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[38361] 甘えろ! クー子さん【這いよれ! ニャル子さん】
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2015/10/11 11:23
 今までほとんどチラ裏のみで活動していましたので、はじめましての方ははじめまして、霜ーヌ。氷室です。

 本作品の注意です。
 本作は這いよれ! ニャル子さんの二次創作ですが、何をどう足掻いても原作と時系列が矛盾してしまいます。
 また携帯からの投稿なので、一話がかなり短くなってしまい、変なところで切れてしまう可能性が高いです。ご了承ください。

 あと。
 真クーっていいよね、スティンガー君?


2013年8月29日
2話投稿、ニャル子喋りすぎ。

9月1日
3話投稿、ニャル子のパワーは世界一ィィイイイッ!

9月7日
4話投稿、あとちょくちょく修正。

9月14日
5話投稿。日勤中は、執筆時間が確保しにくい。

9月22日
6話投稿、アト子、ヘル・ストリンガーとか使わないかな? あとタイトル間違えてました。這い寄れ、じゃなくて這いよれ、でした。

10月6日
7話投稿。時間が掛かった、しかしプロットは進んでいない。わけがわからないよ。

10月13日
8話投稿。アト子さんようやく退場。好きなんだけど動かし辛いな。ニャル子ー、早く帰ってきてくれー。

10月29日
9話投稿。どうしてこんなにかかった。言え! なんでだ。

12月8日
10話投稿。もう渇いた笑いしか出ない。

12月15日
11話投稿。今回は作風がかなり変わりました。

2014年1月2日
12話投稿。次でいつもの作風に戻る……はず。

1月3日
おまけ投稿開始。今回は10話までやる予定。

1月5日
おまけ2投稿。スパロボとか解説すると長くなっていけねえや。
おまけ3投稿。

1月11日
おまけ4投稿。7話が納まらなかっただと!?

3月9日
おまけ567、13話投稿。次は早くやれるといいな。

4月6日
14話投稿。やっぱりキャラが増えると長くなる。

4月13日
15話投稿。クー音さん、出番は1話だけのつもりだったのに、前後編て。

10月13日
16話投稿。ジャスト半年って……渇いた笑いしか出ない。

11月24日
追記投稿。今回は説明話のため短め。

12月7日
17話投稿。オカエリナサト。

2015年2月15日
18話投稿。次から戦闘。戦闘描写って、実は初めて。

7月12日
19話投稿。使わせたいと心で思ったなら、それは既に使っている。

10月10日
20話投稿。次こそバトル。



[38361] 1・八坂家の食卓に異常あり
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:62e603df
Date: 2013/09/07 14:54
「なんですとぉ!」
 ニャルラトホテプの叫びが八坂家のリビングに響いたのは、連休初日の朝食を食べ始めてすぐのことだった。
 母親、八坂頼子(17)への出来る嫁アピールのため、キッチンに突撃しようとした混沌を撃退し(太陽から獲ってきたフェニックスのお肉、だとかいうものが懐から転がった)、ハムエッグに自分の卵を使用させようと暗躍するシャンタッ君をハスターに押し付け、結局サラダを盛り付けている母親の横で、メインのフライパンを担当することになった真尋である。
 調理中に、いかほどのムスコニウムが吸収されたことか。
 それはさておき。居候を含め八坂家の住人全員が席に着き、両手を合わせたタイミングでニャルラトホテプの通信端末、iaiaPhoneが全ての涙を宝石に変えそうな着信音を鳴らし、そして冒頭に戻る。始めから、説明など、されていなかったッ!
「ちょっと待ってくださいよ! そんな急に言われても困りますよ」
 ニャルラトホテプが立ち上がって通話、というかもはや叫んでいる。耳栓が無ければ身体が竦んでしまいそうな大声だが、そこは慣れたもの。母親は落ち着いて、ハスターとシャンタッ君はじゃれつきながら、クトゥグアはニャルラトホテプの皿に手を伸ばして、それぞれ普通に食事をしている。
 真尋も例外ではなく、これから厄介事に巻き込まれる可能性を考え、活動(主に脳みそアッパー系な這い寄る混沌へのツッコミ)のためのエネルギーの確保に勤しんでいる。慣れとは偉大である、人は成長するのだ、してみせる。
「あぁ、ハイハイ。分かりましたよ、それじゃ食事中なんで」
 電話を切り、やれやれと溜め息を吐いて席に着いたニャルラトホテプは、頭を軽く振る。綺麗な銀髪がそれに一瞬遅れて揺れる様はまるで深窓の姫君にも見えるが、その性根が真逆であることを、真尋は一ヶ月にも満たない付き合いでよく理解している。
「惑星保護機構からか?」
 サラダを小皿によそいながら、それとなく聞いてみる。
 そもそもニャルラトホテプの知り合いという奴らは限られている、とある蜘蛛神の寝取り達人(NTRマイスター)以外、全員八坂家にいる状態なくらい友達がいないっぽい。ならば、上司、もしくは同僚からの電話と予測したのだが。
「今さらりと鉄バット持った混沌を無視……いえ、彼女も別の世界線でしたね。そして、残念ながらハズレです。なんですか真尋さん? 私の事が気になるんですか、んもうそれならそうと早く言っていただければ私の隅々までお見せしましたのにぃ。ささ、部屋に行きましょう、私の部屋にしますか? それとも初めてはやっぱり男の子の部屋ですかね? あ、いえいえいきなりそんなにがっつくとははしたないですね。ご安心を、私は慎みにおいても頂点に立つ這い寄る混沌です! まずはお風呂場でお互いの身体を洗いっ子するのが十全ですねお友達、英語で言うとディアフレンド!」
 百面相の様に表情と話題を変えるニャルラトホテプに対し、真尋はただ食事に使っていたフォークを皿に置いて、懐から新たなフォークを取り出す。それだけだ、それで過程は無く結果だけが残る。
「いやぁ、サラダ美味しいですね。常に一日の基本である朝を支えて来たのは、一握りの野菜であると、ノーデンスも言ってましたしね」
 知らねーよ、と思いながら更に表情を変化させるニャルラトホテプを見て、フォークを懐に戻す。強大な兵器は使用するのではなく、ちらつかせて威圧に利用するのが外交だと、真尋は言葉ではなく心で理解している。
(しかし、本当に百面相だな。いや千面相か、ニャルラトホテプだけに)
「……少年、思ったほど上手いことは言えてない」
「だから、心を読むなよ」
 相変わらず、何故か真尋の心中をギャグ限定で察知した、紅いツインテールは無表情ながらもどこかドヤ顔で言った。口の周りを黄色に染めながら。
「ほら、黄身が付いてるぞ。こっち向け」
「……ん」
 手近にあったナプキンで、クトゥグアの口を拭ってやる。
 シャワーを終えた犬を拭いてやる気分だ。
「く、クー子。真尋さんにお口拭き拭きしてもらうために、わざと汚しておくとは、あざといな、さすがクトゥグアあざとい。真尋さん、事後でしたらいくらでも拭き拭きできますよ、私の下のおくわがたっ! かまきりっ! ばったっ!」
 風切り音に同期するように止まったニャルラトホテプの言葉に、首を傾げてそちらを見ると、左右のモミアゲとアホ毛――邪神レーダーにフォークが絡まっていた。投げたのは真尋ではない。
 ならば。
「ニャル子さん、今は食事中よ?」
 予想通り、邪神ハンターの腕前でこの八坂家を買った母親だった。顔こそ笑っているが、言外にこう言っている。飯時に下ネタはやめろと。
 いや、恐ろしい事に目も笑っている。何が恐ろしいって、談笑中の相手をフォークで貫きかねない凄みがあるのだ。コワイ!
「は、はい。ご飯、美味しい、です、とて……って、なんじゃこりゃあ!」
「今度はなんだ?」
 どうやら、この期に及んでも静かにするつもりはないらしい。自らの感情が処理できない奴はゴミだと教えてやるべきだろうか?
「わ、私の手付かずのハムエッグが、何故か真っ二つに!」
 ニャルラトホテプが指差すそこには、綺麗に黄身も白身もハムも半分無くなっているハムエッグの姿があった。とろりと流れだしている黄身は、真尋が拘って半熟にした証だ。
「……ニャル子、わたしのが半分残ってるよ」
「ああ、ありが……って、これあんたの仕業でしょう? さっき私のお皿の上でなんかやってたでしょうが!」
 差し出された皿に、珍しくクトゥグアに礼を言おうとしたが、犯人の特定が同時に済んだため、ギロッと睨み付ける行動に移すニャルラトホテプであった。
 エスカレートしたら止めればいいかと、真尋は食事を再開した。とりあえず、自信作であるハムエッグに取り掛かることにする。
「何故こんな暴挙を! あんたは、ハムエッグの黄身も、愛した男も半分に切り分けるんですか!?」
「……ニャル子、少年は切り分けられない」
「うごっふ!」
 不意討ち気味の発言に、うっかり黄身で盛大に口を汚してしまった。なんでこの生きている炎は、ニャルラトホテプに対して好意を明け透けにしているのに、真尋に対しても事も無げにこんな事を言うのか。
 言った張本人が、相変わらずの無表情な事に何か釈然としないまま、ナプキンで口を拭う。
「あ! ……ぅう」
 その行為の意味に気付いた真尋の苦悩を余所に、二柱の会話は続く。続くったら続く。
「……ニャル子、誤解しないでほしい。わたしは別にニャル子からハムエッグを奪いたかったわけじゃない」
「誤解も六階も、主八界も三千世界もありませんよ。現にあんたは私からハムエッグを切り取って行ったじゃありませんか」
「……でも、わたしの分の半分はまだ食べてない。少年のハムエッグは絶品、それはニャル子も認める所のはず」
「ええ、それはまあ」
「うん、まひろくんのハムエッグ、おいしいよ。ね? シャンタッ君」
 みー、みー。
 今まで背景に徹していたハスターとシャンタッ君も同意する。本来なら嬉しい話なのだが、ちょっと今真尋は混乱している。
「……そう、少年の料理の腕は確か。でもハムエッグの特性上、焼き加減や油の染み込み、つまり味に微妙な差が出るのは当然の事」
「いや、まあ私達の邪神の舌なら、その微妙な差も分かりますがね。あんた、料理しないじゃないですか」
 その言葉に、露骨に肩をすくめるクトゥグア。
「……別に料理が出来なくても、料理の味は分かる。絵が描けなくても、漫画の良し悪しは分かるように。それが理解出来ないニャル子じゃないでしょう?」
「うぐぅ」
 本来、自分のフィールドであるはずの舌戦で押されるニャルラトホテプ。どうも今日のこいつは……いやハムエッグ以前は普段通りだった、急に精彩を欠いたように見えるのも、何か裏があるのだろう。例えば、今さら伏線を張るのを思い出した小説書きみたいに。
「……だから、ニャル子にも二通りの味を楽しんでほしい」
 そう言って、ニャルラトホテプの皿に自分のハムエッグを乗せる。断面だけなら元からそういう形であったみたいに、ぴったりだった。
「あーうー、分かりましたよ、そこまで言うなら食べますよ、真尋さんが作ったハムエッグですしね」
 このまま続ける愚を悟ったか、それともクトゥグアの言葉に一定の正当性を感じたのか、ニャルラトホテプはハーフ&ハーフのハムエッグが乗った皿を、自分の前に置く。
 真尋としても自分の作った物を評価してもらえるのは喜ばしい。ようやく収まった動悸に安堵して、この騒動の発端であるクトゥグアに目をやると。
「……はぁ、ん、ふぅ。わたしとニャル子の卵が、くちゅくちゅって混ざりあってる。あぁ、これだけで妊娠しちゃうぅ」
「変態だーー!」
 そして台無しだーー!
「あ、あんたハムエッグに薬とか仕込んでねえでしょうね!」
 クトゥグアは酷い有様だった。
 頬を赤らめ、目を潤ませて、口からはMADなどで便利に使えそうな声を艶やかに吐き出して、身体は小刻みに震えている。真尋からはテーブルの下がどうなってるか見えないが、見えなくて良かったと本気で思う。見えていたら、恐怖のサインを発して紙の中に取り込まれてしまいそうだ。
「……人を愛するのに、薬を使うなんて邪道」
「信用ならないんですよ、あんたみたいな肉欲優先邪神が何気なく差し出してきた物なんて!」
 お前が言うな、と言いたい真尋である。例えばいつかの温泉の時とか。
「……ニャル子、わたしはニャル子の子供を産む事だけを目的としていない。重要なのは、恋人繋ぎをしながら教会に向かう意志だと思ってる、ここに教会を建てよう? あ、少年おかわり」
 ここに教会を建てる時点でかなり即物的だと思うのだが、そこにつっこんでいたら朝食が終わらないので、無言で茶碗を受け取ってやる。
「っ!」
「……少年、どうしたの?」
「なんでもない」
 ただクトゥグアの指が茶碗と一緒に触れてしまっただけだ。それだけに過ぎないのだが、頬がフォーマルハウトの様に熱い、クトゥグアだけに。
「そ、そうだニャル子!」
「んぐんぐ、何ですか真尋さん? その謎の気恥ずかしさを隠すために無理に話題を変えようという感じの声色は」
 そこまで分かっているなら、何も言わずに話題に乗ってほしいのだが、きっと無駄だろう。こいつは、空気など読むな、という格言を悪い方向で実行し続ける事に定評のある這い寄る混沌なのだから。
「いや、さっきの電話って結局なんだったんだ? 僕達、っていうかクー子やハス太は関係無いのか?」
 先ほど外れだと言っていたので、惑星保護機構に関係無いのは分かったが、それ以外でも厄介事の可能性はある。むしろその可能性以外が見当たらない。ならばこいつは、なんのかんのと理由を付けて真尋を巻き込むに決まっているのだ。ならば最初から覚悟しておきたい、どこぞの神父も覚悟は幸福だと言っていたし。
「ああ、いえあれは私の私的な用件なんで。っていうかぶっちゃけ……」
 ニヤリと笑って、急に言葉を切る。
 特に理由があるわけでもなく、単にわざとらしい溜めの演出だろう。
 そして実際そうだった。


「私の両親からなんですけどね」



[38361] 2・食事が普通に終わらないのは、どう考えてもお前らが悪い
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:b2edb3bc
Date: 2014/01/05 10:23
「りょう……しん?」
 今ニャルラトホテプはなんと言った? りょうしん……良心? いや、こいつにそんなものがほとんど無い事は分かり切っている。
「それじゃあ、まさか」
 『両親』と言ったのか? 両方そろった親と書いて両親。別に上手くはないが。
「ニャル子……」
「はい、どうしたので? そんな空気爆弾に追い詰められたアトムみたいな髪をした高校生みたいな顔をして」
 ニャルラトホテプは平然そのもの、汗もかいていない、呼吸も乱れていない。つまり。
 あと関係無いが、何故か余市の顔が脳裏に浮かんだ。
「お前、木の股とか細胞分裂とかで産まれたんじゃなかったのか? 親とか普通にいたのか!」
「酷すぎる! っていうか、親の話題とか出したことありますよね? それともあれは別の世界線でしたっけ? 少なくとも、私の不肖の兄には会ってますよね?」
 ナイトゴーントも月まで吹っ飛ぶ勢いで、掴み掛かって来た。ぶっちゃけ冗談のつもりだった、七割くらい。正体が這い寄る混沌なので、完全には疑念は晴れないが。
「普通に恋愛結婚ですよ、うちの両親。宇宙メリッサ攻防戦で敵として出会ったんですが、互いのシャンタク鳥が不時着してしまい、旧き者も凍える極寒の雪山でにっちもさっちもミッチーも行かなくなったんで、仕方なく協力して暖を取ったのが馴れ初めだそうです」
 語るうちに、どんどん熱が上がるニャルラトホテプ。そもそも宇宙メリッサ攻防戦ってなんなのか分からないが、どうせこの場限りのネタだろう。
「雪山で遭難かぁ、懐かしいなぁ。私とあの人が結婚を決めたのもそれが原因だったのよ」
 と、ニャルラトホテプの本当は無かったかもしれない胡散臭い話に割り込んで来たのは、意外にも母親の頼子だった。
「おお、真尋さんのお母様もですか、これはなんたる偶然」
「本当ね。思い出すわ、その頃は未熟でフォークだけじゃ獲物を仕留められないから、予備で持っていっていた火属性の大剣と太刀で雪を溶かして、温泉を作ったのよね」
「え、本当ですか? うちの両親も、宇宙CQC大空を駆ける死んだ魚の目をしたサイファーソードで温泉を作ったそうですよ」
 と、相変わらず容易に話は脱線して、雪山話に花が咲いている。真尋としては、両親の恋愛話とか気恥ずかしくって仕方ない。
「それでですね、誕生日を逆算すると、どう考えても私が仕込まれたのはこの時なんですよね」
「ぐっふぅ!」
 食後のお茶が、鼻の方まで行ってしまった。いきなり何を言い出すのか、この脳みそ混沌燃料(有害)は。そしてこの話が創作であることが確定した、お前第一子じゃないだろ。
「うん、その……ね? ヒロ君も多分この時仕込……」
「か、母さん!」
 真尋は叫んだ、声の限り叫んだ。その続きは言わせない、自分の心まで放してしまいそうだから。
「今、食事中だから!」
 いや、食事中以外でも言わせるわけにはいかないが。
「え、あ、うん、そうよね。私ってば、うっかりさん」
 酒でも入っていたかのようだったテンションがどうにか収まったようだ。頬を少し染め、コホンと咳払いをする母親は十七歳という自称に違わず、可愛いと真尋は思う。
 思えば真尋の初恋は母親だった。思いっきり顔が似ているので、今もそうだったら水面に映った自分の顔に告白しかねないが。
「ええと……そういえばニャル子さん、お兄さんいたのね」
「な、何を言ってイルルヤンカシュ、もといいるのです、真尋さんのお母様!?」
 変わった話題の矛先が、ニャルラトホテプのもっとも触れて欲しくないところを貫く、いや母親の事だから話題のフォークか。
「え? さっき不肖の兄って言ってたじゃない。話し振りからするとヒロ君は会ってるのよね? どんな人だった?」
「あー」
 ニャルラトホテプの兄、ニャル夫。確かに真尋は会った事がある……あるのだが。
「あ……? あ……?」
 ニャルラトホテプの人生最大の汚点、というか妹へのコンプレックスから幻夢境の神々を皆殺しにしてしまった、ぶっちゃけ犯罪者。身内にそんなものがいる事が知られてほしくない妹から直々に、無関係な野良ニャルラトホテプとして処理されてしまった、ある意味可哀想な奴だ。
 まあ、地球人の精神を無防備な丸裸にした事は万死に値するので庇うつもりは無いし、ニャルラトホテプがどんな暴走をするか分からないので真尋も触れたくない話題なのだが。
 とりあえず助け船を出してやるかと、真尋が頭を捻ろうとした瞬間。
「い、嫌ですねー、兄では無くスーパー眷属大戦UXの主人公のニックネームのことですよ!」
「え」
 なんか宣いはじめやがった。
 そのままトンプソン機関銃の様に次々と、ないことないことを母親に吹き込んでいく。
「いやぁ、当初は普通の真面目君だと思ったんですけど、三部でいきなり学園仕舞人みたいな発言するようになっちゃいましてね。別人に入れ替わっただとか、催眠術だとかチャチなもんじゃ断じてありそうな変わりっぷりでしたね!」
「あの、話の流れからそうはならないと思うんだけど?」
「いえいえいえいあいあいえいえ、気のせいですよ真尋さんのお母様。私に兄なんていません。ね? クー子! ハスター君!」
「ふぇ? う、うん。ニャル子ちゃんにおにいちゃんがいるって話は聞いたことないよ」
 突然振られたハスターだったが、ニャルラトホテプの期待に充分に応える返答をした。幼なじみの証言なら母親も信じざるを得ないだろう。
 しかしこいつは、一体いくつの頃から兄を封印していたのだろう?
「ねね? ハスター君もそう言ってるじゃないですか、真実から出る誠の証言は決して否定されないんですよ。ほらクー子! あんたも私に兄なんていないって証言しなさいよ!」
 勢いのままさらにクトゥグアにまで証言を求めるニャルラトホテプ。真実ってなんだっけ?
「ん、クー子?」
 クトゥグアは茶碗を持ったまま、無言を貫いている。珍しいものだ、想い人に呼ばれれば空と地と海の狭間にだって飛んで行きそうな性戦士が。
「ちょっと、シカト決めてくれるんじゃねえですよ!」
 ニャルラトホテプの怒声を受けても微動だにしない。
「クー子?」
 流石に真尋は心配になる。真尋の脳内に浮かんだのはSF小説等でよくある、宇宙人にとって未知の病原体に感染してしまい免疫も無いから死に至る、というあれだ。
 あの図体はデカいが、所々抜けてる惑星保護機構のことだ、予防接種が完璧でなかった、という事も充分あり得る。
「おい、クー子しっかりしろ!」
 出会った当初は、さっさと出ていけと邪険に扱っていたが、ほんの少し前、過去に渡ってまで取り戻した『日常』。ニャルラトホテプも、シャンタッ君も、ハスターも、ルーヒーも、もちろんクトゥグアだってそこに入っている。
「クー子! 返事をしろクー子!」
 熱は、ダメだクトゥグア星人だけに平熱が高過ぎて手を当てたくらいでは判断が出来ない。
「クー……子」
 何が出来る? 自分に。クトゥグアの熱が移ったように、脳がまともな思考をしてくれない。
「クー……」
「……zzz」
「は?」
 よく耳を澄ますと、クトゥグアの口からいやに規則正しい寝息みたいなものが聞こえる。というかこれは。
「えい」
 鼻を摘んでやる。
「……ふ、んん、くぅぅ、はっ!」
 ツインテールがビクリと動き、紅い瞳が開き、そのまま鼻を摘んでいる真尋を見つめる。
「……おはようボンジュール、少年は何をしているの? 夜這い?」
 脳天に軽くチョップをしてやる、寝落ちをしても茶碗を放さないところは評価すべきだろうか?
「……くすん、少年のS」
「まったく、心配させるなよ、本当に」
 減らず口に軽くでこぴんを追加して、自分の席に戻る真尋。
「うふふ、ふーんヒロ君ってそうなんだ」
 何故か母親から、慈母と下世話が混ざった表情で見つめられ、恥ずかしくなった真尋は話題を強引に変えたい。もしくは貝になりたい、川底に落ちて考えるのをやめそうだが。
「で、で! どうしたんだよクー子、食事中に寝るなんて珍しいな」
 小柄ながらに食欲旺盛なクトゥグアは、本当によく食べる。その割りには体型がまったく変わらないが。本文詐欺と名高いニャルラトホテプと比べても、コンパクトだ。色々と。
 そんなクトゥグアが、食事よりも睡眠を優先するなどよっぽどの事だ。
「……ん、夜遅くまでカレルレンで色々読んでたから」
「カレルレン?」
 また知らない単語が出てきた。いい加減この宇宙人達は、相手に伝える努力をするべきではないか、と真尋は常々思っている。もしくは、誰か解説役が欲しい、ロンドンの貧民街辺りでスカウト出来ないだろうか。
「クー子、あんたまだ幼年に居座ってたんですか? あんたも物好きですね」
「とりあえずニャル子、説明してくれ三行で」
「ア、ハイ」
 さて、今回のお約束は。
「幼年はカレルレンの通称で。
 カレルレンは宇宙二次創作投稿サイトでして。
 えー、あー……真尋さん、私にもおかわり戴けますか?」
「思い付かなかったのか!? 珍しく三行で終わったけど、二行しか思い付かなかったから、余分な一行を追加しただけか!」
 ほとんど引ったくる形で、茶碗を奪い白飯をよそってやる。
「で、宇宙二次創作……いやニュアンスで分かるけど、相変わらずなんでも宇宙を付ければいいと思ってんな」
「そんな事私に言われても困るんですがね。まぁ、知っての通り娯楽を作る事に関して地球人の右に出る種族はいません。が、続きが気になるとか、この展開が気に入らなかった、なんかの理由で自分で書きたくなるのが人情じゃないですか?」
「んー、まあ分からないでも無い……かな? 僕はやったことはないけど」
「駄菓子菓子、もといだがしかし、もとより娯楽製作に適性が無い上に、素人が作った作品。玉石混淆どころか、浜の真砂が尽きても尽きない悪魔の種の中から砂金を探すに等しい状態でして。しかも、クリエイター気取りのいらんプライドのおかげで、いやに閉鎖的かつ高圧的な場所になっちゃって、徐々に奇妙な廃れ方しちゃったんですよね」
 なるほど分からん。もとより二次創作をあまり嗜まない真尋には、よく分からない世界だ。
「……最近はマナーの悪いお客さんを追い出して、徐々に奇妙な復権を果たしつつあるよ。それに未熟な作品が多くても、作品に掛ける情熱が感じられればそれで満足。プロには創れない作品も多いし、それでうっかり批判や誤字脱字の指摘やらをしていたら、パソコンと朝チュンしてた」
 そう語るクトゥグアは、無表情なのは変わらないがどこか誇らしげだった。
「そっか、でも身体には気を付けろよ? お前が倒れたら皆心配するんだからな」
「……少年も?」
「ま、まあな」
「……ん、これから気を付ける。心配させてごめんなさい」
 目を伏せて謝罪をするクトゥグアを見て、真尋の胸に暖かい物が芽生えたのを感じた。
「あれ、おかしいですね? なんか真尋さんの好感度がクー子の方に振り切るぜっ! してません?」
 何故か絶望までのタイムを測っているかの様な表情をしているニャルラトホテプに、真尋は忘れかけていた疑問を投げ付ける。
 本当に……本当に、なんて長い廻り道。喋りすぎニャル子。それしか言葉が見付からない。
「なぁニャル子、で両親からの電話はなんだったんだ?」
「え、今さらその話題に移るので? てっきり終盤のくだらないオチの伏線になるかと思ってたんですが。あーあのですね……」
 そう言って再び言葉を溜めるニャルラトホテプ。天丼は三回までを忠実にやるつもりか、この這い寄る芸人は。



「せっかくの連休なんで帰省しろ、って言われただけですよ?」



[38361] 3・ 朝・食・終・了
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:a69fb242
Date: 2013/09/01 18:34
 八坂真尋は、まだ家を出て生活したことがない。
 まだ高校生という未熟な年齢であるし、何より母親がムスコニウムなる超時空謎栄養素を求めるので、まだそうする事を許してはもらえないだろうし、そうするつもりもない。
 両親に依存しているつもりはないが、いずれ出ていかなければならないなら、まだ家族と一緒にいたいと思う真尋である。
 なので、帰省というのがどんなものなのか知識はあっても実感としては分からない。
「帰省か」
「はい帰省です。寄生、英語で言うとパラサイトブラッドではなく帰省です」
 だからニャルラトホテプが久々に実家に帰るのがどんな気分なのか、真尋は少し興味がある。地球に来る以前、こいつが実家暮らしなのか一人暮らしだったのか聞いた事はないが、娘がいきなり辺境銀河の片田舎に配属され一ヶ月も経てば、会いたくなるのが人情だろう。
 這い寄る混沌も人の親というわけだ……いや、その理屈はおかしい。
「で、どのくらいに出発するんだ?」
 こいつらの宇宙渡航技術がいかほどの物かは知らないが、シャンタッ君では宇宙に出られないし、瞬間移動的なサムシングはこいつらの恩師の固有技能らしいし。まさか実家に帰るのにおねがいティーチャーするわけもないだろう。だったら、なんらかの公的機関を使うのだろうから、スケジュールは結構キツいのではないか。
 だが、件のニャルラトホテプは。
「え? 出発ですか? なんの……ああ、デートのお誘いですか? まさか真尋さんからお誘いいただけるなんて、立てる端から折られていくフラグに、吹雪の中でも目立つように血を付けたり、ビームにしてみたり、やっと……やっとニャル子の努力が実ったんですね! いやぁ、真尋さんは強敵でしたね」
「は? 何言ってんだよお前、実家に帰るんだろ?」
「一体、いつ私がそんな事を言いました?」
 わざとらしい上目遣いで見つめてくる這い寄る混沌。いつの間にかボタンを二つ外していて、白い肌と深いのかよく分からない可変式谷間を強調している。あざといな、アザトースの部下だけに。
「……少年、あまり」
「分かってるから、心を読むな! で、どういう事だ? さっき分かりました。とか言ってただろ?」
 周りを見回すが、全員からNOと言えない日本人的に肯定が帰ってくる、きっと黄衣の王も「肯定だ」と言ってくれるだろう。
「うー、にゃー……だって実家まで乗り換え面倒なんですもん」
 アホ毛も力なく垂れ下がるニャルラトホテプ。流石にそんな理由で両親に嘘を吐いたのはいただけない。誠意をもってネゴシエーションに当たろうと思った瞬間、何かおぞましい言葉が漏れたのを真尋の耳は捕えてしまった。
「それにうちの両親って、テンションが高くって疲れるんですよねぇ。別に嫌いってわけじゃないんですけど」
 テンションが高くって疲れる? この這いテンションニャルラトホテプがそう言ったのか?
「なあ、ニャル子……お前の両親ってどんな人達なんだ?」
「えーと、そうですね……なんか兄妹みたいにそっくりでして。確か昔親戚から、家族三人共そっくり、でもニャル子ちゃんは結構おとなしい。って言われました……まあなんていうか私のアッパーバージョンと言いますか、私を究極の凄まじき混沌とするなら、両親はライジングな究極ですね」
 真尋は頬が引きつっているのを感じる、さらに汗が吹き出る、どす黒い気分にまでなりそうだ。
「ですんで、私としましては帰省などしないで、真尋さんときゃっきゃうふふして過ごしたいんですよねぇ」
 ニャルラトホテプは茶を啜り、肩の荷を下ろした顔をしている。
「なあニャル子、お前帰らないとまずいんじゃないか?」
 もうこれで連休中は安心という戯けた幻想は。
「え? どういう事ですか」
「だってお前の両親がお前そっくりなら……」
 真尋の一言がぶち壊す。

「地球に直接来そうじゃないか?」

「あー、え?」
「這い寄る混沌らしいメンタルで、恐らくお前が一番やってほしくない、母さんとの情報交換とかしかねないと思うんだが? 言っとくがそこまでやったら、僕は止められないからな」
 急に娘の居候先にやってきて場を混乱させる。ニャル夫の事を筆頭に知られたくない情報が赤裸々に白日の元に公開する。もし立場が違えば、ニャルラトホテプなら嬉々としてやるだろう。
 帰省したくないが、帰らないともっとまずい事態になる。思い付く限り「一番怖い」マフィアを敵に回した現状、それを理解したニャルラトホテプは。
「詰んだああああああああああああああ」
 絶叫した。
「くっ……う、うぅ。確かにうちの両親ならやります、やらない理由が無い! ならば仕方ありません、帰省するしか無い! ですんで真尋さん! 私の実……」
「ノゥ」
 生憎だが、そう来るのは読んでいた。ニャルラトホテプの勢いが五百キロで突っ込んで来る重トラックでも、二キロも前から察知出来ていれば避けるのは容易い。
「そんな、イエスと言ってください!」
「絶対にノゥ、悪いけど宇宙に出る事になるお前の頼みなんて、自動的にノゥとしか言わない事にしてるんだ」
「やはり真尋さんの青春ラブコメは間違っていますよ! 普通ヒロインの頼みをノータイムで断る選択肢なんて選んだらバッドエンド一直線じゃないですか。だったら、私と一緒に実家に来ないでください」
「イエス」
「馬鹿な、ノゥとしか言わないはず! うう、せっかく両親に、自慢の婿の誕生を伝えるチャンスでしたのに」
「……ニャル子、わたし一緒に行きたい。ご両親に、ニャル子を焦熱の儀式に誘って炎帝の抱擁みたいに愛した者として挨拶したい」
「はぁ? 馬鹿ですかあんた、クトゥグア星人をニャルラトホテプの母星に連れて行けますか。つかなんです? そんな一方的な久遠の絆、言葉を降魔の剣と化し断たんと欲しますよ!」
 相も変わらず騒がしい連中だと真尋はため息を吐くが、クトゥグアを案じた様に聞こえてちょっと頬が緩む。不倶戴天の仇敵な種族同士だが、こいつら個人は仲のいい喧嘩友達と感じられる。
「はいはい、喧嘩しないの。乗り換え面倒なんでしょう? だったらニャル子さん早く出ないと、ね?」
「ああ、はい真尋さんのお母様。あ、そうだハスター君、ビヤーキー貸してくれませんか。あれならひとっ飛びで到着するんですが」
 ビヤーキー。宇宙空間ならば亜光速で飛行出来るハスターの眷属……という名のサポートメカだ。きっと人型に変形し、劇場版ではハスターのサポートをするも巨大な敵に破壊されるに違いない。
「ご、ごめんニャル子ちゃん。あんまり宇宙にいくとおもってなかったから、いまコスモじゃないんだ」
「ああ、喚装に時間掛かりますからねあれ。せめて戦艦に搭載したら喚装コマンドが出るくらいしてほしいもんです。で、今は何の形態なんですか? 地上踏破用のストライカーです? それともまさかの決戦用のライトニングですか?」
「え? ダイバーだけど」
 何故こいつは時間があまり無いと言っているのに雑談に花が咲くのか。あと戦艦ってなんだ、これ以上地球に厄介な物を持ち込んでほしくはないんだが。
「はあ! ダイバー? なんだってわざわざ据え置きのスーパー眷属大戦OGで削除された微妙な形態に」
「だ、だって……水のなかにはいれたら、ふたりきりになれるかな。って」
 金髪の少年は顔をゆでダコみたいに染めて、人差し指をツンツンとしている。ハスターだけ……やめておこう。
「そ、そういえばニャル子ちゃんって地球に宇宙船で来たんじゃなかったっけ? なんかレトロな……」
「ハスター君、原作の面白さを再確認するため、とかリアルにSAN値が下がる気分を味わう。とか無かったんですよ」
 ニャルラトホテプはいつの間にか幼なじみの肩を掴んで、笑顔で冬のナマズみたいに黙らせようとしていた。
「ふぅ、さてではニャル子は、ちょっと帰省の準備をしてきます……と、真尋さんのお母様」
 ハスターを解放したと思ったら、今度は母親に話し掛ける。こいつは話を進めるつもりは無いのだろうか?
「なにかしらニャル子さん?」
「シャンタッ君はどうしましょうか? 確か今日、お母様は『獲物を屠る《狩人》の会』ドイツ語で言うと、イェェェェエエーガーァッ! に出席して、ハンター仲間に新たなオトモ候補としてシャンタッ君を紹介したいと仰っていましたよね?」
 確かにそんな事を、何日か前に言っていた。血に餓えた(偏見)ハンターの前に、この珍妙なマスコットを連れて行って大丈夫なのか、と一抹の不安を感じる真尋である。
「ああ、そうね。でもシャンタッ君も、久々にお家に帰りたいでしょう?」
 みーみー、みみー。
「なんと、シャンタッ君! いつもよくして貰ってるお礼にお母様にその身を託すそうです。関羽もびっくりの義の将に成長しましたね」
「あら、そうなのシャンタッ君? だったらニャル子さん、この子は責任をもって私が預かるわね」
 みー、みー。
「よーし、いい子にしてるんですよシャンタッ君! お土産に、少尉はいらない5thルナニンジンを買ってきてあげますからね」
 みーー!
 なんだかよくわからない宇宙製野菜に喜ぶシャンタッ君、まだ頬が赤いハスター、自室に向かうニャルラトホテプを見て、以前よりも間合いが近くなったように思う。これが家族になるという事か。
「家族かぁ」
「……どうしたの? 少年」
 結局四回おかわりしたクトゥグアが、こちらを向く。
「いや、なんでもないよクー子」
 なんでこいつとの間合いだけ曖昧なのか疑問に思いながら、頬に付いたご飯つぶを取ってやる。
 目と目が合う瞬間熱くなったのは、クトゥグアの熱気が漏れただけだろう、きっと。

   ***

 そこからは早かった。まるで残り文字数が少なくなって、慌てて巻きに入ったみたいに早かった。
「では、行ってまいりますが……ハスター君、あなたを信頼してますよ? もしクー子が真尋さんに破廉恥な真似をしようとしたら、いいんちょとして歯車的小宇宙で止めるんですよ? ハッピー、うれピー、よろピクね? ですよ」
「ふぇえ!」
 なんで玄関で全員が集まっている状況で、そんな前提からしてあり得ない事を言うのか。
「ほら、時間が無いんだろ。ハス太を困らせてないで、さっさと行けじゃあな」
 頭を押して、ハスターから離してやる。しかし幼なじみの男女なのに色気がまるで無いなこいつら。
「ちょっと真尋さん、じゃあねなんて言わないでください、またねって言って、せめてさよならの時くらい微笑んでくださいよぉ」
「はぁ、別に遅くても明後日には帰って来るんだろ? そん時には、おかえりって言ってやるから」
 既に家族の間合いになってしまったのだ、特に気負いも無く言ったのだが、何故か目元を手で隠してしまった。
「おい、ニャル子?」
「五秒待ってください、すぐ終わります!」
 宣言通り、五秒で背中を向けて目を擦ったニャルラトホテプは、ニカッと笑って敬礼して。
「では、ニャル子行ってきます。ニコニコ這い寄って帰って来ますんで、ちゃんとおかえりって言ってくださいね。約束ですよ?」
 そう言って駆けて行ってしまった。
「うふふ、ヒロ君も罪作りね」
「ちょっと、母さん!」
「それじゃあ私達も行くわね。さあシャンタッ君急ぐわよ、最優先事項よ」
 みー!
 さらに、母親とシャンタッ君も逃げる様に、終始ニヤニヤしながら行ってしまう。
「なんだったんだ」
 ため息一つ。まだ昼前なのに、既に何回も吐いてる気がする。
「まひろくん、そ、そのねちょっといいかな?」
「なんだよハス太?」
「えとね、ぼく今日およばれしてて、その」
 また赤くなるハスターを見て、真尋はニヤニヤしてしまう。つまりまた逢引の誘いを受けているのだ。
「いいよ、大丈夫だから行ってこいよ」
「う、うん! ありがとう」
 自分の部屋に荷物を取りに行ったハスターを見ていると。
「……少年、お母さんに似た顔」
「う」
「……それと」
「なんだよ?」

「……わたしとの間接キスはどうだった?」

 ああ、本当にクトゥグアの炎は熱いな。脳も心も、心臓も灼くほどに。



[38361] 4・真尋とクー子のΩΩΩ
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:62e603df
Date: 2014/01/05 10:22
「あぁ、ハス太を行かせたのは失敗だったかな」
 そう呟いて、またもため息を吐く真尋である。もしツイッターであったら、朝から延々と『はぁ』だけ書き込んでいる状態だ、間違いなく知り合いから心配の電話が掛かってくる。誰だってそーするだろう、真尋もそーする。
「はぁ」
 しかし、まさか彼女持ちの弟分に、彼女無しの自分が、デートに行かないでなどと言えるわけがない。明らかに嫉妬であり、嫉妬は大罪だ。
 以前何かのロボットアニメで、嫉妬をしている事を認める事で必殺技を会得していたはずだが。真尋はこれ以上人間離れした技能など必要無いので、嫉妬には無自覚でいたい。そもそもそのキャラは後に嫉妬で裏切ったし。
 なのだから、ハスターには今日一日で順調にルートを進めてもらいたい。そう、もはや彼の風の神性を欠片も年上扱いしていない真尋である。
 さて。
 先ほども話に上ったが、八坂真尋に恋人はいない。彼女も彼氏もいたためしは無い。
 そんな真尋のキスの経験は、幼少期に母にした事を抜かせばゼロ……ではない。ないのだが、最もインパクトの大きかった、口と口の貪られる様なキスは、妙な話、相手が真尋の肉体であった。
 ならば、ガラス越しはアリではない真尋の経験は、頬への一回と、ついさっきの間接という事になる。マスコット? それはのうりん、もといノーカンだ。
 ついでに、こないだの幻夢郷で……いやあれは確定していない。赤字で書かれていなかった。
 うん、本当にハスターには男になって来いと、意外と引き締まってると一部に評判の胸を張って言えるだろう。

 クトゥグアと二人きりにさえならなければ。

「……ん、これはわたしの想像力が足りなかった? 海に漂って生存も、想像の外だったけど」
 その相手、炎の神性クトゥグアはソファーに座らずにわざわざそれを背もたれに、床に腰を下ろして分割二画面の携帯ゲームをやっている。
 確か以前は、背面タッチパッドのあるゲーム機をやっていたが、どうやらこいつは熱狂的に好きなハードがあるだけで、ライバル会社の商品は買わないという宗教にハマっているわけではないらしい。
 この性質は人間関係にも表れているようで。ニャルラトホテプを病的に愛しているが、幼なじみの唯一の男という本来なら色々ToLOVEるなポジションになりそうなハスター。ニャルラトホテプの高校時代を知る親友である銀アト子。地球で出来た親友である暮井珠緒。そんな自分の火焔の自由恋愛を妨げかねない面々にも普通に接しているし。母親やルーヒー達ともよく話しているように思う。
 一方的に恋敵認定している真尋にさえ、その炎を向けるつもりは無いみたいだ。ルルイエランドでの邂逅時には無慈悲な灼熱をくれるつもりだったと聞くが、現在は愛人にすると宣言されていて。

 それが真尋には気に入らない。

 恋敵と認識されている事も、愛人止まりにしたいという事も、間接キスの話題を振ったくせにいつもと変わらずゲームをしている事も。そして、その事にイライラしている自分が気に入らない。
「って、いかんいかん、落ち着け僕」
 男のヤンデレは見苦しい。そう真尋は、以前読んだ漫画に出てきたヒロインに片恋していた医者の息子を見て学んだはずだ。
 ちなみにその漫画は、青少年らしい欲求を発散する為の、こっそり隠し持っている物なのだが、母親や這い寄る混沌にはいつばれるか分かったものではないので処分しようかとも思っている。
 譲ってくれた中学時代の友人には悪いが、過激な純愛といった感じだった一巻はともかく、全三巻の大半が真っ黒いあれを見られたら、趣味と人格を疑われそうなのでやはりさっさとどうにかしよう。
 この幼げな生きている炎に軽蔑されたくはないし。
「いや、そうじゃなくて」
 なんでいちいちこいつが思考に引っ掛かるのか、と首を振って考えを元に戻す。
 そう、この電流が流れるコースを鉄の棒で進んで行くかの様なイライラについてだ。別にこれを最後まで維持しても百万円が貰えるわけでは無いので、さっさと解消しよう。
 Q・なんでクトゥグアにイライラするのか?
 A・少しはクトゥグアに意識して欲し……。
「いや、これ以上いけない」
 この思考はマズい。終わりの無いのが終わり、なループに突入しかねない。僕ってほんとバカ。
 では、その前の思考。クトゥグアのハードの好みについて……。
「これも止めとこう。変につつくと今回のオチが、宇宙ゲハ論争という最高に最悪なくだらない事になりかねない」
 またもため息を吐いて、いい加減この不毛なたった一人の宇宙論争を締めくくる事に決めた。きっと二人きりなんて特殊な状況に、粘膜が幻想を生み出したのだろう。
 だったら、積んである本でも読もうかと立ち上がろうと思ったら。
「……じー」
 真紅の双眸が、紅蓮の弓矢の如く真尋を射ぬいていた。
「クー……」
「……少年、何しているの?」
 クトゥグアはソファーに後頭部を乗せて、上下逆さにこっちを見つめてくる。そんなはしたないポーズをするから、Tシャツの襟元が大変な事になっている。ニャルラトホテプらと違い、本当に小さいので致命的な部分が見えかねない。
 ちなみに、Tシャツの胸元には『踊り子号』と書かれている。多分母親が旅行のお土産に買って来た、サイズ間違えだろう。真尋も同じ物を持っている、ダサ……個性的なので着ていないが。
「べ、別になんでもない。ほら髪が足に当たってくすぐったいぞ」
「……当てているの。少年、嘘はよくない。若いうちのタイタス・クロウは買ってでもしろって言うけど、頭の上であんな凄SANな声を出されたら、気になって夢に少年が出てくる」
 器用に、背筋その他を使い真尋の足に頭を乗せるクトゥグア。
 いわゆる膝枕となってしまい、高めの体温と香水みたいな香りに、真尋の心臓が刻む血液のビートが燃え尽きるほどヒートしかねない。
 ちなみに、クトゥグアから香るのは白梅香。
「若いうちのタイタス・クロウってなんだよ」
「……例えば、一○○万Gの借金を背負ったり。お金を貸したら前の借金以上の額を背負ったり。呆れるほど有効な戦術の演出がくどいと総ツッコミを受けたり?」
「それ、なんか別のクロウじゃないか?」
 それで会話終了。と、クトゥグアが頭を打たないようにゆっくり足を引き抜こうとしたが、がっちりホールドされた。
「……少年、話は終わっていない。わたし公務員だよ? 相談くらいできるよ?」
 スリープモードにしたゲーム機を抱えて、膝枕の体勢で見つめてくるのが公務員として正しい姿ならば、現代版ジュゲムが承認されても仕方ない。
「……ん、正直な少年は好き」
「茶化すな。単にハス太がちゃんとエスコート出来てるか心配なだけだ」
 嘘は言っていない。真尋の思考の一割にも満たない話題だが。
「……ハス太君の事?」
 クトゥグアが少し不満そうな空気を発する。
「なんだよ?」

