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[38274] TRPG作品 ダブルクロス the 3rd Edition × コミック 私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!
Name: TRPGユーザー◆92ad2943 ID:16c9124e
Date: 2015/12/15 21:39
昨日と同じ今日
今日と同じ明日
世界は繰り返し、同じ時を刻んで何も変わらない。
私がモテないのも、一人なのも、これからもずっとずっと。

やっと授業が全部終わって。
私,黒木智子は椅子から腰を上げた。
疲れた。
授業は別に苦じゃないけれど。
うちのクラスは本当にうるさい。
授業中は静かにするくせに、その反動で休み時間になると一斉に皆が会話をはじめる。

「おーい。今日カラオケ行こうぜ」
「ようし、じゃあ部活ない奴らに声かけとくわ」

……本当にうるさい。
毎日毎日ばか騒ぎばかりして。

学校は勉強しにくるとこなんだ。
必要以上に群れやがって。

いらだちを溜息といっしょに吐き出して教室を出る。
これ以上、同級生達のことを考えていたくない。

―どうせ私がカラオケに誘われることもないし―

そこまで考えて首を横に振った。
最後のは何だ。
まるで私がカラオケに行きたいみたいじゃないか。
誰が行くか、あんなうるさいところ。

そう、心の中で毒づき足を速めて教室を出た。


今日は本屋によってさっさと家に帰るんだ。
せっかくだしこれから買いに行くライトノベルの内容で妄想でもしよう。
私は世界有数の超能力者で秘密機関のエージェントで小説のイケメン主人公と恋中で……。

校舎を出て空を見上げる。
夕暮れにもかかわらず太陽がやけに強く、手の甲で光をさえぎった。
きっと、こんな風にいつまでも光を拒絶して生きていくんだろうな私は。
明日も明後日もこれからもずっと。

無意識に暗いことを考えながら本屋へと向かう。
首を横に振って頭から現実を追いだした。


私は気がつかなかった。
昨日と今日は違うことに。
今日と明日は違うことに。
世界は繰り返し同じ時を刻んでいるように見えて、
じつはとっくに崩れ出していたことを。

そして、こんな灰色の青春でもそこまで悪くなかったことを。
この時の私は知らなかった。

知らなかったんだ。



[38274] シーン1 指輪売り
Name: TRPGユーザー◆92ad2943 ID:16c9124e
Date: 2013/08/16 21:39
目当ての新刊は、楽に入手することができた。
目的を果たしたら後は帰るだけ。
店員の「ありがとうございました」を聞きながら自動ドアを抜け外に出る。
まぶしかった太陽はもう沈む間近だ。
外は温かい風が吹いて気持ちよかった。
普段はあまり寄り道しないけど、こうやって変わった感触を味わえるなら悪くないとおもう。
そんな風の中に聞き覚えのある声が響いた。

「ねー、時間は大丈夫?」
「わるい、雑誌一冊買ってくだけだから」

自分の姿を認められないように裏路地へと駆けこむ。
心臓がものすごい勢いで脈打ち、息が恐怖で荒くなる。

「あれ、今 うちの制服見えなかった?」
「気のせいじゃない?」

数人の男女の声が聞こえた。
まちがいない。クラスメイトだ。

危なかった。
店の前は大通りだから誰が来てもおかしくはないけど。
はち合わせでもしたらすごい気まずい。


でもどうしよう。
来た道を引き返したら、また、彼らに会ってしまうかもしれない。
いやだ、一人っきりでいる所を見られたくない。
彼らの前を通りたくない。

「この裏道って、どっか別の通りに出られないかな」

通りを一本はさんだだけなのにひと気がない。
下水から立ちのぼるわずかな悪臭が鼻につく。

「不審者とか……でないよな?」

呟いてそのまま奥へと進む。
クラスメイトに見つからないように音をたてず、暗い方へ暗い方へと。

「ドブネズミか。私は」

無意識に言葉が出て泣きそうになった。
だからこそ。

「そんなことないよ。美しいお嬢さん」

返事が返ってきたことに死ぬほどびっくりした。
私が今通ってきた道。
さっきまで誰もいなかったその道に、一人の人物が座っていたから。

「えひゃひ!?」

舌がもつれて言葉が出ない。
声を掛けた人は顔を隠していた。
占い師が着るような、ローブというのか。
顔はもちろん、頭から布をかぶって全身を覆っている。
手にも黒い手袋をはめており、肌の露出は一切ない。
声からして若い男のようだった。
座っている膝元には売り物だろうか、多くの金属製のアクセサリーが黒い布の上で輝いている。


「きれいなお嬢さん。よかったら見ていかないかい?」
「は、ひ、ひ」

怖かった。
裏路地で声を掛けてきた見知らぬ男。顔を隠した謎めいた人物。
幽霊のような男。

「わ、わ、わたし、べ、べ、べつにいい、いいです」
「いい? それはどちらでもいいという意味かな? まあ、安心して。別にとって食べたりしないから」

確かに距離があったのに。
彼がごく自然な動作で近付いてきたのと、私が腰砕けになっていたせいで。
回り込まれ、肩を掴まれた

「わ、わ、わたし、ききき興味なくて」
「興味がない? それはいけない。年頃の女の子ならおしゃれはステイタスだよ」

そう言って、彼は私の目前で一個の指輪を懐から取り出した。
特に装飾もないシルバーリングを。

「怖がらせてしまったお詫びだ。これはタダであげよう」
「いい、い、い、いいです」

首をぶんぶんと横に振るが、男はお構いなし。
肩にかけていた手を離し、私の手首をきつく握る。

「あ、い」

強く握られ痛みに思わず声が出た。

「本当にきれいだ君の瞳は。鬱屈として、濁りきって、どんな衝動を抱え込んでいるのか、ほんの少しでいいから見せておくれ」

男はぶつぶつと呟きながら、私の顔を覗き込んだ。
フード越しの顔を見て、私は今度こそ悲鳴をあげそうになった。
男の顔、声こそきれいだったが、そのフードの中には何もない。
ただ空洞だけがあった。


恐怖のあまり気を失いそうだった。
むしろ気絶できたらどんなにか楽だろう。
腕の痛みが、気を失うのを許してくれない。

そいつは私の人差し指にむりやり指輪を嵌めこむ。

「ギ、アア、ァァァァ」

あまりに強い刺激に、ひざから崩れ落ちる。
今まで経験したことない、未知の感覚だった。
何も見えない。何も聞こえない。
ただまっ白い光が視界を覆い尽くし、今までの人生の中で味わったことのない絶頂のなかで。
その日、人間であった私は死に。
超人としての私が生まれた。



[38274] シーン2 衝動のままに
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:16c9124e
Date: 2013/08/22 22:00
 全部がちっぽけに見えた。

 学校?
 人間関係?

 それがどうした。
 もうそんなくだらないことで思いわずらうことなんてない。

 「あははははは、はははは」

 いつまにか拘束はとかれていた。
 ふらふらとよろめきながら。
 両手を掲げ、遥か空を見上げてわらう。
 体中に力がみなぎってくる。
 人差し指と親指でパチンと音を立てる。
 幾多もの黄金の宝玉が私の頭上に現れた。
 光り輝く綺麗な金属質。
 満月のように美しい。

 これは力だ。光り輝く球があらぶっているのが私にも伝わってくる。
 解き放ってしまえば、私の悩みは全部解決するだろう。

 試してみよう。
 試してみればきっと幸せになれるはずだ。

 「うへへへあははふひひひ」

 あばれろ、お前も私も自由なんだ。
 そう思いながら私に指輪をはめたやつを睨みつける。

 むりやり私に指輪を押し付けた存在。
 私をビビらせた顔を持たない怪物。

 気に入らない。この私に。特別な私に。

 宝玉に線が入る。
 開かれた中央には巨大な単眼。
 右手を上にあげながら奴に呪詛をはく。
 私の意思に呼応して数十の眼が一斉に怪物を上から睨みつけた。
 怯えろ、震えろ。
 お前はさっき私の瞳を濁って澱んでいると言ったな。
 許すものか。報いだ。報いを受けろ。

 「……撃てぇ!!」

 勢い良く腕を下に振りおろした。
 開かれた眼から光線を打ち出す。
 第一波は怪物の足を打ち抜いて、続く第二波が奴の胴体を貫通し
 数m離れた壁まで吹き飛ばす。


 ふへへ、としまりのない笑いがもれる。
 手を握りしめ、開く動作を繰り返す。
 周りを見た。
 大小さまざまな球がわたしに対して点滅する。
 光るたくさんの玉。
 私の力の結晶。

 「すごい。すごいんだ。私は」

 この力があれば、もう孤独におびえる必要なんかない。
 いや、むしろ 私はこれだけ特別だから周囲と合わなかったんだ。

 そうだ、特別なんだ。私は。
 『何を』したって許される。


 何を……。


 私は、何をした?

 そこまでして、ようやく我に返った。
 あいつは死んだのだろうか。

 「わた、わたしは」


 あいつは人間じゃなかった。
 それにあの時はまともじゃなかった。
 状況も。
 私も
 そうだ。

 私は悪くない。

 「能力を使ったな」
 「ひっ!?」
 「おめでとう、君も選ばれた」

 ローブを這いずり、いつのまにかあいつは私の背面にいた。
 這いずったままで私の足首をつかみ。
 小さな声で、でもはっきりとささやく。

 「その力の名は、レネゲイド。選ばれし者だけが使える力」
 「いや……は、離し……わ、わたしは……」
 「すばらしいだろう? これでも君も」

  ――私と同じ存在になった。

 保っていた意識が、ぶつっと切れる音がして。
 悲鳴を上げながら、闇の底へと落ちていく。
 だれか、だれか助けて。

 心の中でそう叫びながら。



[38274] 幕間 状況報告
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:16c9124e
Date: 2013/08/22 22:24
状況報告  Sより本部へ

東京都N市にて、レネゲイド反応を感知。
現場にて学生と思われる少女を保護。
少女は地面に倒れて意識を失っているも外傷なし。
並びに、少女の持ち物から身元を特定。
黒木智子。15歳。
レネゲイドチェッカーに反応、侵蝕率は48%を維持。
傘下の病院にて詳細な検査を施したのち、本人に詳しい事情を問う。
上層部の許可を求む。




本部より、Sへ

真実告知を許可。
ならびに今後の容体、レネゲイドの適性を見極めたうえで少女をRC訓練施設へ移送せよ。
また、現在N市にてFHエージェントの姿が目撃された。
詳しい情報は追って連絡する。




[38274] シーン3 邂逅
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:16c9124e
Date: 2013/08/29 22:33
走っていた。
暗い暗い、闇の中を。

灯りはないけど、初めから目は慣れているのか私は全力で走っていた。
なぜ、走っているのかはすぐわかる。
後ろから奴が来ている。
信じられないような速度で四つ足で這いながら。
奴の身につけている指輪やら何やらが時折何かに当たり音がする。

誰か、誰か助けて。
そう思いながら辺りを見回しても誰もいない。

走り過ぎて足が震える。
やつは私の後ろで何かを叫んでいる。

「貴様も同じなのだ。この化け物の私と!!」

ちがう、と叫びたかった。
だけど喉はからからで、叫ぶだけの気力はもう残っていなくて。
それ以上に足がふらついて。
やがて、あいつが……。

「ひぁあああー!!」





自分の悲鳴で目が覚めた。
ぜえぜえと、息が荒くなっている。

「な、なに……なにが……」

顔をぺたぺたと手で触り、周囲を見回した。
見覚えない部屋。壁に備え付けられたナースコールのブザーが目に入った。
ここは病院なのか。いや、まて。
なんで私は病院にいるんだ。
よく見れば服も制服じゃなくなっている。
なんだ。何が起きたんだ。あれは、やっぱり夢だったのか?
きょろきょろと見回しているとドアが開き、そこから人が入ってきた。

「目が覚めたのね。よかった」

スーツをビシっと着こんだ女のひとだ。
白衣を着ていないのもあるけどあまり医者には見えない。
凛とした雰囲気を持っている、黒髪ロングヘアの美しい人だった。

「気分はどう? どこか痛いところはある?」

切れ長のまつ毛が凄い綺麗で。
私はその女性に見惚れていた。
理知的で美しい大人の女性。

「……あ、だい、じょぶです」
「そう、よかった」

そういって、彼女は柔らかい笑みを浮かべた。
その微笑みを見ていると、いよいよもってさっき起きたことは悪い夢なんじゃないかと思える。
微笑む彼女がまぶしくて、視線を下に落とす。

