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[39542] 俺たち、私たち、召喚士!?(ログ・ホラ二次)7話投稿
Name: カルカル◆94027d80 ID:072e97ca
Date: 2014/03/21 22:49
まえがき

この作品は「ログ・ホライズン」の二次創作です。

ログ・ホライズンの本編であまり主要キャラで出番のない召喚術師がメインです。

どうか、この作品で楽しんでいただければ幸いです。

この作品は、2014年3月20日から小説家になろうさまにも投稿しております



[39542] キャラクター紹介
Name: カルカル◆94027d80 ID:072e97ca
Date: 2014/03/09 17:30
ギルド サモンッ!?

ギルドメンバー紹介


マッド・博士(愛称 ハカセ) 法義族

クラス   召喚術師 レベル 90

サブクラス 錬金術師 レベル 80

ギルド「サモンッ!?」の初代ギルドマスター。
ギルマスの地位をギルメン増えて面倒くさいという理由で友人のサモンに譲った経緯をもつ。
結果として、友人であるサモンを失くす一因となり、自覚はないが気にしている。
それ以降、ギルドマスターに再度就任した。
そのこともあって、<大災害>に巻き込まれても、自分がギルドメンバーを引っ張て行こうと頑張っている。
人造生物系の召喚獣を中心に契約し、HPに難がある法義族をカバーしているが本人が従者と前に出るスタイルなのでリスクは減っていない。
一応、サブ職<錬金術師>のアイテムで補助したり、後ろに下がって魔法攻撃に切り替えたりと臨機応変に戦っている。
<錬金術師>はハカセが生産にそこまで力を入れていないため、レベル90には達していない。
考えてみると、召喚術師の汎用性と応用性を活かしているとも言える。
<大災害>前は、契約している召喚獣から「ロボオタ」、「ドールマニア」と不名誉に呼ばれているが、本人はきにしていない。


召喚獣契約リスト

ゴーレム種?    従者  名前 兄貴   (奥伝)
スライム種?    従者  名前 ぷよ   (奥伝)
スケアクロウ    従者  名前 スケさん (奥伝)
キリング・ドール  従者  名前 チビ   (奥伝)
ブラウニー     方術  名前 爺さん  (奥伝)
アイゼン・リッター 戦技  名前 ハガネ  (奥伝)

未判明 8種 入れ替え枠 2種



朧     ヒューマン

クラス   召喚術師 レベル 90

サブクラス ???  レベル 90

ギルド「サモンッ!?」の初期のギルドメンバー。
召喚獣のほとんどを妖怪系で埋め、スケルトンやファントムの見た目をデフォルメにするパッチがあるにもかかわらず、リアルさを求めてそのままにするほど妖怪を愛している。
それなりに面倒見がよく、エルダーテイルを初めて半年のミズキとヒビキに色々と教えている。
<大災害>に巻き込まれ、現実に帰れるのだろうか、このままで大丈夫なのか、周りが自由すぎて…、と内心では気苦労が絶えない。
死霊系というより妖怪系の召喚獣を中心に契約しており、後方で物理攻撃の召喚魔法や状態異常(バッドステータス)を振りまくというえげつない戦法をする。
また、ハカセが危険になったときのために代わりに自分が従者と共に壁役をこなすこともある。
<大災害>前は、手持ちの召喚獣から「妖怪絵巻」、「百鬼夜行」と呼ばれているが、彼の魂が震えたのか呼ばれていることを喜んでいる。


召喚獣契約リスト

スケルトン種?   従者  名前 なし   (奥伝)
ファントム     従者  名前 サラヤシキ(奥伝)
雪女        戦技  名前 ユキアネサ(奥伝)
木霊        戦技  名前 ククノチ (奥伝)
鴉天狗       戦技  名前 烏丸   (奥伝)

未判明 9種 入れ替え枠 1種



デラルテ  ハーフアルブ

クラス   召喚術師 レベル 90

サブクラス ???  レベル 90

ギルド「サモンッ!?」の初期のギルドメンバー。
人を食ったような道化師のロールを好んでしているが、興奮するとすぐにボロが出る。
ギルドでは、ミズキやカレアと仲が良く、いつも一緒にいる。
<大災害>では、不安よりむしろ楽しんでいたが、ミズキの頼みにより、自分が浮かれすぎる余りハカセの気持ちを蔑ろにしていたことに気づき、反省し自重している。
幻獣系の召喚獣を中心に契約しており、後方で回復や支援の役割についている。
ペガサスに乗って、空を飛べることに気づいたデラルテは、上空での戦闘や探索での周辺警戒を担当している。
レッド・ドラゴンはデラルテが持つ唯一の戦闘系召喚獣でその性能はドラゴンの名に恥じないものである。


召喚獣契約リスト

ペガサス      従者  名前 ロンロン (奥伝)
クリューラット   方術  名前 ハム   (奥伝)
レッド・ドラゴン  従者  名前 ウィル  (秘伝)

未判明 11種 入れ替え枠 2種



カレア   エルフ

クラス   召喚術師 レベル 90

サブクラス ???  レベル 90

ギルド「サモンッ!?」の初期のギルドメンバー。
口数が少なく、物静かな性格で、サモンがいた時代は初期メンバーとサモン以外のメンバーには感情が図りかねていた。
しかし、<大災害>では、顔の表情で何を思っているかが丸分かりになった。
極度の怖がりで、<大災害>から数日の間、朧の召喚獣を見たら、腰を抜かすか絶叫をあげる。
<大災害>では、アキバの混乱を目撃したことで、不安と恐怖からその場に動けずいたが、気持ちを慰めるために特技の精霊を召喚して安心を覚える。
そのため、召喚獣全般(死霊系の召喚獣を除く)に好意を寄せている。
ナチュラルトークでミズキが召喚獣の気持ちが分かると聞き、精霊であるに話せないカレアはそのことに羨んだ。
精霊系の召喚獣を中心に契約しており、後方で敵の弱点を突く属性魔法攻撃を担当している。
ウンディーネやサラマンダーなどの生活に欠かせない火や水の精霊などと契約しているため、普段の生活や旅に大いに貢献している。

召喚獣契約リスト

ウンディーネ   従者 名前 アクア (奥伝)
サラマンダー   従者 名前 ファイ (奥伝)
シルフ      従者 名前 ウィン (奥伝)
ノーム      従者 名前 テラ  (奥伝)
イグニス  従者・戦技 名前 フリート(奥伝)
グラキエス 従者・戦技 名前 シヴァ (奥伝)
ブラウニー    方術 名前 なし  (会得) 暫定

未判明 7種 



ミズキ   ヒューマン

クラス   森呪遣い レベル 43

サブクラス ???  レベル 32

ギルド「サモンッ!?」の新人ギルドメンバー。
ハカセの実の姉。
ブラコン気質で、弟がエルダーテイルをやっていること知り、<大災害>の半年前から自分もやり始める。大丈夫かこの社会人。
活発的、人懐っこい性格でギルドのメンバーとはすぐに仲が良くなる。
<大災害>では、ゲーム歴が短いのと持ち前の性格で大地人のシェリアやクラドとも良好な関係を作り、ミズキは楽しんでいた。
だが、<パルムの深き場所>で初めて、ハカセが戦うのを見て、危うい戦いかたに「弟の死」が脳裏に浮かび、死んでも神殿で復活すると分かっていても、恐怖してしまう。
そのことから、レベルの低い自分では力になれないと考え、回復を担当しているデラルテに弟を守るようお願いした。
召喚術師しかほとんどいないギルドの中、数少ない森呪遣い。
攻撃が命中することでMPが回復する武器を装備し、従者と共に前衛で武器攻撃特技を駆使して戦う。
彼女の従者の<グレイウルフ>ごん太は、狼としての五感を活かし、冒険やダンジョン探索で活躍してくれている。


召喚獣契約リスト

アルラウネ   従者 名前 ハナ (初伝)
グレイウルフ  従者 名前 ごん太(中伝)
フォレストベア 従者 名前 熊五郎(初伝)
ワイルドボア  従者 名前 ボタン(初伝)


******************************



今日の召喚獣一覧



ハニーベア (蜂蜜森熊)

契約条件 クラス・森呪遣い レベル・30以上 クエスト《ハニーベアの冬眠》クリア 

スキル一覧

《はちみつの香り》挑発特技
ハチミツを食べ続けて体に染みついたその香りはありとあらゆる生き物を引き付ける。人造生物種・無効 一部アンデッド種・効果低 虫種・効果大

《ハニータッチ》HP回復特技
ハニーベアのとっておきの滋養強壮はちみつ。これを舐めた者は体の底から活力溢れだすのを感じるだろう。

《蜜蜂の巣だ~》その他特技
ハニベアーは蜜蜂の巣を見つけると一目散に駆けつけ見つけてくる。主が気づかないほど素早く…。取得アイテム ハチミツ 蜂蜜壺 ロイヤルハニー(レア) 蜜蝋 ホーネットの針

《戦技召喚:ハニーベア》範囲HP・状態異常回復特技
とっておきの蜂蜜壺を投げてぶちまける特技 


ハニーベアはフォレストベアの亜種。
蜜蜂が豊富な森に生息しており、ハチミツを主食としていたフォレストベアが進化したものと思われている。
気性は温厚、陽気と穏やかなものであり、ハチミツを与えるものなら大抵のものに懐いてしまうほどで、フォレストベアより契約しやすい。
その性格から仲良くなった者を大事にして、もし危害を与えようとするものなら普段の温厚な気性は潜め、フォレストベアであったころの激しい野性を見せつけるだろう。


フォレストベアになかった挑発技とHP回復を覚え、前衛としてより活躍できるようになった。
また、生産系に嬉しい採取系特技もあり、手に付けたハチミツを舌で舐める愛らしい姿に人気がある契約モンスターの一つである。


 僕は弱虫だよ。君がいなくなってもう一緒にハチミツを食べられない日々はないのと同じだよ 
                                            ~黒死姫の森の知恵ある蜂蜜森熊アウル~

参考元ネタ 小説家になろう 大和の国の大地人 より





グレイウルフ(灰色狼)

契約条件 クラス・森呪遣い レベル・なし クエスト《森の従者たち》クリア

森呪遣いが最初に契約する四体のうちの一体。
森呪遣いと共に森を駆け、共に戦う心強い森の相棒だ。
元々、狼は集団で狩りをし獲物を仕留める動物であり、共に戦う主には忠誠を誓っているがどちらかというと対等な戦友として一緒にいる。


ゲーム中、召喚されたグレイウルフは、森呪遣いの攻撃に併せて自動的に攻撃を繰り出す。
異世界となった今、グレイウルフは攻撃するだけでなく、周囲に敵がいないかを感知し主に知らせるなど探索に大きく貢献するようになった。
また、〈大災害〉後に判明したことだが、呼び出されるウルフの毛並みは使い手によって違っており、〈森呪遣い〉による「うちの子自慢」はさらに加速したという。

派生召喚獣には、ゴブリンも使役してくる《ダイアウルフ》 魔法を操る《マナウルフ》がいる。


 間違うな。狩るのは君ではない。狩られるのが君で、狩るのはあの森の戦士だ。
                                            ~とある大地人の忠告~



スケアクロウ(案山子)

条件 クラス・召喚術師 レベル・60以上 クエスト<畑の守護者>クリア


スキル一覧


<呪いの案山子>常時発動特技
スケアクロウを攻撃した者は、痛みを与えた分だけ自分に帰ってくるだろう。 物理・魔法問わず

<恐怖の案山子>挑発・状態異常特技
不気味に揺れ、奇声で叫ぶスケアクロウ。それを見て聞いたものは恐怖で動けず、スケアクロウしか見えなくなる。 状態異常<恐怖>付加

<身代わりの案山子>特殊特技
<スケープドール>の効果を召喚者のダメージを全て無効にし、無効にした分のダメージをスケアクロウは受ける。


スケアクロウは生まれ経緯が一切分からない召喚獣だ。
案山子に精霊が宿った、妖精の悪戯、農家の大地人が未練のあまりのり移った、ヘイアンで言われる付喪神だとも言われ真偽は定かではない。
案山子は害獣除けとして田畑に置かれていたが、動かないと害獣に学習されてからは、ただの置物となった。
役目を成し遂げない人形に価値などないのだろうと憐れんだ古来種が魔法をかけたなどという逸話もある。


ハカセがお気に入りのスケアクロウ。
法義族のハカセにとってスケアクロウの<身代わりの案山子>は生命線。
ボスが強力な技を繰り出すときにスケアクロウの真価は発揮される。
一部の召喚術師からは「案山子さま」や「案山子兄貴」などゴーレムに負けないほど尊敬されている。

 おうおう、俺が守る田畑に手を出すたァ、見上げたコソ泥だなァ、だがァ、この田吾作様が跳ねられるうちは大根一つ渡さねえぜエ!
                                            ~スケアクロウの田吾作~




キリング・ドール (殺戮人形)

条件 クラス・召喚術師 レベル・70以上  クエスト<道化師の操り人形>クリア 


スキル一覧


<オレたちの怒り>物理・状態異常特技
怒り狂うキリング・ドールは両手に持った包丁を敵一体に突き刺し、十字に切り裂く。 状態異常<出血>付加

<ボクたちの悲鳴>挑発特技
泣くように叫ぶキリング・ドールの声は敵の嗜虐心を掻き立てる。 ヘイト効果・大

<ワタシたちの絶望>範囲物理特技
狂ったキリング・ドールの周囲に包丁を持った幽霊の子供たちが現れ、敵に襲いかかる。


キリングドールは道化師〈メイザース・パイドパイパー〉によって攫われた子供たちの成れの果て。
道化師にありとあらゆる方法で弄ばれた子供たち。
親から引き離された怒り。嬲られる毎日による悲鳴。全てを奪われた絶望。
死後の魂をも人形に閉じ込められた子供たちを救うには、困難を極めるだろう。


キリング・ドールは、敵の攻撃を受けて主を守るではなく、攻撃を避けて倒すことで主を守るよう戦う。
クエストのキリング・ドールに涙しない召喚術師はいなかった。
キリング・ドールと契約した者、出来なかった者の心は一つだった。
<道化師>マジぶっ殺すッ!!


 お願いです冒険者様ッ、あの子を、あの子たちを、どうか、どうかっ、お救いください………。
                                            ~子を攫われ殺された両親たちの嘆願~




[39542] 第1話
Name: カルカル◆94027d80 ID:072e97ca
Date: 2014/03/08 00:14
エルダーテイルによく似た世界で過ごすこと数日。
あの《大災害》が起きた時から、大勢の冒険者たちの混乱も少しばかり落ち着きを見せていた。
それは喚いたところで何一つ変わらない今に対する諦めから来たものであったとしてもだ。


「ふははは、見ろスケルトンがゴミのようだッ! 流石はゴーレムさん、かっけー!!」

「はあ、少しは手加減してほしいな…」


ほとんどの冒険者が無気力に過ごす中、《ホームタウン》のアキバから少し離れたフィールドゾーンで無気力とはほど遠い活力あふれる大きな叫びをあげる集団がいた。
一人は白いマントをゆらし、顔に独特な刺青をした法義族の男性が3mもあるだろう巨大なヒト型の石像、<ゴーレム>の肩に乗りながら、石像の足元に群がる骨だけで動く人型、<スケルトン>骸骨兵を薙ぎ払うように指示していた。
ゴーレムの巨腕に吹き飛ばされる骸骨兵たちを地面から生み出す《召喚士》サモナーは黒い狩衣で和の装い陰陽師のような格好をし、顔も声も男性か女性かハッキリとしない中性的なために性別不詳である。
召喚士の二人は召喚魔法でB級ファンタジー映画さながらの戦闘を繰り広げていた。


カシャカシャ、カシャカシャ、カシャカシャ。

地面から這い出るように生み出されていく<スケルトン>はホラー(恐怖)そのものだ。
スケルトンたちは錆びついた甲冑で全身を覆い、白骨化した頭の上に兜を被る。
その姿は戦国時代の武士を思わせるが、錆びた刀を握る手も、顔面も白骨化しているため恐怖を湧き起こす不気味さしかない。

「…行けッ、〈グレイブヤードウォーク〉」

陰陽師は静かに、しかし力強い言葉で骸骨騎士に命令した。
〈グレイブヤードウォーク〉は召喚中のアンデッドモンスターを一体に集中攻撃する特技だ。
命中力が下がるデメリットはあるが、その威力は12職のメインクラス中で最大の魔法攻撃力をもつ<妖術師>に並ぶ。
スケルトンたちは主の命に従い、目前のゴーレムへと殺到する。


「効くかーッ!!<ガーディアンフィスト>!!」

法義族の青年の叫びに応じるように、ゴーレムはゆっくりと巨大な脚を持ち上げる。
<ガーディアンフィスト>はゴーレムやスライムなどの人造生物を召喚しているときに使える特技。
力を込めた一撃を放ち、物理ダメージを与えるものだが、このスキルの真価は他にある。
それは、特技を実行している14秒間、特技を使用している召喚モンスターには(ダメージ減少効果)が付加されること。
大勢の骸骨兵たちは刀を振るい、数で押し切ろうとするものの(ダメージ減少効果)に、動きこそ遅いが優れたパワーとタフネスをもつゴーレムを倒すには届かない。
そしてゴーレムはゆっくりと持ち上げた脚を、容赦なく振り下ろした。

ズドオオオンッ!?

