

 元々、全国大会会場の近くに都合の良い練習場所などなかったのが発端だった。
 あまり遠い場所では、わざわざ合宿直後に全国大会に殴り込みなんて移動時間を考えても意味がない。
 そこで何処で聞きつけたのか、学園長が良い場所があると紹介してくれたのがここ。
 星が貰えそうなぐらいに豪華なホテルであり、このプールもホテルの地下にある専用施設だ。
 部屋全体は白く染められ、プールサイドには謎のシダ植物やビーチチェアにパラソル。
 扉でこそ仕切られているが一歩ホテル内に戻ればカウンターがあり、飲み物だって頼めてしまう。

「先生、そんな隅っこにいないで遊ぼうよ」
「アキラたちA組は担任だから仕方ないけど、水泳部にもサービス、サービス」
「むしろ、これ私たちがサービスしてない? ちょっと、誰か先生の前で水着の食い込み直してきなよ」

 水泳部員の中で練習をしている者など一人もいない。
 とはいっても今はホテルについたばかりで、割と長かった移動時間に対する休憩時間である。
 外出こそ禁じているがホテル内での自由行動中。
 早起きだったため二度寝に走る者や、こうしてプールで遊ぶ者、大きく分けてこの二種類だ。
 本格的な練習は時間もあることなので午後からとなっている。
 ちなみにむつきが水着姿でここにいるのは、一応監督者としてであり眼福を期待してではない。

「こら、あんたたち。先生を性的にいじっても痛い目みるよ。二年A組の面々を思い出してみなよ。先生、その子らの水着姿を沖縄でこれでもかって見て来たんだよ?」

 今この場にアキラや亜子がいないので反応に困っていると、小瀬という名の助け船が現れた。
 これまでの経験上、船の底に穴があいている可能性が無きにしも非ずだが。

「ぐはっ!」
「ちくしょぉ、ちぃーっくしょぉ。高校生に、高校生にさえなれれば、巨乳なんてぇ!」
「あれで同じ中二とか。あの子ら、本当同じ人類?!」

 A組の一部発育がおかしい子でも思い出したのか。
 むつきをいじろうとしていた水泳部員がぶくぶくと水の中に沈んでいく。
 他にも数人沈んでいく子もいたが、まあ許容範囲であろう。

「おう、ナイスサポ小瀬」

 何故かバスローブ姿の小瀬に、軽く手をあげて礼を言う。
 少しキョロキョロと周囲を見渡し、アキラと亜子の姿を探した小瀬がちょっと悪い笑顔で近づいて来る。
 その二人はホテルに着くなり、部屋にこもって睡眠中であった。
 基本的にひかげ荘は性的な意味で夜が本番なので、早起きがモロ祟ったようだ。
 むつきのいるビーチチェアに小瀬は腰掛け、ウィンクしてからこうささやいた。

「うん、三日間先生のおちんぽ様にはお世話になるから。これぐらい気にしないで。十日近く、私の体を使ってくれてないんだから。夜鳴きした体にオナニーはもう飽きちゃった」
「今のセリフで全く気にしないことにした。けど、まあ。練習に支障が出ない限り、可愛がってやる。今日明日は兎も角、明後日以降はアキラはもちろん、亜子も止めとくって言ってたし」
「ふひ、言っちゃった。ででーん、先生。アウトォ」
「え?」

 なにかまずいことを言ったかという顔をしたむつきの前で、小瀬が立ち上がった。
 それから一度振り返り、またしても悪い顔でむつきへと微笑む。
 やっぱり助け船は小瀬だけに具合の良い穴が開いていたようだ。
 彼女が白いバスローブに手をかけ、白鳥が羽を開く様に大げさにばさっと前を開いた。
 その向き先は数多の乙女たちが楽しげに泳ぐプールなのだが、瞬く間に黄色い悲鳴が上がった。

「やだ、先輩だいたーん」
「ひゅー、やるねえよっしー。あの噂は本当かな?」
「結構無理してビキニきたのに、それ以上があるなんて」

 むつきからは白いバスローブがカーテンのようになって、小瀬の姿は全く見えない。
 しかし、水泳部員らの反応を見る限り、ただのビキニやハイレグというわけではなさそうだ。
 大変嫌な予感がするとビーチチェアから立ち上がりむつきは逃げ出そうとする。
 その行動が遅かったのは、大胆なそれを見たいという願望が心のどこかにあったからだろうか。
 飛び跳ねくるりと百八十度くるりと回った小瀬の行動に対し、全く持って間に合っていない。

「なんのぉ!」

 小瀬にどんな思惑があろうと、目をつぶってしまえば決して見ることはない。

「はっはっは、小瀬。お前がどんな悪戯をしかけようと、そんなことに引っかかる俺ではない。というか、部長が率先してハメを外し過ぎるな。と、怒りたいが何処だ小瀬?!」
「咄嗟に目をつぶったのは紳士的に加点一、だけど後を考えていないので減点一」

 そう採点してくれたのは、三年のカウンターことあっちゃんだろう。
 それは良いとして、確かに目をつぶるよりも後ろに振り返った方が逃げやすかったのは確かだ。
 今からでも遅くないんじゃないだろうかと、振り返ろうとした時である。

「やーん、パンツの紐が解けっちゃった。慌てたら、ブラも」

 ぱさっと何かが落ちる音がむつきの耳に聞こえ、ついでこれ以上にない悲鳴が複数あがった。
 バスローブカーテンは現在、プール側からの視線を隠しているわけだが。
 おそらくは足元に落ちたそれが見えたための、悲鳴であろう。
 小瀬の台詞は棒読みながら、言葉が言葉なだけにむつきも振り返る途中で固まってしまう。
 きつく閉じられた瞼の上には、見たいという字が視えそうであったが意志は固かったようだ。

「ダウトだ、ボケッ!」
「あたっ!」

 目をつぶっていても、そろそろ声だけで誰が誰かぐらい判別はつくようになった。
 小瀬を殴ったらしきその声は、処女喪失に失敗して以降ちょっと女の子に興味が湧き出したみきたんである。
 その後、バスローブが閉じられるような音が聞こえた後、もう良いですよと言われた。
 恐る恐る目を開けると、小瀬は確かにバスローブを着直していたが、手に白のマイクロ水着を持っていた。
 マイクロ水着だけでもアウトなのに白とは、たぶんきっといろいろ透けていたことだろう。

「はぁ……小瀬、お前ちょっと説教。地獄の練習前だ、ハメ外すなとは言わんが。特に部長のお前が外し過ぎるな。ちょっとの間、誰か監督役頼むわ。大河内も、和泉も寝るって聞いてる」
「私とあっちゃんでします、先生はみっちりこの色ボケを叱ってやってください」
「けどまあ、適度に肩の力は抜いとけよ。合宿もキツイばっかじゃ、逆効果だ」

 はしゃぎ過ぎて怒られると、首をすくめている部員たちに一応フォローはしておく。
 後はバスローブの首根っこを掴まれ、猫口、猫手で借りて来た猫のようになっている小瀬である。

「はい、お前は説教部屋な」
「助けて、あっちゃん。みきたん。説教されちゃう、エロ同人誌みたいに。エロ同人誌みたいに!」

 とりあえず、反省の色が見えない小瀬の頭に、むつきは拳骨を落としておいた。









 一先ず、むつきもバスローブを羽織ってから、小瀬を自分の部屋に連行する。
 ワンフロア貸切であり、むつきの部屋は両方の意味で防犯上、エレベーターホールのすぐ近くだ。
 部員達には二人一組でツインの部屋をそれぞれ割り当てられている。
 ちなみにアキラと亜子、小瀬はたまたま一人だが、二部屋共にむつきの部屋の両隣であった。
 まず小瀬を部屋に放り込み、むつきは部屋の鍵をしっかり閉めておいた。
 万が一、小瀬に迫られたら現状は断る気だが、なにをどう過ちを犯すかわからないからだ。
 ひとまず小瀬を片方のベッドに座らせ、むつきはその隣のベッドに腰掛けた。

「で、あの茶番劇の意味は?」
「あれ、さすがにわかっちゃった?」
「何度も抱いた女のことだ、わからいでか」

 そんなむつきの返答が心底気に入ったのか、即座に小瀬はベッドを移って来た。
 それからアキラが寝ているであろう隣の部屋に向かい、彼氏借りるねと言ってから腕に抱きつく。
 心得たものとばかりに、バスローブに包まれたその細い腰をむつきは抱き寄せる。

「宿泊施設がここまで良い場所とは思ってなかったから。誰かが下手打つ前に、私が率先して怒られて皆の気を引き締めておこうかなって」
「やっぱか。あの二人は気付いてたみたいだけど」
「付き合い長いからね。たぶん今頃、三年の情報網で私が叱られたことを広めてる。自然と下の学年にも広まる様に。でも、バレてないことだってあるよ」

 どういうことだと小瀬を見下ろすと、あのアウトと言った時の悪い笑みであった。

「こうすれば、合法的に先生と二人きりになれる。まだ十時前。お昼まで二時間なにしよっか。素敵なホテルでセックスフレンドが二人。トランプでもする?」 

 違うでしょとばかりに、小瀬がバスローブの上からでもわかるむつきの下半身のふくらみを指先で突いて来る。
 これを使った大人の遊びがしたいと。
 プールで振りとはいえはしゃいだ少女の姿ではなく、いっそ男を喰い返すぐらい妖艶な女の姿である。
 恋人二人は就寝中だし、合宿中は特にアキラへの激しいプレイは厳禁。
 となれば都合の良い、ついでに具合の良い穴がここにとアピールする小瀬に逆らう意志などありはしない。
 長いお説教になりそうだと、小瀬をベッドに押し倒そうとしたわけだが。

「へぶっ」

 するりと回避されて、顔面からベッドに突っ込む結果となった。
 ここまで来てお預けかと、むつきがちょっと小瀬を睨むとたははと苦笑いされた。

「先生は優しくて、恰好良いし。おちんぽはおっきくて持続力も凄いけど。凄く足りないものがあると思うのよ。好き、大好きって感情に任せたセックスだけじゃね?」
「その挑戦、受けた」

 十歳近く歳の離れた相手に、セックスで侮られては男のプライドもあったものではない。

「じゃあ、ちょっと道具とってくるね。直ぐ戻るから」

 そういって小瀬が一度部屋を飛び出したが、本当に直ぐにかばんを手に戻って来た。
 旅行バッグとは別に持ってきたもののようだが、一体その中に何が入っているのか。
 ベッドに座り直した小瀬がかばんから取り出したのはなんの変哲もないマジック一本。
 他にもいろいろと入ってそうだが、小瀬が取り出したのはそれだけだ。
 ちらっと中を覗き見たらバイブやらアナルビーズやら、かなりアウトな品々があるのにである。

「なんでマジック?」
「ヒント、先生専用の矢印」

 一瞬きょとんとしたむつきだが、ふいに思い出したのは小瀬のスカートの中であった。
 プールサイドでノーパンの中を見せてくれた時、確かに性器に向けて矢印が掛かれていた。
 あの時は水性マジックだったそうだが、マジックを手に取ると今回も水性と書かれている。
 ヒントがほとんど答えであったようなものだった。

「先生」

 表では聞かせてくれない甘い声、艶の入ったそれで呼ばれた。
 小瀬が水性マジックを一本手に持ちながら、ふわりと羽根のようにベッドの上に寝転がった。
 そしてバスローブを締め付ける帯をするりとほどくと、後はほとんど流れるままに。
 すべやかな小瀬の肌の上を滑り落ちる。
 さすがに袖は通したままなので全部は脱げないが、胸の谷間どころか山がの全容さえ見えそうだ。
 水泳部なのに殆ど日焼けのしていない肌が、バスローブ以上に綺麗な白に見えた。
 しかし、ここであからさまに全裸を見せつけないのが小瀬らしく、男心を良く分かっている。
 太ももは恥ずかしげに内また気味に閉じられ、視えそうな胸もまた零れ落ちる前に片腕で抱き留められた。
 見えないからこそ見たくなる、隠されたからこそ暴きたくなる
 優しく愛を囁いてその閉じた扉を開いても良いし、獣のように強引にあけ放つも良し。
 あえて隠す、それだけでいく通りもの選択し、想像力を男に与えてくれていた。

「はい、これ。それから、帯で私の腕を縛って」

 言われるままに、まずは小瀬がベッドの上に落とした帯でその両腕を頭上で交差させて縛る。
 ただ受けた指示はそれだけで、後はもう逐一指示される必要はなかった。
 プレイの内容も大よそ理解できたし、これ以上年下の女の子にリードされるのは面子に関わる。
 小瀬自身、そんなむつきのプライドを知ってか、なにも言わない。
 だからむつきは、小瀬の膝の上にまたがると、半開きのバスローブの裾に手を入れた。
 場所は小瀬のお腹、子宮の上辺りであり、まだ必要以上には脱がさない。
 現役スイマーだけあって無駄な肉はないがそれでも女らしく丸みのあるお腹を指先でなぞる。

「んっ、先生。くすぐったい。そんな優しくなぞらないで」
「小瀬の子宮はこの辺りか?」
「やん、おまんこじゅんってしちゃう」

 腕が頭上で縛られているので動き辛そうだが、小瀬がその身を小さくよじった。
 ぷにぷにとお腹に触れる度に震え、次第に足をもじもじし始めたので濡れ始めたのは本当か。
 しかし今回のメインはと、むつきは水性マジックの蓋をキュッと外した。
 軽く暴れる小瀬を静めるように手のひらでお腹に触れ、僅かに力を入れて押さえつける。

「ぁっ」

 男の腕力を地肌から子宮に感じ、小瀬が先ほどとは別の意味で震え小さく声を上げた。
 あまり暴れるとむつきが書き辛いと思ったのか、唇を噛んで俯き加減に押し黙る姿がまた良い。
 本当に腕を縛り上げられ、羞恥に必死に耐えているようだ。
 そんな小瀬のお腹の上に、むつきはそっとマジックの先を触れさせる。
 あまり深くは考えず、小瀬というまだ成人どころか結婚すらできない少女の体に文字を刻み込む。

「くぅ、やっぱちょっとくすぐったい。あはっ、んぅぁ」
「こら、暴れるな。綺麗に書けないだろ。こんな綺麗な肌に落書きとか、贅沢すぎる」
「褒めても、エッチぐらいしかさせてあげられないよ」

 白い肌の上に黒い線を幾重にも交え、意味ある言葉を書き込んでいった。
 一本一本線を刻むたびに、小瀬の体が期待と興奮で震えていた。

「うん、こんな感じか?」
「せ、先生。見えない、なんて書いたの?」

 少し顔を赤く火照らした小瀬が、気になるとばかりに訪ねて来た。
 だからむつきは、自分の手で直に書き込んだ文字をなぞりながら答える。

「予、約、済、み。バイ乙姫」
「先生ってば……そうじゃなくて、もっと鬼畜な欲望丸出しのあるでしょ?」

 仕方ないなと呆れながらも、小瀬はどこか嬉しそうでもあった。
 小さくそんなに孕ませたいんだと、小声でささやいては一人照れ笑いである。
 バッグの中にきわどい道具をどっさり持っている癖に、妙なところで純な小瀬であった。

「中だししたいって欲望だよ。それに、小瀬もされたいだろ? ほら、濡れてる」
「あっ、まだ駄目。今日こそ鬼畜プレイなんだから」

 意外に初心な反応ながら、体の方は素晴らしいほどに正直であった。
 照れ笑いに忙しく、足元がお留守になったすきに手をしのばせる。
 咄嗟に足を閉じられたが、肉厚な太ももをかき分け指先がそこに触れた。
 指先には確かにぬるめの粘液が触れ、これまた太ももの間を擦りながら取り出すと糸を引く。
 それからみせつけるように指先同士でにちゃにちゃと、小瀬の目の前で弄ぶ。
 明らかに小瀬は視線を泳がせたが、鼻先から口元に指先を持って来られると諦めたようだ。
 自分から舌を伸ばして、自分の愛液とむつきの指先を舐め始める。

「んぅ、先生ぇ……もっと書いて、先生のものだって。所有物の証をちょうだい?」
「俺も結構興奮してきた」

 バスローブなんて邪魔くさいとばかりに、乱暴に脱ぎさり隣のベッドに投げつける。
 その下にさらに水着があったが、それも邪魔以外のなにものでもない。
 全裸フル勃起状態で、小瀬に跨り直し、新たに水性マジックで小瀬の肌に文字を刻み込む。
 同じく勃起状態だった乳首にひっかかっていたバスローブの裾を指で弾き飛ばす。
 丸い胸の上を雪崩が起きたように滑り落ちていくが、最後まで見届ける暇も惜しい。
 雪解けした可愛い山の下には、春を思わせる桜色のぽっちがあったからだ。
 右胸と左胸、先に雪解けしたのは左胸である。
 ある意味で小瀬の陰部並みに大事な心臓に近い場所に、水性マジックのペン先を伸ばす。
 ふにふにな胸はペン先を走らせがたく、左手で乳首を陥没させ少しでも書きやすくした。

「さーて、なに書こうかな?」
「乳首くりくりしたまま悩まないで。むつき専用おしゃぶり、授乳器でも良いから」
「そういや、赤ちゃんの授乳って左胸が良いって。じゃあ、こっちは俺たちの子供用っと」
「なに書いてるの?!」

 むつきが小瀬の予想外の言葉を刻むたびに、彼女から余裕が削り取られているようだ。
 いつものセックス時に顔を火照らせている時とはまったく別もの。
 完全に茹蛸状態で、呆れなのか文句なのか叫んでいた。

「よーし、ノッて来た。左胸は子供用だから、右胸はっと」
「今度こそ、むつき専用授乳器。いっそ、雌豚の淫乱真っ黒乳首でも良いから!」
「こんな綺麗なピンク乳首にそんな暴言書けるか。おっ、良いの思いついた。良い文字書いてやるからな」
「乳首優しくつんつんしないで!」

 なんだか半泣きに近い状態で懇願されるが、意地悪スイッチが入ったむつきが聞き入れるはずがない。
 むしろなお優しくと、乳首にわざとちゅっと音を立ててキスを繰り返す。
 その度に小瀬は全身に快感が走るようで、体を弓なりに腰は入れてとばかりに浮きっぱなしだ。
 今更だが、シーツが愛液で汚れたら洒落にならないと気づいたが心配無用だった。
 小瀬が半分脱いだバスローブの上に染みるだけで、これなら言い訳はいくらでも可能だ。
 最悪、まるまる水洗いして湯船に落としたとか言えばよい。
 危ない危ないと自分の迂闊さに内心冷や汗をかきつつ、ちょっと小瀬に八つ当たりである。
 額に汗をかき、涙目が嗜虐心をくすぐる小瀬の耳元にこうささやいた。

「右胸、むつきパパ専用って書くわ」
「駄目、そんなの。やだ、ママになっちゃう。ママになっ、ぁっ。こんなプレイ知らっ、あぅぁんっ!」

 再び乳首を陥没させ、きゅっきゅと水性マジックを走らせると激しく抵抗した小瀬が体を痙攣させた。
 まだ愛撫らしい愛撫もなく、陰部も愛液プレイのためにちょっと触れただけだ。
 軽く潮も吹いたらしく、予約済みという文字が入ったお腹を突き出すようにイッた。
 十日もオナニーだけで体を持て余していたことも、少しは関係しているか。
 しかし大部分は、むつきのせいだろう。
 体中に人権を無視したような言葉を書かれるはずが、少女相手には羞恥プレイに近い。

「ママに……先生、もう許してぇ。好美をママにしないで」

 今にも涙が零れ落ちそうな程に潤んだ瞳でのお願いであった。
 しかしそんな言葉とは裏腹に、全身に珠の汗を浮かべ甘酸っぱい匂いを放ち、目元をとろけさせている。
 むつきからすれば、孕ませてママにしてとお願いしているようにしか聞こえない。
 生で挿入して子宮の奥に注ぎたい、むつきの頭の中にそんな誘惑がよぎる。
 だがひかげ荘の住人とは違い、小瀬は常日頃からピルなんて服用していなかった。
 今までも前でセックスしたことはなく、お尻オンリーのセックスフレンドだ。

「小瀬」

 思わず、生でと頼みかけたむつきだが、即座に我に返って首を横に振っていた。

「バッグのらか、こばこ」

 察しの良い小瀬は、名前を呼ぶそれだけでむつきが何を言おうとしたのか覚ったようだ。
 駄目とは決して言わず、ちょっと呂律が回っていない言葉でバッグを要求した。
 ただ腕は縛られているし、イッたばかりで動けず代わりにむつきがバッグをあさる。
 良くこれだけと思う程に大人の玩具が入っていたが、その中にちょっと似つかわしくない木製の小箱が。
 何処かで見たことあると思ったら、かつてむつきがあやかの別荘に行く前に小鈴に貰った漢方と同じ小箱だ。
 裏を返してみれば案の定、超包子のマーク付き。
 むつきのセックスフレンドまでしっかり管理とは、小鈴の寛容さと用意周到さには舌を巻く。

「はあ、ふぅ……それ」
「みなまで言うな。だいたい想像つく、それに二人きりでセックス中に他の子の名前は無粋だろ?」
「本当、意地悪。優しくしないでっていつも言ってるのに、んぅ」

 それ以上は言わせねえととばかりに、小箱の中から錠剤を一つ摘まみ唇で加えて小瀬に口移しする。
 水の代わりにこれでもかと唾液を流し込み、小さな錠剤をのみ込ませた。
 唾液の水量が足りず少し喉につかえ苦しそうだったが、こくりと飲み込んだようだ。

「小瀬」
「先生、好美をママにして」
「小瀬ぇ!」

 今しがた自分で避妊薬を飲ませたが、潤んだ瞳でお願いされては叶えざるを得ない。
 避妊薬が効き始めるより先にとばかりに、むつきは小瀬のバスローブを観音開きであった。
 今更濡れ具合を確認するまでもなく、両膝を開かせては抱え上げて、剃毛済みの割れ目にぶち込んだ。
 優しくしないで、そんな小瀬の願いを叶えるようにかなり乱暴にである。
 潤滑油こそ万端であれ、まだ前戯もそこそこで膣内はちょっと狭かった。
 けれどお尻で一度覚えたように、アレが来たとばかりに膣内がむつきの一物に沿って形を変えた。
 子宮はこっちですと肉壁に誘導され、その入り口である子宮口を突き上げる。

「ひぃぁっ!」

 視界がブレる程に強く突き上げられ、ベッドの上でシーツを乱しながら小瀬が悲鳴を上げた。
 良く良く考えてみれば、前でするのは久しぶりできつかったのかもしれない。
 ちょっと性欲に流され過ぎたと、抜こうとしたのだが腰を小瀬の両足でからめとられた。

「ぁぅ、抜いちゃだめ。もっとぉ」
「小瀬、大丈夫か。顔が俺以外に見せられない感じになってるぞ」
「ひらりぶりで……凄い、先生のおちんぽ凄すぎりゅ。一発で形覚えさせられたのぉ」
「お前は本当に、これか。これが欲しかったんだろ。淫乱ママさんよ!」
「あんぅ、ぃゃ。もっと、もっと言って。むつきパパ、好美ママは淫乱な雌豚なの」

 罵倒するようになじるたびに、それこそ子宮を突き上げた時よりも膣内がきゅうっと閉まる。
 下半身に絡みつく肉ひだや、亀頭で小突く子宮のかたさ。
 さすがアキラと同じ水泳部員だけあって締りのある良い肉壷である。
 たまにはラブエッチ以外も良いかと、今更趣旨替えであった。
 遠慮なく小瀬を突き上げながら、ぷるんぷるん揺れる乳房の上の桜色のぽっちを摘み上げた。

「乳首、乳首引っ張られて。痛い、けど気持ち良い!」
「痛いのがね。これでもか」
「痛い、痛い。それでもぉ!」

 摘まむだけに飽きたらず、ちょっと捩じり潰すようにしても小瀬は気持ち良いという。
 それが嘘でないことは、彼女の膣内が嬉しげに締め付けているのが証拠であった。
 なんともまあ、ど淫乱な女子中学生もいたもんだ。
 孕ませがいがる、というかなぜもっと早く思うが儘に抱かなかったのか。
 この引き締まった腰にやや小ぶりだが、甘い匂いを放つ乳房。
 愛を通い合わせるより快楽を通い合わせるのが好きな、潤いにまみれた雌穴。

「小瀬、お前のご主人様は誰だ。言ってみろ」
「好美のご主人様は、先生。乙姫むつき。私の後輩の処女を食べまくった変態鬼畜教師ですぅ!」
「その変態鬼畜教師に抱かれて喘いでる淫乱女がいるな」
「好美です、変態鬼畜教師に抱かれておまんこから涎垂らしてるのは好美です」

 男本来の本能か、それとも小瀬の淫らな肉体に引き寄せられたか。
 普段のラブエッチはどこへやら、普段のむつきからは想像し辛い黒い発言がぽんぽん飛び出す。
 美砂達には間違っても使わない言葉遣いを、小瀬に叩きつけるように繰り出した。
 そして小瀬もそれに響く様に肯定的だから止めようがない。

「好美、今からお前の子宮にたっぷり出してやるからな。三、四人孕めるぐらい出してやる」
「嬉しい、出して。好美の子宮に、卵子が溺れるぐらい」
「出すぞ、出すぞ好美」
「出して、ご主人様のぷりぷり精子。好美のお腹に一杯だしてぇ!」

 もはや二人の結合部から飛び散る愛液は、広げたバスローブにとどまらない。
 むしろ、後の事など知らんとばかりに、二人は合体を続けていた。
 言葉通り、互いに出して受け止める瞬間を今か今かとまちわびながら。

「出る、孕め好美。俺の精液孕んだまま、午後の練習に出ろ!」
「先生の精液、皆にも分けてあげる」
「皆、皆孕ませてやる。A組も、水泳部も全員だぁっ!」
「ぁっ、来た。びゅっびゅ、精液来たぁっ!」

 一際強かにむつきが小瀬を突き上げた瞬間、その腰がぶるぶると小刻みに震え始めた。
 子宮の奥以外には出さないとばかりに、小瀬の腰を掴んで離さず、むしろ隙間なく押し付ける。
 小瀬もまたむつきの精液を子宮で受け入れる度に、喜びに体を震わせていた。
 暴れたせいで帯が解かれた手のひらで、愛おしげに自分で腹を撫でてはイキ、果てる。
 次々に吐き出される精液に終わりは見えず、気絶しかけるほどに小瀬がベッドの上を飛び跳ねた。

「ぁっ……ぁぅ、あはぁ」

 最後の一滴まで子宮で受け止めた後、小瀬の表情はむつきにさえ見せられない程だった。
 人として理性なんて言葉すら捨て去ったように、瞳を蕩けさせだらしなく開いた口から舌をだしている。
 幸せの白いべたつくなにかを詰め込まれたお腹を愛おしげに撫でていた。
 そんな幸せ一杯の小瀬の隣で、頭を抱えていたのはむつきであった。
 同じ幸せに浸るどころか、つい浮気してしまった既婚者男性のようでもある。

「ちょぉ~、暴走し過ぎた。俺、なんて言った。なんかとんでもないこと口走ったぞ」
「んぅっふっふ~……俺の精液孕んだまま、午後の練習に出ろ。皆、皆孕ませてやる。A組も、水泳部も全員だぁ。先生ってば、鬼畜ぅ。一年生なんか、つい数か月前ランドセル背負ってたのに」
「嫌、止めて。違うんだ、何かの間違いだ」

 自己嫌悪に陥るむつきを放っておけないと、幸せのまどろみから小瀬がはい出してきた。
 体を丸めるむつきの上によいしょよいしょと登り、両手で塞がれた耳元でささやく。
 そればかりか、こんな風に全員孕ませちゃうんだと、その手を取って自分のお腹に触れさせる。
 手で軽く押せば、ちゃぽんと聞こえそうな程にむつきの精液が詰まった子宮をお腹越しにだ。

「先生、私は幸せだよ。アキラだって和泉ちゃんも。皆、皆孕ませるってのは冗談にしても。現在孕ませて貰ってる私たちは、先生大好き」

 だからそんなに落ち込まないでとばかりに、とびっきりの笑顔と振れるだけの優しいキスであった。

「小瀬ぇ……」
「だから、幸せのおすそ分けの為にも。午後の練習はこのまま出ちゃう。なにも知らない純白の乙女たち。青春をかけ必死に泳ぐプール、だがそこは変態鬼畜教師の精液プールだった!」
「止めろ、マジで止めろ。止めてください。おい、風呂入るぞ。マジック消すと同時に、お前の穴隅々まで洗ってやる。抵抗したら、腹パンだぞ。腹パン」
「止めて、パパ。この子だけは、この子だけはぁ!」

 良いから来いと、くさい演技を続ける小瀬を横抱きに、バスルームへ直行である。
 それから体を洗いあい、結局追加で三回戦してしまったのは若いから仕方ないことであろう。










-後書き-
ども、えなりんです。

桜子たちがどうなったかは、少し先です。
具体的には水泳部の全国大会が終わったあと。

珍しく、むつき以外のオリキャラである小瀬のエッチ回でした。
しかしこの子、結構めんどくさい性格してます。
良く優しくしないでと叫びますが、本心は優しくしてと。
望んていることと発せられる言葉が真逆っていうね。

あとなかなか鬼畜プレイをしない男なのでテコ入れ的な意味でも。
最後、とんでもないことを口走ってしまいましたが。
水泳部はともかく、2-Aはその通りになるけどね(夏美除く

それでは次回は来週の土曜日です。



[36639] 第九十三話 お前の手の方が気持ち良いよ
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/01/04 20:40

第九十三話 お前の手の方が気持ち良いよ

 ばしゃばしゃと、半分溺れる形で足をばたつかせる少女の手をとり、水中の足を後ろへと蹴り飛ばす。
 むつきの体が後ろ歩き、または泳ぎをすることで手をつないた少女は沈まずなんとかプールを泳ぐ。
 この今にも溺れそうな様子で必死に水中で暴れているのは、水泳部員の一人である。
 彼女から少し視線を外せば、小瀬の指導のもとで練習に明け暮れるアキラたちの姿がみえた。
 改めて目の前の少女に視線を戻すと、これは酷いと言わざるを得ない。
 むつきが手を引いているので溺れることはないのに、今まさに溺れているようなありさまだ。
 自分でもそれがわかっているのか、ちょっと半泣きであった。

「ほら、落ち着け。補助輪つけた自転車に乗って転ぶって慌てる奴なんかいないだろ。それと同じだ。今のお前は補助輪つき。慌てず、バタ足するんだ」
「がぼ、んなこと。たって!」

 少し水を飲んだのか苦しそうにする少女へと、プールサイドから数人の少女たちが声援をかける。

「頑張ってたつのちゃん、先生絶対手を離さないから」
「もうダメって思ったら、優しくぎゅってしてくれるから」
「その瞬間、大河内先輩に睨まれて心臓もぎゅっとされるけど」
「やだぁ!」

 アキラに憧れてつい先日入部してきたカナヅチ同士、とても一体感のある応援である。
 ただ、溺れる我をも忘れて嫌がられるのは、とても納得がいかなかった。

「大河内先輩は先生なんかに渡さないもん!」
「あっ、そっちね。はい、ゲームオーバー」
「ぁぅ」

 恰好良い属性も持つアキラに憧れるのは良いが、無理に叫んだせいで既に泳げる姿勢ではない。
 距離にして十メートル、こんなもんかと繋いでいた手を引っ張り腰に手を回して抱き寄せた。
 競泳水着に押し込められた未成熟だが柔らかな感触が素肌で感じられる。
 プールサイドは手を伸ばせば届く距離だが、慌てた彼女に冷静に掴めというのも酷だ。
 なので将来の彼氏より先に、容易く倒れそうな彼女の抱き心地を味わっても許されることだろう。

「にゃ、にゃぅ……近い、硬い。男の人のからだぁ」
「はいはい。ほら、そっちに引き上げてくれ」
「はーい」

 声援を送っていた三人の少女に、半パニック中の彼女を引っ張り上げて貰った。
 続いてむつきもちょっと休憩とばかりに、こちらは自分一人でプールサイドに上がる。
 パニックに陥った少女は、はしたなくも大の字に倒れ込んでいた。
 暴れたせいか大事な部分に水着が結構食い込んでいたので直視しないよう気を付けながら言った。

「お前ら四人はちょっと休憩な。目標は合宿中に補助輪なしで十メートル。来年に下級生が入るまでに二十五メートルをそれなりに早くだ」

 そろそろむつきも水泳部の顧問として指導をと小瀬から預かった四人にそう告げる。
 練習開始前にも言ったことだが、不承不承の子も含め、はーいと間延びした返事が返って来た。

「先生、電話なっとるよ」

 その間に俺も休憩と思っていると、反対側のプールサイドにいた亜子が手を振って呼んできた。
 このプール施設内で、彼女だけは競泳水着でなく麻帆良女子中の半そで短パンの体操着である
 何事かと思ってみれば、ビーチチェアに置いておいたむつきの携帯を掲げ上げていた。
 どうやら誰かから連絡があったようだが、相手を言わないということは美砂達の誰かからか。
 カナヅチ四人組には勝手にプールに入らないことと注意をしてから、プールサイドを小走りで歩く。
 急ぎ歩きなのは、携帯が鳴っているからではない。
 多少変な歩き方になった方が、少しだけ膨らんだ股間がばれ難いと思ったからだ。
 中学一年生という蕾の少女たちの指導中に抱き付かれたり、抱き上げたりとちょっと膨らんでしまった。
 一応、いつも通りトランクスタイプの水着の中にブーメランパンツをはいてごまかしているわけだが。
 ただ小瀬と目があった瞬間、ニヒッと笑われたので少なくとも一人にはばればれだったらしい。

「和泉、パース」
「はい」

 携帯を受け取った瞬間、小声で柿崎からっと告げられた。
 どうやら電話ではなくメールらしく、開いた瞬間ゲッと声が少なからず漏れてしまった。
 なにしろ、鍵落としたでしょと鍵の写メと怒った顔文字つきだったからだ。
 出がけにでも落としたのか、美砂か誰かが拾っただけ救われたかもしれない。
 むつきの様子が気になったのか、携帯を覗き込んできた亜子もうわっと小さく悲鳴を漏らす。

「先生……」
「すまん」
「後からトイレの前に来て」

 軽くむつきを睨んだ亜子が、すれ違いざまにそんな言葉を置いていった。
 そのまま亜子は、指導中だった小瀬に近づきなにか言づけてプールを出ていく。
 だが、別に怒られるわけではなさそうなのは、小瀬が後ろ手にした両手を見ればまるわかりであった。
 一瞬振り返っては悪戯っぽく、親指と人差し指で輪をつくり、逆の手の人差し指をスコスコ輪に通す。
 亜子に抜いて貰ってこいというわけである、恐らくバレバレの股間を指して。

「小瀬、向こうの四人に誰かつけてやってくれ。ちょいと用事ができた」
「はいはい、ごゆっくり。のりりん、ちょっとアンタ向こうの四人に指導してあげて」
「わ、私がですか?!」
「そう、アンタも部長になる気なら今から指導に慣れときな」

 いずれはそのつもりだが、心の準備がとおろおろした朝日にすまんと両手を合わせて逃げ出す。
 カモフラージュの携帯を手に持ち、電話の為に席をはずしますよという空気を出しながら。
 誰もプールからついて来たりしないことを確認しながら、タオルで頭を拭きながらトイレに向かう。
 現在、このホテルのプールは貸し切りであり、併設されているトイレもほぼ貸し切りみたいなものだ。
 両隣、男女別々だが併設されたトイレの入り口前で亜子は周囲を伺いながらむつきを待っていた。
 お待たせと軽く手を上げると、急いでとばかりにむつきの手をとって女子トイレに入ろうとする。

「えっ、そっち?」
「今なら誰もおらへんのは確認済みやて」
「いや、やっぱやばくね。男子トイレでも、更衣室でも」
「ほらほら」

 腕を引っ張られながら、慌ててむつきも周囲を伺い人気のないことを確認しながら足を踏み入れた。
 口ではなんと言いつつも、男子禁制の場所に興味がなかったわけではなく抵抗なんてあってなきがごとしである。
 そういう意味では、女子更衣室も気になるがそちらは危険度が跳ね上がってしまう。
 亜子に手をひかれるまま、女子トイレの一番奥の個室に二人して駆け込む。
 手早くむつきが扉を閉めると、次いで亜子が鍵をはめ込んだ。
 それからお互い顔を見合い、苦笑いから、手で押さえなければ耐えがたい笑いが込みあげてくる。

「先生、女子トイレに……見つかったら言い訳できへんやん。どうするん?」
「人を連れてきておいて。ゴキブリが出たとか、亜子が言えば良いだろ」

 分かっていて意地悪く聞いたのか、今気づいたとばかりに大げさな身振りで亜子が手を叩いた。

「こいつ」

 声を潜めながら、そんな悪戯娘をつかまえようとするがするりとかわされた。
 ただ狭い個室内で、亜子は単純に伏せられていた洋式のトイレの便座のふたに座っただけだった。

「先生、しーやて。それに先生そのままやと辛いやろ。小瀬先輩が、苦しそうだから楽にしてあげてって」
「たきつけたの小瀬か。考えてみれば、こんなシチュ。あいつが考えそうなことじゃねえか」
「でも了承したのはうちやから。先生、冷えた体温めてあげるな?」

 今にも舌なめずりしそうに怪しく微笑んだ亜子が、扉を背に目の前に立つむつきの股間を突いた。

「俺も温めて欲しいけど、プール入った後で塩素とか大丈夫か?」
「プールで泳ぐときの方が水飲むし、大丈夫やと思うけど。ほんなら、一応綺麗、綺麗しとこ。うちもあそこ怪我すると困るし」

 最終的には亜子の膣に入れるわけで、炎症したりすると怖いと亜子がポケットからウェットティッシュを取り出した。
 それならとむつきも問題ないだろうと、二枚もつけている水着を脱いだわけだ。
 水着とタオルは扉についていたフックにまとめてひっかけておく。
 しかし、改めて考えるとここは女子トイレの個室なのである。
 目の前に亜子がいるとはいえ、いやいるからか。
 今のむつきは、いたいけな女子中学生を個室に押し込んで悪戯する変態以外の何者でもない。
 合意の上という点を除けば、そのものかもしれないが。
 カナヅチ水泳部員とのスキンシップで縮小状態からちょっと膨らんでいた一物を見せつける様に亜子の前に立った。
 ただやはりプールの中で冷え込んだせいか、普段の雄々しい姿から見る影もない状態である。

「先生、可愛い。動いたらあかんよ」
「つめた」

 亜子が竿を指で摘まんでウェットティッシュで拭き始めると、思わず場所も弁えず悲鳴が漏れた。
 ただウェットティッシュが冷たい分、亜子の指先がなんと暖かいことか。
 視線を下せばむつきの股間に顔を突っ込む様に、吐息が掛かる距離で亜子が息子の世話をしてくれていた。
 色がちょっと抜けた切れいな亜子の髪を持つ頭がひょこひょこ揺れていたのでなんとなく撫でる。
 下のお世話をしてくれた交換というわけではないが、亜子が見上げてきてはちょっと嬉しそうに笑った。

「先生の手、気持ちええ」
「お前の手の方が気持ち良いよ」
「えー、先生の手の方が気持ちええって。はい、綺麗になった」

 ウェットティッシュはしょうがないので今は床に落とし、亜子は綺麗になった一物を両手で揉み温める様に揉んでいる。
 縮こまっている状態だからこそ竿も袋もまとめて、小さな亜子の手でも包み込めていた。
 しかし、下半身がほんわか暖かいのは良いが、このままだとトイレにいきたくなってしまいそうだ。
 トイレに潜伏しておいて今更かもしれないが。
 そう思ったところで、今一度一生懸命むつきの一物をにぎにぎしている亜子を見下ろした。
 正直これをお願いしたらひかれるかもしれないが、むしろ喜んでしてくれそうな確率が高そうなのも亜子であった。

「なあ、亜子」
「んー、フェラする?」
「いや……」

 亜子ならきっと大丈夫と、自分に言い聞かせてからお願いしてみた。

「亜子がトイレしてるところ、見たいんだけど……」

 だがやはり内容が内容なだけに、普段よりも押しの弱いお願いの仕方であった。

「せ、先生それってどっち?」
「いや、さすがに小さい方。別の方は業が深すぎるだろう。愛する女でも、ちょっと……」
「良かった。そっちお願いされたらどうしようかと思ったやんか」

 どうしようかととは、どういう意味で困ったのか。
 行為そのものか、それとも今はそういう便意がないからか。
 お互いのこれからの人生もあるので、あえてむつきは尋ねようとはしなかった。

「先生、ちょっとうち立つから下がって」

 ただ亜子は見せてくれるらしく、むつきが可能な限り背中と扉の距離をなくすと立ち上がった。
 まずは便座のふたをあけて、少し前かがみ気味になって体操服の短パンをずりさげた。
 亜子の頭がお腹の辺りにあって見えづらかったが、空色の短パンの中にピンクと白のチェックのパンツが見えた。
 それは兎も角として、短パンを脱ぎ終えた亜子はゆっくりと便座の上に座った。
 了承したとはいえ、やはりさすがにトイレの最中を見せるのは抵抗があったらしい。
 両足の細めの太ももはぴっりりと閉じられ、両手は局部を隠すように膝の付け根に置かれていた。
 羞恥に頬を染めながらもおどおどとむつきを見上げるのもまた良い。
 亜子は嫁の中でも一際エロイ子なのだが、最近は清純派なにそれとばかりになっていたので眼福だ。

「ほんなら、するな。直ぐにでるかわからへんけど」

 そういって音姫ボタンに手を伸ばしながら呟いた亜子を止める。

「亜子まだ出すな」
「え?」

 羞恥に身もだえる亜子が可愛らしいとはいえ、今のままでは折角の放尿プレイの楽しみが半減である。
 何故なら、亜子は見せることを了承しつつその半分も見せないまま全て終えようとしているからだ。
 亜子に制止をかけつつ、その両膝に手をついてバランスをとりながらむつきは狭い空間でしゃがみ込んでいった。
 そして亜子の片足に触れ、短パンとパンツが絡み合う布の塊をそっと脱がし、さらにもう片方も。
 さすがに地面には置けないのでまだ暖かなそれをしっかり握りしめたまま、両手はもう一度亜子の膝へ。
 しっかり抵抗されたが、白い太ももを開かせるように膝を大きく開かせた。

「やだ、先生。見えちゃう」
「見せてくれるんだろ?」

 両膝を開かせても亜子は、か細い声とともに自由な両手で秘部を隠してしまう。
 次はその手もどかせたいが、今膝から手を放せば瞬く間に閉じられてしまうことだろう。
 手が塞がってしまったのなら、自由になる何かを使うしかない。

「亜子、見せろ」

 だから端的な言葉と低い声で命令するように言い放った。

「ぁっ、駄目。駄目なのに……」

 普段あまりしないむつきの命令口調に、背筋をぞくぞくさせながらうわごとのように亜子が呟いた。

「うち、心まで先生の奴隷みたい。恥ずかしいのに、逆らえへん。やや、見んといて」
「足だけじゃない。両手で割れ目を開いて、出るところまで見せるんだ」

 今にも泣きそうなぐらいに赤面し、顔を俯かせながらも亜子は言われるがままに動く。
 未だに陰毛薄く、ぴったりと閉じたままの割れ目に両手を添え花開かせる。
 つい先ほどまで見せたくないと隠していた両手でだ。
 白い素肌が割れ、皮の薄い証拠であるピンク色の肉肌がむつきの目に飛び込んでくる。
 少しばかりてらてらとぬめり光っているのは、尿道より下の膣口から流れる愛液のせいだろう。
 女子トイレの奥でむつきと二人、愛し合う間柄とはいえ、全てをさらせと命令されてしまった。
 この夏休み、文字通り体を使って濃厚な日々を過ごし、すっかり調教されてしまっているようだ。

「濡れてる」 

 初めて亜子をクンニした日と見た目は変わらないが、ある意味で内側は変わっているらしい。
 こんなにも甘そうな匂いを放つ蜜を自ら出すようになったかと、便座を覗き込む形でむつきは蜜を舐め上げた。
 滴り落ちそうなそれをあますところなく舌ですくうように、ゆっくりと着実に舐め上げる。

「あか、あかん。先生、でてまう。かかってまう」
「分かるよ、亜子。ほら、尿道がひくついてる」

 普段とは異なり膣口ではなく、尿道を刺激するように舌先でつつくと亜子の腰が震えた。
 きっとそれは、悦びではなく尿意によるものなのだろう。
 しきりに亜子はあかんと出るを繰り返し、押し殺した声で繰り返し呟いていた。
 それなのに見せろと言われた手は割れ目を開いたままで、魂レベルでむつきの言いなりである。

「あ、味が変わった。少ししょっぱく」
「あかん、ほんま。先生、離れ。出る、あっ。でちゃうっ!」

 いくら駄目と言われても尿道への刺激を止めないむつきを前に、絞り出すように亜子が呟いた。
 次の瞬間、言葉よりも確実にむつきを離れさせる行動にでる。
 最後通牒とでも言うべきか、我慢の限界とばかりに亜子が消音のボタンを押したのだ。
 途端にむつきの耳に届いたのはトイレの水を流す音であった。
 女子トイレの機構を良く知らないむつきだけに、亜子がトイレの水をながしたのかと勘違いした。
 さすがにトイレの水が顔に掛かるのはと顔を遠ざけた時、目と耳に異なるものが飛び込んだ。

「ぅっ、はぅぁ……出とる、先生の前で。うち、お漏らししとる」

 先ほどまでむつきが刺激し続けた尿道から、黄色い液体が放物線を描いて流れ出している。
 消音の為の割とけたたましい水流音に交じり、じょぼじょぼとおしっこがトイレに流れ込む音がした。
 むわっとアンモニアの匂いが広がり、羞恥の限界を超えたのか亜子は蕩ける。
 亜子のような可愛い女の子のおしっこ姿にむつきも興奮を禁じ得なかった。
 つい数分まで縮こまっていた一物が、膨張してふくらみ、硬く勃起し始めていた。

「はぁ、ふぅ……んっ」

 やがて膀胱内のおしっこが空になったのか、気持ちよさそうな声を亜子が上げた。
 そして我に返ってむつきと目が合うと、今まで失くしていた羞恥心が全て帰ってきたように顔を赤くし始める。
 合わせる顔がないとばかりに両手で顔を隠し、体ごと顔を伏せた。

「見んといて、今のうち見んといて。こんな恥ずかしいやなんて、うちの馬鹿。馬鹿ぁ、セックスするより恥ずかしいやんか。もう、お嫁にいけへん」

 泣いているんじゃないかと思う程の取り乱しように、むつきは兎にも角にもトイレをながした。
 それでも流れない亜子のおしっこの匂いはなんともできないが。
 今の亜子を慰める一番の言葉はわかりきっていた。
 こちらを見舞いと体ごと顔を伏せる亜子の顔を強引にあげさせ、視線の高さを合わせその瞳を覗き込んだ。

「別に俺の嫁になるんだから、問題なくね?」
「あれ?」
「お嫁に行くっていうか。俺のとこに来るじゃねえか」
「あー……でも、うぅ。証拠、ちょうだい」

 からっと羞恥が全て張れることはなかったが、赤い顔のまま亜子が唇を差し出してきた。
 今更証拠が要る間柄でもないが、羞恥を振り払うために必要ならばとむつきも屈みこんで唇を合わせる。
 その時であった。

「う~、漏れちゃう。漏れちゃう」

 少し慌てた様子で、廊下をペタペタあるく音が聞こえた。
 言葉通り目的はこのトイレらしい。
 出入り口付近でサンダルを履いてはあろうことか隣の個室に入ってきた。
 場所が場所だけにそうなる可能性もあったわけだが、心の準備が足りなかった。
 亜子は必死に声を出すまいと両手で口元を押さえている。
 むつきも臨戦態勢に入ったはずの一物が、撤退行動を始めそうなほどに仰角を抑え始めていた。

「待って待って。もう、ビキニならしただけなのに!」

 焦った声の後に濡れた水着を力任せに脱ぐ音が漏れ聞こえてくる。
 むつきは今まで考えもしなかったが、水着の女の子はトイレで全裸になることぐらいあるのだろう。
 ちょっと視線を隣の個室に続く壁に奪われていると、頬に亜子の手が添えられた。
 恋人はこっちとばかりに、顔を向けさせられ唇を奪い取られてしまう。

「先生、めっ。うちの中に……」

 音をたてぬよう慎重に便座の上で亜子がお尻を前に頭を下に大勢をずり落ちさせる。
 むつきの意識を向けさせた手を膝裏に添えて、おおねだりをしてきた。
 むしろ薄い壁一枚の向こうに、水泳部員の少女が誰かいるこの状態が良いとばかりに。
 二人だけの秘密のセックス、日常のすぐ隣で非日常の行為をと。
 羞恥、驚愕を超えて激しく心を揺さぶられた亜子は、興奮へと移ったようだ。
 むつきを誘う為に見せつけた割れ目からは、瞳から流れる事を阻止された涙がこぼれる様に愛液が滴っている。
 撤退行動なんてあるわけがないと、軍紀違反をするようにむつきの一物が持ち上がり直した。

「亜子、声我慢できるか?」
「わからへんぐぉ」
「声を出すな」

 そう言えばと思い出したノリで、手に持っていた亜子のパンツと短パンを思い出した。
 さすがに短パンは汚せないのでパンツの方を丸めて亜子の口に押し込んだ。
 麻帆良祭の夜に、美砂にも同じことをしてレイプされてるみたいと喜んでいたのを思い出したのもある。
 案の定というべきか、口を自分のパンツで塞がれた亜子は目元が明らかに喜んでいた。
 割れ目から流れる愛液も量を増やし、ぽたりぽたりとトイレに流れ落ちてさえ。

「ま、間に合った!」

 じょぼじょぼと、隣の部屋から用を足す音に遅れ消音の水流の音も聞こえて来た。

「入れるぞ」
「んぐぅ!」

 それは好都合だとばかりに、了承を得ることすらなくむつきは亜子の中へと自分を推し進めた。
 女子トイレの個室、放尿プレイに至り、すぐ隣に誰かがいる異常事態の連続。
 愛撫らしい愛撫はほぼ皆無でありながら、挿入はとてもスムーズに行われた。
 隣の個室から聞こえる消音の音に亜子の喘ぎ声がまぎれされ、奥まで膣の中を抉り込む。
 どうやら興奮しているのは亜子だけではなかったようだ。
 むつきもこの異常プレイの中でかなり興奮していたようで、亜子に対する普段の思いやりの半分もない。
 消音の時間は有限とばかり、亀頭が入った直後は奥まで一気にであった。

「ふんっ」
「ぁぅんぅ!」

 亜子の膝裏から腕を回して腰を掴み、お尻を持ち上げるような感じで一突きであった。
 ご主人様のお帰りだとばかりに、亜子の繊細な子宮口を亀頭でごりごりノックする。
 その度に便座が少しばかりガタガタ音を立てるが、消音機能様様である。
 これが消えれば激しいのは無理とばかりに、少ない時間を有効につかい亜子を攻めたてた。
 このぐらい、このぐらいならとパンパン腰をぶつけるぐらいに。

「んぅ、ぐぇ」

 初めは喜んでいた亜子も、消音の音が次第に小さくなるにつれ首を横に振り始めた。
 そんなに腰をぶつけたら聞こえてしまうと、不安になったらしい。
 だがそれに反して膣の締め付けが強くなるとはどういった了見か。
 とはいえ、むつきにだって危険な事をしている自覚位あった。

「持ち上げるぞ」

 殆ど消音の意味がないぐらいに音が消え始めたところで、むつきは亜子の体を持ち上げた。
 もちろん挿入はしたままで駅弁スタイルになり、くるりと体を半回転。
 対面座位の形になるように、むつきの方が便座に座った。
 さすがに亜子を抱えているのでどすんと座ってしまい、二人の結合部からくちゅりと愛液が跳んだ。
 普段ならすっかりセックスの虜中なのだが、今日は意外と亜子も長持ちしている。
 この状態で我を失えるほどに、神経は図太くないようだ。

「……ふぅ」

 やがて隣から消音の音が消え、安堵の息をつくような声が聞こえた。
 隣の子が誰かは不明だが、きちんと間に合ったらしい。
 むつきはそっと亜子の口を塞いでいたパンツをとってやり、亜子を抱きしめながら耳元でささやいた。

「亜子、今から隣の子とちょっと喋ってみるか?」
「ふぇ……そ、そんなん無理やて。んっ、声聞こえてまう」
「嘘、亜子の中がきゅってなった。想像して、興奮したろ?」

 事実、亜子が無理だ聞こえてしまうと状況を想像した言葉を漏らす度、締め付けが増していた。
 だからその背を後押しするように、小さく丸いお尻に手を添え、亜子を軽く持ち上げては落とす。
 あまり派手に腰を使えないので、亜子自身を小さく上下させスローセックスを楽しむ。

「ぁっ、ぅぁ」
「やってくれるか?」

 亜子自身が頷いたのか、セックスによる上下運動でうなづいたのか。
 了承とみなして亜子の手をとり、こんこんと薄い壁を叩かせた。

「うわっ、え……だ、誰です?」

 当然だが、突然の隣室からのコミュニケーションに隣にいた子は怯えにも似た驚きの声であった。
 というか、この声は一年生のリーダーの朝日ではなかろうか。
 まだまだ亜子より小さく子犬のような二つおさげの彼女を思い出しながら、小刻みに亜子を抉る。

「わ、私。和泉……くっ、のりりん。だ、大丈夫だった?」
「その声、和泉先輩? 聞こえちゃいました? 大丈夫、間に合いました。濡れた水着って本当に脱ぎづらくて……というか、先輩の方こそ。いえ、なんでもないです」

 なにか聞きたそうな声を上げるも、前言撤回とばかりに朝日が言葉を濁す。

「ほら、聞き返して」
「んぅ、ぁっ。先生、ぎゅってして」

 お尻を支える手は片手だけにし、もう一つの手を亜子を抱きしめる様に背中に回す。
 ただ回した背中は体操着の裾から素肌の上を滑るように中へ。
 筋肉もぜい肉も少ない背中の上を滑りかつてはコンプレックスだった傷の上も。
 目的地は肩甲骨よりやや下、ブラジャーのホックをはずし、体操服をまくり上げる。
 背中側はうまくまくり上げられたが、前はうまくいかなかったので鼻先を潜り込ませるようにずり上げていく。

「やん、くすぐったい。おっぱいちゅっちゅして」

 外れきらなかったブラジャーもずり上げ、桜色のとっきを口に含んで吸い上げる。

「あは、んぁ……」
「先輩、大丈夫ですか? お通じが悪いなら、誰かにお薬貰ってきますけど」

 どうやら亜子の喘ぎ声は少々漏れ聞こえてしまっていたらしい。
 しかしさすがに純粋無垢な朝日には、それがセックスによるものだとは思いもしなかったようだ。
 それは当然かもしれないが、お通じが悪い亜子が息んだ声と思ったらしい。

「だ、大丈夫……便秘じゃないから」
「亜子はいつも綺麗にしてるもんな」

 その綺麗さを確かめる様に、ブラジャーを脱がした手はそのまま背中を滑り落ちていく。
 亜子が転がり落ちないよう左手でお尻を、口で胸を吸い上げ、右手はまだ落ちる。
 背中の急斜面から柔らかくも丸いお尻の谷間に滑り込み、その奥へと潜り込む。
 秘境の洞窟を目指す探検隊のように、亜子のもう一つの秘部を目指してむつきの指がうごめいた。

「プール、サイドにいたら……ちょっとお腹冷えちゃってんぁ、ゃぁ」
「亜子は本当にお尻が好きだな。お尻を弄った時が一番締まる。ほら、自分でもわかるだろ?」
「先生、もう駄目。イキたい。イかせて、切ないの。もっと激しく、亜子でずぼずぼしてぇ」

 ぐったりともたれかかり、耳元で喘ぐ亜子の吐息には熱がこもっていた。
 可能ならばもう少し亜子が後輩と語り合う日常の中で、犯してあげたかったのだが。
 むつきとしてもあまり長い時間プールを空けるのはよろしくないだろう。
 今一度左手で亜子のお尻を抱え直し、右手もまた亜子を支える様にさらにお尻の奥へ指を沈み込ませる。

「ふぁ……大好き、私の奥に熱いの」
「分かったよ」
「先輩?」

 亜子の声が途絶えた事を不思議がる朝日の声が聞こえたが、構わずむつきは消音ボタンを押した。
 途端にけたたましい水流音が流れ出し、同時にむつきは亜子を一物と指で貫いた状態のまま中腰となった。

「ひぅ!」

 いくら消音があろうと、ぱんぱんと腰をぶつけることはできない。
 ならば亜子の一番奥をひたすらぐりぐりと攻めたてるしかない。
 亜子の声が漏れないよう深いキスで口を塞ぎ、腰を水平にさらに円状に回す。
 もちろんお尻に入れた指も尻穴を拡張するようにぐりぐりと腰とは逆回りで抉り上げる。

「れん、生……んぅ、気持ち良い? んはっ、私の中暖かい?」
「最高だ、亜子。分かるだろ、亜子を支えてるのが、こんなに硬い」

 一番支えているのが手でも腰でもなく、亜子を貫く一物だとより強く抉ることで教える。
 亜子もそれが分かったのか、ふるふると喜びに体を震わせながら抱き付いて来た。
 既にその頭の中に隣の個室にいる朝日のことなど吹き飛んでしまっている。
 頭の中にあるのは、幸せなセックスを教えてくれるむつきと、むつきの一物のことのみ。
 それをもっと感じようと、不安定な姿勢ながら亜子も腰を動かし自分からも快楽を求めていた。

「気持ち、ええ。もっと、出してや。ぁっ、うちの中も先生の熱いのであたためて」
「良いか、出すぞ。出すぞ、亜子の中に」
「ええよ、孕ませて。うちの中に、一杯んぁ。精子、くぅ。ぁぅ!」
「ぐぅっ!」

 消音の為の水流音が弱まり、消える。
 そう思った瞬間、むつきは亜子の口を完全にふさぐような形で声を完全にせき止めた。
 次の瞬間、ぐりぐりと長時間硬い口を閉ざしていた亜子の子宮口へとほとばしる。
 隣に何も知らない無垢な少女がこちらを伺っている。
 亜子の小さくて白い未成熟な体のみならず、まだ穢れを知らぬ純白の存在をそばにおいた精神的な効用もあった。
 亜子と二人でディープキスをしてもせき止めきれないうめき声を漏らしながら射精した。
 孕め、俺が好きなら孕めよと念入りに受精を促すように、亜子の子宮へと白い粘液を飛ばし付着させる。
 消音の水流音が途切れた後もまだしつこく射精は続き、断続的な射精に亜子は半分白目を剥きかけていた。

「先輩、やっぱりお腹の薬とか貰ってきましょうか?」

 心配そうな朝日の声が隣から聞こえ、むつきは便座に腰を下ろすと共にこんこんと壁を叩いた。

「え?」

 何故今更と朝日が混乱している間に、意識を遠いところへやってしまった亜子の頬を叩く。
 本当に今更なのかもしれないが、このまま亜子が気絶したらまずい。
 あまり反応がなく、大変なことがと朝日が人を呼びに行ったらピンチどころの騒ぎではない。
 小瀬なら、それでも小瀬ならいろいろ察して防いでくれそうだが。
 信頼こそすれ、それはさすがに高望みし過ぎという者だろうし、そんな賭けにはでたくない。

「亜子、頼む……朝日に何か言ってくれ」
「あや、先生。ん~、ちゅう」
「あとで百回でもしてやるから、起きろ」

 幸せ満喫中の亜子には悪いが、軽くゴチンとヘッドバッドで気付けを行う。

「あれ?」
「頼む、亜子!」
「先輩本当に大丈夫ですか? あの、アキラ先輩呼んできましょうか? それとも」

 酷く焦った様子の朝日が隣の個室でごそごそとし始めていた。
 慌てて水着を着ようとしているのか、バランスでも崩したのだろうゴンっと壁に頭を打つような音も。

「ぁっ、のりりん。大丈夫、ちょっとお腹がキュゥっとして声出えへんくて。でも生理の時よりはマシやから。ごめんな、心配かけて。どっかぶつけなかった?」
「あはは、水着の同じ穴に両足いれちゃって。大丈夫です。じゃあ、一応小瀬先輩にだけは、先輩がお腹痛い事を伝えておきますね。帰ってこないとか、騒がれると先輩も恥ずかしいでしょうし。小瀬先輩なら用事を頼んだとか、上手くごまかしてくれます」
「うん、そう想像できるだけのりりんも部長さん向きだね。ごめんねだけと、お願いするわ」
「任せてください!」

 そう会話を終えると、バンッと元気よく扉を開けたらしき朝日がトイレを出ていく。
 ちょっと慌てて手を洗ったような音が聞こえなかったが、どうせもう一度消毒槽に入るだろう。

「ふぅ、焦った……我に返ってくれなかったら、どうしようかと思った」
「ごめんな、先生。けど、先生がこんなに」

 出すからと皆まで言わず、亜子が腰を動かすと愛液と精液が混じったもとが二人の結合部より漏れ出す。
 ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てては滑り落ち、トイレの中に落ちていく。
 こらもったいないとばかりに亜子の腰振りを止めさせ、後ろの貯水槽に背を付け抱き寄せる。
 ちょっと揉み足りなかったので体操服に手を忍ばせこぶりな胸を揉み、ふわっと香る亜子の汗を嗅ぐ。
 朝日の心遣いでもう一戦ぐらいできそうだが、今はこの気怠さに身を任せていたい。

「亜子、キスしよっか」
「んぅ。先生、大好き」
「俺も」

 恋人同士の甘いキスを繰り返しながら、時間をかけて二人は互いに腰を振り始める。
 だが決して激しくはせず、時間が許す限りスローなセックスで求め合った。









-後書き-
ども、えなりんです。

女の子って水着でトイレに入ったら、一部だけずらすのかな?
まあ、今回の子(朝日)が、全部脱ぐ子だったということで。
さて、椎名たちのひかげ荘捜索の結果がまだですね。
美砂から鍵落としただろこらとむつきにメールが行きましたが。
どうなっているかは、また九十五話でわかります。
書く事多すぎる。

ただ、なんとか第二部の終了が見えてきました。
なんとか百話で追われそう(夏休み終了できそう)です。

それでは次回は来週の土曜日です。



[36639] 第九十四話 俺の物差しは何倍も大きいの
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/01/11 20:33

第九十四話 俺の物差しは何倍も大きいの

 三日間ホテルのプールでみっちり練習を積み、休憩日を挟んで訪れた水泳部の全国大会。
 午前中に行われた団体の部は、アキラの奮闘こそあれ入賞すらおぼつかず予選敗退であった。
 麻帆良女子中が強豪校と言えど、それは昔の話で今回の全国大会も数年ぶりの出場。
 アキラ一人が飛びぬけて速いが、他のメンバーは正直なところ全国レベルに一歩足りない。
 初戦敗退とならなかっただけ、健闘した方であろう。
 これで引退となる一部三年生は涙を飲んだが、お昼を挟めばその涙も既に止まっていた。
 何故なら午後に行われる個人の部では、麻帆良女子中唯一の出場選手、希望の星のアキラが出るからだ。
 せめて一矢報いて貰い、麻帆良女子中水泳部の名を全国に知らしめて欲しい。
 そんな周りの期待に応える様に、アキラは予選を順当に勝ち抜いていた。

「ア、キ、ラ! ア、キ、ラ!」
「わー!」

 麻帆良市から応援に駆け付けた二-Aの面々も、観戦席から周囲に負けじと大応援であった。
 美砂や椎名、釘宮といったチア部は当然のようにチア姿でポンポンも装備である。
 そんな彼女らの暖かい応援に、予選が終わり勝ち抜くたびにアキラは手を振って応えていた。
 アキラと親しくする面々の中で優勝を疑わない者は殆どいなかった。
 順当に勝ち登ったアキラが、決勝にまで勝ち登っても。
 小瀬を除く誰一人として、アキラの優勝を疑うことはなかった。

「先生」

 二-Aの面々や、水泳部員たちが観戦席でお祭り騒ぎの中、小瀬がむつきのスーツの裾を引っ張ってきた。
 二人、亜子をいれると三人だが、この三名は顧問、部長、マネージャとしてプールサイドにいる。
 出場選手であるアキラのサポートの為であった。

「おう、なんだ浮かない顔だな小瀬。団体戦では結果は残せなかったけど、アキラが決勝まで進んだんだぞ。張り切って応援しないとな」
「小瀬先輩、アキラなら絶対優勝しちゃいますよ」

 アキラの決勝戦を前に、興奮した様子のむつきと亜子は手を取り合い少しはしゃぎ気味だ。

「先生、和泉ちゃんも……アキラはたぶん負けるよ」

 決して大きな声ではなかったが、小瀬の言葉にむつきも亜子もはしゃげずぴたりととまってしまう。
 確かにタイムで言えばアキラが絶対優勝とは言えないが、スポーツはなにが起きるか分からない。
 優勝候補の一角だって、朝から泳ぎっぱなしで疲れてくるだろうし、スタミナも個々で違う。
 なのになぜそこで小瀬は、アキラが勝てないと可愛い後輩が負けるようなことを言うのか。

「小瀬先輩は、アキラが信じられない……ってわけじゃないですよね。先輩、天邪鬼ってわけじゃないですし。どうしてそう思うん?」
「私もさ、全然気づいてなくて指導者失格なんだけど。ずばり、アキラは競りに弱い」

 アキラは麻帆良女子中の中ではもちろん、県下でもぶっちぎりに速い水泳選手であった。
 一人だけレベルが違うのだ、違い過ぎた。
 自分と同等のレベルを持つ選手と泳ぐのは恐らくはこの全国大会が初めてだろう。
 しかし本当の意味で強豪校からの出場選手は、自分と同じレベルの人間と泳ぎ競ることに慣れている。
 全国から選りすぐった水泳選手を集めた決勝戦だけに、その経験の差は恐らく歴然となるだろう。
 小瀬だってこの全国大会でアキラが泳ぐ姿を見てやっと気づいたぐらいであった。
 対戦表に救われ決勝まで運良く勝ち上がれたが、それもここまでと小瀬は言うのだ。

「あと一勝ですわ、アキラさん!」
「四日も独り占めしたんだ。その成果を見せろよ!」
「これで負けたら、都合四日は接触禁止ネ!」
「それだけでは少々理不尽ですので、優勝した暁には独り占め一日追加です」

 観戦席から飛び込み台へと向かうアキラへ、あやかを筆頭に応援の言葉が飛んでいた。
 少々危ない応援は千雨に小鈴、夕映とむつき本人の許諾なしに言いたい放題だ。
 ただし、夕映の独り占め一日追加は効いたらしく、珍しくふんすとアキラが鼻息荒くしている。

「んで、アキラが負けるから優しく慰めろってか?」
「違う。私が考えてるのは、もっと先の」

 言われなくてもとむつきが言った台詞は、はやばやと小瀬に否定されてしまった。
 その間にもアキラは他の選手と並び飛び込み台へと足を進めていた。
 ビーっと電子音でのスタートの合図により、全選手が一斉に青いプールの水の中に飛び込んだ。
 この話はまた後でと、むつきや亜子、小瀬もだが飛び込んだアキラを目で追った。
 直前の小瀬の話でまさかと思ったが、飛び込んで潜水を終えた直後のアキラは一番手だ。

「ねえねえ、アキラ一番。優勝、優勝」
「そのまま行くにゃあ!」
「いや、力み過ぎでござる!」
「ぁっ、だめ。追いつかれちゃう!」

 観客席で佐々木や明石が両手を叩いて喜ぶも、長瀬のまずいといった叫びがとんだ。
 一番最初に悲鳴をあげたのは、鳴滝妹だろうか。
 いや、誰が最初であったかはさだかではなく、長瀬の言葉の意味をアキラの姿で理解することができた。
 明智光秀の三日天下ではないが、アキラの天下も瞬く間に並ばれ崩れ落ちそうになる。

「長瀬さんの言う通り、いつものアキラのペースやない。飛ばし過ぎや」
「私の想定より悪い、スタート直後に競ったら!」

 隣のレーンではなかったが、並ばれたことが分かったのかアキラがますますペースを速める。
 最後の最後で一番であればよいのに、終始一番でいようと余計に無理なペースで泳ぐ。
 そしてレースが中盤に差し掛かったところで、無理のつけが一気に出た。
 他の選手もそうだが、アキラもまた午前中の団体戦からずっと泳ぎっぱなしなのだ。
 誰よりもはやく燃え尽きたように、目に見えてそのスピードが落ちていく。
 天下を引き延ばすことすらできず一人、また一人と追い抜かれていってしまう。
 その段階になって階上の応援席からも悲鳴やら叫び声、ため息にも似た諦めが零れ落ちて来た。
 がんばれと心で願っても、それが口から出てくることはない。
 アキラが必死に頑張っているのは分かっているのだが、それに結果がついてこないのが分かってしまう。

「先生、さっきの話だけど」
「お、おう」

 それでもアキラの勇士を最後までと見つめていたむつきに、後ろから小瀬が話しかけてくる。

「来年、アキラがリベンジするには絶対的に足りないものがあるの。アキラと同じぐらいの実力を持ってて、日々切磋琢磨できる身近なライバル。これがないと、来年は二の舞だよ」
「ライバルかぁ……」

 アキラは水泳部内に親友も仲間もいるが、競い合える相手がいない。
 今日はちょっと千雨たちの提案で力んだ気もするが、そうでなくても普通は力むものだ。
 それもまた、小瀬が言いたかった経験不足の一部ではあるのだろう。
 今回の地方大会だって、アキラは寝不足の体調不良で楽々勝ち上がってきた。
 地方なら多少のハンデで済むが、やはり全国大会、それも決勝となると甘くはない。
 今ちょうど対岸にたどり着いたアキラは、八人中六位。
 自分の記録に呆然としており、放っておけば沈んで行ってしまいそうな顔色だ。

「ほら、先生行ってあげて。我に返ってすぐ、あの子泣き出すよ」
「亜子も来い。たぶん俺だけじゃ、無理だ」
「うん」

 次々に選手がプールから出ていく中で、アキラはまだぼうっと佇んでいる。
 その視線が向かう先は、決勝の順位が照らされる電光掲示板にあった。
 六位、大河内アキラと光る盤上を見つめ続けているのだ。
 プールサイドから回り込み、プールを覗き込む様にアキラの肩をちょいちょいとむつきが突いた。

「先生? あれ、決勝戦は?」
「終わった。八人中六位、全国六位だ。おめでとう、アキラ」

 なんだかんだ言っても全国六位である。
 思うようにいかなかった結果であっても、誰に恥じ入るものでもない。
 そう思ったのだが、結果を改めてそれもむつきから聞かされたアキラの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
 顔についていたプールのしぶきと交じり、より大きな玉となってプールの中へと落ちていく。

「ちが、う。私もっと速い、はやぐ。泳げたはじゅなのにぃ」
「知ってるよ、大河内の速さは。和泉、ちょい手伝ってくれ」
「アキラ、とりあえずほら。あがろう、な?」

 ぽろぽろと泣き出したアキラの手をむつきが引き、プールサイドにまで連れていき二人で引き上げる。
 アキラは完全に足に力が入っていないようで、崩れ落ちるままに泣き続けていた。
 もっと速く、そうなりたいではなく、全く力を発揮できなかったと。
 場所もはばからず悔し涙を流し、むつきにしがみつく様に泣きじゃくっている。

「先生、悔しいよ。先生」
「そうだな、けど。お前はまだ二年生だから、来年また来よう。来るだけじゃない、今度は一番を取ろう。大河内ならできるから」
「アキラ、私も。皆も手伝うから、一緒にまた来よう」

 二人で宥めても泣きじゃくるアキラは、駄々っ子のように首を横に振るばかり。
 これでは次の表彰に差し支えがでるかと思えば、周囲の子達も同じようなものだった。
 見事優勝を飾った子以外は、アキラのように涙をにじませたり、歯を食いしばっていたり。
 栄冠を掴んだただ一人以外は、大なり小なり悔しがっている。

「しゃあねえな」

 その中でも一番悔し涙を流すアキラの泣きっぷりは優勝クラスか。
 プールサイドに座り込んだままで体も拭けやしないと、むつきはアキラを抱きかかえた。
 スーツが濡れてしまうが、アキラの体が冷える方が心配である。
 周囲に通してくださいと亜子と一緒に頭をさげつつ、控え席のパイプ椅子に座らせた。
 早速亜子と小瀬の二人がかりでアキラを拭かせ、それ以上涙を周囲に見せないようにする。

「先生」

 そんなおり、上の応援席から零れ落ちて来た心配そうな声は、あやかであった。
 二-Aのみならず、水泳部の面々もアキラの悔しがりようを見て心配そうだ。
 中でもたきつけた原因ともいえる千雨や小鈴、夕映辺りは気まずそうである。

「出ちまった結果は変えられねえ。これで三年生は引退。一、二年生は秋の新人戦に向けてまた練習だ。とりあえず、荷物は纏めとけ。閉会式が終わったら麻帆良に帰るぞ」

 主に水泳部員にそう伝え、すまなそうにしている三人にも気にするなと手を振っておいた。
 アキラが敗退したのは、あくまでアキラの実力不足。
 すまなく思う気持ちも分かるが、謝られたってアキラも困るだろうし、誰かのせいにして成長なんて望めない。
 応援する方もされる方も、良い経験だったと次につなげるぐらいだ。

「さあ、アキラも自分で涙拭けよ。六位なんだから入賞してんだ」

 まだ自ら涙を拭こうとせず、タオルの奥に顔を隠しているアキラの耳元に口を寄せる。

「アレが俺の彼女だって自慢したくなるような、何時もの可愛い顔で表彰式に出てくれよ」

 混じりッ気なしの本心ではあるが、その囁き戦術に対しピクリとアキラの頭が動いた。
 ゆっくりと持ち上げられた両手でタオルを掴み、きゅっきゅと顔を拭き始める。
 そしてチラッとタオルの奥から瞳を覗かせ、直ぐそばにあったむつきを見上げて来た。

「可愛い?」
「ああ、可愛い自慢の彼女だ」
「え、へへ……」

 悔しさよりも、嬉しさの方が勝ったのかタオルの奥で照れながらアキラが復活しはじめる。

「アキラもなんだかんだで、結構現金なところあるなあ」
「健全な証拠じゃないの。やることやってるけど」
「そこ、折角アキラが元気になったんだから突っ込んじゃいけません」

 それで即座に、いつも突っ込む側のくせにと下ネタで返されたわけだが。
 元気を取り戻したアキラは、閉会式にて全国六位として入賞した表彰状を受け取っていた。
 顔にまだ少し涙の跡は残っていたが、表彰された少女たちのなかで可愛さはぶっちぎり。
 一先ずむつきは宣言通り、心の中だけであったが、アレ俺の可愛い彼女ですと胸を張った。









 ついでなので、水泳部に加え二-Aの面々も引率して麻帆良学園に返って来たのは午後七時であった。
 まだまだ夏と言える時期なので空はようやく陰り始めたところだ。
 一部は実家に帰ったりしたが大部分は女子寮に向かう為、集団で帰りなさいと厳命しておいた。
 今日一番疲れたであろうアキラには、亜子や明石、佐々木などにそばを離れるなとも。
 それじゃ、お疲れさまと解散させたわけだが、何故かむつきのそばに数名の人影が。

「お前ら、実家帰省組……神楽坂は違うよな。なにしてんの?」

 先生さようならと数多くの生徒から手を振られ、振り返す中でむつきは両隣の生徒達に話しかけた。
 一人は落ち着かない仕草の神楽坂であり、もう三人も落ち着かない様子の宮崎を筆頭に夕映と早乙女だ。

「おや、神楽坂さんもですか? 私たちはのどかについて、先生に相談がありまして」
「うん、私もちょっと先生に相談」
「高畑先生なら、夏休みも残り一週間だしそろそろ帰ってくるけど?」
「今回、高畑先生は全く関係ないの」

 どうやら、神楽坂と夕映たちは示し合わせて残ったわけではないらしい。
 美砂たちは団体行動中なので恐らく寮に向かうだろうし、ひかげ荘にいるのはエヴァと絡繰とさよか。
 ちょっとタンマと言い置いて、晩御飯を作ってくれるであろうさよにメールを一通送っておく。
 それから、ここでは落ち着けないと四人を近くのファミレスへと連れていくことにした。
 時間も時間なので夕飯時であるし、四人ともまた明日ではすまなそうな雰囲気だからだ。
 駅前なのでファミレスには困らず、一番近いファミレスへと足を踏み入れる。
 テーブル席にむつきと神楽坂、対面に奥から早乙女、宮崎、夕映の順で座った。
 奢りで良いからと全員が注文を済ませて、軽く小腹を満たしてから相談を受け付けた。

「で、どっちからにする?」
「あー、私はできれば先生と二人きりが良いから。本屋ちゃんからでお願いできる? というか、私が効いても平気な話?」
「あっ、はい。全然、むしろ神楽坂さんもいてくれると意見を参考にできたり……」

 小さな口で冷やし中華を食べながら、これまた小さな声で宮崎がそう答えた。
 ただやはり難しい相談なのか、しきりに夕映や早乙女を交互にチラチラとみている。
 それを察し、仕方がないなとばかりに早乙女がスぺゲッティのフォークをふりつつ言った。

「先生、たっくん覚えてる? 夏休みの最初に、のどかとデート中に割り込んできた男の子」
「さすがに忘れられねえよ。俺に対抗心むき出しだったし」
「あっ、私が喫茶店でバイトしてた日の子ね。木乃香から後で聞いたけど、本屋ちゃんの彼氏になったとかなんとか」
「決してのどかの彼氏などではありません。おこがましい!」

 テーブルをどんっと叩きそうな勢いで、神楽坂の彼氏発言を夕映が真っ向から否定していた。
 もちろん即座にハッとし、神楽坂にぺこりと頭をさげていたが。
 夕映が憤ったことから、というかむつきもその辺りはちょいちょい情報を得ていた。
 自らではなく、涼宮とのどかが他プラスアルファでデートするたびに、夕映が愚痴ってきたからだ。
 しかしここは、何も知らない振りをして聞き返しておく。

「落ち着けよ、綾瀬。あの涼宮の性格だ、大よそ想像はつくが……」
「そんなに嫌な子なの?」
「悪い子じゃないんだけど、いや。良くも悪くも男の子かな?」

 直接会ったことのない神楽坂の問いかけに、意味ありげに早乙女が呟いた。
 それでも相談主はアンタだからと、完全に他人任せにならないよう宮崎の背をとんっと押す。

「あの、楽しいこともちゃんとありました。皆で一緒に、またボーリングに行ったり、カラオケだったり」
「ぬぐ、あの本屋ちゃんがグループデートとはいえ男の子と。焦る」
「お前はまた今度な、まずは宮崎の話を聞こうな」

 高畑のことならまた今度と、神楽坂が間に入るたびに会話が止まるので肩に手を置きどうどうと抑える。

「ごめんね、本屋ちゃん。ちゃちゃは入れないわ」
「すみません、神楽坂さん。それで二人きりでと、何度か誘われもしたんですけど。やっぱり、怖くて……」
「そりゃ、数年間男嫌いだったのに。しかも原因相手に直ぐはな。それで?」
「私が何時も断るので、鈴宮君もしびれをきらしたみたいで。夏休み最終日に、答えをくれと。こ、告白されてしまいました」
「もちろん、断りますけど」

 お前が告白されたわけじゃないだろと、もはや夕映には言うまい。
 だが宮崎も断るつもりであろうことは、夕映の言葉を否定しないことから分かった。
 しかし断るにしても、あの涼宮がただ断られただけで諦めるとも思えない。
 最悪は、今以上に宮崎の男嫌いが促進されかねない事態となろう。

「とりあえず、告られて断りたいのも分かった。その前にいくつか、質問良いか?」
「は、はい」

 冷める前に飯も食えよと注意しつつ、いくつか宮崎に尋ねる。

「宮崎は、涼宮の何が駄目なんだ? 恐怖症の根源ってのは知ってるが、一応小学生時代のことはあいつの善意からってのは理解したんだろ?」
「はい、行き過ぎた善意で私が怖がってたことも」
「なら、今の涼宮を見て何が怖いんだ?」

 多少は小学生時代のトラウマが払拭されたかと思いきや、あまり前進したようにも思えない。
 数年来のトラウマということもあるが、足踏みしてしまっているようにも思える。

「お話を聞いてくれないんです」
「お話? 宮崎の?」

 それだけでは要領を得ないが、早乙女も夕映も宮崎の両隣でうんうんと頷いている。
 むつきよりも涼宮と触れ合う機会の多かった二人には、とても良く分かるらしい。
 というか、良く良く考えてみれば、あの涼宮である。
 なんとなくだが、むつきにもそれだけでわかる気がしてきた。

「あの日のデートの時の先生みたいに、私のお話を聞いてくれないんです。私が、こういう本が大好き。面白かったって言っても……」
「そんなつまんない話より、とプロ野球の話を延々とされるです。拷問ですか?」

 人の悪口に入りそうなので言いよどんだ宮崎の代わりに、夕映がど真ん中ストライクである。

「まあ、私ものどかの男嫌いの克服の切っ掛けとしては当てにしたけど。そのままのどかの彼氏には収まれないっしょ、彼では。たっくん、我しかないもん」
「早乙女の方がよっぽどばっさりだな」
「私、これでも少しは変われたつもりです。以前は男の人すべてが苦手でした。けど、今では一緒にいて楽しい人もいるって。先生との旅行楽しかったです、本心から」
「あれは、どちらかというとクラスの旅行だろうに」

 一応早乙女や木乃香への義理もあって、涼宮と友好を結んでみたが友達どまりであったと。

「あー、ごめん。半分ぐらいついていけてないけど、良い?」

 この場で唯一涼宮を知らない神楽坂が、言って良いのかなと躊躇しながら手を上げた。

「どうぞです、神楽坂さん」
「本屋ちゃん、先生とのデートは楽しかったんだよね?」
「はい、なかなか行けない古本屋に連れて行っていただけて。高価な本も買って貰ってしまいました」
「寮の部屋の本棚の、一番のお気に入りコーナーに大切にしまわれています。恐らく既に暗記しているでしょうに、週に一度は必ず取り出し読んでいます」
「ゆえゆえ!」

 言わないでと宮崎が長い前髪に隠れた顔を真っ赤にしながら、夕映の口を塞ごうとする。
 しかし、現時点での彼女の敵はもう片方のサイドにもいたのだ。

「もう、見てるこっちが恥ずかしくなるぐらいのラヴ臭がさ。本をひろげて、ふふって可愛く笑って」
「きゃー、パルゥ!」

 女の子してるなあと、少し神楽坂が遠い目をしていたが。

「もしかしてだけど、その涼宮って子と遊んでる時。先生ならこうしてくれるのにとか、思ったりした?」
「しょ、しょっちゅうしてましたけど?」

 神楽坂の問いかけの意味がわかっていないように、宮崎が当たり前のように返してきた。
 というか、鈴宮の告白云々は完全にダシなのではないだろうか。
 恐らく宮崎以外、つまりは早乙女や夕映は、神楽坂が何を言おうとしているか完全に理解している。
 にやにやと早乙女がむつきを見るのは構わないが、恋人である夕映はそれで良いのか。

「ぶっちゃけた話、怖くない男の人って先生以外にいる?」
「いえ、まだですけど」

 既に否定すらしないというのに、宮崎は全く持って気づいていないらしい。
 神楽坂もこれ最後まで言わなきゃだめかと、早乙女や夕映を見るが頷いて肯定されてしまう。
 最後の砦とばかりに、こんどはむつきを見上げて来たが、応えられるはずがない。

「本屋ちゃん、なんでその涼宮って子じゃダメなのか。知りたい? たぶん、傍から見てる私の方が理解してるっぽけど」
「恋愛については、神楽坂さんの方が先輩です。後学のために、是非」
「恋愛の先輩……」

 あまりにも高畑と進展ない関係で、一種馬鹿にされているような発言だがもちろん宮崎は本気だ。

「本屋ちゃん、自分で気づいてないけど。先生のこと、好きになっちゃってる」
「へ?」

 一体何を言われたのか、神楽坂の言葉を聞いて宮崎が裏返った声をあげた。

「たぶん、生まれて初めての先生とのデートが楽し過ぎたんじゃない? だから、同級生とのデートに粗しか見つけられない。先生なら、先生ならって。先生と彼氏候補を比べて……ねえ?」
「おい、最後俺にキラーパスすんな」

 突然神楽坂に話を振られ、諦めて宮崎と視線を合わせたわけだが。
 ぷるぷる震えていた、それから間もなく宮崎の顔が真っ赤に染まり始める。
 このままでは走り逃げそうな宮崎を、待っていましたとばかり早乙女と夕映がガッチリキャッチした。
 あわあわと言葉が出ない宮崎の代わりに、早乙女が笑っていった。

「いやー、私も最初はまさかと思ってたけど。完全に外部だった明日菜が言うなら間違いないって」
「のどかの記念すべき初恋の場に共に居られ、感無量です」
「なにやり遂げた顔してやがる。とりあえず、宮崎を落ち着かせろ。息してねえぞ」

 死に掛けの金魚のように口をぱくぱくしていた宮崎を、これはいけないと夕映が背中をさすった。

「あー……一先ずだ、断り方はレクチャーしとく。涼宮君は良い人だけどとか、前置きするな。単刀直入に、ぐぅ」

 言わされたと、早乙女と夕映をちょっと睨みながら。

「好きな人がいるから、ごめんなさいって言え。それから、断る時は一人でいけ。涼宮のプライドも考えて、断る時は宮崎一人な。ついて行っても良いけど、絶対にバレないようにしろ」
「はいよ、レクチャーありがと先生。さあ、のどか。明日から大変だよ。先生、この顔でライバル多いから。アキラに桜子、アタナシアさんに本命の彼女まで」
「あうあう」
「先生になら、安心してのどかを任せられるです。どうか、のどかをよろしくです」

 やはり早乙女と夕映は、ここに至る答えが分かってて連れて来たらしい。
 赤面しつつぎりぎりのところで意識を失えない宮崎の両腕を掴み、今日はここまでと席を立つ。
 ご馳走様でしたとどちらの意味で使ったのか、去りゆく姿が小憎らしい。
 夕映は今度、可愛がり殺すとして早乙女にも何か仕返しをしてやりたいところだ。
 最後の意地として、気を付けて帰れよと教師らしく振舞うが、あまり意味はなかった。
 三人が去った後でやれやれと肩の力を抜いたわけだが……

「物凄く、相談しづらい……」

 ちょっと微妙な雰囲気が漂う中で、神楽坂もまた残されていた。

「先生、水泳部の引率から本屋ちゃんの超変化球の告白に続いて大丈夫? 体力残ってる?」
「お前の相談内容次第だな。言っておくが、恋愛系じゃないな?」
「残念ながら、違うわ。結局、今の私は先生にお膳立てして貰わなきゃ、高畑先生と何もできないし」
「壁は大きいわな、神楽坂ちょいとすまん」

 ちょっと断り立ち上がると、神楽坂の膝上を跨ぐように通路側に出てからむつきはテーブルの向こう側に回った。
 恋人同士じゃあるまい、テーブル席で隣り合って相談もしづらい事だろう。
 神楽坂一人をさばけば、恐らくは今日の先生業も終了だろうと、少しだけ気合をいれる。

「よし、良いぞ。神楽坂、来い!」
「まぜっかえすつもりじゃないけど。先生のそういうところ、私も結構好きかな。たぶん男の人の中で二番目、一番は当然高畑先生だけど」
「俺は要領悪いから、真面目をとったらなにも残らねえからな。ていうか、俺相手だとすんなり言えるんだな」
「二番目だから、拒否られても傷は浅いしね。気楽は気楽」

 改めて言われると、宮崎の変化球の告白よりはちょっと照れる。
 ただ時刻も既に二十時を回っているので、あまりのんびりと会話している余裕はない。
 門限がない寮といえど、教師と生徒がファミレスにいたというのは外聞がよろしくない。
 先ほどまでのように複数ならまだしも、二人きりというのはなおさら。

「で、相談ってのは?」
「中学生のそれも女の子ができる短期のバイトって先生知らない?」
「短期バイト、日雇いみたいなもんか?」
「業種はこだわらないんだけど……」

 当たり前だが金銭に関わることなので、少し言いづらそうに神楽坂が言った。

「ほら、夏休みの旅行で先生は金額押さえてくれたけどね。それに最近、木乃香が寮を空けることもおおくて食費がね。夏休み残り十日もないけど、五千円しかなくて」
「お前確か、喫茶店とかいろいろやってたよな。その給料が出るまで、貸しても良いけど?」
「それは駄目。先生にはもう一杯、高畑先生のことで貸して貰ってるし」

 結局こうして相談を受けているので、今更ではあるのだが。
 神楽坂としては譲れるところと譲れないところの境界線があるらしい。
 しかし、宮崎が中学生らしく好いた惚れたの毎日を過ごしているのに比べ、神楽坂はどうだろうか。
 彼女にも憧れの先生、高畑がいるにはいるが、その何倍もバイトにつぎ込んでいる。
 そもそも、神楽坂は高畑の縁者かなにかではなかったか。
 何故生活が困窮するまで、一中学生がバイトに明け暮れなければならないのだろう。

「神楽坂、ちょっと突っ込んだ質問良いか?」
「良いけど?」

 以前から気にはなっていたが、なかなか聞けなかったことを確かめるのも良いだろう。
 折角神楽坂が二番目に好きと言ってくれたのだから、聞いても嫌な気にはさせまい。

「お前の親権ってどうなってるんだ? 幼少期に高畑先生が連れて来たとか、学園長も関係してるんだっけ?」
「んー、私も小学一年生以前はどこに住んでたか記憶にないけど。えっと……親権って? カタナ?」
「おい、女子中学生……」

 親権ぐらい知っとけと思ったが、神楽坂にとってはあまり問題視されないらしい。
 いや、されないからこそ、こんなバイト三昧になってしまっているのか。

「分かった。お前の親権、つまりは法的な親については高畑先生とかに聞いてみる。正直なところ、お前ぐらいバイト三昧の中学生は聞いたことがない。高畑先生が親権持ってたら、育児放棄になりかねん」
「育児放棄? 私、子供じゃないけど」
「中学生は法的にはまだまだ子供だ。つまり、高畑先生は大人だから普通に金持ってるだろ。しかもあの人凄く高い車とか乗ってて、高給取りっぽいし。だったら、お前を養う義務がある」
「えっ、えーっと……」

 こんなところで馬鹿レンジャーの面目躍如をしてほしくはなかったが。
 変に理解して、高畑先生はそんなことと騒がれるよりはましか。

「お前はまだ子供、大人が養わなきゃいけない。それだけ今は覚えとけ。それで、短期か日雇いバイトだったな。俺の伝手だと……酒呑か、建築の現場監督だったはず、ちょい待ってろ」

 一旦、神楽坂にはストップをかけて、むつきは携帯電話にて手帳から馴染みの相手を探し出す。
 スリーコール目で繋がり、おうどうしたと野太い酒呑の声が返って来た。
 学生時代の友人とはいえ、簡単に最近どうだと世間話を交えてから相談がと持ち掛けた。

「お前のところって、バイト雇ってたりする? 日雇いか短期。ちょっとうちの子が色々と入用でさ」
「女子中学生の教師じゃなかったか? うちみたいなバイト、腕力勝負だぞ?」
「その子は割と腕力自信有り。無理言って悪いけど、面接してくれないか?」
「お前の頼みは受けたいが、駄目だと思ったら即断るぞ。それでも良いなら、そうだな。明日の朝八時、場所は後でメールするがそこに来られるか?」

 無理をさせてないが心配だが折角の行為に、携帯電話を耳から外して神楽坂に確認する。

「神楽坂、悪いけど明日の八時に面接大丈夫か? 俺の知り合いの建設現場の監督だ。力仕事になるけど」
「大丈夫、腕力には自信あるから。相談して良かったぁ」
「礼はまだ早い、バイトに受かった時にくれ」

 両手を重ね合わせ救いの神とばかりに拝む神楽坂の頭をくしゃりと撫でる。
 直ぐにちょっと踏み込み過ぎたかとその手は、外させて貰ったが。

「OKだ、酒呑。その時間で頼む、注意事項は?」
「面接が通ればその場で現場に入って貰う。汚れても良い恰好で頼むぞ。髪が長けりゃ纏めとけ」
「おう、了解。ツナギかなにか、持って行かせる。マジですまんかった」
「なに、お前の合コンで良い出会いがあったからな。もしかすると、もしかするかもな」

 どうせ明日も会うので世間話もそこそこに、もう一度だけ礼を言って電話を切った。

「というわけで、明日の朝七時頃に寮に迎えに行く」
「え、場所さえ教えて貰えば一人で行ける。これ以上先生に、あたっ!」

 一先ず、本当に今更の遠慮をする聞き分けのない神楽坂には、割と力を込めたでこピンをプレゼントだ。

「あのなあ、これ以上とか。お前の物差しでは、境界線がきっちりあるんだろうけど。俺からすれば、境界線を越えようが超えまいが一緒。俺の物差しは何倍も大きいの。既にお前のバイト三昧について、頭突っ込む気満々だから」
「じゃあ、どうすれば良いのよ」
「拗ねんなよ。そうだな、可愛くにっこり笑ってありがとうって言ってくれりゃ、これぐらいって俺も笑って言えるってもんだ」

 唇を尖らせ、ある意味子供らしく拗ねた神楽坂が、照れ臭そうに視線を逸らした。
 確かに改まってお礼を、それも満面の笑み付きとあらば照れもしよう。
 しかも神楽坂の性格上、口先だけでは済まされない。
 ギギギと錆びついた音をたてそうな動きで視線をむつきに戻し、ぎこちない笑顔で言った。

「あ、ありがとう」
「やる気なくすわ。お前、俺は二番目なんだろ。その気安さで笑ってみろ」

 二番目、二番目と呟きながら、瞳を閉じた神楽坂が胸に手を置いて深呼吸した。

「先生、ありがとう」

 肩の力を抜き、長い髪がふわりと浮き上がる中で満面の笑みを見せながらの一言である。
 文句のつけようもないちょっと乱暴で怒りっぽいが、少女らしい神楽坂の笑みに正直ときめいたむつきであった。









-後書き-
ども、えなりんです。

今回のヒロインはアキラでものどかでもなく、明日菜だったりします。
なんやかんやで彼女の中でむつきは二番目。
高畑次第で普通に靴揚げ当選できそうな位置ですw
まあ、もちっと時間はかかりますがね。
良くある恋愛相談他に乗っている間にってやつですねえ。
もっとも、今回の彼女の金欠には多大にむつきが関わってますけど。
旅行に加え、お母さん的存在の木乃香がひかげ荘に入り浸ったり。

明日菜はもう少し親権周りとか突っ込んだりいろいろイベントします。
アキラのライバル云々もフラグです。

忘れていても構いませんが、涼宮と酒呑は夏休み初期の頃のお話に出てきてます。
涼宮はたぶん出ませんが、酒呑は稀にはでるかもです。
実際次回に出ますしね、明日菜のバイト面接で。

それでは次回は来週の土曜日です。



[36639] 第九十五話 弟とも違うよぉ!
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/01/25 21:43
第九十五話 弟とも違うよぉ!

 翌日、むつきはまだ誰もひかげ荘に来ないうちから家をでた。
 さよがなにか言いたそうだったが、面接時間が決まっているこちらが優先であった。
 元々は寮に迎えに行く予定だったが、騒がれるのは面倒だと電車内に決めておいた。
 ひかげ荘の最寄駅からしばらく揺られていると、待ち合わせた駅で神楽坂がきょろきょろしながら乗ってくる。
 デニムのスカートに白いティーシャツ、チェック柄の上着を羽織ってベルトで縛っていた。
 見ようによってはお出かけっぽいが、長い髪を無理やり押し込んだ野球帽子がちょっと不釣合いだ。
 そして学校指定の体操着を入れる鞄を手に下げ、ぱっと見て何を目的に何処へ行こうとしているかは不明である。

「神楽坂、こっちだ」
「あっ、先生……スーツ、なんで?」
「会いに行くのはダチでも、あいつの仕事場だからな。それに頼んだのはこっちだし、相応の格好は必要だろ。親しき仲にもってな」
「うん、ありがとう先生。昨日も言ったけど」

 そして昨日もその笑顔にときめきましたと、ちょっとむつきは目をそらしそうになってしまう。
 半年ぐらい前の態度が態度だっただけに、ギャップ萌えに近い何かだと思いたい。
 落ち着け俺と、昨晩可愛がったさよの感触を色々と思い出し、神楽坂に感じたときめきを追い払う。
 とりあえず、横の席に神楽坂を座らせて、大事な事を聞いておいた。

「まだ面接段階だから、お前の格好は良いとして。動きやすい恰好ができるの持ってきたか?」
「もちろん、体操服は止めておいた。葉加瀬がツナギ持ってたから、ちょっと借りて来たし。サイズがちょっとキツイけど。もちろん、背の高さね?」
「強調しなきゃ、気づかなかったよ」

 きっとジッパーを上げる時に、胸がきつかったのだろう。
 ちらっとだけ神楽坂の結構なお点前の胸に視線をやり、直ぐ様にそらしておいた。
 ちょっとむつきが挙動不審ではあったが、軽く酒呑との間柄を説明する。
 本当にバイトさせてくれるかはともかく、前情報としてどんな人かを。
 どっしり構えた男臭い奴なのである意味で神楽坂と共感するかもしれないが、もちろんそこは言わなかったが。
 時々、宿題進んでるかと先生らしいことも尋ねつつ、現場近くの駅で降り立ち徒歩で向かう。
 雑居ビルを建てるぐらいなので、十分も歩けば衝立で歩道と区切られた建築現場についた。
 まだまだ作業はこれからといった感じで、ビルという名の影も形もなかった。

「先生、ここなの?」
「お、おう。そのはずだけど、なんにもねえな。もっとパイプで足場組んであったり」
「まだまだ工期は始まったばかりだからな。それはもっと後だ、まずは地ならしからだ。よう、乙姫。それからそっちがバイトをしたいってお嬢ちゃんか?」

 ぽけっと空き地を見ていた二人へと、誰かが後ろから肩にばんと手を置いてきた。
 思い切り神楽坂はきゃっと小さくはない悲鳴をあげていたが、むつきはその手加減下手の主を知っている。

「酒呑、神楽坂は女の子なんだからもっとそっと扱ってくれ。神楽坂、こいつが酒呑。お前がお世話になるかもしれない人だ」
「は、初めまして。神楽坂明日菜です、よろしくお願いします!」
「おーし、おーし。元気の良い挨拶が好印象だ。これでぼそぼそされたら、たたき出してたところだ。よろしくな、お嬢ちゃん!」

 がははと笑った酒呑が分厚く大きい手を差し出すと、気後れせず神楽坂もその手を握った。
 しかし、例えば宮崎の様な子であれば、たたき出されなくても逃げていく気がする。

「その元気の良さで第一印象は問題ないな。よし、ついて来い。こっちだ」
「あっ、はい!」

 若干、酒呑の大声に圧倒されているのか、どしどし歩く後ろ姿に慌てて神楽坂がついていく。
 慣れているむつきは相変わらずだなと笑ってついていったが。
 やはりこの現場はこれかららしく、空き地の隅に建築資材が積み上げられたほかは事務所となるプレハブぐらい。
 あとは何もない、現代では珍しい本当の空き地である。
 そして事務所内で面接かと思いきや、酒呑が連れて行ったのは積み上げられた建築資材の前だ。
 それらをざっと眺め、これかと呟きセメントが詰め込まれた砂袋を持ち上げ神楽坂の前に落とした。

「それじゃあ、嬢ちゃん。こいつを持ち上げて貰えるか?」

 顔は豪快に笑っているが、目つきはとても真剣でこれが面接の一環だとわかる。
 中学生に加えて女の子、だといえど、もしくはだからこそか。
 その真剣味を試そうとしているかのようであった。
 確かに生半可な女の子であれば、こういう場合いやーん持てないと非力アピールすることであろう。
 しかし神楽坂はそんじょそこらの女の子ではない、色々と身を持ってむつきが知っている。

「これで良いですか?」

 一度しゃがみ込むと、いともあっさりセメントの砂袋を両手で持ち上げた。
 何を思ったのか、腕力アピールと野球の投手がロジンバッグを使うように片手でぽいぽいと持ち上げも。

「おい、むつき。最近の女子中学生は、肉体改造手術でも受けとるのか?」
「神楽坂、危ないからぽいぽい放り投げるな。てか、何キロよそれ」
「えーっと、あっ。小さく二十五キロって書いてある。これぐらいなら、お手玉できます!」

 アピールがまだ足りないかと、勝手に資材に手をのばし神楽坂がもう一袋追加した。
 そして言葉通りお手玉を始めようとしたので、さすがにむつきが止めさせた。
 どうやら身を持ってしったむつきですら、神楽坂の怪力はその一端でしかなかったらしい。

「がーっはっは、最近の女子にしては骨が太い。気に入った、お嬢ちゃん。いや神楽坂だったか。口噛みそうだな」
「それなら明日菜って呼んでください、親方!」
「現場監督だ。よし、明日菜。お前さんは採用だ。現場には明日菜みたいなパワフルな華があった方が、部下も仕事に身がはいろう!」
「は、華って。初めて言われた。やだな、監督お世辞上手なんだから!」

 ぼくっと殺人パンチが酒呑の腹に決まったが、当人は笑って堪えた様子はない。
 過去にアレをくらったむつきはゲロを吐きそうになって崩れ落ちたというのに。
 いや、ちょっとだけ顔が何時もの赤ら顔ではなく、青いように見えるのでダメージはあるようだ。

「おい、神楽坂。ボディは、てか。上司を殴るな、上司を!」
「やだ、ごめんなさい監督!」
「はっはっは、この程度……うぐぅ。二十日酔いに比べれば蚊に刺された程度だ。明日菜、今の事務所は無人だから今のうちに着替えとけ。あと十五分もすれば他の仲間が来る。その時、また紹介するぞ」
「分かりました、監督!」

 なんというか、体育会系のノリというか物凄く息の合った二人ではなかろうか。
 神楽坂も面接が上手くいったと、しかも華なんて言って貰えて上機嫌で事務所に入っていった。
 若干、むつきのことがアウトオブ眼中な気もするが。
 神楽坂と仲良くなるのに結構かかったむつきとしてはジェラシーを感じずにはいられない。
 こんちくしょうと、旧来の大親友へと恨みがましい視線を向けても許されよう。

「ん、なんだ。もしかして明日菜はお前が喰っ」
「わーっ、お天道様の下で何を言う。酒呑君!」

 しまったこいつ一部を知ってたんだと、背の高い酒呑の口を塞ごうとするが手で一蹴されてしまう。

「違うのは、一目瞭然だ。そういうのとは違う信頼を感じるからな、教師やっとるではないか」
「三年目にしてようやくだよ。何度、辞めようと思ったことか」
「貴様はメンタルが弱いからな。まあ、もう大丈夫そうだ。おら、貴様は貴様の嫁のところにでも帰れ。明日菜はわしがきちんと預かった。遅くなる場合は、送り届けもするぞ」
「お、おう。本当に悪いな、酒呑。恩に着る。神楽坂、俺は今日休みだから困ったことがあったら連絡しろよ。ただし、仕事のことは酒呑に聞けよ」

 酒呑に追い出され、後ろ歩きしながら小さなプレハブ小屋の事務所へ向けて叫ぶ。
 するとツナギの正面のジッパーを上げながら、慌てた様子で引き戸の扉を開けて明日菜が顔をのぞかせた。
 慌てるのは良いが、年頃なんだから身支度はきちんとしてから出てきてほしい。
 チラッとオレンジ色のブラが見えてしまったではないか。
 ギロッと酒呑を見上げると、流石にきちんとした相手がいるためか視線はそらしていた。

「先生、なんども言ったけどありがとう。これでしばらく、なんとかなりそう。頑張るわ、私」
「おう、頑張れよ。気が向いたら、差し入れでも持ってきてやる」
「大丈夫だって。先生は、アタナシアさんとデートでもしてきなさい」
「違いない。そら、部外者はとっとと敷地から出ていかんか」

 最後は笑いながら酒呑に蹴りだされたが、一先ず神楽坂の緊急処置は済んだようだった。









 とはいえ心配だったので、むつきは神楽坂が酒呑の部下に紹介されるまではいた。
 もちろん彼女らには見つからないよう隠れてたが。
 女子中学生ということで紹介された部下の方も多少驚いていたが、そこは酒呑のお墨付き。
 改めて神楽坂がセメントの砂袋でお手玉してみせたことで、若干のひきつりと共に受け入れられた。
 周囲のおっさんから明日菜ちゃん、明日菜ちゃんと可愛がられるばかりか、渋めのおっさんを見つけ神楽坂自身もやる気アップ。
 さすが勤労少女はたくましく、勤労意欲をいかに沸かせるかに長けている。
 そこまで確認してからようやくむつきは、その場を離れひかげ荘へと帰っていった。
 本心ではもっと見守りたいが、あまりべったりされても神楽坂が迷惑であろう。
 ひかげ荘にたどり着いたのは十時半頃、そろそろ誰かしらやって来ている頃だろうか。
 じりじりと暑くなる日差しとやかましいセミの声の中、百階段を上りきり今や完全に我が家となったひかげ層に帰り着く。

「さて、神楽坂の親権とか。やることは一杯だが、偶にはゆっくりするか。って、なんか靴が多いな」

 玄関脇には靴箱がちゃんとあるのに、何故か今日に限って玄関先に脱がれた靴が多い。
 寮や旅館として機能していたこともあるので、靴箱は十分にスペースがあるはずなのだが。
 さすがに年頃の女の子が多い状況では、足りないのかもしれない。
 いっそ今日は健康的に日曜大工をして新しい下駄箱の増設も良いか。
 靴だけは自室に持って行くわけにもいかないし、どうしても玄関のような共用スペースに置くしかない。
 両手の親指と人差し指を直角にし、カメラの枠をつくるように覗き込む。
 どちらかというと頭で図案を描いているというよりは、こうしてる俺恰好良くねえというだけだが。

「下駄箱以外にも、古びれた場所多いからな。床下とか、今度酒呑に見て……」
「あっ」

 手で作ったカメラの枠を覗き込みながら横にスライドさせていく。
 すると丁度その枠に綺麗な絵として収まるように、一人の少女が階段を下りて来た。
 最初はちょっと唇を尖らせていたが、むつきを見るなりぱっと笑顔が花開いていく。

「先生だ。ジュースお使いじゃんけんに負けておかしいと思ったけど、やっぱりついてる!」

 ととんと、階段を一段とばし、最後は三段ぐらいとばして少女がむつきへと駆けつけてくる。
 軽やかな足取りで床を蹴るたび、身に着けている黒いミニワンピースのフレアスカートがふわりと舞う。
 止める間もなくというか、唐突過ぎてそんな思考すらできず。
 ひかげ荘を知らないはずの椎名が、猫のように飛びついて来た。
 胸元にぽふりと収まられてしまい、悲しいかな条件反射で小柄なその体をぎゅっと抱きしめてしまう。

「先生、お帰りなさい!」
「お、おう」

 なにこれどういうことと、むつきは目を白黒させるしかないわけだが。

「あーっ、桜子。先生から、私の彼氏から離れなさいよ!」
「やだぷー。これからは、私の彼氏にもなるんだもん。ねー、先生」
「別に先生の恋人になることは否定しないけど。先生の本妻は、私だぁ!」
「だめ、美砂。そこくすぐったい、にゃははは!」

 むつきに抱き付いた椎名をひっぺがそうとするも難しく、咄嗟にくすぐり攻撃に変えたらしい。
 美少女二人が自分をめぐってキャットファイトとは光栄なことだが、そろそろ説明が欲しい所だ。
 何故ここに椎名がいるのか、いや彼女ならその豪運でひかげ荘を見つけてもおかしくない気もするが。

「先生、実はこの通りでして」

 さすがに二人の騒ぎに二階の遊戯室から、雪広をはじめお嫁さんプラスアルファが降りて来た。

「あっ、先生お帰り。アキラとの新居にお邪魔してまーす」
「ここゲームも漫画も、なんでもそろってるから秘密基地に最高にゃあ!」
「先生……」
「あっ、若干侮蔑の交じった釘宮の視線が。逆にほっとしてしまう」

 椎名以外にも、佐々木や明石、唯一非友好的な視線を半眼で送ってくる釘宮と。
 もう言葉もない状況で、今度は背後からまたぞろぞろと人の気配がやってきた。

「いやいや、この辺りは気のめぐりが豊富かつ穏やかな山でござるな。故郷を思い出してしまうでござる。先生、しばし厄介になるでござるよ」
「周辺一帯を売ったら良い金になるが。拠点としては手放すに惜し過ぎる。先生、宿代はこの私と混浴できる権利で良いかな?」
「お邪魔してるアル。桜子、早くも猛烈アピールアルか。ぬぐぐ……」
「もう、お腹いっぱいです」

 美砂と桜子を体にくっつけたまま振り返ってみれば、長瀬に龍宮、古まで。
 もはや二-Aの誰がここを知っているのか、知らないのか。
 考えるまでもなく、知らない人を数える方が確実に速い状況である。
 なにしろ三十一人中、九人しかこのひかげ壮を知らない者がいないのだ。
 具体的に神楽坂、春日、早乙女、宮崎、那波、鳴滝姉妹に村上とザジ、この九名である。
 過半数なんてとっくに過ぎ去ってしまっていた。

「全く持って分からんが、一先ずだ。ここの秘密を知ってばらそうと思った奴はいなかったのか?」
「警察に行くべきか必死に悩んだ末、五月ちゃんの牛丼で買収されました」
「お前本当に牛丼好きだな。ありがたいけど、中途半端な常識人は苦労するぞ?」

 とりあえず、一番大事なことを聞いてみたが釘宮一人が手を上げるのみ。
 さらには誰の差し金か、四葉が先手を取って封じてくれたらしい。

「なら、とりあえず露天風呂行くぞ。四葉にさよ、小鈴は飲み物と食べ物頼むわ。どこまで知ってるかわからんが、腹割って話すぞ。聞きたいことあれば纏めとけ」

 若干捨て鉢な気分だが、猫手でパンチを繰り出す美砂と椎名を引きずりむつきは露店風呂へと向かった。









 女の子が多いので一足先に、むつきは服を脱いで体を洗い湯船の中に軽く沈んでいた。
 体がちょっとこわばった感じがするのは、やはり大量の生徒にこの場所がばれたせいだろう。
 まだ完全に安心したわけではないが、常識人釘宮を買収済みというのもありがたい。
 これで凄い剣幕で詰め寄られでもしたら、胃炎の一つでも起こしていたかもしれなかった。
 絞ったタオルで真夏の日差しと熱いお湯で浮かんだ汗を拭い、ふうっと脱力した。
 この静かな一時も、やがて脱衣所の向こうの騒ぎからすると消えてしまうのは明白である。
 ひかげ荘で一人きりになってリラックスする時間というのは、割と貴重なのだ。
 あと何分それが続くかと思っていると、せいぜいが数秒であった。

「先生、お待たせ。もうちょっと色気ある登場したかったけど。あっ、こら桜子。フライング!」
「甘い、美砂。先生の右手は貰ったよ!」
「お前ら、走るな危ない。暴れたら、二人だけ外に放り出すぞ」

 相変わらずのキャットファイト中であり、振り返りもせず注意する。
 すると一応走るのは止めたらしくペタペタと競歩で、二人は洗い場に向かったらしい。

「無理、アンタら頭おかしい。私やっぱ帰る。お父さん以外に見せたことないのに!」
「いや、懐かしい反応。朝倉も当時、こんな感じだったよな」
「何もかもが懐かしい……って、つい二ヵ月前だけど。ほら、クギミー。笑って、はいチーズ」
「撮るな馬鹿たれ、笑えるか!」

 今日はお嫁さんばかりではないので、相変わらず振り返らずむつきは空を見ているわけだが。
 声だけで容易く状況が想像できるというものだ。
 千雨が暴れる釘宮を羽交い絞めにし、和美がリラックスと写真を撮っているらしい。
 釘宮の暴れる音や声でそれ以上誰がどこにいるか推察は難しいが。
 かなり急いで体を洗ったらしき美砂と椎名の勝負がちょうど、直ぐそこでついていた。

「先生の右手は貰った。いっちばーん」
「いたた、椅子が滑って動かなきゃ……」

 一足先に湯船に入って来た椎名が、以前は服越しに押し付けた胸を今日は直接押し付けてくる。
 ふにふにの感触の中でぽっちがしっかり味わえるぐらい押し付けられるが、美砂の方が心配だ。
 お尻を抑えながらやってきたため、その手をとって正面に座らせた。

「先生?」
「美砂はここ正面。どこ打ったんだ。ここか? 撫でてやるよ」
「やん、そこ。先生のエッチ。お尻のここ、優しく撫でて」
「むぅ」

 さすがに恋人としての年季どころか、そもそもむつきの中ではまだ椎名は恋人ではない。
 その差を前にさすがの大明神も、自分の不利を覚らざるを得なかったようだ。

「裕奈とまき絵は、私のボディソープとシャンプー使って。まだ、その辺り用意してないでしょ?」
「うん、昨日とかは美砂ちゃんとかの借りたんだけどちょっとしっくりこなくて」
「私らおそろいの、普段使ってるし。亜子、リンス貸して欲しいにゃあ」
「はいはい」

 こちら運動部四人組は仲が良い事で、というか少しは恥じろ佐々木に明石。
 あと恥じ入りし過ぎて得物を狙う目つきになっている古はなんとかしてほしい。
 龍宮や長瀬が両脇をがっちりガードして押さえてくれているが、なんか怖い。

「先生、せっちゃんにも腕貸したげてや。私が言わへんと、恥ずかしがって行動せえへんえ」
「お、お嬢様。私はその……」
「ほら、左腕空いてるぞ」

 木乃香に手を引っ張られやって来た刹那だが、タオルで体を隠すので忙しくなかなか動かない。
 結局はしびれを切らした木乃香が、それならと間に入ってむつきと刹那の腕を取るのであった。
 男一人に美少女複数でイチャこらしているうちに、小鈴や葉加瀬、四葉なども体を洗い終えたようだ。
 最後まで抵抗していた釘宮も、結局数の暴力には抗えず諦めていた。
 ただし、これが最後の抵抗とばかりに、湯船には入らず東屋のベンチにて距離を取っていた。
 仲の良い者同士、小さなグループを作って釘宮以外は全員湯船に浸かっている。
 あとは四葉たちが用意したジュースやお摘みを桶に浮かべて、準備は万端であった。

「適当にくつろぎながら、なにか聞きたいことがある奴」
「はーい。むしろ私が突っ込まなきゃ、なあなあで済む気が……一応美砂たちから聞いたけど、改めて先生の口からこのありさまの理由を知りたいかな?」
「釘宮、お前良く美砂から聞いたな。惚気のオンパレードだろ」
「糖分過多で死ぬかと思った」

 一番遠い位置にいながら鋭く切り込んできた釘宮は、ちょっとげんなりしていた。
 タオルが落ちないよう、しきりに巻き直す姿はさすがに実際の距離以上の距離を感じさせる。
 彼女はむつきに対し、副担任以上の好意はないのだから仕方がないことかもしれないが。

「四月に、美砂が無断外泊しかけたろ。あの時が最初。で、美砂が千雨に口滑らせて。五月にアキラが溺れて、亜子とあやかが巻き込まれて。次に夕映、それから小鈴に葉加瀬」

 当時を思い出すように一人一人名をあげていく。
 思い返してみれば、今でこそ千雨もあやかも嫁になるとまで言ってくれているが。
 今の釘宮以上にむつきを警戒し、厳しく監視していたかもしれない。

「美砂の話とほぼ一緒か。でもそれで……麻帆良七不思議の半分持って行ってそう」

 なにやら今、むつきの顔をちらっと見ていわれた気がしたが、今さらだ。

「次、次私アル!」

 ざばっとお湯からあがる勢いで古が手を上げ、勢い余って全てをさらしてしまいそうである。
 さすがに長瀬が肩に手を置いて止めていたが、また殴られるかとちょっと警戒してしまう。

「おう、古なんだ?」
「やっぱり、先生は実力を隠しているだけで本当は凄い達じ」
「はい、素人です。現実を見なさい、古。喧嘩は多少やってきたが、お前の足元にもおよばんよ」

 なんだか納得いかなそうに、お湯に口元まで沈んでいくが事実なのでいかんともしがたい。

「で、椎名や釘宮。あと、佐々木と明石は分かるとして。長瀬や龍宮、古は何処から出て来たんだ?」
「私は元々、超の伝手で知っていたさ。先生がここで日々ナニをしていたのか」
「え、そうなの?」
「色々と龍宮さんには、手伝って貰っていたネ」

 正直、言えよとも思ったが相手が小鈴ともなると、何か考えがあってと思って言いづらい。

「最初は深入りしないようにしていたんだ。だが私の焼けぼっくいは灰になったつもりなのに、意外と燃える部分があったらしい。先生、私で火傷してみるかい?」
「お前、そんなセリフどこで覚えたんだよ。両手に抱えきれない程に嫁がいて、わざわざ火傷する意味がわからん。長瀬は?」
「拙者は……」

 チラッと長瀬がエヴァを見たわけだが、私が誘ったと言うなよ絶対言うなよと前振りされた。
 わけではなく、割と真剣に言うなと視線で釘をさされたので、んーっと少し考える。

「修行中にたまたま見つけたでござるよ」
「忍術の?」
「忍者ではござらんよ」
「もはやこのやり取りは一種の様式美だな」

 最後に古に聞こうとしたが、相変わらず口元まで沈んでぶくぶくしてたのでパスした。

「正直、俺ができるのは。黙っててくださいと頭を下げるぐらいだ。別れろと言われても、今更無理だし。もう、開き直って全員幸せにするしかない状態だ」
「五月が既にこちらの味方な以上、私に買収できない相手はいないネ」
「うぐ、実際に買収された手前なにも言えない」
「友達買収すんなって言いたいけど。小鈴、ほどほどにな」

 小鈴ならお金ではなく釘宮のように、四葉の牛丼とか安上がりな買収なので目をつぶるしかない。
 それで黙っていて貰えるならそれこそ、安いものだ。

「あっ、腹割って話すと言えば。あやか」
「はい?」

 椎名たちとは全くの別件だが、後に後に回されていたことを思い出した。
 今この場で聞く事でもないかもしれないが、本人に可能かどうか催促も込めて聞くのも良いだろう。
 買収された手前、色々と悩んでしまっている釘宮の傍にいたあやかに声をかけた。

「ほら、旅行の時ちょっと悩んでたろ。アレ、聞かせて貰いたいんだけど。ここが駄目なら、後ででも」
「あの件ですか……」
「あやかさん、円さんのお相手変わりますので。先生のところへ」

 察したさよと釘宮のケアを交代したあやかが、タオルで体を隠しながら湯船の中にやって来た。
 同じく感じるものがあったのか、むつきに背中から抱きしめられていた美砂がすっと移動する。
 つい先ほどまで張り合っていた椎名が驚くぐらい、ごく自然と。
 軽く笑い合い美砂が手をあげたので、あやかも交代とばかりに手をパチンと合わせた。
 それからむつきの目の前でくるりと反転し、お尻を見せつける様にして湯船の中に沈んでいく。
 美の結晶のようなあやかの一連の所作に、むつきと同じく全部見てしまった椎名と木乃香は顔が真っ赤だ。

「失礼しますわ、先生」

 なんだか当時を思い出すと、全く悩んでいる気配が見えないが細い腰に腕を回しぐっと抱き寄せる。
 あやかもその力強さに安堵するように、そっともたれかかってくれた。
 なんだか肉体的な接触以上に、精神的に繋がっているような不思議な感覚である。

「なんかエッチだね」

 佐々木の呟きは間違いではなく、お嫁さん以外は大抵がむつきとあやかの雰囲気に赤面中。
 長瀬や龍宮は平気そうだが、長瀬だけは薄ら頬が赤いか。
 美砂たちお嫁さん組は、言葉が不要そうなその雰囲気にむしろ羨ましそうなぐらいだ。

「えっと……この雰囲気勿体ないけど、反応しちゃいそうだから」
「すみません、先生。あの悩み、文字通り吹き飛んでしまいました」

 なんのこっちゃと思いながら、あやかの頬に流れた汗をちゅっと唇で吸い取る。
 そちらではなく唇にと言いたげな潤んだ瞳をしながら、あやかもむつきの手に触れて言った。

「実は私、お見合いさせられそうになっていたんです」
「お見合い?!」

 あやかの言葉を繰り返すように数人が尋ね返し、誰が発した言葉やら。

「両親がとても乗り気で、何度も断ったのですが……会うだけでもと」
「ど、どんな奴なんだ。なんであやかに」

 頬が引くつき、むつきの声はかなり震えていた。
 旅行で浮かれている間に、可愛い嫁がそんな事態になっていたとは。
 あの決意に満ちながら、どこか憂いを含んだ表情は、最後の思い出などと考えていたのだろうか。
 何故もっと強引に聞き出し、行くなとそれこそ体で分からせるぐらいして安心させなかったのか。

「先生、あやかはどこにも行きませんわ。ご安心なさって」

 湯船の中で振り返ったあやかが、触れるだけのキスをしてから目の前で微笑んできた。
 ちょっと唇を尖らせてしまったが、そうまで言われてはいらぬ嫉妬が不甲斐なさは飲み込まねばならない。

「その方は、某国の王家の血筋を引くお方なのですが。そんな方の夫人ともなれば、危険が伴うことも多く。周囲に出された条件が、己の身を守れる強い女性だと」
「我らからすればまだまだでござるが、一般女性としては委員長は破格の腕前でござるからな」
「ええ、そのお話がお耳にはいり興味を持たれたようで。生半可な女性ならば聞く耳も持たれないその方が、一度会ってみたいと。それがさらに両親の耳に入り……」
「委員長、さすがに先生には言いづらいだろうけど。私らの誰かに、ぐらい言って欲しかったな。どうせ、なにもできないだろうけどさ」

 千雨もやはり何も聞かされなかったことに多少思うところはあるらしい。

「今回と同じで、楽しい旅行前に心配をおかけしたくなかったんです」
「文字通り吹き飛んだのだろう。なら、良かったねと言ってあげるのが友達なんじゃないのかい?」
「龍宮さんと楓さん、馴染み過ぎです」

 猛烈アピール中の椎名や、照れまくりの古に比べてと夕映が若干呆れながらそう評していた。
 元々クラスの中でも落ち着いた大人組なので、割り切るのも早かったのだろう。

「それで、旅行明けにお見合いする予定だったのですが。先日、そのお方のプライベートジェットに隕石がぶつかりまして」
「ぐっ、げほっ……コーヒーが気管に、ぐっ。あれか、あの時の」
「温泉でコーヒーなどと無粋なものを飲むからでござる。おっ、茶柱」
「思い出した。ひかげ荘に来た日、そう言えば飛行機に隕石ぶつかってた!」

 ここ最近、忙しくてむつきは新聞どころかニュースさえ見ていなかったわけだが。
 龍宮や長瀬、佐々木らはそれを直接見ていたらしい。
 飛行機に隕石がぶつかるなどどういう確率なのか、急に椎名が組んでいた腕に力を込めて来た。
 ちょっと言いづらそうに、口元をもにゅもにゅさせていたがまさかである。
 その日の事を聞いていないので、むつきもまさか椎名が髪をほどいていたことを知らない。

「ちぇっ、結構近かったらしいから決定的瞬間逃しちゃったか。けど、その人大丈夫だったの?」

 その瞬間を取りたかったとさりげなく、皆の混浴姿をパシャリと撮りつつ和美が尋ねた。

「ええ、もちろんですわ。機体の翼が折れ、命を覚悟した瞬間に天女が助けてくれたと」
「いや、大丈夫じゃないでしょ。メテオストライク、頭に受けてないその人。生きてたっぽいけど!」

 釘宮のまっとうな突っ込みももっともだが、とりあえずその人は助かったようだ。
 麻帆良上空での惨事にも関わらず、人的被害は零、物的被害も窓ガラスが割れたとかその程度らしい。
 飛行機に隕石がぶつかったのも奇跡なら、その後の結果も奇跡としか言いようがない。
 ちょっと誇らしげな龍宮と長瀬の態度は良く分からないが、隕石だけに不思議な力に守られたか。

「ともあれ、その方は命を助けてくれた天女に一目惚れしたらしく、絶賛アプローチ中とかで。私とのお見合いは綺麗さっぱり流れてしまいましたわ」
「某国の王族とか、途中はちょっとロマンチックだったけど。なんだかなあって感じやん」
「亜子ちゃん、お見合いはあかんえ。お爺ちゃん、良くお見合い話持ってくるけど二十歳後半ならまだ若い方で時々四十歳の人の写真見せてくるから。お見合いはあかんえ!」
「それはちょっとひどいね、学園長」

 亜子の言葉に激しく拒絶反応を示したのは、日々学園長が持ってくるお見合い話に苦しめられている木乃香であった。
 確かに木乃香は三月生まれなので十三歳になったばかりとも言える少女のお見合い相手がそれでは嫌にもなろうものだ。
 アキラのみならず、それはないと。
 むしろ喜びそうなのは神楽坂ぐらいだと、くすりと笑いが零れ落ちる。

「とりあえず、あやかが無事なら良い。でも、次はちゃんと相談してくれよ」
「はい、私の居場所は先生の腕の中と再認識しました。あやかを今後も可愛がっていただけますか?」
「今からでも良いけど?」
「先生!」

 湯船の中から飛び跳ねる様に抱き付いて来たあやかを受け止める。
 さすがにこの瞬間ばかりは木乃香はもちろん、椎名も美砂に諭されながら腕を放してくれた。
 あやかの折れそうなすらっとした体を正面から受け止める。
 こんな細い体でやんごとない方とのお見合いなんて重たいものを背負わされそうになったのを一人で我慢していたのだ。
 次は絶対、一人で我慢なんてさせない。
 財閥相手にむつき一人でできることなんて何もないかもしれないが、あやかの心は誰よりも守れる自信だけはある。
 その時はいっそ男の意地なんて捨てて、爺さんや小鈴、あらゆる伝手に頭を下げたって良い。

「あやか、ごめんな。んぅ、寂しい思いさせて」
「怖かったですわ、誰にも言えず。先生と離れるなんて、先生以外の殿方に。あやかは先生だけ、先生だけですわ。先生のあやかなんです」

 寂しがりやの幼子が安堵できる親を求める様に、日々成熟していく少女が安堵できる男を求める。
 抱きしめあうだけに飽きたらず、それこそむさぼるように唇を求め粘膜の一滴まで絡み合う。
 一心不乱に、まだひかげ荘になれていない子がいるにも関わらずだ。
 怖かった、そんな単純で人なら抗えぬ感情をさらけだし、それを払拭する愛を求めあやかがむつきにすがる。

「委員長が取り乱すの久しぶりに見た気がする。以前は、小さい子の前でよく取り乱してたけど」
「あれが先生なんです。女の子の我がまま一切を正面から受け止めてくれる。私たちのあなた様です」
「うっ、そっか。さよちゃんも……エッチしちゃってるの?」
「はい、愛していただいてます」

 屈託のないさよの笑みを受けて、釘宮は腕を組んでうーんと悩み始める。

「愛してるよ、あやか。あやか!」
「ああ、もっと私の名前をお呼びになって」
「あやか、あやか!」

 最初は二人の求め合いも微笑ましく眺められていたのだが。

「先生、あやかに。少しでも先生のもとを離れようとしたいけないあやかに、お仕置きしてくださいませ。先生の熱いもので、お印を」
「ああ、つけてやる。二度とそんな馬鹿なこと考えないように。俺から離れられないように」

 夫婦喧嘩した後は、夜のセックスが燃え上がるという統計があるのだが。
 例に漏れず、二人もあやかが離れかけたという事実をおかずにちょっと盛り上げってしまったらしい。
 行為は徐々にエスカレート。
 キスだけでは足りないと、若い男女として手が自然と互いの性器へと向かい愛撫しあう。
 それでもおさまらず、温泉の岩場に両手をついたあやかがいやらしく腰を振りながらむつきにお尻を向けた。
 あやかの割れ目からは明らかに温泉のお湯とは違う、粘り気のある滴がとろとろ流れ落ちている。
 その割れ目を自らの手でにちゃりと開いたあやかが愛する男へとおねだりし始めた。
 当然、むつきも完全勃起していた一物を羞恥にさらし、あやかの腰を掴んで挿入しようとして。

「先生待って。まき絵と裕奈がいるのに、もう少し段階を」
「あんま生々しいと、今後に響いてまう!」
「こっちの古も、臨界突破ぎりぎりでござる。これ以上は……」
「私たちにも飛び火しかねないから、楽しむなら部屋に返ってからでお願いするよ」

 アキラや亜子は、親友二人にむつきとあやかの痴態をこれ以上見せぬよう目隠ししていた。
 長瀬や龍宮も、壊れたエンジンぐらい顔が真っ赤な古をがっちり引き留めている。
 まだ肉体はもちろん、精神的にも未発達な子がいるのだからと止められた。

「あっ」
「ら?」

 ぎりぎりのところで、二人も正気に戻ったわけだが。

「また、また……やってしまいましたわ。どうか、お忘れになって!」
「あやか、ちょ。俺はあやかを追うから。長瀬達は一度寮に帰って、宿題持って来い。二日で終わらせるぞ。それでもまだ、一週間は遊びほうけられるだろ」
「げっ、なんで秘密基地でまた勉きょ。にゃあ、違う。お父さんのおちんちんと全然違うにゃあ!」
「弟とも違うよぉ!」

 折角アキラと亜子が防いでくれたのに、勉強の一言で二人がその手を振り切ってしまった。
 結果、フル勃起中のむつきの一物を凝視してしまい、この悲鳴である。
 その割にしっかり、見覚えのある比較対象と比べての言葉を残していたが。

「乙女の前で、ブラブラ。ブラブラと。さっさと委員長追いかけろ!」

 終いには同じく凝視してしまった釘宮に桶やら石鹸やらを投げつけられ、むつきは逃げ出すようにあやかを追いかけた。









-後書き-
ども、えなりんです。

新規入寮者へのもろもろは、まだ続きます。
その前にのびのびだったあやかのお悩みから。
本来は、あやかとやんごとない方とのお見合いをどうにかする予定でしたが。
どうにもならないと思い、桜子に何とかして貰いました。
逆に超とか、彼女たちがいれば元々どうにでもなってしまう面も……

んで、メテオストライク受けたその人を刀子(天女)が助けたと。
そのうちアプローチに押されそうな刀子からむつきに相談が来ます。
その話はまたその時にでもするつもりです。

それでは次回は来週の土曜日です。



[36639] 第九十六話 蝶よ花よと愛でられるだけの女性ではありませんわ
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/01/25 20:35

第九十六話 蝶よ花よと愛でられるだけの女性ではありませんわ

 慌ててあやかを追いかけたむつきであったが、追いかけるのは割と簡単であった。
 なにせ廊下に温泉のお湯がびたびた落ちていたので、姿は見えずとも追えたのだ。
 後始末は、他のお嫁さんたちに任せ、やって来たのは二階にあるあやかの私室である。
 直ぐにでもあやかを落ち着ける為に、してあげたいのだが。
 あやかのあのセックス時の淫乱化は良いとして、その後の恥ずかしがりやはなんとかしたい。
 毎度毎度あの落差では、そのうちあやかがちゃんとセックスに没頭できなくなりそうだ。
 愛し合う時は底抜けに愛し合いたいのである。
 さてどうしようかと思っていると、階段を上ってくる数人の足音に振り返った。
 むつきのように浴衣を軽くはおり、長い髪の毛をバスタオルで包み込んだ姿の夕映、木乃香に刹那だ。

「先生と委員長の着替え持ってきました。床のしぶきは、申し訳ないですが絡繰りさんにお願いしたです」
「サンキュー、夕映。で、刹那と木乃香は?」
「このちゃん、ここは先生と夕映さんにお任せして……」
「うちは、ちょっと委員長に共感して。なんかしてあげられへんかなって」
「このちゃんが雪広さんのために、なにかしたいとおっしゃったので」

 刹那だけは消極的理由だが、夕映も木乃香もあやかのことが気になっているようだ。

「んー、真面目組が来た感じか。これなら……お前ら、ちょっと手伝ってくれるか? あやかの羞恥心に対する特訓したいから」
「特訓ですか?」

 タオルで髪の水けを乾かしながら器用に小首を傾げた夕映に頷いて返す。

「ほら、あやかってセックス中と後で落差激しいだろ。あやかはお嬢様な自分との息抜きも兼ねてるから、変な苦手意識とか持って欲しくないんだ。で、人をちゃかしたりしない夕映たちに手伝って欲しいなって」
「ええよ、うち今日ほど委員長と仲間意識持ったことないから。なんでもするえ」
「自身のギャップに対する苦しみには多少覚えがあります。及ばずながら……ぁっ、でもできれば先生とのハードなことはまだ……」
「悪い、ありがたい。その辺りはパッと考えて」

 そう言えば、まだ刹那の口からきちんと告白されていないことを思い出しつつ。
 この二人はレズッ気というか、結構本気で足突っ込んでたよなと木乃香と刹那を見下ろす。
 二人とも、夕映もだが日本人らしい黒髪が温泉で濡れて可愛らしさの中に女らしさも感じる。
 ひとまず本当にぱっと思いついた事を、耳を貸して貰ってごにょごにょと伝えた。
 それで直ぐにあやかの落差が直るとは思えないが、気長にやるしかない。
 刹那は少し躊躇したようだが、木乃香に押し切れらるように最終的には頷いてくれた。
 それから軽く小声で打ち合わせて、改めてあやかの部屋をノックした。

「……今は、誰もいませんわ」

 少しの沈黙の後にそう言葉が返って来たが、それはひょっとしてギャグで言っているのか。
 テンパってるなと込みあがる笑いを飲み込んで、ガラッと襖を開けた。
 相変わらず、遊具というかパズルやなんやら飽きっぽい趣味人の部屋という様子だが。
 和室にはちょっと不釣合いなベッドの上で、あやかはまくらを抱きしめ女の子座りしていた。
 一応ゆかたを羽織っているが、帯は締められておらず着崩れたどころの状態ではない。
 そしてむつきの他に夕映たちもいると気づくと、小さな枕に隠れるように体を小さくし始める。

「あやか見ーつけた」
「あっ、か……返してくださいまし!」

 むつきが枕を取り上げると、両手をぱたぱたさせながら取り返しにかかる。
 子供っぽいしぐさのあやかも可愛らしいが、もう少しあやかには吹っ切れて貰わなければならない。
 だからまずは慌てているあやかを、むつきが押し倒しそのまま唇を塞いだ。

「んーっ!」

 唐突におこなれた行為に当初あやかは抵抗したが、抵抗は即座に無意味となっていった。
 両手首を取られベッドの上に押さえつけられ、腰辺りにむつきがまたがり起き上がることもできない。
 いっそあやかが本気を出せばむつきぐらい投げ飛ばせるのであろうが。
 ちょっと乱暴な行為でも愛する相手に求められている状態で、乱暴に返せるはずもない。
 抵抗ならぬ抵抗は一分にも満たず、やがてあやかは大人しくむつきの跳梁を受け入れ始めた。
 むしろ自分から求めるようにむつきの背に手を伸ばして抱きしめ、浴衣を引っ張るように握りしめる。

「んぅ、はぅ……先生、あぁっ」

 元からきちんと着ていなかった二人の浴衣は、互いの体の摩擦で裾が開きタオルケット以下と成り果てる。
 後は若い男女が一つのベッドの上で絡み合うように唇を合わせ互いの唾液を容赦なく交換しあっていた。

「ひゃー、先生相変わらず情熱的や。せっちゃんもはよう、求められような?」
「う、うち……まだ、怖い」
「大丈夫ですよ、初夜を迎えていない人に先生はここまで激しく求めませんから。迎えた後は、ご想像にというかこのありさまですが」

 あやかとむつきの絡みようを一人冷静に評する夕映は置いておいた。

「ぷはぁ……」

 唇を離し、むつきが大きく息を吸った頃にはあやかはベッドの上でくてりとしていた。
 先ほどとは違う意味で頬に赤みがさし、潤んだ瞳でむつきを見つめては恥ずかしげに視線をそらす。
 もじもじと身じろぎする体はある部分、秘所を隠すように太ももをすり合わせている。
 直接見たわけではないが、あやかの女の子がどういう状態であるかは語るまでもない。
 殆ど、何時でもむつきを受け入れられる状態だろうが、今回は少し趣旨が違う。
 情熱的なキスはあくまで、逃れようとするあやかの意識をむつきへ向けさせる為にしただけだ。

「あやか、大丈夫か?」
「先生、私の中に……」
「それはちょっとお預け。三人とも、良い?」

 先ほどの続きをと言い出したあやかに悪戯っぽくむつきが笑いかける。
 最後にもう一度だけあやかに軽く口づけ、むつきはお待たせと夕映たちに振り返った。
 事前の打ち合わせ通り、それではと夕映が頷き返す。

「では不肖、私が真ん中ということで。木乃香さんと隣同士でなく、桜咲さんには申し訳ありませんが」
「いえ、私は……」
「先生にらぶらぶして貰えるから、せっちゃん気にしてへんえ」

 何故という顔を悲しげに浮かべたあやかの上からむつきは退き、バトンタッチである。
 あやかのお腹の上にぽふりと夕映が尻もちをつき、それから四つん這いになってあやかの顔を上から覗き込んだ。
 さらにその両脇、右手に刹那が、左手に木乃香が四つん這いとなってベッドに上がり込む。
 あとは夕映に合わせる様に、あやかの顔を上から覗き込んでいった。
 クラスメイト以上に親しい間柄とはいえ、さすがに三人の少女に上から覗き込まれあやかはかなり戸惑った様子である。

「せ、先生?」
「今から、夕映たちを可愛がるから。あやかは三人を良く見るんだ」
「結論を先に述べてしまえば、淫乱なのは決して委員長だけではないですよ」

 自分を淫乱と言った夕映の言葉を聞いて、少なからずあやかは驚いていた。
 いや、あやかだって今まで皆と一緒に愛されてきて、ちゃんと知っているはずだ。
 皆がむつきに愛されることでどれだけ幸せそうで、快楽におぼれているか。

「委員長は恐らく、んぅ。先生、いきなりアレを擦りつけるのは愛撫としては激しいのでは?」

 真ん中にいる夕映のお尻に、むつきは半勃起状態の一物をぐりぐり押し付けていた。
 まだ夕映の説明の途中だったが、可愛いお尻が三つも揺れていて我慢できなかったのだ。

「結論ありきじゃ、あやかも納得できないだろ。木乃香と刹那は手で触るからな」
「説明された時はピンとこうへんかったけど、うち今すごいエッチな格好しとる」
「ぁっ、先生のお手が……」

 夕映の言う通り愛撫としては一方的とも言えるが、それはむつきの両手がふさがっていたからだ。
 同時に木乃香と刹那のお尻に触れ、まだ浴衣の上からだがそっと撫でまわし始める。
 夕映よりは成長したお尻だが、女性と呼ぶにはまだまだ可愛いお尻であった。
 あえて浴衣の上から、だからこそその中にどんな可愛い桃尻がとむつきの気分も高まって来た。

「ほら、振り返らない。エッチな顔をあやかに見て貰うんだ」

 特に木乃香と刹那が恥ずかしいと、むつきに懇願するように振り返って来ていた。
 しかしそれでは意味がないと、お尻とは違う割れ目に指を添えてくいっと指を曲げ軽い刺激を送る。
 パンツどころか、浴衣越しであったが弱いながらもしっかり伝わる刺激に二人がビクリと震えた。
 衣服越しとはいえ恥ずかしい場所に触れられ、二人の顔が頬を染めながらむつきからそれていく。
 三人のお尻の丸みを楽しむ様にちょっと時間を掛け、極々弱い愛撫を続ける。
 もどかしいと、もっとと可愛いお尻がふりふり振られ、自分から押し付けてくるまで。

「ぁっ、ぁっ……先生が大きく、硬くなっていくのがお尻で分かるです。私達で興奮してくれてるです。腰が止まらないです。私、自分から腰を振って誘ってるですよ」
「うぅ、お股ぴりぴりするのに。先生意地悪や。せっちゃん、せっちゃんからおねだりしてや。うち、恥ずかしゅうてそんな事は言えへんえ」
「このちゃんこそ、うちかて。先生……うちとこのちゃんの、やっぱり言えへんえ!」

 単純に慣れの差なのだろうが、夕映の方がむつきの愛撫に対して正直であった。
 獣のように四つん這いとなりむつきからの愛撫だけでは足りないと、腰を振ったと白状している。
 今もわざわざむつきが立ち上がる一物を自らこすりつけずとも、咥えこみたいと夕映の腰が動いていた。
 それに対し、木乃香と刹那は若干本心が漏れているが、きちんと言葉にできていない。
 同じようにむつきの手にお尻をすりつけているようで、やはり未経験ゆえに腰の動きがつたない。
 むつきが適度にコントロールしてあげねば、むずがゆいような微妙な感覚が長く続く事だろう。
 だかむつきもまだ、特に木乃香と刹那のリクエストには応えるつもりはなかった。
 夕映の腰振りに応えて一物を押し付けはしても、二人には指先で股座の奥をとんとん叩く程度。
 三人が時々体を震わせる様を後ろからつぶさに確認しながら、愛撫こそされていないが主役に問いかける。

「あやか、どうだクラスメイトが俺に愛撫された時の表情は?」
「木乃香さんと桜咲さんは、可愛らしく恥ずかしそうに。夕映さんは、愛される事を喜ぶように。私とは……」

 まだまだ愛撫は序盤、あやかの心の扉を開くには弱いのだろう。

「ひゃぅ」
「くっ」

 木乃香が背中に冷水でも垂らされたような声をあげ、刹那が歯を食いしばったような声を上げる。
 浴衣のすそをまくり上げ、ぴったり張り付いたパンツへとむつきが手を触れたのだ。
 生憎、柄や色を覗き見る余裕はないが、浴衣の上から触れた感触とは大違い。
 二人の暖かな体温と、敏感な部分をそっと多い守る薄いパンツの生地が丸みを帯びて滑らかである。
 尾てい骨から大きな割れ目を滑り落ち、やがて湿り気を帯びた別の割れ目にたどり着く。
 指先だけを往復させれば、湿り気が集まりしっとりと指先が濡れ始める。
 柔らかな秘所の割れ目に指を静めては愛液を指に集め、優しく優しく擦り上げた。
 できればその音さえあやかに聞かせてあげたかったが、五人も部屋にいては無理だろうか。

「先生、そこあかんえ。大事なとこやから、優しくしてやんっ」
「指が、先生の指が。うちの恥ずかしいので」

 大事なところとは、恥ずかしいのとはこれかと一際強く指を沈み込ませた。

「あんっ」

 木乃香と刹那の声が重なり、むつきの指から逃れる様にお尻が跳ね上がる。
 もちろん逃げ切れるはずもなく、愛液が接着剤にでもなったかのようにむつきの指先は離れない。
 むしろ跳ね上がっていたお尻が落ちると同時に、さらに深く指が沈み込む。
 何度もお尻が跳ね上がっては指が沈み込み、快楽の悪循環に二人は陥っていく。

「先生、木乃香さんと桜咲さんだけ、ずるいです。私もちゃんと可愛がってください」

 むつきの両手がふさがっていることを知った上で、夕映は片手で浴衣のすそをまくり上げた。
 夕映のお尻を包むのはフリルがあしらわれた中学生らしい白いパンツ。
 ただし、布地は三角形と小さく腰の両端に続く紐が蝶々結びで固定された紐パンだ。
 その紐をすーっと夕映が後ろ手に引っ張り、片方ずつほどいてははらりとベッドの上に落とした。
 薄布に包まれていた夕映の桃尻はむつきの目の前で、秘所からとろとろ愛液が流れ落ちている。
 あれだけ入りたいと一物を擦りつけられては、お嫁さんとしては準備せざるを得なかったのだろう。

「どうぞ、私の中に……」
「もう少し、待っててくれ」
「んぅっ!」

 足並みは大事だと、むつきは挿入せず夕映の割れ目を一物でこすり上げるに止めた。
 勃起した一物に夕映の愛液をしみこませるように、指の代わりに一物でなぞり擦り上げる。

「夕映、はやくエッチしたいからって抜け駆けはいけないんだぞ、ほら」
「はぅっ、腰が浮いてしまうです。先生の熱いのが、こんなの……委員長、お胸借りるです」
「ゆ、夕映さん?!」

 性器同士の直接的な愛撫はちょっと刺激が強かったらしい。
 夕映の腕は震えて四つん這いの状態を維持できず、あやかのたおやかな胸の上に顔から崩れ落ちる。
 それでも、もぞもぞと動いてはあやかに自分の顔が見えるよう必死に顔をあげようとしていた。
 身もだえる夕映の表情のみならず熱い吐息を直接胸で受け止め、さすがにあやかの視線がそれかける。

「夕映ずるい、うちも。腕限界、委員長うちも」
「すみません、うちも……」
「三人同時はさすが、あっ」

 あやかを引き留めたのは、続いてギブアップを宣言してきた木乃香と刹那であった。
 少女とはいえ四人が眠るには狭いベッドの上であり、自然と二人の顔はあやかの両側に落ちて来た。
 正面には胸に埋もれ喘ぐ夕映が、視線をそらそうにも両側には同じように木乃香と刹那がシーツを懸命に握りしめている。
 何処にも逃げ場はなく、唯一の天井も今は逃げ場にはならなかった。
 視界を閉ざそうと三人の熱い息遣いが強制的に耳に入り込んでは、その中からあやかに見せつけてくる。
 前戯を始めた時の肉体的に愛される羞恥や悦びとは明らかに違っていた。
 上半身とは逆に、高く突き上げられた腰が痙攣するように持ち上がるたびに、ギュッと瞳を閉じる。
 愛か性欲か、一度閉じてから開かれた瞳には、どちらともつかない光が増え始めていた。

「せ、先生……」
「あやか、三人とも嬉しそうに腰を上げてるだろ。俺には見えないが、エロイ表情だろ?」
「はい、濡れた瞳を見ていると私も吸い込まれそうな。あぁ、先生に直接愛でられていないはずなのに……同じ立場の夕映さんたちを通して愛していただいているような」

 あやかの心の扉が明らかに開き始めた、ならば後はこじ開けるだけ。

「目をそらすなよ、あやか。いれるぞ、夕映。木乃香、刹那!」

 さらにその先へと言わんばかりに、三つ並んだ美少女たちの愛液にまみれた敏感な穴に沿えた。
 木乃香と刹那は指先で布地を避けて中指を、夕映には愛液まみれのむつきの一物を。
 つぷりと、全く同時に同じ進度でゆっくり、数秒に一ミリ推し進める様に。
 快楽にとろける夕映たちの表情が長く、長く続く様にゆっくりと推し進めていく。

「ぁっ、ふぅん。一気にせん、もどか。ふぁっ!」
「入って、うちの中に先生のゆ。せっちゃんのと全然ちがっ、太い。うちが広げられるえっ!」
「このちゃんの華奢な指と、んぅ。はぁう、これが先生の指ぃ!」
「皆さん、素晴らしい表情ですわ。愛と快楽がまじりあう、いやらしくも素敵なお顔」

 数十秒をかけてようやく夕映の中に亀頭が埋まった頃、むつきの両中指は木乃香と刹那の処女膜に触れていた。

「これが木乃香と刹那の処女膜だ。あんまり急に腰動かすなよ。手マンで破りたくないから」
「擦ったらあかん、あかんえ。腰動いてまぅ」
「ぁっ、ぁぅ。んくっ、は。うちの、お嬢様の処女膜が。弄ばれっ!」

 指一本ぐらいなら処女膜の形によっては破れはしまいが。
 二人とも網目状に塞がった処女膜だったりはしないようで、さらに奥に指は入りそうだ。
 あまり触れると恐怖で二人の興奮が冷めてしまいそうなので、程々に終えて挿入を再開する。
 じっくりと、それこそ美少女を快楽で弄るように、ちょっとむつき自身辛い所もあるが。
 今はあやかが優先と言い聞かせ、自身の内に潜む性獣をてなづけながら三人の美少女を抉っていく。

「先生、速くぁ。はっ、ぅぁ……激しくないのに、ぞくぞくして。駄目になるです」
「うちの、もっと激しぃして良いから。変になってまう。変になってまうえ!」
「このちゃん、うちも。指、先生の指。だめ、だめやえ!」

 ゆっくりと押しせまる快楽に半狂乱になったように夕映たちが叫ぶ。
 可能なら一思いにと、拷問でも受けているかのように。
 何度彼女たちが駄目だと叫んだだろうか、何度一気に一思いにと懇願しただろうか。
 辛うじて体を支える意志を持っていた腕は力を失い、全体重をあやかにかけてしまっている。
 むつきからその表情は見えないが、あやかの一種羨ましそうな、安堵したような表情を見ればわかった。
 完全に快楽の虜になった夕映たちは眠たげに眉を落としながら、その奥の瞳には光がある。
 挿入による快楽が体を駆ける度に覚醒しては、瞬く間に光をぎりぎりまで失い耐えた。

「ひぅ、ひゃぃ。おまん、痺れて先生。中に……」
「ころされてまう、うち。先生に指で。んきゅぁ」
「ひぃ、ぁっ。こんな、うちが。ぁぅぁっ、んぁ」

 十分すぎるほどに、自分以外の女の子の痴態を前にあやかは納得しつつ折れるしかなかった。

「先生、もう……夕映さん達を楽に。特に夕映さんの瞳が、中に出して欲しいと。先生自身も、どうか。我慢なさらないで」
「おう、実は超辛かった。夕映の中、快感を得過ぎてすげえぴくぴく痙攣してるんだよ」

 あやかのお願いもあってこの十数分をかけた挿入を終わらせる。
 夕映で言えばあと一センチ分、さすがに木乃香や刹那の子宮口まで指は届かないが。
 その一センチ分をとんっとわずか一秒未満で一気に奥へとたどり着かせた。
 口元から涎さえあやかの胸にたらし、殆どの理性を投げ出した状態で体を打ちふるわせていた夕映の体がとんっと跳ねる。
 子宮口を突かれ、そこが全身の器官が集中した場所の様に反応したのだ。

「ひぃぁっ!」

 途中で途切れる様な悲鳴は、即座にむつきが腰を退いて亀頭のカリで膣を引っ掻いたからだ。
 木乃香と刹那は、抜き差しすると処女膜が危ないので深く挿入したまま、指先を曲げたり膣壁を擦ったりの連続である。

「激しっ、ぁぅ。もう、お腹いっぱいです。無理、いつもと。おっきぃ!」
「あかんえ、あかっ。ひぃ、ゆっくり。それもあかん!」
「ぁっ、ぅぁ。壊れ、指一本でうちが壊れっ!」

 延々と続く遅すぎる挿入から一転、むつきが夕映たちの中で激し過ぎるほどに暴れ出した。
 あやかが察した通り、スローセックスを上回る遅さの挿入はむつきも精神を削っていたのだ。
 一度それが解放されてしまえば、ほとんど暴走の二文字しか残されていない。
 上半身が崩れ落ち、下半身まで崩れ落ちそうな夕映たちを一物と指で無理やりお尻を上げさせる。
 お互いまだ満足していないだろうと、普段の愛優先のむつきのセックスとは対極的だ。
 夕映は視界がブレる程にお尻を叩かれ奥を抉られ、その度に潤う愛液があやかのベッドを汚していく。
 木乃香と刹那もそれは変わらず、くちゅくちゅといやらしい音を無理やり聞かされ、抵抗することもできない。
 レズの経験はあるが、お互いに性に無知なのでこんな奥に指を入れたのも始めてだ。
 だからむつきの指でさえ太く感じ、既に自分が処女喪失させられた錯覚さえあった。

「先生、お速く。夕映さんたちが壊れてしまいますわ!」
「ごめ、こんな。止まらない、夕映。もう少し、あと少し!」
「壊れ、壊されるです。先生、先生ぇ!」
「うちまだ処女やえ、先生の女やえ。せっちゃ、うちどっちぃ!」
「女、先生の。このちゃん、二人同時に先生のぉ!」

 一番冷静であろうあやかではあったが、夕映にのし掛かられ、さらにむつきが押し倒している。
 できることと言えば、壊れると叫ぶ夕映を両腕を使って抱きしめるだけだ。
 しかし抱き寄せれば抱き寄せるほど、彼女たちにふりかかるむつきの攻めが感じられた。
 むつきが腰をぶつける度に、キスできるぐらいの距離に夕映のとろけ顔が近づいて来る。
 むつきが指先を駆使して木乃香と刹那の膣を愛撫するたび、悦びに打ち震える体の震えが伝わった。
 同時に、それだけむつきの中に普段なかなか見せてくれない性欲という獣がいたことも。

「夕映、そろそろ。出すぞ、中に出すぞ!」
「はやぐぅ、出して。孕ませてくださいです。私が壊れる前にぃ!」
「息、激し過ぎて。いぎ、はぅはっ」
「うちとこのちゃんにも、先生の子種ぇ!」

 ごんっと聞こえそうな程に夕映の体がせり上がり、その唇があやかの唇と触れ合った。
 そして謎の一定間隔と共に、夕映の体がどくんどくんっと震える。

「夕映っ!」
「ぁっ、あんぐぅ!」

 さすがにちょっと耳が痛いと、あやかが唇を唇で塞ぎ、夕映の体を流れる衝動を受け止める。
 もちろんそんなことは不可能ではあったが、少しは気持ちが伝わったらしい。
 助けを求める様に夕映もあやかを抱きしめ、涙をこぼしながら口づけあう。
 一際大きくベッドが沈んでは悲鳴のように軋みをあげ、四人纏めて沈み込んだ。
 そして夕映が子宮で射精を受け止めると同時に、より深く膣に指が埋められ解放された。
 二人では太すぎる指が抜かれ膣内を占める圧迫からの解放に、気が解放されていく。
 目の前が真っ白になってしまう前にと二人は手を伸ばし合い、主に刹那が木乃香を引っ張った。
 言葉なく一緒にとでも言うように、口づけあいながらその白い光へと飛び込んでいく。

「うっ、はあ……ぐぅ、ぁ。ふぁ……」

 夕映の子宮口に亀頭を何度もこすりつけ、やがてむつきが大きく息を吐いた。
 ベッドに尻もちをつくと、折り重なりあっていた夕映たちもまた大きく息を吐く。
 恐らくはむつきのやりきった感のあるそれとは違い、ようやく解放されたという意味合いであろうが。
 普段の感じる愛されたという満足感はやや少なく、快楽の残り火と倦怠感が強すぎた。

「だ、大丈夫か夕映? 木乃香と刹那も、ちょっと強すぎたかもしれん」

 息も絶え絶え、むつきがそんな言葉を絞り出したが、応えられる者はまだいない。
 彼女たちがなんとか会話できるだけ、息を整えられたのは数分後であった。

「し、死ぬかと思ったです。淫乱な我々を見せつけるという策が、吹き飛んだですよ」
「ええっと、それは重々感じられはしたのですが……」
「せっちゃん、うち両足ある? 大事なとこ、ついとる? 痺れてわからへん」
「ちゃんとあります。私も、下半身の感覚がほどんどないですけど。でも、その分は」

 整えたそばからぜえぜえと夕映や木乃香が息をつく中、気持ち良かったと刹那が満足げだ。

「ちょっとすみません、みなさん。体をよろしいでしょうか?」
「おや、これは失礼。委員長の胸は安らぐので、もう少し枕にしていたかったのですが」

 口にこそださなかったが三人は重かろうと、夕映を始め、木乃香や刹那が脇にどいた。
 ようやく解放されたと軽く体を動かしたあやかは、あぐらをかくむつきの前に正座で進み出た。

「先生、私一人が特別淫乱ではないと。理解はしました。むしろ先生が……」
「俺もびっくりだよ」

 あぐらをかいた足の間から、俺はここだと言いたげにそそり立つむつきの一物。
 あれだけ夕映の中に射精したのにまだまだ硬度は健在である。
 むりろ先生がと言った頬を染めたあやかの視線はもちろん、白濁まみれのそいつに注がれていた。
 むしろなんてたくましいと、惚れ直したような笑みさえ浮かべている。

「おセックスの最中に私が豹変しても、それも私。特別恥じ入って逃げ出すことは、もうしませんわ。ですから先生も、我慢せずに私を求めてくださいますか?」
「え、俺?」
「それは私も思いました」

 一体何のことと、聞き返す前に夕映があやかの言葉に同調していた。

「超さんのせいもあって、先生の性欲が人一倍だと知ってはいたのですが。これほど強いものを内に抱えているとは思いも寄らなかったです」
「あー、それはうちも分かるえ。この前も、恥ずかしいこと一杯させられたけど。もうちょい、労わられとったえ。大事に、大事にされたえ」
「このちゃんの言う通り。これほど体力を消耗するまで求められはしなかったですね」
「本当、ごめん。次はちゃんとセーブするよ。ほら、やっぱ男と女で体力違うし」

 当然のことながら、そんなむつきのセリフは四人の乙女をむっと怒らせるだけであった。

「そうではありませんわ。むしろ全力で求めてください。この雪広あやか、蝶よ花よと愛でられるだけの女性ではありませんわ。殿方の、愛する人の欲求ぐらいきっちりこの自慢の体で受け止めて見せますわ」
「先生が優しいのは先刻承知ですが、愛されることに対して手加減されるのは女性としてのプライドが傷つきます。これだけ抱いておいて、今更子ども扱いですか?」
「うぐ、言葉もありません。でもさ、ほら。刹那はまだ余裕ありそうだけど、夕映と木乃香はへろへろじゃん。お前たちの気持ちは分かった。だが、段階を踏ませてくれ。マジで壊れられたら、俺が泣く」

 実際、夕映と木乃香はベッドから起き上がれず、ころころ転がっている。
 あやかは結局そのむつきの暴走をわが身で受けていないだけで、刹那もまだ腰がぷるぷるしていた。
 今までむつきの全力を受け止められたのは、葛葉にアタナシア、それから千草だろうか。
 なんだか彼女たちは成熟した女性の中でも一際という気もするが。

「それでは、不肖雪広あやか。先生の愛を全力で受け止めさせていただきますわ」
「おい、ちょっと待て」

 これ以上言うなら、行動で示すまでとあやかがむつきの目の前にやってきた。
 この自慢のプロポーションをと腰に手を当てモデル立ちし、むつきのあぐらの上に腰を下ろしていく。
 愛する男と同じ仲間の痴態をこれでもかと見せつけられ、準備は万端。
 髪と同じ色の陰毛に隠れた秘書から甘い蜜がとろり零れ、金色の陰毛と混ざり本当に蜂蜜のよう。
 本当にこんな非の打ち所がない美少女に惚れられて良いのか、返って自身がなくなりそうだ。
 けれど惚れて、惚れられた以上はと両腕を広げて、あやかを受け入れようとした時である。

「あっ、ごめん委員長。始める前に、一つええ? うち、先生に謝っときたいことあるえ」

 ベッドの上でふらふら起き上がろうとしていた木乃香に待ったをかけられた。

「なんだ、改まって木乃香。とりあえず、あやかはここに座れ」
「うぅ、仕方ありませんわ。良い女は我慢のしどころを心得るもの。木乃香さん、お譲りしますわ」
「このちゃん、危ないからつかまって」

 あぐらの上にあやかを背中から座らせ、抱きしめる。
 その間に隣に座り直した刹那が、ふらついていた木乃香を支えた。
 ちなみに夕映は起き上がることを諦めており、まだころころ転がっている。

「あんな、うちな。先生のことは好きやえ。何時も明日菜とか、皆のことで一生懸命頑張って。恰好ええと思うし、尊敬もしとる。けど、ほんまはラブやのうて、ライクなんや」
「え、だってこのちゃん。私と一緒に先生の子供って」
「その言葉は嘘やない。嘘やないけど……」

 直ぐにでもセックスしたがったあやかを一旦止めたのは、好判断だったかもしれない。

「刹那が俺に好意を抱き始めていたし、学園長のお見合いにも嫌気がさしていた。俺の恋人になれば、刹那とずっと一緒だし、お見合いを断るのも罪悪感を感じなくて良いとか?」
「う、先生気づいとったん?」
「いや、話の流れ的にそんな感じかなと。でも、なんで今それを?」

 木乃香がまだどういうつもりかは不明だが。
 結局のところ、木乃香の気持ちがライクであっても別にむつきは構わなかった。
 それこそお見合い結婚だってライク以前から始まることがあるのだ。
 刹那と共に体を重ね合わせて行けばいずれライクがラブに化けることは十分ありうる。
 むしろ、それでもライクだと言われたら、ラブになるまで溺れさせてやるぐらいの気概はあった。

「委員長と夕映な。あんなに激しく、先生に求められることをあっさりOKしたやん。うちは正直、ちょい怖いと思った。気持ち良すぎて、ふわふわして心が流されてしまいそうで」
「全く怖くないと聞かれると、決してイエスではないのですが」
「ですわね。私はまだそこまで求められてはいませんが、なにしろ淫乱ですから」

 その差こそが大きいと、木乃香はちらりと支えてくれている刹那を見た。

「私も、怖くないわけではないですが。先生が求めてくださるのであれば……」

 やっぱりと、怖さだけを感じその先に求められる幸福を感じた皆と違うと木乃香がしゅんとする。
 そんな木乃香を前に、黙っているむつきではない。
 膝の上にいたあやかに一言断りをいれでどいてもらい、目の前にいた木乃香を抱き寄せた。

「ごめんな、怖い思いさせて。考えてみれば、木乃香とはまだプライベートなスキンシップが足りなかったみたいだ。刹那とは相談だったり、色々あったし」

 怖くないよと、抱き寄せた木乃香の髪を梳きながらぽんぽんと安心させるように背中を叩いた。
 木乃香をひかげ荘に連れて来たのは刹那で、当初その意味を知らなかった。
 一緒にいたいという刹那の思いに応え、受け身な考えでむつきの嫁になろうとしたのだ。
 もちろんそれは木乃香の意志だが、切っ掛けから全て受け身であることが多かった。
 刹那の積極性が足りないと、むしろ率先して動いていたのは反動故にか。
 だがそれと同時に木乃香の言う通り副担任として、頼れる身近な男性として好きだったかもしれない。
 ぼんやりとした好きのまま、行くところまで行ってしまい怖いと思っても仕方がない。

「先生、ごめんな。ごめんな」
「全然気にしてない。そうだな、今度ちょっとデートでもするか。刹那も一緒なら、いくらでもごまかせる。ボディーガードって普段なにしてるのか、把握しておきたいとか。てきとうに」
「過剰なスキンシップさえ、しなければ。先生はそもそも、のどかとデートしてますし。学園長を巻き込んで、違いますよと宣言したうえでですが」
「なるほど、建前や。そもそも二人きりでさえなければ、良いのですわね」

 夕映やあやかの助言もあり、それなら決まりと最後にもう一度だけぽんと木乃香の背中を叩いた。
 抱き付いている木乃香をべりっと引き離し、まだ流れている涙をちゅっと唇で吸い上げる。
 照れ照れと照れた木乃香を、刹那に手渡し、むつきはベッドの上に仰向けで転がった。
 まだコロコロ転がっていた夕映を抱き寄せ、抱き合う刹那と木乃香を手招く。

「あいつらが、寮に宿題とってくるまで。三十分もないかもしれないけど。イチャイチャするぞ。あやかは、エッチするかどっちにする?」
「当然、おセックスですわ。私のベッドでは、そんなに両脇空いていませんし」

 右隣は夕映が、左隣は抱き合う木乃香と刹那でいっぱい。
 となれば、あやかは必然的にむつきの上。
 合体するかどうかは好みとしかいいようはないが、あやかは合体したいらしい。

「先生、愛してるです。腰が回復したら、今一度お願いするです」
「俺も愛してるぞ、夕映。木乃香も、キスぐらいなら良いだろ?」
「恥ずかしいから、せっちゃんも一緒に」
「はい、このちゃん。先生、好きです」

 寄り添いあってキスを繰り返すのはよいが、忘れ去られそうなあやかは頬を膨らませていた。
 だったら実力行使だと、むつきの一物に手を添え、自分で腰を下ろして咥えこんだ。
 上半身は夕映たちとプラトニックに愛を囁き合い、下半身はあやかとフィジカルに性欲にぶつけあう。

「んぅ、あはぁ……確かに、普段よりも大きい。あんっ」
「あやか、好きなだけ乱れて良いから。可愛いあやかを、一杯見せてくれ」
「はい、先生」

 どこかすっきりとした笑顔を見せながら、あやかは乱れることを肯定的に受け止めたようだった。









-後書き-
ども、えなりんです。

あやかの特訓アンド激しいの解禁。
激しくして良いのよと言われたら、せざるを得ませんね(ゲス顔
まあ、私がそこまで書けるかは不明ですが。

あと、木乃香の気持ちをちょちょっと書きました。
実はこの子、そんなにむつきとの絆なかったりします。
刹那が好きだし、嫌いじゃないし一緒にいられるからと消極的理由(?)
その辺りは今後、少しずつですね。

第二部の夏休み編は百話で終了なわけです。
エッチ回は残り一回、超の回です……が 、次回は椎名や古のあれこれ。
来週の土曜日です。



[36639] 第九十七話 逃げられなかったお前の負けだ
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/02/01 21:04

第九十七話 逃げられなかったお前の負けだ

 新規入寮者とでも言おうか、椎名たちが宿題を持ってひかげ荘に返って来たのは十二時過ぎであった。
 当然ながらむつきも、昼飯抜きで宿題をなんて鬼畜ではない。
 彼女達も一緒に四葉お手製のお昼ご飯、ピリ辛冷やし中華をに舌鼓を打った。
 なんだかんだで午後一時から、食堂のテーブルを片づけてから宿題を広げたのだ。
 ちなみにさすがに食事の人数が多かったので、後片付けは四葉とさよ、絡繰の三人がかりである。
 カチャカチャとお皿のぶつかる音と水音をBGMに、新規入寮者は宿題開始であった。

「うぇーん、なんで先生の家に遊びに来て勉強なのぉ」
「全然、終わってない。いっそ忘れていたかったにゃあ」
「まき絵もゆーなも、これ。旅行中に無理やり勉強させられた分ぐらいしか終わってへんやん」
「二人とも、全国大会でいっぱい応援してくれたから。一杯、勉強見てあげる」

 早速悲鳴をあげていたのは案の定というべきか、バカレンジャー佐々木と明石のコンビであった。
 二人の宿題をぱらっと広げた亜子が、これは酷いと二人を半眼で睨むようにしている。
 佐々木と明石は抱き合ってごめんなさいと逃避を試みるが、にっこり笑ったアキラが退路を塞ぐ。
 来なきゃ良かったと半泣きになりながら、亜子とアキラのプレッシャーの中で泣く泣く始めていた。

「私は一発に賭けて終わらせる派だ。前回の旅行時に殆ど終わらせたさ、今回で止めだ」
「真名は相変わらず、危ない橋が好きでござるな。拙者はコツコツ、お茶でも飲みながら進めたでござるよ。双子の面倒もあるでござるし」

 一方、大人組とも言える龍宮と長瀬は、方法は違えどきっちり終わらせているらしい。
 もっとも、終わってはいても宿題の内容の点数までは不明だが。

「古も、先生の気を引きたければきちんと宿題ぐらい終わらせるネ」
「べ、別に私は。なんのことアル?」

 同じ国からの留学生同士、古の面倒は主に小鈴が見るらしい。
 時々、良い男ネとむつきの宣伝を交えつつ、いやあれは赤くなる古をからかっているだけか。
 そのむつきはというと、夏休み初日の勉強会に間に合っていなかった木乃香と刹那の勉強を見ていた。
 とはいえ、木乃香は元々勉学は優秀で宿題も終わりかけ、刹那もほどほどに終わっているので焦る必要はない。
 結果的に、むつきを真ん中に挟んで今まで足りなかった日常的なスキンシップ中である。
 木乃香とはテーブルの下で手を繋ぎ、椅子を寄せて肩を寄せ合ったりしていた。

「えへへ、先生の手ごつごつしとる。こんな太いの、うちの中に入ったんか」
「木乃香の中は暖かかったぞ。きゅうきゅう締め付けて、エロかった」
「ややわ、先生。うち恥ずかしいえ」

 きゃーっと嬉しそうに羞恥に頬を染め、むつきの腕に抱き付いていた。

「あっ、刹那そこ引っ掛け問題に引っかかってるぞ」
「えっ?」

 イチャつきながら、きちんと刹那の宿題も見ていたが。

「木乃香、先生独り占めしてずるい。あっ、そうだ。先生、ここわからないでーす」
「それでは不肖、この雪広あやかがお教えいたしますわ」
「ちぃっ! あっ、でも本当にわかんないから教えて委員長」

 羨ましそうに指をくわえていた椎名がそうアピールするも、あやかに阻まれてしまう。
 本人に悪気がないのは分かりきっているので、ならば次の機会を狙う為に今の疑問を解消にかかる。

「ねえ、ご飯時から気になってたんだけど……」

 そして宿題の進捗としてはそれなりだが、現在の集中力が一番足りないのは釘宮であった。
 宿題こそテーブルの上に広げてはいるが、頬杖をついて半眼になっていた。
 その視線の先は、木乃香とイチャついているむつきと、椎名に教えているあやかである。
 どうも午前中の時と何かが違うと、あやかに尋ねた。

「委員長、なんだか異常にお肌がつやつやしてない?」
「それはもう、皆さんが宿題を取りに行っている間に。たっぷりと先生に可愛がっ」
「そういえば、美砂たちが見えないけど。なんでいないのかな!」

 頬を染め幸せそうに腹部に手を当てあやかが呟いたのを見て、釘宮は瞬時に覚ったらしい。
 かなりの力技で、自分から振った話を強引に転換させていた。
 ちょっとぐらい惚気させて欲しかったとでも言いたげに不満ながら、あやかが説明する。

「我々は、夏休み初日に全て終わらせていますから」
「マジで。あの美砂が……」
「千雨は上で裁縫してて、美砂はモデル役。夕映は図書館探検部、和美は報道部。エヴァはネット碁、葉加瀬は地下の研究室。ちゃんと宿題終わらせた良い子は、夏休みを謳歌してるよ」

 当然の権利ですとのむつきの言葉に、退廃的な生活してたくせにと釘宮が若干逆恨みだ。

「先生、なんでも言うことを聞いてくれるお人形を皆に配ったって本当?」
「だったら、私も部屋が欲しいかにゃあ。秘密基地に個室は基本」
「私も寮以外に拠点が置けるのは心強い。なにより、超手製の防衛拠点だ。寮より防衛力は高いだろう」
「んー、拙者も双子には隠しておきたいものもあるでござる。日々、家探しの腕前が上がっているでござるから。なかなか、手間でござる」

 佐々木や明石はともかく、龍宮や長瀬は一体なにを持ち込むつもりか。

「部屋はまだ余ってるから、好きに使え。ただ、人に触れて欲しくない物がある奴は三階な。三階は職人部屋みたいなもんだから。もしくは、小鈴と同じ地下か」
「龍宮さんに長瀬さんの例の物は、地下で預かるネ。ここは寮よりも、プライベートがない空間ネ」

 大よそ、龍宮はサバゲーのエアガン、長瀬は忍者道具なんだろうなとむつきは見当をつけていた。
 龍宮の銃もそうだが、長瀬の忍者道具は刃物もありそうなので、確かに双子のそばにはおけまい。
 あまり危ないものなら一応、先に俺の了承とれよとむつきは注文をつけておいた。

「じゃあ、私は先生と一緒のお部屋が良いな」
「漏れなく美砂もついてくるけど?」
「なんですと?!」

 またしてもと言いたげに、頭を抱えた椎名だがその言葉を撤回する様子もなかった。
 精々がぐぬぬと歯噛みするぐたいで今のままだと、本当に突貫してきかねない。

「やった。使わなくなったけど捨てられない体操の道具とか、寮の部屋を圧迫してたんだ」
「んー、私はそういうのはないけど。秘密基地って響きにはひかれずにはいられないにゃあ」
「ほらほら、楽しい想像も良いけど。手が止まってるぞ。ちゃんと勉強しない子には部屋あげないぞ」

 ご褒美の前の小事だとばかりに、ちょっとは勉強の手が早まったようだ。
 動機としてはちょっと不純かもしれないが、誰だって嫌な事をするにはご褒美が必要である。
 大人だって、好きな事を仕事にしている人以外は、給料というご褒美のために働くのだ。
 もちろん、家庭を持っている人は守る為に、結果的に給料を欲するわけだが。
 夏休みの膨大な遊び時間を削る宿題という強敵の為に、ニンジンをぶら下げるのも仕方ない。

「んー、やっぱなんだかんだで先生してる先生。うち、ちょい好きやえ。真面目な顔、恰好ええよ?」
「サンキュ、前にも言ったな。ほえほえ笑ってる木乃香、俺も好きだぞ」
「確かに前にも聞いたな。けど、今の方がキュンって嬉し恥ずかしやわ。せっちゃんも、うちのこと好き?」
「え、こ……ここで言うんですか?!」

 木乃香のキラーパスを受けて、顔を真っ赤にして興味津々な周りを慌てふためきながら刹那が見渡す。
 そういうところが可愛いと、木乃香とむつきで片方ずつ、刹那の頬をぷにっと突く。

「はあ……先生、お楽しみのところ悪いんだけど。ちょっと良い?」

 なにか気に障ったのか、釘宮に睨まれ握った手の親指を立てて外を指されご指名された。
 なにかというか、気に障ることしかしていない気もするが。
 最後に木乃香の頬にキスをして、刹那の教師役をお願いする。
 当たり前だが、椎名をはじめとして皆の視線を受けたが、ついてくるなと制しておいた。
 考えてもみれば、一緒に風呂に入ったからといって急に腹を割って話せやしないか。
 頬に一発張り手を喰らう覚悟で、ちょっと足音が荒い釘宮の後をついていく。
 食堂を離れ玄関ホールを通り過ぎ、廊下のアキラの部屋の前ぐらいでようやく釘宮がその足を止めた。

「せーの」

 呼吸を整える呟きが聞こえた為、念のため足元を踏ん張って一撃に備えておく。
 案の定、円を描くような足さばきで釘宮が素早く振り返りその手を振り上げた。

「えっ?」

 他のことは違い、当初から釘宮からは非友好的な空気を感じていたので覚悟はしていたつもりだ。
 ただ振り上げられた手が握り絞められていたのは、正直予想外であった。
 身構えていたつもりでも思わず待ってと声が漏れたが、間に合うはずもなく。
 釘宮のグーパンチがモロ、むつきの右頬に食い込み視界がぐらついた。
 ぐらぐらと目が回りそうになる中で後から痛みを感じ、後ろに二、三歩たたらを踏んだ。

「痛ってぇ!」
「痛ったい!」

 ただ、むつきのみならず、釘宮も右手首を抑えてうずくまっていたが。

「お前、なにしてんの? いちち」
「て、手首を挫きました。いた、ねえ折れてない。折れてないよね、これ?!」
「折れてたら、その程度で済むか。ほら、湿布張ってやるから来い」

 なんで殴られた方が看病せねばならんのだと、少しだけ理不尽を感じつつも管理人室に連れていく。
 押し入れの中に救急箱があったはずなので、釘宮をその辺の座布団に座らせ探し出した。
 当人は相当痛かったらしく、涙目になりながら左手で右手首をさすっている。

「ほら、貸してみろ。今度から、人を殴る時は張り手にしとけ。手を痛めないように人を殴るのってコツがいるんだぞ。あと、拳の握り方とか」
「分かった……そこは、人を殴るなって言うところだと思うけど」
「美砂と椎名の共通の親友だからな、お前は。叩かれる覚悟ぐらいは先にしてた」

 でもグーだとは思わなかったと、小さな仕返しとして手首に張った湿布の上からパチンと軽くたたいておいた。

「痛っ。あ、ありがと」
「どういたしまして。でも、殴って終わりじゃないだろ?」
「勝手に殴って、勝手に手を痛めて上に治療して貰って。凄く言いづらい」
「知らんがな。吐き出すもん、吐き出した方がすっきりするだろ。お前も俺も」

 ひかげ荘は実質的にも法的にも、所有物であり持家である。
 その家の中で言いたいことも言えない子がいる状態は互いの精神状態にも良くない。

「私は、宿題して美砂たちと遊んだら。暗くなる前に帰るから。部屋もいらない。偶に、遊びには来るけど絶対に泊まったりはしない。これだけは、先に言っておくから」

 怒りだったり、申し訳なさだったり様々な感情が入り混じった表情で釘宮がそう呟いた。
 当たり前だが、美砂や椎名とは違って、むつきに個人的な好意はないと宣言しているのだろう。
 状況に流されないように、自分に言い聞かせている部分もあるかもしれない。
 痛めていない左手を浴衣の上から胸に当て、軽く深呼吸してから改めて釘宮は言った。
 むつきを睨む様にしながら、今度は怒りだけをその瞳に宿したように。

「先生がさ、美砂と付き合ってたとは全然気にしてない。エ、エッチしちゃったのも。百歩譲って仕方ないと思う。話聞いたら、ちょっと美砂がアレだったし」

 さすがにセックスについては羞恥に頬を染め、むつきから視線をそらしていたが。
 直ぐに頭を振って余計なことを追い払い、改めてむつきを上目使いに睨みつける。

「同時にアキラや委員長たちとも関係持ったのは、正直警察に駆け込むレベルだけど。本人たちが納得してることを部外者の私が言うのも違う気がするから、ギリ買収されておく」

 そんなに四葉の牛丼は美味かったのかと、心の片隅で後で食わして貰おうとメモしておく。

「でも、さっきのアレはなに?」
「すまん、心当たりがあり過ぎて。どれ?」
「食堂で木乃香とイチャついてたこと!」

 ばんとちゃぶ台を左手で叩きながら、釘宮が声を荒げたがそれで怒られる理由が良く分からない。
 こちらとしては、木乃香とはもう少し精神的な触れ合いが必要だと感じたからイチャついたわけだ。
 午前中には亜子とアキラにも露天風呂で怒られたが、ひかげ荘を知る子が増えすぎた。
 その為、初期からいる子と最近やってきた子では、特に性的な触れ合いで慣れが違っている。
 仮に美砂たちと同じ気安さで、佐々木や明石に抱き付いたり胸を揉めば、悲鳴をあげられることだろう。
 だから木乃香に対しては、お付き合いを始めたばかりの男女の触れ合いをしたつもりだ。

「さっきも言ったけど、木乃香とイチャつくこと自体は当人たちのことだし良いけど。食堂には桜子もいたんだよ。知らないとは、言わせないから。桜子が先生のことを好きだってこと」
「まあ、な。俺の自惚れでなけりゃ、結構好かれてるのは知ってた」
「ここに来てからも、桜子ずっと先生に構って欲しそうにしてたじゃない。なのに、今までと変わらない大人の対応で。余計なおせっかいかもしれないけど、もっと構ってあげてよ」

 そこまで言われて、ようやくむつきにも釘宮の言わんとしていることが分かった。
 当たり前のことかもしれないが、釘宮は椎名の恋を応援しているのだ。
 椎名のあの絶対幸運を知るだけに、それを抑えられるかもしれない可能性がむつきにあるからなおさら。
 もちろん、これでむつきが美砂とだけ付き合っていたら、また対応は違っただろう。
 釘宮は美砂ともルームメイトで部活も同じ、椎名と同じぐらい大切な友達に違いない。
 しかし、むつきは美砂以外ともお付き合いしているので、椎名が増えても今更と言えなくもなかった。
 なのに椎名のアピールを、これまでの様に半ば無視するむつきが、分からず手を上げるしかなかったのだ。

「あまり意識してたつもりはないんだが……」

 むつきはお嫁さんになると言ってくれた子を、むつきは万遍なく、惜しみなく愛している。
 しかし、純粋な恋や愛より先に体で結ばれた子がいなかったわけではない。
 美砂からして体が先であったし、千雨やあやか、亜子なども正直なところ体が先だ。
 椎名があれほどアピールしてくれるのなら、気持ちより先に抱いてそれから愛しても良いはずである。
 だが改めて考えてみれば、椎名に対しては少し気後れというか、身構えている部分があった。

「軽く思い返してみても、椎名に応えなかった理由は二つある。まず一つ、椎名は態度で示してくれてるけど、まだ言葉をくれてない」
「私まだ、左手は空いてるけど?」
「別に乙女チックに好きって言ってくれなきゃ、やだとか言ってるわけじゃねえよ」

 この幻の左がとでも言いたげな釘宮を、手で制してタンマをかける。

「結構大事なことだよ。ここに住んでる子、全員が俺の恋人ってわけじゃねえ。エヴァとか絡繰りとか、葉加瀬に。四葉は、将来の約束したけどたぶんお互い体の関係はまだ想像してない」
「あれ、違うの?」
「ちげーよ。特にエヴァは義理の妹だ。俺が好きなのはアタナシア」
「そっか、まだアタナシアさんがいたっけ」

 忘れてたと、もはや釘宮は怒りを通り越して半笑いだ。

「恋人じゃないけど、四葉を始め一定の好意は貰ってる。それこそ、一緒にお風呂に入ってくれるぐらいに。だから節操なく手をだしたからこそ、節度は必要なの」
「えっと、意味わかんないんだけど……」
「一緒に風呂に入ったらさ、普通は次求めるだろ。てか、その場で襲うよ。けど、相手の了承もなしに押し倒したらアウトだろ。半ば強引だったけど、一緒に風呂に入った釘宮はどう思う?」

 そう尋ねられ、右手の痛みも忘れ、床に手をついて後ずさったのが答えである。
 何時でも逃げられるよう、襖まで下がられてしまったが、構わず続けた。

「だから、言葉がいるの。Aまで、Bまで、Cまで。椎名が言葉にしてくれねえと、どこまで踏み込んで良いかわからねえんだよ。特に椎名は豪運だから……」
「私も久々に見たけど。うん、止めといた方が良いよ。やっぱり怖いってなった時、何かが飛んできて先生のが切り落とされたとかなったら気の毒だし」
「こわ、怖い事いうなよ。別に椎名じゃなくても、他の子でも同じ対応するからな」

 股間を抑えて、むつきもまた後ずさるのを目の当たりにして釘宮は思った。
 刀子を遠ざける為にか、その為に飛行機に隕石ぶつけるぐらいである。
 そういえば、あやかが某国の王系の血筋のやんごとなくお方の飛行機に隕石がぶつかったと言っていたが。
 何ができるわけでもなかろうに、刀子がその現場へと急行していたようなと釘宮は思い出した。
 現状、あまり重要な案件ではないので、まさかねと忘れ去ってしまったが。

「とりあえず、納得した。マイナス十ぐらいの好意がマイナス七ぐらいになった」
「お前の採点辛いよ。良いけど。それで、もう一つだが。こっちは俺の心の問題だ。美砂たちから俺の大学時代の、ひかげ荘にまつわる話聞いてるか?」
「友達と彼女と宴会、あっ。別れさせられた件は、ごめん。聞いちゃった」
「昔のことだから構わん。けど、その時の原因の女。どう思った?」

 これまでの釘宮の行動から、どう思うも何も決まっているようなものであった。

「最低だと思った。顔しか見ない奴より、よっぽど嫌な奴。先生の人格、まるで無視して」
「椎名を疑うわけじゃないけど、あいつ俺の苗字欲しがってるだろ」
「あっ」 

 当時の嫌な女とは違い、椎名はちゃんとむつきの内面だって見てくれている。
 そもそも、彼女が惚れる切っ掛けとなったのは、むつきが全力で椎名を助けたからだ。
 むつき一人ですべては解決できなかったが、頼れる人脈を頼り、出来る限りのことをした。
 だからこそ、慰められた時にちょっとときめいてしまったのが切っ掛け。
 その後で乙姫桜子という名が駄目押しだったが、最初の最初は違った。

「情けない話だが、やっぱ当時を思い出しちまうんだよ。椎名は良い子だと知ってるし、苗字を欲しがってるだけじゃないことも。けど、やっぱどうしても身構えちまう」
「そっか。ごめん、先生。先走って殴っちゃったかも」
「椎名を想ってのことだろ。それに、お前も手を痛めたしお相子だよ」

 それはそれとして、痛かったなと思いつつ恐らく腫れているであろう頬を片手で撫でる。
 あまり触れていると、釘宮がすまなそうにするので最後の一撫でをしてきっぱりやめておいた。
 現状、距離が離れているとはいえ管理人室に二人きり。
 これが物語であれば、フラグが立ちそうなハプニングが起きそうなシチュだ。
 これ以上ややこしくならないうちにと、釘宮と腹を割って話せたことで満足せねばならない。

「うし、そろそろ食堂に戻るぞ。折角だ、宿題は終わらせとけ。俺は明日から、ほぼ学校に缶詰だから。昼間ならここで気兼ねなく遊べるぞ」
「なんで、夏休みなのに?」
「教師に夏休みなんてありませーん。旅行から、水泳部の全国大会まで。俺ほとんど、仕事してねえからな。そろそろ、仕事押し付けられた瀬流彦先生あたりがキレそうだ」

 水泳部はまだしも、あの日本横断旅行は学園長のお墨付きで一応仕事扱いではあったが。
 むつきのいない間のしわ寄せは誰かが引き受けなければならないわけで。
 大抵、そういうものは若い先生にいくわけで、二ノ宮も部活持ちなので、担当クラスも顧問もない瀬流彦に回ってくるわけだ。
 あと、何故か瀬流彦は若い云々以前に、学園長の派閥の中でもえらく立ち位置が低かったりもする。

「釘宮、お前二十歳ぐらいの姉ちゃんとかいない? 瀬流彦先生に合コン開いてあげる約束、のびのびになってて。そろそろ、呪われるかもしれん」
「いないけど。いても、瀬流彦先生に紹介するのはちょっと……。むしろ、先生の知り合いにちょっと馬鹿っぽい男の人とかいないの?」
「俺の知り合いは止めとけ。マジで色物しかいないから。てか、観音知ってるだろ。あんな胡散臭い奴しかいねえよ」

 ただし酒呑は、今朝方に世話になったばかりなので、心の中で奴は除くと付け加えておいた。
 神楽坂から連絡はないが、上手くやっているかなと思いつつ襖を開ける。
 釘宮とは一応決着つけた形で、他に鬱憤溜まっている子はいないかなと顔を思い浮かべる。
 たぶん、佐々木はなにも考えていないし、明石も細かいことは気にし無さそうだ。
 龍宮と長瀬はなにを考えているか分からないが、懐は深そうなので大丈夫だろう。
 となるとやはり、椎名と相手をするのがちょっと怖い古か。

「って、おお!」
「どったの、先……桜子? それにくーちゃんまで」

 襖を開けて一歩廊下へ出ると、待っていたように桜子が佇んでいた。
 そのちょっと後ろには古が、さらにそのずっと後ろの廊下の角にも誰かいた気がしたが。
 出てくる気配がないので、気のせいか。

「宿題が終わったって、わけじゃねえよな?」
「先生」
「お、おう」

 何時ものにこにこ顔とは違う、椎名がキリッとした表情を見せた為、思わずどもりそうになる。
 その表情はどこか思いつめたようでもあったが、頬は赤く血色だけはやたらと良さそうだった。
 そしてむつきがこわばった返事を返すや否や、駆け出した椎名がむつきの懐に飛び込んできた。
 ちょっとボディブロー気味に、例の髪型をした椎名の頭が良い角度でめり込んできたが。
 根性でその小さな体を受け止め、察したように背中に手を回した。

「好きです。苗字のこととか、その辺は置いておいて。最初に来るのが好き。デジャブーランドで守ってくれた時、嬉しかった。私のために色々してくれて、胸がキュンってした」
「そっか、釘宮との話聞いてたか」

 状況的にそうなんだろうなと察すると、ビクッと椎名は体を震わせたが足に力を込めてより距離を縮める様に深く抱き付いて来た。

「エッチはまだ怖いけど、頬っぺたとかおでこにチューは良い。服の上からならおっぱい触るのも良いよ。あとは、あとはえっと。先生の恋人になりたい!」
「俺、美砂を始め一杯恋人いるけど。それに大っぴらにデートもできねえぞ?」
「負けないよう頑張る。それい、先生。私の運を忘れてる。先生とのデート誰にも邪魔させないよ?」

 テンパっているのか、若干目はぐるぐるしているが。
 腕の中からこちらを見上げてきた桜子は、自信満々にそう言ってのけた。
 ただ、彼女の運を考えると逆に、後戻りできないよう見つかってしまうことも考えられるが。
 ある意味で、リクエストとも受け取れたので、精一杯の告白をしてくれた桜子のおでこにキスをする。
 思った以上に、この子は惚れてくれてたんだと、嬉しさを表現するようにしっかり抱きしめもした。

「分かった。恋人になった以上、大事にする。ほら、桜子。頬っぺた」

 こんどはそっちからとむつきは自分の頬を指さし、桜子からのキスを強請る。
 ますます顔を火照らせた桜子だが、ぎゅっと目をつむりながら背伸びをしてむつきの頬に唇を触れさせた。
 気恥ずかしさから逃げ出そうとした桜子を、二度と手放さないとばかりにむつきが捕まえた。

「にゃはー、超恥ずかしい。美砂が良く惚気るのが分かる。クギミーにも、この嬉しさわけてあげたい!」
「クギミー言うな。あと結構です、惚気マシーンは美砂一人で。まあ、桜子が楽しそうでなによりだけど。先生、ちゃんと美砂と平等にね?」
「俺はそのつもりだが、法的に結婚できるのは一人だけだからな。もう少し先の話か」

 ちくしょう嬉し過ぎるとばかりに、懐の中で暴れる桜子を撫でながらあやしつつ。
 若干の出遅れた感のある所在なさげに立つ古へと視線を向けた。

「わ、私は……強い男が好きアル。それに古家の為にも私より強い男を婿に迎えなければならないアル。だから、この唇は私より強い男にのみ許すはずが、先生に奪われたアル」

 むつきを直視できず、古にしては自信なさげに視線を廊下の上へと落としている。
 なんと声をかけて良いか、謝ったところで古のファーストキスが戻るわけもなく。
 どう声をかけて良いから分からずいると、げしっと後ろから足を釘宮に蹴られた。

「ちょっと、どういうこと?」
「旅行中にちょっと事故でな。桜子すまん。ちょい、釘宮にパス」

 聞いてないぞと言いたげな釘宮に、懐き暴れ猫と化した桜子をいったん預ける。

「古、俺はお前の為にお前よりも強くなってやることはできない。年齢的なこともあるし、そもそも俺は俺でやりたいこと、やらなきゃいけないことがたくさんある。お前だけのために、そのすべてを捨てられない」
「責任をなんて言うつもりは、ちょっとしかないアル」

 ちょっとはあったんかいと、言いそうな気配のした釘宮には先手を打っていうなよと視線で釘をさしておく。
 古がここで、思い切ったように伏せていた顔を上げる。
 しかし直接むつきを見ることはなく、その視線の先には幸せ一杯の顔の桜子がいた。
 グッと唇を噛む様にして、迷いに揺れる瞳で絞り出すように古は言った。

「さっき先生の腕に飛び込む桜子を見て、羨ましいって思ったアル。私も先生に触れたい、触れて貰いたい。けど、先生は私のために強くはなってくれない。どうしたら良いアルか?」

 これが普段感情の赴くままに、それこそ闘争心の赴くままに生きる古なのだろうか。
 今の古は、古家の為に強い婿をという理性と、むつきと触れ合いたいという感情の板挟みにあっている。
 好みと実際の恋愛感情は全く別物。
 古を縛り付けているのは、恐らくは幼い頃から言いつけられてきた古家の為にという言葉だろう。
 例の旅行中に起きた事故によるキスから、古は時々むつきに目を向けるようになった。
 四国のお遍路でむつきが体調を崩した時、腕っぷしだけの男ではと口にしたこともある。
 出来ることは多く、使い道は正しい方が良いとも。
 そこまえ視野が広がったにも関わらず、ここにきて腕っぷしの強さに拘るのは少しおかしい。
 一言で強いと言っても、腕っぷしから学力、世渡りに、金儲けといろいろあるのだ。

「なあ、古。確かに俺の腕っぷしは古より弱い。けど、当たり前だが歴史は俺の方が詳しいぞ。お前にあの旅行を企画して皆を連れて行けるか? お金に困ってる子に、バイトを紹介できるか?」
「バイトなら、超に頼んでなんとか。でも、他は無理ある」
「別に俺だって、なにからなにまで全部俺がって言わないさ。歴史の詳細では、夕映や宮崎に負けるし。旅行だって、学園長や新田先生に仕事を調整して貰ったり、木乃香のお父さんに宿をお願いしたり。バイトの件は大学の友達に頼ったな」

 人に頼ることも多いが、同時に自分の頭や足で答えを導いたり決断することもある。

「俺は腕っぷしこそ、古に劣るが。お前より弱いか?」
「弱くないアル。武術しかない、私よりできることが多いアル」
「まあ、十歳以上も離れてて俺が成人してるのもあるが」

 古弱くはないと認めてくれたが、まだむつきを何時もの能天気そうだが腹の座った瞳で見てくれない。
 理性と感情の板挟みもそうだが、桜子のように好きな人の懐に飛び込めない、それは古の弱さだ。
 そういった意味では、弱いどころかむつきは強い。
 好きだと言ってくれた子は全員この胸で受け止める、受け止めるだけの覚悟はある。

「ほら、来いよ古。お前が知ってる男の強さなんざ、ほんの一部だ。俺が教えてやるよ、男の強さってやつを。来ないなら、こっちから行くぞ」
「うっ、ぁっ……」

 腕っぷしに劣るむつきが一歩を踏み出しただけで、古が一歩後ずさった。
 まるで強敵を前に蛇に睨まれた蛙、金縛りにでもあったかのようにそれ以上動けないでいる。
 また一歩近づくたびに、慄き瞳を揺らしながらむつきを見つめていた。
 結局手を伸ばせば届く距離になっても、古は動けないままであった。

「ほら、捕まえた」
「ぁぅ」

 先ほどまで桜子にしていたように、古を真正面から抱きしめ懐深くに収めてやった。
 古が羨ましいといった状態を再現するように、髪を撫でつけ硬直をほぐしてやる。

「まんまと捕まえてやったぞ。どうだ、俺は強いだろ古。逃げられなかったお前の負けだ」
「負けたアルか?」
「完膚なきまでにな。俺に惚れたお前の負け。惚れた弱みっていうだろ、俺にとっては隙だらけだよ」
「そっか、負けたカ。もっと、体から力が抜けるアル。先生にもっと一杯、負けたいアル」

 認めることで金縛りが解けたのか、むつきの腕に応える様に古も腕を背に回し抱き付いて来た。

「美砂たちも、こんな感じで口八丁で惚れさせられたのが目に見えるわね。くーちゃんが、日本語に弱いのにつけこんで」
「こら、人聞きの悪いことを言うんじゃありません」
「数秒と間をおかず、桜子に続いてくーちゃんも口説き落としておいて?」
「さーて。古も、後で一杯甘えさせてやるから。食堂に戻るぞ。桜子は、背中にでも飛び乗れい」

 釘宮の鋭い突っ込みに耐え兼ね、抱き付いて来ていた古をお姫様抱っこする。
 おずおずと、両腕を首に絡ませて来るのが普段のギャップもあって可愛いではないか。
 そして忘れてはいませんとばかりに、釘宮に預けておいた桜子に呼びかけ背中を見せる。

「先生、いっくよー!」
「おわっ、助走つけるな。あっ、やっぱキツイ。どちらか、降りて貰えませんかね?」
「いやアル。私に勝った男は、このぐらいでへこたれないはずアル」
「私も、先生頑張って。ほら、おっぱい押し付けたげるから」

 別の意味で力が抜けるとも思ったが、当ててんのよをされて頑張らねば男ではない。
 古をしっかりと抱え直し、背中の桜子もしっかりとおっぱいが当たるように抱え直した。

「先生が私の好みと違う意味で馬鹿で良かった。うり、うり」
「馬鹿、止めろ釘宮。マジで、わき腹突くな」

 これも試練だとばかりに、釘宮にわき腹を突かれ苦しいこと、苦しいこと。
 特に釘宮とはわだかまりらしいわだかまりもなく、喜ばしい結果となったか。
 二人を速く食堂へと連れて行きことの次第を報告せねばと、急ぎ足になった。
 決して、釘宮のわき腹突きに耐え兼ねたからではなく、当たらな恋人の生誕を祝ってである。
 みしみしと廊下の板張りを軋ませながら歩いていると、玄関ホールで誰かが階段を下りてくる音が聞こえた。
 思わず立ち止まってそちらを見上げて目に入って来たのは純白であった。
 シースルーのヴェールに、細かい細工と刺繍がふんだんに施され、それこそ真っ白な花を世界中から集めて作り出したようなウェディングドレス。
 各種白いバラで作られたブーケを手に現れたのは、長い髪をまとめメイクまで施した美砂であった。

