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[39338] 『完結』【ネタ】一流作家に俺はなる! 『ネタ的な、アンチテーゼのような何か』
Name: HR◆e89a293b ID:272dd8c9
Date: 2014/03/07 17:17


warning!

この作品は、あくまでネタです。
どこかで聞いたような名前があっても、それはどこか別の世界の話しなのかもしれません。
ぶっ飛んでいる奴がいても、気にしない。
メインキャラがDQNちゃんでも構わんよ。
そういう猛者が読むことをおすすめします。




・・・本当に、いいんですね?








・・・わかりました。

では、どうぞ。

























――――ん?

あれ、どこだここ。

「おお、済まないのお少年、うっかり事故で死なせてしもうた」

「ファッツ!?」

「お詫びとしてはなんじゃが、儂がお前を異世界へと転生させてやろう」

「マジで!特典とかあんの!?」

「おお、察しがいいのお。好きなものをくれてやるわい」

「やった!じゃあ俺、無限の財宝が欲しい!」

「おお、よかろうて、ほれ」

「やった!サンキュー神様!!」


突然、黒い穴が現れる。

「うむ、頑張れよ少年」

「おおよ!じゃあな神様!」

異世界トリップで、ウハウハになってやるぜ!!!!!

















――――これが、我が弟の書いている物である。


「・・・むふ、ぐふふ」

リビングに置かれた一台のパソコン。
そこに弟が座り、笑みを浮かべていた。
カチカチと、キーボードを叩く音がする。
弟が文字を打つのは珍しいので、後ろから近寄ってみた。


「・・・なあ、翔太」


俺がそう言うと、弟――翔太は吃驚したように顔を振り向き、俺を見据えた。

「!?って、何だ兄貴かよ。黙って傍によるなって、前も言ったじゃん!」

「いや、珍しくキーボードなんて使ってるから、何してるのかなってさ」

「ん、ああ・・・なあ、見てくれよこれ!!」

そういうと、翔太はパソコンに映し出された文章を誇らしげに俺にみせた。

「兄貴、小説って面白いな!俺も書いてみようと思うんだ!」

弟はドヤ顔を浮かべる。
スゲエだろ、俺?






――――はあ?










一流作家に俺はなる!









俺の名は、山田大樹。
どこにでもいる、三流大の学生だ。
面倒な受験が終わり、漸く念願の大学生となった。
だったらさっさと家から出てやろうと思ったが、階段で足を滑らせ骨折。そのためしばらくは実家から大学へと通う、ごく普通の男だ。
幸い大学は実家から通える距離のため、助かった。
成績は並、運動神経は下。ルックスは並。
高校の時は勢いで付き合った子が一人いた。
友達も程々で、特にいじめに関わったこともなし。
親からも教師からも心配されない、無難な人生を送っていた。




――――そんなおれだが、最近悩みがある。

弟のことだ。

現在高校二年の俺の弟――山田翔太は、ガチガチの体育会系。
中学から今まで空手をやっており、その瞬発力と動きのキレは、身内贔屓を抜きにしてもすごいと思う。
半年前から筋トレも精力的に始めたので、全身にみっしりと筋肉がつき、逞しさが前にでる。
鍛えられているためか、その眼光には力が篭り、厳しい部活に所属している者特有の目力がある。
そのため、容姿端麗というわけではないが、精悍という印象が強い。

だからか、女子にはそこそこ人気があるようだ。

そんな弟だが、最近困っていることがある。

それは――――








「異世界トリップチート勇者だぜ!」

「すごい・・・一体何物なの、あの人」

「勇者様・・・素敵です」

「俺に任せろよ、全て上手くいく」

「ああ、勇者さま・・・」












中二病を発症したことだ。
しかも、極めてまずい方向に。



上記の文章だが、あれは決してダイジェストにしたわけじゃない。弟が夢中になって書き込んだもの、そのままだ。
これを初めて見た瞬間の衝撃は、忘れられようもない。

心底楽しげに、弟は文字を打っていた。
慣れていないであろう、たどたどしいタッチで。
それ自体はいいことだ。
ああ、文字を打つということは手が文字を覚えるということでもある。
小説という形態を用いることで、自発的な言語の習得に励むというならば、それは実に望ましいことだ。
うん、そうだな。そう考えれば実に有意義な――


「くらえ!サンシャインマグナム!」

「ぐあああ!おのれ、勇者めえ」

「きゃあ、勇者様、素敵です」

転がったまおうを、俺は突き刺す。

「ふん、正義は勝つんだ魔王!」

「きゃあ、流石です勇者さま!」




有意義な――――




「おお、魔王を倒すとは素晴らしい、勇者を、わが娘を嫁に迎えてはくれぬか?」

「あああ、当然だぜ。マリーはとっくに俺のもんだ。その身も、心もな」

「きゃっ、言わないで勇者様!」




有意義な――――



「ふはは、魔王なぞ、所詮わしの下僕。この地上を制するのは、心の覇者、大魔王ぞ」

「怖いは勇者さま」

「任せろ!世界は俺が守る!」

「おお、流石ゆyしゃよ」









 ――――なわけがあるか。





会話しかねえぞ。
しかも話しが意味分からん。
きゃあきゃあ言ってる女はなんなんだ気持ち悪い。
誤字脱字多すぎだろおい。
『は』と『わ』の違いぐらいつけろよ。
ちゃんと文字打ち込めよ。変換できてなくて、意味不明な文章になってるぞ。
てか、描写なさすぎだろ。台本みたいになってるぞ。

それから、全く話しが見えん。
何故いきなり魔王と勇者が戦っている?


「――――よし!後はこれを送ればおっけー!」


――――へ?



「なあ・・・翔太」

「ん?なんだ兄貴」


恐る恐る、俺は聞き間違いだと信じながら問いただす。

「それ・・・どうするって?」

そう言うと、弟は目を輝かせてこう言った。

「ああ、投稿するんだよ。ネットにさ」



――――。




「・・・かお前は」


「え?」


「馬鹿かお前は!!」



――――うん。きっと怒鳴ったとしても許されると思う。
いや、許されて然るべきだ。












「じゃあ、どうしろってんだよ兄貴」


憮然とした様子で、弟は俺に問う。
そんな、心底意味がわかりませんというように聞かないで欲しい。


「取り敢えず・・・なんで投稿しようと思ったの?」

まずそこからだ。
俺からすれば、体育会系まっしぐらな翔太が何故そんなことをする気になったのかが気になる。

弟は、若干はにかんだように笑みを浮かべる。

「いやさ、最近友人とネット小説が面白いって話しをしてね」



なんでも、弟の友人から、ネットに投稿されている小説の話しをされたんだとか。
それで弟もたまにはと思い、ネット小説を調べたらしい。


「そしたら、そこにあるのが面白くてさ!いや本当に面白えの!俺読書は嫌いだったけど、何時間も一気に読んじまったよ!」

弟はそれ以来、ネット小説にのめり込むようになったのだとか。
あんまり読むのが面白くて、遂には自分でも書いてみようと思ったと。


「・・・成程」

話しは分かった。
実に、実に思春期特有のものだ。
創作の中で設定を作り、こっそりノートに書く。
夢の中で最強の自分を作り、やりたい放題する。

小説を書くとは、そういったものと同じ部類であることは否めない。

だけど、だ。

「書いて、投稿するつもりだったのか?」

「ああ」

俺の問いに、弟は頷く。
何の躊躇いもなく。清々しさすら感じる程に。


「ちなみに、文字数は?」

「え?」

「だから、文字数。何文字くらい打ってから投稿するつもりだったの?」

ああ~、と間の抜けるような声を弟は発した。

「特に考えてないや。取り敢えず、キリのいい所まで書いたら出そうと思ってた。てか、そんなのいちいち考えてらんないじゃん」

何言ってんの?と弟は呆れたように俺を見据える。

・・・呆れるのはこちらの方だと言いたい。

「いや、ワードの左下に何文字打ち込んでるか出てるでしょ。見てみてよ」

俺が言うと、弟は吃驚した様子で俺を見据えた。

「げっ、マジじゃん。兄貴あったまいい~!」

「・・・で、何文字打ったの?」

「えっと~。あ、536文字だわ」





・・・頭が痛い。




ワードの最低限の機能くらいは把握しておいてくれよ。


「最低でも、二千字はないとどこのサイトでも相手にしてくれないよ・・・ちなみに、どこに出そうと思ってたの?それとも自分でサイトを作ってそこに掲載するつもりだった?」

「二千字!?そんなに文字書かないといけないのかよ!?国語の寺沢が出す糞長いレポートと同じくらいじゃん?てかマジ?」

「・・・ああ。まあそうだね。で、サイトは?」


「ん?ああ。○ルカディアってとこ。なんか、かなりレベルが高いし、投稿したの気づいてもらいやすいらしいじゃん?」


・・・最悪だ。

目眩を感じながら、俺は言葉を絞り出す。


「・・・あのな。そこは確かに気づいて貰いやすい所だよ。投稿数も他のサイトより少なめだし、新しいのが見えやすい様になってる。けどな――」

一拍あけて、俺は言う。

「その理由、考えてみろよ」

俺は続ける。
何故レベルが高いサイトなのに、投稿数が少ないのか。
他のサイトに流れる人が多いのか。
それには理由があるだろう?

