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[3691] 魔動少女ラジカルかがり (リリなの×日本製STG多重クロス オリ主)
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2015/03/18 19:20
 それ故に……悔いの残らぬよう、やり遂げなさい。

 我、生きずして死すこと無し。理想の器、満つらざるとも屈せず。

 これ、後悔とともに死すこと無し……

 わかっていたはずだった……私達は、自由を見られるかしら?



 大丈夫……何時かきっと、分かり合える日が来る。




 そして、遠い未来へ……命は受け継がれるから。













――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:新規投稿のテスト、行間の見栄えのテスト
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:ゲテモノ(オリ主オリ設定オリ展開多重クロス)
――――――














 踏み固められた細道をエアスクーターでゆっくりと進んでいく。

 幼い私でも乗りこなすことのできる、幼児向けの訓練用乗用車。排熱ファンの音が静かに響き渡る。

 目の前に広がる草原を見渡す。

 文明の感じられない自然に満ち溢れた風景。隔離された自治区の一角。
 草と木と川と鳥と獣の美しい土地。


 ――ここは私たちの故郷ではない。


 生まれてからいろんな人達から繰り返し言われてきたことだ。


 ここは住む場所を失った私たち一族に与えられた、ただの借り物。

 いつの日かこの土地は自分達の物ではなくなる。移り住んでから六十年間、土地の開発は最低限に抑えられているらしい。

 走る道は土と草と砂利。タイヤでは道を思うように進めないので乗り物は皆宙を浮く。


 エアスクーターのアクセルを絞り、スピードを上げる。
 目指すのは喪失文明復興局。私の住む学習局からは住居区画をはさんで反対側にある。


 誰も通っていないこんな町外れの細道を走っているのは、単に遠回りをしているからだ。


 復興局の開局時間は午前九時。

 学習局を出たのは朝の八時なので、狭い住居区画の短い道のりをこうして遠回りして朝の散歩として楽しんでいる。

 時間があるからといって歩いていくようなことはしない。私はまだ五歳。体力など欠片も無い。

 ついでにいうと遊びと仕事に関係ない運動は嫌いだ。幼児だから。


 その点、このエアスクーターは良いものだ。

 体内の魔力炉をぐるぐる回してハンドルをひとひねりすれば勝手に前に進んでくれる。

 文明復興の草創期に復元された、魔力で動く魔動機械の一つだ。


「すばらしい。たいだせんかがりごうと名づけましょう」


 周囲に人が誰もいないことを独り言。

 別に独り言が癖のキモい人間というわけではなくて、まだおぼつかない発音を発声練習することで克服しようとしているだけ。

 言葉を話せるようになってからも最近まではあまり喋らないでいたせいだ。

 失った文明の復興を担うべく生まれた私は、直後から学習用の機械を使って脳に直接知識を焼きこんでいた。



 私たちは約六十年前に滅びた、ここではないある管理外世界の生き残りだ。

 幾千年も続いた一つの文明は、管理世界で言うところのロストロギアの暴走によって滅んだ。

 文明の加護を失った私たちは、多次元の監視、警邏を行っている時空管理局に保護された。


 このような事態は広大な次元世界においてまれに起きることであるらしい。


 ロストロギアの崩壊と共に億の単位で生きていた本星の人類種は全滅。

 わずかに残ったのは人工移民衛星グラディウスの市民六二七五人。

 生命維持の機能が半壊した衛星から救出された人々は、治療の際に管理世界の人類種とは異なる存在と判明。


 管理法の保護・監視の条項に基づいて、第6管理世界の外れの一区画に隔離された。


 これが学習装置から学んだ私たちの最期の歴史の大雑把なあらすじ。

 遺失技術の産物を指すロストロギアという単語の意味から考えると、遺伝子改良の施された種族である私たちは存在自体がロストロギアになってしまっている。



 あ、申し遅れました。私、カガリと申します。

 第二種監視指定共通人類種とかいう、改造人間などをやっています。

 まあ、人類から比べたら、ヒト種のはずなのに肉体強度から魔法資質までいろいろ異なるので改造人間に該当するというだけ。
 一応何百年も前に気合と科学と魔法で進化した普通のヒト型魔法生命体だったりします。

 カガリという名前は、そんな遺伝子改造の草創期に世界を救った英雄から名づけられています。

 文明は消え去っても、残り物で何とか今日も必死に生きている。それが私たち。



 この小さな大地の上には世界を失っても生きるわずかな人達がいて。

 いろんな人が同じ願いや想いを抱いて暮らしていて。

 その想いは、はるか昔に失われたものを取り戻そうと止まっている……。

 だけど、その想いは、きっと遠い未来へ受け継いでいける、伝え合っていける。

 これから始まるのは、そんな、小さな小さな一族が生きるお話。

 魔動少女ラジカルかがり、はじまります!












「お前、来月からミッドチルダ行きな」

 復興局についていきなり衝撃的な一言。

 ミッドチルダとは時空管理局のある次元世界の中心世界で、自治区にある養護施設とかではない。


「はあ、それはまた」

「全然驚いてないな。まあ、ミッドチルダ式の魔法学校で魔法を覚えるのがお前さんの新しい仕事だ」


 頭の上で無茶振りな人事発令を行っているのは復興局の課長さん。ちょっと角ばった顔をした威圧感のある外見をしている。内面は見た目どおりではないが。
 私は彼の膝の上に乗って、デスクの茶菓子を食べさせてもらっている。餌付けではない。子供はお菓子を食べるのが仕事です。

 ちなみに課長さんの正式な役職は喪失文明復興局生活文化部多次元調査課課長兼多次元交流プロジェクトミッドチルダ方面主任。長いよ。
 私は課長さんとか課長ちゃんとか主任さんとかそのときの気分で適当に呼んでいる。


「なんでまたまほうがっこうなんでしょう。ミッド式はきそきょうほんのないようが脳にきろくずみですけど。つかえませんが」


 ミッド式の魔法は体内にあるリンカーコアを使って魔力を集めて魔法プログラムを起動するというもの。

 私たちの一族は体内にある魔力炉で生成した魔力を魔動機械に流して機械を動かすというもの。根本的に違う。

 魔力炉にとってかわられたためか、体内にリンカーコアは存在しない。いや、そもそも過去にリンカーコアを持っていたのかも解っていない。

 なので、ミッド式の魔法を使うことはできないのだ。

 ただし、日銭のために管理局へ魔動機会の技術提供をするというのもあって、ミッド式の魔法技術との兼ね合いは必要だ。
 ミッド式でも魔法科学技術や魔法理論自体は生活や復興の役に立つというのもあるだろう。

 なので、文明復興の仕事に就く予定の私がミッド式の魔法を学ぶこと自体は十分に理解できる。
 ただ、監視指定生物だからと隔離された自治区から、わざわざこんな若い身空で出るだけの理由が解らない。


「ことわざで言うだろう“Vasteel-Technologyは身を滅ぼす”ってな」


 理解できない借り物の知識は思いもかけないところで災厄になりますよという意味だ。
 これは教材を頭に焼きこむだけの学習装置に頼ってないで、しっかり本場の魔法技術を肌で覚えて来い……という解釈でいいんだろうか。
 まあこれも解らないでもない。


「しかし、まほうがっこうといえども、いっぱんかもくも習うのでしょう? がくしゅうずみのただのきょうようをまなぶのは時間のむだでは」

「むしろ復習してこい。学習局の学習装置漬けなんざちゃんと身につくか怪しいもんだからな」

 学習局長が聞いたらなんと言うものか。

 まあ私は新規復興分野を一人で担当する予定なので相当無茶な学習が行われたのは事実だけれど。


「カガリには情操教育ってもんが足りないからな。友達でも作ってくるといい。多分上級学年に編入だけどな」

「いろいろむちゃをいわれている気がしますがはんろんは受けつけていない気もするのでむていこうしゅぎをつらぬいておきます」


 一族の決定に逆らえるわけでもなし。

 ここは課長さんの筋肉質な膝の上で仰向けになってだらーんと降参のポーズをとっておく。

 五歳児らしい情操教育の徹底された無邪気なボディランゲージの試みだ。だらーん。

 あ、苦笑された。むきゃー。


「詳しいことはこっちの書類に書いてあるから早めに準備しとけよ」







 なんということでしょう。いきなり一族から放逐されました。

 放逐なんです。見たことも無い管理世界の人類なんて、私にとっては宇宙人とか謎の知的怪獣とかバイド生命体とかそんな感じなんです。むしろ情操教育に悪影響が。

 せっかくこの第6管理外世界で頑張っていこうと決めた矢先にこれですか。

 ……魔動少女ラジカルかがり第一部~自治区編~、開始早々終わってしまいました。続くかも解りません。



――――――
あとがき:※ハーメルンにもマルチ投稿はじめました

SHOOTING TIPS
■グラディウス
横シューティングの古き名作グラディウスは、惑星グラディウスの新鋭機ビックバイパーが宇宙生命バクテリアンと戦うとかそんなシリーズです。
人工衛星だったりはしません。

■カガリ
名作パズルゲーム斑鳩の2Pキャラ。飛鉄塊(戦闘機みたいなの)を乗りこなすために遺伝子的な身体強化を受けています。
斑鳩の世界観は未来なのか過去なのか良くわかりません。

■Vasteel-Technologyは身を滅ぼす
宇宙探査で発見した謎の超技術Vasteel-Technologyを良くわからないまま利用していたら、暴走して人類に牙を剥きました。
以上サンダーフォース5のストーリーの導入。でもこんなことわざは実在しません。

■バイド生命体
未来の人類の侵食性産業廃棄物。過去に流れ着いて人類てんやわんや。
STGはバッドエンドが多いですけどR-TYPEは初代以外常時バッドエンド。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第二話Aパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/08/07 01:03
 田舎の教育生だったはずの、私、かがりに訪れた突然の事態。

 渡されたのは、ミッドチルダへの片道切符。

 手にしたのは魔動機械の開発キット。

 自治区上層部が導くスパルタ方針が、今、光を放って動き出していく。

 つながる想いと、始まる物語。

 それは、開発と通学が並行する日々のスタート。

 魔動少女ラジカルかがり、逃げていいですか?













――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:追投稿と題名のテスト
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
原作設定:ネット小説
ジャンル:最強ハーレムオリキャラ を眺めるゲテモノ主人公物
――――――














 魔法学校への編入初日。目の前には人、人、人。転校生紹介との名目で一クラス分丸ごとの衆人環視にいきなり晒されている。

 教室の中に人を押し込めて画一的な教育を受けさせるというのは、教育局の局員さんとマンツーマンの機械学習を受けていた私にとっては新鮮な環境だ。

 私が今まで受けていたのはエリート教育だそうだから、自治区の他の子達は違ったんだろうか。
 同年代の子と友達になる前にここに島流しにあってしまったのでそのあたりは解らない。


「では、自己紹介をお願いしますね」


 担任となる女性教師が促してくる。

 ああ、この状況は局員さんたちに見せてもらった少女漫画とかいうので見たことがある気がする。

 私は五歳で周りはその倍近い年齢なので漫画のようなラブコメ展開はありえないが。

 同級生となる目の前の生徒さん達は魔法学校の四年生。飛び級が認められていても私ほどの年頃の人はさすがにいない。


 とりあえず考えておいた自己紹介をしておこう。一ヶ月の発声練習でかつぜつの悪さも克服済みだ。


「第6管理世界の隔離自治区からきました第二種監視指定共通人類種のカガリ・ダライアスです」


 身の上は隠さない。出身所属氏名を全て言うこの名乗りは他の状況でも使えるだろう。


「自治区から離れるのはこれが初めてなので、解らないことも多いかと思います」


 世間知らずであることも正直にアピールしておく。
 
 後からばれて評価を下げられるよりも、低い評価からはじめたほうが後々の面倒も少ないとは教育局の局員さんの弁だ。


 ちなみにダライアスとは滅んだ本星の名前でファミリーネームではなく部族名なのだが、まあそこまで説明は必要ないだろう。


「見てのとおりの若輩者ですがよろしくお願いします」


 ぺこりとお辞儀。幼いことをアピールするのは悪いことではないだろう。

 これも教育局曰く、甘やかされればいろいろ楽ができるだろうとか。


「あらあらかわいい」


 ……先生に一般生徒として見られないという弊害がありそうですが。

 友達を作ってこいと言われたものの、自治区にいた頃と変わらず年上の人たちにマスコット扱いされる予感がひしひしと。

 就業年齢の低さに定評のあるミッドチルダは嘘だったのか。


「それじゃあ三列目のあの窓際の席に座ってね」


 教室を改めて見直す。二人座れる情報端末内臓の机が一列に三つ。それが五列。三十名収容可能な教室のようだ。

 教室は階段状になっているので、一番後ろに座っても見えないということはないだろう。


 クラスの人数は……私を除いて十七人か。後ろの窓際の机には銀髪の男の人が一人座っている。

 教卓を降りてその席まで向かう。教室の階段は身体の小さな私でも難なく登れる高さだ。復興局は大人用の構造なので歩きにくかった。

 クラス中の視線を感じる中、席に到着。踏み台付きの高い椅子に登り、隣の銀髪の人へ一会釈。


「よろしくお願いします」


「ヤマト・ハーヴェイっていうんだ。よろしくね」


 柔らかな笑みを返してくれる。無害そうな優しい瞳。

 ……さらさらの輝くような銀髪に蒼と翠のオッドアイの瞳。顔は映像配信に登場する子役のように中性的で整った顔をしている。

 服装こそこの学校の男子制服だが、なんとも特徴的で目立つ見た目をしている。


「あ、そこのレバーで椅子の高さ変えられるからね」

「はい、ありがとうございます」


 こちらへの印象は良いようだ。何かとお世話になるであろう隣人さん。彼は友達になってくれるだろうか。












 午前の授業が無事に終わって昼食の時間。授業内容は……まあ可もなく不可もなく。

 昼食は食堂で注文するか、お弁当を持参すると言うもの。今日は食後にやることがあるので、教室でお弁当だ。

 料理はまだできないので、お弁当は買い置きしてあるブロック栄養食。チョコレート味なのでお菓子の感覚で食べられるのが素敵だ。

 皆からはそれで足りるの、などと声があがる。昼休みと同時に私の周りというかヤマトさんの周りに集まってきた女子達だ。彼と仲がいいのだろうか。


「カロリーはほとんどありませんね。ビタミン剤みたいなものです」


 二人ずつしか座れないはずの机だが、端末脇のボタンを押したらい周囲の机と合体して数人座れる形に変形したのには驚いた。

 これがミッドチルダの無駄な科学力……ううむ。


「私は身体が有機機械化された一種の機械生命体なので、魔力という動力源さえあればエネルギー源には事欠きません」


 周りの人たちは何を言っているんだと首をかしげている。

 しまった、子供相手に言い回しがくどすぎた。いや、子供相手じゃなくてもだめか。

 説明口調は機械学習で知識がテキスト化されている私の悪い癖だ。

 今までは復興局や教育局の年配の人たちが何も気にしていなかったので問題もなかったのだが。

 あれはませた子供とか思われていたんだろうか。


「……ぶっちゃけご飯食べなくても一ヶ月は平気で生きられます」


 魔力で熱量は確保できるが栄養が不足して、美容と健康と成長には大変よろしくないが。

 へー、すごーいなどという声があがる一方、奇怪なものを見る目をする者も幾人かいる。
 まあこんな生物、人間どころかペットにもいないから仕方が無い。

 ヤマトさんに至っては、小声で何か独り言を言っている。つい先日まで独り言をし続けた私にはキモいですよ貴方などとは言い出せないが。

「もしかして原作キャラか……? いや、戦闘機人はこうじゃなかったはず……」

 原作? 何を言っているんでしょうかねこの人は。

 戦闘機人……サイボークか何かのことだろうか。まあ完全に間違いと言うわけではない。


「初めに自己紹介したとおり、厳密には私は天然記念物みたいなもので人間じゃありませんからね」


 私は貴方達とは違うんだということは初めのうちに覚えていてもらおう。

 きっと私の気付かないところでも非人間的な行動をしてしまう。


「カガリちゃん」


 ヤマトさんは独り言から戻ってきたのか、再び私に向き直り笑みを投げかけてくる。

 どうもちゃん付けが完全に定着してしまった感じがする。最初に呼んだのはこの人だが。


「そんなこというなよ。種族が違ってもこうやって話せるんだから俺達と一緒だろ」


 不意に頭に手をのせられ撫でられる。


「ぬあ、何ですかこの手は」


 何をやってするんだろうかこの人は。

 いきなり他人の髪に触れるだなんて。ミッドの人というのは体当たりボディコミュニケーション上等な文化なのだろうか。

 それとも年下だからと撫でたり抱え上げたりするのが当然と思われているのだろうか。

 そういうのは嫌いではないが、今日あったばかりの人に触れられるのは不快だ。

 手を振り払う。


「不快です」


「あ、ごめんね」


 悪びれた顔はせず、ヤマトさんは変わらず微笑。
 
 周りの人たちもどこかぽわわんとした表情でこちらを眺めている。
 
 うーん、友人を作るのには悪い環境とは言わないですけれどこれは何かが違う……。












『ああ、そりゃあ専門用語でいうところのナデポってやつだなぁ』

 お昼の第一次報告通信。ミッドチルダの首都クラナガンに出張中の主任さんが通話ウィンドウに映っている。

 第二種監視指定共通人類種は子孫に異常性質が伝播するという種族なので、男性の渡航は特に厳しいはずなのだが主任さんはいつも世界中を飛び回っている。

 頼れるお兄さんという感じでミッドチルダ人にもてそうな主任さんへの報告内容は、今のところ特に問題も起きていないので先生とクラスメイトに関してのことだった。


『銀髪オッドアイ美形ナデポニコポなんて、97サブカルチャーの主人公みたいなやつだな』


 97サブカルチャーとはある特殊な管理外世界の娯楽の一種だ。

 管理外世界は管理法で不可侵となっているが、喪失文明復興局の多次元調査課が管理外世界の文化資料の中から質の高いインドア娯楽文化として発見したらしい。

 恐るべきは娯楽の少ない閉鎖部族ダライアス。文化復興といいつつアウトドアインドア問わず娯楽を収集している。

 学習局の局員さんにも人気で、私も休憩時間に97サブカルチャーのパズルゲームをやりこんだことがある。ばよえーん。


『お前は素直クールだからなぁ。攻略対象なんじゃないか』


 恐ろしいことを言ってくる。私はラブコメ漫画のサブヒロインか何かか。


「私が素直なのは人格が年齢相応に複雑化していないからで、感情の起伏が小さいのは機械学習の影響で与えられた情報に客観的になる傾向にあるからだと学習局の課長さんが」

『いや、お前のは言い回しが解りにくいのも含めて情操教育の失敗だ。と局長が言ってたぞ』


 本人を前にして失敗とか言わないで欲しい。


『むしろ攻略されたほうが心の発育に良いんじゃ――』


 通信を閉じて十分間の拒否設定にしておく。

 子供に有害な言葉はフィルタリングしなければならない。教室内にもフィルタリングが必要かもしれない。

 初日からこれでは、田舎育ちの私にはあまりにも刺激が強すぎる毎日になりそうだ。頭が痛い。



――――――
あとがき:実験要素を出しつつメタ度を下げようとして大失敗

用語解説
■銀髪オッドアイ
男性向け女性向け問わずあらゆるジャンルのオリジナル主人公の象徴的存在。
基本的にこういったものは物語の展開には影響しない容姿設定なのでヴィヴィや聖王様とは関係ありません。

■「もしかして原作キャラか……? いや、戦闘機人はこうじゃなかったはず……」
憑依や転生物では、原作知識を生かして原作キャラと親密になるのは主人公の義務です。
原作キャラ一人も出てきていませんが。

■ナデポニコポ
なでなで。ポッ→年下ヒロイン攻略完了
ニコッ。ポッ→ハーレムに一人追加

■素直クール
無愛想だけど相手が好きなことは隠しもしないツンデレの対極キャラ属性。
無抵抗主義が人気の秘密。

■攻略
ヒロインに自分を惚れさせるという業界用語。恋仲になるの意味ではない。
生身の人間に使うには失礼極まりないので注意が必要です。

SHOOTING TIPS
■ダライアス
グラディウスに並ぶ名作シリーズの一つ。惑星ダライアスを舞台に海洋生物型の敵機と幻想的な戦いを繰り広げます。
ダライアス外伝が大好きなので部族名になりました。隠れた裏設定がどうこうとかはありません。趣味です。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第二話Bパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/10/05 23:18

 LOST-CIVILIZATIONS REVIVAL BUREAU
 PRESENTS



 VEGICLE GLADIUS

 PILOT
 KAGARI




 DIFFICULTY KIDS

    VIBRATION ON

 SOUND STEREO

    SAVE MANUAL



 RADICAL-TYPE KAGARI













――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:ルビタグのテスト、行間の再テスト
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:オリジナル設定の披露大会
――――――














「将来の夢、ですか?」

 留学初日の放課後のこと。寮までの道のりをヤマトさん他数名の引率で会話をしながら歩いている。
 話題は専ら私への質問で、魔法学校へ来た理由の話から、卒業した後の話になった。

「私の一族は文明復興を目標としています。人材不足に人口不足という状況なので、職業選択の自由などはありません」

 それは……と言いよどむヤマトさん。
 自分なりの夢を持って魔導師や管理局員などを目指す人からすれば自分の夢を諦めたネガティブな言葉に聞こえるのだろうか。
 だが、違う。私には夢がある。

「そして文明の復興は私の望みでもありますね。それに、この前ようやくずっと夢だったお仕事を一族に任せられたんですよ。こんな歳で魔法学校に通うのもその夢の実現のためですよ」

 それはなに、と聞いてくる。

「たった一機で絶望的な兵力差の敵軍に勝利する、私たちの歴史の象徴……戦闘機えいゆうの復元です」












 もう何百年も昔のこと。私たちの祖先は遺伝子改良を繰り返し続けた結果、有機的な身体の機械化と魔力炉という体内エンジンを獲得した。

 機械に直接接続できる身体と生きている限り動き続ける動力源という特徴は、服代わりに機械を身に着けるという生活と機械が一体化した科学文明を発展させた。魔力素を集め自然法則を書き換える魔法は失われたかに見えたが、魔力炉と機械の親和性がそれに近しい“再現”を可能にした。こうして機械文明を主導とした魔法科学という多次元世界の中でも希少な技術体系が生まれた。

 動力部を排除した機械を身につけるという発想は、様々な機械の小型化に繋がった。情報端末。通信機。乗り物。
 そして兵器もだ。

 エンジンは魔力炉に。翼は重力制御チップに。装甲は防壁魔法チップに。
 戦闘機は小型化され、持ち運び可能な戦闘専用の小型魔動機械となった。

 シップと呼ばれるこの兵器は概略こそベルカ式魔法におけるアームドデバイスに近しいものだが、魔法補助の道具が機械化したデバイスと系統は完全に異なり、純科学から生まれた航空用戦闘機が魔法科学技術によって長い年月をかけて小型化されたものである。

 私の仕事はこのシップの復元。歴史の中に幾度と無く登場した戦闘機えいゆうたちの最後の姿を蘇らせることだ。

 今日はその試作復元機のクラスメイトへの初お披露目だ。

 管理局の武装隊志望者に大人気の科目、魔法戦闘訓練。物騒な話だが、質量兵器が根絶された管理世界では、魔導師とは即ち生まれながらに武力保持を許可された人間である。
 私が魔法学校に通わされているのも、対外的に魔導師として活動できるようにするためであろう。私は開発者であると同時に、戦闘機乗りテストパイロットなのだ。

 学校内にある魔法戦闘用訓練施設に入り、授業の開始を待つ。

「あれ、カガリちゃんその格好は……」

 制服をベースにしたデザインの白いバリアジャケットを着たヤマトさんが話しかけてくる。

 その格好、とは私の着ているボディラインの浮き出た全身スーツのことだろう。

「防護魔法の施されたパイロットスーツです。魔動機械ではバリアジャケットの再現が困難ですので」

 パイロット用とは思えない鮮やかな桃色のスーツに、花の飾りのついたヘルメット代わりのバイザー。
 教育局と喪失文明復興局が私専用に共同でデザインしたらしい。
 恥ずかしいが着なければ怪我をしてしまうので仕方が無い。

「そういえば航空機乗りだって言っていたね。デバイスも飛行用なのかな?」

「デバイスではありません。シップです」

 航空機ではなく戦闘機なのだが、言っても解ってくれないだろう。
 それに、今もっている試作機も戦闘機だと胸を張っていえるような性能ではない。
 それがどこまで授業で通用するのか少し心配だ。
 魔法学校初等部の授業内容くらい、余裕でこなさなければいけない身の上なのだが、未経験というのは緊張が隠せない。

「それでは皆さん、授業を始めますねー」

 ジャージ型のバリアジャケットという私の格好と同じくらい飛びぬけたセンスの先生が号令をかける。

 授業内容は対無人機を想定した追撃訓練。動き回る浮遊バルーンを非殺傷設定の魔法の射撃で撃ち落していくというもの。
 クラス内でも数少ない空戦魔導師志望である私は、バルーンが張る機雷代わりの空中障壁をかわしていくという追加課題付きだ。

 魔力炉を回してパイロットスーツへ魔力を送る。右腕のコネクタに繋げられたシップを起動する。

 試作戦闘機盤『グラディウス

 見た目は名前のとおり、剣の刀身に似たフォルムをした金属の板。
 英雄機ビックバイパーを再現するために作られた原始的な魔法武器。
 よって、銃を手にする以前の人類種の武器の名を付けられた。
 武器グラディウスから本物の機動小型戦闘機ビックバイパーへと進化するための第一歩。

『PLAYER 1 START』

 訓練開始の機械音声が響く。
 さあ、はじめよう。

 防壁展開。
 慣性制御開始。
 重力制御機構機動。

 グラディウスが形を変え枝を伸ばす。
 枝は背中のコネクタに突き刺さり、さらに形を変え小さな機械の翼を構築する。
 ミッド式では困難とされる魔法を機械によって実現する。

 ――飛翔せよ!


SPEED UPすぴーだっ


 轟、と音を立て機械翼アフターバーナーが魔力の火を噴く。

 加速。加速。上昇。
 風を切って進む感触はない。
 私が乗るのは魔法の箒ではなく戦闘機のコックピットだ。

 視界に映るのは三機のバルーン。
 いずれも円形の魔法障壁を空中に設置しながら浮遊している。

 このまま射撃しても障壁に阻まれてしまう。
 急停止。慣性制御の出力が不十分なのか、わずかに身体に重圧がかかる。
 だが、この身体は元より慣性に耐えるべく遺伝子強化された生命だ。

 障壁に対し垂直に急加速する。
 歴代の英雄機はいずれもこのような全方位への方向転換を得意としていた。
 基本の飛行能力であるそれを再現していないはずがない。

 目の前には無防備のバルーン。
 右腕を前に突き出し、シップの機銃バルカンから魔力弾ショットを吐き出す。
 連射性の高いこの機銃は、秒間最大十六連射が可能だ。
 通常出力で使用する限り、魔力炉の魔力供給を上回らないため半永久的に魔力弾を撃ち続けられる。

 三つのバルーンを一息で撃ち落し、遠くに見えたバルーン一機も魔法障壁の隙間を抜いて撃ち落す。

 残るは地面すれすれを移動するバルーン一機。
 これも機銃で撃ち抜いていいのだが、試運転としてもう一つの兵装魔法を起動する。


MISSILEみっそ


 対地魔力弾頭。機銃ほど連射性もなく上空への発射もできないが、下方に対し強力な一撃を撃ち出す。
 狙いを定め、発射。
 魔力弾頭だというのに、質量兵器さながらのそのフォルム。
 狙いがわずかにずれバルーンのやや前方に落ちた弾頭は、爆音と共に爆風でバルーンを消し飛ばした。

 ……非殺傷設定でなかったら、地面がえぐれていたかもしれない。


『GAME OVER』


 訓練終了のアナウンスがかかる。
 待機場所まで戻ると、ヤマトさんが出迎えてくれた。

「や、おつかれさま。思っていたよりずっとすごかったよ」

「空戦魔導師資格が直近の目標ですからね。自治区ではシミュレータを使って訓練していたので初心者ではないですよ」

 空中に浮かぶウィンドウに陸士訓練を行うクラスメイト達の姿が映っている。
 これで私の訓練を見ていたのだろう。
 同時並行で行われている訓練を先生は全部確認しているんだろうか。
 のんびりしていそうに見えて実は結構優秀な人なのかもしれない。魔導師って一応それなりの地位にあたるし。

「あ、空戦目指しているんだ。俺も仕官学校いきたいから空戦E持っているけど、よかったら後で模擬戦でもやってみようか?」

「非殺傷はできますけど、訓練弾設定がまだ使えないので模擬戦は無理です。怪我したいなら別ですけど」

「はは、さすがにあの連射を非殺傷で受けたくはないねー」

 惑星ダライアスの戦闘に関する魔法技術は純粋な戦争の道具として発展したので、非殺傷設定という概念が存在しない。
 魔力炉があっても機械を通さなければ何もできないという、魔導師とは違う性質がこの差を分けたのだろう。
 ミッド式に則った物質化・エネルギー化した魔力の非殺傷設定は技術交流のため私が生まれるより前に開発済みなのだが、より特殊な用途である訓練弾設定は私の留学までに間に合わなかったようだ。

 まあミッド式魔法戦闘技術の技術移植開発環境は私に移行済みなので、これからは私が開発しなければいけないんだけど。
 ちなみに訓練弾設定は魔法学校の戦闘訓練科目で一番最初に学習する魔法。早めに開発を終えないと留年どころか学年が下がります。ひー。

 模擬戦に関しては、後日機会があったらやろうという約束をとりつけて終わった。
 その後行われたヤマトさんの訓練内容は見事の一言で、最小の動きでバルーンを撃ち抜いていった。
 機動力重視の私とは全く異なる動きだったが、空戦魔導師資格持ちというのは伊達ではないようであった。

 なるほど、シップの性能試験という観点で見るなら、空戦魔導師との模擬戦はバルーンを使った状況訓練より有意義になりそうだ。
 訓練弾開発の時間はミッド史などの教養暗記科目の授業から捻出しよう。
 留学生の身で授業中の内職など見つかったら色んな方面から大目玉だ。
 でも仕方が無い。強化人間といっても私は幼児。健全な成長のために夜の8時には眠くなってしまう。
 寮にも強襲してくるクラスの皆が次の休日に開放してくれれば良いのだけれども……。












 学校生活を始めてからから二週間が経った。授業は順調。ミッド式の魔法を直に目にすることで得られることも多い。
 クラスの人たちも、人外だからと私に辛く当たらず幼子に接するように優しくしてくれている。お菓子をたくさんくれるのが実に良い傾向だ。
 その中でも、隣の席ということもあってヤマト・ハーヴェイさんとは特に親しくなっている。

 ヤマトさんと友人になって解ったのは、派手な見た目に反して性格だけ見ると意外と凡人だということだ。
 押しが弱くて優柔不断。どこか対人恐怖症の傾向があるように見えるが、『年下を相手にする態度』で会話は成立する。
 漫画でみた告白の返事の典型である『優しいんだけど恋人としては見れない』とかそういう人種なのだが、幻想的な容姿のためか周囲からはフェミニストの人格者のように見られているようだ。
 クラスの女子には憧れの対象として注目を集めているが、まあ人間じゃない私からすればそのあたりの機敏には興味がない。五歳児としての友好関係を築かせてもらっている。

 ただ、むやみやたらに頭を撫でたがるのはどうにかならないだろうか。
 監視指定共通人類種の人類に与える影響で脅しても周囲が怯えるだけで、彼は何も気にしないし。実は私のような人とは違う種族なのだろうか。
 オッドアイなのも異色症なのではなくそういう種族とか言われたら納得できる。

 まあ、悪い人ではない。ミッドにいる間はお世話になっておこう。
 まずはそう、約束した訓練弾での模擬戦だ。
 今日は放課後に訓練所で待ち合わせだ。更衣室でパイロットスーツに着替え、校内を歩く。
 普段は授業前の移動なので気にならなかったが、授業終了直後の放課後をこの格好で闊歩するのは割りと恥ずかしい。
 急いで訓練施設に向かおう。

「やあ、よくきてくれたね」

「将来的に管理局の嘱託魔導師になる可能性も高いですからね。対魔導師戦の練習は是非しておきたいんです」

 グラディウスを起動。機械翼が背中から生えてくる。
 訓練弾設定のついでに慣性制御にも手を加えてある。
 対空戦魔導師では、前進ばかりしているわけにはいかない。空中での全方位への急旋回が必要になるだろう。

「手加減は無しでお願いします」

 言っておかないと、彼なら子供相手だからと手を抜いてしまうだろう。
 折角の機会だ。空戦Eの実力を実際に目にしてみたい。

「うん、じゃあ本気でいくからね……」

 言うと同時にヤマトさんはデバイスを起動し、いつもの白いバリアジャケットが顕現する。
 しかし、それだけでは終わらなかった。

 ヤマトさんの足元に魔法陣が現れ、銀色の魔力の渦が周囲を駆け巡った。
 見てとれる魔法式は……抑制の解除?

『WARNING!! WARNING!!』

 未登録魔力警告!?

 シップに標準搭載されている、対船団用のシステム警告が頭の中に鳴り響く。
 本来魔力で駆動する敵性巨大戦闘機械に反応するもので、人間相手にそうそう鳴るものではない。
 魔導師に反応する場合は推定魔力資質……AA以上!

 これがヤマトさんの本気だというのか。本当にこれが空戦Eだとすると辿るべき未来に絶望しか感じない。
 訓練の様子を見ても、これはもう魔導師として前線に出れるレベルなどとうに達しているだろうに。

「じゃあいくよ。大丈夫、君ならできるよ」

 ヤマトさんが両の手から人の頭ほどの魔力弾を宙に放った。

「――くっ!」

 これは危険だ。
 直感のまま急いで距離をとる。
 直後、二つの魔力弾は弾けて無数の魔力弾へと変わった。

 数え切れないほどの弾の渦。
 いくら訓練弾といえども、この弾雨に晒されては怪我の危険性がある。

 ――危機状況を感知。加圧処理しょりおちモードを起動します。

 脳に埋め込まれた生命維持チップが反射的に防御機構を動かす。
 視界の動きがひどくゆっくりになる。

 熟練の戦闘者が修練の果てに身につけるという知覚の加速。
 強化された人類種である私たちは、それを任意に発動させることができる。

 加圧処理しょりおちされた視界の中でなお高速で飛来する魔力弾の雨。だが、今なら活路が見てとれる。
 魔法障壁を全力で張り、弾雨の隙間をぬって回避していく。
 機銃を構え発射。命中するが防壁魔法プロテクションで防がれてしまう。
 こちらの魔法障壁は、魔法弾にかすり少しずつ削られていく。
 だが、いくらでも張りなおせる周囲の魔法障壁が削れてもスーツあたりはんていに直撃しなければ問題は……。

「きゃあっ!」

 背中に衝撃。背後から撃たれたらしい。
 しまった、あの魔力弾は分裂して方向性を変えるんだ。
 背後で分裂すれば死角から弾が襲い掛かるのだ。

 視覚に頼りすぎた。魔法戦闘は弾幕の性質を見極めることこそが大切だということか。

「ほら、しっかり!」

 魔力弾の散布をやめたヤマトさんが激励してくる。
 墜落しかけた機体からだを旋回させ、姿勢を制御する。

 そうだ、これは訓練弾。魔力炉のおかげで魔法障壁の常時全方位展開ができるのだ。
 当たって覚える。回避できるまで練習すれば良い。
 この分裂魔力弾は、そう、対魔導師戦だけではなく対集団戦の回避訓練にもつながるのだから。












 その後、私は四度に渡って撃墜された。
 聞くところによると、あの魔法弾に付与させていたのは防御を抜いて衝撃を与える徹甲という魔法らしい。
 たった一発直撃しただけで動きが止まってしまうのはそのせいか。
 ますますもって底が見えない人だ。

「ヤマトさん。あなた本当に空戦Eなんですか?」

「いやあ、あまり評価が上がりすぎると面倒そうだからね」

 本当はランクAAだけど面倒だからE。
 何をやりたいのやら。

「士官学校目指すとかこの前言っていませんでしたか」

「そうだったね。ちょっとまじめにやってみるかな」

「模擬戦ではこの様ですが、勉強ならお手伝いできますよ」

 ミッド式魔導師の可能性を垣間見た。
 空戦砲撃魔導師ならば、戦闘機乗りとして学ぶべき技術もあるだろう。

 発揮できる魔法の性能はシップの性能に比例するが、それを操るのは私の技量に一任される。
 シップの性能も技量も両方足りないのを痛感した。
 英雄機を復元する以上、私は一族から時空管理局のエース級になるのを期待されているのだ。
 シミュレータで評価S+を貰って満足している場合ではない。

 今後もヤマトさんには付き合ってもらおうか。
 模擬戦が私にとっての遊びだと言えば、きっと喜んで手伝ってくれるだろう。



 これが私の人生に大きく関わるであろうヤマトさんとの、戦友としての始まり。



――――――
あとがき:さすがにそろそろ原作キャラが出ます。もし続くならですが

SHOOTING TIPS
■機銃
命名は斑鳩より。通常弾を撃つための兵装。
STGにおいて通常弾は無限に打ち続けられるのに質量兵器っぽい見た目をしていることが多い。

■ショット
STGの通常弾はなんて呼ぶのが一般的なんでしょう。

■グラディウス
Gladiusだと古代の剣で、Gradiusだと惑星グラディウスになります。
ちなみにグラディウスの自機の名前を『ビックバイパー』ではなく『グラディウス』だと勘違いしている人は多いようです。

■処理落ち
STGでは開発者側でわざと処理落ちをさせてゲーム速度を遅くして、異常な数の弾幕を避けさせるというシーンがちらほらあります。
危機的状況から生き残るというのはSTGの醍醐味の一つでもあります。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第三話Aパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/10/05 23:18

「へえ、ヤマトさんアニメとかよく見るんですか」

「恥ずかしいから他の人にはあまり言ってないんだけどね」

「私もよく見ますよ。ほら、休日の朝にやっているのとか……」

「子供向けはちょっと俺とは方向性が……。ゲームとかはするの?」

「地元にいたときに、97管理外世界のゲームを結構やりましたね。同じ色のスライムを組み合わせて消すパズルゲーム」

「あれかー。俺は最近はゲームやっていないけど、昔は東方っていう弾幕ゲーとかやっていたよ」

「弾幕ゲー、ですか?」

「うん、たくさんの弾を避けていくシューティング。東方はキャラとか音楽とかそういうのをファンで深めていくのがアニメと似ていてねー」

「東方ですかぁ、聞いたことないですね」

「……あ、ほら、97管理外世界みたいにちょっとマイナーな世界のゲームなんだ。もう手に入らないんだよね」

 そんな放課後の他愛ない会話。













――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:そろそろテストする内容がなくなってきました
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:原作キャラと仲良くなる夢小説
――――――














 ミッドチルダへの留学から一年が経った。友人達の協力や持ち込んでいた学習機械の助けもあって座学、実技共に好成績を残すことができ、学期末に行われた昇級試験では我ながら会心の出来となった。その結果、初等部五年を飛ばして中等部の一年生への飛び級することとなった。
 中等部とはいっても、制服が変わり授業時間が増えた以外はさして学ぶことに変わりはないが、交友関係はさらに広がっていった。
 管理局仕官や研究魔導師として大成する人もこの中から出てくるだろう。友達を作れと言った主任さん達の思惑は成功、ということだろうか。
 そんなことを思いつつ始まる長期休暇バカンス。友人達との親睦を深めるひと夏の思い出が……などということができるほどの身分ではない。里帰りをしてお仕事だ。

 今回の私のお仕事は、ダライアス本星の残存魔動機械発掘への同行だ。機動小型戦闘機シップの開発を成功させたことで魔動機械開発者としてある程度認められたらしく、一開発者として本星の機械都市郡の跡やロストロギアを見てこいとのことらしい。
 常時人手不足である私たちの部族で大規模発掘隊など組めるわけもなく、外部から考古学の団体を招致しての短期発掘となる。
 発掘隊の主導は、多次元考古学の権威であるスクライア一族。
 主任さん曰く、管理局のコネで呼べたということだが、浪漫を食べて生きているような一族が管理局に言われただけでミッドチルダにもベルカにも関係ないような辺境世界へ来るだろうか。

 科学側からのアプローチで超発達した魔法科学。
 テラフォーミング技術を身につけながらも外宇宙・異世界へ進出しなかったその文化。
 異星侵略者や異次元生命体との戦いの歴史。
 私たちの抱える『珍しさ』が彼らを惹きとめられたのだろう。
 管理局とのコネではなくツテが正しいのだろうか。主任さんたちには是非ともコネのほうを作ってもらいたい。


 久方ぶりの自治区。全土が都市化されたミッドチルダに慣れてきた身としては、この広大な自然がとてもありがたいものに見える。
 ここが故郷ではないことは解っている。でも、育った場所を懐かしく思うのは悪いことではないだろう。
 土の香り。
 鳥の声。
 一面の緑。
 愛おしい愛おしい。ああ、私ってば田舎娘なんだなぁ、本当に。
 魔力残滓にまみれた都会はしばらく御免こうむりたいところだ。
 シップの高速飛行でひとっ飛びすればいいところをわざわざ幼児用エアスクーターなど使っているのも昔を思い出してのことだ。
 あ、あとで空を思いっきり飛び回ってみよう。ミッドチルダは飛行魔法の制限が厳しすぎたから。

 エアスクーターの後ろのキャビネットには、デスマーチ(平均睡眠時間六時間)の果てに完成した機動小型戦闘機ビックバイパーT301が乗っている。キャビネットに収まりきらずはみ出している、私の身長の程もある二本の突き出した金属ブレードがそれだ。
 シップは魔力弾、魔力砲、推進魔力波などを放出、巡回させるためにどうしても携帯式魔動機械と比べてサイズが大きくなってしまう。大人では軽く持ち上げられるそれも、まだ六歳と少しの私の体では抱えるような大きさだ。重力制御機構を充魔式で組み込んであるので軽いのだが。

 これを見て自治区の皆は褒めてくれるだろうか。
 課長ちゃんなどは今すぐ乗らせろとうるさかったものだが。


 喪失文明復興局の近くまで来ると、発掘隊の宿泊キャンプが見えた。
 自治区の性質上、観光用の大型ホテルなどないのでこうせざるを得ないのだが、さすが管理世界随一の発掘隊。キャンプといってもなんとも近代的な構えだ。見たところの収容人数は百人規模だろう。
 流体金属や珪素素材を使っているんだろうか。風が吹いてもびくともしなさそうだし、さりげなく窓付きだ。
 中からざわめきが聞こえる。復興局に顔出ししてから挨拶に出向こうか。

 喪失文明復興局は、百二十名の通常勤務者(自治区外出張含む)と三十名の在宅勤務者、十名の自治区外出向者(私もこの中に入る)で構成されている人口八千人の部族では割と大きな組織だ。なおいずれも端数切捨てのうろ覚えの人数。
 局とつくだけあって、自治区の公的機関の一つだ。ここの成果は部族全員の生活の向上に役立っている。

 建物は、伐採直植林で採られた少量の木材と輸入資材、それと一部回収された人工殖民衛星の資材で建てられている。
 管理局や重工・精密機械関連企業への技術協力で割りと潤っている部族だが、復興局と教育局には大規模な資金投資が行われている。
 私の作っている戦闘機だって、実物大の戦闘機とまでは行かないが、まあそれなりの開発資金がかかっていたりするのだ。
 技術も資材も空から降ってこない。集約回路なんて私一人で作れるはずがない。
 応用性が高いチップを自治区外で経営している工場で生産しているのだ。
 魔導師のデバイスも似たようなもの。個人組み立て用のパーツはデバイスメーカーが個人用にパーツわけしてリリースしているものらしいし(デバイスオタクの知人のヤマト・ハーヴェイさん談)。

 駐車場にエアスクーターを止める。駐輪場といっても芝生をロープで区切ったものだが。
 魔動機械は移動用のものも小型化が進んでいるので、私のように大型の乗り物に乗る人は少ないのか車の数は少ない。
 キャビネットの底からお土産のベルカ自治領剣十字饅頭を取り出す。袋の口を手首にかけて、二機一組のビックバイパーを両手で抱えて局の入り口まで向かった。
 立て付けの悪い局の引き戸を指でひっかけてずらす。乾いた音があたりに響く。引き戸は木製。開けにくいことこのうえないが、これはこれで味があるらしい(生活文化部多次元調査課課長ちゃん談)。

「どうもー、カガリですけどー……」

 受付のお姉さんと目が合う。確か、自治区の案内役の仕事をしていて普段は受付嬢。四十歳を超えているらしいがこの部族はその程度で老化が始まるほど柔な生物ではない。なのでお姉さん。
 ぺこりと会釈。向こうはこちらをじーっと見ている。

「課長ちゃん今日こちらに出勤してると聞いたんですけどー……」

「あらあらあらあらカガリちゃんじゃないのそっか今日帰ってくるんだったね確かミッド帰りだったかいあっちは魔力残滓で空気が澱んでいるって言うけどこんなちっちゃいのに大丈夫だったのかいああお土産なんて持ってきてくれて偉いねえあとでみんなにお茶いれてあげなきゃねそうそう課長さんね今キャンプのほうにいっているのよねほらほらこっちお土産なんてそこにおいておいて」

「あー……」

 っという間に課長ちゃんの前に。

「おう、それがビックバイパーか。貸せ。飛んでくるから挨拶しとけよ」

 何この展開。
 気がついたらコテージの入り口に居て、知らない人たちの前に放り出された。
 受付さんも、きゃー課長おぷしょんだしてーとか言って出ていった。
 仕事は真面目にやろうよ。お客さんも居るんだし。
 挨拶しろといわれても人が多い。端からおじぎしていくわけにもいかないので、知り合いを見つけて紹介してもらうしかない。

 ぐるりとコテージを見渡す。宴会用の大ホールとでもいうのだろうか。料理ののったテーブルがそこらに配置されて四、五十人は入っているというのに狭さを一切感じない。発掘作業前の親睦会みたいなのでもしていたのだろうか。本当にここはコテージなのか?
 見たことがある顔が何人かいるがおそらく復興局の局員さん。名前も思い出せないということは一年前もそんなに親しくは無かったのだろう。自治区は狭い土地だが、私は教育局で学習装置に缶詰ばかりだったために知り合いはとても少ない。
 見覚えのない、おそらく外部からの発掘隊員は男性が多い。
 子に異常性が遺伝するという第二種監視指定の性質からの選別だろう。
 だが、その発掘隊の面子に混じって談笑する、ごくごく最近まで会っていた見知った顔を見つけてしまった。
 近づいてその人の白いシャツを引っ張る。

「……隔離自治区に発掘隊の人が挨拶に来ているのは解りますけど、何でヤマトさんがいるんですか?」

 ああもう頭痛い。
 ヤマト・ハーヴェイさん。ミッドチルダの魔法学校のクラスメイトだ。
 白いYシャツに灰色のパンツと、この人は自分の銀髪オッドアイという清涼なイメージを引き立たせる小奇麗な格好を好む。
 自然あふれるこの田舎ではその様相が爽やかに引き立てられるのだろうが、だからといってこんな辺境に沸いて出てくるような生物ではない。
 ヤマトさんを知る課長ちゃんは、コテージの外のほうでビックバイパーをいじって課の人たちと遊んでいる。
 ……すぴーだっすぴーだっ叫んでも魔力を手順どおり流さなきゃ発動しませんよ酔っ払い。
 後ろは無視してヤマトさんの言い分を聞こう。

「あー、時空管理局を目指すからには、やっぱりスクライア一族は見ておきたいじゃないか」

 彼は私がミッドチルダに留学して以来、授業外の模擬戦や魔導師昇格空戦Dランク試験の二人一組枠ツーマンセルなどでお世話になっている戦友のようなものだ。
 空戦C試験こそ一人枠での受験となったが、仲間と組んでの二人枠ミッションは戦闘機乗りとして必ず必要になってくるものだ。併走機オプションを撃墜してしまうような戦闘機乗りなど、危なすぎて実運用に使えない。
 だが、間違っても里までストーキングされるような仲ではない。
 休み前に予定を聞かれて何をするか正直に答えていたんでしたね、そういえば。
 執務官を目指しているとは前々から聞いているから、管理局関連というなら解らないでもないですが……。

「管理局と考古学者一族に何の関係が?」

「ほら、管理局が封印管理してる第一級ロストロギアの発掘で有名な……」

「スクライア一族がやっているのは遺跡の発掘と各世界の古代史の編纂で、物騒な古代兵器の発掘なんてしていませんよ。どこで聞いたんですかそんなこと」

 周りに居る発掘隊の人も何か突っ込んであげてくださいよ。へらへら笑っていないで。
 ああ、またほわわんとした兄とそれを叱り付ける妹のように見られている気がする。

 そもそもこの自治区はほいほいと入れるほどオープンな場所ではない。
 監視指定というなの疫病隔離をされているのだ。男性といえども手続きが多い。

「管理局に身内が居てさ。男なら割と簡単に入れるっていうからビザ発効してもらったんだ」

 管理局、ミッドチルダで払ったお菓子の消費税を返してください!

 課長ちゃん課長ちゃん、ちょっとこの人どうにかしてください。
 え? 恋人の面倒は見ろ? ちげえ!

 結局、良い社会見学になるだろうとヤマトさんは発掘作業にまで同行してくることになった。
 機密とかそういうのないんだろうか、うちの喪失文明は。












 次元世界間移動は純魔法技術の到達した一つの極限である。
 などと言われているかは知らないが、他次元世界を観測、干渉できた文明世界はどこも魔法重視の文明であったらしい。
 私たち発掘隊が乗っているこの鉄でできた船も、魔法技術の粋を集めた次元空間航行船だ。
 過去の惑星ダライアスで宇宙生物とドンパチをしていた亜空間は次元世界とはまた違うものであるらしい。
 このあたりは専門分野ではないのでまだ詳しくはない。

 不思議空間を旅する夢の船。そんな中で私は異世界人とエンカウントしていた。
 場所は第一応対室。
 隣にはダライアス一族側の発掘代表。復興局の部長さん。
 目の前にはスクライア一族側の発掘隊隊長。見た目十代後半。
 その隣には金髪の小さな作業着姿の男の子。年のころは私と同じか少し上か。
 小さな子と感じるのは同世代の知り合いが居ないからだが。

「この子はユーノ・スクライア。君と同じ六歳で考古学者の駆け出しなんだ」

 と男の子の頭を撫でながら言う隊長さん。

「仲良くしてあげてね、カガリちゃん」

 と私の頭を撫でながら言う部長さん。
 ちなみに私の紹介内容は魔動機械開発者の駆け出しさんだとか。最近は乗るほうに偏りがちだけど。

 はあ、また仲良くしろ、か。
 裏にスクライアとダライアスのコネを作っておけとの意図があるように見えてくるのは間違いなんだろうか。
 まあ、それが嫌というわけではない。文明の復興は私の望むところでもあるし、裏にどんな思惑があろうとも友人となってしまえば純粋に友人として付き合える。友達百人とは言わないが仲の良い人は多くても困らない。友人同士でも打算はあるが。
 異性の友人といっても、クラスメイトの半分は男の人だったからそのあたりにも文句はない。
 でも、急に仲良くしろと言われてもそんな漫画で見たお見合いじゃないんだから……。

「じゃあ、私たちはここで打ち合わせするから、カガリちゃんはユーノくんと一緒に休憩室ででも遊んできてね」

 私たちじゃなくてお偉いさん同士のお見合いだった。ここは年老いた人に任せましょう。
 応対室を追い出される。廊下はクリーム色の床に白い壁。学校とはまた違う、映像配信のドラマで見たオフィスみたいだ。
 次元船っぽくない。次元船らしいとはどういうものかと聞かれてもはっきりと言えないが、そう、壁とかに光る魔法のラインが通っているようなのが足りない。

 って違う。一緒に追い出された子と話さなくちゃ。
 男の子に向き直る。金髪を肩ほどで切りそろえた清楚そうな子。翠色の瞳の視線がどこか困惑したように足元をふらふらと彷徨う。
 まあいきなり知らない女の子と二人っきりじゃね。駆け出しって言っていたし、人見知りするんだろう。
 もしくは私が人間じゃないので怖がっているだけだとか?

「ユーノくん、でいいですか? スクライアの人はたくさんいますので」

「うん、いいよ。じゃあ僕はカガリちゃんでいいかな?」

 急に笑顔になるユーノくん。向こうもどう話そうと困っていたのかな?

「ちゃん付けはできればやめていただけたら……。呼び捨てで構いませんので」

「うん……」

 いきなり会話が止まった。いきなり拒否はまずかっただろうか。
 でもここで拒否しておかないと脱ちゃん付けへの道が……。あ、ちゃんが嫌なのはどうも自分のキャラに合っていないような気がするからです。
 お互いに微妙な空気をかもし出しながら近くの休憩室に到着した。中は無人。また気まずい。

 そういえば同年代の友達というのも初めて。
 周りはいつも年上ばかりなので、どう接していいか解らない。
 とりあえずここは……。

「お菓子食べますか?」

 ずっと肩にかけていたバッグから、お菓子の箱を取り出す。
 箱入りのクッキー、メルヘンメイズ。苺味のクリームが挟まっていてお手ごろな値段でしっとりふわふわが味わえる。

「あ、ありがとう」

 ユーノくんの目がお菓子に釘付けになる。
 封をあけてまず一個取り出す。箱をユーノくんの方に押してどうぞと促す。

 スナックをもぐもぐと食べるユーノくん。両手でクッキーをつかんで小さな口で一生懸命に頬張る。何ともこれはこれは可愛らしい。
 皆が私に餌付けしたがるのもわかるような気がしますね。

「ユーノくんはお菓子好きなんですか?」

「うん、発掘が無いときはお昼の前とお昼のあとにお姉さんがお菓子をつくってくれるんだ」

 手作りお菓子とはまあまあ愛されちゃってうらやましい。
 私もそれくらい毎日お菓子付けになりたいものだ。

「私は学校に通っているからお昼と学校が終わった後しか食べられないんですよね」

「あの自治区の学校?」

「いえ、ミッドチルダの魔法学校に留学しているんです。ユーノくんは一族のほうで考古学の勉強ですか?」

「うん、あとは結界魔法とか。魔導師資格もとっておいたほうが良いって言われて……」

 なんともすんなり会話がすすんだものだ。お菓子の持つ魔力がこうさせたのか。
 話は自己紹介の延長のようなもので、お互いどのような生活をしているかを交換し合うようなものだった。
 うーん、スクライア一族も割りとハード。こんな小さな子に難関総合魔導師資格をとらせているだなんて。
 定住地を持たない流浪の民。一族単位で世界を渡り、一族全員が家族である。私たちの一族と近いようで遠いようなそんな共通点。
 クッキーも半ばを消費してお茶でも淹れようかと席を立ったところ、休憩室の扉が開いて誰かが入ってくる。
 ヤマトさんだ。せっかくの雰囲気を乱された気がして少しむっとなる。

「あ、カガリちゃんか。その子は?」

「ユーノ・スクライアくんです。スクライアさんはいっぱい居るのでユーノくんと呼んであげてください」

「そう、この子が……」

 ヤマトさんはじっとユーノくんを観察するように見つめている。
 クッキーを頬張ったままぺこりと挨拶するユーノくん。
 そうですかそうですかクッキーは美味しいですか。今お茶を淹れてあげましょう。
 こっちのヤマトさんもお茶でも飲みにきたのだろうか。

「さっきロビーにいたはずですけどどうしました? ヤマトさんは女性職員さんたちの相手でもしてきてください」

「いやあ、男の人はそうでもないんだけど、あの人たちなんだか冷たくてね。嫌われるようなことしたかなぁ」

 発掘隊の女性はほとんどがダライアス族からの出向者だ。自治区にこもって外部との接触をしてこなかった人たちばかり。
 必要以上に外部の人と関わらないようにしているのは仕方ないですけど、行き過ぎると発掘隊の雰囲気が悪くなりそうですね。
 よし、ここは……

「人間の異性を遠ざけているだけですよ。大丈夫、ヤマトさんなら優しいこと言ってニコっと笑えばショタ好きの現地妻獲得です」

「俺はどこの赤毛の剣士だ!」

 赤毛の剣士は誰かは知りませんが、この人は初等部中等部寮母魔導師資格受付のお姉さんエトセトラ、ハーレムでも作る気なのかってくらい無条件で他人に慕われますからね。船内の雰囲気作りには役立ってくれるでしょう。
 給茶機から冷たいお茶(何のお茶かは不明。この船はどこの世界での建造だろう?)を入れてヤマトさんに手渡す。

「ほらほら行った。あなたは皆と会話して友好になるのがここでのお仕事ですよ」

「なんだか今日のカガリちゃんいつにも増して冷たい気がするなぁ。あ、ユーノくんこれからよろしくね」

 片手を上げてユーノくんに挨拶をしてから出ていくヤマトさん。
 完全に追い出してしまったような気もするがヤマトさん相手なら問題ないだろう。
 普段皆にちやほやされているんだから私くらい少し厳しくしてもばちはあたらない。

 給茶機から今度は暖かいお茶を二つ淹れて、入り口のほうを未だに見つめているユーノくんに片方を手渡す。

「あ、さっきの人は私の学校のクラスメイトで……」

 存在そのものが派手な彼との数奇なエピソードには事欠かない。
 同じ歳の友達というものにうかれてついつい私らしくも無く延々と自分語りで話し明かしてしまったのでした。
 自分の特異な境遇を誰かに解ってもらいたかったとかだったら、ちょっと人生とか考えてみたほうが良いんでしょうか。



――――――
あとがき:行動原理が「原作キャラに会いたい」というミーハーさは転生・憑依SSに限らず夢小説でも一般的です。

SHOOTING TIPS
■東方
年に一回発売される個人製作のシリーズ物のSTG。
STG業界を引っ張っていく一大ムーブメントを巻き起こすか……と思いきやWindows版二作目以降はキャラ人気と音楽人気ばかりでSTGは衰退していく一方でしたというオチ。

■ビックバイパーT301
グラディウスⅤの自機。かっこよさならトップレベルの造形をしています。
シューティングゲームヒストリカというガチャポンで立体化されていますが見事に品切れ中。再販希望。

■メルヘンメイズ
不思議の国のアリスを題材とした全方位シューティング(類似ジャンルにずんずん教の野望や奇々怪界。半分アクションゲーム扱い)。
お菓子の名前をどうしようと考えていたら、甘そうなゲームでふと思い出しました。
でもおかしの国ってどういうステージだったか思い出せません



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第三話Bパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/12/05 08:01

「あちらに見えますのが、惑星壊滅時に無人兵器のGALLOP兵団が根こそぎ吹っ飛ばした都市中枢部です」

 暗黙的にお守りを任されたヤマトさんとユーノくんをつれて作業外空域を飛行する。複数部族の共同作業ということもあってか、現場作業員となる駆け出しのユーノくんはまずは現場の見学からだ。

 無数の砲弾、爆撃で瓦礫に埋もれた都市では重機を使った残骸撤去が必要となってくる。
 魔法という人力リソースは最小限の対物浮遊魔法などのサポートに割り振られることになる。
 長丁場だ。精神的疲労の溜まる高度な魔法は連発できない。

 その点、無尽蔵のエネルギーで機械を駆使するダライアス一族と補助魔法を得意とするスクライア一族の相性はとてもいいらしい。
 細かい瓦礫を魔力の粘土で固めて重機で一気に持ち上げるのは見ていて楽しいものがある。

 地上部では準人型重機が研究所と思わしき場所の瓦礫をアームで掴んで撤去作業を行っている。

「あっちの丸くて可愛いのが働き蜂ツインビーで、無骨なのがネオプトレモスです」

 どちらも昔にここ本星で戦闘用として生まれたのだが、物を掴むことができるという特徴と人間の動きの延長でそのまま操れるという特性から、武装を外し改造を積み重ねられて重機に生まれ変わったものだ。

 なお、内部には補助用の独立魔力炉が搭載されており、その魔力炉だけで長時間単独運用が可能なため、武装付きならばその大質量で殴って戦える質量兵器一歩手前の代物が完成する。
 独立魔力炉は時空管理局技術部門の強い要請もあって復元されたものなのだが、取り扱いは政治的に中々難しいものがあるようだ。

 あ、演算機らしきものが掘り起こされた。遠目からは破損箇所が見当たらない。
 演算機そのものにも高い価値があるが、重要なのはその中身のデータだ。
 私自身は現場作業は主ではなく機械技術者として来ているので、解析作業のほうを見にいこう。

「それじゃあ私は本部に戻りますね。危ないので瓦礫や重機には近寄らないでくださいね」

 さてさて何が出てくるだろうか。













――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:内容自体が試験的
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:(話の本編に関係ない)裏設定の列挙
――――――














 いやいやいや。まさかまさか。こんなものが発掘されるとは。
 演算機に残っていたのは、各地の機械都市遺跡の座標と純機械文明時代の設計サンプルデータ。
 魔動機械の登場で機械技術の一部が切り捨てられたらしいので、あの研究所はそのあたりの古い超技術の研究を行っていたと推測された。

 その中にあったのだ、戦闘機の設計図が。

 R-GRAY1、R-GRAY2。

 本星ダライアスに対しクーデターを起こした殖民惑星連合。それに対する鎮圧作戦であるセシリア侵攻作戦に投入された戦闘機だ。
 まさに歴史の教科書に出てくる戦闘機。クーデターは一つの血塗られた歴史であり、英雄機とは言われないが少数の編隊で敵拠点を制圧するなど、機体の性能パイロットの技量ともにエース級の戦績を残している。

 設計図をざっと見てみたが、純科学時代の機体ながらエンジン部は魔力炉に近しい何かがある。
 魔法など万民に扱えない不良品の技術だとか言われていた時代だが、ときおりこうして機械の中に魔法で扱われるエネルギーの片鱗を見つけることができる。
 燃料切れとパイロットの疲弊が純科学戦闘機の克服すべき課題だが、優れた動力部の発明が優秀な戦闘機の開発の切欠になっているのが私たちの歴史に現れている。

 ミッド式の魔法は現実に干渉する魔法プログラムを起動するというもの。
 私たちの今の魔法は干渉の本質である魔力エネルギーを生み出し機械で制御するもの。
 魔力素など、魔力を生み出すリンカーコアのただの餌だ。本質はあくまで魔法というプロセスと魔力というエネルギー。

 純科学的アプローチで魔力の存在に気付くのは不可能などと言われているが、こうして過去の産物から見受けられる以上、魔力に到るための何かがあったのだろう。
 まあ、当時も原始的な魔法による魔動機械なども不安定ながら確かにあったわけだから、頭の柔らかい技術者が取り入れたというのがオチのような気がするが。

 R戦闘機のフォースなんて、突き抜けた技術者の典型だ。「敵宇宙人が強力なら敵宇宙人を培養して兵器にしてしまえ」とか。
 ミッドチルダでは復興局でたまにある頭のネジの外れた発明品とかがなかなか見られなかったので、これからの発掘作業が楽しみだ。
 これはこれで良いバカンスと言えるだろう。





 さて、都市部の発掘が終わって、これからの計画では工業地帯に向かうことになっていたのだが、研究所からの情報で得た都市遺跡方面の調査も別働隊で行われることとなった。
 というのも、機械都市遺跡のリストの中に、歴史上重要な地が記載されていたのだ。

 鳳来ノ国中枢部。

 歴史の折り返し地点とも言われる、二機の英雄機と人類の敵による一大決戦の地だ。
 機械大国。遺伝子改造された戦闘機乗りの発祥地であり、人類の敵の総本山。

 書籍化され映像化され語り継がれてきた御伽噺の中の世界と言ってもいい。

 工業地帯の発掘と共に進められた別働隊による調査結果は白であった。

 今回の短期共同発掘作業の本来の目的は残存魔動機械の回収だが、それが霞むほどの考古学的価値がある。これは間違いなく今回の発掘の目玉となるだろう。

 工業地帯での作業中もどこかそわそわする女性発掘員たちが見受けられた。勿論、全員ダライアス一族だ。
 私の名前も鳳来ノ国で敵と刺し違えて英雄になった戦闘機乗りから名付けられていたりする。
 もう一人の私の決着の舞台を目にしてみたい。

 結局私も気が気ではない時間を過ごすことになった。
 落ち着かないね、などとユーノくんに心配されたり、俺のこと無視してないか、などとヤマトさんに文句を言われつつも時間は過ぎた。
 工業地帯発掘作業は一定の成果を収めつつも広大な未探査区画を残して撤収であった。
 急に予定に入った鳳来ノ国への移動ということ以外にも、第一回の短期発掘作業なので、本星の劣化状況を確認するという全体の趣旨もあってのことだ。
 撤収作業は皆妙に手際が良いものだった。ダライアス側の期待感が他の発掘隊の面々にも伝染したらしい。
 鳳来ノ国の戦いを元にした絵本「いかるが」はコテージの購買で大人気だとか。


 ああ、いかるががいく・・・。


 なんて自治区でも人気のこのフレーズ、幼児向けの絵本なのにしっかりいれてあるあたり作った人はいろいろ解っている。
 なんでかがりのふねはここででてこないの? などと昔は言ったものだけど。

 そんな小さな頃を思い出しながら船に戻った。いや、今も十分小さいんだけれど。
 鳳来ノ国まではユーノくんといっしょに「いかるが」を読むことにした。ヤマトさんにはアニメ劇場版でも渡しておけばいい。

「この人達は死んでもなお成し遂げられることができて、本当の意味で生きることができたんだね」

 ユーノくん、絵本の感想としてはヘビーです。
 まあでも浪漫を食べて生きる部族なら、これからの発掘作業はそれくらいのポエミーな気概があったほうが良い。


 次元空間航行船で本隊ごと移動した先に待っていたのは、渓谷の要塞であった。
 何百年も前の遺跡だというのに、要塞としての外観が保たれている。

 このころには建築資材の素材も惑星外建造物に使われるような劣悪環境でも超長期劣化しない化学素材が使われていたのだが、要塞が撤去されずに丸ごと残っているというのは驚きだ。
 斑鳩いかるがの軌跡として残されていたのだろうか。

 英雄機斑鳩は、難攻不落と呼ばれたこの要塞を突破して鳳来ノ国へ進入した。
 ここはいわば鳳来ノ国の城門だ。

 CGで再現されたものを何度も見てきたけれども、実物を目の前にすると感慨深いものがある。
 歴史に残る名所であると同時に物語の名舞台でもあるのだ。
 ミッドチルダでも暇を見つけて観光旅行などを友人達としたものだが、ベルカの聖王教会を見た近代ベルカの魔導師のあの人はこのような感情を得ていたのだろうか。

 だがここは通過地点。今回の発掘対象ではない。

 地に突き立った巨大な鉄塊は何だろうかなどと皆で話しながら、船は中枢へ向かって進んでいく。


 休憩室でユーノくんとお菓子とお茶で一息つくのはもう日課となっていた。
 他愛もない雑談から発掘の細かい考察まで、話す話題は尽きない。
 音速などはるかに超えた速度を出せる船が要塞を過ぎてから発掘地点まで着くのはあっという間であったが、地上部でのキャンプ構築が終わるまでしばし時間がかかる。

「これから向かう先に何があるんだろうってわくわくするんだ。こういうのが発掘の醍醐味なのかな?」

「私たち自慢の“てきのほんきょち”ですからね。きっと損はさせませんよ」

 ユーノくんは浪漫あふれる発掘者へと着実に進んでいっているようだ。

「骨董物の無人仏鉄塊が生きていて襲い掛かってくるとかは勘弁ですけどね」

 さすがにそれはー、と二人で笑いあう。
 話しているもの同士にしか笑いのポイントがわからない他愛のない会話を繰り広げられるまで仲良くなった。
 あ、仏鉄塊は鳳来ノ国の戦闘機である飛鉄塊よりも大きなスーパー機動兵器のことです。でも単座式。

「ユーノくん、カガリちゃん、隊長が呼んでこいってさー」

 時折ふらっと現れるヤマトさんは、まあ予想とはさほど外れていない行動をとっているのだろう。
 さて、今日のティータイムはこれで終わりだ。

「行きましょうか」

 食べかけのスナック菓子をバッグにしまい、お手拭で手についた油をとる。
 同じようによちよちと手を拭くユーノくんを見てこういうところは変わらないなーと思いつつコップを洗浄器に投げ込み、二人を促して部屋を出る。
 私たち三人を指して幼少組などと呼んでいる人たちがいることに二人は気付いているだろうか。





 艦橋で隊長さんに告げられたのは、先遣隊への同行命令であった。
 何かあったときに身を守れるということで先遣隊の魔導師の護衛としてついていくことになったのだ。
 意外と発掘隊の中では魔導師としての能力がそれなりに高い私たち三人。私は機体とセットだが。
 まあこんなところで空戦魔導師資格なんていう物騒な武闘派資格を持っているのは私とヤマトさんくらいだろう。

 ダライアスの重機は武装が搭載されていない。スクライアは攻撃魔法が苦手。
 発掘作業中に暴走機が出たら結界魔法で無効化して撤退とマニュアル化されていたが、この場ではそうもいかない。可能な限りここでの発掘作業を進めたいのだ。
 無人仏鉄塊とまではいかないが、何らかの独立防衛システムが生きているかもしれない。

 完全武装で転送ポッドへ向かう。

 ヤマトさんはいつも見ている中等部の制服を元にした白いバリアジャケットと、改造を重ねすぎてフレームから色々突き出している長杖型デバイスだ。
 パーツを組み合わせて作る自作デバイスながら頑丈な作りをしていて、自在に形を変えられる魔力刃を使って槍や斧や大剣としても使えるというもの。何でもこなせるヤマトさんに相応しいデバイスだろう。

 ユーノくんはマントが特徴的な作業着のまま。バリアジャケット代わりになる不可視の結界を身にまとえるらしい。
 デバイスは小さな赤い宝玉のペンダント。レイジングハートというインテリジェントデバイスだったか。
 高性能高出力。魔法の苦手分野を克服すべくスクライアの一族から与えられたという攻撃向けデバイスだが、一族が一族だけにロストロギア技術が使われていそうで気が気じゃないとか。デバイス好きのヤマトさんも妙に嬉しそうに眺めている。

 私の方はまあ相も変わらず。身長が伸びるたび復興局から送られてくる桃色のパイロットスーツにヘルメット代わりのバイザー。初等部ならまだしも中等部で全身ピンクは止めたいんだけれど。なおヘルメットはビジュアル的に認められない、だそうだ。
 背中のジョイントには一対のシップ、ビックバイパーが接続されている。背中につなげている間は待機状態で簡単な飛行や障壁のみの機能しか使えず、両肩に繋ぎなおすことで本起動が行える。

 私一人だけ浮いた格好のまま地上部へ転送される。
 すでに先遣の調査隊が四名、一機の空中輸送機に乗って待っていた。
 キャンプはまだ構築途中だ。

「それでは飛行していきましょう。不用意に歩いたら崩落の危険がありますからね」

 空戦魔導師の私とヤマトさんは当然飛行できるのだが、ユーノくんも飛行魔法を使える。飛行魔法というのは先天的な才能がない限り、相当の努力をしないと習得できないものだ。天才なのか努力家なのか。まあこの場に選別されるほどに魔法の実力は高いのは確かなのだ。

「映像記録は私と調査隊が行いますので、二人は周囲の警戒をお願いします」

 地下にある中枢部への巨大ハッチが視界いっぱいに大口を開けて鎮座している。内部構造までは演算機の記録からは解らなかったため、これが閉じていたなら別の進入口を開けなければならなかったところだ。内部構造が不明な場所への転送は危険だし、なにより転送では満足に機材を運べない。

 魔導師三名を先頭に先遣隊は門の中へと降りていく。
 シェルターの役割も果たしているであろう地下中枢部への門は、なんとも広大で深い。
 速度を出さぬまま通り抜けた先、金属建材で作られた巨大な空洞があった。地下に掘られた長大な洞穴。小型戦艦ならば通り抜けられそうな円形の廊下。
 仏鉄塊や飛鉄塊の上空への射出口としても使われていたのだろうか。

 天井や壁面には鉄骨の柱や梁がむき出しになっている。なるほど、確かにここはサイバーでメタリックな“てきのほんきょち”だ。
 宙から足元に目を向けると、これがまた。飛鉄塊らしき大破、中破した機体の残骸、残骸、残骸。
 壁に注意を向けると、機銃で撃ち抜かれたらしき半ばで折れた鉄骨もある。
 明らかな戦闘跡。ここははるか昔に斑鳩ともう一つの英雄機銀鶏ぎんけいが通った跡なのか?

 中枢部の地上上空には未だ生きたテラフォーミング用環境保全フィールドが張られているようだった。そのためか土砂の堆積などは見られない。
 先ほどの渓谷の要塞のように人が星から消えても当時のまま保護され続けてきたのだろう。

 鉄塊を後にして長大な傾斜廊を下っていく。真っ直ぐと地下へ地下へ。ときおり横道や非常口らしきものが壁のほうに見えるが、ここは“戦闘機が進める道”を選んでいこう。
 結果、さらに地下へと続いていく鉄のトンネルを真っ直ぐに進んでいくことになる。

「あれは仏鉄塊……いえ、大きいですけど飛鉄塊ですかね」

 原型を保ちながら真っ二つに折れて落ちている鉄塊もやりすごして奥へ。
 進むごとに残骸の数も残った形として見える大きさも増大していく。
 ここにきて大型のものが増えたのはその船体の大きさで進路を塞ぎ、強力な侵入者の強行突破を防ごうとしたのだろうか。

 空中輸送機の調査隊の人が調べたそうにしているが、今回は我慢してもらおう。


 そしてまた開いた巨大な円形のハッチが見える。その奥は広間になっているようであった。
 広間の中心に向かってすり鉢上になった広間。上は吹き抜けになっていて、天井ははるか遠くにある。

 今まで以上の瓦礫に埋もれ、壁のいたるところに破壊の跡がある。ここだけ地上部の機械都市郡のような酷い有様だ。
 瓦礫の間に転がっている砲塔は仏鉄塊のものだろうか。もしそうだとしたら、ここが最後の仏鉄塊と戦った斑鳩達の終着地点になる。

「ここだけ道中にあった飛鉄塊に共通する装甲パーツが見当たらないようです」

 調査隊からもそう報告がくる。

 仏鉄塊『田鳧たげり』と英雄機二機の戦いの記録はここ鳳来ノ国の監視記録に残っており、それが後々のノンフィクションの物語となった。記録によると田鳧と斑鳩、銀鶏は地下の最深部で互いの最大兵装を交互に打ち合ったと残っていた。
 それならば、この崩壊した広間も納得ができる。

「カガリ、カガリ、ちょっとこっちに来て!」

 小回りの聞かない調査隊の代わりに広間の内周を巡回させていたユーノくんが戻ってくる。

「あっちに落ちている装甲だけ、他とは何か違うようなんだ。勘違いだったら悪いんだけど……」

「いえ、とりあえず見てみるだけ見てみましょう」

 調査隊の輸送機を連れてユーノくんの促す方へ向かう。
 私は遺跡発掘に長けるスクライアの直感というものを信用している。超能力レアスキルというものも世の中では公に認められているのだ。

 誘導されるままに広間の端のほうまで辿りつく。

「この装甲なんだけど……」

 熱でひしゃげて捻じ曲がった細長い鉄の塔。
 よほどの勢いをつけて落ちたのだろう。金属製の床板を貫いて突き立っている。
 変形しているが元は真っ直ぐと伸びていた刀身状の装甲だったのだろう。

 その形の装甲を携えた飛鉄塊の正体に思い当たり、軽い目眩に頭を抱えてしまう。
 興奮を通り過ぎて頭が空っぽになってしまう。


「こんなところに残っているとは……。サルページされて博物館行きでもしていたのかと思いましたが。


 斑鳩が、そこにはあった。












 一次調査は終わり地上まで戻ると、発掘キャンプの展開が終わっていた。
 今は持ち帰った情報を元に、発掘計画が話し合われているのであろう。
 実働部隊である私たち三人はコテージの中で休憩している。

 頑張ったご褒美ということで、ユーノくんのお姉さん(実の姉ではなく部族でユーノくんのお世話をしていたらしい)から果物のパイをいただけた。
 三人でのんびりティータイムだ。

「あれが見せてもらった映画に出てきた主人公か? 皆すごい騒ぎようだけど」

「そういえば何だかんだでヤマトさんには、この遺跡が出てくるような古い時代のお話はしたことありませんでしたね」

 斑鳩を見つけて気分がいい。
 せっかくだから英雄達の歴史なんかをお話してみよう。





 初めはそう、魔法なんて大して発展のしていない管理外世界にはよくある純科学の文明でした。
 ただ、その科学力が惑星の外に飛び出し、人の住めない星を住めるようにしてしまうテラフォーミング技術を携えるほどに発展してしまったわけです。

 幾多の世界でもよくある通り、空に広がりすぎた文明はどこかで軋みを生み出してしまいます。
 殖民惑星連合への抑圧の結果、クーデターを引き起こしたセシリア連合戦争。
 軍部による人口削減の企みで軌道衛星から無数の無人兵器が押し寄せたマシン兵団戦役。
 原始的な魔法を使って魔動機械での内紛が起きた聖霊機関事件なんていうのもありましたね。

 そんなこんなで人間同士で争って疲弊していく中、急に現れたんです。

 宇宙人が。

 亜時空星団バクテリアンなんて直球な命名を当時されていたんですが、戦いを続けているうちに人はバクテリアンの正体を知ってしまいました。これは未来の自分達が作り出した殖民惑星攻撃用の兵器だって。

 星系内生態系破壊用兵器バイド生命体。
 バイドの構造を解析した結果、やつらは人間を元にした二重螺旋構造のDNAを持っていることが判明したんです。当時から人類を次の段階へ進化させようという試みは行われていたんですけれど、人類の進化を担う研究の未来はこうなってしまうのか、なんてもめたのが今の魔法科学への始まりなんですけれどこれは置いておきましょう。

 嘆きつつも戦況を打破するための研究は続きバイドすらも対バイド戦への兵器として取り込み、滅び尽くし、かくして人類は平和を取り戻した、と。
 宇宙人の侵略は人間同士の結託を強くすることになり、バクテリアン戦役、バイド戦役と続いて使い物にならなくなった殖民惑星を捨てて人工衛星と本星で人口調整をしながらつつましく生きていくことになりました。

 でも、疑問が残ったんです。未来の破壊兵器はどうやって時間を巡って過去に飛んできた?

 純科学文明ですから、時間移動どころか異世界移動すらも満足にできないわけです。
 当時、初歩的な魔法科学として注目を浴びていた聖霊機関も人体改造と機械のエネルギー源という、まあ私たちの部族のもつ魔法科学技術と同じ方向性です。現実を書き換える類のものではありません。
 未来では超技術で時間を自在に操るのか? では何故過去の自分達を滅ぼそうとするのか?

 時代は進み、遺伝子改造が少しずつ進められてきたころ、その答えが発掘されました。発見ではなく発掘です。
 発掘されたのはここ、鳳来ノ国の地下中枢。生命の進化と時空間の操作を可能とするロストロギアです。

 このロストロギアは人類を自らの思うように進化させようとする意思が働いているらしく、未来の人類のあり方に気に喰わなかったためにバイドを過去に飛ばして人類を一旦消し去ろうとしたというのが当時の歴史学者達の意見だったそうです。
 そんな管理世界を見渡してもそうそうないような物騒な代物、放っておけるわけもなく、先ほど発掘された斑鳩ともう一機の銀鶏によって粉々に破壊されたわけです。





「……なるほど。じゃあここはフィクションでも何でもないあの映画に出てきた国の跡で、戦場跡でもあるってわけだな」

「そうなるわけです。こういう経緯もあって、斑鳩達は私たちの文明にとっては第一級の英雄機なんですよ」

 まあ、そんな英雄達の活躍も星が滅びた今となっては意味がなくなってしまった。

「カガリ、そのロストロギアっていうのは何て名前で呼ばれていたの? 資料には第一級指定遺失物としか書かれていなかったんだ。絵本にも名前が出てこなかったし」

「……産土神黄輝ノ塊うぶすなかみおうきのかいなんて当時は呼ばれていましたけどね。頼まれてもその名前なんかでは呼びません」

 彼の物体をその名で呼ぶものは私たちの中には居ない。
 英雄の守ったこの星は、破損しながらも復活したその産土神を名乗るロストロギアによって滅びてしまったのだから。












 歴史の舞台の発掘が始まる。
 見つかるのは英雄ばかりではない。ここは“てきのほんきょち”だ。

 精密飛行ができる私とヤマトさんは、広間の上空から田鳧と思わしきパーツを探していた。
 私はバイザーの倍率調整を、ヤマトさんはサーチ魔法を使って飛び回っている。

「あっちから声が聞こえる……」

 不意にヤマトさんが上空の壁に向かって飛んでいった。
 上空にも自壊して弾けた斑鳩の破片が突き刺さっている可能性は高いが……声?

「この壁の亀裂、なんだか変な感じがしないか?」

 何かが突き刺さって奥に入り込んでしまっているようだ。

 バイザーを調節して、亀裂の中を覗き込む。
 何かが見える。淡く光る何かが……。
 そこでバイザーの補助演算を行っていたシップから警報が鳴り響いた。

 あはは、ヤマトさん。いつもながらとんでもないことを巻き起こしてくれる。

「ヤマトさん。貴方の言っていた通りスクライア一族は第一級品の発掘に縁があるようですよ」

 亀裂の奥に輝く黄色に光る石の塊。
 嫌悪感と安堵感を同時に抱いてしまう存在感。

 人の敵。生物の支配者。
 輪廻転生を強要する産土神。
 世界を滅ぼしたロストロギア、石のような物体THE STONE-LIKEの欠片が眠っていた。



――――――
あとがき:全ては石のような物体の仕組んだことだったんだよ! な、なんだってー!
大半がもう使わないだろうということで趣味に走った裏設定語りのオンパレード祭りでした。

SHOOTING TIPS
■ツインビー
合言葉はBee!で良くも悪くも知れ渡ったポップでキュートなSTGの1P自機。2Pはウィンビー。
一部の人にはゲームよりもラジオのほうが有名です。

■ネオプトレモス
緑色の装甲が何とも硬派な、ロボットアニメに軍機として出てきそうなR-TYPE FINAL登場の白兵戦用兵器装備強化型。
正式名称TL-2A2"NEOPTOLEMOS"。戦闘機としてパンツァーポリス1935(ラノベ)やシルバーガンばりの白兵戦剣技を見せてくれます。

■R-GRAY1、R-GRAY2
レイシリーズ二作目であるレイストームの自機。3Dを生かした画面演出と独特のロックオンシステムが人気。
某機人オットーさんのスキルとは関係ありません。といいたいですが緑の光線がR-GRAY1のロックオンレーザーにそっくり。

■聖霊機関
初心者向けSTGのエスプガルーダに登場する錬金術による動力源。人間に使うと覚聖して性別が反転するというTS好きへのご褒美。
ちなみに最終ステージ後半以降は初心者向けではありません。

■石のような物体
トレジャー製縦STG、プロジェクトRSシリーズの伝統ボスユニット。
内容は一定時間ただひたすら無抵抗での弾避けドットイートをし続けるというもの。
演出戦の一つの極み。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第四話-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/12/05 08:01

 特集第一夜

 魔導師運用で急成長を遂げた次元世界警備組織



 次元世界警備を中心に急成長をしているミッドチルダの機関をご存知でしょうか。
 ミッドチルダ首都クラナガンに支局を構える公的機関時空管理局です。

 創立当初は時空観測事業団の協力組織としてその名を連ねていましたが、
 組織編制の合理化、効率的な魔導師運用などの徹底により、
 次元世界警備関連業務を営む警察機関としては異例の速さで多数の次元世界からの公認を成し遂げました。

 その後、時空渡航事業、危険遺失物封印事業、新魔法開発製造事業など、
 その業務は多岐に渡り、その業務は140年の輝ける実績を残してきました。

 この業績の成功は、やはりかの有名な三提督の――













――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:タグのテスト
原作:蒼穹紅蓮隊(プレイステーション版)
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:STGプレイヤー以外置いてきぼり
――――――













 新暦65年4月4日
      22時50分

  ミッドチルダ首都クラナガン

 作戦:「緊急発進後、地上本部上空所属不明機を迎撃せよ」







 ここはミッドチルダの首都クラナガン上空。時刻は夜の真っ只中。
 時空管理局の仕官達への挨拶回りの途中で、事件発生とのことで嘱託魔導師として呼び出されたのだ。
 ミッドチルダ内の魔法関連事件とのことでミッドチルダ内の警察権限を行使する地上本部からの要請だ。

 魔力炉を高速で回し、高度を上げる。

 先日空戦AA資格を取ったばかりの私は、高ランク魔導師不足の地上本部では貴重な空戦魔導師として大きな信頼を得ている。

 地上本部のオペレーターからの通信が入る。


『所属不明の巡洋艦が大気圏突入! 都市支部からの迎撃部隊はインターセプト失敗した模様です』


 失敗、か。
 地上本部は優秀な局員が多い。次元世界の中心地であるミッドチルダは、悪質な犯罪が日夜繰り広げられている。
 だが、優秀な人材が多いことと優秀な魔導師が多いことは同義ではない。

 時空管理局は複数の次元世界を舞台にした仕事があくまで主であり、魔導師達はそれに憧れて管理局に入り、発言権の強い魔導師を多く持つ多次元世界担当部門うみのひとたちが優秀な魔導師を引き抜いていく。
 結果は、中心世界の戦力の空洞化だ。地上本部では捜査ができても武力鎮圧ができない。

 そんな中、純粋な魔導師ではなく戦闘機乗りパイロットとして集団戦を単機でこなせる戦力を持ち、あらゆる状況下からの生還を訓練している私は地上本部に降って沸いた宝物だったのだろう。

 監視指定の人種であり出国手続きが複雑なのと、魔動機械開発者を兼業としているためミッドチルダを長期間離れられないという理由があって、管理局では地上本部以外、私を使うことが困難である。

 そして戦闘機乗りである私には、戦場が必要だ。


『各武装局員、敵と思しき巡洋艦を迎撃してください』


 蘇った戦闘機達は、戦闘訓練などでは本当の性能を計りきることはできない。
 少なくとも空戦魔導師としての任務ミッション。欲を言えば実弾の飛び交う戦場があればいい。

 シップの設計データは全て部族の元にあるため、実戦データさえ得られれば実機が破損しても問題はない。
 教育局と喪失文明復興局によって教育されたつくられたパイロットである私も同様だ。

 大きな挫折もなくわずか九歳で高位の魔導師の資格を得た私だが、その道は全てダライアスが用意したものだ。英雄機を駆る以上、空戦AAはとって当然、いや、とらなければならなかったのだ。
 一族の期待に応えられたことを私は誇らしく思う。


『最優先攻撃目標を黒瞥こくべつと命名。詳細を解析中です』


 都市上空を飛行する機械兵器の群れが見える。
 出撃時の通信によると魔法障壁の展開を可能とする魔動機械艦隊であるらしい。

 それに対する私の武装は、R-GRAY2とビックバイパーT301の二つ。
 ビックバイパーは背中の推進機械翼の上部に接続されて二本の角を突き出した状態で待機。

 R-GRAY2は本星から発掘された設計図を元に作られた新鋭機だ。
 パイロットスーツの両肩のジョイントに接続され、左右二本の砲塔を身体の前へ突き出している。
 その砲塔は中心で二つに割れており、間に私の腕が挟まっていて、手は割れた砲塔を繋ぐようにつけられた固定用のハンドルを縦に握っている。割れた砲塔は下部が短くそちらが機銃となっており、長い部分が特殊兵装の射出口となっている。
 その搭載兵装の補助のために、アンテナが両脇から後方へ突き出している。

 機動小型戦闘機シップというものはパイロットスーツのジョイントに直接接続するものであり、身体の関節の動きを極力邪魔しないようパーツ分けされていたり、身体に接触しないようあえて大型されていたりする。
 有機生体機械である自分の身体とパイロットスーツを魔力の巡回路にすることで、正真正銘ダライアス一族にしか使えない魔動機械となっている。外付けの魔力炉でどうこうなるものではない。
 展開時の装甲形状が従来の戦闘機のデザインの一部を受け継いでいるのも、私の体の大きさに見合わない大型化の原因の一つだ。
 英雄機の再現を目的としている以上、機能だけではなくデザインの再現に拘ってしまうのも当然と言える。
 私の趣味も混ざっているが。

 今回わざわざ二つのシップを用意したのは、敵の所持兵力が判別しきっていないからであった。

 この事件は質量兵器を搭載した所属不明の魔法艦隊がミッドチルダの惑星上空に現れ、軍事人工衛星による防衛網を突破しミッドチルダを強襲しているというもの。何らかの組織によるテロと認定され地上本部の出動となった。

 質量兵器とは、魔法を使用せず弾丸や爆薬、薬品、細菌を利用した兵器の総称だ。魔法兵器との違いは戦場に質量物質が撒き散らされ土地が荒廃することと、非殺傷設定などという生易しい機能が存在しないこと。

 「スイッチ一つで誰でも簡単に扱える」などという識者もいる。最近の魔法機械兵器もプロテクトをクラッキングすれば同じようなものができあがるので私としてはその意見には納得していないのだが。

 管理世界では質量兵器の製造、運用が禁止されている。
 シップの開発もそれに則ってレールガンやマスドライバーは再現していない。

 その質量兵器を搭載した兵器による侵攻。なるほど、これは凶悪犯罪だ。
 相手は有人か無人か知らないが装甲の厚い駆逐艦。非殺傷まりょくげんていこうげき設定の解除を地上本部に申請――承認。
 さあ、遠慮なく撃ち落そう。都市部には緊急防衛結界が張られている。攻性魔法も纏っていない駆逐艦が墜落したところで問題などありはしない。
 落として落として落とし尽くそう。それが唯一魔導師として行える私のお仕事なのだから。


 シップによって機能拡張されたバイザーで敵機を目視する。
 暗視機能によって昼のように明るく見える視界の中、CGで描写された枠線が敵機の装甲を囲む。

 R-GRAYシリーズの独自兵装であるロックオン機能が敵機の魔法障壁の隙間をサーチし照準固定しているのだ。

 ロックし終えた機体を無視し、視界に映る他の駆逐艦の装甲を次々とサーチし続ける。
 R-GRAY2のロックオンは最大十六箇所まで可能だ。

 ――MO-SYSTEM All Green

 ロックオン機能はある攻撃機能の補助機構である。
 本命はあくまで敵を撃ち落すための魔力の一撃だ。

「行け!」

 両肩から伸びた砲塔から、紫電が弾ける。
 まばゆい光と共に撃ち出された一筋の雷がうねりながら、照準固定された駆逐艦の群れを一瞬で打ち抜いていった。
 駆逐艦は爆裂四散しながら眼下の都市部へと墜落していく。

 これが追尾型ロックオンレーザーMO-SYSTEM。
 機械の力で破壊の象徴である雷撃を作り出す魔力変換武装。

 雷を生み出すには変換資質などという魔導師の才能など必要ない。
 世界を情報プログラムで書き換えなくても魔力で動く機械がそれを再現してくれる。


 機械翼アフターバーナーから推進魔力の火を噴かせ、さらに敵機の群れへと向かっていく。
 武装局員の援護砲撃を受けながら、ロック、ロック、ロック、雷撃。

 ロックオン機能は的確に敵機を狙い周囲へ魔力弾を撒き散らさないため、都市部での運用に秀でている。
 都市上空に防衛結界が張られていても、魔法障壁と装甲を打ち抜くような魔力弾を何度も撃ちつけるのはさすがに拙い。
 それにこれならば乱戦時の味方への誤射の心配も無い。

 敵機が正面に来たとき、そして砲身をこちらに向けたときに機銃で狙い撃つ。
 ロックオン機能の欠点である発射までの遅さを即射性能に秀でた機銃でカバーする。
 R-GRAY2の搭載機銃は魔力放射レーザー
 一点に照射し続けることで魔法障壁を貫く兵装だ。

 上空から次々と降下してくる敵機を鎮圧していく。
 無論、無傷でとはいかない。

 直撃まではいかないまでも、銃撃で隅を削られていく魔法障壁。
 武装局員の中には、ミサイルの一撃にバリアジャケットをパージして緊急離脱をする姿も見える。

 質量兵器の弾速は速い。砲身角度からの弾道予測と加圧処理しょりおちを駆使してなんとか回避していく。
 魔導師の使う魔法と違って、発動の兆候なく急に射撃されるのが機械兵器の恐ろしいところだ。
 シミュレーターで訓練を行っている私と違って、対魔導師戦が主である武装局員には辛いであろう。

 魔法の使えない私としては武装局員のサポートは受けておきたい。

 迎撃能力を上げるために開発したばかりの補助機能を発動させる。
 シップの側面の吸気口が開き、周囲に充満した魔力の残滓を回収していく。
 砲身から魔力の光が漏れ、首都の夜空に明かりが灯る。

 大気中の魔力残滓を使った一時魔力補助パワーアップシステム。
 密度の高い魔力残滓を魔力エネルギーに濾過・圧縮し、機銃から撃ち出される魔法弾に付与させて武装を強化する裏技。

 高度魔法と多数の魔法機械の入り乱れる戦場でのみ運用が可能な秘密兵器だ。

 機銃からレーザーが魔力の残像をまとい、上空へ向かって撃ち出される。
 駆逐艦を吐き出していた空母級の機体の魔法障壁に突き刺さり障壁破壊バリアブレイクした。
 破壊された障壁の隙間を多重ロックして、雷撃を放つ。
 振動が肌に伝わってくるような轟音と共に、空母が墜落していく。


「さあ、一気に突破しますよ!」


 奪還していない首都北部へ機体を走らせる。
 他の武装局員とは速度の違う私一人が突出する形になるが、これが私を使った地上本部の一点突破時の基本フォーメーションだ。

 前方から私と同じように突撃してきた駆逐艦が体当たりをしてくる。

 慣性制御で上へ急浮上して回避する。
 背後のカメラアイから敵ミサイルの発射を確認。これも上昇を続けて回避。

 後方で駆逐艦が武装局員に撃破されたのを確認し、高度を下に戻す。
 突撃してきた駆逐艦に追従して前進した機体の下に潜り、ロック。

 機体を左に傾けて遠方から狙ってきた銃弾をやりすごす。
 さらに右へ高速移動。敵の標準を合わせないように慣性を無視して動き続ける。

 動き続けて隙間のできた弾幕の間を縫って左方へ進む。散らしと呼ばれる回避技術だ。
 さらに右へ動き、敵の群れのロックを完了させる。

 上空から強襲してくる巡洋艦を冷静に機銃で撃ち落し、カメラアイで戦場全体を見渡す。
 ロック漏れなし、雷撃発射!

 十六の小型機が雷に貫かれて次々と落ちていく。

 さらに上空では武装局員が空母をバインドで絡めとり一斉砲撃で撃墜していた。

 敵組織は地上本部を侮っている。
 例え魔導師ランクが海の人たちより劣っていようとも、“自分達の故郷を守る”という信念から完全に統率された指揮系統を持っている。
 戦っているのは武装局員だけではない。
 本部では敵戦力の分析、兵装の把握、弱点の特定が解析班によって現在も進められており、遂次通信によって報告が入る。
 戦況を見渡せる優秀な指揮官が戦場全体を見渡し陣形を取り、私を一番槍として突破口とし包囲網を作る。
 地上本部の仕官が以前こんなことを言っていた。

「火力が足りないなら他の全てでそれを補おう」

 私はそんな地上本部をいとおしく思う。

 浮き世に絶対などというものは無く、理不尽な思いを胸にして途方にくれる時もある。
 それを乗り越える為には、確固たる信念と洞察、そして幾分かの行動力を持つ必要がある。


 斑鳩の物語に出てくる「信念」の一節だ。
 外の世界に優秀な人材を引き抜かれていくという理不尽にも耐え、自分達の家族の平和を守る。
 かっこいいじゃないか。
 私たち子供が憧れる正義の味方そのものだ。

 ならば私は、“他の全て”になれない私は、純粋火力として正義の味方の武器になろう。
 地上の都市では皆、強い自分達の管理局を信じているのだから。


 前方に新たに巡洋艦を三機確認したところでシップから未登録魔力警告が鳴り響く。
 巨大戦闘機械の反応だ。反応は前方上空。

 今まで撃ち落してきた機体の数倍の大きさと見える機影。
 これが通信で伝えられた最優先攻撃目標……。


『全翼型爆装機「黒瞥」の詳細を表示します』


 通信と共に地上本部がバイザーに文字情報を送ってくる。



全翼型爆装機黒瞥コクベツ

推定武装:
熱光榴照射機 ×4
56mm砲 ×3
60mm貫甲弾射出口 ×10



 高速で飛行する機影が頭上を通り過ぎる。
 急いで回避すると、前方の巡洋艦が爆発し落ちていった。
 味方機ごと攻撃したの!?

 どうやら敵も私を最優先攻撃目標としたらしい。

 眼前に姿を現す黒瞥。
 全翼型という名の通り、その機体のほとんどが翼だ。
 航空機の一対の翼だけを取り出し繋げたようなブーメラン型のフォルム。
 機体の上には四門の巨大な砲門が載っている。熱光榴照射機だ。


 対する私は、R-GRAY2をパージし腰へ繋げて待機状態へ。
 背中のビックバイパーが自動で肩のジョイントへ繋がる。
 武装が縦に回転するようなこの切り替え動作には一秒もかからない。

 R-GRAY2のロックオンレーザーは多数の砲台を備えるこの黒瞥に使用するには難しいと判断してのことだ。
 ビックバイパーはヒットアンドアウェイを得意とする。


OPTIONオプション


 一時魔力補助パワーアップシステムの魔力を使ってビックバイパーの追加兵装を起動させる。
 オプション。ビックバイパーの機銃に連動して魔力弾を自動で撃ち出す魔力スフィアだ。

 生成した数は四つ。
 成長途中である私の小さな魔力炉の出力では三個同時の運用が限界だが、撃ち落されて爆砕した多数の魔法機械が撒き散らしたこの濃密な魔力残滓の中では最大数である四個を操作できる。

 ビックバイパーの独自防御機構の強化魔力障壁フォースフィールドを展開して、黒瞥と対峙する。

 戦闘開始だ。狙い撃ちされないよう高速飛行で撹乱する。
 機銃とオプションの計五つの銃身から魔力弾を撃ちつける。

 対する黒瞥は熱光榴照射機を駆動させる。
 砲門に光が灯った。

 直感であれは危険だと予測弾道地点から大きく距離ととった瞬間。
 四基の砲門から同時に巨大な光の渦が吐き出された。
 Sランク魔導師の砲撃魔法にも匹敵する膨大な魔力。

 なんて代物だ。あんなものを都市部へ向けて放たれてしまったら、緊急防衛結界など簡単に貫かれてしまうだろう。
 攻撃目標を黒瞥本体からその上部の砲台へと切り替える。


MISSILEみっそ


 シップの高機動性を生かし、巨体の上部へ回り込む。
 対地魔力弾頭を砲台へ向けて連続で叩き込む。

 だが簡単には破壊させてくれない。
 再度放射される熱光榴。光の帯を吐き出しながら砲台が回転する。狙いは私だ。
 機体の下に回りこむことで砲撃をかわす。

 あんな馬鹿魔力、かすりでもしたら衝撃で吹き飛んでしまう。
 オプションで翼を狙い撃ちしながら、砲撃がやむのを待つ。

 と、急に黒瞥が横転。スラスターで機体を回転させたのだ。
 光を灯らせた砲撃待機状態の砲門と目が合う。
 こんにちはー。

「なんじゃこりゃあああああああああ!」

 ひたすらに離脱離脱離脱。
 なんですかこのアクロバティックな動きは!
 搭乗員シェイク状態で嘔吐ものですよ!?

 間近で回避した砲撃の余波で強化魔力障壁フォースフィールドが消し飛んでしまう。
 肌で感じたその威力に怖気が走る。こんなもの取り逃がしたら街など簡単に焦土と化してしまう。
 この馬鹿げた威力の攻撃には防御能力の低い武装局員も近づけずにいる。

 早急な破壊が必要。だが相手の機動力は高い。その状況下で私が取った作戦は……。

 零距離射撃だった。

「これだけ図体が大きければ接近戦には弱いでしょう!」

 無論そんなことは無かった。
 熱光榴こそ届かないが、砲門の下に搭載された56mm砲から質量弾が飛んでくる。
 足を止めれば狙い撃ちにされる。
 だが、その前にありったけの魔力弾を砲台へと叩き込む!

 機銃。オプション。対地魔力弾頭。
 全てを打ち込み自ら撒き散らした魔力残滓すら回収して魔力弾に変える。

 砲台の障壁を貫き、装甲を貫き、ついには爆砕した。
 こちらを狙い続ける質量弾に貫かれる前に急いで距離を取る。

 砲台の残骸が爆発を続けながら夜の空に落ちていく。

 零距離射撃は予備動作なく連続で魔力弾を叩き込めるため、下手な近代ベルカ式の接近攻撃よりも威力が高いと自負している。
 対巨大艦戦では最適解ではないのかもしれないが、速度戦となった以上は有効な選択肢だ。
 かわして撃つヒットアンドアウェイが基本方針の私としては寿命が縮まる思いだが。

 砲台を失った黒瞥は、装甲をすべらせ変形を開始した。
 翼の角度が変わり、中心で折れ曲がっていた両翼が一直線になる。
 翼の後方から十門の60mm貫甲弾射出口が露出した。
 射出口は完全に固定されており、翼の角度を変えることでしか弾の軌道を変えられないだろう。
 なるほど、真っ直ぐ弾を撃つための変形か。
 狙う気が無いということは数で勝負ということだろう。


 だが、弾雨の中こそ私の主戦場。

 砲台の下にあった56mm砲が私を狙い撃ち、60mm貫甲弾射出口が一直線の弾幕を張ってくる。
 
 私は巡洋艦達を相手にしていたように砲門の向きを予測し、弾道を誘導し、切返して回避し、貫甲弾の隙間に入り込む。
 機銃とオプションは相手の弾幕に負けまいと、途切れることなく魔力弾を吐き出し続ける。

 後方から武装局員が追いついてくる。
 敵機の攻撃は激しいが、この程度の質量弾なら障壁魔法プロテクションで防ぎきれるのだ。
 援護砲撃に対艦捕縛魔法、バリアブレイクと次々に魔法が放たれる。

 例えSランク魔導師相当の機体であっても、たった一機では連携した地上本部の局員にかなうはずもない。
 射出口は潰され装甲のいたるところから黒煙があがっている。


『黒瞥、撃破確認! 後続援軍へ主導権を委託します』


 ついに黒瞥はその浮力を失い、都市郊外に落下していった。












或門新聞 ARCADIA】

 クラナガン大空中戦!

 企業テログループ「中解同」の声明

 [少女魔導師] 敵機を撃退




 任務から一夜明けて朝早く。
 昨日は黒瞥の魔力砲撃のせいで身体が少しひりひりしていたが、一晩寝たら治ったようだ。

 新聞の朝刊では、一面トップは当然のように昨夜の事件を扱っていた。
 私が帰宅して爆睡した後に捜査に進展があったようだ。

 事件の主犯は企業テログループ「中小企業解放戦線」であったらしい。
 中小企業解放戦線といえば、多次元貿易によって割りを喰わされた中小企業が徒党を組んで多世界籍企業や大企業に対してテロ行為を行っているという過激派企業連合だ。
 一つの世界だけでも貿易摩擦など色々あるのに、今の時代は次元世界時代だ。不満を持つものも多数生まれる。

 クラナガンは次元世界の中心地で大企業の本社も密集していますからねぇ。

 いやしかし、新聞一面の片隅に私が写っているのはどうなんだろう。
 魔法学校卒業以来、パイロットスーツの色は浅緑に変えてもらえたから良いのだけれど。

 まあ活躍もあってか地上本部からはしばらく招集要請はしないからゆっくり休んでくれと言われている。
 賞与も支給されるらしいので生活に潤いが出そうだ。


 朝食を食べて一息入れる。
 考えるのはお仕事のこと。
 最近は時空管理局関連のお仕事が多かったから、ダライアスのほうにも手をつけないと。
 喪失文明復興局総出で開発が進められた斑鳩・銀鶏もようやくものになってきた。

 そうだ、スクライアの方に次期発掘の連絡を入れてくれって復興局からメールがきていたか。
 久しぶりにユーノくんに連絡をいれてみよう。

 部屋の隅に置いてある長距離念話用の魔法機械の前に座る。
 ミッド式の次元通話機能が搭載されている時空管理局製の一品だ。ちなみに管理局からの支給品。

 基本的に管理世界の住人は、現在の滞在世界を時空管理局のホストサーバに登録させている。
 一つの世界の中での国家間移動はその世界の法によって運営されるが、世界の移動はそうもいかない。
 人は居ないけど勝手に行ってはまずい世界もあるし、移民管理に厳しい世界だってある。
 まあそんなこんなで時空管理局が頑張ってその名前の通りに時空の移動を管理しているのだ。

 この念話機はその管理サーバにアクセスして世界を特定して遠距離念話魔法を発動。
 受信者は念話さえ使えれば、受信路に念話を流して簡単に異世界念話が行える。
 ちなみに私も念話くらいなら使える。擬似魔法チップを身体にしっかり埋め込んである。

 念話機を起動し、登録帳からユーノくんのコードを選択っと。
 三十秒ほど待つと、ディスプレイに通話世界が表示される。

 第97管理外世界? 何で干渉禁止世界にユーノくんが?
 97は独自の非魔法文化を構築しているので発掘なんかに関係がないはずなのに……。


「こんにちは、ユーノくん。こちらミッドチルダのカガリです。なんだか凄い場所にいるみたいですが今お時間宜しいですか?」

「え? あ、か、かがり? いや、今ちょっとすごい事態に巻き込まれちゃったというか巻き起こしちゃって……」

「それはまた何事ですか……」

 時間は問題ないということで、かつてのティータイムのごとくユーノくんから話を聞いてみる。
 話は第97管理外世界に行くことになった事情から始まった。

 何度かの発掘で功績を残したユーノくんは、とうとう発掘隊の隊長を任されることになったらしい。
 そして自ら指揮する発掘作業の途中、最初の私たちとの発掘のときのように、やばめのロストロギアを発掘してしまった。
 数は二十一個。才能があるのか運が悪いのか。
 出力が不安定で完全に暴走すると時空に干渉してという代物で、護送艦で急遽輸送してもらった。
 だが、護送艦は事故に巻き込まれてしまったのか、ロストロギアは時空を飛んでいる最中に外へ投げ出され、第97管理外世界へ散らばってしまった。

 そのことに責任を感じたユーノくんは、権限を駆使して単身第97管理外世界へ向かいロストロギアを回収しようとした。
 でも、相変わらず攻撃魔法が苦手なユーノくんは暴走したロストロギアとの戦いでずたずたのぼろぼろに。

「それで現地の人に手伝ってもらうことになっちゃって」

「ユーノくん」

「魔法なんて今まで知らなかったはずなのに凄い才能を持っている子なんだ。でも、僕が起こした事態にこれ以上巻き込むのはやっぱり嫌で……」

「ユーノくん! ……貴方相当テンパってますね?」

 聡明なはずのユーノくんとは思えない行動に驚いてしまう。
 きっと、初めて任されたという隊長職での事故で、冷静さを失ってしまっているんだろう。
 就業年齢の低い風潮で忘れがちだが、私たちは思春期も訪れていないような子供なのだ。
 一族という加護もあって、不意の事態にも弱い。

「こういうときは……素直に自首しましょう」

 じゃない。

「素直に通報しましょう。しかるべき専門機関に」

 ユーノくんの一族は日常的に自分達だけでロストロギアを取り扱っている。
 そのせいで、とっさに一般的な対処方法を思いつかなかったのだろう。
 手配は私がするのでユーノくんは手配が終わるまで現地での行動を続けて欲しい、と締めて念話を切る。


 次は通報だ。念話機からかつての戦友のコードを選択する。

「ヤマトさん、今お暇ですか? 暇じゃなくても聞いてください」

 ディスプレイには『次元空間航行中』と表示されている。
 こんな状態でも通じるのは、彼が時空管理局の戦艦に乗っているからだろう。艦の名前はアースラだったか。
 彼の今の立場は、時空管理局執務官補佐。
 お仕事は時空パトロールと事件現場への急行と言っていた。

 時空管理局のお仕事の一つに、危険なロストロギアの拡散防止というものがある。危険物の拡散防止はロストロギアに限ったものではないのだが、ロストロギアは使用方法が不明であったり不安定であったりして犯罪組織以外に渡っても危険な事態に発展することが多い。
 そして、拡散してしまった後の回収作業は、専ら海の人たちのお仕事だ。
 封印作業には強力な魔導師が必要なことも多くて、いつも地上本部は人を海にとられて泣きを見る。


 そんなミッドチルダ出身で海に行ったヤマトさんへ事情を伝える。
 第97管理外世界は割と近くにあり、早急に向かうとのことだ。
 ちなみに念話は途中から艦のお偉いさんへも中継されている。

「状況はかなり切迫しているようなので、とりあえず上官に働きかけて小型艇でもなんでも真っ先にユーノくんの保護をお願いします。今の彼には相談できる知り合いが必要です。執務官補佐ほどなら急行も可能でしょう」

 ああ、と返事が来る。無茶なお願いだが聞いてくれたようだ。

「私はこれから管理局の本局に向かいます。急いで手続きしてそちらにに合流できるか聞いてみます。単体暴走する類の第一級ロストロギアらしいので兵力は必要でしょう」

 一級のロストロギアの暴走。スクライア一族に恩を売るいいチャンスだ。足をつっこまさせてもらう。
 もし現地で私に何かあったとしても、それ以上のリターンが見込める。

 巻き込んだ形になるヤマトさんは、まあ管理局員のお仕事だからどうでもいいか。
 通信を切り、急いで荷物を用意する。
 ダライアスへはメール連絡。簡単に事情を書きスクライアへの連絡は少し待つのが良いと所見を添える。

 さてさて、ロストロギア人間の管理外世界行きははたして認められるだろうか。
 休養中に海の手伝いといったら地上本部の人たちも良い顔しなさそうだな。



――――――
あとがき:地上本部は軍隊じゃなくて市民を守る正義の味方に決まってるじゃないですか。
次話は無印DVD全話見直しで更新がだいぶ後になります。

SHOOTING TIPS
■所属不明の巡洋艦が大気圏突入!
プレイステーション版蒼穹紅蓮隊でゲーム中に流れるオペレーターの音声。
アーケード版には無かったため賛否両論ですが私的には聞いていてわくわくします。
しかし、これだけの兵器どうやって隠れて製造したんでしょうね。

■ロックオン
STGの一味違ったプレイスタイルを提供するシステム。採用しているゲームは少ないですが。
R-GRAY2の出るレイストームだけではなく、今回の戦場の元となった蒼穹紅蓮隊にもロックオンシステムが登場します。

■パワーアップ
STGの伝統的なルール。アイテムを取ることによって自機が何らかのパワーアップをする。
さすがにSSで敵にアイテムを落とさせることはできないだろうと言うことで、アイテムの代わりに魔力残滓の回収に。
なのはさんのスターライトブレイカーはこれと似たようなことをしているそうです。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第五話Aパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/09/06 04:42

 偶然手に入れた不思議な力。何とも都合の良い話。
 持たざるものがいつも渇望してやまない話だ。

 超能力HGSという超常の力が観測されているこの世界でも、持たざるものが大多数であり、ある日突然、という物語にあふれかえっている。
 不思議なことだ。私たちダライアスの物語において、ある日突然、は不幸の前兆だ。

 ユーノくんと出会った少女も不幸に巻き込まれてしまったのだろうか。
 手にしたのは魔法の力。現実を書き換える超人の力。

 魔法が導くその出会いは、偶然なのか、人災なのか、解らないけれど……。


 管理外世界第一級遺失物回収任務、始まります。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:原作キャラ描写のテスト
原作:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:転生憑依者の独善的原作介入 を眺める原作未登場の第三者
――――――












「時空管理局嘱託魔導師、カガリ・ダライアス。ただいま到着致しました」

 パイロットスーツに身を包み、バイザーを外して管理局式の敬礼を行う。
 次元空間航行艦船のメインブリッジ。通信士と操舵士、それと士官達が私を待っていた。

「ようこそ、アースラへ。楽にして頂戴」

 緑の髪を長く伸ばした妙齢の女性が正面で私を迎えた。高速航行船の中で見た資料によると、この方が艦長のリンディ・ハラオウン提督だ。

 なお、本艦アースラは次元空間の航行中ということで超長距離転送を行わず、管理局の小型高速船で駆けつけたのだ。操縦士さんは仕事が詰まっているのか、到着即Uターンして帰っていった。

 この艦は床や壁のいたるところが光っていて、いかにも魔法の船と言う感じだ。
 民間の航行船やスクライア一族の艦とは趣が違う。環境維持機能や動力レベルで大きな差があるのだろう。

 これが海の人たちの誇る巡航L級艦、か。

「異例の嘱託魔導師側からの出動申告、受けていただきありがとうございます」

「こちらも急な出動で準備が足りなかったから、大歓迎よ。それで現在の状況なんだけれど……聞いているかしら?」

「最初の通報の内容以外は何も……航行船ではモニタリングできませんでしたので」

 ふむ、とつぶやきハラオウン提督はついてこいと合図して歩き出した。
 艦長席らしきモニターの前まできてパネルを捜査する。

「ヤマト・ハーヴェイ執務官補佐が偵察任務のため現地へ先行。ユーノ・スクライア氏と現地魔導師を保護。その後、ロストロギアの探索に入ったわ」

 空間モニターに表示される現地魔導師と言われた私と同い年くらいの女の子。

 ユーノくんは……えーと、画面テロップによると首の長いねずみのような小動物がユーノくんらしい。
 現地の原始魔術の呪いでもかけられた? ユーノくんは呪われてしまった!