自分の中指に指輪がはまっていた。
映る私の顔が歪んでいる。
『夢だと思ったか』と嘲笑うように。

悲鳴を挙げ、私は全身の力でそれを抜こうとした。
取れない。爪が周りの皮膚をえぐり、指輪の周りが血でにじむ。
抜けろ。
頼むから外れてくれ。
これはきっとまぼろしだ。
私にあんなことが起きるはずかない。
化け物なんか見ていない。
ましてやその化け物を殺してなんかいない。
そんなはずがない。

ないんだ。

「――さん!?……、黒木さん!?」

指輪をはずそうとしている手を思い切りつかまれた。
視線の先にはさっきの美人。

「……おちついて。大丈夫だから」

片手で腕を掴まれ、もう片手は私の腰に。
腕を掴まれた状態で思い切り抱きしめられる。

「あ……が、ぎ……ゆびわ……ゆびわを……ぬかないと」
「おちついて、指輪なんか貴方は身につけていない」

改めて見ると、私の手には指輪などはまっていなかった。
ただ指が真っ赤に染まっているだけ。
思い出したように、ズキズキと指が痛んだ。
彼女も私の腕を離してくれる。

「じゃあ、あいつは……まぼろしだったの?」

両手で自分を抱きしめ、身を震わせる。
つぶやいた言葉は願望に近かった。
私が経験した出来事はとても現実では受け入れられない。
でも、それ以上にあの『怪物』と私の使った『力』はとても幻だと思えなかった。

改めて自分の指をまじまじと見る。
そして、私はもう一度信じられないモノを見る。

まず血が止まり、痛みもなくなった。
あっという間に傷がふさがり、かさぶたができる。
それは自然にはがれ、ついさっきまで痛々しかった私の指は完璧に元通りになっていた。
傷口だった場所には痕もない。
ご丁寧にうぶ毛まで再生していた。
まるで、ビデオの早送りを見ていたような。
だけど、こんどこそ私は夢でないことを実感した。



「黒木さん……落ちついて聞いてほしいの。大切な話を」

彼女の眼はとても真剣だった。
思わず背筋を正すくらいに。
話を聞く体勢をとった私に彼女は礼を言い。

「これから、話すのはほんの20年ほど前。私とあなたが生まれる前の出来事」


告げる。
世界が隠匿し続けていた真実を。



[38274] シーン4  世界の真実 side S
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:16c9124e
Date: 2013/09/12 22:38
私は目の前の小さな少女と同じ視線で口を開く。
黒木智子。彼女に対して告げなくてはならない。
世界の残酷な真実を

「20年前、あるウイルスが世界中に散布されてしまったの」

その名はレネゲイド。
日本語に訳すと背教を意味するそのウイルス。
それに侵された者は常識では考えられない力を使えるようになる。

ある者は素手で鉄を切り裂く剛爪を手に入れた。
またある者は炎をその体に宿した。

「私は……『力』を使えるようになったんですね」

うつむいた少女の表情をうかがうことはできない。
さっきまで怪我していた自分の指をいじっている。
だけれども彼女の声は聞き取れる。
上ずっているけれども、震えているけれども。彼女は。

「黒木さん?」

表情を覗き込む。
頬を紅潮させ瞳を見開いた彼女は、若干の恐怖をにじませつつも。
笑っていた。

「私、怪物に襲われたんです。でも途中で覚醒して敵をレーザーでなぎ払って……私、私」

自分の手を見ている黒木智子。
彼女は陶酔していた。
先刻まで幻影におびえて、小さくたどたどしい言葉でしか話せなかったのが別人のようだ。

「私は『特別な人間』なんですね。『凡人』でも、『怪物』でもない。素晴らしい存在になったんだ」

間違ってはいない。
レネゲイドは世界中に広がっている。
だが、その力を発症するのは全体の10%にも満たない。
大勢の保菌者はその生涯を非日常とは無縁のところで終わらせる。
少数であるごく一部の者のみが、ウイルスに選ばれ背教者としての道を歩むことになるのだ。

だけど、その力には代償がある。
少なくとも「レネゲイドに選ばれた人間」と「素晴らしい存在」はイコールではない、と私は思う。

「黒木さん。その力には払わなければならないモノがあるの。けっして無尽蔵に使えるわけではないのよ」
「それでもっ!!」

遮った声は鬼気迫っていた。

「それでも、力があれば私は、くだらない毎日にいなくたっていい」
「黒木さん……?」
「このまま生きてても幸せになれない。進学も、就職も、結婚もどれも嫌でしかない……です」

もう疲れた、そう呟く彼女はとても老成した雰囲気をまとっていた。
とても高校に入学して数ヶ月の学生とは思えない。

「ふだんからずっと空想してた。私はすごい人間で学生をやっているのは世間の目を欺くかりそめの姿なんだって、それがやっと叶った。だから」

――くだらない毎日を送るくらいなら、私はもっと「特別」な人生を歩みたい



[38274] シーン5 失われた日常
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:16c9124e
Date: 2013/09/12 22:36
2次元に行けたら。
アニメやラノベを読み漁って、私はいつも思っていた。
無論、ただ二次元に行くのではない。
凄い力を手に入れて、イケメンからモテまくって。

そう、私は主人公になりたかった。
ようやく始まったと思ったんだ。私が主役の物語が。

だから、耐えられると思った。
力に代償がいる?
払ってやるさ。そんなもの。
それで私の妄想を現実に出来るなら、どんなものだって払ってやる。
だからだろう。

「くだらない毎日を送るくらいなら、私はもっと『特別』な人生を歩みたい」

その言葉を吐きだしたのは後から思えば、どんなに愚かだったのかと思う。
この時の私は知らなさすぎた。
もし、少しでも分かっていたら目の前の女性にここまで悲しい顔をさせなかったのに。

「黒木さん、あなたの力はウイルスによるもの。力を使えばその分ウイルスに侵食される、そして限界を超えたら」
「……病死するんですか?」
「違うわ。レネゲイドに心身を侵食されきった者は人の心を失った『怪物』になるの」

脳裏に、あいつが浮かんだ。
私に指輪をはめたあの、怪物が。

「私達は「ジャーム」と呼んでいるわ。人の心を失い衝動のままに人を襲う生き物。堕ちてしまったが最後二度と人の身には戻れない」
「し、衝動?」
「レネゲイドの力を得てしまった人間が抱えるモノ。
 飢餓や吸血の衝動を発症すれば愛する家族や友人を食料としてしか見られなくなる。
 破壊、殺戮衝動は言わずもがな、恐怖や妄想の衝動を発すれば恐ろしい想像を現実に実体化してしまう」
「……そ、そんな」
「あなたも私も、いつそうなるかもしれない」
「で、でも 病気なら治るんでしょう? こ、抗体とかワクチンとか!」
「ウイルスを殺すには私たちごと殺すしかないわ。特効薬やワクチンは存在しない」

血の気や熱が体外にでていく気がした。
今思えば私には払える代償などなかった。
『痛みも苦しみも、主人公になれば支払える。物語なら王道なんだから』

そう、主人公ならこれがむしろ王道、だけど実際に問われたら震えているこの手が答えだ。
私があの金属の怪物と同じような存在になる。
そう意識させられた瞬間、吐き気を覚えた。

「黒木さん、あなたのその力は使えばとても便利でしょう。富を築くことも、名声を得ることもできる。でも」

それは、人間をやめる危険を冒してまでほしいものなの?

首を横に振る。冗談じゃない。
違う。こんなんじゃない。
私がほしかったのは。
なぜだ。どうしてだ。

日常も、非日常もまるで毒じゃないか。
どっちを取っても苦しんで。人より損をして。
しかも片方は死ぬよりおぞましい目に会うなんて。

「な、なんで 私がそんな目に私が一体何を……」

前世で2,3人殺したのか。
それともそういう星の元に生まれたのか。

「あなたは何もしていない。ただ、あなたを非日常に引きずり込んだ者がいる」
「!」
「そいつの名前はわからない。だけど、私は 私達はそいつの属する組織を知っている」

彼女の目はとても厳しい。
まるで刃物のような鋭さを持っている。

「彼らの名はファルスハーツ。オーヴァード達を中心としたテロ組織。ジャームですら組織に組み込んで世界の裏で暗躍し続けているの」
「そいつらが、私を……」
「彼らの目的は様々だけど共通するのはただ一つ。己の欲望を成就させること」

じゃあ、私はそいつらの欲望を満たすため、いまこんな目にあっているのか。
ふざけるな、ふざけるなよ。
憎しみで周囲の世界がゆがんで見える。
頬を伝う涙が、口を閉ざしたままの私の気持ちを言葉以上に強く語っていた。

頬に柔らかい何かがあてられる。
白いシルクのハンカチだ。
目の前の女性が私の涙をぬぐってくれていた。

「あなたにはこれから苦難が立ちふさがる。だけど」

私はほんの少しでもあなたの助けになれる。約束する。
彼女はそう言って私を抱きしめてくれた。
嗚咽が漏れた。感情が上げ下げを繰り返して不安定になっている私にとって。
優しい言葉と抱擁のぬくもりはすがらずにはいられなかった。

彼女は私が落ち着くまでずっと抱きしめてくれていた。


「自己紹介が遅れてしまったわね。私は玉野。玉野 椿(たまの つばき)」
「黒木さん、詳しいことを聞かせてほしいの。一体どうしてあんな場所に倒れていたのか。貴方に一体何が起きたのか」

「あなたの日常を破壊した者たちを突き止めるために」








[38274] マスターシーン
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:16c9124e
Date: 2013/09/25 20:58
廃屋。
錆びたドラム缶の上にローブをかぶった怪人がいた。
黒木智子を超人の道へと引きずり込んだあの男である。

その脇にはオールバックに眼鏡の壮年男性。
派手な白スーツと青Yシャツ、真紅のネクタイがサラリーマンらしさを消失させている.
神経質そうに眼鏡の位置を中指で直しながら男性は問うた。

「で、見所がありそうなのか? 彼女は」
「申し分ない。戦闘性能は折り紙つきだ」

私を一度ひざまづかせたのだから、とフードの怪人は身を屈めて笑う。
キュリキュリ、と金属をこすり合わせたような声で。
眼鏡の男は笑い声を聞いて不愉快そうに口元をゆがめた。

「ならば何故奴らにくれてやったのだ。あのまま我らの元へと連れてくればよかったものを」
「なあ、ディアボロス。君は少し焦っている」

ディアボロスと呼ばれた男は眉をあげる。
その目つきには明らかな敵意があった。

「私が焦っているだと? 馬鹿を言え。余計なことをしている貴様を叱責しているのだ。焦ってなどいない」
「これは必要なことだよ。彼女自身にきちんと分からせなくては」
「そのもったいぶった言い回しをやめんか! 一体何をあの小娘に分からせるというんだ!!」

激昂するディアボロスにも怪物は動じない。
ただ一言。

「自分自身の衝動と欲望さ」

その一言に問うた方は驚愕した。

「なんと、それほどまでに彼女は『こちらより』なのか」
「ああ、彼女の眼には世界を憎む意思と自分への諦観、そして何より恐ろしいほどの欲望があった」

火が灯ったように。
悪魔の眼鏡の奥の目がギラギラと輝く。
口から洩れるのは呪詛の言葉。

「世界の真実を隠蔽し、このディアボロス―――悪魔と呼ばれた春日恭二に何度も苦汁をのませた偽善者ども」
「正義の味方を謳う愚か者どもに個人の欲望は叶えられない」
「故に我らは名乗るのだ。世界の敵。我執の亡霊」
『ファルスハーツの名を』

ダン、と一斉に照明がつく。
二人から離れた場所には大勢の少年少女がいた。
みな、一様に口を開けたまま呆け、白目をむいている。
共通しているのは全員がシルバーのアクセサリーを大量に付けていること。

