== 機動戦士ガンダムSEED ~IF・壊れたザラ議長のせいで……~ ==
あまりに簡素なコックピットに、パイロットの青年は絶句する。
気合いを入れて着ているノーマルスーツが恥ずかしくなるぐらい、コックピットの中は昭和と平成の間のような雰囲気だった。
『どうしました?』
MS技術者の少女の通信に、パイロットの青年は我に返る。
「何か寂しいな……」
(もっと、計器類とかモニターとかボタンがあると思ったのに……)
『やっぱり、そう思いますか?』
「ああ……」
『そうですよね。
私もゲームするなら、おこたが欲しいと思っていました』
「要らねェよ!
ノーマルスーツの上からコタツに足突っ込んでも、
きっと温かくないし!」
『あはは……。
ノーマルスーツは、仮にも宇宙空間で動ける設計ですもんね』
「そうだ」
『じゃあ、中は空気が循環しているので、ノーマルスーツを脱いじゃいましょうか』
「馬鹿じゃないの!?」
『過去には、そういう人も居たかもしれませんよ?
念願のおこたも配備されますよ?』
「そんな奴、居ねェよ!
それと、コタツに何の拘りがあるんだよ!」
パイロットの青年は、仕方なくコックピットに座るも、どうも落ち着かない。
目の前にはブラウン管テレビが二台。
操縦席だけが無駄によく出来ていて、シートベルトが体を固定する。
そして、手に握るのはスーパーファミコンのコントローラー……。
「ごめん……。
ちょっと、いいか?」
『はい』
「やっぱ、ノーマルスーツ脱ぐわ……」
『おこたですか?』
「……そうじゃなくて、コントローラーが握れない」
『…………』
(設計ミスだわ……)
ジン・カスタムの調整は、出だしから躓いた。
第2話 ナチュラルでも使えるMS②
改めてジン・カスタムのコックピット──。
ノーマルスーツからジャージに換装した青年パイロット(メットだけはつけている)は、MS技術者の少女に通信を入れる。
「通信用の装備、コックピットに入れといてくれないか?
ジャージにメットって有り得ないから……」
『あ、大丈夫ですよ。
ブラウン管テレビの左の方は、電源入れると通信も出来ますから』
「いや、通信用の装備って、ジンに元々小型のカメラと一緒にデフォルト装備されてたじゃん……」
『ザラ議長が『馬鹿なナチュラルに、そんなものは要らん! 取り外せ!』って』
(ナチュラルは、そこまで馬鹿じゃないだろう……)
パイロットの青年は溜息を吐く。
「で、動かし方は?」
『二台のテレビの電源を入れるだけです』
「了解」
パイロットの青年がレトロ風テレビの摘まみを引っ張ってスイッチを入れると、画面が静電気を発してパチパチと鳴った。
『絵が出るまで少し時間が掛かるので待ってください』
「液晶にしろよ……」
『ザラ議長が『ナチュラルには環境に優しくない二酸化炭素を発生させるブラウン管テレビがお似合いだ』と』
「宇宙用で酸素が大事なのに、二酸化炭素を増やして、どうすんだよ……」
『安心してください。
色々と取っ払ってあるので、空気の清浄に少しぐらい消費電力が増えても平気です』
「そんな機能を強化するなら液晶にしてくれ……」
無駄話をしているうちに、テレビに絵が映り出す。
それに伴い、ジンに電源が入ったようだ。
操縦席に特有の振動が伝わり出した。
「で、この次は?」
『ONE PLAYERをセレクトボタンで選択してスタートボタンを押してください』
「このジン、二人プレイもできるの!?」
『マルチタップを使えば最高5人まで遊べます』
「どうやって!?」
『右手用、左手用、右足用、左足用、首用です』
「……動くのか?」
『はい。
ただ、コックピットにマッチョが五人入るかが問題ですね』
「意味ねェな!」
『ザラ議長が『万が一ナチョラルが奪取されたら、
アイツらは絶対に五人プレイをするに違いない』と言っていたので、トラップの意味を込めて内蔵しました。
テレビの下の引き出しにマルチタップが入っています』
「引っ掛からねェよ! そんなトラップ!」
『まあ、兎に角。
動かしてみてください』
(色々と変な設定があるけど、本当に動くんだろうな……)
パイロットの青年がスタートボタンを押すと、画面が切り替わった。
左のテレビが正面を見た画面。
右の画面が横スクロール風の画面。
ただし……。
「ドット絵だ……」
『懐かしいでしょう?
NJCを利用して取り込んだ情報を全て二次元のドット絵に置き換えているんです。
最新の技術をふんだんなく使って、リアルの画質をドット絵の汚い絵に置き換えています』
「なんて無駄な使い方をしているんだ!」
『ザラ議長が『低脳なナチュラルには、これぐらいが丁度いい』と』
「あのオッサン、馬鹿じゃないの!?