それは、大地を揺らした。
振り下ろされた脚の地面は抉れ、波が寄せるように周囲へと土や石がうねりをあげる。
ゴーレムは多くのスケルトンに囲まれながらも、その圧倒的な膂力で物ともしない。

打ち砕き、

握り潰し、

蹴り砕き、

踏み潰す。

その姿はは、まさに鋼鉄の巨人だった。

「<戦技召喚:雪女(スノウ・ガール)>」

だが、陰陽師は自身の骸骨兵が押されているのを見ても冷静に次の召喚を行う。
瞬間、ゴーレムの目の前に白いづくめの綺麗な女性が現れ、口から吹雪を吹きかけてきた。
吹雪に襲われたゴーレムはあちこち凍らされて遅かった動きがさらに鈍重としたものになる。

「さ、寒いいいい…<凍結>と<鈍重>のバステとか最悪…」

「…ハカセ、あなたの負けです」

ゴーレムはパワーとタフネスが優れている反面、動きが遅く魔法攻撃の耐性が低い。
<戦技召喚:雪女(スノウ・ガール)>は魔法攻撃の上に<凍結>と<鈍重>のバッドステータスを与える効果があり、特に<鈍重>はゴーレムの短所をより致命的にしている。
陰陽師の勝利宣言は事実そうなるだろう。


「朧、…馬鹿言うな」


だが、法義族の青年 ハカセは不定な笑みを見せ、言い放つ。



「俺は、負けず嫌いなんだよッ、<戦技召喚:アイゼンリッター>ッ、<サモナーズウィップ>!!」






「アハハハハ、アレはいつみても迫力満点ダネ。カレアチャン」

「………(コクコク)」


二人の争いを遠くで離れ見つめる二人の女性がいた。

一人は、褐色の肌、白い髪、白と黒のチェックの衣装に身を包んだ道化(ピエロ)。
道化はゴーレムとスケルトンたちの戦いを見て、愉快に笑いながら、おどけながら隣の少女へ話しかける。

道化の言葉にうなづき返す少女。
耳が長く伸び、妖精のように細く小さい彼女はエルフだ。
着ている服も緑のケープも素朴で牧歌的で彼女のゆったりとした雰囲気に合っている。


「デラルテ、おなかすいた……」

「アレッ、もう昼過ぎカナ。オーイ、オフタリサン、ゴハンにするヨー」

マイペースな少女カレアの言葉に、道化の女性は苦笑しながら目の前で争う二人を呼ぶ。



  法義族の青年      マッド・博士

  陰陽師の召喚士       朧 

  道化の女性       デラルテ

  エルフの少女      カレア


彼ら4人はアキバの街を拠点とし、メンバー全員が召喚魔法をもつギルド 《サモンッ!?》の主要メンバー。

4人は異世界となったエルダーテイルを他の冒険者に比べてそれなりに満喫、適応していた。




俺たち、私たち、召喚士!?

一話「不味いの味の方が幾分もマシだな。食べたいかどうかは別として…」




「本当にあきるな、この料理…」

「タシカニ、見目はヨイノダケドネ」

エルダーテイルの世界で過ごすことになって数日はたつが、やはりこの料理だけはどうにも慣れない。
デラルテの言うとおり、見目はいいのだ。外側は良い分、食べた時の気分は最悪で萎える。
この味を誤魔化す苦肉の策に俺は<タザネックの魔法鞄>から塩と砂糖の小ビンを取り出す。

「調味料をかける以外は、素材そのままで食べないと味が湿った煎餅じゃあ満足しないはな。カレア、塩と砂糖どっち?」

数日が過ぎ、料理アイテムの不味さが知られ、混乱していた他のプレーヤも同じ気持ちを味わっていることだろう。
素材アイテムには味がしっかりあるというのが分かるとアイテムを買占めや独占する考えはむかつきはするが分からないでもない。俺だって気づいたときは即メンバー全員で買い出しに急いだのだ。
そのため、素材アイテムを集めにこうしてアキバの外に出たわけだがな。


「…砂糖、食べ物の価値は美味いか不味いか…」

「ああ、その漫画、好きでしたよ。犯罪者の豹変ぶりが良かったですね。あ、ハカセ塩もお願いします」

「ほらよ、それよりもこれからどうするか考えねえとな」

「素材集めでしょう、そのために午前中は戦闘訓練と決めてたわけだし…」


そう、食材のために外へでたはいいがゲームが現実となっている影響でモンスターとの戦闘に大苦戦するはめとなった。
少し対処間違えたら神殿送りになるところだったろう。


「ああ、当分はそれでいいだろうな。俺たち全員が召喚士(サモナー)のおかげで他のプレイヤーよりは戦闘はしやすい」

そう、幸いなことにギルドメンバー全員が召喚士(サモナー)。
召喚士の特徴は召喚魔法。特にその魔法で助かったのは<従者召喚>のシステムには大変お世話になった。
<従者召喚>は契約した精霊や幻獣なんかを呼び出し、戦わせるという実に召喚士らしい特徴。だが、それが仇となった。
戦闘慣れしてなくても従者召喚して走りまわってるだけでなんとか戦えてはいた素材集め初日、囲まれて逃げ切れなくなったときは焦った。
<ゴレーム>の動きの遅さに処理しきれず、朧が<スケルトン>を呼んだのだが、現実となった骸骨兵士にカレアが腰を抜かしたのだ。
乱戦の上にメンバー一人がお荷物化したときは生きた心地がしなかった。
いくら死んでも神殿送りということを知っても殺されかけるというのはぞっとしない。


「…怖かった」

「あー、泣くなよ」

「…泣いてない」

「ごめん、カレア…」

「仕方ないよ、私も恐くてめちゃくちゃしてたから」

「同感だ。つか、お前が先に怖がってくれたから何とか動けたわけだが」


乱戦を切り抜けた時は、カレアが涙目になるのも仕方がない。
デラルテがロールを忘れるくらいに朧の<スケルトン>は怖かった。俺だってちびりそうに、つかちょっと漏らした。
あれが地面から這い上がって生まれてくるのを直接見たら、そりゃトラウマにならなかっただけ良くたえた方だろう。
そういうことがあったため、朧の骸骨兵士に慣れるという理由もあって数日は素材集めをしつつ戦闘訓練をしていた。

さて、話は戻るが、素材集めはもちろん続けるがこのままでは苦しい。


「俺たちは現実になったこの世界で他の職の中でも最も戦いやすい職だが最初のうちだけだ。それはわかるな」

「召喚士自体、魔法系攻撃職の中でソロ向けですから」

「俺たちのギルドはメリットとデメリットがある」

「………人数」

「アア、ナルホド」

「そう、ギルドメンバーがここにいる4人と留守番中の新人2人で合計6人、素材アイテムの買い物の時もそうだが小規模ギルドじゃ出来ることは限られる」

「狩場の独占が起きるってことですか…」

「チカイウチ、オキルネ」


人数の差、大規模ギルドだからこそ出来る力技。
あまり悲観的に考えすぎているが、この状況では何が起きるかわからない。
それに大規模ギルドということは人数に応じてアイテムの必要数が増える。だからこそ狩場の独占が起きるのは確実だ。


「僕たちは人数がほかよりいない、素材アイテムを集める分は量が少ないから、今のうちに溜め込むでいいじゃないか?」

「………なあ俺ら死ぬことがない。食べて寝る場所がある。現実に戻る方法もそれを知る方法もわからない今、正直言ってやることがないんだよ」

「ドウイウウコト…」

「………生活の改善ぐらい現状やることがない」

「カレア、正解。俺が言いたいのは確実に味のある素材アイテムの確保だ」


そう、さっき言った通り、やることがないなら今の生活をマシにするくらしかない。
特に食事は早急に何とかしなければふやけた煎餅コースにまっしぐらだ。


「不味い味の方が幾分もマシだな。食べたいかどうかは別として…」

「…どうするの」

「考えがアッテイッタノデショウ?」

「おう、俺たちの最大のメリットである召喚士を最大限使う」

「………ハカセ、まさか」



「契約クエスト《実り豊かなトカチ農園》の<フルーツウッドの逆襲>と<ハニーベアの冬眠>を受ける。ススキノへ遠征するぞ」



[39542] 第2話
Name: カルカル◆94027d80 ID:072e97ca
Date: 2014/03/02 13:32
自分の人生の転機はいつだったろうか。

山に、森に、自然に囲まれた故郷の田舎町で細々と父の下で牧場仕事をしていたあのころが懐かしく思う。


ワタシはこんなところで一生過ごす気なんてないッ!?


牧場仕事が嫌になって目標もなく、計画があったわけでもないで都会へと飛び出した馬鹿な自分。
他の才能なんてなく家畜の面倒を見る以外したことがない自分はすぐに途方に暮れた。
このままで終われないと意地でも田舎に帰ろうとせずに職を探した。
職を転々としていたそんなある日、冒険者ギルドで働く大地人にスカウトされた。
何でも、牧場で働いた経験を活かして冒険者ギルドの付き人として働いてほしいとのこと。

ワタシは承諾した。
結局のところ、自分は父に与えられたものに救われたのだ。
だが、自分が受けた冒険者の付き人の仕事は自分が考えていた以上の仕事だった。

今だかつて見たことない未知の生き物。

精霊、

幻獣、

死霊、

人造生物、

妖怪、

魔物


それらが住まう冒険者の館に自分は恐怖とそれ以上の興奮と感激があった。
決してあの田舎町で見ることが出来ない光景が目の前にあり、触れることが出来る。
冒険者ギルドの大地人から別のギルドホールの付き人の先輩から仕事を教わった。

言葉遣いを、礼儀を、振る舞いを、館の掃除も、何もかもを。

充実した毎日を過ごし、もうこれ以上の感動と驚きはないと思っていた。

あの日が、…冒険者様が言うあの《大災害》が来るまでは。



2話
「ああもうっ、我慢できるかあああああ、<従者召喚:ファントム>ッ」



「シェリアさん、そこの果物箱持ってきて」
「かしこまりました、ミズキ様」

アキバのギルド会館、その中にあるギルド《サモンッ!?》のギルドホールで、《森呪遣い》(ドルイド)のミズキは大地人であるシェリアとで荷物整理をしていた。

「ミズキでいいって、あと敬語もやめてよ」
「しかし…」
「む~、仕方ないか。ゆっくりと直して欲しいけど…仕事だもんね」
「…申し訳ありません」
「いいのいいの。つまりはプライベートではいいってことだから」
「…えっ、あの」

とことこ、とことこ、とことこ

「ムー、ムー」「ム~ム、ム~ム」「ッムー、ッム~ム」

「あ、マイちゃんありがとう」

横でせっせと荷物を運ぶ歩くキノコ《マイコニド》たちにミズキはお礼をいいながら楽しそうに見つめていた。
ミズキの様子に大地人であるシェリアは落ち着いた顔をし、内心は今だ慣れない驚きと戸惑い、動揺があった。

「かわいいなあ」
「…かわいいですか?」
「うん、見た目はキノコなんだけど、列を作ってあんな精一杯働いてくれてるとこが…ね?」
(ミズキさま、私にはその気持ちは理解できませんッ!!)

内心に追加で困惑も付けておきます。
シェリアの気持ちに気づかず、キノコであるマイコニドに癒されているミズキは一緒に果物を詰めた箱を運びギルドホールの廊下を歩く。
冒険者と大地人との感性がずれた会話をしながら歩く二人と三匹(?)の向かい合うように犬耳を生やした少年が駆け足でやってきた。

「ミズキさ~ん、博樹たちがフィールドゾーンから戻ってくるって」
「うん、わかったよ。それじゃあ、ヒビキくんも一緒に弟たちのために食事の用意しようか」
「素材アイテム用意するだけですけどね」

(もう、数日もするのに、ただ話して、笑っていることに私は…でも)

慣れない。
シェリアはここ数日での冒険者たちの変化に驚きしかなかった。

冒険者が自分たちと同じように話して笑う。

大地人であるシェリアにとって、いや、冒険者の世話を仕事としていたシェリアだからこそ衝撃的で恐怖的で…喜びがあった。


だれだよ、あんた?
…メイドさん。
あ、もしかして従者召喚のために雇ったギルドホールの特殊NPCだった人じゃ。
ハカセえええええ、メイドさんだよおおおおッ。
デラルテ、演技演技。


あの精霊を、妖怪を、幻獣を、人造生物たちを従えたあの遠くにいた方たちがより近くに感じていいたことに…。


きっと、私の人生の転機は今だろう。


見続けていたい。

聞き続けていたい。

彼らが作る冒険譚を。

もう顔を合わせて、話せるのだから…。


***************************************************




「というわけで、俺たちサモンはススキノへ遠征することに決めました~パチパチ~」
「………」
「………」
「………」
「…おー」
「…カレア、やさしさが痛ひぜ」
「アハハハハ、ネエハカセ、うざい」
「ここぞというときに素に戻るなやデラルテッ!?」


リンゴを齧りながらハカセはギルドホールに戻ってくるまでに決めた方針と目標を二人に話した。
現状の生活改善。まず最初に食事から改善していこうと話し合った。

はあ、ハカセはいつもどうりとして、まあ突然言われてミズキさんもヒビキ君も戸惑うよね…。
話を聞いていた二人は黙り込んで、目を輝かせて………てえ?

「やった―ッ!!博樹大好き~」
「外だっ♪、外だっ♪」

うん、やっぱりこの二人はハカセの身内だ。
ゲームから現実になったこの世界で元の現実に帰る方法もわからず、死ぬこともないこの世界で、不安になるでもなく楽しもうとする。
彼らは現実世界に戻るのが嫌というわけではないだろう。
ただ、純粋に楽しみたいそういう性格で、僕はそれが羨ましい。

「落ち着け、落ち着け、つか本名で呼ぶな」
「………博樹」
「サア、ヒロキくん、フタリにシッカリ説明シヨウカ」
「お前ら、喧嘩売ってるよね?」
「ほら、ふざけてないで説明、二人には戦闘を覚えてもらうのと、ミズキさんに新しく契約クエストを受けてもらいたいんだ」

暗くならないだけいいことだけど、話が進まないほどのテンションとこのノリはゲームだった頃から変わっていない。

「契約クエストッ、な、なにの…」
「ミズキさんいいなあ」

うむ、森呪遣いの従者《フォレストベア》の派生召喚獣《ハニーベア》の契約クエスト。

《派生召喚獣》
召喚魔法の特徴として挙げるなら種類の膨大さが挙げられる。
確認されているだけでも軽く百種を超え、今だ新しい召喚生物が見つかるのだから恐ろしい。日本サーバーでこれなのだから海外も含めたら千種は軽いだろう。
その中で最もポピュラーな、ゲーム序盤から契約可能である僕たちの言い方なら《基本召喚獣》。
基本召喚獣は、攻撃、回復、支援とバリエーションが豊富な召喚士にとっての方針となるもの、ようはビルドの下地だ。

ハカセは《ゴーレム》《スライム》、従者と一緒に前に出ながら戦い、時にに離れて魔法攻撃、サブ職《錬金術師》と組み合わせて支援、物理耐久・万能型《人形遣い》(パペットマスター)。

カレアは《サラマンダー》、《ウンディーネ》、《ノーム》、《シルフ》、弱点属性を突き、妖術師に迫る魔法攻撃叩き込む魔法火力型《精霊術師》(エレメンタラー)

デラルテは《カーバンクル》、《ユニコーン》、癒しと援護でパーティを支え、幻獣の背に乗りフィールドを駆ける回復・支援型《幻獣の主》(ビーストテイマー)

そして僕は《スケルトン》、《ファントム》、物理攻撃特化の特技、敵に状態異常(バッドステータス)をまき散らす物理火力・攪乱型《死霊術師》(ネクロマンサー)

派生召喚獣はこの基礎召喚獣の同系統からなる召喚モンスターだ。
森呪遣いのミズキさんの基本召喚獣は、《アルラウネ》、《グレイウルフ》、《フォレストベア》、《ワイルドボア》の四つ。
ハニーベアはフォレストベアの派生召喚獣で、フォレストベアになかった《はちみつの香り》の挑発技、自分や味方のHPと状態異常を回復する《ハニータッチ》。
今回契約する理由となった一定時間に素材アイテムが手に入ることが出来る《蜜蜂の巣だ~》の特技を持っている。
ちなみに、ハニーベアはフォレストベアを黄色くした見た目で、どう見てもあのハチミツ大好きのクマさんだ。制作には夢の国が好きな人でもいるのだろうか?
僕はミズキさんたち二人に今の説明とススキノと《実り豊かなトカチ農園》に行く際の注意することなどを説明していく。

「チクショウ、説明取られた」
プルプル、プルプル、プルプル
「ありがとな、ぷよ」

僕に説明を取られて、ハカセは体育座りしながらいじけていて、その頭の上でスライムが心配そうにハカセを慰めていた。うぜえ。
というか、僕が説明する間、みんな自由にしすぎじゃないかな。

「カレアさま、リンゴとブドウでございます」
「…ありがとう。…たんとお食べ」
「ウフフフ、コレがイイのかい?シッカリ味わうとイイネ」
キュイ? キュイッ、はぐはぐはぐ、キュイ~♪
モグモグ、ゴッキュン、モグモグモグモグ