「ならば、欲望を胸に抱く少女は我らの元へと集うべきだ」

悪魔の異名をとる男性はスーツの襟を正した。
身を引き締め、出ていこうとするディアボロスをローブの怪人は片手で制す。

「まだだ。ディアボロス。彼女は自分の欲望を自覚していない」
「馬鹿を言え。放っておけばUGNの手勢が増え、面倒なことになるぞ」
「所詮は有象無象。エキストラにすぎない。君と私なら片手でなぎ払える」
「少女自身が逃げ出すということもあるだろうが」

キュリキュリ、キュリキュリ。ローブの奥から洩れてくる笑い声が一段高くなる。
身体をくの字に折り曲げて、おかしくてたまらないように。

「心配いらない。大丈夫さ。彼女は当分はこの街にいるはずだ」
「……鋼の軍勢(メタルレギオン)。いまは任務だから勘弁してやるが、終わったらその不要な口を拳で粉砕してやる」

キュリキュリ。
さらに前かがみになり、笑い声も一層うるさく。
メタルレギオンと呼ばれた人物は春日恭二を嘲笑う。

「面白い面白い。それもまた一興だろう」
「……もういい、私は自分自身でその『クロキトモコ』とやらの適性を見にいくとしよう」

でていく春日恭二。
怪人は、二度目の制止はしなかった。
大人数の若人を見下し、フードの怪人は演説するかのように両手を掲げている。

「いってしまったか。だがまあいい。悪魔には前座でも務めてもらうとしようか。
彼女は孤独を嫌うらしい。だが、これだけダンスの相手がいれば満足してくれるだろう」

大勢の少年少女達を見降ろし、怪人はキュリキュリ、キュリキュリと笑い続けた。





[38274] シーン6 私の絆
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:16c9124e
Date: 2013/09/25 21:01
病院の洗面所は随分と不気味だ。
泣き腫らしてぐしゃぐしゃになった顔を洗い、ようやく落ち着いた。
あのあと私は玉木さんに全てを話した。
近道をして怪物に襲われたこと。
自分が覚醒したこと。
いつの間にか失神して気づいたらこのベッドに横たわっていたこと。
彼女は事情を聞いた後、私の世話をいろいろ焼いてくれた。
病院を経由して私の無事を両親に報告してくれたこと。
『貧血で倒れた。念のため少し入院するが命に別状はない』と
言ってくれたおかげで明日は堂々と学校をさぼれそうだ。

「玉野さん……」

抱きしめられた時の胸の感触、髪から漂ういい匂いを思い出す。
大人で知的で、ついでに包容力まである美人の女性。
憧れる半面、嫉妬の念も彼女に抱いてしまう。
きっと物語の主人公っていうのはああいう人が務めるものなんだろう。

彼女はUGNと呼ばれる組織で働いているらしい。
世界からレネゲイドの脅威を取り去るために、毎日活動している。
ユニバーサルガーディアンズネットワーク。
世界を守る守護者たち。
私はその組織に助けられ、ここでこうして保護されているんだ。

「異能のちから、レネゲイドか」

眠る気にもなれず、洗面台の鏡を見ながらでボケッとしたまま、ただ考える。
私は、二種類の力を同時に扱えるらしかった。
『重力を操る、バロール症候群』
『光を操る、エンジェルハイロゥ症候群』

重力や光をも変質させるウイルス。
厳密にはレネゲイドはウイルスかどうかも怪しいのだという。
ただ、人類が遠く及ばない未知の生命体なのだと。
そして、その力を使えば使う分だけ理性は削れ獣に近くなってゆく。

「なんでだよ。どうして私が……」

ぶつぶつと呟きながら、ふと思い出した。
部屋を出るときに玉野さんから言われたのだ。

『ご両親から、[何時でもいい。目を覚ましたら電話するように]と言付かったの。一言話して安心させてあげて』

気が進まなかった。
怒られんじゃないか、とか、正直それどころじゃないだろとか。
目つきでなんとなく察したのだろう。
玉野さんはこう言った。

「私達が人間のままでいるためには人との絆が必要なの。大切な人との関係があるからこそ、自分を認識できるのよ」

じゃあ、家族しか繋がりのない自分は怪物予備軍じゃないか。
そう思ったがさすがに今度は口に出さなかった。
ただ頭を下げて、自分と他人の繋がりを思い出そうとしたら再び泣けてきて。
とりあえず顔を洗ったのだ。

思考のループに陥るあまり、やろうとしていたことすら頭から抜けていた。
病棟の中の通話可能なエリアに向かい、携帯から自宅へ電話をかける。
何を話そう、とぼんやり思っているわずかな間に、聞き覚えのある声がした。

「ハイ、黒木ですけど」

聞きたくない声、電話口に出たのは弟の智貴だった。
友人も多く異性にモテる。
私の方が年上なのに。姉という上の立場なのに。
こいつはいつも私よりも高い場所にいる。
そのくせ、私のことを見下したりしない。
事あるごとに姉より良くできた弟。

本当腹が立つ。
なんでこんな奴が電話を取るんだ。

「もしもし、黒木ですけ……」
「とっとと母さんに代われよ」

舌打ちが聞こえた。
ふざけんな。舌打ちしたいのはこっちの方だ。

「……ちょっと待ってろ」

劣等感を刺激され嫌な気分になる。
本当に人と人とのつながりが私を人間に繋ぎとめるんだろうか。
懐疑の念を抱いてる間に、今度は母の声が聞こえてきた。

「智子、あんた 大丈夫なの!?」
「う、うん。 一応明日は入院するけどすぐに退院できるって」

声はとても真剣だった。
けおされてしまう。
連絡じゃただの貧血はずなのに。

「こんな夜遅くまで連絡ないから、お母さんもお父さんも、それから智貴も皆心配してたのよ」
「!」

ああ、腹が立つ。
弟よ。どうしておまえはいつもいつも私よりも優れているんだ。
そこまで人間ができているんだったら、いっそお前が変わって感染してくれればよかったのに。
怒りと羞恥でないまぜになった心に蓋をする、必要なことだけ言ってすぐに電話を切った。
油断すると、怒りから全部母にぶちまけてしまいそうだった。
レネゲイドのことを。
怪物のことを。
そして、私自身の心の内を。

「……寝よ」

夜はただただ更けてゆく。
私の思いなんぞ、気にもかけずに。









[38274] 幕間 UGN管理 医療カルテ 黒木智子
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:16c9124e
Date: 2013/12/31 00:24
黒木智子 15歳

両親の他に弟が一人。内向的であり、平穏な家庭に生まれている。
ただし、他人とは積極的にかかわろうとしない。
FHエージェント、「メタルレギオン」から渡された指輪を媒介にレネゲイドを覚醒。
このことから覚醒の要因を指輪による『感染』。
また、『自分はえらばれた』等の発言をしていることから『解放』の衝動を抱えていると推定する。

上記2点についてはより詳細な検査をRC訓練施設で希望する。


身体能力値と使用できる症候群については以下のとおりである

バロール/エンジェルハイロゥ


肉体1  感覚4  精神5  社会1

使用エフェクト

絶対の孤独、黒の鉄槌、ピンポイントレーザー、コンセントレイト

他、、未確認。



[38274] シーン7 情報収集
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:16c9124e
Date: 2014/07/10 22:01
黒木さんも今頃、御家族へ電話をかけているだろうか。
UGNの情報端末の前で、私、玉野椿は思案していた。

どうにも彼女の危うさは気になって仕方がない。
つらつらと無意に考えているうち、コールがつながり、相手の映像が映し出される。

「ごきげんよう。椿」
「お久しぶりです。テレーズさん」
「先ほど送った資料には目を通してくれた?」
「ええ、ディアボロス、春日恭二ですか」
「それともう一人。場合によっては春日恭二より厄介になるでしょうね」

端末のスクリーンに映し出されるのは金髪の少女。
UGNのトップ、テレーズ・ブルム女史。若干15歳にして、複数の博士号を持つ天才だ。
私自身、何度も彼女に助けられてきた。
話の内容は、今この地に忍び込んでいるFHエージェントの情報。
彼女のコネを利用し、どうにかではあるが突き止めることができた。

「コードネーム『鋼の軍勢(メタルレギオン)』性別、国籍、本名、全てが不明のエージェントよ。無論、今回の奴の目的もね」
「『鋼の軍勢』は被害者の少女と接触した後行方がつかめていません。引き続き捜索を続けます」
「少女の様子はどうなの?」

一番気にかかったのは彼女は他人との絆を希薄にとらえていることだ。
我々、レネゲイドに感染した者にはそれはあまりに危険。
こちらから電話を促すまで、彼女は家族や友人のことをまるで忘れていたようだった。

「現在も不安定な状態が続いています。彼女は人と積極的にかかわろうとしないようで」
「困ったわね」
「RC訓練施設に移送するのは少し待っていただけますか?」
「ええ、移送の際にFHの襲撃を受けるのは避けたいし、貴方なら彼女を任せられるわ。シルクスパイダー」

スクリーンは途切れ、部屋に沈黙が戻った。
私は黒木さんのカルテを見ながら思案する。
二種類の症候群を同時に発症する雑種(クロスブリード)。
オーヴァードはクロスブリードが最も多いとされている。
一種のみ発症する純血種(ピュアブリード)、近年確認された三種混合種(トライブリード)に比べ雑種は能力の伸びは平均的で比較的衝動も抑え込みやすい、と言われている。
が、無論それは個人の適性を無視した平均での話だ。

クロキ トモコ
平凡な家庭に生まれ、両親と弟一人の四人家族。
現在は高校一年生で部活の所属はなく、長期のアルバイトもしていない。
友人もあまりおらず休日はほとんどを一人で過ごす。

話す時にはずっとうつむいていた彼女。
つっかえつっかえ、か細い声で話していた彼女を。

日常へと引きとめなければならない。
さもないとすぐに堕ちていくだろう。

『くだらない毎日を送るくらいなら、私はもっと「特別」な人生を歩みたい』

あの時の黒木さんの顔を思い出す。
人間は誰でも他人より優れていたい、という願望を持っている。
その思いは過ぎれば他人を傷つける刃になる。
『自分は選ばれた』と錯覚してジャームへ落ちていった者を私は何人も見てきた。
彼女もそうならないとは言い切れない。
いまはレネゲイドの力を使うのを抑えているが、彼女がいつ心のタガを外してしまうか分からないのだから。

わたしはもっと彼女のことを知らなければいけない。
明日、もう少し 詳しい話を聞いてみよう。


その時だった。レネゲイドの気配を感じたのは。
場所は彼女の。黒木さんの病室だ。

急がなければ、このレネゲイドは彼女のものではない。
だけど、過去に肌で感じて知っている。

これは敵の、FHの欲望に満ちたレネゲイドだ。



[38274] シーン8  悪魔の誘惑
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:16c9124e
Date: 2013/12/31 00:24
玉野さんのいる部屋へ向かう途中、自動販売機を見つけた。
思えば昼からほとんど水分を取っていない。
ジュースでも飲もうか。
ふところを探ろうとして自分が入院着を着ていることに思い当たる。
財布は制服のポケットだ。

「めんどくさいな。個室まで戻らないと」
「小銭でよければ持ち合わせがあるが?」
「え」

振り向いた先には全身白スーツでオールバックのおっさんがいた。
どうみてもカタギには見えない。

「それにしても、君は柔順だな、クロキトモコ君。律義に金を使う必要などなかろうに、こうやって……」

男は黙って、拳を自販機の中へ突っ込んでいく。
ミシリ、と音を立てて自販機が「く」の字に陥没した。
白スーツはそのまま腕を引き抜く。腕には一本の缶ジュース。

それを私に投げてよこす。
男は言った。

「盲目的に秩序に従うな。君には己が欲望に殉じる権利と義務がある」
「な、な、なにを言って……」
「UGNは間違っている。そして君も、誤った方へ向かおうとしている」

恐ろしい。けど、男の言葉を聞き流せない。
どこかで感じているのだ。

「世界に正義はない。あるとすればただ一つ。自分自身の信念だけ。だが、この世界には正義を掲げ自由を束縛するものたちがいる。
 たとえるならば平和をうたう軍事大国。あるいは清廉を自負する政治家。だが、君はそれを馬鹿正直に信じるかね?」

