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[39576] ガンダムビルドファイターズ White&Black【完結】
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2015/04/01 22:51
この作品はオリ主物です。


中には独自設定や独自解釈を含みます。

また、作品の都合上登場作品の偏りや扱いに差が出て来るかも知れないのでその辺りはご了承ください。

その上で感想や誤字脱字の指摘などをお願いします。



[39576] Battle01 「白いガンプラの少年」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/05 18:40
 ガンプラバトル……それはアニメ「機動戦士ガンダム」から始まったガンダムシリーズに登場する機動兵器「モビルスーツ」や「モビルアーマー」のプラモデル、通称「ガンプラ」を戦わせる遊びだ。
 今から約8年程前に発見されたプラフスキー粒子と呼ばれる特殊粒子がガンプラに使われているプラスチックに反応し、それを流体的に操作する事でガンプラを実際に動かす事が出来るようになり爆発的に広まった。
 今では毎年世界大会も開催される程だ。
 今回の世界大会は5回目となる。
 第五回大会も盛況に終わり開催国である日本もガンプラバトルを行うファイター達の世界大会の熱が未だに収まる事は無かった。



 東京のとあるゲームセンターの一画にはガンプラバトル用のバトルシステムがいくつも置かれている。
 このゲームセンターは都内でもガンプラバトルに力を注いでおり日々ファイター達が己の腕を磨いていた。

「良い腕だが少しもの足りたいな」

 バトルコーナーの片隅でユウキ・タツヤは他のファイターのバトルを見学していた。
 ファイターの腕は良いがタツヤが求めるファイターではない。
 高校進学と同時に日本に帰国して数か月。
 帰国後のドタバタでこのエリアの世界大会地区予選にエントリーする事は叶わなかったが、世界大会の中継を見てタツヤの中のファイターとしての血が騒いでいた。
 そんな折、世界大会終了を記念してプラフスキー粒子関連の技術を独占しているPPSE社がガンプラタッグバトル大会を開催すると言う告知がなされた。
 その大会は二人一組で行われる大会で大会のバトルには少し前までは世界大会で使われていたバトルシステムが使われると言う事でタツヤはすぐにエントリーをしようとした。
 しかし、そこで問題が発生した。
 大会に出場する為には相方が必要だったのだ。
 間が悪い事にタツヤは日本に帰国したばかりでタツヤの通う聖鳳学園に友人がいない訳ではないが、学園では模型部に入部するもその名の通り模型を制作する事が主な活動内容でガンプラバトルが全くと言って良い程流行ってはいなかった。
 制作する模型の中にはガンプラも含まれているがやはりアニメに出て来るロボットと言う印象で余り大々的にガンプラを作る事が出来ず当然、ガンプラバトルを行う事もない。
 それ故に友人関係で共に大会に出場してくれる当ては無い為、こうして連日都内のゲームセンターなどを回り相方となり得るファイターを探していた。
 ファイターは星の数程いてもタツヤが組みたいと思えるファイターと出会う事が出来ずに時間ばかりが過ぎて大会は来週に迫り、エントリーは明日で締め切られる。
 時間は無いが、だからと言って誰とでも良いと言う訳にもいかず、そこは決して妥協は出来なかった。

「あの人だかりは一体?」

 バトルを見終えると別のバトルシステムの周りに人だかりができていた。
 それに興味を持ったタツヤは人だかりの方に向かう。
 
「おいおい。あの外人何考えてんだ。いきなりイヌイの奴とバトルしようなんてよ」
「何でもこの店で一番強い奴を出せって言って来たらしいぜ」

 周囲のギャラリーの声を聴く限りイヌイと呼ばれたファイターはこの店で一番強いファイターらしい。
 相手が外人はタツヤと同い年くらいの少年だ。
 白い髪に灰色の目を持ち確かに日本人には見えない。
 そして、白い皮手袋にまだ夏の終わりだと言うのに白いマフラーをしている事が特徴的だった。

「アンタがここで一番かよ。この程度か……期待外れも良いところだ」
「言ってくれるな。くそガキが……」

 白い髪の少年はバトルも前なのにイヌイに対してそう告げる。
 その挑発的な態度にイヌイも怒りを隠す事はしない。
 周囲もその態度にイヌイの実力を知らないで良く言えるななどとせせら笑う。
 だが、タツヤには少年から目が離せないでいた。
 理由は分からない。
 ただ、ファイターとしての感がそう告げていた。
 少年はただ者ではないと。
 
「分かるんだよね。俺、バトルが強い奴と弱い奴が臭いで。まぁ良いか。サクッと終わらせるか。あんまり無駄な時間を使ってる場合でもないし」
「言ってろ! 叩き潰してやる!」

 二人はバトルシステムにガンプラのデータが入力されている小型端末「GPベース」をセットしてガンプラを置いた。
 するとやはり周囲は少年に対して苦笑しこのバトルがイヌイの勝利で終わると確信されている。

「パーフェクトストライクね」
「そんなしょぼいガンプラで良くも大口を叩けたものだな」

 相手のガンプラを見て二人はそう言う。
 イヌイのガンプラはパーフェクトストライク。
 機動戦士ガンダムSEEDのHDリマスターに登場するモビルスーツだ。
 元々、ガンダムSEEDの主人公機のストライクガンダムはストライカーパックと呼ばれる装備を換装するタイプのガンダムで外伝などでも多数のストライカーが登場している。
 アニメ本編においては中距離での高機動型のエールストライカー、近距離の格闘戦用のソードストライカー、遠距離ので砲戦用のランチャーストライカーの3つのストライカーパックが登場し、パーフェクトストライクはその3つのストライカーを全て使ったいわゆる全部載せの形態だ。
 一方の少年のガンプラはパーフェクトストライクとは対照的に全身が白く塗装され手持ちの火器などの武装は一切、見受けられない。
 
「AGE-1ベースの改造機……運動性能と機動力を重視した高機動型のガンプラか……」

 周囲が少年のガンプラを見て笑う中、タツヤは冷静に少年の白いガンプラの事を分析する。
 全身を白く塗装されているが胸部には「A」のマークが入っている事やバックパックにはレーシングカーを思わせるウイングが付いている事からベースとなっているのはガンダムAGE-1だと判断した。
 ガンダムAGE-1は機動戦士ガンダムAGEの主人公機だ。
 戦闘データから自身を強化するプランを提示するAGEシステムを搭載し、四肢を換装する事が出来る。
 装備を換装すると言う点ではイヌイのパーフェクトストライクと同じコンセプトだが、少年のガンプラとイヌイのガンプラでは印象がまるで違う。
 手持ちの装備を持たないAGE-1のガンプラだが、腕部や脚部に追加装甲が見られるが機体の至るところにスラスターが増設されている為、タツヤは機動力を重視し、装備を持た無いのは運動性能を重視しているからだと考えた。

「言ってろ」

 少年はイヌイや周りの反応に反応する事はない。
 まるで周囲の反応には興味が無いかのようだ。

「ちっ……パーフェクトストライク! 出るぞ!」
「ガンダム∀GE-1(ターンエイジ)。出る」

 バトルシステムが起動し少年のガンプラ、ガンダム∀GE-1とイヌイのパーフェクトストライクのバトルが開始された。
 バトルフィールドはオーソドックスな宇宙だ。
 障害となるデブリや小惑星の類もなく、フィールドのギミックもない事が特徴である為、フィールドを活かした戦いをする事は出来ない。

「どうでる? 射程の差は大きい」

 少年の∀GE-1は火器を持っていないがパーフェクトストライクにはランチャーストライカーの火力がある。
 幾ら機動力を重視しても障害物の無いこのフィールドではファイターの腕が問われている。
 パーフェクトストライクは320mm超高インパルス砲「アグニ」を構えた。

「こいつが耐えきれるか!」

 パーフェクトストライクはアグニを放つ。
 ∀GE-1は軽く動いただけで回避した。
 しかし、パーフェクトストライクの攻撃はそれに留まらない。
 アグニは連射が効かないが、可能な限りの速さでアグニを連発する。
 ∀GE-1はヒラリとパーフェクトストライクの攻撃をかわしている。

(あの動き……攻撃を読んでいる? 違う……ストライクの動きと同時に反応している!)

 一見、パーフェクトストライクの攻撃を∀GE-1が回避しているだけのように見えるがタツヤはある事に気が付いた。
 ∀GE-1の動きはパーフェクトストライクがアグニで狙いを定めた瞬間に回避行動に入っている。 
 恐らくは狙いを定める為に動いた瞬間に相手の動きを予測し最前の行動を判断してガンプラを動かしているのだろう。
 相手の動きに瞬時に反応すると言うのは世界レベルのファイターでなくとも可能だが、それに加えて相手の動きを見切り行動の選択を行いガンプラを操作するとなれば話しは別だ。
 その時間は1秒にも満たない。

(彼は一体……完璧な超兵だとでも……)
「ちょこまかと! 防戦一方の癖に!」
「やっぱこの程度かよ」

 攻撃の当たらないイヌイは苛立ちを隠さず一方の少年はまだ余裕と言った表情だ。
 
「そろそろ。終わらせる」

 少年がそう言うとタツヤは少年の周りの空気が変わったと感じた。
 そして、∀GE-1はパーフェクトストライクの方に向かい始める。
 パーフェクトストライクはアグニで迎撃するが、∀GE-1はビームをギリギリのところで回避しながら前進している。

(思い切りが良過ぎる! あれでは少し操縦をミスすれば終わりだ!)

 ∀GE-1の動きはビームが当たるか当たらないかギリギリのところで回避している。
 一歩間違えば直撃を受ける程だが、少年は気にした様子は見られない。
 寧ろ、絶対に当たらないと言う自信すら垣間見える。

「くそ! 何で当たらないんだよ!」
「そのガンプラを選んだのはお前のミスなんだよ」

 ∀GE-1はパーフェクトストライクを中心に大きく円を描くように回り込もうとしている。
 時折肩のスラスターを使って方向を急転換してパーフェクトストライクを揺さぶる。

「パーフェクトストライクは本編に登場した3つのストライカーを全て積んで一見強そうに見える。だが、実際のところは重量が増した事で機動力を低下させてエールの特性を殺るなど非常に扱いが難しい。扱いこなすにはそれ相応の実力が必要となって来る」

 少年の言う通りパーフェクトストライクのマルチプルアサルトストライカーの評価は本編中でも扱い難いとされている。
 今でも左右に大きく振られて砲身の長いアグニでは狙いが殆ど定まらずにバックパックについているソードストライカーの対艦刀「シュベルトゲベール」は砲撃戦においてはデットウェイトにしかならずに機体を安定させられない原因の一端ともなっている。

「自分で扱いこなせないガンプラを選んだ時点でお前は負けてんだよ」

 完全に狙いを付けることが出来なくなったパーフェクトストライクに腰に装備されているビームサーベルを両手に持った∀GE-1は接近してアグニを切り裂く。

「舐めるな!」
「お前がな!」

 パーフェクトストライクがシュベルトゲベールを抜こうと掴むがそれを抜く前にアグニを切り裂いたのとは違う手のビームサーベルを腕に突き刺した。
 そして、すぐさまビームサーベルを抜いてもう片方のビームサーベルを振るいパーフェクトストライクを胴体から切断した。
 プラフスキー粒子による爆発のエフェクトと共にバトルが終了したと言う事を示すアラートがなる。

「こんなものかよ」

 バトル開始当初は勝つと思われていたイヌイがバトルが終わると手も足も出せずに大敗した事で周囲のギャラリーがざわついている。
 そんな様子を気にも留めずに少年はガンプラを回収して去って行く。

「まさか……エントリーの締切を明日にして彼のようなファイターに出会えるなんてね……これは運命だ」

 タツヤはそう確信していた。
 大会のエントリーは明日が締切で偶然あれほどのファイターと出会う確率は極めて低い。
 もしも、これが出会うべくしての出会いで言うのであれば運命としか言いようは無い。
 そう確信したタツヤはすぐに少年の後を追った。
 下手をすれば見失うかも知れなかったが、タツヤはすぐに少年を見つけることが出来た。
 少年はすぐに帰る事はせずにゲームセンター内の自販機で紙パックの牛乳を買っていた最中だった。

「君!」
「何?」

 少年は物凄く面倒そうに返事をしながらパックにストローを指して咥える。

「君を凄腕のファイターと見込んだ。僕と組んで大会に出ないか?」

 それが後に世界最強の座を巡り戦う事となる二人のファイターの出会いだった。
 



[39576] Battle02 「ファーストバトル」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/07 21:37

 PPSE社主催のタッグバトルが来週に迫りユウキ・タツヤは一人の少年と出会った。
 白いガンプラを操り圧倒的な操縦センスを持つ少年だ。
 その少年にタツヤはタッグを申し込んだ。
 突然の申し出に少年も目を細めている。

「お前、強いの?」

 少年はタツヤにそう返す。
 一瞬、呆気に取られるもタツヤは挑戦的な笑みを浮かべる。

「それは僕の実力をバトルで見たいと言う解釈でいいのかな?」

 少年の言葉をタツヤは自分と組みたければバトルで実力を示せと解釈した。
 実際のところ言葉通りに強いか弱いかを聞いていただけだが、少年も敢えて訂正はしない。
 なぜなら、その必要がないからだ。
 
「まぁ……そう言う事で良いよ。別に」

 話しがまとまり二人は再びガンプラバトルのファイトスペースに戻る。
 ファイトスペースが大して込んでいなかった事もあってタツヤと少年はすんなりとバトルシステムを確保する事が出来た。

「ちょい待ち」

 バトルを始めようとした矢先に少年は持っていたカバンをごそごそと探る。

「待たせた」

 少年はそう言ってGPベースをバトルシステムにセットしてガンプラをバトルシステムに置いた。

「武装を追加したのか」
「まぁね。流石にお前は装備なしじゃきつそうだからな」

 少年はタツヤの実力がさっき戦ったイヌイよりも高いと見抜いた上で装備を追加した。
 バックパックには大型のスラスターユニットが追加され、右手には大型のビームランチャーを持たせている。
 そして、タツヤもGPベースをセットしてガンプラを置いた。

「ザク……それも高機動型ね。色はアレだが高機動型と言う辺り趣味は合いそうじゃん」
「やはり、僕と君は運命で結ばれているようだね」
「戦う運命だけどな」

 タツヤのガンプラはザクⅡの高機動型をベースに改造した高機動型ザクⅡ改だ。
 ガンダムには本編に登場せずに設定のみで、後に模型誌などに登場するモビルスーツがいくつも存在している。
 それがモビルスーツバリエーション、通称MSVである。
 タツヤのガンプラ、高機動型ザクⅡもMSVに分類されるモビルスーツだ。
 シャア・アズナブルを思わせる赤い塗装に肩には5連装のロケットランチャー、リアアーマーにザクマシンガン、サイドアーマーにはザクマシンガンの弾倉とヒートホークが一つづつ、手持ちにはザクバズーカ、脚部には三連装ミサイルポッドと重装備のガンプラである。