「いや~わかんねえ!兄貴教えて!」

あっけらかんと、考える素振りも見せず弟は言う。
その様はあまりにも自然で、全く、実に邪気がない。

・・・ったく。


「いいか。何故レベルが高いと言われているのに人が少ないのか。いくつか理由があるが、俺が思うに一番の理由は閲覧者の質だな。」

「質?」

「ああ、あそこは良くも悪くも作家に厳しいんだよ。可笑しいと思ったら容赦なく突っ込まれ、叩かれる。しかも他のサイトとは違い、あそこは感想を遮断できないんだ。だから、序盤で叩かれた人達は凹み、二度と返ってこなくなる。人気があってもアンチが多すぎて消えた作品もあるし・・・だから、敬遠する人が多いんだよ。」

「へぇえ!詳しいな兄貴。」

「・・・別に大したことないよ」

うん。全く、実に大したことはない。


すげえ、と弟は俺を見つめる。
そして、言った。


「兄貴、本当何でも詳しいよな!小説書いているかのように言えるんだから」


その目に邪気はなく、力強さがありながら澄んでいる。
心の底から思っていることは明白であり――――


俺は、頭痛を感じた。



「・・・ああ、はいはい。それよりもさ、お前今度の中間テスト――」

「っ!それ言うなって!俺はスポーツで大学行ってやる。関係ないっての!」


勉強の話しをしだすと、弟は突如焦り出す。
誰の目にも明らかな狼狽ぶりだ。

正直で素直。
それが、俺の弟だ。






――――それからしばらく雑談をし、俺は二階の自室へと上がった。

ため息をつき、ベッドに飛び込むように横たわる。

全く、驚いた。
あんなことを言うなんて。

徹底して秘匿しているから、絶対に誰にもバレてないはず。
だからなおさら、俺は弟の言葉に驚愕してしまった。

そう。
こんなこと、決して言えるわけがない。




――――ネット小説を書いている、しかも○ルカディアになんて。











・・・ちょいとスランプでしてね。リハビリがてらに書いてしまったものです。



[39338] 第二話
Name: HR◆e89a293b ID:272dd8c9
Date: 2014/01/31 22:11
砂塵が舞っていた。
大地は眠り、生きとし生ける者全てが地に伏すその闇の中、二人は立っていた。

一人は、若い男だ。
金髪碧眼の輝くような美貌。
神の祝福を一身に受けたかのような、彫像のような美しさを誇る美青年。
華美な装飾の施された鎧を纏い、造形物であるかのような美貌を憎しみに滾らせ直剣を正眼に構える。


「漸く見つけたぞ!悪鬼め!」

青年の視線の先にあるのは、悪鬼――リザードマン。
華やかさが立つ青年とは対照的に、その身に纏うは赤茶色のボロ布一枚。
全身が暗緑色の鱗に覆われ、その顔立ちは爬虫類そのもの。
青年より頭二つは飛び出ていよう巨体に、はち切れんばかりの筋肉がその異さを助長する。


「・・・クカ、漸くか人間」


リザードマンは、そういうとその両手に武器を取り出す。
両の手に一瞬光が満ちたかと同時に現れるは、巨大な――あまりにも巨大すぎる大鉈。
ただの大鉈ではない。
それは、ドワーフにより鍛えられた鋼鉄の大鉈。
幾多の強者の血を喰らい、その身に濃密な怨恨と呪詛を纏わせた呪物。
全てを喰らい尽くす、暴虐の化身。

それを振るう者もまた同じ。
好戦的なリザードマンの中においても一際血を好む戦闘民族キシュガル。その中においてなお鬼神と謳われた狂戦士、血濡れのダラン。

暴虐の体現たる彼に屠られた戦士達は数知れず。
法国の英雄リューイ。
異端者ガドルカノフ。
魔人グリマール。
地竜グリド。

そして――救世主アノス。

幾多の力ある者達を滅ぼしてきた、破壊の化身。それがダラン。
災厄を撒き散らすものも、希望を与えるものも、何も関係なく。


彼は、ずっと追っていた。
祖国を滅ぼした、暴虐を。
必ず滅してくれると、憎しみを糧に剣を振るい続けた。

彼は、ずっと待っていた。
種が芽吹くその時を。
きっと、彼が強者として自分の前に立ちふさがるだろうと確信して。
喰らいがいのある時になるまで待っていた。


そして――時が来た。

遂に、それは来た。
憎悪を胸に、心地よい殺気を発し。

ダランは歓喜に震えた。
そうだ。
こうでなければ。

憎しみを糧に戦う。
それは、実に素晴らしい。

自身の全てを、たった一つの目的の為に捧げるからだ。
その一瞬の煌めきは、至極の酒ですら霞んでしまう。


素晴らしい戦いになることをダランは直感し、喜びに打ち震えた。




さあ――――戦おう。










「っと・・・こんなもんかねえ」



打ち込んでいた手を休め、一息つく。
俺はあまり早く打ち込むことができない。
精々千文字打てば、もうそれで一休止だ。大体が夜に打ち込むので、もうそれで一日が終わってしまうことも珍しくない。

上書き保存を選択し、保存が終了したらパソコンをスリープに。
それから背伸びを一つ。


「ん~~ん。っふああぁぁぁ」


大学は始まったばかりだが、意外に忙しい。
まさかいきなりレポートの提出があるとは思わなんだ。
適当に選んだ法学部、もしかしたら意外に大変かもしれない。

今は怪我をしているからバイトもできないし、家にいるから特に不自由はないけど、治った後は苦労するかもしれない。

それにしても――と、俺は弟のことを思い出す。

あの脳筋が、まさか小説を書き出すとは全く予想外だった。
そしてその書いた内容も予想外だった。
しかもあんなものをよく投稿する気になったものだ。
俺だったら絶対に発狂してるね。

ああ、そういえばリビングで書いていたというのも驚きだ。
家族がいるんだから、あんなところで書いていて恥ずかしくないのだろうか。
全く、俺ならば発狂――って、もう二度目かこれ。

全く、最近は繰り返しが多くて嫌になる。




・・・む。そういえば弟はパソコンを持っていなかった気がする。
そもそも一日中部活漬けだものな。
土日も毎日家にいないし。
ならば、パソコンがないのも当然か。

時計を見る。
時刻は夜11時。そろそろ寝たほうがいいだろうか。
そう思っていると、いきなりバタンとドアが開く。

「なあ兄貴!ちょっとこれみてくれよ!」

「・・・取り敢えずさ、ノックしろっていつも言ってんじゃん」


現れたのは、わが弟翔太。
毎回入る前にノックをしろと言っているのに、全く改める気のないナイスガイ。

「それよりさ!これ見てくれって!」

そういって手渡されたのは、数枚の紙。


そう、ただの紙――だと信じたい。


「・・・これは?」


「俺の新作!見てくれよ兄貴!」

弟は自身満々と言った様子でドヤ顔をする。
頼むからその自身を勉学に向けて欲しい。

「どれどれ・・・」

まあ、見てくれというのだから断る理由もない。
俺は文字に目をやり――――







目にはいいたのは草原。
どこまでも続いている。

「ひゃっは――!!異世界トリップきたころえ!!」

ピンポーン!

ん?

「異世界点いおめでとうございます!!あなたはこれで勇者のなあかいりです!」


「よっしゃ!」


「ということで、あなたには転移特典がつきます」

「やったぜ!」

「それでは、異世界をたっぷりと楽しんでくださいね」

綺麗な金髪のネーチャンの姿が消える。






「・・・翔太」


「ん?何だ兄貴!」


・・・どうすればいいのだろうか。
一体、どこから突っ込んでいいのか分からない。


「まずさ、翔太はどんな話しにしたいのさ」

「どんなって・・・う~ん、リアルから来た人がチートな勇者になって、ハーレム作ってうはうはになる話し?」

「何故疑問形なのか気になるけど・・・まずはそういう発想を辞めた方がいいと思う。」

そういうと、弟は呆れたような表情をする。

「はあ?何言ってんのさ兄貴は。神様転生が今の主流だろ!?」

・・・なんでさ。


「・・・なんでさ」


ああ、つい思ったままの言ってしまった。


「あれから俺も調べたり、話しを聞いたんだよ!そしたらやっぱりネット小説って殆ど神様転生かチートかTSかだろ!?そんでハーレム作って奴隷買って惚れさせるんじゃないの?」


・・・どうしてこうも妙に的確な所を突くのだろうか我が弟は。


「いや、決してそんなことは――――」

「だってよ!一番でかい小説家に○ろうのランキングにあるのって、皆そんなのばっかりだぜ!ってことはそういうのが一番人気あるんだろ!?」


「ま・・・まあ落ち着けよ翔太」


まずい。
これは実にまずい。
誰もが陥りやすい典型的な罠に嵌ってしまっているぞ翔太!!


