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[39480] 嵐の中で羽ばたいて(機動戦士ガンダム第08MS小隊×インフィニット・ストラトス)
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2014/02/17 21:25
※この作品は「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」と、「IS<インフィニット・ストラトス>」+αのクロス作品となっております。
※クロスカプ、オリキャラ(主人公ポジじゃないです)、捏造設定有り。
※微妙にISアンチになるかもしれません。


 それでもOKな方はどうぞ読んでいってください。



 2014/2/17 第一章開始



~okura1986のその他の作品(設定的に繫がっています)~

〇サテライトウィッチーズ(機動新世紀ガンダムX×ストライクウィッチーズ)【完結済】



[39480] プロローグ「ロスト・フェザー」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2014/02/22 09:04
 月光を遮る曇天の中、そこに一隻の巨大な輸送艦が静かに飛行していた。そして輸送艦の後部ハッチが開かれると、そこから三機のガンダムタイプの機体が顔を覗かせていた。

『目標効果地点に到着しました。各機出撃準備を』

 オペレーターの声と共に、三機のガンダムのパイロットたちはコックピットの機器のスイッチを入れる。そしてパイロットの一人が他の二人に指示を出す。

『俺達は別働隊が人質を救出するための陽動だ。準備はいいか二人共? いつも言っているが……絶対に皆で生きて帰るぞ』
『元からそのつもりです、隊長も嫁さんを悲しませる真似はしない事です』
『いつも通り戦い抜いて、命令通り皆で生きて帰るだけですよ』
『ははっ……そうだな』

 これから起こるであろう激しい戦闘を前に、三人は穏やかな空気で冗談を言い合う。それだけこの三人は強固なる絆で結ばれているのだろう。
 やがて三機のガンダムタイプは輸送機からダイブし、地上に向けて落下していく。そして三機の内二機は背中のパラシュートを開いて減速し、隊長機である残りの一機は背中のスラスターを吹かして減速する。

 やがて三機は曇天を抜け、膨大な地上を見渡せる位置まで降下する。そして三機は海沿いにあるある施設を目掛けて降下し続ける。

『見えました隊長! IS学園です!』

 一機が指示した方角には、巨大なMAから張られた根の様なものによって浸食されている学園の様な施設があった。三機の目標の場所である。
 やがて施設の方からサイレンが鳴り響き、いたる場所から様々なデザインのMSが現れ、降下する三機のガンダムに向けて砲撃する。
 三機はその砲撃を紙一重で掻い潜りながら、目的地の施設へ無事着地する。

『きやがったな! ウジャウジャと!』
『誰も死なせはせん! 死なせはせんぞぉ!』

 接近してくる敵MSらを次々落としていく三機のガンダム、その時……彼等は建物の上に一機のMSが立っている事に気付いた。

『隊長! あのガンダムタイプです!』

 そしてその三機を取り囲む無数のMSの中に、ライトの光を背に佇む一機のMSが現れる。後光のせいでデザインやカラーリングは確認することは出来ないが、シルエットからガンダムタイプだという事は解る。

『カレン! サンダース! お前達は周りのMSを! アイツは……俺が止める!』
『隊長!』

 隊長機はそのまま背中のスラスターを噴かし、現れたガンダムタイプに突撃する。そして右足側面のサーベルラックからビームサーベルを抜いて切りかかる。対して相手のガンダムも剣のような武器を出して防ぐ。両者は激しい鍔競り合いを繰り広げる。

「絶対にお前を助けてみせる! ――――

 隊長機のパイロット……シロー・アマダが相手のガンダムのパイロットの名前を叫ぶ。しかしその名前は辺りからする爆音によってかき消された……。



☆ ☆ ☆



FU another episode 02



―――時は遡る事、初夏―――



とある無人島の周辺、そこで6機の人型機動兵器……専用のスーツを着た、乗り手の生身が晒されており、それぞれバラバラのカラーリングで、剣や刀や大砲などの武装を装備した兵器“インフィニット・ストラトス(略称IS)”を駆る1人の少年と5人の少女達が、つたないコンビネーションを駆使して銀色のISと激しい空中戦を繰り広げていた。

「一夏!」
「任せろ!」

白いカラーリングと機体の全長ほどの長さがある刀が特徴的な第四世代のIS……“白式”の変形した第二形態……“雪羅”を纏う織斑一夏は、仲間たちが作ったチャンスを生かし、空を飛び回る機体に向かっていく。
相手は全身を銀色でカラーリングしており、さらに頭部から生やした一対の翼の形をした大型スラスターと広域射撃武器を融合させたものも銀色をしている無人IS……“銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”、一夏と仲間たちはそれぞれISに乗り込み、暴走を起こした銀の福音がこれ以上被害を広げないよう、司令部の命令を無視して戦っていた。

「うおおおおっ!」

一夏は福音の回転する翼から放たれる嵐のようなエネルギーの弾雨を掻い潜り、刀型の武器である右手の雪片と左手の雪羅からそれぞれ光刃を作り出し、福音に飛び込んでいく。

「ぜらああああ!!」

光刃は福音の片翼を斬る、しかしそのまま距離を取られ、斬られた翼を瞬時に修復されてしまった。

「くっ! このままじゃ……!」

他の仲間たちのISが損壊して動けない以上、自分まで動けなくなたら福音を止める手段がなくなってしまう、しかしエネルギー残量はあと僅か。一夏の表情に焦りが浮かび上がっていた。その時……。

「一夏!!」

白式の対となる赤色の第四世代のIS……“紅椿”を駆る、黒くなびく美しい長髪をリボンでポニーテールにまとめた少女……篠ノ之箒が現れた。

「箒!? お前ダメージは!?」
「大丈夫だ! それよりもこれを受けとれ!」

そう言って箒は紅椿の掌で白式の機体に触れる。すると一夏は全身に電流のような衝撃と炎のような熱が走るのを感じ、彼の視界が大きく揺れた。そしてエネルギー残量はいつの間にか満タンになっていた。

「な、なんだ!? エネルギーが回復した!?」
「今は考えるな! 行くぞ一夏!」
「お、おう!」

一夏は戸惑いつつも、意識を集中させてエネルギー刃を最大出力を最大限まで高め、それを両腕で支えて振るった。

「うおおおおっ!」

福音は一夏の横薙ぎを体を一回転させて回避し、彼らを再び視界に捉えると同時に光の翼を向けてくる……それが一夏達の狙いだった。

「箒!」
「任せろ!」

一夏に向けられた翼を、箒が駆る紅椿の二刀が並び一閃して断ち切る。

「逃がすかあああ!!!」

さらに脚部展開装甲を開放し、急加速の勢いを乗せた回し蹴りが福音の本体に入った。予想外の攻撃に怯み体勢を崩す福音に、一夏はさらにエネルギー刃で残りの光翼をかき消す。
そして最後の一突きを繰り出そうとする一夏に対し、福音は体から生えた翼全てで一斉射撃による迎撃を行う。一夏は全身にエネルギー弾を浴びつつも、福音の胴体にエネルギー刃を突き立てた。

「おおおおおっ!!」

その確かな手ごたえを感じながら、一夏は白式のブースターを最大出力まで上げる。対して福音は一夏に圧されながらも、彼の首に手を伸ばす、その指先が喉笛に食い込んだところで福音はようやく動きを止めた。

「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」

すると一夏の纏っていたアーマーはエネルギーを使い切って消失し、彼はそのまま海へ真っ逆さまに落ちて行った。

「しまっ……!」

一夏は浮遊感と共に体の芯が冷え切るような感覚に襲われる、しかしその時……彼の視界にこちらに向かってくる仲間たちの姿が映った。

(ああ、あいつらもう回復したのか……)

仲間たちの無事と、自分の身の安全を確信した一夏は、落下中にも関わらずほっと胸を撫で下ろした。



異変が起こったのはその直後だった、突然辺りに、ガラスの破片のような物が天からぱらぱらと降り注いできたのだ。

「……? 雪?」
「なんだ、これは……」

 箒ら彼の仲間達も福音の異常に気付いて彼に近付いて来る。すると次の瞬間……彼等は突然強い光に包まれた。

「う、うわああああああ!?」

 その光は瞬く間に一夏達を飲み込んだ。










その日、一夏と彼の五人の仲間は謎の現象によりこの世界から姿を消した、彼らの通うIS学園の教員たちや、五人の仲間たちを学園に預けている各国家は彼らの行方を必死に捜索したが、その努力が実ることはなかった……。



 プロローグ「ロスト・フェザー」



☆ ☆ ☆



 どこまでも広がる空を駆ける翼は、空が星の海と繋がっていて、残酷で、色んな命の営みがある事を知らなかった。
 それを教えてくれたのは、飛ぶこともできない、泥だらけで傷だらけな体を持った機械人形。これはそんな物語。









プロローグはここまで。第一話は数日後に投稿予定です。
以前ココの雑談板でも書いたのですが、一夏をちゃんと導けるガンダムキャラって誰だろうと考え、ある結論に達してこの小説を書こうと思いました。
 クロス相手がISの世界に転移という話はよくありますが、逆のパターンは知らないのでこういう形にしてみました。
 序盤の描写は、アニメ版ISの第一話で最終話の様子をちょこっと見せるという表現を真似してみたものです。今後の展開によっては書き換えるかも……。
 今作でもクロスカプは何組か作る予定です。シロー×アイナは絶対崩しませんが。
 一夏たちにとってはハードな展開が続きますが、最後まで見ていただけると嬉しいです。



[39480] 第一話「密林のIS」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:96695c6b
Date: 2014/02/22 09:06
 第一話「密林のIS」



 織斑一夏は夢を見ていた、辺りには自分が守ると言った少女達、自分と仲良くしてくれた教師や級友、そして世界でただ一人の肉親である姉の、亡骸が転がっていた。

 叫びたい、彼女達の名前を、怒りの叫びを、しかしいくら出そうとしても声が出ない、それどころか身動きも出来ない。
 すると目の前に、彼女達を殺したであろう巨大な黒い影が、自分達を見下ろす様に現れた。
 圧倒的な巨大な影の威圧感に足がガタガタと震え、心臓の奥が冷たく冷え切って行くのを感じる。そして巨大な影は一夏に向かってその巨大な手を振り降ろそうとした。

 やめろ、やめてくれ、と一夏は心の中で懇願する。しかし巨大な影にその想いは通じなかったのか、振り上げられた手はグォンと一夏に向かって振り降ろされた。

「うわ、うわあああああああ!!!」



☆ ☆ ☆



「一夏! 一夏ぁ!」
「ちょっとしっかりしなさいよ!」

 次の瞬間、一夏は二人の少女の呼び声と共に現実の世界に帰還し、湿った草木の香りがする地面から身を起こした。

「シャ、シャル? それに鈴?」

 一夏を呼び起こしたのは彼の仲間であり、銀の福音との戦いの場に居合わせていた5人のうちの二人、IS学園に通うフランスの代表候補生、長い金髪を背中辺りでリボンで一本にまとめているシャルロット・デュノアと、中国の代表候補生……少し茶の混じった長い黒髪をツインテールにしている凰 鈴音だった。二人共心配そうな顔で一夏の傍に寄り添い彼の顔をじっと見ていた。

「お、俺は一体……」
「一夏覚えていないの? 銀の福音との戦いが終わったら突然ガラスみたいなのが降って来て、辺りが光ったと思ったらいつの間にかこんな所に居たんだ」

 その時一夏はようやく、自分がいるこの場所が先程まで戦っていた合宿所近くの海岸沿いではなく。草木の臭いや獣の鳴き声がギャアギャアとちらほら聞こえる、TV番組とかでみた海外のジャングルみたいな場所だという事に気付いた。

「何だここは!? どうして俺達こんな所に……他の皆は!?」
「ここにいるのは私達だけみたい、通信も通じないし、ISで飛んで探そうにもさっきの戦いで消費したお陰でエネルギーが足りなくて、部分展開しかできないし……」

 一夏は自分も通信を試みる、しかしウンともスンとも言わなかった。

「俺のもダメだ……故障したのか?」
「取り敢えずこれからどうする? 状況を確認するにしてもこんな場所じゃ……」

 シャルロットの意見を受け、一夏は彼女達と一緒にうーんと考え込む。そして……一つの結論を出した。

「取り敢えずここから移動するか」
「あまり動き回るのは危ないんじゃないの?」
「ヘリとかで探してもらうにしても、ここじゃ上空からじゃ見えにくいだろ? 開けた場所に移動した方がいいだろ」

 一夏の意見に、シャルロットと鈴音は不安そうな顔をするが、それしか思い付かずコクンと頷いて同意した。



☆ ☆ ☆



 数分後、一夏、シャルロット、鈴音は開けた場所を探してジャングルの中を歩き続けていた。

「ああーん!! もう何なのよココ!?」

 一夏とシャルロットの後ろを歩いていた鈴音は、自分に纏わりつく小虫や背丈ほどもある雑草に不快感を抱きながら歩いていた。

「文句言うなよ鈴音」
「でもこの格好でこの場所を進むのはちょっと辛いよね……」

 そう言ってシャルロットは自分の腕に付いた葉っぱや虫を反対の手で払う。現在一夏たちの格好はISスーツと呼ばれる手足を露出した薄めの格好をしており、確かにこのジャングルの中を進むのに適している格好とは言えなかった。

「もーやだ! お風呂入りたい……ってんにゃ!!」

 その時、鈴音は地面に生えた木の根っこに足を引っ掛けてしまい、そのまま前のめりに転がるように転倒した。

「お、おい大丈夫か鈴?」
「ふえーん! いたーい!」

 慌てて鈴音に駆け寄る一夏とシャルロット。そして鈴音の体を調べ、彼女の体に怪我がない事を確認する。

「怪我はしていないようだな」
「もうやだ歩きたくない! おぶって!」

 無茶苦茶な事を言う鈴音に苦笑しながら、シャルロットは先に立ち上がり歩き始めた。

「もー、我儘言っちゃ駄目だよ? ってひゃあああ!!?」
「「シャルロット!!?」」

 すると今度はシャルロットが足を踏み外し、目の前にあった浅い泥池に顔面から豪快に落ちた。

「だ、大丈夫かシャルロット!?」
(TVのバラエティ番組でこんな落ち方した芸人が居たわね……)
「ぷへっ! ぺっ! な、何とか……ん?」

 その時、シャルロットは口に入った泥を吐き出しながら、自分の右腕に何かが付いている事に気付く。

「ひゃわああああああ!!!? 何コレ!? とって! 誰か取ってよぉ!」

その人の指程のサイズはある、茶色くてうにょうにょした数匹の軟体動物……蛭を見て、シャルロットは悲鳴を上げると泥池から飛び出し一夏にぎゅーっと抱き着いた。

「お、落ち着けって!! 胸当たっている!!」
「ちょ! またそうやってあざとくアピールする気!?」
 


☆ ☆ ☆



 いつものような大騒ぎをした数分後、一夏と鈴音は髪からつま先まで泥だらけのまましくしく泣いているシャルロットを連れてジャングルの中を歩き続けた。

「ううう……怖いよぉ、ドロドロだよぉ、おうち帰りたい……」
「はいはい、もう大丈夫だから……」
(なんかいつもと立場逆だな、乱暴な所もあるけどやっぱり根はやさしい奴だよな鈴は)

