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[38585] 至急、秋道家に弟子入りします
Name: クチナシ◆0a4684f5 ID:1a9eabf7
Date: 2013/10/04 21:49
この作品は筆者オリジナル<鬼火ユウキ>が主人公です。


~簡単なあらすじ~
第一部の時代
鬼火ユウキ:木の葉のくノ一、上忍、20歳
どういう訳か10代になったり歳をとったりする
主人公が登場人物たちとの触れ合う話
原作沿いだが、原作に関係ない所の話


~注意~
チートとかTUEEEEEEE設定はない
トリップでもない
しょっちゅう変わる文体
主人公の性格がシリアスかギャグかでブレまくっている(今後安定する予定)
筆者はギャグの為なら以前に書かれた設定を覆す
少年誌に載せられる程度のエロネタあり
ストックなんて、ない



[38585] 1:激痛とはじまり
Name: クチナシ◆0a4684f5 ID:1a9eabf7
Date: 2013/10/02 15:25
 身体が、痛い。



 始まりは、それだった。

 意識を取り戻し、確認するとここは自分の部屋だ。
 本がぎっしり詰まったカラーボックスと白い壁、昨日かってそのままにしていたカップラーメンが入ったビニール袋。それらが、薄暗い光の中、真横に映っている。

 どういう訳か、自分は寝ていた。

 あれ、と声に出そうとして、既に声になっていない事に気づく。調子はずれのうめき声だ。
 そして、同時に体を動かそうとしたのが失敗だった。




「ウャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!!!」




 体じゅうの神経という神経に熱が集まり、神経という神経を食いちぎられている。
 あまりの痛みに最早冷静に考えることが出来ない。イタイ。文章で思考することが出来ない。痛みにはある程度耐性があるはずの許容を大きく超えた痛みだった。

 イタイ
 イタアアアアイイイイ
 イタアアアアアア
 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
 
 ナンデ
 
 ドウシテ
 


 イタイイタイ
 

 タスケテ
 
 
 

 ダレカ




 シヌ

 シンジャウ


 イタイ



 泣きわめき、叫んで、熱くて。自分がどろどろに世界に解け、グルグルと自分がかき混ぜられるのを感じる。


 イタ  イ


 これ以上何も感じることが出来なくなって、ようやく私は真っ暗に途切れる。











++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++









 突然の落ちるような感覚に、目が覚めた。
 動悸が激しい。

 嗅ぎなれない布団の匂いに気づき。布団に横たわった状態で微動だにせず自身の状況を確認していた。

 白いカーテン、パイプイス、白い壁。遠くに聞こえる鳥の声と、人の声。顔に感じる温い空気、消毒の匂い、舐めつくような大量の人の匂い、埃の匂い。

 病院だ。
 自分は病院のベットにいる。

 そうわかるとようやく体を起こす。痛くはなかったが、違和感があった。体が萎えている。布団を掴むことすら重労働のようだ。
 一体どれほど眠っていたんだろうか?
 己の身体の様子を考えならがら、ふとカーテンの向こうの人間が起きていることに気づく。自分が起きた事に耳を傾けている。忍びだろうか?いや、自分が今気づいたのは自身が弱っているためだろう。気配を隠しているわけじゃない。入院するのが久しぶりで緊張しているのだ。

 そんなに弱ってしまったのか。
 チャクラを軽く練ってみると、問題はない。やはり体の関節の様子からして、長時間寝ていたのだ。そうだ、家で倒れたのだ。自分は何か病気の発作に見舞われたのだろうか。それとも敵から毒でも受けたのか。いや、忍術ということもある。こんなに時間差でかけられたら驚きだが。
 まあいい、医療忍が教えてくれるだろう。

 それよりも現在の状況であった。とにかく隣の人間について確認したい。確認しない事には安心できない。
 隣にいるであろう右側のカーテンを開けようとして、腕を伸ばしてバランスを崩しそうになる。あきらめて冷たい床に降り、カーテンを開けた。



「……あ」



 目が合った。
 誰もいないベットの向こう。窓際のベットに横たわっている銀髪。左目には傷が走り閉じたままで、右目だけでこちらを見ていた。



「どーも」
「……どーも」



 数秒遅れて返事する。

 写輪眼のカカシだ。
 口元まで布団が引き寄せられていて目元しか顔が見えなかったが、逆にそれがはたけカカシであることを示していた。


 天才、変人、気難しい。


 そんな単語が脳内を駆け巡ぐり、第一印象が大切だと結論付ける。


「はじめまして、鬼火ユウキと申します。相部屋よろしくお願いしますね」
「俺は、はたけカカシ。いやはや、入院して三日も起きないからどうしたもんかと思ったけど目が覚めてよかったね」
 

 三日間ずっと寝ていたのか、そりゃ体も疲れるだろう。
 なかなかいい人そうでよかった。


「俺みたいなおっさんが同室でごめんね? 何だか風邪が今流行っているらしくてベットがいっぱいらしいのよ」
「なるほど。でも、おっさんなんてそんな、五、六歳の違いでしょう?」
「……え?!」

 笑いながら答えると、びっくりした反応が返ってきた。




「え?」




 何かおかしなことを言っただろうか?

「俺、26よ?」
「全然若いですよ、私20になったばかりです」
「……君、20歳なの?」
「はい」


 しげしげと顔を見つめられる。更には左目も開いて見つめられる。年齢で写輪眼を使われるとはどういうことか。
 何かおかしいのか、自分の病院服を確認して異常に気づく。




 胸が、ない。




 どうやら自分はきちんと目が覚めきっていなかったらしい。
 眼をつむり、体のチャクラをきちんと回して、脳に血液を送る。深呼吸もして、それからもう一度目を開けると、やはり胸がなかった。



「え」



 急いで腕、足を確認する。
 傷がない、というか小さい、細い。
 
 まるで、


「鏡ならそこにあるよ」

 言われて壁に鏡があることに気づく。
 己の足ではないような小さい足を一歩、鏡の前に近づけ、そして見つめる。
 右を向き、左をむき、手を振ってみた。
 見慣れた、いやそれとも懐かしいはしばみ色の大きな瞳と、特徴的なきりとした眉。しかしそれらは今朝見た時よりも位置やサイズが若干違う。




 ……ああ、うん。
 カガミニウツッテイルノハワタシ、


 ケド、





「……なんジャあ、こりゃあああああああああああああああぁああ?!!!!!」





 恥も外聞もなく、全力のシャウトをする。
 ありえねえ、まじでありえねえ。呟いてみた所で変わらない。





 鏡には小さな少女が、アカデミーを出たころの私が、映っていた。





[38585] 2:はたけ上忍のお悩み相談室
Name: クチナシ◆0a4684f5 ID:1a9eabf7
Date: 2013/10/02 15:26
「なるほど、君は本当の所20歳の成人女性であって、間違っても12、3歳の餓鬼ではないと」
「はい、その通りです」


 一日あけて、カカシ上忍に事情を話すこととなった。あの後錯乱した私の代わりにナースコールを押し、写輪眼で観た時の様子など、医療忍に事情を話してくださったのだった。彼もまた体を起こすのも辛い状況であるのに、手を煩わせてしまった。
 礼を兼ねて、その後の精密検査の結果など事情を説明した。
 というか、誰かに話さないとやってられない。


「記憶や精神はどうなの?」
「過去の記憶を照会、精神状況もチェックしましたが、特に問題はありませんでした。しかし、身体が幼くなった以上、今後精神にも影響が出る可能性があるそうです」
「本当に幻術じゃないんだよね?」
「写輪眼で確認したカカシさんが言ったんじゃないですか、幻術じゃないって」
「まあ、そうなんだけど……でも普通ありえないでしょ?」

 はい、ごもっともです。

「細胞レベルで若くなったって事なの?」
「細胞もきちんと12歳前後のものらしく、本当に若返りみたいです」
「若返り……ねえ」

 彼はその単語に何か思うところがあるらしかった。


「あんまり嬉しくないです。だって約8年の修行の成果も、胸の大きさも、全部パアになってしまったんですよ?!」

 語気を荒げると若干引かれる。
「……そりゃ、ご愁傷様」
「チャクラ量も減ってますし、マジありえないです。本当にありえないです。何なんですか、忍術でも幻術でもなくガチの若返りって。カカシさんはこういう血継限界みたことありますか?」
「見た事はない。だが、系統で言えば秋道一族の秘伝忍術に近いと思うんだけど? 要は細胞レベルでの変化、なんだから。痛みがあったって事は時空間忍術で君の時間を戻したわけではないでしょ」
 確かに、考えるならば秋道一族の倍化の術だろう。

「倍化の術の仕組みって細胞を巨大化させてるって事ですか」
「あれは俺もコピーできない。チャクラによって細胞そのものを強化、巨大化している。変化の術とは全く別系統の術だ。細胞一つひとつへの均等な配分、伝達は、彼らの専用の肉体があってこその技だ。ユウキちゃんのそれが、君自身にあるなら、君の血統もまたそうなるように最適化されているはずだ」
「外的要因ではなく内的要因を探るべきだというんですね」
「俺には外部からの忍術で、全身の細胞を変化させるなんてことがとても出来るとは思えない。聞けば、変化したのは一瞬だったんだろう? 一瞬で他人の肉体を変形させられるのは難しい」

 成る程、医療忍術は繊細なチャクラコントロールを必要とする。一部の傷を治療するにもかなりの時間を要するし、それを全身となれば半端じゃない時間がかかる。しかも倒れたのは自分の部屋で、複雑な医療忍術の為の整った設備も準備もなかった。
 いや、しかし口寄せや結界忍術でどうにかなるかもしれない。一度家に帰り痕跡の確認、そして発見者に話を聞いた方がいいだろう。

「……なんか整理がつきました。ありがとうございます。話に付き合わせてすいません。体は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。療養ついでに写輪眼の検査させられて入院が伸びてるだけだから」
「はあ、検査ですか。その眼も中々難儀なんですね」
「ま、ユウキの体ほどではないよ」