「まず○ろうはな、企業が運営しているからシステムが充実しているんだよ。基本無料だから人が集まりやすい。それも、経済力のない学生がな。そうなると、だ。主流となるのは若い学生達。書き手も、読み手もな。だから・・・まあ、俺の主観だけどさ、【安易】な作品が多くなって、しかもそれが好まれるようになるわけさ。」


弟は、良く分からないと言った顔をする。

「安易って、何がさ。」

「だから、さっき翔太が言ったような、転生、チート、TSだよ。手軽で誰もが食いつきやすいジャンルだから、皆が同じような作品を作る。その結果が無限のシュミラークルさ。作品は永遠に使いまわし続けられるってわけ。原典の絶対化が消え、似たようなものが再構成され続けるのさ。」


・・・意味がわからないという顔をしないでくれ弟よ。


「・・・つまり、なんなの?」


「ん~、ようはさ、皆が似たようなことをするから、ジャンルとして使い古されているわけさ。ご都合主義の権化としても名高いしね。」


「?」


「転生も、チートもTSも、実際には有り得ないだろ?楽して強くなろうったって、現実にはそんなわけがないし、性別だって易々とは変えられない。社会的な風聞もあるしね。転生なんてなおさらじゃないか。だから、翔太が書いているようなのは、ただの妄想だって叩かれるんだよそれが、ご都合主義の一例」


本当はそれ以前に、その文章について突っ込みたいところだが、取り敢えずは内容を指摘した。
弟には、俺が一時嵌ってしまった泥沼から一刻も早く抜け出して欲しい。


「・・・兄貴さ」


心底困ったように弟が言葉を発する。
なんだ。まだ納得がいかないのか?


「日本語喋ってくれよ」



・・・ああ、小説家の神様。
この哀れな弟に、理解力を与えたまえ。




[39338] 第三話
Name: HR◆e89a293b ID:272dd8c9
Date: 2014/01/31 22:30

自分でも思うが、俺は頭が悪い。
正直、深く考えるのは好きじゃない。
だからだろうか。自然と好むところは体を動かすこととなった。


今やっているのは空手。
これは、面白い。
それ以前は野球をやっていたのだが、テレビで格闘技を見てから興味が湧いた。
だから、中学でやっていた野球を辞めて、空手部に入った。


初めの半年は苦痛だった。
とにかく、体の動かしかたが難しい。
上級生が何気なくやっている動きを、いざ自分が行なってみようと思うと全く体が言うことを聞かないのだ。
とにかく違和感が前に出る。
全くといっていい程、『しっくり』とこないのだ。


野球だったら、実際に打ったり、投げたりするのは兎も角、姿勢だけならすぐに覚えられた。
だというのに、空手はその姿勢から覚束ない。


上級生が当たり前のようにやっていて、自分が全くできない。
それは、運動神経に自信があった俺にとって、初めての経験で。


それ故に、悔しかった。


悔しくて、家に帰ってからも何度も練習した。
上級生に言われたことと、彼らの動きを思い返して。
中々変化はなかった。
ドスドスと、自分でも嫌になる動き。
吐き気がした。


悔しくて、俺は何度も繰り返す。


何度も、何度も。


そうして半年が経ち、俺はようやく『しっくり』とした感触を得た。


その過程で、上級生の何気ない動きがどれほど複雑なものであったのか知ることができた。
そこからは、楽しくなった。

基礎の練習で、一つ一つの動きが分かる。
自分の体の崩れや、他の人の動きが分かる。
どこが悪いのかが、理解できる。



組手。
相手と試合形式の練習をすることで、互いの技能向上を狙うものだ。
これは、楽しい。


「――――始め!!」


審判の号令と共に、互いに構える。
互いに右利き。
左手足を前にし、腹を横にする。そうすることで相手に打たせる面積を減らすのだ。

間合いを図りながら、俺は踏み込む。

文章にすれば、たったの一行。たったそれだけの事柄が、空手では恐ろしく深く、底の知れないモノと化す。
相手の体と、眼球の動き。
気迫、雰囲気。
リーチと、動きの読み合い。
これら全てを読み合い、彼我の能力差を比較し、適切な行動を取る。

それは、まさに魔窟。
終わりのない、一瞬にして永遠の場所。
とても論理的には考えられない、感性の世界。


牽制に、左で顎を狙い打つ。
半歩、相手は下がった。

罠かもしれない。
もしかしたら、単に様子見をするつもりなのかもしれない。
もしくは、何も考えていないか。

俺は、一瞬でそれを判断する。
それは、俺の頭では言葉にできない。
もしかしたら、兄貴なら言葉にできるかもしれないが、俺には無理だ。

ただ、分かる。
これは、様子見のつもりだと。

一歩、前へ俺は出る。
体を捻り、右手を突き出す。
狙うは、再度顎。

相手は、俺からさらに半歩下がる。
そこへ前蹴りを突き出す。

『しっくり』とくる感触がある。


「――――やめ!!」

審判の声。

「技あり!!勝負あり!!」


俺の勝ちだ。
今の相手は上級生。
いつも試合に出る上級者だが、俺はこの相手にもさほど苦戦するようにならなくなった。
空手は、楽しい。
勝利と、敗北。
簡潔明瞭な結果が、俺を示してくれる。


とても、楽しい。








「・・・こんなもんかね」


あ~疲れた、と俺はキーボードから手を下ろす。
慣れない現代ものを書いたからか、妙に疲れる。

・・・いや、馴染みのあるものが多いから、あまり想像力を掻き立てなくてもいいってのはあるんだけどね。

何分俺はスポーツについては素人。
漫画や他の小説を真似てみたが、どんなものだろうか?


あ~別に小説を書くのが面倒くさくなったわけじゃない。
これは弟のせいだ。

ほら、俺が弟にがんがん言っただろう?
あんまり厳しく言うつもりはなかったんだが、やっぱりちょっと気にしたみたいでさ。あの後俺にこういったんだよ。


「じゃあ、兄貴も俺に小説見せてよ」ってさ。


まあ、巫山戯るなってのが本音だね。
誰が好き好んで自身の糞と揶揄される小説を見せなきゃならないんだって。

・・・とはいえ、その糞を書いているのも事実なので、あまり無下にはできない。
しかし、自分の書いているものを弟に見せるというのも癪だ。
そこで、弟には完全に別ものの小説を作り、見せるというわけだ。

今書いていたのが、弟に見せようと思ってるやつ。
現代学園ものの小説だね。
親近感を持たせようと思って、弟と同じ空手部に所属している男が主人公。
ちょいと変わった方向にグレている奴で、とにかく負けん気が強い。
プライドが高くて、それに見合った実力がないと自分が許せない人間。
だから、新しく始めた空手でも必死になって努力するし、実際に才能もある。
半年近くたって、上級生の中でも強い方に勝つことでできるようになったという設定。


・・・なんか、こうやると恥ずかしいな。
なんていうか、設定廚?みたいに思われてもやだし。


ほら、俺は基本設定とか深く考えないんだよね。
今書いている小説もだが、キャラありきでやってるから話しを進めながらそれに並行して設定も深みを増していくみたいな?
思わせぶりな発言をさせておいてから、その真意を作者も考え出すみたいなさ。


・・・いや、別に珍しくないだろ?
商業誌でも、結構そうやってる人いるし。
ネットなら、なおさらだよな?


そのまま伏線回収できなくて話しも止まって、ばいばいするのがネット小説の常道だろ?


ほら、FA○Eみたいにさ、取り敢えず色々癖のあるオリキャラ出しまくって、そこまでは楽勝なんだよ、きっと作者もにやにやうはうはしながら書いていくんだって。
自分のお気に入りを出してさ、他の原作では暴れまわってた奴らが吃驚するんだよね、あいつの正体は何だ!?ってさ。
で、みんなわかんないわけだよ。そりゃわかるわけないさ、ゲームの世界の英雄ですとか、異世界の英雄ですとか誰が正体見抜けるんだよ。


そういう奴らがドヤ顔して、マスターはニヤニヤ、作者もニヤニヤ。
冷静な作者様だったら、しっかりとその介入した奴らのキャラを壊さずに扱うけどね。


けどまあ、根幹は一緒だよ。
結局、皆俺TUEEEEが見たいわけさ。


・・・おっと、話しがそれた。



とにかくさ、FA○Eの場合はキャラで出揃った時点で大概止まってしまうんだよ。
悩むわけだよね。
一体、こいつらどうやって減らしていけばいいんだって。
そりゃ、そうだよな。
自分のお気に入り達が一堂に集まって、大暴れさせようったって、その死に様が想像つかねえもん。
愛している故に、殺せないみたいな?



だったら書くなって奴もいそうだが、書きたくなる時もあるさ。
まさに愛故にってね。
デ○ルムッド救済小説なんて、意外と多いだろ?




――――ああ、そういえばリリカ○な○はなんかはまた違うな。
あっちは、なんというか蹂躙ものが多い気がするな。
なんというかさ、『僕の考えたかっこいいオリ主人公』がどうしようもなくのさばってるみたいな。
神様転生で最強の力で暴れまわって、無理やり救済的なのが多いな。
は○ての家に転がりこんで、唾つけたり。
よくわからんが、いつの間にか皆に惚れられたり。
でも主人公は気づいてなくて、不沈要塞の如くみたいな。



・・・性質が悪いのは、この二つは特に数が多いことかな。


他のに比べても、発表されている数が特におおい。
もう、どうなってるんだって突っ込みたくなるくらいの量。
何千人って人が書いている。
だから、レベルの高い作品も多い。
単純に文章力だけでいうならば、一流作家並の人もごろごろ転がっている業界。


まさに、魔窟。


・・・でもな、これらってあくまでSSなのよ。


言い方は悪いけど、二番煎じなのよね。
所詮出涸らしだと、皆さん割り切っているんだろうけどさ、書いている人は。
分かってるさ。
焼き直しでも構わない。それでも書きたい。
そういう人がSSを書くんだってことは。


――――けど、それは読み手にとってはどうでもいいわけで。


面白ければいい。
結局、それだけなんだよな。


で、その面白さってのも限度があるんだよ。
いくら素晴らしい筆力があっても、構想力があっても、心情描写が優れていても、皆わかりきっているわけよ、大体の話しの流れは。


無限の再構成なんていってもさ、人間はすぐに飽きてしまう。
いくら美味しいからと言っても、毎日いくらを食べたいと思うかって話しと一緒なんだよ。


質が高くても、あまりに量が多すぎて終いにはうんざりしてしまう。
まさに飽和状態。
そんなことが、言えると思う。


この現象は、SS作品だけでなく、オリジナルとされるものでも言えると思う。
いや、むしろオリジナルだからこそか?