「桜子、それにくーちゃん。見よ、この圧倒的な正妻力。先生と私の愛欲にまみれた退廃的な日々は、伊達じゃない!」
「なにどや顔してんのお前?! 格好と台詞が全くつり合いとれてないんだけど!」

 本人は華麗などや顔を決めているつもりかもしれないが、場違いにも程がある。
 美砂の格好もそうだが、つい先ほどまでかなり真面目に会話していただけに。
 正妻力(笑)とか、末尾に余計なものがついているとしか思えなかった。
 全員がなかば唖然としていると、どたどたと慌てふためいた千雨が転びそうな勢いで降りて来た。

「この馬鹿、まだ最終チェックが。壊すなよ、マジで壊すなよ。この夏休みでどれだけ時間を費やしたと思ってんだ。お披露目には、もっと相応しい舞台をぉ!」
「鏡見てたら、私のあまりの可愛さに性欲を抑えきれなかった。反省はしてない。先生、今夜はウェディングプレイで決まりっしょ。正直、もう濡れてる」
「いやぁっ、私のドレスがぁ!」

 宇宙空間に散っていく某白い悪魔の後継機を見たかのように、千雨が髪の毛を振り乱し叫んだ。

「こら、美砂それ脱ぎなさい。千雨がマジ泣きしてんだろうが!」

 これだけ騒げば当たり前だが、なにが起きたどうしたと食堂からアキラたちが出てくる。
 遊戯室でネット碁をしていたエヴァや、恐らくそのお世話に駆り出された絡繰も二階から顔を覗かせていた。

「ひええ、柿崎さん綺麗です。憧れてしまいますぅ」
「ジャンルが違えど、良いモノを見た後は創作意欲が沸いて仕方がないです。今日のお夕飯は少し腕によりをかけましょうか」
「おお、五月に火がついたね。さすが本物は本物を知るヨ。誇って良いネ、千雨さん」
「ふん、刺繍についてはちょっと私も手伝ったんだぞ」
「及ばずながら、空き時間にお手伝いを」

 さよから四葉、超にと評判はかなりのものだが、千雨を慰めるには至らなかったようだ。
 大部分は千雨が作ったのだろうが、以外にもエヴァや絡繰もかかわっていたらしい。
 このプライベートが希薄なひかげ荘で良くも、皆にばれずここまで作り上げたものである。

「良いな、良いなウェディングドレス。私も着たい」
「まき絵、結婚式前に着ると今季が遅れる。私たちは、先生に貰って貰うから良いけど」
「ゆーな、トイレ行くとか言ってなんでそんなとこにおるん?」
「ふぁっ?!」

 何故か、露天風呂がある方の廊下に隠れるようにしていた明石は謎だが。

「ふっ、私達には縁遠い話だ」
「でござるな。生憎、我々は一般的な男性よりも背丈があるでござるし」
「あら、先生はそのような細かいことは気になさりませんわよ?」
「おー、なに皆面白そうなことしてるの。しまった、事件は外じゃなく内で発生してたか」

 単純な憧れとは違い、似合いそうもないという意味も込めて呟いた龍宮と長瀬の言葉をあやかが一蹴する。
 わいのわいのと、皆で千雨の作ったウェディングドレスの批評をしているとカメラマンが返って来た。
 外の暑さに気怠げにしていたのもつかの間、美砂の格好を見るや色めきだった。
 美砂の行動はともあれ、これだけの被写体はそうそうあるものでもないだろう。
 特に同級生のウェディングドレス姿など、早くても五年は見られないはずであったのに。

「んがーっ、もう自棄だ。ウェディングドレスは着て、なんぼ。全員、撮影室に来い。即興で全員にサイズ調整して先生との結婚写真撮るぞ。来い、ある意味で相棒!」
「良いね、良いね。なんか乗ってるじゃん、ちうちゃん。美女揃いの撮影会、腕が鳴るぅ!」
「おい、なにボケっとしてんだ先生。花嫁の隣には花婿がいるだろ!」
「やけくそになるなよ。分かった分かった。撮影会の後で、ちゃんと宿題やらせるからな」

 仕方がないなと、千雨の剣幕に苦笑いしながらむつきは階段へと足をかけた。
 未だお姫様抱っこをしている古や、背中に背負っている新しい花嫁さんを連れたまま。
 今回ばかりは嫁かそうでないにかかわらず、全員であるかもしれない日を先取りで写真に収めた。









-後書き-
ども、えなりんです。

久々にお馬鹿な日常が書けた気がします。
特に最後の正妻力(笑)
当初この場面は予定になかったのですが、美砂の影が最近薄いなと……
一気に濃くなった気がします。

あと感想で釘宮が以前の千雨ポジというお方がちらほら。
私個人としましては、そうではないつもりです。
千雨は公平でしたが、釘宮はあくまで桜子や美砂の味方。
現在桜子が遅れをとってますので、比重は傾いてますが。

次回は来週の土曜日です。



[36639] 第九十八話 やっとこの日が、もうお預けはなしヨ
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/02/08 20:25

第九十八話 やっとこの日が、もうお預けはなしヨ

 桜子たちのひかげ荘バレを知ってから数日、むつきは殆どの時間を麻帆良女子中の職員室で過ごしていた。
 彼女たちが残り少ない中二の夏を謳歌する最中、社会人は過ぎ去りし日々を胸に働くのみだ。
 改めて社会人と学生との壁に泣きたくもなったが、そうは言ってはいられなかった。
 特にむつきは長期旅行や水泳部の合宿等、周囲に負担をかけたので挽回せねばならない。
 よって、皆が遊び疲れて寝ている早朝にひかげ荘を出て、夜遅くに帰る生活である。
 夜も疲れて性活もできず、唯一の楽しみと言えば代わる代わるお嫁さんたちが作ってくれるお弁当だ。
 さよや木乃香の和から、小鈴や古の中華、あやかの洋とタイプは様々で飽きることもない。
 もちろん四葉のようなオールマイティもいれば、ちょっと卵焼きが焦げていたこともある。
 それらを活力にしんどい日々を潜り抜け、今日は八月二十八日であった。
 二十八日かと体をほぐす為に伸びをしながら思っていると、コトンとデスクにコーヒーが置かれた。

「はい、どうぞ。今日ぐらい、早く帰ったらどうです? 私はもう、お先に失礼しますね」
「すんません。お疲れーっす。ほどほどに切り上げますよ」

 淹れてくれたのは二ノ宮であり、彼女のデスクは綺麗に片づけられていた。
 現在時刻は夏場なのでまだ明るいが夜の十九時であった。
 お疲れと手を振り見送る相手はこれでおしまい、校内に残っているのはむつきだけ。
 周囲を見渡しても広い職員室内にむつき一人、戸締りは別の先生がしてくれたので職員室だけだ。

「んー、あと一時間だけ。帰ったら八時半過ぎで、風呂と飯。もろもろで十時、そんなところだろ」

 時計を見上げながら指折り数えて、大よその予定を頭に思い浮かべる。
 改めてカレンダーを見ればやっぱり二十八日で、今日は小鈴のセックス本番解禁日だ。
 体調面も絡繰や葉加瀬のお墨付きで、栄養管理は四葉が担当していた。
 ここ二、三日は研究所にこもることもなく日の出と共に起き、陽が沈むと共に寝るぐらい健康的な生活をしていると聞いている。
 他にも新たにお嫁さんになった古と武術で体を動かしたり、頭が下がるぐらいだ。

「なら、その努力に応える為にも頑張りますか。ん?」

 コーヒーに手を伸ばし、一口飲んで再度仕事に手を伸ばしたところであることに気づいた。
 どこからともなく漂ってくる良い匂い、これは肉まんのようだ。
 嗅ぎ慣れた匂いなので恐らくは、超包子の肉まんに違いないが何故今この場に漂ってくるのか。 

「頑張っている親愛的に、お夜食持ってきたネ」
「しゃ、超……なんでわざわざ、しかも制服を着てまで」

 ガラリと開けられた職員室の扉から、湯気が漂う蒸籠を片手に制服姿の小鈴が入って来た。
 思わず愛称で呼びかけたが、いかんいかんと言い直す。

「親愛的、さっき帰宅した二ノ宮先生が最後。この校舎は、私と親愛的の二人きりネ」
「そういや、そうだったな。忘れものとか言って、二ノ宮先生戻ってこないだろうな」
「悪いことしなければ、問題ないネ。たとえば、デスクの下で私が親愛的のアレをおしゃぶりしてたりとか」
「馬鹿野郎。職員室は俺の、男の仕事場だ。んなことできるか、にゃろめえ」

 普通の仕事場よりもむしろ女性の比率は多いぐらいなのはさておき。
 思い切り動揺したむつきは、その光景を想像してしまった。
 忘れ物しちゃったと戻って来た二ノ宮と十分程度の軽いおしゃべりをする間、股座でおしゃぶりをする小鈴。
 何も知らない二ノ宮の前で小鈴の口に射精とか、とまで明確に想像してから頭を振って邪念を追い出す。

「ふふ、想像した顔ネ。いけない親愛的ネ」
「からかうなよ。もうちょい待ってろ。折角だから一緒に帰るぞ」
「コーヒーも良いけど、肉まんにはウーロン茶ネ。はい、これはバイバイヨ」

 二ノ宮先生が淹れてくれたと知ってのことか、飲みかけのコーヒーはさらわれていってしまった。
 まあ、確かに冬ならまだしも夏の肉まんとコーヒーは合わない気がする。
 左手で肉まんを頬張りながら、ウーロン茶を目の前に置いて仕事の再開であった。
 あと三日で長いようで短い夏休みも終わって、二学期が始まってしまう。
 現在むつきが行っているのは、夏休み明けの実力テストの問題用紙の作成である。
 この場に小鈴はいるが、どうせどんな問題だろうと満点を取られるので問題なかろう。

「皆はどうしてる?」
「今はこの日の為に作った人数制限なしの桃鉄をやってるね。貧乏神の数も、プレイ人数割る四人でてくるけどネ。昼間はいろいろネ、部活だったりショッピングだったり」
「それ全部擦り付けられたら、死にたくなるだろ」
「そこは、現存するボンビーを全て集めれば大逆転のキング福の神に生まれ変わるチャンスネ。特別ルールで大逆転の目が出てくるヨ。先生のお嫁さん同士、リアルファイトは厳禁ネ」

 隣の瀬流彦のデスクの椅子を引っ張り出し、小鈴はにっこり笑いながらむつきの隣に座り込んだ。
 そしてこれぐらいならと、ちょっとだけむつきに体を傾け頭を肩に預けた。

「最終日、最後の思い出に花火大会したいって鳴滝姉妹が言いだしたネ。親愛的も参加するヨロシ」
「ああ、夜からなら問題ないぞ。さすがに最終日は早引けの予定だし。小鈴、肉まんお代わり。あとお茶も」
「はいネ。でも肉まんは二個しかないから、これでおしまいネ。違う味のはまだ二個あるけど」

 小鈴がアピールするように両手で胸を寄せてあげると、ブラウスに張り付いたブラジャーが薄ら見えた。
 朱色を基調に黒でふちどりされ金の刺繍と、恰好は制服だが見えないところがチャイナ仕様である。
 手渡された肉まんよりよっぽど食べたいが、今は仕事中だ。
 あとで貪るほど食べてやると誓ったところで、なんとなく小鈴の狙いがわかった気がする。
 人数制限のない桃鉄を皆に渡して足を止め、むつきが一人になったのを見計らいやって来た。
 きっと夜の学校で二人きり、誰にも邪魔されずセックスに集中する為に準備してきたのだ。
 凝り性でいじらしい小鈴らしい、凝った初夜で一生の思い出にしたかったのだろう。

「もうちょっとだけ、もうちょっとだけ待ってろ」
「親愛的の働いてる姿を見てるネ。セクシーで魅力的、飽きないネ」

 ああ、もう可愛いなと悶えそうだが、我慢我慢の連続でなんとか切りのよいところまで進めた。
 そして続きは明日、もう待てないと乱暴に引き出しにしまいこんだ。
 戸締り確認は職員室だけなので、窓を一通り確認して最終退室者のボードを記入する。
 それから帰り支度として鞄を背負い、最後の最後に電気を消すわけだが。

「小鈴、学校でしたいって意思表示だと思ったけど。合ってるか?」
「合ってるネ。ここは電気を消して、教室に行くネ。玄関口は既に施錠済みヨ」

 手際のよろしいことでと、職員室の電気を消すと同時に小鈴に手を差し出した。
 時刻が二十時ともなれば、夏場とはいえもう外はすっかり暗くなっている。
 戸締り施錠後なので廊下の明かりは、あって非常口用の緑色の光ぐらい。
 ただし、校庭内外の外灯などはついており、完全な暗闇ではなくなんとか歩いてはいけそうだ。
 平日の昼間の騒がしさが嘘のように静かな廊下を、手を繋ぎながら歩いた。
 周囲は静か、静かなのだが、互いの心音が聞こえそうで自分の心音は煩いぐらいであった。

「親愛的」
「ん?」

 静寂と騒音の狭間を楽しむ様に、コツコツと足音を立てて歩いていると小鈴が顔を向けて来た。
 以前はそのニコニコ顔が胡散臭いとも感じたものだが、赤丸ほっぺも相まってなんと愛らしいことか。
 このほっぺた大好きなんだよなと、尋ね返すと同時に手を繋いでいない方の手で頬を突く。

「むに、今日は親愛的に私を。超鈴音を、むさぼりつくして欲しいネ」
「おいおい、処女がなに言ってんだ。ちょっと環境特殊だけど、素敵な夜にしてやるから」

 皆と同じように、一生の思い出になる夜をと言ったのだが。
 ふいに立ち止まった小鈴の、火照った顔と潤んだ瞳に一気に意識を奪われた。

「違うヨ、親愛的。親愛的に骨の髄までしゃぶられたい。穴という穴で親愛的の精液におぼれたい。強引に力ずくで、ねえ親愛的」

 私を見てとばかりに、小鈴が自分の体を胸を中心にまさぐり始める。
 教室まで残り数メートルだというのに、それさえ待てないとでもいうように。
 乱暴に胸を揉みしだくたびに制服のブラウスは着崩れ、一部ボタンは外れてしまう。
 その隙間から朱色のブラジャーが覗き見え、小鈴の肉まんがぷるぷると形を変えている。
 今や心音以上に、発情した獣のような小鈴の息遣いの方が、静寂の廊下に響き渡っていた。

「小鈴、もしかして。学校でシタかったというより、待ちきれなかった?」
「やっとネ。やっとこの日が、もうお預けはなしヨ」

 きっと職員室でのデスクの下でというのも、彼女の願望そのものだったのだろう。
 小鈴は策略を巡らせるタイプだが、何故かむつきに束縛されたい子である。
 運命がむつきにSになれと囁いているかのようだが、実際小鈴は喜びそうだ。
 汗がにじむ手のひらをギュッと握りしめ、むつきは思い切って小鈴の肩をやや乱暴に押した。
 ふらついた小鈴は廊下と教室を隔てる壁とガラス窓に軽く背を打ち、期待した瞳で見上げてくる。
 対応は間違っていなかったかと、安堵しつつ俺は変態鬼畜教師と自己暗示を始めた。
 そして小鈴の顔のすぐ横に片手を突き、覆いかぶさるように上から見下ろして言った。

「小鈴、ここでやらせろよ」

 粗暴さをにじませるように、小鈴のブラウスのボタンが外れた部分に手を差し込んだ。
 ぶちぶちっとボタンが千切れ飛ぶぐらい引っ張りたいが、流石に躊躇してしまった。
 強引なプレイも良いが、着替えがなければ割と大ピンチである。

「親愛的、着替えはあるネ。だから、もっと乱暴に破っても構わないネ」

 そんなむつきの心配を察したように、はやくはやくと小鈴がささやいた。
 期待に胸が膨らみ過ぎたか頬は上気し息遣いも荒く、足元は内また気味に太ももを擦り合わせている。
 もはやなにも言うまいと、むしろ小鈴にとっての素敵を慣行しようと手に力を込めた。
 本当にボタンが千切れ飛ぶぐらい乱暴にブラウスの前を開き、ブラジャーのフロントホックをはずす。

「可愛らしい胸だな。ちょっと小さいか?」
「あ、ぅっ」

 その分、美乳だと知ってはいるのだが、敢えてそう呟きふるんと揺れる乳首を右手の指で弾いた。
 弾かれた乳首は跳ね上がるも張りのある肌に引き寄せられ、即座に元の位置に戻ってくる。
 意味もなく生意気な乳首だと、指で弾いては摘み上げてこりこりと弄ぶ。
 外の外灯の光だけを頼りにその弾力や桃色の色合いを目で楽しみ、逆側の乳房にしゃぶりついた。
 若干の塩気は汗をかいていた空だろうか、それも甘い小鈴の体臭で本当にわずかしか感じられないが。
 きっと最初は、ひかげ荘で大人しく待っていたのだろうが、いてもたってもいられなかったのだろう。
 それで汗をかくのも構わず、急ぎむつきの下にやって来てのは良いが、直接的なお誘いはできず。
 本当意地らしくて可愛い嫁さんだことと、口に含んだ乳首を指で円を描く様に弄んだ。

「んぅっ、ぁぅ」
「小さい分、感度は十分だな。小粒でもピリリとって奴か?」
「ぁっ、くぁ……小さい、小さい言わないで欲しいネ」
「そんな嬉しそうに涎たらしながら言われても、説得力がねえよ」

 唇の端からこぼれる涎を舐め上げ、そのまま小鈴の赤丸ほっぺまでベロりと犬の様に舐める。
 決して唇にキスはせず、むしろ小鈴がキスをせがむ様に顔を傾けても避けるほどに。
 どうしてと愛欲に濡れる瞳が訪ねてきていたが、あえて教えるほどむつきは優しくはない。
 むしろ、意地悪だと言った方が正しいか。
 結構なお点前でしたと、しゃぶり弄りまくった乳首を離れ、小鈴のおでこにキスをする。

「一人だけ楽しんでんじゃねえぞ。ほら、可愛がってほしけりゃしゃぶれよ」
「うぅ、しゃぶるネ。いやらしく、しゃぶるから」

 キスをして、あそこに触れてと言葉は形になってはいなかったが充分に伝わってくる。
 壁をずり落ちるようにしゃがみ込んだ小鈴が、禁断症状に震えるような手でむつきのベルトを外しだす。
 ズボンとトランクスを下げたら、むつきの一物が外気に触れる間もなかった。
 半立ちだったむつきの竿を、手を触れず唇だけで小鈴が咥えこんだのだ。
 一日中仕事をしてシャワーを浴びていないので匂いもきついだろうに。
 首を前後に振って唾液を竿に絡ませ一心不乱に、文字通り小鈴がしゃぶりついて来た。

「んぶぅ、ふぅ。んぁ」
「よーし、良い子だ」

 上目使いにした瞳で気持ち良いかと聞いて来た小鈴に、頭を撫でながら答えた。
 夜になって気温は下がり始めたがまだまだ蒸し暑く、小鈴の口内はそれ以上に蒸している。
 瞬く間にふやけてしまいそうなぬるぬる感の中で、きゅっきゅと頬がすぼめられた感触がたまらない。
 下のお口で出来ない分、いつも上のお口だったもんなと見下ろした小鈴に優しい気持ちが沸いてしまう。
 だがしかし、今日の俺は鬼畜と心を鬼にして、小鈴の頭を両手でつかんで固定した。

「まどろっこしいな。ほら、しっかり舌を使えよ」

 夫婦の営みとは違う、立場に違いのある男女のように一方的に命令した。
 しっかり掴んだ小鈴の顔へと容赦なく腰を打ち付けるように、文字通り口でセックスをしてやる。
 相手を殆ど思いやらない強引なイラマチオに、小鈴は必死に鼻で息をしようとしていた。
 そんな呼吸も満足にできないのに、喉の奥を亀頭で突かれても、けなげな舌使いは止む様子はない。

「良いぞ、気持ち良い。腰が震える、はは。こんな場所で」

 小鈴の健気な献身もそうだが、ここは麻帆良女子中の二-Aの教室のすぐそばの廊下だ。
 健康的な美少女たちが花の香りを振りまいて笑い、健やかに女へと成長していく場所。
 そんな場所でその中の一人である小鈴の口を犯している。
 胸に抱いた背徳感は、息苦しさから小鈴が瞳から零れ落ちさせた涙の粒で一気にせりあがった。

「うくっ、出る。出すぞ、小鈴」

 口なのは惜しいがそれでもと、小さく頷いた小鈴を前にむつきが笑う。
 出すとは言った、言ったがその可愛い唇を持つ口でとは誰も言っていないと。
 笑いながら腰を使って小鈴の口を酷使し、喉で頬肉でざらつく舌でむつきだけが快楽をむさぼる。

「イクぞ!」

 そう叫んだ瞬間、むつきは強引に一物を小鈴の口から抜いていく。
 最後にその可憐な唇で流れるようなキスをするように竿を擦りつけ、亀頭までもが離れていった。
 唾液と先走り汁が入り混じった液体が小鈴の唇とむつきの一物の亀頭とで糸を引く。
 ぶるんと縦に揺れた竿は銀の糸を引きちぎり、むつきは自分の手でそれを握り絞めた。
 それは最後の刺激を得るためではなく、竿の角度を決めるためにであった。
 何故という瞳を剥ける小鈴へと向けて、白いほとばしりを一気に振りかける。
 殆ど彼女たちお嫁さんの体内にしか放ったことのない精液を、小鈴に振りかけるように放ったのだ。
 ぼたぼたと彼女の綺麗な黒髪にさえ付着させるように、制服姿の小鈴を白く怪我していく。

「ぁっ、親愛的の。なんで、どうしてネ?!」

 中に欲しかった、何故と遅れて小鈴が両手を広げるもすでにその空中に精液はない。
 髪に頬に、制服から零れ落ちたものは廊下へと落ち切ってしまっていた。

「どうして……」
「小鈴、そこの壁に手をついて尻を上げろ」

 我慢できない中に欲しいと泣きそうな顔でむつきを見上げてきていた小鈴に告げた。
 途端にやっと入れて貰えると思ったのか、涙を拭いた小鈴が立ち上がってはむつきに背を向ける。
 先ほどまで背中を付けていた教室内が見える窓枠に手を掛け、お尻を上げた。
 他にはむつきしかいないからと、スカートが待って中のパンツが見えるのも構わず。
 はやく、この処女を力ずくで奪って欲しいと、ふりふりおねだりを始める。

「親愛的、もう。もう待てないネ。犯して、犯して欲しいヨ」
「分かった、分かったから」

 もう少しだけ落ちて貰おうかと、見えないように怪しく笑ったむつきはしゃがみ込んだ。
 下から小鈴のスカートの中を覗き込み、愛液が染みついたパンツにそっと手をかける。

「親愛的」

 そう小鈴が呟くたびに期待で愛液が増し、擦り下したパンツにとろりと愛液が流れ落ちる。
 むわりと発情した雌の匂いが広がり、これが冬であればその湯気さえ見えたかもしれない。
 むせ返るぐらい濃い匂いの向こう側には、真っ白な小鈴のお尻と愛液が染みだす割れ目が見えた。
 暗がりでもしっかりわかる白い肌、割れ目はぴったりと閉じている。

「さすがに、見えないか」

 だらだらと愛液という名の涎を垂らす割れ目を両手で開き、さらに膣穴を広げ覗き込む。
 外の外灯と月や星明りでは到底明かりが足りず、膣の深い穴が見えるばかり。
 それだけはちょっと残念だったので、せめてと小鈴の膣穴に舌を潜り込ませた。
 小さな穴を舌先で拡張させ、溢れる愛液の中を泳ぎあるであろう処女膜に舌先でなんとか触れる。

「ふぅん、ぁっ。親愛、欲しいヨ。親愛的のが!」
「れう……はいはい、ほら尻下がってるぞ」

 もう少し処女膜を舌で弄びたかったが、小鈴がお尻を振って振り払われてしまう。
 はしたないぞという意味も込めてぴしゃりと丸く可愛いお尻を叩き、上げさせる。

「これ以上は、本当に気が狂うネ。焦らさないで欲しいネ」
「そう言われると、意地悪したくなってくるのが男ってもんだ」
「親愛的、ぁぅ!」

 再度お尻をピシャンと、廊下の向こうまで響くぐらいに平手でたたく。
 そして怯んだ様に下がったお尻を上げさせるように、むつきは腰を小鈴のお尻にぶつけた。
 ズンッと衝撃に小鈴の体が押し上げられ震えるが、それとは別の意味で小鈴は震えている。
 むつきの一物は、小鈴の秘所の割れ目を抉り撫でるように突いて来ただけ。
 ここに来てさえまだ執拗に小鈴を焦らすよう、すまたで小鈴を攻めたて始めた。

「ひぅぁ……いや、もういやネ。んぅ、きゅ。腰がしびれて子宮が疼いて、欲しい。親愛的が欲しいのにぃ!」
「ほら、しっかり立って太もも締めろ。これで十分気持ち良いし、あと一回出したら帰ろうか」
「お願い、これ以上。うぅんぁ、本当に苛めないでヨ。小鈴のおまんこに、親愛的のこの太いのぉ!」

 立っていられないとお尻を下げればスパンキングされ、よろよろ上げれば遅いと突き上げられる。
 これがまだ、挿入済みならまだ結合部を起点にお尻だけはなんとかなったかもしれない。
 けれど、むつきは小鈴の秘所を一物で撫でるように擦るだけで、それ以上はなにもしなかった。
 それこそ小鈴の心が折れるまで焦らそうとするかのように。
 小鈴とてそんなむつきの魂胆は分かり切ってはいても、頭に体がついてこない。
 今日という日の為に体を癒し体調を整え、今朝からずっと体は出来上がり続けていたのだ。

「ひぃっ、死ぬ。親愛的に殺される。いっそ殺してヨ」
「そんなことを言うと、本当に殺しちゃうぞ」

 何度も平手を打ち付けられ赤くなったお尻を、一転して優しくいたわるように撫でつける。
 変わらず割れ目ですまたをしつつも、別の手では夜の空気にさらされた乳房を揉みあげてもいた。
 焦らしによる鋭敏となった小鈴の体は、全身が性感帯になったようにむつきの一挙一動に反応する。
 仮に二人で抱き合い、むつきの心音がとくんと響いただけでイケるかもしれない程に。

「も、もう……本当に、だあぅっんめぇっ!」

 ついに小鈴の足の膝が折れ、その全体重がむつきにのしかかってきた。
 慌てて抱き留めた体は痙攣するように震えており、抱き留めた瞬間にもイキ続けているようだ。
 さすがに体勢が悪く受け止めきれないと危ないので、そっと小鈴を廊下に寝かせていく。
 ぐったりと横たわる小鈴の瞳は、理性の光が半分あるかどうかも怪しいぐらいである。
 ブラウスはボタンが全て外れ一部は千切れ、ブラジャーも殆ど意味をなしていない。
 脱がされたパンツは膝まで降りており、めくれ上がったスカートの奥には愛液に光る秘所が見えた。
 もし仮にこの場面を誰かにみつかれば、小鈴を待ち伏せたむつきが襲ったようにしか見えないことだろう。

「ちょっと、やり過ぎたかな?」

 この車ブレーキついてなかったんですと言いたいぐらいの参上である。
 しかし、ついてはいものは仕方ないといっそアクセルを踏んでしまいたい。

「ここを、こうして……」

 膝に引っかかっていたパンツは片足だけ残し、ブラウスを脱がし両手を縛り上げる。
 肌を床に直接はかわいそうなので、むつきはワイシャツの下に来ていた肌着を敷いてあげた。
 ワイシャツを敷かなかったのは、肌着だけなのは間抜けっぽいのと自分の着替えがないからだ。
 小鈴なら用意しておいてくれるかもしれないが、確定してない以上そうするしかない。
 そんな葛藤を交えつつ、出来上がったのは先ほどより一層レイプ被害者っぽい小鈴だった。
 大変満足と、小鈴に覆いかぶさりながら、その頬を叩いて意識をこちらに向けさせた。

「おーい、小鈴。起きないと、気絶したまま処女喪失になっちゃうぞ」
「ぁぅ……親愛的、親愛的?」

 頬を叩きながら、一物の亀頭で膣口辺りをくちゅくちゅしていると小鈴が我に返った。
 むつきの顔を見るなりぶるっと震えたのは、焦らし過ぎた結果か。
 でも今更止めるつもりもないと、亀頭の先端をぬるりと膣口を広げるようにセットする。

「なんで、私は縛られうぁ。待って、親愛的待って。イッたばかりで、体が。焦らされ過ぎて」
「ごめん、実は俺も結構限界なんだ。入れて直ぐイッたらごめんな?」
「ぁっ、入って。私の中に、嬉しいはずなのに。太っ、いや。はぁんっ!」

 むつきを止めようにも言葉は無意味で、両手は既に縛られてしまっている。
 普段の小鈴ならそれでもむつき一人なんとでもなったろうが、現在進行形で体が弛緩中だ。
 小鈴にできるのは、むつきの一物をその身に受け入れることだけであった。
 むつきの舌か指ぐらいしか受け入れたことのない膣口を、亀頭で無理やりこじ開けられていく。
 時間をかけず次には処女膜が待っており、それもまためりめりと力ずくで広げられてしまう。
 痛みは付随していたが、小鈴にとってはそれこそ小事でしかなかった。

「親愛敵。今の私にさわら、ひぅっ!」

 挿入の角度を決める為に、むつきがお尻をあげさせようと太ももに触れただけで感じてしまう。
 むつきという存在に触れられただけで、感じるように体をつくりかえられたように。
 焦らされ過ぎて体が鋭敏化して、本気で全身が性感帯のようになっている。
 今ならむつきの吐息一つで、それこそ唾液の一滴が落ちただけでもいけるかもしれない。
 それぐらい敏感な肌の上を、無遠慮と言って良いぐらいに容赦なくむつきが触れてきていた。

「小鈴、いくぞ。念願の処女喪失だ」
「ちが、違うネ。私が思ってた処女喪失と。ある意味あってたけど、こんなに凄いとは思ってなかっ」

 その言葉が終わらないうちに、むつきは小鈴の太ももを抱え込み腰を進ませていた。
 徐々に処女膜を破るようゆっくりとではなく、焦らしの時間は終わりだと一気にだ。
 小鈴の体にむつきという杭を打ち込む様に、ずぶりと処女膜を破り子宮口まで突き上げ切った。

「いぎっ、あああぁっ!」
「あっ、ごめん小鈴。我慢できなかった。んぐっ」
「やっ」

 廊下の天井を見上げ痛みを快楽をそらすようにしていたのに、残酷な一言を送られた。

「出て、親愛的の。熱い、お腹が火傷するネ。折角治った体、また壊れてしまうネ!」
「くっ、小鈴!」
「んふぅ、うんぃっ!」

 我慢できなかったものは仕方ないと、ずりずりと這いずるように暴れる小鈴に覆いかぶさった。
 全身が性感帯となった彼女に密着し、肌と肌を擦り合わせ、かつ唇を塞ぎ合う。
 もちろん、ほとんど身動きのできない小鈴にその意志はなく、全てむつきの独断だ。
 子宮に精液を注がれるたびに腰が跳ね上がる彼女を組み伏せ、ひたすらにその存在をむさぼる。
 むつきが上にいるのに唇で唾液を吸い上げ、口内で自分のと混ぜては送り返す。
 はたまた、浮いた背中に手を差し込み指先で背筋をなぞったり、こりこりに立った乳首をこねたりと。
 跳梁、蹂躙という言葉が似合う程に、むつきは小鈴の体を己が思うままにしゃぶり上げた。

「んぅ、ぁう。親愛的……」

 一度我に返った小鈴もこれにはたまらず、また半分以上意識が飛んでしまう。
 ただし今回は欲しかったものを、過剰に与えられ一部満たされてもいる。
 だからか、満足に動けず両腕を縛られながらもその腕を持ち上げ、輪を填めるようにむつきの頭を抱いた。

「小鈴、小鈴。俺だって、ずっと小鈴が欲しかったんだぞ。やっと、やっとだ」
「私の方が、親愛的。熱いのが、これが親愛的の精の力」

 むつきの射精が終わっても、まだしばらくは抱き合って口づけあい、もちろん互いに絞り出そうと腰をのろのろと動かしてはいた。

「ふう……貯めに貯めてたから。むしろ、良く俺は焦らしプレイなんて悠長なことできたな。小鈴、どこか痛いところとかあるか?」
「痛くはないが、焦らされ過ぎておかしなところだらけネ。でも、これで終わりではないネ?」

 大量に精液を吐き出したせいか、血の気が一気に失せてむつきも少しは我に返ったらしい。
 普段の彼に戻っては、彼らしくなによりもそれが大事と小鈴の体の状態を聞いた。
 暗がりで見えないがきっと秘所は血だらけで、痛々しい様子なのだろう。
 そう案じたのだが当の本人は、そんなことよりもと言った感じだ。
 即座に次を求める程度には、小鈴も余裕ができてきたらしい。

「そうだな、もうちょい楽しもうか」

 ごそごそとむつきはワイシャツを残して全て脱ぎ、小鈴もスカートを残して全て脱がしてやった。
 やや腰に負担はかかったが、挿入はそのままで小鈴を持ち上げ立ち上がる。
 勢いをつけた時に溢れた精液が小鈴の秘所から飛び散ったが、掃除なんてあとですれば良いだろう。
 むしろ床なら汚れていて当然だし、目立たなければそのままというのも良いかもしれない。

「んっ、ちょっとぴりぴりするネ。でも、親愛的が凄すぎてあっという間だったネ」
「これでもう、小鈴は俺から逃げられないな。俺でしか満足できない。魂まで俺のもんだ」
「ふふん、甘いネ親愛的。小鈴は元から、親愛的だけヨ」

 駅弁スタイルのまま惚気合い、ついばむようにキスをしながら向かったのは二-Aの教室だ。
 乙女の花園である女子中のそれも勉学に勤しむ教室内を、繋がった状態で時折精液や愛液で床を汚しながら歩く。
 向かった先は、小鈴の席のつもりだったのだが。

「うぃー、ようやくたどり着いた」
「んくっ、親愛的どすんって座わっ……ここ明日菜さんの席ヨ?」
「やべ、一席間違えた?!」

 小鈴が普段見ている光景の中で、彼女が授業中にも思い出すようにと座ったつもりなのだが。
 暗がりで良く見てておらず、席を一つ間違えたらしい。
 指摘されて目を凝らして数えてみれば、前後で一席確かに間違えてしまっていた。

「ふふ、親愛的。悪い男ネ。私の大事な初夜に、本音が漏れたカ? 最近は、随分と明日菜さんに優しいネ?」
「可愛い生徒だからな。生徒だぞ、ときめいたりしたことねえからな?」
「親愛的のアレは正直ネ。私の中で今、ピクッて反のんぅっ」

 馬鹿なことを言うんじゃありませんと、半ばごまかすようにむつきは小鈴を下から突き上げた。
 席を間違えてしまったのは仕方がない。
 心の中でスマンと神楽坂にあやまりつつ、もうこのまま小鈴を攻め上げはじめる。
 可愛い胸をぷるぷる震わせながら、むつきの上で可愛く腰を振ってくれる小鈴を眺めつつ。

「興奮してるネ、親愛的。夏休み明けから、明日菜さんは私と親愛的の愛が染みついた机で勉強することになるネ。彼女がちゃんと授業を受けるかは別として」
「おい、むしろ笑っちまったじゃねえか。二学期はバカレンジャー壊滅の危機の巻きだからな。神楽坂も佐々木も、まあ絡繰は自動的に……」

 今何か大事なことを忘れているような気がしたが、小鈴の中で一物が溶けそうで何も思い出せない。
 まあ良いかと、早々に諦めて今はこの腕の中にいる小鈴のみに集中する。
 つい先ほどまで処女だったとは思えない彼女の腰使いに、負けるかと突き上げた。

「はぁ、ぅ。イキそうネ。明日菜さんの机の次はどこで、教卓でするカ? 親愛的がいつでも私を思い出せるように」
「営業妨害か。そんなことをいう奴はこうだ」

 小鈴の足をとってむつき自身を跨がせ、対面座位から背面座位へ。
 お腹が捻じれると小鈴が苦しみながら感じているが、お仕置きだと中腰になって前に押し倒す。
 自然と小鈴は机の上に腹ばいになり、腰を突き上げる度に机がガタガタと前へ動いていく。

「あっ、あぅん。激しっ、私明日菜さんの机の上で。はぁん、犯されて」
「最終日、花火大会にどんな顔で会うよ。貴方の机の上でセックスしてましたって言うか?」
「悪い子ネ、私。むしろ、正直に打ち明けて明日菜さんをひかげ荘に」
「ああ、悪い子だっ!」

 今日は一体何度小鈴のお尻を叩いたことか、たぶん打ち明ける云々はわざとだろう。
 小鈴のお尻を叩いては子宮口に亀頭をぐりぐりおしつけ、カリで膣壁を抉っては尻を叩く。

「親愛的、もっと。手形がとれなくなるぐらいもっとネ!」
「お前みたいな悪い子にこそ、体に乙姫むつきの奴隷ですって刻まなきゃいけないな」
「ひゃぁっ、んぅ!」

 お尻を叩くより、膣壁を刺激するよりその言葉の方がよっぽど小鈴の膣がキュッとしまった。

「何処に刻まれたい、お尻か。お腹か、それとも誰にでもわかるように頬か!」
「駄目、想像したらお腹がキュンキュン。もう、ぁぅ」
「まだだ、まだイクな。もう少し」

 ガタガタと揺られ続けた机は、ついに一つ前の小鈴の机に近づこうとしていた。
 これで夏休み明け、本当に二人はどんな顔で授業をして、また受けるのか。
 はあはあと獣のようなうめき声をあげながら下半身をぶつけあい、性獣の匂いで教室はいっぱいだ。

「イク、もう我慢できないネ。イグゥっ!」
「良いぞ、いけ。神楽坂の机の上で、孕め小鈴!」
「ぁっ」

 ようやくのお許しを出したむつきは、小鈴の背中から覆いかぶさり机と体で潰れていた胸を掴んだ。
 体全体を重ね合わせるように、このまま溶け合ってしまいたい気持ちを前面に押し出し。
 ガタンっと一層、神楽坂の机が大きく音を立ててその位置をずらした。
 揺らしたのは小鈴のお尻に力一杯叩きつけられ、密着したむつきのお尻であった。
 最後の一突きの後、決して小鈴のお尻から離れずぶるぶると震えている。
 一滴も無駄にしまいと、より深く子宮口をこじ開けその中へと射精していく。

「また、もうお腹一杯なのに。新しい、親愛的の精液が。熱い、今度こそ火傷してしまうネ!」
「まだ夜は始まったばっかりだ。何度でも、朝まで。全員の机で、一回ずつ孕ませるぞ!」
「はぅぁ、んっ。熱っ、まだ出てるネ。子宮が破れてしまうネ!」

 それからしばらく、神楽坂の机で折り重なりぐったりしていた二人だが。
 のろのろと立ち上がり、今度こそ小鈴の席に座り直して再び交わり始める。
 全員の机でという言葉を実行するかのように、それが成ったかは二人ともう一人。

「全く、今夜は私が校舎の見回り担当と知っているからと。大声で良くもまあ。魔眼でなく、子宮が疼いたのは初めてだよ。本当に、焼け木杭に火が付きそうだ」

 校舎近くの見張り台から双眼鏡で二人を覗いていたのは、エアガンのライフルを手にする龍宮だ。
 そわそれと、落ち着かないように周囲を見渡し、チラッと持っていたライフルの銃口を見た。

「これはさすがに破れてしまうな。愛銃といえど、私の処女をささげるにはちょっと」

 火照る体を持て余し、首にかけたチェーンの先のロケットを開く。
 中にはとある男性が写った一枚の写真が収められているのだが、彼は一人でカメラに向かい微笑んでいるのみ。
 その写真を見ていると心が落ち着く。
 というか、人間の綺麗な部分と醜い部分を同時に思い出させられたように心が冷たく凍り付いていく。

「そういえば……」

 ふいに思い出したように携帯電話を取り出して、先日行われたひかげ荘での撮影会の写真を表示した。
 ウェディングドレスを着た自分と、間に合わせのスーツ姿のむつきが並び立った写真だ。
 しかし当初龍宮は丁重に遠慮したのだが、周りに無理やり着させられ、写真を撮られた。
 その結果写真は二人きりでなく、長瀬や古、刹那にまで周囲から押さえつけられ、結婚式の集合写真のようだ。
 数年前から写真の中で時を止めた彼と、写真は一時のことで現在進行形で生きている彼とその隣にいたいと願う少女たち。
 凍り付いた心が溶けだすような陽光を感じ、今度こそと思わずにはいられない。

「私一人、何時までも彼と同じように時を止めているわけにもいかないか」

 そんなことを思い、しかも言葉にしてまで呟いたのは初めてのことであった。









-後書き-
ども、えなりんです。

もう何人目か数えるのが面倒ですが。
超の処女喪失回でした。
なんとか夏休み中という宣言通りにできました。
これで第二部中でのエッチ回は終わりです。

なんか龍宮はお話のラストで意味深にすることが多い。
割に、進展が全然ない。
憧れの人が死んでるシチュはきついもんがありますなあ。

それでは次回は来週の土曜日です。



[36639] 第九十九話 行け、闇の忍び三人衆
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/02/15 21:11

第九十九話 行け、闇の忍び三人衆

 残り一週間を切ってから、夏休みという名の日々は瞬く間であったことだろう。
 中学二年生として、夏を謳歌している美砂たちはもちろん、二学期を間近に控えたむつきもであった。
 多少、大規模なひかげ荘バレという事件があり、後はもう小事にしか思えなかったこともある。
 古が修行と称してひかげ荘周辺の木々を数本折ったり、長瀬と龍宮がこれまたひかげ荘の山中でサバゲーをして木々を傷つけたなんてことも。
 三人には夏休みが終わるまで午前中の間はずっと、田中さんたち監視のもとで山の手入れをさせておいた。
 もちろん、飴と鞭的な意味で時給五百円のバイト代もしっかり渡してあげたが。
 それを聞いた一部、お小遣いが危うい数名が立候補したが作業の過酷さに翌日筋肉痛となりドロップアウト。
 他にはまき絵がやってみたかったと、アキラの部屋のぬいぐるみの山にダイブして怒られたり。
 あとは美砂と桜子がむつきの正妻の座を巡ってお料理対決して、四葉が圧勝したなんてこともあった。
 むつきの母親の味を完全再現できるようにまで進化した四葉に、手料理で誰が勝てようか。
 ならば皆でむつきの母親の味を覚えようとそのままお料理教室になっていた。

「んー、今日で夏休みもついに終わりか。長かった、本当に長かった。俺のある意味で夏休みの宿題も終わったし……」

 職員室のデスクに座ったまま、背もたれを軋ませながらむつきが腕を天井に伸ばし背伸びした。
 ゴキゴキと鳴る体に涙をにじませながら、開放感に目一杯浸っている。
 そんなむつきの目の前、デスクの上には他の社会科教師とも意見を出し合った夏休み明けの実力テストの問題用紙があった。
 夏休みの宿題内容をもとに、多少力を入れてつくりあげた一品だ。
 ちょっとだけずるをして小鈴に見て貰って、お墨付きをもらっていたりもする。

「さて、そろそろ時間かな?」

 背伸びを終えてチラッと時計を見ると、針が午後五時を指そうというところであった。
 まだまだ夏場、こんな時間ではまだ外は明るいが、若干陽が短くなったようにも感じる。
 その日の天候次第では時折秋を感じる風が吹くこともあるが、今日はあいにくその気配はない。

「乙姫君、ギリギリといったところだね。間に合ったようで良かった。社会科が最後だったからね」
「あ、新田先生。お待たせしました。これが問題用紙の原本になります」

 開放感に浸り過ぎて、新田先生の接近に全く気付かなかった。
 慌てて立ち上がってはデスク上の問題用紙をひっつかみ、新田の手の中に手渡した。

「うむ、確かに預かった。今日はこれであがりかね?」
「まあ、そうなんですけど」

 新田の他にも数名いることはいるが、今頃慌てて二学期の準備をしている人なんていない。
 比較的のんびりした雰囲気が職員室内に流れており、夏休み中の生徒の話で盛り上がっている人もいる。
 だがむつきは仕事を収めても、のんびりお茶を飲んでいる余裕はなかった。
 二-Aの夏休み収め、花火大会にお呼ばれしているからだ。
 しかも、乙姫銀行を期待してか、買い出しの引率をなんてずる賢いことも仰せつかっていた。

「生徒達の花火大会に、保護者役で呼ばれてまして。これから、誰か迎えが来るって聞いてます」
「はっは、君は相変わらずだね。彼女たちにとって、君は頼れる兄みたいだな」

 教師ではなく、兄と表現された部分に少しばかり思うところがないわけではない。
 美砂たちに手を出し恋人になったことは別にして、ちょっと普通の教師とは言えない仲である。
 お祭りや旅行に連れて行ったり、相談のついでにご飯を奢ったり、花火大会もそうだ。
 金銭的なことも含め、教師というよりは良く面倒を見てくれる近所の兄という表現も間違いではない。
 苦笑いを浮かべていると、一緒に笑っていた新田がふいにその顔を真面目なものへと変えた。

「乙姫君、これは私の個人的な意見でしかないのだが……」
「乙姫先生」
「はい?」

 新田の言葉の途中で名前を呼ばれ、釣られて振り返った先は職員室の出入り口であった。
 出入り口に一番近かった先生がむつきへと手招きした後で、職員室の外を指さした。
 その出入り口からひょっこり顔を覗かせていたのは、鳴滝姉妹と長瀬である。
 鳴滝姉妹はお揃いの白いセーラー服、ただし下は短パンで、長瀬は濃紺の男物の着物姿であった。

「先生、はやく花火の買い出しに行こう。ついでにお菓子も買って貰おう」
「お姉ちゃん、口に出して言っちゃ駄目だって」
「これこれ、二人とも職員室では静かに」

 どうやら花火の買い出し組は散歩部としてむやみに麻帆良に明るい三人らしい。

「はいはい、お前ら十分ぐらい外で待ってろ。すみません、新田先生。先ほど何か」
「いや、なんでもない。彼女たちを待たせないよう、はやく行ってやりなさい」
「そうですか?」

 話が途中だったので仕切り直そうとしたが、新田の方が手を振って何でもないと告げて来た。
 新田が何を言いかけたのかは気になるが、本人がそういうのを問い詰めるのもおかしな話だ。
 ではお先にと、手早く手荷物をまとめてむつきは新田や他の先生方に軽く頭を下げる。
 廊下に出て直ぐに、鳴滝姉が待ちきれないとばかりに足をばたつかせ催促してきた。

「先生はやく行こうよ。この上、まだ美空を呼びに行かなきゃいけないんだし」
「はいはい。春日も買い出し組? 一緒じゃなかったのか?」
「みそらは、全然宿題が終わってなくて知り合いに監禁されたとか」
「なんだそりゃ」

 一体なんのことだと彼女たちが受け取ったメールを見ると、写メが一枚添付されていた。
 黒っぽい服を着た春日が両手を上げるように助けを求めるポーズであった。
 文面もヘルプミーと短く明確に助けを求めてきている。
 その手短な文章の下にはインターネットのアドレスが添付されており、開くと地図が表示された。
 地図が指し示すのは麻帆良市内の教会らしいが、何故そんなところを指しているのか。

「よくわからんが。とりあえず、迎えに行くか。徒歩じゃちょっと距離あるからタクシーにでも」
「先生、タクシーなんていらないって。ここは散歩部にお任せ!」
「タクシーを捕まえに駅前まで歩くより、直線距離で歩いた方が若干早くなりますよ」

 改めて携帯の地図を見ると、教会は繁華街や住宅街、商店街と言った一般の敷地にはなかった。
 ウルスラ女子高等学校の学区から近く、同じキリスト系として何かしら関係あるのかもしれない。
 確かに一旦、駅に向かい歩いてタクシーを拾うよりも、直線距離を進んだ方が早いだろう。
 しかしながら、この近代都市を直線で進もうなどと土台無理な話である。
 学園都市だけあって区画整理はされているが、それでも限度というものがあった。
 大丈夫かなと、普段の悪戯から信頼度の低い鳴滝姉妹から、勉強以外では信頼度の高い長瀬に視線を向けた。

「んー、大丈夫でござるよ。散歩部の威信にかけて、近道に関して嘘は言わないでござる」
「あー、先生信じてないですね?」
「よーし、二十分以内に到着できたら先生はジュース奢ること!」

 鳴滝妹にはジト目で見られ、指差されドヤ顔で鳴滝姉に勝手な約束を取り付けられたのは自業自得か。

「わかった、悪かった。なら二十分だな。よーい、スタート。あっ、ただしマラソンは簡便な」
「走らなくても余裕だよ。まあ、一部強制的に走らされるかもしれないけど」

 むつきが携帯のアプリからストップウォッチを取り出し、スタートさせた。
 なにやら、不穏なセリフを鳴滝姉が呟いていたが小走りになることもなく移動開始であった。
 楽しそうに手を繋いで先導する鳴滝姉妹の後を、やれやれと嘆息しながら長瀬とむつきが追いかけた。
 だがその足は校門や裏門といった校内から外へと向かう出入り口に向かっていない。
 まだ部活中の生徒が多い運動場の端を横切っていき、何処へ行くのかやってきたのは体育倉庫だ。

「お前ら、何処に」
「こっちこっち」

 質問にも答えず来ればわかるとばかりに、鳴滝姉妹に手招きされてしまう。
 やってきたのは体育倉庫裏であり、そこは学校を囲む塀とに挟まれた狭い人がすれ違うのも難しい狭い空間だ。
 仮にここから塀を超えるにしてもむつきが背伸びしても微妙に届かない高さにあった。
 クラスでもダントツに背が低い鳴滝姉妹はなおさらなのだが、双子の行動に迷いは一切ない。

「は?」

 そして、あまりの光景にちょっと裏返った声がむつきの口から洩れた。

「よっほっは!」
「お姉ちゃん、ポーズとってないで」

 体育倉庫の壁と塀の壁、順次繰り返して足を引っ掛けた鳴滝姉が瞬く間に塀の上に立っていた。
 おいおいと突っ込む間もなく、鳴滝妹も似たような身軽さで猫のように塀の上に立ち乗り越えていく。
 壁はもちろんのこと、塀にも足を引っ掛けるようなでっぱりやへこみはないはずなのだが。
 どういうことだと近づいてみると、ないはずの凹みが一定間隔でついていた。

「長年散歩部が作り上げて来た近道でござるよ。このように」

 そんなことを言いつつ、鳴滝姉妹とは異なり壁の凹みを一切利用せず長瀬は一跳躍で塀の上だ。

「せめてこういう小細工か、人馬ぐらいしろよ忍者」
「忍者ではござらんよ?」
「俺スーツなんだけど」

 多少、むつきはぶつくさ言いはしたが、元悪ガキの血が騒ぎ今日ぐらいはと童心に返ることにした。
 鳴滝姉妹を真似て壁の凹みに足をかけては塀の上へと登り向こう側へと降り立った。
 降りる時はその高さにちょっと躊躇したが、降り立ってから振り返ってみると改めて塀の高さが分かる。
 向こう側からは無理をすれば手が届く高さだが、表側からは梯子でもないと無理な高さだ。
 内側からの脱出専用ならば、防犯的にも問題ないことだろう。
 それに校門を出てぐるっと回ってくるよりは、数分以上も時間短縮になることだろう。

「先生遅い、時間稼ぎは卑怯だよ!」
「無茶言うな。こっちは慣れてないんだ、大目に見てくれ。ほら、喋っている間に」
「お姉ちゃん、急ごう。ただし、散歩部的に歩いて」

 それがルールだとばかりに、走るのは厳禁だとばかりに鳴滝妹が姉の手を引いていた。
 この調子ではいったいどんな道を通らされることやら。
 案の定とでも言うべきか、まともな道の上を歩くことの方がすくなかったかもしれない。
 垣根の上をジャンプで通り過ぎるのは序の口。
 ちょっと遠回りすれば橋があるところも、飛び石があるからと川をほぼ突っ切ったり。
 鳴滝姉妹が通れるのだから大抵の通り道はむつきも通れたのだが。
 とある建物の壁に小さい穴がある個所を潜る様な場合は、さすがに無理であった。
 そんなの関係ねえとばかりに、塀を一跳びする長瀬に上から手を引いて貰いクリアである。
 いっそ遠回りしてでも走った方が楽なのではという工程を繰り返しやって来たのは聖ウルスラ高等学校まえであった。
 ただし、校門前なんて生易しいものではない。

「いや、まさか。確かに、いくら麻帆良女子中の教師といえど。ウルスラの校内を突っ切る方より良いとはいえ……」

 むつきが見上げているのは、聖ウルスラ高等学校をぐるりと囲む塀である。
 日本式のコンクリート製ではなく、校舎との絵面に良く合う煉瓦を積み上げた塀であった。

「ここは滅多に使わないんだけど。ジュースがかかってるから、楓姉お願い」
「足を滑らせないよう、気を付けるでござるよ」

 鳴滝姉のお願いに応え、長瀬が彼女を抱えて軽く投げるように塀の上へと押し上げた。
 続いて鳴滝妹も同じように塀の上に押し上げられ、次に長瀬はまたしても軽々とジャンプで塀の上。
 そして懐から取り出した荒縄を垂らし、ぐっと踏ん張りむつきを引っ張り上げる格好だ。

「いやいや、お前ら女の子だから良いけど。大問題だからね、特に俺は」
「有事の際は拙者らが擁護するでござるよ。それに、こちら側は体育館の裏でござるから、部活の女子更衣室が見えたりと。先生的に、嬉しいハプニングは皆無でござる」
「いや、もっと根本的な」
「先生、速く。駄々こねると、ロスタイム発生させるよ」

 一応渋ってみせたが、鳴滝姉にせっつかれ仕方なく長瀬の言葉を信じることにした。
 縄を掴んでなかば力ずくで塀の上まで引っ張り上げられ、鳴滝姉妹、むつき、長瀬の順で塀の上を歩く。
 もちろん、四人の姿は校内や校庭から全く見えないわけではなかったのだが、その時間は一瞬だった。
 長瀬が言った通り、校内からの視界は巨大な体育館に即座に遮られたからだ。
 逆側からの視線も建物だったり植木が影となって、見咎められることは殆どなかった。

「鳴滝姉妹、ロスタイム三分な」
「え、本当。やった、これで慌てなくて良い」
「先生本当に良いの?」

 そんな軽口が出るぐらいに安堵したむつきであったが、それは早過ぎる安堵であった。

「むっ!」

 むつきの言葉に鳴滝姉妹が振り返り、むつきの視線も二人へと降りた時である。
 いち早くそれに気づいた長瀬の声に釣られ、細く長い一本道の前方へ振り返った鳴滝姉が急に立ち止まった。

「うわっ!」
「きゃぅ!」
「おっと、危ない」

 当然のことながら、鳴滝妹が姉の背にぶつかり、バランスを崩したところをむつきが支える。
 一体どうしてと鼻を抑えた鳴滝妹とそれを支えるむつきが前を向いて気づいた。
 塀の道のりはだいたい半分といったところであろうか。
 通せんぼをするように聖ウルスラ高等学校の女子生徒が一人、塀の上に腕組みをして立っていた。
 あやかのように国外の血が流れているのか日本人顔なのに輝くような金髪を持った女の子だ。
 その表情は決して穏やかなものではなく、最大限警戒するように厳しい視線を向けてきている。
 気圧されるように後ずさった鳴滝妹をむつきが抱き寄せるように宥め、姉の方は逆に睨み返していた。

「全く、何者かが忍び込んだと警戒してみれば……貴方たちが、噂のさんぽ部ですね?」
「そうだけど。ちゃんと発掘ルートとして登録されてるよ」

 剣呑な雰囲気故、鳴滝姉の味方をしたいが見知らぬ言葉が出て来たので鳴滝妹に尋ねる。

「発掘ルートって?」
「さんぽ部は、近道とか裏道をマップ化してるんです。それが発掘ルート。だけど、私有地なんかを通る場合は事前に許可を取っておいたり、色々ルールがあるんです」
「ちなみに、このルートは許可こそあれ女子限定でござるよ」
「おい、初耳だぞ!」

 考えてもみれば、制限ルールがなければ危険な場所など小さい子にとっては危険なルートもあろう。
 また現状の様に、男子禁制をルールとしなければいけないルートだってあるはずだ。
 限定的とはいえ女子高の内部を眺めることができてしまうこのルートが女子限定なのは当たり前。
 つまりは、同じ塀の上に立って睨んできている女の子の怒りも当たり前である。

「あー、ごめん。男子禁制って知らなかったんだ。俺は二度とここを通らないから」
「貴方はご存知なくても、さんぽ部の三人は知っていて当然ですが?」
「ですよね、正論ですね」

 一応言い訳を試みてみたが、むしろ鳴滝姉妹や長瀬以上に剣呑な瞳で睨まれた。
 こりゃ参ったと視線こそそらさなかったがむつきが困っていると、相手の女の子の表情がハッと変わる。

「貴方は!」
「ん? あぁ、俺は」
「そう、そういうこと。ついに正体を現しましたね、闇の福音の伴侶。大方、ガードの堅い中等部を諦め、あの悪の魔法使いの為にこのウルスラに標的を変えたのでしょう!」

 突然、ビシリとむつきを指さし叫んだ彼女とむつきたちの間になんだか冷たい風が流れ込んできた。
 夕暮れ時とはいえ歩き通しでジワリと体に浮かんだ汗が冷え込み寒ささえ感じてしまう。
 だが当の本人は、むつきたちの微妙な表情に気づかずノリノリで口上を続けている。

「しかし、残念でしたね。聖ウルスラ女子高等学校に、この高音・D・グッドマンがいることを知らなかったとを後悔しなさい!」
「あっ、ごめん。ちょっとタンマ」
「えっ、あ……はい、どうぞ。はっ、しまったこれは汚い悪の魔法使いの罠。しかし、正義の魔法使いたる私が一度許可したものを易々と覆すのも!」

 彼女のノリについていけず、片手をあげてむつきがそう宣言をした。
 タンマ宣言が出てくるとは思っていなかったのか、割と簡単に許可は出たのだが。
 出した後でグッドマンと名乗った彼女は、一人頭を抱えては色々と苦悩し始めたようだ。
 ただ前言撤回する様子はなく、性根は素直でまじめな子であることは疑いようもない。
 その間に狭い塀の上なのでちょっと無理があったが、可能な限りお互い近づいてささやき合う。

「俺たち、ルール破って怒られてたんだよな? あの子、なんで急に演劇の練習なんか始めたんだ?」
「先生、オブラートに包み過ぎだよ。あれが中二病って奴じゃない。高校生にもなって……」
「お姉ちゃん、むしろ私たちが中二病なんじゃ。楓姉と忍者になるための修行してるし」
「にんにん、ここは一つルール破りをなかった事にする為に、相手の趣味に付き合ってあげるでござるよ。上手くごまかせるかもしれぬでござるから」

 流石にこの年でと渋ったのはむつきだけで、割と鳴滝姉妹もやる気十分な顔であった。
 律儀にまだかなっと、こちらの相談が終わるまで馬鹿正直に待っていたグッドマンに振り返る。
 小さな体で精一杯威厳を出そうとふんぞり返っては腕を組み、鳴滝姉が言った。

「はっは、良くぞ見破った正義の魔法使いよ。我らは闇の、闇の……なんだっけ?」
「闇の福音だよ、お姉ちゃん。先生はその伴侶って設定」

 相手の設定が一度では聞き取れておらず、後ろからこそっと鳴滝妹のフォローが入る。

「そうそれ、闇の福音の伴侶を守る闇の忍び三人衆!」
「そんな、何時の間にか生徒の中に部下を紛れ込ませているなんて?! やはり、学園長はあの悪の魔法使いを自由にさせ過ぎているのよ」
「おい、急に設定が生えたぞ。学園長が正義の魔法使いの偉い人って、仙人みたいでぴったりだけど」

 あまり急に設定が生えすぎると前後に矛盾が生まれやすいので、適当にあしらって通り過ぎるのが吉だ。
 俺一体なにやってるんだろうという疑問は彼方に放り投げ、照れたら終わりとむつきも演じ始める。

「くっくっく、見つかっては仕方がない。だが、飛んで火にいる夏の虫とはこのこと。手勢を集めず、一人蛮勇に酔いしれ敵の前に現れたことを後悔するが良い。行け、闇の忍び三人衆。奴を捕えるのだ!」
「行くよ、史伽!」
「何時ものあれだね、お姉ちゃん!」
「そんな、私は誘い出されたというの?!」

 良くある漫画やアニメの悪役の様に手を大げさに振るって、捕えよと仰々しくむつきが命令する。
 その後でちょっと照れてしまったが、鳴滝姉妹はまだ照れまで達していない。
 いかにも熟練の連携技がとばかりに、てーっと危なげなく塀の上をグッドマン向けて走った。
 驚愕したように歯を食いしばりながら一歩後ずさるグッドマン。
 しかし何かを思い直したように踏みとどまっては、駆け寄ってくる鳴滝姉妹を睨みつけた。

「まだ未熟ながら正義の魔法使いを目指す身、せめて一太刀!」

 そう覚悟を決めたように強く呟いた彼女の影が形を変えたが、鳴滝姉妹やむつきは気付かなかった。
 なにせ建物に囲まれた元々が影の中にいるため、彼女自身の影は風景の影に溶けて見えない。

「さすがにそれは、まずいでござるな」

 最後尾にいた一番現状を詳しく把握している長瀬が、すばやく着物の袖口から両手にクナイを取り出す。
 何時でも投げられるよう、むつきたちには見えていない影を目で追っていたわけだが。
 彼女が感じた危機は、明確な形になって現れることはなさそうであった。
 塀の上を走っていた鳴滝姉妹がグッドマンに飛びかかるように、塀の上を飛んだ。
 恐らくこの時グッドマンには、小柄な二人が重なって一人の少女に見えたことだろう。
 一体どんな秘術をと警戒した彼女の前で、鳴滝姉妹が声を重ねて叫んだ。

「忍法、分身の術!」
「って、それ元々二人です!」

 一時姿を重ねてもいずれは分かれるわけで、律儀にグッドマンが突っ込んでいた。
 中二病の不思議ちゃんかと思えば、突っ込み体質でもあるらしい。
 それは相反する属性なので、どちらかに統一すべきとも思えるのだが。
 彼女が突っ込みで技後硬直になった隙に、鳴滝姉がグッドマンの足元を潜り抜けていった。
 まさかと自分の股座を潜っていく鳴滝姉を見ようと頭を下げたところで、鳴滝妹がその背に手をつき馬跳びで飛び越えていく。
 これら全て足元がおぼつかない細い塀の上でしているのだから、小柄とはいえさすが二-Aの生徒だけあって身体能力がずば抜けている。
 だがさらに言えば、二-Aの中でも彼女たちの悪戯心もまたずば抜けていた。

「からの、神風の術!」

 鳴滝姉妹の見事な連携に度胆を抜かれていたグッドマンは、とても無防備であった。
 流れるような連携技の最後の一撃、鳴滝姉の両手が鮮やかに彼女のスカートを跳ねあげた。
 ふぁさりと舞い上がり始めた、しかも運が悪いことに夏の夕暮れが涼しげな風を吹かせる。
 風を受けて凧が舞い上がるように、彼女のスカートもまた舞い上がっていった。
 これでもかと、中身を見せつけるように絶対不可侵の領域が周知にさらされていく。

「うわっ、お……大人だ。ゆえ吉の紐パンより」
「私は絶対無理。さすが高校生」
「いやぁぁっ!」

 慌ててグッドマンがスカートを抑えるがもう遅い。
 間近で見てしまった鳴滝姉妹は同性ながら羞恥心を感じて視線をそらしているのである。
 糸目の長瀬はちょっと不明だが、むつきは正面からばっちり見てしまっていた。

「良くも、正義の魔法使いである私にこんな屈辱を」
「いや、ごめん。謝るから、まずはここを降りてなにか履かないか? また事故が起きないとも限らないし」

 怒りに打ち震え拳を握るグッドマンを前に、さすがに演じるのは無理だとむつきは両手をあげた。
 まだ演じることを止めない彼女の根性には感服するが、高所にいるのはなにかとまずい。

「そうやって言葉巧みに……たくみ、あれ?」

 このままズボンになってしまえとばかりに、スカートを抑えていた彼女がなにか違和感を感じたらしい。
 羞恥に顔を赤らめちょっと涙目だった顔が真顔になり、ぱんぱんとお尻周りを手で叩き始める。
 なにかを確かめるように、いやまさかと何度も確かめ、その度に顔色は真逆に青くなっていく。
 やがてその手も事実を認めるしかないと動きを止め、呆然としながらも思い出すように呟いた。

「そう言えば今日は影の鎧の練習のために、全裸で。だって肌に直接身に着けた方が防御力が……」

 ぶつぶつと絶望を味わうように、一つ一つ事実を思いだし、ギギギと音を立てながらむつきを見た。

「もし、もしかして」
「いや、事故だ。信じて貰える要素皆無だけど!」
「私の大事な、まだ誰に! あら?」
「危ない!」

 これまで以上にむつきを睨みつけ怒り心頭で踏み出した一歩を、彼女は見事に踏み外していた。
 咄嗟にむつきが駆け寄りその手を掴むも、ノーパンでスカート捲りを受けて見られた跡である。
 反射的にグッドマンがその手を拒否するように払いのけ、反動で余計に大勢を崩す始末。
 悲鳴も上げられないまま彼女の体は頭から、落ちようとしていた。
 しかし緊急事態、それも生徒と呼んで憚らない相手には普段はないパワーを発揮するむつきである。
 自分もまた塀から落ちるように体を投げ出し、その腕を掴みとった。

「いかん!」

 鳴滝姉妹が危ないと叫び、これは予想外と長瀬もまた塀の上から飛び降りていく。
 グッドマンを引っ張りその顔を胸に抱く様に抱き寄せたむつきに、長瀬が手を伸ばした。
 完全に大勢が崩れている二人が受け身を取れるように可能な限りサポートする。
 二人を回転させ一番ダメージの少ない尻もちの形で落とそうとしたのだが。

「いやぁ、汚らわしい!」
「いででで!」
「二人とも案外余裕でござるな!」

 わずか数秒もないはずの空中で激しくグッドマンが抵抗したのが運のつき。
 長瀬のサポートも中途半端な形となり、どしんとかなり痛そうな音が二つ鳴り響いた。
 足りない分は長瀬であり、彼女はちゃっかり足から綺麗に着地していたわけだが。
 自分のサポートの結果を見るや否や、ぽりぽりといつもの糸目で頬をかき始める。

「どうして、こうなったでござる」
「お姉ちゃん、あれって……」
「ゆえ吉なんて相手にならないぐらい大人、になっちゃった」

 中途半端にお尻から落ちたグッドマンに、結局背中から落ちてしまったむつき。
 もちろん二人は折り重なっており、あとは語るまでもないかもしれない。
 綺麗に顔面騎乗位となる形で二人は地面の上に落ちてしまっていた。

「んごんぁ!」
「痛たたっ、あん。くすぐった……い?」

 どいてとばかりにむつきが声をくぐもらせると、痛みよりもとグッドマンが腰をくねらせる。
 おかげで余計に彼女の股座とむつきの顔の密着度が深まって行っていた。
 もしかすると彼女の方がわざとやっていたのではと疑いたくもなるほどだ。
 現状に気づくや否や、ばっと大きく跳び退ってはスカートが破れそうになる程に押さえつけていた。
 熟れたりんごのように顔を赤面させたまま、言葉にならない言葉を何か告げようとしている。

「あっ、ぁ……」

 一方で顔面騎乗位からようやく解放されたむつきは、激しく呼吸をしてはむせ始める。

「ぷはっ、げほ。なんだ、誰だ俺の息を止めたのは。死ぬかと、痛っ。背中いた、けど。すげえエッチで嗅ぎ慣れた良い匂いが……」
「責任を取ってください!」
「えっ、あ……」

 そして両手で顔を抑え泣きながら彼女が去っていくのを、呆然と見送ることしかできなかった。
 引き留めようと手が伸びることも、言葉をかけられることもなく。
 長瀬をみると視線をそらされ、鳴滝姉妹を見上げると普段は貰えない大人を見る尊敬に似た眼差しが返って来た。
 ひとまずむつきにできることと言えば、他に人が来る前に逃げることだけであった。
 再び長瀬に手伝って貰い塀の上に上り、とっとと聖ウルスラ女子高等学校を通り抜けていく。
 そこまでくれば、あとは難所と呼べるような場所はない。
 普通に道路を歩き、垣根を飛び越えたり塀を乗り越えることもなくたどり着いた。
 洋風建築溢れる麻帆良でも割と珍しい部類の教会の前へとたどり着く。
 大きな扉のドアノッカーを代表でむつきがガンガンと叩くと、しばらくして向こう側から開けられた。

「あら?」

 開かれたドアの隙間から顔を覗かせたのはシスターさんだが、意外な人がとでも言いたげにしていた。

「あっ、と。確か……高畑先生と飲んでた時にいたシスターさん?」
「それにほら、麻帆良祭の人気投票高等部の部で二位を取ったシスターさん」

 こちらも見覚えがとむつきが呟き会釈すると、鳴滝妹が後ろからスーツの裾を引っ張りささやいて来た。
 あの時むつきは檀上で落ち込んでいたので、その時のことはあまり覚えていない。
 だが夏休み初めのお疲れ様会で飲んでいた時に、刀子と一緒に近くにいたことは覚えている。
 むこうもあらと、覚えがありげに呟いたのもその時のことを覚えているからだろう。

「こちらに、春日という名の中学二年生が来ていませんか?」
「美空なら、確かにいますが。どのようなご用件で?」
「夏休み最終日だから花火大会するんだけど、これこれこういうわけでーす」

 途中から説明が面倒になったのか、鳴滝姉が春日から受け取ったメールをシャークティに見せた。

「へぇ……」

 すると一瞬、聖母の顔が鬼神になったように見えたが気のせいか。
 疲れ目かなっとむつきが目頭を押さえていると、鳴滝姉妹もぷるぷると震えていた。
 もう明日は九月、夕暮れの風は少し冷えてきたもんなと現実逃避である。

「あの子は、宿題を全くやっていなかったので奥で缶詰にしているのですが」
「あー、そこは明日の始業式後に僕がマンツーマンできっちりやらせるというのでどうでしょうか?」
「…………」

 案の定ともいうべき理由で、教会の奥に監禁されているらしい。
 ただ、何故教会なのかは不明だが、せめてものむつきの提案にシャークティがじろじろと見てくる。
 夏休み中に終わらなくてもと教師らしからぬ言葉が真面目そうな彼女を刺激したか。
 でも折角、クラスの皆で最後の思い出をというのならば、行かせてあげたいのが人情だ。
 教師としては間違ってるが人としては間違ってませんと、無意味に胸を張ってその視線を受け止める。
 すると色々と思案に暮れていたシャークティが一つため息をついて、どうぞと扉を開けてくれた。

「ココネ、この方たちを美空のところへ。大変遺憾ながら、今日のところは釈放です」
「ハイ。美空はこっち」

 教会に入ると礼拝用の長椅子の一つに座っていた小さなシスターちゃんがいた。
 冷めた目で世間を見ていそうな半眼だが、素直にシャークティの言葉に従い案内してくれるそうだ。

「ねえ、君。美空はなんで教会になんかいるの?」
「お姉ちゃん、なんかって言っちゃ駄目だよ」
「見習いシスターだから」
「アイツが、見習いシスターって。似合わないにも程があるだろ」

 小さな案内人に連れられて教会の奥へと向かったのは三人だけ。
 扉を開けたままのシャークティのそばには、何時ものニコニコ顔の長瀬がこそっと残っていた。

「貴方は行かないのですか?」
「にんにん、少々裏の事情が分かる御仁に伝えておきたいことがあるでござるよ」

 さすがに先ほどのグッドマンよりは人生経験豊富故か、それともシスターという職業柄か。
 唐突な長瀬の裏を知ってますよ宣言の前に、シャークティーはぴくりと眉を動かすのみであった。

「実は、先程。聖ウルスラ女子高等学校の敷地内で、貴音・D・グッドマンなる魔法生徒に危うく先生と鳴滝姉妹が魔法の存在を暴露されかけたでござる」
「は?」

 だがさらに突飛な事情を暴露されては、裏返った声で問い返さずにはいられなかったようだ。
 そこで長瀬が改めて詳細な説明を行い、勘弁して欲しいとチクリと釘を刺しておいた。
 もちろん、女子高の敷地にむつきが足を踏み入れたことも悪い。
 だが正義の魔法使いを目指す人にとっては、魔法の秘匿の重要さに比べれば小さなことだろう。
 案の定、シャークティはむつきに向けた時以上に大きく、それは大きくため息をついていた。

「あの子の担当はガンドルフィーニ先生だから、注意して貰います。それで彼女は、許してくれるかしら?」
「まあ、今回は未遂でござるし。エヴァ殿もあまりうるさくは言わないでござるよ、たぶん。他人にガミガミするより、先生とらぶらぶしていたい年頃でござる」
「全く想像できないわ。あの闇の福音が、何処にでもいる一般人と……」

 どう想像しても、エヴァがむつきを虐げているか、血をむさぼっている想像しかできない。

「シスター殿は、エヴァ殿と言葉を交わしたことは?」
「殆ど、事務的なこと以外はありませんが?」
「まともに喋ったこともない相手のことを想像できる方が変でござるよ。拙者も、アメリカの大統領はそもそも名前も知らないでござるが。朝食に何を食べているか、想像もできないでござる」

 相変わらずの糸目で何処を見ているのか、にんにんと笑みを浮かべながら長瀬がぽつりとつぶやく。
 何気ない一言ではあったが、それが小さな針にでもなったかのようにシャークティの心を貫いた。
 今まで名前や悪名以外何も知らない相手を、一方的に嫌うか遠ざけていたのだ。
 いうなれば同じ組織に属する隣人と言えなくもない相手を愛する出なく遠ざけていた。
 それこそ相手が朝食に何を食べているかさえ、想像できないぐらいに。

「こういう時に、日本では一本とられたというのかしらね」
「にんにん」
「ところで、日本にはまだ忍者っているのかしら?」
「忍者ではござらんよ」

 ひとまず、春日のクラスには忍者が一人いるのねとシャークティは知ることができた。
 その同じクラスにエヴァがいて、他にもいろいろと問題児がいたりする女子中等部の二-A。
 半ば麻帆良にいない高畑に代わり、クラスを纏める一人の一般人に少し興味を持ったシャークティであった。









-後書き-
ども、えなりんです。

ラブコメで”偶然”女の子に顔面騎乗位されてしまうのは定番。
あと、はいてない時に限ってスカートが(略
以前この人の出番云々で聞いた時に、高音とあったので出してみました。
なんていうか、ちょっとアレな扱いになってしまいましたがw
でも原作からして、こんな役柄でしたよね?

次回が第二部のラストです。
花火大会やって、最終日の夜をちょろっとやります。
エッチな話はなしですが。
来週の土曜日です。



[36639] 第百話 全員まとめて掛かって来い!
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/02/23 22:13
第百話 全員まとめて掛かって来い!

 夏休み最後の思い出として執り行われた花火大会の開催地は、寮からほど近い公園である。
 まだ薄らと明るい午後七時から行われたが、三十分もすれば花火が彩れる黒いキャンパスとなっていた。
 さすがに八月も終わりともなれば、日が短くなり始めたと体感できる。
 その公園の中で総勢三十一名が手に花火を持っては火を点け、火花の彩と共に公園が薄い煙に覆われていた。
 当然、それだけの規模とも慣れば必要な花火の量もそれなりに必要となってくる。
 しかしペンキの禿げた古びれたベンチの上には、貯蔵は十分とばかりに手持ち花火が積み上げられていた。
 その隣で、仕事を失くした若者のように脱力したまま星空を見上げるむつきを添えて。

「メシア、気分が優れないなら一っ走りジュースでも買ってくるっすよ」
「メシア?」
「良いから、お前はとち狂ったこと言ってないでココネちゃんの面倒見てろ」

 今にも片膝ついて跪きそうな勢いでそうむつきに尋ねたのは春日である。
 教会でシャークティに文字通り缶詰にされていたところを救い出され、むつきをそう呼び始めた。
 もちろん、彼女の軽いジョークなのだろうが、今は皮肉以外には聞こえない。

「忍法、花火旋風。熱ッ、これ熱ッ!」
「お姉ちゃん、火花飛んでる。飛んでるから! あと、それやってること沖縄のつくもさんと同じ!」
「えっ、じゃあ止めとこう」

 両手に花火を持ってくるくる回っていた鳴滝姉が、妹に指摘され咄嗟に我に返っていた。
 皆が思い思い、山と積まれた花火を取りに来てはファイヤーしているわけだが。
 この花火は鳴滝姉妹の陰謀により、予定の金額を大きく超えたむつきの援助により買われたものだ。
 春日を迎えに行く途中で、聖ウルスラの女の子の大事な部分を見てしまったアレ。
 皆に黙っていて欲しければと、マッチポンプという言葉が即座に浮かんだものである。
 なにしろ彼女のスカートをめくったのは、そもそも鳴滝姉ではなかったか。

「高いもんじゃねえけど、量が量だよな」

 さりげに晒された可愛い従弟はさておき、積まれた花火の一本を手に取りぷらぷらさせる。

「夏祭りに、旅行。そして花火大会。うん、満足いく夏休みだった。高畑先生とは、一回しか遊べなかったけど……これはアレね。ぎゃくせつてきに、一回は遊べた!」
「せや、一回遊べたんやから。次も絶対ある。先生なら、そんなチャンス作ってくれるえ。なあ、せっちゃん?」
「はい、先生は。約束は守ってくれますから」
「チラ、チラ?」

 さりげなくという言葉がむなしくなる程にアピールされ、わかったわかったと手を振った。
 今までずっとぐったりしていたので、皆はそっとしておいてくれたわけだが。
 折角の思い出作りに御呼ばれしたので、このまま最後までこうしているわけにもいかない。
 心機一転、佇まいを正してさて、何処のグループからと視線を巡らせる。
 この時、チャンスかとピキンと瞳を光らせたものがチラホラ。
 佐々木がアキラの腕を引いたり、早速動こうとした桜子の頭を後ろから美砂がわし掴んだり。
 他にも興味ない振りしてじりじり距離を詰めるあやか、はたまた暗闇の中で肉食獣の獣のように隙を疑う古。
 うわあっと嫌そうに、その一瞬走った緊張感に対し顔をしかめた釘宮が一種清涼剤にも感じる。

「先生!」

 幾人もの嫁が我こそはと互いを牽制する中で、それに気づかず動いたある意味で勇者がいた。

「あれ……ああ、宮崎か。一瞬分かんなかったぞ」

 公園内の外灯と周囲の闇夜を彩る花火ぐらいしか、明かりがなかったこともある。
 しかし、それでもむつきが宮崎を当人だと識別できなかったのには理由があった。
 髪型が普段と全く異なっていたのだ。
 彼女は恥ずかしがりやの性格通り、長い前髪で目元をすっぽり覆うような髪型である。
 だが今現在むつきの目の前にいる彼女は、多すぎる前髪を梳いては分けて、さらに後頭部で小さなポニテを作っていた。
 結果、長い前髪に隠れた目元は明らかとなり、普段の彼女とは印象ががらりと変わっている。
 以前に夕映に聞いた覚えがあったが、大きな瞳は恋に輝きキラキラと可愛らしく見えた。

「これ、花火どうぞ」

 周囲の花火に負けないぐらい顔を赤くした宮崎が差し出したのは一本の花火である。
 良く分からないが一応受け取ると、宮崎はそのままぴゅーっと逃げていく。
 暖かく見守っていた夕映や、生暖かく見守っていた早乙女の下へと。

「や、やったよ。ゆえゆえ、先生に花火手渡しちゃった」
「何処を見れば、やったと言えるのか。のどか、先は遠いですよ」
「ぐぅ、花火の煙でせっかくのラブ臭が……おっ、つーんと来た」

 どうやら夕映としては隣り合って花火をさせるつもりだったらしいが、彼女にはハードルが高かったらしい。
 どうしたものかと、貰った花火をくるくる回していると、ベンチの隣に座る影が。

「はい、先生。火をどうぞ」
「お、おう。やって良いのか?」

 お皿型の蝋燭立てを手にやって来た那波が、すすっと素早く座って来た。
 意外な伏兵の登場に美砂たちのみならず、むつきもちょっと戸惑った。
 折角宮崎がくれた花火を当人がいないのにやってよいか悩んだのもあるが、那波だからだ。
 沖縄での例の落とし穴事件以降、まともに会話することもなかったのだが。
 妙に距離感が近いというか、隣に座った彼女のロングスカートに隠れた太ももが触れ合って暖かい。
 サマーセーターに押し込まれた巨乳は健在で、ちょっと身をよじれば肘があたりそうである。

「おーい、宮崎。花火サンキューな」

 一応断りをいれておいたが、当人ではなく夕映からどうぞと手を差し出された。
 そして那波が持ってきてくれた蝋燭に花火を添えて火をつける。
 すぐに黄色か緑に近い炎が細い棒の先から吹き出し、むつきとその隣の那波を照らし出す。
 綺麗は綺麗なのだが、那波がそっと寄り添ってくるので視線がどうしてもそちらに行ってしまう。

「あー、なにか相談ごとか?」
「私が隣にいては迷惑ですか?」
「全然、ただ……時々胸に目がいくのは勘弁してくれ。もはや、俺にはどうしようもない」

 半分冗談、半分本気で言ったのだがくすりと笑われた。

「では、お詫びに今度私が通っている孤児院に来ていただけますか? 少々、男手が必要で」
「お前、なんだかこの前からちょっとずるくなったな」
「先生にだけです。なんなら、ちょっと肘が当たるぐらい事故ですよ?」

 もはや完全に花火から視線が外れてしまい、事故なら仕方がないと本気で考えてしまった。
 ちらっと横目で見た那波のおっぱいは、サマーセーターが引きちぎれそうな程に丸く大きい。
 アタナシアとどっちが大きいだろうか。
 最終的にやっぱり事故ならと左の肘をちょっと動かしたが、見事に空ぶりである。
 あれっと横を見ると既にそこに那波の姿はなく、一瞬前に立ち上がったようであった。
 ベンチから一歩進んだところで軽く振り返っては、悪戯っぽく小さく舌を出していた。

「悪魔かぁ!」
「悪魔との契約は守らないと怖いですよ、先生」

 なんだか痴漢の冤罪を吹っ掛けられたような気分である。
 あっちいけっと半分涙目で、いつの間にか火が消えていた花火を近くのバケツに放り込む。
 当然、悪魔との契約は周りから見られていたわけで、ひそひそと語り合う声が多数聞こえた。

「ちづ姉もちづ姉だけど、先生……」
「けだもの、生徒の胸触ろうとするとか」
「おっぱい星人」
「仕方ないって、メシアも男だから。今日の私は全面的にメシアの味方」

 村上や釘宮からはちょっとばかりの軽蔑のまなざしと、ザジはよくわからない。
 覚えた日本語をただ言ってみたかっただけなのか。
 ただ自分の胸に手を当てむにむにしないでほしい、余計に那波の胸が惜しくなる。
 あと春日はフォローしているつもりなのだろうが、もうそっとしておいてほしい。

「ていうか、春日。お前、明日の始業式の後で居残りって分かってるか? 誰がただであの状況から救い出す奴がいる」
「メシアが実はユダだった件について。ちくしょぅ!」

 今にも裏切ったなと叫びそうな春日は、肩車したココネに頭をぽんと慰めるように叩かれていた。
 ならばせめてもと、この瞬間に閃光のようにとばかりに花火を両手持ちである。
 小さな仕返しはその辺にしてだ、相手が違う気もするが。
 立ち上がっては煙充満する周囲を見渡して、目的のパイナップル頭を探し出す。

「朝倉、カメラパス。お前、撮ってばっかで自分の写真ないだろ」
「おっ、先生代わりに撮ってくれるの? 使い方……知ってるよね」

 若干笑いながら和美がそう言ったのには、以前沖縄の秘密の洞窟内でイチャつきながらむつきが撮った経緯があるからだ。
 むつきも前のと同じだよなと受け取ったカメラを確認し、まずはと和美をフレームにいれる。
 しかし、ちょっとタンマと言わんばかりに軽く蹴られた。
 スカートのポケットから手鏡を取り出した和美が、ちょいちょいと前髪を直し始める。
 女の子は色々と大変だと思っていると、周囲の明るさが若干減ったような気がした。
 なんぞと周囲を見渡せば先ほど、和美が浮かべたような苦笑いをせずにはいられなかった。
 むつきがカメラで写真を撮ると知るや否や、殆どの子が手鏡で身だしなみを整え始めたのだ。

「先生、はいチーズ」
「お前が言うんかい」

 良いけどと、準備が完了した和美がピースサインと共にポーズを取ったので一枚カメラに収める。
 カメラの腕前なんてむつきにはないも同然だが、被写体が文句なしの美少女なのだ。
 その出来栄えを確認するように、和美がむつきの両肩に手を置き、背伸びしながら背中越しにカメラの液晶を覗き込む。

「今すぐ暗がりに連れ込んで悪戯したいぐらい、可愛い」
「恋人の相手に忙しいのも分かるけど。セックスフレンドも構ってくれないと、元彼に走っちゃうよ」

 どうやらわざわざ背中から覗き込んだのは、その豊かな胸を押し付けて誘惑、もしくは拗ねてるぞと伝えているらしい。
 そりゃ悪かったと、暑苦しいと邪険にした振りをしながら、肘でおっぱいを突きながら引きはがす。

「先生こっちも。美人チア部三人衆も可愛く撮ってよ」
「えー、美人は良いけど。私も?」
「クギミーがいないと、思い出になんないって」
「クギミー言うな。はあ、しゃあない。いえー!」

 美砂が花火そっちのけで次は私と声をあげ、乗り気でなかった釘宮の背を桜子が押す。
 結局、二人がその気ならばとやけくそ気味に花火を指先でくるくる回しながら釘宮もポーズを取る。
 チア部らしく腰が振られはためいたスカートがきわどい部分までめくれ上がっていたが。
 きわどいだけのギリギリの部分で、これまた三人の美少女を写真に収めた。
 今度は三人なのでむつきは中腰の格好で、撮った写真を美砂たちに見せてあげる。
 釘宮はそうでないが、美砂や桜子はべたべたとむつきとスキンシップしつつはしゃぐ。

「あっ、さりげに桜子センターとりよって」
「にゃはは、可愛い順。可愛い順」
「となると、私が二番で美砂が三番かって。にゃにおー!」
「私が一番可愛いに決まってるでしょうが!」

 流石に分かっている美砂と桜子は、この場で誰が一番かとむつきに食ってかかりはしない。
 ただ胸を張って可愛い順とのたまった桜子を美砂と釘宮で追いかけ始める。

「先生、次こっちやこっち。右にせっちゃん、左に明日菜のハーレムやえ」
「超ご機嫌だな、近衛。顔が今にもとろけそうだぞ」

 刹那は元より、神楽坂とも手を繋ぎ完全に花火とは無縁の状態だが木乃香はご満悦である。
 代わりというべきか、両手が塞がる木乃香の代わりに、刹那と神楽坂が花火を持っていた。
 だが刹那のまなざしは木乃香のもので、若干あきれ顔の神楽坂も花火なんてみていない。
 この場では主役のはずなのになと思いつつ、見て貰えない花火も一緒に写真に収めておく。

「神楽坂、酒呑のとこでのバイトはどうだ。肉体労働だけど、辛くないか?」
「全然、むしろ天職かも。渋いおじ様は多いし、皆優しくしてくれるし。超楽しい!」
「そいつはなにより」

 今度は相変わらずとむつきのみならず、木乃香や刹那から呆れられる神楽坂である。

「先生、次は私と夏美ちゃんとで」
「いえいえ、ここはやはりのどかとのツーショットを」
「おい、むつき。さっさと撮りに来い!」
「私達も、先生。アキラを忘れちゃ駄目だよ!」

 那波から夕映、エヴァに佐々木と超モテ期である。
 リクエストにお応えして、声がかかる傍から写真に撮りまくっていった。
 那波と村上は、二人だけだと寂しいということで自分撮りの要領で何故かむつきも加わったり。
 顔を真っ赤にして逃げる宮崎を夕映と早乙女が両側からガッチリガードし、むつきを加えたフォーショット。
 エヴァはむつきが抱っこし、絡繰とさよが加わり、両手が塞がっていたので亜子に撮って貰った。
 当然、流れとしてカメラを絡繰に渡して、アキラと亜子、佐々木とちょっと余所余所しい明石の五人。
 ここまで来たら、本当に花火云々よりもいかに多くの思い出をカメラに残すかであった。
 小鈴や古、葉加瀬に四葉と超包子組で一枚、長瀬と龍宮の謎のライバル組。
 春日は折角なのでココネちゃんも一緒に、きっちり撮ってあげた。
 あとじーっと閃光花火の火の玉を見ていたザジも撮ってのだが、一瞬何か黒くて背の高い白い仮面をした何かが見えた気がしたがたぶん気のせいだ。
 カメラマンむつきの八面六臂の活躍で、仲良しグループから異色のグループまで。
 最後は地面に設置し炎を噴き出す花火を四方に置き、きっかり整列しての集合写真で締めである。
 綺麗に皆が整列し、何故かむつきは真ん中。
 ベンチに置かれたカメラのボタンを押したのは、絡繰のロケットパンチであった。
 最後の一枚の中で、一番のどや顔笑顔を決めたのが誰なのかは語るまでもないだろう。









 二時間近く煙まるけになって、彼女たちの最後の思い出作りも無事終わったわけだが。
 寮へと帰っていく二-Aの面々と別れ、むつきはエヴァとさよを伴い、三人でひかげ荘に帰って来た。
 絡繰がいないのは、二学期が始まる前の最終チェックをしたいと小鈴と葉加瀬が言い出したからだ。
 三人とも煙の臭いが衣服や髪に染みついており、お風呂に入ろうとしたのは自然の流れであった。
 いつも通り、準備が全くいらないむつきが一番にお風呂場に向かい、二人は後から。
 特に言葉にすることもなく阿吽の呼吸のように、玄関を潜って示し合わせることもなくそのままである。
 むつきはそのまま脱衣所に向かい煙臭いシャツやズボンを洗濯籠に放り込み、あとはタオル一枚。
 扉を開けて火薬のそれとは違う煙に包まれ、洗い場で体を一通り洗ってから湯船に浸かった。
 そこまではおよそ予定通りだったのだが、ちょっと予定と違うことが起きた。
 むつきに続き、からりと外と脱衣所を隔てる引き戸を開けて入って来たさよのことである。
 小さく白い珠のお肌を恥ずかしそうにタオルで隠した彼女の後ろ、小さなエヴァが走り込んでくると思いきや。

「は?」

 人影は三つあった。

「いやん、先生目がもうエッチ。煙臭いとか思われたくないから、後で。可愛がってね」

 体をくねらせ、きわどい部分だけ器用にタオルで隠してはチラチラ見せているのは美砂だ。

「椎名さんには、私の石鹸等をお貸ししますね」
「ありがと、さよちゃん。私はまだ、お肌磨いてもちょっと無理だけど。美砂には負けないよ!」
「さよのは、私が厳選した一流のものだけだからな。感謝して使えよ」
「なにそれ、聞いてない。アタナシアさん、私も試しに使ってみたい!」

 さよは当たり前として、腰と胸にタオルを巻いた桜子とその両肩に手を置いているアタナシア。
 三人増えたのは良いが、ちみっ子は一体どこへ行ってしまったのか。
 まだアタナシアは良いとして、美砂と桜子はそもそも寮にいなくてはならないはずだ。
 突然のことでうまく言葉が口から出ず、けたけたと笑いながら美砂が言った。

「先生、安心して。クギミーが上手くやってくれる手はずだから。ここに来るのも、桜子に道選んで貰ったから絶対見つかってないって」
「私は、この二人に話があるからと。エヴァ経由で呼び出されたのだ。もちろん、この後は分かっているな?」

 さよと桜子が仲良く洗い場に向かったので、代わりに美砂とアタナシアが簡単に説明してくれた。
 とはいえ、言葉足らずで何故アタナシアを美砂が呼び出した等は分からない。
 ただここで追い返して、返って他の誰かにみつかりかねない危険をおかすわけにもいかないだろう。
 星空の向こうでクギミー言うなと吠える釘宮に、すまん頼むと敬礼だけはしておいた。
 それだけでなく、後でちゃんとすまんとメールを入れておくとしよう。
 きゃっきゃと女の子たちが体を洗う間、何の話だろうとぼんやり考えつつむつきは待ち始める。
 ほげっと夜空を見上げながら明日からの仕事も少しは頭の隅で考えている間に、彼女たちはやってきた。
 何処をみるとなしに空を見上げていた視界の隅に、白く細い綺麗な足が見えた。
 つられて横を見ると、胸や下腹部をタオルで隠した桜子の足であった。
 男の本能として足元からジロジロと、主に濡れて透けたタオルの向こうを想像したわけだ。
 ひざ元から太ももへむっちり感とは程遠い健康的なしなやかさ。
 大事な部分はタオルで隠れているが、きめ細かくないタオルではすべてを隠しきれていない。
 肌色とは違うわずかなヘアが垣間見えた気がしたが、ただの影かは永遠の謎である。
 そして下半身のみならず、この細い腰もまたと視線を上げていくと桜子と目があった。

「先生、じっと見られると……」

 まだそこまで深い関係となっていない桜子は、欲望の視線に耐えかねたらしい。
 羞恥もあるが、僅かな怯えをひた隠すように体をよじりその視線から逃れようとしていた。

「あっ、すまん」
「おっと足が滑った」
「にゃわっ!」

 そんな桜子の背中を軽く蹴って湯船に落としたのは、考えるまでもなく美砂であった。
 こちらはタオルで隠しているものの足を上げているので、ばっちり割れ目まで見えてしまっている。
 だがむつきの視線に気づいても、いや気づかない振りで見せつけては小さく妖艶に笑う余裕もあった。

「なにすんのさ、美砂。んもー!」

 湯船の中からお湯を滴らせながら立ち上がった桜子が、顔を拭いながら両手を上げて威嚇する。

「桜子、下。下、タオル落ちてる。桜子のさくらんぼ、見えちゃってる」
「わーっ!」

 桜子が身に纏っていたのは温泉のお湯と湯煙だけ。
 美砂に勝るとも劣らない年齢の割に大きな胸は、桜色の突起を空に向けツンとたっていた。
 大事な一瞬をと手早く視線を巡らせ、濡れてひとまとまりとなったヘアまでじっくりと。
 見る前に美砂の指摘で気づいた桜子が、水しぶきを振りまきながらお湯に沈み込んだ。

「大事なところ全部見られちゃった。先生、責任とって結婚して!」
「くわっ、さすが桜子。転んでもただでは起きない。先生の正妻は私のものだ!」

 敢えて見せないように密着してきたようにも見えたが。
 桜子が袂に飛び込んできたのでしっかり受け止め、湯船の中で暴れるなと美砂の手も引いた。
 状況が状況だけに仕方ないので桜子を正面に座らせ、美砂は定位置とも言える右側。

「全く騒がしい奴らめ。こう、しっとりと大人の魅力で男を引きつけられんのか」
「それ、絶対にちがう」

 そっと湯船に入って来たのは良いが、アタナシアがいるのはむつきが持たれる岩の上だ。
 彼女の素足だけがむつきの肩越しに湯船に浸かり、器用に指先で乳首周りをさわさわされる。
 性的かどうかでいえば大人の魅力だが、額縁通りの大人の魅力では絶対ないはず。

「あなたさま」
「さよ、大正解」

 気づかれることなく湯煙に隠れ湯船に入り、そっと近づき左肩に首を持たれ駆けて来たさよの肩を抱く。

「アタナシア、夏場でも冷えるだろうから湯船に入れ。そろそろ、話を聞こうか」
「やれやれ、律儀だな。全員に一発やってからでも構わないだろうに」

 背中と岩場の間にスペースをつくり、アタナシアの居場所を背中に作らせた。
 桜子は正面むいて抱き合い、美砂は右側、さよが左でアタナシアが背中。
 同時に愛するのは四人が限界かなと頭の隅でおもいつつ、今はと真面目に考える。

「それで、アタナシアまで呼んでなんの話だ?」
「私の独断じゃないよ。ちゃんと長谷川とか超りんとかとも、話つけておいたから。あのさ、ひかげ荘のことクラスの大部分にバレちゃったし。状況も色々と変わってきたでしょ?」

 美砂の言葉は、単純に人数が増えたと言っているわけではないだろう。
 釘宮は少し危うかったが、基本的に佐々木たちもひかげ荘を知らない人に教えるつもりはない。
 当然、むつきとのただれた関係を必死に正そうと、チクることもしないはずだ。
 だが変わって来たのはひかげ荘についてだけではなかった。
 ひかげ荘を知った桜子や古、知らないであろう宮崎。
 この三人に共通するのは、むつきへの好意を日常的に外で明らかに向けていることだ。

「私やくーちゃんが、明日から急に先生と余所余所しくするのも変だし……」
「私の見たところ、あの宮崎のどかという小娘はもちろん。那波千鶴もどこか怪しいな。お前に好意を向ける雌の匂いがする」
「雌って……ん? 那波が、何故に?」
「あなたさま、気づいていらっしゃらないんですか? 花火大会での那波さんのお言葉。明らかな、デートのお誘いでしたけれども」

 アタナシアのみならず、奥ゆかしいさよにまで指摘され改めて思い出す。
 急に隣に座って来た那波が胸を触らせようとして、罰だからと孤児院の手伝いをと言い出した。
 当初、あの巨乳に触れられなかった後悔で分からなかったが、確かにあれは遠回しなデートの誘いだ。
 行先は孤児院かもしれないが、その後は那波に用事がなければむつきの性格上寮まで送る。

「宮崎はまだしも、那波は……相談受けて、それで。落とし穴の底で裸で抱き合ったな。あれか、なんだっけ。あいつ孤独恐怖症でなんとか効果か?」
「先生には思い当たることがあるみたいだし、そうなんじゃない?」

 正妻を主張するなら、もう少しだけ独占欲出しても良いのよと軽く言った美砂に目を向ける。
 ただ現状、誰かが独占欲を出したら酷いことになるので、小首を傾げた美砂は正解なのだろう。

「分かった。表だって俺に好意を向ける子まで出て来たのはちゃんと理解した。良く考えたら、やばいじゃん。全然関係ないところから疑われたりしたら……」
「その為に、アタナシアさんにまで集まって貰ったの!」

 頭を抱えたむつきに話はこれからだと美砂が腕を引っ張り意識を向けさせた。

「まずさ、大前提として本屋ちゃんや那波さんに先生に近づくなとか好意を向けるななんて言えないよね?」
「そりゃな。それじゃあ、藪蛇だ。桜子もさっき言ったけど、明日から急に桜子と古が余所余所しいのも変だ。急にどうしたってなる」
「だから、配役を決めておきたかったの」
「配役?」

 まだ美砂が言わんとすることが見えず、オウム返しで問うたのだが正面に抱いた桜子が小さく手をあげた。

「私が、先生に表だって好意を振りまいて軽くあしらわれる役。もちろん、表だけ」
「ふむ、言わんとしていることが読めた。ならば、私は表向きなむつきの恋人役だな?」
「うわっ、アタナシアさん凄い。なんでもう分かっちゃうの?!」

 説明の途中というか初めですべて覚ったように、アタナシアが自分の役割を口にしたが当たりらしい。
 説明役の美砂がそういうのだからそうなのだろうが、まだむつきやさよは小首をかしげている。

「一体、どういうことでしょうか?」
「つまりだ。むつきには、大人のちゃんとした相手がいることを周囲に知らしめる。この私だ。別にお前たちを下に見るつもりはないことを言っておく。常識的に考えて、私と付き合う男が女子中学生にうつつをぬかすか? まだ未熟な少女の魅力に、目がくらむか?」
「あっ、なるほど」

 さすがにここまで説明されれば、むつきとさよにも美砂たちの考えが見えて来た。
 実際、むつきの目が女子中学生にくらんでしまっているのは置いておいて。

「どうせアタナシアとの関係は知られてるし、いっそ表向きに彼女になって貰えば良い目くらましになる。職員室のデスクに写真立てでも置けば、完璧だ」
「それなら、先生が宮崎さんや那波さんに冷たくあたって傷つけることもないですね」
「だけど、その予防線として私が冷たいのは嫌だけどあしらわれる役目だよ。古ちゃんは、ちょっと本気で傷ついたり、演技できそうにないし。チア部は笑顔が基本、大丈夫!」
「アキラも結構、演技でも冷たくされると本気で凹みそうだしね」

 古とアキラについては、確かに演技でもむつきに冷たくされれば本気で凹みそうである。
 その点と言って良いのか、桜子ならば笑顔で切り抜けてくれそうだ。
 なんといっても、彼女には最強の武器でもある豪運があるわけだし、切り抜けられないことがない。

「で、最後にさよちゃん」
「私ですか?」

 全員が自分の役割を理解したと思ったら、美砂が一人役割の無かったさよの名を呼んだ。
 さよ本人も自分に役割が回ってくるともおもわず、きょとんとしている。

「さよちゃんには一番羨ましい役割があるんだから。くぅ、今からでも代わって欲しい!」
「話の流れから、そうなるだろうな」
「さよちゃんにはさ、平時の先生のお嫁さんをして欲しいの。ほら、私らは寮生で四六時中ひかげ荘にいられないし。毎日、先生のお弁当とご飯を作ったり、先生が寂しくないよういっそ管理人室で過ごして欲しい」
「お弁当とご飯はまだしも、管理人室は。あそこは柿崎さんの、正妻さんのお部屋で」

 さよが慌てたのは、そこらしい。
 普段はそうではないが、桜子が来てから正妻は私だと主張していたのは美砂だ。
 皆が各々部屋を貰う中で、美砂だけは頑としてむつきのいる管理人室から出なかった。
 夏休みの間は、他の子との性活がない場合は二人で一緒の布団で寝ていた。
 その部屋を二学期が始まってから、さよに代わりに住めと言っている。
 彼女の性格上、遠慮以外の選択はなかなか出てこないだろう。

「ぶっちゃけ、俺もお願いしたいかも。エヴァと絡繰はいるだろうけど。一人の布団は寂しいな」
「あなた様が……けれど、本当に私で」
「それは、毎日お弁当だったりご飯だったり。私からすれば、ちょっと面倒を押し付けるご褒美的なものかな。もちろん、結婚したらちゃんと先生の為に頑張るけど」
「ですけれど」

 美砂にとっては若干面倒でも、さよにとってはむつきの為にご飯を作るのはご褒美だ。
 だから美砂が許可をだしてもなかなか折れようとする気配はなかった。

「全く、良いか。良く聞け、さよ。お前が作る弁当は、表向きには私が作ったことになるのだ。きちんと手間をかけて、見た目も味も良い完璧なものを作れ。日本食ばかりでは怪しいから、時々で良いから洋風も作るのだ」
「うわぁ、さよちゃん。超大変そう。ご褒美の一つでもないと、私もちょっと」
「というわけだ、さよ頼む。むしろ俺より、アタナシアが満足するレベルの弁当だ。凄く大変だろうけど、頑張ってくれ」
「はい、わかりました。皆さんが満足するお弁当を全身全霊をかけてつくります……なので、平時は少しだけあなた様に贔屓させていただきます」

 アタナシアが発破をかけたり、桜子がおどけたりしてようやくさよが頷いてくれた。
 全身全霊の後は小さく蚊の鳴きそうな声で呟き、むつきの左腕に抱き付き小さな胸を押し付けている。
 この子はかわいいなと皆でほっこりしたものだ。
 改めて話を整理すると、アタナシアには表向きには正式な彼女となってもらう。
 桜子には、むつきはアタナシア一筋と知らしめるために熱を上げるも報われない役目を。
 常時、麻帆良にいられないアタナシアの代わりに、さよには色々と影で骨を折って貰うと。
 おおよそそこまですれば、むつきへの変態鬼畜教師という疑いは向かないことだろう。
 その実質のところがどうであれ。

「ん、てか。本当の正妻さんである美砂はなにするんだ?」
「円と一緒に、脈ないんだから諦めなって桜子を茶化す役目。あとは、先生に凄い美人の彼女がいるって噂広めたり。まあ、普段通り?」
「私にも素敵な彼氏がいるんだって、その後で砂糖を振りまくんですね。分かります」
「本当のことだから、良いじゃない。私の彼氏、恰好良くて素敵だもん!」

 彼氏相手に惚気てどうするのか、くらえおっぱい攻撃とばかりに右腕におしつけてくる。
 ある意味いつものことなので、はいはいとあしらったわけだが。

「でも、そろそろ私も一番最初に好きになったからって正妻の座に胡坐かいてられないのよね」

 茶化してふざけているかと思いきや、突然真顔になって美砂がそう呟いた。
 反応の落差にむつきのみならず、桜子やさよも驚き、冷静に面白そうに笑っていたのはアタナシアぐらいだ。
 美砂はむつきの腕を手放し、お湯の中で一歩後ろに下がってからふいに立ち上がった。
 タオルで体を隠すこともなく、胸はおろか、下腹部のお湯に濡れた若草さえ隠さずにいた。
 星空を見上げるように上を見上げては大きく息を吸い込み、大きく伸びあがった両手のうち降りて来た左手を腰に当てる。
 右手はそのまま桜子、さよ、アタナシアの誰でもない全員を指さすように突き付けた。

「今までは控えめなアキラとか、表だって結婚しづらい委員長とかに救われてきたけど。私の格好良い彼氏は、とても魅力的で美女、美少女が虎視眈眈と狙ってる。だから、全員まとめて掛かって来い!」

 この場には三人しかいないが、その指先がさす相手はもっと大勢いることだろう。
 ひかげ荘を知る者だけでもなく、知らない宮崎や那波、クラスメイト以外にもいるかもしれない。

「私は絶対正妻の座を譲らない。先生と正式に結婚するのは私、柿崎美砂。その為に、今以上に魅力的な女の子に。明るくて可愛くて綺麗でエッチな、女の子になる。奪えるもんなら、奪ってみなさい!」

 先日、千雨の作ったウエディングドレスを着た時以上のどや顔であった。
 それだけ自信が、今だけでなくこれからも努力していくつもりだからこそだろう。
 そんな美砂の宣誓に触発されるように、にやりと笑ったアタナシアが面白そうに立ち上がる。
 挑戦的な視線を向ける美砂に正面から立ち向かい、その距離は十数センチもない。
 二人の胸がぶつかりあい、挟まれたいと思うぐらいに互いの重量で潰れあう。

「葛葉刀子が脱落して、こちとら少し相手に飢えていたところだ。これまで小娘だと侮っていたことを詫びよう。この私を前にしても、同じ台詞が吐けるか?」

 言えるのかと、美砂より数段上の乳圧でむにょんと伸し掛かり押していく。

「歳は関係ない。大事なのは愛、愛される為の飽くなき努力。正直、今まで正妻の座に胡坐かいてて怠ってたけど。まだ間に合う。私が正妻だ!」
「良い気迫だ。面白いぞ、柿崎美砂。そういう覇気のある相手と、むつきを取り合いたかった。で、この場にいない者は仕方がないとして。二人はどうする? さよ、流石にこの場で手を引く程、私は優しくないぞ?」
「私だって負けないよ。って、おっぱい届かない。美砂、どうやってんの? アタナシアさん、背高過ぎ!」

 その場の勢いもあろうが、恥ずかしがってはいられないと桜子が参戦である。
 二人のおっぱい相撲に横からカチコミをかけるが、どうやら背が足りずに届かなかったらしい。
 しかし、美砂と桜子の身長差は一センチしかないはず。
 ならば何故と桜子が美砂の足元をみると、お湯で見えづらいが必死に背伸びをしていた。
 表面上は平然としているが、早くも白鳥のように見えないところで努力を始めているらしかった。

「あれ、桜子はやくも脱落? 相手になんなーい」
「くぅ、いつの間にか背だけでなくおっぱいまで私より大きく。おっぱい相撲に私も入れろぉ!」
「はっはっは、貧弱、貧弱ぅ! こちとら貧乳相手ならば二人がかりでもかまわんぞ?」

 アタナシアの外国産に対し、なにをと美砂と桜子が張り合うわけだが三人の視線というか注意は別のところにもあった。
 まだ一人、むつきの左腕にしがみつきながら、隠れるようにしているさよである。

「さよは、アレに加わらないのか?」
「私は、あなた様のお役にたてられれば、今のままでも十分に幸せですから」

 元々重病で学校に満足に通えなかったさよであれば、そう考えるのも仕方のないことだろう。
 二学期から復学でき、同じ病弱仲間だったエヴァ以外にも友達が、さらには彼氏まで。
 およそこれまでの人生の絶頂期にも感じられるかもしれない。
 だからこそそれ以上を求める気持ちが薄れるというのも分からなくもなかった。
 しかしまだ中学二年生、人生の半分はおろか四分の一さえ終わってはいないのだ。
 もう十分、今が絶頂期でこれから下り坂以外にありえないと思うには若すぎる。

「なあ、さよ。幸せだなって満足した人が、幸せなまま毎日を過ごしたらどうなると思う?」
「それは、幸せなまま人生を終えられるのではないでしょうか?」
「俺だってまだ人生の四分の一ぐらいだし、想像でしかないけど。その人はそのうち、毎日がたいくつだって思い始めると思う」

 むつきの言葉に、さよのみならず美砂や桜子も少しばかり小首をかしげていた。
 なるほどとその言葉の意味を察したのはやはり大人であるアタナシアであった。

「人間は慣れる生き物だから。同じ幸せを日々感じていると、それに慣れる。幸せが当たり前になって、気づけなくなる。さよ、今が幸せであることに満足しちゃだめだ、慣れちゃうぞ?」
「私が手を差し伸べなくても、結局は一緒か。甘ちゃんめ。さよ、むつきの言う通り幸せでい続けることには不断の努力が必要だ。むしろちょっとキツイぐらいの。料理におけるスパイスのようなものだ」
「お汁粉を甘くするのに、塩を入れるようなものですか?」
「料理は偉大だな……」

 懇切丁寧に説明したつもりが、さよが最も分かりやすい形で理解したらしい。
 ちょっとアタナシアは悔しそうだったが、それ以上は何も言わずさよを見つめていた。
 同じ土俵で男の一番、正妻の座を取り合うライバルを見る眼差しで。
 そこに相手を蹴落としたり敵視するどろどろしたものはなく、まるでスポーツのライバルを見るようなそれだ。

「私とあなた様の関係にもお塩が必要なんですね? 甘く、もっと甘いこれからを生きる為に」
「俺もさよと一緒にとろとろで、甘々なこれからを一杯過ごしたいな」

 確認するようにさよがむつきに問いかけ、意を決したように立ち上がった。
 四人のなかで一番背が低く、おっぱい相撲なんて夢のまた夢。
 かと思いきや、その辺にあった桶を湯船に沈ませ台座とすることで加わった。
 若干ふらふらしているが、貧乳を甘く見るなとばかりにマシュマロ地獄に飛び込んだ。

「僭越ながら、一足先にあなた様と一つ屋根の下で共に暮らす事実婚をさせて頂きます。ですが、柿崎さんの言う通り、それに胡坐をかかず女性を磨き続けます」
「ぬがっ、抜かった。良く考えたら、さよちゃん現時点で一番有利な立ち位置に。しかし、主役は最後負けそうになってからひっくり返す。桜子、チア部できっちりシェイプアップするよ!」
「私ら、最近さぼりがちだったしねぇ。エッチな体は私の運でも手に入らないし。二学期は張り切って踊っちゃおう。独り身で寂しいくぎみーも誘って」
「ぬははは、正妻の座を勝ち取る前に。貴様たちのラスボスとして立ちふさがってやろうではないか。何処からでもかかってくるが良い。我が腕の中で安らかに眠るが良い」

 高らかに笑ったアタナシアが三人纏めて巨乳の海に沈め、ぬわーっと悲鳴があがる。
 仲良きことはを見せられているむつきは、一人穏やかに湯船に浸かっていたわけだが。
 お嫁さんたちの仲の良さを見てほっこりしていたわけではない。
 彼女たちが不断の努力を近い自分を高めようとする中で、むつきこそ胡坐をかいてはいられないのだ。
 見捨てられないよう、正妻を勝ち取った子に相応しい男になれるよう二倍、三倍の努力が必要である。

「幸せに慣れず、不断の努力を……二学期も大変なことになりそうだ」

 新たな決意と楽しくも忙しい明日からを思いしみじみと呟きつつ。

「そろそろおっぱい相撲に俺も混ぜてくれ!」

 もう我慢できませんと、一先ずは今目の前にある幸せに飛び込んでいった。









-後書き-
ども、えなりんです。

ちょいと分け合って、日曜の朝更新になってしまいました。
理由はさておき。
記念すべき百話のお話ですが、題名を見てむつきのセリフだと思った人。
結構いると思いますが、美砂のセリフでした。
今までは正妻が美砂であることは大前提だったわけですが、
あえてそれを崩してもなお、正妻にい続けようとする美砂マジ男前。

あと、アタナシアの写真をデスクに置いたら、瀬流彦へのパワハラになりそうw

では、次回から第三部の二学期編になります。
まだ三話ほどストックありますが、切れたらまた更新日等考えます。
一応次回は来週の土曜日です。



[36639] 第百一話 改めて、よろしくな!
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/03/01 21:01

第百一話 改めて、よろしくな!

 長い長い夏休みがついに終わりを迎え、残暑厳しい九月に突入し、二学期を迎えた。

「おはようございます」

 二学期初日と言えど、学生たちとは違い教師は夏休み中も仕事で頻繁に顔を合わせている。
 しっかりとスーツを着込んだむつきが挨拶をして職員室に入っても、おざなりな挨拶が返る始末だ。
 ごく一部、体育会系の方からは煩いぐらいの挨拶が返るが少数派に過ぎない。
 これが生徒なら、久しぶりに会う子もいて盛り上がるところであるのだが。
 夏休みは校舎も静かでよかったなんて、軽い冗談を言っている先生すらいた。
 職員室へと来る道すがら、登校の早い生徒は学校に来ており、それはもう姦しいものである。
 気持ちは分からなくもないがと、むつきも軽く微笑をこぼしつつ自分のデスクにたどり着いた。

「おはようございます、二ノ宮先生」
「おはようございます。いや、ついに始まっちゃいましたね。もっとも、私は新体操部でまき絵たちと頻繁に顔を合わせていたのでそれほどでもないですけど。乙姫先生もでしょ?」
「特に新鮮味はないですけど……」

 相変わらずのコーヒー好きである二ノ宮が、朝の一杯に口をつけながらそう聞いて来た。
 むつきが水泳部の顧問であることからも、同意を求めてのことだろう。
 水泳部以外にも、色々な意味で生徒と顔を合わせていたので否定のしようがない。
 それに今朝は世間話よりも、美砂たちの計画通りやっておかなければいけないことがあった。
 デスクの上に置いた鞄の中から、一枚の写真立てを取り出しデスクの上に置く。
 さりげなくではなく、二ノ宮の目に留まるように何度も置き場所を変えては突っ込まれるまで止めない。

「なにして……あれ、それ。確かそのでかパイは。アタナシアさんでしたっけ? これ見よがしにデスクの上に、本命はどこ行っちゃったんですか?」
「いやあ、それが。三人で協議した結果、元カノが身を引いて正式にアタナシアと付き合うことに」

 半分本気の照れ笑いをしつつ、むつきがそういうと瞬く間に二ノ宮の表情が驚愕へと変わっていく。
 そんなに驚かなくてもと思ったが、何故かその視線はむつきに向かってはいない。
 むつきを通り過ぎたその背後、なにやらぼたぼたと液体が零れ落ちるような音が聞こえている。
 一体何がと振り返ると、自分で淹れたらしきコーヒーを口から大量にこぼしている瀬流彦がいた。

「ちょっ、瀬流彦先生。スーツにシャツにコーヒーが、熱くないんですか?!」
「あれ、僕まだ寝てるのかな。大変だ、夏休みはもう終わったのに。それとも終わったのが夢なのかな?」

 ハンカチでは大惨事だと、ティッシュ箱からティッシュをもぎ取った二ノ宮が駆け寄った。
 二ノ宮にかいがいしく世話されながらも、何故か瀬流彦はむつきの机の上にアルアタナシアの写真を見つめたままぶつぶつつぶやいている。

「瀬流彦先生?」

 おーいと目の前で手を振るもなかなか瀬流彦は返ってはこなかった。

「うわっ、手についた。瀬流彦先生、今週の金曜は奢りで飲みですからね」
「なんで?!」

 ただし、二ノ宮の口から奢れとの命令が下るや否や我に返ったようだ。

「若くて綺麗な女性に要介護者のごとくお世話をされたんだから当然じゃないですか。あと、床にもこぼれてるから下手すると張り替えですよ?」
「あ、悪魔だ。って、熱っ。うわ、シャツが張り付いて気持ち悪い」
「夏休み明け早々、なにやってんですか」

 この人の時々意味が分からない人だと呆れていると、何故かあなたに言われたくないみたいな視線を受けた。
 大変遺憾であるが、本気でそんな視線を受ける意味が分からない。
 他にも瀬流彦以外からも、何処からともなく視線が飛んでいる気がするが気のせいだ。

「おっ、ちょうど良かった。君たち、乙姫君に瀬流彦君。少し手伝ってくれ」
「はい?」

 仕方がないので瀬流彦のコーヒーの後始末を手伝おうとしたのだが、職員室の扉が荒っぽく開けられた。
 飛び込んできたのは、広域指導員として二学期初日の見回りに向かったはずの新田であった。
 むつきや瀬流彦のみならず、若くて体力がありそうな先生に手あたり次第声をかけまくっている。
 一体何があったのか、瀬流彦は手が放せそうにないのでむつきが話を聞きに行く。

「駅からの通学路で、早速生徒が大騒ぎをしている。どうやら、格闘系の部活の朝の恒例のイベントだが。ちょっと様子がおかしいので手を貸してくれないか」

 朝の恒例のイベント、しかも格闘系の部活とくれば大よその人にはそれで通じてしまう。
 二年A組の四天王の一人、格闘少女である古への男たちからの告白ならぬ決闘である。
 自分より強い者を婿にといった古により、毎日飽きもせず行われているイベントだが。
 これまであまり、騒ぎになるようなことはなかったはずだ。
 あっても時々、吹き飛ばされた生徒が人を巻き込んだり、気の弱い生徒が血しぶきに気を失ったり。
 自分のクラスのことでもあるので、むつきは瀬流彦に変わって手伝う為にその現場へと向かい始める。
 場所は予め聞いていた通り、麻帆良女子中から駅までの通学路の途中であった。
 いうなれば他の学校との分岐点に入る通学専用道路、その中央に人だかりができていた。
 しかも早速イベントかと夏休み明けの陰鬱さを吹き飛ばせとばかりに、次から次へと生徒が集まってくる。

「おい、なんだなんの騒ぎだ?」
「俺たちの夏休みはこれからだって、高等部の奴らが授業のボイコットらしいぜ」
「いや、俺は麻帆良祭は春と秋の両方にやった方が平等だとか。生徒会が演説してるとか聞いたぜ」
「いやいや。麻帆レンジャーがついに人気低迷から、ピンクちゃんの触手お色気路線に入ったPRだって!」

 もはや外周部分の生徒は事の真相すら知らず、野次馬根性で立ち止まっているにすぎないようだ。
 今もなお人垣は成長をし続けており、幾人かの広域指導員の先生方が声を上げているが聞こえてすらいないかもしれない。

「これはまた……」
「君たちは周囲の生徒から順に声をかけて、学校へ行くよう指導に当たってくれたまえ」

 新田が早速連れて来た先生に指示を与えた為、むつきもそれに倣おうとしたわけだが。
 君は違うとばかりに腕を掴んで止められてしまう。

「乙姫君、君はあの人だかりの中央に向かってくれないか。生徒の声を拾う限り、この騒ぎの原因は君のクラスの生徒らしい」
「この時間に騒ぎを起こすのは、古でしょうね。分かりました」

 あの人垣を割って入るのかとうんざりするが、曲がりなりにも上司命令なので突貫である。
 主に人垣は男子生徒であるため、当社比三倍ぐらいの乱暴さでかき分けて行く。
 多少むっと睨んでくる生徒もいたが、教師相手となると大抵はもめることなく引き下がってくれた。
 そんな風に嫌々ながら男子生徒をかき分けていると、ようやくにして騒動の中心が見えてくる。
 わいのわいのと騒がしいが、何やらもめているようだ。

「古部長、理由を聞かせて欲しいッス。これでは一体何のために、夏休みに山籠もりをしたのか!」
「せめて男として、最後の勝負を。到底納得できません!」
「古部長!」
「そんなことを言われてもアル……」

 案の定というべきか、騒動の中心には古がいたが、まだ原因の特定には至らない。
 ただ傍から見る限りは、古が複数の男子生徒、エネルギーが有り余った彼らの非難を受けている。

「はいはい、お前ら。ストップ、ストップ。一体なにがあったんだ、凄い騒ぎだが」
「あっ、先生。おはようございます、アル。それが……」

 古は騒動の中心であれ冷静であったようで、ちょこっとだけ目を輝かせながらも挨拶を返してきた。
 その輝きが示す通り、肩のあたりも今にもじゃれつきたそうにうずうずしている。
 ただし、現状は教師と生徒という立場を同時に理解しているようで実行する様子はなさそうだ。
 他の子と違い、直球勝負が大好きな古だけに少し心配していたが、大丈夫そうであった。
 それは兎も角として、彼女とは反対に周囲の言葉を荒げていた男子生徒はかなり興奮していた。
 スーツをみにつけ、古の挨拶からも明らかに教師と分かるむつきの登場に明らかに眉根をひそめている。

「教師と言えど、無関係な奴は引っ込んでいて貰おうか。これは、我々格闘技を愛する漢と古部長との大事な話だ。将来的な意味を込めて」
「そうだそうだ。俺は今日という日の為に、夏休みの間に二回も骨折したんだ」
「馬鹿野郎、俺は山籠もりはもう古いと海籠りでクジラとだな」
「はっ、俺なんか無人島に流れ着いて原始に返った修行を!」

 途中からかなり意味不明ではあり、彼らの主張が一ミリも分からず古に一体何と尋ねてみる。

「あー、それが……私は強い男が好きだったから、私を倒せたらその人と付き合う約束を」
「その辺は一応知ってるぞ」

 当たり前だが、非常に言い辛そうに報告してきた古に心配するなと言外の会話を繰り広げる。
 両手の人差し指同士をつんつんしていた古は、それで一応の安心はしたらしい。
 明らかにほっとした様子で、それならと詳しい説明をむつきにしてくれた。

「だから、もう決闘は金輪際しないと宣言したらこの騒ぎになってしまったアル」
「あー……」

 非常にわかりやすい、かつ彼らの夏休みの間云々の言葉の意味さえ理解できる説明であった。
 夏休みの間、死に物狂いで修行し古をものにしようとしたら、もう決闘はなしと言われた。
 確かに一人の男としては、彼らの主張を理解してやれないこともない。
 しかし、古の恋人としては到底受け入れられることでもなかった。
 正直なところ、おとといきやがれと言ってやりたいが、そういうわけにもいかないだろう。
 ここで古に好きな男がと言わせても、火に油を注ぐ結果にしかならない気もするしどうすべきか。
 チラッチラっと言っていいアルかと瞳で問いかけてくる古に待ったをかけておく。
 だが困った困ったと頭を抱えているうちに、状況は刻一刻と川の流れのように変わろうとしていた。

「なんや、なんや。喧嘩か、喧嘩。俺も混ぜてんか!」

 そんな元気でまだ声変わりもしていないようなちょっと高めの声が周囲に響き渡った。
 ざわざわと一体どこからとむつきに加え、周囲の男たちも見渡したがその姿は見えない。
 それもそのはず、その声の主はまだ人垣の中であり、面倒だとばかりにその人垣から小さな黒い影が飛び込んできた。
 軽々と人垣の頭を飛び越え、文字通り飛び込んできた。

「おっしゃ、誰の喧嘩か知らんが俺が買ったるで。こいや!」

 お前か、それともお前かと身構えながら周囲を威嚇する小さな影は、小学生ぐらいの男の子であった。
 何時かどこかで聞いたような元気な関西弁、もどき。
 むつきや古とも顔見知りなその子は、ここにいるはずのない小太郎である。

「おー、むつきの兄ちゃんに古姉ちゃんやんけ。ならこっちが悪もんか。特にむつき兄ちゃんは弱いから、代わりに俺がやったるでぇ!」
「小等部の駅は一つ前だぜ、迷子の坊や。それと、大人の会話に加わるもんじゃねえ」
「そうだ、すっこんでろ餓鬼。古部長と俺たちの間に入ろうなんて十年早い」
「へえ、そんなん言うんやったらはよやろうや。千草姉ちゃんが色ボケになってから、こちとら暇してたんや。関東についてそうそう喧嘩ができるなんて、ついとるわ」

 しかも経緯の一欠けらも解さぬうちに、勝手に決めつけ大きめの学生服を腕まくりである。
 この年頃の子にとって年上とは見上げるような体格差であるのに、怯みもしない。
 それどころか、凄まれれば凄まれるほどに嬉しそうに、尻尾でもあれば振っていそうな雰囲気だ。

「ちょっと待った、待った。小学生相手に凄むな、お前ら。日本の格闘技は礼に始まり、礼に終わる礼節を学ぶものでもあるだろ。小さい子を相手に、凄むんじゃない。あと小太郎君も、目の上の人に喧嘩腰は駄目だ!」
「あっ、こら。放してんか、俺は兄ちゃんの為に」
「全然、俺の為になってないから。そもそも、なんで君ここにいるの?!」

 慌てて小太郎の首根っこを掴み、鼻息荒い男子生徒から引き離す。

「ああ、もう。全く収拾がつかないどころか。古」
「はい、アル!」

 じたばた暴れる小太郎の首根っこを掴みながら、やけくそまじりにむつきは古の耳元でささやいた。

「もうこのままじゃ、色々と収まらん。改めて放課後にでも集まって貰え」
「それでも堂々巡りの気がするアル」
「きちんと好きな人がって説明して、その上で勝負してやれ。結果がどうあれ、付き合わないと確約してから。お前が始めたことだ。ちゃんと最後まで責任もって、彼らを振ってやれ」

 古の事情はどうあれ、彼らは彼らで古に相応しい男になろうと努力してきたのだ。
 事前通告もなしに今日からもう勝負はしないでは、彼らも当然今のように納得できない。
 それに元を正せば、勝ったら云々を始めたのは古である。
 今のままでは古は、ただの我がまま、勝手に周囲を振り回しただけの子になってしまう。
 原因の一部であるむつきも、自分の嫁が周囲にそんな評価を受けるのはいただけない。
 だから古には、懇切丁寧に説明し、彼らの思いを最後まで蹴散らして貰うのが良いだろう。
 その上でまだ付きまとってくるのであれば、そこからはもう警察の出番である。
 ストーカー的な意味で。
 さあ行けと、熱くたぎっている男たちの前に進み出るように軽く古の背を押してやった。

「わっと……あ~」

 再び男連中の視線を受け一度は視線を逸らした古だが、直ぐにパンっと頬を張って気合を入れた。
 経緯はどうあれ、この人と決めたむつきから責任を持ってと言われたのだ。
 ここで気合をいれてきちんと対応せねば、がっかりさせかねないと女気を見せる為に声を張った。

「もう直ぐ予鈴が鳴るアル。だから放課後、中国武術研究会の練習場に集まって欲しいアル。そこで私の言葉を聞いて、納得したうえで最後の勝負をするアル!」
「最後、最後なんですか古部長!」
「何故、今までの俺たちの努力は?!」
「全部きちんと説明するアル。だからこの場は退いて欲しいアル!」

 勝負なしから一転、最後の勝負と言葉は変わったが、彼らはまだ納得できないと多数の声をあげた。
 しかし古もこれ以上あいまいな態度を取らず、彼らを真っ直ぐ見つめ返している。
 余計なことは口にせず、今はまだ想いだけだが彼らの言葉を受け止めていた。
 それが分かったのだろう、一人また一人と放課後、または最後の勝負と呟きながら踵を返す。
 これが最後、幾度となくそう繰り返しては、こうしちゃいられないとばかりに走り出した。

「今日は半ドン、数時間しか。いやさ、数時間。数時間あれば、もっと高みに!」
「古部長との最後の勝負、無様な真似はできねえぜ。一分一秒を惜しんで最後の修行だぜ!」
「どけどけ、野次馬ども。俺たちに立ち止まっている暇さえ惜しい!」
「こら、お前たち。何処へ行く。ホームルーム後には直ぐ、始業式だぞ!」

 その行き先が校舎ではなく、何処とも知れない方角なのは、彼らの言葉からも分かりきっている。
 案の定、新田などに怒声と一緒に引き留められるが、それで止まる様な麻帆良生徒ではない。

「皆、殿は任せろ。一人でも多く、一人でも多く!」
「馬鹿なことを、待ちなさい!」

 ちょっとばかり収拾をつけにきた新田たちには酷なことだが、一番熱くなっていた者が去っていったのだ。
 当然というか自然と、この騒ぎも終わりかと人垣の中央に近い部分からその空気が広がり始める。
 ばらばらと生徒たちが生み出していた人垣に隙間が生まれはじめ、一部の生徒以外は校舎に向かい始めた。
 二学期早々の騒ぎも、なんとかこれで鎮静化して言って貰えそうだ。

「なあ、兄ちゃん。そろそろ首根っこ放してんか」

 むつきの手により、ぷらぷらと揺れている特大級の爆弾を残して。

「あっ、小太郎君」
「げっ、夏美姉ちゃん」
「げ?」

 人垣の中にいたのか、その爆弾を見つけた村上が頬を退くつかせながら歩み寄って来た。
 その後ろにはあらあらと、予期せぬ小憎らしくも可愛い小太郎を見つけ満面の笑みの那波もいる。
 二人のみならず、神楽坂や木乃香に刹那といった二-Aの生徒もちらほらいたらしい。

「おい、集まってくるな。古の言葉を聞いたろ、そろそろ予鈴がなるぞ。二学期早々、遅刻になるぞ」
「そうよ、二学期早々に高畑先生のお手を煩わせるなんて。木乃香、刹那さんもキビキビ行動。あと、先生おはようございます!」
「なんかもう、挨拶も良いから。ほら、走れ走れ」

 相変わらず小太郎をぷらぷらさせながら、神楽坂以下走りそうにない子の背中をぽんぽんと叩くように押していった。










 小太郎を見つけた時から、半ば予想はしていたのだが。
 校庭で行われた麻帆良女子中学校の始業式、生徒の視線を檀上で集めているのは学園長ではなかった。
 直前まではそうであったのだが、学園長が紹介した新任の女教師に集まっている。
 学園長曰く、一学期に転任した元水泳部の顧問に代わり臨時教師として着任したそうだ。
 タイトスカートのスーツに京都でむつきが楽しんだ熟れた女の体を詰め込んだ彼女。
 天ヶ崎千草その人が、メガネの奥からにこにこと晴れやかな笑みを浮かべながら会釈した。

「先ほど、学園長から紹介にあずかりました天ヶ崎千草どすえ。訛りから分かる通り、京都出身のまだまだ新米の身ですえ。とはいえ、教職についた以上は厳しくも楽しくやろうと思うてますえ」

 京都、京都美人だと一部の生徒がはしゃいだのはご愛嬌。
 ただし、むつきと同じように生徒の前に並んだ教師の一部が舌打ちしたようにも聞こえたが気のせいか。

「それから、皆も先ほどから非常に気になってはるあの子。乙姫先生の頭の上におるのは、うちが預かっとる子どすえ。今日から小等部に通う予定で。あまり直接かかわることはないかもしれまへんが。街中で見かけたら、気軽に小太郎と呼んでやっておくれやす」
「おう、犬上小太郎や。俺はともかく、千草姉ちゃんとは仲良くしてったくれや」

 むつきに肩車されたままふんぞり返った小太郎の評価はおおむね良好である。
 あの子可愛いとくすくす笑う子が多く、小生意気だが姉思いな面が垣間見えたからだろう。
 既に顔見知りである二-Aの子達も、小さく手を振ったり小太郎だ、小太郎だとうずうずしていた。
 ごく一部、先ほどげっと言われた村上は、口元をもにゅもにゅさせているが。
 那波にちょいちょいと突かれては、機嫌を微妙に直しては苦々しい笑顔で手を振っていた。
 そんな生徒たちは良いとして、先生方の何処からか剣呑な視線が飛んでいるのはやはり気のせいか。

「それでは、小太郎を小等部に連れていかなあきまへんのでこの辺でご挨拶を終わらせてもらいますえ。学園長、このまま一緒に小等部の方へ?」
「うむ、彼の転入の挨拶もさせんといかんし。乙姫君、彼をこちらに連れてきてくれんかのう」
「あっ、はい」

 学園長の命令は絶対と、肩車していた小太郎を千草に手渡すわけにもいかないので彼女の前に下す。

「ふむ、そうしていると若夫婦のようじゃな」

 すると突然、学園長がむつきと千草、その間にいる小太郎を見て突拍子もないことを呟いた。
 その割にはやけに声が大きかったもので、生徒の間から少々黄色い声が上がった。

「そう言われて悪い気はしませんけれど。夫婦はな、乙姫はん?」
「いや、俺彼女いるんで」
「そんなつれないこと言わへんと、うちらの親密な仲どすえ?」

 もはや小太郎そっちのけで千草がむつきの腕を取って抱きついてくるものだから、黄色い声も大きくなるというものだ。
 彼女という単語を強調するも、だからどうしたとばかりの千草の態度である。
 事の発端とも言える学園長はほっほと笑って口ひげを弄んでおり、助けてくれそうにない。
 旅の恥は掻き捨てたはずが、欠片をかき集めて麻帆良まで追ってこようと誰が思うか。
 チラッとお嫁さんたちを見ると、嫉妬しているのはまだ日の浅い桜子か古ぐらい。
 美砂は相変わらず正妻力(笑)をたたえたどや顔で、他の子は仕方ないなと笑っている。
 彼女たちに助けて貰うわけにはいかないが、助けはないかと同僚へと振り返った。
 二ノ宮は相変わらずただれてるとニヤニヤしているし、ジャージ姿の瀬流彦はなんかもう殺す目つきだ。

「学園長、始業式の妨げになる様な発言は遠慮願えますか。天ヶ崎君も、学生ではないのだから生徒の模範になるような行動を務めるように。乙姫君は、はぁ……」

 相手がだれであろうと物怖じしない新田が助け舟をだしてくれたのだが。
 最後のため息が彼の信頼にひびを入れたようで、返って傷ついた気がした。

「すまんのう、ついぽろっと本音が。では天ヶ崎君に犬上君は小等部へ行こうかのう」
「お供しますえ、学園長」
「小等部ってガキばっかやんか。俺はもっと強い奴がおるところがええにゃがッ!」

 ガキっぽいことを言った小太郎は、千草に拳骨を貰いたんこぶつけてこの場を後にした。
 学園長と千草はこの場をされるが、残されたむつきは非常にいづらいのである。
 ため息をつかれた新田はもちろん、殺す視線を向けてくる瀬流彦やら後は謎の視線も。
 最後のは学園長派が、名前覚えて貰いやがって的なものだろうから無視するとして。

「まだ始業式の途中だ、静かにしなさい!」

 新田が生徒を静める間、むつきはすごすごと首をすくめて元の位置へと収まった。









 始業式が一部を除いて、滞りなく終了した後はホームルームであった。
 何処のクラスも、夏休みの宿題を集めて後は担任の先生からの簡単な挨拶をする程度である。
 現在、二-Aのクラスでも夏休みの宿題を教科ごとに集めている最中だ。
 教卓にいる高畑が指定した教科ごとに、提出物を後ろの席から順に手渡していく。
 最前列の子が自分の列の分を持って、教卓へとまとめて提出する方式である。
 その際に、提出できなかった子は手を上げて自己申告するわけだが。

「公開処刑、公開処刑すぎるッスよ」

 現国、数学と次々に宿題を集める中で、提出できませんと手を上げたのはたった一人である。
 さめざめと恥ずかしそうに顔を赤くしながら俯き目を潤ませている春日であった。

「ちょっとおかしいっしょ。普段みんな、もっといたじゃん!」

 そして三教科目、むつきの担当でもある社会科の提出となった段階で色々と爆発したらしい。
 その主張はどうなのという内容であったが、普段と違い過ぎると異論の声を上げた。
 なんだかもう、宿題やるの止めようぜという言葉を真に受けてやらなかった小学生である。

「珍しく宿題終わらせた楓姉が、見てくれたから余裕余裕。あれ、手を上げてる子がいるよ?」
「お姉ちゃん、ちょっとそれ意地悪っぽいよ。やめなよ」

 うぷぷと春日を笑った鳴滝姉を妹が嗜めているが、顔が半分笑ってしまっていた。

「美砂ちゃん、桜子。あとくぎみー!」
「あれ、あの子なんか言ってるよ?」
「にゃはは、私達は夏休みを境に清く正しい良い子になったから」
「いや、逆だと思うけど……あとくぎみー言う奴に味方はしないから」

 裏切り者っと涙をちょちょぎらせながら、最後の頼みの綱とばかりに春日が視線を向けたのは神楽坂だ。

「美空ちゃん、その目は挑戦と受け取って良いのかしら。バイトは超忙しかったけど、誰かさんにお世話になり過ぎて宿題やらないって選択しがなかったのよ!」
「乙姫先生ですね、解ります。てか、こんなことなら最終日の花火にいかず宿題やってりゃよかった!」
「はっはっは、その様子だと春日君だけが全滅かな? もう手は上げなくて良いよ。他にやってなかった子はいないよね?」

 頭を抱えて叫んだ春日に対し、高畑が念の為にと皆に聞いて入念な止めを刺しに来た。
 案の定、いませーんと大合唱され、春日が机の上に崩れ落ちる。
 妻に逃げられ酒に逃げたおっさんのように、拳を握りしめ畜生と机を涙で濡らす。
 ただし、他の子全員が宿題をやって来ていたので同情の声は一つもない。
 今年は旅行中にむつきや刀子、神多羅木に見て貰っていたのでなおさらであった。

「それじゃあ、宿題はこれで全部かな。凄いじゃないか、皆。こんなきっちり宿題を終えるなんて。初めてのことなんじゃないのかな」
「ぐはっ、すんません。唯一の黒星すんません。余裕だと思ってたんや、まだ大丈夫。まだ十日、まだ五日。気が付いたら、昨日やったんや」
「まだ大丈夫は、もう危ないってね。修行が足りないよ、美空ちゃん」
「そのまだ大丈夫を、昨晩の十二時まで呟いていた人とは思えない発言です」

 夕映のセリフから、目にクマを作っている早乙女は昨晩の十二時から特急で仕上げたのだろう。
 恐らくは夕映や宮崎の宿題を丸写しするという、最終手段を使って。

「それじゃあ、春日君はお昼を食べたら僕と一緒に宿題やろうか」
「はい、ご迷惑をおかけするッス」

 とんとんと宿題の束を整頓しながらの高畑の言葉に、春日の首がかくんと落ちた。
 その瞬間、天啓を得たように神楽坂に電流が走る。
 お昼から夕方、下手をすれば暗くなってからも春日は高畑と教室で二人きりで宿題をするのだ。
 そう、誰もいない教室で二人きり。
 むつきもちょいちょい顔を出すはずだが、妄想が爆発した神楽坂はそこまで頭が回らない。
 春日の言う通り、普段宿題をやってこない子が多い為、その発想に至らなかった。
 予想できたのだ、今回は大部分が宿題を終わらせているであろうことは。
 そこで神楽坂も普段通りであれば、春日一人なんとかすれば二人きりは自分のモノだったのに。

「でも、色々お世話にぃ……」
「おお、明日菜が義理と恋の間で板挟みや」

 木乃香の突っ込み通り、義理と恋の間で板挟みとなって頭を抱えぷるぷる震えだしていた。

「すげえ、案外これ一発逆転でコロッといっちまうんじゃねえの?」
「手間暇かけているですから」
「こっちの蜜は甘いよ、明日菜」
「とろとろネ、一緒にとろけるネ」

 つっぷした明日菜を頬杖ついた千雨がそう評し、若干頬を膨らませながら夕映が同意する。
 美砂と小鈴は怪しい手の動きを見せながら、うつぶせになる明日菜の周りでささやく様に歌う。
 もちろん、小鈴を除いて冗談だろうが、反論できねえなと皆の後ろで立っていたむつきは頬をぽりぽり掻いていた。
 うずくまって震える明日菜を見ては、苦笑いというか半笑いだったのだが。
 一瞬その後ろ姿が別のものに見えて、疲れ目かなと目を軽く擦る。

「というわけで、楽しい夏休みは終わってしまったけれど。二学期は二学期で体育祭や文化祭。楽しい行事はあるから、同じだけ勉強と部活を頑張ろうか」

 むつきが目を擦っている間に、どうやら高畑の話は終わりに差し掛かっていたらしい。
 いかんいかんと、改めて前をむいたむつきは、話を終えようとしていた高畑と目があった。

「僕からは以上だけど、乙姫君からは皆に一言あるかな?」
「あーっと、それじゃあ一言だけ」

 特に何か思いついたわけではないが、折角声をかけて貰ったので教卓から一言なにか言っておこう。
 机と机の間を通り抜けていくのだが、通った机と机の隙間がちょっと悪かった。

「先生、あの天ヶ崎って人との猥談また教えてよ」
「えろーい、先生えろーい」
「アタナシアさん、大事にしたらなあかんよ」

 早乙女が尻を叩いて来たのに続き、美砂、亜子と続いてわき腹を突かれる。
 止めんかと軽く小突く振りをしてキャッと退けさせ、高畑から教卓を譲り受けた。
 主に早乙女のせいで、全く一言についてまとまっていないわけだが。
 時間稼ぎを含めて、一人一人の顔を眺めていった。
 最近の女の子は日焼け対策もばっちりなのか、自分の時代の時の様に日焼けしている子はいない。
 あと、夏休みデビューとして急に金髪にしたりもいなかった。
 エヴァ辺りなど、元から金髪の子がいるので、このクラスで金髪にする意味合いはかなり薄いが。

「んあ?」
「ん、どうしたの先生?」

 バチッと綺麗に神楽坂と目が合った時、何故か神楽坂は制服を着ていなかった。
 まだまだ落ち着きのない内面とは違い、小首をかしげると同時に大きめの胸がふるんと震える。
 ピンクのぽっちも丸見え、なわけあるはずもなく。
 改めて目を擦ると、当たり前だが神楽坂はきちんと制服を身に着けていた。

「計画通り」

 なんだか小鈴が悪い笑みを浮かべているが、きっとあの夜の悪ふざけのせいだろう。
 神楽坂がいる机で小鈴を犯したはずなのに、気を抜けばその相手が神楽坂に代わってしまいそうだ。
 いかんいかんと、たぎりそうになる妄想を顔を振って追い払った。

「まあ、なんだ……二学期も、楽しくやろうや。テストとか、お前らにとって嫌なこともあるだろうけど。それも含めてお前らの思い出になるから。改めて、よろしくな!」

 努めて明るくそう一言つぶやいたつもりだが、外してしまったようだ。
 教室ないが一気に静まり返り、重いぐらいの沈黙に支配されてしまう。
 あれ別にすべったり妙な妄想を口にしてないよなと、改めて自分の発言を顧みた時のことである。

「よろしく、先生。あとあの天ヶ崎って人、京都の時の人だよね。浮気は駄目だよ!」
「にゃあ、なんかもやもやするけど。一周まわってわけわかんなくなってきた。とにかく、よろしく!」
「先生、新任の天ヶ崎先生のこと記事にしたいから、色々教えてよ。色を詳しそうだし?」
「うふふ、よろしくお願いしますね。あと、小太郎君の住所を知りたいのですけど。夏美ちゃんが」
「なんでそこで私の名前?! 小太郎君にげって言われて、ちょっと傷ついてるんですけど!」

 最初に大きな声をあげたのは佐々木であり、負けず劣らず元気よ戻れとばかりに明石もである。
 和美や那波、村上辺りもいつも通り、相変わらずの騒々しさ、若干パワーアップ気味か。
 たかが半日であったが、初日から特濃であり不安でもあり楽しみでもある二学期の始まりであった。









-後書き-
ども、えなりんです。

ネギよりはやく、小太郎の方が麻帆良に参上。
皆様の予想通り、千草も教師としてやってきました。
二人の裏的な理由は、また数話後にやります。

二学期を始める前に、古のアレは当然かなと書いてみました。
恋人ができたのでもう恒例の決闘はしませんと。
厳密に理由は言ってませんが、実際騒動になりそうだなと。
二学期早々騒動を起こすのもまた麻帆良っぽいと思いましたし。

あと、さよは二学期から復学ですが、その辺入れ忘れました
やること多すぎるw

では次回は来週の土曜日です。
しばし、古の出番率が上昇します。



[36639] 第百二話 神楽坂がいたじゃん
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/03/08 21:09

第百二話 神楽坂がいたじゃん

 九月に突入したとはいえ、一日前はまだ八月であり、残暑なんて生易しい日差しが照っていた。
 そんな輝きに負けじとホームルーム後には、にぎやかな生徒の声が麻帆良女子中等部の校舎に響いている。
 始業式である今日は、昨今は珍しくなった半ドンであり、残っているのは部活がある者であろう。
 久しぶりに会ったクラスメイトと昼食を共にし、きゃっきゃとはしゃいだ声がカーテンの隙間から聞こえた。
 むつきもまた、世間的にはアタナシアが作った、その実はさよが作ったお弁当を食べたばかり。
 作って貰ったと言ったら、何やら瀬流彦がこの世の終わりでも見たような顔をしていたが失礼な。
 他の男の前では知らないが、むつきの前でのアタナシアはちょっとエロイだけの普通の女の子だ。
 仕返しに、彼女の作った弁当美味いと何度も呟き、業者の弁当を食べる瀬流彦にハンカチをかみしめさせてやった。
 そんな男の小さなプライドがぶつかるどうでも良い話は置いておいて。

「熱かったりしないか?」
「だ、大丈夫。アル」

 相も変わらずというか、例の社会科資料室にいるむつきである。
 首を真下に向けて腕の中にすっぽり収まり胸に顔を付けているのは、言葉遣いから分かる通り古だ。
 たかが資料室に空調なんてあるはずもなく、埃っぽくも蒸し暑い室内であった。
 首筋にちょっと汗の粒を浮かせながらも、古はむつきの言葉に首を振っては心音に耳を澄ますようにしていた。

「その、できれば……もう少し強くても、全然問題ないアルよ?」
「了解」

 直接的には言わず、ややぼかしてリクエストされたため、彼女の背中から腰に回す腕に力を込める。
 武道四天王と言われる割に、背も小さく華奢とは言わないが包み込める体つきだ。
 むつきの腕に込められた力に抗わず流されるように、古は今よりもっと体重を預けて来た。
 他の生徒達のはしゃぎ声やセミの鳴き声がとても遠くのモノのように聞こえる。
 互いの立場故に、人知れず身を隠して逢瀬を行う背徳感は、むつきと言えど慣れるものではない。
 それどころか恋人としての立場さえまだ数日の古は、これ以上ない程に顔が赤かった。

「なんだか、この沈黙も。先生、なにか言って欲しいアル」
「なんか柑橘系っていうか、古って甘酸っぱい匂いがする」
「…………」

 どうやら、今以上がまだあったらしくトマト並みになった顔を古がむつきの胸に押し付け隠した。
 そんな古を見て、可愛いなとちょっと前かがみになって柔らかな髪の中に鼻を埋める。
 夏場なのでふわりと汗の匂いが香るが嫌な物では決してなく、本当に甘い匂いとしか思えない。
 昼間からしかも学校で二人が何をしているかというと、古の充電である。
 放課後、つまりはこれから古は責任を取る形で、大勢の男たちと決闘をする予定だ。
 勝敗そのものは古は当然としてむつきもあまり心配はしていなかった。
 ただむつきも春日の面倒や、水泳部のことがある為、応援に駆けつけることはちょっと難しい。
 なにせ数が多いので時々覗くことはできるが、ずっとその場にい続けることはできないだろう。
 なので決闘を前に、激励という形で古を呼び出して静かにイチャイチャしているわけだ。

「んっ、も、もう大丈夫アル」

 そして我慢の限界に達したというか、充電し過ぎて爆発するとばかりにパッと古が離れていった。
 ほらこの通りとばかりに、真っ赤な顔で鼻息も荒く、軽く力こぶなんて作ってみたりしている。

「そっか。一応、小鈴についててやってとは頼んでるけど。口八丁で丸め込まれないように」
「あはは、殴り倒すのは得意アルけど。これで絶対最後と皆に納得させる自信はないアルね」

 今朝方はそう宣言したが、この後で負けた生徒が本当に最後だと納得してくれるかは不明だ。
 結局今までの修行は何だったんだと自棄になられても困る、古にとっても相手にとっても。
 なのできちんと相手を納得させられるよう、オブザーバーを小鈴に頼んでおいたのである。
 古も自分のことはしっかり分かっているようで、親友の小鈴がセコンドなのは問題ないらしい。

「それじゃあ、行ってくるアル。先生の為に、全勝をささげるアル!」

 なんともらしい言葉を口にし、古が気恥ずかしさから逃げるように鍵を開けて扉に手をかける。
 そのままがんばれと見送るのも良かったのだが、むつきは逃がさないとばかりに一歩を踏み出した。
 引き戸が開かないよう先んじて伸ばした足で支え棒をし、鍵をかけ直す。
 それから背を向けていた古を今一度抱きしめ直し、鍛えられた腹筋が分かるお腹に腕を回した。

「止めはしないが、怪我だけはするなよ」
「わわ、アル」

 ただでさえ気恥ずかしいのに、不意打ち過ぎると古の体は小刻みに震えていた。
 あまり虐めるのも決闘に支障がでるといけないので、手短に要件を伝えるのが良いだろう。
 もう少しだけとでも言うように、身長差から頬ずりは無理だが耳元にささやく様に唇を寄せる。

「それと、決闘終わったら。きちんとファーストキス、やり直そうか」
「ファーストキにゅ?!」
「ご褒美があれば、やりがいもあるだろ。これ、前貸しな」

 そのまま古の耳元から滑り落ちるように、耳たぶに唇を掠らせながら頬にちゅっとキスをする。
 狙ったわけではないが、ちょうど頬に汗の粒があり唇を濡らし舌先に甘酸っぱい味が広がった。
 古の反応といえば、もはや語るまでもないだろう。
 過充電により顔どころか全身真っ赤だが、目をぐるぐるさせながらも口がちょっと笑っている。
 嬉しさと気恥ずかしさ、ご褒美への期待といろいろと入り混じった結果に違いない。
 そしてむつきの腕を振り切って逃げようとしたのだが、動揺から手があべこべな動きをしていた。

「あ、開かない。開かない、ア。開いた、やった。お、覚えてろアル!」

 鍵が壊れると心配になるぐらいに扉を鍵ごとガタガタと揺らし、開くなり飛び出した。
 三流の悪役のようなセリフを残して、これ以上させるもんかとばかりに走って逃げていく。
 ひかげ荘へは、桜子と同時入寮ではあるがなんとも対照的な反応である。
 皆同じ反応ではないのは、それぞれの持ち味があって可愛いものだが。
 ちょっと可愛がり過ぎたかなと、携帯のメールで小鈴に再度古のフォローをお願いとメールした。
 了解ネとキスマーク付きでメールが返って来た頃には、良い時間である。
 そろそろ教室にいかないとと、社会科資料室を出るとばったり同じく向かおうとしていた高畑と会った。

「やあ、乙姫先生。さっき、古君が凄い嬉しそうに走っていったけど」
「ほら、今朝のアレですよ。決闘が楽しみだったんじゃないんですか?」
「なるほど、例の」

 高畑も今朝の騒動は耳に入れているというか、その時は会わなかったがその場にはいたのだろう。
 最後の決闘という宣言も耳に入っているようで、古君も大変だなと笑っていた。
 そのまま距離は殆どないが、連れだって二-Aの教室に向かいがてら打ち合わせを行った。

「僕は水泳部のミーティングがあるんで長居はできませんけど、高畑先生も美術部の顧問ですよね」
「んー、うちはまだ三年生は文化祭が終わるまで引退しないからね。春日君のことは、僕が面倒をみるよ。一学期は色々と迷惑をかけたけど、やっと本腰をいれられそうだ」

 本腰入れられてなかったんかいという突っ込みたいが、あれだけ出張三昧なら当然か。

「そうそう、あとでちょっと神楽坂について聞きたいことがあるんですよ」
「明日菜君の?」
「ちょっとした疑問みたいなもんです」

 むつきがその内容を説明する前に、短い距離が終わって教室は目の前であった。
 時刻は予定の十三時の十分前、春日のことだから遅刻ぐらいしてくるかと思ったのだが。
 意外や意外、その姿は既に教室のなかにあり、あろうことか自主的に宿題を広げ頭を悩ませていた。
 他に誰か監視しているわけでもなく、教室内にいるのは春日一人である。
 これは一人だけ夏休みの宿題に黒星をつけてしまったのが、よっぽどショックであったのだろう。
 思わず高畑と顔を見合わせて、ため息まじりにやれやれと笑ってしまった。
 後悔先に立たず、これはこれで中学生らしい良い経験、教訓なのではないかと。

「やってるな、春日。わからんとことか、あるか?」
「お昼ご飯の間、皆がよってたかってさらにどや顔でいろいろ教えてくれたから大丈夫ッス」

 だから私を放っておいてとまで言いそうだが、当然そういうわけにはいかない。
 ただし、春日に関しては緊急度が低そうだったので先に高畑への用事を済ませておこう。
 あまり邪魔するのも悪いので、ちょっと廊下へと指さして高畑を誘った。

「春日君、僕と乙姫先生はちょっと廊下にいるから何かあれば遠慮なく声をかけてくれるかな」
「はーいッス」

 念の為、春日にも高畑がそう声をかけてから、入って間もない教室から再び廊下へ。
 夏休みの宿題にのめり込んでいる春日が聞き耳を立てるとは思わないが、廊下でも窓際へ立った。
 窓から降り注ぐ日差しがちょっと暑いが、窓に背を預けるようにして並び立つ。
 これが外ならタバコの一つでも高畑にすすめるが、そういうわけにもいかず直球を投げる。

「聞きたかったのは、神楽坂の親権についてなんです」
「へえ、それはまたどうして?」
「ほらあいつ、夏休みも散々バイトしてたじゃないですか。平日も早起きして新聞配達してるらしいですし。一体、誰が神楽坂の保護者なのかって」
「それなら、学園長だよ」

 意外過ぎる名があっさり出てきて、あれっとむつきは小首を傾げた。

「神楽坂は小さい頃に高畑先生に連れられてきたとかなんとかじゃ」
「それはそうなんだけど。ほら、僕みたいな独身者は、しかも明日菜君みたいな女の子の保護者にはなかなかね。そもそも彼女は僕の恩師の関係者なんだけど、学園長に色々と便宜をはかって貰ったのさ」

 なんだか微妙な言い回しであったが、神楽坂は高畑の恩師の子らしい。
 独身者が小さな女の子の保護者になれないことも理解できる。
 女の子どころか独身者が男の子であろうと養子をもらうのはなかなか難しかったような。
 困り果てた高畑が、学園長に助けを求めたのか、向こうから手を差し伸べたかはどちらでも良いが。
 結果的に、法的にも実質的にも学園長が神楽坂の親権を持っているに違いない。

「学園長ですか……よりによって、うわあ。最近、名前を憶えて貰ったけど本来ぺーぺーの俺が気軽に声をかけて良い人じゃないんだよなあ」
「はっは、我々はしがない平教師だからね。けど、乙姫君はどうして明日菜君の親権の所在を聞こうと思ったんだい?」

 さすがに学園長に気軽に尋ねるわけにはと困っていると、逆に高畑から聞き返された。
 教師が踏み込むには非常に微妙な問題故に、尋ね返されるのも当然だろう。

「さっきも言いましたけど、神楽坂ってバイト三昧じゃないですか。夏休みもひいひい言ってましたし。あれって、ちゃんと援助が貰えていない育児放棄なんじゃないかって」
「ああ、さすがにそれはないよ。明日菜君にはちゃんと説明したはずだけど。元々は、学園長が学費から生活費に至るまで全部面倒を見るはずだったんだ。小等部の中学年頃ぐらいまでは」
「え……あ~、確かに中学生も厳しいですけど、小さい子にバイトなんかできないですもんね」
「女の子は精神的にも大きくなるのが早いからね。高学年頃に、お世話になってばかりじゃ申し訳ないってバイトを始めたんだ。全部は無理でも、お小遣いや生活費ぐらいはって」

 中等部からは寮住まいなので居住費や光熱費も、学費に含んで学園長が払っているのだろう。
 だから神楽坂が払っているのは本当にお小遣いと食費ということになるのか。
 なんだか当初思ってた育児放棄なんて、話を聞く限りは影も形もないではないか。
 神楽坂が若干身の丈に合わない大人の面を見せようと、ひいひい言っている気がしてきた。
 その当人は文句ひとつ言わず、懸命に働いてお金を稼いでいるので大人ぶりたいというのとも違うが。
 とにかく、それならそうとちゃんと言って欲しかった。
 それとも親権なんて普段使いそうにない言葉を使ったせいで、神楽坂を混乱させたむつきが悪いのか。

「じゃあ、仮に学園長を説得するまでもないですけど。保護者である学園長が全部出すと言っても」
「明日菜君が断るだろうね。むしろ、変に話を持ち出すと負担をかけてるんじゃって深読みして自分を追い込みかねないかな。僕も彼女にはもう少し、頼ってくれても良いとは思うんだけどね」

 女の子として対等な関係になりたがっている神楽坂に、それは酷な願いだろうが。

「なんだか、あまりこの件に深く突っ込まない方が良い気がしてきました」
「微妙なところだね。明日菜君には、お金のことなんか気にせずもっと学生生活を楽しんで欲しいんだけれど……」

 高畑もそうだが、元々は学園長が全部金銭的な面倒もみていたことからそれは二人の願いなのだろう。
 ならばその願いは、むつきの願いと全く同じである。
 しかし肝心の神楽坂が分かりましたと言いそうにないのであれば、余計なお節介に過ぎないか。
 せめて、単純にお金をだすからではなく、神楽坂も納得できる代替案が必要そうだ。

「分かりました、色々と教えてくださってありがとうございます高畑先生」
「いや、僕や学園長もちょっと明日菜君に甘えてた部分があったかもしれないね。君がこう言いださなきゃ、明日菜君がそう言ったからと彼女が学生を終えるまで忘れたままだったよ」
「それじゃあ、申し訳ないですが引き続き春日のことをお願いします。僕は水泳部のミーティングがありますんで」

 改めて、高畑に軽く頭を下げて、むつきは水泳部のミーティングへと向かった。
 頭の片隅では、神楽坂も学園長、高畑も三人とも納得できる答えを探しながら。









 水泳部のミーティングは、例によって一年生の朝日のクラスである一-Dの教室を借りて行われた。
 三学年分の水泳部員が集まれば、教室一つでさえ手狭に感じるはずであったが。
 既に夏の全国大会を終えた三年生は引退済みで、集まったのは二年生と一年生のみ。
 約五十人を超えるぐらいで、全員に椅子はいきわたらなかったが足りない分は調達済みであった。
 部員全員が仲の良い子同士集まっては席に座り、普段の授業のように教卓に視線を集めている。
 だがむつきは、教室の前にこそいるが隅っこにいて集まる視線の対象外だ。
 視線を集めているのは、新部長であるアキラと筆頭マネージャである亜子、そして引退したはずの小瀬であった。
 しかも教卓に手を着き乗り出すようにしているのが小瀬で、両サイドに半笑いの亜子とアキラという布陣だ。

「はい、というわけで現役を引退した前部長は、引き続きコーチとして水泳部に残ります。よーし、目の上のたん瘤だとか思った二年生は正直に手を上げて。正直、私もそう思う」

 誰もが思っていたことを、あろうことか小瀬が口にしたわけだが。
 顧問であるむつきや、新部長のアキラ、筆頭マネージャの亜子が突っ込まないのである。
 既に外はおろか、内堀まで埋まってるじゃんと、特に一部の二年生が微妙な顔をしていた。
 三年生と二年生で確執があったわけではないが、やはり私たちの時代だと意気込んだ直後に小瀬がいれば、そういう顔になっても仕方がない。
 なので軽く手を叩いて視線を集めたむつきが、簡単に事の次第を説明しようとする。

「正直なところ、今小瀬に抜けられると指導できる人間がいないんだよ。新部長のアキラは部のエースだし、コーチ頼むわけにもいかんだろ」
「あの、可能な限り私も頑張るよ」
「はい、大変失礼かもですけど。アキラ先輩には、自分の練習に打ち込んで欲しいです。アキラ先輩はうちの水泳部の希望の星なんですから。むしろ、コーチングは私が小瀬先輩から習います!」

 フォローのようにアキラが自分もと言い出したが、一年のまとめ役の朝日が手をあげた。
 むつきや小瀬にどうぞと言われるよりも前に、自分の意見と希望を口にする。
 以前彼女が更衣室で言っていたことだが、彼女の目標は小瀬のような管理する側としての部長だ。
 ならばコーチングに関しても、小瀬がいる間にきちんと引き継いでおきたいのだろう。

「私ものりりんと同じ、かな。アキラには来年、是非リベンジして貰わなきゃならないし」
「団体戦でも、全体の底上げよりアキラが早くなってくれた方がね。もちろん、私らもタイム下げないよう頑張るけど」
「そもそも、アキラと私達じゃ水の抵抗が違うし。同じレベルの小瀬先輩のコーチの方が安心できるし」
「よーし、貧乳言った奴は表に出ろ。最近ちょっと大きくなったから、ぱふぱふし殺してあげる」

 朝日の言葉を受けて、小瀬のコーチやアキラの練習の専念は好意的に受け止められたようだ。
 ただし、落ちに使われた小瀬は、自分の胸を鷲掴みにして美乳であると胸を張った。
 反対にアキラは腕で胸を圧迫させるように、こそこそと教卓の下に隠れ始めていたが。

「もう、アキラ。部長さんなんやから、今までみたいにこそこそしとったらあかんよ」

 むしろ堂々とこの立派なぶつを誇るべきとばかりに、後ろに回り込んだ亜子に思い切り揉まれていた。
 亜子のきゃしゃな指でもたおやかに形を変えるそれに、幾人もの部員がくっと唇をかみしめている。

「まあ、こんな感じで。若干アキラは、人を纏める能力が欠けてるしね。ともかく、まだしばらくは私がビシビシ扱いてあげる。さすがに卒業したらわかんないけど」
「それまでには、なんとか俺と朝日が半分ぐらいずつコーチング能力引き継ぐわい」
「先生は謙虚です、憧れません。私は九割で良いです」

 若干脱線したりもしたが、小瀬が引き続きコーチをすることに対する反対意見はなかった。
 小瀬が目の上のたんこぶになりかねない件も、むつきが上手く立ち回れば良い。
 例えば、練習内容の相談という名目でしばし小瀬を監督室に押し込め、二年生が部内での最上級生としてふるまえる環境を適度に提供したりと。
 その間、監督室で若い男女がナニをいたしても、バレなければ問題ないわけで。
 いや本当、顧問というものは気を使うものである。

「それじゃあ、私はあくまで練習のコーチだから。この場はアキラに譲るね」
「ほら、アキラしっかり立って。部長さんなんやから」
「分かったから、胸で遊ばないで。怒るよ、こら」

 相変わらずおっぱいを揉みっぱなしの亜子へ、両手を上げてやや棒読みでアキラが怒った。
 それはひょっとしてギャグでと聞きたくなるような迫力のなさだ。
 むしろ、アキラでなければ可愛い子ぶっていると集中攻撃を受けそうなやり取りである。
 特にこらっと腕を上げた時に、胸がぶるんと揺れたのでまたしてもくっと唇を噛んだ子たちから。

「それで、次の目標は秋の新人大会なんやけど」
「無視された?!」

 本当にアキラが部長でと思いつつ、代わりに亜子がミーティングを進め始めた。
 スケジュールの把握は任せろとばかりに、何時に大会があって何時までに何を決めなければならないのか。
 うしろでオロオロしているアキラを置いて、進めて行ってしまう。
 その様子を見ながら頑張れアキラと心の中でむつきがエールを送っていると、教卓を離れた小瀬が近づいて来る。
 予め用意してあった椅子をむつきの隣に寄せ、座り込みながらむつきの腕を突き意識を振り向かせてきた。

「先生、こっちはこっちで会話したいことあるんだけど」
「お、なにかあったか? 和泉や大河内からじゃ、駄目なことか?」
「あの子達は今、部内を纏めるので手一杯だから。ほら、全国大会で私が指摘した件」
「なんだっけ……えっと、そう。あれか、アキラの部内での競いあえるライバル」

 最近はちょっと忙しかったので忘れていたが、確かそんなようなことを小瀬に言われていた。
 先ほども部員ないから声が出ていたが、アキラは水泳部の希望の星、エースである。
 同じ実力の人間が全くいない突出した実力者。
 しかも、周囲が希望の星なんて言うぐらい今の水泳部員の中にアキラに勝ってやろうって子がいない。
 もちろん新部長であるアキラに対して、協力して部を纏めようという子ならいくらでもいる。
 水泳でアキラと競ってそのエースの座を奪ってやろうという気概がはなからない子たちばかりだ。
 良く言えば水泳部員は仲良しだが、ちょっと馴れ合いが過ぎる面もあった。

「確かに、言われてみれば今の部員でアキラのライバルになれる子はいないか」
「ポテンシャル的にも精神的にもね」

 当たり前だが、こんな話は部員に聞かせられないのでお互い囁くような声でのやり取りである。

「なら、他の部からポテンシャルのある子を引っ張ってくるか? いれば、だけど」
「それもちょっとねえ……ほら、三年生が引退したからって今から二年生が入部したら。しかも、アキラに勝とうとしたらひんしゅくものだし」
「殺伐とした状況になりそうだな。そもそも、そんなポテンシャルの高い子、他の部が手ばなさそうだし。なにこれ、詰んでねえか?」
「だよね、なんとかしてあげたいけど……」

 三年生が引退し、目の上のたんこぶがいなくなったという時期も悪いが根本的な問題もあった。
 そんな今から水泳を始めて、アキラを焦らせるようなポテンシャルの高い子である。
 小瀬も半分諦め気味であったが、ふと誰かいなかったっけとむつきは引っかかっていた。
 最近、水泳に向いているかは別として、凄いポテンシャルを持った子を見たような気がする。
 割とむつきに近しい人間で、亜子やアキラとの関係も良好、そうであれば突き上げも多少和らぐ。
 なによりちょっと勝気で、あやかとのやり取りを時折見る限りは負けず嫌いな面も……
 いた、物凄いポテンシャルを持ち、しかも運動部に入っていない逸材が一人。

「神楽坂がいたじゃん。一応美術部って話だけど、文化部と運動部なら掛け持ちも」
「誰、誰々その子。美術部にいるの?」

 いけるんじゃないかとむつきが呟くと、小瀬の興味を当然ひいたわけだが。
 神楽坂が水泳部に入ってくれるような未来がないことは、直ぐにわかることであった。
 そもそも神楽坂は美術部に顔を出せているのか、彼女は他の子と違ってバイトで忙しい。
 まさかバイト代を払って水泳部員になって貰うわけにもいくまい。

「悪い、今のは聞かなかったこと、に……」

 いや、待てよと聞きたそうに顔を覗き込んでくる小瀬を手で制しながら改めて考え直す。
 神楽坂については当然だが、今自分が考え付いた馬鹿な考えについてである。
 バイト代を払って水泳部員になって貰うという考えであった。
 もちろん、そのままの意味ではない。
 しかし、水泳部員となってお金を得るという意味ではあながちバイトと言えなくもないか。
 昔ちらっと資料を見ただけでうろ覚えだが、麻帆良には奨学金制度と特待生制度があるはずだ。
 毎年、優秀な生徒が何処からともなく集まる、または集められている学園都市である。
 この手の制度がないはずもなく、奨学金制度も貸与ではなく返済は不要の給付型だったはず。

「先生?」
「ちょっと待て、今考えを纏めてる途中」

 だがこの話を神楽坂に持って行っても、そのままではあまり意味はない。
 この二つの制度は、あくまで奨学に対する金銭の給付である。
 神楽坂の学費は、学園長が全て払っているため、この制度をただ利用するだけでは意味がない。
 払ってくれる誰かが、学園長から制度に代わるだけだ。
 だから発想を逆転させる。
 現状、神楽坂は生活費を自分で稼ぎ、学費を学園長に払って貰っていた。
 まずこれを逆転、つまりは神楽坂が学費を払い、学園長に生活費を払って貰うようにするのだ。
 もちろん、金額はそれぞれ異なるだろうが、そこはまあ入れ替えただけと神楽坂に納得させる。
 多少の金額差であれば、学園長や高畑はきっと快く協力してくれるはずだ。
 そして学費を払うことになった神楽坂は、バイトではなく制度を利用してこれを払う。

(水泳部に入って、秋の新人大会で優秀な成績を収めることが前提だけど……)

 これが一番大きな穴であるが、結構良い線をいっているのではないだろうか。
 神楽坂も無茶なバイトをせずに済むし、一人の学生として部活動に懸命に打ち込めば良い。
 まだむつきが思いついただけなので、誰かに相談してみる必要がある。
 その誰かとは、高畑や学園長に他ならない。
 それに事前に話を通しておけば外堀を埋めることになり、神楽坂を納得させやすくなるはずだ。

「小瀬、ひとまずこの話はまた今度だ。ちょい心当たりはできたが、まだ確実じゃない」
「希望があるだけ、マシ。確定しそうになったら、ちゃんと教えてね」

 その時は小瀬のコーチング能力が必要だと、お願いするようにその肩に手を置き頷いた。

「大河内、それに和泉も。ちょっと用事ができたから、抜けさせて貰うわ。あとで決まった詳細を教えてくれ。今日はミーティングのみで解散だな? 誰もプールは使わないな?」
「うん、その予定。打ち合わせもなく、いきなり三年生抜きで練習できないから」
「この後で私とアキラ、小瀬先輩の三人で新人大会に向けたメニューを組むぐらいやんね」
「なら、その時にはなんとか俺も加わるわ。あと、そこに朝日もいれとけ」

 早口でそうまくしたてると、膳は急げとばかりにむつきは二-Aの教室へと向かっていった。
 まだそれほど時間は経っていないので、高畑はまだ春日の夏休みの宿題を見ているはずだ。
 いきなり学園長はハードルが高いので、まずは高畑に今の考えを相談するつもりである。
 思い付きからほいほい考えを巡らせたので、思い違い等あってはいけない。
 などと冷静ぶってはいるものの、これが上手くいけばと若干興奮しながら速足でむつきは歩いていった。









-後書き-
ども、えなりんです。

明日菜は原作で陸上部の美空並みに速いとあったので。
水泳でもきっとアキラ並みかなと、こういう案になりました。
明日菜の金欠を回避しつつ、アキラのライバルにする。
でも、高畑的に明日菜が仮に部活で有名になるのはどうなんだろう。
流石にフェイトも、中学生の大会の情報手に入れる程暇じゃないでしょうし。

実現するにしてももうちょい先かな。
あと、小瀬は引き続き水泳部でのセックス要員。
さすがに原作ヒロインの数が増えると共に出番減るかもですけど。

それでは次回は来週の土曜日です。



[36639] 第百三話 おっしゃあ、殴らず勝ったで千草姉ちゃん!
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/03/15 22:02

第百三話 おっしゃあ、殴らず勝ったで千草姉ちゃん!

