<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[37613] 【Fate/Zeroで】ライダー「余にブリテンを治めてみよと?」1【hollow時空】
Name: ツキ◆63129ae9 ID:42607152
Date: 2013/05/19 16:19
第三十二回聖杯問答 in 衛宮邸

 という名の酒盛りが始まって数時間。勝手に二人で呑めばいいものを、わざわざ嫌がるセイバーを巻き込んで毎度行われる王道談義。
 酒が入れば入るほど議論は白熱し、いつもいつも同じ結論に着地するのに、酒を呑むという名目のもと繰り広げられる王の酒宴。

 そして加熱する議論の矛先はちびちびと酒を舐めるセイバーへと向かう。いつもの如く暴君二人で結託し、セイバーの王道をディスり始める。

 やれ暗君だの、やれ聖者は救うばかりでうんぬんと、いい加減セイバーも聞き飽きた。言いたければ言えば良い。当時の国の窮状を知らぬ輩にあれやこれやと言われたところで所詮酒の入った輩の戯言。

 既に飽きるほど繰り返された言葉の羅列。最初こそ言葉を変え切り口を変え、二人に認めさせようと躍起になったセイバーだったが、途中で気が付いた。
 ようは、こいつらが気持ちよく酒を呑む為にセイバーを肴にしているというだけの話である、という事に。

 そう気付いたら余計に腹が立ってくるというもの。
 呆れて何も言わなければ攻め立てられ、言葉を返せばいつもの通り。

 ならば──と。今回セイバーは秘策を用意していた。

「私の王としての手腕に文句があるのであれば、おまえ達の手腕も見せて貰おうか」

「ん……?」

「ほう……?」

 取り出したるは一台の据え置きゲーム機とソフト。

「おう、なんだセイバー。貴様もゲームを嗜んどるとは初耳だ」

「いいえ、これは今回の為に特別に用意した代物。協力者は征服王、貴方のマスターであるウェイバー・ベルベットだ」

「ぬ、あの坊主。近頃余に内緒で出掛ける機会が多々あったが、そうか、貴様と密会をしておったのか」

「人聞きの悪い言い方をしないで欲しい。私は私の求める教材を彼に見繕って貰っただけなのだからな」

「ふん……? タイトルは──Legend of King Arthur……? くはっ、御大層なタイトリングではないか!」

 アーサー王の伝説と銘打たれたこのゲームソフトはいわゆるシミュレーションゲームに分類される。
 今や伝説として語られる、中世ヨーロッパのブリテン国の王となったアーサーの物語、その誕生から終わりまでを追体験する本格歴史シミュレーション。

「これにはエディットモードなるものが搭載されているらしく、国の状況から臣下や民衆の数、周辺国の状況などをカスタマイズ出来るようなのです」

「ほお。つまりセイバー、お主はうちの坊主の手を借り、当時のブリテンの状況を再現したと。そして我らにこれをクリアしてみせろと」

「ええ。貴方達暴君の手腕で我が祖国ブリテンを導いてみせるがいい。救うばかりで導かなかったと私を謗るのなら、このゲームを見事クリアしてみせるがいい」

「ぬはは、良いぞ、その挑戦受けようではないか! おう金ぴか、悪いが先にプレイさせて貰うぞ。この手のゲームを前にして、背中を見せるわけにはいかん!」

「好きにするがいいさ。クク、酒の肴にでもなれば良いがな」

 配線を終え、スイッチオン。ライダーがコントローラーを握りテレビの前へ。その左右にセイバーとアーチャーが。画面は幾つものロゴを経て、スタート画面へ。

「お、おう。なんだこのスタート画面。妙に凝っておるではないか」

 背景に映し出されているのは黎明の空。見渡すばかりの草原。大地を駆け抜ける風が草木を揺らし、その中心に立つのは黄金の剣を地に突き立てたセイバーの姿。
 眩いばかりの黄金の髪と青のドレスが風に靡き、遠く空の彼方を見つめるセイバーの瞳がその凛々しさを強調している。