「高機動型ザクⅡ改、ユウキ・タツヤ。出る!」
「ガンダム∀GE-1。出る」

 バトルシステムの準備が整い二人のバトルが開始された。
 バトルフィールドは市街地。
 ガンプラよりも大きなビルが立ち並ぶで視界が遮られる事が多く相手のガンプラの位置を把握しなければ圧倒的に不利となるフィールドだ。

「さて……彼のガンプラはどこに……」

 バトルが始まりタツヤは相手の出方をうかがう。
 前のバトルで少年のずば抜けた反射速度と操縦技術は見ている。
 すると、向かいのビルを∀GE-1がスラスターを使って超えるとビームランチャーを構えていた。

「さっきのバトルで溜まった鬱憤を晴らさせて貰う!」

 ∀GE-1はビームランチャーを放つ。
 高機動型ザクⅡ改はその重装甲からは想像できない機動力で回避する。
 そして、空中の∀GE-1に向かってザクバズーカを放つ。
 ∀GE-1は肩のスラスターを使って強引に空中で方向転換を行うと別のスラスターで後ろに下がりビルの後ろに降りる。

「ビルの陰に隠れた? 以外に慎重な攻めをする」

 タツヤは前のバトルで被弾を恐れない攻撃的なバトルとは違った戦い方に違和感を覚えていた。
 彼のバトルは一回しか見ていない為、どちらの戦い方が本来の戦い方なのかは判断できない。
 ∀GE-1がビルの左右もしくは上のどの方向から出て来ても良いように警戒するが、どれからも∀GE-1が出て来る事もなく∀GE-1はビルをぶち抜いてビームランチャーを撃って来た。

「さっきの攻撃はこれが狙いと言う訳か!」

 先ほどのビルを飛び越えての攻撃は上からタツヤのガンプラの位置を把握する為の布石であると言う事に気が付いた。
 位置さえ分かればビームランチャーでビル越しに攻撃が可能だからだ。
 その上、ビームの威力が先ほどの攻撃よりも威力が上がっている。

「あのビームランチャーは威力が可変式……だけど、隠れて狙って来ると言う事は足を止めなければ高出力モードでは使えないと言う事!」

 わざわざ隠れていると言う事は相手に狙われるリスクを回避する為だ。
 そこからビルをぶち抜いて攻撃出来るビームランチャーの高出力モードは空中や移動中では踏ん張りが利かずに使えないと言う事を意味している。
 ならば、対処は容易い。
 ∀GE-1がいると思われるビルの陰に肩のロケットランチャーを撃ち込む。
 高機動型ザクⅡは実弾系の装備しか持たない為、ビル越しの攻撃が出来ないがロケットランチャーならば放物線を描くように攻撃も可能で、直接狙う事が出来た。

「さあ……どう出る? 右か左か……」

 ロケットランチャーで上に逃げると言う事は出来ない。
 そうなれば左右のどちからか後方に引くしかない。
 しかし、彼の性格は非常に交戦的で敵を前に後退するとは考え難い。
 ロケットランチャーが着弾し爆発が起こる。
 そして、∀は飛び出して来た。

「正面!」

 だが、タツヤの予想していた左右ではなく自分の攻撃でぶち抜いたビルに突っ込んで高機動型ザクⅡの正面からだ。
 バックパックに増設したスタスターユニットのお陰で更に機動力が増した∀GE-1はビームランチャーを構えながら突撃して来る。
 タツヤは迎え撃つ為にザクバスーカを放つ。
 前のバトルで見た反応速度を持ってすれば、回避する事は容易い。
 寧ろ、回避させてその先を狙うつもりでいた。
 しかし、∀GE-1はザクバズーカの弾丸を左腕の装甲に直撃させた。
 ザクバズーカの直撃を受けた左腕の装甲は全くの無傷であった。

「防いだ! フェイズシフト装甲! 否、硬いだけか!」
「バトルはやっぱ白兵でないとな!」

 ビームランチャーの銃身の左右にはドッズガンが付いており、ドッズガンを連射して突っ込んで来る。
 
「無茶苦茶だ!」

 高機動型ザクⅡはザクバズーカで応戦するがすぐに残弾が尽きて∀GE-1に向けて投げつける。
 それに対して∀GE-1もビームランチャーを投げて空中で2機の投げた火器はぶつかり地面に落ちた。
 ∀GE-1は腰のビームサーベルを両手に持ち高機動型ザクⅡ改に切りかかる。
 一撃目はヒートホークで受け止めるが、二撃目の横一閃を後方に飛び退いて回避する。
 リアアーマーのザクマシンガンを左手に持ちながら脚部のミサイルを放って弾幕を張る。
 ミサイルが地面に着弾した時の爆発で砂塵が舞い上がりその隙に高機動型ザクⅡはビルの陰に入り込む。

「全く……強いのは分かっていたけどこれ程とはね」

 ∀GE-1は追って来る気配はない。
 戦局が優勢だろうと勝負を焦っていないと言う証拠だ。
 それはただ単に突撃思考が強いだけのファイターではないと言う事を示している。

「強引な攻めの中に繊細な操縦……ますますタッグを組みたくなって来たよ。彼を口説き落とす為に、まずは僕の実力を彼に認めさせるところから始めないとね」

 タツヤは追い詰めながらも状況を楽しんでいた。
 そして、彼をタッグを組んで大会に出たいもだ。
 その為にはこのバトルで勝つ必要がある。

「このまま隠れて隙を付くと言う策もある……否! それでは意味は無い!」

 追い詰められた状態だろうと彼が操縦ミスをする可能性はゼロに等しい。
 それ以上にこのバトルはタツヤが自分の実力を認めさせる為のバトルだ。
 ならば、逃げの一手はあり得ない。
 タツヤは一息つくと髪を掻き上げる。
 そして、残弾の無いロケットランチャーをミサイルポッドをパージしてザクマシンガンも残弾は残っているがマガジンを新しく装填して残りのマガジンを捨てた。

「君に僕と言う存在を刻み付けよう! ユウキ・タツヤと言う存在を!」

 気合と共にビルの陰から飛び出して、ザクマシンガンを連射して突撃する。
 タツヤが隠れている間に∀GE-1はビームランチャーを回収していた。

「速い……装備を捨てたからか」

 高機動型ザクⅡ改は少し前よりも速度が上がっていた。
 タツヤが残弾の尽きた装備を捨てて機体の重量が軽くなったからだ。
 ビームランチャーを放つが高機動型ザクⅡ改はヒートトマホークを投擲した。
 それと構えた状態のビームランチャーで弾いて、すぐに高機動型ザクⅡ改に狙いを定めようとする。
 しかし、高機動型ザクⅡ改は大きく飛び上がった。

「上か!」
「後ろを取らせて貰う!」

 ∀GE-1をアーチを描きながら飛び越えて背後に着地する。
 少年の人間離れした反射速度はそれに完全に反応しており、片足を軸にして前方にいた高機動型ザクⅡ改に狙いを付けようとしていたビームランチャーの方向を強引に変える。
 そして、それによって高機動型ザクⅡ改を殴り飛ばそうとする。

「君ならそうすると思っていた!」

 今までのバトルから少年の戦い方は自分で叫んだように近接戦闘を中心とする攻撃的なバトルスタイルだ。
 その為、この距離なら幾ら彼の反応速度が速かろうと、コマンド入力からビームランチャーは高出力である為、高出力モードでなくとも多少のタイムラグがあると言う事は今までの戦いで分かっている。
 ドッズガンを使っても至近距離とはいえ、数秒は耐えることが出来る。
 それだけの時間があればタツヤの高機動型ザクⅡ改の機動力なら∀GE-1の懐に飛び込む事は可能だ。
 当然、その事は相手も分かっている。
 そして、振り向いて腰のビームサーベルを抜いて対処のも時間がかかってしまう為、打撃攻撃を行うと読んでいた。
 高機動型ザクⅡ改はビームランチャーの銃身が頭部を掠るギリギリの所に後退してビームランチャーを回避する。
 しかし、少年も回避行動を取った瞬間に回避されると判断してビームランチャーを振りながらビームを放った。
 そのビームは高機動型ザクⅡ改の頭部を吹き飛ばすが止まる事は無くヒートホークを振り上げる。

「たかがメインカメラをやられただけだ! どうと言う事は無い!」
「ちぃ!」

 振り下ろされたヒートホークを∀GE-1はビームランチャーで受け止めた。
 だが、ビームランチャーにヒートホークが食い込み切断されるのは時間の問題だ。
 
「想像以上だよ。お前」

 少年がそう言うと目を細めた。
 その瞬間、∀GE-1はビームランチャーを手放した。
 それと同時に両腕の装甲の先端からビームサーベルが展開された。

「ビームサ……」

 それに気づいた時には∀GE-1は両腕のビームサーベルを振り上げて、ビームランチャーごと高機動型ザクⅡ改の両腕を切り裂いて蹴り飛ばした。
 一連の動作にかかった時間は恐ろしく短く、タツヤがビームサーベルを認識した直後には高機動型ザクⅡ改は蹴り飛ばされてビルに激突していた。

「俺の勝ちだ」
「そのようだね」

 ビルに激突した高機動型ザクⅡの胴体に∀GE-1は右腕のビームサーベルを突きつけていた。
 最後の攻撃が完全に防がれて両腕と頭部を破壊された高機動型ザクⅡ改には反撃の手段は残されていなかった。
 その為、タツヤは素直に負けを認めた。
 負けた事は悔しいが最後の一瞬に彼の本気を垣間見た。
 今はそれだけで十分だった。
 タツヤがバトルの敗北を宣言してバトルが終了となった。
 
「僕の負けだよ」
「当然の結果。俺、強いし。でもまぁ……俺を一瞬でも本気にしたんだ。組んでも良いぞ」

 その言葉にタツヤはキョトンとしてしまう。
 バトルで敗北した時点で彼を組む事を半ば諦めていた。
 がだ、彼の方は一瞬でも本気を出した事でタツヤを自分が組むに値するファイターだと言う事を認めていた。

「俺も大会には出る予定だったからな。俺の眼鏡に適うファイターが居なければ適当な奴でも見つけて出るつもりだったし。ああ……でも、優勝賞品のガンプラは俺が貰うから」
「それは別に構わないけど……」

 大会の優勝賞品のガンプラはPPSE社が用意した限定モデルで希少価値が極めて高い。
 大会規約では世界大会は出場者は参加不可となっている。
 それはあくまでも大会その物が世界大会を見たファイター達の為の物であるからだ。
 しかし、優勝賞品を目当てに参加するファイターも多く中には世界大会の出場を逃した実力者も少なくは無い。
 タツヤは元より優勝賞品のガンプラには余り興味は無かった。
 無論、貰えれば欲しいとも思っているが、それよりも高い実力を持ったファイターとバトルする事の方が重要だった。
 だから、少年が優勝賞品のガンプラを欲しいと言うのであれば譲る事に抵抗は無い。

「優勝する事が前提なのかい?」
「何言ってんだ? お前は途中で負けることが前提なのかよ」

 確かに彼の言う通り、始めから負けることを考えて大会に参加するファイターは少ないだろう。
 そして、勝ち続けると言う事は最後には優勝すると言う事になる。
 少年の中には優勝すると言う事は確定事項だと言う事だ。

「確かにね。君なら出来そうだ」
「俺と組むんだから、優勝するのはお前も同じだろ?」
「確かに」

 彼の中ではタツヤと組む事もまた決定事項らしい。

「分かった。優勝賞品のガンプラは君に譲るよ」
「契約成立だな」

 少年と組む事が確定し、タツヤは持っていた大会の登録用紙を少年に渡す。 
 すでにタツヤの方は必要事項が書かれている為、後は相方が書いて大会事務局に提出すれば大会へのエントリーは終了する。
 少年とタツヤはバトルシステムでは他の客の迷惑となる為、ゲームセンター内の休憩所のテーブルに移動する。

「これってフルネームじゃないと駄目なん? 俺、ファミリーネームは好きじゃないから書きたくないんだけど」
「構わないよ。名前はあくまでも大会の登録名に過ぎないから余りにもふざけた名前じゃなければ問題は無かった筈」
「了解っと……」

 少年は確認を取ってファイター名の欄に記入する。
 どうやら、少年は自分の苗字の事を嫌っているようだが、流石にその事をここで聞くのは余りのも彼の事情に深く踏み込み過ぎる。

「マシロ……君」

 タツヤはファイターの登録名の欄で初めて彼の名前を知る事になる。
 欄にはお世辞にも綺麗とは言えない字で「マシロ」とただ一言書いてあった。

「そっ。名乗ってなかったっけ?」
「そうだった。僕は……」
「ユウキ タツヤ。さっき叫んでた」

 今更ながら自己紹介をしようとするもタツヤはバトル中に自分の名前を叫んでいた。
 熱くなって叫んでいた為、冷静になってみると少し恥ずかしいが、少年、マシロは気にした様子もなく用紙に必要事項を書き終えた。
 必要事項と言ってもマシロが書いたのは名前と年齢、性別だけだ。
 性別は見れば男だと分かり、名前もすでに知っている為、書かれた欄で知らないのは年齢だけだ。

「僕と同い年のようだけど、高校生?」
「高校は面倒だから言ってない。まぁ……フリーのファイターってとこ?」

 マシロはそう言うがどこまで本当の事か分からない。
 年齢が同じであるなら、マシロは高校に通う年齢だ。
 余程金銭面などで問題が無い限りは高校に進学するのはタツヤの中では当たり前だが、それがマシロにとっての当たり前とは限らない。
 見る限りでは金銭面で問題があるようには見えない為、何かしらの事情があるのだろうと考えるもやはり深く踏み込むと言う事はしない。

「大会は来週だったよな。俺はそろそろ帰るわ」

 マシロはそう言ってタツヤに用紙を渡してさっさと帰って行く。
 タツヤも用紙に不備がないかを確認していた為、マシロを止めることが出来ずに見失ってしまった。





 ゲームセンターを後にしたマシロは商店街をぶらついていた。
 目的である自分の眼鏡に適うファイターを見つけることが出来た。
 当初は邪魔にならない程度の実力があれば良いと思っていたが、予想以上の実力を持ったファイターを見つけることが出来て少し上機嫌だ。

「けど……少し本気で動かしただけでこれか……」

 マシロは歩きながら∀GE-1を取り出す。
 ∀GE-1の右腕の関節にはヒビが入っていた。
 タツヤとのバトルでは高出力のビーム兵器であるビームランチャーを装備させた。
 それを振り回した上に最後は本気を出してガンプラの限界を超える動きをさせてしまったせいだ。
 マシロが本気でガンプラを動かすといつもガンプラの限界を超えることが殆どだ。
 それはマシロが時間と持てうる技術の全てを注ぎ込んで制作したガンダム∀GE-1ですらもだ。

「関節強度は次の課題になるか……こいつが解決しないとどうしようもないな」

 マシロにとって∀GE-1は到達点ではない。
 マシロの理想とするガンプラの最低条件はマシロの本気に耐えることが出来るガンプラだ。
 現在は市販のガンプラをベースに制作しているが、既存のガンプラを使用している以上は関節部の強度の問題が付いて回る。

