月光を遮る曇天の中、そこに一隻の巨大な輸送艦が静かに飛行していた。そして輸送艦の後部ハッチが開かれると、そこから三機のガンダムタイプの機体が顔を覗かせていた。
『目標効果地点に到着しました。各機出撃準備を』
オペレーターの声と共に、三機のガンダムのパイロットたちはコックピットの機器のスイッチを入れる。そしてパイロットの一人が他の二人に指示を出す。
『俺達は別働隊が人質を救出するための陽動だ。準備はいいか二人共? いつも言っているが……絶対に皆で生きて帰るぞ』
『元からそのつもりです、隊長も嫁さんを悲しませる真似はしない事です』
『いつも通り戦い抜いて、命令通り皆で生きて帰るだけですよ』
『ははっ……そうだな』
これから起こるであろう激しい戦闘を前に、三人は穏やかな空気で冗談を言い合う。それだけこの三人は強固なる絆で結ばれているのだろう。
やがて三機のガンダムタイプは輸送機からダイブし、地上に向けて落下していく。そして三機の内二機は背中のパラシュートを開いて減速し、隊長機である残りの一機は背中のスラスターを吹かして減速する。
やがて三機は曇天を抜け、膨大な地上を見渡せる位置まで降下する。そして三機は海沿いにあるある施設を目掛けて降下し続ける。
『見えました隊長! IS学園です!』
一機が指示した方角には、巨大なMAから張られた根の様なものによって浸食されている学園の様な施設があった。三機の目標の場所である。
やがて施設の方からサイレンが鳴り響き、いたる場所から様々なデザインのMSが現れ、降下する三機のガンダムに向けて砲撃する。
三機はその砲撃を紙一重で掻い潜りながら、目的地の施設へ無事着地する。
『きやがったな! ウジャウジャと!』
『誰も死なせはせん! 死なせはせんぞぉ!』
接近してくる敵MSらを次々落としていく三機のガンダム、その時……彼等は建物の上に一機のMSが立っている事に気付いた。
『隊長! あのガンダムタイプです!』
そしてその三機を取り囲む無数のMSの中に、ライトの光を背に佇む一機のMSが現れる。後光のせいでデザインやカラーリングは確認することは出来ないが、シルエットからガンダムタイプだという事は解る。
『カレン! サンダース! お前達は周りのMSを! アイツは……俺が止める!』
『隊長!』
隊長機はそのまま背中のスラスターを噴かし、現れたガンダムタイプに突撃する。そして右足側面のサーベルラックからビームサーベルを抜いて切りかかる。対して相手のガンダムも剣のような武器を出して防ぐ。両者は激しい鍔競り合いを繰り広げる。
「絶対にお前を助けてみせる! ――――
隊長機のパイロット……シロー・アマダが相手のガンダムのパイロットの名前を叫ぶ。しかしその名前は辺りからする爆音によってかき消された……。
☆ ☆ ☆
FU another episode 02
―――時は遡る事、初夏―――
とある無人島の周辺、そこで6機の人型機動兵器……専用のスーツを着た、乗り手の生身が晒されており、それぞれバラバラのカラーリングで、剣や刀や大砲などの武装を装備した兵器“インフィニット・ストラトス(略称IS)”を駆る1人の少年と5人の少女達が、つたないコンビネーションを駆使して銀色のISと激しい空中戦を繰り広げていた。
「一夏!」
「任せろ!」
白いカラーリングと機体の全長ほどの長さがある刀が特徴的な第四世代のIS……“白式”の変形した第二形態……“雪羅”を纏う織斑一夏は、仲間たちが作ったチャンスを生かし、空を飛び回る機体に向かっていく。
相手は全身を銀色でカラーリングしており、さらに頭部から生やした一対の翼の形をした大型スラスターと広域射撃武器を融合させたものも銀色をしている無人IS……“銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”、一夏と仲間たちはそれぞれISに乗り込み、暴走を起こした銀の福音がこれ以上被害を広げないよう、司令部の命令を無視して戦っていた。
「うおおおおっ!」
一夏は福音の回転する翼から放たれる嵐のようなエネルギーの弾雨を掻い潜り、刀型の武器である右手の雪片と左手の雪羅からそれぞれ光刃を作り出し、福音に飛び込んでいく。
「ぜらああああ!!」