「ええ。エディットモードではこのような事も出来るらしいです。雰囲気も出るでしょう。ちなみに、作成協力者は間桐慎二(8)です」

 なんか余のプレイしてる大戦略より凄くね? 時代先取りしすぎじゃね? と思う征服王であったが口には出さない。

「まあ良い。ふむ、エディットモードでプレイ……これか」

 テレビゲームに対する造詣がこの中では一番あるライダーは初めてのゲームであっても手際良く進めて行く。

 そして始まるオープニング。

『時は中世。国乱れ、民草の涙が止め処なく流された戦乱の時代。物語の始まりは、一人の王が岩の剣を引き抜いた時より始まった』

「エディットモードなのにナレーション入り……だと?」

「エディットモードはこんな事も出来るのです。ちなみにナレーションは言峰綺礼に頼みました」

「エディットモードすげぇな……!」

「教会に言峰の姿が見えぬと近頃思っていたが……なるほど、アテレコをしていたか」

『国土は痩せ細り、国力は疲弊し、民草は海の彼方から襲い来る異民族の恐怖に脅える毎日。そんな危機に瀕したブリテンに、颯爽と現われた彼の王の名こそアーサー。
 ああ、麗しき王。年を取らない永遠の少年王。性別を偽り、少女の身で一つの国を背負う偉大なる王よ! 
 後に伝説と謳われる王の物語が今、この時より始まろうとしていた──!!』

「……一応聞いておくが、この台本を書いたのは?」

「無論、私です」

「うむ……そうであろうな」

 ドヤ顔で胸を張るセイバーと笑いを堪え腹を抱えるアーチャーを横目に、ライダーはようやく終わったオープニングを経て、ゲーム画面へと進行した。

「ふむ……」

 説明書を読んでいないのでライダーはどのタイプのシミュレーションゲームなのかをまず確認する。

「内政、徴兵、登用……国力、民衆、臣下……ふむ。大雑把に言えば、某野望系のシミュレーションか」

 内政や徴兵で国力や軍拡を行い、敵国に攻め入る、いわゆる国獲りゲーム。自分自身が王となって国を動かし、最終目的を達成する類のゲームだ。

「ちなみにセイバー、このゲームの最終目的はなんだ?」

「ゲーム本編ではアーサー王の最期を看取る、ですが、今回のエディットモードでは『十年後に国を維持していること』です」

 セイバーが叶わなかった国の安寧。二つに裂かれた国を、十年……セイバーの治世の終わりの時まで維持すること。それがクリア条件だ。

「なんだ、その程度で良いのか」

「ええ。私の王道では叶わなかった事を貴方達の王道でやって貰う、が今回の目的ですから」

「ふふん、まあよい。では始めようではないか。聖者の理では守りきれなかった国だが、余の暴君の覇道で導いてやろうぞ!」

 王は人の臨界を極めたもの、と言って憚らないライダーは、まず最初に民からの徴収を行った。

「まずは金だ。金を集めて国力を上げる。それから徴兵を行い軍を拡大し、後は敵国へと攻め入り征服、国力を更に上げての繰り返しよ」

『ライダーは、徴税を行った!』

『民衆から不満の声が上がっています!』

「良い良い、一時の赤貧には甘んじねばな。いずれ数倍にして民草に返せば問題などあるまい」

『臣下から不満の声が上がっています!』

『臣下の数が1000から800に減少しました!』

「……おい」

「はい」

「何故民から金を集めただけで臣下の数が減るのだ?」

「当時の国はまさに貧困のどん底です。強制的な徴税を行うという事は何処かの村を一つ潰すという事。
 騎士達は私が行う徴税を嫌っていましたから。そんな事をしなくても勝てると。なので徴税を行うと不信を抱いている臣下は城を去って行きます」

「…………」

「何か?」

「いや……うむ。とりあえず金は集まったのだ、失った分以上の兵の補充を行えば良い」

『ライダーは、徴兵を行った!』

『臣下の数が800から850に増えた!』

「……おい」

「はい」

「何故徴税した金を全て注ぎ込んでもこれだけしか増えんのだ!?」

「この頃の私は王に即位したばかりです。岩の剣を引き抜いただけのお飾りの王。実績も武勲もない王に命を預けたがる者などそう多く居る筈もない。
 ましてやそれが年端のいかぬ小娘──性別は魔術で偽装していましたが──となれば尚の事。増えただけでも上出来でしょう」

「…………」

「まだ何か?」

「ぬ……いや、いい。うむ、ならば攻めよう。武将……このゲームで言えば名のある騎士達のステータスはどれも優秀だ。
 多少兵の数で劣っていてもこれだけ優秀な騎士が揃っておるのならば早々負ける事などあるまいよ。
 うむ、戦果を上げて民衆の支持率を上げ、国を取り国力を増加させる。余は何も間違っておらん」