 会いに行ったとたん呪ってやるーとか襲ってきたら嫌ですね。

「到着から現地時間七日経過時点で、回収したロストロギアは現地魔導師が確保していた分も合わせて六個」

 いろいろ突っ込みどころがあった画面が切り替わり、菱形の青い石が映し出された。
 下にはジュエルシードの文字。ユーノくんに聞いていた第一級遺失物ロストロギア

「本艦はカガリ・ダライアス嘱託魔導師の到着をもって正式出動とし待機状態を解除。約二十分後に第97管理外世界のジュエルシード発見地区へ到着。海上の亜空間領域で停泊し保護対象を収容します」

 なるほど、順調に事は進んでいるらしい。
 ヤマトさんが既に向かって探索任務を行っている以上、正式出動と言うのも形式的なものだろう。

「ここまでが現在までの進行状況ね。で、現地のロストロギアの状況だけど……ヤマト執務官補佐は保護対象との接触前に指定ロストロギア、ジュエルシードを発見。暴走直後に封時結界を展開して、現場に駆けつけた保護対象と共に封印を執行。それがこのときの記録映像」

 画面が再び切り替わる。



 管理外世界の町並み。純科学文明の先進国のコンクリートで固められた情景は、この世界の漫画で見慣れたものだ。
 空は封時結界独特の暗い色に染まり、人の立ち入りを封じている。

 画面の中心にはねじれた巨大な樹が一本、地面を割って突き出していた。
 これがジュエルシードの暴走した姿なのだろう。枝葉を伸ばそうとうねっているが、内向きの防護結界に包まれて街への侵食を防がれている。

 空には管理局の制服を白くしたようなバリアジャケットを着込んだヤマトさんが、魔法陣を展開しながら浮いていた。
 彼は魔法弾をばら撒くのが大好きなトリガーハッピーだが、総合魔導師資格も取れそうなほど魔法全般に秀でている。
 樹の防護結界もヤマトさんによるものだろう。

 そんなヤマトさんの下、建物の屋上には一人の女の子が杖を構えて立っていた。
 彼女が空想魔法少女文化の盛んな日本でユーノくんが発掘した魔導師なのだろう。

 その様相、バリアジャケットはなんと言うんだろう。軽装機動装甲服を女の子向けの服に仕立て直したような白いワンピース。
 そして魔法少女というには無骨な突起の目立つ杖。桃色と黄色と白と、色だけは女の子っぽいが人を殴って殺せそうな装甲杖だ。
 あの綺麗なレイジングハートがなんてことに……。

 幼年武装局員と言われても信じますよこれ。もしかしてユーノくんの趣味?
 まあ無骨で女らしくない戦闘制服一式を持つ私が言えたことではないですが。

 あ、杖が変形した。ますます凶悪なフォルムに。
 樹の侵食を止めるため防護結界と封時結界を張り続けているヤマトさんは上から観察している。
 Sランク魔導師のヤマトさんの力量なら結界を張りつつ封印も出来そうなものだが、現地民の魔法を確認するため傍観に徹しているのだろうか。

 女の子が槍に変形した杖を構える。バリアジャケットのスカートがはためき、身体の周りに桃色の魔力光が渦巻いた。

 遠距離封印砲撃。砲撃に貫かれたねじれた樹が、魔法の光で分解されていく。

 ユーノくんの話だとジュエルシードはよほどの出力をもつロストロギアだと言うのに、遠距離からの一撃で暴走を押さえ込んでしまった。
 魔法の初心者が遠距離封印か。ユーノくんもとんでもない人材を発掘したものだ。こんなところで発掘員の才能を発揮?


 あ、レイジングハート(強)が魔力残滓を排気した。
 こう、もうちょっとこう魔法学校の初等部の皆が使っていたのくらい可愛くてもいいんじゃないか。
 パイロットスーツに戦闘機という私のスタイルでは得られない物だというのになんて勿体無い。

 ああ、男の子のユーノくんに与えられたデバイスだから仕方が無いか。
 男の子って好きだもんなぁ、ロボットとかドリルとか。



「以上が六個目のジュエルシード回収時の映像。このとき現地魔導師は魔法を知って十日程度ということだけど、秘めた才能はすごいの一言ね。AAAランクに匹敵する魔力と分析結果で出てる」

 魔法文明の存在しない世界で生まれながらにAAA、か。
 才児と言われたヤマトさんでさえ、私と出会った十歳の頃で魔力値はAA相当だった。

「じゃあ、あと少しで到着するから、正装で来てもらって悪いんだけど現地用に服を……」

「艦長! ハーヴェイ執務官補佐から緊急通信が入っています」

「あら、何かしら?」

 緊急通信? 現地で無事七日も過ごしていると言うのに定時報告以外の通信が必要と言うことは……ジュエルシードでも発見したのか?

『リンディ提督、原生生物を取り込んだ指定遺失物を発見しました』

 懐かしいヤマトさんの声が聞こえる。声変わりしたのか、記憶よりもやや低い。

 彼が執務官補佐となり海に行ってからというものの、一度も会ったことが無い。
 この間、通報のために短時間の通信を行ったのも久しぶりのことだ。急いでいたので声など気にしていなかった。

『映像、そちらに転送します』

 ブリッジのメインモニターに現地の映像が映る。
 手入れのされた林の中、封時結界が展開されている。
 そして……。

「これはまたすごいですね」

「大きい……猫?」

「この世界にも猫はいるらしいですからね」

 林立した樹を超える大きさまで肥大化した猫。
 暴走はしていないのか、のんびりと手のひらで顔を洗っている。

 97サブカルチャーから学んだ知識では、第97管理外世界の日本における猫は擬人化が盛んになるほどの大人気の愛玩動物だ。
 魔法の世界には猫耳を生やした獣人の使い魔がいると知ったら、この国の人たちはいったいどう思うのか。

「ヤマト執務官補佐、アースラは後10分でそちらに到着するので、援軍が行くまで被害が出ないよう結界、防護魔法メインで行動して。封印は余裕を見て可能ならでいいわ」

『あいさー……、いえ、待ってください。結界内に魔導師反応です』

 モニターの映像が林全体を俯瞰した風景に切り替わる。エリアサーチ魔法に映像転送をかけているのだろう。
 その中の木の一本が拡大される。枝の上に人影が見えた。

 長い金髪をツーテールにした、これまた私と同年代の女の子が映る。
 手には杖、服装は日本ではまずないであろうマントを羽織った黒い服だ。

「現地民の援軍、ではないわよね……?」

「第97管理外世界への渡航魔導師登録に該当者ありません。ユーノ・スクライアさんからは現地協力者は一名としか報告されていませんし」

「現地の原始的な秘匿魔導師か違法渡航者、もしくはロストロギアの密猟者かしら?」

 デバイスらしき装甲杖を持っていることから、ミッドチルダ式かベルカ式の魔導師の可能性が高いか。

 少女が杖を猫に向けて構える。
 黄色の魔力光が一瞬きらめき、魔力の槍が撃ち出された。
 槍は猫の胴体に命中し、苦痛によろめいた猫は林に展開された防護結界に身を打ちつける。

「魔法の分析出ました! ミッドチルダ式の魔法です!」

「ヤマト補佐、公務執行警告、従わなければ拘束を! ジュエルシードへの対処は現地協力者達への協力要請を許可します」

 報告に即断で指示を出したハラオウン提督は、ブリッジ全体を見渡した後、こちらへ向き直った。
 さて、私も早速お仕事か。

「カガリさん、出動用意後、艦橋の転送ポッドで現地へ。ジュエルシードの確保を優先して。とにかく機動力を生かしてあの魔導師に奪われないように」

「了解しました」

「資料にあった高機動力評価、見せてもらいますよ」

 バイザーを装着し、走る。後ろではブリッジの局員達への提督の指示が飛ぶ。

 待機しているであろう執務官は出動せずか。
 まあ執務官補佐が出ている中でさらに艦を手薄にするわけにはいかないだろう。

 武装保管室に寄り、メインシップとサブシップを一機ずつ装着する。そこでバイザーに通信が入った。

『どうもー、執務官補佐のエイミィです。現場の状況をモニターしますねー』

 妙に軽い感じのお姉さんが映る。
 私が出向者じゃなかったらフレンドリーに敬語などなしで話しかけられるんだろうな、などと想像できる。

「ありがとうございます。現場はどうなってますか?」

『交戦開始してますね。どうやら、手足れの魔導師のようでヤマトくんの拘束魔法照射を飛んで回避してます。映像そっちに回すね』
「ブリッジの音声も回せますか? 私も戦線に混ざる可能性が高いので指示内容を把握します」

『了解ー』

 シップの飛行機能を起動。艦内を低空で飛行する。
 ブリッジにつく頃には転送準備が出来ているだろう。

 バイザーに映る現場の状況は、乱戦だ。
 駆けつけた白いバリアジャケットの現地魔導師は、猫からジュエルシードを抽出し魔力を封印したところで、それを奪おうと黒い服の魔導師が狙撃。その隙をついてヤマトさんが捕縛魔法を放つも、高速で飛翔する魔導師はアクロバティックな動きで回避していく。
 黒い魔導師は、杖から鎌状の魔力の刃を生み出し、ジュエルシードへ向けて突進していく。
 ユーノくんらしき首長ネズミが障壁魔法でその進路を阻み、ヤマトさんが無数の魔力弾を黒い魔導師に向けてばら撒いた。


 ヤマトさんは相変わらずだなぁ、と、ブリッジに到着だ。
 バイザーの通信を切って中に駆け込む。

「カガリ・ダライアス。戦闘準備完了しました」

「至急ポッドへ。任務内容は先ほど伝えたとおりジュエルシードの確保最優先で」

「了解です」

 ブリッジの一人用転送ポッドに入る。
 肩に接続された機動小型戦闘機を携えた状態ではぎりぎりのサイズだ。

 オペレーターの合図共に転送ポッドが起動。
 視界が魔力の奔流で埋め尽くされる。

 さあ、任務開始だ。












 転送が完了した時点で、すでに戦闘は終局を迎えていた。
 無数の弾幕に被弾したのか地に落ちた黒い魔導師と、それを見下ろすヤマトさんが目に入った。

 白い魔導師の子は首長ネズミを肩に乗せて、心配そうにその様子を眺めている。

「これは本当に必要なことなのか……考えてみたことはあるのか? 次元震を引き起こすものを何に使うかなんて……」

 ヤマトさんが黒い魔導師に向かって何かを語りかけている。
 降伏勧告……には聞こえない。

 転送中の少しの時間で何があったのか。状況が見えない。

『ユーノくん、これはいったいどういう状況なんでしょう』

 首長ネズミのユーノくんらしきものへ念話通信を飛ばす。
 ぴくりと白い子の肩の上で頭をこちらへ向けるのが見えた。

『ええと、ヤマトさんがあの子を撃ち落したんだけど、急に何をしているんだとか説教を始めちゃって……』

 あー……。
 そういえばヤマトさんには説教癖という厄介な特徴があるんだった。
 戦闘訓練でこちらを打ちのめした後、相手が無抵抗になった状態で勝者の余裕の視点で駄目出しをするのだ。

「子供は親に甘えるものだろう。それなのに君は何故……」

 機動小型戦闘機、訓練弾設定ON。
 斑鳩モードで機銃を単発設定で照準合わせ。発射。

「親のために生きたいというなら一緒に生きてわがままの一つでも……あでっ!!」

 訓練弾設定魔力弾、命中。対象は説教モードに入ったヤマトさんの後頭部だ。
 ヤマトさんは驚いた顔でこちらを振り向く。

「え、カガリちゃん、何で……」

「ハーヴェイ執務官補佐、無駄話はいいですから逮捕を優先してください。説教は判決後の裁判官がいくらでもしてくれます」

 ヤマトさんの向こうで、立ち上がり魔法を起動しようとしている魔導師の姿が見えた。
 言わんこっちゃない。

「時空管理局……貴様らの存在を消してやるー!」

 叫びと共にヤマトさんへ牽制の魔力弾を撃ち、ジュエルシードに向かって飛び出す魔導師。
 だが無駄だ。私のほうがジュエルシードに近い。機動小型戦闘機シップのアフターバーナーをふかし、追いすがる魔導師を尻目にジュエルシードを確保する。

 今回持ち込んだメインシップは、斑鳩・銀鶏。本星で発掘された英雄機を解析し、一族総出で再現された試作機だ。
 搭載兵装は標準機銃と属性吸収フィールド。属性吸収フィールドは、攻撃魔法の属性を陰と陽の二つの属性に分けて、それぞれの属性に属する魔法のエネルギーを全て吸収してしまうというもの。
 反則的な機能だが、陰と陽はお互いに反発してしまうため二つの属性のフィールドは同時には展開できない。
 属性吸収フィールドで魔法の威力をそぎ、魔力障壁で防ぎきる、という防御面に強いシップだ。

 本来なら一機のシップで陰と陽のフィールドを切り替えられるのだが、試作機のために属性切り替えが搭載できず、左肩の斑鳩が陽、右肩の銀鶏が陰の属性機能を受け持ち二機のシップを同時運用することですばやいフィールドの切り替えを再現していた。
 二機の同時運用のため、魔力炉にかかる負担は大きいのだが、武装が機銃と吸収したエネルギーの解放だけであるため余裕はまだある。

 最大速度はシップの中でも突出してはいないが、それでもそこらの空戦魔導師に追いつかれるようなものではない。

「消えろー!」

 照射槍の連弾で私を撃ち落そうとしてくるが、進行角度を変えて回避する。
 結界の中を飛び回って引き離そうとするが、相手も高い機動力を持つ魔導師のようだ。

 眼下のヤマトさんとユーノくんの援護魔法も届かない。
 このまま足を止めてヤマトさん達と一緒に迎撃するか?

 いや、AAAランク魔導師相手だと、足を止めた瞬間にあの鎌に切り刻まれてジュエルシードを奪われてしまう。

「アースラ、私の位置を絶対座標にした封時結界展開できますか?」

『はいはーい、できるけど、何するの?』

 エイミィさんが通信に答える。
 何をするのか。簡単だ、足を止めては駄目なら私の得意フィールドで迎え撃てばいい。

「全力で飛んで引き離します。隙を見てアースラまで転送してください」

『艦長ー、どうですか?』

『……許可します。後ろをヤマト補佐に追わせるわ。地上本部最速の力とやら、見せてもらいましょうか』

 地上本部最速って……そんな単語始めて聞きましたが。

 まあ良い、これは撤退戦だ。速度と迎撃が全ての戦場になる。

 相応しい武装を用意しよう。背面補助戦闘機サブシップ、ブラックハート機動!

 属性吸収フィールドが消え、斑鳩・銀鶏に回されていた魔力が背中の一点に流れる。
 パイロットスーツに装着されていた拡張金属が肥大化し、魔力の翼を展開する。

 それは、ミッド式の魔法でよく見るような鳥の羽ではない。戦闘機の直線的な翼を魔力で再現した、黒い翼だ。

 これがブラックハート。敵に背を向けながら戦うための、敵より速く飛ぶことを義務付けられた私の武器。

 さあ、行こう。
 アフターバーナーから魔力の炎を全開で噴出し、林の封時結界を飛び出した。

 後ろからは黒い魔導師が必死に追ってくる。


 魔女っ娘よ、正面からの殴り合いはAAAの戦闘者である貴女のほうが強いだろう。
 だが、撤退戦においては私に分がある自信がある。
 戦闘機による高速飛行。魔力炉による無限の弾幕。
 追いつけるなら追いついてみろ。銀河一後方に強い戦闘機ブラックハートが相手になろう。

 振り返らずに魔力弾ショット魔力線ショット魔力砲ショット。追いすがる魔導師のバリアジャケットを削っていく。
 障壁魔法に頼らずぎりぎりで直撃をかわしているあたりは戦闘機乗りの才能があるのかもしれない。
 だが、ブラックハートの実力はこんなものではない。

 魔力炉がうねりをあげる。斑鳩は機銃の機能を停止。ブラックハートに魔力を流す。
 背面の黒い魔力の翼が、本物の大型戦闘機大に広がった。


 魔力の翼は飛行ユニットではない。全て銃口であり砲門だ。無数の銃口の角度は上下左右あらゆる方向を向いている。
 魔導師をあえて狙わず、翼砲全門から機銃魔力弾を連射する。
 弾の軌跡は空中で交差し、格子状の弾幕の檻が出来上がる。

 ワインダーと名づけられた後方全方位射撃。アースラからの結界の中でなければ、街に魔力の雨が降り注いでいたところだろう。
 全力で稼動する魔力炉の胸の唸りが心地よい。

 この高速飛行の速度の中、どれだけこれを避けられるのか。

 前に出ても当たり、弾雨の隙間に位置を取ろうとしても角度を変えた翼砲の餌食となる。
 そして時折ワインダーから狙撃弾に切り替えてタイミングを狂わせる。

 削る、削る、魔法障壁をバリアジャケットをそして追いすがろうとする心を削る。
 障壁魔法を張るのを靴のカメラアイで捉えた。

 互いの距離がさらに引き離される。そろそろ良いだろう。

「アースラ、減速しますので、転送お願いします」

『こちらは転送準備完了しています。転送カウント開始します。10、9、8……』

 後ろからは着弾の魔力煙をバリアジャケットから昇らせながら、なおも追ってくる魔導師が見える。
 だが、その速度では間に合うはずも無い。

『5、4、3……』

 斑鳩、再稼動。先の起動で吸収した魔力を展開する。

「一斉射撃。“力の解放”」

『2、1、転送します』

 さようなら。

 一斉に撃ち出された青白い魔力の矢が魔導師へ命中したところを確認し、再び視界が転送の光に包まれた。



――――――
あとがき:フェイトVSヤマトでは転生憑依オリキャラの華、上から目線の説教を書きたかったのですがこういうものは無意識に書かないと上手くいかないものなのでしょうか。ちなみにフェイトが攻撃的なのは本作品の仕様です。

SHOOTING TIPS
■呪ってやるー
縦画面アクション風シューティング『まもるクンは呪われてしまった!』はお近くのゲームセンターで絶賛稼動中、かもしれません。

■貴様らの存在を消してやるー!
エスプガルーダ一面ボス、セセリの有名な棒読み台詞。セセリは父親の愛情を求めたが相手にされず、前線で戦うことで認められようとしたとかいうそんな健気な子。
有名な棒読みは、稼動当初社員が声を当てたのか? などと言われていましたがちゃんと声優を起用していたそうです。

■ブラックハート
スチームパンクで硬派な雰囲気漂うSTGバトルガレッガに登場する五面ボス「G-616 ブラックハート」。
銀河一後方に強い戦闘機の通称は七面中ボスの「N-617 ブラックハート mkII」につけられたものですが、マーク2をつけると冗長なので今回は省略しました。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第五話Bパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/08/20 02:27

「は? 逃げられた?」

 転送室からブリッジに戻ったところで伝えられた戦闘報告。
 それは、あの黒い魔導師の捕縛に失敗したというものだった。

「逮捕しようとしたところで使い魔の妨害が入ってね。転送で逃げられたわ」

「えーと、戦闘領域から大きく離脱した私の失態でしょうか」

「いえ、増援を予想しきれなかったこちらの問題よ。気に病まないで」

 だが、あの離脱は艦からの指示ではなく、私の提案だ。あそこは危険を恐れず全員で捕縛するべきだったか。
 次元震を引き起こすロストロギアに、それを狙う密猟者らしき魔導師。

 スクライアに恩を売れられれば程度と考えて関わったこの事件。
 開始早々少し面倒なことになってきた。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:続・原作キャラ描写のテスト
原作:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:オリキャラ介入で時系列の狂った典型的原作再構成
――――――












 帰艦したヤマトさんと私は、ハラオウン提督に連れられて休憩室に案内されていた。
 日本風の茶室……と言えばいいのだろうか。
 漫画で見たノダテというシーンが思い出される。

「ヤマトさん、ここはこの国の茶室というものでしょうか?」

 学生自体の寮の自室に草で出来たカーペットのタタミを用意するなど、私以上に日本フリークのヤマトさんに聞いてみる。
 ちなみにヤマトとは、日本の別名らしい。そこから興味でも持ったのか。

「いやあ、茶室は木造の個室だよ。ここは……何なんだろうね?」

「何なんでしょう」

 木製のおたまのようなものでカップに湯を注いでいるハラオウン提督に視線を向けてみる。
 取っ手がなく形が歪なカップを手に取ると、カップをくるくる回してからお湯を端に置いてある筒の中に捨てた。
 これは、カップを温めたのかな。

「前に見た映像にこの国の外でお茶を飲む文化資料があって、再現してみたの」

 楽しそうに言うハラオウン提督。おそらくそれがノダテというものだろう。
 しかし、管理外世界の文化資料ってそうそう転がっているものなのだろうか。

「本局でカガリさんの同郷の方にこの世界のお茶の話を聞きまして。それ以来、日本の文化に興味を持ったのよ」

 主任ちゃんが元凶かー!
 そういえばヤマトさんに日本の製品を調達していたのも彼だったか。広がる日本オタクの輪。

「でも艦長、茶道には角砂糖は使いません」

「あらあら、いいじゃない。これから呼ぶのも小さな女の子なんだし。あ、カガリさん、渋かったらお砂糖使ってね」

「はい」

 日本オタク同士で意見の相違があったらしい。
 こういう場合は偉いほうに従っていた方が波風が立たないのでハラオウン提督に追従しておく。

 ちなみに、白い服の魔導師さんは友人宅へ遊びに来ていた最中らしく、一旦別れを告げてからこちらへ向かうらしい。
 現地にはハラオウン提督の息子さんのハラオウン執務官が向かっている。

 顔見知りのヤマトさんが行けば良いと思うのだが、先遣隊の帰艦とか色々あるのだろう。
 海の事務処理はよく知らない。

 ハラオウン提督からお茶を渡される。
 この世界のお茶の葉はどのようなものか知らないが、お茶自体は携帯飲料としても親しまれている人気の飲み物らしい。
 ここ二百年ほどで文明レベルの向上が激しく、このように手はずから淹れることは珍しくなっている。
 魔法を使わないこの管理外世界の文化は、参考知識として学習機械で割と多めに脳に焼き付けられてある。まあ、日本の項目がピンポイントで多いのは教育局の人たちの趣味が大きいだろうが。ああ、昔の私って何て玩具。

 そんな過去を思い出しつつ、お茶を一口飲んでみる。

「んぐっ」

 ちょっと苦い。そして甘いような口当たり。

「あら、お砂糖いる?」

「いえ、お茶菓子には合いそうです」

 普段全く使わない異世界の知識の中でもお菓子の項目は参考になる。お茶菓子はヨウカン。渋いお茶に合う甘いお菓子だ。

 一口飲んでは一口食べ、ということを繰り返していたところで、部屋に男の子が入ってきた。
 ハラオウン執務官だ。九歳の私と同年代の子に見えるが、資料によるとこれでもヤマトさんと同じ十四歳。
 この歳でも執務官職につけるあたり、時空管理局は本当に実力主義というか資格主義だ。執務官試験に年齢制限はない。

「保護対象者と現地魔導師をつれてきました」

 執務官の後ろには、例の白い女の子がついていた。
 いや、バリアジャケットを解除していてもう白くないが。
 服はパーカーにミニスカートと、ミッドチルダでも見るようなデザインだ。

 精神性と文化性の上限というものだろうか。どのような世界でも一定以上に文化のボーダレス化が行われた人類種の文明は、“想像の範囲内”の服装になる。
 筆舌に尽くしがたい異形というものは、おおよそ閉鎖文化でしか生まれない。
 文化が一極化した狭い管理外世界では、そのような異形文化もあって管理世界の一部の人たちに密かな人気があるのだが。

 髪の色は茶。黒髪美人がこの国古来の美意識らしいのだが、他国との文化交流でそのあたりも変化したのだろう。
 私個人の美的感覚から言えば、可愛らしい子だ。

 肩には相変わらず首長ネズミが乗っている。

「ユーノ・スクライアです。通報にかけつけてくれ、感謝します」

 ああ、やっぱりこの小動物がユーノくんなんですね……。魔法少女文化の伝統に則り、小動物化でも強要されたのだろうか。

「魔力治療のためこのような姿で失礼ですが、よろしくお願いします」

 勘違いだったらしい。魔力治療ね。確かに生物として省エネっぽくはある。

「ユーノくんってやっぱり人なんだね……」

 女の子が感慨深げに言っている。よほど小動物として長い間すごしていたのだろうか。

「あ、わ、私はなのは。高町なのはです。よろしくお願いします」

 改めて彼女を見る。ちょっとした鼻声が特徴的な同年代の女の子。
 頭の横で縛った髪がおじぎでぴょこぴょこと動いてなんとも可愛らしい。

 同年代の魔導師、か。会うのはユーノくん以来だ。

 ハラオウン提督がちらりとこちらを見てきた。私が挨拶しろと言うことですかね。
 この部屋を選んだことからも、堅苦しい雰囲気はなしにしたいのだろう。ここは私が挨拶するのが無難か。

「よろしくお願いします、高町さん。日本では高町のほうがファミリーネームでよろしかったですよね?」

「あ、うん。気軽になのはって呼んで、ください」

「はい、なのはさん。私はカガリと申します。こちらがリンディ・ハラオウン提督。この艦の艦長さんです」

 艦長と聞いて再びお辞儀を繰り返すなのはさん。階級の存在しない一般市民だというのに、しっかりしている。
 あらあらかわいい、などとハラオウン提督が向かい側で眺めている。このパターン、前にどこかで見たような。

「それと私は特に偉くもない階級無しの魔導師ですので、敬語は不要です。歳も近いみたいですしね」

 私の方が敬語なのは、まあ年上に囲まれた癖と言うものなので仕方がない。今更直す気もないし。
 なのはさんはにっこり笑みを返してくれた。管理局側には友好的らしい。実はヤマトさんが攻略済みとかだったら嫌ですねぇ。

 提督に促されて私の隣に正座するなのはさん。向かいにはハラオウン執務官が座る。
 二人にもお茶とお菓子が振舞われる。

 私と提督は二杯目。カップはその場でお湯ですすぎ、小さな布巾で拭いてからそのカップに淹れなおされた。
 使いまわさず一度洗う、このあたりは独自の作法があるのだろう。

 ハラオウン提督は角砂糖を一つ、二つと入れた。あ、今度はミルクを入れた。
 隣を見ると、なのはさんの顔がひきつっていた。ヤマトさんも渋い顔だ。
 ……フォローを入れておこうか。

「なのはさん、日本ではないようですが海外では砂糖入りの緑茶飲料が一般的に販売されていますよ」

 甘い飲み物と言うことで知識を記憶から掘り起こせた。甘い緑茶はお茶の本場である中国という国で人気らしい。
 隣の国だというのに知らないのか、それとも彼女もヤマトさんみたいに茶道とかいう文化にこだわりがあるのだろうか。

「あはは、そうなんだ……」

 引きつった笑みのままお茶を手に取るなのはさん。

 その手前では、お皿に軽く注がれたユーノくんがお茶をぺろぺろとなめていた。
 うーん、これはこれで可愛いかも……。

 手を伸ばすと、腕を伝って肩の上に乗ってきた。

「お久しぶりです、ユーノくん」

 返答代わりに頬を小さな舌でなめてくる。
 ……なめてくる?

「いきなり頬なめるとか何考えているんですか」

 指でユーノくんの頭をはじいて叩き落した。
 いきなりびっくりしました。ヤマトさんの初対面頭撫で以来の大事件だ。

「そんな破廉恥な仲になった記憶はありませんよ」

「いや、この形態だと行動まで動物っぽくなっちゃって……」

「昔ネズミを飼っていた事ありましたけど全然なめませんでしたよ」

「うう……」

 魔力回復のためじゃなくて、本当はやっぱり呪いなのではないだろうか、この子は。
 隣のなのはさんは、あははと笑いつつ頬をさすっていた。被害者一名確認。

 まあユーノくんの動きから見るに身体的な怪我はないようなので僥倖だ。
 大怪我をしているから変身して傷を消しているという線は消せないが。

「それで、今後について何だけれど……」

 和んだところでここからが本題、とハラオウン提督が話を切り出す。
 ぴしりとなのはさんとユーノくんの背筋が伸びた。

「私たちの行動を邪魔しない限り、現地世界の魔導師の協力は原則拒否しません。管理外世界であっても管理法の原則である自分達の世界を守る権利は保障されます」

 現地協力者としての関係を維持、ということか。
 魔法の記憶を消去してお帰り願うというのも想像していたのだが。

「ただし、第一級ロストロギアが絡んでいる以上、臨時局員という形で私たちの指揮下に入ってもらいます。ユーノさんもなのはさんのサポートと言う形で指揮下に入ってもらうわ」

 人手不足の時空管理局とはよくいったものだ。敵対者が確認されたことでAAランクの魔導師である私の参入だけでは心もとないと言うことだろうか。
 たしかに次元世界には世界防衛権の原則はあるが、民間人はまず現場から離そうとするのが一般的な対処なのではないだろうか。海はよく解らない。
 先遣隊としてヤマトさんが会ったときに、強い要望でもあったのだろうか。

 ヤマトさんのほうをちらりと見てみる。
 ……ウインクで返された。何が言いたいんですか。
 戦場でもないのに以心伝心など出来るはずもない。

 話はユーノくんと提督の二人で進んでいく。
 ときおりハラオウン執務官の細かい指摘とヤマトさんの甘い意見も混ざるが、協力者としての方針には変わらない。

 私には関わりのないことなので、一人お茶を飲みながら羊羹を消費していく。

 はあ、それにしても足が痺れた。












 場所を移してモニター室。
 互いの紹介が終わったので、今回の事件の顛末についての確認だ。

 場にはエイミィ執務官補佐が加わり、パネルの操作を行っている。

「すごいや。どっちもAAAクラスの魔導師だよ」

 最初のヤマトさんとなのはさん、それと黒い服の魔導師が戦っている場面がモニターに移っている。
 ヤマトさんはSランクでユーノくんはAランクの魔導師なので、AAAクラスというのはなのはさんと黒い魔導師のことだろう。

「なのはちゃんなんて、クロノ君の好みっぽい可愛い子だしぃ」

「エイミィ! そんなことはどうでもいいんだよ」

 エイミィ執務官補佐の言葉に、必死で突っ込みを入れるハラオウン執務官。
 本人の前で他人の好みを暴露とか、すごいところですねぇ、アースラ。
 あの執務官補佐さん一人が天性のおちょくり士なだけかもしれないですけど。

「魔力の平均値を見てもなのはちゃんで127万。黒い服の子で143万。最大発揮時は、さらにその三倍以上! クロノ君より、魔力だけなら上回っちゃってるねえー」

 この魔力値は、例えて言うなら魔法的防衛能力を持たない都市を軽く焦土にしてしまえるレベルの出力だ。

 黒い魔導師は魔法の行使も見るに一流のミッドチルダ式魔導師。
 なのはさんも魔法を知って二週間程度でこの魔力を完全に制御している。
 本当にユーノくんは発掘の才能がある。

 ちなみにリンカーコアを持たない魔導師である私はこの魔力単位での計測が意味をなさず、資料の備考欄には「魔力値は参考値までとし、特殊デバイスの出力と魔力持続能力の無限性に留意されたし」などと書かれる。
 この身体本来の魔力の計り方は、魔力エネルギー炉とか発電所とかそういう方面での数値だ。

「魔法は魔力値の大きさだけじゃない。状況に合わせた応用力と、的確に使用できる判断力だろう」

「それはもちろん。信頼してるよ、アースラの切り札だもん。クロノ君は」

 先遣隊にヤマトさんを出して執務官さんが出ていないということは、ピンポイントに投下して状況打破に使うためのまさに切り札として運用されるのだろう。現場で弾をばら撒いてトリガーハッピーに陥るヤマトさんとは違うということか。
 この歳で執務官ならば、いくら資格主義の時空管理局であっても実力とコネを兼ね備えた肝いりなのだろう。

 応用力と判断力を重視するというあたり、高ランク魔導師にみられがちな火力重視の傲慢さも見て取れない。

「執務官さん」

「なんだ」

 画面をじっと見ていたハラオウン執務官が目線だけをこちらに送ってくる。
 そういえば彼と言葉を交わすのはこれが初めてか。

「私たちの一族にはラスト・ダンサーという慣用句がありまして」

「ラスト・ダンサー?」

「最強を目指した戦闘機は、最高の砲台でも最高の装甲を持つでもなく、それらを後から自由に搭載できる最高の汎用性を持って作られたと言う故事です」

「ほう?」

「大局的に見たら最高の魔導師というのは高い魔法知識と技術を持つ総合魔導師なのかなーと思います。執務官さんの言う通り」

 火力一辺倒の魔導師は使いどころが難しいものだ。

「まあ私はミッド式が使えないので汎用性なんて縁が無いんですけどね」

 地上本部の私の投入具合を見ていれば解る。
 武力制圧が必要なとき以外はお呼びでない。

「それが話のオチか」

「笑えなかったですか?」

「自虐的すぎだ」

 切って捨てられました。

 モニターを見て、ハラオウン提督は黒い魔導師の境遇についてなにやら嘆いている。
 まだ子供なのに、か。
 地上本部で多くの犯罪者を見てきた私としては、幼くして強大な魔力を持ち犯罪に手を染める魔導師などというものは珍しくもなんともない。さすがにAAAは初めてだが。

 まあでも幼くて優秀な魔導師の行く末を決めるのは、確かにそれを見守る大人たちだ。
 発掘者となり本格的に魔導師の道を進まなかったユーノくんを見ていても良く解る。

「ユーノくんってああ見えても総合Aの優秀な魔導師なんですよ」

「らしいな」

 魔導師としての親が居なかったなのはさんはどうだろうか。
 時空管理局は見守るに値するか。警察機関としての顔がある以上、犯罪の道へは進まないだろうが。

「さっきのラスト・ダンサーでいうならば、なのはさんという強力な砲台を制御できる汎用機がユーノくんなんじゃないかなって」

「無知で魔力馬鹿の魔導師に魔力の少ない高技術の魔導師がつけば、最高の魔導師になれる……と言いたいのか」

「まあユーノくんは管理局にはあげないですけどね。彼は魔導師以前に考古学者です。なのはさんをスカウトするだけで我慢してください」

「まるで彼が君のもののような言い方だな」

「知らなかったんですか? 古代遺産ダライアス考古学者スクライアは相思相愛なんですよ」

 提督の会話に付き合っているエイミィさんがこちらを横目で見てきた。相思相愛という単語に反応したか。

 部族的な関係であって、個人的な意味で言ったわけではないんだけれど。

「まあなのはさんとユーノくんは微妙にラブオーラを出しているので、なのはさんゲットできればユーノくんがついてくる可能性も高いのではないのでしょうか?」

「はは、あとで提督に言っておくよ」

 まあ言わなくても聞こえているようですが
 ついでになのはさんとユーノくんにも聞こえています。ちょっとエイミィ執務官補佐の真似をしてみました。

「でも、辺境にわざわざロストロギアを回収しに来るなんて……」

「まさかこの子の背後の組織が輸送船を事故に合わせたのかしら」

 私たちの私語を横に、ハラオウン提督とエイミィ執務官が考えを巡らせている。
 だが判断材料が余りにも少ない。ミッドチルダ式の魔導師で使い魔を従えているというだけだ。

 そこで、ずっと何かを考えるように俯いていたヤマトさんが顔を上げた。

「フェイト。フェイト・テスタロッサだ、彼女の名前は。テスタロッサという魔導師で調べてみてくれませんか」

「え、ヤマトさん、あの子名前言ってた?」

 なのはさんが驚いたようにヤマトさんに尋ねる。
 私が現地に向かうまでに何かあったのか?

「あー、ああ、戦闘中だったから俺しか聞こえなかったのかもしれない」

 魔導師の名前を聞いて、ハラオウン親子が何かを考えるように静かになった。
 テスタロッサ、というファミリーネーム部分で指定するあたり、何かあるのだろうか。
 犯罪者グループの組織名?

「テスタロッサという魔導師に心当たりが?」

「ちょっと前に、ね……。ああ、エイミィさん。プロジェクトF.A.T.Eというのも一緒に追ってみてください」

 追加の単語も出てきた。
 相変わらず謎の多い人だ。敵対するであろう魔導師のほうは謎だらけでは困ってしまうが。












 さて、話はまた戻ってなのはさんとユーノくんの処遇。
 どうジュエルシードを回収しようか、などという話ではなく、なのはさんの家族にどう説明しようかというものだった。
 管理局から文化資料と参考対処方法は届いているが、付け焼刃の嘘ではぼろがでてしまう可能性が高い。

 生活を維持するため、基本元の生活を保ち必要に応じて招集できると言う形に収まるのが一番いいのだが……。

「嘘をつくのは得意なので、私がご家族に説明しましょうか」

 さらっとすごいことを言う提督。
 でも、得意であってもなのはさんから家族の人となりや家庭状況を聞いて嘘の内容を考え、納得してもらえる可能性を上げなければいけない。

 可能なら、魔法から何から説明して親御さんに正式な了承をしてもらうか、危ないから駄目とはっきり言ってもらうのが良い。
 だが魔法の存在など、不可侵である魔法文化のない管理外世界に知らせるわけにも行かず、皆頭を捻っている。

 なのはさんの家族構成は父、母、兄、姉。
 母以外は古流剣術の熟練者で、質量兵器を持つ武装護衛隊を相手に剣と針投げと鉄の糸で渡り合う実力を持つ。……なんだこれは。
 ちょっとした危険があると説明したら家族を守るために絶対に首を突っ込んでくるだろう。
 なのはさんの活動を拒否されるよりもそちらのほうがやっかいそうでもある。

 ふむ、ここは考える人員を増やそう。

「皆さん、実はこの国の文化に詳しい良い人材を知っているんです」

 エイミィ執務官補佐に次元通信の連絡コードを渡す。念話ではなく、通話機を使った機械通信のコードだ。

 繋がる先は……。

「こんにちは、カガリ・ダライアスです」

「んだよこっち深夜なんだけど」

 モニターに男性の顔が大きく表示される。大画面で映像通信はやるものではないですね

 画面に映るのは、寝起きでただでさえいかつい人相がさらに怖くなっているおじさま、ダライアス一族の主任ちゃんだ。

「喪失文明復興局生活文化部多次元調査課課長。時空管理局嘱託魔導師として要請します」

 とたんに真面目な顔になる主任ちゃん。

「……嘘を考えるのにご協力ください」

 帰ってきた答えは、「は?」だった。



――――――
あとがき:ラスト・ダンサーの会話をさせるためだけに書いたそんな五話Bパート。
なのはにとっては出会いと成長の物語。転生憑依者にとってはフィクションの実体験。でもカガリにとってはよくあるただの一事件です。少なくとも今は。

用語解説
■これは、カップを温めたのかな。
紅茶では良くあるカップを温める動作ですが、茶道でもしっかり茶碗を温めます。表千家しか知りませんけど。
ちなみに薄茶と呼ばれるお茶は口当たりがまろやかでさほど苦くはありません。

■気軽になのはって呼んで
「私の名はシュバルリッツ・ロンゲーナ。大佐と呼んでくれたまえ」といったSSにおける手抜きの呼称の定着方法……などではなく、自分をこう呼んで欲しいと自己紹介時に伝えるのは海外で一般的です。
あだ名は付けられるものではなく自分で名乗るものだとか。「なのはさん、でいいよ」などと言う彼女は家族経由で某歌姫の国の文化を知っているのでしょう。

■テスタロッサという魔導師で調べてみてくれませんか
転生憑依者のチート技未来予知は、発動しても物語が本筋から大きく外れません。
「これが原作の修正力かっ!!」んなわけありませんがな。

SHOOTING TIPS
■ラスト・ダンサー
R-TYPE FINALを象徴する最強の汎用機の一つ。究極互換機。
全ての波動砲を選択可能。
全てのフォースを選択可能。
全てのビットを選択可能。
全てのミサイルを選択可能。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第六話-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/09/06 04:43

 我々はHGS研究を利用した違法生体生成物を回収するNGOである。
 HGSとは高機能性遺伝子障害という、先天性の遺伝子障害の症状の進行によって本来人間には不可能である超常現象を引き起こす能力を持つようになった病気であり、当組織はデリケートなそのHGSを扱うため秘匿組織とされている。
 そして今回、この海鳴に壊滅した違法団体の残党が“シード”という生物に寄生してHGS特有の超常現象を無差別に引き起こす兵器をばら撒く事件が起き、政府の要請により当組織が介入したのである。
 シードの回収にはヒューマンデバイスと呼ばれる、擬似HGS能力を後天的に人に与え且つHGS生成物の力を抑制させる振動波を発生させる装置が必要である。だが、ヒューマンデバイスには適性が必要であり、当組織の所属HGS実験動物ユーノを保護した高町なのは嬢が適性を持っていることが判明。先遣部隊の負傷と高町なのは嬢本人の意向により当組織に協力するに至った。
 我々はシードの回収任務を受けて到着した後続の本隊であり、シードを回収するだけの準備が整った以上、高町なのは嬢の協力は任意でしかない。継続して協力を志望したため限定的に情報を開示し保護者への説明をすることとなった。

 ……以上、大真面目についた嘘でした。

 高町家とは少々特殊な一家であるらしい。HGS患者との交流もあり、その特異性への理解も大きいとのこと。
 なので、魔法をHGSに置き換えて話したのだ。
 危険性も含めて話しているのは、ハラオウン提督の意向である。
 親の庇護下に居る以上、親の許可なしに危険なことなどをさせられないとかなんとか。さすが一児の母である。

 HGSの人類外適応実験の結果生まれた喋るイタチのユーノくん。
 テレパス実験によって知性を埋め込まれたヒューマンデバイスのレイジングハート。
 それらを見せてHGSの信憑性を高める。

 そして、今までジュエルシードによって引き起こされた事態をHGSに結び付けていく。
 いくつかの事件は封時結界が間に合わなかったり、戦闘の余波で街中が破壊されたりして怪事件として話題に上がっていたらしい。
 いやあ、超能力さまさまだ。魔法の盛んなミッドチルダでも良く解らないことはレアスキルだって言っておけばなんとかなるようなものだ。

 高町家のリビングに並ぶのは、なのはさんと同年代の子供も所属する組織なんだということで連れてこられた私、一般の人員としてヤマトさん、艦でも年齢の高い中年の男性武装局員さん、そして説明と言う名の嘘をつくハラオウン提督だ。

 私はHGSを呪術の力とする部族から志願してやってきた子。
 ヤマトさんはHGSで見た目が変化してしまった日本人。
 武装局員さんはその年齢と落ち着いた見た目から、全員の上司という名目だ。一言も話していないが。

「なのはは剣なんて教えなくても、誰かを守るということをしっかり覚えていたんだなぁ」

 高町(父)が感慨深げに言っている。嘘はつきましたが、なのはさんのその思いは確かに本物でしょう。
 自分が手伝うと言いかねない高町(兄)には「空を飛べないと、どうしようもないんですよねぇ」と先制が打たれてある。
 高町(姉)は、ユーノって喋れたんだねー、などと少しずれたことを言っている。
 高町(母)こと高町桃子さんのほうは……。

「お母さんはお母さんだから、なのはのことがすごく心配……」

 ぎゅっとなのはさんのことを抱きしめている。
 お母さん、か。

「でも、最後までやりとおすって、決めちゃったんでしょう? じゃあ、後悔しないように頑張っていらっしゃい」

「ありがとう、お母さん……」

 泣き出しそうな顔で、なのはさんも答える。
 お姉さんに抱えられたユーノくんがその様子をじっと眺めていた。
 部族に育てられた私たち二人は本当の親の愛というものを知らないが……ユーノくんはこの情景をどう思っているのだろう。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:多数キャラ描写のテスト
原作:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:原作キャラに独自の知識で説教するゲテモノオリジナル主人公
――――――












 さあ、ジュエルシード探索の始まりだ!
 ……というはずなのだが、あのあと未暴走状態一個の回収を終えたところで何故か私は高町家の家族旅行にご一緒していた。

 なのはさんのお友達も連れ立っての旅行らしいが、それを聞いたハラオウン提督に「せっかくだから同い年の子達と遊んでいらっしゃーい」と送り出されてしまった。

 うーん、地上本部からの派兵なので接待でも受けているのか私は。
 いや、同年代の友人はユーノくんしか居ないと雑談で話したのを聞きとがめられていた線が強いか?

 真意は解らないが、私はすでに旅館へ向かう車の中。タイヤで走る四輪車だ。
 ミッドチルダでも似たような乗り物に何度か乗ったことがある。振動が嫌なので私は低飛空車が好きなのだが。

 運転手は高町家の父、士郎さん。その隣の助手席には桃子さんが座っている。
 一番後ろの席には、なのはさんとその友人さん達月村すずかさんとアリサ・バニングスさんが居る。
 真ん中の席には姉の美由希さん、そしてその隣に私が座っている。ついでに膝の上のかごの中には首長ネズミのユーノくんだ。本来ならアースラの治療室で魔力治療のはずなのだが、なのはさんに連れてこられたらしい。

 兄の恭也さんは、一人ハブられて後続の月村家の車の中へ。月村家一同は、すずかさんの姉とその使用人たち。
 使用人だ。貴族制度や奴隷制度があるという知識はないが、使用人が居る以上裕福層に属する何かなのだろう、月村家は。


 ちなみに、すずかさんとアリサさんとは出発前に顔を合わせたのだが、なのはさんのことを名前で呼ぶなら自分達もファミリーネームではなく名前で呼べなどと言われた。なかなか積極的な人たちだ。
 ここは、この年代の子は魔法学校時代の一年目を思い出せばいいのだろうか。大人の人と違って距離感が解らない。

 まあでも、隣の席ではないので車の中に居る間は距離を取っておこう。
 先日海鳴の街で現地の服をいくつか調達したときについでに買ったハードカバーの本を読む。
 本のタイトルは『連射王』。上下巻なのでそれなりに読み応えがあるだろう。

 本を読む私に遠慮したのか、なのはさんたちが私ではなくユーノくんを膝の上からさらっていった。
 例の嘘はなのはさんを心配していたと言う親友二人にも話してあるので、ユーノくんは喋る小動物として大人気だ。

 フェレットなどという動物名の生き物と思われているが、正しくはユーノくんが育った世界のイタチの仲間らしい。私にはげっ歯類にしか見えないが。
 彼は実験動物などというハードな舞台設定持ちなので、嘘も大変そうだ。頑張れ。


 隣の席の美由希さんは、私と同じように持参した文庫本を眺めている。あ、こっち向いた。

「ねえねえ、その本面白いかな? タイトルも初めて見たんだよね」

 こちらの本の内容に興味津々のようだ。なのはさんの話によると彼女は読書家らしい。
 黒髪眼鏡っ娘は文学少女、などとこの前の通信で主任ちゃんがのたまっていたのを思い出した。

「読み始めたばかりなので面白いかどうかはまだ断言できませんが……ゲームセンターでシューティングというゲームに魅せられた少年のお話というのが導入でした」

「ゲームセンターかぁ。何だか変わった本だね」

「上下巻なので上巻読み終わったらお貸ししますね。もし楽しかったら下巻もということで」

「うん、ありがとう」

 話はそこで終わり、お互いに本に視線を戻す。
 シューティング、か。なかなか興味深い遊戯だ。そのあり方は、戦闘機乗りに通ずるところがある。

 車の振動に身を任せ、のんびりと本を読む。
 BGMは後ろの席の女の子達の会話だ。他愛のない、世間話。
 私がユーノくんやヤマトさんとするどうでもいい話とは大差がない。

 だがどこか、なのはさんは言葉の切れが悪いと言うか、一人考え込むように会話から離れている。
 ふむ、ジュエルシードの回収で頭が一杯で、思考を切り替えられていないとかだろうか。
 魔力が高いといっても、私のようにお仕事で魔導師をしているわけじゃないから、そうだとしたらまあ仕方がないことだろう。

 フォローを入れておこうか。念話チップに魔力を流して擬似魔法を起動する。

『なのはさん、なのはさん』

『ん、カガリちゃん? 何かな?』

『何やら思い悩んでいる様子と見られますが、よければ相談に乗りますよ。旅行中に気持ちを沈ませるのもなんでしょう』

『ありがとう。えっと……あのね、あの女の子のことなんだけど……』

 あの女の子、フェイト・テスタロッサについて思い悩んでいるようであった。

 自分と同じくらいの女の子。何を目的に自分達の前に現れたのか。
 あの子の顔を見て以来、何か心に触れるものがあり、ずっと気になっていたらしい。

『できれば、また会ってお話を聞きたいんだけど……』

『会うのはジュエルシードを追っていけば可能かもしれませんが、話を聞くとなると捕縛の必要がありますね』

『捕縛、か。戦って、勝たなきゃ、だよね』

『なのはさんが127万、フェイト・テスタロッサが143万、でしたっけ』

 魔法は魔力値の大きさだけじゃないとハラオウン執務官は言ったが、それならば新米魔導師のなのはさんには場数と知識が足りない。
 レイジングハートにプログラムされている魔法は祈願型。高魔力向けのいわゆる魔力とデバイスに任せた半オートパイロットなのだが、デバイスへの意志の伝達と魔力の制御にはやはり熟練が必要だ。

『確かになのはさん一人では分が悪いでしょうけど、私たちも頼って欲しいところですね』

『にゃはは、ごめんね。だけど、私がお話を聞きたいと思うから、やっぱり私の力でやってみたいんだ』

 なるほど、ね。彼女は納得したいのだろうと私は思う。

 自分の力でフェイト・テスタロッサにぶつかり、その思いを伝え答えを返してもらいたい。

 彼女は現地魔導師だ。私たちのように犯罪者の検挙にばかり思考を向けなくとも良い。
 彼女なりの魔導師としてのあり方を模索している段階であるかもしれない。

『それならば、私が魔法学校のサムソン教頭から聞いた魔力を劇的に高める方法をお教えしましょう』

『え、本当』

『ただし……この場合、魔砲は頭から出ます』

『え、えええー。それはだめー!』

 うむ、和んでもらえた。気分転換してもらえて何よりだ。












 ここは湯のまち、海鳴温泉なの。温泉です、温泉。
 私はこれでも温泉マスター。自然あふれる第6管理世界では、温泉がいたるところに沸いていたのだ。
 自然に手を入れないと言い張る自治区でも、私たち一族は自然に沸いてくるものだからと湯を引っ張ってきたり露天風呂を確保していたりしたのだ。

 着慣れないキャミソなど、即脱衣。下着も瞬く間にかごの中だ。
 魔力炉が回りうねりをあげる。いや、あげなくていい。テンション上がりすぎた私。
 半端に魔力を流された全身の魔動機コネクタが淡く点滅する。

 何事だ、と何人かに見られるが、まあ何か言われたらHGSのスーパー発電パワーなんですとでも説明しておこう。

 テンションが上がっているのは私だけではないのか、皆、服の脱がしあいっこなどをしている。
 そして一人挙動不審に目をそむける首長ネズミのユーノくん。

 その性差に気付かないなのはさんに念話でボケを飛ばされて焦っているのが見える。念話はクローズモードを使いましょう。

 念話に割り込んで助け舟を出そう。

『ユーノくん、私たちの歳の子供は、この国では異性でも一緒にお風呂に入ることは珍しいことではないのですよ』

 助け舟出しました。
 有無を言わさずユーノくんの首根っこをつかんで浴場へ連行する。

 お風呂場は、なかなかに広い四角の空間。石と木で作られた空間はなんとも趣深い。奥に見える湯の色は緑だ。

 ファンタスティック! などと叫んでいるアリサさんへユーノくんを投げ渡し、まず身体を洗う。
 風呂につかる前はまずかけ湯を体にかけるのが最低限だが、洗って清潔になってからというのが望ましい。

 頭よし体よし足の裏までよし。
 さて、至福の……。

「湯船に、バスタオルを、入れるなーっ!」

 思わず叫んでしまった。
 え、なんで。なんでバスタオルを身体に巻いたまま湯に浸かっているんですか。
 そもそもなんで寒くもない室内浴場でバスタオルなんて巻いているんですか。

「え、でもテレビでは普通に……」

 月村家の姉、忍さんがバスタオルを巻いたまま湯につかり反論する。

「局部を隠すための映像配信演出に毒されすぎですよ。本当に貴方達は日本人ですか」

「カガリちゃんは本当に外国人なのかな……」

 温泉に浸かる一歩手前で足を止めていたなのはさんからのツッコミが入る。
 皆に習ってバスタオルを巻いていたが、解いてくれたようだ。

「日本文化には造詣が深い自信があります。少女漫画とか」

「……こういう外国人ってよくいるわよね」

 どうみても金髪外国人のアリサさんからも遠慮のないツッコミが入る。
 これこそ裸の付き合いというものだろうか。


 閑話休題、湯に浸かり身体をめいいっぱい伸ばす。
 健康に入るための時間なども存在しているらしいが、心肺機能が人類より進化している私には関係のない話だ。

 素肌に浮かぶコネクタをこするようにして湯の成分を染みこませる。
 ああ、幸せ……。

 と、アリサさんがこちらの肌をまじまじと見ている。

「その模様、なんだか凄いわねぇ。例のHGSとかに関係あるのかしら」

「私の部族はこういった刺青のようなものをいれる文化がありまして……」

 実際には魔動機械接続用の生体機械コネクタだが。普段は凹凸がないので刺青で誤魔化せるだろう。

「でも温泉とかって刺青の人入れないところ多いよねー」

 いそいそとバスタオルを外しながら美由希さんが言う。

「そうなんですか。海外文化に理解のない国ですね。まあダメだったときは児童虐待で無理やり墨入れられたって泣き落としますよ」

 私を温泉から締め出そうとするような狭量な温泉文化は無視させていただきます。

 生まれついて存在しているコネクタだというのに、それだけで温泉に入れないなど話にならない。
 いくら監視指定生物といえど、許容できない差別もあるのだ。

「刺青がなければ温泉にこだわるところとか、この黒髪とか、本当に日本人みたいね」

 アリサさんがぺたぺたと髪の毛に触れてくる。
 さりげに隣に来ていたすずかさんも、綺麗ーなどと言いつつ簡単にアップにした私の髪に触れている。

 私の髪の色は、混じりけのない黒である。
 今は湯船に髪の毛が触れないよう洗った後にまとめたが、普段は頭の右横で片結びにしている。

 昔から続けている英雄カガリと同じ髪型だ。彼女も髪の色は漆黒であったらしい。

 この場で私と同じ髪の色の人は、美由希ただ一人。他には茶、金、紫となんともカラフルなラインナップだ。
 こういうところは、あらゆる世界から人が集まるミッドチルダと変わらないものだ。












 温泉を出て館内を歩き回った私たち幼年組み四人と一匹は、自然を見に旅館の外へ出ようということになった。
 おのおの浴衣から着替えて旅館の前に集合だ。

 私は一人準備が遅れて一人でロビーまでやってきた。

 そこでは、浴衣姿の恭也さんが月村家の使用人さんとお土産コーナーで品物を見繕っていた。

「あら、カガリさん。その格好はお出かけですか?」

「はい、釣りです!」

 使用人のノエルさんに元気に答える。しまった、またテンションが上がっている。
 そう、準備が遅れていたのは釣りの準備をしていたためだ。この近くの川は水が澄んでいて魚が良く釣れるらしい。

 釣り、と言う単語に恭也さんが反応した。

「ご一緒していいかい? 俺も釣りが趣味でね」

「はい、フロントで一式レンタルできますので」

 ちなみに幼年組の三人は、釣りはせずに辺りを見て歩きたいだそうだ。
 まあ、二泊の旅行だし、やることはいくらでもある。
 私としては一人釣りになりそうでちょっと残念であったのだが、ここにきて心強い友を得ることが出来た。

「じゃあ、着替えるので待っていてくれ」

 早足で部屋まで戻る恭也さん。ノエルさんはお土産コーナーに残るようだ。
 まあ釣りなんて見ていても暇なだけだけだからわざわざついてくることもない。

 しばらく待つと恭也さんが服を着替えて戻って来た。
 フロントまで一緒して釣り道具一式を借りる。ルアーフィッシングというやつだ。

 旅館を出て、手を振るなのはさんたちと合流する。
 釣り道具を持って現れた恭也さんを見て、何か呆れたような顔をするなのはさんが居た。

「立派な釣り道具だけど、それもしかして自前かい?」

 フロントには置いていなかった私の釣り道具を見て言う。
 これは、ミッドチルダから持ち込んだ手荷物の中に収納魔法を使って入れておいた趣味の品の一つだ。

「はい、トリガーハートという故郷の釣り竿です。川釣りから大型魚の一本釣りまでこなす万能携帯竿です」

「はは、こっちはただのレンタルだからとてもかないそうにないな」

「はい、目指すはオニキンメです!」












 夕暮れになって、私たちは旅館に向けて引き返していた。釣り果は上々。
 釣った魚の名前が解らないというのが唯一つの問題か。
 フウセンウナギとかマンボウとかクジラなら解るのだけれど。

 川の流れを眺めながら、二人川沿いを歩く。
 なのはさんたちは既に旅館に帰っているだろう。

 久しぶりに良い息抜きになった。
 二泊の休みが終わればまた出撃を待つ待機任務の始まりだ。

 と、そこで微弱な魔力を感知した。
 これは、もしや……。

「恭也さん、寄りたいところがあるので、先に旅館に帰ってください。荷物、重たいですけどフロントにお願いします」

 レンタル分の釣具とジャケットを恭也さんに渡す。

「寄りたいところ?」

 急な提案に怪訝そうな顔を浮かべる。
 まあ、こんな日も暮れそうな時間に女の子一人でどこかへ行こうとするのだ。心配もするだろう。

「HGS関係、です。上司に連絡しますので」

「……解った。もし手伝えることがあったら言ってくれ」

「はい。あと、もしかしたらなのはさんにも出動がかかるかもしれません」

 そこで話を切って、念話をアースラに向ける。
 感知した魔力は前回出動した暴走前のジュエルシードと同じもの。微弱なので近くに来てようやく気付けたのだろう。

『アースラ、応答願います』

 アースラの念話受信機に念話を届ける。これなら、交代制の通信士の誰かがいつでも念話を受け取ってもらえる。

『はい、こちらアースラです。ダライアスさん、いかがしましたか』

 通信士の一人が応答に答えた。
 何かの拍子で暴走する前に急ごう。

『暴走前のジュエルシードを感知しました。私の今いるエリアのサーチをお願いします。それと、アースラまでの転送を』

『了解しました。転送室まで転送します』


 アースラに戻ってから急ぎでパイロットスーツに着替え、斑鳩・銀鶏を装着する。
 着替えてばかりの一日だ。でも、私はわざわざ着替えないとジュエルシードの封印も、暴走体との戦闘も出来ない。
 魔導師と比べて使い勝手が悪い存在だ。いや、魔導師の使い勝手が良すぎるのか。

 転送で再び地上へ。バリアジャケットに着替えたなのはさんが既にジュエルシードに向けて封印魔法を執行しようとしていた。
 ユーノくんは結界魔法で万が一の暴走に備えている。
 ジュエルシードは暴走していないので、この三人のみの出動だ。
 魔導師の疲労は少ないほうが良い。他は船内で待機状態だ。

「リリカル! マジカル!」

 封印魔法を放とうとするその瞬間、異常な魔力反応が結界内に割り込んできた。

『結界内に転送反応五つ! この魔力反応は……傀儡兵です!』

 私たちを囲むように、魔法の自動人型兵器の傀儡兵が四体姿を現した。
 予想通りジュエルシードの前に現れたか、魔導師組織。

 シップを駆動させ魔力吸収フィールドを展開する。

 バイザーから検知される傀儡兵の魔力値はAクラス。四体は多いが、勝てない相手ではない。
 機銃を傀儡兵の一体に向ける。

「ずっとこのときを待っていた……」

 急に背後から地から鳴り響くような声が聞こえた。
 とたん、シップからアラームが鳴り響く。

 しまった、傀儡兵は四体、転送反応は五つだ。

「必ず死なす!」

 叫び声に振り向くと同時、魔法の鎖が魔力障壁に食い込んだ。
 鎖を放ったのは、黒い魔導師、フェイト・テスタロッサ。どこか焦点のあっていない目で鎖をさらに放ってくる。

 魔力の鎖が障壁にからまるように巻きついていく。

 機動力ではかなわないと知って、捕縛魔法を撃ってきたか。
 移動に支障はないが、鎖を破らないと黒い魔導師から一定以上離れることができない。

 魔力の刃を鎖に沿わせて放ってきた。
 鎖を伝ってきている以上、回避不能だ。

「あなたを生かしているのはこの私、あなたを生かしているのはこの私、うふふ……」

 衝撃が魔力障壁を伝って叩きつけられた。
 狂った飛行を制御するうちに、魔導師が肉薄し刃で切り付けてくる。

 死なすと言われていたものの、その魔法は非殺傷設定まりょくしょうげき
 だがそれでも障壁から伝わる衝撃は強い。

 AAAランク相当の魔力による斬撃。そう長く持つものではない。
 離脱しようにも鎖でお互いが繋がれているため振り切れない。

 機銃を撃ち応戦するも、その動きを捉えられない。
 こちらの背後を取ろうと高速で移動するので、片手で持てるデバイスに対し小回りの聞かないシップの機銃が当たらないのだ。

 く、ここはブラックハートで力技で鎖を……。

「もう、それは、だめ」

 雷撃が背中で弾ける。零距離砲撃だ。魔法障壁がごっそりと削られた
 私は接近戦ができない。高い機動力は中距離を移動するためのものであり、シップもその大きさから振り回せるようなものではない。
 シップの装甲を叩きつけ刃を受けとめるのは、格闘戦とは言わない。
 自爆覚悟カミカゼというのだ。

 だが、こうも近距離で高速で動かれてはその自爆覚悟もできない
 斑鳩の魔力吸収フィールドは陽。振り下ろされる刃の陽の魔法の力を吸収し、溜まった力を解放する。

 追尾するその魔力の矢も、障壁魔法の前に霧散した。

「やり直さなければならない……、やり直さなければならない……」

 ぞっとするような声がまた背後から。
 全身のカメラアイを総動員して全方位視界を得ても、動きを捉えきれない。
 加圧処理で加速した知覚の中でも私のあらゆる動きを凌駕してくる。

「そう、今度は私の勝ち」

 振り向いた瞬間、今までよりはるかに肥大化した黄金の魔力の刃が振りおろされようとしていた。

 防げない。来ると分かっていてもこの速度では防げない。
 あらゆる武装も防御も隠し玉も間に合わない。

「カガリちゃん!」

 なのはさんの叫びの中、最後の魔法障壁は紙のように切り裂かれ、紫電を撒き散らす死神の鎌が私の胸に突き刺さった。



――――――
あとがき:サマーソルトしてくる光の巨人に戦闘機搭載の剣一本で立ち向かう人はすごいと思います。

用語解説
■使用人が居る以上裕福層に属する何かなのだろう
日本では住み込みの使用人一人雇うのにすごいお金が必要です。ちなみに古代のローマでは、奴隷は貴重な財産としてかなり丁寧な扱いを受けていたとか。
いつの時代も人件費には頭を悩まされます。まあ、手塩にかけて育てた奴隷が優秀で便利すぎて、古代ローマでは天才が多いのに機械文明が発達しなかったのですが。

SHOOTING TIPS
■連射王
ある日ゲームセンターでSTGのスーパープレイを見てしまい、STGの道に引きずりこまれた少年が人間関係に翻弄されつつSTGの腕を上げていくという、他では類を見ない小説です。巻末にはSTG業界の歴史年表などもあり、STG好きの方は上下巻一冊ずついかがでしょう。
ちなみに十数年前に出たこの作者のラノベの武器デザインは、装甲と突起ぶりの傾向がなんともレイハさんに似ています。

■魔砲は頭から出ます
メンズビィィィィィム!!!!
ネタ扱いが強いSTG超兄貴ですが、音楽は何気に名曲揃いです。ネタ曲ですが。

■トリガーハート
ファンが自機を擬人化して萌え萌え言うくらいならゲームで初めから自機を擬人化しておけば萌えSTGになるだろうというトリガーハートエグゼリカは、アンカーを敵に飛ばして一本釣りし振り回して武器にするという、見た目に騙されていけない本格的で独創的なシステムをもったSTGです。
あ、ちなみに萌えはすでに死語ですよ。

■目指すはオニキンメです!
※オニキンメは深海、もしくはダライアスに生息する魚であり、川魚ではありません。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第七話-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:7e23f5b3
Date: 2008/08/27 19:43
 魔力炉に直結する魔力導通経路の断裂。
 あれから一夜明けて医務室で目覚めたに私に知らされた診察結果だ。

 アースラにダライアス族の特殊医療データなどあるはずもなく、地上本部へと問い合わせての治療であったらしい。
 海からの打診など良い顔はされなかっただろうが、聞くところによると私の名を聞いて大急ぎで取り掛かってくれたらしい。

 地上本部のみんなには愛されているのかなー、私。

 幼さと身の丈に合わない大きな機械を振り回すその様相に、私は魔動少女などと呼ばれていたりする。

 魔法少女みたいでなんだか可愛い。

 魔法少女かー。十を超えていない私の歳でも少女と呼ばれるのか。

 あ、下が就任当時七歳で魔動少女なら、魔法少女の年齢上限というのはいくつなんだろう。

「そこのところどう思います、ヤマトさん? 私は十五歳が限界だと思うんですけど」

「なんだか余裕そうだね、カガリちゃん……」

 いや、断裂が酷くて動けないんですが。

 ちなみにヤマトさんの返答は十九歳だった。
 それはちょっと厳しいのではないでしょうか。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:なんとか技法のテスト
原作:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:主人公は無力なので見ているだけしかできないんですよ(笑)な極端な弱主人公もの
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 仕事があると帰っていったヤマトさんの後に残されたのは、一人佇むなのはさんだった。
 ユーノくんはまた診察でも受けているのだろう。

 元気付けをする役割のユーノくんがいないためか、その表情はとても暗い。

「なのはさん?」

「何も、伝わらなかった……」

 ぎゅっと胸元をつかむ。

「何も、聞いてもらえなかった。フェイトちゃんに……」

 泣きそうな顔で、ぽつりぽつりと告げる。

「無理、だったよ。にゃはは……」

 震える声で笑い、胸元の手を離す。

 ひびが入った赤い宝玉が手のひらからこぼれ、胸の下で揺れた。

「なのはさん、レイジングハート、それ……」

「うん、フェイトちゃんとジュエルシードを取り合ったときに、壊れちゃって……。ユーノくんは治るのに一日かかるって」

 彼女も負けた、か。
 なのはさんにとっては初めての魔法戦闘での敗北となるのか。

「デバイスマイスターさんには見せましたか? デバイスは、特にレイジングハートは高度な技術の塊ですから、艦にいる専門の人に見てもらったほうが良いですよ」

「うん……」

 会話が途切れる。
 残るのはただただ沈鬱な空気だけだ。

 怪我で動けないというのに、これは堪える。

「……直るまではなのはさん、一般人と同じですね」

 彼女の使う魔法は祈願型だ。思いを伝えるデバイスがなければ魔法を使うことができない。
 今の彼女は、魔力が強いだけの一般人だ。本格的に魔法を学んでいないならば、使えて念話が精々だろう。

 ここにいては彼女は落ち込み嘆くことしかできない。

「温泉、いかないんですか?」

 ここにいても無駄、と裏に言葉を秘めて告げる。
 一般人になった彼女には今戻るべき場所があるのだ。

「戻ったほうが、良いですよ。家族水入らずなんですから」

 思いつめず家族や友人たちと気晴らしをして欲しい。負けや失敗に後悔してふさぎ込まないで欲しい。
 相手の戦力分析など、艦の専門家に任せておけば良い。

 事件はまだ長いのだ。今潰れてもらうわけにはいかない。

 今回駄目だったなら次へと前向きに。何かが足りないならば、魔法を取り戻してから全力全開で。

「だから、行って、私のことを皆さんに伝えてください」

 それが、明るい彼女を知る、友人としての想い。そしてお仕事の同僚としての考え。
 ネガティブでラジカルな私には出来ないから、彼女こそ。

「ぴんぴんしているけど駄目そうだから大いに心配してくださいって」

「あは、なにそれ」

 こういう役目はユーノくんに任せたいところだけれど。
 でも、友達ならばこういうこともやらなくちゃいけないだろう。












 旅行から戻ってきたなのはさんは、アースラに常駐するようになった。
 私が怪我をして現場に出れないためだ。

 武装局員はアースラに多数いるが、ジュエルシードの出力に正面から立ち向かえる魔道師は少ない。
 下手に障壁の薄い魔道師を当てても、私のように医務室送りだ。そこで本格的になのはさんが出ることになったのだ。


 だが、本当のところは彼女の志望によるところが強い。

 やはり、目の前で私が貫かれたことに責任か何かを感じているのだろう。

 待機中は私のいる医務室に篭っていた。ここは無用な飲食が禁止なので、いてもつまらないのだと思うのだが。


 彼女とはいろいろな話をした。
 たとえ魔道師でも不可侵の管理外世界の住人相手なので、どこまで突っ込んだ話が許されるのか解らないのだが。


 例えば、魔法の話をする。

「パワーアップ?」

「はい、魔法を使うと、どうしても魔法に変換し切れなかった魔力や魔力素の加工物が出てきてしまいます」

 私の持つ補助魔法武装の概念だ。

「大魔法を連発すると空間に魔力残滓というゴミが残るのですが……」

 魔力残滓はミッドチルダの空気中に蔓延しているものだ。
 魔力を感知できる人間には、空気汚染のように感じてしまう。

「魔力素と比べてその性質は純魔力に近いため、リンカーコアを通さなくても少しの細工でそのまま魔法に流用できます」

「魔法に流用……」

「自分の出せる魔力以上の魔法を使うことも可能ということですね。当然、制御は難しいので私は完全に機械に制御を任せています」

 これは旅行へ向かっていたときの車内での話の続き。魔力を底上げする方法を私なりのアプローチで話す。

 もちろん、リンカーコアを持たずミッド式の魔法を使わない私の話であるので、ただのヒントにしかならないのだが。


 例えば、故郷の話をする。

「鳳来ノ国の飛鉄塊乗りであったカガリですが、斑鳩を駆るシンラにかなうはずもなく撃ち落されます。そして、斑鳩の里に捕らえられたカガリは、シンラとともに戦うことを決め、飛鉄塊の残骸を改造した銀鶏に乗り斑鳩とともに仏鉄塊に挑みます」

 斑鳩の物語。

 絵本と歴史資料でしか知らないユーノくんも、話に興味を持っているようだ。
 ネズミのまま治療台にのりこちらの話を聞いている。

 なのはさんは、医務室長に許可されたお茶を飲みながら疑問を投げかけてくる。

「敵だったのになんで味方になってくれたのかな、そのカガリちゃんは」

「説得、したのでしょうね。彼女は一般兵であり、ただ日々を生きるために鉄塊に乗っていて、空を飛ぶための強い信念というものをそれまで持ち合わせていませんでした」

「……なるほど、ね」

「一方シンラは彼女より一世代前の鉄塊乗りであり、寿命を削って身体に鉄の箍を打ち込み反乱軍に属していました。鳳来ノ国を打ち倒すという思いは強かったでしょう」

 戦闘機乗りには何よりも覚悟と想いが必要となる。いつ落ちるとも解らない空を飛ぶとはそういうことだ。
 例え管理局の任務であろうと、そこから私たち一族の未来へと繋がっていくと私は信じている。


 例えば、お互いの話をする。

「ユーノくんを見て思い出しましたが、幼いころにネズミを飼っていました。私を育てた教育局が生の尊さを学ばせたかったんですね」

「へえ、うちは飲食店だから動物はユーノくんが初めてだったよ」

 ここでも動物呼ばわりのユーノくん。まあ、でも事実は事実か。

「たいそうこれを可愛がったものですが、そのころの私は自分が他の生物よりも強靭な種族だということを自覚していなかったのですね。餌やりのペースを自分の食事と同じにしていたら、干からびて死んでしまいました」

 ユーノくんが魔力治療器の上でひっと声を上げた。
 彼の魔力はほぼ戻ったらしいがジュエルシード封印のため万全まで充足するらしい。

「ペットを死なせることで生の尊さを学ぶというのはなかなかにハードでしたね」

 なのはさんは苦笑を返してきた。ちょっとブラック過ぎるネタでしたか。


 そんなこんなで日々は過ぎていく。
 私の行けない現場では、なのはさんと人間に戻ったユーノくん、それとサポートの武装局員達でジュエルシードの回収任務が進められていた。
 あ、存在を忘れていたがヤマトさんも現場に行っている。

 ジュエルシードの発見現場には時折フェイト・テスタロッサと傀儡兵が現れ、こちらの出動前に回収して逃げていくということも起きていた。

 Aクラスの出力を持つ傀儡兵。背後に組織がいることは濃厚になった。

 テスタロッサという魔道師にも調べがついた。

 かつて魔法研究者として名を馳せた高位の魔道師だが、違法研究事故により辺境へ流され、その後姿を消した。
 名はプレシア・テスタロッサ。

 母親でありアリシア・テスタロッサという娘がいたというが、それも昔の話。
 フェイト・テスタロッサは記録の娘とは名前と外見年齢が合わない。なにより、研究中の事故でプレシアの娘は記録上死亡している。

 フェイト・テスタロッサに関してはヤマトさんの言っていたプロジェクトF.A.T.E.との関連性がある可能性が強い。
 本局によると、このプロジェクトは人造魔道師計画というものであり、それにプレシア・テスタロッサが関わっていた痕跡があったとのことだ。フェイトの名は計画からそのままつけたのだろう。


 人造魔道師。彼女から見て取れたあの狂気は、作り物であるが故のものだろうか。

 ミッドチルダを中心とした魔法文明は、人のあり方に手を加える研究というものが禁忌とされる兆候がある。
 自らを改造し種としてのパラダイムシフトを遂げたダライアスとは違う。

 もしこのプロジェクトが未熟な研究であったとしたら、AAAという強力な魔道師は生み出せたが人の心を生み出すことが出来なかったということもあるだろう。もしくは、研究材料として扱われる果てに狂ってしまったか。

 同姓であるだけでこれらの情報とは関係がない、という可能性もあるが、フェイトという名前から考えるに疑いは強い。

 事実関係を確認できるものが何も無いので、調査はここまで来てからというもの難航していた。












 謎が謎のまま進み、ある日のこと。

 なのはさんは友人たちに会いに一時的に海鳴へ戻っていて、私は一人暇な時間を医務室で過ごしていた。
 ユーノくんは可哀想に、また首長ネズミの姿で連行されていた。

 私の回復度は、おおよそ八割。主要な魔力経路は繋ぎ直したので、あとは細部の結線と魔力循環だ。
 身体の頑丈さと自己修復もダライアスとしての種の特性だ。

 本を読みながら応急処置のために魔力炉に繋げていた擬似魔力線を外していく。

 そこで、不意にブリッジからの通信が入った。

『カガリちゃーん、やっほー』

「何でしょうか。任務中じゃないんですか」

 エイミィ執務官補佐からの通信だった。
 サボり? まあ話し相手になってくれるのなら嬉しいが。

『カガリちゃんに、お友達からお電話です』

「はい? 電話?」

 通信ではなくて電話、か。
 そういえばなのはさんの家族との連絡手段として、艦に電話を引いていたか。

 艦は亜空間にあるので、勿論魔法を使ってのものだが。

『じゃあそっちにまわすね』

 エイミィ執務官補佐の映っていた空間投射ウィンドウが『SOUND ONLY』という文字に切り替わり、軽いノイズのようなものが聞こえるようになった。

 電話に切り替わったのか。

「どうも、こちらカガリです」

『あ、もしもしカガリちゃん?』

 わずかに音が割れて声が変わってしまっているが、これはすずかさんの声だ。

 なんだかみんな私のことをちゃん付けで呼んでいる。
 最近はお見舞いに来た提督やアースラクルーからもちゃん付けだ。

『怪我したって聞いて……えっと、なのはちゃんから前ぴんぴんしているけど駄目そうだからって言われたから今まで電話しなかったのだけど、大丈夫だった?』

「それ思いっきり冗談だったんですが……まあお仕事も出来ないのでずっと暇でしたよ」

『あは、そうなんだ。あ、アリサちゃんに代わるね。ずっと心配していたから』

 何よそれ! と叫んでいるのが聞こえる。

『ん……』

 アリサさんの声だ。何かを言いよどんでいるようだが。

『……せっかくの旅行だったのに、何してんのよ、もう』

「いえいえ、心配してくれて何よりですよ。まあ自分で心配してくださいって言いましたが」

『なによそれ! 心配なんてしてないわよ!』

 あらあら、神経を逆撫でしてしまったようだ。一日しか会っていないので距離感が解らない。
 それなのに心配してくれるとは、嬉しいものだ。

 あ、心配していたというのは確定で。

『せっかくの温泉に一回入っただけで不意にするなんて馬鹿じゃないって言ってんのよ!』

 ああ、確かに勿体無い。
 湯治と称して入りに行きたかった。

『あんたとはまだ全然話していないんだから、早く怪我治して戻ってきなさいよ! 以上! ほらすずか!』

 ……おお、これはもしや日本伝統のツンデレというものでは。
 ツンデレ弾が胸にキュンとくる。いや、弾などではない。これはツンデレ砲THUNDER FORCEだ。

『うふふ、ごめんね。アリサちゃんたらいつもああなの』

 いえいえ、良いものを聞かせていただきました。

「まあそんなに心配は無用ですよ。いつもではないですがたまに怪我もする仕事なので慣れっこですし」

 自分が慣れているからといって怪我をしても心配するなというよりは、私は別に気に病んでいないということを伝える。

「……危険性は、当然なのはさんも同じ条件なのですけれどね」

『そう……』

 なのはさんのほうを見て心配そうな目を向ける情景が思い浮かぶ。

 私の言葉はなのはさんに聞こえているだろうか。
 雑音の入りが大きいので、電話のハンズフリーとかいうもので全員に聞こえているとは思うのだが。

「まあ、言っても聞かないでしょうけど」

 なのはさんの想いは強い。海鳴を守りたい。皆を助けたい。フェイト・テスタロッサに話を聞きたい。
 つい先日まで一般人だったというのに、強い信念を持っている。

『うん……何も出来ないかもしれないけれど、応援だけならできるから、その、カガリちゃんもなのはちゃんも無事でいてね』

 友達に頼まれては仕方ない。うん、友達。良い響きだ。
 年上の知人ばかりなのでこういうのはちょっと嬉しい。

『それで、アリサちゃんも言ってたけど、早く帰ってきてね』

 帰る、か。別に私はそちらの人間ではないのだが。
 帰る、うん、なんだか良いな。これ。

『昨日ね、アリサちゃんとかわいい子犬を見つけてきたから見せてあげたいな』

 あ、それ私も知らないよ、となのはさんが喋っている。
 いやはや、これは早く治さなければいけない。












 電話を切って少し経ったころ、再び通信ウィンドウが開いた。
 どうも今日は盛況だ。暇が潰れていいのだけれど。

 通信元は、ハラオウン執務官だった。

「なのはが現地で重要参考人を保護した。現場責任者の一人として聴取に参加してくれ」

 空間に通信ウィンドウが追加でいくつか開いた。
 
 ハラオウン提督、エイミィ執務官補佐、ユーノくん、ヤマトさん、それと赤い子犬。なのはさんは『SOUND ONLY』のこのウィンドウだろう。

 いや、そもそもいつのまに私が現場責任者に……。確かに高ランクの最前線要員の一人ですが。

 重たい場の雰囲気に文句を言い出せずに、参考人である子犬への事情聴取が始まった。

 この子犬は、アリサさんとすずかさんが怪我をしているところを見つけて保護したという例の話の子犬だったらしい。
 正体は、なんとジュエルシード回収の実行犯フェイト・テスタロッサの使い魔だ。

 名はアルフ。最初の戦闘で姿を現したときの映像では、大型犬サイズの使い魔であったのだが、この大きさになったのは相応の理由があるとのことだ。

 原因は主からの魔力供給の変質。
 使い魔は主との間に魔力の経路が作られており、そこから主の体調を確認したり魔力の受け渡しを行える。

 これまでの経緯は抵抗もなく聞き出すことが出来た。

 フェイト・テスタロッサの母親から受けた任務で、第97管理外世界にやってきたフェイト・テスタロッサとアルフ。
 緒戦で私に敗退したフェイト・テスタロッサは母のいる次元空間内の居城に帰還した。
 そこで時空管理局の介入を報告するため、一人で母の元へ向かったフェイト・テスタロッサだが、不意にフェイト・テスタロッサから流れる魔力が変質したらしい。

 その魔力は、ただただ異常。フェイト・テスタロッサの様子も凶変し、無人兵を連れて管理外世界へ向かっていったのだ。

 アルフはフェイト・テスタロッサの母に異変について問いただすが、問答無用で魔法攻撃を受け負傷。命からがらフェイト・テスタロッサのいるこの世界へ逃げてフェイト・テスタロッサ及び時空管理局との接触を図った。

 現在は魔法で傷は癒えたが、異様な魔力から身を守るため主からの魔力供給を切っている。
 だが魔力を消費し続けると主との魔力結合が崩壊し、使い魔としてのあり方が保てなくなってしまう。

 本来は大型犬並みの大きさなのだが、子犬形態でとりあえずの魔力消費を抑えているとか。
 首長ネズミフォームのユーノくんみたいなものか。

『居城の座標はフェイトしか知らないんだ。だから、逃げたあたしはあそこには戻れないのさ』

『犬が飼い主の元へ戻れないとは、情けないものだな』

 ハラオウン執務官の酷いコメント。
 そういえば首長ネズミのユーノくんに面と向かって小動物とか使い魔とか言っていたり、何気に口が悪い人だ。

『なんとでも言ってくれ。主人がおかしくなるのを止められなかった時点で、あたしは使い魔失格だ』

 おかしくなる、か。確かに二度目の彼女は狂戦士といってもいいありようだった。

 いや、違うか。どこか狂いながら、捕縛魔法を使い私の機銃の死角にまわる知性を保っていた。

『そもそもフェイトの母親からして前々からおかしかったんだ』

「……プレシア・テスタロッサですか」

『ああ。フェイトがあたしを使い魔にしたのはそんなに昔のことでもないんだけど、初めからおかしい人物だったよ、プレシアのやつは』

 辺境に流され消息を経った後のプレシア・テスタロッサの詳細は不明だ。
 だが、人造魔道師計画に関わるなど、何らかの意図は見え隠れしている。

『フェイトの話では昔は優しい母親だったらしいけど、あたしが知っているのは部屋にこもって狂ったように何かを研究し続ける姿だ。娘のフェイトのことなんか、眼中にない、完全に興味の外って感じだった』

 フェイト・テスタロッサが本当に人造魔道師であるならば……、娘でなくただの便利な手駒として見ていても不思議ではない。

『好きでも嫌いでもない、ただ興味がないってね。フェイトの話では、今の居城が次元空間を彷徨うようになったあたりからそうなったらしい』

 だが、昔は優しい親だったのだ。
 人造魔道師計画、母親、作り物の娘、死んだ娘。うーん、何かが引っかかる。

 他の人の意見は……。

『別ルート? 修正力? いや、バタフライ効果……』

 ああ駄目だ、ヤマトさんがまた独り言モードに入ってる。

 思いつく限り何かを投げかけてみよう。


「……宗教とか?」


 ずんずん教なるカルト教団がミッドで猛威を振るったのを思い出しました。

 検挙しようとしたら敵対宗教団体の実働部隊もやってきたりして、あのときはずいぶんと混沌とした状況だった。

『いやいや、宗教なんかで伝わってくる魔力がやばくなんてならないだろうさ!』

 魔法教団とかならありそうなものだけれど。

 うーん、一時的にアルフさんへその怪しい魔力を流してもらってそれを解析できればいいのだが。
 使い魔の魔力供給の経路は暗号化が高度だからアースラの設備でも解析できるかどうか。

 使い魔とは、主の位置を探られないための歴史の積み重ねの強い魔法だ。

 アルフさん自身を調べても、それこそ狂うくらいまで流さないと融合魔力検出が難しそうだし。

 結局、フェイト・テスタロッサを現場で捕まえるのが唯一の方法なのか。


 だが、解ったことも非常に多い。背後に組織はなく、傀儡兵はすべてプレシア・テスタロッサの所持兵力。
 戦力は不明だが、知性を持つ魔道師はプレシア・テスタロッサとフェイト・テスタロッサの二名。

 偽の知識を埋め込まれたアルフさんが嘘の証言をしている可能性も考えられなくはないが、純粋な嘘はユーノくんによる魔法心理調査でとりあえず白。
 フェイト・テスタロッサの捕縛で事実関係の確認はおおよそ解決する。

 また、プロジェクトF.A.T.E.に関して、アルフさんは何も知らなかった。アリシアという娘が居たことも、フェイト・テスタロッサが人造魔道師である可能性に関しても一切知識を有していない。

 容姿の聴取結果から、プレシア・テスタロッサは調査結果のテスタロッサ女史と同一の魔道師であることはほぼ確実になった。だが、フェイト・テスタロッサの使い魔が一連のプロジェクトを知らなかったということは、フェイト・テスタロッサ自身もそれを知らないであろう。
 事件は進展したが、ジュエルシードを回収しつつフェイト・テスタロッサを捕縛する方針は変わらずか。












『ライトニングバインド!?』

 私をベッドの上に乗せたまま、事態は大きく進行していた。

 海鳴市内の臨海公園へジュエルシードの回収に実働部隊が向かった矢先、三十体の傀儡兵を連れたフェイト・テスタロッサが妨害に現れた。
 この数の傀儡兵、確実にこちらの部隊を潰す気だ。

 現場のなのはさん、ユーノくん、ヤマト執務官補佐、補助役の武装局員だけでは人手が足りず、クロノ・ハラオウン執務官まで出動する事態となった。
 ヤマトさん、ハラオウン執務官は場所を考えずに破壊魔法を撒き散らす傀儡兵に優先的に対処、なのはさんは武装局員の支援を受けながらフェイト・テスタロッサと戦闘を開始した。

 まあそんなことはどうでもよく、なのはさんが現在進行形でピンチです。

 手足を固定捕縛魔法バインドで捕らえられ、空中に張り付けに。
 フェイト・テスタロッサは大魔法の詠唱を行っている。

 バインド・大魔法の一連の攻撃はミッド式の高位砲撃魔道師が得意とする単独連携攻撃だ。

 防ぐには相手の詠唱に合わせて同等の大障壁魔法を使うしかないが、肝心のユーノくんは傀儡兵の拘束に精一杯だ。
 武装局員のバインドブレイクも間に合わない。

 これは、直撃だ。

『消し飛べぇぇぇぇっ!』

 雷をまとった魔法の矢、矢、矢。
 その勢いはもはや豪雨、いや、嵐だ。

 咄嗟に張った武装局員の空中障壁も紙のように貫かれていく。

「……っ!」

 魔力の奔流になのはさんは埋め尽くされ、大爆発が巻き起こった。

 大変なことになってしまった。
 もはやフェイト・テスタロッサが非殺傷設定を使っている保障も無い。

 煙に包まれてなのはさんの姿が見えない。
 落ちてはいないが、どうか無事で……。

『ディバイイイイイイン!』

 煙を突き破って桃色の光が漏れる。
 この魔力光は!

『バスタァァァァァァー!』

 煙を全て吹き飛ばし、魔力の砲撃が空を突き破った。
 一条の光がフェイト・テスタロッサへ飛んでいく。
 彼女は大魔法の疲労で動けずにおり、真っ直ぐに砲撃が突き刺さった。

 絶妙のカウンターだ。
 あの大魔法を防ぎきったのも驚きだが、その直後にあの砲撃を撃てるとはなんてすごい。
 ジュエルシードの回収を通して、戦闘に関する魔法技術が明らかに向上している。

 魔法障壁を半端にしか展開できなかったフェイト・テスタロッサは息も絶え絶えだ。
 バリアジャケットの至る所に破損が見られる。

『今度はこっちの番だよ! 受けてみて、ディバインバスターのバリエーション!』

 勝機と見たか、バインドから解放されたなのはさんが追加詠唱に入る。

 フェイト・テスタロッサが逃げようと動くが、固定捕縛魔法バインドがその手足を捕縛した。
 先ほどの光景の焼き直し。なのはさんは戦闘中であっても相手の戦い方を覚え、成長していくのだ。

 なのはさんの前方に大きく展開した魔法陣に光が集まっていく。
 周りが煌き、光となって魔法に集束。

 これは、この魔法は、魔力残滓の魔力変換だ。

 私が以前話したそれを攻撃魔法のパワーチャージに使おうというのか。
 集まる魔力は膨大なものとなるだろうが、高出力を誇るレイジングハートならば耐えられる!

『これが私の全力全開!』

 振り上げていた杖を前へと。
 溜めに溜めた力を砲撃として開放する。

『スターライト・ブレイカー!』

 光が全てを飲み込んだ。
 防御魔法、魔力障壁、バリアジャケット、その全てを強大な魔力が吹き飛ばしていく。

 防ぐことなど出来はしない。全てを貫くただただ強大な一撃だ。

 バリアジェケットすら保てなくなったフェイト・テスタロッサが公園に面した海へと落ちていく。

『母さん……ごめんなさい……』

 落ちていく彼女から、小さなつぶやきが聞こえる。
 その顔には、涙が浮かんでいるように見えた。



――――――
あとがき:すごい今更ですけれど第四話はコナミコマンドです。

用語解説
■ツンデレ
二話でカガリを素直クールと称したのは上の人間への腹見せっぷりを現したのですが、今のカガリをすずか達の視点で見ると素直なデレデレっぷりが凄いのかもしれません。

■バタフライ効果
原作との違いは全て転生憑依者の来訪によるバタフライ効果とでも思ってください。
異物として入り込んでおいて完璧に原作どおりに話が進むのは楽しくない――じゃない、ちょっと虫が良いですよね。変わっても転生憑依者に都合よく世の中は回りますが。

SHOOTING TIPS
■TUNDER FORCE
ツンデレ砲ではなくてサンダーフォース。最近になってファンたちがTUNDERをツンデレと読む兆候が出てきました。
ツンデレ釘宮はもはや食傷気味ですが、私は少年声釘宮が好きです。

■ずんずん教なるカルト教団
全方位シューティングのずんずん教の野望は、セガの発売した迷作シューティングです。新興宗教ずんずん教を仏様が蹴散らすという色々アレすぎる内容。
「ずんずん教だ!」「ずんずん教だ!」という台詞と共に仏様が登場するので、自機側がずんずん教だと間違える人も多いです。

■「消し飛べぇぇぇぇっ!」
エスプガルーダでもげた腕や足を機械にしつつもまた墜落し死亡したかと思われたセセリさんですが、続編のエスプガルーダ2にて声優を変えて再登場。
「ずっとこの時を待っていた……必ず死なす!」「消し飛べー!」今度は棒読みじゃありません!
ちなみに一定条件で戦える真セセリ(憎悪に満ちたセセリ)は、ラスボスより強いです。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第八話Aパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/08/27 20:03

「お名前は?」

「あう……」

「出身は?」

「ぁ……」

「ご趣味は?」

「ぇぅー」

「好きなビットは?」

「あぃ……」

 反応はない。

 海中に落とされ回収されたフェイト・テスタロッサは、デバイスを取り上げられさらに魔法抑制拘束具をつけられて医務室の私の隣に収容された。
 非殺傷設定と言えどやりすぎたら死ぬときは死ぬ。主な死因は魔力的なショック死だ。
 危険性が全く無い大規模魔法なんて高度な技術はなのはさんにはまだ無理だろうし……。

 検査の結果では、プレシア・テスタロッサとの魔力リンクの痕跡があり、ここから狂うに至った魔力を流され続けていたとのことだ。
 今はリンクが切り離されていて治療を行うとのこと。

 せっかくのお隣さんなのでコミュニケーションをとろうとしたのだが、心神喪失状態とのことで反応が無い。

「何も、伝わらなかった……」

 ぎゅっと胸元をつかむ。

「何も、聞いてもらえなかった。フェイトちゃんに……」

 なのはさんの真似をしてみるが、ツッコミを入れてくれる人は居ない。

 傀儡兵との戦闘で負傷した武装局員の人たちも軽傷だったため、手当てを受けて事務処理に戻っていってしまった。

「ああー、もう暇ですー」

「テンションおかしいよカガリちゃん。動けるようになったんだから、歩いて少し頭冷やそっか」

 あ、なのはさんが居ました。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:特になし
原作:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:原作無視
――――――












 一面の海を照らす春の陽射しの中、機動小型戦闘機シップで飛翔を続ける。
 海面すれすれで斑鳩・銀鶏のフィールドを展開する。

 今回のミッションは、ユーノくんとペアでの海中任務だ。ユーノくんはネズミ形態で胸の専用ポーチに収められ、シップ単独で海中へと挑む。
 このような少数での任務となったのも、発動したジュエルシードが海の底から発見されたためだ。

 陽のあたらない水中ということで、陰の出力を担当する銀鶏が属性吸収フィールドを構築する。
 今回は環境保護フィールド付き。

 生身で空を翔る魔道師と違い、戦闘機乗りの私は魔力炉の永続魔力の恩恵で水中だろうがマグマの中だろうが宇宙空間だろうが飛ぶことができる。バクテリアンと宇宙戦争を行った世界の未来の戦闘機なのだ。この程度朝飯前というものだ。

 フィールドを展開し終えると同時に、海の中へと潜っていく。
 視界が別世界に切り替わる。青く染まった海の中は、空を翔るのとはまた違う趣がある。

 鳥ではなく魚の影が見えるのも大きな違いだ。

 海の中を照らす照明は銀鶏の赤黒い魔力光だが、バイザーを通して見ているので視界は明るく赤くも無い。
 カメラアイを通した視界も全方位青だ。

 このカメラアイの視界は全てアースラに中継されている。

『うわあ、すごいねカガリちゃん。あ、あれ、鮫! 鮫! 鮫!』

 エイミィ執務官補佐が煩いです。

 あと、こんなところに鮫なんてそうそういないのでは。

 それよりも、問題は暴走したジュエルシードだ。
 さほど深い海ではないので、すぐに海底へ着くだろう。

 砂と岩で埋め尽くされた海底が見える。偵察魔法球の映像によると、暴走体は周囲の生物を見境無く攻撃し捕食しているらしい。
 狩猟者相手ならば、不意打ちと強襲に気をつけなければ。

『ジュエルシードの反応近いね。方向そっちに転写するね』

 バイザーに映る光点には動きが見られない。
 あらかた狩りつくして獲物が新しく来るのを待っているのか。

 良いだろう。海の生物に空の戦い方と言うのを見せてやろうか。


『EMERGENCY』


 シップから未登録魔力警告が鳴り響く。

「こちらカガリ、暴走体との戦闘領域に到達。交戦開始します」

 姿を見せたのは、赤と黒のまだら模様に彩られた一軒屋ほどの大きな魚。赤いブーメランを縦にしたような形で、体の至る所に管や肉芽が浮き出て蠢いている。

「うわあ、さすが海中。暴走体もグログロですねぇ」

 エイとかいう魚がこんな姿だったろうか。いや、ここまでごつごつして色々浮き出た体ではないか。これではまるでバイドだ。
 海とは別世界。ここはまだ浅い海だが、深海まで行くともはや人知を超えた世界が広がっている。

 見ているだけでちょっとした嫌悪感が走る。

『病み上がりなんだから無理せずに守ることを優先して。危なくなったらすぐに増援を転送するわ』

 ハラオウン提督がソフトな指示を送ってくる。

「水中転送って割と無茶ですよね……そうならないよう頑張ります」

 さてユーノくん。行きましょうか。

 機銃から魔力弾を発射すると同時に、赤い魚が緑のえらのような器官を開いて輪の形をした弾をこちらに向けて噴射してくる。


 遅い。
 音速で飛び交う空とは速度が違う。

 難なく回避し、吸収フィールドに通過させることで魔力を蓄積する。
 バイザーの計測では炸裂弾でもないようだし、攻撃に利用させてもらおう。

 と、こちらを狙った高速弾が飛んできた。
 機体を捻って避ける。

 ユーノくんが叫び声を上げるが後で謝っておこう。しっかり防壁魔法を発動してくれたことも含めて。
 少し調子に乗りすぎたか。

 逃げ道を失わないように輪弾を最小の動きで回避ちょんざけし力を溜め、高速弾を大きくかわしていく。

 当然、避けている最中も機銃はフル稼働だ。
 一発一発はなのはさんたちの魔法ほどの威力はないが、撃ち落されない限り私は魔力弾を放ち続けることができる。

 分厚い表皮を魔力弾で削っていく。
 例えAAランク以上の魔力反応があろうが、魔力障壁がないのなら傷を負わせるなど容易い。

ENERGY MAXエナジーマッ

 銀鶏が蓄積最大量まで魔力を吸収したことを知らせてくる。

 はい、いきますよー力の開放てりゃー。

 黒い魔法の光線の束が弧を描いて敵影へ突き刺さる。
 海を染めているのは弾けた肉片か命中した魔力光か。

 体を大きく削り取ったが、まだ沈まない。
 だが攻撃の手が緩んだ。

 敵上方に位置を取り、魔力弾を一息にに撃ちこむ。

 撃つ。
 撃つ撃つ撃つ。

 反撃の魔法射撃もフィールドに吸収させ、吸収した魔力を開放して表皮を削り傷口を抉る。

 吹き飛んだ頭部の中に小さな輝きが見えた。ジュエルシードだ。

「ユーノくん、今です」

「うん、ジュエルシード、封印!」

 ユーノくんの首にかかった腕輪型デバイスから封印魔法が一直線に伸びていく。


 封印魔法は私のシップにも搭載されているが、封印魔法発動時の隙をつかれないためにもここはユーノくんに任せる。

 ちなみにシップに封印魔法がついているのは、ロストロギアで滅びた世界事情が反映された私の世代の新機能である。


 魔力反応がおさまり、ジュエルシードが真っ直ぐにこちらに飛んでくる。
 胸の前で煌いた青い石が、腕輪の中に吸収された。

 任務完了だ。

 ジュエルシードから開放された巨大な魚は、腕輪への封印と同時に弾け飛んで大量の泡へと変わった。

 避けきれないほどの泡に、機体が上へと押し流されていく。
 まあ、魔力反応がなかったから無理に回避しなかったのだが。

 しかし、この程度で押し流されるとはまだ水流制御が甘かったか。
 ミッドへ帰還したときの課題がまた一つだ。

「そういえばこの世界にはセイレーンとかいう伝説がありましたね。どういうのなんでしょうなのはさん」

 泡の流れに海面まで誘導されながら、通信に語りかける。

『え、え、し、知らない』

「余裕だなぁ……」

 ユーノくんが呆れたように言ってくる。

「余裕ですよ。暴走体なんて初心者のなのはさんでも封印できていたんですから。今までの完全体制だって周囲に被害を出さないためですよ」

 余裕を見せすぎてまた強襲されて怪我とかなら笑えるが、そのあたりの警戒はアースラが万全に行ってくれているようだ。

 海中にはまだジュエルシードの反応があるので、少しは余裕を持たないと疲れてしまう。
 毎回毎回必死と言うのも潰れてしまう危険がある。人手不足の地上本部では良く見た光景だ。

 さて、アースラでは魔導師さんたちの海中出動準備が進められているのだろうか。












「なのはさん、アルフさん、ただいま戻りました。フェイトさんも」

「うん、おつかれさまー」

 シップを預けパイロットスーツのまま向かった食堂で、お菓子を食べている三人に手をあげて挨拶をする。

 フェイトさんは最近になってようやく軽い会話を交わせるようになった。

 どのような精神魔法治療が行われたのかは知らないが、調子は良いようで何よりだ。


 正気を取り戻したフェイトさんにまず行われたのは、事件の説明と人造魔導師計画の確認だ。
 フェイトさん自身はプレシア・テスタロッサを実の母だと思っていたようだが、聴取の過程でそれはアリシア・テスタロッサの記憶を転写させられたものだと判明した。

 死者の記憶を植え付けられた人造魔導師。
 プレシア・テスタロッサのプロジェクトF.A.T.E.への参加は、娘の復活を望んでのことだったのだろうか。

 作り物の命であることを知らされることでの心理的な影響が懸念されたが、「なっとくできた」とフェイトさん本人は落ち着いたものであった。


 こちらがここまでの事情を話すに至ったのは、彼女から敵対心を削ぐためという理由が一つある。
 プレシア・テスタロッサは何かがおかしいというのを自覚させるためだ。

 フェイトさんはこの事件に関わったのを「かあさんに笑ってほしかった」と言った。
 だから、その母が何らかの原因で狂っていることを知らせるために情報を与え、見返りにこちらも情報を得たのだ。

 まあ、彼女が記憶を植え付けられた存在だとは思わなかったが。

 では優しい母は記憶の中の存在で、興味を向けない母は人工物に向ける感情であり、プレシア・テスタロッサは前のフェイトさんのように狂ってはいなかったというと、どうもそれも違うようだ。
 フェイトさんがフェイト・テスタロッサとしての自我を持っている時に、プレシア・テスタロッサは少しずつ変わっていったというのだ。

 鍵は時の庭園。次元空間を漂うプレシア・テスタロッサの居城だ。

 始めは辺境の世界にあったその居城が次元空間を飛び始めたのを契機に何かが狂い始めていった。


 時の庭園の転送座標を聞き出したアースラクルー一同はは突入準備に入ったが、今回の海中のジュエルシードの活性化が起こった。

 海中からは先ほど封印した一個を含めて計六つの反応があり、急遽封印を優先させるに至った。

 完全発動で次元世界を吹き飛ばすロストロギアの暴走と、そのロストロギアを持つ狂った魔導師では、緊急性として前者が優先された。
 プレシア・テスタロッサは何かの目的があってジュエルシードを集めており、闇に流れる可能性は低いと見てのことだ。


 なお、海中の残りのジュエルシードは五、こちらの確保分が十二、温泉で奪われた一個と発見したもののフェイトさんに先行された三個の計四はプレシアの手に渡った。
 合計は丁度二十一。どちらにしろこれが正念場だ。


 フェイトさんはこのまま魔法拘束を受け監視人をつけて艦内で保護される。

 反抗の意思は見られない。「かあさんを助けて」とまで言われたハラオウン提督はそれで一気に火がついた。
 やっぱり子供好き。


 今フェイトさんは魔力経路を戻し人型に変身したアルフさんに手を握られたまま、ぼうっとこちらを見ている。
 口数が少ないのは、回復が完全でないせいか元々無口なのか。

 私はアルフさんの握る手に自分の手のひらを乗せて語りかける。

「お仕事してきました。見ていてくれましたか?」

 こくりと無言での応答が返ってくる。

 今のフェイトさんは手を握って話すと、こちらの問いかけに話を返してくれやすくなる。

 認識領域が云々と医務の人が言っていたのだが、アルフさんはそれを聞いてからというもの四六時中手を握りっぱなしだ。
 百合百合しい。

「あと五つ回収し終えたら、お母さんを助けに行きます。安心して待っていてください」

「……庭園はくぐつへいがいっぱい」

「大丈夫、なのはさんは強いんですよ」

「ええっ、カガリちゃんじゃなくて私!?」

 にこにことこちらを眺めていたなのはさんが、急に話を振られて慌てふためいた。

 ユーノくんに餌を与えている場合ではありませんよ。

 私も椅子を引いて座り、スーツに覆われた手をふきんで拭いて餌もといお菓子を口にする。
 パイロットスーツを着たままなのは、急な出動にも対応できるようにするためだ。

 デバイスは収納サイズのを大きくして終わり、服は魔法でバリアジャケットを作って終わりなミッド式の人たちがちょっと羨ましい。いや、このスーツにもシップにも十分な誇りは持っているのだけれど。

 お菓子を食べてのんびりとした時間を過ごす。
 昔はユーノくんと私だけだったこのお菓子タイムも、ずいぶんと人が増えたものだ。

 アルフさんからあーんと促されてお菓子をほうばるフェイトさんが可愛いと思ったり。
 なのはさんは素でも可愛いと思ったり。
 ネズミのままお菓子を食べるユーノくんは可愛い以前におなか一杯食べられてうらやましいなぁと思ったり。

 私たちを呼びに来たヤマトさんにこのハーレムを奪わせまいと威嚇したり。

「何用ですかヤマトさん。働いてください」

「日を追うごとに厳しくなってない!? いや、ジュエルシードの反応が移動しているから念のためにブリッジに来てくれ」

「通信で良いじゃないですか……」

「緊急じゃないんだからたまには歩いて運動するのもいいさ。エイミィさん解析に大忙しだし」

 エイミィ執務官補佐は通信士じゃなくて情報担当の執務官補佐なのだが、まあ良いか。
 なのはさんとユーノくんを連れて席を立つ。

「フェイトさん、アルフさん、とりあえずブリッジの共通映像開いて待っていてください」

 さすがに捕縛した裁判前の魔導師を戦場に出すことは無いが、プレシア・テスタロッサへの情報転送は魔法拘束で出来ないので一般局員の閲覧できる現場映像程度なら見せることができる。
 残りの回収が終わったらプレシア・テスタロッサへの強制捜査だ。

 こちらの力を見せて信用してもらうのも良いだろう。
 今の彼女達は、犯罪者であると共に情報提供者なのだ。

 なのはさんがフェイトさんたちに手を振って別れ、食堂を後にする。

 相も変わらずライトアップで煌びやかな廊下を連れ立って進んでいく。

「ちなみにジュエルシードの移動とはどのような?」

「ああ、寄生先が無いまま一箇所に集まるように移動している。今探索魔法を飛ばしているはずだ」

 実はすごいまずい状況になりつつあるのでは。
 一箇所にまとまって完全発動などしようものなら……。

『なのはちゃんたちー! ブリッジにだーっしゅ!』

 エイミィ執務官補佐から緊急通信が入った。

 あああ、やっぱりまずいことが起きている。

 なのはさんを小脇に抱えて、足首の重力制御魔動機を発動して廊下を駆ける。
 悲鳴があがるが無視だ。シップは先ほどブリッジに預けたばかりなので、まだ武装保管室に収容はされていないはずだ。

「ダライアス嘱託魔導師、高町協力員、スクライア協力員、ただいま到着致しました」

 なのはさんを抱えたままブリッジ一同に敬礼をする。

 急げと言われたので礼儀は二の次にしたが、幼さで笑って済まされるだろう。この辺りは何となく距離感が掴めたので計算ずくだ。

「ご苦労様。早速だけどモニターを確認して頂戴」

 提督に促されるままにモニターを見る。

 探索魔法の中継映像。海中になにやら巨大な魚影が見える。

「ジュエルシード五つが全部一匹の海中生物に取り付いたみたい。沈没船みたいなの? それとも融合しちゃって」

 とエイミィ執務官補佐の解説。

 ああ、何やら砲身らしきシルエットが見える。
 沈没船と融合して砲身なんて、海上で戦争でもしていたのか。

「対象急浮上! このままでは二十秒後に海面へ出ます!」

 通信士さんの叫びがブリッジへ響き渡る。
 あの人は新人さんだったか。叫ぶと焦りが周りへ伝播するのであまりよろしくない。

 つられてハラオウン提督の声量も上がる。

「艦の魔力を結界にまわして! 広域封時結界、浮上前に急いで!」

 モニターの数値では、この魚影は相当な大きさだ。例えるなら、なのはさんの通っている学校の校舎ほどだろうか。
 アースラにも匹敵する巨大さだ。

 封時結界が構築されると同時、海面からでかぶつが姿を現した。
 水中の映像でおぼろげだったその姿がはっきりと映し出される。


 それは、鋼に身を固めたただただ巨大なクジラ。


 魚などではなかった。海に鎮座する高度な知性を持つ動物だ。

 紫色の金属に身を固めた直線と曲線の織り交ざった輪郭。
 頭部には、無数の砲台。
 尾やヒレにも砲身と見られる機械が見て取れる。

 その巨大で畏怖を撒き散らす姿を見て、ある存在に思い当たった。

「偉大なる者……」

「え、なに、あれに何か心当たりあるのカガリちゃん」

「いえ、私の世界の神話に登場する神獣に似ていただけです。鋼に守られた巨大な空飛ぶクジラ、GREAT THINGというものなんですが」

 この世界にもクジラが居ることは知っていた。だが、まさかジュエルシードによって神話の再現が見られるだなんて。

 銀の名を持つ始まりの戦闘機が、神々を打ち倒し空から星へ降り立ったというダライアスの創生神話Genesis of DARIUS。もちろんジュエルシードとは関わりはないのだろうけど……。

「なるほど。……では、暴走体呼称をG.T.と命名します」

 エイミィ執務官との私語を拾った提督がこちらに向き直る。

「武装隊はCチームとDチーム出動、主力隊からはクロノ執務官、なのはさん、カガリちゃん」

 執務官、なのはさん、そして私と視線を巡らせた提督は、最後にじっと私の顔を見てきた。

「……連戦になるけど行けるわね?」

「問題ありませんが、ヤマトさんではなく執務官の出動ですか?」

「私を除いた艦内最大火力はクロノじゃなくてヤマト執務官補佐なのよね。テスタロッサ側に傀儡兵が居ると解っている以上、技術力より火力を温存しておきたいの」

「そうでしたね。あのトリガーハッピーは無人機相手が相応しいでしょう」

 一人二人の人員のやりくりで頭を悩ませないといけないなんて、高ランク魔導師の運用は面倒そうだ。

 ただの兵器ならばメンテナンスでどうにかなるが、相手は人間だ。疲労もするし使いすぎると過労で倒れる。

「まあ、どうにかしてみせますよ。神話でだって、偉大なる者は人の祖先の乗る戦闘機に撃墜されたんですから」

 シップを受け取り、転送室へ駆けていく。

 何も問題はない。なのはさんたちという仲間と、銀の文字を受け継いだ銀鶏がこちらにはあるのだから。



――――――
あとがき:水中面のボス候補がサンダーフォースIIIとレイクライシスとR-TYPEIIとドラえもんしか思い浮かばなかったです……。

用語解説
■マグマの中だろうが
バリアジャケットは400度で溶けるとかそんなぶっ飛んだ話を耳にしました。溶岩の温度は800~1300度だそうです。
ちなみに蝋燭の火の温度は1400度。質量兵器を必死で規制したのも頷けます。

SHOOTING TIPS
■セイレーンとかいう伝説
サンダーフォースIIIよりSTAGE SEIREN。水中ステージは横シューティングの独壇場。
海の底から沸く気泡で機体が上へ流されます。

■G.T.
ダライアスシリーズを象徴するラスボスの一体、GREAT THING。訳は作品ごとに違い、「でかぶつ」や「偉大なる者」など。
Gダライアスのそれはその大きさに驚愕します。ラスボス曲ADAMと相まって偉大なる者としての姿を見せてくれます。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第八話Bパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/09/06 04:43



WARNING!

A HUGE BATTLE SHIP

G.T.