 がっくりうなだれる。
 そうですよね、突然子供の体になるなんて面白体質程ではないでしょうよ。

「あ、ごめん」
 あわてて慰められるがその私の頭に乗せられた左手はなんなんだろうか。
「私は20歳の上忍ですよ?」
「ん? でも、女の子じゃない」
よしよしという手を止める気配はない。完全なる子ども扱いだ。
「セクハラです。監査に訴えます」
「ごめんなさい」
 そう言うと、大人しく手を引っ込める。



「早く退院して身体の調子を確かめたいところですが、まだ出ていない検査もありますし暇ですね」
「俺は明日には退院だからね、もし暇なら本貸そうか?」
「え」
 そういって差し出されたのは18禁本だった。カカシ上忍の顔みると、ニコニコと悪意は全くないのが受け取れる。

「……ありがとうございます、カカシさん。気が利きますね」
「いーのいーの」

 私だから別にいいが、これは他の女性にしたらかなりのセクハラになるだろう。
「……カカシさん、結構天然ですよね」
「んーそうかな、ユウキもかなり天然だと思うけど」

 確信する。
 間違いない、この人は天然のボケ体質だ。おかしいとは思ったのだ、いくら私が後輩とはいえここまで会話が弾むなんて。私のツッコミと相性が良かったんだろう。

「カカシさんは本当に話していて飽きない方で助かります。今度お礼に呑みに……あ」
「うん、行けないね。外見年齢12歳だもの」
 もう酒は飲めないのか……。あと、8年も。
 これはかなり凹む。
「ああ、落ち込まないで、ね! そうだ退院したら快気祝いに一緒に飯食いに行こう!」
「ありがとうございます。本当カカシさんは優しいです」
 変人だとか思っていて申し訳なかった。確かにちょっと天然かも知れないけど、気さくだしいい人だ。

「ああそうか、ということは新しい服も買わないといけないんですか。面倒です。ここまで小さい支給服もないでしょうし」
「だろうね、ホルスターとかも体にあわせたのを揃えないと」
 本当に面倒くさい。

「これで忍術まで下忍レベルに落ちてたら、また一からDランク任務に回されたりして、本当に笑えないです」
「Dランク面倒だもんね」
「いえ、私護衛任務ばっかりやってるんですけど、それに比べたら全然面倒じゃないですよ」
「へえ、護衛任務が得意ってことは長期任務ばかり?」
 意外だったらしい。

「そうです。護衛任務って長期になるとスケジュールが組まれるじゃないですか。私、最近そういうのばっかりで次の次の依頼まで決まっていて、あんまり待機所には寄り付かないんですよ。だからカカシさんとは今まで逢ったことがなかったんでしょうね」
「ふーん、予約で埋まってるとか優秀じゃない」

「どうなんですかね? 確かに護衛は探知やら戦闘やらが必要なんですけど、それ以上にコミュニケーション能力が必要なだけな気がします。私に回される依頼人、癖がある人ばっかりなんですよ。絶対狙ってますよね、絶対押し付けられてます」
 このハプニングのせいでその予約は全てキャンセルとなるだろうが。

「俺そう言うコミュニケーションが必要なのは苦手だからな。護衛だとしてもビジネスライクな依頼主か、危険なニオイする奴ばっかだな」
危険なにおいとは依頼主がややこしい奴だろう。情報が伏せられていたりして面倒な奴だ。
「うう、さすが木の葉一の稼ぎ頭、言うことが違います」
「ま、俺もそう仕事を選んでられなくなるだろうけどね」
「どういうことです?」
「上忍師になって下忍を持つことになったんだ。つまりはそういうコミュニケーションが必要な依頼ばかりになるだろうよ」
「子守、お手伝い、護衛……それに下忍の子とも連携とれるように気を配らないといけませんし」
「面倒……」
「言っちゃいけません。上忍師になることは名誉なことなんですから」
「まあそんな仕事だったら下忍に任せても大丈夫でしょ。要は俺、監督だし」
「せこい、せこいですよカカシ上忍」
「だってさ、そうでもしないと休みとれないって。絶対同時並行でSとかAランク任務入れられるもの」
「ああ、看板忍者でしたね。憐れ……」
可愛そうな目で見ると、憐れむなと嫌そうな声で返される。

「そうしてまた疲れて入院するんですね。ご愁傷様です、差し入れはコミュニケーションに関する本にしておきます」
「そんな差し入れはいらない。というか、入院すると決めつけるな」
「さっき看護師さんに聞きましたよ。よくチャクラ切れで入院するらしいじゃないですか。しかも退院したら即任務とか」
「……恐るべしコミュニケーション能力」




 そのまま結局夜まで馬鹿な話をしていると消灯時間になった。
「それではカカシさん、私はあの怖い看護師に怒られたくないので寝ます。他の病室にも迷惑ですし……今日はありがとうございました」
「俺も入院中退屈しないでよかったよ。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」




 薄明かりの中、遠くで誰かが呻く声が聞こえる。
 身体の問題は何も解決されてないし、何も分かっていない。それでも落ち着いて眠れていたのは、はたけカカシが理由であることは明らかだった。


「もうちょっと入院してくれたらよかったのに」


 窓から気配を殺して去っていくのを感じながら、また穏やかな眠りにつく。



[38585] 3:最後の頼みは火影様だった
Name: クチナシ◆0a4684f5 ID:aa875a91
Date: 2013/10/07 15:59
 カカシ上忍に貸してもらった『イチャイチャパラダイス』を4回読み終わる頃にはありとあらゆる検査、というか探知タイプが試されていた。

 日向一族の白眼曰く、
「チャクラ量は平均より少し多い程度。忍びとしての鍛錬によるチャクラ変換率の高さが視れる」
 要は、普通の忍びの範ちゅうを超えてはいないと。

 山中一族曰く、
「さすが上忍とあってタフですね。ああ、戦争を体験したのか。まあ、そうなるよね」
 その後知り合いの話で盛り上がり、なぜかお菓子を貰った。

 尋問部曰く、
「嘘をついてはいない。自白剤を使うか? 中身はともかく身体は子どもだからおすすめはしないが。腐っても上忍だから情報をとろうとしたら廃人は覚悟しないと。……ああ、もしかしたら子どもになったせいで痛みへの耐性は無くなっているかもな。試してみないと」
 中指を突き立てておいた。




「退院していいぞ。その代わり退院後、君の診断結果を火影様に報告しおいたから。指示を以降仰ぐ……あ、何か分かったら教えてくれ。面白そうだから」

 散々いじられたあげく医療忍から聞かされたのはそんな言葉だった。酷い、酷過ぎる。
 健康であるとの太鼓判を頂き一週間世話になった病室を後にする。休暇を貰ったと思って、と言われたがこんな理不尽な休暇があってたまるものか。



 執務室のドアを叩く。

「入れ」
「失礼します」

 手元の書類をみつめる三代目の姿があった。ふむ、と言うと仰々しくパイプに火をつけ始める。

「ユウキよ、お主の両親について何か思い当たる節はないか?」
「何も。父は幼い頃両親をなくしていましたし、母は一般人でした。そしてそれ以上のことは知りません」
そうか、と呟く。確認のために聞いたのだろう。

「悪いが敵からの術の可能性も考え、お前の部屋を調べさせてもらった」
やはり、カカシ上忍が指摘したとおりだ。
「が、残念ながら何も出なかった」
「わかりました」
 しょうがない。

「もしかして私は鬼火ユウキではなく、全く別の子どもで、記憶を移し替えられただけ、ということはありませんか?」
「何か心当たりが?」
「この状況を説明できる仮説の一つです」
 事実であるはずないと思うが、それでも状況から推測できる仮説だ。
「それはありえんと知っているだろう」
「……はい」
 姿形は変わろうと、自分は鬼火ユウキだと確信がある。三代目の眼差しは、それを捉えていた。

「儂も文献に当たってみたが、この状況を打開する情報は得られなんだ。分かるとしたら綱手や……そのあたりだろう」
 一瞬言葉が詰まったのを、敢えて見逃す。
「すまんがお前には現状維持となる。定期的に検査して様子を見る。また、お前の任務だがすべて他のものに変わって貰った。はっきり言ってその肉体でどこまで身体が動かせるのか分からんのでな。上忍にその身体での適正を見てもらい、その上で任務を言い渡すことになるだろう」
「了解しました」
「うむ、ずっと病院にいて体もなまっているだろう。準備をし、明日その上忍に適性を見てもらう」
「はい」
 今日中に体を調整しておかないといけないな。

「それと……」

「なんでしょうか?」
 言いよどんだ火影を催促する。大丈夫だ、こういう状況は予測できていたし、覚悟はある。



「孫の木の葉丸にあったら、仲良くしてやってはくれんかの?」



 ……は?

「いやはら、同い年くらいであやつのやんちゃに付き合える忍者がいなくての、ちょうどお前ぐらいであったらいいだろう」
 いいことを思いついたというようにしきりにうなずいて納得している。
「あやつも可愛い女子だったらさすがに話も聞くだろう」
 ホホ、と笑う糞爺ぃに軽い殺気がわく。お前も同じか。私は二十歳の成人女性だといっているだろう。しかもかわいい系くノ一じゃない、クールビューティー系くノ一である私に対する侮辱だ。

「分かりました火影様。木の葉丸様に会ったらやんちゃに付き合っておきましょう。ええ、仲良くなって見せます。お楽しみにしておいて下さい、火影様」

 全力の営業スマイルをかまして、執務室を去る。
 あと、裏で笑っていた暗部の奴、てめえもぜってぇ許さねえ。
 鬼火ユウキの処刑リストに二人が載る。



 この時、三代目火影にして猿飛木の葉丸の祖父、猿飛ヒルゼンが世紀の大噴火を起こし、鼻血の海に溺れることが決まったのだった。



[38585] 4:本を返すときには、感想もそえるべし
Name: クチナシ◆0a4684f5 ID:63257a83
Date: 2013/10/02 15:29
 陽は高く、もうすぐ昼時になろうかとしている。読み返しすぎていい加減セリフを覚えそうになっている本を閉じて呟いた。

「……遅い」

 既に約束の時間から2時間以上が経過しようとしている。ありえない、人間としてこの遅刻はありえない。マジでありえない。私も上忍、能力を見ると言うなら少なくとも特別上忍以上になる。そんな立場ある人間が遅刻するなんて、心当たりは一人しかいなかった。