「……てっきり、珍しく二人きりだから、少年は緊張してくれてるんだと思ってた。わたしがそうだから少年もそうだと嬉しい」

「んなっ!? ぼ、僕はニャル子じゃないんだぞ」
 流石は炎の神性というべきか、真尋の体温はクトゥグアが口を開く度に上昇している。メルトダウンという爆弾を抱えた怪獣王を彷彿とさせる。
 ちなみに真尋は、バーニングよりもヒートウォーク派だ。
「……知っている。部屋中に紅い薔薇の花をいっぱいに敷き詰める準備はあるよ? 八坂家の最後の守りだから毒薔薇だけど」
「それ、僕はアウトだよな!」
「……魚座のクトゥグア星人は毒に免疫があるから、血液交換すれば大丈夫。伝説のアフーム=ザ・エックスが少年にも反応するかもしれないけど。それに……」
「これ以上僕に変な設定を付与しようとすんな。で、それに、なんだよ」
 ようやくいつもの、色気の欠片も無い空気に真尋は安堵。
「……体液交換で、少年の赤ちゃんが出来ちゃうかも」
 出来ませんでした。声と表情にはっきりと浮かんだ色に、真尋の熱量は再び混沌の炎に包まれる。
「出来ねえだろ血液じゃ」
「……シュブ=ニグラスなら、イケる。あ、思い出した。ハス太君、昔結構モテてたから女の子のエスコートは得意だと思う」
 茹った頭にも聞き逃せない話題がいきなり飛び込んで来た。あの小動物邪神が? 真尋は目線で続きを促し、クトゥグアは軽く首肯する。
「……黄衣の王の格好よさと、意外と荒々しい戦い方から、ワイルドの黄魅と呼ばれてた。普段のぽわんとした感じだと、マイルドの黄魅扱いだったけど。で、シュブ=ニグラスの子から結構熱愛を受けてたよ? ハス太君まるで気付いてなかったけど」
「へえ」
 かなり興味深い話なのだが、魚の小骨じみた引っ掛かりを感じている。
 確かこいつはアラオザルで、黄衣の王となったハスターにこう言っていた。
『……かっこいいからたまになればいいのに』
「…………」
 分かっている。クトゥグアとハスターの付き合いが、たかが三週間程度の真尋よりも遥かに長い事を。
 これは大罪だと。これは醜いと頭では分かっている。
 でも、人間はそんなに綺麗にも便利にも出来ていないのだ。
「なぁクー子、お前ってハス太をどう思ってるんだ?」
 クトゥグアも自分を意識してくれていると知って芽生えた暖かい物が火種となって、真尋の醜い部分を加速させる。
 その醜さを目の当たりにしたクトゥグアは。
「あ」
 微笑んで下から手を伸ばし、真尋の頭を撫でた。
「……ハス太君は親友だよ。ニャル子とも、少年とも違う関係。姉弟みたいな、兄妹みたいな関係。多分、十年経ってお互いの子供が将来結婚するといいね、って笑ってお酒を飲む関係」
 一瞬、クトゥグアはどこか遠くを、きっと真尋の知らないハスターとの思い出を見て、どこか達観した笑みを浮かべる。
 その表情が、いつもより遥かに大人びて見えて。
「……少年やニャル子と違って、絶対に結婚なんかしない関係だよ」
 真尋の中の嫉妬の炎が鎮静化するのが分かる。
「そっか」
 お返しとばかりに、クトゥグアの頭を撫でてやる。
「ごめん、変な事聞いた」
 そのお返しにと、クトゥグアがさらに撫でてくる。
「……ん、いいよ。少年とお話するの楽しいから……えへへ」
「なんだよ?」
 真尋の左手とクトゥグアの右手、互いのなでなでが究極のバランスで、さらなる域にプログレスしそうだ。
「……少年、二人きりじゃないとできない事いっぱいしよ? いっぱいお喋りして、一緒にお出かけしたい」
 嫉妬が去り、すっと爽やかな風が吹くくらい落ち着いた頭で思う。どうせ夕方にはハスターが帰って来るのだ、その前に真尋も出来る事はやっておきたい。
「そうだな、準備してくるからちょっと待ってろ」
「……うん、極めて了解、少年」
 起き上がったクトゥグアは、そのまま上着を羽織る、犬の尻尾みたいにツインテールが揺れている。
 その様子を横目で見ながら、自室に戻る真尋。
「えーと、財布はっと」
 思わず歌でも歌いたい気分を抑えながら財布やその他を準備していると、自分の服が目に止まった。
「あー、結構汗かいた……よな?」
 そう、これから女子と出掛けるのだから、清潔な服に着替えるのはマナーだ。例えば、母親が買って来たタンスの肥やしになっているTシャツとか。
「よし、これでいいか」
 上着を羽織り、軽く髪を整え玄関に向かう真尋。
「お待たせ」
「……ううん、わたしも今来たところ」
「なんだよそれ」
 互いに笑って、靴を履きながら真尋は思う。
 この臆病にも名無しの感情に名前を付けられる程度に、今日は何事も無く過ごせますように。
「よし、行くか」
 世の中には、伏線やフラグと言った概念がある。それは蜘蛛の糸の様に絡み合いながら人生に影響を及ぼすのだ。

 だから、真尋の願いも虚しく蜘蛛の邪神に出会ったのは必然だったのだろう。



[38361] 5・真尋さんクー子の 蜘蛛の食卓
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2013/09/14 18:54
「ご注文は、以上でよろしいでしょうか?」
 そう言って、小学生にしか見えない店員は真尋達のテーブルから去って行った。
 現在二人がいるのは、近場にあったファミレスの四人席だ。まずは腹ごしらえ、もっと洒落た店に連れてってやりたいが、悲しいかなバイトもしていない高校生には金銭的に無理な話だ。ところで、真尋とクトゥグア、向かい合って座る二人は、果たして周囲からどう見えるのだろう。
 そんな事を考えながら対面のツインテールを見つめていると。
「……今の店員さん、ニャル子に声がそっくり」
「ああ、確かに似てたな」
 なんと言うか、美術科で絵を描いていたり、新劇場版で新たな魔法少女でもやりそうな声だ。
 魔法少女。ニャルラトホテプ。
「やめとこう、封印していた物を無理に掘り返す必要は無いよな」
 まあ、物語のセオリー的には復活してしまうものだが。忍養成学校に眠る妖魔とか。
「……少年、何を考えてるの?」
「いや、ニャル子が魔法少女やった時の事だよ」
 あれは珍しく、真尋が暴走した話だった。ニャルラトホテプ本人に話すつもりはまったく無いが、お喋りしたいクトゥグアとなら、笑い話にも出来るだろう。人はいつか時間だって支配できるのだから。
 と思ったのだが。
「……ん、少年」
 クトゥグアは、形のいい眉を寄せ、無表情なまま表情を強ばらせる。器用な奴だ、指輪か腕輪で補正しているのだろうか?
「どうしたんだよ?」
「……わたしと二人きりなのに、他の女の子の事を話さないでほしい……」
 珍しい。というか奇跡に近い。あのクトゥグアが、最愛のニャルラトホテプの話題を嫌がるとは。
「……って言うと、恋人同士っぽく見える?」
「おい」
「……でも、他の女の子の事を話してほしくないのは本当のこと」
 そう言われてしまっては是非も無い。炎の神性相手では、本能寺など一瞬で焼失してしまう。
「じゃあ」
 だったら聞きたい事がある。話したい事がある。
「クー子の話がいいな」
「……わたし?」
 さっきから気になって仕方ないのだ。誕生日に、好きな色、好きな食べ物。クトゥグアの事が知りたくて仕方ない。まだ真尋は、クトゥグアの好きな音楽も知らないのだ。
「……カレルレンの、特に質の悪かった輩を、知り合いのニューロやリアリティーハッカーと一緒にアク禁にした武勇伝とか?」
「ネット上のお前って、基本無双スペックだよな」
「……アヤカシ、マネキン、バサラだと自負している」
 いや、わけがわからない。クトゥグアの事が知りたいのに、さらに謎が増えてしまった。
「……じゃあ、クトゥグア・ヴィ・フォーマルハウトには夢がある」
「夢なのはいいが、胸元を広げるなはしたない」
 真尋だけならいい……やっぱりよくはないが、公共の場であるここには他にも男性客がたくさんいる、結界があるから大丈夫なのかもしれないが、やはり見られたくない。なるほど、独占欲とはこういうものか。
 あ、ヘアピンを着けた店員さんが何故かクトゥグアを見て、ガッツポーズしていた。
「……ん、わかったやめる」
「素直でよろしい。で、夢がなんだって?」
 実際興味がある真尋に促され、炎の神性は蕩々と語り始める。
「……そう、わたしは何故か荒野を彷徨っていた。行けども行けども不毛の大地ばかり、口笛も聞こえない」
 なんで口笛が関係あるのか分からないが、一生懸命真尋に伝えようとする姿が大変可愛らしいのでよし。
 ……別人の思考が乗り移った気がする。
「……どれだけ歩いただろう。旅の始まりはもう思い出せない所まで来たとき、わたしは扉を見つけた」
「扉?」
「……そう、荒野には似合わない立派な扉。その怪しさにわたしは直感した」
 いったん言葉を切って、お冷やを口にする。
「それで?」
 無口系のキャラだと思われがちだが、案外語り手のセンスはあるらしい、真尋はクトゥグアから目が離せなかった。
「どうなったのですか?」
「…………」
「………………直感、そして確信した、何かレアアイテムがあると。突撃決定」
「危ないだろ、おい」
 戦闘民族クトゥグア星人ならば、虚弱貧弱無知無能な地球人よりも安全かもしれないが、もうちょっと自重してほしいのだ。心配で仕方ない。
 悪魔は泣かないと言うが、邪神は泣く事を真尋はよく知っているし、自分が泣く事など言わずもがなだ。
「……一ターンの間、命中百パーセント。どんな攻撃でも一回は必ず避けて、移動後に使えない武器も使えるから大丈夫だと思った」
「それに、夢の中では突拍子も無い事が起こるものですから、クー子さんを怒らないであげてください真尋さん。ふふふ、心配なのはわかりますけどね」
 確かに過保護だったと反省する。自分はこんなキャラだったか、と思うが、今日の真尋は紳士的なのだ。多分。
「ああ、話の腰を折って悪かったな、僕から話を振ったのに」
「……ううん、少年が心配してくれて嬉しかったからいいよ。ありがと、少年」
「う」
 静かだが、はっきりとした言葉に、またも頬が熱くなるのを感じる。今日何度目だろうか。火事と喧嘩は江戸の花と言うが、赤面と溜め息は真尋の花となるかもしれない。
「……それで、扉に入ったわたしは……絶叫した」
「え、なんで?」
「……その声で目が覚めたから分からない。明らかに喉のリミットをオーバーした声だった。声優さんって凄い。あとなんでか、とりあえず幻夢境のヒュプノスの子供に会いたくなった。不思議」
 首を傾げるクトゥグアの疑問には残念ながら答えられない。
「……ドリンクバー取ってくるけど、少年の分はどうする?」
「あ、悪いな、適当でいいぞ」
 二人分のグラスを持って、小走りで行く後ろ姿を見ると、自分が行くべきだったか、と反省する。
「いいえ真尋さん、殿方のなんでもしてあげたい、という心理も理解できますが、女の子の何かしてあげたい、という邪炎心(おとめごころ)も理解してあげてください」
「…………」
「……お待たせ少年」
 真尋がぼおっとしているうちにクトゥグアが、飲み物が注がれたグラスをテーブルに置いた。
 真尋の目の前に、チョコレートが薄まったみたいな飲み物が鎮座している。
「適当に、って言ったけど、これなんだ?」
 パッと見はココアかチョコレートミルクに見えるのだが、それよりなんというか水っぽく感じる。
 クトゥグアの事だから、宇宙SANの変な食材を混入させたりはしていないと思うのだが、ドリンクバーに備え付けられている商品にも見えない。
「……少年は、ドリンクバーでオリジナルブレンドとかやらない?」
「ああ、あんまりファミレス来ないから、最近はやってないけど、昔は色々やったな」
「飲み物で遊んじゃいけない、と思う一方、普通に美味しいのが出来るんですよね。カルピスソーダとオレンジジュースで、ビール。とかニャル子がよくやっていました」
「…………」
「…………」
「で、これは何を混ぜたんだ?」
 オリジナルブレンド。その言葉に憧れるのは子供だとも聞くが、なら真尋は子供のままでもいいと思う。遊び心を失ったら、きっと人の心の革新などあり得なくなる。ただ必要な所だけ大人になればいい。
「……ココア☆ソーダ☆クエン酸」
「いや、おかしいだろ、特に最後」
 あと、なんで歌うように言ったのかも小一時間。可愛かったので、真尋の心は和んだが。
「……まずは飲んでみてほしい。外見だけではリアルさは伝わらない、味もみておこう。の精神が必要」
「あ、ああ、別に飲めない物が入ってるわけじゃないしな」
 せっかくクトゥグアが作ってくれたのだ、変な材料が入っているなら別だが、ここで飲まなきゃ男が廃る。
 クトゥグアの気合いのレシピから伸びるストローに口を付ける。初めにキノコを食べた人間を尊敬しながら。
「ん、これは……」
「……どう?」
「うん、予想外にいいんじゃないか? ココアのコクとあと二つの酸味がいい感じに混ざって、ハーモニーって言うのか?」
 なお、この感想は個人のものです。同様の感想を得られなくても、当局は一切責任を負いません。
「……本当、よかった。じゃあわたしも」
 朗らかに微笑んだクトゥグアは、身を乗り出して。
「あ」
 つい数瞬前まで真尋が口付けていたストローを、ためらいなく口に含んだ。
「お、おい! 何やってんだよ」
 グラスの水位が五センチほど下がった。
「……おいしい。あ、わたしのブレンド別のだから、気になった」
「いや、そうじゃなくて」
 男が口にした物を口にするというのは、その、立派なカップル的な行為に思えて、頭が茹ってしまう。
「いえいえ、むしろワンランク上のバカップル的な行為ですよ。ふふふ微笑ましい」
「…………」
「………………これは中々上手くいった。ココアにソーダが加わって倍、予想外にクエン酸が働いて更に倍の四倍……決めに少年の味もして三倍されて、美味しさ十二倍。ハス太君特製の、バッファローミルクスペシャルを上回る」
 どうして、こいつは、真尋の理性をガリガリ削ろうとするのか。もう自分の理性がゼロになっても、狂戦士の魂を胸に突貫して来るのだろうか? その結末をなるべく頭の隅でぼっちになってもらいながら、多少意地悪な口調を意識する。
「クー子、せっかく僕と二人きりなんだから、他の男の事を話すなよ」
「……あ」
 熱はどんどん高まって、真尋を侵していく。けれど、その熱がだんだんと気持ち良くなってきた。熱狂+アドレナリン+オーバードーズと言ったところか。
「こう言ったら、恋人同士に見えるんだろ?」
「……ん、ごめんなさい少年」
 心地よい沈黙が数秒、このまま時が止まればいいのに、と思いながらどちらからともなく笑いあう。
 そんな真尋とクー子だけの世界は。
「お待たせしました」
 店員さんが運んできた料理に打ち砕かれた。別に恨みはしないが。
「申し訳ありません、前よろしいでしょうか?」
「あ、はいぃ?」
 思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。何故か店員さんの腰には、日本と……いや気のせいだ、もしくは何かの企画なのだろう。
「ご注文の品、以上でよろしいですか?」
 流石はプロ、真尋の奇声にも反応せず、てきぱきと料理をテーブルに並べ終えていた。
「はい、大丈夫で……」
「すみません、追加よろしいですか? このキノコ祭フェアの、キノコ尽くしセットをお願いします。あと、キノコの丸焼き盛り合わせの三人前も」
「…………」
「…………」
 店員さんは、そのまま去って行った。
「今の方、真尋さんに声が似てらっしゃいましたね。ああ、わたくしの事は気にせずに、お先に召し上がってください」
「いただきます」
「……いただきます」
 フォークとナイフを手に、二人は食事を開始する。やはり熱々のうちに食べるのが一番だ。
「……少年、こうしてるとスッポンを捕りに行った時を思い出す。二人で作ったから、とても美味しかった。あの時少年に助けてもらった事、忘れてないよ?」
 そうはにかむクトゥグアが、可愛らしくて、真尋はただ正直な気持ちを告白する。

「なあクー子……スッポンって、なんの事だ?」

 嬉しそうなのはいいのだが、真尋の記憶にはガオンされたみたいに引っ掛かる物がない。
「……あ、ごめん。これ虚憶だった。あれも媒体が小説だったから、基本世界と勘違いしてた」
「お前らは、別世界の話をしないとどうにかなっちゃうのか?」
「……次元の壁を越えれるエネルギーは、わたしたちの宇宙CQCだけだから」
「ああ、わたくしの初出もそれの本体でしたね」
「……クー子」
「…………何?」
「そろそろいいと思うんだ」
 思えばよく我慢してきたと思う。

「「なんでいるんだ(の)? アト子」」

 せっかくの二人きりを邪魔されて、多少不機嫌に睨み付けると、この和服美邪神は。
「そういうところです」
 その微笑みを見て、真尋は蜘蛛の巣に絡め捕られる獲物の気分を理解した。



[38361] 6・ああ蜘蛛よ、真尋はいい、我慢できる?
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:b2edb3bc
Date: 2013/09/22 17:34
 銀アト子。
 アトラク=ナクア星人のアパレル企業社長令嬢で、ニャルラトホテプの高校時代の親友。
 黒い着物を纏う和服美邪神で、清楚な外見と常識的な言動は、ニャルラトホテプの知己だとは思わせず、魅力的な女性と言ってもいい。
 だが、結局はあの実在問題邪神の友達をやっているのだ。赤い糸で繋がった様に、『爆発』と『空気』の様に、やっぱり厄介な性質を保持している。
 いや、むしろ表向きは全く分からないマイナス要素を、清楚な仮面で懐に入った後に出して来るのだから、親友よりも質が悪いと言っていい。その距離ではバリアは張れないのだ。
 ある意味混沌よりも、よっぽど這い寄っている。
 そんな、混沌よりも這い寄る過負荷(マイナス)要素を持った蜘蛛神が……。
「うふふ、そんな恐い顔をしないでください、真尋さん、クー子さん」
 今、昼食中の真尋とクトゥグアの席にいつの間に座って、清楚な、しかし邪悪な笑みを浮かべていた。
 恐い顔にもなろうという物だ、こいつがいるだけで、SAN値とランチがピンチ! なのだから。
「もう一回聞くぞ、なんでいるんだアト子?」
 別に悪人というわけじゃない。むしろ、相手を立て、仕事には誠実で、ユーモアを解するこの女性を、真尋は好ましくも思っている。だがその性癖が、クトゥグアと二人でいる今ただただ最悪なだけだ。
 せっかくの、クトゥグアと二人きりなのに。
「そういうところです」
「は?」
 先ほども言っていた台詞を復唱し、アト子は鈴の様にころころ笑う。
「うふふ失礼、理由は三つです」
 指を三つ、何故か親指、人差し指、中指を立てて、長い二本で右目を挟む様なポーズを取るアト子。
「一つ目は……真尋さんもお人が悪いですね、同好の士である事を黙っているなんて」
「はぁ? 同好の……」
「……士?」
 わけがわからない。真尋とアト子に共通点など無いはずだが。

「もう、隠さないでください。あのクー音さんから、クー子さんを寝取った事は聞き及んでいますよ」

「…………今思ったんだけどさ、お前の母親がアトラクションの設計に関わってたのって、『アトラク』=ナクアだからか?」
「……少年、あまり上手……いかも?」
 もしかしたら意図していなかったのかもしれないが、アトラク=ナクアだけに意図がこんがらがる事もあるだろう。
「……少年、やっぱりあまり上手くない」
「まあ、夫婦漫才ですね、ごちそうさまです」
「あぁ、もう」
 真尋は少しアスラン、もとい錯乱していた頭を振って、アト子に向き直る。放っておいたって何も解決しない。むしろ日が沈んで昇って、また沈んで、仕舞いにはこの蜘蛛神が巣を完成させてしまう。
 だったら、守ったら負ける、攻めろ! の精神で、この会話を断ち切ってしまおう。
「お前、クー音さんと知り合いだったのか?」
「いいえ、有名な方ですので一方的に存じているだけです」
 そういえばあの死色の真紅な髪のクトゥグア星人は、映画にもなった有名人だったか。
「あの方の伝説の数々には、わたくしも種類は違いますがクリエイターとして心惹かれます。例えば、自分のアフーム=ザーを奪われ轢かれても、すぐに起き上がって追ってきた。対アトラク=ナクア星人用ショットガン、バッファローを至近距離で撃たれても無傷だった。十七分割されても蘇生してきた。十三歳でデビュー、人気絶頂の十六歳で唐突に引退。どんな秘密も書かれた書物を所持している。など、枚挙に暇が……」
「いや、その理屈はおかしい。特に最後」
 雪景色に鮮血が散ったかの様な、妖しくも美しい唇から蕩々とクー音の武勇伝を語るアト子に、矛盾無くすべし、慈悲は無いとばかりにツッコム真尋。そんな物があったら、この間の婚約者のふりが成立しなくなる。
「そんな絶対無敵、熱血最強のクー音さんから、愛しのクー子さんを奪ってエクソダス、なんて素敵な愛」
 やばい、アト子の声にフォーマルハウト以上の熱が籠もり始めた。だから、出来れば遠慮したかったのだ。
「そんな真尋さんを、さらにわたくしが寝取ってイク。ああ、どうにかなってしまいそうですね、自分を抑えられずに乱暴してしまうやもしれません。ウ=ス異本みたいに、ウ=ス異本みたいに」
「はぁ」
 寝取り趣味。それがこの蜘蛛神の唯一にして、至高で究極の問題点だ。
 ちょっとお茶目な淑女だと思っていた真尋の信頼を、糸に巻かれてサンダーしてくれたものだ。この宇宙に、まともな邪神なんて数えるほどしかいないらしい。
「なあアト子、そのクー音さんとのことはお芝居だぞ? だから、別に寝取ったわけじゃ」
「大丈夫、わかっていますよ。その時は、お芝居だったんですよね。その時は」
 愉しそうに笑いながら、真尋から視線を外し別の場所を見る。
 釣られてそちらに目を向けるわけにはいかない。今向けたらまたも赤面する、必ずだ。
「……アト子、やっぱり寝取りはよくない。相性がいい相手に出会えるかもしれないよ? 検索と疾風、半熟と切り札みたいに」
「ふふふ」
 その視線の先のクトゥグアにそう言われたアト子は、ただ微笑みを浮かべるだけだ。少し悲しげな微笑みを。
「わたくしもそう思う時があります。家族愛を知っています、ニャル子に友愛の情を感じています。しかし異性愛だけが分からないのです。これでも、幾度か告白された事もあるのですよ? しかし、わたくしにはそれが空虚な物、硝子細工の幻影、ニャル子に倣い英語で言うなら、クリスタルミラージュとしか思えないのです」
 一度言葉を切ってお冷やを口にするアト子。口の端から少し零れた水が、まるで涙みたいだと真尋は感じた。
 クトゥグアも同じ事を思ったのか、口をつぐんでいる。
「あれは、そう……銀河小学校の頃でした。同級生の男子に呼び出され、告白されました。またかと思い、断わろうとした時思い出しました、彼には恋人がいたはずでは? と。その後すぐにその恋人にばれて、泣いても叩くのを止めてもらえない彼を、わたくしを親の仇でも見るかの様な目で睨んでくる彼女を見て気付きました、胸を焼く恍惚とした熱さに。他人の殿方が、わたくしの物になる悦楽に……まるで、林檎、知恵の実の様な禁断の甘さに震えが止まらなかったのです。それがわたくしのビギンズナイト……昼でしたが」
 なんて奴だ、そんな年齢で開眼するとは。まったく、そんな小学生は最悪だぜ。と真尋は思う。しかし、それは別にアト子が望んだことではない。
 確かに厄介なこの性癖は、病気と言ってもいいだろう。でも、病気に掛かるのは悪い事ではないのだ。
「でも、それじゃあお前は、どんどん一人になるんじゃないか」
 そう、例えアト子の症状を理解していても、自分の恋人を奪われる可能性を思えば、同性の友人はいなくなるだろう。ならば異性は? もっと望み薄かもしれない、アト子が魅力的な女性であるが故、その隣で歩めないと分かって共にいる事に耐えられる男はそうはいまい。悔しいが、皆男なんだな。
「理解しています。わたくしはそう友人は多くありません、そんなわたくしの大事な友達がニャル子です。ですが、そんな大切な物を踏み台にしてすら、一番高い林檎を掴みたいのですよ」
 真尋の頬に冷たい物が触れる、アト子の手だ。お冷やを飲んでいたせいか氷みたいに冷たい。いや、そんなものは関係なく冷たいのだろう。アト子自身が孤独の吹雪の中にいるためだろうか? それとも心が温かい人は手が冷たいというやつか。
「真尋さん、わたくしの林檎……貴方を食べたい。貴方の目を釘付けにしたい。貴方の心をがんがらじめにして……わたくしだけを愛してほしい」
 その焼ける様な冷たさに、真尋の思考は益体の無い事を、もしくはアト子の美貌しか考えられない。
 どんどん近付いてくる顔に、瞳に、唇に、フォークを出す命令さえも凍てついてしまう。
「ぁつっ!」
 突如、右手を焔が灼く。
 その熱は、真尋の全てを心地よく溶かしていく。熱の発生源に目をやれば。
「クー……子」
「……少年、やだ」
 右手をクトゥグアが身を乗り出して掴んでいた。その顔には、はっきりと焦燥の色が浮かんでいる。
「アト子……」
「はい」
「離れてくれ」
 この手を離してほしい、真尋の心まで離されなさそうだから。クトゥグアの手を離してしまいそうだから。
「そういうところです」
 また同じ台詞を言って、アト子はあっさりと手を離し、楚々とした大和撫子の姿に戻る。からかわれたのだろうか。
「いいえ、本音ですよ……うふふ、クー子さんそんなに睨まないでください」
「……むー」
「そうだ、わたくしもクー子さんも、幸せになる手段がありますよ」
 喉がからっからに渇いてしまったので、お冷やを口にする。しかし、この蜘蛛神はどこまで本気か分からない。あとクトゥグアの手は柔らかい。
「真尋さん、ハーレムですよ、ハーレム」
「ぶっふぅ!」
 噴き出した。
「……ぁう、少年冷たい。力込め過ぎて怒ってる?」
「ああ、悪い……違うからな、怒ってなんかないからな? さ拭くから」
「……ん」
 顔面を盛大に濡らしたクトゥグアを、ハンカチで拭う。しかし、濡れた姿が中々色っぽい「しかも、真尋さんから吐き出された液体に塗れたのです、その破壊力はジェネシック。まさかファミレスで顔射を見るとは思いもしませんでした」
「おい、最近聞いたフレーズ付きで何言ってるんだ」
「何か?」
 何事も無かったかの様に首を傾げる姿は、大人びた外見とのギャップもあって可愛らしいが、今日の言動を見るとあざとく感じるから不思議だ。ところで不・思議なのだろうが、思議ってなんだろう?
「……もう自分で乾かせるから平気」
「ああ、そっか」
 クトゥグアの周りが一瞬揺らめくと、そこには新品同然にパリッと渇いたクトゥグアが座っていた。その顔が少しにやけている。
「どうした?」
「……少年のお口から出た水飲んじゃった、これでわたしも間接キス」
「んなっ!」
 はい、今回の赤面いただきました。
 あらゆるニーズに対応してるかの様に、あの手この手で真尋の精神を茹だてていくこの炎の神性への気持ちを言葉として認識する前に、袖で口元を隠して笑っている蜘蛛神に話を振る。
「あ、アト子! ハーレムってなんだよ」
「あらあら、真尋さん、そんな照れ隠しのために別の話題に強引に移行させるみたいな話し掛け方は、わたくしでも傷ついてしまいますよ?」
「お前らが親友なのがよく分かったよ!」
 お互いに空気を読まずに、したいことをしてたらあぶれた二人なのではないか、そんな疑惑が真尋に浮かんだ。
「ハーレム、男の子の夢ですね」
「日本国憲法では禁止されてるから夢なんだよな。寝て言え」
「いいえ、夢は夢で終わらないですよ、だからわたくしの物になってください」
「はぁ?」
 わけがわからない、対面のクトゥグアも首を傾げている。
「アトラク=ナクア星は、多夫多妻が可能なのですよ? あ、もちろん本妻はクー子さんにお譲りします。後からしゃしゃり出てきたわたくしは2号で充分です」
「……本音は?」
「2号が、本妻から旦那を奪う。そしてまた奪われる。本妻から? それともV3? X? アマゾン? 飛んでガイム? そんなハーレム内で無限NTRなんて、マキシマムドライブしてしまいそうです。ああ、一生の思い出になりますね」
「そのまま、永遠の鎮魂歌の中で思い出破壊されてしまえ!」
 恍惚としたアト子を無視して、食事を再開する。クトゥグアも同様だ。
「あれ、温かいな」
 結構騒いでた気もするのだが、全然冷めてない。
「うふふ」
 そういえば、蜘蛛神は時の糸を紡ぐと言うが。
「まさかな」
 頭を振って、料理を口に運ぶ。冷めたら食べられないわけではないが、やはり美味しいのは出来たてだ。
「そうそう、こんな噂を聞いたのですが」
「なんだ?」
 まだ自分の料理が来ていないから暇なのだろう、アト子が雑談を始めた。
 次の台詞で危うく、またクトゥグアに料理を吹き掛けるところだった。

「ニャルラトホテプ星人が、クトゥグア星人排除のために戦争を仕掛ける可能性があるらしいのです」



[38361] 7・歩くような早さで(展開的な意味で)
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:b2edb3bc
Date: 2013/10/06 22:54
「戦争……?」
 法治国家日本に住む真尋には、その重さも凄惨さも実感出来ない。だけど、それでも知識だけでも拒絶するべき事だと理解出来る。
 他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。競い、妬み、憎んで、その身を喰い合う行為。
「……アト子、ソースは?」
「あら、クー子さんはハンバーグにソース派ですか。わたくしは醤油派なのですが」
「……醤油も美味しい。じゃなくて、その噂はどこで聞いたの?」
「普段インターネットはあまり使わないのですが、仕事で必要となったので繋いでみたら、やはりネットは広大だったので目がクラモン……くらくらしてしまい、前回の事件で聞いた場所に行きましたら、そこで」
「……前回の事件って……」
「はい、5チャンネルです」
「………………アト子、DK堂のプリンのお礼、ネットで得た情報の九割は疑って掛かって。さらに5チャンのなら九十九パーセント疑うべき、サンドバッグの中のニュータイプの命中回避よりも疑って」
「そうなのですか? 他にも、本当は腐った惑星保護機構なども」
「……惑星保護機構に対する中傷なんてどこにだってあるよ、幼年にもあった。彼らはいつもこう言う『まったく傲慢な組織だな、保護というのは支配に繋がる』とか、今でも語り継がれるフルボッコ対象SS。つまりだいたいデマ、あそこで嘘を書き込むなんてチャメシ・インシデントだから、初心者はカラテを鍛えて真眼を養うべし、古事記にもそう書かれている」
「なるほど、肝に銘じましょう……しかし、料理来ないですね」
「……ポテト食べる?」
「ありがとうございます」
「いやいやいやいや待て待て待て待て」
「はい?」
「……少年どうしたの?」
「戦争はどうなったんだよ?」
「……デマだと分かった」
 いやに力強く断言された、ついさっきのシリアスな空気はどこに行ったのか? 中華丼一年分でマグロ漁船に乗って行ったのか?
「いや、でも……」
「……少年、戦争は起こらない、いいね?」
「あっはい」
 しかし納得いかない。中々進まなかった執筆が、書き出しを変えたらすいすい進んだ小説くらい納得がいかない。
「……そもそも、戦争なんてシリアスなものが、伏線になると思うの?」
「あー、ないわ」
 伏線はいつだって下らない。それが、三週間前からの真尋の世界の選択だったはずだ。今更宗旨替えされても困るのだ。
 どうやら、特別警護中と言い訳しながらプライバシー侵害してくる混沌達が、仲違いする事は無いらしいと分かって、肩の荷が降りた気分だ。
「わたくしの早とちりだったようです、申し訳ありません。まさか、地の文が少し入っただけでお終いになるとも思わなかったですが。お詫びに、なんでもいたします。この身体、真尋さんの自由にしてくださってかまいません」
「いらんわ!」
 反省する気が無いだろ、この蜘蛛神。
「ふぅ、暑いですね……脱ぎますか」
「ちょ、おま!」
「上だけですけどね」
 ツッコんだ真尋の目に飛び込んで来たのは、剥きたてのゆで卵、もしくは熟れた白桃みたいな瑞々しい双丘のタニマーであった。
 上だけと言っても、そもそも下着は着けない派のアト子である多少襟元を崩したこの姿ですら、大変スリリングであり、悲しいことに男である真尋の視線はライトオブレフト、右往左往してしまっている。
 クトゥグアは言うに及ばず、ニャルラトホテプだって霞んで見える柔らかき彼女の双丘は、まるで引力を放っているかの様に、蜘蛛の巣の様に真尋という蝶を絡め捕ろうと……。
「痛っ!」
 脛を蹴られた。その痛みに目を正面に向けると。
「…………」
 当然、クトゥグアが頬を膨らませて睨んでいる。
「く、クー子」
「……別に」
 ちょっぴり涙が浮かんでいる目を見て、毒気が抜かれていくのを感じる。
「アト子、とっとと襟元を直せよ、拒否は許さない、なんでもするって言ったよな?」
「え、あの真尋さん、大変申し上げ難いのですが……」
 視線を下げて、珍しく口籠もるアト子。襟元は直していないので、谷間はより深く強調されている。あ、さっきのヘアピンの店員さんが落ち込んでいる。
「なんだよ?」
 どうせ下らない事だと思いながらも、一応聞いてやる自分は、底抜けに甘ちゃんかもしれない。

「もしかして、男性機能に何か問題がおありなのですか?」

「最悪だなお前!」
 下らない、どころかシモの話だった。
「……少年、大丈夫なの? いいお薬あるよ?」
「お前も乗るなよ!」
 大丈夫……なはずだ、大丈夫……だよな?
「大丈夫だと仰るなら、わたくしとクー子さんを抱けばいいではありませんか。違う感触でヘブンアンドアースですよ?」
「……アト子、ヘブンとアースの内訳はどういう意味?」
「男と女のする事、珍しくもない事ですから綺麗事はいりません、始めればいずれ終わりますから、今しちゃっても構いませんよね?」
「……Dあるもん、いやそれは嘘……でも72よりはあるもん」
「あーもう、うるせえお前ら!」
 ニャルラトホテプがいないのに場が混沌としていた。フォークか? そろそろこの蜘蛛神にもフォークの味を教えてやるべきか?
 真尋の右手が袖口から得物を取り出そうとした時。
「お待たせしました、ご注文の料理をお持ちしました」
 眼鏡を掛けた店員がやってきて、テーブルにアト子が注文した品々を置いていく。
「はい、前失礼しますね」
 この超時空邪神大戦を鎮めた雄姿は、まるで奇跡を起こす魔王の風格。出来れば騒ぎが大きくなる前に注意してほしかったが、ご都合主義の結界によって阻まれていたのだろう。それに、まさか自分の働いているファミレスに邪神が客としてやって来るなんて想像力が足りなくても仕方ないだろう。
 ついでに、その位置ではアト子の実際豊満なバストの谷間が目に飛び込んでいるはずなのだが、営業スマイルを崩さずにてきぱきと働く姿は、小さいものしか愛せない特殊性癖でもあるまいし、接客業の男の鑑として、動揺の多い真尋には眩しく見えた。
「同い年くらいなのに凄いな」
「ご注文は以上でよろしいでしょうか? それではごゆっくりどうぞ」
「あ、失礼します」
 仕事を終え、去ろうとしたその手を突然アト子が取る。
「お、お客様?」
 いきなり美人に手を握られて、さしもの英雄(真尋視点)もほんのり赤面する。あ、ヘアピンの店員さんが顔を赤くしたり青くしたりしてる。
「貴方、いい恋をしていますね……美味しそう、ニエにしたい」
 その手を顔に近付け、上品に、しかし淫らに鼻を動かすアト子。ついでに、強烈な破砕音と壁にいつの間にか空いた穴、近くにヘアピンの店員さんが見えたが気のせいだろう、うん。
「……少年、どうする? 燃やす?」
「一瞬頷きそうになった自分が嫌だが、それはまずいから……アト子!」
「はい、なんですムグァ!?」
 振り向いたアト子の口に、自分の皿からエビフライを突っ込む。
「いいかアト子、他の人に迷惑を掛けるな……その、僕だけ見てろ!」
「……少年!?」
「クー子分かるはずだ、こんな性癖を持った奴を外に出しておいちゃいけないって、お前……お前には分かるはずだ」
 アト子の肩を掴みながら、とりあえず店員に視線で謝罪と早く行くように伝える。それですぐ動ける辺り、彼も苦労が多そうだ。
「うふふ、それは嫉妬と受け取ってよろしいので?」
「よろしくねえよ」
 妖しく微笑みながら尻尾まで咀嚼し、嚥下した彼女を見ると、料理が来るまでの暇を潰していたようにも思える。この精神的貴族にとっては天使のお遊戯(エンジェルプレイ)に過ぎないのだろうが、精神的にも庶民な自分達は翻弄されっぱなしだ。
「まあ、つれないお返事。ですが、今回は真尋さんとの間接キスで満足しましょう」
「んなっ!」
 まったくそんなつもりは無かったのに、どうして細かい所をつついて真尋を嫐ろうとするのか。
 本当に自分を好いているのだとしても、疑問は尽きない。まだアト子と出会って五日も経っていない、一目惚れを信じていない真尋にとってその時間は、永劫に長い時間の中で切り取られた一瞬に過ぎないのだ。それで好きだと言われても、先程こいつが言った様に硝子細工の幻影(クリスタルミラージュ)にしか感じられない。
「なるほど、三週間は見るべきですか……ところで真尋さん、クー子さんはよろしいのですか?」
「え、クー子?」
 クトゥグアが口を開けて、こっちを向いていた。
「……あーん」
「え、クー……」
「……あーん」
 流石に、これの意図が分からないほど、真尋は鈍感でも、ついでに難聴でもない。
「……あーん」
 おずおずと、エビフライをクトゥグアの口に運ぶ。動悸が早くなって、フォークの先が揺れる。
「あーん」
 限界まで開いた可愛らしい口から伸びる舌が、エビフライを絡め引き寄せる。いや、貪欲にフォークまで、その熱い口の中に納められた。
 ついさっきまで真尋の口と触れたフォークを。
 当然、食物ではないフォークはクトゥグアの中から脱出して、抜き身の刀身じみたその体と鞘の様な口との間に、銀の橋を渡している。
「あ」
 自分とクトゥグアの繋がり、そんな馬鹿げた思い入れが出来てしまった唾液の糸が切れるのが名残惜しくて、よく中性的と呼ばれる声が、少女みたいに響いた。
「……あーん」
「え」
 嚥下を終えたクトゥグアが、ハンバーグを真尋に差し出している。
「……お返し」
「ん、ありがとう」
 クトゥグアの使っているフォーク、そんなわけないのにハンバーグが近付く度にクトゥグアの薫りが香る気がする。
 そんな変態的な部分が自分にあることに驚愕するが、それが嫌でないことに気付く。どうやら順調にSAN値が下がっているらしい。
「あーん」
 甘い。
 口に含んだとき感じたのは、溢れる肉汁でも、大量生産であるが故に大勢が好む味に仕上がったソースでもなく、ほのかな、しかし圧倒的な甘さだった。
 きっとそれは、宇宙中で真尋と紅い最強しか感じられない甘さなのだ。
 それを認める事が恐いのに、フォークから口を離すのが名残惜しい。
 でも、認めてしまえばこの甘さを、いつだって味わえる。そんな誘惑が脳を侵す手前、口からフォークが引き抜かれる。
「……美味しかった?」
「ああ、クー子は?」
「……もちろん、美味しかったよ」
 微笑むクトゥグアに、真尋も微笑み返す。なんて暖かくて、なんて甘い。
 三週間前の自分が見たら、正気を疑われそうな状況に、今の自分は幸福を感じている。
「うふふ、そういうところです」
「はっ」
 危ない、今隣には寝取り蜘蛛がいるんだった。
「まったくもう、わたくしが隣にいるのにそんなお熱いなんて、妬けてしまいます。脱ぎましょう」
「脱ぐな!」
 油断も隙も無い、親友と同じく天丼で脱いできやがった。
「まあ、上だけなんですけどね。ところで気になったのですが、真尋さんって地の文だとニャル子やクー子さんを、種族名で呼ぶじゃないですか」
「いや、当然のように言われても、地の文ってなんなんだよ?」
「……少年知らないの? 地の文=サンは、予想以上に這いニャルヘッズに人気なんだよ?」
 クトゥグアまでなんか言い始めた。さっきまでの甘い気分が、デザートタイガーコーヒーばりに苦くなっていく。
「そもそも、地の文は真尋さんの一人称とも違うのですよね、敢えて言うなら真尋さんのスタンドの一人称でしょうか」
「……少年のスタンド。きっと進むべき道を無意識に示してくれる」
「いいから話を進めろ、料理が冷めるぞ」
 いや、止めてくれるのが一番なのだが、それは望み薄に過ぎる。
「では、しかしわたくしやルーヒーさん、クー音さんは個人名で書かれています、その差は何故か? わたくしは一つ仮定を建てました」
「……それは?」
 普通に興味津々のクトゥグア、実はこいつら仲がいいだろう。