やめてくれ。ようやく落ち着いた私の精神を、これ以上揺らさないでくれ。

「黒木君。単刀直入に言おう。UGNには入ってはいけない」
「え、な、どうして……」

頬の引きつりがひどく、言葉が出ない。
彼の言葉を止めないといけない。
なのに話の続きを催促してしまう。
ようやくおちついた心のよりどころを失っては私は本当に怪物と化してしまうのに。

「間違っているからだよ。UGNという組織の在り方が」
「で、で、でもた、た、玉野さんが、いいいい、いってた、んだ。です」
「UGNは、日常を守る。それとも、君を守る、かね?」
「!!」

図星だった。勝ち誇った様な眼鏡男。

「言っただろう。連中の言葉は建前だ。本音は『臭いものにふた』だよ。奴らは我々「オーヴァード」を架空の存在して扱う気なんだ。
 仮に君がこの病院を出たとしてその後はずっと彼らに監視された生活を送ることになるだろう。」
「そ、そんな、でも、……」
「力を奮うことを認められているのはUGNのエージェントや協力者だけだ。『治安の維持』や『平和のため』という大層なお題目をつけてね」
「で、でも……でも……」
「君は本当にいいのかね? それだけの力を得て、それだけの才能を持って、ただ流されて生きていくのか?」
「こ、この力には、だだだ代償があるって……」
「支払えばいい。訓練さえ積めば人間としての理性を残したまま歩んで行ける。我々、FHには人間のまま欲望《ユメ》を叶えたいと願うものも大勢いる」
「で、でも……」

白スーツの悪魔は私の意見を遮った。

「わかった。ならばこう言おう。」


――UGNの創始者は今、FHの指導者なのだ。

「なっ……」
「くろきさ……っ」

今、一番会いたくない人にあってしまった。
私が数分前まで最も憧憬を抱いていた人物。

「ふん、久しぶりだな。シルクスパイダー、玉野椿」
「《悪魔》、春日恭二 あなた黒木さんに何を……」

「た、た、玉野さん……ほ、本当なんですか?……UGNのリーダーが、今は、ふぁ、FHにいるのは?」
「……そう、ディアボロス。あなた、彼女にこれを吹き込むためにわざわざ」
「知らないのもよくないと思ってな」
「黒木さん、確かに今、FHの総帥を務めているのはUGNの元リーダーよ。でも、」

でも、なんてセリフは聞きたくなかった。
春日……さんの言うことが真実だとわかった。
それで十分だ。

「ぁぁぁぁあああああああ!!」

抑えられていた力。
本当は使いたかった力を解放する。
脳天からつま先へ力が走り、あっというまに金属球が群れをなす。
球達の単眼が開き、玉野さんと春日さんを見据える。

「黒木さん!!」
「ま、まて。私を巻き込む気か!?」
「う、うごかないで……!!」

単眼は二人を見据えたまま私は逃げ道を作る。

四つの球を支点にしてつくる長方形。
そこに私は飛びこんだ。
ふかいふかい、闇の中へ。

「な、ディメンションゲートか!?」
「黒木さん、だめよ!! このままじゃ貴方は……」

一瞬、轟音と閃光が入り込んだ。
球体たちが何かをしたのか。
今となっては分からない。

私はただただ堕ちてゆく。
行く先もわからないままに



[38274] シーン9 動き出せ いつものように!
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:16c9124e
Date: 2014/03/04 23:36
どさり、と私は堅い床へとへ投げ出された。

受け身でも取ればよかったのだろうが、あいにくそんな運動神経は搭載してない。
尻を強く打ってしまいあまりの痛さにそのまま四つん這いでうずくまる。

「……くそ、くそぅ……」

口から出るのは嗚咽と罵倒。
でも、何に悪態をついているのか私にもわからない。
自分か、世界か、それとも周りの人間か。

それとも全てか。
いっそこのまま化け物になってしまえたら。

痛む体を起こし、周囲を見る。
ここは何処かの建物の上だ。

随分と見覚えのある景色。
灰色の巨大な建物。
思い当たる。ここは私の学校。その屋上だ。
屋上に上がったことは一度もないし、暗いから判別がつきづらかったが。
見覚えのある競技場や校門が見える。

「なんで、こんな所へ来たんだろう」

校舎内に通じるドアを開けようとして、鍵が閉められていることに気がついた。
ガツッ、ガツッと音を立ててノブを引く。
開く気配はみじんもない。

「もう一度、力を使えば……」

集中して球体を、力の結晶を生み出そうとする。
ほどなくして、宙に現れる私の目玉達。
だけど、彼らは力を使うことなくそのまま落下して足元へ落ちてきた。

「え? おい、どうして!?」 

両手で抱えその単眼を覗き込む。
眠りに就くかのようにそいつは目蓋を閉じた。
ふとみると、金色だった球にはヒビが入っていて、パラパラと黄金のかけらを地面に落としている。

まるで、金メッキが剝げてゆくかのように。
ピシピシとヒビは勢い良く割れてゆく。

「……クソが」

球の一つを抱えたまま、わたしはふらふらとフェンスの方へ向かった。
使えないクズは全部捨てよう。
殺人犯が凶器を被害者の頭へ振りおろすように。
私はそれを遥かな高さから地面にたたきつけた。

粉々に割れたソレは綺麗な黄金の煙を吐き出す。

「ははは……っひぎ!?」

胸が急に痛む。
痛みに耐えられずしゃがみこんだ。
なんだこの痛みは。
球体を壊したからか?
でも、あれは使えないから捨てたのに。
不要なものでなぜ、痛みを感じなくてはいけないんだ

そう思い這いつくばりながら、球の割れた場所を上からのぞく。

「……なんだ。あれ」

黄金の煙は霧のようにそこにとどまっていた。
眼を凝らすと何かが映っている。
聞こえてくる。

「ぼくねー。大きくなったらお姉ちゃんとけっこんするー」
「駄目だよー智くん。姉弟はけっこんできないんだよー」

まだ私と弟が小さかった時の光景だ。
なんでこんなものを映すんだろう。

霧は屋上まで舞い上がり、私の体に降り注ぐ。
それと同時胸の痛みは消えた。
頬にはなぜか一筋の涙。

「ああ、そうか。そうだったんだ」

この球体は私の力の結晶だと思っていた。
でも違ったんだ。
こいつらは『私』そのものなんだ。
感覚も記憶も共有している。

こいつらの行動は私の願いが導いた結果。
だから。 
そう、だから。
立ち上がる。私は『私達』を抱えてフェンスへ向かう。

「……私は、私を捨てられない」

口ではそう言って行動では球を地面に投げつける。
言っていることとやっていることは真逆。
一つ、また一つ。
何本もの煙が、私に過去を見せ、私の中へ還ってくる。

欲しかったおもちゃを誕生日に両親からもらったこと。
中学の時の初めての定期テストで、上位の成績をだしたこと。
そして、今の高校へ合格できたこと。

嫌なことばかりではなかった。
苦しみや悲しみは人生の香辛料で、だったら私の人生はカレーしか出来ないと思ってたけど。
きちんと、楽しいこともあった。

これが漫画やアニメなら主人公は現れたヒロインや友人との愛情に感動して奮起するんだろう。
だけど、私は一人だ。
いま、閉ざされた屋上には手を差し伸べてくれるのものなどいない。
家族も友人もこの場の私を救いあげてくれはしない。
過去の喜びを抱きしめて、一人で厳しい現実を切り開いてゆくこともできない。
そこまで人間出来ていないし、今はもう人間かもわからない。
だけど、
私を人間だと実感させる思いは確かにこの胸の中にある。


弟には劣等感を。
両親には食傷を。
級友達には隔意で遠ざける。

そして、残りの思い。

最後の球を捨てる。
聞こえてくるのは二人分の声。
映る影も二つ。

「私達が人間のままでいるためには人との絆が必要なの」

私を導こうとした綺麗な女性、だけど真実を伏せた彼女に猜疑心を。

「盲目的に秩序に従うな。君には己が欲望に殉じる権利と義務がある」

私に可能性を示した男性、その力には恐怖を。

彼らの言葉を金色の霧と共に吸い込む。
腹に力を入れ、思い切り叫んだ。

「このクソがァアァァァァ!!」

他人のために生きられるか、と言われれば答えは否。
欲《ゆめ》の為に自身や他人の命を奪えるかと問われたらそれもまた否。

毎日願っていた。
『死ね』と。
私の周りで騒がしくする存在に。
私の心をかき乱し、そのくせ私を眼中におさめない周囲すべてに。
だけれでも、もし、私に凶器や異能があったとして私はそれらを使わない。

きっと大勢がそうなんだろう。
死ねと願うことはあっても。
殺人を実行するのは恐ろしい。

気づいてしまった。いや、気づいていた。
騒がしい存在も。心かき乱す周囲も。

『私は嫌いだけど、私の日常には必要なものだった』

世間一般で言う、友情や努力や正義なんかじゃ私の原動力にはならない。
でも他人の命を犠牲に欲望をなすなんてそんな恐ろしい行為は嫌だ。

UGNという白にもFHという黒にも染まりきれない私。
だけど、行動を起こすことはできる。
フットワークは軽い方なんだ。私は。
いきつく先は袋小路だったり崖だったりすることが大半だけど。

それでも今回は大丈夫。

人差し指と親指を合わせ、弾いて音を出す。
昔カウボーイが指を鳴らす仕草をマンガで見て、ずいぶんと練習したものだった。

出てくるのは私の目玉達。
でも、もう黄金じゃない。
真っ黒な絶望に一筋だけ黄金の希望を溶かした色。
宝石の縞メノウのような。

これが、この色が本当の私。
他人がうらやむ金色じゃない。
絶望しきった漆黒でもない。

自分の未来に悲観しつつ、そのうえで他人を常時見下しているような、そんな存在。
魔眼は、普段自分が心の中でそうしているように私を上から見下ろす。

「ひざまずけ。ただし、私を嫌いになるな。馬鹿にもするな。ついでに将来の話もするな」

どこまでも、自分本位で自己中心的だけど。
これが、私なんだ。

校庭にある時計が夜の二時を指す。
草木も眠る丑三つ時だ。
ここからはもう、表の自分は捨て去ろう。

自分の指を撫でさする。
いるんだろう?
私の中に。

そう、最後の絆を結ぶ相手。
非日常へ私をひきずりこんで、高笑いしている指輪の化け物。

『鋼の軍勢』へ憎悪を誓う。

6つの感情。6つの意思。
どれも誉められたものじゃないけれど、私が私であるための絆。
それを胸に抱いて私は向かう。

意識を集中して魔眼を四つの長方形へ。

扉を開く。向かう先はあいつの居場所。
私が逃げ出した。さっきの場所。

さあ。いざ、決戦へ。



[38274] シーン10 ラストミドルフェイズ
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:16c9124e
Date: 2014/03/10 23:06
黒木智子は異次元へと消える。
それと同時、魔眼に異変が起きた。
ジジジ、とノイズのような音を立て、魔眼達は春日恭二と玉野椿の両名に光線を放つ。
光は荒れ狂い、またたく間に二人を包みこんだ。

数秒か、それとも数分か。
爆音と閃光の嵐が終わり、一つまた一つと魔眼達は眼を閉じて地面に落ちた。
後に残るのは静けさ。
あるのは床が崩れて瓦礫が階下へ落ちてゆくカラカラという音だけ。

その静ひつを打ち破って、キュリキュリと金属がきしむような音が響く。

「邪魔者は全員退場したかな?」

コードネーム「鋼の軍勢」が姿を現した。
上半身を360°回転させ、人間には不可能な動きであたりを見回す。
見回すと同時、彼の胸部を飛礫がえぐり、次いで輝く糸がその体を拘束した。