「いやーごめんごめん、道に迷ったおばあさんがいて」


 木の影から銀髪の男が現れる。
「はたけ上忍、遅刻理由は正確に述べてください。それは嘘でしょう」
「ホントだってー」
「任務が長引きましたか? なに忙しいのに私の様子見なんて用事入れてるんです。また入院したいんですか?」
 そういうと胡散臭い表情をひっこめ、困ったような顔をする。

「ユウキちゃん、もしかして感知タイプ?」
「一応、索敵範囲は恐ろしく狭いですが」

 ふーん、と何かを納得したようにいう。
 里の稼ぎ頭がなんでこんな任務をしているのか。てっきり暇なものに割り当てられると思ったのに。情報をあまり流失したくないのか、それとも事情を知っているはたけ上忍に話が行っただけなのか。

「いや、元々は昨日で終わる予定だったから今日入れてもらったのよ」
「もしかしてはたけ上忍が?」
「ま、話聞いて気になってはいたのよね」

 バリバリの実戦派だと思っていたのだが、意外にも探究者の側面もあったらしい。まあ、千の技も覚えていればそうなるか。

「あ、そうだはたけ上忍、この本ありがとうございました」
 そう言って手に持っていた『イチャイチャパラダイス』を返す。
「ああ、どういたしまして。どう? 面白かったでしょ」

 邪気のない笑顔で18禁本の感想をきかれる。
 ……ああ、こういう人だったなこの人は。

「ええ、大変面白かったです。男の純情さと女の身勝手な女神っぷり、そしてそこにどうしようもない癒しを見出すまでの男の心の機微が良く描かれています」
「ん、良く分かってるねー」
「私は女の性格があまり好きじゃありませんでしたが、こういうのもいいかなあとは思いました」
「そうかな?」
「絶対この女は、自分で自分に酔ってます」
「そうかなーかわいいじゃない」
 意見の相違である。

「これが男性と女性の読み方の違いって奴ですかね」
「ふーん……なるほどねえ」
 うんうんとうなづいている。



「あ、それじゃあチェックどうします? 手合せでもして、さっさと終わらせましょう。はたけ上忍は帰って寝た方がいいですよ」
「俺は大丈夫よ。それじゃあ、ん、そーね……そうしよっか」
 そう言って、彼はずり下がった額あてを上げる。そうして左目の傷と、その赤い瞳を晒す。

「本気って事ですか」
「ま、ユウキちゃん強そうだし」

 多分、私のチャクラの調子も見るつもりだ。
「この目、あんまり燃費よくないからさくっといくよ?」


「……了解ッ」


 瞬間、
 全力でクナイを撃つ。






+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++






 カカシは自分がかなりの手練れを相手にしていることを感じていた。

 突然、雷遁を帯びたクナイが飛んでくる。よく見れば、雷遁を帯びたせいで、その効果範囲が異様に広くなっている。

 が、カカシは冷静に体をひねるだけの最小限の動きで避ける。

 しかし、



「土遁・土流槍!」



 カカシがクナイを避けている間にユウキは印をきり終わり、辺り一面に身の丈はあろうかという土の槍が生えていた。

 速い。

 すぐさま飛び退く、がすでにクナイを構えた状態でユウキが接近していた。空中で同じくクナイを構え、ユウキの攻撃の衝撃に備える。が、彼女は斬り合うことなく体当たりでぶつかってきた。

 まさか、



「火遁・豪火球の術!」



 彼女の身体で死角になった位置から特大の豪火球が迫る。
 つかさず雷遁で影分身を振り払い、影分身を踏み台にして攻撃範囲から逃げ切る。

 が、

 影分身に豪火球が届いた瞬間、影分身がはじけ飛んだ。
 起爆札を仕込んでいたのだ。一体いつやっていたのか?


「やってくれるじゃない」
「そーでしょ」


 ユウキはニヤリを笑って見せる。戦闘狂の気もあるのか。
「接近戦にはもちこんでこないのね」
「私と貴方ではリーチやウェイトに差があり過ぎます。そこに持ち込んだら終わりでしょう」
「でもそれって、チェックにならないんじゃない?」
「そっか」

 すると、再びクナイを構え低姿勢でつっこんでくる。
 体格の差を活かして、足元を狙うつもりなのだ。
 
 既に体に十分慣れた様子の彼女に、無駄口をつむぐ。











 結果としてこの危険な手合せは、彼女のギブアップで終わることとなった。
 曰く、

「うっかり足痛めた」

 らしい。



 途中までかなりいい調子で進み、顎をユウキの爪先がかすったときだった。なんでも、元の身体のノリで思いっきり蹴り、空ぶったのだ。

「すんごい、情けない凡ミスです。マジ恥ずかしいです」
 確かに上忍にあるまじきミスだ。
「しょうがないでしょ、変化の術とは違って本当に身体が小さくなって、筋肉も細くなってたんだから」
 足を抑えながら、顔をゆがめる。

「それにちょっとチャクラ量の配分も間違えまして……ちょこっと疲れました」
「総量に違いがあるし、」
「いえ、そこの違いもあるんですけど筋力が減って、それを補うために一回一回の蹴りにチャクラコントロールでめちゃくちゃ威力あげてたんですよ」

 スタミナがない、ぼそりと呟くと地面に手をついて落ち込む。
 うん、分かるよ、その気持ち。
 よしよしと頭を撫でてやる。

 しかしなんだろうか、
 右目で落ち込む少女の姿を観察する。
 前から思っていたけど、この子落ち込み安すぎじゃないだろうか? いや、これはこれで面白いんだが。


「で、どうでしたかはたけ上忍」
 落ち込むのはもう終わったのか、頭の手を振り払いさっと起き上がり何事もなかったかのように話し始める。

「うん、忍術はいい感じだったけど。駄目だね、体術」
「……はい」
「前がどうだったかは知らないけど、ウェイトがないせいでどうしても足のスプリンターに頼っている。だから足で威力を作れない、突然の動作に対して威力がない」
「そして空中からの蹴りとかが、ウェイトがないせいで軽かったでしょう」
「ヒット&ウェイにもってくしかないね、鍔迫り合いになったら間違いなく負けるよ」
「はい」
「そして何より問題なのは動きがぎこちない」


 言い終わると彼女はハア、とため息を吐く。
「これは任務が諜報系か内勤になりそうですね」
「あとはB級、C級かな?」
「飲まないとやってられないですよ。はたけ上忍……呑みに行きましょう」
 最早自棄だという表情を言っている。

「だからユウキちゃん、未成年でしょ」
 が、その言葉が怒りの限界だったのか、始終一定のトーンだったユウキは語気を荒げる。
「未成年じゃありません! 二十歳です! 大人の女性なんですッ!!」

 突然立ち上がったかと思うと、印を組む。




「変化!!」




 何に変化するかと思うと、ボン、という音と共に煙の向こうに現われたのは、見た事のない、はしばみ色の瞳と黒い癖のあるショートの女性だった。黒の支給服に上忍ベストを着ている。


「……え、ユウキちゃん?」
「そうです!これが本来の姿なんです!」
 声もほんの少し深くなっている。



「え、なんか変」



 思わず本音がこぼれた。
「酷い、酷過ぎます……」
 あ、完全に不貞腐れた。地面にめり込むような勢いで項垂れている。

「いやほら、俺ユウキちゃんの子どもバージョンしかみたことなかったから」
「変って言うのは子どもの姿で大人みたいなことしゃべっているさっきの私のようなことを言うんですよ!」
 自覚はあったんだな。


「悪かった、俺が悪かったから。ね、呑みに行こう?」
 彼女の精神はどん底まで落ちている。回復するにはこれしかない。

「この前退院祝いの約束したし。変化してお酒の量も抑えれば大丈夫でしょ?」
「うう、……はい」
 何とか起源を直して貰えたようだ。

「俺これから報告に行くから、今晩ね」
「でもはたけ上忍、任務明けで疲れてるんじゃ」
「大した任務じゃないし、仮眠もとるって」
「……分かりました、絶対ですよ? また遅れたら許しませんからね?」
「ハイハイ」
 苦笑してうなづく。


 これは絡み酒になりそうだな。



[38585] 5:酒の入った女子会の話を男は聞かない方がいい
Name: クチナシ◆0a4684f5 ID:41d04da5
Date: 2013/10/02 15:32
「あ、ごめん俺ちょっと急な任務入っちゃって、ごめんね?」


 居酒屋に入り、開始30分でこれである。
 いくらしょうがないとはいえ、酷すぎないだろうか。


「分かりました。カカシさん。アルコールは一応少しは入ったんで気を付けてくださいね」
「ありがとうね」


 プロである彼に余計なひと言かも知れないが、声をかけると優しく返される。式の持ってきた紙をその場で焼きながらすまなさそうに微笑む。


「埋め合わせは必ずしてもらいます」
「げっ」


そう言いながら、明らかに割り勘には多いだろうお金を置いて去る。


「じゃあね」
「はい」







 ……そうして一人で居酒屋に残される私。
 実の所居酒屋に一人でいるのは初めての経験だった。いつもは複数人か、一人で飲むときは酒を買って家で呑むだけだ。微妙に緊張しながら、壁のお品書きを見る。


「ねえ、そこのあんた!」


 自分に声をかけたらしい女性の声に振り返ると、みたらし特別上忍がいた。

「わたし、でしょうか」
「そうよ、あんたよ。あんたカカシにすっぽかされたんでしょ! こっちに来なさいよ」

 この押しの強さ、めんどくさいタイプだ。
 大人しくカウンターの席からコップをもって彼女のテーブルに移動する。もうひとり座っていたのは上忍の夕日紅だ。

「みたらしじょ……さん。ありがとうございます。初めまして」
呑みの席で階級呼びは不味いだろう。
「おやー、私の名前を知っているとは、お目が高いわねー鬼火ユウキちゃん? アンコでいいわよ、アンコで」

 腕を首に回され引き寄せられる。
 親しいのはいいのだが、こう、首筋がゾワゾワするのはどうしてだろうか。

「私を御存じでしたか」
「みたことはなかったけどね、上忍になったのに上忍待機所に一度も来たことがない奴って噂になってたわよ?」
 一応何回かは行ったことがあったのだが。

