<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[38240] 【一発ネタ】機動戦士ガンダムSEED ~IF・壊れたザラ議長のせいで……~
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:eaee5bbc
Date: 2013/08/11 11:52
 == 機動戦士ガンダムSEED ~IF・壊れたザラ議長のせいで……~ ==



 プラント最高評議会議長パトリック・ザラは、苛立ち混じりに叫んだ。


 「我らの優れた能力を嫉妬したナチュラルたちに思い知らせるため、
  我らの技術と能力が如何に優れているかを見せ付ける必要がある!」


 プラントのMS開発技術者は、首を傾げながら尋ねる。


 「技術と能力を見せ付けるとは?」

 「ナチュラルの馬鹿共でも乗れるMSを造り、
  技術だけではなく操作するパイロットの身体能力にも差があることを見せ付けるのだ!
  そして、技術、能力、どちらも、我らコーディネーターの方が優れていると分からせるのだ!」


 プラントのMS開発技術者は、正直、あまり意味のないことだと思った。
 戦争をしている最中、余分なこと──技術者と資材を関係のないところに消費するのは無駄でしかない。


 (あの噂は、本当なのかもしれない……)


 激化する地球連邦との戦いで、ザラ議長のナチュラルへの蔑視、憎悪、選民意識が日に日に強くなっていくのは周知の事実として知れ渡っていた。
 それと同時に『ザラ議長は精神に支障を来たしているのではないか?』という噂もザフト内でも、ひっそりと広まっていた。

 プラントのMS開発技術者は、今、目の前に居るザラ議長の凶行こそ、その兆候ではないかと疑った。


 「パイロットは、こちらで用意する。
  貴様は、二ヶ月でジンを改造しろ」

 「しかし、それでは新型のMSの開発が──」

 「今更、一機のMSで戦況は覆らん!
  現状のMSを量産すればいい!」

 (いや、だったら、今造らせようとするMSは……)

 「いいか! 二ヶ月だ!」


 ザラ議長が苛立ち混じりにMS技術開発局を後にすると、無理難題を押し付けられたプラントのMS開発技術者は溜息を吐く。


 「ナチュラルでも使えるMSって、どの程度のものを言っているのか……。
  時間もないし、設計からの開発は無理……。
  ・
  ・
  ソフトと操縦席だけを改造するか」


 プラントのMS開発技術者は仕方なく新人の技術者を数人を呼び出し、自由に造らせることにした。
 ザラ議長は、ああ言ったものの、技術者はいくら居ても足りない。
 余分なところに裂く、熟練技術者の数はプラントにはないのだ。
 こうして、まさか本当に実戦に投入されると思わなかったプロジェクトは、新人技術者達の育成プロジェクトとして進められ、ナチュラルでも使えるということで、かなりの遊びが入れられながら進められたのだった。



  第1話 ナチュラルでも使えるMS①



 二ヶ月後──。
 ザフトの古びたMS格納庫で、そのジンは産声を上げた。
 ザフトの初代制式主力機にして世界初の汎用量産型MSは、専用のカスタム機として変更を遂げ、蛍光の緑でカラーリングされた。
 黒い宇宙空間で狙い撃ちにされること間違いなしだ。


 「オイ……」


 更に、このジンはニュートロンジャマーキャンセラー(NJC)搭載型なのに有限バッテリーを動力にしている。


 「何で、付けたんだ……」

 「ザラ議長からNJCの追加要請が来たので、仕方なく……」

 「ついでに核動力にすれば──」

 「ジンの強度的に核エンジンは、ちょっと……」

 「じゃあ、何で、NJCを搭載したんだ?」

 「ナチュラルでも使えるという条件を考えると、ソフトウェアで処理する情報を増やす必要があります。
  ニュートロンジャマーの影響下では電波の伝達が阻害されるため、
  NJCによりレーダーの撹乱されるのを防いで情報を取り込むというわけです。
  まったくの無駄という訳ではありません」