カレアとデラルテはハツカネズミの《クリューラット》と額に紅玉を宿した《カーバンクル》をシェリアさんと一緒に餌付けしてるし、

ブドウを頬一杯溜めて二匹ともかわいいなあ。

「うぅぅ、ねむい~」
キョロキョロキョロ
「………(コク)?」


説明を聞いているミズキさんは小さな子熊フォレストベアを抱きしめながら眠たそうにウトウトしている。

…モコモコしていて暖かそう。

ミズキさんの横のヒビキくんはススキノへ遠征を楽しみにしているのはいいが犬耳をヒクヒクしながら尻尾を振らないですごい気になる。

「ああもうっ、我慢できるかあああああ、<従者召喚:ファントム>ッ」

「にぎゃああああああああああああああアアアアアッ!!」

「だああああ、カレア落ち着け、ほらミカンだぞ。朧、お前の従者はデフォルメスキン使ってないからコエ―んだよッ!?」

「それがいいんじゃないですか?」

「お化け、お化け無理無理無理無理」

「デラルテさま、お気を確かにッ、あんなのはただ影が薄い人間だと思えばいいのですッ!」

「ぐー、zzzz」

「早く、ススキノ行きたいなあ…」


ギルド《サモンッ!?》のギルドホールは外とは違い今日も騒がしかった。







今日の召喚獣

ハニーベア (蜂蜜森熊)

契約条件 クラス・森呪遣い レベル・30以上 クエスト《ハニーベアの冬眠》クリア 

スキル一覧

《はちみつの香り》挑発特技
ハチミツを食べ続けて体に染みついたその香りはありとあらゆる生き物を引き付ける。人造生物種・無効 一部アンデッド種・効果低 虫種・効果大

《ハニータッチ》HP・状態異常回復特技
ハニーベアのとっておきの滋養強壮はちみつ。これを舐めた者は体の底から活力溢れだすのを感じるだろう。

《蜜蜂の巣だ~》その他特技
ハニベアーは蜜蜂の巣を見つけると一目散に駆けつけ見つけてくる。主が気づかないほど素早く…。取得アイテム ハチミツ 蜂蜜壺 ロイヤルハニー(レア) 蜜蝋 ホーネットの針 他

《戦技召喚:ハニーベア》範囲HP・状態異常回復特技
とっておきの蜂蜜壺を投げてぶちまける特技 


ハニーベアはフォレストベアの亜種。
蜜蜂が豊富な森に生息しており、ハチミツを主食としていたフォレストベアが進化したものと思われている。
気性は温厚、陽気と穏やかなものであり、ハチミツを与えるものなら大抵のものに懐いてしまうほどで、フォレストベアより契約しやすい。
その性格から仲良くなった者を大事にして、もし危害を与えようとするものなら普段の温厚な気性は潜め、フォレストベアであったころの激しい野性を見せつけるだろう。


フォレストベアになかった挑発技とHP回復を覚え、前衛としてより活躍できるようになった。
また、生産系に嬉しい採取系特技もあり、手に付けたハチミツを舌で舐める愛らしい姿に人気がある契約モンスターの一つである。


 僕は君より先に死にたい。君が先にいなくなってもう一緒にハチミツを食べられない日々は死んでるのとどうちがうんだよ 
                                            ~黒死姫の森の知恵ある蜂蜜森熊アウル~

参考元ネタ 小説家になろうから 大和の国の大地人 より



[39542] 第3話
Name: カルカル◆94027d80 ID:072e97ca
Date: 2014/03/03 21:05
「<戦技召喚:ソードプリンセス>ッ!正面の敵をお願いしますッ!」
「幼き主の命により、道を開けさせてもらうぞッ!!」

ヒビキの声と共に、簡素な剣と質素な服に身を包んだ乙女は淡い光と共に戦場を駆け、自身の主のために道を切り開く。

「今です、主様!」

役目を終えた剣の乙女は光の粒となって消えていく。
それは貧困を思わせる見た目とは裏腹に、儚くも美しい光景であった。
だが、ヒビキにそれを見る余裕はなかった。
周囲をホーネット(大針蜂)に囲まれ、今、彼女が作った道を走りぬかなければいけない。

「ありがとう、<戦技召喚:セイレーン>、クラドさん走りますよッ、ミズキさん殿お願いしますッ!」
「………はッ、はいいぃ」
「任せてッ」

大きな鳥の翼を広げ、緑色の古代ローマの衣装を着たセイレーンは空気に入り込むような声で歌い出す。
その歌声は風乙女の祝福だ。大地人のクラドは全身が羽のように軽くなるのを感じた。
冒険者に劣る大地人である自分が冒険者の速さに追いつけることに驚き、その祝福と美しき声と姿に身の危険が迫っているにもかかわらず見惚れしまいそうになる。

ブブブブブブブブブ

耳障りな羽音を鳴らすホーネットは逃げるヒビキたちを追いかけようとする。
殿を任されたミズキはホーネットを行かせてやるつもりはない。
彼女は両手で持った槍で、三匹のホーネットを同時に薙ぎ払った。
今、彼女には従者がいない。
荷物を運ばせるためにマイコニドを召喚し、ヒビキたちと共に行かせた。
一見、不利に見える。
森呪遣いは回復職だが、オールラウンダーの側面を持つ。
回復と従者召喚。

「冬の始まり、フロスティとヨクルの目覚め、汝ら雪と氷の妖精よ<ヘイルウインド>ッ!」

そして、物理や魔法を問わない攻撃手段。
森を突風が走り、それと共に雹が舞い飛ぶ。ホーネットは吹き飛ばされ、羽を雹が打ち抜いていく。

<ヘイルウインド>
雹混じりの突風を生み出す冷気属性の範囲攻撃魔法。
低温の吹雪は魔法ダメージを与えると同時に相手を凍えさせ、一定の時間、反応速度を鈍らせる。
ちなみにこの魔法には詠唱の必要はない。

「はあああああっ!」

ミズキは牽制にヘイルウインドを放ち、ホーネットの群体へと突き進む。
雹に打ち抜かれ、凍らされたホーネットたちの動きは鈍い。容易くミズキの振るう槍に貫かれる。
動きが悪いホーネットだがその数は脅威であり、これ以上の深入りは禁物。
ある程度の数に減らしたところで、ミズキはヒビキたちが逃げた方へ走る。

「汝が呪い、今だ消えず<フレイミングケージ>!」

ミズキは最後の置き土産とホーネットへ魔法を放つ。
森の中で炎が燃え盛る。その炎は木々に移らずに、ホーネット閉じ込めるように檻へと形を変える。

<フレイミングケージ>
炎の檻で敵を閉じ込める炎属性の攻撃魔法。
見た目の割にダメージはさほど高くはないが、魔法効果が発揮されている間は対象の異常状態が解除されない効果がある。
長期戦になるとき、この魔法はコスト以上の効果を発揮してくれる。
ちなみにこの魔法も詠唱の必要はない。

「よし、今のうちッ!?」

キシャアアアアアアアアアァァァァ!!

「―――ック、うぐぐぐぐぅ」

ヘイルウインドウで鈍らせ、フレイミングケージで逃げる時間を作ったミズキに横の木々の合間から《バトルマンティス》が襲いかかる。
バトルマンティスは鋭い刃を両手に生やし、それを交差させながらミズキに切りかかる。
ミズキはバトルマンティスの刃を槍の柄で受け止める。ミズキはこの時森呪遣いの欠点をまだ知らなかった。

森呪遣いは幅広い特技を持つが、一つ一つの特技を見ていくと全体的にコストが重く、発生ヘイトが高い。
それによって、バトルマンティスは魔法を放ち、ホーネットを槍で貫いたミズキに向かってきたのだ。
人数上、周辺警戒を出来ないのは仕方がない。
ミズキの最大のミスは最初の一発目を放った後、すぐに撤退し体制を整えなかったこと。
ヒビキと合流していれば話は違っていただろう。

(判断まちがえちゃったなあ。でも…送還ッ!)

判断を間違えた。
そのため、動きを止めていたホーネットも襲いかかろうとし、この状況はミズキにとっては四面楚歌もいいとこだ。
だが、だからといって諦めるほどミズキは潔くもなかった。
素材アイテムも大事だが命あっての物種、ミズキは召喚していたマイコニドを送還する。
そして、ミズキは自分が最も頼りにしている相棒の名を呼ぶ。

「<従者召喚:グレイウルフ>ッ、お願いごん太ッ!」

アオオオオオオオオンンッ!

ガ、ガ、シャアアアアア!?

ミズキと鍔迫り合いをしていたバトルマンティスの死角から灰色の狼グレイウルフ(灰色狼)が現れ、その腹に牙を突き立てる。
腹部をかまれたバトルマンティスは堪らず、距離を離した。

「逃がさない、てりゃああああああ!<バーニングバイト>!」

無論、ミズキはバトルマンティスを逃がす気はない。
力いっぱい、地面を蹴り前へ飛ぶ。
槍を突き出し、複眼で顔の半分が覆われている頭部に一撃を入れる。

ガアアッウ、ガアアッウ

槍が複眼を貫くと、槍から獣の吠え声が響く。それと同時に槍の先端部から炎が噴き出す。

それは炎で出来た狼の顎だ。

顎は容赦なくバトルマンティスの頭部に喰らいつき、燃やし尽くした。頭を燃やされたバトルマンティスは力尽き上から光の粒となって消えていった。

グルルルルル、アウッ、アウッ!

「ゴメンゴメン、心配かけちゃったね」

バトルマンティスがいなくなり、グレイウルフのごん太は周辺を警戒し、一人でホーネットたちと戦っていた事に気が付くと自分の主へと吠えた。

何故、自分をすぐに呼ばなかった、のだと。

森呪遣いのミズキにはごん太の泣き声が痛い程、伝わるのを感じた。

〈ナチュラルトーク〉
本来、この特技は従者召喚時の最大MP低下効果を軽減する常時発動特技。
この特技の説明にあったフレーバーテキスト(意味のない文章)にはこうあった。

自然と深いつながりを持つ森呪遣いは植物や動物といったヒト以外の生命とも心を通わせることができる

ただの設定だったはずであるそれが、異世界となったエルダーテイルでは可能になっていることだ。
ごん太の言葉はミズキには理解できないが、自分を心配し怒っているの気持ちを奥底で感じられる。

現実であったころにはない感覚だ。

だが、悪くない。自分のミスで悲しませたことに申し訳なさもあるが、それ以上に主である自分を心配してくれたことが力を与えてくれる。


「心配ついでに、一緒に戦ってくれる?」


アオオオオオオオンッ!?


肯定の雄叫び。
もう言葉はいらない。

一人と一匹は、大針蜂の群れを引き裂きにかかる。





第3話
「…本当だったらすごいこと」



「で、何かいう事はありますか?」
「………ごめんなさい」
「それだけですか?」
「………えう、あ、もう一人で無茶しません」
「まだあるでしょう?」


「朧、マジ切れしてるし」
「………正座」

朧が珍しく怒ってる。
ミズキが判断を間違えたから。
でも、周囲をスケルトンで囲うのはひどい。

「おい…、大丈夫か?」
「……なにが?」
「…いや、やっぱ何でもない」

ハカセが生暖かい目で見てくる。
スケルトンはもう怖くない。
この震えは武者震い。コワクない。

「ミズキさんがアブソーバーのスタイルでMP回復狙いもわかりますが、そもそも、森呪遣いが接近をするときは従者が一緒にいるか、事前に脈動回復をかけておくのが普通で」
「あうあうあう」

「まあ、大事なことだな」
「………ハカセ、人のこと言えない」
「俺は引き際は間違えねえよ。保険もあるしな」

ハカセは法義族。
魔法にボーナスが付く変わりに、HPにペナルティがある。
敵の攻撃に物凄く脆い。
そのためのゴーレムなのに、一緒に前に出る。
私のように、後ろから魔法を撃てばいいのに。

「まあ、俺のプレイスタイルは置いといて、思わぬところで蜂蜜も手に入ったことだしクエストの手間がだいぶ楽になったな」

アキバを発った私たちはデラルテの<ファンタズマルライド>とハカセと朧の《グリフォン》(鷲獅子)で移動をしていた。
道中、上空から大地人の村を見つけたハカセが興味を持ち、一日滞在することにした。
そのとき、知り合った大地人のクラドから、隣町まで護衛の依頼を頼まれたのだ。
その話にミズキとヒビキは自分たちにやらせてほしいと頼んできた。
最初は4人で悩んだが、周囲のレベルが低いこともありデラルテと朧の《ソウル・ポゼッション(幻獣憑依)》で見守ることを条件で二人に任せることにした。
結果はクラドは無事隣町まで送ったが、デラルテはミズキの無茶な行為を聞いて怒り今に至る。


「………ハカセ、大地人はNPC?」
「…やっぱ、カレアも違和感あるか」
「………だって、この町で蜂蜜なんて取れない。こんなクエストなかった。なにより…」
「シェリアさんとクラドさんか、それともこの町か、ああ両方か?」

私はうなづく。
ギルドホールで出会い、数日を一緒に過ごした彼女シェリア
甲斐甲斐しいまでに自分たちの身の回りの世話をしてくれた。
彼女は私たちの世話をするのが生きがいだと言ってくれた。

隣町に送り届けたクラドは私たちを尊敬、崇拝、憧れにも似た態度で私たちに依頼を頼んできた。
この町に一日過ごしただけでも色々な大地人の人たちに出会い、思ったのだ。
この人たちは私たちと同じで泣いて笑うことが出来る人間。
むしろ、私たち<冒険者>の方が異物だと。

そして、違和感はそれだけじゃない。

「………それも、ある。もう一つ、私たちの召喚従者」

これは、一番最初にゲームではなく異世界に来たと思わせてくれた。


《大災害》の日、
周りの人間は、泣き叫び、怒り散らし、聞くに堪えない光景に私は不安と恐怖で動けずにその場に座り込んだ。
しばらくして、ハカセがフレンドチャットで呼びかけてくれたおかげで不安は軽くなる。
でも、周囲の混乱は収まらずひどくなっていくばかりで恐怖を拭えるどころか体が震えて余計に動けなくなった。
気を紛らわそうとメニューを開いた。
フレンドリストを眺め、
アイテムリストを見つめ、
特技リストを開いて手が止まった。

従者召喚

気が付いたら私は喚んでいた。
目の前に大きいモグラが地面から掘り出てきた。
<ノーム>(土妖精)は震えていた私に近づき、一緒にいてくれた。
鳴き声を鳴らして呼びかけるように、心配するように、慰めるようにしてくれて。
その時、私は泣いた。
そのときは何で泣いたかはわからなかったが、今考えると安心してしまったのだろう。
だから私はこの子たちには生物の持つ本能があり、誰かを思う感情がある、と思う。

「…はあ、最初は最新のVRMMOが出来たんだと喜んだんだけどなあ」

ハカセは複雑そうにため息をつく。
私も同じ気持ちだ。ゲームの中に入ったと思った。
目の前にメニュー画面があり、自分のキャラクターそのものになったのだから。
それが本当はゲームによく似た世界なんてまるでネット小説のような体験だ。

「ゲームにしろ、異世界にしろやることは変わらないし、いちいちこんなこと深く考えなくてもいいだろ。どう思うかは俺らそれぞれだからな」
「………うん」


「いいですか、そもそもあのレベル帯なら森呪遣いの《アイシクルリッパ―》で十分ですし、足止めなら《ウィロースピリット》でヘイトを集めずに済んだでしょう」
「う~、ごん太~」

プイッ

「そんな~見捨てないで~」


相変わらず説教は続いていた。
ミズキは自分の従者のごん太に助けを求めているが、件のグレイウルフはそっぽ向いている。
あれを見ていたら感情があると思うけど…。

「…姉ちゃんから聞いたけど従者の気持ちが分かるんだと」

「えっ」

それはどういうことだろう。
彼女は頭がおかしいとハカセは言いたいのだろうか。

「んにゃ、姉ちゃん自身そのことに戸惑いがあるって相談があった。しかも、デラルテが見ていた話、本当にお互いの考えていることが分かってるみたいな動きだった言っててな」
「………それは」

私にも出来るんだろうか。
聞こうと口を開きかけたがハカセにそれを聞くのは少し恥ずかしい。

「…本当だったらすごいこと」

濁すことにした。
私の従者である精霊たちは話さない。
だからこそ、ミズキが従者の気持ちが分かることは素直に羨しい。
でも、自分の精霊と心を交わしたいなんて失笑ものだろう。

「…別に、従者の気持ちが分かりたいことを俺は笑わねえよ」
「…ッ、言葉出てた?」
「そんな顔してりゃわかるわアホ」

恥ずかしい。
自分の心が見透かされたことが…。
そんなに分かりやすい表情をしているのだろうか私は…。

「お前、ボイスチャットだけだと分かりづれーけど、もろで顔出てるぞ」
「………」

今度から意識するようにしておこう。
でも、表情だけでそこまでわかるものだろうか?