『ライダーは、隣国へと攻め込んだ!』

 画面いっぱいに広がる戦場。南北に分かれた自軍と敵軍。風にはためく赤き竜のエンブレム。

「中々凝った戦争画面ではないか。それにネームドキャラの顔も中々似ておるように思うぞ」

「ええ。ドット打ちはキャスターに頼みました。気持ち悪いですが。彼のドット打ちは芸術だ。気持ち悪いですが」

 戦場にはアーサー王を筆頭にガウェイン、ランスロットなどの名立たる騎士がその早々たる顔ぶれを並べている。

「ぬはは! 世に祀られし英霊達がこうも並んでおるのはやはり爽快。なあセイバー、何故貴様はこやつらを従えながらしくじったのだ? これだけの戦力があればアジアにまでも攻め込めたであろうに」

 そこでふと、ライダーは視線を画面の左上に向けた。そこに記されていたのは戦力比。自軍と敵軍の兵の数だ。

『550vs4500』

「……おい」

「はい」

「なんだこの戦力差は! 序盤も序盤の隣国が有する戦力ではないぞ!?」

「ライダー……これはゲームですが、私の記憶にある限りの当時の状況を再現したものです。ゲームならばクリアを前提に造られているのですから、徐々に敵は強くなっていくでしょう。
 ですがこれは現実を再現したもの。アリアハンの横にゾーマの城があるくらい普通の事です」

「…………」

「まだ何か?」

「いや、良い……うむ、戦場でものをいうのは物量だ。だがこちらには多くの聖剣使い達がいるのだ。このスペシャルスキルなるコマンドにあるカリバーンを使えば……」

『アーサー王は、カリバーンを使用した!』

『敵軍に700の損害を与えた!』

「ぬはは! やはりな! 劣る国力差を覆すだけの力が英雄達にはあるようだ! うむ、理解した。余はこのゲームを理解したぞ!」

「言い忘れていましたが、スペシャルスキル持ちのネームドキャラは最初は私しかいません」

「なん……だと……?」

「まあ私は魔術炉心持ちなので、毎ターンのカリバーンの使用は可能ですが……」

 ライダーの操るブリテン軍は、アーサー王の奮闘もありかなりの敵戦力を削ったが、最後はその戦力差を覆す事が出来ず敗北した。

『Game Over』

「なにっ!? 一度負けただけでゲームオーバーだと!?」

「当然でしょう。弱小国のブリテンが戦にて敗北するという事は即ち国の陥落。国力を立て直す前に物量で押し切られて征服されてしまいますので。
 それに当時の私は全ての会戦を無敗で勝利しました。私以上の王道だと謳う貴方達に、私程度がこなせるものをこなせない、なんて事はありえないでしょう?」

「ぐぬ……」

「クク、どうする征服王? 貴様の覇道とやらは既に敗北したようだが? 負け犬らしく我と代わるか?」

「ええい抜かせ! システムを理解するのにちょいと時間が掛かっただけだ! 次は上手くやってやるわい!」

「本来歴史に二度目はないのですが……まあ今回は目を瞑りましょう。ライダー、次失敗すれば敗北を認めると誓うがいい」

「良いだろう。エンディングに辿り着けないのであれば土下座でも何でもしてやるわい! 本当の余の覇道の刮目せよっ!」

 そうして始まる二度目のプレイ。

 一度目の失態を反省し、無理な徴税は行わない。限りある資金で兵を増強し、襲い来る敵を迎撃する事でターンを回し資金を確保する。

「おいセイバー。ちなみに他の円卓連中が聖剣を使えるようにするにはどうすれば良いのだ?」

「そうですね、大抵は年代経過による強制イベントによるものですが、一部は忠誠値を上げる事での個別イベントで使用可能になるキャラもいます」

「それはどいつだ?」

「征服王? 攻略本を見ながら遊ぶゲームは楽しいですか?」

「ぐっ……」

「それに私とて初回プレイであり、手探りでのプレイだったのです。基本的な知識は教えたのですから、後は自分の力で何とかして下さい」

「おいライダー。セイバーに正論を言われているぞ?」

「黙れ金ぴか。ええい、ならばこやつとまずは会話してみるか」

 とあるネームドキャラを選択し会話を行う。大抵のゲームの場合、これで忠誠値が上昇するのだが。

「……おい」

「はい」

「忠誠値があがっとらんぞ」

「そうですね。私……アーサー王は望まれぬまま王になった身。岩の剣を抜いた事で王となった身です。剣を抜けなかった騎士達、馬上試合にて王を決めようとしていた騎士達にとってそれは面白くなかった筈です。
 戦果を挙げる事で渋々ながら認めてはいたものの、心から忠誠を誓った者は極少数。なので、大抵のキャラの忠誠値は変化しません」