「はしたない話ですが、お胸の大きさではないかと愚考しました」
 自身の胸を強調しながら、クトゥグアのそれに目をやるアト子。
 クトゥグアは。
「……ばっかやろう」
 そう呟いた。



[38361] 8・進め! 第SAN食事会
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2013/10/13 23:26
 最初に「キノコ」を食べた者を尊敬する!
 とある神父の言葉である。別に尊敬しているわけではないが、真尋も彼のセリフをよく引用する程度に名言が多い聖職者だ。
 そういえば最近声が決まって、母親が「兄さんを思い出すなあ。これは私闘です、とか言ってよく喧嘩したっけ」などと言っていたが、そんな叔父に会った事が無いのはどうしてだろうか。
 いや、その話はいい。本題はキノコだ。
 キノコ、菌糸類であり、実は世界最大の生物であるらしい。食用とするには見た目がグロテスクなこれが、こうも食卓にのぼる様になったのは、料理人達のたゆまぬ努力の成果か。
 そのキノコが。
「まあ、美味しそうですね」
 ずらりとアト子の前に並んでいた。
「……キノコご飯、季節の野菜とキノコのサラダ、キノコのお吸い物にキノコの天ぷら、極めつけはキノコの丸焼き」
 ずらりと並んだその姿に圧倒される。
「これだけ揃うと凄いな、キノコ好きなのか?」
「はい、わたくしはキノコ狩りの女、銀アト子・サブタレイニアンですから」
「その横文字はどこから来たんだ?」
「それは蜘蛛女(おとめ)の秘密です。では冷める前に頂いてしまいましょう」
 確かに、真尋達の料理は来てから随分と経ってしまった気もする。携帯電話のテキストを二つ満パンにするくらい。まあ、主食のエビフライはもう無くなってしまったが。
「うふふ、どうぞ」
 すっとテーブルの真ん中に、キノコの盛り合わせの皿が置かれる。疑問に思うまでもない、食べろということだろう。
「いいのか?」
「はい、エビフライをご馳走になりましたし。そういえば、キノコの美味しい食べ方をご存知ですか?」
「調理法じゃなくてか?」
「……食べ方?」
 調味料の付け方とか、そういったことだろうか? と二人仲良く首を傾げると。
「では、お見せしましょう」
 教本にでも載せたいほどに見事な箸捌きでキノコを一つ取る。真尋の指よりも太く長く、立派なそれは、なるほどポテトやチキンの代わりに盛り合わせになる価値があると納得させるに充分な存在感があった。
「行きます、しっかり見ていてくださいませ」
 髪を掻き上げ、キノコの先端、傘の部分を少し齧る。はた目には口づけをしている様にも見える構図だ。
「こうしますと、表面を焼かれて閉じ込められたキノコの旨味が溢れてくるんですよ」
「へえ」
 鉄板の熱のせいかほんのり上気した頬と、黒い髪と着物によって浮き彫りになった白いうなじに、そこはかとない色気を感じて、不覚にもキュアなハートがドキドキする。
「うふふ、まだまだ序の口ですよ真尋さん。ほら、ここをこうすると……ん、チュ」
 次は傘から茎の半ばまで、一気に口に含んだ。そのまま噛み切らず、甘噛みのまま止めて。
「チュ、チュルル……んっ、チュー」
 吸っていた。ともすれば下品となる行為を、奇跡的に見苦しくなく完了していた……が。
「い、いや待てアト子」
 その言葉に、キノコが口から引き抜かれ……また押し込まれる。
「はぁ!?」
 真尋の奇声をよそに、また引き抜かれ押し込まれる。普通の物より大口径で、喉に当たればただでは済まなそうな極太キノコが、アト子の口をピストンで出入りしていた。
 内容こそ聞こえないが、周囲の男性客の視線と密談が真尋達に突き刺さる。都合のいい結界は何をやっているんだ? いや、真尋にとって都合が悪かろうと、この状況は張った本人には都合がいいのだろう。
 是非とも、今すぐ、このテーブルを周りから見えなくする道具が欲しい。副作用で盲目になったり、技名がネタ満載の正義厨になるかもしれないが……まあそんな物は無いので、真尋がとるのはたった一つの冴えたやり方。
 つまり。
「アウトぉっ!」
「んぐんぐ、んっ……ごくん。どうしました真尋さん?」
「その何も分かってないみたいな顔はやめろ」
 キノコを一つ食べ終わったアト子は、柳の下の童女みたいに笑う。だと言うのに怪しい色気がアクセル全開アップグレードだ。
「あらあら、わたくしはただキノコを美味しく食べていただけですよ? 何か不作法があったのでしょうか? 申し訳ありませんが、是非とも問題を事細かに、真尋さんの口からハキハキと仰ってくださいませ」
「悪魔か!」
 思春期の少年に何を言わせようというのか。
「そんなひどい。小悪魔とお呼びください、わたくしだけが使えるテクニックで真尋さんの理性を溶かし尽くそうとしただけですのに」
「旧支配者だろ、そもそも! お前の恋愛は英国式か」
「どういう意味でしょうか?」
 頭空っぽの方がどうでもいい知識詰め込めるとばかりに、駄トリビアを射出してくる混沌の友人のわりに知らないらしい。そういえばこいつは、洋物より和物の方が好みだったか。
「こんな格言知らないか? イギリス人は恋愛と戦争では手段は選ばない。って、お前とかには相応しいだろ恋愛暴君」
「それは知らなかったですね、クー子さんはご存知でしたか?」
 ダメだ、全然堪えない。なんだこの柔軟性は、柔らかいということはダイヤモンドより壊れないってやつか。
「……アト子、凄いテクニシャン。どこで憶えたの?」
 発情していた。
「学生時代は、キノコテクニシャンと呼ばれていましたのですよ……はいクー子さん、あーん」
「……わたしもやるの?」
「はい、先ほどの真尋さんを見ましたでしょう? なんのかんので男の娘……ではなく男の子ですから、クー子さんの可愛いお口でキノコを食べれば、真尋さんの目を釘付けに出来ますよ」
「んなっ!」
 クトゥグアがその小さな口でぶっといキノコを食べる。それを見たくないと言えるほど、真尋は男をやめていない。メイド服など似合うわけがないのだ。
「く、クー子……」
「……少年が……くぎゅ付け」
「それはハス太さんですね。ほら、もっとお口を開けて、上目遣いで媚びる様に……ああ、クー子さんとてもいいです、わたくし、新たな扉を開けてしまえそうですわ」
 クトゥグアは火属性の衣を脱ぎ捨て、闇属性を顕現させ、アト子はビクンビクンとどこかへ飛んで行きそうだ。
「……少年、見ていて……わたしの、ペロペロ」
 確かに、自分に見て欲しいから頑張るというのは、男冥利に尽きる話だ。
 でも。
「人の目を気にしろ馬鹿っ!」
 ノーモーションでフォークが振るわれ、キノコを貫通し奪い去る。その様は百舌の早贄、ドイツ語でビクティム・ビークの如く。
「……あ」
 一体こちらを見ている何人の男性が、クトゥグアに劣情を感じ、妄想の中で汚されるのか、仮令ゼロ人であっても可能性があることが真尋には我慢出来ない。
 その感情の名前が首をもたげてきたのを振り切る様にキノコにかぶりつく。
「真尋さん」
「あんだ?」
 香ばしい風味に、素材の味を引き立てる調味料が効いていて、なるほど美味しい。
「申し訳ありません、その独占欲を甘く見ておりました。クー子さんの髪の毛から爪先、αからΩ、AtoZ全て他の男性に渡したくないのですね。本当に真尋さんはクー子さんが……」
「妙なことを口走るな、そろそろお前にフォークを馳走してやろうかと思うんだが」
 最近は体罰がどうこうと五月蝿いが、痛くなければ憶えないのだから仕方ない、人間だって邪神だって生物だ、口で言って解らないのなら悲しい目をしたサーカスの動物と同じ対応をするしかない。
「まあ恐い、わたくしはただ、あと一歩を踏み出せない仔山羊達の心の壁の破壊者なだけですよ」
「チェンジ、破壊者を守護者に変えてくれ」
 ころころと笑ってまたもフォークを出すタイミング外された。
「お前の恋愛脳っぷりも厄介だな」
 しかも寝取る為の前段階なのだから厄介過ぎる。絶対壊せないビルを貫通してくる糸くらい厄介だ。
「では別の話題にしましょうか」
「……アト子、じゃああと二つの理由を教えて」
「理由? ああ、ここに来た理由が三つあるとか言ってたな」
 正直忘れていた。
「そうでしたね、では一つはこれです」
 テーブルの真ん中にあったキノコの皿は真尋が確保して、大きいのを中心に処理している。これで問題は無い……はずなのだが視線と寒気を感じるのは何故だろうか? それはともかく、その空いたスペースにイアフォンが置かれる。
 画面は見たところアプリケーションみたいなのだが。
「読めない」
 まったく見たことのない言語で書かれていて、ちんぷんかんぷんだ。このまま見ていたらSAN値が減るかもしれない。
「ああすみません、言語設定がメルニクス語でしたね」
「いや、実は諦めてたからいいけどな。なんて書いてあるんだ?」
「……これ、マテリアル・パズルアプリ」
 クトゥグアが答えてくれるのはいいが、相変わらず疑問点が追加されるだけの解答だ。やはり解説役は大事だ、狼狽えないドイツ軍人とか雇えないだろうか。
「……邪神の能力の一部を使える様にするアプリケーション」
「へえ、凄いじゃないか」
「……でも世の中上手くいかないもの、まだまだ研究中だから基本的な能力しか使えないし、一スロットで何十万メリクルもする」
 クトゥグアが以下略。
「……大丈夫、熱心なプレイヤーも忘れてそうな用語筆頭だから。それはそうと、早くクトゥルヒの氷華絢爛波を実装してほしい。とくこうが高いのに、憶える有用な氷技が全部ぶつりだから唯一邪神(笑)って呼ばれてるうちのアフーム=ザーを救済したい」
 うん、クトゥグアが何を言ってるのか今の真尋には理解できない。
「本当にまだ基本的な技能だけなのです、例えばクトゥグア星人でしたら単純な発火能力、クトゥルフ星人は海水に阻まれる程度のテレパシー、ハスター星人は眷属に負ける程度の戦闘力」
「散々だな」
 よく言われる事だけど、流石に酷い。
「ニャルラトホテプ星人は精神攻撃ですね」
「そこは予想通りだな」
「……ニャル子のは凄いよ、ゴスロリを着てモーニングスターを持って精神攻撃するの、ニャル子可愛い」
 頭の中でどうなってしまったのか、どこかに行ってしまったクトゥグア。そろそろ妄想を裁く掟が必要かもしれない。
「ノーデンス星人はノーデンス時空です」
「それかよ!」
「残念ながら、あのいいお声はまだ再現出来ないんですよね」
 確かにいい声だが、ツッコミ所はそこじゃない。
「……ノーデンスの声はお得、うっかりスイカバーをお腹いっぱいご馳走したくなる」
 なんだその特性は、貝殻に乗ってるしローレライとかの親戚なのか。
「じゃなくて、ノーデンス時空って結構凄い特性なかったか?」
 馬鹿デカい空間を作る時点で地球人的には驚愕だが、確か味方の力を数倍、敵の力を半分にするとか。そんなのが声以下なのか。
「……少年、その設定はウソエイトオーオー。じゃないとわたしが弱すぎる」
 確かに。
「世の中不思議で満ちているんですよ。で、知り合いにアプリの開発者がいまして、それのモニターを頼まれて街を徘徊していたのが二つ目です。ご馳走様でした」
 いつの間にかアト子の料理が全て無くなっていた。
「では申し訳ありませんが、そろそろ仕事に戻りますのでお暇させていただきますね」
 来たときと同様に、いつの間にか席を立っていた。伝票を持って。
「お、おい」
「色々騒がしてしまったので、ここの支払いはわたくしが持ちますよ。これでも社会人ですから、お気になさらず」
「でもな」
「そういえば、人を好きになるってどういう時か聞いた事はありますか?」
 穏やかに、有無を言わさず話の主導権を握られる。
「その人の子供を産んでもいいと思えたら、それが好きって事です」
「おい、またシモ」

「クー子さん、貴女は今もニャル子の子供だけを産みたいですか?」

「……え?」
 深紅の双眸が驚愕に開かれる。この反応に真尋の胸も高鳴る。
「そういうところです」
 硬直した二人に背を向け去って行く途中、振り返って。
「最後の一つは、女の勘です……それでは」
 それだけ言って、完膚なきまでに去ってしまった。
 そういうところです。
 その言葉の意味が理解できてしまって、頬が熱い。
 否定できないから。

 そういうところが好きなのでしょう?



[38361] 9・閑話休題……とはなんだったのか
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2013/10/29 22:58
「……少年、大丈夫?」
 ファミレスを出て歩を進める真尋に、至近距離から声がかかる。
 自分を支えてくれているクトゥグアに、目線で応対する。大丈夫だから放してくれていい、と。
「……だめ、まだ足がフラフラしてる」
 余計にギュッと掴まれた。熱いとさえ言えるクトゥグアの体温を意識して、先刻のアト子の言葉を意識して、鼓動がさらなるビートを刻む。
 おのれアト子の仕業だ。
「やっぱりあいつ、悪魔かなんかだろ」
「……わたしは堕天使だと思う。少年、つらいならお家帰る?」
「大丈夫だ、問題ない」
 無いわけではないのだが、クトゥグアと二人で出かける機会など、そう多くは無い。ないない尽くしのシチュエーションだからこそ、真尋は男を見せたい。
 例え、クトゥグアに支えられているこの状況が、傍からどう見えようと。答えを出す手前で踏み留まっているヘタレでも。
 例え、ふらついている原因が、キノコの食べ過ぎによる胸焼けだとしてもだ。
「そういやキノコは僕が食べちゃったけど、クー子はあれで足りたか?」
「……少年にあーんしてもらったから平気。えへへ」
 平気とはにかむその姿は、まるで兵器みたいに奴よりも速く真尋の胸を貫いていく。
 奴って誰だ?
「……少年、上手いことを言おうとしない方がいい」
「言ってない、思ってるだけだ」
 なのにクトゥグアは真尋の精神防壁を突破して、心を読んでくる。やはり幻夢境は機能していないんじゃないか?
「……上手いことより、甘いことを言おう?」
「例えば?」
「……『俺はまだ本気を出していない、これからビッグなことをするための充電期間にすぎない』by二十代半ば男性、平日の昼間にゲームをやりながら」
「甘いな、人生への向き合い方が」
 ある意味苦くて辛いが。
 そしてクトゥグアには盛大にブーメランだ。
「……もしくは、わたしに甘い言葉を囁くといい」
「はぁっ!?」
「……エンドレステープのように耳元で囁いて。祈って。詠唱して。念じて」
 念じてどうする。
 それで聞こえるのだろうか? 確かに原典ならば信奉者の召喚に応じて、フォーマルハウトからすぐさまやってくるが。
 念じてもいないのにハイになって、フォーマルハウトじみた熱の籠もった瞳で見つめてくるクトゥグアに。
「綿飴にチョコと蜂蜜を垂らして、グラニュー糖とデスソースを混ぜた物をコーティングした色とりどりのフルーツを乗せて、二種類のクリームをかけて出来上がり」
 ついついそんな返答しか出来ない真尋である。
「……少年はわたしの好感度を上げて落とすのが好きなSなの? 少年はいやらしい子。わたしをいじめて、お腹の奥をきゅんきゅんさせちゃうなんて」
 相変わらず発情の条件が分からなさすぎる。再現性の無いバグは、攻略サイトに報告しても取り合ってくれないのだ。
「誰がこいつの攻略サイトなんて作るんだか」
「……何?」
 作られた。ということは、こいつが攻略されたということを意味するので無い方がいい。あったら間違いなく安眠出来なくなる。その自信があった。
「なんでもない」
 頭を撫でてやる。
「……あふぅ。わたしを、んっ、なでなでで誤魔化される、あん、安い、くっふぅ、女だと思わ、ひゃぁ、ないで」
「いやいや待て待て、僕頭を撫でただけだぞ! つか熱い熱い熱い!」
 周囲の目と、クトゥグアが掴んでいる身体が痛い。なんで撫でただけでこんなことになるのか、突っ込むと新たな伏線になりそうな掌を見つめる。
「……少年ってばテクニシャン。リビドーが高まって、全部のサイバディを再生させられそう……アプリボワゼしちゃう……あ、少年に聞きたいことがある」
「お前はいきなり戻ってくるな! で、なんだよ?」
 もしやこいつは、血が上りやすいから発情して頭をスッキリさせているのではないか? そんな特に意味のない疑惑が真尋を襲う。
 本当にクトゥグアのことを知りたいのに、疑惑ばかり増えてる気がする。
「……ニャル子のこと、どう思ってる?」
「え?」
「……好き?」
 反射的に逃げ場を探す。しかし回り込まれてしまった。
 いや、きっとそんなもの最初から無いのだ。邪神からは逃げられない。
「よく……分からない。嫌いじゃない……し、かけがえの無い、と思ってる」
 ただの居候。そんな答えはクトゥグアは望んでいないだろうし、真尋にとってもそれは嘘だ。
 だから一言一言噛み締めて、自分の言葉を、自分の心を確かめながら言の葉を紡いでいく。
「ドキドキさせられたこともあるけど、好きか? って聞かれると分からない」
 這い寄る混沌、無貌の神、真尋を非日常の世界に引きずり込んだ張本人。
 ナイトとしての宿命に迷いなど無いとばかりに真尋を守り、幻夢境……ひいては人類のために華麗に戦ったりはあまりしてないが、ともかく真尋を護衛しに来たニャルラトホテプ。
 初対面から一目惚れだと言って、人目も憚らずに擦り寄ってアピールしてくるあいつを、嫌ってはいない。むしろ好意を持っている。
 でも、それは男女の恋愛感情ではないと思うのだ。
「そもそも最初は色々とまどったりしがちだったしな……あいつの発言やら食材やらを疑うこと知ったとき、久しぶりに自分の足で立った気がしたしな」
「……それは酷いよ少年」
「仕方ないだろ、地球外の食材なんて食べたらどうなるかわからないんだから……てか嫌な予感しかしないし」
 どこぞの名探偵よろしく、コーヒーに毒、ケーキに解毒剤が仕込まれてることは無いだろうが、紅茶にレベルや年齢、身長が下がる作用があっても驚かない。
「……ショタ少年……それはそれで、わぁいな気分でおねショタが味わえる」
「おね?」
 小柄小柄と言ってきたが、実はニャルラトホテプとさして変わらない背丈ではあるが、それを差し引いても姉キャラでは無いだろう。
「……わたし年上」
「ああ、結婚適齢期ギリギ、熱い熱い熱い!」
 再びハグからの鉄牛の烙印付け(メタルブランディング)が真尋に炸裂する。ただし威力は控えめだ、柔らかさを認識できる程度には。
「……少年、口は災いの元って言うでしょう? 戦場で女の名前呼ぶのはこれから死ぬ奴の言葉って……それじゃあ次の質問、ハス太君のことはどう思ってる?」
「弟分」
 即答であった。
「……本当?」
「本当だよ! 確かにハス太はいい子だけど、まだ僕とハス太をくっつける気だったのか?」
 クトゥグアにまだそう思われてるとなると、スタンなショックが直撃して一ターン行動不能になりそうなのだが。
「……少年がキノコを食べてるとき、アト子が『まあ、真尋さんはまさかそっちの気が? うふふ、殿方から殿方を寝取るのは初めてですが、だからこそ興奮します』って言ってたからつい」
「あいつの発言は、壱から玖まで七を飛ばして聞き流せ」
 あんなイカレた黒髪の蜘蛛の言葉に惑わされてどうする。真尋はただキノコを食べただけだ、あとは血となり肉となるだけなのだ。
「……漢字変換出来ない悲しみを背負いつつ了解……じゃあ、そのアト子は?」
「口で話してるのに、変換を気にしてどうすんだ。で、あいつか……社会人としては尊敬もできるんだが、性癖がな」
 その一点だけが問題なのだが、大きすぎてそれ以外が点になる勢いだ。士気も練度も最高クラス、ただし乗ってるのは八九式、みたいな。
「……じゃあクー音姉さんは?」
「正直、あの次元の変態は勘弁……って、さっきからなんだよこの人選」
 あれか? ハス太は微妙だが、真尋の胃痛の原因達か?
 問われたクトゥグアは、ようやく真尋を離し小走りで少し前に行く。
「……わたしはね」
 振り向かずに言う。
「……アト子みたいな寝取り寝取られじゃなかったら、ハーレムは望むところ」
 表情を見せずに言うクトゥグアの真意が分からず、真尋にまた疑問符が浮かぶ。浮かぶが。
「僕は何人も一緒に愛せる器用な男じゃないよ」
 浮かぶなりに、言いたいことを返す。
「……だったらシナリオをクリアして、器用度を上げればいい」
「僕はあまりサイコロで1を振らないんだよ」
 そのわりにここ三週間は致命的失敗な出目が連続した気もするが。きっと後から思えばいい思い出だった的に運命変転したのだろう。
「なんなんだ、この会話は」
「……だってわたし、少年のこと好きだし」
「でも、一番はニャル子なんだろ?」
 ここまで分かり切っていたことの確認だ。クトゥグアは真尋を愛人にしたい程度には好意を持っているが、結局ナンバーワンでオンリーワンなのはニャルラトホテプで揺るがない。
 揺らぐわけがない。
「…………え、タイムリリース来たの?」
「は?」
 急に話を飛ばしたクトゥグアの視線の先では、結構大型のゲームセンターが、様々な光や音を発していた。
「……少年、身体が大丈夫だったら入ろう。魔を断つ剣、シャーロック・ホームズと、無垢なる刃、源九郎判官義経がリリースされたって」
「ん、ああ」
 新たな目的地に向かうクトゥグアを追う真尋は、この時はまだ気付かないフリをした。

 クトゥグアがはぐらかした事を。

   ***

 扉に押し留められていた光と音の奔流に圧倒される。あまりこういうところに来ない真尋には異界に等しい空気だ。
「……この風、この肌触りこそ戦場……バスケ部や陸上部よ、わたしは帰って来た」
 しかし、このツインテールにとってはホームも同然。発する熱気が上昇している。
「凄いな」
 薄暗くて不良の溜まり場になっている。なんて一昔前のイメージと違い、明るく掃除も行き届いている。
 しかし流石休日。人で溢れかえっていて、同年代のカップルらしき姿もちらほら見える。
「ふたりのきょうどうさぎょうですね」
「ちょ! な、何をいきなり言う……あ、すみません」
 クレーンゲームの筐体から急に後退った女性とぶつかった。
「いえ、こちらこそ……あ?」
 見なかったことにしよう。
 そこにいたのは、眼鏡のクールビューティー……ではなく、顔を赤く染め可愛い系の服装、挙句の果てにタコの足の様なウェーブヘアを結う『黄色い』リボン。
 デート用装備。赤面しちゃう程の切り札超絶形態(ヒートジョーカーエクストリーム)なルーヒー・ジストーン。隣には金髪のみつあみも見える。
 うん、超法規的措置でスルーしよう。
「……あ、ハス太君とルーヒー」
 こいつ、声掛けやがった。
「まひろくんにクー子ちゃん!?」
 知り合いの登場に明らかに狼狽するハスター。しかし、その隣でさらに不味い顔色をしているクールビューティー()が一人。
「八坂真尋こっち来なさい!」
「うぉっ!」
 引っ張られた。
「なんで貴方と女王がここに?」
「休日の学生なら珍しくも無いだろ」
「女王はともかく、貴方のキャラではないわね」
 キャラについて、今のこいつには何も言われたくはない。
「そもそも、数日前は暮井珠緒を連れておいて今度は女王。女の敵ね」
「居候と一緒に出かけるのが不自然か?」
「そんなむせるほど炎(女王)の匂いが染み付いているのに、その言い訳は通らないわよ。知ってる? 女の敵は、他の男も敵に回すから、結局は世界の敵なのよ」
「で、お前は僕にどうしてほしいんだ?」
「はぇ?」
 やっぱりこいつは羞恥で反射的に威圧してきただけだ。ハスターとの仲なんて周知なのに。
「僕らはたまたますれ違った。それじゃダメなのか?」
「……あら奇遇ね八坂真尋に女王、会えたばかりで残念だけど、これが私の挨拶だから」
 タコらしい環境での変色精神を発揮したルーヒーは、ハスターを引っ張って去って行こうとする。
「……ハス太君、ルーヒー」
「ク、女王、さよならは言ったはずよ、別れたはずよ」
 まだ別れてはいないルーヒー達にクトゥグアは親指を立て。
「……頑張って」
 言われた方は、さらに真っ赤になって駆けるのだった。
「慌ただしいな」
 ルーヒーから出た名前で、否応なしに向き合わなければいけない問題を思い出し、頭を軽く降る。

「あれ? 八坂君にクー子ちゃんじゃない、奇遇だね」

 今日はなんて日だ。

 スピーカーの髪飾りの少女が、そこにいた。



[38361] 10・ゲーセン嬢のクー子
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2013/12/08 18:52
 八坂真尋にとって、暮井珠緒は特別な意味を持つ存在だ。いや、存在になった。
 つい先日にまたも馬鹿らしいオチだった幻夢境の事件に巻き込まれた珠緒は、人騒がせな大いなる種族からニャルラトホテプ達の正体を聞き、まさかのメインキャラクター入りを果たし。あろうことか真尋に告白をした。
 実は男だったとか、海に面した崖で自分が犯人だとか、それも私だとかそんな告白では勿論なく、真尋への好意。羽ばたく愛情を、The愛を伝えたのだ。
 地球人からの告白など初めてで、心臓がドキドキと『こっちを見ろ』と言いながら弾けそうになる。
 そんな勇気を振り絞った彼女は、伝えられれば良かったと一応は言ってくれたものの、やはり返事は早くした方がいいだろう。
 告白の返礼の作法を知らないので、幼なじみに告白された事がある中学時代の友人に相談しようとも思ったが、そいつは義妹との三角関係で色々大変な事になったのを思い出し、卑怯な安堵と共に諦めベッドに身体を沈めたものだ。
 しかし、よりにもよって今、クトゥグアと二人で遊びに来ている、傍から見ればいわゆるデートな状態に邂逅してしまった。
 超人レスリングマンガの設定ばりにコロコロ変わると言う女心は推し測れないが、まず穏やかではいられないだろう。
 この、将棋やチェスで言うところの詰みになって、真尋も腹を括ることを決めた。
 間違いなくここは、進むべき道を切り拓くために覚悟する状況だ。
「……珠緒、援護するからそのうちに装填して」
「ありがと、あたしのリロードはレボリューションだよ!」
 状況のはずだ。
 なのに。

「どうしてこうなった」

「……もっと鉛が欲しいの?」
 クトゥグアの二丁サブマシンガンによる弾幕が異形の怪物の波を押し留め。
「えーと、筋肉じゃなくて骨でささえるんだよね?」
 珠緒のライフルが確実に葬っていく。
 当然実銃ではなく、ゲームセンターらしくガンアクションシューティングのコントローラーだが。
「……泥でも舐めてて」
「狙い撃つよ、あたしも」
 画面の中のいやにリアルに造形されたクリーチャー達が、カラフルなエフェクトと共に次々と駆逐されていく様に、そもそもこんな特殊なコントローラー珍しくね? と、どこかズレた疑問が浮かんで来てしまう真尋を余所に、ディスプレイの中の戦場は新たな局面を迎えたようだ。
「うわ! なんかファンタジーから現代になった……あ、東京タワーだ」
「……気が狂いそうなほどの最プレイの果て、バッドエンドに次ぐバッドエンドを越えてたどり着く希望があるかもしれないルート。通称『シバムラティックバランス』」
「何故だろう? 絶望があたし達のゴールって言われた気分なんだけど。でも、そんな隠しルートまで知ってるなんて、クー子ちゃんこのゲームやりこんでいるね?」
「……答える必要はない。というかプレイ時間を知ると引かれる」
 一瞬チラリと深紅の双眸が真尋を射ぬいた。別にゲーム好きは分かり切っているのだから引くことなんて無いのに。
 むしろ無表情なのにどこか不安げな上目遣いに惹かれるのに。
「……少ねn」
「分かってるよ、わざとだよ、ついだよ!」
「どっちなの? てかどうしたの八坂君?」
 いかんいかん、珠緒への返答を考えねばならないのに、ついクトゥグアに思考がよってしまう。
「……えへへ。と、珠緒、ここからは難易度が跳ね上がる。隠しルートだけに一部のスタッフが自重を捨てた、一つのミスがアクティブハートを奪っていく」
「あはは、あちこちやって来たけど、楽してクリア出来るゲームが無いのは、どれも一緒だなぁ」
 弱気なセリフとは裏腹に、その横顔はビビッと難易度レッドなオペレーションに一歩も引かない頼もしさが見て取れる。
「……具体的にはいきなり音ゲーになる」
「なんでさ!?」
 狼の皮を被った爬虫類が機械化された四足獣になるのもビックリなワープ進化だった。
「……さあ珠緒、急いでコントローラーの持ち方を変えて。ライフルはギターっぽく、サブマシンガンはマラカスっぽく」
 そして無駄に凝っていた。
「それ絶対に一部のスタッフの所業じゃないよな? 開発チーム一丸となって暴走してるよな?」
「……少年、耳元で叫ばないで。音が聞こえない」
「あ、悪い」
 そんなに大声を上げたつもりはないのだが、それは言い訳だ、素直に謝っておく。
「……クトゥグアイヤーは少年の声を最優先で捉えちゃうから音ゲーやるときは消音スキルをお願い」
「あう」
 まただ、またこいつは自然体でこういう事を言ってくる。自然体てはつまりどこにも偏っていないということ。攻めも守りも自由自在に真尋の心を熱してくる。
 しかし自分はチョロ過ぎやしないか?
 ……うん、とりあえず今回の赤面はゲーセンの熱気が原因って事にしとこう。珠緒もいるし。
「あっはは、仲いいね〜。そうだクー子ちゃん、これギターじゃなくてベースみたいにやって大丈夫かな?」
「……ゲームだし、そんなに厳密な判定はないからいいけど。なんで?」
「いやぁ昔、軽音部でベースやってた経験を活かそうと思ってね」
「お前、そんなことやってたのか? 多趣味だな」
 それとも例の部活見学だろうか。なんにせよ、趣味と言えば読書が中心で、それさえも最近滞りがちな真尋には羨ましく眩しい話だ。
「あー、そういえばドラマCDから声が変わっちゃったから、この設定は微妙かな? でも八坂君のお母さんはまだあの台詞言ってるし……」
「うわ……」
 今のは聞かなかった事にしよう。認めてしまったら珠緒がニャルラトホテプ達の側、つまり別世界をネタに出来る存在になってしまう。ついでに、告白に対して真摯に対応しようという気持ちも失せてしまった。
 暮井珠緒、すごい漢女だ。
「……珠緒、そろそろ始まる。わたしもサブマシンガンを、少女趣味の菜食主義者みたいにマラカスとして扱うから」
 言われてみればまだ始まってなかったのか。回転率を上げたいゲーセン側からすれば迷惑な筐体だな本当。
「おっけー、軽音部でお茶を飲んでた経験が生きたな、って言われるくらい頑張るよ」
「その経験が生きないのは、確定的に明らかだろ!」
「……狂気山脈よアストラギウス銀河よ、わたしの歌を聞けー」
「歌でいいのか? マラカスなのに」
 もう決めた。告白に悶々と悩み続けるのはいったん止めると決めた。
 二人がこんなに楽しそうなのに、一人仏頂面では場の空気が悪くなるというものだ。
 いや、やっぱりこれも言い訳だ。
 単に、まだ筐体に触ってもいないのに。

 この空気が楽しくて仕方ないのだから。

   ***


「……まるでピクニックだった」
「楽しかったよ」
 シューティング音ゲーを終え、一同は比較的人の少ない競馬ゲームのエリアにやってきた。
「……初めてでパーフェクトなんて、珠緒は上手」
「いやいや、クー子ちゃんの指示がよかったんだよ。『ゴーゴーゴーゴー』とか『スリーツーワン珠緒』とか。たまにツル子って交じってた気がするけど……でも」
「ああいうの、ちゃんとパーフェクトってやれるんだな。初めて見たぞ……でも」
 珠緒は星を見た。真尋は泥を見た。
 目が合う。まあ考えることは同じだろう。
『クリアしてもドラゴンが東京タワーに刺さるなんて』
 敵じゃなくて、味方……味方のドラゴンが、しかも小生意気な幼い少女が変身したドラゴンが東京タワーのオブジェクトになってしまうなんて。こんなこと残酷過ぎる。
「……うん、どう足掻いても絶望ゲームだから。大丈夫、未来では別世界からブラストハンドがやってきて、ちょっと世界はよくなるから」
「まず誰だよ、ブラストハンド」
 放っておいたら、また関係ない話題がどこまでも続きそうだが、そもそも主軸となる話が今無かった。
「……そうそう、珠緒ってゲームセンターによく来るの?」
 話を展開させるためか、いつもと変わらぬマイペースと無表情で問い掛けるクトゥグア。いや、クトゥグアマイスターの道を歩み始めてしまった真尋には分かる、同じ趣味の相手を見つけて高揚している。ある意味ヲタクの鑑みたいな反応だ。
「いやさぁ、こないだイス香関係で色々あったじゃない?」
「……あったあった」
「あったな、相変わらずくだらないオチで」
 詳細は伏せるがつまるところ、偉大なる記憶と接続して、新しい暮井珠緒がエクストリームに誕生したのだった。ハッピーバースデー!
「で、それがどうしたんだ?」
 やっぱり不具合があったのだろうか? 毒を持って毒を征す様なものだが、惑星保護機構に精密検査をしてもらった方がいいんじゃなかろうか。
「それが、イス香から渡された記憶がさ……」
 そんな真尋の心配とは裏腹に、珠緒の表情はなんとも言えない味わいだった。
 そしてなんとなく察せた。

「殆どゲームの攻略知識だったんだよね」

「予想を外さねえな、あの球根!」
 真面目に仕事してるのか不安になるな、時空管理局は奴をジャッジメントするべきでは? そんな思考が一瞬奔った真尋だった。
「知識だけでどこまでプレイ出来るか、朝から試してたんだよね。漫画とかだと負けそうだけど」
 休日に一人ゲーセンに入り浸るのは、花の女学生としてはどうかと思うが、本人が楽しそうだからいいか。
「ところでさ、八坂君達は二人だけ? ニャル子ちゃんやハス太君は?」
「あれ、知らないか? ニャル子は実家に帰省したぞ」
「知らないよ、そんなご家庭の事情! で、ハス太君はどうしたの?」
 どうやらニャルラトホテプは珠緒にも伝えていないらしい。よかった、その上で知っていたら家の中をひっくり返すところだ。
「……ハス太君は、二人の恋のヒストリーを始めるためにファーストキスに至るかもしれない」
「その話、詳しく!」
 歩くスピーカーの目が輝いた。あえて言うなら、暮井珠緒から暮井珠緒エクストリームに欲望を解放して肥大化した感じ。
 ワイヤー担当が、その重量に辟易するだろう。
「待った、そろそろ移動するぞ」
 しかしルーヒーと密約を交わした手前、この話題が拡散したらこっちまで飛び火しかねない、いやする。イーベル・ルーヒーのリアクター羞恥心は、命中後次の標的に向かっていく鬼畜仕様だった。
「プレイもしないのにたむろってたら、これやろうとしてる人に迷惑……かかりそうもないな」
 周囲を見渡すと、悲しいかな誰も並ぼうともしていなかった。
「……ゲームと言えど誰も分の悪い賭けをしようと思わない悲しい現実。わたしは嫌いじゃないけど、二人は?」
「僕はする気はないし、主義じゃないな」
「あたしは……どっちでもいいかな。状況次第。で、次は何やるクー子ちゃん?」
「……やりたいのはある。でも」
 珠緒の問いかけに、珍しくクトゥグアが言い淀む。
「どうした?」
「……ん、結構並んでるから」
 なるほど、入る前にクトゥグアが言ってたやつか。確かこういうのは、人が捌けるまで待つのは通用しないんだったはず。だから長時間並ばなければいけないが、それに真尋と珠緒を巻き込むのは躊躇われるのだろう。
「別に、普段来ないんだからお前に任せるよ。暮井は?」
「空いてるのはだいたいやったから、やってないのやりたいかなぁ」
 よし、決まりだ。
「……ありがとう、二人とも」
「礼を言うことでもないだろ。んじゃ、二人で先に並んでてくれるか? ちょっとトイ……手を洗って、飲み物買ってくるから」
「……ん、了解」

   ***

「当たり付きとか無いのか」
 どうせギャンブルするのなら、こういうところでやればいいのに。と思いながら、飲み物を探す。
「僕とクー子はコーラでいいとして、暮井は……ラムレーズンか?」
「八坂君」
「暮井? どうした、嫌いな飲み物とかあったか?」
 じゃなくて、なんでここに。
「いやいや、嫌いなわけライチー。と、前に話した恋愛相談の子からヘルプが来たからちょい抜けたの」
「ああ」
 問題は無いらしいので、自販機に向き直る。
「あとさ」
 あまりに無防備に。


「八坂君はクー子ちゃんのどんなところが好きになったの?」



[38361] 11・真尋の恋、珠緒の恋
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:b2edb3bc
Date: 2014/01/02 21:14
「どんなところが好きになったの?」
 それは既に断定の言葉。
「好きなの?」
 という疑問文ではなく。
「好きなんじゃない?」
 という問い掛けでもなく。
 八坂真尋はクトゥグアを。クー子と呼んでいる紅髪ツインテールの居候を好いていると断定した上で、突き付けてきた。
 核兵器のコントロールを奪うことも出来る化け物さえ動きを止めてしまいそうな、圧倒的、暴力的とも言える情報量に真尋は何を言っていいか、そもそも今何をしていたのかさえ分からなくなりそうだった。
 例えニャルラトホテプに問われても、こんな無様は晒さなかっただろう。それはハスターでも、ルーヒーでも、母親でも、アト子だってそうだ。
 でもこの相手だけはダメだ。
 ただの同級生で、知人の友人で。
 つい数日前に真尋に愛の告白をした暮井珠緒には無様を晒すしかなかった。
「そう……」
 振り向けない。自販機の照明の点滅が、自分を急かしているみたいに感じてしまう。
 かろうじて搾りだした言葉は。
「そう見えるか?」
 自分が正気だったらぶん殴ってやりたいくらい最低だった。
 この期に及んで、暮井珠緒相手にこんな返答しか出来ない自分を許せなくなりそうだ。
「んーとね、八坂君」
 だが当人は気にした風もなく言葉を紡ぐ。
「あたしは八坂君が好き、大好き」
「んなっ!」
 分かっていたはずの事実でも、再び突き付けられればまた心臓が跳ね回る。
「だから分かるの、好きな人の好きな人が誰かなんて」
「……」
「理屈じゃないんだ」
 たはっ、と笑う声が耳を打つ。声だけが。
「まあ、だからかなり意地悪な質問なんだよね」
「そう……なのか?」
「うん、あたしが八坂君が好きな理由は言えないもん」
「……」
「優しいところが好き。厳しいところが好き。笑った顔が好き。仏頂面が好き。なんだかんだで面倒見がいいところが好き。わりと女顔なところが好き。と思ったら意外に男らしいところが好き」
 その一言一言が、真尋の心を『優しく/激しく』『撫でる/苛む』。
「でもそれは後付けの理屈。ほら、愛情って野性的な本能だから、野生を縛る理性はいらない、的な?」
 その言葉が紡がれる度に、染み込む度に、暮井珠緒の真摯な思いをぶつけられる度に。
「でもあえて言うなら」
 その真愛に応えられないと分かるから。
「八坂君が八坂真尋だから好きになったの」
 自分が誰が好きなのか、はっきりと理解してしまったから。
「ありがとう……暮井。凄い嬉しい、本当に嬉しいよ。でも……ごめん」
 振り向こう。
 目を見てちゃんと言おう。
 それが、この真摯さに対して真尋が返せる数少ないものだから。
「ごめん八坂君」
「あっ?」
 両肩と背中に何かが押し付けられる。
「こっちみないでくれるかな? 目を合わせないでくれるかな? 今そうしたら、きっとあたし酷い顔になる……八坂君に酷いこと言っちゃう……クー子ちゃんにも」
 珠緒が背後から肩を押さえて、頭を擦り付けていた。
「そんなの嫌だからさ、あたしのことほんのちょっぴりでも好きなら、お願いこのまま言って」
 まだその声は普通に響いている。
 そうに至る感情がどんなものか真尋には想像もつかない。だけど珠緒のことは好きだ、もし自分の想いがこうならなかったら付き合っていただろうと思うくらい。
 だから彼女が望むならそうしよう。自惚れでなければ、彼女の最大の願いは叶えられないから。
「僕は……」
 自販機を見つめながら。
 周りの喧騒に負けずに珠緒の耳に届くようにはっきりと。

「僕はクー子が好きなんだ」

 そう言った。
 珠緒に、そして自分に宣言した。
 もう逃げ場なんて無い。
「そう……なんだ。失礼だけど、ちょっと意外」
 一瞬声が歪んだ。
 でも、すぐに元の調子に戻る。
 強い娘だ。
「そうか?」
「うん、応援してる立場としてはニャル子ちゃんが優勢だと思ってたし、八坂君とクー子ちゃんの仲の良さって、なんて言うか兄妹的な感じだし」
「そうか……そうだよな」
 自分だっていつからクトゥグアがこんなに気になり始めたのか分からない。
「正直、なんでニャル子じゃなくてクー子なのか自分でも分からないんだ。別にあいつのことが嫌いなわけじゃもう無いのに」
「そこは本当に理屈じゃないからね……ねえ、行き掛けの駄賃って言うか冥土の土産みたいな感じで教えて欲しいんだけどさ、ニャル子ちゃんのことはどう思ってる?」
 不吉な言い回しが気になったが、このタイミングでツッコムほど真尋は厚顔無恥ではなかった。
「居候……じゃもうないんだよな、強いて言うなら家族……かな」
 先程クトゥグアにも言ったことを、偽り無い本心を吐露する。思えばランクアップしたものだ、当初は追い出す方法を懸命に考えてたのに。
「んー、じゃあハス太君は?」
「ハス太も家族……って、なんでクー子と同じ質問するんだ?」
 三行に代わる新しい流行りだろうか?
「あー、クー子ちゃんも同じこと聞いたんだ。うん、そりゃニャル子ちゃんも苦戦するわけだ、バリアが張れない距離は近すぎるもんね」
 うんうん、と一人納得して真尋の背中のツボを額で押す珠緒。
「なんだよ?」
「ニャル子ちゃんじゃなくてクー子ちゃんが選ばれた理由が分かったかな」
「本当か?」
 自分にも分からないのに。いや、自分のことが一番分からないのは自分。だったか。
「教えて欲しいの? 本当に? 本当に?」
「んー、うん」
「素直でよろしい……でも、教えてあげないよ」
「はぁ!?」
 上げて落とされた。
「いやぁ、ニャル子ちゃんを応援する側としては、クー子ちゃんに塩を送り続けるのもねぇ」
「お前、まだ」
「うん、ニャル子ちゃんを応援する、アドバイスする。早くクー子ちゃんに告白しないと大変だぞ? これからニャル子ちゃんには、検索性がアップグレードした暮井珠緒ブースターがつくんだから」
 そう言ってまた笑う。
「でもでも、クー子ちゃんも嫌いじゃないんだよ? 八坂君の家でバーベキューしたときに、ゲームの話題で盛り上がったりしたし」
「……」
 このタイミングでツッコムほど真尋は厚顔無恥ではなかった。
「あれ? 八坂君家でバーベキューやったっけ?」
「お前なぁ」
 せっかくツッコまなかったのに。
「ごめん、あたしアト子さんに会って一緒に温泉に行ったっけ? 八坂君が女装コンテストに出たりしたっけ?」
「なんだそのおぞましい記憶は?」
 そのコンテストとやらを企画した輩をフォークで滅多刺しにしたくなる記憶だった。
「たはは、こないだから極めて近く限りなく遠い世界の記憶がたまに混ざるんだよね」
「大丈夫か?」
 日常生活に思いっきり支障をきたしそうなのだが。
「で、なんだっけ? そうそう、クー子ちゃんのことも好きだから出来れば答えを教えてあげたいんだけどね。流石に八坂君に恋愛相談出来るほどあたしは強くないし。それにほら、こんな言葉があるじゃない?」
「なんだ?」
「恋愛において男の仕事の八割は悩むこと、あとはおまけみたいなもんだ、って。ほらそろそろ」
「うぉっ!?」
 急に肩に力を加えられ、互いの顔を見ないまま位置が入れ替わる。
「そのままだよ」
 背後で電子音と、何かが落ちる音が三回する。そういえば金を入れてそのままだったか。
「はい、八坂君とクー子ちゃんの分。あとお釣り」
 そういえば、飲み物を買いに来たのだった。
「あたしの分は奢りかにゃー?」
「ああ、そのつもりだったけど」
「んじゃ、ありがたく戴いておくよ。ほらほら、お姫様をいつまでも待たせるもんじゃないよ色男?」
 背中を押される。
「あの、暮井……」
 また言葉が詰まる。
「八坂君、まだあたしと友達でいてくれる? また学校で挨拶したりしてくれる?」
「……っ! もちろん」
 背中を押してくれた意味を考えろ。ここで行くのを躊躇うのは、ただの自己満足だ。
「八坂君!」
 背中に声が叩きつけられる。