「言っておくけどな」
「………なに」


「俺だってこいつらの気持ち知りたいよ」

なんだ。
ハカセも、同じ気持ちなんだね…。





今日の召喚獣

グレイウルフ(灰色狼)

契約条件 クラス・森呪遣い レベル・なし クエスト《森の従者たち》クリア

森呪遣いが最初に契約する四体のうちの一体。
森呪遣いと共に森を駆け、共に戦う心強い森の相棒だ。
元々、狼は集団で狩りをし獲物を仕留める動物であり、共に戦う主には忠誠を誓っているがどちらかというと対等な戦友として一緒にいる。


ゲーム中、召喚されたグレイウルフは、森呪遣いの攻撃に併せて自動的に攻撃を繰り出す。
異世界となった今、グレイウルフは攻撃するだけでなく、周囲に敵がいないかを感知し主に知らせるなど探索に大きく貢献するようになった。
また、〈大災害〉後に判明したことだが、呼び出されるウルフの毛並みは使い手によって違っており、〈森呪遣い〉による「うちの子自慢」はさらに加速したという。

派生召喚獣には、ゴブリンも使役してくる《ダイアウルフ》 魔法を操る《マナウルフ》がいる。


 間違うな。狩るのは君ではない。狩られるのが君で、狩るのはあの森の戦士だ。
                           ~とある大地人の忠告~
 





[39542] 第4話
Name: カルカル◆94027d80 ID:072e97ca
Date: 2014/03/09 12:07
アキバを発つ前のサモンッ!?


「ん~、どうしたもんかな」

ハカセはギルドホールにある自室でペンを片手に持ち悩んでいた。

「失礼します。お掃除に…、ハカセさま、どうなさいましたか?」

「………んー、やっぱ、契約の空スロットがなー」

どうやら真剣に悩んでいるらしく、シェリアが室内に入ってきたことにハカセは気が付かない。

(紙になにか書き込んでいるようですね)

紙を見ず、上を見ているハカセ。
きっと、メニューを開いて何かを書き写していることにシェリアは気づく。

(何をそんなに悩んでいるのでしょう?)

ここ数日のサモンッ!?を見ていたシェリアはハカセの性格からそんなに悩むことがあるのかと疑問に思い、少し好奇心が湧いてきた。
シェリアは気づかれぬように、ゆっくりと、暗殺者(アサシン)のごとく静かにハカセの側に立つ。

「召喚モンスターのリストですか?」
「どうわあッ!!」

紙の内容を見て、シェリアはつい口に出してしまう。
それで、やっと側にたつシェリアにハカセは気づく。

「…シェ、シェリアさん、…い、いつから、そこに?」
「今しがたです、ハカセさま、申し訳ありません。お掃除に来たのですが…」

明らかに動揺を見せるハカセ。
それが、紙を盗み見る無礼をしたことに対してのものだと考えたシェリアすぐさま謝罪をしようと口を開く。

「え、そ、掃除?あ、ああ~、な、なるほど、じゃあ掃除の邪魔だし俺、外に出るわッ!!」
「ハ、ハカセさまっ!」

ハカセはシェリアの謝罪の言葉を遮り、そう言い残し自室の外へ慌ただしく飛び出す。

「いけない、私、ハカセさまに失礼なことを…」

好奇心に負けて、紙を盗み見た無礼な行動にシェリアは後悔せずにはいられなかった。

「あれ、シェリアさん弟の部屋でどうしたの?」
「ナニを、ソンなに沈んでイルンダイ?」

デラルテとミズキだ。
ハカセの部屋を横切った二人は、中にいる立ち竦んでしまったシェリアに気づき心配そうに声をかけた。

「デラルテさま、ミズキさま、その」

先程までの事を話していいものか、言っていいことなのかという考えが過り、シェリアは口に出せない。
そもそもシェリアはハカセがなぜあんなにも動揺していたのか見当もついていないのだ。

「シェリアさん、言いづらいことなのかもしれないけど、他の人と話してわかることもあると思うんだ。私、シェリアさんにはお世話になってすごく助けられてる、だからね、力になってあげたい」
「ワタシも同じ気持ちダ。ダカラモシ、シェリアサンが良かっタラ話してミテクレナイカナ?」
「…ありがとうございます。実は…」

二人の言葉に、言う決心が着いたシェリアは先程までの事を説明した。

召喚リストを見て悩んでいたこと。

それを自分が見た途端に慌てて部屋を出ていったこと。

「…召喚リスト?」
「カレが手持ちをカエル理由がナイなあ。チナミにリストの内容は?」
「テンタクル、ローパー、スライム、スワンプフロッグ…」

シェリアが紙に書かれていた召喚獣を順にあげていくごとに、デラルテとミズキは眉を顰め、ハカセに対し訝しむ。
デラルテとミズキは互いに顔を合わせる。

「ねえ、デラルテちゃん?」
「これはミズキさん?」

お互いの考えが一致した。
二人がハカセの悩んでいた内容に二人は推測したその結論で自身の頭に血が上るのを感じる。
二人の機嫌がひどく悪いものになっていく。
デラルテは普段の低めの男性的な演技を忘れ、普通の女性のものへと戻っている。

「シェリアさん、大丈夫。あなたはなーんにも悪くない。ちょっと、わたし愚弟に用があるからまたあとでね…」
「うん、同感だね。私も、ハカセに用が出来たからまたねシェリアちゃん…フフフ」
「あのお二方…」

二人はシェリアを置いてハカセの部屋を後にした。
シェリアは二人が今の話でなにを納得した分からず再度、ハカセの部屋で呆然と立ち尽くす。

「………シェリア?」
「あれ、シェリアさん、ハカセの部屋でどうしたの?」
「何かあったんですか、博樹が部屋に変なもの置いてましたか?」

今度は、朧、カレア、ヒビキがハカセの部屋の前を通り、立ったまま動かないシェリアに話しかけた。

「え、えっと、実はですね…」

今前での会話の意味がよくわからなかったシェリアは恥を忍んで三人にハカセの行動の件も含めて説明した。
シェリアが三人に説明をし終えたとき、三人はそれぞれの反応を返した。

「ハカセぇ、こんな事態になって数日もたってないのに…」

朧は頭を痛そうにし額に手を当てる。

「………死ねばいいのに、ワタシもデラルテたちに付き合う」

カレアは何故か冷めた目をして声を低く物騒な言葉を吐き、部屋を出る。

「…え、二人は博樹がなにを悩んでいたかわかったんですか?」

ヒビキは、シェリアと一緒でよくわからなかったのか首を傾げた。

「朧さま、一体なぜハカセさまは部屋を飛び出したのでしょう、それにデラルテさま、皆様は何故あんなにも気分を悪くしていらっしゃるのですか?」

シェリアはこの場で唯一答えを知っている朧に疑問をぶつけた。
朧は返答に困った。
何故なら、ハカセが考えていたことがこの異世界に本当にあったらと思うとシェリアのハカセに対する評価が暴落し、破産しかねないものだ。

「シェリアさん、世の中には知らなくていいことがたくさんあるんだ」

朧は理由を話すことはなかった。
女性であるシェリアには絶対に聞かせたくない類のものだからだ。
ああ、ギルドホールのリビングの方でハカセたちの声が聞こえてくる。
朧は素早く、ハカセの部屋のドアを閉めた。


「アハハハハ、ねえ博樹、お姉ちゃんにこのリストの意味教えてほしいなあ」

「ああ、別に答えなくてもいいよ。…直接その体に聞いてあげるから」

「………変態」


「ま、待ってくれ、ちょっとした出来心で…ちょ、出口塞がれ…」

「反☆省し・な・さ・い<従者召喚:ワイルドボア>、<フィアースモールド>オオオオオオッ」

「私たちが君の初めて(神殿送り)もらってあげるね、<従者召喚:レッド・ドラゴン(火竜公主)>」

「――――――有罪(ギルティ)、<従者召喚:グラキエス(氷結精霊)><戦技召喚:イグニス(爆炎精霊)>」

「ちょま、本気かよ!<従者召喚:スケアクロウ(案山子)>、<スケープドール>ウウウウウッ!?」


この時のことをギルド会館にいた冒険者と大地人が口をそろえていった。
あの日、ギルド会館が崩壊するかと思った
それほどの轟音と衝撃がリビングルームで起きていた。

(あー、これはリビングしばらく使えないなあ)
(すごい、すごいっ、一体どんな従者呼んだだろう?)
(この事態、私のせいなのでしょうか…)

無論、シェリアのせいではなく<大災害>から数日も経たず、もしかして薄い本展開やれんじゃね、とハカセ(バカ)が大馬鹿な思いつきからやらかしたのが原因である。



第4話
「あのバカ、気にしてもいないのに、泣きながら謝りやがって…」


「思ったヨリススメてるネ」
「そうですね。ハーフガイアプロジェクトの影響で距離が半分とはいえ、ここまで順調に進めるのは僥倖でした。グリフォンとペガサス様様ですね」
「はいっ、生身で空を飛ぶなんて、現実では体験することないですよ!」
「うんうん、ヒビキくん分かるよその気持ち」

ハカセたちのススキノ遠征は順調だった。
ハカセと朧のグリフォンとデラルテが呼び出した<ペガサス>(天馬)に跨って空の旅をしているのだ。障害物一つない旅はそれは順風満帆な旅だろう。

「でも、召喚出来る時間に制限があるんですね」
「グリフォンはアイテム効果だからね。従者召喚は別だけど」
「半日近く出せてりゃ十分だろ。急ぐ旅でもねえんだから」

移動手段として使ったグリフォンは従者召喚とは違い、アイテム効果による召喚である為、使用には時間制限があった。
その点、従者召喚は召喚時間に制限(一部を除く)がない。
その他に、異世界となったおかげでゲームでは出来なかった召喚獣に乗ることができるのも大きかった。
ゲームでは召喚獣に乗るには、特技の〈ファンタズマルライド〉が必要であり、条件にはユニコーンなどの「幻獣」のカテゴリでなければ使用できなかった。(しかも、その特技を使用できる召喚獣の数は少ない)
特技を使用していないで召喚獣に乗るのは振り落とされる危険はあるが、そこは冒険者の肉体。
おかげで地上でも大変楽に移動が出来た。

「話は後にして、テント張るの手伝えよ。<方術召喚:ブラウニー>」
「………<方術召喚:ブラウニー>」

すでに日が沈みかけ、夕暮れの時間である。
ハカセはテントを張る為に、手伝いとしてブラウニーを呼び出した。
カレアも続くようにブラウニーを呼び出す。

<方術召喚:ブラウニー>
<方術召喚>は戦闘以外のその他に使える召喚魔法。
ブラウニーはその中でも生産職向けの召喚獣だ。
成功率上昇、作成スピードアップ、作成数増加などさまざまな恩恵を授けてくれるブラウニーは生産職<錬金術師>を持つハカセが愛用する召喚獣。
世話好きな妖精のとおり、〈大災害〉後は家事などもしてくれるようになったため、一家に一台、もとい一匹ブラウニー。
ギルドホールにいたときはシェリアさんが嬉しい悲鳴を挙げていた。
<薄い本事件>のときもリビングを片づけるのに大いに活躍した。


「今日も野宿するから手伝い頼む」
「ほっほ、よかろう。終わった後のミルクとハチミツを頼むぞ」
「ああ、楽しみにしとけよ」

「………あのブラウニーのお手伝い」
「は、はいッ!」

ハカセが呼び出したブラウニーは目や口が見えないほどに髪や髭を生やし、人の好さそうなお爺さん顔の妖精が三匹ほど一緒にでテキパキとテント張りの作業をする。
一方、カレア呼びだしたのはハカセのブラウニーとは一回り小さく幼い子供の姿で拙い動きでテント張りの手伝いをしていた。

「………初伝、中伝にしたほうがいい?」
「中伝はインクと紙を作る材料はギルドホールの倉庫だから無理。初伝も習熟ポイントがもったいないからやめとけ。」

<特技成長>
エルダーテイルの特技は「会得、初伝、中伝、奥伝、秘伝」と左から順に段階を経て成長する。
特技を成長させるには段階によって条件が違う。
「初伝」はレベルアップやクエストで手に入る習熟ポイントで成長できる。
「中伝」からは「中伝の巻物」というサブ職<筆写師>が作るインクと紙を使って、高レベル冒険者が自分の技術を記すことで手に入るアイテムがいる。
インクと紙は、筆写師ほど上等ではないがハカセのサブ職<錬金術師>でも作れるが、現在材料がないので作成できない。
「奥伝」は一部の強力なモンスターのレアドッロプアイテム「奥伝の巻物」が必要で、プレイヤー間の取引でも非常に高価な代物になる。
一番上の「秘伝」はレイドクエスト級の高難易度クエストでしか手に入らない「秘伝の巻物」がいる。大規模系戦闘ギルドでは珍しくはないが、中小ギルドで習得しているのはごく稀だ。

ハカセのブラウニーは奥伝、会得したばかりのカレアのブラウニーでは差があるのは当然だろう。
ブラウニーを召喚したカレアを見たデラルテは不思議な顔してを口を開く。


「アレ、カレアちゃん、ブラウニー習得シテタノ?」
「………拡張パックのために契約スロット一つ空にしてた」
「カレアも同じこと考えてたのかよ。俺も二つ空スロット残してる。」
「考えることはみんな同じですね。僕は一つです」
「ワタシハ二つダヨ」
「なんの話かな?」
「僕も分かりません」

ハカセたちの会話にミズキとヒビキは追いつけない。
その二人の様子に話し込んでいたハカセたちは気づく。

「ああ、姉ちゃんたち契約限界数知らせてなかったな。朧先生、説明オナシャス」
「あ~はいはい、じゃあ朧先生が君たちに教えてあげよう」
「………朧…先生…」
「アハハハハッ」
「骸骨兵士と幽霊どっちが好きかな…、せっかくだし、もっとすごいのを…」
「「ごめんなさい」」

<召喚術師>(サモナー)
召喚術師の召喚魔法の多彩さは前も言ったとおり膨大な数だ。
攻撃、防御、魔法攻撃、支援、回復までこなすことが出来る汎用性と応用力が高い。
ある時期までは契約数に上限がなかったために、エルダーテイル内の召喚術師だけゲームバランスが崩れていた。
そこでアダルヴァ社はバランス調整のために召喚術師の契約数を16まで制限した。
つまり、〈???召喚:????〉と言う特技は、合計で16種類までしか、登録できない。
注意するところは召喚魔法以外の特技は問題なく取得はできる。<サモナーズウィップ>や<ソウルポゼッション>が当てはまる。
<ガーディアンフィスト>や<グレイブヤードウォーク>なども、従者召喚を前提とした特技なのでこれも普通に取得可能だ。
召喚術師の調整はそれだけではないけどこれは別の機会にしよう。
そして、空スロットの話に戻すが、要は残りの契約数だ。
召喚術師のほとんどは、自由に召喚獣を取り換えが出来る契約枠を一つは作っている。
召喚獣の数が膨大な分と今回のような拡張パックが導入されて追加する召喚獣が理由である。

「そういうわけで、ミズキさんは森呪遣いの召喚獣の数は少ないからいいけど、ヒビキ君はしっかり考えておくといいよ。召喚術忘却の特技もあるから、数合わせに適当に習得しても大丈夫だけど」
「わかりました。うーん、まだ、枠に困ってないし今は考えなくてもいいかな…」
「ところで、16個の枠全部埋める人ってそんなにいないの?」
「それは…」
「いるとこにはいるぞ」

朧の説明を聞き、契約制限数について聞いたミズキとヒビキ
ヒビキはそこまで埋まるほどの契約数ではないので記憶にとどめるだけにした。
もう一人のミズキは話を聞いて、朧に疑問をぶつけた。
ミズキの疑問に朧が答える前にハカセが話に入ってきた。

「戦闘系ギルド<黒剣騎士団>には、二次元って呼ばれてるプレイヤーが全部埋めてるそうだ」
「二次元?」
「二つ名みたいなもんだよ。召喚獣全部を美女・美少女系で埋めていてギルド内で、こいつらは俺の嫁ッ、と言ったことから付いたあだ名らしい」
「はははは、なあにそれ」
「呼ばれていることを本人は何とも思っていないのが実情ですけど…」

「え、もしかして知り合い?」

「まあ、うちのギルドは全員が召喚士だからその伝手でな」
「一時期、うちのギルドとで同盟組んでたこともありましたし」

「えええええッ!?ど、どうやってッ?」

ミズキが驚くのは無理もない。
人数が10人ほどの小規模ギルドが一体どうして戦闘系大規模ギルドの、しかもエリート主義の<黒剣騎士団>と同盟を結んだと聞いたのだ。
どういう経緯でそんなことになったのか聞かないわけがなかった。

「俺らのギルド、今でこそ小規模ギルドだけど、5年前までは300、いや200人強まで人がいたんだ」
「200ッ!」
「それってすごいことですよッ!」

召喚術師の数は、冒険者の総数およそ3万人のうち10パーセントほど。
だいたい3000人のうち300人。
つまり一割もの召喚術師がいたことになる。
中規模どころか大規模ギルドの人数だ。

「僕らのギルド、全召喚獣のコンプリートが目的でしたから」
「それが日本サーバーだけならよかったんだけどなあ…」
「当時のギルマスが海外サーバーまで手を出したのは無茶通り越して無謀でしたね」
「え、どうして無謀なんですか?」
「コストが洒落にならないぐらいやばいからだよ」

召喚術師はとにかくコストがかかる。
お金だけでなく、契約クエストにかかる時間が問題だった。
日本サーバーでおよそ百種。
その中には大規模クエストでしか取れないものもあり、それをすべて埋めるだけでも恐ろしいまでの時間とお金がかかる。
なのに、当時のギルドマスターは無謀にも海外サーバーに手を伸ばした。
そんなことに付き合ってられるかとギルドメンバーは日本サーバーのほとんど召喚獣を確認次第やめていった。