「…………」

「何か?」

「コイツ、忠誠値20しかないんだが……?」

「放っておけば近い内に城を去るでしょうね。どの道忠誠値を上げられないのでいずれ城を去るのは確定的ですが」

「なんだこのクソゲーはあああああああああああ……!」

「ですから私はそのクソゲーをプレイしていたのです。ほら、早く貴方の王道を見せて下さい。王の背に憧れる()騎士達の姿を見せて下さい」

「ぐぬぬぬぬ……」

 それでもライダーはプレイし続けた。覆せない戦力差。一人、また一人と城を去って行く騎士。
 強制イベントによるランスロットと王の后との不貞。割れる円卓。城を去る多くの騎士。

 そして────

「最終年。モードレッドの叛逆により二つに裂かれた国。カムランの丘での死闘。あ、ここまで来たらもうシナリオは自動進行みたいなものですので諦めてください」

 ライダー操るアーサー王が辿り着いたのはカムランの丘の上。死屍累々の、血染めの丘の上だった。

「クリアならず、ですね。ええ、征服王。良くここまで辿り付いたものです。私の想定では、五年目辺りでゲームオーバーを迎えると思っていたのですが」

 システムを把握してからのライダーのプレイには無駄は見られなかった。セイバーが想定し実際に実行した道筋を辿るものだった。

「ですがクリア出来なかったのは事実だ。負けを認めて貰おう」

「……うむ。まあ、仕方あるまい」

「ククク、覇道が聞いて呆れるなライダー。どれ、コントローラーを寄越すが良い。我の法を見せてやろう」

 これまで見守っていたアーチャーがライダーからコントローラーを奪い取る。

「だがなぁアーチャー。コイツは少々骨が折れるぞ。並のシミュレーションゲームの難易度ではない」

「ふん、だから貴様は所詮人の王なのだ。我だからこそ見える王道を見せてやろう」

 そして始まるオープニング。言峰でジョージなナレーション付きオープニングをアーチャーはスキップし、始まるゲーム画面。

 黄金の王がまず最初にした事は。

「……ぬ? 解雇だと?」

「ああ、まず初めに叛乱の芽を摘んでおくのだ。先のプレイを見る限り、強制イベントが発生してしまってはどう足掻いても流れを覆せぬように見えた。であればまず最初にその強制イベントを起こすキャラを解雇してしまえばいい」

 アーチャーが選んだ解雇キャラはランスロット。王の后と不貞を働いた裏切りの騎士。円卓に亀裂を刻んだ騎士だ。彼の高ステータスを捨てるのは勿体ないが、強制イベントを排除するにはこうするしかない。

「あ、ネームドキャラの解雇は出来ませんので」

「…………」

「…………」

「当然ではないですか。歴史の先を見ているからこそ選択できる選択肢などあってはならない。それでは当時の状況を完全に再現したとはいえませんので」

「……では、ランスロットの不貞と離反は防げぬと?」

「はい」

「モードレッドの叛乱も?」

「はい」

「クソゲーではないかッ!」

 アーチャーは激怒した。

「なんだそれは!? 歴史の流れを変えられぬというのに違う結末に辿り着けというのか!? そんなもの、神でさえも不可能だッ!」

「その不可能を可能にするのが貴方達の王道ではないのですか? 散々私の王道を皮肉ったのですからその程度の事やってのけて当然では?」

「ぐぬ……!」

 やれやれ、とセイバーはアーチャーが投げつけたコントローラーを手に取る。

「私が見せてあげましょう。このゲームのクリア方法を」

 そうしてセイバーが最初に選んだコマンドは。

「解雇……」

「……だと?」

「おいセイバー、貴様先程ネームドキャラは解雇出来んと言っておったではないか」

「解雇出来ないのに解雇コマンドがある……それをおかしいとは思いませんか? このゲームには唯一人解雇できるネームドキャラがいるのです」

「まさか────」

「ええ。私が解雇するのは、このキャラです」

 そしてセイバーは──アーサー王を解雇した。

「王を解雇する、だと……?」

「ありえん……そんな馬鹿なゲームがあるか……!」

 二人の驚愕をよそに、新しい王を迎えたブリテンの進撃は開始される。

『新しい王のお陰で彼女が出来ました! 匿名希望の庶民さん』

『新しい王のお陰で大金持ちになりました! 匿名希望の庶民さん』

『新しい王のお陰でロリと結婚出来ました! 匿名希望の騎士Gさん』

『新しい王のお陰でギネヴィアとラブラブになれました! でも前王の方が…… 匿名希望の騎士Lさん』

 国力増大。
 資金増加。
 民衆の支持率アップ。

 新王の治世は全ての物事が上手くいき、遂に────

『順風満帆の新しき王の治世。十年目を迎えてなおその国力は衰えを知らず、その勢力を大陸へと伸ばして行く。
 ああ、栄光のブリテン。ああ、輝かしき円卓の騎士達。王の旗印の下、彼らの快進撃は何処までも続いて行く──』