 泣きじゃくるシャルロットを見ていられず慰める鈴音を見て、一夏は少し微笑ましい気持ちになっていた。
 その時ふと、彼の耳に水の流れる音が入って来た。

「ん? なんか聞こえないか? 水の音」
「そう言えばそうね、ちょっと行ってみましょう」

 そして一夏たちはしばらく歩き続けると、岩場から流れる小さな滝のある市民プールより一回り小さい程の水場を発見する。
 試しに一夏がその水場の水を飲んでみる。味や冷たさは問題なかった。

「大丈夫そうだぞ、水道の水よりうまいぐらいだ」
「いやったー!! ようやく体洗える!」
「天の助けとはまさにこの事だよ!」

 そう言ってシャルロットと鈴音は水場にざぶんと飛び込んだ。そして汗や草や泥で汚れていた顔を洗った。

「うはー! 気持ちいいー!」
「でもスーツの中にも泥が入っちゃってる……一回脱いで全部洗わないと」

 すると鈴音はISスーツを肩から脱ぎ始めながら、水辺にいる一夏に話し掛けた。

「一夏―、私達水浴びするから見張りよろしくー」
「はあ? 何でだよ、俺だって水浴びした……」

 一夏が言い切る前に、鈴音は腕にISを部分展開して彼を睨みつける。

「アンタ……私達これからスーツ脱ぐって言ったわよね……?」
「そ、そんなに見たいなら僕は構わないよ、一度や二度じゃないんだし……」
「見張っています」

 鈴音の脅しかつもっともな意見に、一夏はきちんとした姿勢の敬礼付きで了承し、近くにあった大きな岩の陰に隠れた。ちなみに先程のシャルロットの小声は一夏の耳に届いていない。

「まったく、気が利かないわね……あとシャルロット、アンタはちょっと自重しなさい」
「ご、ごめん」

 そんなやり取りをしながら、二人はISスーツを脱ぎ始めた。

 一方一夏は岩場の陰で鈴音とシャルロットの水浴びが終わるのを待っていた。

「しかし蒸し暑いな……早く俺も入らせてほしいぜ」

 そんな事を考えながら、一夏は手で自分の体を仰いでいた。すると水場の方から鈴音とシャルロットの声が聞こえてきた。

『……アンタさ、前から思っていたけど結構胸デカいわね』
『そ、そうかな? 普通だと思うけど』
『男の格好してた時、それどこに隠していたのよ!』
『ひゃん!? ちょ、鈴音!?』
『これか!? これが一夏を誑かすのかー!?』
『そ、そんなに揉んじゃ駄目ぇ! ああん!』

 聞こえてくるシャルロットの嬌声、一夏は自分の体温が主に下の方から上がって行くのを感じ、慌てて首を振った。

(いかん! 余計に熱くなってどうすんだ俺!?)
『この! お返しだ!』
『ふああああ!? そ、そんなとこ抓っちゃやぁ!!』

 畳み掛けるように今度は鈴音の艶やかな声、両頬を挟むようにバチンと叩く一夏。そしてその場で座禅の格好をして、いつぞやの時のように円周率をお経のように数えはじめた。

(ぼ、煩悩退散! 心頭滅却すれば火もまた涼し! π=3. 1415926535 8979323846……!)



 一方一糸纏わぬ姿で水浴びを続けるシャルロットと鈴音は、上空の白鳥の編隊に気付き空を見上げる。

「それにしても……ここって本当にどこなんだろうね? 臨海学校の近くじゃないみたいだけど……」
「セシリア達は大丈夫かしらね、ん……?」

 その時、二人は自分達の元に何かが潜水して近付いて来る事に気付いた。

「な、何……!?」

 得体のしれない事態に身構える二人、すると二人の目の前でその物体はザブンと顔を上げた。

「ぷはあ!! やっぱりこの時間の水浴びは格別……ってうわぁ!?」

 その物体……一糸まとわぬ姿のボサボサのオレンジ髪の少女は、目の前のシャルロットと鈴音の存在にようやく気付き驚いた。

「な、何だよアンタら!?」
「いやそれはこっちのセリフ!」
「なんだ!? 何かあったのか!? ってわあああああ!!?」

 すると騒ぎを聞きつけた一夏が岩場から飛び出す。そして一糸まとわぬ、生まれた時のままの格好をした少女三人の姿が目に入った。

「!? またかよ!」

 オレンジ髪は事情の知らない人が聞いたら何のこっちゃと思われるような悪態を突き、自分の服が置いてある岩場へ何かを取りに行こうとする。

「見んなー!!!」

 が、先に鈴音が右手に部分的にISを展開し、足元にあったバレーボール程の大きさの岩を一夏に向かって投げつけた。

「うおおおお!!?」

 一夏はそれを飛び上がって避ける。一方シャルロットはその光景に背を向けて、顔を真っ赤にしながら鼻のあたりまで沈み、ぼそりと呟いた。

「い、一夏のえっち……」
「いやだからアンタら何者なのさ?」

 そんなラブコメの基本みたいな状況に入って行けないオレンジ髪の少女は、取り敢えず冷静にザブザブと水場を歩きながら自分の服を取りに行った……。



☆ ☆ ☆



「ふーん、じゃあアンタら迷子って事?」
 
 数分後、服を着たシャルロットと鈴音、そして一夏は突然現れた少女……キキ・ロジータと名乗った少女に大体の事情を話した。

「まあそんな所だな、取り敢えず通信機とか貸してくれれば嬉しいんだけど……」
「通信機ねえ……」

 キキは一夏達を半信半疑の目でまじまじと見つめる。どうやら一夏達の話をあまり信じていないようだ。

(こいつら何言ってんだかさっぱりわかんね、IS? さっきこのツインテールが腕から出した奴か……連邦かジオンの新兵器かね? うーん……)

 キキは頭の中で色々思案し、そして結論を出した。

(まあいいか、取り敢えず保護しとこう)

 彼女は色々と怪しい一夏達を自分の目の届くところに置いておいた方がいいと思い、彼等を自分の村に連れて行くことにした。

「まあ大体の事情は分かった、取り敢えず付いて来な、アンタらの助けが来るまでアタシらの村にかくまってやるよ」
「マジかよ!? サンキュー!!」
「助かった~……これで何とかなるかも」

 一夏達はキキの申し出を快く受け入れ、村へ案内するという彼女の後を付いて行った……。



☆ ☆ ☆



 それから数十分後、一夏達はキキに連れられて田園の広がる少し寂れた村にやって来た。

「……? なんか外国っぽい所だな」

 藁の傘を被って農作業をする人達を見ながらそう呟く一夏、すると鈴音が彼の肩を叩いて来た。

「一夏! アレ!」
「ん? どうした……ってうおお!?」

 鈴音の指さす方向を見て驚く一夏、彼女の指先には20m近くある一つ目の巨大なロボットが、半壊しコケや土で汚れた状態で転がっていた。

「な、なんだありゃあ……!?」
「なんだいアンタら、ザクを知らないのかい? 一体どんなところで暮らしていたんだよ」

 “ザク”と呼ばれたロボットを見て驚く一夏達を見て怪訝な顔をするキキ。するとそんな彼女の元に、ボロボロの衣服を身に纏い、背中にはマシンガンやライフルを背負った男達が近付いてきた。

「お帰りなさいませお嬢、ん? そいつらは何ですかい?」
「森で迷子になっていたんだよ、なんかよく解らないから拾ってきた」
「へへへ、こりゃまた刺激的な格好してやがる」

 そう言って男達のうち一人が、ボディラインがはっきり表れるISスーツ姿の鈴音とシャルロットを嘗め回す様に見る。一夏は咄嗟に居心地悪そうに腕で自分達の体を隠す彼女達の前に立った。そして何か言おうとした時、先にキキの蹴りがその男の腹部に直撃する。

「盛ってんじゃないよボケが! とっとと自分の持ち場に着きな!」
「うごぉ! す、すみません!」

 そう言って男達は蜘蛛の子を散らす様に一夏達の元を去って行く。
 一方そんな彼女たちのやり取りを見ていたシャルロットは、心の中に疑念を募らせていく。

(この人達、どうしてあんな武器を背負って……ていうかここ、絶対日本じゃ無いよね!?)

 この時一夏達は、ようやく自分達が今いるこの環境の異質さに気付き始めていた……。



☆ ☆ ☆



 それから数分後、キキに案内された小屋で一息付いた一夏達三人は、取り敢えず現状を確認するため、食事を持ってきてくれた女性などに色々と聞き込みをして、そしてある仮説を立てた。

「もしかしたら……ここって僕達のいた世界とは別の世界なんじゃない? 前に海外でそういう論文出した学者さんがいたんだ」
「いやいやいや!? そんなわけないでしょ!? 非常識よ!? 漫画じゃないんだから!!」

 シャルロットの呟きを、まるでそうであってほしくないと言わんばかりに否定する鈴音、しかしそれでもシャルロットは話を続ける。

「さっきの女の人が言っていたじゃないか、ここは日本じゃなく東南アジアだって、それにさっきのザクっていうロボット……あんな兵器が開発されていたなんて聞いた事ないよ」
「う……」

 仮にもシャルロットと鈴音はフランスと中国の代表候補生であり、その国の兵器事情にもそれなりに通じていた。少なくともザクの様なロボットが開発されているなどという話は聞いた事が無いのだ。
 
「僕だって完全には信じられないよ、まるでSF小説みたいな状態だしね」
「やっぱり福音が原因なのか?」

 一夏はこの世界に来る前に遭遇した福音に、この不可解な現状の原因があるのではないのかと睨んだ。
 そもそもISは彼の幼馴染の姉が開発、製造したISコアを動力として動いているのだが、コア自体は未知の部分が多く、解析の方もまったく進んでいないのだ。実際一夏達はISコアによって引き起こされた不可解な現象を何度も目の当たりにしており、ISコア=何が起こるか解らない。という認識を少なからず持っていた。

「束さんの作ったものだし、こういうことが起こるのも不思議じゃないかも……いや、やっぱりありえないか?」
「そ、そうよ! 違う世界に来ちゃうなんてありえないわよ!」
「よう、話は終わったかい?」

 その時、様子を見に来たキキが小屋に入ってくる。手元には少しボロボロの服が抱えられていた。

「そんな格好で村に出歩かれちゃ男どもに狙われちゃうだろ? 着ときな」

 その時、シャルロットが意を決した様子でキキから服を受け取りながら問いかける。

「ねえ、えっと……キキさん、この村って普通じゃないよね。武装した男の人とか……あのザクってロボットの事もあるし」
「ん? まあね……ここはゲリラの村なのさ」
「ゲリラ!?」

 キキの言葉に驚く鈴音、するとキキは窓を開けて、その先に見えるはるか遠くの崖の上の村を見せる。

「この地域は連邦とジオンの戦場になっているのさ、ここから見える丘の上の村はジオンの勢力下だし……だから私達、そいつらを追い出す為に戦っている」
「連邦? ジオン?」
「なんだい、本当に何も知らないのかい? あのね……」

 キキは首を傾げる一夏達にこの世界の現状を説明する。約一年ほど前、ジオン公国と呼ばれる宇宙コロニーの国家が地球軍に宣戦布告し、コロニー落としによって地球の人口の約半分が死滅する程の大惨事になったこと、それを発端とした戦争により今この地球は連邦とジオンの戦場と化していると。

「う、宇宙コロニー……?」
「マジでSFだわ……」
「本当にどこなんだココ!?」

 キキの説明に頭を抱える一夏達。無理も無い、キキの語った話は一夏達の暮らしていた世界とは文明レベルや技術があまりにも違い過ぎているのだ。
 そんな彼らの心情を察してか、キキは優しい口調で一番近くにいた鈴音の肩をポンと叩きながら励ました。

「まああれだ、そう気を落とすんじゃないよ、来ることが出来たんだしそのうち帰る方法だって見つかるだろうさ」

 そう言い残し去って行くキキ、一方一夏達はこれからどうするかあれこれ思案していた。

「どうするの? あの子の言う通りにするの? それとも連邦だかジオンだかっていう所に行ってみる?」
「後者は得策じゃないと思うな、この世界の軍に接触してISを見せる訳には……一応機密事項だし」
「いや、それよりもまず箒達の行方を探そうぜ、アイツ等もこの世界に来ているかもしれないしさ」

 そして一夏達はあーだこーだと話を続けるが、結局その日は結論を出すことが出来なかった……。



☆ ☆ ☆



 一夏達がキキの村に来て数日、彼らはすることが無く……というか何をしていいか解らず、取り敢えず村人たちの手伝いをしながら時を過ごしていた。

「鈴ちゃん、ちょっと鶏締めるの手伝ってくれない?」
「あ、はーい解りましたー」

 鈴音は料理が得意なのを生かし、村の女性たちの家事の手伝いを。

「シャルお姉ちゃーん、絵本読んでー」
「うんいいよ、今日はどんなお話がいい?」

 シャルはそんな彼女たちの代わりに子供達の面倒を見ていた。そして一夏はと言うと……。

「おら若造! さっさとそれ運べ!!」
「は、はいぃ!!」

 貴重な男手として農作物やジャンク品の運搬などの力仕事の手伝いをさせられていた。
 そのハードな仕事内容に、一夏は仕事に一息付くころには完全にグロッキー状態になっていた。

「だああ……疲れた」
「よう、お疲れさん」

 木陰で座り込む一夏、するとそこにキキが現れ彼に水の入った鉄製の水筒を渡した。一夏は一言ありがとうと礼を言うと、ふたを開けてごくごくと中の水を飲み始めた。

「ああ~、生き返る~」
「一夏、ちょっと用事があるんだけど、それ飲んだら来てくれないかい?」
「ん? わかった」

 数分後、一夏、鈴音、シャルロットの3人は人気の無い小屋の裏に集まり、キキからとある話を聞いていた。

「最近、村の農作物や鶏がなんぼか盗まれているんだよね」
「ああ、なんかおばさん達そんな事言っていたわねえ」
「それがどうかしたのか?」

 キキは少し深刻そうな顔で一夏達を見る。

「いや、アンタ達の仲間……まだ見つかっていないんだろ? もしかしたらって思って」

 そこまで聞いた一夏達は、キキが村の農作物を盗んでいるのは、まだ見つかっていない箒達の仕業なのではないのかと言いたいのだと察知した。

「おいおい、いくらなんでもアイツ等がそんなことする訳……いや、ラウラだったらやりかねないか?」
「いくら軍人でも泥棒は駄目だと思うよ……」

 “非常事態だ! 止むを得ない!”と言ってコソコソと畑から色々盗むラウラの姿を妄想する一夏にツッコミを入れるシャルロット。そんな二人をよそに鈴はキキと話を進める。

「それじゃあ見張りを増やすなり何なりすればいいんじゃない? 私達も手伝うしさ」
「うん、そのつもりで声掛けたんだよ。早速今夜お願いできるかい?」
「もちろんだ、キキたちには一宿一飯どころじゃない恩があるからな」

 キキの提案を快く受け入れた一夏達は、再び自分達の作業場に戻って行く。するとその場に残っていたキキの元に、彼女の部下である髭を生やした厳つい男……ヒゲが近付いて来る。

「アネゴ、いつまでアイツらをこの村に置いておくんすか? 食糧だって限られているのに……村長もなんて言うか」
「アンタは見てないんだっけ、そういや」

 キキは一夏達の胸に掛けられている待機状態のISに目線を移す。

「アイツ等が持っているアレ、私の勘じゃものすごい力を持っている……連邦やジオンと戦うのに必要な戦力になるよ」
「アイツ等が? そうは見えないッスけど……」
「ま、お手並み拝見ってね」



☆ ☆ ☆



 その日の夜、村人が寝静まった村の中、一夏達はそれぞれ鶏小屋や畑の近くに隠れながら見張りをしていた。

(はぁ~……全然来ねえな泥棒)

(早く来なさいよね……! こっちは睡眠時間削ってんのよ!?)