 夏休み中旬に比べれば、随分と日の入りが早くなったことが感じられる夕暮れ時である。
 本日は始業式ということもあって半ドンであり、部活動も殆どがミーティング程度。
 教師は夏休みの宿題の評価があるとはいえ、とある集団に所属する教師と生徒が一堂に会するのには都合が良い。
 茜色に染まりつつある世界樹広場からは、人の姿が途切れ始め、それからぽつぽつとまた集まりだす。
 高畑から瀬流彦、ガンドルフィーニやシャークティと学校の枠を超えて学園長派と言われる面々だ。
 他に各学校の生徒、先日むつきと邂逅を果たしたグッドマンや、女子中等部の生徒の姿もあった。
 刹那や龍宮などは生徒の中でも色々と異彩を放ち、教師並みの存在感を見せていた。
 広場にて適度な距離を取って集まった彼らの視線の先にいるのは、豊かなあごひげを蓄えた学園長である。
 そのそばには普段、しずなや刀子といった女教師の姿があるわけだが今日は少し違った。
 どちらの姿もなく、代わりにそばに立っていたのは関西からやってきたばかりの千草と小太郎だった。
 二人の姿を見ての反応は様々、高畑のようににこやかに軽く頭を下げるのは当たり障りのない反応である。
 酷い者であればあからさまに睨んだり、胡散臭そうに見たりと決して居心地の良いものではないだろう。
 ただ眼中にないとばかりににこやかに千草が受け流したり、挑戦的に鼻で笑う小太郎が彼らを逆なでしている面がないとも言えなかったが。

「うむ、おおよそ集まっておるな」

 諸事情で集まれない者に関しては連絡を受けている為、ざっと周囲を見渡し学園長がそう呟いた。
 この場に集まったのは、学園長を筆頭に麻帆良学園都市を守り支配しているとも言える集団だ。

「学園長、刀子お姉ち……刀子さんがまだ」
「刀子君は、ちょっと事情がのう。刹那君にもいずれ話があるだろう、その時は力になってやりなさい」
「あっ、はい」

 刀子の姿が見えず刹那が指摘するも、既に連絡は受けているようであった。
 本人から聞いたわけではないが、ひかげ荘にて一部その事情は耳に入れていた。
 あとで電話してみようと、刹那はその場はとりあえず頷いて引き下がる。

「ではまずは、我々の新たな仲間を紹介しておこうかのう。ほれ、天ヶ崎君と犬上君や」
「関西呪術教会所属の天ヶ崎千草どすえ。好みの男性は、乙姫むつきはん。ぶっちゃけ、うちは関西も関東もどうでも良くて、むつきはんを追ってこっちに来たんどすえ」

 千草の惚気るような自己紹介に、ざわりと周囲がどよめいた。
 ここが関東であり集団の名が関東魔法協会であることから、千草が別の組織所属といったこともある。
 古くから関東魔法協会と関西呪術教会が不仲どころか、一部では憎み合っていた。
 だがざわめきの主な部分は、それよりも彼女の言葉の別の部分にあった。
 彼女が口にした名の男は、関東魔法協会の中でも最強最悪の人種の恋人として名が知れているからだ。
 慌てて彼らはエヴァンジェリンを探すが、その姿は見つからずいつもの遅刻かさぼりだろう。
 普段はその行為を憤慨するものだが、今日ばかりは少し安心してしまった。

「おう、俺は犬上小太郎や。千草姉ちゃんが色ボケになって連れて来られたけど。関東にもできる奴がいるみたいやし、楽しみやわ。よう、神多羅木のおっちゃん。それに龍宮の姉ちゃんに桜咲の姉ちゃんも」
「相変わらずの腕白坊主だな。聞いたぞ今朝と午後の騒ぎは。古に懲りずに最後の言葉を破って再選を申し込んだ人たちを根こそぎ殴り倒したそうだな」
「約束を破った人が悪いとはいえ、八歳の子に負けて心が折れてましたよ」
「良いじゃないか、腕白でも良いを地でいっていて。子供はそれぐらい、向こう見ずな位で良い。歓迎するよ、小太郎」

 千草よりも気心が知れた感じで小太郎が、神多羅木たちに話しかけたのは直前のインパクトもあってスルー気味である。

「うむ、彼らは関西呪術教会に所属のままうちで色々と働いて貰うことになる。刀子君や刹那君とは違い、出向という形じゃな。いずれ人を選んで、こちらからも誰かを出向させ技術交流を」
「待ってください、学園長!」

 組織の枠を超えてと話を続けようとした学園長を遮り、意義ありとばかりに一人の男が手を上げた。

「そんなこと簡単にできるわけ、そもそも彼らを信じられません。何度彼らに煮え湯を飲まされたことか」
「その通りです、そもそも。乙姫先生なんて破廉恥な人が好みだなんて言う女性を信じられません!」
「高音君、君は少し黙っていようか」

 先日の一件は周知の事実であり、グッドマンのやれ続けとばかりの主張は目頭を押さえたガンドルフィーニにばっさりであった。
 本人は何故とばかりに口惜しげであったが、その勢いはしっかりと周囲に伝番してしまっていた。
 犬猿の仲である組織が仲良くなるなど、懐疑的なそれこそスパイではなんて声も出る。
 刀子や刹那のように関西呪術協会出身者が皆無というわけではないが、彼らはちゃんと組織を抜けていた。
 その点、千草や小太郎はあくまで関西呪術協会所属と、疑われても仕方がない。

「ううむ、困ったのう思ったより反対意見が多そうじゃ」
「うちの組織で頭が硬いのは、お年寄りですけど。こっちは、若くてもおるんどすな」
「なにを関西呪術協会のスパイが。こっちは年中、そちらの組織のせいで迷惑をこうむっているんだ。あの人間として人格を疑うしかないような夜襲部隊を止めてからモノを言って貰おうか!」
「ふふ、お子ちゃまどすえ」

 学園長の困り顔と千草の言い草に今が期と思ったのか、また別の男が弾劾するように声を張った。
 しかしそんな声を前にしても、千草は態度を変えずむしろ、ちょっと小馬鹿にしたように笑う。

「はねっかえりは何処の組織にもいますえ。まさか、うちだけにそんな馬鹿がいると? 勘違いも甚だしい、正義の味方はん。関西の神社仏閣が、年間いくつ関東魔法協会に襲撃されているかご存じどすえ?」
「我々が、立派な魔法使いを目指す我々がそんなことするはずがない。言いがかりだ」
「と、被疑者はこのようにおっしゃってはりますが。学園長?」
「彼女の言う通り、公にされてはいないが関東魔法協会に席を置く者がそういうことをした事実はあるのう。もちろん、末端も末端。席に名がある程度ではあるが」

 若干言い訳めいたセリフ付きだが、千草の言葉を当の学園長、関東魔法協会の長が肯定した。
 そんな馬鹿なと真っ向から否定する者、そうだろうなと納得する者、反応は様々だが。
 いかにも平行線に終わりそうな問答の中に一石を投じたのは、小太郎であった。
 いつの間にかしゃがみ込んでは膝に肘をついて頬杖をつき、待ちくたびれた子供の格好である。
 実際、彼は八歳の子供でしかないわけだが。

「なあ、そんな詰まらん話さっさと終わらせてえな。俺この後、古の姉ちゃんと楓の姉ちゃんと修行する約束してんやから。本当、大人はアホやで」
「話の重要性もわからん子供が、なにを!」
「だってそうやろ。夏の間、小等部編入の為にいろいろ千草姉ちゃんに勉強させられたんや。国語とか社会、あといらんと思うけど道徳?」

 周囲の憤りや侮りを無視して、小太郎は構わず話を続けた。

「戦争は止めましょう、人を労わりましょう。子供にそう教えといてなんやねんな。憲法でも、もう戦争しません言うとるやんか。俺から言わせりゃ、全員犯罪者やで。戦争したがりの」
「まあ、この場での言い合いが子供の教育に良くないのは明らかだね」
「気にせんといて、ぶしょうひげのおっちゃん。俺も元々は手癖の悪い子供のなれの果てやったし。千草姉ちゃんに会うまでは、食ってく為に一杯殴って張り倒してきたからな」
「お、おっちゃん……」

 小太郎の発言で、神多羅木とは違い高畑が若干傷ついていたが。
 主に千草や関西呪術協会を弾劾していた面々は、完全に小太郎に言い負かされてしまっていた。
 それに学園長が最初に宣言した通り、千草や小太郎はあくまで技術交流の為の出向だ。
 例え出先が敵対的な組織であろうと、手を取り合う為の一つの手段に過ぎない。
 その手を振り払ってしまえば、その敵対をこれからも辞めるつもりもないという宣言になる。
 お互いに変に武力を持っているので、その先に待っているのは戦争に他ならないだろう。
 次にいつ手を取り合うチャンスが来るか分からない以上、手を払えば確かに戦争したがりだ。

「ふぉっふぉ、子供の方が案外世の理を正しく理解しとるのう。それとも、下手に個々の利益に拘る大人が世の理を無視しておるのか。弟子に教わるではないが、子供に教わったのう」
「小太郎、ええこと言っとるけど。もうちょい、勉強もしておくれやす。編入試験、ギリギリやったやん。あんな勉強みたったのに」
「一芸入学とかの方が良かったんちゃう? こう、変身仮面ライダー的な。擬獣化で、あたっ」

 変身ポーズを決めてまで馬鹿なことを言った小太郎に、千草が拳骨を落とす。
 その姿を見て、反対意見を言っていた者の幾人かは肩の力を抜いていた。
 言葉を投げつけあうよりもよっぽどわかりやすい、千草と小太郎は正しく姉弟の姿だ。
 それに子供に世の理、正道を教える大人が、他人の悪癖にばかり目を向けていてはいけない。
 もちろんそれを指摘し修正するのも大事だが、良い面もしっかりとこの場合は技術交流か。

「今すぐに何十人も受け入れるわけではない、彼らはテストケースじゃ」
「し、しかし学園長。彼らはまだ若い、そう。交流できるほどの技術が……」
「小金君か、君もしつこいのう」

 非常に嫌そうにまだこだわるかと学園長も、まだ引き下がる一部の人に飽きれていたが。
 膿を出すのは早い方が良いかと、軽くあごひげを撫でつけながら一考する。
 下手なちょっかいを裏でこそこそされるよりは、抑止力という意味でもそれなりに力を示す必要も。
 そんなことでしか組織を纏められない自分に、多少の力不足を感じえないが仕方がない。
 普段娘婿にしっかりせいと叱咤する自分がこの体たらくである。

「天ヶ崎君か、犬上君や。どちらか、誰かと軽く手合せしてみるかのう?」
「なら小太郎、あんた行きや」
「ええの?!」
「うちはぎょうさん式神召喚して、数で押すタイプどすえ。そんなことしたら、この広場が目も当てられへんくなってしまいますえ」

 かといって、適当に式神を一体だけ召喚し、軽々と蹴散らされても学園長の意図を壊すことになる。
 ならば印象第一、インパクト的な意味でも小さな子供でしかない小太郎の方が適任だ。
 別組織の人間の方が、学園長の意図を理解してるなと呆れもしたが。
 小太郎が目をキラキラさせてやる気なので、これはこれで良いだろう。

「おっしゃ、どうせならいっちゃん強い奴。ちまちま中途半端な奴より、その方が分かりやすいやん?」

 ここまで無邪気だと返って好ましいかと、一番は誰だと周囲を見渡す小太郎に周りの大人は苦笑いだ。
 年齢的な意味ではなく、性格的な意味で大人は。

「高畑先生がお相手するまでもありませんは。ここは歳は違えど、同じ魔法生徒同士。清く正しい技術交流を果たすべきです!」
「えー……」
「なんです、失礼な。この貴音・D・グッドマン、魔法生徒の中でも上位に位置する実力者と自負しています。魔法をかじって数年のお子様など、軽くあしらって差し上げます」
「いや、俺は千草姉ちゃんと違って殴るのが基本やから。女はほら、困るやん」

 高校生と言えどまだまだ大人と言えない精神のグッドマンが、気勢を上げて立候補したが反応はいまいち。
 むしろ困ると言いたげな小太郎に、張った胸に手を当て誇らしげにかつ小太郎を宥めるようにグッドマンが言った。
 それでも、拳的な意味でグッドマンではやり辛いと、小太郎も主張を止めない。

「小太郎、あんたこれからも女は殴れんとか困るやろ。良い機会やから、殴らず相手を制する練習させてもろたらええどすえ。きっちりエスコートしたり」
「んー、そういう考え方もあるか。そもそも、古の姉ちゃんとはガチ殴り合いする予定やし。女でも相手によって対応かえてみようか」
「若干納得いかない部分もありますが、ここは年上である私が引きましょう。この私を、拳も使わず仕留められるとは思わないことです」

 不承不承ではあったが小太郎も納得し、グッドマンは元よりやる気であるようである。
 ならば止める理由はないとばかりに、学園長が瀬流彦や明石教授といった魔法先生に目配せした。
 簡単な防護結界を周囲に張って、広場を壊させるなという意図であった。
 折角人払いをして遠ざけても、広場が壊れてしまっては修繕費も馬鹿にならない。
 他の先生や生徒も、巻き添えはごめんだと広場の中央を明けるように周囲に並んでいく。
 中央に進み出たのはやる気十分のグッドマンと、さてどうするかとややお悩み気味の小太郎だ。

「では技術交流ですので、まず私から。私の魔法は影に特化していまして、このように人形を作って関西でいう式神のような扱いをしたり、影そのものを刃に変えたり用途は多岐に渡ります」
「おっ、なんや俺と似たような感じやな。見ての通り、俺は狗族とのハーフや。影の狗神を操ったり、後は基本的に気で強化して殴るやな」

 グッドマンが人型の白い仮面をした影人形を自分の影から出したのに対し、小太郎もまた自分の影から狗神という文字通り影の獣を出して見せた。
 西洋の魔法と関西の呪術、というか土地の妖怪の血の技だが同系統の力に興味深げな視線が集まる。
 グッドマンや小太郎も、自分の特性だけに周囲よりも興味深げに互いを見つめ合った。
 精密に人型をとってちょっと身長の高い仮装人間に見えるグッドマンの影人形に対し、小太郎の狗神は輪郭が揺らぎ荒々しい感じを受ける。

「私の影人形の方が、優美さにおいて勝っていますね」
「んなもん、殴り合いにいらんやん。ぶつけた時に、相手が派手にぶっとべば」

 誇らしげなグッドマンに対し、ちょっとむっとしたように小太郎が言い返した。

「では実際に、ぶつけあってみましょうか。影だけでなく、お互いの力を」
「古の姉ちゃんに続いて、女に負けられんからな。いっちょ、やったるか」
「ふぉっふぉ、何時でも初めて構わんよ」

 二人の視線を受けた学園長がにこやかに許可をだし、改めて小太郎とグッドマンが向かい合う。
 先に動いたのは、小太郎であった。
 お互い見合っているだけでは何も始まらないと、真正面から狗神を走らせグッドマンに向かわせる。

「お行きなさい!」

 グッドマンもそれを受けて影人形を迎撃に向かわせた。
 素早さは狗神の方が上であり、かつ背の低い狗神と長身の影人形である。
 捕まえようとしたのか殴ろうとしたのか伸ばされた腕をかいくぐり、狗神がその腹に体当たりした。
 ぐらりと後ろに大きくよろめいた狗神が、背後に回り込み首へとかみつきぐるんと投げて地面にたたき落とす。
 これで周囲を結界で強化していなければ、石畳の地面は砕けていたことだろう。
 影人形がもし普通の人間であったならば背骨に甚大なダメージを負っていてもおかしくはないほどだ。

「くっ、やりますわね。でもこの程度」

 投げ飛ばされ叩きつけられても、所詮は影人形、物理的なダメージなど殆ど意味がない。
 それこそ圧倒的なパワーで消し飛ばさない限り、影はそこにあり続ける。
 うつぶせに倒れていた影人形は、すかさず目の前に着地した狗神の足を掴んでいた。
 普通の人間では足首を砕かれそうな力で、立ち上がりざまに狗神を持ち上げお返しとばかりに叩きつける。
 そしてすかさず、狗神を砕こうと拳を振り上げたわけだが、小太郎は既に最初の位置にいない。
 全員の視線が影人形と狗神に向かっている間に、素早くグッドマンの背後に回り込んだのだ。
 歳こそグッドマンの半分に過ぎないが、こういう抜け目ない所は小太郎の方が実践慣れしている。
 しかし、小太郎の頭の中にはまだグッドマンを殴らずに勝つ方法が見つかってはいない。

「ふふ、見えてますわよ」
「そら、背後に回り込んでから数秒考え込んでたしな」

 さすがにグッドマンに気付かれ、彼女の影から近接用の影の刃が数本伸びて来た。
 影程に薄い切れ味抜群の槍を間一髪、髪一重で避けていく。
 既にこの時、影人形と狗神の対決は両者相内の形で互いに互いを砕け散らせてしまっていた。

「さあ、私の影の刃で切られては痛いではすみません。降参なさい、犬上さん。お子様にしては、なかなかの実力だと、この貴音・D・グッドマンが賞賛し、認めて差し上げますわ」
「冗談、まだ俺はちっとも実力だしてへんで」
「せめて割合か、半分とかで言いなさい。私の方が出してないって言い辛いでしょう!」
「そんなん俺の方が出してへんから、比べるまでもあらへんて。よ、ほっは。どや!」

 口喧嘩を拒否した小太郎が、グッドマンの影の刃を一つ一つ摘まんでは束ねていく。
 これで全てとは限らないが彼女が出していた五本の刃は、小太郎の手で全て束ねられてしまった。
 下手に触れれば、小太郎の細い腕や指なんて切断しかねないのにである。
 もちろん、そんな事にならないようグッドマンも気を付けてはいたが、摘ままれ束ねられたのは想定外。
 慌てて一歩下がると、距離を取るように大きく跳び退った。
 その時、自分が聖ウルスラの制服姿であることを思いだし、周囲の視線も合って舞いそうなスカートを抑えていた。
 その姿を見て、ピーンと小太郎には思いつくものがあった。

「おっしゃ、一個。姉ちゃんに勝てる方法めっけたで。さっさと降参した方が身のためやで」
「絶対にしません、貴方こそ。次は影の人形五体に刃は十本、全部相手にできますか」
「余裕余裕、倍でもいけるで」

 走り出した小太郎を前に、グッドマンが迎撃に三体、護衛に二体の影人形を作りだした。
 対する小太郎は、一気に相手の数が増えたのに並べた狗神は二体だけ、しかも明らかに先ほどの個体より小さく半分程度の大きさしかない。
 グッドマンの影人形は、先ほどの一体と際なく動きも申し分なかった。
 これが積み上げた練習と経験の差かと、思わず緩みそうになった口元をグッドマンは引き締めた。

「え?」

 しかし、次に小太郎がとった行動に一瞬あっけにとられた。
 グッドマンが迎撃に向かわせたのは三体、てっきり小太郎と二体の狗神で迎え撃つかとおもいきや。
 迎え撃ったのは小太郎一人、残りの二体は影人形を避けてすり抜けグッドマンに向かってきた。
 同時に三体を迎え撃った小太郎も楽ではなさそうだが、討つのには時間がかかるだろう。
 一気に本体を討つ賭けに出たのか、子供の浅知恵と護衛用の二体に自分を守らせる。
 この程度の小さな狗神と思ったところで、またしても虚を突かれてしまった。
 なんと半分程度の大きさだった二体が分裂、一回二回と別れるにつれ大きくなっていく。
 体つきこそ小型犬並みに小さくなったがその数は十に届こうかというものだ。

「それだけ強度も落ちて、迎撃なさい」

 グッドマンも影人形と影の刃で迎撃を試みるのだが、狗神がとにかく小さい。
 しかもパワーこそ格段に落ちているものの、スピードだけは元と変わらなかった。
 ちょろちょろと足元をや目の前を跳んではうろつかれ、とても影人形では追いつけない。

「ああ、もうしっかりしなさい!」

 終いには、グッドマン自身も加わっては待ちなさいと狗神ならぬ影の子犬を追いかける始末。
 おかげで危うく影人形同士がぶつかりかけたり、影の刃があやまって影人形を切ったりと処理しきれなくなってきた。
 つまりは、小太郎の狙い通り。

「コントロールが甘くなっとるで、姉ちゃん」
「しまった、彼のことを忘れて」

 パンっと破裂音が三つ聞こえた時には、小太郎が迎撃用の影人形を殴り砕いていた。
 最初から小さい狗神は攪乱用、そう思ってグッドマンが小太郎に意識を向けた時である。
 ぴょんと小さく跳ねた狗神が、ぺろんとグッドマンのスカートをめくりあげた。

「へっ、いやぁ!」

 先日の件もあり若干トラウマだったのか、グッドマンの反応には素晴らしいものがあった。
 その可愛らしい悲鳴ではなく、舞い上がるスカートを押さえつけるその手の速さである。
 そのおかげもあって、今日はちゃんと履いている下着を周囲に晒すことはなかったのだが。
 一度隙を見つければ、次から次へと狗神がスカートをめくりにくるのである。
 小憎たらしい狗神は、大胆にもスカートの裾にかみつきぐいぐい引っ張る個体すらあった。

「おお!」

 その光景に一部の魔法生徒が、半ば我を忘れて拳を握りながら喜びの声を上げていた。
 周囲の女性人から冷たい視線を受けているとも思わず、これが若さであろう。
 グッドマンもそんな男の魔法生徒、一部魔法先生の気配を敏感に察していた。
 二度も、しかも同僚に見られては今後肩身の狭い思いをとグッドマンも必死だ。
 例えこの技術交流で不利になろうと両手で必死にスカートをおさえ堅守も堅守である。

「や、やだ。この、そうだ。こうしてしまえば。黒衣の夜想曲!」

 そして解決策として、彼女の奥の手である影を身に纏う魔法を使ったのだ。
 制服ごと影に取り込み、影だけに漆黒のドレス姿となりどや顔であった。
 古めかしいゴシックドレスにしか見えないが、防御力もさることながらスカートの内部も鉄壁である。
 なにしろ普段は素肌の上からだが、今回ばかりは下着の上に影を纏わせ取り込んだからだ。
 これで例え卑怯にもスカートをめくられようが、見えてしまうのはブルマにも似た影のズボン。
 さあ反撃はこれからだとエロガキに天誅をくらわそうと一歩を踏み出した高音は、その一歩で足を止めた。
 もぞもぞと奇妙な、柔らかい感触が背中辺りにあり、やがて気づいてビクッと体を震わせた。

「何時の間に、服の中に?!」

 一匹の狗神が肌にフィットしていく影の隙間に、一瞬早く飛び込んでのである。
 もぞもぞと文字通り薄皮一枚の隙間で、もふもふした狗神が動きまわたから大変だ。
 影に圧迫され苦しそうにしながらも、高音の敏感な背中の上を微速移動するのであった。

「ゃぅ、あん」

 下手に解除すれば再びスカート捲りの餌食であるし、肌の上を這いずる感触がくすぐったい。
 反撃の為に踏み出したはずの一歩、その膝がかくかくと震え、立っているのがやっとの様である。
 しかし、懸命に耐えれば耐える程、小太郎の狗神はいけないところに侵入していってしまう。
 背中はまだ生易しく、もぞもぞと脇を通っては胸の上に。
 しかもまだ着衣があったかとばかりに、狗神が鼻先でブラジャーを押し上げ潜り込んできた。
 圧迫された胸の上を狗神が這いずり、本能というものがあるかは不明だが本能にしたがいそれを舐める。

「だめ、そんなところぺろぺろ。はぁ、ブラの隙間に……ぅ、そんなところ甘噛みしないで。降参、降参しますから。はやくこの子を。そこはだめぇ!」
「おっしゃあ、殴らず勝ったで千草姉ちゃん!」

 ブラジャーと胸の隙間に落ちた狗神がとあるぽっちを甘噛みしたところでグッドマンがついに降参した。
 膝は完全に笑っており、はあはあと息を乱しては女の子座りしてしまっている。
 ちょっと涙目で、頬を赤く染めては先ほどまで艶っぽい声をあげていたのであった。
 一部魔法生徒のみならず、先生にとっても色々と刺激的な光景であり、すかさず女性とが駆け寄っては視線から守り始める。
 小太郎は彼女たちからの剣呑な視線にも気づかず、殴らず勝ったと単純に喜んでいたが。

「はっはー、結局たいしたことあらへんかったな。俺の勝ちやで」
「あんたは、なにしてんのや。馬鹿ちんが!」
「いでぇ、なんでや。殴らず勝ったやんか!」
「もっと他に、方法なかったんかいな!」

 当たり前のように、セクハラするなエロガキとばかりに拳骨を貰うことになる。
 おかげで良くやったと千草は女性から好意的に受け止められ、小太郎もある意味で同様であった。
 教師はうまく隠していたが、青臭い男の魔法生徒は神と尊敬のまなざしさえ小太郎に向けていた。
 金髪碧眼の外国人留学生、名前通り高嶺の花であるグッドマンの艶姿をみせてくれたのだ。
 頭にでっかいたんこぶを貰った小太郎に対し、英霊に敬礼とばかりに背筋を伸ばしている者も。
 以後に続く、関西と関東の技術交流にて伝説ともなる第一回技術交流であった。









 麻帆良学園都市の裏などまるで知らないむつきはというと。
 明日の授業で宿題を返すクラス分だけ評価を終えてからの帰宅であった。
 それでも四クラス分はあった為、秋の虫の声がリンリンと聞こえ始める日暮れ時の十九時過ぎである。
 薄暗いひかげ荘に続く百階段をえっちらおっちらと登り、見えて来たひかげ荘。
 見慣れた光景であるにも関わらず、少しばかり寂しく見えたのは明かりの数であろうか。
 夏休み中であればきゃっきゃと黄色い声の数と同じだけの明かりが各々の部屋にあったわけだが。
 階段の終わりに立って見上げたひかげ荘の明かりはごく一部、遊戯室と食堂、あと玄関先ぐらい。
 それでも真っ暗であるよりはましかと、ぜいたくになったもんだと笑いながら玄関の引き戸を開けた。

「たっだいまぁ」

 玄関の表の電気を消しながら、そう声を上げると奥からぱらぱたとスリッパでの足音が聞こえた。
 ご主人が返って来たことを察した子犬が駆け寄るようにやって来たのはさよであった。
 浴衣にエプロン姿であるのは、夕飯の支度をしていたからであろう。
 彼女がやって来た食堂の奥からは、暖かであろう夕飯の空腹が染みる良い匂いが漂ってきている。

「お帰りなさいませ、あなた様。お鞄、お持ちしますね」

 夕飯の支度もそうだが、甲斐甲斐しくも鞄を預かってくれたその姿は古き時代の妻そのもの。
 最近はどうだかしらないが、むつきの妻(予定)に他ならない。
 ちょっと感動してさよを見下ろしていると、可愛らしくどうしたのかと小首を傾げられる。
 そのままじっと見つめていると、はっとしたようにさよがあたふたとしながら言った。

「これはまさか、皆さんがおっしゃってた様式美ですね。あなた様、ご飯にしますか? それともお風呂ですか?」
「さよが食べたい」
「分かりました、なら早速食堂……あれ? え?」

 聞き間違えたかと鞄を胸に抱きながら振り返ったさよを、しっかりとむつきは抱きしめた。
 愛おし過ぎて張り裂けそうなこの胸をなんとかしてくださいとばかりに。
 いつも通りの柔らかくも甘いさよの匂いに交じり、夕食の匂いがついているのが両方の食欲をそそる。

「俺の嫁が可愛すぎる。早く結婚したい、さよの赤ちゃん欲しい。今すぐに赤ちゃん作りたい」
「あなた様、それは……あの、お食事とお風呂のあとで、ゆっくりと」
「そうか、ゆっくりじっとり、執拗にちょっと陰湿に可愛がってやるから。その前に、我慢できないからキスだけでも!」
「げ、玄関でですか。誰かに見られたら……」

 駄目ですと物凄く弱弱しく止められたため、OKのサインですね分かりますとばかりに顔を近づける。
 本気でさよが嫌がるはずもなく、きゅっと目を閉じたまま顔は全く逃げようとしない。
 むしろ心なしか唇を向けられたようで、頂きますと可愛いそれを奪いに行ったのだが。

「やっと帰ったのか、遅いぞむつき」
「ひゃっ!」

 階段の上から降りて来たエヴァの声に、抱きしめていたさよをむつきが無理やり離れさせる。
 さよもエヴァの登場に、慌ててむつきの手から逃れ鞄を胸に深く抱いて背中を向けていた。
 二人して背中合わせで、なにもしていませんよと無意味なアピールであった。
 実はさりげに人の心が読めるエヴァに、表面的な態度など無意味である。
 案の定、にやにやと笑ったエヴァが、階段をとんとん降りてきてはいじりに来た。

「なんだ、姉に見せられないような淫猥な行為をしていたかのような態度だな」
「と、突然何を言うのかねエヴァンジェリン君。さよはアタナシア公認だし、一緒に三人でって何を言わせる!」
「そうです、そんなはしたなくなんて。玄関でしたけど、エヴァンジェリンさん!」
「さよは兎も角、なぜむつきまで純情のふりだ。男が照れても、若干きもいぞ。ほら、はやく食堂に連れて行け。お腹が空いた、お前が帰ってくるのをわざわざ待ってやっていたんだぞ」

 この言葉遣いの悪い義妹はと、抱っこをせがんできたエヴァを抱いて軽くお尻をぺんと叩く。
 相変わらずお人形さんのような黒のゴスロリ姿だが、また千雨に新しいのを作ってもらったのか。
 小憎らしいのだが悔しいことに可愛いと、さよへ向かっていたリビドーを別の形で発散である。
 長いふわふわの金髪を撫で繰り回し、生えて来た無精ひげで頬ずりしたらさすがに軽く殴られた。

「痛って、んじゃ飯にするか。絡繰は?」
「お台所でお味噌汁を温めてます。その前に、あなた様もエヴァンジェリンさんも手を洗ってください」

 はーいとさよの言葉に二人で返事をして、席に座る前に洗い場で手を洗う。
 届かないのでまずむつきに腰を抱えられたエヴァが手を洗い、次にむつきである。
 タオルは気を利かせた絡繰が、手渡してくれたのだが、エヴァがなにかを思い出したらしい。

「茶々丸、夕方ぐらいに何か用があったんじゃなかったか? ネット碁が忙しくて、呼びに来たお前に後でと言ってしまったが」
「いえ、私ではなくマスターが。例の集会が」
「例の集会?」

 とぼけたエヴァに、絡繰が魔法関係者の集会ですとこっそり伝えた。
 ああそう言えばと、エヴァが見上げた時計はそろそろ二十時に差し掛かろうというところだ。
 どう考えても十八時開始のそれは、終わってしまっているだろう。
 携帯電話も部屋に放り込んだままなので、学園長からの連絡も無視したまま。
 だが別にどうでも良いかと、エヴァは直ぐに忘れることにした。

「どうせ、あの女とガキのことで揉める程度の集まりだ。ネット碁の方が大事だ。今日の相手は、sai@kaworaだったしな」
「マスターがそう言われるのなら、構いませんが……」

 ちょっとだけ、絡繰はスケジュール管理の意味がないとでも言いたげであった。

「おい、むつき。ご飯を食べたら、一緒に風呂だぞ。私の髪の毛を洗え、それからさよと一緒に指導碁だ」
「はいはい、わかったわかった。このわがままお姫様め。ふんぞり返ってないで、席に着け」
「はい、あなた様は大盛りご飯です。最近、私も十回に一回ぐらいはネット碁で勝てるようになったんですよ。あなた様も一緒に頑張りましょう」

 平和ぼけした闇の福音は、もとより反省なんて言葉をその辞書に持ち合わせてなどいなかった。









-後書き-
ども、えなりんです。

今回のお話の主役は小太郎です。
原作ではガチバトル要員ですけど、このお話では小賢しく成長中。
あと対女性は割と駄目な方に成長しましたw
たぶん、むつきの影響ではないはず。

高音は、まあ強く生きてください。

エヴァは普通にさぼり、もはや魔法関係完全にやる気なし。

それでは次回は来週の土曜日です。



[36639] 第百四話 もう一回、最後にもう一回だけ
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/03/22 20:22

第百四話 もう一回、最後にもう一回だけ

 その日、むつきは生徒達が多く集まる学生食堂にて昼食を取っていた。
 さよが三日坊主でお弁当作りに飽きたなんてことがあるわけもなく、非常に深い理由があったのだ。
 夜の生活を頑張り過ぎて、今日はちょっと寝坊してしまったという理由が。
 ちなみに深いという修飾子は、夜の生活で深く挿入したところに掛かっているのである。
 それは良いとして、弁当があると思い込んでいたむつきは、登校時に業者のお弁当を頼むのを忘れた。
 結果、食べるモノがないため、偶にはと学生食堂へと足を運んだ次第である。
 当然、むつきがふらふらと現れて、二-Aの生徒の誰にも見つからないなんてことはない。

「せ、先生、お箸どうぞ」
「サンキュー、宮崎」
「この馬鹿ちん。そこは、隠れて先端をぺろぺろしたのヲッ!」
「のどかはどこのストーカーですか。その方向性は、かなりきもいですパル」

 隣に座っている宮崎から割り箸を受け取っていると、早乙女が夕映に辞書の角で殴られていた。
 良くぞやったとテーブルの下で足を伸ばし、つんつんと夕映の足を突いておく。
 宮崎をチラッと見た夕映は、こほんと咳払いをしただけであったが。

「あはは、パルは相変わらずやな。先生、今日はアタ」
「このちゃん、しー」

 宮崎とはむつきを挟んで逆側にいた木乃香が弁当について聞こうとするも、対面の刹那に止められた。
 あっと何かに気づいた木乃香が視線を向けたのは、今度はむつきにお茶を入れている宮崎である。
 彼女はなにか切っ掛けがあればめざとく、むつきに話しかけて来た。
 初恋に浮かれ、むつきが既に表向きにも裏向きにも彼女持ちということを忘れていないか心配になる。
 思い込みの激しい子なので、一人で盛り上がるのはまだしも、一人で思い詰めるのは止めて欲しいものだ。

「それで、近衛と桜咲は何時もの愛妻弁当か」
「ややわ、愛妻やなんてほんまのこと。先生もお握り一個食べる?」
「この食堂は、普通のお店よりサイズは小さめですよ?」

 確かにと木乃香と刹那に指摘され、手元のカレーうどんの小ささに改めて驚いた。
 共学であった大学の食堂と比べると、三分の二、下手をすれば半分ぐらいの大きさしかないように見える。 
 出身大学が学食を全てこのサイズに変更したら、きっと暴動が起きるぐらいの暴挙だ。

「なら、先生せっかくだからのどかの半分食べてあげなよ。この子小食だから、いつも半分ぐらいでお腹一杯って残しちゃうから」
「そして勿体ないと、毎日その半分を食べ続けたパルのお腹はこのように……」

 制服の白シャツの上から、夕映が早乙女の横腹を指でツンツンすると軽く指が埋もれていく。

「おおっと、ゆえ吉君。そういうことを言う子は、ここに肉がついてからに……なん……だと?」
「ふふん、何時までも昔の私ではないのですよ。カップ数が上がるのも遠い日のことではありません」

 控えめで奥ゆかしいのは変わらないが、わずかな成長を感じ取り早乙女が驚愕していた。
 日々の努力のたまもの、主にむつきが揉んだり吸ったりした努力である。

「お前ら、はしたないぞ。そういうのは、男の視線のないところでやれ。あと、近衛たちはやせ過ぎなぐらいだ。俺的には、ぷにってる早乙女ぐらいが好ましいぞ?」

 そこで全員が早乙女を見て、全体像でなく豊かな胸に視線が集まるのか。

「ゆえゆえ、これは戦力的に非常に不利では……」
「のどかはまだ良いです。私の中の希望の二文字が儚く思えてくるです」
「できれば、もうちょい大きなりたいえ」
「このちゃんはまだあるから。うちかて……」

 宮崎を除き、夕映たちから大きくしてねと目で問われ、望むところと答えたいところだが。
 何度も言うようにここは食堂であり、周囲には他のクラスまたは学年の子もいるのである。
 自重しろとばかりに、きつめの咳払いで場の空気を換えようと試みた。
 周囲に男しかいないこの場でそれがどれだけ意味のあることなのか。
 なにか他にと周囲に視線をさまよわせると、キョロキョロしながら歩いている神楽坂が目についた。
 軽く手を上げ振ってやると、神楽坂も気づいたようで空腹を示すようにお腹を抱えてやって来る。

「お腹空いた。木乃香、お弁当ちょうだい」
「一杯あるから、たんと食べや。ところで、お爺ちゃんなんの用やったの?」

 神楽坂が普段一緒にいる木乃香と行動を別にしていたのは、学園長からの呼び出しであった。
 厳密には高畑経由で学園長室に呼び出されたわけだが。
 むつきは既に、その理由を知っているが、それこそ理由があって知らない振りをしなければならない。
 なので今は余計な事を言わず、カレーうどんを汁が飛ばないよう慎重にすすりながら神楽坂の言葉を待った。
 ちなみに、今回の件は神楽坂のプライバシーもあるのでむつきも、お嫁さんの誰にも明かしていない。
 神楽坂は木乃香が作ったおにぎりをぺろりと一個平らげてからその内容を口にした。

「なんか運動部に入って、秋の新人大会で好成績を残せば、特待生枠になれるって話だった。その特待生ってのになれば、学費が免除されるって」
「へえ、そうなんや。明日菜、下手な運動部の子よりスポーツできるえ。でも、乗り気やない?」
「話が突然過ぎて……」

 降ってわいた都合の良い話に実感がないのか、神楽坂は眉をひそめていた。

「なんで、学費が免除されたらもうけたじゃん。明日菜、自慢の馬鹿力もあるんだしやりなよ」
「馬鹿力は余計よ。それに私、美術部だし。今更運動部になるにも……」
「確かに、今から運動部に入るのは色々と心苦しいですね。チームスポーツは特に。明日菜さんであれば、ルールさえ覚えれば即レギュラーでしょうが。言い換えれば、一人補欠に落ちます」
「それは、ちょっと可哀想かも」

 お気楽な早乙女の意見はまだしも、夕映の指摘や宮崎の率直な感想に神楽坂はうな垂れた。
 この場で口にはしていないが、学園長が払っている学費と神楽坂が稼いでいる生活費を逆にする提案はされているはずだ。
 友達の前で、あまり自分の身に関わる金銭的なことは言いたくなかったのだろう。
 だから特待生と、学費免除という話の一部だけこの場で明かしたのか。

「では、個人スポーツなら私の剣道部などはどうでしょう。既に私がいますし、フォローぐらいできますよ?」
「んー、桜咲さんの申し出はありがたいけど」

 私、今のバイト好きだしと小さく誰にも聞こえないように神楽坂は呟いていた。
 むつきにもそれは聞こえていなかったが、今回の件は思いのほか神楽坂には魅力的ではなかったことぐらいは分かった。
 バイトでひいひい言いながらも、神楽坂はこの現状に満足してしまっている。
 元々、この案は神楽坂の為にと、むつきが勝手に彼女の保護者である学園長たちに持ち掛けただけだ。
 だから彼女の意志を無視してまで、押し付けるのは大人の勝手なエゴに他ならない。
 勝手な都合を押し付けた結果、神楽坂がこんなはずじゃなんて言いもしたら目も当てられないだろう。

「先生、私どうしたら良いかな?」

 しかし、机にへたっていた神楽坂が姿勢をただし、むつきに問いかけてきたことで風向きが変わる。

「どうしたらって、迷ってるのか? 一体なにに対してだ? 学園長や高畑先生の好意を無にしたくないのか、今更新しい部活に入るのが不安なのか。いろいろあるだろ」

 絶対的に現状維持が好ましいのであれば、どうしたらなんて言葉は出てこない。
 せいぜいが、むつきが言ったように相手の好意を跳ねのけるのが申し訳ないと思うぐらいだろう。
 神楽坂の今後を決める大事な岐路なので、慌てるなとむつきは努めて冷静になろうとしていた。

「一番大きいのは……皆に迷惑かけてるかな。わざわざ、特待生っていう制度を勧めてくれた学園長や高畑先生。監督のところのバイトで、先生にも。木乃香にはお弁当やご飯作って貰ったり」
「うちは、全然迷惑やなんて。先生?」

 案の定というべきか、今回の件に関して神楽坂の無用な遠慮が発動したらしい。
 本当に真の提案者がむつきであることを黙っていて正解であった。
 彼女のことである、むつきが提案者と知るとこれ以上はと速攻で断りに来たかもしれない。
 だからそんなことはないと言おうとした木乃香を手で制し、神楽坂の無用な遠慮を取り除く。

「神楽坂、一つ訂正しておくぞ。特待生枠ってな、学生の為だけじゃないんだぞ?」
「へ?」
「優秀な生徒を引っ張って来て活躍してくれれば、学校の宣伝になる。お前が部活動で優秀な成績をおさめて学校を宣伝し、お前は学費を貰う。ギブアンドレイク、一種のバイトみたいなもんだ」
「バイト、バイトかぁ……」

 この説明だけで随分と印象が変わったのか、言われてみればと神楽坂は呟いていた。

「だから、別に迷惑とか考える必要はない。大事なのは、お前がどうしたいかだ。実際、学費が免除になれば色々と楽だろ。しかも、爽やかにスポーツで汗を流すだけで」
「うん、それは確かに」
「あと、俺も近衛も全然迷惑じゃない。むしろ、そんな事を言うと怒るぞ。前にも言ったろ、笑顔でありがとうって言えば良いって。近衛の場合は、美味しかったか」

 先ほどの制止の意味を悟り、むつきの言葉にのって木乃香がぷんぷんと怒る。

「その通りやえ。明日菜がぱくぱく、美味しそうにしてくれたらそれでええよ。それに、うちも花嫁修業になるし。ギブアンドレイクや、少々辛口の批評でもええよ」
「うん、迷惑って言ってごめんね木乃香。おにぎり、超美味しい。あと、実は明太子は焼いた方が好き」
「あやや、それ知らへんかったえ。うちも、まだまだ明日菜のこと知らへんな」

 まだ神楽坂も色々と整理したいことはあるだろうし、今日はこの辺りだろうか。
 小どんぶりのカレーうどんをざっと腹に収め、むつきは席を立った。
 神楽坂の意外な一面というか、知っているようで知らなかった食の好みを色々聞いている木乃香を微笑ましく思いながら。

「神楽坂、悩んだらまた相談しに来い。あと、宮崎すまん。オムライスの半分は、また早乙女に食って貰ってくれ。早乙女、ダイエットしたくなったら水泳部に顔出してみろ」
「はい、パルお願い」
「うん、分かった。って、おい。まだ、大丈夫。慌てるような体重じゃない」
「パルのメガネは、都合の悪いものは見えなくなる性質の悪いものですから」

 ひとまず、落ち要員としての早乙女に明るい空気に変えて貰うことにした。
 頻繁にうざいことこの上ない彼女であるが、こういう場合は結構便利なのかもしれない。









 水泳部の、アキラのライバル云々については、神楽坂の答えを待つことに決めた。
 彼女が特待生枠の為に運動部に入ると決めてから、選択肢の一つとして提案することにだ。
 でもできれば、神楽坂の為だけでなくアキラの為にも特待生枠を狙って欲しいものだ。
 食堂を立ち去り歯磨きや、午後の授業の準備を終えてもまだ三〇分は昼休みがあった。
 職員室では惰眠の一つも取り辛いので、やって来たのは社会科資料室である。
 最近、むつきの学校での個人的なスペースになりつつあった。
 部屋も狭いし、クーラーもなく、くつろぐには向かない場所だが、プライベートがある。
 パイプ椅子に座りながら、時折入り込む秋風にいずれ夏も終わるなと物寂しい気持ちになった。
 あまり寂しいと死んでしまうので、パートナーが欲しいと携帯電話で電話帳をめくっていく。
 そう言えばとあることを思いだし、その子の名前を指でなぞって電話をかけようとしたわけだが。
 タイミング良く扉がノックされたため、携帯電話をしまい椅子を立って扉を開けてあげた。

「失礼します、アル」
「ありゃ」

 開かれた扉からちょこんと顔を出したのは、今まさに連絡しようとしていた古であった。
 その仕草は何時もの元気印とは違い、大人しいというかしおらしいものがある。
 むつきに室内へと促されても、手と足が同時に出るぐらいまるで緊張しているかのようだ。
 事実しているのだろう、古にはむつきと二人きりになって緊張せずにはいられない理由があった。
 もちろん、晴れて恋人同士となったこともあるが、その上での約束である。

「なに超ど級に緊張してんだよ。何十人もの格闘家を前にした方が怖いだろ」
「その方が何倍も気が楽アル。覚えていてくれたアルか、約束……」
「俺が言いだしたことだぞ。つっても、その様子じゃ今すぐにってわけにはいかなそうだな」

 今の古は、あまりにもガチガチに緊張しきってしまっている。
 まだ直接言葉にしてはいないが、自分から求めに来ただけに意気込みだけはあった。
 その意気込みのまま約束のファーストキスを終えても、絶対後で思い出せないであろう。
 もしくは何か失敗をして、例えば勢い余って前歯がぶつかったりと。
 古の良い思い出に残せそうにないので、むつきはパイプ椅子に座って両足を大きく開いた。
 パンパンと叩いたのは、開いた太ももの間に見えたパイプ椅子の座席部分である。

「まだ時間はあるから、座れよ。緊張解くのが先」
「はい、アル」

 背中に注意しながら、むつきへ触れないように触れないように古が座り込んだ。
 そんな緊張するなよと、その背中へと人差し指でちょんと突いてやった。

「ひゃぅ。な、なにするアルか!」
「すまんすまん、ほら。もっとこっち、捕まえた」
「また、捕まったアル」

 睡眠を邪魔された猫のようにビクリと背筋を伸ばした古が、両手を上げながら振り返った。
 ちょっとは緊張がほぐれたようだが、まだまだ普段の彼女には遠い。
 なのでお前がと責任転換をしつつ、むつきは古のお腹に腕を回すようにして抱き寄せた。
 狭いパイプ椅子の上で重なり合うように、密着して座り込む。
 重量オーバーとでも言いたげにパイプ椅子がギシっと軋んだが、完全に無視である。
 むしろその上でギシギシといやらしいことをしているかのように、むつきは何度も古を抱き直す。
 最終的に、満足のできるポジションに古をおき、その中華系なのになぜか金髪の頭に鼻を埋めた。

「古は、良い匂いがするな。甘いというより、爽やかな感じ。けど女の子の匂い」
「照れるアル」

 むつきの言葉にどう反応して良いのか、頬を紅潮させながら古は俯いていく。
 この時、両手の人差し指をつんつんしていたが、照れた時の癖なのだろうか。
 だが上機嫌にむつきが抱き続ける為、意を決したように古も抱き寄せてくる手に触れて来た。
 最初はおっかなびっくりと言った感じだったが、一度振れた手を二度と放さないようしっかりと。
 そしてとあることに気づいたように、あれっと小首を傾げながらむつきの腕をつついた。

「先生、腕がぷにぷにアルよ。逞しいことは逞しいアルが」
「鍛えまくってるお前の感覚で言われてもな。そういう、古もぷにぷにだぞ」
「どこ触ってるアル、くはっ」

 古の初心さを考えると突然胸など触れるはずもない。
 くすぐったそうに古が身をよじったことから分かるように、彼女のわき腹である。
 制服のシャツの上からエロくならない程度に、古のわき腹を軽く指先で摘まみ揉んだ。

「あは、あまり大きな声は。だめ、反則。後ろからは卑怯アル、ふぁや」
「男に容易く背後を取らせたらこうなるんだ、良い勉強になったな」
「だめ、食べたばっかでお腹が痛いアル。負けた、また負けたアル」
「うーし、俺の勝ちぃ。じゃあ、古には罰ゲーム」

 むつきが勝手にノリで言っているだけだが、ひいひい言っていた古からの反論はない。
 確かに反論こそなかったが、卑怯者とばかりに上目づかいで見られるぐらいはしたが。
 膝の間に座っていた古を一度立たせ、くるりと反転。
 椅子に座り込んでいるむつきに相対する形とさせ、そのまま両腕を広げた。
 相変わらず椅子に座ったまま、この胸に飛び込んで来いよとばかりに。
 要は背面座位の形から、対面座位に変えようぜという提案に他ならない。
 もちろん、古の心中的な難易度を考慮し、罰ゲームにかこつけて虐めているだけだ。

「足を広げたら、見えてしまうアルよ……」
「見えない、見えない。てか、お前いつもそんなこと気にしてないじゃん。普段は飛び跳ねまわって、時々ハラハラしてんだぞ」

 言われて初めて気づいたように、古が慌ててスカートを手で押さえていた。

「ちょっとは、おしとやかにするアル」
「おしとやかはともかく、俺以外には見せては欲しくないな。古は俺の恋人なんだし」
「それは卑怯な言い方アル」

 恋人というキーワードに吸い寄せられるように、当初拒否していた古がふらふらと近づいて来た。
 もとより距離は離れて折らす、後数センチで互いの膝がぶつかる距離である。
 まだ両手はスカートの裾を掴んでもじもじしていたが、ふいにその顔を上げた。
 真正面からむつきを見つめたかと思いきや、その両目はきゅっと閉じられたままだった。
 ただし、意を決した様子ははっきりと伝わり、ぴょんと可愛らしく古が跳ねる。
 小さな子が親に飛びつく様に、両足を広げてむつきの膝に跨り抱き付いて来た。

「おっと」
「…………」

 慌てて受け止めたは良いが、古は顔を見せまいとぎゅっと抱き付き顔はむつきの肩の上だ。
 だがその分、体は互いの体温や鼓動が聞こえる程に密着してもいた。
 トクトクと彼女の心情を表すように心臓が慌てふためいた鼓動を奏でむつきに伝わってくる。
 そんな古の腰に腕を回しお尻を引き寄せるようにさらに抱きしめた。
 甘酸っぱい匂いが濃くなったのは、密着したからか、チラッと見える首筋に珠の汗が浮かんでいたからか。
 ついつい唇で吸い取りたくなったが、さすがにそこまではかわいそうか。
 相変わらず力強く、ちょっと身体が痛いぐらいだが、落ち着かせるように古の背中を撫でる。
 ぽんぽんと時折リズムよく叩き、逆側の手ではさらさらの髪を手櫛で梳く様に撫でた。

「ん~……」

 しばらく続けていると、徐々に緊張も解けて来たのか古がむずがるような声を喉の奥で上げた。
 気持ちよさそうな声が出る場所を重点的に、優しく気持ちを込めて撫で続ける。
 たっぷりと念入りに、時間をかけただけのことはあった。
 次に古が顔を見せてくれた時、火照る頬に乗せられた瞳から緊張の二文字は消え、垂れていた。
 物欲しげな、満たされているがそれでも足りないように媚びた光が瞳に宿っている。
 きっとこんなとろけた顔を見た男は俺が初めてだろうなと、同じくむつきの自尊心が満たされていく。
 あとは雰囲気に流されるまま、むつきは明らかに自分から飛び込んだわけだが。

「んっ」

 そっと言葉ではなく、彼女の表情から許可を感じ取って唇を奪った。
 以前のような唐突で一方的なものではなく、あくまで合意の上で恋人らしく。
 柔らかな唇に自分の唇を重ね、吐息の隙間すら惜しむ様にしっかりと重ね合わせる。
 先程までむつきを締め付けるように回されていた腕から力は抜け、抜けすぎて落ちそうだ。
 必死にしがみつく様にむつきのスーツを震える手でしっかり握ろうとしていた。
 そんな古を落とさないよう、彼女が安定するようむつきも少し座り方を変えていく。
 尻を滑らせ椅子の先端に、背中がちょっと痛いがパイプ椅子の背もたれに肩甲骨辺りを置いた。
 尻と肩甲骨の二点で体を支えるように、傾いた体の上で半ば古を寝かせるように受け止める。
 体勢が安定し、むつきの背中に回されていた古の手からふっと力が抜けていく。
 そのまま、むつきが大人しく甘酸っぱい恋人同士のキスで終わらせて入れた。

(古の唇柔らけえ。古の甘酸っぱい匂いしか……ちょっとだけなら、良いよな?)

 彼女の髪を梳いていた手にわずかに力を込め、後頭部を支えるようにおさえる。
 ほんのわずかな変化だったのでチラッと目を開けて確認した彼女は気付いた様子がない。
 または、キスに夢中でそんな余裕すらなかったのだろうか。
 反対の手、古の背中を撫でていた手がするすると、降りていきしっかり腰を支えた。
 これで多少彼女が暴れようと、落としてしまうような大失態はないはずだ。
 悪戯するならアフターケアまでと余計なことを考えながら、むつきは行動を開始した。

「?!」

 キスに陶酔していた古が、突然その体をビクリと震わせた。
 何事と見開かれた彼女の瞳が見たのは、いたずら小僧の瞳をした恋人であった。
 そもそもにして、彼女が震えたのは唇を何かで突かれたからだ。
 殆ど隙間なく密着した唇同士の間でなにがあったのか、経験不足な古は直ぐに回答に行きつかない。

「古、あんま暴れるなよ」
「先せっ?!」

 数センチの隙間が間唇同士の間から、むつきが改めて注意を促した。
 一体何のことか目を丸くする古は、やっと先ほど自分がされた何かを理解することになった。
 むつきの唇の隙間からはい出た舌先が、今もまた目の前で古の唇を舐めたからだ。
 言い聞かされていたとしても、これで暴れるなという方が無理である。
 しかし、いつの間にか後頭部と腰、僅かに尻に触れたむつきの手がガッチリ固めていた。

「んぅぁ」

 唇を舌で舐められる、何故と聞こうとして開いた唇の隙間にその舌が入り込んできた。
 言葉は途中で遮られ、唇どころか口内にある舌にまでむつきの舌が触れて来る。
 つんつんと突いたかと思えば、舌の上をずるっと這いずっていく。
 古はこれまで武術一辺倒なところがあり、正直なところ周囲の子よりも性知識が乏しい。
 もちろんキスを知らない程ではないが、こんな大人のキスは彼女の知識にはなかった。
 だから今自分が何をされているのか、恋人が自分に何を求めているのか全く分かっていない。
 今始めてわずかながらに男に求められる怖さを知った気がしたが、同時に戸惑ってもいた。
 気持ち良いのだ、好きな男の舌で舌を舐められるのが、からめとられ吸い出されるように吸われるのが。
 けれど知識がないゆえに、酷く卑猥でいけないことをしている気になってわけがわからない。
 つまりは、むつきにされるがまま、ただ好意を受け入れ身もだえることしかできなかった。

「うぁ、んぅはぁ。んぅ、んぅっ」
「あぁ、好きだ。愛してるぞ、古」

 一瞬の息継ぎ、その瞬間にささやかれた言葉に、古は的確にそれを理解した。
 これも愛の表現の一つだと、何故なら支えられた頭と腰、それ以外に支えられる何かがあったからだ。
 いやむしろちょっとバランスを悪くしているか。
 むつきの膝に跨った古の股座をぐいぐい押してくるとあるもの。
 さすがの古もそれがナニであり、何故押し上げてくるかぐらいは保健体育で知っている。

(先生が、興奮。私で、私が興奮させたアルか?)

 目の前の男が、一心不乱に共に舌を絡ませ合う恋した男が、自分で心を乱してくれている。
 言葉なくとも主張するそれが、古が強い婿を求めた先にあるものを作ろうと訴えかけてきていた。
 唇を舌でなぞられた時や、舌と舌を絡ませ合っている今現在のそれとも違う。
 古の背中をぞくぞくと何かが湧き上がっては、胸の内でふくらみ始める。

「私も、好きアル。先生、もっと吸って。私で興奮して欲しいアル」

 交尾こそまだだが、雌としての本能が、古の中で弾けて生まれていた。
 自分が何をされているのかをしっかり理解し、それでもなお激しく求め始める。
 一方的に舌を弄られ蹂躙されるだけであった状況から、自らも舌を絡めていく。
 口の中でにちゃにちゃと二本の舌が絡み合い愛撫し合って、パイプ椅子が勘弁してくれとばかりに軋みを上げていた。
 いつしか二人の絡み合いは体ごと激しく動き、体ごと擦り付けあっていたのだ。

「んっんぐ、んぅ」

 古が攻めに転じたことで、むつきも負けじとさらにその先を歩んでいく。
 背中にあったはずの古の手はいつの間にか、むつきの頬に添えられ覗き込まれるように舌を吸われる。
 古が上でむつきが下、ならばその地の理を生かさずにはいられないとばかりに。
 だから、飲んだ。
 舌を絡めあう過程で古の唇を通して流れ込んでくる彼女の唾液を、喉を鳴らして聞こえるように。

「んーっ!」

 思わず離れようとした古を、またしてもガッチリ掴んだむつきが離さない。
 ただひたすらに、彼女の唾液を飲みつづけ、引っ込んだ彼女の舌を絡め引っ張り出す。
 完全に古の体はむつきに預けられ、頬に添えられていた手も力なく垂れてしまっていた。
 また負けたアルとでも言いだしそうな瞳で、とろとろの唾液を飲まれるがまま。

(悔しいのに、逆らえないアル。このままじゃ、負けるのが大好きになってしまうアル。でももっと、もっと負けたい)

 矛盾した心中を抱えつつも、古はむつきに負けていたかった。
 文字通り互いの唾液がまじりあったそれに、溺れ続けていたかった。
 いい加減、背中と腰が痛かったのか古を抱え逆に椅子に座らせられ、飲ませられる側となっても。
 なにかを言われたり視線で合図されるより前に、古はむつきの唾液をすすり始める。
 最初こそおっかなびっくりちゅうちゅうとだが、やがては流し込まれるままこくこくと。

「んくんぅ、先生。お腹一杯アル、交代。飲んで欲しいアル」
「すっかり虜だな。古、替えのパンツあるか? 濡れちゃってるぞ」

 すっとむつきが手早くスカートの中に手を入れても、古は手を払う仕草さえ見せない。
 薄い布地の上から大事な部分をなぞられても、むしろ小さく喘いで震えるぐらいだ。
 今も割れ目にそってむつきが指先を動かしては、天井を見上げて呼吸を短く繰り返している。
 時折ビクッとするのは軽くイッてしまっているからか。
 むつきが言った通り、彼女のパンツは染みが広がり、むつきの指でさらに広げられてしまっていた。

「先生、私と跡継ぎつくるアルか?」
「つくりたい、けど残念。時間切れだ」

 指先についた愛液を舐めながらむつきが逆の手で指さしたのは、予鈴間近の時計であった。
 既に五分を切っており、耳を澄ませばぱたぱた走る音が外から聞こえてきていた。

「跡継ぎの方が大事アル。先生、私は次の授業はさぼ」
「こら」

 自分が何を言っているのか、心神喪失気味の古の唇を軽くついばむ様に奪った。
 それ自体は逆効果だったかもしれないので、人差し指でふにふに鼻面を押してもやる。

「恋人同士だけど、俺教師、お前生徒。さぼるなんて言わせねえよ。こっから先は、土日を待て。ひかげ荘なら、もうダメってぐらい可愛がってやるから」
「こんなもどかしい気持ち初めてアル。良く皆、耐えられるアルよ。もう一回、最後にもう一回だけ」
「このわがままお姫様」

 我慢できないと駄々をこねる古が可愛くて、ちょっとだけサービスである。
 激しくはなく、彼女の心を落ち着かせるような優しい年相応のキスだ。
 そっとむつきが唇を放すと名残惜しげな瞳を古が向けて来たが、それも一瞬。
 次の瞬間にはパーンっと彼女が両手で自分の頬を叩いていた。

「うむ、元気百倍。パンツが冷たくてぬるぬるで気持ち悪いアルけど。扉を開けたら、何時もの私じゃないと先生が困るアル」
「おう、さすが武闘派。やり方が硬派だわ。恰好良いぞ、古」
「か、可愛いの方がちょっとだけ嬉しいアル」
「そっか、可愛い。凄く可愛いぞ、古」

 硬派なところとのギャップがまた可愛いと、頭を撫でてやるととても嬉しそうに笑ってくれた。

「パンツは小鈴辺りが、予備持ってそうだから聞いて来い。走れば、間に合うだろ」
「先生こそ、それ大丈夫アルか?」
「ああ……俺もどっかのトイレに駆け込むわ。直接だけど」

 余計なことを言わせんなと、撫でていた手で軽くでこピンしてやった。

「古、本当にしたかったらまた連絡しろ。慌てなくて自分のペースで。俺も色々準備してやっから」
「一旦我に返ると、恥ずかしくて連絡なんか無理ある。もうちょっと先でも良いアル」
「よし、なら行って来い。何時もの古で、可愛いな?」
「アイ!」

 つい数十分前ではできなかったであろう、お尻を叩くというスキンシップで送り出す。
 された古もむつきにエッチという視線を送るだけで、拒絶もなにもあったものではない。
 スカートに例の染みがついてないよねという意味では少し気にはしていたが。
 締めていた社会科資料室の鍵を開けて、古が走っていく。
 既に扉を開けられたら恋人から教師と生徒の間柄、愛を込めて手を振ることもなくむつきは見送った。
 さて俺もトイレに駆け込むかと、テントを張った股間を隠すように若干前かがみで一歩外に出たところで見つかった。

「乙姫はんみーつけ」

 先日同僚になりながらも、微妙に避けていた相手に。










-後書き-
ども、えなりんです。

いやはや、進みが遅いですね。
個々にお話があるのであっちやってこっちやって、ぐちゃぐちゃでないか心配です。
明日菜は特待生についてお悩み中、古は初めての恋人相手に幸せ一杯。
あと最後の千草は若干、ホラーっぽいw

それでは次回は来週の土曜日です。



[36639] 第百五話 地雷女扱いしてへん?
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/03/29 21:32

第百五話 地雷女扱いしてへん?

 今まさに出て行こうとしていた社会科資料室へと、手を引かれ素早く連れ込まれた。
 古とイチャついた直後で股間が暴れん棒状態で抵抗なんてできやしない。
 彼女から全力で逃げるには胸張って走らなければいけないわけで、既に股間が張っているのだ。
 そんな事をすれば、むつきの社会的信用は失墜も失墜。
 もっともそれがなくとも、少しばかり避けていた相手にみつかったことで思考が麻痺していたのもある。
 普段とは真逆に閉じ込められるように鍵をかけられ、振り返った彼女の笑顔を見て顔が引きつった。
 そんなむつきの顔を見た千草は、着物の袖の代わりのようにスーツの腕で口元を隠し呟く。

「そんなこの世の終わりみたいな顔されたら、傷つきますえ」
「あの……俺、次の授業が」
「あら、おかしい。五限目はうちも、乙姫はんも授業はあらしまへんえ」

 一先ず手っ取り早い逃げ文句を呟いてみたが、あっさり退路は防がれてしまう。

「んー……」

 むつきが避けていたことは、彼女の強引な手段からも覚っていたことだろう。
 しかし今むつきを目の前にして、千草は唇に指を当てながら少し考え込み始める。

「もしかして、乙姫はん。うちのこと、一夜の恋に燃え上がって追っかけてきた地雷女扱いしてへん?」
「えっ、いや。あはは」

 中途半端な愛想笑いは、千草の言葉を肯定しているとしか自分でも思えなかった。
 そもそもの出会いが一夜限りの旅の恥を前提とした逢瀬のはずだ。
 それが数日後に関西から関東へ、さらには同じ職場に飛び込んで来ればそう思っても仕方がない。
 改めて自分の行動を思い返した千草は、不満げな表情を少し和らげ始める。
 自分でも、そんな相手がいたら速攻武力的な意味で撃退するかもと思ったからだ。

「うち、別に乙姫はんに責任とってって追ってきたわけやあらへんえ」
「そうなんですか?」
「刀子じゃあるまい。もちろん、乙姫はんのことは大好きやけど。結婚できるなんて思ってまへんえ」

 あっけらかんと胸の内を明かす千草を前に、むつきも少し自分を省みて軽く頭を下げた。
 旅の恥という大前提があったとはいえ、今のままではヤリ逃げになってしまう。
 だから、つい先ほどまで古、お嫁さんとイチャついていたパイプ椅子を近くに引き寄せる。
 腰を落ち着けてという言葉通り、まず自分が座り、千草に手を伸ばした。

「もし嫌でなければ、お話をしませんか?」
「それでこそ、乙姫はん。腹が据われば、男らしい」

 京都の時とは違い、千草は女性教諭らしく白シャツにスリットの入ったタイトスカート姿である。
 おみ足もうれしいことにタイツに包まれムチっとした感じがエロイ。
 長い髪は和美のように後頭部で綺麗にまとめられ、大きなメガネが教師らしい。
 特にメガネはエロビデオ的な意味でも特に。
 ちょっと思考がエロイ方に流れたのは、股間が元気なだけあってと思ったところで気づいた。

「あら、嬉しい」
「わっ、これは違う。ちょっとした手違いで!」

 差し出された手よりそちらの方がと言いたげに、千草が嬉しそうな声を上げた。
 咄嗟に隠しはしたが、現在のむつきの状態を完全に把握されてしまったようだ。
 途端にエロイ目つきで赤い唇を舌なめずりしたまま、千草がむつきの手に誘われ背を向けた。
 そのままむつきの膝上に大きなお尻を座らせ、突起物にこすりつけるように腰を振る。

「ちょっと、言ってることとやってることが違うじゃ。でもちょっと嬉しい自分が悲しい!」
「愛してるお人がやる気なのに、黙ってみてるやなんて。乙姫はん」
「駄目だってわかってるのに、俺って奴は……」

 首だけでも振り返った千草が、悩ましげな吐息をうなじに吹き付けてきただけであえなく陥落である。
 このいけない女教師がと、千草のお腹に腕をまわし、抱き寄せては熟れた女の匂いを嗅いでしまう。

「もっと、ええことしてもええんどすえ?」
「ぐっ、ががが。したい、したいけど……」

 両腕を組んで豊かな胸を押し上げるようなセクシーアピール、むしろセックスアピールだろうか。
 久々の逢瀬からか、またはむつきが獣欲を発しているからか、千草から雌の匂いがする。
 女教師という硬そうなイメージの殻を、その身に纏うスーツを破り押し倒せと。
 本当の獣のように後ろから貫いてと、そのフェロモンで誘っているようにしか思えない。
 まだ何も話し合ってないのにという理性的な考えがもろくも崩れ、塵に消えそうな時であった。
 お昼休みの終了を告げる、お昼の授業が始まる鐘が響き渡り、はっと現実に連れ戻された。

「千草、さん……」
「千草でええどすえ」
「どうして千草はこっちに? 近衛の家での巫女かなにかの仕事は、止めちゃったの?」

 唐突に真面目モードに、ひしひしと感じていた獣良くが薄れ正直千草は舌打ちしたくなった。
 しかし、むつきの真面目な視線にさらされ、これはこれでと機嫌を持ち直した。

「詳しいことは言えまへんけれど、色々あるんどすえ。表向きは、麻帆良学園の教師。裏向きには、お嬢様。木乃香様のご様子を実家に伝えるのが私のお仕事どすえ」
「聞いちゃならんことを聞いたような。もしかして、教師になれたの学園長の私的な職権乱用?」
「そうとも言えるし、そうとも言えへんえ。お好きなようにとったらええどすえ」

 裏的な意味のぎりぎりを口にした千草は、正直どうでも良いと若干投げやりであった。
 関西呪術協会の親東派として送り込まれ、木乃香の様子を伝える役目を負ったのは事実だ。
 しかし千草はその仕事はそれなりにするが、きちんと自分の目的があってこちらに来た。

「地雷女やないって言ったけど、乙姫はんが忘れられへんかったのは本当どすえ」

 そう言った千草は、膝の上で少しお尻を滑らせ横向きになってむつきの首に腕を回し抱き付いた。

「上の申し出は渡りに船やったし、小太郎にもうちびっと広い世界みしたりたかったしな」
「小太郎君か、千草が預かってる子だっけ?」
「あの子も親おらへんし、放り出すには危ない子どすえ。手間のかかるけど、可愛い弟分どすえ」
「千草も、お姉ちゃんなんだな」

 そりゃ惹かれるわけだと、アタナシアや刀子に続くむつきの大好きなお姉ちゃん属性である。
 しかも縁も所縁もなかったであろう他人の子を預かるなんて千草も筋金入りだ。
 彼女から逃げ回っていた自分を少し恥じて、ごめんねの意味を込めて見上げてくる彼女の唇を素早く奪う。
 ちょっと驚いた様子であったが、何処か安心したようにむつきの胸に千草が体重を預けて来た。

「あの子がおるから、うちは正直結婚は諦めとるんですえ。だから、乙姫はんにも結婚してなんて言わへんえ。けど……偶になら、時々で良いから好きな人に甘えたいんどす」
「千草……」
「結婚はできん。けど、好きなお人との子は欲しい。認知もいらん、迷惑もかけません。だから、乙姫はん。むつきはんの、赤ちゃん欲しいどすえ」

 本当に俺は馬鹿だったと、千草から逃げ回っていた過去の自分を殴り倒したくなってきた。
 胸にかかる彼女の重さは、彼女の見た目以上にずっしりと感じられる。
 もちろんそれは本来の重さという意味ではなく、彼女が結婚も認知もいらないといった発言からだ。
 普通の、特に初婚である男なら、千草だけならまだしも小太郎のような瘻つきは勘弁だろう。
 千草と小太郎が血のつながりがないのならなおさら、余程彼女を愛していなければ無理だ。
 でもと、むつきはもたれかかってくる千草を受け止め抱きしめ、力強く支えた。
 全然、これっぽっちも重たくないと、言葉より先に態度で示すかのように。

「千草、俺の嫁になれ」
「えっ」

 だから今は彼女の寂しげな瞳を目の前にはっきりとそういうことができた。
 驚き目を開きあっけにとられる彼女の唇を再び奪い取り笑いかける。

「俺さ、アタナシアだけじゃないんだ。実は……両手で数えきれないぐらい、嫁にしたい子がいるんだ。むこうも嫁になりたいって。千草一人ぐらい増えたって全然重荷じゃない」
「そ、そうなんどすえ?」
「そうそう、小太郎君もたくさんの嫁に懐いてるし。さすがに今すぐあの家に、連れて来られると。彼の性教育的にはたいへんよろしくない状況なんだけど……」
「たくさん、小太郎も懐いて。まさか」

 特に小太郎が既になついているという点で、千草はむつきが何を言っているか理解したようだ。

「木乃香、お嬢様も?」
「木乃香も刹那も、エッチはまだだけど。キスもエロイことも一杯教えちゃいました」
「この犯罪者……でも、お嬢様はその方が幸せかもしれまへんえ。古臭い縛りにええように操り人形にされるよりは。本当に、うちをお嫁にしてくれるんどすえ?」
「男に二言はない。俺の嫁になれ、千草。今すぐは無理だけど、小太郎君の面倒も見る。千草が産んでくれる子も。その、両親は残念だったけど。一杯、家族ができるぞ」

 感極まったようにむつきの胸の中に顔を伏せるようにして、千草が抱き付いて来た。
 受け止めたその肩は小刻みに震えており、もしかしたら泣いているのかもしれない。
 諦めていた嫁になれるからか、それとも両親の件を出し家族がと言ったからか。

「ほんまやったら、中学生にって張り手かます場面どすえ。なのに、なのに……嬉しい方が先行して、泣き笑いになってしもたやん。むつきはんは、意地悪どすえ。本当に、意地悪」
「ごめんな、避けてて。こんなことなら、もっとはやく話せば良かった」

 しばらく千草の気が済むまで、胸の内で彼女の気持ちを受け止めるつもりであったのだが。
 彼女のお尻がくいっと持ち上がり、千草がより深くむつきの胸に飛び込む形となった。
 涙がぴたりと止まった彼女がむつきを見上げ、そして自分のお尻の下へと視線を投じる。
 もちろん直接的に見えはしないのだが、彼女の尻が確かにそれを感じ取ったことだろう。
 どうやら一度は去ったはずの獣が、犯罪者心理の様に現場に戻って来たらしい。
 どうしてもう少し長持ちしなかったのか、恥ずかしいとばかりにむつきは乙女のように両手で顔を隠していた。

「ごめんなさい、限界だったんです。千草の全てがエロイから」
「そんな、むつきはんにエッチな目で見られてうちは嬉しいんよ。むしろ、もっとエロイ目で見て」

 慰めるように顔を隠すむつきの手に触れ、逆側の手で千草はシャツの胸元のボタンを一つ外した。
 悪しき者、男を誘惑するいけないものの封印が溶けるように胸がゆさっと揺れる。
 さらにもう一つ、プチリとボタンが外され見えたのは黒いブラジャーのレースであった。
 この時、既に顔を隠していた手は、むしろ邪魔だと顔から外されてしまっていた。
 むしろ血走った眼で鼻息荒く、千草のシャツの隙間から胸の谷間を穴が開く程に凝視している。

「さっきの言葉を証明しとくれやす。うちに赤ちゃん産ませて、証明しとくれやす」
「千草、分かった。証明してやるよ。一人じゃない、二人でも三人でも。小太郎君もまとめて」
「ああ、嬉しい。むつきはん、もっとぉ!」

 一つ一つ外されていくボタンなんて待てないと、シャツの隙間にむつきが手を滑り込ませた。
 まだ黒のブラジャーはそのままだが、脱がせる間も惜しんで豊かな胸を鷲掴む。
 感触の殆どは乳房を守るブラジャーの硬い感触だが、防ぎきれない指先は柔らかかった。
 やや乱暴気味に激しく揉みしだきながら、千草のルージュが引かれた唇へと吸い付き貪る。

「やぁん、激しっ。んふぁ、ブラが邪魔、もっと直接触れてぇ」

 愛撫されながらも千草はシャツのボタンを全部外し、後ろ手にブラジャーのホックまで外していた。
 そのままでは衣服が絡むため、むつきが腰を支え連携して手早く千草が上着全てを脱いでいった。
 ぱさりと羽毛のように床にシャツとブラジャーが落ち、千草の上半身は生まれたままの姿だ。
 今すぐに子を産んでも十分に育った乳房の重量感は、アキラたち巨乳組に匹敵する。
 いやただ大きいだけでなく、年齢が上なだけあって乳房にさえ落ち着きのような貫禄があった。
 ただのむつきの勘違いかもしれないが、これが俺の子を育てる乳房かと安心感さえ感じられた。

「むつきはん、おちんちん苦しいやろ。先に、一回出しますえ?」
「ああ、頼むよ千草」

 普段ならここで心行くまでその乳房を味わうのだが、さすがにそろそろ限界であった。
 お尻の下の感触で千草もそれを察したのか、上目づかいで尋ねられてしまう。
 恥ずかしい限りだが、パンツの中だけは勘弁して欲しかったので素直に頷いておいた。
 すると少々名残惜しげだが、千草がむつきの膝から降りて床の上に膝立ちとなった。
 彼女も少し興奮し始めたのか、震える手が伸ばされた先は当然のことながらむつきのベルトだ。
 狭い社会科資料室のなかにカチャカチャと金具の音が響き、外されていく。
 ジッパーを下げられてからむつきが腰を軽く浮かすと、指を引っ掛けパンツごとズボンを下ろされた。

「あ、あっ……むつきはんの濃い匂い。これだけで赤ちゃんできそうどすえ」

 深く深呼吸した千草が言う通り、まだ残暑激しい九月で相当蒸れていた。
 冬場なら確実に湯気が見えるぐらいであろうそれへと、千草が赤い唇から舌を伸ばしていった。
 そそり立つむつきの一物の亀頭に舌先を振れされチロッと小さく舐める。
 大きなアイスに子供が恐る恐る舌を伸ばすように、しかし味わいを知るや否やしゃぶりつく。

「んほぅ、んぅっ。んぅ!」

 決して融けないアイスをしゃぶるように、口先だけでなく首全体を使って飲み込んでいく。
 蒸れた一物が外気で冷やされるや否や、熱い千草の口内に飲み込まれ気を抜けばイキそうであった。
 言い訳をさせて貰えるなら、古とのイチャラブから随分とお預けされたのである。
 じゅるじゅると卑猥な水音を口でたてるいやらしい千草を撫でながら注文を行う。

「千草、胸も使って」
「もちろんどすえ。むつきはんは出したい時に、出したい場所に」

 両手で胸を圧迫させながら、千草が注文通り胸の谷間に唾液で濡れた一物を静めていく。
 吸い付き絞り上げてくる膣とは違い、胸の谷間の感触はただひたすらにすべやかでスムーズだ。
 当初の唾液だけでは潤滑油が足りないと、千草が追加で自分の谷間に唾液を垂らしていった。
 滑りが良くなってくると千草の胸の谷間から卑猥な水音が漏れ聞こえ始める。
 勢い余って谷間から亀頭がこんにちわもし始め、返答するように千草が舌であいさつしてくれた。

「むつきはん、気持ち良えどす? うちの胸、満足してくれるん?」
「気持ち良いよ、千草。もっと強くても」

 至れり尽くせり、だけどもう一歩。
 現在の千草は上半身は丸裸だが、下半身は女教師としてのタイトスカートにタイツ姿である。
 エロと日常の境を表現したようなアンバランスな姿もまた良いが何かが足りない。

「あっ、ちょっと邪魔どす」

 首を下に向けた拍子にずり落ちた眼鏡を千草がとろうとした手を、むつきはとっさに止めた。
 じっと見つめたのは、千草がかけているちょっと大きめの丸眼鏡である。
 元来前を向いてつける眼鏡が下をむいてしかも上下運動をすれば脱げそうになるのは当たり前だ。
 千草の綺麗な顔を損ねかねないちょっと無骨気味な大きな丸眼鏡。
 かけたいと思った、率直に。

「千草、出すよ」
「えっ、ひゃぅ!」

 愛撫が止まった状態ではあったが、欲求に耐え切れずむつきは思うが儘に吐き出した。
 千草の胸の谷間から覗いた亀頭がぶるっと震え、白い精液を宙に放つ。
 千草はパイずりに加えてフェラチオ中でる。
 ごく当たり前に解き放たれた獣の欲望は、千草の顔にこれでもかと降り注ぐ。
 びたびたと着弾してはおそらく生臭い匂いと主にどろりと綺麗な顔の上を滴り落ちていく。
 千草の白い今日美人の肌をさらに白く染めるのも良いが、彼女は眼鏡をかけていた。
 レンズにもしっかりと、特に狙いを定めた為に重点的に精液が飛びかかった。
 思わず彼女がのけぞり、尻もちをついてしまうほどに。

「凄い量……もう、むつきはん勘弁しておくれやす。眼鏡はまだしも、髪にも」
「ご、ごめん」

 それ以前にここは二人の職場である女子中校舎の中であるのだが。
 とっさに謝ったむつきでさえ、今はそのことは彼方に忘れ去ってしまっていた。
 顔射され尻もちをついて倒れた千草は、背中から倒れないように手を後ろにつっかえている。
 反面彼女のスリット入りのタイトスカートから伸びるタイツを履いた足は、M字に開かれていた。
 椅子に座るむつきからは見えづらいが、タイツに包まれたブラジャーに合わせた黒いパンツがチラリと見えた気がする。
 まったくの気のせいだったのかもしれないが、気が付けばむつきはパイプ椅子から立ち上がっていた。

「むつき、はん?」

 足元で丸まっていたズボンを足で投げ出し、ネクタイを外しシャツを乱暴に脱ぎ捨てる。
 千草以上に、何一つ身に着けない状態で、千草の前に立った。
 彼女が少し顔を火照らせ視線を逸らしたのは、一度出したぐらいでは萎えぬむつきの一物故だろう。
 むしろ彼女の唾液で黒光りし、亀頭の先から残り汁を滴らせ引くついていた。
 まだ犯し足りないとばかりに、欲望の掃き出し先を求めるように。
 そんな肉体のみならず、むつきもまた心の内から犯し足りない、犯したいと思っていた。
 尻もちをつく千草の前にゆっくりと片膝をつき、言い含めるように命令するように言った。

「千草、自分で足を広げろ」
「ぅ、はい……」

 一瞬何を言われたのかと呆けた千草だが、直ぐに言われた通りにし始めた。
 顔や髪に付着した精液を拭うことも忘れたように、自らの太ももに手を添える。
 しかしいくらスリットがあるとはいえ、タイトスカートでは限界があり軽くスカートはまくり上げていった。
 さすがに恥ずかしいのかゆっくり開かれていく足を、もどかしいとばかりにむつきが広げた。
 いささかこれまでとは違い意味での乱暴なふるまいに、閉じかけた足はがっちり阻まれてしまう。
 無理やり両膝を開かれタイツに覆われたパンツの割れ目を、むつきがそっと指先でなぞる。
 しっとりとした湿り気を感じたが、まだ挿入には早いようにも感じた。

「むつきはん?」
「邪魔だな、破るぞ」

 許可を得ぬままむつきは、千草のタイツに爪を立てて生地を引っ張りぷつぷつと裂いていく。
 裂かれていくたびに期待か、また別の何かで千草の割れ目を覆うパンツに染みが広がっていった。
 その最後の防波堤をも指先に引っ掛けずらすと、むつきの時の様に蒸れた匂いが広がる。
 甘さは控えめだが甘酸っぱい雌の発情した匂いを胸一杯に吸い込んだ。
 まるで処女のように千草が顔を赤くし瞳を閉じて顔を背けていた為、なおさら大げさに。
 そして今度は事前通告なしに、むつきは憤りっぱなしの一物で一気に千草を貫いた。
 足りない潤滑油を勢いで補うように、熱く舐り倒してくる千草の膣を一番奥まで駆け抜けていった。

「んぐぅぁっ!」

 咄嗟に千草が口元を手でふさがなければ、悲鳴が外まで漏れていたことだろう。
 むつきにしては酷く思いやりを欠いた、嫁にすると宣言した相手に対する行為ではなかった。

「むつきはん、ちびっといたぁん!」
「千草、凄く熱い!」
「そない突いたら、うち。んぁっ!」

 明らかな痛みを訴える声を聞いてもむつきは止まらず、むしろ激しく突き上げた。
 さらけ出された胸を揺さぶるように、中から千草を突き上げ体ごと揺さぶり続ける。
 歯を食いしばり耐えるように千草はむつきにしがみつき、腰に足を絡めていた。
 中に出して欲しいというよりは、少しでもその激しい腰づかいを制限する為だろう。
 初夜が過ぎ去るのを懸命に耐えるかのように、千草はむつきの獣欲を必死に受け止めていた。
 だが拒絶せずに受け入れた千草の気持ちを、今のむつきが理解したかは怪しいものだった。

「千草、もう直ぐ中で出してやるからな」
「待ってむつきはん、まだ痛くて」
「ふっ、出る!」

 千草の訴えがまるで聞こえていないかのように、一方的に高ぶりに達したむつきが果てた。
 身体こそ重ねているがまるで心がばらばらのまま。

「ふぁ、熱のが。赤ちゃんの種が、うちの子宮に。熱ぅい!」
「千草、千草ぁ!」
「んぅぁ……ぁっ、んふ。はぁ、終わった」

 むつきがきつく千草を抱きしめたまま、その一番奥深いところを貫いたまま腰を震わせ終える。
 その直後、終わったと呟いた千草の言葉の裏にわずかながらにもやっとという単語が含まれていた。
 子宮の奥に熱い子種が幾つも植えられ、体は火照ってはいるのだが何故だろう。
 気分はそれほど高揚はせず、望んだものが得られた幸福感は半分も満たされていない。
 あの日の夜はもっと、こんなのもじゃなかったとむつきの腰を足で挟み込みながら寝返りを打った。
 完全に脱力していたむつきは隙だらけて抵抗の暇なく、ころりと転がされてしまう。

「うわっ」
「こら、だめどすえ」

 むつきを仰向けに転がしかつ、騎乗位の体位に持っていた千草はその額を軽く小突いた。
 姉が悪戯っ子な弟へ注意し諭すように、今やっている行為はそれの範疇でこそないが。
 叩かれた額に触れてきょとんとしているむつきの瞳は、普段のちょっとぼけっとしたむつきだった。

「むつきはんとの赤ちゃんは欲しいどすけど、ただ産まれればええわけやあらしまへん。うちとむつきはん、愛し合って愛し合って。とことん愛し合って」
「くぅっ」

 こんな感じにと、むつきの顔の両側に手をつきながら千草がむつきの上で腰を揺さぶった。
 二回連続の射精の後もまだまだむつきの一物は元気である。
 それに濡れ足りなかった千草の膣内も、先程むつきが放った精液が潤滑油代わりになっていた。
 肌をぶつけ合うたびにあふれたものが少々飛び散るが小さなことだ。
 充足感はまだ半分未満、子を宿すには一ミリも足りないと千草は諭すように腰を振り続ける。

「なあ、むつきはん。こう、ほらお手がお留守どすえ」
「うん」

 千草が姉属性を前面に押し出したせいか、頷きの言葉は子供っぽかった。
 実際、大好きな姉に嫌われたくないように、留守と言われた両手でぶるぶる震える胸に手を添えた。

「優しく、そう。上手、気持ちええどすえ。やればできますえ?」
「ごめんね、千草。なんか急に頭が真っ白に、千草を押し倒して犯すことばっか考えてて」
「うちの方がお姉さんどすから、許してあげますえ。今回だけは、だから。頑張っておくれやす」
「千草……」

 千草を受け入れるなら、何時までも弟気分ではと直ぐにむつきは気分を入れ替えた。
 胸に触れていた両手を彼女のお尻に触れさせ軽く力を込める。
 それからゆっくりと上半身を起こして胡坐をかき、その上で千草の全ての体重を受け止めた。
 騎乗位から対面座位に、イニシアチブはフィフティフィフティのままであったが。
 千草は投げ出した足と腰、むつきの肩に置いた両手を起点に飛び跳ねる。
 またむつきは千草の尻に添えた手で支え、彼女を持ち上げては下すというフォローに専念した。
 目の前でぶるぶる震える彼女の胸については、今更語るまでもないだろう。

「千草、愛してるよ。大事にする、お腹の子も小太郎君も」
「うん、うちが恋したむつきはんや。乱暴なのもたまにはええけど、アレはちょいプレイからはみ出しとりますえ。溜まっとりますん?」
「そんなはずはないんだけど」

 毎日さよに、時々アタナシアも混じってきちんと発散させて貰っていた。
 女として脂の乗ったアタナシアと女に至る途中の少女であるさよの二人同時にである。
 これで発散できなければ、お手上げな位のごちそうを腹いっぱい、むしろすきっ腹になるまで。
 そこまで考えむつきは、首を振って今はと二人を頭の中から追い出した。
 今目の前に、抱いている新たなお嫁さんは天ヶ崎千草という名の女性であると。

「千草」
「あんっ、それ。お胸をもっとぺろぺろしておくれやす。おめこの中も、硬いのがぁ!」

 ぶるぶると震える乳房を唇で受け止め、ぽっちを特に強く吸い寄せ吸い上げる。
 もちろん舌先による丹念でねちっこい愛撫も忘れず、我が子よりも一足早くそれを味わった。
 また同時に、その我が子をはらんで貰う為に、種をまく千草の子宮口をこりこり亀頭で擦りつけた。
 敏感な場所を擦られびくりと千草の腰が逃げても、お尻をがっちりつかんで逃がしはしない。
 同じ乱暴でも先程までとは意味がまた違う、千草をより高みに連れて行く為の好意であった。

「これ、これが欲しかったん。この意地悪加減、ふぁ。はぁん!」
「千草、次来そう。次は一緒にイケそう?」
「もうちびっと、ちびっとだけ。ぁっ、んふ。んぅ!」

 良い処に亀頭がこすれたのか、千草が身をよじり吸い上げていた乳房がむつきの口元を離れていく。
 だがむつきがそれを寂しがるより先に、千草がむつきの首に腕を回し抱き付いて来た。
 真っ直ぐ姿勢を制御するのもままならず、もたれ掛かって来たといった方が正しいか。

「イク、むつきはん。次、深くこつんされたら。うち、欲しい。むつきはんの熱いの。赤ちゃん!」
「出すぞ、千草の奥に。しっかり孕め!」
「来て、何時でも。待ってるから、うち」

 のちに感動を覚えるぐらい、それは同時であった。
 むつきが千草の中に欲望を放つ瞬間と、彼女が激しく突き上げられることで果てるのとが。
 どちらが先でも後でもなく、奇跡と言って良いほどのタイミングである。
 おかげでむつきが千草の唇を塞ぐのが一秒でも遅れれば色々とアウトであったことだろう。
 二人が快楽に身をよじりあげかけた嬌声は互いの唇を通り、体に響き染みわたるの終わっていった。

「んぅ、んはぁっ!」
「ぐぅぁ」

 言葉にもならないうめき声の様なものを互いにあげあい、長い長い最高潮を味わい続ける。
 五分近く、余韻を味わうように唇を合わせ抱き合っていただろうか。
 多少酸欠になったこともあって名残惜しげに唇をはなし、二人はこれまた同時に大きく息をついた。
 今まともに言葉を口にできるなら、空気がおいしいとでも言ったのだろうか。
 ぜえぜえと呼吸を荒くしたまま、やがて二人は見つめ合っては照れ臭そうに笑った。

「むつきはん、うちが肉ベッドになったる。そのままで」
「千草ぁ」

 背中から床に倒れ込んだ千草の上に、一物を抜かないままむつきが覆いかぶさった。
 ぐちゃぐちゃとあふれ出る白い体液が二人の間から洩れたが多少は問題あるまい。
 しっかり栓はされたままで、しかもその栓が自動的に次の白くべとつく何かを供給するからだ。

「ごくろうさん、むつきはん。お腹一杯どすえ、できたかな?」
「できたかじゃなくて、つくった。二人の愛の結晶」

 肌と肌の隙間に潜り込ませた手のひらで、むつきの一物を感じられる腹を千草が撫でた。
 この変かなとわずかなふくらみを感じ、軽く押すことでむつきの表情の変化からやっぱりと笑う。
 そんなことをする奴はと、むつきも軽く腰を振って再び子宮口を虐めて追加の射精であった。
 ピロートークでは若干ないが、お互い完全に満たされたようにイチャツキまくる。
 お互いの胸をつつきあったり、子供の名前どうしようかと気が早いにも程があるように相談したり。
 しっかり心と体を重ねたわけだが、ほんの少しだけむつきは気になっていた。

(最近、ちょっと自制できなくなる時があるな)

 千草には申し訳ないが思い出したのは、小鈴との初夜や古とのファーストキスのやり直しだ。
 前者は小鈴のリクエストであったこともあるが、廊下でやらせろと迫って犯した。
 古に至っては、思い出のファーストキスがいつの間にかディープで情熱的すぎるモノに。
 そういえば、教室で皆を見渡した時なんかは、神楽坂が裸に見えたことだってあったか。

「また、なんか他ごと考えとる。今は、うちの時間どすえ」
「うん、ごめんごめん。なら、また襲っちゃうぞ。完璧に孕むまで」
「ええよ、思う存分。むつきはんの子種、うちのお腹に蒔いておくれやす」

 この野郎とピロートークを忘れ、むつきは千草に襲い掛かった。
 やはり、ちょっと自制という言葉はむつきから縁遠いものになっているのかもしれない。








-後書き-
ども、えなりんです。

今回一番やりたかったのは、千草のメガネへの射精。
ロマンやん?

トリップ変わってるかもしれません。

次回は来週の土曜日です。



[36639] 第百六話 結婚してもこんな感じでゆったり過ごしたいな
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/04/05 20:39

第百六話 結婚してもこんな感じでゆったり過ごしたいな

 真っ白なシーツに包まれた布団の上には、一糸まとわぬむつきとさよが互いを抱きしめあっていた。
 夫婦としての夜の営み、仰向けになっているさよに上からむつきが覆いかぶさる形である。
 ゆっくりとむつきが腰を推し進め、とろとろと愛液滴るさよの膣内を抉っていく。
 激しい挿入でこそないが、古い木造家屋に二人分の体重が一点に集中するのだ。
 ギシリと何処かで家鳴りが響いた。
 しかしそれは二人に耳に届くことはなかった。
 むつきの一物で膣内を蹂躙されたさよも圧迫感と快楽に嬌声を上げていたからだ。

「あ、あなた様ぁ」
「可愛いよ、さよ」

 もっとその声を聴かせてというように、最奥はまた今度と挿入した一物をずるりと引き抜いていく。
 寂しげな切なげな声をさよがあげ、ほんの少しの我慢だとばかりに口づける。
 今度は角度を変えてさらに強く狭く小さな膣を抉っていった。
 丁寧に丁寧に、さよが気持ち良くなれるように大切な嫁が絶頂を味わえるように。
 下半身のみならず、首筋にキスを落としては小さく身をよじるさよの髪を優しく梳いてやる。
 むつきの全てをかけて、全身全霊で愛し抜く。

「はっ、んきゅ……ぁっ、あぅ。あなた様、イっ。イッてしまいますぅ」
「良いよ、さよがイキたいだけ。何度でも」
「あなた様も一緒、ぁっ。だめ、私だけなんてはしたない、でもぉ」
「言ったろ、はしたない子は大好きだから」

 そんなむつきの言葉を前に一人でイクまいとしたさよの体のこわばりがほぐれていく。
 代わりにこんこんと最奥の膣を突かれるさいの嬌声にも、遠慮がなくなっていく。
 むつきの愛撫に逆らわず、追いつめられるように上りつめていく。
 そして数分と経たず、後で赤面せずにはいられない程の大声で最後の果ての声を上げる羽目になった。

「イク、イッ……イッテしまいますぅ!」

 そう声を上げた直後に、一番深いところに愛の体液を流し込まれ声はますます大きくなる。
 ひかげ荘を超えて麻帆良市一帯に広がるのを心配してしまう程に。
 その声が次第に小さく消えていった後、残されたのは快楽に心をながされ呆然と天井を見上げるさよであった。
 むつきの背に回されていた手は力を失い互いの汗と愛液に汚れたシーツの上に落ちた。
 呆然自失のさよへを安心させるように、果てたばかりのむつきはキスを繰り返す。
 頬に首筋に、乳房やまだ硬さを失わない一物によるさよの中への愛撫はしないまま。

「凄く気持ち良かった、可愛かったよ」
「はぁ、はぁ……あなた様。私は大丈夫ですから、あなた様が満足されるまで」
「さよが可愛い過ぎて大満足」

 まだ今日は一度目、普段ならさよが気絶しても続ける場合もあるのだが。
 あっさり引いたむつきを不思議に思う余裕は、今のさよにはなかった。
 まだ意識ももうろうとしており、呼吸だって全然整っていない。
 いくらむつきが満足と口にしても、さよの中に入ったままの一物が時折ぴくりと動き脈動するのだ。
 それだけでもさよの狭い膣の中では愛撫と呼べるものである。
 だから、満足したというむつきの言葉と下半身の実態の矛盾に気づくのは遅れに遅れた。
 三十分近く経ち、むつきの一物も引き抜かれその腕の中に包まれ横になった頃であった。
 一つのタオルケット内に包まれ、身を寄せ合い、先ほどの自分の嬌声に顔を真っ赤にしていたさよが見上げるようにしてむつきに問いかけた。

「あの、あなた様」
「ん?」
「なんだか、今日は。とても、優しくしていただいて」

 とても嬉しかったと微笑みながら、さよの手がタオルケットの中で降りていく。
 そっと小さな手で触れられたのは、まだ落ち着ききっていないむつきの一物である。
 触れた瞬間、何故か逃げるようにむつきの腰が引け、幸せ満点だったさよの顔が少しだけ曇った。

「あなた様?」
「いや……」
「なにかお悩みであれば、私に。私に話せなければ、アタナシアさんにでも」
「違うんだ、ちょっとさよには言いにくいけど。それはアタナシアや他の子でも同じで」

 そんな顔しないでくれと、見上げてくるさよの額に唇を落としながらむつきはそう言った。
 そのまま顔を見られないよう懐深く抱きしめ、さよの長い髪を手櫛で梳き始める。
 さよ自身、ごまかされたことは理解しているだろう。
 けれど、今はまだ言えないことを理解してくれ、そのまま身を任せてくれた。
 ごめんねありがとうの気持ちを込め、彼女が幸せのまどろみに沈めるよう丁寧さを忘れない。

「んっ」

 さよが気持ちよさそうに小さく声をあげたことでちょっと安心する。
 でもこれだけはとでも言いたげに、もぞもぞ動いたさよが再び見上げて来た。

「ちょっと思い出したんですけど」
「なに?」
「教会というところにいけば、お悩みを聞いてくれるお爺さんがいるとお聞きしました」

 それ以上は何も言わず、さよはむつきの腕の中に沈みこてりと寝息を立て始めた。
 もう何度目のことになるか、ありがとうとさよの頭にキスを落とす。
 必要以上には踏み込まず、常に控えてくれる良い嫁さんだとついでにもう一回。
 しかし、しかしである。

(性欲が暴走して嫁を壊しそうで困ってますって、教会の神父さんには言えないよな)

 せめてもう少し、言葉を選ばなければと一応はそのさよの提案を心に留めておいた。









 翌日の四限目、二-Aの授業が終わりあやかの号令で礼を受けた。
 この次はみんな大好きお昼休みの時間であり、学食や売店を使う者は我先にという様子である。
 お昼の争奪戦は共学だろうと、女子高だろうとそんなに違いはない。
 けれどそんな貴重な時間を使って、もはや恒例とも言える質問を投げかけてくる健気な子がいた。
 教科書を控えめな胸に抱き、恋する乙女の瞳で親友二人に背を押されやって来た宮崎である。
 二学期が始まりまだ数日だが、もはや恒例過ぎて冷やかしや期待の声が飛ぶこともない。
 むしろ美砂たちも頑張れと声をかけたり、肩にぽんと手を置いて一言添えてお昼に行ってしまう。
 ある意味で勝者の笑みだが、宮崎は震える足でカクカクと動きながらむつきの前までやって来た。

「先生、質……質問良いですか!」
「はいはい、何処が分からなかったんだ?」

 宮崎の目論見は先刻承知だがこう言われてしまっては、教師として断ることなどできない。
 彼女が持ってきた教科書を教卓に置かせ、話を聞こうとした時である。
 申し訳なさそうに割って入る声が、二人に投げかけられた。

「ちっと申し訳ない。ごめんね、貴重な時間を。ユダ様、これ夏休みの宿題でっす」
「お前の血で化粧がしたいと言いたいところだが。血反吐はいて終えた宿題だしな。次はちゃんとやってこいよ」

 へへえっと夏休みの宿題を頭上に掲げた状態で持ってきたのは春日であった。
 やり終えた開放感からかユダ呼びであったが、受け取った冊子でぽんと軽く頭を叩くに終えておく。

「うぃっす、あんなの二度とごめんなので天地神明に誓って」
「いや、天地神明って八百万の神みたいなもんで、お前は一神教だろ」
「あれは一種バイトみたいなもんで、どっちでも良いです!」
「なんだそりゃ。あっと」

 敬礼でどうでも良いと答えられ、おいシスターと戸惑ったが。
 昨晩のさよとのピロートークを思い出して一応聞いておく。

「春日、お前のところって神父さんっているの? シスター・シャークティしか見なかったけど」
「いるっすよ、お爺さんの。あれ、もしかして懺悔っすか? 日々蠱惑的になっていくあっしらに惑わされて困ってるって」
「たわけ、はよ飯にいけ」

 正直大正解なのだが、馬鹿ちんがとごまかすように彼女の小さなお尻を軽く蹴り上げる。
 陸上部自慢の足と身軽さでさっとかわされたが、行ってきますとそのまま逃げられてしまう。
 もとより追いかけるつもりはないが、目の前の宮崎を放置してしまっていた。
 それに彼女が解放されないと、その背後で親友を応援している夕映と早乙女がお昼に行けない。

「で、何処が分からなかったんだ?」
「こ、ここなんですけど。見えますか?」

 宮崎が教科書という小道具をむつきに覗き込ませ、距離が近づくようにしてきた。
 かつての初デートで携帯の画面を宮崎に覗かせ近づけさせた例の作戦の応用だ。
 彼女の思惑に乗って一歩近づき、むつきの腕と宮崎の肩が触れカァッと頬を火照らせる。
 今だこうっと、夕映の肩を抱き、宮崎にそうしろとジェスチャーする早乙女は完全無視だ。
 やっちまえとばかりに拳の親指を立てて来た夕映は絶対あとで虐めてやると誓ったが。
 宮崎がここといった江戸時代の歴史的時代経過を改めて、少々手短にだが説明してやった。
 手短なのは、改めて説明するまでもなく宮崎が理解していることを知っているからである。

「というわけだ、分かったか?」
「はい、とってもわかりやすかったです。ありがとうございました。お待たせ」
「うーん、アピールが足りない。のどか、胸のボタン全部外してみない?」
「唐突に何を言ってるですか。徐々に、のどかのぺースで問題ないです。さあ、我々も食いっぱぐれないうちに食堂へ磯具です」

 今日も頑張ったと親友に報告する宮崎に、それは食堂で聞くからと夕映が背中を押していた。

「あ、そうそう。綾瀬、お前の夏休みの宿題で聞きたいことあるんだけど。二、三分だけ良いか?」
「はあ、構いませんけれど」

 そんな夕映に待ったをかけ、何故と小首を傾げる彼女を手招いた。
 だがそれはこの場でというわけではなく、少し廊下を歩いた先に社会科資料室を指していた。
 三人を纏めて連れて行き、本当に少しだけと宮崎と早乙女に言い含め夕映を連れ込んでいく。
 多少二人も不審に思ったようだが、ここで待ってるからと夕映に手を振っていた。
 これから数分とはいえ、扉一枚隔てた場所で夕映が何をされるのか全く知らぬ笑顔で。
 夕映をまんまと社会科資料室に招いたむつきは、扉を閉めるや否やきっちりと鍵をかけた。

「先っ?!」

 そして何用かと振り返った夕映の肩を掴み、扉の真横の壁に顔の正面から押し付けるように押さえた。
 もちろん顔をぶつける程でないが、するりと背中を這わせ夕映のお尻を撫でまわせるぐらいだ。

「それは、数分って。我慢できなくなったですか? あとでさせてあげますから、今は」
「宮崎の恋心は知ってるけど、夕映が素知らぬ顔で応援してるからちょっとイラッとはしたかな」

 時間が少ないと片手でベルトを外してトランクスを下げ、もう片方の手で夕映のパンツの紐を退く。
 紐パンは急いでいる時に便利だと、まだ勃起しきっていない一物を生尻に押し付けた。
 ぷるぷるのお尻にセックスを急ぐようにぐいぐいと。
 もちろんこの場でするつもりはないが、壁一枚向こうに親友を置いての猥褻行為は罰だ。
 以前小鈴にも言ったが、好きになった相手はちゃんと自分で口説く。
 宮崎がむつきを好きだというなら、時期を見てちゃんと口説いても良いという気持ちぐらいあった。

「熱い、そんな大きく……押し付けないでください」

 可愛い嫁の、しかも制服姿の中学生を意識させる格好の相手に押し付けたのだ。
 改めて意識しなくても、自然とむつきの一物は夕映のお尻の谷間の間で大きくなっていった。

「狭い密室で教師と生徒が二人きり。気になるね、のどか君。覗く、覗いちゃう?」
「パルじゃないんだし、ゆえゆえはそんなことしないよ。もう」
「そんなことしないって、信じられてるね。あれ、ちょっと湿って来た? 夕映の方がしたくなって来た?」
「違うです、ああ。のどか、違うです。私は貴方の好きな人を」

 尻の谷間も良いがこちらの谷間もと、何度もお世話になった夕映の谷間に竿を割り込ませる。
 当然だが突然のむつきの暴挙に濡れているはずもなかった。
 しかし、何度も体を重ねた相手からの、かなり乱暴な愛撫に夕映の膝は笑い始めていた。
 それと当時に、またするのかとばかりに、夕映の体の方が頭より先に準備を始めてしまう。
 肌と肌がこすれるシュッシュッという音が薄れ、何やら滑りが若干良くなり始める。

「夕映の甘いミルクの匂い。ああ、割れ目が気持ち良い。愛してるよ、夕映」
「声が、駄目です。のどかに、聞こえて」
「なんてな」
「へ?」

 これ以上はとギュッと目をつぶった夕映のお尻をぺちんと叩いた。
 そして押し付けていた一物を放してパンツとズボンにしまい込み、夕映のパンツもはかせてやる。
 つきだされ若干振られ始めていたお尻にそっとキスをしたのは、まあ見逃して貰いたい。
 そもそも、数分と宣言したし、表に宮崎と早乙女を待たせているのだ。
 むしろしないんですかと、あっけにとられた表情でいまだお尻を突き出しながら顔だけ振り返る夕映が笑えてくる。

「そんな誘惑されたら、本当に襲っちゃうぞ」
「あっ……いえ、結構です」

 改めて夕映のお尻をまさぐると、ちょっと考えてから夕映がぺちんと手を叩いて来た。
 怒っているというよりも、自分自身にまた土日にでもと踏ん切りをつけるためだろう。

「のどかを薦める私を怒ったですか?」
「ちょっとだけな。親友って対面上、宮崎を応援しないと変に思われるし。理解はしてる」
「でも感情は別ですね。先生、お顔を拝借。愛してるです」
「ん、それが聞ければしばらくはまた大丈夫だ」

 屈んで頬を差し出すと、背伸びをした夕映がそっと唇を振れさせてくれた。

「我慢できなくなったら、また襲ってくださいです。私は先生の恋人ですから、その欲望を受け止める義務と権利があるです」
「おう、頼りにさせて貰うわ。その時は、どろっどろにしてやる」
「期待も、してるです。では、のどかとお昼にいくです」

 扉を開けてお待たせしましたと言った夕映が、宮崎と早乙女を連れて廊下を歩いていく。
 早速早乙女が、なにしてたんだとからかうが実際のことは億尾にも出さない。
 手慣れたように早乙女をあしらい、宮崎に私は味方アピールである。
 今も振り返って扉から半身をだして見送るむつきに気づき、宮崎にそれを教えていた。
 小さく控えめに宮崎が手を振っていたので、手を振り返してからはやく行けと追い払うジャスチャーも。
 さて、俺も飯にと持っていると、見覚えのあるものを手に走ってくる和美の姿があった。
 周囲を軽く見渡し、人影がないことを確認するや、むつきを社会科資料室に押し込んできた。

「おいおい、てかそれ。さよが作ってくれた俺の弁当じゃん」
「先生に頼まれたって言って、とってきてあげた。本屋ちゃんの恒例行事で遅れるだろうなって」
「さすが俺の嫁」
「私はまだセックスフレンドでーす」

 肩を抱こうとした手をぺちんと叩かれ、舌を出してある意味大胆な告白である。
 そんな和美の手にはさよお手製のお弁当に加え、コンビニのビニール袋が下げられていた。
 そうなると、彼女が何故むつきのお弁当を取って来たか分かるというものだ。
 夏休み最終日にも、冗談交じりで元彼に走っちゃうぞと脅しをかけられていた。
 釣った魚にはちゃんと餌をあげないとなと、いつものパイプ椅子を手元に引いて来る。
 最近大活躍だなと腰を落ち着け、自分とむつきのお昼を手にした和美を手招く。
 どうやらその考えは間違っていなかったようで、嬉しそうに和美がスカートをはためかせながら膝の上に座って来た。

「おっ、意外に可愛いピンク」
「意外は余計。お弁当の前に、和美ちゃんにする?」
「まずは腹ごしらえが先」

 食べて良いなら遠慮くなくと言いたいところだが、お腹が空いているのも事実である。
 時間は有限だとばかりに、和美を抱っこしながらお弁当を食べようと思ったのだが。
 和美のパイナップル頭の髪がツンツンして鼻面をくすぐってくる。
 しかも体勢的にお弁当を彼女の膝に広げる必要があるが、前のめり気味で危うい。
 パイプ椅子の上では限界がと、早々にこの体制を諦めた。
 お前はベンチだ馬鹿たれとばかりに非情の決断で、周囲を軽く見渡し古い新聞を発見。
 さすが社会科資料室だと、それの授業的な意味での重要性は無視して床に広げた。
 隣で座り合ったが、あまり密着できないので少し和美は不満そうだがそれも数秒のことだった。

「先生、ん」

 デザート用にでも買ってきたのか、フルーツゼリーからさくらんぼを取り出す。
 ゼリー部分を落としたそれを唇で吸いつけ、唇ならぬさくらんぼをつきつけてきた。
 セックスフレンドというえぐい単語で自分を評したに関わらず、やっていることは完全に甘い恋人だ。

「頂きます」
「んぅ、ちょっとさく。馬鹿、自分で」

 口移しでもらったさくらんぼうだけに飽きたらず、しっかり和美の唇も味わった。
 甘いシロップのおかげで、ぷるぷるの唇が一層美味しく感じられた。
 しかし、味わい過ぎてもお昼抜きは互いに辛いので、ここは我慢である。
 物欲しげな顔をする和美には後でと自分から始めたのに言いつけ、まずはお弁当であった。
 今日は定番の卵焼きからから揚げ、マッシュポテトという本当に定番づくし。
 挙句の果てにはただの白米のみならず、みんな大好きふりかけののりたままで。

「あっ、からあげ貰い」

 そんなさよの真心が籠った大切なお弁当に、迷いなく邪悪の間の手が迫ってきた。

「このやろう、一番大事なおかずを迷いなく」
「さくらんぼと和美ちゃんの唇あげたでしょう。むしろ和美ちゃんの唇分で足りないぐらい」
「いや、この後でお腹いっぱいになったらひざまくらの権利を所望する」
「え、ひざまくらって……良いけど、もっとエッチなことしないの?」

 ちょっとだけ拍子抜けしたように、ほらほらと和美がスカートの裾をチラチラあげてくる。
 おまんこ枕に変えてやろうか、しかもうつぶせでとも思ったのだが。
 今のむつきはセックスに対してちょっとばかりお悩み中なのだ。

「先生、なんか変じゃない? 私に悪戯しながら元彼に電話かけさせながら寝取った変態なのに」
「うん、したけどさ……」

 嫁にも気軽に相談できないのに、セックスフレンドの和美ならなおさらだ。
 もっと嫁と一杯セックスしたい、和美とだって今すぐ押し倒して彼女の処女が欲しい。
 体の下で喘がせながらお嫁にしてくださいと言わせもしたかった。
 しかし、自分がやり過ぎてしまわないかが怖いのだ。
 元々は普通の精力しか持たなかったむつきが、嫁過多に参って小鈴の漢方に頼るにいたる。
 結局あれは本当に漢方だったのか謎だが、むしろ嫁一人では手に負えない勢力おばけに。
 さらに獣欲を正直にぶつけられ受け止めたいと言ったあやかや夕映、従属されたい小鈴など。
 相手はオールOKと言ってはくれているが、今さらだがまだ彼女たちは未成熟なのだ。
 果たしてむつきが本気で体を求めて、受け止めきれるのかが心配でもあった。

「背中、曲がってる。なんだか分からないけど、ちょっと今の先生恰好悪いよ」
「え?」
「そんな本気で傷ついた顔しなくても。ほら、さっさと食べる。和美ちゃんのむちむち太ももでひざまくらしてあげるから」

 バチンと曲がっていた背中を叩かれ、食べかけていたご飯がちょっと胸に詰まった。
 慌ててお茶を流し込み、ごめんごめんと笑う和美にちょっと癒されながら箸を進めた。
 久々に弱い自分をさらけ出し、慰めて貰おうかなと頭の片隅で思いつつ。
 さよの愛が詰まったお弁当を綺麗に、米粒の一つに至るまで本当に綺麗に平らげる。
 和美も買ってきたサンドイッチをぱくぱくと、女の子にしては少し急ぎ気味に運んでいた。
 しかし、例のフルーツ入りゼリーには特に口は付けず、残したままである。
 二人とも示し合わせたわけではないが、普段の三分の二の時間ですべてを平らげ切った。
 それからお茶で一息入れて直ぐに、和美がむつきの為に新聞紙の上で女の子座りしてくれた。
 本来なら正座なのだろうが、流石に新聞紙数枚の上でそれは辛かったのだろう。

「はい、これでもまだちょっと足痛いけど。和美ちゃんの魅惑のお膝どうぞ」
「悪いな」
「誰でも気分が乗らない時はあるって、でも元に戻ったらサービスしてね」
「写真集作れるぐらい、エロイの撮ってやるよ。処女喪失記念も含め」

 期待してると、寝ころんで膝の上に頭を乗せて来たむつきの鼻を和美が軽く弾いた。
 空調の無いこの部屋は換気が悪いので窓が開けられており、程よい風が入ってくる。
 もちろん、むつきが生徒である嫁に悪戯することが多いので隙間程度、さらに白いカーテンが敷かれているが。
 それでも時々は秋を感じさせる涼しげな風が流れ込み、二人をまったり空間で癒してくれた。

「やば、ちょっと胸きゅんした。先生をひざまくらしてるだけなのに」
「和美と結婚してもこんな感じでゆったり過ごしたいな」
「な、結婚とか。なに言ってんの。相手が違うでしょ。私はただのセックスフレンド、体だけの関係」

 涼しい風が入った直後に、熱いわねと言いたげに手うちわで和美が自分を仰いだ。
 むつきが見上げたその顔に汗の滴の類は見えず、ただ和美の顔が赤く火照るのだけは見えた。

「今はまだセックスフレンドだけど、俺は和美を嫁にする気満々だから。絶対逃がさないぞ、血の果てまで。いっそ小鈴とか、皆の力を借りても捕まえるから」
「格好良いようで、微妙なような。先生、頭撫でて良い?」
「むしろ、お願いします」

 女の子とは違い、むつきの髪型は短くさっぱりと整えられておりあまり撫でるに適さない。
 たわしとまではいかないが、女の子の柔らかい手では自分がくすぐったいだけだろう。
 けれど和美はそんな文句は漏らさず、むしろ小さな幸せに浸るようにむつきを撫で続ける。

「だめ、これもうだめかな」
「なにが?」
「なんでもないですよ。あっ、そうそう」

 まだその先は口にできないと、話題をそらすように和美が手にしたのはさくらんぼ以外は無傷のゼリーのカップだ。
 カットされたフルーツがそのまま閉じ込められたゼリーである。
 赤い宝石は失われているが、まだまだゼリーの中には甘い宝石がごろごろ転がっていた。
 ゼリー部分だけはプラスチックのスプーンで避けながら、和美は目的の宝石を探す。
 とはいってもゼリーが透明なので何が何処にあるかは、殆どまるわかりなのだが。
 最初に探し当てたのは、缶詰ならば定番ともいえる黄桃のシロップ漬けだ。
 小さくカットされ三日月形のそれの半分だけを口に入れ、とんとんとカップの縁でゼリーを落とす。

「んー……ぁっ」
「冷たっ、もっとちゃんと。あーん」

 さくらんぼの時の様に、和美が口移しで黄桃を上からむつきに差し出してきた。
 水切りが上手くいっていなかったようで、シロップが一滴むつきの頬に落ちる。
 ごめんごめんと笑いながらハンカチでそれを拭ってあげ、UFOキャッチャーのようにむつきの口に誘導した。
 視線で開けられた口の位置を確認し、ここだとばかりに下移動であった。
 狙い定めたそれに間違いはなく、見事黄桃はむつきの口で受け止められ口移し成功である。
 そのまま、唇の甘いシロップまで全てなめとられたのは、まあお互い分かってやったことだ。

「和美、次」
「はいはい。ラブいけど、ゼリー落とすの結構面倒」

 亭主関白的なむつきの発言にぶつくさ言いながらも、割と嬉しそうに和美は次の果物をカップから探していた。
 せっかく掘り当てたイチゴはこれはおおとりと後にしたり、楽しそうでもあった。
 自腹で買ってきたゼリーが、かき回し過ぎであまり美味しくなさそうになってもだ。
 そして次なるフルールはパイナップルだが、黄桃と違って長さがないに等しかった。
 もう建前はいいやと、和美はそれを完全に一部ゼリーごと口の中に含んでしまう。
 むつきも和美の頬のわずかなふくらみで察し、問題ないとばかりに口をことさら大きく開けた。
 唇を軽く触れ合わせ、開かれた和美の口からパイナップルとゼリーの塊がどろりと流れ込む。

「和美、口周りが甘い。舐めとってくれ」
「しょうがないな」

 食後ということもあり、一部油っぽい個所もあったが前かがみになった和美がなめとっていく。
 小さくチロチロと赤い舌を出しては、甘い個所を探して唇を這っていった。

「ん、甘いの掃討完了。ねえ、先生」
「おう、なんだ和美」
「私も甘々な感じでちょっと食べさせて貰いたいかな」

 言いながら照れたのかそっぽを向きながらも、チラチラと見下ろされた。
 これだけ甘えさせて貰ったのだから、その程度はお安い御用である。
 和美の膝の上から転がるように頭をどけて、和美の腰に腕を回してゆっくり押し倒していく。
 当然、こぼしてしまいそうなゼリーのカップは早々に、奪い取って一先ずはすぐわきに置いた。
 まさか押し倒されるとは思っていなかった和美の膝辺りに、膝立ちでまたいである意味でマウントポジションだ。
 改めてカップのゼリーを手に取ると、少々乱暴に自分の口に流し込んだ。
 甘すぎて良く分からないが数個、果物が流れ込んだのは間違いなかった。

「ちょ、そんなの」
「んずい」

 そして待ったと言わせるより先に、あおむけになった和美の唇を奪い取った。
 最初は抵抗するようにむつきの胸に手を当ててはいたが、そもそも体重差で勝てるものではない。
 やがて諦めた和美は、控えめに口を開きむつきの唾液にまみれたゼリーを流し込まれた。
 まだ十分な塊はあったが、口内に直接どろどろのそれが強引にである。
 ふと思ったのは、熱さと冷たさの違いこそあれ、中で射精されたらこんな感じなのかという考えであった。
 抵抗しようにも男の力の前に抗えず、一方的に強引に有無を言わさず濃い精液を流し込まれる。

「んぅー、んぅっ!」

 改めてむつきを押しのけようと試みるが、一度やって駄目なものは二度目も同じ。
 やっとの思いでゼリーを全て飲み込み、果実をかみ砕いた頃には口周りがべとべとであった。

「美味しかったか?」

 悪い顔でどの口で言うのか、弱弱しくその胸をぽかりと叩くので精一杯。
 それは息苦しい状態から回復しきっていないわけではなく、また別の理由があったからだ。
 想像してしまったからだ。
 いずれむつきに抱かれた際に、熱くも猛々しい精液を流し込まれる瞬間を。
 口移しでゼリーを口で受け止めた時にはっきりと、疑似的ではあるがされど明確に。

「先生……乗り気じゃないのは、分かってたんだけど」

 だから、和美は自分の両膝の裏にそれぞれ手を添え、太ももを持ち上げていった。
 ゆっくりと制服のチェックのスカートがめくれ上がり、パンツが日の光の下にさらされても。
 むしろむつきの視線に収めるために、ぴったりと張り付く割れ目がどうなっているのか。

「お願い、少しでも良いから。私も食べて」

 私も慰めてと丸いお尻を覆うピンクのパンツの一部が染みで色濃くなっているのを見せつけた。
 甘い時間を過ごし過ぎて、甘い蜜が染みだしてしまったとばかりに。
 その責任を取って、ちゃんと最後の一滴まで食べきって欲しいと。
 和美の言う通り、今は悩みもあって乗り気手はなかったとはいえここまでさせたのはむつきだ。
 元より気が向いた時に好きなだけ体を重ねるのが正しいセックスフレンドである。
 ならばその責任はと、和美の尻に沿って広がるピンクの薄い布地に指を引っ掛けた。
 ピクリとそのお尻が震えたが、伸びていた生地を丸めるようにそっと脱がしていく。
 パンツの生地に負けないぐらいの桃尻が徐々に明らかとなり、明るい茶色の陰毛の下にはお尻とは別の割れ目がみえた。
 甘い匂いと共に男を誘う蜜が石清水のように割れ目から流れ落ちている。

「見られてる、見られちゃってる」
「和美」

 いつしか膝を支えていた両手は、羞恥を隠すためにその顔を懸命に覆っていた。
 初めて大事な部分を男の視線にさらしたこともあり、その膝が自力でもちあがることなんてない。
 だからむつきは和美の割れ目に顔を近づけると同時に、両手でその膝を大きく上に持ち上げた。
 スカートが完全に裏返るぐらいに和美のお尻を持ち上げ、まんぐり返しの格好である。
 そして誘ったのはそっちだと、両手で覆った顔でも見えるぐらいの位置で彼女の尻をとどめておいた。

「ぁっ」

 指の隙間から見える瞳の光が、きっちり見つめていることを確認した。
 それからむつきは和美の蜜へと舌を伸ばし始める。
 溢れ滴り、黒ずんだすぼまりにまで落ちていきそうなそれを、舌先で救い上げては口内で転がした。
 甘い、甘酸っぱい蜜は甘露で舌で一舐めしただけでは全く足りなかった。
 もっと味わいたいと、和美の丸まった背中を太ももと腰で支え、自由になった両手で割れ目を開いた。
 むわっと広がる雌の匂いを鼻で堪能し、大陰唇と呼ばれる下の口の唇にキスをする。
 ぬめる奥に唇をうずめるように、そして甘い蜜をすすった。
 ずるずると水滴を吸う音を下品に、甘い蜜を滴らせる本人に聞こえるように。

「だめぇんっ!」

 思わずあげそうになった悲鳴を止める為に、顔を覆っていた両手は口元に。
 おかげで和美の視線の先には、自分の陰部に顔を埋めいやらしく蜜を吸うむつきしか映らない。
 ただ吸うだけに飽きたらず、和美の視線に気づきながら舌を伸ばし蜜を舌先で転がす。
 はたまた和美にさえ見えるように大陰唇を割って中を見せつけ、舌で大げさになぞり愛撫した。
 おねだりしなければなんて和美が思っても、もはや遅すぎる。
 和美にできるのは、自分の下半身の痴態とそれを弄り弄るむつきを見続けるだけだ。
 やや乱暴な愛撫に身をよじらせても、必死に声を押し殺しても許されない。
 休み時間が終わりを告げる予鈴の音がむつきを我に返らせるまで。

「んぅっ、ぁ。んぁーっ!」
「ほら、また溢れてくる。和美の蜜がなくなるまで、ちゃんと舐め続けてやるからな」

 我が痴態を前い虐められ続け、数も分からないぐらいにイかされ続けた。









-後書き-
ども、えなりんです。

シャークティの出番近し。
ただし、最初ちょっと扱い悪いです。

では次回も土曜日です。



[36639] 第百七話 誰だ、私のむつきをこんなにしたのは!
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/04/12 20:05

第百七話 誰だ、私のむつきをこんなにしたのは!

 来ちまったなと、むつきが見上げているのは一軒の教会である。
 以前に鳴滝姉妹や長瀬と共に、春日を迎えにやって来たシスター・シャークティがいる場所だ。
 現在時刻は十七時と今頃むつきは、水泳部の部活に顧問として監督する義務があった。
 それをコーチとして退部後に就任した小瀬に一時任せやって来た。
 結局お昼休みに暴走して和美を腰砕けにした後も、全くおさまらなかったのだ。
 気力でなんとか今日を乗り切ったものの、下手に性欲を抑えた為反動が凄かった。
 それこそ、先日の始業式後のホームルームで神楽坂が素っ裸に見えたぐらいに。
 嫁とか二-Aとか全く関係なしに、校舎内を歩く生徒が全員全裸に見えた。
 もちろん実際そんなことあるはずもないのだが、愛の有無に関係なく見えてしまったのだ。
 そして男として自然と、誰々が良い体をしている、セックスしたらどんな味わいかと。
 嫁の大半が生徒であるため、せめてこの胸に抱いた愛だけはと思っていたのだが。
 今のむつきには、手当たり次第にそれこそ力ずくでもなんて不埒な考えしかなかった。

「はあ……」

 俺は本当に大丈夫なのか、色々な意味で心配になり結局やって来てしまったのだ。
 他に相談できる相手がいないと、見ず知らずの神父様を頼って。
 内容がもう少しまともならば、相談相手に困らないぐらい友達はいるのだが。
 祖父を含め、色々とシミューレートしてみたら、やれば良いじゃんと社会人失格の答えが返って来たので最初から相手として失格だった。

「当教会になにかご用でしょうか?」
「え?」

 門前で大きなため息をついていたのが分かりやすかったのか、声が聞こえたのか。
 不必要な程に大きな教会の扉が開かれ、一人のシスターさんが中から顔を覗かせた。
 たぶん日本でいう巫女服と似たような意味を持つ修道服を着たその人はシャークティであった。
 ほら案の定、顔以外の殆どを衣服の奥にしまい込んだその肢体に俄然興味がわいて来る。
 隣人を愛せよ、なら今から神の前で隣人である俺となんて中学生並みの妄想が沸いて来た。
 そんな邪気がはっきりと伝わったのか、何やら軽く身構えられたような気がした。

「神父さんはいらっしゃいますか?」
「神父様ですか、あいにくお出かけに……もしかして懺悔でしょうか?」
「懺悔、いや。俺悪いことなんかしてないですよ?!」

 急におどおどし始めたむつきを前に、シャークティは毒気を抜かれたように肩の力を抜いた気がした。
 少なくとも彼女が知る限り、麻帆良一の問題児と付き合うような男は懺悔と聞いて鼻で笑うイメージだ。
 こうも普通の、一般的な日本人の懺悔に対する発想をされれば力を抜かずにはいられない。
 しかしそれと同時に、シャークティは目の前でおどおどするむつきに興味深げな視線を向けて来た。

「なにも過去の罪を告白するだけが懺悔ではありません。胸に抱いた悩みを打ち明け、心を軽くしてさしあげるのも懺悔の一種。主に誓って秘密は厳守されますから、ご安心を」
「あ、そうなんですか。でも、神父さんがいないなら」
「いえいえ、もうじき帰ってまいりますから。懺悔室で数分お待ちください」

 半身を覗かせるだけしか開かれていなかった扉を開け、にこやかにシャークティが中へ促した。
 どうぞと手のひらを奥に差し出されては、日本人として相手に従わずにはいられない。
 彼女の勧めで教会に足を踏み入れ、懺悔室はと思えば意外な場所にあった。
 入り口から祭壇に続く絨毯、その両側にはお祈りまたは結婚式を祝う友人席の長椅子がずらりと。
 むつきの教会のイメージそのままだが、懺悔室は教会の人目につかない奥かと思いきやすぐそこにあったのだ。
 祭壇の横とは言い過ぎだが、長椅子の最前列のすぐ目の前に。
 一見電話ボックスのような縦長の箱に、申し訳程度に削り細工を施されてはいるが。
 拍子抜けするぐらい、本当にちょっとおしゃれな電話ボックスにしか見えなかった。

「これ?」
「皆さん、良くそういう顔をされますが。これと指さされたのは初めてです」
「ああ、ごめんなさい。それじゃあ、少し中で待たせてもらいますね」

 指さした手をぱっと後ろに隠し、むつきが謝罪を口にしたことでシャークティが目を丸くする。
 むつきの一挙一動を不思議がるように、その姿が電話ボックスならぬ懺悔室に消えていくまで。
 そしてぱたりとドアが閉められたところで、うーんと思い悩む様に額に手を当てていた。
 教会内に今は誰もいないことを、特に悪戯好きな春日やその妹分がいないことを確認する。
 それからそそくさと懺悔室を放れて、その裏側、話を聞く側のボックスの前に立った。

「魔法で声を変えて、恰好は良いわね。別に見えないんだから。あ、あー……うん、神父様の声だわ。今日限り、主よお許しください。これも彼女を麻帆良の一員として理解するがため」

 発生練習を始めた彼女の声が、若い女性のものから若干しわがれた壮年の男の者に代わっていく。
 誰かにみつかれば、物まね得意ですねっと言われそうなほどに姿と声がミスマッチである。
 敬謙なシスターとして悪戯っ子だったあの頃より、二度と使うまいと思った変声の魔法だ。
 これもある意味で正義の主の為にと祈りをささげてから、彼女もまた懺悔室へと足を踏み入れた。









 薄暗い懺悔室の中で椅子に座っていたむつきは、向こう側とを隔てる鉄網の向こうに気配を感じ取った。
 個室の暗さで鉄網を通してもその姿は見えなかったが、明確な気配を感じる。
 それ以前に、向こう側が一瞬明るくなり扉の開閉の音が聞こえたからこそであったが。
 案の定、向こう側にも椅子があるようでギシリと軋んだ音の後に声をかけられた。
 年齢を重ね様々な人の悩みを聞いて来たであろう重厚で落ち着いた声である。

「お待たせして申し訳ない。私がこの教会の神父です。迷える子羊よ、主を前にその胸のうちを告白しなさい。ああ、もちろん秘密厳守の為に名乗りは不要ですよ」

 経験に裏打ちされた自身だろうか、一言二言を聞くだけで随分と安心できる声でもあった。
 この人にならそう思わせるような声であり、少しばかりむつきの緊張もほぐれ始めていた。
 しかし、多少緊張がほぐれたところで、例の件を率直に相談するわけにもいかない。
 待っている間にいろいろ考えてみたのだが、なにから話して良いやら。
 むつきが色々と思案してなかなか喋らない間も、辛抱強く神父はその口が開くのを待ってくれていた。
 その辛抱強さ、先を急がせない雰囲気がまた一つ、むつきの心を解きほぐす。

「あの俺、麻帆良学園女子中等部で教師をしてます。あと、付き合ってる人がいて。俺なんかにはもったいないぐらい美人で可愛くて、意地っ張りな寂しがり屋が」
「ほ、ほう……では私と同じく聖職者ですな。ふふ、神と契りを結んだ私とはちがい伴侶を得ても良いところは違いますが。そのような美人とは、少々羨んでしまいます」
「いやあ、すみません。懺悔に来たのに、のろけに来たみたいで」

 下世話な話が嫌いな真面目一辺倒でもないのか、少々前のめりになった雰囲気があった。
 当然、まさか神父さんがとむつきも自分の気のせいだと思っていた。

「他者から尊敬されるべき神聖な職と、美しい伴侶を得る。人が羨む生を謳歌しているように聞こえますが」
「それが……」

 さてどう説明しようと改めて、もう少しだけ落ち着いて考える。
 一度口を開けば神父さんの雰囲気もあって、思ったよりは滑らかに口が動いた。
 しかしここからはなめらかだけではと、可能な限りちょっとだけ模造を込みで言った。

「先程も言いましたが、僕は麻帆良女子中の教師です。女性とも呼べない若い少女たちを教え導く立場にあります。もちろん、愛している人はいます。けれど……」
「聖職者の身でありながら、うら若き乙女を前に目移りしてしまうと」

 むつきが苦しい胸の内を明かせずにいると、神父さんが察した内容を呟いてくれた。
 自ら口にせずとも済んだ反面、心の内を知られるのは一部とはいえ何とも言えない気持ちだ。
 その気持ちも、数秒程度のことであったが。
 突然、バキッと何かがきしみ壊れるような音が鉄網の向こうから飛び込んできた。
 思わず椅子から転がり落ちそうな程に大きく激しい音だったが一体何があったのか。

「し、神父さん?」
「失礼、どうにも設備が古くなっていたようで」

 うちのひかげ荘どどちらが古いだろうと、天井や壁を見上げてむつきは言われるがままに納得した。

「まさか、本日の懺悔とは。生徒の一人に手を……」
「それこそまさか。僕は愛しているのは、アタナシアです。現在も共に暮らしています。出勤前には行ってきますのキスをして、お弁当を貰います。帰るまでの間にも、寂しい会いたいとメールしたり。夜はもちろん、一緒にお風呂に入って愛の結晶を作る為に毎晩欠かさず!」
「いえ、申し訳ない。こちらの失言でした」

 神父さんの私的に無茶苦茶焦って、色々と性活を含め喚いたら引いてくれた。
 焦ったまさか、一人どころかクラスの大半であることが発覚したら終わりである。
 俺なんでこんなチキンレースみたいなことしてんだろうと、ふいに我に返ったほどだ。
 謝罪は受け取ったものの、もう帰ろうかなと思い始めてもいた。
 だいたいにして、性欲過多で生徒をエロイ目で見てしまうと相談したところでどうなる。
 そもそも、可愛い女の子をエロイ目で見ない方が失礼じゃないか。
 実際に手を、出してしまった場合はさすがに一般論じゃ語れないと立ち上がりかけた尻が椅子に落ちた。

「時に神父さん。いっそ腹を割って話します」
「はい、私はもとよりそのつもりです」
「僕は、教職の身でありながら生徒をそういう目で見てしまうことがあります。妄想だってあります。生徒を人気のない部屋に連れ込んで悪戯するような。もちろん、実際はありません。妄想です、それで一発抜きます」
「抜く? 一発抜くとは」
「あれ、神父さんも外国の方です? あのシスター・シャークティさんと同じ、日本語上手いですね。オナニー、これドイツ語だっけ。マスターベーションですよ」
「オナ、マス。えっ、あの……素晴らしい美人の伴侶がいるのにですか?」

 おいおいと、戸惑いの声をあげる鉄網の向こうに腹を割れよとむつきが失笑交じりに言った。

「怒られようが言います。愛のあるセックスと自分勝手なオナニーは違いますよ。神父さんも男ならわかるでしょう。綺麗な人ですよね、シャークティさん」
「え、いえ。そんなことは」
「えー、嘘だあ。修道服に包まれた凛とした顔に、スカートから伸びるすらっとした足なんか最高じゃないですか。国籍知らないですけど、異国のシスターさん。まさにエキゾチック」
「普通です、わた。彼女は普通の敬謙なシスターですよ」

 何故お前が謙虚なんだと、第一印象のみでむつきはシャークティをそう評した。
 お昼の和美のように、私を食べてなんて言われたら絶対に断らない自信があった。
 その性欲、獣欲の懺悔に来ておいてなんだが、門前でのシャークティ相手の妄想で十分抜ける。

「分かった分かりました。割った腹を天日干しにします。さっき言いましたよね、僕は生徒を相手に妄想にふけってしまうと。一目見て、シャークティさんも例外じゃなかったですよ」
「ッ?!」
「お近づきになれるならなりたい、もう少しだけふわっと柔らかく笑って欲しいですけど。いや、真一文字に結んだあの唇が凛として。彼女は綺麗だ、そそる。一発やりたい!」

 拳を握りしめる程に力説し終えた後、鉄網の向こうからは沈黙しか返ってこなかった。
 その沈黙を前にして、だらだらと背中にいや全身に嫌な汗をかき始める。
 俺は本当にここに何をしにきたのかと、改めて自問自答しはじめた。
 少なくとも、少なくとも教会の神父さんに貴方のところのシスターと一発やりたいという為ではない。
 守秘義務ってどこまで守られるのと、通報されませんよねと不安になってきた。

「いや、はは。ちょっと熱くなり過ぎちゃいました。すんません」
「いえ、黙りこくって申し訳ない。貴方を苛むお悩みがとても良く分かりました」
「むしろ忘れてください。いやあ、死にたい。シャークティさん近くにいませんよね、これ声聞こえてませんよね!」
「ご、安心を。彼女には先ほど、お使いを頼みましたので」

 良かったっとほっと胸をなでおろし椅子に深く腰をかけたが、すぐに佇まいをただした。
 もう本当になにしにここに来たか分からないが、このあふれ出る煩悩をなんとかしたかった。
 自分勝手なそれこそオナニーまがいの行為で、愛を見失ったままお嫁さんたちを壊さないように。
 あやかたちはむしろ獣欲をぶつけられたいといったが、怖いものは怖いのだ。
 もし本当にそれをやった時に怯えられたくない、それこそ嫌われたくない。

「ねえ、神父さん。間違ってますかね。僕はこんな、良く知らない綺麗な人を見るだけで一発やりたいって叫ぶような人間ですよ。薄汚れた年中真っ盛りの雄です」
「嘘は言いません。少々面食らったのは、事実です。しかし……その、男の人は少なからず」
「だって同じ聖職者でも神父さまは、あんな綺麗なシャークティさんを見ても……その、日本ではまだ理解が不十分ですが。国外では珍しい、その早乙女、うちの生徒が好きな男同士が」
「違います、神父様の名誉に誓って!」

 何故そこで自分を様づけで呼んだのか、その焦りようが帰って真実味を帯びたような。
 思わず尻を抑えて逃げ腰になってしまったのは勘弁してもらおうか。

「神にも誓いましょう、私は男性より女性が……えーい、あります。シスター・シャークティをそういう目で見たことが。き、綺麗ですよね」
「それだけ? 美人を前に綺麗の二文字だけって。他にもあるでしょ?」
「くっ、その清楚なシスター故に清らかで腰回りも細く折れそうな華奢なところも」
「おー、なんだ結構見てるじゃないですか。良いっすよね、あの腰。正面からキュッと抱きしめたい。私は神と結婚した身とか言い訳されながら、強引にキスしたい」

 かなり苦悩した感じが鉄網の向こうから伝わって来た。
 やはり神父と言えどそういうことぐらい考えるんじゃんと、やっと心を開き合った感じがする。
 調子に乗ってまた妄想が爆発したが、腹を割った以上構うまい。

「いずれ、神父さんとはシャークティさんの履いている下着についてお酒を交えて語るとしてです」
「止めてください、本当に。わざとですか、わざとですよね!」
「わざとって?」
「いえ、私はお酒を断っていますし。そう、あまり大っぴらにそういう会話をするのも。せめて、この懺悔室で。事前にシスター・シャークティを通して予約していただいて!」

 神父さんも美人が周囲にいると大変だと、仲間だ仲間と嬉しくなって快く了承する。
 かならず猥談をしに懺悔室に来る時には、シャークティを通して予約をすると。
 懺悔室が予約制なのかは、まあどうでも良い事だろう。
 きっと今日はたまたま空きがあって、飛び込みで懺悔できたに決まっている。
 それに自分が猥談の標的にされたと知らず、当の本人に予約するのもおつなものだ。

「まあ、猥談はまたいずれ。それで、話は戻りますけど」
「はあ……」
「あからさまなため息を。身構えられると、身構えちゃうから良いですけど」

 とても疲れた様子でため息をつかれたが、それがお仕事でしょうとこっちが割り切って話す。

「男として、可愛い綺麗な人と一杯エッチしたい。それは当たり前の欲望だと思います。けど、本当に愛する相手には知られたくないじゃないですか。お前だけだぜって格好つけたりしたいじゃないですか。色々と壊したくないんですよ」

 この壊したくないは信頼関係もそうだが、主に相手のまだ幼い肉体をである。

「正直に思いのたけをぶつけるのと、煩悩は胸に秘めるだけで格好つけるのとどっちが正しいんですかね」
「そうですね、同じ聖職者としては欲望は胸に秘めたままにした方が良いかと」
「ああ、そうなんですか」
「早とちりをなさらぬように」

 思わず反射的に頷いてしまったが、見えない手が伸びてきたように止められた。

「秘めたままにするのは、貴方が聖職者である間です。教職として人を教え導く人は、生徒にとってお手本でなければなりません。子が親の背を見て育つように、生徒は教師の背も見て育ちます。あなたが聖職者である職場、校舎内では模範たるべきです」
「そりゃ、生徒に向かって欲望丸出しじゃあね」
「ですが、人間は不完全な生き物です。常に聖職者であり続けることなど不可能。貴方が耐え切れず膝をついた時こそ、隣へ振り返りなさい。そこにはきっと貴方が選び愛した伴侶がいるはずです。その人にだけは、己の全てを包み隠さず打ち明けなさい。でなければ、貴方は聖職者であることに潰れてしまいます。そして愛する人から何も打ち明けられず、見ていることしかできなかった伴侶もまた同じ」

 なるほどっと、むつきは神父さんの言葉を一言一句漏らさぬよう聞いては頷いていた。
 改めて考えてみれば、生徒を性的な目で見てしまうのはもはや仕方がない。
 例えそうであったとしても、そんなことをおくびにも出さなければ何一つ問題はないではないか。
 だいたい人は相手の心が読めないから、妄想の中でエッチしても分かるはずがない。
 あまりエロイ目で見過ぎると、察知されてしまうこともあるので要注意だが。
 そして、溜まり溜まった鬱憤は、たくさんいる嫁に分割して抜いて貰えば良いではないか。
 何時だったか、美砂か誰かが私一人じゃ大変だからって言ってたような気もする。
 さよ一人に全部ぶつけようとするから、変に手加減をして鬱憤が貯まったままになってしまうのだ。
 中途半端に鬱憤を繰り越し出勤すれば、可愛い子を手あたり次第悪戯したくなってしまう。

(それにきちんと、美砂たちにも相談しよう。ちょっと格好悪いけど。お前らとやりたいんじゃって言えば、むしろ喜びそうだし)

 包み隠して勝手に潰れるのが駄目、そうだ元々むつきは一人で抱え込む癖があった。
 そんな中で美砂と出会い支えて貰って、そうしてくれる相手が増えた。
 なら支えてくれる子全員に支えて貰い、体だろうが何だろうが満足させてやれば良い。

「よし!」

 もはや迷いは晴れた、端的に玉袋が空になるまで煩悩が枯れるまで嫁とやる。
 単純明快、俺も満足嫁達も満足の良い事ずくしであった。

「ありがとうございました、神父さん。いえ、神父様。来て良かったです。胸の支えが晴れました」
「いえ、それが神父たる私のお役目ですから」
「あ、でも今日の件は内密に。特にシャークティさんの件は気まずいでしょう」
「は、はは……」

 椅子から勢いよく立ち上がると、むつきは見えない鉄網の向こうの神父様へと頭を下げた。
 向こうからも見えているかはわからないが、誠意はきっと伝わるはずだ。
 満足気に頷いたような雰囲気があり、伝わったらしい。
 それから一つ気づいたように、むつきは鉄網に顔を近づけ口元を隠してこそっと伝えた。
 乾いた笑いが返って来たが、秘密厳守は俺もですとまた語りましょうとも。
 薄暗い懺悔室を出ると、長いトンネルを出たように明るい西日が出迎えてくれた。
 今からでは部活動の時間も一時間もないかもしれないが、顧問にさぼりは許されない。

「さあ、行くぞ!」

 両腕を上げて伸びをし、怒られそうなぐらいに声を上げてむつきは一歩を踏みだした。
 今の俺は無敵だとばかりに、軽くランニングをするように教会を去っていく。
 その姿が豆粒ほどになった頃に、奥から浅黒い肌を羞恥に染めたシャークティが出てくるとも思わずに。
 自分の両腕を抱きかかえ、わが身そのものを抱きかかえるようにしていた。
 知らぬとはいえむつきに妄想で辱められ、本物の神父様には申し訳ないやら。
 その胸中を推し量れるものなど誰もおらず、彼女は去っていくむつきの背へとにこやかに呟いた。
 攻撃的な意味でのにこやかさではあったが。

「そしてこれが、貴方の懺悔を聞いた私からの最後のプレゼントです」

 懐から取り出した十字架を、逆さに向け若干まがまがしい煌めきが発せられる。
 部分的に早く訪れた夜のような闇の光は、空を行くいなごの大軍のように空へと向かった。
 そのイナゴの大群の行先が、豆粒程度の大きさのむつきであることは疑いようはない。

「未遂の人に使うのは戸惑われますが。一日だけの煩悩退散、そしてあなたは真の愛に目覚めることでしょう。私怨ではないですよ、曲がりなりにも懺悔を聞いた私からの道しるべです」

 完全に平常心を見失った瞳で、しかも完全に自己を正当化するような口ぶりであった。
 そんな彼女が我に返って乙姫むつきに対する魔法関係者のルールを思い出したのは、随分後のことである。
 さらに、この血迷った行動が今後の人生を大きくゆがめるとは、まだつゆとも知らぬことであった。









 その後、水泳部へと向かったむつきは、アキラや亜子、小瀬に手は出さなかった。
 さすがに悩みが解決したとはいえ、鬱憤が貯まりまくった状態で彼女たちに手が出せなかったのだ。
 確かに数の上では三人だが、まだ少女である彼女たちに今の自分は受け止められない。
 大人、そうアタナシアに加えて、先日大人として嫁に加わった千草である。
 彼女たちなら、この胸にくすぶる煩悩を全てぶつけても決して壊れないと思えた。
 なので事前に二人には水泳部の監督室から電話し、今夜絶対にひかげ荘に来てほしいと頼み込んだ。
 ちょっとだけ心配した千草が預かる小太郎については、預ける先の当てはあると言われた。
 どう考えても那波や村上のことであろうが、小太郎ならばたくましくやってくれることだろう。
 などと、むつきは夕飯を終えた後で、布団の準備をするさよを前に考え込んでいた。
 自分の為でなく他のお嫁さんの為に床を用意させるのは申し訳ないが、これも皆の為である。

「はい、綺麗に準備し終えましたよ、あなた様」
「悪いなさよ。今夜は……」
「いえ、むしろ私は嬉しく思っています。なにも聞かされず、漠然と優しく抱かれるよりは。あなた様の胸の内を聞かされ、故あって抱かれない方がずっと」

 綺麗に整えたばかりの布団を崩さぬよう、遠回りしてむつきの下へやって来たさよが両手を握って来た。
 その表情は確かに、無理やり自分を殺して抱いた昨晩よりもずっと晴れ晴れしいものであった。
 神父様の言う通りにして良かったと、逆にその手を握り返して引き寄せた。
 流れるように胸元に倒れ込んできたさよを受け止め、愛、胸にたまった愛を込めたキスをする。
 それだけでさよはくてりと力が抜けそうだが、今晩は順番がと頑張って耐えていた。

「あなた様、これ以上は私も混じりたくなってしまいますから。まだお役目が」
「そうだよな。基本的には、美砂かあやかが仕切ってくれるから。さよは中立者として見守ってくれ。喧嘩のないように、みんな仲良くな」
「はい、もちろんです」

 スキンシップが過剰になると危ないからと、正面向き合って手を触れ合うにとどめる。
 今日、むつきがアタナシアと千草を抱いている間、さよにはお願いしたことがあった。
 それは、他のお嫁さんたちを主に平日の昼休みや放課後にローテーションで抱く相談だ。
 夏休みはまだ良かったが、今のむつきに平日は基本耐えて休みに性欲を爆発させるのは無理である。
 だからもっと頻繁にということで、少しでも空き時間があれば誰かを校内で抱くつもりであった。
 そろそろ人数も多くなって来たし、土日だけではさばききれないのもある。
 ただし、さよは平時より夜を共にするのでローテ外とし公平性を保つ役を担って貰う。

「では、そろそろ超さんのてれび会議とやらが始まりますので」
「おう、すまんが今日はエヴァと一緒に寝てくれ。こっちはこっちで楽しくやってるから」
「はい、あなた様。お先に失礼します、お休みなさいませ」

 ぺこりと頭を下げたさよが、ととんと軽い足音と共に遊戯室へと向かっていく。
 そこでテレビ、寮の皆は小鈴謹製の携帯電話だが全てを繋げての秘密の会議である。
 焦点は恐らく、ローテの一番を誰が手に入れるかに絞られることだろう。
 もっともそれ以外に時間を見つけてむつきに迫るのは、全く問題ないのだが。
 結果はその時聞いた方が面白いと、思っているとインターフォンが鳴らされた。

「へーい」

 管理人室から返事をしても聞こえるはずはないのだが。
 やってきましたと、何時もの浴衣姿でむつきは愛する二人を出迎えに行く。
 玄関はまだ鍵をかけていなかったため、開かれた玄関の先にいたのはお待ちかね。
 夜に溶け込みそうな黒のカジュアルドレスを着たアタナシアと、京都で出会った時の様な肩出しの白地に華をあしらった着物姿の千草だ。

「全く、偉くなったものだ。百発やりたいから、この私に来いなんて命令するとは」
「小太郎は、女子寮のあの子らにあずかって貰いましたえ。今夜はむつきはんと」
「いらっしゃい、二人とも。上がって、ご飯は?」

 念の為聞いてみたが、それぞれの腕を取って来た二人から食べて来たと言われた。
 なら遠慮なくとまずは二人を洗い、洗って貰う為に自慢の露天風呂へと連れて行く。
 むにむにと歩く間際にも押し付けられる胸が嬉しく、両手に華とはことことだ。
 今日は明日に響いてでも全部出し切る、それからまた可愛い嫁を校舎内だろうが可愛がる。
 もう今から押さえられませんと、二人の腰を抱いたところでふと違和感があり立ち止まった。

「おい、どうしたむつき……ん? お前、なにか」
「ほんまや、なんか。妙な感じが」
「え、そんなわけ。さあ早くお風呂に」

 股間に感じていた違和感、それはこの状態でもぴくりとも動かなかったからである。
 でもあるわけがないと、違和感を一笑に付してむつきは二人を露天風呂の脱衣所に連れて行った。
 自分は浴衣一枚、下着さえないので帯を解いて一足先に全裸となり見ろこの勇士と股間を押し出す。
 しかしどうやら、今日はちょっと恥ずかしがり屋の様で俯いたまま顔を見せてくれない。

「あれ……なんだよ、良い歳して緊張してんのか?」

 自分で自分の股間に突っ込みつつ、まだかなっと二人の脱ぎっぷりを遠慮なく鑑賞する。
 アタナシアは自信の塊であることが良く分かるようにモデルの様に長い足を見せつけていた。
 そのまま背中のジッパーをおろし、カジュアルドレスはいともたやすく床に落ちて折り重なった。
 残されたのはふんだんに刺繍の細工を施された同じく黒のブラジャーとタンガショーツ。
 そしてみんな大好きガーターベルトが彼女のおみ足を、一際悩ましげに飾り立てている。
 眉唾物とはまさにこれとばかり、むつきの舐めるような視線を前にアタナシアが挑発的に笑う。

「どうだ、むつき。この私を好きにして良いんだ。そうだな、跪いて足の甲にキスすれば今すぐにでも天国に連れて行ってやるぞ?」

 一方の千草は、日本人らしく羞恥心を持ってむつきに背中を向けていた。
 そしてゆっくりと少し勿体つけるように長い帯を解き、はらりと締められていた着物が開く。
 と言ってもそれは正面の話で、焦らされたむつきはたまったものではない。
 そんなむつきの反応を楽しむ様に、ついに千草は緩んだ着物を肌の上を滑らせ床の上に落とした。

「むつきはん、恥ずかしいからあんま見んといて」

 未だ背中を今日美人らしい真っ白な雪の様な肌を見せた千草は、他に何も身に着けていなかった。
 ブラジャーもパンツも、何もかも。
 いや、落ちた着物を小さく跨いだ彼女は、足元に白の足袋をはいていた。
 全裸に足袋だけとはなんていうか、ある意味で日本人らしいマニアックさだ。

「駄目だ、もう待てないよ。二人とも、お風呂の前にここで一発!」

 ここまでされて大人しく風呂に入れるかと、早速押さえつけていた欲望をむつきが解放する。
 待たなくて良い、恰好つけなくても思いのたけを、何もかもをぶつけて良いんだ。
 これから長年連れ添う伴侶であり、彼女たち自身がそれを望んでいる。
 アタナシアの腕を、さらには千草の腕をとり全部俺のだと主張するように強引に抱き寄せた。
 同じ胸元に和と洋の美人をはべらせ、誰にも渡さんと男の欲望を前面に押し出し見下ろす。
 それは良いのだが、そろそろ現実を見るべきだろうか。

「ねえ、俺の気のせいじゃなけりゃ……」
「これは何の冗談だ?」
「これはこれで可愛いどすけど。孕ませて貰うには」

 下に視線を向けたアタナシアと千草が、両側から共につんつんと突いて来る。
 この状況下において全く、これっぽっちも勃起してくれないうな垂れたむつきの一物をだ。
 わなわなと震えるだけで棒立ち、下半身は全く立っていないが、むつきは棒立ち。
 当人の代わりに、互いを見合った二人が頷き合い、そっと下から支えるように千草が竿をアタナシアが玉袋を手に包み込んだ。
 千草が竿を上下にこすりあげ、アタナシアが玉袋を捏ね上げても一向に反応はなし。
 そこでお互いを見合ったアタナシアと千草がどうぞと譲り合い、結果アタナシアが大きく口を開いた。
 こんなふにゃった状態では初めてかもと思いつつ、垂れているむつきの竿を一口で咥えこんだ。

「んぅ、味は……何時もの、あむ。んー」

 ちゅぱちゅぱとアイスを舐めるように舌で愛撫するも、硬くなる気配は一切ない。
 ただむつきの濃い匂いにちょっとアタナシアが発情したに終わるだけだ。

「嘘だぁーーーーーーー!」

 それこそ先日のさよの果てる声以上の大声で、むつきは二人を掻き抱きながら叫んだ。
 こんなことがあるわけがないと、今目の前にある現実を真っ向から否定する為にも。
 しかし、現実は非常である。
 決して認めるわけにはいかないそんな現実を前に、むつきの意識という名のブレーカーが落ちた。
 ぐらりと倒れ行く最中にちゅぷっとアタナシアの口から抜けた一物はやはりふにゃっている。

「むつき、まだ諦めるのは。誰だ、私のむつきをこんなにしたのは!」
「むつきはん、しっかり。どこのどいつや!」

 乙姫むつき二十五歳、なんの前触れもなく唐突に勃起不全発症であった。









-後書き-
ども、えなりんです。

懺悔室のネタは原作でもあったので、いつかやってみたかったんです。
春日でなく、向こう側にいたのはシャークティでしたが。

しかしエロSSで主人公をEDにしてどうするってのもありますが。
これ、結末がまだ自分の中であんまり固まってません。
考え中と平成教育委員会のアレが頭の中で流れるぐらいに。

ぼちぼち考えてやってきますわ。
それでは次回は来週の土曜日です。



[36639] 第百八話 私は先生の血が欲しい
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/04/19 20:16

第百八話 私は先生の血が欲しい

 その日、麻帆良市全土を大寒波が襲っていた。
 まだまだ暑いよねと笑っていた昨日とは異なり、秋を飛ばして冬が来たかのような天気であった。
 空はどんよりと鉛色の雲が浮かんでは、台風の後の川の濁流の様に流れている。
 夏用の制服など論外、上着がなければ確実に風邪をひく程の寒風が吹きすさんでさえもいた。
 異常過ぎる異常気象を前に、学園都市は急遽一限目を休校とする決断を下す。
 何故なら、お気楽な性質の麻帆良生徒は、今日も暑くなると夏服での登校が多発したからだ。
 教室内に急遽冷房ではなく暖房が灯されたが、それだけでは全く足りなかった。
 だから一限目を休校にする代わりに、急いで寮に冬服を取りに帰れと放送したのだ。

「なんていうか、私たちは委員長様々よね」

 二-Aの教室にある自席から、ガタガタ揺れる窓の向こうを眺めながら神楽坂が呟いた。
 一限目が休校と知らされたのはつい先ほどだが、彼女の格好は防寒がしっかり施されている。
 安物ではあるがカーディガンや手袋にマフラー、足元は黒のストッキング。
 本当の真冬には厳しいが今日の様なちょっとした異常気象の寒さにぐらいは勝てる格好だ。
 しかしそれは、神楽坂のみが事前の準備が良かったわけではなかった。

「せやな。事前に委員長が大寒波が来るって連絡網回してくれへんかったらアウトやったえ」
「このちゃん、明日菜さんも。暖かいお茶です、温まりますよ」

 木乃香と刹那も、神楽坂のようにマフラーや耳当てと防寒はばっちり。
 実はこっそり二人で色違いの毛糸のパンツだって履いて来てきている。
 暖房はまだまだ効き始めたところで、これまた事前に用意しておいた暖かい緑茶を刹那がふるまった。

「やべえ、甘かった。見積もりが甘かった。桜咲すまんが、私にも茶をくれ」
「長谷川さん、構いませんが。何故そんな薄着を」
「うわ、千雨ちゃん寒そう。カーディガン貸してあげようか? 私まだ上着あるし」
「うちの耳当て使う?」

 しかし、全員が全員委員長の忠告をきちんと聞いて完全防備というわけではなかった。
 自席でガタガタ震える手で、刹那のお茶を欲しがった千雨などがその代表だ。
 まさかこんな大寒波だと思わず、せいぜいが夏服を冬服に変えた程度。
 急激すぎる寒暖の差に、珍しく素直に神楽坂たちの好意を受けて防寒具を借りていた。

「マジ、感謝する。今度ジュースでも奢る。けどありえねえだろ。なんだよこれ、真冬じゃねえか。またテレビの天気予報外しやがって」
「私の予報は完ぺきでしたわよ。全く、こんな日にそんな薄着で」

 防寒具を借りれど直ぐに温まるわけではなく、机に突っ伏し愚痴った千雨の頭を叩いたのはあやかだ。
 その際に隣の机、明石の机にどすんと置かれたのは大きなポットであった。

「皆さん、体が温まるお茶をご用意しておきました。体が冷えた場合には遠慮なくお飲みください。体の冷えは女の子の大敵。今日は特別に授業中でも問題ないよう許可を取り付けました」
「さすが私のあやか、ちょうど暖かいお茶が飲みたかったの」
「早朝の連絡網もさすが委員長、あまりに寒くてまだ私その時寝てたよ」

 早速、私もっと那波や村上に続き、あやかをべた褒めしつつ皆がポットに群がった。
 こういう時こそお金の使いどころと、あやかにより全学年全クラスにポットは手配済みである。
 さすがに麻帆良学園都市の全ての学校とはいかないが、敢えて誇らないのもあやからしい。
 ただ二-A内では誰の手配か隠すこともできず、まき絵や裕奈からもありがてえと拝まれていた。
 そんなお茶でほっと一息ついていると、そうそうと那波が一つ爆弾を落としていった。

「そういえば夏美ちゃん、昨日は小太郎君と一緒に寝たのに寒いはずないじゃない。もう、照屋さん」
「その小太郎君が私のお布団とっちゃったからだよ。そもとも、昨日寝る前はちづ姉と一緒に寝てたはずなのに。もう、どうせちづ姉の悪戯でしょう。起きた時また、げって言われたし!」
「うひょ、寮の中でそんなラブ臭事件があったなんて。なんで、小太郎君どうして寮に?!」
「村上夏美女史、地味な外見とは裏腹にクラス初の処女喪失っと」
「パルも朝倉も何言ってんの!」

 早速ハイエナ二人に鍵づけられ、ほっといてと両手を上げて半泣き状態である。

「夏美ちゃんも災難だわ。それにしても、本当になんなのかしらこの天気。このまま秋がなくなったら、高畑先生とのお月見デートとかできないじゃない」
「きっと、明日からはまたこの寒さが恋しくなる程暑いですよ。暖かい肉まん、サービスです」
「寒い時にガタガタ震えるとことのほか、カロリーの消費が激しいですから。色々と気にせずどうぞ」
「五月ちゃんの肉まんや。でも一個は多いから、せっちゃんわけわけしよ」

 あやかの他にも奉仕者はいるようで、四葉や葉加瀬が神楽坂や木乃香だけでなく皆に恒例の肉まんを配っていた。
 それらを受け取り改めて周囲を見渡したわけだが、ちょっとだけ人数が足りていなかった。
 あやかの連絡網はクラス全員にいきわたっているはずが、ちらほらと姿が見えない子がいたのだ。
 普段なら既にホームルームが始まっている時間帯だが、五、六人ほど足りない。
 さよにエヴァ、絡繰に長瀬と龍宮……あとはザジかと神楽坂は指折り数えて言った。
 特にそれそのものには意味はなかったが、ついでに全く関係ないことを思い出しもした。

「こんな天気だけど今日、先生来てるわよね」
「先生とは、乙姫先生ですか?」
「うん、そろそろ例の件を相談したくて。学園長や高畑先生に答えを言う前に」
「ふふ、明日菜。なんやお爺ちゃんや高畑先生よりも乙姫先生を信頼してるみたいやな。釣れない憧れの先生と、気さくで優しくしてくれる先生の間で揺れる明日菜。可愛え」

 そんなんじゃないわよと、両手を上げて怒る神楽坂へと木乃香がえいっと頬を突く。

「おいおい、神楽坂。恋愛相談した相手といつの間にかってのは定番だぜ。泥沼にはまらないように気を付けな。それとも、もう手遅れか?」
「千雨ちゃんまで、カーディガン返してもらうわよ」
「もう借りた、今日一日これは私んだ!」

 加えて防寒具を借りた感謝を込めて千雨が、こいつは怪しいなと毒づいたり教室内は姦しい。
 ごく一部、むつきが現在どのようなことになっているか知らされている人物を除いて。

「先生……」

 むつきの現状はお嫁さんの中でもトップシークレット。
 現在教室内にいる者で知らされているのは、暗雲漂う空を窓を通して見上げる美砂。
 それからこんな時こそ普段通りにと、周りに気を遣うあやかの二人だけであった。









 世間を騒がしている大寒波は、生徒のみならず一部特殊な先生を大わらわにさせていた。
 一限目の休校により生徒帰宅も、時間稼ぎ以外の何物でもなかった。
 大寒波は自然のものではなく、人為的なものに他ならなかったからだ。
 犯人の名は、エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル。
 闇の福音という畏怖と恐れから名づけられた名を持つ最強の悪の魔法使いである。
 しかし最近大人しかった彼女は、産まれて初めての彼氏ができて良い感じに拭抜けていた。
 例えば魔法関係者の集まりに、流行りの衣服を乗せる女性雑誌を片手にやってきたり。
 なのに突然のこの暴挙である。
 しかも彼女はそもそも魔力封印状態で満月でもなければ、魔法の一つも満足に使えないはず。
 一体なぜ今になって、そもそも封印は、様々な憶測が駆け巡り関東魔法協会は混乱の極みにあった。

「ふん」

 そのエヴァと言えば、学生服姿で麻帆良女子中の校舎の上で腕を組み鼻を鳴らしていた。
 彼女の体から全盛期を軽く凌駕する魔力が嵐となって吹き荒れ、麻帆良都市全体を冷気で押し包んでいる。
 常人が同じことを試みれば数秒で魔力が枯渇し、そもそも都市どころか麻帆良女子中でさえ冷気に包めないことであろう。
 それだけの非常識を堂々とやってみせたのは、挑発に対する挑発に他ならない。
 昨晩発覚したむつきの勃起不全の症状は、明らかに魔力的な呪いによるものであった。
 魔法関係者はむつきに手を出してはならない、その一文を破った相手への最大限の挑発である。
 以前エヴァが関東魔法協会理事である近衛門に言った通り、麻帆良全土を氷に閉ざすという。

「来たか」

 こうしてある意味で目立つ場所に立っていたのも、挑発の返答を貰う為だ。
 全面戦争か、タブーを犯した首謀者の首を差し出すか。
 そして使者来たれりと背後に気配を感じたエヴァは、若干の拍子抜けを感じずにはいられなかった。
 想像していた相手とは全く違った、むしろ欠片も想像しなかった相手がこの屋上に降り立ったからだ。

「なんだ、貴様か。ザジ・レイニーデイ。今の私は機嫌が悪い。そもそも貴様会話が成り立た」
「おはようございます、闇の福音ことエヴァンジェリン・A・K・マグダウェル。この世界に生まれながら我々に近い性質を持つあなたとは、常々言葉を交わしたいと思っていました」

 冗談に聞こえるぐらいなめらかでていないな口調に、一瞬聞き間違いかと言葉が途切れた。

「シャベッタァァァァァッ?!」

 聞き間違いじゃ、この子煩いぐらいの寒波の風の中での幻聴かとも思ったのだが。
 意外と育ちの良さそうな、鈴がなるような可愛らしい声であった。
 実際、一切喋らないミステリアスを通り越した存在ではあったが、二-Aらしく見た目は可愛い。
 見た目通りの声と言えば声なのだが、何故今になってペラペラしゃべり始めたのか。

「貴方の疑問ももっともです。実は……」
「ふん、今のこの私の溢れんばかりの魔力を前に唾でもつけておこうなどとおこがましいことを」
「あまり乙姫先生のお手を煩わせるのも申し訳ないとこの夏休みに必死に日本語を勉強したのです。日本にある夏休みデビューをもくろんだのですが、一人だけ宿題をしなかった春日さんのおかげで完全にタイミングを逸してしまった次第です」
「阿呆かァ。夏休みが明けて何日経ったと思っている。逸し過ぎだろうが!」

 エヴァの突っ込みに対し、何時もの半眼で拳を握りながら彼女はなおも言った。

「春日さんの渾身のギャグを前に空気を読みました」
「空気など読むな!」

 また変なのが、元からいたのだがより変になって現れたと風で乱れた髪をなおかき回した。
 くすくすとどこぞの令嬢のように品よくザジが笑うので猶更腹が立つ。

「それで、夏休みデビューに失敗した貴様が何故ここにきた。私は人を待っているんだ。馬鹿は帰れ」
「いえ、お供します。そろそろ、私も立場をはっきりさせたいと思っていました」
「立場?」

 ザジの物言いは気にはなったが、待ち人の本命が来たようだ。
 この寒空の下を吹きすさぶ完封をモノともせず、ズボンのポケットに両手を突っ込んだ高畑が現れた。
 まさに一足飛びと言った感じで、どこぞの窓から跳んできたようだ。
 相変わらず何が面白いのか、親父臭い笑みを浮かべながらそっとポケットから手を抜いた。
 その両手は敵意がありませんよとばかりに、上に掲げられぷらぷら振られている。

「おーい、エヴァ。皆が風邪引いちゃうから、そろそろこの風止めてくれないかい?」
「タカミチ一人か……むつきに手を出した下手人を差し出せ。話はまず、そこからだ」
「彼に何かあったのかい? 職員室に来ていないみたいだけど」
「酷くデリケートな問題だ。こちらから、情報を明かすつもりはない。ただ要求するだけだ」

 古い馴染みであれど許せることと許せないことは当然ある。
 お互い努めて冷静に、表向きは敵意の欠片も見えないが逆に、引くつもりも特にエヴァはない。

「とはいえ、私もこの寒空の下立ちっぱなしも勘弁願いたい。だから、貴様たちが動きやすいようにしてやろう。おい、タカミチ。近衛門に連絡して、麻帆良学園都市の電気代をネットで調べさせろ」
「麻帆良学園都市の? エヴァがそう言うなら……もしもし、学園長ですか」

 その意味は分からなかったようだが、ある種信頼もしている為高畑は言われた通りにした。
 自前の携帯電話で学園長に連絡をとって、そのままエヴァの言葉を伝える。
 当然、学園長も全く意味が分からなかったようだが、念のためにネットを参照したようだ。
 パチパチとキーボードをたたく音が電話越しにも聞こえた後、

「ぬわーッ!!」

 灼熱の炎に焼き殺された某流浪の王様のような叫び声が、電話の向こうから聞こえた。
 あまりに突然、しかも大声に高畑はとっさに電話を耳から遠ざけ顔をしかめている。
 そして散々喚き支離滅裂なご老体の相手にちょっと辟易して、携帯電話をエヴァに投げた。

「エ、エヴァお主まさか。麻帆良学園都市の電力で関東一帯の天候を操る大魔法を?!」
「はっはっは、超鈴音から麻帆良の大結界は電力を使って維持していると聞いた。そして私への封印にも使われていると。つまり私から大結界への魔力パスが通っているということだ。そこからは私の領域だ。ちょいと探ってやればこの通り。専門用語でセキュリティホールというらしいな。麻帆良の電力で魔法を使いたい放題だ」
「九月一週目で、既に一か月分の電力が。止め、止めて。予算が、麻帆良学園都市の運営が」
「事の発端の私が言うのもなんですが。だから最初から私がいくと申し上げました」

 既に交渉もなにもなく、半泣きの学園長の横から若い女性の声が割り込んできた。
 一体誰だと声の主を思い浮かべるまでもなく、エヴァは知っている。
 元々、むつきに呪いをかけたのが誰か知っていたのだ。
 魔法先生の一人、シスター・シャークティ。
 そもそもむつきの一大事に、あの小鈴が全く何もしなかったわけがない。
 むつきの携帯電話のGPSの記録から、昨日の行動範囲をすべて洗い出した。
 世界中のストーカーも真っ青な手段さえ使い、いつどこで誰とどんな会話をしたのか。
 そして突き止めた発端、むつきの彼女へのセクハラにはこんな時だが腹を抱えて笑ってしまった。

「シスター・シャークティだな。三十秒で麻帆良女子中校舎の屋根に来い」
「善処します」

 不要な反論がなかったのは、しでかしたことの重要性を理解しているからか。
 若干いぶかしみながら電話を切ったエヴァは、高畑にそれを投げ返していった。

「タカミチは帰れ。ここからは、むつきの沽券に関わる話題だ」
「できれば、なにがあったのかちゃんと聞きたいんだけど。シャークティ先生も頑固でね。懺悔には守秘義務がって教えてくれないんだ」
「ふむ、それをそのまま信じるわけではないが……私はまだ、タカミチを殺したくない。女は残酷でな、古い馴染みより愛した男の方が何百倍も大切だ。むつきの尊厳を守る為なら、私はなんでもするぞ?」
「彼女は良いのかい?」

 無理そうだなと諦めかけていた高畑は、エヴァのそばに立つザジのことを言っていた。
 エヴァもまだ彼女が何を考えているかはさっぱりわかってはいない。
 先程の言動から、エヴァに近いというエヴァよりも深い闇の住人らしいが。
 その正体が何であれ二-Aの生徒であり、言ってしまえばむつきが好きそうな美少女だ。
 どうせそのうち竿姉妹になるなら、早い方が良いとエヴァは無言で高畑に犬を追い払うように手を振った。

「信じてるよ、エヴァ」
「私はお前に信じて欲しいと思っていない」

 そう言い残した高畑に吐き捨てるようにし、エヴァはザジと共に待った。
 もとより三十秒なんて守れるとは思ったいないが、シャークティが現れたのは五分後。
 彼女は急ぎ走ることもなく、寒風が吹くこの鉛色の空の下をゆっくりと歩いて来た。
 実際は家々の屋根を跳んできたり、一般人に比べれば格段に早いことだろう。
 しかしそれが、謝罪の為に急いで来たかと言えば、そんなことは全くない。
 何故なら高畑のように何処からか一足飛びで屋根の上に現れた彼女の息は一つも乱れてはいなかった。

「お待たせしました。こうしてきちんと言葉を交わすのは初めてですね。聖ウルスラで教師をしながら、教会でシスターをしています。シャークティです」

 チラリとザジの事を気にしながらも、彼女はエヴァに対して正面から自己紹介を行ってきた。
 エヴァは半強制的に関東魔法協会所属にさせられており、半ば同僚と言えなくもない。
 しかし彼女の言う通り、まともに言葉を交わした相手など学園長か高畑ぐらいしかいなかった。
 だから、誠意こそ見えなかったが、落ち着いて挨拶してきたことが少し以外でもある。
 物が上から落ちる様に、悪の魔法使いは立派な魔法使いを目指す者に嫌われているのだ。

「釈明を聞いてやろう。命乞いでも良いぞ?」
「釈明は兎も角、命乞いをする理由はありません」

 堂々と、ともすれば謝罪もしないと言いたげなシャークティの言葉にエヴァは額をひくつかせた。

「聞き間違えたか? 神に股を開くだけで絶頂に至れるいかれた女が、世迷いごとを言った気がしたが……」
「謝罪の必要などありません。彼は生徒に劣情を抱くことを悩んでいました。だから私は懺悔室でその悩みを聞き入れ、助言を与えました。それと小さな切っ掛けを」
「良く言う、魔法を悪用して神父に成りすました癖に。続けろ」
「彼には一晩だけ、その……夫婦の営みが行えないようになって貰いました。彼は少々、不純な気持ちが強いようですので。愛の営みの大切さを再認識できるよう」

 悪用の件にはつっと視線を逸らしたがシャークティは、いたって大真面目に釈明している。
 むしろ、貴方の為にもなりますよと言いたげな瞳を、真っ直ぐ真剣に向けてきていた。
 その言葉が撮りつくられただけの張りぼてかどうかぐらい、エヴァに見抜くことは容易い。
 そもそも、エヴァは人の思考をある程度読め、彼女は身の潔白の証明のために魔力的なガードを殆どしていなかった。
 これならまだ、エヴァたちへの個人的恨みを間接的にむつきに向けられた方がましだ。
 単純にそいつをぶちのめせばよいだけである。
 しかしシャークティは正義とか立派な魔法使いとかそういう視点を持っていない。
 少なくとも今回の一件については、完全にそういう視点はないと彼女自身も信じていた。

「これだから、神に股を開いて絶頂できる奴は嫌いなんだ。処女こじらせてるだけじゃないか!」
「しょ、確かに私は神に仕える為に。そこの貴方、なんですかその目は!」
「いえ、別に。しかし、僭越ながらエヴァンジェリンのお言葉を通訳するなら。夫婦にまで清い男女交際求めるなんて処女乙。淫らな気持ちや獣のような衝動もひっくるめて、愛だと。少女漫画みたいな夢みてんじゃねーよ、ぷーくすくす。だ、そうです」
「妙な意訳をするな。だいたい合ってるが。あと、お前結構性格悪いな!」

 それほどでもとすまし顔のザジは、本当に性格も悪いが良い性格でもあった。
 日本語がしゃべれなかったので随分抑えられていたが、こちらが本来の性格なのかもしれない。
 そんなザジの本性はさておき、散々処女と馬鹿にされたシャークティはちょっと涙目で顔が赤かった。
 本来敬謙なクリスチャンではシスターは敬われる存在で、処女であることは神聖なことだ。
 何故その神聖な処女を馬鹿にされなければいけないのか。

「夫婦であるからこそ、きちんと互いを尊重し合うべきです!」
「だから貴様は処女を拗らせているというのだ。何時私やむつきが互いを蔑ろにしていると言った。奴は突然私を押し倒した時も、頭を打ったりしないよう気を付けてくれる。逆に私が押し倒すときも同様だ。もしそれで驚かせたら、素直に謝ってキスするわ!」
「ではなぜ、彼は生徒に劣情をもよおすのですか。貴方が満足させてあげられていないからでは?!」
「失礼なことを言うな。一晩で十回以上、相手をさせられるんだぞ。むつきはちょっと性欲が強いだけだ。それに誰だって間がさすことはある。ご馳走だけで人は生きて行けないんだ!」

 エヴァの即時反論に、一瞬シャークティが固まった。

「一晩で十回は多いのですか?」
「駄目だ、こいつ。今時小学生でも、男は一回出さないとっていうフレーズ知ってるぞ」
「あっ、なんだか馬鹿にされたのは分かります。怒りますよ」
「ずっと馬鹿にしとるわ。処女膜の代わりに蜘蛛の巣張った萎びたシスターが!」

 今にも一触即発といった雰囲気で睨みあう二人だが、当初とは随分と意味がすり替わっている。
 いち早くそれに気づいたのはエヴァであり、いかんいかんと頭を振った。
 もっとやれと、わくわくしていそうなされどポーカーフェイス気味のザジの足をげしっと蹴りつつ。

「兎も角、貴様に悪意がなかったのは理解した。しかし、きちんとケジメを取って貰おうか」
「ケジメとは、私はなにも責任を取る様なことはしていません。そもそも、あの呪いは性犯罪者を戒める簡易の呪い。一晩でとけてしまいます」
「だからお前はダメなんだ。昨日、頑張って子供を作ろうとしたら、立たなかったんだぞ。そのショックを貴様は理解できていない。むつきはその場で崩れ落ちる程に心に深い傷を負った」
「魔族の私でも、容易に想像できます。小さな親切、大きなお世話。嘘から出たまこと。先生はその時に負った傷により、本当に夫婦の営みそのものができなくなった」

 さり気に超重要なことをザジが言った気もしたが、二人ともそれどころではなかった。 
 あの場にいたエヴァも千草も、少し調べれば微弱な呪いの効果や期間ぐらい直ぐに調べられた。
 シャークティの言う通り、戒め用の簡易呪いであることや、効果が一晩ということも。
 だがむつきは自分の一物が役に立たなかったところを見てしまった。
 千草が竿をさすっても、アタナシアがおしゃぶりしてもピクリともしないうな垂れたままの一物。
 呪いそのものは大したことはなくても、生み出された結果は残酷で錆びた刃のように傷跡に膿を残していた。

「今朝、二時間早く起きて早速試してみた。結果は、こいつの言う通りだ。私に泣きながらごめんと、もう子供作れないかもと謝り続けていたぞ!」
「そんな……」

 最後まで説明され、ようやくシャークティが自分がしでかしたことの重要さを覚った。
 彼女が怒りに任せ行った所業を正当化していた事実は、足元から脆くも崩れ去る。
 正当化してはいても、それがむつきの為になると思っていたのもまた事実。
 しかしながら、全ては裏目に、ともすれば一人の男性の将来を奪ったに等しかった。
 もしもむつきの勃起不全が治らなければ、彼は自分の子を愛する伴侶に産んでもらうことができない。
 寒風の強さは別にし、実際にシャークティは足元から屋根の上で崩れ落ちていた。

「おい、なにを被害者ぶっている。貴様のせいで」
「その辺にしておこうカ、エヴァンジェリン」

 崩れ落ちるシャークティの胸倉を掴んだエヴァを止めたのは、意外にも小鈴であった。
 別の場所から周辺を監視しているはずが、わざわざこの場に現れるとは。
 そもそも、腹の煮えくり返り方は同じむつきの嫁として同様ではなかったのか。
 小鈴は先日、この校舎内でちょっと特殊な初夜を迎え、これからという時であったのだ。
 だから切り札の一つである学園結界のセキュリティーホールの件をエヴァに教えたのに。

「超鈴音、なにか良いことが?」
「んー、ザジさんに普通に会話されると反応に困るネ。エヴァンジェリン、私たちの愛する人はまた一つ強くなったネ。ほら、あそこ」

 小鈴が指さしたのは、一度寮に帰った生徒たちが再び登校し始めている肯定だ。
 身に染みる気温に身を縮こまらせ、スカートをはためかせる寒風に黄色い声を上げる女子生徒達。
 その中を元気よく、スーツ一着で殆ど普段の姿で走っているむつきがいた。
 正直、見ている方が寒くなる格好だが、両腕を手でこすりながらも当人は元気そうだ。

「おーっす、おはよう!」
「ちょっ、乙姫先生。見てる方が寒い。小学生じゃないんだから、コートぐらい着てよ!」
「生憎俺のコートは出張中だ。ほら、一限目が休校でも、ホームルームは二限目が始まる前だぞ。急げ、急げ!」

 二-Aとは異なるクラス、学年も違う生徒達に声をかけながら挨拶している。
 その後ろにはぶかぶかの男物のコートを来たさよや、むつきのスーツと中にセーターを着た千草がいた。
 どうやら突然の寒波に備えのなかった二人に、むつきが自分の防寒具を貸し出したらしい。
 特にさよはまだ冬服を持っていないので、むつきの大きなコートにくるまれたような感じだ。

「なんで、今朝はぼろぼろ泣いて。何度も私にごめんなって謝って」
「寒さでごまかしていますが、目は充血して顔も若干赤いです。エヴァンジェリンの言葉に間違いはないでしょう。先生は、空元気で一杯です」
「生徒は教師の背を見て育つ、校舎内では模範たるべき。聞いたことはないカ?」

 そう振り返りつつ小鈴が聞いた相手は、崩れ落ちたままのシャークティであった。

「親愛的は、確かに打ちのめされた。けれど、ありのままの自分を包み隠さず愛する者に明かした。だから、学校内では模範足ろうと立ち上がった。本来は、遅刻の時間だけど。そこは見逃すネ」
「怪我の功名、ですか。良かったですね、シスター・シャークティ。乙姫先生が、自己正当化の理由を与えてくれましたよ。貴方も立ち上がったらどうです? 私は正しかったと。問題の根本は解決していませんが」
「お前本当に性格悪いな。まあ良い。おい、貴様はいつまでうな垂れている」
「私を罰しますか?」

 ようやく顔を上げたシャークテクの言葉に、エヴァと小鈴はもとよりザジも小さくため息をついた。

「むつきの顔をたてて、無罪放免。どこへなりと行くが良い。むつきが頑張ると決めたのだ、ここで貴様を罰せばむつきの意志を蔑ろにしたことになる」
「ここからは、親愛的と私達の問題ネ。赤の他人はお引き取りを願うヨ。ただ一言付け加えるなら、他人に異性への愛を説く前に、まず自分が異性を好きになるべきネ。今回の件について、貴方の言葉は全て空虚、実態実感が全くこもってないネ」
「私は主に仕えるシスターです」

 シャークティの固持する言葉に、エヴァも小鈴も何も言わなかった。
 正真正銘、赤の他人に興味を失ったと言っても良い。
 とはいえ、なにもしなければまた同じことが起きかねないので、関東魔法協会には罰を負って貰う。
 今日一日、もしくは麻帆良大結界のセキュリティホールが埋まるまで天気はこのまま。
 魔法先生総出で電力を魔法で確保せねば、電気代が嵩むか、発電所がダウンする。
 もちろんそんな馬鹿げたことをさせたのは誰か、調べればすぐにわかることだろう。
 関東魔法協会が信用を失うか、それとも死ぬ気で魔法先生総出で麻帆良都市を支える電力を自力で生み出すか。
 良い気味だと、相手をあざ笑うこともせず彼女たちは一人の男に目を奪われていた。
 エヴァは校庭を走るむつきを眺めながら、今晩はどう誘惑してやろうかと蠱惑的な衣装をまとう自分を考えている。
 立たなければ、立つまで誘惑するのがエヴァである。
 小鈴も直ぐそうしたいが、やることがあると携帯電話を手に取っていた。

「茶々丸、それに龍宮さんと長瀬さん。親愛的の護衛ご苦労さんネ。見ての通り、また一つ親愛的は魅力的になったヨ。あんな良い男は他にいないネ、三人とも良く考えるネ」
「私は既に先生のことは認めているよ。教師として、男として。ただ、今回はタイミングが悪かった」
「おお、真名からかような言葉が。ならば拙者も考えておくでござる。仕えるべき主に人望があって困ることはないでござるから」
「私は元から……その」

 最後絡繰がなにか言っていたが、これは好感触と、楽しみにしながら小鈴は電話を切った。

「ところで、何故ここにザジさんが? 夏休みデビューに失敗したのは、盗み聞いてたヨ。まさか、ザジさんも親愛的に興味津々カ?」
「超鈴音、貴方の言う通りです」
「なに?!」

 打ちひしがれているシャークティを完全無視のまま、ザジの爆弾発言にエロ妄想に浸っていたエヴァでさえ妄想から引き戻されていた。
 二-Aの中でも特A級に謎の多いザジである。
 先程ちらっと魔族だと言ってはいたが、だからこそ何故魔族なんてものがむつきに興味を持つのか。
 ある意味で現世よりも単純で力こそ正義を地でいく魔族がである。

「私はこう見えて、魔族でも割と高貴な感じです。RPGで言うなら、エヴァンジェリンをボスとすると裏ボスでしょうか。ちなみに超鈴音は、裏ワザです」
「ユーモアがあるのか、ないのか判断に困るネ。それで大魔王の娘は親愛的のどこに惚れたカ?」
「私がボスで、ザジ・レイニーデイが裏ボスという点が非常に遺憾だが」

 負けず嫌いのエヴァの呟きにクスリと笑って、ザジはむつきのことをこう評した。

「私の役目は本来、いずれここに現れるとある人の観察でした。しかし、乙姫先生を見るうちにとある人物の観察よりも重要事項だと判断しました。なにせ乙姫先生は、良く分かりません」

 身もふたもない、されど端的に表現された人物像かもしれない。

「魔族にはあくびの余波で彼を消滅させられる者や、くしゃみで塵に返させられる者もいます。我々王族は幾千、幾億とそういった強者の血を婚姻で取り込み魔界の覇権を拡大してきました」
「親愛的が比較対象だと、とても強そうに聞こえないネ」
「しかし、幾ら強者の血を取り込んだところで魔界全土の覇権は夢のまた夢。強者の血には限界があります。そこであの乙姫先生です。彼は力はない、しかし力のある者を繋ぐ力があります。エヴァンジェリン、超鈴音。二-Aの強者はほぼ集っています」
「私も時々、なんであんなのと付き合ってるのか不思議に思うからな。結局、好きだからなんだが」

 惚れた弱みで集っているのもあるが、また同時に特にあのひかげ壮は気が楽である。
 世の荒波に何一つ気兼ねすることなく、乙姫むつきを中心に彼を愛する者が集まっていた。
 個々で全く性格が違う女が集まり、されど王の後宮のように腹黒くもなく、むしろ腹を割り過ぎだ。
 自分自身を偽ることなく、好きだから良いじゃないがキーワードのような集団である。

「現状、私は先生の血が欲しい。少々動機は不純かもしれませんが、大変興味があります。思春期的な意味でも。セックスとは、そんなに良いものなのでしょうか?」
「勘違いするな、セックスが良いんじゃない。むつきとの愛あるセックスが良いんだ。耳元で愛を囁かれながら、あの太くて熱いもので貫かれる悦び。熟成された最高級ワインよりも甘美な味わいだ」 
「ザジさんが興味あるなら、いつでも大歓迎よ。先生は、ひかげ荘は二-Aの生徒を拒まない。私も魔界には興味津々ネ。経済的進出的な意味で。ザジさんも、その家族とも仲良くしたいネ」
「ではまず、私の姉を紹介いたしましょう。双子の姉なのですが、観察役として麻帆良に閉じこもっている私よりも手広くやっていますよ」

 ほほうと、ザジの言葉に小鈴が興味深げに目を光らせる。
 打ちひしがれるシャークティがそこにいるので、あまり大っぴらに猥談ができないからだ。
 カモフラージュの意味も含めた会話だが、また同時に本心でもあった。
 大幅に時間をずらしたホームルームの予鈴まで、三人寄ればで姦しく吸血鬼、魔族、未来人は言葉を交わす。
 やはり打ちひしがれているシャークティをいないかのように、ふるまいながら。









-後書き-
ども、えなりんです。

気が付いたらザジが面白い性格になっていた。
彼女あれで高貴な感じの人なのであやかが好きなむつきならストライク、なはず。
魔界の王族云々は即興で適当考えました、今後出てきません。

あと、エヴァは以前テンパってコキュートス云々って言ったことを実現。
ちょっと考えてみたんですけど。
エヴァを封じるってことは魔力でつながっているわけで。
セキュリティホールがあったら、逆に魔力を使いたい放題じゃねってのが発端。

そろそろ近衛門は、むつきに関する取扱い注意書を配るべき。
それでは次回は来週の土曜日です。



[36639] 第百九話 ありがてえけど、すまん気持ちが半端ねえ
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/04/26 20:43

第百九話 ありがてえけど、すまん気持ちが半端ねえ

 三人の美少女がアップテンポの音楽に合わせて踊り、時に足を大きく振る上げる。
 その度にチア衣装の青く短いスカートが大げさにひるがえり、赤裸々に中身が見えた。
 色合い的にどうよと思われる黒いレースの透けたパンツを履いているのは美砂であった。
 一番高く、むしろ見てとばかりに足を高々と上げたのも彼女である。
 磨き上げた肉体へのエロイ自信とむつきへの愛がひしひしと感じられるはつらつさが同居していた。
 一方の名はパンツを表すがごとく、薄いピンクのパンツをチラリと見せてくれたのは桜子だ。
 恥ずかしげに一瞬だけ足を上げ、見えたと思った頃にはポンポンを持つ手がスカートを抑えている。
 羞恥心を我慢できなかったのか、その気持ちの矛先をむつきに向けてペロッと舌を出す。
 もちろん、桜子の無邪気な可愛さが増しただけで、彼氏としては嬉しい限りであった。
 そして最後の一人、釘宮はというと足を上げるどころか持っていたポンポンを畳の上に叩きつけた。
 腕の振りとは裏腹に重さがないポンポンは、ふぁさりと落ちただけだが。

「って、なんで私まで。あと、いくらなんでも管理人室で三人踊るのキツイ!」

 そりゃそうだと思いつつ、むつきは釘宮が踊るのを止めたのを見て傍のラジカセのボタンを押した。
 停止ボタンを押されたラジカセは、音楽を流すのを止めて黙秘権の行使である。
 十数畳程度の広さの場所で、少女とはいえ三人も踊れば特に横幅がきつきつであった。

「良いじゃん、円。先生は病気なんだし、興奮させてあげなきゃ。ほら、先生いやらしい目つきでずっと私達を見てるよ。いやん、先生もっといやらしい美砂を見て」
「病気のことは聞いたけど、可愛そうだと思うけど。私は美砂や桜子と違って、先生の恋人じゃないから。これ以上はお金とるよ!」
「え、いくら? 釘宮が目の前でパンツ見せながら踊ってくれるなら、金ぐらい幾らでも払うけど」
「アウトーッ!」

 突っ込みに忙しいと、叩きつけたはずのポンポンをむつきの顔面にシュートである。
 やっぱり空気抵抗が大きく軽いぽんぽんは、低い放物線を描いてむつきの顔にゴールした。
 ただ、そのために払った代償は少し大きかったようだ。
 シュートのはずみで高々と上げられた足、つまり釘宮もまたパンツを見せる結果となった。
 当人は、直ぐに足をおろし怒り心頭だったので気づいてはいないようだが。

「先生、私も。恥ずかしいけど、見せてあげる!」
「おっと」

 どうかバレませんようにと、むつきが視線をそらしていると胡坐の上に桜子がお尻から落ちて来た。
 慌てて受け止めると、なんともうれしい申し出である。
 それを断るなんてとんでもないと、上気した素肌を求め上着の裾から手を滑り込ませていった。
 昨日の大寒波が嘘のようにまた残暑が厳しさを取り戻し、その上数分間踊りっぱなしであったのだ。
 桜子の肌はしっとりと汗でぬれており、素肌も熱いぐらいに火照っている。
 しかし何故だろう、女の子の汗というものはさらさらでしかも香しいのだろうか。
 肌と同じぐらいしっとりとした桜子の髪にも鼻を埋め、肺が彼女の匂いで満たされるまで呼吸する。

「きゃはは、やだ先生犬みたい。残念、私は猫派なのだ」
「先生、私たちの汗とか体臭大好きだから。ほら、先生。私も汗でむんむんしてるよ。私の匂いも嗅いで。恥ずかしいけど、先生ならなんでも許しちゃう」
「美砂、美砂の匂い。桜子も、たまんねえ」

 桜子に負けじと美砂も、むつきの隣にしなだれかかりウェアの中で弾む胸を顔に押し付けてくる。
 自身はそのままむつきの顔を掻き抱き、ノーブラの胸でむつきを包み込んだ。
 体臭を嗅がれた美砂も桜子も羞恥心こそあれ、嬉しそうに身をよじっていた。
 むしろ逆にむつきこそ良い匂いだとばかりに、くんくん匂いを嗅いでは悦に入っている。

「うわぁ……」

 彼女たちの大親友の釘宮が、どん引きしても仕方のないことだろう。

「ねえ、桜子。先生そろそろ立ってきた? 普段ならとっくに、押し倒されてるところだけど」
「先生、触っても良い?」
「良いけど……」

 まだ直接見る勇気はないけどと、むつきの腕の中にいた桜子がもぞもぞと腕を伸ばした。
 完全手探り、むつきが着ている浴衣のすそをたぐり、その手がだんだんと股間に落ちていく。
 おへそあたりや太もも辺りと多少寄り道をしつつ、これかなっと桜子が大胆にそれを握り込んだ。

「むにむにしてる。良く考えたら、私先生が硬くしてるところ知らないから、わかんないや」
「もう、桜子ってば。ほら、手探りなんてまどろっこしいことしてないで。こうばっと」
「ぎゃーっ、なんか真っ黒な蛇口が。周りもぼうぼうに生えててキモイ!」
「お前、正真中の俺になんてこと言うんだ」

 美砂がむつきの浴衣の裾をだいたんにまくったため、運悪く釘宮は直視してしまったらしい。
 女子中学生としては当然の反応、変質者に無理やり見せられた時の様に真っ赤になって背を向けた。
 ついでとばかりに、しっかり見てしまったむつきの一物をぼろくそに言っていたが。
 愛い奴めと勝者の笑みの美砂は、一物のうな垂れ具合に敗者のごとく肩を落とした。

「あれだけエロ可愛く踊ったのに……」
「すまん」

 三人のチアリーディングは可愛かったし、パンチラにはおおっと目を奪われた。
 もちろんその後の体臭攻撃にもリビドーを感じはしたが、こう理性が振り切れる閾値を超えない。

「こんなに大きいのに、まだ小さいんだ。ぁっ、先生。お胸の先っぽはちょっと恥ずかしいかな」
「おう、こりゃ失礼」

 美砂がうな垂れている間も、チア衣装のから滑り込ませた手で桜子の胸を軽く揉み続けていた。
 触るか触らないかわからないぐらいの触れ方で、時々指先で乳首を虐めてもいたのだ。
 しかし、やはりむつきの勃起不全が癒えるまでには至らなかった。
 桜子もこれ以上は限界らしかったので、胸を揉むのを止めて優しく抱きしめてあげた。

「って、落ち込んでる場合じゃない。次、順番回ってくるまでに次の誘惑方法考えるわよ。ほら、桜子も先生に甘えてばかりいないで」
「結構自信あったんだけど、次はなんの衣装にする? くぎみーはなにが着たい? 千雨ちゃん、可愛い衣装一杯持ってるっぽいよ」
「くぎみー……じゃなくて、私も続けるわけ?!」
「あったりまえでしょ。戦力は多い方が良いんだから。次は円もちゃんと先生を誘惑してよ」

 うな垂れるのがはやければ復活も早い、こうしちゃいられないと美砂が桜子と釘宮を引っ張り始める。

「なんで私が」
「五月ちゃんのご飯、一番ばくばく食べて他の円じゃん」
「ばくばくなんて食べてません。ぱくぱくでーす!」
「先生、また後でね。今度こそ、私たちの魅力でいちころにしてあげるから」

 軽い口喧嘩をしながら管理人室を後にする美砂と釘宮を追い、桜子が手を振りながら出て行った。
 ぎゃーぎゃー騒ぎながら歩く足音は、やがて階段を上り始める。
 その行き先は改めて考えるまでもなく、三階にある千雨の衣裳部屋であろう。
 今この場にいないメンバーの殆ども、今はその衣裳部屋で衣装合わせをしているはずだ。
 それはもちろん、むつきの勃起不全治療の為に、皆が全力でむつきを誘惑しようとしてくれているからだ。

「ありがてえけど、すまん気持ちが半端ねえ」

 週末の金曜日、むつきは学校の授業が終わると同時に、全員に集合のメールを送った。
 勃起不全になった翌日の大寒波を何とか乗り越えた翌日のことである。
 それまではごく一部の者しか知らされていなかったが、何時までも黙ってはいられない。
 特に休日ともなれば大部分のメンバーがひかげ荘に泊まりにきて、むつきにセックスを迫る。
 これまではむつきだって迫っていたわけで、休みの大半はセックスに費やすのが常だったのだ。
 だから、中途半端になるよりはとむつきは呼び出した全員に勃起不全を患ったことを話した。
 先程釘宮がいたことから、恋人やセックスフレンドではない佐々木や明石、長瀬や龍宮も同様である。
 その結果が、先ほどの美砂たちであった。
 立たぬなら立たせてやろう、私たちの魅力でというわけだ。

「先生お待たせ、第二陣の誘惑隊のテーマはこんな感じ。ナースホワイト」

 美砂たちが次の衣装を考えにいった数分後、管理人室の襖をそっと開けて顔を覗かせたのは亜子であった。
 その姿は白いナース衣装に包まれているが、何故かスカートはプリーツスカートだ。
 色っぽさよりも可愛らしさを上げてきたようである。
 スカートから伸びる足がストッキングではなく、ハイニーソからもきっと間違いない。
 今にも注射しちゃうぞと言いそうな亜子が、管理人室の襖を最大限に開ききった。

「馬鹿ピンクあらため、ナースピンク参上。ねえ、先生。可愛い、可愛い?」
「えっとナースブルー、かな?」

 佐々木のナース衣装は髪の色に合わせたような淡いピンクで、妙にフリフリが多い。
 ナース衣装というよりも、ナース衣装がコンセプトの魔法少女衣装と言った方が近いか。
 本人の天真爛漫馬鹿っぽさが程よくマッチしており、可愛いことは可愛い。
 バ可愛い、という奴なのかもしれない。
 今日の趣旨が分かっているのかは不明な程に明るい佐々木とは対照的に、明石が本当にブルーだ。
 普段の元気さはどこへやら、着込んだ水色のナース衣装と同じように気分が沈んでいるように見えた。
 若干サイズが小さいのか、胸や太ももがピチッと強調されたエロイ恰好なのになんだか勿体ない。

「どうした、明石。今の俺は悟りの境地にあるから、悩みなら聞くぞ?」
「んにゃ、なんでもないにゃ。先生が私に劣情をもよおして襲ってこないか警戒してただけにゃ」
「さすがに、恋人じゃない子を襲ったりはしないって」
「あっ、ああ。うん、そうだよね」

 今なぜか残念がらなかったかと思ったが、それより少し気になることが。
 運動部の仲良し四人組の最後の一人がまだ表れていない、そうアキラである。
 てっきりアキラはこの三人と一緒に誘惑に来ると思ったのだが違ったのか。
 軽く首を伸ばして廊下を覗いたのに気付いたのか、そんな慌てんとと亜子が両手を前に出してきた。
 どうどうと、いきり立つ馬を抑えるジェスチャーである。
 今のむつきの下半身は馬どころか、尻尾を掴まれた子ネズミの様にブラブラするしか能はないが。

「先生も期待しとるし、お待ちかね。ナースパープルのアキラ登場!」
「あ、亜子。お願い、スカート。スカートを」
「アキラ早く、裕奈も手伝って」
「はいはいっと」

 何故か登場を拒むアキラを、亜子や佐々木、明石の三人がかりで廊下から引っ張り出してくる。
 しかし、パープルと亜子が言った割には、見えて来たアキラのナース服は白だ。
 他の三人はそれぞれ可愛さや魔法少女、セクシーと一味あるのに対し、アキラは正統派のナース服。
 正統派は正統派で良いところがあるが、パープルなのに白とはどういうことか。
 やがて抵抗しきれなかったアキラが管理人室に引っ張り出された時にそれは分かった。
 アキラの衣装は確かに白かった、しかしながら同時に確かにパープルでもあったのだ。

「先生、お願い見ないでぇ」
「いや、見る!」

 思わずガタッと傍にあったちゃぶ台に手をつき、身を乗り出さずにはいられなかった。
 しきりにアキラはナース服の上着の裾を下に下にと引っ張っている。
 右腕を亜子たちに引っ張られているので逆利きの左手でぎこちなくだ。
 正統派の白いナース服を着ながらも、アキラはスカートをはいていなかった。
 きっとだが、亜子に履かせて貰えなかったのだ。
 つまり自明の理という奴で、パープルとはアキラが身に着けている下着の色のことである。
 白とパープルの色合いもさることなあら、必死に隠そうとする気弱気なアキラがまた良い。

「おお、悟りが煩悩に追いやられる感覚」
「やった、なんだかわからないけどアキラ凄い」
「まき絵、もしかして……ぁっ!」

 無邪気に喜ぶ佐々木を前に、アキラがなにかを言おうとしたがそれはむつきに遮られた。
 必死に下着を隠そうとしていた手を取られ、引っ張られたのだ。
 本当にあっという間、腰を抱かれたまま尻を鷲掴みにされ、強引に抱き寄せられる。
 まだ一本ある腕で後頭部を固定され、強引に唇が奪われるその瞬間。

「あーっ!!」

 いきなり大声を出した明石のせいで、あと少しで破裂しそうだったリビドーが霧散する。

「明石ぃ、お前……」
「宿題するための、ノートを学校の机の中に忘れてたとか、なんとか」
「なんだそりゃ」

 そんな大声出してまで思い出すことかよと、腕の中のアキラへと振り返り直す。
 ものすごく襲われるのを待っている。
 きゅっと瞳を閉じながらも、時々チラチラッと目を開けては待っていた。
 しかし、改めてというのもこう恋人でもセックスフレンドでもない佐々木や明石の前ではしづらい。
 仕方がないのでお姫様の期待には、額に軽くキスをするだけで許してもらうしかない。

「今はこれで勘弁してくれ」
「ううん、先生十分だよ」

 逆にアキラからも頬にキスを貰い、軽くギュッと抱きしめあう。

「もう、裕奈ってばあかんやんアキラの邪魔したら。先生、うちからも。皆で一緒に頑張ろうな」
「おう、愛してるぞ。アキラも、亜子も」
「え?」

 亜子から唇に直接キスを貰い、応えると何故か佐々木が疑問の声を上げていた。

「あれ、なんで亜子が? 先生と、先生はアキラと……あれ?」
「やっぱり、まき絵全然理解してなかったんだね。祝福してくれるのは嬉しいんだけど、はしゃいでばかりいないでもう少しお話をちゃんと聞いてほしいな」
「アキラは先生の恋人で、私も先生の恋人やんね。先生は、女の子の好きを断らないよ。勇気を出して、好きって言えば返してくれる。ね、裕奈?」

 どうやら佐々木は、むつきとアキラが相思相愛な部分だけ都合よく聞いていたようだ。
 今回のむつきの勃起不全に関してもどこまで理解していることやら。
 いやきっとしていないのであろう。
 そもそも、彼女が子供の作り方についてきちんと理解しているのか。
 保健体育という一教育、授業だと考えると、望みは大変薄いように思えた。
 そして亜子に念を押されるように、名前を呼ばれた明石はというとまだちょっと煮え切らない態度だ。

「う、うん。なんのことかにゃあ?」
「もう、ちょっと待っとって」

 あくまでしらを切る態度の明石を前に、亜子が何か思いついたように管理人室を出て行った。
 時間にして数分と経たず返って来た亜子は、その手にちょっと懐かしいものを持っていた。
 効力の割にあまり誰も使わない、むつきくん人形である。
 急いだせいでやや息切れしながらも、亜子はそれを押し付ける様に裕奈に渡した。

「裕奈、これ先生がなんでも一つ言うことを聞いてくれる人形。今ここで、先生に対して使うならあげる。今ここで、使わないなら返してや」
「今すぐ?」
「今すぐ。あ、ほんならあと十秒。十、九……」
「あ、亜子待って。なんでいきなり、わわ八、七えっと」

 亜子の意図が分からずも今だけだと限定されたため、慌てて明石が用途を考える。
 事前情報が少ないのもあるがむつきがなにか一つ言うことを聞いてくれるとして何を頼む。
 新しい服やゲーム、あと暑いのでアイスが食べたい等ぐるぐると頭の中を駆け巡る。

「五、四」
「さーん、にー」
「一」

 アキラが続けたのでまき絵が加わり、ラストをむつき自身が呟いた。
 その最後の一秒をむつきが呟いたことで明石の頭の中でとある光景がフラッシュバックする。

「先生、またおんぶして!」

 だからその光景を思い出すままに、明石はむつきくん人形を差し出しながらそう叫んでいた。

「……えっ、あ。今のなし、ノーカン。にゃんかの間違い!」
「ぶー、既に先生へのお願いは受理されたやんね。ね、先生」
「まあ、明石がそうお願いするなら。構わんけど、アキラも亜子も可愛がりたいから」

 さっと明石の手の中の人形を亜子が取り上げ、聞いてあげてとお願いされてしまった。
 元は亜子の人形で、亜子が明石のお願いを聞いてあげてというなら叶えてあげるしかない。
 ただしと注文を付けて、むつきはその辺にあった座布団の上に胡坐で座り込んだ。
 もちろん、腕に抱いたままのアキラも一緒にである。
 アキラを胡坐の上に座らせ、隣にいた亜子の腰も抱いてしっかり抱き寄せもした。
 それから自分の言いだした願いを前に顔を真っ赤に火照らせ混乱中の明石にいった。

「ほれ、背中開いてるぞ。ちゃんとしたおんぶじゃないけど、来いよ」
「うん……」

 恐る恐ると言った感じで、近づいて来た明石がそっとむつきの首に腕を回した。
 残念ながら膝立ちの格好だが、亜子が気を利かせて別の座布団を明石の膝に滑り込ませる。
 明石はゆっくりとむつきの背にもたれかかり、ナース服で盛り上がる胸が二人の間で潰れていった。
 それから最後の仕上げとばかりに、むつきの首に巻いた腕を追うように明石が顔を埋めた。
 アキラや亜子にももたれられ、ゆらゆら揺れるむつきの背に抱き付きながら明石は瞳を閉じる。

「私、なに慌ててたんだろ。先生の大きな背中……」

 これが欲しかっただけなのにとの呟きは、まだ明石の唇からこぼれることはなかった。
 けれど元気印を失くした明石が、酷くほっとした様子で安らかに微笑んでいれば分からぬはずがない。

「なんか、三人だけでずるい。私も仲間に入れて!」
「まき絵はまず、状況を正しく理解しないと」
「まあまあ、アキラ。なあ、まき絵。私らの仲間になるのにセックスフレンドってお試しがあってな?」
「こらこら」

 むつきを中心に仲良し四人組のうち三人が集まり、佐々木が機嫌を損ねたように言った。
 当然、アキラはまず現状をと言ったわけだが、段階を飛ばそうとした亜子はむつきが注意しておいた。
 それで佐々木が諦めるかは不明だが、一先ずは明石がちょっと落ち着いたことで良しとしよう。
 ただこうして甘えてくれるならと、アキラの豊満な胸を揉みしだき、亜子を抱き寄せ唇を奪う。

「アキラのおっぱいは大きいな。亜子も、んー」
「先生、触り方がエッチ。そこは全然変わってないのに……」
「んー、ふにふにのまんまや」

 むつきとキスをしながら手を伸ばした亜子が、浴衣のすそから手を差し込み直接触れてくる。
 硬さを確かめるように指で押すようにし、軽く扱いてもみるが結果は変わらない。
 一度リビドーの爆発を明石に邪魔されたこともあるが、やっぱりまだ反応してくれなかった。

「失敗、かな。そろそろ交代しないと。ほら、裕奈。先生は皆の先生だから、独り占めはあかんて」
「私もまだ人形持ってるから、裕奈」
「うにゃあ、放れたくないにゃあ」
「裕奈猫みたい」

 亜子が時計を気にして裕奈を引っ張り、むつきの背中から剥がせそうになくアキラも手を貸した。
 猫がご主人様から離れるのを嫌がるように、裕奈はぴったり背中に張り付いたままだ。
 実際、佐々木に猫と言われても否定するどころか、ごろにゃんと頬ずりするしまつ。
 これまで我慢していた反動か、気のすむまで相手をしてやりたいが明石一人を特別扱いできない。
 アキラや亜子だって、本当はもっと、それ以前にむつきとセックスしたいはずである。
 だからむつきは後ろ手に手を伸ばし、猫と化した明石のお尻を一撫でした。

「にゃ?!」
「あっ、離れた」
「今だ、捕まえないと」
「こら、大人しくしとき!」

 胸もそうだが、身長の割に明石は弾力のある良い尻であった。
 ばたばたとアキラと亜子が協力して明石を捕まえては、廊下へと連れ出していく。

「先生、よくわかんないけど。元気出して、元気が一番。裕奈のセリフだけど」
「おう、お前は一先ずちゃんとひかげ荘について理解しろよ。じゃないと、純真無垢なまま食っちまうぞ」

 襖を閉めてくれた佐々木が、親友の言葉を借りて元気づけてくれた。
 ただ、むつきが性的な意味で食っちまうぞと言っても、小首を傾げられる始末である。
 本当に良くも悪くも純真無垢、天真爛漫。
 じゃあねと小学生の様な言葉と共に最後に手を振られ、仕方がないので振り返した。
 ととんと、妖精が跳ねるような足音と共に、アキラたちを追っていった。
 その足音が途切れると同時に、むつきは畳の上に大の字に倒れ込んだ。
 大きく息を吐いて、発散どころかなかなか湧いてこないリビドーに対して軽く舌を打つ。

「セックスはしたいんだよな。皆と、釘宮や明石、佐々木も可愛いし」

 嫁はもちろんのこと、セックスフレンド未満の彼女たちとさえ可能ならセックスしたいと思う。
 もちろん、一方的に襲うでなくできれば好意を抱いて貰ったうえ、つまりは合意の上でだ。
 明石はかなり脈ありっぽいが、佐々木と釘宮は望薄だろうか。
 そんな不埒な考えを割と真剣に抱けるほどセックスを望んでいるのに、やっぱり反応はない。
 なんというか、このまま一気に老けてさらに歳の差が広がってしまいそうで寂しさがこみ上げる。

「先生、今良いですか?」

 セックスしたいと、畳の上で駄々っ子のようにじたばたしていると夕映が襖の向こうから声をかけて来た。
 どうやら第三陣の登場のようで、夕映は確定だが他に誰がいるのか。
 図書館探検部という部活仲間を考えると木乃香が濃厚、さらに彼女がいれば刹那といったところか。
 チア部の美砂たちや運動部のアキラたち以外は、ペアこそあれ明確なグループはないので予想し辛い。
 先程まで胸にあった寂しさは飲み込んで、座布団の上に胡坐で座り直して背筋をただした。

「おう、何時でも良いぞ。しっかり、この目に焼き付けてやっか、ら?」

 言葉の最後が裏返ったのは、予想可能な夕映の衣装ではあったが回避不可能だったからだ。
 以前から彼女自身にプレイ用に着てあげましょうかとは、聞かれていたのだが。
 いざこうして着て貰うと、なんという犯罪臭であろうか。
 夕映が着ていたのは、おそらく彼女が小等部の頃に来ていた制服であった。
 襟元がセーラーになっているワンピース、そして背中にはランドセルの完全装備である。
 夕映の身長は百三十八センチと小学五年生と同じ身長、コスプレの違和感などなくそのものにしか見えない。

「なんだよ、やっぱり小学生コスプレが一番反応良いじゃねえか。だから、統一しようぜって言ったのに」
「闇雲に誘惑しようとしても、難しいですわ。まずは傾向と対策を」
「言いたいことは分かるけど、委員長はちょっと真面目に考え過ぎだって。セックスアピールは楽しまないと、先生も楽しめないっしょ」

 可愛らしさに加え元の犯罪臭をさらに上げて来た夕映に見とれていると、後続が入って来た。
 そのモデル体型をバニー衣装に包んだあやかに、いっそ見慣れた感のあるメイド服の千雨。
 それから何故そんなものがという、バドガール姿の和美である。
 千雨と和美が多少愚痴っていることから、手あたり次第に着てみたらしい。
 その上で一番反応の良かった衣装で二回目以降にかけるという、あやかの作戦のようだ。
 待ちきれず歩み寄って夕映を抱きしめ、小さな胸やお尻にべたべた触りながら彼女たちを迎え入れる。

「おお、おぅ」
「先生、興奮し過ぎです。ちょっと、引いて。ちょっと嬉しいですけど」
「確かに愛がなきゃ、引く光景だってこれ。中学生教師、小学生に手を出す」

 パシャリと和美に写真を撮られても、怯むような精神状態ではなかった。
 人は悪と言われようがやりたい欲求が枯れるわけでもなく、タブーこそ甘美という傾向もある。
 その点、女子中の教師であるむつきが、生徒どころかその下の小学生に手を出すのはタブー中のタブー。
 もちろんそんなこと実際にはしないが、疑似的にでも体験できるのは非常に貴重だ。
 結局その相手が中学生で自分の生徒の時点で、タブーでしかないのだがそれはそれである。

「でもこれは夕映さんだからでして、私たちが小等部の制服を着ても……」
「わかってねえな、委員長。ああいうのは、サイズが合ってなくて恥ずかしげに裾をキュッと手で引いてるところなんかがまたそそるんじゃねえか」
「あ、千雨。それさっきアキラがやってた。ナース服のスカート履かせて貰えず、上着をキュッと」
「なんだよ、折角良いアイディア出たのに……」

 さすがにこの人数では多少アイディアが被るかと、ちょっと千雨が唇を尖らせた。
 相変わらず故にべたべたしながらも、案ずるでないとそんな千雨の腰に手を伸ばし抱き寄せる。

「安心しろ、千雨。今結構俺は興奮してる。ああ、セックスしたい。今の夕映を後ろからガンガンついてランドセル揺らしたい。強引にメイド千雨を押し倒したい。バニーあやかとイチャイチャして、えいって胸元めくりたい。バドガール和美にわかめ酒でお酒飲みたい!」

 美砂たちや、アキラたちの頑張りも加算し、失くしたはずの何かがよみがえりそうだ。

「い、今です委員長さん」
「ごった煮が意外に良い感じに。朝倉も、今だフェラしろ!」
「ちょまっ、私まだして貰うばっかりでそういうことは」
「分かりましたわ、さあ朝倉さんも。案ずるより産むがやすしですわ」

 悪戯して貰うばかりで不慣れな和美の手をあやかが引いて、二人がむつきのひざ元に座り込んだ。
 急げ急げとばかりに浴衣のすそをまくり、釘宮曰く汚い蛇口にあやかが顔を近づけ舌を伸ばした。
 しんなりした竿を舌でからめとり、麺類の様に綺麗な唇でちゅるっと吸い込んでいく。
 長い髪がちょっと邪魔だったのか、手で耳の後ろに引っ掛けるのはもはや様式美である。
 そのままバニー姿のあやかが、首こそ動かさないが口の中で唾液に絡め吸い上げてくれた。

「あっ、あやか。気持ち良い」
「んちゅぁ、先生。あやかの愛でどうかお元気にんぅ」

 一旦あやかが喋る為に口を放され、もっとその中にとむつきが腰を前に咥えさせる。

「朝倉はやく、お前もしろって」
「フェラしろっても、委員長がしちゃってて」
「その下があるですよ。先生のお袋を手で転がしても、甘噛みでも良いです」

 一心不乱なあやかとは裏腹に、和美は完全に腰が引けてしまっている。
 千雨や夕映の催促を受けて恐る恐る、あやかがフェラ中のむつきの一物にぶら下がる袋を指で突いた。

「和美、もっと近づけ。ほら、あやかが淫らな顔でしゃぶってるだろ」
「う、うん。何時も凛とした委員長が、たぶんこれ女の顔? になってる」

 直接しゃぶられなくても、和美の初心な反応、しかも目の前には卑猥な光景。
 純真無垢な少女にわいせつ画像を見せるような下劣な感覚。
 夕映は言うまでもなく、千雨もメイド服などという奉仕が前提の衣装である。
 抱いた腰から手を滑り降ろさせ、すべやかな生地のスカートをさすりながらまくり上げた。
 残念ながら下着の詳細は見えないが、幾度となく孕ませようとしたその尻を遠慮なく揉み上げる。

「普段強引に押し倒されるからわかんねえけど、意外に手の動きでもわかるもんだな。どれだけ先生が興奮してるか。私もだけど」
「ちんこ気持ち良い、千雨の尻やわらけえ。夕映はちっちゃくて、あれ……なんかパンツが紐じゃ。夕映、なに履いてるの?」

 千雨の尻を堪能しながら、夕映も同様にワンピースをまくり上げながらお尻に手を伸ばす。
 しかし手のひらに伝わったのは予想外の感触であった。
 普段夕映は個人的事情から外観とは程遠い薄い紐パンという大人物のパンツを履いている。
 どこで夕映サイズのそんなものを買ってくるのは不明だが、とにかく薄手で布地の面積も少ない。
 だがいま彼女が履いているパンツは、手触りから面積とあらゆることがちがった。
 若干もこもこしており、夕映のお尻をすっぽり覆いつくしてしまっている。

「千雨さんがコスプレするなら心までと。久しぶりに、犬さんのバックプリントを。んー!」
「可愛い、可愛いよ夕映。なんか来た、千雨も和美も」

 押し倒したいセックスしたいと燃え上がる気持ちを抑えきれず、むつきは強引に夕映の唇を奪った。
 それだけでは飽き足らず反対側の腕に抱き寄せた千雨にキスして、その胸元の胸に顔を埋める。
 一般的サイズよりもやや大きめの胸の谷間で深く深呼吸し、吸い込んだ息で股間が膨らみそうだ。
 そう、今までで最大の波が来そうであった。
 あやかにおしゃぶり中の、今はまだ小さいままの一物に大きな波が。
 乗るしかないこのビッグウェーブにと、むつきは朝倉の頭を撫でながら股間に押し付けた。

「やだ、先生待って。まだ心の準備が」
「なに言ってんだ、しゃぶれ。あやかみたいに、あやか。あやか!」
「ひゃぁ、委員長?!」

 むつきがあやかの名前を叫ぶと何故か、和美の方が悲鳴を上げていた。
 目元がとろんととろけ始めていたあやかは、ちゅぽんとむつきの竿を口から出して手で扱き始める。

「先生、嫌だと言いながら朝倉さん。しっとり濡れていますわ」
「委員長、本当に待って。お願い」
「駄目ですわほら。こんなに濡れて、先生朝倉さんの愛液ですわ」

 どうやらあやかが隣にいた朝倉のバドガール衣装のミニスカの中に手を伸ばしたようだ。
 そしてくちゅくちゅと濡れ始めていた秘所に悪戯し、しっかり濡れた指先を見せてくれた。
 当然それで終わらずどうぞと、フェラを再開しながら手を上げてくれる。
 かなりきつい体勢だろうに、和美の愛液をどうぞと。

「ん、和美の甘い愛液。和美俺も舐めたんだから……ぁっ、来た」
「お?!」

 お前もしゃぶれと言葉は続けられず、むつきがぞくりと背筋を震わせた。
 抱かれた夕映と千雨はその震えを直接肌で感じて、これはと目を輝かせる。

「あやかもっと強く、痛いぐらい強く!」
「んっ」

 あやかの頭を両手で押さえこみ、イラマチオの要領でガンガン腰を振る。
 しかし未だ勃起していないふにゃちんの為、喉を突かれることもなくあやかは唇に力を入れた。
 唇で舌で頬肉であらゆるものをつかって、むつきの一物へ愛撫する。
 もっと硬く、その背筋に上るであろう欲望を口の中に解き放ってくれとばかりに。
 一心不乱にあやかの口を犯そうとするむつきを見て、夕映たちにも力が入った。

「委員長のこと大好きだろ、先生。そのまま、犯しきれ。やっちまえよ!」
「頑張るです、先生。見守っているですよ!」
「先生頑張って、治ったらこのまま和美さんの処女あげるから!」
「う、うおおっ!」

 特に最後の和美の処女あげる宣言が功を奏し、一層むつきが大声を張り上げる。
 が、次の瞬間パンっと何かが爆ぜた。

「え?」

 ぼたぼたと、むつきの体液が滴った。
 白、ではなく真っ赤な体液、むつきの血液が大量に彼の鼻の奥から溢れていた。
 どうやら本来股間に集まるべき血液が、頭に集まり過ぎたらしい。
 勢いよく破裂するように飛び出した鼻血で汚れた手を呆然と見ながらぐらりと倒れだす。

「ちょっ、重い。重いです、助け」
「ひ弱な私に、ぎゃあ。マジで、起きろ先生。もしくは、委員長!」

 慌てて夕映と千雨がささえようとするも、小柄とひ弱のコンビではむつきの体重を支えきれない。
 そこで当然のように千雨があやかに助けを求めたわけだが。
 破裂した鼻血を振り掛けられたあやかは、呆然自失の様相であった。
 亜子ほど血液恐怖症でなくとも、性行為中に血を振り掛けられれば当然か。
 そういうプレイでもあるまいに。

「しっかりして、委員長。鼻血だしただけだから、先生エロイから!」
「おい、朝倉。委員長はもうだめだ、こっち。こっち助けろ!」
「重い、もうダメです!」

 結局和美の助けも全く間に合わず、一先ず第一回むつき誘惑大会は審判が倒れたことで中止を余儀なくされた。









-後書き-
ども、えなりんです。

物凄く、馬鹿っぽいお話です。
やってる本人たちは大まじめですけどね。
流石に人数が多いので全員出せませんでしたが。

葉加瀬とか四葉とか。
最近影薄い子もいるし、その辺も書きたいですねえ。
特に四葉は体系的にも少々マニアックなことができそう。

では次回は来週の土曜日です。



[36639] 第百十話 アイツは中学生らしい初恋してるだろ
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/05/03 20:43

第百十話 アイツは中学生らしい初恋してるだろ

 翌日の土曜日、九時頃にひかげ荘を出たむつきは、十時前に那波から教えられた孤児院にたどり着いていた。
 那波重工の娘が通う孤児院の割に、言っては悪いがこじんまりとしたところであった。
 あまり那波は実家との関係が思わしくなさそうなので、那波重工は無関係かもしれない。
 コンクリート製の建物で数戸の部屋がある古びれたアパートの様にもみえた。
 ただしやはり子供がいる施設らしくあまり大きくはないが、きちんと庭があり少しばかりの遊具もあった。
 他には施設の周辺が高い塀に覆われ、鉄格子の大きな門があることぐらいだろうか。

「へえ、ここが孤児院か。強い奴、っておるわけないか」
「君の頭の中はそれしかないのか、折角連れて来たんだからここの子と一緒に遊べばいいだろ。日曜日に一人でぶらぶらと、学校の友達と遊びなさいよ」
「はっ、あんなガキどもと今更」

 ここがそうかと建物を見上げていたむつきの隣で、小生意気な口をきいたのは小太郎だ。
 来る途中で暇そうに街中をぶらぶらしていたので、なんとなく連れてきてしまった。
 多少、まだ友達がいないならここで出来ると良いなという思惑はあったのだが。
 精神的な成長が早いのか、大人ぶりたいのかこの調子ではちょっと無理そうである。

「カードゲームが流行ってるからってどや顔でダブりカードくれたんはええけど、余りカードでボロ勝ちしたらすねて仲間外れや。ほんま、アホくさ」
「そいつは災難だったな。ただ、うーん。でもなあ」
「なんやねん、歯切れ悪い。気持ち悪いで、むつき兄ちゃん」
「いやな、折角カードくれたんだから接待プレイで相手を気持ち良くって言おうとしたんだけど。子供の内からそんな周りに気を使うのもな。ていうか、小太郎君なにげに頭良い?」