 「なるほど……」


 新人MS技術者のショートカットの少女は、くいっと眼鏡を上げると、隣で説明を聞いていたザラ議長より派遣されたパイロットの青年へと目を向ける。


 「私は、ザラ議長があなたを派遣した理由の方が怖いんですけどね……」

 「俺もだよ。
  だって、俺……身体能力が高いだけで、他の能力はナチュラルと変わらないもん」

 「そうなんですよね……。
  ナチュラルでも使えるという条件を満たすのに、
  これほど最適な人材は居ないんですけど……一般人なんですよね?」

 「今日までコックピットに入ったこともない」

 「それなのにザラ議長は、あなたの戦果に期待をしているようです」

 「…………」


 ここには、そのザラ議長も居ず、派手なジン・カスタムとMS技術者の少女と派遣されたパイロットの青年しか居ない。
 パイロットの青年は軍の規則と肉体強化の訓練を二ヶ月受けただけ、これから二日のパイロット訓練後に実戦配備らしい。


 「これさ……。
  俺に『死ね』って言ってるようなもんだよな?」

 「まあ、あなたの努力次第だと思いますよ。
  技術者の私から言いますと、パイロットというのはゲームの上手いマッチョというイメージですから」

 「は?」

 「MSはかなりのGが掛かりますし、衝撃緩衝材があるにしてもかなり揺れます。
  それに耐え得る肉体を持った者がパイロットになる第一条件です。
  故にマッチョです」

 「マッチョか……」

 「パイロットになる資格は、コーディネーター、ナチュラル共にマッチョです。
  私は、その点だけは要求に関わらないところとして、改造させて頂きました」

 「じゃあ、操作面の能力は?
  努力次第で、何とかなるっていうヤツ」


 MS技術者の少女が右手の人差し指を立てる。


 「こちらもある程度、思想を単純化しました。
  さっき言った『ゲームの上手い』というところです。
  MSの操作を複雑なものから最適化し、より簡易的なものにする試みです。
  MSの操作が難しいのは複雑な動作をするために多くのボタンやペダルがあり過ぎて、
  全てを戦闘内で制御できないからナチュラルには扱えないと考えます。
  高度なコーディネーターになると、自分に合わせてソフトウェアに手を加えて自分で使い易いようにしますが、
  ナチュラルに、それはできません」

 「俺にも出来ないな……」

 「はい。
  そこの代用をするのが私です。
  ナチュラルでも使えるようにすること──つまり、努力次第で扱えるレベルまで落とす。
  故にゲームをする操作性まで落として、実戦配備するのです。
  ・
  ・
  敵MSを銃で撃つので、シューティングゲームが上手いこと。
  ビームサーベルなどの格闘戦ができるように格闘ゲームが上手いこと。
  この二つを満たせば、誰でもMSを操作できるようにしました」

 「それで『ゲームの上手いマッチョ』か……」

 「はい。
  ただ、二ヶ月という期間は短過ぎるので、
  ジンとソフトウェアの情報は宇宙戦のみの対応しかできていません。
  これから二日の間に、私とあなたでジンとソフトウェアの調整を行なうことになります」

 「了解」

 「では、早速、ジンに乗り込んでください。
  ザラ議長の命令で、とことんナチュラルを馬鹿にした内部になっています」

 「妙な言い回しだな……」


 パイロットの青年は、タラップから蛍光緑のジンのコックピット前まで移動すると、緊張しながらジンのコックピットを開いた。


 「…………」


 中には、操縦席、ブラウン管テレビが2台、そして、スーパーファミコンのコントローラーがあった。



[38240] 機動戦士ガンダムSEED ~IF・壊れたザラ議長のせいで……~ つづき
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:eaee5bbc
Date: 2013/08/11 11:30
 == 機動戦士ガンダムSEED ~IF・壊れたザラ議長のせいで……~ ==