(どうせだったら一夏の隣で待っていたかったなぁ……)

 そんな事を考えながら待ち続ける一夏達。その時……鈴が畑の方で何かが動いた事に気付く。その人影は畑に埋まっていた芋を掘り出していた。

「出たわね泥棒! 観念しなさいー!!」
「!!?」

 鈴はすぐさまその人影の前に飛び出し、それに呼応して一夏とシャルも飛び出す。すると人影は掘り出した芋を腕に抱えながらその場から逃げ出した。

「逃がすかー!」
「鈴! 無茶しちゃ……」

 その時、人影は空いていた手で何かを取出し、それを鈴に向ける。

「!! 鈴!」

 それに気付いた一夏は、前を走りだしていた鈴のの背後に飛びついて押し倒した。パンッと乾いた音がしたのはその直後だった。

「け、拳銃……!?」

 シャルは人影が拳銃を持っている事に驚愕する。一方一夏に背後から押し倒された鈴は顔を真っ赤にして暴れ出す。

「ちょ、ちょっと!? どきなさいよ! この格好まるで……」
「んな事言っている場合か! 待て!」

 一夏は鈴に目もくれず、森の中に逃げ込んだ人影の後を追いかけた。
 暗い森の中で人影を追い続ける一夏、すると人影は再び拳銃を手に持ち、銃口を一夏に向ける。一夏は咄嗟にISを腕に部分展開し、放たれた銃弾を弾いた。

「……っぶねえ!? アイツ等に鍛えられた危機察知能力を舐めんな!!」

 一夏は大怪我していないのが不思議なぐらいのハードな学園生活(主に二人の幼馴染の殺意混じりの嫉妬による暴力、貴族様の殺人料理、実の姉の鉄拳制裁、何故かイベントがあるごとに起こる命の危険を伴うトラブル等)で培った危機察知能力で攻撃を凌ぎ、心の中で乾いた笑いをしながら(一応)彼女達に感謝する。

 するとその人影は突然ワイヤーが擦れる音と共に空に浮かび上がった。

「え!?」

 一夏はそれを見て立ち止る。すると轟音と共に18m近い巨大な人の形をした鉄の塊が立ち上がった。

「うおおおお!?」

 一夏は慌ててその場から逃げ出し、その立ち上がった鉄の塊を見上げる。その巨人はエメラルドグリーンのバイザーを付けており、足元の一夏を大きさで威圧し、敵意を向けていた。

(で、でけえ……! こんなのが動くなんて……!)

 今まで戦ってきた機体……ゴーレムⅠやVTシステムに飲み込まれたシュヴァルツェア・レーゲン、そして銀の福音……それらとは全く違う敵意に、体の芯が冷え切る感覚に襲われる一夏。そして目の前の巨人は手に持っていたマシンガンのような武器を一夏に向けた。

「うわあああ!?」

 一夏は慌てて木陰に隠れる、それとほぼ同時にマシンガンからいくつもの銃弾が放たれ、排出された薬莢が辺りにばら撒かれる。

「む、無茶苦茶しやがる……!」

 一夏は銃弾を凌ぎながら次にどうするかあれこれ思案する。その時……上空から何発もの銃弾が、巨人の頭部に叩きこまれる。

「「一夏―!!」」

 銃弾が放たれた方角には、アサルトカノン“ガルム”を構えたラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを纏うシャルロットと、肩部と腕部に砲身……“龍咆”を装備した甲龍を身に纏った鈴がいた。二人共巨人が動き出し一夏が危ないと察知し、急いでISを纏ったのだ。

「鈴!」
「喰らいなさい!!」

 シャルロットが牽制で隙を作り、鈴音が貫通衝撃砲の重い一撃を巨人の頭部に叩きこんだ。巨人の頭部は吹き飛ばされる。しかし巨人は腰から棒のような物を取出し、スイッチを入れてビームの刃を出し、なりふり構わず振り回し始めた。

「おわっ!?」

 振り回されたビームの刃は辺りの木々を、まるで豆腐のように次々と切り払って行った。

「なんだよアレ……焼き切っているのか!? つか溶けてる!?」

 一夏は巨人と距離を取りながら、なぎ倒された木々の、高熱で溶けている切り口を見て、ISとは違う種類の、敵を破壊する為の力……それを目の当たりにし、心の中で戦慄する。

(こんなもん喰らったら、ISの絶対防御でも防げるかどうか……!)

 そんな一夏の心配をよそに、上空のシャルロットと鈴音は暴れまわる巨人を止める為次の行動に移る。

「頭吹き飛ばしたのに何でまだ動いてんのよ!? 弱点じゃないの!?」
「いや、視界は奪えているみたいだよ。その証拠に僕等にはまだ気づいていないでガムシャラに動いている……鈴、援護してくれるかな? アレに接近してみる」
「大丈夫なの!? あいつが振り回している剣……アレ尋常じゃない切れ味よ!?」
「大丈夫、多分……弱点は解ったから」

 そう言ってシャルはラファールを一気に加速させ巨人の横に回り込み接近する。

「どうなっても知らないんだからね!!」

 鈴音は貫通衝撃砲を巨人の足元に打ち込み注意をこちらに向ける。案の定巨人ははるか上空にいる鈴音の方を向いて剣を振り回した。

(どんなに大きくても、ISみたいにシールドに覆われている訳じゃない、なら……!)

 シャルロットはラファールを低空で飛行させ、巨人の右足の膝裏辺りにパイルバンカータイプの武器……グレー・スケールを一発撃ちこんだ。
 すると巨人の右足は爆発を起こし、そのまま仰向けになって倒れた。

「今!」

 それを見た鈴音も貫通衝撃砲で剣を持つ巨人の腕を吹き飛ばし、完全な無力化に成功した。

「や、やった!?」
「すげえよ二人共! あんな大きいのを倒しちまうなんて!」

 物陰に隠れていた一夏は、二人のチームワークに称賛の声を上げる。するとそこに……キキ達武装した村人たちが駆け付けた。

「一夏! 泥棒は!?」
「ああ、多分あの中よ」

 すると村人数名が巨人の胸元によじ登り、銃や手榴弾を構えて大声を張り上げる。

「出てこい! さもないと吹き飛ばすぞ!」

 その様子を見ながら、一夏は隣にいたキキに話し掛ける。

「なあキキ、この巨人は何だ? ザクってロボットじゃないみたいだけど……」
「これは“ジム”、ここ最近配備されたっていう連邦軍の機体さ、多分あれに乗っているのは……」

 その時、巨人……陸戦型ジムのコックピットハッチが開け放たれ、村人たちはその中にいた泥棒を乱暴に引きずり出した。

「え……!?」

 一夏はライトの光に当てられてはっきり見える泥棒の姿を見て驚愕する。泥棒は軍服らしきものを着た、一夏達と同じぐらい、下手したら年下にも見える少年だった。

「ゆ、許してください! 俺……怖くて軍から逃げ出して、腹が減って仕方なく……!」
「うるせえ連邦め! 人様の土地に勝手に上がり込んだ上に泥棒まで働きやがって!」

 そしてその少年兵は村人たちによって簀巻きにされる。その光景を眺めていた一夏は一人呟いた。

「なんであんな子供が泥棒なんか……」
「あいつ、多分連邦の脱走兵だろうね、戦争が嫌でこの辺りまで逃げ出したんだ」
「戦争……」

 一夏は、泣き叫びながら連れて行かれる少年兵を見ながら、自分達がいるこの世界の異質さを改めて感じ取っていた。



 人と人が命を奪い合う戦争、その現実が一夏達を侵食しようとしていた……。



☆ ☆ ☆



 一夏達が戦っていた森から数キロ離れた場所、何もない星空の下に一人の少女が輪のような装備を纏いながら空を飛行していた。

『どうだい? 彼女達の様子は?』
「二機で量産型のMSを無力化していました……やはり我々の敵ではありません。私達ならガンダムタイプを一分もかからずスクラップに出来ます」
『大きく出たねぇ。ともかくこの偶然が生み出した状況を利用しない手はない。出来る限りデータを集めよう。専用機持ちは、“女王”の資格があるか……ね』

 通信の向こうの人物のその一言に、少女は幼く可愛らしくも能面のような顔を少し顰めた。

「残りの3人はいかがいたしますか?」
『無論監視を付けるさ、この物語が女神達を受け入れる事によりどう変わって行くか興味あるしね』
「了解しました、では帰還します」

 少女はそのまま加速し、一筋の閃光となって夜空を駆け、そして彼方へ消えて行った……。










 今回はここまで、この物語のもう一人の主人公の本格的な出番は次回となります。
 書き忘れていましたが、この物語の時期は08小隊原作の第二話と第三話辺りの時期からのスタートになっています。
 ファーストやイグルーではMSを白兵戦で追い込む話が出てきますし、小回りが利く上に火力のある武器を持つISならMSといい勝負が出来るんじゃないかと思いこの作品を書いています。



[39480] 第二話「デッドライン・トゥ・トラスト」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:28ac8570
Date: 2014/08/07 01:25

 第二話「デッドライン・トゥ・トラスト」



 泥棒騒ぎのあった次の日、一夏、鈴音、シャルロットは村人達によって村長の家に連れてこられていた。

「単刀直入に言おう。今すぐここから出ていってほしい」

 村のゲリラ達の重鎮であり、キキ・ロジータの父親でもあるバレスト・ロジータは、車いすに腰掛けながら強面から放たれる鋭い眼光で一夏達を睨みつけている。

「ちょ、ちょっと!? いきなり出ていけなんて無茶苦茶にも程があるでしょ!?」

 案の定鈴音が反論するが、シャルロットが冷静に彼女の肩を掴んで制止する。

「やっぱり……昨日僕達がアレに勝ったのが原因ですか?」

 そう言ってシャルロットは窓の外に見える、昨日自分達が破壊した陸戦型ジムに視線を移す。バレストは何も言わずコクリと頷いた。

「曲がりなりにも君達は連邦軍の新兵器を倒して鹵獲してしまった。そのISとやらでな……向こうが我々を危険視し、この村が戦場になるのは時間の問題だろう」
「そんな! 俺達はこの村を守る為に……!」

 一夏は納得いかずも鈴音と同じように反論しようとするが、バレストの一睨みによって続きの言葉を飲み込んだ。

「この村は今まで絶妙なバランスで両陣営の間を生きてきたのだ。だが君達によってそのバランスが壊れたのだ。その力を振るうにしても、もう少し考えて振るうべきだったな」
「……これからどうするつもりです?」

 シャルロットの質問に、バレストは窓の外を眺めながら答えた。

「こうなればもう、どちらかに君達を引き渡すしかないだろうな……そうしなければこの村が攻撃されてしまう」
「……解りました」
「シャル!」

 バレストの提案に頷くシャルを、一夏と鈴は批難を帯びた目で見る。

「僕達がここに居てもこの人達に迷惑を掛けちゃうよ、それに……ここに居ても僕達の現状をどうにかできるとは思わない。ならこの世界の軍の人達に協力してもらうしかないよ。してくれるかどうか全く分からないけど……」
「……確かにそうよね」

 シャルの提案に、鈴音も頬杖をついて納得する。一夏も納得はできていないようだが、他にどうする事も出来ない事も解っており、シャルの考えに納得せざるを得なかった。

「まあ、シャルの提案に乗るとして……問題はどっちの軍に付くかだよな、昨日捕まえた兵士を手土産に連邦ってとこに行ってみるか?」
「でも下手に相手側を刺激して、ここが戦場になったら……うーんどうしたらいいんだろう……」

 そう言って悩みだす一夏、鈴音。シャルの三人、その時……彼らのいる部屋に武装した村人が入室し、バレストに歩み寄り彼の耳元で何かを伝えていた。

「何? キキが……まったくあのバカ娘が……」
「キキがどうかしたの?」

 鈴音の問いに、バレストはため息交じりに答えた。

「娘が作戦行動中の連邦兵を捕えたらしい、MSと一緒にな」



☆ ☆ ☆



 数分後、一夏達のいる部屋に、数人の武装した村人たちに取り押さえられた、連邦軍の軍服を着た黒髪の男が連れてこられた。

「放せ! 放してくれ! 俺はみんなの元に行かなきゃいけないんだ!」
「黙ってろ! この!」

 暴れる連邦軍の軍人に対し、村人の一人が銃のグリップで殴りつけて無理やり黙らせる。

「お、おいアンタらやめろよ!」

 それを見た一夏は止めようとするが、村人の一人に銃口を向けられ動きを止めた。そしてバレストの元にキキがニヤニヤしながら近付いて行く。首元には変わった装飾が施されたペンダントが掛けられていた。
 そして一部始終を見ていたシャルがバレストに質問する。

「彼をどうする気なんですか? まさか……」
「それはこれから決める」

 そしてバレストは改めて、目の前で取り押さえられている連邦兵を一瞥しつつ、彼が首にかけていた名前と階級が彫られたドッグタグを見つめた。

「……アンタがここのボスか」
「我々の村に何の用かな? シロー・アマダ少尉」
「許可なくここに踏み入ったことは謝る! 俺は今作戦行動中なんだ! 丘の上のジオン軍を別行動中の部下達と叩かなければならないんだ!」

 話し合いを始めるバレストと連邦兵……シロー・アマダが険悪な空気の中で話し合う横で、一夏達はヒソヒソと小声で話し合っていた。

(あの人少尉なんだ……それなりに偉い人だね)
(どっかの部隊の隊長ってとこかしら?)