IS APPROACHING FAST













――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:バトル表現の練習
原作:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:原作キャラ蹂躙
――――――












 海が荒れている。

 風が弱く雲も少ないこの空が起こしたものではない。

 巨大な鋼の塊が海の底から浮上したためだ。

 鋼の塊……偉大なるクジラG.T.は、海上から飛び出し空へ空へと飛び上がっていった。
 海から開放され陽の元へ飛び立つのがクジラの夢であったのか。

 だが、それを否定するように、G.T.の全身には砲門が据え付けられている。
 空を飛ぶには不要な、戦いの道具。

 その無骨な鋼の様相からクリーンで安全などとは程遠い、殺しのための質量兵器を連想させられる。


 対するこちらは、魔法の服を身にまとった小さな人だ。
 武装局員三十名。士官一名。協力魔導師三名。
 手にはそれぞれ魔法技術の粋を集めて作られた魔法武器を持つ。

 小さな魔法都市ならば軽く陥落してしまえそうな布陣だが、このでかぶつの前では心もとない。

 相手は全身に砲門があるため武装局員は大きくばらけず、ある程度距離を縮めた陣形を取っている。

 ハラオウン執務官は、その陣形の中央に位置を取っている。

 次元航行部隊うみのひとたち式のフォーメーションの一つだったか。
 魔法技術力の突出した執務官を中心としたあらゆる局面に対応するための無難な選択だ。G.T.の詳細が判明していない以上、無難が一番と言うことだろう。

 なのはさんは、ユーノくんと共に陣形から離れて上空に居る。ユーノくんは人間形態をとりマントの特徴的な発掘作業服に着替えている。
 なのはさんはこの中での最大火力を持ち、ユーノくんは高度な補助魔法を使う。規模の大きい砲撃魔法に他の局員を巻き込まずに行動するための位置取りであろう。

 そして私も、単独での戦闘となる。
 私の運用に手馴れた地上本部ならともかく、合流して日の浅いアースラクルーでは私の速度についてこれないためだ。

 息の合わない防壁魔法は進路を狭めてしまうだけ。

 この場はお互いの邪魔をしないことが最良の選択だ。

 準備が整ったところで、本部アースラからの通信が入る。

『カガリちゃん、魔法障壁最大にしてG.T.へ接近。こちらへの攻撃の意思があるか念のため確認して』

 今までの暴走体に習うと、巨大猫以外は全て攻撃的だったり破壊を撒き散らすようなものであったが、まずは確かめる必要があるか。

 無抵抗なら武装隊の合成封印魔法で五つのジュエルシード全て封印してしまえそうなものだが……。


 緩やかな速度でG.T.に近づく。
 魔法障壁は強度最大。後部機械翼アフターバーナーにはいつでも最大速度を出せるように魔力を溜めている。

 斑鳩・銀鶏は特別速度に優れた機体ではない。
 機体形状からして、速度を得ることを放棄している。

 左肩の斑鳩は、後方へ突き出した直線的な巨大な盾。
 右肩の銀鶏は、盾と肩当を組み合わせたような流線型の装甲。

 それぞれ、オリジナルの英雄機を模した形をした左右非対称の形状だ。
 前方へと槍のように突き出している胸部装甲も、左側と右側とではデザインが異なる。
 左右非対称ということは、機体バランスが悪いということだ。

 安定性を得るために若干加速性能を犠牲にしている。
 まあ属性吸収フィールドなど、速度よりも防御能力を高めた機体ではあるので速度はそもコンセプトにはない。
 それを補助するための撤退専用にブラックハートが配置されているわけでもある。


 だがそれでもシップは機動力という点に関しては他の魔導師の追従を許さない。
 何が起きても瞬時になのはさんたちの元へ飛んでいく自信がある。

 G.T.の正面から、走るような速度で近づいていく。
 クジラとは思えない鋭い牙の並んだ巨大な口。
 正面だけでも、頭上の巨大砲台、額に縦に並んだ複数の砲台、側面砲台と多くの兵装が見える。

 その全てをバイザーで捉え、砲塔の向きを監視する。
 少しでもこちらに砲が向けばその時点で急いで離脱だ。

 G.T.の目と思わしき白い双眸がこちらを捕らえた。
 気付いたか。さあ、どう動く。

 砲台に動きは無く、巨体も空中に浮いたまま動かない。
 ただ、その牙の並んだ口をゆっくりと開いた。


 突如、封時結界に包まれた空間に爆音が轟いた。


 G.T.の口の中から熱反応。何かが発射されたのだ。

 銀鶏高速駆動、緊急離脱する。
 宙返りするようにして回転した視界からG.T.を見る。

 G.T.の口から煙を噴いて細長い金属の筒が飛び出してくる。
 金属で覆われたイカや小魚のようなフォルムのロケットだ。その先端からは進行方向へ光線を撒き散らしている。

 捕食した生物すらも武器として取り込んだのか!

 願いを叶えるロストロギアは、はたしてこのクジラのどのような願いを叶えたというのか。

 文字通りの魚雷と言うべきロケットは一通り魔力の光線を吐き出した後に爆発して消滅する。
 移動速度が肉眼で十分に追えるものであったのが救いか、ロケットの向かった武装局員への被害はない。

『砲台から魔力反応! 敵性ありとみなし、総員戦闘を開始して!』

 G.T.の鼻先の砲身が輝き、無数の魔力弾が正射される。

 その巨体に見合うかのような広範囲への一斉射撃。
 私はその隙間を縫うようにして機体を駆り、武装隊の攻撃に巻き込まれないよう上空へ飛ぶ。

 全身のカメラアイを総動員して得られた人を超えた視界の中、魔法の弾幕が戦場を埋め尽くしていく。
 風を斬る音が響く。
 戦艦と呼ぶに相応しい規模の圧倒的火力だ。

 一人を狙って放たれたものではない。
 周囲を全て破壊するかのように、無差別に弾雨がばら撒かれる。

 武装隊は障壁魔法でそれを防ぎ、反撃の詠唱に入る。

 私も機銃をG.T.に向け、魔力弾を撃ち付ける。

 巨体に小さな魔法の光が突き刺さり、血飛沫が空に舞う。だがすぐに傷口の周囲の金属が結びついて傷が塞がる。

 傷の再生。ジュエルシードを五つ持つがゆえの強力な能力か。

 まあさすがに神話そのものとはいかないか。中身は生きているクジラだ。

「な、なに。血が出てるよ」

 魔法の飛び交う轟音に混じって、上からなのはさんの声が聞こえた。

 非殺傷設定なんて使っていないから当然の結果なのだが。

「こちらのほうが威力が高いでしょう。慈愛に満ちるのは良いですが、相手の強大さを見てください」

 原生生物に情けをかけるほど私は博愛主義でもないし余裕もない。

 魔力炉のうなりに任せて、機銃をひたすらに撃ち続ける。
 武装隊からも砲撃魔法が続けて撃たれた。

 G.T.には他の暴走体と同様に魔法障壁が存在しない。
 巨体に吸い込まれた魔法は全て装甲を削って血肉と金属片を撒き散らしていく。
 時折空中でぶつかりあった互いの魔力弾が空中で爆発する。

 巨体ゆえに撃てば当たる。
 だが、当たろうが大した効果は無いのか体は揺らぎもしない。

『頭部の砲台から破壊して。まずは戦力を削ぎましょう』

 ハラオウン提督からの指示が走る。
 ダライアスの戦い方では防護の強固な巨大艦相手には砲台破壊が定石だが、提督の選択した作戦も同じものだった。

 頭部から背にかけて並ぶ巨砲の列に機銃の狙いを切り替える。

 なのはさんも気をひきしめたようにG.T.を強く睨み、魔力弾を連続で放った。

 砲台が少しずつ削られていく。
 再生をする様子は無い。砲台は肉体ではないということだろう。

 G.T.の魔力弾が止まる。
 魔力弾では効果が無いと見たのか、背の巨大砲門と左右の側面の砲門が駆動する。

 轟音。

 側面砲台から小さなミサイルが多数撃ち出された。
 口から撃たれた魚雷とは違う。

 この動きは……こちらの動きを追ってきている。

 誘導弾だ。
 列をなして的確にこちらを狙ってくる。

 機体を軋ませ大きく回避する。
 が、ミサイルはさらに追いすがってくる。
 この数の攻撃、全て防ぎきれる自信は無い。

 逃げる。
 高速で空を飛ぶ。両肩のシールドが空を切り裂き飛行機雲を生む。
 それでもまだミサイルは追ってくる。無駄か。

 急旋回。

 ミサイルの群れをぎりぎりまでひきつけてからで回避し、交差した瞬間に魔力弾を撃ち一つずつ撃ち落していく。
 確実な方法だが、足が止まってしまった。

 そこを狙われてしまった。
 G.T.から光が飛来し、魔法障壁に突き刺さった。
 狙撃だ。

 G.T.の背の砲門の一つがこちらを狙っているのが見える。
 紙一重で直撃は避けられたが、障壁の消耗が大きい。

 武装隊も次々と背の砲門から光を狙い撃たれていた。

 G.T.の巨体からすると細いレーザーに見えるが、味わってみるとかつて相手にした黒瞥の砲撃を相手にするようだ。

 容赦の無い砲撃に、武装隊の陣形が散り散りとなっていく。
 なのはさんたちはユーノくんがなんとか防いでいるようだが、消耗は大きい。

 防戦は不利だ。砲台をいち早く潰したい。
 だが、G.T.は攻撃の効果を確認したのか、さらに砲門を開く。

 額に縦に並んだ砲身に光が渦を巻いて集まっていく。
 光の渦は収まることなく、魔力の塊が螺旋を持って放出された。

 速い。

 空を削って飛ぶその螺旋の魔力は、さながらロケット付きの削岩機だ。

 これは、この魔法は危険だ。
 フィールドに触れさせることも無く、ひたすらに距離を取ることで回避した。

 避けずに防ごうとしたユーノくんたちは、障壁魔法を削られて弾けだされた。
 魔法の制御を乱され落ちそうになる二人に急いで近寄り、魔法障壁で受け止める。

「大丈夫ですか?」

「わ、私は大丈夫だけどユーノくんが」

 螺旋弾を正面から受け止めたユーノくんの腕がところどころ裂けて服に血を滲ませていた。

「……まだ大丈夫だよ」

 ユーノくんは痛みをこらえ回復魔法をかけている。
 バリアジャケットを使わないユーノくんだが、その代わりにバリアジャケット以上の能力を持つ魔法障壁を常時展開しているはずだ。
 あの螺旋弾はそれすらも突破していた。

『そのドリルには気をつけて! 込められている魔力は三十万程度だけど、回転の力で何倍も威力が上がってる!』

 アースラからの分析が届く。

 この螺旋弾の恐るべきは、出力そのものではない。

 魔力を完全に物質化させた螺旋を描く刃と、その回転力。
 魔力の大きさに頼った高位魔導師にはない純粋な物理的破壊力。
 魔力の強さが攻撃の強さではない。この管理外世界に存在する魔力のない兵器でも、費用を無視してつぎ込めば魔導師の防御を十分に突破できるのだ。
 相手を殺すことを突き詰めた魔導師にはこういった魔法の使い方が多い。


 なおも螺旋弾がうねりを上げて戦場を飛び交う。

 皆、防壁魔法を解いて回避に必死だ。


 この攻撃は武装局員のみならず、私やなのはさんでも障壁で防ぐのは難しいだろう。
 だが――。

「あの螺旋弾は物質化された魔力の塊です! 中和魔法を込めた魔法射撃で撃ち落せます!」

 言いながら武装局員へ向かっていった螺旋弾に向けて機銃を連射する。

 螺旋弾は魔力弾の直撃で霧散し、魔力残滓へと分解された。
 回避に余裕があったためバイザーで解析をかけで出た結果だ。

 背の砲台からは未だに光線が放たれているが、それを掻い潜って螺旋弾を狙い撃つ。

 なのはさんはユーノくんに向けていた意識をG.T.へと向けなおした。
 この場の最大火力はなのはさんだ。流れを変えるために彼女の力を借りよう。

「なのはさん、私があの螺旋弾を破壊して魔力残滓を充満させます。スターライトブレイカーで砲台を狙ってください」

「うん、解った!」

 力強い声が返ってくる。
 血を見て臆していないようで安心した。

 私を狙いを全て次々と撃ちだされる螺旋弾に集中させる。
 ときおり狙撃される光線は、軌道を予測して銀鶏の属性吸収フィールドに触れさせ魔力の糧とする。

 溜まった魔力を解放し、発射直後の螺旋弾すら破壊して一つも後方へ逃さない。


『Starlight Breaker』


 レイジングハートからアナウンス音声が流れる。
 準備は整った。巻き込まれないようになのはさんから離れる。


「いっけえー!」


 強大な桃色の魔力の光がG.T.の背に突き刺さった。

 迎え撃つ光線や螺旋弾すらも分解し力に換え、装甲を貫いていく。
 砲身が歪み砲台が爆ぜ装甲が裂ける。


 非殺傷を解除された一撃は、戦艦の主砲とも言うべき圧倒的な破壊力を持っていた。


『砲台二基破壊しました!』


 背から鉄の残骸が剥がれ落ち、海に落ちて大きな飛沫をあげた。

 背の一角が抉り取られたように更地と化していた。

 機銃を撃ちこんでも破壊されなかったものが、たったの一撃でこれだ。

 傷の修復は出来ても、あの大きさの砲台の再生は難しいだろう。


 と考えた矢先、砲台の剥がれ落ちた頭部に光で出来た線が浮かびあがった。
 それは、砲台を模した骨格模型ワイヤーフレーム

 光が数度瞬くと、時を戻したかのように落ちたはずの砲台が二基いきなり現れた。

 再生、した?


「アースラ、今のは?」

『……ええと、傷の再生とは違うみたい。ジュエルシードから強い魔力反応があったから、願いを叶える力に関連しているのかも』


 一瞬の間をおいてアースラからの通信が返ってくる。

 G.T.の持つ能力ではなく、お祈り石ジュエルシードの仕業だというのか。

 願いで動く暴走体を相手にするのと、魔力の塊であるジュエルシードそのものを相手にするのでは、後者のほうが始末が悪い。
 そもそも願いで砲台が再生するなど、このクジラは大艦巨砲主義か何かか。

『仕方ないわ。本体を狙っていきましょう。アースラも亜空間離脱が完了したら副砲で援護射撃にまわれるからそれまで耐えて』

 アースラが動く、か。事態が大きくなってきた。
 プレシア・テスタロッサの介入の懸念さえなければ残りの魔導師の全戦力投入が出来たものだが……。


 再生を終えたG.T.が身体を大きく動かした。
 ここにきて初めてG.T.が移動の動きを見せる。再生した背の砲門からは再び光線が撃ち出される。

 シップのハンドルから手を離し、大魔法の直後で身動きが取れないなのはさんと、消耗の大きいユーノくんを両腕で抱えて急いで逃げる。

 避けた光線が突如直角に軌道を変えるが、ユーノくんが障壁魔法でそれを逸らせた。

 前進、前進。

 砲身がこちらを捉える前に高速で移動を続ける。
 私に抱えられたままなのはさんが砲撃魔法を放つ。高速で移動する砲撃の光は、さながら剣で巨体を切り裂いているように見えた。

 だが、この砲撃も果たしてどれほどの効果があるのか。

 G.T.はあまりにも大きい。
 死角に回り込むなどという概念も無い。

 確かにシップの機動力を持ってしたならば瞬く間に背後にまわれるだろう。

 だが、この巨体と全身に備え付けられた兵装の前ではその瞬く間が何の意味も持たない。

 砲門はすぐにこちらを向き、狙いもまともに定めないまま分裂する広範囲射撃を行ってくる。

 側面の砲台から矢のような魔力弾を雨のように放ってくる。
 加圧処理で遅くなった視界の中で凶弾の嵐を掻い潜る。

 ときおり逃げ場が無くなり魔法障壁へ直撃するが、抱える二人には怪我は無い。

 腕の中ではなのはさんが砲撃を続ける。疲労は大きいだろうが、手を休めることは無い。
 私も機銃で装甲を削っていく。

 傷の再生以上の攻撃を与えられているのが解る。
 このままジュエルシードを抉り出して力を削げれば良いのだが。


 旋回をするG.T.の後ろに位置を取る。ジュエルシードの反応の一つは尾からだ。

 だが、その尾にも巨大な砲塔が据え付けられていた。
 いや、尾そのものが二門の砲身なのだ。

 砲身に光が溜まる。
 分析、誘導性魔法。狙いは、恐らく私だ。


「攻撃、来ます。離しますよ」


 二人を抱えての回避は困難だ。

 先ほどから、G.T.の攻撃は私を狙ったものが多い。
 一番初めに発見した獲物として優先的に狙われているのだろう。

 尾から虹色の魔力弾が発射される。

 動きは先ほどのミサイルとは違い、くねったような軌道。

 動きの予測が難しい。
 避ける、避ける。

 尾からはさらに誘導弾が幾度と無く放たれた。

 避ける、避ける。
 そして直撃した。





『アースラ、海上へ転送します。副砲を使うので射線上からは逃れてください』

 ようやくアースラが援護に現れた。

 ここまでこちらの被害は甚大だ。

 回避を得意とする私でも数度の直撃。武装局員やなのはさんはすでにぼろぼろだ。
 執務官はさすがというべきか直撃をぎりぎりでそらしているようだが、目に見て取れる疲労が大きい。

 だがここにきてアースラという強大な戦力が味方に加わった。

 アースラから魔力の砲撃が次々と放たれる。
 副砲といえど、一撃一撃がAクラスに匹敵するような代物だ。

 主砲は次元系の魔法弾であるため、次元干渉を起こすジュエルシードに対して使えないが、副砲だけでも威力は十分だ。

 装甲を突き破り肉片を飛び散らせていく。

 G.T.が身をくねらせて泳ぐように動き出した。
 鋼につつまれ叫びも上げないその姿では果たして消耗しているのか本気を出しているのか解らないが、局面が大きく変わったのは確かだ。

 身体を横倒しにするようにG.T.がその向きを変えた。
 盾のように突き出した側面の砲台が、回転して前方を向く。

『ジュエルシードから強い魔力反応!』

 側面の砲台が、突如歪む。
 いや、これは空間が歪んでいるのか。

『次元干渉魔法です! 周囲の空間を吸収しています!』

 空間の歪みはG.T.からはなれ、渦巻きながらそのまま前へと進んでいく。
 向かう先はアースラだ。

 周りの空気が吸い込まれ機体が干渉の渦へと吸い寄せられそうになる。
 慣性制御を打ち破るほどの強烈な吸引だ。魔法障壁に急いで次元魔法の中和を付与する。

 アースラは防御のために時空間防壁ディストーションシールドを展開させた。
 副砲の援護射撃が止む。


 アースラを御したと思ったか、G.T.が向きを変えて武装隊へと頭を向ける。
 その方向には、なのはさんとユーノくんの姿も見えた。


 G.T.の前方に魔力の光が集まる。

 魔力は巨大な魔法陣となり、さらなる魔力を周囲から取り込んでいく。

 魔力光の色は、桃色。この光景は……。


「全員逃げて! スターライトブレイカーです!」


 私の叫びと共に魔法陣から光が開放された。

 なのはさんのそれより倍ほどもある圧倒的な光の洪水。
 周囲の魔力だけではなく体内のジュエルシードから魔力を取り込んだ一撃は、武装隊を一瞬でなぎ払った。


「なのはさん!」


 光に巻き込まれ吹き飛ぶなのはさんがカメラアイに映る。
 シップを急駆動させてその方向へと突き進む。

 G.T.の一撃はまだおさまっていなかったが、それを掻い潜って進む。
 海へと向けて落ちていくなのはさん。

 急げ、急げ。

 海面へと叩きつけられそうになる直前に捕縛。胸部装甲を腰元へ移動させ、両腕で抱きしめる。


「二度目です。大丈夫ですか?」


 腕を緩めて顔を覗き込む。その表情はわずかに青ざめている。

「あは、痛くは無いけど、ちょっと力が抜けちゃった、かな」

 魔力を使い果たしたのか。
 砲撃魔法も連発していたし、G.T.の攻撃を無傷で切り抜けるほど防御を展開していた。
 治療が必要なほど限界を超えての魔力行使はしていないようだが、これ以上の魔法使用には足りないだろう

 彼女の防御を行っていたユーノくんの姿は見えないが、どうなったのか。

 なのはさんへ確認すると、バリアジャケットの襟元を広げて見せてきた。
 首長ネズミに変身したユーノくんがぐったりと服の中に収まっていた。

 なのはさんはエネルギー力切れ。補佐を行うユーノくんはリタイア。
 アースラに収容したいところだが、次元弾でそれどころではないだろう。

 武装隊も、G.T.のスターライトブレイカーで戦闘不能に陥った局員を無事だった局員が回収している。彼女を任せる余裕はなさそうだ。
 私はまだ戦えるが、なのはさんを背負いながらの余裕は無く、さらに機銃では火力不足が否めない。

 この状況を解決する方法は一つだけある。
 だが、それはまだ試作段階のものであり、また、なのはさんの協力が必要だ。

「なのはさん、まだ戦う意志はありますか?」

 だから問う。共に戦ってくれるかと。

「うん、力が入らないけど、まだ、私は力を出し切ってないから」

 即答だ。

「じゃあ、一緒に戦いましょう。全力全開で」

 腰へと下げていた胸部装甲を変形させる。
 私たち二人を被うようにと。

 私専用の兵装であった機動小型戦闘機が、副座式へと変わる。
 二人で一緒に飛ぶための機能進化。

 だが、これだけでは私がなのはさんを乗せて飛ぶだけだ。
 G.T.を打ち倒すにはさらなる力が要る。

 魔力炉を回す。クリーンフォースから生まれた魔力は、体内を巡りシップへ、そしてなのはさんの持つレイジングハートへと流れる。

「私が魔力を作ります。なのはさんは、デバイスの魔法の起動に専念してください」

 ディバイドエナジーというミッドチルダ式の魔法がある。
 自分の魔力を他者へ分け与える治療魔法だが、私が行っているのはデバイスを通して相手に魔力を与える補助機能の実行だ。

 デバイスに流れた魔力は、相手に還元されずともそのまま魔法の発動に使用できる。

 私の一度に生成できる魔力量はなのはさんには及ばないが、それでもシップを駆ってなお有り余り、無限に生成することが出来る。
 そしてなのはさんならば、シップの持つ攻撃機能以上の魔法を使うことが出来るだろう。

「うん、二人で一緒に全力全開、だね」

 前に乗るなのはさんの顔は見えないが、きっと先ほどよりも力強くなっているだろう。
 彼女は私を信じてくれた。ならば、私はそれに応じよう。

 加速を開始する。
 空では未だ執務官が戦い続けている。

 機体を前へ、魚雷と魔力弾の飛び交う戦場へと飛び込む。
 G.T.がこちらの復帰に気付いたのか、背の巨大砲門を全てこちらへ向けてくる。

 一斉に光線が撃ちだされるが、速度をもってそれに対抗する。

 機銃は停止状態へ。属性吸収フィールドも止め、余った魔力を全てレイジングハートへ注ぎ込む。

「リリカル! マジカル!」

 なのはさんの詠唱が響き渡り、レイジングハートから魔法陣が展開する。
 その魔力光はいつもの桃色ではなく、銀鶏の持つ闇色。

「ディバイン・バスタァーッ!」

 轟音と共に、黒い刃がでかぶつへ向けて突き進む。
 高速の世界を飛ぶ戦闘機が振るう魔法の剣。今度は、途切れることの無い剣だ。

 装甲に突き刺さり、肉を切り裂いていく。

 弾雨を突っ切り、弾を吐き出し続ける側面の砲台へ砲撃を向ける。
 金属片を撒き散らしながら、砲台が根元から断ち切られた。

 同じようにして反対側へと回り込み砲台を狙い撃つ。

 砲台の破壊により攻撃の激しさが治まった。
 G.T.は砲台を再生しようとするが、次の瞬間には別の砲台を破壊する。

 根元を狙うようにして、砲台と本体への攻撃を同時に行う。

 さらに、側面砲の破壊により次元弾から解放されたアースラからの援護射撃が再開される。
 G.T.は次々とその身の欠片を海へと落としていく。

 残った砲身を全てこちらを狙おうと向けてくるが、そこにハラオウン執務官の捕縛魔法が飛んだ。
 砲身の動きが止まる。

 攻撃の手を止められたG.T.が、再度スターライトブレイカーを使おうと魔法陣を展開する。
 が、撃たせるはずが無い。
 魔法陣の中心、魔法砲台をディバインバスターで撃ち抜く。

 魔法陣が霧散し、集まった魔力が大爆発を起こす。
 G.T.のその偉大な巨大が、ゆっくりと高度を下げていく。

 とどめとばかりにその沈む巨体の下を掻い潜り、魔砲の刃で縦に切り裂いた。


 装甲の至る所で爆発がおき、身体の隙間から白い魔力の光が漏れた。
 魔力弾が完全に止む。

 強い閃光と共に、G.T.を被っていた装甲が全て弾けとんだ。


 無数の瓦礫と共に、装甲のはがれた一匹のクジラが海へと落ちていく。
 空に残ったのは、五つのジュエルシード。

 なのはさんの砲撃により、半ばまで封印が行われている。


「勝ち、ですかね」

「うん、やった、ね」


 前のなのはさんがこちらに振り向く。
 互いに、息を切らせていた。疲労というよりは緊張によるものだろう。


「封印、してしまいましょう。それでこの場は全て完了です」

「うん、そうだね」


 再度レイジングハートへ魔力を送る。
 なのはさんが魔法陣を展開させて封印魔法の準備へと入る。
 この胸の奥から気力を吸われるような感覚は少し快感かもしれない。

 ジュエルシードを眺める。
 五つは寄り集まって、青い光を放って瞬いている。
 G.T.から剥離したのは、巨体を維持できなくなったためと、封印が進んだためだろう。


『カガリちゃん、急いで離れて! ジュエルシード周辺に巨大な転送反応! 巻き込まれるよ!』


 んな。
 ほとんどレイジングハートへ向けていた魔力を断ち切って、全力で背面の機械翼アフターバーナーへ魔力を流す。
 急な視界の移動になのはさんが叫び声を上げるが、無視。

 軋みをあげる空間から全速力で離脱する。

 雷鳴が轟く。

 背後に巨大な物体が転送されていく。
 乱れた気流が強風を生む。

 その風に乗るようにして、さらに距離を取る。
 旋回して背後へと振り向く。

「岩の……お城?」

 偉大なる者の飛んでいたその空間に、巨大な建造物が鎮座していた。



――――――
あとがき:視点変更や場面転換が無いので冗長。書いてから気付きましたが、二人できっちり半分こするはずのフェイトの役割をカガリが横から奪ってますね。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第九話-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/09/03 22:56

 超技術力による艦隊戦といえば、よく解らない造語とやけに小難しい熟語を使ってそれっぽい雰囲気を演出するのが物語での定番なのだが。

『シールド張り終えましたー。副砲もいつでもいっけますよー』

『ええと、じゃあこことこことここ狙ってお願いね』

『あー、思いっきり防がれちゃいました。あの岩、生意気にも防壁張ってますよ』

『ジュエルシードがあると主砲は撃てないわねぇ。適当に撃って削ってから障壁中和して中に突入しちゃいましょうか』

『じゃあどんどん撃っちゃいましょう!』

『結界分の魔力まで撃ち尽くさないでね』

 ハラオウン提督とエイミィ執務官補佐の前ではそんな風情は存在しないらしい。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:原作沿い展開のテスト
原作:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:(原作キャラの)魔改造生命体 VS (一部の人の)究極自己投影生命体
――――――












 アースラの医務室は混雑していた。
 武装隊一小隊を軽々と収容できるこの部屋も、二つの小隊ほぼ全員が負傷者となるとさすがに定員オーバー。
 第三第四の小隊である二チームを投入して全滅寸前まで行ったのだ。死者が居ないだけ行幸だろう。

 重傷者は最優先でベッドで治療を受け、軽傷者は部屋の隅や廊下で互いに治療魔法を掛け合っている。

 私も幾度かG.T.に直撃を受けたざんきをへらされたものの、一応軽傷のうちだ。
 だが、魔力切れのなのはさんと腕を引き裂かれたユーノくんはそうでもなく、部屋を狭くするというのに装着したままのシップで二人のデバイスに魔力を送っている。

 魔力供給の仕様上半ば抱き合うような形で寄り集まっている隣では、フェイトさんが心配そうにおろおろとしている。
 胸には邪魔にならないよう子犬に変身したアルフさんがいる。

 格好つけて別れたというのにこうぼろぼろになって帰ってきたのでは、少し恥ずかしいものがある。

 まあ相手が相手であったし仕方が無いと思っておこう。


 銀鶏のフレームに肩を寄せるユーノくんは、私から魔力を補充するそばから自分に治療魔法をかけている。
 ユーノくんの治療魔法は医務担当の局員さん並に高度で繊細な代物だ。腕の傷など痕も残らないだろう。
 先ほども魔力を消耗しているというのに、重傷者へ魔法処置を施していた。
 すぐになのはさんのように魔力をほぼ空にして供給を受けに戻ってきたが。

 本来失った魔力の回復は以前ユーノくんが使っていたような本人の波長を登録した治療器を用いるのが良いのだが、今もなお続く状況の中では時間のかかる治療器は使っていられない。室内はリンカーコアから魔力を生成するための魔力素がどんどん換気と共に送られてきている。

 最後まで無傷だったなのはさんは、消耗が大きいのか魔力の流れに身を任せてぐったりとしている。目線の先は、中継モニター。
 中継モニターには、海上に出現したプレシア・テスタロッサの居城である時の庭園への突入の様子が映されていた。


 封時結界の海上で互いの魔導砲を撃ちあったアースラと時の庭園だが、最後にはアースラが副砲へとまわしていた魔力を庭園の砲台の封鎖魔法へと変え、庭園の防護フィールドを中和し内部へ突入するという手段が取られた。

 内部にフェイトさんが持ち込んだ四つと、先ほど横取りされた五つのジュエルシードがある以上、まとめて撃ち落すよりは内部への強制捜査に入ったのだろう。


 モニターでは、ヤマトさんを先頭に傀儡兵を破壊して進んでいく武装隊が映っている。
 陸戦魔導師隊である第一小隊と第二小隊、補助魔導師隊の第五小隊。
 普通の魔導師一人を捕まえるにはあまりにも大掛かりなアースラの全戦力投入だ。

 だが、プレシア・テスタロッサは普通の魔導師ではなかったようだ。
 一体がAクラスの魔力炉を持つ傀儡兵が次々と現れる。

 人型の傀儡兵だけではなく、魔砲戦車や浮遊機械も見てとれる。

 この庭園もそうだが、技術力や魔導兵器の強力さ以前に資金力の豊富さに驚かされる。
 時空管理局にばれないようにこれだけの資材をかき集めたというのだ。

 当初想定していた密漁団などよりはるかに規模の大きい犯罪者と言えよう。


 だが、それらを全て打ち倒して武装隊が突破していく。
 武装局員とはこのような犯罪者に対応するためにただひたすら戦闘に特化した専門魔導師である。
 同じ魔力値の魔導師でも、その戦闘能力と火力は別物であろう。

 地上本部とは違い、ランクの高い魔導師も揃っていそうだ。


 そしてヤマトさん。流石艦内最大火力と言われるだけはある。大型の飛行傀儡兵を魔法の一振りでなぎ払ってしまった。


「あいつが捕まるのも時間の問題かね」


 アルフさんがぼそっと感想を漏らす。
 だが、そう簡単にはいかないだろう。

 ジュエルシードが相手の手の内にあり、また傀儡兵以外の隠し玉を持っていないとも限らない。
 そう、フェイトさんのような強力な手ごまがもういないとは言い切れないのだ。


 戦車を破壊し、蜘蛛のような形をした傀儡兵の頭部を砕いて進んでいく。


 向かう先はフェイトさんの言うところでは玉座の間。
 プレシア・テスタロッサの研究室が隣接する、石造りの城の主が鎮座する場所だ。
 ジュエルシードの反応は九つとも全てそこから検知されている。


 玉座の間へと続く扉の前では、強力な魔法障壁発生機と、それを守る二門の砲台が待ち受けていた。
 だがそれもヤマトさんは軽々と障壁ごと貫いてしまった。

「すごいねー」

 ぼんやりとしたままなのはさんが言った。
 そういえばなのはさんはヤマトさんの戦うところを今まで数度しか見ていないのか。

 なのはさんは戦い好きの傾向があるから、ヤマトさんの活躍に惚れて現地妻入りとかされると彼女の友人として嫌だが。
 まあ大丈夫か。子供を子供と扱うこの世界なら、この歳であれば憧れのお兄さん程度で済んでくれるだろう。

「母さん、大丈夫かな……」

 フェイトさんが別の方向で心配しだしてしまった。

「大丈夫でしょう。ヤマトさん訓練弾とか非殺傷とかの扱い上手ですし」

 魔法学校時代に何度ものされた私の実体験からくる間違った自信から断言できる。


 扉を破壊し、玉座の間へと侵入する。
 そこは、赤いカーペットがしかれた長い廊下。古めかしい調度品に飾られた、まさしく王の城だった。
 ところどころに階段があり、玉座はその上にあるのだろう。

 そして、廊下には可愛らしいエプロンドレスに身を包んだたくさんの女の子が並んでいた。

「嘘っ! フェイトちゃん!?」

 その顔、髪の色はまさしくフェイトさんと瓜二つ
 いや、フェイトさんよりもいかばかりか幼い。

 フェイトさんと同じ、アリシア・テスタロッサを元にした複製人造魔導師ということか。

 フェイトさんに似たエプロンドレスの集団が、笑い声をあげながら無作為に魔法を放ってくる。


「これ、もしかして全部クローン体!?」


 古代史で人の業を良く知るユーノくんもこの情景には戸惑いを隠せないようだ。

 クローン体は技術も何もなくただ無作為に武装隊へ魔力の塊を叩きつけてくる。
 ただただ笑うだけのその表情からは、知性や人格などは窺えない。

 まさか、アリシア・テスタロッサを再現しようとした失敗作だからと、ろくに知識も植えつけずに兵器として扱っているのか。
 プレシア・テスタロッサが狂った魔法研究者ならば、その程度平気でするだろう。

擬似人型生命兵器アリス・クローン……」

 ダライアスの兵器の歴史からこれに近しい存在に思い当たる。
 攻性魔法を先天的に身につけた原始魔導師を複製し、生きる防衛兵器として生産されたものだ。

 人体改造に対する倫理観の薄いダライアスといえども受け入れられることの無かった生命兵器だ。
 そんなものをミッドチルダの魔導師が作りえたと言うのか。

『く、総員非殺傷で突破! 捕縛魔法で無力化してとにかく進むんだ!』

 精神的には人ではない存在とはいえ、殺すのをためらったのか無力化に的を絞った攻撃が展開されていく。
 クローンはあくまで感覚での魔法行使をしていたのか、防壁魔法も捕縛解除も出来ずに次々と沈黙していく。

 甲高い言葉になっていない叫び声が廊下に響き渡っていく。
 武装隊は前へ。局員さんたちはそれぞれ悲しそうであったり怒っていたりと反応はさまざまだ。

 カーペットの敷き詰められた階段を駆け抜け、開けた広間へと辿り着く。
 広間の壁周辺には、巨大な戦士の石像が並んで立っていた。

 カーペットは真っ直ぐと玉座へと伸びている。
 そこには、一人の妙齢の女性が気だるそうに座っていた。

 プレシア・テスタロッサだ。


 武器を構える武装隊が、それを囲むようにして対峙する。
 正面にヤマトさんが睨むようにして立った。

『何なんだよあれは……』

 クローン達を目の当たりにした怒りのまま、プレシア・テスタロッサへと言葉を叩きつけた。

『何で自分の娘と同じ姿の子をあんなことに使えるんだ!』

『うふふ……』

 それがどうした、と言わんばかりにプレシア・テスタロッサは笑い返す。

『あの子を再現しようとしたのだけど、駄目ね。作り物の命は所詮作り物。失ったものの代わりにはならないわ』

 その言葉には、何の感情も篭っていない。
 悲しみすらも篭められていない。

『こんなはずじゃなかったのよ。私はあの子と二人でやり直さなければならない。でも、紛い物ではやり直しなんてとても無理』

 ふらりと立ち上がると、軽く後ろへ跳躍。そのまま吸い込まれるように浮遊し、背後にあった巨人の像の兜の上へと飛び乗った。
 この状況でも、投降する気は無いということだろう。

 そこへ向けて、さらにヤマトさんの言葉が続く。

『世界はいつだって、こんなはずじゃないことばかりだ! ずっと昔からいつだって誰だってそうなんだ!』

 ここにきてヤマトさんの断罪タイムだ。
 医務室の向こうではハラオウン執務官が、中々言うじゃないかヤマト、などと嬉しそうにしているが、こういうのが執務官のデフォなんだろうか。

『やり直す? 今のあんたには娘がいるだろう。アリシアとは違う、あんたの血肉を受け継いだフェイトという娘が!』

 ヤマトさんと杖型のデバイスを構えたプレシア・テスタロッサが魔法の打ち合いを始める。

 ヤマトさんはいつもの無限に分裂する魔力弾を次々と撃つ。

『あのお人形が娘? あは、あはははははははははははは』

 対するプレシア・テスタロッサは壊れたように笑いながら、広間を埋め尽くさんばかりの紫の雷撃を全身から放つ。

『あの子は私があの子を忘れないために気まぐれに作っただけの、ただの玩具よ。あはははははははははははは』

 狂ったように笑い続ける。いや、とうに狂っているのか。
 プレシアが宙に浮く。
 飛行魔法ではない。彼女の座る巨人の像から頭が切り離され、浮いたのだ。

 今突入している武装隊は陸戦魔導師の集まりだ。上を取るだけで優位になる。

 おそらくこの石像も傀儡兵のような魔導兵器なのだろう。
 石像の目と額から次々と魔力弾が地上へ向けて発射される。


 逃げる場所も無いほどの雷撃と魔力弾に、次々と武装局員が倒れていく。
 戦闘続行に陥った局員はアースラまで直接転送させられる。
 医務室内が騒がしくなってきた。


 もはや戦場は多対一の捕り物ではなく、オーバーSランク魔導師の殺し合いとなっていた。
 広範囲に向けていた雷撃をヤマトさん一人に向ける。プレシア・テスタロッサもヤマトさんしか見ていない。

 だがヤマトさんはそれを力技で弾き、魔力弾と合わせて砲撃魔法を撃ち返す。

 石像の頭が粉々に砕け散る。粉塵がプレシア・テスタロッサを覆う。
 魔法の衝撃波を叩きつけてそれを払うが、そこには誰の姿も無い。

『奥の部屋へ逃げたようです。総員急いで追ってください』

 魔力反応を追っていた通信士からの指示が飛ぶ。
 この奥はプレシア・テスタロッサへの研究室へ続いている。












 プレシア・テスタロッサの言葉をただ黙って聞いていたフェイトさんの手を私は強く握った。
 なのはさんも手を重ねてくる。

 フェイトさんは確かに前納得したと言った。でも、だからといって割り切れるものでもないのだ。
 母と思っていた存在。母の居ない私には、そも思いは全て理解することはできないが。

「大丈夫です、きっと、きっと全てが上手くいきます」

 確かにヤマトさんの言うとおり、世界はいつだってこんなはずじゃないことばかりだ。

 でも、私の新しいこの可愛い友達を苦しめるほど過酷ラジカルじゃなくて良いじゃないか。
 フェイトさんまで私のように生まれながらに過激ラジカルな人生に翻弄されなくていいじゃないか。

 この世界にあるお話の中のようリリカルに幸せに過ごしましたという結末でも、誰も文句は無いはずだ。


 事態の進むモニターへと視線を向ける。


 武装隊の突入した研究室。プレシア・テスタロッサの立つ後ろには、大きなガラスの筒が置かれていた。
 中には、金色の髪の女の子。フェイトさんに良く似た裸の少女が目を閉じて浮かんでいた。

『死んだ者は蘇らない。そう、あの力を使っても取り戻せなかった……』

 いとおしいものに触れるように、筒の表面を撫でる。
 その仕草から、あれが死んだオリジナルのアリシア・テスタロッサであるのが見てとれた。

『だから私は過去を取り戻す! ジュエルシードとこの庭園の力を使って、過去へと旅立つのよ!』

 大げさな身振りで腕を振って武装隊へと振り返る。
 視点の定まらないその瞳には、狂気のみが宿っている。

『過去へだって……? 魔法なんて使っても時間を遡るなど出来るものか!』

『いいえ、人は何度でもやり直すことができる。間違ったのならやり直さなければならない、やり直さなければいけないの』

『くっ……』

 何を言っても無駄と悟ったのか、プレシア・テスタロッサに向けて砲撃魔法を向ける。
 武装局員もそれに追従して砲撃を重ねる。

 だがプレシア・テスタロッサが軽く手を振って作った障壁魔法の前に全て霧散した。

『アリシアが傷ついちゃうじゃないの。貴方達、何をしようとしたのか解っているの……?』

 笑いがこびりついていた表情に険が走る。
 眉を寄せた顔が怒りに染まり、そして憎悪へと変わった。

『時空管理局……。おのれ、生かして帰さん!』

 紫色の魔力光が瞬く。
 アリシア・テスタロッサの遺体を収容した管が転送されて消え去る。

 プレシア・テスタロッサが再び戦いの意思を見せた。


 全身から紫電をまとった魔力弾が次々と放射される。
 研究室の至る部分が壊れ、天井が崩落する。

 さらに腕を振るうと、冷気を封じた青い魔力弾が嵐のように武装隊へと殺到する。
 避けようの無い弾雨に、少しずつ戦える局員の数が減らされていく。


 それでもヤマトさんは、銀色の魔力光を撒き散らしながら多彩な攻撃魔法で反撃を続ける。
 プレシア・テスタロッサのもつ魔力障壁が削られていく。

『こざかしいやつめ!』

 不利と見たか、プレシア・テスタロッサが今までに見たことの無い魔法陣を展開させた。
 黒い衣装の背が紫の魔力光に満たされる。

『魔力値、大幅増大しました! SSクラスを超えています!』

 その背から、人の身長の十倍もある巨大な翼が生まれた。
 根元は紫、先に行くにしたがって緑へと色が変わっていく、円と曲線で描かれた蝶のような羽だ。

『外部からの魔力供給を受けているようです! 位置は……庭園最上階の駆動炉!』

 エイミィ執務官補佐の報告が映像と共に響く。

 私が見たところ、あの羽はただの魔力増幅器ではない。
 あれは私のブラックハートと同じ、羽全体が魔法の発生砲門だ。

 羽ばたきもせず微動だにもしないその羽から、魔法の渦が生み出される。

 わずかに残っていた局員も、その強烈な魔法からは逃れはしなかった。
 皆吹き飛ばされ、ヤマトさん一人が残る。

『あの庭園の駆動炉も、ジュエルシードと同系のロストロギアです。それを艦長がアースラを使ってするような魔力供給魔法を使って力を引き出しています』

 フェイトさんの情報提供で作られた庭園図面がモニターに表示され、最上階部分が赤く点滅している。
 プレシア・テスタロッサはエネルギーに関して研究していた魔導師である。
 時空管理局の艦長級が用いる艦からの魔力供給魔法をその知識で再現したのだろう。しかも、供給元はジュエルシード並のロストロギアだというのだ。

 外部からの無限の魔力供給を受ける化け物など、Sランク魔導師のヤマトさんでも厳しいだろう。

 武装局員はすでにヤマトさん以外負傷で全員アースラへ回収させられていた。
 駆動炉を潰しに行く人員が向こうには居ない。


『ヤマト補佐、援軍を送るわ。私も出ます。それまで持ちこたえられる?』


 今もなお魔法の撃ち合いを続けるヤマトさんへ、ハラオウン提督が問いかける。

 ヤマトさんには珍しい、力負けする相手との戦い。
 補助魔法を駆使して身を守る防戦となっていた。


『ええ、大丈夫です。ところで艦長。一つ確認していいかな』

『……いいわ。なに?』

『ああ、時間を稼ぐのはいいが――別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?』

 プレシア・テスタロッサを見据えたまま、力強く言うヤマトさん。

 自信の表れ、ではないか。この状況に来て自分に酔っているのか。
 世間一般では死亡フラグとも言うのですが。


 ヤマトさんとの通信が終わり、艦内が騒がしくなる。
 医務室では、先のG.T.戦で軽傷であった局員達が自発的に動き出した。

『カガリちゃん』

 ハラオウン提督からの通信だ。

『三度目、だけど一番怪我が少ないのは貴女だからまたお願いするわ』

 三連戦か。何ともハードな一日だ。
 だが、問題は無い。戦いが続くならば一ヶ月であろうと魔力弾を撃ち続けて見せよう。

「私も、私も行きます!」

 私の隣でなのはさんが立ち上がり、通信ウィンドウに向かって懇願した。
 彼女へは魔力の受け渡しがほぼ済んでいるが、疲労が激しく長期戦に慣れていない彼女に戦えるのかは疑問だ。

 ウィンドウの中で提督は軽く眉を寄せる。だが。

『……許可します。貴女の世界を守る戦い、これで最後にしましょう』

「私も!」

 提督が言うや否や、それまでずっと黙っていたフェイトさんが叫んだ。

「私も母さんを助けたいから、お願い、私も行かせて、お願い……」

「フェイト……」

「フェイトちゃん……」

 アルフさんとなのはさんが悲痛なフェイトさんの顔を心配そうに見つめる。
 再び考え込む提督。だが、時間が無い。返答はすぐに来た。

『クロノ、聞いているわね。魔力抑制の制御器を貴方が持って。フェイトさんをプレシア婦人のところまで連れて行ってあげて』

「母さん!?」

 ハラオウン執務官の驚きは最もだが、時間が無い。
 室内の全員に向かって出動を呼びかけ、軽傷者を率いて医務室を出る。

 シップを使った魔力治療をしていたため幸い武装は全て手元にある。
 急がなければ、ヤマトさんを失ってしまう。大切な友人の一人なのだ。私が助けられるというなら全力を尽くそう。

 シップの機能一つ一つをスキャンで確かめる。土壇場で故障しましたでは話にならない。
 斑鳩・銀鶏は未だ試作機なのだ。
 試作機に、私は全てを任せなければいけない。


 飛行魔法で転送室まで走る私に、ユーノくんが飛んで併走してきた。

「ユーノくん、貴方は……」

「僕も行くよ。カガリのおかげで魔力も戻ったし」

 ぐっと右腕を曲げて力こぶを作ってみせるユーノくん。
 細いその身体でやっても可愛らしいだけだが。

「ユーノくん、付いてくるなとは言いませんが、今回の件はユーノくんには関係無いと思うのですよ」

 皆が幾度となくユーノくんに言ったであろう言葉だ。
 だがそれでも言葉を続ける。

「フェイトさんの証言では、ジュエルシードの運搬事故はテスタロッサ一家が犯人。貴方の責任は一欠けらもありません」

 できればこの優しい親友には、これ以上怪我などはして欲しくは無い。

 でも、ユーノくんの顔には、なのはさんと同じ強い信念が宿っている。


 だから、その意志を確かめるべく、はいかいいえの問いを訊ねる。

「このさきには、暴力的で、鬼のような極殺兵器どもがあなたをまっています。それでも戦いプレイしますか?」

 力強く頷きを返してくる。答えは[はい]だ。

「では、行きましょうか。ユーノくんが背中を守ってくれれば、私たちは負けませんよ」

 ユーノくんに親愛を込めて笑みを投げかける。

 私には頼もしい仲間が居る。
 後ろを振り返る。
 そこには、なのはさんが、フェイトさんが、アルフさんが、ハラオウン執務官が、七人の武装局員さんたちが強い意志を目に秘めて駆けていた。



 進もう。NEXT.最後の戦いへ。FINAL STAGE



――――――
あとがき:別に逆行者が居て二周目に入っているとかではありません。

用語解説
■世界はいつだって、こんなはずじゃないことばかりだ!
人間そんなに簡単に名台詞など出るものではありません。その道何十年の職人さんじゃないんですから。
無意識でクロノくんの台詞をパクっていますが、問い詰めてもヤマト本人は「参考にしただけで盗んではいない」と返すでしょう。
あ、このSSのSTGネタはパロディでリスペクトでインスパイアであって、パクリじゃないっすよー(よくある言い訳)。

■アレを倒してしまっても構わんのだろう?
同上。多分彼は絶体絶命の状況に酔ってます。


SHOOTING TIPS
■アリス・クローン
ケイブの古い名作エスプレイドより、五面道中の雑魚敵。ラスボスのガラ婦人が溺愛していた超能力者アリスのクローン体。
強力な能力者のクローンだというのに攻撃を軽く当てただけで甲高い叫びをあげて死にます。エスプシリーズは生身の雑魚敵が血柱をあげて潰れるのが恐ろしい。

■生かして返さん!
エスプレイドより、ラスボスのガラ婦人の台詞。
画面半分を覆いつくすほどの巨大な極彩色の羽は、ガラウィングと呼ばれて狭く親しまれています。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第十話Aパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/09/06 04:44



   やがて一つの因果は、その意志
   を元の場所へと回帰させ、記憶
   の深淵に刻まれた起源の意識を
   思い起こさせるだろう。













――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:続・原作沿い展開のテスト
原作:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:衝撃の展開でもなんでもないクライマックス
――――――












 かつて、聖王教会の司教は言った「それは奇跡じゃない」と。

 あれは、魔法学校の友人達とベルカ自治領へ旅行に行ったときだろうか。
 近代ベルカ式の魔法を使う級友に先導されて訪れた、自治領でも歴史のあるという美しい外観の教会で、司教さんの説教を聴くことができた。

 ちなみに今のダライアス一族には宗教は無い。
 創世神話からして、宇宙からやってきた移民が戦闘機と共に星に降り立ったという信仰しようのないものだ。しかも、その過程で神を殺している。
 それでも、私は宗教と言うものが倫理と道徳の延長線上にあり、人の生き方の指針になるものであることだと理解している。


 聖王教は、聖王と呼ばれる偉人を信仰する宗教である。
 神の神秘そのものではなく、神秘によって成し遂げられた偉業を崇め、その過程で聖王から語られた言葉を経典とする。

 ベルカ史を紐解くと、聖王は直接歴史に影響を与えた者ではないことが解る。
 ただその行いが神秘と人徳に満ちたものであり、言葉が多くの人の心を動かしたというだけである。

 だが、そういう存在だからこそ聖王教の教えには独善に満ちた思想はなく、他を押しのけて我らが神は偉大なりなどとは主張しない。
 幼い魔法学校の生徒であった私たちにとって、司教さんの言葉とは深みのある道徳の教科書を紐解くようなものであった。


 年若く見える司教さんは仲良く耳を傾ける私たちに向かって言った。



 親しい友と出会えるのは、偶然に満ちています。だけれど、それは奇跡じゃない。
 大切な人との出会いには必ず意味があります。ただ一緒にいるだけで心が休まり、幸せになれる。
 お互いその人が幸せに生きるために必要であるから、お互いがお互いを求め合って出会えるものなのでしょう。
 だから、友達を大切に思うことは、皆で幸せになるためのちょっとした秘訣ですよ。



 それは子供向けの奇麗事として言っただけなのかもしれない。
 宗教家としてではなく、小さな子供を見守るお姉さんとしての言葉なのかもしれない。

 それでもこの言葉は、ミッドチルダへ訪れたばかりで友というものを初めて得た当時の幼い私に、深く深く刻み込まれたものだ。

 この世界へ来てから出会えた少女達は言った「名前を呼べば良い」と。
 女の子にはセンチメンタルなんて感情はない。友情は神聖なものだとかそういう幻想など持たない。
 名前を呼ぶ、それだけが友達になるのに必要なことなのだと。

 だから名前を呼ぼう。新しい戦友の名前を。

「フェイトさん」

「ん……」

 黒いバリアジェケットを身にまとったフェイトさんが小さく応答を返してくる。

「ここまでいろいろありましたけど……」

 フェイトさんに話しかけながらシップを戦闘状態へ。
 属性吸収フィールドを展開。色は青みのかかった白。前二戦で銀鶏を酷使したため、斑鳩を基本とする。

「面倒なことは後回しにして一緒に頑張りましょうか」

 言葉と共に、互いの武器を構える。

 庭園へと突入した私たちは、無数に待ち構える傀儡兵との戦闘を開始した。











 傀儡兵は無限に居るのではないかと思うほどの数で襲ってきた。
 あれほどヤマトさんたちが破壊し尽くしたというのに、BクラスやAクラスの魔力出力を持つ魔法機械兵群が先へ進むたびに待ち構えている。

 今進むのは、文字通りの庭園だったのか朽ちた植物に満ちた場所だった。
 プレシア・テスタロッサが狂って以来整備されていなかったのか、草木に枯れた色が混ざっている。

 傀儡兵との戦闘で、さらに地面が抉れ木々がなぎ倒されていく。

「綺麗なラベンダーの咲く庭だったのに……」

 傀儡兵の駆動機関を鋭い牙で食いちぎったアルフさんが、ぼそりと呟いた。

 以前の証言によると、アルフさんが生み出されたときからプレシア・テスタロッサは狂い始めていたという。
 ということはこの庭はフェイトさんが一人で手入れをしていたのだろうか。

 フェイトさんはひたすらに雷の魔法を振るい、傀儡兵を内部から破砕させている。
 その魔法には躊躇は見られない。

 彼女に愛された庭園も、今は主の居ない童話の消えた森だ。


 木をなぎ倒して金色の傀儡兵がこちらへ襲い掛かってくる。私はそれにカウンターを浴びせるように、機銃を傀儡兵の関節部へと向けて連射する。
 止まる間もなく魔力弾を打ち続ける私が一番庭を荒らちけいはかいしている気もするが、フェイトさんが躊躇していないなら私も力を出し惜しみはしない。

 視界に結界に封鎖された空が映る。
 日の光を取り入れるために天井をガラス張りにしているのか。
 大きな庭だ。さぞラベンダーは美しかったのだろう。


 天井ぎりぎりまで飛び上がり、地に向けて吸収した力の解放を行う。
 日の光の代わりに庭へと降り注いだ青白い光は、傀儡兵の一体一体を的確に貫いていった。


 動きを見せる傀儡兵はいなくなった。このフロアを突破する。

 速度に任せて一人で庭を出る。危険が無いのかを偵察するためだ。
 私ならば何かあればすぐさま引き返すことが出来る。


 抜けた先にあったのは、巨大な吹き抜けだった。
 この時の庭園の中心部なのだろう。吹き抜けの壁には各階へと続く長い長い螺旋階段が、柱に支えられて携えられていた。

 皆が庭から出て吹き抜けを見ると、各々が飛行魔法を唱えて空に浮く。
 この場に居る局員は全員G.T.と戦った空戦可能な魔導師達だ。

 階段を無視して吹き抜けを進むことで、時間を短縮できる。

 吹き抜けを真っ直ぐ下へと飛び降りてく。この先に駆動炉へのエレベーターがあるはずだ。

 勿論、ここにも傀儡兵や浮遊機械兵も待ち構えている。
 だが、道は下へ真っ直ぐだ。

「サンダーレイジ!」

 フェイトさんの広域魔法が下層を貫く。
 拘束能力を持つ雷撃魔法だ。螺旋階段の陰に逃げられないよう動きを止め、次々と傀儡兵の防壁を突破していく。

 ハラオウン執務官とユーノくんは、上空から飛来する傀儡兵の群れを捕縛魔法で捕らえている。
 なのはさんは誘導魔力弾でその一体一体を的確に撃ち抜いていく。

 圧倒的にこちらの優勢だが、それでも傀儡兵からは魔法攻撃が飛んでくる。


 この広い吹き抜けの中では魔力弾程度の回避は容易。
 急に階段の陰から姿を見せた戦車の砲撃も問題なく捌き、属性吸収フィールドに触れさせて魔力を補充する。

 斑鳩に魔力が溜まる。敵の群れを打ち砕く魔力の充填は99%。
 99%じゃ駄目だ、100%じゃなきゃ駄目なんだ。皆の魔力を無駄に出来ない以上、無限の魔力を持つ私は100%の力を振るい続けなければならない。

 力を解放する。

 誘導性を持つ光の矢は、柱を盾に隠れる傀儡兵をも的確に破壊した。


 全速力のまま下層に降り立つ。


『WARNING!! WARNING!!』


 強力な魔力反応をシップが捉えた。
 壁の向こう、急速に近づいてくる。咄嗟に距離を取る。

 壁が爆ぜた。

 瓦礫を踏み抜いて、他の傀儡兵よりもふたまわりも大きい人型の傀儡兵が現れる。
 その肩には、巨大な砲が二門。砲身は上を向いている。

「……っ! ユーノくん、下からきます!」

 言うや否や、砲撃が上へと向けて発射される。

 強烈な一撃に、上空の捕縛結界が力技で破壊されてしまった。


 武装隊を突破して多数の傀儡兵が急速降下してくる。
 向かう先は、私だ。

「カガリちゃん!」

 巨大な傀儡兵と対峙したなのはさんが叫びをあげる。

「問題ありません。そちらはフェイトさんとその大きいのを!」

 二人を信用して巨大兵へと向けていた意識の優先度を下げる。

 落ちてくる傀儡兵。その手には斧や剣といった近接用の武器を持っている。

 距離を取ろうと速度を上げるも、その進行方向へさらに別の傀儡兵が待ち受ける。
 後方からは複数の傀儡兵がひたすらに近づこうと肉薄してくる。

 隙間を抜けようとすると、設置型の捕縛魔法の網が張り巡らされているのがバイザーから見えた。

 フェイトさんと私との戦闘データでも入力されているのか?
 接近戦に持ち込めば私を落とせると。

 あらゆる方向から、武器を持った傀儡兵が突進してくる。激突すれば互いが潰れるだろうに、玉砕前途の攻撃か。

「カガリー!」

 大丈夫。ユーノくん、心配いりませんよ。

 一度落とされたならば、身体でそれを覚え、過去を振り返り対策を練って挑むと言うのが本物の戦闘機乗りシューターというものだ。

 胸の魔力炉を制御するチップから、システム音声が脳内に響く。


 ――危機状況を確認。対近接緊急攻撃機能の使用を承認しました。操作者は魔力炉酷使の衝撃に備えてください。

点火ボンバー


 体中を魔力が駆け巡り、体表に備え付けられた魔動機コネクタから全方位へ向けて魔法の衝撃波が放射される。
 突撃してきた傀儡兵は、真正面から魔力の塊を叩きつけられ、装甲をひしゃげさせながら弾き飛ばされていく。

 シップに魔力を通さない、生身での魔法行使。
 原始的だが魔力炉の全ての魔力を直接解き放つので、速効性が非常に高い緊急回避魔法だ。

 医務室でシップすらも触れない時間に、身体を調整して自らに備え付けた機能。
 調整中の機能であったため、使うのは初めてで使いたくも無かったのだが、その威力の高さは見事に証明された。

 だが。

「ぐ、いた、いたたたたた」

 空になった魔力を急速に生成しようと、魔力炉が胸の中で暴れている。
 焼きごてを差し込まれたような痛みが胸を襲う。

 さらに、魔力を失ってシップの重力制御が乱れ、地面に落ちてしまう。
 痛みに涙があふれそうになる。だがこれは自分で撰んだ拷問だ。耐えて戦線へ戻らなければ。

 試作段階は結局試作段階だった。魔力炉の全てを使い果たさないよう、シップの助けを借りて一時魔力補助パワーアップシステムを応用するのがいいか。

 いくつかの改善案が頭に浮かび上がるが、今は戦いの最中だ。内面へと向けていた意識を外へと向ける。

 地べたから見上げた視界には、動きを止められた巨大兵が映った。

 アルフさんの捕縛魔法に動きを封じられているのだ。
 補助魔法の能力の高さは流石は使い魔と言うべきか。

 動きを止めた巨大兵へ向けて、フェイトさんとなのはさんは大魔法を唱えている。


「サンダースマッシャー!」

「ディバインバスター!」


 二つの砲撃は一つの魔力へと混ざり合い、強力な魔力障壁を貫き装甲へ大穴をあけた。
 あふれる魔力が爆発を起こし、その巨体を四散させた。

 上空からも魔法の音が止む。武装局員さんたちが傀儡兵を一掃したようだ。
 ユーノくんたちが下層へと降りてくる。


 小休止。

 これから私たちは二手に分かれて、それぞれの目的地へと向かう。
 戦力を分散するため、今のうちに準備を整える。


「向こうのエレベーターから、駆動炉へと向かえる」


 戦闘を終えてもなお周囲への警戒を続けるフェイトさんが、私たちへ向かって言った。


 エレベーターは稼動中。
 傀儡兵は周囲の敵へ反応して攻撃を開始するものなので、さすがに戦闘範囲外の施設に損傷は無い。

「ありがとう」

 フェイトさんの声になのはさんが答える。

 フェイトさんに背中を預けるようにして立っていたなのはさんが、フェイトさんへと向き直った。

「フェイトちゃんは、お母さんのところに……?」

「うん」

 彼女の目的、それはプレシア・テスタロッサの元へと向かい、記憶の中の優しい母を取り戻すことだ。

 それを手助けするためにも、私となのはさんは駆動炉を止めてプレシア・テスタロッサの力を削がなければならない。


「私、上手くは言えないけど……」


 レイジングハートを床において、なのはさんはフェイトさんのデバイスを掴む右手を両手で握り締めた。


「頑張って」


 この強く仲の良い二人を何故別々にしなければならないのかとも思うが、フェイトさんがハラオウン執務官や武装局員と共に行く以上、なのはさんは戦力的に駆動炉へと向かわなければならない。

 フェイトさんは空いた左の手で、なのささんの手のひらに触れる。


「ありがとう」


 少女の行為はもう終わったのか、互いに手を離し、背を向けた。


 私は、武装隊の負傷を確認をしている執務官へと声をかける。

「ハラオウン執務官」

 振り返る。爆破の埃にまみれてはいるが、無傷のようだ。

「私はなのはさんとユーノくんの三人で駆動炉へと向かいます。ヤマトさんとフェイトさんのこと、よろしくお願いします」

「ああ、G.T.での動きを見るからに、君たちは余計な人がいないほうが動きやすいだろうからな」

 ハラオウン執務官は頬に付いた汚れをぬぐいながら言葉を続ける。

「だけど……気をつけろよ」

「ええ、ま、お互い無事に帰って一緒にのんびりお茶でも飲みましょうか」

 あの二人と比べたら愛がたりない別れの言葉だが、今はこれでいい。
 帰ったら事件解決のお祝いもかねて、名前で呼んでみよう。海の側に友人を増やすのもたまにはいいだろう。












 エレベーターを降りると、見上げるような広大な空間が広がっていた。

 むき出しになって鍾乳石のように突起となった城の建材がいたるところから生えている。
 広間の中央には、鋼の塔。これが駆動炉であろう。

 床には大小さまざまな太さの管が縦横無尽に走っている。
 ここから庭園全体へ動力を流しているのか。

 広間には、傀儡兵の姿が一体も見えない。

 バイザーを使ってスキャンをかけるが、魔導兵器の反応も機械兵器の影も何も見えない。
 ただ、駆動炉から禍々しい魔力が感じ取れるだけだ。

「なのはさん、駆動炉はジュエルシードと同系のロストロギアだそうです。封印お願いできますか?」

「うん、兵隊もいないから、全力で封印するね」

 なのはさんがレイジングハートを駆動炉へと向けて両手で構える。

『sealing mode』

 レイジングハートが変形する。
 杖の先から桃色の魔力の羽が生える。

 魔法の力を手にして空を飛ぶことを初めて知ったなのはさんを象徴するかのような、小鳥の羽だ。

 なのはさんの足元に魔法陣が広がり、四つの魔力球が生まれる

「行くよ! ディバインシューターフルパワー!」

 レイジングハートを振りかぶり。

「シュート!」

 全力でなぎ払った。
 全力全開の魔力弾が駆動炉へと飛んでいく。

 四連続で空気を裂く音が響いた。

 魔力反応の特に強い一点へと魔力弾が連続で突き刺さる。
 鉄の塔が半ばで折れ、桃色の魔力の光が広間に弾けた。

 私はロストロギアが封印されていく様子をバイザーで見続ける。


「魔力反応……止まりません。いえ、逆に増大しています!」


 禍々しい魔力がさらに強くなり、肌へと突き刺さる。

 いや、何故禍々しいと思ったのか。
 これはそう、ベルカの教会を見たときのような未知の感覚。。
 ただ、その自分とは異質なものに恐れを感じているだけで。


「なのは、駆動炉から何か出てくる!」


 ユーノくんの叫びに、思考に沈みかけていた意識を戻し駆動炉へと視線を向ける。

 炉が内部から融解し、マグマを水に溶かしたように赤く染まった液体が漏れ出ていた。
 それに呼応するかのように、部屋を埋め尽くすように走っていた管が裂け、透明な液体が飛び出す。

 ふたつの液体は透き通った橙色の物体へと変わり、炉の前の一箇所に集まって巨大な傀儡兵ほどの塊となった。


 駆動炉の中枢と思われる、機械に包まれた人間大ほどの赤い石がその中心にある。
 赤い石がきらめくと、流動形の物体が立体的な菱形へと変形した。


 これもまた駆動炉の部品の一部なのか、人の頭を連想させられる歪な楕円形の機械が瓦礫の中から飛び出す。
 それは吸い込まれるように橙色の物体の中へと飲まれていった。


「これは、なんで……」


 ああ、この姿は紛れも無い。
 これは神だ。

 恐れていたのは、神の魔力だったのだ。

 私はただ、何故と呟くことしかできない。

 創生神話G DARIUSで銀の戦闘機の前に立ちはだかったと言う最後の神。

 光の巨人とも輝く天の使者とも呼ばれた、赤い不定形の肉体を持つ神の獣。
 不定形のため絵画に描かれた姿は多岐に渡るが、その全てが巨人の頭と胸に輝く赤い石を持つ。

 ダライアス本星を生んだ生命の起源。聖なる母胎THE EMBRYON
 ただの駆動炉であったこの広間は、いつの間にか生命の風が吹く場所となっていた。

 神獣の菱形の形が崩れる。
 流れるように形を変え、十字架に張り付けにされたような人らしき姿をとる。

「天使……?」

 なのはさんのつぶやきが聞こえる。
 ああ、確かにこれはこの世界の神話に出てくると言う天国の使いにも似ているだろう。

 彼女の世界で流氷の天使と呼ばれる生命である、クリオネというものに最も姿が近い。
 内部から食い破られた駆動炉はさながら天使の爪痕か。

 だが、その赤く透き通った頭部には機械で出来た巨大な頭が埋め込まれており、胸には制御機械に包まれた赤い石が輝いている。

 胸の赤い石からは、聖なる存在とは思えないほどの恐れと嫌悪感を感じさせる魔力があふれ出ている。

 先ほどから、シップからの警告音が鳴り止まない。
 未登録魔力警告ではない。危機該当登録魔力警告。

 間違いない、これは、この赤い石は……。

「なんで……なんでこんなところに居るんですか……石のような物体THE STONE-LIKE!」



――――――
あとがき:存在を匂わせすぎて登場が全然意外ではないストーンライクさん。

SHOOTING TIPS
■光の巨人
不朽の名作STGレイディアントシルバーガンより、サマーソルトをしてくるラスボスXIGA。子供達のヒーロー。
最後は石のような物体に酷使されて苦悶しながら回避困難な弾を放ってきます。元ネタはウルトラマンですが光の巨人と呼びましょう。

■THE EMBRYON
Gダライアスより、Zゾーンのラスボス。青かったり赤かったりしますが、今回はXIGAに合わせて赤。
巨大なクリオネというプリチーな外見ですが、殺すと宇宙が崩壊します。そりゃあねえっすよ創造神様。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第十話Bパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/09/07 09:41

 I am...












――――――
魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
第十話 後編 『生命いのち誕生はじまりを』

原作:レイディアントシルバーガン
参考文献:斑鳩、Gダライアス、魔法少女リリカルなのは
――――――












 神に存在を望まれることなく、自らの住む世界から放逐されたダライアス一族。
 帰る場所を失った私たちを動かすもの。それは、生きる意志を持つ者の意地に他ならない。

 自らの意志が、強固であるほど様々な試練に苛まれるものだ。
 無論、試練を目前に避ける事も出来れば、逃げる事も出来る。
 だが、試練の真意は、そんな己の心を克服することにある。

 新しく移り住んだ世界にも絶対などというものは無く、理不尽な思いを胸にして途方にくれる時もある。
 それを乗り越える為には、確固たる信念と洞察、そして幾分かの行動力を持つ必要がある。

 そして、信念の先に現実はその姿を現す。
 何を求め……、何を見て……、何を聞き……、何を思い……、何をしたのか……。

 やがて過去から脈絡と続く一つの因果は、その意志を元の場所へと回帰させ、記憶の深淵に刻まれた起源の意識を思い起こさせるだろう。

 私の因果とは果たしてどこから始まったものなのだろう。
 この世界に訪れた時か。時空管理局と関わった時か。あの日、石のような物体を発掘した時か。それともダライアスとして作り出された時か。
 だがどれにしても、世界を滅ぼした起源を目前に避ける事も逃げる事も心には浮かばない。

 故に、私は行く。


 敵は赤く輝く神獣。滅びた世界の生命の起源を模した存在、そして石のような物体だ。

 石のような物体は、かつて世界が滅びた際に人口移民衛星グラディウスから飛び立った最後の戦闘機シルバーガンに破壊され、砕け散ったものの一部だろう。
 あるいは、過去に斑鳩と銀鶏が破壊して以来世界崩壊の日に集まらなかった一欠けらなのかもしれない。


 だが、欠片と言えどそこに秘められた魔力は、底が見えない。

 生命の起源の姿をとっているのも、石のような物体ははるか昔にダライアス本星の誕生に関わったと考えることも出来る。
 生命の進化と時空間の操作を可能とするロストロギア。正真正銘の産土神であったのかもしれない。


 神に挑む。
 笑いたくなるような話だ。


 相対するこちらは、たったの三人。

 魔力にあてられて脂汗を浮かべているユーノくんを見る。

「ユーノくんはネズミに変身してなのはさんの肩へ」

「え?」

 腕輪型のデバイスを構えて今にも飛び掛らんとしている姿に待ったをかける。

「やわな捕縛魔法の通用する相手ではありません防御に専念してください」

 駆動炉から飛び出してからずっと乱れていた神獣の魔力が、急速に整っていく。
 城を動かす動力から生命体へ。もはや時間が無い。

 戦いの準備を進める。
 G.T.戦の最後にしたように、斑鳩・銀鶏を複座式に変形させる。

「なのはさん、乗ってください。急いで」

 なのはさんはこちらを振り向いて何のことかと考え込む。
 が、即座にこちらの意図に気付いたのか、胸の前へ飛び込んでくる。

「これより私たちは一機の戦闘機となります。ユーノくんが守りと補助を、なのはさんが砲撃を、私が移動と援護射撃、それに緊急時の魔力供給を担当します」

 G.T.と戦って解ったことだ。

 私が避ければすむような攻撃を彼女達は魔力を消費して防がなければならない。
 私が魔力を溜めて力の解放を行わなければならない攻撃をなのはさんは砲撃魔法として瞬時に撃てる。
 そして、ユーノくんの防壁魔法は最大の守りを誇る。

「なのはさん、ユーノくん。力を貸してください。あの赤い石だけは、どのような手段を持ってしても封印しなければなりません」

 たとえ、この身が朽ち果てようとも、だ。

「うん!」

「もちろんだよ。あれは、駆動炉に関係なくても放っておいていいものじゃない」

 なのはさんの力強い返事。そして、ユーノくんの言葉。
 おそらくユーノくんも石のような物体の存在に気付いているだろう。
 実際に世界を滅ぼしたことのあるロストロギアなど、ジュエルシードよりも危険だ。

 すでに相手はジュエルシードで言うところの暴走体の姿。

 力を削ぎ、撃ち落し、破壊するか封印するしかない。

 ぐるりと。

 神獣はその巨大な姿を横に回転させた。
 裏表の無い赤く透明な身体がうなりをあげ、広間に風を生む。

 斑鳩を駆動させ、こちらは空で迎え撃とう。


 十字の形を保ったまま、神獣は軽やかに回り続ける。回転したままゆるやかに後ろへと動く。
 そして、ぴたりと朽ちた駆動炉の上で止まった。

 来る。

 神獣の頭部にある機械巨人の頭から、魔力弾が飛び出した。反動で神獣がわずかに胸をそらす。
 魔力弾が視界一杯に迫ってくる。
 こちらの進路を塞ぐかのような全方位への分散弾だ。


 ――加圧処理しょりおちモードを起動します。


 回避のために手動で加圧処理を行う。
 今日は何度も使った機能だ。脳の酷使による戦闘への影響を考え、敵の攻撃の密度により加圧速度を調整するよう設定する。

 神獣が身をくねらせて移動を開始する。
 無重力、いや、水中を泳ぐようにして上下左右に回転しながら広間を動き回る。
 移動の最中にも胸の石のような物体から魔力弾を撒き散らしていく。

 私は全身のカメラアイを総動員して、あらゆる方向から飛んでくる魔力弾の隙間を縫って回避ちょんざけしていく。


 なのはさんが縦横無尽に泳ぐ神獣と高速で動く機体に砲撃の狙いを定められずに、誘導魔法弾へと詠唱を切り替える。
 桃色のディバインシューターが神獣の頭部と胸へ向けて飛んでいく。

 無数の魔力弾が空中で交差する。


 加圧処理しょりおちにより狂った速度の中、神獣の胸の石のような物体が強く瞬いた。
 何故かその光から目を離せない。

 加速した意識の世界で、私は優しく語りかけてくるの声を聞く。



 あなたたちを生み出したのはこの私。I gave you lives.

 正しき道を歩めるようにと。So that you make good progress.

 だが、あなたたちは理解できない。But you couldn't understand.



 これは、石のような物体の声だと言うのか。

 優しく心に触れてくるような、安心感を得られる声。
 フェイトさんとプレシア・テスタロッサを狂わせたであろう忌々しい声!

 石のような物体がダライアスの私へ何を求めているかなど知らない。
 お前が私たちの世界を滅ぼしたと言うなら、報いとして私たちがその存在を滅ぼすだけだ。


 なのはさんが砲撃を撃ちやすいように神獣を前方へと捉える位置を保つ。
 もはや上下や重力などと言う概念は無い。四方全てが壁に囲まれた機体と神獣を結ぶ相対空間だ。
 回避しきれない魔力弾が混ざるようになるが、属性吸収フィールドとユーノくんの防壁魔法で無効化される。


 対する神獣は、身体を変形させ、ひし形の立体構造へと変わっていく。
 橙色に染まったその姿は、まるで破壊する前の石のような物体の形を取ろうとしているようだ。


 頭頂部にあった巨人の頭は、位置を石のような物体を守るかのように前方へと。
 その奥で石のような物体が魔力を発する。
 途端、周囲へ錯乱していた瓦礫が神獣の体内へと飲み込まれていく。

 神獣へと飲まれた瓦礫と機械の破片は、瞬時に形を変えて魚の頭のような形に組み替えられる。
 轟音を立てて魚の頭がこちらへ向けて飛んでくる。

 質量の塊を使った物理兵器の突撃だ。
 これの前にはフィールドなど何の役にも立たない。

「ディバインバスター!」

 避けようと機動小型戦闘機シップを急旋回させようとした直前。
 なのはさんが砲撃魔法でそれを打ち砕いた。

 次々と吐き出される瓦礫の魚は、全て桃色の光に飲み込まれる。
 そして、砲撃は威力を失うことなく巨人の頭へと衝突した。

 以前と比べなのはさんの魔法の威力が一気に跳ね上がっている。
 彼女の魔法は祈願型だ。
 心を持つデバイスレイジングハートに明確な意志と心を伝え、深く魔力を込める事でより高度な神秘を作り出す。

 巨人の頭にひびがはいる。

 このまま砲撃を続ければ打ち砕ける。


 そう思った矢先、急に神獣の姿が掻き消えた。


「転移魔法……!」


 緊急回避の短距離転移だ。
 背後から徐々に顕現する石のような物体の魔力。

 再び空間を満たしていく命の魔力に混じって、ノイズが飛んでくる。



 やり直さなければならない。You must do it over again.

 なぜそれが理解できないというのですか?Why can't you see?



 理解できない。理解するつもりも無い。
 たとえ私たちが文明を取り戻し本星へ帰還したとしても、もう元のままとはいかないのだ。

 神獣の正面へと向かう。
 姿は再び生命の起源へと戻っていた。

 なのはさんが魔法を再度唱え終えるまで回避と牽制へ専念しよう。

 神獣が胸から誘導性を持つ虹色の魔力弾を撃ってくる。


 広間を駆け抜け地形を盾にして誘導弾をいなしていく。
 だがいつの間に設置していたのか、捕縛魔法に機体の動きを止められてしまう。

 捕縛魔法は機体全体を囲み、鎖のような魔力の経路が神獣の胸へと繋がっている。
 ユーノくんが中和魔法を展開してくれているおかげで、捕らえられつつも動き続けることは出来る。

 かつてフェイトさんと戦ったときを思い起こさせるような光景。
 だが、捕縛魔法への対策は既に出来ている。


 魔法構造を解析。斑鳩の属性吸収フィールドで陽の魔力を分解、吸収する。
 同じように銀鶏を展開して、陰の魔力を吸収する。
 魔力構造の大半を吸収された捕縛魔法が形状を保ちきれずに霧散した。


 シップが空へと再び解き放たれる。
 お返しだ。今まで吸収した全ての魔力を解放する。

 黒く染まった光の矢が一斉に神獣の胸へと突き刺さり、その身を震わせた。



 目に見えるものを感じなさい。Feel visible matter.

 目に見えぬものを感じなさい。Feel invisible matter.

 命はあらゆるものに宿っています。There is life everywhere.



 また石のような物体の声が聞こえる。
 だがそれよりも次の攻撃だ。

 力の解放の命中により魔力弾が止んだ今がチャンスだ。
 機体を旋回させ、神獣の正面を取った。

 レイジングハートの先に桃色の魔力の光が溜まる。

 しかし。


「カガリ! 向こうもディバインバスターを!」


 巨人の頭に、なのはさんと同質の魔力が集まっている。
 光の色すらも同じ。
 身に受けた魔法を解析されて再現されている。

『Divine buster』

 発動は同時。二つの魔力の奔流が空中でぶつかり合い拮抗している。
 ぶつかり消滅していった魔力の残滓が空間に充満していく。

 威力は同等だ。私が魔力を追加で供給すれば打ち勝てるか。
 だが、決断は相手のほうが速かった。

 胸の石のような物体から、もう一本のディバインバスターの砲撃が撃ち出された。
 新しい魔力の光は、ぶつかりあっていた二つの魔法へさらに衝突。

 なのはさんの魔法が力負けする。

 押し切られる前に回避を選択。
 機械翼アフターバーナーから火を噴かせて大きく回避運動をとる。

 ぎりぎりまで迫っていた桃色の光は、ユーノくんが全力で展開した防壁魔法の前で斜めへと弾かれていった。
 空間を切り裂く膨大な魔力の余波で、飛行がぐらつく。

 無理に機体を立て直さず、きりもみ回転でもするかのようにシップを駆る。

 二人分の悲鳴が聞こえるが、無視だ。
 慣性制御には問題が出ていないので無理な動きの衝撃そのものは伝わっていない。


 こちらの様子に、勝ち誇るかのように神獣が元の駆動炉の残骸の上で停止している。

 私はその姿を睨むようにして見つめた。



 しかし、あなたたちが自ら理解し、共に歩める日が来ることを信じています。But I believe the day when you understand yourself and live together would come.




 ……知ったことか! 私たちが共に歩むのはお前ではない。

 お前の手の届かない、幾多にも存在する異世界の人々とだ。

 あらゆるものに宿る命など、全てに目を向けているほど余裕などないのだ。
 私たちをこうさせてしまったのは、世界を滅ぼしたお前だ、石のような物体!


 神獣の姿が変わる。
 まるで表と裏をひっくり返したように、一瞬で橙色の神獣の透き通った巨体が青白く染まった。
 神獣から感じる魔力の質が急速に洗練されていく。

 即座にバイザーで解析をかける。
 これは……、純粋な陽の魔力エネルギーだ。

「く!」

 こちらの属性吸収フィールドは銀鶏の陰。
 ここに純粋な陽のエネルギーを叩きつけられては、威力を吸収できずに魔力障壁を突き破られてしまう。

 急いで属性吸収フィールドを斑鳩に切り替える。
 それと同時に、神獣の両脇に突き出した翼のような両腕から、白い光の矢が尾を引いて多数撃ち出された。

 ユーノくんがとっさに防壁魔法を使うが、障壁に衝突する前に全てフィールドに吸収された。

 魔力補充が一瞬で最大になったことをシステム音声が知らせてくる。

 これは、この純魔力の放射は……、私の使う“力の解放”と同じものだ。
 ディバインバスターだけではなく、力の解放までも学習されたと言うのか。


 魔力は最大。お返しとばかりにこちらも限界まで吸収した力を解放する。
 光が神獣の身体へと突き刺さっていく。
 だがはたしてどれだけの効果があるのか、神獣は軽く身を震わせただけで、再び元の赤い姿へと戻った。

 いや、違う。戻ったのではない。
 属性が裏返った!

「銀鶏!」

 属性フィールドを急いで反転させる。

 神獣の両腕からまたしても力が解放される。
 陰の純魔力エネルギーの放射だ。

ENERGY MAXエナジーマックス

 その全てを銀鶏の力で受けきる。
 またしても吸収魔力が一瞬で限界まで貯蔵される。

 ひるんではいられない。
 すかさずこちらも力の解放。

 さらに神獣は裏返り、青白い光を放つ。
 こちらも斑鳩に切り替える。

ENERGY MAXエナジーマックス

 即座に力の解放をし、全ての魔力を撃ち返す。

 膨大な魔力の吸収無効化に機体が軋みをあげているのが解る。
 それでも神獣は陰の魔力へと反転している。撃ち合おうというのか。
 戦いを続けなければ。

ENERGY MAXエナジーマックス

 解放、そして反転。
 なのはさんが今度は援護射撃とばかりにディバインシューターで応戦してくれる。

 神獣が矢を放つ。

ENERGY MAXエナジーマックス

 力を解放する。
 巨人の頭部から撃ちだされた魔力弾はユーノくんが防壁で弾いている。

ENERGY MAXエナジーマックス

 解放。
 機体から過負荷の警告音が鳴る。

ENERGY MAXエナジーマックス

ENERGY MAXエナジーマックス

ENERGY MAXエナジーマックス

ENERGY MAXエナジーマックス

 解放解放解放解放。
 機銃の機能が損傷する。
 力の解放は完全な誘導魔法。
 機体が壊れようとも吸収以外に選択肢は無い。

ENERGY MAXエナジーマッ ENERGY MAXエナジーマッ ENERGY MAXエナジーマッ ENERGY MAXエナジーマッ ENERGY MAXエナジーマッ

 吸収し切れなかった魔力が逆流し、機械翼アフターバーナーが背中で爆砕した。
 浮遊機能に損傷有り。

 地へと落ちていく。
 急いでなのはさんを機体から切り離し上空へと飛ばす。

 視界の向こうでは、十数回にも及ぶ力の解放の直撃に制御機械を半壊させ、頭部を砕けさせた神獣が見えた。

 相打ち、か。

 シップと共に墜落する。
 緊急魔力障壁が地面との激突の衝撃を受け止めた。


 機銃半壊。
 浮遊機能全壊。
 魔力障壁半減。
 魔力供給可。
 フィールド展開可。

 ただの一度の撃ち合いでこのざまだ。
 果たして私はあの神獣にこれ以上相対することが出来るのか。
 勝つことができるのか。

「カガリちゃん」

 でも、勝たなければいけない。
 私はもう避ける事も逃げる事も出来ない。

 勝たなければ、勝たなければ、勝たなければ……。

「カガリちゃん!」

 頬に衝撃が走った。
 なのはさん、なのか?

 平手を振り切った体勢で、こちらを真っ直ぐと見ていた。
 なんだ、なんだ私は。我を失って平手を防ぐ程度の魔力障壁すら張っていなかったのか。

「大丈夫、私たちはまだ戦える!」

 振り切った手を、今度はこちらへと差し出した。

「カガリちゃん、まだ戦う意志はある?」

 問いだ。共に戦おうという。

「ええ、機体は壊れましたが、まだ、私は力を出し切ってないませんから」

 即答を返す。

「じゃあ、一緒に戦おう。全力全開で」

 ああ、何と言う焼き直しだろう。
 数時間の違いで、二人の立場はまるで逆。

 だが、やることは同じだ。
 石のような物体をを打ち倒すにはさらなる力が要る。

 魔力炉を回す。クリーンフォースから生まれた魔力は、体内を巡りシップへ、そしてなのはさんの持つレイジングハートへと流れる。

「私の魔力、全て貴女に任せます」

 上空では、動きを止めた私たちにとどめをさすべく、壊れた巨人の頭に桃色の光を集めている。
 制御装置を破壊された石のような物体が心臓のように躍動し、神獣の巨体がその動きにあわせてうねっている。

 まるで、動かなくなった身体を無理やりに動かしているかのようだ。


『Starlight Breaker』


 この魔法が決着となるだろうか。
 場の魔力残滓の量は十分すぎるほどだ。

 レイジングハートから広がる魔法陣に光が集まり収束していく。
 その魔力光は、私の魔力を受けて純粋な青と白に変わっている。

 全ての魔力をレイジングハートへ。

「スターライト……」

 この一撃が全ての因果を断ち切るようにと、強い意志をこめて。

「ブレイカー!」

 青色の光と桃色の光がぶつかり合う。

 二つの魔法は最早拮抗することは無い。

 青白いの光の滝が相手を押しのけ、弾き、霧散させる。
 霧散した光残滓すらもその場で魔力へと還元し、さらなる放射へと変えていく。

 敵の魔法を全て飲み込み、より強大な力となって神獣へと迫る。

 石のような物体からもディバインバスターが砲撃されるが、それすらも押しのけ力として取り込む。

 吸収し、広がり、勢いを増す。

 神獣の巨体すらも覆い隠すほどの膨大な魔力の奔流。
 あまりにも強大な力。レイジングハートが耐え切れず亀裂が走っている。

「いっけええええええええええ!」

 地を揺るがすほどの轟音と共に、光が爆ぜた。
 白に視界が埋め尽くされる。


 バイザーを通した視界の中で、神獣がその身を崩壊させる姿を見た。

 流体形の身体は引き裂かれ、千切れ飛び、光に溶けていく。

 巨人の頭は亀裂から徐々に崩壊し、装甲を撒き散らし、やがて跡形もなく粉砕された。

 石のような物体は光の中躍動を続ける。
 だが、神獣の崩壊と共に宿らせていた魔力をことごとく霧散させていった。


 光が収まる。
 神獣の消えた空中には、魔力を失いただ浮くだけとなった石のような物体があった。

 制御装置を失ったその姿は、いたるところがひび割れた無骨な赤い岩。
 これが全てを狂わせた元凶だ。

 これのためになのはさんはどれだけ平穏を乱されたと言うのだろう。

 これのためにユーノくんさんはどれだけ苦しんだと言うのだろう。

 これのためにフェイトさんはどれだけ悲しんだと言うのだろう。


「封印を、開始します。専用の術式を使うので、なのはさんは離れていてください」

 石のような物体が発掘されて以来、ダライアスの全てを賭けて編み出された封印術式。
 ミッドチルダ式の通常の封印魔法ではその一欠けらの力を抑えきれなかった。
 世界崩壊の悲劇を繰り返さないために、この術式は生み出された。


「本当は私を置いてフェイトさんの元へ、と言いたいところですが」

「行かないよ。カガリちゃんそんなにぼろぼろなのに……」


 言いたいところだが、今の壊れたシップでは封印術式に耐えられるか解らない。
 どうなるか解らない以上、置いていかれるのも困る。
 私自身も満身創痍で封印の後も動けるかどうかだ。

 後は任せて、封印に専念しよう。
 体内のチップを起動する。

 ――封印術式チャージ開始。これより機銃の使用不可。

 封印方式は“力の解放”。チャージ時間は六十秒だ。

 術式の開始と共に、こちらの魔力の動きに反応してか、石のような物体が光を放った。

 最後の魔力を振り絞るかのようにして、魔力の矢を私に向けて撃ってきた。


 シップはもう動かない。


 刺し違えてでも封印しようと覚悟を決めた瞬間、障壁魔法が矢を目の前で弾いた。

「ユーノくん!」

 後ろから、ユーノくんの魔力を感じる。

「僕が守りと補助、だったね。カガリ」

 振り返ることはしない。
 だが、その頼もしい顔が脳裏に浮かんでくる。

 全く、私の友達はどうしてこうも私を助けてくれてばかりなのか。

 ユーノくんの魔法に身をゆだね守りを意識から外す。

 封印術式展開完了。
 魔力炉には異常なし。

 斑鳩・銀鶏から術式の開始を知らせる音声が流れる。


制御装置を解除しますRelease the restrain device

 封印術式を発動できるまで出力を高めるため、シップに搭載されている制御装置が止まる。

 魔力炉の全ての魔力を喰いつくさんとばかりに、斑鳩・銀鶏へと魔力が流れていく。
 胸に軽い軋みを感じた。


しかし、『力の解放』と同時に機体が崩壊する可能性がありますUsing the released power may result the possibility of destruction of the ship


 気にせず術式を解放しようとしたその瞬間だ。


私は、あなたのお役にたてましたか?Was I helpful for you?


 不意にシップから発せられた言葉だった。
 人工知能など搭載していないはずの機体から私へと投げかけられた問い。


 ああ、そうか。私は一人で空を飛んでいたわけじゃないんだ。

 いつでも私は戦闘機と共にあったのだ。


 ごめんなさい。こんなにぼろぼろにしてしまって。
 そしてありがとう、斑鳩・銀鶏。最後まで頑張ってくれて。



……ありがとう...I am deeply grateful to you



 両肩から白と黒の無数の矢が放出される。


 全ての術式を展開し終えると同時に機体は崩壊した。






[3691] 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING -第十一話- 【Epilogue】
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/10/22 06:19

 それ故に……悔いの残らぬよう、やり遂げなさい。

 我、生きずして死すこと無し。理想の器、満つらざるとも屈せず。

 これ、後悔とともに死すこと無し……

 わかっていたはずだった……私達は、自由を見られるかしら?



 大丈夫……何時かきっと、分かり合える日が来る。

















 声が、聞こえた……。

「カガリ……」

 優しい、二人の男女の声が……。

「カガリちゃん!」

「あ……」

 霞んでいた視界が徐々に晴れていく。

 眩しい。
 額からバイザーが外れていた。

「良かった、気が付いた」

 目の前に、ユーノくんがいた。
 服を血で真っ赤に染めている。

 誰の血?
 服に破れは見られないから本人のものではない。

 これは……私の血か。

「今麻酔魔法をかけているから。じきにアースラから転送がかかるからそれまで我慢して」

 言いながら、治療魔法をかけ続けてくれる。

 麻酔で身体の感覚がなくまともに動くことも出来ない。
 怪我を確かめるために体内スキャンをかける。

 肩のコネクタ全壊、背面コネクタ全壊、両腕は裂傷と火傷と骨折。
 シップが自壊した反動で魔力の逆流が起きたのだろう。
 破裂した金属片が突き刺さった様子も見られる。
 全身に至るところに傷があるが、パイロットスーツの強度のおかげで重体だけはまぬがれたということか。

 シップは既に身体から離れている。
 封印術式を執行した斑鳩・銀鶏だけではなくブラックハートも一緒に壊れてしまったようだ。

 任務続行不可能の有様。だが、確かに石のような物体は封印しきった。

「肝心のフェイトさんたちのほうはどうなったんでしょう?」

「うん、フェイトちゃんのお母さんは、駆動炉が止まったおかげで捕まえられたって」

「ジュエルシードの回収も終わったよ」

 任務終了、か。

 武装局員役の出る幕はここまでだ。
 後は真相の解明など執務官たちが進めてくれるだろう。

 またしばらくは医務室の上か。

「……このあと、どうなるんでしょうね、フェイトさん」

 それだけが残った懸念だった。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり SHOOTING
テスト内容:完結作の練習
原作:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
ジャンル:×STG的バッドエンド ○転生憑依的ご都合主義ハッピーエンド
――――――












「ま、そういうわけで結末だけ最後に持ってきて、地上の人たちには一族の祈願を全うしたと伝えてほしーわけですよ」

 満員御礼の医務室から割りと無事ということで個室へと追いやられ、私は一人での療養の日々を過ごすことになった。
 強化人類ということで確かに他の人よりは丈夫で怪我の治りも早いので、この待遇には文句は無い。

 今私は、ようやく動くようになった腕を使って地上本部への通信を行っていた。

 通信先は地上本部での実質的な一番のお偉いさん、レジアスおじさんだ。階級は少将。
 第二種監視指定共通人類種などという厄介な存在を魔導師として受け入れてくれた。
 的確な魔道師運用で私に相応しい戦場を用意してくれた、恩人だ。

 将来のダライアス一族からの戦力補充を見越して、マイナーな世界の魔法兵器の採用などという偏見なしに英断に踏み切る革新派。

 見た目は怖いが、話してみると素敵なおじさんだ。心に一本硬い芯が通った強い信念が言葉の端から感じられる。
 何かと意見が辛口なのもちょっとした愛嬌だ。

 ラジカルなこの人がいなかったら今頃首都クラナガンの治安はどうなっていただろうか。

「そういうことならば問題は無い。別に海の連中の所へ移籍するつもりなどないんだろう」

「率先して艦に閉じ込められて辺境に流される趣味なんて、私は持ち合わせていませんから」

 アースラの人たちには言えない愚痴や本音をこの人の前なら遠慮無しに言える。
 強面のおじさんだが、娘さんも居り子供の扱いも心得ている人だ。

 あ、この通信、艦の人たちに見られていませんよね?

「ロストロギアに洗脳されていた人たちの処遇はまだ解りませんけど、報告書の通り高い魔力資質を持つクローン体が多数保護されました。上手くミッドチルダでの養育に誘導すれば、将来の地上本部の増強に役立つのではないでしょうか」

「ふむ、安易に人道に流されずに使い道を考えるか。君達らしい良い意見だ」

 プレシア・テスタロッサの捕縛後問題になったのは、石のような物体と言う第一級の危険物の護送手段と、三桁に達するアリシア・テスタロッサの無人格クローンの処遇であった。
 アースラにその全てを収容しきれる余裕もなく、管理外世界に顕現した時の庭園を無視して本局へと舞い戻るわけにも行かない。

 結局、アースラと同規模の次元空間航行艦船が追加で二艦やってくる事態となった。いや、そもそも世界丸ごと一つ消し飛ぶようなロストロギアに戦艦一隻だった今までがおかしいのだが。

 管理法では、人格が無くても人のクローンは人だ。
 幸い、アリシア・クローンはまだ幼いため、簡易な人格をインストールして人として教育しなおすことが出来る。

 だが、クローンであると言う偏見はずっとついてまわるだろう。
 ならば、保護先の管理局で局員として雇い入れるのが自然な流れとなる。

 魔導資質を持ちながら世界の常識で放逐された魔導師の卵が、時空管理局に保護されて一流の魔導師局員になると言うのは良く聞くサクセスストーリーだ。


「プレシア・テスタロッサとフェイトさんに関しては海の人たちの注目が強いですから、司法取引で持っていかれそうな感じです」


 プレシア・テスタロッサは現在、フェイトさんを捕縛したときと同じ手順での治療中だ。
 彼女を狂わせたのは石のような物体による洗脳でほぼ間違いが無いようだ。

 単独暴走したロストロギアの被害者のため、ジュエルシードを狙った罪は軽いか無罪だろう。
 むしろ大量のアリシア・クローンを生み出したことへの追求がいきそうだが、石のような物体の支配がその時期まで及んでいるかは今のところ不明だ。


 フェイトさんに関しては犯罪行為が幾分か自分の意思によるところがある。
 が、母親に言われてやったことと石のような物体に少なからずとも操られていた事実があるので、こちらも重い罪になることはない。
 ハラオウン提督は裁判に首を突っ込む気が満々であったようだし、彼女達の今後は優秀な魔道師を集める海が保障してくれるだろう。


 なお、アリシア・テスタロッサの遺体は未だ保管されているが、プレシア・テスタロッサの回復を待って埋葬されることになるとのこと。
 遺体の保管状況から蘇らせでもしたかったのだろうと推測されているが、精神治療の経過で失ったという事実も受け入れてもらうことになる。

 彼女の今の娘は、フェイトさんと三桁に及ぶアリシア・クローン達なのだ。


 人格をはっきりと持っているフェイトさんには保護者が必要となる。
 プレシア・テスタロッサの治療は長期に渡るだろうと診察されているため、ハラオウン提督が保護者として手を上げている。


 クロノさんは、「妹になる、ってことなのかな」などと気恥ずかしそうに言っていた。
 クロノさんの父親は時空管理局の任務でずいぶんと昔に亡くなっていたらしく、弟や妹というものに憧れていたのかもしれない。

 友人になった君達と違って家族になる自分はちょっと荷が重いよ、なんてにやけた顔で言われてもへーそうですかとしか返せない。
 やれやれ、時空管理局は若い魔道師を正しく導いていくものではないんですか、執務官さん。

「まあ、まだちょっとそちらへは帰れそうに無いですね。帰っても怪我で戦線には出れないでしょうし」

「待っているぞ。こちらではまた中解同が動きを見せている。海の仕事ほど柔じゃないから気を引き締めておけ」

 帰ったら挨拶回りもしないといけないな。












 自室治療を続けていたある日、ハラオウン提督からお茶に誘われた。

 捜査で忙しいであろうこの状況下での誘い、本気での休憩なのか何か意図があってのことかは解らない。
 まあ石のような物体の進展については聞いておきたいところだ。

 食堂へと案内される。幾人か非番の局員さんが食事を取っているが、それらとは離れた席へと連れられる。
 そこには、なのはさんとユーノくん、エイミィ執務官補佐がいた。

 派遣組とお偉方組の組み合わせ。クロノさんとヤマトさんが居ないが、そうお偉いさんが何人も同時に抜けられるほどの状況ではない。
 戻ったらお茶を飲もうと言ったクロノさんともまだ二回しか会っていない。

 アルフさんと治療の終わったフェイトさんは、本局へと送られるまでの間は護送室から出られないので、当然この場にはいない。

 いや、というかなのはさんとユーノくんは海鳴の高町家へと帰っていったはずじゃなかったのか。
 お茶だからといってわざわざ呼んだのか。


 椅子を引いてユーノくんの隣へと座る。
 テーブルの上には焼きたての美味しそうなパイが乗っている。

 ハラオウン提督の持ってきてくれたお茶をすすってパイを一切れいただく。
 むちむちポークのジューシーなミートパイだった。

 甘い果実のパイが好きなのだが、まあ横のクッキーで我慢しよう。
 腕をまともに動かせるようになるまでは栄養剤以外ほとんど食事を取っていなかったので、甘いお菓子に飢えている。

「駆動炉のロストロギア、石のような物体だったかしら」

 茶飲みの話題として今回の事件を振り返っていたときに、ふとハラオウン提督が話を切り出してきてくれた。

 このような場所での話と言うことと、なのはさんやユーノくんも同席していることからして、さほど機密に関わるような話では無いだろうが。

「あれの出所が解ったの」

 ダライアス本星と時空管理局の厳重保管場所にしか存在しないはずのロストロギア。
 何故あのような場所にあったのかはずっと疑問であった。

「出所は、半年前に検挙されたロストロギアの密漁団。そこの偽装企業との取引の記録が時の庭園に残っていたわ」

 スクライア一族が石のような物体を発掘し重要監視世界として扱われる以前のダライアス。滅びた世界のロストロギアを探しに訪れた密漁団は、魔法文明出身の組織であるがゆえに高度な機械には目もくれず、強大な魔力を放つ石のような物体を拾った

 その後、正式な発掘により時空管理局により第一級指定を受けて自分達で扱い切れない危険な代物と解り、プレシア・テスタロッサへと売り払ったということだ。
 今回の事件は、あの日ヤマトさんが石のような物体を見つけたことの延長線上にあったということか。

 私とユーノくん、そしてヤマトさんの三人がこの事件に関わったのも、必然であったように感じてしまう。


「人造魔導師計画になんて関わるほど子供に拘り続けていた心の隙間を、あのロストロギアに狙われたのね……」


 石のような物体が自らの意思を持つ厄介な代物だということは、ハラオウン提督も知っているのだろう。
 凶悪犯について話すかのように苦々しい声で言っている。


「そうそう、人造魔導師計画なんだけどさ」


 一人でミートパイをハイペースで消費していたエイミィ執務官補佐が、お腹をさすりながら話題を変えてきた。


「カガリちゃんは知っているかな? どうもジェイル・スカリエッティが関わっていたみたいなんだよね。ほら、あの去年話題になった戦闘機人の」

「知ってますよ。違法戦闘機人事件は地上本部の苦い思い出ですからね」


 一年前のことだ。

 戦闘機人、要するに機械と人体を融合させて作り出した強化人間を隠れて作成していた犯罪者組織に、時空管理局の捜査の手が入った。
 ミッドチルダで大規模な戦闘が起き、私も駆り出されたのだが、結局首謀者を取り逃し、作り出されたであろう戦闘機人は一人も捕らえることができなかった。

 その首謀者の一人が、生体科学者であり幾多のバイオハザードテロを繰り広げてきた指名手配犯、ジェイル・スカリエッティだ。


「フェイトちゃんの誕生にも、スカリエッティが関わっていたみたいなの。もしかすると、あのたくさんの女の子たちもそうかもしれない」

 かのマッドサイエンティストならば、確かに同じ素材のクローンを百体超作り出すなんて狂った行為、軽々とやってのけそうだ。


「フェイトちゃんが生まれる前に、クロノスっていうすっごい人造魔道師を作って、それでスカリエッティが本気で関わるようになったってさ」

 運命フェイト時間クロノスか。
 詩的な命名センスだ。
 この名前だと、本当に死者蘇生のための計画だったのかもしれない。

「以前と比べてずいぶん詳細な情報が出てますね。時の庭園からの情報ですか?」

「え、うーん、一部はそうなんだけどねー」

 何かを言いよどむように、私から目をそらすエイミィ執務官補佐。

「ま、いつかカガリちゃんも教えてもらえるよ。頑張って」

 何が頑張ってなのか。それを追求する前に話が変わり、なのはさんとユーノくんの今後についてなどの話題へ移っていった。












 なのはさんとの別れのときが来た。


 アースラは時の庭園の移動と捜査を後任の部隊へと任せ、石のような物体とテスタロッサ一家を連れて本局へと帰艦することとなった。
 私はアースラに乗って本局まで行き、石のような物体の封印を見届けてからダライアスの自治区へと報告に戻る予定だ。

 なのはさんがこの世界に留まる限り、監視指定生命体の私はこれが一生の別れとなるだろう。


 最後、ということでハラオウン提督の便宜でフェイトさんと一緒になのはさんとの別れの場を用意してもらえることになった。


 いつだったかフェイトさんがなのはさんと戦った臨海公園へと降り立つ。
 そこには、なのはさん、そしてすずかさんとアリサさんの姿があった。

 ああ、そうか。もう会えなくなるのはなのはさんだけではないんだ。
 すずかさんとも、アリサさんとも会えなくなる。
 ファリンさんとも、ノエルさんとも、忍さんとも、恭也さんとも、美由希さんとも、士郎さんとも、桃子さんとも。

 この世界に住む皆にもう会えなくなってしまうのか。


「……何よ、もう会えないって! 電話も繋がらないって、もう、何なのよ!」

 何を間違ってしまったのか、アリサさんを怒らせてしまった。
 もう日本へと来ることは無いと言ったのが悪かったのか、それとも連絡すら取れなくなると言ったのが悪かったのか、それとも私のことは忘れてもかまわないと言ったのが悪かったのか、それとも……。

「ごめんなさい……」

 解らないままにうな垂れてしまった。
 ああ、最後だと言うのに何故私は謝ってなどいるんだろう。

 情けなさに拳を強く握ってしまう。
 そこに、すずかさんが手に触れ優しく握ってきた。

「忘れて、なんてもう言わないでね。忘れるためにここに来たんじゃないんだから」

 私は、馬鹿だ。

 本当に忘れて欲しかったのなら、こんなとこに来ないで言葉も残さず消えていただろう。
 私は結局皆が好きで、忘れない思い出を残そうと別れの挨拶に来たんだ。

 人との距離の取り方をまだ全然理解し切れていない子供なんだ、私は。

「ん」

 涙目で怒りを振りまいていたアリサさんが、眉を寄せたまま手のひらほどの大きさの包みを突き出してきた。

「ん!」

 受け取れ、ということなのだろうか。
 すずかさんの手を退けて、両手でそれを受け取った。

「なのはちゃんと一緒に、三人で選んだの。この国の曲のオルゴール」

「……ありがとうございます」

 ああ、忘れてなんて言われても絶対に忘れなくなった。

 私からも、大切なものを送ろう。
 ポケットに忍ばせていたものを手に取る。

 私の、戦友の一部。
 白と黒の輝石。斑鳩と銀鶏の砕けた中枢の欠片。
 その中から、綺麗な形に砕けた石を選ぶ。

「私の一族みんなの意志のこもった、その、大切な石です。あの……」

 二人に石を渡し、言葉を伝える。

「私のこと、忘れないで、ください」

「忘れないわ」

「勿論よ」

 返事を聞いてから少し気恥ずかしくなる。
 二人の顔を見ていられずに、目を逸らした。

 海が見える。
 海と公園を隔てる柵の前には、なのはさんとフェイトさんが見詰め合っていた。

「……あの子、ずっとなのはが気にしていた子ね」

「なのはちゃん、紹介してくれるって言ったのにいきなりお別れだなんて……」

 アリサさんとすずかさんの二人も、その様子を見つめる。

 すずかさんたちへ目配せしてから、私は四角い包みを胸に抱いてフェイトさんたちの元へ向かう。
 後ろから二人もついてきた。

 なのはさんとフェイトさんの会話が聞こえてくる。

「だから教えて欲しいんだ、どうしたら友達になれるのか……」

 フェイトさんの小さなつぶやきだ。

 なんだ、私たちは友達との別れを言いに来たのに、友達になる方法が解らない、だなんて。

 なのはさんは言葉をつむぐ前にこちらの存在に気付き振り向いた。
 代わりに、その答えを言おうか。

「それなら、私たちはずっと前から友達ですよ。ね、なのはさん?」

「うん。友達になるには、お互いを名前で呼べば良いんだよ」

 にっこりと、日の光のような笑顔でなのはさんが言った。

「だから、私たちは友達だよ。これからも、ね?」

 これからも、か。


 同い年の女の子たち。私の友達。
 アリサさん、すずかさん、なのはさん、フェイトさん、。

 別れてからもずっと、友達でいられる。
 忘れないようにと、皆の顔を改めて見つめ直した。












 三人との別れを終え、アースラの転送室で私は一人ぼんやりとしていた。

「なんだ、カガリちゃん、泣いているのか」

 様子を見に来てたヤマトさんが、心配そうに見てくる。
 いや、彼のことだから本当に心配してくれているのだろう。

「私だって、泣き、ますよ。おかしい、ですか?」

「卒業のときも一人平然としてたしね」

「だって、もう、二度と会えないんですよ。せっかくできた、友達なのに」

「はは、大丈夫だよ。うん、きっと会えるよ」

 笑いながら私の頭を撫でてくる。
 不快だが、何となく手を振り払わないでおく。

 胸に抱えた包みから、中の箱を取り出す。
 透明なガラスに包まれた、小さなオルゴール。

 ぜんまい式の原始的な機械楽器だ。
 木で出来た台座の小さなつまみを回す。
 中でドラムが回りだし、金属板が弾かれて高く澄んだ音を響かせる。

 短い音楽が繰り返し繰り返し流れていく。
 優しくて、そして少し悲しいメロディ。

 オルゴールの音に混じって、優しい二人の男女の声を聞いた気がした。


















 そして、遠い未来へ……命は受け継がれたから。



――――――
あとがき:EDテーマとして未来完了from7あたりを聞くと作品の雰囲気が一気に変わるかもしれません。




幼児時代及びアニメ一期再構成の『遺失技術編』はこれで完結となります。
A's時系列の『企業抗争編』はプロローグと全体の構想しか出来ておらずプロットは書いてすらいないので、予定は未定です。

あ、人造魔導師クロノスさんは要するにアレな過去をちょっと書いてみただけで、後々へのバレバレな伏線というわけではありません。
バッドエンドを期待していた方には悪いですが、全ては憑依転生者のご都合主義の名の元に残念がってください。
STG好きの読者の皆さん、こんな実験作に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
STGを知らない読者の皆さん、わけのわからないSSで本当にごめんなさい。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第一話-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/09/19 04:01

 在りし時

 未だ企業と企業が争っていた
 混沌の世

 空から訪れる
 異形の戦斗機は
 こう呼ばれ恐れられていた


 アインハンダー










 ――指揮衛星HYPERIONヨリ入電


 次ノ作戦を命ズ












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第一話『撃って、奪って、ぶち壊せ!』

原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












「管理局からの独立というのもありかなー、と思うわけですよ」


 時空管理局地上本部のお偉様方の私的な忘年会。

 地方世界出身の私が地上本部のミッドチルダ方面所属嘱託魔導師になって二年と半年。
 戦場への出動だけでなくダライアス一族としての代表として幹部陣へのパイプ造りを繰り返した結果、外の人間ながらもこの場に御呼ばれされたわけだ。

 この前は次元航行部隊、いわゆる海の人達の大事件の解決に関わってしまったため、こういった場での地上の人への挨拶回りと言い訳は欠かせない。

 次元航行部隊とその母体である時空管理局本局は、地上本部とすこぶる仲が悪い。
 第97管理外世界の任務完了から半年、地上本部へ戻らず一族の自治区でずっと魔動機械の修復・開発に時間を費やしてしまった分、地上本部の皆様方へのフォローは嘱託を続ける以上急務である。

 ミッド方面限定の幹部訪問とは言っても一つの世界というものは広大で、偉い人達は普段各地に散らばっている。
 忘年会などいう場で集まってくれて、そこに出席できるというのは幸運だった。
 しかも公的な場ではないので、弱点であるはずの幼さはむしろ武器として使える。


 そんな中で一通りお酌をして尻尾を振った後のこと、私は海を嫌っているヒゲのおじ様とお酒を交えながら海のあり方のいびつさなどについて語っていた。


「局は管理世界からの税金がかなりの額にのぼっているはずですけど、人もお金も技術も本局にとられてばかり。それなら逆転の発想として地上部隊を海から切り離して各世界専属の警察機関としてしまっても、一般市民には受け入れられると思うんですよねー」


 地上部隊というのは、各管理世界に駐屯し、時空犯罪や魔導師事件の解決を行う時空管理局の一大部門である。
 警察としての側面だけではなく魔導師という兵力を抱えた軍隊でもあり、魔法科学技術を使っての災害救助や異質生命体の排除なども行っている。通称は陸。

 ここミッドチルダ首都クラナガンにある地上本部はミッドチルダ方面の地上部隊支部であり、また全ての管理世界の地上部隊支部を束ねる統括本部でもある。


「そう簡単に言うがな……」


 米酒と一緒にタコワサビを食べながらヒゲの偉い人、レジアスおじさんが渋い顔をして言ってくる。
 クラナガン近辺の湾岸部ではこの軟体生物を食べる文化があるらしい。はははクレイジー。

 でもツナサシミとかいうものは食べてみたいです。


「まあ、出身こそ違いますけど、管理局に税金取られているミッド在住の一市民の意見として思ってください。税金払うお金は管理局から貰ってますけど」


 過去に滅びた我が一族の文明復興のために、私は魔動機械の復刻のお仕事もやっている。
 が、わずか人口八千五百人の弱小部族が九歳の若造に支給する資金などたいしたものではない。
 
 物価の高いクラナガンで快適に暮らせているのは管理局からのお給料のおかげであったりする。
 油断すると高級菓子店巡りなどで簡単に吹っ飛んでしまうけれど、そこはまあ、お金の使い方を覚える社会勉強ということで。

「独立など本局の連中が黙ってはいまい。君ならどう攻める?」

「魔導師は階級に拘らないーとか言いつつ、局の組織編制は海も陸も空もトップダウンの縦割り構造ですからねー。上から狙うか、いっそのこと企業体に資金提供を受けて地上部隊の独断で勝手に独立してしまうのもありです」

 勿論、理論なんてあったものではない酒の席の与太話だ。
 酔った勢いの戯言というよりは、話を繋げるジョークの一種だが。

 私の身体は任意にアルコールを分解できるので、酔った勢いの失言がない程度にほろ酔い状態になっている。
 耐毒性能の高い肉体なのにアルコールだけ任意分解とか、私のご先祖様は何を考えているのだろう。


「ふん、妄想の域を出んな」

「妄想ですからねぇ。ま、現実的なのは地上部隊単独でのイメージアップ戦略を図って、入局者全員、出身世界の地上部隊希望になるよう誘導するとかでしょうか」


 横目でちらりと、酒盛りを続ける幹部陣を見る。
 ミッドチルダ方面の担当者達だが、出身世界は皆ばらばらのはずだ。異次元に浮かぶ本局施設生まれも居ると聞いた。

「ここにいるおじさん達と違って、知らない世界の平和なんて本心じゃ大して真剣に考えてませんよ一般局員なんて」

 私がそうだ。私が地上部隊にいるのは、利害が一致したのとミッドの地上本部の人達のあり方が好きだからだ。
 別に命を懸けてミッドを守りたいとかいう正義感でやっているわけではない。

「イメージアップか。今なら話題のアインハンダーをこちらに引き込めれば簡単なんだがな」

「アインハンダー? アイドルか何かかですか?」

「ああ、まだ知らないか。君がいない間に中解同との戦いに介入してきた所属不明の介入者だ。報道でも騒がれたから見ておくといい」

 そういえば今年の四月から八ヶ月もの間、ろくにニュースも見ていない。
 アースラに居る間は何をしていたんだったか。
 あ、お菓子食べてお茶飲んで本読んで機体いじって遊んでいたのか。


「それより君が入局して記者どもに媚びを振りまけばいい。くくく、魔動少女だったか」

「あはは、そこは復興局じむしょを通してもらいませんとー」


 入局云々は勿論冗談だろう。
 専属武装局員並みの仕事をしつつ局員ではないという今の立場は、人事の強権で私を海の人たちに連れ去られないための裏技だ。

 私は、第6管理世界と今住むクラナガン以外の平和には興味が無い。

 身内が一番というのは閉鎖部族なら持っていて当然の資質みたいなものだ。
 身内の次に大事な親友であるユーノくんは放浪民族だし、なのはさんたちはそもそも時空管理局でも原則干渉禁止の非魔法文明だ。
 
 海の人たちの恩恵なんてそうそう受けないだろう。

 そんなことをこのときは思っていた。












 結局飲み会は、イメージアップ戦略について全員で生討論などという馬鹿馬鹿しい騒ぎが朝まで続いた。

 巫女服だの魔女服だの肩に猫を乗せるだのして着飾って空を飛べなど、親父臭いのか馬鹿なのか良く解らないネタを振られて困惑させられた。
 お酒の勢いというのは恐ろしい。

『住所不定無職の二人組の男達が』

 ところどころで時勢のネタについていけなかった私は、帰るなり映像配信のアーカイブニュースを流し、電子新聞の一面を順に読み流していた。

『悪質な国家反逆罪として』

 首都方面のニュースは、四月の頃以上に企業テロの記事が目立つ。
 中小企業解放戦線、通称「中解同」、「中企戦」を中心とした反ミッドチルダ企業群によるミッド中央商業主義に対する武力攻撃。
 大企業の横暴を粛正するという名分の元、大企業の役員・幹部の誘拐事件、市街地を含めた本社ビル爆撃事件など、内容は過激の一言である。
 さらに逮捕された工作員は過去が徹底的に隠蔽されており、追った先が既に倒産していたりダミー企業であったりと、中々その尻尾を掴ませない。

『拷問や虐殺など持ち歩いていたナイフで』

 大手企業側はそれに対し地上部隊へ武力強化を要求していたり、私設の護衛隊を編成したりしている。
 それよりも気になるのは、レジアスおじさんの言っていたあれだ。

 ……あった、これだ。




或門新聞 ARCADIA】

 北部で大規模テロ

 「中企戦」巨大戦車を破壊する謎の戦闘機

 第三勢力の影




 中解同の魔法機械群と巨大格闘戦車を管理局の航空魔導師隊が到着する前に、たった一機で殲滅したという小型の戦闘機。
 翌日の新聞ではその写真も掲載されていた。

 装甲に包まれた後部へ飛び出す二つのアフターバーナー。左から突き出た巨大なアーム。
 そして、それらを装着したスーツに包まれた人影。そう、人だ。

 戦闘機と言ってもこれは小型の飛行機のことではない。これは、ダライアス一族で言うところの装着型装甲機械、機動小型戦闘機だ。

 かつてミッドの空を飛びまわった私に酷似したその機影に新聞は、「新たな魔動少女か!」などとあおり文を載せている。

 名前も解らぬこの戦闘機は、翌日以降の紙面でこう呼ばれていた。
 アインハンダーと。


 なるほど、レジアスおじさんがイメージアップの対象として引き合いに出すわけだ。
 颯爽と現れてテログループを一掃する英雄として報道では扱われている。

 地上本部的には無断飛行と危険魔法使用でしょっ引きたいけど、想定外の戦力にどう扱って良いか困ってしまうとかそういう感じだろうか。

 使われている技術じゃダライアスの技術が流用されているのか、それともこちらの魔法科学で同じ領域まで辿り着いたのか。
 管理局の技術部門にでも確認したいところだが、残念ながらこれからまた第6管理外世界に逆戻りだ。

 スクライア一族との合同でダライアス一族の過去にまつわる博覧会をミッドチルダで開くことになり、その手伝いで呼ばれている。
 バイド戦役の歴史資料と、バイドと戦った全てのR戦闘機のミニチュアを使った博覧会だ。
 私は機動小型戦闘機として復刻させた展示用機体の監修に一週間詰めなければならない。

 もちろんそれが終わったあとはまたミッドチルダへUターンだ。

 手続きが面倒なはずの監視指定共通人類種の所在地移動申請も、私に限ってすんなり進むようになってしまった。
 うーん、業務割り当てが極端すぎと喪失文明復興局に言っておいたほうが良いのかどうか。

『ニュースをお伝えしました』












 第6管理世界の辺境、交通機関も全く発達していない緑に満ちた草原を進む。
 移動手段は足首につけた魔動機械の重力制御による低空飛行だ。
 ミッドチルダのように飛行するのにもいちいち許可が必要ないため、自然を感じながら自由に飛ぶことができる。

 手荷物は片手に持てる小さな鞄だけ。
 自治区に戻れば先日まで過ごした宿舎に生活用品は全て揃っているので、手持ちの着替えは一回分。
 他はお菓子とかお土産とかお菓子とかが入っている。

「お前、魔導師だな?」

 と、急に呼び止められた。

「はい? 何でしょう」

 声の聞こえた方を向く。

 草原の真ん中に背の高い女性が背筋を伸ばして立っていた。

 紫色の服に白いコートを羽織り、桃色の髪を後ろに縛った若い女性。手には剣。
 え? 剣?