「護衛任務の予約が詰まってまして、それの消化で手いっぱいだったんです」
「一年も? 売れっ子なのねーあんた」
「またの名を器用貧乏ともいいます」
 ちょ、ちょっとアンコさん、頬を指でつっつくのはやめて下さい。あと頸動脈をなぞるのもやめて下さい。

「セクハラよ、アンコ。悪いわね……紅よ」
 いい人だ。会釈を返す。
「……それにしてもカカシがさしで呑むなんて珍しいわね。どういう知り合いなの?」
 まあこんな私が一緒にいるのは確かに不自然だったろう。

「ああ、実は入院中同室だったんですよ」
「またあいつ入院してたの?」
 入院しまくっている話はどうやら看護師だけではなく広まっていたようだ。

「なんだ、恋人じゃなかったのねーつまんないわー」
「アンコ、他人で遊ばない」
「それはないです。カカシさんはタイプではないので」
 ないな。寧ろ彼は、
「キッツーっ、容赦ないわね」
「恋人タイプではないって話ですよ。ウマがあうというか」
「ウマって、アイツと? 入院中なに話してたの?」
 なに話していただろうか。馬鹿な話しかしていなかった気がする。

「そうですね……本の話し、とかしてました」
 すると、二人の表情が変わる。

「もしかして、あのエロ本の話しじゃないわよね?」
「イチャイチャパラダイスですか? 暇つぶしに貸してもらって読みました。でも、話してたのはどの本が面白いか、とかそう言う話です」
「あいつ、アレ以外読んでたの?」
「博学でしたよ、カカシさん。思想書とか経済書にも手を出してましたしね」
「へー、ホントに色気がないわね」
「それも詰まるところ任務の為ってのが特に面白いですよね」
 ハハハ。


 そんな訳でカカシさんをあげつらい、弄り、どうでもいい彼の恋愛歴を肴に酒は進んだ。有名人は大変である。


 が、私も同時に着々と危険水域に達そうとしていた。



「ユウキ、大丈夫?」
 紅さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「ええ、ちょっと酔ってしまったようで。お二人は大丈夫ですか? 明日は任務とか」
「大丈夫大丈夫。私は午後からだし」
「明日の任務に差し障るまで飲んだりしないわよ」
「……そうですか」

 全然大丈夫じゃない。
 主に、酒の量が。

 横目で談笑する紅さんを観察する。
 一体何なんだこの人は? ザルというかワクだ。いやもう枠すらないかも知れない。火竜殺しをロックで3杯も飲んで全く酔っていないだと? 対忍者用最終兵器ともよばれている火竜殺しを素面で、まるでチューハイか何かのように飲んでいる。そのスピードと強さにこっちは合わせるわけがない。任務に差し障るまで飲まないって、一体どれだけ飲めば差し障るのか。

 それに、アンコさんもアンコさんだ。
 彼女は火竜殺しをさすがにロックで呑めるほど強くはなかったらしい。薄めて飲んでいる。
 しかし、問題はその薄める内容だ。

「いやーホント練乳と合うわねー」

 何故だ、何故懐から練乳のチューブが出てくる。しかもその肴が口寄せした団子ってどういうことなんだ。分からない、気分が悪い。
 これを紅さんはよく一緒に飲めるかと思ったら、巧妙に視線が避けていることに気づく。慣れていやがる。

「すいません、ちょっと酔ってしまいまして。明日は任務ですし今日はお暇させて頂きます」
 立ち上がろうと膝をたてるとふらりとする。
 このままでは変化が解けてしまう。


「あらそうなの? 残念ね」
「もっといればいいのに。次呑むときはこの分も呑むわよ!」
 残念そうにまた火竜殺しを煽るふたりを見て、その時は誰かもう一人生贄を用意することを心に決める。


「分かりました。その時はお手柔らかに、失礼します」



 揺れそうになる体を何とか誤魔化して店を出る。
 数歩歩いて気づく……ヤバい。

 動いた途端、酒が身体をまわり始め一気に体が熱くなる。体が小さいせいで特に早い。変化が解けるのも時間のせい。いや、もう解いていいか。それよりも家に帰ることを最優先に考えなくてはならない。

 酒の量もきちんと調整して呑んだはずなのに、身体はいつも以上に熱く。頭はぐらぐらと揺れていた。

 月のない、暗い夜道をふらふらと少女が歩く。








++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++










 波が、襲ってくる。

 この感覚は知っていた。



 高熱に浮かされ、心臓の鼓動一つでさえ頭痛と共に背筋から体を襲うアレだ。もしくは、痛み止めの麻酔で失神しそうな痛さなのに、全然変に痛くないアレだ。

 そしてこれは、数日前、あの時に味わった痛みの欠片でもある。

 関節どころかどこもかしこも痛いはずなのに、妙に鈍い。ギチギチとまるで水の向こうから音が聞こえるようにきしむ音がする。

 痛い。
 痛いというかくすぐったい。

 身体を全く動かさず、眼球だけを動かすことで投げ出され自分の右腕が視える。
 青いチャクラだ。チャクラが眼に見えるまで密度を見せ、そして自分の中をかき回していく。
 いや、それだけじゃない。自分の頭の中でさえぐちゃぐちゃなままだ。酒か、それともこのチャクラのせいか。


 あの若返りはこういう風になっていたのか、と靄のかかった思考で思う。


 高密度の痛いようなチャクラが私の体を改造していく。
 こうして、私の体は小さくなったのだ。
 これ以上小さくなるとしたら何歳か。



 嫌だ。

 そう思う。



 嫌だ、また子供になんかなりたくない。
 無力な子供など。
 その為に必要なことは幾らでもしたし、努力もした。諦めもした。その諦めて選び取ったものさえ私に捨てろと言うのか。私の人生を否定しろというのか。


 理不尽だ。


 意味も分からず、力を奪われる。
 乗り越えた時間さえもこうして奪われる。
 いや、奪われたんじゃない。
 踏みにじられるているのだ。

 体じゅうをアルコールでは覆い隠せない痛みが回っていく。


 嫌だ。
 こんなのは許せない。


 酷い、酷過ぎる。


 視界はいつの間にか揺れていて、頬を涙が伝う。








 ――その時だった。









「今から君に幻術をかける。痛みを抑えるためだ」



 男の声が聞こえる。
 低くて、張りのある声。
 安心して、何とか小さくうなずき返す。刻一刻と痛みの波が襲ってきていた。



「木遁・沙羅双樹の術」



 途端、あたりに鼻の涼しく甘い香りと、白い花びらがちらちらとまるで雪の様に舞い散り始める。幻術に掛かり、チャクラが乱れているのに 不快感はない。

「一体このチャクラは何なんだ?」

 不意に体に浮遊感を感じて、自分が今抱えられ宙にういているのを感じる。
 重い瞼をなんとか開ければ、焦点が合わないものの、青白い面とその独特の服装から暗部だということがわかる。

 
……違う。


 何とか考える。青白いのではなく、青白い光に照らされているのだ。それも下から。
 視線を下に探らせると、ようやく光源が何かわかる。

 私だ。

「な……んで……」

 身体が青白い何かで覆われている。
 まるで燃えているかのように、それは揺らめいている。



「もうすぐ病院へ着く!大丈夫だ!」





 そうして全てから遠ざかり、真っ暗になる。







[38585] 6:変人ダサ眼鏡と変人医療忍者
Name: クチナシ◆0a4684f5 ID:722e2266
Date: 2013/10/03 01:51




「またこの病室か」



 今度は時間をとることなくむくりと起き上がる。が、何だか身体が重い。あの痛みの後だ次に起こるとすれば、12歳から更に8歳若返ったということか。


「今度は4歳児だった……り……」


 言いかけた言葉を閉じ、下を向いて、絶句する。





「ある」





 胸があった。

 我が愛しのCカップがこの手のひらに帰ってきていた。手のひらも見れば、傷だらけの武骨な手が。17の時に負った右手を貫かれた傷もちゃんとある。中指のクナイだこも、全部。
 あんなに恋い焦がれ、それでもなくなっていたマイ・ボディが帰ってきていた。



「戻ったのか?!」



 ベットから飛び降り、前と同じ病室の鏡の前に走る。




「もどッ……た……?」




 疑問形になってしまうのは、何故か髪が伸びていたからだ。
 戻る、成長すると同時に髪が伸びたのか? いや、髪が伸びたのなら爪だって伸びるはずだ。どうして髪だけ。いや、髪だけなのか?

 すぐさま体じゅうをチェックする。



 結果、

・最新のブラを使って量増ししていた偽装Cカップから偽装が取れていた。
・腰から太腿にかけて大きな刀傷、しかも古傷が増えている。
・腕と足に黒子が増えた。
・クナイだこの他に刀を握ったと思われるタコが出来ていた。
・1cmほどだが身長も伸びている。

 そして、肌年齢が落ちている気がした。

 以上のことが分かった。


 これは、もしや……




「老けました?」




 言おうとしていたセリフをとられる。
 すぐさま自身の最高スピードをもって手元にあった枕を確保、病室入口付近にいる標的に向かって投擲。



「うるさいよ、腐れ変人暗号部が!」



 着弾確認。



「ふごっ!?」



 忍びなら避けられるはずのものに顔面からぶつかり、くノ一にあるまじきダサい声を上げている。ボサボサの頭に瓶の底みたいなダサい眼鏡。間違いない、腐れ友人のシホだ。


「いきなり見舞いにきた友人になんてことをするんですか! ひどくないですか!」
「いきなり老けたなんていう奴が友人の訳ないでしょう。貴方は友人じゃなくて、ただの友人のダサ眼鏡だ」
「なんなんですか、ただの友人のダサ眼鏡って! 結局友人なんじゃないですか!」


 鋭い切り返しである。さすが若くして暗号解析班に入っただけのことはある。天然なのに、ツッコミ体質なのだ。


「ホント悪かったですよ、一週間部屋に詰め込まれて解読してたんです。それでやっと家に帰ったかと思ったら、ユウキさん倒れて担ぎ込まれたって聞くし、見舞いに行こうとしたら退院してまた入院って……ぶっちゃけどういうことなんですか」

 ぶつぶつ呟く言い訳は、気落ちしている。


「ああ、心配かけて悪かった。数少ない我が友人に連絡ぐらい入れておくべきだったよ」
「そーです、そーです!」

 久しぶりの知り合いとの会話に安心する。
 色々あって、自分が不安だったのだとわかって苦笑する。


「それよりも、シホ。私、年取ってる?」
「はい、ぶっちゃけ、大人の女性?って感じになってますね」


 老けた……いや、年をとったのは事実のようだ。コイツはなんだかんだで洞察眼はある。それが老け……大人になったと言っているのだ。事実だろう。さっきまでは12歳で大体8歳くらい若返っていた。だとしたら逆に8歳年をとったとは考えられないだろうか。


「……28」


 全く想像の出来ない領域である。これが28の私?
 