 一方シローは部屋にある時計を気にしながらバレストに何度も訴えかけた。

「貴方達は俺達には何も用はないはずだ! 早く解放してほしい!」

 一方バレストは呑気にキキの入れたコーヒーを飲みながら、シローの話を聞き流していた。

「失礼、この時間はいつもこれでね」
「頼む! 話を聞いてくれ……!」

 その時、シローは目の前の机に銃が置いてあることに気付き、咄嗟にそれを奪おうとするが周りのゲリラ達に取り押さえられてしまう。

「こいつ! 旦那の前でふてえ野郎だ!」
「頼む! 初めて持った部下なんだ! 死なせたくないんだー!!」

 乱暴に取り押さえられても必死に訴えるシローを見て、一夏は思わず止めに入ろうとした。

「おいやりすぎだろ! これ以上は……!」
「部外者は黙ってろ……!」

 しかしゲリラの一人に銃口を向けられ動きを止める。するとシャルがバレストの方を向いてある提案をする。

「ねえ村長さん、僕はこの軍人さんと協力した方がいいと思う」
「「シャル!?」」
「ほう……? 部外者の君が意見すると言うのかね?」

 鋭い眼光で睨むバレスト、しかしシャルは臆することなく話を続ける。

「この連邦軍の軍人さんは貴方達の仲間の村を解放するって言っています。この人に協力すればこの村にとって有益なはずです。貴方達だってこのまま中立ではいられないのは解っている筈です」
「どうかな? 軍人の約束程あてにならない物は無い」

 シャルのバレストのやり取りを横で固唾を飲んで見守る一夏と鈴、すると取り押さえられていたシローが必死な様子で意見を出してきた。

「れ、礼はいくらでも出す! 俺達の装備をいくらでも持って行ってくれても構わない! 医薬品や食料もあるぞ! だから!」
「テメエは黙ってろ!」

 しかしすぐに村人たちに取り押さえられて口を塞がれてしまう。それを見たキキはバレストに耳打ちをする。

「ねえ父さん、私はこいつを信用してもいいと思う。こいつは私に負い目があるし」
「むう……だがなぁ」
「この人は約束を破ったり嘘を付くことが出来ないタイプだと思いますよ?」

 シャルは一度一夏の方をちらっと見ながらキキをフォローする。するとバレストはやれやれと溜息をついた。

「仕方ない……少尉殿、ひとまず休戦と行こうか、娘に道案内をさせる」



☆ ☆ ☆



 数十分後、一夏、鈴、シャルはキキとシローと共に彼の使うMSが置いてある森へやって来た。

「ああ~! なんてことを! こんなことしてる暇は無いのに!」

 シローは自分のMSのコックピットがゲリラ達によって汚されているのを見て必死に掃除する。一方一夏達はシローのMSを見て首を傾げる。

「あれ? これってジムじゃないのな、角が付いて二つ目だ。いかにもエースって感じの機体だ」
「これは確かニュースで見たね、“ガンダム”っていう連邦軍の兵器で、ジムの元になった機体だよ」
「ふーん、ジムがISでいう打鉄なら、このガンダムって言うのは専用機ってとこかしらね」

 そうこう言っているうちにシローは掃除した陸戦型ガンダムのコックピットに乗り込み機体を起動させる。そしてキキが銃を構えたまま一緒に乗り込んだ。

「妙な真似をしたら撃つからね。外には監視もつけてるし」
「妙な真似ってなんだよ……ってん?」

 その時、シローはISを展開して横を飛ぶ一夏達を見て驚きの声を上げる。

「なんだあの装備は!?」
「アイツ等は保険だよ、万が一に備えてのね」
「……信用されてないんだな」

 そう呟きながら、シローはISを装備する一夏達を見て思考を巡らせる。

(一体なんだあの装備は? どこかの兵器会社の新型か? 何でゲリラがあんなものを……)

 その時、シローはキキが首にかけている綺麗な装飾が施されているペンダントを見て、それが自分の付けていた物だという事に気が付いた。

「ああ! 返せよソレ! 俺のだろ!」
「なんだよ! 私が貰ったんだ!」
「借り物なんだよ! いいから返せ!」

 シローは暴れるキキからペンダントを奪い返す。その様子をISで拾った通信から聞いていた一夏達も会話に入ってくる。

『駄目だよキキ、それってその人の大切な物なんだよ多分』
『それにしても似合わないわねー、借り物って言ってたけど持ち主ってどんな人?』
「……ちょっとそれは言えないな」

 鈴の質問にシローは言葉を濁す。その時……一夏達は遠くから複数の激しい砲撃音がするのに気が付いた。

『この音は……戦闘をしているのか!?』
「ああ! もうこんな時間だ! これじゃ仲間達が……近道は無いのか!?」
「川に沿って行くのが一番だけど……」

 するとシローは機体を川の所まで移動させ、そのまま中に潜って目的地の方角に進み始めた。

『水の中も入れるんですか? その兵器……』
『すげえな、取り敢えず俺達も向こうに見つからない様に付いて行こう』

 一夏達もISで低空飛行しながらシローの陸戦ガンダムの後を付いて行った……。



☆ ☆ ☆



 数分後、シローや一夏達はようやく目的地であるジオン軍のトーチカ基地に辿り着いた。そこではジオン軍が攻撃を仕掛けてくる二機の連邦軍のMSに、軍用ミサイルや砲台を使って攻撃をしている真っ最中だった。

『危ないから君達はここで待っていろ!』

 そう言ってシローは機体を川から浮上させ、マシンガンを使ってジオン軍基地の砲台や弾薬庫を次々と破壊していく。

「一夏! 私達はどうするの!?」
「俺達は……」

 その時、基地の周りにある森の中から次々とキキの村のゲリラ達が飛び出してきて、迎撃に現れたジオン軍の兵や兵器を次々と無力化して行った。

「アイツ等の援護に回ろう!一宿一飯の恩義ぐらい返さないとな!」
「戦闘に加わるの!?」
「シールドを展開すれば盾代わりになるさ!」

 そう言って一夏は戦闘を行うゲリラ達の援護に向かった。

「ああもう! どうなっても知らないわよ!」
「放置はできないもんね!」

 そして鈴とシャルもゲリラ達の手伝いに向かった。



☆ ☆ ☆



 シローが攻撃を開始した基地の反対側、そこでは彼の部下達が先行して攻撃を始めていた。

「なんだいアレは? ゲリラに……パワードスーツ?」

陸戦ガンダムの2番機を駆るカレン・ジョシュワは、突然現れて自分達を援護するゲリラ達と、その彼等をジオン軍の砲撃から守る謎の機動兵器を駆る少年少女達を見て驚愕する。するとそこにシローから通信が入って来た。

『無事か曹長!? 遅れてすまない!』
「隊長!? あのゲリラは? それにあの機動兵器は……」
『あの兵器に関しては俺もよく解らん、だが敵じゃないのは確かだ』

 その時、突然鈴が彼等の通信に割り込んできた。

『ちょっと! 基地から逃げてきた民間人保護したんだけど! 安全地帯まで誘導してほしいの!』
『わかった、頼めるか?』
「(……考えるのは後か)エレドア! あの赤いパワードスーツを安全地帯まで誘導してやれ!」

 カレンは深く考えるのを後回しにし、他の隊員達に指示を飛ばした。



☆ ☆ ☆



 一方一夏とシャルは非戦闘員の避難の援護を鈴に任せ、自分達は基地に奇襲を掛けるゲリラ達を、ジオン軍の砲撃から守っていた。

「いやぁ、中々激しいね……このままじゃすぐにエネルギー切れだよ」
「あの丘の上の砲台をどうにかできれば……」

 そう言って一夏は、丘の上から攻撃してくる砲台を見て舌打ちする。するとシャルが突然ラファールを砲台に向かって加速させ距離を詰め、パイルバンカー型の武器“グレースケール”を使って砲台の砲身を叩き折って無効化させる。

「ひゅー! やるじゃねえかお嬢ちゃん!」
「俺らも負けてられねー!」

 それを見たゲリラ達はシャルに向かって称賛の声を送る。その時……基地から出撃した二機のジオン軍のMSの内一機が、一夏やゲリラ達に向けてマシンガンタイプの武器を構えて襲い掛かって来た。

「うお! ザクがこっちに来たぞー!」
「トラップ斑がとちりやがった!」

 そう言って逃げようとするゲリラ達、そんな彼等に向けてジオン軍のMS……ザクはザクマシンガンの銃口を向ける。

「させるかよ!」

 すると一夏は急加速してザクの懐に潜り込み、上昇しながら刀剣型の武器……雪片弐型でザクマシンガンの銃口を切り裂き、次にザクの顔の一つ目……モノアイに雪片弐型を突き刺した。ザクはそのまま顔から煙を噴き上げ、仰向けにズズンと音をたてて倒れた。

「よーっしよくやった! 後は俺達に任せろ!」

 するとゲリラ達は倒れたザクに向かってスモーク弾を投げ込む、すると煙がコックピットに入り込んだのか、ハッチが開き中から咳き込んでいるジオン兵が這い出し、そのまま降伏の意を示す様に両手を上げた。

「よ、よかった勝てた……」

 一夏は心臓をバクバク鳴らしながら、ゲリラ達によって拘束されるジオン兵を見つめる。その時……トーチカ基地から一機のザクが飛び出して撤退していくのを目撃する。

「逃げていく……シローさんが上手くやったのか」

 そして次々と逃げていくジオン兵達、それを見た一夏はほっと胸を撫で下ろした……。



☆ ☆ ☆



 数時間後、辺りはすっかり日が暮れて茜色に染まるころ、一夏、鈴、シャルは一緒に集まりながら、キキの村人たちが基地に残っていた戦利品やシロー達の兵器から装備を奪い取って行くのを眺めていた。傍ではシローの部下らしき金髪の男と一夏達と同世代ぐらいの少年が、装備を奪われ悲鳴を上げている。

「あーあ、お気の毒だな……」
「それよりこれからどうするのよ? 流れに身を任せちゃったせいで、結構深入りしちゃったわよ」
「あのシロー・アマダ少尉って人に事情を話して保護を求めてみる? 今はそれしか方法が……」

 その時、部下と話をしていたシローが一夏達の元に歩み寄って来た。

「君達……ありがとう、君達が援護してくれたお陰で被害を最小限に食い止めることが出来た」
「いえ、俺達は別に……それよりも……」

 ふと、一夏は逃げ遅れてゲリラに捕縛されているジオン兵達の方を見る。

「あの人達はどうなるんですか?」
「捕虜として収容所送りだ、まあ南極条約に基づいて手荒な真似はしないさ。安心してくれ」
「そうですか……」

 それを聞いて一夏は一応安堵する。先程戦った相手とはいえ命を奪われるのは寝覚めが悪いと思ったからだ。しかしすぐに思い直し、あちこちで上がる煙を見た。その下には戦闘で敗れ破壊されたジオン軍の兵器があり、当然戦死者も出ている。

(俺達は……戦争の中にいるんだな)

 一夏は急激に自分の体から体温が抜けていくのを感じ、ぶるっと身震いした。そんな彼の心情を察してか、シローは一夏に優しく声を掛ける。

「……君達の事情はキキから大体伺った、俄かには信じられないが……取り敢えず俺が上に掛け合って保護してもらえるようにしよう」
「あ、ありがとうございます」

 すると、シローの後ろにいたカレンが、無言で彼の背中を突き、少し一夏達と距離を取り小声で話を始める。

(隊長……あんな得体の知れない連中にそんな約束をして大丈夫なのですか?)
(大丈夫だろう、少なくとも彼等はこっちに敵意は持っていないんだ)
(いえ、そういう事ではなくて……はぁ)

 カレンはこれから降りかかるであろう厄介事を思い、ハアッと溜息をついた。



☆ ☆ ☆



 数日後、南米にある連邦軍本部ジャブロー、そこにある会議室で連邦軍の上層部の人間達は、東南アジアから送られてきた一夏達の戦闘記録映像を見て話し合いをしていた。

「ほう、何もない空間から武器を取り出しましたな」
「ビーム兵器らしきものも確認できます。おまけにこの機体……機銃や砲撃にもある程度耐える事の出来る装甲を保有しているみたいです」
「戦闘力は……流石にMS程ではないと見れますがね、奇襲さえ喰らわなければ蚊トンボの様な物です。しかし我々の持たないテクノロジーをいくつか持っている……是非我が軍の物にしたいですな。多少強引な手を使っても……」

 などと物騒な話をしている連邦軍の高官たち、そんな彼等のいる会議室に、一人の軍人が神妙な面持ちで入って来た。

「すみません、ある方から連絡が入っております。東南アジアに現れた兵器に関して話があると」
「ん? 誰からの連絡だ?」

 入って来た軍人はものすごく難しい顔をしながら、一拍置いて口を開いた。


「…………ビスト財団のサイアム・ビスト氏からです」


 その途端、高官たちの顔色が変わった。










 本日はここまでです。久々の小説ですのであんまりうまく行きませんでした。話の流れもなんか納得いかない……。

 一応自分の中ではISの戦闘力は一般兵の乗る量産型MS一個小隊なら何とかなるけど、アムロやシャアレベルのエースが乗る機体は対策立てても勝てるかどうか微妙……という構想で進めてます。懐に潜り込んでもNTの超反応で潰される姿しか浮かばない……。
 シロー達の場合、陸戦ガンダムの性能の助けもあれば代表候補生ともいい勝負が出来そうですけどね。

 次回はサンダースのジンクス回+他のISヒロインたちの動向を描きたいと思います。



[39480] 第三話「デビル・アバーヴ・ザ・ヘッド」
Name: okura1986◆9e01ba55 ID:878bffc8
Date: 2014/08/21 09:55
  第三話「デビル アバーヴ ザ ヘッド」



 東南アジア、地球連邦軍基地……密林の中にあるこの基地には、大量のMSや兵器、そして大勢の連邦兵が配置されている。この地にあるジオン軍のMS工場を叩くのと、何れ実行される連邦軍のオデッサ基地奪回作戦の後方支援がこの基地の主な任務だからだ。
 その基地に赴任したばかりの第08小隊の隊長、シロー・アマダ少尉によって数日前保護された一夏達は、基地司令室(テント)に呼び出されて、部隊長のコジマからある報告を受けていた。

「君達はアナハイム・エレクトロニクスが開発した試作兵器のテストパイロットとしてこの基地に配属された社員……という事になった」
「「「……はい?」」」

 コジマからの報告に、一夏、鈴、シャルは目を丸くし、後ろにいたシローも頭に疑問符を浮かべていた。

「そ、それってどういう……」
「君達の素性やISという兵器に関してそれ以上追及しない。しばらくしたら君達を帰す方法を見つけるから、それまでそう振る舞ってくれ……上はそう言いたいらしい」
「は、はぁ……」

 未だに理解できていない様子の一夏達を置いて、コジマはシローの方を向いた。

「少尉、お前達の部隊にしばらく彼等を預ける」
「は……自分達の部隊にですか?」
「彼等を安全地帯に移動させたくともこの地はジオンによって出るのも入るのも容易ではない。お前達の部隊なら他の部隊と比べて自制はきくじゃろ? なあに上も近いうちに迎えをよこすと言うとるし、それまで雑用でこき使ってやれ」
「は!」

 そしてシローが一夏達を連れて去った後、コジマは扇風機の風に煽られながら、タンクに入っていた水をぐびっと飲み干した。

「ったく上も何を考えているんだか……」


 一方、テントを出た一夏達は、前を歩くシローの後ろでコソコソと話を始めた。

(なんか……妙な展開になっちゃったね)
(私達、アナハイムなんちゃらと関係ないわよ?)
(もしかしてこの世界に俺達の事を知っている奴がいる……?)