「お前に恨みは無いが……」

 言いつつ女性は剣を真横に構えた。
 途端に膨れ上がる魔力。……高位魔導師だ!

 反射的に足首の飛行機械をフルブースト。上空へと逃れる。
 閃光が走った。

 女性が先ほどまで私が浮遊していた場所を恐ろしい速さで一閃していた。
 魔力をまとった剣撃。間違いない、あの剣は魔法の攻撃用デバイスだ。
 襲撃者。なぜこんなところに、なぜ私を?
 反時空管理局主義者か、ダライアスの体を狙った密猟者か、魔導師に恨みを持つ無差別復讐者か。

 どちらにしろ、逃げなければ。
 飛行機械に魔力を流す。魔力は強大だが、飛行魔法は高度な技術を要する魔法だ。空を行けば逃げられる。
 手のひらに埋め込んであるチップを起動させる。
 訓練弾を射出する護身用チップだ。

 長高度跳躍で追いつかれないよう牽制として訓練弾を射出する。
 訓練弾といえど、機銃の扱いになれた私が使えば機関銃のように止まることの無い連続弾が撃てる。

 殺傷能力を持たない魔力の塊が女性へと殺到する。

「ふん、こんなものか」

 女性が軽く手を振ると、防盾魔法で全ての弾が弾かれてしまう。
 だが、これでいい。高度は稼げた。
 このまま自治区まで飛んで兵装を……。

「翔けよ、隼!」

 後方で魔力の収束。狙撃された!
 視界を援護するカメラアイは無い。直感で横へ避ける。
 轟音をあげ風を切り裂きながら真横を通り抜けていく魔法の矢。
 飛行機械に戦闘用魔力障壁などという守りは無く、強大な魔力が通過した衝撃で重力制御が乱れ墜落してしまう。

 剣状のデバイスから見て近代ベルカ式の近接型と思い込み油断した。
 相手は遠距離攻撃も可能な高位魔導師だ。こんな貧弱な武装でこの強大な魔力にどうすればいいというのか。

 地を走る音が聞こえる。相手はもう、すぐそばまで迫っている。
 急いで飛ばないと。重力制御を取り戻し宙に浮く。
 次は撃ち落されないよう背を向けずに飛んで逃げよう。

 だが、一度落とした獲物を逃がすほど相手は甘くは無かった。

 跳躍とともに足を切りつけられた。バランスが大きく崩れる。
 その一瞬の停滞で足首を掴まれ、宙から地面へと叩きつけられた。

「かはっ」

 背中を強く打ち、肺の中の空気を全て吐き出してしまう。
 息を吸おうとあごを上げ空を仰ぐと、靴の底で私の体を地面に押さえつけて見下ろしてくる女性の姿が見えた。
 つり目気味のその表情からは何の感情も読み取れない。

「リンカーコア、頂いていくぞ」

「そんな、もの、ありません……」

「ふん、空を飛んで魔法を飛ばして何を言うか」

 なんだ、一体何なんだ。リンカーコアを奪う?
 猟奇殺人鬼、なの?

 殺される。

 嫌だ、死にたくない。
 こんなところで死にたくない。
 部族へ何も残さない死など、本当の死ではない。
 そんなのは嫌、嫌、嫌、やめて!

「助け……」

「おとなしくしていろ」

 馬乗りになり、喉元を掴まれて叫ぶことすら止められる。

「すぐにすむ」

 空いた手を胸へと突き入れられる。
 抵抗も無く胸の中へ突き刺さった腕。

 身体の中から何かを引きずり出されるような感覚が――。
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 痛い。
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

「む、なんだこれは。リンカーコアではない……?」

 ……胸が痛い。
 手足が痛い。
 喉が痛い。
 頭が割れるように痛い。
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいああああああああああ!

 なんで! なんで! なんで!

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 こんなの、助けて、誰か、誰か、誰か!








 ――危機状況における操作者の正常意思喪失を確認。自動防衛チップ起動します。
 対近接緊急攻撃機能を選択します。操作者は魔力炉酷使の衝撃に備えてください。

点火ボンバー



――――――
あとがき:プロローグなので日常をだらだらと。書きたくなったので魔動少女続けてます。
本編はガチで戦えるなのはさん視点なので有耶無耶にされていますが、守護騎士は通り魔です。通り魔、絶対ダメ。
更新速度は前ほど速くはありません。


用語解説
■A.C.E.
Another Company Episode
-ATTACK CODE "EINHANDER"-

■住所不定無職の二人組の男達が
「兄貴と私」は超兄貴のゲーム中に使用された曲ではなく、サントラ用に新規に収録されたオリジナル曲です。


SHOOTING TIPS
■アインハンダー
スクウェアが唐突にリリースした横スクロールSTG。プレステ時代のスクウェアのポリゴン演出とファンキーな音楽が組み合わさった名演出STGです。
敵弾よりも雑魚機のカミカゼアタックのほうが怖いという懐かしいシステムのゲームでもあります。STGの王道で、突撃してきた敵機は自機とぶつかっても無傷ですが。

■こんな貧弱な武装でこの強大な魔力にどうすればいいというのか
パワーアップ制のSTGでのミス時によく陥る事態。
フルパワーで挑むよう設定されているボスに強化リセットされた最弱ショットでどう挑めというのか。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第二話Aパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/10/26 19:15

 新暦65年12月12日未明。ミッドチルダ圏エルセア地方某国空域。高度約二千メートル。
 私は単機、密雲の中を飛行していた。
 さっきからセントエルモの火が、ふらふらと機体にまとわりついては離れていく。
 ■■■■(検閲)に所属するアインハンダー乗りの私が、この■■■■(検閲)で大気圏に降下してから、既に四時間が経過していた。その間、このミッドチルダで目にしたものと云えば、人の明かりの灯らない廃棄都市郡、そしてこの忌ま忌ましい黒雲と放電だけ。■■■■(検閲)でしきりに喧伝されている美しいミッドチルダの光景とは、余りにもかけ離れていた。■■■■(検閲)もうんざりしてしまうだろう。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第二話『最終蒐集兵器。彼女は、もう、引き返せない。』前編

原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 不意に目が覚めた。

 視界には見覚えのない白い天井。
 音はない。
 あれ、こんなところで寝たかな?

 状況を把握できず、眼球を動かして周囲を見た。

 白い部屋だった。

 壁の位置から推測すると、普段私が寝泊りしている家の寝室よりも広い。
 今度は頭を動かして周りを見渡す。
 頭痛がした。
 部屋には窓、そして扉がついていた。当然か。

 どうやら私はベッドに横たわっているらしく、ベッドに繋がれた点滴らしきものが私の右腕まで管を伸ばしていた。
 病室、に非常に似た部屋だ。

 そして思い出した。私は通り魔に襲われたのだと。

「あーあー」

 声は出る。私は死んでない。

 とりあえず、ここが病院ならナースコールで人を呼ぶのが良いのだろうか。
 だがどうも体に力が入らず、起き上がることができない。
 ここは、叫んで人を呼ぶのが良いのか?

 でも、私が襲われたのが通り魔ではなく一族の身体を狙った密猟者だとすると、ここは人体実験の研究所だったりするのかもしれない。
 戦闘機人の摘発のときにもそんな施設を見た覚えがある。

 しかし、よく魔力炉を抉り出されて生きていたものだ、私。
 あの時は錯乱していたけれど、あの襲撃者はリンカーコアを貰うとか言っていた。
 人体収集趣味の猟奇殺人者でないのだったら、貴重魔力素体回収業者に貴重素材としれ回収されて実験体として生かされているとかそんなフィクション的展開になっているのかもしれない。
 私的には普通の病院であることを祈るのみだ。どう見ても第6管理世界の部族の医療施設ではないけれど。

 むう。一応念話で助けを呼べるか試してみよう。遮断されている可能性が高いが。
 念話回路、機動。

 ――機能凍結中。魔力異常解決の後凍結解除を行ってください。

 あれ? 念話チップ破損?
 それとも使えないよういじられてる?

 いや、私の身体は超高度科学の頂点の産物であるダライアス一族のものなのだ。
 今のミッドチルダ中心の魔法科学技術では、再現はおろか情報なしにまともに解析することすら不可能なはずだ。

 どこかおかしいのだろうか。魔力炉をえぐられた影響がでているのか。
 体内スキャン機構、起動。

 ――機能凍結中。魔力異常解決の後凍結解除を行ってください。

 ……はあ。いや、何だこれは。一族ならば二歳児でも出来る基本機能が動かない。
 どうなってしまっているんだろう、私の身体は。
 魔力炉損失? 深刻な後遺症? 実験で何か埋め込まれた?

 私はこれからどうなるんだろう。
 ここは、一体どのような場所なんだろう。
 このまま一族の益を見出せないまま無駄に生きてしまうのだろうか。

 そのようなことを見覚えのある医療センターの制服を着た看護士さんが入室するまで、一人悶々と考えていた。


「両腕を数箇所骨折、肋骨もほぼ全滅、魔力炉は損傷。簡単に言えば重傷です。ダライアスさん、二週間も意識不明だったんですよ」


 とのことです。

 骨折は正常に魔力炉と魔力経路が繋がっていない状態で、対近接緊急攻撃機能が自動起動でもしたものだろう。
 魔力炉損傷は無理矢理体外に摘出されたうえに、その状態で攻撃機能で酷使してしまった結果とかだろうか。
 そりゃあ重傷にもなる。

 ここはミッドチルダの地上本部に近い、クラナガンの先端技術医療センターだった。
 ミッドチルダ文明の医療技術の集大成とも言える場所で、時空管理局との多世界医療技術交換も盛んな場所だ。
 というか窓の外の景色で初めに気づきなさいな私。

 でも、第6管理世界で怪我をしたはずの私が、何故ミッドチルダの医療施設にいるのだろう。
 ダライアスの自治区に近い場所だったから、そのまま自治区に運ばれての医療局のオーバーテクノロジーで修理とかされていそうなものだけれど。

 いや、あの人たちすぐにパワーアップだと言いながらクローン義体で手足の付け替えとか、バージョンアップだと言いつつ有機部品改造とか、ビットだフォースだと言いつつ脱着可能な追加魔力炉の埋め込みとかしたがるので、普通の医療センターにこれて良かったのだけれど。

「時空管理局の方が運んできたこと以外はあたしはちょっと知らないですねぇ……。管理局のほうに意識が戻ったって連絡しておきますので、お見舞いに来た方に聞いてみてください」

「そうですね、そうします」

 そういくつかやりとりをして、看護士のお姉さんは点滴を変えて通信機で誰かと話しながら早足で部屋を去っていった。
 点滴、か。魔力炉が壊れていると言うことは生きるだけの熱量が作れないと言うことで、栄養第一味は二の次と評判の病人食を一日に何度も食べなければいけなくなるのか。
 これまで怪我をしたときは、栄養だけ摂取して食事はさほど取ってこなかったのだけれど……。

 ……あれ? なんだか私、今年に入ってから怪我してばかりの気がする。
 四月から六月の間に、第97管理外世界で二回倒れている。

 地上本部での激務でもそうそう怪我は無いというのに、ミッドチルダを出た途端にこれだ。うむー。


 計三回。しかも二度は奇襲にあい、二度は自爆での怪我だ。
 さすがに今回は残虐行為手当……じゃないや、労災降りないだろうなぁ。
 今回は任務外の襲撃というノーリターンでの怪我。やるせない

 弱いな、私。












 目を覚ました翌日から、地上部隊の皆さんが次々とお見舞いにやってきてくれた。
 私の所属する航空魔導師隊の皆、地上本部の士官さん、宿舎でお世話になっているアイナさん、人伝で聞きつけたという魔法学校時代の同級生まで来てくれた。
 皆が皆お菓子を差し入れしてくれるあたり、私がどんな人物か完璧に把握されている。

 病院食はやっぱり美味しくなかった。
 というよりは、普段食事がほぼ必要ないので、浮いた食費で高い料理店や菓子店ばかり行っていたので舌が肥えすぎているのだ。

 早く治って欲しいのだが、魔力炉が治らないと有機機械で強化された治癒能力も発揮しきれない。
 魔力炉がないと、頑丈で力持ちなだけの普通の人間とたいして違いがないのだ。
 しばらく入院は続きそうだった。


 今日は、お見舞いにオーリス姉さんが来ていた。
 オーリス・ゲイズ。レジアスおじさんが男手一つで育てたという、良くできた娘さんだ。
 キャリア良し、器量良し、容姿良し、クールビューティで、お父さん譲りの時折見せるお茶目さも相まって、士官の男性陣だけに留まらず一般局員の女性陣にも密かな人気を誇る才女さんだ。
 レジアスおじさんに紹介されてからというもの、私的な場面でも何かと気にかけてくれて、今では頼れるお姉さんといった感じだ。今年で十三歳だったかな?

「カガリをここに収容したのは、ダライアスから医療技術を提供してもらうため。テストケースなんだ」

 オーリス姉さんが私がこの医療センターに収容された経緯を改めて説明してくれていた。

「ダライアスの医療は、純科学方面でのノウハウと生体技術が前から話に上がっていた。そちらから医療協力の提案があったので受け入れたんだ」

 うわあ、さすが自治区の皆は転んでもただでは起きない人たちだ。
 ダライアス本星に帰るまでは人口を無駄に増やすわけにもいかないので、使える人材はとことんまで使い切る。
 ちなみに本星は第一級ロストロギアがばら撒かれている危険性があるので、発掘にも管理局の同行がいる封鎖状態になってしまっている。

「それと、こちらが君が巻き込まれた事件の報告書だ」

「事件……ってうわ分厚い。ただの通り魔事件じゃなくてロストロギア関連とは聞いていましたけど、これは……」

 全時代的な紙束のファイルを手渡された。
 表紙には、『新暦六十五年度 闇の書事件報告書』と書かれている。

「……局外秘とか書いてあるんですけど、大丈夫なんですかこれ」

「大丈夫。私と君とお父さん以外の人間が触れると発火する仕組みを入れてある」

「あぶなっ! せめて文字が消えるとかにしましょうよ」

「ああ、読み終わったら発火して文字通り消えたほうが良かったか」

「何でそんなに発火が好きなんですか……」

「カガリが見せてくれたスパイドラマではそうなっていた」

「無表情で見ていたのにはまったんですかあれ。ああもう可愛いな」

 相変わらずどこかずれた姉さんに和みつつ、報告書に向き直る。
 闇の書……。ああ、魔法学校時代にロストロギアに関する授業で出てきた。

 記憶野検索が出来ないので純粋な記憶力頼みの知識になるは、確か数十年単位で不定期に発生する寄生型のロストロギアで、魔導師の魔力を無差別に吸った後に暴走破裂するんだったか。
 
 ちなみに時空管理局創立後の最初の大規模ロストロギア暴走事件は、新暦二年に起きたダライアス本星の人類滅亡事件だったりする。
 ちょうど初等部四年の学習範囲だったので、滅亡のときの人類最後の戦闘機と石のような物体の戦いの話をしたら皆喜んでいたっけ。

 授業では一つ一つのロストロギアについて詳しく触れなかったが、詳細は報告書に書いてあるだろう。


 事件は初め、魔導師の襲撃から始まる。
 世界を問わず発生したその襲撃は、民間の魔導師だけでなく各世界に駐屯し小人数で市街の巡回を行う地上部隊の局員も多く狙われた。
 非殺傷での魔法攻撃による襲撃。ただし、いずれもリンカーコアを抜かれている。
 なるほど、あの剣士がこの襲撃者か。

「リンカーコアは損傷してもすぐに治るんでしたっけ」

「ええ。二週間も意識不明の重体というのはカガリだけ」

 運が悪すぎたとかそういうのか。納得いかない。

 で、襲撃者の正体は第一級ロストロギア指定されている闇の書の守護プログラムだとか。
 闇の書は管理局が過去に何度も次元兵器アルカンシェルで吹き飛ばしてきたが、そのたびに転生を繰り返し、次の主を無作為に選び寄生してきた。

「……虚数空間にでも放り投げれば転生もできなかったんじゃないですかね」

「闇の書の主の支援者だったグレアム元提督は、永久凍結魔法で封印と考えていたようだな」

「時間を止めるとか言うロストロギア魔法ですか。時空間吹っ飛ばすアルカンシェルに耐えるロストロギアに効くんですかね」

「使われなかったからそれには誰も答えられないな」

 転生した闇の書は魔導書でありながら白紙であり、魔導師のリンカーコアを蒐集することでその魔術師の習得する魔法を魔導書内に新たに記述する。
 記述された魔法はどのような魔法系統であろうとも、主が闇の書を起動するとこでエミュレートが可能。

 魔法を予めデバイスに登録しておき使用者はそれを起動することで術式を完全に理解せずに魔法行使が可能であるという、ミッド式のストレージ概念。この闇の書の募集行使は、そのストレージの到達点の一つであるように思えた。

 他の魔導師のリンカーコアから回収した魔法術式を闇の書でエミュレート。魔法の技術体系を学ぶことなくあらゆる種類の魔法行使を可能とする。
 なるほど、先史時代は魔法研究用の器具だったと注釈があるのも頷ける。


 守護プログラムは魔法を蒐集し魔導書を完成させるために、襲撃を繰り返していたという。
 闇の書は長い年月を経るうちに無茶な改造をほどこされ、バグが発生。
 闇の書の主である八神はやて女史は、闇の書の影響で脚部の麻痺を患っており、さらに募集を拒否したために麻痺が進行していったという。

 宿主に害をもたらすのは寄生型ロストロギアではしばしばあることだが、本来主に絶対服従であるはずの守護プログラムまで暴走して勝手に魔導師狩りを始めてしまったらしい。
 報告書には主を助けたい忠誠心から来たものと思われるとか書いてあるが、嘘でしょう、これ。忠誠心とかいいつつここに一人重傷者を出すなんて、バグ以外の何物でもない。

 で、魔導師襲撃事件を闇の書によるものだと突き止めた次元航行部隊は、出没世界を絞り捜査を開始する。
 守護プログラムが多数発見された第97管理世界で任務に当たったのは、戦艦アースラクルー、守護プログラムに襲われ協力を申し出た現地魔導師高町なのは、保護観察中の嘱託魔導師フェイト・テスタロッサ。
 ……ジュエルシード回収と同じメンバーじゃねーですか。

「フェイトさん嘱託やっているんですねー」

「ああ、あの石のような物体の事件でカガリがぼろ負けしたとかいう犯罪者」

「友達です、友達。絆地獄です」

 で、海の人たちは最終的に闇の書の主の所在を突き止め、完成した闇の書を暴走させることなく回収したという。
 うわ、事件の解決にはヤマト・ハーヴェイ執務官補佐の功績によるところが大きいとか書いてある。うわ。

 ヤマトさんは蒐集した魔法や守護騎士、管制人格を初期化することなくデバイスとしての機能部分のみの初期化を行ったらしい。
 結果、内部にバグとして組み込まれたプログラムは全てクリアされ、膨大な魔法を溜め込んだ安定性の高いユニゾンデバイス夜天の魔導書が残った、と。

 バグ回収の決め手は、本局の大規模データベース無限書庫と、それを隅々まで検索しきったスクライア一族だとか。
 なるほど、無限書庫を使うのは海の士官であるヤマトさんだからできたことだろう。
 そして、ヤマトさんはスクライア一族とのコネが強い。

 三年前の初めてのダライアス、スクライア合同での発掘作業のこと。
 何故か私についてきていた当時の魔法学校中等部の同級生であったヤマト・ハーヴェイ当時十一歳は、発掘隊わずかにいたスクライア一族の女性を次々と魅了した。
 ちなみに多数いたダライアス一族の女性は、子供として可愛がられるまでで魅了はできなかったようだが。

 その当時から今日まで縁は切れていなかったようで、報告書には無限書庫の闇の書に関する古代ベルカの文献をスクライアの発掘部隊一つ丸ごと使って漁りきったと書いてある。
 ……人脈って大切だと痛感させられてしまう。

 で、暴走することなくバグによる麻痺から解放された八神はやては時空管理局に素直に投降し、逮捕された、と。

「……寄生型ロストロギアなら無罪じゃないんですか?」

「自我を保っていた守護プログラムが、現に重傷者を出しているから難しいな」

「私は罪の証ですか。ああ、今の響き何だか格好良いですね」

 そして以前から八神はやての生活支援をしており、なのはさんたちを襲ったりして闇の書の完成に介入していたギル・グレアム提督とその使い魔も逮捕。
 こちらは時空管理局設備へのクラッキングと捜査妨害で処理されて、既望辞職となったのだとか。

「うわー、レジアスおじさんも黒い黒いと海の人たちに言われてますけど、あちらも大概ですね」

「肥大化しすぎた組織なんてそんなものだ」

 ふん、と今更何をと言わんばかりにオーリス姉さんが鼻をならした。
 色々な意味で強い人だ。

「と、大体こんなところですか。これ海の資料っぽいですけどよく手に入りましたね」

「カガリが撃墜されてミッド地上は皆この事件に注目していたから。報道機関にもいくらか情報回るかも」

「あああ、確かにニュースで私の撃墜が報道されてたって局員さんたち言ってましたけど……」

「人気者だな」

 いやいやいや、私の立場はアイドルでも花のプリンセスでもラジカルナースでもなく魔導師なんですが。
 しかも、武装がなくてやられる一方でしたとか恥ずかしいことこの上ない。

「あと、その資料には書かれていないけど、八神はやては守護プログラムと管制人格プログラムとの家族関係の継続を希望、少なくとも裁判が終わるまでは闇の書の主を続けるみたい」

「Vasteel-Technologyは身を滅ぼす、なんていうことわざが私の部族にはあるんですけどねー」

「……前から何度か言っていたな。どういう意味?」

「宇宙から発掘された未知の技術を使って宇宙ステーション作ったら暴走して人類に牙を剥きましたー、という故事です。意味は、未知の技術を使おうと欲を出したら痛いしっぺ返しが来ますよ、みたいな感じで」

「君を使う地上本部のこと?」

「未知じゃないですし牙も剥きませんよ。まあ歩くロストロギアで、しかも上司に無断で大怪我入院してますが」

 今は歩けないけれど、と内心で一人ツッコミを入れながら報告書を閉じる。
 まあ、終わってみれば私は単に運が悪かったとしか言いようがないものだった。
 そんな私にオーリス姉さんは、ぼそりとつぶやいた。

「恨みはないの?」

「この報告書を見る限りでは少なくともこの闇の書の主に悪い感情は沸きませんね。寄生型ロストロギアで酷い目にあった宿主なんてこの二年間で何度も見てきましたよ」

 不死身の肉体を得るが、危険を快楽とする異常性を植え付ける強化服。
 宿主に永遠の命を与える代わりに、食人を強制させるシキガミ。
 宿主を洗脳して過去のやり直しを行わせようとする赤い石。
 ロストロギアが引き起こす悲劇を何度も見てきた。

「主としての管理責任とか言いましても、成人が十八歳の管理外世界の九歳児にそういうのを求めますのも、ね?」

「ごもっとも」

「まあ私を襲った剣士さんには、相手が魔導師か科学の申し子かくらい見分けなさい馬鹿とか言いたいですが」

「少なくとも私は見分けられない自信がある」

「素人とリンカーコアを集める業者さんを一緒にしちゃいけませんよ姉さん」

 言いながら報告書を返す。

「仕事の合間に抜け出してきたから、こんな報告書がお見舞いの品になってしまってごめんなさいね」

 オーリス姉さんは報告書を受け取ると、乱雑に鞄の中に放り込んだ。
 発火魔法がかかってる重要資料じゃなかったのか。眼鏡の奥の真意が見えない。

「お菓子なら局員の皆さんがたくさん届けてくれたので大丈夫です。ろくにニュースも見れないので、次来たときに土産話でもしてくれれば」

「ん、何か聞きたいことでもある? ニュースも見れないってことは、何か気になる事件でもあった?」

「ええ、襲われる直前に調べ始めたものがありまして……アインハンダーと言うんですけれど」

「ああ、あの中企戦の。解った、捜査資料適当に持ってくる」

「それはそれでどうかと思いますが……」

 私の弱気のツッコミは見事に無視されて、オーリス姉さんは鞄を持って立ち上がった。
 お仕事の合間に抜け出してきたというので、そんなに長くここに留まれないのだろう。


「ああ、それと」

 忘れてた、と扉へ向かう途中に姉さんが振り返った。

「明日カガリのお見舞いに来たいって言っている人がいる」

「局員の人なら勝手に来ていますが、オーリス姉さんを通すような人……誰かいました?」

「闇の書の主、八神はやて。それとカガリを襲った闇の書の守護プログラム」

 ……それはまたハードなお見舞いで。



――――――
あとがき:前のエピローグでA's時系列を書くといったが、すまんありゃあウソだった。
一期編のような原作再構成を読みにきた方には失礼ですが、A's後の時系列のオリジナル展開となります。


用語解説
■成人が十八歳の管理外世界の九歳児
記憶検索が不可能なため、おぼろげな記憶で97サブカルチャーからこの成人年齢を引き当てたのだと思われる。


SHOOTING TIPS
■不死身の肉体を得るが、危険を快楽とする異常性を植え付ける強化服
サイヴァリアシリーズは、敵機や敵弾にかすることでレベルアップし一定時間無敵になり、ローリングすることで当たり判定が極小になる特異なシステムを持つSTGです。
安全を得るためにローリングするには、常に動き続けていなければいけません。何度ローリングしようとして敵弾にぶつかってしまったことか。……あれ? 何かおかしくね?

■宿主に永遠を与える代わりに、食人を強制させるシキガミ
ケイブの純和風STGぐわんげより。式神に従わなければ命を吸われて死ぬ。従えば超常の力を得られる。そんなひたすら暗い背景の作品です。
妖怪一杯のホラーゲームとしても楽しめます。ラスボスとか。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第二話Bパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/10/19 17:14

 アインハンダー。こいつは、元々は■■■■(検閲)の持つ機械の手=マニピュレーターを見た時空管理局の連中が、■■■■(検閲)につけた名称だったが、今では戦術戦闘機を指す俗称として■■■■(検閲)も使っている。
 アインハンダーの主任務は、■■■■(検閲)で■■■■(検閲)、■■■■(検閲)することだ。■■■■(検閲)。私は、機体によって■■■■(検閲)。およそ■■■■(検閲)ではない。
 もっとも、アインハンダー乗りに■■■■(検閲)だろう。■■■■(検閲)は、■■■■(検閲)を要求する。だから、
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■、
■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■(検閲)私は■■■■(検閲)を救いたいだけなのだ。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第二話『最終蒐集兵器。彼女は、もう、引き返せない。』後編

原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――













 翌日、オーリス姉さんがアインハンダーの資料を抱えて見舞いへとやってきた。
 今日は紙資料ではなく、空間映像投射式のバインダー。見た目はノートサイズの金属板だ。

 私はそれを受け取って、バインダーのスイッチを入れる。
 両腕はまだ骨が折れたままで繋がりきっていないが指と肘関節に損傷はなかったので、ダライアス製の補助具を使うことで軽いものを持ったりする程度のことが可能だ。

 投射映像を操作し、写真資料を表示する。
 新聞に載っていたものより詳細まで写されているカラー画像だ。

 機体全体の色は青。装甲の角を縁取るようにつけられた黄色の装甲が青い機体のアクセントとして映えている。
 後部へ突き出した二門の巨大なアフターバーナー。両脇に広がる細い機械翼。唯一の左右非対称のパーツである巨大な左腕。

 そして、その機体を装着する、青いパイロットスーツを着た人物。
 パイロットスーツにはところどころ小さな装甲がついており、武装局員の装甲服と私の使うパイロットスーツの中間のような格好だ。
 頭には白いヘルメットを被っており、どのような顔をしているか解らない。ヘルメットからはみ出して背中で束ねられた青い髪の毛だけが、唯一この人物が露出している生身の部分だった。
 人種、年齢、性別全て不明。身体への内部スキャンは機体以上の対透視魔法プロテクトかかっているようで解析不能。
 髪の毛の一本でもあればそこから解析できるものなのだが、髪を露出しても抜けないようになっているのだろう。

 寸法データは……うわ、この人、今の私より身長が低い。
 一般的な人類種なら、私より年下か。

「……年齢性別不明なんですね。新聞には魔動少女とか書かれていたのに」

「カガリを連想させられる姿と、髪を束ねるリボンから少女って想像されているんだろう」

 操縦者は不明。では機体はどうだろう。魔動機械の技術者として気になるところだ。
 動力源は方式不明の搭載魔力炉。
 兵装は右アームに取り付けられた機銃二門。それと中小企業解放戦線の魔法機械兵器の装甲を貫ける左アーム。

 あれ、意外としょぼい?

「実はこの機械、厳密には魔法機械兵器ではない」

「へ? 純科学兵器なんですか?」

「いや、これは全身を覆う形のデバイスだ」

 何だ、それは。
 魔力炉が積まれていて武装がついていてアフターバーナーがついている装甲服型戦闘機が、魔法の杖デバイス

「魔力炉も搭載されていて、推進器もついていて、身を守る装甲もついている。それでもこれは、魔法を使うためのデバイスなんだ。推進器も機銃も全部操作者がベルカ式の魔法を使って始めて稼動してる。魔力炉は操作者の魔力を切らさないためだろう」

 いや。
 いやいやいやいや、なんだその超高級デバイスは。
 時空管理局製のエリート魔導師のSSランク用最新デバイスだって、ここまで無茶苦茶な構成をしていない。


「……馬鹿げてます」

「アームドデバイスとはもう言えない、アーマードデバイスとでも言うべきものか」


 ダライアス一族が魔法を使うために機械を通すのは、そうすることでしか一部を除いて魔力を利用できないからだ。

 魔力炉を使って機械を動かすのは、ミッドチルダ文明では乗り物や無人機としての発想だ。
 デバイスに装甲服や魔力炉を使うなど、少なくとも私は聞いたことがない。
 例の闇の書のような古代ベルカのユニゾンデバイスなどとは方向性が違いすぎる。


「そしてアームドデバイスとは思えない使い方をされる巨大なマニピュレーター。異様な外観からついた機体呼称はアインハンダー」

「……どこからその名が?」

「ベルカの魔法言語で、片腕という意味だ」

「ああ、なるほど、隻腕アインヘンダー。ということは、近代ベルカの空飛ぶ猪突猛進君ですか」

「いや、デバイスとしての構成はミッドとベルカの混合と見られてる。命名したのがベルカの魔導師だっただけ」

 こう特異な外観では、デバイスの仕組みにミッドもベルカもあったようではないようにも思える。
 まあ機銃は銃撃、アフターバーナーは飛行とそれぞれの魔法の役割があるなら、ストレージ概念が連想されないでもない。

「その片腕の使い方が最大の特徴。破壊した中企戦の魔法兵器にマニピュレーターの指をこう、ねじこんで、そのままキャノンやバルカンなどの武装を奪うんだ」

「そんなこと、できるものなんですか?」

「中企戦の機体は全部、管理世界共通規格制定でミッドの企業と争って落選した地方世界の工業規格、それで統一されて作られている。テロを行う魔法兵器は中小企業解放同盟の象徴、みたいなものだからだろう」

「……ということは、その規格にアインハンダーが適合しているということは」

「ええ、考えられるのは二つ。アインハンダーは元々中企戦の機体だった。同じ着想の機体が他に見られないのでこれはちょっと可能性が低いな。捜査上で有力視されているのは、中企戦と戦うために作られたミッドチルダの大企業の私兵戦力という意見か」

 確かに、テロの対象になった大手企業が独自に武装しているという報道は見た。

 人手不足で手の回らない地上部隊を差し置いて、テロは企業対企業の戦いの流れになってきている。

 魔法技術ならば時空管理局に匹敵する組織はないが、魔導師でなくとも研究が可能な魔法科学技術ならば研究所を持つ大手企業で高精度のものを作り出すことが可能だ。
 例えSランク魔導師といえど、魔法科学の結晶である次元航行戦艦にはかなわない。

 魔法科学が進めば、ミッドは先史時代の質量兵器を使った戦いの歴史を繰り返してしまう恐れなどいくらでもある。

 まあ、それはどうでもいい。ダライアスの技術がアインハンダーに使われていないことが解ったのは重要だが。
 企業の作り出した新しい時代の高級デバイスか。面白い。
 けれども。

「わざわざ対中解同戦力を作るのに、こんなに莫大な資金がかかっていそうなデバイスを用意するのがまた、魔導師人材が希少な企業らしいとも言えますね」

 機体の費用だけでなく、研究費用も相当なものだろう。
 旧時代の航空戦闘機を思い起こさせられる。

「人材が希少、か。この白いヘルメットの操作者自身の魔力資質は、Aにも達していないのではないかと見られている」

 Aか。空戦もしくは陸戦Aランクの魔導師なら、武装隊で小隊長を任せられるレベルだ。
 いくら企業といっても、大手ならばAランク魔導師くらいなら用意できるだろう。が、実際にはA未満の幼児が使われている。

 機体の開発費を負担できつつも魔導師を自由にかき集められない組織……というのはちょっと具体例が思いつかない。
 ミッドチルダ上空で無断飛行、危険魔法使用を繰り返すような機体を抱える組織や部門と言うのは確かに後ろ暗くはあるが。

「搭乗者はA未満。だけれど、魔力出力と機体の性能は空戦AAA相当だ。おそらく魔力炉出力とデバイスの補助のおかげで。トリッキーな動きからして、インテリジェント機構も組み込まれているかもしれない」

「飛行装甲デバイスによってAAAを誇る、ですか。近い理念のシップを使う空戦AAの私よりも上……」

「何を言っている。カガリはこれまでストレートで試験に受かっている上に、AAとってからというもの海に行ったり怪我したりでAA+の資格試験受けていなだろう。君は使う機体で魔力出力が変わるから実技試験を受けてくれないと、地上本部としても実力の評価に困る」

 ううむ。まあ確かに私は身体も成長途中なので、歳をとれば魔力炉も成長してそれに合わせて機体性能上げられるけれど。
 でも、今までダライアスの戦闘機乗りは私一人だったわけで、似たようなスタイルの魔導師さんは初めてでつい比較してしまって、うー何だかもやもやする……。
 嫉妬? もしやこの感情は嫉妬? だめ、嫉妬はだめだ。
 嫉妬に狂った戦闘機乗りは四肢を切断され死ぬまで狂って戦い続けることになると教育局の人に教えられている。

 気分を晴らすために資料を見続けるが、オーリス姉さんが言っていたこと以上の目ぼしい情報は何も載っていなかった。

 ただ中解同のテロに応じて大気圏から降下してくる謎の混合式魔導師というだけ。
 ダライアスの系譜とは違うが、次の時代の魔法に繋がるかもしれない興味深い対象だった。

 バインダーのスイッチを切り、オーリス姉さんに返す。
 続報があれば頼みたいけれど、そうほいほいと部外秘情報を持ってこられても困るので復帰後に聞くことにしよう。

「で、八神はやて嬢が来るんでしたか」

「ああ、後十分ほどで護送車が来るはずだから、連れてくる」

 そういってからオーリス姉さんはすぐに病室を出て行った。

 部屋がしんと静まり返る。
 魔動機械開発すら出来ないこの入院生活は酷く暇だ。

 そんな中でお見舞いに人が来てくれるのはとても嬉しいのだけれども……。
 私を襲った犯人との面会。
 何をしにくるかは解っているが、気が重い。












 病室の扉がノックされる。
 返事を待たずに扉は開き、オーリス姉さんが入室する。
 そして、その後ろに背の高さがばらばらな人たちが連なって入ってきた。

 いや、待て。お見舞いって夜天の魔導書一家全員でなのか。
 ベッドの前にずらりと並ぶ一同。見事なまでに統一感のない人達だった。

 しかし、多い。

 名前がわかるのは麻痺が解けたばかりでリハビリ中であろう車椅子の子、八神はやて嬢。
 それと私を襲った桃色の髪の守護騎士、シグナムさんだけだ。

「……ええと、私は報告書で皆さんの名前を知っているだけなので、一応確認しますね」

 名前と顔はアナログ式で出席を取っていれば覚えられると魔法学校の先生が言っていた。

「八神はやてさん」

「はい」

 車椅子の女の子。私と同い年。闇の書事件の寄生被害者であり、中心人物。

「リインフォースさん」

 こくりと頷く銀髪の女性。
 闇の書、もとい夜天の魔導書の管制人格。何故か人としての実体を持っているが、擬人化したインテリジェントデバイスのようなものと思えばいいのだろうか。
 古代ベルカ式のデバイスはこういった人型になることがある。人型状態だとデバイスから術式を引き出して魔法の使用が可能であるなど、デバイスが魔導師化したというか魔導師がデバイス化する奇妙な存在だ。

「シグナムさん」

「はっ」

 凛とした姿の通り魔さん。守護プログラムというが、こう見た限りでは人間にしか見えない。
 夜天の魔導書がある限り死んでも再生するというから、ある種の人間ミサイルとして使える人達だ。

「ヴィータさん」

「……はい」

 ちっちゃな女の子。私よりも明らかに年下に見える。
 小人系の種族か? ベルカに小人族が居たとは聞いたことはないけれど。
 守護プログラムを組んだ人が幼女趣味だったとか。ベルカの魔導師や騎士は肉弾戦を行うから、この体格は不利でしかないと思うのだけれど。

「シャマルさん」
「はい」

 金髪の落ち着いた感じの女性。
 こう言っては何だが、この中で唯一まともそうに見える。オーリス姉さんも含めて。

「……犬?」

 青い犬だ。

「……いや、何故私だけ名前で呼ばれないのだろうか」

「ザフィーラという人が残ってますけど、ええと、その、犬ですね。眉毛犬」

「私がそのザフィーラなのだが……」

「駄目ですよ八神さん。医療施設に毛の多い動物連れ込んでは」

「あはは、こっちの世界の病院も犬駄目なんやなー」

 ええと、報告書では獣人形態もとれる守護獣だったか。アルフさんの仲間みたいなものか。
 アルフさんは何かと人型で居たがったが、このわんちゃんはその逆なのだろう。
 病院に大型犬って、子供が見たら泣くのでは。私は泣かないが頭が痛くなってきた。

 八神一家総勢六名。全員での訪問だ。

「……オーリス姉さん。いくら魔力拘束具がついているからって、裁判前の被疑者全員まとめて病院なんかに連れてきて大丈夫なんですか」

「問題ない。私が監視役として居る」

「いや、監視って、姉さん魔導師じゃないですし私怪我してるから、腕力で暴れられたらどうしようもないじゃないですか」

「大丈夫。反抗したらこれ幸いにと本局と地上本部両方からSオーバー魔導師が魔導書とその関係者を粉々にするために音速超えて飛んでくる」

 びくりと八神はやて嬢が震えた。守護騎士の面々も緊張した面持ちだ。

「ああ、恨んでいる人多そうですからね、事件の履歴見ると……」

 魔導師保有率の高い管理局は今回の事件で多数の局員が襲われているし、過去に何度も繰り返された闇の書事件では死傷者も出ている。

 しかし、Sランクの魔導師が飛んできてくれる、か。
 土煙をあげて野太い声で叫びながら走ってくるゼストさんを想像すると、中々に怖いものがある。
 あの人クールを気取っておいて、戦闘中は「ハー! フーン! オー!」と何気に五月蝿い。自称怒りを叫ばずにいられない人種。

「おそらく病院ごと吹っ飛ぶ事態になるだろうけど」

 いや、それはさすがに……。
 Sランク魔導師というのは魔力や魔法の強大さだけではなく、それを扱う状況判断や精密な魔法操作も得意だということで……。
 いや、そこまで技量があっても結局はパワー一辺倒の人もいるから一概には言えないか。





 閑話休題。必死にひねり出したジョークで場の雰囲気を沈まないよう努力をしてみたが、八神はやて嬢とは何となく打ち解けられそうな感触がある。
 そこで本題に入ってもらったのだが、まあ予想通りに私に大怪我を負わせたことの謝罪をしたいということだった。

 今私の目の前では、私を襲ったシグナムさんが頭を下げている。

「……そうですね、シグナムさんには日本式のドゲザなどをして貰わねばなりませんね」

「ド、ドゲザ?」

「ええ。そうでもしてもらわないと許せませんね」

 そんな私に、一緒になって神妙に頭を下げていた八神はやて嬢がノってきた。

「よし、シグナムやったれ。侍魂を見せたるんや」

「高貴なる戦闘機乗りである私をミッドやベルカの魔導師風情と間違えるだなんて許すまじです!」

「ってそっちかいな!」

「謝罪で傷は癒せませんが、プライドは癒せるものです。まあドゲザは冗談なので、棚からチョコポットとってくださいチョコポット」

 正直なところ、あの報告書を見てしまった私としては正直な謝罪にどう応えて良いか解らない。
 確かに事件の原因と、実際に被害者が出たことは別のお話なんだろうけれど。

「む、あ、ああ……どれだ?」

「その一番上にある丸い、そうそれです。はい、あーん」

「む、うむ」

「おおー」

 あーんに困惑するシグナムさんと、目を輝かせる八神はやて嬢。
 一々リアクションが新鮮な一家だ。

「これを与えればいいのだな。……そうか、私のせいで腕を折っているのだったな」

「そこは口移しやろシグナム……って痛ぁ」

 オーリス姉さんが八神はやて嬢の頭をバインダーで叩いていた。
 天然ボケのくせに他人へのツッコミはかかさない姉さんだ。

「すんまへん、調子に乗りました」

 頭を押さえてへこへこ頭を下げる八神はやて嬢に、見下ろしたまま何も言わないオーリス姉さん。
 シャマルさんがそんな二人の様子を見ておろおろしている。

「あはは、はい、シグナムさん、あーん」

「うむ……」

「ん……いやあ、こういうのってハーレムって言うんでしたっけ。次はシャマルさんにもやってもらいましょうか」

「カガリ、調子に乗りすぎ」

 私も叩かれました。
 うわあ、怪我人に手を上げましたよこの人あ顔怖い謝っておこう。

「すいません、調子に乗りました」

 雰囲気が重たくて、つい。
 ベッドから動けないのに気持ちが沈むというのは、できれば勘弁願いたいのだ。

「でも、これくらいなら地上本部の人たちが昼休みとかに来てくれてやってくれますよ。スキンシップです、スキンシップ」

「あの人たち、昼に遅れて戻ると思ったらこんなところに遊びに……!」

 あれ、やぶ蛇だった。

 メモ帳を取り出して何やら書きなぐりだしたオーリス姉さんを横目に、再び八神はやて嬢達のほうへ向く。

「まあ慰謝料だの入院費負担しろだのは言いません。ぶっちゃけあなた達無職ですし」

 む、と全員押し黙った。リインフォースさんだけはなんのことだと一人涼しげだが。

 事件の最中もずっとこの一家はギル・グレアム元提督の資金援助を受け続けていたというから、多少のお金はありそうなものだが管理外世界のお金は換金が大変だし。
 そもそも入院保険が大量に払われているので、慰謝料など必要ない。

「でもなあ、大怪我させておいて口でごめんなさい言って済ますんも筋が通らへんし……」

「じゃああなた達が襲った魔導師全てに謝罪して回るつもりですか? 無茶です」

「でもな……」

「裁判と刑の執行という、世の中に認められた罪の償い方があるではないですか」

「でもな……」

 まだ何か言いたげに、ベッドの上の私に八神はやて嬢はすがるような目を向けていた。
 いやはや、幼く善良な市井の子の純粋さというのは、こうも心にときめくものがあるというのか。

 とりあえず私の素直な心のうちを打ち明けておこう。

「個人的な見解ですけどね。八神さん、私は今回の事件で貴女に罪があるとは思っていません」

 オーリス姉さんのほうをちらりと見る。驚いていたり眉をひそめたりはしていない。まあそうだろう。

「え、でも、あたしは夜天の書の主で、皆を止められのうて……」

「私が考える今回の事件の下手人さんたちの罪の重さは、報告書を見て予測した限りでは、次のような感じでしょうか」

 八神はやて嬢の言葉を無視して話を続ける。

「罪が重い順に、ギル・グレアム元提督とその使い魔、ヴォルケンリッターの四人、八神さん、そして純粋な被害者であるリインフォースさんです」

「グレアムおじさんが? いや、でも、アースラの人が既望辞職で済まされたて……」

「あなた達が裁判待ちなのに、一人だけ処断が決まっているのがおかしいと思いませんか?」

 またオーリス姉さんのほうを横目で見る。あ、口元がにやけている。

「罪状はクラッキングと捜査妨害? 冗談を言うのも大概にしなければいけませんよ」

 私が昨日あの報告書を海の資料だと考えたのは、別に捜査の過程が詳しく書かれていたからではない。
 陸に知られてはまずいであろう海の提督の行動が事細かに記載されていたからだ。

「第一級のロストロギアを十年近くも管理局から秘匿し、己の監視下に置き続けた容疑。大規模災害を巻き起こす暴走をすると知りながら、魔導師襲撃を手助けし続けた容疑。闇の書を実際に使いヴォルケンリッターに対して直接の蒐集行為を行った容疑。ええと、他に何かありましたか、姉さん」

「捜査妨害で済まされる規模をはるかに超えた、時空管理局嘱託魔導師への危険魔法行使」

 シグナムさんとシャマルさんは眉を寄せ、八神はやて嬢とヴィータさんは目を丸くしている。
 リインフォースさんは、唯一の被害者と言われようともギル・グレアムに疑いありと言われようとも無表情だが。
 ザフィーラさんは、犬なので表情が良く解らない。眉毛はあるが。

「私の予測では、八神さんはグレアム一家の隠居生活のために、トカゲの尻尾きりとして使われたんじゃないかな、と。彼の人となりは知らないので、報告書からの推理になりますが」

「馬鹿な!」

 シグナムさんの叫びが室内に響く。そして、一拍遅れて何かが床に叩きつけられた音が響いた。
 って。

「チョコポットー!?」

「私が罪を被るのは当然の報いとして受け入れよう。だが、奴は主はやてに罪をなすりつけたというのか!」

 いや、それよりお菓子に八つ当たりはいけませんよ!
 姉さんこの無礼者に何か言ってあげてくださいよ。

「グレアム元提督の立場なら、事件の前に闇の書の危険性を伝えられなかった管理責任が自分にあると、君達への擁護も可能だろう。だが、当の本人は追及される前に管理局を去り、生家で隠居を決め込もうとしている。見事にスケープゴートにされたものだ」

「何だよそれ……。畜生、クソジジーめ!」

 あー、オーリス姉さんにヴィータさんまでお菓子の悲劇を無視している。
 転がったポットをくわえて起こしてくれるザフィーラさんだけが心の友だ。
 でもそれ食べ物の入れ物だから口でくわえるのはやめてね。

「畜生、畜生……!」

「ヴィータ……」

 やれやれ、予測だと前置きしたのにみんなお怒りだ。

「……というか誰もギル・グレアムの擁護しないんですか? さっき八神さんはグレアムおじさんとか親しげな呼称をつけてましたが」

「直接の面識なんてねー! なんだよ、はやては何も悪くねーのに!」

「ヴィータ、やめい!」

 凛、と通る声で八神はやて嬢が制止の声を上げた。
 涙を流して怒りを叫んでいたヴィータさんは、目をこすりながら押し黙った。

「シグナムも。実際にあたしらのせいで怪我した人の前で、あたしが悪うないなんて言うたらあかんよ」

 いや、その怪我人である本人が、あなたはさして悪くないと言っているのだが。

「それにな、うちはグレアムおじさんが何しようとも、逃げる気はあらへんよ」

 ヴィータさんの頭を撫で、だって、と言葉を続けた。

「こんなうちの友達になってくれた、ヤマトさんやフェイトちゃん、なのはちゃん、すずかちゃん、アリサちゃん皆の大切な友達を傷つけてしまうのを止められなかったんや」

 ああ、そうか。彼女がわざわざこんな遠い世界まで謝りに来てくれた理由がようやく理解できた。
 友達の大切な人を傷つけてしまった。確かにそれは辛い。直接手を下さなくとも、自分のせいで大切な友達が悲しんでしまうのは、辛い。

 安っぽい正義感と罪悪感で罪を受け入れたいなどと言うよりも、それはずっと現実的で重たいものだと思わなくもない。

「なるほど、そうですか」

 理解した。彼女の覚悟を受け入れよう。
 禁固刑などというつまらない罪の償い方などではなく、私への罪の償いとなるように。

「八神さん。では……ミッドチルダに住む気はありませんか? 海鳴では天涯孤独とききます」

「は?」

 唐突な話の転換に、八神はやて嬢が理解できずに首をひねった。だが話はここからだ。

「フェイトさんも元犯罪者ですけど、社会奉仕という名目で魔導師として管理局に協力することで禁固刑を免れています。そのおかげでシグナムさんたちと殴りあったようですが」

 オーリス姉さんはもう話が見えたようで、また口元がにやけている。
 察しが良い士官さんだ。実際に補佐官としての覚えがいい。

「まあそういう感じで、司法取引として魔導師としての自分達を売り込むのもありなのでは、と。知り合いに時空管理局の地上本部のお偉いさんたちがいるんです。いつも人材不足に嘆いているような」

 警察機関と法的機関を兼ねている時空管理局では、このような手段がまかり通る。

 悪いことではない。罪の償いに禁固刑というのは大昔から未だ続く簡易で前時代的な手段だ。
 教育を施して更正させる教育刑。社会に与えたマイナスをプラスの行為で埋め合わせる労働刑。
 組織として巨大な時空管理局ならば、それらの先へと繋がる刑を用意できる。

「つまり、怪我して下がった私の評価を優秀な人材の紹介で埋め合わさせなさいということです」

 ここまで言うと、オーリス姉さんが噴き出した。
 声を上げないように口を押さえて肩を震わせている。
 まあ確かに最後は冗談だが。地上部隊の人たちは好きだが、局員で無い私が魔導師不足問題をどうこうする義理などない。

 ただ、さしたる罪もない貴重な古代ベルカの高ランク魔導師を禁固刑などで腐らせるくらいなら、同僚として招いたほうがずっとましなのは確かだ。
 そして。

「それよりですね。同じミッドに住む魔導師になって、私の友達になって一緒に遊んでください」

 恨んでもいない加害者への私なりの提案。
 いくらか法の上での罰は軽くなるだろうが、他の被害者が納得しなくても私には関係ない。
 レジアスおじさんなら適当に上手くやってくれるだろう。

「それは……、シグナムたちも友達でええんかな」

「勿論ですよ」

 上目遣いで見つめてくる八神はやて嬢に、思いついたばかりの提案が受け入れられた。












 そして夜天の一家は護送車で元の収容施設へと戻っていった。
 処分への介入は、オーリス姉さんがレジアスおじさんへ伝えてくれるそうだ。

 護送車まで見送りに言ったオーリス姉さんは、疲れたようにベッド脇の椅子に背をもたれていた。
 謝罪を受けるだけが、何故か罪状分析に交渉とわけのわからなお見舞いになってしまった。

「カガリのことだから、一族のために馬車馬のように働けなどと言うと思っていたが……」

 口元をさすりながらオーリス姉さんが言った。
 ああ、さっきの笑いのツボ、まだ続いているのか。

「冗談言ってはいけませんよ。私たちに必要なのは、繁栄を導く優秀な人材です。戦うだけが能の魔導師が何の役に立つというんですか」

 はやてさんの膨大な蒐集済み魔法は、本人が成長すれば万能の魔導師になりそうだが、背景に何の後ろ盾もない人材なんていくらでも代わりがいる。彼女がダライアス一族というのなら別だが。

「まあ、裁判と地上への受け入れは『悲劇のヒロイン』コースでどうとでもなるさ」

「……何ですかそれ」

「対外的には犯罪者をそのまま使うとイメージ悪いから、ロストロギアの被害者がこんな悲劇を繰り返さないために入局を希望したとかそういう方向」

 このあたりの詭弁の使い方は親子そろって優秀なので、気にせず任せて大丈夫だろう。

「ちなみにカガリは苦難に負けず闘病生活を懸命に頑張り復帰を目指す『蘇る魔法少女』コース」

「ちょおーっと! もしかして私の撃墜情報、マスコミに流したの意図的なんですかー!?」

 忘年会のイメージアップネタがレジアスおじさん達の中でしっかりと生き続けている予感がした。



――――――
あとがき:報告書を得た地上本部から見た闇の書事件の巻。A.C.E.に入ってずっと背景説明だけで盛り上がりや話の展開がなくて読む側はつまらなさそうだなーと。でも書きたいこと書けて満足なので反省しません。
原作通りリンディ提督に全てを任せていれば提督パワーで海鳴帰還コースでしたが、彼女は、もう、引き返せない。
※ここまでユーノくんの話題無し


用語解説
■そこまで技量があっても結局はパワー一辺倒の人もいるから
爆発と火災で崩壊しかけている空港に砲撃魔法で穴を開けてはいけません


SHOOTING TIPS
■あれ、意外としょぼい?
アインハンダーに登場する機体は、機体そのものの攻撃性能は高くありません。
アインハンダーは撃墜されると面の途中からやり直すタイプのSTGですが、マニピュレーターで敵から奪っていた武装が全て無くなってしまうので敵の激しい場所や頑丈なボス戦でやり直しが発生すると涙目になります。
パワーアップシステムのSTGの死亡時強化リセットと似たような悲劇がここに。別名初心者殺し。

■怒りを叫ばずにいられない人種
式神の城2ボス戦時のキャラ同士の掛け合いより。式神の城2はアルファ・システムのキャラゲー兼STG。
STGというジャンルの開発に慣れていなかったのか式神1は敵配置などが悲惨でしたが、2で一花咲かせました。
ちなみにアルファ・システムという社名は、似たような名前の全然関係ない企業が一杯あります。一部上場の大企業もあるようですが、就職したのにゲーム会社なんかに入ってんのーとか勘違いで言われてしまうのでしょうか。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第三話-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/09/23 23:09

「かつてこういう時代と俺達が存在した」
SINCE××××












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第三話『Rのシュウケツ』

原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 リハビリセンターに行ったらはやてさんが居た。

「は?」

 ダライアスの幼児歩行訓練器ケッタマシィーンに乗りながら歩行コースをゆっくりと歩いていた。
 歩行器は例の技術交流で提供されたリハビリ器具だろう。
 確かにあの何もしなくても勝手に脚を動かしてくれる歩行訓練器なら、何年も脚を動かしてこなかったはやてさんでも歩く練習が出来るだろう。

 呆、とその様子を眺めていた私に、一周を終えたはやてさんがこちらに気づいた。

「あ、カガリちゃん。久しぶりやなぁ。後でお見舞い行こ思うてたんやけど」

「…………」

「どないしたん? あれ、まさかあたしのこと覚えてへんの?」

「……八神はやて」

「そうや」

「第97管理外世界出身。現地年齢九歳。管理世界共通暦での年齢も同様。古代ベルカ式魔導師。使用デバイスは夜天の魔導書」

「そや。……というかそこまで確認しなきゃあたしと確信できへんの?」

「……通信機持ってますか」

「あ、うん。管理局の人に渡されたんが」

「お借りします」

 はやてさんから手のひらサイズの携帯用通信機を受け取る。
 自分の端末ではないので番号短縮は使えない。
 ここ数日になってようやく調子の戻ってきた魔力炉から魔力を搾り出し、記憶野のチップを起動させて番号を検索する。

 まだ新しく汚れもない通信機のパネルを押し、通信を開始する。
 空間投射ウィンドウが開き、画面にコール中の文字。三コールで繋がった。

『ゲイズです。何か問題でもありましたか?』

「姉さん姉さん、私です。カガリです」

 ウィンドウに映像が映る前に会話を切り出してきた相手に対し、正しを入れる。
 通信相手はオーリス姉さん。地上本部の士官用の青い制服を着ている。この時間なら本部でお仕事の途中だろう。

『ああ、カガリか。医療センターで八神に会ったのか』

「そうそうそれです。なんでこんな場所ではやてさんと会うのか聞きたかったんですよ」

『麻痺が治っているので最新の医療が受けられる医療センターでリハビリ。何も問題はない』

 仕事中とあってか、切り捨てるような口調で話を打ち切ろうとする。
 だが、私が聞きたいのはこれではない。

「そうではなくてですね、何故はやてさんがクラナガンに居るかということをですね」

『カガリが自分で言ったんだろう。ミッドに住まないかって』

「ギル・グレアムに押し付けられた分の罪くらいは軽くなると良いなー、程度の偽善の言葉でしたよあれ。はやてさん達ハラオウン派に絶対マークされているのに陸が取れるはずが……」

 いや、だってだ。バグを取り除かれた古代ベルカの爵位級ロストロギアデバイス使い。そしてそのロストロギアから生み出される古代ベルカの騎士兵器達。
 即保護観察を受けアースラに乗り込んだフェイトさんのように、あの何気に計算高いハラオウン提督は獲得に乗り出すはずなのだ。
 実際、ジュエルシード回収事件でのアリシア・クローンは、保護に地上と本局両方が手を上げたというのに本局のほうがずっと獲得数が多い。

 第97管理外世界から帰ってから知ったのだが、ハラオウン提督の派閥は本局でもそこそこの影響力を持つ一派だったらしい。
 元々は十年前の闇の書事件で亡くなったハラオウン提督の夫がその派閥を率いていて、ハラオウン提督がその支持母体を引き継いだ。
 十一歳で執務官の資格を得た才児のクロノくんも跡継ぎとしていて、今後も続いていくであろう派閥だ。
 何より、ジュエルシード回収に今回の闇の書事件と立て続けに第一級ロストロギア事件を解決した実績がある。

 そんなハラオウン派が今回の闇の書事件を終えてどう動くかと言えば、かつての代表を殺した闇の書の新しい主に対しより重い罪を被せるか、強力な魔導師人材として取り込むかだ。
 ギル・グレアムなどは前者に走ったようだが、あの子供に甘いハラオウン提督ならば絶対に後者を選ぶはずなのだ。
 なのはさんこそ管理外世界ということでスカウトには成功しなかったが、法廷という名のまな板の上にのった魚のはやてさんならば、海が横から泥棒猫のように人材をさらっていくのは不可能ではない。

『ああ、それだけれど……お父さんが本気になった』

「うわあボス猫登場」

『猫?』

 つい脳内映像が口に出てしまった。
 気にしないでと話を次へと促した。

『グレアム派の後ろ盾がないハラオウンなど敵ではないわーってすごい良い笑顔で。逃げたグレアム元提督への追及で、八神達の獲得だけではなくグレアム派の事実上の解体までいった』

「うわー……」

 派閥間抗争は嘱託である私の専門外だが、何と言うかすごいことになっている。
 ここまで海に大勝利なレジアスおじさんは初めて見たかもしれない。

『去年の公開意見陳述会は企業テロのおかげで本局を突っつかなくても兵力増強がすんなり通ってね。溜め込んでいた黒い武器を存分に振るわせて貰った』

「その口ぶりですと、追及にオーリス姉さんも一枚咬んでいるようにしか聞こえませんが」

『……ほら、カガリに頼まれたから姉さんとして頑張らないと』

 嘘だ。絶対に親子一緒に楽しんでやってる。
 というかこんなことを互いに繰り返しているから、いつまで経っても海と陸の溝は埋まらないのではないか。

「はあ、まあそんな貴重な武器をこのタイミングで使ったということは、そんなに八神さん達の獲得に乗り気だったんですかねレジアスおじさん。中解同戦に投入と見ても素人の子供と古臭い騎士はしばらく教育が必要だと思いますけど」

『いや、それもあるがあまり重要ではないな』

 何だろう。そんなにこのタイミングでグレアム派を潰すのが重要だったのだろうか。
 ギル・グレアムの行動は海でも覚えが悪いだろうし、放っておいても派閥は縮小していったと思うのだけれど。

 だが。

『古代ベルカの夜天の王のデバイス、それが一番欲しかったみたいだ』

 姉さんの言葉は海には関係しそうもないものだった。

「ロストロギアが? 高位魔導師五人よりも価値ありますかね。確かに魔法蒐集は特異な機能ですが」

『いや、機能はどうでもよくて、剣十字を携えた古代ベルカのデバイスという歴史的価値にお父さんは注目していたよ。聖王教会との政治材料に使えると』

「……レジアスおじさん、教会嫌いではなかったんですか?

 ときどき「狂信者どもめ」などと毒づいているのを見ることがある。近代ベルカ式の魔導師さんは聖王教徒であることが多いので、大っぴらには言っていないが。
 ただでさえレジアスおじさんは文官、技術官を魔導師と同等に扱うせいで、魔導師さん達に「魔導師嫌い」などと揶揄されているのに。

 時空管理局は魔導師主義の巣窟なのだ。特に本局は魔導師を優遇しないと、士官として大成できない程だと聞く。
 世間では魔導師など才能がないとなれない物騒な専門職程度の認識だというのに。

『嫌いなのはミッドに自治領を持ちながら陸を見ずに本局とべったりなあり方。こちらを見ないなら餌で釣ればいい』

「それはなんとも……遺失魔法を使ったグレートな大作戦で」

 現実主義なこの親子っぽい言い様だ。私も似たようなものだが。

『嫌いな相手でも、古参の管理世界での教会の影響力は無視できないものだ。味方につけるに越したことはない』

「たかが三、四百年程度前の古本一冊がそんなに使えますかね」

『使える。その数百年程度昔が古代と言わてしまうほど、ベルカは何もかも失っているんだ、カガリ達みたいに』

 なるほど。確かに聖王教会の立場を私の一族に当てはめると解りやすい。
 出身世界が滅び、当時の高度文明は喪失。本星に行けば文明の残骸を発掘できる私たちと違って、古代ベルカの遺失物は次元世界中に散逸してしまっているため、一つ一つのロストロギアが貴重なのだろう。

『だから最近は教会との応対もいくつか……そうだ仕事中だった。もう切って良いか?』

 しまった、とオーリス姉さんは眉を寄せた。
 ちょっと確認だけしようと思ったらつい長話になってしまったようだ。

「あ、はい。すいませんお仕事中に」

『まあ八神の端末からだから他には言い訳はできるか。では失礼するよ』

 ウィンドウが閉じる。端末のパネルに保護カバーを掛けながら後ろに振り向く。
 少し離れたところではやてさんが待っていた。

 他人の通信を勝手に覗かないとはしつけの行き届いた娘さんだ。
 むしろこんな場所でオープンウィンドウ通信する私のほうがなってない。

「はい、ありがとうございました」

「誰かと電話? あ、知られとうないなら履歴消しとくよ」

「大丈夫です。オーリス姉さんとちょっと。てっきりはやてさんがアースラ所属になるものと思っていたので驚いて」

「管理局に入る言うたら学校通わせてくれる言うてくれてなぁ。午前は幼年訓練校? そこで勉強して午後は局でお仕事や。ほら、学校通っていたら船乗れないやん」

「あー、いや、まあ時空航行部隊のアースラと地上部隊の違いという意味で言ったんですけれど、そこまではまだ知らないですか……」

 陸とか海とか空とか、そのあたりの力関係を理解するのには私も少し時間がかかった。
 皆一丸となって復興を目指すダライアス出身の私には難しくもあったが、複数世界をまたぐほどの巨大な組織なら分化してしまうのも仕方がないのだろう。

「船で行ったり来たりする所とあたしの働く所は違うっちゅうことかな?」

「全然別の場所、と思っていただければ」

「そうかー。アースラの人たちにも恩返ししときたかったんやけどな」

 やっぱり良い娘さんだ。
 派閥だの教会だの話していた先ほどまでの自分が恥ずかしくなりそうなくらい。

「アースラですか。懐かしいですね。ヤマトさんやクロノさんは元気でしたか?」

「元気すぎてあたしが治る前にシグナム達と一戦やらかしてしまったみたいやな。カガリちゃんのお見舞い行く言うたら怪我心配しておったよ」

「心配だけでお見舞いに来てくれないのは、お仕事忙しいのか薄情になったのかどちらなんでしょうね。ヤマトさんはあれでも学生時代からの戦友なんですが」

 はやてさんがお見舞いに来てくれて、もしかしたらアースラの人も誰か来てくれるのでは無いかと密かに期待していた。ちょっと寂しい。

「ヤマトさんかぁ。あの人かっこええよなぁ」

「はあ!?」

 今なんて言いましたかこの子は。

「イケメンさんやし、優しいし、ああ、また頭なでなでして貰いたいなあ」

 九歳の小児に何をしているんだろうかあの人は。
 誰彼かまわず魅了するハーレム体質に関してはもうどうでも良いが、もう十も中頃だというのにこんな小さな子までフェロモンをばら撒くなんて。
 当の本人は鈍感というよりは意図的に楽しんでいるのでは、というくらいに誰に手を出さずに踏み込まないし。
 こんな良い娘が何でこんなことに……。

「なのはちゃんたちは、良い人だけどそんなにかっこいいかなーとか言って同意してくれへんのやけど」

 彼は容姿の特異さを除くと性格は優柔不断な優男だから、外見を格好良いというはやてさんの意見も、良い人だけどちょっとというなのはさんたちの意見も理解できる。
 容姿につられてなのか誘蛾灯に集まる虫のようにふらふらと集まってくる女性達はちょっと理解の外だが。
 やっぱりフェロモンなのか。そうだとしたら人間じゃない私がちっともときめかないのが納得できる。

「でも顔合わせるとつい殴りつけたくなるんや。これ流行のツンデレっちゅうやつかな?」

「……ツンデレというか様式美ですね」

 そういえばヤマトさんは、不意の事故やうっかり発言や嫉妬でよくよく集まっている女性陣に殴り倒されていた。何故か。
 男性陣はそれを見てスカッとするなどと言っていたが、実のところあの人は性別関係なしに人に好かれるので、心の底から憎いと思っていた人は居ないだろう。
 カリスマか。だとしたら、手をかざし笑みを振りまくだけで人が付いてくるのは指導者としての資質なのだろうか。
 あの目立つ見た目での演説は、さぞや映像映えするだろう。

「まあはやてさんは地上部隊所属になったようなので、しばらくは彼らに会えないのではないでしょうか」

「そうかー、残念やなあ」

 と、ちょっと本気で落ち込み始めた。話題を変えよう。

「シグナムさん達はどうなりました? さすがに同じ幼年訓練校というわけにはいかないでしょうが」

「あー、四人は各地にばらばらになってそこで訓練受けるらしいで。同じ世界なので会うのは楽らしいけどな。リインは本部言うところで何が出来るかずっと検査受けとる」

「そうですか。まあ流石に田舎に配属は無いと思うので、都市部なら転送で簡単に合流できますね」

 一人二人程度の転送ならば、本局より劣る地上の設備でも十分利用が可能だ。
 局員なら予約すれば私的に利用するのも許される。

 リインフォースさんは、例の聖王教会の件での調査だろうか。
 はやてさんも夜天の魔導書を持っていないようなので、デバイス実験も行われているのかもしれない。
 スクライアの人達が無限書庫から発掘したという夜天の魔導書の情報は、陸まで伝わっているのだろうか。

「なあ、地上部隊ってどんな組織なん?」

「ええとミッドチルダの地上部隊というピンポイントに絞るとですね、ミッドチルダ、今いるこの世界ですね。そこ全体の警察権と防衛を任された巨大な組織です。時空管理局地上部隊、と言ったら各世界にある地上部隊の総称になりますけどね」

「世界かー、いまいちどんくらいなんか実感わかへんな。小説とかで良く異世界とか出てきたけど」

「そうですね……ミッドチルダは地球と同規模程度って言えば解りやすいでしょうか。

「広っ!? めっちゃでかい組織やん!」

 管理外世界の小さな島国出身としての反応はなるほど、こういう風になるか。

「はやてさん達の所属することになったミッドチルダだけに絞ると、広大な多次元世界の観点ではごく小さな範囲のお話なんですよ」
 だからこそ、世界の一つや二つ滅んだところで、ミッドに住む人々はさほど関心を示さない。
 ダライアスの文明復興にはミッド圏の文明の後押しが必要不可欠なので、知名度向上は割りと重要なファクターだ。

「ミッドチルダは中心世界ということで、ここの地上本部が全ての世界の地上部隊の統括本部になっていますね」

 中心世界と言うだけあって、いろんな人が集まりいろんな犯罪も起きるわけで、多世界捜査が可能な時空管理局が統括本部などという形で地上本部を置いているわけだ。
 だけどそれは時空管理局全体から見た視点でのお話。ミッド住人から見ると、地上本部は身近な正義の味方だ。

「地に足が付いている分お仕事の仕方はアースラの人達と違います。そうですね、日本風に言うと、アースラなどの次元航行部隊は道路を巡回するパトカー、私たちは地域に密着した派出所に常駐するお巡りさんといったところでしょうか」

「なるほどなー」

 言いながら、歩行コースを歩く。
 魔力炉から少しずつ魔力が下半身へと流れていくのをイメージして足を前へと動かす。
 まだシップに乗れるほどの回復はしていないが、日常生活を送る分には問題はないだろう。
 そろそろ魔動機械の開発を再開したいものだが、病室に開発キットを持ち込むわけにも行かないので、今出来るのはリハビリを頑張って早く退院することだ。
 骨折は元々の再生能力のおかげで魔力無しでもすぐに治り、担当医の人が驚いていたが魔力炉はそうもいかない。

 はやてさんは歩行訓練器にしがみつきながら一歩一歩確かめながら歩いている。
 ずっと脚が麻痺していたというから、歩行訓練器があっても歩けるというのは嬉しいのだろう。満面の笑みを浮かべている。
 実はこの歩行訓練器、元を辿ると自転車が起源だったりする。はやてさんの脚が回復したら、二人でサイクリングに行くというのも良いな。

 と、そのような話をはやてさんとしていると、コースの外でお婆さんがこちらを見ていた。
 目があうと会釈をしてきた。こちらも礼を返す。
 歩行のリハビリに来たお年寄りだろうか。

「カガリ・ダライアスさんかしら?」

「はい、そうですけど……ええと、あれ?」

 場所を譲ろうかと近づくと、名前を訊ねられた。
 すごい見覚えのある顔だ。どこかで会ったことあるだろうか。
 ぱっと出てこないのでチップ検索してみよう。

「……もしかして、ミゼット・クローベル統幕議長でありますか?」

「ええ、ええそうよ。貴女とははじめましてになるね、魔動少女さん」

「カガリちゃん、お知り合い?」

 私の後ろからはやてさんが訊ねてきた。
 はやてさんは当然知らないだろうが、この人はお知り合いどころではない。

「時空管理局の伝説の三提督のお一人です。簡単に言うとすごい立派で偉いお方です」

「あらあらいやだね。カガリさんは局員じゃないんだからそんなにかしこまらなくてもいいんだよ」

「いえ、私はダライアスでありますので」

「気軽にお婆ちゃんとでも呼んでくれると私は嬉しいね」

 とんでもない人に出会ってしまった。
 本来なら私のような一族の下っ端が気軽に会話を交わしていいような御方ではないのだ。

「ですが……いえ、そうですね。そうします」

「ふふふ」

 優しい笑みだ。歴戦の魔導師であり凄腕の提督とは思えない柔らかい物腰だ。

「闇の書事件が解決したって言うから目を通したら、ダライアスの子が大怪我したって言うから、ミッドに来る用事でっちあげて様子を見に来たんだよ」

 闇の書事件と聞いて、後ろのはやてさんがびくりと震えたのが解った。
 でも大丈夫。この人の目はずっと優しいままだ。

「ご存知のとおり、私たち一族は頑丈なもので。後遺症も無く退院できそうです」

「そうなのよねぇ。もう六十三年も前になるのかしら。怪我人に回せる医療魔導師も少なくて、機械治療に頼ったのだけれど、皆少ししたら傷も治っていてびっくりしたものだよ」

 ミゼット・クロベール提督は、時空管理局草創期の新暦二年、当時管理外世界であったダライアス星へ初の大規模災害事件として駆けつけた艦隊の指揮官だった。
 彼女が人類が滅亡した惑星圏の中、人工移民衛星グラディウスを見つけ出し住民を救出していなければ、今のダライアス一族は存在し得なかった。そんな偉人だ。

「あのときの方達の子供が、管理局のお手伝いをしてくれているなんて、感慨深いものだねぇ」

「当時の方達はまだ半分近くぴんぴんしてますよ。何せ、寿命が長いものでして」

「私はすっかりお婆ちゃんだよ。昔は美人だったんだよこれでも」

 今でも美人さんな歳のとり方をしているミゼットお婆さんが言った。
 もう八十歳を超えているだろうに二十は若く見えるのは、種族的なものではなく魔導師としての力量からくるものだろう。

 背筋もすっと伸びていて、リハビリセンターにはまだまだお世話になりそうにないように見えた。

「カガリさんは戦闘機の復元もやっているんだったね。思い出すねぇ、石のような物体を倒すんだと飛んでいったシルバーガン。どうしてあのとき止められなかったんだと今でも悔やむよ」

「……いえ、それでいいんですよ。私たちは自分たちの手で石のような物体との因果を打ち砕けたんです。例え相打ちでも、彼らは私たちの最後の英雄機です」

 人類最後の戦闘機、シルバーガン。
 斑鳩、銀鶏に打ち砕かれたはずの石のような物体に決着を付けた最後の英雄機。
 私が時の庭園で戦ったようなちっぽけな一欠けらとは違う、本物を相手に打ち勝った英雄だ。

「それに、シルバーガンを再現することが私の夢ですから」

「ふふ、素敵ね。ダライアスの人達は過去を見ているようでしっかり自分達の未来を見ている」

 にっこりと微笑むと、ふわりと私の頭を撫でてくれた。
 不快さは全く無い。
 この手でいったいどれだけの人々を救ってきたのだろう。

「そちらの子は、八神はやてさんかしら」

「は、はい!」

 急に名前を呼ばれてはやてさんがあわてて返事をする。
 そっと肩を押して前へ押し出してあげるが、微妙な緊張が伝わってきた。
 お偉いさんと聞いて緊張してしまっているのだろう。

「あらあらこちらもかわいいねえ」

「あやや、いやそれほどでもないですよ」

 そんな緊張も、ミゼットお婆さんが肩を数回優しく叩くとへにゃりと砕けた。
 何だろう。すごい居て安心する人だ。私たちのような子供に相対するのもすごい慣れている感じがする。
 子供好きのハラオウン提督の究極進化系とでも言うのだろうか。

「足のリハビリかい。ごめんねえ、私も昔闇の書事件に当たったことがあるけれど……そのとき解決してあげれば辛い目に合わせなくても済んだのにねえ」

 節目がちにミゼットお婆さんが言った。
 なるほど、闇の書の暴走、転生は大昔から繰り返されてきた事件だ。
 次元の海を渡り幾多の人々を救ってきたこの人なら、関わったことがあっても不思議ではない。

「ああ、えっと、私はこれでええんですよ」

 突然の謝罪に、はやてさんは慌てて言葉を返した。

「えと、その、こんなこと言うたら被害者の人達にすごい失礼やと思うんですけど、あたし、ずっと一人ぼっちだったのに夜天の書の主になれたおかげで家族が増えて、良かったと思うてます」

「そうかい……ふふ、守護騎士の子達とも戦ったことがあるけど、貴女なら幸せにしてくれそうだね」

 私にしたように、そっとはやてさんの頭を撫でた。
 と、そこで横から管理局の制服に身を包んだ男性が現れた。

「議長、お時間です」

 護衛か秘書の人か。
 周りに溶け込んでいて気が付かなかった。護衛者として一流の人なんだろう。

「あら、もう時間かい。やだねえ年寄りをこき使って。そうだカガリさん、例の展覧会はもうやってるの?」

「あ、はい。この時期は南東区画レールウェイを降りてすぐの百貨店のはずです」

「そう。こちらでの仕事が終わったら寄らせてもらうね」

 そう言って男性を連れてミゼットお婆さんは去っていった。
 横でははやてさんがずっと手を振っている。
 たった数分のことだが、すごい人と会話をしてしまった。

 ミゼットお婆さんの姿が見えなくなると、はやてさんは手を下ろしてゆっくりとこちらに振り返った。

「ええおばあちゃんやったなあ」

「そうですね」

 ヤマトさんのときとは違い、全面的に賛成する。
 英雄と聞いて勝手に厳格そうな人を想像していたのだが、何と言うか、すごい良いお婆さんだった。

「何かよう解らんけど、カガリちゃん六十年前がどうとかすごい話しておったね」

「そうですね。はやてさんは古代ベルカを知っていますよね」

「ああ、夜天の書生まれた古代文明やろ。滅びてて今のミッドチルダの文明とは違ういうくらいしか知らへんけど」

 まだ幼年校に通い始めたばかりなら、歴史はまだ詳しくないか。
 シグナムさん達はバグのせいで過去の記憶が曖昧というから、当時のことも聞いていないのかもしれない。

「古代ベルカは次元震で世界ごと崩壊した文明でして。私の一族も、古代ベルカのように六十年前に滅んだ世界の出身なんですよ」

「ああ、なるほどなあ。……世界って地球一個分の大きさなんやったか。スケール大きいなあ」

 この一年でその地球は二度崩壊の危機があったのだが……その一度は闇の書によるものなので言わないでおく。

 時空管理局に居たら感覚が薄れてしまうが、本来一つの世界というのは広大なものだということをはやてさんと話をしていたら実感させられてしまう。
 今は一万にも満たないダライアスの人たちだが、かつては億を越える数の人々があの星に生きていた。

「……世界一つ一つに、それぞれの歴史がありますからね」

「すごいなあ。小説の世界やわ」

 のほほんと柔らかな表情ではやてさんが言った
 発展期の科学文明から一転、魔法文明の最先端の地へ。見るもの何もが新鮮だろう。
 ああ、そうだ。

「はやてさん、明後日の休日、お暇ですか?」

「明後日? ああ、まだヴィータ達もこっちこれんやろうし、暇やで」

「それなら……ちょうど私の世界の歴史を展示している展覧会をやっているんです。行ってみませんか?」

「あ、良いなあそれ。脚がこんなんやったからそういうの行ったことないんよ」

 怪我をする直前まで私も準備を手伝っていた展示会が、私が入院している間に始まっていた。
 まだ入院中だが、今の調子だと外出許可も貰えるだろう。

 こうして久しぶりに友達との外出をすることになった。












 展覧会に行ったらユーノくんが居た。

「お見舞いに来てくれない薄情者一名発見!」

「ええええええいきなりなに!?」

 首都クラナガンの南東地区中心駅を降りて目の前の百貨店。
 その中のワンフロアを借りて開催されている展覧会の入り口に、ユーノくんが居た。
 この展覧会はダライアスとスクライアの共同出展だ。スクライアは考古学の分野で有名なので、よくこのような展覧会を開いて活動資金を得ているらしい。
 子供用スーツを着たユーノくんの胸には、案内員と書かれたネームプレートが付けられている。なんとも可愛らしい案内員さんだ。

「すぐ近くの医療センターに入院しているというのに、お見舞いにも来てくれないんですか。闇の書事件に関わったなら私が大怪我したのも知っているでしょうに……」

「え、あ、なるほど。そういうことね」

「そういうことね、じゃないですよ。ちょっとショックじゃないですか」

「いや、だって、第6で襲われたから、自治区で治療していると思って。お見舞いなんて名目じゃあ入区許可下りないよあそこは」

 む、確かにその通りだ。

「そもそも、お見舞いって来てもらうものであって、相手に来ることを強要するものじゃないよね。ちょっと図々しいよカガリ」

「すいません全面的に私が悪かったです」

 全面降伏で手を上げて頭を下げる。
 正直入院してから可愛がられてばっかりなので調子に乗っていました。

 と、そんな漫才を続ける私たちの後ろから、受付を済ませたはやてさんがケッタマシィーンのホバリングモードでやってきた。

「なんやあ、カガリちゃんの彼氏か?」

「いえ、なのはさんの彼氏さんです」

「いや、まだ違うよ!?」

 なんだ。あんなにラブラブオーラを発していたのに闇の書事件でも仲が進展していなかったのか。
 何と言うかまあ、奥手というか子供らしいというか。

「彼は、私となのはさんとの三人で、私の世界の神様を一緒にぶち殺した仲なんです」

「……そらまたえらいぶっとんだスケールの話やなあ」

 神と言っても一欠けらの劣化品なので、スケールが大きいのではなく相手のスケールが小さかっただけなのだが。


「君は……八神はやてさんだね。僕はユーノ・スクライア。よろしくね」

「あ、はい、よろしく」

 お互いに丁寧な会釈を交わした。

「あれ、闇の書事件で顔合わせていなかったんですか、二人とも」

「僕はヤマトさんに頼まれてスクライアの人たちに渡りを付けていたから、ほとんど現地には行っていなかったんだ」

 なるほど、例の無限書庫発掘か。石のような物体のときのように戦闘員になるよりは確かに適任だ。
 Aランク魔導師のユーノくんが戦っていたら、AA以上とされる守護騎士さん達にリンカーコアを抜かれてしまっていただろう。

「さすがにカガリはスタッフとして来たわけじゃないよね。案内する?」

「むしろ私がユーノくんに教える側ですよ。まあ折角なので一緒に見ましょうか」

 そうして三人で一緒に並んで展覧会場、R's MUSEUMへ入っていった。

 会場の中は狭すぎない程度に適度な人の入りがあった。
 ユーノくん曰く宣伝がそこそこされていたとのことだが、私たちの過去をこれだけの人が見てくれているというのは中々に感慨深いものがある。

 この展覧会はダライアスの歴史の中でも大事件である、バイド戦役を扱ったものだ。
 時代の流れに沿って展示がされているようなので、順路に沿って進むことにした。


 はるか昔、高度に発展した科学力を持って宇宙へ進出し、人と人との争いが続けられていたそんな時代、亜空間の彼方から人とは違う生命体がダライアス星へと進行してきた。
 亜時空星団バクテリアン。
 自分たちの技術力を超える兵器と、意思の疎通が可能とは到底思えないその異形から、争いを続けていた人類は一丸となって抵抗を始める。

 ミニチュアと当時の記録映像、記録写真が飾られるこの展覧会で初めに飾られていたのは、バグテリアンとの戦いで人工衛星グラディウスから飛び立ち初めて大きな戦果を残した英雄機、初代ビックバイパーだった。
 二又に分かれたこの特徴的なフォルムは、当時の技術の全てが投入された人類の想いの結晶であった。

 ビックバイパーの後続機も次々と作られ、度重なる戦いの末にバクテリアンの“巣”を確保するに至った。
 その内部調査で、人類は大きな衝撃を受ける。

 “巣”の内部から見つかった物。それは、四百年もの未来の年号を記されたファイルと、当時の科学を源流に持つ技術の数々だった。
 亜時空星団バクテリアン、その正体は四百年未来のバイオ兵器、星系内生態系破壊用兵器バイド生命体だった。

 人類はバイドを滅びつくすため、戦いの中で採取したバイドの研究を始めた。
 その過程で、バイドの侵食性を抑え機械でその高エネルギーを制御する兵装、フォースが生まれた。
 現代のダライアス一族が持つ魔力炉、クリーンフォースの起源だ。

 やがて、フォースを標準兵装として扱う戦闘機が誕生する。
 それまで繰り広げていた宇宙での戦いからバイドの生まれ出てくる異層次元へと舞台を移した初戦闘、第一次バイドミッション。そこに投入された機体。

「R-9A "ARROW-HEAD"。今回の展示の主題でもあるRシリーズ戦闘機の出発点です」

 超束積高エネルギー体フォース、支援型人工フォース・ビット、そして純科学によるエネルギー兵器波動砲。
 それらの新武装を携えたR-9は、大きな戦果を残して帰還する。
 R戦闘機とバイドとの戦いの始まりだった。

 展示は続いていく。

 人工天体の暴走。
 バイドに侵食され人に牙を向く人類の兵器。
 次々とロールアウトしていく新しいRシリーズ。

 そして。

「うっわあ、グロいなあこのオブジェ」

 サタニック・ラプソディー事件。バイドによって操作を奪われた電子制御兵器が暴走し、巨大な宇宙要塞までがバイドの手に落ちた。
 それの鎮圧に当たったR-13A "CERBERUS"は、亜空間でバイドのコアを破壊した後、次元跳躍による脱出に失敗し逆にバイドに囚われてしまう。
 目の前に飾られた巨大なオブジェは、後に発見されたバイドに取り込まれたケルベロスの姿を再現したものである。

 機械に、生物に、時には人の思念にまで侵食をする生態兵器。
 R戦闘機を駆るパイロットは皆侵食を覚悟して戦っていたのだろうか。

 順路にずらりと並ぶR戦闘機のミニチュアたち。
 その一つ一つに、解説文が載せられている。
 まだミッドの文字を覚え始めたはやてさんに、私とユーノくんが交互に読み上げて説明していく。
 中にはバイドを培養して機体の装甲に使っている戦闘機などもあるため、ツッコミを続けるはやてさんの反応が面白い。

「B-1D2 "BYDO SYSTEMβ"。バイド素子強化実験機。装甲にB-1Dのものを流用して開発された機体である。内部にはパイロットが乗り込めるようにR-9Kのコックピットユニットが使用されている。多くのバイド系機体が成形素子の人体への影響とともに、パイロットへの心理に配慮して外観を成形されているが、本機はそれらの配慮が全くなされておらず、邪悪な姿のまま開発を進められた」

「いや、今までも十分邪悪だったやん!?」

「あはは、私もBシリーズのバイドバイドした戦闘機はどれも絶対に乗りたくないですね」

「ミニチュア作った人も大変だっただろうね……」

 三人で談笑を交えつつ、進んでいく。
 歩みとともに時代も進む。
 やがて、最後の戦い、作戦名“Last Dance”の解説となり、人類は未来からの脅威に打ち勝つことが出来た。

「ここで戦いの歴史は終わりですね。この先はバイド襲来の真相などについてのコーナーですね」

 ラストダンスの最後の締めくくり。最後のR戦闘機のミニチュアが飾られた展示の前で立ち止まる。
 ミニチュアの横には、ミニチュアよりも大きな機体が置かれていた

「R-101 "GRAND FINALE"。究極互換機 Ver.3。Rプロジェクトを締めくくる最後の機体。この先、新たにR戦闘機が開発されることはもはやない」

「あれ、こっちのおっきいのカガリちゃんの名前書いてある」

 私の説明を聞きながら、はやてさんがミニチュアの横の機体のパネルを指差した。

「……文字、読めたんですね」

「簡単にだけな。それより、こっちのは何や? 今までのとは全然形ちゃうみたいやけど」

 今までのオブジェやミニチュアとは趣の違う展示を見上げながら、はやてさんが言った。
 パイロットスーツを着たマネキンの全身にばらばらの装甲が装着されている。

「これは、私が現代のダライアスの技術で再現した、グランド・フィナーレです」

「カガリちゃんが作ったんかー」

「他の人にも手伝ってもらいましたけどね。私、魔動機械開発者でもあるんですよ。お仕事は、こういった過去の戦闘機を現代の技術で復元することです。展示品ですが私が使えばちゃんと動きますよ」

「なるほどなー」

 はやてさんは感心したように頷くと、何かを考え込むように今度は口に手を当て眉を寄せた。
 そして数秒の沈黙の後、ぼそりと呟いた。

「なあ、カガリちゃん」

「はい、なんでしょう」

「古代ベルカも、カガリちゃん達みたいに滅んでしまった文明なんよね?」

 頷きを返す。
 リハビリセンターで話していたことだ。

「そして私は古代ベルカの魔導書の主や。なあ、私もカガリちゃんみたいに古代ベルカの魔導書を蘇らせてみたい、て言うたら無理かなあ?」

「無理ではありませんね。地上本部と聖王教会はその手助けをしてくれるでしょうし、このユーノくんもそういうのに詳しいので……。でも、何故急にそんなことを? 地球生まれのはやてさんには古代ベルカは自分の持つデバイスというだけの関わりでしょう」

「あんな、ヴィータ達を見てるとな、こんな素敵な家族作れる古代ベルカって、素敵な文明だったんやなあって」

 ユーノくんの方を見ると、可愛いウインクを返してきた。
 古代文明に興味を持つ人一人ゲット、とでも言いたいのだろうか。

「この展示見てな、私の知らない世界にも色んな歴史があるのが解って……それなら、あたしの家族の生まれた文明についてももっと知りたくなったんや」

 可愛い笑みで、はやてさんがそう言った。
 今まで魔法なんて知らなかったはやてさんが、家族を持つことで出来た新しい目標。
 戦闘機乗りとして生まれ自らの希望で戦闘機乗りを続ける私のように、考古学者として生まれ自らの希望で発掘者となったユーノくんのように。
 生まれながらに闇の書に選ばれたはやてさんは、自らの希望でベルカに関わることを選んだ。


 ここが、はやてさんの魔導師としてのスタート地点だった。



――――――
あとがき:全部二話にまとめるつもりが思いのほか肥大化したので設定語りの実験作に使ったそんな二話三話。結果的にこの三話はSHOOTINGの三話と対応するような構図となりました。
このエピソード書かなかったら蒼天の書が生まれずにヤマトはある意味原作キャラ殺しとかになっていたのでしょうか。
※神戸か大阪かもわからない関西弁は超適当に書いています


用語解説
■でも顔合わせるとつい殴りつけたくなるんや。これ流行のツンデレっちゅうやつかな?
ハーレム作品の主人公は何故か登場人物一同から理不尽な扱いを受けて、もてるのも辛いよという演出が行われることがあります。
別に女性キャラから嫌われているわけでもないので、全然主人公の理不尽なもてっぷりを中和できていないのですが。


SHOOTING TIPS
■人類最後の戦闘機
クリアしたと思ったらBADENDで人類滅亡とか地球真っ二つとかのSTGが多いので、STG史ではこの言葉に当てはまる機体はたくさん存在します。

■R's MUSEUM
アイレムのSTG、R-TYPE FINALより。ゲームを進めるごとに新しい機体が追加され、ミニチュアがミュージアムに並んでいくというオマケ要素。
100に届くその機体を全て出すのは長時間のプレイを求められます。放置とか放置とか放置とか。
一部の機体説明はツッコミ所満載といいますか、「機体開発者狂ってる」と言いたくなるものになっています。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第四話Aパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/12/05 08:02

「あたしの所属部署? 航空魔導師隊いうとこ。そこの機動二課や」

「ああ、私と同じ……ってええ!? 姉さん! オーリス姉さん!」

『もしもし。やあ、君の姉さんだ』

「何で素人を航空魔導師隊に入れているんですか! 殺す気ですか!?」

『七歳でそこに入った君が言うことか。……まあ素人なのは承知だ。だが早く育って欲しいのでな。午前は訓練校だし、職場でもまだ戦闘現場に出ずに担当者と組ませて災害出動とテロを想定した研修だ。On-the-Job Traningという言葉があるだろう』

「まあ、すぐに現場に出さないなら良いですが……」

『まあ、すぐにテロ現場に出動だが。そのときのトレーナーはカガリになる』

「ええええ、嘱託局員に任せないでくださいよ」

『一言で言うと、責任取れ、だ』

 そう言うと姉さんは一方的に通信を切った。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第四話『その昔。遥か次元の彼方にアルハザードがあった。』前編

原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 怪我が完治し地上本部へと復帰できるようになった頃には、すでに二月も終盤を迎えていた。
 気が付けば私も十歳になっていた。

 入院前はダライアスの仕事ばかりしていたので、地上本部でまともに働くのは実に十一ヶ月ぶりとなるのだろうか。
 私はようやく自分の所属課、通称蒼穹紅蓮隊に戻ってきたのだ。

 時空管理局地上部隊ミッドチルダ地上本部航空魔導師隊機動二課。

 この課は現在企業テロ対策課となっており、地上本部から来たオーリス姉さんが統括を担当している。

 組織の頭に魔導師を置かずに文官を置くのは地上本部の特徴である。理由は、貴重である優秀な魔導師に組織運営を兼業させるくらいなら、休息を多く取らせてその分現場へ多く出動させる、という人材不足からくる運用だ。

 企業テロは年々激しさを増している。
 この時期に長らく離れてしまった私は、戦果を持って応えなければならない。

 そんな中での悩みの種は、はやてさんの存在だった。

 魔力値はSランク相当。使用可能魔法もSランクまで使え、ミッドや近代ベルカのオーソドックスな魔法から、古代ベルカや地方世界の独自魔法など幅広い魔法を使うことはできる。
 夜天の主は、魔導書のバックアップを受けずとも蒐集した魔法を発動することができ、またエミュレートの実行速度も速い。レアスキルというやつだ。

 だが、そんな万能能力を持っていても、本人は魔導師資格すら持っていない新米魔導師。
 知識と経験が圧倒的に不足している。

 はやてさんはつい半年前まで自分で歩くことさえできなかった一般人だったのだ。
 幼少からシミュレーターと学習器で教育されてきた私と同じと考えてはいけない。


 課の自席に座り、背もたれに身体を預けながらはやてさんの蒐集魔法一覧を眺め、頭を悩ませる。

 大まかな運用方針や現場での作戦内容については隊長陣が指示してくれるだろうが、細かい部分では私が導いていかねばならない。
 魔法のリストは膨大だ。ミッド式の総合魔導師さんに丸投げしたいところだが、ミッド式以外の魔法が多すぎてどの方式の魔導師がやろうとも同じだろう。

 いや、このリストにないダライアス式パイロットの私だからこそ方式の偏りなくアドバイスが出来るのだろうか。

 これだけの魔法があるのだ。一点特化型より複数の魔法を自在に使いこなす万能型の魔導師を目指すのが良いだろう。本人も蒐集魔法だけに頼らずたくさんの古代ベルカの魔法を覚えたいと言っているし。
 古代ベルカの総合魔導師。どのような魔導師なのだろう。

 守護騎士さん達なら知っているだろうか。バグの影響で過去の記憶に穴があるらしいが。

 そういえば、シグナムさんの現所属は首都防衛隊だったか。
 地上本部に近いので何かと相談に行けそうだ。撃ち落されたときの記憶が鮮明なので、まだ少し怖いけれど。


 ヴォルケンリッターの一番の実戦的実力者であるシグナムさんが首都防衛隊に配属されたのは、本局の部隊であるミッドチルダ首都航空隊への牽制の意味が強いのだろう。
 企業テロの一番の激戦区である首都クラナガンで、地上本部が十分な働きを出来ず本局舞台に手柄を持っていかれることになってしまえば大変だ。

 ただの縄張り争いではない。ミッド全体の治安を守っている地上本部が、その中心地である首都の防衛だけを本局に良いとこ取りされてしまうというのは、対外的な印象が非常に悪い。また内部の士気低下も引き起こされてしまうので始末が悪い。

 さらに首都航空隊側も陸を敵視している局員さんが多いというので、首都圏での対立は激しい。

 そこへ空戦AA試験を一発で通り、実力はオーバーAAAとされるシグナムさんが即戦力として投入できれば、中解同への対応競争も新たな局面を迎えるだろう。

 ああ、所属からこんな組織対立の裏側を想像してしまうなんて、私もゲイズ親子に毒されてきた。

 私に必要なのは世渡りではなく戦場で魔動機械の性能を試すことだ。
 はやてさんと一緒の職場になってもそれは変わらない。












 新暦65年2月27日。中小企業解放同盟によるテロが起こった。

 ミッドチルダ北部の地方都市。臨海第八空港の近辺に本社を構える多次元警備会社に対する声明が出ている。
 警備会社とは名ばかりの軍需産業の一大メーカーであり、地方世界にさまざまな魔法兵器を輸出している。

 なるほど、中解同が狙うには十分と言える世界間交易企業だ。
 死の商人ともなれば、中解同以外の組織も関わっていそうに思える。

 航空魔導師隊への出動がかかる。
 今までの通りだと、警備会社を狙うと言っておきながら周囲のビル郡も徹底的に破壊しようとするだろう。

 地上本部から地方都市への距離は非常に遠い。

 周りの局員さん達は転送施設へ急ぐが、地上本部には大部隊をピンポイント転送するような設備は未だ無い。
 続く企業テロのおかげで出動が早くなったが、それでも本局のような最先端施設が多く揃っていない以上、すぐに鎮圧というわけにはいかないのだ。

 新調したばかりの浅緑のパイロットスーツに着替えた私は、分隊長から指令を受けはやてさんの元へと向かう。

「さ、はやてさん、行きますよ」

「お、おう」

 小さなリインフォースさんを肩に乗せ、はやてさんは両の拳を握って気合を入れた。これが彼女のテロ現場への初出動となる。
 技術部のラボで一通りの調査を終えたリインフォースさんは、こうしてはやてさんと一緒にいたり、書の中で休眠を行ったりしている。
 夜天の書が融合型ユニゾンデバイスとしての機能を発揮するには、管制人格である彼女の仲介が必要らしい。

 管制人格なしの夜天の書は、蒐集魔法のエミュレーター機能を除くと一般的なストレージデバイスとさほど違いが無いとのことだ。
 容量は管理局の最先端デバイスと比べても遥かに膨大だが。

「み、みんなについていけばいいんやな」

 足の補助器を唸らせて他の局員さんと一緒に転送室へ向かおうとする。
 だが私はそのはやてさんの肩を掴む。話はまだ終わっていない。

「はやてさん、私たちは別行動です」

「え、どういうこと?」

「基本的に私は速度を生かした先遣隊としての行動を取ります。はやてさんはそれについてきてもらいます」

 これだけではまだ事情が飲み込めないのか、首を捻らせている。
 私は分隊長から貰った座標スフィアをリインフォースさんに手渡して話を続ける。

「蒐集した魔法の中に同世界長距離転送魔法を持っているでしょう。良いですか。本局や次元航行部隊とは違い、ここの隊では長距離転送なんていう大魔法を使える人なんて貴女くらいしかいないんです」

 航空魔導師隊にも高ランク魔導師は所属しているが、使用魔法は戦闘に偏っており、転送魔法はみな魔法機械に頼りきりである。
 はやてさんが蒐集した転送魔法は、ある管理世界の地上部隊所属の召喚師から奪われたもの。存分に活用させてもらわねば。

「リインフォースさん、その座標いけますか? テロ現場から少し離れた地上部隊の施設です」

「問題ない。すぐにいける」

「では私の武装のある格納庫へ。そこで飛びます」

「了解や!」

 魔法機械群による企業テロはすでに始まっている。急がねばならない。
 もちろん、テロが起きている都市にも地上部隊の支部があり、テロへの応戦を続けているだろう。
 だが、中解同は圧倒的戦力を誇り、各支部の持つ戦力は明らかに不足している。

 地上本部は軍隊ではなく警察組織。過剰戦力を持つなどとんでもない。それが、本局や海の人たちの考えだ。他の世界では、自衛軍が自分達の手で自分達の世界を守っていると言うのにだ。

 格納庫に向かい、以前の中解同戦でも使用したR-GRAY2とビックバイパーT301を装着する。

 整備は行き届いている。この前確認したのだが、私が居ない間も技術部の人たちが定期的に点検をしていてくれたらしい。
 ありがたいことだ。地上本部はエリート魔導師ではなくあらゆる技能者の日々の努力で成り立っている。

「リインフォース、ユニゾンイン、いくで!」

 夜天の魔導書が光り輝き、はやてさんがバリアジャケット姿になった。いや、騎士甲冑というのか。

 丸く膨らんだ白い帽子に、白と黒で構成されたコート。背中からは黒い羽が生えている。
 なのはさんもそうだが、第97管理外世界の人は鳥の羽が好きなのだろうか。

 魔法の砲身となるであろう剣十字をあしらった黄金の杖は、なるほど古代ベルカの魔導師の姿だ。
 髪の色が茶色から飴色に変わっている。ユニゾンの影響というやつだろう。

 武装局員の中にはバリアジャケットの錬度が足りず、管理局から支給される装甲服を着る魔導師も多い。
 だが、はやてさんのこの騎士甲冑は感じる魔力もバイザーからの解析結果も完璧と言えるほどの完成度で顕現していた。
 夜天の書の能力だけでなく、生来の魔力資質も高いのだろう。いや、魔力資質が高いからこそ闇の書の転生先に選ばれたのか。

 準備は完了。転送の前に、一言言っておこう。

「対中解同作戦における私とはやてさんの基本運用は、先遣部隊。誰よりも早く現場へと駆けつけることです。つまり普通に考えると、任務上の死亡率は半端ではないということです。高ランク魔導師だからこそ任される厳しい現場です」

 死亡、という言葉を聞いてはやてさんの顔が引きつったのが解る。

 だが、凶悪犯罪者を相手にする魔導師組織などそういうものなのだ。
 貴重な人材を使い潰さないためにも、最も生還率の高い私たちが先陣を切って進まねばならない。

「高ランク魔導師である私たちがその役目をすることで、後続の人たちの死亡率を下げることができるとも言い換えられます。私たちのすることは、皆を助けること。誇ってください」

 そやな、と力強くはやてさんが頷く。
 そしてはやてさんが持つ魔導書からリインフォースさんの声が響いた。

「転送魔法エミュレート開始します。主はやては魔法に集中を。カガリ殿は展開する魔法陣の中央へ」

 やれやれ、はやてさんの魔法運用について考える前に事件が起きてしまったか
 はやてさんの初出動の始まりだ。











 はやてさんをシップに乗せ、二人で空を翔る。
 二人で並んで飛ぶより、私がこうしてはやてさんを運ぶほうが速い。
 アースラの誰かは私を地上本部最速などと持ち上げていたか。

 テロの区画に到着するまではまだ少し距離がある。支部からバイザーに登録してもらった通信機能を確認しながら、はやてさんと会話を続ける。
 魔力障壁のおかげで声は良く通る。

「管理局の魔導師のお話です。シグナムさんのようなAAAランク以上の魔道師は管理局全体で見ても5%弱。これをどう思います?」

「え、ううーん、シグナムみたいなすごいんが5%か……」

「思いのほか多いんですよね、AAAランク以上の魔道師って」

 AAAともなれば、地方世界の防衛機構が貧弱な都市程度なら単独で制圧できる。
 そんな強力な魔導師を時空管理局は多く抱えている。

「でも、地上本部の武装部門の平均魔道師ランクはC-です。低いんですよ」

 今のはやてさんに魔導師ランクの話をしても理解は仕切れないだろう。
 だが、今の彼女に伝えておきたいことがある。

「高ランクの魔道師が必要な現場は、武装部門、教導部門、都市結界維持部門くらいでしょう。補助部隊は少ない魔力で動く機械が発達していますしね。魔法研究員に高ランク魔道師なんて必要ありません。そもそも、研究員は魔道師資格より研究関連の資格をとりますからね。多数派であるデスクワークの方なんて、魔道師がいてもたいていが低ランクですよ。そんなに魔道師が余っているわけではありませんし」

 一気に局員で無いと理解できない単語をまくし立てる。
 はやてさんが理解できなくとも、デバイスの一部であるリインフォースさんが覚えていてくれるだろう。

「つまり、5%の多くは武装関連部門に固まるわけですね。それでも地上本部はC-なんですよ」

 本来なら5%を遥かに超える数のオーバーAAA魔導師が武装部門に固まるはず。
 第97管理外世界の教育水準は知らないが、はやてさんは解っただろうか。

「知ってます? 空を飛ぶためには、先天的な魔法の才能か高ランク魔道師になれるほどの特殊訓練が必要なんです。低ランク空戦試験はただの消化過程なんて揶揄されているほどです」

「そうなんか。私もすぐに飛べたし、ヴィータたちもなのはちゃんたちも飛んでたから知らんかったわ」

「ええ、そうですね。ヴィータさんたちは知らないですが、なのはさんもフェイトさんもヤマトさんも天才ですから簡単に飛んでます。でも、地上本部ではそうそう飛べる人はいません。他世界からの空中爆撃テロとかがあるのに、空の守りが薄いんですよ。ミッドチルダは」

 航空魔導師隊は、そんな貴重な空戦魔導師を集めた部隊だ。
 だからこそ、こうしてミッドチルダ中に駆り出され企業テロの飛行機械と戦い続けることになる。

「私の魔導師ランクは空戦AA。先ほどの5%にも入っていません。ですがはやてさん、あなたならAAAランクなど簡単に到達できる。……航空武装隊に居る間だけでも良いです。ミッドチルダの空の守りになってください」

 彼女が時空管理局に入ったのは、罪滅ぼしのためだ。罪をつぐなえるならば管理局でなくとも良かっただろう。

 だが、地上本部の皆は心に強い信念を持って世界の平和を守っている。
 例え本局に力を奪われようとも、自分たちの持つ信念で戦いを続けている。

 浮き世に絶対などというものは無く、理不尽な思いを胸にして途方にくれる時もある。
 それを乗り越える為には、確固たる信念と洞察、そして幾分かの行動力を持つ必要がある。


 斑鳩の物語に出てくる「信念」の一節だ。
 私は地上本部の皆ほど、ミッドチルダに対する強い思いは無い。だけれど、彼らの在り方をいとおしく思う。

 はやてさんにもミッドの空を守ると言うことについて何かを考えて貰いたかった。

「……この先が戦場なんよね」

 爆発の光が遠巻きに見えてきた。あの先ではこの都市の陸上警備隊と中解同の魔法兵器が戦いを続けているだろう。

「ああ、気分すごいアチョー入ってきたわ」

「アチョー?」

「何と言うかこう、脳天にキュッとくるような興奮っちゅーか気合っちゅーかそんなもんや」

 気合が入った、ということだろうか。だけれど、はやてさんの声は微妙に震えている。
 緊張か恐怖か。まあこれも予想の範疇だ。

「怖いですか?」

「あたしなー、夜天の主とか偉そうに言われておいて、魔法で戦ったことってないんよ。あははは……」

 なんとも乾いた笑いをするものだ。

「戦闘訓練は?」

「変な風船に魔法を当てたり、撃ってくる弾を避けたり防いだりで……実戦形式みたいんはまだ……」

「そうですか。では、私の初めての実戦訓練の時のお話をしましょう」

 はやてさんの不安の解消への助けになるか解らないが、私の経験を話してみよう。
 あれはもう懐かしい、五年近くも前のことか。

「魔法学校の転校生であった私は、放課後に模擬戦をしようということで同級生の人に相手をして貰ったのですが……」

「ですが?」

「容赦なしにずたずたのぼろぼろにされました。ちなみにその同級生はヤマトさんです」

「…………」

 機体のカメラアイに映るはやてさんの顔は、何とも微妙な表情をしていた。

「つまり、戦いに慣れていないなら、とにかくまずは防御と回避を第一に考えましょうということで」

 あれは戦いに慣れる慣れない関係なしの超弾幕だったわけだけれど。
 無理にヤマトさんのトリガーハッピーを伝えることも無いと黙っておく。

「……なるほどなー」

「大丈夫。本気で守りに入ったSランク相当の魔力の防御を抜ける兵器なんてそう多くは無いですよ。危なそうな相手が居たら私が言います」

「防御、防御、防御……」

 はやてさんは防壁魔法バリア防盾魔法シールド魔力障壁フィールドと確認するように順に魔法を使っていった。
 魔法防御の基礎であるこの三種類を解っているなら、どうにかなるだろう。