「海外サーバーは運営の仕方が違うからな」
「日本のガチャスロ課金もやばかったですけど、韓国サーバーもアイテム課金と一部にリアルマネーが必要でしたから」
「………」
「………」

ハカセの言葉に、ミズキとヒビキはどう返したものかと複雑な顔して黙り込む。
大規模から一転、10人足らずの小規模ギルドに落ちぶれたのだ。
言葉を探す二人に、ハカセと朧は困ったような仕草で二人に話しかける。

「別に、俺たちは当時の事をなんとも思ってねえよ。当時のギルマスは召喚獣マニアでその気持ちは少しわかるからな」
「さすがは、二つ名に『ロボオタ』、『ドールマニア』と呼ばれるだけはあるね」
「お、『妖怪絵巻』、『百鬼夜行』なんて痛々しい二つ名を持つお前が言うか…」
「あはははは、ほめ言葉だね」
「俺だって、ほめ言葉だわ」

「…そっか、じゃあ私、妖精さんたちのお手伝いしてくるね」
「…ミズキさん、僕も行きます」

二人の様子に当時いなかったミズキとヒビキはこの話を切り上げるために立ち上がり、野宿の手伝いをしに駆け出した。
ハカセと朧は離れる二人を気にも留めず会話を続ける。
その二人にデラルテとカレアは近づく。

「タノシソウダネ。二人とも」
「………混ぜろ」
「ん、お前らも来たのかよ」
「構いませんよ。昔の話で盛り上がるのも悪くありません」

4人は5年前も一緒だった。
そもそも、<サモンッ!?>が結成される初期メンバーに4人はいたのだ。

「結成は8年前だったけな」
「ソウだね。随分、ナガイことエルダーテイルをヤッテタンダネ」
「最初はハカセがギルマスやってましたね」
「………人数増えて、めんどくさがって押し付けた」
「うるせえよ。あんなにも人数が増えるなんて当時考えもしなかったんだよ」

<サモンッ!?>はハカセが召喚獣コンプリートを方針したのも事実だが、最初はただの召喚獣好きの集まりだった。
友達と召喚獣で一緒にダンジョンに潜り、フィールドを駆けた。
契約クエストを見つけてはギルド全員で攻略を楽しむ。
契約した召喚獣を見ては、可愛いやら、カッコイイとか、怖いとかみんなで駄弁る
最初はただそれだけのギルド。

「少しづつ人数が増えていって、60人ぐらいに膨れ上がってましたね」
「………そのぐらいでサモンが入った」
「行動力ト召喚獣の情熱ガスゴカッタ」
「まったくだ。2年で召喚術師300人近く集めるとかどんだけ好きなんだよ」

<サモンッ!?>二代目ギルドマスター 召喚士
二代目と言っても、人数が多すぎて、ハカセがめんどくさくなってギルドマスターを譲ったのだ。
召喚士というネームからみんなからはサモンと呼ばれていた。
とにかくどうしようもないほど召喚獣が好きで仕方がない性格のプレイヤーだった。
四人もサモンのことは友達と思っていた。
野良PTで知り合い、同好の士であったことから、ギルドに誘った仲だ。
よく一緒にパーティーを組んだものだ。

「まあ、好きすぎて海外サーバーに乗り出したときは呆れたわ」
「流石に当時の僕も開いた口が塞がらなかった」
「………溜息」
「ワタシはワラッタよ」

300人もいたらやれると思ったのだろうか。
ギルドメンバー全員に言ったその宣言は。
ほとんど全員が反発した。
その上、最初にアジア圏のサーバーを目指したのは大失敗。
課金制の韓国サーバーにはいったときは阿鼻叫喚な有様だった。
そのころから人数は減りつつ、別の海外サーバーへ遠征。
日本サーバーの召喚獣のほとんどを確認を終えた頃には、初期メンバーぐらいしか残っていなかった。

「あのバカ気にしてもいないのに、泣きながら謝りやがって…」
「サモンさんには続けて欲しかったよ」
「………変なとこ真面目」
「そうだね…」
「デラルテ、演技」
「はっ、そ、ソウダネ」

初期メンバーまで減ったとき、サモンはギルドマスターを譲ってくれたハカセに泣きながら謝り続けた。
ハカセ自身、ただの友達の集まりのつもりでそこまで本気ではなかった。
だから、ハカセはサモンに別に気にしていないとその時告げた。
他のメンバーもまた一緒にプレイしょうと慰めて励ました。

数日が立つと、サモンはアカウントごといなくなっていた。

「あのとき、もっと話しておくべきだったかねえ…」
「僕たちも気が付けなかった。今それを言ってもどうしようもないよ」
「………ハカセもヒトがイイ」
「ホントホント」

当時の事はハカセたちには良い思い出もあり、仲のいいゲーム友達を失くす苦い思い出でもあった。

「あいつがこの世界来てたら、もっとすごいことしてたろうな」
「うん、まったく否定できない」
「………伊達に「リアルにサモンナイト」って言われてない」
「興奮ノ余りシニソウダ」


四人は昔の友達を思い、ミズキとヒビキが呼ぶまで語り合った。







今日の召喚獣

スケアクロウ(案山子)

条件 クラス・召喚術師 レベル・60以上 クエスト<畑の守護者>クリア


スキル一覧


<呪いの案山子>常時発動特技
スケアクロウを攻撃した者は、痛みを与えた分だけ自分に帰ってくるだろう。 物理・魔法問わず

<恐怖の案山子>挑発・状態異常特技
不気味に揺れ、奇声で叫ぶスケアクロウ。それを見て聞いたものは恐怖で動けず、スケアクロウしか見えなくなる。 状態異常<恐怖>付加

<身代わりの案山子>特殊特技
<スケープドール>の効果を召喚者のダメージを全て無効にし、無効にした分のダメージをスケアクロウは受ける。


スケアクロウは生まれ経緯が一切分からない召喚獣だ。
案山子に精霊が宿った、妖精の悪戯、農家の大地人が未練のあまりのり移った、ヘイアンで言われる付喪神だとも言われ真偽は定かではない。
案山子は害獣除けとして田畑に置かれていたが、動かないと害獣に学習されてからは、ただの置物となった。
役目を成し遂げない人形に価値などないのだろうと憐れんだ古来種が魔法をかけたなどという逸話もある。

ハカセのお気に入りの召喚獣。
法義族のハカセにとってスケアクロウの<身代わりの案山子>は生命線。
ボスが強力な技を繰り出すときにスケアクロウの真価は発揮される。
一部の召喚術師からは「案山子さま」や「案山子兄貴」などゴーレムに負けないほど尊敬されている。

 おうおう、俺が守る田畑に手を出すたァ、見上げたコソ泥だなァ、だがァ、この田吾作様が跳ねられるうちは大根一つ渡さねえぜエ!

                                            ~スケアクロウの田吾作~



[39542] 第5話 加筆
Name: カルカル◆94027d80 ID:072e97ca
Date: 2014/03/19 12:20
「あれが<ティアストーン山地>…」
「現実世界なら白神山地にあたる場所だな」

ハカセたちは今、地下ダンジョンの<パルムの深き場所>がある<ティアストーン山地>まで来ていた。
ここまで来るのに、アキバを発って7日。
途中で見つけた大地人の村へ立ち寄り、ミズキとヒビキの新人も一緒でありながらも、旅を順調に進めていた。

「でかいな…」
「うん、それにすごい数だ…」

<ティアストーン山地>はモンスター<ワイヴァーン>(鋼尾翼竜)の住処だ。
ハカセたちベテラン組はこの旅で初めて渋い顔をした。

「…地上に降りて、<パルムの深き場所>を通ったほうがイイと思う人~」
「………賛成」
「右に同じく」
「左に同ジク」

「え、なんで地下?」

「姉ちゃん、アレに突っ込むのは俺らもきついし、レベル低い姉ちゃんたちは一分ももたねえよ」
「ドラゴンを持ツ私ガ言うヨ、竜種はドレも危険スギル」

ワイヴァーンは亜竜とよばれ、竜種の亜種に分類される。
竜によく似た姿を持っているが、前肢は翼、魔法や火炎の息を操る能力もない。竜族としてはかなり下等な種類だ。
だが、ワイヴァーンは腐ってもドラゴン。

古今東西、どのファンタジー物語においてドラゴンはモンスターたちの頂点に立つ王者。
<エルダーテイル>の一番最初に追加された大規模戦闘『竜の探索』はレベル50推奨のクエストでありながら、下手をしたらレベルが10以上離れていても容易く全滅することがある。
他に、5番目の拡張パック〈ムーンクレスタの宝珠〉の『悪竜の嘶き』も、どの戦闘系ギルドが辛苦を味わったことだろう。
ゲームだったころからドラゴンはどの冒険者にとって、最大の壁として立ちふさがるのだ。

ワイヴァーンも下級亜種のドラゴンだが、尾は鋭く鋼のような強度を持ち、カミソリのような翼は巨大鷲(ロック鳥)にも匹敵する移動速度を誇る。
それを相手に、グリフォンで空の上で戦闘なぞした日には、集団でボコボコに袋叩きにされ、地上へダイブする未来しか見えない。
魔法行使能力がないなんて慰めにもならない。

<ティアストーン山地>の深い森の中を歩いて山岳踏破をするか、山中の道路を登山する方法もあるが、その二つはモンスターのレベルが軒並み高いため、レベルが低いミズキとヒビキが危険だ。
洋上まで大きく迂回するルートもあるが、正直に言って、ここへ来るまでに立ち寄った村から聞いた<ライポート海峡>あたりの街でさっさとゆっくりしたい。
それらの条件に合うルートが地下ダンジョン<パルムの深き場所>を抜けて北をめざすことだった。

「ドラゴン…契約してみたいなあ」
「ウーン、今のレベルでは無理ダネエ」
「そっか、ならまだいいかな…」
「アハハハハ、ハ…」
「………デラルテ」

ヒビキはこれといった召喚獣の好みがまだない。
ドラゴンの話を聞いて少し興味が出たが、レベルが低い状態では契約が出来ないと知るとすぐに興味をなくした。
ヒビキの様子に苦笑いするデラルテは自分の道化服を引っ張るカレアの方を向く。

「………降りる」
「アア、ウン降りヨウか」

「レッツ・地下ダンジョンッ!」
「ちょ、姉ちゃん手綱握る、なあああああああああああああ!?」

「ヒビキ君、僕の腰をしっかり掴んでおくんだよ」
「はい、朧さん大丈夫です」



第5話
「…いいよ。だって…ハカセもミズキも」



走る。

早く、速く、はやく。

とにかく前へ。

「走れえええぇ!?」
「何でこんな狭い通路で襲われなくちゃいけないんだッ!」
「斥候グライは出してオクベキダッタネ」
「………迂闊、乱戦は避けたい」
「ご、ごめんなさい~」
「マップ作成してただけなのに~」

パルムの深き場所に入ったハカセたちは今、鼠の頭部を持った人型に狭いコンクリートで出来た通路で二十匹以上のそれに追われていた。

鼠人間(ラットマン)
ゴブリンやオークと同じ、この世界で多数生息する亜人間。
その中でも、ラットマンは下から数えた方が早い戦闘能力だ。
正直言って、ミズキとヒビキは別としても、高レベルプレイヤーの敵ではない。
そして、ラットマンの性質上、同レベルのミズキたちがいたとしても、ハカセたち格上の相手との戦闘は避ける。

さて、それなら何故、彼らがラットマンに追われているか理由を語ろう。

レベルの高いハカセたちを見たラットマンは敵わないと戦闘を避けてその場をやり過ごすか離れようとする。
この場合は、その場を離れようとしたラットマンが問題だ。
逃げ出したラットマンの場所が行き止まりか袋小路の場所でそれ以上の逃げ場がない場所に行ってしまったら。
ゲーム時代ならともかく、ハカセたちはこの世界に来てから変化した<パルムの深き場所>の構造なんて知る由もないので、虱潰しで調べるしかない。
行き止まりや袋小路に逃げ込んだラットマンとエンカウントするのは火を見るよりも明らかだろう。
力量が上の相手に追い詰められたラットマンは、窮鼠猫を噛むという諺どおりに猫であるハカセたちに噛みついていこうと襲いかかる。
そして、ラットマンは非力さを補うために複数で密集して戦う亜人間だ。
大勢のラットマンがいる狭い通路で戦闘を行うのなら、乱戦は避けられない。
数が多いのは確かに面倒だが、ハカセたち高レベルプレイヤーだけなら乱戦でも切り抜けられる。
しかし、ミズキとヒビキのレベルは40弱。
そのレベルはラットマンと同じぐらいであり、ハカセたちは二人の安全確保のために逃走したのだ。

体制が整えられえるように、全員が全力でもと来た道へ駆け出す。

「つ、次を左に曲がって、真っ直ぐ進むと広い場所へ出ますぅぅぅっ!!」

サブ職<探索者>のヒビキは<地図製作(マッピング)>で作成した地図で道順を説明する。

「ナイスッ、中に入り次第、俺が足止め。朧、デラルテ、カレアは戦闘準備。姉ちゃんはごん太呼んで周辺警戒。ヒビキは指示があるまで待機!」
「みなさん、一応ここは廃墟になって一部の床が脆いっ、ゴーレムのような重量級の召喚獣は避けて!?」
「………ラットマンの数30強」
「支援に集中スルカラ、<疫病>のバットステータスは気にスルナ」
「わ、わかった<従者召喚:グレイウルフ>ごん太、走ってっ」
「はいッ!」

ヒビキの言葉にハカセたちは、即座にメンバー各々の指示や情報を出していく。
そして、狭い地下通路を抜けた先には無味乾燥の正方形の部屋へと飛び出した。

「<従者召喚:殺戮人形(キリング・ドール)>」

「クケッ、クケケケケケ、鼠さん、鼠サン、笛吹男(パイドパイパー)はココにはイネエ、オレが、ボクが、ワタシがカワリニ逝かせてアゲル!」

ハカセの足元の地面から魔法陣が現れ、そこから小さな子供の人形キリング・ドールが飛び出す
両手にそれぞれ持った、血で黒く変色した包丁を振りかざしたキリング・ドールが混ざり合った声で叫びながら、ラットマンの一体へと近づき腹に両手の包丁を突き刺して、そのまま十字に切り裂いた。

「ハラワタヲ、マキチラセ~、アハハハハッ」
「ナニコレ、この子怖いんですけど…、そんじゃ俺も」

幸いなことに、40センチ程の大きさのキリング・ドールがラットマンの群れに突っ込んだおかげで、後ろにいる他のメンバーはラットマンの数と鳴き声で声も姿も見なかったことだろう。
キリング・ドールの包丁捌きと態度にハカセは冷や汗を流しつつ、鞄から黒色の液体が入った瓶を取り出し、中の液体を自分の口へと流し込む。
アイテム『守護戦士の秘薬』、サブ職<錬金術師>、または<薬剤師>から作り出されるその秘薬は、使用した60秒間、対象の防御力を大幅に上昇させる。
一時的に、並の召喚術師より上の防御力を得たハカセは短剣を右手に握り、キリング・ドールの後に続き、ラットマンに切りかかった。

「敵を引き付けるッ!………派手に暴れますか」


「<従者召喚:天馬(ペガサス)>」

デラルテは鞭を取り出し、ペガサスを呼び出す。
魔法陣はコンクリートの天井に浮かび上がり、そこから天馬は羽を広げ、空を蹴るように飛び、デラルテの側へと降り立つ。

「…イクヨ」

道化師は天馬に跨り、蹄で音を鳴らし、ハカセの上へと向かって飛んだ。
ペガサスの羽毛が舞い落ち、ハカセとキリング・ドールの周りを白く光を放ち踊るように漂う。
<セイントフェザー>。
効果が続く間、状態異常を無効にし、HP回復量を増加させる。

「イイ子、イイ子、よくデキました」

デラルテはペガサスのタテガミを撫でて、適度な高度を維持しつつ、眼下の戦闘を見渡す。
必死にハカセとキリング・ドールに跳びかかるラットマンを見下すようにデラルテは嗤う

「疫病がナイ、タダのネズミはドコまでヤレルカナ?」


「さて、ハカセッ、数を減らしますよ<戦技召喚:木霊(コダマ)>」

ハカセに声をかけた朧はお札を取り出し、ラットマンのもとへ投げつける。
お札から唐突に木が生えだし、木々は互いを巻き込むように急成長し、徐々に歪な人型へと変形していく。

――――――!

人型となったコダマは木で形作った両の手を掲げて大きく拍手した。
コダマを中心に乾いた音が鳴り、周囲にいたラットマンはその音を耳にすると段々と動きを鈍らせていく。

キュ、………zzzz。

そして、コダマの周囲にいたラットマンは次々と深い眠りへと落ちていく。
味方のラットマンが眠ったことにより、原因である朧に眠っていないラットマンたちが襲いかかる。

「残念、近寄らせない、思いっきりお願いします<戦技召喚:鴉天狗(カラステング)>」
「ふんっ、ネズミごときがワシの風の前では塵も同然よッ!!」

襲いかかるラットマンたちに、とくに慌てもしない朧は次の召喚獣を呼び出す。
黒い羽をはばたかせ、鴉の頭部を持つ人間、カラステングは右手にもつ団扇を煽ると凄まじい突風が発生する。

キュユユユユーッ!?