『END』

「…………」

「…………」

「どうですか、これで分かったでしょう。私の祈りは正しかったのだとッ!」

 胸を張りフンスと鼻息を荒くするセイバー。ライダーとアーチャーは流れるスタッフロールを呆然と見やり、

「ああ、よく分かった」

「つまり────」

 二人は声を揃えて言った。

『おまえが全部悪い』

「えっ」














------------------------------------
zeroキャラでhollow時空なネタ短編。
キャラ崩壊はお許し下さい。
色々なツッコミどころは『hollow』だからで流してやって下さいませ。



[37613] 【Fate/Zeroで】ライダー「余にブリテンを治めてみよと?」2【hollow時空】
Name: ツキ◆63129ae9 ID:42607152
Date: 2013/05/19 17:50
「くそう、何度やろうとカムランの丘へ辿り着くぞ……」

 昼下がりの衛宮邸に居間でコントローラー片手にテレビ画面を睨むライダー。
 先日クソゲー認定された『Legend of King Arthur ver.Saber』をプレイしている。

「だから何度やろうと無理だと言っているのに、貴方も飽きませんね……」

「だがなセイバー。クソゲーにもクソゲーなりの味というものがある。このシミュレーションゲームにあるまじき強制バッドエンド突入さえなければ、ゲームの出来自体は面白いのだ」

「そもそも『Ver.Saber』はそういう仕様です。当時のブリテンの状況を再現したのですから何度繰り返そうと結末は同じ。王の交代以外にエンディングを迎える方法はない……のですが」

「む? どうした。というかそんな仕様のゲームで王の手腕がどうのと言っておったのか……」

「私は気付いたのです。『私が覇道の資質を持っていたら』ではなく、『ライダーやアーチャーが王であったのなら』というコンセプトでゲームをデザインするべきだったと」

 『ver.Saber』は文字通りセイバーの物語を追体験する為のものだ。それはいわばセイバーという王をライダーが操っていたに過ぎない。
 実際のセイバーと多少異なる理念でゲームが進んだところで、王がセイバーである以上は結末は揺るがないのだ。

「なので今、大幅な改修を行っています」

「ほう……? 具体的には?」

「ブリテンの状況や民衆、臣下の数、周辺国の情勢に変化はありませんが、ライダーが実際にブリテンの王であった場合に想定出来る展開を数多く盛り込んでいます」

 当時のブリテンにイスカンダルという王を放り込む。言ってしまえばそれだけの事だ。

「中々凝った事を考えるが……流石にそんな改修は時間が掛かるのではないか?」

「心配には及びません。流用できる物は流用していますし、必要なのはライダーというキャラクターと暴君が取り得る行動選択の幅を増やす事だけです。ええ、今回はあのアーチャーにも協力して貰っていますので安心してください」

「金ぴかな癖にケチなあやつに手伝わせるとは……」

「強制です」

「なんとむごい……」

「キャラクターデザインには引き続きキャスターを。ゲームデザインを間桐慎二(8)に。勿論言峰綺礼のナレーション付きです」

「おまえ、いやに凝り性だな……」

 というか『Legend of King Arthur』マジカスタマイズ性高すぎね? 九十年代半ばの文明超越してね? と思うライダーであったが口には出さない。

「というわけで、後数日待って下さい。今度こそ暴君にブリテンを導く事が出来るのか、証明して貰いましょう」

「ぬはは、良いぞ。心躍る挑戦状よ! ……念の為聞いておくが、『ver.Saber』のように強制バッドルートではないよな?」

「期待してください!」

「答えになっとらんぞっ!?」



+++


 数日後。

「というわけで完成しました! その名も『ver.Rider』です!!」

「おお、ようやくか!」

「何やらめでたいらしいが……何故俺は呼ばれたのだ……」

 エディットデータ入りのメモリーカードを空に翳すセイバーと、カムランの丘到達十三回目を達成したライダー、その隣に、どんな女もウィンク一つでノックアウトの槍兵の姿があった。

「ええ、ランサー。貴方を呼んだのは他でもない、歴史の証人になって貰う為です。暴君では彼のブリテンを導く事など出来なかった……その生き証人に。
 後になって私しか見ていなかったからと駄々を捏ねられても面倒ですからね」