「おや、これは……」

攻撃の飛んできた方向には男女二人組の姿。

「なめるなよ。このディアボロスを」
「まさか、春日恭二と共闘するとはね……」

白スーツの悪魔と白衣の女性は共にボロボロだが、超人はいまだ健在。
捕縛された細い怪人は首をかしげつつ。

「どういうことかな。ディアボロス。君はFHを裏切ったのか」
「それはこちらのセリフだ。メタルレギオン。これはどういうことだ」

どさり、と音を立てて投げ出されたそれはメタルレギオンの配下の者達。

「黒木智子がレーザーを撃ってきた際にこいつらが組みついてきた。貴様の差し金だろう」
「正解正解。満点だ」

ふざけた様子にいよいよ春日は激怒した。
智子の前での余裕のあった態度は失せ、奇声を挙げ怪人の胴を殴りつける。

「貴様ぁ!! FHトップの実力を持つ私を消そうとしたな!? 貴様の能力は貴金属を媒介にした心身掌握!! 
 このエリートエージェントの春日恭二を! 貴様は! あの少女を使って! UGNもろとも! 亡き者にしようとしたのだ!!」

文節一つにつき殴打を一回。
筋肉を限界まで隆起させた腕には鋭い爪が生えており、なみの人間なら一発で即死する鉄拳。
怪人はそれを身に受け続ける。へらへらと笑いながら。

「残念だがねえ。ディアボロス。それは自意識過剰というものだ。君らの殺害はいきがけの駄賃程度。
 そもそも私は君の生死にはあまり興味が……」

いままでより、ひときわ鋭い突きが怪人に叩き込まれる。
『鋼の軍勢』の小馬鹿にした態度と無意味なまでの挑発は、見事に春日を怒髪天の領域まで引き上げていた。

そして、フードの部分は外され顔があらわになる。
智子が見た時、そこは確かに空洞であったはず。
だのに今は。

「な!?」
「おや、まだ完全に仕上がってはいないんだがね」

一見するとそれは金属でできたマネキンに見える。
だが、その顔に彫られている濁った目は、ひきつった口元は。なにより眼の下のクマは。

「黒木さん……、そんな」
「……メタルレギオン。これは一体」
「ディアボロス、君は私の能力を『貴金属を媒介にした心身掌握』といったがそれは間違いだ。
 ただしくは『貴金属を媒介しての生体侵入と複製』さ。洗脳は生体に入り込んだ際のおまけのようなものだ」

智子の顔を持つ怪人はそう言って両手を広げ、天を仰ぎ見た。
春日も椿も知るはずはないがそのさまは、智子が初めてレネゲイドに覚醒した時の図とまったく同じであった。

「見たまえ、この少女を。他人を見下すことしかできず、見下している者達からは相手にされない、愉快極まりない嫉妬と恥辱の塊を!!
 素晴らしいよ。周囲から目立たず、心の奥で負の感情を増殖させる彼女こそ、私と一体化するにふさわしい」

椿は唇をかみしめる。
敵の狙いは最初から智子だった。
予測できたこと。ただ、あえて見逃したその日のうちに奪取しにくるとは。

「一体化……貴方は黒木さんを体内に取り込む気なの?」
「俗な言い方はよしてほしいものだな。私は彼女を身につけたいのだ。彼女の姿を肌の色まで完璧に複製した後は
 私が黒木智子をアクセサリーに変えずっと身につけ続ける。そして彼女の憎しみと嫉妬を私のみに向けてもらう。
 それが、黒木智子を知るということだ」

言うと同時、春日に投げ飛ばされていた若者達が即座に起き上がる。
呼び水のように天井から、あるいは窓を突き破り、大勢の装飾品を身に付けたゾンビのような者達が春日と椿を取り囲む。

「この者らのように進んでアクセサリーを買い求めに来るような者、『自分に自信のある者』は私の適合者として失格だ。
 平穏な日常の中で歪み続ける彼女こそが、唯一無二の存在」

いやな好かれ方、誉められ方をしているな。と春日はここにいない智子にちょっと同情した。
彼女が後でFHに来ることを決めたなら缶ジュースをもう一本おごってあげよう。

「まさか、黒木さんが自分の指を傷つけていたのは……」
「私から離れようとしていたんだろう。出来るはずもない。私と彼女は文字通りの一心同体なのだから」

椿は脳裏に思い返す。
指輪を抜かないと、と半狂乱になって叫んでいた少女を。

「あなたはやはり、彼女と会わせてはいけない」

其の爪は糸、彼女の剣であり決して途切れぬ誓いの証。

「お前を、切り裂いてやる」

椿の殺気に満ちたセリフにも動じず、鋼の軍勢は智子の顔で笑う。

「やってみるがいい。私が生みだす装飾品全てが私そのものであり、
 人間達を操るアンテナさ」
「あなたが国籍はおろか性別すら不明なわけがやっとわかった。貴方はレネゲイドビーイング……知性を持ったレネゲイドの集合体」
「そのとおりさ。私には性別や国籍なんて記号は必要ない。我々レネゲイドビーイングの目的はただ一つ。
 人間を知りたい。私は黒木智子という人間を」


その時だった。ピシリ、とヒビが入る音が聞こえた。
よく響いた音は黒木智子の魔眼から。
金色の装飾は剥がれおち。黒に染め上げられた、されど一筋の黄金を溶かした魔眼達が宙に浮かびあがる。

全ての魔眼が、『鋼の軍勢』を上から傲慢に見下ろす。

まるで、全て聞いていたかのように。
憤怒と殺意に濁りきったその目は、黒木智子の目と遜色なかった。
そして、その視線を一身に受けて怪人は歓喜に震える。
さながら、スポットライトを浴びた舞台役者のように。
少女のようなほっそりとした手を魔眼へ伸ばし、彼は叫んだ。

「目覚めたのか……黒木智子! さあおいで。踊ろう。やっと。やっとクライマックスが始まる!!」




[38274] クライマックス1 わが名を知れ
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:154399c6
Date: 2014/06/18 21:39
飛び降りた先にあいつがいた。
視線を私に向けて手を伸ばし。
私と同じ顔をして大勢の部下らしきものを引き連れてる。

身体の中に無理矢理埋め込まれたアイツの指輪が、歓喜で暴れ出しそうなのを感じた。
私はおり立つ。

背後には玉野さんと春日さん。
春日さんはあいつと同じ、私を非日常へと引きずり込んだ側だと思っていたが、
どうも状況はそんなに簡単じゃないらしい。

私が降りた場所は怪人と、超人達との間。
今の私は半分人外で半分化け物。
ちょうどいい。
ここでアイツを、アイツを。


「やっと来てくれたんだね。待っていたよ」
「う、う、うるさ」

唇が震え頬は引きつり、大事な場面なのに相変わらず声が出ない。
私は一度両手で頬を張った。
目に力を込め中指をアイツに向けて突きたてる。
これが、今の私にできる精一杯の意思表示だ。

「素晴らしい! ようやく私にもそれだけの『思い』を向けてくれるようになったのだね」
「っ……」

絶句する。ようやく好かれたのがこんな怪物だなんて。
しかも顔だけは私と同じというおまけつき。
こいつに好かれるくらいなら喪女と言われて生きていく方がましだ。

「だけど、まだ足りない! 君には雑多な感情がある。それをすべて排除し、私だけのものになれ!」

理解できない狂気が、目に見える瘴気となって辺りを包みこむ。
私の体内で、レネゲイドが荒れ狂う。
たっていられない激しいめまい。
『自分の価値を世界に知らしめ、全てを解放しろ』
そんな衝動が喉元までこみあげる。
口に手を当てどうにかそれを腹中へ押し戻す。

嘔吐なんて後で好きなだけすればいい。
でも、今は他にやらなくてはいけないことがあるだろう。

「ふむ、私の衝動を受けてふらつくだけで済んでしまうとは。少々手を変えようか」

怪人はそう言って片手を糸を繰るように動かした。

「……な」

身体が勝手に動く。目玉達は、玉野さんと春日さんの方を向いた。
ぎりぎり、ぎりぎり。鎖で縛られるような音と共に私は右手を振り上げる。
己の意思を無視して。

「心配しなくてもいい。我が兵隊のように意識を奪ったりはしないよ。
 君は君の自覚を残したまま、あの二人を撃つのだ」
「い、いや、やだ……」
「なぜだい? 玉野椿は君を騙していた。春日恭二は君を利用するつもりだった。
 君も、彼らに好意を抱いてはいなかっただろう?」
「そ、そ、それでも……」

二人を見る。春日さんはわずかに狼狽し、玉野さんはただ黙って。
私を見ている。私の目。光を打ち出す球体ではなく、この私の眼球を。


玉野さん、春日さん、貴方達は私をどう思っているんですか?
私はあなた達を信じられない。
私はあなた達が恐ろしい。
でも、本当に?

信じられないのは本当に彼女なのか?
恐ろしいのは本当に彼なのか?

彼女が優しく抱きしめてくれた時、そのぬくもりに偽りを感じたか?
彼が全ての真実を告げた時、恐怖を抱いたのは、何に対してだった?

いくら自答しても右腕は待ってくれない。
二人に向かって照準が絞られる。
幾多もの砲台が光を虹彩に宿す。

「や、やだ……や、やめてーっっ!!」

私はそう言いながら右手を振りおろす。
爆炎に包まれる一瞬、玉野さんがわずかに微笑んだ気がした。

私にはそれが聖母に見えて、そして盛大に噴き上がる爆炎を前にただへたり込んでしまった。
違うんだ。殺すつもりなんてなかった。私じゃない。
私は悪くない。だれか、そう言ってくれ。

「これでここには君と私だけだ。大軍であり一人でもある私と、たくさんの魔眼を持つ孤独な君と二人だけの舞踏会だ」

涙がこぼれて。
認めたくないセリフが、アイツの口から洩れてきて。
こんな状況で二人きりだなんて。
いやだ。誰か、誰か!!
絶望しそうになる。
あの裏路地にも、屋上にも助けは来なかった。

「そうだ。一曲舞う前に、きみ自身が焼き上げたオーヴァードの死骸を見るがいい」

怪人の手下どもが、私に絶望をつきつけようと炎の中へもぐっていく。
そう、あの時は助けなんてこなかった。
でも。今度は。

「……大丈夫。私はこの程度じゃ死なないよ。それに『約束』を違えることはしない」
「つくづく、この春日恭二を度外視するか。よほど死にたいようだな『鋼の軍勢』」

声がした。
次いで怪人の手下達が、炎の向こう側から吹き飛ばされる。

「……ああ、ああ」

うれしかった。ただ、ただ嬉しかった。
嗚咽が漏れる。
ひとりじゃないんだ。
それだけで、それだけで立ち上がる意思が湧く。

炎が消えてゆく。
腕を一振り、二振りするたびに、炎が揺らめきまるで切り刻まれるように霧散する。
彼女の指から出た糸が、風を切るように炎をかき消しているんだ、ときづく。
走らず、初めて会った時と同じように目に優しい光を浮かべ、彼女は私の元へ来てくれる。


「黒木さん、一時だけでもいい。私に貴方を護らせてほしい」

玉野椿さんはそう言って。
私に対する庇護の意を示した。

一方の春日さんは服から、炎をくすぶらせながらゆっくりとあるいてくる。
髪や皮膚は焦げてすらいない。
歩き方こそ似ているが瞳にあるのは玉野さんと対極。
その目にはアイツに対する怒りが、そして。

「君もつくづく気の毒にな。これも何かの縁だ。あの不快な金属音。この春日が止めてくれよう」

彼はそう言って。
私にほんのわずかな同情を示した。

二人を見て、安心感が胸に湧く。
なぜ。なぜだ。どうして、彼らは私と異なる立場。異なる主義の人間だ。なのに。
かれらの命が無事なのを確かめてこんなにも安堵を感じているのだろうか。

今でも、確かに感じる。
異形化した腕を持つ春日さんへの恐怖を。
身を任せてしまいそうになるけれど、常に心をざわつかせる玉野さんへの猜疑心を。
じゃあ、なぜ。

「……実に不愉快だ。怨敵である私と対峙しているというのに、他者へ思いを掛けるのか!!
 黒木智子。 君の憎悪は、嫉妬は 欲望は私に向かうべきだ。なのになぜ!!」
「……そうだ。だからだ」