 するとそんな一夏達の様子に気付いたのか、前を歩くシローが優しく声を掛ける。

「君達、いろいろ不安はあるだろうが、俺達も出来る限り君達の力になるつもりだ。だから楽にしていいぞ」
「は、はぁ」

 気さくなシローの態度に、一夏達は少し呆気にとられる。それを見たシローは首を傾げた。

「ん? どうかしたか?」
「いや、軍人って堅苦しいくてちょっと常識外れってイメージで固定されてるから、シローさんって変わってんなと思って……」

 一夏達は元軍属の自分達の担任の千冬や、その教え子であるラウラの事を思い出し、彼女達の規律正しくて厳しい、そして時折常識はずれな行動と、目の前にいるシローの気さくな態度や行動が珍しいものに見えていた。

「そうか? 俺達の周りはこんなもんだぞ。流石に上官に対してはきっちりしてるつもりだが……」

 対してシローはこれが当たり前と言わんばかりにふふっと笑ってみせた。

(ラウラと黒ウサギ隊が特別なだけなんだろうか……)

 そんな事を考えながら、一夏達はシローに付いて行った……。



☆ ☆ ☆



「という訳で、彼等は我が部隊が預かる事になった、皆よろしく頼む」

 数分後、一夏達はシローが隊長を務める第08MS小隊のMS格納庫に案内され、そこで彼の部下と改めて顔を合わせ軽く自己紹介をした。

「しっかしこのガキンチョ共がザク一機を無力化するなんてねえ……」

 金髪に紫色のバンダナを頭に巻く男……08小隊のホバー運転手であるエレドア・マシスは、先の戦闘での一夏達の戦いぶりを目の当たりにし、彼等が装備している待機状態のISを物珍しそうに見つめる。

「へー、こうしてみると僕と齢が変わらないんですね」

 小隊最年少の茶髪の少年……エレドアと同じくホバー操縦手であるミゲル・ニノリッチは、この戦場では珍しい自分と同世代である一夏達に興味を抱いていた。

「ここでの生活は色々大変だろう? 何か解らないことがあったら何でも聞いてくれ」

 後ろ髪をドレッドヘアーで纏める黒人のガタイのいい男……テリー・サンダースJrは、気さくな態度で一夏達に語り掛けた。
 そんな彼等の様子を見て、一夏達は少しほっとした様子で小声で話し合う。

(良かった、この人達いい人っぽいね)
(少なくともここまで来るときに野次飛ばしてた奴等よりはマシでしょ)

 そうやって一夏達が08小隊の面々と交流する中、小隊員たちの一歩後ろで様子を伺っていたカレンが、小声でシローに話し掛けてきた。

(隊長……一体どういうつもりです? こんな子供をウチの小隊で預かるなんて……)
(仕方ないだろう? 上からの命令なんだし……それにお前だって見ただろう? 彼等はそれなりの力を持っている。悪い事ばかりじゃないさ)
(はぁ……)

 カレンはシローに言いくるめられながらも、未だに納得いかない様子で一夏達を見た。ちなみに一夏達が08小隊に預けられることや詳細な理由は、カレン自身コジマから聞いてはいた。

(未知のテクノロジーを持つ彼等にこんな対応……連邦がアナハイム・エレクトロニクス……いや、ビスト財団に何か弱みを握られているって噂は本当なのかもねえ)

 カレン自身、連邦政府とビスト財団の関係の噂を何度か耳にしたことがある。そして真意を確かめようとした物がいつの間にか行方不明になっているという噂も聞いていた。

(ま、腑に落ちないけどこれ以上の詮索はご法度だろうね)



☆ ☆ ☆



 それから数日後、一夏達はアナハイムからの連絡を待ちながら、基地で雑用等の手伝いをしていた。

「くぉらー若造! さっさとケーブル運ばんか!!」
「は、はいいいい!!」

 一夏は軍の補給中隊長であるテンガロンハットを被る老人……ジダン・ニッカードに怒鳴り飛ばされながら、彼に言われた部品をせっせと運んでいた。
 その時、水が入ったポリタンクを運ぶシャルと鈴が、ジダンに話し掛ける。

「おじいさーん、これどこに運べばいいんですかー?」
「おう! それは食糧庫の中に置いてくれ! こら若造ぱっぱと動かんか!」
「なんか俺の扱い酷くね!?」

 あからさまに鈴たちと自分との態度が違うジダンに一夏は文句を言いつつ、言われた仕事を淡々とこなしていった。

 それから数分後、へとへとになった一夏は、鈴とシャルと共に格納庫の隅に座り込んだ。

「ったくあのじいさん、俺が男だからってこき使いやがって……ああ喉が渇いた」
「「はい水筒!」」

 すると両脇にいたシャルと鈴が同時に水筒を一夏に差し出し、そのままバチバチと火花を散らしながら睨み合った。

「ちょっと……先に出したのは私なんだけど?」
「僕の水筒の方がキンキンに冷えてるよ?」
「いや、どっちでもいいから早くくれ……」

 水筒を受け取ろうとした右手の指をクイクイ曲げながら、一夏は二人の持つ水筒を催促する。

「君達……何やってるんだよ」

 するとそこに、同じく小休止に入ろうとしたミゲルが現れ、いつもと同じようなやり取りをする一夏達を見て呆れる。

「ああ、いつものことだから気にすんな」
「モッテモテだねえ君……まあ別にいいけど」
「ん?」

 その時一夏は、ミゲルの手元に分厚いマニュアルのような物がある事に気付いた。

「あれ? その冊子はなんだ?」
「これ? 僕が乗るホバーのマニュアルだよ、隊長が作ってくれたんだ」
「へー、結構分厚いわね、ISのマニュアル並みね」
「それだけ覚える事が多いんだね」

 ミゲルは一夏達の正面にある木箱に背を凭れ掛けさせながら座り、水筒とレーションを取り出した。

「まあね、僕、初出撃でちょっとヘマやらかしちゃってね……それで隊長が小隊全員分のマニュアルを作ってくれたんだよ」
「シローさんが!? その量を全員分!? すごいね!」

 驚くシャルをよそに、ミゲルはレーションを頬張りながらマニュアルに目を通していく。

「まあ、エレドアさん曰く、僕の配置されるホバーって一番兵の損耗率が高いらしいんだ。だから生き延びる為にはやれるだけのことはやらないと……」
「た、大変なんだなお前も……そんなの俺だったら覚えきれねえぞ」

 まるで他人事のように呟く一夏に、鈴は意地悪く笑って指摘する。

「流石、ISのマニュアルを電話帳と間違えて捨てた奴はいう事が違うわね」
「ちょ!? 何で知ってんだよ!? お前クラス違うだろ!」
「セシリアから聞いた」

 恥ずかしい過去を暴露され慌てふためく一夏、そんな彼等を見てミゲルは割と本気でドン引きしていた。

「えー……それはありえないでしょー、マニュアル捨てちゃうとかないわー」
「まあ普通はそういう反応だよね」
「もう許してくれよ! あの後千冬姉にじっくり説教くらったんだから!」

 一夏は思い出したくないトラウマを掘り起こされたのか、必死に話題を変えようとする。


 その時、格納庫の外である騒ぎが起こっていた。


「くそぉ! もう一度言ってみろ!」
「あれ……? 今の声サンダース軍曹のだ」
「何かあったのか?」

 一夏達が騒ぎが起こっている格納庫の外に行ってみると、そこには大勢のギャラリーに囲まれながら、第07小隊三人相手に殴り合いの喧嘩をするサンダースの姿があった。

「あわわわ!? 何やってるんですか軍曹!」
「アンタ達も味方同士だろ! 何煽ってんだよ!」

 ミゲルはびくびくしながら、喧嘩するサンダースを止めようとし、一夏は喧嘩を煽る他の連邦軍の兵士を止めようとする。しかし騒ぎは一向に収まる気配は無かった。その時……。

「やめろお前らぁ!」

 騒ぎを聞きつけたシローが乱入し、サンダースを羽交い絞めにしてタコ殴りにする7小隊の男を殴りつけた。

「シローさん!」
「さあ掛かってこい!」

 驚く一夏達をよそにファイティングポーズを取るシロー、その時……騒がしいクラクションの音と共に、コジマを乗せたジープが近くに停車した。

「コラ貴様ら! 何を騒いでおる!」
「は! レクリエーションであります!」
「小隊同士の交流を深めておりました!」

 ジープを降りたコジマの質問に対し、シローと7小隊の隊員は背筋を伸ばし答えた。

「交流だと? この糞暑い中をか? 下らん事してないでさっさと持ち場に戻れこの馬鹿者が!」

 コジマの一喝と共に散って行くギャラリー達、そして7小隊の隊員達は去り際にサンダースに対し意地の悪い顔をして捨て台詞を吐いた。

「じゃあな“死神”! うへへへ!」
「……!」

 その言葉にサンダースは再び食って掛かろうとするが、一夏に軍服を掴まれ止められる。

「やめとけよ、ああいう輩は無視するのが一番だ。食って掛かるとさらにねちっこい嫌がらせして来るぞ」

 一夏は子供の頃に経験した出来事(箒をいじめっ子から助けたら、そのいじめっ子の親たちがさらに騒ぎを大きくしたこと)を鑑みてサンダースを止める。するとサンダースはようやく落ち着きを取り戻した。

「すみません隊長……ご迷惑をおかけしました。君もすまなかったな」
「一夏の言う通りつまらん誹謗中傷は気にするなよ」
「でもなんです? アイツラの言っていた死神って?」

 一夏の質問に対し、サンダースは少し険しい顔をした。

「……なんてことはない」

 そしてそのままその場を去っていた。それを見たミゲルは呆れ顔で一夏の背中を突いた。

「君ってさ……よく皆に鈍いとか言われてただろ?」
「え? よくわかったな」
「……はあ、バカなんだね君」
「はあ!? 何を……」

 ミゲルの指摘に訳が分からないと言った様子の一夏、そしてミゲルの後ろでは鈴とシャルがミゲルの意見にウンウンと頷いて同意していた。

 そしてその一部始終をガンダムの肩の上から眺めていたカレンは、面白くなさそうに鼻をフンと鳴らした。

「ふんっ……情けないねえ」

 一方、シローが格納庫に戻ろうとした時、彼はコジマに呼び止められた。

「少尉……少しいいか?」
「はっ、何でしょう?」
「上からのお達しでな……あの少年達が駆る兵器の戦闘データを集めてほしいそうだ、今夜の哨戒任務の時に同行させてもらえんだろうか?」

 そのコジマの指令に、シローは怪訝な顔をする。

「一夏達をですか……? 彼等は軍属じゃない事はご存知でしょう?」
「ああ、上も十分承知しているよ。その上で、だ」

 コジマの念押しに、シローは何か言いたげな顔をするも、すぐに背筋を伸ばして返答した。

「はっ、ご命令とあらば……」
「すまんな、なるべく危険な事はさせないようにな」

 そしてコジマは再びジープに乗り込み司令部の方へ向かって行った……。




☆ ☆ ☆



 夜、シロー率いる08小隊は、ジオン軍が新兵器を開発したと言う情報の真意を確かめる為、森の中へ哨戒任務に出ていた。無論一夏達三人もシローの要請を受けてホバーに乗って同行している。

「あ~ん何ココ熱いんだけど! クーラー無いの!?」
「贅沢言うんじゃねえよ!」

 手で顔を仰ぎながら文句を言う鈴音を怒鳴り飛ばすエレドア、その時……鈴音の後ろにいたシャルが、助手席に座るミゲルが手紙を書いている事に気付いた。

「何書いてるのミゲル?」
「うん……故郷にいる恋人に手紙をね」
「え!? お前恋人いるの!?」

 すると一夏と鈴音もその話題に食いついてくる。するとミゲルはまんざらでもなさそうにニヤニヤ笑い始めた。

「いやーB.Bって言うんだけどね! これが可愛くてさー……ハイコレ写真」

 そう言ってミゲルはポケットの中から自分の写真を取出し、一夏達に見せる。

「ひゅー! 中々可愛い子じゃない!」
「やるねえ君も! 大事にしなよー」
「でへへ、どうもどうも」

 シャル達にちやほやされデレデレ顔のミゲル、すると隣に座るエレドアがそんな彼等を鼻で笑う。

「へん! どーせ遠距離恋愛なんてうまくいかねーんだよ! んな事でキャーキャー騒いでる暇あったら銃の掃除でもしてやがれ!」

 そんなエレドアに、鈴音とシャルが憐れみを込めて彼の肩をポンと叩く。

「もてない男の僻みは……みっともないわよ」
「大丈夫、エレドアさんにもきっといい人が見つかるよ」
『そうだぞエレドア、俺は隊長として応援してるぞ』
「お前等失礼だな!? つか隊長まで入ってくんな!!!」