「そんな事せんわっ! ン? そういえばあの金ぴかはどうした」

「連日の徹夜がたたりダウンしてます」

「なんとむごい……」

「彼の犠牲の上に完成した『ver.Rider』です。さあ、征服王、今度こそ貴方の覇道を見せてください」

「あいわかった。では刮目し見届けるがいい。余の王としての手腕をな……!」

 ゲーム起動。幾つもののロゴを経て、スタート画面へ。

 地平の彼方まで続く無限の荒野。蒼穹は何処までも広がり、砂礫舞う荒野の中心で肩に羽織ったマントを熱砂の風に靡かせた、一人の赤き王の姿がある。
 獰猛な笑みを湛え、手には大地に突き立てた剣を握る。たった一人でありながら、その威風はまさに王者のそれ。

「相変わらず凄いスタート画面だな……」

「今時のゲームなるものはここまで真に迫るのか……初めて見たが、感嘆の念を覚えざるをえん」

「ええ、間桐慎二(8)の手腕は見事です。彼は魔術師などを目指さず、こちらの分野に目を向けるべきですね」

「ただ荒野に余一人というのは少々味気ないな」

「ご心配なく。貴方が臣下との絆を深め、確かな忠誠を得れば、その背に臣下は増えて行きますので」

「エディットモードマジスゲェな!」

 時代を先取りなどというレベルではない。エディットモードの限界を超えたゲームデザイン。なに? この世界にムーンセルあるの?

「まあ良いわ。うむ、ならばゲームクリアの後にはこの画面を余とその臣下達で埋め尽くしてやろうではないか」

 操作を開始しエディットモードでゲームスタート。

『時は中世。貧困に喘ぎ、大国の猛威に晒され、人々の心に常に影を落としていた戦乱の時代。一人の覇王が岩の剣を抜いた時、伝説は始まった──』

「相変わらずいい声だなあの神父……」

「全て撮り卸しですので音声もクリア。スタジオを借り切っての収録です」

「ちなみに財源は?」

「無論アーチャーからの出資です」

「だろうな……」

 そして始まるゲーム画面。まずは『ver.Saber』との違いを確認するライダー。

「おお! アーサー王がアレキサンダー大王になっておる! 顔のグラフィックも余にそっくりではないか!」

「キャスターの指先に描けぬドットなどありません。あの気持ち悪ささえなければ……」

「ふむ……ステータスは……まあこんなものか。む、おいセイバー。騎士連中の忠誠値が以前と変わらんようだが?」

「当然でしょう。貴方は岩の剣を抜いただけで王となった身。不平不満を持つ騎士は当然にして存在します。
 ですがご安心を。以前のように数値は不変ではなく、今回は可変式です」

「ほう、ならば親交を深めて行けば値は増えるのだな。そしてマックスになればイベントが起こり余に揺るがぬ忠誠を誓い、スタート画面で轡を並べると」

「大体はそのような流れですね」

「おお、今度は中々良いゲームデザインのような気がするぞ! あの忌まわしきクソゲーを何度となくクリアした余だ、序盤などサクサクとクリアしてしまうとしようか!」

『ライダーは、徴税を行った!』

「以前はこれで痛い目を見たが、今回はそうなるまい」

『民衆から不満の声が上がっています!』

『臣下から不満の声が上がっています!』

『臣下の数が1000から500に減少しました!』

「おいぃぃぃ!!」

「はい」

「なんだこれはっ!? 以前よりも減少値が多いではないか!」

「貧困に喘ぐブリテンで覇王……暴君の所業を為そうとすれば、当然私の行った徴税よりもそれは重税となって民に重く圧し掛かります。
 民の犠牲などなくても勝てると豪語する騎士達にとって、それは余りにも目に余る所業。愛想を尽かし城を去るのも致し方のない事ではありませんか」

「ぐっ……」

「ブリテンはマケドニアとは違うのですよ? 肥沃な大地とある程度の基盤を前王から引き継いだ貴方とは違い、ブリテンの王はその始まりから背水の陣。選択を一つ誤れば海の向こうの大国に押しつぶされてしまう程の弱小国。
 そこに更なる戦乱を持ち込む覇道が芽吹けば、どうなるかなど想像に易いと思いますが?」

「ぐぬぬぬぬ……」

 隣国の戦力が自国の数倍から十数倍もある序盤、この減少は明らかに痛すぎる。しかし不屈の心でライダーはゲームを進めて行く。

「これではろくに金を集められんな……かといって攻め込めば前のようにゲームオーバーになるのは目に見えている……ん? そうだ、忠誠値を上げれば良いのではないか?」

「なるほど……臣下の忠誠値を上げる事で多少の事では揺るがない絆を構築する……というわけだなライダー」

「そうともランサー。徴税で臣下の数が減るのは余に対する信頼が足りぬからだ。剣を抜いただけで王を名乗る者を主君と認め命を捧げろというのは流石に暴論。
 臣下との絆を築く事をしなかったセイバーには出来なかった事が今回、余が王となった事で可能となった。つまり──これこそが攻略の糸口ッ!」