こいつをどうしても憎悪している一方で、こいつに心を砕きたくない私がいる。
構ってくれ、と不気味に泣きわめくこいつが心底。

「憎いだろう!? 君を怪物の身へやつし、日常を奪ったこの私が!!
 ならば、君の欲望は私が対象でなければいけない。もっと抱け、私への殺意を!憎しみを!」

うるさいと心の中で呟いて。私は春日さんと玉野さんの方へと向く。

「まて! そちらへ行くな!! 私がこれだけ踊る相手を用意し、君もそれだけの自分自身を出現させ、
 これ以上ないくらい、大軍同士の殺戮が、秩序なき一騎打ちができるというのに! なぜ、他人の介入を受け入れようとする!?」

いちいち芝居がかった仕草とセリフに反吐が出る。
こいつのモーションがいちいち大仰なのも私の興味を引くためだったのだろう。
腰が抜けて立てないから、這いながら前に進む。
玉野さんと春日さんへの距離が近づいてゆく。
私はこいつが心底憎い。だから、だから。

《……お前は、私の心の中に必要ない》

心中のメタルレギオンへの憎悪が冷めてゆく。
冷えて、乾いて、消えてゆく。
それが、こいつに対する精一杯にして最大の報復。
絆を捨てる。こいつへの。

「……馬鹿な! 絆のない孤独な貴様が、何も持たない空っぽの貴様が、唯一手に入れた欲望を捨てるというのか!!」
「き、きずなならある……」

怪人と背を向けたまま、私は玉野さんと春日さんを見上げる。
守護者は私に顔を近づけて。
悪魔は腕組みをしたまま。

「た、玉野さん……春日さん……」
「黒木さん、私は……」
「ふん、なんだね?」

「……力を、か、貸してください」

救いを求めるように手を伸ばす。
春日さんは嘆息しながら、玉野さんはしっかりと。
両名は私の手を取った。
二人に思いきり引き上げられ立ち上がる。
いまはまだ白黒つけられない自分。でもこれでいい。

「黒木さん……。貴方が私を許し、人との絆を持ってくれるなら。共に闘いましょう。
 UGNのエージェント「シルクスパイダー」として」

世界を護る盾、と。

「いたしかたない。鋼の軍勢には私も腹をすえかねていた。手を貸そう。この悪魔、『ディアボロス』の手を」

世界を砕く魔の手が。

私をまたいでXの字に交差する。
いま、私は非日常の中心点にいるのだと、ようやく実感できた。
日常は何処かに置き忘れてきてしまった。
黒木智子という名前も今はまるで他人のように感じる。
だから私も名乗ろう。

 「……《私は悪くない》『アイアム、ノット、ダークネス』」

中二病のようで、ほんの僅かに気恥かしい。
だけど、自分の素直な気持ちを吐き出せて。ようやく落ち着けた。

我に咎無し。
我に責なし。
他者に全てを押し付ける漆黒のようなこの心。
だが、黒一色って訳じゃない。

玉野さんへの猜疑心が薄れる。信頼はできない。
でも、彼女は約束を忘れてはいなかった。
私を守る、助けになるという約束を。


  故に彼女へ誠意を。 

春日さんも。怖くないと言ったらウソになる。
でも、それ以上に今はとても頼もしい。


だから自信溢れる彼の態度に感服を。   



そして、今この瞬間だけは私も非日常に身を染め
戦おう。


一人のオーヴァード。「アイアム、ノット、ダークネス」として



[38274] クライマックス2 蜘蛛と悪魔がいる限り
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:154399c6
Date: 2014/07/27 22:17
「あああああぁぁぁぁ!!」

金属の顔を掻きむしり地団太を踏む怪人。『鋼の軍勢』

表情が同じなのが気持ち悪さに拍車をかける。
両手で顔を覆いながらの絶叫は金属をこすり合わせた様で酷く不快だ。

「いやだ!いやだ! 私が消えていく!! 黒木智子の心の中から!!
 もっと彼女の憎悪が欲しい! 彼女の欲望の対象でありたい!」

鳥肌が立つようなセリフを聞き、それでも私は心を動かさない。
ふいにずきりと指が痛み、見ると。
そこにはあいつが私に送りつけた指輪がはまっていた。

まるで虫が這っているかのような感覚。
心の中から追い出した化け物はみっともなく私の指にすがりついている。

「……お、おまえなんか……私の中に、い、いらない!!」

速やかにそれを抜く。
絶叫し、ますますうるさくする怪人。
抵抗なく外れた指輪を、私は思い切り握りしめ宙に放る。

「な…や、やめ……なにを……や、め」

驚愕に言葉を詰まらせるあいつは、私によく似ていた。
宙に浮いた大勢の目が、投げた指輪を見つめ、瞳に光を宿す。

「……き、消えろ!!」

数十の光の束が、浮かんだ指輪を塵一つ残さず浄化した。
  
「あああぁぁぁぁああ、消えていく!私が、私の力が!!
だめだ、私を、私への欲望を抱えたまま、きさまはジャームにならなければいけないのに……ああ、ぁぁぁぁ」

言葉を失う鋼の軍勢。
出会ったときにひょうひょうと振舞っていたあいつとはまるで別人だ。
よろよろと足踏みをするたび、奴の懐からアクセサリがばらばらと落ちてくる。
ローブの隙間からのぞく腕はいっそう細くなり、顔の眼窩が落ちくぼむ。
覆っていた肉の部分は水銀のように流れ去り、残るのは金属でできたガイコツ。
よくみると、指輪が数珠のようにつながれ、それが頭蓋を作っているのだとわかった。

「ああっぁあぁ、いやだ。いやだ。みるな、私の姿を!!」
「ふん。醜い姿だ」

どちらかというと、哀愁を誘った。
細く頼りない。けど、同情はしない。
もう、あいつに対する感情は、思いは抱きたくもない。

「……こうなったら構うものか。ディアボロスもシルクスパイダーも存在ごと抹消してくれる!!
 いいや、手に入らないのならば、黒木智子に縁ある全て、いっそこの街を滅ぼしてやる!!」

私のまねをするかのように怪人は右手を振り上げた。
指輪たちが宙に浮かび上がり、掲げた手に吸収されていく。
その腕は肥大化し、ねじ曲がり、形を変えた。
とてもいびつで気持が悪い。
手のひらと混ざり合った穴、大きい引き金がそれをかろうじて銃だと認識させた。
怪人は銃口を天へ向ける。

「逃げ場などない!! 一からくみ上げカスタマイズした我が銃、込めるはうごめく弾丸よ。受け取るがいい!!」

ダァン、と音がして金属が空から降り注ぐ。
雨のように降り注ぐその弾は不気味に輝く銀色の指輪。
それを。

「危ない!!」

玉野さんが爪から糸を出し、私をかばう。
銃弾が体を貫く!!
目を閉じ恐怖に身を固くした私だが、いつまでたっても痛みはやってこない。

開けてみれば。
私をかばい玉野さんが、両の腕で指輪の雨を受け止めていた。
袖から先は全て糸。
崩れずの群れが私に至る凶弾を止めている。

「……っう」

金属が液体化して玉野さんの体に絡みつく。
肌に触れた金属は、ジュゥ……という嫌な音を立て紫色の煙を吹く。

「た、玉野さん」
「うごけまい?痛かろう? じわじわと瘴気に侵され死んでいけ!」

シュゥシュゥと音を立て、彼女はそれでも。

「怪我はないのね。よかった」
「たまのさ……なんで」

気丈に笑っていた。アニメや漫画では見あきたシーンだ。
仲間をかばって攻撃を受ける。
自分の痛みを、死を顧みずに。

わたしはいつも、嘲笑っていた。
他人をかばうなんて綺麗事。
実際にはそんなのありえないんだと。
でも、今。それは現実に在った。
目の前には私をかばい、身体を血に染め立っている人がいる。

「ありがとう。黒木さん」

私の頬から伝う涙を勘違いしたのだろう。
玉野さんはそう言って構える。

違うんだ。私はあなたに感謝して涙を流したんじゃない。
迫りくる銃弾の雨をやり過ごせた安堵と。
貴方の凄まじい傷を見て、私は泣いてしまったんだ。

「黒木さん。私は死なない。この程度では」
「まったくだ。つまらん」

玉野さんの脇にいた春日さんもまた金属に体を囚われていた。だけど、とても落ち着いている。
ジュウ、という肌が焼ける痛みも匂いも意に介さず。

「黒木智子君、覚えておくと良い」

体を縛る金属の呪縛も、身を狂わす鉱毒も、彼の表情を動かすことはない。

「……ばかな、我が毒を受けて生きているだと!? 貴様ら……」
「教えてやる。この春日恭二。自ら名乗る悪魔のほかに、もう一つ呼ばれる通り名がある」

右手が強く唸り、異形化した爪を構える。

「自慢ではないが私は、実力とは裏腹に多くの敗北と屈辱を味わってきた。
 だが決してあきらめたことはない。
 骨焼く業火も。
 凍てつく吹雪も。
 刀や銃弾が身体を穿っても。
 たとえ、毒や光線とてこの身を、この春日恭二を殺すことはできない。
 何度でも、何度でも立ち上がる!!」
「そう、UGNが追いつめても必ず彼は甦り立ちはだかってきた。そのしぶとさゆえに、ついた名が」

異形化した爪で、金属を引きちぎる。
周囲に立ち上る紫の煙はさながら冥府の獄を連想させる。
鎖代わりである金属の戒めを力づくで破壊する様はまさしく。

「我、死を知らず。ゆえに不死身。『不死身のディアボロス』と、そう呼ばれている」

力を誇示するかのように手を胸の前で構える悪魔。
気押され、ひるむ怪人。

「な、なぜだ!! あれだけの攻撃を受け、既に貴様らの侵蝕率は100%を超えているはずだ!!
 限界を突破すれば細胞の回復はできない、ましてや立ち上がるなどと!!」
「!?」

驚愕に目を開いて玉野さんと春日さんを見る。

「……本当のことよ。ごめんなさい。こんな大事なことを言わないで」
「た、た」

玉野さんの腕からたくさんの血が流れている。
恐ろしい。でも、いやだからこそ。
信じるに足る。
少なくとも私の代わりに。

「……た、たすけ、たすけて、くれ、れ……た」

彼女が痛みを負ってくれた。
怖いけど、痛くない。
私の傍らには今、世界を護る盾がいる。
だから、こわいけど、痛くない。
痛くないから、一人じゃないから。
少し。ほんの少しだけなら。
私は戦える。

「おのれぇぇぇ! またしても、黒木智子の心につけいったな!!」
「まるで、悪さをして気を引こうとする子供だな貴様は」

春日さんは前置きして笑った。

「うせろ、鉄くずはもう用済みだ」
「おのれ、前座の分際で……」
「貴様が主役を張れる器か。いまの攻撃を受けてはっきりわかったぞ。貴様はただの道化師だ。
人を集めて騒ぎを起こすか、豆鉄砲を打つしかできない哀れな哀れなチンドン屋だ」
「っ!!」

隙だらけの怪人を見て玉野さんが指から糸を放つ。
螺旋のように唸る糸の斬撃。

「ええい、うっとおしい!!」

ローブが、金属の骨が簡単に裂け、身体から水銀のような体液と、アクセサリがばらばらとこぼれおちてくる。
身をひねってかわそうとしてもその糸はアイツの手足、頭に至るまで五体すべてに絡みつく。。

「ふん、冥土の土産に受けるがいい。我が『不屈の一撃』を!」
「調子にぃぃぃ!!」

先ほどの玉野さんの攻撃に合わせ、春日さんも異形化した爪を携え、怪人の懐に潜り込む。
銃身と化した手で殴ろうとしても、その動きは間にあっていない。
いや、許さない。彼女の糸が。回避を。反撃を。あらゆる反抗の意思を。

「のるなぁぁぁあぁ!!」
「この『悪魔』の前にこうべを垂れろ、『鋼の軍勢』!!」

悪魔が顔に一撃をたたき込む。
あいつは口元から顎骨までひびが入る。
踏ん張ろうとしたその足を玉野さんが糸ですくい上げ、地面に打ち倒す。

「ご、ごば、ごばば」
「ふん、先ほどとは違い、ずいぶんと効いているようだな」
「黒木さんに、思いを拒絶されたから、でしょうね」

衝撃をうけて崩れた顔。口元からアクセサリと水銀が溢れだした。
まるで嘔吐しているかのように。

私もああやって一人で吐き出していた。
嫉妬を。痛みを。憎しみを。
修学旅行のバスの中。学校のトイレ。自室のゴミ箱。いつも一人で。

わたしも、誰かに自分の思いを強引に押し付けていたんだろうか。こいつのように。
そうだとしたら、改めよう。私はこいつのようになっちゃいけない。
両親が悲しむとか、弟が恐怖するだろうとか、そういった他人の思いは抜きにして。
ジャーム 『鋼の軍勢』を前にして。
私はようやく、自分が怪物ではないことを認識できた。

「も゛ぉ、皆殺だ、しにだえ゛ろ゛ぉぉ!!」

怪人が発狂しながら、私達を指さす。
雑兵全てが私達へ向けて進軍を開始する。
やつと同調しているのか、元人間達もその目にははっきりと殺意を宿していた。

悪魔と蜘蛛は構えた。

「ふん、少々手間だな」
「でも、必ず止めて見せるわ」

尻目に宣言する。

「わ、私が行きます」

二人は驚いたように私を見た。
その視線が心地良い。
この二人の憶測を裏切りたい。
彼らが予想した黒木智子よりも。
オーヴァード。アイアム・ノット・ダークネスは今、遥かに上にいる。

全ての目に命じる。
光に。重力に。働きかけた力は。

(私を見下すな!!!)