 そんなやり取りをしながら08小隊は森の奥深くまで進み、それぞれ一旦機体を降りて休憩し、暖を取りながらコーヒーを作っている時、サンダースがシローに話し掛けてきた。

「隊長、お話があります」
「なんだサンダース?」
「自分は……MSを降りたく、転属を希望します」

 その言葉に、シローを始めとした周りの人間達が驚愕の声を上げる。そしてサンダースは呑気にくつろいでいるエレドアに話し掛ける。

「エレドア……お前が代わりに乗ってくれ」
「俺!? いやいや無理だって!」
「じゃ、じゃあ僕が乗ります? もうシュミレーションも大分こなしましたし……」

 いきなり自分を名指しされ戸惑うエレドアと、半ば嬉しそうに立候補するミゲル。そんな中皆にカップを配っていたシャルが心配そうにサンダースに問いかけた。

「いきなり転属願いなんて……一体どうしたんですか?」
「この隊の隊員として……皆を死なせる訳にはいかないんです」

 次の瞬間、少し離れた場所で話を聞いていたカレンが、持っていた工具箱を放り投げて、サンダースの顔面にパンチを見舞った。

「こいつ!!」
「うぉ!?」

 殴り飛ばされ地面に伏すサンダース、それを見た一夏が慌ててカレンを止める。

「ちょ! カレンさんいきなり何してるんですか!」
「まったく……まだそんな事言っているのかい! お前のいた部隊が全部潰れたのは確かだろうさ。でもそれを7小隊の奴等にからかわれて怒ってたんじゃ、自分で死神と認めてるってことだろ!!」

 一夏の制止を無視し、サンダースに罵声を浴びせ続けるカレン。対してサンダースも口元を拭いながら反論しようとする。

「だ、だから俺は……!」
「MSを降りりゃ事は済むってかい! この根性無しが!!」

 しかしカレンは反論の隙を与えず、サンダースの股間にドカッと蹴りを叩きこんだ。サンダースは何ともいえない痛みにただただ悶絶していた。

「のおおお!」
(うわぁ……潰れたんじゃね今の!?)
(カレンさんだけは怒らせない様にしよう……)

 一夏達男性陣ははその様子を見て、無意識に手で自分の股間を手で覆った。

「へっ、一応ついてたのかい」
「おいカレン! いい加減にしないか!」

 そして見かねたシローが両者の間に割って入った。

「お前の様な意気地なしと組むのは、こっちから願い下げだ!」
「カレン……!」
「いや、いいんです隊長……自分の所属していた部隊は、三度目の出撃でことごとく全滅しました。自分だけを残して……」

 サンダースの言葉を聞いて、ミゲルは緊張のあまり生唾を飲み込む。

「さ、三度目のジンクス……」
「8小隊にいるとみんな死ぬことになる……だから俺は降りたいんだ!」
「お前……!」

 サンダースの言葉にカレンは怒り、再び彼に詰め寄ろうとする……その時、今度は一夏が彼等の間に割って入って来た。

「な、なあ待ってくれよサンダースさん。あのさ……サンダースさんの乗るガンダムって、ジムって奴よりすげー強いんだろ?」
「あ、ああ……そうだが?」

 何を言いだすんだと一同が困惑する中、一夏は話を続ける。

「つまりこのガンダムをここに配置した奴は、サンダースさんに期待してんだよ。俺もそうなんだ。俺の白式は専用機っていう特別な機体で……ISの世界チャンプだった千冬姉の機体のコアが使われてるんだ。これを与えてくれた人は、それだけ俺に期待してくれているんだと思う。ちょっとプレッシャー感じるけど、それ以上に嬉しかったんだ」

 一夏は離れた場所に置いてあるサンダースの陸戦型ガンダムを眺めながら話を続ける。

「きっとサンダースさんを死神だと思ってる奴はあの7小隊の奴等だけだぜ。あれをここに送って来た奴も、ここにいるみんなも、サンダースさんの事をエースとして頼りにしてるんだ。だから……さ? もうちょっと自信持ってもいいと思うぜ」
「一夏……」

 するとシローはやれやれと息を吐き微笑みながら、サンダースの胸板を小突いた。

「今は作戦行動中だ、転属は受け入れられない。持ち場に戻れ」
「ですが……」
「俺は隊長とはいえまだまだひよっこだしな……っていうかお前らより年下だし、だから頼りにしてるよ。軍曹」

 そう言って微笑むシローにサンダースもそれ以上何も言わず自分の機体の元へ歩いて行った。
 そんなやり取りを見て、カレンはふっと笑いながら鈴音とシャルに小声で話し掛ける。

(なかなかやるじゃないか、アンタ達の連れの男)
(まあねー、私が惚れた男ですから)
(一番辛い思いをしている人に真っ先に力を貸してくれる……あれが一夏のいいところなんですよ)

 そう言って鈴音とシャルは誇らしげに一夏の方を見た。一夏はシローが乗り込んだ陸戦ガンダムと、自分の待機状態のIS……白式を交互に見つめる。

(エースの為の機体か……俺はお前を使いこなせているのか? 白式……)



☆ ☆ ☆



 それから数分後、08小隊は突然ザクの銃撃を受けて、迅速に各自持ち場に着いた。

『ったく! 奴等の目的は何なんだよ! サンダース! 今からエリア376へ移動する! トップは俺がとる! ついてこい』
『は……!』

 自分の機体に乗り込んだシローの通信に対し、サンダースはカタカタ震える手で操縦桿を握りしめていた。

「嫌な感じだぜ……」
「サンダースさん、ちょっと緊張しているみたいだな……」

 一方一夏達もエレドアとミゲルのいるホバーに乗り込み、シロー達の通信を聞きながら戦況を見守っていた。
 その時、シャルはミゲルがノートに何かを必死にメモしている事に気付いた。

「ミゲル? 何書いてるの?」
「遺言でもと思って……」
「ちょっと! 縁起悪い事しないでよね!」

 弱気なミゲルの行動に横で見ていた鈴音が怒鳴り飛ばした。
 そして数分後、ザクとの交戦が続く中、シローはエレドアに通信を入れる。

『エレドア、敵の位置を特定できるか?』
「11時の方向約2000! カレンが追い込んでいます!」
『!? 隊長……敵が引いて行きます。まるで誘っているように……』

 それを聞いた一夏は、助手席に座るミゲルに問いかける。

「逃げ出したのか……」
「だといいんだけどね」
「お前等口閉じろ! 何か来る!!」

 その時、エレドアは計器が異常な反応を示している事に気付き、周りを黙らせてソナーに全神経を集中させる。
 そしてその異常はガンダムに乗るシロー達も感じ取っていた。

『おかしい……何か変だ』
『突っ込みますか?』
『いや待て、まだ何かあるぞ……』

 その時、エレドアがジオン軍側の通信を傍受し、シローに通信を入れてくる。

「隊長、これを聞いてください」

 通信機からは、ノイズ混じりで聞き取りにくいが、どうやらジオン兵が司令部と通信を行っているらしく、所々に“アプサラス”という単語が聴こえてきた。

『これは……』
「ミノフスキー粒子に邪魔されて聞き取りにくいですが、敵の何かがこちらに向かっているようです……! 何故暗号じゃないんでしょう?」
『よし……俺達はここでそいつを待ち伏せする。各員、体位を低くしろ』
『『了解』』

 シローの指示に従い、自分が乗るガンダムをしゃがませるカレンとサンダース。

「隊長、目標は40秒後にこの上空に到達します」
『解った。やり過ごして様子を見る』
「もしかしてこれが軍曹のジンクス……」

 ミゲルがそう呟いた瞬間、鈴音が彼の頭をスパーンと叩いた。

「あいたー!?」
「だからそういう事言うのやめなさいって言ってるでしょ!? 次はISで殴るわよ!?」
「お前等静かにしろって! もうすぐ目標がこっちにくる……MSのサイズじゃねえぞ……! 戦闘機のエンジン音も複数……!」

 ミゲルはそのままホバーの機関銃の砲台の所へ上りレバーを握りしめる。
 すると上空に、二機のジオン軍の戦闘機……ドップが現れた。

『来たぞ……やりすごせ!』

 だがその時、ホバーの機関銃の銃口から弾が発射され、二機のドップの間を通り過ぎて行った。

「馬鹿野郎! 何故撃った!!?」
「ど、どうしましょう!?」

 緊張のあまり引き金を引いてしまったミゲルは、エレドアに怒鳴られながら半泣きになる。そしてドップはシロー達目掛けて飛んできた。

『見つかったぞ! 散開しろ!』
『余計な事をして……!』

 シロー達はすぐさま散開し、銃撃してきたドップを迎え撃った。

『聞いてるか軍曹! 私は死なないよ……見てるんだな!!』

 するとカレンは自分の陸戦型ガンダムのブースターを吹かして空高く飛び上がった。

『何をするんだカレン!?』
『でやー!!!』

 カレンのガンダムが装備する100mmマシンガンが火を噴き、その銃弾はドップ一機を落とす事に成功する。

『見たか軍……!』

 墜落するドップを見て勝ち誇るカレン、だがその時……彼女の乗るガンダムの正面から、天辺にザクの頭を付けた、MSの数倍の大きさはある巨大な緑の饅頭の様なMAが現れ、体当たりでカレン機を吹き飛ばしてしまった。

『うわあああああああ!!』
『カレン!』
「な、何よアレ……!」

 吹き飛ばされるカレンを心配しつつ、一同は上空から現れた巨大なMAに、驚きのあまり絶句する。

「……! くそっ! 来い白式」

 その時、一夏はホバーを飛び出す様に降りて白式を呼び出しそれを纏う。

「おいコラ! どこ行くんだ!?」
「カレンさんを助けるんだよ! 戦闘機はまだ一機あるんだし!」

 よく見ると残ったドップがシロー機とサンダース機の攻撃を凌ぎ、カレン機の救助の邪魔をしていた。それに気付いた一夏はすぐさまカレンの救出に向かったのだ。

「一夏! 無茶だよ!」
「無茶でもなんでもやらないと……!」

 一夏はすぐさま横転して動かないカレン機の元に飛んで行こうとする。だがその時……彼の前にMAが立ち塞がった。

「く、くそ……!」

 一夏はすぐさま雪片弐型を手に取って戦闘態勢に入る。しかし……。

(な、何でだ……何で体が動かないんだ!?)

 目の前にいる巨大MAの圧倒的威圧感……今まで戦ってきたゴーレムやVTシステムに支配されたシュヴァルツェア・レーゲン、銀の福音、ザクを始めとしたMSらにはないそれに、一夏の体は完全に恐怖に支配されていた。
 そして次の瞬間、巨大MAは一夏に向かって体当たりをした。

「うわああああああ!!!」

 その圧倒的質量による体当たりにより、白式のシールドエネルギーは満タンの状態から一気に10%近くに減らされ、一夏はそのまま地面に墜落した。

「が、ぐ……!」

 白式が発するアラート音を聞きながら必死に身を起こそうとする一夏、その時……巨大MAは突如高度を下げ、機体の真下から巨大なビームを放ち、周りの木々や地面を抉った。

『うわあああ!!!』
『ひええええ!!』
「わあああああ!!?」

 一夏はその衝撃により何十メートルも吹き飛ばされ、巨大な木に激突した。

「がは……!」

 シールドエネルギーはすでに一桁代にまで落ち込み、白式にはもう戦う力が残されていなかった。そんな一夏に……巨大MAはジワジワと近付いてきた。

「あ、あ……!」

 それを見た一夏は、全身から熱が抜けて行き自分の体が冷えていくのを感じ、這い蹲りながらその場から逃げ出そうとした。

「うわ、うわああああああ!!! 来ないでくれえええ!」

 振り絞って出した、助けを求める悲鳴に近い叫び……その時サンダース機が、装備していた180mmキャノンを巨大MAに向かって放った。残っていたもう一機のドップはサンダースによって戦闘不能にさせられていた。

『化け物めええええ!! 死なせはせん! 誰も死なせはせんぞおおおおお!!!』

 サンダース機は装填されていた180mmキャノンの弾総てを撃ち尽くすと、ブースターを吹かしてビームサーベルで巨大MAに切りかかった。MAは攻撃を避けようとするが、下の部分にビームサーベルが突き刺さった。。

『俺は……俺は……! 死神じゃない!!』

 そしてビームサーベルが出力不安定で爆散し、サンダース機は地面に落下する。そして巨大MAはサンダース機を仕留めようと、再び下からビーム砲を放とうとしていた。

『負けるか! 負けるもんか……! 俺は負けんぞ!』

 窮地に立たされても諦めようとしないサンダース、その時……何発もの銃弾やビームが巨大MAの体に直撃した。

『撃て! 撃ち続けろ! 銃身が焼けつくまで撃ち続けるんだ!!』
「一夏から離れなさいよおおおおお!!!」
「ああああああ!!!」

 砲撃が放たれている方角には、シロー機に戦列に復帰したカレン機、そしてISを纏った鈴音とシャルが巨大MAに集中砲火を浴びせていた。
 すると巨大MAは、翼部分を損傷し退避していた生き残りのドップと共に、その場から飛び去って行った。

「に、逃げた……?」
「よかった……撤退してくれた」
『よくやったぞお前達!』

 鈴音とシャルは気が抜けたように地面に着地し、安どのため息をつく。そしてカレンは大笑いしながらサンダースに通信を入れてきた。

『はっはっはっは! どうだ軍曹!? 私は生きているぞ!!』
『ああ……生きている……』
『もちろんだとも、ジンクスなんて吹き飛ばせるんだ、信じ合うことが出来ればな……』

 誰一人欠けることなく生き延びた事にシローは喜びを感じながら、曇天の隙間から照らされる朝日を眺めた……。





 その一方で、一夏は巨大MAが飛び去った方角を見ながら、がっくりと項垂れていた。

「俺は何も出来なかった。何が皆を守るだよ……」



☆ ☆ ☆



 連邦軍基地から数キロ離れた湖畔、ジオン軍が占領しているその地区に先程戦闘を終えた巨大MAとドップが着陸し、コックピットからパイロットが出てきた。

「ノリス、大丈夫でしたか!?」

 巨大MAのパイロット……アイナ・サハリンは、ドップのパイロットであり先に降りていたノリスに駆け寄った。

「私は大丈夫です。しかし部下を一人失ってしまいました……」

 壮年の男性であるノリスは年相応の落ち着きを見せつつ、戦死したもう片方のドップのパイロットを思い肩を落とす。

「アイナさん!」
「大佐!」

 するとそこに。長い黒髪をポニーテールでまとめた背の高い少女と、右目に眼帯を付けた銀髪の少女が駆けよって来た。

「箒さん、ラウラさん……態々出迎えに?」
「お二人が心配で……」
「そう……ちょうど良かった、実は先程の戦闘で貴方達のお仲間らしき人達を見つけました」

 その瞬間、ポニーテールの少女……篠ノ之箒と、眼帯の少女……ラウラ・ボーデビッヒの顔色が変わった。










 今回はここまで、次回は08小隊第五話の話をジオン側の視点で展開しつつ、今回出てきた箒とラウラの転移からこれまでの経緯を描きたいと思ってます。

 一夏には今回の話からちょっとした挫折を味わってもらいます。これと後のイベントで彼のキャラが大きく変わるかもしれません。
ISでMAは流石に無理だと思うんですよね……まあ盾無会長辺りの特殊能力使えば何とかなる場合もあるんでしょうが。デストロイガンダムみたいな特殊なシールドが張ってある機体とかはまず無理そうな気がするんですよね……。スパロボではISとサイズが近いダンバインとかテッカマンブレードがMAを倒したりしてますが、アレはトンデモ火力がある事前提ですし……。