「今日は、あたしの恋愛相談に乗ってくれてありがとう!」

 それは、ほんの少し前にした約束。
 無神経に無遠慮に珠緒を傷つけた約束。
 もう遥か昔にした約束にも思える。
 振り向くな。振り向いちゃいけない。
 躊躇うな。躊躇っちゃいけない。
「暮井!」
 だから、真尋が言えることは。

「また学校でな!」


   ***


「本当に振り向かないでやんの」
 小さくなる背中をいつまでも見つめていようと思ったが、人混みに紛れてすぐに見えなくなってしまった。
「敵わないなぁ、本当……胸は、少しくらい勝ってるんだけどな。いや、小さい方がいいのかな?」
 明らかな言い掛かりだけど、自分の中で完結させるからいいよね。と、珠緒は自分を納得させる。
「さて、恋愛相談始めますか。覚悟しなさいよ、失恋を知った暮井さんは暮井珠緒ゴールドエクストリームなんだから」
 奢ってもらったジュースで喉を潤す。
 涙の数だけ強くなったと言わんばかりの力強さで、携帯の液晶を覗き見る。
「えーと、まずはいつもの娘か……幼なじみがせっかくの休日なのに自分に言わずに出掛けちゃった? 探偵の仕事じゃん!」
 まあ、自分の情報網なら分かるけど。
「次は、いつも友達の恋愛相談をしてくる人か。ふむふむ、同性の想い人に好きな人かぁ。じゃあ、その相手を誘惑して切り口を……」
 さっきの失恋を忘れたかの様に、珠緒の指は忙しなく動く。
 どこかの乙女の恋が実ることを祈りながら。
「今度は……お、御新規さんだ。いいよいいよ、そうそれが恋だ、って自覚するまで付き合っちゃうよ。もちろんその先まで。おおっ! これは大物だ、友人の想い人を好きになってしまい、さらに他にもその人達が好きな人がいる、と。どうすればハーレムに持ち込める……って、ハーレム!?」
 なかなかに剛の者だ。
「ハーレムかぁ、確かな事は言えないけど、とりあえず全員と仲良くなれ……あれ?」
 液晶の文字が歪んでいる。
「水?」
 手で拭ってみると、なんの変哲もないただの水が液晶を歪めていた。
 どこからだろう? と考えているとさらに何粒もの水滴が画面を濡らした。
「……あちゃー、雨かぁ」
 雨。そう雨だ。
 今日の降水確率は0パーセントでも。
 雲一つ無い青空でも。
 ここが屋内であっても。
 上から降ってくる水など雨しか無い。
 辺りの人間が一切濡れていなくても、珠緒の周りにしか降らない雨だってあるだろう。
「もう……やだ」
 携帯を胸に抱いて、身体を折る。商売道具を雨から守るように。
 もしくは、泣いているみたいに。
「……っ、ふぇえええ……なんで、なんで駄目だったのかな……」
 真尋にも、ニャルラトホテプにも、クトゥグアにも、自分にだって見せたくない弱さが次から次へと溢れだしてくる。
「何が……何が、失恋を知った暮井さんは、よ」
 そんな言葉は虚勢だ。嘘だ、珠緒流の強がりだ。
「好きだよ……大好きだよ……そっち行っちゃ嫌だよ、八坂君……真尋君」
 恋人になれたら、そう呼びたかった。
「あたし……君のいいところ、いっぱい知ってるんだよ?」
 それを知る度に、星にだって教えたくなった。
「ニャル子ちゃんならいいや、って思ったの」
 だって適わないと思ったから。
 だけど無意識に見つめてしまっていた。
 例え大いなる知識を得ても、珠緒はただの高校生だ。そんな彼女の精神に初めての本気の恋と失恋は軽くはなかった。

「なんで、もっと……もっと早く言えなかったんだろう」

 ひとしきり吐き出した珠緒は、誰も心配しない薄情さに感謝しながら、画面に目を落とす。
「ハーレムかぁ……はは、八坂君はそういうの嫌いっぽいよね」
 とりあえず顔を洗って来よう。今、乙女的に大変なことになってるだろうし。
「さよなら、あたしの初恋」
 かくして一つの恋が終わった。










 案外、どこかの故事に倣って、蜘蛛の糸が目の前に垂らされるかもしれないが。
 それはまた、別のお話。



[38361] 12・真剣でクー子に恋しなさい
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2014/01/02 21:18

「好きだ」

 そう言ってしまえばいい。
 無理な修飾も。
 似合わない形容もいらない。
 告白の正式な作法など知らないが、真尋は真尋なりのやり方で行くことを決めた。
 何処の誰かも知らない奴が敷いたレールに捉われて、それで失敗して不満を述べる人生は嫌だ。
 ただ、自分を好きだと言ってくれた少女が背中を押してくれた事実が胸にあればいい。
 確か中学時代の友人も、生徒会室に入る時に思いの丈をぶつけていたはずだし…………まあ、あれがちゃんと有効だったかは微妙なラインだが。
「まあ、あれこれ悩むのはもう終わりにしよう。でクー子は……」
 こういうとき紅髪は助かる。もしロボットのカラーリングだったら、パイロットスーツだけは着てもらいたくなるくらい目立っていた。
 さしもの結界も、目立つという事実は隠せないらしく、周りの客が炎髪灼眼に視線をやりつつヒソヒソと話しているのが確認出来る。
「すーはーすーはー、よし。おーい、クー……」
 覚悟完了したはずの心臓を再び整えた真尋の耳を声が打った。
「あの紅い髪の娘、すげえ可愛いよな」
「…………」
 こう言ってはなんだが、チャラい感じのいかにもな若者の言葉に、ストレスが溜まる。なんか爪の伸びる速度が早まりそうだ。
 そして気になったら最後、知覚が鋭敏化されて様々な声を拾ってしまう。
「もしかして一人か?」「ってこたあ、チャンスだな」「抱き締めたいな」「バカ、俺が先に目をつけてたんだぞ」「富や名声よりも愛だぜ」「そっちこそバーカ、こういうのは早い者勝ちなんだよ」「この感情、まさしく愛だ」「んじゃ、どっちが気の利いた口説き文句を言えるかで勝負な?」「多少強引でなければ、ツルペタは口説けません」「ったく、あいつらどこ行ったってのよ!」「よし任せろ、春日のここ空いてま」「パクリじゃねーか!」「ちくわ大明神」「じゃあお前言ってみろよ」「ふんぐるい・むぐるうなふ……」「ああ、目を食い縛ってよく聞けよ? 僕は死にましぇ」「パクリだろ!」「いあ・ふぉまるはうと」「……樹殿、どこですか?」「シンクノソラー」「マニア心をくすぐるAカップ」「よし、こうなったら二人一緒にナンパを」「ヒーロー戦記もよろしく」
「…………」
 うん、そろそろ止めよう。色々聞こえ過ぎてカオス過ぎる。なんか宇宙の声まで聞こえそうだ、その行き着く先は弱体化の上にリストラなのだ。
 それに血圧ゲージが溜まり過ぎて、超必殺技が放てそうでヤバい。具体的には先日母親がやった、ヒュプノス殺しを再現出来る自信がある。
 だが、出来るから誰かれ構わずに暴力を振るうのは、勇気ではなく無謀な所業。ノミと同類だ。
「おーい、クー子! お待たせ」
 だからただ、自分がクトゥグアの待ち人であると周囲にアピールするにとどめる。
「……あ、少年お帰りなさい」
「悪いな、待たせた」
「……ううん、少年を待ってるのもなかなか楽しかったから」
「あう」
 ああ、この赤面すらもクトゥグアの隣に立つための代価と思えば甘美なものだ。
「畜生、男連れかよ」
 うんうん。
「いや、ボーイッシュな女の子の可能性も」
 ないない。
「否、男であろう。しかし女装させたら似合いそうだ」
 死ねばいいのに。
「甘いな、俺はあのままでいける! 美味しそうな男の子、じゅるるん」
「ひっ!」
 目の前の机を思いっきり叩かれたみたいな衝撃と寒気が真尋を襲う。
 ちょっと土下座してしまいそうだ。
「……大丈夫? 少年」
「だ、大丈夫だ……ちょっと寒気がしただけだから」
 大丈夫、まだ大丈夫だ。告白するための勇気の炎は消えてい……。
「うおっ! く、クー子……?」
 勇気の炎に燃料が投下された。
「……あったかい?」
 しかし、過剰投下だ。限界を超えてエネルギーを摂取すると、暴走とか爆発とか、堕落判定とか衝動判定とか制御判定の失敗とかしてしまう。
「いや、その……あったかいけど……人目が、な? ちょい離れて……」
 ついさっきも同じ体勢に……いや、さっきとは目的が違う。
「……少年が風邪引くのやだもん。震えが治まるまでくっつき虫作戦をやめない」
 つまり、支える以上に肢体を密着させている。
 腕も、脚も、腰も、そして胸も、クトゥグアの熱さと柔らかさの全てが真尋を包んでいるのだ。
「……どう? クトゥグアゆたんぽ気持ちいいでしょ?」
 互いの心身がこんなに密着しているのなら、それは合体しているも同義。
 つまり、気持ちいい。のである、中毒にならないように注意しないと。
「リア充爆発しろ」「十二時の鐘よ、鳴ってしまえ」「魔法の解ける時間だ」「夢から覚めてしまえ」「また見ればいいだろ、コンチクショー」「ODEシステムだ」「負けて死んだ」
 周りからの怨嗟の声のおかげで、熱に浮かされた精神が多少の落ち着きを取り戻せた。
 告白する。
 そう決めたはずだ。
 上手くいくか分からないが、偉い人が言っていたはずだ。気合いの不足は、気合いで補え!
「じゃ、なかった」
 数字なんてただの目安だ、あとは勇気で補えばいい。と。
 そしてその為の勇気は、珠緒から貰ったじゃないか。
「なあ」
「……何?」
「くくくくくくくく……」
「……81?」
 それじゃ九九だ。
「じゃなくて……くくくくく暮井さ、用事が出来たから帰るって。ジュースは渡しといた」
「……そうなんだ、残念。珠緒ともっと遊びたかったのに」
 まひろはゆうきをふりしぼった。
 しかしへたれてしまった。
 見よ、この真尋の無様な姿を。
 しかし、真尋が主人公の資格を失うことは……あ、ヒロインだった。訂正、メインヒロインの資格を失うことはない。
 なぜなら。
「ああ、もう! 悩むのは無しだ! クー子、僕はお前がす……」
 恋愛感情の赴くままにクトゥグアの肩を掴んで、真正面から深紅の双眸を見つめる。
 あと一文字。
 あと一音。
 たったそれだけなのに、人生で、十七年生きてきた中で発した言葉全てより重く感じる。
「…………」
「…………」
 でも、その重さが真尋を繋ぎ止めてくれている気がする。
 想いを伝えるのだ、重さは必要だ。
 重さの無い言葉では、想いは空虚で軽くなる。
 きっと誰かが言った受け売りで、自分の言葉では無いけれど、真尋は心からそう思う。
 こんなにも自分を苛む想いで無かったなら、この言葉は飲み下してしまっただろうから。
「…………」
「…………」
 人の出逢いは引力だと言う。
 引力とは即ち重力。
 だから、どこまでも重くって。
 恋と重力は似てると思う。
 と、これも受け売りだったか。これじゃニャルラトホテプ達を注意出来ないな。
 いい加減支離滅裂になってきたし、言い切ってしまおう。

「…………き、なんだ」

 言った、ついに言ってしまった。
「答えを、聞かせてもらっていいか?」
 伝えられてよかったと思う。
 でも、伝えられただけでよかったとは思えない。
 答えて欲しい。
 応えて欲しい。
 自分でも意外な程の欲望が解放されるのを感じる。
 答えを聞くのが恐い、という感情は勿論ある。
 何も知らない方が幸せだとか言うが、でも真尋はきっと満足しないはずだから。
「……少年」
 クトゥグアのルビーアイに自分の姿が映っている。それだけで幸福だと思っている自分がいる。
 それだけこいつに惚れているってことだ。
 だからもっと幸福が欲しい。
 クトゥグアの口が動く。

「……ごめんなさい」

 ニャルラトホテプが朝言っていた。言葉は降魔の剣と化し。そんな形容が相応しいほど鋭く、優しいくらい残酷に心にすっと突き刺さる。
 分かっていた、宇宙幼稚園からあの混沌へ向けられていた恋情に、出会って一月足らずの自分が太刀打ち出来ないだろうって。
 錯覚していた? でも、それを覆せる互いに感じている絆があるって。
「ただの自惚れだったか」
 やっぱり精々愛人が限界か。
「分の悪い賭けはする気もなかったし、主義でもなかったんだけどな」
 そう言って茶化す。誰でもなく自分を。
 そうしないと恥も外聞もなく泣いてしまいそうで。
「……少年、ごめんなさい」
 クトゥグアが言い辛そうに、ためらいながら口を開く。

「……間が開きすぎて、最初の方の単語忘れちゃった」

「は?」
 えーと。
「た」
「……た?」
「溜めすぎたあ!」
 拙くとも懸命に、そして印象深くやれば成功する可能性も上がるかな。と思ったが、どこぞの軍師もかくやというレベルで裏目ってしまった。可能性に殺されるとはよく言ったものだ。
「告白したな」「手をぎゅっと握ってがんばったんだな」「ぎゅってした!」「ああぎゅってしたな」「ヒーロー作戦もよろしく……って、ちょっと違うか」「この告白、まさしく純愛だ!」「純愛か」「純愛じゃ仕方ねーな」
「んなっ!」
 勢いのまま忘れていたが、ここはゲーセンだった。
 四方八方からの純愛十字砲火に、まひろはしょうきにもどった。
「……ねえ少年、先にわたしのお話聞いてくれる?」
「え? あ、お、おう」
 なんかミナギっている周りの客達のおかげで膠着した状況を、クトゥグアが変化させた。
 今の真尋には変化が必要だ、どこぞの迷子の神様並みに必要だ。
「……わたしね、好きな人がいるの。でも、もっと大好きな人もいる」
 クトゥグアは上を見た。天井を突き抜けて、空を、星を、宇宙を見た。
「……十年以上想ってきた人。もしどっちかしか選べないなら、わたしは大好きな人を選ぶ」
 真尋は何も言えない。
「……わたし、最初は好きな人が嫌いだった。大好きな人がその人を好きだって言うから」
 胸がズキリと痛む。
「……恋敵、そう認識した。なのに、惹かれていったの」
 迷惑だと思っていた。だけど惹かれていった。そういう意味で、自分とクトゥグアの感情は鏡合わせの様でもある。
「……だから少年のお話はまだ止めてほしい」
 鏡合わせだからこそ、同じ世界には無いという絶対的な隔たりがある。
「迷惑だってんなら、そう言えよ。結局僕なん……っ!?」
「……まだ」
 醜い物を纏めて吐き出しそうになった口を指で征される。
「……まだって言った。迷惑なんて言ってない、思ってない、思うわけがない。そう言ってくれるだけで胸が暖かくなる、フォーマルハウトよりもずっと」
 言って、指を自分の唇に触れさせる。真尋の口と触れた指を。
「四回目……か」
「……うん。誤解をしないで聞いてほしい、無理矢理なすれ違いでバッドエンドとかわたしは好みじゃない」
「僕も、嫌かな」
 不思議なものだ、あれだけ爆発しそうだった感情が鎮火していく。クトゥグアなのに。
「……でね、好きな人への想いが大きくなっていくの。大好きな人への想いに迫るくらい。だからまだ言わないで待ってほしい、具体的には三日」
「速っ!」
 それでいいのか。邪神だからってスピードラブ過ぎるだろう。
「……冗談、と言うか自分でもよく分からない。分からないから……はい」
 赤い長方形の物体が差し出される。
「カード……」
 確か同級生が持っていたのを見たことがある、ゲームセンターの記録カードだ。
「……わたしからのプレゼント。それで、今日だけじゃなくてわたしとまた何回も遊んでほしい。色んな思い出を作ってほしい」
「まったく、わがままだなぁ」
 さっきから何回再確認してるんだって話だが、だめ押しでもう一回。分かっていたことだ。
「お前がわがままなんて分かり切っていたよな」
「……あ」
 クトゥグアの手を握る。
 いつの間にか離れていた身体を、近すぎず遠すぎずの今の自分達に相応しい距離に繋げる。
「ほら列が動いたから行くぞ、僕はゲーセンに詳しくないんだから、色々教えてくれよ」
「……あ、う……うん、もちろん」
 本当に好きになってよかったと思う。
 太陽みたいに微笑むクトゥグアを。


 甘えろ! クー子さん〜完〜
















「……嘘だよ? あともうちょっとだけ続くんじゃ」



[38361] おまけ 元ネタ解説1話2話
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2014/01/05 17:01
1話

八坂家の食卓に異常あり
 『伊東家の食卓』と、初音ミクの楽曲『桜前線異常ナシ』から。

なんですとぉ!
 アニメ『.hack//SIGN』のキャラクター、ミミルの口癖から。また、ミミルと同型PCのブラックローズもミミルの真似をしてたまに使う。

太陽から獲ってきたフェニックスのお肉
 『仮面ライダーウィザード』の幹部級の敵、フェニックスの末路、太陽に放逐から。

全ての涙を宝石に変えそうな
 同じく『仮面ライダーウィザード』のOPから。

始めから、説明など、されていなかったッ!
 漫画『ジョジョの奇妙な冒険』5部のボス、ディアボロのスタンド、キングクリムゾンの影響を受けたキャラクターの反応。ニャル子的には、紅王現象の元ネタ。

耳栓が無ければ身体が竦んでしまいそうな大声
 ゲーム『モンスターハンターシリーズ』のバインドボイスより。頼子さんは耳栓スキルが発動済みに違いない。

慣れとは偉大である
 byニーチェ……嘘です。

人は成長するのだ、してみせる。
 漫画『ジョジョの奇妙な冒険』1部の主人公、ジョナサン・ジョースターの最終決戦のセリフから。

とある蜘蛛神の寝取り達人(NTRマイスター)
 ライトノベル『とある魔術の禁書目録』から。当然蜘蛛神はアト子のこと。

鉄バット持った混沌
 アニメの2期、つまりフラッシュアニメに登場したアニメオリジナルキャラクターの、ニャル恵のこと。アト子と違い、原作に記述があったわけでもない上に、出すと厄介過ぎる設定を抱えているため、原作への逆輸入は難しいと思われる。

十全ですねお友達、英語で言うとディアフレンド!
 小説『戯言シリーズ』の登場人物、大泥棒・石丸小唄の口癖より。お友達をディアフレンドと読む。

それだけだ、それで過程は無く結果だけが残る。
 上記と同じくジョジョのキングクリムゾンの説明から。

常に一日の基本である朝を支えて来たのは、一握りの野菜である
 アニメ『機動戦士Ζガンダム』より、パプテマス・シロッコの主義の改変。好きな敏は島田敏な逢空万太先生の希望でノーデンスの声はシロッコと同じ島田さん。

言葉ではなく心で理解している。
 またもジョジョより。有名所であるため、ネットでもよく使われる。

あざといな、さすがクトゥグアあざとい
 ブロント語から、汚い忍者へ。

おくわがたっ! かまきりっ! ばったっ!
 もはや説明不要の『仮面ライダーオーズ』のガタキリバコンボの構成メダルから。ニャル子に、ガタガタガタガタガタキリバ、と言わせれば良かったと今更後悔。

談笑中の相手をフォークで貫きかねない凄みがあるのだ。コワイ!
 それぞれ『スレイヤーズ』のリナのゼロスへの人物評価。『ジョジョ5部』のブチャラティのジョルノへの人物評価。『ニンジャスレイヤー』の文体から。ニンジャスレイヤーズとか、誰か書かないかな。

自らの感情が処理できない奴はゴミだと教えてやるべきだろうか?
 アニメ『機動戦士ガンダムF91』の続編で感情の処理が出来なくなったザビーネ・シャルのセリフから。

ハムエッグの黄身も、愛した男も半分に切り分けるんですか!?
 アニメ『革命機ヴァルヴレイヴ』のある意味代名詞的なセリフから。発言者のエルエルフは、ハムエルフと予想通り呼ばれることに。
 正直に言うと、絶対に原作でこのネタを使うだろうから、その前に使ってやる。というのがこの作品を書いた動機の一つだったりする。

続くったら続く
 アニメ版『ポケットモンスター』の次回への引きのセリフから。今でも言っているのだろうか?

主八界も三千世界も
 主八界はピンクのアメリカお化けの代表作『セブン=フォートレス』『ナイトウィザード』の舞台となる世界から。三千世界は元々は仏教用語だが、ここでは『異界戦記カオスフレア』の舞台となる世界群から。値は張るが、かなり広範囲からパロディをしているカオスフレアはニャル子読者なら楽しめること間違いない(ステマ)。

うぐぅ
 泣きゲーの代表格『KANON』のメインヒロイン、月宮あゆの口癖。ただしあっちは窃盗側。

恐怖のサインを発して紙の中に取り込まれてしまいそう
 ジョジョ4部に登場するスタンド、エニグマの発動条件。

温泉の時とか
 ドラマCDの2段目から。真尋のお茶に積極的になるお薬を盛った。飲んだのはクー子だけど。

教会に向かう意志
 ジョジョ5部のテーマ『真実に向かおうとする意志』。

ここに教会を建てよう?
 ニコニコ動画などで使われるタグ『ここに病院を建てよう』及びその派生から。ジョジョにも『ここに神殿を建てよう』とある。

空気など読むな
 アイドルマスターDSの唯一マダオではない大人こと、武田蒼一さんの教えから。

覚悟は幸福
 ジョジョ6部から、プッチ神父のセリフ及び思想から。いい言葉に聞こえるが、提唱者が吐き気を催す邪悪認定を受けている時点で押して知るべしな内容。

2話

食事が普通に終わらないのは、どう考えてもお前らが悪い
 漫画『わたしがモテないのはどう考えてもお前らが悪い』から。

両方そろった親と書いて両親
 ジョジョ4部のラスボス、吉良吉影のセリフ『命を運ぶと書いて運命』から。吉良は上手く言ったものと感想を持った。

空気爆弾に追い詰められたアトムみたいな髪をした高校生
 同じくジョジョ4部の主人公、東方仗助のこと。最終盤、空気爆弾を操る吉良と激闘を繰り広げた。
「あぁ! 誰がサザエさんみたいな髪型だって?」

汗もかいていない、呼吸も乱れていない
 ジョジョ3部にて、自身に銃口を向けたホル・ホースにDIOはこう感心した。

何故か余市の顔が脳裏に浮かんだ
 ジョジョASBや雑誌の宣伝で仗助を演じている声優さんは、余市と同じ羽田野さんである。なお、ニャル子さんWで余市は仗助ネタをやっている。

ナイトゴーントも月まで吹っ飛ぶ
 ジョジョ4部の仗助のセリフ『スタンドも月まで吹っ飛ぶ〜』から。しかし、ここジョジョネタ多過ぎるだろう。

私とあの人が結婚を決めたのも
 ちなみに、原作で語られた教会の花嫁さん云々は、この雪山の後の予定。

本当は無かったかもしれない胡散臭い話
 本当にあったかもしれない怖い話から。しかしこんな胡散臭い話が伏線になるかもしれないからニャル子は油断出来ない。

火属性の大剣と太刀
 どっちもモンスターハンターの武器。アニメ版の頼子さんは、大剣使いだが太刀は使わないらしい。

雪を溶かして、温泉を作ったのよ
 機動戦士ガンダム08MS小隊のエピソードから。温泉に入ったヒロイン、アイナ・サハリンは頼子さんのドラマCD時代の声優、井上喜久子17歳、もしくは井上喜久子さんじゅうななさいが演じている。

大空を駆ける死んだ魚の目をしたサイファーソード
 スーパーロボット大戦Dの主人公、ジョシュア・ラドクリフ及び彼の搭乗機、エール・シュバリアーその後継機、ジェアン・シュバリアーより。
 ジョシュアは当初設定画が公開された際「死んだ魚の目をした男」と呼ばれ、ジェアンはその体型から「巨大な騎士」前任から引き継いでの「大空の騎士」とは呼ばれず「青マンボウ」と揶揄されるも、オリキャラでも上位の人気を獲得した。なお、サイファーソードはエールの武装から。

自分の心まで放してしまいそうだから
 ゲーム『ICO』のキャッチコピーから。CMだけで泣かされたゲームはこれだけじゃよ。

水面に映った自分の顔に告白しかねない
 ギリシャ神話のナルキッソスの逸話から。言うまでもないがナルシストの語源である。

イルルヤンカシュ
 龍、と言うか蛇神の一柱。カオスフレアではのじゃロリババア(ただし一部は大きめ)。

あ……? あ……?
 ボンボン版餓狼伝説、通称ボンガロのセリフから。

万死に値する
 ガンダムOOのティエリア・アーデのセリフ。よりも個人的にはヴァルキリープロファイルのジェラードのセリフが印象深い。

スーパー眷属大戦UXの主人公
 スーパーロボット大戦UXの主人公、アニエス・ベルジュ、通称アーニーのこと。
 誰があんなことに↓なるか想像できるか。
 そもそもゲームそのものが想像の範囲外のオンパレードだし。

当初は普通の真面目君
 世界の平和を守る連邦軍人→連邦の非道を知り傭兵に。までは想像出来るが、最終進化形態の必殺仕事人は想像出来なかった。

学園仕舞人
 キルタイムコミュニケーションから発売された、ちょっとではなくエッチなライトノベル『学園仕舞人〜剣崎真琴〜』から。当然必殺シリーズのオマージュ。
 同社から多数発行しているエロ小説の一つに過ぎなかったのだが、最近微妙に名が売れた。ドキドキプリキュアの影響で。

別人に入れ替わっただとか、催眠術だとかチャチなもんじゃ断じてありそうな
 セリフそのものはジョジョ3部のポルナレフの有名な発言から。
 内容はUXユーザーの想い。そんな声(の出し方)まで変わって。

真実から出る誠の証言
 ジョジョ5部の主人公ジョルノ・ジョバァーナのセリフ『真実からでる誠の行い』から。

空と地と海の狭間にだって飛んで行きそうな性戦士
 富野監督のライフワーク、バイストン・ウェルサーガの概念……なのだが、UXユーザー的には違う意味を持つ。詳しくは後に。

予防接種が完璧でなかった
 ミ=ゴよりも信用ない惑星保護機構の図。

おはようボンジュール
 サクラ大戦の登場人物、エリカ・フォンティーヌのセリフより。PXZでは技扱いじゃよ。

川底に落ちて考えるのをやめそう
 ジョジョ7部のマジェント・マジェントの末路から。あらゆる害悪から身を守るスタンドを持つのだが、発動中は動けず、ロープが絡んだ上に川底に落ちてにっちもさっちも行かなくなった。

本文詐欺
 作中ではナイスバディで結構な大きさと書かれているニャル子だが、イラストではむしろ小さい部類だったりする。
 原作者とイラストレーターの仁義無き戦いがそこにはあった。

ロンドンの貧民街辺りで
 ジョジョ1部の名脇役、ロバート・E・O・スピードワゴンのこと。その類い稀な解説能力から、解説王とも呼ばれる。

浜の真砂が尽きても尽きない悪魔の種
 キン肉マンからブラックホールの辞世の句。
『それのどこが辞世の句だ!』

徐々に奇妙な廃れ方
 ジョジョの奇妙な冒険から。

なるほど分からん
 説明が丁寧なので分かった気がするが分からない。もしくは、分からないことが分かったことを表す単語から。

朝チュン
 いわゆる事後でそのまま朝まで同じベッドでの隠喩的な表現。この場合、パソコンの前で寝落ちくらいの感覚。

振り切るぜっ!
 仮面ライダーWのサブライダー仮面ライダーアクセルこと、照井竜の決め台詞。ニャル子的には頼子さんの決め台詞。

絶望までのタイムを測っている
 同じく仮面ライダーアクセルトライアルの決め台詞。「9・8秒、それがお前の絶望までのタイムだ」

本当に……本当に、なんて長い廻り道。喋りすぎニャル子。それしか言葉が見付からない。
 ジョジョ7部のラスボス戦にて主人公ジョニィ・ジョースターが亡き親友に送った感謝の言葉から。それしか言う言葉が見付からない。



[38361] おまけ2 元ネタ解説3話4話途中
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2014/01/05 10:27
3話

朝・食・終・了
 仮面ライダーフォーゼのタイトルの付け方。

パラサイトブラッド
 グループSNEから発売している全裸と焼き肉TRPG、デモンパラサイトの続編。メインライターが退社したため、動きが止まってしまった。

シャンタッ君では宇宙に出られないし
 実は出られるのだが、作中でやらなかった上に真尋の中でシャンタッ君が完全に愛玩動物になっているので、そう誤解された。つか筆者も誤解してた。

おねがいティーチャー
 アニメ『おねがい*ティーチャー』から。宇宙からやってきたヒロイン、という部分はニャル子さんと通じるものが。

フラグに、吹雪の中でも目立つように血を付けたり、ビームにしてみたり
 前者は『魁! 男塾』後者は『機動武闘伝Gガンダム』から。

いやぁ、真尋さんは強敵でしたね
 様々な意味で話題作『スーパーロボット大戦K』の主人公ミスト・レックスのセリフから。何もかも解決しているようなセリフだが、実際には強敵は逃げただけで何一つ解決していない。そして恐ろしいことに彼の問題発言、通称ミスト語録はまだいくつもある。

可変式谷間
 原作とアニメとニャル子ちゃんを見比べてみるとあら不思議。

黄衣の王も「肯定だ」と言ってくれるだろう
 ハス太の黄衣の王形態と、「肯定だ」が口癖のフルメタル・パニック主人公の相良宗介の声が同じというネタ。

うー、にゃー
 アニメSAN期OP『太陽曰く燃えよカオス』の代名詞から。ニコニコ動画などでは弾幕も作られた。

誠意をもってネゴシエーションに当たろう
 クー子のおじいちゃん。もとい『Theビッグ・オー』の主人公ロジャー・スミスの信念。残念ながら作中での交渉相手がアレ過ぎるため、そもそも交渉にならないことが多く『交渉(物理)』と揶揄される事態に。

究極の凄まじき混沌
 仮面ライダークウガの最強形態、アルティメットフォームのこと。その極悪性能から、いまだに最強ライダーの代表格として扱われている。
 でも、もう戦わないでほしい。
ライジングな究極
 仮面ライダーディケイドに登場したクウガの最終進化形態。あくまでもディケイド版の最強形態であるため、原点以上かは不明。

汗が吹き出る、どす黒い気分にまで
 ジョジョ1部において、スピードワゴン君がディオのプレッシャーを感じてした発言。

きゃっきゃうふふ
 いちゃつく表現。異性間よりも同性間で使われる方が多い印象。

真尋の一言がぶち壊す
 今更言うまでもなく『とある魔術の禁書目録』の主人公上条さんの代名詞「その幻想をぶち殺す」から。

思い付く限り「一番怖い」マフィアを敵に回した
 漫画『魔法少女プリティ☆ベル』におけるロジカル魔法少女、美咲エリちゃんの国家を敵に回した親友への伝えられない忠告。

詰んだああああああああああああああ
 同じくプリティ☆ベルから、這い寄る混沌ナイアルラトホテップの代名詞なセリフ。作中屈指の下衆にも関わらず、この追い詰められっぷりがどこか愛おしい。
 なお、あっちの混沌もコミックオマケで、いつもニコニコ〜をパロっている。

ノゥ
 ここから、馬鹿なノゥとしか〜まで漫画版スクライドのカズマとジグマールの会話。特に絶対にノゥは有名所なのでスクライドを知らなくても聞いたことはあるだろう。

五百キロで突っ込んで来る重トラックでも、二キロも前から察知出来ていれば
 戯言シリーズの欠陥製品と人間失格の出会いのオマージュ。

やはり真尋さんの青春ラブコメは間違っていますよ!
 ライトノベル『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』から。こないだ原作を読み直したらもう使っていたびっくりした。早いよ万太先生。

自慢の婿
 風都の3号ライダー、園咲霧彦の義父に向けたセリフから。

焦熱の儀式に誘って〜
 ヴァルキリープロファイルの大魔法『イフリートキャレス』の詠唱から。

久遠の絆〜
 同じく大魔法『ファイナルチェリオ』の詠唱から。

人型に変形し、劇場版ではハスターのサポートをするも巨大な敵に破壊される
 仮面ライダー555の主人公最大の相棒オートバジン。非戦闘なら他にも相棒候補がいるんだけど……。

戦艦に搭載したら喚装コマンドが〜
 スパロボやGジェネのシステムから。たまにインターミッションでしか喚装出来ないのもあって困る。

据え置きのスーパー眷属大戦OGで削除された微妙な形態
 ビヤーキーの元ネタはスーパーロボット大戦Rの主人公機エクサランスなのだが、OGs、OG外伝に参戦した際に喚装形態の幾つかが無くなっていた。その中でもダイバーは、水の中なら強いがそもそも水が無いという使い勝手の悪さに定評がある形態だった。

原作の面白さを再確認するため、とかリアルにSAN値が下がる気分を味わう
 ハス太の言うレトロな宇宙船は、漫画版ニャル子の冒頭の描写から。
 この漫画版、真尋さんがクトゥルー神話を知らない(二話から忘れていたという理由で知ってることになったが、刊行ペースからすると読者のツッコミを受けたのが原因と思われる)など、かなり出来が悪く、2ちゃんのニャル子スレなどで上記の感想が大半を占めた。

冬のナマズ
 ジョジョ7部でしつこく出た表現。

ドイツ語で言うと、イェェェェエエーガーァッ!
 アニメ『進撃の巨人』のOP『紅蓮の弓矢』の歌詞から。狩人をイェーガーと読ませる。

関羽もびっくりの義の将
 三國志の有名武将のこと。果たしてこいつが本当に義の将かは疑問が残る。

少尉はいらない5thルナニンジン
 少尉とは人参嫌いのコウ・ウラキのこと。確かギレンの野望の4コマ漫画で、後にシャアが落とす5thルナを人参に似てるから落ちろ! と叫んだネタがあった。
 あれ? スパロボだっけ? Gジェネだっけ?

目と目が合う瞬間熱くなった
 アイドルマスターの楽曲『目が逢う瞬間(とき)』の歌詞の改変。

いいんちょ
 To Heart2前後で言われ始めた、委員長の呼び方。

歯車的小宇宙
 ジョジョ2部の風のワムウの流法『神砂嵐』の解説から。
 ニャル子の解説サイトをやっている人から、ハス太に神砂嵐を使ってほしいねとメッセージが来た思い出が。

ハッピー、うれピー、よろピクね
 ジョジョ2部から主人公ジョセフ・ジョースターのセリフより。

じゃあねなんて言わないでください〜
 アイドルマスターの楽曲『relations』の歌詞をニャル子っぽく言わせた物。


さよならの時くらい微笑んでくださいよぉ
 劇場版蒼穹のファフナーのテーマソング蒼穹のカップリング『さよならの時くらい微笑んで』から。

五秒待ってください、すぐ終わります!
 蒼穹のファフナーの名シーン。これを外すなんて有り得ないくらい名シーンである。

最優先事項よ
 おねがい*ティーチャーの風見みずほの代名詞セリフより。頼子さんとシャンタッ君のドラマCD時代は、みずほ先生とその補佐役まりえと同じ。

4話

真尋とクー子のΩΩΩ
 魔法少女まどか★マギカの別名、ちだまりスケッチΩΩΩ(くびみっつ)と、彼と彼女の×××から。

誰だってそーするだろう、真尋もそーする。
 ジョジョ4部の形兆の兄貴の名言から。

嫉妬をしている事を認める事で必殺技を会得〜
 創世のアクエリオンのシリウス・ド・アリシアのこと。嫉妬を認めることで嫉妬変性剣を会得するも、結局裏切る、そして帰ってくる。

ガラス越しはアリではない
 スタードライバーの人妻女子高生こと奥様の日課。女から誘うのははしたない行為らしい。
 余談だがアレ、奥様の位置は変わらないため、野郎共は間接キスしているのではなかろうか。

のうりん
 GA文庫の同名のライトノベルから。

赤字で書かれていなかった
 うみねこのなく頃により、赤字の真実。

意外と引き締まってると〜
 原作10巻でクー子に評判。

わたしの想像力が足りなかった?
 「想像しろ」が合言葉の鉄のラインバレルの組織加藤機関の構成員のセリフから。
 また、スパロボLにラインバレルが参戦して以降、予想外の参戦作品やクロスオーバーに対して使われるようになった。

海に漂って生存
 スパロボKにおける、ファフナー組の絶対有り得ない生存理由。

ライバル会社の商品は買わないという宗教
 ゲハ。

ToLOVEる
 説明するまでも無いが、有名ラブコメ漫画ToLOVEる。

火焔の自由恋愛
 サークル竜鳴艦のリプレイに登場PC、イヴ・グリンフィード・サブタレイニアンの二つ名『火焔の自由騎士』から。

無慈悲な灼熱
 デモンベインのBGM、または魔法少女プリティ☆ベルの神威召喚の名から。どちらもクトゥグア関係。

漫画に出てきたヒロインに片恋していた医者の息子
 オークスから発売している成人向け漫画『Love&Hate』のこと。1巻目と2巻以降の空気の差は異常。

電流が流れるコースを鉄の棒で進んで行く
 ウッチャンナンチャンの炎のチャレンジャーの試練の一つ、電撃イライラ棒。恐らく一番人気で一番有名だった。

これ以上いけない
 漫画『孤独のグルメ』から。

終わりの無いのが終わり
 ジョジョ5部の主人公のスタンド『ゴールド・エクスペリエンスレクイエム』の能力にして有り様。

僕ってほんとバカ
 まどマギの美樹さやかの台詞から。真尋さんにとっては中の人ネタ。

たった一人の宇宙論争
 たった一人の宇宙戦争から。

粘膜が幻想を
 08小隊より、ギニアス・サハリンの台詞より。

紅蓮の弓矢
 上にも出ているが進撃の巨人の同名のOPから。

踊り子号
 ハイパー爆乳バトル『閃乱カグラ』のキャラクター、焔の私服のTシャツに書かれた文字。真尋さんも持ってるというのが中の人ネタ。

当てているの
 ネットでよく使われる表現『当ててんのよ』から。何を当てているのかは、ヒント・クー子に無くてアト子にある物。

若いうちのタイタス・クロウは買ってでもしろ
 諺『若いうちの苦労は買ってでもしろ』と、クトゥルー系作品の一つ『タイタス・クロウシリーズ』から。

心臓が刻む血液のビートが燃え尽きるほどヒート
 ジョジョ1部の主人公ジョナサン・ジョースターの台詞から。
「震えるぞハート、燃え尽きるほどヒート! 刻むぞ、血液のビート!!」

白梅香
 漫画『るろうに剣心』のキーとなった香水。

一○○万Gの借金を背負ったり〜
 ゲーム『第2次スーパーロボット大戦Z』の主人公クロウ・ブルーストの人生から。
 最初の台詞が「金が無い」だったりするクロウ人……もとい苦労人。

呆れるほど有効な戦術の演出が〜
 前述のクロウの搭乗機『ブラスタ』の序盤の最強技『ACPファイズ』のこと。牽制の後、敵機を囲みながら攻撃して完全に足を止めさせ、そこに集中砲火。締めに突撃しながら真ん中をぶち抜くコンビネーション。
 元々は複数機による連携なのだが、それを単機で行うクロウの技量の高さを窺わせる。しかし、クロウにとってはクソみたいな掃き溜めで修得した技術であるため、皮肉を込めて「呆れるほど有効な戦術だぜ」と発言している。
 が、テンポが悪いため(ブラスタの武装は破界篇では全てテンポが悪いが)ユーザーから「呆れるほど冗長な戦術だぜ」とツッコマれている。

現代版ジュゲムが承認されても
 公務員ドタバタコメディ『サーバント×サービス』及びその主人公山神ルーシー(略)のこと。

メルトダウンという爆弾を抱えた怪獣王
 特撮『ゴジラ対デストロイア』の全身の至るところに溶岩みたいな熱を抱えたゴジラのこと。
 現在はバーニングゴジラと呼ばれることが多いが、放映当時のパンフレットやフィギュアにはヒートウォークゴジラとの表記もあった。

おまけ3に続く



[38361] おまけ3 元ネタ解説4話続き5話6話途中
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:62e603df
Date: 2014/01/05 13:22
4話続き

部屋中に紅い薔薇の花をいっぱいに敷き詰める〜
 ブレンパワードのOP『InMyDream』の歌詞から。歌詞の内容がエロくて、うっかりカラオケで歌うと羞恥プレイ。

八坂家の最後の守りだから毒薔薇〜
 漫画『聖闘士星矢』の聖域の最後の守り双魚宮の周りの毒薔薇から。

毒に免疫があるから、血液交換〜
 全国の牡牛座と蟹座と魚座を救った漫画『聖闘士星矢冥王神話LC』での魚座の黄金聖闘士の修行と継承から。

伝説のアフーム=ザ・エックスが〜
 聖闘士星矢と同じく車田御大の漫画『ビート・エックス』から。本来の搭乗者から輸血を受けていたため、主人公は伝説のビートであるエックスを目覚めさせた。

混沌の炎
 TRPG化もした漫画『トリニティ×ヴィーナス』の登場人物『三輪法師右京』は世界をこれで覆うことが目的。
 カオスフレアの著者は小太刀右京と三輪清宗……まあ、トリヴィは原作者の是空とおる氏の知り合いを元にしたキャラクターが多数登場する企画である。

ワイルドの黄魅
 漫画『恋愛ラボ』の主人公、リコの恥ずかしいあだ名『ワイルドの君』から。ドラマCD時代のリコの声は釘宮嬢なので中の人ネタ。
 恋愛ラボをれんあいラボと読んだ奴は罰金だ。

マイルドの黄魅
 ワイルドの君呼ばわりでショックを受けたリコなりの女の子らしい姿の呼び名『マイルドの君』から。その破壊力たるや……。

真尋の左手とクトゥグアの右手、互いのなでなでが究極のバランスで、さらなる域にプログレス
 特撮仮面ライダーWの楽曲『Extreme Dream』の歌詞の一番二番の合成から改変。

極めて了解
 小説『刀語』の主人公、鑢七花の口癖から。

歌でも歌いたい気分
 ジョジョ3部でのDIO様の台詞から。
「最高にハイッてやつだ!」


5話

真尋さんクー子の 蜘蛛の食卓
 大長編『ドラえもんのび太の 雲の王国』から。

小学生にしか見えない店員
 漫画WORKING!の登場人物『種島ぽぷら』のこと。背が小さ「ちっちゃくないよ!」むしろ一部は大きい。

近場にあったファミレス
 つまりWORKING!の舞台である『ワグナリア』のこと。ニャル子共々北海道が舞台である。

今の店員さん、ニャル子に声がそっくり
 ぽぷらとニャル子、どちらも声優はイエス! アスミス。

美術科で絵を描いていたり、新劇場版で新たな魔法少女でもやりそうな声だ
 どちらも、ひだまりスケッチと劇場版魔法少女まどか★マギカでアスミスが演じたキャラクター。
神名あすみ「解せぬ」

忍養成学校に眠る妖魔
 閃乱カグラにて、秘立蛇女子女子学園に封じられた妖魔『怨楼血』のこと。唐突に出て来た上に、そこまで強くないため印象が薄い。

人はいつか時間だって支配できる
 アニメ『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイのララァとの会話から。

指輪か腕輪で補正している
 TRPG『ソードワールド2・0』から。能力ボーナスは能力値を6で割った数字になる上に、能力値の成長がランダムであるため、あと1か2でボーナスブレイクするときは指輪か腕輪で補正することが多い。
 かつては「知力上がれ」コールが響いたものじゃった。

是非も無い
 織田信長の口癖として有名。仕方ないくらいの意味。

本能寺など一瞬で焼失してしまう
 織田信長の最期の地。本能寺の変で燃え落ちた。

クトゥグアの好きな音楽も知らないのだ
 ジョジョ5部でのパンナコッタ・フーゴの台詞から。実の娘を殺そうとしたボスと袂を別つ決意をした仲間に向けて放ち、結局フーゴは物語から離脱したのだった。
 そして『恥知らずのパープルヘイズ』でフーゴは……。

ニューロやリアリティーハッカー
 それぞれTRPG『トーキョーN◎VA』と『異界戦記カオスフレア』のスタイルとブランチ(いわゆるクラス)。なまら凄いハッカーと思えば間違っていない。

アヤカシ、マネキン、バサラ
 トーキョーN◎VAのスタイルから。それぞれ人外の怪物、誰かに依存し依存される存在、属性を操る魔法使い。を表す。

クトゥグア・ヴィ・フォーマルハウトには夢がある
 名前はアニメSAN期のBDorDVDの付属CDネタ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアのパロディ。台詞はジョジョ5部の主人公ジョルノの名台詞から。

胸元を広げるな
 ジョルノの決めポーズ。無駄にセクシーだが男だ。

なるほど、独占欲とはこういうものか
 アニメ∀ガンダムのラスボス『ギム・ギンガナム御大将』の台詞から。
「なるほど、シャイニングフィンガーとはこういうものか」

ヘアピンを着けた店員さん
 WORKING!の『伊波まひる』のこと。まあ、その、ある意味の戦力はクー子と同格である。
クー子「……ちっちゃくないよ」ニャル子「台詞を取られた気がします」

口笛も聞こえない
 荒野と言えば口笛だろう『ワイルドアームズ』的に。

別人の思考が乗り移った気がする
 某顔射(される方)のプロフェッショナルな肉欲系男子とか。

旅の始まりはもう思い出せない
 マクロスFのシェリル・ノームの楽曲『ノーザンクロス』の歌詞から。

悪魔は泣かない
 ゲーム『DevilMayCry』から。PXZではサブタイトルにもなり、ダンテさんマジかっけえ。

一ターンの間、命中百パーセント。どんな攻撃でも一回は必ず避けて、移動後に使えない武器も使える
 スーパーロボット大戦シリーズの精神コマンドの効果。それぞれ直感(必中とひらめきの複合)と突撃。

今日の真尋は紳士的なのだ
 ゲーム『テイルズオブディスティニー2』の登場人物バルバトスの台詞から。

明らかに喉のリミットをオーバーした声だった。声優さんって凄い
 まず、クー子の夢はアニメ版ナイトウィザードのエピソードが元ネタ。
 ヒロインの夢の中で作戦を遂行しようとする魔王フェウス=モール。結局主人公達の活躍で倒されてしまうフェウスだが、ギリギリ生き残りヒロインの夢の中で放浪する。身体を休める場所として荒野に立っている扉に入って。
 とんでもない絶叫が響いた。それこそ喉が破れんばかりの。
 その名演やナイトウィザードの魔王らしい末路、人気キャラであるナイトメアの登場エピソードということもあり、アニメオリジナル魔王の中でも高い人気を誇る。
 そしてそのフェウスを演じたのがクー子と同じ松来未祐嬢。喉は大丈夫だろうか?