「ずいぶんとお楽しみだったようですね。マシロ様」
「げ……シオン」
 
 声を掛けられたマシロは顔を引きつらせる。
 そこには日本の町にはそぐわない執事が立っていた。
 顔は笑っているが明らかに怒っているち言う事が分かる。

「やぁ……シオン。こんなところで奇遇だな」
「本当に奇遇ですね。マシロ様」

 シオンと呼ばれた執事はじりじりとマシロとの距離を詰めていく。
 マシロも少しづつ離れようとするも、シオンは一瞬にしてマシロとの距離を詰めてマシロを捕まえる。

「一応、俺はお前の主の筈だが?」
「私の雇用主は貴方の兄上です」

 シオンはマシロを連れて道路に止めていた車に押し込める。
 マシロを押し込めてシオンも車に乗るとそれを確認した運転手が車を走らせる。

「大会のエントリーは明日までですよ。会長の方から連絡がありました」
「ボスにはエントリーは終わったって伝えといて。後は優勝するだけだから、限定ガンプラを手に入れるのは時間の問題だって事もな」
「承知しました」

 マシロ自身が優勝賞品のガンプラが欲しいと言う訳ではなかった。
 レアなだけのガンプラにマシロは興味がないからだ。
 それでも大会に出て限定のガンプラを手に入れようとしているのはマシロのクライアントの意向だ。

「全く……ボスのつまんねーお使いと思ったけど、少しは楽しめることが出来るかもな」
「それは何よりです」

 マシロは窓から外を見ながらそう言う。
 元々、クライアントの意向だろうと余り大会に興味はなかったが、タツヤとの出会いはマシロに大会への興味を持たせるのには十分な出来事だった。

「勝手に出歩いた事はともかく、いい出会いがあったようですね」
「まぁね。けど、感情のままに行動する事は人間として正しい事なんだぞ」
「マシロ様の場合は感情でしか行動しない事に問題があるんですよ」

 シオンはため息をつく。
 マシロとの付き合いは数年にも及ぶが初めて会った時からまるで変わらないでいる。
 本人は子供の気持ちを忘れないでいるだけだと主張するも、シオンから見れば子供の頃から全くと言って良い程成長していない。
 成長したのは余計な知恵位なものだ。

「勝手に出歩かれては護衛としての私の立場がありません」
「ああ……お前って俺の世話係だけじゃなくて護衛って設定もあったよな。安心しろ。ガンダムじゃ設定だけあって作中で使われない事は良くある事だ」

 シオンは再びため息をつく。
 シオンはマシロにつけられた執事として主に身の周りの世話をする事が仕事だが、護衛としても仕事も持っている。
 見た目こそはマシロよりも弱そうな華奢な体格ではあるが、あらゆる格闘技に精通している。
 尤も、マシロが命を狙われたりする事は無い為、その実力を披露する事は今までには一度もない。

(流石はガンダムを生み出した日本と言う所か……そう言えばあのおっさんもこの国の人間だったよな)

 マシロはふと思い出す。
 マシロは今までのガンプラバトルで負けた事は1度しかない。
 その1度の敗北を与えた相手も日本人のファイターだった。
 マシロとしてはその敗北は人生における唯一の汚点だった。

「まぁ……でも、今回はサクッと優勝するさ」

 マシロはそう呟き車はマシロの止まるホテルへと戻って行く。
 



[39576] Battle03 「チームアメイジング」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/10 00:12

 マシロとの出会いの翌日、タツヤは聖鳳学園に登校していた。
 世間の学生はまだ夏休みではあるが、夏期講習の為だ。
 タツヤの本業は学生で、学生の本分は勉強だ。
 ガンプラバトルに熱を上げるのは良いが、勉強を疎かにしてしまえばガンプラバトル自体が出来なくなってしまう。
 夏期講習自体はまだ1年生であるタツヤが受ける必要は大して無い為、同級生も殆ど受けてはいない。
 その為、教室はいつもよりガランとしている。
 講習を受けるタツヤはいつもの授業とは違う上の空だった。
 昨日からずっと、マシロとのバトルが頭から離れずにいる。
 何度も、マシロとの戦いを頭の中でシミュレーションするも最後は決まって、最後に出したマシロの本気で負けている。
 
(一体、マシロ君は何者なんだろう?)

 家に帰りネットを使ったマシロの事は少し調べた。
 あれほどの実力を持っていれば世界大会に出場していなくても大会などで優勝経験や上位に入賞しているかも知れなかった。
 しかし、結果はマシロと言う名のファイターは世界のどに大会にも出ていないと言う事が分かった。
 マシロと言う名自体が偽名である可能性すらも考えられる程にマシロに関する情報は出て来ない。
 これ以上は専門の機関に依頼しなければマシロに関する情報は得られないが、流石にそこまでするよりも本人に直接聞いた方が良いと思い、そこまでの行動には出なかった。
 そこで新たな問題が出て来た。
 昨日、マシロが書いた登録用紙にはマシロの名前と性別、年齢しか書かれていない。
 大会の運営に提出する際の必要事項には連絡先や住所などもあるが、それはチームの代表者だけで良く、今回はタツヤの連絡先と住所で提出している。
 その為、タツヤはマシロがどこに住んでいるのかや連絡先を知らない。
 それを聞く前にさっさとマシロは帰ってしまったからだ。

(マシロ君はどうやってあれほどの実力を身に着けたのだろうか。マシロ君はどの作品が一番好きなんだろうか。AGE-1の改造機だからAGEだろうか? あの白い塗装には何の拘りや意味があるのだろうか……)

 昨日からマシロに対する疑問は尽きない。
 チームを組む事が決まり、チームメイトとして相手の事をもっと知る必要があると言う理屈をこねるも、結局は自分よりも強いマシロへの純粋な興味だ。

(全く……これでは恋する乙女だな……)

 そう、ふと思ってしまう。
 講習もまともに耳に入らずにマシロの事ばかりを考える今の自分はまるで意中の相手を考えているようにも思えて来た。
 無論、タツヤとてそんな趣味は無い。
 客観的に自分の事を見て思いつつも、タツヤは講習を受けながら教師には悪いが、早く講習が終わらないかと強く願った。









 一方のマシロはタツヤと出会ったゲームセンターに開店と同時に居ついていた。
 半ば、バトルシステムを1台占領する形でゲームセンターを訪れたファイターとバトルを行い連勝記録を伸ばしていく。
 流石に連勝記録が二桁になる頃にはマシロにバトルを挑むファイターも減って来ていた。
 その為、マシロはゲームセンター内のバトルシステムで1番大きく最大で6人のファイターがバトルを出来るサイズのバトルシステムでバトルを行っている。
 基本的にはチーム戦やバトルロイヤル方式で使用されるバトルシステムで、今回はチーム戦だ。
 チーム分けはマシロとそれ以外で1対5となっている。
 今回、マシロはガンダム∀GE-1にウイングガンダムのバスターライフルを持たせている。
 対する相手チームのガンプラはガンダムOOに登場するガデッサ(ヒリング機)とガンダムWに登場するリーオー(宇宙型ドーバーガン装備)、ガンダムUCに登場するギラ・ズール(ランゲ・ブルーノ砲・改装備)、ガンダムZZに登場するズザ、Vガンダムに登場するゾロアットの5機だ。
 バトルフィールドは宇宙でバトルが開始された。

「5対1だと……舐めやがって!」

 ガデッサがGNメガランチャーで先制攻撃を行う。
 だが、∀GE-1は回避するとバスターライフルでガデッサに狙いを付けて放つ。
 最大出力でGNメガランチャーを使っており、∀GE-1の反撃に対応する間もなくガデッサはビームに飲み込まれる。

「後、2発」
「よくも!」

 後方からギラ・ズールがランゲブルーノ砲・改を撃ち、その間に他の3機が∀GE-1に接近しようと試みる。
 ギラ・ズールの攻撃は∀GE-1に当たる事は無く、逆にバスターライフルでギラ・ズールは撃墜された。

「次でラスト」
「なら、これならどうだ!」

 ズザがミサイルを一斉掃射する。
 ミサイルは∀GE-1に襲いかかり、∀GE-1は距離を取ろうとする。

「逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!」
「逃げてんじゃねぇよ」

 一見、ズザのミサイルを逃れるような動きをする∀GE-1だが、気づけばミサイルとズザが一直線に並ぶようにミサイルを誘導していた。
 そして、バスターライフルでミサイルごと射線上のズザを吹き飛ばす。

「弾切れだ」

 バスターライフルの残弾が尽きた事で∀GE-1はバスターライフルを捨てる。
 バスターライフルを捨てた事で残るリーオーとゾロアットが∀GE-1に集中砲火を浴びせる。

「ライフルの残弾が尽きればこっちのもんだ!」
「手も足も出ないだろう!」

 リーオーのドーバーガンとゾロアットのビームライフルを∀GE-1は確実にかわしている。

「だから何?」

 ∀GE-1は腰のビームサーベルを抜くとリーオーとゾロアットに投擲してビームサーベルは2機に突き刺さる。
 それによってリーオーとゾロアットは撃墜されてバトルは終了した。

「5対かかりでもこんなものか」

 マシロは心底つまらなそうにしてガンプラを回収する。

「お疲れ様です。マシロ様」
「本当に疲れた。精神的にさ……」

 バトルが終了すると、執事のシオンがゲームセンター内の自販機で購入して来た紙パックの牛乳を片手に待っていた。
 今日はマシロも勝手に抜け出す事が出来ずに、シオンが同行している。
 バトルシステムの周囲は飲食が出来ない為、シオンが勝って来た牛乳を受け取り、飲食が可能なスペースへと移動した。

「今日はユウキレベルの奴が来てないんだよな」
「マシロ様を満足させられるファイターがそう簡単にいる訳がありません」

 マシロはベンチにドサリと座ると牛乳を飲む。

「これじゃ何の為に外に出たのか分かんねぇよ」
「仕事の為でしょう。マシロ様も引き籠ってないで他のご兄弟のように少しは外に出て活動したらどうですか?」
「やだね。面倒臭い。ガンプラは屋敷でも出来るし」

 マシロはそっぽを向いてそう言う。
 マシロは基本的に外に出ることがほとんどない。
 一か月に1度、外出すればいい方で数か月も自宅から一歩も出ない事も珍しくない。
 外に出る時は大抵はガンプラを買いに行く時だ。
 ガンプラを買う事自体は自宅のパソコンを使えば可能だったが、マシロは実際にパッケージを見て買いたい派であり、ガンプラを買う事だけは誰かに任せると言う事はしなかった。
 ガンプラを買う為に外に出ては世界中を飛び回り平均で数百、多い時には千を超える程のガンプラを買って帰る。
 その勝ったガンプラを組み立てては、自宅のバトルシステムでCPU操作による練習用のガンプラとして一人でバトルをしている。
 そんな生活は実に8年近くも続いていた。

「あのですね……」

 シオンはため息をつく。
 分かっていた事だが、マシロにとってはガンプラを中心に生きている。
 ガンプラが出来れば屋敷から一歩も出ない生活も本人は気にすることではなかった。
 
「マシロ君。今日も来てたんだね」
「ユウキじゃん。さっそくバトろうぜ」

 夏期講習を終えたタツヤは昼食を済ませてすぐにここに来た。
 もしかしたら、マシロが来ているのではないかと言う漠然とした予感に基づいての行動だが、その予感は的中していた。
 
「マシロ様」

 いきなりバトルを始めようとするマシロをシオンが諌める。
 そして、シオンはタツヤの方を向いた。

「お初にお目にかかります。私はマシロ様の世話を任されているシオンと申します」
「ユウキ・タツヤです。初めまして」

 シオンはタツヤの事はマシロに聞かされていたが、初対面である為、あいさつを兼ねて軽く自己紹介を行いタツヤもそれに応じる。
 
「じゃ。バトろうぜ。ユウキ。ガンプラは持って来てんだろ?」
「当然だよ」

 マシロの挑発的な笑みに対してタツヤも挑発的な笑みで返す。
 タツヤもマシロに会った場合は、練習も兼ねてバトルをするつもりだった為、ガンプラを持って来ていた。
 さっきまでつまらなそうにふて腐れていたマシロが、元気を取り戻した事にシオンは少なからず驚いていた。
 マシロが他のファイターに興味を示す事は今まで殆どなかった。
 大抵は1度戦い勝利すればそれで興味が失せていたが、タツヤに限っては1度勝利しても興味を失せることが無い。
 そんな、マシロの変化を嬉しく思いつつもバトルシステムへと向かった二人の後をシオンはついて行く。





 マシロとタツヤとのバトルは全てマシロが勝利した。
 十回以上ものバトルを行いバトルの度にバトル内容の討論を行い、他のファイターのバトルに関しても議論を行うと言うように非常に密度の濃い時間を過ごし、肉体的には疲労がたまっていたが、タツヤは非常に充実した時間を過ごした。
 それらに一段落を付けてタツヤはベンチに座り込む。
 すると、マシロが牛乳のパックをタツヤに放り投げる。

「俺のおごりだ」
「ありがとう」

 タツヤは疲れていたと言う事もあり、マシロの好意に甘えることにする。
 マシロも自分用に買って来た牛乳を飲み始める。

「流石、マシロ君だよ」
「まぁね。けど、ユウキも昨日より強くなってたけどな」
「君に負けていろいろと考えたからね。マシロ君はそれ程の実力を持っているのに世界大会や大きな大会で名前を聞かないけどガンプラバトルを始めて間もないのかい?」

 バトルはマシロの全勝に終わったが、タツヤはバトルを繰り返す度にマシロの動きに対応しつつあった。
 その成長速度はシオンも少なからず驚くのと同時納得もしていた。
 それほどの素質を持っていたからこそ、マシロも興味を持ったと言う訳だ。
 そして、タツヤは昨日からの疑問をマシロに聞いた。
 これ程まで実力がありながら、全くの無名であると言う事だ。
 ガンプラを始めて間もないのであれば、それも頷けた。

「いんや。ガンプラバトルはかれこれ8年くらいになるな」

 その年数はガンプラバトルが始まった年数と合致している。
 つまり、マシロはガンプラバトルが始まってから今までやり続けているベテランのファイターの一人と言う事だ。

「けど、大会に出ないのは興味がないからだな。世界大会で優勝して世界一の称号を与えられてもそれは人から与えられた称号に過ぎない。俺はそんな称号を与えられなくても自分が最強であると自覚しているから、別に誰かに証明して貰う必要はないんだよ。強い奴と戦いたければ大会に出なくても直接強い奴の所に行ってバトルをすればいい」

 マシロにとっては誰かに与えられた称号に興味は無い。
 そんな物がなくても自分が一番強いと思っているからだ。
 一見すると自惚れのようにも聞こえるが、不思議と納得してしまう部分もある。