 いくら相手が油断していたこともあるだろう。
 けれど弱いカードばかり、さらには初心者なのにいきなりカードゲームで勝つのは凄い。

「手札の使い方がなっとらんのや。カードゲームなんか、カードの効力は一定や。手札の効力をちゃんと理解して、使い時を誤らんとけばまず負けへん。もちろん、運次第ではあるけどな」
「なら、後でそのゲーム俺にも教えてくれよ。折角学校行くんだ。俺みたいな弱い奴相手にして接待プレイ覚えてみるか? 囲碁ってゲームに持碁ってあるんだけど」

 小太郎がちょっとクラスに馴染めていないのは、先ほどの短い会話でも十分にわかった。
 むつき自身教師であることもあるが、小太郎は千草の預かっている子である。
 千草は小太郎を学校へ行かせたがってもいたし、このままでは千草の笑顔が曇るのは必至。
 ならば彼女の男として、小太郎の力になってやらなければならない使命感が沸いて来た。
 そんな風にいつまでも孤児院の前で小太郎と二人でいて、誰も気づかないわけもない。

「当、孤児院に何かご用でしょうか?」

 孤児院の建物の中から、一人の老婦人が顔を覗かせながら訪ねて来た。

「小太郎君、この話はまた後な。俺、じゃなくて。私は那波千鶴に請われて、力仕事を手伝いに来た乙姫むつきと言います。那波は中にいますか?」
「え、千鶴姉ちゃん来てんのか?! ということは、漏れなく。げっ!」
「おはようございます、先生。それに小太郎君。院長さんもおはようございます」
「小太郎君、そのげっは。なにかな? とっても傷つくんだけど」

 むつきの言葉に老婦人が答えるより先に、那波の存在に小太郎が気づいた。
 村上もむつきのように人手として駆り出されたらしいのだが、恰好が問題だ。
 むつきは今日は珍しく汚れても良いようなつなぎ姿で、小太郎は何故か学生服。
 そこまでは良いとして那波は胸がはち切れんばかりの白いワンピース、村上もオレンジのタンクトップに黒のミニスカート。
 あまり活動的に動けるような恰好ではなかった。

「お前ら、もしかして力仕事。埃経つような仕事は俺だけか?」
「まさか、きちんと体操服を持ってきています。ここではなんですので、院長さんよろしいですか?」
「はい、千鶴さんにはいつもお世話になって。こちらへどうぞ」
「ほらお前らもむやみと睨み合ってるんじゃない」

 院長に促され、騒動の発端になりそうな小太郎の首根っこを掴んで連れて行く。
 旅行中、村上と小太郎の仲は悪くなかったはずだが、いつからこんなことになったのか。
 あら仲良しさんと村上の頬を突いている那波のせいの気がするが。
 別に今問い詰める事でもないので、案内してくれる院長さんの後をきちんとついていく。
 しかし一歩、孤児院の中に入るとそのついていくだけが難しくなった。

「ちづ姉ちゃんだ!」
「ちづるお姉ちゃん、ゆず君が意地悪するのぉ」
「あっ、ちくんなよ。ちづ姉ちゃん、俺ちゃんと仲良くしてたぜ」
「あらあら、みんなその前に挨拶忘れてるわよ。はい、さんはい」

 一人の男の子が那波を見つけて叫ぶと、出てくる出てくる。
 そこかしこの部屋から小さな男の子から女の子まで、わっと千鶴の周りに集まり始めた。
 今何していたか、昨日何があったのかと舌足らずの者まで懸命に自分の言葉を那波に伝えようとする。
 しかしそこは那波も慣れたものらいく、うんうんと頷きながらも簡潔に挨拶がないと注意した。
 あれだけ騒がしい中でもきちんと那波の言葉は伝わったらしい。
 どの子もはっと自分の口を押えて、それからおはよう攻撃と言って過言ではない挨拶の嵐だ。

「こいつは凄いな、子供ってこんなパワフル……パワフルだったわ」
「つくもさん?」
「いや、あかりとかかがり。ぽかりもアレで結構、直ぐ布団にもぐりこんでくるし。孫娘の布団にもぐりこむ爺さんと結構そっくりだわ」
「それにしても、夏美姉ちゃんは全く相手にされてへんな」

 実家の従妹のことを村上もまき込み思い出していると、小太郎がチクりと呟いた。
 確かに初めて来たむつきや小太郎はまだしも、村上へとは誰も駆け寄ってはきていない。
 しかし、小太郎にしてはちょっと辛辣な言葉と思っていると、今度は村上がチクリと言った。

「ふふーん、自分だけのお姉ちゃんだと思ってたら、他にも弟が一杯で嫉妬しちゃったかな?」
「べ、別にしとらへんわ。俺は一端の男や、女なんか邪魔なだけや」
「小太郎君、今はまだわかんないだろうけど女の子のいない生活は潤いがないぞ」
「先生なんか、いやらしい感じがするよ」

 まだまだガキだなと村上から若干ひかれていると、とことこ一人の少女がやってくる。

「夏美お姉ちゃん、またお話して。妖精さんがでてくるお話」
「うん、そうだね。あっそうだ。もうちょっとしたら文化祭りで演劇するから、その時はチケットあげるね? ふふん」

 どうやら夏美の場合は大人しい子相手に、本を読んだりする役目が多いらしい。
 私だって慕われてますと、どや顔で小太郎にお返ししていた。
 子供の多い孤児院でギスギスするなとも思ったが、考えてみればこの子らも十分に子供の範疇だ。
 ここは大人がと、押さえて押さえてと二人の間に入って頭をぽんぽんと叩き落ち着かせる。

「はい、みなさん。大好きなお姉さんに会えてうれしいのは分かりますが、迷惑をかけてはいけません。みなさんと遊んでいただく時間は作って貰いますから、今ははなしてあげてくれますね?」
「はーい」

 しつけが成っているというか、あれだけ群がっていた子供たちが潮が引く様にさっと引いた。
 むしろそのあっけなさが逆に那波に寂しさを抱かせたようにみえるぐらいに。

「ほら、行くぞ那波。院長さんが待ってるぞ」
「はい」

 お前も本当に寂しがり屋だなと、若干自己アピールしつつその頭にぽんと手を置いた。








 院長室で改めて挨拶をかわして名乗り合った後、今日むつきが呼ばれた理由を説明された。
 どうやら、庭にある倉庫の整理を手伝ってほしいという趣旨だ。
 長年孤児院を運営していれば、それなりに子供の出入りは発生する。
 しかし出て行った子が次の子の為にと置いていったものや、成長と共に使わなくなったもの。
 それらは次の子の為に再利用されるわけだが、全部が全部そうではない。
 勿体ないからと一先ず倉庫に入れておいてそれっきりのものも結構あるということだ。
 何時か整理したいと思いつつも、院長は高齢で、那波や村上も女の子。
 男手さえあればと院長が那波に漏らしたところ、とても人の良い男性がと推薦されたらしい。
 そして院長を含めやって来たのは、庭先にある孤児院そのものとは別に建てられた建物だ。
 一階建てで横幅もほとんどなく、扉も頑丈な鉄製で体育倉庫そっくりだ。

「孤児院にもっと子供がいた時は、お仕置き部屋としても使っていましたが……これが鍵になります」
「んじゃ、失礼して。埃舞うかもしれんから、離れてろよ」

 院長は元より、小太郎と体操服に着替えた那波と村上にも下がっていろと指示する。
 古臭い鉄の扉の鍵穴が詰まっている可能性もあったが、鍵を差し込んでみるとそんなことはない。
 中は多少錆びついていたみたいで、回すと抵抗があったがきちんと回った。
 鍵が外れた音もしっかり聞こえたが、いざ取っ手に手をかけ扉を退くが軽くでは全くあかない。

「ふんっ、お……マジで。んが!」

 きっと長年の風雨にさらされサッシの上に砂粒やゴミが詰まっているからだろう。

「あれ、ちょっ。誰か」

 手伝ってという声は、周囲にいた人を見てしりすぼみに消えていった。
 院長は高齢で女性だし、那波や村上に手伝って貰っては男手として頼られた意味がない。
 最後の小太郎も、男手ではあるが子供である。

「しまった、田中さんを連れてくるべきだった!」
「なにしとんねんな、むつき兄ちゃん。どいてみい」
「いや俺が無理なのに」

 小太郎ならもっと無理だろうと言おうとしたのだが、ギャリギャリギャリという大きな音に遮られる。
 院長は朗らかな笑みをたたえたままだが、むつきや那波、村上は咄嗟に耳を抑えていた。
 孤児院の中にまでその音が聞こえたのか、子供たちが窓や玄関からチラチラ顔さえ出している。

「おう、開いたで。まったく、これぐらい軽くやってくれんと安心して千草姉ちゃんを任せられへん」

 千草うんぬんよりも、小学生の小太郎ですら開けられた事実が耳に痛い。
 あと、背中にひしひしと伝わる那波と村上のうわーっという視線も。

「いや、これはあれだ。良いところまで俺が開けたんだよ。小太郎君がとどめ刺した的な」
「うわ、恰好悪。なんやその言い訳、ガキか」
「さ、さ~て。良い男は力だけじゃなくて、頭も使う。院長さん、まずは全部運び出しますね。必要か、そうじゃないかを選別して必要なものだけ戻すと」
「ええ、そうですね。よろしくお願いします」

 さすが大人というか老齢の女性は、きちんと男のプライドを考慮してくれる。
 にこやかな笑顔のままちょっと必死なむつきの言葉に、どもることなく頷き返してくれた。
 倉庫の中は奥行きがおよそ一メートル半、横幅が三メートルといったところか。
 穏やかな院長さんらしからぬ雑多な雰囲気で、本当に次から次にモノを放り込んだようだ。
 もしくは彼女はまだ着任して数年で、もっと昔から放り込みっぱなしなのかもしれない。

「ようし、那波や村上も手伝ってくれ。まずは小物をリレーで出しちゃうぞ。大物は後。ほら、整列」
「リレー? ああ、バケツリレーのようにですか?」
「皆で入れ替わりに出入りするのも邪魔だし、近くに置き始めると大物を遠くに置かなきゃいけないだろ。どうよ、この頭脳プレー!」
「先生、分かったから。誰でもわかりそうなことを、どや顔で言わなくても」

 どや顔で言った後で村上から手厳しい意見を貰ったが、最初に提案する凄さは分かって貰えなかった。

「あー、なんや分かったわ。あれは俺が悪かったわ、雑魚カードでボコッた俺が。今のむつき兄ちゃんが千鶴姉ちゃんたちのまえでええ格好したかったみたいに、あいつもええ格好したかったんや。それに遊びは遊び、大人の余裕で負けたりゃよかったんや」
「小太郎君、やっぱ君は頭が良い子だ。しかし、俺の傷を抉るのはいただけない」
「悪い悪い、今度は俺も開けられへん振りして。協力したらできた的な風にするから」

 本当に悪いと思っているのか、むつきの尻をぺしぺし叩きながら笑っている。
 いや良く考えたら、悪いも何も小太郎はむつきの面子をこれでもかと潰したぐらいだが。
 もう何もいうなと心で涙しながら、むつきはせめて譲ってと倉庫の中に突貫した。
 一番埃っぽく面倒な、せめて嫌な仕事を引き受け小さなプライドを満たそうと。
 次にはは倉庫の出入り口、やっぱり少し埃っぽい場所に自然と小太郎が、それから村上。
 最後に那波と院長さんで必要かそうでないかを選んでもらうシステム的な並びである。

「しっかしこれ、午前中で終わるか? ほい、小太郎君」

 手近に詰まれていた埃まみれの二十センチ四方のダンボールを軽く手で払って小太郎に。

「おう、夏美姉ちゃん」
「はいはい、ちづ姉」
「はーい」

 小太郎から村上、那波へとリレー方式で手渡されていく。
 最後の那波は直ぐに足元にはおかず、整頓できるように場所を選んでそれを地面に置いた。
 そうしている間にも、またむつきから小太郎、村上へと次の荷物がわたってくる。
 手渡しやすいダンボールに入ったものをむつきが選んでいるから受け渡しもスムーズだ。
 徐々に扱いが、そもそも持ちにくい丸みを帯びた壷だったり、謎の絵画だったり。
 もちろん、子供用の遊具などもどんどん運び出されては、表に並べられていく。
 ただ遊具についてはもう少し慎重に運び出すべきだったろう。
 大人たちが集まって何をしているのかと、孤児院の子供たちが遠巻きに眺めていたのである。
 そこに遊具が運びだされてくれば興味をひかないはずがない。
 同年代の小太郎が一緒になって運んでいたことも、踏み出す一歩を軽んじる要因になったのだろう。

「ねえねえ、院長先生これで遊んでも良い?」
「わー、新しいおもちゃだ」

 わらわらと集まって来た子供たちが、古いおもちゃを見て勝手に触り始めてしまう。
 今はまだ小物が多いが、これから大物を運び出すのに砂糖にむらがる蟻のように集まられては危険だ。

「はいはい、あなたたちが欲しいものはとっておきますから。お兄さんたちの邪魔をしてはいけませんよ」
「はーい」

 院長に諭されそう返事は返したものの、視線はずっと埃をかぶった玩具にとどまったままだ。
 しつけが行き届いているとはいえ、いつだれが誘惑に負けるとも限らない。
 それに意外に力持ちながら子供である小太郎が混じっているのも、拍車をかける事であろう。

「しゃあない、小太郎君。悪いけど、あの子達と遊んでやってくれないか?」
「なんで俺がガキと、って言うても俺もガキや。むつき兄ちゃん、こいつの貸しは千草姉ちゃんに返したってくれや」

 大人の恋愛に口出すなとも思ったが、ありがたいので尻を叩くにとどめておいた。

「おーいお前ら、カードゲームせえへんか? なんや流行っとるっていう魔法で戦うカードや」
「えっ、でも……僕らそのカード持ってない」
「安心せえ。俺が学校でダブったカード一杯もろたからな。全員ぶんはあらへんけど、一緒にやろか」
「良いの? ずっとやってみたかったんだ!」

 私も僕もと小太郎の呼びかけに俄然子供たちは興味を引いたようだ。
 小太郎が胸ポケットからカードの束を取り出すと、注目の的である。
 ほらこっちやと孤児院の建物へと小太郎が向かうと子供たちもぞろぞろと、ハーメルンの笛の音を聞いたかのようについていく。
 おかげでこの場に残ったのは、二人ばかりの女の子。
 如何にも気弱気で大の大人のむつきの視線から逃れるように小さくなり小動物のようだ。
 きっと魔法で戦うなんてキーワードが出るカードゲームには興味がなかったのだろう。
 とすれば彼女たちが残った理由も自然と察せられるというものだ。

「村上、この子たちに中で本でも読んでやってくれ。小物はあらかた運び出したし、あとは大物ばっかだ」
「えっ、でも……そうだ。子供の相手はやっぱり院長さんの方が」
「院長さんいないと、要不要がわかんねえだろ。それに親代わりの院長さんも良いけど、たまに来てくれるお姉ちゃんが読んでくれる本が良いんだろ。問題ないと思うけど、小太郎だけってのも不安がなくはないし」
「ああ、ちづ姉……」

 なにをそんなに気にしているのか、むつきの説得の前に村上が那波へとちらりと視線を向けた。
 その那波もなんだか苦笑いした感じで、一つ頷いて言った。

「夏美ちゃん、行ってらっしゃい。こっちは良いから。念の為、小太郎君が他の子と喧嘩しないように気を付けてあげて。同年代の子と遊んだ経験あんまりなさそうだし」
「今の小太郎なら、上手く兄貴分として立ち回れるだろ。この孤児院の子の中に、同じ兄貴分がいなければ」
「分かった。じゃあ、行こうか。今日はなんのご本を読んで欲しいのかな?」

 那波からもお願いされてようやく村上は、この場に残った女の子二人へと振り返った。
 目の前でしゃがみ込んで視線を合わせては、早速二人のリクエストを聞いてあげる。
 案の定というべきか、返って来たのはシンデレラや白雪姫といった女の子らしい物語。
 そっかと微笑んだ村上は、二人の女の子を連れて、小太郎に遅れて孤児院の中へと行った。

「さて、大物は俺が運ぶから。院長さんと那波は要不要の選別をお願いします」
「申し訳ないですが、よろしくお願いします。千鶴さんも、お願いします」
「はい、院長先生」

 小さなお邪魔虫がいなくなったところで、倉庫の整理の再開であった。
 小物はあらかた運び出したのでむつきの指示通り、院長と那波が要不要の選別を開始する。
 むつきは改めて倉庫の中に戻っては、残った大物の前に仁王立ちだ。
 古い木組みのソファーから、重くて簡単には持ち上げられなかった中身が謎のダンボール。
 毛が殆ど抜けた箒を一纏めに突っ込まれた傘立てなど、これは一仕事である。
 明日は筋肉痛だなと、嫁の誘惑合戦に体が耐えられるかちょっと不安になるほどであった。
 とはいえ、愚痴っていてもしょうがないので運び出すしかない。
 院長と那波もせっせと働いていたので男が怠けてどうすると、腰を痛めないよう慎重にだ。
 特に小太郎がいなくなったおかげもあって効率はちょっと減り、やっぱり午前中一杯では終わらなかった。
 一緒にお昼を頂いて、改めてお昼からも作業を開始して結局終わったのは十五時を過ぎたところ。
 水泳部の方はアキラと亜子、それから小瀬に連絡を入れてある。
 不要なものは倉庫の脇に積み上げ、必要なものは全て倉庫にきちんと詰め直した。
 あとはこの不要なものを捨てるだけだが、そこはさすがに業者に来てもらう予定らしい。
 しかし直ぐに業者がくるわけでもなく、野ざらしというのは色々な意味で怖い。
 先程の様に子供たちが不用意に触れて崩れて怪我でもされてはたまらないし、そう長い間放置はしないだろうがダンボールや本は濡れると回収にもひと手間だ。

「けど、これ雨が降ったら……そうだ、確かさっきブルーシートあったな。あれ掛けとこう」
「あ、それなら私が閉まったはずです」
「では、私は一足先に中に戻ってお茶をいれますね。あの子たちのおやつの時間ですし、一緒に召し上がっていってください」
「了解です、直ぐに行きますんで」

 再び倉庫に足を踏み入れながら院長に声を返すと、那波も続いて倉庫に入って来た。
 日差しはまだ高く、中が整頓されたとはいえ倉庫のなかはやっぱり薄暗い。
 何処にしまったっけと探す前に、倉庫脇に置いていた非常用の懐中電灯を手に取った。
 明かりをつけて照らし出したのは棚の上、しかし整理の為に再利用したダンボールばかり。
 きちんと見える面に何が入っているのかジャンルだけでも書いておくべきであった。

「どの辺りに仕舞ったっけ。軽い物だから棚の上の方だと思ったけど」
「そうだ、先生。また肩車していただけます?」
「いや、その方が見やすいのは分かるけど……」

 那波の提案に今一度彼女の姿をみるのだが、確かにあの沖縄の時よりはマシだ。
 上下ともに学校指定の体操服で、衣の厚さはあの時の比ではない。
 しかし、那波の豊満な体にピチッと張り付く体操服と短パンから伸びるむちましい足は健在。
 むしろ体操服という男の妄想を掻き立てやすい恰好なだけに刺激はあげあげである。

(悲しいけど、今の俺なら反応しないしいっか)

 悟りの境地出しと少し自虐的に笑うと、むつきはあの日の様に軽くしゃがみ込んだ。
 すると失礼しますと那波がむつきの首の後ろを跨いで、ずっしりと重みのあるお尻をのせて来た。
 相変わらずの安産型のようで、首の後ろに頼もしくも柔らかな重みが伸し掛かる。
 頬に時折触れる太ももも香しく、悟りの胸中にありながら首を回して嘗め回したくもなった。
 それでも私もう悟ったからと無反応な一物は、相当な頑固者だ。

「頭上気を付けろよ。あの時と違って、天井は近いんだから」
「はい、ゆっくりとお願いします」

 お願いされた通りゆっくりとむつきは那波を肩車したまま、足と腰に力を入れて立ち上がっていく。
 那波も高度があがるたびにキュッと太ももを閉じてきて、顔がサンドイッチされる。
 天国ですね、解りますと別の悟りの境地へ至りそうになりながら、むつきはしっかり床を踏みしめた。
 それから半歩棚に近づいて上目になると、那波が棚の上のダンボールに触れて覗き込み始める。
 ごそごそと音が聞こえると同時に少し埃が降りて来た為、むつきは咄嗟に視線を下に落とした。
 しかし俺は負けないと、埃に目をしかめながらもしっかり上目づかいで見上げる。
 那波がダンボールを漁るたびに、あのお胸がぽよんぽよんするのだ。
 下から見上げる双子山が揺れる絶景に、埃程度でどうして目をそらせようか。

「あっ、あった。ありました、先生」

 嬉しそうに見つけたアピールをする那波の声を聞いた時である。
 突然背後からガラガラガラと、けたたましくも何かが動く音が聞こえ、倉庫内が一気に暗くなった。
 那波が懐中電灯を持っていたので今すぐ真っ暗ではないが、急激な光度の変化に動揺が走る。
 そしてそれが収まるより先に、ガタンと扉が閉まりガチャリと鍵をかける音まで聞こえた。

「ちょっ、なんで。那波、一先ず下すぞ。こう暗いと危ない」
「でもどうして、夏美ちゃんは孤児院の中にいるはずなのに……」

 慌てて那波を下した為、その呟きはむつきの耳には届かなかった。
 那波の太ももに挟まれる幸せをあっさり手放し、むつきは閉まった扉に振り返り掛けよる。
 ふんと力を込めてもガタンと両開きの扉がガタガタ揺れるだけでだ。
 完全に鍵がかけられてしまっているようで、開く気配はみじんもなかった。
 そもそも開く時はむつき一人では動きもせず、力持ちの小太郎が強引にあけた扉である。
 例え鍵がなくても開かなかったのではとも思ったが、しかし一体誰が二人を閉じ込めたのか。

「あれ、やっぱ俺が鍵持ってるよな。しかもこの扉小太郎ぐらいしか。でも小太郎がなんで? むしろ那波と二人きりになるの邪魔するならわかるけど」
「小太郎君は良い子だからそんなことしません。一体誰かしら……」

 村上と小太郎に閉じ込める理由はなく、院長や子供たちも同様だ。
 しかし今日はあの時とは、状況が違う。

「携帯持ってきてるから、村上に連絡してみるか。那波は……体操服だから、持ってないか」
「ポケットがありませんから」
「那波、ちょっと手元照らして」
「はい」

 むつきがツナギのポケットから携帯電話を取り出し、那波に懐中電灯で照らして貰う。
 バックライトのある液晶なのでその必要もなかったかなと思いつつ、村上の携帯電話にかける。
 コール音が三回目ぐらいまでは二人とも余裕の表情だったのだが、五回目、六回目となるうちに不安げに。
 十回目に到達した頃には、取ってくれよとむつきががっくりとうな垂れながら電話を切った。

「マナーモードで気づいてないのか? 充電は八十パー以上あるからまだ平気だけど」
「先生、一先ず座りませんか? 椅子はありませんけど、中身の詰まった段ボールならいくらでも」
「そうだな、最悪は誰でも良いから電話すりゃいいし。院長さんも俺らが戻らなきゃ気づくだろ。ああ、那波待った。座る前に……」

 むつきは首にかけていたタオルを折りたたみ、那波が据わろうとしていた段ボールの上に敷いた。

「ちょっと汗ふいた奴で嫌かもだけど。埃まみれの場所よりは良いだろ」
「でも私だけ」
「ツナギはそういうもんだ。隣失礼」

 良いから座れと強気で言うと、その代わりとばかりにむつきは那波の隣に座り込んだ。
 一抱え以上ある大きな段ボール、中身は何だったか忘れたがソファー一個分の広さはある。
 むつきと那波が座り込むぐらい余裕であり、気を付けるべきは自分の汗の匂いぐらいだ。

「しかし、本当にお前とはこんな場所に縁があるな。そういや、平気か? 暗くて狭い場所だけど」
「はい、今は全く」
「なんだ、大丈夫になったのか。心配しなくても良かったな」
「大丈夫になったわけではないですよ」

 そう呟いた那波が少し腰を浮かせて敷いていたタオルの位置を治した。
 座り心地が悪かったのかと思いきや、再度座り直した時には那波の位置がよりむつきに近くなった。
 懐中電灯は足元を照らすのみだが、殆ど暗闇の中でも間違いなくそう思えた。
 那波の足が腕がむつきの同じ場所に確実に触れている。
 気のせいでなければ那波自身の体重も少しむつきに預けられているようにも。

「やっぱり先生と一緒だと、平気みたいです。暗闇の中でも、他に誰もいなくても」

 それこそ気のせいではなかったと、僅かだった那波の体重がはっきりと分かるほどに預けられてくる。
 腕と腕が絡まっていないのが不思議なぐらい、恋人ではないのが不思議な距離であった。
 那波の顔がむつきの肩に持たれ潤んだ瞳で見上げてきてもいた。
 忘れてはいけないが、ここは懐中電灯の光しかない真っ暗な倉庫の中である。
 孤児院の傍の倉庫であり、近くに声は聞こえないので今は正真正銘むつきと那波しかいない。
 今から二人が上と下になった倉庫をぐらぐら揺らしても、きっと大丈夫なぐらいに。

「あー、勘違いしそうに」
「勘違いではなかったら、どうしますか?」

 一応建前的に、教師として予防線を張ったら張り切って壊された。
 その表情は普段通りにこにことしているが、暗がりの中でもわかるぐらいに瞳に力がこもっている。
 もしかすると、今ここで那波を襲っても許されるのではという考えが頭をよぎった。
 先程も思ったが周囲に二人をとがめる者はおらず、わかりっこない。
 那波の綺麗な顔はすぐそこで少し顔を下せば潤んだ瞳と同じぐらい誘惑してくる唇を奪える。
 もたれられたおかげでさっきから左腕の肘には、彼女が思い悩んだいけないお胸があたってもいた。

(これ、むしろ誘われてんじゃねえの)

 ひかげ荘の状態が状態なだけに、那波から向けられた好意に肉体的に応えることに抵抗は薄い。
 彼女があの惨状を受け入れてくれるのはまた別として。
 那波ほどの美少女、ここまで誘惑されて「え、なにが?」とか言える奴はインポだ。
 笑えないことに、誘惑に応えたいながらも今のむつきがインポだが。

「なあ、那波よ。お前、嫌いな食べ物とかある?」
「え、特には……」
「俺は実は嫌いな食べ物って多いんだけど、知ってるか?」
「いえ、知りませんわ。旅行中も、先生はどんな食べ物でも美味しそうに食べていらっしゃいましたし」

 突然の、この状況では突拍子もないむつきの話題に、那波はちょっときょとんとしていた。

「そりゃ、俺たちは沖縄でのこともあったし。ちょっと過剰なスキンシップは経験してる。その上で、俺ならって思ったお前の気持ちは否定せん。むしろ嬉しいし、どんと来いと思ってる部分もある」
「はあ……」
「でもまあ、焦んな。一発やってから、やっぱ違ったって思っても遅いぞ。この状況、お前襲われたらどうするんだ?」
「あやか程ではないですが、多少心得はありますから」

 ぽんと手を叩きながらの那波の返答を前に、むつきは一瞬目を丸くした。
 そして薄暗くて見えないはずの天井を見上げんーっと状況を整理し、那波の目の前に手を上げる。
 中指と親指で円を描いて手に力を込めて、ズバッとそれを解放してやった。
 解き放たれた力は那波のおでこを強かにうち、僅かだが彼女の頭をぶれさせる。

「痛ッ」
「那波……確かに俺は、以前胸に見とれてる相手の隙だらけの内面を見透かせと言ったけどさ」

 軽く吹き飛ばされたおでこを押さえ恨めしげな彼女に深くため息をついた。

「男を軽く見てると、本当こんなもんじゃすまねえぞ。試しにそこにちょっと立ってみろ」
「はい、こうですか?」
「おう、ちょっとそのまま動くなよ?」

 那波をむつきの目の前で立たせ、両腕は休めの格好をさせるように腰の後ろ。
 むつきが相手だと安心しきっているのか、那波は言われるがままにその恰好を取った。

「にしても、ちょっと暑くなって来たな。誰か知らんが、はよ開けてくれ」
「そうですわね、そろそろ夏美ちゃんじゃない誰かでも」

 むつきがツナギのファスナーをおろし、上着だけを肌蹴てまくり降ろす。
 さすがに一瞬那波が警戒したが、むつきが解放を望む声をあげたので釣られ扉の向こうへ視線を向ける。
 次の瞬間、急に振り返ったむつきが那波へと抱き付いた。
 悲鳴を上げる間もなくむつきは脱いだツナギの袖で、後ろ手になっていた那波の腕を結び封じる。
 急いだのでちょっと荒かったかもしれないが、これで那波は腕を塞がれたことになった。
 もちろんツナギの下を履いたままなのでむつきも自由が減ったが、密着は望むところ。

「ほら、あとはお前を押し倒して脱がしてセックスするだけ」
「セッ、まさか……しませんわよね。ね、先生」
「はっは、怖い顔しても暗いからわかんねえって。まあ、相手が自分を見透かしてることが分かれば、開いてもだましてくるぞって例だ。ほら、荒っぽくしたが腕は痛くないか?」
「あら、解放するんですか?」

 意外そうにつぶやかれたため、お前は俺をなんだと思ってるのかとコツンと頭を叩く。

「お前は、これも教訓にしろよ。侮る気持ちが伝わると、女が舐めんじゃねえって逆上する男もいるんだ」
「いえ、教訓にはいたしますけれど。ちょっと残念だったかなと」
「だから、先を急ぐな。本当に襲っちまうぞ。あ~、那波とセックスしてえ。セックス、セックス!」
「先生……」

 一気に那波の視線が軽蔑を帯びたものになったが、荒療治故仕方があるまい。
 なんというか、今の那波は結構不安定だ。
 むつきを誘惑したかと思えば、セックスを怖れたり、かといって手を出されなければ残念がったり。
 孤独に溺れそうな時に掴んだ藁、仮にそれがむつきだとして必死に放すまいとしているようにも見えた。
 嫌われ役みたいになってしまったが、今の那波を嫁に迎えても一波乱ありそうだから仕方がない。

「慌てて男を掴もうとしたお前が悪い。思春期だからしょうがないけど、慌てて掴んでも外れクジだぞ。どうせなら、良い恋したいだろ」
「のどかさんは良いんですか?」
「アイツは中学生らしい初恋してるだろ。お前は中学生飛び越して、大人の恋愛しようとするからバランス悪くなるんだよ。見た目が大人でも、年相応の恋すりゃ良いじゃん」

 中学生のそれも生徒を喰いまくってる俺のセリフじゃないけどと、心の中で呟いていたが。
 ようやく那波も落ち着いたのか、ちょっと考える仕草をした時である。
 カチャリとタイミングを見計らったように、何かが外れる音が聞こえた。
 考え込んでいる那波は聞き逃したようだが、むつきは確かにその音を耳に捉えていた。
 扉へと振り返り軽く力を込めると、ほんのわずかだが扉と扉の間に隙間ができる。
 先程とは違い、片方を開けても鍵のせいでもう片方がついて来ることもない。

「おっ、開けてくれたらしいな。待て、犯人。その顔を拝んでって、またか!」

 わずかには開いたが、相変わらずサッシにゴミが詰まったままで中々開いてくれない。
 しかし、ここで男のプライド再び。
 小太郎のような子供に開けられて、大人のむつきに開けられないはずがない。
 表と違い、取ってとなるような凹みもないが、それはそれ。

「先生、私も」
「待て那波、手を出すな。これは俺の、男のプライドのぉ~……しゃあッ!」

 顔を真っ赤に、その先の赤黒さに染めながら全力で力を込めて、むつきは扉を開けることに成功した。
 小太郎はもっと簡単に障子を開ける気軽さだったが、結果は同じである。

「やった、ぐぼっ。埃が喉にげほっ」
「先生、しっかりしてください!」

 おかげで死ぬほど苦しい目にあったが、那波が手厚く背中を撫でてくれたので良しとしよう。
 それから、閉じ込めた犯人も逃してしまったが、悪意はなかったようで見逃そう。
 決して敗北ではない、男のプライドを保ったので勝ちなのである。
 そう自分に言い聞かせながら、孤児院でおやつを頂いてからむつきは急いで水泳部に向かった。









 むつきが水泳部の監督に向かった後も、那波や村上、小太郎は孤児院に残っていた。
 今日はまだ那波は子供たちの相手をしていないし、特に小太郎は孤児院の子達と仲良くなっている。
 歳もそう変わらない、関東に来てからの初めての友達に今日はしばらく帰らないだろう。
 流行りのカードゲームで手持ちのカードをシャッフルしながら、何度も遊び続けていた。
 村上は元からか、演劇部であるだけに本読みが得意らしく女の子から大人気。
 私も早く加わりたいと思いながら、那波はやや遅れた三時のおやつの片づけを手伝っていた。
 院長お手製のアップルパイと紅茶で、美味い美味いとアップルパイをむつきが頬張っていたのはしっかり記憶している。

(先生、アップルパイ好きなのかしら)

 そう思っていると、隣合ってお皿を洗っていた院長に声をかけられる。

「千鶴さん、手が止まっていますよ。一体誰のことを思い出してるのかしらね」

 ふふっと年齢と共に重ねた皺のある笑顔で、少々懐かしげにしながら那波に微笑みかけた。
 まるでかつての自分の初恋を重ねる様に、良い恋してるわねとばかりに。

「お判りになりますか?」
「こんな歳でも女の子ですからね。貴方が男手を連れてくると聞いて、そこでピンときました」
「そんなに早くですか?」

 まさかそんな時点でばれているとも思わず、しれっと答えていた那波の頬に赤みがさしていく。

「貴方目当てに、何人の男性が手伝いを申し入れていた事か。全て断りましたが」
「私の我がままで倉庫整理を先延ばしにさせてしまい、申し訳ありませんわ」
「いえいえ、こちらこそ。普段からお手伝いさせてしまって。紳士的で良い方ではないですか。普通の男性なら、あんな場所であなたにあんな風に誘惑されては、たとえ恋人や妻がいようと据え膳なんのと言い訳をして不貞を働いてしまいますよ」
「え? まさか、でも……鍵は先生が。それに、あの扉は男性ぐらいにしか」

 こんなところに犯人がいるとは思わず、那波は失礼にもマジマジと院長を見つめてしまった。
 いかにも人の良さそうな院長が、何故むつきや那波を閉じ込めるようなことをしたのか。
 それに那波も口にしたが、あの扉は院長のような程腕で開閉ができるとも思えない。

「あの扉は少しコツがいるのですよ。あの子、小太郎君が無理やり力技で開けた時は驚きましたが」
「でも、何故ですか?」
「いずれ、貴方が手痛い失敗をしかねないと思い、お世話を焼き過ぎました。あの人なら、そのような心配はなさそうですが」
「まさか、全部聞いて……」

 今度こそ那波は、羞恥に頬を染めるどころか濡れた手で顔を隠さずにはいられなかった。
 まさか、本当にまさかあの世迷いごとに似た数々の誘惑を聞かれていたとは。
 気づくべきだった、わざわざ閉じ込めた相手が、ただ放っておくなんて意味のない事をしないと。
 今にして思えば、確かに不安定で少し焦っていたと分かる。
 むつきが異性として気になっていたこともあるが、同じクラスメイトが猛烈アタックしているのだ。
 折角見つけた人を取られてしまう、きっとそんな焦りがあんな行動に走らせたのだろう。

「院長先生、誰にも。誰にも言わないでください、お願いしますわ」
「ふふ、ええもちろん。その代り」
「代わり?」
「私の特性のアップルパイの作り方を覚えて貰いましょうか。あの方、乙姫さん。とても美味しそうに食べてらしたわね。罰として、私以上に美味しく作れるまで頑張りましょうか」

 むしろお願いしますと、刹那の迷いもなく那波は院長の手を両手で握りしめていた。
 大人顔負けの外見ならが、年相応な乙女な那波の反応に院長は笑みをより深める。
 普段の彼女はとても穏やかで大人っぽく子供を任せても安心できるが、こちらの彼女もとても魅力的だと。
 本当に良い人と巡り合えたと、はりきる院長と那波であった。
 しかし、今のむつきが仮に勃起不全でなければどうなっていたか、悟りの境地になければ。
 そんなIFの話は、生涯において特に院長は知らぬが仏、になるであろう。









-後書き-
ども、えなりんです。

勃起不全でなければ即死だった(社会的に)
というわけで、那波回。
あと小太郎がちょいちょい出てます。
結構、むつきは小太郎に対して良い兄ちゃんしてる気がします。
日常の一コマから小太郎の強化ハジマッテマスヨー。

那波とはもう少し、表からむつきをせめて貰います。
巨乳好きの人には申し訳ないですが。

それでは次回は来週の土曜日です。



[36639] 第百十一話 何時何分何秒!
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/05/17 20:20
第百十一話 何時何分何秒!

 珍しくその時間帯は、ひかげ荘の露天風呂に人影が途切れかけていた。
 滞在する女の子の数が数だけに、誰もいない時間というのはご飯時ぐらいだ。
 他は大抵仲良し集団で入ったり、そこに男のむつきが加わるので四、五人いても珍しくもない。
 だから逆に、十七時を過ぎた夕暮れに差し掛かろうという時間に人影が二人というのが珍しい。
 今日は土曜日であり、むつきが午前中は孤児院、午後から水泳部というのも関係しているか。
 今現在、露天風呂内の岩場に腰をかけ、足湯の様に浸かっているのは長瀬と龍宮の二人であった。
 大人っぽい生徒が集まる二-Aの中でも断トツに大人っぽい雰囲気を纏う二人である。
 ここで重要なのは大人っぽい雰囲気、外観だけを指してのものではない。

「心地よい風でござるな。秋口にはひかげ荘まわりの山中も実り豊かに、日頃お世話になる先生への手土産に困りそうにないでござるな」

 岩場から足だけを湯につけながら、秋の風に髪を拭かれながら楓が髪をかき上げる。
 人目がないのでクラス上位に入る胸もあらわに、タオルはひざ元で大事な部分を隠すのみ。
 汗と掛け湯が混じった滴が渇くより先に粒同士まじりあい、大粒となって彼女の体の上を滑り落ちていく。
 うなじから鎖骨はまだ楽な道で、胸回りを通ろうものなら苦行となるほどの回り道だ。

「楓、山で採れたものは地主の物だろう。手土産なら、別の山に行く必要があるぞ。いっそ、熊でも仕留めて四葉にクマ鍋にでもして貰うか?」

 何を言っているんだと薄く笑みを浮かべた龍宮は、ライフルを構えるような恰好で熊ではなく長瀬に狙いを定める。
 上半身をねじりわずかながらに頭を静めたことで、彼女の褐色に染まった乳房も沈み反動で揺れる。
 足元は組まれた状態で割と不安定そうな格好だが、その姿勢が崩れたり揺れることもない。
 自慢の美脚をアピールするように、組み替えられてもそれは変わらずパンっと小さく呟き彼女は構えをといた。

「肩口に当たったでござる。そこで拙者が華麗に止めでござるな」
「私がそんなヘマをするものか。脳天を一発さ。ただ、血の匂いは嫌いでね。熊を捌く役目は譲ろう」
「拙者の女子力アピールでござるな、先生もイチコロでござる」
「ベッドインした時に、なんか熊臭くないかと言われたければどうぞご自由に」

 一体何を張り合っているのか、お互い同時にそれに気づいたちゃぷんと足元のお湯を蹴って跳ねあげる。
 いや、熊への止め辺りぐらいまでは普段通りと言えば普段通りだったのだが。
 ちゃぷちゃぷと素足でお湯を弄び微妙な沈黙が生まれる。
 元来お互いに饒舌なほうではないが、不思議と二人きりだと長い沈黙は訪れない間柄であった。

「私は、いずれ楓も忍者の技の使いどころに困り、こちら側に来ると思っていたのだが」
「んー、拙者も以前ならそうだったでござるが。あの旅行で忍者の現実を見てからは……」

 龍宮の話題振りに少し空を見上げ流れる雲を目で追ってから、楓はそろそろ一ケ月前になる事件を思い出した。
 クラス一同で出かけた旅行先、名古屋で一般人のむつきを巻き込んで忍者の集団に襲われた件だ。
 忍者に保険はない、命を懸けて主命をこなしても得られる金銭ははした金。
 齢十四歳で金、金、金忍者として恥ずかしくなんていうつもりは、当然ない。
 長瀬は忍者でありながら、それを天職として生き抜いていこうという考えは持ち合わせていなかった。
 限界集落以上の山里で爺と婆に育てられ、忍術を仕込まれたがそれだけ。
 むつきに惚れ込んだ少女たちのように恋に生きるつもりもまたないが、その将来という名のキャンパスはまだまだ真っ白だ。

「忍者は趣味、か。または、超殿のせきゅりてぃー会社に世話になるのも悪くはないでござるな」
「そういえば、超がそんな会社を立ち上げていたな」
「そういう真名こそ、どうするでござるか?」
「今は学園長や超との契約もあるし、一時の骨休めさ。心身の休息を終えれば、また血と硝煙が漂う戦争の中に戻るだけ。と、思っていたんだが……」

 ニヒルに笑い、戻るだけと終わらせると予想していた長瀬はちょっと意表を突かれていた。
 そんな長瀬の前で龍宮は、片足だけを引き寄せ立ててはその膝の上に両腕を重ねて敷いて顎を乗せる。
 珍しいとはっきり言える程に迷いを見せた龍宮は、遠い目をして揺らぐお湯の表面を見ていた。
 まるで自身の心の揺らぎをお湯に写して、自己を顧みる様に。

「私とて好きで戦場にいるわけではない。それが必要だから、必要とされるから。あの人が叶えられなかったことを代わりに成し遂げたい。けれど成し遂げたところで自己満足以下だ」
「それは報われぬでござるな」
「死んだ人は生きる者に写真以外で微笑かけてはくれないからな。それに私一人が息を吐くより、超に協力した方が効率が良いという現実もな」
「反則でござるよな。あの時も世知辛い忍者の現実を、あっさり解決したでござる」

 世知辛いと世の常を叫びながらどうすることもできなかった忍者集団を、小鈴はまとめて救い上げた。
 会社なんてものを一つ立ち上げ、彼らだけでなくその家族をも。
 仮にあの時戦闘を続けたところで、長瀬や龍宮には彼らを叩きのめすのが精いっぱい。
 そんな時間をかけることなく可能ではあったろうが、彼らの家族が路頭に迷う結果もあっただろう。
 戦術的な意味で戦闘に勝つことはできるが、未来や相手を含め戦略的に勝てるのは小鈴だけ。

「でも、まだ拙者はぴちぴちの十四歳。もらとりあむの時間はたくさん残されているでござるよ」
「楓、何故自分だけそこに含めた。私も中学二年生だ、肌の張りもシャワーの水滴が弾けるぞ?」
「そこで十四歳と言わないのが素直でござるな。拙者は弾けた水滴が二連鎖、三連鎖するでござる」
「くっ、私だって五連鎖ぐらい軽い。あと、急にモラトリアムとか頭が良さそうに見える言葉を使うな。むしろ良く知っていたな」
「最近の拙者は読書家でござるよ。最澄殿を調べてから、本を読み解く面白さに気づき。モラトリアムは、夕映殿に借りた本から仕入れた知識でござる」

 古が授業中に最澄を最強と聞き間違え、調べるに至った件のことだろう。
 そんなこともあったなと、ちょっと懐かしく思い出せる。
 あの忍者でいることに疑問すら抱かず、それこそ本すら読まない長瀬が読書家を自称するまでに。
 一方で真名も死ぬまで戦場にいると思っていたのに、それが揺らぎ始めていた。
 何故と不思議に思うまでもなく、ひかげ荘の湯につかっていればすぐにわかることだ。

「良いのではござらんか。亡くした相手に、その恋に準じるよりも生きている相手との恋の方が健全でござるよ。亡者は生者に語らず、真名が生き方を変えても怒りはしないでござる」
「何故私が恋愛相談した、みたいな感じになっているんだ?」
「違ったでござるか?」
「……喰らえッ!」

 お湯の中に沈めていた足でお湯を蹴り、龍宮が水滴を長瀬に飛ばした。
 さながらショットガンで撃たれた幾つもの弾丸のように飛ばされた水滴が長瀬を穿つ。

「うわ、なにするで」

 しかり咄嗟に顔を腕でかばった彼女の体を水滴が通り過ぎていく。

「残像でござる」
「知ってたさ」 

 いつの間にか龍宮の背後に立っていた長瀬が、苦無を彼女の頭に対し垂直に貫こうと構えている。
 だが初撃を避けられた龍宮も負けてはおらず、背後の桶に隠しておいたエアガンを構えていた。
 後ろでにだが、その銃口はしっかりと長瀬の大事な部分を狙うかのように。
 そのまま数秒、どちらともなく武器を手放し、先ほどより少しだけ近い位置で座り合った。

「まったく、真名といるとおちおち風呂にも入れないでござるな」
「そっちこそ、風呂にまで武器を持ってくるな。だいたい、何処に隠していた」
「実は昔お婆に女の股は武器を隠すのに」
「痛い、痛い、痛い、嘘でも止めろ。下ネタを言うキャラではないだろう」

 良く茂った若草の向こうに指を伸ばし、開く仕草をした長瀬に龍宮が顔をしかめながら突っ込んだ。
 冗談とは分かっていても痛い話だと、さりげに自分の茂みの奥を片手で塞いでいる。

「ん、お婆にだと。楓、もしかしなくてもお前忍者だろう?」
「忍者では」
「それは良い。くノ一なら、そういう女の技も仕込まれているんじゃないのか?」
「一頻り口伝は受けているでござるが、実施はなかったでござる。お爺しか男はござらんかったし」
「他に男がいればしていたのか」

 忍者恐るべしとも思ったが、同時に長瀬の成長率なら小学生の高学年でも十分かとも思った。
 まあ、それは置いておいてである。

「先生のアレでござるか。たぶん、無理ではござらんかな。先ほども言った通り、拙者は知識のみで実施で習ったことはないでござるし。そういう薬もなくはないが、先生は既に超殿の薬を服用しているでござるから」
「体系の異なる薬を同時に服用は怖いな。下手をすればボン、だ。少し話はもどるが、楓は先生のことはどうするんだ?」
「今日はやけに、そっち方面に話を持って行くでござるな」
「うるさい、偶には。こういうガールズトークも良いだろう。それで?」

 自身が迷っているから、そういう話題に行くんだろうなと何時ものニコニコ顔で長瀬は考える。
 むつき本人がではなく、エヴァや超は長瀬の忍術の腕前を込みで欲しがっていた。
 直接忍者として何かを請われたり、むつきに抱かれろと迫られたこともない。
 けれど彼女たちからそうなれば良いなぐらいの期待を感じてはいた。
 では彼女たちは置いておいて、長瀬自身はどうかというと。

「正直、まだ良くわからんでござるな」

 くノ一として優秀な血を後世に残す為には、乙姫むつきという人材は正直不合格だろう。
 いや、彼の背後にある繋がりを想えば合格どころか上忍がいれば籠絡しろと命令されそうだが。
 忍びとして単純な強さを血に求めるなら、そういう条件下では不合格。
 しかしながら、長瀬は少なくとも自分の忍術を後世に残す為にとそういう関係を求めてはいない。
 忍者の世知辛さは知っているし、間違っても自分の子にそんな思いはさせたくなかった。
 では、恋人として父親として乙姫むつきという人間はどうであろうか。

「教職という確かな職についているでござるし、生徒との関係も良好。職場含め、交友関係もわりと広いでござる。貯蓄はないと聞いたでござるが、拙者らが成人するまでまだ時があるので問題ないのでは?」
「なんか酷く現実的な批評を聞いた気がする」
「夢見がちな忍者なんていないでござるよ。複数の嫁や愛人がいる件については、良いのでは? お殿様や主殿は、妾が複数いるのが普通でござるし」
「相談相手を間違えた、決定的に」
「本人の前で失礼なことを言わないで欲しいでござる、お?」

 だらだらと二人でちょっと特殊なガールズトークをしていると、脱衣所に人の気配が。
 珍しくも二人でのくだらない会話もこれで終わりかとも思ったのだが。
 気配だけでなく、脱衣所での行いがばたばたと女性のものとは思えない。
 長瀬だけでなく、龍宮もそれに気づいたようで、このひかげ荘に現れる男は一人しかいない。
 しかし、この時間はまだ水泳部の顧問の時間ではと疑問に思っている間に答えは現れた。
 カラカラと引き戸をあけて現れたのは、肩にタオルを引っ掛け股間をさらして現れたむつきだ。
 そう言えば威風堂々な姿に聞こえるが、実際はカタカタと身体を震わせたお爺さんの様であった。

「先生、一体どうしたでござるか?」
「長瀬に龍宮、てか。胸を隠せ、胸を。なに堂々と見せてんだよ」

 長瀬が声をかけるとその存在に今気づいたようで、二人の巨乳を指さしながら注意してきた。
 嫁一杯の中で二人が混じっている時は良いが、二人しかいない時はNGらしい。
 妙に生真面目というか律儀というか、当の二人が気にしていないので今更隠しもしなかったが。
 むつきもそれどころではないと、錆びたブリキのおもちゃのような動きで脱衣所に戻り始める。

「先生、私たちは見られてもきにしないよ。それより、水泳部はどうしたんだい?」
「マジで、まじまじと見るぞ。やらしい視線で。あと水泳部は早退させて貰った。てか、プールに落ちるから来んなってありがたくも泣ける言葉を貰った」
「正直者でござるな。その体は千鶴殿のお手伝いのせいでござるか?」
「変な見栄はんなきゃ良かった。凄い疲れた上に、体が……明日、もっと凄いぞこれ」

 まるでではなく、お爺さんそのものの動きに笑ってしまいそうになる。
 ぷるぷると全身を震わせながらゆっくりと、だが確実に体の洗い場へと歩みを進めていく。
 しかしあの状態でちゃんと体が洗えるのか。
 仕方がないと笑い合った二人は、先ほどまでのガールズトークを忘れて立ち上がった。
 タオルは首に巻くだけにし、むつきに歩み寄って両側からその腕をとる。

「おわ、本当に堂々と。長瀬、おっぱいでっけえな。龍宮も先端だけピンクとかエロ過ぎだろ」
「このまま手を離しても良いでござるが」
「次から次へと生徒に、本当先生は飽きないというか懲りないというか」
「止めて、今更手を離さないで。絶対こけるから、頭打つから!」

 あっさり泣きを入れると、早過ぎと呆れられてしまったが。
 その代りちゃんと丁寧に洗い場の桶を温めた上で、座らせてくれた。
 本当要介護者のようで格好悪いが、二人は嫁ではないので多少恰好悪いと思われても良い気がする。
 二人にお礼を言って、肩にかけていたタオルで体を洗おうとすると取り上げられてしまう。
 取り上げたのは長瀬であり、そばにあった空の桶の中に放り込まれてしまった。
 むつきが手を伸ばしても届かない距離であり、長瀬の意図が分からない。

「なんだ、まさか背中流してくれるとか?」
「背中を流すだけで良いでござるか? 今なら出血大さーびす。拙者と真名が、前まで全部洗うでござるよ」
「マジで?!」
「おい、楓。行き成り何を」

 二人は嫁ではないがそれはそれ、可愛く綺麗な子が体を洗ってくれるならお願いしたいぐらいだ。
 しかも長瀬も龍宮もむつきが大好きな巨乳であり、自慢だった一物でさえ挟めそうなぐらい。
 今は挟むどころかまるごと包み込めそうで、思わず聞き返したのも納得である。
 龍宮が若干二の足を踏んでいるが、むつきは確定事項の様に喜んでいた。
 二人にどんな意図があるか全く考慮しておらず、良くこれで那波に焦るなとか言えたものだ。

「なんで私が」
「んー、案ずるより産むがやすし。拙者は友人思いでござるなあ」
「くっ、やはり相談するんじゃなかった。分かった、ただしお前が前だ。絶対、それは譲らんぞ」
「意地っ張りでござるな」

 なんのかんの文句を言いながら、背中を流すぐらいは龍宮も許容範囲らしい。
 先程までのガールズトークを後悔しつつも、自分のタオルにボディーソープを垂らし始める。
 その間に楓が一度むつきに掛け湯をし、龍宮は念入りにタオルを泡立ててからむつきの背中に触れた。
 しかし、そこからむつきの背中を流す為に、タオルが擦りあげていくことはなかった。
 何故なら、むつきの前にしゃがみ込んだ楓が自分の豊満な胸に直接ボディーソープを垂らしていたからだ。

「楓、お前一体なにを」
「殿方の体を流すなら当然では? おや、真名はタオル越しでござるか」
「長瀬、挑発してやんなって。龍宮、いやなら無理しなくても怒らねえって。折角タオル泡立ててくれたんだし、タオルだけ貸してくれ。自分でやるから」
「まさか、こういう場でも私を挑発してくるとは。良いだろう、やってやろうじゃないか。女は度胸、私はそうやって戦場を渡り歩いて来た。男女の戦場もまた同じだ」

 珍しく挑発的な長瀬の言葉に、龍宮はすっかりやる気のようだ。
 無理しなくてもとタオルくれと伸ばしたむつきの手は、私がやるとばかりに押し返される。
 そしてしゃがみ込んだ状態から一度立ち上がると、泡立てたタオルで自分を拭い始めた。
 良く日に焼けたような龍宮の褐色肌が、ボディーソープの白い泡に染まっていく光景は見ものだ。
 思わず振り返り眺めたむつきだが、即座にとんとんと胸先をつかれ振り返り直させられる。
 当然むつきの胸を指で突いて呼んだのは、正面にしゃがみ込んでいた長瀬であった。

「先生、こういうのはお好みでござるか?」
「おお!」

 思わずむつきが前のめりになったのは、長瀬の胸にあった。
 胸に垂らされた白いボディーソープが胸の谷間に染み込んでいく。
 それで終わりではなく、長瀬は両手で胸を擦り合わせてぬちゃぬちゃと泡立て始めた。
 パイ刷りのあとの精液をこねまわすように、若干泡立ちは足りないが胸の谷間を通ったボディソープはそのまま彼女のおへそまで垂れていった。
 勃起できないのが心底悔しくなるぐらい、エロイ光景である。

「先生、こちらも忘れて貰っては困る。私も結構あるだろう?」
「知ってた。風呂が一緒になるたび、時々チラ見してたからな」
「いけない先生だ」

 最初は戸惑っていたものの、少しは龍宮にも余裕が出て来たらしい。
 ぐにぐにと背中の上で形を変える乳房が、高給スポンジがへの河童に感じる程の柔らかさだ。
 あの褐色肌の上に実るピンクの突起が背中にこすれると想像が掻き立てられて良い。
 リズムよく乳房が背中で踊りながらも、彼女はハスキーボイスで耳元にささやいて来る。
 狙ってやっているかは不明だが、彼女もなかなかのやり手のようだ。
 女子中学生としてそれはどうだとも思うが、このマシュマロの為なら倫理観なんてくそくらえであった。

「真名も調子を取り戻したところで、拙者も出陣でござる」
「長瀬そんな、目の前で立たれたら見え。あっ」
「お爺とお婆以外は先生が初めてでござるよ」
「馬鹿、そんなところに座ったら」

 あろうことか、目の前でしゃがみ込み胸の谷間を見せていた長瀬が立ち上がったのだ。
 おへそまで流れたボディーソープどころか、濡れた茂みと混じるところまで。
 まだまだ長瀬の快進撃は止まらない。
 軽くよっと声を掛けるように足を上げて彼女はむつきの膝の上を跨いていった。
 がに股気味に、むつきの目の前でそうすれば自然と手を使わず割れた割れ目が目の前でくぱあする。
 そのまま見せつける様に長瀬はむつきの股間の上にパイルダーオンしてしまう。

「あれ、やっぱおかしい。お前らの魅惑のボディに思考が停止してたけど、なんで? そういや、俺お前らがひかげ荘でだらだらしてる理由知らねえや!」
「先生、美女が二人。蠱惑的に先生の体の上で舞う最中に無粋なことは不要でござるよ」
「馬鹿、乳首と乳首がこんにちは。俺の男の子とお前の女の子もこんにちはして」
「くノ一は殿方の籠絡のプロでござるよ」
「あっ、言われてみれば。このやり口、ソープの舞ちゃんそっくりだ!」

 あれだけ余裕しゃくやくだった長瀬が、対面座位で腰を振る様な動きをぴたりと止めた。
 やばいとむつきが失言に気づいてももう遅い。
 よりによって生徒の真心を、言っては悪いがソープ嬢と同一視してしまったのだから。

「真名……」
「ああ、今のは流石の私もカチンと来た。見せてやろうじゃないか、私たちの実力を」
「待って、ごめん。謝るから、お前らの方が断然綺麗。比べもんにならない、勃起できれば十万回孕ませてる。結婚しよう、真名。楓も」
「そんなその場を取り繕うような求婚は逆効果でござる!」

 霞のように膝上から消えた楓が、むつきの膝を掴んで横に弾く様に滑らせ回す。
 くるりと椅子の上で半回転したむつきは、目くじら立てる真名とのご対面であった。
 思わずごめんなさいと言おうとしたが、とんっとまたしても楓に背中を押された。
 その前も軽く触れられただけに感じたのに抗えない程に体に力が入らずされるがままだ。
 鉄砲の弾丸のように楓というハンマーに叩かれ真名の腕の中にすっぽりおさまった。
 かと思えば受け止めきれなかったように真名が背中からころんと倒れ込んだ。

「今ここで私が悲鳴をあげたら、どうなるかな?」
「止めてください、死んでしまいます」

 露天風呂の床で仰向けになった真名の上で、覆いかぶさる様な格好である。
 お互い生まれたままの姿で他にどのような言い訳があるだろうか、いやない。
 さらには駄目押しをするように、先程とは前後を逆にした形で楓がむつきの背中から覆いかぶさった。
 上半身だけでなく下半身も、さらに腕、足にと二人の美女が余すところなく絡みついて来た。
 しかもローション代わりに二人の体はボディーソープまみれ。
 ぬちゃぬちゃとヘビの交尾のように全身でむつきに絡み、触れ合わぬ場所がない程に肌を重ね合わせる。

「お、おぅ。ぁっ、お前ら処女のくせにこんなのどこで。はぁん」
「いや、私は割と年相応だが。楓は中身が古臭くて、仕込まれてるんだよ」
「何もできないマグロの真名に言われたくはないでござる。この程度、嗜みでござるよ」
「お前ら、俺の上と下で喧嘩すんな。小娘に良いように、悔しい。でもぉ!」

 真名と楓は言葉を、むつきには体だが、ぶつけ合いながら止まらない。
 むしろちょっと調子にも乗り始めているだろうか、なにせ二人ともこれが初めてだ。
 こんなにも密接に異性と肌を密着させることなど。
 むつきのあの言葉で多少頭に血が上っていたり、のぼせあがっていることもある。

「先生、思っていたより良い体しているじゃないか。超のプログラムか?」

 むつきの体の下で少し体をずらした真名が、大胸筋辺りに唇を這わせてくる。

「惜しいでござるな、幼少から鍛え続けていれば。締りとたるみの中間の筋肉でござる」

 大絶賛でこそないが、むつきのわき腹や腕、太ももに手を這わして褒めてくる。
 いや、褒め言葉としてはかなり微妙だったかもしれないが。
 ただ二人の美女に上から下から攻めたてられながらも、反対にむつきは落ち着く始めていた。
 そこまで深い間柄ではない二人にソープごっこされ舞い上がっていたのだ。
 しかし時間も経ち、さらに名前呼びすればむつきの中で彼女たちは嫁かセックスフレンド決定。
 だったらこれも可愛い恋人たちとの触れ合いの一つであり、大きな問題が肩にのしかかる。
 立たないのだ、これだけ体に快楽を感じてもピクリともしてくれないのだ。

「悪い、真名。それに楓も、ちょっとストップ良い?」

 ダウナーなむつきの言葉を聞き、真名も楓もちょっと調子に乗り過ぎたかなと我に返り始める。
 そっとむつきの顔を覗き込めば、傷ついたというより落ち込んだ表情であった。
 それで自分たちが傷つけたわけではなかったかとほっと安心もできない。
 思い出してみればガールズトーク中にもむつきの勃起不全は話題になっていた。
 真名は見えないが、楓が手探りで確認してみればやっぱり勃起はしていない。

「まだ恋人でもないのに、奉仕させて悪いけど。ここまでで良いや。サンキュー」
「先生……」
「いやさ、落ち込んでるけど。そういう姿を見せるのは嫁だけって決めたんだ。今ちょっと手を出しちゃったけど、生徒の前では普段の俺でいないとな」

 まだ馬乗りにされたままだが、心配そうに真名が声をかけても寂しげに微笑まれるだけだ。
 さらに、弱気を見せて愚痴るのは嫁だけだと、明確に告げられてしまう。
 やっと、やっとここで真名も自分を偽ることを止めようと腹を括れた。
 厳密な意味で真名はむつきには恋はしていない。
 けれど、超を含め彼女たちと平和を謳歌し、明るい未来を描こうとする姿は羨ましく思えていた。
 自分もその中に入りたいと、過去ばかり振り返り止まった時間の中に取り残されるのは嫌だ。
 かつての恋した男は男、忘れる必要はないが過去と割り切って新たな恋ぐらいしたい。
 そうやって腹が決まれば龍宮真名、幾戦の戦場にて生き延びて来た百戦錬磨の女葉柄である。
 例えそれが男女の戦場であろうと、負けるわけにはいかないのだ。

「て、おい真……龍宮」
「先生、今日から私は真名だ。先生のセックスフレンドの真名、次の良い男が見つかるまでの繋ぎにさせて貰うよ。だから先生も、都合の良い女として触れてくれえればよい」

 離れようとしたむつきを逆に抱きしめ、一気に嫁と言わなかったのは彼女なりの照れ隠しだろう。

「たく、女子中学生のくせになんて考えだ。言っておくが、俺はちょっとばかり嫉妬深くてな。仮にお前が他所を向いたら、全力で振り向かせるぞ。言葉だろうが、体だろうがあらゆるものを……ものを」

 使えねえよと、早速真名に弱気を見せたむつきだが忘れてはならない。
 ここには知識だけならもしかすると、ひかげ荘一の処女忍者がいることを。

「楓、私がお前に依頼する。なんでも良い、先生が少しでも自信を取り戻す何かはないか?!」
「んー、しばし……ふむ、あれなら」
「なにかあるのか?!」

 藁にもすがる気持ちで楓に振り返ったのは、尋ねた真名ではなくむつきであった。
 かつて馬鹿レンジャーに在籍していた楓であっても、お前忍者だろうとばかりに。

「拙者を信じ、全て任せて貰えるでござるか? 多少の羞恥は、耐えられると」
「頼む、俺は男としての自信を取り戻したい。なんでも良い、尻に指突っ込まれても我慢する!」
「では新たな恋人たちは絡み合うでござるよ。拙者はその準備を」

 むつきの気概のある声を前ににんにんと頷いた楓は二人の股座が見える位置にしゃがみ込んだ。
 二人の太ももを跨ぎ、その間にお尻を落とすように。

「真名、覚悟しろよ。絶対復活してあんあんいわせてやるからな」
「楽しみにしているよ、先生。けれど、私より先に予約済みの子がいるんじゃないのかい?」
「復活したその日に全員処女奪ってやるから安心しろ。真名、キスしようか」
「優しいな先生は、良いよ。ラブでなくライクでもするには十分だ」

 それを絶対にラブに昇華させてやると、むつきは真名の唇に自分の唇を重ね合わせた。
 真名の恋愛事情はしらないので最初は触れ合わせるだけ。
 そんな優しさが隙を生み出すように、真名の唇から舌が伸びて先手を許してしまった。
 真名もそういう攻撃的なタイプかと、だったら掛かって来いとばかりに受け入れる。
 荒々しく舐ってくる舌に応戦するように舌を絡ませ、また同時に体も。
 少しボディーソープが渇き始めていたが密着した個所は健在で、ぬるぬるとぬめり合う。
 愛液よりもよっぽど滑りが良く、黄色と褐色の肌の上で白い泡をたてあった。

「真名、真名の体すげえエロイ。いつか言われた通り、俺の精液で白く染め上げたい」
「おっ、お。背中がぞくぞくと、私を震え上がらせるなんて先生もなかなかやる」

 二人の絡み合いを股座で見つめていた楓もそろそろ動き出す。
 右手で上にいるむつきの玉袋を、左手で舌にいる真名の割れ目にそっと触れた。
 特に慣れない真名は敏感で、信じてはいても咄嗟に股を閉じて楓の手を止めてしまった。

「真名……拙者が信じられないでござるか?」
「それとこれは別だ。最初に触れたのが終生のライバルとは、お前の時は覚えていろ」
「拙者はまだ、なのでござるが。今は……」

 怯える様にゆっくり震えた膝が開いていくのを待って、楓は今度こそと手を伸ばした。
 右手はすでにむつきの玉袋を刺激するようにも見上げ、手の平の上で転がしている。
 丹念にゆっくりと射精の為の精液の製造率をあげるように。
 こっちも遅れてはと、逆利きの左手を器用に動かしまずは真名の縦筋をそっと指でなぞった。

「くぅ」
「真名、こっちに集中するんだ。俺を見ろ、楓はあれだ。設樂焼のたぬき的な、痛ぇっ!」
「おっと失礼」

 誰がたぬきかと一瞬刺激を強く送り過ぎたが、軽く謝罪してむつきへの愛撫を続けた。
 また真名の方はかなり優しく、何度も丁寧に立て過ぎを指先でなぞり続ける。
 女尊男卑でござると笑みを深めつつ、お湯でもボディーソープでもないものが滴るのを待った。
 弱弱しい刺激だが、今現在真名の体の上ではむつきが踊り狂っているのだ。
 かゆくなる程度の刺激でもやがて楓が待っていた愛液が真名の割れ目から石清水のごとく垂れて来た。

「真名、息んではいかんでござるよ」
「うるさい、あぅ」
「真名、こっち。俺の瞳を見ている間に終わるから」
「ブラックコーヒーが欲しいでござるな」

 ご馳走様と冗談を言いつつ、キスに忙しい二人の股座で楓は作業を続ける。
 むつきへの刺激は変わらず、愛液が染みて来た真名の割れ目に中指を淹れてさらに奥へ。
 なにぶん知識が先行しているだけなので文字通り手探りの部分もあるが探し当てた。
 真名の大事な部分への入り口、膣口を探し当てその入り口を指でなぞった。
 愛液を万遍なく塗りたくるように、丁寧に指先を一本の筆に見立てて輪郭をなぞる。

「んぅ、んっ。先生、先生も抱きしめて」
「怖くないぞ、真名。皆通り道だ、怖くない」
「私に怖い物なんて、ぁっぁぅ。あったかもしれない!」

 楓の中指が膣へと潜り込んだ瞬間、真名があっさり前言を撤回してきた。
 可愛いなもうとキスのあらしを見舞うむつきに対し、楓は弱点発見と鼻歌まじりだ。
 もちろん、楓もただ真名を虐めているだけではない。
 指に時折ひっかかる彼女の処女膜を破らぬよう、気を付けて中指で彼女を貫く。
 これから勃起していないとはいえ、むつきの一物を彼女に挿入するのだ。
 やわらかいので処女膜は大丈夫だろうが、せめてその時は正常にと間違って破らぬように。

「もう良い、キスは。んふぅ、ぁっ。先生!」
「まだ、もうあと千回。唇が擦り切れるまで。真名が俺に惚れるまで!」
「んーッ、楓急げ。窒息、先生にキスし殺ッ!」
「ちと早いでござるが、真名が限界でござるか。戦場で真名を恐れる輩に見せたいでござるよ。意外に男女の戦場ではへっぽこでござる」

 たわいもないと終生のライバルに生暖かい視線を送りつつ、楓は最後の仕上げに取り掛かった。
 丹念に真名の膣を愛撫し指で広げたので多少なら、処女膜を破らず強引に広げられる。
 今回楓が行うのは、お婆に習った手法を二つ使う。
 一つは老齢の下が役立たずとなった男を肉体で籠絡する為に、無理なく射精させる術。
 それから真名の肉体を使って、疑似的にガバまんを作り上げる術。
 こちらは若干用途が違い本来は締りを良くする為の術だが、筋肉を緩めてしまうのだ。

「二人とも、少し暴れるのは勘弁願うでござる。大人しく小鳥になるでござるよ」
「馬鹿、今の先生に」
「真名、真名ぁ!」
「んっ、いや。先生、キスは」

 本当に男女の戦場ではと忍び笑いしつつ、楓は実行に移した。
 中からではなく外、お腹から真名の膣を刺激し麻痺させ緩ませる。
 むつきの袋も長い時間かけて刺激したため、水が一杯入った水風船のようにたぷたぷだ。
 勘違いしやすいが、勃起不全だからといって射精ができないと同じ意味ではない。
 立たなくても袋を刺激し精液を貯め込んで、一物を刺激すれば最低限の射精はできるのだ。
 だから緩ませた真名の膣を指でくわっと開かせ、むつきの一物を誘導してふにゃった竿を設置した。
 勃起しなくても元々がサイズ的にも強化されたむつきの一物である。
 楓が手をはなせば真名の膣の緩みが戻り、むつきの一物をやんわりと咥えこんだ。

「こ、これうぁ!」
「何か、私の中に!」
「激しく腰を動かしては抜けてしまうでござる。先生、小刻みに。拙者も手伝うでござる。真名はできるだけ動かず、ただ先生のものを感じるでござるよ」

 楓に言われ自分たちの性器がどうなったか、二人ともしっかりと覚った。
 どうすれば良いか言われずとも、特にむつきは数日ぶりの挿入に感動して動けない。
 何度も感じた喪失感、どれだけ誘惑されても駄目だったのに、挿入することができた。
 完全な形ではなく、楓の秘技を借りてだが真名の柔らかく滑る膣の中に確かに自分がいる。
 また真名も処女膜が無事なままの初セックスに完全に腰が抜けそうになっていた。

「これがセックス、先生が私の中に」
「真名、ぐす。真名ぁ、絶対逃がさないからな。監禁してでも、逃がさないから」
「先生、なにを泣いて。嬉しく思う私もどこか壊れている」
「では最後の総仕上げ」

 二人の股座に座るだけでは足りないとばかりに、楓が二人の股座に伏せる形となる。
 おお卑猥、卑猥とばかりに二人の結合部に目をやり、普段は閉じている瞳をちょっとだけ開く。
 失敗は許されんと己を叱咤しながら、大きく口を開けた。
 忍びならば己の心を殺せとばかりに、舌を伸ばしぱんぱんに膨らんだむつきの玉袋に下から添える。
 変わらず口元を近づけながら、舌で手繰り寄せては皺がれた果実を口にぱくりと含んだ。

「おふぅ、か……楓」
「うぇっわのわを」
「分かった、分かったから。咥えて喋んな。真名、ごめんよ。抱いてる最中に他の子の名前を呼んで。お前だから、今俺が抱いてるのはお前だから」
「先生、もっと。楓より、私を私の名を」

 何故か妙に対抗心の強い二人だが、そんな疑問は後々とむつきは真名の名前を呼ぶ。
 真名の中で暴れられないまでも挿入したまま、せめてと彼女の唇を求めキスを繰り返す。
 真名も今度はその繰り返されるキスを拒まず、むしろ抱かれているのは私だと答え返していた。
 しかしながら、楓の舌技も侮れず玉袋がはち切れそうなぐらいである。
 懸命に舌で転がされ頬肉と唾液で揉みあげられ、破裂するか射精かの二択を迫られていた。

「爆発する、ちんこ爆発する。真名、もっと締めてくれ。お前の中で、中に出したい」
「私が、がばがばみたいに。こう、こうか、先生?」
「んーッ!」

 むつきのお願いに懸命に応えた真名であったが、それは悪手だと楓が叫ぶ。
 しかし玉袋を咥えながらでそれは難しく、折角の苦労が水の泡になろうとしていた。
 真名が膣を絞めようと力を込めれば、勃起していないむつきの一物が圧迫を受け押し出されていく。
 お互いそれを察知したらしいが、真名がだめだと力めば逆にそれは加速する。

「先生、だめだ。私の中からいなくならないでくれ」
「だめだ、逆らえない。嫌だ、出たくない。どうせ出るなら、真名の中に。ぁっ」
 叫んでいる途中でむつきが気が抜けるような声をあげた。
「ぁっ、んぅぁっ!」

 言葉にならない奇妙な悲鳴を上げながら、むつきの腰がぶるぶると震えていた。

「出て、私の中に熱いものが。先生、私の中に」
「出たぁ!」

 悦びを伴う最後の息みで、ついにぷるんとむつきは真名の膣から追い出されてしまった。
 ぶらんと外気に触れて揺れた一物は剛直さこそないものの、白い液体をまき散らしている。
 確かに真名の中に射精したことを示すように、吐き出された後も真名の褐色の肌を白く染めていく。
 勢いは最初だけで最後の方は真下にとろとろと吐き出すだけだが。
 玉袋を吐き出した楓が竿を支えて角度を決め、唾液にまみれた玉袋を握ると二射、三射と飛び出した。

「はは、出た。勃起は出来なかったけど、ちゃんと射精できた。俺まだ、男として死んでねえ」
「先生、なんていうか。激しくはなかったけど凄かった、確かに先生に男を感じたよ。やるじゃないか、私は先生の下で喘ぐしかなかった。完敗だ」
「真名、俺絶対勃起できるまで諦めないから。次こそ、お前が絶頂するまで頑張るから」
「期待しているよ、マイハニー」

 泣きながら胸に顔を埋めてくるむつきを受け止め、気取った呼び名でその頭にキスをする。

「楓も、気恥ずかしいが。良かったよ」
「依頼でござるからな、忍者の任務達成率は百パーセントでござる」
「ふん、私が協力的だったからさ。楓一人では無理な任務だ。私の蠱惑的な肉体があればこそ。逆の立場ならどうなっていたことか」
「それは聞き捨てならぬでござるな。拙者が真名に劣ると?」
「おっと、そう聞こえたかな。まあ、事実だが。マイハニーは、私に首ったけだ。私の名を呼びながら果てるその顔は、可愛いじゃないか。甘いはちみつ、良く言ったものだ」

 胸の先端にかかるむつきが放った白いはちみつを指で掬い取り、舌で舐めては真名がそう呟いた。
 勝ち誇ったその笑みは、女として一人の男を受け入れ癒した自信に満ち溢れている。
 確かに楓の技がなければ不可能だったが、女として肉体で受け入れた真名の功績も大きい。
 男と女の戦場で肉体の処女ではなく、精神的な処女を切った。
 だから私の方が上だと、真名は自信を持ってしゃくりあげるむつきを抱きしめる。

「まだ一戦終えたばかり、次の戦いでは拙者が先生を受け止めるでござる!」
「ふふ、かかったな楓。先生、次は楓が癒してくれるそうだ。女の体という、私たちという戦場を好きにかけめぐると良い」
「はっ、はかられた?!」
「ううぅ……楓ぇ!」

 口車に乗ってついつい楓も体を許すような発言をしてしまった。
 真名の体で泣いていたむつきも、少し落ち着きもう一人の功労者へと鼻水を垂らしながら振り返る。
 ゆっくりと真名にも支えられ立ち上がれば、垂れた一物からまだ精液がぽたぽたと滴り落ちていた。
 それだけでも普通引くのに、今のむつきは感動と感謝のあらしで顔が体液という体液にまみれている。

「先生、ちょっと待つでござる。いかん、教師と生徒という以前にその顔は……」
「楓にもやくぞくずる。おではおでは!」
「なに弁でござるか、いや。近づいては、いやぁ!」

 ぶらぶらしながら駆け寄ってくるむつきに、女の子らしい悲鳴とともにビンタが炸裂する。
 それでも幸せそうな笑みを浮かべながら、むつきはざぶんと露天風呂に落ちた。

「いやあって、あの楓が。気弱な少女のように、いやあってビンタ、ひぃ。さすがマイハニー、私にさえ不可能なことをしてくれる。お腹痛い!」
「あ、あれは。真名こそ、先ほど先生にキスされた時に、言っていたでこざるよ!」
「何時私がお前の様な軟弱な、何時何分何秒!」
「何処の小学生でござるか。決着、つけるでござるか?」
「マイハニーの精を中で受けたこともないくせに、勝てると思うなよ楓」

 二人ともいつもの調子で武器を取り出すのは良いが、そのマイハニーことむつきは温泉に沈んだままだ。
 彼が二人に思い出して貰え助け出されるのは、もう少し後のことであった。









-後書き-
ども、投稿続きます。



[36639] 第百十二話 私も乙姫先生に恋をしたみたいですわ
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/05/17 20:25

第百十二話 私も乙姫先生に恋をしたみたいですわ

 週明けの月曜日、人々が一番後ろ向きになる曜日でも二-Aは元気なものだ。
 教室に入るなり時々肉まんの匂いがすれば一個頂戴と、四葉に声が飛ぶなどざらである。
 しかしこの日ばかりは、教室に漂う匂いは中華ではなく甘い果物の香りであった。
 誰も彼もが教室に踏み込むたびにそれに気づいてはふんふんと鼻を鳴らす。
 そしていか程も時間を使わずに、その発生源が何処であるか特定してしまう。
 匂いだけでなく、その机周辺に人だかりができていれば特定も容易というものだ。

「ちづる、皆で食べる為に持ってきたんじゃないの。食べようよ!」
「朝ごはんは食べて来たけど、甘いものは別腹ですよ」
「ごめんね、風香ちゃん史伽ちゃん。これはあげられないのよ」

 ぴょんぴょん机の周りを飛び跳ねる鳴滝姉妹へと、穏やかに笑みを浮かべながら那波が謝罪する。
 彼女の机の上に置かれているのは、多少時間は経っているがまだまだできたて香りが強いアップルパイだ。
 土曜日のあの後に、院長から教えて貰った特性アップルパイを早速焼いて来たのだ。
 それならさっさとむつきに渡せば良いのだが、彼女なりのケジメの為にある子を待っていた。

「匂いで分かりますが、普通のアップルパイでは。なにか特別な隠し味が」
「ふふ、もちろんよ五月ちゃん。たっぷり愛情がこもってるから」
「なるほど、いけませんね。私としたことがそんな初歩的なことを」
「五月ちゃんにお料理関係で一本とれるなんて幸先が良いわ」

 隣の席の四葉との会話も弾んだようで、那波が上機嫌なのは誰の目にも明らかだ。
 しかも、わざわざ作って学校に持ってきたのに、周囲に配らないのも意味深である。
 勘の鋭い者でなくても、なんとなく察せられるというものであった。

「おうおう、クラスでもトップクラスのスタイルの那波が恋のスイッチ入っちゃってるね」
「そうなんですか、朝倉さん?」
「ほほう、アレが恋する乙女の。さっぱりわからんでござるな」

 村上の言う通り、時々物憂げにしながらも瞳を輝かせる那波を和美が写真に収めた。
 その恋の相手が誰かなんてわかりきってるでしょと、とぼけたさよにデジカメの写真を見せる。
 もちろん今しがた撮った那波ではなく、和美秘蔵のむつきが珍しくキリッとしている時の写真だ。
 目論見通り、さよも早速恋する乙女の瞳をしたので、写真に収めてた。
 そんなさよと那波の写真を見比べさせ、にぶちんなさよと楓に実写で解説である。
 楓は酷く微妙な顔をしたが、さよはぽっと頬に赤い花を咲かせて両手で押さえていた。
 自分がこんな乙女な瞳で普段むつきを見つめていたのかと。

「いやあ、今のちづ姉を見れば普通の女の子ならわかると思うんだけど。時々物憂げに虚空を見上げたり、でもなんで。私結局、例の作戦実行できなかったのに」

 三人の会話に耳を傾けつつ、村上がちょこっと首をかしげてもいる。
 そんな風に那波が話題の中心にいると、ようやく彼女の目的の人物が教室に飛び込んできた。

「いやあ、間に合った間に合った。久しぶりに走った、三キロ痩せたわ」
「あんたは三キロぐらいじゃ足んないでしょ」
「うわあ、明日菜辛辣やわ。でもパルはおっぱい大きいから羨ましいわ」
「というかそのスタイルで胸も大きい明日菜さんが最強なのでは」

 それは油断したわき腹の肉を自分で摘まんで笑っている早乙女ではない。
 彼女の後ろから夕映と一緒にひいひい言いながら駆け込んできた宮崎である。
 普段このように駆け込んでくるのは、神楽坂やその同室の木乃香、それから刹那なのだが。
 既に教室でゆっくりとおしゃべり中で、早乙女を肴に継続中だ。
 今日ばかりは、なにがあったのか遅刻寸前で飛び込んできたのは彼女たちであった。
 図書館探検部と言えど純粋な身体能力が低い夕映と宮崎は、膝に手をついて息を整え中である。
 ようやく息を整え終わったのちに二人が顔を上げると、目の前には那波が微笑んでいた。

「おはようございます、本屋ちゃん。いえ、のどかさん」
「はえ、おは……おはようございます、那波さん」
「おはようござます?」

 何故か名前を呼ばれたのは宮崎だけであり、夕映が何故と二人を見比べている。
 本屋とあだ名を呼んだ直後に、わざわざ本名を呼び直したのもなんだか意味深だ。

「おー、なんか良い匂い。朝ごはん食いっぱぐれて、ぐはっ! なんというトラップ。甘いアップルパイの様な匂いかと思ったら、濃厚過ぎるラブ臭に鼻が千切れるぅ!」

 那波の席のアップルパイに近づき、鼻を押さえながら悶絶した早乙女は皆完全無視であった。
 上機嫌でアップルパイを持ってきた那波が、ついに動いたのだ。
 しかも半ば予想していたことだが、彼女が立ち上がり動いた先にいたのは宮崎である。
 これはっと手に汗握りながら、ごくりと唾をのみ込み成り行きを見守り始めた。

「のどかさん、私も乙姫先生に恋をしたみたいですわ」
「はへ?」

 突然の那波の告白に目をまんまるに、宮崎は固まってしまっていた。
 そして数秒後、彼女が現実に返るよりも先に、周りの方が大騒ぎであった。
 いや、面白がる声の方が色々な意味で多かったか。

「ほほう、むつきをね。目下身近なライバルに戦線布告とは小気味好い」
「私もそういうのは嫌いじゃないな」
「良いぞー、もっとやれ。本屋ちゃんも負けるな、言い返せ!」
「イイカエセー」

 エヴァはこれでまたむつきを取り合える良いライバルが増えそうだと笑っている。
 つい先日参戦したばかりの真名も、張り合いは多い方が良いと笑みを深めていた。
 美砂はある意味で通常営業、遠い目で棒読みなのは釘宮であった。
 どうなってんのこれと世の不思議について色々と覚りかねない目である。
 周囲が面白がる反面、突然の告白に目の前が真っ白になった宮崎はまだ返ってきていない。

「のどか、しっかりするです。ライバルとしては強力ですが、負けていませんよ」
「ゆえゆえ~、どうしよ~」

 夕映に揺り動かされ、目をぐるぐるさせながらなんとか意識を取り戻すのが精一杯の様子だ。

「のどかさん、これは宣戦布告ですわ。この程度で狼狽えていては、本当の強敵に勝てませんわ。ですわね、エヴァンジェリンさん」
「当たり前だ、私の姉は強敵だぞ。容姿端麗頭脳明晰、年齢というつり合いも取れていてそれはもう仲睦まじく、お前たちが入る隙間などないぐらいだ」
「マスター、自画自賛もそこまでいけばむしろすがすがしい」
「やかましい!」

 ぺちんとエヴァが絡繰を叩いた意味は、周囲に殆ど意味は伝わらなかったが。
 むしろ周囲の視線は顔をこれまでとは別の意味で蒼白にした宮崎にあった。

「ゆえゆえ……わ、忘れてた。先生、付き合ってる人が」
「のどかさん、その程度で怯んでどうするんです。私は諦めません、この恋を。例え障害があろうとも、この気持ちは止められません」
「あうっ……」

 初恋に舞い上がってすっかりむつきの恋人の存在を忘れていたらしい。
 さらに畳みかけるように、那波が恋を貫く恋の意志を見せつけてきたため自然と後ろに足が引いた。
 気圧される、気合を入れてアップにして分けて来た前髪がぱさりと落ちそうになるぐらいに。
 おろおろと、助けを求める様に夕映に視線がむきそうになる宮崎を真っ直ぐ那波が見つめてくる。
 穏やかで他者を包み込む彼女らしからぬ、今の宮崎をむしろ突き放すような厳しい目だ。
 しかしそれは逆に、那波が言葉通りその恋の為に引かぬという強力な意志の表れでもあった。
 一瞬にして覚らされる、自分よりも強い意志で強い気持ちでむつきに恋していると。

「い……だ」

 仕方がない、自分よりも綺麗で大人っぽい那波になら負けてもと認めそうになった。
 那波なら、アタナシアならこんなちっぽけな自分が勝てるわけと。
 戦う以前から負けそうになった宮崎が思い出したのは、自分に笑いかけてくれるむつきだ。
 上手く喋れなくても、慌てて言葉にならない言葉をぶつけても、きちんと聞いて返してくれる。

「嫌、諦めたくない。私も好き、乙姫先生が好きだから。だから、負けません。那波さんにも、アタナシアさんにも誰にも!」

 仕方がなくなんてない、諦めるなんて考えられないと未だ頭は真っ白だがそんな言葉が飛び出していた。
 先程飛び込んで来た時よりも呼吸は乱れふらふらだが、真っ直ぐ那波を見つめながら。
 彼女の宣戦布告にびっくりするぐらい、強い口調で受け止められた。

「ではお互い精一杯頑張りましょう。悔いのないよう、この素敵な恋を」
「はい、よろしくお願いします」

 にっこり笑った那波に差し出された手を取り、頭をさげた宮崎を見て誰もが脱力せずにはいられなかった。
 例えライバル宣言をされ、負けないと言ったのに腰が低いというか。
 根本的に宮崎は宮崎であるらしい。
 ただ気弱にしか見えない彼女にも、恋にぶつかる強さはしっかり備わっていた。
 若干、はっぱをかける様に那波が誘導したようにも見えたが、それを乗り越えたのは彼女の強さだ。

「おーい、普段よりちょい騒がしいな。席につけーい、出席とるぞ」

 だから普段通りのんびりやって来たむつきへと、こいつもこいつでと視線が跳んだ。

「乙姫先生、なにを呑気に。今の本屋ちゃんの本気聞いてなかったの? あと、相談あるからお昼に時間頂戴! それから高畑先生は、貰った予定表は今日来るはずなんだけど?!」
「おわ、一度に言うな叫ぶな神楽坂。あいよ、お昼休みな。あと高畑先生は緊急出超だってよ。てか、なんか甘くて良い匂いしねえ?」
「先生、これ先日のお礼のアップルパイです。とはいえ、先生お一人にとなれば角が立つでしょうから職員室の先生方で分けて頂くとよろしいかと」
「あっ、これ院長さんが作ってくれたのと同じ匂いだ。おう、ありがたく頂くぞ。気遣いも聞いてて、うん。良い恋してそうだな。おーっし、今度こそ出席を」

 那波からあっさりアップルパイを受け取り、良い事だと出席簿を開いたのだが。

「先生、私も好きアル!」
「なんだ古、唐突だな。はいはい、古は出席っと」
「先生、私も彼女に立候補!」
「私も?」
「椎名と大河内も出席っと、他には」

 突然席を立って叫んだ古の今更の告白はあっさりスルー。
 続く桜子とアキラの告白も、フェイクみたいなものなので同じくスルー。
 乙女の告白を何だと思っているのだという一部の視線もスルー。

「では、私も先生の恋人に立候補します」
「はいはいって誰だ、聞き覚えのない声……ん? ザジ?」
「お恥ずかしながらお慕い申し上げます。先生の為に、夏休みの間に必死に日本語を勉強いたしました。夏休みデビューというものを狙ってみました」

 さらに一人の少女が挙手をしながら立ち上がり、鈴が鳴る様な声での立候補だ。
 これまたスルーしようとしたむつきだが、声に聞き覚えがなく出席簿から顔をあげた。
 古と桜子、アキラと立っているが、他に立ち上がっているのはザジ一人。
 いやまさかと出席簿に再び目を落としてからの二度見であった。
 そこへタイミング良く、私ですとのザジのアピールに我が目を疑う。

「シャベッタァァァ、あとデビュー遅え。もう既に一週間経ってるじゃねえか!」 
「ザジさんってあんな可愛らしい声やったん?! 何時も単語しか喋らへんからわからへんかった!」
「あら、知りませんでしたの? ザジさんは元より、あのような耳に心地よいお声ですわよ。先生の為に異国の言葉を完ぺきにするとは、まさに至上の愛。この雪広あやか感服いたしましたわ」
「し、死ぬ……ラブ臭に溺れて溺死できるなんて。こんな幸せなことはない」

 いつも通りの早乙女は良いとして、亜子の皆を代表する言葉にあやかが当然とばかりに応えていた。
 思い返してみればあやかだけは彼女の母国語がわかり、普通に会話していたはずだ。
 しかも正統派過ぎる日本語を学んだのか、どことなくお嬢様っぽい喋り方だ。
 あやかや那波に近い、正直にいうとちょっとむつき好みの高嶺の花っぽい。
 褐色肌に銀髪、ピエロの化粧が目元に残っているがこうしてみるとどこかのお姫様に見えなくもない。
 いやまさか、さすがにそこまで特殊な人間集めないだろうと、むつきはちょっと気を抜き過ぎていた。「煩いぞ、ホームルーム中に何を騒いでいる!」

「わっ、新田先生。これは違うんです」
「乙姫君、後で少し」
「新田先生、ごきげんよう。少しお待ちいただけますか?」

 怒鳴り込んできた新田が早速むつきに狙いを定めた時、ザジが一回転ひねりを加えながら前に文字通り飛び込んできた。
 そのまま軽くスカートを持ち上げ、高貴っぽさを演出しながら新田に挨拶をする。
 さすがの新田もザジに普通に話しかけられ、数秒間固まっていた。
 しかし根性で我に返ると、ずり落ちた眼鏡を直しながら普段通りの彼を取り戻す。

「すまない、少々驚いてしまって。ザジ君、夏休みの間によほど日本語を勉強したのだろう。頑張ったね」
「はい、ありがとうございます。ですが、そのせいで乙姫先生や皆さんを驚かせてしまったようで」
「むっ、そうなのか。そらなら多少……ザジ君の頑張りに免じて見逃そう。乙姫君、しっかり頼むよ」

 さすがにザジに普通に話しかけられることへの理解を示し、今回ばかりはおとがめなしだった。
 本当に最近新田からの好感度が駄々落ちなので、なんとかしたいところだ。
 とはいえ地道にやるしかないので、ザジに席につけと促した。
 だから何故跳ぶ、ひねりをいれると突っ込みたいぐらい、羽根の様な軽やかさで彼女が席に着く。
 それを見届けてから、改めて出席を取り始めた。
 なんだか朝から色々あった気がしたが、むつきは手早く出席をとって連絡事項を伝える。
 これでおしまいと、手早く逃げるように背中に突き刺さる視線を感じながら教室を後にした。
 当然ながら、ザジの件を含めて教室は大騒ぎであったが。









 四限目終了の鐘が鳴った時、むつきは職員室のデスクで仕事をしていた。
 切りの良いところまでなんてデスクにしがみつくことなく、鐘がなったやったとペンを放り出す。
 この辺りが新田に言わせれば学生気分の片鱗なのだろうが、若者なんてそんなものだ。
 座りっぱなしだったため、軽く伸びをして体をほぐすと鞄の中からさよのお弁当を取り出した。
 今日はどんなおかずかなと楽しみにしながら、席を立とうとすると携帯電話が鳴った。
 誰だろうと液晶画面を見てみると、珍しいことにむつみの名が浮かび上がっていた。
 例の旅行以来ではなかろうか、神楽坂との約束はあるが受話ボタンを押す。

「もしもし」
「むっくん、おひさしぶり。あのね、むっくんにお願いがあるの」
「藪から棒に、姉ちゃんのお願いってなにさ?」

 お昼の誘いに来た瀬流彦に弁当を掲げて見せながら、突然のむつみの言葉を聞き返す。
 弁当に続き、瀬流彦が絶望からさらにヤクザキックを受けたような顔だがそれは後だ。

「あのね、麻帆良に日向喫茶の二号店を出すお話したでしょ。ひかげ荘の周辺にまだ、お爺ちゃんの土地があるみたいで見てみたいの。案内してくれると嬉しいな」
「姉ちゃん一人じゃ、たどり着けないしな。次の休みで良い?」
「ありがとう、むっくん。私は問題ないわよ」
「その代りなんだけど、俺からも姉ちゃんに頼みがあってさ。同僚の先生に女の子紹介してあげたいんだけど、姉ちゃんに年頃の女の子の知り合いいない」

 とぼとぼと肩を落として去っていったはずの瀬流彦が、ばっと振り返る。
 片膝ついてひざまずくようにし、敬謙なクリスチャンのように両手を重ね合わせていた。
 今にも以前冗談で春日が言ったように、メシアとでも言いたげなジェスチャーであった。
 周囲の視線を何事かと集めているが、これっぽっちも気にした様子はない。

「三人ぐらい心当たりあるわ。皆とっても良い子よ。でも私みたいにけー君との恋を引きずっちゃって」
「けー君……責任ぐらいとってけよ。瀬流彦先生には好都合だけど。ならそっちは、来週合った時にでも」
「はーい、むっくんまたね」

 ぶつりと携帯が切れたところで、祈りをささげていた瀬流彦にやや嫌々振り返った。

「三人ぐらい姉ちゃんに心当たりがあるようですけど、合コン行きます?」
「なにをおっしゃるメシア。僕が貴方の好意を無にするとでも? お弁当美味そうっすね、恋人のお弁当が毎日食べられるなんてうらやましい。よっ、果報者」
「まーた、瀬流彦先生が面白いことに。なにがあったんです、飯屋?」
「二ノ宮先生、親父ギャグ飛ばしながら俺の大事な弁当奪おうとしないでくださいよ。合コンですよ、合コン。姉ちゃんに聞いたら、年頃の子が三人ぐらい心当たりあるって」

 ああ、それでと可哀想なモノを見る目つきで、むつきに媚び媚びな瀬流彦を二ノ宮が眺めた。
 むつきも男に媚びられてもうれしくないし、神楽坂との約束もある。
 瀬流彦が震える手で淹れてくれたお茶は、そのまま隣の二ノ宮にパス。
 しかしコーヒー党の彼女もパスして結局瀬流彦自身の机へ、ただの流れ作業だ。
 もはや、自分のお茶を僕にと、なんてお慈悲と拝む瀬流彦はほうっておこう。
 二ノ宮も言っていたが色々な意味で面白いので。

「んじゃ、詳細決まったら知らせます。たぶん、来週の休みには」
「はっ、メシアの御心のままに」
「なんていうか、それ流行ってんですか。うちの春日と同レベルですよ」
「微妙にショックだった」

 それで素に戻られた春日もショックだと思うが、瀬流彦も少しは冷静になって席に着いた。
 市販のお弁当を前に、貴様との腐れ縁もこれまでだと恨みを晴らさんとばかりに食べ始める。
 二ノ宮も菓子パン片手にコーヒーと携帯電話を手にし始めたので職員室を後にする。
 向かった先は、食堂でも教室でもない。
 今朝のザジの公開告白のせいでむつきが行くと騒がしいのだ。
 おかげでその件はクラスのみならず学年に広がったようで、歩いているだけで視線が突き刺さる。
 なので水泳部顧問の特権を最大限に利用させて貰うことにした。
 校舎を出て残暑の日差しの下に出で、温水プールのある体育館方面へ。
 日差しで弁当が温くなるななど考えつつ体育館前までやってくると、その日影に三人の人影が。

「おう、お待たせ。悪いな、こんなところまで足を運ばせて。食堂とか、教室だと五月蠅いだろうから」

 むつきがお弁当を掲げながら声を掛けたのは、神楽坂に木乃香、そして刹那。
 最近良く一緒にいることが多い三人トリオである。
 確か最近、神楽坂も刹那もお互いをなんとなく名前で呼び始めていたような気もした。
 何時までも苗字呼びでは余所余所しいだろう、友達の少ない刹那には喜ばしいことだ。
 そんな三人トリオに声を掛けたは良いが、その視線がなんだかむつきからズレているように思えた。

「先生、隣見て。隣、説得力ないから」
「とな、うぇ。ザジ、お前何時からいた?!」
「ええ、ずっと。というのは冗談で、校舎を離れていく先生にたまたま気づきました。お昼をご一緒するチャンスかと。お邪魔でしたか?」

 どこかで聞いたような台詞をしれっと言われたが、真相はある意味彼女らしい理由だった。
 彼女の手にはコンビニの物らしきビニール袋が下げられている。
 神楽坂の相談があるとはいえ、だからと言って帰れとも言い辛いし、言う理由がない。
 一応神楽坂に視線を向けると、許可というより責任とんなさい的な視線を向けられた。

「とりあえず、誰かにみつからないうちにさっさと中にはいるぞ」

 体育館の特に温水プールは、許可がない限りは生徒は勝手に使用してはならない。
 というルールだけで止められないので、出入り口から普段は鍵がかけられている。
 当然、水泳部顧問であるむつきはその鍵を持っており、開けるなり神楽坂たちを押し込んだ。
 後から周囲を伺いつつむつきも侵入し、中からしっかりと鍵をかけておいた。
 そこからさらに向かった先は、むつきの部屋とも言える監督室である。
 普段からアキラや亜子、小瀬とイチャイチャしているので色々と取り揃えてあった。
 最初はデスクと資料棚ぐらいだったのだが、ポットにコーヒーやお茶の葉は当たり前。
 小瀬が何処からかソファーやテーブルを持ち込み、仮に他校との練習試合に顧問が訪れても大丈夫なぐらいだ。
 そのソファーが何に使われているかは、察するべきだろう。
 サイズは小さいがテレビまであり、くつろぐには十分な空間ができてしまっている。

「先生、やりたい放題やえ。お爺ちゃんにバレたらあかんちゃう、これ」
「刀子お姉ちゃんも監督室持ってますけれど、ここまででは……」
「美術部に顧問の部屋なんてないわよ。なにしに、学校に来てんだか」
「ぼろくそ言うな、特に神楽坂。そういうお前は、ちゃんと勉強しに来てるか?」

 むつきの返しに藪蛇だったと、神楽坂の視線がそれていく。
 そこは当たり前でしょと返すべき場所だと思うのだが。
 神楽坂はその為にも、決断するべきことがあると四人にそれぞれソファーを勧めた。
 当然のようにザジがむつきの隣に座ってきたが、もはや何もいうまい。
 とりあえず空腹のお腹に各自持ってきたお弁当やパンをかじり、軽くお腹を満たしてから切り出した。

「で、悩みってのはアレだろ。特待生の」
「うん、試しにやってみようかなって。駄目で元々、折角高畑先生と学園長が教えてくれたんだし」

 実際考えて提案したのはむつきだが、俺がと主張するまでもないことである。

「駄目でとか、明日菜やったら大抵の運動は間違いなしやえ?」
「通学中、お嬢様のローラーブレードと普通に併走されてますからね。体育でも陸上部の春日さんと普通に競り合ったり、地区大会ぐらいは余裕では?」
「やるからには一番を狙うけど。それで、何処の部活に入れば良いのかわかんなくて」

 麻帆良学園は同好会も含めれば、多種多様過ぎる部活が存在する。
 楓や鳴滝姉妹のさんぽ部や、木乃香や夕映、宮崎に早乙女が所属する図書館探検部など。
 これらは少し極端な例だが、神楽坂が入るべきは世間一般的な運動部だ。
 例えば、今少し話に出た陸上部、むつきが実は入って欲しいと願っている水泳部などなど。
 それでも両手が数えきれないぐらいに部活は存在し、目移りしてしまうのだろう。

「そういう時は、自分がどんな部活に入らなきゃいけないか考えるんだよ。まず個人競技だろ?」

 まず忘れちゃいけない大前提を例としてむつきがあげた。

「あっ、そうだったわね。チーム競技はちょっと難しそうだし」
「折角の神楽坂さんの身体能力を生かせぬまま、足を引っ張られる可能性もあります。あとレギュラーを奪ってしまった場合の報復等、面倒なことがあります」
「ザジちゃん、オブラートや。オブラートに包むんや」
「意外に毒舌ですね」

 それほどでもとにこりと笑ったザジはさておき。

「他に、金がかかりそうなのもアウトだろ。テニスとか、剣道も一式そろえると相当だろ?」
「剣道は確かに。少しかかりますね」
「アーチェリーとか、道具は貸し出してくれる部活ならええんちゃうん?」
「あー、別の意味でそれアウトだな」

 木乃香がそれならと良さげな案をだしてくれたが、むつきはきっぱり意見を払いのける。

「そういう技巧的なのは、神楽坂の身体能力を生かせないだろ。時間的な問題もあるし、ある程度力技で記録をもぎ取れるのが良い。純粋な身体能力で、タイムを競うような」
「となれば、陸上部か水泳部です。私なら水泳部を押します」
「ザジちゃん、その心は?」
「先生が顧問で大河内さんが部長、和泉さんがマネージャ。クラスの関係者がそろっています。それに、大河内さんと神楽坂さんは体系が似ています。彼女のお古の水着があれば、購入の必要もないです」

 言い出しにくかった勧誘を、ザジがいかにもな感じで神楽坂に勧めてくれた。
 神楽坂自身も改めてザジの言葉を反芻し、確かにと顎に手をかけて頷いている。
 思わずナイス、ナイスと叫びながらザジを撫で繰り回したくなったが我慢、我慢であった。
 狙い通りでしょうと密かにザジに微笑まれた時は、少し頬が引きつりそうになったが。

「か、神楽坂。今ここで決めなくても、部活見学してからって手もあるぞ。今日の放課後、一度水泳部を見に来るか? 試合じゃないんだから、体育の水泳着でも問題ないし」
「なら、一度見に来ようかな。全国六位のアキラちゃんがいるし、自分がやっていけるか良い目標になるわよね。先生、放課後お世話になるわ」
「ん、大河内達には俺から伝えとくよ」
「水泳部か……」

 自分が入部、もしくは見学時のことを想像したのか神楽坂がソファーを立って窓際に歩み寄った。
 水泳部の監督室には大きなマジックミラーの窓があり、プール全域を見渡すことができる。
 今は無人なので水は静かに冬の湖面のようになっていた。
 神楽坂の視線が窓の向こうのプールに注がれているところで、くいっとスーツの袖を引っ張られる。
 隣に座っていたザジのものであり、むつきの内心を知っていたかのようにグッと親指を立てられた。
 今一度、神楽坂が窓の向こうをみているのを確認して、ザジの頭をくしゃっと撫でてやった。
 されたザジも、最初はきょとんとしていたがやがてにこりと笑い返してきた。

「あっ、ええな」
「さて、あまり長いしてはご迷惑でしょうしお暇しましょう」

 羨ましそうな木乃香の呟きを聞くや否や、いきなり立ち上がった刹那が手をパチンと叩いて言った。
 本当に突然のことで、プールの水の波間に思いをはせていた神楽坂はビクリと振り返っていた。

「それもそうね、どうせ放課後来るんだし。誰かにみつからないうちに戻らないと。特に那波さんや本屋ちゃんに変な誤解されてもね」
「あ、ですがこのちゃんは別途、先生に相談ごとがあるとか。内密とのことなので、ザジさんも」
「わかりました。その前に、先生こちらに少しお立ちになっていただけますか?」

 刹那の微妙な剣幕にその意図はありありと分かるのだが、意外にザジがあっさり引いた。
 しかしまた同時に奇妙なお願いをされもする。
 ザジに手を引かれむつきが席を立つと、ザジはその背後に回り込んだ。
 まるで影踏みをするように、むつきの影の上に立つと軽くステップを踏む様にパンパンと足を鳴らす。
 一体なにをしているのか、軽く振り返ったむつきへと彼女は笑い掛けながら言った。

「困った時は、私の友達が助けてくれます」
「お、おう?」

 二-A以外に友達いるのかと一瞬失礼なことを聞きかけたが。
 ザジは早くと急かす刹那に背中を押され、神楽坂ともども監督室を後にした。
 残されたのは、部屋の主のむつきと特に相談ごとがあると刹那が言った木乃香であった。
 しかしその当人は、いきなり刹那に置いてきぼりにされてぽかんとしている。
 そしてむつきと目が合うとてへへと照れ笑いした。
 一先ずむつきは、監督室の部屋の鍵をしてから改めてソファーに座って両足を大きく広げた。
 電車で自分を大きく見せたい高校生ではなく、その広げた足の間、小さな隙間をぽんぽんと叩く。
 その意味を察した木乃香が照れ笑いを継続しながら、近寄ってきては勢いをつけて座り込んだ。
 むつきの胸に背中や頭を預けると、上を見上げるようにして言った。

「せっちゃんに気を使わせてまった。先生、うちもザジちゃんみたいに撫でてや」
「あいよ」

 言われた通り、歪み一つない大和撫子な木乃香の黒髪に指を通すように撫でつけた。
 きゅっと一度体を縮めた木乃香は、むつきの手に力を吸い取られたように脱力していく。
 そのままソファーから滑り落ちそうになるぐらいであり、むつきはもう片方の腕をお腹に回した。
 食後なのであまりお腹を押さえるのもかわいそうなので、ふわりと触れるだけだ。

「ほわぁ、幸せやえ。お腹一杯、せっちゃんかわええ、明日菜にこにこ、先生エッチ」
「そんなことをいう奴は、こうだ」
「やっ」

 スカートからシャツの裾をたぐり、見えた肌色とすぼまりへと手のひらを当てて撫でつける。
 木乃香が駄目と手を塞ごうと間に合わず、すべすべのお腹とおへそを指でつつく。

「んぅ、お腹壊すからおへそはあかんえ。それに食べたあとやから」
「あっ、きゅるきゅる言った」
「むぅー、そんなこと言う先生なんてしらへん」

 一定以上の好意を抱く相手とはいえ、やはり女の子はお腹の音なんて聞かれたくないのだろう。
 頬を膨らませぷいっとそっぽを向いた木乃香が、文字通りへそをまげてしまった。
 ちょっとまずかったかなと、お腹に障るのを止めてぎゅっと抱きしめる。
 少しだけこちらを向いてくれたが、まだお姫様の機嫌は直りそうにはない。
 ちらっと時計を見ると、そろそろお昼休みも残すところ十五分弱といったところか。
 このまま木乃香が不機嫌のまま微妙な気持ちでお別れするのは、寂し過ぎる。

「木乃香、貴重な時間だから機嫌直してくれよ。俺が悪かった」
「親しき仲にも礼儀ありやえ。んー、ほんならうちが喜ぶ一言を言ってくれたら機嫌なおしたる」
「例えば?」
「教えたら意味あらへんえ。先生がちゃーんと考えて、心を込めてくれたらええよ」

 そんなことを言われても、言葉一つで人を喜ばせるのなんてなかなか難しい。
 ただここで何かを買ってあげるとか言ったら、絶対怒らせそうなのは分かる。
 また、刹那とお似合いだとか仲良しだねとか言っても喜びはしそうだが、なにか違う。
 うんうん唸っていると、抱きかかえている木乃香がちらちらと振り返ることが多くなった。
 なし崩し的にと出来そうなものだが、折角なので木乃香を喜ばせてみよう。
 その為に、改めて木乃香をギュッと抱きしめそっぽをむいた頬に頬ずりするよう頬を合わせた。

「木乃香、大好き」

 ささやく様にだがはっきりと、好意を伝えるために簡潔に呟いたわけだが。
 なんかこう改まって言うと、無茶苦茶恥ずかしくなって来た。
 しかも喜ぶ言葉を言ってと言われ、それで告白とか、自意識過剰すぎないだろうか。

「ごめん、今のなし。なにそれ、馬鹿じゃないの。ああ……なんか、こう。死にたい」

 一気に落ち込み始めるむつきとは裏腹に、

「先生、それでうちの機嫌直るやなんて甘々やえ。でも仕方あらへんな、大目に見て機嫌直したる」

 しょうがないからなんて言い草の割に、木乃香はにこにこ満面の笑みで振り返っていた。
 立場が一気に逆転したように、がっくりうな垂れるむつきの頬をえいっと突く。

「うちを落としたかったら、もっと気の利いた言葉やあらへんと」
「例えば?」
「せやなあ、せっちゃんと仲良しやなっとか明日菜とお似合いやなっとか?」
「知ってた」

 とりあえず、落ち込み気分を少しの怒りで振り払ったむつきは、木乃香をソファーに押し倒してキス魔の刑に処すことに決めた。









-後書き-
ども、えなりんです。

原作と異なり、あやかではなく千鶴がのどかにライバル宣言。
むつみが言った三人は、ラブひなのしのぶと素子とキツネの三人。
ザジのいうお友達はもちろん、あの顔なし的な有あれ。



[36639] 第百十三話 二番目なのに、好きになっちゃう
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/05/17 20:30

第百十三話 二番目なのに、好きになっちゃう

 放課後、約束通りむつきは神楽坂を水泳部の練習に連れて行ったわけだが。
 その結果は色々な意味で驚愕に値するものであった。
 まずは更衣室で学校指定の水着に着替えさせた神楽坂を、体験入部といって水泳部員に紹介した。
 当たり前だが、特待生云々は秘密にしたままだ。
 純粋に水泳が好きでやっている子に、お金の為にと妙な誤解や軋轢を生まない為である。
 そこからは、いつも通りの練習で軽い準備運動。
 アキラ程ではないが神楽坂もなかなかなわがままボディであり、動くたびに胸が揺れる揺れる。
 また二-Aかと、幾人がくっと歯噛みしたのは、まだ小さな驚愕であった。
 問題は実力毎にレーンに別れての追い抜き練習である。
 全部で八レーンあるコースに実力順でグループとなり、一定間隔で飛び込みスタート。
 前の人に追いつけばレーンを繰り上がり、追いつかれたら繰り下がりの競争練習だ。
 神楽坂は実力がまだ不明なので真ん中の四レーンの一番前だった。

「明日菜ちゃん、私が笛を吹いたらスタートしてね」
「はい!」

 あまり緊張はしていないのか小瀬の指示に元気よく答えていた。
 アキラが第一レーンにいるし、むつきや亜子もこの場にいる安心感もあるだろう。
 そして第一走者が全員飛び込み台に立ち、構えを取って数秒。
 腕時計を見ていた小瀬が、スタートの笛を吹いた。
 七つのレーンの第一走者が一斉にプールへと飛び込み、タイミングを逃した神楽坂が遅れて飛び込んだ。
 そこが第一の驚愕。
 パーンっと思い切り腹打ちをした音が室内プールに響き渡った。

「痛ったーーーーーーい!」

 それを見ていた皆が見ている方がいたそうな腹打ちに視線を逸らしたり、顔をしかめる中。
 水の中から浮き上がって来た神楽坂が、波間を大きく乱しながら分かりきったことを叫んだ。

「痛い、超打ったぁ!」

 しかしそこで止まらず、痛みをやるせなさを一気に吐き出すように水をかき始める。
 助けを求める様に天井に向けて伸ばした腕を、水面に叩きつけて押し出す。
 右手が終われば左腕、技術も減ったくれもない力技だが、掻き出した水が白い泡となり水面から飛び出す勢いだ。
 右手左手息継ぎ、右手左手と神楽坂が泳ぐ中で、彼女の醜態に笑っていた皆が気づき始める。

「あれ、早くない?」
「ていうか、なにあれ。ジェットスキー?」
「あ、第八レーン抜いた、七レーンも」
「ていうか、余波で両隣の子が横に流された?!」

 パワーこそスピードを具現化したような神楽坂の泳ぎは、多少の遅れをやすやすと挽回していく。
 しかもむやみやたらと動く腕が濁流を生み出し、隣のレーンの子達は酷く泳ぎにくそうだった。
 神楽坂の泳ぎをジェットスキーと言った子がいたが、そう言いたくなるのも分かる泳ぎだ。
 恐らく今の神楽坂はクロールで泳いでいるのに、周囲の水が白く泡立ち呼び跳ねている。
 三つ隣のアキラの泳ぎと見比べると一目瞭然、例えるならアキラが人魚姫で神楽坂は漢であった。
 優雅に水の流れにのる人魚姫に対し、荒波を真正面から砕き我が道を進む漢。
 本人が聞いたら乙女になんてこと言うのと怒りそうだが、他に表現のしようがない。

「よっし、たどり着いた。タイムは?!」
「そういうんじゃねーから、練習内容説明したろ!」

 対岸にたどり着いた神楽坂が振り返って叫ぶが、そういう練習ではない。
 むつきに突っ込まれ思い出したのか、照れ隠しに後頭部を掻いていたが直ぐにお腹を押さえてもいた。

「和泉ちゃん、ちょっと笛役変わって」
「あっ、はーい」

 よろよろと対岸にてプールをあがる神楽坂を眺めつつ、小瀬が笛を亜子に渡していた。
 そして隅っこで神楽坂を見守っていたむつきの下へと慌てた様子で駆け寄ってくる。
 その顔は驚きに包まれながらも、隠し切れない喜びにも溢れていた。

「先生、なに明日菜ちゃん。あの子、本当に凄い。技術はてんで駄目だけど。むしろ、てんで駄目なのにうちの水泳部で上位に入る速さだって」
「二十キロのセメント袋でお手玉できる奴だからな。パワーだけは有り余ってんだよ」
「一ヶ月もあれば、技術は多少ごまかせる。そしたら、アキラに匹敵するかも!」
「匹敵って、アキラ全国六位だろ……」

 たかが一ヶ月で全国六位に匹敵とは、神楽坂のポテンシャルをむつきが見誤っていたのか。
 それともちょっと興奮した様子の小瀬が、過剰な期待を寄せているのか。
 対岸のプール際でしゃがみ込みお腹をおさえ、アキラに心配されている姿をみると後者の気がしてならない。
 しかし、小瀬はそう思ってはいなさそうだ。

「あんな原石が埋もれてたなんて、勿体ない。しかも、アキラと正反対な泳ぎなのがまた良い。技術のアキラにパワーの明日菜ちゃん。タイプが違う方がライバルとして刺激しあえるし」
「いや、あれでアキラ結構力持ちだから。二千万パワーズじゃね?」
「例えが古い、けど良い仕事した。明日菜ちゃーん!」

 なんだかテンション振り切れた小瀬は、むつきの背をスパンと叩くと神楽坂に駆け寄っていった。
 見事な腹打ちと泳ぎを見せた彼女の世話をアキラから引き継ぐ。
 まだ立てそうにない神楽坂の前で、身振り手振りを交えて小瀬が指導を行う。
 当然、注目の的の神楽坂なので部員の視線も集まるのだが、集中しなさいとばかりに亜子が声を上げた。

「はい、よそ見したらあかん。次いくよ」

 ピッと笛が鳴らされるとまた次の者が飛び込み台から飛び込んだ。
 神楽坂のように腹打ちする者などおらず、元々経験の浅い者はプールの中からスタートしているのもあるが。
 対岸の神楽坂も、小瀬に言われたのかその飛び込みを見ていた。
 飛び込み台のやや高くなった場所から飛び込んだのに着水は綺麗なものである。
 無駄なしぶきはとばず、池に小石が落ちるがごとく。
 それを見てから改めて小瀬の説明を受けた神楽坂がようやく立ち上がり、プールサイドを横切り舞い戻ってきた。
 四レーンの最後尾に並び直し、今度は前がいる状態で泳ぐことになる。
 さすがにあの後なので追いかけられる子はかわいそうだが、これも小さな競争社会であった。

「明日菜、頑張って。行くよ」
「神楽坂さん、怖がると余計失敗するから思いっきり行こう」
「了解」

 順繰りに神楽坂の番が回って来た為、特別に亜子やアキラが声を掛けた。
 当人も任せてと親指を立てながら、今度こそとばかりに飛び込み台の上に立って構える。
 対岸では小瀬が神楽坂の到着を待っているかのように、期待した瞳で見つめていた。
 そして亜子が笛を吹くなり、今度はタイミングよく神楽坂が飛び込んだ。
 腹打ちはなし、周りに比べればまだしぶきも多いが、素人では上出来の飛び込みであった。
 スタートさえできれば問題ないと、またしてもしぶきをあげて波にぶつかる漢泳ぎ。
 半分も泳がない間に前の子に追いつき、繰り上がり決定であった。









 神楽坂は最終的に第一レーンまで繰り上がり、時々繰り下がったりもした。
 練習時間が許す限り力一杯泳ぎ、終わった頃には見たことがないぐらい晴々とした表情であった。
 元来活動的な性格の割に、美術部という文科系に所属し、バイト以外にここまで体を動かしたことがなかったのだろう。
 同じ体を動かすのでもお金の為と、純粋にスポーツに打ち込むのでは随分意味が違う。
 部活の時間が終わり、殆どが着替え終わり寮へと帰っても神楽坂は帰りたく無さそうであった。
 まるで遊園地の閉演時間が来るのを恐れる子供の様にプールサイドに座り足で水を蹴っていた。
 その隣で小瀬が色々と水泳のレクチャーをしているが、何処まで聞いていることやら。
 神楽坂というダイヤの原石を前に、相手のことを考えず詰め込もうとしている小瀬も悪いが。
 出入り口以外の窓や非常口の施錠を確認してきたむつきが呼びかける。

「おーい、お前ら。夏場でもあまり水着でいると風邪引くぞ。小瀬もそろそろ解放してやれ。正直神楽坂のコンピュータはそこまで情報量ないぞ」
「はーい、って先生。全く来れっぽっちも反論できないけど、まあいいわ。なんか気持ち良いし。今日は良く眠れそう」
「私が焦っても仕方ないか。あれ、でも明日菜ちゃんは美術部だったんだよね。そっちは楽しくなかったの?」

 運動部と文化部で種類は違えど、何かに打ち込むという意味では同じである。
 小瀬がぶつけた素朴な疑問に答えたのは、亜子であった。

「明日菜は高畑先生が目当てやったしな」
「ちゃんと毎年文化祭には課題提出してたわよ。それに目当てというなら、アキラちゃんも」
「私が先に水泳部にいたから。先生が顧問になってくれてラッキーだったけど」
「へえ、高畑先生ね」

 亜子が笑いながら指摘すると神楽坂が苦しい言い訳をしつつ、アキラに矛先を向ける。
 ただアキラの方が少しだけ自分に正直なようで、むつきへ振り返りつつ自分の幸運を喜んだ。
 今にもお前もかと小瀬が神楽坂に言いたそうにしていた。
 この場にいる女の子全員が、教師に恋をしているのだからそう言いたくもなるだろう。

「おしゃべりは、更衣室でもできるだろ。本当にそろそろ閉めたいから着替えれ」

 放っておくと何時までもお喋りしそうなので、追い立てるように更衣室へと向かわせる。
 外は暗くなり始めており、帰り道が全員同じとはいえ女の子に夜道を歩かせるわけにはいかない。
 駅までぐらいは送ってやるかと思っていると、途中で小瀬が振り返りむつきのもとまで戻って来た。
 なにか大事な話でも思い出したのか。
 近づくなり耳を貸してとジェスチャーされ、素直に耳を貸す。

「先生、明日菜ちゃんの裸見たくない?」

 思ってもみない言葉をささやかれ、思わず後ずさって距離をとってしまう。
 自然と目を向けたのは小瀬ではなく、その神楽坂が消えていった更衣室の扉であった。
 あの更衣室は隣にあるボイラー室から中を覗くことができるのだ。

「おま、お……俺は別にそんなつもりで神楽坂を」
「あはは、先生慌て過ぎ。明日菜ちゃん、性格的には子供っぽいけど。体はエッチだよね」
「俺は覗かないぞ。それにどうせ役にたたないし」
「セックスとオナニーは違うでしょ。最近自分でした? たまには息抜きに自分勝手なオナニーも良いんじゃない?」

 言われて思い返し、最後にオナニーしたのが何時だったのか全く思い出せなかった。
 美砂と付き合うより以前だとは思うのだが、以降は絶対ありえない。
 むしろオナニーする暇がない程にセックスにあけくれていたからだ。

「私の体を使ってオナニーしてくれても良いけど。オナニーなら、立つかもよ?」

 言いたいことだけ言った小瀬は背を向けてまた更衣室へと向かっていく。
 扉を開ける前に男のオナニーのジェスチャーをし、隣のボイラー室を指さしてから更衣室に消えた。
 その後姿を最後まで見ることなく、むつきの視線はボイラー室への扉にあった。
 あのボイラー室から覗ける更衣室の中で神楽坂が、他にはアキラや亜子が、もちろん小瀬も。
 いやいやいかんと思いつつも、足だけは勝手にボイラー室に向かい始めていた。
 おいっと脳内で突っ込む間も足は止まらず、また腕も勝手に伸びては扉の取っ手を取ってしまう。
 一応そこで躊躇という名の自己保身にもならない思考がよぎったわけだが。
 ちょっとだけ、ちょっとだけだからと言い訳しつつも、やれ急げと小走りになる矛盾。
 もうどうにでもなれの精神で、むつきは走った。
 着替えが終わってしまうと、のぞき穴を隠してある火気厳禁のプラスチック製の看板を外した。
 そして俺は壁の一部と一体化する気持ちで小さな穴に瞳を合わせるように覗き込んだ。

「ねえ、明日菜。それでどうするん? 水泳部に入ってくれる?」

 一番最初に目に飛び込んできたのは、体操服の上だけを脱いだところの亜子であった。
 あいにくその姿は後ろ姿であったが、体操服の着替え中というのがまたマニアックである。
 背中には例の傷跡がしっかり見えていたが、今のむつきはそれを含め亜子を愛おしく思えた。

「体育の時はなにも考えず泳いでたけど、本気でやると面白かったわ」
「水泳は楽しいよ。特にタイムが伸びた時は、やったってなる」
「あと、シェイプアップにも最適だしね。ほら、明日菜ちゃん。見てこのでかパイ、反面この細い腰、長い脚!」

 後ろから忍び寄った小瀬が、アキラの水着の肩ひもを素早く外した。
 ぼろんと音が聞こえたかと思う程に、たっぷり重量感のあるアキラの胸が零れ落ちる。
 もはや、水着からあふれ出ると言った方が正しい表現か。
 重力に引かれ落ちたそれが肌のハリに引っ張られ、たゆんと弾む。

「先輩、いきなり止めてくだ。止め、いやぁ」
「ああ、アキラのおっぱい柔らかくてあったかい。明日菜ちゃんも触ってみる?」
「えっと、遠慮し」
「遠慮せえへんと。アキラのおっぱい気持ちええよ」

 後ろから小瀬に、前から亜子にとアキラは弄ばれ放題であった。
 ピンクのぽっちのある白いお持ちが人の手で自在に形を変えるさまは圧巻だ。
 ふざけて亜子がぱふぱふだと、アキラの胸の谷間に飛び込んだ時などハンカチがあればかみしめている。
 あれは俺のなのにと歯ぎしりしつつ、むつきはカチャカチャとズボンのベルトを外し始めた。
 小瀬に言われたこともあるが、そうせずにはいられない衝動が確かにあった。

「ほ、ほら。先輩も亜子ちゃんも、乙姫先生が待ってるから早く着替えないと」

 むつきがトランクスまでずり下げ、のぞき穴の奥で息を乱していると明日菜がそう言いだした。
 きっぱりと言いたかった、別の意味で待っていると。
 やはりまだ立つ気配のない生暖かい竿を握り、衝動に促されるまま扱き始める。

「もしかして、明日菜ちゃんこういうの慣れてない? ていうか、腰にタオル巻いて小学生?」
「これは、ほら。慣れてないんで、恥ずかしいなって……」
「明日菜、寮のお風呂じゃ丸出しやん。水泳部入ったらいずれ、皆にばれるよ?」
「水泳部、入るのやっぱ止めようかしら」

 初心よのうとニヤニヤしていた小瀬が、改めて見た神楽坂の格好に突っ込んだ。
 堂々と体操着を脱いでいる小瀬や亜子、アキラだっていっそ堂々と水着を脱ぎ始めている。
 なのに神楽坂は大きなタオルを腰に巻いて、これから水着を脱ごうとしていた。
 このままでは胸はあらわなのに、腰から下だけ隠そうというのもおかしな話だ。
 小瀬ならずとも壁の向こうでオナニーを始めているむつきだって気になってしまう。
 一度はその気になった水泳部への入部をためらう理由とはなんぞやと。

「先輩、明日菜な」
「亜子ちゃん、言わないで!」

 小瀬の耳にそっと告げようとした亜子に、神楽坂が抱き付く様にして止めた。

「なんとなく分かったわ、それで。明日菜ちゃん、もしかして生えてない?」
「なっ、そんなわけないし。ぼうぼうだし、ツンドラだし」
「ある意味、不毛の大地であってるけど」

 恐らくジャングルと言いたかったのだろうが、アキラの言う通りある意味で正解を口にしていた。
 神楽坂が大げさに腰にタオルを巻いているのは、どうやら恥丘が不毛らしい。
 知られてしまったと、神楽坂は亜子を引き留める手を地面につくようにがっくりうな垂れる。
 男からすれば美少女のパイパンはご褒美だが、当人はコンプレックスになるようだ。

「あの神楽坂がパイパン……」

 どの程度、あのタオルの下の水着のさらに下はどの程度、森林伐採が進んでいるのか。
 いやこの場合、伐採されるべき森林がないわけで新しいタイプかもしれない。
 学術的な、そう将来の恥丘を救う的な意味で非常に興味深のである。
 だから目玉が潰れる程に覗き穴に張り付いても、罰せられる理由など何処にもなかった。

「もしかしてさ、明日菜ちゃんってオナニーしたことない?」
「オナ?!」

 いかにもな感じでわざとらしく、神楽坂を下から見上げるように小瀬が爆弾を投げつけた。
 一応それ系の知識は中学生らしく持ち合わせているようで、思い切り神楽坂は言葉を噛んだ。
 アキラも突然なにを言い出すのかとおろおろしていたが、亜子がふいにこちらを見た。
 気のせいでなければむつきと目が合ったようで、そういうことかと苦笑する。
 もちろん、エッチ大好きな亜子が覗きを咎めるはずもなく、むしろ小瀬の悪乗りに便乗し始めた。

「好きな人の事を考えてエッチな妄想しておっぱい触ったり、あそこもかな?」
「亜子ちゃんも何言ってんの、普段となんかキャラ違うわよ!」
「そう? 私の中で和泉ちゃんはこういうキャラだけど。なに二-Aの子ってガールズトークしないの? あんな美人ぞろいなのに。ねえアキラ、乙姫先生のこと考えてオナニーしたことない?」
「えっ……ない、ないよ。更衣室でしたことなんてな、あっ」

 オロオロしている間に小瀬に話をふられ、アキラがついぽろっと漏らしてしまった。
 小瀬もかつて、覗き穴からアキラのオナニーを見たことがあるからこそのふりである。
 途端に赤面したアキラは、顔を隠すべきか胸か、あそこかでおたついていた。
 さっさとタオルなりなんなり巻けばよいのだが、自分の失言に混乱しきっているらしい。
 慌てれば慌てる程、そのあらわとなった胸も暴れ、なんというか俺も虐めたいと突撃したくなる。

「アキラ、ええってそんなに恥ずかしがらんでも。私も乙姫先生でオナニーしたことあるから」
「私も実はあるんだよね。まあ、一番身近な男の人だし。でもオナニーは大切よ。しないとアンダーヘアは生えてこないんだから」
「え?!」
「証拠見せてあげる」

 小瀬の妄言に釣られた明日菜にしっかり釣り針を指すように、小瀬が亜子と頷き合った。
 アキラを慰めていた亜子が体操服のズボンごと下着も擦り下した。
 続いて小瀬も下着ごとズボンを脱ぎ、アンダーヘアを隠すことすらしない。
 混乱中のアキラや、話題の変異に戸惑いつつも釣られた神楽坂に見てごらんとばかりに。
 亜子は髪の毛の色素が元々薄く、それはアンダーヘアでもそうだが全体的に薄く範囲も狭かった。
 例えアキラや神楽坂と同じように競泳水着を着ても、改めて剃る必要はなさそうだ。
 中学生らしい、まさに若草と表現するにふさわしい色合いと生え方である。
 一方の小瀬は、最近引退したこともあり処理がちょっと甘かった。
 黒々としたアンダーヘアは水着に沿った逆三角形、ただし肌とヘアの境が少し曖昧になっていた。
 来年には高校生と昔で言えば十分適齢期であり、処理の仕方からも亜子より一歩大人である。
 そんな風に二人が堂々とアンダーヘアをさらしたことで、少しだけ神楽坂が興味を持ったようだ。

「う……やっぱ、皆生えてる。小瀬先輩は、なんだか大人っぽい」
「実は私も中学一年生の頃はつるつるだったんだけど。オナニーし始めたらすぐに生え始めたんだって」

 傍から聞いていると明らかに嘘っぽい言葉を、ここだけの話と小瀬が神楽坂にささやきかける。

「ほら、アキラも。結構濃いから、実はオナニーし過ぎちゃうん?」
「そんなことない。ないよ、たぶん」
「えー、本当かな?」

 妙に意地悪な物言いの亜子を不審そうにしながらも、小瀬の挑発にアキラもその気になったようだ。
 脱ぎ掛けだった水着に手を掛け、ずりずりと丸めるように下していく。
 これまた脱ぎ掛けの体操服と同じぐらいマニアック、膝を超えた辺りで水着は丸まったまま。
 アキラは隠していた下腹部からそっと手を離し、こんな形とアンダーヘアを後悔である。
 水泳選手らしく小瀬と同じ逆三角形の処理の仕方だが、高身長の為により鋭角的であった。
 色の濃さは小瀬より遥かに上で、神楽坂に尊敬をこめて見つめられ微妙な顔である。

「さて、オナニー経験者のヘアを見て、オナニーのやり方を知りたい子!」
「はい、超知りたいです!」
「明日菜……ちょっと待っ」
「アキラ、ちょいこのベンチそっちに動かしたいんやけど手伝って」

 釣り針が大きすぎて魚の口に入らないレベルなのに、神楽坂は口が張り裂けんばかりに食いついた。
 なんかおかしいとアキラが声を掛けようとしたのに気づいてさえいない。
 タイミング良く亜子が頼みごとをしたのもあるが。
 亜子とアキラが更衣室内のベンチを部屋の真ん中に移動させていく。
 むつきが現在覗いている覗き穴がある壁の正面、とても見やすい場所にである。
 これにはまさかと、覗きだけでなく公開オナニーショーかと壁をぶち破る勢いでむつきは張り付いた。
 当然、期待に胸だけでなく股間が僅かにふくらんだ事に気づかないまま、むつきは右手が忙しくなった。

「明日菜ちゃん、お姉さんの膝の間においで」
「は、はい。失礼します」

 最初にベンチに座った小瀬が、大げさな位に大きく両足を開いた。
 現在、一糸まとわぬ全裸の為、覗き穴から見た光景は絶景というほかなかった。
 神楽坂を足の間に座らせるため、若干のけぞった格好でヘアだけでなくその下の割れ目も見える。
 チラッと覗き穴の方を見たのでわざとかもしれない。
 そこへまだ一人だけ水着姿の神楽坂が、ちょこんと遠慮がちに肩を小さくしながら座り込んだ。
 水着に圧迫された大きな胸や、パワーを生み出すしなやかな足など生唾ものである。

「一人じゃ恥ずかしいだろうから、和泉ちゃんかアキラちゃんのどちらかも一緒にしよっか」
「なら、うちが。アキラ、手伝ってくれる?」
「うん、良いけど……」

 そろそろアキラも覗き穴の有無は別にして、カラクリに気づき始めているそぶりであった。
 ある程度納得し、小瀬の様にベンチに座ると亜子を足の間に座らせる。
 普段からレズ行為になれている為、アキラが自分より小柄な亜子をきゅっと後ろから抱きしめていた。

「それじゃあ、レッスンワン。想い人、または格好良いと思う人を思い浮かべましょう」
「高畑先生、高畑先生……」

 やはりそこは高畑なんだと、気分が少し冷めむつきの右手が停止する直前。

「その人が明日菜ちゃんに甘く囁き、スキンシップ過剰に口説いてるところを想像して」
「無理ぃー!!」

 小瀬の言葉に、神楽坂が首を激しく振りながら大声で待ったをかけた。

「高畑先生はそんな、してほしいけど。イメージが、もっと恰好良くて高潔で」
「ありゃ、これはちょっと……」
「んぅ、おと……乙姫先生。うちのおっぱい、壊れてまう」
「亜子ちゃん?」

 ある意味で神楽坂が妄想を爆発させ、小瀬がまいったなと自分の頭をかく。
 そんなおり、隣の亜子が早くも艶のある声を上げ始めていることに、神楽坂が気づいた。
 後ろから抱きしめたアキラが亜子の控えめな胸を優しく包み込み、ふるふると揺らす様に弄んでいる。
 それだけでも十分感じるように、亜子は弄ばれるまま想像していた。
 背中にアキラの胸の感触はあるが、この両手がむつきならと。
 誰もいない放課後の女子更衣室で、誰もいないから良いだろと俺が好きなんだろと強引に迫られる。
 亜子の体の震えを敏感に感じ、アキラも胸の周辺のみならず長い指先で乳首を挟んでこりこりと転がす。

「これ、亜子ちゃん……ていうか、乙姫先生って良いの、アキラちゃん?」
「亜子と親しい男の人、他にいないし。想像するのは自由だから、想像の中なら私だっていっぱい先生とエッチなことしたし」

 実際、想像の中どころか子宮の中まで白くべとつく何かで一杯にされたこともあるが。
 弱弱しくも震える声でむつきの名を呼ぶ亜子を見て、神楽坂も改めて挑戦を試みる。
 しかし数秒も経たずにぼふりと頭から煙を掃き出し、高畑はどうにも難易度が高いらしい。

「明日菜ちゃん、他の人にしよっか。もっと緊張しない、乙姫先生とか」
「なんでそこで乙姫先生……好きだけど、男の人の中では二番目に好きだけど。あっ、アキラちゃん勘違いしないで、そういう好きじゃないから!」
「今更先生を好きな人が一人、二人増えても気にしないけど……」

 その否定の仕方に、むつきは今一度冷めかけた心が熱くたぎるのを感じた。
 小瀬も神楽坂の慌てようを見て、これはよっぽど脈ありかなと密かに笑みを深めている。
 まだ神楽坂のことは今日初めて知ったばかりで、内面の奥深いところなんて知りもしない。
 けれど、高畑への尋常ならざる強い憧れがあることや、憎からずむつきを慕っていることも分かった。
 そのどちらが、より恋愛に発展しやすいかも、分かるというものである。

「明日菜ちゃん、今から触れるこの手は乙姫先生の手だよ」
「ひゃっ、小瀬先輩?」

 だから小瀬は壁の向こうにいるむつきへと向けて、そう神楽坂の耳元でささやく。
 濡れた水着の上から、押しつぶされまいと自己主張する乳首をまずは指先で軽く引っ掻いた。

「なんかくすぐったい」
「最初はね、直ぐに良くなるから。ほら、想像して。乙姫先生が優しく撫でてくれたよ」
「うぅ……」

 改めて妄想相手をむつきに変えて、小瀬が左手で乳首を弄りながら右手で神楽坂の髪を撫でつける。
 すると高畑の時は駄目だったのに、気恥ずかしそうに神楽坂が体を縮こまらせた。
 憧れの一番よりも気楽さの二番というべきか。
 彼女の中でむつきはどのように微笑んでいるのか、悪戯を仕掛けているのか。
 それは神楽坂にしかわからないことだが、恥ずかしがるその姿を見せつけられたむつきたまらない。
 確実に硬さを大きさを取戻し始めた一物を、神楽坂の名を小声で呼びながら何度も擦り上げる。

「恥ずかしぃ」
「明日菜、恥ずかしいことなんかあらへん。皆こっそりしとることや、ぁぅ。先生、乙姫先生。エッチ、うちの胸こんなにして。もっとしてぇ」

 このままでは緊張からこわばりかねないと、敢えて亜子が声を大きくして愛撫を求める。
 実際はアキラの手によるものだが、想像の中でこれはむつきの手だと。
 胸だけの愛撫では足りないと、自分で秘部の割れ目に沿って指を擦りつけ始めた。
 背中からもたれ掛かりおっぱい枕に頭を預け、アキラの膝に両足をひっかけるように足を大きく開く。

「これがオナニー……」
「そう、明日菜ちゃんが今してること」
「あっ、馬鹿エッチ。教師のくせに、高畑先生ならこんなことしないんだから」

 神楽坂の妄想の中では随分と強引にむつきによって迫られているらしい。
 普段お世話になった義理から断り切れていないのか。
 小瀬の手により大胆に胸を揉みしだかれても振り払うことはなく、弱弱しい言葉での抵抗だ。
 そんな言葉を聞かされてしまっては、まさか本当にとむつきも思いたくなる。
 あの胸を揉む手が自分の手なら、駄目と身をよじり背けられた顔に先回りして唇をうばいたい。

「亜子、一人で楽しまないで。私も混ぜて?」
「うん、アキラも。うちより、とろとろやん」
「亜子が可愛いから、キスしたい」

 一方の亜子とアキラも随分と気分が盛り上がってきてしまったらしい。
 背面座位では物足りないと、亜子が立ち上がっては振り返り対面座位の格好に変わる。
 男役がアキラであるかのように、亜子のお尻に手を添え小さな体を支えた。
 小さな胸と大きな胸で押しくらまんじゅうをしながら、亜子が自分とアキラの割れ目をなぞる。
 二人とも既に愛液が染みだしており、指が中に入るまで長くはないだろう。

「見て、明日菜ちゃん。男女であれをするのがセックスだよ。乙姫先生が、明日菜ちゃんとああしたいって、明日菜ちゃんの中に入りたいってさ」
「乙姫先生が私と、抱き合って。中って、セックスってどうやるの?」
「お姉さんが教えてあげる、ここ。明日菜ちゃんのここに乙姫先生がはいるの」

 保健体育では勉強しているはずだが、初心な答えを神楽坂がうわごとのように尋ねた。
 オナニーのやり方も知らなかったようなので、本気で初心なのかもしれない。
 そんな神楽坂に心が振るわされたのか、うなじに軽くキスをしながら小瀬が教える。
 左手で変わらず胸を弄びながら、ここだと。
 胸から脇、腰と神楽坂の理想的な身体のラインを指先で下りつつ、彼女の水着のブイラインへ。
 水着に覆われた恥丘を登頂し、その先の割れ目を指でなぞり上げた。

「小瀬先」
「違うでしょ、明日菜ちゃん。乙姫先生だよ、この指は乙姫先生の指」
「乙姫先生、あぁ。私が好きなのは高畑先生なのに、でも乙姫先生。二番目なんだから、違うんだから。そんな恥ずかしいところなぞらないでぇ」

 小瀬の指の動きに合わせ、神楽坂が違うのと何度も口にしながらむつきの名を呼ぶ。
 きっと彼女の頭の中で高畑の姿さえない。
 二番目の気安さからとはいえ、いま彼女の中で彼女を抱いているのはむつきだ。
 この俺なんだと、むつきは息を乱しながらいつの間にか勃起していた竿を強く握りしめていた。

「神楽坂……神楽坂、俺が。高畑より、俺の方がお前を分かってる。俺の方が近くで、ずっとお前のことを大事にしてるんだ!」

 だから見せてくれと、お前の恥ずかしい姿を見せてくれと穴を覗きながらむつきは願う。
 そんな気持ちが神楽坂にではなく、小瀬に伝わったのだろうか。
 小瀬が神楽坂の水着の肩ひもをさっと外した。
 見事な早業で、零れ落ちた神楽坂の巨乳をほらこれがそうと見せつける様に直接揉んだ。
 女の子の綺麗な指に弄ばれ自在に形をかえ、桜色の乳首を指先で転がしていく。

「もう、エッチ。アタナシアさんに、本屋ちゃん、那波さん、アキラちゃん。誰が好きなのかはっきりしなさいよ!」
「明日菜が一番好きだ」
「嘘、私一杯意地悪したし。しちゃったのに、なんでそんなに優しいの」

 ささやいたのは小瀬だが、神楽坂の言葉はつい零れ落ちた本心かもしれない。
 一学期の特に最初の頃は、担任の高畑よりむつきの方がクラスに良く顔を出し神楽坂は反発していた。 むつきが来るから、憧れの高畑がやってこないと。
 事実や因果関係は全く逆だったのだが、恋に盲目的だった神楽坂はむつきに否定的だった。
 だが辛抱強くむつきは神楽坂に接し、むしろ協力的でさえあり、随分気にかけて貰っていた。

「先生、乙姫先生。ちょっとだけ、二番目だけど好き」

 自分でさえ知らなかった気持ちを神楽坂が呟いたその時、頃合いかと小瀬が指を潜り込ませた。
 神楽坂の大事な部分をぴったりと張り付き守っていた水着を邪魔だと蹴散らし、その奥へ。
 不毛なだけにゆで卵の滑らかささえ太刀打ちできないつるつるな秘部へと。
 直接指で神楽坂の割れ目をなぞり、プールの水とは異なる液体を指に絡めてはくちゅりと音を立てた。

「な、なにこれ。私、まさか」
「違うよ、愛液っていうの。オナニーしてると体の奥から出てくるの。ほら、和泉ちゃんたちを見て」

 おもらしかと焦る神楽坂に優しい声色で言い含めた小瀬が、その視線を促した。
 ベンチの隣では亜子とアキラが対面座位で絡み合っていたはずだ。
 しかしそれでもまだ足りないと複雑に足を絡め、貝合わせの最中であった。
 割れ目同士を擦り合わせ、一瞬でも離れれば愛液の糸が二人を繋げているのが分かる。

「これはね、男の人を受け入れる為に必要な体液なの。ほら、ここ見て。この穴から出てくるの」
「それじゃあ、私のこんな小さな穴に乙姫先生を……」

 やや強引に水着を避けた小瀬が、神楽坂の貝を割れ目にそって両手で開いて見せた。
 愛液で濡れピンク色に濡れる神楽坂の秘中の秘部、その中でも愛液を染みだす膣。
 ぱくぱくと男を待ち焦がれる膣口を指さした小瀬が、そのまま指先を埋めていく。

「あっ、嘘。ぞくぞく、これがオナニー」
「ほら、指一本ぐらい飲み込んじゃう。乙姫先生のおちんちんを入れる場所だから」

 小瀬の言葉を聞き、神楽坂の脳内ではむつきに組み伏せられまだ見ぬそれを挿入される。

「そんな、まだ駄目。ちょっと好きだけど、駄目なんだから」
「乙姫先生は待ってくれないよ、明日菜ちゃん」

 完全に高畑の名は忘れ去られ、神楽坂が小瀬の手を止めようとする。
 しかし既にその指先は神楽坂の膣の中であり、無理に引っこ抜こうとしない限り無意味であった。
 手そのものが動かずとも、小瀬はその指先だけを駆使して神楽坂の穴を攻めたてる。
 いずれむつきが破るであろう処女膜を傷つけないよう、慎重にだが大胆に。
 本番さながらに神楽坂の膣を指先でこすりあげては初めての快楽をプレゼントする。
 神楽坂にオナニーを教える為に、その痴態を見て壁の向こうのむつきを勇気づける為に。

「明日菜ちゃん、気持ち良いでしょ。これがオナニー、毎日しなくちゃいけないよ。毎日、乙姫先生のことを考えて、そうすればパイパンもって聞こえてないか」
「気持ち良い、先生。もっと、ぁっ。んふぅ、はぁ」
「こっちも盛り上がってるし」
「アキラ、気持ちええよ。アキラのおまんこぷりぷりしとる」
「亜子、可愛い。ぬいぐるみみたいに、抱きしめて一緒に寝たい」

 この場で、むつきを含んで一番冷静に現状を受け止めているのは小瀬一人だろうか。
 ちょっと貧乏くじかなと、覗き穴の向こうにいずれのお返しを期待してウィンクする。
 それと同時に、神楽坂の膣穴を蹂躙する指の動きを速めていく。
 そろそろ時間的にも、他の先生の見回りが来ないとも限らない。

「ぁっ、駄目。激しっ、乙姫先生。壊れちゃう、私壊れちゃう!」
「うちも、イキそう。セックスしたい、乙姫先生とセックスしたい」
「好きなの、大好き。めちゃくちゃにして欲しいの!」

 亜子とアキラの声高に叫ばれる望みも神楽坂に聞かせながら、小瀬は最後の攻めを開始する。
 膣の中では膣壁のみならず時折処女膜を指で弾き、胸を揉みしだいてはうなじにキスを落とす。

「見えない、真っ白に。乙姫先生、来ちゃう。なんか」
「イクって言うの。オナニーのクライマックス、絶頂。イクって言いなさい」
「イク、乙姫先生にエッチされて。二番目なのに、好きになっちゃう。ひぃゃ、ぁっ。あぁ!」
「うちも、アキラ一緒に……ひっ、んぅっ。はぁ、あっ!」
「亜子、亜子。イク、いっ!」

 乙女の高らかな三重奏が更衣室の中に広がっていった。
 それと同時に、一枚壁を隔てた向こうにいるむつきも精液を掃き出し壁を汚していく。
 頭の中では神楽坂のみならず、亜子もアキラも小瀬も、四人でもまだ足りない。
 己に関わるすべての美少女、美女を大集合させ孕ませる妄想と共に果てていた。










-後書き-
ども(略

久々に覗き穴の登場。
あと明日菜のパイパンネタとオナニーネタはやりたかった。
ろくでなし子供先生ズではできなかったので。



[36639] 第百十四話 女の子にとっては恋愛のバイブルなんです!
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/05/17 20:35

第百十四話 女の子にとっては恋愛のバイブルなんです!

 神楽坂はピンクの生地に羊が水玉のようにプリントされたパジャマ姿であった。
 当人の趣味には合わないそれだが、木乃香が似合うからと買ってきて着せられたものだ。
 木乃香の好意を無碍にもできず、なんだかんだで少しばかり気に入ってしまった一品でもある。
 そのパジャマのズボンを足元までおろし、白に小さなリボンのついたパンツも丸まり足元に。
 震える丸いお尻を便座におろし、だぶついたパジャマの襟元を必死に歯でかみしめている。
 彼女は今、覚えたばかりの、教えられたばかりのオナニーにふけっていた。
 自分の指先が不毛の割れ目をなぞり、皮に隠れたクリトリスを上から押すように刺激する。
 声を押し殺した吐息が口元から漏れ出し、黄金水とば別の液体がぴちょんとトイレに落ちていった。

「ふぅ、ふぁっ?!」

 愛液が水たまりに落ちる音にさえ怯える様に、ビクリと神楽坂は体を震わせた。
 現在時刻は八時過ぎ、トイレの扉の向こうからは木乃香が見ているテレビの音が聞こえてきている。
 寮が相部屋ではプライベートな空間も限られ、完全に一人になれるのはトイレかお風呂しかない。
 普段お風呂は大浴場を使っているので、また自室でシャワーを浴びるのも不自然。
 となると、木乃香の目を盗んでトイレに駆け込み致すわけだが同時に時間もかけられない。

(気付かれたら、変に思われ……た、高畑先生)

 木乃香に気づかれるのも恥ずかしいが、やる気になった手前中途半端はもっと嫌だ。
 一度、木乃香に不審に思われ中途半端なまま寝床についた時は悶々としてなかなか寝付けなかった。
 だから妄想のなかで意中の高畑と甘く触れ合うのを想像しようと試みるのだが。
 どうしても高畑が自分に優しく微笑みかけたり、もっと先を致す想像ができない、物足りない。

(うぅ……結局、また)

 これに頼ることになるのかと、秘部に触れていない左手で足元に下したパジャマのズボンを探る。
 ポケットから引っ張り出したのは携帯電話であり、二、三度操作してとあるものを表示させた。
 小瀬からオカズに困ったらとメールで貰った、むつきの写真であった。
 スーツ姿で珍しくキリッとしているもの、神楽坂にも良く見せてくれる笑みを浮かべるもの。
 極め付けといって良いか、水着を身に着け上半身裸のものさえある。
 それらを目にすると、自分の意志とは裏腹に妄想が加速していく。

「うぅ」

 違うのにと思いつつも、体は正直なものであった。
 途端に愛液がポタポタと指の間を滴り、割れ目を弄る指先の動きも体の火照りに合わせ活発化する。

(違う、二番目なんだから。オナニーと恋愛は違う、私が好きなのは高畑先生で)

 そう心の中で繰り返すが、むつきが神楽坂と呼んでくれる声のリフレインが止まらない。

「ちが、先生……乙姫先生」 

 ついに耐え切れず口元からパジャマの襟が零れ落ち、声が零れ落ちる。
 後は濁流が堰をきるように、勢いよく流れ出す。
 一人で膣まで入れるのは怖いので割れ目をなぞり、ぬめりに指を少しうずもれされていくのみ。
 携帯電話を蛇腹状になったズボンの上に落とし、左手は胸元へ。
 想像上のむつきが優しく触れるように、その動きをトレースして胸元をまさぐった。
 ブラジャーの堅い感触はなく、肌触りの良いパジャマの向こうに直接乳房の柔らかさがある。
 なかなかオナニーのタイミングを見計らうのが難しく、最近寝る時はノーブラなのだ。
 ピンっとパジャマを押し上げる硬くしこった乳首を親指と人差し指で捏ね上げた。

「んぅっ、好き。勘違いしないで、二番目なんだから。私が好きなのは、知ってるでしょ。でも、ぁっ。はぅ、ぁぅっ。好きィ!」

 高畑なのかむつきなのか、そもそもむつきは好きなのかそうではないのか。
 ぐるぐる考えているうちにそれが来た。
 全身を覆う快感という名の風船が膨らみ切って爆発するように、一番大きな瞬間が。
 ふいに立ち上がりたくなるような、不思議な感覚。
 まだオナニーを知って数日だが、それが何にも代えがたい程に気持ち良い事は知っていた。

「ひぅ、いぐ。乙姫先生で、乙……イクぅっ!」

 段々と前かがみになり意図せず、愛液が染みだす膣口へと指先が触れた。
 その奥まで触れられるあの感覚、もっともっと欲しいと思った時であった。
 うっかり声を潜めるのを忘れ、割と大きな声で叫んでしまいながら神楽坂は絶頂を迎えた。
 血の巡りが津波の様に広がり頭が真っ白に、昔誰かに言われたような空っぽになる。
 脱力すると同時に、神楽坂は体を起こしてそのまま便座の蓋に背中を預ける様に天井を見上げた。
 白熱電球が今の神楽坂の脳内の様に真っ白な光で照らしてきていた。
 焦点のはっきりしない瞳で、べっとりと愛液がついた右手を持ち上げて見つめる。

「イッちゃった……また、乙ひ」
「明日菜?」

 絶頂の余韻と少しの虚しさにさいなまれる中、トイレのドアをノックされ思わず体を跳ね起こした。

「こっ、ここ。木乃香?!」
「なんや大声聞こえたから、お腹痛いん? その割に、乙姫先生って」
「な、なにが? そ、そうだ。携帯でゲームしてたら、熱中しちゃって。乙姫先生なんて気のせい!」

 慌ててズボンの上に落とした携帯電話を拾い上げ、木乃香に見せる様にドアに見せる。

「明日菜、女の子がお腹とお尻冷やしたらあかんえ」
「うん」
「あとゲームしとるんやったら、代わって。うち結構待っとるんやけど」
「え? え゛?」

 慌てていたせいで愛液に濡れた手で携帯電話を拾ってしまったのもアレだが。
 この直後に木乃香が使うのかと、神楽坂はすんすんと鼻をならした。
 大きな方ではないので大丈夫だとは思うが、それとも慣れてしまったからか。
 芳香剤の匂いさえ今は感じられず、変な匂いがしないか無茶苦茶気になり始めた。

「ちょっ、ちょっと待って。できれば一時間ほど」
「無理やて、明日菜なにしとるん?! おトイレぇ、お茶飲み過ぎたえ」
「お願い、せめて十分!」
「明日菜ぁ、明日のお弁当塩なし具なしのおにぎり一個にするえ!」

 当たり前だが木乃香から却下が下され、神楽坂は慌ててトイレットペーパーで手と割れ目を拭いた。
 あと遅きに失しているが、愛液がついてしまった携帯電話も。
 急いだつもりでも木乃香からノックで催促を受けて、身だしなみも整えないまま交代である。
 エチケットなので一応木乃香がトイレに飛び込んだあとは、その場を離れたが。
 気づかれないか、色々と怖くなって神楽坂は二段ベッドの上に逃げ込んでタオルケットを頭まで羽織った。

(気付かれてませんように、気づかれてませんように。もう、木乃香の顔見れない。明日からオナニー何処でしよう。トイレはもういや!)

 タオルケットの中で顔を真っ赤にし、胎児のように体を丸めて心の中で絶叫する。
 そこに至っても、まだオナニーを止めるという選択肢が思い浮かばない程度にははまっているらしい。









 ドキドキしながら翌日を迎えた神楽坂は、普段通りの木乃香のふるまいに心底安堵したものである。
 これならトイレでも良いかなと、オナニーにはまりつつある事に気づかず気楽にそう思うぐらいに。
 ただそれで神楽坂の悩みが何一つなくなるわけでもなかった。
 まだ完全には決めかねている水泳部への入部もそうだし、実際にバイトを辞めるかどうかもだ。
 工事現場の方はまだ良いが、新聞配達の方は明日菜が二人分、多いと三人分働いている。
 いきなり辞めたら迷惑だろうし、残された人たちに自分の分がふりかかると思うと辞め辛い。
 それにオナニーの為に一杯エッチな妄想をするのに高畑だと駄目で、むつきだと平気なのか。

(私が好きなのは高畑先生だもん)

 授業と授業の間、短い休み時間を机に突っ伏し腕枕に顔を突っ込みながら改めて考える。
 今だって高畑の顔やあのタバコの匂いを思い出すと胸がドキドキするのだ。
 こんなに乙女の心を高鳴らせておいて、これが恋でなければなになのか。

(でも……)

 意中の高畑ではなく恋愛感情がないはずのむつきを思い出しても不思議な感じがするのだ。
 悪いものではなく、胸がじんわり暖かい。
 何時でも見守っていてくれるような、困ったらいつでも駆けつけてくれそうな。
 絶対助けてくれる、そう確信できる高い信頼。
 実際、なんども気にかけて貰っては助けて貰っている。
 何しろ高畑が好きだと言っても皆苦笑いか本当に笑うかだが、むつきは肯定して手助けしてくれた。

(もしこれが逆の立場だったら)

 仮にもし仮に、自分がむつきを好きで高畑に助けを求めたらどうしてくれるだろう。
 きっと助けてくれると思いたかったが、現実問題として高畑は出張がやけに多かった。

「ねえねえ、明日菜」
「んあ?」

 色々思い悩んでいる時に声をかけられ、思わず間抜けな返事をしてしまった。
 隣の美砂の机に軽く腰かけ、上から手招きしながら喋り掛けて来たのは春日だ。

「どうしたの美空ちゃん、珍しいわね。体育の時以外で話しかけてくるの」
「そう? あのさ、明日菜が運動部に入るって噂聞いたんだけど本当? もし本当ならこなかけて来いって次期部長に言われちゃってさ。他の部の子も、結構明日菜狙ってるよ」

 ほらと廊下を指さされ振り返ってみれば、見覚えのある別クラスの子が数人教室を覗き込んでいた。
 春日に指さされ、様々な反応を返してくれる。
 思わず逃げ出す子や、アピールするように手を振る子などもいた。
 何度かむつきに食堂等で相談したので、その辺りからでも漏れたのだろうか。

「悪いわね、美空ちゃん。私、どうせ入るなら水泳部にするから。もう、体験入部しちゃったし、あとは一応入部届け出すだけ」
「そうだよ、明日菜はうちら水泳部のもんやから。明日菜の体は売約済みやんね」
「亜子、なんかその言い方いやらしいよ。春日さん、そういうわけだから」
「あちゃー、一歩遅かったか」

 話していた内容が聞こえたのか、亜子がやって来て明日菜に抱き付き、アキラが春日にそう言った。
 だが遅かったという口ぶりとは裏腹に、春日はこれで肩の荷が下りたとばかりに腕で大きくバッテンを作る。
 一体何をしているかと思えば、先ほどから教室を覗いていた子の一人への合図らしい。
 どうやら陸上部の次期部長らしく、春日のジェスチャーを見てがっくり肩を落として消えていった。
 他の子も、見込みなしを感じ取ってか一人、また一人と自分の教室へ戻り始める。

「危な、他の部も明日菜狙っとったんか。でもついにうちに入部決めてくれたん?」
「入部届を貰ったって先生からは聞いてないけど」
「一応書いたけど、まだ出してない」

 私が預かろうかと亜子が差し出した手に、神楽坂はポケットの中の入部届を私はしなかった。

「ごめん、亜子ちゃん。入るなら水泳部だけど……もう少し考えさせて」
「明日菜は大事なことやし、ええけど。新人大会へのエントリーもあるし、早いほうがええよ?」
「小瀬先輩、明日菜が早く入部しないか毎日わくわく待ってる」
「うん、個人的にもあの体験入部は楽しかったわよ」

 どうにも歯切れの悪い明日菜を見て、亜子とアキラは顔を見合わせていた。
 なにか悩んでいるようだが、水泳部の部長とマネージャーがあれこれ聞いても催促にしか聞こえない。
 そして明日菜が頼りにできるであろうむつきもまた、水泳部の顧問である。
 そうなると明日菜が身の回りのことで相談できる相手は、限られてきてしまう。

「なんか良くわかんないけど、明日菜。悩みがあるなら、一度うちに来てみる?」
「割と冷静に考えて、美空ちゃんにお悩み相談はしないけど?」
「いや、そうじゃなくて。てか、さりげにひどい。うちって言うのは、教会。うちの神父様は結構評判良いんだよ。穏やかで優しいし、懺悔室を使えば直接会う必要もないしね。秘密やプライバシーも厳守されるよ?」
「ああ、なんか乙姫先生も一度相談させて貰ったって言ってた気が……」

 そこでまたしてもむつきを思い出してしまったが、一々気にしていてはきりがない。

「それっていつでもやってるの? あっ、でもさすがに男の人には」
「それならそれで、うちにはシスターもいるっすよ」

 ほら人気投票で一位を取ったと春日が話をふると、神楽坂でなく亜子やアキラがああっと声をあげた。
 そのシスターを話題に三人が盛り上がる中、神楽坂は行ってみようかなと思い始めていた。
 ちなみに当時、高畑の応援団として力みまくっていた神楽坂はシャークティを見たことがなかった。









 放課後、神楽坂は一人で春日がお世話になっている教会にやって来た。
 入り口の前で見上げた教会は、麻帆良にマッチする西洋風の建物だが珍しいことは珍しい。
 真っ白な壁に濃紺の屋根、入り口の扉は日本の一般的な扉よりも随分と大きかった。
 窓も不必要と思えるほどに枠が多く、開けられるのかなんて疑問が浮かぶ。
 麻帆良にはミッション系の聖ウルスラ女子高等学校があるが、神楽坂にはまだ縁遠い場所だ。
 中学を卒業後には通う可能性が無きにしも非ずなのだが、通う自分を想像したことすらない。
 時間にして一年と半年後、今を生きる女子中学生には難しいことであった。

「ごめんくださーい」

 扉についているノッカーを完全無視して、神楽坂は直接手で扉を叩いた。
 ガンガンと無粋な、それこそ借金取りでも来たような音が鳴り響く。

「はいはい」

 しばし神楽坂が待っていると、開かれた扉から温厚そうな表情の神父が顔を出した。
 真っ黒なのローブのような出で立ちに十字架のマークがついていれば神楽坂でもわかる。
 この人が春日の言っていた神父様かと、なんとなく雰囲気で良い人なんだなと思った。

「あの美空ちゃ、春日さんから」
「ええ、聞いております。シスターは既に懺悔室にいますよ。顔が知られると告解し辛いこともあるでしょう。このまま懺悔室に案内いたしましょう」
「はい、よろしくお願いします。シスターさんも、私を知らないんですか?」
「ええ、もちろんですよ。我々は神に代わって懺悔や悩みを聞き届けるのです。聞き届け迷いを晴らすことが目的であり、相手が誰であるか知る必要もありません」

 神楽坂は難しいことは分からなかったが、お互いに誰か知らないというのはある種の安心感があった。
 色々な人にお世話になっている現在、神楽坂は人に頼ることに躊躇や戸惑いを覚える。
 それでもなりふり構わず、色々とむつきにはお世話になっているが。
 いやだからこそか。
 頼り相談した相手が分からなければ、遠慮のしようもない。

「さあこの中です。私は奥にいますので、終了次第ご自由にお帰りください」
「はい、ありがとうございます。神父さん」

 礼拝堂の中を神父の後についていくと、並べられた長椅子の一番前にそれはあった。
 良く分からない飾りが彫られた木製の電話ボックスのような小さな部屋である。
 中は薄暗く、腰かけるための椅子とその正面に反対側と繋がる鉄網が見えた。
 なんとなく気配を感じるのでシスターは既に準備万端なのだろう。
 扉を開けてどうぞと言ってくれた神父にお礼を言って、神楽坂は懺悔室の中で腰を落ち着ける。
 最後にごゆっくりと言われたのに会釈で返しながら、神楽坂は真っ直ぐに前を見た。

「えーっと」
「迷える子羊よ、主を前にその胸のうちを告白しなさい」

 懺悔室は扉を閉めると本当に真っ暗で、迷っているうちに鉄網の向こうから声が聞こえた。
 とても穏やかで懺悔室の暗闇に身体が溶け込んでしまいそうになるほどに落ち着いた声である。
 神楽坂は母親というものを知らないが、もしいたらこんな声なのだろうかと自然に思えた程に。
 まだ何も話していないうちから来てよかったと自然に笑みがこぼれていった。

「あのそんなに大したことじゃ、私からすると大したこと。世界が終わるより大事なことなんですけど」
「はい、物事の感じ方は人それぞれ。貴方がどう感じ、なにを思ったかが大切です」
「私、好きな人がいるんです」
「え゛?」

 つい先ほど心の内に芽生えた安らかさが一瞬で消え失せるような、ある意味で失礼な呟きだった。

「え?」
「こほん、大丈夫神は常に試練を与えた私を見ていてください。都合よくこれが、私の手元に」

 いやまさかと思わず聞き返すと、鉄網の向こうから空気を作り直すような咳ばらいが小さく聞こえた。
 なにか震えるような声でぶつぶつつぶやき始めたが、詳細は神楽坂には聞こえなかった。
 反動というものもあるだろうが、鉄網の向こうのまだ見ぬシスターへと急激に不信感が芽生え始める。
 見えていないはずだがそんな神楽坂の視線を感じたように、努めて綺麗な声色でこういわれた。

「どうぞ、続けてください」

 微妙に納得はいかなかったが、相談を持ち掛けた手前ここで帰るとも言えない。

「私には好きな人がいるんです。子供の頃に面倒を見てくれて、憧れてる人が。でもいざ自分の気持ちを知ると、なかなか勇気が出せなくて。そしたら別の男の人が凄く助けてくれてました」
「憧れが恋愛に転化するパターンですね、解ります」

 鉄網の向こうでなにか紙をペラペラめくる謎の音が聞こえたが続ける。

「でも、何度もお世話になる内に助けてくれていた人が気になり始めたというか。好きな人は変わりません、けど気になるんです。時々、私が好きな人が誰なのかわからなくなるぐらいに」
「王道という奴ですね、なるほど」

 またしてもペラッと何かがめくられる音が聞こえた。

「二人とも全然タイプは違うんですよ。好きな人は渋くてなんでもできて格好良い。もう一人は、なんだろ。別に格好良くはないけど、優しいし。でもその人に皆が集まるというか、太陽みたいな人?」
「これが三角関係、春日から没収した参考書の通り……」
「って、参考書ってなによ!」
「あっ、いやこれは違うんです!」

 鉄網の向こうから聞こえた不審な単語に、神楽坂の不信感が一気に爆発した。
 なにか変だ変だと思っていたら案の定、必死の言い訳も怒りを助長するガソリンにしかならない。
 悪戯好きの春日の言うことなんて間に受けるんじゃなかった。
 鉄網に指を突っ込み顔を見てやると破壊を試みたが、頭をよぎる弁償の二文字がそれを引き留める。
 ならばせめてその化けの皮をと、神楽坂は懺悔室を飛び出して行った。
 教会の内部構造など知らないが表の懺悔室の裏側とあいまいな考えで裏手に回ろうとする。
 その時、曲がり角でばったり別かどうかは不明だが一人のシスターさんと鉢合わせした。
 思わずぶつかりそうになった神楽坂に、穏やかな微笑と共に彼女はこう言った。

「なんですか、騒々しい。ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ?」
「あっ、ごめんなさい。でも!」
「ほら、落ち着きなさい。女の子はお淑やかに。今私が聖書の一節を読んでさしあげますから、それを聞いて心を落ち着かせなさい」
「…………」

 そう言って懐からシスターが聖書と呼んだそれを取り出したわけだが。

「それ、聖書じゃなくて少女漫画なんですけど」

 キラキラした瞳で謎のポーズを取る女の子と背景に星のきらめきを纏った男の子がいる拍子である。
 ある意味で、早乙女辺りに言わせれば聖書の一つかもしれない。
 しかしいくらなんでも、教会のシスターがそれを聖書と言い張るのは難しいものがあった。
 案の定、少女漫画を手にしていたのは神楽坂の相談相手だったシャークティだ。

「せ、聖書です。女の子にとっては恋愛のバイブルなんです!」
「うわ、思いっきりパルみたいなこと言った。やっぱりアンタじゃない。こっちが真面目に相談してるのに、そんなもの引用しようっての?!」
「しょうがないじゃないですか、聖書は心構えばっかりで」
「おや、どうかされましたか?」

 廊下で言い合っていると、変わらぬ穏やかな笑みを浮かべた神父が近くの部屋から顔を出した。
 ごく自然に神楽坂の視線がそちらへそれた時、シャークティは未だとその横をすり抜けていった。
 しっかりと少女漫画を胸に抱きながら、また駄目だったと逃げるように。
 実際、もう駄目だと全力で逃げ出していた。

「待ちなさいよ!」

 即座に神楽坂も追いかけ始めるが、シャークティの足はことのほか速かった。
 教会を飛び出し、何処へと周りを見渡したころにはその姿は小さく修道服でなければ見失っていたことだろう。
 あと西日のせいか、妙にその姿が輝いて見えていたがたぶんそちらは気のせいだ。

「待ちなさーい!」

 だがいくら早くても足手は足にまとわりつく長いスカートがある。
 それに神楽坂は体力だけは自信があったのだ。
 小さくなっていくシャークティを捕まえようと、思い切り地面を蹴った。
 しかし、神楽坂が思った以上にシャークティは足が速い。
 うかうかしていれば曲がり角などで本当に見失ってしまうかと思う程に。
 短い間隔で曲がり角が来たときなんかは、本当に見失ったと思うことがあった。
 その度に何故シスターが全力疾走と不審がる人々の視線がなければ危うかったことだろう。
 そして同時に、振り切れない神楽坂に追われたシャークティも心底焦っていた。
 全力疾走なのである、それこそ魔法を使って身体を強化し素人では到底追いつけないはず。
 なのに鬼の形相で追いかける神楽坂は、諦めないだけでなく確実に間を詰めてくる。
 走り出して何分経ったことか、確実に横腹も痛くなって来た頃には神楽坂の手が伸ばされていた。
 三十センチ、十センチ、その手がついにシャークティの肩を掴もうとした時であった。
 するりと手は彼女の肩とすれ違い、歯を食いしばるようにして神楽坂はシャークティを追い抜いた。
 負けた、そんな言葉がシャークティの両肩に落ちてくると同時に、神楽坂も両腕を上げて叫んだ。

「勝ったぁ……うげ、一気に来た。一気に疲れ、しゃべ、辛い」
「ぜえ、ぜえ。まさか追い抜かれるとは、ふふ……そう、主は言っているのですね。私の様な者は敗者がお似合いだと。どうせ、彼氏いない歴イコール年齢よ!」
「そうなの?!」
「どうせ私の恋愛相談なんて虚構よ、中身の伴っていない空っぽなのよ!」

 正直、横腹が痛くてそれどころではないのだが、顔を両手で覆って泣き出した人を放っておけない。
 例えそれが自分よりも年上で、人を導く立場にいるであろう人でも。
 どこをどう走ってきたかあまり覚えていないが、なんとなく見覚えのあるここは学校区域だ。
 人目につくのもまずかろうと、神楽坂はシャークティを励ましながら近くの公園へ連れていった。
 適当なベンチに座らせると、絶対どこか行かないでねと念を押してから飲み物を買ってきた。

「ほら、これでも飲んで落ち着いて。良い大人が泣かないでよ、対処に困るわ」
「ありがとう、とても美空の同級生と思えない心配りだわ」

 一頻り泣きはらしたおかげか、シャークティも少し落ち着いたらしい。
 褐色の肌を羞恥に染めながらも、春日に皮肉を飛ばしながらは受け取ったジュースに口をつけた。

「で、なにがあったわけシスターさん。なんだか尋常じゃない雰囲気だけど。恋愛相談はダメだった?」
「先日、その恋愛相談でとある男性を激しく傷つけてしまい、その恋人に言われたんです。私の言葉に中身がないと、上辺だけの薄っぺらい言葉だと」
「うわあ、なにがあったか知らないけど酷いこと言うわね。もっとも、少女漫画片手に相談受けられたら、私だってそう思ったけど」
「申し訳ありません。色々と切羽詰まっていたのです」

 彼女が今一度懐から取り出したそれを、神楽坂は断りを入れてから受け取った。
 内容は割とありきたりで、幼馴染の男女のクラスにイケメン転校生がやって来たことから始まる三角関係のストーリーだ。
 しかも不思議なことに、なんの特技もない主人公が何故かイケメンに持てまくる。
 主軸は三角関係だが随所にイケメンが散りばめられ、主人公の気持ちを知っては去っていく。

「これは酷い。現実はこんな甘くないのよ。所詮相手にとって私はその他大勢の一人なのよ!」
「ですが先ほど、三角関係を構築中だと」
「違うわよ、両想いなんて一つもない。私が勝手に憧れて、勝手にお世話になって。この少女漫画の主人公みたいに、都合の良い居心地の良いぬるま湯につかってただけなのかな」
「居心地の良いぬるま湯ですか?」
「ずっと何も行動しないのに憧れているだけ。私を助けてくれる優しさに甘えて、告白する気もないのにずるずると。中途半端なのよ」

 口にした通り、むつきには色々と高畑のことで気を使って貰ったが実に結びついていない。
 それは助けられて普段よりも高畑に近づけたところで満足してしまったからだ。
 高畑のスケジュールを知った上で、那波や宮崎のようにアプローチするわけでもない。
 一緒に行った夏祭りも木乃香や刹那が一緒であり、二人にお願いしてはぐれた振りをすることもなく。
 近づけただけで隣に立てただけで満足し、向き合う気持ちが何一つなかった。
 それで気づいて貰おうだなんて、それこそ少女漫画の主人公並みに図々しい。

「決めた、私告白する。駄目でもなんでも良い、できれば叶えたいけど。バイトを辞めて、水泳部に入る。中途半端はもうしたくないから」
「遠い昔の偉大な人は言いました。わずかな勇気が本当の魔法。少年少女よ大志を抱け、その一歩が世界を変える」
「聖書の言葉ですか?」
「いえ、偉大な技術をこの世に残した偉人の言葉です。今、ふと思い出しました」
「わずかな勇気が本当の魔法、か」

 本当の魔法というフレーズは少し謎だが、胸にストンとはまる言葉であった。
 なにしろ今目の前にあるありふれた夕暮れの光景が、とても煌めいて見えたから。
 まるで世界が変わってしまったかのように、神楽坂には見えた。
 この素晴らしい世界を独り占めするのは勿体ないと、神楽坂は振り返ってシャークティの手を取った。

「シスターさんも、暗い顔してないでわずかな勇気出そう」
「私が、わずかな勇気をですか?」
「人を傷つけて悩んでたってなにも解決しない。勇気を出して、行動しなきゃ。私もまだ実際に告白したわけじゃないから、偉そうなことは言えないけど。わずかな勇気が本当の魔法」
「少年少女よ大志を抱け、その一歩が世界を変える。さすがに少女という年齢ではないですが……」

 神楽坂の言う通りだと、シャークティは彼女の勇気を見て思った。
 今こうしてシャークティが後悔に苛まれていても、むつきの例のアレが治るわけではない。
 具体的な対処は不明だが、今シャークティができることは懺悔することだ。
 自らの罪を省みて全てを告白し、それから行動を決める。
 そうでなければ今日の神楽坂の懺悔の時の様に、後悔の種をまた生み出しかねない。

「私は恋というものが分かりませんが、貴方の恋が幸せなものになりますようお祈りいたします」
「ありがとう、シスターさん。なんだかすっきりしたし、私頑張る。懺悔に来て良かった」
「ふふ、こんな私でもまだ誰かのお役にたてることが分かって良かったです」

 それじゃあと、お互いに懺悔室で出会った時の沈んだ顔は止めて晴れ晴れしい笑顔で別れを告げた。









-後書き-
ども、えなりんです。

明日菜、小さな勇気の言葉をネギより先に聞く。
シャークティ、微妙に復活。
主人公、全く話にでてこずw



[36639] 第百十五話 本当は、お前にあの尼を犯させるまで待つつもりだったんだ
Name: えなりん◆e5937168 ID:b4eb98ea
Date: 2014/05/17 20:41

第百十五話 本当は、お前にあの尼を犯させるまで待つつもりだったんだ

 男性と公園で待ち合わせるなど、生まれて初めてのことではないか。
 高らかに鐘を打ち鳴らすこの心臓をときめきと表現できたなら、良かったのだが。
 どう好意的に表現したとしても、不安や怯えといった恐怖にも近い高鳴りであった。
 それを癒してくれるのは、今いるベンチから少し離れた場所で遊ぶ子供たちだ。
 きゃっきゃと甲高い声で笑っては、誰よりも神のおわす場所に相応しい笑顔を見せている。
 彼らの姿に勝手に勇気づけられては、シャークティは胸元の十字架を握った。
 大丈夫、今回ばかりはあの連中にも話を通したからと、今回の行動を顧みる様に。
 あれもあれで結構怖かった。
 ただなんでもするつもりですと言った時の、あの奇妙な視線の意味はなんだったのか。
 分からないからこそ余計に恐ろしいと、シャークティはとある少女の言葉を思い出した。
 小さな勇気が本当の魔法。
 元は自分の口から出た言葉を思い出しては逃げ出したくなる気持ちを押さつけた。

「あの……シャークティさん?」
「はい」

 来たと、閉じていた瞳を開いて顔を上げる。
 シャークティの目の前にいたのは、何処にでもいそうな平凡的な日本人男性。
 今や色々な意味で麻帆良の特殊な人々を騒がせている、女子中の教師であった。
 震える足を隠してキビキビと立ち上がったシャークティは、軽く頭を下げた。

「ご足労頂き申し訳ありません、乙姫先生」
「はあ」

 決意を秘めた眼差しのシャークティとは対照的に、むつきの表情はさえなかった。
 特別親しくもない相手、それこそ若い女性に突如として呼び出されればそれはそうだろう。

「どうぞ、お座りください。今回、謝罪させて頂きたいことがあります」
「謝罪、春日がなにか?」
「美空?」

 何故そこで春日が出てくると、むつきの伺うような顔に思わず肩の力が抜けた。
 この人もこれであの春日の悪戯に手を焼いているのだという親近感であった。
 それを覚えると、なおさら何故そんな相手にあんなことをしてしまったのかと罪悪感が膨れ上がる。
 だがそれを抱くだけでは意味がないのだと、ベンチの隣に座って来たむつきに振り向いた。
 相変わらずむつきは、何故俺はここにという顔をしている。

「謝罪するのは、私です。先日の懺悔の件、アレを聞いていたのは神父様ではありません。私なんです」
「え? ん?」
「迷える子羊よ、主を前にその胸のうちを告白しなさい」

 混乱するむつきの目の前で、変声の魔法で神父の声を再現して見せた。

「特技なんです、声真似」

 もちろん、魔法を明かすつもりなどなく、少しばかり苦しいがそう語調を強めて言った。
 あまりにも違い過ぎる声質にむつきがはしゃいだ様にリクエストする。

「うわっ、全然違う。すげ、もう一回。性別さえ超えてる!」
「迷える子羊よ、主を前にその胸のうちを告白しなさい」
「マジで神父、あれ……俺本当の神父様に会ったことあったっけ? あれがシャークティさんで、お? あっ……」

 そこでようやく脳内で情報が整理され始めたのか、むつきのはしゃぎようが収まっていく。
 むしろそのはしゃぎようは、現実逃避の一種だったのかもしれない。
 なにせむつきは、神父の声真似をしていたシャークティを相手に懺悔していたということだ。
 理解するにつれ、だらだらと汗が吹き出し始め、顔色が悪くなっていく。
 それもそのはずで、むつきは神父が相手だと思って色々と思いのたけをぶちまけたのである。
 それこそ、懺悔の直前に出会ったシャークティに対してどういう感情をいだいたのかさえ。
 思わずベンチからお尻を話して、逃走体勢になろうとして誰が責められようか。

「俺、ちょっと用事を」
「いえ、責めるのはむしろ私の方です。乙姫先生の御病気、それもまた私のせいなのです」

 むつきが逃げ出そうとしたからこそ、慌てる様に咄嗟にシャークティは本題を切り出せていた。
 口にしてから自分が驚くぐらいにあっさりと。

「私の勝手な判断で、乙姫先生にとあるお香を使ってしまったのです。性欲が激しく減衰するお香です。時に性犯罪者相手に使われるもので、本来は一晩で効果が切れるはずでした!」

 早口でまくしたてながら、それでも魔法の二文字だけは隠しながら。

「謝って済む問題ではないことは承知しています。しかし、謝罪しなければ私はそこから一歩も動けません。勝手な押し付けを続けて、申し訳ないと思っています」
「あの、シャークティさん?」
「はい、なんなりとお申し付けください。それでお気がすむなら、なんでもいたします」
「じゃあ、帰っても良いですか?」

 今度はシャークティが、目が点になる番であった。

「え?」
「いや、だから帰って良いですかって。水泳部の部活開始前に、抜け出してきたようなもので」
「あの、なんでもするのですが。こう、ありませんか?」
「当時はショックでしたけど、恋人とは絆が深まりましたし。まだ役立たずですけど、それなりに回復には向かってますから。まあ、二度としないでくださいねとしか」

 理解ができないというように、眉間に集めた皺を摘まむ様にしてシャークティは考え込んだ。
 それほど時間はかからず、穏やかに笑っているむつきを見る。
 いや、まさかと思いつつも、自分の偏見にまみれた瞳こそ信じられない様に聞いた。

「もしや、乙姫先生はかなりの善人ですか?」
「悪人でこそないですが、自信はないですけど。それに、シャークティさんこそ、女性が口にするなんでもするという言葉の意味をわかってますか?」
「あんなことをしでかした手前、嘘にしか聞こえないかもしれませんが。神に誓い、嘘はつきません」

 十字架を手に、真面目な顔で言い切ったシャークティを前に、むつきは苦笑いである。

「じゃあ、ここでパンツ脱いで僕に渡してください」
「わかりま、え? もう一度、すみません良く聞こえず」
「ここでパンツ脱いで僕に渡してくださいと言ったんです。男になんでもするって言わない方が良いですよ。ほら、無理でしょう?」
「そんなこと」

 無理に決まっていると、思わずむつきを睨もうとしたシャークティの耳にそれは聞こえた。

(ほう、また嘘をつくのか)

 ビクリとその声に体を振るわせたシャークティは、辺りを見渡し始める。
 明らかに冗談の類とわかるように困ったように、むつきは笑っていた。
 そこでようやくシャークティも、自身をいさめる為の言葉だと分かったが探し人は違う。
 恐らくはシャークティだけに聞こえたそれは、背筋も凍るような冷たい声だった。
 本当に、むつきのような極々一般的な普通の男性と付き合っているのが不思議な位の相手。
 闇の福音とおよそすべての魔法使いから怖れられている吸血鬼の少女の声、テレパシーだ。
 改めて周囲を見渡しても隣にいるむつきの他には、少し離れた場所で遊んでいる五、六人の子供ぐらい。
 その姿は何処にも見られない、しかし声は続いた。

(貴様は、何処までいっても薄っぺらい。謝罪したいと申し出たのは、貴様だ。そして悪と呼ばれる私が、慈悲深くもそれを許可した。なのに、なんだその体たらくは?)
(ですが、彼は私をいさめる為に少し大げさに言っただけで本心から)
(また勝手な想像で、そう決めつける。だいたい、貴様の覚悟はその程度だったのか? なんでもすると言えば許される、そう期待していただけではないのか?)