一つのジャンル全体が、巨大な再構成の輪になっていると思うんだよ。

ファンタジーとか、ファンタジーとか、ファンタジーとか。


ロー○ス島戦記に始まった一大ジャンルですよ。
もはや飽和していると言っても過言ではないものですよ。



・・・あ――ちょいと違うか。


厳密には、ファンタジーを利用した一大オナニ○作品か。

自分を投影した作品は好き放題やりたいから、取り敢えずファンタジーなんだよな。
ほら、現実世界を舞台にしたら、設定が大変だろ?戸籍の問題とか、どういった経緯をもっているのかとかさ。


現実世界に神様転生でヒャッハーなんてしたら、絶対にまずいことになるわけよ。
主に作者様の脳みそがゲシュタルト崩壊して。


でもファンタジーなら、俺の世界はファンタジーって感じで全て解決だもんな。
実際に神様がいるんです。
だから俺は、選ばれた存在なんですって完全に合法化できちまう。


ある意味、奇跡みたいなもんだけど、それを量産しちまうのがもはやファンタジーじゃねえか?


奇跡の大量生産なんて、もう目も当てられない事態だろ。




そう思っていたら、ドタドタと階段を駆け上がる足音。

「お~い!兄貴!」


バタンとドアを押しのけるようにして、突如姿を現す我が弟。


「やべえんだよ!マジやばいんだって!!」


・・・ああ、頭痛がする。
嫌な予感しかしない。


「・・・何が?」


やべえと連呼されても、俺にはさっぱりだ。
こちとら超能力者じゃないんだから。



「いやさ、あれから色々考えて、違うの書いてみたんだよ!やっぱファンタジーだからいけないんだと思ってさ!思い切って現代ものを書いてみた!!」


「・・・うん、それで」

背中に悪寒。
ああ、もう聞きたくないや。


弟は心底焦ったように言う。


「これはいい感じだと思ったから投稿したら、罵倒しかねえ!!」




弟よ、兄の話しは聞けとあれほど言ったのに・・・



[39338] 第四話
Name: HR◆e89a293b ID:272dd8c9
Date: 2014/02/09 12:14
「ひゃっはー!!転生キタコレ!!」


俺は飛ぶ。

「くっ、何だこいつの力・・・」

「有り得ない、その若さでもはやA級の力だと・・・」


俺はタオス。


「ぐおおおお!!馬鹿ナ、この私がぁぁぁ!!??」



「生まれ変わって出直しな!」


紙様に力を盛らってて来るんだな!!







・・・何なんだろう、これ。


「――――で、どうなん兄貴?何がそんなにまずいんだよ?」


弟の絶大な語彙スキルに驚愕し、俺は途中で見るのを諦める。

・・・わけがわからないよ。

押し寄せてくる頭痛の波に辟易しながら、俺はカーソルを左上の感想掲示板の欄へ動かす。



・・・はあ。
嫌なんだよ、露骨に感想が多かったから。
掲示板トップの欄を見ると、感想数はなんと6つ。
しかも、たった一話だけで。


いや、可笑しいだろ。
普通一話目から6人も感想書かないぞ。
とらハとか、ある意味悪名高いゼロ魔板でも、そう多くは・・・っておい、これそういえばゼロ魔板にあった気が・・・


・・・ああ。頭痛い。


いやでも、正直見たくないがこれも弟のためだ。
覚悟を決めないと。


若干の目眩を覚えながら、俺は感想欄をクリック。
そうして現れたのは、罵詈雑言の嵐。




[6]分福茶釜◆XXXXXX

どうぞチラシの裏へ逝ってください





[5]ビッツらびっと◆XXXXXX

ここはゼロ魔板なんだが?昔お前みたいなわけからん奴がry






[4]じゃんはガリ◆XXXXXX

ここはあなたの落書き場ではありません。
書きたいのならどうぞチラシの裏へ。
あ、勿論本当のチラシの裏ですよ?






[3]ミックスコーン◆XXXXXX

本当こういうの多いな。
早く帰れよマジ邪魔だから。
わかる?日本語大丈夫?
わかるならすぐ消えろ。






[2]シュガーナッツスイーツw◆XXXXXX

こういうのは如何でしょう?


自分という存在について考えたことがある。
何故自分が他者と異なるのかという点についてだ。
こんなことを書くと、きっと皆からはただの中二病だ、邪気眼だと指を指されるだろう。しかし、それは間違いなく事実なのだ。

――――転生者。言葉にするならば、恐らく私はそういう存在なのだ。

私には、母の胎内より生まれ落ちる以前から記憶があった。
しがない一人の男として生きた記憶だ。
それらをただの情報として、私は記憶していた。
だが、母より教えを受け、言葉を習得した後急速に嘗ての記憶というものを理解した。
恐らく思い出したというのは適切ではないだろう。
私は母の内にあった時から記憶してはいたのだから。


しかし、それらは曖昧なものとして私の小さな頭脳にあり、私はそれらを理解してはいなかった。
これは持論だが、[理解]とは[認識]なのだ。


これはこれである、と事物を差別化することで人は世界を作る。
それが細かい程に、洗練された文化の証であるのかもしれない。


――――とにかく、私は母から言語を獲得することで嘗ての記憶を[記憶]として理解することに成功した。


故に、私は自身を[転生者]だと断じている。



推敲なしで書いたので、荒いですが。
ネットに投稿するのであれば、この程度は書かないといけないのでは・・・





[1]ピンキージェッタ◆XXXXXX

春にはわけのわからん奴が増えるな・・・









「ったくよぉ、なんなんだよこいつら。俺が頑張って作ったのを馬鹿にしてさあ。マジむかつくんだけど」

「・・・ああ、うん」


「なあ、兄貴もそう思うだろ?ほっんとにさ、ネットの奴らってマジ口ワリーの。どうせ普段ペコペコしてるからネットの中では威張り散らしてるんだろ?」


・・・ああ、それは確かに言えるかもしれないな。


ネット世界の住人なんてのは、総じて口が悪い。
勿論全部とは言わないが、それでも現実では口が裂けても言えないであろうことを言葉にしているのは否めないだろう。

ネットでの暴言を、皆がそのまま現実で使っていたならば、社会が上手く回るはずがない。
それ程に、ネット社会でのスラング、暴言は――って



「って!いや確かにそうだけどさ。翔太の言っていることも全部が間違っているとは思わないけど!それにしたってひどいよこれ!」


そういうと翔太は、憮然とした顔をする。


「――はぁ、これだよ。全く、兄貴といいネットの馬鹿共といい、どうしてそんなに思いやりがないんだか。てかさ、ただで見てるんだから、もっとこうさ、最低限の態度ってのがあるんじゃないの?」


「いや!ネットにそんなものを求めているのが間違ってるよ翔太!!○ルカディアは小説投稿サイトなのに、翔太のは小説の形じゃないもの!」


「え~?俺の何が悪いんだよ。」


「背景の描写がないし、殆ど会話文じゃないか。誰がどういう動作をしたのかも分からないし、これで何を読め取れってのさ」


「いや、けどよぉ。本読むときに、一々背景描写とか見なくね?邪魔くさいじゃん。動作がどうっていうけど、そういうのってイメージじゃねえの?漫画だってそうだし、○ちゃんとかは皆そうだぜ?」




――――いや、確かにそうだけどさ。



「翔太は勘違いしてるよ。確かにそういう面はあるし、煩わしいと感じることもわかる。けど、だからといって皆がみんな読まないかといったら、それは間違いだよ。読まないのは単に、その人にとって読みづらいからだと思うよ。翔太だって、好きな作品はじっくり読みたいと思ったりしない?」


描写が煩わしい。
それは、結局のところ読み手と書き手、相互に問題があるのだと思う。


如何に素晴らしい作品を描いても、それを読む人に十分な読解力がなければただ面倒な文でしかなくなる。
だが、しっかりとした語彙力を備え、意味を理解している人ならば素晴らしい作品だと思うだろう。


「俺はさ、中学の時には難しくて良く分からないと途中で投げた作品があったんだよ。けどさ、高二の時にやっぱもう一度読み直そうと思って読んだら、ものすごく面白くて、一気にはまったよ。昔はダメだったのが、自分が変わることで急に読みやすくなることはあると思うよ。翔太はさ、自分の読解力の低さを作家のせいにしてないか?」