ラットマンは吹き飛ばされまいと必死にその場に踏みとどまろうと地面にしがみつく。
だが、竜巻が横に発生しているように錯覚してしまうその暴風にそんなことで耐えられるわけがなかった。
突風に耐えられなかったラットマンは次々とハカセたちが暴れているほうへと吹き飛ばされる。
飛んできたラットマンをハカセとキリング・ドールがその手に持ったナイフと包丁で容赦なく切り刻む。

「カレアさん、止めは任せますね」


「………一匹も逃がさない」

カレアは杖を左手に持ち、右手をハカセたちの方へ向ける。

「ハカセッ!!」
「あいよっ、チビッついて来いッ!?」
「ウン、イイよオニイチャン」

普段から静かにしているカレアから出たとは思えない力強い呼びかけに、ハカセは応えるようにキリング・ドールのチビと共に、カレアの方へと足を動かす。
距離を離そうとするハカセたちを逃さないと追いかけるラットマンだが、突然にラットマンの足元の地面が色鮮やかに爆発した。

「置き土産は気に入ったか?」
「ワーイ、花火ダァ」

ネタアイテム「花火」、ゲームだったころは演出することしかできなかった花火は今では足止め用の爆弾に変わっていた。
にやりと犬歯を見せつけるように口元に笑みを浮かべるハカセと花火を見てはしゃぐキリング・ドールの一人と一体はそのままカレアの横を通り過ぎた。
カレアの視界にハカセとキリング・ドールはいなくなり、もうラットマン以外の生き物はいない。
もう遠慮するは必要はないと判断したカレアはその名を呼んだ。

「………<戦技召喚:グラキエス>ッ」

カレアの目の前に氷の女性がいた。
カレアと同じように右手を突き出し、ラットマンを冷たい眼差しで見ている。
氷の精霊グラキエスは突き出した右手から雪色の光を集め、解き放った。

<エレメンタルレイ>という特技がある。
精霊の従者を召喚しているときに使用できるこの特技は指定した地点太いレーザー光線状の魔法攻撃(召喚獣の属性に合わせて色が変化する)を行い、複数の敵をまとめて攻撃する特技だ。
戦技召喚で呼ばれる精霊はこの特技と似た攻撃(多少は演出にアレンジを加えた)をするものが多い。
だが、全く同じわけではない。
<妖術師>に迫る威力と広範囲の射程距離だ。

グラキエスから放たれた半径五メートル程のレーザーは触れた個所から凍りつく。
その例に漏れず、逃げてきた入口にいたラットマンたちも雪色の極光が飲み込んだ。

「…すごいや」
「………」
「派手ですね」
「あ~こんな凍ってたら外に出るの大変だぞ」
「ハカセ、風情がナイネエ」

光が収まった先は、一面が氷の世界と変貌していた。
飲み込まれたラットマンは氷のオブジェとなり風景の一部と化している。
この光景を作り出したグラキエスはカレアの方へと顔を向ける。


――――――。

微笑んでいた。
グラキエスは氷の精霊とは思えないほど暖かな笑みを浮かべ、光の粒となって消えていく。

カレアはその笑顔を見て、隠しているつもりなのだろうが、口元は嬉しそうに緩み、感謝の言葉を述べる。

「………ありがとう」



***************************************************


ラットマンを倒した私たちは探索を中断。
ダンジョンで野営をすることに決め、みんなで話し合い対策と役割分担を考えることとなった。

ハカセから、ミズキさんと一緒に周辺警戒を頼まれた私はキャンプを少し離れた彼女の側に近づいた。

「………」
「ミズキさん、ドウシタンダイ?」

ミズキさんはグレイウルフの…そう、ごん太を抱きしめて、静かにダンジョンの水路を見つめている。

「…ああ、デラルテちゃん、さんは…いらないって」
「ウン、ミズキ、スマナイネ」

演技とはいえ、私は年上を呼び捨てするのは気が引ける。
しかし、明るい性格とハカセの姉だからか、不思議とそういう気にならない。
でも、いつも楽しそうにニコニコしている彼女がここまで沈んでいるのをみたことがない。
私が疑問そうに見つめているとミズキは見つめ返し、短い間視線を交わす。

「…デラルテちゃん」

何やら、決心が着いたように顔を引き締め、私を呼んだ。

「博樹の事でお願いがあるんだけどいいかな」
「ナンダイ?」
「博樹を守ってあげて」
「………」

どう、いうこと………。
彼女の言葉の意味は分かる。だが、何故、急にハカセを守ってほしいという頼みをされるのかが分からない。
ふざけているわけでもない、ミズキの顔は本気だった。

「ごめんね、突然こんなこと言って…」
「イヤ、カマワナイヨ。………真面目な話のようだから、演技やめるね」

私が言葉の意図に図りかねていることに気づいたのかミズキは口を開く。

「さっきの戦いでね。私、博樹が死ぬんじゃないかって気が気じゃなかった」


「あのレベルなら、ハカセの敵じゃないよ。仮に…」

―――――!?
ダメっ、心の底から響いたそれがその先の言葉を押しとどめてくれた。
押しとどめた言葉を彼女の前では言ってはいけない。
馬鹿だ私は、まだこの世界をゲームだと思っている。
でなければ、こんな考えを軽々しく口にしようとはしない。
………気持ちが悪い。
ダメ、ダメ、ダメッ。表情に出すな。
いつものように演技しろ。
彼女は気にする。だって、ハカセの姉だ。
ハカセほど長くは一緒ではないけど彼女は優しい人だ。

「…大丈夫。デラルテちゃんがそう思うのも仕方がないよ。でも、私は、やっぱり博樹のお姉ちゃんだから…」
「…違う」

違う。
これは否定しなければいけない。
それが普通だ。
だれだって、大切にしている家族が死ぬかもしれない所を見て、気にしないはずがない。
だから、あなたはそんな苦しい顔をしなくていい。

「…泣かないで」

演技に合わせていた道化師の化粧が崩れていく。
無理だ。

「…無理」

だって、

この前の街で、

大地人のクラドさんを隣町に送り届ける話のときに、

ハカセが最後まで渋っていたのを知っているから。

浮ついた私の心にその事実は重く押し潰す。


「…なら、泣いてくれるなら、…お願い。あの子を守ってあげて」
「………なんで、なんで私…なの」
「…私の呪文じゃ、あの子を助けてあげられない」

知っている。
彼女が私に頼む理由なんて考えればわかることだ。
でも、私は聞かずにはいられない。

「それなら、ミズキさんがレベルを上げて側に…」

「私は、ハカセとしてのあの子を、半年しか知らない」

「………」

ハカセは身内に愛されているなあと思ってしまう。
いつもの天真爛漫な雰囲気ではない、ただ弟を気遣うお姉さんとして彼女は頼んでいる。
断れない。
そもそも断るつもりは私にはない。

「…いいよ。だって…ハカセもミズキも」


私たちのパーティ(友達)だから…任せて。







今日の召喚獣


キリング・ドール (殺戮人形)

条件 クラス・召喚術師 レベル・70以上  クエスト<道化師の操り人形>クリア 


スキル一覧


<オレたちの怒り>物理・状態異常特技
怒り狂うキリング・ドールは両手に持った包丁を敵一体に突き刺し、十字に切り裂く。 状態異常<出血>付加

<ボクたちの悲鳴>挑発特技
泣くように叫ぶキリング・ドールの声は敵の嗜虐心を掻き立てる。 ヘイト効果・大

<ワタシたちの絶望>範囲物理特技
狂ったキリング・ドールの周囲に包丁を持った幽霊の子供たちが現れ、敵に襲いかかる。


キリングドールは道化師〈メイザース・パイドパイパー〉によって攫われた子供たちの成れの果て。
道化師にありとあらゆる方法で弄ばれた子供たち。
親から引き離された怒り。嬲られる毎日による悲鳴。全てを奪われた絶望。
死後の魂をも人形に閉じ込められた子供たちを救うには、困難を極めるだろう。


キリング・ドールは、敵の攻撃を受けて主を守るではなく、攻撃を避けて倒すことで主を守るよう戦う。
クエストのキリング・ドールに涙しない召喚術師はいなかった。
キリング・ドールと契約した者、出来なかった者の心は一つだった。
<道化師>マジぶっ殺すッ!!


 お願いです冒険者様ッ、あの子を、あの子たちを、どうか、どうかっ、お救いください………。
                                            ~子を攫われ殺された両親たちの嘆願~





[39542] 第6話
Name: カルカル◆94027d80 ID:072e97ca
Date: 2014/03/12 22:17

ラットマンを撃退し、ダンジョン内でハカセたちは探索を一時中断し、部屋の一室で休息を取ることにした。
休息中に、それぞれがこの旅の間で決めた役割をこなしていく。
朧とヒビキは、先のラットマンとの鉢合わせを反省し、召喚獣に乗りうつる<ソウルポゼッション(幻獣憑依)>で本体の肉体をキャンプで寝かせて偵察している。
周辺警戒は、デラルテがペガサスで空からやっていたが、天井のあるダンジョン内では不可能である為、ミズキのグレイウルフが代わりをすることになりデラルテはその手伝いをしている。
ハカセとカレアの二人は言うと、キャンプの準備をしている。
毛布をお腹で抑えながら片手で持ったハカセは固いコンクリートの地面の上に柔らかい毛布を敷いていく。
この旅の間に慣れた手つきでみんなの寝床を確保していくハカセの後ろからトコトコと自分よりも大きい瓶を運ぶ小妖精ブラウニーが近づいてきた。

「ほれ、『守護戦士の秘薬』じゃ」
「おうサンキュー」

ハカセは礼を言いながら、ブラウニーから瓶を受けとる腰に下げた鞄に瓶を入れる。
そして、そのまま鞄から草らしきものと、何も入ってない透明な瓶を取り出し、ブラウニーに手渡す。

「爺さんたち、次はこれ頼むわ」
「全く妖精使いの荒いことじゃ」
(プッ、やっべ、見た目と言動が…)

白い長いひげを撫でながら渋い声で愚痴を漏らすその姿に、似合いつつも自分よりもはるかに小さい妖精とのギャップでハカセは吹き出しそうになる。
笑いをこらえようとしたハカセは、最後の毛布を敷くためにブラウニーから顔が見えないようにする。

「…?、…どうしたのじゃマスター、手を口に押さえて」
「…い、いや、くしゃみが出そうになっただけだ」

なんとか笑いを抑えたハカセは適当に言い繕い、再度ブラウニーの方へと顔を向けた。

「愚痴はミルクと蜂蜜やるんだから勘弁してくれ。さて、寝床も確保したから俺も生産活動しますか」
「ふむ、手伝いに一人つけるかの?」
「ひとりでやるさ」

ブラウニーの提案を断るハカセは、鞄に両手を突っ込み、鞄に入りきるはずのない大きい釜を取り出す。
大釜を持ったハカセは、もう一人キャンプの準備をしているカレアの側に近づく。

「カレア、たき火の数を一つ増やしてくれ」
「………なんで?」
「アイテムを作るから火種がいるんだよ」

ハカセの言葉をカレアは理解できない。
サブ職を生産職の錬金術師にしているハカセがアイテムを作るのは分かる。
でもそれは、メニュー画面を開いて、材料がそろうアイテムの項目を選択すればその場にすぐに出来る。
だが、ハカセは大釜を両手で持ち、何でもないかのように火を要求する。

「まあ、疑問は分かる。向こうの爺さんたちを見ろ」
「………えっ」

カレアは、この世界に来た時と同じように、自分の目を疑った。

「よーし、インよ。次の材料じゃ」
「ほれほれ、ヴァツ、はやく瓶に入れんか、次が入らんじゃろ」
「ライ、ワシを誰だと思うちょる。これは今の分じゃ」

ハカセのブラウニーが、カレアが精霊を呼び出して作ったたき火での上で、小さな釜に素材アイテムを入れて棒でかき混ぜているのだ。
しかも、釜の中身の液体を入れている瓶には、宙に『耐病毒ポーション』と表示されている。
ブラウニーがアイテムを作っている、そのことにカレアは開いた口が塞がらない。

「な、すげえだろ」

カレアの表情をみて、ハカセはしてやったりの顔をしている。
その顔にカレアはムカつくも、気持ちを抑えハカセに問いだそうとハカセの服を引っ張る。

「あ、………あれは何?」
「だから、アイテム作成してるんだよ」
「…それは、わかる。………どうしてメニュー画面で作らないの」
「よくぞ、聞いてくれた!?」

カレアの質問にハカセは背中のマントをたなびかせ、両腕を組みドヤ顔をして返事をする。
ああ、うざいなあ。

「んな、鬱陶しい顔しなくても…」
「………人の表情から考え読むな」

ウンザリとした顔でカレアは話を急がせる。
ハカセはションボリと残念そうに頭を傾け、話し出す。


「事の発端は、アキバにいた時だ。俺はススキノの遠征のためにアイテムを揃えることにした」
「………それで」
「サブ職の錬金術師を使おうとしたとき、錬金術師の道具アイテムの大釜をみて………」
「もう言わなくていい」
「いや、言わせろよッ!?」

カレアの言葉に、ハカセはツッコミを入れる。
だが、カレアは溜息を吐き、先程よりも疲れた目でハカセを見る。

「………どうせ、ハカセのアトリエ、キタコレとかで真似事しただけ」
「そうだけどっ、アキバの錬金術師って思ったけど、ねえ話を最後まで聞いてええぇ、聞いてくださいお願いします!」
「………はあ、それでどうして今も真似ごとしてるの」
「…それがな、メニュー画面で作成するよりもアイテムの量と質が違うものができたんだ」
「………」
「しかもな、手法や材料の組み合わせで………本来あるはずのないアイテムが出来た。検証もしていたから、これを言ったのはお前が最初だ」

ありえない。
カレアはその言葉は嘘だと思いたくなるが、ハカセは悪ふざけこそはするものの嘘をつくことはほとんどない。
長年、一緒に遊んでいたわけではない。
そして、<大災害>から今日までハカセはこの世界の情報はみんなに絶対に知らせるようにしている。

「………本当なの」
「…おう、これを見ろ」
「………なにこれッ」

そういって、ハカセは鞄から瓶を一つ取り出す。
カレアは、瓶から表示された道具名に目を疑い、取り乱す。
それは、このエルダーテイルではあるはずのないアイテムだからだ。

『MPポーションⅤ』

効果はMPを50%回復する。
なるほど、他のゲームならありふれたアイテムだろう。
だが、ゲームだった頃の<エルダーテイル>には、MP回復アイテムの中にこれ程の回復量を持つポーションはない。
エルダーテイルのMP回復方法は、時間の経過による回復とこれとは天と地の差があるほど回復量が微量なMPポーションだ。

「………どうやって」
「この方法でアイテムを作るとき、追加で別の素材を入れようと思い付きでやって、アイテムに変化があるのが分かった」

ハカセも真剣な顔だ。
当たり前だ。
このアイテムだけでどれ程、戦闘バランスが崩れるか分かったものではない。

「………これ、量産は?」
「…これを作れる素材はどれもレアすぎて量産なんて出来る代物じゃない。正直、これを作れたのは偶然だ」
「残念」

本当に。
カレアは思わずにはいられない。
これがあれば、どれだけ戦闘の助けになるか考えただけですごいことだ。
MP管理が厳しい魔法職や回復職なら口から手が出るほどのものだから。
だが、ハカセは話はこれだけじゃないと首を振る。

「そして、これを作って、サブ職のレベルが低いおかげで分かったことがある。これをもう一つ作ろうとして―――――、失敗した」
「………作成判定ッ!」
「正解」

生産系サブ職には、作成判定というアイテムを作成するときに、レベルに合わせて判定を行い完成の可否を決めるシステムがある。
カレアはこの現象に嫌気がさす。
この世界の大地人やほかの生物、何よりも身近の召喚生物たちはどこも本物に見えるのに、理、法則ともいうものがどこまでもゲーム的なことが、心の中を複雑にする。
そして、気持ちはハカセも同じのようだ。
苦い顔をしながら、ハカセは口を開く。

「そういうわけだから、たき火を頼む」
「………わかった。ねえ、ハカセ」
「前にも言ったが…」

ハカセはカレアの声を遮る。
厳しくも、優しく、突き離すようで、背中を押してくれるようにハカセは言った。


「いちいち深く考えるな。どう思うかは俺たちそれぞれだ」



第7話
「そんじゃあ、行くかっ!」


<パルムの深き場所>にて、彼らはこれからの探索について相談していた。
みんなが頭をひねり、まともな意見を出し合うが、話し合いは順調とはいい難かった。

「どうすっかなあ…」
「僕らのレベルでは弱いとはいえ、ミズキさんたちは…」
「だよなあ」
「…うう~」
「………ミズキ、気にしない」

話し合いの論点はいかにミズキたちを安全に移動させるか問題になっている。
本人たちにも戦わせる。
師範システムで自分たちがミズキたちに合わせるなどなど。
対策、対処法を次々と出し合うが、ハッキリと決まらない。
高レベルプレイヤーであるハカセたちなら、無理してでも何とかなる。
ただ、ミズキとヒビキの二人をどうにかする点はやはり難しかった。

「他になんか手はないのかよ…」

出てくる意見はどれも、一長一短でこれだと決めるものがない。
みんなが思い悩む中、ミズキは脳内でメニューを見ているとあっと声をだす。
その様子にメンバー全員がミズキの方へと顔を向けた。
ミズキは全員の目線を確認し、自分が見つけたものを言葉にした。

