これは、もし、ドラクエ5の憑依系主人公が、保身の事しか考えていない人間だったらという話。
文章崩壊、設定矛盾注意。
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あーあ、いくらゲームとはいえ、自分の父親殺されるのはつらいな。
ま、父親って言っても、二週間程度の付き合いしかないんだけどね。
俺、中山慶介こと、ドラクエ5の主人公リュカは、そう思いながら、ゲマの腕に
抱えられていた。
ゲームでは気絶していたはずなのに、今の俺はなぜか目が覚めている。
ヘンリーは気絶したまま。プックルっちも気絶。なぜ俺だけ当たり所が良かったか
分からない、バグ?
まあいい。
それよりも大切なことがある。
ここから先、奴隷生活がこのままでは待っている。
それは、御免だ。
俺は、目を開けると、そのまま、俺を抱えている青紫の魔人の目を見た。
『おやおや、気絶させたつもりなのに、まさかあなたが起きてしまうとは。』
そういうと、ゲマは笑いながら先ほどまで、俺の『父親』である、パパスが
立っていたところを指差した。
『見てごらんなさい、あなたのお父さん、なるほど人間にしてはなかなかの強者
だったのでしょうが、私のメラゾーマで灰も残さずこの世から消し去られたのですよ。』
そうゲマに言われながら、俺はただ冷たく『そりゃそうだ、だって唯の
タンパク質の塊が、メラゾーマに耐えられるわけないだろ。』
と思った。
ジャミやゴンズが、『バカな人間だぜ』とか、『人間なんて鍛えても俺様の
筋肉に勝てるはずがない』とか言っているが、それだって『当たり前だろ?』
としか言いようがない。
人間は、魔族の前では弱者だ。
ゲマはそんな俺の無感情な目に気付いたのか気づいてないのか、
更に自慢を続ける。
『ヘンリー王子と、あなたのベビーパンサーも、そしてあなたも、もうすでに我々の
手の中。まあ安心しなさい、われら魔族とて子供の命までは・・・』
『あの、いいですか?』
ゲマの自慢を急に俺が遮ったことに、ゲマは顔をしかめた、だが、すぐにあの
自慢げなニタニタした笑みを浮かべなおす。
『なんですか、坊や?』
『僕たち、これからどうなるんですか?』
その質問に、ゲマも、ジャミも、ゴンズも少しだけ驚いたようだった。
5歳の人間の子供が、自分の父親の死にも涙ひとつせず、冷静に自分たちのこれからを
聞いたからなのか、俺には分からない。
『ふふふ、そうですね、坊や、あなたもあなたのお父さんも、あなたのベビーパンサーちゃんも、そしてヘンリー王子も、私たちに逆らった犯罪者なんですよ、僕、犯罪者って言葉は難しいかな、つまり、悪いことをしたってことですよ。だからね、罰を受けてもらわないと・・・』
『僕達、ただお父さんに命令されただけです。悪いのはお父さんだけです。』
そう俺が言った瞬間、ジャミが恐ろしい顔で俺に詰め寄り、俺の胸ぐらをつかんだ。
『ふざけてんじゃねえぞこのクソガキ!お前、自分からゲマ様にベビーパンサーともどもつっかってきやがって、何が命令されただけだ、ガキが生意気に言い訳してんじゃねえぞ!』
うーん、5歳児視点から見るとジャミ怖すぎるけど、一応こちとら三十路過ぎてるんで、何とか耐えられる。それでも怖いが。
『それは、お父さんが、ここの遺跡にいるのは全員ヘンリーを連れてった悪い人か、魔物さんたちだから、戦ってぶちのめせって。』
そういいながら、俺は心持ち涙を目に浮かばせた。声も少し泣き声にする。
『だって、お父さん、ちょっとでも僕がいやだって言ったら怒鳴ったり、殴るんです。ヘンリーも、さっき、帰りたくないっていったら、殴られたんです。僕たち、お父さんには逆らえなかったんです、だから・・・』
その訴えを聞いて、ゲマが何を思ったかはわからない。
だが、ゲマは、ジャミに目くばせすると、俺の胸ぐらをつかんでいたその手を離させた。
『確かに、ヘンリー王子のほっぺたには、平手打ちの跡が見られますね。それもかなり強く打たれたようだ。・・・なるほどね、あくまで、あなたのお父さんが悪い。あなた方は命令されただけというわけですね。』
ゲマは、そういうとニタニタ笑いをやめた。そして、俺を地面に下ろすと、少し考え込むような表情をした。