まあ、作家が妙に捏ねくりまわして婉曲な表現が多すぎたり、文章全体が読みづらいというのもないわけではない。
昔読んだ本をもう一度読み直すと、同じ作品なのに前期と後期では文章の書き方や読みやすさに雲泥の差があると感じたこともある。


まあ、結局はお互いの解釈の問題ではないだろうか。


「う~ん・・・」


良くわからんとばかりに弟は髪を掻く。



「兄貴の言いたいことは分かるんだけどさ、けどやっぱ納得いかないっていうか・・・基準が分からん」


「何の基準?」


「いやさ、昨日書店に行ったんだが・・・」


弟は語る。
書店で本を探していたら、ネット小説発信コーナーと、携帯小説発信コーナーというのがあったらしいのだ。
弟も最近ネット小説に興味を抱き始め、どんなものなのだろうかと本を開いてみたのだとか。

弟曰く、別に立ち読みをする気はなかったとか。立ったまま読むのは疲れるので、一体どのように本が書かれているのかと何冊か手に取ったらしい。

そうして開いた先にみたものは、あくまで弟の主張だが――――なんだ、俺と変わらないじゃないか。というものだったらしい。


ネット小説発というものを見てみると、○チャンネルに載せられているものを書面に移しただけで、誤字の訂正もされていない。
携帯小説というのを見てみても、箇条書きの羅列ばかりで全く大したことのないように思えたのだとか。
他にもブログの内容を掻き集めただけのものがあり、次第に確信に至ったのだとか。


「俺と対して変わらないんだぜ?どう見ても会話文しか書いてないんだ。それで延々と書かれた本が何冊もあって、累計14万部突破とか、アニメ化、漫画化決定って書かれてるんだ。それってそういうものが認められているっていう、ことじゃないのかよ?だというのに○ルカディアの奴らはよ、マジ頭かてー」


「う~ん・・・」


確かに、翔太の考えは間違っているとは言い切れない。
俺がたまに書店へ行っても、そういったジャンルは軽く目を通すが――いや、軽くしか目を通せない。
実際、出版社の格が落ちているような気がするんだよな――
取り敢えず、出させればいいやみたいな感じ。
実際の内容じゃなくて、取り敢えずネットで人気があれば拾いあげて本にしてしまうみたいな。
しかもそれらは殆ど剣と魔法のファンタジーか、それを交えた学園ものだからなぁ。
どこか似たりよったりというか、ネットで盗作疑惑が持ち上がりそうな感じでも出版させてるというか。
似たりよったりの展開とか、個人的には吐き気がしそうなご都合主義とか。


・・・恥ずかしいだろ。


異世界転移したらいきなり金髪イケメン王子様に求婚されましたとか。

異世界で黒の医者やってますとか。

ぶらぶら異世界道中やってますとか。

異世界へ転生して、もう一度人生やり直すとか。

ネット世界じゃ最強です。

オンラインゲームでデス・ゲームに巻き込まれましたがはじめからチートで無敵です。

リアルじゃ卑屈でデブな僕だけど、ネットじゃ金髪イケメンの超絶レベル戦士だぜ。

異世界、異世界、異世界。

オンライン、オンライン、オンライン。

取り敢えず異世界で好き勝手すればオールオッケーってか。

現実に目を背けて、ネットできゃーかっこいいってやれりゃあ最高ってか。



・・・いかんな、昔好きだったという黒歴史があるから、余計に反発したくなってしまう。


でもなあ、どうにも最近はひどい気がするんだよ。
みんな揃って大量生産の劣化コピーみたいな。
ロックマ○ゼ○の四天王とか、初代コピーエ○クス並ならともかく、エック○の遺伝子を用いた劣化コピーの産物だという○ンテオンみたいになっていないだろうか。


質より量を選んでいる気がしてならないんだよなぁ。


――――表紙の絵師さんが、下手な同人作家よりもひどい絵で、しかも紙のサイズがあっていないのにお構いなしみたいだったり。
普通表紙には気をつけるだろ?
表紙が可笑しいのなんて、誰が買おうと思うのさ。




――――まあ、それはともかく。



「・・・前も言ったかもしれないけど、○ルカディアは小説を投稿する場所。出版物として台本形式のものがあっても、それをあそこは認めてはいないんだよ。特にあのサイトは、なんというか他よりも細かい人が多いんだよ。質の低下を恐れてるというかさ。まあ、サイトの方針事態書き手と読み手が相互に高めあっていこうという発想だから、むしろ健全だとは思うよ。翔太はまず、内容を濃くしないと。会話だけじゃなくて、描写を増やすこと。そうしないとひたすら叩かれ続けることになるからね。うまくいかないなら、始めは別のサイトに投稿したらどう?初心者とか、文章を書くのが得意じゃないけど小説を書きたいって人が集まるサイトも探せばあるよ。あと、それは一度削除しておきなよ。きっともっと荒れるから。――――じゃ、まあ頑張んなよ」


そう言うと俺は、その場を立ち去る。
骨折しているので歩くのが面倒だが、家の中程度では支障はない。







とはいえ、翔太の場合は内容も色々突っ込まれそうだしなあ・・・

いきなりオリジナルを書くのは難しいし、始めは何かの二次創作でも書いてみたらどうだろうか。
自分の好きな作品ならば、キャラクターも動かしやすいだろうし。




・・・ふう。

やっぱりちょっと、心配だ。











指摘を受けたため、修正しました。
ご意見感謝します。



[39338] 第五話
Name: HR◆e89a293b ID:272dd8c9
Date: 2014/02/09 12:39

剣とは、何であろうか。
昔、ふと考えたことがある。

物心ついた頃に、父から戦う術を教えると言われ、手渡されたナイフ。
10歳となり、騎士団に入隊した時に渡されたショートソード。

戦うことは、騎士の義務である。
父は、そう言った。


騎士とは、土地と民草を守るためにある。
団長は、そう言っていた。



――――貴族は、田畑を耕さない。


それは、当たり前の事だった。
畑を耕し、作物を育て、実りを生むのは農民。

そして騎士は、その実りある田畑を人々を守り、その代償として上に立つ。



ノブリス・オブリージュ。



父は常々そう言っていた。
我らは生まれながらにして高貴なものであると。
高貴な者は、常に背負うものがある。それは民であり、土地である。
だがそれ以上に、我々は名誉と栄誉を尊ばねばならない。

騎士とは貴族であり、選ばれた者。
自身の命よりも大事なものがあるのだと。

そう、言っていた。



そう。





――――そう、言っていたのだ。









「・・・よし」


そこまで打ち込み、俺は一端キーボードを打つ手を止める。
相変わらず遅々として進まないが、もはや諦めるしかないだろう。


自分でいうのもなんだが、俺は本当に書き込むのが遅い。
別にキーボードを扱うのが苦手というわけじゃない。単純に頭に言葉が思い浮かばない。
別に語彙力が豊富なわけじゃないし、自分の発想が飛び抜けているわけでもない俺には、一行打ち込むのに本当に一苦労だったりする。


ある程度構想を練り上げていても、それをいざ肉付けし、小説として文章にしようとすれば、千字進めるのに三時間かかる時もある。

パソコンという便利なものがあってもこれ程かかるのだ、昔の手書きで書いていた作家達は、一体どれだけの時間をかけたのであろうか。それとも、自分のような凡俗には想像だにしない速度で執筆していたのだろうか。
才能ある人は、実に羨ましい。



「――――っよっと」



片足を引きずりながら、ベットへダイブ。
柔らかな毛布の感触が俺を包み、一抹の安堵を得る。


座りっぱなしというのも存外疲れるものだ。時折姿勢を変えねば体はすぐに硬直し、動きが悪くなる。事務職のように、体の姿勢が硬直されがちな職業もあながち大変なのかもしれない。身体的な意味で。


しかし――と、俺は先ほどの会話を思い出す。


勿論思い出すのは我が弟との会話だ。
あまりのDQNぷりに恐怖すら感じたが、以外に的確な点を突いてくるのだから馬鹿にはできない。部活でやっている空手に関してはかなりの実力のようだし、勘はいいのかもしれない。


ああそれよりも、あいつをどうすればいいか、だ。

正直あれではとても投稿させられない。
VIPに出しても叩かれかねないのではないだろうか。下手をすればネタとして掲示板に晒されかねない。


・・・しかもあいつのことだ、ネットについての知識も十分とは言い難い。
ネットの利便性も、その恐ろしさも大して理解してはいないだろう。
やはり、俺がどうにかして手助けをしなければまずい。


先ほど考えたように、何か弟の好きな作品を基にSSを書くように勧めたらどうだろうか。


弟の好きな漫画か・・・


弟の部屋にある漫画を思い出す。


「ドラゴン○ール、ワン○ース、ナ○ト、ブ○ーチ、ハ○レン、ト○コ・・・」


・・・うん、メジャーすぎるくらいメジャーな作品ばかりだな。



ハガ○ンは別にして、基本的にはどんどんインフレが進む作品か。・・・なんというか、弟の趣向がよく現れている気がする。
俺もブリー○以外は好きな作品だし、実際実力のある作者の作品だと思うけど。
あ、別に勘違いするなよ。単に趣味じゃないってだけな。
どの作者も少年誌で何年も生き残ってるってことは、並大抵のことじゃないと思うぜ。



・・・う~ん、こうして見ると、SSにするには難しい感じがするなあ。
少年誌に人気のバトル物でSSを書こうとしたら、蹂躙系作品になりがちだもの。


転生して神様からチートを貰って原作を破壊しまくって各勢力から注目されて。
そいでお気に入りのヒロインといちゃらぶしてる感じのものが多いし。


何千万部と人気の作品の割に、比率で考えると優れたSSが少ないのはなんでかね?それとも俺の主観の問題かね?