「スキルはどうなの?」
「特技?」
「特技でなにかありましたか?」
「ウン?、アア戦闘系にメがイキガチだけど、<補助特技>をマダホトンド試してイナイ」
「あああああっ、忘れてた!」
「…召喚術師って探索で活躍するものありましたよね………僕たち」
「………馬鹿ばっか」

ミズキの言葉にハカセたちは自分たちのマヌケ具合に恥ずかしくなる。
それほどまでにミズキの言葉は意表を突くものだったからだ。

<補助特技>
モンスターなどの戦闘以外で使用する特技。
召喚魔法の方術召喚と同じ、その他の特技に分類されるものだ。
移動、作成、フィールド操作、探索、ネタと用途は幅広い。
ゲームの時にも色々役立つものもあった。
アイテムが収納されたボックスに罠が存在するかを探知する特技<トラップ・サーチ>
一度装備したら外すことが出来ないといった呪いのアイテムを解呪する魔法<アンチ・カーズ>
といった物が数が多く、サブ職業を筆頭にメイン職業の固有特技や同系統三職共通のものがある。

今まで、気付けなかったのは、ハカセたちは戦闘、召喚魔法にばかり夢中であったことと、ここまでそれだけで解決できたことが原因だった。

「レベル高くて、モンスター倒すのに困らなかったとはいえ…」
「お前はいいだろ。俺なんて、生産するときメニュー開いてんだぞ。気づけよ俺」

しかし、ハカセは自身のサブ職である<錬金術師>のことで頭が一杯だったと言い訳は出来なくもない。
誰が悪いとかではなく、この場合は今まで気づけなかった全員が悪い。
そのことに気づけたミズキにみんなは尊敬の眼差しを向けた。

「………ミズキすごい」
「ハハハ、気づいたの私だけじゃないよ、ねえヒビキ君」
「えへへへ、なにか出来ないかと思って」
「いや、盲点だったよ」
「ほんとにな、それじゃあ特技を見て再検討するぞ」


それぞれがメニュー画面を開き、使える特技を調べ、どこまで使えるかを検証を始めていった。
話し込み、試していくことで彼らは今日一日をダンジョンで過ごした。


一日が明け、検証を終えたハカセたちは落ち込んでいた。
正確には、高レベル組全員が頭を下げ、暗い影が差していた。


「めちゃくちゃ便利なのあるじゃあねえか…」
「……今までの道中って一体」
「………」
「周辺警戒、意味アッタのカナ」
「ええと、地形を調べるという意味では良かったじゃないですか。僕らもレベルアップ出来ましたから!」
「ヒビキ君、そっとしておこう」

落ち込むのも無理はない。
それはもう、今までの旅がどれだけ楽になったかと嘆きたくもなるだろう。
メニュー画面に乗っていた特技のそれにはこう表示されていた。


<生物魅了(モンスター・チャーム)>補助特技のひとつ。
召喚術師特有のモンスターに好かれる魅力を魔力で引き上げる特技。
効果は知能やレベル差で変わるが、この魔法が続く間は周辺にいる敵対するモンスターをノンアクティブ状態にする。
つまり、多少知能があるラットマンとはいえ、ハカセたちのレベルでこれを使用するとこちらから手を出さない限り、絶対攻撃してこない。
一応、この特技はボスモンスター・一部のモンスターには効かないが、あるとないではあった方がいいに決まっている。

なんという無駄骨としかいえない現状にほとほと自分たちに呆れるほかない。

「…兎に角、試してみてから、隊列組んで進むぞ」
「落ち込んでいても仕方ないか」
「………同意」
「フフフ」
(…良かった)
「がんばりますッ」

気を取り直し、見つけた特技が必ず上手くいくとは限らないことを念頭に置いておく。
隊列順を決め、偵察に行った朧とヒビキが調べたダンジョンの地図を確認し、ダンジョン脱出に取り組んだ。



***************************************************

隊列を組んだハカセたちは、ダンジョンの出口を求めて前へ、前へと進んでいた。

ガルルルルルゥゥゥ

「右だね、ありがとうごん太」
「すげえなグレイウルフ」
「まだ、一度も遭遇していませんよ」
「コレはスゴイ」
「………モフモフ」
「出会わないのはいいんですけど、僕は個人的にダンジョン地図を埋められないのが残念です」

一番前を歩くのは、ミズキのグレイウルフであるごん太が周辺にいるラットマンたちを探知していた。
補助特技である<モンスター・チャーム>を敵に出会って試す前に、ハカセたちはミズキの話で聞いていたグレイウルフの嗅覚や聴覚による探知能力で事前に遭遇しないためにそして、外へと出るための道案内を任せた。
ミズキを除いたメンバーは、道中の間にラットマンと遭遇しないことにごん太に素直な称賛を贈った。

ガウッ

ハカセたちがほめているのが分かるのか、ごん太はどうだと言わんばかりに嬉しそうに一鳴きする
そして、しばらくの間順調に進んでくと、二つに分かれた道の前に出るとごん太は立ち止まる。

ガアウ、ガアウッ

「えっ、両方にいるの、えっと、じゃあ外がどっちかわかる?」

ガウウッ

ミズキの言葉にごん太は右の方へと足を動かす。
出口があるほうがわかったのはいい。
だが、この先にはラットマンがいるとも言っている。
進んだ道は、直線に進んでいた。
すると、薄明りの見える出口の手前で、壁や天井に張り付くラットマンが密集していた。

キーッ、キーッ、キーキー、キキーッ!?
キュー、キュー、キュキュー!!

耳にうるさく響く警戒した鳴き声を鳴らすラットマンたち。
どれだけ、うるさい鳴き声を聞こうがハカセたちは動じない。

「出番だな」
「まあ、効果はあると思うけど」
「コのレベルでハネエ」
「………<生物魅了(モンスター・チャーム)>」

カレアが魔法を使用すると、カレアを中心に桃色の煙が周囲に漂う。
ラットマンたちはその煙に飲まれると、怯えるほど警戒していた鳴き声は鳴りを潜め壁や天井から降りて、ダンジョンの奥へと散っていた。
あっけなく、あっという間の出来事だった。
ハカセたちもここまで効果があることに唖然としつつ、明かりが見える道の先へと歩を進めた。


「オッケーッ、何はともあれ昼には出れたああああああ!」
「いやあ、あっという間に出口でしたね」
「カレアちゃん、海だよっ!」
「………綺麗」
「ウ~ン、潮のカオリがタマラナイネー」
「ダンジョンがジメジメしてましたから尚更爽快ですね」


青一色で雲一つない空が広がり、冷たくもかぐわしい風が吹き抜ける。
長い間、地下にいたことはそれだけで息苦しい。
だが、その道のりも眼下にある光景を思えば苦労したかいがあったというものだ。
太陽が照らす濃い緑の森林が生え、その先には空と見間違うばかりの美しい海があるのだから。

ゲームの頃では感じられないそれらは彼らの心にここが現実だということを想起させる。
だから、この場にいる全員が同じことを思ったのだ。

(ああ、やっぱ現実なんだなこの世界は…)

彼ら全員がこの異世界を現実のものだと再度、認識したのだ。


「そんじゃあ、行くかっ!」

目指すはススキノ。
グリフォンとペガサスを呼び出し、東の空へと飛びだつ。



今日の召喚獣


ブラウニー (労働妖精)

条件 クラス・召喚術師 レベル・20以上 クエスト<世話好き妖精の仕事探し>クリア


ブラウニーは、悪戯好きの多い妖精の中では珍しいほどまともな妖精種だ。
冒険者と契約する前のブラウニーは家の中に住みつき、家人がいない間に家の掃除や洗濯といった家事を済ませたり、家畜の世話するなど大地人の世話をすることで有名な話。
大地人は礼として、彼らの好物であるパンとミルク、ハチミツを部屋の片隅にさりげなく供えるのだ。
一部のブラウニーには、妖精らしく悪戯好きな面があり、整理整頓された美しい家は、家人のいない間に散らかすといった天邪鬼な面もある。
また、冬のスノウウェル(雪まつり)では、お世話をしている家の住人にばれないように贈り物を贈ることがある。
もしかしたら、サンタクロースの伝説の正体は彼らのことかもしれない。


生産系サブ職業の冒険者は大変お世話になる召喚獣はブラウニーだろう。
成功率上昇、作成スピードアップ、作成数増加などの効果をもつために、生産系プレイヤーに召喚術師が多いのは当然のことだ。
習熟段位が上がるとブラウニーの数が増える変化があるのだが、なぜかハカセのブラウニーは三体しかいない。
見た目は、可愛らしい子供の妖精なのだが、ハカセは趣味でスキンアイテムを使い、見た目が威厳ある老人の姿にしている。


 ボクたちが~好きなもの~いちにそうじ~ににせんたく~さんしはミルクとハチミツさ~
                                            ~世話好き妖精の嬉遊曲(ディベルティメント)~



[39542] 第7話
Name: カルカル◆94027d80 ID:072e97ca
Date: 2014/03/21 22:48
鳥の囀り、穏やかな空気が漂い、木々の上には白い雪が積り、それを溶かすように暗闇が広がる森の中で一人の少年が逃げるように走っている。

逃げなきゃ、逃げないと、来る、奴らがすぐそこまで…

木の枝で腕を切っても、地面の石に足を引っ掛けても少年は停まる事をしなかった。

必死に、必死に、必死に。

離れなければいけない。自分を追うであろう奴らから、

少年は自分の帰るべき村に向かって懸命に足を動かす。

グアアアアアアアアアアアアオオオオオッ!

「…あ、…ああッ」

だが、必死に逃げる少年の目の前を、黒い巨大な何かが遮った。

スノウグリズリー<雪森熊>

人に害成すモンスター。

勝てない、少年はそう思わずにはいられない。

たかが<大地人>である自分にはこの化け物が殺せない。

先程まで、生きようとする意思を宿していた少年の瞳には、もう諦めしか残っていなかった。

もう父も母も妹もいない自分に、生きる意味はあるのだろうか。

スノウグリズリーは白い毛で覆われた太い右腕を上げ、そのまま少年に巨大な爪で抉るように振り下ろした。

「――――やらせるかあ!」

瞬間、スノウグリズリーと少年の間に緑の影が入り込んだ。

緑の影は女性だった、スノウグリズリーの巨爪を木の蔓を巻き付けた杖で防いでいる。

「ブウーッ!やれええ!」

緑の影の高く澄んだその叫びと共に少年は甘いハチミツの香りを嗅いだ。

ガアアアアアアアアアアアアッ!!

グルオオッ!?

少年を襲ったスノウグリズリーに黄色い熊ハニーベアが野性を感じさせるように碧い瞳をぎらつかせ、喰いかかっていた。

「<ハートビート・ヒーリング(単体脈動回復呪文)>!」

スノウグリズリーから離れた女性は、淡い緑色の光を宿した杖を振い、ハニーベアに森呪遣いの脈動回復呪文をかけた。

ハニーベアは緑の光に包まれ、スノウグリズリーの抵抗で傷つけられた体が徐々に癒えていく。

ガアアアアアアアアアアアアォォォッ!

傷が癒えてゆくのを見て、癒しの魔法を唱えた女性を脅威と判断したのか。

スノウグリズリーは襲いかかってきた熊よりも女性の方へと跳びかかろうとする。

不意に、スノウグリズリーは立ち止まった。

甘い蜜の香り。

ハニーベアから放たれるその魅惑的な香りにスノウグリズリーは本能のまま、その香りを放つ方へと反転した。

野性の咆哮をあげる二匹は互いの爪と牙で鎬を削りあう。

「キバ、来いっ」

アオオオオオオオンッ!

女性は自身が持つ杖の先端で、円の軌跡を描き、発光。

光の中から獰猛な雄叫びをあげる巨大な狼が姿を現す。

従者を呼び出した女性は、杖を下段に構えスノウグリズリーへと突撃する。

ハニーベアと正面で戦うスノウグリズリーの両脇を、女性とグレイウルフが挟撃を叩き込む。

<フランカーファング>

従者に指示し挟撃を行う森呪遣いの特技だが、<大災害>以降から何故か聞える耳障りな奇声や従者の気持ちと通じ合うことが出来ている女性には口で指示する必要はない。

グレイウルフは、スノウグリズリーの足に鋭い牙を突き立てた。

ガアアアアアアアアアアアアッ!

足を噛まれたスノウグリズリーは絶叫をあげる。

「うるさい」

反対側の女性は、スノウグリズリーの叫びを耳障りと下段に構えた杖で素早い一撃を顎へと掬い上げるように叩き込む。

アアアアアグウッ!?

顎を下から打ち抜かれたスノウグリズリーは堪らず怯んでしまう。

その隙は、目の前にいるハニーベアには十分すぎるものだ。

ガアア、ガアアアッ!

ハニーベアはスノウグリズリーの顔へと重い一撃を叩き込む。

ガ、アアアァ…

数の前では圧倒的に不利なスノウグリズリーはなすすべもなく、一人と一体と一匹の連携に沈んだ。

スノウグリズリーの肉体を構成していたなにかは、シャボン玉のように肉体から離れ、暗闇に溶けるよう消えていった。

「キバ、周囲に敵は?」

それを見つめていた森呪遣いの女性は、グレイウルフに周辺の敵の有無を確認をとる。

…フルフル

グレイウルフは、その優れた五感から敵の心配はないことを主に伝えた。

「そう、ありがとう。…おい、もう大丈夫、っていない!?」

確認を終えた森呪遣いの女性は襲われた少年に声をかけようと振り向いたのだが、助けたはずの少年の姿はなかった。

少年がいないことに気づいた女性は、先程まで勇ましい姿はなく、大慌てになる。

「キバッ! あの子の匂いを追ってくれ、…ブウ、悪いもう一回手伝ってくれるか?」

お願いされたハニーベアは、鼻を鳴らし肯定の気持ちを女性に伝える。

クンクン、ガウッ!

「そうか、ありがとな! なんとかして<ブリガンティア>の奴らより早く見つけないと…」

少年を追うように指示されたグレイウルフは、鼻を鳴らし少年が逃げていった方へと、女性を夜の森の中へ先導していく。



第7話
「本気で相手してやるからかかって来いよ屑野郎どもッ!!」



「雪だ~」
「オオ、雪遊びがデキルネ」
「普通、雪が降るなら寒いもんなんだけどなー」
「………すずしい」
「冒険者の身体ってすごいですね」
「これなら、<オソの霊山>のような氷雪ゾーンや<灰燼島サクラジマ>の溶岩ゾーンも大丈夫かな」


<ライポート海峡>を越えたハカセたちは、現実世界の北海道に入ると降り積もる雪を見て子供のようにはしゃいでいた。

「ズッドーン!」
ハア、ハア~♪

ミズキはグレイウルフのごん太と一緒に真っ白に染まる地面に向かって突き進み、地面に転がりごん太と遊びだした。

「喰らえッ!」
「やりやがったなヒビキ!…って、HP減ってる!?」
「<従者召喚:ゴーレム>、博樹に雪玉をぶつけるんだ」
「いいだろう、ならば戦争だッ!<方術召喚:ブラウニー>爺さんたち雪玉を作れッ!?」
「フォッ、よいぞよいぞ、雪遊びとは童心に返るわ」

ハカセとヒビキは、雪玉を握ってはぶつけ合い、冒険者の膂力によって投げられた雪玉からダメージを受けることに驚いていた。
と言ってもダメージは微量であるので特に気にもとめず、召喚魔法を使用した雪合戦を始めてだした。

「………バケツ欲しい」
「石ト木ノ棒デ満足シヨウネ」
「…むう」

大きな雪玉を転がしているデラルテとカレアは、どうやら雪だるまを作っているようだ。
小柄な女性であるにもかかわらず、自分の身体の半分もある雪玉を転がす姿は違和感が凄まじかった。
あっという間に雪だるまの身体を作り上げ、すでに飾りつけに入っている。

「君たちねッ、フィールドゾーンで遊んでんじゃないよ!!………お腹痛い」

モンスターがいるフィールドゾーンで遊び出すメンバーたちを見て怒り出す朧は心労でお腹を痛めていた。
最終的に朧が囲むように骸骨兵士の大軍を召喚して、全員の頭を視覚的に冷やしてその場を収めたのだった。



無事にエッゾ帝国内に入った皆はクエストを受けるよりも先にススキノに立ち寄ることを決めていた。
五つあるホームタウンの一つ、ススキノがアキバと同じ現状であるかを確認するためだ。
ついでに、万が一に誰かが契約クエスト中に神殿送りになったときのための保険だ。
現在、ハカセたちは<エッゾ帝国>のフィールドゾーン<カムイの森>を歩いている。

<カムイの森>
巨人族とエッゾ帝国の争いが絶えないこの地で、この森は木々が生い茂げ、神秘と生命が力強く溢れている。
妖精種や魔獣種が生息し、森の奥深くには高位の霊獣・精霊までもが存在するフィールドゾーン。
エッゾ帝国内はモンスターのレベルは軒並み高く、<カムイの森>の表層部もレベルが50~60台と低くはない。
また、表層部と深層部の境目には<コロポックルの隠れ里>という町があり、補給地点があることとススキノに近いところから稼ぎ場所として有名所。