 あまりに簡素なコックピットに、パイロットの青年は絶句する。
 気合いを入れて着ているノーマルスーツが恥ずかしくなるぐらい、コックピットの中は昭和と平成の間のような雰囲気だった。


 『どうしました?』


 MS技術者の少女の通信に、パイロットの青年は我に返る。


 「何か寂しいな……」

 (もっと、計器類とかモニターとかボタンがあると思ったのに……)

 『やっぱり、そう思いますか?』

 「ああ……」

 『そうですよね。
  私もゲームするなら、おこたが欲しいと思っていました』

 「要らねェよ!
  ノーマルスーツの上からコタツに足突っ込んでも、
  きっと温かくないし!」

 『あはは……。
  ノーマルスーツは、仮にも宇宙空間で動ける設計ですもんね』

 「そうだ」

 『じゃあ、中は空気が循環しているので、ノーマルスーツを脱いじゃいましょうか』

 「馬鹿じゃないの!?」

 『過去には、そういう人も居たかもしれませんよ?
  念願のおこたも配備されますよ?』

 「そんな奴、居ねェよ!
  それと、コタツに何の拘りがあるんだよ!」


 パイロットの青年は、仕方なくコックピットに座るも、どうも落ち着かない。
 目の前にはブラウン管テレビが二台。
 操縦席だけが無駄によく出来ていて、シートベルトが体を固定する。
 そして、手に握るのはスーパーファミコンのコントローラー……。


 「ごめん……。
  ちょっと、いいか?」

 『はい』

 「やっぱ、ノーマルスーツ脱ぐわ……」

 『おこたですか?』

 「……そうじゃなくて、コントローラーが握れない」

 『…………』

 (設計ミスだわ……)


 ジン・カスタムの調整は、出だしから躓いた。



  第2話 ナチュラルでも使えるMS②



 改めてジン・カスタムのコックピット──。
 ノーマルスーツからジャージに換装した青年パイロット(メットだけはつけている)は、MS技術者の少女に通信を入れる。


 「通信用の装備、コックピットに入れといてくれないか?
  ジャージにメットって有り得ないから……」

 『あ、大丈夫ですよ。
  ブラウン管テレビの左の方は、電源入れると通信も出来ますから』

 「いや、通信用の装備って、ジンに元々小型のカメラと一緒にデフォルト装備されてたじゃん……」

 『ザラ議長が『馬鹿なナチュラルに、そんなものは要らん! 取り外せ!』って』

 (ナチュラルは、そこまで馬鹿じゃないだろう……)


 パイロットの青年は溜息を吐く。


 「で、動かし方は?」

 『二台のテレビの電源を入れるだけです』

 「了解」


 パイロットの青年がレトロ風テレビの摘まみを引っ張ってスイッチを入れると、画面が静電気を発してパチパチと鳴った。


 『絵が出るまで少し時間が掛かるので待ってください』

 「液晶にしろよ……」

 『ザラ議長が『ナチュラルには環境に優しくない二酸化炭素を発生させるブラウン管テレビがお似合いだ』と』

 「宇宙用で酸素が大事なのに、二酸化炭素を増やして、どうすんだよ……」

 『安心してください。
  色々と取っ払ってあるので、空気の清浄に少しぐらい消費電力が増えても平気です』

 「そんな機能を強化するなら液晶にしてくれ……」


 無駄話をしているうちに、テレビに絵が映り出す。
 それに伴い、ジンに電源が入ったようだ。
 操縦席に特有の振動が伝わり出した。


 「で、この次は?」

 『ONE PLAYERをセレクトボタンで選択してスタートボタンを押してください』

 「このジン、二人プレイもできるの!?」

 『マルチタップを使えば最高5人まで遊べます』

 「どうやって!?」

 『右手用、左手用、右足用、左足用、首用です』

 「……動くのか?」

 『はい。
  ただ、コックピットにマッチョが五人入るかが問題ですね』

 「意味ねェな!」

 『ザラ議長が『万が一ナチョラルが奪取されたら、
  アイツらは絶対に五人プレイをするに違いない』と言っていたので、トラップの意味を込めて内蔵しました。
  テレビの下の引き出しにマルチタップが入っています』