 鏡を見れば、確かに大人という感じがする。メイクをすれば紅さんみたいな感じに仕上がるんじゃないだろうか?
いや、それはともかく一つ分かったことがある。
 この一連のご機嫌な若返り事件は若返ったのではなく、ただ単に若いころの体に“なった”だけで、若返ったわけではない。そして今、8年後の体に“なった”のだ。


「シホ、私はかなりご機嫌な状態なんで、今から担当医の所に行く。道すがら教えるよ」
「ユウキさんの“ご機嫌”はかなり面白いですからね、伺いましょう」


 こういう自分の嗅覚を信じ、誰これ構わず好奇心を優先させる。そう言う所が変わらなくて安心する。自分が馬鹿みたいに落ち着いていられるのも、不本意ながらコイツのお陰だ。後でご飯でも奢ろう。





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++






「それで、今度は8年後の体になったと」
「いえ、実際の年数は分かりませんが」
「どうでもいい、その位だろ?」

 この医者はどうしてこう適当というか、投げやりなんだ?
 この死んだような目、やる気のない仕草。妙に猫背な所。それに前々から気になっていたのだが、医療忍なら皆つけている髪の毛をださない頭巾やらをつけず、支給の忍服の上に医療忍と書かれた白衣を羽織るだけである。
 今更だが、この人は大丈夫なんだろうか。



「処置なし」

「え」



 
「病気でもなんでもないってことですか?」
「ああ? 病気と言えば病気だし、その症状は病気じゃないと言えば病気じゃない」
「屁理屈じゃなないですか」
「貧血を病気というか? 体質っていうか? それと同じだ」

 確かにそうだが、なんだか納得がいかない。
「おかしなところと言えば、お前の細胞をちょろーっと調べたが、どうも細胞レベルにおけるチャクラの伝導率が異様にいい」
「燃費がいいってことか」
 今までチャクラの量が多いと思っていなのだが、それはどうやら違ったらしい。


「それともう一つ、細胞がチャクラによる影響を受けやすい不安定な状態だ。で、もうこの里にはお前と似たような症例はなかったから、俺もちょろーっと他里の文献を漁ったわけだ」
「さすが医療忍、いい仕事しますね」
 感心するが、即座に担当医は否定する。

「ハ、調べただけだ。……で、この細胞レベルでの変化、っていう所に着眼すると一つ思い当たるところがあった」
「いたんですか、私と似たような人か」
 どんな面白人間だ?



「霧隠れ忍刀七人衆、鬼灯満月の水化の術だ」



 ……本当に面白人間の集まりだった。



「水遁系の術ですか」
「読んで字のごとく、身体を自由に水にし、そして元の状態に戻す。水を吸収することで巨大になったりしたらしい」
 まあ、秋道一族の術よりはそれらしい気もする。

「じゃあ私は雷遁系ですし、雷化の術、ですか?」
「知らねえよ」
 おいおい。
「言っただろ、思い当たるって。そのレベルだ。比較するにも元のデータがない。……しかも、鬼灯一族はもうほとんど断絶してるらしいな」
 それで処置なし、打つ手なし、か。それにしても、


「詳しいですね」
 一介の医療忍がここまで知っているものか?



「大蛇丸先生のデータの中にあった」
「それって」
「禁術書だ」


 簡単に肯定して見せる。


「だからあんた、これを迂闊に他人に言うなよ? 俺の首が飛びかねないし。……更に言えば大蛇丸先生は随分その鬼灯一族にご執心だったみたいだ、下手したらあの外道忍者がお前のデータを収集しに来るかもな」
 あの三忍にして今やS級犯罪者の大蛇丸が? ぞっとしない。

「他の医療忍に聞いて意見を」
「今の所俺以上に情報をもっているのは里にはいない。綱手先生か大蛇丸先生に聞いてみることだな。あの人だったら喜んでお前を解剖するだろうよ」

 特に、医者の言うセリフが実感がこもっていて怖い。この医者より、もっと性格が悪いのだろう大蛇丸とは。先生、あの人というあたり、そのことをよく知っているのだろう。

「でも、わざわざ大蛇丸のデータまで探って頂いて、ありがとうございます」
「別に礼は言わなくていい。結局ほとんど変わっていない。もしあんたが鬼灯一族みたいな特異体質だったとして、それだけでは突然8年後になったのまでは説明がつかないんだよ」
 それでも、他の医療忍だったら、ここまで出来たとは思はない。


「俺も気になるから、俺の趣味と暇つぶしの為に、あんたは犠牲になれ」
「やっていることは素晴らしいのに、セリフで台無しですね」


「ま、そういう訳で俺の所に回されたんだ。俺が担当医っていうのには、それなりに意味があるんだよ」

 この40代のおっさんが、医療忍としてどれほどの腕があるのか証拠など何もない。近術所にも無断で手を出すモラルの人だ。それでも、この人で良かったかと思う。正確には問題があるが、それでもプロ意識というものを感じさせた。




「そう言えば、先生のお名前を覗っても?」
「蝸牛カブリ、マッド医療忍だ」



 その後細胞やら血液を採取され、何か変化(面白いこと)があったら報告することと、定期的に診察に来ることを約束して帰された。




 診察室の前には待たせていたシホがいた。

「昼ごはんは鰻にしましょう! ……あ、それでどうでしたか?」
 順番が逆だろう。

「そうだな。担当医様曰く、良く分からないが何となく他里にそれっぽい術があるからそれじゃね?と、私の細胞が少し燃費がいいこと。それと彼が有能で変人だということだな」

「へえ、誰ですか?」
「蝸牛カブリって人」
 途端、隣を歩いていたシホが足を止める。

「どうした? 知り合い?」
 尋ねると眉根を寄せて眼鏡を押し上げる。
「ユウキさんって本当に面白い人たちと知り合いになりますよね」
 それは暗に自分も面白いことを認めているのだろうか?

「知っているの?」
「以前一度、仕事でお会いしたことがあります。医療忍にして尋問のスペシャリスト。人の心より今は医療が熱いと暗部をやめた変人。噂によれば、あの森乃イビキさんの師匠でもあるらしいです」
「そ、それは……」
 変人だ。いや、下手したら変態かもしれない。

 ひきつっている私を見てシホはご機嫌に微笑む。



「担当医が有能でよかったですね!」




[38585] 7:初心なくノ一、未来ある少年を利用する
Name: クチナシ◆0a4684f5 ID:c16b1f48
Date: 2013/10/04 21:18
「それにしても聞けば聞くほど、どこぞのお話しですか、って感じですね」
「このエロボディが?」
「いえ、それはどうでもいいです。そうじゃなくて、助けてもらったって話ですよ」
「ああ、そっちね」
 団子を食べながら答える。
 結局鰻重を奢らされたうえ、団子まで奢ることになった。



「名前を聞いたらどっちも暗部の人だと。礼を言いたいけど暗部じゃどうしようもないね」
「でも、探し出すつもりなんですよね?」
 その言葉に顔を顰めてシホを改めてみると、やはりビン底眼鏡で表情はよく分からない。
「どうしてそう思う?」
「そう顔に書いてありますよ」
「……まあね」
 記憶はかすかだし、最初倒れた時に関してはほとんど記憶にない。それでも、と思うのだ。


「……まあさ、こうして忍びなんかやってるとヤバくなって、仲間に助けられるてのは結構ある。だから珍しいことじゃない」
 お茶を飲みながら、時間をかけて、言葉を紡ぎ、わざと論旨をずらそうとする。が、慣れた手であり彼女には意味はない。


「それでもユウキさんは会いたいんでしょう?」
「……うん」


 そう、そうなのだ。


「なんだかな。痛みを軽減させるために幻術を使ったんだけど、偶然通りすがったただの忍者なら、酔って体も動けない状態の私が激痛で死にそうだったなんて、一見しただけでは分からないはずだ」

 そうつまりは、
「一回目も二回目も助けたのは同じ人だと?」
「そうじゃなきゃあの対応の早さを説明できない。それにそうじゃないとしたら、彼は医療忍術をかじった人間か、感知タイプで、発作の状況について何か見ている可能性がある」
「それが逢いたい理由ですか?」
「そう」
「……なんか嘘くさいですね」
 苦しい言い訳。いや、こじつけだ。嘘ではないが、本当のところあいた理由はそうではない。友人は敏感に見抜いていた。

「……ハア」

 一息入れる。上手く言葉に出来るだろうか。

「病院に運びながら大丈夫だ、って言ってくれたんだよ。よく見えなかったけど、優しくて落ち着いてて、それから低い声で」
「ははーん、惚れましたか」

 だからあまり言いたくなかったのだ。

「そう言うのじゃない。だけど、久しぶりに……その、ほとんど十云年ぶりに、その抱き締めてもらったわけだよ。不覚にも」
「で、惚れたと」
「そうじゃないって! いや……」

 尻すぼみになってしまう。
 そういう好きになるとか、恥ずかしいことに関してあまり自信が持てない。助けてもらって、それから自分はどう思ったのか。


「と、とにかく! 私は顔を知られていて、向こうの顔は知らない」
 そうだろ。
「きっと相手は私を見る度に『あ、俺が助けた奴だ』とか思う訳だ? 何だかそれてムカつく!みたいな?」
「ツンデレ似合ってませんよ。ユウキさんは、サバサバのドライ系か思ってたんですが、案外ベタベタのかわいいキャラだったですね」
「やめろ、かわいいとかやめろ」
 思わず鳥肌が立つ。