誰ひとりだって逃さない。
敵は格下だ。
全部あの指輪の化け物なのだから。
あいつと、アイツの端末がわたしを上からみるなんて許さない。
這いつくばれ。
いま、本体である鋼の軍勢が地面にたおれ、吐瀉物に沈んだように。
全員、ひれ伏せ!!

飛びかかろうとしていたものは地に伏し。
立ちはだかっていたものは膝をつく。

私の持つ力の一つ、バロール症候群。
バロールは古代ケルトに伝わる魔王。
その目は死をつかさどる。

ならば、お前も、お前達も呪われなければ。
未熟な私には見つめただけで殺すなんて芸当はできない。
でも、ほんの数秒。
視界に入れた相手を、止めることなら。

誰に教わったわけでもない。
ただ、「そうである」と知っている。
私が、今なお瞳から淡い光を放っている大勢の私達が。
あいつを、大勢のあいつらをほんの刹那縫いとめる。



[38274] クライマックス3 きっと彼女は Side S
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:154399c6
Date: 2014/07/31 22:45
バロール症候群のオーヴァードは『魔眼』ないしは『宝玉』と呼ばれる物体によって重力を操る。
だが、その能力は個々のオーヴァードによって様々だ。
周囲一帯の磁場を操作し、通信を封じる者。
派生した斥力で持って吹き飛ばす者。
そして、バロール能力最大の切り札とさせる力。

それが、磁場、重力を歪めて行う時間の操作。

いまだ、解明されないバロール症候群の真髄。
周囲一帯の時間を数秒停止させるその力は攻守ともに切り札として使用される。
私たちは切り札をこう呼んでいる。

時間停止の能力、『時の棺』と。

黒木さんは誰に教えを受けることなくその力を使いこなした。
そして、今 彼女は全てを終わらそうとしている。
身体を震わせ、歯の根を鳴らし、それでも右手を高々と。

呼応するように魔眼達は一斉に敵を見下ろす。
私が診察室で見た、歓喜に呆ける彼女とも。
目の前から去って行った、絶望に打ちひしがれる彼女とも違う。

片方の目には澱んだ絶望、もう片方の目には未来へのかすかな希望。
そして空に在る多くの目には傲慢と虚無。
その全てが鋼の軍勢に向けられる。

「う、うてえぇぇ!!」

振り下ろされるのは右手と光。
エンジェルハイロゥ症候群のオーヴァードが持つ広域殲滅能力。

『スターダストレイン』

美しい名前と裏腹に戦場の敵すべてをなぎ払う光線の雨。
光に撃たれ、一人、またひとりと雑兵は倒れ伏してゆく。
そして、大将である『鋼の軍勢』のみ、暗黒を束ねたかのようなような黒い光線がその胸を射抜く。

「き、きひ、きひひひひ」

狂ったように。
攻撃を受けてなお、奴は笑っていた。

「これが、これが、貴様の攻撃か。いい、いいぞ。何も見えない。聞こえない。
 攻撃を与えるだけではない。他者に絶対の孤独を与え、絶望させる、これが貴様の能力、貴様の本質」

わたしも、春日恭二も、そして黒木さんもだまって鋼の軍勢を見ていた。
サラサラと音を立て彼の体は衣服ごと銀の砂と化そうとしている。

この場所にはじめてあらわれたときのように、鋼の軍勢は崩れそうな上半身だけをグルグルと回転させていた。
奴の言葉が真実なら、今は見ることも聞くことも出来ない暗闇にとらわれているのだろう。

「ああ、さびしい、さびしいなあ、だがな、このすがたは、みらいのおまえだ、クロキトモコ」

ひざ丈までが砂となって消えた。
孤独なジャームは虚空を見上げ、黒木さんに呼び掛ける。

「こんな、さびしい、こうげきしかできない、きさまが、こどくな、こどくな、おまえが、ジャームでも、にんげんでもない、うらぎりものが
けわしい、けわしい、いばらのみちをあるいていけるものか、かぞくも、しゃかいも、そこのふたりも、おまえを、みすてる」

黒木さんは怯え、震え、それでも鋼の軍勢から眼をそらさなかった。
魔眼達までもが全て、砂の海に溶けてゆく怪人を見つめている。

「きさまは、ひとりだ、ひとりぼっちだ、さきに、まっているぞ、ぜつぼうしかない、まっくろな、みらいでな……」

ヒビの入ったあご骨が銀色の砂になり、怪人『鋼の軍勢』は消滅した。
空がうっすらと朝焼けに染まり、消えゆく銀色の煙を照り返す。




長い長い夜が、今 ようやく明けたのだ



[38274] バックトラック
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:154399c6
Date: 2014/08/27 23:02

地面に倒れそうになった体を玉野さんが支えてくれた。
彼女はそのまま、私のことを抱きしめる。

「黒木さん、よく無事で。そして、本当にありがとう」

抱き返すなりすればよかったんだろうが、今は手を動かすのも億劫だった。
とりあえず、頭をがくがくと縦に動かして返事をする。

もうひとり、パチパチと拍手をして歩み寄ってくる人がいる。
春日恭二さん。

「黒木智子君。君はやはり、素晴らしい人材だ」

眼には戦意が残っているかのように光っている。
春日さんは禍々しい獣化した腕を私に向けて差し出した。

「今回のこの事件は君と我々、お互いにとって不幸な出会いとなってしまった。
 だからこそ、君にはいろんなものを見て、世界の真実を知ってほしいと思う。
 ぜひ、私と共に来てくれないだろうか」

玉野さんが私を抱きとめる力が強くなる

「黒木さん」
「黒木君」

私は、首を横に振った。

「わ、私はファルスハーツには、い、いきません」
「……UGNに下るのかね?」
「……」

ここで沈黙をするのが肯定であると取られても仕方がない、そう思っていた。

「……いずれ、また迎えに来るとしよう。君はまだ10代だ。欲望を自覚した時にもう一度会おう。
 なに、一人にならんよ。我々FHはいつでも君が来るのを待っている」


春日さんは背を向けて壊れた病院の床を歩いてゆく。
崩れおちそうになる膝を、玉野さんが抱きとめてくれた。

「侵蝕率124%……急ぎましょう、黒木さん。私もあなたもまだ、人に戻れるわ」

私に体温計のようなものを当て、玉野さんはつぶやいた。

「ねえ、黒木さん。私達は確かに人間でも怪物でもない半端な存在。
 裏切り者〈ダブルクロス〉といわれることもある。でも、それでも ね」


 私達にだって大切なきずなはちゃんとあるんだよ。だから、大丈夫。



鋼の軍勢に囁かれた時とは違う、安堵のゆりかごの中で。

日常に帰れるんだ。

そうしんじて私は意識を手放す。
眼が覚めたなら、太陽が高く昇ったら。
きっと、また一日が始まるはずだ。



[38274] ED1 苦味を飲み干して
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:154399c6
Date: 2014/08/27 23:03

「くそ、まったく」

コンビニで買ってきたビールを呷りながら春日恭二は悪態をついた。
『鋼の軍勢』を自分がUGNと協力して潰したことはすぐにFHに知れ渡り。
あやうく造反の濡れ衣を着せられそうになった春日は必死に申し立て、
ようやく『自分がメタルレギオンの暴走を止めるため、やむなくUGNと協力した』という事実を上に認知させた。
UGNの犬として処刑されるところだったことを思い返すたび怒りではらわたが煮えくりかえる。
冗談ではない。かつての栄華を取り戻すためにも、自分はこんなところで足踏みをしているわけにはいかないのだ。

「やってられるか。まったく、かつて幹部クラスと評されたこの私が……」

彼の優れた肉体はメタルレギオンの毒すら無効化するほどに優れている。
故にアルコールを入れたところですぐに分解してしまい、酔うことなどできない。
それでも飲まずにはいられなかった。冷たいが一瞬だけ喉の奥を熱くする感覚だけを味わいたくて。
液体をがむしゃらに流し込む。
飲み干せば飲み干すほどに、自分の先日を思い返してしまうのだけれど。

「まったく。酷い厄日がつづく」

本来なら見込みある人材をスカウトし、あわよくば自分の部下にとまで考えていたのだが。
結果は散々。
骨折り損どころかなぶられ損である。

「だが、収穫がゼロだったわけではない」

脳裏に黒木智子の姿を思い浮かべ、ぐっと一気に酒を飲み干す。
春日は彼女がUGNにずっといるとは思っていない。
家族を始め一般の人々に正体がばれたとき、UGNの一枚岩と言い難い複雑な内部構造を垣間見た時。
その時に改めて声をかけに行こう。

鋼の軍勢が発した言葉を信じるわけではない。
が、彼女は正義や愛という理想よりも己の欲望で動きそうだというのは春日も感じたのだ。

「いずれ、また会おう。若人よ」

アルミの杯を窓外の月夜に掲げ、悪魔は今日も孤独な酒宴を続けるのだった。



[38274] ED2 悲しみを糧にして
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:154399c6
Date: 2014/08/27 23:04
「『鋼の軍勢』に操られていた人々はあと数日で退院できるそうだ」
「ありがとう。彼女もそれを聞いたらほっとすると思うわ」
「それで、その子の様子はどうなんだ?」

私と長年連れ添っている、腐れ縁。

コードネーム、ファルコンブレードはカレーライスに福神漬を添えながら聞いてきた。
本名は高崎隼人。彼がアタッカーで私がディフェンダー。
テレーズ・ブルム女史に報告を終えた後、UGNの食堂で私と彼は食卓を共にしていた。
つい先日、おこった『鋼の軍勢』襲撃事件を彼に聞かせながら、探っていたことを聞かせてもらう。

「黒木さんの侵蝕率は89%まで下がったわ。もうすこししたらRC訓練に参加してもらうつもりよ」
「すでに東京23区を始め、あちこちが青田買いを狙ってるぜ。危険度の高いジャームに一矢報いたうえ『時の棺』を使える範囲火力。どこの支部も垂涎だ」

できれば彼女はそっとしておきたかったが、すでに出るべきところに情報は出てしまっていた。
テレーズさんには口止めを願ったが、人の口にはなんとやら。
端末から、通話記録を抜かれたか。ひょっとしたら春日恭二の方が情報を流したのかもしれない。

「いまはまだ訓練が先。それに彼女がUGNに協力してくれると決まったわけじゃない」
「帰りたいと願ったら彼女が日常に戻れるように全力でサポートする、だろ?」
「よくわかってるじゃない」
「もう何年の付き合いになると思ってるんだ」