「相手は機械で動作予測が付かないので、魔力障壁を基本にしていきましょう。それと」

 もう少しで戦場に付く。
 最後に指示を出しておこう。

「お仕事は犯罪者の捕縛ではなく、テロの鎮圧、魔法機械兵器の破壊です。余裕が無いなら非殺傷設定は外してください。非殺傷だと動力部の停止しか狙えません」

 はやてさんは一瞬押し黙ったが、やがてゆっくりと頷いた。

 はやてさんがまだ幼くて良かった。
 強力な非戦の倫理観が構成された後の年齢になってから戦闘魔導師への道に進むと、かたくなに非殺傷設定を外さない使いどころの難しい魔導師になることがある。
 日本はあの97サブカルチャーのフィクション世界とは打って変わって、現実での戦いに拒否感を持つ文化なので少し心配だったのだ。


 視界に高い建造物が増える。ようやく都市圏に入った。
 指揮本部がテロの標的にならないよう離れた支部からの飛行となったが、これだと後続の部隊の到着は少し遅れるだろう。

「……見えてきたなー。魔法機械か。ちっちゃな飛行機みたいやな」

 魔法で視力を上げているのだろう。敵の形状まで見えているようだ。
 私も一部のカメラアイを望遠モードにして敵影を見る。

「うわ、なんやあれ。えらい他と違うでっかいのがおるで」

 はやてさんの視線の先を追う。

 他の魔法機械とは遥かに違う巨大さを持った機体があった。
 肌色の装甲。見えているのは側面だろう。円形の機体には、まるで顔のような模様が浮かび上がっている。
 上下には魚のひれのような機械翼がついていた。

「あ、あれは……」

「なんやカガリちゃん。知ってるんかあれ?」

 あの姿には見覚えがあった。
 魔法学校時代、図書室でふと手にした本の挿絵に描かれていた異形の姿。
 中解同に何故このような機体があるのだろう。


「あれは、幻想世界ファンタジーゾーンアルハザードに生息するという伝説の砂獣……コバビーチ!」



――――――
あとがき:一個人の魔導師の気分で都市壊滅が出来る設定の一方で、質量兵器は危険で魔法は比較的クリーンとか言ってしまうあたりがアンチ管理局のアニメ視聴者が増える一因なのかなーとか思った5%考察。
でもアルカンシェルとか作る魔法科学力で質量爆弾作ったら地球破壊爆弾程度簡単に生まれてしまいそうです。このあたりを独自設定でどうにか解釈するのがSS作家のお仕事なんでしょうか。

Aパート丸々使った前置きが長くなりましたが、次回ようやく対中解同戦です。
なお、首都航空隊、首都防衛隊、航空魔導師隊、名前がややこしいですが全て別物です。航空魔導師隊はStS本編でも陸なのか海なのか不明な部隊ですが、ミッドチルダにある部隊のようなので地上本部直属という設定にしています。


用語解説
■On-the-Job Traning
研修を終えた新入社員をさっさと職場に叩き込んで、トレーナーをつけて実際に仕事を体験させることで身をもって覚えさせるという職業指導手法。
嘱託魔導師といいますか派遣社員にトレーナーをさせるというのは何かが間違っている気がしますが派遣だらけの人手不足の職場ではままあること、らしいです。
今回の場合は、オーリスさんがカガリを成長させたいと思って配置した裏がありますが、きっと彼女は気づかない。

■なのはさんもそうだが、第97管理外世界の人は鳥の羽が好きなのだろうか。
天使とか堕天使とか片翼とかそういうサブカルチャー知識はあってもとっさには思いつけない、そんな世界間カルチャーギャップ。
ヴォルケンリッターの甲冑デザインははやて画伯によるものですが、きっとそういう感じの小説が好きなのでしょう


SHOOTING TIPS
■アチョー
アドリブでの非パターン避け、いわゆる気合避けをしているときに至る精神状態。あるいは気合そのものや、気合避け、気合避けプレイヤーなどを指すSTG用語。アチョー避けとか言います。
STGをやらない人に説明するのは難しい言葉ですが、ブルースリーの「アチョー!」が語源で、あんな状態だと言えば感覚的に理解してもらえるやもしれません。

■ファンタジーゾーン
ファンタジーゾーンは、セガの発売した独特でファンシーな世界観が売りの横方向任意スクロールSTGです。
敵を倒して得られたコインでお店からパワーアップアイテムを買うという、ちょっと変わったシステムがあります。買い溜めも出来ますが死んだらアイテムリセット。
セガのネットゲームであるPSOやPSUにセガのマスコットキャラソニックやファンタジーゾーンの自機オパオパを出すという微妙なファンサービスを見ていると、ソニックチームどうなってしまうんだろうと不安になります。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第四話Bパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/09/27 19:01

「あ、あれは……」

「なんやカガリちゃん。知ってるんかあれ?」

 あの姿には見覚えがあった。
 魔法学校時代、図書室でふと手にした本の挿絵に描かれていた異形の姿。

幻想世界ファンタジーゾーンアルハザードに生息するという伝説の砂獣……コバビーチ!」

「そ、そらまた偉いもんが出てきたな!」

「……を機械で模しただけのただの巨大魔法兵器のようです」

「って偽者かい!」

 はやてさんとの会話は、何だか楽しい。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第四話『その昔。遥か次元の彼方にアルハザードがあった。』後編

原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 夕日の向こうに敵影が見えた。
 超長距離砲撃ならば撃ち落せる距離。

 既に戦闘空域だ。

「本部。こちら蒼穹紅蓮隊トリューフォー、及びトリューセブン。戦闘空域に入りました」

『こちら本部。陸士108部隊のゲンヤ・ナカジマ一等陸尉だ。大まかな指示はこちらで行う。そちらの映像まわせるか?』

「カメラアイ映像送ります。映像スフィアは使えないので、全体映像は先行の警備隊か後続部隊にお願いします」

『ああかまわんよ……と、映像多いな』

 シップに搭載されているカメラアイの映像を全て送ったからだろう。
 私はこの全方位をカバーする視界と各種センサーで音速を超える弾丸を回避するのだ。

「基本視点には赤でマーキングしてあるので他は任意で落としてください。青マーキングをつなげれば全方位三六〇度視界になりますが」

『んな視界に対応できる脳の持ち主なんぞこっちにゃいねえよ』

 そういえば人類はそういう生き物だったか。

『あんたたちは都市結界を狙う高高度爆撃機と肌色のでっかいやつを狙ってくれ。どっちも陸士部隊じゃ相手にするのが難しいんだ』

「了解。でっかいというのはあのコバビーチもどきですね」

『どこかで見たことあると思ったら童話のあれか……』

 次元世界の各世界に点在する幻想世界ファンタジーゾーンアルハザードの逸話。
 過去の民俗学者は世界を渡り童話としてまとめあげた。
 一見何のつながりも無いはずの世界にも似通った話があり、一部の人はそこに浪漫を感じるという。ユーノくんとか。

『よし、肌色のをコバビーチと命名。上空の機体を一掃したのち、コバビーチに当たってくれ。それ以外は警備隊が引き受ける』

「了解しました。戦闘開始します」

 こちらからの音声通信をカット。
 後はシップの外部集音マイクの音がカメラアイの映像とともに本部に伝わるだろう。
 バックアップ体制も完璧。突入を残すのみだ。

「さ、はやてさん降りてください。まずは空に居るのからです」

「うう、見れば見るほど頑丈そうやなぁ」

「バルーンに誘導弾を当てる要領で全力で撃てば、はやてさんの魔力量なら小型機程度楽勝です。ですよね、リインフォースさん」

『当然だ』

 はやてさんにはそこらのインテリジェントデバイスなどよりはるかに優秀な爵位級デバイスの管制人格がついている。
 細かいことはリインフォースさんに任せよう。気にしすぎて私が撃ち落されては元も子もない。

 はやてさんがシップの副座から飛び降りた。
 コートのすそがひらめいた。
 高速に風景が流れていく中、魔力障壁により強風は全て防がれている。

 足の未だ治りきらぬはやてさんにとって、空は自由に動ける空間だ。
 シップの斜め後ろに追従するようにしてはやてさんが空を翔けていく。

 この場は既に戦場。私と彼女はこうして戦友となる。












 魔力炉を全力で回転させる。調子は良い。
 怪我をする前よりも魔力が満ち溢れてくるのを感じた。

 人体というものは、損傷と再生を繰り返すことでより強固になるという。
 強化された人類である私ならば、なおさらだろう。

 現在のメインシップとなっているR-GRAY2に魔力を流す。
 これらも魔力炉と身体の成長に合わせて調整していく必要があるだろう。

 私はまだ子供だ。シップが身に着ける武装であり、動力を体内から引き出すものである以上、体に合ったカスタマイズというものが必要になってくる。私はまだまだ強くなれる。


 機械翼アフターバーナーから推進魔力の火を噴かせ、上空の機械の群れに突入する。

 ――MO-SYSTEM All Green

 都市結界へ向けて爆撃を続ける五機をまとめてロックオン。両肩から伸びた砲塔から雷撃を放つ。
 轟音とともに撃ちだされた紫色の光が空を走り、紫電を撒き散らしながら五機全ての装甲を打ち砕いた。

 突然のこちらの強襲に、AIを搭載された小型機の動きが変わる。
 私を敵とみなし、標的を結界からこちらに変えたのだ。
 カメラアイの視界からは下方の機体もこちらへ銃口を向けようとしているのが見える。

 いやはや人気者だ。過去の戦火でマークされているというのもあるかもしれない。
 だが、これでいい。都市結界を長く維持できればテロの被害も抑えられる。
 私に攻撃が多く集中すれば、はやてさんも安心して各個撃破ができるだろう。

 敵機の銃弾が発射される。だがその狙いの先にはすでに私の姿は無い。
 弾道予測と高速回避。私の基本スタンスだ。

 ブレードを構えて突進してくる人型機を機銃で撃ち落しながら、はやてさんの方を念のために見てみる。

 空中に魔法陣を展開し、誘導魔力弾を一つずつ確実に撃ちこんでいる。
 ディバインシューター。
 なのはさんから蒐集した魔法だろう。

 そんなはやてさんに念話を送る。

「敵機が多いので、集中砲火されないよう常に動くことを気にかけて。ディバインシューターなら移動撃ちでも当たるので大丈夫」

『おっけーや先輩。カガリちゃんに当てんようにだけは気をつけるわ』

「その心配は全く無いので安心してください」

 本物であるなのはさんのディバインシューターでも避けきれる自信がある。
 混戦状態でもはやてさんの魔力は大きいので見落とすことは無い。

『言うなあ。と、ほんまにこっちにも撃ってきよった。無駄話は危険やな』

 敵機の質量ミサイルをディバインシューターで迎撃しながら、はやてさんが念話を閉じた。


 あちらは大丈夫だ。
 私は私の戦いを続けよう。

 R-GRAY2の兵装は三つ。

 一時魔力補助パワーアップシステムを搭載したレーザー照射型の機銃、追尾性能の高い魔法の雷を放つロックオンレーザーMO-SYSTEM、ロックオンレーザーを使い続けることでチャージされる魔力属性変換エネルギーを解放する特殊解放爆撃スペシャルアタックだ。

 魔力残滓を集める一時魔力補助パワーアップシステムと、ロックオンレーザーでチャージされる特殊解放爆撃スペシャルアタックがある以上、シップは戦えば戦うほど一時的ながら強くなる。


 上空から降下してくる二機とビルの陰から飛び出し上昇してきた下方の二機をロックオン。
 雷撃を撃ち出す。

 そして急旋回し、はやてさんへ左右から高速で迫っていた二機をロックオンする。
 始めの四機を貫いた雷が弧を描きはやてさんの左右の機体へと迫り撃ち抜いた。

「うおああああ!? あぶなっ! こっちが安心できへんやんカガリちゃん!」

「狙っていない相手には殺傷性を持たない魔法の雷なので何の問題もありません」

 言いながら左前方の中型機をロック。
 はやてさんの周囲でうねりをあげていた紫電が飛び出し、駆動部を雷撃で食い破る。

 一度放たれた雷撃は霧散する前に新たにロックオンを続ける限り、周囲の魔力残滓を巻き込んで消えることなく破壊を続ける。
 R-GRAY1の持つ多弾速射型のロックオンレーザーのような複数同時攻撃が出来ない代わりに付随された持続性能だ。

 狙った相手以外に被害を与えないのもロックオンレーザーの特徴だ。
 機銃からのレーザーを無闇に撃たなければ流れ弾の心配も無く、都市圏での運用に秀でた機体となっている。

 右上空に小型機の急降下を察知。
 魔力残滓で強化された機銃の照射レーザーで狙い打つ。

 相打ち狙いか、直撃と同時に弾を撃ち返してくるが、回避行動を取るまでも無く弾は逸れていった。

 私とはやてさん二人の猛攻に反撃するように魔法機械が次々と銃撃を放ってくるが、それが一度も魔力障壁をかすることはなかった。
 一年前より敵機の狙いが甘い。
 ミッド各地に出没する高速迎撃機である私が出撃しなくなったことで、命中より破壊力へとカスタマイズを変えたのだろう。
 だが、その判断は早計だ、中解同。
 再びミッド中を駆け回って破壊しつくしてくれる。


 ロックオンレーザーの光が夕暮れの都市上空に舞い続けた。

 チャージが完了したシステム音声がシップから発せられる。

「はやてさん。一斉攻撃兵器を使います。巻き込まないよう合流しましょう」

『おお、あたしも慣れてきたから援護魔法使うで』

 くねるようにして回避飛行を続けるはやてさんの元へ、シップの装甲を副座式に変形させながら向かう。

 リインフォースさんと座標計算通信をしながら、速度を落とすことなく合流。
 流れるようにしてはやてさんがR-GRAY2の前方へ搭乗した。

 はやてさんはその間、魔導書を開き魔法の詠唱を続けていた。

 夜天の書の処理能力の高さが、この一瞬だけで十分に察せられた。


「いくで! 広域捕縛! 過負荷覚聖絶死界ガールダツー・フリーズ!」


 剣十字の魔法陣が弾け、結界魔法独特の感覚が空間を満たした。
 途端に、視界の中で動き続けていた中解同と思わしき機体が急に停止した。

 これは、空間固定結界魔法か。

 何という大魔法だろうか。
 蒐集されたオリジナルの術者は、ここまでの魔法効果を発揮していなかっただろう。
 だからこそ、私もはやてさんの蒐集魔法一覧で特に注目もしなかったのだ。

「ザ・ワールド。時は止まるってなあ。カガリちゃん、今や!」

 はやてさんの言葉にうながされるように、特殊兵装のチャージを解放する。

 術式規模AAAランクと認定された広域爆撃兵装だ。
 チャージの過程に難があるために本来なら使うタイミングが難しいのだが、大群でやってくる中解同戦では今まで大きな戦果を上げていた。

 シップから次々に青白い光線が撃ち出されていく。
 斑鳩の力の解放にも似ているが、その規模はこちらのほうが圧倒的だ。

 空間に停止した銃弾を吹き飛ばし、貼り付けになった機体を貫いていく。

 都市の空を満たした青い光が爆発、爆発、爆発。
 砕かれた敵機の装甲も、さらなる光爆で粉々に粉砕される。

 やがて光が収まると、空には私たち以外の影は残っていなかった。

「やるなあ、カガリちゃん」

「味方が居ると使いづらいんですけどね、と。本部。上空の掃除終わりました」

『おう、予定通りコバビーチにかかってくれ』

「了解です」

 再びシップからはやてさんをパージ。
 都市結界の最外層の内部に入り込んだ円い機体の元へシップを走らせる。

 指揮本部から送られてきたコバビーチの解析情報がバイザーに表示された。流石地上部隊の解析班は仕事が速い。



全顔型爆装機「コバビーチ」

推定武装:
魔力光線照射機 ×9

推定装甲:
耐魔力多重装甲



 いや、全顔型ってこんなときに笑わせる気か。
 どんなお茶目さんだ解析班は。

 しかし、耐魔力装甲というのは厄介だ。
 こんなものまで開発しているというのか。中解同は。
 軍事開発への技術力と生産規模が最早大企業を超えた存在になっている。

 シップをR-GRAY2から背中のビックバイパーT301へと換装する。
 背中から肩を通り、縦に回転するようにして装甲が切り替わる。
 R-GRAY2は腰へと装着され待機状態になる。

 蓄積した魔力残滓を使い、魔力弾の援護射撃を行う補助魔力スフィアのオプションを四つ生み出す。
 さらに、機銃を魔力弾モードから魔力光輪リップルレーザー射出モードへ。

 攻撃力ならば私の作ってきたシップの中でもトップクラスを誇るT301。
 耐魔力装甲にどれだけ通用するかは解らないが、全力を尽くして当たるのみ、だ。


 高層ビルの隙間へと降下する。都市結界の中層を突き抜けるこれらのビル群は建物の表面を覆うように結界に守られている。
 一部の結界は破られており、ビルの隙間から黒煙が上がっている。

 大規模結界を貫いた魔法攻撃。コバビーチによるものだろう。
 ビルの間から姿を現したコバビーチの装甲が見える。メタリックさとはかけ離れた、砂を模した肌色の塗装。
 薄い円筒状になったその形状と上下の一対の翼は、マンボウという魚を連想させられた。

 光線照射機は円の局面である前方にしか付いていないようなので、側面の円い顔の部分に回れば狙われないか?

 ビルの合間を高速で駆け抜け、機銃を発射。光の輪の形となったレーザーが飛んでいく。
 四つのオプションからも立て続けに魔力の光がコバビーチの顔へと集中する。

 連射連射連射。
 表面を覆っていた魔力障壁に穴が開く。
 だが、装甲には亀裂すら入らない。

 まだ撃ち足りないか、と思った瞬間、丸い顔の左方、コバビーチの前面に装着されている照射機が一門せり出し、先端に付いた眼球のような黄色い球体がぎょろりと回転した。
 狙われた!

 光線が視界を埋め尽くす。
 身にまとっていた強化魔力障壁フォースフィールドが全て消し飛んだ。

 高速で動き回っていたというのに、完璧な直撃だった。
 障壁のおかげで機体に破損が無いのが幸いか。

 乱れそうになる重力制御を操縦で押さえつけ、体勢を立て直す。
 搭載位置から融通の利かない光線射出機かと予想していたら、何とも対応角度も命中精度も優秀な一撃だった。

 破壊力も高い。はやてさんに防御に気をつけるよう念話を飛ばすと、私は動きを捉えられないようにさらに速度を上げる。


SPEED UPスピーダッ


 側面、後方、下弦、あらゆる位置を取り機銃から撃ちだされる光の輪を叩きつける。
 相手も応じるように魔力光線を撃ち、シップの魔力障壁をかすらせていく。

 一分以上に渡る攻防の後、パターンが見えてきた。
 魔力光線照射機はチャージ時間があるのだろう。
 縦に並んだ九門の照射機は上から一発ずつ順番に光線を撃ち出していた。

 断定するのは先ほどのような危険性がつきまとうが、これからの動きの組み立てを作るには有益な情報だ。
 光線の威力と速度は高いが、誘導性皆無の直線軌道のため、避けきることは不可能ではない。

 限界の速度に到達したシップの機械翼から激しい魔力の炎が吐き出されていく。


『WARNING!! WARNING!!』


 突如、未登録魔力警告が響いた。
 遥か上空から高速で降下してくる高魔力の物体をシップが捉えた。

「本部!」

『ああ、解ってる。……これは、きやがったな。アインハンダーだ』

 アインハンダー。デバイス戦闘機のお目見えか。

 一瞬どう動いたものかと迷うが、アインハンダーは中解同を標的にしているという第三勢力だ。
 今すぐどうこうしなくてもこちらの被害には繋がらない。

「このままコバビーチとの戦闘を継続します。よろしいですか」

『ああ、そちらを最優先で頼む。アインハンダーをどうするかはその後だ』

 はやてさんと二人、コバビーチの周囲を旋回する。
 コバビーチの攻撃は直線の一撃なので、はやてさんは防壁魔法を常にコバビーチの方向へ展開して猛攻を防いでいた。

 防壁魔法と同時詠唱で魔力の槍を投擲しているが、装甲は貫けていない。
 ビックバイパーのレーザーも、相手の光線照射機を狙ったもの以外は全て装甲の前に霧散していた。

「ダメです、攻撃が通用しません。本部、ヤツをスキャンして弱点を探してください」

『……コンピュータ予測でました! 照射機への攻撃、または物理作用の高い魔法攻撃を行ってください!』

 通信機からナカジマ一等陸尉とは違う、おそらく解析班のものであろう声が通信から届いた。


「照射機機は危険なので私が。はやてさんは物理魔法攻撃、行けますか?」

「任しとき!」


 はやてさんは距離をとり、防壁魔法を展開したまま大魔法の詠唱に入る。

 私はさらにコバビーチ周囲の旋回を続け、狙いを照射機に絞って機銃を撃ち続ける。

 装甲への攻撃とは違い、照射機の守りは甘かった。
 台座に亀裂が入り、眼球のような射出口は黄色から緑、そして赤へと変色していく。

 光線の一撃を回避し、オプションを一列に並べて魔力光輪リップルレーザーを撃つ。
 先ほどから狙われ続けていた照射機の一機が破片を撒き散らして崩壊した。

 解析班の予測は完璧だ。

「行くで!」

 はやてさんが念話と声の叫びを同時に放った。
 はやてさんの周囲には、空間を歪ませる魔力が渦巻いていた。

 重力魔法や重圧魔法独特の魔法現象だ。
 おそらく、物理と聞いて押しつぶす重力魔法を思いついたのだろう。

 あの巨体だ。潰せなくとも過負荷がかかるとどこかで軋みが生じるだろう。


Schwere Bombeシュヴェーレ・ボンベ!」


 コバビーチの上空で、巨大な魔力の渦がうなりをあげた。
 黒い魔力光を撒き散らしながら渦巻いたそれは、落下しながら物理現象としての形を取っていく。

 魔力の渦は固体化し、コバビーチの三分の一ほどもある巨大な分銅へと変わった。

 はやてさんの重さへのイメージが投影されたものだろう。
 魔力が物質化された分銅には可愛らしい文字で「16t」と書かれていた。

 機動力はさして高くないコバビーチに、分銅が直撃する。

 それまでびくともしなかった装甲に亀裂が入り、分銅が機体の中へとめり込んでいく。
 ただの巨大な分胴に見えるがこれは物理衝突魔法であると同時に重力魔法でもある。
 内部へと侵入したそれは、周囲の装甲を巻き込み、亀裂がさらに広がりより深くへと分銅が侵入していく。

 落下を続けた分銅はやがて装甲の下から突き出て、コバビーチの巨体を真っ二つにした。
 生々しく覗く機械の内部。爆発と崩壊を続けて、やがて都市の中へと墜落して行った。

「……一撃、か?」

 一撃だった。

「あー……魔力防御を高めたのは良いけれど、物理的な重圧は想定していなかったとかそういうのではないでしょうか……」

『……二人とも、あきれるのは良いが、アインハンダーのほうへ向かってくれ。やっかいなことになっている』

 二人して呆けてしまったが、ナカジマ一等陸尉の声で我に返った。
 アインハンダーの元へ、だ。バイザーには魔力から割り出した座標が表示されている。
 ここからはやや遠い、空港方面の位置に居るようだ。

 はやてさんを置いていかないように、やや速度を落として高層ビルを迂回してアインハンダーへの元へと翔る。


 視界の先、バイザーの反応位置では、アインハンダーと巨大な人型兵器が戦闘を行っていた。

 映像や写真で見たものと同じ、青と黄の装甲とそれらを取り付けたパイロットスーツ。
 ヘルメットまでもが全て映像の中と同じだった。

 バイザーからの測定結果でパイロットの身長データにわずかな差異が見られたが、これは成長からくるものだろう。

 やはり、低身長の種族というわけではなく幼子がこの機体を乗りこなしているということだ。


 それと対峙するのは、人型の上部と戦闘艦の下部を持つ半人型大型魔法兵器だ。
 戦闘艦の上部艦橋から人型兵器の上半身が生えた奇妙な造形をしていた。

 手には戦闘艦にケーブルの繋がった大型の魔法バルカンが装着されており、魔力弾をアインハンダーに向けて連射していた。


「あの青いでっかいんもテロ機かあ?」

「いえ、見てください。下部の艦の装甲にでかでかとロゴが……。中解同がテロ宣言をした相手会社のロゴです」


 噂の企業の持つ私兵戦力というものだろう。

 今回のテロの標的になった企業は軍事産業を副業とする企業である。
 テロ対策にこそこそとこんなものを作っていたのか。
 テロからの自衛は認められているので、飛行許可もろもろは問題ないのであろう。


「ちゅーことは戦ってるちっこいんがテロ機?」

「それも違うはずなんですが……」


 アインハンダーが偽者、ということは無いはずだ。
 今も半人型機と戦いながらも小型のテロ機を機銃で撃ち落している。
 それにこんな高魔力が検知される特殊デバイスがそういくつもあってはたまったものではない。

 戦いを止めなければ。
 と、飛び出した瞬間にアインハンダーの長い片腕が持つ武装から撃ちだされたミサイルが半人型機の胸部を破壊した。
 半人型機は身をくねらせて煙を上げながらゆっくりと落下していく。

 間に合わなかった。

 余韻に浸るようにその場で停止するアインハンダー。

 私はそれに対し拡張音声を使って声をぶつける。


「アインハンダー! あなたが今撃ち落した巨大機は中解同の機体ではありません! 都市企業の所属機です! あなたを器物破損、危険魔法行使、無許可飛行で逮捕します! ただちに武装を解除し投降してください!」


 今もなお続く管理局とテロ機の戦闘音の中、拡張された声が響き渡った。

 アインハンダーのパイロットはそれに気づいてこちらに機体の正面を向ける。
 そして、ヘルメットの顔をちらりと下に向けると、再びこちらに向き直った。

 パイロットは首をかしげるような仕草。
 ヘルメットの中からぼそりと呟いた声をシップの集音マイクが拾った。

「相手間違えた」

「んなー!?」

 こちらがあっけに取られた瞬間に、アインハンダーはアフターバーナーの魔力炎を噴かせ上空へと高速で飛び出していった。
 残ったのは推進魔法の魔力残滓。

 あああああしまった逃げられた!


「本部! 本部! アインハンダー追いますか!?」

『いや、まだテロ機は残っている。後続部隊が到着したから協力して残存部隊の殲滅に当たってくれ』


 いきなり失態一つだ。
 音声は取れたが現行犯を目の前で逃がしてしまったのには変わりが無い。

 後ろからやってきたはやてさんは苦笑いをしている。
 気を取り直さないと。テロの鎮圧が残っている。



 企業戦をめぐる私とはやてさんとアインハンダーの事件は、こうして始まった。



――――――
あとがき:前回ラストと今回冒頭はSHOOTINGラスト石のような物体登場の自己パロディが書きたかっただけなんです。パロディウス的な意味で。
そしてサンダーフォース6が出るとつい先日初めて知りました。雷電4も出るので気力はまだまだ保てそうです。


SHOOTING TIPS
■相打ち狙いか、直撃と同時に弾を撃ち返してくるが
雑魚敵を倒した瞬間に、その敵が弾を撃ち返してくる仕組みをSTG用語で「撃ち返し弾」と呼びます。
ランク制(ゲーム中に変動する難易度)のSTGでランクが上昇した状態や、周回制(クリアした後にまた一面から始まる)のSTGの二周目などで良く見られます。
敵を倒せば倒すほど逆に境地に陥る不思議。

■ガールダツー・フリーズ
コンシューマー機(家庭用ゲーム機)ではよくバグやフリーズが話題になることがありますが、アーケードゲーム筐体でもちゃんとそれらは発生します。
エスプガルーダ2を持ち出したのは、別にガルーダ2にバグやフリーズが多いと言いたいわけではなくて、作者が実際にゲームセンターで体験して印象に残ったからです。
プレイ中に止まったら筐体に八つ当たりせずに店員さんを呼びましょう。プレイ回数をオマケしてもらえることもあります。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第五話-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/10/05 23:20

 かつて、聖王教会の司教は言った「それは奇跡じゃない」と。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第五話『一度捕えたら君を逃さない…』

原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 復帰初の企業テロを終えて初めての休日。
 何故か私は休日出勤などをさせられていた。

 私は嘱託魔導師なので一般社会人のような決まった休日などが無いのだが、企業テロ対策チームでしばらく局に詰めてのお仕事なので、時空管理局員と同じスケジュールで休みを取ることになっていた。
 就業中は激務が重なるためか休みは割りと多めに取らせてもらえるのだが、今日はその休みということで格納庫の機動小型戦闘機の整備でもしようと早朝に地上本部へと出向いたのだ。
 そんな私を待っていたのは、制服姿のオーリス姉さんだった。

 拉致半ばに向かった先はミッドチルダ北部のベルカ自治領。聖王教会の本部だった。

 目的は、地上本部から教会への夜天の書の情報提供の段取りのための会談。
 そして、夜天の主のはやてさんの教会幹部への顔見せだった。

 はやてさんの付き添いで何故か私も同行することになっていた。何故か。
 オーリス姉さんが付いているなら私は必要ないと思うのだが、ときどき姉さんが私に何を求めているのか解らなくなるときがある。

 ベルカ自治領方面の地上部隊にはザフィーラさんが配置されているためか、人間形態をとったザフィーラさんがはやてさんに付き添っていた。

 人間の姿をとった彼をはじめて見た。
 がっちりした体系の背の高いお兄さん。でもやっぱりアルフさんのような耳と尻尾。
 尻尾は座るときに邪魔だろうに。
 97サブカルチャーに出てくる猫耳とは違い、耳が人類と同じ配置であり三半規管や鼓膜等の配置構造の謎に頭を悩ませなくても良いのだが。
 ああ、でもクラナガンで時々見る使い魔さんは耳が頭頂部にあったような。


 聖王教会の本部に着き、中へと案内された。
 自然共生文明を感じられる美しい調度の建築物の中を歩いていく。

 ヒールの音を響かせて歩く制服姿のオーリス姉さん。歩行補助器の駆動音を鳴らして歩くベルカの子供服姿のはやてさん。
 今更になって私の格好が不相応なことに気づいた。

 シップのすすや汚れがついても良いようにと、動きやすく洗いやすい野暮ったい格好をしている。
 放棄都市区画を秘密基地にして遊びまわっているような子供達のような、バーゲンで買った服装だ。

 教会の幹部さんに会うのにこの格好はまずいのでは。


「オーリス姉さん、着替えに一時帰宅して良いですか。二十四時間ほど」

「…………」


 うわあ、突っ込みもせずに無視したこの人。

 振り返ってはやてさんにすがろうとするが、ご本人は緊張で固まっていた。
 右手と右足が同時に出ている。脚もまだ万全とは言えないのに無理な歩き方をするものだ。

 ベルカのボディースーツ姿のザフィーラさんはいまだに接し方が掴めないので、案内役の紫色の髪のシスターを見上げて目線でアピールする。

「大丈夫です。騎士カリムは服装など気にしませんよ」

 そう笑って言った。
 オーリス姉さんよりも年上の若いシスターさん。シャッハ・ヌエラさんと言うらしい。
 昔、聖王教会の観光に来たことがあるが、シスターさん達は優しい人達ばかりだった。この人も笑顔で対応してくれている。


 長い廊下をしばらく歩き続け、やがてシスターヌエラが一つの扉の前で立ち止まった。
 美しい調度のなされたその扉をノックし、シスターが扉を開く。

「どうぞ」

 シスターヌエラが扉を押さえながら入室を促した。
 オーリス姉さんが一礼して中へと入り、私がそれに続く。
 はやてさんはまだ緊張しているのか私の後ろにぴったりと付いてきている。

 私はただの嘱託魔導師だというのに、夜天の書の主であり管理局員であるはやてさんより先に入って良いものか。
 ザフィーラさんははやてさんの後ろに追従しているので自然と私が二番目だ。

 でも、本人がこうでは仕方が無い。


 扉をくぐった先を見渡すと、廊下と同じような自然素材のそれでいてやや煌びやかな部屋になっていた。

 部屋の真ん中には、陽光の差し込む大きな窓。
 そしてその横に美しい金の髪を伸ばした女性が立っていた。

 彼女が教会幹部、騎士カリム・グラシアか。
 いや、待て。すごい見覚えのある顔だ。

「司教さん、ですか?」

 観光で教会を訪れたときに話を聞かせてくれた歳若い司教さん。その人と瓜二つ。何となくだが本人に思えた。
 顔も髪の色も若さも、あのときと何も変わっていない思い出のままの姿だった。いや、服が少し違うか。

「あら、もしかして何年か前に教会に来てくれた学生の子かしら?」

「ええそうです。覚えてくださったんですか」

「これでも人の顔を覚えるのが得意なの。それと、私は司教じゃなくて教会騎士団の騎士なんですよ」

 にこりと笑いながら頬に手を当てる騎士グラシア。
 この大人しそうな物腰でベルカの騎士式の肉弾戦をするというのだろうか。

「そうだったんですか。司教さんの服を着ていたのでてっきりそうなのかと」

「そちらの資格も持っているので人が足りないときに手伝いに行くんです」

 服のすそを掴みながら騎士グラシアが笑った。
 教会の位による服の違いについてはそこまで詳しくは無いが、今の彼女の服は当時のものとは違うものだった。

 と、そんなやり取りをしていると気づけばオーリス姉さんがこちらを見下ろしていた。

「カガリ、そろそろいいか」

「ああ、すみません。私はあくまで付き添いでしたね。はい、はやてさんどうぞ」

 未だに私の後ろにいるはやてさんの背後に回り、背を両手で押し出した。
 脚のラインに沿うように付けられた補助器が急な負荷で小さなうなりをあげるが、この程度では倒れないだろう。

 胸に夜天の書を抱えたはやてさんが、部屋の真ん中に据え付けられたテーブルをはさんで騎士グラシアの前に出る。
 そして、前へと進んだ勢いのままに大きく一礼をした。

「ああああのあたし夜天の魔導書を使わせて貰ってます八神はやて言います! よろしくお願いします!」

「はい、私はカリム・グラシアです。よろしくお願いしますね、可愛い主さん」

 ベルカの直系の聖王教会と、ベルカの後継の夜天の主の邂逅。
 きっとこの出会いは古代ベルカの魔導師を目指すはやてさんの大きな一歩になるだろう。












 はやてさんと教会幹部との会談は何の問題もなく終わった。
 古代ベルカの文明を知り、魔導書を作りたいというはやてさんの宣言は非常に好印象。
 教会に来ないかというあからさまなスカウトに、時空管理局に留まりたいとはっきり言ったはやてさんにオーリス姉さんも一安心だったであろう。
 はやてさんが地上本部で教会の助けを得ながら魔導書を作成すれば、地上本部は技術蓄積と教会との繋がり強化を同時に果たせるのだ。

 ザフィーラさんとその場で実体化したリインフォースも夜天の従者として騎士グラシアと挨拶を交わした。

 これが魔導書一冊から生み出されたのですね、と言った騎士グラシアが一瞬見せた笑みを私は忘れない。
 あれは私たちと同じ笑みだ。滅びた超技術を掘り起こしたときの、笑み。


 話を終えた私たちは、オーリス姉さんと騎士グラシアを残し部屋を出た。
 二人はお仕事の細かい話がまだあるのだろう。

 レジアスおじさんの教会嫌いは良く知っているが、姉さんはどうなのだろう。この前はあり方が嫌いなどといっていたが。
 まあ嫌いになるのも仕方がないと言ってしまえば仕方がない。

 時空管理局の発祥には聖王教会が関わっており、聖王教会とは即ち滅んだベルカの文化だ。

 それが時空管理局内で強力な権限を持っていて、ベルカ自治領のあるミッドチルダを守護する地上本部のあり方に口うるさく首を突っ込んでくる。
 地上本部を統括する身としては、さながらミッドチルダ人の次元航行部隊にいらぬちょっかいを出される地方世界の防衛組織のような気分だろう。
 地上部隊以外にも、ミッドチルダ人の中にはベルカとべったりな時空管理局を疑問視する人もそれなりにいる。

 姉さんはどのように話をつけるのだろうか。


 シスターヌエラに連れられて教会本部内を歩いていく。
 いつの間にか泊まりが決定していたらしい。私の荷物はあてがわれた部屋へすでに運ばれているとのこと。

「教会の外は自然がまだたくさん残っていますから、散歩などしてきてはいかがでしょう。お昼までまだまだ時間がありますし」

 そう、そうなのだ。時間的にはまだ朝なのだ。
 朝ご飯という無駄な行程の不要な私はかなり早い時間に地上本部へ行き、そのままヘリも使わず転送室からこんな遠くまで送り込まれたのだ。

 どう時間を過ごしたものだろう。
 そうだ。持ち込んだ荷物にあれがあった。

「近くに綺麗な川がありましたけれど、釣りとかしても大丈夫でしょうか」

「釣りですか? ええ、教会の一部の者もときどきしていますので、道具もお貸しできますよ」

「私は持ってきていますので、はやてさん達の分をお願いします」

 さきほどとは打って変わってザフィーラさんの腕にまとわりついてじゃれていたはやてさんが、話を振られて何のことだ、と首をかしげる。
 はやてさんが釣りを知っているかは知らないが、まあ彼女の経歴を考えるとじっと動かない娯楽は受け入れてもらえるだろう。


 そしてそのままシスターヌエラの後を歩き続け、今夜泊まることになる客間へと通された。

 釣り道具を持ってくる、と言って出て行こうとするシスターに、私は尋ねたいことがあると言って呼び止めた。
 頭の中には、先ほどの騎士グラシアの笑みが残っていた。

「失礼な質問になるかもしれませんが……、あなた方ベルカの聖王教会の方々はずっとこの自治領に居るわけですけれど、滅びたベルカの世界を取り戻そうと思っていないのでしょうか」

 はやてさんと会ってからというもの、ずっと気になっていたダライアスと古代ベルカの共通点。
 私たちと同じ、いや私たち以上に悲惨な境遇であるベルカの民は、文明復興に対しどのような想いを持っているのか気になったのだ。

 シスターは、そっと目をつぶると、教典を読むかのようにして澄んだ声で答えを語った。

「……私達は聖王の教えに従う限り、無理な争いをしてまで覇権を得ようとは思いません」

 人に教えを説く聖職者らしい答えだった。
 本当にそうなのか、と内心で疑いを持ったとき、シスターは再び目を開いて言葉を続けた。

「ですが、ベルカの民として文化の復興を放棄したわけではありません。だからこそ」

「次元世界を渡り歩く時空管理局本局との深い関わり合い、ですか」

「ええ……道徳を説く者に相応しくないと軽蔑したでしょうか」

「いえ、私の一族も似たような境遇でして。過去から続く歴史を未来へ繋げる姿勢。尊敬しますよ」

 笑みをシスターへと向ける。どのような笑みになっているかは鏡も無いので私には解らない。












 釣り。それは人類と水生生物の知恵と生き残りをかけた戦い。
 かすみを食べて生きられそうな私たち一族にとって狩猟とはそこまで必死になるようなものでもないのだが、それは置いておいて。

 釣りである。川釣りである。
 簡単に言えば、私の趣味の一つだ。

 自然を楽しみながら云々と言う人もいるが、田舎も田舎、自然しかない辺境で育った私としてはどうでもいい。
 竿を振り、釣り餌を垂らし、待ち続け、竿を引き釣り上げる。その時間を無駄に消費する一連の流れが好きなのだ。

 釣り竿は万能携帯釣り竿のトリガーハート。

 日々無駄な改造がほどこされ、先日は喪失文明復興局生活文化部の協力で高度AIのエグゼリカさんが組み込まれた。
 長い釣りの待ち時間を可愛い女の子AIと会話して過ごすのだ。また仕事しないで変なゲームにはまったなあの人たち。

 そんな釣り竿を初めとした釣り道具一式は、普段鞄の中に収納魔法で収められている。
 教会に入るときに暗器を持ち込んでいるなどと勘違いされないように取り出しておいたのだ。

 ちなみに機動小型戦闘機は収納魔法を使うにはやや重量オーバー。
 昔私が使っていた剣状の小さい物なら入るが、戦闘機を無理に持ち運ぼうとは思わない。

 戦闘機は格納庫で待機していてこその戦闘機なのだ。
 こだわりを失っては文明復興など成し遂げられない。


 呆、と無駄な考えを巡らせつつ竿を揺らしていると、トリガーハートを持つ手にわずかな震えが伝わった。
 当たりだ。

 逃げられないように少しずつリールを巻き、引き寄せていく。ちなみにこのリールと釣り糸、飛び立とうとするヘリ程度なら引き寄せられる。私の足腰が耐えられればの話だが。

 引きの衰え、そして一瞬の隙。竿を引くと川面から魚の姿が飛び出した。


「っしゃー! オニキンメきましたー」

『こんぐらちゅれーしょん!』


 エグゼリカさんが祝福の声をあげてくれる。
 ダライアスではもう何百年、いや千年以上昔にAI技術が発達したので、今やもうAIの思考と感情は人間と同等だ。
 いや、機械に押し込められて正気を保つなど、人間以上に発展して複雑化した精神性を持っている。

 今や彼女も私のお友達の一人だ。

 釣り上げたオニキンメの口からルアーを外し、オニキンメを時間操作がされた鮮度保持ボックスの中へと入れる。

「うわーすごい顔の魚やなあ」

 犬の姿に戻ったザフィーラさんを背にもたれかかって釣り糸を垂らしていたはやてさんが、ボックスの中を覗きこんだ。
 こちらの世界の出身ではないはやてさんには珍しかったのだろうか。

「キンメダイの仲間で、これでも鯛なんですよ」

「鯛か。そらええのが釣れたなあ」

 ウナギにタツノオトシゴと、先ほどからなかなか調子が良い。
 さすがにタツノオトシゴの料理方法は解らないのでリリースしたが。

「シスターヌエラにキッチンの利用許可を得ましたので、晩御飯は期待していてくださいよー」

 すでに鮮度保持ボックスの中にはいくつかの釣果が収められていた。種類も豊富で素敵な川だ。

「カガリちゃん料理できるんかー」

「食事はほとんど必要ないので、完全に舌を満たす娯楽として習ったんですよ。家庭料理みたいなのは無理ですけど」

「そっちはあたしが得意やな。ザフィーラ達の食事もあたしが作ってたしなあ。よし、いっぱい釣って一緒に作ろか」

 守護騎士の皆さんはプログラムなのに食事が必要らしい。
 まあ肉体を維持する以上理解できなくも無いが。

 でも、主君に料理を作らせるだなんて、四人もいるのに本当に魔法と殴り合いにしか能が無いのだろうか彼らは。

 ちらりとはやてさんの後ろで寝そべっているザフィーラさんを見る。
 彼には動物として可愛がられるという素晴らしい能があったか。

「ザフィーラさんはどんな料理が好きですか? あ、犬だから魚よりお肉なのかな」

「犬ではない。守護獣だ」

「使い魔に似たようなものなんですかね。知り合いの犬の使い魔さんは、人間形態なのにドッグフードを美味しい美味しい言って食べていましたけれど」

 使い魔さんとはアルフさんのことだ。
 第97管理外世界の動物食はどんなものだろうと一口貰ったが、私には無理だった。

「ザフィーラは雑食やでー。スキヤキとか作っても肉食べずに野菜ばっかり食べてるしな」

「むう……」

 ザフィーラさんが犬の顔のまま眉を寄せていた。
 ああ、きっと皆に遠慮している間に他の人たちがどんどん肉を食べてしまって、仕方なく野菜を食べていたという状況だろう。

 スキヤキと言うのは向こうで見たレシピ本に載っていなかったので、どのような料理かは知らないが。

 スシやサシミなら漫画で読んだことがあるし、クラナガンにも持ち込まれているので解るのだが。

「そのスキヤキとかいうの、川魚で作れますかね?」

「無理やなー。スキヤキは鍋料理やけど魚入れるんは聞いたことないわ」

「鍋料理ですかー……と、かかりましたよ」

 高性能釣り竿のイリュージョンルアーにかかった獲物がまた一つ。
 トリガーハートは魔力を流すことで様々な機能を発揮できる魔動機械の一種だ。
 胸の奥から永遠に生まれる魔力の無駄遣いこそ、ダライアス一族の永遠のテーマ。

 リールを巻き、獲物を釣り上げる。
 視界に入る魚とは違うその独特のフォルム。脚、脚、脚。

「タカアシガニーッ!」

「おお、それはすごいなあ……うん?」

 水から出してもタカアシガニはなおも暴れようとする。
 私は手のひらのコネクタから弛緩性の魔力針を撃ちだして動きをとめ、ボックスの中に収納すした。
 最近は魔力炉からの魔力放射で色々器用なことが出来るようになってきた。各世界の魔法の魔力利用を学んだ結果だ。

 カニか。はやてさんの言っていたとおり鍋が良いかもしれない。

「なあカガリちゃん。カニって川で釣れるもんやったか?」

「ええ? まあそりゃあ川カニですし」

 何か知識の齟齬でもあったのか、はやてさんは頭を捻っている。

 それよりもカニだ。川に再びルアーを投げ入れながら、献立について考える。
 アースラの医務室で読んだレシピ本にはカニ料理についても書かれていた。

「はやてさんの出身を考えるとやっぱりライスはあるといいですよね。最後にカニ雑炊なんて良いですかね」

「んー……あ、え、ああ、雑炊かあ。ええなあ。三人だけやとあれやから、オーリスさんや教会の人も誘いたいなあ」

「ではお昼にでも話してみますか」

 再び釣り糸を垂れる。
 お昼まではまだ時間がある。のんびりいこう。

 竿から魔力経路経由で音楽を体の中に流しながら待ち続ける。
 はやてさんも何か一匹釣ったようだ。嬉しそうにザフィーラさんの前で魚を見せびらかしている。

 と、私にもまた来たようだ。

 今までで一番強い引き。
 少しずつ、辛抱強く、それでいて逃げられないうちに速く速く。
 引きが弱くなった瞬間に水の中から引きずり出す。

「きたあーっ! マンボウ!」

『肝が珍味ー!』

「……いややっぱなんかおかしい!」

 釣果を喜ぶ私とエグゼリカさんの横で、はやてさんが両手をあげて立ち上がった。
 釣り竿が河原の上に転がる。

「何か変なところでも?」

「あたしの記憶ではマンボウは海の魚のはずなんやけど」

「異世界に来てまで何言っているんですかー。地方世界の常識は次元世界の非常識ですよ」

『あ、すごい。マンボウにエビクラゲくっついてるよ。これはちょっと食べられるか解らないねー』

「ここは異世界ここは異世界ここは異世界……」

 はやてさんはなにやら考え込んでいる。
 まあ地方世界出身の人は色々思うところがあるのだろう。

 気にすることでもないと竿を振り、イリュージョンルアーを動かして待ち続ける。

 そして、昼にそろそろ戻ろうかということころそれは来た。


「くーじーらーだーっ!」

「まてええええええええ!」


 私の体の何倍もある川くじらがはやてさんの叫びと共に宙を舞った。
 捨てるところが全くない水の王様のご登場だ。

 これ一匹で私たちどころか教会の人達の晩ご飯もまかなえてしまえそうな勢いだ。

「どうみても川の深さと大きさが一致しないやろがー!」

『お取り込み中のところ申し訳ありませんがー。オーリスさんから通信だよー』

 ボックスに入らないのでどうしようかと考えているところで、エグゼリカさんが通信を伝えてきた。

 なんだろうか。
 お昼までに戻らなかったらシスターヌエラが伝えに来てくれるはずだったのだが。

 トリガーハートの通信機能を開き、空間に通信ウィンドウを投射する。

「はい、何でしょうか」

『仕事だ。聖王教会の施設が武装組織に制圧された』

 また物騒な。
 休日出勤はまだ終わっていなかったのだ。

『カガリと八神三等陸士、ザフィーラ三等空士は教会本部へ集合の後、教会騎士団と共に現場へ向かってもらう』

「中解同ですか?」

『いや、過激派環境保護団体の声明が先ほど出た。規模も中企戦ほどではない』

 中解同が企業テロを始めてからというもの、こういった便乗テロが増えてレジアスおじさんが守り続けてきたミッドの治安が乱れ始めている。

 ミッドの治安の悪さを象徴すると言われている廃棄都市区画だって全ておじさんが上へ登り詰める前にできたもので、おじさんが少将になってからは一つも出来ていないどころか廃棄を撤回できている地区もあるのだ。

 そんなおじさんの娘さんであるオーリス姉さんも、しっかりと血を受け継いで士官としての実力を発揮している。
 そう、姉さんは常に先を見越して行動を起こすのだ。

「……姉さん、これ起きるって知っていましたね? だから休みの私をわざわざこんなところへ」

『確信できなかったから君の馬鹿でかい武器は持ち込めなかったが……どうせ何か武装を持ち込んでいるんだろう?』

 何も起きなければ遊びに連れてきてやったんだ、とでも言うつもりだったのだろうか。いやはや。

「無防備で撃ち落されれば誰だって学習しますよ。ご心配なく」

 通信を切り、私とはやてさんとザフィーラさんの三人は、ボックスを抱えて教会へと飛んで戻った。












 作戦指揮本部からのオペレーターさんの声が、現場へ向けて海上飛行を続ける私たちへと届く。

『北海海上プラントが自然保護団体リトルミッドと名乗る武装集団に占拠されました』

 海上プラントか。聖王教会の資金源の一つなのだろう。
 あの教会は、信者の寄付だけで運営していけるような生やさしい宗教団体ではない。

『各騎士、武装集団の強制排除。及び、プラント兼発着場を奪還してください。最優先攻撃目標を海鳳かいほうと命名。詳細を調査中です』

 飛行魔法を使える教会騎士が、私たちと同じ飛行速度で海上を飛翔している。
 陸戦騎士は現地で召喚騎士が長距離転送で呼び出す手はずになっていた。

 私はいつものシップがないので先行しないようにしていた。
 速度を出そうと思えばまだまだ出せるが、今の装備で一人突撃するほど馬鹿ではない。


「それでよう飛べるなあカガリちゃん」


 横を併走するはやてさんが、私の腰を指さしていった。
 魔力の炎を吹き出して飛行を続ける白い装甲。複数のフレームが突きだし角のように尖ったこの装甲は、実は中身を空にした鮮度保持ボックスが変形した物だ。

 ボックスは仮の姿であり、シップに使っている物と同じ変形性を持つ金属で作られている非常用の飛行機械なのだ。
 変形しても質量が増えるわけではないので、見た目の装甲の大きさと比べて中身はすかすかなのだが、飛行だけではなく空間歪曲性の魔力障壁も展開できる。


「まあシグナムさんに撃ち落とされて色々思うところがありまして、やっつけ仕事ですが」


 そして手に持つトリガーハート。
 あるときは釣り竿、あるときは音楽プレイヤー、あるときは茶飲み話のお供、その正体はシップに搭載する補助兵装のアンカーショットなのだ。

 どちらもシップに使われる精密チップを利用している一級品だ。

 パイロットスーツは持ってきていないが、釣り用の白いベストを変形させて簡易装甲服として装着していた。
 元々着ていた服は運動には向いているが戦闘に使えるほどではないので脱いでいる。
 ベストの覆う範囲は水着程度しかないので素肌が露出してしまっているが、バリアジャケットのように全身に保護フィールドが張られている。


 これだけあれば直接の魔力弾を撃てずとも、Bランク魔導師相当の働きはできる。

 私たちはリンカーコアを捨てて次なる人類として進化した存在なのだ。
 機械さえ伴えばそうそう一般の魔導師に劣ることは無い。


 プラントへ到着し、騎士さん達が陣形を取り散開する。

 私達の到着を受けて、プラントを占拠する環境保護団体から拡張音声での声が流れ始める。

『我々はー多世界の文化を侵し、時空管理局と癒着を続ける聖王教会に断固抗議するものであーる!』

 騎士さん達は誰もそれを気にとめず、リトルミッドの戦車や装甲機械に向けて攻撃を開始した。

『聖王の教えなどと奇麗事をのたまい、その裏で利益を貪る偽善者どもに天罰を与えなければならなーい!』

 リトルミッドの主張はなおも続く。

 うざい。
 超うざい。

 教会だって生活のかかった人の集まる組織なんだから、営利活動もするし勢力拡大も目論む。
 宗教活動でご飯を食べている以上、宗教団体だって立派な営利団体の一つだ。
 企業の社会的責任と偽善をごちゃ混ぜにした青臭い主張は、聞いていてとにかくうざい。
 中解同の嫉妬にまみれた利己的な主張のほうがはるかにましだ。

 まとめて豚箱送りにして、識者の方々に報道の場で論破されていただくか。


「はやてさん、雑魚は騎士の方々に任せて、最優先攻撃目標を討ち取りに行きましょうか」

「そ、そらまた困難な道を選ぶなあ」

「何を言っているのですか。私はともかく実戦経験済みの夜天の王にその守護騎士が一人ですよ。楽勝です」

「うむ、主はやてよ。自分の力と私の力、信じると良い」

「そやなー。うん、確かにそうや」

「私は信じないで良いですからね。武器は釣り竿一本ですし」

『ただの釣り竿と一緒にしないでー!』


 ああ、AI機能ONにしたままだった。良いか。今日は一日釣三昧だ。


 はやてさんたちを連れてプラントの上空を飛翔する。
 設置砲台が質量弾を撃ち出してくるが、全てザフィーラさんの防盾魔法の前に弾かれる。

 ザフィーラさんに守られたはやてさんは、誘導魔法の矢で砲台一つ一つを的確に撃ち抜いていく。

 ここは敵の拠点ではなく聖王教会の施設のため、派手な広域魔法を使うことが出来ない。
 自然、騎士さん達のような近接攻撃かはやてさんのような誘導弾を使うことになる。

鋼の軛はがねのくびき!」

 ザフィーラさんが魔法を唱えると無数の魔力の杭が地面から生え、プラントを疾走する魔法機械に突き刺さった。
 攻撃と拘束を兼ね備えた魔法なのだろう、縫い止められた魔法機械の装甲が弾け飛んだ。

 なるほど、地面を起点とした範囲魔法か。これなら施設を破壊することなく魔法を行使できる。

「私も行きますか。エグゼリカさん。アンカーショット戦闘形態」

『アンカーユニット「ディアフェンド」起動ー』

 駆動音をたててトリガーハートが変形する。
 リール部分が完全に内部に収納され、長い棒状の形から丸みを帯びた盾のような形へと変わる。
 遊びの要素を一切省いた補助兵装としての姿だ。

 右手を覆うようにして装着されたディアフェンドから、アンカーショットを射出する。
 狙う先は、空を飛翔する小型爆撃機だ。

 アンカーショットの先端が魔力障壁を貫通し、機体の装甲に食い込んだ。

 魔力を送り込んで内部のシステムをダウンさせつつ、リールを巻き込んで引き寄せる。

 そしてアフターバーナーから魔力の火を噴かせてはやてさんたちから離れ、小型機とアンカーでつながれたまま空中で回転を開始する。

 砲丸投という陸上競技がある。
 鉄の固まりに紐を付け、紐の先端を持って競技者自身が回転し遠心力を使って鉄の固まりを遠くへ放り投げるという種目だ。

 これはその応用。
 重力制御で空中に留まった私は、回転の力をもって小型機を宙へ向けて投げ飛ばした。
 砲丸となった小型機は空を突き進み、高速で迫っていた中型機の装甲を貫いた。

 キャプチャーとキャプチャー解除による投擲が、このトリガーハートの基本機能なのだ。

「投げ飛ばすパワーもすごいけど……よく手からエグゼリカさんすっぽ抜けんなあ」

「持ち方が重要ですから。手の平のコネクタでがっちりホールドです」

 投げ飛ばすパワーと言っても、別に腕力で投げ飛ばしているわけではない。

 確かに私は強化された生命だがそこまで非常識なパワーは出せない。
 全て宇宙時代の重力制御と空間掌握の機械技術だ。

『EMERGENCY!! EMERGENCY!! 最優先攻撃目標「海鳳」を発見! 準備はよろしいですか!』

 プラントから少し外れた海上、巨大な航空機が空に浮いていた。
 作戦指揮本部から伝わる解析データには、極地戦略輸送攻撃機とある。
 なるほど、あれが空母になってプラントを制圧したのか。

「でははやてさんザフィーラさん、思いっきり行きましょうか。相手は大きいのでどこを狙っても直撃ですよ」

「そやなー。大きいの一発いっとくか。ザフィーラ守りは任せたで」

「盾の守護獣にお任せあれ」

 海鳳もこちらの接近を感知したのか、マイクロミサイルを次々と撃ち出してくる。

 私は周囲を飛ぶ小型機をキャプチャーし、その機体の陰に隠れて誘導ミサイルをやり過ごす。
 盾に使った小型機はそのまま海鳳へと投げ飛ばした。

 アンカーショットによる投擲は、違う意味での質量兵器。装甲へと突撃しその巨体を確実に削っていく。

 海鳳を支援するためなのか、小型機が少しずつ集まってきており投げる武器には事欠かない。


 しかし、中解同の都市制圧テロほどではないが機体の数が多いものだ。
 中解同と言いリトルアースと言い、いくら魔導師が少ないからってどうしてこうも莫大なお金がかかっていそうな巨大魔法機械を簡単に持ち出すのか。
 自然保護団体とか言うなら、そのお金でももっとちゃんとした自然貢献が出来るだろうに。
 ダライアス一族だってライセンス料を払われれば、テラフォーミング技術をちゃんと外部に提供する。


 私は銃撃を回避しつつ、キャプチャーと投擲を繰り返す。
 攻撃方法がこれしかないだけなのだが。


「遠き地にて、闇に沈め! デアボリック・エミッション!」


 はやてさんの広域殲滅魔法が発動する。
 巨大な魔力スフィアが海鳳の機体を包み込み、スフィア内の空間を破壊の魔力で埋め尽くした。

 圧倒的破壊力の一撃に装甲が次々と砕け、海鳳は爆炎をあげながら海へ向かって落ちていく。

「あ、なんかちっこいのが出てきたで!」

 爆発に紛れて、海鳳の中から中型の機体が飛び出してきた。
 魔力反応からして海鳳の中枢ユニットだろう。

 先ほどの反撃とばかりに砲門をこちらへと向けてくる。

 だが。

「一本釣りー!」

 アンカーショットをその機体へと撃ち出し、魔力障壁を貫通して装甲へアンカーを食い込ませる。
 そしてそのまま、海中へ沈もうとする海鳳の巨体に向けて投げ飛ばした。












 海上プラントの奪還は完了。
 教会本部へ飛びながら、私たちはオーリス姉さんへ報告を行っていた。

 犯罪者は休日など考えてくれないのは解るが、連日での戦闘行為は精神的な疲労が残る。

「疲れました。教会でゆっくりしたいですね」

『何を言っている。これから報告書だ』

「うえー」

 今の悲鳴は私ではなくはやてさんのものだ。だが私もうえーと言いたくなる。
 仕方がない、カードを切ろう。

「実はですね、私たち先ほど釣りをしていまして」

『ああ、それがどうかしたか』

「カニが釣れたんですよ。身の詰まっていそうな大きいのが」

『…………』

「そちらに戻ったらカニで晩ご飯のお料理でもしようかなーとはやてさんと話していたんですよね。カニ鍋、カニ雑炊、ついでに鯨のサシミ……」

『報告書はこちらでやっておこう。何、たいした労力ではない』

 私とはやてさんはウィンドウに見えないように、二人で小さくガッツポーズをした。
 ザフィーラさんはそれを見て一人あきれていた。



――――――
あとがき:アニメで言うところの本筋に関係ない日常回。旧タイトル『蟹飯を炊く時間はサービス残業に含まれますか?』、旧々タイトル『釣りバカ篝さん ~マジカルガールズ・ダイナマイトフィッシング~』。どちらもSTGに関係ありそうでもゲーム内容に直接関係ないのでそれらしい描写は添削されました。
ちなみに川釣り知識はアップルソースアングラーによるものです。釣ろうと思えば何だって釣れるんですよ川は。


用語解説
■まあそりゃあ川カニですし
川にもカニはいますが、タカアシガニは川カニではありません。
不思議空間ベルカ自治領。


SHOOTING TIPS
■アンカーショット
トリガーハートエグゼリカに登場する特徴的なシステム。敵を直接武器にすると言うアクションゲームにありそうな仕組みをSTGにもたらしました。
リリカルなのはのアニメStSでも同名の武装をティアナが使用。専ら移動手段として使っていましたが。
機体をキャプチャーできる性能があっても、ディストーションフィールドを貫通して過去へ逆行するほどの強度はきっとありません。

■持ち方が重要ですから。手の平のコネクタでがっちりホールドです
アーケードゲーム筐体のジョイスティックの持ち方は様々な持ち方がありますが、スティックの玉をワイングラスのように下から持ち上げるワイン持ちと、玉に手の平をかぶせるかぶせ持ちの二種類がメジャーです。
正確なコマンド入力よりも精密移動が重要なシューティングでは、手の平での細かいスティック操作が可能なかぶせ持ちが一般的です。
もちろん、かぶせ持ちではない持ち方のハイレベルプレイヤーも存在します。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第六話Aパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/10/05 23:20

 極秘指令

 セキュリティ解除

 コード9234

 次ノ作戦ヲ命ズ

 敵基地内ノ魔力炉ヲ捜索シ

 コレヲ破壊セヨ












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第六話『疾風魔法大作戦』前編

原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 中解同との戦いが攻勢に向かい始めた。

 レジアスおじさんの叱咤激励が飛ぶ。航空魔導師隊の企業テロ担当課一同が緊急に集められての作戦指示だった。

 少将であるレジアスおじさんが直接出てくるほど事態は大きくなっていた。


 首都クラナガン郊外。捜査部はそこに中解同の兵器生産プラントを発見した。
 地方世界で生産されているとばかり思われていた中解同の魔法機械兵器だが、ミッドチルダ内で生産拠点が見つかったのだ。

 灯台もと暗しとはこのことか。世界規模の大企業の本社や地上本部があるクラナガンのすぐ近くにこんなものがあるとは。

 だが、ミッドチルダは次元世界中の闇資材が集まる犯罪組織の中枢世界でもある。
 高い生産力を叩き出すには最高の立地条件だろう。

「作戦は迅速に行わねばならない! 工場内部は警備兵器がすさまじく制圧は困難を極めるだろう。だが我々は、人も情報も逃がす前に全て取り押さえねばならん! よって、この作戦は首都防衛隊、及び本局首都航空隊との合同での大規模戦力投入を行う」

 一瞬のざわめきが一同から走る。

 本局嫌いの地上本部トップ、レジアス・ゲイズ少将から本局との協力作戦が下されたのだ。
 それだけで、この作戦がどれほど大事なのかが解る。
 戦闘機人研究組織の検挙を行ったときも、ここまで大きな規模ではなかった。

 本来なら首都防衛隊と首都航空隊が我先にと手柄を取り合うクラナガン近郊での中解同事件。

 上で話が通っていても、現場レベルではどうなってしまうのか。

 陸から早く海へ異動して立身出世したいと思っている人も多いので、大丈夫だったりするのだろうか。

「諸君達の働きに期待する」

 レジアスおじさんの話が終わり、各員に通信ウィンドウが開き作戦本部からの指示が飛ぶ。
 おじさんの登場は、激昂や士気向上のためというよりは、作戦の重要性と事件の進展を皆に知らしめるためという感じなのだろうか。

 私も分隊長からの指示を受ける。
 予想通りというか、いつも通りの先行部隊任務だ。



 パイロットスーツに着替える必要があるのでロッカールームへ向けて廊下を駆け足で進んでいると、レジアスおじさんが巨体をゆらして前を歩いていた。

 久しぶりの対面だ。こんな状況だが少し話をしておこう。

「すごいことになりましたね。本局と協力だなんて」

 横まで走って並び、そのまま一緒に歩く。

「協力? ふん、馬鹿なことを言うな。ミッドの平和を守るために海の馬鹿どもの力を利用するだけだ」

 レジアスおじさんの歩みは速い。
 歩幅の差もあるが、時間の無駄を無くすという職業病もあるのだろう。

 自然と私は早歩きになる。

「まだまだ中企戦の奴らとの戦いは続く。極力こちらの金と人材を消耗したくはないものだな」

 あ、今、絶対一瞬にやって笑った。
 なるほど、最近は企業テロ対応の混乱に乗じて予算やら人材やら本局から色々搾り取っているんだったか。

 全部解決してみたら地上部隊の戦力が倍になっていましたとかこの人ならやりそうだ。

「なるほど、解りました。では、局の人材消費を減らすためにも任務に向かいます」

 そう言い、軽く会釈するとロッカールームへ向かうためフロア脇の階段を駆け上がる。

「ああ、それと」

 一つ言い忘れていたことがあった。

 下の階を振り返ると、レジアスおじさんはまだ立ち去っていないようだった。


「はやてさんの件、ありがとうございました。裁判に手を入れてくれて」

「ふん、毒をもって毒を制すだ。テロ組織を潰すのに、使い潰しのきく犯罪者を使ったまでだ」


 今度はにやりと笑わず、微妙に赤面していたような気がした。












 今回の私の任務は、先行突入。本隊が結界と包囲網で封鎖を行う最中に突入し、中枢を制圧する。
 いきなり全戦力投入をして罠でした、では大事だ。

 まず先に転送妨害結界をかけ、私たちが内部突入。
 証拠隠滅される前に中央情報機械を確保するという手はずになっている。

 先行突入の強襲チームは、私を入れてAAランクが三人、AAA-ランクが一人、現ランクは低いが推定AAA+ランクが一人だ。
 まるで戦争にいくかのごとき布陣だ。
 統率力よりも突破力優先と言うことで、首都航空隊、首都防衛隊、航空魔導師隊の混成チームとなっている。


 時空管理局の隊編成にはランク上限という制度がある。
 今回の突入チームような高ランクのチームを普段から用意しておくことは出来ない。

 高練度の連携のとれた既存の隊を使う編成と、緊急で高ランクを詰め込んだ編成。今回は後者が選択された。
 それだけ高ランク魔導師という存在の兵器価値が高いと言うことだ。

 そもそも即席の連携も出来ないようでは高ランクの資格試験になど合格できない。


 ちなみに、はやてさんは私と外れて、魔法の万能性を活用して外からのバックアップとなる。
 突入班から外れたのは場慣れしていない、というのが大きいが。


 突入前、完全武装した突入チーム一同で作戦の確認を行っていた。

 先行の突入チームのメンバーは、首都防衛隊からクイント・ナカジマ准陸尉、メガーヌ・アルピーノ准陸尉、シグナム三等空士。
 本局ミッドチルダ首都航空隊からティーダ・ランスター二等空尉。
 そして航空魔導師隊から私、カガリ・ダライアス嘱託魔導師となっている。

 ランスター二等空尉以外は事件の捜査で一緒になったことのあるメンバーだ。
 いや、シグナムさんは事件の捜査じゃなくて事件の犯人だったか。

 即席のチームリーダーとして、一番階級の高いティーダ・ランスター二等空尉ではなくクイント・ナカジマ准陸尉が作戦の説明を行っていた。
 皆デバイスの着用とバリアジャケットの展開は済んでいる。

「捜査官のクイント・ナカジマ准陸尉です。資料の押収などは私が担当しますが……先日捜査本部が極秘侵入を行ったときに武装突入出来るだけの証拠を上げているので、基本的には防衛兵器の破壊と人員の逮捕を。本格的な捜査はプラント全体を制圧してからになります」

 ナカジマ捜査官の武装は両の手に付けた手甲型デバイス。
 見た目通りの近接殴打用のデバイスだ。

 バリアジャケットは、短い青のジャケットを羽織った動きやすいパンツ姿。
 長い青紫の髪はリボンでポニーテールにまとめ上げられている。


 ナカジマ捜査官とは、戦闘機人事件の時に合同捜査を行ったことがある。

 あのときはゼストさんが指揮をしていたが、なるほど彼女は突入隊の指揮を任される程の人物だったのか。

「兵器の破壊は解りますが、確保した人員の護送はどのような手はずに?」

 軽く手を上げて質問を投げる。
 事前に隊から説明されていた任務内容は中枢の制圧。
 人員に関しては全員非殺傷設定魔法で昏倒させて真っ直ぐ中枢を目指すとばかり思っていたので、逮捕は想定していなかった。

「生産プラント全体に転送妨害が入るけど、特定の魔導師の転送は通るように結界が組まれます。そこを召喚士のメガーヌが」

「はい、びゅびゅびゅんと豚箱の中に転送させちゃいます!」

 青いローブのようなバリアジャケットに身を包んだメガーヌ・アルピーノ准陸尉が、両手を胸の前で握って力強く言った。
 手の甲の宝玉型のブーストデバイスがライトの光を反射してきらきらと輝く。

 この人もナカジマ捜査官と同じで、捜査官の役職に就いていたはずだ。

「豚箱の中じゃなくて本部の護送機の中ね。捜査官が聴取と裁判すっとばすのは駄目だぞ」

 デバイスを付けたままの手でナカジマ捜査官がアルピーノ捜査官の肩を何度も叩く。

 相変わらず女学生のように仲の良い二人だ。
 もう二人とも二十の中頃くらいの歳のはずだけれども。

「と、とにかく」

 誤魔化すようにアルピーノ捜査官はオーバーアクション気味に顔の前で握った両の手を大きく振るった。

「一番の目的は逮捕や破壊じゃなくて、ダッシュで中央へ向かうことです! タイムアタックです! 名付けて、疾風魔法大作戦です!」

「…………」

 このようなときはどうリアクションを返せばいいのだろうか。

「うん、無理しなくて良いからね」

 再び肩を叩くナカジマ捜査官。
 何だろうこの芸人舞台芸は。

「ちなみにメガーヌはこれでも一児の母です」

 これを聞いて今まで無言で話を聞いていたランスター二等空尉が豪快に吹き出した。
 シグナムさんは無言のままだったが。まあ一応上司のようだしこれで笑うわけにはいかないだろう。

 ランスター二等空尉の笑いをこらえる様を見て、してやったりという顔でナカジマ捜査官は突入ルートの説明を続ける。
 内部の見取り図までしっかりと作成されている。
 潜入捜査をしたという人はさぞ高い隠密性を持った人なのだろう。


 確認が終わり待機状態になっても、ランスター二等空尉はまだ微妙に咳を続けていた。

 そんなに笑いのツボに入ったのか。
 大丈夫だろうかこの人は、と見上げていたら相手がこちらに気づいた。

 とりあえずぺこりと軽く会釈をしておく。

「ああ、首都航空隊のティーダ・ランスター二等空尉だ。よろしく」

「航空魔導師隊の嘱託魔導師、カガリ・ダライアスです。よろしくお願いします」

 突入部隊にしっかりと高階級を投入してくるあたりは、やはり首都航空隊といったところか。

 階級とAAA-という魔導師ランクからして、小隊長クラスは確実な人材か。
 今回のチームリーダーにならなかったあたりの事情は私には解らない。
 まだ十代のようだし、若さか?

「やー、やっぱ君があの魔動少女かー。うちの妹が君のファンでさ。任務終わったらサインくれないか」

「……かまいませんが、首都航空隊の方は地上本部を嫌っていると聞いていましたが」

 ずいぶんとフランクな人だ。
 すんなり会話できたどころか、世間話までしてくるとは。

「ああ、俺、陸とか海とか空とかどうでもよくてさー。執務官になりたいから色々やっていたら、まあこんなところに居るわけ」

 こんなところ、とは言うものの、この若さで首都航空隊で二等空尉なんて、執務官も夢じゃないエリート士官だ。

「執務官候補ですか。それなら確かに自然と本局勤務が多くなりますね」

「執務官目指したのも、ガキの頃見た地方ドラマの影響なんだけどね。聞いたことねえ? ガンフロンティアっていう荒野で質量兵器の銃撃ち合うドラマ」

「第6管理世界で制作されたものですね。そこの出身なので知っていますよ

「へえ、知ってるのか。いやー久しぶりに友に会えたな」

 ……いや、実は私の一族が制作に参加したアクションドラマだったりするのだが。

 植民惑星開拓時代の出来事をモチーフに戦闘機の描写を大幅に削り、生身対巨大機械兵器のガンアクションに仕立て上げたシリーズだ。
 第6管理世界の都市部では、私の生まれるより前に配信されていたはずだ。

 彼の出身世界は知らないが、ひょんなところで縁がある。

「デバイスもそれの影響受けてさ。ほら、見た目質量兵器の銃みたいで変だろ?」

 ランスター二等空尉が腰に付けられたデバイスをこちらに見せてきた。
 片手で持てる赤い銃型のデバイス。
 確かにこの形状のデバイスを使っている人はそうそう見ない。

「私は機体に銃どころか機関銃のような武器が付いていますから人のこと言えないです。それより、近接になったら相手の殴り付けをとっさにデバイスで受け止められなさそうですね。これまた人のこと言えないですけど」

「いや、この銃口から魔力の刃をずびびーって伸ばせるんだ。デバイスは精密機械なんだから直接つばぜり合いしちゃいかんだろ」

「なるほど。無理にデバイスぶつけ合ってデバイス損傷させている人に聞かせたら目から鱗をこぼしそうですね」

 本来の銃ならば銃口のあるべき部分。
 そこにミッド式の杖型デバイスでよく見る宝玉が小さなサイズになってはめ込まれていた。

 ここから魔法を放出するのだろう。


「最近は古代ベルカのなんだっけ。カートリッジシステム? あれが開発部でブームみたいでなー。すっげーつけてみたいんだよね。あ、ナカジマさーん、それカートリッジシステムのデバイスっすよねー?」

 ランスター二等空尉は、一人柔軟体操をしていたナカジマ捜査官に向けて声をかけた。
 手甲型のデバイスを付けたままナカジマ捜査官がこちらに歩いてくる。

「ええ、近代ベルカでも不安定さは隠せないと言うことで使うのは個人の趣向レベルで、ずっと現場での使用は避けられていたんですが……最近見直されてきましたね」

 ナカジマ捜査官が手首の部分に重厚なギミックのついたデバイスを掲げてみせた。

 カートリッジシステムとは、純魔力を圧縮して注入された弾丸サイズの魔力槽を炸裂させ、爆発的な魔力を一時的にデバイスに送るという上級者向けのデバイスオプションだ。当然爆発的に増えた魔力は魔導師自信が制御しなければならない。
 保有魔力が少なかったベルカの人々が魔力不足を補うために考え出したと言われている。

 私の機動小型戦闘機の一時魔力補助パワーアップシステムに似ている部分がある。
 一時魔力補助パワーアップシステムは魔力の底上げではなく、撃ち出す魔力弾に追加で魔力を付与するという物なので、使用するまでの前途条件が多いものの使用者の技量は関係ないし不安定さは無いのだが。

「アースラって聞いたことあるでしょう。次元航行部隊のエース戦艦アースラ。そのメンバーのミッドチルダ式デバイスにカートリッジが実験運用されて、そこで安全性を確立されたデータが管理局中の開発部に正式配布されたんです」

 アースラでのカートリッジシステム運用か。
 闇の書事件の報告書で読んだ。

 古代ベルカの守護騎士達のカートリッジ搭載デバイスに対抗するためになのはさん、フェイトさん、ヤマトさんのデバイスに搭載されたのだ。
 ヤマトさんはデバイス好きだから、おもちゃを与えられた子供のように喜んでいそうだ。彼のデバイスはギミックだらけだった。

 レイジングハートは……ユーノくんの手元にあった頃からアグレッシブだったからなのはさんを困らせていなければいいけれど。
 あの子は本当にミッド式のデバイスなのかも怪しい。一族が一族だけにロストロギアが関わっていそうとかユーノくんは言っていた。

「それで首都防衛隊にもまわってきまして。私のは近代ベルカのデバイスなので格好の実験体ってところですね」

「シグナムちゃんのデバイスはもっとすごいんだよねー」

 シグナムさんとなにやら話していたアルピーノ捜査官が、椅子を引きずりながら会話に参加してきた。
 目を輝かせながら、シグナムさんにほらほらと何かを促していた。
 本当に一児の母なのだろうか。

「すごいかどうかは解りませんが……私のレヴァンティンは今で言う先史時代のデバイスです。カートリッジの精度も開発部の人が言うには高いらしい」

「うわー、かっけー。ロストロギアのデバイスかよー」

 鞘から剣型のアームドデバイスを抜いてみせるシグナムさんと、それを見て少年のように目を輝かせるランスター二等空尉。ああ、彼は少年だったか。

 私はシグナムさんのデバイスがちょっと苦手だ。
 あれで散々いたぶられたから。そうそうあの恐怖は消えるものではない。


「そうだ。アースラといえば、今、上に来ているぞ」

「え、そうなんですか」

 ランスター二等空尉がデバイスを持ったまま銃口を上に向けた。

 アースラが来ているなど初耳だ。

「そうですね。衛星軌道上からは、本局の戦艦が地表に向けて大規模結界を張ってくれる手はずになってます」

 ナカジマ捜査官が続けて説明した。

 確かに戦艦が出動するとは聞いていたが、アースラだとは思わなかった。
 そうか、あの人達がミッドチルダに来ているのか。

「企業テロの舞台はミッドだが、実態は次元世界を股に掛けた大犯罪だからなー。わざわざエース艦を出してくるくらいには本局も本気なのさ」

 中解同の企業テロは世界間犯罪だ。
 見方によっては、地方世界が中央世界に戦争を仕掛けているとも言われている。

「まあ本局の戦艦が出てくるのは地上本部に高出力駆動炉を持つ宇宙戦艦がないからなのですが……」

 ナカジマ捜査官が曖昧な表情を浮かべながら言った。
 ランスター二等空尉の言葉と比べると、本当に地上本部は華がないというか貧窮しているというか。

 そんなナカジマ捜査官の愚痴混じりの言葉に、ランスター二等空尉が言葉を返した。

「魔法主義時代の地上部隊ってのは言わば各世界の保有軍事力ですからねー」

 軽く言っているように見えて、言葉の中身は本質を捕らえたような話だ。

「世界管理をする時空管理局としてはあまり地上部隊に力を持たせたくない、と言うのが一応本局勤めの言い訳っすよ。この言い訳嫌いですけどねー。俺ミッド人だし」

 ランスター二等空尉は何というか、世渡りが上手そうな人だ。












 突入、いや、強襲が開始された。正面からではなく、警備の手の薄いとされている経路から壁をぶちついての侵入だ。
 隠密性などは皆無。最速で中枢を目指す。

 私は本来は単機突入殲滅が得意なのだが、任務内容に逮捕が混ざっている以上は一人で先行するわけにもいかない。
 私の戦闘手段は魔力の銃弾を撃ち出すことであり、捕縛や拘束といった補助系の魔法は専門外なのだ。

 時空管理局はあくまで警察機関。ランスター二等空尉はああ言っていたが、軍隊ではない。

 先頭を行くのは駆動ローラーの付いたブーツデバイスを履いているナカジマ捜査官と、天井を飛ぶ私の二人。
 アルピーノ捜査官もランスター二等空尉もさすがに高ランクの魔導師とあって遅れてはいない。
 シグナムさんは言わずもがなだ。

「狭い通路だけど、飛びながらで大丈夫!?」

 ナカジマ捜査官が壁から飛び出してきた魔法機械を殴り飛ばしながらこちらに声をかけてくる。

「戦艦や要塞への突入はむしろ得意ですよ」

 私はR-GRAY2のロックオンシステムで前方の空間に潜む警備装置を片っ端からロックし、雷撃で撃ち抜く。
 単機潜入、帰還はそれこそ物心がついたばかりのころから延々とシミュレーターでやってきた訓練内容だ。

 速度を活かせないような場所であっても、空間を全て使って戦えばいいのだ。


 細い通路を抜けて、部品生産場と思われる広い空間に抜ける。
 侵入と同時に魔法機械兵器が次々と沸いて出てきた。

 壁や天井にも銃口と思わしき機械が貼りついている。


 ナカジマ捜査官は、ローラーシューズで加速をつけ跳躍すると、そのまま空を走った。

 よく見るとシューズのわずか先に魔力の道が生まれており、ローラーが通過すると同時に霧散していった。
 空に道を作る魔法か。面白い。下手に飛行するよりもずっと速度が出るだろう。

 速度を落とさぬまま機械兵器の元へたどり着くと、両の手の手甲で次々と地を這う機械兵器の脚部を破壊していった。

 動きを止めた機械兵器をランスター二等空尉の魔力弾が撃ち抜いていく。
 彼の銃撃には無駄弾がない。

 無駄弾は撃てば撃つほど焦りが増し戦いの難度が上がるのだ、という言葉を思い出した。
 ガンフロンティアでの台詞だったか。

 シグナムさんは剣の刃を節に分裂させて伸ばし、鞭のように操って空中の飛行機械をまとめてなぎ払っていた。
 硬派な剣士に見えて、意外と多芸な人だ。私を撃ち落としたときは矢も使っていたか。

 飛行機械はシグナムさんに任せ、私は壁や天井についた警備装置を狙い撃つ。
 バイザーでの空間解析、魔力探知が可能な私は、隠れた機械が作動する前に破壊が可能だ。

 外からも解析班が内部の魔力解析を行っており、工場ごと自爆でもされない限りはそうそう後手に回ることはない。


 そして、アルピーノ捜査官はというと。

「応えて、アスクレピオス……機人召喚!」

 地面に描かれた召喚魔法陣から、四メートルはあるかという人型の機械生物を呼び出していた。
 青い装甲に包まれた巨人。
 ただの機械に見えるが、バイザーの視界からは確かな生命反応が見て取れた。

「ライドオン!」

 機械生命の胸部が開くとアルピーノ捜査官はその隙間に飛び込み、機械生命の体内へ飲み込まれていった。
 駆動音を鳴らして胸部が閉じる。

 そして、背についた推進器のような機械が火を噴くと、強烈な勢いで機械兵器の群れへと突進していった。
 前方に構えた巨大な盾から、赤い魔力の槍が生える。
 突進と共に次々と機械兵器の残骸が宙に舞った。

 機械兵器がその巨体に向けて魔力弾を放つが、機械の巨人は手に持った巨大な盾で魔力弾を全て跳ね返す。


「ロ、ロボットだー!」


 ランスター二等空尉の叫びが爆音の続く場内を満たす。
 男の子は人型兵器とか好きそうだからこの反応は仕方がない、のか?

 いや、そもそも召喚した生物に乗り込んで、近代ベルカな肉弾戦をするなどロボット抜きで普通は驚く。


 思わぬ驚愕はあったが、流石は高ランク魔導師の集団による一斉攻撃。部品生産場内の機械兵器は一瞬で駆逐された。

「後は後続部隊に任せて突破します! 残存機体に気をつけて!」

 残骸の上をローラーシューズで飛びながら、ナカジマ捜査官が指示を出す。
 前へと進みながらの戦闘だったので、さして足止めもされていない。

 次のルートへ向けて生産場を抜けようとしたときだった。


『突入班! 突入班! 緊急連絡です!』

「何事?」


 作戦本部からの通信が入った。
 ナカジマ捜査官が通信に応対する。

 こちらの経過は順調なはずだ。外で何かが起きたのか。


『アインハンダーが上空から施設内に侵入しました! 突入班と同じルートを通って進んでいます!』



――――――
あとがき:StS24話には地上本部過去の妄想の夢が詰まっています。ちなみにルーテシアは現在0歳です。
StSに入るまでの時系列追っていくと、クイントさんって三年間しかスバルとギンガを育てていないんですね。それであそこまで二人に影響与える当たり母は強し?


SHOOTING TIPS
■ガンフロンティア
ガンフロンティアは、宇宙時代の西部劇という独特の世界観を持つタイトーのSTGです。
西部劇と言うことでリボルバーに羽を付けた、一風変わった戦闘機が自機です。撃ち出されるショットも弾丸風。
某西部劇漫画とは一切関係ありません。多分。

■アスクレピオス
R-TYPE FINALに登場する自機の一つ、人型変形防衛能力強化型TL-1B"ASKLEPIOS"。敵弾を跳ね返すシールドフォースが特徴的です。
メガーヌさんは近代ベルカの魔導師と言うことしか知りませんが、公式の所持ブーストデバイスの名前が「アスクレピオス」だということで娘と一緒の召喚屋さんに。
まあ、使用デバイスがアスクレピオスと聞いてもR-TYPE FINALのことが思い浮かばなくて、どこかで聞き覚えのある単語だとググったわけですが。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第六話Bパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/10/12 07:47

 宙に浮いたままアインハンダーと対峙する。

 周囲にはランスター二等空尉の封鎖結界。

 沈黙が空間を満たす中、私は一人アインハンダーに対しスキャンをかける。
 強力な対検査魔法プロテクトがかけられているアインハンダーの機体と搭乗者だが、私のスキャンは魔法を基盤にしたものではなく、機械科学とダライアス独自の魔法科学技術が基盤になっている。
 あくまでサブシステムなので解析能力はさほど高くないが、もしアインハンダーのプロテクト技術がミッドチルダ魔法科学ベースならば突破は不可能ではない。

 解析データは本部との通信経路を通り解析班へリアルタイムで送られている。

 機体の分析データはデバイスの専門家ではない私には理解が出来ない部分が多く見られたが、その中でも新しく判明した情報に目を通していく。
 その中から解ったことがある。

 アインハンダーのパイロットは共通人類種と同じ身体形状の雌。
 小さな人間の女の子だった。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第六話『疾風魔法大作戦』後編

原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 作戦は未だ続いている。
 第三者の介入があろうとも、迅速に作戦を進めなければいけない。

 ここまでの突入は順調だった。最速でルートの半分を進行し、現在は下層へと続く大型機材輸送路にいる。
 そして、そこで後ろから高速で進行してきたアインハンダーと遭遇した。

 この地点での相対を予測していた私たちは、ランスター二等空尉の結界で出来た密室内にアインハンダーを捕らえることができた。


 無断でスキャンをかけるという、平時に道端で行ったら一発逮捕な行動を取る私を横に、ナカジマ捜査官がアインハンダーへと呼びかけた。

「この区域は管理法により時空管理局が封鎖しています。所属と目的を直ちに提示しなさい」

 戦闘姿勢を取ったままの呼びかけ。
 抵抗するそぶりを見せた瞬間にあの空中走行で腕のデバイスを叩きつけるつもりだろう。

 私はアインハンダーの武装を隅から隅まで解析し続ける。

 アインハンダーの特性上、搭乗者も解析対象に含まれる。

 人体スキャンはまるで透視をしているようで気が進まないが仕方がない。
 武装したまま戦場に突入してくる方が悪いのだ。
 敵武装の解析は戦況を左右する重要な要素である。

 バイザーの解析視界の中、ヘルメットの奥で女の子が口を小さく開いた。

「所属の開示は許可されていない」

 ヘルメットに拡声機能でもあるのか、小さく口を動かして紡がれた声はこちらの耳へしっかりと届いた。

 この声が肉声なのか変声器を通っているかまでは解らない。
 そのあたりの細かい分析は後回しだ。

「目的は?」

 ナカジマ捜査官は再び質問を問いかけ直した。

「……開示を許可されている。地下駆動炉の完全破壊」

「地下駆動炉?」

「地下廃棄物処理場の下層の機密区画」

 廃棄物処理場はこの生産プラントの最下層にあるという施設だ。
 何せここは中解同の極秘施設。ゴミをミッドの処理場に運ぶわけにもいかないので自前の処理場を持っているのだ。

 事前調査では、その廃棄物処理場が最下層とされていたのだが。


 この会話は全て作戦本部へ通信されている。
 今頃本部は大急ぎでこの証言の裏付けを取っているだろう。

 ナカジマ捜査官はなおも尋問を続ける。声に驚きはなく、捜査官らしさがうかがえた。

「何故そこの破壊を?」

「地下駆動炉はプラント中枢が機能不全に陥った場合に制御装置を解除。地表に向け臨界魔力を放出する。……自爆?」

 とんでもない話が出てきた。
 事前に予想はされていた事態だが、地下駆動炉などと言う物は情報になかった。

「時空管理局の主戦力の損失は、中解同制圧に不利になると判断。……これ以上の情報開示は許可されていない」

 情報開示。許可。
 アインハンダーの背後に組織の影が見えた。

 プラントの所在を知り、内部構造も知っている。
 制圧作戦を行おうとする管理局の動きも察知。さらに局の把握していない情報も掴んでいる。

 だが、今はそれを追求しているときではない。
 本部と繋いだままの回線に問いかける。

「本部、地下の情報の裏付けはどうですか?」

『完全な見落としでしたが……確かに地下最下層よりさらに下層から魔力検知できました』

「自爆に関しては?」

『本当に自爆するかまでは解りませんが、もし駆動炉が崩壊し地表に向けて魔力を放出した場合、建物が根こそぎ潰れて無くなる建築構造になっています。自爆前途に建てられた、と考えてもおかしくはありません』

 本隊が中枢に向かった後に崩壊していたとしたら大惨事だった。
 少数での先行突入作戦は正解だったということか。

 いや、どちらにしろアインハンダーの証言がなければ中枢制圧後に本隊が突入していた。

「ど、どうしましょう……」

 アルピーノ捜査官はもう一人の捜査官と対照的におろおろとうろたえていた。
 足下に地雷が埋まっていると考えたら、確かに気が気ではないのは理解できる。

 ちなみにアルピーノ捜査官は未だに巨大な機械生物の中に入ったままなので、慌てる様子は全然可愛くない。
 この召喚機人は大きすぎて狭い通路を通れないので、途中で送還することになるだろう。

「まーさすがに本部の指示待ちっすね。アインハンダーの君には悪いけど、俺たち勝手に動けないからちょっとだけこのフロアで我慢な」

「早急に。なお管理局との協力は許可されている。が、こちらを捕らえようとするならその限りではない」

「こんなときに無断飛行程度を捕まえてる余裕なんて無いさ。こちらを邪魔しようとするならその限りではないが」

 指示待ち。だが大体の予想は出来る。
 今回は、あのラジカルな強行姿勢で知られるレジアス・ゲイズ少将が直接関わっている作戦なのだ。
 罠が怖いので宝を目の前に逃げました、で済ますはずがない。

『こちら本部。作戦の一部変更を指示します。カガリ・ダライアス嘱託魔導師は最下層へ向かい、駆動炉を術式封印してください。他四名はこちらの指示するタイミングで中枢へ向かってください』

「た、退避しないんですかー?」

 軽い涙声でアルピーノ捜査官が言った。
 捜査官という役職で魔導師ランクも高いのに、意外と恐がりな人だ。

『最下層の魔力反応は爆弾ではなく本物の駆動炉のようなので、崩壊しても一瞬で大爆発は起きません。崩壊時はアースラからの転送サポートが入ります』

 単独突破の指示が出た。
 あらゆる障害を無視して強引に先へと進むきょうせいスクロールするのであれば、このプラントの防衛能力だと全員で行くより私一人で突破する方がはるかに速い。
 魔力を封印する術式もシップには搭載されている。
 ロストロギアの事件に当たる上では必須となる術式だ。

 だが、作戦には一つ抜けているところがあった。本部へと疑問を投げる。

「アインハンダーの処遇はどうなりますか?」

『民間の情報提供者として現場への同行を許可します。ダライアス嘱託魔導師の指揮下ならば危険魔法行使も特例で許可されます』

 民間の情報提供者ときたか。物は言いようだ。
 使える物は使ってしまえということだろう。

 確かに、屋外ならともかく屋内ならばこの中で唯一アインハンダーが私の速度についてこれることができる。

 これもレジアスおじさんの判断か?
 飛行違反の現行犯をそのまま作戦に組み込むというのは無理が大きいが……、捕縛しようとここで作戦に関係ない大捕物をするよりはマシなのか。

「アインハンダーさん。これから貴女は私の指揮下に入り地下駆動炉へ向かいます。時間がありません。協力してくれますね?」

「許可されている。問題ない」

 戦闘機型デバイスと機動小型戦闘機。
 奇妙な二人のコンビが急遽編成された。












 通路を高速で駆け抜け、時には床を撃ち抜き下へ下へと降りていく。
 少しでも操縦を間違えようものなら壁に激突してそのまま大破する速度だ。

 後ろからはアインハンダーが追従してきている。

 カメラアイの視界の中、アインハンダーは時折危ない動きを見せる。
 だが私は速度をこれ以上緩めるつもりはない。

 道をふさぐ敵機を破壊しながらの侵攻なので、これでも速度は落としている。

 本来ならアインハンダーもそこらの空戦魔導師とは比べものにならない速度と機動力を出せる飛行性能のはずだ。
 それでも付いてくるのがやっとのこの状況は、慣れていない、ということに尽きるだろう。

 例えデバイスの支援を受けていようとも、狭い屋内での飛行は困難を極めるものだ。
 オーリス姉さんから見せて貰ったアインハンダーの戦闘記録は、全て外の広い空間でのものだった。

 そして搭乗者の女の子はまだ幼い。訓練も経験も少ないのだろう。

 速度を落とさぬまま念話チップを起動し、アインハンダーへと念話を飛ばす。
 数秒は直線なので気が散って落ちることはないだろう。

『無理にぴったり付いてくる必要はありません。多少は遅れてもかまいませんよ』

『……問題ない』

 無理しちゃってまー可愛いこと。
 あのヘルメットの中を解析で見てから、少し彼女に愛着がわいてしまった。

 ただの戦闘機型デバイスと思っていたものにちゃんと人間が乗っているというのを改めて認識させられたというか。
 可愛くても速度は落とさないが。


 そしてすぐに最下層の区画、廃棄物処理場へと辿り着く。
 巨大な施設といえど、ルートを無視して床を抜いて飛べばたいした距離ではない。

 背後からは防衛機械は迫ってきていない。

 防衛機構には守備範囲というものがある。
 高速でそこを突破すれば、戦わずとも一定以上は追ってこなくなる。
 私の目的は防衛機械をスクラップにすることではないのだ。


 処理場の中を見渡す。廃棄物処理といっても汚い施設ではなく、地上部の施設と同じように機械がいくつも連なって今も稼働していた。
 廃水浄化にゴミの次元圧縮。相変わらず無駄に技術力の高い人達だ。
 だがこんなのものに感心している場合ではない。駆動炉に向かわなくては。

「どこが駆動炉につながっているか解りますか?」

「あそこ」

 アインハンダーの大きな左腕で、施設の一角を指し示した。ちなみに左腕の先には、魔法機械の残骸から回収した質量兵器の機関銃が据え付けられている。

 アインハンダーの示した先は、大きな円筒状の深い深い穴。
 その穴に上から次々とゆがんだ金属の固まりが降り注いでいた。

 廃棄資材の投棄場か。駆動炉の熱で溶かして再利用でもしているのだろうか。

「地下駆動炉区画はあの穴の下」

「……絶賛稼働中のようですが」

 今もなお廃材の落ちていく穴を眺めながら言う。
 まあ確かに秘密の区画を隠すには良い場所なのかもしれないが。

 アインハンダーは私の言葉を無視して、穴の中へと飛んでいく。

 仕方がない。稼働中だろうが何だろうが駆動炉へ向かわなければいけないのだ。
 アインハンダーを追い瓦礫の降りしきる空洞の中へと機体を進めた。


『WARNING!! WARNING!!』


 ……少し進んだだけでこれだ。
 地下駆動炉のものとは違う強力な魔力反応がすぐ下から発生した。

 穴の底を覗くと、高速で回転する巨大な歯車状のノコギリの刃が見えた。

「金属材の粉砕機、ですかね。下手な魔法機械兵器よりずっと頑丈みたいですよあの機械」

 太い二本の多関節アームの先端にそれぞれ二枚ずつのノコギリが装着されている。
 アームの台座が壁面にうちつけられたレールの上を疾走している。
 重厚な動きでアームを曲げ、落ちる資材をノコギリの刃で砕いていた。

 時折落ちてくる壊れた魔法機械兵器すら粉々に粉砕している。
 処理機の表面にはしっかりと魔力障壁が展開されているのが見えた。

 確かにここまですればどんなものでも細かく砕いて処分できるだろう。

「侵入者撃退用の防衛ライン」

「やっぱりですか……」

 ここまで強力な魔力反応を穴の中に入るまで気づかないなどありえない。
 侵入を検知されて出力を上げたのだろう。

「武装はあの回転アームだけのようなので遠距離砲撃で……といきたいところですがそうもいかないですね」

 穴の入り口には一方通行の強力な封鎖結界が張られていた。
 上からの金属片はそのまま通り、下からの脱出を防ぐというものだ。
 破るのは不可能ではないが、魔力値AAランク以上の魔法機械を足下に置いた状態では危険が高い。

 まず先に粉砕機の破壊を行わなければ。

「瓦礫、多くなってきた」

 上空から降り注ぐ魔法機械の廃材が視界一杯に埋まるようになる。

 これは……下手な魔力弾を連発されるよりやっかいだ。

 瓦礫をロックオンレーザーで撃ち抜き、浮遊地点を確保する。
 上からの思わぬ襲撃に気を取られていたそのときだ。
 粉砕機が高速で迫り上がり、こちらと同じ高さまで迫ってきた。

 アームを曲げ回転ノコギリの刃が振り下ろされる。

 咄嗟に真後ろに飛び退いて回避。
 当たれば一発で真っ二つにされてしまいそうな轟音が目の前を通過する。

 アインハンダーもこれを避けたのか、上の方から私を見下ろしている。

「接近戦、得意?」

「大の苦手です!」

 叫び返しながらレーザーショットをアームの接合部に向けて撃ち込む。

 注意するべきは上空からの落下物、アームの動き、台座の動きだ。
 砲門らしきものは見あたらない。
 台座の中央に金色に輝く球体があるが、何らかの魔力発生装置だろう。


 バイザー越しに映る魔力障壁の隙間に多重ロックオン。
 R-GRAY2の雷撃を放つ。

 敵の装甲は厚い。
 ビックバイパーに換装したいところだ。
 だが、降る瓦礫の多さとアインハンダーの存在からR-GRAY2を使わざるを得ない状況だ。

 レーザーショットでなぎ払うようにして瓦礫を吹き飛ばし、迫るノコギリの刃をすれ違いざまにロックして紫電を叩きつける。

 アームの動きは機械的だ。
 台座の移動と回転で縦横無尽に斬り結んでいるように見えるが、軌道は読みやすい。

 小さな動きを続ける私とは対照的に、アインハンダーは大きく旋回して銃撃を続けている。
 落ちてくる廃棄材の中に銃弾の装填された武器が混ざっているのか、機関銃から散弾銃へと左腕の兵装が変更されていた。

 問題ない。
 強力な魔力炉を持つ兵器であろうが、粗悪な自動操縦相手に私たち二人は落とされやしない。


 そう思い、二枚のノコギリの隙間に入り込み接合部を狙い撃っていた瞬間。

「わあああー!?」

 初めて聞くアインハンダーの叫び声。

「どうしました」

「ひ、引き寄せれられれー!」

 舌が回っていない叫びを上げながらアインハンダーがアフターバーナーの火を今までにないくらいに噴かせていた。

 落下してきていたはずの周囲の瓦礫が、全て粉砕機の台座の中心に吸い寄せられている。
 解析を通すと、台座の中心の黄色いスフィアから強力な磁場が展開されていた。

 金属材を磁力で集めまとめて粉砕するための魔法機能だろう。

 アインハンダーはその力場に吸い寄せられそうになっている。

 磁力で引き寄せられるような素材を使っているのかアインハンダーは。
 いや、そもそも磁力遮断フィールドを持っていないのか。

 物理科学アプローチなら慣性制御や重力制御が出来るならそのはるか前の段階で磁力制御も出来て当たり前なのだが、魔法の防護フィールドを持つアインハンダーはそうでもないらしい。
 文明レベルの差というか文明種別の差か。

 結界魔法を使えない私はアインハンダーを直接助けることは出来ない。
 吸い寄せられていく瓦礫を破壊することで直撃するのを助ける。

 やがて、磁場の展開が収まり、アインハンダーが大きく粉砕機から離脱する。
 そのどさくさに紛れてアインハンダーは巨大な砲塔を腕に掴んでいた。

 旋回したままアームの関節部に向けて砲撃を開始する。

 やはり砲弾は中に装着されているようだ。
 まさかこちらにぶつける質量弾にするために、まだ使える資材まで穴の中に投下されているのではないか。
 この鋼の雨は確かに驚異だが、それを逆手に取ってしまえば良い。

 そうだ、武器は頭の上からいくらでも降ってくるのだ。
 補助兵装を起動。より大きな廃棄材に向けてアンカーショットを放つ。

 シップと廃棄材がアンカーショットで一つなぎになった。
 魔力を通し強化し、鉄の塊を大きく振り回す。

 小さな瓦礫はその動きだけで粉々に粉砕される。

 原始的な武器。巨大なモーニングスターだ。
 近接武装がないならこの場で用意してしまえばいい。

 アインハンダーの砲撃に重ねるようにして粉砕機の関節に向けて鉄塊を叩きつけた。

 表面を覆う魔力障壁が吹き飛び、アームの装甲が大きく砕ける。
 流れは掴んだ。ただの粉砕機で追加武装がないならば、このまま打ち砕ける。

「この機械、同じ動きを繰り返しています。こちらも動きをパターン化して対処しましょう」

「ん」

 魔力障壁を失ったアームを折り砕くにはさしたる労力は必要なかった。











 地下区画の駆動炉を前にビックバイパーT301を起動させる。

 駆動炉は高出力で稼働している。
 魔法による封印というものは、まず対象の魔力放出を抑えなければいけない。
 ジュエルシードの封印時にまず暴走体の破壊を行っていたのにはそのような理由がある。

 ビックバイパーに搭載されている封印術式は、空間転移ワープ航法の時空間制御能力を応用したものだ。
 この時空間制御能力は、ミッドの魔法方式と異なるため次元世界の移動こそ不可能なものの、フルドライブさせることで周囲の空間を巻き込んだタイムワープすら可能とする。
 時間の移動は空想上の技術ではない。ダライアスはバイドという時間を超えてやってきた兵器に滅ぼされかけているのだ。

 時空間を操る機体。その力を活かし対象の時間を歪め魔力を霧散させ、空間を固定させて魔力の放出を封印する。


 一連の術式を駆動炉に向けて行使する。
 空間が歪み、青白い光が駆動炉の中枢を満たす。

 後ろで待機するアインハンダーも、単機でここに向かおうとしていたわけだからミッドチルダ式かベルカ式の封印魔法を使えるのだろうが、これは私の仕事だ。ここまで任せるわけにはいかない。

 駆動炉の魔力放出が止まる。
 最後に疑似再現したミッドチルダ式の封印拘束をかけて全て終わりだ。

「本部、地下駆動炉の封印完了しました」

『では中枢の制圧を開始します。念のため駆動炉の崩壊圏内から離脱してください』

 強固な封印をかけたので、この場を離れて中解同の人間がこの場に来ても、そう簡単に封印は破れないだろう。
 中枢の制圧が終わればこの場にも本隊が詰めかける。後は局の人達に任せればいい。

「ということです。帰って良いですよ」

「…………」

 アインハンダーはヘルメットごしにこちらをじっと見据えていた。
 このまま見過ごすのか、とでも言いたいのだろう。

「私って管理局員ではなくて交通課所属でもないので、無断飛行で貴女を捕まえる理由が特に無いんですよね。今回は無許可での危険魔法行使していませんし」

 現行犯でなければ私も目くじらを立てるほどではない。
 それに、無理に捕まえようとして駆動炉を撃ち抜いてしまっては大変だ。私は拘束魔法を使えない。

「そう」

 ぼそりとつぶやいて、飛び去ろうとこちらに背を向ける。
 プラントを飛び出したアインハンダーを管理局の人達がどうするかは知らないが、今まで通り適当に逃げ去るだろう。

「ああ、それと」

 一つ言い忘れていたことがあった。

 アインハンダーはまだ立ち去っておらず、アフターバーナーに魔力の光を溜めたまま振り返った。

「アインハンダーさん。貴女の名前は何て言うのでしょうか。こちらが勝手に付けたあだ名ではあれでしょう」

「……コードネームの開示は許可されていない」

 最後につぶやいた声は、今までの抑揚のない声とは違う何かの感情が含まれていたような気がした。



――――――
あとがき:展開が無理矢理だぁ……。


SHOOTING TIPS
■きょうせいスクロールする
STGの多くは強制スクロールと呼ばれる、敵の撃破状況に関わりなく背景が前へと進むゲーム進行をします。
アクションゲームに多い機体の動きに合わせた任意スクロールのものや、インベーダーゲームのようにそもそも画面が動かないものも一部ありますが、STGのステージといえば現在は強制スクロールが一般的です。

■粉砕機
オメガファイブ三面ボスより。機械的な動きでパターン化も容易な処理機さん。
オメガファイブはXBOX360のハード性能を活かした3Dグラフィックの横スクロールSTGです。
最近のモニターのワイド画面化の流れは横スクロールSTGを動かすのに最適です。横スクロールSTG頑張れ。もう少し頑張れ。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第七話-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/10/18 17:03

 誰かと心がすれ違うたび、ぶつかり合うたび、ずっと思っていました。
 言葉が、気持ちが、想いの全てが人と自分は少しずつ異なった存在なのだと。

 だけど、言葉も、正しさも、願いも見えぬまますれ違う人がいる。

 必要なのは、言葉じゃなくて強い力。
 嘘も迷いも理解せぬまま、心を決めた真っ直ぐな瞳で私達は立ち向かう。


 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. 始まります。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第七話『鉄と魔法の一大スペクタクル!!』

原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 兵器生産プラントから帰還し地上本部に戻った深夜遅くのこと。
 私は地上本部での残業に勤しんでいた。

 プラント内のホストマシンから入手した情報の分析、ではない。
 突入捜査の報告書作成のためでもない。
 アインハンダーの解析結果の詳細分析だ。

 本来なら後回しにされるであろう第三勢力の兵器の解析結果。
 それを今こうして急遽手を入れているのは、アインハンダーのパイロットが人工機人であると判明したためだ。


 人工機人とは、人体に機械部品を組み込み一歩進んだ種へと人を進化させようとする試みの元、生まれた人工生命だ。
 機械を身体の延長として追加接続することが出来、身体そのものの強度も高い。
 主に医療の分野で部分的に人を機人化させる研究が進められている。いわゆるサイボーグというものだ。

 機械の出力を上げれば人よりも遙かに強靱な身体能力と機械兵器の精密運用が可能になるが、倫理的な面から軍事利用、いわゆる戦闘機人の研究と製造は管理法で禁止されている。
 例外的に戦闘機人の研究が認められているのは、すでに種としての機人を確立している生命体くらいだ。アルピーノ捜査官が召喚したような装甲機人種、そしてダライアス一族のような。

 ダライアス一族は中心世界で検挙されている戦闘機人研究の何世代も先を行く人類種だ。
 かつてダライアス星の人々は、強靱でより機体と合一化できる戦闘機乗りを生み出そうと、人の身体に鋼の箍を打ち込んだ。
 人体への負荷は高く、当時の戦闘機乗りは長く生きられなかった。
 そこで、遺伝子レベルからの改良を施されるに至った。
 完全な軍事利用での戦闘機人の誕生。斑鳩の時代の戦闘機史だ。

 遺伝子レベルで人から外れてしまった戦闘機乗りたち。だが、それでも人類種であることには代わりはなく、人との交わりで機人の子が生まれた。
 次第に増えていく新人類。それに抵抗を覚えなかったダライアスの人々は、同時に研究されていた魔法科学技術である聖霊機関と非侵食性バイドをも取り込み人として新たな段階へ次々と進んでいった。

 その結果、今の管理世界で私たちは第二種監視指定共通人類種などという区分けをされている。
 人との交配により感染し人類の存続を脅かす病原体を持っているため、所在に関して厳しい監視が必要である、というものだ。
 管理世界における私たちは人間ではない。

 ダライアス種とミッドチルダ種の子はダライアス種が生まれる。

 少しずつ人としてのあり方を変えてきた私たちと違い、ミッドチルダ種の人から見れば自分たちの種が急に人から化け物に変わってしまうのだから恐ろしいことこの上ないのだろう。

 それだけではなく、ミッドチルダの人々は人が人でなくなるのを恐れる。
 それは遅々として進まない医療機人研究であったり、人工魔導師を初めとするクローン技術の禁忌扱いといった倫理観に現れている。

 戦闘機人で大騒ぎしている現状は何とも面倒なものだ。
 別に私の文明が機人技術で繁栄したから過去があるからといってこの現状を下に見ているわけではない。

 魔法第一主義の兵器運用の弊害、とでも言うのだろうか。
 質量兵器を捨てて個人の天性が全てを左右する魔法などというものに頼るようになったならば、機械の方ではなく人間を兵器として開発する人達が出てくるのは当然の流れなのだ。
 いくら法で規制しようとも、AAAランク魔導師一人で都市一つを更地にできる現実がある以上、人の開発は止まらない。


 ミッドチルダは人の開発を忌避する倫理を持ちながら、人の開発を必要とする文明という矛盾を抱えた若い世界なのだ。

 私はそのあり方に反発や拒否をするつもりはない。
 管理法で戦闘機人が違法とされているなら捜査に参加するし、管理法でクローンも人と定められているならアリシア・クローンも保護する。
 そして、アインハンダーのパイロットは詳細解析が必要な人工機人であった。
 それも、ただの機人ではなく、二年前の違法戦闘機人事件で摘発された研究内容と一致する部分が多く見られている。

 多くの資料を押収したものの、首謀者と戦闘機人そのものを取り逃がした一連の事件。
 その資料の骨格規格と私が内部解析したアインハンダーのパイロットの体内データは共通点が多すぎる。

 今まで中解同と敵対する第三勢力と思われていたアインハンダーだが、ここにきて怪しい影が見えるようになった。
 あの戦闘機人事件で機人研究を行っていた犯罪組織は未だ未判明の事項が多い。例えば研究資金であったり、研究者を集める顔の広さであったり。
 背後に中解同に狙われるようなミッドチルダの大企業がいたとしたならば、つじつまが合ってくる。


 だがそれならば何故、捜査の手を逃れたの機人が再び姿を現したのか。
 確かに高度な対魔法解析プロテクトは施されていた。
 それでも管理局は魔法技術の最先端を担う組織の一つであり、何度も管理局の前に姿を現すのは危険極まりない。
 結局のところ魔法技術で解析は突破できずに、地方世界の純科学技術というジョーカーを用いてようやく判明したのだが。

 もしかすると、早くにばれると想定していたのに反して、何度姿を見せてもばれなかったために今回のプラント強襲のような余裕を持った動きを見せてきたのではないだろうか。
 だとすると、管理局が戦闘機人の正体に気づいたとアインハンダー側に知られる前の段階なら、彼女を捕縛することも可能か。

 彼女は魔導師であると同時に高機動の戦闘機でもある。
 非殺傷の高出力広域魔法を無差別に叩きつけるか大規模結界の中に捕らえる方法が取られるだろうか。
 だが、アインハンダーが姿を見せるのは中解同のテロに対応している最中だ。

 広範囲の魔法を使う以外の方法だと、私のような高い機動力を持つ武装局員を当てなければ捕まえることは難しい。

 今回の解析データからアインハンダーの戦闘能力の詳細も出ることだろう。

 アインハンダーは機械部品と機械装甲で埋め尽くされた巨大なデバイスだ。
 今まではただひたすら機能の増設を繰り返して出来た魔法の杖のなれの果てに見えていたが、乗っているのが機人となっては見方が変わる。
 デバイスと機械化した人体を融合させてたどり着いたのがあの機体か。
 着想がより機動小型戦闘機に近く見えてくる。