光刃は福音の片翼を斬る、しかしそのまま距離を取られ、斬られた翼を瞬時に修復されてしまった。
「くっ! このままじゃ……!」
他の仲間たちのISが損壊して動けない以上、自分まで動けなくなたら福音を止める手段がなくなってしまう、しかしエネルギー残量はあと僅か。一夏の表情に焦りが浮かび上がっていた。その時……。
「一夏!!」
白式の対となる赤色の第四世代のIS……“紅椿”を駆る、黒くなびく美しい長髪をリボンでポニーテールにまとめた少女……篠ノ之箒が現れた。
「箒!? お前ダメージは!?」
「大丈夫だ! それよりもこれを受けとれ!」
そう言って箒は紅椿の掌で白式の機体に触れる。すると一夏は全身に電流のような衝撃と炎のような熱が走るのを感じ、彼の視界が大きく揺れた。そしてエネルギー残量はいつの間にか満タンになっていた。
「な、なんだ!? エネルギーが回復した!?」
「今は考えるな! 行くぞ一夏!」
「お、おう!」
一夏は戸惑いつつも、意識を集中させてエネルギー刃を最大出力を最大限まで高め、それを両腕で支えて振るった。
「うおおおおっ!」
福音は一夏の横薙ぎを体を一回転させて回避し、彼らを再び視界に捉えると同時に光の翼を向けてくる……それが一夏達の狙いだった。
「箒!」
「任せろ!」
一夏に向けられた翼を、箒が駆る紅椿の二刀が並び一閃して断ち切る。
「逃がすかあああ!!!」
さらに脚部展開装甲を開放し、急加速の勢いを乗せた回し蹴りが福音の本体に入った。予想外の攻撃に怯み体勢を崩す福音に、一夏はさらにエネルギー刃で残りの光翼をかき消す。
そして最後の一突きを繰り出そうとする一夏に対し、福音は体から生えた翼全てで一斉射撃による迎撃を行う。一夏は全身にエネルギー弾を浴びつつも、福音の胴体にエネルギー刃を突き立てた。
「おおおおおっ!!」
その確かな手ごたえを感じながら、一夏は白式のブースターを最大出力まで上げる。対して福音は一夏に圧されながらも、彼の首に手を伸ばす、その指先が喉笛に食い込んだところで福音はようやく動きを止めた。
「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
すると一夏の纏っていたアーマーはエネルギーを使い切って消失し、彼はそのまま海へ真っ逆さまに落ちて行った。
「しまっ……!」
一夏は浮遊感と共に体の芯が冷え切るような感覚に襲われる、しかしその時……彼の視界にこちらに向かってくる仲間たちの姿が映った。
(ああ、あいつらもう回復したのか……)
仲間たちの無事と、自分の身の安全を確信した一夏は、落下中にも関わらずほっと胸を撫で下ろした。
異変が起こったのはその直後だった、突然辺りに、ガラスの破片のような物が天からぱらぱらと降り注いできたのだ。
「……? 雪?」
「なんだ、これは……」
箒ら彼の仲間達も福音の異常に気付いて彼に近付いて来る。すると次の瞬間……彼等は突然強い光に包まれた。
「う、うわああああああ!?」
その光は瞬く間に一夏達を飲み込んだ。
その日、一夏と彼の五人の仲間は謎の現象によりこの世界から姿を消した、彼らの通うIS学園の教員たちや、五人の仲間たちを学園に預けている各国家は彼らの行方を必死に捜索したが、その努力が実ることはなかった……。
プロローグ「ロスト・フェザー」
☆ ☆ ☆
どこまでも広がる空を駆ける翼は、空が星の海と繋がっていて、残酷で、色んな命の営みがある事を知らなかった。
それを教えてくれたのは、飛ぶこともできない、泥だらけで傷だらけな体を持った機械人形。これはそんな物語。
プロローグはここまで。第一話は数日後に投稿予定です。
以前ココの雑談板でも書いたのですが、一夏をちゃんと導けるガンダムキャラって誰だろうと考え、ある結論に達してこの小説を書こうと思いました。
クロス相手がISの世界に転移という話はよくありますが、逆のパターンは知らないのでこういう形にしてみました。
序盤の描写は、アニメ版ISの第一話で最終話の様子をちょこっと見せるという表現を真似してみたものです。今後の展開によっては書き換えるかも……。
今作でもクロスカプは何組か作る予定です。シロー×アイナは絶対崩しませんが。
一夏たちにとってはハードな展開が続きますが、最後まで見ていただけると嬉しいです。