今回で第五章終わらせるつもりだったのですが、また詰め込みすぎて終わりそうもなくなったので分割……
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Almanac Flagments 3th VS Almanac Flagments 8th
Process Filed presented by TAKAMAGAHARA,UN-FORCE
――All READY?
“事象演算開始”
“全ての事象は我が意の下に。我が身に哀れみを”
“事象演算開始”
“全ての事象は演算の下に。我が身は既に絶望の果てに”
――|それ《・・》はとても場違いな格好をしていた。
胸元の大きく開いた紺色のワンピースにたっぷりのフリルが付いた白いエプロン。
ちなみに褐色の双丘が布地を押し上げてぱつぱつだ。
紺色の短いスカートの下からは猫のしっぽを模した飾りががふにふにと。
白いフリルと紫紺のリボンの飾りが付いた黒タイツは、なぜかふとももの途中までしかなく、ガーターベルトで止められている。
足下には艶やかな黒のショートブーツ、側面に紫紺のリボンがあしらわれている。
目元は透明度の高いバイザーで覆われている。長いプラチナブロンドを背中で束ね、その頭の上には三角形のネコの耳を模した白いフリルつきヘッドドレス。
――いわゆる、ねこみみミニスカメイドだった。
高い柱の上で、びしっとポージングを決めたねこみみミニスカメイドの美女。その指先は――明後日の方向だった。
おいおい、と皆が思った。
ねこみみメイド美女は指先をフェテリシアの方に向け直して、何事もなかったかのように続ける。
「AMATERASU無断侵入にルールのない“劇場法則世界”の使用、絶対ダメにゃ! そんな悪い子には、このマヂ狩る☆メイド ムーンライト仮面が|“第二の月”《セカンド・ムーン》に代わって、ぶっコロ――お仕置きだにゃ!」
にゃーはっははっ!と柱の上で高笑いするマヂ狩ル☆メイド。
空気が、大氷原と化した。
誰もなにも云わない。云う気が極限まで削られていた。
仕方なく人工知能ウィルが声をかける。
超高性能AIなのでギャグも解するし空気も読めるのだが、あえて読まないことにしたのだ。
『コード=サード少佐……なんですか、その恰好と語尾?』
ねこみみメイドがビキリっ!と凍りついた。顔は高笑いのカタチのまま。
氷像から数秒で復帰すると慌てて取り繕う。
「ち、ちがうにゃっ! わたしはマヂ狩ル☆メイド ムーンライト仮面! “第二の月”からのお仕置き人にゃっ!!」
『……|敵味方識別信号《IFF》が、コード=サードのままなんですが』
ねこみみメイドがずがーんと顔を青ざめさせ、両手両足を下についてうなだれる。
「おおおおおお……このナオミ・コード=サード、い、一生に三度目の不覚……っ!」
二回も不覚をとっているんかいっ!と、皆の心の声が一致した。
「し、しかたないのにゃっ! これは、ちょっと緊急対応任務をさぼってにゃんにゃんしてたら緊急事態が起きちゃったもんだから罰なのにゃっ! 好きでこんなことするわけがないのにゃ!」
がばちょと立ちあがった妙齢のプラチナブロンドの美女がわたわたと反論して、びしりとフェテリシアを指差した。
――演算進行中。
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……
「コード=オクタが緊急事態起こさなければ、なにも問題なかったのにゃ!」
「いや、問題あるでしょ」
思わずつっこむフェテリシア。
『むしろ問題しかないようですが』
「にゃんとっ!! AIにまで否定されたにゃっ! にゃんてこったいっ!!」
がっくしと肩を落として悄然とする。ちょっと足元の小石(ありません)をけっぽるふり。
「だがしかしっ!」
九×八!と目(バイザー越し)を見開き、両手を高く掲げる。
「天はわたしを見放さずっ! いまのわたしはマヂ☆狩ル・スーパーメイド! 華麗に大・惨・状!」
ねこみみメイドの背後で、どどーんっ!と五色の爆発煙が広がる。
「“|第二の月《セカンドムーン》”の名の下にこれを執行す。ゆえにワタシに罪なしっ!」
「そのこころは?」
「|それはそれ《緊急対応ばっくれ》、|これはこれ《マヂ☆狩ル》にゃ」
「おまえら、口がわるいにゃ!?」『論理にもなってませんね』「むしろヒドさに拍車が……」
――?
――演算進行中。
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……
「だが、へこたれないにゃ! 正義はワレにアリ。にゃぜならば、ここに至高の|免罪符《命令書》があるのにゃーっ!」
ばばーんっ!と提示されたのは三つ折りの機密用紙(A4)。ぱらりと広がったそこには墨痕鮮やかに。
『ヤってよし! レイ(署名)』
大巫女の署名入りの最優先命令書だった。
「ちょっとまてーーー! 曖昧すぎるでしょ、いくらなんでもっ!」
「だいじょうぶにゃ。これをもらったときにちゃんと確認してるにゃ。ナニしてもいいとっ!!」
「あるのにゃーーーーーっ!!」「そんなわけあるかーーーー!!」
――??