ミズキが呼び出した緑の光<バグズライト>が暗い夜の森を照らす。
<カムイの森>をハカセたちは隊列を組みながら、先頭にグレイウルフのごん太を周辺警戒に歩かせて森を進む。
ごん太の後ろには、壁役のハカセが続いて低レベルのミズキとヒビキを囲う様、陣形を組んでいた。


「博樹、グリフォンやペガサスで森を抜けなくて良かったの?」
「グリフォンはレイド報酬のレア物だしな、<カムイの森>を抜けたらススキノが目と鼻の先にあるから目立つ、見られるのは避けたい」
「ワタシのペガサスも高難度クエストでケイヤクする召喚獣だからね」
「小規模ギルドがレイド報酬アイテム持ってるなんて、変に嫉妬するヤツが出てくるからなあ」
「ハハハ、特にワタシタチを知らナイ、最近ノ冒険者ガオオイネ」
「色々、大変なんだ」

木々が立ち並び、地面に生える草に木から落ちた雪が所々に積もった獣道を歩く一行。
普通は安全を考えて遠回りでも整理された街道を歩くのだが、モンスターの平均レベルから<生物魅了(モンスター・チャーム)>の効果が届く高さのため、六人は近道として表層部を突っ切ることにした。

(ふう、確認のためとはいえ正直、良い予感がしない)

ハカセはススキノの様子を確認するのは賛成している。しかし、ススキノの中に入るのは気が乗らない。
アキバにいた時は、自分たちはそれなりに楽しんでいた。
だが、他の冒険者は別の話だ。
やることがなく街で沈んでいる者もいれば、自分たちのように楽しんでいる者もいるだろう。
それだけならまだいい、ひどいのはやることがないからプレイヤーキラー、しかも初心者を狙った悪質な冒険者がいることだ。
<大災害>の混乱も見ていて酷い有様、混乱が落ち着いてきても見るに堪えないことが多かった。
生活改善、なんて皆には言ったが本音の半分は違う。
日に日に居心地が悪くなるアキバに朧やカレア、そしてレベルの低いミズキやヒビキを離しておきたかったのが理由。

―――――ごめん、ゴメンね、ぎ、ギルド、ハカセ…わた、私のせいで…

(もう傷つかれるのはゴメンだ。見ていて気分が悪い…)

ギルドメンバーといつものようにただゲームを楽しむ。

彼女がいなくなって、ギルドマスターに再度就任した時から決めたこと。
ハカセは<大災害>からもそれは変えないようにしている。
不味い飯で、皆が不満になっているから、美味い物が食べられるようにしよう。
プレイヤー同士の諍いで居心地が悪い、ギルドホールのシェリアを見てアキバの外にある大地人の街で過ごそう。
そういう理由から、ハカセは遠征をしようと言い出した。

他のメンバーに気を使われていると思われたくないハカセはこのことを言わない。
というよりも、ハカセ本人も味のない食事は不満だし、居心地が悪いとこにいるのは嫌。
本来、ハカセは自分勝手な性分なのだ。

そのためハカセは、ススキノの様子次第では何か適当な事を言って中に入らずクエストを受けに向かうつもりでいる。

(契約終わったら、アキバに変化はないか確認しておくか…)
「博樹、眉間にしわ寄せて何考えてるの?」
「さっさとススキノでゴロゴロしたいなあって」

腹の内で算段つけるハカセにミズキは心配そうに話しかける。
ハカセは何でもないように話を誤魔化す。
唯一の身内であるミズキは心配の種であり、心配性の姉には心配を懸けさせたくはない。
変に鋭い所もあるために、ハカセは中々に気が抜けない。

「壁役が気を抜いててどうするんですか」
「任せたぞ補欠タンク」
「薄い壁のハカセよりは壁役に向いてます」
「馬鹿め、俺じゃなく召喚獣が壁をやるんだぜ…」
「戦闘でのいつものあなたの立ち回りを考えてからいいましょうか」
「………馬鹿?」
「ソノ頭ノ中二脳ミソ入ってるカイ?」
「博樹、気分が悪いなら休憩しよう?」
「お前ら優しそうな顔を見せつつ、あからさまにディスってじゃねえよ!」

ハカセのボケに総ツッコミで返される。
内心では、一人残したシェリアに悪く思うが、ハカセはメンバー全員がやはり外で冒険していることで気が紛れている事に安堵する。


「それにしても神秘的な森だよね。ほら、も○○け姫のあれみたいな」
「………お前にサ」
「カレアチャン、ストップストップッ!!」
「少なからず影響はあると思いますよ。僕の木霊(コダマ)もここのクエストで取得しましたし」
「日本サーバーは結構、そういうもの取り込んでるからな。まあ、その作品はむしろ<ティアストーン山地>付近を参考資料として使ってたみたいな話だけどな」
「アキバの街もそうですけど、意外と現実世界と似てるもんね」
「そっちはハーフガイアプロジェクトが理由だな、日本鯖は人気アニメのコラボイベントも多いから海外のプレイヤーもそれ目当てで遠征する猛者もいるからな」
「意外と、<ノウアスフィアの開墾>で海外サーバーから来た冒険者もいるかもしれませんね」

周辺警戒に気を抜いてはいないが、雑談をしながら歩く全員は和気藹々と森の中を歩く。
そして、グレイウルフのごん太が吠えた。

ガウッ、ガウッ

「ッ、全員戦闘準備!!」
「<生物魅了(モンスター・チャーム)>も準備してください」
「………任せて」
「サテ、雑魚ダトヨイノダケドネ」

ごん太の変化に高レベル組は先程までとは打って変わって機敏な動きでいつでも戦えるように構える。
ヒビキも緊張した面持ちで周囲をチラチラと見渡している。

「…待って、モンスターじゃないみたい」
「モンスターじゃない?」
「………じゃあ何?」
「他の冒険者でしょうか」
「PKハ、オコトワリダネ」

ごん太の気持ちが何故か分かるミズキの言葉に少しだけ警戒を緩める。

ハア、ハア、グル…

「あそこに誰かいるの?」
「<従者召喚:キリング・ドール>、おい、そこにいるやつ出てこい」
「切っちゃう?斬るの?キルか?エヘヘヘヘ」

ミズキはごん太の鳴き声と首の動きで、森の茂みの方に誰かがいるのを教えてくれた。
ハカセはその言葉にすぐさま従者を召喚、鋭い目つきとドスをきかせて茂みの方へ声をかける。

「………チビ、見てきてくれ」
「斬っていい?」
「攻撃してきたらな」
「ひゃは」

だが、声をかけても出てこない。
ハカセは警戒しながら、従者のチビに指示を出す。
主の言葉に嬉々としてキリング・ドール茂みの方にその小さい体で突っ込んだ。

「………チビ?」
「兄ちゃん、この子大地人だよ。…ケガしてる」
「なっ!?」

キリング・ドールはその小さいからだで、自分よりも大きい大地人の子供を引っ張り出していた。
普段の狂気的な雰囲気はおさめて、年相応な子供の声で心配そうにしている。
大地人の少年は、全身に擦り傷を負い、憔悴しきっている。

「回復しないとッ、ごん太、ゴメン<従者召喚:アルラウネ>」
「………デラルテ」
「ワタシも必要ダネ、<従者召喚:二角獣(バイコーン)>」
「仕方ない。ヒビキ君、周辺警戒をしましょう」
「はいッ」

少年の無残な姿に、ミズキは周辺警戒で呼んでいたごん太を送還し、回復補助のために植物精霊アルラウネを再召喚した。
デラルテもそれに続くように、黒い体毛と頭部に二本の巨大な角を生やしたバイコーンを喚ぶ。
グレイウルフがいなくなったことで、朧はヒビキと共に周辺警戒に徹した。

「<ハートビートヒーリング>ッ!」
「<疲労>に、<出血>なにこれ<飢餓>って、他にも状態異常がこんなに…フィアッ」

ヒヒーンッ!

「回復にブーストするよ…」

憔悴しきった少年の呼吸は既に虫の息だった。
しかし、ミズキの脈動回復呪文による緑の光に包まれると、徐々に力強い呼吸に戻る。
だが少年を苦しめていたのはHPの残量だけではない見たこともない状態異常(バットステータス)の数々だ。
それを見て、デラルテは演技を忘れて従者のバイコーンに回復特技の指示を出す。
少年の身体から、毒々しい極彩色の何かが溢れ出て、それらがバイコーンの方へと吸い寄せられる。
ついでに、デラルテは幻獣の召喚獣を使役中に使える特技<ファンタズマルヒール>を発動させた。

緩やかに回復していく少年の姿を見つめながら、ハカセは疑問を考えていた。
ハカセがじっくり見つめていると大地人の少年の上に表示が現れる。

(何でこんな所に大地人の子供がいるんだよ…)

アシス レベル 3 クラス 大地人

ありえない。
ハカセはその表示を見てさらに困惑した。
カムイの森の平均レベルは表層部でも50~60台。
レベルが一桁しかない大地人の子供が生きていられるはずがないのだ。

(複数で旅をしていた?いや、服装からして旅をする格好じゃないし、この子以外にもいるなら近くに他の大地人が…)

この格好はまさか、ここから近いススキノの大地人なのか。
それにしたって、ボロボロとはいえモンスターから生き延びれたのは?
現状から湧いてくる疑問の数々にその場で考え出すハカセ。
そのため、彼は自分に襲いかかろうとする黒い影に気づけなかった。

「ハカセ横だッ!!」

「<絶命の一閃(アサシネイト)>ッ! 死になアアアァッ」

「――――マズッ」

突如としてハカセの真横から必殺の一閃が迫る。
法義族のハカセは一撃を喰らっただけでも相当なダメージになる。
しかし、周囲に気を配らずに立ち尽くしているハカセは隙だらけだ。
そのまま何者かの一撃をハカセはまともに受けるかに見えた。

「お兄さん、危なイッ!!」
ズドンッ
「ゴフッ!?」

自身の従者キリング・ドールの手によって、ハカセは凄まじい衝撃を腹部に受けた。

「オ兄ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だけど、大丈夫じゃじゃないッ、頭打ったし舌噛んだッ!!」

従者の攻撃はダメージにはならないようだが、倒れた際に地面で頭を打ったようだ。
おかげで、直撃を受けることを免れたハカセは自分を襲った何者かを見る。

(冒険者ッ!!)
「隙だらけだぜえええええッ」
「ってやべええええ!」

襲ってきたのは、同じ冒険者の暗殺者(アサシン)。
アサシンは倒れているハカセとキリングドールの隙を見逃さず、容赦なく追撃をかける。

「<デスサイズ>!」

その間に、骸骨兵士(スケルトン)がハカセとキリング・ドールを守らんと立ちはだかった。

「ッち」
「やらせませんよ」

全員にフォローが出来るようにすでに骸骨兵士をバラバラに召喚していた朧はハカセに攻撃するアサシンの壁となる。
仕留めることが出来なかったアサシンは、ハカセたちから距離を離すように後ろへとさがった。
骸骨兵士三体がアサシンの動きを遮るように立ちはだかった。

「今度からお前が壁役でいってみるか?」
「助けられた癖に口がよく回りますね」
「うるせえ、チビありがとな」
「エヘヘヘ」
「来ますよ二人とも」

ハカセは従者に礼を言い、朧の言葉に同意するように自分の武器である短剣を抜き出す。
そして、二人と一体は眼前のアサシンを前に構えた。

「<従者召喚:イグニス(爆炎精霊)>、…上空で待機して」

離れて様子を見ていたカレアは、周囲が分かるように炎の精霊を召喚して暗い夜の森を照らし出す。
暗い森の中へと溶け込んでいた黒装束の暗殺者の姿がハッキリと見えだした。

「いきなり襲いかかるとは随分と品がないことで、…しかも暗殺者の真似事ですか、冗談は職業だけにしてほしいですね」
「つべこべ言わず、アイテムと…女たちを置いてきな。 そうしたらてめえらは特別に見逃してやってもいいぞ…」
「うわあ、ここまでクズい上に、三下な台詞は初めてだな…」
(やばいな、囲まれてやがる…)
(ええやばいです。僕のスケルトンは数は多いけど、単体では非力すぎます)
(クソっ、まずいのは姉ちゃんとヒビキ、そしてあの大地人の子供だ。)

イグニスの炎の身体で明るくなった周囲の森には、目の前の暗殺者以外にも幾つかの人影が周囲に見える。
サモンのメンバー全員がこの状況にヒヤリとする。

「この子に何をしたのッ!!」

ただ一人ミズキを除いて。
普段の緩い雰囲気はどこにもないミズキは、怒気をにじませた声をPKたちに放つ。
PKの男たちは、ミズキの言葉に一瞬怯むもすぐに嫌らしい笑みを浮かべる。

「お前と同じ森呪遣い(ドルイド)の糞狼で居場所がばれるからな。…お人好しで馬鹿なヤツを誘き出すのに餌がいるだろう? 丁度よく、すぐそこで手ごろなのが手に入ったのさ」
「あなたたちッ」
「おいおい、あの女たちもそうだったが…たかがNPCになにムキになってんだ」

男たちは知らない。
もうこの世界は自分たちの知っているゲームない異世界にいることを。
自分たちが知らないですまされない、取り返しのつかないことをしていることに。
彼らは知らない。

「…デラルテ、そいつらを絶対近づけさせるな。朧、お前も前衛で壁やれ」
「言われずとも、カレアさん後衛をお願いしますね」
「………全力でやる」
「指一本触れさせないから安心して…」
「デラルテちゃん、もしもの時は…」
「僕が守りますっ!」

自分たちが彼らをどれ程怒らせてしまったのかを。
男たちのその非情な行いにこの場にいた全員が胸の奥に滾らせたものがある。
それは決して無視できるものではなかった。

ハカセが今まで仲間たちと自分の気持ちから、面倒事を避けていたことも。

朧がこの世界に来てからあるどうしよもない不安の感情も。

この世界が本物の現実だと思っているカレアの願いも。

浮かれた気持ちを鎮め、友達との約束を守ろうとするデラルテも。

ただ、ただ弟の身を案じるミズキの献身も。

ヒビキの幼い心に襲いかかる理不尽に対する恐怖も。

それらの思いも焼き尽くすほどの、男たちがやった外道な行いに対する怒りという感情のまま、彼らの身体を戦いへと動かす。


「本気で相手してやるからかかって来いよ屑野郎どもッ!!」

「ひ弱な召喚術師(サモナー)如きが吠えてんじゃねえよ! てめえら、やっちまえっ!!」


<カムイの森>にて、<サモンッ!?>とPK冒険者たちの戦いの火蓋が切って落とされた。




今日の召喚獣


バイコーン(二角獣)

条件 クラス・召喚術師 レベル・40以上 クエスト<救いなき二本獣>クリア


スキル一覧

<騎乗可能>特性
バイコーンと友情を育んだ者だけが、背中を許される。 <ファンタズマルライド>使用可能

<カオス・ラン>特殊移動・属性物理特技 条件・<ファンタズマルライド>使用中
穢れを全身に覆い、戦場を駆け抜ける。 闇属性物理攻撃  直線高速移動

<穢れよ集え>常時発動特技
他者の穢れをバイコーンはその身で受けとめる。 <状態異常>を引き受ける。引き受けた状態異常は<狂化>に変化する。

<穢れた雷>範囲雷・闇属性魔法 <ファンタズマルライド>中使用可能
聖なる雷はもはや見る影もない。 <麻痺>付加


バイコーンは一角獣(ユニコーン)の派生召喚獣の一つ。
<純粋>を司るユニコーンとは真逆の<不純>を司る聖獣。
<不純>と聞くと悪く聞こえてしまうかもしれないが、バイコーンは魔獣の類では決してない。
ユニコーンは穢れを跳ね除ける聖獣とされており、そのユニコーンが穢れを自分が受けたことによりバイコーンへと変化したのだ。
その為、穢れを跳ね除けるのではなく他者の穢れを引き受ける性質へと変化し、白い体毛は黒く染まってしまい、頭に生えた一本角はもう一本角が生え二本角となったのが今の姿だ。
また穢れを引き受けたことにより、その気性はユニコーンだったころよりも攻撃的なものになっている。
そのため、穢れを引き受けすぎたバイコーンは暴走するか、衰弱してしまい一目のつかない森の奥深くでその魂を天へと還すと言われている。

※ユニコーンは本来<純潔>、<貞節>を司ると言われているがエルダーテイル内のユニコーンは<純粋>を司るとされている。


バイコーンは状態異常を防ぎながら、前衛で戦えるユニコーンの派生召喚獣。
しかし、<狂化>の状態異常で攻撃力が増加する代わりに防御力の低下するために打たれ弱いという欠点がある。
バイコーンを使役する際、<ファンタズマルライド>で騎乗状態で戦うのが最も適している。
<大災害>以降は、<カオス・ラン>の穢れによって騎乗している冒険者が体調不良を起こすことが続出したため、契約を結ぶ召喚術師が激減した。(デラルテも体調を崩したが、特技を使わなければいいので契約をそのままにしている)
またユニコーンがバイコーンへ変化する現象を研究する者も多い。
一部のバイコーンには特殊な力に目覚めた個体も存在していて、海外サーバーには典災ばかりを喰らうバイコーンの存在が確認されている。



 いずれこの身が狂うその時まで、貴様らを喰らい続けよう
                       ~典災(ジーニアス)喰らい~


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