 グサグサと突き刺さる言葉に、シャークティはちらりと横目でむつきを見た。
 エヴァがどう言いつくろうと、むつきは困った挙句にシャークティを思いとどまらせようと言ったようにしか見えない。
 しかし仮にそうだとして、それに甘えるだけで良いのか。
 本心から謝罪したいのであれば、どんな無理難題でもしてみせるのが誠意というものではないか。
 いやしかし限度がと、良く分からなくなって来た。

「シャークティさん?」
「あっ、はい。あの……」

 こうしてむつきは待っている、早く決断しなければとシャークティは焦っていた。
 決断するもなにも、常識をもってすれば何が正解か分かるはずであるのに。

(これで分かっただろう。自分がどれだけ、上っ面だけの薄っぺらい存在か。口だけの女はすっこんでいろ。私とむつきの、貴い愛の間に割り込んでくるな。目障りだ、失せろ!)
(私は、本気で。小さな勇気こそ本当の……)

 完全にエヴァに手玉に取られた状態のシャークティは、ムキになったように決断した。
 未だ隣で戸惑っているむつきの前で、ほんの少しだけ腰を浮かしてスカートの中に両手をいれる。
 さすがに肌と下着の間に指を差し込んだ時は、その動きがわずかながらに止まってしまったが。
 今一度、小さな勇気こそと完全に間違った使い方をしながら、ずるりと一気に太ももまで下着を下げた。
 一旦踏ん切りをつけてしまえば、意外と行動はスムーズだった。
 暴走機関車が、温まったエンジンを急には冷やせない様にいっきに駆け抜けていく。
 太ももから膝、紐のように緩んだ下着が落ちる。
 足首にまで来たそれから靴を履いたまま足を抜いたところで、シャークティは気付いた。
 そう言えば、今日はTバックだったと。

「ちょっ、シャークティさん?!」
「私は神に誓いました。二言はありません。これで、お判りいただけましたか?!」

 脱ぎたてのそれを隣にいたむつきに押し付け握らせると、スカートを押さえる様に膝に両手を置いた。
 一方のむつきは、当たり前だが呼び出された時以上に大混乱だった。
 顔見知り程度でしかないシャークティの下着が、本人が隣にいるのに今手の中にある。
 布地の面積はとても少ないが、確かな女性の温かみがまだ残っていた。
 思わずTバックという名が示す通りその形に広げてみたくなったが、慌てて後ろに隠した。
 そして誰にも見られていないなと、挙動不審気味に周囲を見渡していった。
 当初シャークティがそうしたように、やっぱり公園内には数人の子供ぐらいしかいない。
 夕方と言っても中途半端な時間であり、大人は会社で学生も部活か、そうでなければ帰宅後だ。
 他に誰も二人を咎める者がいないと気づき、ほんの少しだけむつきの欲望が解放された。

「ほ、本当に……なんでも、でしょうか?」
「二言はありません」

 シャークティの変わらなかった答えに、むつきはごくりの生唾を飲み込んだ。
 自分が不能になってはいても、女性のなんでもするという言葉には魔力がある。
 むつきにはなんでもしてあげるという恋人が何人もいた。
 しかし、今は状況が違った。
 殆ど見ず知らずの、恋人という甘い存在ではない相手がそう言ってくれているのだ。
 なんでもすると言われても常識的に抵抗感がある、なのに股間がやけにうずく。

「そのヴェール、みたいなの脱いでくれ。シャークティの顔をもっと良く見たい」
「はい、乙姫先生」

 だからそのうずきに促されるまま、戸惑いも薄れて自然とそう命令していた。
 シャークティもまた、言われるままにしなければと思い込んで実際そう行動してくれる。
 最初にパンツを脱いだことで、次の命令が軽かったこともあるだろう。
 また一つ命令を言われるままに聞いて、彼女はまた一つそうするべきだと思い込んでいく。
 いや、むしろ自分から率先してと逆にむつきに尋ねる程だ。

「次は、どうしたら良いでしょうか?」

 ヴェールを脱いで、アタナシアとはある意味真逆の銀色の髪を風にそよがせながら
シャークティがうかがってきた。

「僕の方に少し寄って」
「こう、ですか? あっ」

 座り直して距離が近づいたのを良い事に、抱き寄せてみたかったシャークティの腰を引き寄せた。
 それからむつきは、ほらここにと抱き寄せた手に持っていたシャークティのパンツをひらつかせる。
 抱き寄せた時以上に、こちらの方に驚いていたようだ。
 彼女がその存在に気づいたことを確認すると、むつきは指で弾く様に放り投げた。
 殆ど紐の様なそれは、二人が座るベンチの目の前に風に巻かれながら落ちていった。

「動かないで」

 当たり前だが、自分の下着が目の前に落とされてシャークティは思わず拾おうと腰を上げかけた。
 それを引き留める様に、むつきはがっちりとシャークティの腰を抱いて動かせさせない。

「でも、私の」

 そよ風ひとつで微動するそれは、少し強い風できっと飛んで行ってしまう。
 だからこそ慌てるシャークティを見下ろして、むつきは楽しんでいた。
 ますます強くなっていく股間の疼きを自分でも理解し、膨らみ始めていることにも気づきながら。
 今のむつきは、解放されていた。
 一度不能になったことで、なんとしても立たせなければという思いからである。
 可愛い嫁が頑張ってと可愛くいやらしく振舞うたびに、応えなければとプレッシャーがかかっていた。
 しかし、今は言ってしまえば別に立たなくても良い。
 それこそこのまま帰ってしまっても良いぐらいに、相手を気遣う必要がなかった。
 悪いのはシャークティだ、謝罪したいと言ったのもシャークティだ。
 どうふるまおうとそれは、むつきの自由である。
 立たなくても良い状況だからこそ、逆に股間が疼くというのも悪い冗談過ぎたかもしれない。

「シャークティ、もしこの下着があそこで遊ぶ子供たちの方に飛んで行ったら面白くないですか?」

 にこやかなむつきのセリフに、シャークティがまた腰を浮かせて拾い上げようとしていた。
 もちろん、それを許すむつきではない。
 むしろむつきはそんなシャークティの抵抗を面白がっていた。

「こ、困ります。お願いします、下着を……拾わせてください」

 震える声でお願いしてきたシャークティを前に、むつきは普段の優しさの欠片も見せずただ笑う。
 むつきが解放されているのには、もう一つ理由があった。
 普段、可愛い嫁を虐めることはあっても、それは甘い恋人としてだ。
 相手が本気で嫌がることはしない、というか嫌われる可能性がわずかでもあればできるわけがない。
 しかし、恋人でも友達ですらないシャークティが困っても、心が痛まなかった。
 彼女が悪いという免罪符のおかげで、彼女がどんな状況になっても構わないのである。
 だからどんな無茶でも笑ってできる、ある意味でどんな我がままでも言えてしまうのだ。

「んー、どうしようかな。あっ」

 懇願する彼女を前に、悩んでいる間にそのちょっと冷たい秋風が強めに吹いた。

「だめっ!」

 特別な何かが込められた風だというのに、感知できるはずのシャークティは気付く余裕もなかった。
 秋風に乗って黒い彼女のTバックはさらわれていく。
 むつきがそう望んだ通り、小学校の低学年ぐらいの少年たちの下へとである。
 サッカーボールで遊んでいた少年たちは、知識こそないがそれを異物であるとは認識していた。

「なんだこれ? 紐?」

 一人の少年が好奇心に引かれてそれを拾い上げては、目の前で広げた。
 やはりそれが大人の女性の少し特殊な下着だとは認識できなかったようだ。

「小さくても、男ですかね。ほら、他の子も集まって来ましたよ」
「だめ、早く捨てて」

 まさに神に祈る様に十字架を手にシャークティが祈るが、それは叶わなかった。

「これパンツっぽくねえ、うわばっちい」
「んなわけあるか。こんなの、うんこつくぞ」
「うんこ、うんこ」

 げらげらと笑い合う少年たちは、未だその貴重な物品の真価を知らない。

「おー、なんか伸びねえこれ。ゴムか?」
「おい引っ張るなよ、俺が拾ったんだぞ!」
「本当だ、伸びる。引っ張れ、引っ張れ!」
「止めろよ!」

 子供は本当に何でも玩具にする、それこそ女性の下着でさえ。
 拾った少年は嫌がっていたが、集まって来た子達がシャークティの下着を引っ張りまわす。
 子供とはいえ、子供だからこそ全力で引っ張りまわされたそれは原型をとどめない程に伸びていく。
 最初に拾った少年もいっそ自分の手で、その奇妙な綱引きに参加していった。

「ああ、あんな純粋な子供たちが私の下着で……」
「将来、彼らが大人になったら笑いながら話すんでしょうね。あの時のってTバックじゃなかったかって」
「お願い、許して……もう、許して。神の国に相応しい子供たちが私のせいで」
「また罪が増えちゃったか。償わないと、いけませんよね?」

 どんな顔をして良いのか、両手で顔を覆ったシャークティへとむつきは追い込むように言った。
 股の間に疼く気持ちに素直に。
 いや、もはやごまかすような表現は不要な程に、むつきの股間は勃起していた。
 ベンチに座っていてもごまかせない程に、ここから出せといきり立っている。
 今や精神的に弱りきったシャークティを、シスターという穢れなき女性を犯させろと。
 シャークティも顔を隠しながら、指の隙間からそれを見ていた。
 見ていたのに、逃げ出すそぶりさえ見せなかった。
 だから返ってむつきには、彼女が罰を与えてくれる存在を待っている様にも見えた。

「俺が罰を与えてやる」
「乙姫先生が私に……罰を、与えて、ください。罰を私に」

 シャークティには、もう殆ど理性らしい理性は残ってはいなかった。
 ただただ言われるままに、むしろ率先してむつきの言葉を受けるべきものだと受け取っていた。
 そしてむつきらしい罰を口にしようとした時である。
 極度に興奮してのぼせ上ったむつきを、後ろから抱きしめる者が現れた。
 突然の行為にも思わず振り払わないぐらいに、親しみ慣れた温もりと匂い。

「むつき、楽しそうな事をしているではないか、ん?」
「アタ、うわ。待って、立つな。立ってない、立ってないから!」

 いつの間にか完全に勃起していた股間に気づき、むつきが両手で隠そうとするが隠し切れるはずもない。
 むしろ今ここで立つなと普段と逆のことを考える度に、返ってそれは硬度を増していく。
 本当に気持ちとは裏腹に、普段立ってくれと苦しむ度に立ってくれない様に。
 まるでそれを狙っていたかのように、妖しく笑ったアタナシアがその長く白い腕と指先を伸ばした。
 むつきが隠そうとした両手を優しく除き、テントを張るスーツのズボンを指でなぞった。
 ツンと触れられるとビクンと震え、小さくなってはいかない。
 もう大丈夫だと、アタナシアは感極まったようにむつきの頬にキスをして微笑み抱えた。

「むつき、興奮冷めやらぬ間に。ホテルにしけこむ時間も惜しい、そこの茂みでな?」
「アタナシア、引っ張らないでくれ」

 どうやらアタナシアが怒っていないことは分かったが、むつきはまだ少しついていけていない。
 強引に腕を引っ張ってくるアタナシアに連れられ、ベンチ裏の垣根と茂みの中へと連れられていく。
 少々我に返ったまま、ぽかんとしているシャークティを置いたまま。
 時折スーツを枝に引っ張られながら踏み込んだ茂みは、公園の雑木林に続く獣道であった。
 子供たちが遊ぶ場所からはもちろん、公園外の道路からも遮断された場所である。
 視界は木々のおかげで不良であり、さらに茂みの中とあれば大声を上げない限りは大丈夫だろう。
 この時を待っていたとばかりにアタナシアが、むつきを適当な木の幹に背中から押し付けた。
 まるで男女逆の形で、強引に関係を迫る様に。

「本当は、お前にあの尼を犯させるまで待つつもりだったんだ」
「おいおい」
「当然だ、あの糞尼は私たちの大事なむつきにそれだけのことをしたのだ」

 まだまだ硬さを失わないそれをズボンの腕から撫でつけながら、アタナシアは興奮気味に言った。

「けど、悔しくなって耐えられなかった。私たちがしてあげられなかったことを、あの糞尼にされるのが。嫉妬したんだ、この私が。馬鹿、お前は私たちのものだ!」
「うん、ごめんね浮気して。シャークティさんも」
「え?」

 馬鹿と言いながら胸を叩いて来るアタナシアを抱き返しながら、むつきは振り返った。
 来いと言われたわけでもないのに、少しだけ木に隠れるようにしてついてきたシャークティにだ。

「もう、大丈夫ですから。気にしないで、今回のことはお互いに気の迷いだったってことで。俺はアタナシアと付き合ってますから、続きはアタナシアとします」
「ふふん、貴様はもう用済みだ」
「アタナシア、俺もう我慢できない。入りたい、アタナシアの中に」
「何日焦らされたと思っている、こちらは何時でも受け入れる準備はできている。ほら」

 シックな黒いカジュアルドレスのスカートを、アタナシアは裾を両手で摘まんで持ち上げた。
 他に男の視線がないからと、スカートの奥に見えたのは涎まみれの口だった。
 アタナシアが言った通り、何日もお預けされ飢餓状態である。
 むつきのお肉が食べたいと金色のヘアもしなるほどにだらだらと愛液が流れ落ちていた。
 下着は既に脱いでいたのか肌もあらわで、愛液はそのまま太ももを伝っては黒のニーソを濡らしている。

「アタナシア、おいで」
「はやく、はやくいれて。欲しいの」

 ベルトを外し、ズボンを下ろしながらむつきが手を差し出した。
 飛びつく様にその手を取ったアタナシアが、外気にさらされそそり立つ一物を跨いだ。
 むつきもまた勃起した一物の先から涎を垂らしており、二人の涎が絡み合う。
 アタナシアの太ももに挟まれ、入り口は何処だと愛液にまみれながら穴を探す様に暴れた。

「熱い、硬い。前戯は不要だ、はやく」
「アタナシア」
「き、来たァ!」

 お互いに向かい合い、むつきがアタナシアの片足を持ち上げながら亀頭探りで挿入していった。
 より溢れる愛液の海を泳いで、待ち焦がれていたアタナシアの割れ目の奥、膣口を抉り忍び込む。
 勃起不全の後遺症を感じさせない力強さに、入り口を広げられただけでアタナシアが歓喜の声をあげた。
 男らしさを感じる強引さで女の証を広げられ、体内に熱く硬い一物が押し込まれていく。
 他の肩書きが一切いらない男と女、ただそれだけになる二人を見つめるギャラリーが一人。
 しかも処女であることを信条にしたシスターの目の前での行為である。
 これがと口元をおさえ、目を見開いて驚愕する彼女の前でむつきはアタナシアをより奥まで抉った。
 抱きしめたアタナシアの腰を落とし、逆に背伸びするように自分の腰は上げた。
 肉ひだをかき分け数日ぶりの奥へ、根元まで全て飲み込ませ仕上げに最奥のやや硬めの膣口を突く。
 ゴンっとアタナシアの体が震える程に、ここに欲しいんだろと体に聞く様にだ。

「奥ぅっ、しゅごい。何時もより、深い。むつき、ごりごりして!」
「しっかり掴まってろ」
「しゅき、だいしゅき!」

 焦らされ、待たされ過ぎたせいか普段の妖艶で大人の雰囲気がみじんもない。
 恥も外聞もないように、むつきの首に腕を回し両足はむつきの腰をガッチリホールドしていた。
 むつきもそれに応える様にアタナシアの悦びに震える尻を支え、駅弁の格好で腰を回していった。
 リクエスト通り、亀頭で膣口を突いてはこすりつけてアタナシアを刺激する。

「凄い、アタナシアのこんな……絞り上げてくる。そんなにしたかったのか、俺の子供が欲しかったのか。俺もだ、孕ませるぞ。お腹が破れるまで、注いでやるからな!」
「注いで、私に注いでくれむつき。欲しいの、むつきの赤ちゃん欲しいの! 孕ませて!」

 もっともっとと互いにより多く求める様に、アタナシアを抉りながらむつきは膝をついた。
 少し湿った感じも受ける芝の上にアタナシアを下ろしながら、突く、とにかく突く。
 本気の男女の辛みを前に、シャークティは立っていることさえできないでいた。
 まるでベンチでのむつきとのやり取りが児戯に思えるぐらいに、打ちのめされてもいる。
 謝罪と欲求の押し付け合いではなく、本当に互いを想い二人の愛の証を欲しがる様子にだ。
 生まれて初めてみる生々しいセックス、しかし彼女が抱いていた独善的なモノを一切感じない。
 アタナシアことエヴァが言ったように、セックスにふけりながらも二人は気遣いを忘れていなかった。

「そこ、もっとグリグリして。そこが、良いの!」
「ここか、アタナシア」
「そこだぁ、むつきも私で気持ち良くなってくれ」
「気持ち良いよ、このまま朝まで抱いてたいぐらいに!」

 狂乱の声を上げるアタナシアの言葉を逃さず、逐一むつきは答えて見えていた。
 しかしアタナシアも一方的に欲求を伝えるだけでなく、不安定な体勢ながら腰を使っている。
 快楽にふけりながらも、共同作業という言葉が似合うぐらいに気遣いを忘れてはいなかった。

「これがセックス……あっ」

 自らの太ももに伝わる粘性のある液体に気づいたシャークティが小さく声をあげていた。
 本当に小さく、二人の行為を邪魔しない様に。
 されどこの場から立ち去る気配も見せずに、彼女はむしろ見入っていた。

「アタナシア、そろそろ出る」
「何時でも、私の中に。光栄に思え、こんなこと……お前だけなんだぞ」
「ああ、俺だけのアタナシア。出すぞ、俺の子供を孕め」
「孕みたい、出して奥に!」

 シャークティが見守る中、快楽の絶頂を迎えようと二人の腰使いはより荒く激しくなっていった。
 声以上に他の誰かにみつかってしまうのではと不安になるぐらいに。
 肉同士がぶつかり愛液が弾け飛び、パンパンと公園の雑木林の中に響いていく。
 そのリズムがまた早くなり、連続した音から一つの大きな音のようにまで聞こえた時であった。

「う、出る!」
「ぁっ、お腹の奥。出てる、むつきの精液。熱いのがぁ!」

 むつきに抱えられていたアタナシアがのけぞる様に上を見上げ歓喜の声をあげた。
 両翼のように広げられ伸ばされた足も、何か特定のリズムでビクンビクンと震えている。
 そんなアタナシアの胸に顔を埋め、きつく抱きしめていたむつきが震えるリズムと同一だった。
 しばし長い絶頂に打ち震えていた後に、むつきがよろりとよろめいた。
 背後にあった木に背を預けては、ずるずると尻もちをつく様に体を落としていく。
 当然、抱え込んだアタナシアを落とさない様に、彼女を地面に触れさせない様に注意しながら。

「ふふ、別に泥ぐらい良いのに……一杯、出たな」
「アタナシアを泥に触れさせるぐらいなら、俺が寝そべって踏み場になってやる」
「なら、私は泥だらけのお前を、この肉体で洗ってやろう」

 こんな風にと、アタナシアが腰を動かすとぶしゅりと彼女の股から精液と愛液の混じった液体が流れ出す。
 勿体ないと彼女が膣を締めると、極自然とむつきの残り汁がまた彼女の中に流し込まれていった。

「ちゅう、したい」
「可愛い、何度でも」

 再び体内に流し込まれた精液を感じ、心に染みたのか上目づかいでアタナシアがそんなことを言いだした。
 当然、むつきが断るわけもなく久方ぶりのセックスの余韻を楽しむ様に口づけあった。
 完全に二人の世界に入ったむつきとアタナシアを前に、観客はまだ見えていた。
 これが愛なのだと、男と女が思い合っては自然とふける行為なのだと。
 やはり今になっても頭でしか分かっていないと、シャークティは自覚すると同時にこうも思った。

「私は……こんな風に男性に想われたことも、想ったこともない」

 処女であるべきと、アプローチを全て断って来たとはいえ胸に風穴があいたようにも思えた。

「寂しい、私は」

 こんな風に誰かに全力で愛されてみたいと、その瞳はむつきへとむいていた。










-後書き-
ども(略

当初、シャークティを教会で犯すなど色々考えたのですが。
嫁で駄目で、何でもない人で立つ状況が想像できませんでした。
こう、なにしても良い状況でもむつきの場合は変なところでブレーキかかりそうで。

結局、嫉妬したエヴァに出てきて貰いました。
なんか、中途半端になちゃいました。



[36639] 第百十六話 和美さんの巨乳で癒してあげる
Name: えなりん◆e5937168 ID:da470ce8
Date: 2014/08/17 13:46

第百十六話 和美さんの巨乳で癒してあげる

 奇跡の復活を遂げた翌日、金曜日の放課後のことである。
 水泳部の監督室には監督であるむつきと、正式に水泳部員となった神楽坂、そして何故か報道部の和美の姿があった。
 来客用テーブルを挟み、長椅子の一片にむつきと和美が、反対側に神楽坂という配置だ。
 まだ着替え前の神楽坂は制服姿で、少々和美を睨む様に半眼で見ていた。

「なんで朝倉がいるわけ?」
「私がいる理由なんて取材以外にある? 全国大会に出場した水泳部は、女子中等部でも強豪部だし。その新体制に加え明日菜の加入。これは取材するっきゃないでしょ」
「むー……」

 こう堂々と取材と言われてしまえば、まだ水泳部では新参の神楽坂にどうこう言えない。
 監督室にまで踏み入っているということは、むつきが許可を出したということだ。
 恐らくはアキラや亜子も、それでも納得はできなかった。
 だからせめてもの抵抗と明日菜は不満げな視線を向けたのはむつきである。
 大事な話があると言ったのに、そこに和美を連れて来たむつきへと。

「すまん、どちらかというとこっちが先約でな」
「いいわ、無理に時間作って貰ったのはこっちだし。ただし、朝倉。これから私が言うこと、記事にするにしても全部終わってからね。それぐらいした方が、私も踏ん切りつかないでしょうし」
「珍しいじゃん。明日菜が自分から記事にしてもなんて」
「それぐらいしないと、また逃げちゃうから……」

 神楽坂の口ぶりに、これはただ事ではないとむつきも朝倉もお互いを見合った。

「まさか、今更水泳部止めるとかじゃねえよな?」
「それこそ、まさか。私が決心したのは、高畑先生に告白しようってこと」

 不安げに尋ねたむつきの言葉を否定し、神楽坂はひざ元に置いた手をキュッと握りしめ言った。
 普段の様にその場だけのテンションに任せ、後で萎んで逃げ出すような言い方ではない。
 今ここに高畑がいたとしたら、そのまま告白できそうなぐらいの決意がその瞳には見える。
 その意志を前に、茶化してはいけないことだと和美も手にしていたメモを目の前のテーブルに置いた。

「えっ、マジで?今までみたいな、夏祭りとか、麻帆良祭の今度こそとかイベントがらみでもなく?」
「今までみたいな、半分妄想が入ったのとは違うわよ。決めたの」

 和美の再確認の言葉もまた否定し、神楽坂がチラリと伺う様に見たのはむつきだ。

「先生、今まで色々とありがとうね。私今度こそ、絶対に告白する」
「そうか。時期やタイミングは?」
「まだ、一応先生から高畑先生のスケジュール貰ってるけど、それも絶対じゃないし。でも、そんなに先には伸ばさないつもり」
「分かった。なら……」

 神楽坂の決断をどうこう言わず、むつきはただ黙って懐から携帯電話を取り出した。
 突然のむつきの行動に小首を傾げる二人に、しっと唇に人差し指を当てて静かにのポーズである。
 むつきの耳にだけ携帯電話のコールが響き、ぶつりと繋がった音が鳴った。

「はい、高畑だけど。どうかしたのかい、乙姫先生」
「緊急ではなく、半分は私信です。ちょっと高畑先生のスケジュールで確認したいことがありまして」

 これに慌てたのは、今度こそ一人でとむつきに頼ることを止めようとした神楽坂だった。
 なんでどうしてと自分の決断に水をさされた気分で、涙目になりながら電話を切ってと手を振っている。

「実は生徒の一部が、気の早いことに今年のクリスマスについて話してるのを小耳に挟んだんですよ。どうせなら盛大にクラスでパーティしたいと。それなら高畑先生のスケジュールも確認しておこうかなって。まだ三ヶ月近くありますし、今からなら空けられそうですか?」
「まだ文化祭だって、本当に気が早い。うん、わかったよ。学園長にもお願いしてみるよ」
「高畑先生が参加してくれれば、あいつら皆が喜びますよ。お願いします」
「僕は独り者だからね。それこそ君は、エ……アタナシアは大丈夫かい?」

 僕らの本番は夜からなのでと、大人の会話で笑い合いむつきはそれではと電話を切った。

「先生、どうして……私は」
「ん、別に俺は高畑先生にクリスマス空けておいてくれって頼んだだけだぞ。お前はそれに合わせるもよし、それこそ明日告るもよし。なにか問題あるか?」

 あくまでむつきはクリスマスパーティをすると、今はまだ計画さえされていないことを知らせただけだ。
 その日に告白しろと神楽坂をたきつけているわけではない。
 それこそ三ヶ月も先のことなのである。
 告白すると決心した神楽坂にとっては、準備期間にしては長すぎるといえなくもない。

「明日菜、今回は本気みたいだしその勇気は賞賛する。けどさ、思い上がって勘違いはいただけないよ」
「思い上がってなんか。私はただ一人で全部、先生にこれ以上は頼らずに」
「それが思い上がり。私らはただの中学生だよ。明日菜はクラスでも自立してる方だけど。一人でってことは、同室の近衛にも、委員長にも頼らない?」
「当たり前でしょ、ちゃんと一人で」
「当日に、自分の格好が変じゃないか聞いたりしない? 流行りの格好で行く? それとも、高畑先生の好みで? そもそも高畑先生の好み知ってる? 告白する日の段取りは? そもそも高畑先生のスケジュールは、先生から貰うんでしょ?」
「うっ……そんなの」

 きっと当日に、いやそれこそ前日、一週間以上前からあれこれ聞きたくなるに決まっている。
 矢次に繰り出された和美の言葉に反論一つできない。
 いや、感情的に返さないだけ成長したと言えるが、今の神楽坂はそこまでは気付けなかった。
 そんな神楽坂に助け舟を出すのは、やはりむつきである。

「すまん、良かれと思ってやったが。神楽坂は一人でちゃんと告白したかったんだよな」
「そんな、先生が謝らなくても。朝倉が変なことを言うから……」
「私は記者として中立な立場から助言しただけだけどね。じゃあ、ここからは友人として」
「友人ってなによ、突然気持ち悪いわね」
「それちょっと、酷くない?」

 普段の自分の行動に対して胸に手を当ててみろと言われ、苦笑いしながら和美はつづけた。

「今の明日菜、ちょっと可愛げないよ。まだ、普段の妄想混じりに暴走してる方が可愛げある。良いじゃん、頼っても。けじめさえつけてれば。好きなのは高畑先生、乙姫先生は頼れる大人、でしょ?」
「一人でなんでもしようとするのは、可愛げない?」
「今はまだギリセーフ。だけど、さっき私が言ったみたいに応援してくれる人にまで、一人で出来るからってトゲトゲするのはね」
「き、貴重な忠告として受け取っとくわ。友達の応援の声まで煩いなんて、跳ね除けたりなんかしないわよ」

 ふんっと鼻息荒く和美から顔を背け、そっぽを向く姿は普段の神楽坂であった。
 なにか思いつめて一人でと言うよりは、確かに可愛げがあって結構である。

「男の意見としては、確かに今の神楽坂の方が可愛いな」
「かわ、可愛いって?!」
「なに照れてんのさ。可愛い、可愛い明日菜ちゃん」
「朝倉、後で覚えときなさい」

 真っ赤な顔ながら半眼で和美を睨むという器用なことをしてみせる明日菜。
 少しばかりむつきをチラ見して、大きく深呼吸し、口調を速めて言った。

「兎に角、告白するって決めてから。それを先生に言っておきたかったの。今まで一杯お世話になったし、もう今までみたいに逃げ出さない為にも」
「おう、頑張れよ神楽坂。俺で良かったら、幾らでも応援するし協力する」
「大丈夫、ちゃんとするから。どうしようもなくなったら、また頼っちゃうかもしれないけど。できるところまで一人でやってみたいの。けじめは、大事だから。それじゃあ、練習行くから!」

 傍らの水泳道具の袋を引っ掴み、神楽坂は駆け出す様に監督室を飛び出していった。
 半開きとなった扉をむつきが閉めに行くと、和美は反対にマジックミラーとなっている窓に近づいた。
 飛び出した時の勢いそのままに、神楽坂は更衣室へとむけて走っている。
 当然、プールサイドを走るなと小瀬に注意され、ペコペコ謝っていた。
 そんな神楽坂の様子に、監督室で一体何がと水泳部員の数人が監督室を見上げていた。
 もちろん、マジックミラーなのだから、表側からは監督室内を覗き見る事などできない。
 むつきと和美の二人きりとなった監督室内で、これから何が行われようとだ。

「和美」

 監督室の扉を閉め、しっかりと鍵をかけて来たむつきが、窓辺にいた和美を後ろから抱きしめた。
 後ろでまとめた跳ねた髪が顔をチクチクしたが、構わずうなじに顔をうずめていった。
 薄らと香るのは香水だろうか、キツイ匂いはなく和美の体臭と混ざり合い男をたぎらせる。
 事実、むつきの男が激しく膨張し、和美のお尻をぐいっと持ち上げるほどだ。
 数日前まで完全に役立たずだった時とは違い、男の役目を十二分に発揮できる力強さであった。

「先生、お尻当たってる。もしかして、明日菜がいる時から?」
「元々、神楽坂の方は後からだったからな。一応冷静に対処はしてたけど、我慢できなかった」
「硬いのがぐいぐい。先生、本当に治ったんだ」
「ああ、アタナシアのおかげでな。これで、今日。今から、和美の処女を喰うからな」

 今までの様な軽度のセックスフレンドとしての触れ合いにとどめない。
 むつきは今日この場で美味しく頂くと決め、和美もそれを了承してやって来ていた。

「場所は少し不満だけど。最初に選んでくれたから、許してあげる。和美さん、ひかげ荘の撮影係だし。他の子の処女喪失シーンはカメラに納めないとね」
「悪い、治りはしたが不安なんだ。何時また再発するか。だから、和美も。桜子も古も、俺の傍に居たいって言ってくれた子は全部抱く。抱きたいんだ」
「身体は治っても、心が治りきってないんだ。先生、一度放してくれる?」

 和美からのお願いに、少し躊躇してからむつきは抱きしめる為に力を込めた腕の力を抜く。
 その腕の中でくるりと回り、向かい合うだけになったことに少し安心した。
 もしもこの腕の中から和美が抜け出そうとしたら、拒否していたかもしれない。
 そんな不安が顔に出ていたのだろう、和美が笑みを浮かべる。
 普段の悪戯っぽいそれではなく、女性らしい慈愛に満ちた表情でむつきへと微笑みかけたのだ。
 背伸びしてむつきの首に腕をまわし、和美は少しだけ後ろに下がって窓枠に尻を乗せ、窓に背を付けた。

「先生、おいで。和美さんの巨乳で癒してあげる」

 誘われるまま、制服のシャツがはち切れそうな和美の胸にむつきはそっと顔を触れさせた。
 ブラジャーの感触が少し硬かったが、抑えきれない重量の乳房がむつきを包み込んだ。

「和美のおっぱい、大きくて良い匂いがする」
「こういう先生も可愛いって思えちゃうのは、手遅れなんだろうね」

 和美は十歳以上年上のむつきを受け入れ、あやす様に撫でつけた。
 それこそ迷子の子供がようやく母親を見つけたような、安心しきったむつきを。
 なさけないと思われても文句が言えないむつきを前に、言葉通り可愛いと愛おしさがこみ上げる。
 自分が癒してあげなければという使命感さえ胸に抱いてしまう。
 美砂と同じように、以前彼氏がいただけに、向ける感情が明確に違うことが和美には分かった。
 イケメンだったから、恰好良かったから、自分の自尊心も満たされたから付き合っていた。
 中学生として大きく間違った理由ではないが、今回の恋は違う。
 こういった弱さも含め、乙姫むつきという一人の男を愛おしく思い、恋してしまったのだ。

「よしよし、気弱になったらいつでも言って。和美さんのおっぱいをいつでも貸して、ううん。和美さんのおっぱいは先生のものだから。好きにして良いから」
「おう、もう少しだけ。和美、両側から少し圧迫して貰ってよい?」
「こんな感じ?」

 鼻先を動かし谷間に埋もれていったむつきが、さらに注文を出して来る。
 その声から少しだけ気弱さが消え始めていた。
 もう少しかなと、戻ったら意地悪になっちゃうんだろうなと思いつつ、言われた通りにする。
 むつきがうずもれた胸の谷間を押し上げる様に、和美は自慢の胸に両手を添えて持ち上げた。

「先生、気持ち良い?」
「超気持ち良い。ブラが邪魔だけど」
「外そうか?」
「いや、それを外すなんてとんでもない」

 この人は一体何を言っているのか。
 これからナニをするのにと和美が思っていると、むつきが胸の谷間から顔をあげた。

「うし、元気出た。折角の和美の初夜が、気弱な俺で占められたらプライドが許さないからな。今からは俺が頑張る番だ。というわけで、ちょいと拝借」
「あっ、ていうことは……」

 キビキビと動き始めたむつきが借り受けたのは、和美が持っていたデジカメである。
 今更一体何の為になどと、考えるまでもなかった。
 基本的にむつきと和美のプレイでデジカメが登場しなかったことなどないぐらいだ。
 近頃はむつきがデジカメを手にしているところを見ただけで、和美は下腹部がキュンとする。
 それは条件反射に近く、和美は今日はどんな自分が撮影されるのか期待に胸が膨らんでしまう。

「和美、そのまま動くなよ」

 そう言ったむつきがデジカメを構えながら、数歩下がって和美をフレームインさせる。
 窓枠にお尻をのせた和美は、制服の胸元が少し乱れていた。

「胸元のボタンを二つぐらい外して」
「あと足はこんな感じ?」

 言われるままに和美は胸元のボタンを外し、オレンジ色のブラジャーがチラ見できるようにした。
 だがそれだけで終わる和美ではない。
 手元にカメラがなくとも、むつきが覗き込んだフレームは大よそ想像がついていた。
 もちろん、むつきがどういう風に撮りたいかも。
 だから自然とそれに合わせる様に、片足を持ち上げたたみ、足を窓枠に掛けるように持ち上げた。
 スカートの奥がぎりぎり見えない範囲で、暗がりの奥にあるパンツを撮影者に想像させるように。

「良いね、和美。エロ可愛い」
「当然」

 パシャリとむつきが一枚撮影し、次を撮られる前に和美は舌を出して何かを舐めるような仕草を見せた。
 二、三枚撮ったらまた一つボタンを外す。
 鎖骨が見えるぐらいに胸元を肌蹴け、胸の谷間を強調するように腕で持ち上げ寄せ上げる。
 前かがみになることも忘れず、さらに次の一枚では意味もなく携帯電話を胸で挟んで見せた。
 その度にエロイ、可愛いと褒められ、和美の気分も乗ってくる。
 自分を撮っているカメラマンはただのカメラマンではなく、惚れた相手なのだ。
 悪い気がしないどころか、その一言一言に全身が震え、体中で私を撮ってといいたくなった。

「女の顔になって来たぞ」
「そう?」

 まさか言葉なく伝わったとは思わず、むつきに言われ和美はどきりとした。
 直接的な触れ合いこそないが、フラッシュをたかれる度に言葉を交わしセックスしているようだ。

「じゃあ、次はブラを外して。あっ、でもまだシャツはぬぐなよ?」
「先生そういうの好きだよね。見ちゃだめだから」

 言葉にすると真逆を呟いてしまうと、照れ笑いしながら和美はブラジャーに手をかけた。
 素直じゃないんだからとこみ上げるおかしさを堪えつつ、むつきに見られないようシャツの中だけで器用にブラジャーを脱いだ。
 和美ぐらいになると押さえる役目もあり、胸が開放感からふるんと揺れていた。
 シャツのボタンを半分近く外していたので、飛び出しそうになって慌てて胸元を閉める。

「おっ、シャッターチャンス」
「露出度減ったけど?」
「逆にそれが良いの」

 理解しているようで時々わからない。

「先生、今のちょっと見せて」
「ん、ほら」

 再び隣に戻って来たむつきと窓を背に並び、和美はその手元を覗き込んだ。
 デジカメの液晶の中に、青春の一ページを切り取られた和美が慌てた様子で映り込んでいた。
 カメラを意識していない自然体、慌てて胸元を絞め、肩は竦み小さくなったようにも見える。
 そして改めて画像で見て気づいたが、押さえこまれた胸は真っ白なシャツに張り付いていた。
 和美自身意識したわけではないのだが、ピンク色の乳首が薄らと透けている。
 確かに可愛くてエロイ、と自画自賛したくなる程のモデルぶりであった。

「これ俺の嫁、朝倉和美って言うんだけど。超可愛くてエロイだろ?」
「本当、果報者だよ先生は。ねえ、夜はどんなキスからセックスするの?」
「こういうキスから」
「んっ」

 歪曲なおねだりを受け、むつきは和美の肩を抱き寄せ瞳を見つめながら口づける。
 優しい恋人のキス、自然と瞳を閉じた瞬間にカシャリとデジカメの撮影音が耳に響いた。
 上手く撮れたか和美が気にしていられたのは、数秒のことであった。
 忍び込まれたのだ、唇の間を割くようにしてむつきの舌に。
 魂ごと吸い寄せられるように唇を吸われ、思わず逃げようとしてしまっても後頭部を押さえられた。
 強引に荒々しく、口内を蹂躙され、しかも時折シャッター音が聞こえてくる始末。
 だがそこでやられっぱなしは性に合わないと思えるのが和美であった。
 引き離すのではなく、逆に和美はむつきに抱き付き、蹂躙しにきた舌を迎撃するように舌を伸ばした。
 舌と舌が絡みにちゃにちゃと唾液が絡み、唇の端からあふれ出した唾液が涎となって落ちる。

「んぅ、ふぁ。先生……」

 ちゃんとできてると聞いたつもりが言葉にならず、されどシャッター音で問題ないと返される。
 処女喪失までメモリと電池が足りるのか、少しだけそんなことを考える余裕が出て来た。
 むつきの顔に手を添え、逆に舌を忍ばせながらチラリとシャッターを切り続けるデジカメをみた。
 きっと後でその画像をひかげ荘の皆で見るのだろう。
 だから羨ましいだろうと、挑発的な瞳で勝ち誇ったような笑みを向けて微笑んでやった。

「ふう……じゃあ、続きするぞ? 大丈夫か、和美?」
「ちょっと酸欠気味だけど。次はどうするの?」
「向こう、窓の外むいて。窓に両手を突いてくれ。こう、立ちバックする感じで」
「こんな感じ、ぁっ」

 完全に出来上がった、上気した顔で言われた通りの格好をした和美は気付いた。
 今自分がどんな状況であったかをだ。
 金曜の放課後、むつきのテリトリーである水泳部の監督室でセックスをする。
 それ自体は問題ない。
 問題なのは、今自分が両手をつき、あまつさえ胸を押し潰す様につけている窓であった。
 その窓から見下ろせる光景、それは水泳部が青春に汗をながす日常の光景だ。
 亜子が笛を吹くと飛び込み台に並んだ水泳部員が一斉に飛び込んでいく。
 アキラが誰よりも早く泳ぎ、それに追いつこうと神楽坂も懸命に泳ぎ、小瀬が声を張り上げる。
 まさに青春の一ページ、そのすぐ傍で自分はなにをしているのか。

(男と二人で、胸を肌蹴てブラ脱いで。今も、お尻を突き出してセックスアピールしてる)

 日常と非日常の境は、押せばたわむ程度の頼りない窓一つ。
 マジックミラーと分かってはいても、想像してしまう。
 もしや向こう側からもこの監督室の光景が見えてしまっているのではないかと。
 不安に思う必要がないはずなのに、不安はつきない。
 それこそ今あの子と目が合った、今こちらを見なかったかと不安が後から後から湧き上がる。

「先生、待って。少しだけ」
「だめ」

 和美の助けを求めるような声は、とても楽しげなむつきの声で却下された。
 それでまた和美は理解する、むつきは和美がこうなると分かっていて今このタイミングで外を意識させたのだと。
 今抱かされている不安な気持ちさえ、セックスのスパイスにしようとしているのだ。

「和美、脱がすよ」

 嫌だと言っても止めてくれない、きっとそうだと思いはしても首だけはむなしく横に振った。
 やはりと言うべきか、耳元でささやいたむつきは、手探りでスカートの中に手を突っ込んできた。
 パンツに包まれた尻を撫でまわし、肌とパンツの隙間に指を差し込み丸めるようにしながら擦り下していく。
 皆が見ている前で、皆が部活に勤しむ前で男にパンツを脱がされる。

「だめ、先生本当に待ッ。え?」

 ついに耐え切れず片手で空気にさらされたお尻を隠した。
 だがなんて残酷な結果なのか、その手にとろりと何かが垂れ落ちて来たではないか。
 一体何か、分かっていたはずなのにそれを見る為に、目の前に手を、その指先を掲げてみる。
 濡れていた。
 ディープキスによる唾液を拭ったように、溶かした砂糖を絡めたように、蜜が滴っていた。
 和美の秘部から垂れた愛液が、待ってと止めに入ったはずの手を濡らしていたのだ。

「和美、何か言ったか?」
「?!」

 分かっていて和美の耳元でささやくむつき。
 なにか言わなければと振り返った瞬間に、耳慣れたシャッター音が響いた。
 いや今更写真が増えたところでと思ったが、その音が響いて来る場所が問題であった。
 今までとは明らかに違う、足元のように低い場所から聞こえてきている。
 それもストロボのように一定間隔で絶え間なく。
 その場所に気づいた瞬間、和美は再び自分の股座から愛液が溢れるのを自覚した。

「ぁっ、撮られてる。先生、私の……」
「私の、なんだ?」

 まるで電車ないで盗撮するように、むつきは和美の股座をそのままデジカメに収めていた。
 肩幅に開いた両足、パンツは丸まりながらも開いた太ももに伸び放題にされている。
 突き出されたお尻は短いスカートでは隠し切れず、とろとろと割れ目から愛液を流していた。
 そんな光景を至近距離から、愛液の滴りがわかるぐらい精密な連続画像で。

「ほら和美、自分で開いてごらん。処女喪失したら、もう二度と撮れないぞ。和美の処女膜もちゃんと写真で残しておこうな」
「うっ、こうで良い?」

 指示ではなく命令を聞いたように抗えず、和美は両手を後ろに回して尻肉を選り分ける。
 その先の秘部され両手の指でさき、未通の乙女の穴に指をかけて少しだけ開いた。
 ああ、また愛液の量が増えたと自分の淫らな体に驚き、興奮しながら。
 しゃがみ込んでデジカメを構えたむつきへ、早くとお尻を軽く振って促す。
 早く撮ってというよりは、そんなことよりもアレが欲しいとばかりに。

「こら、揺らすんじゃない。見えた、白っぽい膜が」
「んっ!」

 再びのストロボ、膣の中まで連続でカメラに収められ、和美は軽くイクのを感じた。
 もっと言うならストロボのタイミングに合わせる様に何度も何度も。

「先生、もう我慢できない。はやく、セックス。私の処女奪って、お嫁にでもなんでもなるから」
「これだけ濡れてたら、もう大丈夫か。ごめんな、意地悪ばっかりして」
「それは良いから、先生のおちんちん!」

 処女なのにエロイことと、和美の焦りとは裏腹にむつきは忍び笑いをする余裕である。
 直前まで不安げに和美に慰められ、よしよしと頭を撫でて貰っていた印象はどこにもない。
 焦らすようにカチャカチャと時間をかけてベルトを外し、スーツのズボンを足元に、トランクスは和美とお揃いで膝より少し上まで下すだけ。
 多少はむつきも焦っていたのか、たらたらと愛液滴る和美のすまたに一物を擦り付けた。
 竿に万遍なく愛液をつけてすべりをよくするように、卑猥な言葉でねだられても和美は処女なのだ。

「和美、愛してるよ」
「私も、先生。ぐっ」

 それだけは間違いないと、率直な殺し文句を呟きむつきは和美の膣口に亀頭を添えた。
 返答を期待したわけではないが、きっちりその言葉を受け取り和美を後ろから犯していく。
 ミチミチとまだ狭い膣の肉を選り分け、和美の穴にむつきの棒を埋め込んでいった。
 ブチりと何かが千切れた感触を亀頭が生み出した瞬間、和美の体がイク時とは別の意味で震えた。
 人生に一度だけの処女喪失、少女から大人へ変わる一瞬。
 和美の太ももで丸まったオレンジ色のパンツに、より濃い赤の染みがぽたぽたと落ちていた。

「痛っ、はは。和美さん、女になっちゃった。先生のおちんちんで」
「おめでとう、和美。それからありがとう、受け入れてくれて」
「うん、でもまだ序の口でしょ。最後まで、奥まで入れて」
「ああ、ゆっくり」

 ぐにぐにとうねる和美の膣内を愛液と破瓜の血を潤滑油に、むつきは蹂躙していく。
 復活直後にアタナシアとしたとはいえ、この数日の間ずっと射精もおぼつかなかったのだ。
 気を抜けばすぐにでも射精してしまいそうだが、歯を食いしばってそれに耐えた。
 むつきは和美の膣を味わい快楽を得るだけだが、和美は破瓜の痛みを伴っているのである。 
 気持ち良かった、出た、じゃあ終わりとはできるはずもない。
 それこそ直前に甘えさせて貰った手前、今度は逆に和美を甘えさせるぐらいでなければいけなかった。

「半分入ったぞ、まだ頑張れるか?」
「大丈夫、痛いけど。最後までちゃんとセックスしてね。ピルはちゃんと飲んでるから、一番奥で先生のをビュッてしてよ」
「頑張り屋さん、和美が嫁になってくれて良かったよ」
「ぁっ、だめ。頭撫でんきゅぅっ!」

 後ろから抱きしめ頭を撫でたら、突然和美の中がキュッキュと収縮した。
 先程から小さくイッてはいたようだが、少し大きなのがきたらしい。
 目じりに涙を浮かべ涎を垂らしながら、振り返った和美が違う意味でおねだりしてきた。

「お願い、先生。イキ、安くなってるみたい。一気に、一気にいれて」
「でも痛いだろ?」
「でも、あんまりもたない。たぶん、このままだとイキ続けて。最後までする前に」
「了解」
「ひゃぃッ!」

 和美の言葉が終わらないうちに、むつきは腰をお尻にぶつけて一番奥まで貫いた。
 目視はできないが、愛液か破瓜の血が膣からあふれ、互いの太ももに流れて来たのがわかった。
 みっちりと膣の中をむつきの竿が埋め尽くし、子宮口をこんこんと亀頭でノックする。
 むつきにはそのつもりはなかったのだが、お互い身長が違うのだ。
 和美は突き上げられた高さに合わせてなんとか背伸びしているが、あまり意味はない。
 むしろ震える足で立っている為、気を抜くたびに背伸びが低くなり、自分でノックしていた。
 体重の殆どはむつきが預かっているが、窓に爪を立て必死に耐えているようだ。

「うくぅ、はぁ……ぁっ、んぅ」

 痛みと快楽、両方に健気に耐えるその姿が、普段の奔放さを知るだけに愛おしくなってくる。
 クラスでも有数の自由人の和美が、むつきの為だけにある意味で苦痛を耐えてくれているのだ。
 そんな和美のお尻を撫でまわし、頑張ったねとねぎらい、口元の涎を舐めて綺麗にしてあげた。

「和美、分かるか。これが子宮口だ、こっちからも」
「今、敏感だから」

 ノックする瞬間にぐりぐりと子宮口に亀頭を擦り付け、お腹の上からも撫でてやる。
 ここが俺の子を孕む場所だと、処女膜さえ失い乙女としての最後の砦だと。

「気を、まぎらわせ……明日菜、頑張ってるじゃん。先生、カメラ返して」
「はいよ」

 今にも落としてしまいそうな震える手にデジカメを返してやる。
 すると和美はむつきに貫かれながらも、ガラス一枚隔てた向こう側をデジカメに収めていった。
 主役は主に神楽坂、彼女の初恋がこんな風に叶うと良いねとでも願う様に。
 自分は初恋でこそないが、男に貫かれこうして包み込む様に抱きしめられ幸せだと。
 少しだけ先輩面して、姉の様な視線で頑張れとクラスメイトの恋を応援する。
 そんな和美を見て、俺の嫁は良い子とむつきがまた彼女の頭を優しく撫でた時のことであった。

「ひぃっ?!」
「おっと、あぶね」

 イッたわけではなく、何かに驚いたように和美が愛用のデジカメを手の中から落としてしまった。
 危ういところでむつきがキャッチしたが、一体なにに驚いたのか。

「せ、先生……あっちからこっちって見えてないよね?」
「当たり前だろ、見えてたら大惨事だよ。俺と和美のラブセックス、公開されちまう」
「今、明日菜こっち見なかった?」

 一体この子はなにを言っているのか、そんなことがあるわけないと和美の視線に合わせた。
 その神楽坂はというと、現在プールを泳ぎ切り、アキラと何か言葉を交わしているところだった。
 技術的なことだろうか、時折水の中でもないのにクロールの真似事をしている。
 真面目に水泳に打ち込んでいる光景だが、時折ふと確かにこちらを見上げて来ていた。
 もちろん、見えているわけではない。
 表からは鏡張りで、マジックミラーとなっているのだから。
 それでも見上げてきているのは、恐らくこの部屋にむつきがいることを知っているからだろう。
 だからといって何故神楽坂がそうするかはさておき。

「見てるな、見えてるんじゃないか?」

 あえて和美の不安をあおる様に、むつきは彼女の耳元でそっとそうささやく。
 嘘だよねと尋ね返す様に、和美の膣内が不安とある種の期待からむつきを締め付けて来た。

「またまた、先生……」
「和美、そろそろ俺も限界だから。痛いの少しだけ我慢してくれ」
「う、うん」

 痛みに耐えようとキュッと体を縮めた和美を抱きしめ、むつきは大きく息を吸って言った。

「和美の中、暖かくてぬるぬるしてる。気持ち良い、俺の嫁は最高だ!」

 それはもう、監督室が声の大きさで震えるぐらいに大きな声でむつきは叫んだ。
 もちろん、腰をグラインドさせて和美を貫きなおしたが、彼女はそれどころではなかった。
 今しがた、神楽坂に見えているのではと不安をあおられたところである。
 それに加えていきなりむつきが、和美の体の良さを大きな声で叫んだのだ。
 何してるのとその口を閉じさせたくなったが、許されるような状況ではなかった。

「和美、和美のおまんこ気持ち良い。ほら、聞こえるか。いやらしい音がしてる!」
「んぅ、痛。気持ち良い。待って、奥が。途中がこすれて!」

 マジックミラーの窓に体ごと押し付けられ、両手は窓に張り付く体を支えるので精一杯。
 上半身だけでも振り返りむつきの口を閉じさせるなんて、夢のまた夢だ。

「先生、声が大きい。気づかれちゃうってばぁっ!」
「構わねえ、皆きっとわかってくれる。祝福してくれるさ。おめでとうって、結婚おめでとうって!」
「結婚、ぁっ。だめ、違う。今の違う、キュンってしてない!」
「いや、した。想像して、キュンキュン締め付けてくる」

 嘘、いやしたとお互いに否定し合い、監督室の中は途端に騒々しくなっていった。
 二人の周囲を気にしない大声にとどまらず、二人の肉体がぶつかり合う音もである。
 ぱんぱんと和美の尻を叩きながら、むつきはうなじに舌を這わせ、両手でぶるんぶるん震える胸を鷲掴む。
 そうしたいという欲求は確かにあったが、巨乳が暴れすぎて痛そうだったのもあった。
 破瓜の直後の膣を乱暴に扱っている負い目もあったかもしれない。
 なのに大声で和美とのセックスの良さを叫び、和美の不安を煽るのだから自分でも良く分からない。

「やだ、明日菜だけじゃない。大河内が、和泉が。皆、見てる」
「俺たちのセックスを皆が見てる。胸を揉まれて、尻をぱんぱんされながらよがってる和美を」
「見ないで、先生とセックスしてる私を。ぁっ、来る。大きなのが、白いの来ちゃう!」
「もう少し、和美。もう少しだけ」

 和美の尻をタンバリンと勘違いするぐらい叩き突き上げ、むつきは射精感を手繰り寄せる。
 本当はもう少ししていたいのだが、和美の方が限界ならば仕方がない。
 今日の夜は長いのだ、和美がここでバテてしまっては、最初に処女喪失した意味がなかった。

「だめ、もうだめ。イク、イッちゃう。こんなの無理ぃ!」
「イクぞ、和美。出すぞ、お前の中に」
「出して、先生。私の中に!」
「初体験でそのまま孕め、和美!」

 いっそ目の前のマジックミラーを突き破る勢いで、むつきは和美の子宮口を突きあげた。
 亀頭の先をさらに奥へねじ込む様に隙間一つないぐらいにピッタリと。
 ぐりっと一際大きくねじ込まれたその時、亀頭の先からむつきの分身が噴き出した。
 竿を脈動させ一斉に数千数万の精子が、和美の中の卵子めがけて飛び出していった。
 着弾ポイントは様々ながら、子宮内の至る所に拭きつけられていく。

「ぁっ、ぁぁっ。熱いのが、ねばねばしたのが。私のお腹に、射精されてるぅ!」
「子宮内が真っ白になるまで、ほら孕め。俺の子を孕め!」
「分かった、産むから。産むから突くの、止めて。お腹熱いの!」

 あれだけ見られている、気づかれると言っていた和美もまた叫んでいた。
 生まれて初めてのセックス、さらに雄の濃い精液を子宮の中で受け、それしか頭になかった。
 子宮が真っ白になるまで、そんな言葉に踊らされ、次はこの角度でと腰を振って誘うぐらいに。
 しかし、いくら数日間射精しなかったにしても、一度では量も限られてくる。
 むつきから伝わる脈動、与えられる熱い精液が途絶えるにつれ、二人の興奮もある程度収まって来た。

「はあ、うぅ。まだ、ちょっと出て。底なし、もう。そんなに産んで欲しいんだ」
「和美、もう少し。まだ出るから」
「だめ、もう限界。疲れちゃった」

 一度の射精が終わっても腰を振り続けていたむつきだが、先に和美に限界が訪れたようだ。
 元から体重のほとんどをむつきに預けてはいたが、ずりずりと窓の上を滑り落ちていく。
 さすがに床の上は可哀想かと、むつきがやや意識をもうろうとさせながらも和美を抱え上げた。
 背面座位の格好でよたよたと歩き、床を精液や破瓜の血で汚しながらソファーまで歩いていった。
 身だしなみを整える余裕などあるはずもなく、ソファーもまた汚れてしまえとそのまま座り込んだ。

「んぅ、またちょっと出た。先生、キス。あと撫でて、頑張ったねって」
「少しだけ腰浮かせて、半回転」
「やん、お腹よじれる。先生のおちんちん、感じちゃう」

 背面座位ではいちゃつきにくいと、和美の砕けた腰を支えながらソファーの上で体位を変える。
 和美の体に力が全く入っていないので苦労したが、対面座位になるや否や、和美には大いにもたれられた。

「先生、ふぅ。和美さんの処女の味はどうだった? 最高?」
「ああ、最高だ。けど、夫婦の営みは一生続くぞ。続けるぞ。まだまだ、これから。頑張れよ」
「うん、色々覚えてく。和美さんも、正妻狙ってるから。柿崎にも、アタナシアさんにも負けないよ」
「良い子だ。そうじゃなきゃ、俺も頑張りがいがないってもんだ」
「もう、ナニを頑張ろうと……硬くなって、硬いまま?」

 しかしいくらむつきが大丈夫でも、和美は殆どダウン状態、いわばマグロのようなものだ。
 今日はここまでかと、二人は水泳部の練習が終わり、アキラたちが迎えに来るまで繋がったままイチャついた。









-後書き-
ども、えなりんです。
お盆休みが暇過ぎて書いた。
同じく暇で苦しむ同志たちへ。

ちなみに以降は怒涛のエッチ回。
割としんどいが他にすることないので。

では続きもお楽しみください。
あと推敲殆どしてないのでいつも以上に誤字あるかも。



[36639] 第百十七話  嘘、です
Name: えなりん◆e5937168 ID:da470ce8
Date: 2014/08/17 13:50

第百十七話  嘘、です

 水泳部の部活が終わり、週末を迎えようとするひかげ荘にはいつものメンバーがいた。
 むつきの嫁、セックスフレンドに加え、セックスフレンド未満の釘宮や明石、佐々木など。
 もはや寮の方はガラガラで、そろそろ何も知らない子達も不審に思うレベルだ。
 当初の美砂や長谷川、おまけでアキラや亜子、あやかに夕映ぐらいまでなら良かっただろう。
 週末にいないことが多少増えても、最近親が煩いからなど言い訳は可能である。
 しかし人数がここまで増えると、過半数以上がそう言いだせばあきらかにおかしい。
 いつか、こちらからクラスの人間にぐらいは、理由を説明する日も近いかもしれなかった。
 だがそれは何時か、未来の話であって今現在は、もう少しだけ大事な催しがある。

「先生、こんなガチガチに。そんなに私に入りたいんだ。もう、仕方がないなあ」
「なんて雄々しくたくましい。こんな先生の殿方に貫かれたところを想像しただけで」
「やべ、子宮が疼いて来る。これピル飲んでても孕むレベルじゃねえか?」
「それに裕奈とまき絵ももっとこっちに来て見たら?」

 ひかげ荘の何時もの露天風呂でのことである。
 皆で揃って夕食を終え、これまた一緒に風呂に入ろうとむつきが誘ったのだ。
 そしてセックスフレンド未満の子がいようと構わず、美砂たちの裸体に欲情していた。
 湯船には浸からず仁王立ちのまま、あやか曰く雄々しく立ち上がる一物を見せつけている。
 美砂やあやか、長谷川や亜子はかぶりつきの状態でたくましさに惚れ直す程だった。

「てか、普通の女の子は本能的に危機感覚えるレベルだって。恐怖を覚えるレベルだって!」
「亜子、そんな近くで見て妊娠しないの?!」
「膣内射精されぬ限りは妊娠などせぬでござるよ。お爺レベルは優に超えるでござるな」

 まだセックスフレンドですらない釘宮や佐々木、長瀬辺りはわりと普通の反応か。

「ねえ、アキラはエッチしてるんだよね。先生と」
「うん、一杯して貰ってる。今日は今夜からも……」
「私も今夜、しちゃうんだ。くーちゃんも?」
「親愛的に、跡継ぎを貰う予定アル。桜子、負けないアルよ」

 そして少しだけ興味ありげな明石は先輩たるアキラにこそこそ話を聞いていた。
 それに耳をそばだて、道の領域に思いをはせているのは桜子と古の処女ながら嫁候補たちである。
 他にも小鈴や葉加瀬、夕映やさよといった嫁達も復活したむつきの一物を惚れ惚れと見ていた。
 一足早くそれを味わった和美に、少しの嫉妬交じりにどうだったか感想を聞いたりと。
 処女、非処女はあれど同じ年代の中学生の乙女たちが勃起したむつきの一物に食い入っていた。
 複数の視線を感じて、より一層たぎったむつきの一物が血管を浮だたせては膨張していく。
 まだ大きくなるのと本気で恐怖を覚えたような悲鳴を釘宮辺りから漏らさせるほどに。
 そんな釘宮を見て血走った眼でむつきが見つめ、近くにいた佐々木や長瀬はすすっと逃げ出した。

「釘宮、そんな怯えるなよ興奮するだろ」
「へ、変態。変態がいる!」
「クギミー、もっと言ってあげて。先生がますます元気になってる」
「はい、この通り。ビキビキと、皆さまを孕ませたいとたぎっておられます」

 釘宮の怯えた声でさらに元気になった一物を見て、美砂が煽る様にそう言った。
 言葉責めかと周囲が色めきだったその時、鈴が転がる様な清涼感のある声がむつきの後ろから聞こえた。
 背中にぴったりと寄り添われた低めの体温、一瞬エヴァかと思ったが違う。
 寄り添われたわむ胸は控えめながらエヴァとは違いふくらみをはっきりと感じる。
 腰回りに伸ばされた細い腕は、完全勃起したむつきの一物を愛おしげに撫でまわし熱い吐息を吐く。

「たくましい雄の脈動、普段の雰囲気とは裏腹に。とても素敵です、先生?」
「なんでここにいるんだ、ザジ?」
「お慕いしているからです、それ以外に理由は必要ですか?」
「どうしても強請られ、私が連れて来てやったんだがな」

 同じく後ろにいたエヴァの声は聞き流し、背中に寄り添ったザジをむつきは正面で抱きなおした。
 逆にザジを後ろから抱きしめ返しながら、その細すぎる腰に腕を回す。
 身長は夕映やエヴァより十センチ以上高いのに、腰回りが彼女たちなみとはどういうことか。
 芸術と呼んで差し支えない腰の、本気で折れそうな腰を抱き寄せ、彼女の股座に一物を添える。
 告白こそされたが、まだ自分の本性を明かしたつもりもないザジと疑似セックスをした。
 きっと正面にいる美砂たちからは、ザジの褐色の割れ目をさする凶悪で赤黒い亀頭が見えることだろう。

「ていうか、ザジてめえ。新参の癖に抜け駆けとか、折角私らが我慢して見るだけにとどめてたのに」
「私はなにも、これは先生がお選びになったことですから……んっ、負け犬の遠吠え?」
「こいつ、性格悪い!」

 くすくすとザジが丁寧口調ながら勝ち誇り、むつきの性器による直接的な愛撫で腰をくねらせる。
 あくまで主導はむつきと、ぷっくりあふれ出した愛液と言う名の蜜を凶悪そうな竿に塗りたくった。
 イラッとしたのは千雨だけではなかったが、そこはさすがにむつきがこつんと頭を叩いて止めさせた。

「仲良くしねえと、してやらねえぞ」
「はい、申し訳ありません。先生」

 むつきも今からでもザジを犯したい気持ちをぐっとこらえ、腰は動かさずに抱きしめるにとどめて言った。

「あー、見ての通りだ。釘宮に佐々木と長瀬、あとは明石もか。まだ処女でいたい奴は、今日のところは帰れ」
「えー、なんで。亜子もアキラもここにいるから、寮の部屋だと一人なんだよ。私もここで遊びたい!」
「私はちょっと興味があるって言うか、なんていうか」
「処女でいたいってことは、うちらも入っとるん?」
「ああ、木乃香や刹那もだ。まだ厳密に俺と結婚したいか、一発込みのセックスフレンドになりたい奴以外は寮に帰れ。俺は今夜、ひかげ荘にいる子を全員抱く。抱いて抱いて、俺の女にする」

 表の教師という顔ではなく、ひかげ荘の主という野獣の瞳でむつきはそう宣言した。
 いやまだそう事前に宣言するだけ、人間味というものは残っていたのだろう。
 きっと今夜、明日もか。
 仮に釘宮達とひかげ荘内で遭遇すれば、本気で居やがっても無理やりしてしまう。
 勃起不全だったことから復活した反動とでも言えば良いか、和美に癒して貰ったがまだ足りない。
 全員俺の嫁だと抱いて子宮に射精して、匂いを染みつかせなければ不安なのだ。
 今まではあまり考えず、かつ他の男から寝取る立場だったからこそ気づかなかった。
 嫁になりたいと言ってくれている美砂たちはとても魅力的で、他の男がほうっておくはずがない。
 自己主張しなければ、これは俺の女だとDNAから刻み込んでおかなければ不安でしょうがないのだ。

「せっちゃん、どうする?」
「先生には申し訳ありませんが。このちゃんはもう少しだけ時間欲しいんやろ? うちもこのちゃんと一緒がええ。だから、うちらも寮に帰ろう」
「ふむ、であれば……拙者も寮まで護衛するでござるよ。釘宮殿と裕奈殿、まき絵殿と。四葉殿と葉加瀬殿はどうするでござるか?」

 むつきの言葉を聞いて不安に思ったのはそれぐらいで、他の美砂たちは逆に胸を高鳴らせている。
 長瀬が少し微妙な立ち位置と一応の確認をした二人は、以外にも冷静であった。

「私は今夜は、ここで過ごします。こんな風に先生からお声を掛けて頂けなければ、踏ん切りもつかなかったでしょうし。将来の約束の為に、先払いです」
「私も、残ります。いつでも来いと言われてはいましたが、なかなか自分からは。良い機会ですので、先生に大人の女性にして貰います」
「私は確認されるまでもないな。処女ではあるが、マイハニーの精は既にここで受けた身だ」

 二人の決心とお腹を撫でて言った真名の言葉を受けて、にんにんと長瀬は頷いた。
 決定権がほぼなかった明石と佐々木は少し不満そうだが、釘宮が帰ろうと促している。
 葉加瀬や四葉のように即決できなければ、きっと意味がない。

「明石も佐々木も、良いから帰れ。本当に俺に抱かれたいと思ったら、改めてな。特に佐々木は俺に恋心の欠片もねえだろ。そんな中途半端以下な気持ちでいると後悔するぞ」
「う、うん。まだ良く分からないけど、帰る。先生のケチ」

 べーっと舌を出すところが、まだまだ子供というか抱かれる意味を分かっていないのだろう。
 明石は兎も角、亜子やアキラがこの子はと、まるで妹でも見るような目つきになっていた。

「それじゃあ、俺はもう少しここにいるから。帰る奴はそろそろ上がって帰れ。それで俺に抱かれたい奴は……目一杯おめかしして来い。女の子は準備に時間かかるだろ。俺がのぼせないうちにな」
「うしっ、それじゃあ。長谷川、あのウェディングドレス貸して。今日こそウェディングドレスプレイするんだから」
「馬鹿野郎、あれにどんだけの労力を。他はいくらでも貸してやる。お前らも、私の衣装は貸してやる。いくらでも汚して良いけど、これは駄目って言った奴は素直に諦めろよ!」

 一番乗りだと、一番良い衣装を目指してまず美砂が誰よりも早く湯船から上がっていった。
 一晩中セックスと期待にお尻をふりふりさせながら。
 そのお尻、割れ目のある股座からお湯とは違う粘り気のある液体が垂れているのに気づいたのはむつきだけではなかった。
 ここ最近ずっと抱かれず、欲求不満が溜まっていたのはむつきだけではなかったということだ。
 これは負けていられないと続いたあやかや、亜子たちも同じようなものである。
 控えめなさよも遅れてエヴァの手を引いて、ぺたぺた歩いていった。
 その光景に「んっ」と何か引っかかったが、そんな大きくはないむしろ小さなことだろう。
 人が減るにつれ今度は残されて襲われてはたまらないと、佐々木と明石の手を引いて釘宮が。

「先生、もう少しだけ待っててや」
「その時は一晩中、私とこのちゃんを楽しんでください」

 近づいて来た木乃香と刹那は、名残惜しげにむつきの両頬にキスを落として湯船をあがっていく。
 この場に残されたのは男であるむつきと抱きしめられたままのザジ、それから撮影班の和美の三人だ。
 まず最初に動いたのは、いつものデジカメではなく家庭用ビデオカメラを持った和美だった。
 ザジを後ろから抱きしめるむつきの正面に回り込み、二人の痴態を映像に残していく。
 二十センチ以上小さく華奢なザジをむつきは後ろから包み込む様に抱きしめている。
 まだ若草と呼んで差し支えない、髪と同じ白く濡れた陰毛を赤黒い亀頭で擦る様に持ち上げていた。
 犯罪の二文字しか浮かばない光景だが、幼い体に反して時折女の顔を見せるザジが印象的だった。

「ザジちゃん、最近腹黒が明らかになって来てたけど。結構エッチ?」
「はい、それはもう。私の家系は意外に肉食系ですから。私もこう見えて、先生の雄が欲しくてたまらないのです。ほら、この通り」

 和美の言葉にもひるむことなく、むしろ喜びを深める様にザジは華奢な腰を前後に振った。
 元から股座を剃ってそそり立つむつきの一物の上である。
 性器同士がこすれあい擦り合う音が聞こえるかと思いきや、聞こえたのは温泉とは別の水音であった。
 にちゃにちゃと和美の持つビデオカメラからでもはっきり見える割れ目はキラキラと光っていた。

「ザジ、お前はなんていうかエロイな。特別巨乳なわけでも、体つきが大人なわけでもないのに。あと匂い嗅いでると、興奮して仕方がないんだが」
「私はこれでも国に帰れば、少々高貴な血筋ですから。委員長さんと同じです。自分の見られ方を、幼い頃から叩き込まれているんです。それとそういう香油を少々、体に染み込ませてみました」
「先生、その高貴な少女を今夜どうするの? この場に残したってことは、ザジちゃんが一番手なんでしょ?」
「ああ、少々小狡い手にしてやられたが。こんなにされたら抱かずにはいられない」

 だがしかし、美砂たちも我慢していたのにいきなり体で誘惑するのはルール違反だ。
 明確に決めていたわけではないが、ザジのこの腹黒さは和気あいあいとするひかげ荘にはふさわしくない。
 現に先ほども千雨がこの野郎とイラつきを隠さずにいたのに、謝るどころか挑発する始末だ。
 これは早々に調教しておかなければと、和美と視線を合わせた。
 気持ちは同じようで、和美と一緒に最初のしつけ、調教は大事だよなと意地悪く笑う。

「それじゃあ、ザジ。和美のカメラに向かって、まず自己紹介しようか」
「エッチなビデオ見たことある? あんな感じで」

 褐色の肌に白に見える銀髪、一学期までは寡黙な性格だったことから自称高貴な血筋という言葉に疑いはなかった。
 むしろ少し納得するぐらいであり、だからこそ無茶苦茶庶民的で下衆な行為を試させた。
 和美が付け加えた指示も知っていることを前提で、抽象的にもほどがある。
 ここでカマトトぶれば、むつきのあやかの様に高貴な相手を自分色に染める楽しみがあった。
 しかしそれは、少々ザジ・レイニーデイという少女を甘く見ていたに他ならない。

「はい、わかりました。先生がおっしゃるとおりに」

 にこりとむつきを綺麗な笑顔で見上げ微笑、ザジは姿勢を正すように両手をお腹の前で組みあげた。
 和美から見て、まるで見えないドレスでも身に纏っているかのように。
 このまま国賓級の来客があるパーティに放り込んでも違和感がないぐらいだ。

「麻帆良女子中二年A組、ザジ・レイニーデイです。好きなモノは小鳥や小動物、あと乙姫先生。曲芸手品部に所属しているので、処女ですが難しい体位もそつなくこなせると思っております」

 すらすらと酷く真面目な自己紹介が飛び出し、面食らったのはむつきと和美であった。
 なんというか、庶民という物を思い知らされたような、負けるかとザジを責めたてる。
 言葉と、少々早いが行動でだ。
 むつきはザジが塗りたくった愛液を、逆に今度は塗りたくる様に腰を動かした。

「ザジは処女なのにエッチなんだ。だから、こんなに濡れてるのか?」
「先生への好意を自覚してからは……先生を想うだけで」
「濡れてくるんだ」

 意地悪く確認するようにザジの横顔をむつきは覗き込んだ。
 素なのか狙ってなのか、褐色肌を少しだけ火照らせザジはこくんと頷いた。
 その姿はまるで流暢に放し始める前の姿そのものである。
 だが次に続けられた言葉に、むつきも和美もあっけにとられることになった。

「だから、授業中も先生を想うだけで。特に先生の授業中は……」
「ん、授業中は?」
「こっそりオナニーしています。黒板にチョークで文字を書く指を見つめながら、さながら黒板ではなく私の陰部を引っ掻かれるのを想像し。教科書の説明をする声で責め立てられる自分を想像して」
「え?」

 なに言ってるのこの子と、むつきと和美の方が若干素に戻ってしまっていた。

「にちゃにちゃと私の割れ目から染み始めた愛液をこねる音が周りに聞こえないかと怯えながら、けれど先生には聞いて欲しいと願いながら。先生の授業中に五回もイッたことがあります」
「ちょ、ちょ。待て、ザジ待て。本当にか? お前、俺の授業中にオナニーしてんのか?!」
「席が一番前の私は無理だけど、ザジちゃんは確か一番後ろの窓際だから。ありえない話でも」
「最近は、前だけじゃ足りず。地下室に鎖でつながれ、複数人の先生に前も後ろも、穴という穴を犯され。ほら餌だぞと精液を流し込まれ」
「待て、だから待てって!」

 お前本気でそんな事をと夢うつつに語るザジを引き戻そうと、むつきは彼女を体ごと振り返らせる。
 ほら戻って来いと頬を軽く叩こうとしたが、くすりと耳に覚えのある笑いが聞こえた。

「嘘、です」
「こいつ……」

 悪魔のような笑顔で、むつきの顎に指を添えてザジはそう言ってのけた。

「私の前の席の龍宮さんは勘が鋭いので、一度やってみようとしたら即座に気づかれ諦めました」
「あっ、やってみようとはしたんだ」
「お前、本当に良い性格してるよ」
「お褒めにあずかり、光栄です」

 喋らなかった時は全く気付かなかったが、目の前の妖精の様な存在は小悪魔である。
 良く女性雑誌にある小悪魔系とかそういうレベルではない。
 性根の、もっとも深い部分から小悪魔なのである。
 存在そのものが、意図してそうしなくても生まれ持った何かがある小悪魔だ。
 外観が妖精の様に可愛らしいだけに、内面のそれが本当に際立って分かった。

「嫌われたいわけではないですが、性分なんです。だから今まで積極的に日本語を覚えまいとしていたのですが。先生、責任を取っていただけますか?」
「しかも、俺のせいにしやがった。ああ、分かったよ。責任取ってやるよ」
「で、結局ザジちゃんのペースか。これは意外なところから、強力なライバルが出て来たわ」

 少々ご立腹気味のむつきが、ザジを横抱きに湯船をあがり和美に視線で床を濡らしてくれと頼んだ。
 そう言うところが甘いというか、そりゃ負けるわと思いながら和美は桶でお湯を広げてあげた。
 まだまだ夏場とはいえ、冷えた床はまずかろうと温められたそこにむつきはザジを仰向けに下す。
 改めて見下ろすと、妖精と断じたその体は折れそうなぐらいに華奢で小さい。
 今からこの少女を犯すのかと、性格云々は別にしてむつきの雄が猛るように反り繰り返った。

「ザジ、さっき言ってた香油ってまだあるか?」
「私が持ってきた桶の中に。興奮と強壮の作用があり、口にしても問題ありません」
「へえ、これか?」

 ザジが女の子の道具を色々入れていた桶の中に、見慣れぬ文字が書かれた青い便であった。
 大きさは整髪料が入っていそうな二百ミリリットルほどの便。
 黒い蓋を開けて手で扇いでみると、確かに今のザジの体臭に似た匂いが香って来た。
 手に開けてみるとさらさらの水のようで、手の平を傾けてそのままザジの裸体に垂らしてみる。
 褐色肌の控えめな小山、小さなイチゴが乗ったそこにシロップの様に香油が流れ落ちた。
 イチゴは瞬く間に香油に飲まれ、山から川が流れる様に彼女の体に広がっていく。
 エロ可愛い、そんな言葉が脳裏をよぎり、むつきは徐々に減っていく香油を落とす場所を変えていった。
 胸からお腹へ、一層黒く凹んでいるおへそにまで。

「先生、ちょっと変態ちっく」
「なんていうか、綺麗なものほど怪我したくなるのは雄の本能だよ」
「先生」

 少しばかり撮影班である和美から茶々が入ったが、ザジの方は全く問題ないらしい。
 むしろ綺麗と表現されたことを喜ぶように、両手を広げて来てくださいとむつきを誘っている。
 本当にこのエロ可愛い妖精はと、むつきは床に膝をついて覆いかぶさっていく。
 小さく可憐な妖精を大柄な男が貪り食う様に。
 キスの直前までまじまじとザジを見つめ、とあることに気づいた。
 褐色肌や銀髪もそうだが、ザジは瞳の色もやや暗めの黄金色というなんとも不思議な色だった。
 妖精ではなく人を惑わす化生、それこそ本当に小悪魔のようで魂まで吸い込まれそうな気がする。

「先生、お慕いしております」
「ザジ、綺麗だ」

 折り重なる様にむつきがザジを見下ろしたまま、そっと唇を振れさせた。
 この時点で和美は言葉はおろか呼吸さえ押し殺し、それこそ気配さえ消して撮影範囲徹する。
 夜半の月が空に浮かび湯煙に包まれた露天風呂にいるのは、全裸の男と少女の二人のみとするように。
 小悪魔たるザジの唇に触れながら、改めてむつきは彼女の小柄さを全身で感じていた。
 ゆっくりと身体を静めて行けば彼女の体に垂らした香油が二人の間でぬるりと滑る。
 全体重を預けては潰してしまいそうだと、両膝、両肘を突っ張り体重をささえザジの唇を味わった。

「んっ、もっと。先生、ください」
「ああ、可愛いぞザジ」

 唇を触れ合わせるだけでは足りないと、より多くを求めて来たのはザジの方であった。
 むつきの首に腕を回し、自ら進んでむつきの唇を、零れ落ちてくる唾液をすすり上げていた。

(この子、見た目に反して積極的というか。本当にエロイわ。あの先生が逆にリードされてるみたい)

 ちゅうちゅと吸血鬼が血を吸う様にすすられ、むつきもうかうかしていられないと行動を始めた。
 次は俺からと唾液ではなく舌をザジに吸わせ、彼女の小さな唇をこじ開けては逆にすする。
 甘い、先ほどの香油を吸っているように感じるザジの唾液。
 これ以上は中毒になりそうだと、舌と舌の挨拶もそこそこに唇の落とし先を変えていった。
 わざと聞こえる様にチュッと音を立てながら、ザジの首筋、鎖骨とキスの雨を降らす。

「ああっ、先生。キスだけで、私……」

 気持ちよさそうに空を見上げ体をのけ反らせたザジが、珠の汗を弾かせながら呟いた。
 始める前から勃起しっぱなしのむつきの一物を太ももではさみ、ほらとあふれ出る愛液を塗りたくる。
 切なそうに太ももをすり合わせながらも、はやく来てと強請る行為ではなかった。
 それは懸命にキスの嵐をお見舞いしてくるむつきへの愛撫であった。
 普通の中学生ならむつきの好意に翻弄され、なにがなんだか分からないはずなのに。
 むつきの愛撫にお礼を返す様に、すまたのみならず、小さな胸もこすりつけ全身で愛撫を返していた。

「ザジ、ほら気持ち良いか?」

 うかうかしていると本当にまずいと、半ば焦りまじりでむつきはザジの胸の先っぽを甘噛みした。
 もう片方の乳首は指先で軽く捏ね上げ、ピンっと弾く。
 緩やかな愛撫と少しだけ刺激の強い愛撫をそれぞれ二つの小山に与えてあげたのだ。
 手のひらにすっぽり収まるサイズだけあって、弾かれた胸は張りがあって弾力に富んでいた。
 与えられた刺激がことのほか強く、下腹部にまで響いて感じられたらしい。
 ザジの腰が浮き上がり、愛液でしんなりとした銀色の若草がむつきの陰毛と文字通り絡み合う。
 和美には聞こえはしなかったが、触れ合っている当人同士はじょりじょりとその音が体を伝わっていた。

「ザジは胸が敏感なんだな」
「はい、余り大きくはありませんけれど。ぁっ、オナニーも胸から始めます」
「心なしか、乳首が長めなのも?」
「こねるの好きなのです。先生、もっとこねて虐めてください」

 お互い本心からそう思っているのか、それとも愛撫の一環か。
 ザジの浮いた腰をむつきは左手を回して支え、ザジの左胸の乳首を摘み上げた。
 軽く指先でこねては切なげに息を吐くザジの反応を確かめ、ピンっと弾く。

「はうっ」

 乳首が弾かれるのと同調するように、ザジの体が腰が跳ねた。
 楽器の弦を弾いたように、むつきの手でザジと言う名の少女が演奏される。 
 妖精のようで小悪魔のようで、楽器のよう。
 エロの万能選手だなと奇妙な感心をしながら、むつきは彼女の胸を弄びながら体を丸めていく。
 左手は腰を抱いたままなので、彼女の股座に両膝を淹れて一物と腰で彼女の小さなお尻を持ち上げる。
 こんなに器用だったけと驚きつつ、ザジをまんぐり返しの格好にしてあげた。
 自己紹介時に難しい体位もと言っただけに、窮屈そうな格好ながら、ザジは平然としている。
 小さなお尻、すらりとした太ももの付け根にそれはあった。
 可憐な姿ながら妖艶さを秘めた小悪魔さながらのザジの体のもっとも卑猥な部位。
 白い若草に微力ながら守られ、香油ではない愛液をとろりと滴らせる割れ目。
 乙女の一番隠したいであろう秘部を、ザジは言われるより前に自らの両手で花開かせた。

「ご覧ください、先生。私の処女膜を」

 にちゃりと涎のように愛液を糸の様に伸ばし、幼い割れ目が開かれる。
 褐色肌だが他の子と変わらぬピンク色の肉壁。
 蕾から開いたばかりのような小さな小陰唇の影に、石清水となる愛液の源流があった。
 肉をたぐる様に指を歩かせ、オナニー慣れした指先でザジは両手の中指を沈み込ませ開く。
 見ているむつきと和美が処女膜を心配するぐらい大胆に。
 ぐにゅりと蠢く膣の中に潜む白っぽい処女膜を、むしろ見てと見せつけていた。

「見えるぞ、ザジ。お前の可愛い処女膜が。和美、撮れてるか?」
「え、ああ……と、撮れてる。けど、凄い。私も良くエロイって言われるけど、なんていうかレベルが違う。私のは中学生レベルのエロさ。ザジちゃんはなんか違う」
「お褒めにあずかり、光栄です。さあ、先生。私を先生で、先生の色に染め上げてください」

 この通り、愛撫はもう十分とばかりにザジが涎を垂らす膣口をに自分の指を埋めてはくちゅりと弄ぶ。
 本当に準備は万端、何時でも準備は出来ている。
 出来ているのだとむつきは、ザジの小さなお尻に両手を添え中腰に立ち上がった。
 そんなに染めて欲しければ染めてやると。
 その髪や陰毛よりも白くと、爆発寸前の危険物である一物をぴたりとザジの割れ目に沿えた。

「ザジ、このままで良いんだな?」
「ええ、私もその瞬間を共有したく。先生の雄々しいお姿を見せて頂けますか?」

 最終確認にザジがこくりと頷き、むつきはより前かがみになった。
 反り繰り返った一物は天を向いている為、挿入角度がかなり難しかったのだ。
 むしろそのまままんぐり返しの格好のザジとキスが届くぐらいに、前に屈みこむ。
 亀頭探りでザジが開いている割れ目の奥の膣口に沿える。
 その間に和美も湯船の中から少しだけ移動し、むつきの正面にてその瞬間を待ち構えた。

「んぐぅ」

 ついにむつきが腰を、一物を沈め始めた時、初めてザジの口から苦しげな声が漏れた。
 どんな愛の囁きも愛撫も澄ました顔で受け止めたザジがである。
 むつきの一物による内部からの圧迫感、まんぐり返しで上から伸し掛かられる重量感。
 乙姫むつきという男を真に受け止めようとし、許容量を超えたように苦しげにだ。

「ぁっ、待っ」
「行くぞ」

 だが事前の余裕ありげなザジの言動、行動もあって、むつきは制止の言葉に気づけなかった。
 亀頭の先にしゃぶりつく膣口付近の肉壁。
 ザジなら大丈夫なのだろうと、一線を超える為の確認を怠った。
 他の子なら、慣れない初心な姿の一つもザジが見せてくれていたら違ったはずだ。
 しかし現実として、ザジはそんな姿の一つも見せなかった。
 だからむつきは一気に彼女を貫いた。
 獣欲が赴くままに、目の前の妖精か小悪魔のような可憐な少女の純潔を奪う為に。
 ボコンと彼女のお腹がむつきの一物の大きさを受け入れ切れず、膨らむぐらいに勢いよくだ。

「ひぃぁッ……ぁっ、ぁ」

 目を剥き大きくのけ反りながら、目じりから涙を流しながらザジは喘ぐこともままならない。
 初めての癖に調子に乗ってまんぐり返しを受け入れたのも悪かった。
 想定外のむつきの一物に加え、上からかなりの重さで押しつぶされ、息は吐けるが吸えない。
 少しでもどいてと言えたら良かったが、相変わらずむつきも傍で見ていた和美も気づいていないのだ。

「ザジ、お前……中が、凄い」
「えっ、どうしたの先生?」
「この子の中、たぶん名器って奴だ。それも三つも」
「ぁっ」

 一体何のことだと小首を傾げる和美に、むつきは我を忘れそうになりながら答えた。
 一般的に名器と呼ばれる女性器は、ミミズ千匹、数の子天井、蛸壷とある。
 膣の肉壁のひだ、膣奥にあるぶつぶつ、膣口の吸い上げる力。
 この小悪魔、いっそ大悪魔と呼んで差し支えない少女はそれらすべてを持っていた。
 むつきもそんな名器を持つ子を相手にした経験があるわけではないが、明らかに他の子とは違った。
 もちろん美砂たちの中も気持ち良いが、こうして入れただけではっきりと分かってしまうものがある。
 さながら、本物の名画は知識がない人間にすらそれが本物とわかるように。

「抜い」
「ザジ、お前。才能の塊だな、そんな俺のがそこまで大きいみたいな演技まで」

 本当に苦しいと呻いても、気づいて貰えない。
 こんなことなら、むつきが言った通り少しずるをして名器に体を造り返るんじゃなかったと後悔しても遅い。

「凄く良いぞ、ザジ。ほら、分かるか。腰が止まらねえよ。痛いぐらい勃起してるのに、腰が止まらねえよ。お前の存在そのものが奇跡だ!」
「ちが、くっ」
「ほら、ほらほら」
「ぁっ、あぐぅあぁっ!」

 産まれて初めて経験する名器の味わいに心奪われ、むつきはずんずんとザジを貫いて来る。
 破瓜の痛みなど問題にならないぐらいに、それこそ殺されると思うぐらいに。
 闇の福音が、多くの力ある者が惹かれても、所詮は人間と心のどこかにあった。
 そんなザジの中の驕りが砕かれる。
 安易に高貴な血筋とむつきを煽り、見た目は幼くても妖艶さを秘めた自身を糧にたきつけ。
 今こうして人間の一物によって、ザジは人生で初めて殺されるかもと本気で覚悟したほどだ。

「ザジ、凄く良いぞ。痛くないか、大丈夫だよな。こんなにエロ可愛いんだもんな!」
「ひぃぁっ、んぐあぁぅ!」
「凄い、ザジちゃんがあんな獣みたいな声あげて喜んでる」
「はは、名器を持つザジが喜ぶなんて俺もまた名器なのかな!」

 違う、それはもはや凶器だと言えたらよかったのだが。
 今のザジにできるのはむつきの蹂躙に必死に耐え、股座から飛び散る愛液と破瓜の血が混じった体液をその顔に受ける事だけであった。
 聖剣で殺される魔王の気持ちはこんな感じだろうかと、心のどこかで思いながら。

「たす、くるしぃ。先生、私が壊れ」
「俺も壊れそうだよ。ザジ、ここに出すから。一杯出すから、あと三回。いや、五回はしような。大丈夫、ちゃんと他の子にも残しておくから」
「ひぃ!」

 本気で恐怖した声を上げても、もはやそれすらむつきをたきつけるスパイスにしかならない。
 そもそも急に大人しく苦しげに呻くザジの言動を、むつきは演技だと思っているからだ。
 だからそんなひきつった声さえ、嗜虐性を引き出す為の物だと思っていた。
 エロ可愛い小悪魔がちっぽけな人間の一物で恐怖し、むくむくとむつきの中で嗜虐性が大きくなる。
 もっと、もっととザジを上から押しつぶしては、一物をめり込ませていく。
 蛸壺の吸い上げを一物の根元で、ミミズ千匹を竿で、数の子天井を亀頭でぐりぐりと味わいながら。

「ザジ、そろそろ。出すぞ、孕ませるぞ」
「待って、先生お願い。お願いします、待って!」
「待てない、今ここで。ザジを孕ませるから、来た。来たぞ、孕めザジ!」
「いやぁッ!!」

 一際強く、むつきがザジを貫きぐりっと彼女の子宮を強かに亀頭で打ち付けた。
 そもでもはやザジの口からは苦しげな呻きも、セックスを拒否する声も聞こえはしなかった。
 子宮口にねじ込まれたむつきの亀頭の鈴口から、びゅっと数滴の精液が飛んだ。
 控えめにザジの子宮内に張り付いた精液が、たらりと奥をめざし垂れた。
 子宮の奥にあるザジの卵子を目指しその数滴に込められた何倍もの数の制止がである。
 苦しみや恐怖とは異なる何かが、ザジの中、子宮の奥で芽生え震えが起きた。

「ぁっ」

 今までとは少し違う、艶めかしい雌の悦びが込められた小さな呟きである。
 そして次の瞬間、決壊した堤防のようにむつきの射精が一気に始まった。
 上から突き込まれた体位なだけに、射精の勢いのままザジの子宮内に全て注がれていく。
 それこそ一滴残らず、むつきの射精した精液全てが。
 子宮口をこじ開け子宮の壁にそれこそ奥に、卵子が溺れるぐらい大量に注がれた。

「あはっ、はぁぅ。んぁ、射精されてます。中に、私の中に先生の精子!」
「ザジ、止まらねえ。腰より射精が止まらねえよ!」
「凄い、こんな。こんな、あげない。お姉ちゃんに半分なんてもったいなくてぇ!」

 全身をがくがく震わせながら、ザジは必死にむつきにしがみついて受け入れる喜びに浸った。
 学生の自分はまだ孕めないので、一足早く姉にむつきの子を孕んで貰うつもりだったが。
 注がれた精子一滴、一匹さえも渡したくはないと、両足でむつきの腰に抱き付いた。

「先生、もっと出して。私の、ザジの中に精子出してくださいぁぅんっ!」
「五回はするって約束したもんな!」
「十回でも二十回でも、精子欲しいんです!」
「先生は元からだけど、ザジちゃんが壊れた。エロ可愛い小悪魔が、淫乱サキュバスに」

 見ている方が、撮影している方が当てられると、和美はビデオカメラを持たない方の手でオナニー中であった。
 最後にまた自分も抱いて貰おうと決意しながら。
 ただ今はザジの大事な初夜だからと、二人の痴態をしっかりカメラに収めていた。
 まんぐり返しのザジをひっくり返し、それこそ獣のように後ろから犯すむつきを。
 パンパンと尻を叩かれ、淫乱サキュバスとなったザジがお尻を振って誘う姿を。

「ザジ、お前は俺のもんだ。俺の女、俺の嫁だ!」
「はい、私は乙姫先生のものです。だから、一杯、一杯ください」
「何をだ、言ってみろ!」
「先生の精子、おちんぽ汁を私に。私の雌穴に、いやらしい穴にください!」

 さすがに初めてで五回は無理だったか、三回目でザジが気絶するまで二人の痴態は終わらなかった。









-後書き-
調子に乗り過ぎてボコォされるザジ。
魔族という設定から、ザジは自分を名器に仕立てあげたことにしました。
結局それも最後のボコォで有耶無耶でしたがw

そのうちポヨ姉も出して、ザジのふりして子種貰いに来てボコォしたいw



[36639] 第百十八話 私のプライドが許さない
Name: えなりん◆e5937168 ID:da470ce8
Date: 2014/08/17 13:52

第百十八話 私のプライドが許さない

 幸せそうな顔で気絶したザジは、介抱した後に管理人室に寝かせた。
 後で気づいたことなのだが、どうもあのザジ所有の香油が悪かったらしい。
 元々、小鈴の漢方薬で肉体改造された上に、香油の強壮作用でむつきの体が過度の興奮状態に陥った。
 実際に手で触れて確認した和美は、二回りほど大きかったと顔が引きつっていた。
 ただでさえサイズが大きいむつきが、肥大化したそれでザジを責めれば壊れもする。
 唯一の救いは、むつきの布団の中で眠るザジが幸せそうにしていることだろうか。

「正直、失敗したか?」
「いや、大丈夫じゃない? ザジちゃん凄く喜んでたし」

 管理人室をそっと後にして襖を閉めた後、むつきがぽろっとこぼすと和美がそう言った。
 その証拠にと、音を控えめにしてビデオカメラに付属する小さな液晶画面でその時の映像を見せてくれた。
 三回目、背面座位でザジを貫いている時の映像であったのだが。
 むつきは後頭部しか見えていなかったが、中学生がしてはいけないアへ顔だ。

「妖精か小悪魔が、見事にサキュバスに進化したな」
「あ、それは私も思った」

 ならば大丈夫だろうと、過激なザジの初夜はギリセーフという結論に至った。
 しかしその代償というべきか、初戦からかなりむつきの腰に負担が掛かったようだ。
 腰がとむつきは我知らず手を当て、揉んでいた。
 痛むほどではないが、想定外な程に疲労してしまったのは否めない。
 ちゃんと最後まで持つのかなと思っていると、廊下の先から誰かが歩いて来る音が聞こえた。

「先生、ザジさんの初夜は終わった?」
「アキラか。おう、なんとかな」
「凄かったね、声がひかげ荘中に聞こえてた。こっちが恥ずかしくなるぐらい」

 そう言って頬を染めたアキラの恰好は、目を見張るものがあった。 
 若干ひかげ荘とは不釣り合いだが、水色のナイトドレスである。
 胸から上はレースの刺繍で出来ており、胸元はぱっくりと胸の下まで開いていた。
 ノースリーブのロングドレス、スカートには段々となって白のフリルがあしらわれ、まるでアキラが水の中で泳いでいるようにも見える。
 腰の疲労など、それこそ自分が不釣合いな浴衣姿であることも忘れ、むつきはアキラの髪に触れた。

「綺麗だよ、アキラ」
「うん、ありがとう先生。でも、その前に。はい、朝倉。先生は浴衣で良いけど、一人浮いちゃうのもかわいそうだから選んでおいた。朝倉のナイトドレス」
「え、私?」
「本当は順番的には夕映ちゃんのチームなんだけど、ザジちゃんとのセックスが激しそうで少し疲れてるだろうから委員長のチームと順番を変えたの」

 むつきは知らぬことだが、各々の身だしなみのみならず嫁の間で協定でも結んだらしい。
 和美はアキラから紙袋を貰うと、今しがた出て来たばかりの管理人室に引っ込んだ。
 少しだけ時間をかけてから出て来た和美は、アキラの言う通りナイトドレス姿であった。
 色はピンクに近い赤、アキラは胸元に切れ込みこそあれ肩まで隠しているが和美のそれはちがう。
 自慢の巨乳を際立たせるように谷間を強調するように胸元までしかない。
 身体のラインがはっきりと分かるぐらいにぴったりと張り付き、ロングスカートもお尻のラインから真っ直ぐ降ろされている。

「サイズは大丈夫?」
「これ見立てたの委員長? 胸のサイズまで完璧」
「うん、朝倉のも私のも、それから龍宮さんのも」

 どうやらナイトドレスを着ているのはあやかを含めてこの四人であるらしい。
 和美は撮影班なので別枠としても、格好とチームメイトを考えればコンセプトが見えてくる。
 あと、全員一度は無理だと嫁達がそれぞれチームを組んだことも。

「私たちはちょっと背伸びして大人の癒しのセックス、だって。メインは龍宮さんだけど。いつか、アタナシアさんみたいに先生に頼られるぐらいになれたらって、憧れも含めて」

 そうか、そうかとどこぞのちみっ子が喜びそうな事をアキラが言い出した。
 もちろん、癒しをテーマに持って来られむつきとしてもありがたいことこの上ない。

「それじゃあ、先生案内するね。朝倉も逆側、特別だよ?」
「悪いね、色々と気を使って貰って。一足先に、セックスさせて貰ったのに」

 アキラがむつきの隣に並んで腕を組むと、逆側をどうぞと和美を促した。
 撮影班とはいえ蔑ろにしないところも、あやかの心遣いだろう。
 格好を加味して美少女ではなく、今夜は美女に変身した二人に逆エスコートされて歩き出す。
 場所は聞かされていないのでアキラに案内されるまま、向かったのは二階の遊戯室であった。
 他の子に頼んで空けて貰ったか、もとより誰も使わなかったからか。
 扉の前でむつきの腕を離れたアキラが、襖を開けると薄暗い紫色の光に出迎えられる。

「ようこそ、いらっしゃいました。お待ちしておりましたわ、先生」
「獣のような激しいセックスの後は、しっとりと大人のセックスで酔い痴れようじゃないか」

 部屋の中で出迎えてくれたあやかと真名も、しっかりとナイトドレスでおめかししていた。
 ファンタジーのお姫様のように真っ白な刺繍とフリルで飾られた釣鐘型のスカート姿のあやか。
 対して、映画の中の女スパイの様に体のラインがきわ立つ黒のシックなドレス姿の真名。
 二人に手を取られるまま、むつきは部屋の中央に置かれたソファーに座らされた。
 改めて周囲を伺うと、内装も可能な限り手をいれられている。
 とはいってもザジのセックスで二時間、それぐらいの時間しかなかったはずだ。
 自分たちのおめかしもあっただろうに、本棚やパソコン、ゲーム機を隠す様に黒い膜がかけられている。
 天井の蛍光灯も雰囲気を出す為に、セロファンか何かで光を紫に変えていた。
 極めつけはジャズか何か良く分からない洋楽が流れ、そういうお店に来たかのようだ。
 なんという手間、おもてなしの心と感動してくっと涙が浮かび上がりそうであった。

「先生、隣失礼するね」
「私も、失礼しますわ」

 横長のソファーの中央に座ったむつきの左手にアキラが、右手にあやかが座り込んだ。
 もちろん、ぴったりと寄り添う様に、二人ともがもたれ掛かってくる。
 両手に華を文字通り体現するようにむつきは、二人の腰や肩に腕を回して抱き寄せた。
 二人が拒否するわけもなくより近くなるように、吐息が聞こえるぐらいに肩や首元に寄り添った。

「良い男だが、同時に悪い男だマイハニーは。眠られると困るから、かなり薄めたが飲むかい?」
「ウィスキー? 四葉の提供か?」
「さあ、どうだろうね」

 差し出されたグラスを受け取ったものの、真名の私物じゃないだろうなと疑念がわいた。
 後日、抜き打ちで私室の持ち物調査をしてやろうと思いつつ、むつきは一口だけそれを飲んだ。
 用意されたものを飲まないのも悪い気がするし、真名の言う通り酔いで寝てしまうのも怖かったからである。
 普段ビールぐらいしか飲まないのでウィスキーの味は分からないが、適当に口の中で転がし飲み込んだ。

「さあ、始めようか。他の子にはできない、大人のセックスを」
「その前に、朝倉さん。こちらへどうぞ」
「ん? 撮影なら絵的にここが良いけど」

 以外にも正面からむつきの膝の上に真名がまたがって来る。
 立っている時は分からなかったが、真名のドレスはスリットがかなりきわどく綺麗な足が目から離せない。
 三人目はそこしかないわなと思ったが、始める前にとあやかが少し離れた場所でビデオカメラを回していた和美を手招いた。

「ああ、すまない。忘れていた。今回は癒しがコンセプトだから、マイハニーには極力動いて貰わない。だから、ビデオカメラは固定で構わない」
「え、お払い箱? じゃあ、なんの為にこれ着せられたわけ?」
「そんな薄情なことは致しませんわ。朝倉さんは、先生の後ろ。ソファーの後ろですわ」
「ちょっと位置的に触れあいにくいけど、見てるだけよりは参加したいでしょ?」

 ソファーの後ろには奇妙なスペースがあったが、最初から三人はそのつもりだったらしい。
 メインは真名と聞いているので、真名とは対面座位なのだろう。
 となるとあやかもアキラもむつきへの愛撫が主となり、そこに和美が加わっても問題なかった。
 アキラの言う通り多少触れ合いにくい後ろ側だが、ただ見ているよりは断然良いはずだ。
 大人っぽい子という意味でも、今の和美ならチームあやかのコンセプトを壊す心配はない。

「和美、ありがたく受け取ろうぜ。ほら、おいで」
「なんだか悪いけど。断るのはもっと悪いよね」

 サンキューと照れ隠しでウィンクであやか達に礼を言うと、和美はビデオカメラをその辺の台に固定させた。
 何度かビデオカメラを覗いて移り具合を確認し、いそいそとソファーの後ろに回り込んだ。
 これで良いかなと後ろからむつきを抱きしめ、自慢の巨乳を後頭部の枕代わりに添えてくれた。

「おお、こりゃ良いや。おっぱいまくら」
「こっちは少しくすぐったいけどね」
「さあ、納得したところで。今度こそ、始めようか」

 しっとりとした洋楽の音色に包まれながら、五人はセックスの為にセックスを始めた。
 とはいえ、いきなり挿入をするなんて焦るようなことはしない。
 むつきの膝を跨いで中腰の格好の真名が、両肩に手を置いてそっと瞳を閉じた。
 何を求められているかは明らかで、断る理由も意味もないと少しずつ迫る真名の唇を受け入れる。
 主導でするからという言葉を聞いていた為、むつきからは特別動かない。
 ちゅっちゅと唇を吸われても、真名の腰を抱き寄せ強引に吸い上げるようなこともだ。

「マイハニー、いけないマイハニー」

 ただただ受け入れる、真名の唇を、愛おしげにささやかれ、キスの雨を降らされるのを。

「先生、好き。大好きなの。胸がキュって苦しくなるぐらいに」
「ああ、先生の匂い。あやかをいやらしい一人の女にする、先生の匂い」

 厚い吐息をこぼしながら、アキラとあやかがそれぞれ頬にキスをくれた。
 だが真名のそれとは違い、キスは一度だけ。
 正面と両頬、場所は違えどさすがに三方向同時にキスをされるのは空間的に狭い。
 それにメインは真名と決めているせいか、アキラとあやかのキスの位置が降りていく。
 普段むつきがするように首筋から鎖骨へ、アキラは浴衣の胸を肌蹴させ胸にキスを繰り返す。

「ふふ、男の人も興奮すると乳首立っちゃうんだ。先生の乳首立ってる。頂きます」

 アキラに近い左胸を吸われ舌でぺろぺろと乳首を転がされる。
 普段は亜子と女の子同士を楽しむこともあり、舌使いが結構アキラは上手い。
 それに同時に右胸の方にも手を伸ばし指先でくりくり弄ぶのも本当に慣れている証拠だ。
 一方のあやかは、ずりずりとソファーの上で器用に後ずさり、もっと下へと落ちていった。

「雄の濃い、先生の濃い匂いですわ。はしたない、なんてはしたないの」

 あやかは両手を一切使わず、口だけでむつきの浴衣のすそを丁寧に払いのけていく。
 これでトランクスでも履いていれば難しいが、ひかげ荘では常にノーパンのむつきである。
 二回浴衣のすそを払いのければ、あやかが望んだもっとも濃い雄の匂いを放つ一物があった。
 ザジで一杯出したばかりでまだ半立ちのそれを、またしても手を使わず口と舌であやかが吸い上げる。
 たどたどしく、舌で竿をひっかけ咥えようとするが上手くいかない。
 自分の股間でお嬢様たるあやかが興奮して吸い付いて来れば、嫌でも硬くなってくる。
 少々不満げに私がしますのにと見上げられたが、勘弁して欲しい所であった。

「あやかが全てこのお口でしてあげますわ」

 そう言ってあやかは、やはり手は一切使わず、犬食いをするように貪りついた。
 和美のおっぱい枕に、真名からの熱烈なキスの嵐、アキラの丁寧な愛撫に、あやかの痴態とも言えるフェラ。
 至れり尽くせり、待っているだけで可愛いお嫁さんたちが全てをしてくれる。
 普段ならいやそれでもここは俺がとなるが、今は少しザジとのセックスで突かれていた。

「癒される……天国だ、ここは」

 洋楽の音色に混ざり、キスの音や唾液、フェラと言った音までが楽しませてくれる。
 ただひたすら気持ち良く、このまま全身溶けていってしまいそうだ。

「まだまだ、これからさマイハニー。大きな胸は、好きだろう?」
「ああ、大好きだ。真名の胸も」

 顔中唾液だらけになるまでキスをくれた真名が、また少し身を乗り出してきた。
 大好きだと言われ、嬉しいことを言ってくれるとむつきの目の前でドレスの肩紐をすっと外す。
 肩紐に引かれてぺろんとめくれたドレスの胸元。
 飛び出したのはもちろん、真名の褐色肌にワンポイントのピンクの乳首が特徴的な胸であった。
 真名が身を乗り出したのはそのあふれ出した胸を、むつきに吸って貰う為に他ならない。
 さあどうぞと胸を差し出され、何もしないはずがなかった。

「真名、手を使っても?」
「別に癒しが目的で、動くなとまでは言わないさ。マイハニーの思うがままに」
「だよな。アキラ、あやかも凄く気持ち良い。セックス、上手になったなお前ら」

 だがその前にと、真名の胸で遊ぶ前に、アキラとあやかの頭を撫でつつそう労わった。
 女子中学生がセックスが上手になったと言われ、どう感じるかはさておいて。
 案の定、いざそんな事を言われるとすさまじく恥ずかしいと二人とも目を合わせてくれなかったが。
 そうさせたのはむつきだと言いたげに、より一層の愛撫に懸命に取り組みはじめた。

「それじゃあ、遠慮なく。真名、もう少しこっちへ」

 真名の腰を引き寄せ抱きしめるようにして、むつきは目の前の胸にしゃぶりついた。
 赤ん坊がするようにちゅうちゅうと吸い上げる。
 後頭部には和美のおっぱい、目の前には真名のおっぱいとおっぱいのサンドイッチだ。
 しかもどちらも申し分ない程に大きく、乙姫家の血が騒ぐという物であった。

「真名、真名のおっぱい美味しいよ」
「大きな赤ん坊だ、マイハニー。本当に可愛いな」
「本当、先生おっぱい好きだよね」

 それが男という生き物なのだが、産まれた時からついている女の子には一生分からないのか。
 亜子は結構アキラのおっぱいを揉んだりするが、ひとえに個人の趣味の違いによるものか。
 つらつらとそんなことを考えなら無心で胸を吸っていると、自分の意志に反して腰が浮いた。
 むつきが真名の胸を吸う様に、一心不乱にむつきの一物を吸っていたあやかのおかげだ。
 じゅぶじゅぶと唾液が立てるいささか下品な音の中で、限界が近くなってきていた。

「あやか、そろそろ止めてくれ。出そう、出るっておい!」
「先生、そのまま委員長の口の中に。ごっくん、したいんだって」
「んぅ、んふぁ。んっ、んっ」

 したいのとアキラの言葉を肯定するように、あやかが口を離さないまま首を動かしていた。
 フェラは結構して貰うが、実は皆が意外と精飲を苦手としている。
 好んでというわけではないが、頼めばわかったと素直にしてくれるのはアキラぐらいか。
 あやかがまるで今日こそはとでも言いたげに、口をすぼめ頬肉も使ってむつきを高めていく。
 こんなの抗えるわけもなく、あやまって真名の乳首を噛んでしまいそうで慌ててしゃぶるのを止めた。
 代わりにその豊満な胸の谷間に飛び込む様にきつく真名を抱きしめ、その時に備える。
 自分でも分からないなぞの快感が背筋を上り、そしてその時は来た。

「あやか、飲め。こぼすなよ、全部。全部飲むんだ!」
「んぅー、んっ。んぐぅ、んく」

 思わずあやかが逃げられないようその頭を押さえこみ、少し強引に精飲させていく。
 といってもあやかが逃げるようなことはなく、むしろ自分から飲み込もうとしていた。
 こくこくとあやかの喉が動くのが一物ごしに分かり、むつきの膝が二回タップされる。
 抑え込んでいた手を放すと、残り汁を舌で綺麗にしながらあやかが口を離す。
 むつきの隣で一度ソファーに座り直すと、振り返ってはそっと口をあけた。

「んぁー、ん」

 ほらこんなにと言いたげに口の中の精液を見せつけ、白い海の中で赤い舌を泳がせる。
 それから唾液を混ぜて薄めてから、一気にあやかはこくんと飲み込んだ。
 数秒後、けふっと喉が辛そうに一度咳き込んだが、口の中のそれを飲み切った。

「あ、んん。喉に絡みついて、これは皆さんしたがらないわけですわ」
「先生が喜んでくれなきゃ、私だってしないよ」
「けふ、お待ちに。咳がけほ」
「あやか、こっち」

 嬉しいことは嬉しいが咳き込まれては可哀想だと、最初に渡されていたグラスを手に取った。
 薄まっているから良いよなと一口含んで味わい、抱き寄せたあやかに口移しで飲ませていく。
 それこそこくり、こくりとあやかの喉が艶めかしく鳴っていた。
 勢いが強かったのか飲み切れない分があやかの唇の端からこぼれ、ソファーに落ちていった。
 ぷはっと唇を離した頃には、ウィスキーとは別の銀の橋が二人の唇の間に掛かっていた。

「お手数をおかけしましたわ」
「可愛いあやかが頑張ってくれたんだ、むしろ役得だよ」
「先生、あやかはあやかは。嬉し過ぎてどうにかなってしまいそうですわ」
「おーい、私がメインのはずだが」

 感極まってむつきに抱き付いたあやかが、子供の様にその胸に頬ずりしていた。
 仕方ないなとアキラは微笑ましそうにしていたが、真名は少し不満そうであった。

「仕方がない、仕方がね。先生、ほんの少しだけ特別委員長大好きだから」
「女の子も王子様に憧れるけど、男の子もお姫様に憧れるのかな?」
「それで仕方がないって諦められる程、私は諦めが良くなくてね」

 そう言いながらむつきをキュッと後ろから和美が抱きしめ、アキラも便乗してむつきに抱き付いた。
 言っていることとやっていることが違うと、一番後輩にあたる真名は少し腰を浮かせスリットをまくった。
 大人の癒しセックスは何処へ行ったのか、大好きという言葉と共に抱きしめあう四人を前に。
 初めてだが、私の狙いに狂いはないと精液で汚れたむつきの一物をある一箇所にあてがった。
 亀頭が真名の割れ目に添えられれば、さすがのむつきもそれに気づく。

「マイハニー、私は意外と負けず嫌いなんだ。どんな手を使っても、その視線を奪い返すよ」
「馬鹿、そういうのはちゃんと」
「これで私もッ?!」

 グッと腰を下ろして処女喪失しようとして、真名の腰は一センチも動かないうちに止まった。
 むつきは亀頭が処女膜に触れている感覚こそあれ、まだ破っては居ないことがわかっていた。
 恐らく避ける直前にピリッと走った痛みで、思わず止めてしまったのだろう。
 その真名がまさかとでも言いたげに、ある意味で視線を奪い返したアキラたちに問いかけた。

「い、痛い……少し質問したいんだが。皆、最初はこんなにも痛かったのか?」
「私は二、三日はずっと先生のものが挟まっている感覚が抜けませんでしたわ」
「そんな若干、顔青ざめさせるほどは。どちらかというと気持ち良かったし」
「私は痛かったけど、私は恥ずかしくてそれどころじゃなかったかな。あっ、でも亜子は全く痛くなかったって。かなり個人差あるみたい」

 サンプルは多くはないが、アキラの言う通り個人差の一言が一番信憑性が高い。
 そしてたまたま、真名は特別痛みを感じてしまう体質だったらしい。
 以前、むつきのふにゃちんを受け入れた時はそうではなかったはずだが、長瀬の忍術のおかげか。
 あれだけむつきが抱かれたくなかったら帰れと言った手前、呼び出すのも忍びない。

「真名、良いから無理すんな」
「いや、それはできない。今この現場は撮影されている、ということは楓がいつか見る可能性も。無様に破瓜の痛みが怖くて延期など、私のプライドが許さない」
「大人っていうテーマどこ行った」

 途中までは良かったのにと忍び笑いしながら、むつきは真名の腰に手を添えた。
 真名はプライドとか生き様を重視するこだわりタイプなのできっと言っても聞かないだろう。
 秘部は十分に濡れてはいるので、本当に痛みだけが問題なのだ。
 これは先送りにしても一緒だろう、となれば後は一気に破るしかない。

「真名、もっと俺に抱き付け」
「こうかい、マイハニー」

 前かがみにお尻を突き出す様にさせ、いくぞっとむつきは囁き伝える。
 何がとタイミングを合わせるもなにもなく、むつきは強引に真名の腰を引っ張り降ろさせた。
 ブチンッとゴムが切れるような感触がむつきの一物を通して分かった。
 恐らくは真名の処女膜は他の子よりも分厚く丈夫だったのだろう。
 だからこそ破れる時に痛いのだと真名の愛液と破瓜の血にまみれ、ぐにぐにと膣壁で愛撫されながらむつきは思った。
 もちろん、ぽろぽろと痛みで涙をこぼしている真名の頭を撫でてやりながら。

「ほら、よく頑張った。偉いぞ」
「こ、子供扱いは止めてくれないか。全然、痛くなかった。私は平気だ」
「意地っ張りだな。痛いときは痛い、辛い時は辛い。本音を言ってくれた方が嬉しいんだが」
「凄く痛い、ハニー。痛いんだ、助けれくれマイハニー!」

 とはいえ、本音を言ってくれたから全て解決してあげられるわけもなく。
 そうかそうかとむつきには真名を撫でて宥めることぐらいしかできなかった。
 ただ普段はクールに大人ぶっているのに、こういう時に鳴きわめく真名が少し可愛い。
 ギャップ萌えという奴だろうか、こうキュッと抱きしめてよしよしとしてやりたくなる。

「龍宮さん、頑張って。痛いのは今だけだから、慣れれば凄く良いよ」
「女の喜びは味わわなければわからないものですわ。頑張ってくださいまし」
「これ固定映像だけじゃ勿体ないかも。ビデオカメラ、カメラ」

 真名の望んだ方法ではなかったが、一応は目的は達していたらしい。
 むつきの視線を独り占めし、アキラやあやかも頑張ってと応援してくれている。
 和美の映像に残さねばという言葉だけは非常に気になるところだが。

「ぐぅ、痛いけれど。これぐらい、どうということは」
「真名、焦んなくても良いってば。ほら、キス」
「ん、マイハニー。もう一回」

 もう一度やり直しとばかりに真名とキスの雨を降らし合う。
 それと素直に応援に回ったアキラとあやかを抱き寄せ、良い子だと撫でてやった。
 本来の役目に戻った和美は手が届かないが、気にしないでと手を振られたのでしないことにした。
 真名に加え、アキラとあやかからもキスの雨を降らされ、三人が夢中になったところでトンっと腰を少し打ち上げる。

「ふぅん」

 まだ少し痛そうに顔をしかめた真名だが、苦痛とは違うものも少し声に含まれていた。
 何しろ当人こそ酷く痛がっているが、膣の中は別の意志を持つようにむつきの一物を締め付けてきている。
 私の中に欲しいのとばかりに、むつきが胸を吸ったように吸い付いてく来ていた。

「少しずつ、ゆっくりいくぞ。アキラとあやかも、ほら」
「指、んぅ。腰浮いちゃう」
「殿方の指、先生の。腰が震えて、あんっ」
「ふぁ、まだ痛いが変なじんじんとしてぁっ」

 一物で貫いた真名は元より、アキラとあやかのスカートをたぐり、しっとりと濡れた秘部につぶりと指を埋め込んでいった。
 真名を下から突いたタイミングに合わせ、二人の膣の中に深く指を埋もれさせた。
 三人仲良く艶やかな声を奏でさせ、大人はもう少し先だなと下から突いて背伸びだと教える。

「もう一回」
「気持ち良いけど、物足りない。はぅ」
「腰が勝手に、先生の指でオナニーを。ひゃぅ」
「あぅ、私にも少し。腰が勝手に、ふぁっ。これがそうか。マイハニーに鳴かされるということか」

 初めは見た目や態度とは裏腹に初心な真名に合わせてゆっくりと、クラシックの様に。
 そう言えば音楽流れていたっけど、ジャズ調のそれでもかまわない。
 だが徐々に強くテンポを速め、異なる少女という楽器を鳴らす。
 これはこれでなにか癒されると、むつき一人は案外リラックスモードで。
 心地よい愛する嫁のハーモニーで今はまだ一人で癒しの大人セックスである。

「下半身が痺れて痛み、ふぅぁっ。なくて、ふわふわ。来る、何か上ってくる」
「龍宮さん、そのまま。先生のリズムで、ぁぅ」
「その先に、はぅ。とても素晴らしい世界が」

 トントンと下から突きあげるテンポはもはや、普通のセックスであった。
 真名も痛みよりも快楽が先行しだし、髪を振り乱しながら自ら腰を振り上げている。
 どうやら絶頂も近いようで、むつきはアキラとあやかへの愛撫もしっかり忘れない。
 折角だから三人一緒に、割と珍しい組み合わせもあって仲良くなってくれたらという期待も込め。

「来る、マイハニー。もっと、もっと突いて!」
「私もそろそろイッちゃう。イッちゃうの先生!」
「はしたなくも腰が止まりませんわ!」
「我慢するな、お前ら。次、強くイクぞ!」

 高まり続ける真名達にそう宣言し、一拍の呼吸。
 むつきは一際強く、そして深く真名達の膣を突き上げた。
 特に真名は、実際に一物で突いているだけに子宮口が奥に引っ込むぐらいに。
 反動で戻って来た子宮に亀頭をねじ込み、あとは自由に種付けさせて貰う。

「なに、前より深い所で熱いのが。マイハニーの精がぁ!」

 三人が果てる体の震えが、触れ合った肌を通してむつきにも伝わって来た。
 その激しさがわかるぐらいにはっきりと。
 特に真名は初めて子宮の奥にまで男の精を受け、膣の中が痙攣するように震えていた。
 処女膜に対する痛みもそうだが、それだけ感じやすい体質だったのかもしれない。
 まるで電気を流されたように痙攣する膣が、さらにもっととむつきの精を絞り出していく。
 好きなだけ搾り取れとむつきは真名の腰を掴んで逃げられないようにして注ぎ続ける。

「マイハニー、お腹一杯。もう無理、飲めない。妊娠、妊娠するぅ!」
「その為のセックスだろ、遠慮なく俺の精液で孕め真名!」

 一人髪を振り乱し続け、注がれる精液に真名は翻弄され続けていた。
 アキラとあやかは慣れと、物足りない指だったのでイクことはイッたがまだ少し余裕はあったようだ。
 むしろ奥に注がれる真名を羨ましそうに、物欲しげに見つめていた。
 そして何かに気づいたように二人で互いに目配せし合い、こう言った。

「最初はグー」

 どうやら次にどちらが入れて貰うか、じゃんけんで決めるつもりらしい。
 そんな事よりも射精を止めさせてという言葉にならない真名の叫びは聞こえていない。
 数回のアイコを経てあやかが勝利を勝ち取るまで、真名はむつきの精液に溺れ続けていた。









-後書き-
自分で書いておいて、真名のマイハニーでちょっと吹く。
でもこういう言い方できるのこの子ぐらいしかいない気も・・・・・・



[36639] 第百十九話 そんな所の匂いを嗅いで、この変態!
Name: えなりん◆e5937168 ID:da470ce8
Date: 2014/08/17 13:54

第百十九話 そんな所の匂いを嗅いで、この変態!

 まだまだ大人になりきれぬ少女たちとの癒しセックスを終えると、絡繰が現れた。
 その手の中には二着のスーツ、一つはむつきのもので、もう一つは女性もの。
 これはやっぱり和美のもので、プレイ用の為に千雨辺りが用意した物だろう。
 着替えてもむつきは変わり映えしないが、短めのタイトスカート姿の和美は結構そそる。
 今度辺り、和美にはそっち目的で着て貰うとして、絡繰に案内されてやって来たのはアキラの部屋の前。

「それでは、ごゆっくり」
「おう……」

 いつも通りぺこりと礼儀正しく頭をさげて、背を向けてどこかへ絡繰が歩いていく。
 ただその後姿というか声にひっかかりを感じてむつきは隣の和美に声をかけた。

「なんか、声が硬いって言うか。変な雰囲気じゃなかったか?」
「茶々丸さんはまだ感情表現がわからないところがあるから、なんとも」

 気のせいかなと今は置いておくしかなく、むつきはアキラの部屋の襖をそっと開けた。
 相変わらずの大量の人形の山が部屋の壁際を席巻している。
 ファンシーな女の子というより幼い子の部屋というイメージのこの部屋にいた人影は三つ。
 麻帆良小のセーラーワンピースの制服を着た夕映、さよ、そしてエヴァ。
 夕映とエヴァも百三十センチ台で、さよもギリギリ百四十台。
 だが線が細いので少し背が高めの小学生として、見えないこともなかった。
 いやアキラの部屋のファンシーさ、脱ぎ捨てたように置かれたランドセルなど小物もある。
 放課後、友達と一緒に帰って来てお喋りに興じる小学生にしか見えない。

「あっ、お邪魔しています。お兄さん」
「お邪魔しています、お兄様」
「そういうプレイか」
「まあな、かなり不満だが」

 呆気にとられたむつきに先んじて、夕映とさよが女の子座りのままぺこりと頭をさげた。
 確認してみたが、やはりというべきか。
 腕を組んで唇を尖らせたエヴァが立ち上がり、もっと雰囲気がある大人の空間が良かったとでも言外に言っていた。
 元々夕映には、小学校の制服プレイをと言われた事があったので、構わないのだが。
 むつきは目の前でふんぞり返るエヴァを抱き上げ、そっと襖を閉じて出て行こうとした。

「おいこら、何処へ連れて行く!」
「お義兄ちゃんは、これから大人の話があるからエヴァは絡繰とお寝んねしてきな」
「子ども扱いするな」
「痛って、暴れるな。風呂で皆が上がった時の違和感、お前。なんで混ざってんだよ!」

 じたばた暴れるエヴァにぺちぺち叩かれながら、お前は駄目と遠ざけようとしたのだが。
 慌てたように近寄って来た夕映やさよに縋られるように止められた。

「あなた様、どうしてそのような意地悪を?」
「どうしてもなにも、エヴァはアタナシアから預かった大事な義妹で」
「それはその通りですが。私たちも先生からすれば、親御さんから預かった大事な生徒では?」

 ぐうの根もでない正論とはこのことであろうか。

「我々は等しく先生を愛しています。法の道を外し、淫らな行為をされる程に。しかし、同じクラスメイトであるエヴァンジェリンさんを一人外すのは、不公平という物です」
「だけど、エヴァは……」
「好きです。エヴァンジェリンさんは、皆さんと同じ。アタナシアさんに負けないぐらい、同じぐらい先生のことが大好きです。そうですよね?」

 珍しく少し含んだものがあるさよの言葉を受けて、エヴァがカッとその幼い顔を火照らせる。
 むつきがその顔を覗き込むと、ぷいっと顔を背けてしまう。

「別に好きでもなんでもない。このロリコンが、私の魅力的な体に欲情しているだけで」
「あ、そう。だったらやっぱり、絡繰にでも強制連行を」
「仕方がありませんね。ここまで嫌がられては、手を差し伸べる言葉もないです」
「それでは、あなた様。私たち三人、朝倉さんをいれて四人だけで」
「ありがたいけど、そう何度も割り込むと悪いし。ロリータプレイに私は不釣合いだから撮影に専念するよ」

 変わらず意地を張ったエヴァに対して、むつき以下もあっさりと手のひらを返した。
 まだまだむつきに抱かれたい子は他にもいるのだ。
 エヴァの正体を知るさよでさえも、多少本来の姿だとどうしてこう意地っ張りなのかと不思議に思いはしても手は差し伸べない。
 もう少しさよが大人であれば、アタナシアという姿はエヴァが本心をさらす為の仮面の一つとでも分かったかもしれないが。
 一気に味方を失ったエヴァは、酷く焦った。
 いっそ今からでもアタナシアに変身をとも思ったが、今から割り込むのは結構難しい。
 チーム分けは終えており、それぞれコンセプトもあるし、大人の癒しセックスは終わった。
 それにどうせならそろそろ本当の自分をむつきに抱いて欲しい気持ちがあって加わったのだ。

「わ、わかった」
「なにが?」

 にやにやと、幾つもの視線にさらされイラッとしたが私が一番年上とエヴァは珍しく我慢した。
 我儘しほうだいで過ごしてきた人生で、最大限の我慢、譲歩をしてぎこちなく唇を動かしていく。

「す、す……き、になって何が悪い。姉より私の方が先だったのだ。いつもいつも子供扱いで、レディ扱いをしろ。良い子良い子されるのも割と好きだが、私は大人の女だ!」

 まだまだ正面切っては言えなかったが、合格点とばかりにむつきは腕の中のエヴァをきゅっと抱きしめた。
 ぷるぷると真っ赤な顔で震えるエヴァを、いつも通り優しく撫でながら。
 しかし彼女を一人の女として欲情込みの恋慕の情で興奮して見つめてもいた。

「エヴァ、本当に良いんだな。やっぱりだめって言っても無理やり抱くぞ?」
「望むどころだ。今からお前の租チンでよがる演技を考えないとな」
「決めた、ボコォヒギィって言わせる」
「や、優しくしろよ」

 さてどうかなっとはぐらかし、むつきは改めて夕映やさよも伴い部屋に戻っていった。
 ファンシーなアキラの部屋で事案が発生したと言われてもおかしくない子たちを相手に。
 部屋の中央であぐらでどっかり座り込み、エヴァを目の前で立たせてあげた。
 仲の良いクラスメイトのように、実際クラスメイトだが。
 エヴァの腕をとって夕映とさよが、まだ赤面中のその顔をつんと突いてからかった。
 そんな三人を前に改めて、上から下まで眺めて楽しむ。

「先生、絵面がかつてない程に犯罪臭がしてる」
「俺もそう思う、また一つ自分の業が増えそうだ。今更、止めないけど」

 後ろで撮影していた和美の言う通り、エヴァや夕映、さよの格好はむつきでさえ業が深いと言わざるを得ない。
 麻帆良小等部の女の子の制服は白いセーラーの意外にスカートが短いワンピースだ。
 エヴァをからかい楽しむ夕映やさよのスカートが、腰の動きに合わせひらひらと舞う。
 その度に太ももとは思えないぐらいに細い足が垣間見える。
 産毛、なにそれと言わんばかりに綺麗な白い三つの足は、脛の辺りから白いソックスとなった。
 この三人にお兄ちゃんと呼ばれながらセックスしたら、一体俺はどうなってしまうのか。
 セックスに対してそんな恐怖を覚えたのは、童貞を切って以来かもしれない。

「お兄さん」

 ザジとは違う意味で三人の妖精を前に、少し意識が飛んでいたらしい。
 気が付けば、あぐらで座るむつきの両サイドに四つん這いで夕映とさよが近づいて来ていた。
 一人足りないと思ったら、エヴァはさらに顔を真っ赤にさせながらスカートの裾を掴んでいる。

「あっ」
「どうかされましたか、お兄様?」

 小学生の無防備さの演出かそれとも素でやっているのか。
 セーラー服の襟元から、ノーブラの胸元が見えてしまっていた。
 多少影となる部分があった見えづらいが、二人のささやかな膨らみがぽっちまでも。
 少し前にアキラたちに癒された一物が、スーツのズボンの中でむくりと出番を感じて起き上がる。

「今日はお兄さんにエヴァンジェリンさんから大事なお話があるですよ」
「お、お義兄ちゃん……」
「ん、どうしたエヴァ?」

 なんとなくだが、皆がむつきを兄と呼ぶが、夕映とさよは友達の兄という立ち位置だろうか。
 二人に促されたエヴァは、相変わらずスカートをもじもじさせながら一歩を踏み出した。
 むつきの目の前に立ち、真っ赤な顔で見下ろしてきている。
 そのままエヴァが弄っていたスカートを少しずつたくし上げていく。
 本当にゆっくりで最初は気付かなかったが、膝上のそれがほぼ股下になれば嫌でも気づいた。
 だがそれでも止まらない、白のスカートからさらに白いものが。
 ニャーという猫さんマークのプリントが見えるまで、エヴァはスカートをたくし上げ切った。

「お姉ちゃんの婚約者って知ってるけど、それでも好きです」
「エヴァ……」

 頭が沸騰するかと思った。
 全てはプレイ、そうわかっているのに姉の婚約者に精一杯誘惑して告白する妹。
 むつきには従姉や従妹がいるが、現実とは違う。
 だからこそ興奮する、幼いエヴァをむさぼりたくなって来た。

「エヴァンジェリンさん一人では勝ち目が薄かろうと、私も」
「お手伝いします」

 そしてむつきの様子を見て、両隣にいた夕映とさよも動いた。
 四つん這いの状態から立ち上がっては、エヴァと同じようにスカートをたくし上げていく。
 お尻全体を包み込む白いぱんつ、そこまでは同じだがプリントが違う。
 エヴァは猫だが、夕映はうさぎ、さよは犬だ。
 微妙に当人たちの性格をあらわしているようでもあった。
 気まぐれ子猫のエヴァ、根は寂しがり屋の夕映、従順で可愛い子犬のさよ。
 もう我慢できないとむつきはエヴァの手をとり、かなり強引に引き寄せた。
 エヴァだけでなく夕映もさよも、子供ぱんつを履いた三人が寄り添うよう花を束ねる様に抱きしめた。
 もちろんそれで終わらず、三人がたくし上げたスカートの中に顔を突っ込み、子供パンツに顔を押し付け匂いを嗅いだ。

「エヴァ、いけない子だ。お義兄ちゃんを誘惑するなんて。友達まで巻き込んで」
「うわぁ……」

 かなり引いた声を和美が後ろであげていたが、気にもならなかった。
 はた目には本当に子供に手を出しているようにしか見えなかったとしても。
 エヴァが誘惑するから、恥ずかしがり屋の子猫の癖に、精一杯気持ちを伝えてくれたから。

「く、息がくすぐったい。そんな所の匂いを嗅いで、この変態!」
「しかし、かつてこれほどまでに我々に興奮してくれた先生がいたでしょうか」
「あなた様、恥ずかしいです。でもこの恰好をしたかいがありました」

 和美ほどではなかったが、三人ともむつきの興奮状態に少し素に戻ったようでもあった。
 一心不乱にスカートに顔を突っ込み子供ぱんつごしに匂いをかぐむつきを見下ろしている。
 ただ引くまではいかず、むしろ自分たちに興奮していると自尊心が少し満たされてもいた。
 だからだろうか、まず最初にたくしあげていたスカートを下したのはエヴァだった。
 むつきの顔を包み込む様にスカートの奥に隠したのだ。
 意味は特になかったかもしれないが、次に夕映がさよが。
 スカートの裾をむつきにかけてもっと興奮してとばかりにその上から頭を撫でた。

「エヴァの匂い、アタナシアにちょっと似てる。薔薇みたいな、花の匂い」
「当たり前だ、パンツはこんなだがちゃんと香水を使っている」

 エヴァは西洋人だが実はとある理由であまり汗をかかず、実は体臭が凄く薄い。
 だからこういう場合には、セックスのスパイスとして香水を使うのだ。
 案外ザジもそんな理由で香油を持ち出してきたのかもしれない。

「次は、誰だ。この甘い匂いは夕映か」
「ちょっと恥ずかしく、ぱんつを引っ張らないでください先生」
「ならこっちはさよか。いつも布団の中で嗅ぐ匂い、さよの匂い」
「本当に恥ずかしいです、あなた様の息遣いが。興奮した息が、大事なところに」

 むつきが興奮し過ぎて中々スカートの奥から出てこない。
 それなりに羞恥を感じてお腹の奥がじんと熱くなるが、さすがに刺激が少なすぎる。
 それを察して動いたのは、少しだけ残念な気持ちになっていた和美であった。
 一旦ビデオカメラを近くの棚に置いて、部屋の隅にあったアキラの布団を部屋の中央に敷いた。
 むつきには無理だが匂いを嗅がれ少し興奮気味の三人に視線で問いかける。
 問題ないと頷き返されたのを機に、和美が三人を敷いた布団めがけて軽く押した。

「さあ、そろそろ本番をね?」

 トトトっと後ろにたたらを踏んだエヴァたちは、三人仲良く布団の上に尻もちをついた。
 もつれ絡み合う様に倒れ込み、良い具合にスカートがまくれ子供パンツが見えている。
 ほぼ同じ位置、言うなれば同じ布団に倒れ込んだ彼女たちをむつきが追いかけた。
 人として何かを踏み外した血走った瞳で、ネクタイを外し胸元のボタンを鬱陶しそうに外す。

「エヴァ!」
「んふぅ、痛っ。ばか、強い。んぅ!」
「ぁっ、そこは。先生、そこは私の」
「あなた様、こんな強引になんて初めてです」

 名を呼んだのはエヴァだけだが、同時に夕映もさよもむつきに弄ばれていた。
 エヴァは小さな唇ごと座れるように唇を塞がれ、息苦しそうに逃げようとしても直ぐに捕まってしまう。
 もつれ絡み合う様に倒れているだけに、夕映の下腹部にはむつきの手が。
 さよの控えめな胸にもむつきの手が伸び、顔をしかめられるぐらいに強く掴んでいた。
 むつきも自分が今誰の唇を吸って、子供ぱんつの上から割れ目を指の腹でなぞり、胸を掴んでいるのか分かっているのか。

「この可愛いおっぱいはさよのだな。この位置にエッチな穴があるのは夕映か」

 いや、とんでもない理由でちゃんとわかっていた。
 抱いた事があるから、彼女たち以上にその体をしっているからこそ手探りだけで分かっている。
 凄いのか単にすけべなだけなのか。

「むつき、私も。私の体も覚えてくれ、ほら私の胸。ちゃんと膨らみあるんだぞ」
「わ、私だって膨らみぐらいあります。最近少し大きくなったんですから」
「この中では私が一番、一番大きいんですね。一度、そう言ってみたかったんです」

 エヴァがワンピースタイプの制服を胸までたくし上げ、ノーブラのそれをむつきに見せた。
 身体が幼すぎで胸を突き出す様に張ると、胸よりも少し浮き出たあばらが目立つぐらい。
 しかし彼女が誇っているかはともかくとして、ささやかな膨らみは確かにあった。
 キスの涎がついたままむつきが頬ずりすると、乳首の突起以外にふよっと触れる膨らみを感じられた。
 確かにある、ならばこちらはとむつきは夕映が差し出してきた胸に舌を伸ばして舐め上げる。
 舌の腹でなぞる様に確かめた胸は、初夜の頃よりも少し成長していた。
 きっとこれからも成長を続け、むつきはその度に感度が変わっていくのを楽しめるのだろう。
 手の平に収まるお椀型のさよの胸も、仕事で疲れたところを何度も癒して貰った控えめな胸。
 さよのことは良く知っているよとモールス信号でも送る様に指先で乳首を陥没させるように何度も突いた。

「されるがままというのは性に合わん。次は私たちにもさせろ!」
「アタナ、うわっ」

 いつかどこかで聞いたことがあるエヴァの姉の言葉に、少しだけむつきは正気に戻った。
 しかし跳ね起きたエヴァに胸を押され、逆に仰向けに寝転ばされてしまう。
 そのまま抵抗もできずに、むつきの視界は真っ白な何かに覆われ、次に目の前が真っ暗になった。
 顔を押し潰す小さいけど大きく、谷間のある何か。
 薔薇の香りが感じられるそれはエヴァのお尻だろう。
 エヴァに顔面騎乗位されて視界が閉ざされると、その間にさよと夕映がベルトを外し始めた。

「ほら、むつき。以前に風呂に入った時は、舐めも触れもしなかったが。今日はしてくれるんだろう?」

 少しだけ腰を持ち上げたエヴァが、子供ぱんつの生地を指でずらしパイパンの割れ目を見せて来た。
 途中から気づいてはいたが妙に湿り気のあるぱんつの奥は、濡れていた。
 舌を伸ばして触れてみるとぬるりと酸味のある愛液の味が舌先に広がり少し痺れる。

「エヴァ、エヴァの子供まんこ」
「誰が子ども、飴を舐めるように。貴様こそ子供だな」
「それは我々もかわりませんよ。エヴァンジェリンさん、ぺろぺろしましょう」
「あなた様、何時もに増して猛々しいです」

 夕映とさよの手でトランクスまで脱がされ、むつきの一物が塔のように天井へと向けて伸びていた。
 チーム戦で二連戦、ザジとの一騎打ちを経てもまだまだ元気すぎる。
 その赤黒く猛るそれを、夕映とさよはむつきの足の方から、エヴァが上半身側から顔を近づけ舐め上げた。
 小さな舌を一生懸命に伸ばし、夕映が言った通りアイスでも舐めるようにぺろぺろと。
 今日は小学生プレイなので玉袋を咥えて唾液でふやかし甘噛みするような過激なことはしない。
 子猫がミルク皿を中心に集まって舐めるように、ビクビクと震える竿を三方向から舐め続ける。

「結構舌が疲れるな、この体でクンニも同時だと」

 エヴァは背丈が足りないので、シックスナインの格好だと本当に首を伸ばさなければいけない。
 ましてやそのまま咥えこむことなど到底出来はしない。
 やっぱり小さいと色々な意味で不便だと不満は少しあったが、なんだか今の自分は心が広かった。
 お前たちに譲ると肉棒アイスを舐めることに集中し始めた。
 譲られた夕映とさよは、お互いに視線を交し合い、前にもこんなことがと譲り合いになると思った。
 だから以前と同じように普段から愛して貰っているさよが引き、夕映が譲って貰う。

「こんなに大きく、口に入るでしょうか?」
「くっくっく、顎が外れないように気をつけろ」
「あまり怖いことをいわないでください」
「疲れたら言ってください、いつでもかわりますから」

 それは本心からありがたいと、夕映は束ねた髪を背中に回す様に払いのけ口を大きく開けて舌を出した。
 こんな事が出来るようになってしまいましたと、亡き祖父に心で訴えながらむつきの一物を飲み込んでいく。
 口の中いっぱいになる一物を舌でなんとか愛撫するが亀頭のカリ首を過ぎて直ぐ飲み込めなくなった。
 だらだらと溢れる唾液も止められず、お願いしますとエヴァとさよにそれを舌ですくって貰う。
 じゅっじゅと夕映がフェラチオをする音と、ぴちゃぴちゃとミルクを舐めるような音が二つ。
 いや最後にエヴァへのクンニで興奮したむつきの息遣いだろうか。

(突き抜けると、これはこれで有りかな? 将来、本当に小学生を連れてきたら、フルボッコだけど)

 ビデオカメラを回していた和美も、この異常な光景に興奮しはじめていた。
 構図としては三人の小学生が襲われる出なく、大の大人を逆に襲っているような光景だ。
 けれど襲われている方も、喜んで襲われ、ビクビクと一物を震わせている。

「んっんぐぅ、もう無理です。顎が、おっと涎。さよさん、次をお願いします」
「分かりました、あなた様。あっ、夕映さんの味もしみこんで。私の味も染みついてください」

 夕映の唾液まみれになった竿に、さよが口に貯めた唾液をたらりと垂らしていく。
 何処となく料理に例えたような言葉を漏らしつつ。

「貞淑な妻がどうしたって?」
「か、からかわないでくださいエヴァンジェリンさん。あなた様はいやらしい女の子も好きなんです」
「本当、節操のないおちんちんで我々も気が気でないですよ」

 だが惚れた弱みで今更離れられないというのは、共通の認識でもあった。
 再びフェラとクンニの四重奏。
 だがさすがに息切れというか、三人がかりで愛撫されるむつきの方が限界が近かった。

「ぐっ、そろそろ」
「あなた様、もう少しだけ。最後はエヴァンジェリンさんのお味を」
「そろそろ出番か、ご苦労だったな。むつきも……ほら、ありがたく受け取れ」

 行為の最中で少しは素直に慣れたのか、エヴァが愛液まみれのむつきの唇にキスをした。
 三人で軽く打ちあわせ、折角だが小等部のセーラー服を脱いでいく。
 身に着けているのは局部が少し濡れた子供ぱんつと、白い靴下だけ。
 あとは何もない、体を隠すものはそれこそ彼女たちの長い髪の毛ぐらいか。

「先生はそのまま、エヴァさんへのレクチャーは済ませてありますから」
「あなた様は、エヴァンジェリンさんの雄姿をご覧になってください」

 仰向けで寝かされたままのむつきへ、夕映とさよがそっと寄り添った。
 手すきになることが多かったその両手で、この体を楽しんでくださいとばかりに。

「大丈夫か? 一人でできるか、エヴァ?」
「私を誰だと思っている。姉からも、随分とお前との実践を聞かされているからな」
「何を教えてんだ、アタナシアは」
「姉、だからな」

 その実、その実践も体験したことだが、一生明かせない秘密となることだろう。
 何も知らず可愛い奴めとエヴァは微笑みつつ、夕映とさよを抱き寄せるむつきの足元に回り込んだ。
 かつては子供の姿を嫌い、大人の姿で世界を歩き回ったが。
 今はその子供の本当の姿で抱かれることを望む相手ができるなど、本当に幸せである。
 子どもの姿はともかく、子供パンツに靴下だけとアレな姿で迫るぐらいに。

「むつき、私ももう大人だ。大人なんだ、お前からは子供にしか見えなくても。ちゃんとできるところを見てくれ。私を一人のレディとして、これからは愛してくれ」

 だから子猫のプリントが入ったパンツをずらし、散々舐めて貰った割れ目を見せた。
 毛の一つもないロリコンがもろ手を上げて喜びそうな、幼い割れ目を。

「ずっと気づいてやれなくて悪かった。エヴァも皆と同じだもんな。俺が大人のレディにしてやる」
「むつき、いくぞ。んっ」

 むつきの腰を跨いだエヴァが、はやくと待ち構える一物の上に腰を下ろしていった。
 愛液と先走り汁が触れて混ざり合い、くちゅりと性器同士がキスをする。
 それだけで電流のようなものが背筋を上って果ててしまいそうだ。
 しかし今日は本当の自分で最後までと、夕映とさよに見守られながらもっと腰を下ろす。
 凶悪なむつきの一物とたまご肌の割れ目がディープキスを果たす。
 ぐいぐいと割れ目をほじられ膣口を強引に広げられては、エヴァの中にむつきが沈み込んでいく。

「お、大きい。裂けそうだ」

 大人の姿というプラシーボ効果でもあったか、エヴァは普段よりそれが大きく感じられた。
 今が子どもの姿だから逆プラシーボ効果だったかもしれない。
 股座から脳天にまで一物で裂かれそうだと思いながら、むつきを飲み込んでいく。
 天井を見上げて口を開けていなければ呼吸もままならない。

「はあ、はぅ」
「血が、もう破れても。少し奥なのか?」
「馬鹿、揺らすな抉れて」

 亀頭はすっぽり収まったが、破瓜の血が、処女膜を破る感触がないとむつきが少しだけ突いた。
 口から飛び出したらどうするとエヴァが睨みを利かせたが、すっかり忘れていた。
 アタナシアの時に処女膜を破って貰い、今のエヴァに処女膜などあるはずがない。
 しかしここでどう説明すべきか、口が裂けても初めてではないだなんていえやしない。

「あなた様、女の子は激しい運動で敗れてしまうことも……」
「そっか、そうだよな。エヴァの初めては俺だ、俺のエヴァなんだ」
「そ、そうなんだ」

 ナイスアシストとさよの言葉に便乗し、ちょっと口が滑った。

「姉が男と女を教えてくれた時に間違ってな。少々ガサツなところがあるんだ、姉には」
「なんて奴だ。今度あったら、俺がお仕置きしておいてやるからな」
「そ、そうか。お仕置きか」

 それはそれで嬉しいかもと、意外に一粒で二度美味しい想いができると笑顔がふにゃけた。
 だがいつまでもむつきをお預けさせるわけにはいかない。
 徐々にだがむつきの一物をこの小さな体に飲み込ませ、蹂躙されていく。

「女の子は受け入れられるようにできている、ですよ」
「ああ、北海道でレクチャーされたという奴か」
「もう少しです、エヴァンジェリンさん」

 友人達の応援も受け、エヴァは少しだけ飲み込むスピードを速めた。

「くぅ、狭い。エヴァの中、でも。女の子だもんな。気持ち良いよ、エヴァ」
「天国だろう、私の中は。姉よりも」
「ここだけの秘密な?」

 どうせアタナシアの時にもそう言うのだろうと思ったが悪い気はしない。
 だからだろう、最後の最後はとエヴァはむつきを見てこう言った。

「むつき、最後はむつきの手で。一思いにやってくれ」
「良いのか、キツイかもしれないぞ?」
「むつきにされたい。犯して、むつきのものになりたい」
「分かった、ほら深呼吸」

 むつきの一物はまだ半分しか入っておらず、エヴァの小柄な体から本当に串刺しという言葉が似合う状態だ。
 ただ体重が軽いせいか、その状態ではなかなか自分だけでは難しいのだろう。
 エヴァの提案を受けて、むつきは彼女の腰に両手を添えた。
 騎乗位ではこちらもつらいと、夕映とさよに一言断って上半身を起こして対面座位に。
 これならキスもしやすいと、苦しげなエヴァにキスよいう薬を上げて微笑みかけた。

「呼吸を合わせて、ふうふう」
「すう、はあ。ぐっ」

 一瞬エヴァは下腹部の圧力が一気に増すのを感じた。
 むつきの両手がエヴァを引き寄せる、自分にではなく真下に。
 エヴァを貫く一物の竿に沿って真下に、小さなエヴァの割れ目を抉る一物をさらに沈み込ませる。
 ズンッと股座から脳天まで、突き抜けるような衝撃をエヴァは感じて目の前がチカチカしていた。
 危うく爪でむつきの背中を引っ掻きかけ、別の意味でひやりとしたが。

「あぐぅ、お腹……むつきのおちんちんでぇ」
「おお、我々もされている時はこのようにお腹が膨らんで」
「あなた様の殿方はとても大きいですから」
「さわ、触れるな。お腹が苦しい」

 夕映よりさらに小さいエヴァのお腹は、むつきの形のままぽっこり膨れていた。
 むつきの方も、狭すぎるエヴァの中で一物を搾り取られ、今にも出そうで歯を食いしばっている。
 さわさわとエヴァの膨れたお腹をさわる、夕映とさよの手の感触さえ感じられるほどだ。

「エヴァ、少しだけ我慢してくれ。何回か往復するだけで行けそうだ」
「壊れる、私が壊れりゅ!」
「エヴァ、お姉ちゃんにできてお前にできないはずがねえ」
「ああっ?!」

 変わらずエヴァの腰に沿えていた手で、むつきは一度は貫いたエヴァを力技で引き抜かせていく。
 狭い膣壁がエヴァの様子とは裏腹に逃がさないとむつきをしゃぶりついて来る。
 精液を寄越せと、この幼い少女に種付けたいんだろうと挑発するように。
 それに対してむつきもそうさ孕ませたいんだよと、エヴァの体をまた沈み込ませていく。
 お帰りなさいと飲み込んでくる膣の中へと。

「ぁっ、はぁ。くる、あっ!」
「エヴァ、頑張れエヴァ」

 もはや喘ぎにもならない、苦しげな声が何故か返ってむつきを興奮させた。
 無理やりしているように錯覚したからだろうか。
 だから最後は本当に無理やり、力任せにエヴァを引き寄せ貫いた。
 ゴンっと亀頭が子宮口を叩く音が、むつきにまで響いて来る程に強く。

「ひぎぅ!」
「出る、出すぞエヴァ!」
「ぁっ、中に熱いの。お腹の中に、むつきが出てる!」
「もう少し、もう少しだけ」

 これで最後と思いはしたが、エヴァの中に射精する気持ち良さに心が負けた。
 アタナシアから預かった大事な義妹の中を射精しながら、何度も何度も繰り返り犯し続ける。

「待っ、馬鹿。おかしく、射精されながらんぅ」
「エヴァ、気持ち良いよエヴァ」
「もう無理、お腹一杯。無理なのにぃ!」

 対面座位から正常位に押し倒し、両手を押さえつけ、身動きを封じてさえ。
 半分意識が飛んで涎を垂らす口元を舐め上げ、下の口のみならず上の口も犯していく。
 喘いでいるのか苦しんでいるのか不明なエヴァのくぐもった声を口ごしに聞きながら。
 むつきが満足した頃には、エヴァの意識は本当に飛びかけていた。
 口元はだらしなく開いて涎を垂らし、綺麗な髪も一部口の中に引っかかっている。
 幼い性器からは大量の精液がこぽりと湧き水のように溢れ、足もがに股気味に投げ出されていた。

「ふう、さて次は夕映。それともさよ?」
「さ、先ほどは譲っていただいたのでさよさんから」
「いえ、私は普段からあなた様にしていただいておりますので」
「二人同時でも俺は一向に構わん!」

 冷や汗を感じながら譲り合う夕映とさよの腕を掴み、むつきが布団の上に引きずり倒した。
 待ってと悲鳴を上げる二人を組み伏せ、子供ぱんつをずり下げそのまま犯す。
 その姿をじーっとビデオカメラで覗いていた和美が、ぽつりと漏らした。

「これ、映像が外に流れたら先生縛り首だよね」
「先生、ぁっ。大きぃ、ぁぅ!」
「夕映、夕映。さよ、お前の可愛いおっぱいも揉ませろ」
「あなた様、目が怖いです!」

 なんだかんだで途中からは嬉しい悲鳴に変わるわけだが、チームエヴァのロリータセックスはもう少し続きそうではあった。









-後書き-
途中から設定ぶん投げてます。
んー、話のまとまりが。

また今度暇があったらロリータセックス話を書きたい。



[36639] 第百二十話 どうやら私たちの負け、ですね
Name: えなりん◆e5937168 ID:da470ce8
Date: 2014/08/17 13:57

第百二十話 どうやら私たちの負け、ですね

 エヴァのみならず、夕映やさよが精液まみれでぐったりする頃には、むつきも限界だったようだ。
 ザジといたし始めたのが二十時過ぎ、それからとっかえひっかえの連続。
 最後に時計を確認したのが三時過ぎで、もう無理ですと夕映が泣きを淹れたのが最後の記憶だった。
 目を覚ましてみればそこはアキラの部屋だが、部屋主はおらずチームロリータの三人が思い思いの場所で寝息を立てていた。
 やはりいくらなんでも、十人を超える嫁達を一度に満足させるのは無理だったか。
 少しばかり頭痛がする頭を振り払い、ご苦労様と三人の嫁におはようのキスをしてからむつきは部屋を出た。
 部屋を出る直前に確認した時計は午前六時、よりによって休みに早起きしてしまった。

「腹減った」

 出すばっかりで栄養が足りないと、向かった先は食堂であった。
 こんな日でも心が何処か落ち着く懐かしさを覚える、包丁がまな板を叩く音が聞こえた。
 出入り口の暖簾をかき分け覗き込むと、四葉と葉加瀬が朝食の準備中である。
 何時も遅くまで研究を続けているはずの葉加瀬が手伝いをしている姿は少しめずらしいか。

「おはようさん」

 声をかけると、四葉と葉加瀬がそろって振り返っては挨拶を返してくれた。
 四葉はある意味でいつも通りだが、葉加瀬はメガネをコンタクトにしておさげをおろしている。
 もしかしなくても、昨晩はむつきが寝てしまった為に、待ちぼうけにさせてしまったか。
 髪型のみならず、今はエプロン代わりに白衣を羽織っているが白いショートパンツにピンクのキャミソールと女の子をしている。

「聡美、その恰好」
「いえ、大丈夫です。元々、一晩中は持たないだろうと超さんが言っていましたから」
「一応お夜食は用意していましたが。柿崎さんたちも、体力温存と早めに就寝されました」
「なら良かったか。今冷静に考えればそうだよな。近衛たちが帰ったとはいえ、一晩で一気に全員は無理だ。腰が壊れて、子作りできなくなる覚悟なんてできねえし」

 四葉から美砂たちのことも聞けて、これで本当に安心できた。
 今にして思えば、無理に一晩で全員を抱かなくても、まだ今日と明日もあるのだ。
 慌てて蔑ろに抱くよりも丁寧に抱いてあげる方が、嫁達も喜ぶはずである。

「まだ少し皆を起こすには、早いよな」
「もう準備はあらかた終えていますけれど、そうですね」

 エプロンで手を拭きながら、四葉もむつきの呟きに律儀に返してくれた。
 時計は六時を過ぎたところ。
 体力温存の為にといっても普段の生活を考えると、美砂たちが起きるまでにまだ一時間以上ある。
 そしてこの場にいるのは、四葉と葉加瀬というひかげ荘中期メンバーながらまだ処女の二人。
 時間はある、むつきも短いとはいえ一眠りしてある程度は回復していた。

「お前らさえよければ、朝風呂にでも行くか?」
「そ、それは……そういうことを込みででしょうか?」
「お前らが良ければだけどな」
「お供させていただきましょう、葉加瀬さん。チーム超包子は、初めての子が多すぎますし」

 さらに小分けにしてしまいましょうと、何時もの笑顔で四葉が葉加瀬の背中を押した。









 さすがにまだむつきの前で服を脱ぐのは恥ずかしそうだったので、一足先に洗い場へとやって来た。
 朝の湯煙をミストとして浴びて思ったが、昨晩は体も洗わず寝たので結構匂っている。
 汗もそうだが、自分と抱いたお嫁さんたちの体液の匂いと、仮にこのまま出勤すれば即バレしそうなぐらいに。
 このままでは他の娘の匂いをさせたまま初めてになってしまうかと、椅子に座った。
 全ては体を綺麗にしてからと、熱いシャワーを頭からかぶりながらタオルやボディソープを泡立てる。
 ちなみに備え付けのシャンプーの類は基本的にむつきのものであった。
 美砂たちは自分の体質に合ったり流行りのものを使う為、むつきみたいに泡立てば良いみたいな感覚で使いはしないのだ。
 あとはザジのように飛び込みでここに来た子なんかが、間に合わせて使ったりするぐらいか。

「んー、俺ももう少しお洒落に気を使うべきか。歳の差的に、俺の方が早く老けてくし」
「歳に見合った格好良さを見せて頂ければ、十分だと思います」
「先生の体調他は超さんがサポートされていますので、先に相談した方が良いかと」
「おっ、びっくりした」

 シャワーの音で気づかなかったが、いつの間にか四葉と葉加瀬がやって来ていたようだ。
 一日が始まる朝という爽やかな時間帯もあり気恥ずかしさが抜けないのか、胸と腰回りにタオルを巻いている。
 ちょっと残念に思っていると、泡立てていたタオルをそっと四葉に取り上げられた。

「背中を流しますね。葉加瀬さんは、先生の頭をお願いします」
「わかりまし……あれ?」

 失礼しますと、泡立てたタオルでごしごしと四葉がむつきの背中を流し始めた。
 誰かに背中を流して貰うと、普段手が届かない部分にまで届くのでかなり気持ちが良い。
 これはこれで幸せの瞬間とほっと息をついていると、そばで葉加瀬がおろおろしている。
 俺の頭はここだぞとむつきは思ったが、やがて彼女がうろたえている理由がわかった。
 四葉が背中側にしゃがみ込んでいるので、自然と葉加瀬は正面に回らなければならない。
 しきりに胸や腰に巻いたタオルを直しているので、ズレ落ちないか心配なのだろう。

「葉加瀬、どうした?」

 だから分かっていて、あえて促す様にむつきは笑顔で問いかけた。

「い、いえ……なんでもないです。シャンプーはこれで良いですか?」
「なんでも良いよ」

 慌ててむつきの目の前でしゃがみ、鏡台の前にあるシャンプーに葉加瀬が手を伸ばした。
 こういうところが初心というか、ザジのように見られ方を知らないのだろう。
 短いタオルがひらひらとして、葉加瀬の可愛いお尻が少し見えている。
 凄く触りたいが驚かせると危ないので、なんとか我慢であった。
 そして手にシャンプーを救った葉加瀬が、気恥ずかしげにしながら振り返って来た。

「気を付けはしますが、目に入らないように気を付けてください」
「あいよ」
「先生、腕を上げて貰えますか?」
「へーい」

 葉加瀬には頭を、背中を洗い終えた四葉は、さらに腕をと洗って貰う。
 性的なことは一切ないが、別種の天国、別種の気持ち良さである。
 多少、目の前でひらひらする葉加瀬のタオルや、その奥の控えめな膨らみも見ていて楽しい。
 昨晩、あやかたちは大人の癒しセックスと言ったが。
 単純に癒しを目的とするなら、こういった献身的な好意の方が悪いが癒されてしまう。
 無理に癒しとセックスを繋げる発想が、まだまだ背伸びをしたい子供なのだろう。

「先生、かゆい所とかないですか?」
「つむじの辺りを頼む、あー。葉加瀬の指が気持ち良い」
「なんというか、照れてしまします」
「先生、前を失礼しますね」

 何気ない言葉で照れる葉加瀬も可愛いが、次の瞬間には意識を四葉に奪われた。
 背中と腕の後はこのままでは難しいと、四葉は背中に抱き付くようにして胸に手を伸ばしたのだ。
 一言振り向いてくださいと言ってくれれば良かったが、彼女もさすがに直視するのは恥ずかしいのか。
 少し振り返ってみれば、少し顔を火照らせ、彼女なりの大冒険なのだろう。
 クラスでも珍しい、豊満な四葉の肉々しい体の感触がとても気持ち良かった。

「二重の意味で恥ずかしいので、なにも言わないでくださいね」
「恥ずかしがることなんてないさ。前も言ったが、俺は四葉みたいな豊満な体系の子は好みだぞ」
「え……説得力が、皆無なんですが」

 当時、四葉にも言われたが、信じられないとでも言いたげに呟いたのは葉加瀬だった。
 少し目が開けづらくなって来たので先に頭を流して貰ってから、それに答える。

「偶々、俺の周りにそう言う子がっていうか。A組に集まってただけだよ」
「ですが、先生は委員長さんが好きですよね。全体的に細いのに胸が大きな」
「あやかは……ほら、お嬢様だから。なんていうか、アタナシアもそうだけど上流階級的な何かにちょっとだけ惹かれるだけだ」
「本当ですか? 本心ではどちらが好きか、論文でも書いて証明しましょうか?」

 アキラたちと同じようにあやかのことを持ち出した四葉は良いとして、葉加瀬は何故論文と言い出すのか。
 その発想が少し周りの子と違い、葉加瀬らしいと言えば葉加瀬らしい。
 ただ個人の趣味を何度も否定されるには、想うところがある。
 今は諦めたとはいえ、むつきの初恋の相手はややふくよかな、今更隠すまでもないむつみだ。
 これは未練ではない、男の胸にいつまでもひっそりと輝き続ける青春の淡い思い出。
 だから論より証拠とばかりに、手始めにむつきは目の前の葉加瀬の胸元のタオルに指を引っ掛けた。

「え?」

 かぎ状にした指先でクッと引っ張れば、簡単に織り込んだタオルなど瞬く間に解けてしまう。
 そうなれば葉加瀬の可愛い胸がぽろんと目の前に現れてこんにちはできた。

「ひゃぁっ!」

 突然のことで悲鳴を上げながら胸を隠した葉加瀬を転ばない様に軽く抱き寄せた。
 くるりと小柄な体を回転させて背中から受け止め、今度は風呂の椅子の上でむつきがまわる。
 割と珍しい四葉が驚いた顔を見つめ、彼女のタオルの胸元にも手をかけてはらりと落とす。
 母の貫禄云々と言われようが、それでも彼女も年頃の女の子だった。
 悲鳴こそなかったが乙女の柔肌を隠そうと、胸と最後の砦の腰回りのタオルに手を当てた。

「先生、突然なにを?!」
「ほら、葉加瀬も自分で立って。お前らの可愛い体を見せてくれ。俺が証明してやるよ。お前らの体を見て、俺がどうなるのか」
「うかつでした、もとよりそのつもりだったとはいえ。先生のスイッチを入れてしまったようです。葉加瀬さん、諦めましょう」
「私は四葉さん程に思い切りは良くないんです」

 葉加瀬が渋っていた為、それならと四葉がむつきの目の前に立った。
 胸元と腰回りのタオルにはまだ手をかけてはいたが、一度むつきを見下ろして小さく頷いた。
 気恥ずかしそうに俯き加減のまま、そっと胸を隠していた腕を下ろしていく。
 それがどういう意味がしっかりと理解しながら、ふよんと解き放たれた四葉の胸が弾む。
 他の子より上より少し横に広い体型だけに、身長の割に四葉は巨乳である。
 ふくよかな子は自然とそうなるかもしれないが、巨乳は巨乳だ。
 羨ましいと葉加瀬が羨望の眼差しをあっけにとられながら送る程には。
 これが私です、見てくださいとばかりに四葉はさらに、腰回りのタオルに手を伸ばした。
 さすがに躊躇は産まれたが、女は度胸とばかりに解けたタオルが彼女の腰から落ちていった。

「どう、ですか? だらしなく、ないですか?」
「綺麗に決まってんだろ。凄く抱き心地がよさそう。抱きたい」

 胸も豊満ならお腹からお尻まで女性らしい丸みを帯びた肢体であった。
 趣味のおかげで自然とそういう体型になってはしまったが、短所より長所である。
 ぽっちゃり系が好きな男は、その子を抱きしめた時のふくよかだからこそ得られる抱き心地が好きなのだ。
 だからむつきも思ったままに抱きたいと呟き、四葉の魅力的な肢体に目を奪われていた。

「むぅ」

 そこで親しい友人相手とはいえ、面白くないと感じてしまったのは葉加瀬である。
 この場にいる男はむつきだけ、だからこそ男の視線を全て四葉に奪われてしまったのだ。
 先に胸を見られ、いやそもそもむつきにエッチな事をされた経験はと妙な対抗心が産まれた。
 だから少し怒ったように頬を膨らませながら、四葉の隣に葉加瀬も立ち上がった。

「先生」
「おう」

 いざその視線を受けると手足が震えるが、葉加瀬にも女の子としてのプライドがある。
 以前はそんなものくだらないと断じていたろうが、教えてくれたのは目の前のむつきだ。

「私も、見て。ください」

 頑張れ私と心の中で叱咤し、恥ずかしさに消え入りたくなりながらも胸を隠していた腕を下ろしていく。
 ぷるんと小さく揺れる胸、恥ずかしいと思う程に硬くしこっていく乳首。
 こんな明るい場所でしかも露天風呂とはいえ外でと、体が熱くて仕方がない。
 視線で犯される、それはこういう意味だったんだとむつきの視線を感じて腰のタオルに触れた。
 もっと見られたい、視線で犯されたいとはらりとタオルが舞った。

「葉加瀬、綺麗だ」
「はい……」

 他に言葉を返せず、火照った体でうつむく葉加瀬。
 背丈とは裏腹に豊満な体を持つ四葉と、小柄な体らしく貧弱とも言えるあばらの見える葉加瀬。
 タイプが全く異なる肢体だが、むつきに言わせれば結局は綺麗の二文字に集約される。
 四葉の腰回りのだぶついたお肉をたぷたぷしたい、抱きしめながら犯して射精したい。
 華奢な葉加瀬を後ろから押し倒し、可愛い胸を揉みしだきながら犯して射精したい。
 孕ませたい、嫁にして毎晩、休みの日はそれこそ一日中。
 手に入れたい、自分のモノだと主張する為に、彼女たちのお腹の奥に自分の分身を孕ませたい。
 そんなむつきの欲望を言葉なく示す様に、胸から垂れたシャンプーの泡がついた一物がそそり立つ。

「先生、私たちをそんな風に?」
「魅力ありますか?」
「当たり前だろう、論文なんていらねえ。俺がどうしたいと思っているか、二十文字以内で言ってみろ葉加瀬」

 ギラついたように血管を浮かべてたぎるむつきの一物を前にしてさえ、彼女たちは自信なさげだ。
 料理一筋、研究一筋でこれまで生きてきた事に対するコンプレックスかもしれない。
 だがそんな物を抱く必要はないと、むつきは立ち上がって二人を向かい合わせてから抱きしめた。
 ピッタリと肌を合わせた二人のお腹の隙間に、熱い一物を差し込み、強い口調で言った。

「熱っ、わた……私と四葉さんと、セックスしたい」
「ああ、お前らみたいな魅力的な子を抱きたいんだ。これ以上の証明方法があるか?」
「ふふ、どうやら私たちの負け、ですね」

 むつきに問われ、先に根負けしたのは四葉であった。
 二人のお腹に挟まれ、ビクビクとむつきの一物が脈打っているのがわかる。
 四葉も葉加瀬も少なからず、そういう状態のむつきが他の子とどうして来たのか知っていた。
 肌と肌を重ね合い、絡み合い、愛の言葉と粘膜にまみれて一つになるのだ。
 魅力的ではないと諦めかけていた自分たちで、むつきはそうなりたいと言葉と態度で示してきた。
 ならば後はその想いや言葉を四葉や葉加瀬が受け入れるか、否かであった。

「先生には色々と約束していただきましたから。何か一つでもお返ししたいです。葉加瀬さんはどうされますか?」
「私も、意気地のない女ですみません。身体が疼いたら来いと言われながら、今日に至るまで一人で行く勇気がありませんでした。今を逃したら……抱いて、貰えますか?」
「ああ、本当は一人ずつ落ち着いて抱いてやりたいが。前のこともあるし、ちょっと俺は焦ってる。二人一緒で構わないか?」

 むしろその方がと、ひかげ荘で処女を守り続けたそう言う方面に疎い二人は喜んで頷いた。
 なら早速とむつきは洗っている途中の体を、三人一緒に簡単に洗い流していった。
 そのまま簡単に寝汗を流してさっぱりすると、むつきは二人を一度脱衣所へと連れて行く。
 夜であればまだお湯を敷いた床で良いが、今はまだ残暑が厳しい季節だ。
 暑い日差しの下で我を忘れて盛れば、熱中症になってしまうかもしれない。
 それに今から何処かの部屋に行くと他の子にみつかっても面倒なのでタオルをたくさん敷いて布団代わりに。
 体も濡れたまま、簡易の布団の上に手を繋いで四葉と葉加瀬を仰向けに寝かせた。

「悪いな、こんな場所で。私もって参加されるとさ。大勢と一度にすると結構大変なんだ」
「場所も大切ですが、一番は誰とするかですから。それにちょっと悪いことをしているようでドキドキもしています」
「四葉さん、肝が据わり過ぎです。い、今から……ついに先生と」

 覚悟を決めて頬こそ赤らめているが普段通りにも見える四葉をガチガチに緊張して評する葉加瀬だが。
 むつきに言わせてみれば、二人の態度と実情は全く逆であった。
 そっと手を伸ばし、その証拠となるモノにふれて指先ですくいあげる。

「ふひゃぅ、先生?!」
「これなんだ?」

 身体をビクつかせたのは葉加瀬である。
 その彼女に半ば跨りながら、むつきは葉加瀬の股座からすくいあげたそれを見せつけた。
 一指し指と親指の腹の間でにちゃりと銀色の糸を引いて伸びた愛液。
 自身の緊張とは裏腹に期待に胸を膨らませている葉加瀬の愛液である。

「ちが、違います。これは女性はそういう体で」
「珍しい、葉加瀬が支離滅裂な。ほら、ほら」
「や、止めてください!」

 真っ赤な顔を四葉と繋いでいない左腕で覆われ、ならばと彼女の耳元で愛液がねばつく音を聞かせる。
 あまりの恥ずかしさに体を丸めながら、葉加瀬は四葉に助けを求める様に体を横向きに抱き付いた。
 虐めてはいけませんよと四葉は葉加瀬を受け入れる様に頭を撫でる。
 これはしょうがないと肩を竦めながら、むつきは改めて葉加瀬に覆いかぶさり頬にキスを落とす。
 わざと音を立てチュとすると、ビクビクとまるで果てたように葉加瀬が体を震わせた。

「先生、私にも。いえ、私のファーストキスを貰っていただけますか?」
「ありがたく、頂戴するよ。五月……」
「先生……」

 恥ずかしがり屋な葉加瀬は一先ず置いて、四葉の求めに応じてむつきは柔らかな彼女の唇を奪う。
 葉加瀬に覆いかぶさっているので少し遠いが、首を伸ばして何度も何度も奪った。
 次第にぴちゃぴちゃと意外に大胆に五月が下を伸ばしてきた為、それもまた応える。
 舌同士絡めていると、五月の舌は他の子よりも少し厚みがあった。
 小さな部位なので気づきにくいが、長さ以外に厚みも変わるのかと新たな発見である。

「五月、美味しいよ。お前の料理には負けるけど」
「少し、複雑です」

 飽きることなくキスを繰り返す二人を、羨ましそうに見ていたのは葉加瀬だ。
 覆いかぶさられているのは自分なのに、むつきがキスを繰り返すのは五月である。

「わ、私も。先生!」

 だから飛び込めとばかりに、むつきの首に腕を回して葉加瀬が唇をぶつけた。
 歯が当たってかなり痛かったが、直ぐにそれどころではなくなった。
 あろうことかぶつけた歯を痛くなかったかとばかりに、むつきにぺろぺろ舐められたからだ。
 咄嗟に逃げようにも唇に吸い付かれ、時には顔を先回りされて逃げきれない。

「んぅ、先。そんな変な感じ」
「こんな近くで飛びついて来るから。聡美、愛してるよ」
「はぅぁっ」

 息ができないと喘ぐ聡美をせめあげつつ、左手でむつきは五月を可愛がることも忘れない。
 キスしたばかりの彼女の唇を指先でなぞり、軽くしゃぶらせそのまま顔をなぞる。
 丸い顔を一頻り撫でたりして彼女のふくよかさを堪能し、当然のように胸に触れた。
 手のひらに余りそうな大きなそれを指や手のひらを一杯に開いて抱き留める。
 たぷたぷと重量感を楽しみ、五月はくすぐったそうに微笑んでいた。
 その中学生らしからぬ余裕を崩す為にも、丸い胸の上の桜色のぽっちをキュッと摘まんだ。

「ぁっ」

 そこはと瞬く間に五月の余裕は失せ、おろおろとした仕草がなんとも可愛らしい。
 今度はまたそんな五月に誘惑されたようにキスの相手を変える。
 なんて贅沢なと、深くディープにキスをしながら、今度は右手で聡美の小ぶりな胸を弄ぶ。
 手のひらにすっぽり収まるサイズで、手の腹で乳首を転がしついでに胸全体を掴む。
 手頃という言葉がぴったりで、全てを手に入れたように聡美の体をも堪能する。
 とはいえ、何時までもキスと胸への愛撫だけでは、朝食が昼食になりかねない。
 セックスフレンドとしては先輩の聡美の方が先がよいだろうと、胸から指先を滑り降ろしていく。
 聡美にもそれが分かったのか、さらに体を丸めむつきの腕に抱き付き足でその手を挟み込んだ。

「先生、そこは……」
「大丈夫、任せろ。五月も」
「はい、お任せします」

 何時までも聡美にだけ覆いかぶさっているとバランスが悪いので向かい合う二人の間に移動する。
 既に聡美は割れ目の間から愛液がとろとろ流れており、足を閉じた為、若草がしっとり濡れていた。
 対して五月の方はまだ愛撫すら初めてで、殆ど濡れてさえない。

「んぅ、先生の指が。き、気持ち良いです。恥ずかしいけど、気持ち良いです」

 緊張がほぐれ始めたか、下腹部からせりあがる快楽に負けたのか。
 五月から離れる様に聡美はころんと転がって仰向けに天井を見上げる形となった。
 可愛い胸もぷるんと天井を仰いで、桜色の乳首もぷっくり膨れてピンとしている。
 届くかなと二人の股座に指を忍ばせつつ前にのめり込んで舌先で乳首に触れた。

「ひゃうっ」

 ビクンと震え、弄っていた聡美の膣口がキュウっと収縮した。
 指先を軽くいれるとチュウチュウとむつきの指先に吸い付いて来る。
 頃合いかと、むつきは五月に視線で断りをいれて、彼女の愛撫を一旦終えた。
 聡美の脱力しかけている足の間に回り込み、女の子には恥ずかしいがに股気味に開かせる。
 それだけでむつきが次に何をしようとしているかは明らかだ。
 聡美もついにと愛液したたる自分の恥部を隠そうとした両手を引き留め、静かに布団代わりのタオルの上に置いた。
 いや右手だけはそれでも怖いとばかりに、隣にいた四葉に握って貰っている。

「四葉さん……」
「はい、ずっと握っていますから。お先に大人に、私も後からして貰います」
「少し痛いが、頑張れるな聡美」
「はい、先生が私を魅力的に感じているのは十二分に教えて貰いましたから。私を召し上がってください」

 聡美の視線は、目の前のむつきの下腹部、赤黒く膨張した一物にあった。
 恥ずかしい反面そう仕向けたのは自分だという自尊心が心のどこかにある。
 責任を取らなければ、なんて思ってしまう程に。

「聡美、一生大事にする。ずっと俺の傍にいろ」
「はい」

 小さく頷いた聡美の決断に応え、むつきは彼女の愛液したたる割れ目に亀頭を添えた。
 まだ男を知らぬぴったりと閉じた割れ目をぐいっと無理やり開かせる。
 好いた相手でも怯えずにはいられない聡美を、隣で四葉が手を握って勇気づけていた。
 だからむつきも余計な気遣いは捨て、聡美の膣口を探りさらに腰を推し進めていく。

「はぁっ」

 中から押し広げられる感触に咄嗟に聡美が息を吸った。
 その呼吸に合わせさらにぐっとむつきは挿入し、処女膜に亀頭の先がふれた。
 聡美の乙女の証、それがプチッと破れ破瓜の血が彼女の割れ目から愛液まじりにあふれ出す。

「ふぐぅ」
「聡美、一気に言くぞ」

 確認ではなくそれは宣言であった。
 聡美が頷き決意する間も与えず、処女膜を完全に破り捨てさらに膣内をむつきは貫いた。
 一瞬、それがどれ程の痛みか一生むつきには理解できないのだろう。
 だができるだけそれが和らぐように一瞬で済む様に。
 聡美の腰を掴んでパンっと一瞬で彼女の子宮の口まで強引に貫いていった。

「かっ、い……痛い、こんなの。先生、私の中で大きくならないでください!」
「わ、悪い。自分じゃ制御できないんだ。お前の中が気持ち良いから」
「んっ、返す言葉に……困り、ますよ」
「おめでとうございます、葉加瀬さん。これで大人の、先生のお嫁さんですね?」

 隣で手を握っていた五月の言葉に、えっと聡美が振り返った。
 一体何を言われたのか、後から後から実感がわいて来たのかもしれない。
 痛みばかりに気をとられていたが、少し首を浮かせて下腹部を見れば一目瞭然。
 聡美の股座にむつきがいて、あの凶悪な一物の姿が見えず腰を擦り付け合わせている。
 つまりはあんな大きなものが自分の中にと、セックスをしているんだと理解が及んだ。

「セッ、私先生と。お嫁さんに、はぅぁ……そう思うと、なんだか痺れて」
「意識が変わったか。あれだけ押し出そうとしていた中が、逆に飲み込み始めたぞ」
「へんな言い方を。先生、動いても。いえ、動いてください。私で、私の中に」
「ああ、ゆっくりな」

 とはいえ、まだ少し痛そうなのであまり激しくは無理だろう。
 むつきはゆっくりと浅めに腰を引いて、おだやかにぱんっと葉加瀬を突いた。
 突き上げたではなく、真っ直ぐ引いて真っ直ぐ突いた。

「ふぅん」
「聡美」
「もっと、名前を。私の名前を」
「聡美、聡美」

 浅く短く、ぱんぱんと聡美の中を抉って突く。
 小さな衝撃の連続に聡美の可愛い胸もぷるんぷるんと揺れている。
 ああ、この子は可愛い。
 売り言葉に買い言葉ではなく、むつきは本心から目の前で犯している少女をそう思った。
 五月とつないだ手、声を上げまいと指を噛む仕草。
 女としての本能か、いつの間にかむつきの腰に絡みついて来た両足も。
 その全てが愛おしく、幸せに浸りながら彼女の中を味わい、緩やかにそれは来た。

「ふわっ、はぅ。もうなにが、なにだか。ぁっ、声出てしまいます」
「聡美ももっと声を聴かせてくれ」
「そんな、恥ずか。ぁん、ぅ。あぁっ」
「聡美、出る。中に、出すぞ」
「はい!」

 ほんの少し大きく助走をつける様にむつきは腰を引いて、甲高くぱんっと腰を打ち付けた。
 ああっと喘いだ聡美の中に、破瓜の血に逆流するように射精して白濁の液を流し込んだ。
 孕めここで孕めと、聡美のお腹を撫でながらその中へと。

「これが、お腹が熱い。んふ、あっ。もっと、中に出してください。先生、先生!」
「聡美、お前は俺のものだ。俺だけの聡美、孕め。孕め!」
「出来ちゃいます、中学生なのに。子供が、先生との子供がぁ!」

 そう聡美が叫んだ直後、糸が切れたようにくてりと脱力していった。
 むつきの腰に絡みついた足もずるりと崩れ落ち、だらしなくがに股で投げ出される。
 出し終えたむつきもそんな聡美の中から抜け出し、蓋を失った膣からとろりと流れ落ちた。
 セックスの先にあるむつきの精液が、聡美の子宮に入りきれず流れ出て来たのだ。
 はあはあと可愛い胸を上下させ、聡美は瞳をうつろにさせたままそっとそこに手を振れた。
 流れ落ちるむつきの精液を指ですくい、目の前に掲げ微笑む。
 少女という殻を抜け出し、女に孵化したように、幸せそうにだ。
 そのまま幸せに包まれたまま、そっと瞳を閉じたのは単純な疲れからだろう。

「少しだけお休み、聡美。凄く良かったぞ」

 そんな聡美にお休みのキスをしたむつきは、まだあるタオルの一枚をかけてあげた。
 満足げに眠りに落ちた聡美とは違い、むつきはもう一戦頑張らなければならない。
 また別のタオルで聡美の破瓜の血や体液、自分の精液を拭い振り返る。
 むつきがかけてあげたタオルの中に、握っていた聡美の手をいれてあげている五月へと。

「五月、おいで」
「はい……」

 あぐらをかいていたむつきは、そのまま五月の手をひいて四つん這いで自分の下へ呼び寄せた。
 愛撫が途中で終わってしまったが、軽く口づけて五月を膝の上で正面から抱きしめる。
 多少重量感はあるが、それを表にはださずふくよかな抱き心地を楽しんだ。
 五月は気にするかもしれないが、腰回りの余った肉までさわさわと。
 チラリと五月の火照った顔を覗き込むと、意外と喜んでいるようだった。
 体をまさぐられることにというよりは、その結果再びむつきが元気になったことで。
 むつきの一物が直ぐに硬さを取戻し、対面座位の格好でさつきの割れ目をぐいぐい押していた。

「元気、ですね。葉加瀬をあんなにさせた後でも」
「まあ、時々元気すぎて困るけどな。五月はどうされたい?」
「このまま、先生に私の抱き心地を味わいながら」
「おう、それもお前の魅力だよ。結構、自信つくだろ」

 むつきの手はせわしなく五月の体をまさぐり、飽きることなく味わっていた。
 愛撫とはまた違い、抱き心地を楽しむ様に。
 だから今ならお前の魅力と言われて、五月は素直にその言葉を受け入れられた。
 自分にも女の子としての魅力があるのだと、さらにそれを確信する為にこのままと言ったのだ。

「五月、入れるまで少しだけ」
「分かっています」

 あれだけ魅力的と言っておきながら情けないことだが、五月を腕だけで支えるのは少し辛い。
 それがわかっていたのか、五月も怒ることなどせず素直に頷いてくれた。
 五月がむつきの肩に手を置き、むつきが大きなお尻に手を添えてその体を持ち上げる。
 彼女の秘部が愛撫をしていた時よりも、濡れているのは触れ合った性器同士で分かっていた。
 まず間違いなく、隣で見せつけられたむつきと聡美の愛の営みのおかげだろう。
 とろとろと愛液が染みだす五月の割れ目に、むつきが彼女の体を動かしそっとその上に下した。

「いいか?」
「はい」

 短い確認の言葉の後に、五月の体が少し沈んだ。
 くちゅりとむつきの一物の亀頭と五月の割れ目が触れ合い、キスの音がかすかに聞こえた。
 少しずつ五月の体が沈むにつれて、性器同士のキスも深くなる。
 分厚い唇をかき分けて男を待ち構え喘ぐ膣口の中に亀頭がもぐりこんでいく。
 受け入れようとする意志とは裏腹にこれ以上はとせき止めるのは五月の処女膜だ。
 純潔の証、数か月前までの彼女ならそれが破れる時があるのかさえ考えなかったことだろう。
 だがこうしてむつきという男と出会い、数秒後にはその時が訪れようとしていた。

「あっ」

 ピリッと走った痛みに五月の腰が震え、一瞬の躊躇が芽生えた。
 そんな彼女に大丈夫だとささやきながら、お尻ではなく腰に手を添え先を促す。
 メリメリと処女膜が悲鳴を上げ、今日ほど自分の体重を呪ったことは五月にはなかったことだろう。
 むつきの先導がなくても自分で支えきれずにどんどん一物がめり込んでくる。
 もう駄目だとむつきの肩に置いた手が痺れ、ブチンっと何かがキレた。
 電流でも流れたような痛みが五月の体に広がり、身もだえる間もなく体が落ちていった。
 ズンッと尻もちをつく様にむつきの胡坐の上に落ち、お腹の奥をゴンっと突き上げられた。

「んっ、これは痛いです。皆さんこの痛みを乗り越え、はぁ……女になったんですね」
「ああ、そして。これで五月も女だ。俺の、乙姫むつきのって前置きがつくがな」
「そうですね。でも、少しだけ。痛みが落ち着くまで」
「待ってる間、また五月の抱き心地で楽しませて貰ってるよ」
「先生は、本当に私の抱き心地が好きなんですね」
「だから、前から何度も言ってるだろ。ひょろひょろより、五月ぐらいに豊満な子の方が好みだって」
「信じます」

 痛みから気を紛らわせるためか、五月にしてはかなり饒舌である。
 表面上はそこまで痛そうではないが、彼女が元から我慢強そうなので安易な判断はできない。
 だから気がまぎれるよう、自分の趣味も兼ねてむつきは彼女の体をまさぐった。
 安産型っとお尻を撫でまわし、頬から首筋にキスを落とし、抱き寄せ全身でその柔らかさを堪能する。

「五月、凄く良い。お前の体は最高だ。おっぱいも大きいし、んっ。乳首立ってる」
「先生がそうさせているんです。そろそろ……大丈夫です」
「そうか、無理はすんなよ。うり」
「うっ、大丈夫。先生、少し寄りかからせてください」

 五月にしがみつかれながら、むつきは彼女のお尻を両手で掴んでトンっと突き上げた。
 聡美の時よりも小刻みに、軽快と言って良いリズムで五月の中を、子宮口をとんとんノックする。
 あまり強い刺激ではないが、少しは感じるのか五月がより強くむつきに抱き付いて来た。
 もっとその体を全身で味わいたいと、突き上げながらむつきは胸の谷間に顔を突っ込んだ。
 彼女の肉体にうずもれその匂いを嗅ぎ、五月に聞こえる様に鼻を鳴らし深呼吸まで。

「くぅ、恥ずかしい、ですよ。ぁぅ」
「その為に、やってんだ。ほら、五月の中がキュってした」

 嘘ですと、蚊の鳴くような声で否定されたが、むつきと五月は今一つになっているのである。
 ある意味で彼女以上に、特に膣の動きについては詳しい状態だ。
 ここが痺れたかとひだのある膣壁を亀頭でこすりあげ、またキュウっと締めさせた。

「あまり、ふぁ。そのようなこと、をされると。んんぅ、顔を合わせ辛くなります」
「この先、十年、二十年と何回でもするんだ。少しずつ、慣れてくれ」

 結婚の二文字を連想させる台詞に、悦びからか五月の中がむつきの一物を絞り上げる。
 ならばその証拠をくれとばかりに。
 容易には離れられなくなる愛の結晶の元となる種を渡せとばかりに。
 五月の中の女の欲が、膣を通してむつきに要求してくる。
 もちろんそれを断る様なむつきではなく、ならもっと締め付けろと一物が大きくなった。

「これが葉加瀬さんが言っていた、私の中で大きく」
「魅力的だから、五月が。愛してるぞ、この先ずっと。俺に味噌汁作り続けてくれな」
「あ、あぅ!」

 古臭い殺し文句に、何故か今までで一番五月が反応していた。
 自身の趣味に絡む台詞だったからだろうか。

「だめ、何か。気持ち良かったですが、一気に何かが」
「俺もそろそろ五月の中に出したい、孕ませたい」
「はい、先生の好きなように。魅力的と言ってくださった私の中に」
「五月、可愛いよ。お前の魅力は俺が知ってる、俺が一番知ってるからな!」

 二人の結合部からは、とても五月が初めてとは思えないような卑猥な愛液の音が聞こえていた。
 破瓜の血のおかげもあるがぐちゅぐちゅと、蕩け合う卑猥な音が。
 そんな五月を抱えて持ち上げては、むつきが小刻みに突き上げ連れて行く。
 欲しい欲しいと精液を強請る五月の膣内を一物で貫き、その先にある快楽の頂点へと。
 むつきにしがみつく事しか今はできない五月を、性器で繋がるだけでなくキスをし、胸にまで唇を落としながら。

「出すぞ、五月の中に!」
「んぅっ、はっ。はい!」
「五月!」

 破瓜の瞬間より鮮烈な刺激が溢れ出し、五月は目の前が真っ白になるのを感じた。
 彼女がそう感じた通り、刺激のもとである子宮の中にむつきの白い精液が迸る。
 これが欲しかったのだろうといやらしく笑う様に、亀頭の先からこれでもかと投げつけられた。
 子宮の壁にべっとり、こびりついて取れないぐらい。
 それだけならまだしも、次から次へ油絵の絵の具を重ね塗りするようにしつこく。

「熱ぃ、お腹が。知らないです、私はこんなの。初めてです!」
「五月、まだ出るぞ。お腹一杯、そうだ。お前の下の口には一生俺が食わせてやるから!」
「お願いします、お腹一杯。私は食べるのも趣味なんですぅ!」

 ならもっと喰えと射精しながらなおもむつきは五月を突き上げた。
 亀頭が子宮口を放れ、その中に流し込めなかった精液が、五月の割れ目から溢れだす程に。
 彼女がお腹一杯ですと言うまで、もう食べられませんというまで。
 半ば意識が飛んだ後も犯し続け、先に眠り込んだ聡美の隣に二人は倒れ込んだ。
 早朝ということもあり、繋がったまま二人してもう一度、つまりは二度寝であった。

「五月、聡美……」
「ぁぅ、先生」
「んぅ……」

 三人一緒に寄り添う様に、大量のタオルを布団代わりに。
 寝てしまったのは良いが、完全に忘れていた。
 今が朝であり、時計が八時になろうというところでそろそろ他の子が起き始めることに。
 九時を過ぎた辺りで慌てて食堂に向かい、にやにやと出迎えられたのは五月や聡美にとって良い思い出になるのか。
 恥ずかしい思い出になることだけは、間違いなかった。 










-後書き-
葉加瀬もそうだが、四葉の話はやはり体型のことは外せない。
自分に自信がない女の子という意味では、リアリティある子だなあ。

宮崎はアレはまた自信とか以前の話ですし。



[36639] 第百二十一話 私に、親愛的の跡継ぎを
Name: えなりん◆e5937168 ID:da470ce8
Date: 2014/08/17 14:00

第百二十話 私に、親愛的の跡継ぎを

 聡美と五月が恥ずかしい思いをした朝食は終わったが。
 卑猥なガールズトークはまだまだこれからという感じであった。
 なにしろ昨日の放課後から今日の早朝までに処女を喪失したのが総勢六名。
 和美とエヴァはそうでもなかったが、ザジや真名、聡美と五月は心なしかがに股気味。
 まだ挟まってる感じっと各方面から砲撃を受け、私の時はっと盛り上がり始める。
 そんな場所にむつきがいられるはずもなく、早々に退散することにした。
 脱衣所の片付けがまだであったことを思いだし、そちらへ足を向けたのだが。

「し、親愛的」
「小……古か、そういや同郷だっけ」

 追いかけて来たのは古であり、むつきの独り言に小首をかしげていた。
 その呼び方は長らく小鈴だけの特別なものであり、彼女に呼ばれたかと思っただけなのだが。
 なんでもないと言って、ガールズトークを抜け出してきた古に向き直り見下ろした。
 分かってはいたことだが、今日の彼女は白のチャイナ服とちゃっかりおめかししている。
 活動的な古だけにスリットが結構きわどい所まで入っていた。
 褐色というよりは小麦色の日焼けしたような肌の足が、健康美という言葉を思い出させる。
 わざわざ聞かずとも、火照った頬やぎこちない笑顔から何を望んできたのか聞くのも無粋だ。

「あれ、小鈴は一緒じゃないのか?」
「先に五月と葉加瀬が思いがけず、先に経験したアルから。気を利かせてくれたアル」
「ああ、そういう」

 つんつんと一指し指同士を突きながら言葉足らずであったが、理解はできた。
 あれで小鈴も親友想いで、二人きりで初体験して来いと発破をかけたのだろう。

「ほら、管理人室は直ぐそこだけど。手でも繋ぐか?」
「はい、アル」

 そのアルはいるのかとも突っ込みたかったが、くしゃりと古菲の頭を撫で連れて行く。
 かなり緊張しているらしく古に握り返された手がかなり痛かった。
 ただこれからもっと痛い思いをするかもと思うと、指摘するのもかわいそうである。
 どうせ数分も掛からないし、役得の前の小事であるとそこは諦めておいた。
 うつむいて黙りこくった古と無言で歩き、管理人室ではまずその辺の座布団に座らせた。

「ちょっと待ってろ。今、準備するから」

 準備とは昨晩にザジが使っていた布団のシーツを変える事である。
 最近はさよや絡繰に任せていたので何処だったかなと押し入れの襖をあげて眺め見た。

「い、いや別にそのままでも。わざわざ新しいモノに変えなくても構わないアル!」
「んー、でもな。昨日はザジが寝てたし、その前はさよとか。他の女の子の匂いがする布団で抱かれても平気かって、聞いてもわからんわな。でも複雑なのはわかるだろ?」
「親愛的に、大勢の愛人がいるのは承知の上アル。でも、今は私だけを……」

 か細く消えていく最後の言葉は、なんとか聞き取ることができたが聞こえないふりをした。
 新しいシーツを押し入れから引っ張り出し、綺麗に整えていく。
 特に面白みもない作業だが、食い入る様に見ている古の前かがみの姿勢が面白い。
 ますます頬に赤みがさしているが、ギラついた瞳でむつきと布団を見ている。
 以前も社会科資料室でキスをした時に跡継ぎ云々と言っていたが、そういうプレッシャーもあるかもしれない。
 最も、ひかげ荘に来る子は嫁かそうでないかに関わらず、万が一の為にピルは飲ませているが。

「古、こっちに来いよ」
「はい、アル」

 その返事はさっきも聞いたなと忍び笑いしつつ、足と手が同時に出ている古の手を摑まえた。
 条件反射というべきかむつきに触れられると古の体からふにゃりと力が抜けていく。
 もしかすると古の頭や体には、乙姫むつきには負けたとインプットされているからか。
 それが行き過ぎて勝ってはいけないとでも入力されている気がした。
 そんな古を抱き留めたむつきは、軽く彼女を抱きしめて共に布団の上に横向きに倒れ込んだ。
 さすがにキュッと体を小さくした古だが、同じくキュッと瞳を閉じて待っても何もされない。
 どうしてとチラッと瞳を開けると、目の前には見つめるむつきの顔があるだけである。

「しない、アルか?」
「いや、可愛い顔だなって。見てた」
「て、照れるところアルか? 照れ、あんっ」

 反応に困り、視線をさまよわせた古の唇を不意打ち気味に塞いだ。
 一瞬大きく瞳を開いて驚いていたが、むつきの浴衣にしがみつきながら瞳を閉じていく。
 一分それ以上ただ唇を合わせつづけ、離した時にはどちらともなく熱い吐息が漏れた。
 そして再びクールタイムは終わりだとでもいうように、口づける。

「古」
「親愛的」

 より深く抱きしめあい、またより深く口づけあう。
 主に相手の舌で口内を蹂躙されるのは古の方だが、小さく喘ぎながらもそれを受け入れる。
 舌と舌を絡ませ頬肉も上あごも至る所を愛撫され、呼吸をする間も惜しむ様に。
 実際は呼吸の仕方が良く分からず時折唇がずれたり、離れた一瞬で吸い上げ喘いでいた。
 その一瞬を逃せば、冷酷にもむつきがさらに貪り苦しくなるだけだ。
 ただ酸欠に陥れば陥るほど、古の頭はぼうっと呆け、されど返って愛撫を鮮明に感じられた。
 むつきの舌の腹にあるざらついた感触の一つ一つ、細胞一つ一つで口内を犯されていると。

「んぅ、はっ……あぅぅ」
「古、古」
「んんぅ!」

 ぽたりぽたりと流れ落ちた涎が古の頬を伝い変えたばかりのシーツの上に落ちた。
 なんだか恥ずかしくなって顔を少しだけ上に向けると、気づかれたのか。
 古の口内に溜まった唾液をじゅるじゅると、スープでもすするように奪われ飲まれていった。
 もう無理っと羞恥の限界を超えて突き飛ばしたくなったが、身体に力が入らない。
 また、何もできないまま負けてしまうと、むつきの雄としての強さに古は屈服してしまう。

「ふう……大丈夫か、古?」

 だから怒涛のキスが終わった後も、気恥ずかしさに顔をそむけることすらできなかった。
 瞳の天真爛漫さは消え、熱に浮かされたような瞳で目の前のむつきを見つめている。

「親愛的……」
「どうした?」
「ここに、欲しいアル。親愛的の子種を、跡取りを」

 すっと古が触れたのは、彼女自身のお腹、子宮があるであろう場所の上だった。
 むつきのキスで雌としての本能が解放されたのように、ここにと撫でつけている。
 古が雌ならむつきも雄だ。
 古家の跡取り云々はさておき、子孫繁栄なら任せろビキビキと一物が痛い程にそそり立つ。
 さすがに経験不足でも格闘少女は気配に敏感だ。
 雄の本能がむき出しになったことに気づいたのか、チラリとむつきの下腹部を見ていた。
 そしてお腹を撫でるのを止めて、ハイネックの襟元にある紐をすっと引いていった。
 ぷちぷちと紐の結び目が止め穴を次々に通り、肌にピッタリとしたチャイナ服がふわりと緩む。

「大きくはないが、親愛的が好きだと聞いているアル」

 止め紐を失ったチャイナ服を、最後は古自身の手で開けた。
 肌蹴られたチャイナ服の隙間からぷるんと飛び出したのは、古の小山の胸だった。
 健康的に日焼けした手足よりは少し白い、ピンク色をした乳首を頂点に風もないのに揺れる。
 その双丘の下に両腕を組みながら添えて持ち上げ、吸ってと促してきた。
 今の古にできる最大のセックスアピール。
 だが効果は絶大、むつきは横に寝転がりながら向かい合っている体位がもどかしく動き出す。
 古の肩を掴んで仰向けに、押し出した勢いのまま自身も起き上がっては馬乗りに。
 より強い雄として雌を押し倒し、しゃぶりつく。

「んぅぁっ、ああっ!」
「古、可愛い。可愛くて柔らかくて、乳首が立って」
「し、親愛的!」

 舌で舐め上げる動きに合わせ古の胸がたわみ、舌先で乳首を弾くとぷるんと揺れる。
 しゃぶり吸い上げても乳はまだでない。
 直ぐ出る様にしてやるからとそれでも吸い続け、逆側の乳房も絞り出す様に下から揉みあげる。

「ふぁっ、ちょっと痛いアルけど。それはそれで!」
「才能十分だ、ほらこういうのはどうだ?」

 乳首に軽く歯をたて、反対側の胸も可愛い先端を虐める様に摘み上げる。

「ひぅぁっ、良い。気持ち良いアル!」

 幼い頃から修行を続けた弊害、または恩恵なのだろうか。
 肉体的な辛さや苦しさに古はかなり耐性があるようだ。
 いや修行という観点からはそれらを肯定的に受け止め、乗り越えて来た。
 だから痛みを伴う責め苦を伴うセックスさえ、古は肯定的に快楽を持って受け入れる。
 乳首に軽くむつきの歯形が突いても、そのまま乳首を引っ張られ体が弓なりになっても。
 言ってしまえばM気質、強い雄と認めたむつきの責めは全て受け入れてくれた。

「親愛的、もっともっとアル!」

 ある意味で理想、男の要求を全て受け入れる理想の体、理想の思考。
 それはモテるはずだと、むつきが思い出したのは毎朝行われていた古の争奪戦だ。
 そしてその古を横からかっさらったのは自分だと、一物と共に自尊心も膨れ上がる。

「古、お前は俺のものだ。この唇も」
「ふぁっ、んふぅ。キスはさっき終わっ、んん」
「この乳房も可愛い乳首も、この細い腰、しなやかで健康的な足」

 今一度唇を奪い堪能し、改めて胸を乳首を虐め、鍛え上げた腹筋や足腰を撫でまわす。
 上から下まで、何度でもまだ足りないと。
 つるつるの脇も、引き締まった肉に守られたあばら、軽くひっくり返し背中も舌で味わう。
 まだまだ足りない、うつぶせにさせた古の腰を引き寄せお尻を突き出させチャイナ服の裾をまくり上げた。
 まだ小さきが女の子らしく丸いお尻を、地肌が見えるぐらいに薄いパンツが覆っている。
 しかし強くなることを胸に志して生きて来た古にとって、なんと屈辱的な恰好だろうか。
 腹這いになり、尻を突き出させられ、強くシーツを握りしめている。
 だがひとたびむつきが、白い生地に包まれた小さい方の割れ目を指でそっと触れ埋もれさせれば。

「ふんぅ」

 枕か布団に顔を埋めたのか、古がくぐもった声をあげた。
 可愛いお尻が悦びに震え、白いパンツにジワリと染みが広がっていく。
 わざわざそうしなくても分かったが、顔を近づけすうっと深呼吸して匂いを嗅いだ。
 もちろん、そうされた事が古にもわかる様に。
 触れていない、ただじわじわと染みが広がる一点を見つめ、少し匂いを嗅いだだけだ。
 広がる、今度は舌先で味を見てみればまた広がる。
 胸にそうしたようにしゃぶりつく、薄く頼りない白いパンツごしに鼻先を突っ込み古を味わう。

「んうっ、んん」
「古、分かるか。濡れてる、パンツに味が愛液が染みて」
「吸わないで、親愛的……ひぅ」

 そう言いながら古の可愛いお尻は、もっとと求める様にむつきに媚びるように振られている。
 外観は少女、それも小柄な。
 しかし確かに女を持っている、天真爛漫さに普段は隠れた淫猥な女の部分。

「ぁっ」

 我慢できないとむつきがパンツを擦り下せば、古の恥部の全てが見えた。
 胸のように手足の日焼け後よりも少しだけ白いお尻、その奥には黒ずんだすぼまり。
 そこから視線をくだらせると、次の割れ目。
 何処かで西洋の血が混じったことがあるのか金色に近い陰毛が愛液に触れてしんなりとしている。
 手で触れ指先でじょりっと感触を味わい、軽く引っ張ればより潤った。
 古がシーツを握りしめて隠そうとする両腕を必死に繋ぎ止めねばならない、秘中の秘。
 ぴったりと寄り添う割れ目、大陰唇の奥からとろりと愛液が溢れ、待っていた。
 未通の乙女を強引に、孕めとこじ開けるであろう強い男を。

「古……」

 その割れ目から溢れる愛液を舌先ですくうように、下から線に沿って名前上げる。
 その名を呼びながら、尻をガッチリつかみ逃げられない様にしながら。

「おねだり、できるな?」
「はい、アル」

 もはや昼間の天真爛漫な古は目の前にいない。
 時刻は午前だが夜の女の顔を見せた古が、涙目で流し目を行いながら少しだけ振り返る。
 ずっとシーツを握りしめていた手をはなし、隠す為ではなく、逆の行いの為にお尻に手を伸ばした。
 たぶんここと少しばかり手をさまよわせたが、にちゃりと自身の花を開かせる。
 ディープキスをした時の様に愛液が下の口の唇の間で銀色の糸を繋ぐ。

「親愛的、跡継ぎをくださいアル。私に、親愛的の跡継ぎを」

 そう古に言わしめ震えたのはむつきの方であった。
 古は実家の跡継ぎではなく、むつきのと。
 幾千年続いているのかは知らないがそんな実家よりも。
 乙姫家の嫡流を離れ、ひかげ荘一つで一代目の乙姫家となるであろうむつきの跡継ぎ。
 ここで応えなければ男として家など興せない、興す為にもその跡継ぎがとむつきは改めて古の可愛いお尻を両手で鷲掴みにした。
 いや可愛いという表現はもはや失礼か、古の尻を、跡継ぎを産む尻を。

「古、愛しているよ。俺の跡継ぎを産め、この尻で。この腹で孕んで」
「問題ない、アル。だから子種を、それがないと……親愛的の跡継ぎ、孕めないアルよ」

 だから頂戴と処女らしからぬ痴態で自ら掴まれた尻をさらに高く掲げて来る。
 ならばくれてやるとむつきは中腰に、その勢いで古の十分に潤った秘部に一物を添えた。
 一瞬の間、今更確認は不要とブチリっとむつきは古の処女を破りさらに奥まで貫いていった。
 破瓜の血を真っ白なシーツに愛液まじりに飛び散らせ、そのまま子宮口まで一気にだ。
 肌がぶつかるより先に子宮口を亀頭で叩いたが、まだ入ると強引に突き上げた。

「あぐぅぁっ、あう!」
「古、入ったぞ。動くぞ、孕ませるぞ!」
「あうぁぅッ!」

 言葉にならない唸るような古の返事は、きっともっとと求める声のはず。
 最初は下から尻を突き上げるような挿入であった為、二度目は上から押しつぶすような挿入。
 再び結合部からは強引な挿入に体液が飛び散ろうとし、遅れてやって来た肌の合わさりに潰される。
 肌と肌が互いの体液で程よく湿って甲高い破裂音のようなものをパンっと立てていた。

「ひぐぅ、ぁっ。もっと、もっと抉って親愛的!」
「痛くないか、古。それが良いのか?!」
「平気ぃ、アル。それ以上に、ああ。屈服させられる、今はただ。あぅぁ、親愛的の雄に屈服させられうのが、この痛みさえ!」
「はは……普段そんな素振り見せないくせに、お前って奴は」

 なんてエロイんだと、結合部付近だけの触れ合いでは満たされなくなった。
 古を繰り返し犯しながら、前かがみになって押さえつける。
 さすがに耐え切れず古菲が潰れたカエルの様に布団の上に倒れたが、構わず犯す。
 彼女の背中の上を這いずり、代わりにむつきが尻を掲げて振り下ろす。
 足を絡め、前に伸ばされた両腕を上から押さえつけ、まるでレイプのように。

「どうだ、俺は強いか。負けを認めるか!」
「ひぃ、参りました。参りましたアル。だから私より強い親愛的の子種!」
「まだだ、負けたのに条件を付けるなんて生意気だぞ」
「私の体を好きに、親愛的の好きなように。犯して良いアル、それで注いでぁ!」

 なら好きにさせて貰うと、あえてむつきは古の中から引いた。
 折角挿入した一物もいかないでと咥えこむ膣から引き抜き、とろりと滴る愛液を古の背中に滴らせる。
 返って来てと引くつく膣口と同様に、何故と古が首だけで振り返っていた。
 その古をひっくり返して仰向けに、また覆いかぶさりねじ込んだ。
 助走をつけたような勢いある挿入に、ズンッと突き上げられた古がのけぞり悲鳴を上げた。

「あああッんぐ!」
「ん、やっぱりこっちの方が、唇も胸も尻も全部楽しめるこっちが好きだ」

 悲鳴を無理やり口で抑え込み、上と下の口を同時に凌辱する。
 また同時に胸を弄び、尻を言葉にする間もなかった健康美のある足も。
 基本が奥義を生むと聞いたことがあるが、むつきも同意見であった。
 四十八手、体位は数多いが特別な事をすれば、何かに届かないことや欠けることが出てくる。
 先程の体位も雌を屈服させる雄の心を満たすことはできるが、挿入は甘く、胸も触れずキスも難しい。
 だが今はキスができる、胸がもめる、尻も足も。

「んぅ、ふぁ。親愛的」

 そして、一方的なものではなく、古の方からも腕を足を絡めて触れ合ってくれる。
 全身を擦り付け、言葉以上に子種が欲しいとアピールしてくれるのだ。
 むくりと自分でも竿ではなく、玉袋の中から肥大化したように思えた。
 じゅぶじゅぶと水音をたてて古の膣を抉りながら、溢れた愛液の分だけ注いでやると。

「古、そろそろ出してやる。子種を、お前の中にまき散らしてやる!」
「はやく、欲しいアル。種を、私を苗床に親愛的のタネを!」
「出すぞ、お前の腹の中に。産まれるまで、格闘禁止だぞ。母親になるんだ!」
「あっ、ああっ、なんか痺れ。変ある、今までの気持ち良さとは、もう一回。もう一回アル」
「何度でも、これで。孕んで、母親になるんだ!」

 ズンッと一際強く突き上げられる肉体的な快楽ではなく、古が感じたのは精神的な快楽。
 家庭環境からか、古は婿も跡継ぎも自分の幸せとは一線を引いていた。
 だが今むつきに母親と言われ、その一線が壊れていく。
 溢れだす子宮の中に注がれ始めた、むつきの子種、精液。
 勢いよく放たれたそれが自身の子宮内に叩きつけられ、擦り付けられこびりつく。
 待ち望んだむつきの子種、その先にある跡継ぎ、いやその少し前にあるのは母親となる自分。
 痺れないはずがない、古の頭からは少しばかり女としての幸せが欠けていたのだ。

「お腹が熱い、親愛的の力強い種が。中から犯してくるアル!」
「ああ、そのまま孕め。俺の子を、お前の中で育てるんだ」
「チカチカ、目の前がチカチカ白く。まだ欲しいのに、飛んでしまうアル!」

 古が力み過ぎて掴んでいたシーツが破れた、バタバタと壊れたように布団の上で暴れる。
 撃ち込まれるたびに、子種を子宮の中にばら撒かれるたびに。
 そしてむつきがさらに最後の一押しとして子宮を押し上げ、解き放った。

「ひ、いぐぅぅッ!」

 ブリッジでもするように極端に体を弓なりにして古が叫びあげた。
 全身を痙攣させそのままむつきの一物から、貪欲にさらなる子種を求める様に絞り上げながら。
 だが体は欲しても心が持たず、ふっと古の体から力が抜けていく。
 とさりと布団の上に落ちては意識を失い、何か重いものに覆いかぶされ気が付いた。
 恐らく気を失ったのは数秒もなかったのかもしれない。

「親愛的、重いアルよ」
「悪い、古」
「でも構わないアル」

 まだ終わったばかりだが、むつきの気持ちを察してか古の方から口づけて来た。
 子宮の奥に熱さを感じながら、この人の種を貰ったのだと幸せに満たされて。

「凄くいやらしかった。古は布団の上ではあれだな、すけべだな」
「そ、そんなことはないアル。親愛的が、凄いだけ。あっ、ほらまた」

 裏の顔が薄れ表の顔が出て来た古が、始める前のようにつんつんと指を突いて恥ずかしがる。
 あれだけの痴態をむつきのせいにして恥じらい、可愛らしいことこの上ない。
 一線終わった後でまた、古の中で大きくなっても仕方がないではないか。
 だから仕返しというわけではないが、むつきは上半身を起こしては古の片足を広げさせた。
 そのまま自分の肩にかけさせ、古はやや横向きに大股開きの格好である。

「なんて恰好をさせるアルか!」

 ザジ並みに激しいセックスで初めてを体験したとはいえ、まだまだ初心であった。
 見てない、私は見ていないとばかりに両手で顔を覆った古がみたものは、二人の結合部である。
 後ろから、組み伏せられながら、正常位と全く目に触れなかった生々しい場所。
 まるで信じられない心持ちなのだろう。
 古の割れ目がぱっくり口を開き、喉元と同じような膣口からむつきの一物を受け入れていた。
 愛液で卑猥な光を浮かべ、白い精液も涎としてたらし、なによりも太い竿を咥え込んでいる。
 それだけならまだしも、むつきがわざと見せつける様に挿入を繰り返す。
 ずぶずぶと根元まで咥えこみ、引き抜かれる時にまただらりと愛液他の体液が亀頭のカリ首に書き出され溢れてくる。

「古、ちゃんと見ろよ」
「いやアル、そんなの恥ずかし過ぎるアル!」
「見ないと、こうだ」

 絶対に見るもんかと顔を堅守する古を、嗜虐的な笑みを浮かべむつきが強めに突き上げた。
 子種を腹いっぱい受け入れ過敏な子宮をコツンと。
 両手で顔を覆って伏せ気味にしても、体の奥からノックされては無理やり顔を上げさせられる。

「あうぅ……」
「古、見るまで続けるぞ」
「止め、今はお腹がキュンキュンして。あぁっ!」
「あ、やば。またちょっと止まりそうにない」

 最初は虐めて楽しむだけだったが、あまりにも古の中が締まるのでむつきも盛り上がってしまった。
 古が逆らう様に目を伏せ、声を上げまいとすると従わせたくなる。
 愛しているからこそこうなるんじゃないかと、リズムを変えてはわざと結合部から卑猥な水音を立てた。
 視界を閉じても無駄だといいたげに、古を責め立てる。
 いつまでその強情が持つかなと、手を伸ばしてピンっと立っていた乳首を指で弾く。

「んぅっ?!」
「ぷるんぷるん、ほら。古の胸、弾力がすげえ」
「だめ、あっ。また、し……親愛的!」

 何度も執拗に上も下も責められ、古の強情も脆くも崩れ去る。
 命令されたわけでもないのに顔を覆っていた両手はシーツを握りしめた。
 見えない糸で操られるように震える顔で瞳を開き、むつきが何度も抉る股座に視線を投じる。
 犯されている、何度も何度も。
 子種は貰ったのに小鈴から貰った薬さえなければ、確実に小さな命が産まれていた程に。
 なのに、なんの為に犯されている、跡継ぎの為でなく、なんの為にと古は軽く混乱する。

「ああ、腰が。古、引き締まったお前の中が気持ち良い」
「親愛的……ひんっ、そんなに良いアルか?」
「当たり前だろう、最高だ。締め付けが、それに欲しくないか。二人目が」
「ぁっ」

 その言葉を聞き、陥落、いや無血開城である。
 破瓜の血がまだ古の股座で溢れているのはさておき、古は次が欲しいと諦めた。
 耐えるのではなくむつきの一物をさらに受け入れ、次の子種を。

「欲しい、欲しいアル。次の子種、親愛的のぉ!」
「おわ、締まっ。そんなに吸い付くな、出る。いや、まだ三回目このままいくぞ」
「全部、全員育てるアル。幾らで、ぁっ。何人でも、子種来たアル!」

 敏感になっていたのはお互い様、一度目に比べ多少量は減ったがまた古の中に迸った。
 完全に許容両を超えて、開ききった割れ目から殆どがあふれ出るぐらいに。
 そのまま抜かずの三回目、再び古を組み伏せお尻を突き出させてバックの格好で。
 獣になったようにお互い声を叫びあげながら、セックスの虜になったように。
 慣れがある分、むつきの方はさすがにのめり込み過ぎてはいないが古は違う。
 だらしなく舌を出して涎を垂らし、言葉にならないうめき声を上げながらそれでもむつきを受け入れる。
 半ば意識が飛んだ状態でも下半身だけは子種をとむつきを貪欲に絞り上げていた。
 時間を忘れセックスの為にセックスをする二人を我に返したのは、ひかげ荘らしいアクシデントであった。

「うわっ、馬鹿これ以上押すな」
「お、重いです。襖がたわんで、ぁっ」
「わあーッ!」

 千雨と夕映、最後の悲鳴は重なり合って分からなかったが、ぱたんと管理人室の襖が内側に倒れ込んできた。
 折り重なり合って襖を一部破りながら倒れ込んできたのはお察しの通りであった。
 食堂でガールズトークや猥談をしているはずの、美砂たちむつきのお嫁さん全員だ。

「なっ……な、なにをしているアルか!」
「お、おほほほ。我々のことは気になさらずに、ささ。続きをなさって」
「もう、くーちゃんってば。ザジちゃんよりも凄い声なんやもん。食堂までまる聞こえで、気になって気になってガールズトーク切り上げて来ちゃった」
「来ちゃったじゃ、ぁっ。止め、親愛的。皆が見てるアル。見るな、アル!」