「そうか……マシロ君のガンプラは全塗装してるけど、何かこだわりでもあるのかい?」

 疑問の一つが解決したところで、少し気になった事を聞いた。
 その瞬間にシオンは顔を引きつらせた。
 マシロのガンプラは白一色で塗装されている。
 ガンプラを制作に当たり、塗装は重要な要素の一つだ。
 ガンプラを塗装すると言う事はガンプラの表面をコーティングする事でバトル中のガンプラに様々な効果を与えることが出来ることは何年か前から分かっている技術だ。
 だが、それ以上に重要な要素としてビルダーの好みだ。
 ガンダムの作中でもエースパイロットは特別な装備を装備する事はなく、機体の色を変えた所謂専用機がいくつも存在し、パイロットによっては自分のモビルスーツの色に拘ると言う事も珍しい事ではない。
 ガンプラ作りにおいても自分の拘りの色で塗装すると言うのは良くある話だ。
 マシロも何かしらの拘りを持ってガンプラを白く塗装しているのであればそれを聞く事で相手の事をより理解する事が出来る。

「良くぞ聞いてくれた! 白とは何色にも染まる事が出来る。それは即ち、何にでもなれると言う事。つまりは可能性の色と言う訳だ! 分かるな?」
「えっと……まぁ」

 いきなり色の関する持論を周囲の視線を気にすることなく大声で語り出したマシロにタツヤは圧倒されていた。
 シオンが顔を引きつらせたのは、これを知っているからだ。
 マシロは白を可能性の色と表現した。
 それは白が何色にも染まらずにいて、何色に染まる事も出来ると言う事から何色にもなれる=なんにでもなれると考えての事だ。
 だからこそ、マシロは白と言う色い強い拘りを持っている。
 それは、マシロが白色に対して強い憧れのような感情を持っていると漠然に感じてタツヤも少しは分かる気がした。
 タツヤは大手の塗料メーカーの御曹司で、いずれは父の後を継がなくてはならない立場にある。
 タツヤ自身はその事を受け入れてはいるが、生まれつきのレールから外れた生き方を羨む気持ちも少なからずあるのだろう。
 マシロの場合は事情は知らないが、その気持ちが人一番強いのだろう。

「逆に黒は最悪だ。黒はいろんな色に染まり過ぎてこれ以上、染まり様がない絶望の色だ」

 さっきまでは得意げに語るマシロだったが、いつの間にか色に対する持論が白から黒へと変わっていた。
 憧れから一転して黒に対しては嫌いを通り越して憎しみすら感じさせていた。

「シオン君。彼は一体……」

 もはやタツヤの事をお構いなしに話しを進めている為、タツヤはシオンの方に尋ねようとする。
 だが、シオンはそれを止めた。

「今は知るべき必要はありません。後、10年もすれば嫌でも関わる事になりますから。貴方がユウキ家の人間である以上は」
「僕の事を……」
「失礼を承知で調べさせて貰いました。マシロ様が気に入った相手とはいえ、万が一の事があってはいけませんから」

 シオンはタツヤの事を調べていた。
 マシロが気に入った相手である以上はマシロに害はないと思うが、万が一の事があっては大変でそれを事前に防ぐのがシオンの仕事だ。
 タツヤと知り合ったのは昨日でマシロもタツヤの名前しか知らない。
 それなのにシオンはタツヤの名前だけで自分の家の事まで調べ上げたようだ。
 タツヤの家自体は大手である為、すぐに調べはつくがユウキと言う苗字は日本ではそれ程珍しくは無い上にタツヤ自身は学生と言う身分であるので家の仕事には関わる事はない。
 多少は家の付き合いのパーティーなどに出席させられる機会もあるが、そう簡単に名前だけで自分とユウキ家が繋がる訳もない。
 それでもたった一日足らずで自分とユウキ家の繋がりまで調べ上げたと言う事はシオンがそれほどの情報収集能力を持っているのが、それだけの力を持った存在がマシロのバックにいると言う事になる。

「安心してください。調べた結果、ユウキ様はマシロ様にとっては害はないと判断しました。寧ろ、マシロ様にはガンプラ以外に友達がいませんので友達になってくれると私としては非常に安心です」
「はぁ……」

 流石にマシロのガンプラ以外に友達がいないと言うのはオーバーな表現のように思えるが、マシロを見ているとあながちオーバーではないと思えて来る。

「何、話してんだよ?」
「それは……」
「マシロ様に友達がいないと言う事です」
「何だ。そんな事かよ」

 ストレートに言ったシオンにタツヤは驚くも、マシロもあっさりとしていた。
 
「それよりも、マシロ君。大会に出場する時のチーム名だけと昨日は相談する時間がなかったから僕の方で決めて提出したけど、良かったかな?」

 タツヤはマシロの友達の有無の話しを続けるのは気まずい為、話題を無理やりに変えた。
 大会は二人一組のチームで参加の為、登録用紙にはチーム名を記載する欄もあった。
 チーム名自体は必至事項ではないが、せっかくだからとタツヤはチーム名も登録しておいた。

「チーム『アメイジング』それが僕らのチーム名さ」
「アメイジングねぇ……」
「日本語で驚きなどと言う意味ですね」
「ええ。僕達はまだ無名のファイターだからね。僕達が優勝はおろか勝ち進む事も誰も予想はしていないだろうね。だからこそ、僕とマシロ君で大会に出場しているファイターや観客を驚かすと言う意味を込めてチーム名を決めたんだ」

 タツヤも同年代では高い実力を持っていると自負しているが、日本ではまだ無名のファイターだ。
 一方のマシロも実力があっても大会への出場記録が無い為、全くの無名のファイターである。
 そんな二人が他の参加者から見れば優勝候補ですらない、唯の参加者の過ぎない。
 だからこそ、タツヤとマシロの二人で大会を勝ち進めば誰もが驚くだろう。
 そう言った意味を込めてタツヤはチーム名をチームアメイジングと名付けた。

「良いチーム名ですね。私もマシロ様の奇行に日々、驚かされています」
「喧嘩売ってんのか? シオン」
「とにかく……そのチーム名に恥じないように一緒に頑張ろう。マシロ君」

 マシロはシオンを睨みつけるが、シオンは気にした様子は無い。
 そんな二人をタツヤが強引に纏める。
 そして、この日からチーム『アメイジング』は始動し、タッグバトル大会が開催される。
 



[39576] Battle04 「タッグバトル大会予選」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/11 10:39
マシロとタツヤが出会い1週間後、タッグバトル大会の開催日となった。
 会場には平日の午前中にも関わらず多くの観客や参加者が集まっていた。

「ずいぶんと多いんだな」
「参加チームは約100チーム。約200人が参加するみたいだね。規模で言えば世界大会以上だよ」
「でも、こいつら皆、世界大会に出られないレベルなんだろ?」

 大会の参加者は約200人でその数は世界大会の倍の人数と言える。
 しかし、マシロにとっては数が多かろうと世界大会に出られないファイターの集まりに過ぎない。

「つか、平日の午前中に来れるって事は、こいつら毎日が休みのニートか仕事をサボっている奴らって事じゃね?」
「マシロ様。世の中の学生は今は夏休みですし、土日祝日に働いて平日が休みと言う人もあります。まぁ、マシロ様はニートですけど」
「俺はニートじゃねぇよ。ファイターだ」
「とにかく、受付に行こう。参加登録は僕がしたけど、9時までに受付に行かないと棄権と見なされるからね」

 タツヤがそう言い、マシロとしても大会に出れなくなると面倒な事になる為、大人しく受付に向かった。
 受付も終わり、大会の開会式まで会場の周辺で待機する事となり、近くの喫茶店で最後の打ち合わせを行う事となった。

「マシロ君。確認しておくけど、大会の日程は把握しているよね?」
「とにかく、勝てば良いんだろ?」
「マシロ様はガンプラを組み立てる時でも説明書を読まずに組み立てる人ですから、きちんと説明してあげた方が賢明ですよ。ユウキ様」
「それはそれで凄い気がするけど……」

 要するに大会の事は事前に運営側から日程はバトル方式についての告知がされているが、マシロは大会がここで行わると言う以外は全く知らないと言う事だ。
 マシロにとってはただ、バトルに勝利して優勝する事にしか興味がないようだ。

「まず、今日の午前中に世界大会でも用いられるバトルロワイヤル方式でバトルが行われる。その中から生き残った16チームが決勝トーナメントに進める」
「チーム数は100程ですよね? 時間がかかるのではないですか?」
「ええ、ですから制限時間が1時間でそれを過ぎても17チーム以上残っている場合は各チームの撃墜数の上位16名が残るルールです。この撃墜数には残ったガンプラだけが計算されるのでチームの片方が撃墜されていた場合、残った方の撃墜数のみがチームの撃墜数となりますね」

 参加チームが100チーム程ある為、いきなりタッグ戦と言う訳ではなかった。
 世界大会でも全員参加のバトルロイヤル方式が採用されている事もあり、同じ方式で振いにかけられる。
 だが、世界大会とは違い時間的な余裕が無い為、1時間と言う時間制限で行われる。

「そして、今日の午後には準々決勝まで消化してベスト4まで決めて、明日の午前中に準決勝が、午後から決勝戦が行われると言うのが大会の日程になる」
「2日で終わりか……俺としては今日で全部決めても良かったんだけどな」
「準決勝や決勝ともなると相応の準備が必要だからね」

 今回の大会は二日かけて行われる。
 一日目の午前中にバトルロイヤルの予選と午後に勝ち進めば2戦行う事になる。
 二日目には午前と午後に1戦行い優勝者が決まると言う日程だ。
 
「んな面倒な事をしなくてもバトルロイヤルで最後まで生き残った一人が優勝で良いじゃん」
「最後の残るのが一人だとタッグバトルの意味は無いよね」
「ユウキ様。マシロ様の言動に一々、真剣に返す必要はありません。話半分で流した方が良いですよ」

 シオンの言葉にタツヤは苦笑いで返すしかない。
 そうこうしている間に予選の時間が迫り会場へと戻る。





 会場には巨大なバトルシステムが設置され、大会の参加者たちは指示された場所で待機している。
 参加者ではないシオンは観客席でバトルを観戦し、マシロとタツヤは指示された場所に向かう。
 到着し、全ての参加者が揃い皆がGPベースをバトルシステムに付けてそれぞれのガンプラをセットする。
 それが確認されるとバトルシステムにプラフスキー粒子が散布される。
 そして、タッグバトルの予選が開始された。
 バトルフィールドは宇宙だが、一般的な宇宙だけではなく場所によってはデブリベルトやコロニー、月面などが再現されている広いフィールドでのバトルとなっている。

「どうする? マシロ君」
「決まってんだろ。手当り次第に叩く。どうせだ、撃墜数で勝負しようぜ。撃墜数が少ない方が今日の昼メシを奢るってのはどうだ?」
「乗ったよ」
「決まりだ。昼メシよろしくな!」

 マシロはそう言ってタツヤの高機動型ザクⅡ改から離れていく。

「さて……僕もマシロ君に負けられないな」

 すでにマシロのガンダム∀GE-1は彼方へと行っている。
 お昼ご飯を奢ると言う賭け自体にはタツヤも大して興味は無い。
 別に負けたところで普通に奢れば良いだけの話だ。
 だが、マシロに負けると言うのは少し面白くは無い。
 勝ちに拘ると言う程ではないが、タツヤの中ではマシロには負けたくはないと言う感情が芽生えていた。
 高機動型ザクⅡ改は近くのガンプラを2機同時にザクバズーカで撃墜する。

「たった一機でのこのこと!」

 このバトルではタッグ同士は近い位置からのスタートとなる。
 片方でも撃墜されると予選を通る事は難しくなる為、必然的にチームは行動を共にした方が生存の確率は高まる。
 そんな中で別れて行動すれば他のファイターから見れば撃墜数を稼ぐ格好のカモとなる。
 一人で行動するタツヤの高機動型ザクⅡにジンクスⅢ(アロウズカラー)とジンクスⅢ(連邦カラー)が迫る。
 
「2対1だろうと!」

 高機動型ザクⅡ改はザクバズーカを放ち、2機を分断する。
 そして、ジンクスⅢ(連邦カラー)にザクバズーカを撃ち込む。
 一発目でバランスを崩して二発目でジンクスⅢ(連邦カラー)を撃墜する。

「良くも相棒を!」

 ジンクスⅢ(アロウズカラー)は接近してGNランスを突き出す。

「甘い! マシロ君の攻撃速度に比べれば!」

 マシロと何度も戦ったタツヤから見ればジンクスⅢ(アロウズカラー)の攻撃速度は恐れるに足りない。
 突き出されたGNランスに対して、高機動型ザクⅡ改はザクバズーカを捨てて前に出る。
 そして、バックパックに増設した新装備のヒートナタを抜いた。
 ヒートナタは腰のヒートホークに比べると威力は劣るが小型な為、小回りが利く。
 マシロの∀GE-1の高い機動力から繰り出されるビームサーベルの斬撃に対抗する為に装備したものだ。

「懐に!」
「ここは僕の距離だ!」

 小回りの利くヒートナタに対してジンクスⅢ(アロウズカラー)のGNランスが大型で小回りが利かない。
 懐に飛び込まれてしまうと、何も出来ない。
 高機動型ザクⅡ改はヒートナタでジンクスⅢ(アロウズカラー)を切りつけて、ザクマシンガンを至近距離から撃ち込んで撃墜した。

「ヒートナタは思いののか、扱い易いな。後はこれがマシロ君に通用するかどうかだ……」

 新装備の使い勝手をバトルの中で確かめながらもタツヤはバトルを続けた。




 タツヤと別行動のマシロも手当り次第に他のガンプラを撃墜している。
 今回はバックパックのブースターとガンダムAGE-2ダブルバレットのドッズライフルを装備している。
 すでに10機程撃墜している。

「禄なのがいないな」

 追加ブースターの機動力でフィールドを駆け回り手当り次第に撃墜するも、殆どが遭遇時の初撃に対応する事が出来ずに撃墜されている。
 すると、後方からビームが飛んで来て∀GE-1は腕の装甲で防ぐ。

「狙撃か……少しは骨のある奴もいるみたいだな」

 マシロはすぐに狙撃して来た方向にガンプラを向ける。
 そこはデブリベルトで狙撃者が隠れるにはうってつけの場所とも言えた。
 デブリベルトに入っても狙撃者からの狙撃が止む事はない。
 寧ろ、一方向からではなく最低でも2か所以上からの狙撃が行われている。
 それらをマシロは全て見切って回避している。

「伏兵を張ったか……けど、そんな子供騙しに引っかかるかよ」

 マシロはビームの飛んで来る方向に向かう。
 ビームをかわしながら突き進むとそこにはガンダムOOに登場するガンダムデュナメスとガンダムサバーニャが狙撃用のライフルを構えていた。