ヒュプノスの子供
 フェウス=モールの元ネタは、ギリシャ神話の変化と眠りの神モルフェウス。ヒュプノスの子供である。

ドリンクバー
 ワグナリアにドリンクバーはあるんだろうか? 多分無い。

人の心の革新
 ガンダムシリーズに度々出てくる概念。ニュータイプとかイノベイターとか。

ココア☆ソーダ☆クエン酸
 蒼穹のファフナーのOP『Shangri-La』の歌詞の空耳から。

外見だけではリアルさは伝わらない、味もみておこう
 ジョジョ4部の人気キャラ『岸辺露伴』の主義。蜘蛛だって舐めるよ。
アト子「まあ、わたくしをペロペロですか?」

ここで飲まなきゃ男が廃る
 アニメ『スイートプリキュア』の主人公、北条響の口癖「ここで決めなきゃ女が廃る」から。

気合いのレシピ
 同じくスイプリの主人公、南野奏の口癖そのまま。

初めにキノコを食べた人間を尊敬しながら
 ジョジョ6部のプッチ神父が、拳銃を手に入れるために部屋をぐるぐるしながら言った台詞から。こう書くとわけがわからない。

ハーモニーって言うのか?
 ジョジョ4部で虹村億泰のイタリア料理を食べての発言。

当局は一切責任を負いません
 どこだよ当局。

ココアにソーダが加わって倍、予想外にクエン酸が働いて更に倍の四倍……決めに少年の味もして三倍されて、美味しさ十二倍。ハス太君特製の、バッファローミルクスペシャル
 漫画『キン肉マン』でウォーズマンが、一○○○万パワーを誇るバッファローマンに対抗するためにとった戦術。二刀流で倍! いつもの倍のジャンプで4倍! さらに3倍の回転で12倍! 一二○○万パワーだ!
 あまりの凄まじい理屈から、ウォーズマン理論として親しまれて(?)いる。

狂戦士の魂
 アニメ遊戯王より『バーサーカーソウル』から。
「虫野郎のライフはゼロよ!」
「HA☆NA☆SE」

熱狂+アドレナリン+オーバードーズ
 TRPG『ダブルクロス』のシンドローム・ソラリスのエフェクトの組み合わせから。が、熱狂とアドレナリンは、技能も目的も違うため噛み合わない。

店員さんの腰には、日本と……
 腰に日本刀を差したファミレス店員『轟八千代』さん。声は真尋さんと同じ。
 八千代さん、おめでとうございます。

スッポンを捕りに行った時を思い出す
 フラッシュアニメのDVDの付録である這いニャルアンソロジーノベルのエピソードの一つ。
 タイトルではニャルラトホテプと書いてあるのに、主役は真尋とクー子だったりする。
 クーまひ! クーまひ!

ガオンされたみたいに
 ジョジョにおける、空間を削り取ったときの擬音。

虚憶
 第2次スーパーロボット大戦OGで判明した概念。端的に言えば、前世や平行世界の記憶のこと。
 そして原作11巻で既にネタにしていた。早い早いよ万太先生。

次元の壁を越えれるエネルギーは、わたしたちの宇宙CQCだけだから
 ジョジョ7部のラスボスである大統領の台詞から。
「次元の壁を越えれるエネルギーは、私のD4Cだけだ」
「越えられる」ではないのがポイント。

わたくしの初出もそれの本体でしたね
 アト子の名前そのものは原作初期に出ているが、現在の黒い着物姿はフラッシュアニメ2期が初出だ。

そういうところです
 ダブルクロスリプレイメビウスのPC『鳩宮アンゼリカ』の口癖。アンゼリカのプレイヤーは、フラッシュアニメ時代にアト子を演じた『片岡あづさ(現在は榎あづさ)さん』という中の人ネタ。
 次のドラマCDで声が変わってしまうらしい。残念。


6話

ああ蜘蛛よ、真尋はいい、我慢できる?
 前述の雲の王国の主題歌『雲がゆくのは』から。
 これが当てられるとは思わなかった。

赤い糸で繋がった様に、『爆発』と『空気』の様に
 それぞれジョジョ5部のチョコラータとセッコ、4部の吉良と猫草の能力の相性が良すぎるコンビへの評価。
 原作でもアト子への描写で使われていてワロタ。

その距離ではバリアは張れないのだ
 特撮『仮面ライダー剣』の1号な2号ライダー、仮面ライダーギャレンこと橘さんの名言。
 いったいいつから銃が遠距離で強いと錯覚していた?

混沌よりも這い寄る過負荷(マイナス)
 漫画『めだかボックス』の人気キャラ『球磨川禊』に付けられたあだ名。

SAN値とランチがピンチ!
 ニャル子4期のOP『恋は渾沌の隷也』の歌詞とSAN値とランチを掛けたシャレ。
 元ネタはともかく、ギャグの説明は恥ずかしい。

指を三つ、何故か親指、人差し指、中指を立てて、長い二本で右目を挟む様なポーズ
 アニメ『スタードライバー』の組織『綺羅星十字団』の合言葉時のポーズであり魂。アニメでルーヒーもこのポーズをやっていた。
「何が綺羅星だよ馬鹿馬鹿しい!」
「↑お前が言うな。」

意図がこんがらがる事
 蜘蛛の糸を『意図』と書く言葉遊びは、小説『戯言シリーズ』の“病蜘蛛”紫木一姫の台詞から。
「あなたの意図は、ここで斬れます」

アスラン、もとい錯乱していた
 ガンダム種運命において、アスランが脱走した際シンにレイが言った台詞から。ぶっちゃけ、錯乱していない登場人物がいないだろアレ。
「アスランは既に錯乱している」
「錯乱は既にアスランしている」というネタがある。

蜘蛛神が巣を完成
 アトラク=ナクアが巣を完成させると世界が終わるそうな。

おまけ4に続く



[38361] おまけ4 6話続き7話途中
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:62e603df
Date: 2014/03/09 19:36
6話続き

守ったら負ける、攻めろ!
 08小隊より、主人公『シロー・アマダ』の台詞から。

死色の真紅
 小説『戯言シリーズ』の人類最強の請負人、哀川潤の呼び名の一つ。
 余談ながらクー音の元ネタは、紅髪の最強。サブカル好きなど哀川さんでは無いかと睨んでいる。
 戯言シリーズのヒロイン玖渚友が率いていたチームが元ネタと思われる組織に所属していたルーヒーと友人なのも、ネタではなかろうか。

自分のアフーム=ザーを奪われ轢かれても、すぐに起き上がって追ってきた
 哀川さんの伝説の一つ。自身の大型バイクに轢かれてもすぐ起き上がった。なお、轢いた人間失格は目の前に突っ込んで足止めをするつもりだったのにクリーンヒットしてビビっていた。

対アトラク=ナクア星人用ショットガン、バッファローを至近距離で撃たれても無傷だった
 同じく哀川さんの伝説から。バッファローは地球防衛軍に登場するショットガンで、蜘蛛型巨大生物バウの処理は、スナイパーライフルで数を減らし、近付かれたらショットガンから。

十七分割されても蘇生してきた
 ゲーム『月姫』のメインヒロイン、アルクエィドと主人公、遠野志貴の衝撃的な出会いから。アルクとの中の人ネタ。

十三歳でデビュー、人気絶頂の十六歳で唐突に引退
 ゲーム『アイドルマスターDS』に登場した、アイマス最強キャラ筆頭である、日高舞さんの伝説。中の人ネタ。ちなみに引退理由は、結婚&妊娠(クー音はいき遅……)。

どんな秘密も書かれた書物を所持している
 ナイトウィザードの魔王『秘密侯爵リオン=グンタ』のこと。中の人ネタ。

矛盾無くすべし、慈悲は無い
 小説『ニンジャスレイヤー』の主人公ニンジャスレイヤー=サンの決め台詞めいた奥ゆかしいパロディ。
「忍者殺すべし、慈悲は無い」

絶対無敵、熱血最強
 それぞれエルドランシリーズから『絶対無敵ライジンオー』と『熱血最強ゴウザウラー』から。元気爆発はどこ行った?

エクソダス
 逃亡という意味。有名になったのは、やはりキングゲイナーからか。
 偶然だが、ファフナーの新作もエクソダス。

乱暴してしまうやもしれません。ウ=ス異本みたいに、ウ=ス異本みたいに
 ウ=ス異本とは薄い本、つまり同人誌のこと。そしてネットで流行った言い回し「私に乱暴するつもりでしょう!? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」から。

至高で究極
 漫画『美味しんぼ』から主人公とライバルの主義主張。
 スパロボなどで、井上和彦さんが演じたキャラは結構な確率でこの台詞を使う。中の人ネタで。

糸に巻かれてサンダー
 地球防衛軍シリーズでの伝統的な死に方ネタ。
 糸に巻かれては2に登場する女性隊員、通称お局隊員の台詞「糸に巻かれて死ぬんだよ!」から。サンダーは「酸だー!」からの派生ネタ。
 なお、お局隊員はディスク解析での音声からすると、敵の異星人、もしくは巨大生物の信奉者の予定だったと思われる。その熱演に興味があるなら動画サイトなどで捜してみるといいだろう。

この宇宙に、まともな邪神なんて数えるほどしかいない
 スパロボKのミスト語録より「地球にまともな人なんて、数えるほどしかいないんだよ」より。なおアトリームにまともな人なんて数えるほどもいない模様。

検索と疾風、半熟と切り札
 仮面ライダーWより、フイリップとサイクロンメモリ、左翔太郎とジョーカーメモリ。どちらも最高の相性を持つメモリである。

硝子細工の幻影、ニャル子に倣い英語で言うなら、クリスタルミラージュ
 ダブルクロスリプレイアカデミアのメインヒロイン『御影透子』のコードネームから。透子さんもアンゼリカと同じくプレイヤーは片岡あづささん。

泣いても叩くのを止めてもらえない
 ジョジョ1部の主人公ジョナサンの台詞「君がッ! 泣くまでッ! 殴るのをやめないッ!」から。

ビギンズナイト
 仮面ライダーWの全ての始まりの夜の呼び方。ニャル子も度々使う。

そんな小学生は最悪だぜ
 小説『ロウきゅーぶ!』の主人公、長谷川昴の名言「小学生は最高だぜ」から。原作→漫画→アニメでどんどん熱意と(パッと見の)変態度が上がっていく。

悔しいが、皆男なんだな。
 機動戦士ガンダムの主人公アムロ・レイの台詞「悔しいけど、僕は男なんだな」から。

大切な物を踏み台にしてすら、一番高い林檎を掴みたいのですよ
 蒼穹のファフナーのOP『Shangri-La』の歌詞から。

真尋さん、ハーレムですよ、ハーレム
 ゲーム『アイドルマスター』のメインヒロインである、わた天海春香さんの(数少ない)代表的な台詞「プロデューサーさん、ドームですよ、ドーム!」から。しかし直接の元ネタはこれの派生である、ダブルクロスリプレイアカデミアのコンセプトでGM中村やにお氏の台詞「デザイナーさん、ハーレムですよ、ハーレム!」から。

破壊力はジェネシック
 アニメ『勇者王ガオガイガーFINAL』の主役機、ジェネシックガオガイガーから。二つ名は破壊神。

まさかファミレスで顔射を見るとは思いもしませんでした
 原作11巻で真尋は、顔射(される方)のスペシャリストの少年に水を吹き掛けている。

ところで不・思議なのだろうが、思議ってなんだろう?
 小説『学校を出よう』の地の文から。

あらゆるニーズに対応
 アニメ4期のEDの一つである『Sister,Friend,Lover』から。歌い手は、クー子とクー音。

夢は夢で終わらないですよ、だからわたくしの物になってください
 アイドルマスターの楽曲『DREAM』の歌詞から。765プロ4名と秋月涼の歌だが、収録したCDの性質や歌詞から涼ちんの曲という印象が強い。

2号が、本妻から旦那を奪う。そしてまた奪われる。本妻から? それともV3? X? アマゾン? 飛んでガイム?
 仮面ライダー達の名前から。V3からXに飛んでいるのは漫画『仮面ライダーSPIRITS』のライダーマンはイレギュラーという設定故。

マキシマムドライブ
 仮面ライダーWにおける必殺技、及び必殺技使用時のガイド音声より。ちなみにこの音声が連発されるとトラウマが甦る(ウェザー的な意味で)。

永遠の鎮魂歌の中で思い出破壊されてしまえ!
 仮面ライダーエターナルのマキシマムドライブ『エターナルレクイエム』と、ドーパント(Wの怪人)に対してマキシマムドライブを放つことによりガイアメモリを破壊する行為『メモリブレイク』から。


7話

歩くような早さで(展開的な意味で)
 ゲーム『.hack//G.U』vol3のサブタイトルから。

他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。競い、妬み、憎んで、その身を喰い合う行為。
 機動戦士ガンダムSEEDのラスボス『ラウ・ル・クルーゼ』の最終盤の台詞から。

ネットは広大だったので
 攻殻機動隊の台詞から。原作でも意味は違うがアト子は同様のネタを使っている。

クラモン
 デジモン映画最高峰と呼ばれる『デジモンアドベンチャー 僕らのウォーゲーム』に登場したデジモンから。その進化系であるインフェルモンは蜘蛛をモチーフにしている。

サンドバッグの中のニュータイプの命中回避よりも疑って
 ガンダムシリーズに登場する『カツ・コバヤシ』のこと。パイロットになって以降、若さゆえの暴走もあり殆ど活躍出来ず、その設定を反映したスパロボやGジェネでは『使えないニュータイプはオールドタイプ以下』という迷言を残す原因となる。なおサンドバッグの中は……その昔カツ虐めに人生を掛けていた4コマ作家がおってな。

惑星保護機構に対する中傷なんてどこにだってあるよ、幼年にもあった
 ミスト語録。(子供が生命を落としかける)虐待などどこにでもあるから気にするなという発言。確かに戦争よりはマシかもしれないが。
 ちなみにこのシーン、KY設定が死に設定となってしまったシェルディアの数少ないKYシーンでもある。

まったく傲慢な組織だな、保護というのは支配に繋がる
 今でも語り継がれる『魔法少女リリカルなのは』のヘイトSSから。

チャメシ・インシデント
 忍殺語。日常茶飯事の奥ゆかしい表現。

カラテを鍛えて真眼を養うべし
 カラテなくして忍者は無い、いいね?

古事記にもそう書かれている
 古事記じゃ仕方ないな。

中華丼一年分でマグロ漁船に乗って行ったのか
 サークル竜鳴艦のリプレイから。手番とかシリアスさんはすぐ行方不明になってしまうからな。

戦争は起こらない、いいね?
 忍殺語。忍者にこう言われたら「ア、ハイ」と答えるしかない。

世界の選択
 ゲーム『高機動幻想ガンパレードマーチ』に登場する概念から。

特別警護中と言い訳しながらプライバシー侵害してくる混沌
 アニメSAN期のED『ずっとBe with you』の歌詞より。原作でもさらりと使っていてワロス。速いよ先生。

暑いですね……脱ぎますか
 ダブルクロスリプレイアカデミアのヒロイン御影透子の幼なじみへのアピールから。
 そのナイスバディを活かすために事ある毎に脱ぐ。直後に「上だけだけどな」と白衣を脱ぐのがお約束。

双丘のタニマー
 蒼穹のファフナーの発音で。

ライトオブレフト
 本編の前日譚である『蒼穹のファフナーRight Of Left』から。当然右往左往という意味はない。
『どうせみんなわかってる』
「どうしてこんな解説を書いた! 言え、なんでだ!」

柔らかき彼女の双丘
 .hack//黄昏の腕輪伝説のドラマCDから。
なんでもするって言ったよな?
 なんでもするって言ったよね? まあ淫夢ネタ。人を激しく選ぶので検索注意。

ヘアピンの店員さんが落ち込んでいる
「ちっちゃくなくないよ!」

底抜けに甘ちゃん
 ジョジョ1部の解説王スピードワゴンの台詞から。

ヘブンアンドアース
 劇場版『蒼穹のファフナーHEAVEN AND EARTH』から。なんで一騎さん最強武器の属性変わってしまうん?

男と女のする事、珍しくもない事ですから
 アニメ『ブレンパワード』でジョナサン流の強がりを受けた主人公、勇の台詞から。

綺麗事はいりません、始めればいずれ終わりますから
 蒼穹のファフナーED『Separation』の歌詞から。

Dあるもん
 声優の『今井麻美』の持ちネタ。ミンゴスハDカップデスヨ。

72
 魔法の数字。キーワードは、アイマス、千早、くっ。

眼鏡を掛けた店員
 WORKING!の主人公『小鳥遊宗太』のこと。

奇跡を起こす魔王の風格
 コードギアスの主人公、ルルーシュの世を忍ぶ仮の姿『ゼロ』。声はかたなし君と同じ。

想像力が足りなくても
 鉄のラインバレルより、加藤機関の長、加藤久嵩から。声はかたなし君と同じ。

実際豊満なバスト
 忍殺語。そのバストは豊満だった。

小さいものしか愛せない特殊性癖でもあるまいし
 かたなし君はちっちゃいもの好きだけど、そういうわけではない。

強烈な破砕音と壁にいつの間にか空いた穴、近くにヘアピンの店員さんが
 伊波さんなら素手で余裕っすよ。

こんな性癖を持った奴を外に出しておいちゃいけないって、お前……お前には分かるはずだ
 Ζガンダムの最終決戦でカミーユがシロッコに向けて放った叫びから。

精神的貴族
 漫画『魔少年ビーティー』の主人公、ビーティーの台詞から。

天使のお遊戯(エンジェルプレイ)
 ダブルクロスリプレイメビウスのPC、鳩宮アンゼリカのコードネーム。

永劫に長い時間の中で切り取られた一瞬
 機動戦士ガンダムOOの主人公『刹那・F・セイエイ』のコードネームの意味。

鈍感でも、ついでに難聴でもない
 漫画やラノベの主人公がかかりやすい病気。

脱ぎましょう
 透子さんの脱ぎ芸は天丼。

地の文=サン
 ニンジャスレイヤーの地の文は、もはや登場人物の扱いである。

デザートタイガーコーヒー
 種の砂漠の虎のコーヒーは、苦い。


おまけ5に続く



[38361] おまけ5 7話続き8話9話途中
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:a69fb242
Date: 2014/03/09 19:41
7話続き。

少年のスタンド。きっと進むべき道を無意識に示してくれる
 ジョジョリオンのヒロイン『広瀬康穂』のスタンド『ペイズリー・パーク』のこと。康穂の声優は真尋さんと同じくキタエリ。

……ばっかやろう
 ダブルクロスリプレイアカデミアで透子さんが胸を強調すると、もう一人のヒロイン『光月れい(貧乳担当)』がこう呟くのがお約束。


8話

進め! 第SAN食事会
 ダブルクロスリプレイアカデミアのサブタイトル『進め! 第3生徒会』から。

最初に「キノコ」を食べた者を尊敬する!
 前にも書いたが、ジョジョ6部のラスボス『エンリコ・プッチ神父』の台詞から。

名言が多い聖職者
 台詞だけなら良いこと言ってるんだけどねぇ。

最近声が決まって、母親が「兄さんを思い出すなあ。これは私闘です
 ジョジョASBでプッチ神父の声が速水奨氏に決定した。そして速水氏は『08小隊』のラスボス、ギニアス・サハリンを演じ、井上喜久子お姉ちゃん演じるアイナ・サハリンとその恋人と山を吹き飛ばす兵器で兄妹喧嘩もとい私闘を繰り広げた。

キノコ好きなのか?
 アト子の声優片岡あづささんの趣味は石集めとキノコ収集である。なお、アカデミアで担当した御影透子にもキノコ好きは引き継がれている。

キノコ狩りの女、銀アト子・サブタレイニアン
 大元は『東映版スパイダーマン』の台詞から。蜘蛛でキノコのネタがあるとはなぁ。なお横文字は、サークル竜鳴艦のリプレイのPC、イヴ・グリンフィード・サブタレイニアンから。
「自分は、キノコ狩りの女、イヴ・グリンフィード・サブタレイニアン!」

携帯電話のテキストを二つ満パンにするくらい
 そして元ネタ解説でいくつ満パンにするのだろう。

表面を焼かれて閉じ込められたキノコの旨味が溢れてくるんですよ
 嘘です。大丈夫だとは思いますが、アト子の発言は大体信じちゃダメ。

キュアなハートがドキドキする
 ドキドキ! プリキュアの主人公『キュアハート』から。

普通の物より大口径で、喉に当たればただでは済まなそうな
 スーパーロボット大戦OGシリーズの登場人物『キョウスケ・ナンブ』が愛機『アルトアイゼン・リーゼ』の武装『リボルビング・バンカー』を使用した際の台詞から。
「前より大口径だ、ただでは済まんぞ!」

極太キノコが、アト子の口をピストンで出入りしていた。
 深く考えたり、お父さんお母さんに聞いたりするなよ! 絶対だぞ!?

副作用で盲目になったり、技名がネタ満載の正義厨に
 ゲーム『ブレイブルー』に登場したツバキ=ヤヨイの持つ十六夜のこと。続編ではどうしてああなった。

柳の下の童女
 諺『柳の下のドジョウ』から。童女って表現が好きだったり。

アクセル全開アップグレードだ
 仮面ライダーアクセルはガイアメモリ強化アダプターでアクセルメモリをアップグレードすることで、仮面ライダーアクセルブースターにパワーアップ出来るのだ。

わたくしだけが使えるテクニックで真尋さんの理性を溶かし尽くそうと
 アイドルマスターの楽曲『エージェント夜を行く』の歌詞から。溶かすという部分から、クー子もときたま使う。

頭空っぽの方がどうでもいい知識詰め込める
 アニメ『ドラゴンボールZ』の楽曲から。

こんな格言知らないか? イギリス人は恋愛と戦争では手段は選ばない。
 アニメ『ガールズ&パンツァー』の登場人物、田尻さん……もといダージリン様の格言から。ダージリン様と真尋さんの声優は同じくキタエリ。

恋愛暴君
 ニャル子ちゃんタイムと同じレーベルから発行している漫画『恋愛暴君』から。

柔らかいということはダイヤモンドより壊れない
 ジョジョ5部の登場人物、トリッシュ・ウナのスタンド『スパイス・ガール』の台詞から。

キノコテクニシャン
 ダブルクロスリプレイアカデミアの御影透子に付けられたあだ名。付けたれいちゃんは、このあだ名の危険性をまるで理解していなかった。

メイド服など似合うわけがないのだ
 似合ってましたよ?

くぎゅ付け
 ハス太を担当している声優、釘宮嬢のあだ名『くぎゅ』から。

わたくし、新たな扉を開けてしまえそうですわ
 実はフラッシュアニメ時代のアト子は、クー子狙いっぽい発言が多かった。

火属性の衣を脱ぎ捨て、闇属性
 漫画『ディーふらぐ!』のメインヒロイン? である柴崎の属性から。

少年、見ていて……わたしの、ペロペロ
 仮面ライダークウガの名言から。このパターンでこのネタを使うの二回目じゃよ。

百舌の早贄、ドイツ語でビクティム・ビーク
 スーパーロボット大戦シリーズに登場するパーソナルトルーパー『ビルドビルガー』の武装から。

痛くなければ憶えない
 漫画『覚悟のススメ』の主人公、葉隠覚悟の台詞から。

悲しい目をしたサーカスの動物と
 アニメ『機動戦士ガンダムΖΖ』の楽曲『サイレントヴォイス』の歌詞から。

破壊者を守護者に変えて
 仮面ライダーOOOの楽曲『POWER to TEARER』の歌詞から。

絶対壊せないビルを貫通してくる糸くらい
 ゲーム『地球防衛軍4』の新種の巨大生物レタリウスのこと。ビルの間に巨大な巣を張る蜘蛛なのだが、こいつが巣を張ったビルは何をしても破壊出来ず、そのビルを貫通してきた糸に引き寄せられると、引き寄せてきたレタリウスに射線は通らない上に、ビルに引っ掛かって長時間継続ダメージを受け続ける。しかも他の敵からフルボッコされる。分かりやすく死亡フラグである。

メルニクス語
 ゲーム『テイルズオブエターニア』に登場する言語。専用の文字を作り、文法さえ覚えればちゃんと使える気の入れよう。

マテリアル・パズルアプリ
漫画『マテリアル・パズル』と『UQ‐HOLDER』に出てくるマジカルアプリから。

狼狽えないドイツ軍人
 ジョジョ2部に登場する『ルドル・フォン・シュトロハイム』のこと。アニメでは担当声優に殺意を持たれる活躍をした。

熱心なプレイヤーも忘れてそうな用語筆頭
 メリクルはTRPG『異界戦記カオスフレア』の背景世界オリジンで使用される銀貨のこと。しかし、ゲーム的にお金を使わないため殆どのプレイヤーが忘れている。そして忘れていても困らない。

氷華絢爛波
 スーパーロボット大戦C3やOG外伝に登場したメイシスの奥義。

唯一邪神(笑)
 ポケットモンスターシリーズにおいて、自身の属性とパラメーター、覚える技が一致しない不遇なポケモンである、ブースターやエンテイのあだ名『唯一神』『唯一王』から。単に弱いだけならまだしも、パラメーター的には優秀なのが涙を誘う。

ゴスロリを着てモーニングスターを持って精神攻撃するの
 劇場版『魔法少女まどか★マギカ』に登場する新キャラ『神名あすみ』のこと。銀髪でゴスロリの幼女であり、得意分野は精神攻撃。その特性上、対魔法少女では圧倒的に有利ではあるが、本人もトラウマまみれであるため、自身も精神攻撃に弱い。
 そんな彼女の活躍はぜひ劇場版で。










 嘘です。
 実は有志が作った釣りキャラで、キャラクターデザインを担当したうめてんてーの漫画、ひだまりスケッチの初期メンバーで唯一まどマギに登場していないアスミスが声を担当するというデマのためにこんな名前になった。
 そしてかなり出来が良く、出来が良すぎたため釣りだとばれる。

そろそろ妄想を裁く掟
 アニメ、マクロスFのOP『トライアングラー』の歌詞から。

スイカバーをお腹いっぱいご馳走したくなる
 Ζガンダムの最終決戦でシロッコがウェイブライダー突撃で絶命したことから。このウェイブライダー、上から見るとスイカバーにそっくりである。

ウソエイトオーオー
 未来に帰ったドラえもんがのび太に残した秘密道具から。

その人の子供を産んでもいいと思えたら、それが好きって事です
 猫物語での『阿良々木火憐』の恋愛観から。火憐と真尋さんは声が同じなので、自分の台詞を言われたことに。

最後の一つは、女の勘です
 TRPG『トーキョーN◎VA』のパーソナリティである千早冴子の台詞から。
「私が新版では行方が知れない理由は三つあります。一つは後任を信頼しているから、二つ目はその方が都合がいいから。そして最後は、女の勘です」

そういうところが好きなのでしょう?
 ダブルクロスリプレイメビウスでアンゼリカの「そういうところです」の緋蜂紅が辿り着いた意味から。


9話

わたしは堕天使だと思う
 ニコニコ大百科の『1人NGでスッキリ』の≫71から。

奴よりも速く
 スーパーロボット大戦OGでのアクセル・アルマーがメインのシナリオタイトル『貫け、奴よりも速く』から。その後無限のフロンティア等の派生作品では、決め台詞にもなった。

エンドレステープのように耳元で囁いて。祈って。詠唱して。念じて
 ブレンパワードのOP+ゲーム『ウィザードリィ』シリーズの蘇生呪文から……失敗すると灰になる、恐い。

綿飴にチョコと蜂蜜を垂らして、グラニュー糖とデスソースを混ぜた物をコーティングした色とりどりのフルーツを乗せて、二種類のクリームをかけて出来上がり
 デスソースが混じっている時点で、恐らくこれでも辛い。

全部のサイバディを再生させられそう……アプリボワゼしちゃう
 アニメ『スタードライバー』に登場するロボット群をサイバディと言い、それの再生にはスタードライバーの強いリビドーが必要。ここで言うリビドーは、青春力とでも思っておくとだいたいあってる。
 アプリボワゼは、サイバディとスタードライバーが一つになる言葉から。

血が上りやすいから発情して頭をスッキリさせているのではないか?
 ジョジョ2部の柱の男の一人『炎のエシディシ』は、激昂した際泣き叫ぶことで自身をクールダウンさせる。

そんな特に意味のない疑惑が真尋を襲う
 漫画『進撃の巨人』のおまけ漫画『特に意味のない暴力がライナーを襲う』から。意味無かったんだよなぁ……。

しかし回り込まれてしまった
 ドラゴンクエストシリーズの逃亡失敗のメッセージから。攻略を急いでいるとき、雑魚にこのメッセージを出されるとイラッとする。

邪神からは逃げられない
 漫画『ドラゴンクエスト〜ダイの大冒険〜』の台詞から。
「大魔王からは逃げられない」

ナイトとしての宿命に迷いなど無い
 アニメSAN期の挿入歌『Attack With FULLFORCE』の歌詞から。しかしこの曲、ライダーネタの宝庫過ぎる。

人類のために華麗に戦ったり
 ゲーム『ゴッドイーター』シリーズで最も印象に残る男『エリック上田』の名台詞から。エリックの妹であるエリナの声優はニャル子と同じくアスミス!

疑うこと知ったとき、久しぶりに自分の足で立った気がした
 蒼穹のファフナーRIGHT OF LEFTのイメージソング『DEAD SET』の歌詞から。

コーヒーに毒、ケーキに解毒剤が仕込まれてることは
 ご長寿番組である『名探偵コナン』のアニメオリジナルストーリーから。トリックはご覧の通りで、被害者以外に死者が出る可能性が高く、しかも証拠隠滅に警察が来る前に急いで食器を洗う(コナン達は同じ場所にいます)等々お粗末な展開の嵐で、原作者をして「この脚本は、二度とアニオリ話には使わないでくれ」と言わしめたとかなんとか。

紅茶にレベルや年齢、身長が下がる作用があっても
 ナイトウィザードにてアンゼロットが差し出してくる紅茶に結構な確率で混入している作用。
 件のフェウス=モールの話では柊がこの紅茶でショタ化する。
 余談だが、このエピソードはファンブックのコーナーでのお便りが原因だと信じたい。

続く



[38361] おまけ6 9話続き10話途中
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:a69fb242
Date: 2014/03/09 19:45
9話続き


わぁい
 男の娘専門誌『わぁい』から。まあ、ショタと男の娘は被ることは多いし。

鉄牛の烙印付け(メタルブランディング)
 『キン肉マン』のアイドル超人、テリーマンのフェイバリットホールドと『仮面ライダーW』の形態の一つ、ヒートメタルのマキシマムドライブから。

戦場で女の名前呼ぶのはこれから死ぬ奴の言葉って
 ギム・ギンガナム御大将のありがたい死亡フラグ講座から。
 前後の文が繋がってない辺りに、クー子の年齢への焦りが見える。

スタンなショックが直撃して一ターン行動不能になりそう
 スーパーロボット大戦OGs及びOG外伝において、命中すれば一ターン行動不能にするスタンショックを状態以上無効を持つボスにも有効にする方法から。
 レオナの直撃で今日もラスボスが可哀想なことに。

壱から玖まで七を飛ばして
 戯言シリーズに登場する権力の世界そのものである玖渚機関の通称から。一から九の別文字を使った苗字が集まるのだが、七の名は飛ばされる。

イカレた黒髪の蜘蛛
 漫画『職業・殺し屋』の主人公『イカレた銀髪の蜘蛛』から。

あとは血となり肉となる
 同じく職・殺の決まり文句から。
「あとは血となれ肉となれ」

漢字変換出来ない悲しみを背負いつつ
 玖渚機関に使われてる漢字の一部は常用漢字ではないので一般的な携帯等では変換出来ない。

士気も練度も最高クラス、ただし乗ってるのは八九式、みたいな
 言い回しは戯言シリーズの『葵井巫女子』ちゃんのもの。登場以降、この言い回しのためだけにほぼ全巻に出演することになる。
 内容は『ガールズ&パンツァー』のバレー部達『アヒルさんチーム』のこと。技量は、主人公達や全力時の生徒会チームに迫るものの、乗っている八九式がぽんこつと言うか欠陥機と言うか。が、八九式は頑張った。どのくらい頑張ったかは原作を観て。
 ただこれだけは言える。
「八九式は軽戦車じゃないし」
「中戦車だしぃ」

……だったらシナリオをクリアして、器用度を上げればいい
 ソードワールド2・0では、シナリオクリアの度に能力値が上がる。上がるが……。

僕はあまりサイコロで1を振らないんだよ
 上がる能力値はサイコロを二つ振って出た目の能力の一つから選ぶ。1が器用に値するが。
「知力上がれー」

致命的失敗
 TRPGで出会いたくないが会いに来ちゃう罪な人『ファンブル』のこと。だいたいのゲームにおいて1が複数出たりするとファンブルになり、結果は自動失敗になる。

運命変転
 ソードワールド2・0における人間の持つ剣の加護。効果は『サイコロをひっくり返す』つまり1を6に変えるであり、安定性を求める冒険者たちにより人間の増殖が行われている。
 それでも俺はナイトメアで生きると決めた。

魔を断つ剣、シャーロック・ホームズと、無垢なる刃、源九郎判官義経
 魔を断つ剣、無垢なる刃は、どちらも『デモンベイン』の呼び名。そして、ホームズや義経はどちらも普通に有名人だが、天下繚乱のリプレイで、デモンベインの生みの親『鋼屋ジン』氏のPCとなった。
「僕は探偵として真実を宣言しよう。《破邪顕正(デモンベイン)》!」

……この風、この肌触りこそ戦場
 機動戦士ガンダムの登場人物、ラルさん……もとい青い巨星『ランバ・ラル』の台詞から。

バスケ部や陸上部よ、わたしは帰って来た
 台詞そのものは『ガンダム0083』のアナベル・ガトーの発言から。それと、世紀末と呼ばれるバスケと陸上がありましてな。

『黄色い』リボン
 つまり「ハスターに縛られたい。ハスターのものになりたい」という意思表示。
 乙女か!

ヒートジョーカーエクストリーム
 仮面ライダーWの一形態……ではない。
 エクストリーム発動には、最も相性のいいメモリである必要があるため、サイクロンメモリとの相性が高いフィリップでは使用不可。

超法規的措置でスルーしよう
『BPS バトルプログラマーシラセ』の作中の台詞から。
「見なかったことにしよう!」

むせるほど炎(女王)の匂いが染み付いているのに
 アニメ、ボトムズの楽曲『炎のさだめ』から。ボトムズの代名詞と言っていい。

女の敵は、他の男も敵に回すから、結局は世界の敵なのよ
 確か、ライトノベル『マテリアルゴースト』に出てきた台詞だったはず。

会えたばかりで残念だけど、これが私の挨拶だから
 ゲーム『ファイナルファンタジーⅣ』の登場人物『ゴルベーザ』兄さんの台詞から。

さよならは言ったはずよ、別れたはずよ
 同じくボトムズの『炎のさだめ』の歌詞から。
 余談ながら漫画『武装錬金』の『キャプテンブラボー』もこの台詞を使ったが。版権に引っ掛かったのかアニメでは言っていない。
 ニャル子と同じXEBECなのに。


10話

ゲーセン嬢のクー子
 クラシック『G線上のアリア』から。

実は男だった
 ギャルゲーやラノベで、不自然に攻略出来ないキャラがいたら疑おう。

海に面した崖で自分が犯人だとか
 火曜サスペンス等。

それも私だ
 スパロボシリーズの『ユーゼス・ゴッツォ』の台詞から。多用し過ぎると、メアリー・スーになるので注意。

羽ばたく愛情
 アニメ『デジモンアドベンチャー02』のホルスモンへのアーマー進化した際の口上。

The愛
 アイマスの同名の楽曲から。

心臓がドキドキと『こっちを見ろ』
 ジョジョ4部の吉良吉影のスタンド『キラークイーン』の能力の一つ『シアーハートアタック』

幼なじみに告白された事がある中学時代の友人
 ライトノベル『生徒会の一存シリーズ』の主人公『杉崎鍵』のこと。北海道繋がり。
 まさかこれがばれるとは。

超人レスリングマンガ
 往年の名作『キン肉マン』。
 作者が面白そうだと思ったら伏線をかなぐり捨てるので『蜘蛛の超人→魔界のプリンス』とかザラに起こる。

将棋やチェスで言うところの詰みになって
 ジョジョ7部の大統領の台詞から。

進むべき道を切り拓くために覚悟する状況だ
 ジョジョ5部のジョルノの台詞から。

あたしのリロードはレボリューションだよ!
 ゲーム『閃乱カグラ』のキャラ『両備』の台詞から。
 ドラマCD時代の珠緒との中の人ネタ。

もっと鉛が欲しいの?
 ゲーム『エンドオブエタニティ』のキャラ『ゼファー』の台詞から。

筋肉じゃなくて骨でささえる
 ジョジョ6部より『ジョンガリ・A』の狙撃時の台詞。

泥でも舐めてて
 同じくゼファーの台詞から。上共々よく聞く。

狙い撃つよ、あたしも
 ガンダムOOのロックオン・ストラトスの台詞……ではなく、第2次スパロボZの主人公クロウ・ブルーストの狙撃時の台詞。
 台詞の元は勿論、亡き友ロックオンから。

ディスプレイの中の戦場
 アニメ『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』から。

ファンタジーから現代になった……あ、東京タワーだ
 ゲーム『ドラッグオンドラグーン』の幻のルートから。
 クー子の言うとおり、幾つもの欝ルートを超えて到達したのだが。
・舞台がファンタジーから東京になる。
・アクション+シューティングだったはずなのに音ゲーをやらされる。
・クリアしたら、相棒のドラゴンが東京タワーに刺さる。
 と、欝を超えた電波欝とも呼ばれるエンディングだった。

シバムラティックバランス
 『高機動幻想ガンパレード・マーチ』や『新世紀エヴァンゲリオン2』のシナリオの一つ。端的に言うと絶望手前スタート。

絶望があたし達のゴール
 以前と同じく、仮面ライダーアクセルの決め台詞から。

クー子ちゃんこのゲームやりこんでいるね?
 ジョジョ3部のバービィー弟の台詞から。オービィー君だったかな?