[39480] 第四話「もう一つの邂逅」
Name: okura◆9e01ba55 ID:3aa814b0
Date: 2015/04/12 02:01

 第四話「もう一つの邂逅」


 一夏達がこの世界にやってくる3日前、東南アジアの密林地帯……連邦とジオン、そしてゲリラとの戦いが激しさを増すこの地帯にも、様々な野生動物が生息しており、日々激しい生存競争を繰り広げている。
 そしてここに一匹、体長1m程の蛇がニョロニョロと地面を這い獲物を探している。
 その時……その蛇の頭上から一本のナイフが落ちてきた。しかし蛇はナイフを避けて茂みの中に逃げ込んでしまった。

「ちぃ! 逃がしたか!!」

 すると近くの木陰から、小さい身長に長くてサラサラした銀髪を靡かせた、左目を黒いベルト状の眼帯で隠した少女……ラウラ・ボーデビッヒが現れた。そしてその後ろからは、彼女より背の高い黒髪ポニーテールの少女……篠ノ之 箒が、少し嫌そうな顔をしながら現れた。

「な、なあラウラ、あの蛇をどうするつもりだったのだ?」

 自分が投げたナイフを地面から引き抜くラウラを見て、箒は嫌な予感を抱いた。対してラウラはさも当然と言った様子で答えた。

「無論食べる為だが? このような状況に陥ってしまった以上、水分とタンパク質の確保は急務だ」
「……」

 ラウラの返答に箒は顔を引きつらせ、そしてはあっと溜息をついた。

(何故こんな事になったのだ……)

 箒は福音との戦いの直後に遭遇した怪現象の直後、見知らぬ場所に飛ばされ、すぐさま近くにいたラウラと合流することが出来た。そして現状を把握する為、そしてあわよくば一夏達や千冬らIS学園の教員たちとの連絡手段を見つける為、二人で見知らぬ密林の中を歩き回っていた。
 が、数時間歩き回ったが知り合いどころか人一人遭遇することが出来ず、辺りはすっかり日が沈んで辺りはオレンジ色に染まっていた。さらに……。

(考えてみれば私、ラウラとはまともに話したことが無かったな……)

 元々人付き合いが苦手な箒は、学園の中でも一夏に絡むときを除いては孤立気味であり、何気にいつも一緒に居るセシリアと鈴音、部屋が同室で仲のいいシャルとラウラと比べて、彼女達と話す機会が少なかった。おまけにラウラとは先の学園の対抗戦でタッグを組んだことがあるのだが、当時のラウラは一夏に敵意を向け周囲に壁を作っており、箒とは会話らしい会話を交わしたことが無かった。

(何を話せばいいんだ……いつも一夏を巡っていがみ合っていたからなぁ。これじゃ姉さんの様になってしまう……!! それだけは死んでも嫌だ!!)

 この前までの自分を殴りたい気持ちになる箒、その時……ザシュッという音と共に、ラウラが嬉しそうな顔をしながら箒に駆け寄って来た。手元には先程逃げた蛇が彼女のナイフによって刺され絶命していた。

「おい箒! ようやく仕留めたぞ! 消毒の為焼いて食べるがその前に血を頂くぞ! さあ啜れ!」
「啜れるか!!」

 グロテスクな物を突き付けられ声を荒げる箒、その時……突如遠くからドォンと爆音が鳴り響いた。

「なんだ!? 戦闘か!?」
「まさか一夏か!?」

 箒とラウラは反射的に爆音がした方向へ駈け出した。



☆ ☆ ☆



 数分後、二人は爆音がした場所にやって来た。そこには巨大な人型機動兵器……ザクが煙を噴き上げながら体中に銃痕を刻んで倒れており、辺りからは焦げ臭いにおいが充満していた。

「これは、まさか……!」

 ラウラは何やらブツブツ呟きながら辺りを探索し始める。一方箒はオロオロしつつもその場で辺りをキョロキョロ見渡していた。

「一体何だここは……戦場、なのか?」

 ISの戦いとは違う、異質な空気が漂うこの場所に戸惑う箒……その時、彼女は何か足元に何か引っかかった事に気付き、下を向く。

「!? うわ! うわああああああ!?」

 そして驚愕と恐怖のあまり尻餅をつく、彼女の足に引っ掛かった物……それは千切れた人間の足だった。よく見ると辺りには木の枝に突き刺さって磔の状態になっている者や、四肢が千切れ飛んで事切れている者が沢山いた

「落ち着け箒! どうやらここで戦闘があったようだな……」

 恐慌する箒を一喝で落ち着かせようとするラウラ。そんな彼女に、箒は半泣きで怒鳴り飛ばした。

「なんでお前はそんなに落ち着いているんだ!? ひ、ひひ人が死んでるんだぞ!?」
「……こんな事、ドイツで何度も経験した」

 ラウラは少し寂しげな顔で返し、箒はハッとなる。ラウラはドイツ軍で遺伝子強化試験体として生み出された試験管ベビーであり、皆に深く語ったことはないが、恐らくドイツにいたころにこういった経験を何度も繰り返しているのだろう。

「す、すまない……」
「いやいい、それより生存者を探すぞ。ここの情報を引き出すんだ」

 ラウラは至極落ち着いた様子で辺りの捜索を再開する。その様子は……まるで職務を全うしようとする模範的な軍人そのものだった。

「ぐうう……! だれ、か……」

 その数秒後、木陰の方から何者かの声が聞こえ、箒とラウラはすぐさま声がした方へ駆けつける。するとそこには……右足があらぬ方向に折れ曲がり、全身が血まみれの状態で気に凭れ掛かっている。緑の軍服に茶色のヘルメットを被った軍人らしき者がいた。

「お、おいお前! 大丈夫か!?」
「所属と階級は言えるか? ここで何があった?」

 箒は慌てて、学園で習った骨折の応急処置をしようと固い棒状の物を探し、ラウラはその者が意識があるのを確認し質問攻めを行う。

「わ、我々はジオン東南アジア方面軍所属……こ、ここで連邦軍と戦闘になって隊は全滅……」
「ジオン? 連邦? 聞いた事ないな……アフリカかどこかの国か?」
「話は後にしろラウラ! 早くしないと死ぬぞ!」

 箒はラウラと協力し、不器用ながらも数分掛けてその兵士を治療し、近くの木陰に休ませる。

「生存者はどうやらこいつだけみたいだな」
「ああ、ひとまずは大丈夫みたいだがこれからどうする? こいつをちゃんとした施設で治療させなくては……」

 すると箒とラウラに助けられた兵士が、うめき声をあげながら立ち上がろうとした。

「き、基地に帰還しなければ……大佐に任務失敗の報告を……」
「お、おい動くな! まだ傷は塞がっていないんだぞ!」

 よろめく兵士を見て、箒は慌てて兵士の体を支える。その瞬間……兵士が被っていたヘルメットが地面に落ちた。すると兵士はくるっとしたくせ毛の黒髪に、端正な小顔を箒達の前に晒した。

(女……? それも私達と同い年ぐらいだ……)

 その兵士……少女の姿を見て、箒は唖然となる。一方ラウラはすぐさま少女の体を支えた。

「その基地とやらはどこだ? 我々が帰還を手伝う」
「おいラウラ!?」
「この状況を打破するには情報が欲しい……ならここにいてもしょうがないだろう?」
「……そうだな」

 そう言って箒も少女兵士の肩を担ぎ、彼女が所属するというジオン軍の秘密基地まで歩き出した……。



☆ ☆ ☆



 一時間後、箒とラウラは少女兵士を連れて、とある山の麓にある洞窟の中を歩いていた。

「本当にここに基地があるのか?」
「敵に見つからないようにするためには有効だな」

 そんな事を話していると、三人は大きな鉄の扉の前にやって来た。するとどこからか声が聞こえてきた。

『止まれ! 何者だお前達は! ジオンじゃないな!』
「我々はこの者を送り届けに来ただけだ! 怪我をしていて非常に危険な状態だ! 早く開けてくれ!」
『怪しいな……少し待ってろ』

 するとマイクの声は何者かと相談しているのか、何やらマイクの向こうから話し声が聞こえてきた。

『少佐……いかがいたしますか?』
『スパイならこんな面倒な手は取るまい、通してやれ』

 すると鉄の扉はゴゥンと鈍い音をたてて開き始め、一面鉄の壁で敷き詰められた通路が現れた。そして奥から少女兵士と似たような恰好の兵士が数名、銃を構えたまあ現れた。

「動くな! そいつをこちらに引渡し、ゆっくり手をあげろ!」
「了解した」

 銃を向けられつつも冷静に少女兵士を目の前の兵士達に引き渡そうとする。だがその時……兵士たちの後ろから、銀髪ショートヘアの美しい女性が駆け寄って来た。

「おやめなさい! まずは怪我人の治療が先です!」
「アイナ様……畏まりました」

 すると兵士達はアイナと呼ばれた女性のいう事を素直に聞き、銃を降ろして箒とラウラが肩を貸していた少女兵士を医務室へ連れて行った。
 そしてアイナは箒とラウラの方を向き、深々と頭を下げた。

「彼女を助けていただきありがとうございます。地元の方でしょうか?」
「いや、それがその……」
「我々は情報交換を希望する」

 何を喋ればいいのか口籠る箒を遮る様に、ラウラは堂々とした態度でこれまでの経緯を話し始めた……。



☆ ☆ ☆



 ジオン軍東南アジア方面基地の司令室、そこでこの基地の司令官のギニアス・サハリンは、副官であるノリス・パッカードから報告を受けていた。

「ほう? アイナが変わった人間をこの基地に招き入れたと?」
「ええ……我が軍の兵を救助してくれたので、敵ではないと思われるのですが……」

 ノリスは先程アイナが招き入れた箒とラウラの証言をギニアスに話す。彼女がIS学園という学校の生徒で、ISという兵器を扱う代表候補生である事、作戦行動中に謎の怪現象に教われてこの東南アジアの戦場にいたという事すべてを。

「私ならもっとマシな戯言を吐くがな。ISという兵器など聞いた事も無い」
「まったくです。ですが……誰もが信じないような事など話しても効果が無い事は彼女達も承知のはず、それを態々話すとなると……」
「ふん、私はアプサラスの事で忙しい……そのアイナの拾い物の件はお前に一任する。ああ、そのISとかいう兵器、後で私にも見せてくれ。息抜き程度にどういう物か確認してやる」

 そう言ってギニアスは、くるっとコンピューターのモニターの方を向き、何かの設計図を見ながらキーボードを打ち始めた。

「……あまり根を詰めぬように」

 そう言い残し、ノリスは司令室を後にした。そして司令室に一人残ったギニアスは、キーボードを打ちながらある事を思いだしていた。

(……そう言えば前に似たような話を聞いたか? まあどうでもいいか)

 ギニアスは雑念を振り払うように横にあったコーヒーを啜り、設計図にある兵器作りに没頭する……。



☆ ☆ ☆



 数分後、基地にある取調室の様な部屋……その中で箒とラウラは二人一緒に腕を組みながらう~んと深く悩んでいた。

「……これは困ったぞ、どう考えてもここは私達の知る場所……というか世界ではない」

 箒達はこの基地に配属された兵達からこの場所……この世界の事を聞き、半信半疑ながらもここが自分達がかつていた世界とは違う所だという事に感付き始めていた。

「い、いやいや! 幾らなんでも非常識だ! 現実離れしすぎている! 別の世界に来てしまったなど……!」
「いや、あり得るかもしれないぞ」

 取り乱す箒に対し、ラウラは至極冷静に今の状況を見ていた。

「……何か知っているのか?」
「……これは我がドイツの最高機密に関わる事だ。できる事なら口外しないでほしい」

 そう言ってラウラは机を挟んで正面に座る箒に顔を近づけ、小声で話し始めた。

「これは私がIS学園に来る一か月前ぐらいの頃、テロリストがある兵器を使って都市に攻撃を仕掛けようとしているという情報が我が軍にリークされたのだ。そして我々黒ウサギ隊が情報にあったテロリストの秘密基地に向かうと……そこにあのザクとやらに鶏冠と翼を付けたような灰色の人型兵器があったのだ」
「そうなのか!?」

 ラウラがあのMSという兵器を知っていたことに驚愕する箒。そしてラウラは尚も話を続ける。

「その場に居たテロリストはすぐさま自害し、MSとやらもすべて自爆して破片しか回収できなかったがな。それでもISには無いテクノロジーが詰れているのが解り、もしあれが実用化されればISは無用の長物となり、今の社会形態が再び大きく変化らしい。上層部が真っ青な顔であの任務に関わっていた者すべてに箝口令を敷いていたのをよく覚えている」

 確かにMSような兵器が自分達の世界で運用されればISの存在が脅かされるだろうし、ISで真っ向から挑んだら苦戦は必至だろうなと箒は思った。

(それにドイツにもあのような物が……? まさかここの連中が関わっているのか?)