 ライダー的には敵国を攻め落とし、その武勇、威風を以って臣下達と絆を深めたいところではあるが、敗北即ゲームオーバーのブリテンにマケドニアの常識は通用しない。
 ならばここは一つ、クソゲーでは失敗した会話でいずれ朋友となる者達と交友を深めようではないか。

「まずは……そうだな。忠義の騎士と名高いガウェインと会話をしてみるか。上手く忠誠値が上がればガラティーンが使用可能になるかもしれんからな」

 そして画面はイベントへ突入。

『ああ、これは王。どうかなさいましたか』

 『①いや、特に用はない』

 『②お主と話がしたくてな』

 『③余のものとなれ』

「お……? なにやら選択肢が出てきたが」

「はい。これは今回から導入された新システムです。臣下と会話を行う際、選択肢を選ぶ事で好感度……もとい忠誠値が上下します」

「……なんかギャルゲーみたいだな」

 城内の一角を背景に、爽やかなイケメンが優しい口元を湛えた図が選択肢と共にアップで表示されている。

「それで、征服王。どの選択肢を選ぶのだ?」

「うーむ。①はまあ論外だな。会話をしにきた意味がない。③からは何やら妖しい雰囲気を感じるが──」

「チッ」

「お、おいセイバー? 今貴様舌打ちをせなんだか?」

「いいえ?」

「…………まあ良いか。ではここは無難に②だな」

 ニア『②お主と話がしたくてな』

『そうですか。ですが王、私は王の為の剣。剣に話しかける王などあってはなりません。どうか王は王の責務を。私は騎士としての務めを果たして参ります』

 一礼をして去って行く白の騎士。そして画面は通常のゲーム画面へと戻る。

「おい」

「はい」

「ガウェインの忠誠値が変わっとらんようだが?」

「彼は王を王として崇拝していますので。彼が見ている王の姿は一介の騎士に気安く話しかけるような王ではない、という事でしょう」

「それでは会話した意味がないではないかッ!」

「ライダー、現実の会話の一つや二つで人の心がそう簡単に動くと思っていますか? ましてや、信頼関係などない相手の言葉に心が揺さ振られると本当に思っていますか?」

「ぐぬ……」

「人の心を動かそうというのなら、相応の積み重ねが必要です。義理堅いガウェインの心を動かそうというのなら、結婚相手を見繕うくらいはしなければ」

「うぬぅ……」

「まあ会話を積み重ねて行けば彼の心にも変化はあるでしょう。もっとも手っ取り早いのは戦果を挙げることですね。これで大抵の騎士の忠誠値に変化が生じます。
 ちなみに先程の選択肢、①を選んでいればガウェインの好感度は上がっていましたよ」

「心簡単に動くではないかッ! しかもやっぱりギャルゲーではないかッ!!」

「まあそう息を荒げずに。そういう場合もある、というだけの話です」

「……まあともあれ、やはり戦に勝つしかないという事か……とはいえ、国力差を覆すには……」

 ぶつぶつと戦略を練り始めるライダー。そこでふと、ランサーがセイバーに話しかけた。

「ところでセイバー。なにゆえライダーとこのような勝負をする事になったんだ? 俺はその辺り聞き及んでいないのだが、聞いても構わんだろうか」

「あ、はい、そうですねランサー。貴方には話してはいませんでしたね」

 そしてセイバーは語った。発端である聖杯問答とそこから連なる一部始終を。

「ふむ……聖君と暴君……か」

「ランサー、貴方の意見も聞かせて欲しい。この暴君どもは結託し私を貶めるばかりで話になりません」

「どちらが正しい、とは一概には言えんな。王の形は様々だ。だが主観的な事を言わせて貰えばセイバー、おまえの王としての在り方を俺は美しいと思う」

「ランサー……」

「画面の中を見てみるがいい。ライダーの暴君としての所業は飢えに喘ぐ民に更なる辛苦を強いている。
 国を守り、敵を倒し、より強い国を作るには多少の犠牲は必要だろう。だが己が欲の為に民や国を食い物にすれば──」

「むおっ!? またクーデターだとッ!? ええいランスロットめ、そんなに余が王であるのが気に食わんか!」

「これこの通り、叛意を抱く者は後を絶つまい。確かにライダーの王としての在り方は、民衆の心に火を灯すかもしれない。臣下の心に夢を見せるかもしれない。ただ忘れないで欲しいのは、その裏には必ず涙が流れているという事だ」