「成程な。そいつが狙撃銃を大量に持ち込んだって事か」

 ガンダムサバーニャの腰にはホルスタービットが付いていない。
 ホルスタービットはその名の通り、ホルスターの役目も持っており、内部には武器を収納する事が出来る。
 それを使ってフィールド内に大量の火器を持ち込み、視界の悪いデブリベルトに配置して狙撃者の位置を特定出来ないように罠を張ったと言う訳だった。
 その上で狙撃を行い、それで撃墜出来れば良し、気づかれようともデブリベルトにノコノコと入り込めば、周囲に張り巡らされた罠によって狙撃者が移動しているか、もしくは2つ以上のチームが手を組んだと誤認させてかく乱して仕留めることが出来たからだ。
 相手チームの最大の誤算は最初の一撃で、マシロが狙撃者の方向を完全に把握してしまった事にある。
 そして、マシロは相手が移動すればデブリの微妙な動きから位置を把握する事が可能で、相手の数は撃墜数が稼げると言う認識でしかなかった。
 
「お前の方が司令塔だよな」

 ∀GE-1はドッズライフルでガンダムデュナメスを撃墜する。

「兄貴!」

 そして、ガンダムサバーニャに体勢を整える時間を与えずにドッズライフルを撃ち込んで破壊した。

「発想は悪くないし、狙撃の腕も悪くないが……俺を仕留めたかったらもっとトラップを用意しとくんだな」

 2機の狙撃型ガンダムを撃墜したマシロはすぐに別の獲物を探しに向かう。
 それから間もなくして制限時間の1時間となり、予選のバトルロイヤル戦が終了した。






 バトルロイヤル戦が終わり、運営が各チームの撃墜数の集計に入り、結果が会場の大型モニターに表示された。
 その結果、撃墜数ではマシロとタツヤのチームアメイジングがダントツのトップを記録した。
 その数は40機と2位が10機程度だと言う事を考えると脅威的な撃数である事が分かる。

「俺が28でユウキが12と俺の圧勝だな」
「1時間でそんなにも撃墜したんだね」
「僕も結構頑張った方だとは思ったんだけどね。機動力の差が大きかったかな」

 予選を1位で通過したが、マシロとタツヤの個人成績はマシロが28機でタツヤが12機と個人成績でもチームアメイジングは1位と2位を独占した。
 タツヤの撃墜数だけでも2位のチームの撃墜数を上回っている。
 これは大抵のチームはある程度の撃墜数を稼いでからは自分達の身を守る事に専念し、二人のように積極的に撃墜数を稼ごうとしたチームはその際のバトルで受けた損傷で結局は最後まで生き残る事が出来なかった事が大きな要因だった。
 それでもマシロの撃墜数は異常とも言えた。
 バックパックのブースターで更に機動力を増してから一撃で相手を仕留めて回った為である。
 二人のバトルはマシロの勝利に終わり、タツヤはマシロにお昼ご飯を奢る事となった。
 尤も、コンビニでおにぎりを数個買っただけなのでガンプラを買うより安上がりだった。
 お昼ご飯を買い、植木に座り簡単に昼食を取っている。
 シオンは昼食を取っている二人の代わりに決勝戦トーナメントの組み合わせを見に行っている。

「まぁね。つか、人が増えてない?」
「多分、アレだよ」

 予選を行っている時よりも会場付近の人が多くなっている事にマシロが気づいてタツヤが会場の外にもついている大型モニターを指さす。

「お昼の休憩中にはPPSEが招待したゲストのありすがミニライブをやっているみたい」
「ありすねぇ……」
「マシロ君も名前くらいは聞いたことはあるだろ? 彼女は日本のみならず世界中でもヒットしたみたいだからね」

 モニターにはありすと呼ばれたアイドルがライブをしている様子が映されている。
 ありすは大会を主催したPPSEが予選と決勝トーナメントの繋ぎとして招待したアイドルだ。
 まだ12歳と言う年齢ながら、その愛らしい容姿と抜群の歌唱力によって大人気のアイドルがありすだ。
 歌だけでは無く、演技力も高くハリウッドからも出演のオファーが来ているとまで噂され、バラエティーでも天然で甘え上手なキャラとして活躍している妹系アイドルとして日本のみならず世界中で注目を受けている。

「まぁね。俺にはどこが良いんだか、さっぱりだけどな」
「僕も名前と顔が一致する程度だけどね」

 この人の多さも大会と言うよりもありすが目当てなのだろう。

「俺はあんなガキ臭い奴よりも、断然キララ派だね」
「キララ?」
「お前知らないのかよ。確か……この辺りで活動しているガンプラアイドルだぞ? まだあんまり売れてはないみたいだけど、ガンプラアイドルってところはポイントは高いね。どうせ、アイドルなんてのはみんなキャラを作ってるんだろうけど、なんつったってガンプラアイドルだしな。実物は見た事は無いけどな!」

 結局のところ、マシロはそのキララと言うアイドルの容姿や歌などには全く興味はなく、ガンプラアイドルと言う点しか見ていないと言う事だ。
 アイドルにさほど興味の無いタツヤも容姿や歌と言ったアイドルのファンになる要素よりもアイドルの肩書にしか注目せずに売れているアイドル以上に推しているマシロに苦笑いしか出ない。

「マシロ様。ユウキ様。対戦の組み合わせが決まりました」

 シオンが戻り、二人に対戦の組み合わせを見せた。

「俺達の一回戦の相手はチームかいと? うみひと? どっちだ?」
「多分、海人(うみんちゅ)と読むんだよ」
「紛らわしいな。で、強いの?」
「そうだろうね。聞いたことのないチームだね」

 マシロとタツヤの対戦相手はチーム海人となっており、タツヤもそのチーム名やファイターの名前には聞き覚えがない。

「決勝トーナメントに残っているくらいだから、弱くは無いと思う」
「それに勝ち進めば明日の準決勝ではブルーノ・コレッティのチームと当たるのは確実ですね」
「誰それ?」
「知らないのマシロ君! ブルーノ・コレッティと言えば元イタリアチャンプだよ。今年の世界大会のイタリア予選ではリカルド・フェリーニに敗北して出場を逃したけど、間違いなく世界レベルのファイターだよ。まさか、この大会に出ていたなんて……」

 マシロは興味が無い為、知らないがブルーノ・コレッティはファイターの中ではある程度の知名度は持っている。
 イタリア代表として何度も世界大会に出場経験を持つファイターだ。
 今年はリカルド・フェリーニにイタリア予選の決勝戦で敗北して世界大会への出場は絶たれて為、この大会への出場資格は失っていない。
 そんな世界レベルのファイターが決勝トーナメントまで残るのは当然の事だろう。

「世界レベルのファイターってもさ、そのフェラーリだかパニーニだかに負けたんだろ。じゃぁ大したことなくね?」

 相手は世界レベルのファイターだと言うのにも関わらず、臆する事なくそう言うマシロには呆れを通り越して感心すらしてしまう。
 マシロにとっては世界レベルのファイターだろうと、関係は無いようだ。

「そして、問題なのがクロガミ・レンヤ。彼のチームが決勝戦の相手となる可能性は高いですね」
「だから誰だよ。そいつ……クロガミ?」
「マシロ君もクロガミグループの事は知っているよね」
「まぁ……」

 マシロは珍しく歯切りが悪く答える。
 タツヤの言うクロガミグループは「スプーンからスペースシャトルまで」をキャッチフレーズに様々な分野に乗り出して来ている世界的な企業だ。
 タツヤの父の経営している塗料メーカーとも繋がりを持っているとタツヤも聞いている。
 そのクロガミグループの特徴の一つに参加の企業の多くにはクロガミ家の人間が関わり、誰もが天才的な実力を発揮している点だ。
 決勝戦で対戦すると思われるクロガミ・レンヤなる人物もクロガミ家の人間なのだろう。

「クロガミグループは表向きは超優良企業で、実際にそうなんだけど、裏では違法スレスレの事も行っていると言う黒い噂も付いて回っているからね」
「ふーん。んな事よりも一回戦の用意の方が優先だろ。一回戦のバトルフィールドは発表になってんだよな」
「そうですね。一回戦のバトルフィールドは海中となっていますね」

 マシロはクロガミ家の話題から強引に話しを逸らす。
 だが、当たるかも知れない相手の事よりも一回戦の相手の事の方が重要だ。
 そのバトルに負けてしまえば明日の準決勝も決勝にも出ることが出来ないからだ。

「海か……相手チームは海人なんだろ? 名前からしてこっち相手側の方が有利じゃん」
「こればかりは仕方がないよ。僕達も僕達で出来ることをしないとね」

 すでにバトルフィールドが決まった以上、文句を言っても仕方がない。
 マシロとタツヤは午後からの一回戦に備えてガンプラの調整と準備を始めた。



[39576] Battle05 「疑念」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/13 18:58

 タッグバトル大会の予選バトルロイヤル戦をマシロとタツヤは難なく1位で通過し、午後の決勝トーナメント1回戦に臨む事となった。
 事前にバトルフィールドが水中と言う事が告知されていた。
 水中のバトルフィールドにはいくつものタイプに分けられている。
 フィールドごとに細かい差異はあるが、大きく分けると二つだ。
 一つ目は純粋に水中のみのフィールドと水中と一部が陸地となっているフィールドだ。
 今回のバトルでは全者の水中のみのフィールドでバトルする事になっている。
 マシロのガンダム∀GE-1タツヤの高機動型ザクⅡ改はどちらも水中戦を想定している訳ではない。
 使用ガンプラ自体はバトル開始直前までに変更する事が出来るが、今からでは水中用のガンプラを用意する時間は無い。
 そうなれば、ガンプラを改造するしかない。
 改造すると言っても大幅な改造をしているだけの設備も時間もない。
 その為、二人は武装面での改造を余儀なくされた。
 マシロのガンダム∀GE-1はソードインパルスの対艦刀「エクスカリバー」を装備させた。
 ソードストライクの対艦刀「シュベルトゲベール」をガンダムSEEDの本編中に水中戦で使用した事から同じ対艦刀であるエクスカリバーも行けそうでシュベルトゲベールとは違い、2本あるからそっちの方が強そうだ、と言うマシロの考えから今回はエクスカリバーを装備させた。
 一方のタツヤの高機動型ザクⅡ改は装備を大幅に変更し、手持ちの火器としてサブロックガンを持たせ、リアアーマーのザクマシンガンの代わりにザクバズーカを装備させて、腰のザクマシンガンの弾倉をザクバズーカの予備弾倉にしている。

「出来ることはやった。後は相手のガンプラと僕達の戦い次第だ」
「相手が何だろうと俺は勝つさ」

 マシロは相手が何であれ興味はなく、ただ勝つ事しか考えていない。
 相変わらずの強気な発言もここまで来ると頼もしさすら感じる。
 二人はバトルシステムにGPベースをセットしてガンプラを置く。

「ユウキ・タツヤ。高機動型ザクⅡ改……出る!」
「ガンダム∀GE-1。出る」

 二人のガンプラがバトルフィールドへと射出されると途端にガンプラが重くなり、速度が低下する。

「機体が重いな……」
「来る! アレは……シャア専用ズゴックか?」
「似てるけど、ありゃズゴックEの方だ」
「良くこの距離から見えるね」

 モニターにはある程度のズーム機能があるが、相手のガンプラとの距離が離れていると大してズームされず、今回は水中と言う事もあり視界が悪い。
 遠目では赤いズゴック、ファーストガンダムでシャアの専用機のズゴックであると思われたが、マシロがそれを訂正する。
 どうやら、普通のズゴックではなく、OVA作品のポケットの中の戦争で登場したズゴックの性能向上機であるズゴックEであると言う。
 それをシャアのパーソナルマークである赤で塗装したシャア専用ズゴックEとも呼べるガンプラだ。

「もう一機は……アッシュか」
「どっちも水陸両用のガンプラか……」

 シャア専用ズゴックEと並ぶのはガンダムSEED DESTINYに登場する水陸両用モビルスーツ、アッシュだ。
 アッシュも一般機のグレーではなく黒く塗装されている。
 どちらも塗装以外で目立った改造はされていないが、水中戦に長けたガンプラである事は間違いない。

「赤とか黒とかイケてないと思うんだよな。赤いのは任せた。黒いのは俺がやる」
「相手は水中戦用のガンプラだ。単独で挑むのは危険だと思う」
「知らん。取りあえず黒いのは嫌いだから倒す」

 フィールドでは相手に分がある為、タツヤは連携してバトルしようとするが、マシロは聞く耳を持たずにアッシュの方へと向かって行く。
 相手チームの方も∀GE-1が突撃して来た事を確認したのか、二手に分かれた。

「二手に分かれた……向こうも一対一のバトルを望んでいると言う事か……つまりは、一対一なら勝てると踏んでいる訳だ」

 バトルフィールドで有利なら、それも頷ける。
 フィールドで有利ならそれを埋める為には、連携を取る等で戦い方を工夫する必要があるからだ。
 それをさせない為に、相手は二手に分かれてこちらを分断させようとしているのだろう。
 仮に分断する事が出来ずに片方に向かったとしても、水中で余り動けないガンプラが2機ならすぐに追い込まれると言う訳ではない為、もう片方が挟撃すれば一気に有利になる。

「仕方がない。片方は僕の方で抑えるか」

 シャア専用ズゴックEの方がタツヤの高機動型ザクⅡ改に向かい、黒いアッシュの方がマシロの∀GE-1の方に向かっている。
 2機が突出しているマシロの方に向かわないのは、片方を集中的に狙っている間にもう片方がコソコソと反撃の準備をされる事を警戒しての事だろう。
 一対一では水中戦用の自分達のガンプラの方が有利である為、個別撃破に来ている。

「だけど、こっちも黙って好き勝手にさせる気は無いけどね」

 どの道、タツヤも良いようにさせる気はない。
 フィールドで不利な状況を変えることは出来ないが、少しでも戦い易い場所で戦う事は出来る。
 フィールドは水中だが、場所によっては深さが違う場所もいくつか存在している。
 タツヤはシャア専用ズゴックEを浅瀬まで誘導する。
 余り深い場所で戦えば相手は縦横無尽に動く事が出来て、水中で高機動を活かせない高機動型ザクⅡ改では不利だが、浅瀬ならある程度の動きは制限する事が出来る。
 シャア専用ズゴックEは魚雷を発射する。
 それに対して高機動型ザクⅡ改はサブロックガンで応戦する。

「生意気なんだよ! ザクが水中戦なんてよ!」

 シャア専用ズゴックEはアイアンネイルを突き出して、高機動型ザクⅡ改は回避しようとするがサブロックガンが破壊されてしまう。

「やはり水中では機動力は向こうの方が上か!」

 高機動型ザクⅡ改は脚部のミサイルを撃って距離を取ろうとする。
 水中で格闘戦に持ち込まれたら勝ち目はない。
 シャア専用ズゴックEはミサイルを簡単に避けて高機動型ザクⅡ改に接近しようとする。
 サブロックガンが破壊された為、ザクバズーカを持ってシャア専用ズゴックEを迎え撃つ。






 一方のマシロもアッシュとバトルを始めていた。
 水中を高速で移動するアッシュに対して火器を持っていない∀GE-1は中々接近出来ずにいた。
 アッシュは∀GE-1の背後を取ると、ビームクローから水中戦に特化する為にヒート系の武器に改造された腕部のヒートクローで切りかかる。
 だが、その前に∀GE-1はエクスカリバーを振るい、アッシュは攻撃を中止して距離を取って回避する。