 アインハンダーが現れたのは私が嘱託魔導師になって二年が経ってからだ。
 その短い期間でアインハンダーの機体の誕生に影響を与えたのかどうかは解らない。

 だがダライアスの魔動機械技術は機人技術の行き着く一つの到達点であることには違いはない。
 技術の漏洩や模倣、というものに気をつけていかねばならない時期に来ているのかもしれない。












 中解同のプラント制圧から明けて五月。
 ミッドチルダ東部地方での企業テロが発生した。

 そろそろ出動にも慣れてきたはやてさんを乗せてシップを駆る。
 現地ではシャマルさんと合流することになっている。

 シャマルさんは直接的な殺傷能力を持たない守護騎士だが、古代ベルカの補助魔法に長けた人のはずだ。
 守護騎士達はその全員がAAランク相当以上の技量を持つと推定されている。

 例え傷つこうが死に至ろうが本体は夜天の魔導書で動いているプログラムであるので、無限に再生し歳をとることもない。
 これもまた人としての進化の一つのあり方だろうか。

 古代ベルカの王侯貴族は様々な延命魔法を使用していたという。

 この魔導書を起点とした人格プログラムもその一つではないかと思える。
 自分自身をプログラム化して永久に保存する。古代ベルカの魔法技術では不可能ではないだろう。
 もしかすると、夜天の魔導書の守護騎士さんたち四人も元ははるか昔に生きていた騎士だったのかもしれない。

 ……根拠のない仮定だが、これをはやてさんに言うのは止めておこう。
 人と変わりのないプログラム生命というものに未来を見いだしているのだ。
 人の保存技術などという生々しい話は今はまだ話すべきではない。


 シップの複座に乗るはやてさんをカメラアイで見る。
 この前、魔導師ランクの試験を今度受けると言っていた。本格的に魔導師となるのだ。

 中解同さえ壊滅してしまえば、このような危険な現場に狩り出されることもなくなり、魔法研究者としての道を歩めるだろう。

 全ては今の戦いを終えてから、か。
 私としても最近の過激化するテロのせいで復帰以降技術職としての任務に支障が出始めている。
 戦う理由が正義のためでないのは世間での私のイメージとはかけ離れているのだろうけれど、まあ口に出さなければ問題ない。


 はやてさんの肉体に負荷がかからないよう慣性制御の出力をわずかに上げ、東部へと飛ぶ。
 転送魔法より飛んだほうが速いという判断の元だ。増援もすぐに到着するだろう。


 遠くに見える戦場が高速で近づいてくる。

「……なんかすごいいっぱいにみえるんやけど」

「敵兵力従来の三倍ってところですか。在庫処分かやけかは解りませんけど、中解同も本気になったということですね」

 プラント内に兵器格納庫の座標情報でも残っていたのだろうか。
 局に検挙される前に急いで使っておこうとでもしたのか、今回のテロ対象地区は企業都市ではなく娯楽施設や繁華街の多い場所。
 大企業よりもミッドチルダの地方中小企業で栄えた都市だ。

 これだけの戦力を投下するには中解同としても益が少ないだろうに。
 だが人口は多く、あれだけの数の兵器が無差別に攻撃を開始すればどれだけの被害が出るかも解らない。

「リイン転送!」

 突如目の前からはやてさんの姿が消えた。
 転送魔法だ。無詠唱なのでさほど遠くへは飛んでいないだろう。

 登録魔力をサーチ。都市部外周、都市結界の外だ。
 バイザーの望遠機能で魔力反応の導く方向を見る。

 視線を向けると同時に爆炎が立ち上った。

 はやてさんは質量兵器のミサイルの降り注ぐ真っ直中に転送していたのだ。
 わざわざ危険の中に飛び込むなんて。

 煙が晴れ、はやてさんの姿が見える。

 緑に輝く防壁魔法の光。
 その後ろには、逃げ遅れた一般人が倒れていた。

 あの人を助けるために咄嗟に転移したのか。
 正確な転送と瞬時の防壁展開。はやてさんの魔導師としての才能と成長が垣間見られた。

 私もはやてさんの元へと向かう。
 衝撃波で一般人を吹き飛ばしてしまわないよう上空で停止し、自由落下で地面に降り立つ。

「はやてさん、とりあえずこの人を避難区域へ転送……」

「ほな、行きます!」

 避難を頼もうと声をかけた瞬間、私の言葉を無視してはやてさんはテロ機の群れへと飛び出していった。
 前言撤回。まだまだ成長と言うにはほど遠い勇み足だ。

「ええと……」

 逃げ遅れた人の方へと振り返る。
 ビジネススーツ姿の女性。仕事での移動の途中にテロに巻き込まれたのだろう。
 はやてさんの援護に向かいたいが、この人を放っておく訳にはいかない。

「乗ってください。安全な場所まで運びます」

「は、はい。魔動少女さんですね! よろしくお願いします!」

 死ぬ一歩手前だったためか妙にテンションが高い。
 はやてさんが降りてそのままだった複座に女性を乗せ、都市郊外の陣営へと向かう。
 本来ならここでシャマルさんと合流するはずだった。思わぬハプニングだったが一人の命が救えたので僥倖と言えるか。

 陣営へと降り立ち、女性を局員へと引き渡す。
 彼女は感涙きわまった様子で最後まで私に手を振っていた。死の恐怖をそうやって紛らわせているのだろう。
 魔導師と一般人の溝は深い。それは武装が出来るということよりも、身を守ることが出来ないというのが一番大きいのだろう。

 ミサイルの爆撃など一般人では生き延びる可能性などゼロなのだ。
 管理局員ならば例え魔導師ランクがEであろうとも、汎用装甲服と防壁魔法を使えば軽傷で済ますことが出来る。

 企業テロとの戦いには、管理局員の死傷者よりもはるかに多くの無関係な一般市民の死が横たわっている。
 企業対企業、中心世界対地方世界などという大局的な話に関係なく、何の関係もない人々の死がそこにはある。

 私は管理局員ではない。
 正義で動くつもりもない。
 私はこの世界において人間ではない。
 人の尊厳についての倫理も異なる。
 だが、それでも戦うことで一人でも多くの命を救えるなら、それはきっと素晴らしいことなのだろう。

 手を振り続ける女性へと手を振り返し、シャマルさんの元へと向かう。

 シャマルさんは戦いによって負傷した局員への治療を手伝っていた。
 彼女にははやてさんの大魔法詠唱時の防護に入って貰うはずだったのだが、肝心のはやてさんが居ない。

「急いで向かいましょう。数の暴力にはやてさんが対応しきれる保証はありません」

「は、はい」

 シャマルさんは少し気圧されるように弱々しく返事をした。
 はて、どこか気合いのスイッチが入ってしまったのだろうか。
 これがはやてさんの以前言っていたアチョー状態か。

 シャマルさんを連れて、都市都市結界の上へと向かう。
 航空魔導師隊の一部が到着したのか、上空では戦闘が開始されていた。

「はやてさんの姿が見えませんね。だいぶ奥まで行ったようです」

「あわわ、はやてちゃん大丈夫かなぁ」

「リインフォースさんの援護があるので無茶をしなければ……と言いたいところですが危険ですね」

 戦場において魔力の高さは重要だ。だが魔力さえ高ければ無敵というものでもない。
 実際、武装局員の全員が空を飛べる熟練者揃いの航空魔導師隊も、中解同との戦いで負傷者は後を絶たない。

「シャマルさん、はやてさんに念話で引くように言ってください」

「あ、はい。私が言っていいんですか」

「私が言うよりシャマルさんが言った方が命令無視に気づくでしょう」

 超長距離砲で魔導師隊の援護射撃をしながらシャマルさんに言う。
 魔法機械兵器の数は多い。
 少しずつ確実に減らしていかなければならないが、都市結界が保つかどうか。

 重要拠点を守るのとは違い、都市全体を狙った大規模爆撃をする中解同のテロから街を守りきるのは難しい。
 リインフォースさんの援護で緻密な広域魔法を使えるはやてさんが打開の鍵なのだが、

「はやてちゃんこっちに引き返すそうです。進んで合流しましょう」

「了解です」

 二人の間でどのような会話がなされたのかは知らないが、頭を冷ましてくれたようだ。
 このほんわかお姉さんオーラが効いたのだろうか。
 実際のところはお姉さんどころか数百歳のお婆さんなのだが。

 私とシャマルさんははやてさんの魔力反応のある方向へと向かって飛ぶ。
 当然その進路にも空を埋め付くさんとばかりの魔法機械が待ち受けている。

 R-GRAY2のロックオンレーザーを放つ私の横で、シャマルさんが魔力の糸で繋がれた菱形の錘を構えた。
 彼女のデバイスだ。

「戦うんですか?」

 デバイスを構えるシャマルさんにそう声をかけた。

「この程度の相手なら直接の攻撃魔法を使わなくても応用でどうとでもなります」

 シャマルさんが右手を振るうと、錘が撃ち出され、空を飛び交う魔法機械の装甲に突き刺さった。
 錘はまるでそこには何もなかったかのように機械の後部から飛び出すと、さらに次の機体へと突き進んでいく。
 十体の小型魔法機械を連続で串刺しにすると、シャマルさんは右手を払い逆再生するかのように錘を手元まで引き戻した。

 貫かれた魔法機械は、動きを止め都市結界へと落下していった。

「今のは……」

「転移魔法の応用ですよ。障壁の隙間から入って中身をこうかりかりと。優秀なんですよこの子」

 左手の指輪型デバイスをこちらに見せながらシャマルさんが言った。

 彼女に戦闘能力がないと私に言ったのは誰だったか。
 恐ろしい。攻撃魔法が不得手なのになおも戦いに身を投じようとする魔導師はこのようなトリッキーな技巧を駆使してくる。
 彼女の場合はデバイスの精度と高い魔法操作能力を使った内部破壊だ。

 魔力障壁出力の高い大型機相手では厳しいだろうが、小型機を相手にする分には強力だ。
 精神的な疲労の激しそうな戦い方だがはやてさんと合流するまでの間なら保つだろう。
 目の前に立ちふさがる機体をなぎ払いながら前へと進む。

 後方でも武装局員の砲撃が小型機を次々と撃ち落としていた。

「しかし、こういう魔法機械テロの対応現場を見ていると、魔法の安全性って何なんだろうなーって思いますね」

 バイザーで中型機の関節部をロックオンしながらシャマルさんと私語を交わす。
 銃撃を狙う必要がない分、ロックオンは楽なものだ。

「中企戦の魔法機械は質量兵器とか使われていてグレーゾーンのような……」

「いえ、多額のお金を使って作られたであろう機械を魔導師が軽々と打ち砕いていくのを見ていると、一技術者としてなんだかなぁ、と」

 厳重に管理される戦略質量兵器と才能のある一個人が感情に任せて都市破壊魔法を撃てる魔法技術のどちらが安全でクリーンなのか、という極端な話はよく議論に上る話題だ。
 少し学べば銃と同じ威力の魔法を覚えられる先天魔導師と、武装の使用ではなく所持自体を禁じられた一般人。両者の溝は想像以上に深い。魔導師と非魔導師は違う生命体だ、などと言う人までいる。

 魔法中心の世界になってまだ二百年も経過していないのだ。抱えた矛盾を社会的に解消して行くにはまだまだ長い年月が必要となるだろう。
 それまで今の時空管理局とミッドチルダ中心の世界のあり方が存続していけるかどうかは誰にも解らないが。

 まあそれを古代ベルカの騎士であるシャマルさんに今言っても仕方がないか。
 お酒の席でぐだぐだ愚痴るべき話題だ。そういえば幹部さん達と最近飲んでいないな。

 そんな戦場に似つかわしくないことを思考の端で考えていると、登録魔力反応をシップが警告してくる。

「来ましたね」

「はやてちゃんですか」

「いえ、アインハンダーです」

 はるか上空から真っ直ぐに魔力の塊が降下。
 恐怖と絶望に包まれた街に可憐な天使が舞い降りる。青と黄色に彩られた機体。アインハンダーだ。

「シャマルさん、アインハンダーは現在中解同と同等の捕縛対象です。隙があれば捕らえてください」

「え、正義の味方じゃなかったんですか」

 アインハンダー側への情報の漏洩を危惧して、アインハンダーが戦闘機人であるという情報は地上本部内でも広められていない。
 捕縛の場合はAAランク以上の魔導師が当たること。私は空戦AAランク。捕縛の義務がある。

 アインハンダーの降下先は湾岸部。魔法機械を吐きだしている海上空母の方向だ。
 はやてさんとの合流経路でもある。

「このままいくとはやてさんとアインハンダーがばったり出くわしますね」

「ええっ! それ大丈夫なの!?」

 アインハンダーは今のところ時空管理局に敵性を持っていないはずなので問題ないはずだ。
 はやてさんに捕縛の通信を入れようとも思ったが、ここは三人そろってからの方が良いだろう。

 魔法機械兵器の群れで出来た壁を少しずつ削りながらはやてさんの元へ向かう。

 だがその途中でまたしてもシップから高出力の魔力警告が発せられた。
 未登録魔力警告。パターンは中解同の大型機のものだ。
 アインハンダーがこれに向けて降下したのか、アインハンダーの出現に中解同が出動させたのかは解らないが、魔力値推定AAAの機体だ。まだはやてさんが単独で相手にするには危険だ。

 小型機の群れと魔力弾の雨のせいで視界には収められない。
 魔力反応を頼りに進もうと目の前の敵機をひたすらに撃ち落とし続ける。

 空を行く私たちの元へとあらゆる方向から敵機が向かってくる。
 急な増援だ。

 全方位から撃ち出される魔力弾を回避、回避、回避、そして被弾。
 私は中解同の重要標的の一つにされている。はやてさんの元へと向かおうと撃ち落としているうちに多くの魔法機械に狙われてしまったようだ。
 このまま無理に突破してもはやてさんの元へ敵の群れを率いていくだけになってしまう。

 魔力残滓をかき集め、R-GRAY2からビックバイパーへと一瞬で換装。
 オプションを生み出し全方位への火力を上げる。


DOUBLEダブル


 機銃とオプションのショットを直角の二方向射撃へと切り替える。
 敵機の多さに対応するためにオプションとショット拡張で撃てる魔力弾の数を増やすのだ。
 魔力の大きさと才能が戦場を支配するこの時代でも、数は暴力。

 流れ弾に巻き込まないようにシャマルさんの位置をカメラアイの一つを使って固定する。
 彼女もデバイスを振り続けており、少しずつ疲労が蓄積していっているのが解る。


 狙われている私がここで敵を引きつけてシャマルさんをはやてさんの元へ向かわせればいいのか。
 いや、駄目だ。シャマルさん一人で向かわせるのは危険だ。

『カガリちゃん大変や! アインハンダーが!』

 はやてさんからの念話が届く。
 情報が断片的すぎて何が起きているのかは解らないが、良くない事態になっているようだ。

 だがこちらも容易には突破できる状況ではない。
 そのときだ。

「援護に入る! あんたは大型機の方へ!」

 私たちの苦戦を察知したのか航空魔導師隊の分隊が援護に駆けつけてきてくれた。

 魔導師さん達は一斉に捕縛魔法の糸を空間に張り巡らし魔法機械の動きを食い止めた。なんて頼もしい。

「ありがとうございます! 帰ったら一杯おごります!」

「ばっきゃろう。おごるのはこっちだ! お酌させまくってやる!」

 私は彼らに一瞬だけ振り向き、フレームの貼り付いた手でサムズアップ。
 そして視線を前に戻しアフターバーナーの火を噴かして加速した。

 後ろから慌ててシャマルさんがついてくる。
 オプションを前方に並べ、穿つようにして進む道を切り開く。

 海が見えた。

 一人の魔導師が大型の装甲ヘリと魔力弾の撃ち合いをしている。
 白と黒の騎士甲冑に身を包んだはやてさんと、緑色に塗られた機体との戦い。
 アインハンダーの姿は見えない。

 魔力を探知すると、魔力出力が極端に落ちた状態で地上部に落下しているのが解る。
 カメラアイを向けると、港の一角で砕けた青い装甲と共にパイロットの女の子が倒れて動かなくなっていた。

「シャマル三等空士、アインハンダーの確保を!」

「はい!」

 シャマルさんとは所属も違い、私が命令を発しても彼女にはそれに従う義務はないのだが勢いで押す。

 速度を落とさずにはやてさんの近くまで飛ぶ。

 はやてさんは目の前に大きな魔力の鳳を生み出し、そこから針のような緑色の魔力弾を無数に放出していた。
 彼女の蒐集魔法の中でも持続性に優れた射撃魔法の一つだ。

 彼女が撃ち出す魔法で巨大機の一部が大きく破砕し、瓦礫が海へと落ちていく。
 瓦礫に混じり、血を吹き出しながら落下していく人の姿も見える。
 有人機だ。
 機体の上部からは装甲服に身を包んだ兵身を乗り出し、ライフルをはやてさんへ向けて撃ち続けていた。

 はやてさんは銃撃を正面から防盾魔法ではじき飛ばす。
 人が落下していく様子を見ても揺るぎはない。
 いや、揺るぐほどの余裕もないのか。


「はやてさん、到着しました」

「ああ、ごめんなぁ。というかめっちゃ痛いわぁ」


 今にも裏返りそうな声ではやてさんが応じた
 甲冑を削られて肩から血を流している。彼女が戦いでここまで危険にさらされたのは初めてではないだろうか。
 このままではいけない。


「私が前に出ます。後方から決定打を狙ってください」


 まずははやてさんを下がらせる。はやてさんを狙った魔力弾は私が魔力障壁で受け止めれば良い。

 多少の被弾は問題ない。ビックバイパーには強化魔力障壁フォースフィールドがあるし、シップの装甲が削れようとも中枢部と私自身あたりはんていにさえ当たらなければ落ちはしない。


LASERレーザー


 機銃をダブルモードから威力の高いリップルレーザーへと切り替える。


「カガリちゃん避けー!」

 後ろに下がったはやてさんがすでに魔法の発動の待機状態に入っていた。
 金色に光る球状の魔力が彼女の周囲に渦巻いている。

「てやぁーっ!」

 ディバインバスターに匹敵するかという砲撃が四発、大型機に向けて一斉に撃ち出された。







 二人がかりで魔力弾を撃ち続け、やがて大型機は搭乗員を乗せたまま海中へと沈んでいった。
 魔力に任せて連発したはやてさんの広域魔法に巻き込まれ付近の小型機は軒並み姿を消していた。

 救援通信も入っていないので、シャマルさんの元へと向かう。
 はやてさんは上空で魔力を回復させながら周囲の警戒を行っている。

 ひび割れ砕けたたアインハンダーの装甲。
 アインハンダーを象徴する大きなアームは半ばからへし折れていた。

 ランスター二等空尉は言っていた。デバイスは精密機械だと。
 先日の解析結果からも、アインハンダーの防御性能は低いと判明している。
 機体の一部が魔力障壁を持つ魔法機械と接触しただけで、大きな損壊を受けてしまうだろうと。

 アインハンダーは機動力だけでずっと中解同と戦ってきたのだ。

 パイロットの姿を見る。
 破けたスーツの隙間からは皮膚がえぐれ内部フレームが見えている。
 顔を隠していたヘルメットは大きく割れて、幼い表情を露出させていた。
 人と同じ赤い血が青い機体を赤く染めている。

「治療魔法をかけているけど……人と少し違うみたいだから上手くいかないわ」

「捕縛対象です。応急処置レベルでかまいません。万全になられて逃げられても困りますしね」

 アインハンダーの機体は損壊を出しつつもまだその機能を停止していない。
 アームが使い物にならなくなっている以上戦闘続行は不可能だろうが、飛行はまだ可能だろう。

「処置を終えたら本部まで転送しますね」

「シャマルさん、ちょっと静かに」

 半壊したヘルメットの奥に付けられたスピーカー。そこから小さなノイズが聞こえてきた。
 念話とは違う、一般人の使う科学的な音声通信だ。

『HYPERIONヨリ緊急指令』

 ハイペリオン?

『援護部隊ハ結界妨害ニヨリ救助ニ間ニアワナイ』

 おそらくアインハンダーの背後組織からの通信だ。
 こちらの存在に気づいているのかいないのか。

『援護射撃ノノチ単独ニテ戦闘空域ヨリ離脱セヨ』

 通信の終了と同時に、パイロットが急にまぶたを開いた。
 気を失っていなかったのか。ということは今の通信は。

「いけない、上!」

 シャマルさんが私を抱きかかえ、球状の障壁魔法を展開する。
 それと同時に周囲の地面が火柱を上げた。

 咄嗟に軌道を計算。高空からの焼夷魔力弾だ。
 アインハンダーがいつも降ってくるという距離からの援護射撃か。

 炎と煙で視界が閉ざされる。
 魔力探知でアインハンダーの姿を探すが、すでに上空に飛び立っていた。
 はやてさんの待機する場所とは逆方向だ。

「シャマルさん、捕縛魔法は!?」

「応急処置の邪魔だから簡易のものしかかけていなくて……一瞬でバインドブレイクされたみたい」

 機人の生命力を甘く見ていた。それに相手はデバイスを身につけた高魔力を持つ魔導師なのだ。
 無力化しないと捕縛魔法は突破されてしまう。


 今回の中解同の主力兵器は私とはやてさんが破壊した。
 アインハンダーはもう戻ってくることはないだろう。

 捕獲は失敗。次からは警戒されてもうこのような機会も少ないだろう。

 追うか。いや、援護射撃を行う戦力が他にいるのだ。追いついても転送で逃げられてしまうだろう。

『名前』

「え?」

 気持ちを切り替えて中解同の制圧へと急いで戻ろうとしたところで、突如地面から声が届いた。

『この前あなたは私に名前を聞いた』

 そこに落ちていたのはアインハンダーのかぶっていたヘルメット。
 その内部スピーカーから声が響いているのだ。
 この声には聞き覚えがある。アインハンダーの女の子がヘルメットごしに発していた声だ。

『コードネームの開示は許可されていない。だけど……』

 響いてくる声は一拍の呼吸を置いた。
 身体が頑丈で治療が施されたと言っても大怪我をしているのには変わりはないはずだ。

『書類にも残らない私の愛称、これくらいなら許可が無くても言っていいと思う』

 何を思って私にこの言葉を伝えているのだろうか。

『ギンガ。私をそう呼ぶ人もいる』

 その声からは思いを読み取ることは出来なかった。



――――――
あとがき:旧ダライアス星の科学文明レベルってどれくらいなんだろう回。
まあ高い技術力イコール少年漫画的な戦闘能力などと安易に繋がるわけではありませんが。
アインハンダーの苦戦のお話のはずがはやての苦戦のお話に。あれ?


用語解説
■このようなトリッキーな技巧を駆使してくる
キャラを強く見せたくない。でも活躍させたいという場合に使われる戦闘キャラの表現方法。
でも某奇妙の冒険のようなオンリーワンの能力ものとは違い、学問として確立された魔法技術のような汎用性の高い能力でやると、「他の能力使いもそれ思いつくじゃん」という突っ込みが待っています。
舞の海への道は厳しい。


SHOOTING TIPS
■ほな、行きます!
エスプレイドの主人公の一人、美作いろりの出撃シーン台詞。いろりが十一歳だということを知る人は意外と少ない。
関西弁とSTGという関係だけで引っ張ってきただけで、別にはやては二重人格だったりでこっぱちだったりはしません。
ガードバリア発射のセリフって何て言っているんでしょうね。

■恐怖と絶望に包まれた街に可憐な天使が舞い降りる。
XBOX360版デススマイルズは2009年春発売予定です。

■魔力に任せて連発したはやてさんの広域魔法
辛いと感じた状況やボス戦ではボムを惜しまないのがSTG初心者の正しい攻略法です。
気合い避けはボムが全て尽きてから。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第八話-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/10/22 06:20

「はやてさん、今度友人と遊びに行くのですけど一緒に来ませんか」

「なんやカガリちゃんてあたし以外の友達こっちにいたんか……いやいやそんな怖い顔せんでも」

「はあ、誘った私が馬鹿でした」

「なんやあちょっとした冗談やんかー」

「ちなみに友人というのはミッドに停泊中のエース艦のお偉いさんでして」

「またこの前の教会みたいなコネがどうこうっちゅう話か。もっと子供をいたわって欲しいわー」

「ヤマト・ハーヴェイという人なんですけどね」

「すいませんでしたぁーっ!」

 本場の土下座というものを見せつけられた。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第八話『パイロットキッズ』
原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 結局はやてさんは付いてきた。

「ヤマトさんかぁー。そういや前の一件でこっち来てるんやったなー」

 何でも、艦丸ごとミッドチルダで少し長い休暇に入っているらしい。
 闇の書事件以来エース艦という名目で引っ張りだこだったのだろう。

 ヤマトさんからはプラント制圧の翌日から連絡が入っていたが、私の方が報告書だのアインハンダーの解析だのテロだので忙しくて会えなかったのだ。

「ちゃんと立っているとこ見せたらどういう反応みせるかなー。よく頑張ったね、なんて頭撫でて貰ったりしてなあなあなあ」

 身体をくねくねさせながら私の肩を叩くはやてさん。
 酔っぱらってもいないのにこういうことをする人が現実にいるとは思わなかった。

 ちなみにはやてさんはまだ脚に補助器をつけたままだ。
 筋力の問題よりも正確に歩くための原始自転車の補助輪のようなものか。

「ああん、もうなんて挨拶するんがええんかなー。あ、カガリちゃんあたし格好変や無いよね? もうメロメロレベル?」

「はやてさん。何だかすごいうざいですよ」

「なんやぁーあたしとヤマトさんとの仲に嫉妬かぁー?」

「それはありえません。ご安心を」

 人間は私の恋愛対象にならない。
 いや、そもそも初恋だとかそういうのもまだなのだが。
 どうせ数百年生きるわけだから、がっつくつもりもない。

「海の戦艦がクラナガンに停泊しているせいかずっと職場がピリピリしてますからね。友達誘って気を晴らしたいんです」

「陸とか海とかあたしはまだよう解らんけどなー。まあ理由はどうあれヤマトさん誘ったのはグッジョブや」

 戦艦というものは今の時代、魔法機械の中でも最も強大な兵器の一つだ。
 地上から大気圏外、星間、果ては次元世界まであらゆる場所を自由に行き来し、高出力の駆動炉を使って大規模儀式魔法を行使する。
 さらに本局に眠る主砲を換装すれば質量兵器戦略爆弾顔負けの魔導砲を使用できる。
 そんな超兵器が地上本部と目と鼻の先の距離にずっと停泊しているのだ。本局の挑発行為と感じても不思議ではない。

 しかも、停泊している艦はアースラだ。

 ただのエリート見習いであるヤマトさんはどうでもいいが、根っからの本局派のハラオウン提督がミッドチルダに留まっているというのが少し不穏である。
 レジアスおじさんが八神一家を地上本部に引き入れたときはハラオウン派を徹底的に叩きのめしたと言うし。

 そんな経緯もあって、平日隊にいても、休みの日に局の工房にいても、どこか空気が淀んでいるのだ。

「ちなみに遊びに行くってどこに向かうん?」

「R's MUSEUM」

「またかいっ!」

「いや、ヤマトさんはダライアスの発掘隊に参加したりした人だから悪くないチョイスだとは思うんですが」

 はやてさんはヤマトさんがいるというだけで付いてくると即答したので、行く場所をどうこういう権利はないのだ。

 展覧会は現在ミッドチルダの南部地方都市で開催されている。
 南部地方はヴィータさんの配属地域だが、今日は呼んでいないらしい。呼ばない理由はまあ深く追求するまでもないだろう。

 本来なら空港を使わなければ行けない距離だが、管理局員と嘱託である私たちは局の転送施設を予約して使うことが出来る。
 ヤマトさんとはその転送施設で待ち合わせだ。

 浮かれたままのはやてさんを連れて管理局の敷地へと入る。

 世間共通の休日と言えど、待機員の常駐が必要な管理局とあってか制服姿の局員さんが多く見られる。
 私服姿の私たちを見るたび、局員さんたちが手を振ってきたり挨拶をしてきてくれたりする。
 私の顔が知られていなければ親に会いに来た子供などに勘違いされているところだ。

 敷地を奥に進み転送施設前の広間へと出る。
 道の脇に備え付けられた休憩用のベンチ、その真ん中にヤマトさんが座っていた。
 携帯端末を両手で持って一心不乱に指を動かしている。またゲームでもやっているのだろう。

「おはようございますヤマトさん。また地球のギャルゲーですか」

「いや白昼堂々外でそんなのしないよ!? ああ、カガリちゃんおはよう」

 半分冗談の挨拶を交わす。そういうゲームをやらない事自体は否定していないようだが、これでも付き合いが長いのですごい今更だ。

「やー久しぶりだね。シグナムに斬り殺されかけたんだってね。大丈夫だった」

 言いながら私の頭に手を伸ばしてくる。

「見ての通りぴんぴんしてますよ」

 反射的に髪に触れる前に叩き落とす。

「こっちはあれからいろんなところに引っ張りだこでね。闇の書事件はまた日本に行けて楽しかったんだけど」

 今度は逆の手を伸ばしてくる。

「相変わらず日本好きですね。ハラオウン提督とお茶について和解は出来たんですか」

 振り払う。

「いや、やっぱりだめだよ。和の心は日本人じゃないと理解できないね」

 フェイントをかけて手を中空で止めてくる。

「髪の毛灰色のミッドチルダ人が何を言ってるんですか。私から見たらどっちもどっちです」

 手首を掴んで動きを止める。

「仲ええなあ二人とも……」

 そんな私とヤマトさんの攻防の横で、はやてさんが何やらすねていた。
 そこにヤマトさんが今更はやてさんの存在に気づいたとばかり声をあげた。

「あ、はやてちゃん来てたんだ」

「来てたんだ、やないわー!」

 叫びと共にはやてさんの見事な上段回し蹴りがベンチに座るヤマトさんの頭に突き刺さった。

 心地よい殴打の音が響き、ヤマトさんがベンチと共に後ろに倒れていく。無駄に補助器の性能が高い。
 ちゃんと立っているところを見せるどころか、華麗な蹴り脚を見せてどうするのだろうかはやてさんは。

「や、ごめん。はやてちゃんが来るなんて聞いていなかったからさ」

 ヤマトさんは逆再生するかのようにベンチごと起き上がり、蹴られたことには何も文句を言わずに謝っていた。
 さすがヤマトさん。女性からの理不尽な暴力を振るわれ慣れている。

「聞いていなくても視界に入っていたやん! 乙女心ブロークンやわ」

 先ほどと全く同じ軌道ではやてさんの蹴りが飛び、全く同じ挙動でヤマトさんが転倒した。
 はたから見ているとコンビ芸人の舞台を見ているようだ。

「本当にごめんね」

 ヤマトさんは何事もなかったように再び起き上がり、はやてさんの頭を撫でていた。

「あ、ううん、まあーそこまで言うなら許してあげるわ」

 口ではそんな強気なことを言いつつも、顔をにやけさせて身体をくねらせているはやてさん。
 もう駄目だこの人達。












 終わった世界の古い戦いの歴史。
 古き、良き時代……、歴史を駆け抜けた男たちがいた。

 以前クラナガンでこの展覧会を訪れたときよりもずいぶんと人の入りが増えているようだった。
 また受付で会ったユーノくん曰く、口コミで広まっているのだとか。
 異形の生命との戦いが記録映像で見られるという、普通の歴史博覧会にはない臨場感が評判なんだとか。

「前来たときは場内音楽は無かったなー。これもカガリちゃんとこの音楽なん?」

 ミュージアム内に流れるBGMをさしてはやてさんが訊ねてきた。

「そうですね。私たちの一族で昔から聞かれていたRezというジャンルの曲です」

 独特の軽快なビート音が心地よい。
 展示内容ごとに曲目も変わっていき、よりバイド戦の世界へのめり込めるようになっていた。

 はやてさんは二度目の来場だというのに、初めて来たときのようにはしゃいでいた。
 今度は自分で展示パネルの文字を読んでいる。すでに文字をマスターしているのか。早いものだ。

 ヤマトさんは、そんなはやてさんを子供を見守る大人のような目で眺めていた。
 彼は時々年齢不相応の大人びた雰囲気を帯びることがある。付き合いは長いが未だに把握しきれない部分も多い。

 一人パネルの文字の前でじっと考え込むはやてさんの後ろで、私はヤマトさんに今日聞いておきたかったことを訊ねた。

「アリシア・クローンさんは確かアースラで何人か教育を受けているのですよね? どんな状況ですか?」

「ああ、六人引き受けているけど……すごいね。もうみんな別々の個性を持ち始めてる」

 保護されたクローン達への初期記憶や知識は、全員共通のものが植え付けられたはずだ。
 それが個性を別個に持つというのは興味深い話だ。

 プレシア・テスタロッサが死んだ子をクローン再生しようとして、結局最後は時間移動に頼ろうとしたのも納得の結果だ。
 記憶を受け継いだところで多感な幼児時代ならばすぐに違う成長をしてしまう。

「安定性とかは大丈夫ですか? 乱造クローンのはずなので、健康面とか」

「そのあたりは問題ないかな。医療班はいろいろ本局とやっているみたいだから詳しくは知らないけれど」

「戦艦の中で教育プログラムを受けさせるというのはちょっと変わってますよね。フェイトさんが嘱託魔導師の講習を受けるなら解るのですが」


 地上本部でもアリシア・クローンの受け入れは行われている。
 いずれも高い魔法資質を持つ人造魔導師だ。同じく高い魔法資質を持ち暴走の危険性のある孤児達の入る養育施設に預けられているようだ。

 その性質上、カウンセラーや魔法指導者なども常勤しており、養育が終わった後の将来は職業選択の自由もある。
 まあその多くが時空管理局にそのまま勤めるようになるのだが。クローンともあれば世間での風当たりも強く、局に入らざるを得ないだろう。


「それとリンディ艦長があの子達に名前をつけてあげようとしたら、お母さんに付けて欲しいって言い出してね。フェイトちゃんは懐いてくれたのにって艦長がすねてすねて」

「名前、ですか。それは良い情報を聞きました」

「良い情報?」

「いえ、こっちの話です。っと」

 展示を読み終わったはやてさんがまたこちらをじっと見ていた。
 細かい話は後で通信ででも聞くことにしよう。

「そうだはやてちゃん。ミッドチルダに住んで働いているんだって?」

 またはやてさんの機嫌が悪くなる前にヤマトさんは当たり障りのない話題を振った。

「ええ。学校に通わせてもらって午後は局でお仕事みたいな感じやね」

 はやてさんはヤマトさんに特に敬語を使って話さない。
 闇の書事件の時に仲が良くなったのだろう。
 会っていた期間はそんなに長くはないのだろうがそこはあれだ。ヤマトさんだし。

「リンディ艦長に全部任せてくれれば日本でのんびり暮らせたのにね」

「それは……」

 はやてさんはヤマトさんの言葉に返答に詰まっていた。
 オーリス姉さんが言うには、はやてさんの処分にはハラオウン派も介入しようとしていたらしい。
 私自身、はやてさん達は本局に持って行かれるものとばかり思っていた。

 だが、その政治的事情を今のはやてさんの前で直接言うのはいただけない。

「レジアス中将が裁判に手を出してきたんだって? まるで子供を道具扱いじゃないか。何を考えて……」

「ヤマトさん」

 虚空に向かって説教を始めようとするヤマトさんの言葉に途中で割り込む。
 このまま言うに任せていたら、彼の説教癖では何を言い出すか解らない。

「これははやてさんが選んだ道です。将来の希望もあります。それ以上の発言ははやてさんの思いをおとしめるだけです」

 何も知らないくせに、という言葉はぐっと飲み込んでヤマトさんをにらみつける。
 確かに彼女が陸で働いているのは、私が誘いレジアスおじさんが力を振るった結果だ。

 しかし、はやてさんはこの待遇に納得し、魔導師の道を歩むことで夜天の主としての未来を見据えている。
 それを海の一方的な独善で汚して欲しくなかった。

「う、ご、ごめんなさい」

 にらみ続ける私にヤマトさんがひるむ。純粋な感情の押しつけにヤマトさんは弱い。
 少しは人慣れしたようだが、強気に出られるとすぐうろたえるところは変わっていないようだった。
 どこかちぐはぐな人だ。

「それとレジアスおじさんは中将じゃなくて少将です」

「お、おじさん!?」

 どうせ海にいて何も考えずにレジアスおじさんへの批判に同調していたのだろう。
 ミッドチルダ人としての自覚が薄い人だからまあ仕方がないけれど。

「陸も陸なりに色々あるんです。解りましたかヤマトちゃん」

 いつものお返しとばかりにヤマトさんの頭を背伸びして撫でてあげる。

「は、はい」

 学生時代先生に叱られたときのように項垂れるヤマトさん。
 はやてさんはそんな私たちの様子を見て笑っていた。

 しまった、今度は私がコンビ芸人になってしまっている。
 しかも今度は人通りの多い展示会場の中。人の目が痛い。

 ヤマトさんの頭から手を離して順路を前へと進む。顔が赤くなっていないか心配だ。

 そのまま雰囲気も悪くなることなく、三人で展示を見て回った。資料や模型に混じって映像もところどころに配置されている。
 その中の一つ、バイドの巣を叩いて帰還した機体がバイドに侵食されてしまっており、かつての仲間達に敵として狙われるところなど何とも言えない気持ちになる。



「そうだ、なのはちゃんとフェイトちゃんのことなんだけどさ」

 展示も終わりに近づいたときのこと。
 思わぬ友達の話題に、私とはやてさんは二人同時にヤマトさんに振り向いた。

「二人がどうかしましたか?」

「フェイトちゃんは鳴海の小学校に転入して、なのはちゃんとフェイトちゃんの二人は管理局に入局したよ」

「……は?」

 何を言われたのか理解が出来なかった。
 いやまて、二つの全く別の話を同時に言われたのではないか?

「えーと、まず、フェイトさんが鳴海の学校に転入」

「うん」

「不干渉のはずの管理外世界の学校に管理世界の魔導師が入学したのですね」

「う、うん」

「そしてその管理外世界の学校に通っているはずの二人が管理局で働くのですね」

「そうだね」

「……冗談にしてもちょっと吹っ飛びすぎですよね」

 うん、冗談にしか聞こえない話だ。

「あー、日本にも管理局の支部あったんかー。知らんかったわ」

「ほらヤマトさん! 適当なこと言うからはやてさんが真に受けちゃったじゃないですか!」

「嘘じゃない! 本当だよ本当! 知ってるだろ第四陸士訓練校。留学って名目でそこで短期訓練したあと、海鳴の学校に通いながら転送使って局勤務するんだ」

「転送って……」

「リンディ艦長の計らいで海鳴に転送施設を作るんだ。あっちに住みたいって言っていたしね」

 ……うん、冗談にしか聞こえない話だ

「えー、あー、もー、どこから突っ込んで良いか解らなくなって来ました」

「あたしも教えて貰った管理法とか管理外世界とかわからんようなってきた……」

 はやてさんと二人で頭を抱える。ヤマトさんは一人きょとんとたたずんでいた。
 海との溝が妙な部分で深まったような気がしたそんな休日の出来事だった。












 休日が終わり、嘱託としての仕事が変わらずにやってくる。

 今日はオーリス姉さん機動二課の統括であるオーリス姉さんとアインハンダーについての情報のまとめを行っていた。
 機人事件の新展開と言うことで主に動いているのは捜査官や執務官だが、中解同のテロに関係ある存在ということで私たち蒼穹紅蓮隊も捜査に加わっている。

 アインハンダーについて判明していることは未だ少ない。
 そのほぼ全ての情報が機体一機とパイロットによるもの。あの指令通信を聞けたのは奇跡と言っても良い。

 デバイスを拡張した青い機体。地方世界の兵器規格ガンポッドの武器を操る左腕。戦闘機人のパイロット。

 他はアフターバーナーを守るように取り付けられた右翼の装甲に書かれている、EN.03というミッドチルダ文字くらいだろうか。
 対透視魔法プロテクトがかかっており、何を聞いても許可されていないと答えるアインハンダーのただ一つの「本当の名前」を示すものだ。
 アインハンダーは時空管理局が付けた呼称。ギンガというパイロットの名前はただの愛称。通信で聞いたハイペリオンという言葉は組織名なのか個人名なのか地名なのかも解らない。

 アインハンダーが現場に残したヘルメットや装甲の欠片は全て管理局が回収した。
 ヘルメットには血が付着しており、オーリス姉さんが持ってきた資料によるとやはり二年前の機人事件の資料とデータが一致したらしい。
 これから捜査は本格化するであろう。

 オーリス姉さんの資料と私の出した機械解析資料を並べて情報を整理していく。

「アインハンダーの通信、念話ではなく非魔法的な音声通信を行っていました。音声って今回みたいに他人に拾われる危険があるのに何故でしょうか」

「いや、逆だ。最新の魔法解析を使えば念話は傍受が簡単なんだよ。管理局やミッドチルダの組織では高度な純科学通信を使われると逆に傍受も逆探知も出来ない」

 なるほど、確かに未熟な術者の念話など簡単に割り込める。
 覚えたての念話で授業中私語をしていたら先生の喝が入るなどというのは、魔法学校時代によく笑い話に上がったものだ。

「科学的な通信でもヘルメットを残していったから通信方法は割り出せるのだろうが……。逆探知はリアルタイムで無いと行えないから現場に純科学世界からの協力部隊を向かわせるというのが必要だな」

「私シップに捜査官ドラマな逆探知機能なんて付けてませんよ」

「盗撮機能があるのに使えないやつだ」

「解析機能は盗撮機能じゃありません!」

 確かにあの解析機能を使えばスリーサイズから偽乳証拠まで全て赤裸々に暴くことができるけれど。
 質量兵器と同じで正式な許可あっての代物だ。

「でも魔法使った通信していないんですよね。魔法を使わないと世界を超えられないわけですから、範囲はミッドチルダ内に絞れる?」

「魔法中継器経由だったらどうしようもない。アインハンダーが出動しているであろうミッドチルダ世界近辺の拠点は確実にあるだろうが。テロ発生から出現までのラグはそんなに遠い次元世界じゃない」

「空から降ってくるわけですから、案外開発衛星のどこかに拠点があるのかもしれませんね」

 ミッドチルダの本星の周囲には、多くの天体衛星が公転している。
 これらの月は特殊な魔力を帯びており、豊富な魔力素と相まってミッドチルダの魔法文明の発展に大きく貢献したと言われている。 月の魔力の謎を解明するためにミッドチルダの企業は近年宇宙開発に乗り気だ。ダライアスのテラフォーミングライセンスは売れるだろうか。

「これだけ何度も現れているというのにどこから来ているかも解らないとはな。便利な介入者扱いしていたのが裏目に出たか」

「テロ対策に忙しいからってちょっと無頓着すぎでしたよね」

 もはや打ち合わせでも会議でも何でもなく雑談になってきている。
 アインハンダーそのものへの解析は進んだが、背後の組織を絞り込むのは捜査官達の成果を待つしかない。
 中解同に真っ向から敵対するのはどこか。このレベルのデバイス開発を出来るのはどこか。戦闘機人事件に関わり合いのある組織はどこか。

「いつの時代も事件は足で解決するもの、か。カガリ明日は頼んだ」

「そうですね。望み薄ですけど行ってきますよ」












 翌日。ミッドチルダの時空管理局の保養施設である人物と面会していた。
 世の中ではジュエルシード事件、PT事件などと言われており個人的にはストーンライク事件などと呼んでいる辺境世界でおきた事件の真犯人であり被害者である、プレシア・テスタロッサ婦人との面会だ。

 あの事件の直後には治療に長い時間がかかるなどと言われていたが、会ってみると普通に受け答えができるほどまで回復していた。
 自己紹介をすると「あのニュースでやっていた魔動少女さんね」と喜ばれたり、事件の解決の際にフェイトさんと友達になったことを話すと「フェイトとはビデオレターで文通しているの」などと感情もしっかり戻っていた。
 そして、フェイトさんをアリシアとは違う、自分が作り出した娘であると受け入れているようだ。

「アリシアが逝ったときにきっと私も壊れたのでしょうね。そしてあの赤いロストロギアに粉々にされた。今は……何なのかしらね。自分一人の時間が戻って周りが変わったままの気がするわ」

 そう言うテスタロッサさんはもう五十を越える年齢だろうに、ミッドチルダ人の二十半ばと言えるほどに若々しい。
 彼女は時の庭園で石のような物体の魔力を一身に受けていた。生命進化の力の副作用だろう。もしかすると不老不死にでもなってしまっているのかもしれない。

「私の時間は戻ったけれど、アリシアの時間は戻らない。死んだ人は蘇らない。そんな当然のことを何で理解できなかったのでしょうね。結局アリシアの身体をいじくり回して、死を冒涜していただけなのに」

 私は本当に大切な人の死というものを目の当たりにしたことがない。
 テスタロッサさんの言葉には何と返すのが正しいのか解らない。

「テスタロッサさん」

「プレシアでいいわ。言いにくいでしょう?」

 優しい顔でにっこりと微笑んでくる。かつて憎悪に表情を染めてヤマトさんと戦っていたときとは別人だ。
 フェイトさんの記憶にあった優しいお母さん。きっとこれが本当の彼女なのだろう。

「はい、プレシアさん。アリシアさんは、その、お墓に入ったのでしょうか」

「ええ、アルトセイム地方に、あの子が好きだった別荘地があるの。そこにお墓を建ててもらったわ」

「よろしければ、その、時の庭園で保護されたクローンの子達を連れてお墓参りに行きたいのですが」

 地上本部に保護されたクローン達からの要望だ。
 死と宗教を知った子供達は死者を敬う文化を知り、自分たちのオリジナルの墓へ行きたがっているという。

「あら……そうしてくれると嬉しいわ。アリシアも妹達が来てくれて喜ぶでしょう」

 妹達。それはつまり、プレシアさんがあのクローンの子達を自分の子供として認めているということだ。
 だとすると、こちらとしても話がしやすい。

「その子達とはまた別の子達なんですけれど、プレシアさんがお母さんだと知って、フェイトさんみたいにお母さんに名前を付けて欲しいと言っていまして」

「あら、そんなことを。ふふ、全員の名前を考えるだけで大仕事ね。今思うとフェイトって名前もちょっと安直すぎるわね」

「今更改名ってなっても、もうフェイトさんで定着しちゃっているので困惑しそうですけどね」

 ヤマトさんとオーリス姉さんから仕入れたフェイトさんとクローンの子達の情報を話していく。
 実は一作日ヤマトさんと遊びに出かけたのも、ここで話す情報を仕入れるためだったりする。

 プレシアさんと話して感じるのは、落ち着いた物腰と若い容姿のちぐはぐさだ。
 まるでダライアスのお偉いさんを相手にしているようだ。あの人達も若い見た目で八十歳だの九十歳だの老成している。

 ともあれ、今日はこのような世間話だけをしにきたのではない。

「ええとですね、実はクローンさんたち以外にももう一つお話がありまして。お仕事の話です」

「あら……確かに今日は平日ね。管理局のお使いかしら」

「そんなところです。今追っている事件で参考までにお話を聞きたくて」

 ここからが本題だ。そも、この話を聞くために今回の面会が許されたようなものだ。

 私の雰囲気につられて真剣な面持ちになったプレシアさんに、話を切り出す。

「今、私達は違法戦闘機人を追っていまして。どうもジェイル・スカリエッティが関わっているようなので人工魔導師計画でご一緒した関係で何か聞けないかと」

「あら、スカリエッティに関してはこの前全部知っていること捜査官の人に話したわよ」

「ええ、ですので今起きている事件の資料から忘れていたことをが無いかの連想ゲームみたいになるのですけれど……」

 床の上に置いていた鞄の中から映像投射のバインダーを取り出す。
 アインハンダーについての情報がまとめてある捜査資料だ。

「最近起きている企業テロはご存じですよね」

「ええ。そこで貴女が活躍しているのも」

「……ありがとうございます。それでですね、私以外にもニュースで騒がれているアインハンダーというものがいまして」

「ええ、見たことあるわね」

「そのアインハンダーのパイロットなんですけれど……どうもジェイル・スカリエッティと繋がりのある戦闘機人のようなんです。詳しくはこちらの資料を」

 言いながらプレシアさんにバインダーを手渡す。

「気づいたことがあれば何でも言ってください」

 プレシアさんは管理局共通規格のバインダーを慣れない手つきで操作していく。

 空間に浮かび上がるカラーの資料映像。

 ときおり出る技術的な質問の他は真新しい発見を示唆する発言もなく時間が過ぎていった。

「この中にはスカリエッティに関係しそうな情報はないわ」

「そうですか……」

 落胆。初めから望み薄だったがやはり外れると気を落としてしまう。

「あら、そんなにがっかりしないで。私はスカリエッティに関する情報が無いっていっただけよ」

「……どういうことですか?」

「私の昔関わっていた仕事に関係しそうなものがいくつかあったの」

「教えてください!」

 思わず立ち上がり叫んでしまった。
 それでも長身のプレシアさんを見下ろす形にはならないのだが、それは置いておいて話を聞こう。

「私は昔エネルギー研究をしていたのだけれど、このデバイスの魔力炉でちょっと気になるところがあるの。それと、ハイペリオン……違うかもしれないけれどヒュペリオンなら心当たりがあるわ」

 唐突に光が見えた。
 機体の中枢と唯一の明確な名前。

「……私がエネルギー研究をしていたのはもう二十七年も前のことよ。全く関係無いかもしれない」

「いえ、かまいません。事件の焦点の中解同だって十三年くらい前から活動始まってますしね。時代が古くても有力情報は有力なままです」

「そう、なら話すわね。私は昔、ミッドチルダの中央技術開発局で働いていたの。そこで次元航行駆動炉の研究をしていたわ。当然魔力を使ったね」

 言いながらプレシアさんはバインダーを操作して資料を探している。
 彼女のプロフィールはジュエルシード事件のときにエイミィ執務官補佐らが調べたのを見ていたのでだいたい知っている。
 中央技術開発局は時空管理局への技術提供などもしていた組織だ。今はもう解散している。

「これね。アインハンダーの魔力炉」

 私が解析した機体内部の資料をこちらに見せてくる。

「魔力炉の設計って、自由度が高いせいか個人の癖がでやすいの。そして、これは私が二十七年前に作っていたものの癖が出ている」

「当時研究していたのは小さな魔力炉じゃなくて次元航行艦の駆動炉ですよね?」

「ええ。だから当時の駆動炉を小型化したんじゃないかって私は思うわ。何せ自分自身の癖だからそうそう見間違えないわ」

「うーん……」

 二十七年前の設計が未だに残っているものなのだろうか。

「ミッドチルダの魔法文明は発展し過ぎちゃっているの。だから十年や二十年では大きな技術革新は起きない。百年前のロストロギアデバイスが今の最新のデバイスと遜色ない、なんてこともあるでしょう?」

「ああ、言われてみれば確かにそうですね」

 最近技術部の方で流行のカートリッジシステムだって、古代ベルカ時代からあるものをただミッド式のデバイスに組み込んでいるだけだ。
 それに、研究のテーマで大型のものを小型化するというのは良くあるものだ。
 プレシアさんは敏腕の研究者だったというから、基本設計が受け継がれていたとしてもありえない話ではない。

「それとね。ヒュペリオンは、当事私が所属していた、次元航行駆動炉の開発チームの名前よ」

 バインダーの魔力炉に注釈を書き込みながらプレシアさんが言った。

「駆動炉だけじゃなくて、駆動炉を取り付ける航空機の開発も一緒にやっていたわ。私が聞いていた最終目的は、ミッドチルダを中心とした世界間航空産業の独占ね」

 ……航空機開発!
 何かが繋がりそうだ。

「小型機や戦闘機、あるいはデバイスの開発などはしていましたか?」

「戦闘機もデバイスも手は出していなかったけど……そうね、一般向けの小型艦の企画が出ていたはずだわ」

 駆動炉、小型艦、そしてミッドチルダ中心の産業。中解同と相対する組織の輪郭が見えてきたように思える。
 だが、この程度の情報ではまだ妄想の域を出ていない。必要なのは裏付けか。

「解りました。ありがとうございます」

「気になったところはこれに書き込んでおいたわ。頑張ってね、魔動少女さん」

 プレシアさんからバインダーを受け取る。ちょうど面会が終わる時間になっていた。
 プレシアさんは笑顔のまま退室する私を見送ってくれた。
 やはり一年前のあの人と同一人物とは思えなかった。












「収獲あったようだね」

 私が施設から出ると、同行してきていた捜査官さんが声をかけてきた。

 本来は二人で話を聞くはずだったのだが、捜査官さんの判断で私一人で面会することになったのだ。
 子供をダシに使うというとあれだが、未だ治療中のプレシアさんを大勢で囲むよりは私のような小さな子供がフェイトさん達の話を手土産に持っていくほうが良かったのだろう。

「忙しい中お疲れ様です。機人とテロ両方追っているんでしょう?」

「いや、機人の方は元々何年も前から追っているヤマだしね。それに……」

 コートに身を包んだ若い捜査官さんとの会話。
 だがどこかその仕草はハードボイルドな熟練の捜査官っぽい。

「あのアインハンダーの娘さん、ギンガと言ったか。血液解析によると、どうやら私の遺伝子が使われているクローン体のようでね」

 そう、捜査官さん……クイント・ナカジマ捜査官がつぶやいた。

「勝手に私の身体を使って遊んでいる馬鹿どもは、殴ってやらないと気が済まないね」



――――――
あとがき:綺麗なプレシアさん。こういう救われない人はたまに救済SSとかありますね。彼女の過去に干渉して救済するのではなく逆に最悪の状況に追い込んで諦めさせる、このSSの第一部はそんな救済SSだったのでしょうか。
ヤマトに関しては説教シーンもそうですが、女性陣からの理不尽な暴力をごく自然に受けさせるのは難しいですね。ある種の才能が必要なんでしょうか。

用語解説
■右翼の装甲に書かれている、EN.03というミッドチルダ文字だろうか
この文を読んだあなたは釈然としない何かを感じたでしょう。
しかし、疑問に思ってはいけません。これは魔法少女リリカルなのはの二次創作SSです。


SHOOTING TIPS
■Rez
Rezは音ゲーとTPSを組み合わせたセガのSTGです。BGMと敵を撃ち落とす効果音が合致して独特の雰囲気が構築されます。
是非とも良質のヘッドホンを使ってプレイして欲しい一品です。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第九話Aパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/10/24 19:27

「対企業テロ戦における

もっとも有効な攻撃、

それは魔法機械をもって、

魔法機械を制することである」

-時空管理局地上本部レジアス・ゲイズ少将の緊急陳述会演説より-












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第九話『超過激進化型魔法戦闘伝説!!』前編
原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 五月のある日、地上本部の自席で魔動機械のメンテナンス器具の購入申請を書いている最中のことだった。

「カガリ、ゲイズ少将から呼び出しだ」

「あ、はあい」

 先ほどまでどこかと通信をしていたオーリス姉さんに声をかけられた。

 レジアスおじさんからの呼び出しか。
 こんな時間に茶飲みや酒飲みに付き合えということもないだろうから、ダライアスの何かに関しての話だろうか。

 書きかけの書類を保存し、端末をロック。早歩きで部屋を出る。

 レジアスおじさんは前線に出ない文官で、その代わりにさまざまな資格と役職を負っている。
 地上本部長ではないのだが実質的な最高司令官として陸に君臨しており、部屋も建物の高い場所にある。
 魔導師絶対主義のこの時空管理局の中で、魔法資質を持たずにここまでのし上がったというのは凄い話である。

 それだけの成果を残していると言うことだが、魔法に頼らず偉くなったという人が珍しいということこそ危ういのかもしれない。
 組織は戦闘能力ではまわらない。補助魔法で人の管理は出来ない。検索魔法で作戦立案は出来ない。
 皮肉なものだ。地上本部は本局に優秀な魔導師を奪われたらこそ、ゲイズ親子などの優秀な文官が育つ下地が出来たのだ。

 現場レベルでもそうだ。
 魔法が使えない局員は、本局などに魔導師としてスカウトされてエリートになるなどという半端な幻想は持っておらず、魔法に頼らない様々な技能を伸ばしている。
 本局志向の魔導師と生粋の地上部隊の局員とでは温度差が激しかったりするのだが、そういう本局ばかり見ている魔導師はむしろ陸から追いやられるように本局へと推薦される。
 単に本局に魔導師を奪われているだけではなく現場の摩擦を無くすために本局に魔導師を放出しているというのは、何というかまあ難しい現状である。

 私は局員ではないのでそのあたりで頭を悩ませる必要はないのだが、逆に部外者とあって何かにつけて色々な人に愚痴を聞かされる。
 これから会うレジアスおじさんも話のついでに海がどうのこうのと言ってくるのだろうか。言ってくるだろうな。

 昇降機に乗り上の階へ。直接行くのは久しぶりの気がするが広い本部内でも道を忘れていることはない。

 廊下の奥の一室、ノックをして入室する。

「失礼します」

 部屋に入ってまず目に入ったのは本とバインダーに埋め尽くされた壁一面の本棚。いつ見ても壮観だ。

 そして、部屋の中央。備え付けのソファーに二人の人影。来客とかぶってしまったのだろうか。
 一人は貫禄のある体型にひげ面の熊のようなおじさん。レジアス・ゲイズ少将。
 もう一人は、いかつい顔の長身長髪の男性。この人は……。

「主任ちゃんじゃないですか」

 ダライアス自治区多次元交流プロジェクトミッドチルダ方面主任。
 私の一族のお偉いさんの一人だ。

「いかつい顔とひげもじゃ顔の暑苦しい二人が密室で何やっているんですか?」

「久しぶりだというのにいきなりだなカガリ……」

 一般人が見たら恐怖で震えるであろう表情でにらんでくるのを無視して、昔のように主任ちゃんの膝の上に飛び込む。
 会話の途中であろうが良いだろう。

「いてっ。うお、重たくなったなぁ」

「最近は自治区に帰っても出ずっぱりでしたからねぇ。こうするのも久しぶりです。というか髪の毛うっとうしいので切ってください」

 主任ちゃんの膝の上に座り、正面のテーブルのわきに置かれたチョコレート菓子に手を付ける。
 ここにお菓子が置かれているのは私が来たときに食べられるようオーリス姉さんに要望をあげたからだ。おじさんが甘いものに目がないというわけではない。

 こうして主任ちゃんの膝の上でお菓子を食べるのも何年かぶり。まだまだ若いというのに昔を思い出してしまう。

「大きくなったら私のお嫁さんになるとか言っていたお前さんがまあ成長したもんだ」

「管理局のど真ん中で堂々と捏造発言をするとは図太くなったものですね。しょっ引きますよ」

 もちろんそんなことはこれっぽっちも言っていない。
 私の夢は今も昔も戦闘機技師とテストパイロットだ。

「で、レジアスおじさん。なんでこの駄目97オタクが地上本部の重鎮の部屋に来ているんでしょう」

「あ、ああ……」

 私と主任ちゃんの様子をぽかんとした顔で見ていたレジアスおじさんが私の言葉に正気に返り、咳払い一つに説明を始めた。

「前にお前が大怪我をしたときがあっただろう。そのときから技術協力で色々やりとりをしているんだ」

「あら、それは知りませんでした」

「お前は基本的に純粋戦力として見ているからな。この主任殿に今まで渡りをつけていてもらったんだ。今回は話が本決まりになって現場に関わってきそうだから一応知らせて思ってな」

「本決まり、ですか?」

 もったいぶった話し方だ。
 医療提携でパイプが太くなりダライアスの技術力に目を付けた、という話だろうか。

「ああ、ダライアスの技術力には注目している。搭載魔力炉を使った非魔導師用でも使える兵器。中解同の劣悪な田舎兵器とは一線を画している」

 そのように言うレジアスおじさんに、主任ちゃんがフォローするように続いた。

「私は安全確保に魔法障壁使える魔導師を使うのが良いかと。運用方法が質量兵器みたいだなんて言われたら我々も困りますし」

「アインハンダーのような、ですか」

 と割り込んでおく。主任ちゃんは何のことだと首をかしげるが、レジアスおじさんは、むう、と唸った。
 戦闘機人の乗るデバイスと同じだと言われては反論もしにくいか。

「まあでも戦力の底上げには確かに良さそうですよね。人材の育成費とどっちがお得かという話もありますが」

「海に奪われる高ランクを少数育てるよりは全体の戦力増強だ。陸は広い。それに無理な訓練を課して兵を疲弊させるよりもマニュアル化した高度な武具を渡す方が、多少金はかかっても現場への負担は少なくてすむ」

 なるほど、確かにダライアスの小型化された魔動機械ならば外部魔力炉を付けても、デバイスとさほど大きさが変わるわけでもなく運用に難も少ないだろう。
 ダライアスの機械が全てが全て体内のクリーンフォースの魔力で動かすものだというわけでもない。

「生産施設とかは足りるんですか主任ちゃん?」

「いきなり大量に納入するわけじゃないから今の工場で年内はなんとかな。カガリが頑張ったおかげで試験運用期間は短いんだが。まあどちらにしろそろそろ手を広げるつもりだったからなんとかな。クラナガンの郊外に良い物件融通して貰えそうだし」

「え、郊外って……」

「前に潰した中解同のプラントだ」

 横からレジアスおじさんが注釈を入れてくる。
 プラントと言えば、先月アインハンダーと一緒に地下の駆動炉を封印したあのプラントだ。

「あの土地は書類上で架空の企業の所持になっていたのでな。我々が押収した。内部を全て調べ終わったら使える部分は全て再利用する。来年にはとりかかれるだろう」

「それは何とまあ捜査も終わっていないのに豪胆な計画で……」

 テロ組織の工場を奪って自分たちの戦力増強に使うなど、そうそう思いつくものでもない。
 数々の改革を成し遂げてきたレジアスおじさんらしい豪快な選択だ。低予算で中解同のプラントをダライアスの工場に改造できるのかどうかはともかくとして。

 私はチョコレートを食べつつそんな二人の大人の悪巧みを聞き続けたのだった。












 BRIEFING
 Communication mode
 SIMULATE MISSION
 RANK B

 識別コードを入力せよ

 PLAYER1
 HYT

 これよりシミュレータによる仮想演習を行う。

 君の実力を最大限に発揮し、より高いランクをめざせ。

 試験では成績が優秀な者にのみ、魔導師の資格が与えられる。







 一面に広がる荒野。その上空に一人の魔導師が浮かんでいる。

 白と黒で構成されたコートに身を包み、右手に黄金の杖、左手に一冊の本を抱えていた。
 吹き付ける風の中、頭に載せられた帽子はピンで固定でもされているのか吹き飛ばされることはない。

 杖を構え、前方へと飛翔する。

 魔導師の向かう先、そこには戦車の大軍があった。

 いずれも装甲と簡易の魔力障壁に守られた魔法兵器だ。

 戦車の群れへ目がけ、魔導師が杖の先を向けた。

 漆黒の魔力光が煌めく。そして、杖の先からは闇色の光とは正反対の青白い魔力の矢が発射された。
 魔力の矢は一発では収まらず、さながら機関銃のごとく止まることなく撃ち出されていく。

 魔法兵器の一体一体がさほど強固な守りではないと見抜いての魔法使用だろう。

 最小の魔力で構成された矢が戦車の群れへと飛んでいく。

 矢は障壁を削り装甲へ突き刺さる。
 続けて届いた矢が機体の内部へと侵入し戦車は小さな爆発と共に動きを止めた。


 止まることなく矢を撃ち出しながら魔導師が前へと進む。
 緻密な魔力出力制御によって生み出された弾幕が戦車をなぎ倒していく。

 荒野の中を進むと、戦車の群れに中型の装甲戦車と空を行く戦闘機が混じるようになる。

 中型の装甲戦車は矢の雨にさらされながらも砲撃の手を休めない。
 魔法の狙いで動きを止めていた魔導師に戦車の砲弾が迫る。

 それに気づいた魔導師は咄嗟に回避体制を取る。
 砲弾がバリアジャケットをかすめる。

 展開していた魔力障壁が大きく削られた。

 装甲の強度とは釣り合いの付かない強烈な砲撃であった。

 魔導師が回避で攻撃の手を休めるうちに、戦車と戦闘機はさらに前へと進軍していた。

 魔導師を狙う攻撃が次々と繰り出される。

 大きな動きでそれを回避しながら、魔導師は矢の放出だけでは足りないと思ったか、二つの魔力スフィアを作り出す。
 杖を再び前へと構えると、魔力スフィアからも青白い光の矢が飛び出した。

 上空から地を這う戦車へと次々と矢が襲いかかった。
 戦車の群れが一掃される。
 だが、地上に目を向けている間に高速で飛来した戦闘機が眼前に迫っていた。

 自らを砲弾とした体当たりだ。

 魔導師は身をひねって戦闘機の翼の下に回り込む。
 が、高速飛行により生まれた衝撃波により、魔導師は大きく弾かれた。

 飛行魔法で慣性を殺しきれず曲線軌道を描いて吹き飛ぶ魔導師の行く先に、新たに現れた戦車と戦闘機が一斉射撃を開始した。

 魔力弾と物質化魔力砲弾が飛来する。

 魔導師は防御することでなく、さらに飛翔魔法の加速を重ねることで凶弾を逃れようとする。
 魔導師の通った軌跡に交わるように魔力弾が通過する。

 加速をもって弾雨を回避。
 だが、その動きを読み撃ち出されていた数発の魔力弾が高速で動く魔導師に衝突する。

 魔力の光が爆発を起こす。

 動きを止める魔導師。そこに戦車の砲身がまたしても向けられる。

 今にも集中砲火が開始されようとした瞬間、いつの間にか左手の本を開いていた魔導師が杖を大きく横に薙いだ。

 辺り一面を光で覆い尽くすほどの閃光が走り、魔法兵器の群れの中央が突如大爆発を起こした。

 詠唱省略された広域魔法の行使。
 精神力の消耗が激しいのか、魔導師は肩で大きく息をしていた。


 魔導師の周囲からは爆発に全て吹き飛ばされたのか、魔法兵器の姿が消えていた。
 大地には焼け跡だけが残り、機械の残骸すら残っていない。

 魔導師一人だけになった荒野。突如、どこからともなく警報が鳴り響いた。

 けたたましい警報の音に混ざり、金属同士がこすれあうような重厚な音が地から響いてくる。

 魔導師が視線を遠くに向ける。
 視線の先、巨大な岩が土煙を上げながら動いていた。

 いや、岩ではない。荒野の土に合わせた保護色に塗装された、大型の装甲戦車だ。
 その重量を支えるキャタピラが大地を削り、その進路に二本の太いわだちを残していた。


 魔導師が再び杖を構え、前進した。

 正面から魔導師と装甲戦車が対峙する。

 魔導師は大きく動きながら杖と魔力スフィアから魔力の矢を連射。

 対する戦車は前面に搭載されている魔力機関銃を魔導師へと向ける。
 戦車には中央に二本の砲身、後方にミサイルポッドに機関砲と多くの兵装が搭載されており、起動を始めたのか装甲の中から砲門を露出し始めている。

 魔力の矢が左の機関銃へと命中し、小さな爆発と共に破壊される。だが、既に銃弾は撃ち出されている。

 魔導師は飛行を続けることでそれを回避。
 さらに右の機関銃へと矢を向ける。

 機関銃が破壊されると同時、ミサイルが撃ち出され機関砲が回転を始める。

 魔導師は回避を続けながらも、矢を撃ち続ける。
 だが、装甲戦車の厚い守りを貫けない。

 魔導師の顔に焦りが浮かんだ。

 魔力スフィアを収め、足下に剣十字の魔法陣を展開する。
 大魔法の詠唱。小さな矢が通じないならば大きな一撃で一気に仕留めるつもりなのだろう。

 戦車の銃撃音が響く中、魔導師の詠唱が続く。

 魔法陣が漆黒の魔力光で強く輝き、魔導師は杖を前へと向ける。

 しかし、魔導師の眼前には複数の追尾ミサイルが迫っていた。
 
 魔導師の身体を覆う魔力障壁にミサイルが激突する。
 爆風が魔導師の全身を包んだ。





 BRIEFING
 Communication mode
 SIMULATE MISSION
 RANK B

 戦闘結果データを報告する。

 1P SCORE 不合格













「あーもー、Bランクはきっついわー」

「おつかれさまです」

 幻影魔法で作られたシミュレーションエリアから汗だくではやてさんが出てきた。
 私は用意してあったタオルを放って渡す。

 今日の午後ははやてさんの戦闘訓練の監修だ。
 今やってもらったのは空戦Bランクの魔導師試験対策用のシミュレートミッションだが、本来のはやてさんならば魔力に任せた力業で軽々と突破できてしまうものだ。

 そうならなかったのは、魔力の大きさだけに頼るような戦い方にならないよう、リミッターをつけての訓練だからだ。
 はやてさんは正規の訓練をなされた武装魔導師ではない。

 ある日突然魔導書の主として選ばれ、生まれ持った強大な魔力で魔導師となっただけの素人なのだ。

 民間の魔導師になるならば別にそれでも豊富な蒐集魔法でいくらでもやれることはあるが、ここは時空管理局。
 日々増加する犯罪に対応するために、魔導師としての様々な能力向上が求められる。

 今の段階のはやてさんならば、リミッターをしていなくとも私にすらかなわない可能性が高い。
 私は先日AA+の空戦魔導師資格を取ったが、この程度の力量の犯罪者ならば次元世界に多く存在している。

「で、カガリちゃんから見て今のはどうやった?」

「そうですね……、防御を回避に任せすぎですね」

「そっかぁ。カガリちゃんの動きを参考にしたんやけど駄目だったかぁ」

「私は回避に有利な様々な機能が備わっているから回避頼みの防御をしているんですよ。はやてさんはちゃんと防壁魔法も防盾魔法も交えていきませんと」

「攻撃と防御の同時使用がなー。マルチタスクにはまだ慣れんわ」

 マルチタスクとは、複数の行動を同時に行うという魔導師の持つ技術である。

 簡単なものでは口での会話と念話での会話を同時に行え、高度なものになってくると複数の異なる種類の魔法を同時詠唱できるようになる。
 ちなみに私は使えない。代わりに高速知覚や脳内演算、記憶検索などの体内チップを使った能力を得ているが。

 はやてさんが最後に撃ち落とされたのは、大魔法の詠唱と砲撃の把握のマルチタスクに失敗したからだろう。

「それと、最後にあんな距離で大魔法に頼ろうとしたのは失敗ですね。他にも選択肢はあったはずです」

 持参していた端末から、はやてさんの蒐集魔法一覧を出力した。
 タオルで顔を拭いているはやてさんの横に立ち、端末を見せる。

「詠唱の長い魔法はディフェンダーの援護があってこそです。はやてさんは云わば何でも出来る万能型なんですから、一人で考えずに専門の人と相談しましょう」

「じゃあカガリちゃん一緒に考えてくれるか」

「いえ、私は専門外ですから他の人に頼んでください」

「そんなあーいけずー」

 私の背中を叩きながら身をくねらせるはやてさん。
 だが、無理なものは無理だ。

「教えてくれる人材を探すのも大事です大事。幼さは高魔力ランクの傲慢さを隠せる貴重な武器ですよ? 教官候補探して積極的にアタックしていきましょう」

「あたし、ヤマトさんがええなぁ」

 今度は胸の前で手を握って身をくねらせ続ける。
 立てるようになったからってリアクションが大げさすぎだ。

「そんなこと言っている場合ですか。魔導師試験も近いんですから、気を緩めているとリミッターなしでも失格ですよ」

「そやなー。カガリちゃんと一緒にランクアップせなな」

「いえ、私は先日受けて受かりましたよAA+」

「うわっ薄情っ!」

「日程調整とか色々あるんです。ほら、訓練続きやりますよ」

 文句を言い続けるはやてさんをシミュレートエリアへと押し込める。

 彼女は訓練のたびに力量を上げていっている。
 まだ幼い駆け出しの魔導師だ。成長はまだまだ続くだろう。



――――――
あとがき:StS漫画版で何故ティアナやスバルがあっさり六課への推薦を貰えたのかの考察の巻。やっかい払いでもなければ災害担当が将来性の高い若きCランク魔導師なんて軽々と放出しませんよねー、と。
訓練を積んでいないはやてがそんなに強くないというのはStS漫画版のなのはとフェイトの訓練校でのくだりから。


SHOOTING TIPS
■識別コードを入力せよ
セイブ開発のSTG、ライデンファイターズJETよりゲーム開始のオペレート画面。ライデンファイターズJETは最新機のパイロット候補としてシミュレーター訓練を受け、成績を認められれば現実でのミッションに移行するというちょっと変わったステージ構成になっています。
訓練段階でコンティニューするような低成績者は、現実のミッションに就かせて貰えません。というか現実ミッション行ったことありません。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第九話Bパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/10/30 20:23

 新暦のミッドチルダ企業は

 創り出した産業を地方世界へ広げた


 時をめぐり、

 我々の前に現れた、敗北企業の復讐を……

 「企業テロ」と呼んでいる

-航空魔導師隊入隊マニュアル序文より抜粋-












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第九話『超過激進化型魔法戦闘伝説!!』後編
原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 地上部隊の格納庫の中、パイロットスーツに袖を通す。
 格納庫には技術部の人達が入れ替わり立ち替わり出入りをしているが、隅のこの一画は私が嘱託魔導師に就く一条件として与えてもらったもので、人の目は届かない。
 今日は管理局の任務がないので、この工房で新しい機動小型戦闘機シップの調整をしていたのだ。

 パイロットスーツは首から下を覆うように手足の先を除いた全身の素肌を隠す。
 肌に露出した魔動機械接続用のコネクタとスーツを接続する必要があるため、ダライアス製の服以外は中に着込む事が出来ない。
 先ほどまで着ていたのは局から支給して貰った作業服と安物のインナーシャツだったので、スーツの中はダライアス製の下着のみだ。

 私達一族は発汗以外の体温調節機能がいくつかあるため、スーツの中は蒸れることはない。

 それでも洗濯はしっかりやっているけれども。

 調整段階で塗装もされていない新型シップの一パーツである金属ブレードを持ち上げ、右肩のコネクタに接続した。
 シップは重力制御機構を充魔式で組み込んであるので片手で持ち上げられるほどに軽い。
 重力制御機構がないと、重さで右に倒れてしまうだろう。コネクタで接続されている限りは肉が引っ張られて引きちぎれるということは起きないが。

 胸の魔力炉を回転させ、右肩へと魔力を送り出す。
 少しずつシップに魔力を注入し、駆動させる。

 シップの側面に接続されたコードの先、計測機の空間投射モニターに実験値が表示されていく。

 起動から一分が経過。出力は安定。
 計測値は理論値とほぼ違いはないようだ。

 昔は手探り状態だったシップの開発も、最近は大体の手順が掴めてきたところだ。

 初期の作品であるビックバイパーT301は作るのに一年かかった。
 流体金属加工の感覚を掴めずに装甲形状を整えるだけでもずいぶんと時間を浪費してしまったものだ。

 区画の隅、先ほど整備点検を終えたビックバイパーを見る。

 金属の再生特性のためか装甲の表面に傷はなく、完成した四年前と変わらず新品同様の輝きを見せている。

 私の本業は魔動機械開発者であり、シップを駆るのはテストパイロットとしてだ。
 いずれあのビックバイパーも私以外の誰かが乗ることになるのだろうか。
 ならばそれまでしっかりと乗りこなしていきたいと思う。
 今作成中のこのシップも同様だ。すぐに完成させ、戦場へ連れて行ってあげよう。

 起動から五分が経過。少しずつ魔力の供給を落とし、駆動を止める。
 モニターの現在値が全てゼロに落ちる。

 問題なく停止できたのを確認して肩からシップを取り外してビックバイパーの横に並べる。
 次は計測結果の確認作業だ。


 計測機のモニターを覗きこもうとしたところで、管理局からの通信が入った。

 通信元はオーリス姉さんだ。
 姉さんは中解同の捜査で出張中のはず。どうしたのだろう。

「はい、こちらカガリです。今日は休みなのですがどうしました」

『む、スーツを着ているな。緊急事態だ。これから送る座標に一分以内に向かえ』

「んなっ!? なんなんですかいったい!」

『緊急事態です。シップも後ろにあるようだな。急ぎなさい』

「えーあーうー、その、バイザーはロッカールームに……」

『そんな時間はありません急ぎなさい!』

 ああ、もう何が何だか解らないがオーリス姉さんが素の敬語を使い始めているということは本気で緊急事態だ。

 新シップの隣にあるビックバイパーT301をパイロットスーツのコネクタに接続する。

 装着が完了したと同時に、格納庫のハッチが開いていく。
 私以外の局員さんにも連絡が行ったのだろう。
 一分以内に来いというのはどうも本気の話のようだ。

 魔力炉を回しシップに魔力を入れる。慣性制御が起動したと同時に開きかけのハッチの隙間から外へ。
 勢いそのままに前方の安全を確認、アフターバーナーに推進魔力の火を入れ空へと飛び出す。

 速度を上げながら進路を確認。
 バイザーが無いので網膜へ映像を表示させる。
 慣れない視界だが超加速の中の空間投射は安定性がないため仕方がない。

 管理局に空路に接触物がないか問い合わせる。一瞬でオールグリーンが返ってきた。

 加速する。
 一瞬で音の壁を超過し、衝撃波を空中にまき散らす。

 高度は既に雲の真下。視界の風景がコンマ秒単位で変わっていく。
 空の光は夕方から昼、そして朝へと流れていった。

 指定ポイントへ到着。速度をゆるめ開いたままの通信に向けて叫ぶ。

「着きました! 姉さん指示を!」

『中解同の大型戦艦が月へ向けて発射した。加速を終えたら一時間後には月面都市が焦土になっている。宇宙に出る前に撃ち落としてください』

「戦艦って……うわ、でか!」

 左前方、弧を描いて空へ伸びるカタパルトと、そこから飛び立ったばかりであろう巨大なロケットが見えた。
 原始的な煙を噴いてどんどんと加速している。

「あそこまで大きいとそう簡単に撃ち落とせませんが……」

 言うと同時に戦艦の詳細データが視界に表示された。
 ワイヤーフレームの立体構造の中、後部についた二門のブースターが赤く点滅する。
 ここだけ狙って加速を止めろということか。

「援軍は?」

『あの戦艦に追いつける空士はこちらにいません。航空魔導師隊が到着するまで単独で』

 私に連絡が入ったタイミングを考えると、航空魔導師隊の人達が到着する頃には戦艦はすでに空気のない宇宙へ出ているだろう。
 どちらにしろ私が一人でやらねばならない。

「ああもうやりますよやってやりますよ!」

 休日を有意義に過ごしていたというのにえらいことになってしまった。

 私は再び後部機械翼アフターバーナーから火を噴かせて戦艦へと接近。
 加速を続ける戦艦の後ろに貼り付くようにして併走する。

 戦艦のブースターからは魔力の炎が吹き出し続けている。

 魔力残滓が濃密だ。シップに取り込み残滓を魔力へ変換し、一瞬でオプションを四機生み出した。
 機銃をレーザーに切り替えブースターの上を位置取り、攻撃を開始する。

 だが、戦艦も無抵抗ではいてくれなかった。

 カメラアイの視界の中、戦艦の側面のハッチが開きそこから魔法機械が次々と射出されていく。

 あれを相手にしながらブースターの破壊も行わなければならない。

 計算では二分五十秒。
 二分五十秒以内にブースターを破壊しなければ、戦艦は加速を終え進路方向の直線上にある月の一つへと突き進んでしまう。

 魔法機械がこちらへと銃口を向け、魔力弾を放ってきた。
 わずかに左へずれるようにしてそれを回避。魔力弾がブースターの魔力障壁へと当たり霧散する。

 私はオプションのうち二つを魔法機械迎撃のために後方へ狙いをつけた。
 残り二つとシップの機銃をはースターへと向ける。

 魔力障壁の隙間に穴を開けるようにしてレーザーを撃ち込む。
 バイザーが無いため強度解析は不完全。時間内に破壊できるかどうかは未知数だ。


『WARNING!! WARNING!!』


 こんなときに未登録魔力警告!?

 シップから私の頭の中に向けてシステム警告が鳴り響いた。
 魔力値AAAクラスの物体が地表からこちらに向かってきている。

 相手をしている時間はない。可能な限り無視してブースターの破壊に専念だ。

『あと二分で限界高度に達します』

 私が通信で送った計算時間をオーリス姉さんがアナウンスしてくる。
 それと同時に未登録魔力の姿が後部視界へと入った。

 見覚えのあるその形状。
 機械の鎧を身にまとった小さな子供。大きな左腕。
 アインハンダーだ。

 今までとは駆動炉の固体魔力と外装の色のみが違う。

 海のように青かった装甲は、夜のように黒く塗りつぶされている。
 黄色く強調されていた角のラインは、黒に合わせたように赤く。

 そして、アフターバーナーを守る左の盾型装甲には白くAs.01とミッドチルダ語で書かれていた。

 新型機か、間に合わせの旧型機か。

 バイザーがないため即座のスキャンは不可能だ。
 アインハンダーから意識を眼前のブースターへと切り替える。
 彼女の狙いは私と同じ、この戦艦の月面到着阻止だろう。

 レーザーの一点集中により魔力障壁に穴が開きブースターへ直接射撃が当たるようになる。
 だが、巨大なその装甲は少し魔力光輪を当てたところですぐには崩壊しなかった。

 射撃を続け魔法機械の狙撃を最小の動きで回避し続ける私の横に黒いアインハンダーが並んだ。

『手伝う』

 とだけの短い念話が届いた。

「ではこの推進ブースター二門の破壊を。あと邪魔しに来る小型機の相手をお願いします」

 そう返しながらもレーザーで射撃を続ける。

 アインハンダーは魔法機械から奪った銃をその大きな左手に抱え、私の狙う魔力障壁の穴へ向けて射撃した。
 質量兵器弾が同時に数発撃ち出された。
 散弾銃の接射。
 ブースターの装甲に小さな穴が穿たれる。

 アインハンダーは戦闘機ではなく魔法のデバイス。
 中解同のただの質量兵器は攻撃補助魔法で増幅され、質量をまとった強力な魔法兵器へと変わる。

 散弾銃を連射し、次々とブースターへと穴を開けていく。
 その穴を押しつぶすように魔力光輪リップルレーザーが叩き込まれ、装甲に大きな亀裂が入った。

 亀裂からブースターの魔力の火が漏れる。
 後は自分の炎で崩壊を待つだけだ。

「後一門、急ぎましょう」

 残り時間は一分半。のんびり眺めているような時間はない。
 爆発を起こして自滅し続ける壊れたブースターから離れ、もう一門のブースターの側面に位置を取る。

 戦艦は今も加速を続けており、その逐次上がっていく戦艦の速度に合わせてこちらも速度を変えなければならない。
 推進機構の微妙な調整のなせる移動。
 その動きにアインハンダーもついてきている。

 先ほどと同じように私はレーザー、アインハンダーは散弾銃を撃ち込む。

 こちらに向けて突撃してくる魔法機械に、私はオプションを叩きつけて迎撃。
 アインハンダーは大きく回避し背後を取ってブースターごと魔法機械を撃ち抜いた。

 今の攻防で弾切れを起こしたのか、散弾銃を捨て機関銃を新たに魔法機械から奪い取っていた。


 再びブースターの魔力障壁に小さな穴が開く。
 時間に余裕もある。間に合いそうだ。
 などと思考の端で考えたそのとき、ブースターの横、戦艦の後部に丸い穴が開いた。

 突如現れた空洞。
 その奥に何かが見えた。

 魔力反応あり。
 直感。これは危険だ。

「避けて!」

 咄嗟にアインハンダーに叫び、私は初めて大きな回避行動を取る。

 私が先ほどまでいた位置を巨大な何かが通り過ぎた。
 後方へ流れていくその物体を見る。
 シップの倍の大きさほどの直径を持つミサイルだ。

 魔法機械の襲撃ばかりに気を取られ、戦艦そのものからの攻撃を忘れていた。

 オーリス姉さんが月の都市を焦土にすると言ったほどの戦艦だ。
 多くの兵装を備えているのだろう。

 だが。

「障壁はすでに砕けています、一気に撃ち込めーっ!」

 オプション四機を全てブースターへとまわし、障壁の隙間へとレーザーを叩き込む。
 アインハンダーも私の念話に応じるように、いつの間にか換えていた左手の大砲で連続砲撃。

 ブースターが爆発を起こし、装甲の破片が雲の中へと沈んでいく。
 推進力を失った戦艦がゆっくりと船首を大地へと傾けていく。
 戦艦に宇宙へと飛び出す速度は残っていない。
 後は雲の下へと落ちていくだろう。さすがに浮かぶ分の浮遊機構は備えているだろうが。

「こちら民間協力者カガリ・ダライアス。戦艦を落としました」

 通信でオーリス姉さんに言葉を投げかける。
 民間協力者とは休日出動させられた皮肉を込めた恨みの一言だ。

『ご苦労。すぐに航空魔導師隊が到着する。戦艦の相手は魔導師隊に任せてくれ』

 オーリス姉さんがそういった瞬間、また未登録魔力警告が頭の中に響いた。
 戦艦の中から中型の魔法機械が飛び出したのだ。魔力値の推定はS-クラス。

「……任せて良いんですよね?」

『ああ、お前はお前の仕事をしろ』

「仕事、ですか……」

 シップの開発のことかと一瞬思うが、すぐに違うことに気づく。

「そうですね。民間協力者として頑張ります」

 そう言って通信を切った。
 余計な一言だったろうが今回の仕事は嘱託魔導師が請け負うには急すぎる。
 これくらい言ってもかまわないだろう。

 そして私は空中で静止したまま、アインハンダー、いや、ギンガさんの方へと顔を向けた。

「ありがとうございます。おかげで助かりました」

「私を捕まえるつもり?」

「はて、なんのことやら」

 どうやらばればれのようだった。

「血の付いたヘルメットを置いていったから。私の正体に気づいたはず」

「……いやまああれ以前から貴女の正体は解っていたんですけどね」

「そう」

 言葉を止め、アインハンダーが左手に掴んだ大砲をこちらへと向けてくる。

 反射的に回避行動を取る。
 それと同時に大砲が火を噴いた。
 どうやらおとなしく投降してくれる気はさらさらないようだ。

 こちらはすでにオプションを四機展開している。
 武装は十分。
 魔法出力設定を非殺傷に切り替え、銃口をアインハンダーへと向ける。

「管理局は貴女を保護する体制が整っています。もしこのようなことを嫌々やらされているなら投降してください。悪くはしません」
 最後の投降の呼びかけ。
 だが、返答は一発の砲撃だった。

 シップを駆動させ砲弾をかわし、そのままの勢いでアインハンダーの背後へと回る。

 オプションは包囲網を作るように四方へ展開。
 非殺傷のレーザーで飛べなくなるまで叩き落として、そのまま下の姉さん達の元へと連行だ。

 機銃と四機のオプションから同時にレーザーを発射。
 狙いを定めたのは機銃の一発のみで、他は逃げ道をふさぐための牽制射撃だ。

 だが、アインハンダーは格子状に撃たれたレーザーの隙間を器用に避けていく。

 速く、そして正確な動き。

 ここまで機動力の高い敵を相手にしたことは今までに無い。
 フェイトさんもここまですばやい動きでは無かった。

 アインハンダーはお返しとばかりに数発砲撃をしてくる。

 こちらも軌道を予測し、常に一定の距離を保つよう機体とオプションの位置を操作する。

 大砲の強力さは驚異だが、手数はこちらのほうが圧倒的に有利だ。
 あの黒い機体が青いアインハンダーと同等の性能ならば、防御性能自体はそれほど高くないはず。
 性能が同じである可能性は低いが、最新型だとしてもいきなり防御能力が跳ね上がると言うこともないだろう。

 今度はオプションをアインハンダーの周りに旋回させるようにして射撃しながらの移動を行う。

 全方位からのレーザー照射がアインハンダーを囲むようにして降り注いでいく。
 アインハンダーはさすがに回避しきれずにとっさに障壁魔法を展開するが、障壁は前方にしか展開されない。

 背後から迫ったレーザーがデバイスの魔力障壁を削っていく。

 全方位をカバーする障壁魔法を覚えていないのだろう。
 あの幼さだ、使えなくても仕方がない。

 避けきれないと悟ったのか、アインハンダーは障壁を展開しながら私の方へ向けて機体を走らせてきた。
 接近戦をするつもりか。
 確かに私の周囲にはレーザーは通らない。

 だが、こちらには機銃があり、オプションを寄せることも出来る。
 こちらへ向かいつつもレーザーはアインハンダーへと迫り、彼女は大砲を盾にそれを防いだ。
 大砲が爆砕し粉々に砕ける。
 アインハンダーは大砲の残骸を手放し、空いたその左腕で私に殴りかかってきた。

 勿論そんな攻撃当たるはずもなく、わずかに右へ移動した私はレーザーを撃ち込もうと機銃をゼロ距離で機体に触れさせる。
 まさに撃とうとするその瞬間、すぐ近くのギンガさんのヘルメットの中から小さな声が響いた。

「……私は妹を救いたいだけなの」

 突如アインハンダーの身体から魔力の刃が生えた。
 刃は魔力障壁に衝突し、私の機体は大きくはじかれてしまう。
 機銃のレーザーはアインハンダーとは全く関係ない方向へ飛んでいく。

 なんだ、今のは。
 魔法ではなかった。詠唱も兆候の魔力光も何もなかった。

 ぶれる視界の中、アインハンダーを何とか捕捉する。
 魔力の刃は右腕の先から生み出されていた。
 近接攻撃魔法などではない。中解同の攻性魔力力場発生装置ブレードだ。

 左腕だけでなく、右腕もガンポッド規格のアームになっていたのか。
 先ほどのブースター破壊では使っていなかった。
 私との戦いのために隠していたのか。

 何とか体制を整え直し弾かれた勢いを殺すも、アインハンダーはすでに上空へと逃走していた。

 追おうとアフターバーナーに火を入れた瞬間、アインハンダーの反応がロストする。
 次元転移だ。完全に逃げられてしまった。

「あー……」

 アインハンダーを逃がしたのはこれで二度目。
 もう完全に警戒してしまっているだろう。
 まいった。任務失敗だ。












 ギンガさんとの戦いから数日が経った。
 私は休みを延長してシップ開発の最後の詰めに入っていた。

 格納庫で作業をしているため時折技術部の人が様子を見に来るが、私の作っているものを見て何も言わずに去っていく。
 何故逃げられるのか解らないが、確かに下手に近づいたら危険なものであることは確かだ。

 そんなこんなで一人で調整を行っていたときのことだ。

「休暇をまとめて取ったと思ったらこんなところに籠城していたか」

 オーリス姉さんが訊ねてきた。
 私服だ。

 局にいるのに何でだろう、と思ったらすでに夜になっていることに気づく。
 帰る途中に寄ってくれたのだろう。
 私は食事が必要ないため、何かに熱中するとすぐに時間を忘れてしまう。

「聞いたぞ、何か変なものを作っているらしいな。技術部の輩が怖がっていたぞ」

「変なものじゃありません。フォースです」

 そう言いながら制御機械の計測を続ける。
 作っているのは新シップ用の追加兵装だ。
 かつてR戦闘機に携えられたという力の塊。四本の制御機械に包まれて初めて人の手で操ることが出来たという。

「……バイドを抽出して云々と言うやつか?」

「違います。私の胸のクリーンフォースから摘出したものを培養増殖したものです」

 バイドなどという危険な代物は、流石にこんな場所で扱うわけにはいかない。

 フォースからバイドを連想したということは、オーリス姉さんも例の展覧会を見にいったのだろう。
 技術部の人が逃げたのも、案外バイドの恐ろしさを知っていたからなのかもしれない。

 姉さんは何も言わずに私が普段椅子に使っている四角い金属ケースの上に腰を下ろした。

「負けたらしいな」

 しばらく私の作業を眺めていた姉さんが、突然そうつぶやいた。
 アインハンダーを逃がした一件のことか。

「負けていません。逃げられたんです」

「捕まえるのが仕事である以上、逃がすのは負けだ。殴り合いの結果など関係ない」

 なんだ。嫌みでも言いに来たのだろうか。
 それとも任務失敗で降格だとか。
 局員ではないので降格とかはないのだが。

「負けたかと思ったらこもってこんなものを作っているとはな。やる気に火でも付いたか」

「フォースの培養はそんな一朝一夕で出来るものじゃありません。前から仕込んでいたのが完成しそうだったので籠もっていただけです」

 ただ完成を急いだだけだ。
 フォースの作成は私だけでなく展覧会用のシップを作った自治区のメンバーの方にも作業を委託しているが、シップの特性からフォースは多くそろえておきたい。
 シップ自体は既に完成している。
 格納庫の片隅、ビックバイパーとR-GRAY2の隣に一緒に並んで置かれている。

 姉さんはそれを見つけたのか、腰を上げシップの方へと歩いていく。
 新シップの横にしゃがみ込むと、手に持ってしげしげと眺め始めた。

「これが申請のあった新しい機体か。名前は何と言ったか。覚えやすい単語だったはずだが」

 ふむ、と装甲の表面を撫でながら考え込み始めた。
 私は作業の手を休め、オーリス姉さんへと新しく生まれた戦闘機の名前を紹介する。

「カーテン・コール。展示会に飾られていたグランド・フィナーレの姉妹機で、究極の互換性という戦闘機の理想の一つの到達点です」



――――――
あとがき:諸事情により次回更新は少し時間をおいてからになります。と言いますかA.C.E.はこんなにハイペースで書くつもりはなかったのですが……。


SHOOTING TIPS
■As.01とミッドチルダ語で書かれていた
黒い塗装のアインハンダー、アストライアーFGAマークI(Astraea FGA MK.I)。
ガンポッドを二種類同時に使用できるのが特徴。これまで作中に登場していたエンディミオンFRSマークIIIとは違いガンポッドを的確に操れる上級者向けの機体です。
ちなみに黒い装甲のはずなのにゲーム中ではエンディミオンと同じ青です。ムービーを青黒二種類用意できなかった苦肉の策?

■カーテン・コール
R-100"CURTAIN CALL"
【究極互換機 Ver.2】
R-99の開発によって一旦終了したR戦闘機の開発プロジェクトであったが、本機はそのテクノロジーを後世に伝えるために開発されたと言われている。(R-TYPE FINALより抜粋)
尖ったフォルムのかっこいいR-TYPE FINAL最強機体三機の一つです。グランド・フィナーレでなくこちらを使用シップにしたのはフィナーレさんの元デザインがダサイから。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第十話-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:7e23f5b3
Date: 2008/11/13 00:34

 もっとも、アインハンダー乗りになろうなんて奴は戦闘機人でもそうそういないだろう。限りなくゼロに等しい生還率は、決死の覚悟を要求する。だから、志願者も解放を当てにした実験体、延命処置を目論む失敗作等、いわゆる訳ありの奴がほとんどだ。
 妖精のように跳ね回る白い放電は、特別攻撃兵に志願したことを告げた時の、彼女の涙を堪えた瞳を思い出させた。
「何故?」翠の瞳は、そう問いかけていた。
 私は妹を救いたいだけなのだ。












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テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第十話『スターソルジャー』
原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
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 今日も私はオーリス姉さんと二人、レビュールームの密室で情報のとりまとめをしていた。

 十四歳の小娘と十歳の小娘二人の会議という、就業年齢の低いミッドチルダの管理局でもそうそうない状況。
 姉さんは本気で私の解析能力をあてにしているというわけでもなく、私をそばにおいて説明することで情報を整理しやすくしている、とのことだ。
 そもそも私は戦闘要員であり、捜査や推理は専門外なのだ。

 お茶のカップを片手にオーリス姉さんが私に説明を始める。


「さて、以前のプラント制圧、そして先の基地制圧で捜査は大きく進展した」


 基地制圧は私が休日に呼び出されて戦艦を撃ち落したあの事件のことだ。

 月面攻撃を行えるような戦艦を格納していたのだ。
 重要拠点の一つだったのだろう。
 ここまでくると、捜査は芋蔓式に進んでいるはずだ。


「地方世界企業のテロの裏には、ミッドチルダのある大企業が関わっていた」


 私の前に広げられている書類をペンの先で叩きながら姉さんが言った。
 ミッドチルダにおける中解同の物資の動きを記した書類だ。

 中小企業解放同盟は、大企業に経済戦争で敗北した地方世界の企業が集まってできたテロ組織である。
 その性質上、技術力や資金力はこれほどまでに高くなるはずが無いのだ。

 弱小企業が集まるだけで資金が増えるなら、初めから連合グループを結成して経済の場で戦っていればいい。

 だが、実際は企業テロは次元戦争さながらの圧倒的物量で行われており、アウェイのはずのミッドチルダにプラントや基地を建造するまでになっている。
 書類上の資材の動きも中小企業などという規模ではない。


「支援者。いや、黒幕、というやつか。ミッドチルダ側に裏切り者が潜んでいた」


 オーリス姉さんはまた違う書類を紙の束から取り出し私の前に置き、人差し指を曲げて爪の先で三度叩いた。

 私は従うままに2in1で印刷された書類へと速読で目を通す。
 ある産業に関する企業の動向を一枚でまとめたものだ。よくまあ紙一枚に収められるものだ。

 紙を使ったアナログな打ち合わせ。全てが全て空間投射によるモニターが使われるわけではない。
 紙の本も店先から姿を消していない。古い技術はなんらかの形で残り続ける。

 足で稼ぐなどという私の世界でも千年以上前から行われてきた捜査方法も、未だに管理局で現役だ。


「ミッドチルダの高密度魔力の源である天体衛星。“月”を巡っての競争がかつてあった」


 書類についての要約を姉さんが語り始める。
 捜査上に上がった情報はこんな紙一枚では収まるようなものではないだろう。
 それをまとめて私達実働部隊に伝えるのもオーリス姉さんのような文官のお仕事だ。

 魔導師だけでは時空管理局は回らない。


「全ての月は新暦以来開発が進み都市化が進んでいるのはカガリも知っているだろう」

「ええ、月もミッドチルダの一部で地上部隊の支部もありますからね」


 ミッドチルダの月……この星を回る複数の天体衛星は、この世界が魔法文明の中心地になった要因の一つでもある魔力物質の塊だ。
 豊富な魔力素の源であり、月の並びは大魔法の行使に大きな影響を与える。

 勿論、月に近づけば近づくほど魔力の影響も強くなる。


「月の開発事業に成功するということは魔力資源に人と物の流通、そして月と月の間を結ぶ膨大な空間を手に入れられるということ」


 いつの時代もどの世界でも土地はお金に直結する。
 広大な次元世界が舞台であっても、それは変わらない。

 中心世界の魔力の塊などという土地は、いったいどれほどの価値があるというのか。


「月周辺の開発は二つの企業が十数年も前から覇権を争っていたんだ。八福星間開発公司とセレーネInc.だ」


 目の前の書類もその二社が月を巡ってどう動いてきたかについてかかれたものだ。


「そのどちらかが黒幕だった、というわけですか」

「まあそう急くな」


 話の途中で結論を急いだ私に、オーリス姉さんが待ったをかけた。
 結論まで一気に飛ばないということは、その過程に事件重要な要点があるということか。

 どうも姉さんは私を幹部への説明の練習台に使っているような気がする。


「八福星間開発公司は単独、セレーネはあの尽星重工やEI社などのミッド企業群と連合を組んで月の開発に当たった。どうなったかは解るな」


 今度は問いを私へと投げかけてくる。
 月の開発を巡る競争は私がミッドチルダに来る前に起きたことだろう。詳しくは知らない。
 だが、今の企業の情勢を考えると大よそ見当がつく。


「……技術力や経営力ではなく数の暴力に八福社側が負けた、ということですかね」

「その通り。大きな餌を前に企業戦争に負けた八福社がとった行動が、あれだ」

「中解同を使った企業テロ、ということですか」


 私の言葉にオーリス姉さんが頷いた。


「何というかまあダーティーな発想ですね」


 地方世界が中央世界の企業に対し行われてきた中解同の企業テロも、始まりは中央世界の大企業同士の争いだったのだ。
 なんというかまあ、因果応報というか関係ない企業は完全にとばっちりというか。


「ミッドチルダの企業なんてそんなもの。父さんが陸で実権を握って真っ先に手を入れたのも犯罪組織ではなくそれのバックボーンになっていた企業群だったらしいよ」


 オーリス姉さんから渡された書類の一枚、企業テロによる被害状況を見ると、セレーネや尽星社の被害は確かに大きい。
 この前撃ち落した月面攻撃戦艦も、これらの企業施設を主に狙う手はずだったのだろう。

 八福社にもいくらかの被害が出ているが、これは怪しまれないためにあえて行ったものということになる。


「これで事件の裏側は全て暴けた、と言いたいところだがセレーネ側もまた一筋縄ではいかなくてな」

「なんですか。八福社とセレーネ両方がテロ支援していたとかではないですよね」

「そこまで間抜けな話ではない。だがまあこちらはまだ推理でしか語れない段階だ。捜査官の中でも極秘扱いだな」


 そうまくしたて、オーリス姉さんはカップの中のお茶を一気に飲み干した。
 お行儀悪く音を立てて最後の一滴をすすり、カップの中を覗き込む。
 私しか見ていないからってこういう行動は止して欲しい。

 私がそう指摘すると姉さんは、はいはいと生返事をしてカップを持って立ち上がった。
 そのままレビュールームを出て行こうとする。


「あ、あれ? 極秘扱いだからってここまで話して私にも秘密ですか!?」

「急くな急くな。お茶のおかわりを淹れてくるだけ」


 カップをふらふらと振ってレビュールームから出て行くオーリス姉さん。

 一人待たされた私は、姉さんの残していった書類を初めから読み直した。
 ミッドチルダの企業と中解同との繋がり。
 前々からミッドチルダの犯罪組織が地方世界との仲介をしていると予想されていたが、ミッド内部の勝手な事情が外の世界を巻き込んだものだったとは。

 テロ、放棄地区、犯罪組織、魔法兵器。
 中心世界だというのに、いや、中心世界だからこそミッドチルダは混乱の渦中にある。

 文明が発展したからといって人が皆幸せになることができるわけではないということだ。仕方のないことなのだろうか。
 私たち一族は、文明の復興こそ幸せになるために必要、などと考えているのだけれど。


 しばらくして姉さんがカップ片手にレビュールームへと戻ってきた。
 姉さんは、さて、と小さくつぶやいて先の説明の続きを開始した。

 私だけしかいないからと普段のクールビューティさは吹き飛んでいるのだが。ストレスでも溜まっているのだろうか。


「セレーネの前身はな、中央技術開発局だったんだ」


 さらりと凄いことを言った。
 ここでこの単語が出てくるか。中央技術開発局、ヒュペリオン。プレシアさんからの証言によるわずかな繋がりだ。


「改めて調べたところ、二年前の戦闘機人事件の企業幹部にも中央技術開発局出身者が居た」


 だが、中央技術開発局は、戦闘機人、すなわちギンガさんへと関わる唯一といっていい情報だ。
 中解同を率いる八福星間開発公司、その中解同を叩く戦闘機人を抱えるセレーネ。
 確かにつじつまはあっている。あっているのだが。


「今のところはこじつけでしかない関わりだが、セレーネがアインハンダーを使って中企戦を潰しているというのが今のところ一番納得のいく推理だ」


 こじつけでしかない、つまり直接的な証拠が何も挙がっていないということだ。
 中解同や八福社を追ってもセレーネには辿り着かないだろう。

 個別の事件として追わなければならないだろうが、相も変わらず人手不足なのでセレーネが黒だったとしても大企業の手による隠蔽を暴けるかは解らない。


「でも、セレーネが本当に中解同と戦っているとして、八福社と企業テロの関わりを表に出さない理由は何でしょうか? アインハンダーの行動は、明らかに管理局より事の真相に迫っているからこそですよ」


 アインハンダーは企業テロを察知しどんな現場にも現れる。
 プラント制圧時には内部の隠し区画の場所まで掴んでいたのだ。
 八福社と企業テロの関わりなどとっくに把握しているだろう。


「痛い腹を探られたくないのだろうな。企業テロの被害者の中に混ざっていれば私達に目を付けられることもない。本来なら、な」


 オーリス姉さんはそこまでいうと、机の上の書類をまとめ始めた。
 話はここまで、ということだろう。


「で、だ」


 束ねた書類を縦にして机に軽く叩きつけ束をそろえながら姉さんが言う。


「話を理解したところでカガリちゃんにはお使いに行ってもらいます」


 誰がカガリちゃんか。


「あー……、もしかしてこの打ち合わせってそのために私個人に説明していたとか……」

「その通り。……八福星間開発公司に強制捜査が入るのは確実だけれど、もうそれだけでは企業テロは止まらない。そこで、ミッドチルダの中企戦の中枢を叩きに行ってもらう」


 企業テロの中枢。そんなものまで見つかっているというのか。
 中解同の無人機は機体の中に単独戦闘用のAIが搭載されているが、群れとして行動するための作戦を記録する媒体が搭載されていない。
 無人機は管理局の介入による戦況の変化にも対応して集団で動きを変えるため、無人機を統率する中枢施設があるのではないかと言われていた。

 技術班のサンプル解析でもその裏づけは取れており、中枢施設の発見が中解同壊滅に必要不可欠とされている。


「今度はどこですか。地上本部の真下とか言いませんよね」

「ああ、下ではない、上だ。宇宙へ行け」












 宇宙へ来ました。
 と言っても単独で突入するわけでもなく、プラントのときと同様に精鋭で突入隊を作っての制圧作戦だ。

 目指すのは八福星間開発公司が建造を中止して宇宙に放置しているとされている、未完成の宇宙ステーション。
 月の一つを周るスペースデブリであり、建造中止以来完全に注目から外されてきた施設だ。
 なるほど、確かに地上に配置するよりははるかに発見されづらい。

 今回の戦いの舞台は宇宙となる。
 だが高位の魔導師と云えどそう簡単に宇宙に出られるわけでもないので、戦艦に乗っての出動だ。

 今回の作戦も本局との合同作戦。
 そこで用意されたのが、都合よくずっとミッドチルダに停泊中だったエース艦アースラだった。

 前のプラント制圧ではアースラは大気圏外から戦艦魔法によるサポートに徹していたためにクルーの人たちとは会わないままだったので、皆とは一年ぶりの再会となった。


 そして今、私とはやてさんはこの艦の艦長と面識があるということで突入隊を代表してブリッジに挨拶に来ていた。

 目の前には一年ぶりのハラオウン提督。
 相変わらず外見から年齢の推測できないダライアス一族のような人だ。

 提督は補助器を付けて自分の足で立っているはやてさんを見て自分のことのように喜んでいる。
 子供好きなところも変わっていないのだろう。

「良かったわ、ミッドチルダにいるうちに会えて。私、この任務が終わったら艦長職を降りて本局勤めになるの」

「それはまた……今話題のエース艦の艦長だというのに引退ですか」

 エースとして任される難事件をまた次々と解決すれば、さらに名を上げることも出来るだろうに。
 今のアースラのメンバーなら、それも可能であるはずだ。


「はやてさんの事件を解決したら、ずっと気が抜けて張り詰めていた何かが切れたような気持ちになったの。前線で仕事をするのももう潮時かしらって」

「それは……」


 長らく続いた闇の書事件を解決したアースラの艦長リンディ・ハラオウン提督は、かつて闇の書事件で夫を亡くした未亡人だということは地上本部でも有名な話だ。
 美談として話されるこの話も、本人にとってはどのような心境だったのであろうか。

「これからはのんびり本局で後人を育てていくことになるかしら。はやてさんも本局に来れば便宜をはかってあげられたのだけれど。今からでもこっちにこない?」

 地上所属の嘱託魔導師を目の前にして堂々とスカウトとな。
 なのはさんも同じようにスカウトされて管理局に入ったのだろうか。管理外世界に転送施設は強権発動しすぎだが。


「やー、あたしはしばらく地上部隊にいますわ。せっかくカガリちゃんが地上部隊に誘ってくれたわけですし」


 途端、艦橋の空気が冷えた。


 カガリちゃんが地上本部に誘ってくれたわけですし。


 私がはやてさんを陸へ誘導しゲイズ親子をハラオウン派へけしかけたのがこの一言で皆に勘付かれた。


「あら、そうなのー……」


 ハラオウン提督の笑顔の威圧が怖い。
 うわあ、嫌な汗が出てきた。

 艦橋に居るクルーの人達もこちらを見ている。
 あああああ、どうしようどうしよう。


「だから今回の作戦は輸送と支援で僕達は待機なんだよ」

「だけどなぁ。カガリちゃん達だけ送り出すというのは……」


 緊迫した空気を打ち砕くように、艦橋の入り口から声が響いた。
 反射的に声のしたほうへと振り向く。

 クロノさんとヤマトさんの二人が何かを言い合いながら艦橋へと入ってきたのだ。

「あ、カガリちゃん。ここに来ていたんだ」

 ヤマトが私に気づいて声をかけてきてくれる。
 何だろう、初めて彼の輝かしい容姿が神々しいものに見える。

「今回の作戦、アースラの武装隊は奥まで行かないらしいけど大丈夫? そりゃあ他の人達はまだ死ぬ時期じゃないだろうけど……」

 純粋に私を心配してくれるヤマトさん。
 私とはやてさんの顛末を全て知っているので彼なら他の人たちのような視線を向けることはないだろう。

 ああ、知り合いの中でも黒い裏とか気にしないですむのはヤマトさんくらいだ。
 人畜無害という単語がふと頭をよぎった。

「大丈夫ですよ。こういう任務は何度もしていますし」

 話を全力で逸らせていただこう。
 蒸し返される前に違う話題へ流れを持っていこう。

 先ほどまでヤマトさんと何やら論争を続けていたクロノさんへと視線を向ける。

「背伸びましたねクロノさん。ようやく年齢相応です」

 私とさほど背丈の変わらなかったクロノさんは、今では私より頭一つ分以上の差が出来ていた。
 ちなみにヤマトさんは元々長身なので、未だにクロノさんより年上に見える。

「……ああ、この一年でずいぶん伸びたんだ。やっぱりカガリも小さいとか思っていたのか」

「あの背丈で小さいと思われないほうが不思議ですよ?」

 私の言葉を聞いてはやてさんとヤマトさんとハラオウン提督の後ろでこちらをニヤニヤ見ていたエイミィ執務官補佐が話に加わってきた。

 上手くいったようだ。

 後ろからハラオウン提督のため息が聞こえたが聞こえなかったことにしておこう。












 中小企業解放同盟の中枢への突入隊は、以前のプラント制圧時の突入隊メンバーとほぼ変わらない面々であった。

 本局ミッドチルダ首都航空隊からティーダ・ランスター二等空尉。
 首都防衛隊からクイント・ナカジマ准陸尉、メガーヌ・アルピーノ准陸尉。
 シグナムさんは今回は来ていない。捜査官候補として、ゼストさんに付いてミッドチルダ地上側の八福社の強制捜査に参加するらしい。

 代わりのフロントアタッカーの補充としてミッドチルダ南部の陸士隊からヴィータ三等空士が派兵されている。

 航空魔導師隊からは、カガリ・ダライアス嘱託魔導師。
 そして先日空戦Aランクを取得した八神はやて三等空士が新たに加わった。

 本来ならAランク魔導師には任されることのない任務なのだが、ヴィータさんとはやてさんの人事評価は魔導師ランクAAA相当だ。

 私としては古代ベルカの騎士であるヴィータさんはともかく、はやてさんはまだ突入任務には早いと思うのだけれど、本人がやる気になっているのでどうしようもない。
 まあ後衛としての配置なので危険度は少ないだろうけれども。

 突入は八福社への強制捜査と同時に行われるので、アースラは現在月の一つの軌道で待機しているところだ。
 突入隊のメンバーは全員バリアジャケットを装着し、転送室近くの待機室に詰めている。

 前も顔合わせをした面々だが、はやてさんとヴィータさんはこの人達と初の邂逅だ。

「うわーちっちぇー。魔動少女が三人もいるぞちっちぇー」

 ランスター二等空尉はヴィータさんを気に入ったのか、バリアジャケットの赤い帽子を上から手のひらで何度も叩いてはしゃいでいた。

「ちっちぇー言うなこら!」

 沸点の低いヴィータさんが激昂するが、ランスター二等空尉

「いやー、だってうちの妹くらい小さいからさー。同士カガリー、大丈夫なんかこれ」

 小さい私に話を振られましても。
 まあだけれどフォローはしておこう。

「ヴィータさんはこれでもシグナムさんと同じ古代ベルカの騎士でして……ランスター二等空尉よりもはるかに年上ですよ」

「ええっ!? ヴィ、ヴィータおばあちゃん!?」

「誰がおばあちゃんだこらーっ!」

 もしやランスター二等空尉はヴィータさんをからかって遊んでいるだけなのだろうか。

「はやてさんは正真正銘私と同い年の女の子です。でも一応今までの中解同戦では立派な実績を残していますよ」

「へえ、こんな小さい子がー。遊びたいざかりでしょうに」

 アルピーノ捜査官が横から手を出し、はやてさんの頭を頭を撫でた。
 そういえばアルピーノ捜査官も一時の母だったか。子供を管理局にスカウトしようとするハラオウン提督とはまた違った感性を持っているのかもしれない。

 ミッドチルダは天才教育の発展のためか、一部のエリートの就業年齢は他の発展世界と比べて非常に低い。

 はやてさんは本来なら、魔法も知らずに第97管理外世界の日本で小学校に通っていたはずだった。
 日本ではこの年齢はまだ大声を出して外を走り回るような庇護すべき小さな子供なのだ。

 そんな幼い子供が、すでに強い信念を持ち戦場に身を投じている。
 それが良いことなのかどうかは、まだダライアス一族としての価値判断しか出来ない私には断言は出来ない。

 ただ、そんなはやてさんを私は少しでも手助けしてあげられたら良いと思う。
 まずはこの戦いから皆で無事に帰らなければ。

「陸を離れると妹が心配だなー」

 ヴィータさんの帽子を頭に被りながらランスター二等空尉がぼやく。
 というかバリアジャケットなのに頭からはずれるんだあれ。

「俺、この任務から帰ったら妹と遊園地に遊びにいってやる約束しているんだ。早く終わらせないと」

「それ死亡フラグですよ」

 アルピーノ捜査官が笑いながら言葉を返す。

 突入前だというのに皆自然体だ。
 だが、ブリッジからの通信が入ると皆表情が一変し、戦士の顔になった。

 戦いが始まる。



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あとがき:当然のごとくミッドチルダにおける月や宇宙の設定はオリジナル設定です。結局ミッドの周りの月って何個あるんでしょうね?