 「引っ掛からねェよ! そんなトラップ!」

 『まあ、兎に角。
  動かしてみてください』

 (色々と変な設定があるけど、本当に動くんだろうな……)


 パイロットの青年がスタートボタンを押すと、画面が切り替わった。
 左のテレビが正面を見た画面。
 右の画面が横スクロール風の画面。
 ただし……。


 「ドット絵だ……」

 『懐かしいでしょう?
  NJCを利用して取り込んだ情報を全て二次元のドット絵に置き換えているんです。
  最新の技術をふんだんなく使って、リアルの画質をドット絵の汚い絵に置き換えています』

 「なんて無駄な使い方をしているんだ!」

 『ザラ議長が『低脳なナチュラルには、これぐらいが丁度いい』と』

 「あのオッサン、馬鹿じゃないの!?
  乗ってんの、お前の守らなきゃいけないコーディネーターだっつーの!」

 『カスタム機と言っても、所詮、実験機ですしね……。
  私も新人の技術者ですし……』

 「あったま痛くなってきた……」


 MS技術者の少女の乾いた笑いが通信で入ったあと、気の入り直した声が響く。


 『そろそろ本格的に動かしますけど、いいですか?』

 「もう勝手にしてくれ……」

 『了解。
  では、ハッチ開けます』


 パイロットの青年が顔を上げる。


 「何で、ここでハッチを開けるんだ?」

 『ピーキーに動くので』

 「?」


 古い倉庫の床がバカッと開くと、ジン・カスタムは廃棄物が捨てられるように宇宙に投げ出された。


 …


 よく考えたら怖くなる。
 倉庫内の動作かと思ったが、いきなり宇宙だ。


 「ノーマルスーツ着てねェ……。
  密閉のチェックは、どうするんだ?」

 『出来ません。
  空気が漏れるような音がしてたら、連絡入れてください』

 「耳頼み?
  アナログ過ぎるだろう?」

 『まあ、気にせずに』

 「どうせ、ザラ議長の意味不明なナチュラル叩きが入るからか?」

 『はい』

 (やっぱりか……)


 パイロットの青年は溜息を吐く。


 「で、動かし方は?」

 『まず、スタートボタンを押してください。
  画面が止まってメニューが開きます』

 「ちょっと、待った~!」

 『何か?』

 「戦闘中にメニューを開いたら、画面が止まるのか?」

 『止まります』

 「両方とも?」

 『両方ともです』

 「戦闘中に開いて大丈夫なのか?」

 『だから、今のうちに初期設定しておくんです』

 「そうだよな……。
  そういうことだよな……」

 『では、BGMから──』

 「要らねェよ!
  空気漏れを耳で聞き分けなきゃいけないのに、
  何で、のん気にゲームのBGMを聞かなきゃいけないんだよ!」

 『ザラ議長が『ナチュラルは、これぐらい無神経だ』と』

 「もう別の生き物じゃねェかよ!
  そんな奴らが宇宙まで来れるわけねェだろっがーっ!」

 『私に言われましても……。
  私だって、初めての作曲で戸惑ったんだし……』

 「えぇ……。
  お前が作曲したの……」

 『二ヵ月の準備期間のうち、五日使いました』

 「その間に、もっと改善すべきことがあったんじゃないか?」

 『そうですよね……。
  おこたを入れ忘れるなんて……』

 「そこから離れろ!
  空調が付いてんだろうが!」

 『おこたの魅力が分からないなんて……。
  空調の温度は18℃以下に設定し直す必要がありますね。
  あの温かさが恋しくなるようにするしかない』

 (ザラ議長がおかしいんじゃなくて、
  この娘がおかしいのかもしれない……)