 我に返ってもやっぱり経験はむつきの方が上だった。
 別に浮気ではないし、嫁との行為を嫁に見られたからといって問題はあるまい。
 そんなふてぶてしさと共に、むつきの腰はまだ古の中に挿入され続けていた。
 それどころか、そんなに見たかったかと、古の両膝の裏に手を通して背面座位でみせつける。
 これが俺の新しい可愛い、布団の上では積極的な古という嫁だと。

「なにを恥ずかしがってんだ、皆俺の子を孕みたいって嫁さん達だぞ。お前ら良く見てろ、古がこれから孕むからな。聡美も五月ももっと来い。小鈴も、気を利かせて貰って悪いな」
「親友が喜ぶ顔を見られれば、問題ないネ。こんなに涎と親愛的の精液を垂らして、羨ましいヨ」
「超、見ないで。見な、あっ。駄目、また来る。イク、あ。あああっ!」
「また孕むぞ五人目か、孕め古!」

 声が大きいのもそれは今までの修行の為か。
 打ち上げられたむつきの子種を無理やり飲み込まされ、古が天井を見上げて嬌声なのか悲鳴か分からない声をあげた。
 これはまたすごいと、エヴァや龍宮といった一部は耳を塞いている。
 一応に古の艶姿ににやにやしているのは変わらなかったが。

「もう、駄目アル……」
「お疲れさん、可愛かったぞ」

 最後の最後でとんでもないセックスをされたと、ついに古が力尽きた。
 親友やクラスメイトに痴態を見られた心労もあったかもしれないが、むつきの完全勝利である。
 何時までも腹に突っ込まれたままでは圧迫感でおちおち気絶もできないだろうとむつきが引き抜く。
 ずぽりとそれでも膣内はむつきをしゃぶっていたが、名残惜しんでいては子種が溢れるとキュッとしまった。
 たらりと溢れた精液と愛液の量は少ないが、布団の上は二人の体液でぐちゃぐちゃである。

「親愛的、古は私が預かるネ」
「ああ、綺麗にしてやってくれ。もちろん、体の外側だけな」
「古が頂いた子種を奪っては、復讐されかねないネ」

 そんな馬鹿なと笑いながら小鈴に気絶した古を預けると、横抱きにして連れて行く。
 後を追ったのは元々はチーム小包子としてのチームメイトの五月と聡美の二人だ。
 残った面々は、突かれたと言いつつまだまだ元気なむつきの一物である。
 まだ余裕あるよねと誰ともなくけん制するように見合ったが、まだ一人残っていた。
 ひかげ荘に残った女の子の中でむつきに抱かれず処女のままの女の子が。

「いよいよ、桜子の番だね、正妻の余裕でおおとりは譲ってあげる。早々に気絶したら、喜んで変わってあげるけど」
「にゃはは、代わってあげないって言いたいけど……」
「あんな凶悪なもん見せられて怯えるなってのが無理だ。仕方がないから千雨様が手伝ってやるよ」
「というわけで、先生。もう少しだけ頑張ってな。チーム、普通の中学生。私らの出番やから」

 さすがに怯え気味の桜子の背を美砂が押し、千雨と亜子が任せなさいと胸を叩く。
 むつきも亜子に言われた通り、もう少し頑張りますかと全裸のまま立ち上がった。
 すかさずさよが新しい浴衣を用意してくれ、軽く羽織って美砂たちについていった。









-後書き-
新規のお話で一番気合が入った。
A組の子は皆好きですが、やはり差はあるのだろうか。

ひかげ荘で残った処女は桜子のみ。
まだ書けていない、書けたらあげます。



[36639] 第百二十二話 唾つけずに放っておいたらどうなるか
Name: えなりん◆e5937168 ID:bd0bfbe0
Date: 2014/11/30 21:48
第百二十二話 唾つけずに放っておいたらどうなるか

 これは一体どういう状況なのか、ちょっと理解に苦しんだ。
 いや理解には至ってはいない。
 美砂たちに連れられてやってきたのは、二階にある亜子の部屋であった。
 恐らくはひかげ荘にある部屋のなかで一番普通の女子中学生らしい女の子をした部屋だ。
 内装は明るいピンクを多用し、さすがに寮ではないので家具は少なめだが。
 窓際のベッドに部屋の中央にある四角く小さなこたつテーブル、周りには座布団が数個。
 最近増えたのか運び込んだのか、ベッドの反対側の壁にはテレビがあった。
 配線を繋げたゲーム機がランプを点灯させており、伸びたコントローラーを握るのは四人。
 美砂と千雨、亜子に桜子、むつきの分はない。
 彼女たち自身は割と大人しくしているが、画面上では大乱闘必死のスマッシュ合戦だ。
 今、一匹のゴリラが天の授かりものであるハンマーを手に取った。
 途端に逃げ出す赤い配管工の人と、黄色い雷帝、だが逆に立ち向かったのは緑のでっていう。
 カウンターパンチが綺麗に入り、ほぼ無敵状態だったはずのゴリラが天に消えた。

「やった、ハンマーゲットってええ。なんでやのん?!」
「私ぐらいになれば、ハンマーで殴りかかられてから反撃余裕だっての」
「ちょっ、なにそれ初耳。ハンマーの意義は、長谷川強すぎでしょ!」
「にゃはは、ハンマー取り損ねたと思ったら、そういうわけか」

 皆でわいわいと特別に奇をてらうこともなく、一様に麻帆良女子中等部の制服姿である。
 心持ち、スカートを短く織り込んでいるかもしれないが、気になるほどでもない。
 ただ女子中学生が四人集まって、彼氏をほったらかしてゲームで盛り上がっていた。

「で、この状況でどう桜子とエッチしろと?」

 やっぱり理解できんとむつきは降参するしかなかった。
 ベッドに腰掛けたむつきの股の間に桜子こそいるが、美砂は直ぐそばの足元。
 千雨と亜子はもう少し遠く、こたつテーブルを挟んだ両側の座布団の上に座っている。
 桜子にはいろいろと悪戯できるが、美砂はかろうじて、千雨と亜子には手すら届かない。

「あー、別に好きな時にすれば? ほら、そこにベッドもあるし」
「ちゃんと新しいシーツやから、綺麗やよ。私結構、アキラの部屋で寝てること大いし」
「いやいや、そういうことじゃなくて。制服プレイは良いとして、この状況がわからん。なんでゲーム? 桜子が楽しみ過ぎてて、邪魔するの悪い気がする」

 手伝ってやると豪語した千雨の言葉はなんだったのか。
 一先ず桜子を後ろからキュッと抱きしめ、例の不思議な髪型の髪に後ろから鼻先を突っ込み匂いを堪能する。
 甘い女の子の匂いに興奮せずにはいられないのだが、なんとも続きをし辛い、画面が気になる。

「先生、首筋がくすぐったい。にゃははは、千雨ちゃんストップ、ストップ」
「甘えよ、椎名。そんな隙を逃す私だと思うか? 」
「私も全部は理解してないんだけど、そろそろ先生疲れてるんじゃないかって長谷川がさ」
「くーちゃんを弄んでるところは、元気一杯にしか見えへんかったけどなあ」

 むつきを含む四人の視線を集めた千雨は、口でいうのもなと頭をかきつつこう言った。

「EDが治った直後でさ、色々不安だったんだろうけど。露天風呂や脱衣所、大人セックスに古のはなんだ、獣セックス? 一晩なら良いけど連続で趣向を凝らし過ぎて疲れてねえ?」
「毎回頭吹っ切れてるからな。自覚はあんまりねえな」
「あ、そう。違っても別に良いけど。なにをどう頑張っても私らは中学生って事実は動かないわけで。普通に普通の中学生として抱いて貰うのが一番良いんだよ。スパイスも効きすぎるとキツイだけだろ」
「まあな、なんていうか。見慣れた制服が、逆に新鮮に感じるから。合ってる部分もあるかもな」

 大人セックスと言っても、結局は背伸びした中学生の大人セックスだったわけだ。
 今までも皆がメイド服を来たり、凝ったプレイもあったが、あくまでそれはスパイス。
 惚れて惚れられ好きだからセックスするわけで。
 千雨の言う通り、むつきに焦りがあったにしても普通に愛し合うのが一番だ。
 だからひかげ荘でもいつも通り、遊びたい奴は遊んで、むつきとセックスしたい子はする。
 そういうわけだろうか、とりあえずむつきは腕の中の桜子から美砂、千雨、亜子と視線を巡らせた。
 今思い返してみるといつEDが再発するかという不安から、今しなければという脅迫観念があった。
 だからといって大事な初夜に手を抜いたつもりはないが、真実は闇の中である。

「んー、やりきったって言えないのがもう。桜子、コントローラー貸してみ。俺が仇とってやるよ」
「じゃあ、仇とってくれたらチュウしてあげるね先生」
「うーっし、言ったな。ボコボコ完封にして半泣きにしてやんよ」

 桜子からコントローラーを受け取ると、頬に触れてはいないが投げキスで先払いされる。
 そんなラブラブなむつきと桜子の様子に嫉妬もせず、逆に楽しそうに千雨が腕をまくる仕草を見せた。

「あはは、なんやうちら彼氏との二人きりを邪魔しに来たお邪魔虫みたい」
「エッチな漫画でありそう。ヒートアップして、王様ゲームみたいに一位になったら命令できるとか」

 亜子と美砂がお互いに指さしながらあるあると大笑いしている。
 シチュエーション的には、ラブコメそれもハーレム系だろうか。
 実際このひかげ荘でハーレムを築いている手前、ちょっと笑えないが。
 千雨が指をパチンと鳴らしてそれ採用とばかりにこう言った。

「おっ、それ面白いな。それじゃあ、先生よりも順位が後になったら一ついうことを聞くってのはどうだ?」
「千雨ちゃん、私は?」
「先生が一位だったら、逆に椎名が先生に何か強請れよ」
「えー、それちょっとずるくない?」

 桜子の講義の声は多数決、三対一という非情の采配によって跳ね除けられてしまった。
 この場合、当然のごとくむつきの票は最初からなく、あっても意味がない。
 わーんっと嘘泣きで胸に飛び込んできた桜子を撫でつけ、勝負の開始である。
 これはこれでご褒美ですと、にやにやしている桜子には気づかないふりという大人の対応をしながら。
 そして第一回の勝負、むつきにとっては敵討ちも兼ねていたのだが。

「ちょっ、ちょ待て。待てって、おい。あっ、バリア割れ。おい!」
「超弱え、笑える。ピヨッたドーン!」

 開始早々、千雨の超テクにより速攻を受けて防御バリアが破壊、ピヨったところで場外だ。

「えげつないわ、長谷川。そういう私も、亜子手伝って」
「あはは、先生。ご愁傷様」
「だから待てって!」

 再度ステージに乱入するも無敵時間が解けた直後に、美砂と亜子のキャラに挟み撃ち。
 何もできないまま残機を全て失い、手の中からぽろりとコントローラーが零れ落ちた。

「先生……弱っ」

 仇を討ったらキスとテンションを上げていた桜子に、ぼそりと呟かれた。

「ば、ばか違う。今のは俺らのシマじゃ、ノーカンだから。お前ら、特に千雨。お前、ちょっとは接待しろよ。ここは彼氏が格好良く仇討って彼女が恰好良いって抱き付いてキスする場面じゃね?!」
「はーい、一位のネットアイドルちうちゃんが命ずる。最下位の野郎は脱げ、潔く脱げ。おら、D・V・D。D・V・D!」
「大胸筋サポーターなんてしてねえよ!」

 ネタの分からない美砂や亜子からも、千雨に焚きつけられDVDとの連呼である。
 特に千雨は甘いセックス中より楽しそうにしやがってと思わずにはいられない。

「大体、俺は浴衣一枚だぞ。あっ、はいはい。帯取りました!」

 桜子を膝の上に乗せたまま、苦し紛れに、半ばやけくそに帯を解いて千雨に投げつけた。

「はーい、二位は私。先生の可愛い雌奴隷。浴衣脱いでや」
「なんでだよ!」
「先生の順位未満の子、全員に命令できるんだから。逆もありだろ」
「お前の正論は本当にもう!」

 清純派な顔して笑顔で雌奴隷と言った亜子からも何故か命令が飛んできた。
 一応の抵抗を試みるもぐうの音もでない正論に、ぐぬぬと言わざるを得ない。
 だがどうせここで粘っても、またDVDと拍子をとられるのは分かりきっていた。
 仕方がない、仕方がないので一度、桜子に膝の上からどいて貰って立ち上がった。
 怒り心頭のまま帯を失くして襟元がふわふわしている浴衣に手をかけて、ある事に気づいた。
 当たり前だが、ここは風呂場ではなく亜子の部屋だ。
 女の子らしいピンクを多用した、ひかげ荘ではあっても女子中学生の亜子のプライベートルーム。
 そしてその亜子たちは学校の制服姿。
 女子中学生の部屋で、その部屋の主や友達がいる場所で全裸になろうとしていた。

「や、やっぱり止めにしない? もっと健全に、バトルドームとか」
「安心して、先生。三位の正妻たる私の命令は、桜子にパンツ脱いで貰うことだから」
「にゃわ?!」

 なんだかよく分からないが、理不尽な命令が桜子に飛び火していた。

「なに驚いてんだよ。椎名は先生とチームなんだから、連帯責任に決まってるだろ」

 しれっと後から後からルールを追加する千雨に、所詮でいきなり場外乱闘船戦をしそうだ。
 だがこんな可愛くない嫁でも、むつきにとっては可愛い嫁なのである。
 ぐっと拳を握るこむことで我慢し、ガバガバになるまでハメ倒すと心で誓っておさめた。

「先生……」
「すまん、直ぐに仇はとってやるから。今は我慢してくれ」

 嫁の部屋とはいえ、女子中学生のピンクな部屋でまさか全裸になる日がこようとは。
 襟元に手をかけて男は度胸と、むしろこんな変態を見ろとばかりに全開であった。
 きゃっと可愛い悲鳴をあげて本気で見ない様に顔を両手で覆ったのは、桜子一人。
 美砂や千雨、亜子といった三人の反応は、悲鳴もあげず前のめりで視姦してきていた。
 せめて両手で顔を隠して指の隙間から覗くぐらいして欲しいものである。

「これで満足か、畜生ども」

 いっそ開き直って大股開きのまま、亜子のベッドの上にどっかり座り込んでやった。
 もちろん、この特殊な状況や嫁による視姦によって、股間は膨らみ始めている。

「桜子、はやくパンツ脱いで」
「じょ、冗談だよね美砂。美砂、可愛い。先生の正妻、巨乳に美脚……えーっと、可愛い?」
「二回目の可愛いが疑問形なのが気になるけど、まあ当然!」
「諦めた方が良いよ、桜子。それに、桜子がさっさと脱いで先生の上に座った方が恥ずかしくなくて良いと思うよ? スカートで隠してあげれば」

 桜子のおだてにも、髪をふぁさっと手で跳ねてどや顔され、亜子の言う通りである。
 それでもさすがに迷いを見せた桜子を前に、千雨がその場に立ち上がって指さしていった。

「椎名、こいつは曲がりなりにも賭けだ。お前、賭け好きだよな。その好きな賭けに嘘をつくのか?」
「が、がーん……そうだった。うん、千雨ちゃん。私は賭けに嘘はつかない」
「本当にろくでもないことだけには口が回るな」
「ぬ、脱いだどー!」

 千雨の言葉に感銘を受けたというより、受けた振りをしたようにも見えたが。
 スカートの中に両手をいれた桜子が、えいっと勢い良く擦り下した。
 足首辺りでシュシュのように丸くなったそれは、名はパンツを表す様に桜色だった。
 さすがにむつきの視線に気づき、手早く足を抜いて拾うとスカートのポケットにしまい込んだ。
 そして脱いだ時の勢いのまま、むつきのところに帰って来て膝の上に座って来た。

「あっ」
「なにも言うな」

 だがお尻に、言うなればもっと深い場所に触れたナニかに、熱が伝わった様に頬を染めた。
 どうやら自分が脱ぐということに気をとられ、桜子は少し忘れていたようだ。
 彼女がむつきの膝の上に座った時に、既に半立ちにまでなっていたのである。
 つまり桜子のスカートで隠れてはいるが、お互いの性器がつんつん触れ合っていた。
 付き合いたての初心な恋人が、握ろうにも握れない手で一時接触を繰り返す様に。
 そしてにやにやしている美砂たちはまず間違いなくそれに気づいていた。
 初々しい初々しいとばかりに赤面してうつむいている桜子を見て、ひそひそ楽しんでいる。

「おい、次。次やるぞ、今度は俺も最初からマジだかんな」
「先生、あんまり動かないで。大事なところが……ぁぅ、先生」
「ばか、あんまり可愛い声出すな、しおらしくなるな。余計……」

 元気一杯、有り余ってチア部にまで所属する桜子に、もじもじされるととても興奮するのである。
 勃起した一物がまるで落下防止柵であるかのように、桜子の股座でグイッと持ち上がった。

「じゃあ、次行くぜ。気を抜くなよ、柿崎。和泉もな」
「愛ゆえに、正妻は戦うのだ!」
「ごめんな先生。うち、勝負ごと結構好きなんよ」
「酷い八百長を見た」

 目の前で堂々と手を結ぶ千雨たちを前に、せめてもの抵抗でそう呟いたが効果は薄い。
 そして始まる第二戦、これは初戦よりもさらに苦戦を強いられた。
 もちろん、画面外でのことである。
 徐々に硬さを増して元気になる一物が桜子を攻め上げ、彼女が気恥ずかしさからもじもじするのだ。
 割れ目を押し上げ桜子の太もも辺りに亀頭が挟まれ、すまたのごとくすりすりされている。
 予想外の妨害というべきか、歯を食いしばってそれに耐えながらむつきはなんとか抵抗を試みた。
 一斉に襲い掛かって来た赤い配管工と普通のゴリラ、そして緑のでっていう。
 対するむつきのキャプテン隼は、奇跡的にも三体の悪魔の囲みを脱出。
 元からゲームに強いとも言えない美砂と亜子は、圧倒的優位が崩れた時点で思考が停止した。
 あわあわと慌てふためくだけで戦力外どころか、組んだ千雨の緑を叩くことも。
 最後には鬱陶しいと緑のでっていうに排除され、むつきの奮闘もそこまでで脱落させられた。

「ちょっと、長谷川なにすんの。同盟はどこ行ったのよ!」
「邪魔、お前らが邪魔しなきゃ先生を普通に完封できたんだよ。お前こそふざけんな、罰としてお前がパンツ脱げ! ……あっ」
「よーし、言ったな千雨。一位の命令は美砂が、脱ぐだな。桜子も聞いたよな、今」
「しっかり聞いてた。美砂、D・V・D、D・V……ぁぅ、D」

 迂闊にも怒りに任せ命令権を行使してしまった千雨だが、もちろんむつきや桜子は逃さない。
 これでこちらに命令が回ってこないのなら、正妻といえど切り捨てるのである。

「もう、長谷川の。長谷川の、せいで」
「はん、敗者に語る権利はねえ。はよ、脱げ。おら、D・V・D」
「こうなったら、せめて……」

 立ち上がった美砂は、今さら恥ずかしがる間柄でもないのになぜかむつきに背を向けた。
 スカートの裾を軽くたくし上げて両手を中に入れ、前かがみになりながらパンツを下ろしていく。
 レースの入った黒、これはまた冒険した下着だが前かがみになり過ぎだ。
 美砂の腕の動きでひらひらするスカートが大きくまくれ、チラリと可愛い割れ目が見えた。
 何度見ても見飽きないたまご肌の割れ目に、可憐な美少女ゆえに不釣合いな陰毛が淫靡である。
 当然ながら俺の出番かと、発破を受けた一物がぐいっと桜子の体ごと持ち上げた。

「ひぅっ!」
「あ、悪い桜子。美砂、今わざと見せただろ!」
「えー、先生が私とエッチしたいだけじゃ?」

 なぜせめてという一矢がこちらへ向くのか、他に鬱憤を晴らす方法がないからだろうが。

「で、二位は先生やけど。柿崎と私はなにしたらええん?」
「おお、それは私も興味あるな。私と柿崎の同盟は決裂したが、和泉とは継続中だぜ?」
「亜子にもパンツ脱げって言っても、あまり意味がねえよな」

 桜子はむつきの上に座っているから辱めになるわけで、単純にパンツを脱がせても亜子や美砂はまだスカートで隠せる。
 脱がせた上でもう一度勝てば、下半身すっぽんぽんというアドバンテージは得られるが。
 果たしてそのもう一度が先ほどの様に幸運に恵まれ勝てるだろうか。
 なにかこの一回の命令で特に亜子を陥落させられる何か、特別な何かが必要だ。

「先生、そんな見つめられると。さすがのうちでもちょい照れる」

 じっと見つめていたようで珍しく正当な理由で照れた亜子が焦った様に笑っている。
 本当にそうしていれば清純派なんだけどなと思ったところで気づいた。
 初戦が終わった後で、二位となった亜子は自分のことをなんと言ったか。

「よし、俺に負けて三位の亜子はピンクローターを尻穴に入れろ」
「へ?」

 とぼけた声を上げたのは名指しされた亜子だが、あまりの命令に他の三人は目が点である。

「お祭りの時に小鈴に貰ったピンクローターだよ、あるんだろ? 俺の命令が聞けないのか?」
「は、はい……」

 むつきに強い口調で命令された亜子は、何故か頬をぽっと紅潮させながらふらりと動き出す。

「って、何をふらふら歩きだしてんだ。流石に拒否れよ!」
「千雨ちゃん、先生も桜子も恥ずかしいの我慢してるんだよ。私だけそんな卑怯なことできひんやんね」

 今更ながら常識をとでも言い出した千雨に止められるも、逆に亜子に正論で返されていた。
 しかし、その瞳は熱にでも浮かされたように正常でないことは明白だった。
 むつきに命令だと強く言われた時、亜子は明らかに服従の喜びの震えを起こしていた。
 瞳の黒目がハートマークになりそうなぐらい、亜子は悦んでしまっていたのだ。
 自身を雌奴隷と名乗った通り、ご主人様であるむつきの命令を喜んで実行しはじめる。
 むつきと桜子がいるベッドの枕元、正しく枕の下に隠してあったピンクローターを手に取った。
 ローター部分を顔の上に垂らし、舌を伸ばしてぺろぺろ舐め、やがて口に含んで濡らす。

「わっ、わっ、亜子えっちぃ」
「亜子、それ普段からお尻にいれてないよね?」
「説明書、ちゃんと読んだから。清潔にしてる、お尻は初めてだけど」

 むつきも美砂と同じく清潔さを気にしてはいたが、小鈴製に抜かりはないようだ。
 亜子はそのまま命令されたわけでもないのに自分でパンツを擦り下した。
 こんなものいらないと足元のそれを蹴り飛ばし、片足だけベッドに上げてむつきに向けてお尻を突き出す。
 見られて一番恥ずかしいはずのお尻の穴を愛するむつきに見せつけ、ローターをあてがう。

「はぁっ、先生見て。私の恥ずかしい穴にローターが入ってふぁっ、行くの。先生のものより小さいけど。大きい、皆に見られながらうち。お尻に、興奮する。イッちゃうかも、はっ……入ってくるぅ」

 むつきどころか桜子や美砂、千雨に見られながらでより興奮し、亜子はお尻でローターを飲み込んでいく。
 むつきの勃起した一物を軽々飲み込むのだから、ローターぐらいは本当に朝飯前なのだろう。

「やられた。絶対これ、和泉は役立たずだ!」
「先生、スイッチ。いきなり最大でもええよ?」
「ご褒美は多い方が良いだろ?」
「焦らさんといて、先生。ぁっ、お尻。お尻の中がぷるぷるする」

 スイッチはもちろん最弱、そんなに簡単にご褒美をあげては亜子の為ではない。
 その後でちゃんとパンツを履かせ、元の座布団の上に戻らせたが夢見心地である。

「んじゃ、忘れてたけど。美砂は、こたつテーブルの上でうつ伏せになってスカートをまくれ」
「なんかてきとう?!」
「そうでもないぞ、俺と桜子にちゃんと見えるようにな」

 ぐうっと唸りながら美砂はこたつテーブルに四つん這いで乗り込んだ。
 何度か変態とむつきを罵りつつ、お尻を突き上げた格好でスカートをまくり上げた。
 女の子の大事な部分を隠すパンツは既になく、むつきが愛した秘部が陽の光にさらされている。
 親友とはいえ桜子でさえも、美砂のそんな部分は見たことがなかったことだろう。
 何しろお尻の穴さえはっきりと見え、二人の視線を感じたのか割れ目から愛液がぷっくり溢れだす。

「長谷川、後で覚えてなさい」
「私かよ、命令したの先生だろ!」
「パンツ脱がしたの誰でしたっけ。こんな屈辱、あーん。なんか今、桜子が正妻っぽい。悔しい!」
「まあ、どう見ても。俺に守られてるお姫様は今、桜子だよな」

 ちくしょうと叫ぶ美砂はまた今度、可愛がってやるとしてだ。
 ニヤリと凶悪な笑みを浮かべてむつきは、千雨へとそれはもうにこやかに笑いかけた。

「待たせたな、千雨」
「はっ、残念だけど無駄な苦労だったな先生。別にその二人の力を借りなくても、私の方が実力は上だ」
「平常心のお前ならな。動揺してる今のお前なら、俺にも勝機がある」
「先生、頑張って。千雨ちゃん一人ずるい、辱めろー」

 お姫様の言う通りにと、第三回戦の開始であった。
 ゲーム開始と同時に速攻をかけたのは赤い配管工こと美砂であり、相手はもちろん千雨の緑の出っていうだ。

「長谷川、大人しく負けなさい。アンタは、こたつの上で公開オナニーの刑だっての!」
「ざけんな、こうなったら勝ち逃げ。一位の権限でハメてろって命令して」
「あー、てがすべったー。あっかーん、おしりがきもちよくて、またてがすべったー」
「説明台詞乙、てか。なに自殺してんだよ、和泉!」

 亜子がむつきに命令されたくて普通のゴリラを自ら場外へと落下死させた、しかも残機分全て。
 美砂の造反は分かりきっていたことだが、流石の千雨も亜子の自機を自殺させる方法は予想外だった。
 律儀に突っ込んだおかげで格下の美砂のやけくそ攻撃をもろに喰らってしまった。
 策士策に溺れるというか、最初から一人だった方が足元は盤石だったことだろう。
 千雨コンピューターも焦りの二文字には勝てなかったらしい。
 むつきが少し乱入すれば美砂の赤い配管工と共に緑のでっていうがステージから落下していった。
 一位むつき、二位は僅差で美砂、三位千雨で問題外の亜子という順番である。

「があっ、ありえねえ。私が負けるなんて……やったろうじゃねえか、公開オナニーでも先生のレイプでも!」
「いや、できるならこの状態の撤回を一番したいんだけどね。先生ならまだしも、今の私は親友にお尻の穴まで見られてるから。死にたい……」
「んぅ、はぁぅん。柿崎、お尻気持ち良いよ。背徳感? 癖になりゅぅ」

 この子が一番駄目な子だと、清純派がしてはいけない顔になり出した亜子を見て皆が少し沈黙する。

「兎に角、椎名よ。私らは当に、こうして世間様に顔向けできないレベルだ。相手は先生一人だけど、こうしてセックスを遊びの一つに取り入れるぐらい。正直、ちょっと壊れてる」
「最初はそうじゃなかったけれど、最近クラスの子が新しく先生のお嫁さんになると嬉しいもんね。正直なところ、私はくぎみーにもなって欲しい。ずっと一緒にいたいし」
「むう、急に千雨ちゃんが真面目になるから冷めちゃった。んっ、ふぅ……要は千雨ちゃんは、戻るなら今だぞって言ってるけど、今更やんね?」
「うん、亜子の言う通り。私は先生が好きだから。少しは苗字が欲しいってのもあるけど。アタナシアさんにも誓ったし、私は先生のお嫁さんになりたい。あと、非常識さで言ったら私、クラス一だよ」

 桜子の反則的な豪運は、あらゆる意味で彼女を幸運へと導いてしまう。
 その結果、彼女自身が幸せと今みたいに、にこにこ笑っていられるかは別にして。
 A組のバイタリティ溢れる面々でサバイバルしても、武道四天王さえ差し置いて生き残ることだろう。
 そう言う意味では桜子のクラス一という言葉も間違いではなく、千雨も違いないと笑っていた。
 そしてもはや何も言うまいと、肩を竦めた千雨が美砂と亜子を視線で促した。
 ゲームの電源を切って、ぞろぞろと部屋の入り口へと向かう。

「あー、もしかして一位の命令は強制的に桜子と二人きりにしろってか?」
「察しろ、二時間ぐらいで良いか? 正妻と雌奴隷も可愛がってやんねえと刺されるぞ」
「長谷川、代弁ありがたいけど。あの仕打ちは忘れてないから、二位の命令は先生とアナルセックスね。二時間後までに亜子に浣腸して貰って綺麗にすること」
「やだよ、浣腸とか。わざわざ自ら下痢になる理由がわかんね!」
「千雨ちゃんもお尻体験しようよ。気持ちええよ、内臓引き出されるような感じが」

 黙れ淫乱雌豚女と暴言を吐きつつ、きゃっきゃと姦しく美砂たちは去っていってしまう。
 残されたのは全裸のむつきと、パンツを脱がされてはいるが制服姿の桜子だ。
 ちゃんと桜子に覚悟がある以上、これ以上関知しないということだろう。
 とはいえ、あれだけ騒がしかったのに急に静かになると、なんとも行動し辛い。
 こういう時は男から、と何か言おうとしたら桜子が振り返りながら見上げて来た。

「先生、あの……一位のキス、あげてないから」
「ああ、そういえばそんなのもあったな」

 どちらかというと千雨を懲らしめることに頭がいって、忘れてしまっていた。

「先生、仇討ってくれてありがと」

 上半身だけ振り返った桜子が、その言葉と共にちゅっと唇に唇で触れて来た。
 なんとも甘酸っぱい、初心な女の子のキスであった。
 ただれた恋愛ばかりしているむつきには、気恥ずかしくてまぶしいキスである。
 だが気恥ずかしいのは桜子も同じらしく、真っ赤な両頬に手を当ててにへっと笑っていた。
 自分のスカートをくいっと持ち上げているむつきの一物を見るまでは。

「先生、ムードなーい」
「男はこうなの、好きな子にキスされたらこうなるの」
「そっか、私とエッチなことしたいんだ」
「したいんだけど、こら。くすぐったいから、スカートごしに撫でるな」

 股座を通してそそり立つ一物を、何を思ったのか桜子がよしよしと手で撫でて来た。
 すべすべのスカートの裏生地に包まれ亀頭を扱かれ、くすぐったいどころではない。
 桜子にその気があるかは別にして、もはやそれは愛撫の域でもあった。
 いや、桜子にはその気があったらしい。
 一頻りくすぐったいと笑った後も、にこにこしながら桜子はスカートごしに撫でるのを止めない。
 手の動きはぎこちないが、背中越しにむつきの敏感な動きを感じて撫で方を変えている。

「気持ち良いよ、桜子。」
「頑張る、熱い。スカートごしでもわかるぐらい」
「桜子、俺もしてあげたい。上、脱がすぞ」
「うん……」

 祭りの後のように、妙に部屋が静かに思えた。
 聞こえるのは夏の残照であるセミの声と、二人の囁くような会話の声だけ。
 そんな中でプチりと聞こえたのは、桜子の後ろから手を伸ばしシャツのボタンを外した音だった。
 衣替えがまだなので、今の桜子は麻帆良女子中等部の夏服。
 チェックのスカートは夏冬兼用だが、上は半そでの白シャツ。
 クーラーがキツイ日にはベストを着ることもあるが、今日の桜子は半そでの白シャツのみ。
 むつきへの愛撫の手が止まり、桜子は一つ、また一つと外されていくボタンを見つめていた。

「あのね、前は美砂より大きかったけど。美砂より小さいから」
「美砂は美砂、桜子は桜子。大きさが大事なんじゃない、好きな子の胸ってのが大事」

 ついにすべてのボタンが外され、少しの風でふわりとシャツが飛んでいきそうな程に頼りない。
 半開きとなったシャツの前からは、ピンク色のブラジャーと白い桜子の肌が見えている。
 今にも前を閉じようとさまよわせる桜子の手を取り、大丈夫とささやきながらむつきは脱がしていった。
 瑞々しい果実の皮を剥くように、青い果実である桜子のシャツを脱がす。
 片腕ずつ丁寧に袖から抜いて、綺麗に向けた桜子の皮である白シャツはベッドの上に置く。
 何処を隠して良いか分からない桜子は、両腕で自分を抱きしめ肩まで隠そうと手のひらで撫でる様にしていた。

「綺麗な背中」
「あひゃっ、ぁっ」

 真っ白で産毛一つない背中にキスをすると、ビクンと背筋を伸ばして桜子が悲鳴をあげた。
 良い声だと笑いながら、その間にむつきは剥き残しであるピンクのブラジャーのホックをはずす。
 肩紐こそあれ緩んだブラジャーから、桜子の可愛い胸がぷるんと零れ落ちる。
 慌ててホックをし直そうとするが、それをむつきが許すわけもなかった。
 片手で緩んだブラジャーを押さえつつ、後ろ手にホックを止めようとする前に肩紐を外してしまう。
 むつきは背後を取った上に両手が使え、桜子は背後をとられ片腕のみと勝負になるはずがない。

「こら、あんまり困らせるな。桜子、俺におっぱい見せて」
「そんなに、見たいの?」
「見たいに決まってるだろ。それに風呂で何回か見せてくれてるだろ?」
「お風呂とお部屋じゃ違うの。なんかさっきから先生の手がいやらしいし、脱がそう脱がそうってしてくるから。脱がないってなっちゃう」

 そうかそうかと理解を示しつつ、するりと喋りながらブラジャーを脱がした。

「あれ?」

 何故どうしてと、桜子が不思議がるぐらいに鮮やかにである。
 これで桜子の身に着けているのは、スカートと白いソックスのみ。
 上半身はすっぽんぽんで、なんというか全裸よりもちょっとエッチな格好であった。

「はにゃ?!」
「凄くエロイぞ、桜子。ちょいとお手を拝借」
「や、やだ。おっぱい見えちゃう!」

 必死に胸を隠していた桜子の手をとり、無理やり掴ませたのは彼女のスカートである。
 単純に胸を見るだけなら、もっと他にもやり方はあった。
 逆にこんなスマートではない方法を選んだのは、知って欲しかったのだ。
 今のむつきがどれだけ桜子を求めているのかを。
 答えは桜子のスカートの奥、彼女の股座からにょきりと顔を出しているむつきの一物だ。
 膝の上に桜子を座らせているおかげで、まるで彼女の股間から生えているようにも見える。
 桜子の割れ目や太ももに挟まれ、ビクビクとまるで別の生き物のように震えていた。

「スカートごしじゃなく、手で触れてごらん」
「う、うん……熱っ、火傷しちゃう。こんなの、赤黒くて。先生、辛いの?」

 熱したやかんを触る様に指先で触れた桜子は、言葉通りに思ったように直ぐに手を離していた。
 突く様に何度も指先で触れ、熱さに慣れたようにそっと両手で触れ始める。
 赤黒い色や帯びた熱、時折ビクンと震える様子からそう尋ねたのだろう。

「それもあるが、逆。桜子の太ももが気持ち良くて、桜子が可愛くてこうなってるの」
「そっか、責任。とらないといけないよね。私のせいで、そうなってるんだし」

 頑張れ私と呟き、桜子はむつきの膝の上から立ち上がった。
 そのままむつきに背を向けたまま大きく深呼吸をして、えいっと振り返った。
 胸を隠さないよう必死に気を付けをしたまま、振り返った勢いでぷるんと胸が弾む。
 言われてみれば確かに美砂よりも心持ち小さいが、亜子などと比べれば一回り大きい。
 しかしそんな事実よりも、恥ずかしいのを我慢し過ぎて涙が目じりに滲んでいるのが可愛い。
 顔も真っ赤にして天井を見上げ、そんなに恥ずかしいのに見せてくれる桜子が。
 抱きしめずにはいられなかった。

「可愛い、俺の桜子。胸、柔らか。良い匂い」
「あっ、あわぅあうあう。せ、先生も可愛いよ!」

 立っていた桜子に対し、むつきがベッドに座っていた為、抱きしめたら自然と胸に顔が埋もれた。
 恥ずかしさの頂点に達した桜子は、回りまわって逆にむつきの顔を抱きしめることになった。
 恥ずかしい乙女の柔肌に顔を埋められるのが、いつの間にか乳首が立っているのがばれないかひやひやする。

「乳首立ってる、頂きます」

 しかもバレたどころか、むつきにぱくりと食べられころころと舌で転がされた。
 胸を見せるだけでも羞恥心から顔が爆発しそうなのに、勃起した乳首を舐められたのだ。
 舌先で弾かれた次の瞬間には、ちゅぱちゅぱと音を立てて舐められている。

「ひゃっ、だめ。くすぐったい、音たてちゃ」

 しかし当然のことながら、むつきがそんな弱々しいお願いで止めるはずもない。
 むしろ余計に口の中に唾液をためては、桜子の乳房にすいついた。
 乳房の丸い肌の上を唾液が流れおちるぐらい。
 あえてそうして、ゆっくりと滑り落ちていく滴を舌で拾いあげては舌の腹で広げる。
 ペンキを塗る刷毛のように舌を使い、桜子の乳房を味わいながら自分の匂いを塗り込んでいく。

「せ、先生……もう、だめ。立てないよぉ」
「そうか」

 右の胸も左の胸も平等に、余すところなくむつきの唾液にまみれた頃には桜子の足は役立たずになっていた。
 膝ががくがくと笑っており、むつきの肩に両手をついていなければ崩れ落ちていたことだろう。
 だが彼女の言葉通り限界は近く、むつきは首を竦め背を曲げなければ乳房を吸うこともままならない。
 そのまま桜子の顔にキスした方が楽なぐらい、彼女の体は力が抜けて崩れ落ちて来ていた。
 むつきはごく自然に、流れる様に桜子の背中と膝裏に手を添え、抱え上げる。
 一瞬だけ遊園地のコーヒーカップに乗った気分だろうか。
 悲鳴を上げた瞬間には、桜子は亜子のベッドの上にそっと仰向けに寝かされてしまっていた。

「あっ、あり……にゅぅ?!」
「桜子、膝を閉じないで」

 お礼を言う間もなく、むつきに馬乗りにされ再び胸を吸われてしまった。
 それだけならまだしも、いつの間にか降りていたむつきの片手が桜子のスカートをたくし上げ中に入って来ていた。
 その下には何も履いていないのは、普段よりこんもりしたスカートのポケットが物語っている。
 一足早く、むつきの性器とあいさつはすましていたが、お互いに不可抗力でもあった。
 しかし今度はむつきの意志で、そういうことをするぞと触れて来たのである。
 了解がいる、桜子がしても良いよと心の中の決心を打ち明ける必要があった。

「いいよ、先生だから。好きだから……」

 言葉ではそう言っても、寸でのところで太ももで挟んだむつきの手を離せないでいる。
 ちゃんと決心したはずでも、いざとなると言葉とは違う行動をしてしまう。
 何故と自分に問うよりも、桜子は怖いと思った。
 自分は今、大好きなはずのむつきを本心では拒否していると行動で示してしまったからだ。

「ちが、違う。嘘じゃない。好きだもん、好き、ぁっ」
「大丈夫、疑ってない。ほら、しばらくこうしてやるから」

 大人の余裕というものだろう、少なくとも処女である桜子よりはむつきは大人だった。
 処女の気持ちは分からなくても、こうだろうという想像ぐらい、相手の立場に立てるぐらいには。
 だから無理に桜子に膝の力を抜かせず、彼女を包み込む様に抱きしめ例の特徴的な髪型の髪を撫でつけた。

「怖くて当たり前だって。本当はこういう時に名前出しちゃいけないんだけど。他の子の初エッチ、見たか?」
「うん……ザジちゃんも、エヴァちゃんも。四葉さんと葉加瀬は見てないけど、あとくーふぇ。皆、凄く余裕で、だから私もそうしなきゃって」
「葉加瀬以外、肝が据わった奴ばっかだから。葉加瀬もあれで、事前に俺から色々エッチなことされてて、ある程度慣れてはいるんだよ」

 そうなのと、むつきの腕の中で身じろいだ桜子が見上げて来た。
 その桜子のピンク色の唇にキスを落として、もう一度キュッと抱きしめる。

「本当は、もっと桜子ともゆっくり分かり合うのが一番なんだけど。悪い、不安なんだ。本当にもう二度とエッチできなくて、子ども作れないかもって。焦ってた、今でも焦ってる」
「先生、私……言われた通りに、ピル飲んでるよ。でないと、一発でできるだろうし」
「ああ、分かってる。なんていうか、桜子……お前、無茶苦茶可愛いだろ?」
「はえ?!」

 何故そこで驚くと、桜子の驚愕とでも言うべきか驚きの声にむつきの方が目を丸くしてしまう。

「あのな、可愛いと思ってなきゃここで桜子とこうしてない。桜子は成績はもう少し頑張りましょうだけど、チア部とラクロス部掛け持ちしても元気が有り余ってて」
「う、うぬ?」
「なんだよ、その中途半端なのは」
「なんか、にゃー。嬉しいけど、照れる。まだ美砂みたいに当然とかどや顔できないもん!」

 ほぼ裸の状態で抱き合っておきながら、可愛いと言われるぐらいで何故そこまで喜ぶのか。
 以前、桜子から告白された時の様に、暴れ子猫になって胸に顔をぐりぐり擦り付けられた。
 もしかすると、猫を飼っている内に覚えた、彼女なりのマーキングなのかもしれない。
 はいはいここがお前の場所ですよと、そうしやすいように後頭部に手を添え胸元に抱え込む。

「そのままで良いから、聞け。心配なんだよ。こんな可愛い女の子、唾つけずに放っておいたらどうなるか。はやい子は彼氏がいて、キスだって。もうね、桜子に彼氏ができてキスしたら、俺はどうなるかわからん」
「私は先生だけだよ」
「それでも心配なんだ。麻帆良が中等部から男女別れてて良かった。もし共学だったらと思うと……」

 もしも麻帆良女子中等部が麻帆良中等部だったら、彼女たちの同い年の男がいて、休み時間の間は普通におしゃべりをしていることだろう。
 むつきは教師だから、通りすがりの会話はできても、立ち止まって同じように同じ時間を共有できない。
 今度は逆に、何故むつきがそこまで不安に思うのか、桜子には理解できない。
 桜子にとって当初からむつきを独り占めにするという発想がなかった。
 好きになった時は違うが、即座にひかげ荘を見つけた時には、既にむつきは皆の彼氏だったのだ。
 他の子がむつきの傍にいて嫉妬を知るより先に、共有の彼氏だと知り、それに同意してしまっていた。
 だから、今度は少しだけ桜子がむつきの側に立って考える、少しだけ大人になる番だった。

「うん、まだ怖いかもしれないけど。頑張る。私の処女を先生にあげるね。それで先生が不安にならないなら。女の子としての全部、先生にものになる」
「おう、桜子の全部貰う。処女もその後の人生も、お前の豪運もなんとかする。時にはまた、小鈴とか他の人の手を借りるかもしれんが。俺も頑張る」
「先生、私ね」
「うん?」

 少女の殻を物理的に破る前に、一足先に心の殻が破れる。

「運の良さで幸せになりたくない。私はちゃんと自分で努力して幸せになりたい。部活はもちろん、勉強も少しは。運が良いからじゃなく、私が頑張ったから幸せになりたい」
「そっか、一緒に頑張ろう。この先、何十年と。一生、一緒にいるから」
「椎名桜子は、今日から、今から頑張る。んっ、頑張る」

 怖れ閉じていた両足を、未だふるふる震わせながらではあったが開いていく。
 スカートの下はなにも履かず、乙女の秘部があるにもかかわらず。
 いいよと次に視線を見上げる様にした時、桜子にはご褒美の様に優しいキスが待っていた。
 ちゅっと幸せな音が聞こえ、それを祝福するかのように心臓の音がとくとくと聞こえて来た。

「桜子」
「先生」

 小鳥のさえずりのようにキスを繰り返し、唇、首、乳房と降りるにつれ桜子のさえずりも変化する。
 くすぐったそうに幸せに浸るさえずりから、下半身から来る痺れに侵された女のさえずりに。
 その声に導かれるように、開いた足の付け根から、とろりと愛液が染みだしたのに気付いたのはどちらが先か。
 キスに心を奪われていた桜子は、そこに触れられて初めてむつきの手の存在に気が付いた。
 僅かな若草に守られた縦筋、つっとなぞる様にむつきの指先が撫でつける。

「ぁぅ」

 ベッドの一部が隆起したかのように腰が跳ねる。
 同時に再び足を閉じようとピクリと動いたが、歯を食いしばって桜子はそれに耐えた。
 多少意味は違うが、怖いのはお互い様。
 でもこれぐらいならと胸元にあるむつきの顔を抱きしめ、すがる様にむつきの腰に足を絡ませた。
 とんとんと、頭を撫でるような気安さで、恥ずかしい場所を指で突かれ体がキュッと縮んだ。

「濡れてる。下のお口も、一緒に頑張ろうって言ってくれてる」
「嘘、じゃないけど。頑張る、頑張るから!」

 止めてとは言えず、その先は続けられなかった。
 むつきの指先が石清水のように溢れる愛液を、縦筋全体に広げる様に指先でさすっても。
 二本の指でぬちゃりと筋を花開かされてもだ。

「んぅ」

 その中にあった小さな花弁すら指先でぴらぴら弄ばれ、流石に我慢の限界であった。

「見ちゃだめ、なにしてもいいけど。見るのだけはだめ!」
「分かった、見ないから。もう少し体の力を抜け」

 最大限の譲歩のつもりが、なにか今凄いことを口走ってしまった気がした。
 だが直ぐにそれどころではなくなってしまった。
 ガチガチに緊張した桜子の腕で身じろぎしたむつきが、耐える様にキュッと瞳を閉じた彼女を見下ろす。
 気配でそれを察した桜子は、キスで緊張をほぐして貰えるのかと少し安堵した。
 それならなんとかと唇を向けた瞬間、ふっと耳元にむつきの吐息が吹きかけられたではないか。

「にゃっ、ぁっ。にゃぁ……」

 確かにある意味力が抜けたその時、何かが桜子の中に入って来た。
 知っている、多少太さは違うがそれが男の、むつきの指先だということはわかった。
 自分の細い指とは違う、太くてざらざらしていて無骨な男を感じさせる指だ。
 それが女の子にしかない穴から中に入って来て、また抜けていく。
 膣の入り口をぬぷぬぷと、穴の大きさを確かめられるように何度もだ。

「ぁぅ、にゃ。にゃぅぁっ」
「猫みたい、可愛いな桜子」

 未知ならぬ未知への興奮、または混乱から上げた猫撫で声の感想を耳元でささやかれた。
 恥ずかしいどころではない、今の声を猫みたいと言われ桜子は思い出してしまった。
 今のように部屋のペットの猫が鳴く時は、盛りがついた時しかない。

「あれ、急に締まった……桜子、今何を考えた?」
「違う、にゅぁ。苛めないで、先生。違うの、私は猫じゃない。ぁっ、盛ってない!」

 嘘はいけないと、むつきの指先が第一関節辺りから処女膜を擦り上げながら奥まで突き込まれた。

「ぁっ、うあ」

 胸の先端をしゃぶられた時よりも、もっとずっと卑猥な音が桜子を耳から犯してくる。
 スカートの奥に隠れたむつきの手により、股座から聞こえてくるじゅぶじゅぶという水音。
 リズミカルに時に乱れるそれによって、盛りのついた声が止められない。
 さすがにそんな奥にまで指を入れた事のない場所まで、肉壁を擦られながら弄ばれる。

「盛りのついた桜子がもっとみたい、猫さんになろうか」
「やっ、音が。エッチな音……にゃ、にゃぁ。なお、にゃーおぅっ!」
「良い子だ、もう直ぐ桜子の欲しいものをあげるから。もう少しほぐれたら、赤ちゃんの種をやるからな。お腹に一杯、ミルク欲しいか?」
「にゃぁん、にゃあっ!!」

 既にむつきの中指は根本まで桜子の中に埋没していた。
 むつきがそうしていることもあるが、盛りのついた桜子が飲み込んでも来ているのだ。
 特にお腹一杯ミルクをと冗談めかした時が一番、貪欲にも指先からでもそれを欲するように。
 スカートのおかげで見ることは叶わないが、きっとスカートは月曜日には履いていけないはずである。
 手がふやけるほどの愛液に浸され、中の指先は語るまでもない。
 最初は勢いが良かった桜子の盛り声も、女の色気を帯びた気だるげな声に変わりつつあった。
 なら本当に女に、むつきの嫁になるかと名残惜しいが桜子の中からつぷりと指を抜いた。

「にっ……なんで?」
「ミルクの時間だ、桜子」

 止めないで、そう言いたげにとろりとした瞳で見上げて来た桜子にささやいた。
 今まで目の前の快楽から逃げる様にしがみついていた腕が、ふっと良い意味で力が抜ける。
 良い子だとむつきは愛液にまみれていない方の手で桜子を撫でつけ準備に入った。
 あくまで要望通り、スカートはそのまま両足を抱えて手と亀頭の先端でその場所を探る。
 愛撫に緩急をつけたように、緩やかにまさぐられ桜子が弱々しくもにゃあと鳴いていた。
 その声が途切れたのは、むつきが膣口を探し当てて亀頭の先端を咥えさせた時であった。

「いくぞ?」
「うん、先生来て」

 ぐっと腰をいれた瞬間、亀頭の先端にかかる圧力は挿入を阻もうとする処女膜であった。
 同時に桜子自身も過敏な反応で再び体が緊張したが、むつきはキスでそれを押さえこんだ。
 声でなく唇から直接大丈夫と伝えながら、強引に桜子の処女膜を押し破る。
 唇、抱き付かれた手、触れ合う肌、結合部からブチリとそれが破れる感触が伝わって来た。

「んぐっ」
「一気に行くぞ」

 苦しげな呻きも終わらぬまま、むつきは一気に桜子を貫いていった。
 完全に処女膜が破壊され、桜子の大事な部分を大きなむつきの一物で征服していく。
 スカートの奥でお互いの肌がふれあいぱんっと鳴ったのが、その証拠である。

「いぐ、た。にゃあ」
「頑張ったな、桜子。にゃあはもう良いぞ。そんなことしなくても、十分可愛い」
「痛い、先生。痛いけど、ちょっと幸せ。今の私、頑張ってるよね。先生に気持ち良くなって貰えるよう頑張ってる。頑張って幸せになろうとしてる」
「俺にも頑張らせてくれ、俺も桜子を幸せにしてあげたい。動いても平気か?」

 正直なところ、まだ痛かったが頑張りたいと言われて断れなかった。
 同じ気持ちだから、桜子もむつきの為にこの痛みを我慢して良くしてあげたいと思っていたから。
 心が通じ合ったかのように同じことを言われ、もう少し待ってとは言えない。
 言えばむつきは待ってくれただろうが、頑張りたかった。
 欲を言うならば、一緒にむつきと頑張りたかった、それは後から全て終わってから気づいたことだが。
 桜子は頷いて、自分の中で震える雄の証に少しでも慣れようと大きく息を吸った。

「うん、大丈夫。ぁっ、ああ」

 むつきの一物は根本まで突っ込まれており、頑張る為には一度抜かなければならなかった。
 ずるりと引き抜かれる最中、亀頭がカリ首が桜子の膣壁をひっかいていく。
 猫が壁を引っ掻く様に、流石にそこまで荒々しくはないが賢明さはきっと同じだろう。
 内臓も一緒に持って行かれると思うぐらい、愛液は実際に掻きだされあふれ出す。
 下半身は殆ど痺れと痛みで知覚は難しかったが、溢れた愛液がお尻にまで流れるのだけはわかった。
 一瞬思い出したのは亜子の痴態、いつかこっちも頂かれてしまうのか。
 そんな妄想は次の瞬間には綺麗さっぱり破壊されていた。
 ズンっと破瓜の瞬間よりも雄の生命力にあふれた突き上げが、桜子の中を駆け抜けたのだ。

「はにゃぁっ!」

 もちろん、むつきが破瓜を迎えたばかりの桜子を全力で責めるわけがない。
 優しくゆっくりと挿入したつもりだが、やはりギャップというものはあった。
 桜子からすればなんで過激で荒々しい責めかと、驚いてしまっていた。

「もう少しゆっくりするか?」
「んにゃ、大丈夫。先生のお嫁さんは、頑張りやさん!」

 ならもう一度と、さり気にスピードを落としながらむつきは桜子の中から引き抜いていく。
 余計な刺激を与えぬよう、膣のちょうど真ん中を通る様に。
 一物が大きすぎてそれでも桜子の膣壁を擦り上げるのだけは避けられなかったが。
 これが俺のだからと教え込む様に、ゆっくりと再び桜子の中を犯していく。

「はっ、入って。大きっ、ふにゃぁ……」
「桜子、可愛いよ。桜子」
「名前、呼んで。先生のお嫁さんの名前」
「桜子、俺の嫁さん!」

 苦しげに膣内が痙攣しているのにも関わらず、名を呼ぶたびにキュッと締まった。
 たどたどしいフェラチオのように、むつきの一物から精を貰おうと懸命に頑張ってくれていた。
 なんて健気で可愛い子なのか、お願いされずともその名を呼ばずにはいられない。
 いや名前を呼ぶだけでは飽き足らない。
 名を呼び彼女の膣穴を犯しては、キスをしては犯す。
 その度に可愛い女の子だったり、盛りのついた猫だったりと桜子が様々な顔を見せてくれた。

「にゃっ、ぁぅ。んぁっ、あぁ」

 だが盛りはついても人間で言えば、まだまだ子猫の部類。
 手まんされていた頃よりも、盛りのついた声もトーンが下がって来てはいた。
 頑張り過ぎ、少し気合を入れ過ぎたせいだろうか。
 今日のところはこちらが折れておこうと、むつきから言い出した。

「桜子、もうイキそう」
「にゃぁ……ぁぅ、いいよ。ちょうだい、先生」

 少々気だるげな声と仕草で、桜子は最後の力を振り絞る様に抱き付いて来た。
 それに答える様にむつきも抱き返し、ほんの少しだけ腰のペースを上げる。
 桜子の盛り声を聴きながら、彼女が感じる場所をさぐりながら。
 涎と破瓜の血で一杯の彼女の女の子をグロテスクな分身で犯す。
 パンパンと桜子をベッドの上でつきあげ、むつきの涎が半渇きのお山がぷるんぷるん震える。
 可愛い子猫、盛りがついた猫である桜子の声を餌に、むつきは最後の一押しをした。
 コツンと優しいキス、もちろん精を貰おうと降りて来た子宮にだ。

「にゃ?」

 初めてそこを突かれた桜子は、優しいキスだからこそ気づけなかった。
 だが次の瞬間、身体に強制的に教えられた。

「出すぞ、桜子。出る!」

 優しいキスからちょっと乱暴なキスに変貌する。
 ディープキスをするように亀頭で入り口を強引に開けられ、唾液のように流し込まれた。
 それすら生易しい表現か、あふれ出したむつきの精液が桜子の子宮に迸った。
 ミルクと表現するには粘りが強すぎるそれが、子宮の壁に叩きつけれられては染みついていく。
 桜子のマーキングとは真逆体の表面ではなく、中から匂いを染みつかせるように。

「な、なに。中に熱い、にゃぁん。熱いの、出てる。にゃぁっ!」
「こら、暴れるなって。種付けできないだろ、大人しくしろっての」
「んぐぅ!」

 気だるげだったのが一転、子宮を犯され桜子がその激しい衝撃に暴れ始めた。
 背中は引っ掻かれ、腰が跳ねて子宮口から亀頭が離れそうになって強引に押し付ける。
 種付けは終わってないと、上から伸し掛かり桜子の唇も塞がせた。
 それでも暴れた桜子であったが、子宮を射精された精液で満たされる程に大人しくなっていく。
 力強い雄に屈服するように、その雄の生命力あふれる精液をお腹で受け止め始める。
 むしろ、もっとと欲しがるようにむつきの腰をガッチリ足で抱え込んでさえいた。

「ふにゃぁっ、もっと。先生、出して。私のお腹一杯に、ミルク欲しいにゃあ!」
「ああ、いいぞ。好きなだけ飲め。ミルクの前に、おちんぽってつけてみな」
「欲しい、先生のおちんぽミルク。お腹一杯飲みたいにゃ!」
「そうか、おら。もっと飲め、子猫一杯孕むために。腹いっぱいだ!」

 さり気にいやらしいセリフを言わせながら、むつきは満足感に浸りながら桜子の子宮を満たしていく。
 これでこの子は俺のものだと、征服感といっても良いかもしれない。
 もうお腹一杯とくてりと桜子が脱力するまで、むつきは桜子を手放しはしなかった。
 彼女が脱力した後も、挿入したままで隣で眠る徹底ぶりである。
 そこまでして、相手にもさせてようやく胸の奥のつかえが取れていく。
 もう大丈夫、桜子も他の子も自分のものだと、誰にもとられない。
 今後も一緒に子作りを頑張っていける、もう男として大丈夫なんだと久しぶりにむつきは熟睡することになった。








-後書き-
ども、お久しぶりです。

完全復活というわけではないですが。
最後の桜子がまだでしたので。
あと、何故むつきが性急に食い散らかしたのか謎のままでしたので。
単純に心の傷が治りきってなかったのと、不安だったから。
一人でも寝取られたらむつきは病んじゃいそうです。

あと無闇に長いのは、上手くまとめられなかったからです。

それでは次回は何時か、不明です。



[36639] 第百二十三話 柔らかい体が欲しいと思いました
Name: えなりん◆e5937168 ID:bd0bfbe0
Date: 2014/12/07 19:18

第百二十三話 柔らかい体が欲しいと思いました

 ひかげ荘の夜は不規則だが、意外と朝は規則正しい。
 五月という食を司る女神がいる為、どうしてもそうならざるを得ない部分もあった。
 彼女の好意はもちろん、夜に消費しつくしたエネルギーを補給する為にも。
 また、貴重な土日の朝からフルスロットルで愛し合う為にもだ。
 今日も今日とて、四葉が用意してくれた食事を皆で綺麗に食べ終えたところである。
 人数が人数なだけに、そろそろ食堂の空席が目立たなくなっていた。

「五月、今日も美味かった。俺の胃袋はとっくに掴まれちまったな」
「そうですね。夏休みが明けた頃からは、ずっとそのつもりでしたから」

 これまでの五月だったら、美味しかったと言われた事への返礼をするだけにとどまっただろう。
 しかしむつきの手で女にされたせいか、肝の座り具合がまた一段進化したようだ。
 特に誰かに勝ち誇るでもなく、ただ純粋に事実を述べる様にむつきへとにこりと微笑みかけていた。

「先生どころか、他の嫁一同掴まれている件について」

 冷静な突っ込みを入れた千雨の言う通り、皆が皆、綺麗に目の前の朝食を平らげていた。

「それは仕方がないネ。料理この一点に限って言えば、誰も彼女の研磨に追いつくことは出来ないヨ。挑むのなら、勝ち目がアルもので挑むべきネ」
「ですわね。先生のお嫁さんがこの数になった以上、そろそろ真剣に皆さん自分の武器を見定めなければ埋もれてしまいますわ」
「武器か、それは私の領分のはずだが……意味が違うからな。女の武器と言っても、皆が当然の様に個性的なそれを持っている。エヴァンジェリンでさえ」
「おい、さらっと失礼なことを言うな龍宮真名」

 あやかの言う通り、現在のむつきの嫁は二十人に迫ろうかという人数である。
 何処の子も個性が強いので埋もれてしまうかはさておき。
 アピールポイントは心得ておきたいところだろう。
 真名は微妙に武器の意味が違っている気もするが、むつきをその気にさせる体は誰しも持っている。
 この場合の武器は五月が持つ料理スキルの様に、お嫁さんとしてのスキルという意味だ。
 ずずっと食後のお茶をすするむつきをしり目に、私だけのと皆が考える中で立ち上がる者がいた。

「正妻レースに加わる気がない子はさておき。一席しかない先生の隣を狙う乙女としては、料理一つも譲れないわ。というわけで、五月ちゃん。朝食だけで良いから、時々作らせて!」
「あっ、それなら私も。女子力アピールにやっぱり料理は欠かせないもんね!」
「その気持ちは、分からなくもないかな」

 あやかたちの意見に真っ向から立ち向かったのが美砂や桜子、控えめながらアキラだ。
 特に前者二人はアタナシアに正妻レースを挑んだ為に、正妻に興味がない千雨たちとは少し異なる。
 わいのわいのと、乙女の談義が過熱する傾向を察したむつきは、そっと席を立った。
 唯一の男であるむつきの意見が強すぎる為、嫁は嫁同士と席を立ったのである。
 意見をぶつけ合うことは決して悪いことではなく、その結果をむつきが受け止めれば良いだけだ。
 そろそろと湯呑みのお茶を一気飲みしその場を辞して、管理人室へと向かう。
 今日は午前中にむつみに付き合って喫茶日向二号店の土地の下見、昼からは水泳部の顧問の予定である。
 むつみが来るのは十時頃、それまでは秋の新人大会のエントリーシートでも作るか。
 つらつらそんなことを考えていると、どうやって回り込んだのか廊下の先に一人の少女が立っていた。

「先生、朝食の後に甘い蜜が溢れる異国のデザートはいかがですか?」

 それはややミスマッチな印象を受ける浴衣の裾をドレスのスカートの様に持ち上げ会釈するザジだった。
 浴衣の裾から伸びる健康的な褐色肌を見せつける様にしている。
 口にした甘い蜜が何を指し、何処から溢れるかは、分かりきったことだろう。

「美味そうなのは否定せんが、お前はあの乙女会議には出ないのか?」
「はい、周りのルールにとらわれずに先生を誘惑する。それが私のルールですから」
「本当にこの子は、一度喋ると黒い、黒い」

 それもまたこの子の魅力の一つかもしれないが、むつきとしてはもう少し自重して欲しいものだ。

「せめて、ルールが制定されるその場にはいろ。抜け駆けとか、言う方も言われる方も嫌だろ。俺もそういうので今のひかげ荘が壊れるのは嫌だ。だから、ある程度は皆と歩調を合わせなさい」
「先生のご機嫌を損ねるのは本意ではありません。ここは引き下がっておきますね」
「ああ、そうしろ。あと、今日はちょっと忙しいから。そう言うのも察して、今なら良いだろうって時に誘惑しに来い。アへ顔で気絶するまでしてやるから」
「ふふ、そうやって女の子に期待させて焦らすのが、先生は本当に得意なようで。同じようにあの子たちが抱いてと言って来るまで待っているんですね。いやらしい……」
「酷え言われよう……ん、あの子達?」

 真っ先に思い浮かんだのは木乃香と刹那だが、なんとなく違う気がした。
 次に思い出したのは、別に焦らしたつもりもないが、那波と宮崎のことである。
 いやまさかとザジを見ると、妙な流し目と共にふふっと笑っていた。
 恐らくはビンゴ、誰が焦らした餌を目の前にぶら下げたと、捕まえようとしたのだが。
 大きく広げた両手でキュッと捕まえる前に、するりと抜けられむつきの頭の上で一回転。
 さすがの曲芸手品部、ちょっとたたらを踏んだむつきの後ろでトンっと足をついていた。

「あっ、思わず間違えました。そこはわざと捕まって、近くの部屋に連れ込まれ押し倒されるところ」
「ええい、お前はさっさと乙女会議に行って来い」

 下手に手を出すと、本当に近くの部屋に連れ込みそうになるのでシッシと追い払う。
 間違えたと言った言葉は本心だったのか、少しだけ名残惜しそうにザジは食堂に戻っていった。
 その姿は直ぐに暖簾の向こうに消えたが、早速和美に見とがめられたようだ。

「あれ、ザジちゃん。抜け駆けして先生のところに行ったんじゃないの?」
「いえ、お花を詰みに。偶然途中で先生とお会いし、朝食の後は甘い蜜が溢れる異国のデザートにするかと乱暴に、それはもう乱暴に連れ込まれかけましたが」
「なにそれ、羨ましいやん。うちもトイレに連れ込まれて、お前は俺の精液便所だって乱暴されたい」
「亜子? え、あれ……流石の私でも、嘘と分かるアルよ?」

 羨ましいと言った亜子は平常運転で、古は彼女の普段とのギャップに混乱しているようだ。
 本当にいつかザジにはひいひい言わせて、あの黒さを白く浄化しなければいけないかもしれない。
 まず間違いなく、当人は喜びそうだが。
 ここ最近での特大の問題児だなと今後もザジの動向には注意することにして。
 改めて管理人室へとたどり着いては、むつきはこたつテーブルの前にどっかりと座り込んだ。
 その辺に無造作に放り投げられていた鞄を手づかみ、クリアファイルから資料を取り出す。
 水泳部員の一覧と秋の新人大会へのエントリーシートである。

「さて、あれ……ボールペン、ボールペンがない」

 何枚かの資料をこたつテーブルに置いて、さあ始めようとしたところで肝心のペンがなかった。
 耳かきや爪切りなどが詰め込まれた小物箱にもない。
 そもそも普段は鞄の中に筆記用具があるはずなのだが、忘れて来たのだろうか。

「仕方ない、誰かに」

 誰かが持っているだろうと腰を上げようとした時に、襖を控えめなノックが叩いた。

「おう?」
「失礼します、先生。ボールペンをお持ちしました」

 すっと開け垂れた襖の向こうで正座していたのは、メイド服に身を包んだ絡繰であった。
 持ち上げられた両手には一本のボールペンが乗せられていた。
 わざわざ持ってきてくれたのはありがたいが、タイミングが良すぎはしないだろうか。
 これまでも何度か、何かが欲しい時には凄く良いタイミングで絡繰が現れたことはあったが。

「何か見えてんのか?」
「はい、警備システムと直結されていますので……特に先生がお困りの時は」

 最後の方はごにょごにょと口ごもられたのでむつきには聞こえなかった。
 ボールペンを受け取ろうと近づき手のひらから受け取ったところで気づいた。

「絡繰、お前は乙女会議に……」

 出る必要があるのか、一瞬そんな考えが脳裏をよぎった時にそれは見えた。
 廊下側で正座中の絡繰とボールペンを受け取る為に立ち上がっているむつき。
 視線の角度の差から、彼女の後頭部に突き刺さったままのネジが。
 それを見てあることを思い出した。

(そう言えば、京都で麻雀牌を持ってきてもらった時にしたネジまきの約束。まだ果たしてねえ)

 完全に忘れていたと、今一度絡繰を見下ろしてみる。
 ガイノイドなので表情は乏しいのだが、何かを期待するような目で見ているような気がした。
 あれから一ヶ月近く経つというのに、健気にも。
 ただ彼女の後頭部に刺さったネジがくるくる回っているのは、最低限のアピールなのか。
 つい先ほど、ザジに言われた期待させて焦らしてという言葉が全く否定できない。

「なにか?」

 上から見下ろす様にじっと見ていたせいか、御用でもとしれっと言われた。
 どう見ても御用があるのは絡繰の方なのにそれを後頭部のネジ以外は少しも見せることはない。

「あー……水泳部の秋の新人大会のエントリーシート作るの手伝ってくれ」
「分かりました、失礼します」

 あくまで請われたから、そんな風に事務的に絡繰は管理人室へと入って来た。
 彼女の心情がいまいち分からず、一先ずむつきは彼女の力を借りてエントリーシートを作成する。
 とはいえ、スパコン並みの絡繰の力を借りるまでもない。
 毎年のことなので大会側も学校の情報は把握しており、あくまで参加者一覧を作るだけだ。
 速いも遅いもなく、二年生と一年生の名前を全員記入していく。
 さすがにまだ二十五メートルを泳ぐことがおぼつかない子は、後で意志を確認する必要があるが。
 神楽坂の名前もしっかり記入し、今この場で行える時間稼ぎは終わってしまった。
 結局記入を行ったのは全てむつきで、絡繰には漏れがないかをチェックして貰った程度。
 持ってきて貰ったボールペンをこたつテーブルに置いて、ちらりと隣を盗み見る。

(終わっても残っているってことは、そうなんだよな)

 一度誘いに来たザジを追い返した手前、それこそ抜け駆けに他ならないかもしれないが。
 今回ばかりは目を瞑って貰うしかない。
 根底にはむつきの忘却があり、昨日までの復活記念ハッスル大会にも絡繰を呼び忘れている。
 むつきに出来るのはネジ巻きぐらいだが、それぐらいなら構わないだろう。

「あー、終わった終わった。さて、姉ちゃんが来るまでどうしようかな」

 いかにも時間が余った風に言うと、隣で座布団の上に正座していた絡繰が心なしか前のめりだ。
 後頭部のネジの動きもかすかにスピードアップしており、これはもう確定であろう。

「絡繰、そういや前にネジ巻きしてやる約そ」
「はい」

 いや心なしかではなく、むつきのセリフを喰い気味に返答するぐらいに前のめりだった。

「落ち着け、絡繰。うん、忘れていてすまんかった。今ここで、その約束を果たそうか」
「ぜ、是非……お願いします」

 三つ指ついてお願いしてきそうな絡繰りが、座布団の上で九十度回った。
 むつきの横に並んでいた状態から、背を、その後頭部にあるネジを向けるように。
 なんだかもう、ガイノイドらしからぬそわそわとした雰囲気さえ伝わってくる。
 この子の稼働情報はさっぱりわからないが、外面以外は全く人間らしい。
 そう言えば夏休みの宿題の対価にむつき君人形を渡した時も、彼女だけ貰っていなかった。
 ガイノイドだから、むつきが特別そう考えて差別したわけではなかったが。
 実際には差別に近いことをして仲間外れにしてしまっていた。
 ネジ巻きという普通の女の子ならあり得ぬお願いだが、それでも彼女は女の子なのだ。
 今度からはちゃんと嫁候補として、皆の輪の中に入れなければと決心しながらネジに手を伸ばした。

「んっ」

 ネジにむつきが触れると、くすぐったそうに絡繰が肩を小さく震わせた。
 鋼鉄のボディを持つ彼女の、数少ない性感帯なのだろうか。
 結構大きなネジなので両手でしっかりと握ってから、むつきが絡繰に声を掛けた。

「絡繰、回すぞ」
「はい」

 絡繰がキュッと体を小さくしてその時に備えたのを見て、むつきがネジを回した。
 ガコッと硬い音がして、数ミリしか回らなかった。

「あれ」

 おかしいなともう一度、少しだけ反動をつけたがやはり数ミリ。
 というか、その数ミリもネジの遊びの部分が動いただけでその奥にある何かは動いてすらいない。
 以前、エヴァと一緒に回した時は、あんなにも簡単に回ったというのにだ。
 考えてもみれば、むつきが絡繰のネジを回したのはあれっきり。
 なにかコツの様なものか、特別な方法でもあるのかもしれない。

「絡繰、ネジが回らねえんだけど。これって、コツとか何か手順でもいるのか?」
「コツ……あっ、コツがいりますけれど」
「じゃあ、そのコツ教えてくれ」
「ですが、それは……あの、マスターのご意志に反して」

 むつきがネジを握っているので前だけを向いて、絡繰が何やらしどろもどろに説明している。
 彼女はネジを回して欲しいが、そのコツを教えるなんてとんでもないというところだろう。
 絡繰のネジ回しは文字通りのそれではなく、魔力供給なのである。
 だからネジに触れる手に魔力が宿っていなければならず、それがコツと言えばコツだ。
 しかしそれを知らない、それこそ魔力の存在を知らないむつきにどう教えろというのか。
 勝手に教えたら凄く怒られる、で済めば御の字か。
 エヴァだけに留まらず、小鈴や他の裏を知る人間から総すかんになることは明白だ。

「コツぐらい教えてくれたって、あっ……外れちまった」

 絡繰がわたわたしている間も、ネジを回そうと奮闘していたのだが駄目だった。
 それどころか深く刺さっていたネジが絡繰の後頭部から外れてしまう。

「噛み合わせが悪いだけか? 絡繰、ちょっと穴を見せてくれ」
「あ、穴?! い、いけません。そんな、みだりに人に見せて良い場所では」
「いやらしい穴みたいに言うなよ。言われてみれば、毛に隠れた女の子の穴だが……」

 字面だけ見るとそういう穴に聞こえるが、高度過ぎてむつきには判断つかなかった。
 肝心の目的が果たせないのでは仕方がないので、強行手段である。
 動くなよと耳元でささやいてから、彼女のエメラルドグリーンの髪を指で開いてその奥の穴を覗き込む。
 触れて気づいたが絡繰の髪の毛は妙に暖かかく、それにしては汗の様な湿り気もなくサラサラだ。

「絡繰の髪の毛ってぬくいな」
「排熱の機能が、ふぁっ。だめ、見られて」

 妙に絡繰の声色が色っぽくなり始めていたが、そうなられるとむつきも鬼畜にならざるを得ない。
 彼女の後頭部にはネジ巻き用の穴がぽっかり開いていた。
 暗くて奥が見えづらく、そうすることが当たり前の様にむつきはふっと穴に息を吹き込んだ。

「ひゃぁッ」

 指に掛からず邪魔な髪を払い、中にあるかもしれない恥垢的な汚れを払うつもりが半分。
 もう半分はそうであろうと半ば予想した絡繰の反応を見越してであった。
 結果は語るまでもなく、想定通りの反応が返って来た。
 ネジを巻くというよりも、どうやら絡繰はネジ巻きの穴そのものが性感帯らしい。
 何故という考察は小鈴や聡美の科学班に丸投げするとして、素人はそれだけ知っていれば十分だ。

「こら、動くな。絡繰の恥ずかしい穴が見えないだろ」
「先生、見ないで……」
「手で隠さない」

 弱弱しく後頭部を隠そうとした両手を掴み、膝の上と誘導する。
 本来であれば絡繰の力をむつきがなんとかできるはずもないが、相当に参っているようだ。
 促されるままに、絡繰は両手を封じられたように膝の上に置いて動かす気配はない。
 羞恥は感じているだろうに、時折涙ぐんだような瞳で振り返りそうになりながらも。
 むつきのそういう時だけに発揮される嗜虐心がむくむく育つ。
 改めて絡繰の綺麗で暖かな髪をかき分け、絡繰の恥ずかしい穴を覗き込む。
 意外と奥が深いので底まで見ることは叶わないが、特に底を眺めることに意味は見いだせない。
 意味があるのは、目の前にある穴にむつきの手が届くということだ。
 穴の外周部を撫でる様に、つっとむつきが指をなぞらせる。

「んッ!」

 クラスで四番目に背の高い絡繰がキュッと体を小さくして震える。
 その反応が面白く今度はふっと軽く吐息を吹きかけ、指先を穴の縁に触れさせキュッキュと擦った。

「ぁっ、いや」

 普段無表情で冷静沈着な絡繰だからだろうか。
 小動物が怯える様に身を震わせ、身に迫る何かに抗おうと体を震わせる様はちょっと楽しい。
 ちょっと調子に乗ってネジ穴に触れる様にキスをしてちゅっと音を中に響く様に鳴らしてみた。
 効果はてきめん、もはや人語ではない言葉にならない声を上げて絡繰が悶え上げた。
 あれだけ頑なに膝に置いていた手を口元に当ててその声を抑えるぐらに。
 その様子は普通の女の子ならイッか、失禁ぐらいしていてもおかしくないだろう。
 体は鋼鉄か何かでも、その内面はよほど普通の女の子よりも柔らかくできているようだ。

「せ、先生……ネジ巻きはもう、マスターのお世話が」

 勢い余って前のめりに倒れそうだった絡繰は、片手でなんとか転倒を免れていた。
 どこか上気したような目元が妖しい表情で振り返り、懇願にも似た言葉を呟いて来る。
 言外に、それ以上はと攻められることを回避したいと言っているようなものだ。
 だが甘い、人を男をむつきを相手に感情の機微に対する勉強が足りない。
 これまでお嫁さんたちがむつきにそういうお願いをして、快く許されただろうか。
 返答の先制パンチは、有無を言わさぬネジ穴への吐息攻撃だった。

「ふぁぅ、だめ。これ以上は……」
「茶々丸、エヴァの我がままを聞いてばかりじゃ駄目だぞ。茶々丸だって女の子だ、ヤリたいことぐらいあるだろ。生憎、ネジは巻いてやれなかったが。な?」
「んぁっ!」

 女の子としてここに愛撫が欲しいだろうと、ネジ穴の周辺を優しく虐める。
 本物の女の子の穴にそうするように、デリケートな部分にそうするように。
 茶々丸の返答はもはやその嬌声だけで十分だった。
 回せないネジは要らない、その代りにこの指を使うとむつきが侵入させていく。
 ネジ穴に沿って指を滑らせ内の壁を擦り上げる様にねっとりと。
 時には強めに穴を掃除するかのように指の腹でキュッキュと擦り上げる。

「んぅーッ、ふぁっ。どうし、魔りょ。コツもないのに。ネジ穴を、弄らないでください」
「そんな気持ちよさそうな声を上げてるのに、止めるわけないだろ。ほら、気持ち良いか?」

 指が入る限り奥まで突っ込み壁を擦り上げると、絡繰が耐え切れずに正座を崩した。
 むつきの指から逃げる様に前に四つん這いになったが、彼女も本心から全力で逃げているわけではない。
 絡繰とむつきでは地力が違う。
 逃げようとした振りを、そういうポーズを下に過ぎない。
 抵抗はしたが、逃げきれずされてしまったと心のどこかで納得する為に。
 だからむつきの指はネジ穴の奥で、蠢いては指を曲げて何度も擦り上げる。

「んぅ、んぁ……奥を、ふぁっ」

 もはや意味のある言葉よりも嬌声が多く、絡繰は四つん這いの格好さえ取れなくなっていた。
 腕は崩れ顔から畳の上に倒れ、お尻を高く振り上げた形だ。
 元が丈の短いスカートを採用したメイド服だけに、その中身までさらすぐらいであった。
 もちろん男の矜持をかけて覗き込んだむつきだが、そこには本来あるべき穴もない鋼鉄のお尻だ。
 ちょっと新しい扉をまた開いたむつきだが、まだそこまでには至れない。
 なので逆の手で軽くお尻を撫で、倒れ伏す茶々丸へとこう言った。

「茶々丸、パンツは履こうな。脱がす楽しみがないだろ」
「は、はぃ……」
「良い返事だ。それじゃあ、ご褒美な」
「ぁっ、あーッ!」

 半ば意識も朦朧とした返事だったが、理由なんてどうでも良い。
 むつきは茶々丸の頭をガッチリつかんでネジ穴にキスをしては舌で舐め上げた。
 一瞬だけ衛生面を憂慮しだが、普段から普通の人体を持つお嫁さんたちの全身を舐めているのだ。
 ある意味では茶々丸の方が綺麗かと、ネジ穴の舌が届く場所まで忙しく動かした。

「お願いです、それ以上は……ぁっ、んぅッ!」

 舌の疲れを実感するより早く、限界が訪れたのは茶々丸であった。
 むつきの鼻の頭をかすめるぐらいに大きく体を痙攣させ、激しくイッたように体を震わせた。
 そんな機能があるのか、そもそもこの性感帯は何なのか。
 元からある機能なら小鈴や聡美の脳みそを心配するレベルである。
 だが現実に茶々丸はイッたようで、そのままくてりと土下座でもするように倒れ込んだ。

「茶々丸、どうだ。満足したか?」
「ぁっ……」

 むつきにお尻を見せるような形で倒れた茶々丸の尻をスカートごしに撫でながら問いかける。
 あらゆる意味で初体験だったのだろうか。
 むつき手の動きを敏感に感じ取りながらも、茶々丸からの返答はなかった。
 返答はなくとも、相当に満足したのだろうが、生憎むつきは満足していない。
 いつの間にかここから出せとばかりに、新たな嫁を求めて息子様がいきり立っておられた。

「んなこと言ってもな」

 いきり立つ息子に話しかける様に、無理だろうとむつきは呟いた。
 お嫁さんを相手にするように可愛がった絡繰だが、生憎まだ孕める機能はない。
 すまたをするにしても、茶々丸の鋼鉄のお肌の前には肉棒が摩耗してしまう。
 手こきをして貰うにも間接に皮が挟まらないか不安なのだがと思ったところで気づいた。
 まだはあはあと息を乱す様にお尻を上げて倒れている茶々丸の後頭部である。

「穴は、あるんだよな」

 もう少し冷静だったら、業が深いと思ったろうが既に気分は高揚中。
 思い立ったがキチ日とばかりに、行動に移してしまっていた。

「茶々丸、おーい。もう一度座り直せるか? 正座になって……」
「まだしばらくは、無理かと。過負荷が掛かり過ぎて」
「ならせめて、顔は上げて前を向いてくれ」
「こう、でしょうか?」

 まだこれから自分がナニをされるのか把握していない茶々丸は素直なものだった。
 平にと平伏するような形となった茶々丸の上にしゃがみ込む様にして、その頭に両手を添える。
 先生と振り返りそうなその頭を固定し、位置的に前かがみになって突きいれていく。
 穴の大きさを心配していたが、むつきのそれよりも一回り大きかったようだ。
 そうでなければちょっとした大参事だったことだろう。

「えっ、先生……これ、まさかあぅ!」
「おー、入った入った」
「んぁーッ!」

 甘い雌汁と肉壁に出迎えられることもなく、本当に穴に突っ込んだだけだ。
 あるべき快楽もその先にある新しい命が生まれることもない。
 だがむつきの足下で必死に口を押えて嬌声を我慢し身もだえる茶々丸がいた。
 似ているのは背徳感、亜子が大好きな尻穴でのセックスと似ているだろうか。
 もちろんあちらには快楽が伴うのだが、あるべき場所ではない場所でのセックスという意味では同じだ。
 一心不乱に茶々丸の頭をネジ穴を己の自慢の一物で犯す、犯せないはずのガイノイドを犯す。

「ゆるふぁっ、許し。中は、先生のモノが?!」
「入ってるぞ、俺のが茶々丸の中に」
「中は、口で。口なら先生を満足させられる機能が、ぁっ。だめぇ!」

 茶々丸の懇願がまた嬉しい、たぎる。
 妊娠の心配がいらないからと中で出してと強請るお嫁さん達ばかりだからだろうか。
 中は嫌、口でとレイプを嫌がる子を無理やりしているようで興奮してしまった。
 体は快楽で満たされないが、心の方が満たされ高ぶっていく。

「茶々丸、ちゃんと中で出してやるからな。一杯出してやるから」
「いけません、ぁぅ。そのようなところで、いけまぁぅっ!」
「いいだろ、中で出していいだろ?」
「だ、めぇ」

 狙ってやっているのか、恐らくは必死なだけだろう。
 だがむつきが今一番欲しがっている拒否の姿勢を茶々丸が見せてくれた。
 いくら突き込んでも何も得られない穴にもっと突き込みたくなる、茶々丸の後頭部に下腹部を押し付ける。
 時々、ネジ穴の壁に擦れて痛いか熱いかの時もあるが、小事であった。
 心の高ぶりに従い、背筋をある種の快感がずず、ずずっと這いずりあがって来た。

「来た、出すぞ。中に出すぞ、茶々丸!」
「らめ、中だけは。ぁっ、ん」

 先走り汁で濡れたネジ穴の壁に擦りつけ、少しでもと快楽を求める。
 それだけで十分、後は腰が壊れるまで茶々丸が壊れるまで。
 彼女の頭を両手で掴んだまま腰を打ち付けては、彼女のネジ穴を隅々にまで犯しつくす。
 最後の一滴まで、その戦端が開かれるようにむつきは一際強く彼女の後頭部に腰を打ち付けた。
 そしてもう退くことはない。
 あるのは前進のみと不退転の気持ちで押し付け、それはあふれ出した。

「茶々丸、中に出すぞ!」
「ふぁっ、いや。何か、流れ込んで……ぁッ、いやぁッ!」

 暴れる茶々丸の頭を押さえつけ、ネジ穴の奥に白く熱い迸りを解き放つ。
 その奥がどうなっているのは定かではないが、とぷとぷとそれが溜まっていく。
 既に茶々丸も抵抗することを諦めたかのように動きを止めていた。
 いや、抵抗できなかったというべきか。
 下半身は変わらず四つん這いに近い恰好で、上半身だけがむつきの手によりのけ反った格好だ。
 そのまま後頭部のネジ穴に射精され、瞳のカメラアイは焦点が合わず、だらしなく舌が飛び出している。
 どう見てもアレなあへ顔であり、聡美辺りが見たら興味深い現象だとハッスルしたことだろう。

「ぁっ、ぁぁぅ……」

 射精の波で注がれる度に、うつろに何かを呻くように茶々丸が呟いていた。
 そしてむつきの射精が終わり、後頭部を解放されると同時にその場に崩れ落ちていく。
 まだ瞳には意志のようなものはなく、横に首を傾けるとネジ穴から白くべたつく何かが溢れてくる。
 その様子を見て、息を乱していたむつきもようやく我を取り戻し始めた。

「うおお、思わず絡繰を……だ、大丈夫か。ショートとかしてないか。これどうしたら!」
「ぼ、防水加工は……」
「流石高性能ガイノイド、てか。その心情的には大丈夫なのか。結構嫌がってたけど、憤ってないか。心に傷は負ってないか?!」

 溢れてくるむつきのDNAを本人がティッシュで拭きながら、茶々丸の安否を気遣う。
 途中から頭が吹き飛んで、半ばレイプ染みていた自覚位はあったのだ。

「先生……」
「あ、なんだ。なんでも言ってくれ、俺にできることならなんでもするから!」
「生まれて初めて、ガイノイドにあるまじき柔らかい体が欲しいと思いました」
「お、おう。良く分からんが、俺からも小鈴や聡美に頼んでみるわ」

 全く体に力が入らない茶々丸は、恐らく生まれて初めて人間に奉仕されていた。
 原因はむつきだが、良いから動くなと甲斐甲斐しく体液を拭われ、綺麗にされて。
 体の洗浄という意味では小鈴や聡美に研究の延長として受けているがそれとは違う。
 言ってしまえば前述の洗浄の方が体は綺麗になっているが、心まで洗われる様な。
 そんな思考が浮かぶぐらいに衝撃的な出来事であった。
 だからこそ、茶々丸は生まれて初めて自分の体について疑問を浮かべた。
 どうしてこの体はこんなにも強度が高くて硬いのか、体温というモノがなく冷たい鋼鉄なのか。
 ネジ巻きもネジ穴への愛撫も、むつきはある意味で興奮してくれたが快楽を受けるのは茶々丸のみ。
 何かを受けるか与えるかは一方通行、与えあうことができない冷たい体。

(柔らかく温かい体が欲しい、非合理的な。マスターを守護するガイノイドとしては、失格な思考。だけれど先生と与え合う、きちんと抱いて貰える体が欲しい)

 そんな風に茶々丸が自身の体への趣旨替えをしているとも知らず、むつきは焦りながらお世話する。
 ネジ穴の精液をティッシュで吸い上げ、茶々丸の髪についた精液も同様だ。
 さすがに全てを綺麗にするにはむつきだけでは足りず、この後直ぐに小鈴と聡美に頭を下げることになった。
 そして物凄く、怒られた。









-後書き-
ども、えなりんです。

いやあ、茶々丸は強敵でした。
カッチカチの茶々丸を籠絡する手があまり思いつかず頭絞りました。
そして色々爆発しました。

ネジ巻きの約束 → むつきは魔力ない → ネジ巻きの穴はある → 穴があるなら大丈夫

本当、作者の頭が大丈夫か心配するレベル。
もしくは球体関節がお好きな方からすれば序の口なのでしょうか?
コレガワカラナイ……
あとネジ穴に茶々丸の柔らか暖かい髪の毛をいれて摩擦緩和すればよかったと後で気づきました。

とりあえず、茶々丸には柔らかボディを手に入れて貰います。
ロリボディに換装可だったり、汎用性は高いはず。

そろそろ日常のお話を書いていきます。
刀子のケジメだったり、そろそろ中間テストや体育祭、
あと本文でも書きましたが水泳部の新人大会も。

それでは次回は未定です。



[36639] 第百二十四話 部活がないと時間が余ってしょうがないのよ
Name: えなりん◆e5937168 ID:bd0bfbe0
Date: 2014/12/30 21:21

第百二十四話 部活がないと時間が余ってしょうがないのよ

 それは一枚の集合写真であった。
 むつきのお嫁さんよりも年齢が上の妙齢と言って差し支えない女性たちの写真である。
 写真には黒いマジックで矢印が引かれ、三人の美女の名前が添えられていた。
 一人はまだ高校生で通じそうな幼さの残るショート髪の女性しのぶ。
 もう一人は同じ黒髪ショートながら凛とした雰囲気のある素子。
 最後は長瀬の様な糸目の愛嬌のある顔立ちの女性でみつね。
 年齢や雰囲気が異なるが美人という共通項を持った女性たちの写真を手に瀬流彦は打ち震えていた。
 なにしろそれは以前からむつきが約束していた瀬流彦の合コンの相手の写真だったからだ。

「乙姫先生、もう一生ついていきます!」
「止めてください。普通に迷惑です」
「いや、これはそう言いたくなりますって。綺麗な人ばっかり」

 今にも感涙しそうな瀬流彦の手元の写真を覗き込み、二ノ宮の女性視線からも合格らしい。
 写真は、昨日の日曜に喫茶日向の二号店予定地の下見に来たむつみから借りたものだ。

「しのぶって子が二十二の大学四年生、素子って子とみつねって子が、二十五と二十八の社会人」
「年下から年上まで、しかも可愛い系から凛とした美人まで。これはレベルが高いわ」

 瀬流彦はもはや言葉もないようで、成程と相槌を打ったのは二ノ宮だ。
 これは喋るつもりはないが、学生時代には全員むつみと同じくとある男に惚れていた経歴の持ち主たちだ。
 それ以外全くと言って良い程に恋愛に縁がなかったが、むつみの結婚を知ってこのままではと思い始めていたらしい。
 だからむつきからの合コンの開催は向こうにとっても渡りに船だとか。

「でもこれ、意中の相手が他の男と被ったら紛糾ものですよ」

 当然と言えば当然、二ノ宮が素朴な疑問を口にすると、それはまずいとバッと瀬流彦が写真から顔を上げた。
 その視線の先はむつき、つまりはなにか縋る様な目つきでもあった。

「まあ、他の男の参加者は決まってないんですが……」
「慈悲を、お慈悲を」

 そうは言っても向こうの女性の意向を知るむつきとしては、下手な男はそろえられない。
 とはいえ学生時代とは違い、未だに繋がりが残っている者といえば多くはなかった。
 今にも縋り付いてきそうな瀬流彦をその場に残し、一時保留一時撤退である。
 というか、普通に朝のホームルームの時間となっていた。
 二人はまだ担当クラスがないので気楽なものだが、むつきはホームルームにかねばならない。

「それじゃあ、詳しい日時はまた。たぶん、中間テスト後になると思いますけど」

 それだけ言い捨て、むつきは瀬流彦から逃げる様に職員室を飛び出した。
 相変わらず騒がしいのだろうと思って二-Aの教室に向かう。
 中間テストが近いからと言って殊勝に勉強している者がいるかどうか。
 亜子辺りは医者になる目標があるのでアキラ辺りを巻き込んで勉強しているかもしれないが。
 そう思っていたのだが、何故か教室が近づいても普段の騒がしさが伝え聞こえてこない。
 むしろまだホームルームが始まっていない隣の二-Bの方が騒がしいぐらいであった。

「え、なにそれ怖い。ほーら、席につけ。ホームルーム、始めるぞ」
「先生、たすけてぇ!」
「助けてください!」
「うわーん!」

 一応、普段通りの言葉と共に教室に入ると、小さい影に三つ連続してぶつかってこられた。
 その小さな影とは鳴滝姉妹と佐々木である。
 まさかこのクラスでイジメと思ったがそんなことがあるわけもなく。

「先生、亜子がアキラが……ゆーなまで勉強してて、お喋りしてくれない!」
「楓姉も、他の皆も自習なんかしてて怖い、アレはニセモノだ。皆を返せ!」

 佐々木や鳴滝姉の風花に言われて教室を眺めると、そのままその通りだった。
 全く静かにシンとして、鉛筆やシャープペンシルを走らせる音だけがというわけではない。
 適度にお喋り、お互いに教え合ったりしてほとんどの子が机にノートを広げていた。
 確かに普段の二-Aを知る者からすれば、ちょっとした異次元かもしれないだろう。
 だが中間テストを控えた学生としては、そこまでおかしな姿でもないはずだ。

「いや、ホームルームで指摘するつもりだったが。来週は中間テストだぞ。少しぐらい勉強しろよ」
「なんで? ぁ、痛ッ」

 むつきの指摘に何も考えずに何故と問い返した佐々木にはチョップをプレゼントしておいた。
 唇を尖らせた彼女をシッシと追い払い、確かにこれは不気味だと思いつつ教壇に立った。

「その様子だと、大半は来週が中間テストだって認識はあったみたいだな」
「まあね、私はどうでも良いけど。先生ラブののどかがね。トップテンに入ったらデートでもしてあげなよ。乙女の頑張りに免じてさ」
「のどかの恋を応援しているようで、墓穴を掘ってるですよパル。のどかと那波さんの成績はお互いに譲らない距離、それはつまり那波さんがトップテンに入れば……」

 早乙女の言葉にチラッとむつきを見上げてからポッと顔を火照らせた宮崎であった。
 だが次いで呟かれた夕映の言葉にハッとして那波と顔を見合わせてもいた。

「あらあら、のどかさん負けませんよ」
「わ、私だって負けない」

 バチバチと激しい睨み合いではないが、お互いをライバル視した乙女の攻防である。

「あのな、俺の意見は無視か」

 早乙女の無茶ぶりはさておき、他の面々も大なり小なり理由は同じようなものであった。
 テスト前は例外なくむつきのお嫁さんたちはセックス封印期間となる。
 程度の差はあれ、ならばと少しでも良い点を取ってご褒美を貰おうとしていた。
 良くやるわという美砂や桜子を見て呆れる釘宮の表情から、まず間違いないだろう。
 本来は自分の為に勉強するものだが、ご褒美が欲しいのならしょうがない。
 良い点を獲った子は優先的にハメ倒してやろうと、心に刻んでおく。

「目標があることは良い事だが、建前としては自分の為に勉強しろよ。あと、やらないのも駄目だが、やり過ぎるのも駄目だ。和泉は前科があるから、程々にしとけ」
「あんな無理は続かへんよ。今回は順位のキープが目標やから」
「だからって、免罪符が出たみたいな顔すんな。この雰囲気の中、全く勉強してなかった佐々木や早乙女、鳴滝姉妹に春日あたり」
「最低限はやるっすよ。夏休み明けのアレみたいなのは、勘弁なので」

 他と同じようにギクリとした春日だが、机の上には曲がりなりにもノートが広げられていた。
 トラウマは言い過ぎだが、彼女にとってアレは良い薬になったようだ。

「連絡事項は……あと、中間テストの一週間前だから部活も禁止な。テストが開ければ、運動部は新人大会、文化部は発表会。それから体育祭だな。それを楽しみに、ちょっとだけ頑張れ。以上」

 むつきがそう締めくくると、大半の者が再び机の上のノートや教科書に目を落とし始めた。

「ねえ木乃香、寮に帰ったら刹那さんを交えて勉強会しない?」
「はえ、明日菜の口から勉強会なんて」
「バイト止めちゃったから、部活がないと時間が余ってしょうがないのよ」

 あの神楽坂でさえテスト前だからと、同室の木乃香に誘いをかけていた。
 だがその木乃香の返事は即答されず、驚きに包まれている。

「ふふ、私も問題はありませんよ。では夕食の後にお邪魔させて頂きます」
「明日菜が頑張るんやったら、私も頑張らんとな。時間が余ったから、ね」

 少しばかり席は離れていたが、刹那も明日菜の声が聞こえていたので約束を取り付ける。
 なら問題なしと木乃香も、含みのある呟きを残していた。
 その理由は、約束をした木乃香や刹那へと視線を向けていない明日菜だ。
 彼女が視線を向けていたのは、教室の檀上。
 話しかける理由に困らないとばかりに、むつきに詰め寄る那波と宮崎にあった。

「せ、先生……」
「ご質問が」
「はいはい、お前ら本当にわからないから聞きに来てんだよな?」

 仕方がないと呆れながらも対応するむつきを、これまた呆れたように明日菜は見ていた。
 元から勉強が嫌いだった明日菜が、時間が余ったからなんて理由でテスト前に勉強するはずがない。
 うちらのお婿さんはモテモテやと、にこにこご満悦の木乃香であった。









 その日はずっと、二-Aが真面目にテスト対策を行っている話題で持ち切りであった。
 授業にやって来る先生が皆、その静けさに驚き、次に休み時間でも机に教科書とノートを広げていることに驚いた。
 大半の人間は、むつきのご褒美目当てだが、それは言わなければ分からないというものだ。
 一学期に学年最下位を脱出したが、次は真ん中、下手をすれば上位かと今から順位発表のトトカルチョが盛り上がりそうな気配である。
 当の本人たちはそれこそ珍しく、その話題にすら触れずにテスト対策に打ち込んでいたが。
 それは寮に帰ってからも変わらなかった。

「んー……っはぁ、疲れたぁ」

 現在時刻は午後九時、小さなテーブルの前で女の子座りをしていた神楽坂が軽く伸びをしていた。
 部屋着のシャツが軽く悲鳴を上げるぐらいであり、それだけ体がなまっていたのだ。
 食後から二時間、わき目もふらずに教科書とノートに視線を巡らせ、気が付けばこんな時間である。
 伸びの途中であくびが出たのは、バイト時代には既に寝ている時間帯だったからであった。

「もう、九時か。木乃香と刹那さんは、お風呂どうする?」
「今なら空いとる時間やな。私は見たいドラマあらへんし、せっちゃんは?」
「はい、私も構いません。ドラマは見ない方ですから」

 どちらかというと時代劇の方がという声はしりすぼみであった。
 共用の大浴場は夜十時まで使用が可能だが、夜の九時から十時は空いている時間帯なのである。
 何故なら今日のような月曜日ならば、月九のドラマがやっているからだ。
 だからドラマを見ない派としては、九時以降の一時間がねらい目なのは常識だった。
 刹那は部屋が別なので十分後に脱衣所でと約束して、一旦自分の部屋へと帰っていく。
 木乃香と神楽坂も刹那を見送ってから腰を上げて、大浴場へ行く為に準備を始めた。
 風呂桶にタオルや洗顔と言ったセットを詰め込む。
 大浴場には普通の銭湯のように据え置きのものがあるが、それを使う者は殆どいない。
 使うとしても偶々、自分のお気に入りが切れてしまった時などである。

「明日菜、ええ?」
「いいわよ」

 お互いに準備が終わると、部屋の電気を消して寮の部屋を出た。

「お、なに。木乃香たちもこれからお風呂?」
「あとでせっちゃんも来るえ。そういう美砂ちゃんたちも?」
「勉強に疲れた体を癒しに行くのだ。今なら空いてるしね!」
「ああ、月九のドラマが」

 近くの部屋から殆ど同じタイミングで出た来たのは美砂たちであった。
 どうやら桜子の言う通り理由は同じものであるが、何故か釘宮だけがさめざめとしている。

「良いじゃん、あんな内容ペラッペラの嘘くさい恋愛ドラマ」
「あんたはそうでも、私は楽しみにしてんの」

 理由はもはや語るまでもなく、釘宮一人がドラマを見たかったようだ。
 ただし五人一緒に歩き足手も一人で部屋に戻るつもりはないようであった。
 特に別れて行く理由も思いつかず、そのまま五人で大浴場へと向かう。

「ていうか、柿崎。アンタ、ああいうの好きじゃなかったっけ?」
「ちょっと前まではね。でも、今の彼氏と付き合う様になって冷めちゃった。嘘くさい、綺麗ごとばっかり。だいたい、格好良くて隙がない完璧超人のどこが良いのよ。可愛げがない」
「だよね、私も乙姫先生を好きになってから美砂の言うことがわかるようになったかな。それって本当の自分を見せてくれてないってことだよね」
「はいはい、ご馳走様。ご馳走様」

 表向き桜子は違うが、二人の惚気にも慣れたとばかりに釘宮が両肩を竦める。
 そのまま最近のドラマの詰まらなさに愚痴り、時折釘宮が反論しつつ大浴場へと着いた。
 五人でぞろぞろ歩いていたせいか、部屋にいた真名と連れだってやって来た刹那の方が早かったようだ。
 二人は既に部屋着を洗濯籠に放り込み、お風呂セットを持って浴場に向かうところであった。

「せっちゃん、お待たせ。はよ、脱がんと」
「慌てると転ぶぞ、近衛。刹那、私は先に行っている」
「ああ、すまない龍宮」

 あせあせと慌てた木乃香に一言注意して、真名だけ一人先に浴場へと向かった。
 彼女は取り立てて一緒に入る約束をしたわけではないが、そこは仲良し二-Aである。
 真名を待たせてはいけないと、慌てない様に部屋着を脱ぎ始めた。
 元から女子寮と言う名の女の園なので多少はしたなく、部屋着のズボンを脱ぎ損ねてケンケンしたり。
 後は個々の性格で、木乃香は脱いだ服も丁寧に畳み、他はどうせ洗うからと無造作だったりだ。
 素っ裸になるとタオルで申し訳程度に陰部を隠し、お風呂セットを片手に突撃である。
 脱衣所と大浴場の仕切りの引き戸を開いて、霧の様に来い湯煙に出迎えられた。
 先頭に立った神楽坂が軽く周囲を見渡すと、白い湯煙の奥に褐色肌の龍宮が見えた。

「龍宮さん、隣良い?」
「断るまでもないさ」

 洗い場では真名が長い髪を洗っており、隣に神楽坂が陣取った。
 さらに刹那、木乃香と続いて美砂と釘宮、最後に桜子である。
 他にも場所は開いているのだがなんとなく場所を詰め、各々自慢の髪や体の手入れを始めた。
 こういう時、流行に敏感な美砂や桜子、釘宮が良く喋る。
 どこそこのメーカーが良かった、使うと髪の艶が違うなどなど。
 あまりそう言った本を読まない神楽坂たちは、こういう場が貴重な情報源でもあった。

「じゃーん、今日の秘密兵器」
「美砂、アンタまた新商品に手を出したんだ。お小遣い大丈夫なの?」
「にゃはは、美砂は最近お小遣いの大半を……ねえねえ、龍宮さん。それなに?」
「くっ、流石にお前の勘は見逃してはくれないか」

 今日の美砂の一押しの途中で、ふっと視線を逸らした桜子が軽く覗き込んで言った。
 その視線の先は、真名のお風呂セットの中にある一本のローションのようなものである。
 真名としては出来れば秘密のままにしておきたかった本来の意味での秘密兵器らしい。
 だが桜子の指摘によって皆の視線を集めてしまっており、秘密のままというわけにはいかなそうだ。

「これはザジに貰った香油だ。私と彼女は出身国が近くて、私の体質にも合うだろうと」
「ザジさんの」
「香油?」

 真名の言葉に真っ先に反応したのは、美砂と桜子であった。
 その脳裏には、先日ひかげ荘の温泉で大興奮してザジに襲い掛かるむつきが思い出されていた。
 ひかげ荘は影の支配者である小鈴の手により、大抵のセックスは記録されている。
 持ち出し厳は禁だが、頼めばDVD化したものを貸して貰えるのだ。
 もちろん、ザジがひいひいよがり狂ったセックスは皆の興味を引いて美砂も桜子も見ていた。
 ザジがよがり狂う映像と共に、むつきが大興奮した香油のことも知識として仕入れていたのだ。

「龍宮さん、ちょっとお願いが」
「皆まで言うな。バレた以上は隠さないさ。神楽坂たちも使ってみるか? 美肌効果に、気になる男を誘惑できるフェロモン効果も」
「お願いします!」
「明日菜さん……」

 美肌はまだしも、気になる男を云々は大層神楽坂の気を引いたようだ。
 ほぼ即決、真名の言葉が終わるか終らないかのうちに彼女の手を両手で握っていた。
 今更神楽坂の想い人が誰かなどは、刹那の乾いた笑いを見れば誰だかわかるというモノであった。
 手始めに神楽坂が真名からレクチャーを受けて、体を洗ってから香油を肌に染み込ませるように塗り始める。

「んっふっふ、テストの前後で変わった美砂ちゃんの美肌に彼氏大興奮。襲われちゃったら、どうしよ」
「にゃはぁ、私は乙姫先生になら襲われても良いかな」
「先生に、たか……ところで、フェロモンってなに?」
「匂いのようなものさ。女の色香と言うだろ?」

 よがり狂わされたらどうしようと、楽しげに香油を肌に染み込ませる美砂と桜子。
 目的は同じながらも、まだその先まで詳細には想像できていない神楽坂は疑問符を浮かべていた。
 真名が説明するも、理解できているのか。

「せっちゃん、ぬりぬりしてあげるえ」
「あん、このちゃん冷たい。おかえしです」
「はあ……色ボケ空間。独り身は寂しいわ。未来の良い男の為に、磨いておきますか」

 どうせならと木乃香や刹那もそれに加わり、美肌にはと結局釘宮も折れた。
 そしてその香油を使ったことを後悔するのは、消灯時間が過ぎた頃のことであった。









 勉強もやり過ぎては逆効果。
 今朝方にむつきに注意された通り、お風呂上がりにまた一時間ほど勉強してお開きである。
 夜の十一時になる頃には、神楽坂は二段ベッドの上にある布団の中だった。
 人生で一番勉強した一日だったからか、なかなか寝付けないでいた。
 お風呂上がりから一時間以上たっても身体はぽかぽか熱いぐらいだ。
 頭を使い過ぎて眠れないのか、ころころと寝返りをうってもさっぱり眠気はやってこない。
 枕元の時計を暗がりの中で目を細めてみると十二時になろうかというところであった。

(眠れない……身体が熱いし、なんだろ)

 むしろ胸の奥が下腹の辺りがキュンキュン、悶々ともどかしい感じがする。
 眠れないことでついたため息の吐息は熱く湿り、何度目かの寝返りを行う。
 寝返りの度に肌の上を滑るパジャマの生地がむずがゆく、ブラジャーの奥の乳首が硬くなっていた。

「なにこれ、んっ」

 ブラジャーとのかみ合わせが悪いのかと、少しズラしてみれば硬くしこった乳首と生地が擦れる。
 普段はそれが痛かったりするのだが、何故か今はそれがとても気持ち良く感じられた。

(やだ、私感じてる。凄く、オナニーしたい)

 さすがにここまでくれば初心な神楽坂でも、何故か自分が性的に興奮していることがわかった。
 水泳部の先輩にオナニーを教えて貰ってから、三日に一度はしているのだ。
 時々ではあったが、無性にオナニーしたくなる日があることも知っていた。
 今の自分の身体は熱く火照り、乳首が勃起し、陰部の奥が刺激を求めている。
 勉強し過ぎた反動で、体がストレスを発散したがっているのか。

(でも下には木乃香と刹那さんがいるし)

 寮には各自の部屋を行き来して良い時間が、消灯時間とは別に定められている。
 風呂上がりも一緒に勉強していたのだが、気が付けばその時間を過ぎてしまっていたのだ。
 だったらと木乃香が一緒に寝ようと刹那を誘い、そのまま二段ベッドの下で寝ていた。
 普段でさえ同居人の木乃香にばれない様に気を付けているのに、その相手が単純に二倍である。
 今からトイレに長時間こもるのはバレた時の言い訳が大変であった。
 かと言って、このまま至近距離とも言える二段別途の上で始めるわけにもいかない。

(寝てる、よね?)

 始めるわけにはいかないと思いつつも、神楽坂は布団に耳を押し付けては耳を澄ませていた。
 左手は邪魔なブラジャーを脱ごうと背中に回り、右手はお腹を滑りながら下腹部へ移動中。
 頭とは別に体は既にオナニーをする為に、動き始めていた。
 寝息一つ聞こえない、大丈夫二人は寝てると喜んだその時であった。

「このちゃん、だめ」
「だって、身体が熱いえ。せっちゃんもやろ?」

 小声、掠れ途切れてしまいそうな程に小さな声が二段ベッドの下から聞こえて来た。

(木乃香に刹那さん、まだ起きて……ていうか、私だけじゃなかったんだ)

 勉強し過ぎるとオナニーしたくなるのか。
 大浴場で体に塗りたくった香油が原因などとは、考えもつかない神楽坂であった。

「神楽坂さんが……」
「大丈夫、明日菜は一度寝たら起きへんから。だってもう、せっちゃんぬれぬれやん」
「このちゃん、触ったら。ぁっ」

 なんだか熱くないと二段ベッドの上から身を乗り出そうとした神楽坂はその動きを止めた。
 二人が眠れないねと小声で会話しているだけなら良かったのだが、艶のある声が聞こえたからだ。
 しかも木乃香は神楽坂が眠っている前提で話しており、ちょっと名乗り出づらい。
 オナニーしたいと思いつつ、何故か神楽坂は息をひそめることに決めてしまった。
 なにか思うところがあったのだ。
 それはオナニーを教えて貰った日に見た、亜子とアキラの痴態が頭の隅にあったからかもしれない。

「だめや、言っといてせっちゃん乳首立っとるえ。こりこりにしこって、吸って欲しいえ?」
「このちゃん、意地悪せんといて。ちゅうちゅう、ぁっ。このちゃん、もっと強く吸って」

 小さかった声は次第に大きく、ぴちゃぴちゃと何かを舐める音が聞こえて来る。
 確定、神楽坂の頭のなかではかつて見た亜子とアキラの女の子同士の痴態がよみがえっていた。

(これ、つまりそういうこと。ていうか、木乃香と刹那さんってそう言う関係だったの?!)

 あわわと暗がりで顔を真っ赤にしながら、明日菜はうつ伏せになって枕に顔を突っ込んでいた。
 それでも防げない耳には、木乃香に胸を吸われて喘ぐ刹那の声が聞こえてきている。
 いや耳を自分で塞げばまだマシなはずなのに、むしろ耳をそばだてていた。

「せっちゃん、キスしよ」
「んぅ、このちゃん好き……今度はうちが、このちゃんの可愛いおっぱいを」
「ぁっ、せっちゃん。はぅ、かわええ」

 攻守交代、再びピチャピチャと舐める音が響き、今まで聞いたこともない声で木乃香が喘ぐ。

(木乃香、そんな声出すんだ……じゃなくて、止め。今更、どういう顔して二人の前に。というか、二人だけずるい。気持ちよさそうな声を聞かされるだけなんて。バレちゃう、バレちゃうから!)

 元から体が求めていたのに、直ぐ近くで喘ぎ声を聞かされてはたまらない。
 最初は止めないとという思考であったのに、神楽坂は自分が気持ち良くなる方に流されていた。
 最後の抵抗ゆえか、顔を伏せていた枕に噛み付く様に歯を食いしばり、腰を持ち上げる。
 出来るだけバレないように、そう願いながら自分の体に手を伸ばしていく。
 左手はやや強引にブラジャーをずらし、刹那が木乃香の胸を舐めるリズムに合わせて揉みあげる。
 まるで二人の痴態に自分も混ざっているかのごとく。

(やだ、もう濡れてる……木乃香と刹那さんがエッチなことする声で、オナニーしちゃう)

 胸を愛撫する左手とは違い、右手は本命たる快楽発生地点へ一直線。
 今更パジャマの上からなんてまどろっこしいことはしない。
 荒っぽくパジャマのズボンを下げ、お尻を突き出したまま右手はパンツの上をなぞる。
 指先で何度か割れ目をこすこすとなぞり、腰の震えと共に割れ目の中に指をじゅんっと埋めた。

「ふぅ、んくぅっ」

 声は挙げちゃ駄目と、枕をかみしめながら神楽坂は自分で自分を愛撫していく。
 胸を柔らかに揉んでは指先で乳首を摘み、刺激を与える様にこねる。
 最初はパンツごしに触れていた局部も、もどかしいとばかりに指はその中に入り込んでいた。
 愛液が染みだす割れ目に指を埋め、自分の指を何かの代わりであるかのように擦り上げる。

「せっちゃん、シックスナインしよか」

 そう木乃香が呟くと、二段ベッドの下がごそごそと騒がしくなった。

(シックスナインって、ああ……わかんない、木乃香はなにをされてるの。指いれて良い? 良いよね?)

 今再び、これまでより大きく何かを舐める音がそれも二つ同時に聞こえて来た。
 まだまだ性の知識が浅い神楽坂には、二人がどういう体位なのか想像することすらできなかった。
 ただとにかく二人が裸で抱き合い、もういっそ凛とした雰囲気の刹那にモノが生えた設定で妄想する。
 男が勃起した一物を、もちろん見たことはないのだが。
 一物が生えた刹那が木乃香に挿入する、もうそれで良いと神楽坂は決めた。

「んぅっ、んっ……んー」

 木乃香と刹那がお互いを舐め合う音を脳内で変換し、それをオカズにオナニーを繰り広げる。
 既に神楽坂の指は一本だけだったが、膣の中に入ってしまっていた。
 普段はむつきがおかずなだけに、親友や友達をおかずにしたことで異常に興奮していた。
 噛みしめた枕は涎でべとべとで、脱ぎ損ねたパンツも以下同文であった。
 ただ今は親友をおかずにする背徳感で頭がいっぱいで、声を潜める意識も半ば吹っ飛んでいた。

「ぁぅ、ぐっ……んっ、んっ」

 普段よりスムーズに、より深く指が膣の中にうずもれていく。
 気持ち良い、とにかく気持ち良い。
 愛液にまみれた指を深く受け入れる度に腰が打ち震え、もっともっと奥に入れたくなる。
 普段は奥に入り過ぎることが怖いが、今はそんな恐怖さえなかった。
 ただただ気持ち良くなりたい、オナニーで絶頂したい。

「いぐ、うぅ。ぁっ」

 来たと、その絶頂が来たと神楽坂は腰を跳ねあげグッと枕をかみしめた。
 そのまま思い切り枕に顔を埋められたのは僥倖だった。

「んぐぅ、んぅッ!!」

 絶頂の悦びの声までも枕に埋め、体全体が悦びに打ち震えていた。
 既に指は根本近くまで膣の中に埋もれており、自分が指に吸い付いているのがわかった。
 搾り取る為に、男のアレから搾り取る為にと気づいてまた絶頂する。

「ぁっ」

 真っ白な大きな波が過ぎ去り、小さなさざ波が打ち寄せ身体が小さく痙攣し続ける。

(イッた……今までで、一番気持ち良かったかも。ぁっ、でもまだ)

 枕に涎をたらし、頭が真っ白になり視界までぼやけるなかでもまだ体の熱は収まらなかった。
 普段は一度イケば収まるのに、入ったままの指をまだ膣壁がちゅうちゅうすいついていた。
 もっと欲しい、まだ欲しいと体が快楽を求め続けている。
 何故だろうとは、もう神楽坂は考えなかった。
 理由はどうでも良い、気持ち良いからオナニーをする。
 愛液にまみれていない左手で枕もとの携帯電話をとり、何時ものおかずを取り出した。
 上半身裸の水泳着姿で撮られたむつきの写真であった。

「ぁぅ、乙姫先生……先生。私結構、胸あるの。先生は大きな胸は好き?」

 ブラジャーが半脱ぎの胸を自分で揉みしだき、携帯電話の写真へとささやきかける。
 想像の中で答えられた言葉に顔を赤らめ、膣の中に入ったままの指をくにくに動かす。

「エッチ、私が好きなのは高畑先生なんだから、勘違いしないで。好きなのは、好きなのは」

 普段とは異なるおかずでオナニーしたせいか、普段のおかずがより美味しく感じられる。
 また一つ、オナニーの仕方を開拓した神楽坂であった。
 そのせいで、完全に声を潜めることを忘れてしまっているわけだが。
 元より、神楽坂が起きていたことは、二段ベッドの下の二人は気付いていた。
 あれだけ激しくオナニーすれば、ベッドが軋むのでわからないはずがない。

「明日菜、何時もは一回戦だけやのに。燃えとるなあ。可愛ええ。いつもああやって、高畑先生と乙姫先生の間で揺れとるんやえ?」
「うー、このちゃん」

 シックスナインでお互い愛し合っていたというのに、神楽坂の名を出された刹那が膨れる。
 捨てないでと縋りつく様に、刹那が体位を戻してキスをして頬ずりを始めた。

「嫉妬するせっちゃんも可愛ええよ。でも、なんで今日はこんなにムラムラするんやろ」
「恐らくは、あの香油が体質的に……」

 刹那はザジや真名の正体を知らないが、なんとなく察しはついていた。
 元からむつきを誘惑できるということは、軽い興奮剤作用もあるのではと。
 絶対に明日問い詰めると決意しながら、刹那は組み伏せていた木乃香を血走った眼で見下ろした。
 肌蹴られたパジャマの胸元、やや強引に脱がされたブラジャーの奥から白い胸がこぼれている。
 気恥ずかしそうに顔をそむけながらも、木乃香の瞳は流し目で刹那を誘っていた。
 意地悪したぶん、今日は刹那が刹那のしたいようにして良いのだと。

「このちゃん!」
「やーん、せっちゃん目つきが嫌らしいえ」
「このちゃんが、このちゃんがいやらしく誘うから。うち、うちぃ!」

 刹那が愛しいお嬢様である木乃香にむしゃぶりつき、二段ベッドの下を軋ませる。
 一方でオナニーを止められなくなった神楽坂も二段ベッドの上で艶のある声を上げていた。
 火照る身体に任せるばかりで、もはや声を潜める事すら忘れている。

「あっ、んぅ。そんな所、汚い。先生、触っちゃ。あんっ!」

 全く自重しない喘ぎ声が三つ、深夜を超えても二段ベッドの上と下で響き続けていた。









-後書き-
ども、えなりんです。

瀬流彦の合コン相手は、ラブひなからこの三人にしました。
三人はむつきの結婚を期に、そろそろ引きずってる場合じゃないと考えた感じです。
年齢設定は、独自のものですがむつみが二八、九だったはずなので逆算しました。

明日菜は攻略に時間がかかるので、どうしてもオナニーネタになってしまいます。
もう二話ぐらいだけ、これひっぱります。
物凄くしょうもない話ですが、元々そういう話ですしね。

それでは次回は未定です。



[36639] 第百二十五話 感謝してるけど、殴って良い?
Name: えなりん◆e5937168 ID:bd0bfbe0
Date: 2015/01/10 20:05

第百二十五話 感謝してるけど、殴って良い?

 アレだけ高まっていた神楽坂の集中力は、見るも無残に散り散りとなってしまっていた。
 三限目の授業であるむつきの社会科の授業になってもだ。
 神楽坂は机にうつ伏せになるようにして頭を抱えっぱなしであった。
 昨晩のあの後、厳密には五回ぐらいイッた後には気絶して朝になっていたのだ。
 結局、自分の痴態を木乃香や刹那にバレたのかは分かってはいない。
 ただ朝食時の刹那の余所余所しさを前に、バレていないと考えられる程に楽観的でもなかった。
 興奮し過ぎて記憶はおぼろげだが、最後の方は乙姫先生とか、見ないでとか叫んだ気もする。
 妄想は加速するところまで加速し、最後には高畑の目の前でむつきに抱かれるまでになっていたのだ。

(パルが前に言ってた寝取られとか言う……じゃなくて。あー、もうどうしよう。正直に、私のオナニーばれてないよねって聞くのも変だし!)

 頭を抱えながら、チラリと一瞬だけ神楽坂は隣の席の木乃香を見た。
 京美人という言葉を知ったのは最近だが、それに見合う白い肌に黒く艶やかな長い髪。
 明るいオレンジの髪の神楽坂は、実はこっそりあの黒髪に憧れていたりもする。

「んっ、どうしたん明日菜? 授業、ちゃんと聞かなあかんよ。今日のところまで、テストで出るえ?」

 にっこり可愛く笑った木乃香にそう言われ、神楽坂は慌てて立てていた教科書に顔を隠した。
 変な明日菜と笑う鈴をころころするように笑う木乃香は、普段と変わらない。

(そう、木乃香の反応だけならバレてない、ないんだけど)

 視線を隣ではなく、右手前方の春日を挟んだ向こう側に向ける。
 木乃香と同じ京美人ながら凛とした雰囲気のある刹那が、真剣な顔つきで壇上のむつきを見ていた。

「まだ当時、織田信長は現在の名古屋の小さな規模の城主でしかなかったんだ」

 真剣さの現れか、何処か熱を帯びた表情でむつきを見ていた刹那がふと振り返る。
 バチッと電気が走ったかと思うぐらい明確に、神楽坂と刹那の視線がかみ合った。
 きっかけが何かはわからないが、お互いに頬を火照らせ一斉に視線をそらし合う。
 これだ、神楽坂が昨晩の出来事がバレていないと言い切れない理由が刹那の反応だ。
 見てはいけないモノを見てしまったかのようなあの反応。

(うぅ……絶対に聞かれた。なんで五回もしちゃったんだろ。何時もは一回ですっきりするのに!)
(お、落ち着け。明日菜さんは自分のオナニーに夢中で、私とこのちゃんの痴態には。私にもっと自制心があれば。このちゃんにこんな恥をかかせずとも!)

 似たようなことを考えているとはお互いに思いもよらず。

(ああ、流された……だって、美砂と桜子があんあん始めるから。男の子と手も繋いだことないのに、桜子におっぱい吸われて、美砂には大事なところにキスされて。ちょっと、いやかなり気持ち良かったけど!)

 そしてもう一人、刹那の隣の席でも釘宮が昨晩二人の同居人に体を弄ばれたことを後悔していた。
 一人だけならまだしも、二人も三人も頭を抱えていては、壇上のむつきからは丸見えであった。
 軽く忍び足で足音を殺し、教科書を丸めてはパコンと三回振り下ろした。

「たっ」
「はぅ」
「あ、痛い。なんか私だけ強くない?!」

 順に釘宮に刹那、最後に春日の机に手をついて体を伸ばして神楽坂の頭を叩いた。
 私だけと言ったのは、身を乗り出した分少し強くなってしまったからだろう。

「三人とも、昨日の集中力はどこいったんだよ。他の皆は、まだまだ集中力持ってるぞ」
「ああ、すまない先生」

 呆れたように注意したむつきを引き留めたのは、手を上げた真名だった。

「昨日は私が大浴場で、彼女たちの体質に合わないボディーソープを渡してしまったんだ。それで少しばかり眠れず、集中力が欠けてしまったんだ」
「そ、そうなのよ!」

 真名の助け舟を前に、勢いよく立ち上がった神楽坂が声も高らかに言った。

「おかげで、何時もは一回しかしないのに五回もオナニーしちゃったんだから!」
「え?」

 むつきの何を言ってという疑問符の呟きを最後に、元から静かだった教室がもっと静まり返った。
 真冬の山奥の湖の近くの様に、枯葉が湖面に落ちる音さえ聞こえそうなぐらいに。
 チクタクと時計の針だけが枯葉の代わりに音を刻んでいた。
 自分の発言に気づいた神楽坂が、慌てて両手で口を抑えるが完全に遅きに失している。
 チラリと動いた眼球が、一席挟んだ向こうに立っていたむつきを追う様にとらえた。
 ちょっとだけ頬を赤らめ、微妙な顔で視線をそらそうとしているところであった。
 反対に神楽坂はちょっとどころではなく、足の先から頭の天辺まで真っ赤に染まっていた。

「い、いやぁっ!!」

 授業中だということも忘れ、大声で悲鳴を上げた神楽坂が走り出した。
 止める間もなく、狭い机の間をぬって教室を飛び出して走っていってしまう。
 遅れること数秒、ざわざわとちょっとだけ懐かしささえ浮かぶざわめきが二-Aを覆い始める。

「近衛、マジで五回なのか。さすが体力お化け、一晩で五回もって普通に凄いな」
「下手をすれば我々は一回で気絶させられかねないです」
「本当、明日菜さんが羨ましいですわ。それだけ体力があれば、私も……」

 体力がない千雨や夕映は、普通にその数に感心していた。
 あやかも色々な意味でのライバルである明日菜の思った通りの体力に呆れながらも羨望している。

「ねえねえ、裕奈。オナニーってなに?」
「私にふらないでよまき絵」
「あはは、まきえってばお子様。そんなことも知らないの」
「恥ずかしい……」

 佐々木が席の離れた明石に大声でオナニーの意味を問いかけていた。
 風花がそれを見て大人ぶっては笑い、初心な村上はそばかすのある頬を赤らめ俯いている。

「龍宮さんが色々伏せてくれたのに、明日菜らしいって言えばらしい?」
「ザジ、私に責任の大半があるとはいえ。お前にもあると思うのだが」
「わかりました。では、後日神楽坂さんには私の香油を一ダースほど贈らせて頂きます」
「それは返って嫌がらせになるんじゃ……」

 美砂が笑い、真名がザジを問い詰めるが反省の色は全くなさそうだ。
 アキラが止めておいた方がと突っ込んでも、ニヤリと逆に笑われる始末であった。

「騒ぐな、まだ授業中だ!」

 最近、二-Aを操ることに長けて来たむつきでさえ鎮めるのに十分近くも掛かってしまった。
 丸一日、勉強に打ち込んだストレスが一気に爆発したせいもあるだろう。
 あまりの騒がしさに新田が飛び込んできそうだったが、ギリギリセーフ。
 さすがに何故こんな騒ぎになったのか、説明するのも一苦労だったに違いない。
 まだまだ隣同士でひそひそ話したりはしているが、まだ授業の終わりまで二十分近く残っている。
 正直に言えば神楽坂を探しに行きたいが、むつきがこの場を離れてしまえば元の木阿弥であった。

「授業を続けるぞ。その前に和泉と雪広」
「あっ、はい」
「なんでしょう、と聞くまでもないですね」

 この状況であやかはなにを求められるかしっかり把握しているようだ。
 委員長であり特別神楽坂と親しいあやかはまだしも、亜子はちょっと戸惑っていた。

「二人は神楽坂を探してきてくれ。別に授業に間に合わなくても良い。ゆっくりと落ち着かせてくれれば良い。それでだめなら連絡くれ、女の先生寄越すから。それから、和泉これを」
「ああ、そうやね。そういうのなら、うちの出番や」

 むつきがあるモノを亜子に渡すことで、彼女も気づいてくれたようだ。
 女の子が性的なことで困ったら、小瀬の時の様に相手の心を傷つけず踏み込める亜子の出番だ。
 神楽坂のように体力お化けであっても、普通の女の子が授業中にオナニーなんて口走れば傷つくはず。
 現に神楽坂は羞恥に耐え切れず、授業中にもかかわらず飛び出していってしまった。
 人選はこれで間違いないはずと、出掛けに小鈴から何かを受け取った二人を見送る。
 それからむつきは携帯電話を取り出し、今の時間に手が空いている女の先生を数人思い浮かべた。
 むつきが現場を離れられない以上、何か間違いがあってはと手を借りるためでもあった。









 むつきの心配を他所に、亜子とあやかは的確に明日菜の居所を掴んで発見できていた。
 場所は体育館の隣、水泳部の室内プール場の入り口の扉の前で神楽坂は膝を抱え込んでいる。
 その膝の間に顔を埋めており、心なしか両肩が震えているようにも見えた。
 自然と目で追った足元を見れば、その答えは一目瞭然であった。
 それはそうだろう、性に奔放なむつきのお嫁さんたちも、ひかげ荘という場所だからこそだ。
 日常の象徴でもある教室などでセックスやオナニーなど高らかに言えば恥ずかしいどころではない。

「明日菜さん」

 だからまずはあやかが神楽坂の隣に座ってそっと肩を抱き、その間に亜子が室内プール場の鍵を開けた。
 本当はいけないことだが、学校という閉鎖空間で思い切り泣ける場所など限られてくる。
 亜子がカギを開けるとあやかが神楽坂の肩を抱いたまま支えて中へと招き入れた。
 あやかは入るのが初めての為、亜子が先導して監督室へと連れて行った。
 監督室も鍵が掛かっている為に亜子がそれを開け、そこに座らせてとソファーを指さした。

「さあ、明日菜さん。お座りになって、もう我慢しなくてもよろしいですわ」
「だって、体が熱くてあそこが凄くむずむずして。木乃香と刹那さんが。だから我慢できなくなって!」

 あやかが促すと堰を切ったように、神楽坂が火のついた赤子のように泣き始める。
 物の順序は支離滅裂だが、真名や香油の件、それから木乃香と刹那の個人名から色々と察せられた。
 色々と悪条件が重なり、最終的に昨晩に五回もオナニーしていたことをむつきの目の前で叫んでしまったと。

「本当にもう、明日菜さんはおっちょこちょいなんですから」
「うるさい、うるさい。委員長に私の気持ちが分かるもんか、よりによって乙姫先生の目の前でオナニーしてるって。変態だって、オナニーばっかしてる子だって思われたら。恥ずかしくて、もう教室に戻れない!」
「明日菜、別に授業に間に合わなくても良いって先生言ってたよ」
「なにがよ!」

 あやかだけでなく、亜子に出さえドスの利いた言葉を向けるのは相当精神的にきているようだ。

「乙姫先生は、明日菜が落ち着くまでゆっくりしろって言ったんよ」
「どういうこと?」
「先生は明日菜さんがこの上なく恥ずかしいと思った発言を前に、冷静にクラスを静め、私と亜子さんの二人を明日菜さんを探す為に派遣しました。明日菜さんが思う程には、気にされてないということですわ」
「そんなの、わかんないじゃない。本人に聞くわけにもいかないし!」

 まだまだ興奮状態の神楽坂に理路整然と述べても逆効果なのだろう。
 根気の勝負かなと、一度ソファーを立った亜子は、勝手知ったる監督室で飲み物を用意し始める。
 涙こそ止まったものの、猛獣のように唸る神楽坂をあやかがソファーの隣に座って宥めていた。
 一時静寂に包まれた監督室だったが、直ぐにその静寂は破られることになった。
 三限目が終了するチャイムの音である。
 その音に気を張っていた神楽坂はビクつき、無意味に挙動不審となっていた。

「授業終わっちゃった。コーヒーしかあらへんけど。委員長と明日菜は砂糖とミルクは?」
「私はどちらもいりませんわ」
「ミルク、砂糖たっぷり」

 ずっとあやかに肩を抱かれ軽く抱きしめられたせいか、ほんの少しだけ神楽坂は落ち着いたようであった。
 亜子は二人の前にコーヒーカップと砂糖やミルクを出すと、ポケットから携帯電話を取り出した。
 二人にどうぞと手で勧めながら、逆側の手で携帯電話に登録されている愛しい人の名をタップする。
 あやかに少し甘えるように、砂糖とミルクをいれて貰っている神楽坂を見ながらコール音に耳を傾けた。

「もしもし、和泉か。今どこに?!」

 受話器から洩れた声は小さいはずだが、神楽坂が過剰に反応してあやかに抱き付いていた。

「先生、声おさえてや。明日菜が驚いとる。無事見つかったら、超さんが明日菜の携帯のGPS追えるように手筈してくれてたから」
「そ、そうか。ああ、それで。無事なら良い、一先ず手伝ってくれた先生にも上手く言っとく。ああっと、昨晩勉強し過ぎて授業中に寝てたら、鼻提灯作って割れたのが恥ずかし過ぎて逃げ出したってな風に」
「それはそれで、結構恥ずかしいと思うけど。明日菜、聞こえた?」
「うぅ……」

 中途半端な返事だったが、首は確かに頷いていたので亜子はそれで良いと伝えた。

「なら、俺の声が聞こえるのも神楽坂が嫌がるだろ。連絡はこれで良いから、二人はしばらくついていてやってくれ。後の授業の先生には、言っておくから」
「あっ、先生待った。ちょい、待ってや」
「なんだ、和泉?」

 神楽坂の精神安定の為にも、手早く電話を切ろうとしたむつきを亜子が止めた。
 これには監督室にいたあやかも少々首をひねっている。
 むつきの言う通り、神楽坂が一番恥ずかしいと思った相手と長々と話すべきではない。
 まずはなによりも神楽坂が落ち着くことが先決なのである。
 それがわからない亜子ではないだろうが、彼女は色々な意味で大胆不敵という奴であった。
 背中の傷を負の遺産と思わなくなった経験から、荒療治が好きなのかもしれない。

「うち、いつもオナニーする時、先生のことおかずにしとる!」
「ぶーーーーッ!」

 携帯電話の向こう側にいるむつきへと叫んだ亜子を見て、コーヒーを噴き出したのは神楽坂だ。
 噴き出した後も、唇の端から残ったコーヒーを垂らす神楽坂の口元をあやかがハンカチで拭いている。
 そして亜子のとった行動の意味も、あやかはしっかりと理解していた。
 恥ずかしそうにしながらもニヒッと笑った亜子へと手を差し出し、あやかは携帯電話を受け取った。

「先生……」
「あや、雪広か。すまん、鼻水吹いた」
「私も、オナニーする時は先生をおかずにしていますわ!」

 亜子と同じように携帯電話の向こうに叫ぶと、何かを言われるよりも前に電話を切った。
 そのまますまし顔で亜子に携帯電話を返したあやかだが、時間が経つにつれ頬が赤くなっていく。
 相当我慢しているのか、コーヒーカップを持って手がプルプル震えていた。

「ちょっ、ちょっと二人とも。わた、私がオナニーなんて教室で口走ったからって、そんな嘘」
「あれ、小瀬先輩と一緒に明日菜にオナニー教えた時も言ったやん。私、オナニーする時は先生をおかずにしとるって。ほら、携帯電話に先生の写真入っとる」
「わ、私も……実は」

 しれっと恥ずかしげもなく言った亜子が、携帯電話のメモリから秘蔵画像を取り出し見せた。
 秘蔵と言ってもむつきの勃起写真が入っているわけではない。
 亜子から見ればキリッと凛々しく見える、あばたもえくぼなむつき画像だ。
 夏祭りの時の浴衣姿のものや、夏休みの旅行中に風呂上がりに見せてくれた私服姿など。
 あやかのそれも似たようなものであった。
 実際はひかげ荘でもっと凄い姿を見ているが、平日になかなかセックスできない時は恩恵にあずかっている。

「亜子ちゃんは前に聞いたけど、委員長はなんで?」
「私も明日菜さんと似たようなものですわ。何度か相談に乗って頂いて、素敵な人だなと。良く行く財閥開催のパーティなどでお会いする下衆な方たちよりも余程」
「あ、なんかごめん」

 神楽坂は財閥のパーティなど知らないが、想像ぐらいはできる。
 特にすまし顔が多いあやかが嫌悪をあらわにしたことで、その度合いが知れるというものだ。
 神楽坂から見て、亜子とあやかが我が身を斬り裂くことで少し普段の自分が戻り始めたようであった。
 二人がむつきとはのっぴきならない関係なのはそれはそれ。

「明日菜、前も言ったけどオナニーは皆しとることやから。教室で叫んじゃったのは失敗やけど、思ってるほど皆は気にしてへんよ」
「そうですわ。精々が、また高畑先生を前に緊張して何もできず、失敗を繰り返した。そういうレベルのお話ですわ」

 亜子は兎も角、しれっと失礼なことをあやかに言われ、神楽坂が拳をふるふる震わせていた。

「い、委員長心配して駆けつけてくれたのは感謝してるけど、殴って良い?」
「どうぞ、ご自由に。それでこそ、明日菜さんですわ」
「なんか、癪だから殴ってやんない」
「ふふ、少しは大人になられたようですわね」

 それでもむかつくと、ふんっとそっぽを向いて神楽坂はまだまだ熱いコーヒーをすすった。
 インスタントだがそれなりに良い香りを吸って、なんとなく自覚が出て来た。
 教室を飛び出した時よりも、自分が落ち着いていることにだ。
 あの時はもう自殺でもするしかないぐらいのつもりで飛び出したが、なんだかなと思う。
 もちろん、あの時のことを思い出せばまだ顔から火が出る思いなのだが。

「ねえ、もう聞いてよ二人とも。昨日は大変だったんだから」

 開き直ったとでも言うのだろうか。

「龍宮さんはボディーソープってごまかしてくれたけど、大浴場でザジさんから貰ったって香油を皆で試したの。木乃香と刹那さん、他には柿崎や桜子、釘宮で」

 自分の為に我が身を切ってくれた二人にならと、神楽坂は昨晩の出来事を語り出した。
 さすがに木乃香と刹那のことは勝手には言えないので少しぼかしつつ。
 香油が体質に合わず、自身に興奮作用が働いて非情にムラムラしたこと。
 我慢できずにオナニーしたは良いモノの、頭が真っ白になってそのまま気絶するまでしたこと。
 五回と言ったが、記憶が途切れたのがそれぐらいで、たぶんもっとしていたことまで。

「ねえねえ、明日菜はどんな妄想でするん? うちはこの監督室で水泳部のことで相談しに来たら、我慢できなかったって襲われたり。基本、襲われる系がお気にいり」
「わ、私は……高畑先生のことで相談してたら、俺の方が絶対幸せにできるって迫られて。べ、別に私はそのつもりないんだけど。先生が強引に。い、委員長は?!」
「知らない方と無理やり結婚させられそうな場面で先生に助けられ、駆け落ちするままうらぶれた宿で初夜を始める妄想がお気に入りで。俺について来いと、お前は俺のものだと。私がはいと言うまで執拗に何度も」

 オナニーという単語でさえ恥ずかしがる中学生が、性癖に近い暴露大会である。
 あやかまでもが妄想の一端を口にすると、三人でキャーッと恥ずかしそうに悲鳴を上げた。
 特に神楽坂と巻き込まれたあやかは、顔から火が出ると両手で顔を隠しながら。
 寝取り系と駆け落ち系も良いなと、その発想はなかったとうんうん頷く亜子は例外すぎる。

「明日菜さんは、何時もどのようにされるのですか? やはり、指ですか?」
「え、指以外にどうやってするの?」
「あちゃ、教えてへんかったっけ。こういう、ピンクローターってあるんやけど」

 亜子が近くにあったホワイトボードに簡単な絵をかいて説明を始める。
 それをとても興味深そうに、神楽坂は見入っては説明を聞いていた。
 皆が自分と同じなんだと安心したのか、四限目が終わるまでオナニー談義はつきなかった。









 四限目はそのまま丸々サボり、明日菜が教室に戻ったのはお昼休みのことであった。
 思い切り泣いて、赤裸々にお喋りしてすっきりして、明日菜はあっけらかんと返って来た。
 教室を飛び出した時の勢いを知るだけに、拍子抜けするほどだ。
 だがその原因の一旦でもある木乃香は、神楽坂が帰って来るなり泣きながら抱き付いていた。
 神楽坂は知らぬことだが、昨晩は彼女が起きていることを知って木乃香は刹那と致し始めたのである。

「明日菜!」
「わっと、木乃香どうしたのよ」
「私が色々と黙っとったから明日菜に変な負担かけてもうた。うちも、昨日はムラムラしてせっちゃんとエロエロなことしとったえ」
「ああ、そのこと。まあ、良いわそのことは。アレは耐えられないわよ」

 よしよしと慰める立場が逆転して、神楽坂が木乃香の背中を撫でつけていた。

「うひょー、意外なところから百合ん百合んな情報が。やっぱ、木乃香と刹那さんってそういう関けぐほぉッ!」
「パル、場にそぐわない茶々は嫌われるですよ。ご協力感謝です、長瀬さん」
「なんのなんの、にんにん」

 やはりと言うべきか、茶々を入れる様にメモを片手に興奮した早乙女は、長瀬の当身で気を失った。
 あれを当身と言って良いのか、はた目にはボディブローのようにも見えたが。
 ぐったりした早乙女はその辺に放置され、改めてこほんと夕映が声の調子を整えて言った。

「今日のお昼休みは赤裸々にいくです。というわけで、のどか先に謝罪しておくですよ」
「どうしたの、ゆえゆえ?」
「私こと、綾瀬夕映は恥ずかしくも親友の想い人である乙姫先生でオナニーしたことがあります」

 夕映の突然の告白に教室内が騒然とし始める。
 が、そもそも二-Aの生徒の大半はもとより、むつきのお嫁さんであった。
 最初からそう決まっていたかのように、想像上のマイクを和美が夕映に向けた。

「では夕映きち君。それは妄想で? どういうシチュでしょうか?」
「元々はのどかに上げる予定だった先生の秘蔵画像です。シチュは……本当に恥ずかしながら、三角関係のもつれという少女漫画にありがちなシチュです。のどか、あくまで妄想ですよ」
「はいはーい、夕映ちゃんが赤裸々にというならまずはこの柿崎美砂様でしょ。ほら、朝倉。マイク、マイク!」
「なんとなく、予想はつくけど」

 赤裸々告白タイムなら任せろとばかりに手を上げた美砂に、和美がマイクを向けた。

「柿崎美砂は、乙女の一番大事なものを彼氏にあげちゃいました。非処女でっす!」
「ああ、便乗で悪いけど。私も彼氏に上げちゃってる。他に非処女の子はいる?」
「それなら私も非処女だな。ささげたのは最近だが、アレは痛かった……」

 美砂一人なら信憑性は低かったのだが、和美と真名と続けば俄然それは高くなってくる。
 夕映の告白に続き、非処女宣言と宮崎などは情報過多で目をぐるぐるさせていた。
 二-Aでひかげ荘を知らない者の方が極一部だが、その極一部が本当にと騒いでいた。
 鳴滝姉妹や春日に那波など、早乙女と宮崎は異なる意味でノックダウン中だった。

「ふん、処女のお子様が騒がしいな。私のような大人は当然、非処女だ」
「というように、犯人はわけのわからないことを申しており。はい、次の告白」
「おい、何故私だけ信憑性皆無だ!」

 ふんぞり返ったエヴァの告白は、和美にスルーされつつ。

「なら少し毛色を変えて。ちょっと前までネットアイドルやってた。私はむしろ、ちんこ弄ってばっかりの男のオナニーのおかずになってた。ああ、今思えばきしょい!」
「はい、気になる方はネットアイドルちうで検索、検索。最終更新日時は五月位だけど。では次」
「えーっと、私が先生をおかずにって言ってもインパクトないかな。亜子とおっぱい舐め合ったり、色々としたことあるよ」
「おお、面白い方向性だね。じゃあ、レズっぽいことしたことある人は挙手」

 和美の言葉に、言い出しっぺのアキラは当然としてその相手役の亜子が手を上げた。
 さらには神楽坂を困惑させた木乃香と刹那、美砂と桜子に昨晩巻き込まれた釘宮。
 やっぱりひかげ荘の面々が手を上げることで、認識が常識が書き換えられる。
 別に悪いことの為にではなく、傷ついた神楽坂を癒す為にだ。

「あの、さっきから全くついていけないのだけれど。皆、乙姫先生をその……オナ、オナぃで」

 置いてきぼりの状態から、そこだけはと声を上げたのは那波であった。
 ただし、素面で乙女がオナニーなど言えるはずもなく、言葉を口ごもらせながらだ。
 普段クラスの中で大人を見せる那波が、重ねた手の指をもじもじさせている。
 初心よのうと、微笑ましくされる側なのは貴重な体験だったのかもしれない。

「ごめん、那波さん。本屋ちゃんや那波さんが先生を好きなのは知ってたけど、何時も乙姫先生をおかずにしてオナニーしてたわ私」
「明日菜、謝らんでもええて。女子中にしかも寮から通ってる私らって、お父さん以外で一番親しい男の人って言ったら先生以外におらへんやん。自然とおかずの対象になるって」
「千鶴さん、今まで黙っていましたが実は私も何度か経験がありますわ。先生に抱かれる妄想でイッたことさえ。想像するだけなら、自由ですから」
「というか、那波殿の戸惑いも当然であって。何故、おなにぃ以上の暴露大会になっているでござるか?」

 畳みかけるように明日菜から亜子、あやかと那波に詰め寄る様に言い募り、助け舟を出したのは長瀬だった。
 当然と言えば当然、ごく当たり前の疑問でもある。

「そんなの、神楽坂が授業中にオナニー五回したって先生に報告するからじゃねえか」

 ニヤニヤと笑いながら話をまぜっかえすように千雨が耐え切れず噴き出した。

「ていうか、普通おかずにした相手を前に報告するか。本当に、お前は面白いな」
「わ、笑わなくても。つい言っちゃったんだから、仕方ないじゃない!」
「そうだよね、五回もついイッちゃったんだもんね。明日菜は凄いよ。五回って、どんだけ体力馬鹿」
「うるさいわね、柿崎!」

 ムキーっと何時もの調子で神楽坂が美砂におどりかかり、ぽかぽか殴り始める。
 もちろん、彼女の全力ではなく普通の女の子である美砂が受けられる程度の威力でだ。
 その姿を見て那波もこの暴露大会の本当の意味を察し始めた。
 本来なら察しの良い彼女ならもっとはやく気づくべきだが、内容が内容だからだろうか。

「明日菜、空元気とかじゃなくて。普通に気にしないようになったんだね」
「まあ、恥ずかし過ぎて一杯泣いたけど。これだけ皆が恥ずかしい告白大会してくれたしね」
「いやあ、極一部は言いたくて仕方がなかった事を告っただけだと思うけど」

 村上に心配された神楽坂自身が、元気にならざるを得ないでしょうと返す。
 春日の言う通り、美砂辺りは言いたかっただけという可能性もあったが。

「はい、そういうわけで恥ずかしい情報を共有した者同士。超包子のオーナーから、プレゼントがあるネ。取り出したる所の今日の新製品はこれネ!」

 ぱんぱんと手を叩きながら教室の前の壇上に上がった小鈴が、あるものを取り出した。
 何処に隠していたのか、どうやって持ってきたのか。
 分厚い一冊の本、どうみてもピンクで肌色な絵図が乗ったナニか。

「日本の性教育は遅れているネ。そこで正しいオナニーの方法が乗ったマニュアル本を皆にプレゼントするネ。ローターと電マの中とじ付きヨ」
「超りん、もう一声。私アナルビーズも欲しかったり」
「おお、亜子さん。それは盲点ネ。他にリクエストはないか? いっそ彼氏とのプレイ用の首輪でも用意するヨ!」

 ただし、オナニーにふけり過ぎてテストに集中できないと困るのでテスト後。
 これを目標にテストにまい進するべきと、小鈴がクラスメイトに向けて微笑んだ。

「ごめん、亜子ちゃん。それに超も、流石に引いた」
「「あれ?!」」

 慰めていた相手から、ドン引きされるとも思わずに。









-後書き-
ども、えなりんです。
いずれ劇中が1月に進んだら姫はじめネタを書きたい。

さて、今回も明日菜がメイン回です。
授業中にやらかしちゃう系ですね。
誰しも先生をお父さん、お母さんと呼んだ経験はあるはず。
それを18禁方面にしたら、明日菜が爆発しました。

しかし、この明日菜は相当グラついてます。
むつきをおかずにするようになってから、また加速したかもしれません。
さっさと高畑から離したいですが、劇中はまだ9月か10月。
クリスマスは遠い……

次回は土曜日です。
土曜日ですよ。
久々に宣言しておきます。



[36639] 第百二十六話 夫婦喧嘩の後のセックスは燃えるらしいぞ?
Name: えなりん◆e5937168 ID:bd0bfbe0
Date: 2015/01/17 19:39

第百二十六話 夫婦喧嘩の後のセックスは燃えるらしいぞ?

 校内放送でそれが伝えられた時、麻帆良女子中等部は一瞬完全な沈黙に覆われた。

「第七位、二年A組平均点七三.八」

 一学期の期末で念願の最下位を脱出して二十四クラス中二十二位であった。
 それが今回、連続脱出どころか大躍進のトップテン入りである。
 怒涛の追い上げに抜かれたクラスの子はあのA組にと頭を抱え、抜かれなくともヒヤリとしたことだろう。
 学校が揺れるかと思うぐらいのどよめきと歓声に包まれ、A組の面々は各所で大騒ぎだった。
 そして職員室でその発表を聞いていたむつきも、思わずガッツポーズが出ていた。

「よし、よっし!」
「おめでとう、乙姫先生。いや、僕の。僕の合コンの前に幸先良いですね!」

 社会科の採点をしていた時にこれはと持ったが、他の教科も悪くはなかったようだ。
 瀬流彦は明日に控えた自分の合コンで頭が一杯なセリフだが、祝って貰って悪い気はしない。
 イエイと先生らしからぬハイタッチをかわし、今一度むつきはよしと拳を握った。
 ちなみに、本来なら一番にハイタッチすべき高畑はいない。
 テストが終了次第、出張にいったわけではなかった。
 ついにあの人はテスト期間ですら帰ってこなくなったのである。
 その主の居ない無人の席をチラリと見て、むつきは少し遠い目つきとなった。

(俺はもう何とも思ってないけど、大丈夫かなあの人。英語科の先生たちも、いない人としてテスト問題とか作成してたもんな)

 言い方は悪いが無視である。
 だがそうでもしないと来るはずと頼って現れなければ、間に合わないのだから仕方がない。
 某ご子息の卒業があり、彼を迎え入れる為に、高畑の僻地での活動は佳境に入っていた。
 目元に隈をつくり二、三日は風呂どころか満足に睡眠もとれないぐらいの過酷な生活状況だ。
 とはいえ、そんなことを知らない、知らされない人々からすれば社会人失格でしかなく、報われない人なのである。

「いや、まさかA組が……でも、夏休みの宿題の提出率が一番良かったのもA組だったんですよね」
「ああ、春日君。そう考えると、一学期の期末から、下地はできてきてたんですかね」

 二ノ宮や瀬流彦の言う通り、このテスト期間だけ頑張ったからというわけではなかった。

「一部は嫌々でしたけど、夏休みの旅行中にも定期的に勉強させましたから」
「まき絵のことですね、わかります。あの子ももう少し、部活以外も力を入れてくれたら……」

 そのクラスが学年七位を取ったと喜んでいるであろう佐々木だが。
 ついに馬鹿レンジャーから、一人孤独に戦う馬鹿ライダーになってしまった。
 先日まではまだ力の一号こと神楽坂がいたが、ついに彼女も馬鹿レッドを卒業。
 七百三十七人中六百十二の順位となり、前回の期末から百位近く順位が上がっていた。
 それでクラスのブービー賞だが、件の佐々木が七百三十位と今年三回のテストで一番悪かったのだ。

「佐々木は、テスト前に腹壊したみたいで。同室の和泉が、ずっとトイレに籠ってたって言ってましたよ。元から勉強には集中力がない子なので」
「うーん、なら仕方がない。のかな?」

 新体操部の顧問として、教え子は可愛いのか二ノ宮も渋い顔ながら許してしまう。
 彼女がトイレに籠っていた本当の理由は全く別なのだが、今の彼らに知る由もない。

「まあまだ次がありますよ。乙姫先生、お祝いに今日一杯どうです。奢りますよ」
「ありがたいけど。瀬流彦先生は明日の合コンの為に、体調整えておいてください。男メンバーですけど、温情で彼女持ちのダミーと若い女性に興味がないマダムキラーの友達呼んでおきましたから」
「僕はもう、どうすれば良いんですか。神のご意志にどう報いれば良いんですか!」
「乙姫先生、なんだか最近の瀬流彦先生が鬱陶しくなってさっさと恋人作らせようとしてません?」

 さすがに二ノ宮は鋭いモノで、大正解だったりする。
 瀬流彦とは仕事を抜きにしても友人でいて良いと思うが、頼られ過ぎても困るのだ。
 どのみち、むつきの知り合いも、むつみの知り合いも妙齢の女性は打ち止めであった。

「失礼いたします」
「おい、むつき」

 浮かれる瀬流彦に釘の一つでも指しておこうかと思った矢先、思いがけない人物が現れた。
 丁寧にあいさつをして入って来た絡繰とは異なり、偉そうな口調でむつきを呼んだエヴァだ。
 生徒にとって職員室とは大なり小なり緊張すべき場なのに、その欠片も見当たらない。
 むしろふんぞり返りそうなぐらいに胸を張って、とことこやって来る。
 が、そのエヴァを何故だか瀬流彦がインターセプト気味に、前を遮った。

「やあ、エヴァンジェリンさん。学年七位、おめでとう。凄いね、頑張ったよね。偉い!」
「お、おう……なんだ、こいつ?」
「ああ、そっとしておいてやってくれ。明日の合コンで浮かれているんだ。それでどうした?」

 だが有頂天な瀬流彦に褒められ、奇妙なものでも見る目でその足が鈍っていた。
 そのエヴァをごく自然に抱っこしかけ、職員室では流石にと手を止めたむつきが要件を尋ねる。

「桜子が見事にトトカルチョを独り勝ちしたからな。手に入れた食券を使って、これから教室で軽いお疲れ様会をするんだと。そしてこの私がむつきへのメッセンジャー役だ」

 ふんぞり返って可愛い胸をぽむっと叩いたエヴァを見て、念の為に絡繰にも視線を移す。
 一応はマスターであるエヴァを慮ってか、こくりと静かに頷かれた。
 たぶん、サボり魔のエヴァの信頼をかんがみるに、茶々丸とセットで一人前扱いされたか。
 もしくは茶々丸がメインで、おまけ扱いをされたかのどちらかだと思われる。
 そんな義妹兼幼妻の信頼回復の為にも、迅速に教室へと赴くべきだろう。

「それじゃあ、瀬流彦先生。明日は遅れないように。むしろ、ダミー参加者の二人を紹介しておきたいので、三十分前に集合ってことで。今度、二人に酒でも奢ってやってください」
「うん、分かったよ。お酒ぐらい、奢っちゃうよ。ほら、君は早く食堂の方に。エヴァンジェリンさんも、茶々丸さんも楽しんでおいで。いってらしゃーい」

 本当に有頂天な瀬流彦に見送られ、何故かエヴァは凄く微妙な顔になっていたが。
 一先ずむつきたち三人は茶々丸の失礼しましたの礼の後に、職員室を後にする。
 当然と言えば当然、直ぐに抱っことエヴァに強請られむつきは仕方なく抱き上げた。
 本当は良くないのだが、エヴァがむつきの義妹扱いなのは結構知られているのだ。
 職員室にアタナシアの写真を置いたおかげもあった。
 恋愛に興味津々な他クラスの生徒からは、馴れ初めなんかを興味深げに聞かれたこともある。
 そのエヴァは抱き上げた途端に首筋に鼻先を埋めて、すんすんと鼻を鳴らしていた。

「一週間ぶりのむつきの濃い匂い。禁欲後のこの開放感、偶には勉強も悪くない」
「こら、くすぐったい。頬ずりするな。お前、これが狙いだったろ」

 流石に頬ずりはまずいと、ベリっとエヴァを引き離して普通に抱きなおす。
 今までは可愛い子猫に過ぎなかったエヴァも、既に抱いた後では反応してしまう。
 このままトイレにでも連れ込んで、ほらご褒美だとパコパコしたくなるのだ。

「先生、マスターのお守りを変わりましょうか?」
「お守りとか言うな、茶々丸」
「てか、絡繰。なんか、立ち位置近くね?」
「気のせいです」

 どう考えても気のせいではなく、絡繰にぴったり寄り添われ廊下を軽く蛇行してしまう。
 口に出したりはしないが、どう考えても彼女の体重のおかげである。
 あっちへふらふら、こっちへふらふら。
 傍から見ても、イチャついているようには決して見えないのはありがたいことなのか。
 絡繰からの加重に堪え、二-Aの教室についた頃には少しむつきの息が乱れていた。

「茶々丸、もっと離れろ。むつきが疲れてるだろ」
「いえ、マスターが重いせいでは?」
「失礼なことを言うな。どう考えても重いのはお前だろ!」
「喧嘩すんなよ」

 色々と主従の関係も乱れていたが、それも二-Aの教室のドアを開けるまでであった。
 予想した通り、むつきが扉を開けた途端にパンっとクラッカーの音が連続して鳴り響いた。
 くしゃみが出そうになる火薬の匂いと、降り注ぐカラフルな紙の束。

「学年七位、おめでとう!」

 たかが七位、されど一学期には底辺にいた二-Aである。
 自分たちでも信じ切れない事実を確認するかのごとく、それは大きな大合唱であった。
 鳴らせ飛ばせと爆ぜるクラッカー、降り注ぐ紙束を手で退けながらむつきは笑いかけた。
 あれだけ勉強した教室は、まさにパーティ会場と呼んで差し支えない状況だった。
 机を隣合せて、桜子の食券で買い集めたお菓子やジュースを並べ。
 まあ、何時もの馬鹿騒ぎする時のスタイルとでも言う状況だ。

「そりゃ、こっちのセリフだ。一番ってわけじゃないが、やったなお前ら。お疲れさん」
「いや本当に一生分勉強した。これでまた当分は、勉強しなくて良いよな?」
「ちうちゃんの言う通り、この私まで頑張っちゃった。先生、期末は冬コミあるからパスで」
「お前らな……言いたかないが、夏休みの旅行で無理やり勉強させた分があったからここまで良い順位だったんだぞ。あれがなきゃ、良くて真ん中あたりだ」

 彼女たちにしては偉業も偉業なのだが、早速千雨や早乙女が調子に乗っていた。
 おかげでおめでたいこの場で、早速小言を言ってしまったではないか。
 何をさせるとばかりに、自分やエヴァの頭に降り注いだクラッカーの紙束を投げつけてやった。

「さあ、お馬鹿さんお二人は放置で。先生はこちらへ、特等席ですわ」

 あやかでなくとも呆れる態度だが、もう当分はと思っている者は他にもちらほら。
 いや、普段から真面目に勉強している成績上位者以外の殆どか。
 それも仕方がないかと、むつきはあやかの案内で教卓前の席にエヴァを抱っこしたまま座った。
 これで次の期末にまた最下位といかずとも、順位が激落ちして凹むのもありかもしれない。
 人生は山あり谷あり、頂上に近づいて転げ落ちていくのもまた経験だ。

「しかし、お前ら本当に今回は頑張ったな。前回の期末は下から三番目だったのに」
「先生の為に、が……頑張りました」
「ご褒美狙いののどかや那波さんも頑張りましたが、やはりクラスが一丸となったことが大きいかと」
「元々このクラス、大半が平均以下だったけど、その反面学年トップクラスが固まってもいたからね。上位者以外が平均点でもとれば、自然とこの結果になるのは当然じゃない?」

 夕映や早乙女の言うことももっともだが、その大半を勉強に向けさせるのが大変なのだ。
 麻帆良女子中等部だけではないが、この学園の生徒の大半はエスカレーター式だからと勉強しない。
 ちゃんとした担任がつけばまだ上手く指導できるのだが、むつきは指導できているとは言い難い。
 恋心を利用したり、肉体的なご褒美目当てと最低の部類だ。
 仮に別のクラスの担任になったとして、また一から全員を口説くのかという話である。

(俺ももっと頑張らねえとな。こいつら以上に)

 桜子の食券で勝ったジュースを飲みながら、とほほと笑う。

「それで、クラス全体は良いとして個々はどうだったんだ?」
「頑張ったのですが……惜しくも十位圏内には。合法的に、先生とデートしたかったのに」
「那波、違法だからね。生徒とデートしたら違法だから」

 はあっと頬に手を当ててため息をついた那波は、目指していた十位以内を逃したようだ。
 ちなみに麻帆良の学校が発表するのは、あくまでクラスの順位だけ。
 個々の順位はプライバシーなので個々に通達されるのみである。

「あの」
「うちも十位は無理やったえ」
「恥ずかしながら、四百五十一位でした」
「全然、恥ずかしくないって刹那さん。私なんて、六百十二位よ」

 宮崎が何かを言いかけたが、木乃香や刹那、神楽坂の順位を惜しむ声にかき消されてしまう。
 他にも私は何位だったと報告合戦が始まった。
 とはいえ、A組となってからの最高順位を奪取しただけあって、個々が悪いはずがない。
 夏休みからの蓄積もあり、前回の亜子のように百位近く順位を上げた子も珍しくはなかった。
 最も、元から成績が良すぎて、それ以上順位を上げられない子も中には例外的にいたが。

「私はそろそろ殿堂入りして良い頃ネ」
「であれば、次回は私がくりあがりで主席になってしまいます。超さんには、まだまだ私の目標で居て貰わないと困ります」
「その通りですわ、安易に抜けられては困ります。主席には、常に我々の壁でいて頂けないと」

 本当に例外中の例外、小鈴に聡美、あやかの三人はこれ以上成績が変動できない。
 学年の一位、二位、三位は今後よほどのことがない限りは動かないことだろう。

「わ、私も五位でした。トップテンに入れました!」

 羨望どころか、何だこいつらと呆れ混じりに見られていた小鈴たちを押しのけるように宮崎が声をあげる。
 普段が蚊の鳴くような声だけに、周囲は驚きに包まれていた。
 彼女が見事トップテン入りを果たしたという自己主張などよりもよっぽど。
 そして驚かれた彼女も、自分の過剰な自己主張にはっと我に返って顔を赤くしてうつむいてしまう。
 泣きそうなぐらいに顔を赤くした宮崎を慰めたのは、親友の夕映ではなく那波であった。

「悔しいですが、おめでとうございます。のどかさん」
「那波さん、いえ。ありがとうございます」

 ライバル同士称えあう少女を前に、皆の視線がむつきに集まった。
 那波が何を悔しがり、そもそも何故引っ込み思案な宮崎があんな似合わない自己主張をしたのか。
 ぺこぺこ頭を下げながらも宮崎は、チラチラと期待の籠った眼でむつきを見ていた。

「先生、あの宮崎にここまで言わせておいてだんまりはないでしょ。無垢な処じ、じゃなくて少女の願いは叶えてあげなきゃ」
「後ろから胸を押し付けるんじゃありません、やわらか……はしたない」
「それとも、先生は処女は面倒くさいとか言う派? 私たちなら、面倒くさくないよ。どうする、手を出しちゃう? 私は今日、生でも大丈夫な日なんだけど」
「我々が溜まりに溜まった性欲のはけ口になってあげても良いが、現役女子中学生はそれなりに高いよ? 少なくとも、先生の給料三ヶ月分は分は堅い」

 クラスで非処女宣言をしたからか、むつきにとって非常に面倒な絡み方をされた。
 和美は後ろから首に腕を回しおっぱい枕をし、美砂が腕に抱き付き耳元で甘くささやく。
 真名はエヴァを押しのけるように膝に乗って来て、軽くキスを投げてくる。
 純粋にお互いの恋心を応援し合っていた那波と宮崎が、目が点になっているではないか。
 あと、ちょっと立ってしまった。
 禁欲生活が長かったのはお互い様、発情した雌の匂いがたまらない。

「やかましい、ガキが色気づくには速いっての。わかったから、離れろ。それと宮崎」
「あっ、はい」

 一つため息をついてから、むつきは妥協することにした。

「図書館島、あそこなら引率って形で付き合ってやれる。明後日の日曜で良いか?」
「は、はい! うぇ~、ゆえゆえ。先生が、先生が」
「今回は本当に頑張ったですから、のどかは報われるべきです。泣いてはいけなませんよ」

 そんなに嬉しいかと夕映にすがりついてぽろぽろ泣く宮崎を見ると少し罪悪感がある。
 なにせ彼女の親友どころか、クラスメイトの殆どの処女を貰ってしまっているだけに。
 そろそろ、彼女にも真実を打ち明ける頃か。
 もう一人、その真実を聞くに値する人物、羨ましそうに宮崎を見守る那波にも声をかけた。

「それと那波」
「はい?」
「もう夏も終わって、外に行くには良い季節だ。孤児院の子たちも、ピクニックとか喜ぶとは思わねえか? 大好きなお姉ちゃんと、遊んでくれそうなお兄さんと一緒だと特に」
「はい、院長先生にも相談してみます」

 まさか自分にもチャンスが与えられるとは思わず、那波は一瞬呆けていた。
 だが直ぐにその意味を理解して、少し涙ぐみながらも喜んでと返事を返してくれる。

「先生、巨乳は好きでござるか?」
「なぜ、今それを聞いた長瀬」
「先生、先生」
「今度はなんだって、大河内か。どうした?」

 くいくいと何時もの様にスーツの裾をアキラに引っ張られ、教室のとある方向を指さされた。
 そこは教室の後ろの隅っこ。
 皆がジュースやお菓子を片手に談笑する中で、一人落ち込む者がいたのだ。
 学年七位を奪取した中で不釣合いな暗い雰囲気を醸し出し、壁の方を向いてしゃがみ込んでいるのは佐々木だった。
 あの能天気娘が珍しいが、亜子も明石すらも慰めないのはそれこそ珍しい。

「まき絵が、過去最低の成績だったのは先生知ってる?」
「まあな、ボロボロだったのは。危うく、学年最下位だ。しかもその大半は、病欠だったり途中退席でまともにテストが受けられなかった子だってのも」
「あのね、まき絵がテストが散々だった理由だけど……」

 あまり大きな声で言えない事なのか、アキラが耳元に口を寄せて来て囁いた。

「オナニーにはまって勉強が手につかなかったみたい」
「アホか」

 突っ込んだのはむつきの膝の上にいて囁きが聞こえてしまっていたエヴァだった。

「まき絵がテスト期間中よくトイレに籠ってシテたみたい。亜子はお腹でも壊したと思って心配してたんだけど、ついさっき事実を知って怒っちゃって」
「ああ、だから」

 佐々木が部屋の隅でめそめそしているのに、亜子が知らんふりをしているわけはそういう理由か。
 他の子は親友同士がギクシャクしているので、余計に声を掛けづらくなっていた。
 確かに自分が禁欲して頑張っている間、親友がオナニーに夢中になっていれば怒りたくもなる。
 ただ、佐々木がずっとトイレに籠ってたというのも気になった。
 別にどういうオナニーをしていたかとかではなく、こもり続けていたことがだ。
 先日、神楽坂が日に五回もと言っていたが、普通の女の子はそんなにオナニーを続けられない。
 佐々木は運動部とはいえ美を競う新体操部であり、特別体力があるわけでもなかった。

「まき絵、もしかしていじるだけでイケなかったんじゃないの?」
「女の子のオナニーは男とは違うからな」

 恐らく佐々木は拙い知識でオナニーしたため、絶頂を迎えることができなかった。
 だから逆にそれを終わらせるきっかけもないままずるずるしてしまったのだろう。
 そんな真相はさておき、この目出度い場で落ち込んだり怒り続けるのもかわいそうだ。

「エヴァ、ちょっと降りてくれ」
「む、佐々木まき絵にやり方を教えてやるのか?」

 今そんな事をすればそのまま襲いかねないと、余計なことを言ったエヴァの頭をぽこんと叩く。
 主賓にも近い扱いだったむつきが動けば、それは目立つ。
 念願のデートの権利を手に入れてはしゃいでいた宮崎や那波ですらむつきの動きに気づいた。
 もちろん、その足の向き先が何処かも。
 仲が良いからこそ亜子と佐々木の軽い喧嘩も、同じ親友のアキラや明石以外は楽観視していた。
 だがあえてむつきはこの場で火中の栗を拾う様に、まずは膨れ面の亜子の頭を一撫でする。

「先生?」
「ちょっと待ってろ」

 机で頬杖をついていた亜子にそう言い置き、むつきは壁に向かってうずくまっていた佐々木の両脇に手を置いた。
 突然のことでビクンと驚いた佐々木をそのまま抱え、その体重の軽さに驚きつつ。
 一先ずは涙で瞳を潤ませている彼女を立たせ、連れて行く。
 亜子の隣、ただしその椅子に座ったのはむつきであった。
 軽くぽんぽんと膝の上を叩いて、落ち込んでいる佐々木を対面座位のような形で座らせた。
 普段の彼女ならまず座らないだろう。
 いつもの無邪気な笑顔で意味も分からずエッチとでも言ったかもしれない。
 だが、並々ならぬ優しさを持った、あの亜子に怒られたのが余程堪えたらしい。

「先生ぇ……」
「よしよし」

 精神よりも余程幼い子供の様にひしっと抱き付いて来た佐々木を抱きしめその頭を撫でる。
 おかげで、亜子がさらに頬を膨らませてしまったが仕方がない。
 むつきも佐々木よりは可愛いお嫁さんの亜子を優先させてはやりたかった。
 だが亜子にはもっともっと可愛い嫁でいてもほしかったのだ。

「不満か、和泉?」
「だって、まき絵が……皆が一生懸命、一丸となってテストの為に頑張ってたのに」
「うぅ……」
「大丈夫だって、俺に任せとけ」

 まだまだ亜子の怒りは収まってはおらず、ことさら佐々木がむつきに抱き付いて来た。
 彼女を宥めるむつきの姿に、ありがたくも余計な茶々を入れる者はいなかった。

「ちょっとだけ、教師らしくないことを言うが。和泉はなんで怒ってるんだ?」
「なっ、なんで?!」

 親しき仲にも怒りあり、むつきの言葉にさすがの亜子もイラッとしたようだ。
 そもそも、先にむつきは亜子の不満が何であるか聞いていたからなおさらであった。

「だから、まき絵が」
「別に勉強するもしないも、佐々木の自由じゃないか?」
「そんなわけない、皆が勉強を頑張ってるのに。クラスの順位を上げようって」
「ダウト」

 苛立ちから机を叩いて立ち上がり叫んだ亜子のセリフをむつきは短い言葉で指摘した。

「確かに今回、お前らはテスト期間中からちゃんと勉強してた。勉強が得意な子も、不得意な子も。だけど、その前にクラスの順位を上げようとか、一丸となってとか約束したか?」
「してない、かな」
「うん、してない」
「アキラ、裕奈まで……そりゃあ、してへんけど」

 口ごもった瞬間にアキラや裕奈がそれを肯定した為、しぶしぶ亜子がそれを認めた。

「暗黙の了解とかは置いておいて、別に誰も約束したわけじゃない。皆が皆、自主的に勉強したんだ。俺の教師としての勉強しろって言葉も置いておいてくれ」

 置いておくものが多すぎて、ガバガバな理論に自分でも思えて来たが。

「勉強ってのはあくまで自主性で、佐々木がやるもやらないも自由だ。だから和泉の怒りは見当違いだし……そろそも、その怒りの発生点ですら違ってる。お前、自分がなんでそんなに怒ってるか、ちゃんと理解してるか?」
「まき絵が勉強するのは、クラスの一員としての義務だと思ってたから?」

 多少落ち着いたのか、席に座り直した亜子が上目使いに聞いて来た。
 未だむつきにひしっと抱き付く佐々木を伺う辺り、すまなくも思い始めているのだろう。
 そんな亜子の頭を軽く撫でてやってから、むつきは意地の悪い顔で笑って言った。

「違うよ。和泉は自分がストレス貯めながら必死に勉強してる時に、自家発電して発散してた佐々木が羨ましかっただけだ。けどそう言うのが恥ずかしかったから、クラス一丸とか耳触りの良い言葉を選んじまったんだよ」

 きょとんと眼を丸くする亜子は流石に元清純派、黙っていれば可愛いばかりだった。

「え、えー?!」

 本当にこんな初々しい亜子を見たのは、何時ぐらいぶりだろう。
 真っ赤にした顔を両手で挟み込み、ガタッと立ち上がってはむつきから距離をとっていた。

「ていうか、先生セクハラじゃ」
「言うようになったな村上。俺はただ、生徒の美しい友情を取り持とうとしただけだ」
「それは百歩譲っても、自家発電ってオヤジくさ」

 多少分かってやったことだが、釘宮の呟きが一番傷ついた。
 中途半端な照れ隠しでそういう言葉を使ったのがまずかった。

「うるさい、とにかくだ。佐々木が勉強せずに、順位を落としたのはただの自業自得。自己責任だから、逆に言えば誰から責められるべきことでもない。それを責めたいと思ったら、正当ではない理由がなにかあったと思え」
「それで結局、先生はどっちの味方なんっすか?」
「どっちの味方でもねえよ。心情的には、全く勉強しなかった佐々木を怒った和泉の味方になりたかったが。怒った理由が理由だったからな、先にそっちを諌めたまでだ」
「先ってことは、つまり……」

 むつきが春日の言葉に正直な胸の内を語ると、美砂が正確にその意味を察した。
 いや美砂だけでなく、赤面して飛びのいた亜子も、他の子達も全員だ。
 未だにむつきに張り付いていた佐々木へと視線を落としていく。
 周囲のそんな視線に促されたわけではなかったが、それに応えるようにむつきは両腕を広げた。
 今までずっと佐々木の頭や背を、労わる様に撫でていた手をだ。

「うわ、痛そう……」
「普段通り勉強しててよかった」

 むつきの両手が握りこぶしを握ったことで、鳴滝姉妹がそう呟いていた。
 彼女たちも実は佐々木と同じように、特別力はいれずにこれまで通りにしか勉強していなかったのだ。
 だが佐々木とは地力が違う、彼女たちは普段通りであればクラスでも中堅以上に勉強出来た。
 悪戯好きだが実はクラス限定であれば以外に勉強できる二人だった。

「佐々木、お前一体なにしてんの?!」
「痛い、痛い……ひぃーん、だって気持ち良くてやめられなくて」

 ぐりぐりと佐々木の頭をすりつぶす様に拳骨をこめかみに擦り付ける。

「これ以上馬鹿になったらどうするんだ。お前、マジで後ろには病欠とか途中体質の子しかいなかったんだぞ! これに懲りたら、程々にしときなさい。自家発電も勉強も」
「ごめんなさい、許してぇ!」

 別の意味に変わった涙を佐々木が流し、安全地帯ではなかったと逃げ出した。
 亜子並みにまき絵を優しく包み込んでくれるであろうアキラの胸の中にだ。
 しかし本当にこの子は考えが足りない。

「アキラぁ!」
「まき絵……ごめんね、先に謝っておくね。私も色々我慢して頑張ってたんだよ。先生を見つめたいの我慢して、教科書とノートばかり。だからこれは八つ当たりね?」
「ふにゃぁっ?!」

 胸の内に飛び込んできた佐々木を、アキラが容赦なくその胸の中で締め付けた。
 なんと羨ましい幸せ固めか、男にとっては。
 ただしぎりぎりと音が聞こえそうな力の入りぐらいで、桜子や明石のお株を奪う猫叫びっぷりだった。

「アキラ、アキラ。まき絵パース」
「パース?」
「私だって、先生の背中でごろごろしたいの我慢してたんだぞこの野郎!」
「うわーん、ごめんなさーい」

 アキラから佐々木を受け取った明石が、同じように豊満な胸の内で彼女を締め上げた。
 もちろん、言葉程には怒ってはおらず、八つ当たりだと分かった上でだ。
 むつきもちゃんと怒りの出所を理解していれば、邪魔をしようとも思わない。
 なら次は私と美砂や桜子、長瀬など今回頑張った子達が列をなす、巨乳限定で。
 あれは貧乳の女の子にとっては二重の意味で辛いのだろう。
 あまり胸部装甲に自信がない子達は、まき絵が次々に幸せ固めされる様を見てクッと声を漏らす。

「あれ、なんかお前ら変わった?」

 それにしてもつい先日までの二-Aの行動とは違って見えた。
 以前までならまだくすぐり地獄程度だと思ったが、アキラが始めたとはいえ幸せ固めとは。
 年相応に思春期を迎えつつ、男であるむつきの前でも羞恥心が減っているようにも見えた。
 それはさておき、代わる代わる可愛がられて、これで少しは佐々木も懲りてくれればとも思った。
 佐々木だけに、まったく油断できないとも思っているのだが。

「先生……」

 皆がまき絵を囲んで正当な八つ当たりをしていると、亜子がむつきの隣の席に戻って来た。
 しおらしくちょこんと座りながら。

「私、八つ当たりだって気づかずにまき絵に当たり散らしてた。はあ、こんな調子なら診療心理士なんて夢のまた夢やね」
「そんな簡単になれるか、考えが甘いよ中学生。三年現場で頑張ってた俺だって、まだ教師半人前だ。仕事はそんなに甘くねえ。それにまあ、恩恵がないわけでもないしな」
「恩恵?」

 おらおらと可愛がられる佐々木の悲鳴を聞きながら、むつきは隣の亜子にささやきかけた。

「夫婦喧嘩の後のセックスは燃えるらしいぞ? 覚悟しろ、子宮がパンパンになるまでハメ倒すからな」
「…………んぅ、ぁっ」

 今度は顔を赤らめるより先に、亜子の体が小刻みに震えてイッた。
 目元はとろんとむつきに媚びる光を帯び、その視線だけで抱いてと語り掛ける雌の顔だ。
 むつきが仮に童貞であれば、その顔だけで三回はオナニーできる蕩け位である。
 それにしても元清純派、現むつきの雌奴隷志望なこの子は本当に色々と駄目な子だった。









-後書き-
ども、えなりんです。

予想された方もいたようですが、馬鹿レンジャーはついに孤高の戦士となりました。
というか、原作でのネギの試験が根本から潰れました。
一学期の時点では最下位こそ脱しましたが、まだ低位。
夏休みを通して一気に上位ですよ。
また下がるフラグもビンビンですが。

次回はエヴァに気安く話しかけるぐらい有頂天な瀬流彦のお話です。
冷静になった後で背筋が凍り付いてそう……

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第百二十七話 恋愛を楽しむ普通の女の子です
Name: えなりん◆e5937168 ID:bd0bfbe0
Date: 2015/01/24 20:01

第百二十七話 恋愛を楽しむ普通の女の子です

 瀬流彦はこれまでの人生でかつてない程に浮かれていた。
 なにしろ今日は出来レースとでもいうべき、自分の為だけに開かれた合コンなのだ。
 年上から年下、可愛い子から凛とした美人や愛嬌のある美人までよりどりみどり。
 長かった独り身も今日でおさらば。
 月曜からはきっと、むつきのように美人の彼女の弁当を手に職場へ向かうのだ。
 他の教員から羨ましいねこのなんて、肘で突かれる様なベタで幸せな日が待っているはず。
 むつきがアタナシアの手作り弁当を持ってきた時は、逆に心臓が止まりそうになったが、それは例外。
 足取り軽く、むしろ天国まで駆けていくつもりで瀬流彦は集合場所に向かっていた。

「ああ、まだ誰が一番かも絞れてないのに。僕には一番を選ぶなんて、むしろ三人一緒になんて、なんて!」

 居酒屋が多い麻帆良市内の歓楽街を、周囲に奇異の目で見られながらも幸せ一杯で歩く。
 期待に膨らみ高鳴る胸、今日は白いスーツパンツに黒シャツで決めて来ている。
 最初は浮かれすぎて松田優作をイメージしてしまい、白い帽子まで被りかけた。
 出掛けに慌てて直したが、悪くない。
 勝利が約束された合コンとはいえ油断は禁物。
 さあ集合場所でもある店先が見えて来たところで、瀬流彦は目的の人物を見つけて手を上げた。

「乙姫先生、貴方の親友がやって来ましたよ!」
「ああ、瀬流彦先生」
「遅い、私を待たせるとは良い度胸だな瀬流彦?」
「あれ?」

 むつきの隣にいた金髪美女が振り返ったことで、瀬流彦の時間は止まった。
 普段の露出が高めなドレスではなく、肩こそ出ているが胸元はきっちり控えた黒のカジュアルドレス。
 今日は自分が主役ではないと分かっているからだろうが、そう言う問題ではない。
 だらだらと汗が吹き出し、脳みそが緊急事態のアラームを鳴りっぱなしにさせる。
 楽しい合コンに来たら、六百万ドルの賞金首がいた。
 わけがわからないよ、と。

「瀬流彦先生、なに固まってんですか?」
「なにって、なんで……」
「写真では知ってると思いますけど、僕の彼女のアタナシアです」
「むつきは友の為に開いた合コンで、お持ち帰りした前科があるからな。か、かか。彼女として監視が必要だからな。むつきはモテるから!」

 聞いてないよと、ダチョウ倶楽部並みに叫びたかった瀬流彦である。

「それとも何か、私がいると何か不都合でも?」
「め、滅相もない。むしろ、すいませんでした。昨日は調子乗っててすいませんした!」

 指をボキボキ鳴らしながら、アタナシアがまるで冷気を放つように瞳を光らせ睨む。
 止めてください死んでしまいますと、瀬流彦は直前の幸せも霧散し平謝りであった。

「ちょっと気持ち悪かったが、あの程度で怒るほど私は狭量ではないぞ。それよりも、分かっているんだろうな? 私のむつきだけでなく、むつみにもお膳立てさせたんだ。二人の顔に泥を塗る様なことがあれば、わかっているな?」

 思ったよりも心が広い賞金首だったと思ったのもつかの間。
 天国なんてとんでもない、細い蜘蛛の糸が垂らされただけの修羅場であった。
 合コンが始まる前からハードルが上がる上がる。
 近くにいるだけで心臓掴まれた気分の人がいる場所で、合コンを盛り上げろとは無理ゲー過ぎた。
 いっそ今ここで失禁してどたんばキャンセルできたら、どんなに楽なことか。
 または浮かれてここに来るまでに車にでも轢かれていた方が、どれだけ幸運だったか。

「こら、アタナシア」
「あいた。なにをする!」

 しかしそこに救世主なのか、悪魔なのかさっぱりわからないむつきが登場した。
 指を鳴らして凄んでいたアタナシアの頭をあろうことかコツンと拳で叩いて自分に振り向かせる。
 その光景だけで裏を知る瀬流彦からすれば、それこそ失禁ものであった。

「そんな指なんか鳴らして、アタナシアの綺麗な指が太くなっちゃったらどうするんだよ」
「き、綺麗な指……ふん、別に指をちょっと鳴らしたぐらいでどうにかなるほどやわじゃない」
「でも、どうせ指輪をはめるなら少しでも綺麗な方が良いだろ?」
「そ、そそそそれは、結婚いや。まだその前に婚約指輪だったり……」

 思い切り期待を込めて、左手の薬指の根元をむつきの目の前にチラチラさせていた。

「そういや、必要だよな。今度、買いに行くか?」
「行く、抱いて!」
「おっちょこちょいだな、アタナシアは。それじゃあ、順番が逆だろ。それに一人より、二人でイカないとな」
「馬鹿、こんな人通りが多い所で。でも大好き!」

 最初の反抗的な態度は何だったのか、むつきが少しの会話でアタナシアを退けた。
 というか、調伏したというか手なずけてしまった。
 ひしっと胸に抱き付かれ、えいっとアタナシアのおでこをつつく神経が謎だ。
 なんにせよ曲がりなりにも巨乳美女と戯れられると、凄くイラッとしてしまう。

「おうおう、独り身相手に見せつけとるのお。お前が瀬流彦か。今日は頑張れよ、独りもん」
「突然凄く失礼な、あなた誰ですか?!」
「我々は貴方の為に用意されたダミーの参加者です。乙姫、相変わらず壮健で」
「うわっ、出た。胡散臭い禿げが」

 瀬流彦の背中をバンバン叩いて暴言を飛ばしているのは酒呑であった。
 また同じタイミングで観音が現れ、アタナシアが凄く嫌な顔をしていた。

「瀬流彦先生、その二人が今日の……って、なんで観音が来てんだよ。俺が呼んだダミーの天狗は? お前も独り身だからダミーにならねえだろ」
「それが今日の昼過ぎになって、人妻のいない合コンに興味なんかあるかと私に連絡が入りまして。欠員が出るよりはマシかと、京都から参りました」
「ドタキャンとか天狗死ね。あと京都から来たとか、それだけで文句が言えねえ!」
「はっは、残念だったな瀬流彦。これでダミーは俺一人だ。観音も独りもんとあれば、俺はどっちの味方でもないからな。俺は酒がたらふく飲めればそれで良い」

 バシバシと未だ酒呑に背中を叩かれ続け、頭を抱えたくなった瀬流彦であった。
 なんというか、面子が濃すぎた。
 アタナシアだけでも濃いというのに、むつきの友人二人が筋肉マッチョと禿の坊さんである。
 糸目で細身の瀬流彦の元から薄い影が、ますます薄くなってしまう。

「んじゃ、一先ず店に入って美女の到着を待つか。酒呑、お前斎藤さんと最近どうなの?」
「昼間はツンツンしとるが、アレで夜は甘えたがりでな。今日もダミーだが、合コン行くと言ったら泣いて暴れて、宥めるのが大変だった。その大ゲンカの後は、燃えたがな」
「おい、むつき。なんで今私を見た。私はツンツンなどしておらんぞ!」

 いや、見てねえしとわいわい歩く三人の後ろに、とぼとぼ歩く瀬流彦と胡散臭い笑みの観音がいた。

「まあまあ、そうお気を落とさずに。こう見えて、私は頭を剃っているのでモテません。実質、ダミーみたいなものです。今日は貴方が主役、存分に頑張ると良いでしょう」
「観音さん……貴方は、良い人だ」
「あっ、ちなみに参加者の一人の素子殿ですが。フルネームは、青山素子。京都神明流の青山宗家の次女、現在こそ関東に住んでいますが実質は関西呪術協会と関わりもありますのでお気を付けを」

 さらっと止めを刺しに来た、あとこの人も裏の人間だと瀬流彦は天を仰いで少しだけ涙した。
 むつきはまぎれもなく一般人のはずなのに、何故そんなに知り合いが濃いんですかと。
 あとそんな裏を知りつつ京都から来たこの坊主こそ関西呪術協会の人間ではないか。
 ニコニコ顔で良い人そうで騙されたが、こいつが一番胡散臭いと思った瀬流彦であった。









 目的の店に入って十分もせずに、合コン相手の女の子たちがむつみに連れられ現れた。
 人数が多いので店の奥の掘りごたつの部屋であった。
 奥から酒呑に観音、瀬流彦という順で男が並び、反対側にみつね、素子に忍ぶという並びである。
 主催者であるむつみやむつき、おまけのアタナシアは一番下座のお誕生日席だ。

「前原しのぶです。今日はよろしくお願いします。こういうのは初めてで、緊張してます」

 まだ学生の前原は世間の荒波を知らぬ清純そうで礼儀正しくお辞儀していた。
 身に着けている襟付きの白シャツにはフリルがあしらわれていたり、唯一のミニスカートだ。
 三人の中で失礼ながら女の子という言葉が似合うだろう。
 それこそ大人っぽい子が多い二-Aなら、溶け込めそうなぐらいに。

「うちは紺野みつね、糸目のせいでキツネって呼ばれとる。好きに呼んだってな」

 対照的に紺野の方は多少スレた雰囲気を出しながらも、持ち前の愛嬌で麻帆良の空気が良く似合う人だった。
 カジュアルスーツに紫のシャツ、これだけなら堅いイメージだが何分胸元が無造作にあけられている。
 アタナシアの普段のナイトドレスと良い勝負なぐらいであった。

「次、素子さんですよ」
「青山素子」
「なんやなんや。素子、いっちょ前に緊張しとるんか? 久々に巫女衣装を引っ張り出してアレな方向に気張ったくせに」
「止めてください、キツネさん。これは理由あってのことで……」

 最後は青山なのだが、何故か彼女だけピリピリとした剣呑とも言える雰囲気を醸し出している。
 特に紺野が和ませようと既に酔っていそうな雰囲気で絡んでいた。
 彼女のおかげで和やかに始まりそうだった合コンだが、一人異常に緊張する者がいた。
 瀬流彦ではない、彼もアタナシアのおかげで緊張していたがそれ以上に緊張している者がいたのだ。
 緊張、なんて軽い言葉で終わらせられないぐらい、臨戦態勢と言っても良いか。

(何故、何故あんな化け物がこんな場所で平然と……)

 それは裏の世界を知る青山であった。
 女性陣の中で彼女だけがアタナシアの存在に気づいていた。
 主催者として皆にメニューを配って飲み物を選んでいるむつきの隣にいるアタナシアをだ。
 だが彼女には分からない、そこでアタナシアがそうしている意味が解らない。

「安いワインを飲むぐらいなら日本酒の方がまだマシだな。おい、他に日本酒を飲む奴はいるか?」
「おお、わしも日本酒だ」
「うちも日本酒やな」
「しかし、馴染みのない名前ばかりだな」

 非常識とも言える魔物が、居酒屋のメニューを前ににらめっこをするように眉を潜めているのだ。
 その意味を察しろと言われ答えられる者が一体何人いることか。

(なんなんだこいつは?!)

 ただでさえ合コンという男女がいかがわしい行為をする前儀式のような場で、前原を守らなければならないのだ。
 紺野はまだこういう場に慣れているので、そんなに心配はしていない。
 しかし彼女にとって可愛い後輩が、男の毒牙に掛かるのを見て見ぬふりをするわけにはいかない。
 それが例え、むつみという知り合いが用意してくれた場でも、最悪は常に想定するべきだ。
 だからここ数年は余り袖を通していなかった戦装束とも言える巫女服を引っ張り出してきた。
 表向きは分からないが、各所には武器やお札の類が至る所に隠されている。

「なら、わしに任せておけ。これでも日本酒には少しうるさいと自認しておる」
「お、なんや自信ありげやな。酒呑はんやったか。ほな、お手並み拝見といこうか」
「そうだな、馴染みがないとはいえ私の舌は肥えているぞ?」
「はっは、任せておけ」

 だがその魔物が誰よりもはやく場を盛り上げるかのように日本酒談義で盛り上がっていた。
 こちらを油断させる手か、警戒をより深めようとした青山は次の瞬間絶句することになる。
 むつみの従妹と紹介されたむつきが、他から見えないようにその魔物のお尻をつねったのだ。
 次の瞬間には殺されても文句の言いようがない行いに、本気で絶句して白目をむきかけた。

「あいたっ、また何をする。お尻をつねるとは……まったく、お前も少しは待てないのか。後でなら、トイレか外の裏路地でな? 好きなだけ抜いてやるから」
「違うわ、酒呑はダミーなの。ほら、あいつ日本酒のことになると我を忘れて……なんか前にも見た。紺野さんがもう既に酒呑をロックしちゃったじゃん!」
「おお、あの酒は良かったな。酒蔵には言ったことがあるか? 桶から直接注いだのは、また格別でのう」
「へえ、それは通やな。うちの周りに、日本酒を飲むのは少なくて少なくて」

 まだ合コンが始まって十分も経っていない。
 だというのに酒呑は当初の目的を忘れて、紺野とそれは楽しそうにお喋りを始めてしまっていた。
 さっきのお尻への攻撃はアタナシアの迂闊な行為への罰でもあった。
 ただ不可抗力とは分かっていたので、むつきもごめんねとつねった場所を撫でていた。

(なんだ、この男は……何故魔物の尻を撫でる。むつみさんの従妹であれば一般人、だとは思うが。ええい、わからん。この合コンに見せた謎の会合の意味が全く持って分からん!)

 出遅れはしたものの、まずどう初手を決めるか悩める人は彼女だけではなかった。
 それは青山の一挙一動をチラチラと盗み見ていた瀬流彦である。

(うわ、絶対この人。エヴァンジェリンさんの事に気が付いてる。下手に蜂の巣を突かれても困るし。というかあの酒呑って人なにしてんの。開始五分で紺野さんを持ってかれたんだけど!)

 彼女持ちの癖に何しに来たのこの人と、酒呑を睨んでも本人は気付いてもいない。
 だが日本酒談義で盛り上がっている場に切り込めるほど、瀬流彦は日本酒には詳しくはなかった。
 二人が色々な銘柄をあげているその一つさえわからないレベルなのだ。
 そこへしゃしゃり出れば会話は停滞し、空気が読めない人に認定されてしまう。

(なら不利な戦場よりも、元々第一印象で可愛かったしのぶさんに。観音さん、貴方だけでも下手に手を出さないでくださいね!)
(分かっております。なにがあろうと、私は動きません)

 アイコンタクトが伝わったのか観音が頷いたのを見て、瀬流彦が動いた。

「しの、前原さんはお酒は大丈夫ですか? もしも飲めな」
「しのぶにお酒はまだ早い。それに私も下戸だ。私は緑茶を、しのぶはどうする?」
「え、素子さん……えっと、カクテルとか甘そうなお酒はちょっと興味が。でも素子さんが飲めないのであれば、私だけというのも。じゃあ、オレンジジュースを」
「一応、帰りは僕が車で送りますけど。姉ちゃんとアタナシアが一緒だから、心配ありませんよ?」
「いや、私は緑茶。しのぶはオレンジジュースで、大丈夫だ!」

 流石にあからさまなインターセプトだったので、むつきがフォローしてみたのだが。
 全く持って無駄だった。
 何故か分からないが、青山が非常に警戒心を持っていることはわかる。
 むつきや瀬流彦と同い年のはずだが、こういう場に慣れていないのがひしひしと伝わって来た。

「駄目よ、素子ちゃん。リラックス、リラックス。怖い顔してちゃ、可愛い顔がだいなしよ?」
「いえ、むつみさん。これはそう言う問題では……」
「あはは、観音さんはなにを飲みますか?」
「では私も緑茶で。いやあ、面白くなってきましたね」

 何故第一声が結局、男である観音に向いてしまったのか。
 しかも単純に面白がっている観音にイラッとしてしまったが、仕方がない。
 瀬流彦が店員の呼び出しボタンに手を伸ばすと、青山がさり気に前原を守ろうと前のめりになる。

(これが世界の意志だとでも言うのか。僕はそういう運命だと……いや、僕は諦めない。例えそれが運命であろうと。可愛く気立ての良さそうな彼女を作る為にも!)

 早くも折れそうだった自分に活を入れ、瀬流彦は顔を上げて前を向いた。
 その視線の先には、警戒網をバリバリと伸ばしている青山である。
 何よりもまず彼女の警戒を解かなければ、愛しの姫である前原には届かない。
 しかし彼女に説明するにしても、どのように伝えれば良いのか。
 裏を知らない人間がいるこの場は無理として、なんとか彼女を連れ出さなければ。
 ならば裏の人間だからこそ出来る手もあると、瀬流彦は青山へと目配せしながら念を送る。

(青山さん、少しお話があります。私が席を外したら、お手洗いの方まで来て頂けませんか?)
(断る。何をたくらんでいるかは知らないが、私にはしのぶやキツネさん、むつみさんを守る義務がある)

 にこやかに笑みを浮かべる瀬流彦とは対照的に、青山がきっと厳しいまなざしを返す。

(いや、アタナシアさんは絶対安全だから。むしろ貴方がむつき先生を害した場合の方が危険で……あっ、ほら僕の隣の観音さんは関西呪術協会の人間だとか。五分で良いんです。説明させてください!)
(観音、そういえば謎の重鎮とのパイプ役を持ったそんな名の坊主がいると。三分だ、それだけなら猶予をやろう。ただし、私の離席中にしのぶたちに何かあれば……)
(あっ、それ絶対ないんで大丈夫です。むしろ今現在、麻帆良でここほど安全な場所もないですから)

 そんな事態になったらまず、当のアタナシアが黙っていない。
 色々な先入観からアタナシアを恐れている瀬流彦だが、彼女の性格は知っているつもりだ。
 彼女なら何があってもむつきはもちろん、その周囲の世界を構成するすべてを守る。
 絶対にそれだけはないと瀬流彦は念を押してから、むつきに注文を任せて席を立った。

「すみません、乙姫先生。注文お願いします、僕はちょっと……」
「緊張し過ぎですよ、瀬流彦先生。まあ、いいですが。アタナシア、ボタン」
「私に押させるのか、まったく良いご身分だな。ほら、ぽちっと」

 そんなやり取りを見て、やっぱり五分でも良いかもと少しだけ思い直した青山であった。
 店員が来る前に瀬流彦はお手洗いへと向かい、青山もすぐに前原に注文を頼んで咳を立つ。
 心配そうに何度も振り返りながら、ほぼ同じタイミングで瀬流彦と青山がいなくなる。
 二人がお手洗いの方へと消えていくのを眺めた後に、切り出したのは前原であった。

「あの、皆さん。ちょっとだけ、お願いがあります」

 まだまだ、二人の苦悩は続きそうな悪意のないお願いであった。









 一方、お手洗いの方に消えた二人だが、お手洗いの前で軽く人払いの魔法を使った。
 本当にお手洗いを使いたい人にとっては大変迷惑だが、五分だけだ。
 相変わらず警戒心マックスで、今にも巫女服の袖から短刀でも出しそうな青山に瀬流彦は切り出した。

「アタナシアと呼ばれている女性の本名は、エヴァンジェリン。元六百万ドルの賞金首、吸血鬼の真祖、別名闇の福音です」
「何故そんな魔物が居酒屋で合コンを主催している。ふざけているのか?!」
「いや、主催したのはむつき先生で……あの、信じられないかもしれないんですが。エヴァンジェリンさんは、むつき先生と付き合っていて。同棲の噂まで」
「ど、同棲だと。結婚前の男女が……いか、いかがわしい!」

 正直、そっちに反応するのかと瀬流彦は思った。
 どうやら青山という女性は、かなりそういう話に免疫がないらしい。

「大人同士、同棲は良いんですが。とにかく、絶対にむつき先生には手を出さないでください」
「ん、曲がりなりにもむつみさんの従弟だ。しかし、そこはあの魔物には、ではないのか?」
「どうせ、エヴァンジェリンさんに勝てる人なんていませんから。六百歳生きた彼女からすれば、可愛い子供の悪戯で済みます、たぶん。けどむつき先生をかすり傷一本でもつけようものなら、麻帆良が滅びます」
「は?」

 青山の反応は当然だろう、念の為にむつきの所作も観察していたがあれは一般人だ。
 魔物であるエヴァンジェリンを攻撃して滅ぶと言われた方がまだ理解できる。
 なのにその魔物ではなく、その恋人を傷つければというのがわからない。
 一番触れてはいけない逆鱗という意味で言っているのかと、青山が首を傾げた。

「普通に接するだけなら良いんですが、むつき先生は麻帆良の核弾頭なんです。無自覚の。関東魔法協会にはこんな通達があります。乙姫むつきにだけは、絶対に触れるなと」
「それは魔物が怒るからか?」
「というか、エヴァンジェリンさんを魔物、魔物というのを止めませんか?」
「六百年も生きれば、吸血鬼だろうと人間だろうと魔物だろう?」

 ちょっと自分でも意外だと思ったが、瀬流彦はチラリと覗き見るように自分たちのお座敷を見た。
 談笑しながらジュースを飲むむつきの肩に、アタナシアはそっと体を預けている。
 ニヤリと悪い笑みを浮かべたかと思えば、むつきが腰に手を回してギュッと抱き寄せていた。
 その場の勢いとでもいうのか、抱き寄せられるままに頬にキスをしてこらっと怒られている。
 イラッとするぐらいバカップルだ、街ですれ違おうものなら普通にイラッとするバカップル。

「彼女は僕なんかが百人いても叶わない大魔法使いです。睨まれたら怖いですし、出来れば関わり合いたくもない。けど、それでも彼女は僕の親友の彼女で、恋愛を楽しむ普通の女の子です。だから魔物って単語は、正直良く思えない」
「貴様は、思ったよりも良い奴だな。分かった、謝罪する。一先ず、向こうがしのぶたちに手を出さなければ、こちらからも何もしないと約束しておこう」
「はあ……よかった、これで合コンに集中できる」
「ただし、しのぶには簡単には手を出させない。可愛い後輩だからな」

 流石にそっちの警戒網さえ解けて欲しいというのは図々しかったか。
 それでも青山の心証は悪くなかったはずだ。
 自分でもびっくり発言は、良い奴だなとまで言って貰えたのであった。
 まだ合コンは始まったばかり、少しずつ彼女の警戒を解いて前原の連絡先をと瀬流彦は拳を握る。
 そんな決意は青山と二人で掘り悟達のある部屋に戻ると共に崩れ落ちそうになった。
 何故か席が変わっていたのだ。

「あっ、瀬流彦先生。前原さんが合コンに定番の席替えしてみたいって言ったので、申し訳ないですが席替えしちゃいました」
「え? あっ、そう……そうですか?」

 テーブルの前でむつきからそう告げられ、一瞬瀬流彦は何の事だかわからなかった。
 改めてテーブルを見ると主催者側のむつきやアタナシア、むつみの居場所は変ってはいない。
 男性側も、女性側も一番奥に瀬流彦と青山の席があった。
 真ん中が一旦日本酒談義を中断して、なにやらニヤニヤしている酒呑と紺野。
 主催者席に一番近い手前側が、妖しい笑みの観音とにこにこ顔の前原である。
 単純にクジでも引いたのか、なにか意図があったのか。
 席替えするにしても一部の人間がいない隙に、しかも開始早々というのはどう考えてもおかしい。

(ちょっと、前原さんが一番遠く。なんで?!)

