「プップー!!」
遠くでクラクションが聞こえる
遠くに聞こえるはずなのに俺の目の前にはトラックが迫っている
手から缶コーヒーが零れ落ちる
全てがスローモーションに見える
この速度なら走れば避けられるじゃないか
そんな思いとは裏腹に体がぴくりとも動かない
「……死にたくないな」
俺はぽつりとつぶやいた
鈍い衝撃が走る
痛みなんて感じなかった
目の前に夕焼けが広がったと思えば一気に黒幕が降ろされた
俺は闇の中にいた
(ここはどこだ…確かトラックにひかれて…死んだ?はは、そんなまさか)
「そのまさかだよん」
「あれ、俺声に出したっけ…」
「君のことなら何でも分かるよん!ボクは神だからねぇ~」
「…俺は…死んだのか?」
姿は見えないが陽気なしゃべり方から生意気なガキを想像した
「そうだよ、君は死んだの!それからボクは君より年上だから」
…どうやら頭の中が覗かれているようだ
「ここはどこだ?」
「う~ん死後の世界ってやつ?ってそんなことより君にチャンスを与えよ~う!」
「まずお前はどこにいるだよ!」
「…ボク最近タイクツなんだよねぇ、だからボクを楽しませてよ!」
(無視かよ…)
「訳がわからねぇよ!なんで俺は死んだのに生きてるんだ?あっ携帯はどこだ、母親に連絡させてくれ!」
「うるさいよ、君は死んだんだ。君の魂はボクのものだよ?黙って言うことを聞かないと一生閉じこめるぞクズが」
瞬間意識が遠のいてゆく
体が無くなっていくような感覚は恐怖そのものだった
怒らせてしまったのか
「す、すいません…」
「うん、よろしい♪それで君はどんな体が好み?君には今からボクが今最高にハマってる漫画に転生してもらいます!頑張って貰うし一応リクエスト受け付けるよん」
「俺が転生する体ってことですか?」
「そうだよ早く決めろここに来るまでで何行使ったと思ってんだ」
何行の部分はよく意味が分からないが転生するならイケメンがいいに決まってる
「そうだな…目は蒼で!髪は薄い茶色で猫っ毛体は高身長で細マッチョ!それから声は低音のかっこいい声で…とびきりのイケメンがいいです!」
(あ、これ調子乗りすぎたか?)
「いいよん!望み通りに叶えてあげる!それじゃさっさと行ってきなさぁあい!ボクを楽しませてねぇ~」
(今ので良かったのかよ!)
また意識が遠のいていく
(…そういやどこに転生されるんだ)
「どっどこ…」
そこで意識は途切れた
トクン…トクン…
小さな鼓動が聞こえる
生暖かいがどこか安心感の溢れる物体に包み込まれている
(布団の中みたいだ…ここは…夢なのか?さっきのも全部…夢?)
だが目を開けようとしても開かない
すると体が急に何かに引っぱられた
固いものの間を通り抜けようとしている
(この感じ覚えてる…そうだ母親のおなかの中だ…そうか)
さっきまでのは夢ではなかったのだ
先程から聞こえる鼓動は己のものだったようだ
(俺は…本当に転生したのか)
目の前が明るくなる
俺は肺が苦しくなって思いっきり産声をあげた
「にゃ~」
(…え?)
何かザラザラしたものが俺の体をなめている(これって…これって)
「にゃぁぁぁああああああああ(猫ぉぉぉおおおおおおおお)!!!!」
俺は今小さい脳味噌をフル稼働している
いや、馬鹿とかそういう訳じゃなくてほんとに小さいんだ
…とりあえず体なめるの止めてくれ
「にゃっにゃぁ(くっくすぐったいよ)!」
俺はあの訳の分からんカミとか言う奴に転生させられた
そのとき俺は確かにイケメンになりたいって言ったはずだ…なんで猫
(「目は蒼で!髪は薄い茶色で猫っ毛…」)
嫌な単語が出てきたな
よしもういちど回想しよう
(「そうだな…目は蒼で!髪は薄い茶色で猫っ毛…」)
猫っ毛…猫…ネコ…cat
「にゃぁああ!!(…これだぁぁあああああ!!)」
絶対これだあいつ馬鹿だよ!何が神だよ!
どうせ地震がいつ起こるか聞いたって
「ワッカンナイネェ」
とかそういうこと言う程度の神だよあいつ!ふっざけんなよ何で猫にされなきゃいけねーんだよ!!俺のハーレムライフの夢がぁぁああ!…何の漫画か知らんけど。
ザラザラザラザラザラザラ
「…にゃむにゃむにゃ(いつまでなめんだよ)!」
というかいつの間にか目が開くようになっていた
母親…母猫は青い目をしていた
俺の体は薄い茶色、ところどころに黒い斑点がある
先ほどから聞こえる己の声はまだ声帯がしっかりしてないのか低くはない
高身長イケメン…かは分からない
だがこれで確定しただろう
俺は猫として転生させられた
最悪だ
「…にゃぁぁ(死にてぇ)」
俺はぽつりとつぶやいた