SSを書こうとする層に問題があるのかも。
とらハとか、type-moon系はしっかりした内容のSSが多いし。
こっちの業界にはコアな人が多くて、少年誌的な作品には浮き足立った感じのSS作家が多いとか?



・・・微妙だな。何も根拠があるわけでもないし。
偏見かも。



それよりも、弟をどうするかだ。
妙に負けず嫌いなとこが弟にはあるから、あの調子だとまた何か投稿しかねない。放っておいたら掲示板が炎上しかねないし、もしそうなったら最悪警察の厄介になるかもしれない。
そこまでいくとは思わないが、早めに何かしらの手段を打たないと。



――――と、そこで俺は逆の発想をする。



そうだ。



いっそのこと、蹂躙系を書かせたらどうだろうか。
弟がそういった方向に興味を持っているのだから、逆にその方向に行かせてしまうのだ。



木を隠すには、森の中。


蹂躙系の地雷作品を隠すには、地雷の溜まり場。




そういった系統の作品が集まるサイトや、ジャンルに絞ってしまうのだ。
○ルカディアに地雷を放り込んだからあれほどの罵倒を浴びたのだ。地雷まみれの中にぶち込めば、多少はましになるはずだ!


兵は拙速を尊ぶ。


早く、行動に移さねば!







「翔太、SSを書いてみないか?」


リビングにいた弟を見るやすぐに俺は問う。
ソファに寝っ転がりながら、なにやらポリポリと菓子を食べていた弟はキョトンとした顔を浮かべた。


「エスエス?・・・て何さ」


おう、しっと。
弟よ、ビギナー以前だったか。


「SSってのは、二次創作の事。二次創作ってのは、一次作品を題材にファンが作った小説のこと」



「・・・一次作品って、何さ。俺馬鹿だからわからねえよ」


しかめっ面で弟が言う。


弟よ、無知とは罪だぞ。


「一次作品ってのは、要するに出版されている漫画とかアニメのようなオリジナル作品のこと。基本的には何かをパクったわけじゃない作品だから、一次って言われてるのさ。で、二次ってのはそういったものを題材にファンがまた書き直した作品。ネット小説には一次作品と二次作品ってのがあって、書き手が自分の好きなように書いているわけ」


「あ~、つまり俺が書いていたのは一次作品になるってことでOK?」


「そういうこと。けどいきなりオリジナルで作ろうとすると難しいから、自分の好きな作品を下地に作品を作っていこうかってわけ。オリジナルと違って知られた作品を基にしていたら、それだけ見てくれる人も多いんだ。二つの作品を組み合わせて、夢のクロスオーバーみたいな作品を作るなんて魅力もあるし。
まあ勿論、その分意見も多いから批判も増えちゃうけどね。でも建設的な意見を書いてくれる人も多いはず。きっと翔太のためになるよ」


流石に地雷作品は地雷の中が安心とは言えない。
弟をそこまで貶めたくはない。


「漫画を基に、か・・・」


翔太が神妙な様子になる。
何か思うところがあるのだろうか。


「う~ん、だったらあれが・・・でもあっちも・・・いや、そうだ思い切って!!」


そう言うと、翔太は突如飛び跳ねるように飛び出し、階段を駆け上がる。
それから何やらゴソゴソと物音がし、またドタドタを駆け下りてきた。


「兄貴!俺これとこれで書いてみる!!」


そう言って、翔太は二冊の本を俺に差し出す。


一つは、まあある意味予想できたものだ。世界中で有名なドラゴンボー○。弟には似つかわしいバトル物だし、比較的書きやすいかもしれない。


だが――もう一つが謎だった。
正直理解不能というか、俺自身知っている作品で、一部の人に熱狂的なファンがいるといった作品だったから、完全に予想外だというか。
とにかく、翔太という人間を見知っている俺には完全に想定外だった。


「これは・・・」


「ギ○だよ○ョ!!超吹っ飛んでる漫画なんだぜ!!」



・・・え?








伊○潤二という漫画家をご存知だろうか。
主にホラー漫画を書く漫画家で、精緻な筆致で描かれる突如襲いかかってくる恐怖は、正直俺の筆力では表現しきれない。
それ程に、この作家の描く世界は恐ろしく魅力的だ。妖しくもおぞましく、不気味な魅力を漂わせている。

そんな方の作品の一つに、ギ○――うごめく不気味という作品がある。これは一種のパニックホラー的な作品で、ある日突如足の生えたような魚達が地上に侵攻してくるという作品だ。
魚から生えたような足は、地上につくと今度は人間に取り付き始め、取り付くと人間を養分にして腐敗させながら動き続けるのだ。
これだけ聞くとギャグではないかと思う人もいるかもしれないが、作品を見た時の衝撃は忘れられるものではない。
特に、美しいヒロインが腐敗し、パイプのようなものを突き刺され、異様に肥大しながらも彼氏を追い掛け回す姿はトラウマものだろう。

まあ要するに、アメリカでよくあるゾンビ映画の和風テイストで、それをさらに独自の美学でアレンジしたようなものだと理解すれば分かりやすいかもしれない。


・・・で、だ。


我が弟は、そんな和製パニックホラーと、王道を突っ走る超有名作品をクロスさせると言うのである。
一体、誰がそのような突拍子もない作品を考えつくだろうか。
少なくとも俺は見たことがない。
滅多に上手くいかない超多重クロス作品でもなければそのような発想はしまいて。
そもそもホラー系の二次作品自体、数が少ない。
ああいうのは作品ごとに独特の雰囲気があって、描くのが難しいのだ。
定番的なファンタジーよりも、ファンも熱烈というか、コアな人が多いからSSの書き手側としては要求されるものが多い。


ちまちまオリジナルファンタジーを書いている俺だが、ホラー系のSSを書くとなると、やはり躊躇しがちだ。


――――正直、興味はある。

というか、クロスオーバーで書きたいと思っている。
和製ホラーは好きだが、あまり優れた作品は多くないと言うのが持論だ。
一次でも二次でも。
だったら自分で書いてしまえと思うが、やはり独自の雰囲気が難しい。


コープスパーティ○と地獄先生ぬーべ○と、ゴーストハン○で救済的なSSを書きたいなと思っているがね、どうも俺の筆力では実力が足りないようだ・・・



それはともかく。



問題はそんな癖のあるホラーと王道を混ぜ合わせるというのだ。
全く、我が弟の発想は凄まじいものがある。


「この二つか・・・。で、どういう話しにするの?」


「襲い来る魚達を、悟○が元気玉で吹き飛ばして一挙解決!」


なんというか、ある程度予想はできたが直接的だな。
でも作品の傾向的にそれが妥当かもしれない。
ネタ的な短編として考えれば、ありではないか?
今の弟の実力を考えるに、とても連載などはできそうにないし。


・・・うん。それでいこう


「まあ、それでいいかもね。でも話しの作り的に短編が妥当かな。突如現れた悟○が日本の祈りを聞いて、元気玉で救うって感じで」


元気玉一つで無数にいる魚をどう倒すのか。
むしろ魔人○ウの、人間のほぼ全てだけを殺した技を使った方がいいと思ったが、まあそのくらいは自分で考えてどうにかするだろう。


「うん、じゃあ頑張ってみなよ。始めは上手くいかないだろうけど、まず書き始めないと何も始まらないからね」


プロットがなくても、書いているうちに話しが進むということは存外多い。
手を動かしていると、自然に言葉が浮かび上がるのだ。
脳は手の動きと密接に関わっているというし、あながち間違いではないのかもしれない。

・・・そう考えると、手書き時代の昔の作者の方がやはり頭が良く働いていたのか?

キーボードよりも、手書きの方が良く手を動かすし。
打ち込む速さが上がった分、練り込みが足りなくなった?


これも質より量の影響なのだろうか。

・・・まあ、いいか。



「――――で、兄貴さ」


弟が俺を呼ぶ。
なんだ、まさかもう書くのを飽きたというなよ翔太。


「俺に小説の書き方教えてくんね?」





――――へ?