乗ってんの、お前の守らなきゃいけないコーディネーターだっつーの!」
『カスタム機と言っても、所詮、実験機ですしね……。
私も新人の技術者ですし……』
「あったま痛くなってきた……」
MS技術者の少女の乾いた笑いが通信で入ったあと、気の入り直した声が響く。
『そろそろ本格的に動かしますけど、いいですか?』
「もう勝手にしてくれ……」
『了解。
では、ハッチ開けます』
パイロットの青年が顔を上げる。
「何で、ここでハッチを開けるんだ?」
『ピーキーに動くので』
「?」
古い倉庫の床がバカッと開くと、ジン・カスタムは廃棄物が捨てられるように宇宙に投げ出された。
…
よく考えたら怖くなる。
倉庫内の動作かと思ったが、いきなり宇宙だ。
「ノーマルスーツ着てねェ……。
密閉のチェックは、どうするんだ?」
『出来ません。
空気が漏れるような音がしてたら、連絡入れてください』
「耳頼み?
アナログ過ぎるだろう?」
『まあ、気にせずに』
「どうせ、ザラ議長の意味不明なナチュラル叩きが入るからか?」
『はい』
(やっぱりか……)
パイロットの青年は溜息を吐く。
「で、動かし方は?」
『まず、スタートボタンを押してください。
画面が止まってメニューが開きます』
「ちょっと、待った~!」
『何か?』
「戦闘中にメニューを開いたら、画面が止まるのか?」
『止まります』
「両方とも?」
『両方ともです』
「戦闘中に開いて大丈夫なのか?」
『だから、今のうちに初期設定しておくんです』
「そうだよな……。
そういうことだよな……」
『では、BGMから──』
「要らねェよ!
空気漏れを耳で聞き分けなきゃいけないのに、
何で、のん気にゲームのBGMを聞かなきゃいけないんだよ!」
『ザラ議長が『ナチュラルは、これぐらい無神経だ』と』
「もう別の生き物じゃねェかよ!
そんな奴らが宇宙まで来れるわけねェだろっがーっ!」
『私に言われましても……。
私だって、初めての作曲で戸惑ったんだし……』
「えぇ……。
お前が作曲したの……」
『二ヵ月の準備期間のうち、五日使いました』
「その間に、もっと改善すべきことがあったんじゃないか?」
『そうですよね……。
おこたを入れ忘れるなんて……』
「そこから離れろ!
空調が付いてんだろうが!」
『おこたの魅力が分からないなんて……。
空調の温度は18℃以下に設定し直す必要がありますね。
あの温かさが恋しくなるようにするしかない』
(ザラ議長がおかしいんじゃなくて、
この娘がおかしいのかもしれない……)
とりあえず、BGMの設定はOFFのステレオ設定。
左画面の左上隅に残弾とエネルギーバーを設定。
右上隅の小窓に全体マップ。
「索敵は?」
『画面に映ってからです。
NJCのお陰で、一般機よりも先に発見できるので、ゲームの腕さえ良ければ平気です』
「あ、そう……」
『左のテレビが正面のシューティング用。
右のテレビが横スクロールのゲーム用。
コントローラを使い分けてください』
「もう驚かないけどさ……。
戦闘中にコントローラーを持ち変えるのか?」
『ソフトリセットの要領で、
L, R, スタート, セレクトを同時に押してコントローラー切り替えです』
「面倒臭いな……」
『まあ、適当にやってみてください』
「投げやりだな……」
『気分的にはクソゲーをしてる気分です』
「…………」
(もう、何も言うまい……)
パイロットの青年は、黙ってスーパーファミコンのコントローラーを握ると、ジン・カスタムを動かしてみた。
「ぐぇっ!!」
ジン・カスタムはもの凄い勢いで前に動いた。
「な、何だ、これ……」
十字キーを上下左右動かすが、常に全力で動く。
『ああ、言い忘れてました。
ゲームに合わせているんで、スピードは変えられません。
常にマックスで動くんで、気をつけてください』
「ピーキーどころじゃないだろうが!
微調整は、どうするんだ!?」
『十字キーをチョイ押ししながらです』
「酷いクソゲーだ……」
こんな地獄が二日続いた後に実戦配備されることになる。
そして、中で動かしているパイロットの青年は、まだ知らなかった……。
ゲーム画面では分からないが、外から見た時のジンの動きが一般のジンと違い、気持ち悪い動きで動いていることを……。
逆噴射の時に腕が明後日の方向に向き、首がガックンガックンしている。
ジンに装備されている重斬刀の振り方も、のっぺりとして気持ち悪い……。
「う~ん……。
ソフトウェアの作り込みが甘いですね……。
人の動きを模さずに当てることだけを優先してる……。
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これなら何もジンじゃなくて、戦闘機でいい気がする」
しかも、このジョジョ的な動きは、宇宙だからギリギリできる。
MS技術者の少女はモニターを見ながら、改めて地球での汎用動作はできないと結論づけた。