 とりあえず、BGMの設定はOFFのステレオ設定。
 左画面の左上隅に残弾とエネルギーバーを設定。
 右上隅の小窓に全体マップ。


 「索敵は?」

 『画面に映ってからです。
  NJCのお陰で、一般機よりも先に発見できるので、ゲームの腕さえ良ければ平気です』

 「あ、そう……」

 『左のテレビが正面のシューティング用。
  右のテレビが横スクロールのゲーム用。
  コントローラを使い分けてください』

 「もう驚かないけどさ……。
  戦闘中にコントローラーを持ち変えるのか?」

 『ソフトリセットの要領で、
  L, R, スタート, セレクトを同時に押してコントローラー切り替えです』

 「面倒臭いな……」

 『まあ、適当にやってみてください』

 「投げやりだな……」

 『気分的にはクソゲーをしてる気分です』

 「…………」

 (もう、何も言うまい……)


 パイロットの青年は、黙ってスーパーファミコンのコントローラーを握ると、ジン・カスタムを動かしてみた。


 「ぐぇっ!!」


 ジン・カスタムはもの凄い勢いで前に動いた。


 「な、何だ、これ……」


 十字キーを上下左右動かすが、常に全力で動く。


 『ああ、言い忘れてました。
  ゲームに合わせているんで、スピードは変えられません。
  常にマックスで動くんで、気をつけてください』

 「ピーキーどころじゃないだろうが!
  微調整は、どうするんだ!?」

 『十字キーをチョイ押ししながらです』

 「酷いクソゲーだ……」


 こんな地獄が二日続いた後に実戦配備されることになる。
 そして、中で動かしているパイロットの青年は、まだ知らなかった……。
 ゲーム画面では分からないが、外から見た時のジンの動きが一般のジンと違い、気持ち悪い動きで動いていることを……。
 逆噴射の時に腕が明後日の方向に向き、首がガックンガックンしている。
 ジンに装備されている重斬刀の振り方も、のっぺりとして気持ち悪い……。


 「う~ん……。
  ソフトウェアの作り込みが甘いですね……。
  人の動きを模さずに当てることだけを優先してる……。
  ・
  ・
  これなら何もジンじゃなくて、戦闘機でいい気がする」


 しかも、このジョジョ的な動きは、宇宙だからギリギリできる。
 MS技術者の少女はモニターを見ながら、改めて地球での汎用動作はできないと結論づけた。



[38240] 機動戦士ガンダムSEED ~IF・壊れたザラ議長のせいで……~ おわり
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:eaee5bbc
Date: 2013/08/11 11:33
 == 機動戦士ガンダムSEED ~IF・壊れたザラ議長のせいで……~ ==



 ヤキン・ドゥーエの戦いが始まろうとしていた頃──。
 各母艦に搭載されているMSが整列する中に混じり、ナチュラルでも操縦できるMS――蛍光緑のジン・カスタムは、ザラ議長の演説を他のジンと整列して聞くことになっていた。
 しかし……。

 ボッ! ボッ! ボッ! ボッ!

 と、推進剤を前に後ろに噴射しながらフラフラしていた。


 「慣性0にして止まれねェ……」


 ピーキー使用のジン・カスタムに普通の動作は出来なかった。
 もはや、欠陥品レベルだった。



  第3話 実戦配備



 ヤキン・ドゥーエの戦い開始──。
 ザフトの精鋭達が戦いに赴くため、MSを疾駆する中、ジン・カスタムは母艦へと着艦する。


 「まさか演説中に慣性を0にしようとして推進剤が切れるとは……。
  あのオッサンの演説、くそ長ェんだよ」


 パイロットの青年はぼやきながらハッチ解放のスイッチを押した。
 母艦の整備デッキではザラ議長期待のカスタム機のハッチが開き、ザフトの整備兵は緊張した面持ちでパイロットを待つ。
 が……。