 人の身で王となった征服王。彼の手腕を以ってしても国に生きる民の全てに幸福を与えられたわけではない。
 少なくはない血が流れ、多くの涙が零された。征服王の強さは、それを悔いることなく生き抜いた事にある。

「彼に付き従うのは彼の強さについていけるだけの強さを持った者達だけだ。それは死後にまで繋がる強き絆であったとしても──セイバー、俺は無辜の民を慈しんだおまえの在り方を、美しいと思う」

「ランサー……ああ、貴方だけだ。貴方だけがこの心に清涼なる風を運んでくれる。貴方があの場に居てくれたのなら、私は────」

「おいそこ、ちょいと良い雰囲気を演出しとらんで画面を見ろ」

「なんですかライダー、今いいところ──」

 画面に視線を向けたセイバーの目に映ったのは、死屍累々の戦場と傾いた城。そして唯一人立つ王の姿。ゲームオーバーの表示はないので戦で敗北したわけではないらしい。

「これは?」

「うむ。全滅。壊滅。総崩れ。カムランの丘へ辿り着くどころの話ではなく、そのかなり前に国が崩壊しおったわ」

「…………」

「この騎士どもと来たら何だ、余が徴税を行えば城を去り、徴兵を行えば暴動を起こす。会話をしても忠誠度は微々たる変化。むしろ下がる輩までおる始末。
 戦となれば村々を荒らし回り、帰ってくれば不平不満。余の執政にも文句をつけ、気に食わなければたちどころに城を去る」

「…………」

「有名どころではガウェインは『これ以上王の暴虐には耐えられない』と城を去り、ランスロットは『こんなむさい男が王なんて……』と城を去り、モードレッドは『オレはこんな姿イヤだ!』とクーデターを起こしおった」

「ですから言ったではないですか。ブリテンを覇王の理で治めるなど無理だと」

「セイバー……」

 ぽん、とライダーの無骨な手がセイバーの肩に添えられる。

「お主、こんなにも苦労しとったんだな……」

「止めてください! 本気で憐れまないで下さい! どう反応して良いのか分からなくなります!」

「良いのだ騎士の王よ……流石の余もここまで奔放な騎士どもが配下では手綱を握る事など叶わぬ。曲がりなりにもそれを束ね、一時の王国を築き上げたお主を、余は心から悼もうではないか。
 ランサー! 酒だ! 酒を持て! 今からこの騎士王を称える酒宴を開こうではないか!」

「ああ。ライダー、それは良い考えだ」

「ランサーまでっ! 止めてください本当に!」

「大丈夫だセイバー。俺はおまえの心を理解している」

「ええセイバー。みんな、貴女の事を良く知っているわ」

「アイリスフィール!? 一体何処から!?」

「今日ばかりは僕も、少し優しくなろうかな」

「き、切嗣ッ!? き、切嗣が、有り得ない言葉を……!」

 その後もわらわらと集まる知り合いたち。アーチャーを筆頭に聖杯戦争関係者が勢ぞろい。

「なんですかっ!? 何なんですかこの展開!? ただゲームを愉しむ筈では……!?」

「さあ各々方、杯を持てぃ! では、この偉大なる騎士王に──乾杯ッ!」

『乾杯っ!』

「うああああああああああああああああああああああ……!?」



+++


 窓辺から差し込む柔らかな朝日。
 心地の良い鳥の鳴き声。
 目覚めの朝は、すっきりとした晴れ模様。

「なんだ……夢、でしたか」

 酷く悪い夢を見た気がする。でも今はもうそれがどんな夢だったか思い出せない。

「寝汗が酷い……とりあえず起きましょう」

 朝の身支度を整え居間へと向かうセイバー。

「よう騎士王、邪魔しとるぞ」

「ライダー? 珍しいですね、こんな朝の早くに」

「おう、例のものが完成したのでな。早く貴様に見せたかったのだ」

「例の……もの……?」

「余が駆け抜けたマケドニアを舞台とした戦術シミュレーションゲーム──その名も『Alexander Romance』!
 そのエディットモードで構築した『もしマケドニアの王がアーサー王だったら?』バージョン、通称『Alexander Romance ver.Saber』だ!!
 さあ、早速プレイして見せるが良い!!」

「もう結構ですッ!!!」

「えっ」











-------------------------------
この物語はフィクションです。
登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。


割と感想を頂けたので調子に乗った第二弾。
思いつきで続きを書くとこうなる典型。
流石にもう続きませんが、ネタが思いつけばzeroキャラでhollowな短編を書いていこうと思うので、気が向きましたらお付き合いくださいませ。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.017786979675293