SHOOTING TIPS
■八福星間開発公司
蒼穹紅蓮隊に登場する企業の一つ。
火星開発の権利独占のために企業テロを裏から繰り広げていたりする敵役企業。
一企業がテロ支援とか現代日本ではファンタジーですがミッドチルダでは違和感が無い不思議。

■セレーネ
アインハンダーに登場する月面国家。ミッドチルダの月の設定は不明点が多すぎるので月面開発企業に設定改変しました。
アインハンダーは月と地球が戦争を繰り広げている未来というSFな設定になっています。

■尽星重工
蒼穹紅蓮隊に登場する企業の一つ。
企業テロに対抗するため戦闘機を出動させ、裏に手回しをして自社が関わった証拠を消す様子が新聞記事という形で見られます。
一軍に匹敵しそうなテロの軍勢を戦闘機一機で壊滅したりしますがただの重工です。

■EI社
ケツイ~絆地獄たち~に登場する企業。EVAC Industry。
戦争が活発な時代に兵器開発をしていたために国連に壊滅させられるという可哀想な人達。
いやまあ密輸なんですけど。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第十一話Aパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:7e23f5b3
Date: 2008/11/21 18:22

 ここがあなたの眠る場所



 ここがあなたの終着駅です



 安らかに……安らかに……安らかに……













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テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第十一話『HEART LAND -心臓部-』前編
原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
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 無重力の支配する中、廃棄宇宙ステーションの港から内部へと降下していく。

 JUDA CENTRAL SYSTEM。

 八福星間開発公司が月面都市の行政区画として建造を行った人工衛星都市である。
 だが、月面開発競争の敗北により月面都市建造計画が頓挫。
 このセントラルも建造途中に廃棄が決定したのだ。

 だがそれはあくまで公表された記録上のこと。

 明かりも無く眠り続ける鉄骨で組まれた空間の奥から微かに感じる。
 魔力のうごめく様子が。


 アフターバーナーから魔力の火を噴かし、周囲を光で照らす。
 暗視モードに入ったカメラアイの視界の中、突入隊のメンバーが光で強く浮かび上がる。

 はやてさんは無重力空間に来るのが始めてのためか、動きがどこかぎこちない。

 私たちの後ろからはアースラの武装隊メンバーが編隊を組んでついてきている。
 彼らはこのまま入り口付近にとどまり、転送用の結界構築とステーション外殻の固定を行うことになっている。

 セントラルは月面に近い空間を漂っている。
 万が一の自爆や月面都市への特攻を考えて、アースラによる大規模結界で動きを押しとどめるのだ。

 武装隊は魔力の明かりを空間に灯し、結界構築のために散開する。
 詠唱の声は聞こえない。空気が無いため音が伝わってこないのだ。

 私たちは武装隊を背後にセントラルの内部へと進む。
 眠り続ける鉄の城塞。だが、バイザーは魔力の動きを確かに捉えた。

 皆へと念話を送る。


『小型駆動炉反応有り。ミッドチルダ製戦闘魔法機械が接近しています』


 瞬間、セントラルが蘇った。
 壁のライトに光が灯り、白線の引かれた通路を下に重力が生まれる。

 施設の奥から無数の魔力の反応が感知された。
 ミッドチルダ規格の戦闘機械だけではない。中解同の有する地方世界の駆動炉の魔力もバイザーが拾う。

 皆武装を構え陣形を維持したまま前へと進むと、機械の駆動する音が聞こえた。
 港と空間干渉結界を隔ててこの空間には空気が存在している。

 この施設は生きている。本当にただ眠っていただけなのだ。


 私の発した念話は同時送信用の指向性の無い広域タイプのもの。管理局の一般回線だ。
 逆探知されて管理局の突入が察知されたのだろう。

 このステーションの真相を知らない民間船が中に侵入しただけで施設全体を稼動していては、すぐにその存在が公になってしまう。
 施設の稼動は明らかに管理局をピンポイントで狙ったもの。ステーションの破棄が虚偽だったと知れてからの処置。
 すなわち。

「奥に進ませる気はないみたいだね」

 ナカジマ捜査官がそう言いながら飛行魔法を解き通路へと着地した。
 飛行が可能な彼女だが、魔導師ランクは陸戦AA。ローラーシューズを活かした地上での戦闘が持ち味だ。

 ナカジマ捜査官は胸の前で両手のナックル型のデバイスを打ち合わせて気合を入れ、こちらに向けて叫んだ。


「進行ルートは打ち合わせどおり! カガリさんは魔力反応を随時チェックして!」


 予定ルート。中央を真っ直ぐだ。
 このセントラル、建造中は中心部に行政用の中央演算器が置かれる予定であった。

 月面都市の全てのAIを結ぶニューロネットワークの中心となり、人が直接手を下さなければ行えないこと以外の全てを司る無人の統治者となるはずだった演算器。
 それが今置かれているかは不明だが、ミッドチルダの全てのテロ機を操るホストマシンが置かれるには相応しい場所だ。

 何も無い場合は施設の駆動炉を端からダウンさせ地上本部から部隊を呼びしらみつぶしに探査することになっているが、バイザーは確かに中央に何かがあると知らせてきている。


 ナカジマ捜査官の合図と同時に、皆一斉に前へと駆ける。
 港からセントラルへ続く通路を抜けると、そこは鋼の都市が広がっていた。

 ライトアップされた空に、多層の道路。
 宇宙ステーションというよりは人工移民衛星だ。

 建物の陰からは魔力反応が感知できる。先ほどからバイザーのセンサーにひっかかっている迎撃兵器だろう。
 そのうち、こちらに向かってきているのが四つ。


「前方から五機接近。飛行魔法機械です」


 各々が武器を構え、前へと進みながら戦闘の態勢をとる。

 アルピーノ捜査官は補助魔法を発動。ナカジマ捜査官はローラーシューズのわずか先に魔力の道を作り、空を走る。
 この走行法はウィングロードという先天性の魔法を使ったものであるとナカジマ捜査官本人が語っていた。

 空を陸にする魔法。本来は空間に長い魔力の道を構築するらしいのだが、道を作ることで他人に走行ルートを見破られてしまうためわずか先にしか道を作らないよう改良したものであるらしい。

 ナカジマ捜査官は真っ直ぐに魔法機械へと走っていき、交差するようにして一機を拳の一撃で叩き落した。

 後ろを追いかけていたヴィータさんはハンマー型のデバイスを振り上げて一機を粉砕。

 その横に体当たりをしようとしていた一機ははやてさんの放った五本の氷の槍に全身を貫かれて爆発。
 残る二機はランスター二等空尉の四発の魔力弾に駆動炉を撃ち抜かれて墜落していった。


 五機が破壊されたのは一瞬の出来事。
 だが、バイザーにかかる魔力はこれくらい軽々とこなしていかなければ先へ進めないほどの数だ。


「前方の階層、戦車と固定砲台です!」


 私のアナウンスに、ナカジマ捜査官は着地、ヴィータさんは宙に浮いたままデバイスを構える。

 ヴィータさんの左手が赤く輝き、指の間に魔力の塊が三つ生み出された。
 彼女はそれを前へと放るとデバイスを横に無いで塊を弾き飛ばした。

 三つの魔力の塊はそれぞれ別の方向へ魔力の尾を引いて飛び、わき道から頭を出そうとしていた魔法戦車を軽々と貫いた。

 何てユーモラスな攻撃だろう。
 手順は多いが物質化した魔力を撃ち出している。殺傷設定ならば威力は高いだろう。

 私の横でははやてさんとランスター二等空尉がデバイスを構え魔力弾を放っていた。
 さて、私も戦いに参加するとしよう。

 現代に蘇ったR戦闘機、カーテン・コールの機銃を最下層から飛翔してきている飛行機械へと向ける。
 セントラルの破壊を気にすることなく機銃から弾丸を連射する。

 私はランスター二等空尉のような無駄弾を撃たない美学など無い。
 胸の魔力炉は永久の魔力を供給してくれる。オーバーキルなど日常茶飯事だ。

 機銃から打ち出された弾丸が五機の飛行機械を撃ち落していく。

 機銃の威力は十分。中解同の兵器だけでなくミッドチルダ製の兵器にも通用するようだ。


 カーテン・コールの機銃は電磁投射砲レールガン。純科学の理論を用いた質量兵器が元だ。
 もちろん、私はお縄になどなりたくはないので質量弾は使わない。
 弾丸は先ほどヴィータさんも使っていたような、魔力を物質化させた擬似金属体だ。

 レールガンに用いる電磁誘導に理想的な金属を一から魔力で構築し、弾丸として撃ち出す。
 魔力で構築された弾丸であるので、非殺傷設定や訓練弾設定も付与できる。
 私の仕事はただ昔の戦闘機を復元すことではない。
 現代の技術を用いて過去より発展した戦闘機として新しく蘇らせることを一族から求められているのだ。


 突入隊全員で攻撃魔法を乱射しながらセントラルを真っ直ぐと進んで行く。
 遮蔽物が多いためか、物陰で待ち伏せを行う機械群も多い。

 私はそれをバイザーで感知できるが、他のメンバーはそうもいかない。
 装甲戦車を叩き潰していたヴィータさんの背後の地面から、砲台が急にせり出す。
 機械には生物特有の気配が無い。音も無く現れた砲台にヴィータさんは気付いていない。

 援護しなければ。だが、機銃は別の方向を射撃している最中だ。
 私は咄嗟にシップの後方に接続していた兵装ををヴィータさんを狙う砲台に向けて射出した。

 三本の制御機械に包まれた球状の超束積高魔力生命体。
 R戦闘機専用の兵装、フォースだ。

 光学チェーンのアンカーでシップと繋がれたフォースは砲台へと真っ直ぐに飛翔。
 ヴィータさんへと向けて放たれた砲弾をかき消しつつ砲台に激突する。

 高密度の魔力の塊に触れた砲台は大きな音を立てて粉々に砕け散った。

「うおっ! おお、わりぃな!」

 砲台の砲撃に驚きの顔で振り返っていたヴィータさんがこちらに向けて礼を言った。

 私はアンカーを巻いてフォースを手元に戻し、軽くヴィータさんに手をあげて次の標的を機銃で狙う。


 フォースはバイド戦役時代に『無敵の兵器』とまで言われた兵装だ。

 高密度のエネルギーで構築された生きる力の塊。
 制御機械は魔力で復元する素材で作られているため、私の胸の魔力炉と同じく半永久的に魔力を生成し続ける。
 次元兵器でも使用されない限り破壊されることが無い。

 このフォースは私の魔力炉から一部を取り出し培養したもの。
 つまり、私の手足も同然の外部器官なのだ。おそらく私以外に操れるものもいないだろう。

 本来ならフォースとシップを繋ぐアンカーが無くともフォースの操作は可能なのだが、フォースを実戦投入して日が浅いとあっていくつか作成したフォースの中から操作性を重視して今回は接続式のアンカーフォースを選んでいる。
 他のフォースを使用するのはアンカー・フォースで十分なデータが取れてからだ。

 武器であり同時にその魔力で銃弾を防ぐ盾でもあるフォース。
 これには他のシップの機銃と同様に一時魔力補助パワーアップシステムが搭載された機銃が備わっており、シップと接続し魔力をさらに注入することで三種の魔力砲撃を繰り出すことが出来る。

 カーテン・コールには今の私の持てる技術全てをつぎ込んでいる。
 中解同やミッドチルダの兵器にはそうそう負けるわけにはいかない。


 あらゆる方向から飛び出してくる魔法機械。ミッドチルダ式の最新のものもあれば、中解同戦で何度も見たものもある。
 旋回しながらレールガンを撃ち、足を止めることなく前へと進む。

 建物の陰に隠れ、誘導弾でこちらを狙ってくる戦車の砲撃を側面に展開した小型のフォースである二機のビットで防ぐ。
 本来は近接攻撃用の補助兵装であるビットの防御性能を向上させ、遠距離砲撃の防御を可能としたシールド・ビットだ。

 壊れることの無い三つの盾に守られながら、シップの腰パーツから魔動ミサイルを射出する。
 追尾性能を持った魔力弾だ。

 魔動ミサイルは障害物を迂回しこちらを狙ってきていた戦車に触れると、そのまま爆発を起こした。
 空気の振動がこちらまで伝わってくる。


 魔法機械の軍勢相手にもカーテン・コールは何ら劣っていないようだ。

 レールガン、アンカー・フォース、シールド・ビット、魔動追尾ミサイル、波動砲。
 これらの兵装をもって、私はミッドチルダの兵器達にダライアスの技術力を見せ付ける。

 レールガンを放ち、ミサイルを狙い撃ち、魔力残滓を集め強化されたフォースの機銃から黄金のレーザー、ターミネイト・γで敵機をなぎ払う。


 快進撃を続ける突入隊一同は、やがて地面にすえつけられた巨大な門を前にして立ち止まる。

 重々しく閉じられた大きなハッチ。本来ならばここをくぐりぬけて下層へと降りなければならないのだが。

「自動ドア、というわけにはいかねーっすねぇ」

 侵入者を前に都合よくハッチを開けてくれるはずが無い。

「魔法で打ち破るか?」

「そーだなー」

 ナカジマ捜査官とヴィータさんはベルカ式の魔導師らしい脳みそに筋肉が詰まった発言をする。
 だが。

「六層もあるようですよこのハッチ」

「そりゃまた厳重やなぁ」

 バイザーでの内部スキャン結果では、同じようなハッチが六つも続いているようだ。
 それだけこの下にある中央行政区画は重要な拠点だったのだろう。

「うーん、こじあけられるか解らないけど召喚してみるね。私の召喚獣はパワーだけはすごいから」

 近くに開閉レバーがあるわけもなく、結局は力技で進まなければならないのだ。

 アルピーノ捜査官はハッチの上に召喚陣を展開。
 プラント制圧時にも見た大きな機械生命が顕現する。

 アルピーノ捜査官は機械生命の内部に乗り込み、腕をハッチの隙間にねじ込もうとした。
 その瞬間、突然ハッチが重厚な音を立てて開き始めた。

「おわたたたたたたたっ!?」

 急な出来事に開いた隙間に落ちそうになるアルピーノ捜査官。
 驚いているということは彼女がこじあけたわけではないのだろう。

 本当に自動ドアだった?
 いやまさかそんなはずが……。

『おっすカガリちゃん。順調に進んでいるみたいだね』

 ハッチが半ばまで開いたところで、私の目の前に通信対話ウィンドウが開いた。
 そこに映っていたのは、アースラで待機しているはずのヤマトさんだった。

「……何やっているんですかヤマトさん」

『いやあ。武装隊が開けられない区画があるって言うんで一人で内部に侵入して中央管制室に入り込んだんだ』

「いやいやいや、何凄いことをさらっと気軽にやっているんですか」

『隠れるのが得意なのは知っているだろ』

 ウィンドウの中で嬉しそうにサムズアップをするヤマトさん。
 そんなに待機任務が嫌だったのか。

「しかしそんなところよく解りましたね」

『え、だってそこらの壁に地図が載っていたよ。ここ本来は都市なんだろ』

 何ですかその裏技は。
 私は戦いに夢中で周りの施設などまともに見ていなかったが、敵地を普通の都市と見て利用するなど何とも柔軟というか視点の違う発想だ。

「……なんというか前々から思っていましたけど、ヤマトさんって……かゆいところに手が届く便利な人ですね」

『そう褒めるなって。カガリちゃんが言うと背中が寒くなるよ』

 別に褒めたわけではなく利用しがいのある都合のいい人だと言っただけなのだが、まあいい。
 心の中で感謝しつつ先へと進むことにしよう。
 これ以上会話を続けるとはやてさんの視線が怖い。
 ただでさえこのタイミングで真っ先に私に連絡してきたせいでずっと睨まれているというのに。

「褒めてません。じゃあこっちは任務の続きがありますので」

 通信ウィンドウを閉じ、開きかけのハッチの中に身を躍らせる。
 他のメンバーも私に続いて降下していく。

「中にも敵機はいます。気をつけてください」

 言いながら少しずつ開いていく下のハッチの隙間にフォースの機銃を向ける。

 フォースに魔力を送り込み、青のレーザー、サーチ・βを発射する。
 ハッチの中に吸い込まれたレーザーはその下で屈折し、上昇してきていた魔法機械に当たる。

 だがこの魔法機械の装甲は厚いのか、破片を下にこぼしながらハッチの中から這い出てきた。
 回転しながら無差別にレーザーを射出してくる。

 それに反応したのがはやてさん。
 反射性能のある防壁を魔法機械の周りに展開しレーザーを乱反射させる。

 防壁に閉じ込められた魔法機械は、自らの放ったレーザーに貫かれ、煙を上げて落ち開きかけのハッチに激突した。

 見事な手際だ。

 はやてさんはわずかな期間だというのに魔法行使がどんどん上達している。
 魔力の高さだけでは通過できない魔導師試験も毎日の訓練を経て高ランクで合格してみせた。

 電子レンジ成功! などと言ってはしゃいでいるそんなはやてさんをヴィータさんは複雑な表情で眺めている。
 守るべき主が前線で自分と肩を並べて戦っているのだ。色々思うところがあるのだろう。


 ハッチ内の全ての魔法機械を払いのけて進攻は続く。

 六つのハッチをくぐりぬけ、下層の区画へと降り立つ。
 そこには四台の砲台がこちらに砲身を向けて待ち構えていた。

 私のアナウンスで待ち伏せを察知していたナカジマ捜査官とヴィータさんの前衛二人は区画突入と同時に前へと駆けていた。
 砲撃が開始される前に破壊される砲台。

 だが、息を付く間も無く次の魔法機械が高速で飛来してくる。
 屋内とは思えない速度でこちらに向かってくる戦闘機。
 私たちの後ろは壁だ。止まる様子も無い。自滅前途の突撃だ。

 咄嗟に回避行動を取る前衛二人。
 体当たりをかわされた戦闘機は勢いを殺すことなく壁に激突し大きな風穴をあけた。

「なりふりかまわなくなってきやがった」

 デバイスで戦車の砲弾を打ち返しカウンターで破壊しながらヴィータさんがつぶやく。

「ここが最終防衛ラインなのでしょう。感知できる魔力も上よりずっと大きいです」

 先に見える通路にも戦車や砲台が待ち構えており、ところどころ見える開いたハッチには飛行機械が収まっている。

 だがやることはただ一つ。前へと進むだけだ。

 再び陣形を整えなおし、先へと進もうとしたところでアースラから通信が入った。


『入電入電ーっ!』


 エイミィ執務官補佐だ。また通信士のような役割を任されているのか。


『アインハンダーが結界を突破してステーション内部に突入しちゃった!』


 思わずナカジマ捜査官と顔を見合わせてしまう。

「てっきり八福社側に行くと思ったのに……」

 そう言って考え込むように口元にデバイスの手を当てるナカジマ捜査官。
 ナカジマ捜査官は中解同の捜査に当たっていた捜査官の一人だ。八福社とセレーネの関係も知っているのだろう。

「私はこちらに来ると思っていましたよ」

「ふむ、根拠は」

「勘です」

 勘というよりも希望か。
 企業テロを解決する前にギンガさんとは何らかの決着を付けたかったのだ。

 今後管理局の捜査官や執務官が彼女を捕まえることはあっても、戦場で相対出来るのはこれが最後の機会となる。

「目的はおそらくいつもと同じ中解同打破でしょうね。中枢制圧まで無視、もしくは協力。良いですか?」

 ナカジマ捜査官が通信ウィンドウに向けて確認を取る。
 それに対し、エイミィ執務官補佐ではなくハラオウン提督がウィンドウに出て応じた。

『ええ、そうしましょう。どう話をつけるかはそちらに任せるわ』

 目的達成まで協力しておいて終わったら捕縛というのもちょっとあれだが、ギンガさんもこのタイミングで突入してくるということは私たちの戦力を利用するつもりなのだろう。

 方針は決まった。
 気を取り直して任務へと戻る。前方では敵機が編隊を完了しこちらへと向かってきていた。

 二つの建造物を結ぶ陸橋の上には戦車が並び、陸橋の下からは装甲ヘリが姿を現す。

 ランスター二等空尉の先制弾を皮切りに前衛二人、そして召喚機人に乗り込んだアルピーノ捜査官が突撃していく。

 私はフォースのレーザーを集中攻撃型のシェード・αに切り替え、装甲の厚い空中機から撃ち落とす。
 橙色に輝く一筋の光線が羽虫を叩き落すように飛行機械をなぎ払っていく。
 補助はヴィータさんの後ろについているはやてさん任せだ。


 戦車の群れを駆逐したところで中型の人型機が姿を現した。
 厚い装甲。強固な魔法障壁。バイザーが高魔力出力の駆動炉に警戒するようアラームを鳴り響かせている。

「気をつけてください、AAクラスの傀儡兵です!」

 質量ミサイルの飛び交う中、全員へ呼びかける。
 あの防御を貫くには相当の大魔法が必要だ。

 この先にもこの人型機と同様の魔力反応がいくつかある。
 じり貧にならないためにも魔力は温存しなければならない。

 ならば、魔力の消耗がない私があれを相手すべきだ。

 ナカジマ捜査官の一撃を軽々と障壁ではじいている人型機に向けて、胸の装甲に備え付けられた波動砲ユニットを構える。

「主砲を撃ちます。チャージまで耐えてください!」

 ナカジマ捜査官へ声を投げかけ、武装の展開を開始する。
 肩に繋がったシップの装甲が変形し、胸の波動砲ユニットの前で合わる。装甲は前へと伸び戦車の大砲のごとく前へと突き出した。

 波動砲は小型の戦闘機が戦艦級の砲撃能力を得るために、バイド戦役時代に作り出された破壊兵器だ。

 前へと向けた装甲は砲身ではない。これは力場発生装置。
 波動エネルギーを機体前方の相対座標空間の力場へと蓄積、力場を解放することで集積したエネルギーを敵へと放出するのだ。

 今カーテン・コールに装着されている波動砲はスタンダードタイプと呼ばれているもの。
 波動砲の運用試験もかねて、癖の無い標準型を搭載しているのだ。

 だが、スタンダードといえどもこのタイプの波動エネルギー蓄積量限界点の四段階までチャージを行えば、Sランクの集束魔法に匹敵する威力となる。
 波動砲は私に今まで不足していた瞬間火力を補ってくれる強力な武器なのだ。

 波動エネルギーのチャージが二段階――二ループまで完了。
 あの巨大な装甲を破壊するには三ループは必要だろう。

 胸の魔力炉からシップ、そして波動砲ユニットへと魔力が流れていく。
 前方の空間に青白い光が集まる。三段階までチャージが終わった。

「行きます、避けてください」

 防盾魔法で人型機の機関砲を弾いていたナカジマ捜査官が、私の念話の合図とともにシューズのローラーを逆回転させ後方に逃れる。

 射線からナカジマ捜査官が逃れたのを確認し、波動エネルギーで満たされた力場を解放する。

 瞬間、視界が白い光で埋まった。

 私の身の丈の数十倍ほどもあるエネルギーの塊が、空間を引き裂きながら前へ前へと突き進む。

 砲撃は人型機の障壁を一瞬で吹き飛ばし、表面の装甲を破砕し、胴体に風穴を開けた。
 機関砲を構えていた右腕は千切れ、駆動炉からは魔力の光が漏れ出ている。

 波動砲の前には強固な守りも何の障害にもならなかった。
 R戦闘機は高ランクの魔法兵器にも通用する。
 そう心の中で握り拳を作った瞬間のこと。

「クイント!」

 ナカジマ捜査官を押しのけるようにして現れたアルピーノ捜査官を乗せた召喚機人。
 そして、それに向かって突進する半壊した人型機。

 人型機は装甲を撒き散らし崩壊を続けながらも最後の一撃とばかりに身をかがめて加速する。

 そうだ、ここは最終防衛ライン。
 いずれの機体も周囲の損壊を気にすることなく捨て身で攻撃してきてもおかしくないのだ。

 人型機はアルピーノ捜査官の機人に激突し、駆動炉を崩壊させ自爆した。
 爆炎が二人を包む。

「――っ!」

 その一部始終を見ていたはやてさんが言葉にならない叫びをあげた。

 二人とも回避も防壁魔法の展開もしていなかった。
 私はバイザーのモードを切り替え、急いで立ち上る煙の中へ突っ込んだ。

 治まらない火を煙ごとアフターバーナーの魔力噴射で吹き飛ばし、瓦礫の中から二人を探し出す。
 アルピーノ捜査官の機人は砕け散っており、召喚の効果が切れたのか姿が薄れ消え去ろうとしていた。

 バイザーに人型の熱源が映る。見つけた。
 魔力を繰り瓦礫に埋まったアルピーノ捜査官を掘り起こす。

 アルピーノ捜査官は全身から血を流しぴくりとも動かない。

 ナカジマ捜査官は何とか無事だったのか、壊れたデバイスの腕で瓦礫を押しのけ自力で這い出してきた。

「はやてさん! 急いで治療を!」

 背後へと振り返り、半ば放心状態にあったはやてさんに声と念話を叩きつける。
 アルピーノ捜査官は重症。早急な処置が必要だ。

 右半身は瓦礫で潰れ、全身に火傷が広がっている。バリアジャケットなど欠片も残っていない。
 押しのけた瓦礫の所々に皮膚や肉片がこびりついている。

 私の声でかけつけたはやてさん。
 だが、アルピーノ捜査官の姿を見て一瞬で青い顔になり身体を硬直させた。

 時間が無い。私は治療魔法など使えないのだ。
 これ以上はやてさんに頼るのを放棄する。

「リインフォースさん、治療魔法を」

 はやてさんが動けないならばそのサポート役の人に頑張ってもらうしかない。

『了解しました。延命処置を優先します。エミュレート開始』

 はやてさんの左手に抱えられた魔導書が独りでに開き水色の魔力光を放つと、私の前で横たわるアルピーノ捜査官の身体を魔力の膜が覆った。
 バイザーでアルピーノ捜査官の身体をスキャン。心肺機能に異常はない。

 こちらはリインフォースさんに任せても大丈夫だろう。

 もう一人の負傷者であるナカジマ捜査官の方を見る。
 頭から流れる血を砕けたデバイスから露出した左手で押さえている。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫、と言いたいところだけど無理そうだ。これ以上は足手まといにしかならない」

 見たところ、右腕を骨折、右の肋骨も二本折れている。
 バリアジャケットはパージ状態。デバイスのナックルは両腕とも全損している。

 ナカジマ捜査官は頭から血を流しながらアースラとの通信を開始した。

「二名戦闘続行不可のため撤退。転送をお願いします」

『医療班を転送室に配備中です。完了しだい転送開始します』

 簡素なやりとりだ。だがナカジマ捜査官の息は荒く、それを見るエイミィ執務官補佐は悲痛な表情をしている。

『それと、アインハンダーが十五秒後にそちらに到着します』

 その言葉に、身体スキャンに切り替えていたバイザーを魔力探知に戻す。

 高速で飛来する登録済み魔力。
 私は敵機への警戒を続けるランスター二等空尉とヴィータさんへと念話を送る。


「アインハンダーが来ます。誤射しないよう気をつけてください」


 程無くして、黒い機体のアインハンダーが私たちの進んできた方向からアフターバーナーの火を噴きながら現れた。
 こちらを視界に収めると速度を落とし通路へと降下してくる。

 ギンガさんはヘルメットの目線を負傷者二人へと向ける。
 そしてヘルメットの奥から小さな声でこちらにつぶやいた。

「……手伝う」

「ああ、頼むよ。私の代わりにこの子らを助けてやって欲しい」

 ギンガさんの声に答えたのはナカジマ捜査官。
 ギンガさんは、自分が目の前に居るナカジマ捜査官のクローン体だということを知っているのだろうか。

 ナカジマ捜査官の方は淡々とした対応だ。
 まるで普通の民間協力者に話すかのよう。
 ギンガさんに警戒心をもたせないようにセレーネや機人について触れるつもりはないのだろう。

『準備完了しました! 十秒後に転送します!』

 通信ウィンドウからエイミィ執務官補佐のカウントが始まる。
 それを受けてナカジマ捜査官はギンガさんから視線をはずす。

「ランスターさん! 後は任せます!」

「げっ!」

 ナカジマ捜査官は魔法機械を長距離砲撃で撃ち落していたランスター二等空尉へと声を投げかけ、それを聞いたランスター二等空尉は渋面になった。
 指揮の類が嫌いなのか。
 だが、ここに残るのは彼以外、嘱託魔導師に新米二人、そして外部勢力だ。

 ランスター二等空尉の返答を待たずに、ナカジマ捜査官とアルピーノ捜査官は光と共にこの空間から消えた。

 仕方が無いといった表情でランスター二等空尉は手で前進の合図をこちらへ送ると、飛行魔法で宙に浮く。

 私もアフターバーナーから軽く魔力の火を吹かしわずかに浮くと、ギンガさんの方へと顔を向けた。

「行きましょう。また共闘です」

「待って」

 加速しようとしたところで呼び止められる。

「何でしょうか?」

「あなたの名前。聞いていない」

 ああ、そうか。
 彼女の呼称は教えてもらったが、私の名前は一度も言っていなかった。

「カガリ。カガリ・ダライアスです」

「うん、知ってる。カガリ、よろしくお願いします」

 ぺこりと腰を折って礼をしてくるギンガさん。

「あ、はい。これはご丁寧に」

 反射的に礼を返してしまった。
 私の名前はミッドチルダ限定で有名なので知ってはいたのだろう。
 だとすると、これは名前を交換する儀式だ。

 アリサさん達が言っていた友達は名前で呼び合うものだという言葉を思い出す。
 二人の立場を考えると、友達というよりはよくて戦友といったところだろうが。

「カガリ、急げ!」

 おおっとヴィータさんに怒られてしまった。
 ギンガさんに頭を下げたままアフターバーナーから推進魔力を放出して加速し、ランスター二等空尉の横に並ぶ。


 ほどなくして魔法機械が襲い掛かってくる。
 アースラと話している最中に狙われなかったのは、ランスター二等空尉が長距離狙撃で全て撃ち落していたからだ。

 エリート武装局員として若くしてこの場に居るだけはある。
 私の年齢からすると頼れる兄貴分といったところだろうか。


 残る近接担当はヴィータさん一人。
 アインハンダーも加わった遠距離砲撃手三人で敵を近寄らせること無く捌いていく。

 ギンガさんは巨大な左手と小さな右手の両手で長い砲身を構え狙い打っている。
 もう私に隠す必要も無く最初から全力だ。

 小型機を一掃した前方から、先ほどの中型の人型機と同型の機体がこちらに近づいてきた。
 その後方にはさらに二機の同型機が居る。

「くそ、いきなりきつくなってきたな。幸先悪ぃ」

 ランスター二等空尉は悪態を付きながら赤い銃身からカートリッジの薬莢を排出する。
 前のプラント制圧戦ではカートリッジシステムはついていなかったが、ここに来るまでの間に改造が施されていたようだ。

 一気に高まるランスター二等空尉の魔力。
 まだ数百メートルも先に居る人型機に向けて特大の魔力弾を連射した。

 人型機の動きが止まり宙に縫い付けられる。わずかながら捕縛魔法も付与されていたようだ。

 動きが止まっている隙にと、はやてさんが魔法の詠唱に入る。

 私も波動砲のチャージに入ろうとしたところで、再び通信が入った。

 今度は何だ。
 通信元は……アースラではない。地上の部隊、オーリス姉さんからだ。
 向こうは八福社への強制捜査中のはず。このタイミングでの通信は何か緊急事態でも起きているのだろうか。

 通信ウィンドウを開き、念のため他のメンバーとアースラにも回線をまわす。

「何ですか、こちらは戦闘中です」

『こっちも戦闘中です!』

 いきなり叫ばれた。
 何だ一体。戦闘中?

 敬語で話すオーリス姉さんの様子に嫌な予感が膨れ上がる。

『八福社にテロ機が続々と集まってきています。彼ら、八福のビルごと管理局を潰すつもりみたいです』

 セントラルの機能を止められる前に最後の特攻に来たか。

 確かにセントラルに侵入していることは地上の中解同にも伝わっていることだろう。
 八福社を文字通りに潰して地方世界に繋がる証拠を少しでも多く消す狙いもあるのかもしれない。

 オーリス姉さんは咳払い一つつき、再びこちらに視線を真っ直ぐ向けてくる。

『早急にセントラルを制圧してくれ。施設丸ごと破壊してしまっても構わない』

「……エイミィ執務官補佐、戦艦の砲撃でセントラルの破壊は可能ですか?」

『援護任務だから危険すぎる主砲は積んできてないんだよねー。頑張れカガリちゃん』

 面倒なことになってしまった。どうするべきか。
 このまま敵機をいなしながら進んでいては早急な制圧は無理だろう。

 カメラアイの視界で全員を眺める。

 ランスター二等空尉は通信ウィンドウに目を向け考え込みながら人型機に捕縛魔法を発射。器用だ。

 ヴィータさんはあふれ出て来る小型機に魔法の鉄球を撃ちこみ続け、ギンガさんは一人関係ないとばかりに破壊した機体から武器を回収している。

 そして、詠唱を終え大魔法を待機状態にしたはやてさんが、真っ直ぐと私を見た。


「さっきはかっこ悪いところ見せたからなあ……」


 右手に持った杖を胸の前で強く握った。


「あたしなぁ、戦う魔法使いになってからずっと言ってみたかったことがあるんや」


 言葉を止め、息を大きく吸い。


「カガリちゃん! ここはあたし達に任せて先に行きぃっ!」


 はやてさんの周りに黒い魔力光があふれる。長期戦になると温存していた魔力を一気に高めたのだ。
 待機状態にある魔法の魔力がさらに膨れ上がった。

「そうだな、それが一番だな。だろう、ティーダのあんちゃん」

 ヴィータさんもそれに応じ、カートリッジをロードし薬莢を宙に排出する。

「……ああ、最速で任務を完了するにはそれしかないだろう。アインハンダー、カガリについていってやってくれ」

「ん……」

 ギンガさんはランスター二等空尉の言葉に小さく頷く。

 選んだ作戦は、敵機を無視し私とギンガさんの二人で中枢へ突破。
 何度目になるだろう、二人だけでの共同戦線だ。

「そうと決まったら前を掃除や! 行くで!」

 待機していた魔法が解き放たれ、闇色の集束魔法が人型機へと突き刺さる。

 集束魔法の下を潜り抜けるように巨大化したデバイスを構えたヴィータさんが前へと突進する。

 ランスター二等空尉はさらにカートリッジをロードし、進む道を作るように結界魔法を構築した。

 出し惜しみすることの無い三人の全力。
 最高の援護を受けて私は加速を開始する。一瞬で集束魔法を受け装甲を撒き散らす人型機を越え、その後ろに待機していた二機を一瞬で通過する。

 アインハンダーも私の速度に追いすがろうとアフターバーナーを全力で吹かし飛翔する。
 追い越した戦車や戦闘機の砲撃はこちらにかすることはない。

 奇妙な魔力の待つ中心部まであと少しだ。



――――――
あとがき:STGにおける要塞突入で、閉じたハッチが勝手に開くのはご都合主義なのでとりあえずご都合主義キャラを使って開けてみました。


用語解説
■利用しがいのある都合のいい人
ナデポニコポに惑わされなければ、最強主人公を見る味方の感情なんてこんなものです。


SHOOTING TIPS
■JUDA CENTRAL SYSTEM
レイストームより七面ステージ。地球に反旗を翻したセシリア連合のニューロネットワークの中心。
ここを破壊されるとセシリア連合側の惑星・衛星環境は崩壊してこの星域の人類は死滅します。大切なものは分けて保管しようねという教訓。

■侵入者を前に都合よくハッチを開けてくれるはずが無い。
STGでは都合よく開けてくれます。閉じている場合は軽く射撃すれば自機が通れるだけのスペースができます。
ご都合主義ですがハッチが開く演出はたいてい格好良いのでそこで思考停止しておきましょう。深く気にしてはいけません。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第十一話Bパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:7e23f5b3
Date: 2008/11/26 01:10

 ギンガさんを引き連れてセントラルの中を駆ける。

 高速飛行のため知覚機構に加圧処理しょりおちをかけ、音速を超える敵機の弾丸を視界に捕らえ最小の動きで回避していく。

 この世界で謂う所である人の限界を超えた視界の中、思考の片隅でふと考える。



 私は今、世界のために戦っている。
 私個人の動機や立場、建前などには関係なく、企業テロを無くすということはこの世界に平和をもたらすということになるらしい。

 幼い頃。自治区で教育を受けていた頃の私には、世界というものが存在しなかった。

 自治区は故郷ではないと教えられ、本星はすでに滅びていると教えられた。
 では私はどこの人間なのか。

 地に足が着いていない不安定な状態で、私はただ上の人間の言葉に従うだけのつまらない子供になっていた。

 そして、ミッドチルダへの移住。
 世界というものがもっと解らなくなった。

 私は人ではない。
 口ではそう言いつつも周りと自分は違うのだということを思い知らされ、心の奥底では暗い感情が渦巻いていた。

 救いだったのは、ミッドチルダに来て初めて友人というものを得られたことだ。
 私は人ではない。そんなことなどお構い無しに接してくれる人たち。

 私の中で、初めて“自分の周り”という極めてパーソナルなレベルでの世界が、そのとき初めて出来上がった。

 そんな世界を私は守りたい。今の“私”という意志は小さな世界の上に立っている。
 親しい人。慕ってくれる人。慕う人。

 そんな小さな世界は、人の中で生きている限り誰もが持っているもの。
 時空管理局で戦うということは、私の知らないたくさんの小さな世界を守るということ。

 私の世界にいない人のことなど、本心からどうでも良いと思っている。
 思っているが、知らない誰かを守れるということはきっと素敵なことなのだろう。



 アンカー・フォースを飛ばし進路を塞ぐ小型機を吹き飛ばし、三ループチャージした波動砲で中型機を破壊して進む。

 そして、思考の終わりを待つことなく、セントラルの中心へとたどり着いた。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第十一話『HEART LAND -心臓部-』後編
原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 目の前に円い穴が開いている。

 ハッチも何もない穴。

 その奥からは、セントラルに入ってからずっと感じ続けていた奇妙な魔力が伝わってくる。

「この先にスパルタカスがある」

 一拍遅れて私の元へたどり着いたギンガさんが、穴を前にしてそう言った。

「スパルタカス?」

 二人でゆっくりと穴の中へと機体を進めながら私は聞き返す。

 穴の中は、球状にくりぬかれた広間だった。
 壁一面に機械がびっしりと敷き詰められている。
 いずれも演算器。ここが中解同の中心地なのか。

 広間を見渡す私に、ギンガさんが言葉を続ける。

「中央の主軸演算器。そしてそれを取り囲む十六基の量子演算機構。この施設最後の防衛ライン。ユダサブシステム・スパルタカス」

 サブシステム。この部屋が中枢ではなかったのか。
 確かにバイザーの解析結果は部屋の底に居座る巨大な機械の奥にさらに空間があることを告げている。

「お詳しいですねギンガさん」

 私の言葉に、彼女は沈黙を返してくる。
 まあそうだろう。セレーネの人に教えてもらいました、何て素直に言うはずがない。

「ま、八福社に忍ばせた産業スパイからの情報ってところですか」

 ギンガさんは無言のまま。
 だが、ぴくりと身体を一瞬震わせたのを確かに見た。
 バイザーでヘルメットの奥を見てみると、渋い顔。

 年齢相応にポーカーフェイスが出来ない子供か。

「兵士としては一流でも工作員としては三流ですねぇギンガさん」

「うるさい、それよりスパルタカスを潰す」

 ヘルメットの奥でくちびるを尖らせて、ギンガさんは武器を構えて広間の底へ降下して行った。

 スパルタカスか。
 演算器に埋め尽くされた広間の中でも特に大きな十六基の演算器。
 球状の壁に沿うように、放射状に並んだ十六の機械の柱のその中心に塔が立っていた。

 先端には“頭”としか表現できない球状の機械の塊。底には八つの機械の“脚”がすえつけられている。
 これがギンガさんの言う主軸演算器か。

 厚い装甲に守られているのは最終防衛機構であるが故だろう。
 だが、この様相は物凄い見覚えがある。

「タコみたいですね」

「え、タ、タコ? 私は花に見えるけど……」

 同意してもらえなかった。

「丸いのがおしべ、広がっている装甲が花弁ですか。また見た目どおりな女の子の発想ですね」

「君も女の子……」

「うるさいです、それよりスパルタカスを潰す」

 そんな冗談を言い合っている間に、タコとも花とも見える機械、スパルタカスはその胴体に備えた四基の対空砲台の砲身を回転させ、こちらを狙い定めようとする。
 私たち二人は示し合わせたかのように同時にアフターバーナーから火を噴いてその場を離れる。

 無駄話はこれで終わり。
 戦闘開始だ。

 私は先制攻撃とばかりに、この広間に立ち入ってからずっとチャージしてあった波動エネルギーを解放する。

 小型の戦艦程度なら障壁を貫ける規模の四ループ砲撃。
 広間を白い光で埋め尽くしながら真っ直ぐにスパルタカスの根元に激突する。

 高密度のエネルギーが二基の砲台を吹き飛ばす。
 勢いは止まらずさらに本体を削ろうとするが、魔法障壁と装甲の前に押しとどめられ、装甲に傷をつけることなく波動エネルギーは光となって霧散した。

 硬い。強力な魔力障壁だ。

 バイザーから感知できるスパルタカスの魔力から考えると、波動砲が防がれるのは想定外だ。
 何かがある。

 魔力量だけでなく魔力の流れを見ようとバイザーを切り替えると、その光景に思わず驚いた。


 球状の広間。その壁一面の演算器全ての魔力ラインが、中央のスパルタカスの“頭”に集結していた。

 スパルタカスとは目の前の巨大な機体のみを指すのではない。
 この空間全てがスパルタカスなのだ。

 今の私たちは、まさに敵の腹の中に居るのだ。

 幸い周囲の演算器に武装は備え付けられていない。
 無数の駆動炉を持つ高魔力の巨大固定砲台と考えればいいだろう。
 少なくとも中央演算器には自走機能は搭載されていない。


「ギンガさん! こいつの弱点は解りますか!」


 残った二基の対空砲の砲撃を宙返りして回避していたギンガさんへと呼びかける。

 都合よく弱点などあるかは解らないが、広間全ての演算器を破壊している暇はない。
 戦いは最速で。そのために私ははやてさんたちを後へと置いてきたのだ。


「……ここ!」


 ギンガさんの返答は行動で示された。

 以前私から逃げ去ったときに使った物と同型の攻性魔力力場発生装置ブレード。それをアインハンダーの巨大な左腕で構え、スパルタカスの“頭”の付け根へと突進したのだ。

 刃状に発生した魔力力場が魔力障壁へと触れる。
 この出力では防がれるはずなのだが、力場は魔力障壁へと確かに突き刺さった。

 ギンガさんが刃を付きたてたのは、演算器から“頭”へと集結する魔力ライン全てが交わる場所。
 スパルタカスの魔力障壁は装甲の表面に密着するように構築されたものだ。魔力力学的な欠陥があって障壁が薄くなっているのだろう。

 障壁を突き抜けた刃は装甲を侵食しようと伸びるが、その前にスパルタカスの下方の装甲が突如開いた。
 装甲の中には銃口。一瞬でその銃口に膨大な魔力が集まる。

「避けて!」

 私の声に咄嗟にギンガさんがその場を離れる。
 次の瞬間、四発の魔力弾が銃口から撃ち出された。

 曲線を描いて飛ぶ魔力弾。計四発。
 ギンガさんの装甲をかすめたそれは、さらに強く曲がり弧を描く。

 誘導魔力弾。

 私の戦闘経験が直感となりある未来の予測を立てる。
 このままではギンガさんはあれを避けられない。

 ふと思い出す。アインハンダーは装甲の薄い機体だ。

 墜落し血を流したかつてのギンガさんの姿が脳裏をかすめる。

 身体が自然と動く。
 カーテン・コールを最大まで加速させギンガさんの前へ。

 左右から迫る二発の誘導弾にビットの位置を合わせる。
 正面から迫る誘導弾の射線にはフォースを配置。
 上から迫る誘導弾には……盾がもう無い。魔力障壁を一点に集め、擬似的な防盾魔法とする。

 一瞬の出来事だ。
 魔力弾は全ての盾の前に消え去った。

 そして、カーテン・コールに搭載されたカメラアイが私に庇われたギンガさんの姿を見る。
 この攻防での驚きは無い。すでに次の行動へと移っている。

 右手に携えた長い銃砲。それを私の装甲の隙間からスパルタカスへと突き出し、引き金を引いた。
 砲撃はギンガさんを狙った魔力弾の銃口の一つへと向かい、丸裸になった装甲の中身へと突き刺さる。

 魔力障壁に守られていないその銃口に魔力をまとった質量弾が喰らいつく。

 爆炎を噴き上げて崩壊する銃口。
 だが、相手は演算器。
 一切ひるむことなく、反撃とばかりにさらに別の位置の装甲を開く。

 一瞬の間をおいて装甲の中から金属の塊が多数射出された。
 吐き出された塊の総数はわずか一秒で百にまで及んだ。

 咄嗟に塊の解析を行う。
 機雷だ。

 こちらの逃げ場を塞ぐかのように全方位に向けて放たれている。

 私はフォースを機体に繋げ、黄のターミネイト・γレーザーで前方の空間をなぎ払った。
 こちらに届くことなく起爆する機雷の群れ。

 さらにレールガンでこちらに向かう撃ち漏らしの機雷を破壊する。
 機雷による被害はなし。
 一拍をおいて広間中にばら撒かれた機雷が次々と爆発する。

 その爆発は、広間の壁を埋め尽くす演算器をも巻き込んでいった。

 スパルタカスへと向かう魔力のラインがわずかに減った。
 自爆だ。この広間はほぼ密室。こんな場所で射撃や爆撃を行うとどこかに損害が行くのは当たり前だ。

「放っておいたら勝手に自滅してくれませんかね。いや、時間は無いのですけど」

「ここは最終防衛ライン。侵入者と刺し違えても先には進ませないという設計思想。待つと死ぬ」

 速度を持ってたどり着いた私たちと違い、本来ならば道中の迎撃機を相手にして疲弊したところでこのスパルタカスを相手にすることになるのだろう。
 あの数を相手にして最後の最後で自爆前途の攻撃を受けるなどたまったものではない。

 しかし、今の私たちにはまだ余裕がある。
 そしてギンガさんは相手の情報を知っている。戦況は有利だ。

「ギンガさん。先ほどの一撃をもう一度撃ちます。それまでこちらへの攻撃の妨害に徹してください」

 言いながら波動砲のチャージの準備に入る。機体が変形し、その装甲全てが波動砲を生み出すユニットとなる。

「ん」

 短い返答。だがそれが肯定の意思なのは解る。

 最初の一撃で破壊したはずの砲台は、すでに新しい砲台へとすえかえられていた。
 壊れやすい代わりに演算器の内部にストックがあるのだろう。

 次々と撃ち出されるスパルタカスの砲撃。
 装甲を開いての誘導魔力弾も止まることは無い。

 私はそれをただひたすらに回避、回避、回避。
 広間を縦横無尽に飛び回り、ビットとフォースで避けられない弾を防ぐ。

 一段階完了。

 ギンガさんは右手の銃砲で砲台に向けて砲弾を乱射する。
 動きながらの荒い攻撃だが、その場を動かない門番であるスパルタカスはその全ての攻撃に晒される。
 三つの砲台が破壊され、紫電と爆炎を撒き散らす。

 二段階完了。

 武器を奪われたスパルタカスは、装甲の中からまた新たな機械の塊を吐き出した。
 今度は機雷ではない。とげのような複数の銃口が生えた球状の機械。
 そのとげの先端に魔力の光が灯ると、全方位に向けて魔力線を放射した。
 機械から離れた位置にいた私は距離を取り難なく避ける。近くで魔力線を撃たれたギンガさんは魔力の雨の隙間をぬって危なげなく回避した。
 一撃も当たることが無かった魔力線は壁の演算器を破壊していった。

 三段階完了。

 銃砲が弾切れを起こしたのか、ギンガさんは左腕の砲身をおもむろに投げ捨てた。
 残りは右腕のブレード。彼女はブレードをリーチの長い左腕に持ち替え、右手の先の機銃から魔力弾を撃ちながらスパルタカスへ肉薄する。
 動きはヒットアンドアウェイ。魔力障壁に守られていない砲台を斬りつけ、すぐさま離れる。
 自然と砲撃と誘導魔力弾はギンガさんを狙うようになるが、相手の手の内を把握したギンガさんは自然な飛行でそれらを避ける。

 チャージ完了。準備は整った。

 ギンガさんの位置を確認。
 砲撃を避け上空に大きく逃げている。問題は無い。

「行きます!」

 狙うのはギンガさんがブレードで切りつけた“頭”の根元。

 限界まで破壊で満たされた前方空間の力場。その全てを解放する。
 目の前に光が生まれた。

 対象を破壊するためだけの暴力の光。力は指向性を与えられ、光は一瞬で加速。
 ただただ強大な一撃が眼下に佇む演算器に向けて襲い掛かった。

 まばたきをする間も無く波動砲はスパルタカスの魔力障壁へと激突する。
 一点の薄い障壁は一瞬で蒸発し、ほころびを見せた障壁は亀裂が拡がるようにして崩壊していく。

 障壁を飲み込んだ力は真下の装甲を容易く砕き、装甲の中へと突き進む。
 スパルタカスの体内へと侵入した光は思う存分内部を喰いつくし、より強い光となって爆発した。

 貫かれた“頭”の首は半ばから折れ曲がり、内部を徹底的に破壊されたスパルタカスは土台である“脚”をも崩壊させ、下へ下へと崩れていく。

 ゆっくりと沈んでいく演算器の巨体。

 そしてついには、自ら守る門である下層への穴へと落ち、自らの飽和した魔力で爆発を起こした。
 機械の破片が広間へと飛び散る。
 私はカーテン・コールの機体を元の形に戻しながら、じっとその様子を見つめていた。





 スパルタカスが守っていた場所。
 下へと続く縦穴の中へと身を躍らせる。

 この先に私の破壊すべき中枢がある。それを破壊すれば、この仕事も終わりだ。

「まあ最終防衛ラインを突破したわけですし、もう荒事はないでしょう」

 その後にはギンガさんを捕まえるという大捕物が待っているが、今は考えないでおこう。アースラの結界という滑り止めがあるわけだし。

「本当にそう思う?」

 ふとつぶやいた私の言葉に、ギンガさんが疑問の声をあげた。

「この魔力を感じて、本当にそう思う?」

 セントラルに入って以来感じている不吉な魔力。
 明らかにこの先にあるものが発しているものだ。

 スパルタカスが最終防衛ラインであった以上、この先にあるものは迎撃能力を持たない。この魔力もミッドチルダ中のテロ機を操るために使われているだけなのではないか。

 だが、本能がそれは違うと告げているのは確かだ。
 この魔力は人を害するためにある力。人を殺すための魔法機械の持つ魔力を何十倍にも凝縮したような、そんな気配。

「ギンガさんはこの奥にあるものがどういうものかは知っているのですか?」

「何も解らない」

 私の疑問に、ギンガさんははっきりとそう答えた。

「この世界の機械を操っているものが存在しているということ以外は全て不明。ただ、存在すると推測されているもののコードネームのみが確認されている」

「コードネーム、ですか」

「ユダメインシステム・世界樹ユグドラシル

 世界の中心にある大樹、か。
 何となくだけれど、八福社が何をしたかったのかが少し理解できた気がした。


 長い縦穴を抜け、大きく開けた空間に出る。
 違和感。今居る場所に何かズレのようなものを感じる。

 シップに周囲をスキャンさせると、位相空間に異常が感知された。
 私たちはいつの間にか亜空間に立ち入っていた。

 この手の亜空間は、狭い部屋に大きなものを収納したいときになどスペースの拡張に使われるものだ。
 空間の先を見る。
 そこには、ただただ巨大な機械の塊が浮かんでいた。

 放射状に広がり、中心に向けて屈折した八本の装甲の“脚”。
 その“脚”の根元には球状の装甲に包まれた機械が納まっている。
 バイザーで内部を見る。この球体こそが、高密度の演算器だ。これがこの世界のテロ機を全てを統べる王なのだろうか。

 装甲に包まれた球体は四方から展開した緑色に輝く障壁魔法で守られている。

 球体と八方へと拡がる節足動物の“脚”のような装甲。その姿を何かに例えるなら、これこそが機械の花だった。

 世界樹を名乗る花を前に、私はカーテン・コールを再び戦闘形態へと移行させる。
 ユグドラシルの装甲には、明らかに攻撃用の武装が搭載されていた。

 あの中央の演算器を破壊するには、まず四つの障壁魔法の発生装置を先に破壊しなければならない。

 フォースの機銃を赤のシェード・αに切り替え球体の四方に置かれた装置の一つへと向ける。
 その瞬間、どこからともなく、甲高い叫び声が聞こえた。


『――――』


 頭の奥に響いてくるような、甲高い音。
 人の声ではない。聞き覚えがある音、これはイルカの鳴き声?


『――――』


 頭の奥で反射する声。思わず集中が乱れそうになるが、歯を強く噛み締め機銃を撃つ。

 赤い一陣の光がフォースから生み出され、ユグドラシルに向けて走る。
 だが、それを防ぐかのようにユグドラシルから小型の飛行機械が射出され、シェード・αの前に散った。

 次々と射出される小型機。こちらを狙ってレーザーとミサイルを放ってくる。
 私は機銃を止めることなくそれらを回避する。


 目まぐるしく動くカメラアイの視界の中、ブレードから刃を伸ばし小型機へと突撃するギンガさんの姿が見えた。


『――――』


 ギンガさんは小型機を真っ二つに切り裂き、右腕を機体に差し込んでミサイルポッドを奪い取った。
 武器の補充か。確かに銃砲は既に弾切れで失っている。
 ミサイルポッドを得たギンガさんは距離を取り、残りの小型機を誘導ミサイルで撃ち落していく。

 私はレーザーとレールガンで障壁発生装置を一基ずつ確実に破壊していった。


 その間もイルカの声は止まない。
 頭に響く甲高い声。
 ただの鳴き声はやがて、確かな意思が混じるようになる。



 ここがあなたの眠る場所。This is where you shall sleep.



 突如、脳に埋め込まれたチップが警告を発してくる。

 精神体への侵入をオートブロック。今の声は、精神攻撃だ。



 ここがあなたの終着駅です。This is the tarminal.



 チップの性能で防御可能なレベルの侵攻。だが、それでも十分に強力。
 カメラアイに映るギンガさんの方に意識を向けると、防御が出来なかったのか頭を大きく揺らして宙を漂っていた。

 揺らいだ意識を無理やり叩き起こすように、私は出力全開で念話をギンガさんへと叩きつける。


「心への攻撃です! 精神防壁魔法を使ってください!」

「……あ」


 私の念話に、ギンガさんは意識を取り戻す。
 ヘルメットの頭を左右に振ってから私へと念話を返してくる。


「ごめん、助かった」


 ギンガさんの周囲に魔力の光が輝く。精神防壁を張ったのだろう。



 安らかに……。Relax...

 安らかに……。Relax...

 安らかに……。Relax...

 安らかに……。Relax...



 再度心への攻撃が来る。
 今度はギンガさんも意識を保っているようで、私と同様障壁発生装置へとミサイルを撃ち込む。

 四基の装置が全て破壊され、緑の障壁魔法が掻き消える。
 後は中心の球体を破壊するだけ。

 だが、ユグドラシルはまるで戦闘形態を取るかのように変形を開始し始めた。

 閉じていた“脚”の花弁が開き、真っ直ぐに突き出す。
 レーザーの射出口と思わしき砲門が露出する。

 花からまるでヒトデのように四方へと“脚”を向けたユグドラシルは、私たち二人の攻撃を受けながらも反撃へと移行する。

 四本の“脚”から赤いレーザーが撃ちだされる。
 こちらに接近することもなかったそのレーザー。次の瞬間、レーザーの射出口が回転しまるでサーチライトのように四方八方へと動き回る。

 空間をなぎ払っていくサーチライトレーザー。
 私とギンガさんはユグドラシルの周囲を飛び回ってそれを避けていく。

 スパルタカスとの連戦のためか、ギンガさんの動きには少しだが疲労が見えた。
 先ほどギンガさんへ盾を任せた私はまだ余裕がある。

 自分がフォローせねば、と気合を入れてフォースをユグドラシルに向けて投げつける。

 アンカーを率いて飛翔したフォースはレーザーの射出口の一つに当たり、その鋭利な三本の制御機械を牙のように動かして攻撃を開始した。

 フォースの高密度エネルギーの前に射出口は溶解するようにして崩壊する。


 次の射出口へと向けてアンカーを操作しようとした時だ。ユグドラシルの装甲の一部が開き、中から再び小型機が飛び出した。

 戦闘機のようだった先ほどの小型機とは違い、今度は立方体の装甲を持つ機体。
 小型機は両側面に付いた攻性魔力力場発生装置ブレードから翼のように刃を伸ばし、回転しながらこちらに向けて突撃を開始した。

 急いでフォースを手元へと戻す。

 その間にもレールガンを放つが、ブレードの前に全て防がれる。
 小型機が迫る。

 咄嗟にフォースのレーザーをサーチ・βに切り替え、レーザーの屈折で小型機の中心を撃ちぬく。

 その間にも別の小型機がこちらへと迫ってきていた。

 回避行動を取るがわずかの差で間に合わず、魔力障壁を斬りつけられる。
 私は接近戦が苦手だ。魔力障壁を犠牲にしながら、小型機から距離を取り近づかれる前に屈折レーザーで一機ずつ撃ち落していく。

 視界の端に映るギンガさんは、私とは違いブレードをアインハンダーの左腕に構え、小型機と斬り結んでいる。
 小型機を切り裂き、左手のブレードを捨てるとより出力の高い小型機のブレードへと持ち替えた。


 小型機を全て墜落させられたユグドラシルは、次の攻撃へと移る。

 露出した射出口に魔力の光が集まる。
 蓄積された魔力は強く光り輝き、甲高い音を立てて二発の魔力弾が撃ち出された。

 スパルタカスの放ったものと同じ誘導魔力弾だ。

 私とギンガさんそれぞれを狙う魔力弾。わずかに遅れるようにしてさらに二発発射。

 私はそれをビットで防ぎ、ギンガさんはブレードの魔力で正面から切り捨てた。
 防御の間もギンガさんはミサイルを放ち、私はレーザーとレールガンを機体へと向けて撃ち込む。

 装甲は抉れ機体の内部が露出する。

 ユグドラシルの障壁は薄い。
 やはり最終防衛ラインはあくまでスパルタカスだったのだ。
 このユグドラシルの抗戦も自らを守るための最後の抵抗だろう。

 伸びきっていたユグドラシルの花弁が、また元の形に閉じようと変形する。
 ユグドラシル全体を満たしていた禍々しい魔力が、中心の眼球にも似た球体へと集まっていく。

 余計な機体を切り捨ててコアだけで戦うつもりか。

 ユグドラシルは球体の中央、目の焦点をこちらに向けてくる。
 私はそれに正面から立ち向かうように、波動砲のチャージを開始した。

 球体の側面に付いた銃口、そこから無数の魔力戦が放出された。

 避ける隙間も無い嵐のような魔力の群れがこちらへと襲い掛かってくる。


 感覚の加圧を上げるひどいしょりおちがおきる

 加速した知覚の中、波動砲のユニットをユグドラシルへと向けたまま魔力の嵐を避け続ける。
 進路を塞ぐ密度の高い一帯ではビットとフォースが身を守ってくれた。

 視界の中で動くギンガさんはミサイルポッドを盾にしてこの攻撃を凌いでいる。

 やがて魔力線の雨は止み、今度は球体の根元にあるハッチが開く。
 中から質量兵器の弾薬が空間にばら撒かれ、炸裂して弾頭が四方へと飛ぶ。

 その最中、ユグドラシルの中心の球体にさらに魔力が集まっていった。
 この一連の魔力の動きは、一年前に感じたことがある。

 大規模集束魔法。
 スターライトブレイカーのそれに似ていた。


「ギンガさん気をつけて!」


 私が叫んだときには、既にユグドラシルは蓄積した魔力を解き放っていた。


 紫色に輝く魔力の奔流が空気を切り裂く轟音をあげながら亜空間を満たす。
 Sランクをはるかに超える魔力値の一撃。フォースと魔力障壁で防ぎきれるものではない。

 最速で回避行動を取る。
 だが、真っ直ぐ飛ぶかと思われた集束魔法は半ばでゆるやかな曲線を描いて曲がり、こちらへと追いすがろうとする。
 このままでは当たる。
 回避の方向を修正。
 ユグドラシルの方へと向けて飛び出す。

 カーテン・コールのわずか後を集束魔法が過ぎていく。
 空間を伝わった衝撃がアフターバーナーの火を逆流させ、飛行が乱れ機体が傾く。
 急速に回る視界の中、ふとギンガさんの姿が見えた。

 私と同じように集束魔法に晒されたギンガさんは、ぎりぎりで触れてしまったのか装甲の表面を砕けさせながら真下へと落ちていく。

 悲鳴を上げて落ちるギンガさん。

 私は逆流に軋みをあげるアフターバーナーを無理やり動かし、ギンガさんの元へと急いで向かった。

 どこが下とも解らない亜空間の中落ちていくギンガさんの下に潜り込み、魔力障壁の性質を変化させてアインハンダーの機体を受け止める。

 ギンガさんはいつのまにかヘルメットが破損し、幼い素顔が半分露出していた。

 魔力障壁の中に機体を招きいれ、腰の装甲を伸ばしてアインハンダーを固定する。
 ギンガさんの目は焦点が合っていない。衝撃に一時的に意識が飛んでいるのか。

 ユグドラシルの方向から機械の駆動音が聞こえる。
 私はギンガさんに向けていた意識をユグドラシルの方へと切り替えなおす。

 ユグドラシルは球体の装甲を開いて、魔力残滓を排出している最中だった。


「この!」


 私はチャージし続けていた波動エネルギーの力場をユグドラシルへと向ける。
 狙うのは、今開いている装甲の隙間だ。


「いい加減に沈みなさい!」


 感情を叩きつけるように波動砲を発射する。
 敵の集束魔法にも見劣りしない最大チャージの一撃。

 青白く輝く光の塊は、ユグドラシルの中心へと真っ直ぐに突き刺さった。

 押しつぶされていく装甲。私は追撃とばかりにレールガンとレーザーを撃ち付ける。
 いつの間にか意識を取り戻していたギンガさんも、左腕のミサイルポッドを構えて射撃を開始していた。

 ユグドラシルの装甲は砕け内部から崩壊し、小刻みな爆発を起こすようになる。

 爆発はやがて機体全体に広がり、ついには駆動炉が崩壊したのか一際大きな爆発を起こして機体が砕け散った。

 ユグドラシルの崩壊に合わせるようにして、空間を満たしていた亜空間構築の魔法が掻き消え背景がはがれるように崩れ落ちていく。


 私はその様子を隣に抱えるギンガさんと二人で眺めていた。

 終わった。

 セントラルに入ってから感じていた魔力は跡形も無く消え去っている。
 ギンガさんの言葉が正しいのなら、地上のテロ機もこれで止まるだろう。

 さて、ギンガさんをどうしたものだろう。
 確かに今彼女を捕まえてはいるのだが、別に無力化などはしていない。

 おかしな動きを見せたらすぐに逃げられてしまうだろう。
 速度では私が上だしセントラルはアースラ

 そんなことに一人頭を悩ませギンガさんの幼い顔を覗き込んでいたときの事だった。


『HYPERIONヨリ入電』


 ギンガさんのヘルメットの隙間。
 以前も聞いたヒュペリオンからの通信音声が聞こえてきた。

 突然のことに、私もギンガさんも面を食らった顔をしてしまう。


『貴官ノ壮挙ニヨッテ

 我ガ社ノ脅威ハ取リ除カレタ』


 シップの集音機能を最大まで高め、さらにアースラへも音声データを中継して送る。

 我が社。セレーネのことか。
 やはりアインハンダーの背後には企業が居るのだ。


『マタ貴官ノ戦闘記録ヲ元ニシ

 最新鋭戦闘機Astraea MK.IIノ

 戦闘データモ完成デキタ』


 アストライアーマークツー?
 そういえば、ギンガさんの機体の装甲にはAs.01とミッドチルダ語で書かれている。

 ギンガさんの乗る黒いアインハンダー。その後続機が存在するということだ。
 だが、なぜそれをこの場で報告してくるのだろう、ヒュペリオンは。


『ソノ功績ニヨリ

 名誉ナコトニ

 貴官ハAstraea MK.II最終テストノ

 標的トシテ選抜サレタ

 オメデトウ

 ナオ、死後ニハ

 二階級特進ノ上

 シリウス勲章ガ授与サレルデアロウ

 ミッドチルダニ栄光アレ

 世界ニ慈悲アレ』


 ……なんだ、この通信は。
 最終テスト? 死後?

 詳しく聞き出そうとギンガさんの顔を覗き込む。


「あ、ああ……スバル、スバル……」


 青ざめた顔で、ギンガさんは何かをぶつぶつと呟いていた。


「どうしたんですか、標的って何なんですか!」


 私は装甲から腕をはがし、ギンガさんの肩を揺さぶった。
 ギンガさんの視点は私を見ていない。


「スバルが……妹が……助けるために戦っていたのに……、MK.IIはスバルだから……あああああ!」


 駄目だ。混乱していて言葉になっていない。
 軽く訓練弾でも当てて正気を取り戻してもらおうと手のひらのコネクタをギンガさんへと向ける。


『カガリちゃん大変大変大変!』


 手のひらに魔力を集中したところで、目の前に通信ウィンドウが開いた。
 映るのはエイミィ執務官補佐。
 今度は何事だろうか。


『いきなり無人機の軍勢が来て結界を破って……アインハンダーがセントラルの中に侵入した!』

「アインハンダーなら目の前にいますが……そうか、二機目ですか」


 繋がった。
 ギンガさんの言う妹、スバル。
 その子が新しいアインハンダーであり、最終テストとしてギンガさんを狙いに来ているのか。

 ギンガさんは以前言った。妹を救いたいだけだと。
 彼女の思う救いとは全く違う事態が、今起きている。


『WARNING!! WARNING!!』


 高速で飛来する未知の魔力。
 ギンガさんを狙う新しいアインハンダーであろう。

 させない。ギンガさんを殺させはしない。


 機銃を非殺傷設定へと切り替え。アンカー・フォースを胸元へ構え迎撃の態勢を整える。


 上空から魔力が近づいてくる。
 この速度だと十秒後に姿を現す。

 ……見えた! 赤いアインハンダーだ。

 こちらに銃を構え、機体の周りにはミッドチルダ式の魔法が待機状態にあった。

 私はそれを目視した瞬間、非殺傷設定のレールガンを撃ち込む。
 だが赤いアインハンダーは待ち伏せの一撃をわずかに身をずらしただけで避け、機体にまとっていた待機魔法を発動した。

 バイザーが一瞬で魔法の性質を解析。空間干渉の魔力。転移魔法だ!

 魔法の内容を解析し終わった瞬間、急にカーテン・コールの機体が軽くなる。
 先ほどから捕らえていたギンガさんの機体が急に離れたのだ。

 カメラアイに意識を向けると、ギンガさんの姿は無い。

 時を同じくして、赤いアインハンダーの姿も消え去っていた。

 さらわれた。
 私の目の前でギンガさんは赤いアインハンダーにいずこかへと連れ去られたのだった。



――――――
あとがき:最後の入電シーンのためだけにA.C.E.を書きました。


SHOOTING TIPS
■スパルタカス
レイストームより七面ボス、JUDA SUB SYSTEM Spartacus。半密閉空間でのカミカゼアタックを得意とする鬼畜兵器。
カガリとギンガのタコと花の一連のやり取りは作者の実体験だとかなんとか。

■ユグドラシル
レイストームより八面、JUDA MAIN SYSTEM Yggdrasil。この機体には裏設定とかがいろいろあるらしいですけどごっそりと無視。
ユグドラシルとの戦闘曲はSTGのラスボス戦の曲の中でも屈指の出来です。これを聴くためだけにプレイすることも。
サントラを買えばいいとかそういう話ではありません。STGの曲はプレイしながら聴くのが良いのです。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第十二話-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/12/05 08:02

『HYPERIONヨリ入電』


 星の瞬きが見える。
 どこかも解らない宇宙空間。

 私は無限とも思える時間をここで漂っていた。
 無数に襲いかかってくるセレーネのEOSむじんき
 何故私が未だに撃ち落とされていないのかが不思議だった。

 精神が研ぎ澄まされ、既に時間の感覚がなくなっている。


『貴官ハ重大ナル

 反逆行為ヲ犯シテイル』


 私をモニターにするなどと言っていたヒュペリオンの通信も、スバルを狙わずEOSを破壊し続けた私を完全に敵と見なしてしまったようだ。


 私がスバルと戦えるはずなどない。
 スバルをこんな先に死しか待っていない地獄へと向かわせないよう、私はこれまでずっと戦ってきたのだ。


『直チニ武装ヲ解除シ

 投降セヨ』


 投降など誰がするものか。

 スバルに武器を向ける気はない。
 だが、セレーネ。お前達は私が死ぬまで徹底的に壊し殺しつくしてやる。


『繰リ返ス

 貴官ハ……』


 EOSから奪ったミサイルポッドを構える。
 飛行魔法を唱えEOSの銃弾をかわす。

 私は一人死ぬまで戦い続けるのだ。


 ……ふと、いつか私と一緒に戦った魔動少女の顔が頭に思い浮かんだ。
 私とは正反対の正義の道に生きる戦友カガリ・ダライアス。

 彼女ははたして、私が死んだら悲しんでくれるのだろうか。












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第十二話『アインハンダー』
原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 私たちが地上に戻ってすぐ。八福社の強制捜査に並行して、セレーネへも捜査の手が入れられた。

 捕まった八福社の幹部は、まるでセレーネを道連れにするかのようにセレーネと戦闘機人の資料を管理局へと提示した。
 ギンガさんが中解同について詳しく知っていたのと同じように、八福社もアインハンダーについて独自の情報を得ていたのだ。

 ミットチルダに潜む闇は底が知れない。
 どこまでが表でどこからが裏なのか、たまに解らなくなる。


 セレーネへの捜査開始から三日。
 かつての戦闘機人事件で姿を消した違法機人の実験と運用を行っていたことが判明。

 その戦闘機人のうちの二体が、時空管理局員クイント・ナカジマの遺伝情報を元にした培養機人であるとの資料が発見された。
 ギンガさんとその妹のことであろう。

 ミッドチルダにおいて培養された生命体に姉妹という概念があるのかどうかは解らない。
 だが、二人は管理局が戦闘機人の捜査を行った二年より前の時点で一緒に教育を施されていたようだった。


 そしてヒュペリオン。
 セレーネ内の独立課であり、企業テロに対抗するための魔法機械を作っていた研究組織だ。

 ヒュペリオンが戦闘機人を開発したわけではない。
 ギンガさん達は二年前に魔法機械の搭乗者、商品としてセレーネに売られたらしい。
 何故セレーネに売られたのかは、以前オーリス姉さんが言っていた中央技術開発局としての繋がりだったのだろう。


 昨日に行われた研究所への強制捜査の時点で、すでにヒュペリオンはもぬけの殻。
 セレーネ上層部には直接ヒュペリオンに指示を与える権限がない、とは逮捕されたセレーネ幹部の証言だ。

 ミッドチルダには嘘を見破る魔法、真実を語らせる魔法、心を読む魔法などいくらでもあるので証言の信憑性は高い。

 つまりギンガさんはセレーネに狙われたのではない。
 セレーネを見限ったヒュペリオンによって連れ去られたのだ。

 新しい情報は次々と私たちの元へと入ってくる。
 セントラルでの戦闘を終えた私は、オーリス姉さんと二人で捜査官から入ってくる情報をまとめているのだ。

 私はいつでも出撃できるようにとパイロットスーツに着替え、バイザーを使ってデータの整理を行っていた。
 次々と入ってくる捜査情報。だが、ヒュペリオンに関する情報は入ってこない。

 言葉では言い表せない感情がお腹の奥に溜まっていく感じがした。

「姉さん、まだギンガさんは見つからないんですか……」

「落ち着け。捕まえたセレーネのやつらにヒュペリオンについて吐かせているところだ」

 それが一向に進展しないから、こんなに鬱屈としているのだ。

「……だって、連れ去られてからもう三日なんですよ!」

 捜査の上ではたったの三日。だが、殺されようとしている人を相手に考えると長い三日間だ。

 生存は絶望的。

 そう考えたとたん、お腹の底が熱くなり涙がこみ上げてきた。

「死んじゃいます、このままじゃギンガさん殺されちゃいますよぉ……」

「だからといってお前が焦って何が出来る。もっと私達、時空管理局を信じなさい」

 もどかしい。私が時空管理局で出来るのは、犯罪者を武力で押さえつけることと、簡単な情報の解析のみ。
 捜査は専門外。中解同のテロが治まった今、私に出来るのは待つことだけだ。

 ギンガさんは私の目の前で消えた。
 セレーネに戻ったわけではない。
 兵器のテストに使うためだけに彼女を連れていかれた。私の目の前でだ。


 私たちの前に姿を現した赤いアインハンダー。
 あのとき取り乱したギンガさんの様子から推測すると、あれに乗っていたのはギンガさんの妹、彼女と一緒に育ったもう一人の戦闘機人ということになる。

 ギンガさんは言っていた。自分は妹を救いたいだけだと。

 自分と同じような戦いの場へ妹を連れてきたくなかったのだろうか。
 中解同を滅ぼせば、もう戦いは無くなる。そう信じて戦ってきたのだろうか。

 だが今はヒュペリオンはセレーネの元にはいない。
 戦闘機人はこの中心世界において、貴重な兵器であり商品だ。
 企業の対立は時空管理局の介入という形で終わった以上セレーネにおいて戦闘機人の価値はなく、次の市場を求めてヒュペリオンはセレーネを脱した。そう私とオーリス姉さんは推測している。

 今ヒュペリオンの行方を突き止め止めなければ、また世界の影に紛れて見えなくなってしまう。

 だがそんなことはどうでもよく、私はギンガさんを助けたい。
 情が移った、と言ってしまえばそこまでだが、共に戦った戦友を兵器の試用などという理由で失いたくはない。

 気は沈むばかりだ。
 だが私がどうこう思ったところで事態は何も変わらない。


「世の中どうしようもないことはいくらでもある。私のような魔導師ではない人間はいつもそんなことばかりだよ」


 全くフォローになっていないオーリス姉さんの言葉を聞きながら、私は待ち続ける。


 捜査官から入ってくる八福社とセレーネの捜査資料を黙々と整理していたとき、アースラからの通信が入った。

 アースラはセントラル内の捜査と周辺空間の転移痕の捜索を担当している。
 報告書ではなくわざわざ直接通信をしてくるということは、何か進展があったのだろうか。

『カガリちゃんカガリちゃんカガリちゃん!』

 エイミィ執務官補佐だ。
 相変わらず妙なテンションだが、一目で何かがあったというのが解るのはありがたい。

「どうしましたエイミィさん!」

 ああ、私のテンションもおかしい。

『アインハンダーの行方が解ったよ!』

 アインハンダーの行方が解った。ギンガさんの行方が解った。
 言葉を理解した途端、首の後ろが熱くなり舌がからからに乾いた。

 落ち着け、私。明らかに今の私は普段の私とは違う。

 思わず咳き込んでしまった私に、オーリス姉さんが背中をさすってくれた。

『え、えっと、報告いいですか?』

「ああ、構いませんよ」

 私の代わりにオーリス姉さんが応えた。
 私は咳き込んで涙が浮かんだバイザーの視界で、エイミィ執務官補佐の映る通信ウィンドウを見る。

 嘱託魔導師の私とは違いオーリス・ゲイズ二尉の前とあって、エイミィ執務官補佐は佇まいを直し真面目な声で報告を始めた。

『セントラル周辺空間を探索中、亜空間の発生を感知しました。内部空間を調べたところ、所属不明の魔法機械が戦闘を行っています』

 エイミィ執務官補佐の映るウィンドウの横に、新しく空間投射ウィンドウが開く。
 それに映るのは歪んだ星の光。宇宙に構築された亜空間だ。

『戦闘を行っているのはアインハンダーと、セントラル付近に出現した魔法機械群……セントラル周辺に亜空間を構築して中距離転送したものと思われます』

「まだ戦闘は続いているんですか!」

 亜空間のウィンドウの中、小さな爆発が瞬いた。戦闘が行われている。
 ギンガさんは三日間も一人戦い続けていたというのだろうか。

『空間座標は全て算出済みで内部の観測もこのように可能……なんですが』

 言いながら、エイミィ執務官補佐が手元のパネルを操作する。
 亜空間のウィンドウにグラフデータが表示された。空間の歪みを表す二次元グラフだ。

『この亜空間、二十六次元空間は今不安定な状態で、戦艦ではとても突入出来ません。空間干渉で虚数空間が発生してしまう可能性が非常に高いです』

 この宙域に立ち寄らせないため、ヒュペリオンが不安定な空間に閉じこもっているということか。

 そもそもこうやって管理局に発見されるのも想定外だったのかもしれない。
 三日間。三日間もギンガさんはここで生き延び続けたのだ。

「戦艦が無理となると魔導師隊が生身で突入ということですか」

『む、無理ですよ。こんな不安定な空間、デバイス程度の演算能力では渡れません』

 次元世界間の移動は魔法が無ければ行えない。
 だが、同一次元世界内の亜空間の渡航は次元世界理論は適用されない。純粋な物理科学の領域。
 世界を書き換える力ではなく、世界を知る知恵をもって初めて踏み込める領域だ。

 すなわち。

「エイミィ執務官補佐。その空間のデータを全て私にください。私なら、単独で二十六次元を越えられます」

 純科学の極点に達したダライアスの技術ならば、その領域に手が届く。

『単独って……』

「オーリス姉さん、いえ、ゲイズ二尉。出撃の許可をください」

 私の言葉に、姉さんは強く眉をひそめた。

「それは私に死んでこいと言えということか」

「いいえ。前から言っているでしょう。ダライアスの戦闘機は、単独任務の生還にこそ真価を発揮すると」

 認められなければ、無断飛行で亜空間を突破するのも辞さない覚悟だ。
 私の今までの功績を考えれば、懲罰はダライアス一族までは及ばないだろう。

 私はオーリス姉さんの目を真っ直ぐと見つめる。

 にらみ合うこと数秒。やがて姉さんはため息一つに言葉をこぼした。

「解った、許可する」

『え、えー!?』

 エイミィ執務官補佐驚きすぎです。

「責任は私が取る。死んでこい」

「だから死にませんって」

 言いながら席を立つ。

「エイミィ執務官補佐、座標データの転送お願いします」

『……いえすまむー』

 急ごう。
 今は一分一秒も惜しいのだ。












 ミッドチルダの地上から指定座標の宙域まで、五分とかからず到着する。

 ダライアスの戦闘機は、とうの昔に宇宙時代を経た存在だ。戦闘を行わない直線移動ならば、天体系間の移動も容易。
 加速と慣性制御が合致すれば一瞬で大気圏突破可能な速度まで到達出来る。

 この速度こそ、ミッドチルダの魔導師とダライアスの戦闘機の最大の違い。
 地上本部最速と呼ばれるのも当然のこと。皆は生身で私は機械を用いているのだ。

 バイザーで周囲を探知する。亜空間の発生を一瞬で感知。
 何故三日前、転移先を追おうと周辺空間を調べなかったのか、今更になって悔やまれる。

 シップの演算を開始。アースラから受け取ったデータを元に、異層次元の扉をこじ開ける。

 視界が歪む。宇宙の星の瞬きはそのままに、自分の存在がだんだんとずれていく。
 長い年月を経て、再びR戦闘機が二十六次元の世界を跳躍する。


 一瞬の暗転、そして、視界が開けた。
 世界は未だに歪んだまま。だが、その先に宙を飛び交う機械の姿が見えた。

 目に映ったのは、黒い機体……アインハンダーだ!

 アインハンダーの周囲には鋼色の戦闘機が三機飛び回っている。

 アインハンダーを駆るギンガさんはヘルメットがなく素顔がむき出しで、その表情は苦しげ。

 次の瞬間、赤い戦闘機がギンガさんの後ろから強襲してきた。
 私は咄嗟に赤い戦闘機へフォースを抱えた機体で体当たりする。

 戦闘機はフォースの魔力の前に四散する。
 機動力の割には薄い装甲だ。

 唐突な私の登場に驚愕の表情を浮かべるギンガさん。
 私はそんな彼女をつかみ取り機体を引っ張ってその場を離脱する。

 慣性制御の障壁に身を包み、こちらを追おうとする魔法機械では到達不可能な速度で飛び続ける。
 戦闘機の姿が消えたところで宙をただよう中型機の残骸の影に身を隠した。

 ギンガさんは未だに呆けたまま。
 私はその頬を指先で軽く叩いて気付けをする。
 うん、柔らかい。さすが幼児。

「え、あ、ど、どうして……」

 私の魔力障壁の中。空気がありこの二十六次元空間の中でも声が伝わってくる。

「助けに来たに決まってるじゃないですか」

「え……」

 私の言葉にまた呆けた表情に戻るギンガさん。
 その表情はやがて変わっていき。

「助けに、来てくれたの……」

 顔を歪めて涙を流し始めた。
 その表情は、もはや戦闘者のものではなく、年齢相応の幼子のものだった。

「お願い……妹が、スバルが……助けて……」

「ええ、助けますよ。ですから、まずは落ち着いて」

 そう私は言いながら、ギンガさんの首筋に注射剤を打った。
 私が出撃する間際に医療班が渡してくれた、戦闘機人にも効果のある栄養剤。
 セレーネから戦闘機人に関するデータは全て押収してあり、ギンガさんの現状を知った医療班は即座にこれを仕上げてくれたのだ。
 鎮静作用もあるのか、ギンガさんの表情がゆるむ。

「妹さんを非殺傷で撃ち落として貴女の前につれてくれば良いでしょうか?」

 我ながら物騒な案だ。
 だが、あの赤いアインハンダーがこちらに敵対している以上力業は必要になってくるだろう。

「……私を襲ってきたスバルは、あの子に出来るような動きをしていなかった。多分操られている。止めるだけじゃ、駄目」

「操られているというと……傀儡の魔法ですかね?」

「この空間にある無人機、EOSはヒュペリオンの管制下にあるはず。だから、妹も機械的な操作でヒュペリオンに操られているのかも」

 ああ、そうか。彼女たちは戦闘機人なのだ。
 機械と親和性の高い身体。つまり、機械からの影響を強く受ける。

 ギンガさんが正気を保っていると言うことは彼女にはそれが埋め込まれていないのだろう。

「ヒュペリオン、ですか。貴女が所属していた組織の名前ですね」

「違う、セレーネは何も解ってはいない。ヒュペリオンなんて組織はどこにも存在しないの」

 ヒュペリオンは存在しない?
 どういうことだ。セレーネは確かにヒュペリオンを抱えていると言った。

「あるのは、人を越えた人工知能とそれに従う技術者達だけ。ヒュペリオンは武装衛星機の名前なの」

「……ああ、神の機械とその盲信者ですか。よく聞く話です」

 ダライアスの歴史を紐解くと、そんな事例はいくらでもあふれ出てくる。
 人はいつの時代も神を自らの手で作り出すのだ。

「ヒュペリオンは、今この空間のどこかに居るの。私では、壊せなかった」

「そいつを破壊すれば貴女達は解放されるというわけですね。」

 もしギンガさんの妹がヒュペリオンに操られているとしたら。破壊することで光が見えるかもしれない。

「解りました。私はそのEOSとヒュペリオンを相手します。貴女はこれで……」

 両肩のシップの装甲を開く。
 装甲の中からそれぞれ一丁ずつ銃身が飛び出した。

「これで妹さんを止めてきてください」

 重力制御を用いて装甲の中から銃を取りだし、ギンガさんの前へと掲げる。

「非殺傷設定が可能なレールガン、フラッシュです。貴女のアインハンダーがあれば、きっと使いこなせます」

 ガンポッド規格に変えたR戦闘機用機銃魔動レールガン、フラッシュ。
 内部にカートリッジシステムを参考にした小型魔力槽を搭載しており、その威力はR戦闘機のレールガンの比ではない。
 すぐにギンガさんの元へ向かえたら共闘するつもりで三日前に作成したのだ。

 ここにくるまでこんなに長い時間がかかるとは思っていなかったが、幸いアインハンダーは損壊も少なくまだ戦える。
 ギンガさんは妹を救いたいと言っていた。ならば、妹さんを止めるのは彼女に任せるのが一番良いのだろう。

「ただし、無理はしないでください。三日間、ずっと戦い続けていたのでしょう」

「大丈夫、スバルは……スバルは私が助けてみせる」

「そうですね。私は手助けするだけ。余計な無人機やヒュペリオンは私に任せて、妹さんを救ってあげてください」

 ギンガさんが無事な様子が見れたからか、私の頭も少しずつ冷えてきていた。
 そうだ。妹を救うというのはギンガさんがずっと望んできていたことだ。

 成し遂げたい強い望みがあるなら、私はそれを押しのけず、後ろから背中を押してあげよう。












 二十六次元の空間を駆ける。

 空間内の無人機をシップで捜索。その全てが、ギンガさんの方へと向かっている。

 彼女の邪魔をさせるわけにはいかない。

 アフターバーナーの火を噴かし、高速で無人機の群れへと接近する。

 カーテン・コールの前方に抱えるフォースはニードル・フォース。
 とげのように球状のフォースから付きだした制御棒。
 太古の近接武器、モーニングスターを連想させられる姿だ。

 無人機の群れの中にフォースを射出。
 それだけの動作で二機の無人機がニードルの装甲とフォースの魔力を前に、装甲に大きな風穴を開けた。

 そのまま遠隔操作でフォースの機銃を起動。
 フォースは回転しながら全方位に向けてレールガンを撃ち出した。

 次々と沈んでいく無人機。
 ギンガさんへと向かおうとしていた無人機達は、船首をこちらへと向けて標的を変更する。

 その中でも特に素早い赤の無人機が一機飛び出した。
 先端に紫電が走る砲塔をこちらへ向けている。
 ガンポッド規格の武装ライオット。

 砲塔の射線から逃れるため機体を横に傾ける。
 次の瞬間、カーテン・コールの魔力障壁すれすれを雷撃が通過した。

 私はフォースに機体へ戻るよう指示、さらにカーテン・コールのレールガンを赤い無人機へと向けて撃ち込む。
 正面の弾丸、後方からはフォースの突撃。挟み撃ちになった無人機は見事に砕け散った。


 無人機の設計思想はアインハンダーと同じ。すなわち、性能は高いが装甲は脆い。

 ならば、機動力で私を上回らない以上、私が負ける道理がない。
 英雄の世界、その戦闘機の力を見せるときだ。

 手元に戻ったフォースからレーザーを放つ。
 三方向へのレーザーを交互に放ち、計六発を撃ち出す青の3WAY反射レーザー。

 フォースは基本的に三つのレーザーのバリエーションを備えており、赤、青、黄で分類されている。

 フォースから雨のように次々と青色の光が飛び出していき、高速で移動する私へ追いすがろうとする無人機を貫いていく。


 この程度なのか、ヒュペリオンの戦闘機は。ギンガさんを犠牲にして得た技術は。

 無人機で私に勝ちたいならば人に匹敵するAIを連れてこい。この程度の鉄屑では力不足だ。


『WARNING!! WARNING!!』


 無人機を相手に暴れ回る私に、強力な魔力反応が近づいてくる。

 この亜空間内でAA以上の魔力を持つ存在は四つだけ。私、ギンガさん、赤いアインハンダー、そしてもう一つ。
 今近づいてきているこの強大な魔力は、ギンガさんが武装衛星と呼んでいたヒュペリオンだろう。

 来るのなら迎撃してみせよう。
 フォースのレーザーで周囲の無人機を全てなぎ倒し、魔力反応の元へと向かう。

 歪んだ視界に大型機が映る。

 人型機の胴体に甲虫の羽を腕に付けたような異形の戦艦。
 これがヒュペリオンなのか。

 その装甲は、すでに表面がえぐれ銃弾が内部にめり込んだ痕がついている。
 ギンガさんはこれと戦ったのだろう。

 大型機へ機銃を向ける私に念話が届く。



『HYPERIONヨリ入電

 直チニ武装ヲ解除シ

 投降セヨ

 繰リ返ス

 直チニ武装ヲ解除シ

 投降セヨ』



 どうやらこれがヒュペリオンで間違いがないらしい。
 投降しろなど、勿論従う気など毛頭無い。

 ヒュペリオンが行動を開始する前に、フォースのレーザーを赤に切り替え、波形レーザーを放った。
 赤青二色の光線が、紙の上で波形のグラフを描くようにして空間を切り裂く。

 見た目は大人しいが威力は十分備えた二発のレーザー。
 ヒュペリオンの魔力障壁へと衝突し火花を散らす。

 私の攻撃に念話を止めたヒュペリオンは、その巨体に似合わない機敏な動きで私の背後を取ろうと跳ね上がった。

 弧を描いて移動するその軌道に、小さな魔法機械が配置されているのが見えた。
 バイザーの解析によると、EI社の魔力ビーム発生装置ビットと規格が合致。

 咄嗟に銃口をヒュペリオンからビットへと向け、レールガンで狙いを付けて一機ずつ撃ち落としていく。
 小さな爆発と共にビットが破壊される。
 音はない。何もない亜空間の中では音を伝えるすべはない。

 撃ち漏らしたビットは、一斉に私の方を向き魔力で構成されたビームを放ってくる。
 十を超える数撃ち出されたビットはわずか三機までに減っており、十分に回避の予測がつく。

 ビームをわずか横にずれて回避し、魔動ミサイルで残ったビットを破壊する。

 ヒュペリオンは既に背後。
 右後方のアフターバーナー片方を噴かせて瞬時に旋回する。

 歪んだ空間が視界の端で流れていく。
 ミッドチルダの月の側に発生した亜空間。

 星の光と水面に映ったようにゆらめく月と青い地上の姿が交互に見えた。

 風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸に。

 なのはさんの魔法詠唱だっただろうか。
 私は今まさに天の領域を駆けている。

 不屈の心を抱える胸の魔力炉から輝く光を腕に届け、さらにシップへと伝える。
 光は銃弾とレーザーへと変わり、ヒュペリオンの魔力障壁を削り装甲をえぐっていく。

 対するヒュペリオンは、装甲を大きく変形させ巨大な魔力の槍を前方へと掲げた。

 危険。
 危険だ、避けろ。

 直感のまま情報へと大きく離脱した次の瞬間、付きだした装甲が前方へと射出され先ほどまで私のいた空間を貫いていた。
 大型機の大質量に任せた装甲のアンカーショット。

 飛び出した装甲を追うようにヒュペリオンも同じ軌跡で前へと突進した。
 魔力の大きさと装甲の厚さだけで見ると、私はヒュペリオンにはとてもかなわない。
 だが、その程度の差でダライアスの戦闘機が負けるわけにはいかない。

 すでにヒュペリオンの装甲強度と障壁構成は解析し終わった。波動砲のチャージを開始する。

 イメージするのは戦艦の主砲。そして巨大な城塞を破壊する巨大な一撃。
 そう、一撃だ。大型のヒュペリオン全てを貫く力を波動エネルギーとしてチャージする。

 機銃の攻撃を止めた私と同じく、ヒュペリオンも攻撃の手を休め前方へ魔法陣を展開した。
 バイザーでの解析。術式、古代ベルカ。広域砲撃魔法。

 術式のチャージは一瞬。青白い魔力の光が真っ直ぐ私に向けて飛んでくる。

 魔力値はSランクを超える。防御は不可能。

 最速の動きをもって回避を行う。
 足を止められなければ、機械兵器と比べて動作の大きい大魔法は避けるのは困難ではない。

 回避行動の最中にも、波動エネルギーのチャージは続く。

 カーテン・コールの装甲は変形し、波動砲を撃ち出す突撃形態へと変わっている。

 必要なのは一撃。全てを貫く一撃だ。
 極限まで圧縮された波動エネルギーは物質化され、一本の杭となる。

 準備は整った。今の私は巨大なエネルギーの塊。
 先ほどの広域砲撃魔法をはるかに上回る魔力の塊。

 一撃を放つため、ただ真っ直ぐにヒュペリオンへと向かう。
 チャージし続けてあふれたエネルギーが星の光に混ざって黒い空間を彩る。

 ヒュペリオンは再度ビットを私へと向けて放つ。
 だがそれも無視。ビットの隙間を抜け、ヒュペリオンの眼前へと迫る。

 位置は頂点。ヒュペリオンの全てを打ち抜くため。

 限界まで蓄積したエネルギー。
 その全てを今解放する。

 解放されたエネルギーは空間を揺るがし、音のない空間に轟音を響かせた。

 巨大な魔力の杭がカーテン・コールからただ真っ直ぐに飛び出す。魔力の杭はヒュペリオンの魔力障壁を一瞬で蒸発させ、紙のように装甲を貫き、内部を食らいつくし、衝撃を伴って突き抜けた。
 カーテン・コールのわずか倍の長さの杭は、戦艦にも匹敵する巨大なヒュペリオンの機体を串刺しにした。

 衝撃から一瞬遅れて、視界が紫電に満たされる。
 あまりにも高速で撃ち出された杭が、空間中の粉塵と接触し帯電したのだ。


 加速をもって質量を叩きつける単純な杭打ちパイルバンカーを極限まで極めた波動砲。

 パイルバンカー帯電式H型。


 はるか昔、人類を危機に陥れたバイドを殲滅した最終波動砲、その威力に肩を並べる破壊の象徴。

 それは、ただの一撃を持ってヒュペリオンの全てを貫いたのだ。


 ヒュペリオンにとっては針程度の大きさの杭。
 だがその衝撃は内部の機械を全て砕き、機体全体から爆炎を漏らしながらヒュペリオンは沈黙する。


 小さな爆発はやがて連鎖となり、大きな爆発を一つ上げて装甲を周囲へとばらまき始めた。


 これが私の全力全開。

 私の全ては、ミッドチルダの機械の神へと届いたのだ。


 主を失った無人機は沈黙し、既に亜空間を漂う鉄屑へと変わっている。

 歪んだ星の輝きの中、爆発を続けるヒュペリオンだけが視界の中で動き続ける。

 やがて、一際大きな爆発を起こし、ヒュペリオンは無数の鉄の残骸へと変わり二十六次元の宇宙へと散らばっていった。


 魔力が霧散し膨大な魔力残滓へと変わる。
 それは少しずつ空間に溶け、世界の一部へと変わった。


 残ったのは、ただ一つの魔力反応。

 その方向へバイザーの望遠視界を向ける。


 そこには、パイロットスーツに身を包んだ小さな子供を両の手で抱えた黒いアインハンダー、ギンガさんがたたずんでいた。



――――――
あとがき:SHOOTING TIPS
■ヒュペリオン
アインハンダーより七面ラスボス、HYPERION UCS MK.XII。月の中核である無人指揮衛星。
A.C.E.9bでも描写した最大の苦戦の場である六面ラストを終え、最終テストの通信を聞き盛り上がったところで戦う最高の演出戦です。
ラスボスですが強さにはあまり言及しないであげてください。

■3WAY
STGの敵機が放つ基本的な攻撃。同時に三方向へと弾丸が連射されます。
この回避方法を理解することがSTG入門の第一歩。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第十三話- 【Epilogue】
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/12/05 08:03

 視界が歪む。
 ヒュペリオンを破壊し亜空間を構築していた魔法が解けたため、空間が崩壊しつつあるのだ。

 無理矢理解除した大規模空間魔法。何が起こるか解らない。
 最悪、虚数空間の中に飲み込まれてしまう。

 すぐにでも脱出しなければならない。
 もちろん、ギンガさんとその妹さんを連れてだ。

「ギンガさん、これで貴女の所属する組織が完全に壊滅したわけですけれど……、時空管理局は貴女を保護する準備が出来ています。魔法実験の被害者として悪いようにはしません。一緒に来てくれますか?」

「私はどうなっても構わない。でも、スバルだけは……」

「ご安心を。二人ともどこにでもいるごく普通の女の子としての生活を保証しますよ」

 管理局は希少な魔法資質を持つ子供をさらってきて実験動物として使っている、などという根も葉もない噂、いや、妄想を叫ぶ地方世界の人間が居るが、少なくともこの二人は私が正規の手段を持って保護をする。

 住民コードが発行され、人並みの生活を送れるようになるのだ。
 世間もアインハンダーの行方には注目している。機人の実験台にはまず成り得ない。


 ギンガさんは小さく、お願いとつぶやいて私の前で頭を垂れた。
 良かった。ここで管理局に付いていくのは嫌とか言われたら無理にでも連れて行かなければならないところだった。
 これでもギンガさんは今回の事件の重要参考人なのだ。

 ともかく、この空間から脱しなければならない。

 シップを変形させてアインハンダーの機体と強引にドッキング。
 さらに妹さんを乗せるための福座を構築する。

「では、行きましょう。これで全てはおしまいゲームオーバーですよ」












――――――
テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
最終話『RESULT』
原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 二十六次元空間を抜けた私たちを待っていたのは、この一年で幾度となく見た戦艦アースラの姿だった。
 通信士のような仕事をまた任されているエイミィ執務官補佐の誘導に従って、小型艇の入港口からアースラの中へと入る。

 負担の大きい空間転送を使わないのは、私たちの疲労を気づかってのことだろう。

 アースラの中に入った私たちは、小型艇の格納庫で服を脱ぎ散らかすようにして身体から機体を切り離した。
 デバイスの魔法支援を失ったギンガさんは、そのままアインハンダーの機体の上に寄りかかって座り込んだ。

 三日間の戦闘の疲れが一気に出たのだろう。
 同じくギンガさんと戦い続けた今は眠っている妹さんも、疲労はピークに達しているはずだ。

 医務室へ連れて行かないと。

 二人を機体から引きずり出し、両肩に抱え上げる。

 軽い。

 大人も余裕で持ち上げられる私だが、それにしてもこの二人は軽い。
 身体に機械を埋め込んだ戦闘機人ときいて超重量を想像していたのだが、何てことはない。年齢相応の子供の軽さだ。

 無人の格納庫の扉へと向かう。
 すると、私が辿り着く前に扉がひとりでに開いた。

 アースラクルーが駆けつけてきてくれたのだ。

 ハラオウン提督、エイミィ執務官補佐、クロノさん、ヤマトさん、何度もお世話になった医務局員の方々。
 そしてその中に何故かはやてさんが混ざっていた。

「カガリちゃーん!」

 脚の補助器で増強された脚力をもって駆けだしたはやてさんは、真っ直ぐに私の胸に飛び込んできた。
 抱きつくではない、飛び込むだ。

 私は両足を踏ん張ってその全重量を全身で受け止めた。

 ハラオウン提督などはこの光景にうっすらと涙を浮かべていたりするが、とんでもない。
 私が強化されたダライアスの一族でなかったら、地面に叩きつけられて頭を強打をしていたところだ。

 だが、はやてさんは私のそんな密かな頑張りに気づくことなく、私の背中に腕をまわして強く抱きしめてきた。
 やれやれ、と思っていたところで、今度は違う誰かの叫びが聞こえてきた。

「かーがーりーちゃーん!」

 エイミィ執務官補佐が私の腰に向けてダイビング。
 身体が変な方向にねじれている。

 脳のチップが警告を発しそうになったところで私の苦悶の表情にようやく気付いたのか、医務局員さん達が私の側まで駆けつけてきてくれた。

 私は抱きつく二人を解放する前に、医務局員さんへ肩の二人、ギンガさんと妹さん……スバルさんを渡した。
 ようやく見えたギンガさんの表情は、一面の苦笑。今もくっついている二人を見てのことだろう。

 両腕を解放した私は、とりあえず歳に似合わぬハギングをするエイミィ執務官補佐を引きはがし、次にはやてさんの背中を軽く叩いて腕を解いてもらう。

 改めて正面に立ったはやてさんは何故か涙目。
 オーリス姉さんから私は死地に行ったとでも吹き込まれたか。

「酷いわカガリちゃん、あたしががっこ行ってる間に一人で無茶するなんて」

「それが私の仕事ですから」

「あたしを呼んでくれればすぐにでも飛んでいったよ! あたしたちはコンビやろ!?」

 コンビではなくてトレーナーとトレーニーなのだが。

 コンビ、という言葉を聞いて視界の端で医務局員さんに応急手当を受けていたギンガさんが、むっとした表情でこちらを睨んだ。

 そういえば私とギンガさんとは二人で何度も中解同の中核を攻めた間柄。
 ギンガさんは私のことをコンビの相手と認識してくれていて軽い嫉妬を覚えたのだろうか。

 ギンガさんくらいの年齢の子はすぐに嫉妬をしてそれを隠すことなく表に出す。
 どうも変なところでモテ期が到来してしまった。


 その後、ギンガさんとスバルさんは無事に医務室に担ぎ込まれ治療を受けることになった。
 一方の私は和室に通されて正座ではやてさん、エイミィ執務官補佐、ハラオウン提督三人の説教を小一時間聞かされたのだった。












 その後の経過はと言うと。

 一掃されたミッドチルダ内の中解同。

 中解同の中核は八福社であったが、実際にテロを行っていたのは地方世界の中小企業。よって、テロ事件は本局と各世界の地上部隊の支部へと捜査が移行した。

 地上本部はこのまま八福社とセレーネの捜査の続行、そして戦闘機人事件の再捜査となる。

 一時的に地上本部の育児施設へと収容されたギンガ姉妹は、健康調査と事情聴取を受けているらしい。
 捜査へは協力的。だがやはり、妹にしっかりした保護を受けさせてやってくれと言う主張は変わらないとのことだ。

 予定では、地上本部が受け持ったアリシア・クローンと同じ保護施設に入る、らしいのだが、今後のことについて相談したいと何故か私はオーリス姉さんに連れられてギンガさんと面会を行っていた。

 一度も入ったことのない育児施設の休憩室。
 そこにはギンガさん、オーリス姉さん。そして何故かナカジマ捜査官が同席していた。

 そういえば、ギンガさんはナカジマ捜査官の遺伝資質が使われた改良クローンだった。

 そのあたりのことをナカジマ捜査官は笑顔でギンガさんに説明していた。

 子供をあやすような無理な作り笑いではない。自然な笑顔。
 言葉遣いも普段の妙に男らしいものではなく、どこか柔らかい口調でギンガさんに話していた。

「でね、同じ遺伝資質が受け継がれているなら、私達は家族ってことだよね?」

 そうギンガさんに切り出すナカジマ捜査官。
 ああ、何となく言いたいことは解った。

「よく解らない……」

 ギンガさんの返答はただそれだけ。
 実験生物として生きたギンガさんには、妹以外の家族というものが理解できないのだろう。

「……そうですね、昨年保護されたクローンの子供達がいるんです。その子達はみんな同じ遺伝資質をもったクローンで、全員同い年の姉妹というくくりです。クローンの元になった子の母親をお母さんとした巨大な家族になっていますね」

「そうなんだ」

 私の説明にも、ギンガさんは理解が及ばないのか淡々としていた。
 だがギンガさんの理解が終わる前にナカジマ捜査官は言葉を続けようとする。

「でね、折角の家族私のうちにこない? 家族なんだから、おかあ……」

「つまり、クイントさんがギンガさんのお姉さんになるんですよ。ギンガさん良かったですね」

「お姉さん……私にもお姉さんが……。そう、嬉しいな……」

「え、あれ、お姉さん?」

 どうやらナカジマ捜査官はギンガさんのお母さんになりたがっているらしい。
 ナカジマ捜査官は既婚者。養子の手続きもとれるだろう。

 でも、複製クローンの立場はミッドチルダの一般的な観念から行くと兄弟姉妹の関係になる。

 もしこの二人が母子関係になるなら、アリシア・クローンさん達の母親はアリシア・テスタロッサということになる。

 プレシアさんはあの見た目でおばあちゃん。

 いや、見た目は石のような物体のおかげで二十代でも中身は五十路なのだが。

 だがそのような観念はどうでもよく、私はあまりナカジマ捜査官にギンガ姉妹を引き取って貰いたくないと思っている。
 ナカジマ捜査官は夫妻そろって地上本部の上級の局員。

 親が管理局員でさらに子が魔法資質を持つと、管理局に進む道が自然と出来てしまう。
 ギンガさんの妹さん、スバルさんが魔導師となり武装局員となる道に進むのは、ギンガさんは快く思わないだろう。

 そんな思いを込めて打った言葉のジャブに、オーリス姉さんは苦笑している。

「まあナカジマ准陸尉、いきなり引き取るというのも急だ。しばらくは局の保護施設で、幼年保護対象者用の一般教育を受けて貰う形になる。その間にこの子達にじっくり考えて貰うとしましょう」

 このまま引き取りの話を続けても不毛になると思ったのか、オーリス姉さんは仲裁とばかりに口をはさんでくる。


 保護施設入りはギンガさんも既に了承していた。

 入る予定の施設はクラナガンの郊外にある。
 私も普段アリシア・クローンの皆に会いにいっている場所だ。

 企業テロも治まって嘱託魔導師としての仕事も少なくなるだろうから、ギンガさんとは頻繁に会えるだろう。





 話し合いが終わり、オーリス姉さんは仕事があると出て行き、ナカジマ捜査官も名残惜しそうに休憩室を出て行った。

 私は持参していたお菓子をギンガさんと二人でのんびり食べる。
 そういえば、最近忙しくてこうやってお菓子を食べる時間を作るのも久しぶりのような気がする。

 ギンガさんはお菓子というものを食べるのが初めてなのか、しきりにスバルにも食べさせてあげたいと繰り返し言っていた。

 そのスバルさんはというと、健康調査の体内スキャンで外部操作用の機械が埋め込まれているのが判明。
 ダライアスも技術を提供している先端技術医療センターで摘出手術を受けている。

 手術自体には全くの危険はないらしく、こうやって安心してお菓子をむさぼっていられるのだ。

 二人の会話は、ギンガさんがあれを見た、これは初めてだったと箱入り娘な驚きを話して、私がそれに解説を入れてあげるというものだった。

 楽しい時間だ。
 私たち二人はすでに戦友などではなく、立派な友達になっていた。

「ねえ、カガリ」

「ふあい?」

 甘いチョコレート菓子のピンクスゥイーツを頬張っている最中、ギンガさんが訊ねてくる。

「カガリは、その、管理局に雇われている魔導師なんだよね?」

 ギンガさんは初めて言葉をかわしたときと変わらず口べただが、既に冷たい突き放すような口調ではなくなっていた。

「あー、はい、局員ではなく、局から仕事の依頼を受けて働くみたいな立場ですけど、実態はもう半分以上局員みたいなものですね」

「あの、私、まだこれからどうなるか解らないけれど……局に入ろうかなって思っているの」

 局に入ろうと思っている。
 局とは、時空管理局のことだろうか。

 他愛のない雑談に混じってすごいことを言われてしまった気がする。

「……貴女は戦場からようやく解放されたんですよ。戦闘機人だなんてことを忘れて普通の女の子として生きるべきではないのですか?」

「うん、それも良いかなって思う。スバルにはそうして欲しい」

「だったら……」

「でもね、私、アインハンダーに乗っていて、カガリと一緒に戦えたのがすごい楽しかったの」

 私の前で大げさに両手を広げてみせる。

「大人達の戦争のためじゃない、世界のために戦えるのは、今までとずっと違う。だから」

 広げた手でぎゅっと私の手を掴んでくるギンガさん。
 暖かい。はやてさんやフェイトさんたちのような、暖かい手。

「私がまたカガリと一緒に戦えるようになるまで、管理局、辞めないでね?」

 満面の笑顔で私に笑いかけてくる。

 戦いは辛く苦しいもの。
 でも、そこに戦う理由があるのなら、人はいくらでも戦える。
 思いは人それぞれ。この時空管理局はその思いがつまった場所だ。



 こうしてギンガさんは、再び戦いの空へと戻る覚悟を胸に刻んだ。


 ミッドチルダの空を駆ける二人の魔動少女。
 これが、そのはじまり。



――――――
あとがき:原作のアインハンダーとは違い、二人プレイでゲームクリアーとなりました。




さて、アインハンダー及び魔法少女リリカルなのはA'sのオリジナルクロスオーバー二次創作、魔動少女ラジカルかがり『企業抗争編』はいかがだったでしょうか。
リリカルなのはで原作と同じ時系列から始まる二次創作はオリジナル展開のものが少なかったので、反骨精神でA'sをスキップしてオリジナルのお話となりました。
といいつつも、今回は魔法少女リリカルなのは無印を元にお話を構成しています。
SHOOTINGの『遺失技術編』は、フェイトがあんなのになってしまって折角の女の子二人の友情の物語が台無しになってしまったので、その戦いの中の友情をコンセプトに一期の配役変更を行ったものがこの『企業抗争編』です。

なのは→カガリ
フェイト→ギンガ
ユーノ→オーリス
ジュエルシード→企業テロ
プレシア→ヒュペリオン

こんな感じです。解りにくいですねごめんなさい。

さて、StS編はプロットもなく話も序盤と終盤しか思いつかないためやるかは未定なので、魔動少女ラジカルかがり本編はひとまずここで完結(仮)となります。
ただ細かい話のネタはいくつか出来ているので、STGにはあまり関係ない外伝と後日談を不定期で載せていくことになると思います。
他にもネギまの中編とリトルウィッチロマネスクの短編連作もプロットを書いているので、気力を溜めて少しずつ書いていきたいなー、と。
私はSSを書くために、他の方のSSを読んで「私も何か書きたい!」という気力を溜める必要があります。今は空っぽです。
そういうわけで、機会があればまた私のSSを読んでくださると嬉しいです。


長いオリジナル展開に最後までお付き合いいただきありがとうございました。



用語解説
■管理局は希少な魔法資質を持つ子供をさらってきて実験動物として使っている、などという根も葉もない噂、いや、妄想
このような感じで時空管理局の悪行を描いて、これだから管理局は駄目なんだ! と断罪するリリなのSSはもはや一ジャンルになっています。


SHOOTING TIPS
■ゲームオーバー
ゲームが終了したことを表す言葉。
時代を経て言葉の意味が変わりゲームをクリアーすることなく途中で終わってしまったときのことを指す言葉となってしまっています。
ただしSTGでは未だにゲームクリアー時にもゲームオーバーと表示されるものが多いです。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SECRET STAGE 01
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/12/08 17:59

 死ぬ夢を見た。

 自分が死ぬ夢。しかしこれは過去の記憶。前世の記憶だ。

 その日、俺は秋葉原に来ていた。

 待ちに待っていたアニメのDVDの発売日。
 魔法少女リリカルなのはStrikerS最終巻の発売日だったのだ。

 毎週深夜遅くまで起きて視聴し、DVDレコーダーにまで記録して見ていた深夜アニメ。
 戦う魔法少女ものであり、三期まで放送されていた人気アニメだ。

 わざわざ発売日に買いに来ていたのは、別に好きな物を発売日に買わないと気が済まない類の信者だからではない。
 見れなかったのだ、最終話が。そしてDVDへの録画も出来なかった。

 俺は泣いた。アニメを観て感動し泣くことは幾度もあったが、観れなくて泣くことがあるとは思ってもいなかった。
 それからというもの、DVDの発売を待ちに待ち続けた。

 別にDVDを使わなくても観る方法はあった。インターネットは非合法で満ちている。

 だが俺は清いアニメファンで居たかったわけだ。
 アニメーターの薄給を憂い、作画崩壊に現場の厳しさを感じ、グッズ購入で制作者へのお布施をかかさない正しいオタクで居たかった。

 比較的健全であろう録画した友人から見せて貰うという方法は使えなかった。深夜アニメを見るようなオタクが周囲に居なかったのだ。友人達はゲームセンターにいりびたるようなゲームオタクだ。

 それだけ楽しみにしていたリリカルなのはの最終話。

 はやる気持ちを抑えきれず、秋葉原に到着してから思わず走り出していた。


 だが、俺を待っていたのはDVDなどではなく、急に目の前に現れたトラックの衝撃であった。


 次の瞬間、目に映ったのは秋葉原の風景ではなかった。

 光り輝く場所。曖昧な場所。夢だからかはっきりしない風景だった。

 そして、目の前に何者かが座っていた。

 男とも女とも、子供とも大人とも、人とも動物ともとれる何か。

 目の前の“それ”は、俺が何も言わないでいると急に気さくな様子で話しかけてきた。

 言葉になっていない言葉。だが、自分が死んだと言うことだけは理解が出来た。
 思わず俺は、目の前の“それ”に言葉を投げかけていた。

 何を話したのかは思い出せない。
 古い記憶だからか、それとも“それ”に記憶を検閲されているのか。

 だが、そのときの俺には強い未練が残っていたことだけは思い出せる。

 だから俺は願ってしまったのだ。


 魔法少女リリカルなのはの結末を知りたいと。












――――――
魔動少女ラジカルかがり SECRET STAGE 01
『歴史の歪曲』

原作:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ ……だと思います
――――――












 強い光に目が覚めた。
 窓から射し込む朝の陽気。目に入るのは知らない天井……などではなく、見覚えるある寮の寝室だった。

 身寄りのない俺が学園から与えられた唯一の帰る場所。
 1DKの広い部屋。狭苦しい日本で過ごした人間としては、なんとも豪勢な待遇だった。

 目覚めは良い。昔は低血圧で朝が苦手だったが、今の身体は具合が良い。

 ふと、ダイニングの方から物音が聞こえた。
 まだわずかにぼやける目でそちらを見ると、部屋に誰かが居た。

 自分が部屋に居るときは、寮のこの部屋には鍵をかけていない。だからか、いつも皆が入ってきて勝手に遊んで帰っていく。

 俺はそれを曖昧な表情で眺める。
 大学時代からの風習だ。人と話すのは苦手だが、すぐに人恋しくなってしまう。

 掛け布団をはねのけ、立ち上がって伸びし深呼吸をする。
 畳のい草の香りがわずかに感じ取れた。

 わずかに漏れた声に、ダイニングの人物はこちらに気がついたようだ。


「……おはようございます、ヤマトさん」


 ダイニングにいるのはカガリちゃんか。


「おはよう。また工具使いに来たのかい?」


 彼女はカガリ・ダライアス。
 ミッドチルダの外から来た留学少女。いや、幼女か?