 「何だ……あれは……」


 現れたパイロットはジャージにヘルメットを着けた妙な格好をしていた。


 「あの……。
  その格好……何ですか?」

 「俺が聞きたいよ」


 パイロットの青年は投げやり口調に、乾いた笑いを浮かべていた。
 そして、腕を組んだ右手の人差し指でコックピットを指差す。


 「中見たら、もっと驚くぞ」

 「は?」


 言われるまま整備兵が首を廻すと、中に見えたのはコタツ。
 しかも、蜜柑まで乗ってる。


 「な、何だこれ……」

 「あんたも、そう思うだろ?
  俺……これに乗せられてるんだぜ?」

 「…………」


 整備兵はコックピットに近づき、コタツに手を触れる。


 「馬鹿……なんですか?」

 「馬鹿なんだよ!
  こんなものを造ろうと提案した奴も!
  実際、造った奴も!
  ・
  ・
  俺に死ねって、言ってんだよ!」


 整備兵は哀れんだ目でパイロットの青年を見る。


 (この人……。
  生きて帰れないだろうな……。
  ・
  ・
  しかも、敵前逃亡は銃殺刑だから、逃げることも出来ないし……)


 死亡フラグしか立っていない。
 整備兵は、そう思った。


 「何を騒いでいる!」


 そこに上官と思しき少年から、叱責する声が飛んだ。
 パイロットの青年と整備兵が敬礼する。
 上官の少年が着ているのは、エリート兵だけが着れる、通称赤服と言われる赤いパイロットスーツだった。


 「実戦配備中だ!
  貴様ら、気合いを入れろ!」

 「「申し訳ありません!」」


 銀髪で顔に大きな傷を残す少年は、パイロットの青年に話し掛ける。


 「これが噂のジンか?」

 「そうであります!」

 「俺のデュエルと、どう違うんだ?
  少し見るぞ」

 「え?
  ……いや、それはやめた方が──」

 「黙れ!
  貴様は、俺に意見する気か!」

 「そこまで言うなら、止めませんけど……」

 「フン!」


 銀髪の少年はカスタム・ジンのコックピットに手を掛け、中を覗きこんだ。


 「…………」


 反応が返って来ない。


 「……あの、もしもし?」


 銀髪の少年は無言でツカツカとタラップを歩くと、パイロットの青年のジャージの襟首を掴んでコックピットを指差す。


 「何だ、あれは!?」

 (本当に何なんだろうね……。
  俺が聞きたいよ……)

 「しかも、貴様のその格好は、何だ!?
  ノーマルスーツも着けずに、ジャージだと!?
  宇宙を舐めるな!」

 (今頃、気付いたか……。
  それと、俺が舐めてるわけじゃない……。
  ザラ議長とMS技術者の娘のせいだ……)

 「答えろ!
  事と次第によっては、上層部に抗議文を出すことになるぞ!」

 (そんなこと、言われても……。
  ん? 待てよ?)


 パイロットの青年は、ふと気が付いた。
 今、自分を掴んでいる上官の少年が上層部に抗議文を出せば、このアホな現状をどうにか出来るのではないか……と。
 この銀髪の少年の反応は、寧ろ、正常な反応であり、今まで関わってきた人間が明らかにおかしいのだ。
 ナチュラルでも使えるMSを造れだとか……。
 コタツを入れるためにコックピット内を秋の温度に設定するとか……。

 目の前の少年が常識ある然るべき措置をしてくれれば、多少の罰はあるかもしれないが、狂った現実から解放されるに違いない。
 パイロットの青年は、正直に今までのことを話すことにした。


 「実は……このモビルスーツの開発はザラ議長の勅命なんです」

 「何? ザラ議長閣下の勅命だと?」

 「はい。
  ザラ議長は何を考えたのか、ナチュラルでも扱えるMSを設計して、
  技術力だけでなく、パイロットの質にも差があることを見せ付けようとしたみたいなんです。
  そして、それを請け負ったMS開発技術者の娘も……」