答える必要はない
 ジョジョ3部にて、上記の台詞を言われた花京院の返答。

分かってるよ、わざとだよ、ついだよ!
 漫画『あずまんが大王』の神楽の台詞から。

アクティブハート
 アニメ『トップをねらえ!』の楽曲から。

あちこちやって来たけど、楽してクリア出来るゲームが無いのは、どれも一緒だなぁ
 仮面ライダーOOOの主人公、火野映司の名言から。

ビビッと難易度レッドなオペレーション
 珠緒の中の人も出演しているアニメ『ビビッドレッドオペレーション』から。

狼の皮を被った爬虫類が機械化された四足獣になるのもビックリなワープ進化
 デジモンアドベンチャーの石田ヤマトのパートナー、ガブモンからメタルガルルモンへのワープ進化のこと。

少年、耳元で叫ばないで
 アニメ『聖戦士ダンバイン』の主人公『ショウ=ザマ』の台詞から。パートナーのミ=フェラリオ、チャムに対して言う。

クトゥグアイヤー
 アニメ『デビルマン』の主題歌の歌詞から。

消音スキル
 ゲーム『ゴッドイーター』シリーズに登場するスキル。
 その名の通り、音を出しにくくする地味なスキルだが、難易度が大幅に変わるミッションもちらほら。

軽音部でベースやってた経験
 アニメ『けいおん!』の秋山澪と珠緒のドラマCD時代の中の人が同じだったことから。ドラマCD3巻では、珠緒と声優を共有したモブ邪神がベース担当だった。

ドラマCDから声が変わっちゃったから
 ドラマCDからは、真尋さんと四邪神以外の声は一新されている。逆に言うとメインキャラの声優が変わらなかったのは凄い。

八坂君のお母さんはまだあの台詞言ってるし
 年齢「17歳」のこと。勿論、井上喜久子お姉ちゃんでなければ成立しないが、アニメ準拠でも使っている。

少女趣味の菜食主義者みたいにマラカスとして扱う
 戯言シリーズの姉妹作『人間シリーズ』の登場人物『少女趣味(ボルトキープ)零崎曲識』のこと。彼が最後に使った楽器がマラカスだった。

軽音部でお茶を飲んでた経験が生きたな
 けいおん! で主人公達のバンド『放課後ティータイム』が時たま言われる揶揄。いや、練習はしてるよ?
 言い回しはブロント語。

確定的に明らかだろ!
 同じくブロント語。

狂気山脈よアストラギウス銀河よ、わたしの歌を聞けー
 狂気山脈は言わずもがなクトゥルー神話。そしてボトムズに登場する銀河と、言い回しは『マクロス7』の主人公『熱気バサラ』の台詞から。

まるでピクニックだった
 ゲーム『ゴッドイーター2』の『ジュリウス・ヴィスコンティ』の台詞から。あまりに良く聞くので『ピクニック隊長』とあだ名がついた。

楽しかったよ
 ゲーム『スターオーシャン3』の主人公『フェイト・ラインゴット』の勝利台詞から。貴族を転ばせ、貢ぎ物をさせてからこの台詞を吐く主人公ェ……。

『ゴーゴーゴーゴー』とか『スリーツーワン珠緒』とか。たまにツル子って交じってた気がする
 ニャル子WのED『嫌いなわけLychee』の歌詞から。
 珠緒の友情と恋心を歌った曲だが、アニメオリジナルキャラのツル子バージョンも何故かある。

珠緒は星を見た。真尋は泥を見た
 ジョジョ1部の詩から。

小生意気な幼い少女が変身したドラゴンが
 ダブルクロスリプレイストライクのPC『モルガン・ル・フェイ』のこと。別世界では東京タワーに刺さった。

こんなこと残酷過ぎる
 ジョジョ1部のスピードワゴンの台詞から。

ブラストハンド
 ストライクのPC①『国見伊蔵』他のコードネーム。物語後半、ブラストハンド祭が開催された。

新しい暮井珠緒がエクストリームに誕生したのだった。ハッピーバースデー!
 原作でも言われた、仮面ライダーWのクレイドールエクストリーム。及び、仮面ライダーOOOの会長の口癖から。

ジャッジメント
 とあるシリーズの登場人物『白井黒子』の台詞から。イス香と声が同じ。

二人の恋のヒストリーを始めるためにファーストキスに
 アニメ『ゼロの使い魔』のOPの歌詞から。ヒロインのルイズはハス太と声が同じ。

続く



[38361] おまけ7 10話続き
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:a69fb242
Date: 2014/03/09 19:48
10話続き


ワイヤー担当が、その重量に辟易するだろう
 仮面ライダーWのネットムービーから。クレイドールドーパントがエクストリームになったことで、巨大化しワイヤー担当が『あれは間違いなく太った』と言うネタがあった。
 そのコーナーの進行役の、風都ライダー3号は義妹にフルボッコにされた。

イーベル・ルーヒーのリアクター羞恥心は、命中後次の標的に向かっていく鬼畜仕様
 アニメ『宇宙の騎士テッカマンブレードⅡ』の主人公『ユミ・フランソワ』が変身する『テッカマンイーベル』及び、その必殺技リアクターボルテッカのこと。
 その鬼畜な性能により、本人の能力はそこまで無いにもかかわらずスパロボWでチート機体の一機に数えられている。
 なお、ルーヒーの中の人ネタ。

分の悪い賭けをしようと思わない悲しい現実。わたしは嫌いじゃないけど
 スパロボシリーズのオリジナルキャラ『キョウスケ・ナンブ』の決め台詞から。特徴的なため、同シリーズ内でセルフパロディしている。
「分の悪い賭けは、嫌いじゃあない」

僕はする気はないし、主義じゃないな
 派生1及び3。ジョシュア・ラドクリフとクロウ・ブルーストの台詞。

どっちでもいいかな
 派生2。カズマ・アーディガンの台詞。どっちでも、と言っているのでジョシュアも意識している。
 していた。

ちょっとトイ……手を洗って
 原作11巻での珠緒とのデートでたしなめられたため言い直した。



[38361] 13・やさしいゲームの始め方
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:b2edb3bc
Date: 2014/03/10 23:24
「それでさクー子」
 まだまだ周囲からの囃し立てが終わりそうもないゲーセン内。
 とりあえず全力で聞き逃すことにしながら、クトゥグアに話し掛ける。
「……何、少年?」
 紅いツインテールを揺らして彼女はこっちを向く。そして繋いだ手からもクトゥグアが身を揺らしたことが伝わってきて、その幸せを噛み締めてしまう。
「……少年?」
「あ、ああ悪い」
 もう恋愛ボケでヤバイ。
 身体が軽い、こんな気持ちは初めてだ。もうSAN値も下がらない気すらしてくる。
「……少年が幸せそう。具体的には、次に取得する経験値と資金が倍になるくらい」
「なんだよ、その付随効果は」
「……昔の名残。祝福も無いから成長格差が出来て大変」
 うん、相変わらずよく分からない。
「……で、本当に何?」
「ああ、悪い悪い」
 このままずっとこういう問答を続けたくもあるが、いい加減自分のキャラを思い出そう。
「今並んでるゲームがどういうのか聞いとこうと思ってな」
 どうも周りの客を見るにペアを組んでやるゲームらしく、このまま未確認で進行形すればクトゥグアの足手まといになりかねないので、始める前に聞いておきたい。
「……あ、そういえば説明してなかった」
 解説しようと一生懸命真尋と目線を合わせようとする姿がもう、クトゥグアマジプリティ……。
「……このゲームは馬鹿みたいな開発費をかけたことで有名で……少年?」
「あ、ああ悪い。本当に悪い」
「……大丈夫? 情緒不安定だよ? 満ち足りた日々の制圧とかしちゃった?」
「いや、むしろ今満ち足りてるんだけどな」
 うん本当にヤバい。このままでは八坂真尋のキャラクターがどこかに行ってしまいそうだ。
 そういえば朝、クトゥグアが二次創作におけるキャラの性格改変は是か非か、とニャルラトホテプと熱く語り合っていたか。帰省の準備を生体加速しながらやってまで雑談に花を咲かせるあいつは、本当はクトゥグアが好きなんじゃなかろうか。
 まあそれはそれとして、この世界が二次元どころか二次創作なわけもないが、いい加減テンションを戻そう。家に帰ったらハスターが心配してしまう。
「いやすまん、僕はしょうきにもどった」
「……もう、アネのいうことを聞きなさい」
「はうっ」
 せっかく落ち着いたのに、おすまし顔+人差し指でツンツンとかやめてほしい。真尋のストライクゾーンに灼熱のファイヤーゴールしてしまった。
『性癖が増えたよ、やったねヒロ君!』
 心の中の母親は黙っていてほしい。
 とりあえず、何故か浮かんだ与市の顔でも思い出してクールダウンしよう。
 ところで、今日はやけに知り合いに出くわすのだが、与市にだけそんな気配が微塵も無いのはなぜだろうか?
「……というわけで少年、説明される覚悟は出来た? わたしは出来てる」
「ああうん、大丈夫だ」
 謎は解けなかったが、4部から5部にネタが移ってしまったのだから仕方ない。
「で、馬鹿みたいな予算をかけたんだって?」
「……うん、だいたい版権料。このゲーム、色んなところからキャラクターを借りてるから」
 どうやらいわゆるお祭りゲーという奴らしい。
「……システムはバーサス系、ただし二人一組のチームが三つ入り乱れて戦うから番狂わせが起きやすい」
「へえ」
 勝負事というのは、もちろん状況や時の運にも左右されるが、だいたい強い方が勝つ。ただし一対一に限ればだ。
 二人一組で一対一と言うのも変な話だが、この場合一対一が二つ並行して起こってると思えばいい。
 しかしそこに新たなファクター、つまり他の対戦相手が加わることで一対一対一になると話が分からなくなる。
 何せ全員にとって敵が一つ増えるのだ、攻め方も護り方もロジックが変わる。結果、ミスや事故が頻発しやすくなり、強い方が勝つと単純には言いにくくなる。
 まあこれにも勝ちにいく方法論はあるのだが、それでも真尋もチームに貢献しやすくなるだろう。
「……まぁ、最初はキャラクターは借りられず、開発費も足らず、総キャラ数六体って体たらくだったけど」
「少なっ!」
 全員別のキャラを選んだらそれで埋まる数だった。
「……だけど、ただでさえ茨の道のキャラゲーで、しかもマイナー作品ばかりを出したことで、稼働当初からゲイムギョウ界もといゲーム業界で注目されていた。ちなみに当時のキャッチコピーはこう『我々は、この男を知っていないッ! いや、この傷を知っていないッ!』だった」
「マイナーっぽ過ぎだな」
 いや、の使い方を間違えてるだろう。
「……そのマイナーっぷりが受けたのか、今では予算が増えて、キャラが増えて増えて……」
「よかったじゃないか」
「……知らないキャラが増えた」
「それは、よくなかったのか?」
「……電子の妖精王、略して電王としてちょっと屈辱。そして、元作品のゲームや本が増えた」
「それは自業自得だ」
「……やるあての無いTRPGのルルブも増えた」
「それも自業自得だ」
 そもそも、一応は無口キャラという枠組みのこいつが、TRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)なんてやれるのだろうか?
「……一応チャットでもやってるところはあるよ、わたしはTRPGは話してやる派だからやらないけど」
「そんな主義か……って、ボイスチャットでも最近はやってるって聞いたけど」
 ちなみに情報元は歩くスピーカー。従姉妹が友達の輪を広げるのに使ったとか。
「……わたし、幾つかのコミュニティでは男って通してるから。クトゥグア星人の女は口説かれやすいし」
「口説かれ……? ほう」
 なんだ、こいつを口説くなんてなかなか見る目がある奴じゃないか。一度じっくり腹を割って話してみたいもんだ。
「……し、少年? お顔恐いよ? 死の点を突いたり、本物の暴力を教えたりしそうだよ」
 おっといかんいかん、クトゥグアが何故か怯えている。ただ、今の真尋ならばどんな邪神でも『ただの的』と断じられる自信があった。コーラを飲んだらゲップが出るくらい確実な、だ。
「で、そのゲームでさ、おすすめのキャラとかいたら教えてほしいんだけど。僕初心者だからさ」
「……この流れで話題を変えた? 少年の強引さはわたしの予想を遥かに超えているのかもしれない。正直もう伸びしろが無いと思ってた」
 なんか酷いことを言われた。もうゲームは全部クトゥグアに任せて「なるほどな、ロストブレイズか」とか称賛する置物になってしまおうか。
「……あと誤解しないでほしい。クトゥグア星人が口説かれやすいのはニャルラトホテプ星人対策」
「ああー」
 以前ニャルラトホテプは、原作? と言っていいのかもはや微妙だが、ともかく原作での洒落にならないレベルの悪業の数々は別の混沌がモチーフだと言っていた。
 逆に言えば、あのレベルではない程度のことならやりかねないメンタリティの持ち主がニャルラトホテプ星人だということだ。そりゃあ天敵であるクトゥグア星人と仲良くしたいだろうさ。
「って、ちょっと待て、女のクトゥグア星人って言ってなかったか?」
「……少年は目ざとい子。細かい事を気にする男の子は嫌われちゃうよ? わたしは嫌い・ストールになんて絶対ならないけど」
「ぁう。……お前、僕を赤面させるのが趣味になってないか?」
「……実はマイブーム。うん、クトゥグア星人の男は……ほら……」
 その奥歯に物が挟まった様に言い淀むクトゥグアを見て、真尋の脳裏に稲妻みたいなものが奔った。ここ三週間の経験の賜物だ。
 今日だけで結構鍛えられた気がするが。
「うんクー子、やっぱりいいや……変な伏線になっても困るし」
「……そうする。このシリーズで乗り越えても、ルーヒー視点のハスルヒSS(XXX板)で回収されるかもしれないし」
 それはそれで嫌な伏線というかフラグではなかろうか?
「……じゃあそろそろ説明しようか? そろそろ纏めに入らないと締めが適当になる」
「ああ、もうお前らの視点がどこにあるんだ、とかどうでもよくなってきた。じゃ、よろしく頼む」
 そしてこの会話で文字数制限に近付いてしまったのは触れないでおこう。
「……少年にはこの、悪忍筆頭とかおすすめかも」
 クトゥグアがやけに分厚いパンフレットを指差す。
 そこには艶やかな鴉の濡れ羽色の髪をポニーテールにした、六本の刀を持った少女が描かれていた。
 しかし最近の流行りか、どことは言わないが露骨に……デカい。
「……攻撃力、速度、突進力、全体的に高くて初心者向きのキャラ。ただし、カニ、エビ、ヤドカリは殆ど効果は無いから注意。さらに覚醒すると速度が落ちる代わりに、他の能力がさらに上昇する、炎髪灼眼の奥州筆頭……あとシリーズ全体で見ると小さい部類だから嫉妬心が少なくて済む」
「なん……だと……!?」
 もうやだ、この国。
「……他には、この炎と雷の魔力変換資質持ちとかもいいかも」
 次にクトゥグアが指し示したのは、チャイナドレスっぽい格好の女の子。
「……徒手に武器戦闘、砲撃戦までなんでもこなすスーパーロリ。そして力持ち。そしてツルペタ。だから嫉妬はしない」
「なんだよ、その選定基準は」
 それ以外にも選んでいる基準がある気がするが、今の真尋には理解できない。
「……気に入らなかった? じゃあ、灼髪のメシアは……『過去のやんちゃゲージ』の管理があるから中級者向けだし」
「いやいいよ、最初ので……これ以上やっても混乱するだけっぽい」
 わけもわからず自分を攻撃することはないだろうが、プレイすることにはなりそうだ。
「……あ、順番来たよ入ろう」
 都合よく、話が終わったら自分たちの順番になったようだ。やっぱり神の……邪神の見えざる手を感じざるを得ない。
「へーなかなか凄いな」
 筐体はロボットのコクピットみたいになっており、ドアを閉めると外部の音が殆ど聞こえない。
「……ボイスチャットを使うから、筐体の防音性はそこそこ……だから中でナニかしても外からじゃ分からないよ?」
「うん、何もしないからな?」
 すぐ隣に座っているクトゥグアが何か言っているが、やっぱり静かなロマンチックなところが、もとい高校生という未熟な身ではまだ早い。
「とりあえず百円と、カードを入れるのか」
 胸ポケットから先程渡されたカードを取り出す。
 大量生産の中の一枚に過ぎないはずのこれが、世界にただ一つしかない宝物に感じられる。
 やはりプレゼントは『誰から』も重要なファクターだ。
【人間やめますか?】
「あ?」
 カードを入れて数秒、画面にそんな文字が浮かぶ。
【失敬間違えました。大人は嘘を吐くのではないのです、ただ間違えるだけなのです】
「言い訳がましいな!」
【名前を入力してください】
「何事も無かったかのように!」
「……少年、これのお遊びにいちいち付き合ってるとゲームが始まらない。ハリーハリーハリー」
「お、おう」
 何か釈然としないが、予めプログラムされた文章にツッコんでも何も変わらないだろう。
「しかし名前か」
 ここで求められるのは本名ではなくあだ名的なものだ、そしてパッとは出て来ない。チラリとクトゥグアの画面を見ると。
【聖戦士クー=コヤ=サカ】
「なんでさ」
「……わたし、ゲームセンターでもクイーンだから、周りがこう呼んで」
「じゃあクイーンでよくないか?」
 あと、性戦士に書き替えたい。
「……わたしの相方なら、新感覚癒し系魔法少女とかどう?」
「なんでだっと、そりゃあ時間制限あるよな」
 ここで終わったら笑い話にもならない。某ラジオで使ったやつを入力する。
「……おーけー少年。マッチング設定、初心者一人有り」
 名前の入力が終わると、すかさずクトゥグアが操作を始める。どうやら対戦相手の指定が出来るらしい。
「……必ずじゃないけど……少年は幸運猫、じゃなくてラッキーボーイ、二組とも初心者有りだって」
「そっか、じゃあ僕も少しは役に立てるかな。やるか」
「……やろう」
 そういうことになった。

 対戦相手は。
【総食系男子】&【VF‐1】
【コタロー】&【ワルプルギス】

【ゲームスタート】



[38361] 14・邪神×駄ルキリー×機械侍女 スーパーMANTA大戦(お試し版)
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:62e603df
Date: 2014/04/06 19:30
「……厳しい戦いだったね少年」
「ああそうだったな……って、あれ?」
 長時間のアクションゲームで疲労した目と肩をほぐしていると、妙な引っ掛かりを感じた。むしろ、何も引っ掛からなかった。
「ゲームの記憶が無いんだが……」
「……それ、紅王症候群かも」
「またかよ!」
 せっかくのクトゥグアとの共同プレイすら飛ばされるのか。ただでさえ、なんでもかんでも描写を吹き飛ばすのは地雷の証とか言われる世の中なのに。
「僕の時間の流れ、早いんだか濃密なのか分からないな」
 ニャルラトホテプが里帰りの連絡を受けたのは今日の朝のはずだが、もう半年以上前な気もしてきた。
「……気をつけてね少年、時間感覚がこんがらがるのは天国階段現象かもしれないから」
「これ以上新しい設定を増やすな!」
「……あ、それは仮で正式名称は天国創造現象だった」
「いや、そういう問題じゃ……てか大層な名前だな」
 実は侍女天国だった、とか台無しなオチがあるかもしれないが。
「……仕方ない、少年は特異点だから」
「前にも似たようなこと言ってたよな?」
 確かそのときは、かもしれない。レベルの発言だった気もするが、もう何年も前の会話だったみたいに記憶があやふやなのだ。
 本格的にその怪しい現象の渦中にいるのだろうか。
「……あの時はわたしも冗談全部だった」
「全部かよ!」
 まあ、こいつらの場合は危険なことに挑む時も、面白全部に出来るのだろうし。
「……聞いて、少年の影響力は凄い。好感度が高い相手が変わるだけで、いつもは半ドンの土曜日が今日は祝日で休み」
「それは僕の仕業じゃない」
 自分には何も出来ないし、仮にやれたとしても、そもそもやる必要はなく今日は祝日だ。それも古事記めいたカレンダーに書かれている。
 はずだよな?
 まさか、うっかり勘違いしたとか、八坂家のカレンダーに誤植があったとか……いやいや、さっき珠緒に会ったばかりだ。歩くスピーカーと呼ばれるトラブルメーカー彼女だが、学校をサボってゲーセンでハイスコアガールを目指すような不良ではない。
「……信じられないのは仕方ない、平行世界への干渉はやりすぎると自分の敗北フラグを立てまくって、番人が来るまでも無く『それも私だ』しちゃうから、精神的に未成熟な地球人にはまだまだ早い技術」
「うん、何言ってるかわから……クー子っ!?」
 相変わらず妄言に妄言を重ねた戯言を紡いでいたクトゥグアは、唐突に真尋に身体を預けた。
 まるで寂しい子供の様に。
 まるで震える子供の様に。
「……うん、少年は分からなくていい。あの世界の虚憶が実憶になったら、わたしはどっちに嫉妬していいか分からない」
 真尋にはクトゥグアが見たもの、言っていることがいつだって白紙(ブランク)な明日ほども分からない。
「本当に分からないんだ」
 だから。
「……あ」
 ただただ抱きしめ返してやるだけだ。
「お前が寂しいんならそばにいてやる、寒いんなら暖めてやる」
 ドラマか何かみたいな、歯が浮きそうで自分に似合わない台詞だ、と真尋は思う。
「僕が出来ること全部してやる」
 自分だけ満たされたいわけじゃない。
「…………してもくれるの?」
 後悔しない生き方を、まだクトゥグアが口にすることを躊躇う台詞を清々しく言わせてやりたい。
「ああ、勿論」
 相対する願いなんかじゃない。
 歌でも言うだろう? こいつの幸せが自分の幸せだって。
「……ありがとう少年」
「礼なんていいよ。あれこれ考えて止まってるより、動いている方が楽しいだろ?」
「……うん」
 確か前に母親が言っていた。停滞から加速したから自分達は夫婦なんだと。
 惚気だ。
 ついでに片思いの相手は、まだ知らない傍で話している旦那の顔だそうだ。
 惚気だ。正直息子に恋の迷宮クロスブラッドな思い出話はやめてほしい。気恥ずかしいから。
「……動く……加速する」
「ああ」
 物質は停滞するから冷える、そして加速するから熱く燃える。だから元気を出すなら加速した方がいい、クトゥグアだけに。
「……少年、それは……うん」
「せめてコメントしろよ」
 触れないようにスルーはむしろ傷つくんだ。
「……大丈夫、もう加速は始まってる」
 クトゥグアが見て分かるほど微笑んだ。

「……まさかの原作終了に驚いて、執筆に時間のかかるゲームプレイの描写をカットしようと決めるくらい加速してる」

「おい!」
 残酷な現実をわざわざ言ってどうする。まさかどんな風に真尋の甘い気持ちを壊してくんだろう、とか試してるわけでもないのに。
「……大丈夫、プロットに影響はないから。むしろ早くプロットを、展開を早めないと忘れ去られそ……」
「ストップストップ、ストーップ!」
 うん、それ以上いけない。メタネタにもメタネタなりの仁義があるのだ。

「あのー、ちょっといいですか?」

「……まさか、こんな短い間に両方の行が空いた、印象付けたい台詞が続くなんて……」
「もうお前が何を話してるとかじゃなくて、どう話を振ればいいかわからないよ」
 だからメタネタにはメタネタなりの。
「……だって、世の中には自分で左右の行が空いた感じをリクエストしたのにそんなことはされず、次に注目されたときにはもう死んでる果物みたいな名前の人もいるし」
「よそはよそ、うちはうちだ」
 これではなりたい関係どころか兄妹、むしろ親子みたいではないか。
「あのー、いいですかね?」
「あ、ああごめん」
 実質無視の形になっても諦めずに語りかけてきたのは見知らぬ少年だった。
「えーと、『聖戦士クー=コヤ=サカ』さんと『G‐838』さんですよね?」
「そ、そうだけど」
 自分達のゲームで使った名前で呼んできた少年は、どこか不思議な雰囲気を纏っていた。
 なんというかたれ目系に感じる。感じると言うのは、実際はつり目な方なのに、眠たげと言うか浮世離れしていると言うか。受け、草食系ばかりのラノベ主人公の中で異彩を放つ肉食系と言うか。
 何を言ってるのか分からなくなってきたが、ともかくそんな異質なオーラ、色にすると紫っぽいのを纏って金色の野とか進みそうな少年だった。
「ああ、やっぱりそうでしたか。さっきはお世話になりました」
「お、お?」
 にんまり。チェシャ猫じみた笑みで真尋の心は掻き乱された。初対面だと思うのだが……いや。
「あれ? どこかで会ったことあるか?」
 どことなく、この自分と同い年か少し年下らしき少年に見覚えがある気がする。
 喫茶店、エグゼクスパイン、顔射……うっ、頭が!
「いえ? 直接顔を合わせるのは初めてですが……もしかしてナンパですか? もしかしなくてもナンパですか?」
「ちげーよ! あ、ごめん」
 うっかりいつもの調子でツッコんでしまった。初対面なのになんなのだろうか、この少年の気安さは。
 まるで、生まれた日は違うが死ぬ時は一緒な熱き血潮の兄弟みたいだ。
「あのリキ名乗らないと、怪しいナンパはあなたの方だと思うんですが」
 そう言ったのは、理樹と呼ばれた少年の後ろに控えていた少女。深く被ったニット帽から零れた髪は、もう真尋が見慣れた珍しい色をしていた。
「銀色……か」
 クトゥグアが特に反応しないところを見ると、どうやら邪神とかいうオチはないようだ。
「すいません自己紹介が遅れました。僕『総食系男子』です」
「ああ、さっきの」
「……山猫……白い山猫(ホワイトリンクス)」
「いやぁ、僕は死亡フラグだらけの同僚しかいない会社には勤めてませんよ。はい、つめたいものどうぞ」
「んー?  つめたいもの」
「……どうも」
 と、ペットボトル飲料をうっかり受け取ってしまったが、初対面の、多分年下に奢られるのは流石に抵抗がある。
「ンーフフ、お気になさらず。自販機で当たった物ですから、ほら僕の命中率は凄かったでしょう?」
「そうかぁ、じゃあありがたく。そして凄かったな」
 この少年が使ったキャラは、魔王さえも一撃で倒しうる狙撃手らしく、総弾数二十発こっきりにもかかわらず戦場を掻き乱してくれたものだ。
「でしょう? ほら聞きましたかフェル子さん? お墨付き貰っちゃいましたよ、元気な赤ちゃん産んでくださいね」
 爆弾発言炸裂。
「も、もう! 何言ってるんですか!!」
「ナニを言ってるに決まってるじゃないですか。大丈夫です、必中は一晩保ちますからね、他の皆さんにも鎹な子宝を送りますよ、高揚しますね」
 なんというテンションだろうか、真尋は理樹によって肉食系を理解した。

後編へ続く



[38361] 14・後半
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2014/04/06 19:32
「うふふ、理樹……様? 若々しくて元気がいいのはよろしいですが、その元気はベッドの中まで取っておくべきではないでしょうか?」
「ああ、それもそうですね」
 理樹の暴走を止めたのは。
「め、メイド?」
 であった、水色の髪で耳に謎の機械的なアクセサリーを付けた年上の女性だった。
 同じくどこかで見た覚えがあるのだが、きっと気のせいだろう。またナンパと間違われるのも心外だ。
「あら? 真尋様ではありませんか、あの時はどうも」
「は?」
「……少年、知ってるの?」
「い、いや……」
 なんかクトゥグアの声に硬質な物が混じって、回された腕からも痛みが走った。だが柔らかい。
「ベルさん、知り合い?」
「ええ、昔ちょっと……嫉妬ですか?」
「そ、そーゆうわけじゃないけど」
 さらに、茶髪を三つ編みにした少女までやってきた。
 ニャルラトホテプもいないのに、場が混沌としている。
「えっと、その、ストップストップ。で、理樹……でいいか? 何か用があったんじゃないのか?」
 このまま話していても埒があかない。そしてそのままグダグダな締めを迎えかねない。
「ああ、そんな大した用ではなかったのですが、なんというか奇跡って起きるから奇跡なんだなぁ、って思いまして」
「は?」
 またクエスチョンマークを浮かべた真尋に、理樹は銀髪の少女を抱き寄せてにんまりと笑う。
「この人は『VF‐1』のフェル子さん、僕の嫁です」
「よ、嫁!?」
「あー、あの槍使ってた」
「……ミサイルみたいな」
 機械式の槍を持って「行くのです、シュヴェルトライテッ!」と叫び突貫する少女を使っていた。
「今更ですが、あなたがあの名前使ってどうするんですか」
「し、仕方ないでしょう。他に戦乙女っぽいキャラがいなかったんですから!」
「しかも、全然命中しないでミサイルみたいに延々とあっちこっちしてましたね」
「……仕方ない、あれはランドグリーズの相当品だから」
「おい、また脱線してるぞ」
 オチだけではなく全体的にグダグダだった。
「そうでした。で、こちらは今さっき偶然会った……」
「『ワルプルギス』です」
「あ、『こたろー』です」
 メイドと三つ編みの少女も名乗った。さっきプレイした全員が顔を合わせたことになる。
「本当、凄い偶然ですね……ところで真尋様、本当にわたくしを思い出せませんか?」
「え、ええ……すいません」
 年上の美人にそんな顔をされても困るが、思い出せない物は思い出せないのだ。多少は引っ掛かりがあるが。
 連れの態度に困惑しているのか、釈然としない顔で『こたろー』はペットボトルに口をつけている。
「では『新機動侍女』にしておくべきだったでしょうか?」
「でしょうか? と言われても」
 何にせよ記憶の外だ。
「仕方ないですね、わたくしの名前はベル……」

「こーろー太ぁー!」

「ぶっふぅっ! り、理々!?」
 地獄の底から響いた様な声と、同時に鳴った破裂音に目をやると、赤鬼(レッドオーガ)がいた。
 いや、踵落とししているツインテールの少女だった。
 『こたろー』が手に持っていた鞄でアンディ・フグめいた踵を受け止めているため、スカートが翻ってヤバいが、標的の体に隠れて真尋には鍛え上げられたグンバツの脚線美しか見えていない。
 だから腕に力を込めないでほしい。
「あんた、せっかくの休日だってのになんであたしに黙って出掛けてんのよ! しかも似合わないゲーセンなんかに」
「わ、わたしがどこ行ったっていいでしょう! あと、大人っぽいデザインなのにクマさんプリントのパンツはアンバランスだよ」
「殺す!」
「殺すの!?」
 なんだこの状況は、野太い大地が『バイオレンス』とか囁いてきた。
「あ、ご心配なく。いつものじゃれあいですので」
「なんだ知り合いか」
 結局正体を聞きそびれたメイドさんは泰然としているので、別に慌てて止める必要はないらしい。いや、周りに凄い迷惑だが。
「……少年、あの子の反応が同性の友達に対しての態度に見えない。まるで鈍感主人公にやきもきしてる、いまいち勝ち組になれない幼なじみヒロインに見える」
「うふふ、やっぱりそう見えますか……ところで、そちらはよろしいのでしょうか?」
「は? そっち……って、うぉ!」
 言われてそっちを見ると、総食系男子の炭酸かけが出来上がっていた。
「り、リキぃっ!」
「まさか、男の娘に顔射されるとは思いませんでした」
 何故か慣れた調子で自分を拭いた理樹は、少女ファイト真っ最中に指を向ける。
「やっぱり僕よりもあの二人を止めた方がいいと思うんですよ。ほら、店員さんも来ましたし」
「あら?」
 ああ、流石にマズい、これはマズい。
「これは撤収ですね、わたくしはお二人を回収するので、皆様は別ルートでお願いします」
 言って、メイドさんはスカートの端を摘む貴婦人の礼を取る。
「それでは、理樹様、フェルスズ様、真尋様、それと名前を聞きそびれてしまった可愛い彼女様、またどこかでお会いしましょう」
「か、彼女って」
「……えへへ、少年行こ?」
「では、大神家の伝統に従って逃げますか」
「はい、わかりました」
 そして四人で駆け……。
「きゃっ!」
「あ、すいません」
「いえ、私たちこそすみません」
 ……るのは危ないな。せめてゲーセンを出てからにしよう。
 しかし流行っているのか、あの全身緑のメイドさんは。
「……少年、どうしたの?」
「いや、なんでもない」
 単に、あのメイドさん、一人に見えたんだけどな。と、それだけだ。


   ***


「はぁはぁ」
 走った走った、体育でもないのにこんなにハメになるとは。
「いかん、胸焼けが再発しそうだ」
「いやぁ、ゲーセンの店員さんは強敵でしたね」
「い、いえリキ……こんなに走る必要は無かったような」
 そこはノリだ。
「あ……」
 そこに新たな音が響いた。
 目をやると、銀髪の子――確かフェルスズがお腹を押さえていた。
「フェル子さん、もうお腹空いたんですか? さっきターコイズウィスパー、略してタコスパ食べたばかりじゃないですか」
「き、急に走ったからですよ!」
 まあ、色々と濃い時間だったのは確かだ。真尋も、胸焼けと微妙な空腹が混ざってすっきりした物が食べたい。
「確かに疲れましたね、真尋さんもお疲れみたいですしどこかに入りましょうか?」
「……賛成」
「いいけど、でたらめに走ったから僕はどこがいいとか分かんないぞ」
 微妙に行動範囲から外れているのだ、少し道を戻れば庭になるのだが。
「大丈夫です、ちょうどすぐそこにオススメの所がありますから」
「へえ」
 理樹が指で示したのは。
 なんというか休憩所だった。
 シャワーとかベッドとかありそうな。
 回転ベッドは都市伝説だっけか?
「入れないだろ、高校生だけじゃ!」
「大丈夫、行けますって。ちょっとのお金と明日のパンツさえあれば」
「一晩過ごすつもりか!」
 瞳を星明かりみたいにキラキラさせて言うな、英語で言うとスターライト・エクスティンクションか。
「初めてが四人とか、貴重な経験ですね」
「クー子に手を出してみろ? 初対面でも容赦が無くなるからな?」
「……少年、大胆」
「リキぃ?」
「おっけぇ、分かりました。二部屋取りましょう。それでゾロリっと解決です」
「何も解決してねえよ!」
 真意を悟らせないニヤニヤ笑いで、下ネタ連発。なるほど、真尋とはまるで違う人種だ。普通に生きていて交わるとも思えない。
 だから気に入った。
 発言そのものは下劣と言ってもいいかもしれないのに、どこか爽やかで気持ちのいい奴だ。
 いい友達になれる気もする。

「理樹殿ぉっ!」

 またか。
 クトゥグアの言葉を借りるなら、今回はどれだけ印象付けたい台詞が多いんだ。
「会いたかった、会いたかったですよ理樹殿。盛り場で騒ぎが起こり、もしやと思いがむしゃらに走ってもちゃんと会うことが出来ました、やはり私と理樹殿は運命の赤いグレイプニルで繋がっているのですね。この感情、まさしくアインヘリアルです!」
 いや、北欧神話の英霊でどうする。
 と、突撃してきたのは、フェルスズの銀髪よりもさらに色素薄子な白髪の女性だった。
「おや馬子さん、どうしたんです? そんな自分が表紙の巻にもかかわらず、合体を別のキャラに盗られた鬱憤を晴らすみたいにダンダンダダンとダッシュして」
 どうやら知り合いらしい。
「ああそうでした、仮免許お前は感じないのか?」
「え?」
「ああ、いつものですか。フェル子さん、どっちの方です?」
「え?」
「え?」
「え?」
 何か凄い微妙な空気が流れている。そして真尋達は蚊帳の外だ。
「も、ももももも怪獣モチロン分かってますよ、あっちから神威の気配がギュンギュンします!」
 ケニ……なんだ? ともかくそんな単語を叫んでフェルスズはビシッと指を差した。
「いや、真逆だ仮免許。ある意味凄いな、よくそんな…………いや、とても特殊な気配だから仕方ないな!」
「…………はい――駄ルキリーワークス、始めましょうか」
「優しくしないでください!」
 強くないから生きていけないのに、優しくされると生きる資格も投げ出したくなったみたいだ。状況がまるで分からないが。
「えーとすいません、僕達ちょっと用事が出来ちゃいまして」
「そっか、じゃあしょうがないよな。また、会えると思うか? 理樹」
「あなたと僕の行く道が、いつか交わる時がくれば……ね」
 真尋の問いに理樹は笑って答え、携帯電話を向けてきた。
「まあ、文明の利器に頼れば道なんて簡単に交わらせることができるんですけどね」
 なるほど、理樹の持ち出した文明の……。
「……少年、それ以上いけない」
「読むな。んじゃ、ほい」
「確かに」
 普段あまり使わない赤外線通信機能で、互いのメールアドレスが交換される。
「これでアドレスが進化したら面白いんですけどね」
「ねえよ!」
 どんな機能だ。
「理樹殿、仮免許急いで」
「はい、それじゃ失礼します」
「ああ、じゃあな……じゃないな、またな」
 手を振って三人は自分達の道を歩んで行った。
「あ、リキそういえばファーヴニルがなんでかあの、クーコに反応したんですよ。なんでですかね?」
「さあ? 前世の記憶とか……もしくは主人と同サイズの胸に反応したとか?」
「ムキー!」
 と、なんのかんので目立つ三人は雑踏に消えて行った。
「濃い連中だったな、凄い疲れた」
「……本当」
 ペットボトルに口をつけて思い出した。
 あのゲーセンに、当たり付きの自販機は無かったことを。
「理樹……ね、食えない奴」


   ***


「ああ、疲れた」
 家に着いた真尋は、身体をほぐしながら荷物を置いていた。
「しっかし情けないな」
 現在クトゥグアはと言うと、疲労した真尋を帰して消化にいい出来合いの晩飯を買ってきている最中だ。流石に家事が出来ないほど疲れているわけじゃないが、クトゥグアが譲らなかったので、それが嬉しくて甘えてしまったのだ。
「あ、留守電来てる。誰だ?」
『も、もしもしまひろくんまだいないの?』
 ハスターだった。携帯にかければいいのになんだろうか。
『ち、ちょっと今日ね、そ、その知り合いと会っちゃってかえれないの』
「え?」
『だ、だから……ひゃっ! ルーヒーさん、らめ、『は、ハスター、もっとし……』今で、電話中で……そ、そういうことだからしんぱいしないで、それじゃ、あっ!』
 切れた。
 かなりギリギリだった。
「なんだ、あの恋する乙女は」
 行くとこまで行きすぎだ、ハスターが守護の楯にならなければ危なかった。
「削除しとこ」
 ハスターが言葉の裏に隠した真実を知る勇気は無い。
 XXXX板の気配を掻き消していると、次はチャイムがなった。
「誰だ? ついに与市とかかな」
「あ、八坂さんお荷物です」
 宅急便だった。
 ん? このパターンはもしや。
 と思い出したのは扉を開けた後だった。

「ま、戯言だけどね」

 そこには炎が揺らめいていた。



[38361] 15・炎の悩ませ訪問者(15禁)
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:b2edb3bc
Date: 2014/05/05 17:00
 まったく、フラグというのは厄介な物だ。何度ベキベキにへし折っても、ミミズの様に這い出て来る。
 もっとも、この場合のミミズはドールかもしれないが。
 なあ? そうは思わないだろうか。
 クトゥグア星人のクー音。
「うーん? どうしたのかな、少年君」
 八坂家のリビング、現在真尋は紅髪の美女と二人きりでいた。
 クー音。
 クトゥグア星人の一個体であり、八坂家のクトゥグアの従姉。
 しかしその同性の親戚を、お従姉ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよね? と言わんばかりに溺愛している。
 感情のポジティブは偏愛、ネガティブは劣情辺りか。
 つまるところ、真尋の恋敵である。
「いやーごめんねアポ無しで、急に話したいことが出来ちゃってさ」
「あー、クー子なら今買い物に行ってて……その、すぐに帰って来るはずですよ」
「んー、確かにかわいいクー子には会いたいけどね。違うんだなぁ」
 ゾクリと、まるでホットドリンクを飲まずに凍土にでも放り出されたみたいな寒気が走った。
 炎の神性と対面状態にもかかわらずだ。
「あたしが用があるのは君なんだよね、少年君?」
 ああ、やはりそうか。と真尋は思う。
 アト子に出会い、ルーヒーにハスターに出会い、珠緒にも会ったのだ。クトゥグアと心通わせた今日この日にこの深紅のポニテと邂逅しない道理はない。
 伏線はあった。
 回収されるのが一万回に一回でも、一回目に持って来るのがこの邪神類最強の遊び神だろう。
 婚約者のお芝居で騙していたツケが、一心不乱の大恋愛になった今になって回って来たと思えばいい。
 だから、過去に打ち勝てという試練と受け取ることも出来る。
 だが。
 だが、だ。
 情けないことにクトゥグアが帰還して、間に入ってもらう位しか対応策が思い付かない。
 弱く見える強い言葉を使っても、過激にファイヤーされるだけだろう。フォークがどれほど痛かろうと、全力の害意を持つ邪神相手では虚弱貧弱無知無能な人の子に過ぎないのだ。
「ちょっとお客様にお茶を淹れて来たいんですが構いませんねッ!」
 少し大袈裟に言って席を立つ。とりあえず普段は淹れない紅茶にしよう。もちろんクトゥグアが帰って来るまでの時間稼ぎだ。
 アッサムにするかオレンジペコにするか、いやアッサムは何故かあまり見なかったな。仕方ない、虎の子のダージリンに……。
「あ、ううん、さっき買ってきたお茶があるから気を使わなくっていいよ。むしろ急に押し掛けたお詫びってわけじゃないけど少年君も飲んで飲んで」
 時間稼ぎ失敗。そして着席。
「アイスティーしかないけどいいかな?」
 ジーンズのポケットから二リットルのペットボトルが二本出て来た。
 その理屈はおかしい。とかツッコんでる余裕は、勝利の女神のムダ毛ほども無い。
「は、はい。あ、コップ持ってきますね」
 再び離席。
「いいっていいって、直接口付けちゃえばいいからさ」
 再び失敗。そして着席。
「ごくごくごく……ぷはぁ! んー、やっぱり地球のお茶は美味しいね」
「え、それ普通のコンビニのですよね?」
「そだよ? ああ、いやー少年君、君達は恵まれてるんだよ。飲食だって娯楽だからね、地球製が一番美味しいのさ。特にお気に入りは柚ねぇ? 柚味が大好きさ」
「へー」
 ツッコんでる余裕はないと言ったな。あれは嘘だ。
 じゃあ地球産の食材使えや、ゲテモノ系コック。
「どうやら、少年君の緊張も少しは解けて来たみたいだね」
「あ」
 言われてみれば、多少は身体の堅さも解れたみたいだ。うん、柔らかいということはダイヤモンドよりも壊れない。
「ではでは、そろそろ本題に入っていいかな?」
「はい……どうぞ」
 いよいよか。
 さて、どう切り出してくるか。やっぱり婚約者なんて認めない、か。それとも考えたく無いが、お芝居がバレたか。
 いや、なら真尋の心理状態を考慮する必要はないはずだ。
 どう来る? クー音の一挙手一投足を観察して、対応を考えるしかないか。
「う、うん……その、ね? こないだ来た時のこと……なんだけど」
 珍しく……いや、自分とこの焔神との付き合いなど数えるまでも短いのだが、それでも言い淀む姿は似合わないと感じる。
「えーと……その、迷惑……かけてごめんね?」
「い、いえ……そんな、驚きはしましたけど迷惑なんて」
 迷惑だったけどな。
 でもあの時の騒ぎが無ければ、自分の感情がこうなっていなかっただろう。
 そういう意味ではクー音は恋のキューピッドかもしれない。いや、まだ成就してないが。
「そんでさ、もちろんクー子のこと諦めたわけじゃないんだよ? でもね、少年君のこと見直した、って言うか」
「僕のこと?」
 しゅん、と上目遣いで此方を見る姿に既視感を覚え、そしてすぐに得心がいった。
 従姉妹なのだから当然だが、パーツの一つ一つがクトゥグアに相似し、それの成長した形なのだ。
 だからつい、大きい方の生きている炎の珍しい表情に、最愛の邪神の姿を見付けて無意識に頬が緩んでしまう。
 それがよく無かったのだろうか。
「改めて考えると本当に少年君は凄いよ。あの時、力を振るうつもりは無かったんだけどさ……クー子に嫌われたくないし、腐っても惑星保護機構の職員だし。でもね、あたしってついカッとなりやすいから何かの拍子で邪神徒歩から《プラズマカノン》とかぶち込んでたかもしれないんだ。だから逃げなかった少年君はうん、なまら凄い」
「え……僕が?」
 流石にこの流れは予想外で、不意に立ち上がったクー音を茫然と見ていることしか出来なかった。
 しかしこう見ると、スーパーモデル顔負けの美人だ。
 普段の灰テンションならば。立てば灼熱、座れば砲弾、歩く姿はクレイモア。みたいな感じだが、今この瞬間が全てと思えば、原文ママとは言わないがまた別の意味で魅力的な女性だ。
「うん、普通だったら逃げてたね。学生時代にあたしにちょっかいをかけようとした男子とか、睨みを利かせたらすぐにアトラク=ナクアの仔みたいに散ってったし。……少年君ってば、虚弱貧弱無知無能な地球人とは思えないくらい……」
 やはり目を惹く炎髪灼眼に彩られた面持ちは、美貌以外の言葉で表現するのは難し……。