[39338] 第六話
Name: HR◆e89a293b ID:272dd8c9
Date: 2014/02/15 22:02


小説の書き方を教わったことがある、という人が世にどれほど存在するだろうか。
古代から物語というのは語り継がれてきてはいるものの、小説家という職業が成り立つようになった社会というのは、やはりここ最近であろう。
大衆の生活水準が上昇し、多くの人々が娯楽を求めるようになったからこそ生まれた職業だと思うのだ。


さて、現代ではそのための学校が存在するのは確かだ。
俺自身コマーシャルでたまに目にする。
漫画、絵、小説、CG動画の作成など、将来のクリエイターを生み出すために総合化された学校だ。
詳しいことは何も知らないが、そう言ったものが社会において一定の価値を示してしることは、歴然とした事実だろう。


学校という形で体系化することで、ノウハウの蓄積が生まれる。
それは技術の蓄積であり、つまりは文化の成熟を促進する。
特にCG技術や漫画など、描写力が求められる分野としては非常に大切な機関なのではと思う。
何も、無闇に批難しようとは思わない。
学ぶために最適な場所があり、そこに向かう人がいる。
それは、世の必然ともいえる流れだと思う。




さて――――、本題だ。



俺の考えとしては上記の通り、教育というものは芸術、文化においても求められる。それが当然だ。
技術とは先達から学び、それをさらに工夫し昇華することで花開いていくものだ。
だからこそ技術の継承というものがあり、後継者不足に悩まされるということが起きる。


しかし、そこで敢えて俺は否定したい。


小説に関しては、その限りではないと。


小説というのは、言葉――文字の羅列だ。
それを組み合わせ、文章という形に仕立て上げる。
そして文章が幾つも積み重なり段落が生まれ、それが固まり『章』というものができる。
そしてその『章』が集まり装丁が施されれば一冊の本の完成だ。



お分かりいただけただろうか。
小説とは、文字に始まり文字に終わる。
それ以上でも、それ以下でもない。
挿絵という、想像力への刺激物が存在するが、あくまでも文字が主役だ。
絵でも、動画でも、声でもない。
文字である。


全てを文字という形、それ一点に収縮し作り上げられたものが小説なのだ。

そして、表現が文字という形に限られたが為に、奥深いものともなり、同時に浅薄なものにも成り果てる。




――――これは、あくまで俺の考えなのだが、小説に求められるものは独自性なのだと思う。


この人だからこそこれが描ける。
この作者だからこその筆致。
癖のあるキャラ。
軽快な人々。

爽快な王道物。

鬱々とした怪作。



勿論、それはどんな作品でもそうだ。
光るものがなければ魅力的には映らない。
当然のことだ。


ただ――小説に関しては、その幅が狭く深いと思うのだ。
文字という表現の中では、どうしても誰もが同じような部分が生まれてしまう。
そこをどう補い魅力的な作品と化すか。
それが作者に求められるのだと。



だが、そこに『教わる』という要素が生まれると、「偏向」というものが生まれてしまうと思うのだ。
「偏向」。言ってしまえばこれは「マンネリ」、または「テンプレ」と言い換えてもいい。


どこか似たような話しの流れ。

何故か家にまで押しかける可愛すぎる幼馴染。しかも超純情。
美人な女教師。しかもエロい。
突如表れる噛ませ犬。
完全にDQN。しかも矢鱈と気持ち悪い、下品な顔つき。

超鈍感な主人公。
猛烈アピールを強烈なボケで華麗にスルー。

甘えんぼな近所の子。
やっぱり僕に、懐いてる。



こんな奴らが織り成す華麗なる日々。



――――教える人が同じでは、同じような作品が生まれる。

求める人が同じでも、似たような作品が生まれ続ける。


しかも、それで売れてしまい、一大ジャンルを築くのだ。


何か似ている。けど面白いからいいや。
何かどっかで・・・まあ、いいや。


そう言ったことを、感じないだろうか。


今の日本では、巨大なシュミラークルが生まれていると思うのだ。
巨大で、強大な一大商業圏と化すほどの無限の再構成の輪が。



俺は、そうではないと思うのだ。

書くならば、「これ真似できるか?ええ糞ガキどもが。できるもんならしてみろよ」とせせら笑う程の何かが欲しい。

自信でも、熱意でも、狂気でも。

小説でも、小説だからこそ、「これが俺だ!」と吐き出しても尚足りない、情熱、情動、欲望、何でもいい。何かが欲しいのだ。



それは、一次でも二次でも変わらないと思う。


そしてそのためには、書き手の思いが不可欠。


・・・上手く言えないが、「売れる書き方」なお利口さんではいずれ底が見えてしまう。
流れに乗って書いてちやほやされても、すぐに消える。

一本、どでかい芯が必要なのだと思うのだ。



――――果たしてそれは、誰かから学んで生まれるのか?


俺は違うと言いたい。
今まで生きてきて、吐き出したい衝動があるから書くのだと言いたい。
溜め込み、十分に昇華させるべきものがあるためなのだと思いたい。



小説にだけは、体系化は不要だと思うのだ。














「――――ねえ、兄貴聞いてる?やっぱ駄目?」



――――だから、俺はあまりどうこう言いたくない。
弟の書き方が可笑しいのは百も承知だが、それは自分で直していくべきものであって、誰かがぐちゃぐちゃ言うべきものではない。

自分なりに考え、本を読み、学んでいけばいいのだ。


「ん――、嫌そうだなぁ・・・あっ!じゃあさ、書き比べない!?同じ題材で、作品を書いてみるのさ!短編形式で!」


・・・ふむ、それならいいかもしれない。
互いに切磋琢磨し、批評し合うというならば、足りないところに気付き、己の糧になるか。


「よーし!じゃあ早速勝負な!一週間!一週間後に互いに見せ合うってことで」




うん。それならばいいだろう。
勝負だ弟よ。











――――さて、一週間という時間とはいえ、どう描いたものか。
そもDBとギョなるクロスなど、誰も考え付きはしまい。

短編として無理やりやるしかないが・・・それにしてもどうするか。


取り敢えずは、状況説明からか。









それは、突然だった。
沖縄で忠が見た異様な物体と、それに伴う異臭。
彼女である華織が騒ぎ出し、警察を呼ぶまでに至った珍事。

それだけならば、単なる被害妄想で留まるはずだった・・・


突如現れる、歩行する魚達。
それらは、沖縄に出現し、街を襲撃し始める。
小さな魚から、巨大なサメに至るまで。
強大な足を身に付け、異様なまでの腐臭を漂わせ。
奴らは街を襲い来る。








・・・難しいな。
これはもう、突然現れた救世主的に描くしかないか。
例えるなら、マブラ○世界に現れたガオガイガ○みたいな。
一挙解決的にしないと収まりがつかないぞ。









――――突如現れた歩行する魚達。
それに伴う腐臭。

その原因が判明するのは早かった。
なんのことはない、魚自体は既に腐敗していたのだ。

そう、動いていたのは魚ではなく、「足」だったのだ。
魚達は、ただの「糧」に過ぎなかった。

その「足」は、異様だった。
対象を上座に固定し、体中の穴にパイプを突き込む。
そして体を腐らせ、腐敗したガスをもってその四脚を動かすのだ。

そうして、糧がなくなるまでただのエネルギーとして足は魚を使い続ける。
だが、魚では容量が少ない。
そこで、奴らは人間を次なる対象に選んだ。



――――そうだ。


人間が、贄と化した瞬間だった・・・







う~ん。
短編だから、思い切ってばっさり切るのもありだろうか。
そもそも弟に見せるのだから、短編とはいえ何千字も書く必要はないだろう。









どうして、こうなってしまったんだろうか・・・



忠は、燃え尽き骸と化した彼女の成れの果てを横に、茫然とその光景を眺めていた。
全てが、消え失せた。
最愛の恋人、華織は「足」が放つ菌により醜悪に肥大化し、耐え切れず自殺した。だが「足」は嘲笑うように華織に取り付き、街中を走り回った。
腐敗した街を必死に走りまわして華織を見つけた時には、何物かに焼かれ、白骨だけをその証明とした姿だった。


「やっと・・・臭いから解放されたね・・・」


人一倍臭いに敏感だった恋人、華織。自らが腐臭を発していた時の気持ちは、忠の想像を絶するものだっただろう。


でも――と、忠は思う。

もしかしたら、幸せなのかもしれない、と。

この地獄で、抗体を持つごく僅かの人々と忠は生きていかねばならない。
全世界が「足」によって埋め尽くされた世の中で。
何もかもが狂ってしまったこの世界で。



忠は、それを見つめた。
街中の人々をかき集め、腐臭を放ちながら肥大し、どこかへ列をなして進んでいく「足」達を。

死の行進・・・

それは、地球の終わりだった。
いや、そうではない。
人の営みの終焉。
文明が崩壊する時が来たのだ。

東都大学の生き残りの者の話しでは、あれらは人工物ではない機械なのだという。溶接も、継ぎ目も、ネジ一つすらないのだとか。

例えるのならば、機械生物。
無機生命体。


神がそれを、作ったとでも・・・



唯唯、眼前の光景に圧倒されて、忠は茫然としていた。
全てが理解の外にあり、ただ、眺めるしかできなかったのだ。

忠はふと、土手に寝そべりながら手を伸ばす。
それに何か意味があるわけではなかった。
きっとそれは、救いを求めていたのだろう。

救世主と云う名の、幻想を――――




「うっひゃあ、どうなってんだこりゃあ・・・」


男の声。
快活そうな、この場にはあまりにも不自然な声。

だが、忠が最も不思議に思ったのは。


「ったく、えれぇことなってんなあ・・・」



その声が、上空からしているという事実だった。







・・・なんだ、これ。
やっぱ書いてて無理ありすぎる気が。
まだゴジ○とか、モス○とかの方が納得できるよ・・・
いや、でも書かないと。








夢でも見ているのかと思った。
その男は宙に浮いていたのだ。
橙色の妙な道着らしきものを着て。

男は、ワックスでもゴテゴテに塗ったかのような、針の如き髪型をしていた。
目立つ風体だが、不思議と嫌な感じはしない。
快活で、純朴そうな表情がそうさせるのだろうか。


「この数だと、かめはめ波は使わねえ方がいいか・・・」


真剣そうな表情。
だがそれも、すぐに笑顔に打ち消される。


「とりあえずまあ~、いっちょやるか!」


そう言うと、男は右手を突き出し――


光が溢れた。

比喩ではない。
文字通り、男の手のひらから光が溢れたのだ。

黄色の光が吹き出し、その勢いは収まることなく。
腐臭を産み出し続ける「足」を覆い尽くし、そのまま――――









・・・あ~、ちょっとタイム。
俺のSAM値がガリガリ削られていく。
やっぱこれ、いくらネタだといってもねえや。

可笑しいだろ悟○が出てくるってよ。
クロスはある程度世界観が共有できるのじゃないと、何の魅力もないよ!