 何故そうなったのか混乱する瀬流彦が見たのは、後ろを通る青山の耳にささやきかける前原だった。

「素子さん、頑張ってください!」
「なにがだ?」
「私、応援してます。一緒にセンパイより良い人探しましょうね!」

 ふんすと鼻息荒く瞳をキラキラさせている可愛い後輩の言葉を青山は掴みかねていた。
 だがしかし、そんな彼女を意中の人として狙っていた瀬流彦こそ今の言葉を理解してしまった。
 あろうことか誰が始めたのか分からない勘違いは、この場の青山以外の全員にいきわたっている。
 紺野がニヤニヤしているのもそうだし、むつきなんて頑張れと親指を立てて来ていた。
 なんてことだと、一番奥の席に座ってから恨めしげな視線と念を送る。
 瀬流彦が離席した意味を一番理解しているであろう、観音にだ。

(ちょっと、何がどうなっているんですか!)
(前原殿は、どうやら色々と勘違いをされたようです。青山殿をチラチラと伺い見る瀬流彦殿。さらには瀬流彦殿が切っ掛け作りで自分に話しかけようとしてそれをブロックする青山殿。お互い気になるのに素直になれない男女の図だと)
(嬉しくない乙女チック、だけど可愛い。ていうか、止めてくださいよ。なに一緒になって席替えに甘んじて前原さんと仲良く談笑してるんですか!)

 こうして瀬流彦と念話をしつつも、器用に観音は目の前の前原と談笑していた。
 ただし傍にはお誕生日席のむつきたちがいるので、厳密には五人でだが。
 ヒートアップしそうな瀬流彦へと、比較的穏やかに笑みを浮かべて観音は微笑んだ。

(手を出すなと、釘を刺されていましたので)
(高度な柔軟性を保ちつつ、臨機応変に!)

 この糞坊主と頭を抱えた瀬流彦を、流石の青山も不審に思ったらしい。
 今まで抱いていた不審とは違い、彼を心配する意味が含まれたそれだ。

「どうした。瀬流彦?」
「青山さん、実は……」

 事情を聞かされた青山が、即座に移そうとしたのは言うまでもない。

「しのぶ、ちょっと来い!」
「えっ、これってあれですよね。お手洗いに行ってガールズトークっていう。合コンって感じですね!」
「なんやなんや、楽しそうやな。ほな、酒呑はん。ちょっくら、行って来るわ」
「あらあら、楽しそう。私も、混ぜてぇ」

 お酒も入っていないのに、前原は随分と楽しそうであった。
 合コンが初めてだと言っていたので、この場に酔ってはいたのかもしれない。
 むつみを含めた四人が一旦この場を離れて、お手洗いへと向かう。
 だが、それで誤解が解けるかどうかは全く別問題。

「しのぶ、私はあんな糸目もやしなど好みではない!」
「おうおう、素子。もやしは兎も角、糸目はうちもキャラ被ってるで」
「あ、いや。すみません、キツネさん。ではなく、私はまず誤解をだな」
「そんな、照れなくても良いんですよ素子さん。センパイのことは過去のことです。新しい恋に生きましょう」

 間違いなく場に酔っていた前原が、詰め寄り気味に青山に言った。

「見た目は頼りないかもしれませんけど。ああいう人に限って、意外と素子さんの小説みたいに結婚式の最中にさらいに来てくれたりします。あれ、素子さんがさらう側でしたっけ?」
「言うな、よりによってキツネさんやむつみさんがいる前で。皆には秘密にするからって、読ませたのに!」
「なんや素子、まだあの妄想小説続けとったんか」
「ああ、懐かしい。素子ちゃんが結婚式の最中に謎の剣士として」

 合コンに加え、同窓会的なノリもあったのか素子の黒い歴史に話の花が咲いてしまった。
 悲鳴を上げながら素子がむつみの口を閉ざしても、開いた口はまだ二つあるのだ。
 懐かしげに前原や紺野が昔読んだそれを語り合い、素子の傷口は開くばかり。
 結局、ハイテンションという珍しい前原のおかげで、誤解を解くのは失敗した。
 そしてそのまま再度席替えがされることもなく、瀬流彦の待望の合コンは終わっていった。









 麻帆良がある埼玉からひなた荘がある神奈川までの帰りの車の中は、静かなものであった。
 紺野は酒呑との飲み比べで酔いつぶれ、前原は初めての合コンで気疲れから眠っている。
 二人に加え、同じく酔いつぶれたむつみの三人は最後尾の座席で毛布に包まれていた。
 むつきが小鈴から借りたワンボックスカーなので内部は広いのだ。
 起きているのは運転席のむつきと、助手席にいるアタナシア、そしてその後ろの青山だけ。
 黙々と運転するむつきにとって静かな空間は苦行であり、喧しくラジオや音楽を流すわけにはいかない。
 この静かな状況を打破しようと会話を行おうと試みるのは、自然な流れであった。

「青山さん、今日はどうだった? 一応、瀬流彦先生とは番号交換したけど」
「恐らく、かけてはこないだろう。瀬流彦の狙いは、しのぶだったしな」
「え、そうなの?」

 気づいていたら、そんなことは普通聞かないなと青山は薄く笑っていた。
 男は大抵、物静かで前原のような女らしい女の子が好きだ。
 自分のような男勝りの剣術家など見向きもされないと青山は思っていた。
 というか、今日は色々な意味で散々だったのだ。
 それこそ後部座席にいる旧友たちの様に疲れすぎて逆に眠れない程に。

「うーん、それなら今回は全員外れか」

 頭をガリガリかきながら、むつきは今回の合コンをそう評した。
 元からダミーだった酒呑は、番号交換時点で紺野に彼女持ちであったことを白状している。
 紺野はそれならと彼女も一緒に日本酒巡りをしようと笑っていたが、内心はどうだったか。
 瀬流彦のことを考えダミーを用意したが、考えてみれば相手がいるのだ。
 幹事としてそこはミスであり、普通の友達として落ち着いてくれた紺野が大人であった。
 また前原と観音も番号を交換したが、観音はそもそも京都在住なのでいきなり遠距離だ。
 そもそも観音にその気があるのかどうか、聞き出すのは難しい。

「おい、青山素子。待っているだけでは、勝機は生まれんぞ?」
「何の話、ですか?」

 アタナシアの言葉に普段の口調で応えようとした青山は、寸でのところでそれを改めた。
 なんだかんだ言っても、六百年生きた先達であるし、単純な強さで言えば尊敬に値するからだ。

「悪い男ではなかっただろう。くっく、この私を……はっは、女の子と言い切った。この私をだぞ。むつき、キスしたい」
「馬鹿、運転中。それに青山さんの前でなにいきなり」
「頬っぺただけ。危ないことはしないから、本当に頬っぺただけ」
「わかったよ、ほら。今、真っ直ぐな道だから」

 変わらず前だけを見ながら運転するむつきの頬に、アタナシアは一瞬だけ唇を振れさせた。
 そのちゅっと鳴った音が耳に残り、真っ赤な顔で青山が視線をそらす。
 ちょっとだけ昔見た姉と義兄の情事を思い出したが、頭を振り払う。
 改めて青山が前を見ると、照れているアタナシアがいた。
 裏を全く知らない、一般人の男の頬にキスをしただけで赤くなり照れる六百歳の吸血鬼が。

「本当に、女の子なんですね」
「ああ、そうみたいだ。私はただの女の子だ」

 運転中のむつきからすれば、何を当たり前のことをという感覚であった。
 しかしアタナシアも青山も、それが何処かツボにはまったようだ。
 最初はくすくすと、次第に耐え切れずに声を大きくして笑い始めてしまう。
 二人とも眠っているむつみたちを起こすまいとしているが、どれだけ効果があることか。

「んー、素子さんなんだか楽しそう。アタナシアさんと仲良くなったんですか?」
「ああ、すまないしのぶ。そうだな、仲良くなれそうだ」
「ごめんね、前原さん。ひなた市までもう少しかかるから、寝てて良いよ」
「すみません」

 起きたのは一瞬だけ、また前原はむつみたちと同じ布団に包まれ眠ってしまう。

「女の子、か。男で良い奴だと思ったのは、二度目かもしれない」
「そう思える男が見つかったのなら、迷わず掴み取れ。貴重だぞ、自分が尊敬できる男というのは」
「知っています、あれから何年。ようやく、二度目です」
「私も一度、そう思った男を逃した。むつきは二度目だ。絶対に掴んだこの幸運は、手放さん」

 ガールズトークを聞かされるのは恥ずかしいと、むつきは運転に集中していた。
 むつみ達を降ろした後で、適当な場所に停車させてカーセックスで可愛がってやろうと決めつつ。

「私も少し、掴むために伸ばしてみるか」

 それで瀬流彦に春が来るかは、まだこの時点では分からない。









-後書き-
ども、えなりんです。

瀬流彦の合コン結果はひとまずこんな形となりました。
ただし、本人は気付いてませんが一応フラグ立ちました。
何故か素子に……
当初はしのぶに立って、麻帆良祭の時の生徒とで三角関係になる予定だったのですが。
そう言う生徒がいたことさえ、読者は記憶のかなたでしょうが。

しのぶがその子を見て、私も昔はなんて思う話を書く予定でした。
まあ、素子が相手ならそれはそれで面白いかなと。
現在は「素子→瀬流彦→しのぶ」という不毛な感じです。

それでは次回は土曜日です。



[36639] 第百二十八話 次に起きたら、俺の秘密の場所だ
Name: えなりん◆e5937168 ID:bd0bfbe0
Date: 2015/01/31 21:01

第百二十八話 次に起きたら、俺の秘密の場所だ

 図書館島のとある探検コースに足を踏み入れた瞬間、宮崎はきらきらと瞳を輝かせていた。

「わあ、懐かしい。このコースは体験入部した時に、夕映とパル、木乃香さんの四人で組まされ初めて探検したんです。図書館探検部員は、必ず一度は探検させられるんです。でも、皆直ぐに物足りなくなって四月以降はガラガラになっちゃうんです」

 珍しく宮崎にしてはハイテンションで、そう説明してくれた。
 当時の懐かしい思い出が、その場所に来て蘇ったからだろうか。
 本棚の上にある道や底の見えない谷は同じだが、落下防止用のネットが谷には張られている。
 また罠の類も、あまり慣れていないむつきの目でもわかりやすいぐらいだ。
 例を挙げれば本棚の上の通路に、唐突に赤い丸が塗られているぐらいに分かりやすい。
 それはもう不自然なほどである。

「あっ、先生も気づきました? あの赤い丸、穂先が吸盤の矢が飛んでくるんですけど」
「あんなに目立ったら、誰も引っかからないだろ」
「えへ、それがパルが見事に引っかかって。ボタン、押さずにはいられないって言って」
「一年生の頃じゃ、今よりも向こう見ずだったんだろうな」

 楽しげに当時のことを説明する宮崎は、色々と気合が入っていた。
 髪は短いポニーテールにし、唇には薄くリップが塗られている。
 元から素材は良かったが、それを損ねることなく引き出したのは夕映の入れ知恵か。
 薄い青のワンピースには白のフリルと、おめかしに頑張ったのだろう。
 その手の中には明らかに手作りだと予想できるお弁当が入ったバスケットがあった。
 むつきとデートする為に、学年トップテンに入るぐらい頑張ったのだ。
 ご褒美はちゃんとあげないとなと、むつきは宮崎の手をそっと握った。

「え?」
「デートなんだから、手ぐらい握るだろ。ほら、行こうか」
「はい……」

 振り切れたテンションが萎むかとも思ったが、顔を真っ赤に俯く宮崎は手を握り返してくれた。
 そんな風に歩き出した二人を、隠れて尾行する影が二つあった。
 誰だと考えるまでもなく、夕映と早乙女である。
 面白がった早乙女が宮崎に連絡用無線を渡したが、のどかにはいらないと断られた。
 なので実力行使、こうして隠れて尾行とあいなったわけであった。

「ぐっふっふ、私に隠れてこんな面白そうなイベントを楽しもうだなんて、ゆ゛る゛さ゛ん゛!」
「はあ……のどかが断った以上、こんな尾行は迷惑以外の何物でもないですよ」
「シャラップ、ゆえ吉。あの恥ずかしがり屋ののどかなら、途中で絶対に助言を欲しがるはず」
「甘く見すぎです。今後の展開次第では、のどかの方がパルより先に乙女を卒業しかねないというのに」
「まあ、これが上手くいけばのどかは彼氏持ちだけど。乙女卒業とか、まっさか。ゆえ吉が私よりも先に乙女を卒業するぐらい。ない、ない!」

 それは流石にないと笑う早乙女こそを、夕映は逆に内心ふっと冷笑していた。
 一般的な感性であれば、教師であるむつきが生徒である宮崎に手を出さないと考えても仕方ないが。
 なにしろ既に自分の方が先に乙女を卒業し、生涯の伴侶を得ている。
 毎週の休み、特に禁欲明けの昨日などは、本当に妊娠するかと思うぐらい何度も子宮に精を注がれた。
 むつきの前で全裸になり、はしたなくも股を開き、秘部を自分で開いておねだりだってさせられたのだ。

(何も知らないというのは、いっそ哀れです)

 彼女の同人誌作成の手伝いで、何度男性器の書き方がおかしいと説明しかけたことか。
 主人公が体位を変えた場面でさっきよりも深いとヒロインが叫んだ場面で、普通にさっきの体位の方が深く入るのですがと内心突っ込むことだってあった。

「ほら、見失わないうちに追うよ!」
「仕方がないですね」

 先を歩く二人に見つからない程度、距離を空けてから早乙女が走り出す。
 全くとため息をつきながら、夕映は目の前の早乙女の背中をドンッと押した。

「え? はうっ!」

 驚く間もなく彼女が踏んだのは、むつきたちが笑っていた罠の赤丸印だ。
 シュッと風を斬る音がして、見事に吸盤付きの矢にヘッドショットされる早乙女。
 見た目ほどには重くないとでも言いたかったのか、その身体は矢の勢いに飲まれ谷底へと落ちていく。
 もちろん、その先には落下防止用のネットがあり、綺麗に受け止められたが。
 そのネットの上で彼女は何度かバウンドしてから、ガバッと起き上がり上を見上げた。

「て、何をするゆえ吉。普通にびびったわ。初心者コースだからって装備持ってないんだから。ちょっとチビりかけたじゃない!」
「パル、これに懲りて尾行を止めませんか?」
「ぬがあ、まさか身内に裏切られるとは。意地でも尾行して、のどかのファーストキスを先生に奪わせてやる。可能なら、処女も可!」

 のどかを思って早乙女を邪魔したつもりが、返ってそのお邪魔虫に火がついてしまったらしい。
 そこで夕映が持ち出したのは、高枝切りばさみだ。
 その木の枝でさえ斬り裂くはさみの刃が向く先は、落下防止用ネットの四隅だ。

「残念ですよ、パル。貴方は特に良い友人でもなかったので、自業自得なのです」
「ちょまっ、なにしてんの夕映。私、マジで装備持ってないから流石に」
「ああ、私が背負っているのは貴方の装備なので。慈悲です、受け取りなさい」 
「ぐえ。お、おのれ、謀ったなゆえ吉って、ギャグ飛ばしてる場合じゃない!」

 乱暴に投げつけられた装備に押しつぶされながら、慌てて早乙女が何かを言い募る。

「本当に待っててば、夕映。先生とのどかの甘いToLoveるを演出する為に、罠の位置をこっそり変えたりしたんだってば!」
「え? あっ」
「ぎゃあ、落ちる。オッノーレー!」

 だが時すでに遅く、落下防止用ネットの四隅を支えていた最後の砦が切られた後であった。
 見事それまでに装備一式を背負った早乙女であったが、間に合わずに谷底へと落ちていく。
 最後までギャグ要員らしく、ギャグをとばしながら。
 まあ既に暗闇に飲み込まれた早乙女は良いとして、慌てて夕映は立ち上がった。
 そのまま二人の下へと駆けつけようとして、ぴたりと立ち止まる。

「装備がない上、初心者コースと侮る私が一人で追うのは危険です。助けは超さんが適任ですか。二人がデートをしていたことは、対外的にまずいですし」

 そう考えて追跡を諦めた夕映は、下手にその場を動かずにまず電話することに決めた。









 夕映が案じていたむつきと宮崎であるが、早乙女の目論見通りにはいってはいなかった。
 なによりもまず、宮崎が罠の位置や数がおかしい事に気づいていたのが大きい。
 初心者コースの地図は、罠を設置した者が書いて無料配布されている。
 大抵の図書館探検部員は、最初にここに挑戦した時に罠の位置を全て覚えるぐらいやり込む。
 それぐらい熟達しなければ、次のステージに挑戦しても全く無駄だからだ。

「先生、私の踏んだ通りに移動してください。えい、えいっと。はい!」

 むつきの先を歩いていた宮崎が、なんの変哲もない通路を跳び跳びで歩く。
 そもそも本棚でできた通路をなんの変哲もないと言ってよいかは分からないが。
 彼女が跳ぶ度にワンピースの裾がふわふわと舞い上がり、危ういところまで素足があらわとなる。
 宮崎もそれに気づいて気を付けてはいるが、可愛さを優先したのが仇となった。

「きゃっ!」

 一際大きく跳んだその時、舞い上がり過ぎたスカートを両手で慌てて押さえつける。
 ぐらりと大きくバランスを崩し、小さくはない悲鳴が上がった。

「よっよ、それでほいっと。キャッチ」
「あっ、ありがとうございます」

 背中から倒れそうだった宮崎を、急いで後を追ったむつきが受け止め支えた。

「すみません、先生。スカートのせいで、せめて普段の探検装備なら。私、あまり運動神経は」
「まあ、女の子は多少どんくさい方が可愛いかな? 肉体労働は男に任せろ」
「きゃぁっ!」

 ふらふらとみているこっちがハラハラすると、むつきは宮崎をそのまま抱き上げた。
 上半身の力で横抱きにし、それまで彼女が踏んでいた個所に新たに足を付ける。
 一度力を入れ直して宮崎を抱きなおし、お姫様抱っこの完成であった。
 奇しくも、早乙女が全く期待しない方向で、罠の設置が上手くいったとも言えた。
 抱き上げられた宮崎は、突然舞い降りた幸運にポニーテールを止めて顔を隠したいぐらいに真っ赤であった。

「先生……」
「宮崎、次はどこ踏めば良いんだ?」
「あの、あっちを。先生の腕の中、温かいです」
「宮崎は柔らかくて、良い匂いがするな」

 こっそり呟いたつもりが、むつきには丸聞こえで返された言葉にまた赤くなる。
 そのまま脳汁ごと脳みそが沸騰しそうになるぐらいに。

(たぶん、罠はパルのせいだけど。ありがとう。先生にお姫様抱っこまで、嬉し過ぎてまた泣いちゃうよ。あっ、でも……)

 罠の無い位置をむつきに伝えながら、どこかまだ冷静な部分が自分に告げていた。

(来週には、那波さんとも。先生、きっと那波さんともデートして、私は先生の特別なんかじゃない)

 好きな人の腕に抱かれ、大好きな図書館島でデートして幸せ一杯なのは間違いない。
 しかしその幸せ一杯な心の中に、寒々しい風が時折吹きすさぶ。
 これは勉強を頑張った生徒への教師としてのご褒美に過ぎないのだ。
 宮崎にとっての先生と言えばむつきだが、むつきにとっての生徒は何人もいる。
 デートすると告げられた時は舞い上がって余裕はなかったが、むつきは那波にもデートを約束した。
 約束のトップテン入りをしたのは自分だけなのにと思わないでもない。
 それに那波の件は偶々宮崎の前で約束しただけで、むつきに憧れるクラスメイトはまだまだいる。
 自分が知らないだけで、他にもご褒美だとデートの約束をしているのだろうか。
 自分は特別ではない。
 だがそんな事よりも、もっと確かな感情があった。

「先生、もう少し先に休憩所があるんです。そこでお弁当を食べましょう。一生懸命、作ったんです。先生の為に」
「そっか、じゃあ着いたらありがたく頂こうか。実はちょっと腕が疲れて来てたり、なんてな」
「す、すみません。重くて」
「冗談を真に受けるな、宮崎。軽すぎるぐらいだ、このまま寮まで連れて行ってやろうか?」

 それこそむつきの冗談だとは分かっている。
 お願いしますと言えば、冗談に決まっているだろと言われるのが落ちだ。
 むつきが教師で、宮崎自身が彼の生徒だから。

(先生、私はどんな形でも良いから。先生の特別になりたいんです)

 ライバルである那波に嫉妬したり妬むよりも、他のクラスメイトを疑うよりも、宮崎には確固たる想いがあった。
 男嫌いの自分がここまで好きになれる男がこの先出来るなんて考えられない。
 かつて異性というモノは自分を傷つけるだけの存在で、むつきのように優しく何度も優しく教え導いてくれる人はいなかった。
 だから他の子がどうこうではなく、何よりもまずむつきの特別になりたかった。
 決して表にできない関係でも、親友である夕映に祝福されない関係でも構わない。

「おーい、宮崎。あの建物がそうか?」
「はい、あの茶店のようなものがそうです」

 両腕は宮崎を抱くのに忙しく、むつきが代わりに顎でしゃくって尋ねた。
 宮崎の言う通り、図書館島ではなく京都にでもありそうな小さな茶店である。
 建物の前には休憩用の長椅子があり、自動販売機がいくつか設置されていた。
 他にはのぼりのような旗で休憩所とも書いてあり、また別ののぼりには迷ったらここから動くなともあった。
 宮崎の最後の指示で罠にかかることなくそこまでたどり着き、むつきは彼女を降ろした。

「初心者コースが忙しい四月は、持ち回りで図書館探検部員が売店に立つんです。迷子が出たら、即座にここから人が派遣されます。だから、ここだけは室内の休憩所があるんです」
「場所が場所なだけに、そういう管理もされてるんだな」

 宮崎がそう説明しながら、店頭の長椅子には座らず奥の建物へと向かう。
 すりガラスで中が見えない引き戸を開けると、六畳一間ぐらいの畳部屋があった。

「先生、中でご飯にしましょう」
「言われてみれば、表はまずいか」

 四月以外はガラガラとはいえ、中途半端な時期に図書館探検部に入ろうとする者がいないでもない。
 外の方が景色というか、図書館島の不思議な光景は見ごたえがあるのだが。
 それもやむなしと宮崎に続いて、休憩所に上がらせて貰おうとした時のことである。
 むつきの尻ポケットに入れておいた携帯電話がピピピと着信音を鳴らし始めた。
 先に準備していてと宮崎に手を振り、休憩所には入らず外でむつきは電話を取った。

「夕映か、もしもし?」
「先生、今どの辺りでしょうか? のどかは無事ですか?」
「無事ってどういうことだ? これから休憩所で、飯の予定だけど」
「尾行しようとしたパルを撃退したは良いですが、初心者コースの罠を勝手に弄ったみたいです。これ絶対あとで先輩方に無茶苦茶怒られるです」

 何をしているんだと、夕映のため息の後にむつきもため息をつきたい気分であった。
 宮崎も途中で何かおかしいと言っていたが、原因はとても身近なところにあったのだ。
 呆れ果てて言葉もないと携帯電話から夕映ではなく、小鈴の声が聞こえて来た。

「親愛的、その休憩所からは動かないことをお勧めするネ。もっとも、親愛的の性格上、動けなくなりそうだけどネ」
「どういうことだ?」
「先を言っては詰まらないヨ。これから三時間後に、お迎えに行くネ。初心者コースも関係者以外立ち入り禁止の看板を下げておくネ。だから、部外者の立ち入りは気にせずにどうぞヨ」
「さっぱりわからん。とにかく、動くなってのはわかった。適当に時間潰してるから、三時間後だな」

 要点だけはわかったので、そのまま電話は切った。
 なにより今は宮崎とのデート中であり、彼女も他の女の子と長電話されて気分は良くないだろう。
 必要な連絡事項ではあったが、それはそれという奴である。
 むつきは改めてすりガラスの引き戸を開けて、休憩所の中へと上がり込んだ。
 何故か宮崎は出入り口の脇に正座しており、バスケットからお弁当を出すこともしていない。

「あー……綾瀬から電話で、罠がおかしいのは早乙女の仕業だってさ。超に助けを求めて、三時間後ぐらいに迎えに来るから、ここから動くなって」
「三時間、そうですか」

 なんか変な緊張感があると、宮崎の前に回り込んで座ったむつきは電話の内容を伝えた。
 すると三時間と何度か呟いた宮崎が立ち上がり、引き戸にガチャりと鍵をかける。
 飯を食うのにわざわざ鍵をするのかと不思議に思ったむつきの前で、宮崎が振り返った。
 その顔は道中の楽しげなものとは一線を画し、緊張にまみれるように強張ってさえいた。
 ワンピースのスカートを両手でギュッと掴み、必死になった様子で額に汗を浮かばせてさえいる。
 なにかに怯えながらも、懸命に一歩を進む様に彼女らしからぬ強い口調で言った。

「好きです」
「え?」

 前振りもなくストレートに、宮崎の気持ちを伝えられた。
 唐突過ぎる告白についていけず目が点となったむつきを見て、宮崎はより強くスカートを握りしめる。
 気のせいでなければ、その宮崎のワンピースのスカートがするすると持ち上げられていく。
 膝上だった裾が宮崎の細い太ももの上を滑り、その付け根まで。
 乙女の花園を包むピンクに黒のフリルと随分と背伸びしたパンツがあらわになるまでだ。
 強すぎる羞恥で真っ赤な顔からぽろぽろと涙を流しながら、宮崎は続けた。

「私、こんなことでしか。那波さんや他の子みたいにスタイルも良くないし、可愛くもなくて。どんなに考えても、こんなことでしか先生の気を引けなくて」
「宮崎……」
「先生、来週には那波さんとデートするから。今じゃなきゃ、こうしなきゃきっと見ても貰えない」

 宮崎が来週にはと呟いたことで、むつきは明らかにしまったという顔をしていた。
 ご褒美だからと軽い気持ちで那波にもチャンスを与えたが、宮崎の前でするべきではなかった。
 おかげで楽しいデート中にでさえ恥ずかしがり屋の宮崎にこんなことをさせるぐらいに追いつめてしまったではないか。
 むつきの前で勝負下着らしきパンツを見せるその足は、ふるふると羞恥か恐怖に震えていた。

「すまん、俺が悪かった。そんな事はしなくて良いから。ご褒美を上げるつもりで、こんな思いつめさせるなんて。那波とまでデートするのは不公平だったよな?」
「違うんです、謝って欲しいわけじゃないです。那波さんから先生を取り上げたいわけでも!」

 スカートをまくる宮崎の手を降ろさせようとしたが、彼女らしからぬ力に抵抗されてしまう。
 謝罪の言葉も拒否され、むしろ彼女がこぼす涙が増えたぐらいだ。

「どんな形でも良いから、先生の隣にいたいんです。先生が他の女の子を見てても良い。ただ時々でも、私に振り返って……宮崎って、笑いかけて欲しくてだから」
「本当にすまん、俺はやり方を間違えた。これで、良いんだよな」

 宮崎を諌めるでなく、めくれ上がったスカートもその奥のパンツも何もかも、ひっくるめて抱きしめる。
 拒絶するように引きはがすでなく、懐に深く受け入れた。
 震える彼女の髪を梳くように撫でつけ、ぽろぽろとこぼれる涙を唇で吸い上げる。
 テンパって自分に魅力がないなんて勘違いしている悪い子を叱る様に、それはもう強く抱きしめた。

「先生、私……」
「もう、なにも言うな」

 抱きしめられた宮崎が何を呟こうとしたか、分からない程にむつきはにぶくない。
 ずっと前から彼女の気持ちには気づいていたのだ。
 気づいていながら、中途半端な対応をして傷つけ追いつめてしまった。
 既に求められたら応える心構えはしていたというのに。
 だから最後の一線として、今度はむつきからそれを踏み越える。
 抱きしめていた宮崎を間近で見下ろし、ささやく様にしてその耳に呟いた。

「宮崎、のどか……脱がすよ」

 むつきの言葉にのどかは頬を染め視線をそらしはしたものの、こくんと小さく頷き返してくれた。
 少し引っ張れば破れてしまいそうなぐらいに薄いワンピースを脱がしていく。
 スカートの部分を軽くたぐり、のどかに万歳をさせてするりとだ。
 再び泣きそうなぐらいに赤面したのどかを、逆にむつきは懐から引き離した。
 六畳一間の狭い畳の部屋でのどかは半裸でぺたんと女の子座りをしている。
 線の細い体を覆うのはピンクの下地に黒のフリルのパンツとブラジャーのみ。
 むつきに見つめられるたびに両腕がそれを隠そうとするが、唇を噛んで与えられる羞恥に耐えていた。

「可愛いよ、のどか。俺の為に、着てきてくれたんだな」
「はい……」

 もう一度嬉しいよとささやきながら、むつきは震えているのどかを抱きしめた。
 のどかへと触れることを遮っていた衣服はもうほとんどない。
 むつきの手が素肌に、背中や腰回りに触れる度にのどかの小さな体がぴくんと反応する。
 まるで怯えた小動物が触れられたような反応が可愛らしくてたまらない。
 抱きしめながらそっと畳の上に押し倒し、うなじの辺りを味わう様に舐め上げる。
 穢れを知らぬ少女の甘い肌の味わい、生来の男嫌いからかより純度が高いように思えた。

「ぁぅ」
「のどか」

 今直ぐにでもこの小動物のように可愛らしい少女をむさぼりたい。
 降り積もった新雪をいの一番に穢し、真っ白だったそれを自分だけのものにするような。
 この可愛らしさはそのままに女に、自分のだけの女にしたいという欲が溢れだす。
 むつきの特別になることを望む彼女は拒まない、喜ぶだろう。

(でも、それは卑怯だよな)

 のどかの全てを奪った後で、実はと明かすのは卑怯だとむつきは思った。
 彼女であればそれでもと喜ぶかもしれないし、逆に先に聞かなかった私が悪かったと胸に仕舞うかもしれない。
 どちらにせよむつきの傍を選ぶとは思うが、それではだめだ。
 彼女の一生を預かるのなら、何一つしこりなく笑顔で隣にいて欲しい。
 一昨日の夜から今日の昼にかけて禁欲を解禁しておいてよかった。
 仮に順番が逆であれば、そう考える前にのどかは破瓜の痛みに耐えながらむつきに穢されていたことだろう。
 キュッと瞳を閉じて、震えながら女にされるのを待っているのどかの髪をむつきは優しく撫でた。

「のどか、眼を開けて俺を見てくれ」
「んっ?」

 怖々と薄目を開けたのどかが、どこかほっとしたようにむつきを見上げて来た。
 早乙女のせいで意外と耳年増な彼女は、男の象徴を誇らしげに見せつけられると思っていたことなどむつきは知らないままでいた方が良いだろう。

「俺には大きな秘密がある。他人にバレたら、俺の人生がそこで終わるぐらいに大きな秘密が」
「先生の秘密?」
「ああ、先にそれを教えたい。なにも知らないのどかを抱くのは卑怯な気がするから」

 分かってくれるなとのどかの瞳を見つめながら、そっと体を離れさせる。

「だめ!」

 だがむつきの言葉に反するようにのどかがしがみつくように抱き付いて来た。

「のどか、どうした? なんで?」
「我儘を言ってごめんなさい。だけど、怖いんです。先生が困って、その場しのぎの嘘で二度と私を傍に置いてくれないんじゃないかって」
「俺は嘘をついたりなんかしない。俺の秘密を全部話して、それでも受け入れてくれるのならのどかの全部を貰う。初めても、その後の人生も全部だ」
「勇気がなくて、先生を信じ切れなくて、ごめんなさい。嫌わないで。先生を受け入れる自信はあっても、選んでもらえる自信がないんです。だから、今ここで。先生が後戻りできないことを私にしてください」

 のどかの細い腕からは信じられないぐらいに強く抱き付かれていた。
 その震えは既に羞恥からではなく、自分への自信のなさの現れでもあった。
 彼女は例えむつきの言う秘密が、自分のような貧層な体でしか興奮できない人でも受け入れられた。
 いやむしろそれは望むところ、早乙女が描くような同人誌並みの変態でも構わない。
 怖いのは臆病でいつも親友の影に隠れ、びくびくしている自分がむつきに受け入れられないことだ。
 いやそれもまた臆病さの現れか、先に手を出されなければ怖くて離れられなかった。

「先生、私を見てください。小さいけど、少しはあるんです」

 むつきの首に片腕は絡ませたまま、逆の手を背中に回してパチリとブラのホックを外す。
 興奮し過ぎてわけがわからなくなりながらも、一思いに脱いだ。
 これまた早乙女の同人誌の知識から男を誘う術を絞り出し、ほらと片手で持ち上げながら見せつける。
 手の平の上でふるふるところがし、伸ばした人差し指で乳首を転がす姿さえ見せた。

「お願いします、手を出してください。エッチなことをしてください。先生は絶対に私を受け入れてくれるって勇気をください。お願い、します」

 ぽろぽろと泣きながらお願いされては、もう断ることすらできなかった。
 言葉も不要、ただただむつきにはのどかに対して行動でしか返せない。

「のどか」

 彼女の指でこねられていた乳首にそっと唇を寄せる。
 桜の花びらの上に落ちた雨露をすするように優しくちゅっとすすり上げた。
 可愛らしい桜色に染まった雨露を唇に含んだまま舌先でもころころと転がし可愛がった。
 何度もキスを繰り返しては、舌先で転がす様に嘗め回し時にちゅうっと強く吸い上げる。
 反対側の胸もプリンを手で掴むぐらいのつもりで優しく触れ、舌触りの代わりに手でその柔らかさを味わう。

「のどかのおっぱい美味しいよ」
「はぁぅ、せ、先生ぇ……」

 むつきが感じる甘さ以上に甘い声をのどかがあげる。
 アレだけ強く抱きしめていた力は弱まり、体を丸くむつきの顔を包み込む様にしていた。
 その代り、もっと吸ってとばかりにむつきに小さく可愛らしい胸を押し付けて来てもいた。
 普段の消極的な彼女が嘘の様に、もっと戻れなくなって欲しいとばかりに。
 ならばのどかが納得するまでするしかないと、むつきはもう躊躇わなかった。
 彼女の胸の甘さを堪能し、浅い谷間に挟まれ谷底にまで舌を這わせては新雪を穢す。

「のどかは、勉強はできるけど悪い子だな。教師をこんな風に誘うなんて」
「ごめんなさい、ごめんなさい。悪い子です、私」

 意地悪く浅い谷底から見上げて言うと、のどかは嬉しいのか恥ずかしいのかまた泣いていた。
 本当に悪い子だ、その涙を流す顔がより一層むつきの情欲を刺激する。
 好きな子の気を引きたくて虐めたい、のどかはアキラに似てとても苛めたくなるタイプだった。

「ああ、悪い子だ。勝手にブラジャーを脱いで、俺は脱がすのを凄く楽しみにしてたのに」

 むつきの言葉であっと小さく声をあげ、早乙女の同人誌で似たような場面でもあったのだろうか。
 脱いだブラジャーを慌てて着ようと手に取るなんて、本当に可愛い子である。

「あーあ、一度脱いじゃったら新鮮味がないから意味がないな……」
「あぅ、ごめんなさい。嫌いにならないでください。何でもしますから」

 似ていると思ったがやはりアキラとは違う。
 アキラにはエッチなことをして肉体的に虐めたいが、のどかは精神的に追い詰めて苛めたくなる。
 女の子がそんな簡単に男になんでもしますなんて、言って良いわけがない。
 相手が図に乗るだけ、そして当然のようにむつきも図に乗った。
 のどかをもっと虐めたい、追いつめてもっと涙を流させたい。
 もちろん、最終的には良い子良い子と撫でて幸せ一杯にしてあげるつもりである。
 むつきだってハッピーエンドが大好きなのだから。

「本当に悪いって思ってるなら、ブラジャーの匂い嗅がせて」
「え?」
「嫌なんだ、じゃあいいかな」
「待ってください、先生。ど、どうぞ。私のブラジャーの匂いを嗅いでください」

 むつきがすっと離れようとすると、慌ててのどかが手に持っていたブラジャーを差し出してきた。
 もちろん気の利く彼女は、可愛らしいデザインの表ではなく、裏地が見えるようにである。
 小さなカップのそれに鼻を押し付け、むつきはのどかが見えるように聞こえるように深呼吸した。
 恥ずかしくて爆発しそうなぐらいに真っ赤なのどかの目の前でだ。
 脳髄が痺れる甘い女の子の匂い、普段は目にすることすらないその裏地に籠ったのどかの匂いを吸い込む。
 それこそ一物がはち切れそうなぐらいに興奮したが、あえて不満そうに呟いた。

「ちょっと汗臭いかな。ここまで来るまでに軽く運動したもんな」
「いやぁ、やだよぉ。ゆえゆえ、先生が私の汗の匂いを……ふぇ、ぁ」
「呼んでも誰も来てくれないぞ」

 そろそろ虐めるのも頃合いか、夕映の名を呼んだのどかがヒックと喉を鳴らした。
 羞恥も限界突破して、嬉し泣きでも、羞恥泣きでもない本泣きが入り始める。
 元来、男から意地悪をされて男嫌いになったのどかだ、その辺りの見極めは必須だった。
 だから泣きそうになった彼女の瞳を真っ直ぐ見下ろし、一気にネタばらしだ。

「嘘、全部嘘。凄く良い匂い、甘くて女の子らしくて。興奮した。のどかが可愛すぎて、耐えられなかった。それぐらい良い匂い、可愛い。大好きだ!」
「ぁっ」
「俺の傍にずっといろ。いや、もうのどかは俺だけのもんだ。嫌って言っても、彼女にするからな!」

 半ば天然でやっているが、それでのどかの心には刻まれる。
 乙姫むつきという存在が、信じてたのにとひび割れた心に温かい風となって。
 傷ついた女の子の心にするりと入り込む、以前誰かに言われたむつきの詐欺師のような技だ。
 もっとも今回は自作自演のようなところはあるのだが。
 そうとは知らずにのどかは安堵する、なんの意味もなく意地悪されたのではないと。
 そもそも今ののどかは、男の子が女の子に意地悪をする理由を理屈を知っていた。
 かと言ってそれを許容できるかは別問題だが、相手がむつきであればそれこそ別問題。

「先生は、私が……私のことが大好きだから」
「ごめん、苛めたくなっちゃうんだ。嫌わないでくれ、この感情はどうしようもないんだ」
「ああ、先生。苛めてください、先生だけ。先生にだけは一生苛められてても良いです。苛められたい。先生、もっと私の汗臭いブラジャーを、私の体の匂いを嗅いでください」

 のどかが自分からブラジャーをむつきに押し付ける。
 アレだけ恥ずかしく消え去りたいと思った行為を、自分から望んでだ。
 だがむつきもそれだけじゃ足りないと、その腕を取ってかわし、のどかの体に抱き付いた。
 直接のどかの体に縋り付き、彼女の腕を上に持ち上げあらわとなった脇を舐め上げ匂いを嗅ぐ。

「のどか、ちょっとしょっぱい。凄くのどかの汗の匂いがする」
「はうぅ、恥ずかしい消えちゃいたい。でも、先生なら、先生だけなら」
「もっとのどかの味を知りたい、もっとのどかの恥ずかしい味を」
「先生、私の一番恥ずかしい……味、一番恥ずかしい。こ、ここです」

 脇を舐め上げ味わわれながら、のどかがむつきの右手を両手で掴んだ。
 むつきに味わって貰えるならと、その手を自分のもっとも恥ずかしい場所に案内していく。
 今現在すすられている脇でも、既に唾液まみれの胸でも、キュッとすぼまったおへそでもない。
 さらに下、ピンクと黒のフリルで覆われた一番恥ずかしい場所。
 そこへ自らむつきの手を案内して、そっと触れさせた。

「ここって何処? どうして恥ずかしいの?」
「い、言えません」

 いつの間にか濡れていたそこを、パンツごしにむつきが指先で割れ目に沿ってなぞる。
 キュッと体を小さく震わせたのどかだが、続けられた問いかけにはキュッと口をつぐんだ。

「のどかはどうしてここが一番恥ずかしいって思ったんだ? ここから、何が出るんだ?」

 執拗に尿道が近い場所をつんつん刺激され、むつきが意地の悪い声で尋ねる。
 また虐められてしまう、けれど今までの苛めとは違うと矛盾した幸福感にのどかは困惑していた。
 好きな人に虐められる事がこんなに嬉しいこととは知らなかった。
 もっと虐めて欲しい、恥ずかしいことを強要されたい。
 何故ならそれだけ見て貰えるからだ、この瞬間だけは魅力のない自分でもむつきの視線を独り占めできるからだ。

「おしっこです。女の子がおしっこをする場所だから」
「んー、惜しい。場所じゃなくて、穴。女の子がおしっこをする穴って言ってごらん」
「穴です。女の子がおしっこをする穴です。うぅ、見ないで先生ぇ」
「ほら、顔は隠さないの」

 卑猥というには甘い言葉だが、恥ずかしがり屋ののどかではそれでも死ぬほどに恥ずかしい。
 アレだけむつきに見つめられたかったのに、両手で顔を隠してその視線から隠れてしまう程に。
 だがむつきの手によってそのガードはいともたやすく外されてしまう。
 それだけにとどまらず、すっと何かをすくったむつきの指がのどかの目の前に置かれた。

「じゃあ、これはおしっこなのか?」

 てらてらと舐めた唾液で濡れたような指、粘り気のある液体に濡れた指だった。
 本当に恥ずかしさで死んじゃうと目をそらしても、その手は追って来る。

「のどかは勉強が出来る子だ。保険体育で習ったよな?」
「……です」
「ん?」
「愛液です。先生のおちんちんをいれる為に、私のおまんこから出た愛液です」

 本当にこの子は優等生であった。
 知識の出所はさておき、上目づかいでむつきが一番言って欲しい形で言ってくれた。
 もう少し羞恥攻撃で楽しみたかった手前、ちょっと拍子抜けした部分もあったが。
 小鈴が手外してくれたので間違いはないだろうが、それでもここはひかげ荘ではない。
 いつだれが来るともわからない為、そろそろ潮時だろう。

「脱がすよ、のどか。一番恥ずかしい場所を味わわせて貰う。その代り、良くしてあげるから」
「ど、どうぞ。よろしくお願いします」
「ご丁寧にどうも」

 くっと腰を持ち上げ、のどかがパンツを脱がせやすい恰好となってくれた。
 内気な彼女とその行動や知識がアンバランスで少し可笑しかった。
 間違いなく早乙女のせいだろうが、それものどかの魅力の一つか。
 彼女の精一杯の勝負パンツに指をかけ、脱がし降ろしていく。
 丸まりながらそれを脱がしていくと愛液で濡れて張り付いていた個所がつっと糸を引いた。
 のどかが言う通り、むつきを受け入れる準備は万端とばかりに。
 太ももを通り過ぎた頃には両足を掲げてあげて、片方ずつパンツを脱がしていった。
 脱がして丸まったそれは宮崎の顔の横にそっと置き、持ち上げた足も丁寧に下す。
 ついに全裸にされたのどかは、自然と手で自分の卑猥な部分を隠そうとしていた。
 下腹部はもちろん、今さらだが小振りな胸でさえだ。

「大丈夫、綺麗だから。凄く、綺麗だ」
「先生……見せたら、もっと苛めてくれますか?」
「ああ、もっとだ。これから一生、のどかを虐めて良いのは俺だけだ。他の奴が虐めようとしたら、追い返して守ってやる。俺だけが虐めて良いんだ」
「はい、先生だけ。私を苛めて良いのは先生だけです。だから、見てください」

 のどかの問いかけを正面から答えると、それは望んだ回答だったようだ。
 男の前で全てをさらす、普段は衣に奥深く隠された乙女の全てを。
 恥ずかしさにギュッと瞳を閉じながらも、のどかは最後の砦だった腕を体の上から退ける。
 仰向けになったせいでふるんとやや重力に引かれて弾む胸も。
 薄い茂みが愛液でしなり肌に張り付いた恥丘から、今もとろとろ愛液が溢れる割れ目もだ。
 誰にも見せたことのない自分の全てを、のどかは今むつきの眼前に全てあらわにした。

「のどか」
「んぅ」

 むつきはまずのどかのおへそに触れ、そこから指を滑らせていく。
 書道家が真っ白な半紙に筆を滑らせるように、お腹を子宮の上を通って薄い茂みの中へ突入する。
 愛液で肌に張り付いたそれは障害にはならず、むつきの指は丸みに従いスピードを増していった。
 愛液の滑りも入り、川に隠れた陰核をも通り過ぎ、ぴったりと閉じた割れ目の中へうずもれる。

「はぅ、ぁっ」

 厚めの大陰唇をかき分け、まだ誰も触れたことのない膣穴の入り口に辿り着く。
 べったりと愛液にまみれた指は、そのまま彼女の中へ入り込む。
 未通の明石である処女膜をなぞりながら、さらに奥へ。

「あっ、あはぅ。んぅぁ!」

 指の腹で膣壁を擦ればのどかの腰が浮き上がり、勢いで二つの丘がぷるんと震える。
 むつきの腕が人形師の手の様に、膣という糸を使ってのどかを巧みに操った。
 咄嗟に閉じられた両膝の間に身体を差し込み、覆いかぶさる。
 布団の上ではなく、畳の上だったのでのどかが掴まる場所がなかったからだ。
 すぐさま縋るモノを見つけたようにのどかが抱き付き、背中のシャツを力一杯握って来た。

「ぁっ、うぁ。先、あぁ!」
「最後まではまだしないが、しっかり刻んでやる。俺が戻れない証を、のどかが安心できるように」
「だめ、激しっ。壊れ、こんな苛められ方、知らなっ。はぁっ!」
「当たり前だ、この苛め方をして良いのは俺だけなんだから」

 むつきの手に操られ、のどかが淫らに踊る。
 誰も知らない彼女の嬌声で、男に股を開き、腰をくねらせ合いの手ではなく愛撫で踊っていた。
 一番激しいステップは愛液を弦楽器の様に弾かれた時か。
 挿入された指からそのままむつきの手の一部の様に、良い様にのどかは踊らされる。
 既に閉じようとしていた足はむつきの腰を挟んで捕まえ、自ら望んで踊る様に。

「さあ、優秀なのどかはわかるな? こういう時、どう答えれば良いか」
「き、気持ち良いですぅ。はぁぅ、おまんこ。おまんこ気持ち良いですぅ!」
「良い子だ、もっと気持ち良くしてあげるからな」

 優等生が絶対に口にしない言葉を口にして喘ぐのどかの耳に、むつきは囁いた。
 むつきの指はのどかの未通の穴を何度も抉り、愛液を畳の上に散らしながらさらに加速する。
 本物ではない疑似的な挿入ではあっても、未通の乙女ののどかにとってはおよそ初体験。
 仮にオナニーの経験だけはあっても、こんなごつごつとした太い指を根元までなんて初めてだ。

「こ、壊れる。苛め、壊されちゃいます。先生、先生!」
「これから一生だ、もっと凄く虐めてやるからな。俺ののどか、俺だけののどか!」
「ぁっ、だめ。キュンキュンしちゃ、はぅぅ。欲しがっちゃ駄目なのにぃ!」

 普段の大人しく引っ込み思案なのどかは、ここにはもういない。
 目の前の男に一生をささげたいと懸命に腰を振ろうとする健気な女がいるだけだ。
 挿入されたのが指であろうと、自分を見て欲しいと淫らに踊る雌がいるだけ。

「可愛いぞ、のどか。俺を受け入れてくれたら、もっと凄いことをしてやるからな」
「無理、これ以上なんて。だめ、来ちゃだめ。来ないで、先生の前で。イク、イッちゃいます」
「構うな、そのまま。見ててやるから、後で恥ずかしくて死にたくなるぐらい盛大にだ」
「イク、イク……腰が、浮いちゃって。もっと、おまんこずぼずぼ。ひぅっ、イ、イクぅっ!」

 むつきの首に腕をからませながら、腰を浮かせ体を弓なりに。
 まるで電気でも流し込まれたかのように激しくのどかが暴れ、歓喜に体を震わせた。
 ビクビクとその震えは膣内のむつきの指を通って伝わるぐらいであった。
 キュンキュと指に吸い付き、これが一物であれば中出しされる精液を絞るがごとく。
 珠の汗を飛び散らせ、六畳一間の休憩所に雌の匂いを充満させながらのどかはイッた。

「はぁ、はっ……ふぁ」
「可愛かったよ、のどか」
「ふぇんはぁ……」

 呂律が回らないぐらいに意識が飛んだのどかをそっと畳の上に寝かせる。
 全身が桜色になるぐらいに火照り、その姿は未通ながら少女ではなく既に女の色香さえ感じ取れた。
 襲い掛かりたい、今直ぐに全てを貰い受けたいがもう少しの我慢だ。
 せめてとのどかの愛液でふやけそうな指から、彼女の味を舐りながら必死に我慢する。

「のどか、少し寝てて良いぞ」

 脱がしたパンツやブラジャーを手に寄りつつ、むつきはそう彼女に伝えた。
 室内の備品にあったティッシュで彼女の後始末をしつつ、パンツを履かせながら言った。

「次に起きたら、俺の秘密の場所だ。皆を紹介する、全てを話す」
「はひ……先生、大好きです」
「ああ、俺も大好きだ。皆と同じぐらい」

 ファーストキスで幸せに溺れたのどかは、むつきの皆という言葉にまで気が回らなかった。
 ただただ肉体的快楽の後の倦怠感と、身なりを整えさせてくれるむつきの手の暖かさに包まれながら。
 彼女の意識は幸せのまどろみの中に沈み込んでいく。
 次に目覚めた時、むつきの言う秘密の中にどんな秘密があろうと傍にいたいと思いながら。
 どんな秘密だろうとこの幸せの為なら、全然平気だと勇気よ自信を胸に秘めて。









-後書き-
ども、えなりんです。

……かなり、強引な気がします。
のどかの思い切りは、もうワンクッションあっても良かったかな?
でもぐだぐだしてると、話が進まない。
先にひかげ荘に入ってる明石や佐々木、長瀬のこともあるし。
あと、正妻さんもそろそろ何か書いてあげないと。

そんなこんなです。
最近、出番終わった子は番外編でえろえろ書いてれば良い気もしてます。
次は来週の土曜です。



[36639] 第百二十九話 皆の前で抱いてください!
Name: えなりん◆e5937168 ID:bd0bfbe0
Date: 2015/02/07 20:40

第百二十九話 皆の前で抱いてください!

 幸せな温もりと倦怠感の中で、世界で一番大好きな人たちの声が聞こえた。

「なかなか、起きないな。最初からちょっと無茶させ過ぎたか?」
「先生は少し自分の性技を自覚するべきです。多種多様な人種の、可愛く美しい乙女たちの未成熟な肉壷を、その指先一つでかき回しては昇天させているのですから」
「やな言い方するなよ。そりゃあ、真ん中の足は一本しかねえから、同時に相手にするにはこの両手を使うしかないわけだが。後はベロか」
「無意識なのがまた恐ろしい。先生はアレが大きいから凄いのではないのです。何故か的確に個々で違うはずの乙女の弱点を突いて来るのですから」

 何の会話をしているのかはわからなかったが、むつきと夕映の傍で自分が寝ているのはわかった。
 少々重い頭を持ち上げ、瞼を開けると同時にのどかは横たえていた体を起こした。
 何故か浴衣姿、下着は何もつけていない、肌触りで分かる。
 それを自覚すると同時に、浴衣の合わせを両手で絞めて、側へと視線を寄越した。
 大好きな親友である夕映と、大好きな異性であるむつきの会話がした方だ。

「のどか、体調はどうだ? 辛かったり、痛かったりするところはないか?」
「超さんと葉加瀬さんに既に診療はしていただきましたが、精神的な何かはあるですか?」
「え、えっと……あれ?」

 矢次に二人に尋ねられたは良いが、その言葉の殆どが頭の中に入ってはこない。
 多少の気だるさはあるが、何故かその割に体は軽い。
 日頃のストレスや疲労、それらが全て放出された後の様にすっきりしている。

「はぅ……」

 その発散した理由を思い出し、布団の中に隠れたいが隠れられなかった。
 せめてとタオルケットで口元まで隠しながら、のどかは混乱の最大の理由をチラリと見た。
 聞かれた言葉の意味も、理由もちゃんとわかっている。
 図書館島でむつきの手で乙女の大事なところをかき回され、気持ち良くてイッた。
 のどかとてオナニーの経験はあるが、それとは比べ物にならないぐらいに良かったのだ。
 普段、早乙女の同人誌の手伝いでそう言うシーンを見てそこまで気持ち良くはと思っていたが、アレはある意味で正しかった。
 それに教師であるむつきが、生徒であるのどかにあんなセクハラをすればしらは切れない。
 元々はのどかが望んだことであるし、幸せ以外感じなかったからそれは全く問題なかった。

「どうしたですか、のどか?」
「ゆえゆえ、どうして先生のお膝に座っているの?」

 何故か自分を看病していてくれたらしき親友が、大好きな人の膝の上で頭を撫でられていた。
 意味が解らない、あんなに素敵な時間をくれたむつきが起きてみれば親友を愛でている。
 起きて即座にそれを理解しろという方が無理であった。

「これが先生の秘密なのですよ、のどか。ここは先生の家である元学生寮のひかげ荘です」
「元々は俺の爺さんの物件なんだが、この夏に正式に俺が受け継いだ。名実共に俺のモノだ」
「はあ……」
「のどか、この部屋に何処か見覚えはあるのではないですか?」

 そう夕映に指摘され、改めて部屋を見渡したがのどかは小首をかしげてしまった。
 見覚えがなかったからだ、図書館島の休憩室の様に木目模様が美しい天井をもつ木造の部屋。
 恐らくは出入り口の一つであるドアはなく、代わりに両開きの襖がある。
 麻帆良女子高等学校の学生寮や麻帆良市そのものの西洋モダンなそれとは一線を画す。
 だが何故だろう、夕映に言われた通り、全く見覚えがないとも言えない気がした。
 しばしさまよったのどかの視線は、本好きらしい場所で止まって気付く事になった。

「あっ、本棚にある本。全部、ゆえゆえがお勧めしてくれた本ばかり」
「さすがのどかです、気づいてくれて嬉しいですよ」
「良く分かるな、のどか。俺にはさっぱぐぇ」
「全くこの人は、夏休み前に貸してあげたお気に入りの本。まだ五十ページも読んでいないのは知っているのですよ。あまつさえ、読書中に寝入ってしまい指を挟んだままにするとは言語道断」

 無頓着で乙女心を察しないむつきの言葉は、抱きかかえられていた夕映のエルボーで遮られた。
 ぷんすかと頬を膨らませる夕映に必死に謝るむつきの姿は、嫉妬を覚えるよりもなんだか微笑ましい。

「あれ、先生のお家に夕映の部屋……え、先生の秘密……」

 二人のやり取りにクスリと笑っていられたのもつかの間。
 じわり、じわりと二人の言葉の意味を察して、背筋に冷たい絶望感が広がり始める。
 起きる前から声を聞いて心に浮かんだ、大好きな親友と大好きな異性。
 その二人は学校ではそんな素振りさえ見せなかったのにとても仲良しな、恋人の様に睦まじい。
 未成熟な自分の体を使ってまで誘惑した大好きな異性と仲睦まじい大親友。
 我知らず、いや理解したくなかったのか、じわりと涙が浮かんだ時であった。

「早とちりはいけませんよ、のどか」
「あう……ゆえゆえ?」
「先生のおかげで少々涙腺が弱っているようです。泣き止まないと、面白い顔を先生に見せてしまいますよ」

 四つん這いで近づいて来た夕映に人差し指で鼻の頭をつつかれた。
 さらに続けてふにふにとされると同時に恐ろしい言葉をささやかれて、両手で鼻ガードである。
 まだ事情は呑み込めないが、乙女として大好きな人に面白い顔など見せられやしない。
 慌てて鼻ガードをした時には、いつの間にか滲んだ涙も引っ込んでしまっていた。

「さあ、おいでのどか。俺の秘密を全部、教えてやる。夕映は皆に連絡。風呂で汗を流そうか」
「ぁっ」

 夕映に何かを頼んだむつきが、浴衣姿ののどかを軽々と抱きかかえた。
 お姫様抱っこ再び、あれはやっぱり夢じゃなかったと嬉しくなる半面、どこか不安が残る。
 気絶した間にむつきの家にお持ち帰りされたのだろうが、彼の言った謎が謎を呼ぶ。
 元学生寮のひかげ荘、その中に何故かある親友の夕映の部屋。
 不安げに胸元に縋り付けば優しい微笑で見下ろされ、どうしてよいか分からない。
 迷っている間にもお風呂場というか、脱衣所についていた。
 一般的な家庭のそれとは違い、銭湯やそれこそ温泉の脱衣所の雰囲気である。

「さあ、のどか。脱がすぞ」
「え、でも……」
「のどかを脱がしたいんだ」
「はい、どうぞ」

 どう考えてもおかしなお願いだが、そこは惚れた弱みである。
 多少恥ずかしさから嫌がりはしても、断るなんて選択肢があるはずもない。
 色々と不可解さは頭に残ってはいたが、後ろから両肩に置かれた手に逆らえなかった。
 浴衣の上を這う様にいやらしくむつきの手が脇から腰を通り、お腹の前の帯を手に取る。
 するりと解かれては浴衣の合わせが肌蹴け、ブラジャーもパンツもない裸体がチラ見した。
 極自然と乙女として浴衣の前を両手で閉めたのだが、顔の高さを合わせたむつきにささやかれる。

「隠さないで、気を付け」
「ぁぅ」

 耳元で乙女に無茶な言葉を言い渡されても、そのまま言いなりである。
 一度は裸を見せて乙女の秘部を散々弄り回されたが、それはそれ。
 色々と振り切っていたあの時は違い、一度は睡眠を経て頭の中が整理された後なのだ。
 見て欲しいという本能と恥ずかしいという理性の板挟みにあってか細い声が漏れた。

「だ、だめです……」

 鎖骨辺りの襟元でむつきが指を引っ掛け、果物の皮を剥くようにのどかの浴衣を脱がしていく。
 つるりと滑らかな果実、もとい肌を持つのどかの肩があらわとなる。
 続いてむつきの手により剥かれ、うなじはおろか背中が、そのまますとんと床まで浴衣が落ちた。
 だがまだ背後のむつきから見えているのは背中、または身長さから乳房の上っ面だけ。
 そっと胸や恥部の若草などを両手で隠すが、何故か隠さないで見せてと言われない。
 何故と振り返る間に、その理由がわかった。
 ふぁさりと何かが落ちる音、自分が剥かれた浴衣が床に落ちる音と同じだ。

「のどか、行こうか」

 素っ裸のむつきに再び抱き上げられる。
 もうむつきの秘密だとか、何故か夕映の部屋がひかげ荘にあるだとかは吹っ飛んだ。
 カラカラと引き戸を開けて、素っ裸のまままだまだ高い場所にある陽光の下に連れて行かれる。
 お日様の下に素っ裸で連れて行かれてパニックを起こさない乙女などいない。
 自分が素っ裸である事すら忘れ、同じ素っ裸のむつきへとすがる様に抱き付いた。

「ぁっ」

 最初はギュッと瞳を閉じていたのどかも、遅まきながら気が付いた。
 むせ返るような独特な臭いと、体の芯から温めるような温い空気。
 温泉、脳裏に浮かんだ情報に目を開けるとその通りであった。

「わあ、綺麗……」
「三階から見える夜景も綺麗だが、この温泉もちょっとしたもんだろ」
「はい、とても素敵で、す?」

 そうやって感動したのもつかの間。

「本屋ちゃん、おっそーい。待ちくたびれちゃったんだから。折角、先生がいるのに本屋ちゃんが起きるまで駄目だって。そういう律儀なところも良いんだけど」
「にゃはは、自分の為なら嬉しいけど。他の可愛い子の為だと、ちょっとジェラシー感じちゃう。ずるいぞ、本屋ちゃん。うりうり」
「柿崎さん、それに椎名さん?!」

 カラカラと再び引き戸を開けてやって来た美砂と桜子に、のどかは目を丸くしていた。
 一頻りのどかをからかうと全裸の二人は、わーっと走って岩場から温泉に飛び込んだ。
 どっぱんと派手に水しぶきを上げて、まるで海辺で水着を着たようにきゃっきゃとはしゃぎだす。
 全裸で、男のむつきがいるのにも関わらず。
 いやむしろ波間で戯れる乙女の柔肌でむつきを誘惑しようと、猛禽か雌豹の眼差しですらある。

「私たちもいるぞー。先生の背中タッチ、今日はこれぐらいでしておいてあげる!」
「いるよ! やっとお風呂解禁、一週間に一度は入らないと調子出ないんだ」
「二人とも走ると危ないよ。本屋ちゃん、こんにちは」
「本屋ちゃん、本屋ちゃん。先生、本屋ちゃんで興奮してもう勃起してる」

 次に明石や佐々木が子供の様に走り込み、アキラがこらっと叱っても効果はない。
 もうっと頬を膨らませた後でアキラがのどかに挨拶をし、亜子がこそっとささやいた。
 岩風呂の温泉もそうだが、抱かれ振り返れない脱衣所もまたキャッキャと大盛況だ。
 本気でもはや言葉もないのどかを抱いたまま、むつきも岩場を乗り越え温泉に浸かり始める。
 ここでは俺が主人だと堂々と両足を開き、その間に抱いていたのどかをちょこんと座らせた。
 するとその時を待っていた二匹の雌豹がここぞとばかりに、むつきの両側を陣取った。

「先生、腕を組むぐらいは良いでしょ? 今日は本屋ちゃんがほぼ独占だけど、これぐらいは正妻の権利なの。私って偉い、凄い?」
「全く美砂は厚かましいなあ。良い女は黙ってそっと寄り添う。私みたいに。というわけで、抱き!」
「二人とも、のどかが困惑してるです。のどかは私が守るですよ。私は特に順位は気にしませんが、個人的にはのどかが先生の正妻になって貰うと嬉しいです」
「おお、ここに来て夕映ちゃんが裏切った!」

 裏切ったとは心外なとふふんと夕映が笑い、美砂がちくしょうっと温泉の水面を叩く。
 その間にもひかげ荘にいた乙女たちが、むつきのお嫁さんかどうかにかかわらず集まり出した。

「ちょっとアンタら、騒ぎ過ぎ。本当に非処女かどうかなんて、大人かどうかと全然関係ないわね。まあ、本屋ちゃんには私も幸せになって欲しいけど。良く考えた方が良いわよ、本当」

 釘宮だけはまだ厳重に体にタオルを巻き、こっち見んなとむつきにお湯のしぶきを弾いていたが。

「少なくとも、先生なら女子を泣かせるようなことはないと思うでござるが」
「ふふ、毎晩違う意味で女の子をとっかえひっかえ鳴かしてるけどね。本屋ちゃん、はいチーズ」
「流石の私も、夜の銃の扱いでは先生に後れを取らざるを得ない」
「時々、本当に泣いちゃいそうなぐらい激しい時もあるから。それで泣いちゃうと逆に先生興奮して激しくしてくるから、悪循環で……」

 長瀬が湯船に浸かればぷかり、和美がカメラを構えながらでもぷかり。
 真名やアキラもぷかりぷかりと、きっと彼女らは海に投げ出されても浮き輪要らず。
 人並み以上に自信がある美砂や桜子でさえ、くっと羨ましがらざるを得ない。
 夕映やのどかは人並み以下なのでぺたぺたと自分との格差に唖然としてしまう。

「ちょっ、こっち来んな巨乳艦体。比較されると、相対的に小さく見える」
「裕奈もさり気に、あっち側だよね」
「えへー、育っちゃいました。やっぱり日々の牛乳のおかげ?」
「こら、美砂と桜子はそっと俺のを握って別のミルクを出そうとするな」

 近くに来たら比較されると釘宮が逃げ出し、佐々木は無邪気に明石に秘訣を聞いていた。
 下ネタのようにむつきの愛銃をお湯の中で扱き始めた二人は拳骨を落としておく。

「おーい、まだ着替えてる奴は早くしろ。淫乱二名が、待ちきれずはじめちまうだろうが」

 全員が集まらねば話が始まらないと、まだ脱衣所にいる子達をむつきが呼んだ。

「少々お待ちを、女の子は準備に時間がかかるのですわ。大好きな殿方には、何時も綺麗に見られたいのですから」
「あー、委員長のこの物言いが腹立つ。これ以上綺麗になるとか、あれか。周りに対する挑戦か?」
「そんな貴方に、私秘蔵の香油を」
「ザジちゃん、それで本当に明日菜が傷つきかけたから。もうちょい、気を付けたってや」

 もうこれ以上誰が現れようと、のどかは驚けなかった。
 委員長や千雨、ザジに木乃香とクラスメイトがどんどん集まって来る。
 既にクラスの大半の人間がこの温泉に専用の浴衣も水着もなく全裸で浸かっていた。
 これがまだ寮の大浴場ならわかるが、むつきの家の温泉でであった。
 むつきの秘密とは、胸に湧いた不安は夕映が手を繋いでいてくれなければ耐えられない。

「のどか、大丈夫です。なにも心配はありませんから」
「ゆえゆえ」
「むしろ心配なのは、私です。下手をすれば、のどかに嫌われかねないのですから」

 だが流石に薄々はのどかも感づいてはいた。
 何時の頃からか、部活の時以外は夕映の姿は寮からですら消えることが多かった。
 土日も実家に帰るということが多くなり、いや彼女だけでなく大半のクラスメイトがだ。
 四月頃まではゴールデンウィークでさえ、帰るのが面倒と寮に残る者が多かったぐらいなのに。
 きっとたぶん、そうなのだろう。
 さよやエヴァ、小鈴に葉加瀬と五月、絡繰だけは着物姿で何かを指示され大きなお盆を湯船に浮かべる。
 どうやらジュースや甘味らしく、一人一人それを取っては次の人に回していく。
 全ての人にそれがいきわたると、軽く声の調子を整えてからむつきが言った。

「のどか、これが俺の秘密だ。俺こと乙姫むつきは、二-Aの大半の生徒を将来は嫁に貰うと約束した」
「そういうわけです、のどか。私も実は麻帆良祭の最中には既に先生と恋に落ちていたのです」
「言っておくけど私が正妻ね。もっとも、誰の挑戦でも受け付けるけど」
「私はまだ日が浅いけど、美砂の正妻の座を狙う一人。あと今のところはアタナシアさんかな」

 ああ、やっぱりと夕映や美砂、桜子の言葉からものどかは自分の考えが正しかったことをしった。
 それを受けて何を思うのか、最初に感じたのは安堵だった。
 ここに来てなさけないことだが、夕映がむつきと恋をしたことに安堵した。
 握ってくれていた手をぎゅっと握り返し、瞳の端に涙の粒を浮かべながら正直に打ち明ける。

「ゆえゆえも、先生が大好きだったんだ」
「怒らないのですか? のどかに秘密に、のどかが一生懸命に先生にアピールするのを応援しておきながら、私はその裏で先生といやらしいことばかりしていたです。実は、既に非処女です」
「むしろ、怒る権利を持ってるのは夕映だよ。私の方が後から先生を好きになったんだから。本当ならその時に私の方がって止められてもおかしくないのに。夕映は私が先生を好きになったことを許すだけじゃなく、応援までしてくれたんだから」
「のどかは懐が深すぎるです。普通、そこは怒るところですよ。私のこと騙してたんだって、裏で隠れて笑ってたんだろうと。のどかの性格上、人を恨む子でないことは知っていますが」

 そう言いつつも、心底ほっとしていた夕映であった。
 実際、そうなじられても仕方がないということは理解していたのだから。

「でだ、のどかはどうする? 俺はお前が望むなら、お前を受け入れる。生徒ではなく、俺の嫁として。もちろん、表向きは生徒だが。ここでならお前を一人の女の子として見てあげられる」
「先生、私の答えは変りません。どんな形でも、先生の隣に居られたら私は幸せなんです。先生の隣以外に、私の幸せは何処にもないんです。どうか末永く……」
「ああ、よろしくな。のどか」

 お湯の中で振り返ったのどかが決心をそう呟き、潤んだ瞳でむつきを見上げて来た。
 となれば断る理由はない、あの時の続きをとばかりにむつきは唇を奪う。
 小柄なのどかをしっかりと抱きしめ、唇を振れさせおそ潰しあった。
 キュッとのどかの体は縮こまるが、ならばとその分だけまた強く抱きしめる。
 そんな初々しいむつきの新たな恋人を和美が写真に収め、夕映が万感の思いを込めて拍手した。

「長かったです、ここに来るまで……」
「て言っても、初恋に気づいて叶うまで意外と短いえ。最年長片思い記録は明日菜がぶっちぎりや」
「止めろ、神楽坂を話題に出すな。まだ腹が、教室でいきなりオナニーしまくったって……」
「千雨さん、人の失敗を笑うのはいけませんわ。確かに、私たちのフォローがなければ明日菜さんは引きこもりまっしぐらでしたわね」

 夕映の言葉を皮切りに、木乃香が未だ片思い中の神楽坂を例に出した。
 すると湯船の中で腹を抱えた千雨が、思い出し笑いが再発したかのように笑いだす。
 注意をしたあやかでさえ、唇の端がちょっと笑っていた。
 確かに授業中に先生をお母さん、お父さんと呼ぶのは良くある話だ。
 しかしよりにもよっておかずにした相手に、何回したか報告するなど聞いたこともない。

「まあまあ、明日菜さんの笑い話はまた今度ネ。今日の話題の種は、新たな先生のお嫁さんののどかさんヨ。さあ、のどかさん。貴方はどういう立ち位置を望むのカ?」
「立ち位置、ですか? 私はさっきも言った通り、先生もがっ。ふえふえ?」
「ちょっと待つですよ、のどか。軽々しくその先は口にしてはいけません」

 小鈴の言葉に純粋に思ったことを口にしようとしたのどかを、夕映の小さな手がせき止めた。

「つまりは、こういうことだ」

 唐突に上がった声、クラスメイトではないその声に一瞬ざわっとした。
 だがこのひかげ荘に馴染みの薄い声で、しかも偉そうな態度と言ったら他にはいない。
 むつきが持たれる岩場の上に、いつの間にか足を組んだアタナシアがいた。
 一部の人間は気付いた瞬間には、先程までエヴァがいた場所をさり気に隠していたが。

「大別すると二つ。むつきのたった一つの隣、正妻この二文字を争うか、争わないかだ。なに心配はいらん、あくまで決めるのはむつきだ。己が魅力でむつきを籠絡すれば良い」
「籠絡とは、また古い」
「煩い、女の争いに男が口を出すな」
「ひでぇ……」

 茶々を入れたつもりはなかったが、アタナシアの容赦ない踵がむつきの頭に落ちた。

「現在、果敢にもこの私と正妻の座を争うと宣言した人間は、柿崎美砂と椎名桜子そしてさよの三人だ」
「当然、私が先生の正妻であることは確定的に明らか。実質、先生と一番最初に関係持ったの私だし。ぶっちゃけ、後から来た子にかっさらわれるとか女の沽券に係わるっての」
「んー、私を幸せに出来るのって本気で先生だけだから。意外と私もやる気。負けてらんないの。チア部で一生懸命シェイプアップして、実は先日ウエスト一センチ減って、胸はD。美砂に追いついた!」
「僭越ながら、実質的な妻の役割を担わさせていただいています。あなた様のお世話から、ひかげ荘の日々のお掃除まで。あなた様の補佐として、私以上に人材はいないという自負があります」

 他の子はお嫁さん意外にも夢があり、身内でまで争っていられない子だ。
 特に実家の関係で元々表だって馬の骨であるむつきと付き合うことが難しいあやか。
 ただ乙姫の孫息子と聞いて、彼女の両親が目の色を変えないとも限らないが。
 あとが学生らしく、医者という夢に向かって勉強しなければならない亜子など。
 千雨は服飾系、まだ厳密にそうなるかは不明だが。
 小鈴や葉加瀬、五月などはいわずもがな。

「私は怠惰な人間ほど嫌いなモノはない。それは恋愛においてもだ。誰かさんが言った通り、隣にいられさえすれば良いなどと甘いことを言う奴は最たるものだ!」
「ひぅ!」
「アタナシア、のどかはお前と違って大人しい子なんだ」

 アタナシアの眼光にびびったのどかをむつきがかばう様に抱きしめる。
 だからお前は甘いと、こつんこつんと頭を蹴られてしまう。

「むつき、愛でる事と甘やかすことは違う。以前、お前はさよにも言ったはずだ、人は慣れる生き物だと。宮崎のどか、隣に居られれば良い。その程度の心構えでは、いずれお前はむつきにとってただの空気のような存在に成り下がるぞ。傍にはいる、だがいてもいなくても気づいて貰えない」
「言葉はきついですが、私もアタナシアさんの言葉に賛同します」
「ゆえゆえ?」
「のどか、貴方は先生への恋に落ちてから成長しました。男性恐怖症を乗り越え、必死に語り掛け、少しでも近づきたいと一生懸命。その時ののどかはとても魅力的でした」

 むつきの腕の中で小さくなっているのどかを否定するように、夕映は力説していた。

「そういえば、そうやな。頑張っとるのどかを見ると、こっちが応援したくなるぐらいやった」
「ひた向きに頑張る人を、人は応援せずにはいられません。しかし、今の宮崎さんは……その、言葉は悪いですが。得たいモノを得て、満足して立ち止まっておられます」
「守りに入ったっていうか。あっ、これ本当に言葉悪い。先生の愛玩のペットみたい。まあ、可愛がられて腰振るだけになったら、本当にそうなっちゃうけど」
「や、やさぐれているアルなくぎみー。本当に言葉悪いアル。けど、今の本屋は伸びしろが何も見えないアル」

 木乃香から順に鋭く刹那や釘宮、挙句の果てに古にまでも指摘されてしまう。
 一度指摘されてしまうと、気になってしょうがない。
 ひかげ荘に来た人間は良くも悪くも変わる。
 特に顕著なのは千雨か、以前は人間不信気味で誰にも本心を語らなかった。
 しかしひかげ荘に来て腹の底から語り合う友を得て、自分の黒歴史でさえ人の為にあからさまにできる強さを得ていた。
 少々、あっぴろげ過ぎて本心を語り過ぎる面はあれど。
 だがむつきに護られるのを良しとし、怯えているのどかは可愛い女の子で居られ続けるか。

「のどかは恋を追いかけている時が、凄く輝ける女の子です。ですがその恋がかなった以上は、その次を目指すべきです。幸いというべきか、その恋は叶った次があるです。正妻という次の目標が」
「だな、俺に可愛がられてるだけじゃちょっと勿体ないよな。のどか、一緒に頑張るか。お前は今よりもっと可愛い女の子になれ。その分俺も、今以上に良い男になる」
「私がこの貯め込んだ知識を持って全力でサポートするです。単純な知識では超さんや葉加瀬さんには敵いませんが、恋のサポートの知識。これを私は全力で追い求め、のどかに提供するです」

 それを聞いて笑ったのは、言われたのどかでも一緒に頑張ろうと言ったむつきでもない。
 大げさな話になるように仕向けた、アタナシアであった。
 彼女の視線を集めるのは興味を失ったのどかではなく、彼女をサポートすると宣言した夕映だ。
 彼女はずっと恋に飢えていた、やっと恋する相手を手にいれはしたがまだ足りない。
 求めているのは同じ目線で一人の男を通して切磋琢磨できる存在。
 彼女がある意味でむつきよりも求めているのは、同じ目標に向かって頑張れる恋敵であった。

「思わぬ拾いモノだ、綾瀬夕映。私はお前を認めよう。流石の私も、超鈴音や葉加瀬聡美の知識には舌を巻く。その二人をジャンル違いとは言え追い越すと宣言した。私はそういう向上心のある奴が大好きだ。そういう奴こそ、むつきを争い合うのにふさわしい」
「ていうか、アタナシアさんのテンション見て思った。これ、単純に綺麗な女の子になるとかだけじゃ駄目なんじゃない? ほら見て、元々皆可愛くて綺麗だもん」
「言われてみれば、にょわー。さよちゃんは、可愛い上に料理洗濯、お嫁さんスキル高過ぎ。これはまずい!」
「お前ら、今頃気づいたのか。努力の方向として美しさも確かに悪くはない。だがな……今のお前たちは若いから想像し辛いだろうが。人間は歳をとれば劣化する。美しさは花のように一時のもの。美しさだけを磨き、何十年後にふと気づく。美しさを失えば、他に何もないと。時に美しさに固執すれば、愛する物を他所に狂うことにもなる」

 嫌っとアタナシアの意地の悪い囁きに、美砂と桜子が頭を抱えもがき苦しんだ。
 美しさや愛らしさ、見た目を除くとさよのなんとむつきにふさわしいことか。
 むつきの為に日々せっせと働き、炊事に洗濯、なんでもアグレッシブにこなす。
 その間、美砂と桜子はいずれ劣化する美しさを追求しようとせっせとシェイプアップしていた。

「ぐぬぬ、一歩も譲らずさよちゃんは認めよう。しかし、アタナシアさんにはまだ負けてない、はず」
「あっ、美砂待っ」

 勘に引っかかった桜子が止めるも既に美砂の指はアタナシアに挑戦的な矛先を向けていた。

「くっくっく、可愛いなひな鳥はこれだから。お前たちから見れば、私の大人としての立ち位置もお前たちが卒業するまでだろう。しかし、私は世界最強だ。培ってきた資産や人脈、多少マイナスの資産もあるが。いっそ、お前たち全員を遊んで暮らさせる程度のことはできるぞ」
「美砂さんには悪いけど、全部本当のことネ。私も彼女に習うべきことはたくさんあるネ」
「わーん、恥の上塗り。これが大人か、怒りもせず笑って流されたのがなお悔しい!」

 ちくしょうと頭を振り乱して叫んでも、美砂はむつきに泣きつたりはしない。
 例え親指の爪を噛みながらでも、何かないかと必死に考える。
 他の子とは多少違って、正妻を目指すのではなく、既に正妻たらんとするプライドのおかげだ。
 努力の方向性が間違っていたと指摘されても、それが無駄だったとは口にしない。

「おーい、アタナシア。あんまり、俺のハードルまで上げないでくれ。俺の嫁は才能の塊ばかりなんだ、凄くなられ過ぎると心苦しくなってくる」
「やれやれ、男を立てるのも女の仕事か。じゃあ、これで最後だ。私たちの議論を聞いた上での答えは? まあ、強制はせん。しかし、私は将来正妻の座に着いた時、詰まらん女がむつきの周りをちょろちょろしていれば放り出す。そんな女は結果的に、私の旦那の格を落とすからな」

 散々言葉が悪かったり、想うところもあるが、アタナシアの言葉は全て正論でもあった。
 いや確かに桜子が嫁になった頃にも、こういう議論はあったのだ。
 その時にむつきも確かに満足して終わってはいけないと言ったのを覚えている。
 のどかが男嫌いを直そうと頑張っているのを傍で応援してきたからだろうか。

「俺も少し、のどかに甘かったのかもしれない。手塩にかけてって言い方はおかしいが、男嫌いを直す為に手伝って、多少は一緒に頑張って来たって思いがあったかも」

 だから最後はお前が決めろと、むつきは一度のどかを懐から手放した。
 代わりに夕映が彼女を背中から支える。
 夕映の成長の根源がのどかであることから、彼女に支えられることはアタナシアも何も言わない。
 恋がかなった途端、こんな屈強に立たされ悪いとは思うが、こればっかりは手伝えない。

「のどか、ゆっくり考えるです。アタナシアさんが言った、追い出すとかそれも考える必要はありません。一番大切なのは、のどかがどうしたいのか。恋がかなった上でどうしたいかです」
「わ、私は……」

 アタナシアだけではない、多くのクラスメイトがいる中でのどかに視線が集まる。

「私はやっぱり、変わりません。先生の傍にいたい、それが一番。だけど、どうせならもっと、望んでも良いなら。傍に居てくれて良かったって笑いかけて欲しい。今はまだ、その程度ですけど」
「ええい、気弱気にその程度とかいうな。むしろそれが根源だ。向上心は大切だが、何故向上心を持つのか。傍に居てくれて良かったって言われたいからだろうが!」
「は、はい!」

 のどかが正解へとたどり着いたのなら、そんな怒鳴るようにしなくても良いのに。
 思わず背筋を伸ばして形状記憶合金のようにシャキンとのどかが立ち上がった。
 しかも今にもアタナシアへと向けて敬礼しそうな勢いである。
 さてここで問題、アタナシアは今現在どこにいるのか。
 むつきの頭上の岩の上、彼女に向かって直立すればむつきの前ですっぽんぽんだ。
 今日二度目の行いとは言え、まだまだ未通の乙女である。

「きゃぁっ!」

 ざぶんとしぶきをあげて座り込んだのどかだが、チラリとむつきとアタナシアを見上げた。
 順にその両隣にいた美砂と桜子を、さらにその次に支えてくれていた夕映を。
 そして彼女はゆっくりと立ち上がる。
 桜色に肌を染めているのは湯船のせいではなく、むつきに見られているからだろう。
 それでも湯船に沈むことなくしっかりと自分の足で立って振り返った。

「あの……」

 一人教室の檀上の上で発表会をする時の様に緊張した面持ちで。
 されどその時とは比較にならないぐらいに真剣な眼差しで言った。

「わ、私……一番に、先生の一番になります。まだ方法はわからないけど、夕映と一緒に探します。だから、皆さんにも負けません。隣にいたのが、のどかと夕映で良かったって言って貰いたいから」

 極々自然と夕映の名前がのどかの隣に添えられていた。

「私は夕映と二人で先生の一番になります。どちらも一番。妻妾同衾、どちらも妻で妾です。私と夕映が一番になったら、皆にそう認めて貰い、させます」
「ちょっ、のどか待つですよ」
「夕映は黙ってて、夕映は親友だけど踏み台みたいにするのは嫌。私と夕映でワンワンフィニッシュ、そう決めたの。だから誰にも負けません。その決意表明。先生、皆の前で抱いてください!」

 思いつめたら意外と一直線、のどかの宣言に驚きの声が上がるのは三秒後のことであった。









-後書き-
ども、えなりんです。

のどかの本番前に、ちょっとしたワンクッション。
誰かにバレる、バラす度に説明するのはたぶん今回が最後かな?
毎回は流石にダレますしね、最後にしたい。

のどかは原作でもそうですが、吹っ切れると凄い子。
このお話では全く違う方向性に吹っ切れましたが。
妻妾同衾で良いじゃないって発想は原作準拠。
次回はのどかの公開初体験です。

次回は土曜日です。
その後はストック次第です、頑張ります。



[36639] 第百三十話 小さいけど、その分弾力は負けてません
Name: えなりん◆e5937168 ID:bd0bfbe0
Date: 2015/02/14 20:27

第百三十話 小さいけど、その分弾力は負けてません

 のどかは真剣だった。
 多少、その場の勢いに飲まれた部分もがるが、偽らざる本心である。
 以前は一度クラスメイトの前で那波に対して宣言した、それと変わらない。
 好きな人の秘密を知ってなお、秘密を知ったからこそ。
 その上で一番になりたい、そう願いこれから親友である夕映と二人三脚で頑張り続ける。

「いや、待てのどか。いくらなんでもそれは……初めてなんだし、俺も色々と。千雨に頼んでウェディングドレス着て初夜とか。そういうの、好きだろ?」
「でもそれは、先生が感じた守ってあげたいか弱い私が喜ぶイメージです。確かに、今でも少し憧れますけど。私はもっと強い私になりたい」
「あっ、そういう理由ならアレ貸すのなしな。乙女の夢の為なら純白ドレスが破瓜の血に染まっても惜しくはなかったけど、今や先生のオナニーだか、ぷっ」
「だから、お前は何時まで神楽坂のネタで笑うんだよ」

 千雨に頭を下げて夏休みにひと悶着を起こした彼女作のウェディングドレス。
 あれで初夜をしてあげるつもりがご破算である。
 むしろ何かをしてあげるという上から目線な時点で、むつきも間違っていたのか。

「分かった、分かったが。明石と佐々木、それから釘宮と長瀬もか? お前らに刺激は強いから上がって良いぞ。のどかの歓迎パーティのつもりが、過激なパーティになりそうだ」
「拙者は残るでござるよ。一人の乙女が大人足らんとする様。望まれたからには見届けるでござる」
「普段の乱交は願い下げだけど。本屋ちゃんがね、アレだけ見て欲しいって言われたら。流石に断り辛い。ただし、色々と感染しそうだから湯船からは出るけど」
「私はちょーっとだけ興味があるから近くで観戦かにゃあ」

 長瀬も釘宮も明石も、理由はそれぞれだが今回ばかりは見ていくらしい。
 それはフラグでしかない気もしたが、選んだ未来に何が待つかは不明である。
 明石まで見るとなれば特に理由もなかった佐々木が観戦に傾くのに時間はかからなかった。
 皆が皆、望んで望まれてのどかの初夜をこの場で見届けるつもりだ。
 もはや躊躇しているのはおかしな話だが、ありがたく処女を頂くむつきだけ。

「覚悟を決めろ、むつき。王とて時には、望まぬ選択を迫られるものだ。だがそれを顔に出すな。悠然と構え、全て思惑通りという顔をしろ。でないと、今回の場合は宮崎のどかが哀れだ」

 アタナシアに小さく自分だけに聞こえるようにささやかれて、はっと気づく。
 一人の女の子が意を決して抱いてくれと男に申し込んだのだ。
 あれこれ理由をつけてそれを断れば、そののどかに恥をかかす行為に他ならない。
 ただでさえ宣戦布告だと恋敵に力強く宣言したばかりで、後には引けない状態である。
 つきそうになったため息は肺に送り返した。

「分かった、のどか来い」

 両隣の美砂と桜子に少し離れていろと視線を飛ばし、湯船から立ち上がる。
 アタナシアがいた岩場に軽く腰を預け、同じく立っていたのどかへと両腕を広げた。
 ざぶざぶと歩きにくそうに近づいて来たのどかをその場でくるりと回転させ背中から受け止める。
 何のために、これは彼女の皆に対する宣戦布告。
 視線は常に挑戦的に、布告対象へと向けていなければならないからだ。

「お前ら、ちょっと血とか出るけど目は背けるな。ああ、亜子だけはマジで気を付けろ。血を見て沈まないようアキラたちで支えてやってくれ」
「うん、大丈夫。亜子、念の為に私の足の間に来て」
「気を失ったらごめんな、本屋ちゃん」
「いえ、こちらこそ。なんというか、恥ずかしい姿で」

 申し訳ないという言葉を夕映が人差し指をのどかの唇にそえて止めさせた。
 一番を狙うのなら今までののどかのように簡単に謝ったり、卑屈な言動は駄目と早速サポートする。

「先生はまず、のどかを可愛がってあげてください。挿入の準備は私が」
「ゆえゆえ、ありがとう」
「んー、惜しい。謝罪ではなく感謝の言葉は素晴らしいですが、そのゆえゆえも止めるですよ。我々は足りないモノを補い合い一番を奪取する協力者。ゆるいあだ名ではなくちゃんと対等に夕映、のどかと呼び合うです」
「うん、夕映。一緒に頑張ろう、先生の一番になろう」

 二人が確認して微笑み合うと、皆が見守る中でのどかの初夜が始まる。
 既に陽は随分と落ちて傾き、空には赤焼けが広がり始めていた。
 厳密な意味で夜ではないがそんなことは小さいことだ。
 一人の少女が肉体的にも精神的にも一皮むけて夜明けを迎えようとするなら今は夜。

「のどか、こっちを向いて」
「先生……私のセカンドキス、んぅ」

 のどかが岩場に軽く腰掛けたむつきにもたれ掛かる立ちバックに似た体位である。
 キスは難しいがのどかの頬に手を添え振り向かせ、むつきがその唇をそっと奪い取った。
 いや体勢的に難しいからこそ、観客からはその様がありありと分かってしまう。
 気を抜けば離れてしまう唇、その隙間から伸ばし合った舌が相手を求め蠢く姿までだ。
 互いの唾液が下の間で伸ばす銀の橋さえも夕日に照らされ見えたことだろう。

「凄い、本屋ちゃん……凄くエッチ。ねえ、アキラも亜子もあんなことするの?」

 精神的には一番お子様な佐々木の疑問が、温泉の岩場に良く反響して聞こえていた。
 両腕を掴まれては持ち上げられ、身動きがし辛そうなのどかをむつきがすする。
 流石に経験が違ってされるがまま。
 大きくなり始めたむつきの一物を股の間で挟んですまたをしてあげる余裕などない。
 だからこそのサポート、共に一番を目指そうといった夕映の出番でもあった。

「のどか、お尻で先生のおちんちんの熱さを感じてるですね? ならばそれが立ち切らないうちに腰を上げて跨ぐです。そう、ああ……ちょっと触るですよ」
「んふぅ、ぁぅ……んっ」

 まだむつきがどうなっているのか想像力が足らず、夕映の指示に従いのどかが腰を振る。
 実際はお尻を上げたつもりが、中々上手くいかなかったのだろう。
 お尻の割れ目を割くようにむつきの一物がどんどん膨らんでいく。
 このままではすまたにならないと、ちょっと失礼と手慣れた夕映が手を出した。
 観客に良く見えるようにとしっかり配慮し、彼女のまたぐらからぼろんとむつきの一物を取り出す。
 のどかの薄い陰毛、その奥の割れ目を隠す様にさらに卑猥なそれが半立ちでたちあがる。
 その一物にそっと手を添えた夕映が、出番ですよとばかりに優しく握っては刺激を与え始めた。

「皆さん、見えてますでしょうか?」
「ああ、マイハニーの黒いマグナムがしっかりとな。しかし綾瀬、真顔で手こきされるとちょっとした笑いがこみ上げるのだが」
「興奮するのを必死に我慢した結果です。親友が愛しい人のアレに跨り、良いように貪られているのですよ?」

 むつきに唇を奪われ、少し息苦しそうだが必死にもがきながらものどかは喜んでいた。
 好きな人に求められる悦び、貪るほどに求められ嬉しくないはずがない。
 そんな彼女を見上げる夕映も、不思議な喜びに心が満たされるとわずかに微笑んでいた。

「あー、それはわかるえ。うちも、せっちゃんが先生に貪られてるのを見ると興奮するえ」
「私も少しだけ……分かる気がします」
「アキラが泣いちゃうぐらい攻められてるのを見ると、確かに興奮するなあ。親友が大事な人に侵されてるって感じで。な、アキラ」
「う、そうかな? 良く分からないかな」

 なっと同意を求められた刹那は、恥ずかしげに手を低くあげていた。
 またわかるわかると頷いたのは亜子だが、アキラには同意を得られなかったようだ。

「ぷはぁ、のどか息苦しくないか?」
「へ、平気です。先生、お胸も可愛がってください。皆さん、これから先生には私の胸を可愛がってもらいます。小さいけど、その分弾力は負けてません」

 今までなら小さいでシュンとしたであろうのどかが、でも弾力がと胸を張る。
 多少の欠点があってもそれでもと、誇れるものがあると前向きに。
 確かにそんな事を誇られれば、むつきも試したくなる。
 小さくも可愛らしいのどかの胸の誇らしい弾力とはどの程度のものかと。
 そっと支えるように下から手のひらを伸ばし、のどかの乳房を手で転がす。
 ぷるぷると震え、ちょっと強めにとーんと弾いてみればぷるんと震えて乳首がキュッと立つ。

「うーん、確かにあの弾力は我々にはないでござるな」
「眼、眼から鱗です。そう、あなた様には弾力で楽しんで頂ければ良かったのですね」
「なるほど、プリンではなくこんにゃくゼリー」
「見た目、弾力、それらの総合力が断トツで高いのが我々美乳派ネ。私は何一つ恥じ入ったことはないヨ。だが自分の美点を知ったのなら、親愛的に楽しんでもらえる方法は無限大ネ」

 長瀬が自分の胸を軽く揉んで弄んでは、納得する。
 彼女たちぐらい大きいと手で弾いてもゆさっと大きく揺れるだけで、弾ませようとするとむしろ痛い。
 巨乳、その二文字は女の子の憧れだろうが、必ずしもそれが至高とは限らない。
 乳房は母性の象徴であり、豊かなそれはまさに聖母とも言えよう。
 なれば小さな乳房は聖母ではないのか。
 人によってはないのかもしれない、小さな乳房は未成熟の証。
 だからこそ聖母となる前の反抗期を迎え、常にツンツンした乳房とも言える。

「そうか、弾力か。柔らかくてぷるぷる、ほらほら。凄いよ、のどか。乳首をピンってするだけで弾む、弾む。俺、大きいおっぱいも小さいおっぱいも同じように揉んでた。あっはっは、そりゃ大きさが違えば楽しみ方も違うような」
「先生って、実はかなりアホ?」

 ただ少しむつきがはしゃぎ過ぎて、釘宮辺りにはあきれられたが。
 自分の半分近い歳の女の子の胸で遊びはしゃいでいればそれも仕方なかろう。
 むつきは気のすむまでのどかの弾む胸で、彼女の自尊心を満たすまで遊びきった。
 下乳側から手のひらで転がしたり、乳首を弾いて震わせたり、ツンツンした乳首を埋めたり。
 おっぱいの奥深さをまた一つ知っては、体よりも心がまず満たされていく。

「んっ、んっ。ちょい取り乱した。のどか、好きだ」
「はい、私もです。とっても大好きです」

 やや脱線は下が強引にむつきが路線を戻し、のどかを後ろからきゅっと抱きしめた。
 その囁いた耳元に唇を寄せ、かぷりと甘噛みして耳を愛撫するように舐め上げる。
 技と唾液で音を立て、ぴちゃぴちゃと耳から犯す。
 くすぐったいと逃げようとのどかがもがいても、ガッチリ抱きしめられそれは叶わない。
 蜘蛛の巣に掛かった蝶のように、のどかのような可愛い女の子をむつきは捕えて離さなかった。
 哀れな蝶ことのどかは、食べられるのを待つばかり。
 とはいえ、食べられたいのどかは笑顔で喜び、むつきも頬を突いてイチャついているだけだ。

「えっ、なにこれ。イラッとさせるのが目的なら、私上がりたいけど」
「まあまあ、釘宮さん。そこは私が間を持たせるですよ。先生ものどかも、回れ右です」

 のどかの決心はさておき、特に独り身の釘宮には他人のイチャつく姿など面白くもないだろう。
 普段、美砂と桜子の二人に両脇から延々とのろけられている身としてはなおさら。
 それを察した夕映が、むつきとのどかを岩場から離れさせ湯の中に立たせた。
 反対に夕映は湯船の中で中腰となり、大きく口を開けて舌を伸ばす。
 チロリと舐めたのは、のどかの股の間から伸びるむつきの一物の先端であった。
 観客だった皆に見えやすいよう、むつきとのどかを彼女らからすれば横向きに立たせたのだ。

「夕映ちゃん、そこ先生がおしっこするところだよね。汚くないの?」
「好きな人のモノですから。それに慣れると見た目はグロイですが、可愛いのですよ」

 うえっとまるで自分が舐めたかのように舌を出した佐々木の言葉に、夕映は笑って返した。
 だが可愛いという言葉に偽りはない。
 目は口ほどに物を言うと言うが、男の下半身は瞳以上にものを言う。
 改めて裏筋をチロチロ舐めると、それに呼応するようにビクンっと震える。

「先生、気持ち良いのですね。もっとしてあげるです」
「ああ、夕映の舌がざらざらしてて気持ち良いぞ。夕映、咥えてくれ」
「のどかへの愛撫は忘れては嫌ですよ。あーむ」

 上目使いに注意してから大きく口を開けた夕映が、むつきの亀頭部分をぱくりと食べた。
 カリ首辺りまで口に含み、溢れる唾液で濡らし蒸らし、舌で撫でるように鈴口を舐る。
 夕映は元々小柄で口も小さいのでフェラは苦手なのだ。
 だからこそ、身に着けた技だとも言えた。
 咥えるのは亀頭だけ、敏感な部分を集中的にしゃぶり、空いた両手で竿を扱き玉袋を揉みあげる。

「相変わらず、犯罪的な光景」

 そう呟いた和美が小学生にも見える夕映にフェラをさせるむつきを写真に収める。
 だが今日はその二人の間に、のどかが挟み込まれていた。
 夕映がしゃぶる一物の竿の上に跨り、むつきの愛撫で息を荒げるのどか。
 題して親友をたてに奉仕を強要される友達、とでも言おうか。

「うほぉ、んぅんぅぁ」
「こ、こう?」

 全く言葉になっていない夕映の声を聞いて、のどかが腰を前後に動かし始めた。
 一物をしゃぶりながらの言葉を理解して実行する辺り、強要とは言えない。
 夕映が咥えているのは亀頭部分、竿の部分にはのどかがまたがっているのだ。
 先程から夕映が手で扱いてはいたが、何もしないのは勿体ないと促したのである。
 のどかがつたない動きで腰をふり、むつきの竿の上に自分の割れ目を滑らせた。
 亀頭の先からは夕映の溢れた唾液が滴り、擦り付けられたのどかの愛液と混ざる。

「んぅっ、んっぁぅ」
「恥ずかしいけど、先生が気持ち良くなってくれるなら。先生、先生ぇ」

 正面からでは、二人の頑張りはわかり辛かったことだろう。
 夕映がフェラをしてもその姿は彼女自身の後頭部で隠れ、のどかの腰の動きも同じだ。
 しかし夕映が予め、観客の視線に対して垂直になる様にむつきとのどかを立たせていた。
 だから、しっかりとそれらが見えていた。
 のどか自身を軽く持ち上げるぐらいに膨張して辛くなった一物、その先端を咥え込んだ夕映。
 懸命に舌を動かすことで彼女自身の頬の肉がうごめき、唾液を飲み込むと喉が動く。
 またむつきに気持ち良くなって欲しいと背伸びをした形で、腰を前後に一生懸命振るのどか。
 まだ多少怖々とした動きではあったが、彼女の腰が通過する度に竿が愛液で黒光りしていた。

「やば、イキそう……」

 二人の同時攻撃に、のどかの胸で遊んでいたむつきがぼそっと呟いた。
 幾人かがざばっと温泉の湯を肩から落としながら、中腰となった。

「一回出すぞ。のどかですまたしながら、夕映の口に」
「ぁぅ、んぅ。んぅっ、んぁ」
「夕映、私も頑張るから。イッて、先生私のおまたでもイッてください」
「出すぞ、のどかのおまんこで。夕映の口の中に、くそ。ぐぁっ!」

 唸るような悲鳴を上げてむつきがのどかを抱きしめ、ことさら腰を突き出した。
 のどかの体が間にあり、夕映が亀頭しか咥えこんで居なかった為に反動で唇から離れてしまった。
 亀頭の先からびゅっと吐き出された白濁液が、夕映のおでこに吐き出された。
 後から後から吐き出されるそれが、夕映の可愛らしい顔へとおでこから広がり滴っていく。
 お湯に落ちると慌てて夕映が亀頭を加えな押し、第二射、三射はその口の中に流し込まれた。
 おでこからまぶたに流れ落ちる精液を軽く指で拭いながら、喉の奥のそれはこくりと小分けに飲み下す。

「ゆ、夕映……」
「ん、んく。んぅ……大丈夫です、私は平気です。幸い、髪には。あう、眼が開け辛いです」
「夕映ちゃん、こっち。私が拭いてあげる」
「すみませんです、柿崎さん」

 むつきの欲望をありったけ顔面キャッチした夕映は美砂に手をひかれ観客席へ。
 お湯を絞ったタオルで丁寧に受け止めてしまった精液を拭われる、おでこを重点的に。
 きゅっきゅと音が鳴るぐらいで、テカっている気がしてならない。

「柿崎さん、なぜ執拗に私のおでこを。のどかについたこと、怒ってますか?」
「正妻はそんなに心が狭くありませーん。というか、もうサポートは要らないでしょ?」

 そう美砂の言う通り、既にサポートは不要となっていた。
 夕映の顔をアレだけ穢しながらも、なおむつきの一物はのどかの股からでさえ天に向かっている。
 また背伸びしなければ立っていられないのどかも、愛液が太ももを通り湯船に落ちていた。
 ごくりと喉を鳴らして鍔を飲み込んだのは誰か。
 まだまだ初心でクラスメイトの性行を見たことがない佐々木か、明石か。
 もしくは当事者であり純潔を奪われるのどかか、奪う側のむつきか。

「のどか、良いんだな?」
「はい。夕映、ありがとう。皆さんも、見ていてください。私、女になります」

 のどかの決意の言葉と共に、むつきは改めて彼女の背を胸に受けて岩場にお尻を置いた。
 屈みこんで彼女の太ももから膝の裏に手を添え、その全体重を抱え上げる。
 初めてだろうとこれはのどかが望んだことでもあった。
 恥ずかしいであろうがこれが一番見えやすいと、のどかの両足を開かせた。
 愛液を流す未通の割れ目をクラスメイトでも恋敵でもある女の子たちに見せつけるように。
 乱れ牡丹、四十八手のうちの一つである体位でもあった。
 もはや誰も言葉一つ、それこそ唾を飲み込む音さえ立てない、立てられない。

「行くぞ」
「はい」

 むつきとのどかの短い言葉の掛け合い。
 高く抱え上げられていたのどかの体がゆっくりと降下を始め、そっとあてがわれる。
 のどかの未通の割れ目へと、雄々しく天を貫くむつきの一物が。
 ぐぐっと愛液を潤滑油に沈む。

「ぅっ」

 割れ目に亀頭が半分ぐらいうずもれた時、小さくはあったが苦しげな声をのどかが上げた。
 亀頭のさらに先端がのどかの膣口を押し広げたのだ。
 乙女の証である処女膜が、また同時に悲鳴も上げていた。
 だがむつきは抱え上げたのどかの体を降ろし、自らの一物で貫くことを止めたりはしない。
 さらに一物がのどかにうずもれ、痛みに伏せ気味だったかおをのどかがあげた。

「痛っ」

 今度ははっきりと痛みを訴える声だった。
 ギュッと歯を食いしばり、女だけが一方的に味合わされる痛みに耐えている。
 頑張れ、最初にそう呟いたのは誰だったか。

「のどか、頑張るですよ!」

 はっきりとそう言葉にしたのはやはり、親友の夕映であった。

「うん。先生、私は大丈夫ですから」
「分かった。焦らすともっと辛いだろ。一瞬で終わらせる」

 そうむつきが言い終わるか、終わらないかの絶妙なタイミングであった。
 もう少しタメがあれば、のどかはいつか来るであろう痛みの為に体を強張らせたことだろう。
 また逆に早ければ喋った後の一呼吸もないままに貫かれていたはずだ。
 恥ずかしいお願いの言葉のあとの半呼吸、それが終わった時に貫かれていた。
 乙女の証は粗野な一物に食い散らかされ、鮮血が流れ落ちる。
 むつきの一物が半ばまでのどかの割れ目に食い込み、赤い血が膣から竿へと滴り落ちた。

「いぐっ、痛ぃ。痛いよぉ、痛ぁ。ふぁ、あぐぅ」

 直前のエッチなお願いの言葉を後悔するぐらいに激しい痛みだった。
 ぽろぽろと涙がこぼれ、思わず抜いてと体が暴れ逆に痛みで痙攣してしまう。
 その体の震えは血を見た亜子が血液恐怖症から体を震わせ意識を遠くする非ではない。
 メリメリと引き裂かれる音が自分の股の間から聞こえてくるのだ。

「大丈夫か、のどか。やっぱり抜くか?!」
「ぁぅ、ぁ」

 痛くて答えられない、涙目で声の主であるむつきに振り返ったのどかは見た。
 不安げに痛みに涙を流す自分を案じているむつきを。
 違う、そんな顔をして欲しいわけじゃない。
 のどかの中は凄く気持ち良い、気を抜けば出ちゃいそうだぐらい言って欲しかった。
 いや、そう言わせていないのは自分かと、のどかは半ばパニックを起こしながら歯を食いしばる。
 ぎこちない笑顔であることはわかっているが、それでも懸命に笑顔を作って微笑んだ。

「先生の太いおちんちんで私を苛めてください。それで私の子宮を先生の精液で一杯にしてください」
「馬鹿、早乙女の同人誌を手伝い過ぎだ。馬鹿、俺がそんな言葉で……」
「あの、先生。あまり私の中でピクピクされると、その。かなり痛いです」

 そんな事を無理して言わなくても良いと抱きしめたのだが、色々と台無しだった。
 本当に男の下半身というものは正直なもので、あの馬鹿の同人誌レベルの内容を喜んでしまったのだ。
 情けないやら、悲しいやら。
 言い訳をさせて貰えるのなら、かつての亜子と同レベルの清純派であるのどかに卑猥なセリフを言われたのだ。
 これで喜ぶなという方が無茶な話なのである、あくまで男視点から言えば。

「ごめんなさい」
「いえ、むしろちょっと嬉しいです。不安げに案じられるより、よっぽど。でもやっぱりちょっと、かなり痛いので出来るだけ早く出して貰えるとうれしい、かな」
「じゃあ、少しだけ我慢してくれ。頑張ってみるから」

 半ばまで貫いた一物を腰を下げて、のどかの中から引きずり出した。
 ぬらりと愛液に加え血まで混じり、ことさらグロテスクに光るむつきの一物。
 それを再び、ぐっと力ずくで押し込み、のどかの膣を抉り犯す。
 直接顔は見えないがややうつむき、ぐっとのどかが歯を食いしばるのが変わる。
 ごめんねとその頬にキスをしながら、再度のストロークを行う。
 ぬちゃぬちゃと生々しい音を立てながら、処女を失ったばかりののどかを犯す。
 ゆっくりと痛みを与えることを申し訳なく思いつつ、その痛みが何かを思い興奮もした。
 可愛くも献身的なのどかの処女を自分の凶悪な一物で奪い散らしたのだ。
 体も心も少女のままの彼女を一人の雄として身体だけでも女にしたてあげた。
 男が持つ征服欲、のどかを愛おしく思いながらも、彼女の純潔を奪った事実がより興奮させる。

「のどか、凄く気持ち良いよ」
「は、んくぅ。はい」

 彼女の親友の夕映の顔にあれだけ出しても、直ぐに次が充填されるぐらい興奮している。
 もっと、もっとのどかの初めてを貰いたい。
 キスは貰った、処女は貰った、次はそのさらに奥にある子宮の中、初中出しだ。
 興奮しながらも最低限に気遣いは残し、緩やかに穏やかに貫く。
 だがそれも、今この時までだった。

「んぐっ」

 破瓜の痛みで痙攣するのどかの膣が締め付けてくる。
 自分を犯す雄を逆に締め付け、射精を促して速く終わらせる為だろうか。
 まだまだ狭いのどかの膣内は、子宮口に至るまで貫くにはまだ遠かった。
 その導きに誘われるままに、精液が生成される玉袋が過剰に働き膨らんでいく。
 射精の道を確保する為に竿すらもさらに太く、のどかの膣壁を圧迫しはじめていた。

「ぁぅ、んっ。先生ぇ」
「もう少し、もう少しだから。のどか」
「はい」
「のどか」

 むつきが名を呼ぶたびに、律儀にのどかは答える。
 血が流れ痛む秘部を何度も犯されてはいたが、痛みは薄れ始めているような感じだった。
 痛いことは痛いのだが、何度も貫かれて痺れが広がり、下半身がふわふわしていた。
 頭もぼうっとし、感じるのは抱えられ触れ合ったむつきの身体の熱さ。
 耳元で聞こえる興奮したその息遣い、ふわふわした下半身の奥で熱を帯びた棒状のナニか。
 セックスされているんだと何処か他人事のように思いさえしていたその時であった。

「のどか、出る!」

 何一つ前置きも前振りもなく、むつきがのどかの中に熱い精液を解き放った。
 挿入が浅い為に子宮には届かなかったが、膣の中にジワリと広がっていく。
 熱いどろどろの精液は一度子宮と言う名の小部屋を目指すが、辿り着けずに逆流し始める。
 上の部屋には行けず、されど降りようにも膣には太い線があった。
 結果、膣壁と一物の僅かな隙間を押し出され、ぷしっとのどかの割れ目から精液が溢れだす。
 その僅かでさえも溢れるなと、今少しむつきはのどかに挿入して、妊娠を促す様に奥に欲望を吐き出していく。

「ぁ、ぁっ……出てる、暖かいのが出てる」
「のどか、のどかぁ!」
「先生の、精液……」
「あぅ、ふん。もう少し、もう少し!」

 絶頂に至ることはなかったが、体力的な限界でもあったのだろう。
 睡眠導入剤でも飲んだかのように、体の奥から温められたのどかの意識が遠くなっていく。
 執拗に至急まで届けと挿入できる範囲で射精を繰り返すむつきに揺さぶられながら。

「先生、大好き」
「のどか?」

 その言葉を最後にぐったりと力を失ったのどかが、くてりと身体の全ての力を失った。
 好きな男に抱かれた幸福に包まれたまま、破瓜の痛みだけは器用に忘れたまま。
 そんなのどかの中からずるりと一物を引き抜いたむつきが、抱え直して正面からのどかを抱きしめた。
 お疲れさまと新たなお嫁さんの頑張りを称えるように。
 最後にチュッと額にキスをして、おさんどんをしていた絡繰を視線でこちらに呼び寄せる。

「絡繰、体を拭いてあげて俺の部屋の布団に。あとで俺が添い寝するから」
「了解しました」
「あっ、私もつきそうです」

 力持ちな絡繰にのどかを預け、その後ろを慌てて湯から上がった夕映が追いかける。
 むつきはのどかの破瓜の血と精液で汚れた股間をタオルで一先ず綺麗に拭き取った。
 まだまだ硬い一物を夜風でぶんぶん振りながら、一先ず安堵のため息である。
 軽く肩を回したりして体を慣らし、瞳を開く。
 今日はもう日曜なので、次は誰だ私かと期待に胸を膨らませる嫁たちを長居はさせられない。

「ふう……釘宮たちは悪かったな。俺ののどかの我がままで、卑猥な光景を見せちまって」
「やばい、セックスだけならぶっちゃけネットでちょっと見たことあるけど。クラスメイトの初夜ってのがまた生々しかった。夢に出てきそう、しばらく頭から離れないわ」
「血、血が出てた。本屋ちゃんのお股に先生のおちんちんが入ってた……入ってた」
「まき絵、なんで二回言ったの。お父さんもお母さんとあんなことして、私が生まれたんだ」

 頭が痛そうに額を抑える釘宮に、呆然自失気味にぶつぶつつぶやいている佐々木。
 ただし感慨深そうにうんうんと頷いていた明石は例外中の例外だろうか。
 当人は感動さえ覚えている様子だが、周りは考えたくないと目を閉じ、耳を押さえていた。

「ほら、お前たち。寮の門限が迫っているぞ。お子様は、帰った帰った。ここからは、大人の時間だ」
「いや、俺はもう今日はセックスしないぞ。のどかに添い寝してあげないと」

 いつの間にか岩場の上から湯船に入って来て抱き付いて来たアタナシアを遠ざける。

「何を言っている。あんないじらしいセックスを見せつけておいて、今日はしないだと。納得できるか。私ははやく、お前の子供が欲しいんだぞ」
「おっ、おっ……」
「先生、私も先生の赤ちゃん欲しい!」
「私も!」

 子宮の上辺りのお腹を撫で、珍しく上目づかいでおねだりされ凄くぐらついた。
 だが美砂に続き、桜子にまでおねだりされてさすがにハッと我に返った。
 それは特に私もと声をあげた桜子に対してである。

「桜子、お前は冗談でも欲しがるな。お前の豪運で、マジで妊娠するから」
「えー……」
「えー、じゃないの。本当に止めて、お前らもちゃんとピル飲んでくれよ。責任はちゃんととるけど、心構えもなく闇雲に妊娠するなよ。頼むよ、本当に!」
「はいはい、ご馳走様、ご馳走様。まき絵に裕奈、先に寮に帰ろう。本当に今日はもう、お腹一杯」

 ほんの少し泣きが入ったむつきの言葉に、心底呆れた釘宮が誰よりもはやくお風呂を上がった。
 温泉の湯ではない別の滑った液体を溢れださせる股座をさりげなくタオルで隠しながら。









-後書き-
ども、えなりんです。

一先ずのどか編は一段落。
この先、もう少し濃厚なのができるまでやりたいところですが。
次は那波編ですね。
方向性定まっておらず、まだ書けてませんが。

それでは次回は来週の土曜日です。



[36639] 第百三十一話 私はなにをどう、変わっていけばいいのかな
Name: えなりん◆e5937168 ID:0c56a689
Date: 2016/04/02 20:36

第百三十一話 私はなにをどう、変わっていけばいいのかな

 残暑が厳しい九月も過ぎ去り、秋の風が吹き始める十月が来た。
 二学期の中間テストで学年七位を奪取した熱も、今は秋風と共に冷えては過ぎ去っている。
 麻帆良祭ほどではないが、十月も浮き足立つようなイベントが目白押しであった。
 部活動では二年生が部の先頭に立って、初めて行われる秋の新人大会。
 はたまた、学内行事ではクラスの団結力よ再びと言いたくなる体育祭である。
 だが盛り上がるクラス、校内を他所に美砂は登校するなり、ボケっと窓の外を見ていた。

「おはようございます」

 教室内に明るい声であいさつしながら入って来たのは、のどかである。
 先日の日曜にむつきに抱かれ、そのまま添い寝して貰った彼女は色々な意味で変わった。

「うむ、おはよう」
「おはようアル、本屋」
「おっはろー」

 教室の後ろから入って来た為、席の近かったエヴァや古、明石がそれぞれのトーンで返していた。
 これまでののどかであれば、挨拶の声が小さすぎて朝の喧噪に負けていたことだろう。
 しかし恋の成就か女になったからか、彼女はおどおどすることが極端に減った。
 完全になくなったわけではないが、クラスメイトの前では目を伏せたりすることもなくなっていた。
 前向きに良く笑う様になり、むつきに恋をした直後よりさらに可愛くなった。

「おはようございます、那波さん」
「ええ、おはようございます。のどかさん……」

 自称、のどかのライバルだった那波はにこやかにあいさつを返しながらも内心は穏やかではない。
 日曜にのどかがむつきとデートしたことは周知の事実である。
 その日を境に、急激にのどかが明るく人が変わったようになれば気になって仕方がないことだろう。
 そんな彼女を案じつつも、今日は用事がと村上がすすっとそばを離れていく。

「長谷川さん、長谷川さん」
「ん?」

 村上が名を呼びながら近づいたのは、千雨であった。
 普段、あまり関わり合いがない相手なだけに、少し千雨は驚いた顔をしていた。

「あのね、お願いがあるんだけど」
「お願いって私にできることか?」
「うん、長谷川さんじゃなきゃ、無理だと思う。私演劇部なんだけど。衣装担当の子が、手を怪我しちゃったの。それで衣装作りが停滞しちゃってて、長谷川さんに手伝って欲しいの」
「あー……そういや、先週にネットアイドルの件、暴露したっけ」

 ネットアイドルのサイトを見たのかと聞いてみれば、頷かれる。
 それ以外にも麻帆良祭の時に、村上はむつきの乙姫スタイルの衣装を手伝ってくれた。
 ネットアイドルのコスプレ衣装を見て、それがお願いすることに決めた後押しとなったのだろう。
 どの程度手伝えば良いのかは後で聞くとして、中間テストも終わったばかりで暇と言えば暇だ。

「んじゃ、昼休みにでもちょっと詳しく聞かせてくれ」
「うん、ありがとう。お願いするね」

 そんな村上のお願いを笑って引き受けた千雨を、ぽけっとした顔で美砂が見ていた。

「ねえねえ、美砂。美砂ってば」
「え、なに?」

 朝から上の空が多かった美砂の目の前の席に、桜子が楽しげに座って来た。
 美砂の前は鳴滝妹の史伽の席だが、彼女は良く姉の風花の席に近い場所にいる。
 それが丁度桜子の席で有り、二人は休み時間などに席を交代していることが多い。
 その鳴滝妹の席に勢いよく座った桜子が、美砂の目の前で手を振りながら話しかけて来た。

「私、探偵とか向いてると思わない?」
「なにそれ、唐突に……」

 この親友兼恋敵は、何を突然世迷いごとを言い出すのか。

「んー、ほら。アタナシアさんが言ってた努力の方向性。私って何ができるのかって考えてみて、この豪運を何時までも嫌ってるのは勿体ないかなって。上手い使い方を考えてみたんだ」
「それで探偵って、探し物とか。まさか、犯人捜しじゃないわよね」
「どちらかというと、探し物かな。私結構、探し物得意だし」
「そう言えば、前に円がリップ探してた時も、箪笥の裏って一発で探し当てたっけ。でも、仕事選ばないと危なくない? 的中率百パーセントだからって、変な人たちが寄って来たり。埋蔵金とか」

 今まさに、その勘にでも引っかかったのか、桜子がピーマンを生で齧ったような顔になった。
 どうやら彼女が探偵業を始めると、非常によろしくない事態になるようだ。
 駄目かと呟いて桜子は自分の席へとふらふら戻っていく。
 親友兼恋敵同士、考えることは一緒だったようだ。
 美砂が朝から考えているのもそれ、自分に何ができるのか考えていたのである。

(私も昨日の夜から、考えてるんだけど……)

 アンニュイなため息をつきながら、改めて美砂は教室をぐるりと見渡した。
 厳密に言えば、二-Aの教室内にいるむつきのお嫁さん達をだ。
 水泳で全国クラスの実力を持つアキラに、歩く哲学小さな図書館こと夕映。
 他にも医者を目指して頑張り中の亜子に、今しがた村上に頼られた衣装作りの千雨。
 あやかは雪広財閥のお嬢様で、人の上に立つ品格があり、纏めるのが上手い。
 小鈴や葉加瀬は同年代の枠を超えた頭脳の持ち主で、五月は既にプロ並みの料理家だ。
 本当にむつきのお嫁さんたちは、人並み外れたスキルを持っていた。
 さよは既にむつきの嫁としてのスキルは完備されており、木乃香も恐らくそれに近いことはできる。
 刹那や古、真名は武道四天王のうちの三人だし、和美はあれで世渡りが上手い。
 ザジは故郷ではやんごとない身分らしいし、曲芸手品部の花形のピエロもできる。
 むつきに甘えてばかりで我儘ざかりのエヴァも、ネット碁の世界では超有名人らしい。

「はあ……」

 周りを見れば見る程、美砂は自分の凡庸さにため息をつきたくなった。
 一番最初にむつきを好きになったのに、一番最初にその良さに気付き、恋人になったのに。
 その自分が一番むつきにふさわしいお嫁さんから遠い気がする。
 私が正妻だと、ことさら強調するのがその裏返しであるかのように。

「エヴァンジェリン、本当にアタナシアさんは世界最強アルか。連絡先を教えて欲しいアル!」
「む、古菲か。そうだな、姉は強いぞ。お前が望むのなら、そういう場を用意してやらんでもない」
「ほほう……その話、詳しく聞きたいでござる」

 何やら珍しく古がエヴァに話しかけていたが、そんなことをアタナシアは言っていたか。
 長瀬も興味を持ったらしく、こっそり刹那も耳をそばだてている。
 長瀬は違うが、本当に向上心が強い子たちであった。
 その向上心が羨ましい、向上しようと思える指針とも言うべき何かがあることが羨ましい。

「おはよう、皆。そろそろ、席に着いてくれるかな?」
「高畑先生、おはようございます」
「おはよう、明日菜君」

 そうこう考えている内に、高畑が出席簿を持って現れた。
 そう言えば、今日はむつきではなく本来の担任である高畑が来る日だったか。

「そう言えば、ついに明日菜も騒がなくなったわね」
「ん、なにがよ。柿崎」
「いや、明日菜も少しずつ大人に、変わって来てるんだなって」

 ついつい声に漏れた言葉を明日菜に拾われ、思ったままを伝えてみる。
 物凄く奇妙なモノを見たかのような眼で見られてしまったが。
 当人は自分の変化に気づいてはいないのだろう。
 高畑の前で無闇矢鱈とはしゃがなくなったことに、むつきの前で時々恋に揺れる乙女であることに。

(私はなにをどう、変わっていけばいいのかな)

 はふうと再びため息をつき、美砂は窓の外にある秋空をぽけっと見上げた。
 千雨がそんな美砂を呆れたように見つめているとも知らずに。









 村上はお昼休みに食堂ではなく、演劇部の部室へと訪れていた。
 ロッカーや衣装ハンガー、舞台の背景用の木材などモノが雑に詰め込まれた部屋である。
 今日は千雨への協力願いの為に、特別に部室の鍵を部長から借りて来たのだ。
 部室の中央にテーブルを寄せ、パイプ椅子を四つ寄せて準備万端。
 何故四つなのかというと村上も千雨も、それぞれ一人ずつ付き添いのような人がいるからだ。

「ちづ姉、そんなに珍しい?」
「ええ、子ども達と一緒に演劇を見ることはあっても、その舞台裏は知らないんですもの」

 部室の隅にある大道具や古い衣装を前に、物珍しげにしていた那波に村上は声をかけた。
 当初は一人で千雨とお話するつもりだったのだが、話を聞いてついて来たのである。
 その真意は良く分からないが、千雨というよりはその付き添いの方に理由があるに違いない。
 着いていっても良いかと聞かれたのは、千雨からもう一人連れて行くと聞かされた後だったからだ。

「ちーっす、失礼するぜ」
「あっ、いらっしゃい長谷川さん。演劇部の部室へようこそ」
「うわぁ……結構ごみごみしてるけど、うちの部室とはまた意味が違うわね」

 千雨が連れて来たのは、物珍しげに部室内を見ている美砂であった。

「とりあえず二人とも、ちづ姉も座って。ご飯食べながらお話するから」

 村上と那波はお弁当、千雨と美砂は菓子パンを食べながら説明を聞いた。
 劇の内容はロミオとジュリエットを現代版にし、ロミオは男装女子、ジュリエットは女装男子。
 なんだか早乙女が喜びそうな内容だが、一般的な視点からのコメディである。
 現代版のロミオとジュリエットは既にハリウッドでも映画化されたことはあるが、それを男装女子、女装男子にするのは中学生らしい柔軟さか。
 それで今回、村上が千雨にお願いしたいのはダンスシーンでのドレスだそうだ。

「舞台は現代だから衣装は皆の私服を持ち寄るんだけど、ダンスシーンだけは流石にそれっぽい衣装が必要だから。長谷川さんにドレスをお願いしたいの」
「ふーん、てか。カジュアルなので良ければ、既に何着か持ってんだけど。委員長に着て貰って、社交界に出て貰ったこともあるし」
「えっ、本当?!」

 まさか既に実物があるとは思わず、村上はお弁当を食べる手を止めて驚いていた。
 最悪は演劇部の古い衣装を使いまわし、表面だけを新しく見えるようにお願いしようとしていたのだ。

「何着か持ってくるから、劇のイメージを教えてくれ。王子、この場合ジュリエットが王子か? その衣装のイメージとか。あと着る奴、まさか男じゃねえよな?」
「大丈夫、女の子。一部ネタバレになっちゃうけど、そのシーンだけは普通な格好に戻るから」

 お弁当と一緒に持ってきた台本を机の上に広げ、そのシーンの状況を言葉で説明し始める。
 王子の衣装はもちろんのこと、他の役者がどの立ち位置にいるのか。
 背景がどんな色合いでスポットライトがどう当たるのか、事細かに千雨に説明していく。
 村上の頭の中に小さな劇場があり、現在進行形で演劇がなされているようだ。
 それに千雨が一つずつ頷き返し、村上の頭の中の劇場を自分の頭の中でも再構築していく。

「ふふ、夏美ちゃん楽しそう」
「凄いわね……」

 こんな饒舌な村上は初めてと美砂が驚けば、那波も妹分のそんな姿に笑みを浮かべる。

「おい、なに他人事みたいに言ってんだよ柿崎」
「へ?」

 傍観者と化していた美砂に、ふいに振り返った千雨が呆れた表情でそんなことを言いだした。
 だが言われた美砂の方こそ、何を言われたのか分からなかった。
 そもそも美砂は何故この場に自分が連れて来られたのか、聞いてはいないからだ。

「他人事って、そりゃあ出来れば手伝ってあげたいけど……私、裁縫できないし」

 もちろん、家庭科の授業レベルのボタンを縫い付けたりするレベルなら可能だ。
 だが千雨レベルの衣装作りはもちろん、さよのように破れた部分をぬいつくろうのは無理である。
 出来ない、そう思うとまるで自分がむつきの相手として劣っているようで胸が痛む。
 知ってか知らずか、そんな美砂の反応を前に大きくため息をついた千雨が言った。

「誰も、お前にそんなことは期待してねえよ」
「じゃあ、なんで連れて来たのよ」

 流石にそのため息の向き先に気づいた美砂がイラついた様に語尾を荒らげる。
 突然の緊迫した空気に村上はおたつき、那波もあらあらと困った様に頬に手を当てていた。

「私の衣装を誰よりも映える着こなしが出来るのがお前だからだよ」

 一瞬、千雨が何を言っているのか美砂には理解できなかった。

「私が一番最初にお前にコスプレ趣味のこと話した時に、勧誘しただろ。なんで勧誘したか分かるか?」
「同じ趣味の仲間が欲しかったから、私の使い道はちょっと違ったけど……」
「まあ、それもあるが。大鏡の前でポーズを決めるお前を見て、私は驚いた。衣装の出来栄え以上に、綺麗に見えたからだ。お前は衣装に合わせて、それを着た時に人からどう見られるか。意識してじゃねえが、本能的にわかるんだよ」
「長谷川……急に人を持ち上げて来て、キモい」

 それが照れ隠しなのかは不明だが、千雨は額を引くつかせながら美砂の首にきつく腕を回した。
 暴言のひどさもそうだが、自身も背中がむずがゆく手仕方がなかったからだ。
 そして美砂の首を絞めつけながらも、その耳に届くだけの声量で続ける。

「良いから、聞け。あんぽんたん。私はな、先生の正妻はお前にしか務まらねえと思ってる」
「長谷川、ちょい痛い痛い!」

 タップを続ける美砂ではあったが、それは殆どフリであった。

「殆どの子は、大なり小なり先生に救われて恋をした。けどお前だけが違う、特別なんだよ」
「私だけ?」
「確かにお前も救われた口だが、逆に先生を救い返しただろ? そんなのお前だけなんだよ」

 特にひかげ荘にいる期間が浅い子ほどそれは顕著で、むつきが凄く弱くてもろかった頃を知らない。
 さらには風俗に金をつぎ込んで散財していた頃の事も。
 むつきは美砂と付き合う様になってから、辛いときは彼女に慰めて貰うようになった。
 自分の弱いところを受け止めて貰い、引っ張り上げて貰うことさえあったのだ。
 美砂以外の子たちがむつきを知ったのは、そのどん底から少しずつ強くなってから。
 特に最近お嫁さんの一人に加わったのどかなどはそうであった。
 彼女にとってむつきは強くて優しい王子様であり、その根底に弱さや脆さがあることを知らない。

「だから、後からしゃしゃり出て来た奴に負けんな。美しさを求めて何が悪い。そりゃ、自分の美しさだけを求めりゃ、先はない。でもお前は美しく見せることを人に伝えることができる」

 今や首を絞める腕に力は全く入ってはおらず、美砂はその千雨の腕に触れながら考えた。
 確かに美砂は千雨の衣装作りを趣味を知ってから、コスプレに付き合うことが多々あった。
 それを直接作ることはできないが、出来上がったとに何処が良くて悪いか意見を言ったこともある。
 千雨は自分で着ることもあるが、どうしても見た目に拘って着る人の気持ちが欠けることがあるのだ。
 元からネットアイドルとして写真を撮る一瞬のことを考えているだけの方が多かったからだろう。

(いずれ劣化する若さに任せた肉体美だけじゃない。綺麗になるってそれだけじゃない)

 むつきのお嫁さんとしては、いずれ素っ裸に剥かれてしまうのだが。
 綺麗だねと言って貰える衣装の着こなし、今はまだそんなに必要ないが化粧やネイルアート。
 年月を経て容姿はいずれ年相応になっても、手に入れたそれらは劣化しない。
 千雨の言う通り流行を追う目や、綺麗に着飾る方法は一つの技術として誰かに教えられる。
 それを仕事にしても良いし、何時かできた子が女の子なら教えてあげる事もできるだろう。
 決して美しさを追い求めることは無駄でも何でもないのだ。

「そっか……」
「そうなんだよ」

 そう呟いた千雨は美砂の首から腕を外し、驚いていた那波と村上にすまんと手で誤った。

「悪い、悪い驚かせた。別に喧嘩してたわけじゃなく、私らは普段はこんな感じだ」
「あー、びっくりした。私が喧嘩させちゃったかと思って、凄くびくびくしちゃった」
「喧嘩する程、仲が良いと言っても限度があるから。駄目よ、長谷川さん。首を絞めたりなんかしちゃ」

 千雨がそう言うも、まだ村上と那波は半信半疑。
 された美砂の方が怒ってはいないかと、チラチラ俯き加減の美砂へと視線を泳がせている。
 だが次の瞬間、パーンっと千雨の背中に美砂の手のひらが叩きつけられた。

「痛った!」
「よし、分かった。夏美ちゃん、私にもう一回、説明を聞かせて!」
「てんめ、この野郎……」
「ほら、長谷川よそ見しない。まあ、アンタの衣装をどれでも着こなせるのは、彼氏持ちの可愛い美砂ちゃんしかいないから。しょうがないわねぇ」

 にやにやと笑う美砂を前に、千雨は必死に握り込んだ拳を振るうのを耐えていた。
 しかし折角気を利かせて助言してやったと言うのに、この仕打ち。
 絶対何か他の方法でやり返すと、心の閻魔帳に刻み込んで震える拳を静かに机の上に置いた。

「む、村上……続きをするか。大丈夫、この馬鹿なら猫の手ぐらいには役に立つ」
「長谷川さん、セリフと顔が真逆なんだけど。ちょっと、いやかなり怖い」

 落ち着いてと村上が持ち上げた手もどこまで効果があることか。
 喧嘩でこそなかったがこれでは話が進まないと、美砂は自分で乱した空気を入れ替えることにした。
 今朝方、二人の会話を小耳に挟んだ時も、まだ慌てるようなことでもないのだ。
 それに当初から少し気になっていたこともある。

「ところで、那波さんはどうして夏美ちゃんについて着たの? 私は一応理由があったみたいだけど」
「ええ……夏美ちゃんから、柿崎さんも来るって聞いたものだから」

 意外や意外、那波の口から目的が美砂と言われ、当人はもちろん拳を握っていた千雨もその手を緩めた。

「その、お恥ずかしい話なのだけれど……」

 美砂の思惑は一部上手くいき、那波が両手を大きなお胸の前でもじもじさせたことで完全に空気が変わる。
 彼女がそんな仕草を見せる要因は、むつき以外に考えられなかった。
 だが恋愛相談にしては、それで美砂を選ぶ理由が分からない。
 何処からか美砂だけでなく、千雨までむつきの毒牙に掛かっていることを知っているわけでもないだろう。
 そもそもそれなら、美砂ではなく千雨も名指しに加わっていなければおかしな話だ。

「のどかさん、一皮剥けたって言うのかしら。凄く可愛くなったでしょう?」
「んー、確かに。同じクラスの地味友達と思ってたけど。すっかり置いていかれちゃった」
「宮崎への評価が低かったのか、自分への評価が低いのか。そりゃ、迂闊な一言だ」
「夏美ちゃん、後でみっちりお化粧教えてあげる。大丈夫、そばかす消すだけでも凄く変わるから」

 千雨の言う通り、美砂のとても良い笑顔に村上は気圧されてしまった。
 断ろうにも断れない、凄く良い実験材料を前にした科学者のように美砂が笑っていたからだ。
 遠慮するではなく、また今度となんとかその視線をかわし、話の中心をまた那波に渡す。

「そうなの、夏美ちゃんたら自分に自信を持ってくれなくて。こんなに可愛いのに」
「渡したそばから、ちづ姉が裏切った!」
「いや、まあ順番に処理してこうぜ」

 途端に那波が村上の頬をえいっと突きながら話をまぜっかえした為、千雨がそれはまた今度と横に侵せた。

「そうそう、のどかさんが女の子として一皮剥けたって話だったわね。先生とのデートの後で」
「あー……」
「あー……」

 特に後半の一言で、千雨も美砂も声をただ上げて納得するしかなかった。
 一皮むけたというか、乙女の膜がなくなったというか。
 のどかが物理的にも精神的にも乙女を脱したのは、ひかげ荘の住人なら誰しも知っている。
 知っている上に、その瞬間を見ていてくださいとお願いされ、しっかり見ていた。

「それでね、私少し焦ってしまって。先生と何か特別なことがあったのか。出遅れてしまったのではないかって」

 それは相談する相手を間違えている気もしたが、言えるわけもない。

「だから、柿崎さんに聞いておきたくて」
「そりゃ、恋愛では私の方が先輩だけど。一体何を?」
「だからね……」

 ごにょごにょと肝心な所を濁す為、那波の言葉が聞き取れない。
 胸元では手弄りは続行中で、かぁっと火照った頬は真っ赤だ。
 それは美砂や千雨が何を言いたいのか聞こえず眉を潜める度に強くなってくる。
 どうしたのと村上に顔を覗き込まれ、さらにそれは強くなった。

「ちづ姉?」
「夏美ちゃん……耳、塞いで貰ってても良い?」

 せめてこの妹分にはとでも思ったのか、夏美の純粋な瞳を前に那波がそんなことを言いだした。

「私、そんなに役に立たないかな。ちづ姉とは随分付き合い長いけど、相談一つ受けられないかな?」
「うぅ……」

 だがその純粋な瞳を向けられ、逆に退路を塞がれてしまった。
 先程までならまだ何でもないと言えたが、今行ってしまえば村上を信頼していないと同義になってしまう。
 これはもう意を決して言うしかないと那波は、両手を膝の上に置いた。
 落ち着けと心の中で念じながらキュッと両足を引き締め、どうにでもなれと言った。

「エッチなことをしたことのある柿崎さんに、その時のことを聞いてみたかったの!」
「あっ、なーんだ。初めてセックスした時のことを聞きたかったんだ」
「んだよ、勿体ぶりやがって……恥ずかしがるようなことか?」

 だが那波のそれこそ人生を賭けたような叫びは、美砂と千雨にさらっと流された。
 それはもう、宿題を忘れた子が仲の良い子に見せてとお願いした時のような軽さであった。
 胸の谷間や腹と乳房の間にかいた汗でさえ引っ込んだ。
 それぐらいに衝撃的な反応であった。
 オナニーですら恥ずかしい単語だと思っていた那波が、歪曲してセックスについて聞いたのに。
 なんだと美砂も千雨も肩の力を抜いた様子さえ見せていた。

「ち、ちちち……ちづ姉、まさか!」

 だから那波の言葉に、真っ赤に顔を火照らせパニックになった村上の様子が逆にほっとししてしまう。

「うんうん、本屋ちゃんの様子を見て那波さんはこれしかないって思ったんだ」
「ええ……実は、以前。それとなく誘ってはみたのだけれど」
「嘘、ちづ姉。一体何処で?!」
「ほら、孤児院の倉庫の整理を頼んだ日、夏美ちゃんに閉じ込めてってお願いしたでしょ。結局、院長先生が閉じ込めてくれたのだけれど。あっ、もちろん何もなかったわ。ちょっと怒られただけで」

 詳しく千雨と美砂がそのことを聞いてみると、確かになにもなかったろう。
 その頃は、むつきは勃起不全に掛かっていて立てなかったのだから。

「悪いけど、私は殆ど酔った勢いだったから。ちょっとおぼろげで……長谷川は痛ッ?!」
「お前は本当に……なんで私まで非処女だってバラしてんだよ!」
「ぁっ、やっちゃった。めんご」
「超、むかつくぅ!」

 こいつの面倒なんか見るんじゃなかったと後悔してももう遅い。
 村上は腰を抜かしたように呆然と、那波は口元に両手を置いて他にもいたなんてと驚いていた。

「はあ……で、那波は具体的に何を聞きたいんだ?」
「ぐ、具体的にですか?」
「それが分からなきゃ、答えられねえよ。体位だとか、破瓜の瞬間は痛かったのかとか。あるだろ?」
「もしかして、那波さん。セックスに明確な手順があるとか、思ってる?」

 気軽に尋ね返す千雨と美砂を前に、那波と村上はもはや宇宙人を見る目である。

「ないんですか?」
「ないよ。その時々で。たぶん、那波さんが妄想してる通り、甘い言葉を囁かれてキスして優しく押し倒されて、後はお任せってこともあるし。ふとした瞬間に、ムラムラしたって後ろから覆いかぶさられることもあるかな」
「まあ、先生も大人だし、そこんところは大丈夫だろ。一先ず素敵な一夜とか、大人びたとか考えは捨てた方が良いぞ。いや、マジで予備知識なんて役立たずだから」
「そうそう、年上が相手の時は全部やってくれるから。全部、相手の言うことにはいって答えるぐらい? キスするよって言われたら、はいって答えて。脱がすよって言われたらはいって答える感じ」

 美砂の脱がすという言葉で、那波本人はもちろん夏美も彼女の胸に視線が注がれていた。
 想像したのだろう、美砂が言った通りむつきにキスするよと言われ、脱がすよと言われた場面を。
 那波が自然と胸を隠す様に腕をきゅっと交差させたのは仕方がないことだろう。
 それこそその時にならなければ、那波がどういう行動をとるかは分からない。

「そ、それじゃあ……良く聞く、天井の染みを数えている間にって」
「うん、そんな感じで良いと思う。結構名言だと私は思うよ。お互い初めてなら、協力しあわなきゃいけないけど、先生はそうじゃないんだし」

 なにか、美砂の言葉に違和感を感じたが、那波はそれを気にしなかった。
 気にする余裕がなかったとも言える。

「最後に、これが本当に最後。あの……避妊の仕方なんだけれど」
「事前にすること前提なら、先生が用意するだろうけど。那波は迫る側だからな。超に言えば、ピルくれるぞ。あいつそういう商売もしてるから」
「そうそう、私たちも超りんからピル用意して貰ってるから。中出しの方が喜んでくれるし。いいな、初めてで中出し。超りんの協力がなかった頃は、先生全然中出ししてくれなかったから」

 あははっと当時を思い出し美砂が笑った時、そこで確実に時が止まった。
 那波が瞳を大きく開いて驚きと共に美砂を凝視している。
 一時遅れて話題が話題なだけに真っ赤な顔を両手で覆っていた村上も、美砂へと振り返った。
 彼女が先ほど、なんと言ったのか。
 個人名かどうかは凄く微妙なところだが、先生がと言っていた。
 美砂本人も、口が滑ったとばかりに冷や汗をかいて、固まっている。

「いや、こいつの彼氏は塾で講師やってる大学生でさ」
「そ、そうなの。彼ってば、ベッドの中でも先生って呼んであげると凄く興奮してつい癖で」

 千雨のナイスフォローに乗っかり、美砂がまいったねと架空の彼の恥部を暴露する。
 だが村上は兎も角、那波の疑いの眼差しは弱まる気配はなかった。

「柿崎さん」
「な、なに?」

 美砂の声が少し裏返り、疑惑の眼差しはますます強くなったが、ふいにその視線が和らいだ。
 気のせいなどではなく、普段の那波のクラスメイトを思いやる優しいまなざしであった。

「こうして相談している私の台詞ではないですけれど。気を付けてくださいね。乙姫先生みたいな、良い人はなかなかいないんですから」
「んだよ、のろけかよ」
「あはは、私の彼も負けてないもん」

 多少意味ありげではあったが、那波の言葉に千雨も美砂も笑って答えられた。
 そのまま一部ぎこちないながらも那波の相談は続き、ピルを予め飲んでおくことで決着はついた。









-後書き-
ども、お久しぶりですえなりんです。
約一年ぶりの投稿になります。

影が薄い、薄いと言われたメインヒロインのお話です。
特に意図したわけではないですが、
ひかげ荘のヒロインたちは原作とは異なる将来像、夢を抱きます。
特に顕著なのが亜子や千雨、今回は美砂になります。

原作の美砂が将来どうなったか忘れましたが、
ひかげ荘のお話の中では美容関連に進む決意をしました。
発端はむつきに綺麗と思われ続けたいだけですがw

あと最近加わったヒロインと美砂との微妙な差別化ですかね。
一応美砂もむつきに救われてますが、救い返してもいます。
ですが一部の子にとっては、むつきは救ってくれる王子さまでしかないとか。
のどか辺りが、王子様としてしか見てない感じですね。

次回更新は未定ですが、
久々に更新してみました。



[36639] 第百三十二話 幸せにだけはしてやらないとな
Name: えなりん◆e5937168 ID:0c56a689
Date: 2016/04/16 20:32

第百三十二話 幸せだけにはしてやらないとな

 拍子抜けとでも言うのだろうか。
 放課後、水泳部の監督室に乗り込んだ美砂と千雨は、お昼休みの出来事を包み隠さず語った。
 美砂は多少言葉に困っていたが、那波に危うく自分たちの関係を明かしかけたことをだ。
 二人とも、かつてのようにむつきが酷く狼狽する様子を思い浮かべていたがそうはならなかった。
 監督室の来客用の、はたまたセックス用のソファーに机を挟んで座っているむつき。
 さすがに眉一つ動かさないというわけではなかったが、動揺した様子は殆どない。
 時折、マジックミラーとなっている窓から、水泳部の練習具合を眺めるぐらいの余裕すらある。

「あー……先生、もしかして事態が呑み込めてないとか? 一応はとりつくろったが、那波は何かしら感づいたかもしれないぞ」
「先生、心配させないようにわざと気にしてない振りをしてない?」

 正直に自分たち、主に失敗したのは美砂なのだが。
 それを話したのに大きな反応を得られなければ、どうすれば良いのか分からない。
 当初とは違った方向で逆に狼狽させられた二人は、むつきを伺う様に見上げた。

「ああ、悪い。不安にさせたか?」

 そんな二人の様子を見て、むつきは笑顔で手を振ってなんでもないとアピールした。

「流石に二度目だから……長谷川にバレた時は、夜も眠れなかったみたいだし」
「ひかげ荘に初めて行った時のことだから、よく覚えてる。先生、顔が真っ青でそれこそ入院してもおかしくないぐらいやつれてた」
「そりゃ、当時は美砂と二人だけの秘密だったからな」

 千雨に言われ、改めて自分で思い出しても、眠れない夜が一週間続いたのは酷かった。
 疑心暗鬼にかられ、手に入れたはずの幸せが何時壊れるかとビクビクしながら。
 教師生活が上手く回り始めた直後だったことも、それに拍車をかけていたのだろう。
 あれは酷かったと笑い話の類のように軽く笑みを浮かべたむつきは、改めて大丈夫と笑顔を見せた。
 それでも不安げに、上目づかいになっている二人の頭をくしゃりと撫でながら。

「そんな心配すんな。千雨も相当、動揺してんな。お前なら、直ぐに気づいてても良さそうなもんだけど」
「はあ、なにがだよ?」
「あの頃とは、もう状況が違うってことだよ」

 当時、むつきに惚れていたのは美砂一人で、他のクラスメイトはひかげ荘の存在すら知らなかった。
 というよりも、二-Aの面々にとってむつきはとるに足らない存在だったともいえる。
 その後にアキラを皮切りに、一人また一人とむつきの嫁になりたい子が増えた。

「あくまでA組の子限定の話なんだが。もうバレたって事が大きくなり様がないんだよ」
「どういうこと?」

 小首を傾げる美砂を前に、むつきは自分の考えの根拠を明かした。

「お前ら、A組の子たちは良い子だってことだ。もし仮に千雨があの時、こんなのおかしいって声を上げたら……俺は今頃、こんなところで呑気に水泳部の顧問なんてやってられなかった。だけど、今の那波が真実を知ってこんなのおかしいって声をあげるか?」
「うーん、那波さんも先生が大好きだけど。その反動でってこともあるんじゃない?」
「あっ……そういうことか」

 まだ確信に至らないむつきの言葉の意味に、先に気づいたのは千雨であった。

「そうだよな、私のクラスメイトは馬鹿だけど良い子ちゃんなんだよなぁ……ありがたいことに」
「え、え?」
「仮に那波が疑いから確信を得ても、絶対に世間に公表したりしない、できないんだよ」
「柿崎、私らA組の半分は先生と身体の関係結んでるし、そうでない奴もそれを肯定とまではいかなくても否定もしてないよな。良い例が明石や佐々木、特に釘宮が分かりやすい」

 半ばからむつきの言葉を引き継いだ千雨の説明に、まだ要領を得ない美砂がふんふんと頷いた。
 少しは気が紛れたのか、息があってるとむつきと千雨のツーカーの考え方に頬を膨らませながら。

「普通さ、教師と生徒の関係を知って即座に他の教師や教育委員会、果てはマスコミになんて突飛なことは考えないよな。まずは身近な誰かに相談する」
「かな? 長谷川はその身近な誰かがいなかっただけ?」
「ほっとけ。でだ、那波の身近な人間は委員長に村上だけど、委員長はこっち側だ。じゃあ他にと探そうにもクラスの大半の人間はこっち側。特に那波みたいな頭の良い奴はその意味に直ぐに気づく」
「既にひかげ荘を知らない子の方がマイノリティなんだよ。そんな状態で義憤に駆られ、真実を明かしてみろ。麻帆良祭の比じゃないぐらいにクラスは真っ二つ。俺が逮捕なんてなれば、大好きなクラスの子たちから恨まれるリスクさえある。そんなことすると思うか?」

 むつきの問いかけを前に、美砂は理解すると同時にぶるりと身震いした。
 仮に美砂が那波の立場だとしても、そんな恐ろしいことはできやしない。
 想像したことで、改めて親友の一人である釘宮の心情も少し理解できた気がした。
 釘宮の様にむつきに特別な感情を抱いていない人間からすれば、むつきの周りの関係は異常だ。
 しかしどんなに異常と感じても、それを声高に叫ぶことはない。
 もしも義憤にかられ声高に叫んだとして、待っているのはマイノリティ故の針の筵だ。
 那波もよっぽど頭に血が上らない限りは、リスクが先に立つ。
 これはむつきしか知らない事だが、孤独を何よりも恐れる那波はなおさら。

「あくまでこれはA組限定の話であって気を付けるに越したことはないが、以前ほど致命的ではないってことだ。そこは安心しとけ。一応、他の子の耳にも入れておくが」
「うん……少しは安心したけど、今後は本当に気を付ける。私、二度目だし」
「クラスが下ネタオッケーになった反動でもあるけどな。私もちょっと緩んでた」

 二人が気を付けると気を引き締めたところだが、少しその緊張の糸を程々に緩ませる。

「それで、話の途中だったが。美砂も少しやりたいことが見えたって?」
「あ、うん。亜子とかほど、具体的じゃないけど……私だけじゃなくて、他の子も含めて。皆が綺麗になれる方法をこう、追求するっていうか」
「アタナシアさんに美を追求するのは不毛的なこと言われたけど。綺麗になりたいってのは、女の子の永遠のテーマだからな。私の衣装造りも、そう言う面がなくはないし」

 反省したのならそれ以上は必要ないと、むつきは美砂の将来を含んだ話題に変えることにした。
 最終的に美砂たちはむつきの横にいることにしても、まだ先は長い。
 急ぎ道を一つに決めずとも、色々と寄り道をするのは悪いことではない。

「あー、ぱっと思いつくだけでも。美容師とか、エステティシャンとか。そう言う方向か」
「そっか、身近過ぎてすっぽり抜けてた。美容師もありか、髪は女の子の命」
「だよな、美肌とかは既に超とかが漢方で研究してそうだし」
「別にかぶっても良いだろ。よし、美砂。こっち来い」

 美容師は盲点だったと唸る美砂を、むつきは手招いて呼び寄せた。
 目の前のテーブルを迂回し、近づいて来た美砂へとおいでとばかりに両腕を広げて待つ。
 これはご褒美かとその意図を察した美砂が、むつきの両足を跨いで膝の上に座り込んだ。
 もちろん間髪入れずに、抱き付いてはむつきの首元に鼻先を埋めて頬ずりしては甘える。
 那波にばらしかけた手前、内心はビクついていたのでこれはとても嬉しかった。
 猫のように喉の奥でごろごろと鳴いては、むつきの匂いを胸一杯吸い込んだ。

「よしよし、同じ失敗はしかけたけど。それより、お前が将来像を一つ見つけられたことの方が大事だ。それに固執しない程度に、まずは色々と調べてみろ」
「先生、褒めて、撫でて。ちゅう、ちゅう。ん、ふぅ……ぁぅ」

 てっきり怒られるか、呆れられるかと思っていたのにこの好待遇。
 後頭部をガッチリ押さえつけられ、苦しいが濃厚なベロチューに腰に甘いしびれが走る。

「おいおい、先生。あんまり、柿崎を甘やかすなよ。調子に乗ると、コイツまたやらかすぞ」
「美砂も悩んでたみたいだから、今回は特別な。それより、ほれ」

 一応行った忠言はかわされ、代わりに差し出されたのはむつきの手のひらだった。
 むつきの上に跨りながら、腰を振る美砂を見てその意味が分からないはずもない。
 だが窓の外の水泳部の練習風景をチラりとながめ、容易には一歩を踏み出せないでいた。

「安心しろ、抱くわけじゃない。機転を利かせた千雨へのただのご褒美だ」
「えー、セックスしてくれないの?」
「新人大会が今週なのに、顧問が監督室に引きこもるのも士気に関わるだろ。キスと軽いペッティングまでだ」
「そういうことなら……」

 美砂はかなり不満そうだが、千雨は少しだけ安心してくれた。
 千雨が借りて来た猫の様に大人しいのは、ここがある意味でアキラと亜子の場所だからだろうか。
 ひかげ荘内とは違い、体を小さく竦めた様にちょこちょこ歩いて来ては大人しくむつきの隣に座った。
 我慢しなさいと美砂の頭をぐりぐり撫でつつ、隣に座った千雨の腰を抱いては唇を奪う。
 甘い、甘い千雨の唇。
 こういう大人しい千雨も、普段とのギャップで悪くはない。
 その気にさせてやると美砂が耳たぶを甘噛みして来たが、心で踏みとどまった。

「ん、ご褒美はここまで。美砂も部活行け、桜子と釘宮が煩いぞ。千雨は……まあ、好きにしろ」
「私は、村上に頼まれたことがあるから。ちょっと、ひかげ荘に寄って来る。柿崎、今日の夜のいつでも良いから一回私の部屋に来てくれ。モデル頼みたい」
「おっ、しょうーがないなぁ。美砂ちゃん美人だし、頼まれてあげようかな」

 セックスなしに唇を尖らせていた美砂だが、千雨のお願いには快く頷いていた。
 まだあやふやだが自分の将来に繋がる件なだけに、むしろ乗り気だった。
 それじゃあと、水泳部に来た時よりすっきりした様子で二人は各々帰っていく。
 だがむつきは見送って終わりではなく、まだまだお仕事の続きが残っていた。
 口の中に残る二人の味を飲み下し、立ち上がっては軽く体を動かして窓の外を眺める。
 小瀬がいるのでむつきが行ったからといって、やることはそう多くはないのだが。
 いないよりはいる方が部員たちのやる気も多少上がることだろう。
 ひょこひょこのんびりと監督室を出て、プールサイドまで歩いていく。
 水泳部は古豪の部だが、顧問のむつきが強権を持っているわけではないので現れたからといって練習を止めて挨拶なんてない。
 個々で気軽に手を振ったりする子がいるので、軽くむつきが手を振ったりするぐらいだ。

「はい、次!」

 練習は普段のレース形式のものとなっていた。
 八つのレーンに速い者のグループ順に並び、前に追いついたら昇格というアレである。
 ここ最近での一番の変動は、部活に来るたびに成長を続けた神楽坂であろう。
 丁度、飛び込み台に立つ順番だったようだがそのグループはアキラと同じ第一グループだ。
 飛び込み台に立つ姿も多少見れるものとなっている。
 特に飛び込む直前の構えで突き出された水着に包まれた尻は、引き締まった良い尻だった。
 あの尻を鷲掴みにして激しく責めたてたら、神楽坂はどんな甘い声で先生と呼んでくれることか。

「って、いかんいかん」

 最近少し、神楽坂をいけない目で見ることが多くなって来た気がする。
 軽く首を振ってからプールサイドにある顧問専用のビーチチェアに腰を据えていると笛の音が聞こえた。
 一斉に神楽坂を含む八人の部員が飛び込み台を蹴った。
 勢いよくプールに頭から飛び込み、大げさに立ち上がった水しぶきは二つ。
 一人は第八レーンで飛び込んだ二十五メートルがようやくの一年生。
 失敗して腹打ちでもしたのか、お腹を押さえて震えながらプールサイドに上がっていた。
 もう一つは案の定の神楽坂であったが、こちらは慣れた者と前を泳ぐアキラを追いかけ始める。
 当初、ジェットスキーかとも思った豪快な泳ぎは、なりを潜めていた。
 他のレーンと比べてもまだ飛沫は多いが、アキラとの差はジリジリと広まる程度でもあった。

「そのジリジリが、出来ねえんだよ。普通は……」

 懸命に泳ぐもじわじわと差を広げられる神楽坂だが、他のレーンはもっとひどい。
 ぶっちぎり、そもそもグループが違うこともあるが第二レーンでさえ引き離されている。
 これで神楽坂がいなければ、アキラは周囲から浮いてしまうぐらい実力が飛びぬけていたはずだ。

「ああ、もう。また全然追いつけなかった。アキラちゃん、速過ぎる!」
「そんなことないよ。これでも結構焦る」

 神楽坂が反対側のプールサイドに到着した頃には、アキラは既に水の上だった。
 悔しがる神楽坂を前に、苦笑いしながらアキラが手を差し伸べていた。
 水泳を始めてまだ一ヶ月になろうかという神楽坂が勝てないのは、ある意味で当たり前なのだが。
 ああやって悔しがる負けん気を持った子が、アキラには必要だったのだ。
 小瀬の当初の目論見通り、神楽坂はまだアキラのライバルと呼ぶには拙いが、良い刺激になっている。
 神楽坂が元々、部長であるアキラとマネージャーである亜子と同じクラスということで変な摩擦も起きてはいない。
 むしろ、更衣室を覗いていると一年生などのあこがれの対象は、アキラと神楽坂で二分していた。
 可愛さと格好良さを兼ね備えたマスコット的なアキラと姉御肌的な部分がある屈託なく明るい神楽坂。
 あと凄くどうでも良いが、一年生の子達も最近は成長が著しく可愛いおっぱいが芽吹き始めていた。

「先生、顔がちょっといやらしくなってる」

 あの子とあの子は最近生えて来たんだよなと、妄想が横道にそれたところで小瀬が目の前に立っていた。
 どうやら一時、笛を吹く役目を亜子に代わって貰ったらしい。
 しかし水着姿で目の前に立たれては、自然と視線がその体を嘗め回してしまう。
 特に局部のことを考えていたので視線は、割れ目に食い込む股座部分に釘付けだった。
 最近は、むつきに剃毛して貰うのがお気に入りでこの子は神楽坂と同じパイパンなのである。
 その上さらに、先生の所有物だからと子宮の上に名前を書かせてくれるのだ。

「あっ、やべ」
「なにやってるの、先生。ちょっと詰めて」
「詰めてって、おい」

 そう思っていたら不覚にも、こんな場所で立ってしまいかなり焦った。
 呆れた声を上げた小瀬は、ちょっと詰めてと一人用のビーチチェアの横に座って来た。
 水着姿とは言っても、彼女自身は泳ぐわけではないのでむつきのスーツが濡れることもない。
 ただ必要以上に引っ付かれている状態の為、何人かひそひそやっている子が増えるぐらいだ。

「もう、先生はその辺の中学生や高校生よりもやりたい盛りなんだから。一年生のどの子を食べたいの? それともまさかの二年生? レイプにならない範囲でなら手伝ってあげるけど?」
「やかましい、そういうことを言うんじゃありません」

 ただでさえ土日はチンコが渇く暇さえないのに、積極的に増やすつもりはない。
 とは言え、小瀬も本気で言っているわけではないだろう。
 二人で会話する時は何故だかこうやって下ネタから入ることが多いだけだ。

「それにしても、明日菜ちゃんは想像以上だったね。アキラの刺激になってくれるだけじゃなくて」
「どういうことだ?」

 当初の目的は、ライバルがいないアキラの為に、神楽坂を水泳部に引っ張り込んだ。
 もちろん、神楽坂自身にも大会で好成績をとれば奨学金を貰える恩恵はある。
 だが小瀬が言うには、それ以外にも良いことがあったらしい。

「前も言ったけど、水泳部の子は皆アキラを特別視してた。一人だけ飛び抜けた実力があって、全国六位。勝てなくても仕方がないって。実際、誰も追いつけなくてそれに拍車がかかった」
「まあ、普通は諦めるわな」
「でもその固定概念を明日菜ちゃんが壊してくれた」

 ほら見てと小瀬に促され、むつきが見たのは神楽坂の後から泳ぎ始めた子達だった。
 皆真面目に、先に泳ぎ始めた子を追いかけ上のグループを目指している。
 もちろんそれそのものは、以前から変わらない。
 だが以前までなら第一グループになることが終着点だったことだろう。
 そこにアキラがいる限り、決して一番になることはできない、そういう考えが頭に染みついていた。
 小瀬の言う通り、その考えを壊してくれたのが神楽坂であった。
 他の子の実力を一足飛びで追い越し、水泳部のナンバー2まで上り詰めた。
 だが結局はアキラには追いつけなかったわけだが、神楽坂はそこで諦めるようなことはなかった。

「なるほど、そういうことか」

 神楽坂が影響を及ぼしたのは、アキラだけではなかったということだ。
 水泳部員にとっての最終目標は、第一グループに入ることではなくなっていた。
 それで一番わかりやすいのがアキラや神楽坂と同じ第一グループにいる子たち。
 今までなら彼女たちは、第二グループに落ちないこと、そんな後ろ向きな目標を持っていた。

「行ける、追いつけるよ!」
「もう少しもう少し!」

 今や彼女たちは第二グループに落ちないことではなく、アキラと神楽坂を目指していた。
 アキラとは実力差があり過ぎて、どうすれば追いつけるのかそんな姿を想像することすらできなかった。
 だが今やその間には神楽坂の存在があり、彼女になら追いつける自分を想像できた。
 諦めずに何度もアキラに挑む姿に加え、その道筋を神楽坂がその身を持って示してくれたのだ。

「明日菜ちゃんがもう少し水泳部に入るのが早かったら、彼女を部長におしてたかもね」
「部長か。アキラは、亜子と二人で一人前なところがあるからな。とはいえ……」

 順番的に待ちに入ったアキラは、一年生から泳ぎ方の質問を受けてそれに答えていた。

「水から腕を抜く時は肘から、ハイエルボーって言うんだけど」
「エルボーってこうじゃないの?」
「明日菜」

 立ったままだがハイエルボーの動きを見せたアキラに対し、明日菜が横から攻撃的なエルボーを見せた。
 少し離れているのにブンッとその凶器が振り払われた音が聞こえる。
 かつて明日菜の拳で脇腹を殴られた事が思い出され、痛みがぶり返した気がした。

「神楽坂もちょっと残念なところがあるからな」
「別に部長は実力順ってわけじゃないから」

 大真面目に神楽坂がボケた為、亜子がツボにはまって笛の音が止まってしまっていた。
 他にも幾人か笑いが止められなかったようだ。
 笑わせたというよりも、若干笑われた感のある神楽坂もあははと照れ笑いしている。
 たかだか一ヶ月だが、神楽坂は実力だけでなく水泳部員としてきちんと溶け込んでいた。
 彼女は苦学生として年上に混じってバイトに明け暮れていたので、クラス外でも同世代とああやって笑い合うのは良いことだ。
 これで彼女が今週の新人大会で好成績を残せば、めでたしめでたしで済むわけである。

「ふーん……」

 神楽坂を暖かく見守っていたつもりだが、頬杖をついた小瀬に意味ありげに呟かれた。
 その視線は神楽坂とむつきを何度も往復しては、なにか納得したようでもあった。

「どうかしたか?」
「別に」

 気にならないはずもなく、尋ねてみると珍しく小瀬がすねたような声を上げた立ち上がった。
 そして他の子達が笑いあってこちらへの注意がそれたのを良いことに大胆な行動にでた。
 まるでむつきの視線を奪う様に、水着の食い込みを直す様に生地と桃尻の間に指をいれる。
 だがそれも途中で止めて振り返り、むつきの名が刻まれたお腹を軽く撫でて言った。

「先生が今、一番セックスしたがってる子が明日菜ちゃんってこと。ちょっと、ジェラシー感じちゃった。先生は私のものじゃなくて、私が先生のものなのに。あはは」
「安心しろ。俺の中では、お前もちゃんと嫁に貰う予定に入ってる。今から、産みたい子供の数考えとけよ。その倍は、孕ませてやるから」
「もう、ばか……濡れちゃうじゃない。男の子と女の子、一人ずつ欲しいかな。って、雌奴隷が高望みし過ぎかな。言ったからには一生、雌奴隷として飼ってね」

 珍しく本気で照れたようで、やや早口での照れ隠しであった。
 性に奔放の様に見えて、意外と純情というか、正道の攻めには弱いようである。
 足早に戻っていくと、二、三言亜子と会話した後に笛を返して貰っていた。
 そしてピッピと笛を鳴らしてから、緩んだ空気を引き締めるように言った。

「ほらほら、試合も近いんだから。時々は気を抜いても良いけど、だらだらしちゃうのは駄目」

 可愛い所もあるじゃないかと小瀬を見直したところで、あることに気づいた。
 それは小瀬に突っ込まれた、今一番抱きたがっている子が明日菜と言われたことを自分で否定しなかったことだ。
 いやまさかと一時は思いはしたが、改めて考えても完全には否定できない。
 特に神楽坂は、猛獣を手なずけたようなところがあり、普通の生徒として見ても可愛いところがある。
 正直な胸の内をおぼえてみれば、高畑に渡すぐらいなら自分のものにしてしまいたい。

「本当、俺は気が多いというか……」

 自分がここまでやりチンになるとは、一年前には思いもよらなかった。
 しかも相手の九割が年下どころか、自分の可愛い生徒なわけで。
 美砂やアキラならまだ発育的に言い訳できたが、のどかやさよ、夕映にエヴァと小さい子も食い散らかしたのが現状だった。

「幸せにだけはしてやらないとな」

 やったらやったでやり通す。
 言葉にしたら青臭い青春の一幕のようだが、実際は青い果実をイカ臭い汁でどろどろにする行為だ。
 当人たちはそれでも喜んで腰を振ってくれるわけだが。
 どうせ後戻りできないのであれば、あとは突き進むだけである。
 ただ唯一、彼女たちを金銭的に養う方法だけは、さっぱり思いつかないままであった。









-後書き-
ども、えなりんです。

エロはまだ先ですみません。
今回は美砂の将来像とむつきの現在の心境です。

当初はノイローゼになったむつきですが、
現在は驚きこそすれ、慌てる事はありません。
お話の中でも書きましたが、
むつきとエッチしてない子の方が少数派になりつつあります。
まだひかげ荘を知らない、A組の子に明かす日は近いです。

それでは次回は未定です。
流石にまた一年開いたりはしないと思います。



[36639] 第百三十三話 今日からライバルって事ね
Name: えなりん◆e5937168 ID:0c56a689
Date: 2016/05/03 21:18

第百三十三話 今日からライバルって事ね

 ご馳走様と普段の元気さの欠片もない声で神楽坂は呟いた。

「明日菜、もうええの?」
「うん」

 木乃香がまさかと言いたげに尋ねたのには理由がある。
 神楽坂のお茶碗の中には、まだご飯が半分ほど残されていたのだ。
 他の汁物やおかずも箸で少しつついただけで、食べたというより小鳥がついばんだぐらい。
 普段の神楽坂ならば、これぐらい軽くぺろりと平らげお代わりまでするはず。
 昼間は元気であったし、木乃香が顔色を見たところ血色が悪いということもない。
 ただし、明日菜の様子がおかしいことに心当たりが全くないわけではなかった。

「もしかして、今からもう緊張しとるん?」
「そうかも。お腹が空いてないわけじゃないんだけど……なんだか、食欲がわかないの」

 木乃香の心当たりには、当の本人である神楽坂も思い至っている様子であった。
 土曜日である明日は、水泳部の秋の新人大会である。
 つまりは明日菜の水泳部員としての正式なデビュー戦なのだ。

「考えてみれば、こういう試合みたいなのは初めてで」
「そやな、美術部では期日までに物を仕上げれば良いけど。運動部は一発本番やもんな」
「一発本番……」

 木乃香の言葉でさらに余計なプレッシャーが加わったように神楽坂が肩を落とした。
 もちろん、試合に対する不安がないわけではないが、本当の原因はまた別にあるのだろう。
 この新人大会の結果次第で、特待生になれるかどうかが決まる。
 それだけならまだしも、今回は特定の誰かさんのお世話になり過ぎた。
 今まで考えなかった方がおかしいのだが、結果が悪かったらどうなるのだろう。

(良い結果が出せなかったら……)

 ただ想像しただけで、スッと血の気が引く音が聞こえた気がした。

(またバイトで忙しくなるから水泳部は辞めなきゃならないし、その前に新しいバイト探さないと。辞めなきゃいけないんだ。辞めたくないな)

 悪い考えがグルグルと廻るが、それはそれで一番考えたくない事からの逃避でもあった。
 むつきは神楽坂ならと、この話を持ってきてくれたのだ。
 その期待に答えられなかったとして、小言の一つも言って来る様な人でない事は知っている。
 それでも今、神楽坂は何としてでもその期待に応えたい、応えなければと一種の強迫観念があった。
 ちゃんと期待に応えて、またあの声と笑顔で神楽坂と言って欲しい。
 もしも応えられず、ため息の一つでもつかれてしまえば、立ち直れない気がする。
 チラリと見つめた時計の時刻は、午後八時、十二時間後には学校での集合時刻であった。

「明日菜、ほんま大丈夫?」
「木乃香……だめ、かも。おかしいな、今日の部活中だって全然こんなことなかったのに」

 こんな気弱気な明日菜、しかもそれを表に出すところなど木乃香は初めて見た気がした。
 思わず寄り添おうとちゃぶ台に手をついて立ち上がろうとした時である。
 聞き覚えのある携帯の着信メロディが流れ、明日菜のみならず木乃香もビクリと体を震わせた。

「びっくりした、今の。明日菜の」

 驚き体を竦めたものの、それどころではない神楽坂は動く気配はない。
 彼女を気遣いつつ、代わりに木乃香は勉強机の上の携帯電話を取りに立ち上がった。
 不安そうな神楽坂に寄り添うより優先させたのは、予感めいたものでもあったのかもしれない。
 一言断ってから神楽坂の携帯電話のメールの差出人を確認する。
 やはり予感はただしかったようだ。

「明日菜、乙姫先生からメールやで」
「え? 先生から?」

 液晶画面を神楽坂に向けるように差し出され、その差出人の名前が目に飛び込んで来る。
 携帯電話を受け取り、縋る様な気持ちでメールを開いた。
 送られてきた文章を視線で読み上げていく。
 時間にして約一分、ついでにもう一度それを読み直し、さらにもう一度読み直す。
 最初は信じられない面持ちだったが、読み直す度に唇の端がぴくぴくと持ち上がっていた。

「先生、なんて?」
「あっ」

 肩越しに携帯電話を覗き込まれ、思わず明日菜は胸に抱く様に隠してしまった。
 心なしか頬が熱く赤く、つい先ほどまでの悲壮さは何処へやら。
 心配したえと頬を膨らませる木乃香を前に、全部が全部秘密とはいきそうにはない。

「その、ほら……私以外の一年生にもデビューの子が多いから、明日は私だけにずっと構ってられない的な」
「せやな。けど、先生の事やからそれだけやないやろ」

 下手なごまかしは、木乃香の前では通用しないようだ。

「もし結果が駄目でも、水泳部を辞めるとか考えなくて良いとか。他の方法はいくらでもあるとか」
「うんうん。それで、それで」

 それでも気恥ずかしさから悪あがきを試みたが、にこにこと何時もの笑みを向けられ観念する。

「あー、もう。でも明日は、私の事を一番応援してるって!」
「そっかそっか。明日の大会の間は、先生にとって明日菜が一番なんか」
「ちが、違くないけど。顧問として、そういうアレだから。変な事言わないでよ。木乃香が思ってるのと違うから」
「恥ずかしがらんでもええやん。明日は、明日菜が先生を独り占めやな」

 えいっと頬を突かれ、ある意味で明日菜以上に木乃香が上機嫌である。
 木乃香もちょっとアブノーマルな恋愛に足を突っ込んでいるが、恋話には目がない。
 ただただ否定するだけでは逃げられないと、明日菜はちゃぶ台の上のお茶碗を手に取った。
 可愛い、可愛いと頬を突いて来る木乃香へと、お茶碗を突きだしながら言った。

「木乃香、お代わり」
「お代わりて、まだ残っ」
「んぐっ……ん、ごく。はい、空っぽ。お代わり!」

 食欲不振なにそれとばかりに、神楽坂はお茶碗に残っていたご飯を放り込んでは飲み下した。

「良く噛んで食べなあかんえ? それでお腹壊したら、もとこもないやん」
「大丈夫、そんな柔じゃないから。明日はぱぱっと勝って、先生に心配し過ぎって言ってあげるわ」

 その為の栄養補給とばかりに、お代わりを貰った明日菜はおかずにも手を出し始めた。
 何時もの調子、ちょっと前のめりだが先程までの調子よりは断然良い。
 木乃香は受け取った茶碗にこんもりとご飯をよそって渡してあげた。

「はい、明日菜。折角、ゲン担ぎでとんかつにしたんやから。たくさん食べるえ」
「あっ……全然気づいてなかった。まったく、木乃香は良いお嫁さんになれるわ」
「明日菜が貰ってくれる?」
「そこは刹那さんじゃないの?」
「私は欲張りやから、せっちゃんと明日菜の両方にお婿さんになって欲しいえ」
「はいはい。木乃香のご飯は何時も美味しいから、いくらでも貰ってあげる」

 言われてみればと見おろしたちゃぶ台には、トンカツと千切りのキャベツ。
 お味噌汁がさり気にトン汁なのは、豚肉が少し余ったので放り込んだ結果か。
 改めて、ちょっと余裕なかったなと神楽坂は先程までの自分を思い返した。
 そして、そんな自分をメール一通で元通りにされた事に頬が熱くなる。
 いや、それは単純すぎる自分に対してか。

(副担任で顧問なんだから応援するのは当たり前だし。当たり前の事を当たり前にわざわざメールされて、拍子抜けって言うか……別に、そういうんじゃないし!)

 別にときめいてなんかいないと心の中で自分の言い聞かせる。

「でも、明日菜は乙姫先生のことも大好きやしなあ」
「ぶっ、ごほ……ぅっ……木乃香!」

 そんな小さな抵抗は、木乃香の一言で脆くも崩れ去るわけだが。
 決戦前夜とも言える金曜の夜は、神楽坂にとって普段より少しだけ騒がしく老けて行く事になった。









 秋の新人大会の当日、むつきは大忙しであった。
 予想通りというべきか、予想以上というべきか。
 二年生はもう何度も試合を経験しているし、秋の新人大会は二度目である。
 彼女たちは大丈夫だったが、主にむつきを忙しくさせたのは、一年生の面々であった。
 緊張から何度もトイレに行くのは良いが、そのまま迷子になって戻ってこれない子。
 自分の出番が分からない、または泳ぎ切れるか不安で泣きついてくる子。

「良いか、一年生は絶対に一人でトイレ行くなよ。先輩について行って貰え。あと出番は確認してからだぞ。良いな、絶対だぞ!」

 小瀬や亜子といった補佐がなければ目を回していたことだろう。
 地味に活躍したのは、一年生のまとめ役であるのりりんこと朝日のり子だったりした。

「先生!」
「今度はなんだ?」
「明日菜、明日菜の番やて」

 亜子に呼ばれ少し声を大きくして問い返すと、ある方向を指さされた。
 飛び込み台に向かう集団の中に、確かに神楽坂の姿があった。
 どうやら忙し過ぎてむつきも少なからず周りが見えなくなっていたらしい。

「明日菜ちゃーん!」
「お前ら、声が小さい。そーれ!」
「明日菜ちゃーん!」

 そんな神楽坂に飛ぶのはやけに野太い声援であった。
 若く甲高い黄色い声が多い中で、目立つどころか異様とも言える声色である。
 だがそんな声に対して神楽坂は嬉しそうにぶんぶんと手を振り返していた。
 おかげで声援なのか歓声なのか不明な声が一際轟く。
 そんな彼らは、以前に神楽坂がアルバイトした酒呑の工事現場のおじさんたちであった。
 神楽坂の言葉を借りるならば、渋い叔父様たちだろうか。
 ちなみにそこには酒呑の姿もあった。

「これ、完全に持っていかれた。ピチピチのチアガールよりおじ様とか、明日菜はやっぱレベル高いわ!」
「前からそうじゃん。てか、アンタらもレベル高まってんだけど」
「にゃはは、否定しきれない。明日菜、がんば!」

 もちろん二-Aの面々もあったが、完全にだみ声に飲まれてしまっていた。
 毎度のことながら気合い入れて応援に来たチア部の美砂や釘宮は白け、桜子も諦め気味だった。

「明日菜ちゃん、変な意味で目立っちゃったのに余裕みたいね」

 小瀬が呟いた通り、声援に対して軽く手を振り返す程には余裕が見て取れた。
 昨日のメールに対する返信は特になかったが、余計なお世話だったか。
 手を振り終えた明日菜はそのまま飛び込み台に立った。
 にこやかな笑みは鳴りを潜め、真っ直ぐにゴールの対岸を見つめている。

「明日菜さん、頑張ってくださいまし!」
「明日菜、願掛けはばっちりや」

 あやかや木乃香といった親友二人の声援も耳に届かないぐらいに集中している。
 肩を持ち上げるぐらい大きく深呼吸をする様子に、特別な力みなどは感じられない。
 適度な緊張感と共に飛び込み台の上で構え、スタートの合図と共に飛びこんだ。
 まだまだ練習不足か、入水した時のしぶきは八人の中で一番大きい。
 しかし水の底から浮かび上がって来た数秒後。
 先頭に立って一番に水を掻き出し始めたのは、神楽坂であった。
 頭一つ分ぐらい速い、そう思っていたのも束の間、後続をどんどんと引き離していく。

「あれ?」

 そのままの勢いでレースも中盤に差し掛かった時、何かに気づいたのは小瀬であった。
 見る見るうちに神楽坂は二位との差を身長一つ分、さらにまだ広げている。
 きっと他の学校の関係者たちは、こう思っていたことだろう。
 どれだけ速くても、麻帆良の人魚姫ではないのだからここからペースが落ちるだろうと。
 しかし、小瀬を始めとして水泳部の子たちは知っている。
 神楽坂がその麻帆良の人魚姫を毎日追いかけ続けていることを。
 麻帆良女子中の二-Aの子たちは知っている。
 神楽坂が体力お化けであることを。

「ちょっ、明日菜ちゃん」
「超える」

 嘘でしょと言いたげな小瀬の呟きの後で、アキラが確信めいた面持ちで呟いた。
 ざわつく試合会場、少しずつではあるが驚きが広がり始めている。
 そして明日菜がぶっちぎりで対岸の壁にタッチした時、そのざわつきが潮が引く様に消えた。

「え、なんだ。なんで、神楽坂がなんか反則したか?」
「ちゃうよ。先生、アキラの記録ぐらい知っとこうよ」
「大河内の記録?」
「秋の新人大会の大会記録、ついさっきまではアキラだったんだけど」

 わっと試合会場全体が驚きを大いに含んだ歓声に包まれた。
 そして当の本人は、突然の事に何が起きているのか良く分かっていない様子だ。
 キョロキョロと周囲を伺い、意味が分からず助けてと此方へ視線を向けて来ていた。

「アキラや他の子の事はこっちで見てるから、先生行ってあげて」

 小瀬にタオルを持たされてから背中を押され、私が何をしたのよとパニック中の神楽坂を迎えに行く。
 むつきの迎えに気づいた神楽坂は、明らかにほっとした様子であった。

「先生、なに。なんなのこれ?」
「良いから、一先ずあがれ」

 真実を知りたがる神楽坂であったが、上がらせることを優先する。
 周囲はざわついてはいるが、まだ次の試合が押しているのだ。
 不安げな神楽坂の手を掴み、やや力任せにプールサイドへと上がらせた。
 タオルを頭から被せるようにし、隅っこへと下がらせる。

「それで先生……」
「先に拭けよ。ほら、貸してみろ」

 プールサイドの隅で帽子を脱がせた神楽坂の髪を拭いてやる。

「ちょ、ちょっと先生恥ずかしいから自分でやるわよ。それに今日は私にあんまり」
「大会記録だってさ」
「へ?」

 タオルの隙間から見上げて来た顔は、言われた意味がわからないという呆けたものだ。
 むつきだってそもそも秋の新人大会の記録はおろか、それがアキラだとも知らなかった。
 さらに水泳に関わり出してから時間が短い神楽坂が知るはずもない。
 だから改めて神楽坂の記録を伝え、それが大会記録であるとも教えた。
 まだ理解は半分ほどだろうか、軽く唸り出した神楽坂の頭をタオル越しに触れて言った。

「十分過ぎる程の成果だろ。全国区のアキラの記録を抜いたんだ。入賞するに越した事はないけど、もう大丈夫だろ。たぶんでしかないが」
「あっ……特待生」

 そう呟いてから、神楽坂は軽く周囲を見渡した。
 その件は水泳部員には秘密なので、それを思っての事だろう。

「終わっちゃいないが、結果を見てみれば余裕だったな。全然、緊張した様子もなかったし」
「そっ、そうよ。心配しゅ過ぎ。先生の方が緊張してたんじゃないの?」

 よし言ってやった、ちょっと噛んだだけど言ってやったと内心でガッツポーズだ。

「かもな、今回の件ではお前のことばっかり考えてたし」

 ただし、強烈なカウンターがむつきから意図せず放たれてきた。
 それはもう、思わず春の頃の様に反射的に殴ってしまいそうなぐらいに強烈だった。
 慌てて真っ赤に火照る顔を悟られないようタオルを被り直し、髪を拭く真似をする。

(な、ななんでそういうこと。ばっか、ばっかじゃないの私。違うの、先生は特待生のアレをそれして……顔が熱い痛い、にやけ。なんでニヤけてんのよ、もう!)

 タオルの奥に隠れるのに必死で、神楽坂は手を引かれ歩いていることに気づいていなかった。
 そもそも学校ごとに集合場所は決められているので、何時までのプールサイドにはいられない。
 そんな神楽坂を我に返したのは、再び巻き起こった試合会場の大歓声であった。
 何事とタオルの奥に隠れた神楽坂を引っ張り出す程に大きい。
 驚いたのはむつきも同様である。
 二人して今度は何だとキョロキョロしていると、プールから誰かが上がって来た。
 つい先ほど、神楽坂が大会記録を叩きだしたコースからだ。
 帽子を脱ぎ、濡れた髪を軽く振り払ったのは、アキラであった。
 軽い足取りでプールサイドに立ち、周囲の視線を集めながら、二人に歩み近づいて来る。
 なんだか貫禄というか、強者の余裕の様なものが見えた気がした。

「アキラちゃん、ちょっと濡れてるけど使う?」
「うん、ありがとう明日菜」

 神楽坂から受け取ったタオルで軽く髪を拭き、そのまま肩にタオルを掛ける。
 そして一呼吸置いてから、アキラは明日菜を真っ直ぐ見つめて言った。

「明日菜が抜いた記録は、一年前の私だから。負けないよ」
「へ?」
「マジか……」

 何のことだと一足先に察したむつきが見上げたのは、アキラの記録が移る電光掲示板だ。
 いやいやと、半笑いで目を擦り再度見上げてみても結果は変わらない。
 つい先ほど、明日菜が塗り替えたはずの大会記録が、再びアキラに塗り替えられていた。
 マジかというか、何処の漫画の世界かと思わずアホかと言いたくなった。

「負けないもん」

 しかし何故に二度も、しかも二回目は頬を膨らませてちょっと可愛く言ったのか。

「じー……」
「あっ、これは違う」
「痛って、腕が抜ける!」

 アキラの視線が繋がれた手にある事に気づいたのは、神楽坂の方が速かった。
 ブンッと音が出る程に荒々しく解かれ、両手をふりながらアキラに弁明をはかる。
 実際、水泳だろうが恋愛的意味でもアキラがぶっちぎりなわけだが。
 特に後者に関しては神楽坂も知らないのだから、必死であった。

「お前ら、じゃれるのも良いけど決められたスペースでやりなさい」
「ちょっと、事の発端が言うセリフ?!」
「えっと、そうだ。わー、タオルで前が見えない。困っちゃった」
「転ぶから、普通に止めなさい」

 どうやら神楽坂が手を引かれていた現場を見て、理由は一応知っていたらしい。
 見えない見えないとコントを始めたアキラは、頭をコツンと叩いておいた。
 今晩はちょっとアキラを多めに構ってやらねばならないかもしれない。
 明日は孤児院の子供たちを連れてハイキングの予定なので、あまり腰に負担を掛けたくないのだが。
 キャンキャン、わんわん煩い二人を連れて、むつきは小瀬と亜子たちがいるスペースへと戻っていった。

(でもまあ、神楽坂の件はひとまず一段落だな)

 少しだけ肩の荷が下りたと、思ったむつきであったが。
 まだまだ初めての子は多い為、直ぐに忙殺されることになる。
 ちなみに試合の最終的な結果はアキラが一位、ペース配分が分からず毎回全力だった神楽坂は自慢の体力も及ばず途中でバテて四位と表彰台には一歩届かなかった。









 更衣室の中にあるベンチに、水着から着替えもせずに神楽坂は座り込んでいた。

「ああ、もう。試合よりも疲れたぁ」

 更衣室の中には既に神楽坂と、今まさに水着を脱ごうとしているアキラしかいない。
 その理由は、大会終了後に麻帆良の地方紙の取材を受けたからだ。
 アキラは元々全国区の選手なので当然だが、そこに惜しくも表彰台を逃した神楽坂も誘われた。
 色々と衝撃的なデビュー、大会記録合戦だったので良い話のネタだったのだろう。
 もっとも、慣れているアキラは兎も角、初めてづくしの神楽坂はたまったものではなかった。

「明日菜、はやく着替えないと体冷えちゃうよ?」
「うん。アキラちゃんいつも試合の後はこうなの?」
「今日ほどじゃないけどね。んしょ」

 肩紐を外しながらアキラが思い出したのは、去年の今頃だった。
 一年生にして大会記録を叩きだし、麻帆良の人魚姫と呼ばれる切っ掛けとなった取材だ。
 今にして思えば凄く焦って何を喋ったのか全く覚えていない。
 あれから度々取材を受ける事があり、慣れたといえば慣れたのだろう。

「ねえ、明日菜」
「ん? どうしたの?」

 着替えもそこそこに、アキラはまだベンチで足を投げ出している神楽坂に振り返った。
 小首をかしげる神楽坂を前にとある気持ちが沸き上がり、うんと納得する。

「明日菜が水泳部に入ってくれて良かった」
「ど、どうしたの急に?」

 やや唐突なアキラの言葉に、照れる以前に戸惑った様子だった。

「ああ、ごめん。わけわからないよね。えっと、元々嬉しかったよ。明日菜が水泳部に入ってくれて、毎日一緒に泳げて楽しかったし。でもね、今日はちょっと違って」

 慌てて両手を振って謝りながら、しどろもどろにアキラは続けた。

「明日菜が私の記録を抜いた時、素直に凄いって思った。でもね、同時に負けたくないって思った。あっ、違うよ。先生の事じゃなくて、水泳の事」
「うん、それは分かるけど。話の流れ的に」
「だよね。私ね、水泳で負けたくないって思ったの初めてなんだ。夏の大会の決勝で実力が出せずに六位に終わって泣いた事もあるけど、負けたのが悔しかったわけじゃない。今まではずっと泳げれば、速く泳げれば満足だった。今日みたいに負けたくないって思ったのは初めて」

 今までアキラはただただ水泳が、泳ぐことが大好きなだけの女の子だった。
 周囲は彼女を水泳選手として見ているが、彼女自身はそう思っていなかった部分がある。
 好きに泳いで結果が勝手について来ただけ。
 しかし、今日は泳ぐ事よりも先に結果が欲しいと思った。
 特定の誰かと比較して、彼女よりも神楽坂よりも速く泳ぎたいと思わされた。

「だから明日菜のこと、ライバルって思って良い?」
「なんか、アキラちゃんらしい」

 座っている自分に対して、ねっと伺う様に言って来た事に神楽坂は笑みがこぼれた。
 一瞬にして慣れない取材で蓄積した疲れが吹き飛んだ気がして立ち上がる。

「それじゃあ、今日からライバルって事ね。まだ一度も勝ったことない私で良ければ」
「大丈夫、これからもずっと負けないから」
「それライバルって言うの、負けっぱなしは性に合わないんだけど!」
「でも負けて上げない」

 大人しそうに見えて意外と負けず嫌いなアキラと、根っからの負けん気が強い明日菜。
 似ていないようで根っ子の部分は似た者同士かもしれない。
 どちらともなく笑みを深めて、笑い合う。
 思い出のアルバムの中に輝く名シーンの様な光景なのだが、やっぱり二人も二-Aの一員である。
 そろそろ突っ込んでも良いかなと、やや頬を染めた神楽坂がアキラへと指摘した。

「アキラちゃん」
「なに?」
「ずっとおっぱい丸出しなんだけど」
「あっ……」

 水着の肩紐を外して脱ぎだした途中で話し始めたアキラの自業自得なのだが。
 思い出のアルバムの中でアキラはずっと水着は脱ぎ掛けで、おっぱいがぷるぷる震えていたのだ。
 女同士とは言え、ライバル宣言の間もとアキラは胸を隠して神楽咲に背を向けた。

「見た?」
「アキラちゃんぐらい大きいと自然と目に入っちゃうわよ」
「明日菜とそんなに変わらないと思うよ。たぶん」
「いや、私そんな腕から零れ落ちそうにはならないと思うけど……」

 神楽坂の言う通り、隠した腕の中からあふれ出しそうである。

「アキラちゃんのおっぱい綺麗……」

 思わず同性ながらそんな事を呟いてしまうぐらいに。
 ただそれを聞いてのアキラの次の発言には、面食らった。

「触ってみる?」
「え……でも、ちょっとだけ」

 普段、寮の大浴場で時間が重なったりして、見たことがないわけではない。
 この状況のせいだろうか。
 更衣室で二人きりでライバル宣言をされ、心の距離と意外にも何かが縮まったような異質な感じ。
 なんとなく雰囲気に流されただけとも言うが。
 アキラの言葉に、神楽坂は殆ど躊躇をせずに頷いて返した。

「そっとね」
「うん」

 つい先ほどまでドラマにしてもおかしくない青春を送っておきながら一体何をしているのか。

(やば、なんかドキドキしてきた。アキラちゃんのおっぱい柔らかそう)
(あれ、なんでこんな……あれれ?)

 お互い意味不明な雰囲気のまま、言葉通りにする。
 アキラは気恥ずかし気に隠そうとしていた両腕を取り払い、ゆさっとおっぱいを露わにした。
 他人のおっぱいをマジマジと見るのは初めてかもと、神楽坂は高鳴る鼓動と共に手を伸ばす。
 蛇口から水を受け止める様に手の平を上にして、支える様に指先を振れさせる。

「んっ」

 ふにっと持ち上げようとしたが、重量感があり過ぎて軽くたわむだけだった。
 重たいと何度か持ち上げようとするたびに、アキラの口から悩まし気な吐息が漏れる。

「えっと、あの……なんか、私だけ触るのも。そうだ、アキラちゃん私のも触ってみる?」

 ブレーキ、奴は置いて来た。
 この雰囲気にはついて来れないからなとばかりに、さらに神楽坂が焦って口を滑らせる。
 よせばよいのに、慌ててアキラと同じように水着の肩紐を外すおまけ付きだ。
 アキラより心持ち小さいが、同年代では明らかに大きな乳房がたぷんと弾む。

「明日菜のおっぱいも綺麗だよ。可愛い」
「ちょっ、アキラちゃん。そこは……」

 初々しい神楽坂とは異なり、男と女の両方の相手になれているアキラである。
 神楽坂の様に下から軽く触れる様に支えるでなく、指先を鎖骨の下あたりから胸に沿って這わせた。
 胸のふくらみに沿って山を登り、薄紅色の突起には直接触れず、乳輪を描く様に指が走った。

(わっわ、なんかアキラちゃんエッチ)

 ライバルってこういうのじゃないよねと思ったが、乳首に触れられた途端に吹き飛んだ。

「んぅ」

 指先で軽く弾く様に弄ばれ、終いには乳房に埋める様に突かれた。
 不思議なことに触れられているのは胸のはずなのに、腰回りにしびれが走った気がする。
 立っていられず腰が引けて後ろにさがった神楽坂は、ベンチに舞い戻る様に尻もちをついた。
 心なしか呼吸が乱れ、自然と内股になった足の付け根に違和感が滲んだ。
 違和感というか、滲んだのは体液だが。

「どうしよう、明日菜が可愛い」
「駄目、アキラちゃん。皆、待ってるし」
「ちょっとだけだから。キスはしないから」
「待って、だめ……」

 ベンチにへたり込んだ神楽坂に馬乗りになるように、アキラが身を乗り出す。
 ただし、神楽坂の皆が待っているという言葉は本当であった。

「大河内先輩、それに神楽坂先輩。まさか、疲れて眠っちゃった……」

 バンッと少し強めに扉を開けて、一年生のまとめ役ののりりんが飛び込んできた。
 どうやら本当に皆を待たせていたようだ。
 使い走りとして彼女が派遣されてくる程度には。
 そんな彼女が見てしまったのは、水着が半脱ぎの神楽坂とアキラである。
 これがただ着替えの途中だけなら良かったが、ベンチにへたり込む神楽坂をアキラが押し倒していた。
 ぼしゅっと音を立てて顔を真っ赤にしたのは、のりりんの方だったが。

「おっ、お邪魔しましたァ!」

 開けた時よりも激しく扉を閉めた彼女は、バタバタと走って行ってしまう。

「ま、待ってのり子ちゃん違うの!」

 誤解ではないが誤解と言うしかなく、締まった扉に神楽坂が懸命に手を伸ばした。
 幸か不幸か、何故かのりりんはまたバタバタと戻って来たが。
 今度は扉を開けず、やや上ずった声ながら彼女はこう言って来た。

「あの、私そう言うことの知識無くて。三十分ぐらいで良いですか? 皆には、うっかり寝ちゃってて起こして来ましたって言っておきますから。私、口堅いですから。理解ある方だと思いますから!」
「そんな理解のされ方も嫌だってば!」
「あと、神楽坂先輩が受けで、大河内先輩が攻めなのは意外な感じでした!」
「そんな感想は本当にいらないから!」

 融通が利き過ぎるのも問題か。

「終わった。もう、アキ……あれ?」
「明日菜、そろそろ本当に着替えよう。風邪引いちゃうよ」

 早くどいてと言おうとしたアキラは、既にロッカーの前に舞い戻っていた。
 しかも今しがたの行為や後輩に見られたことなどなかったかのように。
 その姿が余りにも堂々とし過ぎていて、一瞬神楽坂は夢でも見ていたのかと思う程だった。

「のりりんは律儀な子だから、広めたりなんかしないよ。それに仮に口を滑らせても、私と明日菜が先生の事が好きだって皆が知ってることだし」
「それもそっか……ん? ちょっとアキラちゃんまで、私が好きなのは高畑先生であって、乙姫先生じゃ」
「え、そのつもりで、特に言いわけなかっただけだけど」
「え?」

 墓穴を幾つ掘れば済むのか。

「明日菜、負けないよ」
「水泳の事ね、大丈夫分かってるわよ!」
「うん、水泳のことだよ。明日菜はそうじゃなかったかもしれないけど」
「水泳の事に決まってるじゃない。うん、決まってる」

 もう色々と無かった事にして、二人で着替えを済ませてしまう事にした。
 ただし、麻帆良学園への送迎バスへと戻って、盛大にからかわれることとなる。
 確かにのりりんは義理堅く一年生にしてはしっかりした子なのだが、三年生の小瀬に敵うはずもない。
 真っ赤な顔で興奮して帰って来た彼女は、口を割らされたのだ。
 ただ一言、更衣室でエッチなことしてましたと。









-後書き-
ども、えなりんです。

水泳大会って雰囲気が良く分からず、描写がふわっとしてます。
オリンピックとかなら稀にテレビで見ますが。
中学生の大会で電光掲示板にタイムとか出るんでしょうか……

さて、今回のメインは明日菜で、アキラを添えて。
二人が名実ともにライバル関係(意味深)になった回でした。
あんまりにも青春し過ぎて、ボケならぬ百合に走らずにはいられませんでした。
まあ、アキラは元より、明日菜も木乃香と刹那のおかげで理解ある方ですしね。

これで明日菜のメイン回はクリスマスぐらいまでないと思います。
あとは那波回をやって、そろそろ馬鹿回とかもやりたい。
では次回の更新は未定です。



[36639] 第百三十四話 私もいつか、こんな風に誰かを想ってあたふたしたりするのかなあ?
Name: えなりん◆e5937168 ID:0c56a689
Date: 2016/05/14 19:57

第百三十四話 私もいつか、こんな風に誰かを想ってあたふたしたりするのかなあ?