「格好よかったよ」

 その美貌が消えた。
「ッ!?」
 耳に吹き掛けられる熱い吐息も。
 鼻腔をくすぐる柚の香りも。
 意外に引き締まっていると言われる胸板に押し付けられ変形した柔らかい感触も。
 全部、クー音が抱き付いて来たと考える前に感じた。
「……な、何を?」
 頭が働かない。理性的な考えは、アト子以上に魅力的な肢体によって、情欲の炎を延焼させる薪になるだけだ。
「んー? 言わせないでよ恥ずかしい。クー子以外に初めてときめいた男の子に抱き付いたんだよ?」
 わけがわからない。
 誰が?
 誰を?
「もう、ニブいなぁ。あたしが少年君を、に決まってるじゃない。ほら、よく顔を見せて」
 指が、髪を、頬を撫でるだけで真尋の心臓を高鳴らせる。
 そして両手が包み込むように真尋の顔を捕らえ、上を向かさせられた。
「……ぁ」
 深紅の美貌があった。
 目と目が合う。などという生易しい距離ではない、身動ぎ一つで契ってしまう男女の距離以外の何物でもなかった。
「ち……近い……です」
「あたし実はそんなに目がよくないんだよね。普段は目の前の空間を歪ませてレンズ代わりにしてるんだけど……あはっ、肌綺麗だねぇ、女の子みたい」
 そんな設定聞いたこともない。あと眼鏡にすればいいのに。
「いやぁ、大学時代からの友達が眼鏡でさ、妖怪キャラ被りは避けないとね。ところで少年君はやっぱり身体は男の子だね、あたしのおっぱい押し付けられて、心臓バクバク言ってるよ?」
「す、すいませ……」
 こういうときどうすればいい?
「あはは、気にしないで。むしろあたしを女って見てくれて嬉しいからさ。クー子よりもあたしの勝ちだよ?」
 疑問系にするまでもない。そのバストは豊満であった。
「もう一回言わせてもらうよ? あたしの勝ちだよ。たっぷり」
 二度言わなくてもいい。格差社会は深刻だ。
「少年君、深呼吸しなきゃ。ほらブレスレット、ブレスレット」
 何故腕輪が出てくる。
 確か、女子バスケ部の連中の間で暫く流行っていたような。他校との練習試合の後からだったか。
「どう? クー子よりも……いい?」
「ぃや……クー子とは……」
「まだなんだ……じゃあさぁ……あたしとこのままシて?」
 それは背信だ。
 だが。
 クー音とソファーに挟まれた、一番いい味だしてるきゅうりのポジションの真尋の脳はマグマばりにとろけてしまって。
 そういえば以前クトゥグアが、クー音を犯していいとか言っていた……いやいや、それはクトゥグア流のジョークだろう。
「我慢出来ないでしょ? 少年君のしたいようにしていいよ……」
 熱に狂う。熱狂その物。
「あたしをクー子の代わりだと思ってさぁ?」
「っ!」
 それで腹が決まった。貫きたい、この想いのまま。
「少年君?」
 手を回す。クー音の背を抱く様に。
 注意深く。
 袖口から。

 フォークを取り出して思い切り突き刺した。

「痛うっ!」
 皮を。肉を。骨にまで到達した感触と痛みが刹那の灼熱感と、脳を冷やす怖気となって真尋を正気に戻した。
「少年……君? 何をしてんの」
 ぽかんとしている自分に乗っている女性は誰だ?
 クー音。最愛の人の従姉だ。
 この人を愛しているか?
 いない。
 なら、自分が好きなのは?
「……代わりなんて」
「え?」
「代わりなんていない。クー子の代わりなんて。それともあなたにはいるのか? あいつの代わりが」
 二人の間に真尋自身の鮮血が滴るフォークを突き入れる。拒絶の壁だ。
「へえ? なかなか言うね少年君」
 その声からは、もう甘い気配が消え失せていた。
「どうしてこんな?」
「いやね? あたしのクー子を取り返すのにどうしたらいいかなーって、いつも友達の恋愛相談してるとこに聞いてみたんだよ。そしたらさ、想い人の相手……つまり少年君を誘惑して切り口を。って書いてあってさ」
「馬鹿かそいつは!」
 いくら珠緒でもそこまではやらせないぞ。
「それでどうすんの?」
「どうもこうも、そんなハニトラって分かってるとこに飛び込む奴なんていねえよ」
 自分の肘を舐められる人間ばりにいないだろう。実は真尋は出来るが。
「いや、じゃなくてね?」
 声に危険な匂いが混ざる。
「クー子と別れる気は……」
「百パーないな」
 本当、今日の朝の自分でさえ目を疑うほどはっきりと自分の意思を伝えられる様になったものだ。
 恋は女の子を強くすると言うが、男にもそれは当て嵌まるらしい。
「へえ? 容易いんだよ? 少年君の臓物も脳漿も全部纏めて灰にして、このリビングにぶちまけることなんて造作もないんだ。どうする? 首を縦に振ればそんなことしない。普通にクー子のことを待たせてもらうだけ」
 目が変わった。深紅の双眸から熱を感じない。
 まるで屠殺場の豚を見るみたいな、絶対零度の数倍の冷たさを感じさせる目だった。
「本当に……」
 今までの……いや、真尋の人生で最も生命の危機を予感させる、空前絶後の冷たい灼熱。
「本当に……クー子を諦めれば、僕は生かしてもらえるんですか?」
「うん、もちろんだよ。さっすが少年君、話が分か……」
「だが断る」
 喜色が浮かんだ顔が一瞬固まった。



[38361] 15・後編
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2014/05/05 16:59
「少年……君? 何を言ってるのかな?」
 予想外。
 ゲームとしても成立しない圧倒的優位にいて、地べたを這いずる虫けらから冷や水を浴びせられたみたいな顔。
 それを見るのが好きなのではないが、少し胸がスカッとした。
「ねえ、まさかあたしにそんなことできるわけないとか思ってる?」
「まさか」
 きっと相容れないが、同じ相手に惚れたシンパシーはある。だから分かる、こいつにはやると言ったらやるスゴ味があると。
「じゃあ、どうして……?」
「あなたこそ勘違いしてる」
 目を見る。今度は男女の距離よりも遠い距離で。
 綺麗だ。嫉妬と敵対心に満ちた瞳は透き通るほど真っ直ぐで、この恋敵という誰よりも近い分かり会えない同志が、ある意味とても愛おしい。
 だから伝えよう。

「僕はクー子と引き離されたら死ぬんだよ!」

 クトゥグアにしたのと同じように、飾らない言葉で。
「もうヤバいんだ。本当にヤバいんだ……クー子のことばかり頭にチラつくんだよ。そりゃ困らせられることもあるし、イラッと来ることもある。だけどそれをひっくるめて好き過ぎるんだ……嫌いなところなんてないくらい。もう一回聞くぞ、あなたはどうなんだ? 僕と同じ立場だったら。あなたが無力な地球人で、宇宙人の僕にクー子を諦めろって言われたら諦めるか? 無理だよな? だって、あなたは僕と似ているから。例え生き延びても、その後の人生にきっと満足しないはずだから。だから僕は灰になるまで僕であり続けたいんだよ」
 咆哮える。
 本当にこないだまでの真尋に似合わないことを。
 それに気圧されたのか、それとも地球人の最期の足掻きを嘲笑しているのか、俯いてしまっていて表情が見えない。
「僕は、あいつが……クー子が大好きなんだよ。だから、絶対に考えは変えない。燃やすんなら燃やせ!」
 言った。言い切った。
 死んで本望ではないが、最善ではないが、この状況ではこれがベストだった。
「く……くく」
「クー音さん?」
 突如クー音の上げた声に緊張が走る。
 一瞬とはどれだけ『一瞬』なのか。痛みを感じるまでもなく逝けるのだろうか?
 そんなことを走馬灯代わりに思考していると。
「ははははは!」
 笑っていた。
 顔を天に向けて。
「ハーハッハッハッハッハ!!」
 片手で顔を抑えて笑っていた。
 それはそれは嬉しそうに。
「そっかぁ、そうなんだ……」
 ひとしきり笑ったクー音は、再び……いや、初めて真尋を『視た』。
 虚弱貧弱無知無能な地球人ではなく、八坂真尋個人を。
「クー子はいい人見付けたねえ……」
 その表情はむしろ、意外なほど穏やかで。
「クー音さん?」
「信じてもらえるとは思わないし、思ってもらわなくていいけどさ? あたしは脅すだけのつもりだったんだよ。どうせクー子の上っ面の可愛さだけに擦り寄ってきた有象無象の男の一人だろうから、あたしがちょっと本気で凄めば逃げだすいつもの塵芥だって」
「…………」
「なのに違った。なんの力も無い地球人が、混沌にもハスターにも、もちろんクー子にも護られない状況で、あたしに啖呵を切ったんだ。だからごめん、君を甘く見てた」
 殊勝なその態度にぽかんとしてしまうが思い直す。初めて会った時はトラブルの火種、今回だってそうは変わらない存在としてしかこの人を見ていなかった。
 素のクー音を、色眼鏡無しで真尋も初めて『視た』。
「いや、その……そう改められると照れるって言いますか、結局は恋敵なのは変わらないって言うか……」
 諸々を抜かせばスタイル抜群の美人には違いないのだ、クトゥグアとはまた違う匂いが染み込んでむせそうだ。
「そう、そこだよ少年君」
「そこ?」
 にかっと、年不相応の……だけどクー音に似合う快活な笑顔を浮かべて言った。

「初めましてあたしの恋敵(てき)」

 そう微笑む彼女は太陽みたいで、少し恋に堕ちそうだ。
「はい、初めまして僕の恋敵(てき)」
 二人の間に爽やかな風が吹いた。
「ん?」
 いきなりクー音が自分の胸に手を当てて首を傾げた。
「やば……さっき、ちょっと本気でときめいたかも」
「はい? なんですか?」
 難聴を気取るつもりはないが、唇の動きで何か言っていたのが分かったくらいなので許してほしい。
「本当に、見事だよね少年君。あたしの脅迫をはねのけて、クー子の隣に立つ強い意志も見せた……うちの家系に入る資格があると見ていいかも」
 何か嫌な予感がしてきた。
「このあたしの愛人をやらない?」
「はぁっ!? 愛人? 愛人ってなんだよ!」
「若い燕ってことだよ! クー子も付いて来るよ」
 目を星屑みたいに輝かせて言うな、どこでこの炎の神性の心に革命が起こった? 英語で言うとスターダストレボリューションか。
「少年君には、恋敵を司る新しい愛人をやってちょうだい!」
「そんなこと言って、クー子を自分の物にするつもりだろう!」
「そうでもあるけどぉっ!」
 言い切られた。
「なんなんだよこの状況は! 胃が痛くなってきた」
「胃薬あるよ、飲む? ハストゥール製薬の胃薬狂えるアブドゥルマジシャンズ〜赤〜があるよ?」
「いりません」
 クトゥグア星人まで愛用してんのかハストゥール製薬。
「そう? あたしがお腹さすってあげようか?」
「いや、いいですか……」

「……二人共、何してるのかな? かな?」

 イフリートがいた。
 いや、クトゥグアだった。
 格が上がってしまった。
「く、クー子!?」
 マズい、この状況はマズい。クー音はまだ真尋から降りていない。
 つまり傍から見ると、その……最高にヤバい体勢に見える。
 今はどこかで狩り談義している母親よ、一月近く会っていない父親よ、この息子の醜態を笑えば笑え。
 だからクトゥグアは、見なかったことにしてくれないだろうか?
「えーと、お帰り。じゃなくて、これはクー音さんが……ん?」
 膝から重みが消えている。
「残像だ」
 いた。クトゥグアの後ろ側に、超前傾姿勢――具体的にはクトゥグアの腰と同じ高さに顔が来るように。
「ちょ! なんなんだよこの流れ!」
 さっきまで真尋に謎のアプローチをしていたのに、この即断即決即実行なのは、その身に流れる変態の本能故か。痴女〜その血の運命〜。
「じゃなくて、クー子避けろ!」
「遅いよ、クー子のおぱんつ貰ったぁっ!」
 間に合わない。クトゥグアはまだ前しか、真尋の方しか見えていない。このままでは、愛しい人が恋敵に押し倒さ……。
「……少年!」
 クトゥグアが脇目も振らずに駆け寄ってきた。
「ぐべっ!」
 背後で床と接吻した従姉を完全に無視して真尋の手を取る。
「……血が凄い出てる、大丈夫なの少年?」
「あ、ああこれか」
 正直忘れていた。骨にまで到達した傷はもう乾き始めているが、それまでに流れた血がえらいことになっている。
 クー音を恐れて端に座っていたお陰で、ソファーに血の染みが無いのが救いか。
「痛た、もうクー子、お姉ちゃんを避けないでよ」
「……クー音姉さん……この傷は、姉さんが?」
「え?」
「……だとしたら許さない。姉さんが相手だとしても、少年のためなら何も怖くない、怖くはない」
 クトゥグアの声に灼熱の気配が混ざる。遥かに格上の相手にもかかわらずだ。
「ち、違……わないのかな? あたしのせい……かな」
 まあ、クー音が来なければ出来なかった傷ではない。ないが。
「大丈夫だクー子」
「……少年?」
「少年君?」
「この傷は授業料みたいなもんだ、誰かが大切なら代わりに傷付かなきゃいけないこともある。僕達ってそういう仕組みなんだ」
 血の付いてない方の手でクトゥグアを撫でながら、クー音にアイコンタクトする。とりあえず今日は帰ってほしいと。
「ん、うん。それじゃクー子、あたしはもう帰るから」
「……そもそも今日来るなんて聞いてない」
「だって、聞かれなかったし。ああ少年君、本当に迷惑かけたね」
「ああ、いや……次来る時は連絡下さい。ちゃんとおもてなししますんで」
 確かに迷惑ではあったが、それ以上に同志が出来たことが嬉しかったりする。
「ありがと。少年君手を出して、怪我してる方」
「はい?」
 宙ぶらりんだった血塗れの手を差し出す。なんだろうか?
「さあ、ショータイムだよ」
 瞬間、真尋の手が炎に包まれた。
「あっ?」
 妙な炎だ、その色は深紅ではなく純白で、熱さよりも安らぎを感じる。
「ほい、終わり」
「え? これ、痛みが……傷がない?」
 血に塗れて分かりにくいが、動かしても全然痛まない。
「……宇宙CQC、あらゆる神話で語られながらも、その存在は虚偽に等しい活力の炎(ホワイトホワイトフレア)……回復と能力アップの効果がある」
 と言う、適当な枕詞が付いた技らしい。
 そういうのが使える印象がクー音には無かったのだが。
「学生時代は保健委員だったからね、この技でなんでも治すヒートの女と呼ばれてたわ」
「……嘘、従姉さんはすぐ喧嘩して色々壊すから、クラッシャーの女って呼ばれてた方が多い」
 そっちの方が納得だ。
「よーしよし、しっかり治ってるね」
「あ、お陰様で」
 と言うのもおかしいかもしれないが、まあいいか。真尋の手を持って検分している女性と、こんな会話をするとは誰も思わなかっただろうな。
「じゃあ血は、お風呂で流して……ね!」
「あ?」
「……で」
 押し付けられた。
 柔らかい物が。
 手のひらいっぱいに。
 これは。
 なんだ?
 この感触は既視感が。
 つまり。
 ノースリーブのシャツの上から、クー音のカットインになったら絶対揺れる胸を、真尋は鷲掴みにしていた。
「うおわぁっ!」
 真尋の頭は大変な事になって……。
「……でゅるわぁあああああぶるわっひゃあひゃひゃひゃひゃどぅるわっはあああああああああぎゃあああああうわああああああああ」
 クトゥグアの方が大変そうなので正気に戻った。
「な、何を……」
 腕を掴まれているので、放そうにも離れない。マシュマロの様な、プリンの様な、ゴム鞠の様な、なんとも表現しづらい触感が無制限にダイレクトに真尋に伝わって来る。
「ぁん、少年君……激し……って、わぁ!」
 ようやく手が離された。
 しかし今のは流石に惚けてしまう。視界が彷徨う。
「……姉さんはやっちゃいけないことをした、そんなことも分からないから大人って、規制だって簡単にしちゃえるんだ」
「うーん、クー子の嫉妬が気持ちいいね。じゃ、マジで帰るわ……少年君、あの事は考えておいてね」
 ドアに駆ける音がする。
「そんじゃ、クー子また来るね」
「……少年の家から出て行って!」
「あはは、クー子は可愛いなぁ。少年君、今度会う時にはあたしをときめかせた責任とってもらうんだからね」
 その声は、生気に満ちあふれていて。聞く者を元気にさせる様だった。

「また、春に会いましょう!」


「……さて」
 さて、だ。
 嵐は去った。それはいい。
 しかし台風の目ならぬ、台風の芽は、未だに真尋の目の前にいるのだ。
「……少年、何かわたしに言うことは?」
 声が冷たい。まぁ、今日心通わせたばかりの相手が従姉とスキンシップしてればこうもなるか。
「は……ハス太、今日は帰って来られないらしい、ぞ?」
 違う。
 これは完璧に違う。
「……ふーん。少年」
「はい!」
 浮気をした彼氏の気分だ。いや、そのまんまか?
「……これからお風呂入るよね?」
「入る……けど?」
 手の血も落とさないといけないし。だが、それがなんだ?
 クトゥグアの意図をはかりかねていると、答えは向こうからやってきた。
「……わたしも一緒に入る」
「は?」
「……そして、胸を揉んでもらう」
「なんでっ!」
「……少年はおっきいおっぱいが好き。わたしは小さい。だから少年に育ててもらう」
「いや、その理屈は……」
「……拒否は許さない」
 クトゥグアの本気に真尋は。










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『嘘です』



[38361] 16・フルヒートメタル・パニック
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2014/10/13 21:40
「んう……」
 カーテンの隙間から差し込む陽光に、八坂真尋の意識は覚醒へと向かう。
「もう……朝か」
 光の強さからすると、ぎりぎり昼にはなっていないようだが普段よりも起床が遅くなってしまったらしい。
 それもこれも、まだ気だるさが残る身体が原因だ。
 昨夜、一緒に風呂に入ろうとしたクトゥグアを……。

 あのあと、滅茶苦茶説得した。

 それこそありとあらゆる説得候補から正解を探して、アメリカ人は駄目、地獄公務員は駄目。とアトラク=ナクアの糸をたどり寄せる様な慎重さで、クトゥグアを説き伏せた。
「まあ……あいつのおかげでもあるか」
 あいつ――八坂家の居候1号である銀髪の邪神、八坂ニャルラトホテプ。家を出てからまだ一日も経っていないのに、このままでは出番無しのまま一年が経過しそう、という謎の心配をしてしまう這い寄る混沌に想いを馳せる。

『まっひろさぁん! お久しぶりです、あなたのニャル子ですよ、愛すべきあなたの邪神ですよ!』
 迫るクトゥグアと渋る真尋という膠着した構図に亀裂をいれたのは、真尋の携帯への着信で、通話ボタンを押して開口一番このテンションだった。
 流石這いテンション混沌生命体。
「あー、うるさい。そもそも久しぶりも何も、お前が家を出発してからまだ半日も経ってないだろ」
『いえいえ、愛しい人と離ればなれというのはそれだけで一日センチュリオン……もとい千秋の如く。具体的には一年間放置されてたくらい淋しかったんですよ』
「分かった分かった、で、もう到着したのか?」
 実際、睡眠時でもなければこんなに長くニャルラトホテプの声を聞かなかったのは初めてかもしれない。そして、こうしていると自然と笑みがこぼれる辺り、本当に家族の間合いに入っているのだと実感する。
『いえ、もうそろそろなんですが。聞いてくださいよ、ほら地球って未開惑星で、全宇宙の憧れの的だけど入れるのは私みたいな極一部の惑星保護機構職員+その他じゃないですか?』
「ああ、そういう設定だったな」
 その割にぽんぽん入り込んで来てる気がするが。
 もしかしたら惑星保護機構が自作自演のためにわざと犯罪者を招き入れて……いや、よそう。真尋の勝手な予想で皆を混乱させたくない。
「……少年、今のは偶然だと思うけど、わざとだったら今後の付き合いを考えるレベル」
 だから思考を読むなとあれほど。
『で、ですね。せめて地球のある太陽系を回ろうって無駄なサービス精神を発揮されまして、太陽の周りをぐるぐるぐるぐると』
「まず燃え尽きそうだな」
『本当に困り者ですよ! こちとら見飽きてるのに、終わりが無いのが終わりとでも言いたげに、地獄のメリーゴーランドとはこの事です。太陽なんて眩しくって、闇の方が素敵な気分です』
「そりゃ、災難だったな」
 普通に考えても、そんなその場のノリでダイヤを乱されたらたまったもんじゃないだろ。
『あっ! ご安心ください、真尋さんのための白いお肌はちゃんと日焼け止め、体を通して出る力、通称ノーデンスキラーで防いでますんで』
「なんで日焼け止めの名前で命の危機に陥ってるんだよあの旧神は!」
 あと別に真尋のためになってない、と一応言っておく。
『正式名称「ノーデンスキラー〜馬鹿な、私の知らない成分が配合されているというのか!?〜」製作ハストゥール製薬ですよ』
「またかよハストゥール」
 さらに言えば、通称が正式名称じゃダメだろ。
『ちなみに、CMは結構流行ってましてね。あのノーデンスの声がいいとか』
 とりあえずあの旧神は、実際の能力と声の魅力が釣り合ってないんじゃないか。いや、それは今は関係ないか。
「で、何か用があったんじゃないのか?」
「いえ、愛しい真尋さんのお声を聞きたいなぁ、と思っただけですが」
「あ、ああ……そっか」
 その言葉にどう反応していいのか、曖昧に返すしかなかった。
 さっきのクー音の襲来から、クトゥグアの目に宿る熱量がちょっと恐い。
 自意識過剰だと思うべきなのだろうが、怒れる瞳に感じてしまう。そしてそれが嬉しかったりする。
『おや? なんでしょうか……本編でメインヒロイン確定ルートだというのに、微妙にぞんざいに扱われているような』
「ウッドスピリット……じゃない気のせいだ」
 落ち着け八坂真尋。それはニャルラトホテプのネタだ。
『曹操ですか……もといそうですか。あ、そういえば今真尋さんはどんな状態です? クー子とハスター君はそこにいますか? どうも二人とも電波が悪くて』
「あ、ああクー子はここにいる。でもハス太は……ここにいない」
 まずい、もしクトゥグアと二人きりだと知られたら、条理を無視して帰って来るかもしれない。帰省にフィナーレはない。
 しかし嘘を吐くのもやましいことをしている様であれだ。
『あー……この時間だとハスター君はお風呂ですかね』
「あ、おお……かもな」
 八坂家のではなくルーヒーとかもしれないが。
『んじゃ、あとでメールしときましょうか』
 どうやら疾風の行方を勝手に勘違いしてくれた様だ。別に嘘を吐いたわけじゃない。
 それにこいつが言ったんだ。バレなきゃ犯罪ではないと。
「う……」
『どうしました真尋さん? そんな混沌の遣いを噛み潰したみたいな声を出して』
「いや、なんでもない」
 ただ、着実にニャルラトホテプの思考に染められてきたなぁ。と思っただけで。
 家族は影響を与え合う。ってことにしておこう。うん。
『ではすみませんがクー子と替わっていただけますか?』
「お、分かった。クー子、ニャル子がお前にって」
「……ニャル子から……了解した」
 ニャルラトホテプと話せるにしてはテンションが低いクトゥグアに携帯を渡し。

「その間にうやむやにして眠ったんだよなぁ」
 以上回想終わり。
 その気疲れ故か、まだまだベッドから出たくないと思ってしまう真尋。
 それはまずいと思いながらも、ついつい抱き枕をその用途通りに抱き締める腕に力を込めてしまう。
「……ぁん」
 ん?
 なんだ今の声は?
 そもそも抱き枕なんて持っていたか?
 這い寄る混沌印の抱き枕は、窓から投げ捨てたが。
 いや待て、うっかりと抱き枕と表現してしまったが、実は掛け布団を抱いていたのかもしれない。
「ああ、なんだそうか」
「……ん?」
「…………」
 いい加減逃避はやめよう。
 その声は真尋の脳に灼熱の記憶(ヒートメモリ)として刻まれているし。
 昨日ベッドに入った時点では抱き枕なんて無かった。
 さらに言えば、掛け布団は自分の役割を今も果たし続けている。
 つまり、今真尋の腕の中にいる存在なんて一人しかあり得ない。
「いや、でも観測しなけりゃ確定しないわけ……」
「……おはようございました少年。もう朝だよ」
 なんの感慨もなく。
 ベッドの上で。
 真尋に抱き締められている。
 頬を上気させた。
 薄着の。
 クトゥグアが朝の挨拶をした。
 とりあえず、その熱と柔らかさを明確に認識した真尋の脳はキャパシティをオーバーする。
「……………………」
 茫然自失としていても始まらないので、これから真尋は悲鳴を上げます。
 ご清聴ください。
 せーのっ、
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

   ***

「……少年、美味しい?」
 もし結界が無かったら、ご近所の誰かが警察に通報したであろう真尋の絶叫から三十分後。
 現在八坂家にいる二人は朝食を取っていた。
「う、うん……」
 ちなみに、クトゥグアがベッドに潜り込んだのではなく。起きるのが遅い真尋を起こしに来たら、寝惚けた真尋に引き込まれたのが真相らしい。
「……凄く強引でキュンキュンした。思わず少年に、わたしのハートキャッチ」
 だ、そうだ。
 まったく、意識が無かったとはいえ何をやっているんだ。
 むしろ、意識が無かったなんて何をやっているんだ。
 クトゥグアの髪に顔を埋めていたらしいのに……うん、まだ寝惚けている。もしくは色惚けている。
「……やっぱりまずかった?」
 プラチナ……ではなく不埒な考えをかぶりを振って追い出していたら、クトゥグアが形のいい眉を八の字にして問うて来た。
「いや美味しいって、ホントホント」
 そう、何を隠そうこの朝食、いやもう昼食は、クトゥグアが作ったのだ。真尋のために。
 ニャルラトホテプのためでもなければ、クー音相手への演技でもなく、クトゥグアが真尋のために作ってくれたのだ。
「しかも起こしに来てくれるなんてなぁ」
 段々妹達の起こし方が過激になっているとぼやいていた中学時代の先輩には悪いが、この幸福を口の中の白米より噛み締めたい。
 まさか先輩も、48の殺人技+1とかが起床の合図だったりはすまいし。
「……ん、よかった」
 優しい笑みを浮かべながら真尋を見つめてくるクトゥグア。なんかこの空気が夫婦的で、もう隠す気も起きないほど頬が弛んでしまう。
「……少年、今日は予定ある?」
「いや、特に無いけど」
 あっても無くなるけど。
「……じゃあ」
 紅いツインテールを揺らして、少女ははにかんで。
「……また、お料理教えてほしいな」
 そう言った。

   ***

「と、こんなもんかな」
「……完成」
 特に描写も無いまま、リビングのテーブルの上に生クリームと苺で飾られたケーキが鎮座していた。
 以前クトゥグアと作ったのはシンプルなチーズケーキだったが、今回は時間がたっぷり使えるので、わざわざ広いリビングで、わいわいと二人でデコレーションしたのだった。
「……あれ? もう、こんな時間?」
「あー、もう夕方か。しかしハス太遅いな」
 細かな作業に疲れた身体をほぐしながら時計を見ると、もう日が傾いている時間だった。
 材料の買い出しを差し引いても、かなりの時間を掛けてしまった。にも係わらず、みつあみの弟分が帰ってくる気配はない。
「あいつ、まさか今日もルーヒーのところに泊まるのか?」
 もうハスターを弟分と呼べない気がする。ダーツをルーレット☆ルーレットに投げても、全面『無理』って書いてありそうな。
「そんな予感が」
「……じゃあ、今日もわたしと少年の二人きり?」
「だ、だな」
 ニャルラトホテプも母親も、帰還は明日のはずだ。
 落ち着け、落ち着け。だからといって何かがあるわけじゃ……。
「……なら、今日こそわたしとお風呂入る?」
「は! 入ら……ない」
 あるわけじゃない。あるわけじゃないんだ。
「……少年、ちょっと期待した?」
「う、うるさい……ほら、ケーキ、冷蔵庫に入れて来いよ。明日皆で食べるんだろ?」
 一回につき一ノルマという感じで赤面させられた真尋は、それを隠すためにクトゥグアをキッチンに向かわせる。
 無駄な努力だが。
「……うん、明日が楽しみ」
 とてとて、と可愛らしくケーキを運ぶクトゥグア。の近くで、静かにドアが開いた。
「…………」
 銀色の髪を揺らす少女。
 見間違うはずもない、八坂家のファースト居候の。
「ニャル子、なんだお前昨日の今日で帰ってきたのか。だったら連絡くれりゃいいのに、まだ夕飯の準備はしてないぞ」
「…………」
 翡翠の瞳が髪に隠れたまま、つまり俯いた状態なのに違和感を感じたが、努めていつも通り対応してやる。
「……ニャル子、ケーキつくったんだよ。少年のお母さんやシャンタッ君、ハス太君が帰って来たら皆で食べよう」
 無表情のまま花が開いたクトゥグアは、宝物を掲げる様にケーキを見せる。
 そしてニャルラトホテプは。

 煩わしそうにケーキを弾いた。
「…………え?」
 それはどっちの声だったろう。
 床に落ちて潰れたケーキ。二人で一生懸命作ったそれは無惨に。
「おい、ニャル子! 一体どういう……」
「……少年、ダメ!」
 激昂し掴み掛かろうとして、真尋に走る衝撃。吹っ飛ぶクトゥグア。流れる血。
 ニャルラトホテプの手には、名状しがたいバールのようなもの。
 その目は、とてもおぞましかった。

「クトゥグア星人……あんたを抹殺します」



[38361] ちょっとした追(墜)記・ロストヒロインズ
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2014/11/24 17:41
 そういえば昔、ニャルラトホテプに聞いたことがある。
「お前、クー子と一緒にやっていけんのか?」
 ニャルラトホテプとクトゥグアは、ニャルラトホテプ星人とクトゥグア星人は、原作でも原典でも原点でも、原初の頃から仲が悪かった。
 不倶戴天の仇敵。
 不倶戴天の旧敵。
 と、そんな中学時代の先輩が好みそうな言葉遊びをしながら、当時――まだ一月前程度の昔、家に宇宙人が住む事に難色を示していた。
「ボヤ騒ぎはごめんだ」
 いや、あの森を焼き尽くした火力を思えば、八坂家どころかこの一角どころでも済まない被害が……火害になるだろう。
 今や、誰より愛しい存在になってしまったクトゥグアが、八坂家の居候になったその日にした会話だった。
 確かニャルラトホテプは。
「はぁ? 上手くやっていけるわけないでしょう。宇宙幼稚園からずっと絡んで来るんですよ? そしてその度に迎撃してきたんです。ご安心を、私の宇宙CQC〜邪神ちゃんドロップキック〜をぶちかまして追い出してやりますよ」
 と、ドヤ顔するのだった。
「だから、ボヤ騒ぎはごめんだっての。バトル展開なんかせずに、二人纏めて出ていけばいいのに」
「ええっ! 私達が出ていったら、誰が青い奇跡のこの地球を守るんですか!?」
「……そう、大事な物を護りたい」
 と、いつの間にか傍によってきたクトゥグアが、ニャルラトホテプに引っ付きながら会話に交じってくる。
「ちょ! 暑っ苦しいんですよ、くっつくんじゃねーです!」
 燃え上がるほどヒートしているクトゥグアを、ニャルラトホテプが引きちぎるほどショートしていた。
「……ニャル子、久しぶりに一緒に狩り行こう。エルダーゴッドイーターに、アップデートで神速種が来たよ」
「マジですかっ!? レイジ・アリストール・バーストが発売する前に、武器やら何やらコンプしないといけないってのに、相変わらず良心ですねあそこは。ほら、部屋立てますからさっさと入ってきんしゃい」
「……うん、ニャル子と共同作業、ニャル子と共同作業」
 さっきのグレイトバトルの予兆はどこへやら、パッと携帯ゲーム機を用意する二人。
 それを尻目に明日の用意をしに歩を進めながら、なんだかよくわからない溜息が漏れた。
「なんだ、仲いいんじゃないか」
 今から思えば、きっと安堵だったのだろう。
「……少年も一緒にやる?」
「いや、遠慮しとくよ」
 もしかしたら、ニャルラトホテプと一対一でやるチャンスをわざわざフイにするような提案をしてきたこいつに、この時から惹かれ始めたのかもしれない。
 その後も、色々な事件がやって来たり、起こしたり。夢の世界や海の底、宇宙に地下と様々な所へ付き合わされたりしたが、ニャルラトホテプとクトゥグアはなんのかんので上手くやってきた。相棒みたいな間柄みたいで。
 無論、真尋やハスターのフォローも多々あったが。
 そんな奇跡みたいな日常を送りながら、いつしか同じ屋根の下に宇宙人が、邪神がいるのが当たり前になっていた。

 なのに。

「なのに、なんでだよニャル子!」
 奇しくも、でもなんでもなく、あの時二人がゲームをしていたリビング。八坂家の住人が憩う場所で、真尋はクトゥグアを抱き起こす。
「えほっ! ゴホッ!」
 咳き込む度にクトゥグアの口から赤い物が吐き出され、床を汚していく。
 それがなんなのか考えたくもないが、答えなんて最初から分かっている。分かるに決まってる。
 ほとんど力が入っていない身体が。
 制御が出来なくなっているのか、凄い勢いで上下する体温が。
 それが血の塊だと何よりも示していた。
「おま、お前……どういうつもりだよ……こ、こんなの悪ふざけの範疇を超え……」
「っさいんですよ、虚弱貧弱無知無能な地球人が。ニャルラトホテプ星人がクトゥグア星人を破壊して蹂躙して殲滅する、何がおかしいんで?」
 下手人。ニャルラトホテプは、銀の髪を揺らしながら、名状しがたいバールのようなものを肩に担いで、嘲笑する。
「察しが悪すぎんですよ、こんなのに懸想してたのか」
「ぁ……ぅ」
 悪意だ。ただただ悪意だけしか見えない瞳が真尋とクトゥグアを射抜く。
 真尋が覚えている限り、ニャルラトホテプが真尋をそんな代名詞で呼んだのは初めてで。
 寒い。
 怖い。
 おぞましい。
 月に吠える者。闇に凄む者。神を汚す華やかなる者。燃える三眼。膨れ女。貌の無い黒いスフィンクス。無貌の神。
 這い寄る混沌。
 数々の二つ名の意味が、真尋の根源を冒涜的に凌辱していく。
「んじゃまー、さっさと終わりにしてやろうか。クトゥグア、積年の怨みをその身に刻んで、鮮血の結末にしてやりますよ」
 話は終わったと一方的に決定したニャルラトホテプは、得物を天井へと向ける。
 必殺のための。
 決殺のための。
 確殺のための。
 虚弱貧弱無知無能な地球人など障害になりもしないと、クトゥグアを滅殺するためだけの構え。
 警鐘を鳴らす真尋の脳裏に、最悪の回想が。
 蜘蛛神の言葉がリフレインした。

『ニャルラトホテプ星人が、クトゥグア星人排除のために戦争を仕掛ける可能性があるらしいです』



[38361] **・*********************************
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2015/02/15 15:59
 真尋は戦争が嫌いだ。

 真尋は戦争が嫌いだ!

 真尋は戦争が大嫌いだ!!