やっぱ、ホラーはホラーと組まないとダメでしょ!



・・・ふう。

駄目だこりゃ。
俺はもう書けんよ。


書ききれなかったって言って、誤魔化そう・・・



[39338] 最終話
Name: HR◆e89a293b ID:272dd8c9
Date: 2014/03/07 17:17

――――それから一週間がたった。

結局俺は、あれ以降一文字も進められずにこの日を迎えた。
どうにか進めようと思ったが、これが俺の限界だったらしい。

・・・というか、気持ち悪くなって、無理だった。

うん、やっぱクロスものもある程度は考えないといけんよ。

無理があるのも考えものだということで、弟にも言おうと思う。

今日は土曜日。
朝起きると、もう翔太は部活に行ってしまっていたので俺は部屋でだらだら過ごす。
翔太は昼過ぎになって帰ってきたので、昼飯を食べた頃を見計らって聞いてみた。

「翔太。今日、互いに見せ合うって話しだけど――」

「おっ!わかってるよ兄貴!ちゃんと書いてきたぜ!」


厳しい部活によって鍛えられた体と、引き締まった顔つき。
凛々しいとも言える容姿。
我が弟ながら、中々だ。

――――眩しいくらいのドヤ顔を気にしなければ、だが。

「あ、うん。じゃあ、見比べるか」


先日までの弟の文を見ていると、どうしてそこまで自信が持てるのか疑問だが・・・まあ、それなりには頑張ったのだろう。
大して長所のない俺だが、文章に関しては先輩だ。そのくらいは甘く見よう。


そうして俺は、翔太が書いたものをパソコンで開く。






何なんだよ。

突然おそいかかってきた魚達。
おれは、必死になて逃げていた。

くさった臭いに耐えながら、それでも俺は走った。
どうしようもない現実に耐えながら、俺は走った。

華織もいない。
日本中が狂ってる。

どうしようもない。
狂ってしまいそうな世界。
でも、それは突然だったんだ。

「よし、おらにまかせとけ!」

悟空が空から現れて、元気玉ですべてを一掃してくれたんだぜ!
光が見えたら、もう全部終わってた。

世界は平和になったんだ!

今は、皆で手を合わせて復興に向かってる。
華織、俺はいま頑張ってるよ。
お前も頑張れよ。














・・・ましになった・・・のか?

いや、確かに最初に比べたら良くなっている。少なくとも、文章ではある。
最後に「忠」ってあるから、手紙形式にしたのだろうか?死んだ華織へ手紙を送っているという形式にした?珍しい形ではあるが、ありではある。

だけど――と、俺はカーソルを動かし、文章を選択。
そして左下に出た数字を見る。



247。




――――247文字。


それは、どうなのだろうか。
いや、確かに俺も途中で投げ出してしまったから、1500字程度しか書いてないけどさ。
あり・・・なのか?

手紙形式の短文と考えれば、いいのか?

けどそれは、小説といっていいのか・・・


でもまあ、前よりは良くなっているから、努力はしているのだろう。自他共に認める脳筋から、随分進歩したはずだ。


・・・うん、そうだろう?












凄い。


それが、弟の感想だった。
俺にはまだ全然書けないと、そう言っていた。

――――有難う。

俺は、そうしか言えなかった。

けど・・・


「やっぱ、書き方教えてくれってのはなぁ・・・」


ベッドに寝転がりながら、俺は先ほどの会話を思い出す。


弟の主張はこうだ。

最近は部活が忙しくて、思うようにネット小説も読めない。
自分で勉強しても、読解力のない俺には難しい。
だけど、やっぱり書きたいから俺に教えてくれ。

弟の通う学校は、スポーツに非常に力を入れている学校だ。
色々な中学からスポーツ推薦を取り入れており、部活に入る人が少ないとされる高校でも屈指の部活動参加率を誇る学校でもある。
弟自身も空手の推薦で入学している。

そのため日々の練習が非常に厳しいのだ。
平日でも三時間は部活の時間があり、休日ならば午前午後と、丸一日費やすような日々が常。
テスト勉強などもあり、そのためどうしても書くための時間がなかった。



以上が、弟の言い分だ。


これについては、俺には何とも言えない。
部活は中2の時に辞めてしまってから、結局高校では所属しなかったし、テスト勉強なんてのは数日前にちょこっとやれば平均点程度ならば取れる。

高校程度の勉強なんて、別にしなくても三流大学なら入るの簡単だし・・・ねえ?
勉強なんてする暇あったら、読書をした方がずっといいよ。そっちの方が有意義だろうさ。

え?部活?

まあ・・・辛いんじゃないの?
格闘技だし、疲れんじゃない?

水泳の方がカロリー消費は激しいって言うけど。
まあ、そんなもんでしょ?




――――それは兎も角。


教える・・・かぁ。

俺がネット小説を読み出したのが三年前。書き出したのが二年前。
ネット小説の隆盛も少しは語れるし、何が人気なのかもまあ分かる。
大型掲示板の場末にひっそりと載せている程度だが、まあ定期的に感想を書いてくれる人が僅かなりともいる程度の、取り敢えずは小説だと言える程度のものは書ける。

だが、書き方を教えるとなると、それはまた別の話しだ。
俺だって誰かに習ったわけじゃない。
たくさんの作品を読んできて、それらが合わさって自分のものになっているから素地ができているだけだ。
その自分でもうまく表現できない『素地』という基盤があるからこそ、ネットでとはいえ小説を書いている。
これあってこその小説だし、これがないならば努力しても書けるかというと疑問であるというのが俺の正直な考えだ。

仮にも小説とは物語。
創り編み出すものなのだから、習えばいいというわけでもないだろう。

それでもというならば、やはりまずは色々な小説を読み、表現の仕方を習うことから始めるしかないだろう。


・・・うん、そうだな。


やはり俺があれこれ言ってどうにかなるものじゃあない。
明日翔太にははっきり言おう。










――――それからを述べよう。


あれから弟は、結局書く事を諦めた。


わり!兄貴やっぱ俺には向いてないや。


やはり弟は、部活と勉強で手一杯だったようで、それからしばらく家にいない時間が増えた。
何でも、母親があまりにもうるさく、仕方なしに塾へも行くことになってしまったのだとか。

ただでさえきついのに、塾に行かされても寝ちまうだけだよ。

弟はそう、気だるげに喋っていた。




俺はというと、怪我が治ってしばらくしてから家を出た。
初めの数ヶ月は家事とバイト、大学の授業で手一杯で何もできなかった。

どうにか慣れてきて、小説を書き始めるようになったのが半年後。

それ以降は、ひっそりと執筆活動を続けている。





――――結局、弟は青春の黒歴史のひとコマとして小説を書く事を終えた。

だが、俺は今もなお書き続けている。

今はネットの片隅だが、いつかは出版社へ殴り込みをかけたいというのが密かな野望だ。

思うに、人は何か一つできることが欲しいのだろう。

弟ならば空手。

俺ならば小説。

方向性は違うが、自分に何ができるかと考えて、即座に言えるのはこれだろう。
腐っても兄弟。この程度は即座に分かる。

そして、俺のように特にこれといった特徴もなく、長所も思いつかない人間には、二つの種類がある。

それは、自分より下の人間を見つけるか。
あるいは、得意な分野を作るかだ。

人は、すぐ誰かを貶したがる。
それは、自分が優れていると、まだ下がいると安心したいからだ。
そして、そのための方策が、上記に述べた通りだ。


ならば、自分はどうしたいか。

前者は楽だ。
何も考えずに、批判ばかりすればいい。
テレビに出てる立派そうな方々を真似ればいいだけだ。

後者は厳しい。
自分を戒めなければ、何も成し遂げられないからだ。
何かしらの努力をせねば、決して得意といえることはできない。


そして俺は、自身の存在意義として、小説を書くという道を選んだ。
それは、自分が自信をもって歩める道だ。

自分の存在意義を、自分自信で選んだ道だ。



――――将来、自分がどうなるか。

それは、誰にも分からない。



でも、今は――――





――――決して後悔しないように。







――――書き続けよう。










・・・元々短めなのに、さらに短くてすまない。

しかし、これで完結です。

元々2、3話程度で終わらせるつもりが、ついつい書きなぐり文字数が増え、気づけばリハビリ作品なのにまた書き詰まってしまうという悪循環。

だらだら続けても仕方がないし、違う方に集中するためにもこれで終わりとさせていただきます。

書き詰まってしまいましたが、これを呼んでくれた方々が、何かしら思うところがあったならば、筆者としては十分です。

ありがとうございました。












PS こっそり某サイトに投稿してたけど、すべてのポイントがゼロだったよ(´Д` )


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