「ちっ……動きが遅い」
「こいつ!」

 マシロは苛立ちを隠せないでいた。
 アッシュが水中で早く動けようともマシロはそれを見切る事が出来た。
 今の攻撃もいつもならアッシュを切り裂いていた。
 だが、水中で動きが遅くなった∀GE-1ではタイミングがずれて来る。
 元々、マシロのバトルは相手が動いた瞬間にそれに反応するのと同時に相手の動きを判断して行動すると言う物で、相手よりも動きだしは遅れている。
 それを人間離れした反射神経でその遅れは1秒にも満たない為、動きだしの遅れは意味を成さず、寧ろ一瞬にして相手の動きを見切り対処すると言う武器に代えている。
 しかし、今はその戦い方が仇となっていた。
 幾ら、マシロの反応が早くガンプラを動かせようとも∀GE-1は水中で動きが鈍っている。
 その為、マシロの思い描いている動きよりも遅れてしまい、相手のファイターでも十分に対応できるレベルまで落ちている。
 一方の相手のファイターはイラつくマシロとは正反対に驚いている。
 攻撃こそは遅れていたが、機動力で振って背後を取っての一撃に完全に反応されていたからだ。
 水中で動きが遅くならなっていなかったら、確実に仕留められていたと思わせるには十分な程にだ。
 
「水中でここまで機動力が落ちる物なのか……」

 マシロは今までに水中でのバトルをする時は水陸両用のガンプラを使うか、それ相応の改造を施したガンプラを使っていた為、今回のように武器のみで水中戦をした事は一度もなかった。
 今までは一人でCPUを相手にバトルをする事が多かった為、水中戦を行う事が分かり、水中戦用の改造やガンプラを用意してから水中戦をしていた。
 
「さて……どうするかな。切り札はあるが……アレをここで使ってもどの程度の効果があるか分かった物じゃないし、未完成だしな。未完成の切り札を使うってのも面白そうではあるが……ここは切り札の切り時ではないな。仕方がない。隠し玉の方にするか」

 ∀GE-1にはタツヤとのバトルでも見せていない切り札があったが、それ自体はまだ未完成だった。
 未完成の切り札をいきなりバトルで使うと言うシチュエーションもマシロには面白そうに思えたが、普通の状況でもまともに使えないと言うのに水中で使ったところで意味がないどころか、確実に負けることが目に見えている。
 そして、もう一つ隠し玉も持っている。
 そっちの方はこの状況でも十分に使える。

「後はタイミングか……さっきの一撃で距離を取られちまってるな」

 相手もさっきの背後への攻撃の反応速度から、接近戦は危険だと判断して迂闊に接近せずに距離を保っている。
 普通に接近しようとしても、相手はさせてはくれないだろう。
 陸上や宇宙なら機動力はこっちに分があるが、水中ではそうもいかない。
 そして、∀GE-1の隠し玉を使うには相手との距離が離れ過ぎている。
 マシロはその時をただじっと待っていた。






 水中でまともに使えるサブロックガンを失った高機動型ザクⅡ改もシャア専用ズゴックEに追い詰められている。
 ザクバズーカで応戦するも、水中戦用の装備と言う訳ではない為、シャア専用ズゴックEには当たらない。
 シャア専用ズゴックEの魚雷をかわしてはいるが、次第に追い詰められていく。

「流石にまずいな……」
「沈め!」

 シャア専用ズゴックEの魚雷の爆発の衝撃で高機動型ザクⅡ改はザクバズーカを手放してしまい尻餅をついて倒れてしまう。

「まだ……まだ終わらない!」

 シャア専用ズゴックEがアイアンネイルで止めを刺そうと接近して来るところに、ロケットランチャーを撃ち込む。
 だが、ロケットランチャーはシャア専用ズゴックEに当たる事は無い。
 
「無駄な足掻きを!」
「それを決めるのは君じゃない!」

 高機動型ザクⅡ改の攻撃をかわしていたシャア専用ズゴックEはやがてフィールドの岩礁で行き止まりへと誘い込まれていた。
 そして、岩礁の脚部のミサイルを撃ち込むと岩礁は崩れてシャア専用ズゴックEに降り注ぐ。

「これが狙いか! だが、しかし!」

 降り注ぐ岩をシャア専用ズゴックEは何度かかわした。
 しかし、その前にはヒートナタを抜いた高機動型ザクⅡ改が待ち構えていた。

「いつの間に!」
「バトルとは2手3手先を読むものだ!」

 タツヤは岩礁を破壊して岩を落として倒せるならそれでも良しとしていたが、倒せなかった場合の事も考えてミサイルを撃ってすぐに行動を開始していた。
 速やかに落としたザクバズーカを回収し、弾倉を交換しつつ、シャア専用ズゴックEを待ち構えていた。
 高機動型ザクⅡ改はヒートナタを振るうもシャア専用ズゴックEはギリギリのところで回避して、胴体を少し切れただけだ。
 
「くそ……今のは不味かった……だが、次はそうはいかない!」
「それはどうかな」

 岩礁を破壊しての攻撃からの追撃をもかわされたが、タツヤは動揺した様子は見られない。
 そして、シャア専用ズゴックEに入れられた傷から気泡が出て来る。
 高機動型ザクⅡ改の攻撃もまた、それで仕留めることが出来れるのであればそれで良かった攻撃だ。
 タツヤの最後の狙いはその攻撃で少しでも傷を付けることが出来ればそれで良かった。
 高機動型ザクⅡ改の攻撃で出来た傷からガンプラの内部に水が入って行ったが為に、シャア専用ズゴックEの傷から気泡が出ていた。
 シャア専用ズゴックEの中に水が溜まりやがて、底へと沈んでいく。
 それを確認したタツヤは止めに入る。
 弾倉を交換しておいたザクバズーカでシャア専用ズゴックEに狙いを定める。
 逃げようとするも浸水によってシャア専用ズゴックEには回避するだけの動きも出来ない。
 ザクバズーカが放たれて、シャア専用ズゴックEは回避する事なく直撃を受けて撃墜された。

「ふぅ……何とかなった。マシロ君の方はまだ終わってないのかな」

 仮にマシロの方が勝負がついていたのであれば、シャア専用ズゴックEを倒した時点でバトル終了のアナウンスが入る。
 それが入らないと言う事はまだ勝負がついていないと言う事だ。
 マシロがすでに負けていると言う可能性もあるのだが、タツヤの中ではマシロが負けている様子など思い浮かべることが出来ない為、その可能性は排除していた。







 タツヤが勝利を決めたころ、マシロはただアッシュの攻撃を耐えていた。
 アッシュは不用意に接近する事なく、魚雷とフォノンメーザー砲で距離を保ちつつ∀GE-1の装甲を削っていた。

「なんて装甲してんだよ!」

 先ほどから攻撃しても∀GE-1の装甲にまともなダメージを与えてはいない。
 ガンプラバトルにおいてガンプラの性能はガンプラの出来によって左右される。
 ここまで攻撃を直撃させても尚、∀GE-1にまともなダメージを与えることが出来ないのは、∀GE-1とアッシュとの間の完成度の差と言う事だろう。
 その為、相手のファイターも苛立って来ている。
 対象的に水中で動きが鈍っていた事で苛立っていたマシロは直撃を受けているのに落ち着いている。
 アッシュが魚雷を発射して∀GE-1は微動だもせずに胴体に直撃を受けて体勢を崩して持っていた2本のエクスカリバーを落として沈んでいく。

「一気に決める!」

 水中で使える唯一の装備を手放した事と体勢こそは崩せたが、魚雷の直撃でも∀GE-1に損傷を与えてはいない。
 その為、相手ファイターは一気に勝負をつける為に接近した。
 武器を手放した事が近接戦闘を仕掛ける要因となったが、相手の行動こそマシロが狙っていた行動であった事に相手は気づいていない。
 アッシュがヒートクローを突き出して、多少遅れるも∀GE-1は逆にアッシュに接近した。
 ヒートクローの一撃は∀GE-1の肩と胴体の付け根の関節に当たり、∀GE-1の左腕が肩からもげるがマシロは気にする事は無い。

「ここは俺の距離だ!」

 ∀GE-1はアッシュに膝を突き出す。
 ∀GE-1には内蔵火器が無いように見えたが、実は一つだけ装備されていた。
 それが膝の追加装甲の中に左右に一発だけのグレネードランチャーだ。
 基本的に近接戦闘を得意としている為、この装備は離れた距離で使われる事も無く、隠し玉として初見殺しで使う事が前提の装備であり普段から多用する事もない。
 そして、使う時はゼロ距離で使う。
 ゼロ距離からグレネードランチャーを撃ち込まれたアッシュは一撃で上半身が吹き飛んだ。
 アッシュが撃墜された事でバトル終了の合図が入り、バトルの勝敗は決した。








 バトルが終了し、他の対戦が終了するまでの間は待ち時間となっている。
 その間に他のチームの偵察をするも良し、ガンプラの修理が改造を行うも良しと自由に使う事が出来る。
 一回戦を勝ち抜いたが、今日の内にもう一回バトルをしなければならない。

「マシロ君。修理に時間がかかるなら僕も手伝うよ」

 タツヤの高機動型ザクⅡ改の損傷は武装以外は軽微で修理には時間はかからない。
 しかし、問題はマシロのガンプラだ。
 バトルで左腕を肩から破壊された事でポリキャップの一部のを損傷し、ゼロ距離でグレネードランチャーを撃ち込んだ事で片足の装甲にもダメージを負っている。
 残された時間がどれほどの物かは分からないが、余り時間をかけて修理をする事は工具も限られている為、出来ない。
 
「問題は無いさ。こんなこともあろうかと予備パーツは常備しているからな!」

 マシロはそう言って∀GE-1の足と腕、ポリキャップをタツヤに見せた。
 そして、すぐに破損した部分と取り換えた。
 ものの数分で∀GE-1は元の状態へと戻った。

「いつも常備しているのかい?」
「まぁね。バトルをしている以上はいつガンプラが壊れてもおかしくは無いだろ? だから、常に準備しておくのはビルダーの役目だからな」

 マシロの言う通り、ガンプラバトルはガンプラを直接動かしている関係上、負けた時はもちろんの事勝ってもガンプラが損傷する事がある。
 そう言った場合の為に事前に武器や壊れやすい場所の予備を用意しておくことは珍しい事ではなく、タツヤも武器の予備などは今日も持って来ている。
 尤も、マシロのように手足をそのまま新しく用意しているビルダーは稀だ。
 修理用の部品を用意しておくのと手足をそのまま用意しておくのとでは手間がまるで違う。

「ちなみに、家に帰れば予備の∀GE-1が100体はある」

 流石にそれはタツヤも驚いた。
 予備のガンプラを用意する事も特別珍しいと言う訳ではない。
 世界大会でも地区予選などで必要以上に情報を出さない為や少しでも温存する為に主力のガンプラを使わないと言う事は良くある事だ。
 だが、全く同じガンプラをそれも、100体も用意しているビルダーもファイターもいないだろう。
 しかし、タツヤは知らない。
 マシロの言う100体はあくまでも今、残っている予備機であって、マシロが∀GE-1を敵の視点から観察する為にCPU操作で多くの∀GE-1が壊れて使える部分は予備パーツと化したを。
 それを含めると更に多くの∀GE-1を作っている事になる。

「どうしてそんなにも……マシロ君は自分のガンプラが壊れることを何とも思ってないのか?」

 マシロの言い方からタツヤはそう感じた。
 同じガンプラを100体も用意していると言う事は使い物にならない程壊れた時に別の∀GE-1を使えば良いと言う事だ。
 つまりはマシロは自分のガンプラが壊れることに対して何も思う事は無いとも取れる。
 それこそ、勝つ為には自分のガンプラがどうなっても構わないと言うくらいに。
 今までのマシロのバトルを見ていても多少の損傷は気にすることなく前に出ている。
 その思い切りの良さは自分のガンプラと自分の腕に自信があるからと言うだけではなく、壊れても構わないとからでもあるのではないかと勘繰ってしまう。

「何とも思わない訳ではないけど……けどさ、ガンプラバトルを行う以上はガンプラが壊れることは仕方がない事だろ? ガンプラは壊れても直せるし、新しく作り直す事も出来る。世の中には一度壊れたら二度と直せない物だって多いんだしさ」

 マシロはそう言うが、それは答えにはなっている訳ではない。
 だが、タツヤはそれ以上、踏み込んで聞く事が出来なかった。
 どこか遠くを見ているようなマシロを見て、何となくマシロが過去に何かを壊してしまって取り返しの付かない事をしてしまったような気がしたからだ。
 これ以上、踏み込む事はマシロの内面に深く踏み込む事になってしまう。
 少なくともマシロが自分のガンプラを蔑ろにしている訳ではないと言う事で十分だと思った。

「さて、ガンプラも直った事だ。シオンと合流しよう。そろそろ次の対戦相手が決まる」
「そう……だね」

 タツヤもこれ以上はこの話題を避けたかった。
 無理にマシロの内面に踏み込んで今の関係を壊す可能性を前に尻込みをしてしまう事は誰も責めることは出来はしない。
 そんな事を気にも留めないマシロは別の試合を観戦しているシオンの方に向かい、タツヤもそれについて行く。
 一回戦を何とか勝ったマシロとタツヤのチームアメイジングだが、タツヤがマシロに対する疑惑と二人の間に漂う暗雲にまだ二人は気づいてはいなかった。



[39576] Battle06 「亀裂」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/16 09:41
 タッグバトル大会決勝トーナメント1回戦を勝利したマシロとタツヤは別の試合を観戦したシオンと合流した。
 試合その物は見ることは出来なかったが、試合の様子をシオンから聞いていた。

「次の対戦チームはチームイェーガーに決まりました。バトル内容は正直な話し良く分かりません」
「何で?」
「イェーガーの使用ガンプラがガンダムシュピーゲルとサンドージュです。バトル内容はイェーガーの劣勢だった筈ですが、いつの間にか勝っていたので、私には何が起きたのか……映像で残しておけばマシロ様の判断も仰ぐことが出来たんですが……」

 シオンはマシロの執事として付き従っているだけあってガンダム関連の知識はかなり深い。
 その為、相手のガンプラの種類を把握する事は出来る。
 バトルに関してもある程度は分かっているが、チームイェーガーのバトルは劣勢だったのに気が付いたら勝っていたと言う印象しか持てなかった。
 シオンが気づかずともバトルの様子を録画しておけば、マシロに見せれば何か分かったはずだ。
 どれだけ上手く隠したところでガンプラバトルにおけるマシロの嗅覚は人間離れしており、どんな不可解なバトルも一度見ればその謎を解き明かす事が可能だと言っても過言ではないとシオンは思っている。

「映像が無いのは仕方がないさ。とにかく、油断できない相手って事は分かったよ。シオン君」
「どの道、勝つのは俺だからな」
「申し訳ありません」

 相手の戦い方は正確には分からないが、相手が油断できない相手だと言う事は分かった。
 それが分かっているだけでも違ってくる。
 イェーガーの一回戦の相手はそれを知らずに優勢だと思って敗北している。