――演算進行中。
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ふっふーんと二枚目の機密用紙がぱらりと広がる。
そこには
『ほんと レイ(署名)』
「ちょっ!? どうしてっ!?」
疑問に答えている機密用紙に焦るフェテリシアに、ぱんっ!と三枚目の(以下略)。
筆よ折れよとばかしに極太の墨痕が用紙いっぱいに書かれている。
『も・り・や・が・っ・て。――小娘が。 レイ(署名)』
「……貴女いったい何をしたの? 激怒してるわよね、大巫女様……」
ナオミが思わず素に戻ってたずねる。口元が引きつっている。
「――え、ちょ、まさかっ!?」
一瞬だけ思考が空白になったフェテリシアは、知らずに自分の胸に手をやった。
――|事象演算エラー《・・・・・・・・》、|再開《・・》……
そこには、たしかな乙女のふくらみ。
こっそりとひそやかに設定をほんのすこしだけいじったのだが、それはほんのちょっとだけだというのに――
……
――演算進行中。
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…………
「超古代の極東島国ニッポニア文化の真髄、まごころをキミにっ! これぞ『や・つ・あ・た・り!』にゃっ!」
ねこみみメイドが目を伏せ豊かな胸のまえで祈る様に手を合わせて宣言する。
「サイアクだ、この人っ!」
『開き直りましたね』
「ふっ! その心にドスドス突き刺さる言葉もこのムーンメイド仮面には問題ないにゃっ! にゃぜならばっ! 至高の|免罪符《命令書》がここにあるのにゃーっ!」
すぱんっと三つ折りの機密用紙(A4)を広げる。
ぱらりと広がったそこには墨痕鮮やかに。
『ヤってよし! レイ(署名)』
大巫女の署名入りの最優先命令書だった。
「そこでお前は“あの人、なに考えてんですかーーーー!!!”と云うにゃ」「あの人、なに考えてんですかーーーー!!!」
――?! 凍りつくフェテリシア。
――演算進行中
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『……フェテリシア、どうしました?』AIであるウィルは判らない、認識できない。いま『現実世界』がどうなっているのか。
「あ……ま、さか……事象多重化……」「とっくの昔にになっているにゃ?」
呻くようにつぶやいた言葉に、ねこみみメイドは当然と続けている。
“世界”が多重化していた。
無数の世界が同時に重なり合う事象多重化、事象を同時に認識する彼女たちにしか判らない。
――事象は計算結果の集合体であり、この世のすべては超速度の演算器によって再現できる――はるか古代にそう考えた理論科学者がいた。
ならば、計算結果を現実にすることも可能なのではないか?
すなわち演算結果が現実/事象となる――そう提唱した理論科学者グループがいたのだ。
ニュートン物理学上の事象を、演算で完全再現に成功した科学者達が定めた新たなる高み。
結果としてそれは成され、事象演算理論が生まれた。
それは文明が発達していけば必ず生まれる科学理論の頂点。
そしてそれは最終兵器“事象操作転換器”へと必ず至る。
確率操作、因果の逆転といった事象操作を可能とし、超光速戦闘すらも可能な万能超兵器。
それをカタチとしたのが天塔騎士だ。
事象操作が可能な天塔騎士同士の戦闘は、演算量の差で決着すると云ってよい。
彼女たちの演算は現実の事象を左右し、自分に有利な状況を構築する。
演算量が同じならば相殺されて、現実に影響を及ぼさない。
そして天塔騎士の演算性能に個体差はない。
このため演算戦ではなにも発生しないことも珍しくないのだ。
逆に何らかの方法で演算量の差をつけられれば、盛り返すことは絶望的だ。
正攻法では追い付くことは不可能だからだ。
ゆえに天塔騎士同士の戦闘は常に超心理戦になる。
心理的に優位に立ち、相手の演算をピコセカンドでも停めてしまえば差が出るからだ。
精神的優位を得る手段として他者とは違う特技を持つ。
たとえば惑星を斬る剣術、たとえば天使と悪魔の階梯料理、たとえば百合を愛でる……
「にゃははははっ! すでに事象多重化は収斂しつつあるにゃ。この改変事象世界の神にワチシはにゃるっ!!」
事象演算とはつまるところ現実を自分の都合の良いものにする『魔法』である。
そして天塔騎士同士が戦うということは、自分に都合の良い現実の押し付け合いだ。自分に有利になるように現実を修正していくことだ。
フェテリシアとねこみみメイド美女はとっくの昔に戦闘に突入していて、よく似た問答が同時にされていたのだ。事象演算と同回数の。
そのすべてを無意識下で認識しながら、相手より有利になる様に互いの演算現実を押し付け合っていたのだ。
――そして、その多重化現実が収斂していく。
「“ま、まだ世界は収斂してないはず”」「ま、まだ世界は収束してないはず!」
「“演算速度はボクだって同等なんだ”」「演算速度はボクだって同等なんだ」
「“たとえ演算現実が現実になっても、まだ戦える”」「たとえ演算現実が現実になっても、まだ戦えるっ!」
発される言葉が異口同音、フェテリシアが絶望的な表情になる。
彼女の発した言葉まで重ねて見せたということは、演算現実が現実にとって代わっているということを意味する。
現実はすべてねこみみメイド美女の事象演算内にあるという絶望的な状況。
(――絶望? そんなのいつものことじゃない)
この五年間、絶望していないときがあったか?
フェテリシアは口の端をつりあげた。
(絶望したら戦えない? そんなわけがあるか!!!)
「全ての事象は、ワチシの演算内にあるっ! さぁ、おとなしく我がモノとなれ、フェテリシア――!!!」
ねこみみメイドが高らかに決めた、その瞬間。
『この最強の敵を眼前にしてしゃべくる愚か者どもが!!! 死ねぇ――《|神魔必滅天地終焉砲《ジェノサイド・インフェルノ・ランチャー》》発射!』
天塔騎士同士の戦闘で、完全に無視されていたエールゼベトが、カイザーリンブルグ最大最強の兵装を完全開放した。
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あんまりお待たせするのもと思ったので。
最近は感想もこないし、PVも伸びてないので、読者も離れていっているんだろうなぁ……
とか思っていたら、6万PVを越えていました。どうもありがとうございます。
今後もマイペースで進めていきますのでよろしくお願いします。