『それで、あなたの望みはなんです、坊や。仮にあなたが言っている通り、あなたやあなたのペットやヘンリー王子が、あなたのお父さんに言われて無理やり私たちと戦ったのだとして、悪いですがあなた方を返すわけにはいきませんよ。こちらも色々と
事情がありますのでね。』
俺は、少し迷った末、俺の望みをゲマに告げた。それは、ほんのささやかな願いだった。
『・・・僕たちにひどいことしないでください。お父さんみたいに僕たちを殴らないでください。僕たちにおいしいご飯と綺麗なお家をください。僕たち、ゲマ様やジャミさんやゴンズさんに逆らいません。いう事聞きます。』
『信じられるかよ、人間のクソガキのいう事なんざ。』
『人間は俺たちを殺すだけだからな。』
ジャミとゴンズの鼻で笑ったような言い方にもめげずに、俺はゲマに、俺を生かしてくれと頼む。
『ゲマ様やジャミさんやゴンズさんは、魔物さんなんですよね。魔物さんが人間の王様になる時、僕やヘンリーみたいに、人間が味方にいると、いいんじゃないんですか?』
この言葉を聞いて、ゲマは、先ほど驚いたように見えたのとは違う、本当の驚きを見せた。ジャミとゴンズもだ。
『・・・ほう、面白いですね。私たちが人間の、王様、ですか。で、ヘンリー王子やあなたが私たちにどう役立ってくれるんですか?』
そう聞くゲマの表情に、興味の色が含まれていることを俺は察知した。
これは賭けだ。
ゲマが俺を生かしてくれるのであれば、奴隷でなく、それなりの待遇を保証してくれるのであれば、俺に利用価値がないといけない。
その利用価値なら、俺には十分あるはずだった。
『ヘンリーは王子様だから、ヘンリーを子分にすれば、ヘンリーが王様になって、ゲマ様が王様の王様になれば、きっと人間のみんなも素直にゲマ様の子分になると思うんです。』
そういうと、ゲマは困ったような表情をした。
『なるほどね・・・賢い坊やだ。でもね坊や、それはあなたがいなくてもできるでしょう。あなたとヘンリー王子の二人、いや、二人と一匹か、みんなを助ける理由には』
『僕のお父さんはヘンリーを助ける為に死にました、僕が命令すれば、ヘンリーは逆らえません。』
これも賭けだ。ゲームでは、ヘンリーはこの後も相変わらず主人公に親分風を吹かせていた。
それでも、今この瞬間なら、ヘンリーに一発お見舞いすれば、どっちが親分なのか分からせてやることができる。
『・・・それに、僕は魔物のことばがわかるので、人間に言葉の通じない魔物さんのいう事を伝えることができます。』
これで今の俺の手札はない。グランバニア王子の特権は、いずれアピールできるかもしれないが、今は信用してもらえない。
パパスから聞いたといったところで、証拠はなんだといわれるだけだろう。信用されない話はしないのが一番だ。
『お願いします。僕を助けてください。お願いします。』
そういって、俺は、泣きながらゲマに土下座をした。
地面に頭を擦り付け、ゲマを伏し拝んだ。
ゲマは、数秒の間黙っていた。
その数秒が、俺の永遠に相当した。
そして俺は、ゲマの口が開かれるのを見た。
『いいでしょう。』
その言葉を聞いて、俺は心の中でガッツポーズをした。
勝った。
俺は勝ったんだ。
『・・・あなたの、その利口さには感心しますよ。実の父親の仇に、
慈悲を・・・おっと、難しかったですかね・・・助けてくださいと頭を
地面にこすり付けられる、その度胸も、私に絶対に逆らわないという言葉も。』
そういうと、ゲマはにっこりと笑みを浮かべた。
『ぼうや、あなたのお名前は。』
『リュカ、です。ゲマ様。』
そう俺は、泣きながら答えた。
『ではリュカ、あなたは今日から私の下僕です。あなたのベビーパンサーも、ヘンリー王子もです。魔族の王、ミルドラース様の名の下、その臣下の筆頭である、私、ゲマの下僕として、忠誠をつくしなさい。』
『はい、ゲマ様。』
『けっ、クソガキが、調子よく助かりやがって。』
そうジャミやゴンズが愚痴をこぼしていたが、今の俺には関係ない。
俺が、見知らぬこの異世界で殺されず、奴隷にもされず助かったというその厳然たる事実こそが、今の俺に
とってのすべてだった。