「超カワイイですよユウキさん。初恋ですか、初心ですか」
「初恋でもなければ初心でもない」
「今の話を聞いていましたが、どこの恋愛小説だっていう乙女な思考回路でしたよ」
「やめろ、乙女とかやめてくれ」
「そんなユウキさんの一目ぼれ?一声ぼれを成就すべく、友人として全力でサポートさせて頂きます」
「シホ、恋愛事とか興味ないだろ。悪いがお前の協力は」
「恋人に不足したことはありませんよ」
 偉そうに胸を張られても、どうせ相手は暗号部の奴らだろ。

「因みに今の彼氏は四つ年上で、警備班の人です」
 はあああああ?!!!!!!
「嘘だろ?! 私と同い年だと?!」
「そこそんな驚くところですか?」
 ダサ眼鏡の癖にこいつ、できる。

「おやおや、顔に余裕が消えましたね。もしかして恋愛事に関しては私の方が先輩?」
 にやけた顔が非常にうざい。
「うるさいよ、そんな暇なかったんだよ」
「まあ、ユウキさん仕事一筋でしたからね。いいじゃないですか、まだ20ですしこの数年の遅れもここで取り返せますよ」
「上から目線がマジでムカツクな」
「悔しかったらその暗部の方を彼氏にする事ですね」
「だから、別にそうと決まったわけじゃないって」
「ねえちゃん、暗部がすきなのかコレ」
「だから好きと決まったわけじゃ……って君」
 いつの間にか隣の席から会話に参加していた団子を頬張る子どもを見返す。


「誰?」


 そう聞くと彼は大見栄をきって答えてくれた。


「よくぞ聞いたなコレ! 里一番の天才忍者にして、いずれは火影の名を継ぐ男、猿飛木の葉丸、だコレ!」


 ……これは火影様がおっしゃっていた、孫の木の葉丸、だろうか。名前もだが、中々個性的な口癖、個性的なファッションに身を包んでいる。
 隣を見ると、シホは全く無関心にお茶を啜りだす。餓鬼には興味ないというか。どうやら一人でこの子に対処しなくてはならないらしい。


「暗部なんてやめとくんだなコレ! あいつら馬鹿ばっかだぞコレ!」
 酷い言われようだ。しかし、馬鹿と言い切るあたり、もしかしてイタズラになど付き合わされたのかも知れない。
「君は違うと」
「そうだぞ、コレ」
 偉そうである。
「だから、火影になると?」
「そうなんだな。いずれあのジジイを倒すのだコレ」
 火影様が仲良くしてやってくれというのはそう言うことか。
 

 ……なるほど。


「具体的に倒す戦法とかはもう練ってるの?」
「せ、戦法?」
 木の葉丸が明らかに動揺している。

「君の志は素晴らしい。が、計画性がまるでなっていない。一流の忍者なら、まずは相手の弱点を分析し、そこを突くことを考えるべきだ」
「なるほどな」
 意外にも素直である。

「でも、ジジイの弱点なんかは知らないぞ、コレ」

 分かっていないな。火影様にとっては正しく、この貴様こそが弱点なのだ。ならば私はその弱点を利用するまで。
 火影命令の“仲良くしてやって欲しい”を遂行し、かつ火影様には痛い目にあって頂こう。

「ならば見つけるまでだ。対象を絶えず観察しろ。見つけるまでべったり貼り付け。何か嫌いな食べ物はあるか? 好きな食べ物は? 苦手なもの、癖などはないか。いつもと違う反応をするが、表情が変わるはずだ」
 自身が弱点であると理解するのはおそらく何年も先だろうな。
「もし弱点になるような技があるなら、それを徹底的に分析し、使う。それだけでも大いに優位な立場に立てるのだ」
 結構根性がありそうな餓鬼だ。この調子だと恐らく数日間は火影様に昼も夜もべったり尾行するに違いない。かなりのストレスになるだろう。


「……参考になったんだなコレ! この俺の将来性に着眼するとは、ねーちゃんってばいい女なんだな!」

「ぶっ!!!」

 後ろでシホがお茶を噴出している。覚えてろよ。


「それは光栄だな。ならお礼に一つ教えてやろう」

 こんな事では生温い、更に手の付けられない餓鬼にしてやる。

「君のような歳の男がそんな言葉を使ってもませてるとしか思われない。子どもなら子どもらしい、相手に期待される言葉を返すべきだ」
「俺は子どもなんかじゃねーぞ!コレ!」
 案の定反論が返ってくる。


「中身はともあれ、君のお爺様は君を子どもで、子どものような反応を返して欲しいと思っている。わかるか?」
「なんとなく」
「例えば、だ、潜入任務で敵に近づくとき、対象は従順な女が好きだったとする。なら私は従順な女らしい態度や反応を返すのだ。そうすることで相手は気を許し、隙を生む。そして私はそこを狙う」
「それって卑怯なんじゃ」
「実力差や不利な状況を打開するための技術だ。例えば私は体術タイプなのに相手に幻術タイプだと思わせられたら、強い相手でも勝てるチャンスが出来るかもしれない。その応用だ」
「なんだかすごいんだなコレ! 家庭教師も教えてくれなかったんだなコレ!」

 だろうな。

「ならば!……えっと……」
 何かを思案しているようだ。



「ありがとうな! おねーちゃん!」


「……ッ!!!!!???」



 満面の邪気のない(ように見える)笑顔。それにお姉ちゃん呼び。クリティカルヒットだ。もてあそんでやろうとしたのに、こちらが遊ばれたということか。
 落ち着け、落ち着くんだ。素数を数えて落ち着くんだ……素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字……わたしに勇気を与えてくれる。

 数秒後、

「……君、できるね。パーフェクトだ、木の葉丸君」
「へへー」
 素直に照れてやがる。年相応な反応をすれば可愛いのだ。

「そう言えば、ねーちゃんの名前は何なんだコレ?」
 ああーこれは不味いな。教えたのが私だとバレるのは良くない。

「名乗るほどの者じゃない」
「なんか途端に怪しいんだな、コレ」
「おっとそうだ、シホ。そろそろ仕事があるんじゃないか?」
「強引に話をずらそうとするなんて隠し事か、コレ?」
「完全にあやしまれてますよ」
 シホがニヤニヤしている。



「あー木の葉丸君。私は一応木の葉の忍で、打倒火影様計画に加担したとバレると立場上非常にまずい訳だ」
 これでいけるか?
「下っ端は大変なんだな。俺がジジイを打倒するまで絶対に言わないんだなコレ」
 大丈夫だった。

「理解があるようで助かる。私のことは鬼火と呼んでくれ」
「鬼火ねーちゃんありがとうな、コレ」
 ……クッ!!
 無意識だと更にポイントが高い!!


 なでそうになる右手を抑え、心を鬼にして言う。
「何をしている、そうと分かれば早速調査に行け」
「分かったんだなコレ! じゃーな! ねーちゃん!」 
 そう言って彼は長いマフラーをなびかせて去っていく。



「最低ですね、ユウキさん」
「黙れ。これは復讐なんだ」
「復讐は何も生みませんよ」
「ああ、後悔ばかりだな」
 遠眼鏡の術で観られていないことをひたすら願うばかりだ。



 
 この短い邂逅は後に木の葉丸が兄貴分に教えを乞う事に繋がり、火影ヒルゼンの弱点=お色気という事実を幼い木の葉丸に刻みつけてしまうきっかけにもなる。
 そしてまた、おいろけの術の発展に『イチャイチャパラダイス』完読者鬼火ユウキが手助けをしてしまうフラグでもあった。



<続く>



[38585] 8:鍛えたはずなのに、存外に弱かった
Name: クチナシ◆0a4684f5 ID:42a1d68d
Date: 2013/10/08 13:45
「いいか、二度あることは三度ある。わかるな?」
「また身体がどうにかなるって事ですよね」
 突然よばれた診察室で、この不可思議な症例の担当医、蝸牛カブリと向かい合っていた。




 ついに来た。




「そうだ、次は36か20か、はたまたは全く関係ない年齢になるか」
「はい」
「先ほど精密検査の結果が出た。結果、あんたは何の忍術もかけられた様子はなく、自身の特異体質の暴走によるものだと結論が出た。最近の勤務状況を見ると任務のつめこみで心身共に相当のストレスがかかっていたはずだ。それが、何らかの影響を与えたのだろう」
 出来事だけ見れば、そうだろう。



「つまりはただの体質だ。が、体質は改善することがあっても回復することはない。恐らくだが、一生これに付き合うことになる」
「……はい」



 大丈夫、全然大丈夫だ。足や手が吹っ飛ぶより全然致命的じゃない。全然マシだ。



「大丈夫だ」



 内心を見透かされたようなタイミングに、うつむいていた顔を上げる。
 カブリは、不遜な微笑を浮かべ、眼は自身満々だった。

「あんたの忍人生をここで終わらせねえ。治せないなら、慣れるまでだ。耐えられないなら、耐えられるよう改造でもしてやろう。発作と考えず、血継限界の発動と考えな。……だったらあんたはこれからまだ成長できる……断言してやるよ」
 ニヤリ、とまるで悪だくみをするような、こんな笑顔が出来る人だったのか。この笑顔が作ったものか、真偽を判断することは出来なかった。いや、どうでもよかった。

 それに、と今度はお茶らけたように担当医は続ける。
「未知の血継限界、研究者としての血が騒ぐ。俺はこう見えても、元は拷問・尋問部隊の副隊長で人の心理のエキスパート、伝説の三忍、大蛇丸先生に師事していたこともある」
 馬鹿だ、貴方はこういうことを言う人じゃないだろう。
「このエリート医療忍者様が、あんたの糞面白体質、使えるようにしてやんよ」



「……ハ」



 ここで終わりじゃない。ここからだ。今までのことは何も無駄じゃなかった。これからも続けられる。これからも私は、忍びのままだ。





++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





「いいか、あんたがまた発作を起こった時の為の、痛み止め用の幻術だ」
 そう言って巻物を渡される。

「視界に入るだけでOK、効力は一度きり、発動した瞬間文面は消える」
「薬じゃないんですね」
「体が大きくなったり小さくなったりするんだぞ? そんな所に麻酔なんか打ったら失明するかもな」
 よくよく考えれば、最早迂闊に薬も飲めなくなっていたのだ。
「また火竜殺し飲まなくて助かりますよ」
「あんた、あれを? 酒の趣味悪すぎだぞ」
「私には先生と違って付き合いって門があるんです」