待機中の癖か、男の胃袋ゆえか、隼人はカレーを素早くかきこむと席を立った。

「おまえの話だと、彼女は自分の日常をあまりに大切に思えなかったそうだな」
「ええ」
「今は、その子……黒木は何と言っているんだ?」
「彼女は……」

思い起こした。
病室で自分の日常を卑下したあの表情と戦闘を終わらせた満足そうな顔を浮かべて気絶した彼女を。
かぶりを振る。

「隼人も直接会ってみると良い。黒木さんも喜ぶんじゃないかしら?」
「そうかい。じゃあ近いうちに、一度会ってみるとしようか」

黒木さん。貴方はきっと、UGNの使命を負うことをよしとしないでしょう。
でも、信じてほしい。貴方が『いらない』といった日常はきっと貴方を人間に繋ぎとめる。
それを束縛の鎖と感じるか、身を守護する盾と思うかは貴方次第。

いつか、決意する時が来たら。
恐れず踏み出してほしい。私達(UGN)でも、あいつら(FH)でもない。
自分の意思で。



[38274] ED3 私は
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:154399c6
Date: 2014/08/27 23:05
待ち合わせまでは30分を切っていた。
訓練がきつくて寝落ちしたら、起きる時間をとっくに過ぎていて。
慌てて飛び起きて身支度をしどうにかこうにか電車に間に合って。

ここのところは忙しくてパソコンすらつける間もなかった。

あれから、一か月が過ぎた。
立った一晩で私の人生はがらりと変わってしまった。
世界の裏側を覗いた私は今、そのツケを支払うため
自分のレネゲイドを扱う訓練をしている。

精神を落ち着けることから始まり、体力作り、戦闘訓練まで。
筋肉痛とだるさで始めの一週間は動くのもきつくて。
大いに世界と自分を呪ったものだ。
ただおかげさまというか、なんというかあれ以来能力が暴走したりということはなくなった。
疲労と、要した時間を考えれば割に合わない気がするけれど。

考えながら慌ただしく電車を降り、改札を出る。
待ち合わせの噴水は駅から出てすぐのところだ。
ほどなくして私は探していた友人を見つける。
『ゆうちゃん』
中学の頃の同級生でよくつるんでいた唯一といっていい私の友人。
中学時代地味だった彼女は、高校デビューに成功し、今や彼氏もいる立派な『リア充』だ。
サラサラの金髪と薄くリップを塗った唇は女の私でも劣情を催す。

「ゆ、ゆうちゃん。ひさしぶり」
「もこっち久しぶり~、元気だった?」

第一声が上ずるのは相変わらず。
彼女は特に気にした風もない。

「もこっち、しばらく電話つながらないから心配したよ~」
「ご、ごめんね。新しく始めたバイトがきつくて」

ウソだ。実際はここ一カ月、訓練が忙しくてメールする余裕すらなかった。
放課後と土日は狂ったように訓練漬けで。

「厳しいけれど死なずに済む訓練をするか、何もしないが死して怪物となる怠惰を取るか」と玉野教官に言われ私はそこで泣いた。

『排泄物の味がするカレーか』と『カレー味のする排泄物か』どちらか好きな方を選べ、と言われたようなものである。
理不尽極まりないながらも、前者を選択した私は嘔吐と嗚咽をこらえどうにかその過程をひと段落つけた。

今度からは放課後に2,3回と月の土日の内、2回程度の訓練で済むという。
思い出すとちょっと泣けてきた。
玉野さんの話だと昔は訓練で崖に突き落とす教官なんてものがいたそうだからそれに比べればまだましだけど。

「……よく頑張ったな。私」
「もこっち、どうかしたー?」
「な、なんでもないよ。今日の映画、楽しみだね」

そう、きょうはおよそ一カ月ぶりの休日だ。
友人と会いたいが、訓練を来週に移してもいいか?
というと、玉野さんがあっさり二つ返事をくれて拍子抜けした。
というかすごくうれしそうな顔をしていた。
今度の訓練も同じ言い訳を使って休もうか。
……やめよう。なんかばれそうな気がする。

「もこっち、先にチケット買っちゃう? それとも時間あるしご飯いく?」
「そうだね、せっかくだし……」

ともだちと二人、ならんで歩きだす。

「ゆ、ゆうちゃん。彼氏とは、その、どう?」
「今はそこそこ落ち着いてるよ。どうしたの急に?」
「いや、ゆ、ゆうちゃんと彼氏がう、うまくいっているといいなって」

本音はいえない。
ただの出歯亀が9割ともう一つ。
私のおかげでこの街の平和が守られたという実感がほしかった。

無意識にそこまで考えてかぶりを振る。
相変わらず私は他人を見下すことしかできないな。
訓練をひと段落付けても、人間性は大きくならないらしい。

「えへへ、以前もこっちに愚痴を聞かせちゃったもんね。
 でも、前に彼氏と喧嘩した時、後でもこっちが一緒に遊んでくれて。
 私、本当に救われたんだよ?」
「……!!」

救われた、か。
まさか、そんな言葉が聞けるなんて。

「もこっち。そういえば今はどんなアルバイトをしているの?」
「えっとね、私は……」

昨日と同じ今日。今日と同じ明日。
世界は変わらない、当たり前の日々を繰り返す。
私達の目には映らない。多くの、とても多くの犠牲を伴って。

今こうして過ごしている日々はあの頃とは別のもの。
似ているようで、全然違う。
過去はとても嫌だった。だけど恵まれていた。
不平不満を言うことで『私は悪くない』と責任を転嫁できたから。
今、私の力と責任はこのちっぽけな体の中に在る。

それはとても恐ろしく儚い。
いつまで人間でいられるかは分からない。
布団の上で往生できる可能性も少ない。

それでも、歩いていこう。
私がオーヴァードになったのは私が悪いわけじゃない。
それでも決めなきゃいけない。
生み出されるのは本人の意思ではないけれど。
生まれた以上歩いていかなきゃいけないのは自分の責任だ。
今はUGNという日なたも、FHという日かげもどっちつかずの半端モノだけど。

いつかきっと選ぶ日が来るのだろう。
そのときにどうか。泣き言を言わないように。

『私のせいじゃない』とか。
『私は悪くない』とかじゃなく。

真っ黒だけど、ほんの一筋の光明を見つけて自力で歩いていけるように。
空を見上げる。
真昼の太陽は、あの日見た夕暮れよりもさらにまぶしい。
だけど、手の甲をかざしたりはしない。



私は歩いてゆく。私の絆と共に。
私は見つける。自分のネガイを。



だから、どうかこれから私が歩む生き方が。
すこしでも、「日常に近く」あるように。



[38274] あとがき
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:154399c6
Date: 2014/08/27 23:05
ここまでを読んでくださった方。まことにありがとうございます。
この作品はTRPG作品 『ダブルクロス THE 3rd EDITION』
コミックス 『私がモテないのはどう考えてもおまえらが悪い!!』

双方をクロスオーバーさせた作品となっています。
話のきっかけはもこっちに超能力を与えたらどうなるだろうという思いつきでした。

NPCにUGN代表で教官を務めている椿。
FH代表には愛される悪役こと春日恭二。

二人の言い分を聞き、もこっちがどんな選択肢を取るかというところまではスラスラ書けました。
ただもこっちは当初、悩んだ末に高校を退学し非日常に身を染め、日常にいる人々(弟の智貴)をうらやんで生きてゆく。
というEDにするつもりでした。

ただ、それだとゆくゆくはジャーム化する未来しか見えないため、こちらに変更しました。

怪物になる危険を遠ざけるためとはいえ、一か月も訓練をするとは原作の彼女からはとてもかけ離れている。
とは、書いていて自分も感じましたのでマ改造と呼ばれるを覚悟しましたが、こちらの方がハッピーエンドだし、
人を見下すことやめられない自嘲的な面は残したので、少しでももこっちらしさを感じていただけたら幸いです。


また、この作品を読んで「TRPG、ダブルクロスってなんだろう?」と興味を持ってくださった方。
「『ワタモテ』って面白そうだな」と思ってくださった方。
そして、たったこれだけの分量を書くのに一年近くかかった自分に感想を下さった方。
最後まで読んでくださった方。

ゲームデザイナーの矢野俊策先生と漫画家の谷川ニコ先生方。

本当にありがとうございました。
いずれ、またここの投稿板かTRPGの卓上かは分かりませんが会話できたらうれしいです。

かさねてになりますがこのSSを読んでいただき本当にありがとうございました。



[38274] おまけ1 鋼の軍勢
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:154399c6
Date: 2014/09/21 22:28
ジャーム 鋼の軍勢(メタルレギオン)   

鉱物にレネゲイドが宿り、自律行動できるようになった生命体。
通常はレネゲイドビーイングと呼ばれる生命体だが、かれは誕生した瞬間から絆を持っておらずジャーム化。
行動原理は人間を知ることだが、人という生命体の感情を理解できず、対象の体内に入り思考を共有することで人間を知ろうとした。
結果的にそれは失敗するが『抑圧していた人間の欲望を解放する』こと、欲望の向く先の対象を『自分』に固定することで失った絆の渇きを満たそうとした。

ローブを着ている怪人の体とはべつにもうひとつ、特殊な指輪の体を持っている。
怪人体はいわば体なのに対し。指輪は頭脳と魂というべき位置に在る。
また、指輪の体はさらにアクセサリー型のアンテナをつくり、人体に埋め込むことで一般人を洗脳できる。
指輪と人体、両方を破壊しなければこのジャームを倒すことはできない。
指輪の体を取り出す場合、対象が自分の体に「鋼の軍勢」がいることを自覚し、そのうえで拒絶の意思を示さなければならない。

今までのオーヴァードはこれを見抜くことができず敗北した。
実力は春日恭二の言うように大したものではない。

ここからは戦闘用のデータ。 


 クロスブリード(モルフェウス/ エグザイル) ワークス レネゲイドビーイング(オリジン:ミネラル)
肉体3 感覚3 精神1 社会1 侵蝕率250%   

●所持エフェクト

コンセントレイト/モルフェウス Lv2 攻撃のクリティカル値を下げるエフェクト

カスタマイズ Lv2 武器を自分の合った仕様に作り替え、振れるダイスを+するエフェクト

ハンドレッドガンズ Lv2 銃を自作するエフェクト

ギガノトランス Lv1  武器を破壊する代償に場の敵すべてを攻撃するエフェクト

餓鬼魂の使い Lv2  対象にバッドステータスの邪毒を与える。

うごめく弾丸 Lv2  対象にバッドステータスの重圧を与える。

オリジン:ミネラル Lv1 鉱物起源の生命体であることを示すエフェクト。装甲値を上昇させる。

●エネミーエフェクト

生命増強Lv3 HPを上昇させる

メンタルインベイション  対象を洗脳するエフェクト


●Eロイス

究極存在  一切のダメージを負わない。ただし条件により解除される。
今回の場合、智子が『鋼の軍勢のシナリオロイスをタイタス化する』ことが条件だった。



[38274] おまけ2 黒木智子
Name: TRPGユーザー◆1acf1388 ID:154399c6
Date: 2014/09/21 22:29
黒木智子  コードネーム『私は悪くない』(アイアム・ノット・ダークネス)

ジャーム、鋼の軍勢によって覚醒してしまったオーヴァード。
現在はUGN下で訓練を受け、有事の際には協力するイリーガルとしての立場をとっている。
寡黙で本質は臆病だが、その臆病さと対をなすように攻撃的なエフェクトを多く取得している。
本編で『鋼の軍勢』が「彼女は強い欲望を持っている」を持っていると発していたが、
彼女の欲望は自分では気づいていないが『周りから認められ輝きたい』というもの。
ただ心の奥底ではそうならないことを自覚している。

目下の目標は「他人をすぐに見下してしまう癖を何とかする」だが、
これもたぶん治らないだろうなと悟りつつある。


戦闘用データ

クロスブリード バロール/エンジェルハイロゥ

肉体1  感覚4  精神5  社会1



●所持エフェクト

コンセントレイト/エンジェルハイロゥ Lv2

時の棺 Lv1  周囲の時間を止め、相手の行動を失敗させるエフェクト

絶対の孤独 Lv1  光を遮断し、対象の行動を邪魔するエフェクト

ピンポイントレーザー Lv1 対象の装甲を貫通するダメージを与えるエフェクト

スターダストレイン Lv1 場にいる敵すべてを攻撃するエフェクト

レーザーファン Lv1 扇状の範囲にいる敵を攻撃するエフェクト

●イージーエフェクト

ディメンションゲート 離れた場所に自分を転移させるエフェクト


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