 それに対する想像など、アト子と会った時にもう散々やった。
 日本人の真尋には馴染みの無い事象だ。
 だから、ずっと無縁でいたい。
 大人やら政治家やら、軍人やら。宗教やら思想やら、プライドやら。発端も理由もいくつもあるのだろう。
 だが、政策としては下策もいいところなんて、今日び中高生だって理解している。
 無関係な人間を。
 日常や家族や、友人や楽しみや恋人を身勝手に奪っていく最悪の災厄。
 そんなものを神聖視する輩など。死にたいなら勝手に死ね、五十年前に首くくれ、と罵ってやりたい。
 つまり、こんな現実なんて泡沫の夢にしてしまいたい。
「とっととおっ死ね、クトゥグアッ!」
 走馬灯の様に駆け巡った悪態は、ほんの一瞬で終わってくれたらしい。
 まさか保けている間に最愛の女性と共に、ついでに殺されてはたまったものではない。
 だが、二ノ太刀不要の如く振り上げられたバールのようなものが、次の瞬間叩き込まれるのはまず確定だろう。
「……っそぉ!」
 だから投げた。
 クトゥグアを抱えるのとは逆の腕で、二人で生き残るために。
「ん?」
 ニャルラトホテプの顔面目がけて投げられたそれ――床の上で無惨に潰れたケーキの材料のゴミ。さらに言うなら、不燃ゴミが入ったビニール袋。
 当然、重量も何もあったものではないそれは、すぐに空気の抵抗にあって、ふわりとその勢いが減じられる。
「煩わしいんだよっ!」
 手で払われる。
 超高速で動けるニャルラトホテプ星人にとっては、児戯にも満たない作業。いや、地球人だって容易に出来る。
 そして仮に命中してもダメージになどならない。明らかに苦し紛れの一投だ。

 それだけなら。

「くっ! ぁぁぁあああっ!!」
 絶叫が響く。
 顔を押さえるニャルラトホテプの手の隙間から、銀色の物体が覗く。
 ビニール袋の次に即座に投げたフォークだ。
 真尋が虚弱貧弱無知無能な地球人であっても、これが効くことはこの一ヶ月でよく分かっている。
 それを確実に当てる為の手段として、避ける必要の無い軽い物で視界を塞ぎ、本命の一撃を叩き込む。
 一か八かだったが、二人分の生命を支えるのが、そんな細い糸しか無いのなら、それを全力で手繰り寄せるだけだ。
「宇宙……CQC『永劫の堕落の霧が立ち込めるサーペントテール』っ! まさか地球人がそんなものを……でもなぁ、策ってのは弄すれば弄するほど、どこかで綻ぶものなん……ですよ。それを分かるんだよっ!」
「策じゃない、勇気だ!」
 ニャルラトホテプの視界が塞がった隙に、クトゥグアを抱えながら窓に向かって走る。追い打ちとして放ったフォークは、バールのようなものに弾かれたが、無理な体勢で投げたのだから仕方ない。
 馴れ親しんだ家の窓を体当たりで破ることになるが、生命には代えられまい。クトゥグアを庇いながら足を踏み切り、跳ぶ。
 衝撃を覚悟し、目を閉じる……だが、硝子を破る衝撃がやってこないまま、真尋は固い地面に無様に倒れこんだのだった。
「ごふっ! っつぅ……な、なんだ?」
 開いた視界に写ったのは八坂家の庭ではなかった。
 いや、日本の風景……どころか地球の風景でさえないのかもしれない。
 爛々とした紅い月が照らすのは、ゴツゴツとした岩肌が地の果てまで続く荒野。
 本能が理解してしまう。
 真尋の身体中に走る痛みも忘れるほどの戦慄。
 なんて冒涜的な空間。
 爛れた聖域。
 ここは地球人が踏み込んではならない場所。
「……ノーデンス時空」
 真尋の脇から声がした。
「クー子! 目が覚めたのか」
「……ん、どうにか……」
 まだ顔色が戻っていないクトゥグアだが、会話出来るまでは回復したらしい。
 出来れば労ってやりたいが、この状況ではそうも言ってられない。
「ノーデンス時空って、あいつもこの件に関わってんのか!?」
 ニャルラトホテプだけでも真尋の手に余るというのに、これ以上神性に増えられたらもう手の打ち様もない。
「……違うと思う。多分あれ」
 力なく伸ばされた指で示したのは、いつの間にかイアフォンを握っていたニャルラトホテプ。
 通信端末とノーデンス時空になんの関係が……と思った真尋の脳裏に、一つの可能性が閃いた。
「マテリアル・パズルアプリ……」
 そう、昨日聞かされたそれなら、ニャルラトホテプがこの異空間を展開出来てもおかしくはない。
 だが。
「ご名答〜」
 フォークを抜いたニャルラトホテプが、嘲笑しながらその可能性を肯定する。
「な、なんでお前がそんな……物を」
 まだ試作中の物のはずで、一般に出回ってはいない。なのにそれを持ってる理由は。
 ニャルラトホテプの友人で。
 アプリのモニターをやっていて。
 戦争の噂を真尋達に伝えた蜘蛛神。
「まさか……あいつも?」
 借りたのか、奪ったのか、それともアト子も敵だったのか。
 嫌な予想が、真綿の様に、蜘蛛の糸の様に真尋の首を締め付けてくる。
 このまま意識を手放してしまいたくなったが、傍らのか弱い熱さが真尋を奮い立たせる。
「クー子、ハス太に連絡。あいつならこの状況だってどうにか出来るはずだ」
 もし、以前ニャルラトホテプが言っていた邪神ハンターの血が、この危機的状況に覚醒してくれたらどれだけいいか。
 でも、そんなイベントは無いのだから、戦える家族に頼る。
 昔からの幼なじみ同士を、家族を戦わせることに胸が痛むが。
 でも、そんな真尋の痛みだって嘲笑される。
「……だめ、どこにも通じない。ハス太君にも、惑星保護機構にも、ついでにクー音姉さんにも」
「くっくっく、ジャミングは正常に作動したみたいですね」
 フォークのダメージから復帰したニャルラトホテプが、ゆっくりと嬲る様に近づいて来る。
「逃げるぞクー子、逃げ回りゃ死にはしない」
 投擲したフォークがあっさり躱されるくらい震える手を叱咤して、無理矢理クトゥグアの手を取る。
 この手を離さない、自分の心まで離してしまいそうだから。
「おやおやおやおや、どこへ行こうというのですかぁ?」
 嘲ながら放たれる物体が二つ。手榴弾だ。
「っ!」
 真尋達を左右に挟んで投げられたそれの爆風は、わざわざ近くの岩山だけに放たれる。
 結果は簡単だ。
 手榴弾に内包されているとは思えない火力は、強固な岩山を倒壊させ、二人の逃げ場を塞ぐ。
 もしかしたら真尋一人だけなら登ることが出来るかもしれないが、まだ満足に動けないクトゥグアを抱えては不可能だ。
「さーて、地球人とクトゥグア星人ご一行の這い寄る混沌からの逃亡ツアーは、これで幕引きってやつです」
 近づいて来る。一歩一歩。
 嬲りながら。
「ニャル子……お前、本当に……本当に本気なのか? 今まで、そりゃトラブルはたくさんあったけど、楽しくやってきたじゃないか。クー子とも、それなりに仲良く……」
 本音だ。
 面倒は嫌だと邪神達を追い出そうとしていた真尋はもういない。そうでなければ、誰が時間移動をしてまで、この『日常』を取り戻しに行くのか。
「はぁ? ニャルラトホテプ星人とクトゥグア星人に友情なんかありませんよ、ファンタジーやメルヘンじゃないんですから」
 にべもない。
「あ、でも多少は恩義もありますからね。助けてあげましょうか?」
「え?」
「あなただけ」
「なっ!?」
「いえね、目的はそこのクトゥグアだけなんですよ。だから正直あなたの生命なんかどうでもいいんですよ。ほらほら「クトゥグアなんて見捨てます、自分の生命だけは助けてください」って言ってみ?」
 最悪だ。狂ってる。最低だ。この……。
 考え付く限りの罵倒が頭に浮かび、喉でつっかえる。
 例え無意味でも、フォークを直接突き刺してやりたい。そう思って立ち上がりかけた真尋の袖を誰かが引っ張る。
 無論クトゥグアだ。
「……少年……わたしは……わたしはニャル子が……好き」
「クー子?」
「……ニャル子に殺されるなら本望だから……邪魔しないで」
「…………」
「……正直言って、少年は目障り……わたしとニャル子の間に入ってきて……わたしからニャル子を奪って……わたしの淫らな純情を……濡れた炎を遮って……」
 それは底冷えする様な声で。

「……わたしは、少年なんて大嫌い!」

「僕は好きだよ、お前のこと」
「……少年? わたしの言うこと聞いてた?」
 真尋の心に衝撃が奔流った。
 クトゥグアに、愛しい人にここまで想われていた事実に。
 こんな嘘まで言わせてしまったことに。
「もうクー音さんに言っちゃったんだけどな。僕はお前から離されたら死ぬんだよ。だからお前を離さないし離れないよ」
「……あ」
「お前が好きだ、大好きなんだ……ごめんな、こんな状況で」
「……ばか」
 無理矢理気を張っていたクトゥグアの身体が弛緩し、真尋にもたれかかる。
「ハッ! 愚かだな、虚弱貧弱無知無能ですね! お涙頂戴はもういいですか? だったらきっちりまとめて殺してやりますよ」
 混沌の瞳が悪意をぶつけてくる。
 睨み返そうかな、と思ったけど……やめた。
 それよりも、クトゥグアだけが望むすべてだから、微笑むクトゥグアに会いたいから、一秒でも長くクトゥグアといよう。
「ごめんな」
「……ごめん」
 此方に突貫してくるニャルラトホテプを視界に収めた真尋は、そっと目を閉じる。
 その方が愛しい愛しいクトゥグアを感じられるから。

「お前らが死ぬのが、私の何よりの希望だぁっ!!!!」

 ……。
 …………。
 ………………。
 ……………………。
「ん?」
 覚悟していた衝撃が、いつまで経ってもやってこない。
 この期に及んでまだ嬲るつもりか。
 それとも地球人では知覚出来なかっただけでもう死んでいるのだろうか。
 恐る恐る目を開けてみると。
 ニャルラトホテプの驚愕の表情があった。
「え?」
 バールのようなものを二つの腕が受け止めていた。
 クトゥグアのでも、勿論真尋のでもない腕が。
 その、むしろ華奢とも言える白く細い腕は、真尋の胸から生えていた。
「あ」
 もはや伏線を貼るまでもなく、そこにあるものなんて。真尋の胸ポケットにお守りとして入っている物なんて決まっている。
 そういえば、あのビギンズナイトで最初に見たのも腕だったか。

「あんたに希望なんて持たせませんよ。私があんたの最後の絶望です!」

「あじゃぱーっ!」
 真尋の胸から飛び出たそいつは、ニャルラトホテプを殴り飛ばし着地し、立っていた。

 鉄の腕で、闇を砕かんと立っていた。

 蒼き星にまた奇跡が生まれ立っていた。

 心焦がす魔の渇望(エゴ)と心つなぐ人の絆を背負って立っていた。

 かくて運命の扉は開かれ立っていた。

 戦え戦士たちよ、未来は無限大だと立っていた。

 羽ばたけ、人類の希望と共に立っていた。

 百花繚乱綾錦、いざ開幕し立っていた。

 裏切りを意味する言葉を刻んで立っていた。

 冒険の舞台がキミを待つから立っていた。

 終わらない夏が、いま始まるので立っていた。

 硝煙の果てに、明日を貫き立っていた。

 未来を侵略せよと立っていた。

 紅き月が昇る時、異界の門が開かれ立っていた。

 殴られた顔を押さえながら、あれは吠える。
「こんなところで邪魔だと……お前は一体なんなんだぁ!」
「私? 私ですか?」
 そう。
「私は……」
 あの日と同じように立っていた。













「17・いつもニコニコ、真尋さんの隣に這い寄る混沌ニャルラトホテプですっ!」











 顔を見なくても分かる。
 たった一ヶ月前からの、濃厚過ぎる長い付き合いだから。
 家族だから。
 絶対こいつは。
 特撮ヒーローみたいなポーズで。
 得意気に、ドヤ顔で。

「覚えておきなさい!」

 八坂ニャルラトホテプはそう宣言した。



[38361] 18・ヒロイン戦記 プロジェクトニャルラトホテプ
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2015/02/15 16:02
「ニャ……」
 砂煙の上がる荒野。
「ニャル……」
 紅い月は光源としては些か頼りなく、ほんの少し雲が横切るだけで、血の色をした岩盤が黒に染まる。
 それでも。
「ニャル子っ!」

「はぁい、真尋さん。選ばれしあなたの邪神(かみ)ですよ」

 それでも、その髪は暗闇の中で銀色に光る。
「ニャル子……ニャル子だよな?」
「……ニャル……子」
 振り向きながらドヤッと笑う銀髪碧眼に、ホッと安堵する。
「ええ勿論。ルールを蹴散らして、モラルを飛び越え帰って来ましたよ……って、うぉぉいっ!」
 ドヤ顔が振り向き途中で驚愕に変わった。
 八坂ニャルラトホテプの驚愕。
「ど、どうした?」
「どうしたもこうしたもありませんよ! クー子、あんたなんばしよっとね!?」
 ニャルラトホテプが指を差したその先。当然の如く、真尋が強く抱き締めている、まるで眠り姫なクトゥグアがいた。
 そうすると落ち着くのか、真尋の胸に顔全体で擦り寄っている。
「くっ付き過ぎ! くっ付き過ぎですよ! 真尋さんの胸を揺りかご、英語で言うとデモンクレイドル……もとい、クレイドルにする権利があるのは私だけなんです」
「いや、お前にも無い……てかクー子は怪我人なんだぞ、もっと労ってやれ」
 いつものテンションで話が進みそうになったが、真尋を庇ったクトゥグアが重体なことにまるで変わりはない。
 クトゥグア本人ならば軽傷どころか、マンガみたいに絆創膏を貼れば次のコマには治ってしまうダメージでも。本来真尋が食らったであろう即死ダメージをそのまま引き受ければ致命傷となる。
 やはりどこまで行っても、宇宙的恐怖に語られる邪神と、虚弱貧弱無知無能な地球人ではスペックが段違いだ。
「あーやれやれ情けない。あんなの相手にそんなダメージを受けるなんて、どうしました? 紅茶飲んでレベルでも下がったんですか?」
 やれやれと肩をすくめたニャルラトホテプは、懐からそれを取り出した。
「そ……それは?」
 真尋の目には、ベータカロチン豊富な緑黄色野菜のにくい奴に見える。
「あ、今はカロテンだっけ?」
 違う、そうじゃない。
「ああ、今はベータカロテンと言うらしいですね。こうやって、子供の頃に得た知識は駆逐されていくんですか……およよ」
「じゃなくて! それ、ニンジンだよな?」
 そう、どう見てもニャルラトホテプが取り出したのは、オレンジ色の根菜、ニンジンだった。
「そう、少尉はいらない5thルナ人参です!」
 そういえば、その名前を昨日の朝に聞いたような。一本でもニンジン。
「いやいやいや! この非常時にそれで……」
 何を。と口にしようとした瞬間、既にニャルラトホテプは動いていた。
「……ぅぐうっ!」
 見事に育った緑黄色野菜が、クトゥグアの口に突っ込まれていた。
「……らめぇ、ニャル子……そんな太いの入らないよ……」
「っさいですね、天井のシミ数えてる間に終わりますから、おとなしくしなさい! 冬のナマズのように!」
「…………」
「……んっ、あぁ!」
「…………」
「……ぃ、んうんっ!」
「…………はっ! 天井ないだろ! じゃなかった、何やってんだお前はっ!」
 つい、頬を紅潮させ、瞳を濡らしたクトゥグアに見惚れてしまったが、怪我人相手にやることではない。早急に止めないと。
「お待ちを真尋さん、すぐ終わりますんで」
「終わるって何がだよ!」
「治療ですが?」
「はぁっ!?」
 どこの世界にニンジンを口に突っ込む治療法があるというのか。
「いえいえ、宇宙的に見ればむしろメジャーなんですよ。ほら、ゲームとかでもあるでしょ? グミやお弁当で体力回復したりするの。私達邪神にとって、あれと同じことを栄養価の高い食物でやるのはチャメシ・インシデントなんですよ。ほら、ネクロノミコンにもそう書いてあります」
「マジか」
「いやぁ、東京タワーにいる恥ずかしい女と戦う時にチョコバーを食べるのもお約束ですし……あ、そろそろ回復終わりますよ」
 言われて見ると、弛緩していたクトゥグアの身体に力と熱が戻ったように感じる。
「マジで?」
「……わたし、復活」
「マジだ」
 本当に治りやがった。
 地球人が脆弱過ぎるのか、邪神達が一周回って単純に出来ているのか。
「あ、クー子、口にニンジンの欠片付いてるぞ」
「……ん、取って」
 そう言ってクトゥグアは、上目遣いで口元を差し出して来た。
「ま、真尋さん? 何をしておいでで?」
「何って? ニンジンを取ろうとしてるんだけど」
 それ以外のなんだと言うのか。
「いやいやいや、じゃあなんで肩を抱き寄せて、顔を近付ける必要があるんですか!?」
「…………暗くてよく見えないんだよ」
 うん、決してクトゥグアの突き出された唇を奪いたくなった衝動に駆られたわけではない……きっと。今は非常時だ。今の真尋には理解出来てる。
「え、えーと……はい、とりあえずそれでいいです。そうしましょう。あれ? おかしいですね、私メインヒロインですよね?」
「う、うう……ニャル子だと。貴様、我が家の家宝をそんな虚弱貧弱無知無能な地球人に渡していたとは」
 うっかり存在を忘れかけていたニャルラトホテプモドキが、何やらぼそぼそとしながら首を傾げているニャルラトホテプの言葉を遮って叫んだ。
「あ、そうだった。あいつはなんなんだ?」
「ふっ、この姿では分からんか。ニャル子が帰ってきたならば、惑星保護機構を騙すため変えていたこの姿でいる必要はない。とくと見よ、これが私の真の姿。設定年齢十九歳、蟹座のB型!」
 光に包まれたニャルラトホテ……長い、ニャルモドキはその姿を変える。
 ニャルラトホテプと似た銀髪に邪神レーダー。身に纏うのはエジプト風の白い衣装。
 び、美形だが、その表情から感じるオーラは絶妙に小物臭い。
「ふはははははは、どうだ地球人! この姿を忘れてはいまい!」
「お、お前は……」
「そう、私は」
「誰?」
 こけた。
「待て地球人、私だよ、ほらちゃんとあったことあるだろ。女装コンテストとか文化祭とか」
「いや、記憶にない」
 むしろおぞましい発言が聞こえたので忌まわしい記憶にしてどっかに落としたい。
 例えば、そこのニャルモドキの頭上とか。
「真尋さん真尋さん、本当に覚えていないので? ほら、幻夢境の」
「え?」
 幻夢境。
 ニャルラトホテプ関係。
 なんか変わった気がするが、聞き覚えのある声。
「ま、まさか……ニャ……」
 一人思い当たった。当たっちゃった。

「ニャル夫かぁああああああああっ!」

 昨日の朝に話題に出たニャルラトホテプの実兄。ニャル夫だった。まさか、あの会話が伏線だったのか。
「そうだ地球人よ、思い出したか!」
 何やら気付かれた事が嬉しかったらしく、喜色満面に反応してきた。まるで、どうせ再登場すると思っていたら、その前に本編が終わってしまったみたいな感じだ。
「いや、いや……おかしいだろ!」
「ええ、なんでここにいるかですね? 私も実家で惑星保護機構から連絡が来て驚きましたよ。
 なんでも、アナザープリズンにムーヴさせる際に、ポータブルスペースプリズンのフライングエルダーゴッドシステムが発動しマテリアライズしてそのままエクソダスしたとか」
「お前、カタカナ使えば頭いいと思ってるだろ」
 言葉の意味はよく分からないが、ともかく惑星保護機構のいつもの杜撰さが原因だろう。
「いやあ。しかも、結構前に起こったらしいのに、担当者が保身の為に揉み消していたので発覚が遅れたんですよね」
「地獄の轟でも聞かせろよ、その担当者ぁ! じゃなくて、あいつ前はあんな姿じゃなかっただろ。日本人離れした容姿くらいしかお前と共通点がないくらい……」
「え?」
「え?」
「え?」
 なんか微妙な空気になった。さらりとニャルモドキもとい、ニャル夫も混ざってるし。
 うん、きっとまた別の世界。元作品とリメイク作品くらいの違いなんだろう。
「……で、あれはニャル子と知り合いなの? そういえば前の時もニャル子にこだわっていたような」
 ここで若干置いてきぼりになっていた、完全復活したクトゥグアが言葉を発した。
「ふっ、復活したかクトゥグアよ。いいだろう、冥土の土産に名乗ってやろう! 私はニャル夫、ニャル子の兄えす・べるじゅっ!!」
 なんか名乗ろうとした瞬間吹っ飛んで行った。
 なんか隣のニャルラトホテプは綺麗な投擲フォームを決めてるし。
「な、何をするニャル子、私はお前の兄えす・おぶりーじゅっ!!」
 以下同文。
 分かっちゃいたが、やはりあれと兄妹であることは隠すらしい。
「……ニャル子、どうしたの?」
 だが、流石に不自然過ぎた。首を傾げて可愛いクトゥグアが疑念の目を向けている。
「え、えーと……えー、そうだ、あいつは私のストーカーなんですよ!」
「はぁっ!?」
「……今、そうだ、って……」
「気を付けなさいクー子、あいつは女と見れば誰でも手を出す不誠実野郎、そう「誠」は不誠実の「誠」なんです」
「ちょ、ま、待てニャル……」
「黙らっしゃい! ヒートの女とルーヒーの胸に顔を埋め、あろうことかアト子ちゃんの胸までも生で鷲掴みにした変質邪神!」
「違う! あれは誤解だっ!」
「うわぁ……」
 真尋は引いた。
「あ、ちなみに可愛ければ男の娘でもOKなので真尋さんも気を付けてくださいね」
「うげぇ……」
 真尋はドン引いた。
「待て、ニャル子……お願いだから……」
「と、まあこれがあいつが私にちょっかいを出す理由です、理解しましたか?」
「……ん、分かった。でも、なんでわたしを狙ってるか分からない。殺そうとしてきたし」
「だよなぁ」
 クトゥグアの疑問はもっともだ。
 今のクトゥグア向きの説明は抜きにしても、ピンポイントでクトゥグア。つまりクー子を狙う理由がこのニャル……色情狂にあるとは思えない。
「おい地球人! 今、凄い失礼な呼び方をしなかったか!?」
「五月蝿い黙れ変質者、それはクー子の芸風だ。なんか伏線あったかな?」
 もはや戦争ではないはず、と真尋が首をひねっていると、ニャルラトホテプが一歩前に出た。
「なぁに、そんなの考えなくても、直接聞けばいいんですよ。その身体にね」
 言って、ギラギラした笑みを浮かべながら両の拳を叩き合わせる。
 相変わらず正義の味方には見えない姿だが、今は無性に頼もしい。
「……同感。ついでに色々な借りも一緒に返す、倍返しで」
 さらにクトゥグアもニャルラトホテプの隣に立つ。
 まさにあの時の、幻夢境の再現だった。
「ふ、ふふふ」
 だが、その光景を前にニャル夫が肩を震わせ哄笑している。
「どうしました? 恐怖のあまり頭のネジが落ちましたか」
「違うな、呆れているのだよ。私がなんの備えも無しにここに来たと思ったか?」
「なっ?」
 勢いのままニャル夫は天を仰ぎ叫んだ。

「さあ出番だ、我が同志! オーバーマインドの諸君!!」

 弾かれた様な動きで二人は真尋を挟んで背中合わせになった。
 こういうときは流石のコンビネーションだ、隙無く辺りを警戒している。
「どこから来る?」
「……」
「……」
 ……。
 …………。
「………………あれ?」
 最初に痺れを切らしたのはニャル夫だった。
「もしもし? あれ? 皆の衆? 皆ー?」
 いっそ憐れになる狼狽えぶりで涙が出そうだった。
「はん、お友達にも見捨てられたみたいですね」
「ち、調子に乗るなよニャル子! お、お前らなど同志の力を借りるまでも無いということだ。修行の成果を見せてくれる」
 そのまま虚しいほど見事な構えを取るのだった。
「抵抗するんですか? 構いません。何をしたっていいですが、命乞いだけはしないで下さいね? 時間の無駄です!」
 そのまま向かっていく背中に声を投げる。
「あ、忘れてて悪い」
「はい?」

「おかえり、ニャル子」

「あ……ただいまです真尋さん」
 ニカッと笑ったニャルラトホテプは、クトゥグアと共に歩き出した。

「ブラックホールが吹き荒れますよ」
「……わたしのビッグバンは、もう止められない」



[38361] 19・ニャル夫は友達が少ない……が同志はそれなりにいた。
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2015/07/12 02:06
 ネオン煌めく夜の町。
 アダルティで、まさに大人の時間と呼ぶに相応しいそこに。
 似合いそうで似合わない格好をした女性と、全く似合わない少年がいた。
「なんで……なんで、このタイミングで邪魔が入るのよぉ!」
「お、お、落ち着いてください!」
 一目に付かない路地裏で、女性の腰に抱きつく少年。と書くと何やら色気を感じるが、実際そんなこと無かった。
 誰かと言えば、デート用装備のままのルーヒー・ジストーンと、ハスターだ。
「ひ、ひぃっ! 勘弁してください」
 二人の目の前には、コートなどでギリギリ人間の体裁を保っている人外が――つまり邪神がいた。
「あんたねぇ! どういうつもり? ねえ、どういうつもりよ! せっかく何事もなく終わったのに、ご機嫌な蝶だったのに、きらめく疾風(かぜ)に乗って、今すぐ私の家に行こうって流れだったのにぃ!」
 その邪神に、ルーヒーは噛みつかんばかりの勢いだった。
 実は私はクールビューティーじゃなくて、くーるびゅーてぃーだった、と告白しているかの様な有様だった。
「えと、無許可で地球にきたひとを、さすがに無視できないんです」
 ルーヒーにしがみ付いて止めているハスターは、まだ微かに濡れた髪を揺らしながらボロボロの邪神に問う。
 何があったかと言えば、一泊二日のデート(意味深)の終盤、コミュを深めた(意味深)二人は、そのままルーヒーの家に行く(意味深)流れとなったのだが、その途中ハスターの邪神レーダーが反応したのだ。
 そして声を掛けた瞬間逃げ出した邪神を、嘱託と言えど惑星保護機構の職員であるハスターは捨て置けず、甘いデートヒートは、熱いデッドヒートとなったのだった。
「すいませんすいません、出来心なんです……同志の計画よりも、地球のエンタメを優先してすいません!」
「計画?」
 土下座を繰り返す邪神と、紙袋から覗く年齢制限の掛かる薄い書物を交互に見て、頭上にクエスチョンマークを浮かべるハスターにしがみ付かれたルーヒーが、結界の中なので思い切り叫んだ。
「いいから、私の家に行かせてえっ!」

   ***

「ボディーが甘い! がら空きね! お留守だよ!」
 そのルーヒーのマンションの前、紅い髪をポニーテールに纏めた女性……まあ、隠すまでもなくクー音だが……が格闘ゲームの決めポーズ的なものをとっていた。
 足下には数名の人型――をギリギリ保っている邪神がいた。
「さぁて、どうしてくれようかねぇ?」
 クー音は、拳を鳴らしながら一歩ずつ、嬲る様に不埒な邪神供に近付いて行く。
 そもそも、漫画喫茶で一夜過ごした後、特に行く宛が無かったので友人のルーヒーの家に厄介になろうと思ったのだ。
 ちょっと恋愛相談もしたかったし。
 ところが、マンションの入り口に辿り着いた瞬間「見付けたぞクトゥグア星人!」と怒声と同時に襲い掛かられた。すぐに返り討ちにしたが。
「なぁんで、惑星保護機構の職員をわざわざ襲ったのか、がっつり吐いてもらうよ?」
 まあ、怨みなどワゴン送りになったのを大人買いした程度には購入しているが。
「何々? あれ? 場所は本部から遠く離れた辺境。かつて自分達を逮捕したプロポーション抜群の女職員を、卑劣な罠と不意討ちで倒して捕獲して、とてもここでは書けないXXX板的なイベントで服従させちゃう、2次元でドリームな計画?」
 まだ仄かに手の感触が残る胸を抱いて、いやんいやんと身体をくねらせる。
「感じる……禁忌の展開を」とか口走っているが、瞳の温度は種族に反して絶対零度を遥かに下回っていた。
「でもさぁ、あの手の作品のヒロインって、超エリートとか最強の魔女とか設定あるけどさ。描写的には、雑魚相手に調子に乗ってたら不意討ち食らって「息が出来ない」ってダウンしちゃうから、全然強そうに見えないよねぇ?」
 言いながらもさらに近付く。その瞳(以下略)。
「す、すいません人違いだったんです!」
「は、人違い?」
 命の危機に正直なやられ役Aが、音速を超えた世界で土下座をした。成長したら光速を超え、時を止められるかもしれない速度だ。
「そ、そうです……我々の目標はマニア心をくすぐるAカップのクトゥグア星人で……」
「え、マジで? 俺好みなんだけど」
「貴方が同志の待機を無視して突撃したんでしょ……当然私も好みです」
「え? もしもーし」
 チームやられ役は、クー音を無視して円陣を組み始める。
「やっぱ時代はつるぺたよなぁ?」
「ロリこそ正義、いい時代になったもんだ」
「むしろ、あんなたゆんたゆんなのは脂肪でしょう? 若さを失ったBBAの涙ぐましい最後の抵抗ですよ」
「せやね、BBAよりもまだ見ぬつるぺた邪神に、2次元でドリーム的な目に遭ってもらうとしようか」
「じゃ、我々は急ぐんで……」
 言って、一同は去ろうとする。恐ろしい。
 何が恐ろしいって、これが逃走のための作戦などではなく、本気で行けると思っていることと……。
「そっかー、急ぐんだー。送ろうか?」
「いえいえ、同志から座標は貰ってるんで……え?」
 ……クー音の笑顔である。

「冥界に」

 パチンッ。と指を鳴らすと、円陣の中心で爆発が起きた。
「誰がBBAだぁ!」
 そのまま手近な奴に最短距離の拳撃を打つ。
「おっぱいには夢が詰まってんのよ!」
 そのまま流れる様に蹴りも放ち、馬鹿な集団を全員一ヶ所に集める。
 派手なアクションだが、結界のお陰で太極拳の練習にしか見えないはずだ。実際はジークンドーだけど。
「地獄に、落ちろおぉぉぉぉぉぉおっ!」
 そのまま、希望と絶望を越えた先に行けたり、過去と絶望を断ち切れそうな必殺技が景気よく炸裂し続けた。技量の高いクー音なら、再攻撃も容易なのだ。
 この後、ボヤ騒ぎのせいでようやく帰ってきたルーヒーがマンションに入れず、崩れ落ちたのは別の話である。

   ***

 計画は上々。
 直接的な戦闘は不得手な自分にとって、同志にあれを渡したことが最高の戦果だ。
 我らの夢を、努力の結晶を汚したあの忌々しい炎の神性が消滅するところが見られないのは残念だが、それは最も奴からの被害を受け、最も戦闘力が高い同志に譲るのが自然だろう。
「さて、時間を有意義に使うためにも…………メイド喫茶とか行っちゃうか?」
 せっかく憧れの地球に降り立ったのだ、本場のエンタメを楽しもうと、手製のマップを取り出していると。
「もし、そこの方……よろしいですか?」
 声を掛けられた。
「え? 自分です……か?」
 周りに人がいなかったので、間違いなく自分だろうと確信して顔をそっちに向ける。
 すると。
「はい、貴方です」
 美人がいた。
 純白の雪を思わせる肌、墨を流したかの様な髪、そして鮮血の妖しさと美しさを併せ持つ唇。
 それが奇跡と黄金の回転によって組み合わされた美人だった。
「…………っ!」
 呼吸を忘れた。とは、比較的よく見る描写だが、それを体験したのは初めてだった。
「月が……綺麗ですね」
 放送事故染みた無言にさえ微笑んだ美人さんは、色香を振り巻きながら近付いて、そう言った。
(月が……? 知っているぞ、これは確か……)
 I Love You。
 英語のままでそんな告白される高校生は日本に一人しかいないだろう言葉を洒落た感じで言った言葉だ。
(なんと! こんな美人に……)
 この世に生まれ落ちて早○○年、八歳と九歳と十歳の時と、十二歳と十三歳の時もずっと待っていたイベントだよ。ラブレターもだ。
 いや、ラブレターは無いが異性と接したことがほとんどない自分に、降って湧いた幸運。
 怪し過ぎて、ぶっちゃけありえない展開だが、そんな思考は因果地平の彼方に滅せられるほど、彼女は魔性だった。
「し……」
 そして、無駄に知識ばかり詰め込んだ自分は、これの返答を知っていた。
「……し……」
 楚々とした微笑みを向けられ、胸が、心臓が騒がしい……口の中がカラカラに渇く。だが、言えさえすればホワイトホール、白い明日が待っているのだ。
「し…………死んでもいいです」
(言ったぁ、言えたぞ! 郷のとーちゃんかーちゃん、孫の顔が見せられるよ!)
「まぁ……よかった」
 花開くという表現が相応しい、麗しき満面の笑顔を向けられ、かなり飛躍した妄想未来絵図を浮かべていた。
 だからだろう、気付けなかったのは。
 開いた花が、食肉花だということに。

「死んでもいいと言ってくださって」

『スパイダー』
「え?」
 地の奥底からの囁き声かの様な電子音声と共に、彼女の手から何かが放たれた。
 蜘蛛だ。蜘蛛を模した玩具みたいな機械が、男の周りを旋回していた。
「あの……何?」
 と、間抜けな声を出したのも束の間。身体が拘束されていた。何に? って、当然蜘蛛なのだから糸でだ。
「うふふ」
 混乱する男の前で、変わらぬ笑みを浮かべたまま黒い着物を翻し女は跳び。
 そのまま蜘蛛とは反対側の糸の先を掴み、おもいっきり同時に引っ張った。
「ぎにゃぁあああああああああああ!」
 糸は天と地に張られ、男の身体は宙に浮いていた。つまり、締め付けや自身の全体重が、完全に一点に集中しているということだ。
「お聞きなさい、地獄の轟きを」
 そのまま着物の女――言うまでもなく銀アト子は、糸を愛撫するように撫で……その振動が何十何百倍にも増幅され男を襲ったのだった。
「だ……脱出するしかない!」
 出来ない。
「生きるも地獄……死ぬも地獄ですか」
 南無阿弥陀仏。と、読みやすさ重視の字幕と共にアト子は力を抜く。当然男は固いアスファルトにファーストキスを捧げる羽目になった。
「う……うう、なんなんだ一体」
 未だ糸に絡め取られ、唯一自由に動く顔をアト子に向ける。
「ひっ!」
 その顔は……その貌は、あまりに美しく、あまりに淫らで、あまりに酷薄であった。
「あまり恐がらないで下さい……わたくしはただ、知人から頼まれて貴方を探していただけなのです」
「じ……自分を?」
 袖で口元を隠してころころと笑む。それだけなのに背筋が凍る。まさに蜘蛛に捕らえられた羽虫の気分だ。
「ええ、マテリアル・パズルアプリの開発主任からね」
「ぁ……」
 男――マテリアル・パズルアプリプロジェクトの副主任は、顔を青ざめた。
「馬鹿な、僕の隠ぺいは完璧だったはず。パーフェクト……ペルフェクティオだったはずだ!」
「まあ……賢しいだけのチェリーが何を言いますか」
「賢くて悪いか!」
 なんか痛い所を針で、ペガサスナイトをキラーボウで貫かれた様にのたうち回る副主任。ある意味憐れだ。
「ふふ……ふふふ、だが僕が持ち出したサプリの試作品は既に同志の手にある。必ずや憎きクトゥグアを滅殺するだろう……だったらこの命、もはや惜しくはない!」
「そうですか……では彼女には副主任のお葬式の準備が必要と伝えないと」
「すんません嘘です! 死にたくないです!」
 養豚場の豚を見るような冷たい戦艦クラスの眼光を受けて、情けなく命乞いを始めた男に興味を失って美貌の蜘蛛神は空を仰ぐ。
「クー子さん、死んだりしてはなりませんよ……貴女を助けるのもわたくしの喜びなのだから」
 彼女は願う。
「真尋さん、クー子さんを放してはいけませんよ」
 彼女は祈る。
「だからニャル子、負けないでね」
 天下無敵の親友の帰還を当たり前に信じて、無邪気な童女の様に微笑んだ。
 そう。






















「わたくしが収穫するために、ね」

 いつか寝取る日を夢想しながら。



[38361] 20・奇跡〜灼熱の切り札は自分達だけ〜
Name: 霜ーヌ。氷室◆370aa8bf ID:1c181d03
Date: 2015/10/11 11:22
 そこは色の無い世界だった。
 いや。
 正確には白と黒、そして灰色が存在する。
 しかし、世間一般ではこの状態を色があるとは認識していない。白黒テレビの対義語がカラーテレビであるように。いや、まったく世代ではないが。
 この色の無い……正確には人間も動物もいない世界を、主を失ったビル達を墓標の様だと誰かは思うだろう。
 でも自分は展示品みたいだと思う。
 遥かなどこかで、大変なことをしでかしてくれた神様が見ている色の無い博物館(モノトーンミュージアム)の一角、ビルの屋上で少年はそんなことを考えていた。
 色無き世界で色を持ち、生命無き世界に存在する少年。
 アニメやゲームみたいに、実用性よりも見栄えを重視したデザインのドレスアーマーは、モノトーンの濁った白を吹き飛ばす鮮烈なる純白で。
 風に揺られる髪は清廉な白銀。
 その顔立ちはたれ目な印象の釣り目の中性的なものだった。
“リキ、何を考えているんですか?”
 声がした。
 今言った通り、辺りには生命ある存在など銀髪の少年しかいないし、電話や何かで通信しているわけではない、ただ一人の孤独なシルエットだ。
 しかし、少年は慌てた様子も無く声に反応し、カラーとモノクロームの境界を変化させつつ動き出す。
 その姿は紛れもなく真尋とクトゥグアが昨日会った少年――大神理樹だ。
「いやぁ、昨日から今日まで掛かるとは思わなかったなぁ、って」
 理樹はさも当然の様に声の主に返答する。
“まったくですね、いきなりこの神威が現われなければ、マヒロとクーコと仲良くできたのに”
 プンプンと怒った様子にニヤニヤしながら、理樹は昨日の出会いを思い出す。
“そもそもあの神威はなんなんですか、何かバグってると言うか、混乱してると言うか”
「さあ、何か悪い物でも食べたんじゃないですかね……っと」
 眼下の街並みに爆発が起こった。
“来ました!”
「ええ、馬子さんが上手く追い込んでくれましたね。馬だけに」
“リキ……それは上手いこと言ったつもりなんですか?”
「あー、馬子さん派手にやってますね。絶対騎行圏の限界が来ないうちに終わらせましょうフェル子さん」
 声の主――理樹と一つになったフェルスズのツッコミを軽やかにスルーして、理樹はためらいもなくビルを飛び降りた。
 名前の割に自由ではない自由落下を行いながら、真尋やクトゥグアを想う。
 これは理樹の物語。
 本来ならば他の誰かとは交わらないクライマックス。
 でも、今夜くらいは交わるのかもしれない。
「では……」
 そんな確証のない確信を胸に、理樹は宣言する。

「戦乙女のお仕事(ヴァルキリーワークス)、始めましょうか」


   ***

「私の花道オンステージ!」
「……ひとっ走り付き合ってもらう」
 極めて近く、限りなく遠い世界で、ニャルラトホテプとクトゥグアが光に包まれた。
 普段は焦らしに焦らすくせに今回は随分と速い。
 フルフォースフォームとクロスファイアシークエンス。
 ニャルラトホテプ星人が自分の思う最強の姿となる宇宙CQCエンハンサーと、クトゥグア星人の故郷であるフォーマルハウトと同じ環境を周囲に創りだす……宇宙CQCなのかは真尋は知らない。が、発動した。
 きっと久し振りの出番で溜まった鬱憤を一気に発散するつもりなのだろう。
「ったく、張り切りすぎだ」
 口調とは裏腹に胸一杯に頼もしさを感じている真尋は、二人の運命と伝説のフォームチェンジを見守り続ける。
 ニャルラトホテプは黒い装甲の特撮ヒーロー然とした姿に、クトゥグアは炎の意匠の薄いレオタードみたいな姿となる。
「「さあ」」
「……ショータイム」
「処刑の時間です!」
 まばゆい光が収まったそこには、変身した二人が立っていた。
 装甲を纏ったニャルラトホテプとレオタード風の姿になったクトゥグア。いつも通りの光景が……。
「ん?」
 真尋は違和感を感じて二人を凝視する。
「なんですか真尋さん? そんなに見つめられると本能が疾走しそうなんですが」
「……少年の視線にきゅんきゅんしちゃう。命、燃やすよ」
 うん、とりあえずクトゥグアかわいい。
 造形自体は別に何も変わらない。
「あーー」
 もう一度ちゃんと整理しよう。
 ニャルラトホテプはフルフォースフォームで漆黒の装甲の特撮ヒーローじみた姿になる。
 クトゥグアはクロスファイアシークエンスで紅い炎の意匠のレオタード姿になる。かわいい。
「あの真尋さん、さっきから地の文=サンに余計なノイズが混じってません?」
「気のせいだ」
 まったく、ニャルラトホテプはこの忙しい時に何を言いだすのか。きょとんとしてるクトゥグアマジかわいい。
「そろそろいいかな?」
「……うん、アト子の時みたいに引っ張り過ぎることはないと思う」
 クトゥグアからも同意をもらったので、そろそろツッコムとしよう。
 紅い装甲を纏ったニャルラトホテプに。
「なんでお前紅くなってんだよ! 都合のいい伏線も無しに」
「え? いや伏線は張りましたよ? 電話で太陽の周りをぐるぐると。って」
「はぁ?」
「いえね、この姿は太陽曰く燃えよ混沌(ファイヤーステイツ)って言うんですよ?」
 顔が見えないのに明らかにドヤ顔だと分かる態度で、この混沌は説明してきた。
「太陽言わないよ、てかそれが伏線のつもりか?」
 今までもこんな伏線ばかりだった気もするが。
「いえいえ、ちょっと前に言いましたでしょう?」
「え?」
 そう言われて、なんとなく嫌な記憶のリフレインが奔った。確かイス香とのファーストコンタクトの辺りで。
『お日様に当たらないと最強フォームになれませんよ』

「お前、今さらあんなのを伏線にするなぁぁぁぁぁあああ!!」

 思わずマイクを二回くらい破壊しそうな声が出た。
「いやー、さらに行くとこまで行って黄金王にまで到達しようとも思ったんですが、相手が愚兄……もとい卑劣な混沌犯罪者ならやはり炎でしょう」
 確かに……確かにだ、クトゥルーにおける属性分けなんてダーレスくらいしかやってないし、正直ニャルラトホテプがなんで地属性なのか分からないし、燃える三眼なんて炎を想起さする異名もあるし。ニャルラトホテプが炎を纏っても問題無いと言えば無い。
 でも……。
「流石に無理矢理すぎんだろ……炎と言えばクー子だろうに」
「無理矢理でもなんでも、設定なんて言ったもん勝ちですよ!」
 こいつ、ついに言い切りやがった。
「そもそもクトゥルー神話なんて後付けに後付けを重ねた代物じゃあありませんか。今更私が傲岸不遜な創造主の如く新設定を投下しても、黄昏の業火みたいに罵られる筋合いはありません!」
「お前、色々ヤバいことを言うなよ! つか落ち着け、メタ視点にはメタ視点なりの仁義があるからな」
 そんなことを世界的に有名な名探偵が言っていたはずだ。
「……少年、ニャル子の後出しパワーアップにいちいちツッコんでたら太陽が昇って沈んで昇らないで暗夜になって白夜を経てインビジブルに到っちゃうよ」
「あ、そうだな分かった。何を言ってるかは相変わらず分からないけど」
 クトゥグアに諭され真尋は正気に戻った。よくよく考えれば、その場かぎりの設定なんてニャルラトホテプには……というか邪神達には今まで食べたパンの枚数よりも多いのはもはや常識だった。
「真尋さん、なんでクー子の言うことは素直に……いえやめましょう、私の勝手な妄想で混乱したくありません」
 ニャルラトホテプが何故か頭を横に振って呻いていた。さっきまであんなに廃テンションだったのに。
「ま、まあ猫なのにバニーガールって言葉もありますし。ってことで一つ」
「……そう、思えばわたしもクロスファイアシークエンスが黒い時もあったし、あれと逆になったと思えばいい」
「え? …………あ、あーそうだな、そんなこともあったな」
 まるで記憶に無いが、クトゥグアがそういうならそうなのだろう。
「やべー、深く考えれば考えるほど私の悪堕ちゲージが貯まってしまいそうに……ええいっ! そんな不安は膨れ乙女座の私がセンチメンタリズムな無理で抉じ開けますっ! 待たせましたね、この愚兄……もとい変態ニャルラトホテプッ! 今すぐあんたを悲しみの向こうへと送ってやりますよ!!」
 と、もはや驚くにも値しないほどいつも通りこっちの漫才が終わるまで待っていたニャル夫は……。
「同志達よ、何故誰も連絡がとれないんだ……もう対戦可能なゲームを一人でやり込んで、もう飽きたよ。とか言うの辛いんだ……同じものを見て、聞くことができる真の仲間だろ私達は……」
 イアフォンを手に嘆いていた。
「うわぁ」
 ドン引きです。って感じの声が出た。三人同時に。
「ニャル夫……お前……」
「はっ!? 地球人、そんな目で見るな! じゃなくて、最後の語らいは楽しめたか?」
「無理に大物振らなくてもいいんですよ? 昔から友達がいないなぁとは思っていたんですが……まさかそこまでとは」
「……しかも、そんな誰かをいじめなきゃ維持できないコミュニティーに……なんて。知り合いにニャルラトホテプに偏見の無い邪神もいっぱいいるよ?」
「同情するな! 優しくするなぁっ! て言うか、友達に関してはニャル子には言われたくないわ、コミュニティーはクトゥグア……お前が言うか!!」
 月に吠える者……ではなく無闇に吠える者に成り下がったニャル夫に何か虚しさを感じてきた。持ってるだけ突き刺してやろうと思っていたフォークをマイナス一本してやってもいいかもしれない。
 クトゥグアを殺そうとした罪は万死に値するが、九千九百九十九死にまけてやろうという気持ちになった。
「いや、違うからな! きっと惑星保護機構にボコされたりアトラク=ナクアに絡まれたり、地球の神がうっかりばらまいたアーティファクトに取り込まれたりしただけで、心は一つなんだよ!」
「いや、ねえよ」
 地球の神ってお前が惨殺した宇宙人だし、そんな大層なもんが地球にあるわけ……いや、これも伏線かもしれないから、終わったら幻夢境に連絡を取らせよう。
「はん、まだそんなに反抗的なんですか? 他人のアドレス帳が五十人かな? とか気にして、趣味はソリティアくらい、毎年五月病に掛かるわ。そんな真に孤独な邪神と心が通じるわけないでしょう?」
「ニャル子……貴様ぁ! お前が……お前がそれを言うのか!?」
 なんか分からないがキレていた。キレる十代……いやニャルラトホテプやクトゥグアよりも年上のはずだから三十だ……。
「痛っ!」
 見ればニャルラトホテプとクトゥグアにがっちりと腕をホールドされていた。
「待て待て待て、痛い痛い熱い! ニャル子、今お前ゴツいんだからマジで痛いから!!」
 クトゥグアは柔らかいが。
「……少年、迂闊なことは考えない方がいい。壁に耳あり障子にメアリー・スーって言うでしょ?」
 言わないと思う。ほっぺを膨らませるクトゥグアかわいい。
「おのれー、人生で一度も経験したことのない女子とのいちゃつきを見せつけおって。こうなったらなりふり構わん!」
 何故かぶちキレたニャル夫が大量のボールを放り投げる。
「あれは……」
「カプセル怪獣ですね」
 触手のあるもの、無数の目があるもの、目の無いもの、翼を持つもの、不定形なもの、空飛ぶ海洋生物みたいなもの、幾何学的な姿のもの、異臭のするもの。
 様々な冒涜的な存在が視界いっぱいに現れた。
「ふはははは、戦いは数だよニャル子! これだけの数にどう抗う?」
 いきなり勝ち誇るニャル夫に、ニャルラトホテプはやれやれと頭を振ってクトゥグアの隣に立つ。

「敵は多いですねクー子。いえ、そうでもありませんか……今夜はあんたと私でダブルファイアーですからね」


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