「そんじゃ、サクッと勝って来る」

 一回戦と二回戦の間のインターバルが終わり、マシロとタツヤは二回戦の会場へ向かう。
 二回戦のバトルフィールドは宇宙要塞内だ。
 無重力かつ、施設内でのバトルとなる。
 双方のチームの4機のガンプラは要塞内にランダムで出撃し、他のガンプラがどこにいるかは分からない状態でのバトルだ。
 要塞内は通路や巨大な部屋を初めとした閉鎖空間でのバトルとなる。
 相方のガンプラや敵のガンプラの位置が分からない為、仲間と合流する事を優先するか、自分の有利な場所で相手を待ち構えて罠を張るか、チームの戦略が試されるフィールドと言える。
 マシロとタツヤがGPベースをセットしてガンプラを置いた。
 今回、マシロは閉鎖空間での戦闘と言う事で射程の短いビームガンとガンダムアストレアF2のGNハンマーを装備されている。
 一方のタツヤの高機動型ザクⅡ改も閉鎖空間用の装備として、マシロと戦う為に用意したハンドガンを腰に装備させている。
 ザクマシンガンよりも威力も連射速度も劣るが、両手に2基持たせる事で二方向への攻撃を可能とする事で、高機動戦を得意とするマシロのガンプラに機動力で振り回されても対処できるようにするための装備だ。
 更には銃身が短い為、取り回しが良い事もあって中距離戦から近距離戦に移行した時に武器を変えることなく対応できるようになった。
 ハンドガン以外に手持ちの武器をザクバズーカからマゼラトップ砲に代えている。
 これは今までの装備がマシロのガンプラと白兵戦をする事を重視した装備で、今度はマシロの射程外からの砲撃を行う為の装備だ。
 マシロ程のファイターなら遠距離からの砲撃など避けることは容易いが、近接戦闘にばかり重視してマシロの得意分野で常に戦うのも癪だったからだ。
 自分がマシロの腕でもそうそう回避出来ない程の精度で砲撃を行えるようになれば、マシロも得意な近接戦闘に持って行けずに煮え湯を飲ませる事が出来る。
 遠距離の砲撃戦から中距離の射撃戦、近接戦闘までも高い次元で行う事が出来るガンプラが、タツヤの思い描くマシロと戦う為のガンプラだ。
 双方のチームがガンプラをセットして、バトルシステムが起動しバトルが開始された。

「まずはマシロ君と合流する事が優先か。相手は搦め手を得意としている筈だ。そう言う手合いにはこのフィールドは有利だからな」

 タツヤはまず、マシロと合流する事を優先して要塞内を進んでいた。
 シオンからの情報では普通に見ただけでは、劣勢なのにいつの間にか勝負に勝っていたと言う。
 つまりは、正攻法で攻めるのではなく、何かしらの搦め手で攻めて来るチームと言う事だ。
 この宇宙要塞においては隠れる場所も罠を仕掛ける場所も多く、搦め手で来るチームにとっては有利なフィールドだった。
 対する、タツヤとマシロは搦め手よりも正面切ってのバトルを得意としている。
 マシロのガンプラの場所は分からないが、今は立ち止まる事は出来ない。
 通路を進んでいると今度は広い円柱状の場所に出た。
 前方に道はは無く、先に進むには上に向かうしかない。
 
「嫌な場所だ」

 上に進むにしてもガンプラを隠すには十分な幅のパイプが何本も横切っており、避けて上がる事は簡単だが、敵が隠れることも出来る。
 すると、パイプの影に何かがいた為、高機動型ザクⅡ改はマゼラトップ砲を向けた。
 しかし、タツヤは一瞬、攻撃を躊躇してしまった。
 自分が見たのは影でそれがマシロのガンプラかも知れないと考えた。
 マシロの性格上、隠れると言う事はあり得ない為、すぐにマシロではないと考えを改めるも、それは致命的な隙となった。
 パイプの陰に隠れていたのは、対戦相手チームのガンプラ、サンドージュだ。
 サンドージュはパイプの影から飛び出て来ると高機動型ザクⅡ改に頭部の先から液体を吐き出す。
 その液体は高機動型ザクⅡ改の右腕に付着した。

「これは……瞬間接着剤か!」

 液体の付着した右腕の関節部が動かなくなり、マゼラトップ砲も手放す事が出来なくなった。
 サンドージュが吐きだした液体は瞬間接着剤でそれにより、高機動型ザクⅡ改の右腕の関節や右手とマゼラトップ砲を接着させたのだ。
 関節部は固まり、マゼラトップ砲の斜角は殆ど固定されてしまった。
 サンドージュは背部に装備されている2門のビームキャノンを撃ちながら後退する。






 タツヤがサンドージュと交戦する中、マシロの∀GE-1は通路をひたすら直進していた。
 ようやく、広間に出るとそこにはチームイェーガーのガンダムシュピーゲルが待ち構えていた。
 ∀GE-1が広間に入ると入って来た通路を塞ぐように爆発が起きた。

「俺を閉じ込めたのか」

 他の入口も瓦礫によって塞がれている。
 明らかに人為的に破壊されており、破壊したのがシュピーゲルのファイターである事は明白だ。
 
「俺とサシでやろってか」
「いざ参る!」

 ヒートランスを構えたシュピーゲルは∀GE-1の正面から突っ込んで来る。
 機動力が高い訳ではなく、直線的な動きをマシロが見切れない訳が無い。
 だが、シュピーゲルはただ、直線的に突っ込んで来た訳ではなかった。
 シュピーゲルの肩の装甲から煙が出て来て、すぐに部屋の中に充満して行く。
 出入り口を塞いでいる為、煙は外に漏れることは無かった。

「やべ……見えねぇ」

 煙で覆われた為にマシロは∀GE-1とシュピーゲルを見ることが出来なくなった。
 そして、∀GE-1はシュピーゲルのヒートランスの一撃をまともに受けて吹き飛ばされた。
 マシロの人間離れした反応速度は自分と相手のガンプラが見えて初めて成立する。
 今回のように視界を完全に遮られては、幾ら反応速度が速かろうと意味がない。

「怯えろ! 竦め! ガンプラの性能を活かせぬまま負けるのだ!」

 完全に視界を遮られるが、シュピーゲルはヒートランスで連続攻撃を繰り出す。
 その大半は∀GE-1を捕えることが無かったが、少しづつ攻撃は当たっている。

「相手も見えない筈なんだがな」
「これぞ、秘儀サイレント・キル!」

 条件は同じだが、相手の武器は間合いの長いヒートランスだ。
 一方の∀GE-1の装備はどちらも間合いの短い武器だった。
 ビームガンを適当に撃ったところで運良く当たってはくれない。
 それどころか、ビームの発光で自分の位置を相手に知らせている。
 シュピーゲルの武器がヒートランスなのはビームの発光で自分の位置を知らせない為なのだろう。
 煙が漏れないように出入り口を封鎖し、発光しない実体剣を使うあたり、相手はその戦い方を相当練習して来たと言う事だ。
 
「面白い戦い方ではあるけど……結局は適当に武器を振ってるだけか。ジャパニーズNINJAってのは火を噴いたり雷を出したり、デカい龍とか召喚したりともっと派手なのを期待してたんだがな。所詮は隠れ里で修業もしていない紛い物はこんなものか」

 ∀GE-1の動きを止めて武器を捨てた。
 それにより何度もシュピーゲルの攻撃が直撃して行く。
 
「勝負を諦めたか、潔いな。その潔さに免じて苦しまぬように仕留めてくれるわ」

 シュピーゲルは渾身の突きを繰り出す。
 ∀GE-1はシュピーゲルのヒートランスが当たるギリギリのところで最低限の動きでヒートランスを回避すると、ヒートランスを受け止めた。

「何と!」
「捕まえた」

 そして、足元に転がしておいたGNハンマーの棘を思い切り踏んでGNハンマーを上に上げた。
 GNハンマーが回転しながら、膝の辺りまで上がるとスタスターを使って勢いをつけてGNハンマーを膝蹴りと共にシュピーゲルの胴体に叩き付けた。
 その一撃でシュピーゲルのヒートランスを握っていた腕がもげて壁に叩き付けられて動きが止まった。

「馬鹿な……我が秘術によりお主は自身のガンプラを見失っていた筈……」
「案外ガンプラが見えなくてもあんまり関係なかったんだよね」

 マシロは最後の一撃の時も煙で∀GE-1もシュピーゲルも見えていなかった。
 しかし、動きを止めてからの攻撃の受ける場所とダメージからシュピーゲルの動きを予想した。
 何度かダメージを受けた事でその予想の精度を高めていった。
 それと同時の相手の攻撃時の微妙な煙の動きを把握した事で、ガンプラではなく煙の微妙な動きで最後の一撃をかわしたのだ。
 その上で足元に転がしておいたGNハンマーを蹴りあげて、その時の棘を踏み込む強さからGNハンマーが膝の辺りに来るかを計算して最後の一撃を叩きこんだ。
 マシロは簡単にやってのけたが、実際のところ相手が煙でガンプラを見えなくした事で自分の方が優位にいると思った事で動きが単調になっていた為、煙の動きからシュピーゲルの動きを予測する事は更に簡単になっていたが、そんな事を一々指摘する気はマシロには無かった。






 右腕を接着剤で固められた高機動ザクⅡ改に対してサンドージュは壁を這うように移動しては接着剤を掃出し、ビームキャノンで攻撃する。
 これ以上接着剤で動きを制限されるとまともに戦えなくなる為、高機動型ザクⅡ改は確実に接着剤は回避しなければならい。
 隙を見てマゼラトップ砲で反撃するが、サンドージュは後部からビームストリングスを出して一気に後ろに下がっては不規則な動きで翻弄して来る。
 
「厄介な動きをする」

 通路を縦横無人にサンドージュを狙う攻撃はパイプに直撃し、高機動型ザクⅡ改の進路の邪魔となる。
 サンドージュのビームキャノンを回避するが、接着剤が左足に直撃して左足の関節が固められる。

「不味いな……このままでは動きが完全に封じられる……」

 接着剤自体の攻撃力は皆無だが、関節を固められると確実に動きに影響が出て来る。
 その為にサンドージュを何とかしなければならないが、サンドージュは縦横無人に壁を這って移動できる。
 それに対して高機動型ザクⅡ改は追いかけるも、接着剤は思いのほか重く機動力が低下している為、サンドージュに追いつく事も出来ない。
 マゼラトップ砲で遠距離攻撃を行うも、縦横無尽に動けるサンドージュに接着剤で関節が固定されている為、狙いが上手くつけられずに当たらない。
 やがて、マゼラトップ砲も残弾が尽きる。
 接着剤で腕に接着されている為、残弾の尽きたマゼラトップ砲は捨てるに捨てれず重りとなる。
 左手で腰のハンドガンを抜くが、ハンドガンでは距離あり過ぎる為、当たる事は無い。

「これなら!」

 ミサイルとロケットランチャーを撃ち込むが、ビームストリングスを使った動きで回避する。

「厄介な動きをする!」

 空のミサイルランチャーとロケットランチャーをパージして少しでも軽くする。
 それでも軽くなったとはいえ、サンドージュに追いつく程ではない。
 サンドージュがビームストリングズをパイプに引っ掛けてビームキャノンを放とうとするが、突如、外壁が外から破壊される。
 そこからシュピーゲルのヒートランスが突き出ている。
 マシロがシュピーゲルを倒した際にヒートランスを奪って外壁を破壊してここまで直進して来た。
 それが偶然にもタツヤが交戦している通路に辿り付いた。
 更に偶然が重なってサンドージュは直撃する事は無かったが、外壁を破壊したのが相方のシュピーゲルであると誤認して一瞬の隙が生まれた。

「何だ?」
「今だ!」

 その隙をタツヤは見逃さない。
 ハンドガンでビームストリングスを撃ち抜いてサンドージュはバランスを崩した。
 更にハンドガンを撃ち込んでサンドージュには致命的な損傷を与えることが出来なかったが、サンドージュはパイプに叩き付けられる。
 ハンドガンの残弾を使い果たし、右腰のハンドガンを抜いてサンドージュに止めを刺して勝負が決まる。





 2回戦を勝利したマシロとタツヤは次の対戦相手となるチームの方はシオンに任せている為、決勝で当たると思われるクロガミ・レンヤの率いるチームブラックゴッドの試合を見ることにした。

「これは……」
「あのガンプラの壊れ方は……武器から潰して四肢を削いだな」

 バトルは思った以上に早く決着がついたらしく、ついた頃には勝負がついていた。
 勝ったのは予想通りのブラックゴッドの方だ。
 バトルの終了したバトルフィールドには彼らのガンプラ、ガンダムAGE-2 ダークハウンドとクロスボーンガンダムX2が残されており、対戦相手のガンプラがバラバラになっていた。
 バトルが終わり、得意げに相手を見下しているマシロやタツヤと同年代と思われる少年がクロガミ・レンヤでもう片方の目元が髪で隠れている少年が相方の方なのは雰囲気から察する事が出来た。
 マシロはその破壊され方からまずは武器から潰したと判断した。
 壊れたガンプラは武器が全て壊れてる。
 ライフルやシールドならバトル中に壊れることは珍しくはないが、固定装備やビームサーベル、バルカンまで装備の全てが壊れていると偶然と言うよりも狙って破壊したよ考える方が自然だ。

「酷いな。何もここまで破壊する必要はないのに……」
「そうか? 戦略をしてはありだと思うけど。まぁ、俺はそんなまどろっこしい戦い方は滅多にしないけどな」

 ブラックゴッドの戦い方をタツヤはそう感じた。
 バトルである以上は多少は相手のガンプラを破壊する事は仕方がない事だとはタツヤも思っている。
 だが、武器を破壊して戦闘能力を奪った時点で勝負はついている。
 バトルが終了していなくても、勝負がついた時点でそれ以上相手のガンプラを破壊する必要もないし、何よりそれだけの実力差を持ちながら敢えて相手のガンプラをいたぶるように破壊しているようで好きにはなれない戦い方だった。
 それをマシロは滅多にしない、つまりは必要があればやると言っている。

「本気で言っているのかい? マシロ君」
「ガンプラバトルは勝って終わらないと意味がない。確実に勝つ為にまず相手の戦闘能力を削ぐと言うのは間違ってはいないだろ?」

 タツヤは何かの冗談で欲しかったが、冗談でも聞き間違えでも無かった。
 マシロは彼らのやり方を認めていた。

「勝つ為って……勝ちたいと言う気持ちは僕にだって分かる。でも、ガンプラバトルには勝ち負け以上に大事な物だって……」
「ないね。ガンプラバトルは勝つ事が全てだ。どんなに互いの全力を出し尽くした熱いバトルも最後に負けてしまえば意味はないからな」