 まだ五歳だというのに魔法を学ぶために一人この魔法学校にやってきたらしい。

 さすがはリリカルなのはの世界だな。低年齢層の行動が日本とはまるで違う。


「ええ、すいません、まだ資材が地元から届いていません。管理法のロストロギア規制に引っかかったようです」


 こちらを向かずに俺のデバイス改造用の工具をいじりながら返答するカガリちゃん。
 いや、なんだよロストロギアって。

 これは触れない方がいい話題なのか。


「朝から頑張るね」

「これが仕事です」


 冷たく言い放つカガリちゃん。こういう性格なのか、それともこうなるような教育を受けてきたのかな。

 何やら原作に出てきたユーノやキャロの一族のように小難しい事情がある一族出身らしいカガリちゃん。
 自分は人間じゃないとか何とか言って、俺達から距離を取ろうとしている。

 まあそれにはクラスの皆が気付いていて、そんなことはさせないと皆が息巻いているおかげでこうして俺の部屋にやってくるようにもなったんだけど。


「えーと、シップだっけ? 俺もデバイスとかいじるから解らないことがあったら聞いてよ」

「……建築家が彫刻家に建築のことを聞くと思いますか?」

「いやなんかそのごめんなさい」


 冷たい目線に思わず反射的に謝ってしまう。
 これはもう前世から染みついてしまった癖だ。今更治ってくれないだろう。

 カガリちゃんが使っているのは、デバイス改造用の精密工具。

 彼女が作っているという特殊デバイスはとても繊細な仕組みらしく、この寮では俺くらいしかそれをいじれる工具を持っていないらしい。

 ミッドチルダのデバイスは、パーツを買って組み合わせることで作り出すことが出来る。
 自作デバイス。まるで地球の自作PCのようだ。

 俺が使っているのは、普段は懐中時計の姿を取っているストレージデバイス。
 これも自作デバイスで、補助金や奨学金、それに魔導師としての雑事の報酬をかき集めて作り上げた相棒だ。

 アプリオリ・ロード。
 生まれながらに奇妙な力を授かってしまった、そして前世でこの世界の未来を知っている俺が、新しい自分の人生を歩むために作り上げた力だ。

 中核には俺を生み出したジェイル・スカリエッティのラボから逃げ出すときに奪い取ってきた、ロストロギアの魔石を埋め込んである。

 リリカルなのはの世界はハードだ。
 ハートフルだったアニメの一期と二期も、三期になった途端に軍のような警察組織の時空管理局に守られた世界、ミッドチルダを舞台にしたバトルアニメに変わる。

 俺は先を知るものとして、時空管理局の局員としてその三期の時代を生きようと思う。

 おそらくそれが、“あれ”によってこの世界に転生させられた俺がすべきことだ。

 そのために、この学校で色々この世界を学ぼう。
 まずは一日を真面目に過ごすこと。若返ったからといって小学生からやり直しになっている訳じゃないんだ。


「まあ、朝だしほどほどにね。そろそろ朝ご飯だから」

「大丈夫です。ご飯は二日前に食べました」

「いや、何が大丈夫なのか俺には解らないよ」


 この世界は不思議で一杯だなー……。


「とりあえず何も口にしないのもまずいし、茶菓子でも口にしようよ。紅茶入れるよ。ミルクティで良い?」

「お砂糖たっぷりでお願いします」


 ようやく笑顔を俺の方に向けてくれたカガリちゃん。

 何だか餌付けしているような気分になってきた。












「おっはよーヤマトー!」

 朝一番から教室に元気な声が響く。

 教師に入り自席に向かおうとしたところで、制服姿の女の子に挨拶を投げかけられたのだ。

 銀目赤髪のセミロングの女の子。

 この子は今の俺がここの理事長に保護されて以来の知り合い。
 理事長の娘のアルピナ・ロードスターだ。

 前世の知識で言うところの幼なじみキャラというやつなのかな。いや、キャラで分類するのは失礼か。

 一人ミッドチルダに放逐された俺に、まるで家族のように接してくれる妹のような存在だ。
 本人は自分は俺の姉だと思っているようだけど、すでに精神年齢三十を超える俺としては彼女をとてもじゃないが姉としては見れない。

「おはようアルピナ」

 俺も元気に笑顔を返すとしよう。
 クラスメイト達とかわす挨拶。前世の小中学生時代では考えられなかった光景。大切にしよう。

「お、おう。それでなー、自治領への旅行の話なんだけど、夏休み入ってすぐでいいかー?」

「あれ、日程ずらすんだ」

「いやー、カガリちゃんが地元に帰るって言うからその前にってね」

 その会話に、すでに自席に座って何やら端末をいじっていたカガリちゃんがこちらを見てきた。

「すいません。長期休暇は地元に帰って技術者としての講習です」

「ほっんと小っちゃいのに頑張るよねーこの娘っこは」

 カガリちゃんの背中を豪快に叩いて笑う。

「痛いです」

「おっとごめんよー」

 アルピナはその、なんというか元気な子だ。
 使う魔法は近代ベルカ式。それも技術系方面ではなく、完全な戦闘向けの魔導師タイプだ。

 近代ベルカと言えばスバルとギンガだが、あの二人もこんな感じだったろうか。
 流石にアニメを見てから十年近くが経過しているとあって、最近細かい部分が思い出せなくなっているけど、こんなものだったろう。

「ま、楽しみにしていてよベルカ自治領」

「一番楽しみにしているのはアルピナだよね」

 と、そこまで言って急に制服のそでがひかれた。
 いつもの感覚。これは……。

「プリウスちゃん?」

「……私も楽しみ」

 水色の髪をポニーテールにした小さな女の子。口べただがそこがまた可愛いプリウスちゃんだ。
 本当、このカラフルな頭を見るとアニメの世界に自分が居るのだと言うことを実感させられてしまう。いや、俺も銀髪で左右の目の色が違うとかアニメ的なんだけれどね。

 プリウスちゃんは使っている魔法こそミッドチルダ式だが、敬虔な聖王教徒。
 いわゆる聖地への巡礼が楽しみでしょうがないんだろう。

 そでを引き続けるプリウスちゃんの頭を軽く撫でてあげる。
 すると、いつものように顔を紅くしてうつむいた。
 彼女は頭を撫でてもらうのが好きみたいだ。こうやっていつも催促をしてくる。

 そしてその横で旅行の話を続けるアルピナの声に、登校してきたいつものメンバーが次々と寄ってくる。
 話を盛り上げるアルピナ、その横でじっとたたずむプリウスちゃん、一人興味ないとばかりにモニターに向かうがときおりツッコミを入れるカガリちゃん、そして皆の会話に相づちをうっていく俺。

 この学園に来てからというもの、俺の周りには男女隔てなく人が集まってくる。

 今の皆の年齢は十歳ほど。この年齢の子供といえば、日本の小学生だとすでに男と女でそれぞれ個別のグループが出来ていたものだが、そうならないのはミッドチルダ人の気質というものなのだろうか。

 昔、まだ俺が赤子の状態でガラス管の中で育成されていた頃、俺を前にしてジェイル・スカリエッティは一人言っていた。
 俺には王としての魅了のレアスキルが備わっていると。

 だけど、今のこの俺の周りに人が集ってきてくれている状況は、魅了の能力によるものじゃないはずだ。

 前世から数えた実年齢だけで言うとずっと年上だからみんなのお兄さん的な感じで頼ってくれてるんだろう。

 人と話すのは苦手だ。だけど、年下相手だと思うと意外と気楽に話が出来るものだ。

 皆仲の良い友達。まさか俺に恋愛感情なんて向けている人なんていないだろうしね。

 もしそんな人がいたらそれはそれで困ってしまうが。俺、ロリコンじゃないし。












 そして適当に授業を受けている間に放課後になる。
 適当とは言っても不真面目に過ごしているわけではなく、教科書に目を通しただけでおおよその事が解ってしまうのでそれほど本気になって勉強するまでもないだけだったりするわけだが。

 俺はこの世界に生まれたときから前世の記憶を持っていた。

 それが今の俺の身体の脳に大きな影響を与えたと見ている。

 深夜アニメの待ち時間で教育チャンネルをつけていたときに見た、シナプスがどうこうとかいうのが関係していたりするのだろう。
 苦労せずして優秀な頭脳を得ることができたのは、まあ過酷な幼児期を代償に手に入れた物だと思っておこう。

 さて、それはともかくとして放課後だ。
 いつもは皆で遊びに行ったりカガリちゃんの戦闘訓練に付き合ったりしているのだが、今日はいつもとは違う日だ。

「ヤマトさん、お暇なら今日も訓練に付き合っていただきたいのですが」

 隣のカガリちゃんが顔だけをこちらに向けて訊ねてきた。
 うん、淡々とした言葉遣いだが、相変わらず仕草が小動物を見ているみたいで可愛い。

 このギャップが皆に人気で今ではクラスのマスコット的存在になっている。

「ごめん、今日はクラブの日だから」

「そうでしたか。すいません」

 クラブの日。

 別に学校にある部活動をやっているわけではない。
 俺とアルピナ、それとアルピナの親友のプリウスちゃんでやっているちょっとしたお遊びみたいなものだ。

 ヤマト・ハーヴェイのお悩み相談クラブ。
 まあなんだ、少年漫画雑誌でよくあったような推理漫画の少年探偵団のような物だ。

 始まりは、クラスメイトから困りごとを相談されて、つい断り切れなくてそれを解決したこと。
 ちょっとした落とし物の捜索だったのだが、それをアルピナが面白がって、困ったことがあったら俺に相談しろと学校中に宣伝したのだ。

 ただの子供同士の遊び。のはずなのだが意外と悩みを相談してくる人は多く、今では活動日を決めて基本三人、たまに暇なクラスメイトを交えての非公式なクラブ活動を行っているのだ。

「では私は帰りますね」

 そういってカガリちゃんは席を立つ。
 また自室にこもって特殊デバイスの開発を行うつもりなのだろう。

「ちょーっとまったあーっ!」

 そんなカガリちゃんの前に、仁王立ちになったアルピナが立ちふさがっていた。

 なんだなんだ一体。

「カガリちゃーん、私は思うわけですよー。君はちょっと付き合いが悪い!」

 どーん、とオノマトペが付きそうな大げさな動作でアルピナがカガリちゃんへと指をつきつける。

 この子供独特のテンションの高さにはついていけそうにない。

「はあ……」

 カガリちゃんも突然のことに何のことやらと呆けている。

「たまにはね、私もカガリちゃんをいじって遊びたい……もとい一緒に遊びたいわけですよ」

「…………」

 遊びたい、の言葉にカガリちゃんの表情が微妙に変わる。

「つまり、私達のクラブにカガリちゃんも参加すべきよ! それが健全な子供のありかたってものさ第二種なんとか女の子!」

 ああ、カガリちゃんのあの表情はどういうものか解る。

 見たいアニメがあるのに遊びに付き合わされて微妙な気持ちになるあれだ。
 昔は周りがゲームオタクで俺だけアニメオタクだったから、しばしばそういう事態に遭遇したものだ。

 同じ経験をしたものとしてカガリちゃんの手助けをしてあげたいが、今のアルピナは怖いので口を出すことが出来ない。
 クラブの実質的リーダーはアルピナです。

「遠慮します」

 俺とは違いざっくりと切り落としにかかるカガリちゃん。
 その胆力がうらやましい。

「ふふふ、そうくると思ったわ。でも、まだまだ甘い。プリウス!」

 大げさに右手の指を鳴らして半身をずらすアルピナ。
 その後ろには、プリウスちゃんが鞄を抱えてぽつんと立っていた。ぜ、全然気付かなかった。

 プリウスちゃんは、無言で鞄をあけると、中から何やら紙製の箱を取り出し始めた。

「おいしいお菓子を用意してあるんだけどなー」

 アルピナの言葉に、カガリちゃんはびくりと肩を揺らした

「クラナガンの美味しい美味しいチョコポットも用意してあるわけですよ?」

 次に出てきたのが、プラスチックで出来た壺。中にはぎっしり丸い大きなチョコレートが詰まっている。
 あー、なんだろう。アニメにこんなお菓子が出てきたような気もする。

 プリウスちゃんはそのチョコポットを胸の前に構えると、じりじりとカガリちゃんの方へと近づいていく。

 この光景には見覚えがある。
 俺の部屋にアルピナがカガリちゃんを連れてこようとしたときと同じ状況だ。
 あの日以来、俺の部屋にはお菓子の袋が山ほど常備されている。

「……解りました、ご一緒します」

 カガリちゃんが、折れた。

 弱点をあらわにされた人間というのはこうも弱いものなのか。
 俺も気をつけておこう。

 アルピナとプリウスちゃんは、いえーいとハイタッチをしている。

 アルピナにかかれば寡黙なプリウスちゃんもノリのいい女の子へ早変わりだ。





 さて、そんなわけでクラブ活動を開始したわけなんだけど。
 基本的には誰かが来るまで教室でだべりながらお菓子を食べたりゲームをしているだけ。
 初等部は下校時間が早いのでそんなに遅くまで活動しているわけでもない。

 嫌々参加させられたかと思ったカガリちゃんは、お菓子を前にしてすでに機嫌を直したご様子。
 小さな口でお菓子を頬張る様子は、やはり小動物のようだ。

 思わず頭の上に手をのせると、全力で払いのけられた。

 うーん、クラスの女の子達は撫でられるのが好きみたいだけど、カガリちゃんはどうやら人との接触がまだ苦手なようだ。

 変わりに余ってしまった手をプリウスちゃんの頭にのせてなでてあげる。こちらは子犬のように大人しく撫でられている。まあ人それぞれだ。

 そんなこんなで無駄な時間を四人で過ごしていると、教室の扉がノックされた。

 わずかに開いた扉。その隙間から人の顔が覗く。

 次の瞬間、大きな音を立てて扉が全開に開けられた。
 いつのまにか扉の前まで飛んでいったアルピナが扉を開けたのだ。

「ようこそ我がクラブへ! ……ってあれ?」

 急に開けられた扉に、寄りかかっていたのか訪問者は教室の中に倒れ込んでいた。

 初等部の制服を着た女の子だ。

「いやあ、ごめんごめん。大丈夫?」

「ふえ……」

 ああ、泣き出しそうになってる。
 どうも俺達より下の学年の子のようだ。


 泣きそうな子をアルピナと俺の二人がかりでなだめすかし、ようやく落ち着いたところで話を聞くことになった。

「あの、あたし、二年のサフラなの」

「おうおう、かーわいいねー。お菓子食べる?」

 カガリちゃんが一人黙々と食べていたチョコポットをアルピナはさっと奪い取って女の子の前に置いた。

 あ、カガリちゃんの機嫌が悪くなった。大丈夫だから。お菓子はまだあるから!

「ありがとうなの」

 一方のサフラちゃんはお菓子を受け取って笑顔になる。

「うんうん、子供はお菓子が好きだねぇ。ってちがーう!」

「いてっ」

 何故か俺がアルピナに叩かれた。

「えっと、今日はなにがあって来たのかな?」

 叩かれた頭をさすりながら、アルピナの変わりにサフラちゃんに聞いてみる。

 俺の言葉に、彼女は真っ直ぐにこちらを見て話し始める。

「プジョがいなくなっちゃったの」

「プジョ?」

「あたしの使い魔なの。これくらいのクダンの子供なの」

 そういって両の手を俺の肩幅ほどに広げてみせた。
 しかし、この歳で使い魔を持っているのか。凄いなー。

 しかもクダン。確か教科書に珍しい魔獣として載っていたはずだ。

「ん」

 いつの間にか教科書を取り出してたプリウスちゃん。
 クダンの説明が載っている。

 予言の力を持つといわれる獣。
 載っている写真は牛に似た姿をしているが、使い魔となると人の姿をとることもある。

「一昨日からいなくなっちゃったの」

「なるほど、それを探して欲しいんだね」

 使い魔ならお互いの感覚を共有してどこにいても連絡を取り合えるはずだが、まだこの子は二年生で使い魔も子供だというからそれも難しいのだろう。

「なら大丈夫だよ。簡単に見つかるから」

 ペットや遺失物の捜索なら、このクラブを始めてから何度も来た依頼だ。

 魔法の力を使えば、すぐに解決できる。
 できるはずなのだが、魔法学校だというのに俺達に頼る人が多いのは何でだろう。

 この子みたいな小さな子なら解るが。

 いや、この子も使い魔を従えられるのに探索もできないというのはアンバランスな気もするけどね。

「うむ、そうなのだー。我がクラブには捜し物のエキスパートが居るのよ! かもん、プリウス!」

「……ぶい」

 変なテンションで盛り上がるアルピナと、それについていくプリウスちゃん。
 まあこれがこの年頃の子供というものなんだろう。

 プリウスちゃんは指輪に収納していたデバイスを解放し、魔法少女のステッキのような杖を左手に掲げた。

「……その子の身につけていた物とか、ある? クッションとか、首輪とか」

「あ、うん、首輪を持ってきたの」

「なら、任せて」

 渡された首輪に、捜索用の魔法をかけるプリウスちゃん。
 首輪に残っている残留魔力を感じ取り、周囲の空間に魔法の網を広げてこの残留魔力と照合させるというものだ。

 アニメでは戦闘にばかり使われていたこの世界の魔法。

 だが、学べば学ぶほど戦うための魔法はただの技術研究の副産物だということが解る。

 地球の科学と同じだ。
 戦争で使われる兵器だって、生活を向上させるための学問や科学技術から生まれた物なのだ。

 俺は時空管理局を志望しており、そしていつの日かスカリエッティと戦うつもりだから空戦の魔法ばかり学んでいるが、本来魔導師というものは人の役に立つ優しい魔法を使う者なのだ。

 まあ、中等部で習う程度の補助魔法なら俺も使えるんだけどね。

「見つかった。学校の外。廃棄区画のほう」

「あちゃー、また変なところに行っちゃったわねー。よし、こっそりいきましょうこっそり」

 学校の近くにある廃棄区画か。あまり立ち寄りたくない場所だが。

「あまり治安の良い場所ではないから、日が暮れる前に急ごう」












 プリウスちゃんに連れられるまま、廃棄区画を歩く。

 ミッドチルダの治安は悪い。いや、世界は広いから俺の住んでいるこの国周辺に限ったことなのかもしれない。
 だが、日々のニュースを見る限りではこの世界は魔法文明の理想郷にはほど遠い場所だ。

 アニメを見ていた頃はさほど気にもとめなかったが、首都近辺にすら放棄された都市区画が目立ち、毎週のようにテロが引き起こされている。

 アニメの公式サイトに猛将と書かれていたレジアス中将が、悪に身を染めたのも納得がいく話だ。

 いや、だからといってあのマッドサイエンティストに協力していたのは絶対に許せないが。スカリエッティはいつか滅ぼさなければ。

「あの中」

 企業テロによってぼろぼろになったビル群。
 その中の一つをプリウスちゃんは指さした。

「念のため、中に何かいないか探知してみるね」

 野犬でもいたら大変だ。
 俺や意外と腕っ節の強いカガリちゃん(腕相撲はクラスで一番強かった)ならともかく、他の女の子三人を危険に晒すわけにはいかない。

 制服のポケットに入ったアプリオリ・ロードに魔力を送る。
 この程度の魔法ならデバイスを本起動させなくても良い。

「……人がいる」

「え、こんな廃棄区画に人って……」

「嫌な予感がするな。ちょっと中を見てみよう」

 魔力スフィアを一つ作りだし、こっそりと廃ビルの中に忍ばせる。
 遠隔操作で手元に映像を送ってくれる魔法。空飛ぶカメラのようなものだろうか。

 ときどきこの魔法を使って盗撮で捕まる魔導師もいるようだ。イヤオレハソンナコトシタコトナイデスヨ?


 ビル内部に侵入したスフィアが手元に映像を送ってきた。
 それを五人全員で覗きこむ。

 映像には、怪しげな人影が映っている。
 暗いので映像の感度を調整すると、六人のいかにもな厳つい男達が映し出された。

 そいつらの足下には、動物を収納するための大型ケージと、動物たち。
 いずれもただの犬猫ではなく、珍しい魔獣ばかりだ。

「あれって……」

「待って、何か喋ってる」

 スフィアから音を拾って流してみる。

『へへ、さすが良家のおぼっちゃんたちが通う魔法学校だ。クダンなんて高級品を飼っていやがるとは』

「あっ!」

 サフラちゃんが声を上げる。

「檻の中にプジョがいるの!」

 ケージを指さしてサフラちゃんがいう。
 そこにいたのは奇妙な顔をした小さな牛。
 首には何かの魔法機械をつけている。もしや、あれを付けていたからサフラちゃんは使い魔を見つけられなかったのだろうか。

 他人の使い魔にこのようなことをする彼らは、魔獣を狙った密猟団か盗賊団だろうか。

 彼らはなおも会話を続ける。

『でも大丈夫なんすかねぇ。魔導師なんかの物に手を出して』

『へ、クソガキどもに何が出来る。問題ねえ。俺はCランクの魔導師をぶっ殺したことあるんだぜ』

 そういって無骨なストレージデバイスを掲げる頬に傷跡を負った男。

 間違いない。彼らは“あちら”の人間だ。

「四人とも、急いで学園に戻って管理局を呼んで。俺はここに残る」

「え、え、ヤマトなにすんの」

「いつ逃げられるかも解らないから管理局が来るまでにやつらを捕まえる」

「あ、危ないよ! 学校の訓練じゃないんだよ!」

「俺が空戦魔導師資格を持っているのは知っているだろ? 任せて」

 食い下がろうとするアルピナの瞳を真っ直ぐに見つめる。
 やがて折れてくれたのか、小さく解ったとつぶやいて顔を赤くした。まだ怒っているのだろう。

 他の三人は無言。抗議の意志はないと言うことだろう。

「大丈夫、俺はまだ死なないさ」

 密漁団程度片手でひねるくらいでなければ、未来の世界で生き残れない。





「よし、ここをガキがかぎつける前にさっさと企業にうっぱらっちまおうぜ」

「そうはいかない!」

 ビルを立ち去ろうとするやつらに、俺は正面に立ちふさがる。

「なんだぁ!?」

「その子は置いていって貰うよ。大切な使い魔なんだ」

「その制服、魔法学校のガキか! 俺達がどういうやつらかも解らんクソガキのようだなぁ!」

 そういって手に手に武器を構える男達。

「使い魔だけと思ったが、ちょうどいい。魔導師素体として売り飛ばしてやる。おい、手足の一本や二本はかまわんが殺しはするなよお前ら」

 なんとも生々しい言葉を吐くものだ。

 だが、怖くも何ともない。俺はこれより上の悪を知っている。

 やつらから感じる魔力も大きくない。大丈夫だ。カガリちゃんの言葉を信じるなら、俺はAAランクの魔力を持つのだ。

「そちらがそのつもりなら、俺も力尽くでいかせてもらう!」

 ポケットから懐中時計を取り出す。
 相棒、出番だ!

「我は死者、我は生者、我は王者! 甦れ、全ての先を知るために! アプリオリ・ロード、セットアップ!」

『Yes, My Master. Set Up!』

 空間に響く女性の機械音声。

 懐中時計の鎖が伸び、俺の周囲を回転する。
 制服が分解され、魔力がバリアジャケットを構築していく。

 イメージするのは、何者にも打ち破れない純白の盾。

 銀色の魔力光に包まれ、制服をベースにした白いバリアジャケットが顕現する。

 身体の周囲を回っていた鎖は腰のベルトに繋がれ、懐中時計は戦うためのデバイスへと変形する。

 両手持ちの杖。
 改造を繰り返し装甲とパーツにまみれたそれは、剣にも斧にも槍にもなる最強の武装だ。


 準備は整った。

 こちらへと武器を構える男達に、全身から魔力を放出して威嚇する。
 魔力の奔流を叩きつけられた男達は、味わったことのない大魔力に後ずさりする。

 さあ、行こうか。

『何正面から行っているんですか。馬鹿ですかヤマトさんは』

『う、うわ、なに? カガリちゃん』

 突然頭の中に念話が響いてきた。

『はい、そうです。今上の階の窓から侵入しました』

『あれ、他の三人は? 置いてきたの?』

『学校まで低空飛行で飛んで置いて戻ってきました。ヤマトさんは放っておくと無茶すると思いましたので』

 無茶って……。
 いやまあ、いまの状況が無茶だと言われたら確かにそうなんだろうけどさ。

『というか念話使えたんだ』

『今朝シップに搭載し終えました。それより、私は死角から援護射撃をしますので、ヤマトさんはケージの魔獣を傷つけないよう気をつけて戦ってください』

 頼もしい仲間だ。
 カガリちゃんならこの男達にもやられてしまうことはないだろう。





 戦いは一瞬で決着がついた。

 Cランク魔導師を倒したと息巻いていた傷顔の男も、カガリちゃんの狙撃を受け足を止め、俺の放った連続魔力弾の前にあっけなく沈んだ。
 わざわざバリアジャケットを展開するまでも無かったかもしれない。

 などと戦いを振り返っていたところに、時空管理局の人達がすっ飛んできた。
 そこからはまあ、予想通りのお説教だ。

 正座をさせて説教をするなどという古風な日本の体罰を実行していた局員のお姉さんは、ナカジマさんなどと呼ばれていた。
 あれ、もしかして原作キャラと接触?

 サフラちゃんは使い魔を奪われた被害者として、親御さんと一緒に管理局へ向かっていった。

 事件解決と言うことで俺達は解散してそれぞれ帰宅することになった。

「ヤマトさん」

 初めての正座に足を痛めたのか寮に戻ってからも膝をさすっていたカガリちゃんが声をかけてきた。

「何? 恨み言なら聞くよ? 怒られたのは俺のせいだしね」

「いえ、それはどうでもいいのですが……時空管理局はいつもあのような輩を相手にしているのですか?」

「え、うん、そうだね。特にミッドチルダは犯罪組織が多いから日常茶飯事なんじゃないかな」

 原作での管理局員の殉職者は多い。

 日本の警察などよりはずっと厳しい職場なのだろう。

「ヤマトさんは、その管理局に入ろうとしているんですよね?」

「うん、そうだよ。何? 心配してくれているの?」

「いえ、それはありえません」

 ありません、じゃなくてありえませんか! ひどいなぁ。

「戦いが頻繁にあるというなら私も管理局を目指してみようと思います」

 故郷の戦闘機を甦らせようと語っていたカガリちゃん。

 今回の事件はそれにどういった心境の変化を与えたんだろう。

「この世界のシステムはまだ良く解りません。お手数ですが協力していただきたいです」

「はは、解ったよ。これからもよろしくね」

 協定締結。同じ管理局を目指す者として俺達二人は改めて仲間になった。



――――――
あとがき:完全オリジナルにしかならないためすっ飛ばしていた魔法学校編。
たぶん今まで書いたSSの中で一番ノリノリで書いたであろう作品。コンセプトは典型的最強系SS。
でも難しいですねこういうのを狙って書こうとすると。あの独特の軽い感じはなかなか出せません。
ちなみに登場キャラは全て使い捨て。本編中で名前のあるオリジナル人物は三人だけなんです。


用語解説
■急に目の前に現れたトラック
そういうものです。

■気さくな様子で話しかけてきた
そういうものです。

■アプリオリ・ロード
独善的な原作知識ありでの憑依系原作介入ものもこう表現すれば割と格好良いかもしれません。

■魅了のレアスキル
こういう力を使っても洗脳ではないそうです。
そういうものです。

■俺、ロリコンじゃないし
主人公が自分はロリコンじゃないと主張する作品は、たいていヒロイン勢がロリキャラです。
そういうものです。

■イヤオレハソンナコトシタコトナイデスヨ?
こういう場合はカタカナで書きます。
そういうものです。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり SECRET STAGE 02
Name: Leni◆d69b6a62 ID:d0c01066
Date: 2008/12/21 19:20

 時空管理局の保護施設。
 そこで私達姉妹を迎えてくれたのは、私と同じくらいの年頃の不思議な女の子達だった。

「ようこそ。わたしはアリシア・クローン十九番です」
「二十六番です」
「二十二番です」
「十七番です」
「二十三番です」
「二十番です」
「二十五番です」
「二十一番です」
「二十四番です」
「十八番です」
「そしてわたしがこの場所のアリシア・リーダーの十六番っす!」

 口々に珍妙な自己紹介を始める女の子達。

 総勢十一人。皆、同じ顔と同じ髪型、同じ背丈。
 うり二つ……、という言葉で良いのだろうか。

 双子というものが存在することは知っていたが、流石に十一人も同じ顔がそろうというのは想像したこともなかった。

 何とも言えないこの光景に、スバルと私は二人で固まってしまう。

「あ、気になるかもしれないっすけどこの話し方はキャラ作りなので気にしないで欲しいっす」

 横に一列に並んだ女の子達、その真ん中に立った一人が妙な語尾でまくしたてた。

「……変なの」

「こ、こらスバルそういうことは素直に言っちゃダメなの!」

 って、しまった。
 私も変だと思っていることが向こうにばれてしまう。

「い、一応リーダーっすから他のみんなと区別が付くようにしないとだめっす」

 それなりにショックを受けたようで、わずかにどもりながらそう返してくる。

「……髪型を変えるとか駄目なんですか」

「ああっ、そんな手が!」

 私の指摘に頭を抱えながらその場でのけぞるリーダーさん。

 この大げさな動きもキャラ作りとかいうものなのだろうか。

「髪型かー」
「私も変えたいなー」
「ポニテ? ポニテ?」
「ツーテールかわいいよねー」
「ツーテールだとフェイトおねーちゃんだよ?」
「ちょんまげー」

 凛としていた雰囲気は完全に吹き飛び、アリシア(?)さん達は口々に雑談を始めた。
 ああ、すっかり私達を無視して会話がはずませていく。

「え、と、それで、その番号が名前、なのかな?」

 流石に数字が名前と言うことはない……と思う。
 番号を名乗っている事情が何かあるのかもしれない。

 同じ遺伝資質を持ったクローン、だったかな。私とスバルは同じ遺伝情報のはずだけど髪の色が違ったりするから、この子達は私達姉妹とはまた別の存在なんだろう。

 まあ、私とスバルだって、ヒュペリオンのコードネームを元に付けられた愛称を名前として名乗っている。
 自分の名前を名乗らせてくれないような施設、ということは流石にないだろう。ないと思いたい。
 あれだけカガリがちゃんとした施設だと言ってくれていたんだし。

「名前は別につけてもらったんだけどねー」
「でも言ってもあれだよねー」
「誰も見分け付かないから教えるだけ無駄だよねー」
「でも友達は名前で呼び合うものだってカガリお姉ちゃんが言ってた」
「友達になろうねースバルー」
「というかわたし達だって見分けついてないじゃーん」
「はーい、十九番でーす」
「十九番はあたしー!」
「お母さんは見分けつくんだよーさすがお母さんだよねーすごいでしょー」
「お母さんはお母さんっすから」
「大きくなったらお母さんのお嫁さんになるんだー」
「カガリお姉ちゃんも名前で呼んでくれるよね」
「カガリお姉ちゃんはお母さん?」
「な、なんだってー」
「新事実新事実」
「犯人はお前だー」

 頭が痛くなってきた。












――――――
魔動少女ラジカルかがり SECRET STAGE 02
『人形の遊戯』

原作:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ ……のはず
――――――












 そんなことがあってから一週間ほど経ってからのこと。

「こんにちは、ギンガさん。調子はどうですか?」

 リクライニングルームでお茶を飲んで、カガリが

「うん、良くして貰ってる。今までと待遇が違いすぎてスバルなんて毎日違うことで喜んでるよ」

「それは良かった。あれ以来ころころ環境が変わっていますから、ストレスになってないか心配だったんですよ」

「どこも快適だから悪い事なんて無い」

 快適、なんて言葉で言い表せるものだろうか。


 このお茶という飲み物も管理局に保護されてから初めて飲んだ。

 必要な栄養以外の飲食物を摂取するという習慣。
 味の付いた飲み物で好きなときに喉を潤すという自由。

 外の世界は素敵なことだらけだ。


 そのことをカガリに話してみると、彼女は小さな笑みを返してくれた。

 カガリとは戦場以外での付き合いは長くないけれど、彼女は今まで会ったことのある人達より表情の動きが小さい。
 この微笑は「すごい嬉しい」ときの表情……だと思う。

「施設の子達との折り合いはどうでしょう? そちらのほうは心配してませんけど」

「ここの皆は元気いっぱいで振り回されている感じ……特に十一人が」

「あー、アリシアさん達ですか。同じ思考を持つ子達が十一人ですからね。同調し合って延々と話が続くんですよ」

「スバルとはもう気が合っているみたいだけど」

「あはは、あの子達は見た目と違って中身は脳の発達した一歳児ですからね。ギンガさんよりはスバルさんのほうが波長が合うでしょう」

 むむ……あの脳天気なあの子達も、この施設にいるだけあって色々あるみたいだ。

「あれでも最近はそれぞれに個性が出てきたんですよ。二十一さんは泣き虫ですし、十八さんは特におしゃべりです」

 個性があっても見た目が同じだと私には見分けが付かないんだけど。
 ああ、カガリは見分けが付くんだっけ。

「カガリとあの子達の……お母さん? その人はあの子達の誰が誰か見分けが付くようだけど、どうやってるのか。実は少しずつ顔が違う?」

「ああ、それですか。実はあの子達、アリシア・クローンさん達はですね、昔に死んだアリシアという人を再現するために生み出された複製人間なんです」

 さらりととんでもないことを言われた。

「え、え、そんなこと私に軽々と言っちゃって良いの?」

「良いんですよ。で、容姿はみんなオリジナルのアリシアと全く同じ。精神構造も元は皆同じです。ただですね、あの子達はオリジナルと唯一違うところがあるんです」

 カガリは左手の親指で胸を叩くジェスチャーをする。
 胸? なんだろう、心臓、血液?

「魔力があること、ですね。彼女たちは人工的に魔導師を作る技術で複製されたんです」

「私と似たようなもの?」

「魔法と機械という方向性が違いますけど、まあ基盤技術は共通ですね」

「でも複製なら魔力も同じじゃない?」

「容姿の統一以外は割と大雑把に量産された素体だったようなので、個々人の魔力の質はばらばらなんです。乱造ってやつですか」

 乱造。
 ヒュペリオンの研究施設でのことを思い出す。

 実験のためだけに多くの促成機人が創られては次々と使い捨てられていた。彼らのようなものなのだろうか。

「ですのであの子達のお母さん、プレシアさんはその微妙な魔力の違いを感じ取って、アリシア・クローン総勢二六七人の名前と姿を一致させているんですよ」

「二六七人って……」

「プレシアさんはSランクの魔導師、それも管理局にいるようなパワー馬鹿じゃなくて、知を探求する本物の魔導師ですからね。それくらい朝飯前なんでしょう」

「Sランク……じゃあ私には無理なのか」

「どうでしょうね。アインハンダーを解析していた技術班の見解では、ギンガさん自身の魔導師評価は最新でA+ランク相当でしたが」

「うえ、A+!?」

「最初はB評価だったんですけどねー。あ、ちなみに私は視界から魔力を感知する一族製の生体パーツが頭にあるので見分けられます。ギンガさんもつけます? ギンガさん、機械と親和性高いですから私のポケットマネーで簡単な手術で埋め込めますよ」

「い、いや、いい。いらない」

 確かに身体のパーツのつけかえとか出来るけど、気持ちの良い物じゃない。

 つけかえはヒュペリオンの兵器実験とかアインハンダー用パーツの搭載とかでしかイメージがなかったけど……生活に役立つ活用か。
 ヒュペリオンの兵士だったときにはありえないことだ。

 自分の出自を割り切るというのはこういうことなのかな。
 あの子達だって、自分達を平気でクローンと呼んでいたし。












 カガリがたずねてきてからというもの、私は遠巻きにアリシアさん達を観察するようになった。

 施設の人達の名前は彼女たち以外全員覚えた。

 カガリが言うには、相手の名前を呼ぶのが親愛の証。
 今後の生活を考えると、施設で上手くやっていくには全員の名前を覚えるに越したことはない。

 アリシアさん達の表情と仕草、そして魔力を記憶する。

 デバイスの助けがない状態での魔力探知。
 識別の前に正確に魔力を感じ取ることから始めなければいけなかった。私は戦いのための魔法しか覚えていなかったから。

 魔力を感じ取れるようになってからは、まず先にスバルの魔力を覚えることから始めた。
 魔力探知は便利だ。
 施設の中ならば、いつでもスバルがどこにいるかすぐに解る。

 慣れてしまえば後は記憶力頼み。

 貴重な名乗りの機会を待ち続け、観察の途中で目が合いそうになったら急いで目を離すという日々を続けて、おおよそ名前と魔力が一致するようになった。


 新しい環境になったばかりだというのに精神を研ぎ澄ます日々。
 そんな中で、ゆっくり一人でお茶を飲むのが楽しみの一つになった。

 紅茶、緑茶、白茶、黄茶。同じ植物を元にしている飲み物だというのに、こんなにもバリエーションが豊富。
 さらに、砂糖を入れたり薬味を入れたり果汁を入れたりと、味付けも自由に変えられる。
 新しい味を発見するのが密かな趣味になっていた。

 そういうわけで今日も学習時間が終わってスバルをアリシアさん達の元へと送り出すと、一人でリクライニングルームへやってきているのだ。

 柔らかい椅子にゆったりと身を任せてコップ片手に優雅なひとときを過ごす。
 身体が温まったためか、少し眠たくなってきた。

 せっかくなので昼寝でもしようと、椅子の背もたれを寝かせようとしたそんなときだ。

「あだっ」

 急に頭に何かが軽く当たった。
 続けて床から何かが落ちた音。

 何事か。と、床を見下ろしてみると……。

「ゴミ?」

 小さな紙でできた二等辺三角形の奇妙なオブジェだ。

「ゴミじゃないっす! ダライアス式紙戦闘機っす!」

 リクライニングルームの出入り口の方向から叫び声が聞こえた。

 アリシアリーダー、十六番だ。隠れてはいるが魔力、いや、それ以前に口調で判別できる。
 十六番は初めて会ったときの指摘に感心したのか、あれ以来アリシアさん達の中で唯一髪を束ねてポニーテールにしている。


 で、私に衝突した紙は、ダライアス式戦闘機とかいうものらしい。
 ダライアス式と言うことはこのオブジェはカガリが与えた手製のおもちゃか何かだろうか。

 戦闘機とやらを床から拾って手に持ってみると、なるほど、紙を折って翼が出来ていて確かにわずかならば空を飛びそうな形状をしている。

 紙製の小さな戦闘機。攻撃方法は玉砕体当たりのみだ。

「こういうものを人に向けて投げるのは危険。目に当たったら大変」

 形状から察するに尖った先端を船首にして真っ直ぐ飛んでいくのだろう。
 当たったらとても痛そうだ。相手に投げ合ってスバルの目になんて当たったときには大変だ。

「それはどうでも良いから、それ開くっす!」

「それ……この紙?」

「そうっす。分解して中を見るっす」

 紙を開く。見た目通りに単純な折り方をされている。

 これで出入り口からここまで届くというのだから、奥の深いおもちゃだ。

 開いた紙には、太いペンで何か文字が書かれていた。読み解くのがやっとな歪んだ文字だ。

 書いたのはきっと文字を覚えたばかりの施設の子。
 保護されて一年という十六番以下十一名がとりあえずの心当たりだが。

「これを読めば良いの?」

 読みづらいが、そんなに長い文章でもない。


『おまえのいもう
 とはあずかった

 かえしてほしけれ
 ばひろばまでこい』


 ……おい。

「ちょっとこれ!」

 急いで出入り口へと顔を向けるが、十六番の魔力反応はすでにそこにはない。
 探知の網を広げると、広場の方へと向けて走っていっているのが解る。

 なんなんだ一体。

 悪ふざけ? いたずら? だとしても、スバルをだしにつかうのは駄目だ。
 言って聞かせないと。

 眠気がすっかり吹き飛んでしまった身体を椅子から起こし、私は広場へと足を向けた。





「たすけてーおねーちゃーん」

 棒読みの悲鳴をあげるスバル。

「ふはははは、おまえの妹はあずかった!」
「ひとじちー」
「手のひらの上ー」
「とらわれのおひめさまー」
「おうじさまとキス?」
「キャー! キャー!」
「わたしもとらえてー」

 ……なんだこれ。

「妹を解放してほしければ、あたし達にしたがえー」
「したがえー」
「したがえー」
「したがえー」
「はあ……」
「したがわないとひどいぞー」
「ひどいんだぞー」
「だいさんじだぞー」
「ぐたいてきにはー?」
「背中に入れちゃう?」
「背中にテンダリオンムシを……」
「ぎゃーっ!?」

 アリシア達の騒ぎ声に混じってスバルが本気で悲鳴を上げた。

「ちょっとあんたたちなにやってるのー!」
「うわー!」
「怒ったっすー!」
「本気だー!」
「ごめんなさーい!」
「うええええええええええええん」
「待ってよこっちはひとじちがー」
「そうだ遊ばないと」
「そうだそうだギンガちん、わたしたちの要求をのめー」
「のめー!」
「のめー!」

 いっせいに私に指を突きつけてくるアリシア達。

「ギ、ギンガちん?」

 よく見たらスバルも私に向けて指を向けている。
 本当になんなんだこれは。

「のめー」

「いや、その、要求って何?」

「あ、言い忘れてたっすね」
「十六番うっかりー」
「ええ、わたしのせいっすか!?」
「リーダーがんばれよー」
「あんたがやらなくてどうするのさー」
「だめだな解任だな」
「あんたとはやってられませんな」
「うっかりリーダーはいらないよねー」
「ちょっと最近調子にのりすぎだよね」
「一人だけ個性手に入れたつもりになってるよね」
「み、みんなひどいっす! 挽回のチャンスくらい欲しいっす!」

 今度は勝手にもめはじめた

「帰って良い? ほら、スバル行こう」

「え、え、良いのかな」

「待つっす! ちょっと待って欲しいっす!」

「早くして」

「お、お姉ちゃん怒らないであげて……」

 アリシア達から私の元にやってきたスバルが私のそでを引っ張ってくる。
 いやまあこの程度で喧嘩とかはするつもりはないけど。

 アリシア達はまた何かを

「スバルちんを返して欲しければわたし達と缶けりで勝負っす!」

「……何それ?」





 缶けりというのはある管理外世界での遊戯のことらしい。

 紙戦闘機と同じくカガリが彼女たちに伝えた遊び。
 なるほど、カガリお姉ちゃんと言われるわけだ。

 ルールを聞いてみると、これがまた奥が深い。
 捕まるか缶を蹴るか、捕まえに行くか缶を守るか。訓練も受けていないような幼児の遊びとは思えない駆け引きを要求される。

 そういえばヒュペリオンの訓練ではこういうのは得意だったな。

「お姉ちゃん頑張れー!」

 スバルもこういっていることだし、ちょっと本気でやらせてもらおうか。

 相手は子供。ちょっと缶からはなれてみせれば何も考えずに突撃してくる子も一人か二人はいるだろう。

 頭の中でいくつかの行動パターンを考えながら缶から離れてみると。

「ふはははははははは!」

 早速一人飛び出してきた。
 見つかったら駄目なのに叫びながら出てくるなんて……まあ他から足音は聞こえないから作戦じゃなくて何も考えていないのだろう。

 走ってきているのは十六番だろう。頭の後ろで金色のしっぽが揺れている。

 今の缶との距離は私と彼女、二人とも同じ程度だ。いける。

「十六番みっけポコペン!」

 私の缶への到着は一瞬だ。魔導師でしかない幼児と戦闘機人の私の身体能力は比べるまでもない。
 これで早速一人確保。

 と思ったら。

「ふはははは、あたしは十六番ではないぞー!」

「えっ!?」

 十六番ではない?
 あ、そうか、髪型を真似て成り代わったのか。見事にだまされた。

 ということはこれは誰?
 顔が同じで服も支給された制服を着ているのにどう見分けをつければいいのか。

 そこまで考えて、私はもう彼女たちを判別できることに気付いた。

「もらったあああああ!」

「十九番みっけポコペン!」

 缶への接触は同時。

「みぎゃああああああああ!」

 だが、私が全力で踏みつけた缶は十九番の脚力では、缶を広場の土に小さく描かれた円の中から押し出すことは出来なかった。

 蹴った衝撃が全て自分の右足に返ってきてしまった十九番は、足を押さえて転げ回っている。
 まあ骨折まではしていないだろう、多分。

 十九番は十秒ばかり転がったあと、起き上がり半べそをかきながらスバルの元へ歩いていった。

 スバルは十九番の足をさすってよしよしとなだめはじめた。ああ、やっぱりスバルは良い子だ。

「うう、おには鬼だった……」

「うるさい」

 とにかく、私には魔力探知という強力な武器があることを思い出した。

 これを使えば、名前の特定どころか位置の特定まで可能だ。

 探知の網を施設全体へと広げる。
 あ、早速一人が足音を忍ばせて近寄ってきている。

 私がスバル達に目を向けている隙にとでも思っているのだろう。

「十六番みっけポコペン」

「んなー! ポニーじゃないのになんでわたしとわかったっすかー!?」

 そこからはただの作業だった。

「二十一番、二十五番みっけポコペン」

「ええー、わたし達のコンビネーションがー!」

「十七番、十八番、二十四番、二十六番みっけポコペン」

「じんかいせんじゅつやぶれたー!」

「二十二番みっけポコペン」

「土に缶めりこんでるよー!?」


 捕獲作戦は十五分とかからず終わった。


「反省してる?」

「反省してまーす」

「もうスバルにこんなことしない?」

「しませーん」


 捕獲した十一人は広場の土の上に座らせ、私は彼女たちに説教をしていた。
 スバルと一緒に遊ぶのは良いが、こうやってスバルをだしにつかって何かをしようというのは許してはいけない行為だ。

「で、何でこんなことしたの?」

「んーとね、カガリお姉ちゃんがねー」

 カガリですと?

「ギンガちんと遊ぶにはこうすればいいってー」

「私と遊ばなくてもスバルと遊べば良い」

「でもギンガちん、一緒に遊びたそうにずっとわたし達のこと見てたじゃないっすか」

 遊びたそうに見てた……名前判別のための観察のことを言ってるのか。
 隠していたつもりなのにばればれだったとは。

「遊びたいのにお姉さんぶっちゃって可愛いよねー」

「いや、あれは……」

「だからどうすればすんなり一緒に遊べるか、お姉ちゃんに相談したっすよ」

「スバルちん使えば絶対のってくれるとかー缶けりなら楽しんでくれるとかー」

 つまりあれか。
 黒幕はカガリか。

「あれ、皆さんおそろいで、缶けりでもするところですか? 私も混ぜてくださいよ」

 後ろから聞こえてきた声。
 この声は。

「かーがーりーっ!」

 振り返る。黒幕のご登場だ。

「あら。もうばれちゃってました?」

「ばれちゃってました、じゃないー!」

 カガリにもしっかり説教をしなければ。
 私が観察していることを全部知ったうえでこんなことをたくらんだのだ。重罪だ。

「待てっ! 謝れ!」

「あはは、私ドゲザは趣味じゃないですから」

 私の怒気を察知したのかカガリが走って逃げ始めた。

「待てー!」

「捕まえたら止まりますよー」

 カガリを追いかけて走り出す。
 だが、カガリの足は速くて全然追いつけそうにない。
 全力で走ってもカガリはこちらを見ながら余裕で逃げていく。

「おにごっこだー!」
「誰がおに? 誰がおに?」
「カガリ姉ちゃん以外全員おにだー!」
「よしいくぞー!」
「つかまえろー!」
「スバルちんもいくよー」
「おー!」

 カガリとの追走劇は私が疲れて動けなくなるまで続いたのだった。



――――――
あとがき:どうも私の文章は地の文が多くて会話が少なめのようなので、会話を水増しして書いてみました。うん、なにか違いますね。
ギンガの一般常識のなさのバランスはこれで正しかったのかどうかは解りません。
ロリキャラいっぱいですが作者はショタ趣味です。リビドーセービング。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり G.O.D. -第一話Aパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:a70c25d7
Date: 2012/10/25 22:19

魔動少女ラジカルかがり - THE GEARS OF DARIUS -



 宇宙は広く広大だ。
 かつて惑星ダライアスの人類は繁栄に繁栄を極め、遠く銀河まで文明を広げた。
 しかし、栄枯盛衰とはよくいったもの。宇宙生命体との覇権争い、機械の反乱、人類同士の戦争。気がつけば人類は宇宙から後退し、母星ダライアスと衛星グラディウスに安住するだけの小さな文明となるまで衰退した。
 そして、人類は自らを生み出した創造主の争い、相打ちとなって滅ぶ末路を辿った。

 次元は広く広大だ。
 かつてベルカの人々は繁栄に繁栄を極め、様々な次元世界に文明を広げた。
 だが、栄枯盛衰。世界間の覇権争い、質量兵器の乱用、同文明の内乱。争いは混乱を極め、大規模次元震によりいくつもの次元世界が虚数空間のかなたへと消えていった。
 そして、生き残った人々は質量兵器を封印し、次元世界の崩壊を未然に防ぐ時空管理局を作り、争いを止めた。

 私達の生きる世界はなんと広大なものだろう。
 次元世界の数多の国々を訪れるだけで私の寿命はあっさりと尽きてしまうだろう。
 時空管理局自然保護隊発行の最新次元遺産旅行パンフレットは辞書より分厚い。管理局の陸と海は人材を取り合って仲違いしてばかりだが、なかなかもって自然保護隊も人手不足に悩んでいそうだ。



 ――世界は広すぎるとお悩みではないですか?
 そんなあなたに私、カガリ・ダライアスがお勧めする商品がこちら。
 
 二人用シェルター『スウィート・メモリーズ』。
 宇宙戦用の頑丈な戦闘機R-9WF "SWEET MEMORIES"のコックピットを元に設計されたシェルターで、長時間宇宙航行用に整えられた生活設備は万全。
 外の世界でたとえ質量兵器戦争が起きていても、次元震事件が起きていても、夢のようなシェルターライフを快適に過ごせます。そう、夢のような。

 シェルター内に入った人は、健康維持のためにサイバーコネクタという機能でシェルターと精神リンクします。
 サイバーコネクタでリンクしたシェルターはリンク相手の精神状態だけではなく、生命エネルギーの状態もモニターし、狭いシェルター生活で健康を害していないか常に管理してくれます。

 さらに素敵な機能として、シェルターは隔離生活に飽きがこないよう精神リンク経由で内部にいる人に素敵な夢を見せてくれます。
 シェルターにいる間、半分眠った状態になれるんですね。
 仕事に、勉学に、生活に疲れたとき、あなたはこのシェルターに入るだけで全てから解放されあまーい夢を見ることができます。
 あまーい夢を見られるシェルター。だからスウィート・メモリーズなんですね。二人用なので複数形です。

 さて、こちらの素敵なシェルター。なんと、あの時空管理局に正式採用されています。
 あの時空管理局です。局員のみなさん、激務で疲れていらっしゃいますからね。万年全部署人手不足とはよく言ったものです。
 局員の皆さんからの評判は上々。特に、時空犯罪者担当の部署からはとてもよい反響をいただいています。
 このシェルターは、なんでもこう呼ばれているそうです。

 『強制自白取調室』と。

 さて、そんな『スウィート・メモリー』には本日、三名のお客様をお招きしております。
 エスコートを担当させていただくのは私、カガリ・ダライアス。
 このシェルターは二人用ですので、一名ずつのご案内となります。
 では、夢の一時をお楽しみ下さい。












――――――
魔動少女ラジカルかがり G.O.D.
第一話『スウィート・メモリーズ』前編

原作世界:魔法少女リリカルなのは各シリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












■被疑者 八神はやて
所属:時空管理局地上部隊ミッドチルダ地上本部航空魔導師隊機動二課
階級:二等空士
役職:空戦魔導師/技術官候補生
出身:第97管理外世界



「ここがカガリちゃん自慢のスウィートルームかぁ」

「いえ、『スウィート・メモリーズ』です」

「似たようなもんやん?」

「一級ホテルのスウィートルームより安らかな空間を提供します。仕事に疲れてくたくたのときは是非ご利用下さい。局員用の個人端末から予約できます」

「はは、十一歳の子供にお勧めするような内容ではないなあ?」

「そうでもないですよ。この世界では」

「ああ、そうやった。……でも、今日はお休みくれるためにここ連れてきたんちゃうんやろ?」

「はい。ようこそ『強制自白取調室』へ」

 ウェルカムトゥバイオレンスシェルター。ここは地獄の一丁目。
 精神リンクにより強制的に嘘のつけない状態にさせる、時空管理局捜査官御用達の秘密の部屋。
 あなたの見ているのは全て夢です。脳から抽出された甘い夢です。冤罪の存在しない素敵な夢です。

 ただし、あなたが犯人だった場合は悪夢に変わります。

 特別捜査官が同室したシェルターは、サイバーコネクタ機能により嘘の一切つけない自白空間に変わります。
 嘘をつこうという気すら起きません。意識を超えた夢の世界の世界の中なのですから。

 例えSランクの魔導師でもこの夢を止めることはできません。
 何せミッドチルダともベルカとも技術体系が根本的に違う魔導科学が用いられているのですから。

「さて、取り調べを開始しましょうか」

「ちょい待ち」

 と、はやてさんが私の前にぱっと手をかざす。

「何か?」

「取調室ならちょっと雰囲気ださんと。広さはええ。でも内装はあかん。快適すぎる」

 ふむ。最高にリラックスできるシェルターなんだけど。
 二人用なので室内はさほど広くはないが、座るだけで最高に眠たくなってくるふかふかのソファーに座ってお互い向かい合っている状態だ。それが快適すぎるから駄目と。

「座るのはやすもんのパイプ椅子や。で、刑事と容疑者の間にはこれまたやすもんのテーブル。室内は薄暗くて、テーブルの上のライトが手元を照らすんや。別室から他の刑事さん達が様子を見るためのマジックミラーも必要やな」

「……ふむ?」

「わっからんかなぁ?」

「全く」

「日本の刑事ドラマで定番の取調室や!」

「あー、はい」

 第97管理外世界の放送番組ですか。
 それなりに97カルチャーには詳しいですがそれは知りませんでした。

「では、その取調室をよーくイメージしてください。イメージです」

「イメージ……」

「はいっ」

 はやてさんの目の前でぱちりと手を叩く。すると、室内の内装ががらりと変わった。
 ふむ、これがはやてさんの言う取調室か。

「お、おお!? なんか変わった!」

「はい、これは夢ですから」

「なるほど、夢か」

「はい。『スウィート・メモリーズ』です。夢の中ですからこの程度なんてことはありません」

 実際には私達はふかふかのソファーの上でうたた寝していることだろう。
 今私は、サイバーコネクタによる精神リンクではやてさんの夢の世界にお邪魔している状態だ。

 なお、別室のモニター室で映されているのも夢の中の光景。
 古代の戦闘機R-9WF "SWEET MEMORIES"は、搭乗者の見る悪夢を波動砲として放つという荒唐無稽な代物。その技術を使えば、夢の中を現実の映像に変えるくらいなんてことない。

「そや、取調ならカツ丼が定番や! 刑事さん、カツ丼ください! お代はそちら持ちで!」

「はあい」

 指先でテーブルの上を軽く叩くと、はやてさんの目の前にどんぶりが出現する。
 白いライスの上に揚げ物がのせられ、卵でとじられているどんぶり飯だ。これがおそらくカツ丼。
 私の記憶の中には存在しない。まあそもそもお菓子はともかく食事にはたいした興味がないのだけれど。

「いただきます」

 どんぶりの前に置かれていた割り箸で、カツ丼を食べ始めるはやてさん。
 美味しそうだ。というか美味しいだろう。『スウィート・メモリーズ』は幸福な夢を提供する。本来は悪夢を捻出するためのコックピットなんだが。

「いやー、昼ご飯まだやからお腹すいてたんよ」

「あくまで夢ですから現実の胃は満たされません。後でちゃんと食堂に行くように」

「んぐんぐうまうま」

「……では、取り調べを開始しますよ? 食べながらでかまいませんから」

 被疑者に食事をさせながら取り調べをするのが、はやてさんいうの刑事ドラマというやつでは本当に定番なのだろうか。
 まあ後に人がつかえているのでちゃっちゃと進めよう。
 これは極秘捜査だ。“捜査している”という事実すら他の局員に極力悟られないようにしないといけない。

「八神はやてさん。出身、第97管理外世界。現地名称太陽系第三惑星地球。日本国、海鳴市。相違ないですね?」

「んぐ。ああ、大和撫子や。よろしく」

 大和撫子。検索。捜査には特に関係なし。ゴミ情報なので無視。

「不具合を内包したロストロギア、夜天の書の主となり、『新暦六十五年度 闇の書事件』の被害者となる。その後、時空管理局航空武装隊に保護される」

「被害者……かなぁ。むしろ加害者やと思うで」

「ふむ。……ああ、この取り調べ内容は一切記録に残らないので、心の中で思ったことを正直に話して下さい」

「加害者や。あたしが書の主やからな。管理責任っちゅーやつや」

「了解しました」

 嘘の一切言えない空間なのに言いよどむことすらせず、言い切った。
 加害妄想でないのも自己犠牲でないのも、ここ一年の付き合いでよくわかっている。彼女は十一歳ですでに大人なのだ。
 なお、裁判では闇の書事件における八神はやてに関して、一切の非を認められていない。

 はやてさんは『悲劇のヒロイン』である。
 地上本部最大の悪役、レジアス・ゲイズによってそう脚本が作られた。
 闇の書事件の詳細レポートは、時空管理局の内外に意図的に広められている。民間人向けに書籍化されている。映像化のオファーが来ていたりする。
 はやてさんは非情にも闇の書のバグに選ばれた悲劇のヒロイン。ヴォルケンリッターの四人は、はやてさんの愛に触れ人の心を持ち、そして愛が故に犯罪に手を染めたダークヒーロー。
 避けられない闇の書の悲劇。しかし、時空管理局と友の力によって悲劇は避けられた。『闇の書と聖なる夜』、クラナガンの各書店で大人気発売中。

 そんな“犯罪者を身内として抱える管理局の事情”とは関係なしに、はやてさんは罪を自覚してしまっているわけだ
 ここは取り調べの要チェックポイントだ。

「……保護後、闇の書による副作用の治療のため、ミッドチルダに移住。その後管理局に入局。リハビリを行いながら幼年校に通い、航空魔導師隊での勤務も行う」

「おかげさんで足は完治したわ。学校に行けるようになったし、仕事は大変だけど楽しいし、幸せもんや」

「日本の小学校に戻りたいとは思いませんか? 故郷を離れてこんな遠くの世界に来て、帰りたくなりませんか?」

「元々ほとんど家と病院往復するだけでたまに図書館に行くくらいやったし、学校も行けてなかったからなぁ。なんかもうクラナガンが故郷な感じになってるわ。え、これ捜査に関係ある情報なん? なんの捜査してるか知らんけど」

「いえ、せっかくなので聞いてみたかっただけです。いやいやここにいるなら帰してあげないと、と友人として」

「あ、なんかずっるいわぁそれ。なあ、あたしから質問してもカガリちゃん嘘言えなくなるん?」

「いえ、あくまで一方的なものにしてありますが……フェアではないですね。待ってください」

 くるくるくるっとサイバーコネクタ機能をいじる。
 特別捜査官ではないが、ダライアスの者としてこのシェルターの管理者権限があるので、モードの調整は自由にできる。
 だからこそ私がこの極秘捜査で、ここを取調室として使用しているのだが。

「はい、一族の機密情報以外なら正直に答えられますよ」

「ほんとかー? ほんとに嘘つかないんかー?」

「はい」

「じゃあ質問。あたしのこと本当に友人と思ってる?」

 ……えー。なんだその質問。

「はい。数少ない同年代の友人です。なにぶん、周りが大人ばかりです」

「わー、やったー」

「……質問の意図がわかりかねます」

 というかむずがゆい。他の人がここをモニターしているというのに。

「カガリちゃんいつもつーんとして冷たいし、あたし置いて現場行くし、休みの日はあんまり付き合ってくれへんし、友達と思われてなかったらどうしよって思ってたんよ?」

「冷たく思われるのは性格です。夜の現場に一人で行くのは翌日のはやてさんの学校に差し支えないようにするためです。休みの日とはいっても管理局の仕事はあくまで副業です。友達です」

「そやなぁそやなぁ嘘付けないときまでそんなんなのはそういう性格なんやなぁ。あたしが治したるわ。で、次の質問な」

 え、まだ続くのか。

「カガリちゃんぶっちゃけユーノくんのこと好きやろ?」

「はあ、好きですが」

「わー、やっぱりか! なのはちゃんの彼氏言うのは恥ずかしがってるだけか!」

「あ、そっちの意味ですか。友人として好きというだけで異性としては特に何とも思っていません」

 だってユーノくん人間だし。

「六つの頃からの幼馴染みって聞いてこれや! って思ったんやけどなぁ」

「発掘現場で幾度か会っていただけで、幼馴染みと呼べるほどの仲の良い友人だったかというと、どうでしょうか」

 ちなみに現在ユーノくんは古代ベルカ関連の歴史を調べるために、ミッドチルダに滞在している。
 聖王教会にご厄介になっているらしく、古代ベルカのデバイスマイスターとして勉強中のはやてさんとはよく顔を合わせているのだとか。
 正直私よりはやてさんのほうがユーノくんと仲が良いのではないだろうか。

「ちなみに、最近ユーノくん、髪伸ばしてますよね?」

「ああ、完璧に女の子みたいやな」

「髪とめてる緑のリボン、昔なのはさんが付けていたリボンです。なのはさんがどう思ってるかはわかりませんが、ユーノくんはなのはさんラヴですね」

 ラヴ。ミッドチルダ魔法言語では愛と呼ぶ。

「わー、まじ? まじまじ?」

「嘘をつけない場所なのでぶっちゃけてみました」

 私は悪くない。
 『スウィート・メモリーズ』が全部やった。

「じゃあ次な。ヤマトさんのことはどう思う? ラブ?」

「色々な意味で得難い友人ですがラヴはありえませんね」

 だってヤマトさん人間のようなものだし。

「なお、ヤマトさんもここに呼ばれていることからわかる通り、彼も今回の捜査の被疑者です。もし犯人だった場合は友人としても好きじゃなくなります」

「え、それ捜査情報ちゃうん?」

「正直私ははやてさんを犯人だとは思っていません。そしてこの取り調べで疑いが晴れた場合、はやてさんは強制的に捜査班入りです」

「う、うん。そうなんか」

 そうなんです。
 無駄話のせいで取り調べは欠片も進んでないけれど。

「はやてさんはどうですか。もしヤマトさんがある重大事件の犯人だった場合、どうしますか。今まで通りラヴを貫きますか」

 誰がどう見てもはやてさんはヤマトさんラヴであったが。

「そ、それなんやけどなカガリちゃん。実はな、ヤマトさんのことなんやけどな、あんな? うん」

 ふむ。
 『スウィート・メモリーズ』の影響下で言いよどむということは、精神リンクを通じても言葉を引き出せないということ。
 つまりは答えがない。本人でもわからないことがある。困惑しているということだ。

「そもそもヤマトさんのことが好きだったのかわからない、と?」

「え、ええ!? 嫌いやないよ?」

「友人としてですね」

「そやなー……」

 甘い夢は正直。嘘つかない。

「はやてさん。幼い頃にはよくあることです。思春期を迎える前の子供にはよくあること。年上への憧れを恋と間違えるのはよくあること、と私ははやてさんを慰めたいですが……、ヤマトさんの場合は事情が異なります」

 あ、やばい。甘い夢は正直。嘘をつけない。

「ヤマトさんは異性同性問わず老若男女全てに好かれる人物です。生まれついて人に好かれる資質。これをカリスマと呼びます」

 あー……友人の秘密を話してしまっている。
 まあ捜査情報の一つだし、捜査に加わるメンバーにはどっちにしろ被疑者にあがる情報として話さないといけない内容だからいいか。

「古代ベルカの王族に連なる者が、まれに発現するとされるレアスキルですね。魅了と呼ぶ人もいますが、実際のところは王としてのカリスマです。古代史に曰く、笑みを浮かべ手を掲げ『我が民よ』と騎士を束ねたとか」

「カリスマ……カリスマかぁ」

「前、一目惚れしたとか言っていましたが、レアスキルを受けた心当たりがありませんか?」

 子供と女性の頭を撫でるのが彼の癖である。
 癖、と思っていたが捜査情報で浮かんできたのが、無意識で押し込められたレアスキルの無自覚解放であるが。

 ちなみにこれに似た性質は私にもあったりする。
 私の体内には魔力炉があり、空気中に魔力放出しているが、この魔力は無色透明。自然界に存在しない、人工的に作られた何色にも染まってない魔力だ。
 つまり私というかダライアスは純粋すぎる魔力の塊で、魔導師や魔法生物から見ると私はとても美味しそうなのだとか。

「うん……ヤマトさんと初めて会ったのは図書館でな。車椅子で届かないとこにある本取ってくれてな。そんときに初めて撫でてもらったなぁ」

 図書館か。あの人妙に日本好きだからな。
 日本ヤマトとはなんともまあ洒落た偽名だ。

「あたしずっと一人やったから、こんなお兄ちゃん欲しいなぁって。そんなことずっと考えてたら夜天の書からシグナム達が出てきてくれてなぁ。ほんとに嬉しかったわ」

「……うん?」

 あれれ? おかしいな?

「えーと、ヴォルケンリッターが出てきたのは九歳の誕生日でしたよね?」

「そや。夜更かししてたら真夜中に書がびかーってなって地震がどどーってなってな。ホラー映画顔負けやったで」

「地球時間で六月ですよね? 先々週お祝いした、六月四日」

 地球時間とミッドチルダ時間は同期している。一日の長さ、一月の長さ、一年の長さが同じ。
 これは次元世界における惑星の性質と、次元世界間の文化浸透がいろいろあったりするのだが、今回はどうでもいい。
 重要なのは、地球時間。

「うん、カガリちゃんはダライアス時間で銀鶏の月の一日やったな。しっかり覚えとるよ」

 覚えてくれてるのは嬉しいが、そうじゃなくて。

「ヤマトさんと会ったのはいつごろですか?」

「誕生日の何週間か前で……ゴールデンウィーク過ぎたあたりやったかな?」

 甘い夢は正直。忘れている記憶も掘り起こす。つまりは正確な情報。
 ミッドチルダ新暦65年5月。第97管理外世界。ジュエルシード事件まっただ中でそこには次元航行戦艦アースラがずいぶんと前から到着していて、、市内に散らばっているであろうジュエルシードの探索時期だった。
 高町なのははアースラ内部に一時避難済み。市街地には局員達が複数アースラから降り立っていた。予備戦力執務官補佐として、ハラオウン執務官よりは自由に動けていたヤマトさん。それが、任務の最中に八神はやてと接触していた。
 ああ。あああああ。

 くるくるとサイバーコネクタをいじる。嘘をつけない状態から私を切り離す。
 そして頭を抱えそうになるのを必死で押さえて心の中で絶叫した。
 予想外。何が起きた。どうなってるの。二名の被疑者の情報が複雑になる。いろいろ要修正。捜査情報として重大。要チェックチェックチェック。
 聞いてないんですがハラオウン提督!

「その時期がどうかしたん?」

「いえ、神出鬼没だなぁ、と。それだけです」

「そうやなー。アースラの乗組員さんが何であんなところにいたんやろなぁ」

 不思議ですねまったくもって。

「不思議やね。……で、や。あたしからその『カリスマ』が消えた……消えたんよね? なんでやろ」

「古代ベルカの王の影響を受けやすいのはベルカの民です。そして夜天の書は古代ベルカの爵位級デバイス。その主は人一倍王にカリスマを感じるわけですね」

 同じ第97管理外世界の同い年の女の子で、なのはさんが懐かずはやてさんが懐いたのはおそらくこれが理由だ。
 なのはさんは最新ミッド式の魔導師。はやてさんは古代ベルカの夜天の魔導書と同化して身体を蝕まれていた子供。影響を受けやすいのはどちらかということだ。

「今のはやてさんは、おそらく王のカリスマの影響下から抜け出した状態にあります。魔導書に“使われていた”状態から魔導書を“使う”状態に魔導師として成長した証拠ですね。はやてさんは今、夜天の書を完璧に使いこなしているということです」

 これが洗脳魔法の類なら大問題だった。だけど、あくまでカリスマを振りまくというだけの代物だ。
 しかも私は古くからの付き合いで散々見てきた。彼はカリスマの影響下に置いた人物から、理不尽にもほどがある暴力をたびたび受けていた。魔導師だけでなく一般人からも。
 これは王権に対する反乱。レアスキルに対する無意識下のレジスト行為だろう。
 つまりは洗脳の域に達していない、レジストが容易に可能な弱いスキルということだ。「死ね」と言われて相手が自害するほどの強制力はない。

「……ああ、ヤマトさんはおそらく自覚も悪意もないので、責めないであげてくださいね。捜査上で上がってきた新事実ですから」

「うーん……」

「この事実をはやてさんがどう消化するかわかりませんが、頑張れ女の子」

 あとはまあ、彼本人に自覚して貰ってレアスキルの制御をどうにかしてもらえば良い。

 ――彼がこの事件の犯人でなければだが。

「で、そろそろ取り調べを始めますよ」

「……あ、最後の質問ええか?」

「まだあるんですか……」

 一人目のシェルター使用時間残り少ないんだが。

「クロノくんとはどうなん? アースラで何週間か一緒に過ごしてた同年代やろ? ラヴかライクか?」

 え、ええー。クロノ・ハラオウン執務官? そこでその名前がでるの?
 ラヴはないわ。人間だし。ダライアス人じゃないというだけでラヴとは完全に対象外。

「そもそもハラオウン執務官とは友人になった記憶すらないですよ? 同年代じゃなくて私達より年上ですし」

「えっ」

「年上です。ヤマトさんと同じ歳です」

「えっ」

 ……背、低いからなぁ彼。背がともなえば威厳あるのに。
 というか。

「私、ハラオウン執務官とは……そもそも数回しか会話していないような……」

 検索。該当。知人以下の顔見知りが妥当。

「あ、うん……そもそもカガリちゃんが名字呼びな時点で脈の欠片もないなぁ」

「その名前が出てきた時点でびっくりです。あ、ちなみに今ハラオウン提督この取り調べモニターしてますからね」

「え、マジで?」

「『スウィート・メモリーズ』嘘つかない」

 私への影響力カット済みだが。

「リンディさーん! おたくの息子さんこっぴどく振られてますよー!」

 いや何いってんのこの子は。
 そもそもハラオウン執務官はエイミィ執務官補佐が虎視眈々と貞操を狙っていて、ハラオウン執務官も割とまんざらでも無いというのがアースラ内部での統一見解でしたよ?






 落ち着きましたか甘い夢の中でふわふわっとしすぎなお嬢さん。
 そろそろ取り調べを始めますよ。有無は言わせません。これだからここは取調室として使いにくいんだ。相手がトリップ状態に入ってるから。

「では、取り調べを続けます」

「はい、ごちそうさまでした」

 はやてさんのどんぶりはすっかり空である。長話しすぎだ。

「さて、八神はやてさん。現在時空管理局のミッドチルダ地上本部、航空魔導師隊機動二課に所属。入局の動機は?」

「カガリちゃんに勧められたからやなぁ」

「……そうでしたね」

 闇の書事件の減刑のため、ヴォルケンリッター四人の管理局への従事は避けられなかったと言える。
 ただし、はやてさんはそもそも無罪。ミッドチルダに来る理由も管理局員になる理由もない。全ては私がそそのかしたからだと言える。
 結果、八神家は一家離散することなく揃ってミッドチルダ人になることができた。管理局員いうだけでそれだけ身元が証明されるのだ。
 元管理局員も同じである。

「地上本部の管理局員として一年間働き、はやてさんはミッドチルダ人として認められています。退局して好きな職を選ぶことも自由ですが、退局の意志はありますか?」

「ないなぁ」

「理由は?」

「管理局にいるのがデバイスマイスターになる一番の近道やからな」

 そう。はやてさんは古代ベルカのデバイスを研究する研究職の道を歩もうとしている。
 彼女の家族である夜天の書の守護騎士、ヴォルケンリッターを生み出した文明を探り、魔導書を自分の手で再現したい。それが魔導師としてのはやてさんの原動力だ。これも私がそそのかした。
 はやてさんは今、技術官候補生として魔法技術を学んでいる。ミッドチルダでの企業テロが一段落したので、空戦魔導師としての出撃要請も以前ほど頻繁ではない。

「武装局員コースではなく、技術官コースを進むのですね」

「そや。ミッドチルダなら聖王教会の人とも技術交換できるからなぁ。日本に帰れ言われても帰らんからな」

「同じ技術者としてその姿勢は尊敬します」

 私とはやてさんは同じ立場にある。ミッドチルダの空戦魔導師であり、魔法デバイスの開発者でもある。
 私が開発しているのは魔動戦闘機だが、今はやてさんが技術を学び作ろうとしているのは、夜天の書を元にしたベルカの融合型デバイスだ。

「蒼天の書、でしたか。聖王教会と共同で制作中の融合デバイスは」

「ああ、そやな。夜天から蒐集機能を除いたユニゾンデバイスやな。リインに該当するマスタープログラムの作成に難航中や」

 マスタープログラム。管制人格。デバイスを管理し、第三者による悪用を防ぐAIだ。
 なのはさんのレイジングハートやフェイトさんのバルディッシュなどのインテリジェントデバイスよりさらに高度な人格プログラムを要求される、らしい。専門外なので技術的な部分は詳しくない。

「夜天の書に習うなら、マスタープログラムだけでなく防御プログラムも必要ですよね」

「そやなー」

「蒼天の書は夜天の書の防御プログラムを参考にしていますか?」

「いや、これがなぁ。夜天のだと闇の書みたいなバグがおきるかもしれんから一から作らないとあかん。夜天の書も防御プログラムは改修中や」

 闇の書のバグ。闇の書の闇、コードネーム『ナハトヴァール』と呼ばれる、闇の書事件の元凶だ。
 『新暦六十五年度 闇の書事件』にてスクライア一族によって切り離され、封印されている。残った夜天の書の防御プログラムは現在初期化されて安定状態にある。ただし、闇の書が誕生した手順をもう一度踏むと、再び『ナハトヴァール』が発生するとか。

「防御プログラムの参考に、闇の書のバグ、『ナハトヴァール』を解析したりしていますか?」

「しとらんなぁ。したほうがいいんか?」

「解析の必要有りと判断した場合は申請書を上げてください。魔力供給があれば次元世界丸ごと一つ吹き飛ばすロストロギアなので、研究用に申請は通らないと思いますが」

「夜天から切り離されててもそんな危険なもんなんか……」

「『ナハトヴァール』が現在どこにあるかご存じですか?」

「んー……知らんなぁ。闇の書は全部、スクライアさん達とヤマトさんに任せたからな。『ナハトヴァール』って名前も今知ったわ」

「『ナハトヴァール』は封印処置をされ時空管理局の管理する第一級ロストロギア封印施設に保管されました。……もしこれを悪用しようとする人がいたらどうしますか?」

「……いるんか?」

「さあ、わかりません。もしもの話です」

「もしそんな人がおるんなら、夜天の書の主としては放っておけんな。ヴィータ達も同じやろうな」

「はやてさんは武装局員や捜査官にはならず、技術官になるのでは?」

「それとこれとは話が別やで、カガリちゃん」

 なるほど。よくわかりました。





■総評

「良い子ですね。被疑者として名前が上がる時点で間違っている」

「本当よねぇ。天涯孤独だし、うちの子として引き取ってあげたかったわ」

「……提督殿、それは次元航行部隊に引き抜きたいという意味ですか?」

「いやね。そんなわけないじゃない。私はあなた達と違って無理に管理局入りさせるようなことしないわよ」

「ははっ。提督殿が保護したフェイト・テスタロッサは、判決後数日ですでに魔導師として働いていたと記憶していますが?」

「フェイトさんは良い子だから、お友達を助けるために臨時で嘱託になっただけよー?」

 取り調べを終え、シェルターから退室してモニター室で私を待っていたのは、なんというかまあ予想通りの光景だった。
 秘密捜査の地上本部担当、オーリス・ゲイズ二尉。本局担当リンディ・ハラオウン提督。この二人が今のところの捜査の仕事仲間だ。

 二人にはモニター室で取り調べを見て貰っていたのだが……実はこの二人、すこぶる仲が悪い。

 オーリス姉さんの父、レジアス・ゲイズ地上本部長は本局のギル・グレアム元提督系の派閥を不倶戴天の敵として敵視している。
 で、ハラオウン提督はグレアム派閥の穏健派筆頭で、何かにつけてゲイズ親子にちょっかいをかけられている。

 ゲイズ親子の一方的な敵視なら話は簡単なのだが、ハラオウン提督は闇の書事件の裁判で痛くもない腹を散々探られたうえ、引退したグレアム元提督のしでかした闇の書隠蔽について代わりに責任追及を受けたりしていた。
 つまりは犬猿の仲である。

 今回の秘密捜査は海と陸との合同捜査になる。
 で、私はこの仲の悪すぎる二つの派閥の調停役をしなければならないらしい。なぜなら秘密捜査で人員が足りないから。

「お二人とも、一人目終わりましたよ。はやてさんはやはりシロです」

 火花を散らす二人の間に無理矢理割ってはいる。
 親と子ほどの歳が離れているというのに、なんともまあ面倒なことだ。

 オーリス・ゲイズ二尉。やり手の文官。地上本部の切り札(腹黒的な意味で)と呼ばれている。十四歳という子供ながら、親が親だけに性格や仕事に対する姿勢に問題がありすぎるお方だ。親よりは柔軟な判断をこなすが本局嫌いは筋金入り。ダライアスの保護地区からミッドチルダに来たときにホームステイしたことがあるので姉さんと呼ばせてもらっている。が、ゲイズ家の手腕を学ぶとダライアス一族が社会的に死にかねないので深入りはしない方針である。

 リンディ・ハラオウン提督。十六歳の執務官の息子を持つエリート艦長。数々の次元災害事件を解決してきた現場主義の実力派。現場主義なのに亡き夫から引き継いだ影響力と、引退に追い込まれたギル・グレアム元提督の派閥を抱え込むことになった不幸な人。現場の人なので売られた喧嘩はしっかりと買う。年齢は教えてくれない。

 今回の捜査は、ハラオウン提督から私づてに地上本部に持ち込まれたヤマだ。
 地上本部側で捜査を進めるために、私がオーリス姉さんを仲間に引き込んだ。まさかここまで仲が悪い、もとい姉さんが敵意を隠そうとしないとは思わなかったが。

「カガリ、無駄話が長すぎるぞ」

 そう私を睨み付けてくるオーリス姉さん。提督と一緒にいるだけでここまで機嫌が悪くなるとは。レジアスおじさんのすりこみは半端ない。
 なんだったかな。思春期の娘はファザコンで、思春期の息子はマザコンなのだとか。ではハラオウン執務官はマザコン? まあそれっぽい。

「いえいえ、友人に疑われるという異常事態からはやてさんを保護するための、必要な措置ですよ。私なりの精一杯の取り調べです。どうせ記録に残りませんし」

 記録には残らない。
 秘密捜査である。しかも、被疑者として管理局員であるはやてさんの名前が挙がるような事件だ。
 第三者に閲覧可能な捜査資料は残さない。代わりに私の脳内チップに記録している。こういうとき有機機械化された身体は便利だ。

「事件が事件なだけに、はやてさんから話を聞かないわけにはいかないのよね。疑いたくはなかったのだけれど」

 そう告げるのはハラオウン提督。
 彼女は闇の書事件後、身寄りのないはやてさんを養子として引き取るつもりだったらしい。つまりはやてさんを身内として見ている。
 身内を疑わなければいけない。これはそういう事件だ。

「疑いは晴れましたけど、捜査に加えるかどうかが問題ですね」

 私はそう問題を提起する。

「ん? 元より八神は戦力として数えていたのだけど……」

「今の段階では止めた方が良いと私は思います。はやてさんが動くと、捜査をしているという事実が犯人に露呈しかねません。動かすなら捜査が本格化してからですね」

「どちらにしろ残り二人の取り調べを終えてからね」

「それもそうですね。ハラオウン提督、呼んできて下さい。私は『スウィート・メモリーズ』の用意をしますので」

 ――さて、次のお客さんを案内しよう。



――――――
あとがき:魔動少女ラジカルかがりG.O.D.はじまります。


用語解説
■髪とめてる緑のリボン、昔なのはさんが付けていたリボンです。
だそうです。でもなのはさん側からは脈がないまま彼女は一児の母として二十五歳を迎えました。
クロノ・ハーヴェイ? なのはさんとなのちゃんを同一視する人は許さない。絶対にだ。


SHOOTING TIPS
■R-9WF "SWEET MEMORIES"
R-TYPE FINALに登場する悪夢の機体。サイバーコネクタで搭乗者との脳波リンクを行い、さらに搭乗者の生命エネルギーを波動エネルギーに変換させて、搭乗者の見ている“悪夢”を波動砲として発射する天才的な戦闘機。
脳波と生命エネルギーを波動エネルギーに変換するので、搭乗者の末路はどう考えてもアレ。そして搭乗者を消耗品として付け替える試験管キャノビー搭載。追い詰められた人類を効率的に極限まで消耗し尽くして使い切る、最高に合理的な機体である。この機体を開発した開発部は最高の技術者である。パイロットとして乗りたくはないけど。

■ウェルカムトゥバイオレンスシェルター
正確には『WELCOME TO VIOLENCE CITY』。
STG最大の変換期――あるいは暗黒期、20世紀末に登場したライジング発『アームドポリス バトライダー』のゲームスタート時メッセージ。
業界が弾幕ゲームの波に移る以前、停滞しつつある90年代中期の流れを汲んだそんな作品。生まれたのがせめてあと一年早ければ……とは作者の勝手な感想。



[3691] 魔動少女ラジカルかがり G.O.D. -第一話Bパート-
Name: Leni◆d69b6a62 ID:a70c25d7
Date: 2012/10/26 00:06


■被疑者 クロノス(ヤマト・ハーヴェイ)
所属:時空管理局本局次元航行部隊L級艦船アースラ隊
階級:本局執務官
役職:空戦魔導師/執務官
出身:第1管理世界ミッドチルダ北部ベルカ自治領



「ご……ごめんなさい。ここはもうひとり、いえ……どうつめてもふたりまでです!」

 はい?

「このシェルターは元より二人用ですが」

「あ、うん。日本の漫画ネタだったんだけどな? 知らない? 結構日本文化詳しかったよな」

「はやてさんの部屋に漫画があるので最近もそれなりに読んでいますが、それは知らないですね。とりあえず座ってください」

 シェルターの入り口に立ったままのヤマトさんをソファーへと誘導する。
 着席。サイバーコネクタ接続開始。夢の世界へようこそ。

「では、取り調べを開始します」

 手を叩く。すると、私の精神からイメージが取り出され、シェルターの内装が変わる。
 先ほどはやてさんが作りだした刑事ドラマの取り調べ室だ。

「何やら日本ネタをお望みのようなので、日本式の取り調べです。はい、“カツ丼”」

 カツ丼と宣言することで、ヤマトさんのイメージを引き出す。
 ほかほかのカツ丼がテーブルの上に出現した。

「ほ、本格的だなぁ。何このシェルター」

「夢の中で取り調べを行える『スウィート・メモリーズ』です。夢の中なので嘘がつけません。『強制自白取調室』とも言います」

「ええ!? 何それ怖い」

「ハラオウン提督から何か聞いていますか?」

「クロノが異動して最近アースラの仕事忙しくなったから、たまにはリフレッシュしなさいって、休養施設を案内してくれた。で、なんかついでにカガリとの旧知の仲を温めてこいって言われた」

 なるほど。
 そういえば提督以前、嘘は得意っていってたなぁ。嘘じゃないけど嘘だその内容は。

「ヤマトさんはある重大事件の被疑者の一人として名前が挙がっています。なので、これは冗談でもなんでもない本当の“取り調べ”ですよ」

「ちょ、ちょっと待てよ。知らんぞそんなの! 重大事件ってなんだ!?」

 ふむ。重大事件に関わっている自覚はなし、と。

「落ち着いて下さい。先ほども言ったとおり、ここは嘘がつけない空間です。やましいことが何も無ければ身の潔白を完璧に主張できる、冤罪のない取り調べが可能です。協力をお願いします」

 ぺこり、とお辞儀をする。

「……わかった」

 なんとか、取り調べは無事に行えそうだ。












――――――
魔動少女ラジカルかがり G.O.D.
第一話『スウィート・メモリーズ』後編

原作世界:魔法少女リリカルなのは各シリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
――――――












 この『スウィート・メモリーズ』の席に着かせるのが、ヤマト・ハーヴェイの捜査を行う上で一番の懸念事項だった。
 なにせ魔力量SSランク判定を受けた新鋭執務官殿だ。もし彼が犯人で、私達の捜査に気づかれた場合、結界の張られた管理局の建物丸々一つを破壊されて次元の彼方に逃げられかねない。
 ハラオウン提督は完璧にヤマトさんの手綱を握っていると見える。

「さて、ヤマト・ハーヴェイ執務官。経歴から見ていきましょうか」

 記憶チップから彼の履歴情報を引き出す。

「第1管理世界ミッドチルダのベルカ自治領にあるハーヴェイ孤児院出身。ミッドチルダ中央魔法学校を飛び級で卒業後、時空管理局の短期訓練校に入学。成績優良として士官学校を経由せず次元航行部隊に配属。L級艦船アースラに執務官候補生として実地配備。相違ないですね?」

「そうなー。そこまでの話は今更確認するまでもないだろ?」

「まあ取り調べですので。孤児院出身というのは初耳ですけど」

「言ってなかったっけ?」

「はい」

 しかしまあエリートコース一直線である。
 何のためにこんな道を選んだのか今まで聞いても教えてくれなかった。私も特に詳しく知りたいと思っていなかったが、どうも捜査を進めるには知らなければならないようだ。

「アースラで局員の仕事をこなしながら士官教育を履修。執務官補佐として様々な次元犯罪の解決に当たる。代表的な功績は第97管理外世界の『ジュエルシード事件』と『新暦65年度 闇の書事件』の解決」

「俺の功績っつーかアースラの功績な」

「どうでしょうかね。新暦66年に執務官試験に合格。L級艦船アースラの担当執務官となり、現在に至る」

「執務官になったらクロノがアースラから出てくことになるとは思わなかったよ」

「どの部署も人手不足なんですから一箇所に固めるはずがないですよ。ハラオウン提督が言うには親子で同じ艦に配置されていた今までの人事がおかしかった、だそうですが」

「母親と子供が一緒にいるのは当たり前のことだろ?」

「孤児院出身の人が言うとすごいそれっぽいですね」

 はやてさんの良い子オーラとはまた違った善人オーラがなんともまぶしい。
 彼は模範的すぎる。模範的すぎて裏がないか疑いたくなる。というか疑った。そして被疑者として自白室に今いる。

「さて、ヤマトさんは昔から管理局の士官を目指していましたが、なぜでしょうか。子供の頃から何か将来の設計でもありました?」

 なんのために管理局に入ったのか。なんのために管理局にいるのか。
 はやてさんにもした質問だ。

「ジェイル・スカリエッティを捕まえるため」

「……そこにいきますかー」

 話が複雑になりそうだ、これ。

「では、“過去”に経歴を遡っていきましょうか。聖王教会のハーヴェイ孤児院出身。ではその前は?」

「……人造魔導師研究所」

「はい。ヤマトさんでも嘘や沈黙は不可能なようですね。プロジェクトF.A.T.E。アリシア・テスタロッサが関わる以前、新暦51年にジェイル・スカリエッティが偶然生み出した人造魔導師クロノス。それがヤマト・ハーヴェイの正体ですね?」

「……そうだ」

「アースラクルーがこれを知ったのは『ジュエルシード事件』でヤマトさんが調べるように指示したからですか。出生の秘密をばらしてまで事件解決したかったんですね」

「ああ、ハッピーエンドで終わらせたかったんだ」

 私もジュエルシード事件の捜査に参加してたのに、この事実を知ったのはつい先日だ。
 エイミィ執務官補佐が思わせぶりなこと言ったのも納得だよ。

「古代ベルカの歴代の王の遺伝子を掛け合わせまくって最高の王を作り出す、ですか。成功しちゃうなんてびっくりですね」

「生まれた俺もびっくりだよ」

 そう。ヤマトさんはベルカの王だ。色々混ざりすぎて正当性を主張できない混沌の王。
 秘めている能力は未知数。レアスキルも多数発現しているだろう。カリスマのレアスキルは、人間じゃないから効かない私だからこそ気づくことができた。

「つまり、管理局入りしたのは、生みの親への復讐ですか?」

「え、違うよ?」

「あ、違うんですか」

 じゃあどこからスカリエッティを捕まえるという発想を子供時代にしたというのか。
 時空管理局に入って執務官を目指すというのは、私とヤマトさんが出会ったばかりの頃から言っていたことだ。
 出生の秘密、ではなく彼の行動原理について聞いていくことにしよう。

「『ジュエルシード事件』。これにヤマトさんが関わったのは偶然です。私がちょうどジュエルシードを紛失した頃のユーノくんに偶然連絡を取り、偶然ヤマトさんに通報した。これは偶然ですか?」

「偶然じゃないな。地球にかけつける船はアースラと決まっている」

 断言だ。

「『新暦65年度 闇の書事件』を解決するために、半ば閉鎖状態にあったマイナー部署の無限書庫を使ったのは何故ですか?」

「闇の書は無限書庫を使わないと救えないからな」

 ヤマトさんは良い感じに甘い夢を見てトリップしているようだ。
 今ならなんでも聞き出すことができそうだ。人権? 今回の事件の危険度を考えれば、人権など考慮に値しない。

「ヤマトさん、あなたは未来を知っていますね?」

 確信を持って尋ねる。
 頭の中に埋め込んでいる記憶チップから、ヤマトさんと今までしてきた会話をざっと取り出していく。
 ヤマトさんはたびたび不審な言動を繰り返してきた。

「ああ、知っている」

 私と初めて会った日、ヤマトさんはこんなことを言った。「もしかして原作キャラか?」と。
 原作キャラ。まるで世界を物語として眺めているような台詞だ。
 他にも、『ジュエルシード事件』でフェイトさんと初めて遭遇したとき、すぐにプロジェクトF.A.T.Eを探るよう指示した。“クロノス”と“フェイト”はプロジェクト上の管轄と世代が異なり、“フェイト”誕生前に研究所から自力で逃げ出したヤマトさんが“フェイト”の存在を知りうる機会はほとんどなかったというのに。

「ヤマトさん、あなたは未来予知のレアスキルを持っていますね?」

 未来予知のレアスキル。ベルカの民にはそんなものが存在する。
 聖王教会の騎士グラシアは『預言者の著書プロフェーティン・シュリフテン』という未来予知のレアスキルを持っている。未来の事柄をあいまいな詩として予言するというもの。的中率は高くないが、ベルカの王であるクロノスが上位のレアスキルを持っていてもなんら不思議ではない。

「いや、そんなものはないよ」

 ふむ、外れか。

「では未来予知のレアスキルを持つ知り合いはいますか?」

「いない、なぁ。カリムさんとはまだ会ったことないよ」

 カリムさん。騎士グラシアのことだ。

「では未来のことが記されたロストロギア等を所持していますか?」

 原作、という言葉に当てはまるのはこれだ。
 予言書のロストロギアというものは実際に存在する。

「ないなぁ。ロストロギアなんて持ってたら管理局員として封印しないと」

 これも違うか。面倒だから直接聞こうか。

「……ヤマトさんはどうやって未来の知識を得ましたか」

「最初から知っている」

「はい?」

「生まれたときから知ってるんだよ、カガリちゃん。実は俺、前世の知識ってものを持って生まれたんだ」

 …………。
 あ、はいはい。輪廻転生ですね。
 なるほど。前世は転生可能な種族もしくはレアスキルをお持ちでしたか。未来予知よりレアな代物ですね。
 闇の書なんかはバグを重ねた後に転生機能を偶然身につけたというトンデモロストロギアでしたが。

 で、転生か。それが未来の知識とどう関係あるのか。

「前世の俺は、日本人だったんだ。第97管理外世界の日本じゃないぞ? それとはまた違う地球の日本だ」

 違う日本ってなんだ。まあ話を聞こう。

「そのときから俺は日本の漫画とかアニメが好きでね。で、特に好きだったのが、『魔法少女リリカルなのは』ってアニメだ」

「ぶっ!」

 魔法少女? リリカル? なのは?
 なのは? なのはさん?

「『魔法少女リリカルなのは』はジュエルシード事件の話。その続編、『魔法少女リリカルなのはA's』は闇の書事件の話だ」

 あ、はい。
 魔法少女リリカルなのはですか。なのはさんが魔法少女として活躍するアニメーションですか。なんだそれ。

「なるほど、なるほど。闇の書事件を知っていたから、ジュエルシード事件の前にはやてさんにコンタクトを取ったんですね」

「いや、単に主役の一人のはやてちゃんを実際に見てみたかっただけ」

「さいですか」

 なんかとんでもない話になってきたぞ。

「そして三期アニメは『魔法少女リリカルなのはStrikerS』だ。『魔法少女リリカルなのは』の十年後。えーと、新暦75年かな。ジェイル・スカリエッティが戦闘機人を使ってミッドチルダで大暴れして、聖王のクローンのヴィヴィオちゃんを使って『聖王のゆりかご』を復活させようとする大事件だ」

「『聖王のゆりかご』って……次元世界制圧用の伝説の要塞じゃないですか」

「ああ、だから俺はジェイル・スカリエッティを捕まえなきゃいけないんだ。だって、StrikerSを最後まで見る前に前世の俺、死んだから。どれだけ世界に被害がでるかわからないんだ」

「……なるほど」

 未来予知者の憂鬱、か。未来を知っているからこそ最善の未来をたぐり寄せようと必死になる。
 未来予知のレアスキル持ちが未来を変えようとした場合、大抵待っている末路は破滅だ。まあ未来予知を悪用しないようにするための単なる教訓話にする意図があるんだけど。
 『ジュエルシード事件』と『新暦65年 闇の書事件』は多分ヤマトさんの中でハッピーエンドで終わったんだろう。だから、新暦75年の未来も変えようと、今もジェイル・スカリエッティを捕まえようと思っている。
 納得だ。だからこそ聞かないといけない。

「ヤマトさん。スカリエッティを捕まえるためにロストロギアを使うつもりはありますか?」

「? どういうこと?」

「願いをかなえる『ジュエルシード』、世界を吹き飛ばす『ナハトヴァール』のようなロストロギアを手にしてスカリエッティの対抗策にしようと考えていますか?」

「いやいやいや何いってんの? しないよ? 人の身にあまる代物じゃないかどう考えても」

「そうですか。今言った二つが今どこにあるかご存じですか?」

「無人世界の第一級ロストロギア封印施設だろ。あ、いや待て。ジュエルシードはスカリエッティがガジェットに組み込むはずだ。あ、しかも21個全部あるじゃん! やべえ!」

 ヤマトさんは、おそらくシロか。
 そしてスカリエッティがジュエルシードを組み込む? 新情報だ。ヤマトさんは捜査に加えた方がいいな。
 これは詳しく話を聞いた方がよさそうだな。魔法少女リリカルなのはというやつを。

「ヤマトさん、『魔法少女リリカルなのはStrikerS』は新暦75年のお話なんですよね?」

「ああ、十年後のはずだから多分」

 現在新暦67年6月。『ジュエルシード事件』から丸二年が経過している。

「魔法少女、リリカル、なのは。なのはさん十九歳ですか」

「十九歳だな」

「魔法少女の年齢上限というのはいくつなんでしょう。そこのところどう思います、ヤマトさん? 私は十五歳が限界だと思うんですけど」

「前も言ったけど十九歳だ」

 高町なのは現在十一歳。地球で小学生をしつつ本局武装隊として活躍中。
 なのはさん、なんか未来で魔法少女扱いされてるらしいですよ?





■総評

 きりきりと『魔法少女リリカルなのは』のストーリーを吐かせて戻ったモニター室。
 いやあ、疲れた。「甘い夢ならStSの最終話まで見させてくれ!」とか言われても、脳内にない情報は再生できないんですよヤマトさん。
 それにしてもすごい情報が飛び出したものだ。

「…………」

 モニター室で、ハラオウン提督は唖然としていた。
 ヤマトさんに前世というやつを知らされていなかったのね。
 いやまあ知らされていたなら事前にに捜査情報に上がっているのだが。

「とんでもないやつが海にはいるものだね」

 オーリス姉さんはメガネを外して目頭をマッサージしていた。
 お疲れ様です。この情報を分析するのは姉さんのお仕事です。

「びっくりですね。予知スキル持ちと思ったらまさか未来人だなんて」

「……未来人?」

 はっと意識を戻すハラオウン提督。

「私達のいる世界はとある異世界の物語の世界だ、なんて本気にしてないですよね?」

 そう言ってハラオウン提督の顔を覗き込んでみる。
 この様子だと本気にしてそうだ。落ち着きましょう。歴戦のハラオウン提督というものが取り乱しては。

 『スウィート・ドリーム』内では嘘はつけないが、語る内容が全て真実とは限らない。
 このシェルターはあくまで、ある一人の視点から見た事実を自白させるだけしかできないのだ。

 そのあたりを知らないと、捜査官は被疑者の言葉を鵜呑みにしがちである。
 なので、証言が『スウィート・ドリーム』使用だからといって、裁判で何かが有利になったりはしない。捜査官達も多用はしない。
 捜査官ではないオーリス姉さんとハラオウン提督にはわかりにくいかもしれないが。捜査官と執務官って別なんだよねぇ。

「いや、まあ、そうだが、うむ……」

 メガネをかけて考え込むオーリス姉さん。
 ここでみんな納得ができる答えを出すなら、「ヤマト・ハーヴェイは妄想癖がある」だが、未来情報を元に二つの事件を解決したのだからそうはならない。
 なのでヤマト・ハーヴェイは未来人である。未来で死んだ人物が人造魔導師として作られたベルカの王の身体に転生した人物である。

「……未来人、というのも突拍子のない話ね」

「そうでもありませんよ? 時間移動はそれなりに事例が。私の出身世界は一度、未来から過去に飛ばされた生物兵器のせいで滅亡しかけてますし」

 ビックバイパーをフルドライブさせればタイムワープができるし。
 別にダライアスの技術でなくても、ジュエルシードを使ったりアルカンシェルを調整したりすれば、割と簡単に時間移動できるのではないだろうか。

「まあそうだな。だがどこを見て未来人とする?」

 そうオーリス姉さんが話を進めてくる。そうだなと言いつつも納得はしていないようだが。

「魔法少女リリカルなのはですよ。これはヤマトさんの前世で放送された記録番組、もしくはプロパガンダ番組でしょうね」

「……ああ、なるほど」

 今度こそ納得したように頷くオーリス姉さん。
 こういう話は姉さんの得意分野だからね。

「んん? カガリさん、話が見えないのだけど」

 一方ハラオウン提督は不思議そうな顔。
 現場主義の提督にはぴんとこない話だろう。

「つまり、海のエースとして現在奮闘中のなのはさんが未来の世界で有名になって、活躍が一つの作品としてまとめられたってことですよ。例えば――、こちらをどうぞ」

 手を中空に掲げる。魔法の空間ディスプレイが起動し、画像を表示する。
 表示されているのは民間向けのパンフレットだ。

「こちらは先のミッドチルダ中解同戦を扱った最新の映画、『アインハンダー』になります。主人公のライバルとして登場人物に私の役があります」

 一年前の中小企業解放同盟とアインハンダーを巡る一連の事件を扱った映画だ。
 中小企業解放同盟の成り立ちと犯罪行為、そしてアインハンダーを投入した違法組織ヒュペリオンについて、ギンガさんの孤独な戦いを通じて伝える目的で撮られている。

 中解同の撃滅を宣言する意味合いで、時空管理局プロデュースで撮られた新作である。武装衛星ヒュペリオンを作りだしたと言われる技術者は未だ捕まっていないので、アインハンダー――ギンガさんに関わる事件が完全に解決したとは言えないのだけど。

「艦隊での生活が長いハラオウン提督はあまり知らないかもしれないですけど、管理局が監修した映画ってミッドチルダでは結構多いんですよ」

 次元世界は広く広大だ。新しい世界は年々新発見され続けている。
 美しい自然を持つ世界。高度な文明を持つ世界。でも、次元世界を自由にまわるのは容易ではない。次元犯罪を防ぐという意味でも、現在の次元世界の図を完璧に把握しているのは時空管理局くらいなものだ。
 そこで、管理局は民間の人々に映像メディアを用いて様々な次元世界の景色や出来事を伝えるのだ。

「でもあくまでミッドチルダ……管理世界での話でしょう? ヤマトくん、前世は第97管理外世界に似た世界だって言ってたじゃない。前世には時空管理局なんてないって」

「似た世界じゃなくてそれそのものでしょうね、きっと。ヤマトさんのいた時代の第97管理外世界は、次元世界観が浸透しかけの中途段階だったのかもしれませんね」

「なるほど、いきなり情報公開するんじゃなくて、放送番組として少しずつ広めていたのね」

 ようやく納得がいったというようにハラオウン提督は頷いた。
 つまり、一般には時空管理局の存在が知られていない時代の第97管理外世界から、ヤマトさんは転生した。
 一般には知られていないだけで、時空管理局が地球にアプローチをかけている時代だったのだろう。そこで『魔法少女リリカルなのは』という作品を通じて次元世界の世界観を一般の人々に伝えようとしたのだ。おそらく。

 次元世界の情報を伝えるために娯楽を使うというのは、管理局員の人でもぱっとは思いつかない話だろう。
 私がこれに思い至ったのは、ダライアスの歴史を伝えるためにミッドチルダで様々な活動をしているからだ。
 そしてオーリス姉さんがすぐに納得したのは、プロパガンダ目的で映像メディアを使うゲイズおじさんの手腕を知っているからだ。
 ゲイズおじさんは本局の管理局員からの評判が悪い。でも、ミッドチルダ地上本部の人や、ミッドチルダ在住の民間人からの人気は高い。
 なぜか? 功績をあげているから? 違う。功績を公開しているからだ。これを地盤固めと言う。

「第97管理外世界が管理世界入りする未来、ね……」

 感慨深げにハラオウン提督が言う。
 管理世界とは、時空管理局の保護下になることを選択した次元移動技術を持つ文明のことである。

 次元移動技術さえ確立しているなら、文明レベルの下限は存在しない。実は次元移動、魔法を使わない純粋な次元科学技術でも可能だ。今のところ魔法重視文明しか管理世界入りしていないだけ。
 次元の海を渡るのは様々なアプローチ方法が存在する。なので、魔法技術の存在しない第97管理外世界が管理世界入りしてもおかしくはない。

 ヤマトさんのいた未来の地球はは、管理世界入りするか否か世界の代表者達が選択をする過渡期だったのではないだろうか。
 なので民間人である前世のヤマトさんは時空管理局の存在する世界観を『物語の中の世界』と勘違いしている、と。

 ちなみにダライアス本星があるのは無人世界で、滅亡する前は管理外世界だった。
 時空管理局傘下に入らなかったのは当時の時空管理局があまりにも小さい組織だったからだ。宇宙進出で痛い目を見過ぎたダライアスの人々は、次元世界進出に利点を見いださなかった。
 なので、管理局の保護下に入る利点も見いだせず、過去の人々は管理外世界の立場のままで満足した。当時の管理局が今の規模の組織ならばまた違う未来もあったかもしれないが、過去のことなのでどうしようもない。
 過去へ飛んで未来を変えるのはダライアス一族にとって禁忌だ。私達の世界を滅ぼした元凶が取っていた方法なのだから。

「しかし、彼の未来知識に関する証言が事実だとすると、彼の言う『リリカルなのは』は実際の『ジュエルシード事件』と相違点が多すぎるな」

 オーリス姉さんがそう疑問をこぼす。

「そうですか?」

「事件の首謀者プレシア・テスタロッサが狂った元凶は、ダライアスの石のような物体THE STONE-LIKEのせいなのだろう?」

「ああ、プレシアさんの元に石のような物体が流れたのは、ヤマトさんが五年前に石のような物体を発掘して第一級ロストロギア認定されたのが遠因です。でも、プレシアさんはそれよりずっと以前からアリシア・テスタロッサを蘇生させようとしていました」

「……なるほど、ヤマト・ハーヴェイが存在せずプレシア・テスタロッサが狂わなくても、ジュエルシードを使ってアリシア・テスタロッサを蘇生させるために事件は発生していたと」

「“ジュエルシードを使ってアルハザードへ飛ぶ”ってアプローチ方法はなかなか面白いですね」

 狂ったプレシアさんが取ろうとしていた方法はジュエルシードを使って過去へ飛ぶ、だ。
 石のような物体がいかにもやりそうな方法じゃないか。

 ちなみにヤマトさんに吐かせたストーリーに私が登場しないのは、彼の知る未来では私が時空管理局と関わり合いになってないからだろう。
 私が時空管理局と関わるきっかけを作ったのもヤマトさんだからだ。彼が同級生としていなかった場合、私は自治区に帰って純粋な技術者の道を進んでいたと思う。多分。

「しかし、最大の容疑者が消えたな」

 ヤマトさんはシロだ。重要な捜査情報を多数吐いてくれたが。

「あら、最大の容疑者は三人目じゃないの?」

「ありえませんよ提督殿」

 うおっと空気が険悪に。
 しかし仕方のないことだ。今回の事件は管理局員身内の犯行であることが濃厚なのだ。
 局員を疑わなければならない。険悪にもなろうというものだ。
 どこに犯人が潜んでいるかわからない。ゆえに秘密捜査を行わなければならない。信用できる人員は少なく、危険性ゆえに迅速な解決を求められる。

「やれやれ。誰が盗み出したんでしょうねぇ。『ジュエルシード』と『ナハトヴァール』」

 封印施設に厳重管理されているはずのロストロギアは、明らかな内部犯の犯行によって盗み出され、あろうことかミッドチルダを最後に反応を消していた。
 次元世界を二、三個吹き飛ばしてもおつりがくる最悪の組み合わせが、見えないところで私達の生活をおびやかしていた。



――――――
あとがき:前にA'sを飛ばすといったが、すまんありゃあウソだった。
四年越しにA'sだよ! 正確にはA's PORTABLE BoA & GoDだよ!

・真相
SS書きたくなる気力ゲージ溜めるためになにかSS読もう

なんかここ数年新しいSSの人気原作ジャンルってないよね……久しぶりにネギまなのはゼロ魔読むのもいいよね……

え、シュテるんとか何それ知らないViVidとINNOCENTしか情報アンテナに引っかかってないというかDVD全巻売っちゃってる

PSP! そういうのもあるのか お祭りキャラゲーと思っててノーマークだよ! ユーノくん無双しか知らないよ!

リインフォース生存させておいてマテリアル無視とか時代遅れだよねー

「王いいよね…」「いい…」

PSPの名作STG? ダライアスバーストに決まってるじゃん

ラジカルかがりは完結済みです! 完結済みです!

でも伏線と裏設定残してあるよね……具体的にはタイトー的惑星真っ二つバッドエンドにいつでも行けるための用意が万全に……

見切り発車ゴー! エタるの覚悟でゴー! どうせラジカルかがりはテスト投稿用にアンチヘイトオリ主多重クロスオリ設定全部ぶちまけたクソ作品なんだからエタ要素が入ったくらいどうとでも!(※現在の未完連載作品:5つ)

エターナル作家Leniの四年越しの新展開をお楽しみ下さい



用語解説
■クロノス
SHOOTING第十一話時点でエイミィ執務官補佐ですらクロノスの真相に触れていたのに、カガリ女史がその情報を今日まで知り得ていなかったのは、どうやらフラグ立てに失敗したようです。ちなみに失敗したのはクロノスさん側。
隠しヒロインカガリ・ダライアスのラヴゲージを溜めるには、彼女が“人間”と“改造人類ダライアス族”を全く別の人型生物として認識していること理解しなければいけません。

■「ご……ごめんなさい。ここはもうひとり、いえ……どうつめてもふたりまでです!」
空間固定結界魔法を使ってザ・ワールドと言ったA.C.E.第四話のはやて嬢ならネタを理解できたかもしれません。「ヤマト兄さん! 待て!」とも言ってくれたでしょう。
しかし実際のところカガリの愛読書は少女漫画。

■海のエースとして現在奮闘中のなのはさんが未来の世界で有名になって、活躍が一つの作品としてまとめられたってことですよ
イベント限定販売の劇場版ドラマCDでは、「映画版リリカルなのははミッドチルダで放映される劇中劇」的な扱いらしいですが、そのドラマCDを持っていないのでわかりません。


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