 要約いつもの茶化した対応が出来る。身体が大きくなったせいか、動揺していたせいか、いつものルーティーンのような対応が出来ていなかったのだ。
 反論には嫌そうに、そうかい、とあしらわれる。

「ならそんなお医者さまからもう一つプレゼントだ。行先は俺行き、俺直行の愛の式だ。恋文なりSOSなり飛ばせ。地の果てまで往診に行ってやるよ」
 そう言ってもう一つ巻物を渡される。
「……ハ、もしかして真心こもった手作りだったりします?」
「まあな」



 なにがマットだ。
 ようやく落ち着いた精神がうっかり揺れそうになるのを感じる。
涙もろくなってるんじゃないか。

「ありがとうございます、カブリ先生」
 巻物を握りしめたまま、頭を下げる。

「よせ、俺は医者だ。忍だ。人を助けるのは義務だし、自分の体が思い通りに動かない恐怖は知っている。医療忍だったら誰だってする」
「それでも、救ってくれたのは貴方だ」



 今まで何度も助けられてきた。
 命の危機に瀕したことはいくらでもある。それでも、救われたことはなかった。弱っている心を、小さなことで救い上げてくれるのだ。これが白衣の天使って言う奴かだろうか? こんなおっさんだが。

 想像以上に弱い自分を知って、弱っていた。
 カカシさんに相談するだけで心が軽くなって、誰か酒を飲むだけで楽しくなって、シホと話すだけで落ち着くことが出来、この医者と話すだけで紛らわせた苦しい気持ちを洗ってくれた。

 心を鍛えるために体を鍛え、身体を鍛える為に心を鍛えていた。そのバランスをあっけなく崩されて、ここ最近はずっとグラグラだった。いつも以上に馬鹿みたいな自分になっていた。このままでは忍びではなくなってしまう、と思った。
だが、私は未だに忍びであり続けた。


 ――強い忍びであり続けるには、鍛えるだけじゃダメなのさ。


 かつての担当上忍のセリフを思い出していた。あれは才能のことを説いているのかと思っていたが、そうでもなかったらしい。



「カブリ先生」
「あ?」
 かっこいい医者モードは終わったのか、いつものだるい態度に戻っている。


「もっと強くなりますよ」


 忍に、とは言わない。




[38585] 9:シカマル、怪しげな女に遭遇する
Name: クチナシ◆0a4684f5 ID:fcc28a8b
Date: 2013/10/20 21:47
 木の葉の下忍、奈良シカマルは母親からのお使いで、親友の家の前まで来ていた。



「すいまーせん、シカマルでーっす」



 しかし、誰かの気配があるのに出てこない。チョウジやチョウザさんはともかくおばさんが出てこないというのはおかしい。チョウジはいくら朝とはいえ、いまだ寝ているのだろうか?

「おーい、チョウジー」
「はーい」
「?!」

 予想外の声に驚く。
 高い、女の声。
 明らかにこの家の者の声ではない。何年も前から親友の家には遊びに来ていたし、他の秋道一族の者にも何人か会ったことがあったか、少なくともこんな声をするような人はいなかったはずだ。
 ドタドタとチョウジらしき足音が慌てふためく音と、何かを言う声が聞こえる。
 驚いていると、目の前の引き戸が開く。


「お、おはようシカマル」
「おう、おはよう」

 だが出てきたのはチョウジだった。しかし口の横には飯粒がついており、心なしか冷や汗らしきものもかいている。明らかに何かを隠して慌てている様子だ。

「なあ、チョウジ。誰か来てるのか?」
「ん? んー……そ、それよりどうしたの?」

 どう見ても言動がおかしい。
 微妙に遅い朝、こんな時間に朝飯を食っているチョウジも怪しい。いくらチョウジが大食漢とはいえ、基本的に規則正しい時間に食べる。それに、コイツのことなら普通飯時を邪魔されたことで一言くらい言うはずだ。
 ていうか、さっきの声は何だ?

 訝しげに挙動不審の顔を見ると、その問題の声の主が現れた。


「チョウジ君……あれ、お客さん?」
 そう言ってチョウジの後ろに、同じ年嵩ぐらいの見知らぬ女が現れた。
 黒いアンダーを着ている。恐らく忍びだ。

「……こんにちは」

 とりあえず会釈をする。すると、ああ、と何かを納得したような反応をする。

「こんにちは。奈良……君……かな?」
 どこかで逢っただろうか。いや、俺の容姿をみて奈良一族だと判断しただけだろう。

「チョウジ」
「えっと……」
 チョウジに紹介を促すと、困ったように目を泳がせる。紹介だけに、どうしてここまで困るのか。
 観察していると、尽かさず女はチョウジに助け舟を出す。

「はじめまして、鬼火という。チョウザさんの元で指導してもらっている一介の忍びだよ」
 ニコニコと、無害そうな表情で笑っているが胡散臭い。個人情報をほとんど渡していない。
「へえ、まだアカデミーなのに大変だな。俺は奈良シカマルってんだ」
 皮肉交じり指摘してやると、困ったような反応をする。


「こう見えても中忍だよ、私は」
「……は?」


 何言ってるんだ?
 確かに同じくらいの身長だろうが、それでも俺より少し低いくらいだろう。単に背が低いという訳でもなく、見た目も本当に俺と同じくらいなのだ。なのに、中忍、だと? この少女が?

「本当なんだ、鬼火さん……とっても強いんだよ」
「へー」

 さん付け、ね。
 どうやらその実力に問題はないようだ、少なくともチョウジはそう評価している。

「で、シカマルは用事があって来たんだろう?」
「ん? ……ああ、これ、かーちゃんがおすそ分けにって俺に持たせたんだ」
 風呂敷に入った肉を渡す。

「うわ、ありがとう。かあちゃんも喜ぶよ!」
 目の前のこの微妙な空気を忘れ、チョウジは純粋に喜んでいるようである。
「おばさんは?」
「買い物」
「おいおい、お客を待たせておいてお前は飯食ってていいのかよ」
 指摘すると女がフォローしてきた。
「しょうがない。私が朝の稽古を長引かせてしまって、チョウジ君は飯をくいっぱぐれてしまったんだ」
「そうだよ! 朝食は一日のはじまりってね!」

 話が食事のことになり、いつもの調子をここぞとばかりにとりもどす。やはり、何かこの鬼火とかいう女はおかしい。
 “稽古を長引かせた”だと? ということは、秋道一族の稽古に参加していた、もしかしたら術の稽古に参加していたことをも示す。そんなことは普通ありえない。
 奈良と同じく、秋道家が持つ秘伝忍術、倍化の術は、特化・洗練された体質と、それから一族が隠し伝えてきた術の継承があってこそだ。いのの術もそうだが、フォーメーションの練習はすれど、個人の術の研鑽は個人かもしくは親につけてもらっている。そういった術の鍛錬に他の一族の人間を巻きこむなど、普通はありえない。

 そう、つまりは普通ではないということだ。

 まずは一族の総意もそうだし、外から頼むとしても強力なコネ、もしくは強力な圧力がないと無理だ。それこそ、火影の命令のような。
 だが、それだけで術の秘匿に命を賭ける旧家に術を教えるなどするか?
 日向程ではないとはいえ、旧家は術の秘匿にはうるさい。それを侵害されたとなったら他の旧家さえ黙ってないだろう。どこかが手始めに侵害されれば、こちらも同じ目に遭うかもしれないのだ。
 つまりは、旧家を全て了承させた? 少なくとも秋道、奈良、山中、言わずもがな猿飛家を了承させなくてはならない。つまりはそうする価値がこの鬼火という忍びにはあることだ。そんな人物が一介の忍びであるはずがない。


(めんどくせぇ)

 面倒事のフラグだ。
 隠れていればいいものを、この女はわざわざ接触してきた。

「ちょっと冷蔵庫にしまってくるね」
 この雰囲気から逃げる為なのか、それとも純粋に戻っただけか、玄関先に俺とこの女を残してチョウジはいってしまう。
 めんどくせぇ、散歩にでも誘おうと思っていたのに。


 この雰囲気を和ませるためにも口を開く。
「鬼火さんは」
「やだなあ、鬼火でいいよ」
 ニコニコとした態度を崩さない。こちらが年上で上下を気にしているのを上から目線で制止する。完全に下に見てる。
「……なら、鬼火で」
断ると思ったら残念だ。
 こんな交渉術で男が女に負けるわけにはいかねえだろ。

「その歳で中忍ってのはすごいっすね」
「若くないって、幼く見えるだけで」
 年上か。ぼかす話し方をする。

「それにチョウザさんか直々に教えるとか、将来有望なんじゃないっすか」
「はは、そんなんじゃないって。頭下げて頼み込んだだけ。チョウザさんが心優しいひとで助かったよ」
「そうすっか」
ちょうどよく、チョウジが戻ってきて話が途切れる。

「ああ、チョウジ君。私は片付けてからお暇させて頂きます。また明日」
「わかりました」






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 チョウザさんの家で予想できたとはいえ、シカクさんの息子さんに会えたのは驚いた。そっくりだ。一発で分かった。きっとシカクさんが幼い時はああいう感じだったに違いない。
 下手に情報を流すわけにも行かず、わざと情報の出し惜しみをしてみたら見事に予想しついてくる。が、心理戦には問題のないもののポーカーフェイスに関してはまだまだのようだった。しかしそれも、優秀のようだからそのうち克服するだろう。


「それにしても、つい、見栄を張ってしまった」


 歩きながら反省する。
 恐らくあの少年は私がとんでもないバックがいるように思っているだろうが、実際は違う。命令を拡大解釈し、無理やりねじ込んだだけなのだ。無論、言った通り頭を下げまくったが。




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~数日前~



「お前は今不安定な状態にあり、しばらくは近隣、もしくは里内の任務、サポートにまわってもらう」
「はい」
 火影の執務室で拝命を受ける。
悔しいがこの不安定な状況では重要任務につけるはずはない。分かっていたことだ。
 だが、しかし、と火影は言葉を続ける。