 二段ベッドの上段でタオルケットに包まれていた村上は、寝ぼけ眼でふと思った。

(おトイレ……)

 尿意に起こされ、軽く目元をこすり、おぼろげながらに思い出したのは昨晩の狂乱だ。
 水泳部の新人大会にてアキラが当然の様に優勝を決め、神楽坂も表彰台こそ逃したが入賞した。
 そのお祝いと称して、ジュースとお菓子でどんちゃん騒ぎ。
 就寝前にもトイレに行ったが、少しジュースを飲み過ぎたらしい。
 もそもそと寝ぼけ眼のまま寝床から起き上がる。

「あふぅ、暗いなぁ」

 妙な時間に起きてしまった物だと、おっかなびっくり梯子を下りていく。
 ルームメイトが寝ているので、大っぴらに灯りをつけることもままならない。
 無事、梯子を踏み外すことなく着地した時、視界の端に何かがよぎった気がした。

「ん? ほぁ?!」
「夏美ちゃん?」

 正直、眠気が吹き飛ぶほどに驚いた。
 こんな時間に赤玉の薄明かりの下でぼんやりと人影があったのだ。
 正確な時間帯は不明だが、カーテンの向こうは未明と言えるぐらいに暗い。
 口から心臓が飛び出すより先に、下半身が洪水になると内股になって手を挟む。
 普段、食事を囲むちゃぶ台テーブルの前にいたのは、淡いブルーのネグリジェ姿の那波だった。

「な、なにしてるの。ちづ姉、電気もつけずに」
「え、いえ……別に、その」

 暗がりで時計は見づらく正確な時間は不明だが、まだまだ夜明け前だ。
 問われた那波は軽く言葉を濁しながら、そそっと体を傾ける様な仕草を見せた。
 なんだろうと村上も体を傾けると、その視線を通せんぼされる。

「千鶴さん、隠そうとしても私の視界からは丸見えですわ」
「ひゃ、あやかまで。これは、違うのよ?」

 那波と村上、二人の二段ベッドとは別のベッドから、新たにあやかから声を掛けられる。
 ベッドの落下防止柵に乗り上げる様に体を預けるというはしたない恰好だが、その声色は少し優しかった。

「委員長? ちづ姉は何を隠してるの?」
「なにも隠してないのよ、夏美ちゃん。本当よ、信じて」
「昨晩のどんちゃん騒ぎ中に、こっそり超さんにお願いしたピルですわ」
「へぇ、ピルかぁ……あっ」

 あやかがこともなげに指摘した為、村上も釣られた様にその名をオウム返しに呟いた。
 だが数秒後に、自分が呟いたその名を理解して、何かを察すると同時に頬を赤らめる。
 純情無垢な女子中学生ならば、口にするのも躊躇われる言葉だ。
 しかも村上は、那波がそれを誰とする為に貰ったかも聞かされていた。
 細部は非常にあいまいだが、思わずむつきと那波が裸で抱き合う場面が頭によぎってしまった。
 ただどうやら那波も、似たような事が頭をよぎったらしい。
 ピルが入った小さな桐箱を隠す様に豊満な胸に抱き、蛍の様に顔を火照らせ俯いている。

「とても初々しいですわ」

 二人ともに羞恥で頭が一杯で、あやかのそんな言葉が耳に入ることもなかった。
 ただまだまだ空が白む前の事である。
 寝不足は美容の大敵と、あやかが気を利かせた。

「千鶴さん、期待に胸を膨らませるのも良いですが。このままでは、目元にくまを作った状態で先生にお会いすることになりますわよ。眠れなくても、ベッドに入って目を閉じる事をお勧めしますわ」
「そうね、あやかの言う通りね」
「そ、そうだよ。それに必要になるとまだ決まったわけでもないしね」
「え?」

 村上の言葉は、はやくこの会話を終わらせて寝る流れに持って行きたい一心である。
 しかし那波はそれにとても意表をつかれた思いであった。

(あら、そう言えば……絶対そうなると決まったわけではないわね。別に先生からピクニックの後はと言われたわけでも。あっ)

 村上の言葉を発端に、ある事に気づいて那波は顔を上げられない程に恥ずかしくなった。
 最初はただ、のどかが余りにも可愛くなったので、むつきと何かあったのではと焦っただけだ。
 それでちょっと勇み足で、そう言う関係になっても良いかもと思い避妊方法を求めた。
 そこまではまだ良かった。
 なのにいつの間にか、那波の中でむつきとセックスする事が確定事項であるかの様にすり替わっていた。
 良く良く考えたら、孤児院の子供たちを連れて、院長先生も一緒にピクニックに行くだけ。
 昼前に出発して、お昼を食べて子供たちを遊ばせて、帰って来るのは夕方頃になるだろう。
 普通ならそこで解散、そこからどうする。

(解散しても夏美ちゃんや小太郎君もいるのに、先生が私だけ誘うとかありえないわ)

 那波の中のむつきはとても誠実で、これから俺の家に来いよというタイプではない。
 じゃあ明日は遅刻するなよと解散するか、時間も遅いからと村上ともども寮に送られるだけだ。
 本当に体を許すならば、那波の方から何か間接的にでも合図を送らねば始まらないだろう。
 今日は帰りたくない、なんてテンプレート的な台詞でも言えと言うのか。
 ムードのある食事後等なら兎も角、子供たちとのほほんとピクニックに行った後に言えやしない。
 ピクニック中ずっと悶々と体を持て余していた淫らな女ですと、言うようなものだ。

「ちづ姉、突然つっぷしてどうしたの? 頭抱えてるから、寝ちゃってはないよね?」
「千鶴さん、おいたわしや」

 ピルを前に固まっていた時とは違い、別の意味で羞恥に悶え悩む那波である。
 二人から心配されても、羞恥は倍加し、悩みが解決するわけでもない。
 しばらくそっとしておくしかないと、あやかは話を完全に変える事にした。

「ところで、夏美さんはお手洗いはよろしいので?」
「あっ、そうだった。でも、ちづ姉が」
「私たちでは力不足ですし、今はそっとしておきましょう。私も少々お花を摘みたく」
「そ、そうだね。ごめん、直ぐに済ませてくる」

 少しだけ後ろ髪をひかれつつ、尿意を思い出した村上はぱたぱたとトイレへと駆け込んでいった。
 残されたのはまだまだ羞恥が引かない那波と、悶々とし始めたあやかである。

(ばか、ばかばか私のばか。これじゃあ。まるで。先生に抱いて欲しくて、淫らな事ばかり考えて期待しているみたいな。それで眠れなかったとか。ああ、もう。穴があったら入りたいわ!)
(千鶴さんはチャンスがあるだけ……うぅ、話の内容が内容なだけに体が妙に火照って。ああ、先生とおセックスがしたいですわ。おセックス、先生の殿方をあやかの女の子に!)

 普段、土日のどちらかはひかげ荘にいて、セックスか、しないにしてもスキンシップをしている。
 今日は水泳部の応援から祝賀会と足を運べず、明日は夕方までむつきはいない。
 夕方という言い方も曖昧で、ほぼできないと考えて良いだろう。
 あやかはひかげ荘でのセックスでストレス発散している面もあるので、完全に抜きは辛い。

(こうなったら、一旦オナニーで体を鎮めましょう。先日は亜子さん提案の先生が放課後の教室で我慢できなかった妄想、悪くなかったですわ。何度も謝りながら逆に激しく腰を突き上げる先生……んー、シチュエーションに迷いますわね)

 村上がトイレの個室で開放感に満たされる中、那波とあやかは全く違った意味で悶々とし続けていた。









 残暑という言葉は遠く、秋晴れの風が心地よいピクニック日和であった。
 ピクニックの行先は、麻帆良市内にある緑化公園である。
 花壇には秋桜を始めとした秋の花が咲き誇り、公園内のほぼ全てが芝で覆われていた。
 家族連れ、または学生の集団などが、ピクニックシートを広げたり、走り回っている。
 またハイキング用のコースも用意されているようで、老夫婦や恋人たちが散歩を楽しんでいた。
 その中に孤児院の子供たちを連れたむつきたちの姿はあった。

「田中さん、このシートの端を持って」
「OK, Boss」

 巨大なブルーシートを一人で敷くのは難しく、ターミネーターならぬ田中さんの手を借りる。
 折りたたまれた状態から丁寧にある程度まで開くと、呼吸を合わせて一斉に広げた。
 ばさりと軽く舞ったブルーシートは芝生の上に軟着陸し、茶々丸の妹たちが四隅に重石を乗せる。

「いっちばーん!」
「あっ、ずるーい!」

 途端に待ちきれない様子で孤児院の子たちが、背負っていたり肩掛けにしていた鞄を置いた。
 そのまま重みから解放された風船の様に、散らばっていく。
 超包子の電車の運転手をお願いした田中さんや、茶々丸の妹たちの手を引いて。

「お姉ちゃん、お姉ちゃんこっち!」
「はい」
「おっさんも来いよ!」
「HAHAHAHA, Hold up boy」

 市内の公園とは言え、十人を超える子供を解き放てば絶対に目が届かなくなる。
 それを見越してむつきが小鈴から彼らを借りてきたのだ。
 茶々丸は子供の間では有名人らしく、その妹も即座に懐かれていた。
 また外見が厳つく当初は警戒されていた田中さんも、持ちネタを披露してからは早かった。
 そういえば原作の中でも、アンドロイドは最高の父親なんて台詞があった気がする。
 アンドロイドの田中さんと、ガイノイドの茶々丸の妹たちが子守なら任せろと子供たちに追随した。

「うわあ、元気元気」
「夏美姉ちゃん、なんか年寄りくさ」
「ちょ、小太郎君。女の子に……よーし、その挑戦買った。鬼ごっこする子はこの指止れ」
「あ、私やるぅ」

 小太郎の言葉に触発されたか、子供たちに合せるように言ったのか。
 村上が小太郎の腕を掴んで指をたたせ、鬼ごっこをする子を集め始めた。
 一度は散らばった子供たちが瞬く間に集まり出し、中心となった小太郎が埋もれる程だ。

「村上の台詞じゃないけど、子供は元気だな」
「ええ、本当に。今朝もお礼申し上げましたが、改めてありがとうございます。乙姫さん」
「主に働いてるのは、田中さんたちなので俺はなにも。秋空の下で美味いご飯が食べられればそれで」

 本音を言えばご飯ではなくビールだが、引率の身で流石にそこまでは高望みし過ぎか。
 広げられたブルーシートに靴を履いたまま腰を預けるのは、院長先生とむつき、そして那波だけ。
 子供たちは全員、良く見れば孤児院と関係ない子も交えて鬼ごっこ大会だ。
 そんな大はしゃぎの子供たちに目を細めながらお礼を言われたが、本当にむつきは何もしていない。
 言い出しっぺと企画、あとは小鈴から田中さんたちの手を借りたぐらいである。
 実際、子供たちはダシにしかすぎず、本当の目的は別にあるのだ。
 その言葉を謙遜と受けたか、チラリと那波に視線を向けた院長先生が立ち上がった。

「では、まだまだ若い私も子供たちに混ざってきますね」

 先程の小太郎の年寄りくさいという言葉を受けての様に聞こえる呟きであった。
 しかし、その言葉の裏にはむつきと那波へ後はお若い二人に任せてという意味が込められていた。
 院長先生はお年の割に健脚の様で、軽く手を上げて子供たちの中に本当に混ざっていった。

「新田先生並みに、あの人にも敵わんな」

 どうやらこのピクニックの裏にある那波とのデートは、見破られているらしい。
 それに対しどうこう言わず、むしろ歓迎しているように見えるのだが。
 肝心の那波が、むつきの隣に座るや否やうつらうつらとし始めていた。
 超包子の電車内では必死に我慢していた様子だが、秋晴れの空の下で腰を下ろし、気が抜けたようだ。

「那波、その……大丈夫か?」
「いえ、寝てませんよ?」

 聞かれた那波は、はっと我に返った様に振り返って来たが目元が半分閉じかけている。
 さらに自分から寝ていないと、ばらしてしまう有り様だ。

「なんだ、昨日の大河内と神楽坂のお祝いで夜更かしでもしてたのか?」
「いえ、皆楽しそうにはしゃいでいましたけれど……ぅ、常識的な時間に解散しました」

 台詞の途中で不自然に言葉が詰まり、那波がほんの少しだけ顔を強張らせた。
 当人は必死にあくびをかみ殺したつもりだろうが、泣きボクロのある目元に涙がにじんでいる。
 隠したがっていることを、ことさら暴く程にむつきは子供ではない。
 ないが、どう見ても睡眠不足の那波が楽しくお喋りに興じられるとは思えなかった。
 初デートで必死に眠いのを我慢し、我慢する結果となった事を悔やむのも可哀想だ。
 それに初デートが楽しみで眠れなかったというのも、年頃で可愛らしいではないか。

「そうだな。よし、那波」
「はい、なんでしょうか?」

 むつきは靴を脱いでより深くブルーシートに腰掛け、足を前に投げ出した格好となった。
 そして自分の太ももを強調するように、軽くぽんぽんと叩いてみせた。

「俺の膝でよければ膝枕してやるぞ」

 那波は最初、何を言われたのか分からずきょとんとしていた。

「いえ、膝枕でしたらぜひ私が先生を」

 ピクニックに来て男性が女性に膝枕をするなど聞いた事もない。
 那波としても申し出としては嬉しいが、してあげたい気持ちの方が強い。
 むしろその方が想定していたデートの形である。
 しかし体は正直なもので、働きが鈍く重い頭は芝生のベッドとむつきの膝枕を欲していた。
 切なそうに喉の奥で鳴きながら迷いに迷ったが、睡魔が引き起こす誘惑には勝てなかった。

「ではお言葉に甘えて、失礼します」

 自分も靴を脱ぎ、むつきの隣に歩み寄って腰を下ろして身を寄せる。
 距離が近づくにつれ鼓動が早まる心臓とは裏腹に、ゆっくりとギクシャクしながら体を横たえた。

「それじゃあ、首が疲れるだろ」
「あっ」

 それでも微妙な隙間を残して首の力で接触を避けていると、むつきから駄目押しがなされた。
 髪に触れる様に優しく頭を抑えられ、膝枕に埋没させられる。
 ジーンズの荒い生地越しに伝わるのは、好いた男の人肌の暖かさであった。
 逆に目がさえそうな程に顔が火照り、いっそこのまま眠りに落ちた方が楽だったかもしれない。

(ど、どうしましょう。色々と想定が……膝枕をする想定はあっても、されるなんて。そもそもまだ手も繋いだこともないのに。まさに長谷川さんの言っていた通りになってしまって)

 あの時、千雨はセックスの時の事を言ったが、その前のデートも同じだと那波は思い知らされた。
 当初の想定や事前知識など、なんの役にも立たない。
 シートに座ったら、お茶を差し出して和やかな談笑、その途中でふと手が触れ合って見つめ合う。
 程なくして那波の方からそっと寄り添う様に体を預け、肩に手を回されたりしたり。
 最後に秋の風に紛れるぐらいの小さな声で好きの二文字を想いと共に告げるような。
 全く持って一つとして、想定通りに動けていなかった。

「あの……」
「それにしても、デートが楽しみで眠れなかったとか。年頃の女の子らしくて、可愛いな」
「か、可愛いですか? 久しぶりに、言われた気がします」

 膝枕までして貰う醜態を前に何故にと、不思議そうに那波はむつきを見上げた。
 その表情にからかいの様なものはなく、純粋に言葉のままに呟いているようにしか見えなかった。
 むつきの大きくて硬い手の平が、那波の長い髪を梳く様に撫でつけてくる。
 多少、子ども扱いされていると思いはしたが、嫌かというとそうではない。
 女の子とは全く違う手の平に異性こそ感じるが、委ねたくなる不思議な魅力があった。
 当初から那波を悩ませていた眠気や緊張が、一撫でされる度に解けていくようだ。

「そうやって背伸びして、失敗してちょっと後悔してみたり。お前らの年頃の子は、恋愛に関しては特にそうだよ。皆、最初は失敗して覚えていくもんだ。絶対失敗したくないって思いながら」

 見た目相応の大人扱いされるより、なんだか心地よい。
 ただ単純に好意を持つ相手とのスキンシップだからかもしれないが。
 まるで早朝のまどろみの中にいる様な気分で、那波は普段なら気遣ってしない質問をぶつけた。

「先生も、失敗したんですか?」
「それを俺に聞くか。知ってるだろ、俺の初恋相手」
「むつみさん、ですよね?」

 特に事前に考えていたわけでもなく、自然と問いかけ、笑って返された。
 むつきの初恋の話は、二-Aの生徒ならば全員知っている。
 従姉のお姉さんがそうであり、悪い虫を追い払おうと空回りし続けたと。

「まともな恋愛も大学になってからだな。あっ、結局失敗したっけ」
「意外ですね」
「そうでもないさ。田舎から出て来たおのぼりさんで、凄く傷つけた人もいる」

 それこそ意外だと、那波はまさかとでも言いたげであった。

「ちょっと、色々あってな」

 流石にひかげ荘もそうだが、それにまつわるあの痛ましい事件は話題にするにはそぐわない。
 むつきはただそぐわないからと口を閉ざし、ちょっと昔を思い出しただけだ。
 遠い過去という程に前ではないが、もう昔の事である。
 しかし、那波はそうは受け取らなかったらしい。
 髪を撫で続けていたむつきの手を取り、頬ずりするかのように自分の頬に当てた。

「どうした?」
「私が知っている先生は、優しくて誠実で……大人らしい大人だと思います」
「はっは、まさか。生徒のお前に言うセリフじゃないけど、俺だってまだ大人になりきれない、なれてない部分がたくさんある。俺の当面の目標は、新田先生だし」

 ひかげ荘という裏を知らないにしても、過大評価過ぎるとむつきは笑い飛ばした。

「そうでしょうか?」
「大人は子供が思う程に、自分の事を大人だとは思ってないぞ。相対的には大人だと思ってはいても。俺は大人だと威張ってる人に限って子供だったりもするだろ?」
「そうかもしれませんけれど、難しいです」

 那波の言葉の最後の方は、消え入りそうな程に小さかった。
 先程からのやり取りも半ば眠っているのか、少し言葉が舌足らず気味である。
 その那波がもぞもぞと動き、寝返りをうとうとしていた。
 大きな胸を重そうによいしょと持ち上げ、顔がむつきのお腹へ向く様に。
 那波の格好は白いブラウスに、焦げ茶色のタイトなロングワンピースなので着崩れはない。

「おいおい、こっち向くんかい」
「んぅ……先生の匂いがします」

 より内側に近づかれ、那波の鼻先はむつきが着るシャツに触れそうな程だった。
 何時からかは不明だが、那波はほとんど意識がないのではないか。
 体も胎児の様に丸め始めており、子供がむずがるような声を上げていた。

「先生」
「ん?」
「せんせぇ」

 なにを求められているのか分からないので、取りあえず那波の肩をぽんぽんと叩いた。
 自分の心音と合わせる様にタイミングよく。
 それで満足したのか、那波はむずがるのを止めていた。
 完全に二人の会話は途絶していたが、それに対して何かを言ってくることもない。
 余程、眠たかったのだろう。
 今ならば、那波が寝入っていると断言できた。

「はは、これでまた後でなんで寝ちゃったとか悔やむんだろうな」

 肩を叩く合間に、うりうりと那波の柔らかな頬をつついてみる。
 それから冷えると行けないので、念の為に羽織っていた上着をそっとかけて置く。
 子守唄でも歌った方が良いかと何気なしに考えていると、声を潜めて名を呼ばれた。

「先生、ちづ姉は寝ちゃった?」
「村上か。ぐっすり、お休みだ」

 まだ小太郎を含む子供たちは、キャッキャと走り回っている。
 村上も那波が非常に眠そうにしているのに気づいていたので、心配になって見に来たのだろう。
 これを見ろとむつきが寝入る那波を指さし、村上もまたそっと上から覗き込んでから言った。

「あんまりちづ姉の寝顔は見ないであげてね」
「いや、無茶言うなよ。こんな貴重な光景を心に刻まないで、他にどう暇を潰せと?」
「初デートで居眠りもショックなのに、油断した顔を観察され続けたら二重にショックだと思うよ」
「仕方ないな。ハンカチ持ってるか? 眩しそうだったから掛けたって言えば良いだろ」
「おお、うん。それならちづ姉も少しは気が楽になるかな」

 スカートのポケットからハンカチを取り出し、靴を脱いでブルーシートに上がり込みながら軽くパンと叩く様に開く。
 むつきの目の前、那波の傍にしゃがみ込み、名目上は日よけの為にかけてあげた。
 肌触りがくすぐったかったのか、少し那波が身じろぎをしたが大丈夫そうである。
 ふうっと焦りから一息ついた村上が、おもむろにこう言った。

「ちづ姉だけどね。今日の事が楽し……いや、まあちょっと先走ったり、空回りもしたけど。ずっと楽しみだったみたい。それこそ、遠足前の子供みたいに」

 何故か途中で言葉を途切れさせ、乾いた笑いと冷や汗の様なものを浮かべていたが。
 むつきにというよりは、自分自身にでも尋ねる様に呟いた。

「私もいつか、こんな風に誰かを想ってあたふたしたりするのかなあ?」

 身近な人間の恋と、秋という切なくなりやすい季節柄か。
 その声にはほんの微かな憂いを帯びていた。
 思春期真っ只中の中学生らしい疑問だが、むつきにしてみれば答えは一つであった。

「するだろ、そりゃ。誰だって、何時か誰かに恋するもんだ」
「そうなんだろうけど。想像もつかないというか、私なんかに」
「女の子が私なんかになんて言うんじゃありません」

 言葉尻に一瞬垣間見えた村上の劣等感を前に、むつきは軽く叱るように言った。

「恋したことないから、想像つかないのは分かる。でもそれで、なんで私なんかにってなるんだ?」
「うちのクラスは可愛い子ぞろいで、スタイル良い子が多いし」
「そこは否定できんが、お前だって可愛いぞ? スタイルなんて、お前これから成長期だろ。というか、恋に可愛いもスタイルも関係ないぞ?」
「へ、なんで? だって」
「恋ってのは、一方通行だからだよ。誰かを好きになって、一目散になりふり構わず私を見てって」

 むつきの言葉を聞いて失礼ながら、村上はチラリと那波を見下ろしてしまった。
 那波は村上が先ほど言ったように可愛いというか綺麗だし、スタイルも凄く良い。
 しかし現状、その想いは限りなく一方通行である。
 こうしてむつきが受け止めてくれてはいるが、受け入れるとは一言も言ってはいない。
 けれど確かに那波はむつきに恋をして、振り向てい欲しいと足掻いていた。

「なんとなくわかったけど。それじゃあ、恋愛にならないよね?」
「相手の好みがあるからな。さっきお前が言ったみたいに顔立ちやスタイル、他に年上、年下の年齢。大人になって来ると相手の年収だったり、立場ってのもあるな。教師と生徒」

 何気なく始めた疑問であったが、村上は今や真剣に頷いていた。

「百点満点の相手と恋愛できるなんて稀。恋は盲目か、皆何処かで大なり、小なり妥協する」
「妥協って言葉はちょっと……」
「なら、現実を知るだ。お前、テレビで見たアイドルと付き合えると思うか?」
「そんなこと思ってる人、いないんじゃない?」
「世の中は広いんだぞ……本当に」

 主題から外れすぎるので、詳しくはむつきは口を閉ざした。
 話の内容次第では、少しホラーになってしまうので。

「明るくて、可愛くて、スタイルが良くて、実家が金持ちで、あとは何だ……経験ないけどエッチな事に興味深々で? そんな相手の条件すべてに合致しなくて良いんだよ。むしろ、嫌だろ。そうじゃなきゃ嫌だって、現実見えてない奴」
「嫌って言うか、怖いよそんな人」
「そんな奴いたら、俺だって怖いよ。だからさ、将来お前が誰かに恋したら、相手が何を望んでるのか良く見てみろ。外見の好みは難しいが、趣味に理解を求めてるとか。これ結構、男は求めてるぞ」
「ちなみに、先生の趣味は?」

 後で那波にでも教えるつもりか、村上が唐突に尋ねて来た。
 以前は風俗通いだったが、今はもう止めたし、言えるはずもない。
 ならば何かと考えてみたものの、何かあっただろうか。
 まかり間違っても、美砂たち生徒に手を出したのは趣味ではない。

「あれ? えっと、趣味じゃないけど偶には飲んで帰っても許してください。先に連絡入れるんで」
「別に飲みに行けば良いんじゃないの?」
「村上、俺と付き合うか?」
「んー、ちづ姉に悪いし止めとく。できれば同年代が良いかなあ」

 冗談とは言え、これが条件の不一致かと村上はふんふん頷いていた。

「そんなわけで、恋も恋愛も不安がることはない。さっき言ったみたいなコツは多少あるが」
「うん、でもその前に恋しないと。できれば素敵な人が見つかると良いけど」
「条件が曖昧だったり、なさすぎるのも良くないぞ。幾つか、これだけはってのは持っとけよ」
「夏美姉ちゃん、人を鬼ごっこに引っ張り込んどいてなにしとんねんな」

 恋に恋焦がれるどころか、恋する前から抱いていた不安は解消されたらしい。
 いつかそのうちと多少なりとも前向きになった村上を、迎えに来た小さな影があった。
 この関西地方の特徴的な口調の人間は、むつきや村上の周りではそう多くはない。
 特にそれが男の子と呼べるような少年であればなおさら。

「小太郎君、どうしたの?」
「どうしたも、こうしたもあるかい。むつき兄ちゃん、千鶴姉ちゃんに加えて夏美姉ちゃんまで独り占めするの止めてんか。チビ共にお姉ちゃんは、お姉ちゃんはって聞かれる身にもなってや」

 確かに子供たちに人気者の那波と村上の両方を手元に置いたのは失敗だったか。

「悪い、悪い。けど、那波は寝ちゃってるから、村上」
「はいはい、ちづ姉の幸せの為に頑張るよ。小太郎君、行こう」
「まあ、チビ共には夏美姉ちゃんで我慢してもらおか。あたっ」

 それはないだろうという台詞を小太郎が漏らし、思わずと言った風に村上が頭を叩いた。
 もちろん、軽くではあるのだが、全くと腰に手を当てながら村上は憤っている。

「もう、小太郎君。そんなんじゃ、女の子にモテないよ?」

 これがつい先ほどまで、恋できるかなと不安がっていた村上の言葉である。

「女は色々と気を使わなあかんから面倒やん。俺はモテたない」
「いや、ちょっと待って。私、小太郎君に気を使われたことあったっけ?」
「あるわけないやん。夏美姉ちゃんは気を使わんでもええから。俺も気が楽やわ」
「ちょっと、それどういうこと。私、女の子!」

 ムキーと村上が両手を上げると、すらこらさっさと小太郎が逃げ出した。
 つい先ほどまでの会話を、村上は覚えているのだろうか。
 何歳差だっけと指折り数えて、むつきは途中で放り出した。
 どちらからの一方通行か分からないが、来るかもしれないし、来ないかもしれない。
 相談されたら、またその時にでも受けれ上げれば良いのである。

「さて、暇になっちまったな」

 話し相手がいなくなり、那波はまだまだお眠り中で起きる気配は微塵もないのである。
 そのままむつきも秋の日差しの下で居眠りをしたりして時間を潰すほかない。
 結局、お昼を食べに皆が戻って来ても那波が起きる事はなかった。
 寝ぼけ眼で起き上がり、むつきの膝でと慌てるのは午後三時を過ぎた辺りである。
 改めて自分の迂闊さを呪い、デートの延長戦を申し込んでくるのは自明の理であった。









-後書き-
ども、えなりんです。

ピクニックに見せかけた千鶴とのデートではなく、こた夏。
圧倒的、こた夏!
まあ、冗談ですが。

特に意味もなく、のどかと千鶴を対照的に書いてます。
内気だけど意外とデートには慣れてるのどか。
斜交的だけどデートに全く不慣れな千鶴。
のどかは元々、むつきとのデート経験があり、同世代ともありますしね。
言い寄られ過ぎて避けてた千鶴とは経験が違いすぎます。
初デートで居眠りしてただけとか、相当だと思います。

ですので、延長戦です。
千鶴回はもう少し続くんじゃ。

次回の更新は未定です。



[36639] 第百三十五話 今日は帰りたくないんです
Name: えなりん◆e5937168 ID:0c56a689
Date: 2016/05/28 19:55

第百三十五話 今日は帰りたくないんです

 現在時刻は午後の四時を過ぎた頃、電車は麻帆良女子中学の女子寮に向けて走っていた。
 既に院長先生や子供たちは、孤児院に送り届けた後である。
 子供の有無や人数の激減に、超包子の電車も多少は静かに寂しくなると思っていた。
 田中さんは運転席で居らず、茶々丸の妹たちは厨房にいたり、車内を掃除したり働いている。
 入り口から直ぐの広間にいるのは、むつきと那波、村上に小太郎の四人だけのようなものだ。
 二-A全員を収納してまだ余裕のある空間に、那波の声が響いていた。

「延長戦、延長戦を申し込みます!」
「言いたいことは分かるが……」
「先生の御膝でお昼寝して終わりだなんて、あれはあれで幸せでしたけれど。もっとアピールしたい事が一杯、子供好きとかお料理が得意とか」
「いや、どっちも知ってるけど。子供好きは今さらで、手作りのお菓子とか良く差し入れてくれるし」

 普段の那波からすれば、らしさの欠片もない必死さであった。
 半ば想定された事態だが、那波としては膝枕で寝てしまうのは失態に入るらしい。
 なんとか挽回せねばとあと十数分で終わるデートの延長を求めていた。
 胡坐をかいて湯のみでお茶をすするむつきに、四つん這いで縋りつくような形でだ。
 むつきとしては可愛い寝顔が少し見れたし、その後もちょいちょい可愛い姿が見れて満足だが。

「なんや、こんな子供っぽい千鶴姉ちゃん初めて見たわ」
「子供っぽい、ああ……そうかも。ちづ姉が我儘言うところ、初めて見た」
「子供っぽい、しかも我がまま?!」

 しかし、そんな自分の姿を妹分と弟分から言いたい放題言われ、ショックを受けたようだ。
 必死になればなるほど、空回りは酷くなる。
 昨晩は緊張や興奮で眠れず、寝不足からデートの最中に居眠りをする始末。
 後者はむつきから言いだした事なので、失態というわけではないのだが。
 挙句の果てに、延長戦と子供っぽい我儘を言うなど、もはや挽回のしようがない。

「ちづ姉、ごめん言い過ぎた。子供っぽいはないよね」
「せやで。ほら、あれやん。女の我ままを許すのが男らしいで」

 縋る手が空を切って地面につき、那波は正真正銘の四つん這いで落ち込んでいた。
 流石に言い過ぎたと、狼狽した二人が何とかフォローを試みるも届いているのか。

「女の我がまま、許すのが……」

 いや、悪い意味で届いていたかもしれない。

「先生」

 がばりと勢いよく顔を上げ、むつきの名を囁くように呼んだ。
 そのままむつきの隣に座り直し、体を預ける様にしな垂れかかった。
 表情を隠す様に頬に手を当て、憂いを帯びた様な声で呟いた。

「今日は帰りたくないんです」

 恥ずかしくて言えないと昨晩は思った台詞が、意外にもすんなり飛び出した。
 その言葉に含まれた意味には、天と地ほどの差があったが。
 言った、言ってしまった。
 言ってから死ぬほど恥ずかしくなって、赤面しながらプルプル震え出す。
 今この状況で言ったことで、返って子供っぽい気がしてならなくなったのだ。
 例えるなら、遊園地の閉園時間が近づく中で、帰りたくないと駄々をこねる幼児のような。

「ちづ姉、なりふり構わないにもほどがあるんじゃ。あと、小太郎君の前なんだけど」
「夏美姉ちゃん、目塞がれても聞こえとるで。もう、子供の俺じゃフォローしきれんわ」
「夏美ちゃん、小太郎君。お願い、もう何も言わないで……」
「お前ら、事前に打ち合わせしてないよな? コントか?」

 二人から処置なしと言われ、むつきにはコントかと聞かれる始末。
 ついに那波は、いじける様に床にのの字を書き始めていた。

「はあ、分かったよ」

 これでは笑顔でお別れもできず、那波の大切な初デートが台無しだ。

「田中さん、行先変更。いつものスーパーに寄ってくれ」
「OK, Boss. あっ、あー。えー、次はー、量と安さが一番の売り。麻帆良コープ業務用スーパー」
「いや、駅員の物まねはいいから」

 天井のスピーカーから聞こえてくる物まねはともかくとして。
 突然の行先変更に、那波のみならず村上や小太郎も、軽く小首をかしげていた。
 そんな難しいことではないと、携帯電話を片手に持ちながらむつきは言った。

「那波、夕飯作ってくれ。俺は別にそうは思ってないが、汚名返上のチャンス欲しいだろ?」
「は、はい。今度こそ、でも今からだとそこまで手の込んだ……いえ、ここは確実に手軽さと美味しさを両立させて家庭的な面を」
「お夕飯って、先生の家で?」

 チャンスが与えられた途端、目まぐるしく頭を働かせ始めた那波に代わり、村上が基本的な事を聞いて来た。

「女子寮に入れるわけないだろ。俺の家でだよ。小太郎君は、それで大丈夫か?」
「俺は別に構わへんけど、一応千草姉ちゃんに確認とっとくわ」

 男二人で示し合わせる様に携帯電話にて電話を掛けた。
 小太郎は今しがた言った通り、保護者へと許可を求めて。
 むつきはそろそろ夕飯の準備をし始めていそうなさよへだ。
 昨日は誰もひかげ荘に泊まってはおらず、今朝は誰かが来る前に家を出た。
 そもそも今、ひかげ荘に誰が何人いて、何処まで夕飯の準備をしているのかむつきは知らない。
 普段より少なめだとは思うが、それでも十には届く人数であろう。
 色々とメニューを試行錯誤する那波には悪いが、量を作りやすいカレーが食べたいとそれとなく言おうと思うむつきであった。









 さよに電話をしたところ、食材は豊富に取り揃えているとのことであった。
 良く考えたら、毎週土日は二十人近い人間が三食食べていくのだ。
 特にカレーの具材は、日持ちがし、かつ大量に作りやすいのでなおの事、備蓄してある。
 駅員のモノマネまでしてくれた田中さんには悪いが、再度の方向転換。
 色々と察した千草から帰って来いと言われた小太郎を送り届け、廻り回ってひかげ荘に到着であった。
 敷地へと続く石段の前に降ろされた那波と村上は、呆けた様に石段の奥を見つめていた。
 まるで奥に由緒ある神社でもありそうな光景だからだろう。
 誰も彼も、最初は初々しい反応であった。

「ここ上った先だ。初見だとキツイから、荷物は持ってやるよ」
「あっ、はい」
「これ、上るの……昼間に子供たちと散々走り回ったのに」

 昼間の間ずっとむつきに膝枕をして貰っていた那波と違い、村上はうんざりした様子だった。

「そんな千段もあるわけじゃないんだから、頑張れ」
「ほら、夏美ちゃん。行きましょう」

 しぶしぶと言った様子の夏美の手を引き、那波がむつきの後を追って石段に足を掛けた。
 日差しは山の木に遮られ、茂みの奥で鳴いている虫がさらに涼しさを強調する。
 日中、ずっと陽当たりの良い場所にいただけに、肌寒く感じるぐらいかもしれない。
 その石段を慣れた様子で上るむつきの背中を見つめながら、当然の疑問を那波が浮かべた。

「先生は職員寮ではなかったのですか?」
「春先まではそっちにいたぞ。夏のあの旅行の時に、爺さんの土地と建物強請ったんだよ」
「はひぃ、ひぅ……そういえば、先生の家って」
「爺さんがなんか色々持ってるだけだよ。それに代わりに、他の財産の相続権は軒並み放棄したし」

 爺さんがおかしいだけで、乙姫の家そのものは普通である。
 ちょっと田舎にあるので核家族化はおろか、むつきの家と従姉筋のむつみの家が同居しているが。

「あれが先生の……家、え?」
「旅館の間違いじゃ」
「元学生寮のひかげ荘。ほら、足が止まってるぞ」

 階段の向こう、やや木々の枝葉に遮られていたそれを見た那波と村上の足は止っていた。
 やはり、ひかげ荘は初見の人間にはインパクトが大きい様だ。
 木造、屋根瓦の如何にも古めかしい造りと巨大さに、圧倒されていた。
 こういう反応をしてくれる子が二-Aの中にあと何人残っている事か。
 呆然、唖然としている二人を促す様に指摘し、むつきは一足先に階段を登り切った。
 まだショックというか、驚きが抜けきらない二人だったがむつきはどんどん歩いて行ってしまう。
 置いて行かれたくない一心で、二人はむつきを追いかけた。

「また、何か色々想定と……」
「ちづ姉、もう先生相手に何か想定するの止めようよ」

 何気に村上には、失礼な事を言われている気もする。

「ただいま」
「はーい」

 玄関の引き戸をがらりと開けると、食堂の奥から返事が帰って来た。
 可愛い幼妻のさよの声であり、耳慣れたぱたぱたとスリッパを鳴らす音が聞こえてくる。
 その間に玄関わきの掲示板を見上げると、先に聞いてはいたが普段より随分と少ない。
 元からここに住んでいるさよやエヴァ、茶々丸を除くと六人。
 美砂と千雨、この二人は村上から頼まれたという演劇の衣装の為に詰めていたはずだ。
 小鈴と聡美は研究室があるので半分、ここに住んでいるようなものか。
 あとは五月とあやかだが、二人は何かやりたい事でもあったのだろう。

「あなたさ……先生、お帰りなさいませ。那波さんと村上さんもいらっしゃいです」
「さよ、二人を厨房に」
「ちょっと待った」

 案内してやってくれと言う前に、階段の踊り場から屈んで視線を通す様にしている千雨がいた。

「村上、丁度良かったちょっと来てくれ」
「長谷川さん? 長谷川さんがどうして……」
「上でお前から頼まれた衣装作ってるから、意見聞かせてくれ」
「え、あっ……うん」

 さよの事はそれとなく聞いていた気がしたが、いきなりの千雨の登場である。
 眼を白黒させつつも知らない相手ではない、何度も那波へと振り返りながら村上が玄関で靴を脱いだ。
 キョロキョロとひかげ荘の雰囲気に当てられながら、千雨が手招く上への階段を上がっていく。
 残された那波が心細そうにしていたので、ぽんとそのむっちりしたお尻を叩いた。

「きゃっ」

 叩かれたお尻を庇いながら那波が可愛らしい悲鳴を上げる。
 女の子なので意外でも何でもないが、普段聞きなれない悲鳴に階段の途中で村上の足が止まっていた。

「ほら、呆けてる暇はないぞ。今日は人数が少ないとはいえ、食べ盛りが多いんだから」
「え、あの……皆さんの分も、ですか?」
「自分だけ美味いカレー食って、他は見てろとか。鬼畜か」
「いえ、そのようなつもりは」

 与えられたチャンス以上に、聞きたいことが多すぎるのだろう。
 むつきの家にいるのが当たり前の様に、極自然といる二-Aの生徒たち。
 那波に顔を見せたのはさよに五月、千雨ぐらいだが、それだけでないのは直ぐにわかる。
 なにせ玄関先には、各々の在、不在を示す掲示板があるぐらいなのだ。
 もっと言うならば、麻帆良女子中学の女子寮に住まう那波だからこそ感じる雰囲気があった。
 ひかげ荘から感じる雰囲気が、女子寮の雰囲気と一部重なって感じられる。

「全部教えてやる。お前が知りたいことは全部。ただし、お前が作った美味いカレーを食ってからだ」
「はあ」

 要領を得ず、思考が止まりかけている那波を前に、階段の途中にいた村上が降りて戻って来た。

「ちづ姉、ちょっとごめんね」

 そう言ってぺちりと小さく鳴る程度の力で、軽く叩く様に那波の頬に手を当てた。
 那波と村上で混乱具合に大きな違いはない。
 ただ恋の当事者かどうか、そして昼間のむつきとの会話の差が大きかったのだろう。

「混乱する気持ちは凄く分かる。私だってそうだもん」
「夏美ちゃん」
「でも問い詰めるのは後の方が良いよ」

 特にむつきへの援護のつもりはない。
 村上はあくまで那波の絶対的な味方なのだから、これは助言である。

「ちづ姉が年相応に我ままを言える相手って、凄く貴重だと思う。でもね、思い出して。そもそも今日のデートは、テストでトップテンに入るのが条件だったはずだよ」
「そう言えば、そうだったわね」
「実はさっぱり忘れてたでしょ」

 村上のジト眼に珍しく、ついっと那波の視線がそれた。

「まあ、それはともかく。当初の約束を果たせなかったのにデートして貰って、さらに物足りないからって家にまで押しかけて。これで我がまま二つ目、ここで先に問い詰めるのは三つ目だよ」
「うっ……そ、そうね」
「まずは美味しいカレーを作って、我がままを清算しなきゃ。色々と聞くのは、それから。ちゃんと全部教えてくれるって言ってるんだし。たぶんそうすれば、ちづ姉は恋をしてるだけの状態から恋愛に変えられる」
「恋から恋愛に?」
「先生の受け売りだけど。気持ちを一方的に押し付けるのが恋で、相手の事を考えて動くのが恋愛」

 だよねと、那波の横から顔を覗かせる様に尋ねられ、むつきは微妙な笑みを浮かべた。
 村上に半ば相談されたとはいえ、気恥ずかしさを通り越した台詞を良くも吐いたものだと。
 蕁麻疹が出そうなむつきはさておき、その台詞は那波の心には響いたようだ。
 目の前に立つ村上をギュッと抱きしめ、心を落ち着けさせるように一度深呼吸をする。
 そして何処からともなくハンカチを取り出し、ほろりと流れる涙を拭いた。

「夏美ちゃん、立派になって。もう何処へお嫁に出ても恥ずかしくないわね」
「まだ行かないよ。というか、相手がいないよ!」
「またまた、夏美ちゃんったら」

 照れ隠しと頬を突く那波は、普段の調子が戻ってきたように見える。

「もう、ちょっと後悔しちゃうよ」
「ううん、ありがとう夏美ちゃん」

 突かれた頬を膨らませる村上を再度抱きしめ、心の底から那波はそう呟いた。
 ひかげ荘やむつき、二-Aの謎が気にならないかと言えばうそになる。
 しかし、物事には順序があるのだ。
 村上の言う通り、まずは那波がむつきに対して行った我がままの数々を清算するのが先である。

「さよさん、手伝っていただけますか?」
「もちろんです!」
「私も力の限り、お手伝いしますよ」
「というわけで」

 さよと五月の協力を取り付けた那波が、真っ直ぐにむつきの瞳を見つめていった。

「先生はカレーができるまで、お待ちください」
「大丈夫そうだな。凄く、腹減らして待ってるぞ」
「ええ、期待していてください」

 つい数時間、数分前までの那波なら、むつきの言葉にプレッシャーを感じた事だろう。
 しかし今は村上のおかげで吹っ切れたというべきか。
 存分にとでも言う様に笑みを浮かべる程だった。
 むつきは風呂へ向かおうと半身になって那波へと手を上げ、ちらりとさよと五月に視線を飛ばした。
 那波の面倒を見てやってくれと。

(お任せください、あなた様)
(今日はサポートに徹します)

 二人からも視線で返され、むつきは踵を返して自室へと足を向けた。
 部屋着に着替えるついでに、一風呂浴びる為である。









 珍しく一人で温泉に浸かることができたたむつきは、浴衣姿で手団扇を扇ぎながら廊下を歩いていた。
 食堂の方からは夕餉の匂いが少なからず漂ってきている。
 ただまだカレー粉の投入前なのか、スパイシーなあの匂いは含まれてはいなかった。
 それでもそろそろ夕暮れの良い時間帯なので、匂いがすきっ腹を刺激し始めていた。
 深呼吸でもするようにそれらの匂いを嗅ぎ、自然と頬が緩み、ふと呟く。

「贅沢になったもんだ、俺も」

 一年前は下手をすれば休日であろうと、カップ麺やコンビニの弁当であった。
 風俗で散財し過ぎて普通の外食にすら事欠いていることすらあったが。
 それが今や、可愛い幼な妻のみならず、可愛い生徒までもが競って飯を作ってくれるのだ。

「先に風呂貰ったぞ。調子はどうだ?」

 食堂の扉を開け、調理の熱気に出迎えられながらむつきがそう問いかける。
 先に反応したのはさよと五月だが、一歩譲る様に鍋の前の那波へと視線を投じた。

「はい、バッチリ自信作です」

 一呼吸おいて振り返った那波は、これが本当の私とでも言いたげな顔つきであった。
 どうやら今度こそ理想、または想定通りにいったらしい。
 ふんすと少しばかり鼻息が荒くなってさえいた。
 さよと五月のフォローあってこそかもしれないが、それは言わぬが花だろう。

「先生、おビールは飲まれますか?」
「止めとく。折角、那波が作ってくれたカレーを酔った状態で食うのはな」
「でしたら、そろそろ千雨さんたちを呼びにいって貰えますか? カレーもルーを投入するばかりですし。良いですよね、那波さん」
「あっ、夏美ちゃんの事をすっかり……先生、よろしくお願いします」
「お安い御用だ」

 さよのお伺いに断りをいれると、五月からお願いをされた。
 演劇の衣装関係にどっぷりはまって、時間も忘れているのか誰も降りてこない。
 那波からも許可が出たので、行ってきますと軽く手を上げてむつきは食堂を後にした。
 その間に那波はカレーの仕上げにかかり、さよと五月は食器を並べたりするようだ。
 二人を那波のサポートにつけて良かったと改めて思いながら、再び玄関ホールへと戻った。
 階段を前に上を見上げたが誰も降りてくる気配はなく、にぎやかな声が上の方から聞こえてくるばかり。

「随分と盛り上がってるな」

 そう呟いてから、それもそうかと思い直した。
 千雨の衣装への情熱は元より、クラスメイトの村上とはいえ外部からの初めての依頼だ。
 美砂も綺麗になる為の方法を追求するというぼんやりした将来像から、熱が入っているだろう。
 単純にお使いとして呼びに行くだけでなく、二人の具合が純粋に気になって来た。
 間違いなくキラキラしてるだろうなと二人の表情を想像しながら階段に足を掛ける。

「ほら、鏡見て鏡。長谷川、全身鏡を持てい。どうよ、夏美ちゃん。女の子に地味子なんて子はいない。私に言わせれば、自分の魅せ方を知らないだけ」
「私が動かすのかよ。あー、キャスター付きが欲しくなるな。よっと、これで見えるか? 笑えるぐらいに変り過ぎだろ。全然、良いんじゃね。私と同じでクラスで地味子に扮してるだけかと思ったけど」
「別に扮してるわけじゃ……これが、私? 本当に?」
「あら、知りませんでしたの? 私や千鶴さんは、夏美さん以上に貴方の魅力に気づいていましたわ。こちらのドレスなどもお似合いになってよろしいかと」

 三階まで上がると、流石に騒いでいる会話の内容まで聞こえて来ていた。
 この様子ではむつきが階段を上る足音や気配などに、気づいてすらいないだろう。
 今のむつきはロリコン鬼畜変態教師ではなく似非紳士である。
 このままふすまを開ければラッキースケベになると、軽くノックして声を掛けた。

「おーい、お前らそろそろ那波のカレーができるぞ」

 もちろん、声を掛けたからといって自分からは開けない。

「あ? 先生、なにか言ったか?」

 ふすまを中から開けたのは、部屋の主である千雨であった。
 それは良いのだが、むつきの声同様に察しや思いやりまでも届いていなかったらしい。
 彼女たちからすれば突然現れたにも等しいむつきの登場に、姿見の前に立った村上が硬直している。
 なにしろ隣ではあやかが次のドレスを手にし、美砂が村上の背中のジッパーを降ろしていた。
 フルーツの皮を剥くように、村上のドレスの上半身が剥かれ掛かっていたのだ。
 ストラップレスの黒いブラジャーで胸元は保護されていたものの、それは正真正銘の下着である。

「ひゃ」
「千雨さん!」

 村上の硬直が解けて悲鳴を上げる寸前。
 咄嗟に彼女の前にあやかが立ち、手にしていたドレスを広げカーテンの様にして視線を遮った。

「あっ、やべ。おら!」
「痛って!」

 そこで一先ず良かったはずだが、その場の勢いという奴であろう。
 むつきは何もしていないのに千雨に蹴り飛ばされ、荒々しく襖は閉じ直された。

「馬鹿、長谷川なにしてんの!」
「仕方ねえだろ。先生に裸見られても、喜ぶか誘惑する奴しか普段いなかったし!」
「口論は良いから。柿崎、背中のジッパー上げて、上げてぇ!」
「夏美さん、いっそこちらのドレスにお色直しを」
「もうそんなお姫様気分じゃないよ、委員長!」

 廊下で理不尽にも尻もちをつかされている間、ドタバタと別の意味で室内は喧騒に包まれる。
 再び中から襖が開けられるまでに、五分以上を要した。
 高々ジッパーを上げるだけでそれだけ掛かったというより、村上の心境が落ち着くのを待ったせいだろう。

「先生、いや悪い悪い。まあ、許可なく村上の半裸を見た罰ってことで」
「お前な、いくらなんでも蹴るなよ。不意打ち過ぎて、無様に尻もちついたぞ」

 まだじんわりと痛む尻に手を当て、改めてむつきは千雨の頭越しに室内に視線を向けた。
 案の定というべきか、村上はあやかの後ろに隠れるようにして顔を殆ど隠している。
 細身のあやかでは隠しきれないドレスの裾が見えているが、勿体ないことこの上ない。

「先生に悪気はなかったから、ちづ姉には黙っててあげる」
「変にこじれるから、そうしてくれ」
「ていうか、折角だからちゃんと先生に、というか。男の人の意見も聞いてみない?」
「ですわね。女の子の意見ばかりでは、夏美さんの頑なな心も信じてくれませんし」
「私が頑ななのは、現状別の理由なんだけど。うぅ……全く、もう」

 そう言いつつも、そろそろとあやかの背後から出てくるのだから見て貰いたかったのだろう。
 むつきにというよりは、人生で一番着飾った瞬間を持った他の誰かにも見て欲しいという意味で。

「凄く可愛い、こりゃ綺麗の部類にも一歩足を踏み込んでるか」

 それがむつきの素直な感想であり、三人が騒いでいた理由も納得できるものであった。
 村上が来ているのはレモンイエローが明るく可愛いスイートハートネックのドレスである。
 バストは現役中学生としては並みのサイズであり、寄せて上げても谷間は厳しいのだろう。
 胸元の膨らみの寂しさをごまかす様に、白い花のワンポイントが飾られていた。
 またスカート部分は折り重なるカーテンの様な膝丈のカスケードフリル。
 今の村上にお題をつけるなら、初めての社交界と言ったところか。
 中学生らしい初々しさと、一歩大人に踏み込もうと背伸びした感じが可愛らしい。

「んー、良く見たら化粧でそばかすも隠してるのか」
「私が化粧してあげたんだ。やっぱ、女の子の魅力を引き出すのって超楽しい!」
「柿崎、押さないで。先生の顔が近い。顔近い」

 後ろから村上の肩口に顔を乗せる様に、美砂がそうアピールしてきた。
 どうやら順当に自分のやりたい事への魅力に取りつかれているようだ。

「本当に可愛いぞ。見違えた」
「なんだかあまり連呼されると逆に嘘くさくかんじちゃうよ」
「お前なあ。日本男児はシャイだから、こんなに褒めてくれないぞ。同年代なんか特に、照れるかして可愛くねーしとか普通に言って来るぐらいだぞ」
「あー、なんか分かるかも。でもこれぐらいしたら小太郎君も流石に、女の子扱いしてくれるのかな?」

 むつきが余りにも可愛いを繰り返す為、村上は呆れた様に姿見へと振り返った。
 改めて自分の変身ぶりに感心し、最後にぽつりとそんな事を洩らした。
 昼間に気を使わなくて良いと、女の子扱いされていなかったことがそれなりに悔しかったのだろう。
 とはいえそのやり取りを見ていなかった、美砂たちにはとても意味深な呟きに聞こえていた。

「聞いた、長谷川。夏美ちゃんってば可愛い顔して年下狙いの肉食系だったみたい」
「小太郎って何歳だっけ。小学生はないだろ、小学生は。精通もしてなさそうだから、セックスもできないんじゃね? 村上、目を覚ませ。今のお前なら逆に大学生や高校生がナンパしてくるクラスだぞ」
「夏美さん、保護欲と恋愛感情をごちゃ混ぜにしてはいけませんわよ」
「ちょっと、特に長谷川さん!」

 自業自得な面はあるが、心外だとばかりに村上が両手を上げて抵抗していた。

「聞いて、ちゃんと聞いて。お昼にね、小太郎君がなんて言ったと思う? 女の子は面倒だからモテたくないって言うだけならまだしも。私のことを気を使わなくて良いから楽とか言うんだよ」
「小太郎君って妙に老成してるところあるよね。馬鹿っぽいけど」
「女は男が護らなとか、コッチコチの古臭い考えしてるしな。ていうか、小太郎はたぶん無意識だけど、村上逆に意識されてね? あれ? 矛盾してるか?」
「それこそ矛盾していますが、合っていますわ。夏美さん、言外に彼女にするなら夏美さんが良いと言われたも同然と思うのですが」

 昼間にあえてむつきが黙っていた点を、千雨やあやかがずばずば切り込んでいく。
 村上も全くの無意識であったので、切り込まれた傷口からじわりと何かしらの感情が漏れる。
 瞳を強く閉じてんーっと考え込み、じわりじわりと耳の辺りが紅く染まっていった。

「あ、あははは。まさか、まっさかー! だって小太郎君は、まだ仮面ライダーとかテレビにかじり付いて見てるような子で」
「先生も偶に見てるよね」
「ザッピングしてる時にやってたら、懐かしいなっていう意味でな。それより、ほら。那波のカレーが……ここまで香って来てるぞ」

 美砂の突っ込みを肯定しつつ、可愛そうなので話題を変えて上げた。
 村上と小太郎の様に全く意識していなかった同氏は、変に意識させると往々にしてこじれる事がある。
 村上は可愛い生徒であるし、小太郎も弟分のようなものだ。
 できれば幼い恋に発展するかもわからないそれは、暖かく見守ってやりたいところであった。

「やべ、先生襖閉じてくれ。衣装に匂いが移る。私たちは着替えてから行くから」
「あいよ」

 案の定、衣装第一の千雨がまずカレーの匂いに反応し、直前までの話題を綺麗さっぱり忘れてしまう。
 先生ありがとうと両手を合わせる村上に軽く手を上げ、むつきは部屋を後にする。

「あっ、夏美ちゃんは脱ぐの待った。その前に写真撮っておこうよ。朝倉いないから、携帯だけど」
「そうだな。自分に自信が無くなったら、写真見て自分の可愛さを思い出せ」
「皆の中で、私ってどれだけ自分に自信ない子なの。演劇なら名わき役として結構、自信が」
「そこは主演女優と言いませんと」

 階段の途中で聞こえて来た声に、もう少し掛かりそうだなと肩を竦めるむつきであった。









-後書き-
ども、えなりんです。
別に焦らしているわけではないのですが……
千鶴の本番は百三十八話の予定です。


千鶴回のはずが、ちょいちょい村上が入って来る。
ただし小太郎の嫁なのでむつきは半裸まで。
それもどうかと思いますが。

もうワンクッション置いてから、千鶴のエロ回です。
いや本当ですよ。
では、もう少しだけお待ちを。



[36639] 第百三十六話 嫌わないで、一人にしないで
Name: えなりん◆e5937168 ID:0c56a689
Date: 2016/06/11 20:11

第百三十六話 嫌わないで、一人にしないで

 那波のカレーが、むつきの口に吸い込まれるように消えていく。

「ん、お代わり」
「あっ、はい」

 綺麗になってつきだされたお皿を前に、嬉しいより先に唖然としてしまう。
 自信作とは言ったもの特別なものなど、愛情以外はいたって普通のカレーである。
 失敗を繰り返したからこそ、普段通りに手慣れた手順と味で作り上げた。
 多少、玉ねぎを炒めた時の飴色への変わり具合など、普段よりは注意してみていたかもしれない。
 だがその程度で劇的に味が変わるはずがないだろう。
 なのにむつきはカレーがまるで飲み物であるかのように食べ、実はこれで二回目のお代わりであった。

「むつき、お前……そんなに食べて腹は大丈夫なのか?」
「平気、平気。那波、加減しなくて良いから。普通によそってくれ」

 エヴァが心配してしまう程の勢いであるが、まだ衰える様子はなさそうだ。

「夏美ちゃん、普通よね? 不味くて、逆に演技してるとかないわよね?」
「いつも通りのちづ姉のカレーだよ。美味しいから、自信持って」
「なら、良いんだけど……」

 むつきが余りにも勢いよく食べる為、返って不安にさせたらしい。
 那波がカレー皿にご飯をよそいながら、こっそり村上に確認していた。
 自分でも一皿平らげた後だというのに、余程自信を喪失していたようだ。

「五月、こっちもお代わりネ。うーん、エネルギーが枯渇した体に染み渡るヨ」
「研究に没頭していたせいで、昨日の夜から何も食べてませんでしたし。さよさん、私もお願いします」
「超さん、葉加瀬……怒りますよ?」

 同じくお代わりと空のお皿を差し出した小鈴と聡美は、五月の怒り顔にひゃっと体を縮こまらせた。
 二人は研究肌なので寝食を良く忘れるタイプだ。
 しかも地下室でひっそりと行うので、誰にも気づかれることがない。
 茶々丸か誰かに監視でもさせたいところだが、その生みの親なので平気で記録を改ざんされそうだ。
 困ったものだと一旦諦めてカレーをよそった五月だが、ピンとひらめくものがあった。
 特に聡美に対し、よそったカレーを渡す際に、お皿と一緒にある言葉を耳元に置いた。

「私も余り人の事は言えませんが。あまり不摂生が過ぎると、ガリガリでみすぼらしい体を先生にお見せする事になってしまいますよ」
「ぐぅ……可及的速やかに改善案を提出します」
「あっはっは、葉加瀬は研究に寄り過ヨ。その点、私は無駄のない完璧ボディネ」
「自分が良くても、周りに心配かけちゃ完璧にはほど遠いぞ。亀仙人も言ってたろ。良く動き、良く学び、良く遊び、良く食べて良く休む。お前らは普通なら皆がしたがる、良く休むが抜けてるんだよ」

 何気に名言だよなと呟きながら、むつきは三杯目のカレーにスプーンを突き刺した。

「先生は意外と漫画を引用されたりしますわね。その割に、お部屋に見当たりませんけれど」
「実家にはあるぞ。一人暮らししてた時に、部屋を圧迫するから買うの止めてそれっきりだ。最近のは、お前らが持ち込んだ遊戯室にあるもんぐらいしか読んでないし」
「そう言えば、私にも聖典を勧めてきたな」
「オタクでもないのに、漫画を聖典って言うなよ」

 あやかの指摘に、エヴァがやや懐かし気にヒカルの碁を貸されたことを思い出した。
 今やそれを聖典と呼んだことには、おいおいと千雨に突っ込まれたが。

「…………」

 そんな普段通りのむつきたちのやり取りを前に、那波は胸の前で手の平をギュッと握りしめていた。
 今自分が抱いている感情がなんなのか、正確なところは良く分からない。
 ただ良く見知ったクラスメイトのはずなのに、奇妙な疎外感を感じてしまう。
 その理由を知りたいと、今すぐ聞きたいと思うがグッと我慢する。
 まずは自分の我がままをやり遂げてから、村上に言われた通りにやりきることに決めていた。

「先生、美味しいですか?」
「凄く美味いぞ。流石に四杯目は無理だけどな。さあ、これで完食。ああ、食ったぁ!」

 三杯目、最後の一口を放り込み、やり遂げたとでも言う様にむつきが行儀悪く両手を上げた。

「今日は本当に良く食べられましたね。はい、お茶をどうぞ」
「サンキュー、さよ」

 熱いお茶で口の中に残ったカレーの残照を洗い流す様に飲み下す。
 喉元をお茶が流れていく熱さにまた唸り、ほっとむつきが息をはいた。

「うん、満足。何度も言うと嘘くさいらしいが、美味かった」
「お粗末様でした」

 むつきの言葉に初デートとして、少しは空回りし続けた努力が報われた想いである。
 いや、最終的には普段の行いである料理の腕が無駄な努力を上回ったとも言えるか。
 今のむつきの笑顔と言葉を噛みしめる様に、那波は深く頷いて返した。
 那波としても最終的には十分に満足できるデートと言えるようになった。
 我がままを貫き通して、それを真正面から受け止めて貰って。
 だが喉に引っかかった小骨の様な事実が、一つ残ってしまっていた。

「さてと……」

 息を吹きかけお茶を覚ましながら飲んでいたむつきが、ふいに区切りをつける様に呟いた。
 ことりと小さな音を立てて湯のみがテーブルに置かれると、皆の視線が自然とむつきに集まった。

「那波、今日のデートはやりきったか? 思い残しはないか?」
「はい、やりきりました。ずっと失敗続きでしたが、今では十二分に挽回した思いです。今日は本当に、重ね重ね我がままを言いました」
「女の我がままを許すのが男らしいからな。小太郎君、何処でそんなこと覚えて来たんだか」
「千草さんが見てるドラマなんだって」

 村上よりもたらされた情報に、含蓄ある様なそれが一気に薄っぺらく思えた。

「ま、まあ……それはさて置き、本題だ」

 テーブルを挟み、対面に座る那波へとむつきは視線を向ける。
 那波に加えて、村上も半ば巻き込まれる形ではあるが姿勢を正していた。
 特に先に三階の千雨の衣裳部屋を見た村上は、むつきの説明を先んじて予想できているのだろう。
 時折、大丈夫かなと心配げな視線を、緊張気味の那波へと向けていた。

「このひかげ荘は正真正銘、俺の家だ。最初に言ったが、夏の旅行の時に爺さんから正式に相続もした。代わりに他の遺産は全部放棄したが、それは余談だな。那波が一番聞きたいのはこいつらの事だろ?」

 右隣にいたエヴァではなく、むつきは左隣にいた美砂の頭に手を置いた。
 ぽんぽんと軽く叩いてから髪をくしゃりと乱暴気味に撫で、後に親しみを込めて髪を梳く。
 特に後半の髪を梳くやり方は、教師が生徒に対するそれではない。
 髪は女の命とは良く言ったもので、女の子は特に異性に気軽に触れて欲しくはないものだ。
 髪に触れられるどころか、手櫛を通され喜ぶなど特定の異性だけ。
 実際に美砂は嫌がるどころか、自慢の髪を誇る様に鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌だった。

「ここは単なるたまり場ってわけじゃない。俺は生徒である美砂たちと付き合ってる」
「たちって……」

 たちという複数形に村上が疑問符を浮かべ、軽く視線を巡らせてさらに目を丸くした。

「その他大勢にされたのは若干不満だがな」
「細かいこと言うなよ。一人一人名を上げてったら、ぽろっと誰か抜けかけねえだろ」
「恋人になっていない方を上げた方が、確実かもしれませんわね」
「委員長の言う通りネ。春先はまだしも、今や二-Aの八割がたが親愛的の恋人ヨ」

 エヴァが私が筆頭だとでもいう様に胸を張り、微笑ましくも呆れながら千雨がそう呟いた。
 あやかも誰か抜け掛けないという言葉は否定していなかった。
 小鈴までが照れる事も気後れする事もなく、胸を張った集団である。
 さよや五月、聡美の三人は気恥ずかしそうにしながら、控えめに手を上げて自己主張していた。

「一体……一体、何時から?」

 いつの間にか視線をむつきからテーブルの上に落していた那波が蚊の鳴くような声でそう尋ねて来た。

「私は今年の四月、一番最初」
「私も四月頃にはここにいたけど、厳密に恋人になったのっていつだっけか」
「麻帆良祭の後が夕映さんで、千雨さんや私は夏休み前後でしょうか?」
「私は夏休みに入ってからです」

 美砂に始まり、少々時期があやふやな千雨とあやか、それからさよと続く。
 さよは初対面でプロポーズを受け初体験を済ませているが、千雨やあやかはセックスフレンドの時期がある。
 恋人になった日と言われても、初体験なのか曖昧な意味でエッチをした日か。
 何時からと問われると、良く分かっていない子も多いのであった。

「そういえば、柿崎や長谷川さんって初体験済ませて」
「もちろん、先生」
「まあ、そういうこった」
「まさか、委員長たちも……」

 いくら何でもと特にあやかや小鈴を見て村上が呟き、満面の笑みで返された時である。
 心中で爆発した思いを露わにするように、那波が勢いよく立ち上がった。
 後ろに椅子を引く間もなく、勢いに負けたそれがガタンと後方に倒れた。
 むつきから見て立ち上がった那波を見上げる形となったが、その表情は伺い見る事ができない。
 伏せる様にうつむいた彼女の顔が長い髪に隠れる様になっていたからだ。
 しかし顔を見ずとも、その心中は立ち上がると同時に振り上げられていた手がはっきりと示していた。
 処理しきれなかった感情を暴発させるように、むつきへと目掛けてその手が振り下ろされる。

「ッ!」

 その程度ならと覚悟して、むつきは奥歯を噛みしめ避ける様子さえ見せない。
 だが結果から言うと、那波の手の平がむつきの頬を打つことはなかった。

「痛ッ、くっ……」

 むつきの頬が叩かれる寸前、那波の腕をアタナシアが掴み取っていたからだ。

「放して、ください」
「アタナシア……一体何処から、ていうか。放してやってくれ、痛がってるし。力込め過ぎ」
「ふん」

 むつきに言われ、本当に不承不承と言った感じでアタナシアが那波の手を放した。
 それでも気がおさまらない様子で、アタナシアと那波は互いに睨み、睨み返されている。
 しかし、本当に何時の間に、それも一体何処から現れたのか。
 那波がむつきに手をあげようとした衝撃が、若干ながら薄れてしまう程だ
 驚きと別の感情を浮かべているのは、やっちゃったと顔を手の平で押さえている小鈴。
 または呆れたような苦笑いを含んだ聡美と五月、さよである。

「びっくりした。おい、エヴァンジェリン。お前の姉ちゃんがご立腹……また、いねえし」
「エヴァなら、囲碁の対戦予定があると上にいった」
「この修羅場で本当にフリーダムね、エヴァちゃん」

 千雨が助けを求めてエヴァを探すも、アタナシアが言うには囲碁をしに行ってしまったらしい。
 気まぐれ子猫はむつきに貫通されても、性根が変わらないようだ。

「待て、急に出て来て。那波にも怒る権利ぐらい」
「ない」

 宥めるなら組みし易いアタナシアからとむつきも立ち上がったが、即答された。

「どうしてですか?」
「この場でむつきのただれた恋愛事情に文句をつけられるのは一人だけだからだ。村上夏美、貴様だ」
「わ、私ぃ!」

 アタナシアの名指しに、椅子から転げ落ちるように机の下に隠れていた村上が素っ頓狂な声を上げた。
 当人としては、一番無関係な、第三者のつもりである。
 もちろん、姉と慕う那波の恋愛事情なので全く無関係ではないが、なにかを言う立場にない。
 今の那波には声も掛けられないので、村上が助けを求めたのはむつきとクラスメイトだった。
 しかしその誰もが、何故村上がと小首をかしげているのだから助けにならないではないか。
 ここに来る前に寮に帰っておけばと後悔しても、色々と遅い。

「あのぉ……私は特に先生に恋愛感情もないし、一番そう言う立場から遠いと思うんですけど」

 逃げられないと観念したように、那波を伺いながら村上が小さく、本当に小さい声で意見を試みた。

「恋愛感情がないからこそだ。村上夏美、お前は法に守られるべき普通の子供なんだ。だが、那波千鶴。お前は違うな?」
「単純に、見た目といった話ではないですよね?」
「当たり前だ。貴様、今日のむつきとのデートした上に、事前に超鈴音からピルを貰ったな?」
「それは、長谷川さんや柿崎さんが……」
「二人は情報を、選択肢を与えただけだ。最終的に貰うと決断したのはお前だ。言い訳がましいことを言うな」

 那波の言葉を断ち切る様にピシャリと言ったアタナシアは続けた。

「デートが上手く行けば、あわよくば抱いて貰おうと思った。教師であるむつきに、生徒であるお前がだ。お前は自分から法を逸脱しようとした。例えそれが未遂でもだ。だからむつきを非難する立場にないんだ」
「だからと言って、教師が生徒に……あっ」
「法が正義なら、そうだな。教師は生徒に手を出すべきじゃない。ん? 矛盾しているな。どうしてお前だけが教師であるむつきに手を出されて問題ないんだ?」

 完全にぐうの音も出せず、那波は悔し気に唇を噛むだけで何も言えなかった。
 何もかも、アタナシアの言う通りだったからだ。
 むつきの事を生徒に手を出した犯罪者などと呼べやしない、自分が手を出して欲しかったから。
 そうなりたかった、教師と生徒という枠を超えた関係に。

(振り上げた私の手は、法や道徳を元にした義でもなんでもない。私自身の我がまま、どうして私じゃないのか。嫉妬、どうして私だけじゃないのかという。嫉妬を元にした癇癪)

 理詰めでここまで誘導され、理解できないと叫ぶほど支離滅裂ではないつもりだ。
 しかしおさまらない、理詰めではおさまらない感情がある。

「確かに私も褒められない事をしようとしました。けれどだからと言って、先生の行いが肯定されたわけではありません。先生は未成年である生徒に手を出した……」

 一度熱された感情は生半可な事では冷える事はない。
 アタナシアに押し詰められた理でさえ、感情という名の炎を猛らせる薪となる。
 彼女自身が言ったのだ、那波はまだ未遂だと。
 自分は未遂だが、むつきは違う。
 その先を考えるだけならまだしも、口にしてはどうなるのか。
 感情が先走り過ぎていて、考えを巡らせる余裕さえなかった。

「先生は許されないことをした犯罪者です!」

 そう叫んだ言葉の意味を自覚した瞬間、那波が腰から砕ける様に床の上へとへたり込んでしまった。
 色々と情報過多で感情が振り切れてしまったかと、むつきたちは慌てて机の下から覗き込んだ。
 女の子座りで呆然としていた那波の瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちていた。
 すすり泣くことも、喚き鳴くこともなく、ただ静かに滴が零れ落ちる。

「那波、大丈夫か?」

 駆け寄って良いものか、悩んだ挙句一先ずむつきが声を掛けると、那波がビクリと震えた。
 その視線がむつきに始まり、同じような格好で机の下を覗き込む美砂たちへと移り変わっていく。
 今の那波は机の影にいる事を踏まえても顔色が悪い、より一層悪くなっていく。
 弾劾の言葉を吐いた側とは思えない、逆に弾劾された側の様な。
 まるで暗闇に怯える子供の様でもと思った所で、むつきがある事柄に思い当たった。

「大丈夫」

 声色を変えて尋ねるのでなく、幼い子をあやし言い聞かせるように呟いた。
 四つん這いで机の下を潜り、そっと頭を撫でようとしたら那波が怯え頭を抱え込んだ。

「……なさい、ごめんなさい。嫌わないで、一人にしないで」

 どうやら本当に悪い方にむつきの予想は当たってしまったらしい。
 寂しがり屋で孤独を嫌う那波ならば、むつきの本当の姿を知っても周りに訴えない思っていた。
 仲良し二-Aのクラスメイトに拒絶されない為に。
 だが実際はむつきの想像以上に那波は孤独を嫌っていた。
 むつきを否定した結果、那波は皆に拒絶されることを酷く怖れている。
 感情に任せて頭で考えるより先に、むつきを拒絶するような言葉を放ってしまったから。

「わ、私は謝らないぞ」

 孤独を異常に怖がる那波を、むつき以外の面々は知らない。
 特に切っ掛けを与えてしまったアタナシアは、顔を引きつらせ視線を逸らしていた。

「誰も責めちゃいないよ。甘く見てたのは俺だ。村上」
「はい……ちづ姉、大丈夫だから」
「田中さんに寮まで送らせる。那波をなんとかしてやりたいが、宥めている時間がない」

 金曜か土曜なら泊まって行けと言えるが、生憎明日は月曜で寮に返さなければならない。
 その上、まだ門限こそ厳密にはないが、四月の美砂の行いで生徒の帰宅には気をつけているところがある。
 元々、今日は那波に明かす予定ではなく、むつきのミスが目立ったとも言えた。

「明日また折をみて話すから、少し落ち着いたら俺は全然気にしてないって伝えてくれるか?」
「うん、わかった。ちづ姉、立てる?」

 村上が那波を支えようとするが、体格的に一人では支えきれなかった。
 かと言って、むつきが手伝おうとしても、那波が怯える上に寮まで入れない。
 それを見かねて同室のあやかが他の皆より一歩早く、村上の逆側から支えようとする。

「千鶴さん」
「ッ!」

 だがあやかの声を聞いても那波は体を小さくさせてしまう。

「委員長、気にすることないヨ。茶々丸の妹たちに手伝わせるネ。葉加瀬」
「茶々丸、聞こえてたら妹を二人ぐらい連れて来て」
「どうやら私たち、全員駄目っぽいな。委員長、今日は私の部屋に泊まりに来いよ。お互い、気が休まらないだろ」
「そうさせていただきますわ。夏美さんには、押し付けるような形になってしまいますが」
「うん、私は大丈夫。何時もちづ姉にはお世話になってるから、これぐらい」

 最終的に那波は茶々丸の姉妹二人に支えられて立ち上がった。
 しかし顔は伏せたまま、村上の手を強く掴んで決して放さないようにしている。
 今の那波にとって村上が唯一のよりどころのようだ。
 村上自身、それを理解して痛いぐらいに強い力で握られていても、文句一つ言わない。
 むしろ今の那波の心中を労わる様に、手を重ねて包み込む様にしていた。

「心配だから、私もこのまま寮に帰るね」
「だな、こんなメンタルで衣装作りたくないし。今日来てなかった奴に説明もいるだろ」
「茶々丸の姉妹の事もあるし、一旦帰るネ」
「我々は研究の途中なのでまた戻ってきますが」

 美砂や千雨、委員長も同じ超包子の電車で帰るようだ。
 小鈴と聡美は何か寮をごまかす手段があるのか、元々寮側が把握できていないのか。
 那波はひかげ荘を出て超包子の電車に乗るまでの間、一度も顔をあげる事はなかった。
 周囲の特にむつきの関係者からの視線を避ける様に、怯え続ける様に。
 むつきが那波にまた明日なと一言付け加える事さえできない。
 せいぜいが、美砂たちに俺が話すから変に那波へアクションを起こすなと告げるぐらいだった。

「不味かったな。もう少し計画的に……」

 那波を乗せた超包子の電車を見送り、道の角を曲がって消えた頃にぽつりとむつきは呟いた。
 折角、挽回できたはずの那波のデートが最後の最後でまた壊れてしまった。
 ひかげ荘に戻ろうと、石段を登りながら今日一日を振り返る。
 元々は、今日に那波へと明かす心算はなかった。
 いや、全くなかったかと言われれば、なかったとも言えない。

「のどかへの説明が行き当たりばったりで、上手く行ったからな」

 同じように、いやさらにその前から。
 皆が皆、一様に受け入れ、それでもと言ってくれるものだと甘い考えが少なからずあった。

「全部、都合の良い様に考えてたんだ。那波だって、喜んで嫁になってくれるって」

 石段を登りきる頃には、全て自分の甘さが招いた結果だと結論付けられた。
 いや、甘いというのならあの状態の那波を返したのも甘い。
 あの状態の那波が警察や父兄に事を明かすとは思えないが、村上がどう動くかは分からなかった。
 アタナシアが言う様に、現時点で正面からむつきを弾劾できる資格を持っているのは村上である。
 監視・監督者という意味では釘宮もそうだが、彼女も黙認していた事実がある。

「まあ、なんにせよ」

 ひかげ荘の玄関を開けて、もう一人の怯える子犬を見つめる。

「むつき……」
「アタナシアのせいじゃないって言ったろ」

 悪い意味で那波をたきつけてしまったアタナシアが、ご主人様の帰りを待つ子犬の様におろおろしていた。
 むつきが帰って来た瞬間、ぱっと明るくなった表情がまた沈んでいく。
 怒られるかなとビクビクしている彼女の頭を撫で、ギュッと抱きしめてやる。
 耳元で今一度、アタナシアのせいじゃないと言い聞かせ、程なくしてアタナシアの緊張がほどけて行った。

「わ、私は……宮崎のどかの様に、反骨心で持って言い返して来るものだとばかり」
「そう言うのを俺が期待してなかったわけじゃない。よしよし、大丈夫。大丈夫」
「むつき、すまん」
「結果的にはああなったけど、本当なら俺が事前に察して止めるべきだったんだ。アタナシアはあれで良いんだ。後は俺が何とかするから」

 安心した反動か、ぐすぐすと鼻を鳴らし始めたアタナシアをさらに抱きしめる。
 しかし、姉がこんなにも心細くなっているのに、妹である気まぐれ子猫は何をしているのか。
 囲碁がそんなに大事かと、今度お尻ぺんぺんしてやると密かにむつきは心の閻魔帳につけておいた。

「今日はもう、お風呂に入って寝よう。一晩中、ギュってしててやるから」
「一緒に入ってくれるか?」
「流石に駄目。そんな気分じゃないし。仮に暴走してヤッちゃったら、凹むから」
「ケチ、でも好き。大好き」
「はいはい、意外とアタナシアもエヴァと同じぐらい甘えん坊だな」

 背を屈ませ、胸元に頬ずりしてくるアタナシアをエヴァにするようにあやす。
 しばらく彼女の好きにさせ、それから風呂に行かせる。
 今日は五月が帰ったので、さよ一人であの人数分の洗い物をさせるわけにはいかない。
 むつきも手伝ってからさよもお風呂に入れ、三人で抱き合いながら眠るのだ。

(エヴァは罰として、ハブだな。ハブ)

 全然、罰になっていないことを知らないむつきであった。









-後書き-
ども、えなりんです。

千鶴のトラウマ発動により水入り。
あそこで素直に寮に返しちゃうのもどうかと思ったんですが。
もう少しむつきには粘らせた方が良かったのか……

次回にもう少し千鶴のアレコレやってからになります。

それでは次回も未定です。



[36639] 第百三十七話 俺のところに来い
Name: えなりん◆e5937168 ID:0c56a689
Date: 2016/07/02 20:03

第百三十七話 俺のところに来い

 次の日の月曜日、お昼休みも半分が過ぎた頃にようやくむつきは動き出した。
 那波は体調不良を理由に休んでいる。
 村上の方は登校しているのでまずは彼女からなのだが、会話すらできていない。
 最近は高畑が毎日来ているので、朝から二-Aに顔を出すことも減り、顔さえ見ていなかった。
 ようやく時間が出来たのが今。
 さよのお弁当を片手に、二-Aの教室の扉から覗き込む様にして村上に声を掛けた。

「村上、悪い。ちょっと聞きたい事があるから来てくれ!」

 村上の席は窓際の前から二番目、さよの後ろであった。
 既にお昼は食べ終わっているようで周囲から若干浮く形で、頬杖をついて外を眺めていた。
 位置的に遠く、またお昼休みの騒がしさに負けない様に声を張り上げる。

「…………はい」

 一瞬聞こえていなかったかと思うぐらいの間の後に、村上が返事をしながら立ち上がった。
 これ以上ないくらいに機嫌は悪いらしい。
 近くの席の鳴滝妹が驚いて前の席の長瀬の制服の裾を掴んでいるではないか。
 普通に考えて、今の今までむつきが顔すら見せにこなかったせいで間違いないだろう。

「そんなに時間はとらせない。そこの社会科資料室な」

 どうやら那波の事を聞く前に、村上のご機嫌を伺わなければならないようだ。
 とはいえ、お昼になるまでアクションを取れなかった理由位しか説明できないが。
 二-Aの教室を離れ、近くの社会科資料室の鍵を開けて村上を中にいれる。
 以前、少し掃除をしたので埃っぽさは鳴りを潜めているが、閉め切っているので少し暑い。
 ついでに空気の入れ替えと窓を開けてから、パイプ椅子を取り出し村上にも勧めた。

「悪い、朝から立て込んでて中々時間が取れなかった」
「それは、ちづ姉よりも大事なことなの?」
「難しい質問だな。ただの仕事なら多少は放り出したが……」

 村上の中学生らしい言葉に、腕を組んで考え込む様にしてむつきは答えた。

「土曜日の試合のおかげで、アキラと神楽坂をセットで取材したいって申し込みが殺到してたんだ。神楽坂の特待生の為にも、放っておけなかった」
「怒り辛い。明日菜とちづ姉どっちがってのも変だし。はあ、先生はやっぱり先生だね」
「何を当たり前のことを。それより、お前の方こそ日曜にあの話を聞かされて、こうして良く平気な顔で二人きりになれたな。多少、疑うとか。狙われてるとか思わないのか?」

 那波の事は気がかりだが、村上の肩をほぐす為に、もう少し会話を続ける。
 純粋にあまりにもすんなり二人きりになってくれた事に驚いたこともあるが。

「ちづ姉はずっと先生しか見てなかったけど、私は他にも見てたからかな。真剣に衣装について喋る長谷川さんとその衣裳部屋。柿崎も将来は美容関係に進みたいって聞いた。先生はいけないことをしたかもしれないけど、酷いことをしたわけじゃないって」

 昨日のひかげ荘の三階に足を踏み入れたことを思い出し、村上は自分で納得するように頷いた。

「私ね、正直に言うと以前は長谷川さんが苦手だった。私に構うなってオーラを四六時中出して、何考えてるのか分からないところがあって」

 千雨がそうしている理由を知ったのは、麻帆良祭前にクラスが分裂しかけた時だ。
 千雨と神楽坂の間接的ないがみ合いから、クラスの空気が負のスパイラルに陥った。
 そこであやかの提案で茶番を仕掛け、千雨の内心を暴露したあの時である。

「でも今は、長谷川さんともっと仲良くなりたいと思ってる。演劇と衣装造りで共通点もあるし、時々口は悪いけど面白い子だし。長谷川さんを変えたのは、先生なんでしょ?」
「うーん、どうだろ。千雨が変わろうと思ったのは千雨自身の考えだし、やり方はあやかとかが考えてたからな。どや顔で俺が変えたって言えるほど、うぬぼれてはない」
「でも切っ掛けぐらいにはなったんじゃないかな。柿崎が見つけたやりたい事も、あと……委員長のショタコンが治ったのも。保護欲と愛情をはき違えるなって言われた時は、思わず突っ込みそうになった」

 特にあやかの件は誰だってそうなる、むつきだってそうなる。

「柿崎たちに手を出した事はいけない事だとは分かってるけど。私が目で見たモノから言えば、皆が良い方向に変って笑ってる。ちづ姉を除いて……」

 まるで手放しでむつきを擁護しているかと思えば、最後にオチが待っていた。
 少なくとも、村上がむつきのただれた恋愛事情をどうこう言うつもりはないらしい。
 今は寮で心を静養しているであろう、那波に関して以外は。
 むしろ村上は、そこまで皆を幸せにできるなら、那波も幸せにしてと訴えているようにも見えた。

「那波の様子は、あれから?」
「昨日の夜は全く、私がトイレに行くのにも手を放してくれないぐらい。一緒に寝て、朝には少し落ち着いたみたいだけど。ベッドから起き上がる気力はないみたい」

 もう少し詳しく聞いてみたが、村上が用意した朝食を残したとはいえ半分は食べてくれたらしい。
 本当は看病という理由で村上も休むつもりだったが、那波から学校に行ってと言われたようだ。
 村上を送り出して、一人になりたいと思える程度には落ち着いたか。
 かと言ってそれは村上が相手であって、むつきやあやかと言った拒絶されたくない相手ではどうか。

「那波と会話したいが、そもそも会ってくれるのか」
「でも先生、ちづ姉と会って何を話すの? あんなちづ姉見てられないし、協力はしてあげるけど」
「会って、那波の意志を確認する。俺に出来るのはそこまでだ」
「ちづ姉の意志?」

 何故そこで微妙に受け身なのかと、本気で分からないという顔をしていた。

「俺の、俺たちの意志はずっと前から決まってるからだ」
「決まってるって、どういうこと?」
「お前たちが、ひかげ荘を知ったのはつい昨日の事だろ」
「うん、クラスの中では知ったのが遅いぐらいなんだよね」
「まだ知らない子は数人いるが。今年の四月からこれまで、俺たちは周りに隠して、二-Aの子に明かしてを繰り返して来たんだ。良くも悪くも慣れてるんだよ」

 那波については悪い方向に慣れが発生してしまったのでこの様だが。
 今までむつきがひかげ荘を知った子に求めて来た事は多くはない。
 まず第一に秘密の厳守、これについて今まで一番危うかったのが美砂ぐらいのものである。
 むつきに対する特別な行為がなければそれで終わり、しかしあるのならば。

「だから今まで通り、俺は那波に向かって両手を広げて来いって言うだけだ」
「なにそれ、そんなの来るわけ」
「美砂を筆頭に十何人も来たぞ。最近だと、のどかだな」
「皆、何考えてんだろ。どうしてそれで飛び込むの、さっぱりわかんない!」

 どちらかと言わずとも、村上の感性の方が普通である。
 俺も時々分からなくなると思ったむつきだが、黙っておいた。

「はあ……何回目のため息だろ。先生が今さら我が身を省みる事がないのは分かった。あとは、ちづ姉がどうしたいかだけってことだよね?」
「そうだな。那波がそれでも良いって言うのなら、俺は受け入れる気満々だ。美砂たちも。けど私だけをと言われたら、悪いが無理だ。俺はもう、誰か一人を選んじゃいけないところまで来ちまった」
「仮に一人を選んだら、先生が殺されちゃうんじゃないかな。くーちゃんに龍宮さん、刹那さんの武闘派三人にアタナシアさん、千草さんも。うん、殺されちゃうね」
「おい、楽しそうに言ってくれるな」

 何故か楽しそうに物騒な事を言われ、げんなりと肩を落とす。
 これでも苦労してるんだぞと思っていると、村上がパイプ椅子から勢いをつけて立ち上がった。

「私ちょっと午後は早退するね。上手く言っておいて」
「那波と話ができる様にしてくれるのか?」
「純粋にちづ姉が心配なのもあるけど、ちづ姉もまず決めないと。先生の腕の中に飛び込むのか、もう一度ほっぺたにキツイ一発を打つのか。乙女の初恋を砕いたんだもん。仕方ないよね」
「その程度なら甘んじて受けるよ。ただし、ひかげ荘の事は秘密にして欲しいが」
「ちづ姉が自棄になっても、それは流石に私が止めるよ。皆まで巻き込むのはちょっと違うし」

 認めたわけじゃないけどねと一言付け足し、村上は社会科資料室を後にした。
 バタバタと足音を立てて教室へと戻り、もう一度社会科資料室の前ですれ違う。
 鞄を手に走る姿はとても体調不良に見えないが、さてどういう形で報告するべきか。
 素直に那波が心配で何も手につかず、看病する為にという方が村上らしいだろう。
 小さくなる後ろ姿に頼んますとむつきは両手を合わせて祈っておいた。
 だから数十分後に泣きそうになった村上から電話が入るとは思ってもみなかった。
 寮の部屋に那波がいないと。









 夏場の熱気は何処へやら、十月半ばの涼し気な風が窓から吹き込みレースのカーテンを揺らしている。
 半そでの制服では肌寒いぐらいかもと思った那波だが、身じろぎ一つせず、テーブルの上の冷めた紅茶を見つめていた。
 その表情には覇気がなく、また紅茶の水面の揺れを見つめている事にも深い意味はない。
 何もする気が起きない、する気になれないのだ。
 ふと気づけばため息どころか、呼吸で胸が上下するのも気怠く感じてしまう程に。

(何もかも終わってしまった。終わらせてしまったわ)

 昨日まであれ程輝いて見えた世界。
 初恋の相手だったむつきの一挙一動に心が揺れ、自分がその隣に立てると信じて疑わなかった。
 しかし蓋を開けてみれば、自分は一体むつきの何を見て来たのだろうか。
 むつきの隣どころか、周囲には既にたくさんの女の子たちがいた。
 出遅れたどころの話ではない。
 自分がむつきを想って空回りをしている間に、二-Aのどれだけの子がむつきの胸に飛び込んだのか。

(雪広の娘である事を誇りに思っているあやかまで……)

 極普通の女の子であるのどかたちならまだ分かる。
 雪広という一財閥の娘という立場で、幾ら次女とは言え気軽に体を許して良いはずがない。
 一体どれほどの覚悟を持って、飛び込んでいったのか。

(私は出来なかったわ。いえ、飛び込むかどうか以前の話ね。先生と関係を結ぼうとした自分を棚に上げて、感情の赴くままに嫉妬の炎を燃やして、挙句……)

 昨晩の出来事が、那波の脳裏にフラッシュバックする。
 むつきに対し平手を振るい、止められぐうの音も出ない程に論破され、それでも止れず暴言を吐いた。
 息が詰まる、過呼吸でも起こしたかのようにふらつき那波はぐらりと体を傾けテーブルに手をつく。
 紅茶のティーカップが弾み、倒れそうなぐらいに傾き元の位置に戻ろうとカシャンと音を立てる。

(落ち、落ち着きなさい千鶴。ゆっくり……息を、ゆっくり)

 重くて邪魔な胸を押さえ、ゆっくりと息を吐いて吸おうと試みる。

(大丈夫。先生には呆れられ、嫌われたかもしれない。でも皆なら、あやかなら。夏美ちゃんだっている)

 初恋は予期せぬ形で失ってしまったが、一人では孤独ではないと言い聞かせる。
 中学生になってから一年と半年。
 あやかなどはもっと小さな頃から顔を合わせる中で、暴言一つで壊れる仲ではないはずだ。
 ちゃんと積み重ねて来たものがある、実家とは違うのだ。

「ふう……」

 呼吸の乱れを無理やり抑え込み、冷めた紅茶に口をつける。

「お待たせしてしまったかしら?」
「いえ」
「小さな子がなかなかお昼寝してくれなくてね。普段会えない平日に会えたものだから。お姉ちゃん、お姉ちゃんって」

 平常心に戻れたつもりでティーカップを置くと、部屋の奥から院長先生がやってきた。
 何時もと変わらない穏やかで物静かな眼差しでやれやれと笑っている。
 那波の姿は、足蹴く通っている孤児院にあった。
 特に意味があって、目的があって足を運んだわけではない。

「それにしても驚いたわ。千鶴さんが、こんな平日の昼間にふらふら歩いていたのだから」
「私も驚きました」

 実はお昼前にやはり学校へ行こうと起きて、制服に着替えたまでは良かったのだ。
 しかし寮を出て直ぐに足が駅に向かず、そのままふらふらと行く当てもなく歩きだした。
 このままじゃいけないと気力を振り絞ったは良いものの、長続きしなかったのだろう。
 今だって、院長先生を手伝い子供たちをあやしても良かったのに、お尻が椅子から浮かなかった。
 まるで夢遊病者の様にふらふらしているところを、院長先生に見つけられたのである。

「少し休ませて頂いたら、やはり学校に」
「良いのよ」

 行きますと言う前に、先んじて院長先生がそう呟いた。
 皺の奥にある優し気な瞳が、まるで小さな子をあやす様に繰り返す。

「気が向かない時に無理をすることはないわ。私も時々は、本当に時々よ。あの子たちの面倒をみる事に疲れてしまうことがあるわ。人間、好きな事でも、やらなくちゃいけない事でも嫌になる時ぐらいあるわよ」
「はい……」

 特別、なにか聞かれたわけではない。
 普通ならば、聞かれてもおかしくはないのにだ。
 院長先生は、子供たちのハイキングに託けてむつきと那波がデートをしていたことを知っている。
 実質、ハイキング中は那波がむつきの膝で眠りこけていただけだが。
 そんな那波が翌日にふらふらと学校へも行かずに、彷徨う様に歩いていたのだから。

「少し風が冷たいかしら、ちょっとごめんなさい。子供たちの部屋の窓を閉めてくるわ。何時までも夏のつもりじゃ駄目ね」

 そう言って今一度席を立った院長先生が、奥へと引っ込み、数分と経たずに戻って来る。
 本当に子供部屋の窓を閉めて来ただけなのだろう。
 椅子に座る前に台所からやかんを持ってきて、自分と那波の分の紅茶を入れ直してくれた。

「なにも、聞かないんですか?」

 湯気の立つ紅茶を差し出された時、ついに耐え切れなかったように那波が尋ねた。

「そう聞くのは、喋りたい事が何かあるのかしら?」

 質問に質問を重ねられ、ドキリと胸が跳ねる。
 喋られる、はずがない。
 むつきが自分の生徒達と、那波のクラスメイト達と付き合っていたなどと。
 しかもただ付き合うだけでなく、自宅に招いて淫らな行為を繰り返していた。

「いえ……」

 怒りも嫉妬も今はない、なのにどうしてだろう。
 秋の風よりも寂しく冷たい風が、胸にぽっかりと空いた穴を通り抜けていく。

「あら?」

 ぽとりと涙が一粒、零れ落ちた。

「やだ、止らない。すみません、なんでもないんです」

 慌てて目元を擦り上げるも、後から後から溢れ出して間に合わない。
 悲しさや寂しさなんて何も感じていないはずなのに。
 分からなくなった自分の感情が形になって目の前に現れた様にこぼれ続ける。
 一粒こぼれる度にそれを否定し続けていると、院長先生がいつの間にか隣にいた。
 肩に優しく手を置かれ、那波の泣き顔を覗き込む様にして微笑みかけてくる。

「人間はね、強すぎる感情を持つと自分でも理解しきれない時があるの。大きな絵を間近で見ると、何が描いてあるのか分からないみたいに。今の千鶴さんがそう」
「だって、もう大丈夫。平気なんです」
「じゃあ、どうして千鶴ちゃんは泣いているのかしら」
「わかんない。わかんない!」

 胸元で包み込む様にかき抱かれ、撫でられる。
 少し硬い手の平で撫でられながらちゃん付で呼ばれたからか、言葉遣いが幼くなった。

「泣きたい時は、泣いて良いのよ。無理に大人ぶって気持ちに整理をつける必要はないわ。大人になると、泣きたくても泣けないことが多いの。だから、今は一杯、一杯泣いて良いの」
「院長先生、私……私ね。やっぱり、乙姫先生のことが好きなの」
「ええ、知ってるわ。一緒にアップルパイも練習したわね。とても良い恋をしていると思っていたわ」
「でも、失敗しちゃった。一杯、一杯間違えちゃったの!」

 那波が一番悔やんでいるのは、自身の失敗である。
 突然のことで嫉妬が先行し、売り言葉に買い言葉でむつきを罵ってしまった。
 何一つむつきの事情を聞かないまま。
 むつきが本当に悪い大人で、自分の生徒を獣欲が赴くままに食い散らかす様な人であったのなら。
 那波に対しても、何度もチャンスはあったはずなのだ。
 なのに露骨なアピールも口説きもせず、那波の相談や我がままに嫌な顔せずいつも付き合ってくれていた。
 あれだけ自分の話を聞いてくれたむつきの話を、逆に那波は殆ど何も聞いていない。
 いや、聞こうともしなかったのだ。

「もっと私が、先生の話をちゃんと。だけどもう、嫌われちゃった。どうしよう、どうしたら良いの」
「あらあら、いつも大人ぶってる千鶴ちゃんらしくない。悪いことをしたと思ったら、どうしたら良いのかしら?」
「ごめんなさい、する」
「そうね、千鶴ちゃんも分かってるじゃない」
「でも、怖いの。許して貰えなかったら……」

 院長先生が優しく諭してくれても、結局のところ那波の感情はそこへ戻ってしまう。
 人一倍人に嫌われたり、疎ましく思われることが怖いが故に。

「その心配はきっと、いらないわ」

 老人特有の勘とでも言うのか、耳が遠いようで良いのだろう。
 よしよしと那波の頭を撫でながら院長先生が窓の外を見た。
 そこから見えるのは孤児院の塀に囲まれた庭先、視線はさらにその塀の外側に向いている。
 流石に塀の向こう側まで見通せているわけではないが、音で見えている様なものだ。
 遠くから段々と近づいて来るエンジン音、やや急ブレーキ気味にそれが塀の向こう側で止った。
 そこでようやく那波も、誰かが車を降りて慌てて走っていく音を耳で捕えられた。

「院長先生、那波が」

 門から飛び込み、窓からちらりと院長先生の姿を目に止めたのだろう。
 玄関に回ったり、挨拶する間も惜しんで声を掛けて来ていた。
 咄嗟に那波が院長先生の影に隠れようとしたが、もう遅い。
 窓にかじり付く様に身を乗り出したむつきの視線は、悪戯を見とがめられた子供の様な那波を見つけていた。

「良かった。やっぱりここか。心配したぞ、那波」
「心配?」

 へなへなと窓枠に上半身をへたり込ませたむつきの言葉に、那波がちらりと顔を覗かせた。

「心配、どうして……」
「どうしても、こうしてもあるか。那波、良いか。逃げるなよ、そこにいろよ。院長先生、ちゃんと捕まえておいてくださいね。本当に、お願いします!」
「ええ、もちろんです。玄関から、どうぞ」
「え、あっ……」

 抱きしめるでなく、キュッと捕獲された那波は逃げるタイミングを逸していた。
 いや、むつきの心配という言葉を聞いてそのつもりはなかったのだが。
 こう幼い子に向けて捕まえたとされるようにしては、逃げたくなるのが人間の性である。

「院長先生、あの……まだ、心の準備。私、目赤くなってませんか? 頬が腫れぼったいとか」
「今の千鶴ちゃんは、ウサギさんみたいなおめめよ」
「だめ、放してください。せめて、顔を洗わせてください」
「ふふ、暴れちゃだめよ千鶴ちゃん。お迎えが来たから、大人しくしてましょうね」
「あと、私もうそんな子供じゃありません!」
「あらあら、さっきまでわんわん泣いていた子が。大人ぶりたい年頃なのね」

 玄関から上がってからは、急ぎ足でやって来たむつきは呆気にとられた。

「なんだこれ」

 院長先生に子供の様に抱きしめられた那波が、放してくださいと抵抗していた。
 さながら祖母に歳不相応に可愛がられている孫のような光景である。
 とても情緒不安定になって寮を飛び出した様には、とても見えなかった。

「えっと、那波……迎えに来たんだが」
「先生、今の私。あの、ちょっと見せられない顔で。謝りたくても」
「なんでお前が謝るんだ? 謝るのはこっちだ。本当はもう少し落ち着いて話すつもりだったんだが」

 とは言え、院長先生がいるこの場でべらべらしゃべるわけにもいかず。
 かと言ってもうこれ以上は、話を拗らせたくもない。
 だから単刀直入に、むつきはとてもシンプルな行動に出ることにした。
 恐らくはこの程度ならと。
 ある程度、那波の気持ちを察しているであろう院長先生なら見逃してくれると思ったのだ。

「那波、千鶴……来い。この際、細かいことはさて置き。俺のところに来い」
「先生?」

 事前に村上に宣言した通り、むつきは両腕を広げた。

「顔をみられたくないなら、伏せたままでも良い。俺のところに来い」
「先生……」
「行きなさい、千鶴さん。貴方はもっと我がままになって良いの。言いたい事を、やりたい事をして良いの。自分の我がままを、気持ちを全力で受け止めてくれる人は貴重なのだから」

 昨日、村上にも同じような事を言われたはずだった。
 周りから年齢以上に大人に見られやすい那波は、自分からも大人の様な態度をとっていた。
 同じ年齢の妹分という村上がいたり、子供好きが高じて孤児院に入り浸っていることもある。
 周りの我がままや気持ちを受け入れる事はどんどん上手くなったが、逆に自分の気持ちを露わにすることが知らず苦手になっていたのだろう。
 そのつもりが本人になかったからこそ、余計に。

「先生!」

 だから一切の遠慮なく、那波は自分がしたい様にむつきの腕の中に飛び込んだ。
 抱きしめられるより先に自分からむつきの背に腕を回して抱きしめる。

「先生、好きです」
「おう、知ってる」
「それから、またアップルパイ作ったら食べてください」
「いくらでも、むしろ作ってくれ」
「もう少し強く抱きしめて、もう一度千鶴って名前で。そらから……」
「千鶴、これぐらいで良いか?」
「もう少し、もっと」

 本当は力が強くて苦しいぐらいだったが、我が侭が止まらなかった。

「それから、先生の事を教えてください。たくさん、たくさん知りたいです。逆に私の事も一杯知ってください。こんな我儘な私でも、受け入れて貰えますか?」
「こんな可愛い我がままなら、いくらでも聞いてやるよ」
「先生、そんなに何でも許されたら……本当に我がまま一杯言ってしまいます」
「それがお前の本心なら、受け止めるのが俺とあの場所の役目だ。そこのところも説明しないとな」

 あの場所と言われ、千鶴に思い当たる場所と言えば一つしかなかった。
 むつきの家、皆がたまり場として使っているひかげ荘である。
 何故自分の本心をさらけ出すことが、むつきのみならずその家にも関わって来るのか。
 皆が知っているのに、私が知らない事だと千鶴が頬を膨らませて拗ねる。
 むつきの肩口に顔を埋め、首筋にでも噛みつこうかと思ったところである事に気づいた。

「あの、院長先生……」
「あら、もう良いのかしら?」

 むつきの腕の中で必死に振り返ろうと首を曲げるも、その姿を見る事は叶わなかった。
 しかしからかいの成分のない純粋な問いかけに、まだ足りないとむつきを抱きしめ直すか迷う。
 最終的にむつきの腕の中におさまることを選んだ千鶴の代わりに、むつきが言葉にした。

「あー……院長先生、以前から察してはいたかもしれませんが」
「ええ、知っていましたとも。多少、たきつけた事もありますし」
「たきつけた?」
「いえいえ、なんでもありませんとも」

 むつきと千鶴を孤児院の倉庫に二人きりになる様に閉じ込めた事である。
 もちろん、それを知っているのは当人と千鶴の二人だけであった。

「俺と千鶴は教師と生徒ですが……できればこのことは見逃しては貰えないでしょうか? 千鶴、ほんの少しだけ待ってくれ」

 名残惜しげにする千鶴を宥め、一度抱き合うのを止めてむつきは院長先生へと頭を下げた。
 これには幸せ満開だった千鶴もハッと我に返る様に、むつきにならって頭を下げる。
 もちろん、勝算あってこそのお願いであったが、次の院長先生の言葉に血の気が引いた。

「さあ、どうしましょう」

 思わず下げた頭をあげて、そう楽し気に呟いた院長先生を凝視してしまった。

「そうね。では、こうしましょうか。千鶴さんも乙姫さんも、お互いに我がままを言い合って、受け入れ合って、幸せな恋人であり続けられるのなら見逃しましょう」
「それはもちろん、お約束します。千鶴の我がままをたくさん聞いて、俺も我がままをたくさん言います」
「院長先生、ありがとうございます」
「それでももし、なにか嫌になることがあればまたここに泣きにいらっしゃい。乙姫さんが迎えに来るまでは、匿ってあげるわ。どうにも乙姫さんはモテそうだから、時々はヤキモキさせてあげなさい」

 この人は千鶴のみならず、むつきの周囲にいる女の子たちの影でも見えているのか。
 千鶴は少し微笑んでからはいと答えたが、むつきは曖昧に笑うことしかできないでいた。
 それにしてもと、ふとむつきは思った。
 千鶴が孤児院に足蹴く通っていたのは、何も子供好きだったからだけではないのかもしれないと。

(案外、院長先生に理想の親の影を見てたのかもな)

 もちろん、あえて根掘り葉掘り聞くような事柄ではなかった。
 千鶴自身が無自覚かもしれないし、大事なのはそこではない。
 むつき以外にも我がままを言える相手、頼れる相手がいる事は悪いことではないのだから。









-後書き-
ども、えなりんです。

今回のお話は、むつきと千鶴というより千鶴と院長先生が主。
千鶴が子供らしく我がままを言える相手は、他にもいたよと。
千鶴がそのことに全く気付いていない点も、またむつきと違う点でしょう。

ちなみに、千鶴が実家を毛嫌いしてる理由は特に考えてません。
お話の流れ的に、なんとなくそうなっただけで。
沖縄で落とし穴に落ちた時にチラッと書いたかもしれませんが。
ちみつな設定という奴です。

それでは次回ようやっと千鶴の本番回です。
なんだかんだで千鶴も長かった……



[36639] 第百三十八話 頑張ってこの子を育てます
Name: えなりん◆e5937168 ID:0c56a689
Date: 2016/07/16 20:24

第百三十八話 頑張ってこの子を育てます

「ごめん、ちづ姉……電話が遠くて良く聞こえなかったみたい。なんだって?」

 聞こえていて、あえて効き直してきている。
 携帯電話の向こう側から帰って来た村上の声色に、千鶴は背中に嫌な汗が噴き出るのを感じた。
 院長先生の前でむつきとイチャイチャし、孤児院を辞したのは既に三十分以上前のことだ。
 今、千鶴はとある場所から、心配かけた妹分へと電話を掛けている。
 無事を伝え一時は安堵した妹分の声が、話を続けるうちに次第に低く固いものになっていったのであった。

「だからね。今、乙姫先生の家にいるの」
「うん、ひかげ荘ってところだね。それで」
「夏美ちゃん、声が怖いわよ」
「それで?」

 下手に和ませようと甘えた声を出してみたが、見事に逆効果であった。

「えっと、帰るのが少し遅くなります。お夕飯前には帰るつもりだけれど」
「ちづ姉、私そろそろ怒って良い? 心配し過ぎてパニック起こした私に言う台詞がそれ?」
「心配かけたのは謝るわ。ごめんなさい、夏美ちゃん。でもやっと想いを遂げられて、このまま先生とお別れしたくないの。少しだけ、ほんの少しだけだから」
「昨日のピクニックから帰る途中なら、素直に応援したけど……ちづ姉、先生に変って。文句はそっちに言うから」
「せ、先生は今、別の電話中で出られないわ」

 言い訳がましく聞こえたのか、村上から沈黙が返りお願い信じてと千鶴は訴えた。
 本当にむつきは別の電話の対応中なのである。
 このままでは妹分からの信頼がガラガラと崩れてしまう。
 千鶴は祈る様な面持ちで携帯電話をむつきの方へと向けた。

「ええ、無事に保護しました。色々と実家と進路の兼ね合いで悩んでいたみたいで」
「那波君の実家……ああ、そうか。その様な素振りも見せず、ため込んでしまったのか」
「表面上は少し落ち着きましたが、もう少し僕の方でも話を聞いてみます」
「そうだな、こちらの事は任せておきたまえ。君はしっかりと那波君の話を聞いてあげなさい」
「はい、ありがとうございます。那波を寮に送り届けたら、また連絡します」

 上司とも言える新田にそう報告し、むつきは携帯電話を切った。
 今回の千鶴の失踪に当たり、むつきから報告を上げた相手が新田だったのである。
 無闇に情報を拡散して混乱を引き起こすわけにもいかず、かと言って全く報告しないわけにもいかない。
 新田から何処まで情報が上がったかはむつきは知らない。
 ただ孤児院にて千鶴が見つからなかったら、手すきの教師を全員かき集める予定ではあった。
 携帯電話を切ってから、むつきは学校の方角へと向いてぺこりと頭を下げた。

「あの先生、夏美ちゃんが」
「説得失敗か。貸してみろ。おーい、村上」
「聞こえてた。嘘つき……はあ、微妙な間で毒気もぬけちゃった」

 聞こえていたとは、むつきと新田とのやり取りの事であろう。
 色々と気が抜けたような疲れたような声が携帯電話の向こうから届いて来ていた。

「ちづ姉を見つけてくれたのは先生だし、私が慌てて孤児院の事を思い出せなかったし。ここは私が折れとくね。ちづ姉には学食で特製のパフェ奢ってくれることで手を打つって伝えておいて」
「お前、なんかこの数日でちょっと大人になったな」
「とってつけた様に、誰のせいだと思ってるの」

 盛大なため息の後にごゆっくりと呟いた村上が向こうから携帯電話を切った。
 ブチリとやや乱暴気味に切られたが、その気持ちは分からなくもない。
 寮の部屋にいるはずの那波が、帰ってみればもぬけの殻。
 半泣きでむつきに連絡を取り、無事見つかったのは良いがその千鶴は男の部屋になだれ込んでいた。
 しかも流れ的に二人が何の目的でかは、まだまだ乙女を失う予定のない村上にだってわかる。
 妙な事を考えていなければと思った相手が、全然別の意味で妙な事を考えていたともなれば怒りたくもなるだろう。

「千鶴、村上が学食のパフェで手を打つってさ」
「ああ、私の可愛い夏美ちゃんが汚れてしまったわ」
「まあ、汚したのは俺とお前だけどな」
「ですね」

 二人がいるのはひかげ荘の管理人室であった。
 ちゃぶ台の前でむつきが胡坐をかき、その斜め後ろで千鶴が女の子座りをしている。
 電話を終えた後の微妙な間の後で、さてと呟いたむつきがおもむろに両手を叩く。
 その音にビクリと千鶴が肩を震わせた。

「ん、悪い驚かせたか?」

 むつきの言葉に無言のまま首を激しく横に振ったのには理由がる。
 千鶴は視界の片隅に見えるとあるモノを意識してチラチラ見ていたからだ。
 それは管理人室の片隅にて畳み込まれていたお布団であった。
 三つに折り曲げられたその裾からは、皺になっているシーツがはみ出している。
 普段なら一晩で汚れるので取り換えるが、昨晩は夫婦の営みがなかったのでそのままなのだろう。
 頬を染め視線を彷徨わせる千鶴だが、隠したつもりの事実はあっさりとバレていた。

「慌てんなって。時間はまだたっぷりあるんだから」
「だから何も見てません。見てないんです」

 あまりにも千鶴が必死に否定するので、悪戯心がむくむくと大きくなった。
 視線を逸らしている千鶴を半眼で見つめながら、おもむろにむつきは呟いた。

「セッ」
「ンッ?!」
「なかが痒いな」

 むつきへと振り向き直した千鶴が、ぽりぽりと背中を掻く様を見て明らかにホッとした様子だった。

「あー、セック」
「ヒャゥッ」
「なワインが飲んでみたいな」

 とりあえず、セッから始まる単語を呟き、継続してみる。
 以前アタナシアがワインの口当たりについてうん蓄垂れていた時に、聞いた言葉だが意味は忘れた。
 今はただただ千鶴がセックスを意識して戸惑う可愛らしい姿が堪能できれば良いのだ。
 しかし流石に二回目ともなれば、からかっていたことがバレてしまった様だ。
 あたふたしていた千鶴がからかわれていた事に気づき、ニッコリと危険色の様な影を顔に浮かべた。

「先生、乙女の純情を弄んで楽しいですか?」
「正直に言って楽しい。男の子って歳でもないが、どういう生き物か良く知ってるだろ?」
「それは……その、はい。そんなに楽しいのなら。もう少し、もう少しだけなら、どうぞ」
「どうぞってお前、可愛い!」

 怒っている振りをしてそっぽを向きながらの一言に、むつきは我慢できなかった。
 畳の上で尻を回転させて千鶴の方へと向き直り、飛びつく様に抱きしめた。
 本当にこの子は外見に内面が追いついていない、可愛い女の子なのだと。

「きゃっ」

 突然むつきが振り向いた事に驚いた事と、その勢いに気圧されて千鶴が後ろに倒れ込んだ。
 もちろん、抱きしめたむつきの腕にガードされていて頭を打ったりすることもなかった。
 最後にそっと畳の上に寝かせられ、壁どんならぬ床どんの形でむつきに見おろされる。

「千鶴、からかうだけじゃ足りない。俺のモノにしたい」
「は、はひ」

 またしても大事なところで千鶴が噛んだが、むつきの方が勢いでそれを無視した。

「一杯エッチなことするぞ。これよりもっと恥ずかしいことをだ」

 こういうことだぞと言い聞かせるように、むつきは人差し指で千鶴の胸を突いた。
 秋も深まり制服のシャツの上からベストを着ても、着痩せのきの字もない胸をだ。
 今にもボタンがはち切れそうなのにむつきの指で調和を乱され、シャツの生地が悲鳴を上げる。
 ただ小さくも声をあげたのは生地のみではなかった。

「んぅ」

 真っ直ぐに見下ろしてくるむつきの視線から逃れる様に、少し視線を逸らした千鶴である。
 自身の艶っぽい声に自分で驚いたのか、唇を噛み締めるようにしていた。
 その目が少し動いてチラリとむつきを見て、再びサッとそらされる。
 むつきの熱い視線に熱せられたかの様に、千鶴の顔が少しずつ赤くなっていく。
 数十秒か、数分か。
 根気良く待つむつきの前で、何か言おうと開いた口はそのまま閉じられ一度だけ千鶴が頷いた。

「千鶴、キスするぞ」

 もはや声を発する余裕すらないらしく、千鶴は小さく頷くにとどめていた。
 緊張から体が強張ったのか、あるいは手を握りしめようとでもしたのか。
 千鶴がガリガリと畳の上に爪を立てる音が聞こえてきたが、むつきはその程度では止めるつもりもない。

「千鶴」

 その名を呼び、火照り薄ら汗さえ浮かべる千鶴の頬に手を触れ、退路を断つように唇を塞いだ。
 キスをしながら強く瞳を閉じている千鶴を見つめたむつきは、そのままそっと小さく距離を開けた。

(何時もなら、そのままディープにするんだけど……)

 今の千鶴にそこまですると、窒息するまで息を止めかねない。
 終わったとでも聞きたそうにチラリと片目を開けた千鶴に微笑みかけ、チュッと頬にキスをする。
 ファーストキスの後に、お休みのキスの様なものをされキョトンとしていた。
 もっと過激なキスになるとでも想像していたのか、肩の力が少し抜けたのをむつきは見逃さなかった。

「こっちのほっぺも、おでこも」

 頬から頬へ、前髪をあげさせおでこにも。
 耳たぶやうなじにまで、慣れさせるように優しいが微エロなキスを繰り返す。

「先生、待っ……きゃぅ、耳に音の残響が。顔中に先生の感触が」
「一杯エッチなことするって言ったろ。はい、駄目。捕まえた」
「んぅー」

 キスの嵐に耐え切れず千鶴が意味不明な訴えを起こしたが、もちろん聞く耳を持たない。
 先んじて暴れ出しそうだった両手を恋人繋ぎで封じ、万歳をさせるように畳の上に押さえつける。
 それから安心して、今一度千鶴の唇を奪い直し、キスを降らし始めた。
 頬やおでこはもちろん、首筋や耳元ですら序の口。
 まぶたの上や喉の上など、普段なかなかキスしない場所にさえ率先してキスを施していった。
 最初は抵抗するように暴れた千鶴であったがキスが十回を超えた辺りから大人しくなっていた。

「天井、染み数え」
「それも駄目」
「先生どいてください。天井が、見えひゃ」
「天井なんかより、俺を見てろ」

 誰が吹き込んだのか古臭い台詞を呟き天井を見上げた千鶴の視線を遮った。
 ついに本当に抵抗を諦めた様に力が抜けた千鶴の唇を何度目だろうか、塞いだ。

「ん、先生……ッ?!」

 改めて千鶴の唇を割って舌を彼女の中へと侵入させる。
 一瞬体が強張り直そうとしたが、散々抵抗の無意味さを教えたおかげか以外に大人しかった。

(しかし、なんだろ)

 千鶴の熟れた唇や、艶めかしい舌や唾液を味わいながらむつきは思った。
 お互いに納得済みでこうしているはずなのに、妙に無理やり手籠めにしている感じがある。
 行為の最中に上の空なのは失礼な話だが、奥に引っ込んだ千鶴の舌をからめとりながら気づいた。
 こうして押さえつける形でしている事よりも、千鶴が制服姿なせいだろう。
 むつきはあれだけ生徒を手籠めにしながら、意外と制服でプレイすることが少なかった。
 基本的には土日が多く、平日に学校でセックスに至る事は本当に稀なのだ。

(俺も変な所で慣れてたのか。千鶴と、生徒としてるって実感が凄いあるのかも)

 疑問が氷解したのでこれで思い残すことなく千鶴を味わえる。
 その唇を、口内、歯を舌や唾液と隅々にまでだ。
 むつきが満足して唇を話した時には、千鶴は脱力してくてりと横たわっている。
 そんな千鶴を改めてむつきは見下ろした。

「せ、先生……」

 千鶴は心が体の成長に追いつこうとしているように、男に媚びた声と瞳を向けて来ていた。
 静かにあれる呼吸はその大きな胸を重そうに上下させている。
 暴れた時についにボタンが耐え切れなかったのか一つ千切れ飛んで無くなっていた。
 その隙間から薄紅色に黒のレースがついたブラジャーが垣間見えている。
 またシャツの裾が一部飛び出しているスカートはめくれ、太ももがぎりぎりの部分まで露出していた。

(あかん、凄くエロい。明日、学校で会ったら思い出す。廊下ですれ違っただけでも、授業中でさえ)

 ここ最近、千鶴が年相応の恋愛下手な所ばかり見ていたから忘れていたが。
 この子は元々は、クラスでも随一の巨乳であり、年齢に見合わぬ色香を持つ子であった。
 むつきのせいで最近それが封印され、そして今またむつきのせいで開放されていた。

(落ち着け、俺が慌ててどうする。今まで一体何人の……いやいや、思い出すな。少なくとも今は)

 思わず千鶴を前にこれまでの女性遍歴を思い出しかけ、軽く被りを振った。
 そして深呼吸して自分を落ち着けさせ、ボタンが弾けとんだシャツの中に両手の指を滑り込ませた。
 一つ一つボタンを外す暇さえ惜しいと、軽く力を入れてブチブチと強引にボタンを外していく。
 現れたのは狭苦しいシャツから解放された千鶴の胸であった。
 薄紅色と黒というコントラストで可愛さとエロさを重ね合わせたブラジャーに保護されている。
 しかしむつきの目からは、二つの胸が苦しい助けてともがいているようにも見えた。
 解放せねば、そんな使命感に駆られて千鶴の体を少し持ち上げて背中に手を伸ばす。

「先生、もう少し」
「大丈夫分かってる。ほら、な?」
「はい」

 綺麗にブラジャーのホックを外して、手探りしていたむつきを案じた千鶴に笑いかけた。
 それで安心したというのも変だが、千鶴は全てをむつきに預ける事に決めたようだ。
 ホックを外され緩んだブラジャーに手を掛けても、羞恥に頬を染めても強張る様な事はなかった。
 そんな千鶴を前にしてむつきはブラジャーを上にずらしていく。
 すると僅かな引っ掛かりを感じて、その手が止まる。

「ぁっ……」

 千鶴のぷっくりと膨れた乳首が、最後の抵抗とでも言う様にブラジャーの生地に引っかかっていた。
 気付いた千鶴は恥ずかしいどころではない。
 覚悟を何度決めても体が抵抗したか、はたまた単純に自分の性的興奮を見せつけられたような。

「本当、お前は可愛いな」
「やっ、だめ」

 愛い奴めと、勃起した乳首を指先で撫でる様に弄ぶ。

「先生に、触ら……ち、乳く、クリクリしないでください」
「しょうがないな」

 触れられるだけでも恥ずかしいのにと言いたげな弱々しい千鶴の言葉を受け入れる。
 ただし素直に受け入れるかどうかは別だ。
 そんなに脱がせられたくないのならと、ブラジャーの上から構わず自己主張する乳首に吸い付いた。
 乳首に吸い付くだけのつもりが、そのまま勢い余って千鶴の胸の中に突っ伏してしまった。
 あまりの巨乳に距離感を誤ったか、千鶴の柔らかさと体臭に包み込まれる。
 別に良いかと、そのままミルクを吸う様にはむはむと甘噛みを続けた。

「痛っ、くは……ぁっ、吸われて。お乳、先生に吸われて」
「普通は大きくする為に揉むんだけど、少し萎むぐらいまで俺がミルク飲んでやるからな」
「出ません。お乳張ってますけど、まだ出ないんです」
「心配するな。直ぐにでるようにしてやるからな」

 嫌々と被りを振る千鶴に、暗に妊娠をほのめかす。
 もちろん、むつきとて今直ぐにというわけではなく数年先のことだが、効果はてきめんだった。

「先生、どうぞ」

 乳首に引っかかっていたブラジャーの布地を指先で引っ張り、勃起した乳首までさらす。
 改めてむつきの目の前に現れたのは、自重で楕円に潰れた白い二つの乳房。
 薄紅色に色濃く染まった丸い乳輪とその中央にて自己主張する湿り気を帯びた乳首。
 千鶴の浅く速い呼吸に合せるように、ふるふると震えていた。
 千鶴の顔見知りや、すれ違い様にその巨乳を見た何人の男たちがこれをみたいと思ったことか。
 むつきだけに見る事はおろか触れる事さえ許された慈母の象徴である。

「いただきます」
「め、召し上んっ」

 意外な台詞は単純に切羽詰って口走ってしまっただけだろう。
 乳首を口に含まれキュッと吸い付かれて、中途半端に言葉が途切れてしまっていた。
 しかし聞いた、ちゃんと聞いたからとむつきは遠慮なく千鶴の今はまだ出ないお乳を吸った。
 甘噛みや舌で転がしたりせず純粋に、赤子がお乳を飲む様に一心不乱にだ。

「先生……」

 そこに不純さを感じず、いつの間にか自由になっていた両腕を千鶴がむつきの後頭部に回した。
 短く刈られた頭髪をくすぐったいと感じながら頭を撫でる。

「美味しいですか?」
「ん」
「左だけじゃなくて、右のお乳もありますよ」
「ん」

 促されるようにむつきは左の乳房を名残惜し気に口から離し、右の乳房へと口先を向けた。
 まだ濡れていない乳首を舌先で蒸らす様に舐め、硬くしこったそれを唇で挟み込んだ。
 お乳お乳と赤子が強請る様にである。

「ごめんなさい、まだ出ないんです。出る様になるまで、出る様に……」

 むつきと同じぐらい夢中になって呟いた自分の言葉で千鶴はほんの少しだけ我に返った。
 今まさにそうなる為の行為をしているはずだが、さらにその先の実感とでもいうのか。
 妊娠という事実が目の前に現れ、そして自分でしても良いかもと思ってしまったのだ。
 いずれ生まれてくる子供の為ではなく、それが出る様になったらこうしてむつきに飲んでもらいたいと。

(私、なんていやらしい。赤ちゃんの為じゃなく、先生の為に妊娠したいって、お乳が出る様になりたいって。いやらしい、いやらしい、いやらしい!)

 以前は、周囲から性的な視線にさらされ、むしろそういった考えは嫌っていたはずだ。
 何もかも愛という崇高な前提があり、快楽を前提とした営みなんてもってのほかと。

(でも、今は……)

 好きな人に体を差し出すことで、如何に自分が浅はかだったのか、子供だったのか思い知らされた気分だった。
 今のむつきは千鶴だけに心が向いている。
 友人や親友に手を出した世間的にはろくでなしの部類に入る人なのに、夢中になってくれるのが嬉しい。
 もっと自分へと振り向いて欲しい、男から見ていやらしい体に生まれた事を今は感謝できるぐらいに。

「先生、もっと。好きにしてください、何をされても。先生になら」
「良いのか、本当に凄いことするぞ。後で俺の顔をみれなくなっても知らないぞ」
「構いません。に、にん……」

 言え、言ってしまえと千鶴はそれを踏み越えた。

「妊娠しても構いません。先生、お乳が出る様にしてください。出るようになったら、赤ちゃんより先に味見してください。私のお乳を、飲んでください」

 女の子にそこまで言われて耐えきれる男などいない。
 ただでさえ千鶴の歳不相応な色香にまいりかけていたむつきの事である。
 初めてだからなどという遠慮が薄れていく。
 手始めに半端に脱がされていた制服のベストとシャツを引きちぎる様にボタンを外した。
 そのうちの一個がまた千切れ飛んだが、それぐらいに興奮していたとも言える。

「千鶴、優しくするつもりだったけど」
「良いんです。先生がそうしたいのなら、多少乱暴でも……」
「そんな簡単に言うなよ。男は狼なんだぞ」
「狼さん、私は好きです。乙姫むつきという名前の狼さんだけですけれど」

 本当にその言葉を期にむつきも振り切れた。

「千鶴ぅ!」
「きゃっ、ぁぅ!」

 咄嗟に彼女を抱き上げ、部屋の隅にて畳まれていた布団にまで連れて行く。
 広げる事はせずその場に座らせ、背中を布団に預けさせたのが最後の優しさだった。
 千鶴の胸の谷間に顔を埋めて自ら窒息死しそうになりながら、谷底にキスマークをつける。
 痛みを訴える様に千鶴の体が震えたが、もう止れないぐらいに興奮してしまっていた。

「先生、大丈夫ですから」

 さらに千鶴から抱え込む様に抱きしめられ、免罪符まで与えられてしまう始末である。
 ブレーキは元から踏む気がなく、例え踏んでも千鶴がブレーキオイルを抜いた二段構えだ。

「千鶴」
「先生」

 千鶴の谷間から顔を引っこ抜き、畳まれた布団に押し倒す様に伸し掛かる。
 そして隈なく千鶴を味わおうと唇を塞ぎ、左手で胸を揉み、空いた右手がその体を滑り落ちていく。
 乳房から唾液に塗れた乳首へ、お山を下りては肉付きの良いくびれを渡ってスカートへ辿り着く。
 互いに舌を絡ませ舐り合いながら視線が通い合った。
 瞳で合図を送られ、むつきはむっちりとした太ももを撫でながらスカートの奥へと手を伸ばした。

「んっ」

 手探りする指先で千鶴の肌とはまた別種の滑らかさを持つパンツの布地に行き当たる。
 指の動きが布越しに分かるのだろう、千鶴の瞳が涙を浮かべる様に潤んで揺れていた。
 肌と一体化したような滑らかさに交じる雑音の様なそれは、陰毛だろう。
 指の腹を往復させ、その存在を確かめ、また確かめていることを千鶴に知らせる。

「先生、もっと奥です」
「知ってる」
「いじわる」

 じょりじょりと陰毛同士を絡ませるように指で味わっていると、恥ずかし過ぎたのだろう。
 千鶴がむつきの手を取り、ここですと自ら案内した。
 先程まで陰毛の感触を味わっていた指先に伝わった感触は二つ。
 滑らかな肌と布地の間に突如として現れた谷間と周囲に広がる湿り気である。

「何も、何も言わないでください」

 むつきの腕を案内して直ぐに、千鶴はその両手で顔を覆ってしまった。
 千鶴がそう願うのならば、むつきは何も言うつもりはない。
 無粋に言葉を重ねて言う必要すらなかった。
 パンツの上に湿り気を広げる様に谷間に沿って二、三度指を這わせてから指を鍵爪状にする。
 肌にぴったりと寄り添うその生地との間に滑り込ませ、ブラジャーをたくし上げた時の様に寄せた。

「ぁっ、ぁぁっ……ふぁっ」

 スカートの奥で外気に晒された谷間の中に、むつきの指先が埋もれていく。
 指ぐらいならば余裕で飲みこまれるぐらいには濡れていたのだ。
 唇の様に分厚い大陰唇が舐る様に、その奥の膣口がさらに奥へとむつきの指を誘おうとする。
 しかしむつきは膣口には第一関節分だけ含ませ、馴染ませるように挿入を繰り返した。
 未通の千鶴の穴をほぐす意味もあったが、主目的はまた別にあった。
 千鶴のお願い通りにむつきが口を閉ざし、静まり返った管理人室内にその音が響き渡る。
 にちゃにちゃ、粘り気のある水音が千鶴の下半身、スカートの奥から絶えず鳴っていた。

「音を、先生……音を、ぁっ。そんな知らない、こんなの」
「知らないって、オナニーで指ぐらい」
「したことないんです。いやらし事を避けてたから、したことないんです!」
「えっ、あっ」
「ひゃぅっ!」

 千鶴の告白にまさかと驚き、思わず第二関節までずっぷりいってしまった。

「ぁっ……ぁぅ、いっ」

 だがそれだけで千鶴は軽く果ててしまったらしい。
 言葉にならないうわ言を洩らし、恐らくは初めての快感に頬を染めて酔い痴れている。
 元々潤っていた膣の奥からも新たな愛液がとろりと染みだし、むつきの手までもを濡らしてきていた。

「先生ぇ……」
「千鶴」

 愛液塗れではない左手で半ば放心中の千鶴を撫で、右手でスーツのズボンのベルトを外し始める。
 パンツごとズボンを降ろし、力が殆ど入っていない彼女の両足を抱え込んだ。
 背中は布団に抱き留められ、お尻も浮いているので畳で擦れたりはしないだろう。
 早くしろと急かす一物の先で寄れたパンツをずらし直し、割れ目にそっと添えた。

「入れるぞ」
「はい」

 流石に怖かったのか、千鶴がむつきの腕を掴んで来ていた。
 背中まで腕を伸ばす余裕がなかったのだろうが、むつきはそのまま全体重を掛ける様に伸し掛かった。
 布団に包まれ伸し掛かられた千鶴の中に、むつきの一物が強引にかき分けるように入り込んだ。
 ブチリと引きちぎれる感触のあとも乙女の割にはスムーズであった。
 それだけ千鶴の体は十分に孕める程に成長していたのだろう。
 どうぞどうぞと向こうから歓迎するように、むつきの一物を奥まで飲みこみ切ってしまう。

「い、痛い」
「大丈夫か?」
「少し、ほんの少し痛かっただけですから。でも、もう少しだけこのままで」

 二人の視界では確認する事もままならないが、破瓜の証が布団に落ちているのだろう。
 彼女が感じる痛みが、体の震えを通してむつきにも十分に伝わって来ていた。
 それが少しでも和らぐように、千鶴が痛みに瞳を閉じたり震える度にキスで慰める。
 さながらその様子は傷を舐めて治す動物のごとくだ。
 やっていることは原始からの行いである交尾なのだから、間違ってはいないのだが。

「んっ、先生……もう、動かれても大丈夫です。慣れてきました」
「そうか? もう少し、大丈夫だぞ。まだ俺を追い出そうって締め付けてる」
「先生こそ。私の中で凄くビクビクして……ふふ、体の繋がりで心が繋がる事もあるんですね」
「好きな人となら、いやらしいことも悪くないだろ?」
「好きな人とだから、癖になってしまいそうで。責任、とってくださいね」

 もちろんと呟き、千鶴の膣の圧力に押されるようにむつきはゆっくりと腰を引いた。
 痛みと快感の二重の刺激にうねる膣の動きを味わい、一物のカリ首で引っかきながら。

「だめ、抜かないで」
「違うよ、こうする。ため」
「あん」

 むつきが腰を引くたびに押し寄せる喪失感に千鶴が泣きそうな声で訴えたが、否定すると同時に突いた。
 少しだけ深く膣を抉り、肌と肌がぶつかり愛液が飛散する。
 先程は破瓜の痛みで味わい切れなかった挿入による快楽が襲い掛かった。
 オナニーすら未経験の千鶴にとっては太過ぎる挿入物だ。
 内臓全てが押し上げられるような苦しさと言葉では言い表せ切れぬ甘美な快感に艶っぽく歌ってしまう。

「続けるぞ」
「は、はい」

 大丈夫かと顔を覗き込まれ、頷きながらも千鶴はしっかりとむつきに抱き付く。
 腕だけでは離れてしまいそうで背中にまで手を伸ばし爪を立て、足はむつきの腰に回されていた。
 二度と離れたくないという意思表示の様に、限りなく密着しながら突かれ艶声をあげる。

「ぁっ、んぅ……先生、気持ち。良いです。ひゃぅ、おちんちん。こんないやらしい使い方をするモノがあの子たちにもついてるなんて」
「こうら、千鶴は俺のおちんちんの事だけ考えてれば良いんだ。強制的にそうしてやろうか? ほら、今千鶴がいやらしく咥え込んでるのは誰のおちんちんだ」
「やぅ、激しっ。ごめんなさい、先生だけ。先生のおちんちんだけです。千鶴はいやらしい下のお口で先生のおちんちんを咥え込んで。あぅ、ああッ!」

 流石に嫉妬した振りで、千鶴を攻め立てる為の口実に過ぎない。
 しかし初心な千鶴にそれがわかるわけもなく、おちんちんと繰り返し叫ぶのがより劣情を誘う。

「はぁッ、大きく。まだ大きくなるんですか?!」
「なるにはなるが、出そうなんだ。射精するぞ、千鶴の一番奥に。赤ちゃんの部屋に」
「はい、出してください。ふぁっ、好きなだけ。お乳が出る様に、妊娠させてください」
「出すぞ、妊娠させるぞ。千鶴を立派な人妻に、俺の妻に!」
「出して、先生のお嫁さんに!」
「千鶴ゥ!」

 お互いこれ以上ないぐらいに抱きしめあい、腰を密着させ合う。
 膣の一番深い場所にまで挿入されたむつきの一物が、子宮の入り口からありったけを吐き出した。
 濃厚な雄汁を塊ごとにドクンドクンと体を震わせながら流し込む。
 流し込まれる側の千鶴も呼吸を合わせる様に子宮の中でそれを受け止めたっぷりと蓄える。
 雄に支配される本能的な幸福感に満たされながら、次世代を孕む為にしっかりとむつきを掴み咥え込んで放さない。

「分かるか、千鶴」
「はい、私の中に先生の……精、子だ……えっと」
「呼び方は何でも良い。これでもう直ぐ千鶴もお母さんだ」
「私と先生の、んぅ」

 最後の一絞りまで吐き出され、二人の体の震えは一度はおさまった。
 行為の後の気だるさと互いの精臭に包まれ、キスや頬ずりで原始に返る。

「んっ、先生、私……頑張ってこの子を育てます。学業との両立は大変ですけれど。この子に胸を張れるように、頑張って」
「ちょ、ちょと待て。ん?」

 まだむつきが入り込んでいるお腹を撫でながらの千鶴の台詞にむつきの目が点となった。

「いやいや、俺の子供を産んで欲しいのは本心だけど。最低でも高校を卒業してからだぞ?」
「え、でも妊娠しろって言いましたよね?」
「千鶴、冷静になれ。流石に今直ぐは駄目だろ。俺が国家権力に正しく捕まっちまう。せめて堂々と出来るまでは我慢してくれ。絶対に責任はとるから!」
「あれ、え……」

 当たり前の事を当たり前に説明しているつもりが、何やら千鶴の様子がおかしい。
 妊娠しろって言ったじゃないかとヒステリックにならない辺り、まだ冷静ではあるのだろうが。
 お腹を軽く揺らしてたぽんと中に注がれたモノを感じて、さっと血の気を引かせる。
 思い切り中出しされている、むつきの精子、子種、男汁を。
 ギギギと油の切れたブリキ人形の様に首を動かし、半笑いで千鶴は告白した。

「あの、先生……私、超さんから頂いた避妊薬を飲んでないんですけど」
「え?」
「先生とはもう駄目になったと自暴自棄になっていたので」

 一瞬何を言われたのか理解しきれず、何故か意志に半身てまだ玉袋に残っていた搾りかすが注がれた。

「わー、ちょっと洒落にならん。てっきり飲んでるもんとばかり。抜く、今抜くから」
「抜かないで、まだ。もう少しだけ。どうせもう手遅れですし」
「そうだけど、その通りだけど。処置は早くしないと」
「いやです、先生との初めての。私の我がままを聞いてください」
「こら、しがみ付くんじゃありません。腰から足を外し、暴れるな中がうねって。うっ……毎日毎日どんだけ生成してんだ、俺の下半身は!」

 千鶴が暴れしがみ付き、うねうねとうねった膣に誘惑されまた出てしまった。
 頭で考えている事と下半身の行動がちぐはぐで、むつきは少し泣きたくなって来た。
 一先ずむつきは大声でいるであろう茶々丸の妹を呼びつけ、小鈴を呼んで貰う事にした。
 彼女が授業を抜け出し現れるまでに、何回搾り取られたかはむつきではなく千鶴の名誉の為に伏せておく。









-後書き-
ども、えなりんです。
千鶴回もようやくの幕引きです。

ちょっと、千鶴が舞い上がり過ぎですけれどね。
たぶん落ち着いてから、妊娠発現を思い出してベッドでゴロゴロすることになります。
あと千鶴よりも夏美の方が黒くなりそう。
若干やさぐれているので小太郎の出番ですね。

では次回は未定です。
ストック切れたので本当に。



[36639] 第百三十九話 悪戯にしちゃあ、人数多いな
Name: えなりん◆e5937168 ID:571ecf7b
Date: 2019/04/27 22:19
第百三十九話 悪戯にしちゃあ、人数多いな

「ご心配をおかけしました」

 教卓の横に立った千鶴が、目の前のクラスメイト達に向けて深く頭を下げた。
 千鶴が学校をサボって失踪した件は、村上を通してクラスメイト達にも伝わっていたのだ。
 ただしその謝罪を受ける側に、何事もなくて良かったと胸をなでおろす子がほとんどいなかった。
 二-Aの子たちが、千鶴に冷たいわけではない。
 それにはちゃんとした理由があった。

「もう大丈夫ですから」

 下げた頭を持ち上げ、改めてそう言った千鶴を見て大半の子が察したのだ。

(ぁっ……ガッツリ、ヤッて来た)

 悩みなんて一つもありませんよという千鶴の笑顔が、その肌がツヤツヤしていたのである。
 少女としては持て余し過ぎた体も、女として満たされた今、はち切れそうなほどに充実していた。
 ブラウスの胸元など、ボタンが今にも二、三個弾け飛びそうな程だ。
 時折、破瓜の痛みか忘れられぬ肉棒の感覚、はたまた注がれた精液に反応して体を僅かに震わせる。
 どれもたまらないと唇から艶めかしい吐息を漏らし、視線が誰かさんにちらりと注がれていた。
 今からでも、皆の前で愛の証を注ぎ込んで下さいと熱望するように。
 千鶴のそんな佇まいは、男を知らない乙女にさえ影響が出る程であった。

(ちづる、なんかエッチだよ)
(ちづ姉がなんかエロい)
(魔法でエロ催眠でもかけられた?)
(私ももう少しおっばい大きくなりたい)

 鳴滝姉妹の風香に史伽、春日といった面々。
 最後の神楽坂は、聞く人が聞けばふざけるなと怒られる事だろう。
 そしてもう一人、ある意味で二-Aの問題児ながら肉体的には清い者が両手で机を叩いた。
 突然のしかもかなり大きい音が鳴り、教室中の視線が立ち上がった早乙女に集まった。

「わ、私は何回……次はど、どこから。いつ襲ってくるんだ。私のそばに近寄るなぁ!」
「パ、パル?」

 半狂乱になって髪を掻きむしる姿に、流石の夕映も突っ込みより心配が先立つ。

「誰がどう見ても、乙姫先生に恋してるのよ。那波さん、のどか。アキラにくーちゃん、桜子……なのに何故、ラブ臭を感じないの?! 元から存在しない、違う。ラブ臭はありまぁす!」

 ラブ臭なるものの存在の有無はさておき、早乙女の主張に周りは素直に関心するしかなかった。
 早乙女のいうラブ臭とは、女子中学生の甘酸っぱい恋によるものと思われる。
 名指しの有無に関わらず、彼女たちは全員がその領域の向こう側にいるのだ。
 少なくとも早乙女はラブ臭を感じないことで、我知らずその事に気づき始めていた。

「明日菜、明日菜ならわかるよね」
「ちょっと、こっちこないで……」

 獣の様な息遣いと、地獄の底から這いあがる亡者の声で右手前の神楽坂に魔の手が伸びる。

「アンタが私の最後の希望……ほら、今すぐ乙姫先生の事を思い浮かべて、そしてオナッ!」
「死ね、今ここで朽ち果てなさい」

 眼鏡を真っ二つにする様に、神楽坂の手刀が早乙女の顔面に叩き込まれた。
 その鋭さに接地面から煙でも上がりそうな威力だったが、早乙女も必死であるらしい。
 そのまま床に沈み込むと思いきや、顔面でとまった手刀を掴み、眼鏡の奥で邪悪に笑う。

「ヒャッ、我慢できねえ実力行使だ。先生、明日菜も恋人候補に立候補したいんだってぇ」
「ギャー、嘘、嘘だから。私、先生のことなんか、きら……」

 まんまと早乙女の策に引っ掛かり、慌てて否定しようとした神楽坂が途中で口ごもる。
 嫌いと言おうとして痛みを感じた胸元に手を添えた。
 言えるわけがないと、切なげに嫌いじゃないもんと小さく声を絞り出す。
 嫌いとも好きとも言ってはいけない二律背反な乙女心である。

「ん、あっ……悪い。那波、終わったか?」

 これまで静かだった当のむつきは、教室右前に設置したパイプ椅子でうつらうつらとしていた。
 千鶴を探して右往左往し、その後で人類の総数に近い命の素を搾り取られたのだから仕方がない。
 正直なところ、かなりお疲れモードであった。

「スーハー、やっぱ明日菜だけに葉っぱがキマるわ。ビターなラブ臭、ごっそさん。でもないわー、先生それはないわー。難聴系主人公は、嫌われるよ?」
「早乙女ぇ、フンッ!」
「グェーッ!」

 一方、やりたい事をやって悦に入っては、ケラケラ笑っていた早乙女にはきちんと天罰が下された。
 神楽坂明日菜という戦乙女の拳が深々と腹に突き刺さり、彼女を九の字に折りたたむ。
 本当にいっそロッカーにでもしまい込みたいと、意識のないまま席に座らせる。
 もちろん、周囲の夕映や美沙、ザジなども座らせるのは手伝っていた。

「まったく、最後の落ちでちゃんと被害者を発散させるまで画策するからなお質が悪いです」
「重い、また一段と肉々しい体になってるわね。中身以外割とむつみさんに似てるのが腹立たしい」
「ではこういたしましょう」

 たまにはきついお仕置きをと、ザジがどこからともなく荒縄を取り出した。
 両足を椅子の上に置くM字開脚で座らせ、縄で縛りあげる。
 流石に机のせいでむつきからは、早乙女の下着等はみえなかったが。

「なにやってんだよ。ザジ、もし他の先生が来たら、即時解いてやってくれ。俺が怒られる」
「先生の性癖的に、この状態でブラはともかく、パンツは没収しない方がよろしいですか?」
「好きにしてくれ、あと那波も席に戻れ」

 ふらふらとパイプ椅子から立ち上がったむつきは、おざなりにそう言うと那波を席に戻らせた。
 現在は六限目のホームルーム中なのだ。
 まずはやるべきことを先に済まさねば、おちおち居眠りもできやしない。
 M字開脚させられた早乙女より、普通に立ってる千鶴の方がエロくねと騒めくクラスを静める。

「はいはい、静かに。今日は体育祭に向けて、各自の出場競技を決めるぞ」

 まだ若干、千鶴の淫靡さにクラスが引きずられながらも、程よい大きさの返事が返ってくる。
 麻帆良は巨大学園都市なので、麻帆良祭のように体育祭も学園都市単位で行われるのだ。
 しかしさすがの麻帆良も全学校が同時に集まりかつ、競い合える広大なグラウンドはない。
 そこで同時多発的に指定の学校のグラウンドで何らかの競技が行われる。
 各学校、各クラスは何時何処の競技に出場すると決めておいて、規定数以上の競技を行う。
 各競技で得た総合得点により、総合優勝や学校優勝などが決められる。

「先生、そこからはこの雪広あやかにお任せあれ」
「悪い、頼んだ。お前らも賑やかは許す、騒ぐのは拳骨な」

 やはり疲れが一目でわかるのか、あやかがバトンタッチしてくれた。
 これまたふらふらと教室右手前のパイプ椅子に戻り、座り込むと大あくびが出てしまった。
 それでも意図して自分から眠り込んだりせずに成り行きはちゃんと見ていた。

「それでは、まずは個人競技を決めてしまいましょうか。団体競技はその後ですわね」

 あやかが喋りながら最前列から回して配ったプログラムを手に教室内が賑やかになり始める。

「チア部としては応援合戦は鉄板よね。長谷川、一緒にやらない?」
「やだよ、ミニスカで踊り狂うとか。私はもっと楽な競技でお茶を濁すよ、借り物競争とか」
「図書館島を使った、本探し競争あるですよ?」
「私に遭難して死ねってか」

 美砂と夕映の誘いをはねのけた千雨が、ぶつぶつ言いながらもプログラム一覧に目を通している。
 個人の出場数に上限はないが、当然ながら下限は設けられているのだ。
 インドア系の千雨にとっては、運要素が絡む競技の方が、手を抜きやすい。

「さよちゃん、今回が初めてでしょ。なにか出たい競技ある?」
「かけっこは苦手ですけど、パン食い競争がちょっと面白そうです」
「さよちゃん、それ辞めた方が良いよ。大口開けて取らなきゃいけないから、女の子の出場ほぼゼロだから。なんなら、私と一緒に二人三脚出る? 背丈同じぐらいだし」
「二人三脚なら、お姉ちゃんと私を忘れないでください」
「なになに呼んだ? 二人三脚で僕ら姉妹に勝てる人はいないよ」

 初参加のさよに和美が話を振り、後ろの席の村上が女子としての諸注意とお誘いをしてくる。
 二人三脚なら双子の出番とばかりに鳴滝妹の史伽が立ち上がり、姉の風香も呼ばれた気がしてと席を立って窓際のさよたちの席へ寄っていった。
 個人競技のみではなく、ペアやグループの競技もあるので次第に皆が席を立ち始めた。
 ざわざわとクラス全体が騒めくが、まだまだ許容範囲であやかも止めようとはしなかった。

「せっちゃーん、私らも二人三脚か、ペアの競技一緒にでえへん?」
「良いですよ、一緒に出ましょう」
「私と美空ちゃんと……楓ちゃん、私たちとリレーでない?」
「承ったでござる。アキラ殿もいかがでござる?」
「うん、良いよ。地上でも結構速いよ私。明日菜、一緒に頑張ろう」

 水泳部のライバル同士が手を組んだり、

「ザジさん、私と一緒に玉転がしなんてどうカ? 先生のではないのが残念ネ」
「まあ、はしたないこと。私は棒倒しが得……間違えました。日本語は難しいですね。改めて、先生の肉棒を加え込むのが得意なんです」
「おやおや、オタマジャクシ競争なら、私も得意なんだが。誰がハニーのオタマジャクシをたくさん絞り上げるか、競争だな」
「何をアホな会話をしている。おい、貴様ら騎馬戦で私の馬になれ」

 極一部で怪しげな会話がもたらされていたが、順次出場競技が絞られていっているようだ。
 やってみたいという基準で参加競技を決めている中で、誰がそれに最初に気づいたのか。
 和気あいあいといったざわめきが次第になりを潜め始め、クラス中の視線がそこに集まった。
 誰一人言葉を発しなくなった静寂の中に小さく響く寝息。
 パイプ椅子に座って腕と足を組んだ格好で寝入ってしまっているむつきである。
 六限目が始まる当初から、疲れているのは目に見えていた。
 幾人かが静かにと口元に人差し指を当てて、邪魔しないでおこうとした時、鳴滝姉の風香の悪戯心に火が付いてしまった。

「皆、ちゅうもーく」

 かすれる様な小さな声でそう言いながら、むつきではなくそのやや後ろの黒板の前に立った。
 手に持ったチョークを黒板に走らせる。
 最初に描いたのは漫画に出てくる吹き出し、吹き出し元のとげはむつきを指していた。
 カッカとそのふきだしの中に、風香が笑いながら言葉を埋めていく。
 書き連ねられる言葉が途中でも、その意図を察して幾人かが噴き出していた。

『やべ、那波がエロ過ぎてボッキした。寝たふりして誤魔化しとこ』

 ぶふぅっと、一人も漏れることなく噴き出した。
 ただ勃起したと書くのではなく、那波の色気を絡ませたリアルさが笑いを後押しする。
 机の一つも叩いて心の衝動を逃がしたいが、今は打ち震えて耐え忍ぶしかない。
 そんな中で両目に涙をにじませながら、次に黒板の前に出て黒板けしとチョークを持ったのは春日だった。
 名残惜しいが鳴滝姉の風香の名言を消し、吹き出しの中に新たに言葉を書き連ねる。

『一晩でオナニー五回だって? 俺は毎日三十二回だ、この野郎』

 腹筋が崩壊するとはこういう状況の事なのだろう。
 しゃっくりが十六連打される様に小刻みに息を吐き続けて、吸うことができない。
 明日菜のオナニーネタのみならず、それ以上の回数としてクラスの人数プラスアルファを持ってきたのが素晴らしい。
 一回余分に抱かれたの誰だよと、お腹がよじれて腸捻転にでもなりそうだ。
 ここで自らのオナニー暴露事件をネタにされ、黙っていられないのが明日菜である。
 どうどうと正面と後ろから抱き着くように止める小鈴と千雨を引きずりながら黒板まで歩いていた。
 慌てて逃げ出した春日は無視して、黒板けしとチョークを手に後ろ半分だけ吹き出しの言葉を消してからチョークを叩きつける。
 
『一晩でオナニー五回だって? 俺はお前を夢の中で』

 途中まで書いてやっぱなしと消そうとしたが、あやかや長瀬も加わって止められた。
 それだけならまだしも、亜子がいらない気をきかせて文章を完成させてしまった。

『一晩でオナニー五回だって? 俺はお前を夢の中で三回抱いたぞ、この野郎』

 完成した吹き出しを前に、茹蛸となった神楽坂はせめてと両手で顔を隠してしゃがみ込んだ。
 ぷるぷる、私はエロくない神楽坂だよとでも言いたげに打ち震えていた。
 もはやオナニー暴露事件以上の、盛大な自爆である。
 恥の上塗りという言葉がこれ以上ふさわしい場面があろうか。
 どうせならと和美がむつきと黒板をフレームに入れて写真を撮っても立ち上がる様子はない。
 しらく立ち上がれなかったのは、他のクラスメイトも同様であった。
 明日菜が三十二回中三回抱かれたなら、逆にはぶられたの誰だよと事件はもはや迷宮入りだ。

「ヒィ、ヒィッ。あー……笑った。桜子、くぎみー」

 さあ次は誰が行くという空気の中で、同じチア部の二人を読んだのは美砂だ。
 こそこそと耳打ちで相談し、拒否反応を見せた釘宮を、明日菜だけ自爆じゃ可哀そうと説き伏せる。 最後には唯一の男であるむつきがそもそも寝ているしと釘宮が折れた。
 相談の後にあやかにも耳打ちしてから、三人が居眠りを続けているむつきの真後ろに並んだ。
 ちょっと趣向を変えてきたと注目が集まる中、一番左の桜子が元気よく右腕を上げて笑顔を振りまく。

『天真爛漫JC』

 むつきの吹き出しとは別に、小さな吹き出しと言葉をあやかが黒板に描く。
 横目でそれを見届けた桜子が、上げた腕とは逆の手でスカートのすそをまくり上げた。
 桜色のパンツをクラスメイトにさらけ出し、恥ずかしそうにペロッと舌を出す。
 次に美沙がウィンク付きのピースサインをしながら、同じくスカートをまくり上げる。
 最近下着に糸目をつけない美沙の勝負下着、黒に近い紫色の大人っぽいものである。

『今ドキッJC』

 最後、一番右にいた釘宮が、しばしの躊躇のあとに女は度胸とばかりに髪を大げさにかき上げる。
 モデルの様に体をよじり、少しだけスカートをまくり、ちら見せであった。
 ちら見せといっても角度や影のせいで殆ど見えず、ノリが悪いぞと声なきブーイングを受けた。
 あやかもちゃっかり打ち合わせ通りにはチョークを走らせず、にっこり笑う始末。
 畜生とばかりに両手でスカートを持ち上げ、赤い素地に黒いフリルと攻撃的な下着をさらす。

『クール?なJC』

 やけくその釘宮を前に、あやかアドリブで一部アレンジを加えて釘宮のタイトルをかき上げた。
 最後に三重奏の吹き出しを書いて、仕上げであった。

『さあ、誰を食べたい?』

 これまでむつきのみだった黒板の吹き出しを、自分たちの声に変えたのである。
 釘宮にとっては大変不本意だろうが、和美が黒板ごと三人とむつきをカメラに収めた。
 狙っていた結果か、フレーム越しに見た光景はAVのパッケージにしか見えない。

「もうちょい、できた。はーい、次うちら」

 次はこっちの出番と小声で自己主張しながら、亜子が私たちと手を挙げる。
 美砂たちとバトンタッチで場所を変わってもらい、アキラ、亜子、佐々木、明石の順で並ぶ。
 ちょっと待ってねと笑った亜子が、最初に自分のスカートの中に両手を入れた。
 躊躇なく膝まで下したのは、彼女自身の水玉パンツであった。
 髪留めのシュシュの様に丸まったそれを膝に引っ掛け、左腕で目線を隠して小さく四角いビニールの袋を加え込んだ。
 続いてアキラもパンツを膝までおろし、亜子と同じように目線を隠してゴムを加える。
 アキラはそれが何かわかっていて咥えたが、佐々木と明石は理解しているのか。

『ホ別ゴム有り三万。生外五万。先生は生中のみ無料』

 四重奏の吹き出しの中にあやかが書き記した言葉がそれだった。
 美沙たちも割と過激だったがさらに過激だと、声なき喝采が贈られる。
 だが重要なのはそこじゃないと、亜子が太ももを強調するように揺らし、空いている右手を添えた。
 なんだなんだと目を凝らしてみれば、それぞれの太ももに文字が描かれているではないか。
 四人とも矢印がスカートの中へ伸びていることは共通しているが、書かれている内容が違う。
 アキラは水泳部、締まり良しと書かれ、亜子は三穴使えます、お尻の具合良し。
 佐々木は新体操部、変則体位OK、明石がバスケ部、汗だックス希望。
 当然その光景も和美がしっかりとカメラに収め、後でむつきの携帯に送る腹積もりであった。

「私らもやるえ」

 亜子たちがパンツを履き直している最中に立候補の手を挙げたのは木乃香だった。
 彼女らと入れ替わる様に刹那の手を引き、のどかと夕映もまた手を繋いでそれに続いた。
 まず木乃香とのどかがパンツを膝どころか、最後まで脱いで目の前の親友に手渡す。
 まだ人肌の温かさが残るそれを刹那は戸惑いながら、夕映は平然と皆の前で広げてみせた。
 木乃香のは白にピンクのリボンとオーソドックスなそれで、のどかのはライムグリーンとホワイトの縞々であった。
 自分のパンツを広げられ少し恥ずかしそうにしながら、木乃香は刹那を、のどかは夕映を後ろから抱きしめる。
 小脇から伸ばした手の平が親友のお腹の上で、ハートに似た子宮を形作った。

『女の子同士じゃ届かない女の幸せを教えて?』

 あやかが四重奏の吹き出しを書き込む中で、ガタッと一際大きな音が教室に鳴り響いた。
 現在ノーパンの木乃香やのどかはもちろんのこと、火遊びに夢中なクラスメイト達もビクッと体を震わせる。
 大きな音、移動の際に足を机にぶつけてしまった葉加瀬はもっと焦っていた。
 あわあわと蹴った机に念力を送り込むような恰好で慌てると、小ぶりな胸がぷるんぷるんと震える。
 彼女だけではない小鈴や古、葉加瀬に五月、ザジといった超包子関係者がほぼ全裸の恰好だった。
 厳密には上半身だけが裸で、下はスカートに超包子の腰下前掛けのエプロン姿。
 彼女たちのそれぞれの机の上に脱ぎ散らかしたブラウスとブラジャーが無造作に置かれていた。
 音に驚いてからそっと振り返った彼女らは、次いでそっと教室の右手前に視線を戻す。
 あれだけの音にも関わらず、不幸中の幸いでむつきはまだ寝たままであった。

「セーフ、ですわ」

 チョークを手に持ったまま、あやかが小声でそう言いながら両手を横に大きく広げた。
 葉加瀬が両手を合わせてごめんなさいをしながら、超包子メンバーが木乃香たちと入れ替わる。
 誰も彼もが冷や汗をかきながら、五月以外はそろいもそろって小ぶりな胸を方腕で強調するように持ち上げた。

『超包子の裏メニュー、乙女のダブル肉まん。試食はいかが?』

 小鈴たちは腕の上で柔らかそうな肉まんを転がし、逆の腕でエプロンごとスカートを一瞬だけ持ち上げた。
 バッバとエプロンとスカートが空気を打つ音が聞こえる程に早く。
 スカートの奥が見えたのは一瞬、しかし和美のカメラはその一瞬を決して見逃さなかった。
 乙女の柔肌に一筋入った切れ込みが見えた。
 ダブル肉まんのダブルが左右ではなく、上下に掛かっているのは明白であった。
 誰に対してか宣伝は十分とばかりに、小鈴たちは急いで自分たちの席に戻って服を着始める。
 小ネタとして各自の胸には、売り文句や味わい方が書かれていたが、流石に読んで貰う様な余裕はない。

「時間も残りわずかですし、巻いていきますわよ」

 あやかが頭上の時計を指さしながら、そう皆に伝えた。
 エロ楽しい時間は過ぎるのが本当に早く、六限目のホームルームはあと十五分しかなかった。
 ちなみに本来の目的である体育祭の出場競技決めは全く進んでいない。

「急げ、急げ」

 誰もいなくなったむつきの周りに駆け込んだのは、鳴滝姉妹とさよ、それにエヴァであった。
 腰パンならぬ腰スカートでずりおろし、ブラウスの裾を出し切ってお腹をさらす。
 さよとエヴァは血筋的にそうではないが、鳴滝姉妹は幼児体系のイカ腹である。

『もう先生の赤ちゃんだって産めるんだよ?』

 この場にいる誰に手を出しても犯罪だが、より犯罪チックな場面を和美がカメラで切り取った。
 そして本当に時間がないと、和美が美沙にカメラをパスする。
 急げ本当にもう時間がないと、火遊びをまだしていない子はその準備を、した子はその手伝いに。

「ボディペイントしたい子、ペンあるよ」
「神楽坂、そろそろ復活しろ。こい!」
「ぇっ、千雨ちゃん引っ張らないで」
「パル、そろそろ起きないとハブになるですよ!」

 亜子がボディペイント用のペンを配り歩き、千雨が未だ羞恥に悶えていた神楽坂を引っ張った。
 よっぽど深く拳が入ったのか、まだ気絶中の早乙女は両頬を叩いて無理やり起こする。
 まだ写真に納まっていないのは、十一人。
 和美に村上、長瀬や真名と早乙女それからあやかに春日、神楽坂と千雨に那波と絡繰。
 やれ急げと構想を練る暇もないので、誰が言い出したか黒板や壁に両手をついて腰を上げた。
 スカートは捲られてパンツはずり下してひざ元に、露わとなったお尻や太ももにペンが走る。

「まずい、このペンじゃ茶々丸の肌に描きづらい。ええい、このさい油性でも構わん」
「ゆ、油性は困りますマスター」
「痛ッ、いたた。なにこれ、私の珠のお肌に何してんのさ夕映きち。どういう状況?!」
「やかましいです。黙って落書きされるですよ。あまり騒ぐと、このまま尻穴の処女散らすです」

 時間との勝負であるため、多少騒がしくなっても突っ走るしかない。

「夏美ちゃん……あの、ね。中から先生のが垂れ、溢れてきそうなんだけど、どうしましょう」
「聞きたくない、聞きたくない。てか、なんで私まで。雰囲気と勢いって怖い」
「千鶴さん、千鶴さんの女の子を締めて我慢あそばせ」
「見えちゃう、今先生が起きたら全部見られちゃう。起きちゃ駄目だから、駄目だからね」
「このクラスやばいっす。エロ催眠どころじゃない」

 できた、準備OKと順次声があがり、和美に比べてカメラに不慣れな美沙がのぞき込む。
 いくよーっと楽しそうに声をかけてから、その光景をしっかりと収める。

『必見、麻帆良のパパラッチの秘密、興味あるなら使ってみる?』
『大事な弟分が予約済み。先生は見るだけ』
『忍びの性技をご覧あれ。殿はゆっくりお愉しみください』
『FUCK ME. MY TEACHER』
『一回一万、コミケのカンパよろしく』
『先生を労わるのも委員長の務め、あやかのここでご休憩なさって』
『いやー、ないっすわ。立候補多いみたいっすから他の穴へ突っ込んでどうぞ』
『夢の中でみたいに思い切り抱いて。でも勘違いしちゃだめだからね』
『幾千万の男が望んだサーモンピンク、グロくなるまで先生が使い込んで』
『心も体も万全、後は種付けのみ。先生、お待ちしています』
『先生専属セクサロイド。ロリボディ製作中』

 お尻から太ももにかけて、書かれている言葉は十人十色。
 壁に手をついてお尻を上げた格好こそ似ているが、お尻の見せ方も様々。
 大事な割れ目と恥ずかしい穴が見えちゃうと、片手で両方隠そうと懸命な村上や神楽坂。
 むしろ積極的に穴を使ってほしい和美や真名は壁に手を突かず両手で尻を広げている。
 同じく使って欲しいあやかと千雨は壁に手をついていない手をまたぐらに回し、指で広げていた。
 千鶴は中から溢れそうな精液を押しとどめるために内股で必死に締め付けている。
 長瀬と春日は悟りか諦めの境地で普通にお尻をさらし、絡繰は脳内のスパコンを拘束回転させて過去に売れ行きが高かった写真集をランキング化からポーズを選択していた。
 そして美沙が写真に収めたので撤収だとパンツを履き始めたところで、

「ん……んーッ」

 居眠りを終えたむつきが半開き以下の眼でぐっと背伸びをしたのである。
 授業のチャイムよりも一足早く訪れたタイムリミットにそれはもう慌てふためいた。
 特にむつきの背後でパンツを履く途中の面々は特にだ。
 薄情にも撮影を終えていた子は蜘蛛の子を散らす様に自席へ逃げ帰り始めている。
 バタバタとこれまでの静けさを無視したものだから、むつきの意識の覚醒も少し早まった。

「な、なんだ?」
「なんでもないでーす!」
「ねー」

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔でむつきが目をぱちくりさせる。
 すぐそばの桜子や鳴滝姉の風香がそう言ったが、なんでもないはずがなかった。
 目の前には冷や汗交じりで苦笑いしているいつもの顔ぶれがいるが、人数がかなり足りない。
 おかしいなとあたりを見渡し、驚くと同時に気づいた。

「おわっ、お前らなに……悪戯にしちゃあ、人数多いな」
「私たちにいけない悪戯をしたいのは、先生じゃないのかい?」
「しかり、しかりでござる」
「悪戯するなら、ちゃんと気持ち良くしてよね」

 自分の背後にずらりとクラスの三分の一もの人数がおり、割と本気で驚いた。
 冷や汗を押しとどめ、真名や長瀬が軽口を叩き、和美が合わせてスカートを少し持ち上げる。
 怪しい、特に頬を紅潮させて視線を彷徨わせている村上や神楽坂が特に。
 ただ特にというならばその二人が悪戯する側に回るとも思えなかった。

「まあ、良いか。他の先生が怒鳴り込んでないんだから、静かにしてたんだろ」
「サイレント映画みたいに静かだったよ」
「さあ、そろそろ良い時間だ。雪広、競技決めの進捗具合は?」
「えっと、まだ個人競技ぐらいで団体競技が決まり切っていませんわ」

 千雨の含みがある言葉はいつも通りなので、ホームルームの本来の目的を確認する。
 冷や汗以外は完璧に隠し通したあやかが、テキパキと居眠りで進捗を知らないむつきに答えた。
 実際は、ほとんど何も決まっていないのだが、学生には残業ならぬ放課後という時間があった。
 このまま継続して競技を決めますとむつきに取り付ける。

「それは、帰りのホームルームの後だ。お前らも席につけ」
「た、助かった」
「あっ、馬鹿!」

 お前らとはもちろん、何かを隠す様に壁を背に動かないあやかたちのことである。
 むつきに言われても壁を背にしたまま移動を始める中で、神楽坂だけが違った。
 ちょっと待てと伸ばされた千雨の腕も間に合わず、むつきの目の前を通って自席へと向かってしまったのだ。
 当然、むつきからは見えてしまった。
 神楽坂のパンツではない、それは既にスカートの奥に履かれてしまっている。
 見えたのは彼女のお尻から太ももにボディペイントされた文字が。
 お尻から始まる文字なので文章の全文は見えなかったが、ピンポイントで見えてしまった。
 右太ももの裏に思い切り抱いて、左太ももの裏に駄目だからねの文字がである。

「きゃぁっ!」

 それに気づいた神楽坂が慌てて座り込んで隠すが、もう遅い。

「お前らちょっと待て、振り返って太ももの裏見せてみろ」
「いやあ、パンツじゃなくて太ももの裏とか先生ニッチな性癖」
「俺が笑っているうちにすませとけよ、早乙女。良いから見せろ、この野郎」

 早乙女の小さな抵抗は、世紀末救世主の様に拳を鳴らしたむつきの前に儚く散った。
 観念してあやか達は壁に向けていた背を、むつきへと向けた。
 神楽坂と同じく、スカートで文字は途切れているが、性的な文章がつらつらと見える。

「居眠りこいてた俺も悪いが」

 ため息を一つついてむつきがそうつぶやき、希望が見えたのだが。

「お前らとりあえず、椅子の上で正座」

 ホームルーム終了の金と共に、無慈悲なお言葉が振り下ろされた。







ーあとがきー
ども、えなりんです。
前話が昔過ぎて、いろいろ齟齬があるかもしれません。
でも、こういう馬鹿話すき。
いずれ全員がノーパン、ノーブラでむつきの授業を受ける話書きたい。

それでは。



[36639] 第百四十話 だから何時の時代も男は女の子を怒らせるネ
Name: えなりん◆803576db ID:fa49c9fa
Date: 2020/09/12 22:40
第百四十話 だから何時の時代も男は女の子を怒らせるネ

 六限目にグラウンドに現れたむつきは、いつものスーツ姿ではなくジャージ姿であった。
 体育祭も間近となると、各クラスにそう多くはない競技練習の時間が与えられる。
 何故多くはないかというと、練習場所がグラウンドまたは体育館しかないからだ。
 各学年、各クラスに平等に練習の機会を与えると、自然と各々の時間は少なくなる。
 だからこの時期は一限目にグラウンドを利用するクラスが道具を出し、六限目の利用者が片付けるルールとなっていた。
 そして今回は二-Aが六限目、後片付けを含んだ競技練習の時間を割り当てられたのだ。

「先生!」

 幾人かがむつきの存在に気づく中で、声を上げて一際大きく手を振ったのは佐々木であった。
 子供が親に見て見てとせがむ様に、障害物競争用の平均台の近くで跳ねている。
 そしてむつきの視線が自分に向いた事を確認すると、踏み台から腰の高さぐらいある平均台の上に跳び乗った。
 背中に羽でもついていそうな軽やかさで平均台の上を小走りに中腹まで進んでいく。
 さながらその様子は塀の上を優雅に歩く子猫のようだ。
 そして不安定な平均台の上で跳び上がり、前後に両足を広げる開脚を見せて見事に着地。
 即座にハッと軽く息を吹く仕草の後に、後ろへ宙返り、平均台の上に手を着き一回転までした。
 最後に両手を挙げて胸をこれでもかと反り上げ、フィニッシュの恰好である。
 ここまで見事な演技を見せられては、スルーするわけにもいかない。
 同じく観客をしていた亜子や明石がパチパチと手を叩いている場へと歩み寄っていく。

「そういや佐々木は、新体操部だったな。ちょっとしたもんだぞ、凄い凄い」
「えへぇ」

 むつきの素直な賞賛ににへらと笑う。
 色々と注意を受ける事は多いが、褒められる事が少ないのでこちらも純粋に嬉しいのだろう。

「まき絵はこんな感じだから、障害物競争なら一番になれるはずだったんだにゃあ」
「なれるはずだったんやけど」
「てことは、なれなかったのか?」

 明石と亜子の酷く残念そうな物言いに、改めて尋ねるとある方向を指さされる。
 平均台の向こう、いくつかのハードルと跳び箱を超えた先にあるのは地面に張られた網だった。
 最後にあれを潜り抜けて、ラストスパートの後にゴールなのだろうが。

「去年はあの直前まではぶっちぎり一位だったのに、網に絡まって出られないどころか外せなくなっちゃって」
「泣く泣くというか、本当に泣きながら棄権になっちゃったんよ」
「あんなの障害物じゃないよ。網なんだもん!」

 佐々木の意味不明な主張は兎も角、当時の光景がありありと思い浮かぶ。
 本当にお前は残念可愛いなと生暖かい視線を送ると、癪に障ったらしい。
 直前まで褒められていただけに、余計にだろう。
 私凄いもんと唇を尖らせながら、平均台の上で危なげなく片足立ちになって逆の足を大きく上げた。

「ほらほら見て、先生。Y字バランスぅ」

 褒めて褒めてとワンコの様にアピールするのは良いのだが。
 今の佐々木は部活中とは違ってレオタード姿ではなく、体操着である濃紺の短パン姿。
 加えて彼女は腰の高さぐらいある平均台の上で、むつきはかぶりつきとも言えるその下。
 その位置関係で大きく足を広げれば、短パンの隙間から淡いピンクの下着が見えるのも当然。
 むつきと同じ場所にいた亜子も明石もそれには直ぐに気づくことになった。
 これが普通のクラスならむつきに非難が集中しそうなものだが、二-Aはちょっと普通ではない。
 元から普通ではないが今や、ちょっと違う意味で普通ではなくなってきていた。

「今日のまき絵は色々とあざといにゃあ。ピンクのパンツは、先生に見せる為にはいてきた?」
「ゆーなってば、なんで私のパンツの色知ってるの?!」
「お子様パンツやなくて逆によかったんちゃう?」
「え、あっ」

 明石の指摘に素で驚いた佐々木が、遅ればせながら自分の状態に気が付いた。
 咄嗟にY字バランスを止めて内股になった股座を手で隠した所で、むつきと目が合った。

「もう、先生のえっち!」

 正直なところ、平均台の上でのバク転を見せられたことよりも驚いた。
 軽く頬に朱がさし、照れ隠しのようにむつきを責めてきたことがである。
 ワンコ属性の佐々木にも羞恥心がちゃんとあったのかと。
 だが次の瞬間にはもっと驚かされた。
 照れ隠しの延長なのか、佐々木が平均台を蹴ってむつきへと向けて跳んできたのだ。
 避けようにも右手側に明石、左手側には亜子と避けようがない。
 かと言って後ろに下がろうにも、受け止めろとばかりに佐々木が両手を広げていた。
 下手に避けては受け止められることを期待している彼女が怪我をしかねない状況だ。

「おまっ」

 小学生、さらに低学年と心の中で叫びながら迫りくる佐々木の両脇に手を添えた。
 女の子かつ小さい方とはいえ、それでも中学二年生だ。
 グンと腕と腰に伝わる荷重に顔が苦み走りながらも耐え、こらえきったと思ったその時。
 強烈なボディブローならぬ、佐々木の膝がむつきの鳩尾に突き刺さっていた。
 確かに上下の力は地面を利用して受け止めたが、横の移動に対しては無防備だったのだ。
 むつきの手が添えられた脇下を支点に佐々木の胸から下が弧を描いて浮き上がったのである。
 深くめり込んでいた膝が内臓を押し上げ、口から臓物全てが飛び出したかのように錯覚した。
 悲鳴も上げられず、佐々木からそっと離した両手で腹を抱えならが崩れ落ちる。

「ちょっ、先生。まき絵はちょっとこっち」
「え、あれ?」
「先生、喋られるん?」

 何が起きたかいまいち理解していない佐々木を明石が下がらせ、亜子がうずくまったむつきの背をさする。

「ちょっ、マジか。マジで。先生とは別の意味で腹が痛い。誰か今の決定的瞬間撮ってねえか? テレビに送ろうぜ、朝倉!」
「え、何があったの。不覚にも見てすらいなかった。先生どうしたの?」
「長谷川、流石に今のは……あは、駄目よ笑っちゃ。ちょっと待って、お願い。先生が、可哀そう。駄目、やっぱ無理。奇跡、奇跡よ!」
「和泉さん、無理に喋らせてはいけません。先生が落ち着くまで背中をさすってあげてください」

 誰はばかることなく大爆笑している千雨に、普段なら立ち上がってこの野郎と言えたのだが。
 流石に今は無理だった。
 神楽坂でさえ、言葉を詰まらせ笑う中で、刹那のなんと優しい事だろう。
 ここがグラウンドでさえなければ、痛みを耐えるために抱きしめた上での濃厚なキスに溺れたかった。

「先生、無理に喋らんで良いから、ゆっくりな」
「亜子さん、私も……あっ、千鶴さんどうぞ」
「ありがとう、あやか」

 背中をさする手が一つ増えた。
 亜子より少し大きな手、今のあやかとのやり取りから分かる通り千鶴である。
 正直、さする手は二つもいらないが、まだ意見できるほど呼吸が整っていない。
 ただそれでもうずくまる形から顔だけはなんとか上げることができた。
 その顔を見て、指さして笑っていた千雨が咄嗟に視線をそらしてそっぽを向いた。
 少なからず笑いながら集まってきた面々も同じく、逆に純粋に心配していた面々は非難の目を向ける。

「げほっ、はっ……」

 咳込みながら上げられたむつきの瞳には涙がにじみ、今にも流れ落ちそうであった。
 もしかしたら少しばかり鼻水も出ていたかもしれない。
 大の大人の貴重なガチの泣きの顔に、見てしまった者は居た堪れないなんてものではない。

「あー、ちうちゃん。なーかした、なーかした。せーんせーに言ってやろ」
「懐かしいなおい、そのフレーズ。あと泣かしたのは私でもなければ、泣いてんの先生だし!」
「止めなよ、お姉ちゃん。先生、本当につらいんだから」
「ふーちゃん、本当に止めて。流れ弾が四方八方に飛んでるから」

 神楽坂の言う通り、コントの様な奇跡を目の前に笑ったのは一人や二人ではない。
 むつきの泣き顔を前に千雨の様に視線を泳がせたのは、美砂、早乙女、真名、エヴァと他にもいる。
 他にも春日など大爆笑しそうな者もいたが、彼女は幸いにして奇跡を目撃せず笑わずにすんでいた。
 その代わりに流れ弾が飛んだ者たちに向けて、それはないと冷たい視線を向けていた。

「あー、もう。分かったよ、私が悪かったよ」

 その視線に耐えられなかった千雨が、そう叫びながらしゃがみ込んだ。
 亜子と千鶴に左右から背中をさすられ、あやかの高そうなハンカチで涙と鼻を吹かれているむつきの正面にだ。
 足を大胆に開いた状態、ひと昔前のヤンキー座りでしゃがんだ千雨の恰好は、他の子と同じ体操着の短パンである。
 その短パンの股座部分に指を滑り込ませて横に引っ張った。
 当然見えたのはライムグリーンとホワイトのチェック柄のパンツである。
 しかもしゃがんでいるおかげでぴったりと肌に張り付いて、縦筋までしっかり見えていた。

「げほっ、ばか……痛っ、腹痛ぇ!」

 条件反射で顔を背けようと腹をよじろうとして、再びの激痛に言葉が途切れる。
 そんなむつきを前にニヤニヤと、煽っているようにしか見えない千雨が続けた。

「どうよ、先生。元上位ネットアイドルちうたんのはみパンは。特別サービスでサーモンピンク、見せてやろうか?」

 挙句の果てに、下着にも指を食い込ませチラチラと割れ目近くまでまくり上げている。

「これで不幸と幸福が相殺しあって、幸福に傾くってもんだ」
「なるほど一理ある。私も先生を笑った手前、特別サービスしようじゃないか、しかも無料で」

 真名も千雨に倣ってむつきの目の間にしゃがみ込んだ。
 しなくて良いわと叫びたかったがまだ呼吸が不安定なむつきは、止めることができなかった。

「最近、彼氏ができて下着に凝ってるんだ。先生、男目線でこいうのはどうだろうか?」

 短パンの裾を引っ張った先に見えたのは、純白のレース。
 褐色肌と白のレースのコントラスト、しかも真名は短パンだけでなく自分の肌も引っ張っていた。
 肌に張り付いたレースの奥にはピンク色に美味しそうな中身まで見えているではないか。
 どうもこうも、うずくまりながらむつきの腰だけが不自然に浮き上がったのが答えであった。
 腹の鈍痛と息苦しさで生命の危機を感じたせいか、自分で感心するぐらい大きく勃起していた。
 子孫を残さねば血が途絶えてしまうと、当人の意思を無視して精子工場がフル回転を始めている。
 今すぐ二人を体育倉庫に引っ張り込んで種付けしたいが、ここは学校のグラウンドだ。

「ぜぇ、本当待て……くっそ、別の意味で動けねえ」
「先生、ちょっと失礼」
「馬鹿、ポケットにうぐぅ、腹が」

 腹痛と勃起痛で動けない中で、美沙が突然むつきのズボンのポケットに手を突っ込んできた。
 ポケットをまさぐる過程でしっかり勃起状態も握って確認されてしまった。
 それはついでの行為であり、美沙が欲しかったのはむつきの携帯電話である。
 ロックが掛かっていたのでむつきの誕生日を入れてみたが解除に失敗。
 むつきの様子をうかがっていた小鈴に、放り投げて渡してから言った。

「超りん、先生のパス解除しておいて。それから明日菜ちょっとこっち来て」
「え、でも……先生が」
「良いから、良いから。笑っちゃったお詫び、私たちもちゃんとしてあげないとね」

 手を引かれた神楽坂は最初拒否したが、笑ったお詫びと言われては抵抗できない。
 一体どこへと皆が二人を視線で追うと、少し離れた場所の体育倉庫に飛び込んでいった。
 やや距離があるので詳しくはわからないが、やいのやいのと少々揉めている様な雰囲気である。
 だが恐らく神楽坂が観念したのか、静かになってからしばらく経つとむつきの携帯電話が着信音を奏でた。
 その頃には小鈴が難しい顔でロック解除に成功し、着信メールを見て今度はニマニマと笑う。
 気になった木乃香と刹那がそれをのぞき込み、その内容に頬を紅潮させた。

「明日菜、すっかり大胆になって」
「お二人ともとても綺麗です」
「先生、二人からのお詫びのメールネ。恩赦不可避の大胆メールヨ」

 まだひいひい言っているむつきの目の前で見せられたのは、肌色が多い写真であった。
 短パンを腰より下にずり下げた腰パン姿で美砂と神楽坂が、二人並んで跳び箱に浅く腰かけている。
 体操着の上をたくし上げて口で加え込んでいるため、可愛いおへそが丸見えだ。
 また美沙はブラジャーを外しているのか下乳が露わとなり、神楽坂は髪と同じオレンジのブラジャーが見えていた。
 満面の笑みでピースサインの美沙と、気恥ずかしそうに控えめにピースする神楽坂が対象的だ。
 さらに写真上の美沙の胸元に赤丸がひかれ、大きさはこっちが勝ちと書いてあった。
 また神楽坂の方は腰パンの股座に赤丸があり、パイパン勝ちの文字を消そうと指が走らされた跡があった。

「お前、これ前回と同じパターン。ぐあぁッ!」

 せめてこれが教室ならもう少しお詫びを貰っても良いかなという考えが頭を過ったが。
 校舎から丸見えのグラウンドでこれ以上は、前回の二の舞どころではないと無理やり立ち上がる。
 ちゃんとしなければそんな思いから立ち上がったわけだが。
 一点、むつきは忘れていた。
 鳩尾に膝を喰らってうずくまりながらも、自分で既に立ち上がってしまっていたことに。

「きゃあッ!」

 可愛らしい悲鳴と共に顔を両手で覆って背を向けたのは、残念ながら村上一人だけ。
 勃起した一物のそそり立ちに耐えられず、ジャージのズボンの生地がテントどころかチョモランマなみに押し上げられていた。
 狭苦しそうに張り付いているものだから、雌を求める生々しい鼓動が丸わかりであった。

「うわ、別の生き物みたいにびくびくしてる。あんなのがお腹に入るの?」
「お姉ちゃん何言ってるの。入るわけないじゃない、裂けちゃうよ!」
「やばい、スケッチブック。スケッチブック持ってきてない。男の生勃起とか、スケッチするチャンス。先生そのまま、スケッチブック取って来るから、勃起維持しといて!」
「マジっすか、先生JCの誘惑でそんなになっちゃう人っすか。正直ちょっと距離置いてほしいっす」
「馬鹿、これは生理現象だよ。生命の危機的なアレで!」

 言い訳しながら、もう一度しゃがもうとする前に、まだ鈍痛の残る腹に誰かぶつかってきた。

「先生ぇ、ごめんなさーい!」
「痛ぇ、今はまずい抱き着くな佐々木!」

 ずっと謝罪するタイミングを伺っていたのであろう。
 今がチャンスだとばかりに、真正面から抱き着いてきたのだ。
 このワンコは本当に落ち着きのない、腹が痛い相手の腹に頭をぐりぐりな擦り付けてきている。
 頭の一つでも叩いてやりたいが、勃起隠しには丁度良いとも言えた。
 我慢して頭を撫でてやりながら、ちょっとだけ彼女のお腹に勃起を押し付けた。
 一瞬ビクッと佐々木の腰が引けたが、直前の千雨や美沙の行動のせいか逆にお腹を押し返してきた。

「ああ、もうわかった泣くな。けど、頼むからもう少し落ち着き持とうな」
「うん、じゃなくてはい」
「おっ、ちゃんと自分で気づいて直せたな。偉いぞ」
「えへへ」

 泣いたカラスがもう笑い、毒気を抜かれてもう少しだけ頭を撫でてやる。

「なんだか先生、まき絵のお兄さんみたい」
「先生はご実家に私たちと同年代の従妹がいるからでしょうか、手慣れているように見えますね」
「まき絵、本当はお姉さんだから妹属性ないはずなんやけどね」
「なんか酷いこと言われてる気がする。私家だとちゃんとお姉ちゃんしてるもん!」

 アキラや聡美の指摘は兎も角、亜子の言葉には精一杯否定していた。
 確か十歳近く離れているんだったか、流石にそれだけ年齢差があれば姉ぶれるだろう。

「はいはい、ちょっとしたハプニングがあったが。練習時間、だいぶロスしてるぞ。あともういい加減、ちゃんと休ませてくれ。正直、まだ立ってるのがつらい」
「先生、拙者に少し体重を預けてくだされ」
「では反対側は私が」

 良く見ると膝がガクガクしているむつきを、長瀬と茶々丸が両脇から支えてくれた。
 本当に限界なので素直に体重を預け、覚束ない足でグラウンドの隅に行こうとすると美砂と神楽坂が体育倉庫から戻ってきた。

「あれ、折角私たちが文字通り一肌脱いだのに終わっちゃった感じ? また前みたいにちょっとエッチな自撮り大会になると思ったのに」
「馬鹿たれ、体育祭の練習はこれからだ。宮崎と綾瀬は、スケッチブック取りに行った馬鹿を読んで来い。あと神楽坂、まあなんだ。結構なお手前というか、あんまり流されんなよ」
「お、お粗末様でした。それは、先生が痛い思いしてるのに笑っちゃったし、一回しか使っちゃ駄目だからね」

 最近、本当に神楽坂は墓穴を掘るのが大好きときたものだ。
 あんな写真を送られて、使うと来たら彼女が大好きな一人遊び以外の何があると言うのか。

「明日菜ってば、またそうやって直ぐに先生の気を引こうとする。先生、私も後でちょっとエッチな写真あげるね! 私のは何回でも使って良いよ?」
「さ、桜子なに、私別にそういう意味で」
「男にエッチな自撮り写真渡して使うって言ったら、一つしかないでしょ。一枚一回なら、この和美さんが明日菜のエッチな写真、何枚でも撮ってあげようか? それとも先生の写真欲しい?」
「朝倉、私も撮って欲しい。それに先生の写真も一杯欲しいな」
「アキラちゃんまで。写真は撮らない、撮らないけど。写真はちょっとだけ見せて!」
「語るに落ちてますわよ、明日菜さん」

 自ら提供したネタを前に赤面中の神楽坂が、皆の玩具にされないはずがない。
 むつきがグラウンドの隅に連れられて行った後も、神楽坂を囲んでワイワイはしゃいでいる。
 そして願ってやまないラブ臭を嗅ぎ損ねた早乙女は、後で激しく後悔することになる。









 ギアの切り替えがまだまだ甘いが、二-Aのクラスメイトはやる時はやる子たちである。
 それはこれまでの中間、期末テスト等の結果からもわかっていたことであった。
 今回も真面目になるまでに一波乱あったものの、練習が始まってしまえばそれに集中できていた。
 二人三脚で五十メートルを走るのは、鳴滝姉妹ペアと木乃香と刹那ペア、村上とさよのペアだ。
 この中で一番息があっているのは、双子というどうしようもないアドバンテージを持つ鳴滝姉妹。
 安定性抜群だが二人とも体の成長具合が遅く身体能力を加味すると、ややプラスというところか。

「お二人さん、おっさきー」
「ばいばーい」
「あーん、また置いてかれてまう。せっちゃん、おいっちに、おいっちに」

「このちゃん、急にペース変えたら。あっ」
 鳴滝姉妹に抜かれたことに木乃香が焦ったことで、ペアの刹那と足が絡まりあう。
 口にした通り、あっという間にすっころんでいた。
 仲の良さで言えば鳴滝姉妹に引けはとらないが、二人の運動神経が違い過ぎる。
 図書館探検部に所属している木乃香の運動神経は、決して悪くはない。
 だが剣道部でばりばり運動しているボディーガードの刹那とは、根本が違うのでお互い気遣い過ぎて苦労していた。
 そんな二人の横をゆっくりとだが着実に歩むのは、村上とさよのペアだった。

「みーぎ、ひだーり」
「ひだーり、みーぎ」

 可もなく不可もない運動神経、やや悪い寄りだとお互いが自覚しているからだろう。
 確実性重視の性格もあって、それなりのペースで進むことができていた。
 村上とさよのペアが通り過ぎたのを確認して、むつきは倒れこんだ二人に駆け寄った。

「二人とも怪我ないか?」
「大丈夫、せっちゃんが受け止めてくれたから。あれ、足紐のハチマキが切れとる」
「ふ、古くなっていたからでしょう。いや、これもこのちゃんの日頃の行いが良いから。足を挫く前に切れてくれたんでしょう。そうです、違いありません!」

 切れたハチマキを前に木乃香が不思議がっていると、妙に気持ちを込めて刹那が熱弁していた。
 二人はグラウンドの土の上で、刹那が下となり木乃香を受け止めている形である。
 たしかに、足紐がつながったままではどうなっていたことか。
 妙に綺麗な切れ方をしている足紐のハチマキを預かり、代わりのを手渡して一言断りをいれる。
 怪我の有無を確かめるために、後ろ手に地面に座りなおした木乃香の足に触れた。

「先生」
「ん、どうした。どこか痛いところでも」
「明日菜の体、綺麗やった?」
「このちゃん?!」

 唐突な木乃香の問いかけに思わず噴き出した。
 思わず周囲を見渡したが、鳴滝姉妹ペアと村上とさよペアはゴール手前で離れている。
 他の子たちもそれぞれの競技練習中なので聞こえやしないだろう。

「凄く綺麗だった。どうした急に」
「せっちゃんと先生お互いに好き好きやのに、うちの我儘でお預けされとるやろ? その間にのどかや那波さん、皆次々先生と結ばれて。ちょっと焦っとる」
「ええんよ、このちゃん。うちは全然待てるから。それに二人一緒はうちの願いでもあるんやから」
「でもな、うち既に先生のこと好きなんよ。イチャイチャするのドキドキして楽しいし、エチエチするもの恥ずかしいけど」

 最後は少し濁していたが、風に流され消えそうな小さな声で好きとつぶやいていた。
 本番こそまだだが、二人ともに本番一歩手前までの行為は経験済みである。
 それこそ木乃香と刹那がそれぞれ何処に性感を持ち、どういう触れられ方が好きか把握する程には。

「先生、よう皆の事みとるし、困っとったら真っ先に駆けつけてくれる。さっきも普通の男の人なら、まきちゃんのこと怒鳴りつけとってもおかしないのに、笑って許してくれて」
「流石にきつかったが…お転婆な従妹がいると、あれぐらいは何度か経験あるんだよ」
「ええ人やなって、明日菜もいっそ高畑先生より、乙姫先生選んだらって思うぐらいに。うちに何が足らへんのやろか。先生にやない、足らんのはうちなんや」

 最後の呟きは、むつきや刹那へではなく、自分自身への問いかけだった。
 こういう場合、答えの一つは千鶴の時と同じく、俺のところに来いと強引に抱きしめることだ。
 だが木乃香に対しては、適切な対応とはいいがたい。
 木乃香の気持ちの出発点が、刹那と一緒にいたいというものなのだ。
 好意の根幹にむつきに向けた好意がないとは言わないが、ほかの子に比べると薄い。
 明日菜についても、むつきなら親友を任せられると男性として認めているだけに過ぎない。

「俺からもあまり多くは言えないが、焦って答えを出そうとするな。刹那も全然待てるって言ってくれてるし、イチャイチャでもエチエチでも好きなだけ付き合うから」
「正直に言えば心だけでなく、体も結ばれたいです。でも心がつながってますし、直接体でつながれない分、色々とご奉仕とか。だから、ね。大丈夫です」
「うん、ちょっとすっきりした。最近、ちょくちょく悩んどったから」

 立ち上がって膝の土を少し払うと、木乃香は洗ってくると刹那の手を引いて走り出した。
 その背に向けてまた転ぶなよと声をかけて見送った。
 次の休みには思う存分、付き合ってやるかと思いながら。

「さて他にはっと」

 軽く周囲を見渡して次に目についたのは、クラスどんくさいランキング上位の聡美だ。
 特別頭が良い分、運動パラメータが凹んでしまっている。
 五月とペアで玉転がしの練習をしていたようだが、何故か聡美が止まった大玉の上に腹ばいで乗っていた。
 おそらく大玉の転がる勢いに飲まれて巻き込まれたのだろう。
 降りようとジタバタと足を動かし、下手に大玉を動かすと危ないので五月も手をこまねいていた。

「大丈夫です、私の計算は完璧ですから!」

 助けようかと一歩踏み出したところで、恥ずかしかったのか向こうから来ないでと手を振って止められてしまう。
 計算は完璧でも、体がそれを実現できなければ何の意味もないのだが。
 結局、近くでエヴァと玉転がしの練習をしていた絡繰がゆっくり大玉を逆回転させて救出されたようだ。
 ふんぞり返ったエヴァが聡美に何か言っているが、そんな彼女の体操服や髪が少し土埃で汚れている。
 見てはいなかったが、きっと自分も何度か大玉に巻き込まれたに違いない。

「このクラス、めちゃくちゃ運動できるか運動音痴の二極化酷くね?」

 もう他に運動音痴はいなかったかと探そうとしたところで、ズボンのポケットの中の携帯電話が震えた。
 差出人は木乃香であり、週末はエチエチで可愛がってとのおねだりであった。
 その先払いという意味なのか写真が添付されていた。
 場所はやっぱり体育倉庫。
 刹那と向かい合わせで跳び箱にまたがった状態での、舌を見せつける様なベロチューである。
 まるで二人の舌の間には、むつきの竿があるかのような光景だった。

「最近あいつら、普通にエロ自撮り送って来るよな」

 送ってこないのは、村上か春日、あとは長瀬ぐらいのものだ。
 釘宮はそのつもりはなくても、美砂と桜子の巻き添えで時々送られて来ていた。
 後で消しなさいと詰め寄られるため、目の前で消した後にまたバックアップから復元している。
 鳴滝姉妹の特に風香が自分ではなく、史伽の写真を送ってくることもある。
 自室のトイレのドアを開けられた様な写真は本当にかわいそうなのでちゃんと消した。
 かなりまずいのではと、一番心配になるのは誤送信であった。

「えーっと、おーおぉ……」

 目的の人物を見つけようと周囲を見渡し、その人物と光景に軽く言葉を失った。
 見つけたかったのは小鈴だが、一緒にいた古とザジがいた。
 古が弾入れ用の籠を背負い、ザジが腕に何個も抱えた球を四方八方から投げつける。
 小鈴が弾の射線上に割り込んで叩き落とし、間に合わないものは古がかわしてはじく。
 やっていることは分かるのだが、アレを玉入れと呼んでいいものだろうか。

「おーい、真面目に練習中悪いが超、頼みがあるんだが」

 本当に邪魔して悪いが、急いだほうが良い要件なので割って入る様に声をかけた。
 そこへ玉を両手いっぱいに抱えたザジが割り込んできた。

「先生、私どうにも玉入れのコツがわかりませんの。どうか実践にてご教授願えませんか?」
「いや、後でな。今は超に」

 まずはと一旦は断ろうとしたむつきに、ザジは白い玉を選んでむつきに握らせてきた。
 そのままその手を玉越しに恥丘にそえるように押し当てる。

「体育倉庫のマットの上で、先生の玉を私の籠から溢れるぐらい、存分に」
「下ネタじゃねえか!」
「仕方がないないネ、親愛的は。男と女の棒倒しがしたいと誘われれば、雌奴隷としては断れないヨ」
「いや、正直むらむらしてるから棒が倒れるまでしたいけどさ」
「チ、親愛的の跡継ぎ産みたいアル」
「ただの願望じゃねえか、あと高校卒業してからね!」

 ザジから下ネタが始まり、同じく下ネタの小鈴、ラストに下ネタですらない古である。
 本当に後で誰かに体育倉庫で体操着プレイを頼んでしまおうか。
 先ほどからずっとむらむらしているのは本当で、勃起が完全に収まったわけでもなかった。

「ブルマーなら直ぐに用意できるネ」

 ニンマリと赤丸ほっぺで微笑まれ、大いに心がぐらついた。

「いや、あの……よろしくお願いします。あずき色より濃紺の方が好きです」
「毎度ありネ。親愛的の為ならなんでもするヨ」
「ついでというか、こっちが本命なんだが」

 むらむらが収まらない胸の内を押さえつけながら、絞り出すように本題を口にした。

「ひかげ荘知らない子にも、小鈴の超包子製の携帯電話配ってやれないか?」
「全然、問題ないヨ。むしろ持ってない方が少数派。手間的にも大したことないネ」
「おっと」

 自分の携帯電話を見せながら喋っていると、見計らった様にブルブルと震えた。
 今度は誰の自撮りだとある程度は覚悟してメールを開いたわけだが。
 想像をより超えた写真が送られてきていた。
 場所はやっぱり体育倉庫、一回り小さい体操着を着ることでより胸が強調された千鶴だった。
 ノーブラらしく丸い二つのお山には一つずつぽっちが浮かび上がっている。
 上着の丈も足りずにへそチラしているのが、なんとも悩ましい。
 また即座に一通追加で送られてきたので、流れで見て見るとあやかからであった。
 自撮りではなく千鶴にでも取って貰ったのか。
 濃紺のブルマ姿でお尻の食い込みを直そうとお尻とブルマーの隙間に指を挟んでいる恰好だった。
 エロい、肌色率は低いのになんともエロ優等生のあやかであった。

「言ったネ、直ぐにでもと」

 そう小鈴が笑うと、次から次へとメールが届けられる。
 体操座りで小首をかしげブルマーの裾からパンチラするのどか、物を拾う恰好で小さく丸いお尻を突き出す夕映。
 お尻を向けてしゃがむことで、ブルマーに下着のラインを浮かべるアキラ。
 何故か、皆が皆、濃紺のブルマー姿でのエロ画像を送って来るではないか。
 嬉しいことは嬉しいが、何か違和感というか、不自然さを感じる。
 今も着信が止まらない携帯電話から小鈴へ視線を向けると、にっこり笑っている。
 笑いながら何か怒っているように見えた。

「小鈴さん、私が何かいたしましたでしょうか?」

 笑顔って怖いものなんだなと思いながら、恐る恐る尋ねてみる。

「先生、携帯電話のパスワード。美砂サンの誕生日だったヨ」
「いや、まあ最初に付き合ってそのま、ま……」
「ちょっとカチンと来たから、ひかげ荘のメンバー全員に送ったヨ。先生の携帯電話のパスワードが、美砂サンの誕生日だったって」
「おおう、もう。マジかぁ……」

 むつきに特別扱いしたつもりはない。
 先ほども口にした通り、付き合った当初に設定して変える理由もなくそのままだったのだ。
 本当にただそれだけで、内心美砂が一番だとか、依怙贔屓しているつもりもなかった。
 確か以前にもこんなことがあった気がする。
 小鈴を皆の前で小鈴と呼んだ時、一人だけあだ名で呼ばれてずるいと。

「乙女の沸点って何処にあるのかわかんねえよ」
「だから何時の時代も男は女の子を怒らせるネ。怒らせるネ」

 確認してみれば、古とザジの姿もまたこの場から消えていた。
 さっと体育倉庫に視線を向けてみれば、いそいそと駆け込む二人の姿があった。
 まだしばらくは、私だって可愛いアピールのメールが途切れる事はなさそうだった。








-後書き-
お久しぶりです。
もうちょっとだけ続くんじゃ。


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