 「それでこれか……」


 銀髪の少年はジャージを放し、カスタム・ジンへと目を向けた。
 そして、何やら考え込んでいるようだった。


 (これで少しはマシになるかな?
  あとは、この人が怒りに任せて抗議文を書くのを待つだけだ)


 パイロットの青年が事の成り行きを待つと、やがて銀髪の少年が笑い出した。


 「ハッハッハッハッ!
  さすがザラ議長閣下だ!」

 「……は?」

 「実に素晴らしい考えだ!」

 「……素晴らしい?」


 銀髪の少年がパイロットの青年の背中を叩く。


 「気に入ったぞ!
  ここまでナチュラルをコケにするとは!
  お前の、そのジャージ姿もそういう訳か!」

 「いや、そういうって……どういう訳?」

 (この人、何を勘違いして悟っちゃったんだろう?
  そもそもジャージ着てんのは、
  コタツが邪魔なせいなのとコントローラを握れないからだし)


 銀髪の少年は腕を組んで、自信満々に頷く。


 「ナチュラルを馬鹿にするのに、これほど最適な機体もあるまい!
  この機体で徹底的にナチュラル共を叩き潰して来い!」

 「えぇ……」

 (この機体で?
  徹底的に?
  ・
  ・
  さっきまでの君の怒りは、何処へ行ってしまったのかな?)


 パイロットの青年が項垂れると、意気揚々と銀髪の少年が去って行く。
 しかし、思い出したように、直ぐに銀髪の少年が振り返った。


 「俺の名前は、イザーク・ジュール!
  このジュール隊を率いる隊長だ!」

 「そうなんですか……」

 「貴様は、最前線で戦わせてやる。
  ありがたく思えよ」

 「……は? 最前線!?」

 「そうだ。
  隊長機の俺の後ろに付け」

 「いや、でも……」

 「何だ?」


 パイロットの青年は、そんなところに配置されては堪ったものではないと、いい訳めいたことを口走る。


 「だ、だけど、俺のはジンですから……!
  隊長の機体には追いつけませんよ!」

 「フ……。
  嘘をつくな」

 「嘘?」


 イザークがカスタム・ジンを指差す。


 「俺の目は誤魔化されん。
  各部に付けられたブースターは、他のジンと違ってオーダーメイドのものだ」

 (さすが赤服の隊長……。
  目が肥えていらっしゃる……。
  ・
  ・
  でもね、あれ……強制的に姿勢制御するための補助ブースターなんだ……。
  このジン、全速力でピーキーにしか動かないから……)

 「では、行くぞ!
  付いて来い!」

 「…………」

 (嫌だ……。
  行きたくない……)


 整備兵だけが、パイロットの青年の心を読み取った。
 そして、内心で心底哀れんだ。
 しかし、整備兵には何も言えなかった。
 ジュール隊の隊長の導火線が短いのは有名な話で、直ぐにキレる今時の若者そのものだというのは周知の事実だった。
 しかも、『さすがザラ議長閣下だ』と口にするように、彼の感性はザラ議長に近い。


 「早く来い!」

 「……はい」


 肩を落とし、トボトボと歩くパイロットの青年を見て、整備兵の頭の中にはドナドナが流れていた。
 何か声を掛けたかったが、掛ける言葉も見つからなかった。


 「悲しいけど、これ……戦争なのよね」


 パイロットの青年は半ば諦めた感じで、見送る整備兵にそう呟いた。

 多分、ザラ議長がおかしいんじゃない。
 ザフトという組織がおかしいんだと、整備兵は思った……。


 「このままだと、皆おかしくなってしまう……」


 整備兵の漏らした言葉は、この戦争を象徴していた。
 そして、誰も知ることのないポケットの中の戦争は、人知れず始まり、人知れず終わるのだった。

 ちなみに、パイロットの青年は無事に戦争を乗り切ったらしい。

──

すみません。
思いつきの一発ネタです。
ところどころ設定間違ってるかもです。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.014915943145752