「優秀な忍を遊ばせておこうとは思わん。今は経験を積む大事な時期でもあろう。危険度は低いからと言って気をゆるませるな」
 私の扱いをよく御存じだ。
「能力について大蛇丸が狙ってくる危険性はカブリから聞いておる。上忍鬼火ユウキは故障者リストに登録する。また、もう一つの姿については、中忍として別のコードネームで動いてもらう」
「同期の人間には顔がばれていますので、親戚ということにします」
「良かろう、そのように報告書を作る」
「ありがとうございます……それからもう一つお願いが」
「なんだ?」
 自分にはツテというものがほとんどない。故に、火影様にかけるしかなかった。

「恐れながら申し上げます。至急、私を秋道家に弟子入りさせてください」
「ほお、大きく出たな。猿飛家である儂に、協定を破れと?」
「その通りです。私はその協定よりも大切なことがあるので」
「……血継限界の発現の可能性のことか?」
 視線が突き刺さるのを感じるが動じてはならない。

 確かにその理由もある。現在の所、この身体を変化させるという点において有用なアドバイスが貰えるのは秋道一族だけだろう。
 が、それでも“弟子入り”というのは尋常ではない。
 忍びとは己の忍術を血族以外に明かしたりはしない。それはいくら温厚と言われる秋道家においても同じだ。それを火影経由という絶対命令で頼み込むのは無礼であり、怒りを買う。下手したら協定を結んでいる猿飛家に不利益さえこうむるかも知れない。
 なのに、厚顔無恥にもお願いしているのだ。

 が、それでもここで引くわけにはいかない。

 正直言って、修行など一人でも出来た。しかし火影様の言う通り、経験値を、今この時期に積まなくてはならない。何の手がかりもなく血継限界の発現など修行すればそれこそ何十年とかかるだろう。だからこそのお願いなのだ。直感的に、今ここで留まっていたら自分が忍びとして腐っていくのを感じた。
 身体が自由にならないから、だから弱くなってしまった。
 そんな言い訳をもっているわけにはいかない。それに、この前決意したのだ。強くなると、強い人になって恩を返すと。


「……はい」
「それだけか?」
 重い威圧がくるが、ぐっとこらえる。
「……後は、個人的な理由です」
「……そうか」
 ぐっと、頭を下げる。それしか今は出来ない。
すると、火影は緊張を緩める。

「良かろう。まだ見ぬ血継限界を使いこなし、一刻も早く戦線に復帰せよ」
「御意」



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 これは明らかに元担当上忍の悪癖が映ったのだろう。見栄を張る、目立ちたがり、いつも抑え役だったのに自分がなってどうするのか。
久しぶりに昔を思い出していた。やたらと好戦的なあの上官は元気でやっているだろうか。そう言えば、息子もチョウジ君と同じくらいではなかったか。

「まずい……」

 非常にまずい。鬼火の名前がどこからか洩れたらややこしくなる。
 というより、あの上官が押しかけてくることは間違いなしだ。折角、火影様に偽装の忍者登録までして頂いたのに申し訳ない。まるで普段の冷静な私ではない。考えが足らない。まるで子供のようではないか。


「嘘だろう……」



その考えにサッと血の気が引いて、足を止める。
通りで突然立ち止まったのを通行人に見とめられるが気にする余裕はなかった。


 コミュニケーションが下手で、お茶らけるのは私の癖だが、それでも冷徹な自分を忘れた事はない。しかし、つい先日の行動を思い起こすと、その考えを否定するのは難しかった。

 “自身の危機に際して涙を流した”
 “病室においても、過剰に自身を話した”

 そんなことは“普通は”しない。
 笑うことはあれど涙を流さず、話すことはあれど自らを話さず、絶対に隙を見せないのが私だった筈だ。
 悔しくて泣くなんて、大変だと言って欲しくて話すなんて、……そう、もっと傍にいて欲しいなんて考えるのは弱い子供の考えだ。そんな苦労して捨ててきたものを今更拾ってこられても困る。もう大人なのだ。上忍なのだ。
 それとも、以前の20歳の私ならこんなことにも動揺せず、受け入れたのだろうか。


 わからない。


 確かめる術などなかった。
 容姿とともに精神年齢まで幼くなっているかなど分かるわけがない。一度気づいてしまった以上、私は以前のようにふるまうことに全力を払うだろうし、そもそも素で話していた人間などシホぐらいしかいない。
 肉体の変調ぐらいで精神衛生に影響が出るのはともかく、精神年齢にまで影響が出るなどたまったものではない。
 いよいよ持って秋道家の秘術をマスターする必要が出てきた。
 
 チョウザさんに言われた修行メニューをこなす為、走り出す。





[38585] 10:ある日の修行内容
Name: クチナシ◆0a4684f5 ID:c58e97e2
Date: 2013/10/28 18:54




「難しすぎるだろ倍化の術」

 昼下がりの演習場で妙齢の女がだらしなく倒れる。
 既にこのメニューに取り組み始めて数日がたっていた。先日また発作が起き、推定28歳になり、少しはチャクラコントロールもマシになるかと思ったが肉体年齢とチャクラコントロールは別物らしかった。

 チョウザさんの言ったことは簡単だった。が、言うは易し、だ。





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「いいか、倍化の術は秋道一族以外にも可能な技だ」
 そんなことを穏やかな朝もやの中で言う大柄の壮年の男。現・秋道家当主、秋道チョウザだった。

「それじゃ秘術になりませんよ」
「そうだな。言葉足らずだった。正確には、“発動可能な”忍術だ」
困惑しつつ聞き返すユウキにチョウザはそう穏やかに答えた。
 火影様の指令書と、大量の菓子折り付土下座に大らかに対応した彼は修行の時にも優しかった。

「もしかして、カロリーの話しですか?」
 秋道家が忍びとしては常道の小柄な体から外れる体躯は、その秘術が恐ろしくカロリーを喰う為だというのは有名な話だ。
「そう言うことだ。通常の忍びでも発動したあと維持できない。倍化の術というのは系統的に言えば、一種の医療忍術とも言える。桜花衝は見た事があるかな?」
「はい」
「桜花衝はチャクラを必要な部分へ、必要な部分だけ流すということを呼び動作なしに瞬間にやるという絶妙なチャクラコントロールで行われる。筋肉一本一本へのチャクラ配分を完璧にこなすが故の医療忍術といえる」
「倍化の術は、それを細胞レベルでやっていると?」
「……うーん、少し違うな、俺達はその逆なんだ。……あー、俺達は手を倍化しようとしたら、手全体にチャクラを流し、倍化する」
「それは何となくわかります。体術と同じですよね」
 桜花衝も体術には違いない。
「そう、筋肉へチャクラを流し込むということだ。だが、倍化の術は筋肉にだけチャクラを流すわけじゃない。倍化の術は本当に手の、骨まで倍化する」
「骨にチャクラを流してるんですか?!」
 骨にチャクラを流すというのは中々聞かない。

「チャクラのめぐらし方にコツがあってな。通常、チャクラをめぐらそうとすれば体の中でチャクラを練り、それを全身にめぐらす感じだろう?」
「はい」
「俺達はそれを指先だけではなく、骨から皮膚の一つ一つにあたるまで均等に流しているんだ。もっとも、桜花衝よりは少し雑だけどな」
 簡単に言うが、やっていることはすごい。
「どうも細胞一つひとつに倍化の術時のチャクラ許容限界があるらしくってな」
 多少適当にチャクラを流しても行けるということか。
「それに、部分倍化は全身を倍化する超倍化の術より実のところ危険なんだ。例えば腕だけ倍化すれば、腕が倍化した分、それだけ血管が伸びる。つまり、血が廻らなくなって手が壊死したり、貧血、最悪脳が機能停止に追い込まれる。それに適した心臓の強化が必要だったりするんだよ」
 他にも脂肪をチャクラに変換したりとか、増えた筋肉分のカロリー消費、それに対応したのが秋道家になるなと、笑いながらのたまう。

「それって、秋道一族しか倍化の術無理って事じゃないですか!」
 怖い、倍化の術怖すぎる。発動した瞬間、即死亡にもなりかねない。

「ま、そういうことにもなるな。しかし、お前さんは倍化の術をそのまま発動するわけじゃない。要は、倍化の術発動直前にまで持っていけばいい」
「なるほど」
「倍化の術は発動にこそ気を使うが、発動してしまえばコントロールは簡単だ。俺達は戦闘に慣れるためにもその発動を無意識にできるように訓練する」
「わかりました」
「ユウキには全身にチャクラをめぐらしてもらう。均等に、十分な強さで。秋道一族ではない分。その習得難易度はSランクだと思ってくれ」
「はい」
「ユウキの忍術も全身を変化させるもの、恐らくその向こうにお前の術の発動がある」





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 とは言ったものの、全く発動する感じはない。
 全身に均等にチャクラをめぐらさないといけないなら、発作が起こっているときもチャクラが均等なのかというと恐らく違うだろう。では今やっていることは無駄だからやめるかと言えば、それはできない。
 これしか今自身のタイプに一番近いものがない。発動へのきっかけがそこにしか今はないのだ。
 それにチョウザさんはあのように説明したが、倍化の術の仕組みについては、“分かっているのが”そこだけ、というだけで、実は倍化の術には他のトリックがあって発動している可能性もある。
 それを私が見つけられ、尚且つ真似できるかは定かではないが。

 しかし、全身にチャクラを均等にめぐらすという方法には納得がいった。少なくともチャクラコントロールは上昇するだろうし、身体の変化は起こせないかも知れないが、あの変化を起こしやすい状態に持っていくことは可能かもしれない。



「が、さすが取得レベルS、一朝一夕にはできないか」
 先日チョウザさんに稽古をつけてもらってから二週間は立っている。が、チャクラコントロールは上手くなっているものの発動直前にまでは至ってなかった。

 日も真上に登った所で修業を切り上げる。そろそろ任務だ。





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「さて、本日はたけ上忍の代理で第七班の班長を務める、鬼火ユウキだ。よろしく」

 眼を白黒させている下忍三人に言い放つ。


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