 その時……二人のいる部屋の扉にコンコンとノック音が響き、そこからアイナとノリスが現れた。

「お二人共……お話合いは終わりましたか?」
「え、ええ」

 箒はアイナから醸し出される上品なオーラに戸惑い、緊張を込めた敬語を喋っていた。一方ラウラはアイナの後ろにいるノリスに話し掛ける。

「それで少佐、我々の処遇はどうなりましたか?」
「ギニアス様は私に君達の事を一任なされた。まあ私は、兵を助けてくれた君達を悪いようにすることはしない。無論……この基地の事を連邦に知られたくはないからな、戦況が落ち着くまでここから出すことは出来んがな」
「構いません、軍としてはそれが当然の選択でしょうから」

 ノリスの返答に対し、ラウラは納得した様子で受け入れた。そしてアイナは心配そうな顔で箒とラウラに問いかける。

「貴方達はこれからどうしたいのですか? 話を聞けばこことはまったく違う所から来たと言ってましたが……」
「……出来るなら、ここで一夏達の行方を捜したいです。一夏達もこの世界に飛ばされた可能性がありますし……」

 自分達がこの世界にいるという事は、一夏達他の四人もこの世界に来ている可能性がある……そう思った箒は、まず彼等と合流することを第一にと考えていた。

「そうですか、ノリスも言っていましたが、貴方達はここからしばらく出る事は出来ませんし……しばらくはここで腰を落ち着けるのもいいでしょうね」
(そうするしかないか……)

 軍のやり方という者を幼い頃姉の所業の巻き添えの際に嫌という程経験した箒も、仕方ないという気持ちでその提案を受け入れた。
 その時、アイナは自分の腕に装着している腕時計を一瞥し、その場を去ろうとしていた。

「ではノリス……私はテストがあるのでこれで」
「ええ、彼女達は私にお任せを」

 そしてアイナは去って行った。それを見て箒は質問する。

「テスト……? あの人はもしやあのMSとかいう兵器のパイロットなのですか?」
「すまんな、それは軍事機密に当たるのでいう事は出来ない。アイナ様はこの基地の総司令の妹君でな、その手伝いをしているのだ」
「ほう、軍人には見えなかったが、そのような事もしているのですか……」
「……」

 そう言ってうんうんと頷くラウラ。一方箒はアイナを見て何か思う所があるのか、去って行く彼女の後姿をじっと見続けていた……。



☆ ☆ ☆



 翌日、アイナ・サハリンは数多の機器に囲まれた薄暗いコックピットの中にいた。モニターには無限に広がる宇宙空間に浮かぶいくつもの宇宙戦艦……地球連邦軍の戦艦サラミスが、砲身をアイナの乗るMA……アプサラスに向けていた。
 アイナはサラミスが放つビームの雨を掻い潜りながら、アプサラスの中央に設置されているメガ粒子砲を放ち次々と敵の数を減らしていく。しかし宇宙空間での高速移動はアイナの体に大きな負担を掛け、集中力を鈍らせていく。
 そして彼女の死角から、サラミスの砲撃が襲い、彼女のコックピットを焼き払った……。
 次の瞬間、ピーッと機械音が鳴り、コックピットが開く、アイナの視界に基地の実験室の光景が広がり、彼女の元に三つ編みのジオン軍の軍服を着た女性が現れた。

「アイナ様……いきなりレベル5は無茶です。あまり無理をなさらぬよう」
「ありがとう、でもお兄様の夢をかなえる為には、私がもっと頑張らねばならないのです。セッティングを変えてもう一度やりましょう」

 アイナはジオン軍服を着た女から水筒を受け取り、ぐっと中身を飲み干した。そしてある事を思いだした。

「そう言えば……箒さんとラウラさんはどうしています?」
「それが……」



☆ ☆ ☆



 基地の奥の方にある、負傷兵を収容する医務室、連日増え続けるジオン軍の負傷兵が敷き詰められているその場所に、箒とラウラはいた。

「ほらほら、そんな巻き方じゃすぐ取れるわよ」
「す、すみません……」

 軍医の女性に叱られ、しゅんとしながら負傷した兵士に巻いた包帯を取る箒。それを見たラウラは機材を運びながら呆れた様子で話し掛ける。

「おいおい、お前が手伝うと言い出したのに、仕事を増やしてどうするんだ」
「う、うるさい……慣れていないんだから仕方ないだろ……」

 そう言って顔を真っ赤にする箒、するとそこにアイナがやって来た。

「お二人共……ここの手伝いをしてくれているのですか?」
「は、はい……ジッとしているのも悪いと思い、何か手伝えないかと提案したら……」
「ありがとうございます。気持ちだけでもうれしいです」

 そう言って優しい笑顔で応えるアイナ、それを見た箒は何か気恥ずかしくなり、何かを思い出したかのようにガバッと立ち上がった。

「そ、そうだ……消毒剤切らしていたのでした。倉庫へ行って取ってきます」

 そして箒は去って行き、アイナは次にラウラに話し掛ける。

「ラウラさんもありがとうございます。わざわざ手伝っていただいて」
「い、いえ……私はただ箒に言われて手伝っただけですから……」

 箒同様顔を赤くするラウラ、それを見たアイナの後ろにいたジオンの女軍人は「ああ、この二人褒められ慣れていないんだな」と二人が普段どんな人間なのか大体を察した。そしてふと……箒が歩いて行った方角の事である事に気付き、アイナに話し掛ける。

「そう言えばアイナ様……箒さん、倉庫とは反対方向に行きましたよ」
「あら、倉庫の反対側は確か……いけない!」



☆ ☆ ☆



 数分後、箒は消毒剤を探しに基地にあるとある場所に辿り着いた。

「倉庫は……ここだったか?」

 そう言って箒は重い扉をグッと開いて開け放つ、すると中からブワッと肌を刺すような冷気と共に、生ゴミと糞尿を混ぜたようなにおいが彼女の鼻を刺激した。

「うえ……!? ここは……」

 強烈なにおいに顔を顰めながら、箒は冷気が晴れていくその部屋の奥を凝視する。

 霧が晴れた先には、100人近い、中には体が欠損していたり曲がってはいけない方向に曲がった大量の人間の死体が、無造作に積み重ねられていた。。

「―――」

 篠ノ之箒は、悲鳴を上げることなく意識を失った。



☆ ☆ ☆



 篠ノ之箒は気が付くと、見知らぬ部屋のベッドの上に寝かされていた。

「あれ、私は……」
「気が付きましたか?」

 するとそこに、水の入ったコップを持ったアイナがやって来た。

「あ、アイナさん……ここは一体?」
「ここは私の部屋です。箒さん……間違って死体安置所に入って気絶したんですよ?」
「そっ……すみません! 私……!」

 箒は慌てて身を起こし、そのままベッドから降りようとするが、アイナに手で制止されて水の入ったコップを手渡された。

「私も……ノリスに連れられてあそこに初めて入った時は、気を失いかけました……」
「な、何の為に?」
「覚悟を問われたのです……自分達のように、戦場に立って戦うことは出来るのかと」
「……」

 アイナの話に箒は黙り込む、そしてしばらくの沈黙の後、箒は自分が感じたことをアイナに素直に話した。

「私には……それが無かったんですね。ここに飛ばされて、森の中でバラバラの兵士達を見て、何となく何かしなくちゃと思ってここの手伝いをしようと思ったんですけど……その点、アイナさんはすごいです。あんな凄惨な場所でも、気丈に振る舞っていられるんですから」
「……すべては兄さんの夢の為ですから」
「兄の……」

 兄弟の話を聞いて、箒は自分の姉の事を思い出し、何となく、漠然とだがアイナと自分に負の面での近い物を感じていた。

「……仲がいいんですね。私には姉がいるんですけど、自分勝手で私達の事なんか考えない、本当に酷い人で……そこまでしようとは思いませんよ」
「仲がいい……とは違うかもしれませんね。これは兄に対する贖罪……なのかもしれない」
「贖罪……?」

 俯くアイナの悲しそうな表情を見て、箒はそれ以上の詮索は出来ないと思い口を噤んだ。

「それに世界でたった一人の肉親ですから……ね。何かしてあげたいと思うのは当然だと思うのです。箒さんも……お姉さんがどういう方かは存じませんが、そう思う事はあるのでしょう?」
「さ、さあ……それはどうでしょうか、あの人は人との接触は極端に嫌う人ですからどうすることも……」

 そこまで口にして、箒は少し考えた。確かにあの人……篠ノ之束は何を考えているか解らない。そして彼女がISを作り出し、家族や一夏と離ればなれになる原因を作られた時は随分と憎んだものだった。しかし過去を顧みて、自分が姉に対して壁を作り、どうして彼女がああいう事をしたのか確かめようとしていなかった事に気付いた。

(思えばいつでも連絡は出来たのに、姉さんとまともに話が出来るのは私と千冬さんぐらいしかいないのに、どうして今までそうしなかったのだろう……)

 今でも束の事は嫌いだし、彼女がしてきたことを許すつもりはない。でもどうしてそんな事をしたのかそれを聞く時間を作るのもいいか……と箒は思い始めていた。
 そしてベッドから降りて立ち上がった。

「……少し休んだら行きます。ありがとうございました」
「ええ、あまり無茶してはいけませんよ?」

 去り際に掛けられたアイナの優しい言葉に、箒はどこか暖かさと懐かしさを感じていた。

(……家族って、こんな感じだったかな)



☆ ☆ ☆



 ラウラは一息つき、案内された基地の食堂の片隅で、固いパンを頬張っていた。そんな彼女の元にノリスが現れる。周りの兵士達がすれ違い様に敬礼する。ノリスはそのままラウラの向かい側の席に座った。

「ラウラ・ボーデビッヒ……どうだ? ここでの生活は?」
「悪くはありません……かつて所属していた基地の雰囲気と似ていますので。ただ……」
「ただ?」
「私は生まれ落ちた時から軍人でしたが、これだけ大量の死者や負傷者を見るのは生まれて初めてです。私達のいた場所は不安定ではありましたが、少なくともここまで大きい戦争はしていませんでしたから。」

 それはこれまでこの世界を見たラウラが感じた、素直な気持ちだった。そしてすぐにその言葉を訂正しようとした。

「……失礼しました。軍人としてあるまじき発言でした」
「いや、それが普通の人間としての感想なのだろう。我が軍は大義を掲げているとはいえ……大半は無理やり集められた一般人だ。私のように元から軍人だった者など少数しかいない」

 そしてノリスはラウラに向けて頭を下げた。

「貴君らが助けたあの兵士……ルディ少尉はジオン国民ではなく、無理やり協力させられた身でな……故郷にフィアンセを残していたそうだ。彼女が今生きていられるのは貴君らのお陰だ……ありがとう」
「私達は大したことはしていません。助けたのもこの世界の情報を得る為でしたから」

 ノリスに礼を言われても、ラウラはあくまでクールに返した。そしてノリスは椅子の背もたれに体重を乗せ、天を仰ぎながらため息をついた。

「まったく……本来なら我々軍人は国民を守る為に存在するのに、今その国民達に無理やり戦わせてまで戦争を大きくしてしまっている……本末転倒だな」
「……」

 そしてノリスは立ち上がり、ラウラを見下ろした。

「この礼は必ずしよう……貴君らが元の場所に戻れるよう、我々にできる事があるのなら何でも言ってくれ」
「ありがとうございます、大佐」

去って行くノリスに一度席から立ち上がり敬礼するラウラ。

(あれがこの世界の軍人……か)

 そして彼の後姿を見て、ラウラは千冬に初めて出会った時の事を思いだしていた……。



☆ ☆ ☆



 同時刻、基地の奥にある司令室……そこでギニアスは箒とラウラから預かった待機状態であるペンダント形態のISの解析を進めていた。

「ふむ……なるほどな……」
「お兄様、お薬の時間です」

 するとそこに、水と薬を持ったアイナが部屋に入って来た。

「いつもすまないなアイナ、薬はそこに置いてくれ」
「はい……箒さんとラウラさんの持ち物を調べているのですか?」

 アイナはギニアスの横にある机の上に薬と水を置きながら質問する。それに対しギニアスは頬杖を突きながら答えた。

「うむ……このISという兵器、この世界には無いテクノロジーが使われている。専用の設備さえあればもっと詳しく調べられるのだがな。それに……大きな疑問もある」
「疑問……ですか?」

 首を傾げるアイナ。一方ギニアスはモニターを眺めながらふうっと息を吐いた。

「これを作った者は“どうしてこれ程の物を作れるのに、この程度の物しか作れない”のか」
「……すみません。おっしゃっている意味がよく……」

 アイナの質問に対し、ギニアスはモニターの画面を次々切り替えながら答える。

「このISコアという物は高度なテクノロジーを有している。うまく発展させていけば数年後にはMS技術を上回れる可能性がある。しかし……何故女性しか使えないという制限があるのか。しかも彼女達の報告によれば、一人だけ男でISコアを扱える人物がいると言う……何故極端に限られた人間にしか使えないのか。考えられる仮説は二つ、“製作者が意図的に制限を掛けている”のか、こちらはアナハイムがバイオメトリクスを使った遺伝子認証システムを実用化に向けて開発を進めているという噂も聞くし可能性は高い。もしくは“製作者自身も把握できていない、外来的なテクノロジーを使用している”のかだな……」
(そこまで調べ上げているなんて……)

 アイナはギニアスの話を半分近くしか理解できなかったが、兄がそこまで調べあげている事に感服していた。
 しかしギニアスは再びはあっと大きく息を吐くと、二つのISをアイナに無造作に投げて渡した。

「その二つはあの二人に返しておけ」
「え? もういいんですか?」
「あわよくばアプサラスの改良に使えると思ったのだが……時間の無駄だった。」

 そういうとギニアスは再びキーボードを打ち始め、アプサラスのデータの改良作業に移って行った。

「……あまり根を詰めない様に……」

 アイナは再び仕事に戻ったギニアスを気に掛けながらも、預かったISを手に部屋を出て行った……。





 それから数分後、ギニアスの扱うパソコンに一通のメールが届いた。
 ギニアスはそれをクリックし開くと、メールには以下のような文章が記載されていた。


 先日は設計図を提供して頂きありがとうございました。
 報酬は指定の口座に振り込ませていただきましたので確認の方をお願いします。

                                 A



――――

「あれか……」

 ギニアスはメールの指示に従い、報酬が振り込まれているという口座を確認する。すると口座には戦艦一隻が丸々買える額が振り込まれていた。

(……小金稼ぎの為に提供した設計図がまさかこれほどの金に化けるとはな、しかし奴等……あんな失敗作をどうするつもりだ?)

 ギニアスはキーボードを操作し、とあるところに提供した設計図のデータを眺める。そこには“グロムリンプロジェクト”というタイトルが書かれていた。

(まあ、奴等が連邦でなければどうでもいい、私は一刻でも早くアプサラスを完成させなければ……)

 ギニアスはその設計図のデータをフォルダに戻すと、再びアプサラスの設計作業に戻って行った。その設計図に描かれた兵器が、近い将来いくつもの世界で戦火を広める事になるのを知る由も無く……。










 はい、第四話はここまでです。バイト忙しかったりイラスト描き始めたりでこっちの方が疎かになってましたー。それに報いるよういつか挿絵を入れれるよう頑張って行きたいです。
 次回は08小隊第五話の話をやりたいなと思ってます。原作なぞるだけじゃつまらないのでISのキャラもゴリッと介入させますのでよろしく。


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