 勝つ事が全て……それはタツヤがマシロの口から最も聞きたくなかった言葉だ。
 マシロが勝つ為に自身を高める続けていると言う事はこの1週間で知っている。
 タツヤ自身、自分を高める為に妥協をしないマシロの事を尊敬すらしていた。
 それも全てはガンプラバトルで全力を尽くしてぶつかり合う為だと信じていたからだ。
 嫌、信じたかったのかも知れない。
 ただ、ひたすらに強さを求める姿勢は良く似ていたからだ。
 彼の師に当たる二代目メイジンカワグチに……

「取りあえずクロガミの奴だけあって少しは楽しめそうだ。それも次の元イタリアチャンプに勝たないと戦えないからな。明日に備えて今日は帰るわ」

 マシロはそう言い、タツヤはマシロに何も言えなかった。
 タツヤに対しての言葉を当たり前のように吐き出しているのか、マシロは全く気にした様子はない。
 そんなマシロの後ろ姿をただ見送る事しか出来なかった。



[39576] Battle07 「マシロの歪み」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/18 20:33
 タツヤとの間に亀裂が出来てしまった事に気づく事のないマシロはシオンと合流してホテルへの帰路についていた。
 車を使わず、ホテルまでは歩いて帰っている。
 これは、帰路でシオンが集めた情報を聞く為で、車と言う閉鎖空間ではどんなに慎重になっても盗聴器を仕掛けられる危険性があるとマシロが判断したからだ。
 シオンは流石にこの規模の大会で相手チームの情報を得る為に盗聴はしないとも思ったが、引きこもりで普段から運動をしないマシロには良い運動になるだろうと敢えて歩いて変えることにした。

「予想通りの展開で次の対戦相手は……」
「それは明日、ユウキと一緒に聞けば良い。それよりも大至急調べて欲しい事がある」

 次の対戦相手の事よりもマシロは気がかりな事が出来ていた。
 それこそ、次の対戦相手の情報よりもだ。

「レンヤのチームのもう片方の奴だ」

 マシロは決勝戦で当たると思われるクロガミ・レンヤのチームブラックゴッドのレンヤの相方の事が少し気になっていた。
 特にこれと言って理由がある訳ではない。
 ただ、漠然と何かあると感じた。
 
「一回戦の試合では余り活躍してなかったと思いますが……」
「それでもだ。理由は俺の感」
「分かりました。早急に調べさせます。ですが、場合によっては明日になるかも知れません」
「構わない。バトルが始まる前までに頼む」

 流石にタツヤの素性を調べた時は親が有名なだけあって時間はかからなかったが、今度は少し時間がかかる。
 それでも翌日で分かる辺り、彼らの持つ情報網がそれだけの力があると言う事だ。

「やはり、マシロ君ではないか!」
「……ラルさん?」

 マシロが呼び止められて立ち止まるとそこにはランバ・ラルに良く似た人物、ラルさんが息を切らしていた。
 
「まさかとは思って追いかけて見たが、やはり君だったか……」

 大会の観戦に来ていたラルさんはマシロを見かけてもしやと思って追いかけて来たようだ。
 多少、時間がかかった事が息を切らしている理由だ。

「そっちは……シオン君か! 君の方はずいぶんと様変わりをしたようだね」
「……まぁ、色々とありまして」

 ラルさんは息を整えて、シオンは少し遠い目をする。
 マシロもシオンもラルさんと会うのは数年ぶりだ。
 そんなラルさんの目から見ればシオンはかなり様変わりをしている。

「マシロ君の方は相変わらずのようだね。その白いマフラーを見てピンと来たよ」
「これは昔、大切な奴に貰った大切な物だからな」

 マシロはそう言って懐かしそうにマフラーに触れる。
 前に会ったのは数年前だが、その時も季節外れのマフラーをしていた事が印象に強く、それを見てラルさんもすぐにマシロだと言う事に気が付いた。

 「ラルさんは相変わらずラルさんだけど、なんでいんの? 今日は平日じゃん」
「……ユウキ少年が出ると聞いてな。彼は実績こそは公では余り知られてはいないが、実力は同年代の中では飛び抜けていて、次世代のガンプラバトルを担う一人と言っても過言ではないからね。そんな彼が大会に出ると聞いては見るしかないだろう。だが、見に来てみれば相方が君だったことは驚いたよ。いつ日本に?」
「先週。俺も大会に用があってね」
「申し訳ありませんが、私が用があるのでこの辺りで失礼しても宜しいでしょうか?」

 話しが長くなると踏んだシオンはそう言う。
 用とはマシロに頼まれた事だ。
 少しでも早く動き出した方が集められる情報も多く正確となる。

「おっと、済まんな」
「いえ、用は私一人で大丈夫ですので、マシロ様はラルさんと積もる話しもあるでしょうし」
「任せる」

 情報収集をシオンに任せて、マシロはラルさんと近くの喫茶店に入る。
 注文を終えると二人は一息つく。

「中佐の事は残念だった。まさか、あの人が事故であっさりと亡くなってしまうとはね……」
「結局、父さんも人間だったって事でしょ」

 ラルさんの言う中佐とはマシロの父親の事だ。
 ラルさんとは父を通じての知り合いで、その父親とは古い友人であった。
 そのマシロの父も数年前に事故で死んでいた。
 当時はその事は大きなニュースとなり、ラルさんもニュースでマシロの父の訃報を知る事となった。

「で、そんな昔話しをする為に俺を呼び止めた訳じゃないんでしょ?」
「せっかくの再会なんだ。もう少し昔話しに花を咲かせても良かったんだがね。本題に入るが、マシロ君はチームネメシスの事は知っているかね?」
「メタンハイドレートの発掘王が少し前に作ったガンプラチームの事だろ? ネットでニュースになってた」

 ラルさんの言うチームネメシスはマシロの言う通りメタンハイドレートの発掘王ヨセフ・カンカーンシュルヤが設立したガンプラチームだ。
 ガンプラチーム自体は多いが、その大半は個人が友人たちと作った物が多く、企業などがスポンサーに付くケースはほとんどない。
 オーナーであるヨセフが自身の資金をフルに投入して設備やファイターを充実させている事で話題を呼んでいる。

「そのネメシスのエースと言えばガウェイン・オークリーではあるが、未だに表舞台に現れることのない幻のエースが存在していると言う噂を耳にしてな。その幻のエースは白いガンプラを使ったビームサーベルによる二刀流を駆使して圧倒的な実力を持つと言われている。マシロ君は何か知らないかね?」
「ラルさん……それって、質問? それとも確認?」

 ラルさんの言い方は広い情報網を持つマシロにネメシスの幻のエースの事を聞いているようにも見える。
 だが、マシロはその事を質問していると言うとよりも、何か確信を持って言っているように聞こえた。

「だとしたら、答えはYESだよ」
「やはり君だったのか」

 ラルさんは大して驚いた様子は見られなかった。
 寧ろ、納得している様子だ。

「てか、俺はネメシスのファイターとしてバトルした事はないんだけど、なんで知ってんのかなぁ……」
「人の口には戸は立てられないと言う事だな。それにしても以外だな。マシロ君はそう言うのには興味がないと思っていたが……何か心境の変化はあったのかな?」

 マシロはある事情から表だってネメシスのファイターとしてのバトルを行った事は無い。
 それでも、本気で情報を秘匿した訳ではない為、情報が完全に秘匿できずに噂レベルで流れてしまう事は仕方がない事だった。
 ラルさんの知るマシロはチームに属するタイプではなかった。
 だが、今はチームに属している。
 この数年で何かしらの心境の変化があったと考えるのも自然な事だ。

「別に……兄貴の命令だから」
「お兄さんと言うと……ユキト君の事か?」
「そっ、今はその兄貴が家を仕切ってんの。んで、うちのボスの孫がガンプラに興味を持ったからボスはネメシスを作って、兄貴はボスとの関係を良好にする為のご機嫌取りとして俺をネメシスに入れたって訳。無意味に敵を作る事は三流のする事だってのが死んだ父さんの口癖だからね」

 チームネメシスの設立に当たり、不可解な事があった。
 企業などがガンプラチームのスポンサーになる場合は何かしらのメリットがある場合が大抵だ。
 それがない場合は、企業の社長が単にガンプラ好きと言うケースもあるが、ヨセフに関してはそのどちらでもない。
 チームに金を使ったとしても、ヨセフにはメリットがなく、彼自身がガンプラやガンダムに興味を持っていると言う話しは聞かない。
 だが、彼の孫がガンプラに興味を持っていたのであればそれも頷ける。
 そして、父の死後家を取り仕切っているマシロの兄の命令でマシロはチームネメシスに所属させられていると言う訳だ。

「そんで、今はボスの孫の為に限定モデルのガンプラを手に入れる為にこんなところまで来てるって訳。つまんねーお使いだよ」

 マシロが大会に参加する理由は優勝賞品のガンプラだが、それ自体にマシロは興味はないのだが、ヨセフが孫の為に手に入れて来いと言う事でマシロはここまで来たと言う事だ。

「マシロ君はそれで良いのか?」
「俺としても特別、やる事に代わりはないから気にする事もないよ。家の中で家の金でガンプラをやるか、チームでボスの金でガンプラをやるかの違いしかないし、ボスからはボスの命令さえ守れば好きに動いて良いって言われているし、チームの金も好きに使って良いって言われてるから家にいる時と結局のところ環境はそんなに変わらないし」
「そうか……」

 マシロにとっては今までの家に引きこもる生活と今の生活に大した違いはない。
 ただ、面倒な事が少し増えるくらいの差でしかない。
 どの道、自分の好きなだけ、ガンプラを作りバトルする事が出来る。

「まぁ、家にいた時は基本CPU戦ばかりだったから、対戦相手が多く揃ってるってのはいいかな。ガウェインなんて練習相手には丁度良いし」

 家にいた時のバトルの相手はマシロが自分で制作したガンプラを相手にCPU戦が殆どでたまにガンプラを買いに外出して適当な相手をバトルしている。
 ガンプラを買いに行く国はその時々で違う為、対戦相手の実力にムラが大きい。
 だが、ネメシスのファイターは実力者を集められていると言う事もあり、ある程度の実力者が揃っている。
 その大半は相手にもならないが、チームのエースと目されているガウェインは世界レベルの実力者でマシロにとっては練習相手を務めることが出来る。
 CUP戦とは違い生きた相手とバトル出来ることは、家にいる時よりも練習としては意味がある。
 CPUはプログラム通りのバトルしか出来ない事に対して、生きた人間は独自で考えて行動して来るからだ。
 そんな、マシロの事をラルさんは少し複雑そうな表情で見ている。

「用件はそれだけ? これでも明日のバトルに備える必要があるから暇じゃないから。帰るわ。会計はよろしく」
「忙しいところを済まんな」
「別に」

 マシロはそう言って店を出て行く。

「中佐、貴方が危惧していた通りの事になっているようです。マシロ君は純粋でいて歪んでしまったようだ」

 ラルさんはマシロの後ろ姿を見て呟いた。
 マシロの父が生前にラルさんに話していた事がある。
 それは、マシロがこのままでは純粋が故に歪んでしまうと言う事だ。
 その当時は意味が分からなかったが、今の会話でそれを確信した。

「このままでは彼は破滅の道しかなくなるだろう。だが、ワシにはどうする事も出来んようです」

 そして、マシロの父はそれによってマシロが将来的に破滅するかも知れないと言う事も危惧していた。
 それを何とかしたいと思っていたようだが、間が悪く事故によってこの世を去っている。
 友人の忘れ形見であるマシロを破滅の道から救いたいと願ったところで父の友人と言う関係でしかないラルさんにはどうする事も出来はしない。

「だが、家から外に出た事で何かきっかけがあれば良いのだが……」

 ラルさん自身に出来ることは限られている。
 だが、希望は残されている。
 今までは家の中にいたマシロが理由はどうあれ外の世界に出て他人を関わりを持つようになっている。
 本人が望まずとも、それは否応なく、マシロに影響を及ぼすだろう。
 それによってマシロが破滅の道から外れて行くことを願うしかなかった。









 大会を勝ち抜きベスト4まで残る事が出来たが、帰宅したタツヤの表情は暗い。
 バトルの中で高機動型ザクⅡ改の完成系が見えて最後の改良をしているが、それ以上にマシロとの事が大きかった。
 ガンプラの補修を行いつつも、上の空だった。

「負けた訳でも無いのに、出て行く時とは全然違いますけど、どうかしたんですか?」
「いや……何でもないよ。ヤナ」

 タツヤは後ろでコーヒーを入れて来たメイドのヤナにそう言うが、タツヤとの付き合いの長い彼女には単に強がっているだけにしか見えなかった。

「私で良かったら話して見てはいかがですか? タツヤさんの事ですから、一人で考え過ぎて頭がハツカネズミにでもなってそうですし」
「そう……だね」

 確かに、一人で考えたところで同じことをグルグルと考えるだけでどうしようもない。
 タツヤはそこから抜けだす為にもヤナに今日の出来事を相談する事にした。

「成程成程……つまり、そのマシロ君が二代目メイジンと同じ考えなのではないかとタツヤさんは思っていると」
「要約すればね」

 タツヤから事情を聴いたヤナは一息つく。
 
「それで、マシロ君は何って言ってました?」
「だから……」
「そうではなくてですね。勝つ事が全て発言に対してですよ。まさか、それしか聞いてないとか聞いていないと言う事はないでしょうね?」

 タツヤは無言で返す。
 それは明らかな肯定を示している。

「はぁ……駄目じゃないですか! ちゃんと話しをしないと! 対話は重要なんですよ! もしも、それが不幸な食い違いによる誤解だったらどうするんですか? その誤解から不和を呼んで分かり合えなくなっちゃいますよ」
「ヤナ、怖いんだよ。僕は……本当に彼が二代目同様に勝利のみを追求しているのであれば……僕はマシロ君と戦えない」

 それがタツヤの本音だった。
 マシロに詳しく聞く事は出来たはずだ。
 それなのにそれをしなかったのは怖かったからだ。
 二代目メイジンのようにただ勝利のみを求めているのであれば、タツヤはもうマシロと組んで戦う事が出来ない。
 そうなれば、二人の関係が終わってしまう。
 
「タツヤさんは物事を深く読み過ぎかもしれませんよ。案外コーヒーを一杯飲んでいる間に解決できる程度のことかも知れないですよ」
「そんな単純な問題とも思えないよ。僕には」
「でも、このままでは明日で終わりなんですよ」

 ヤナの言葉にタツヤはハッとしてしまう。
 今までは余り考えていなかったが、ヤナの言う通りだった。
 どの道、明日のバトルで勝っても負けてもマシロとのコンビは終わりだ。
 マシロが大会後にどうするかは知らないが、日本に住んでいる訳ではなく、大会の為に日本に来ているのであれば大会終了後には帰国する可能性が高い。
 
「どの道、終わりなら当たって砕けてもいいんじゃないんですか? 出会いがあれば別れもあるんですから……上手く行かなくても今回はちょっと悲しい別れだったと言う事ですよ。でも、必ずしも上手く行かないって決まった訳でも無いんですし……仮にタツヤさんの考え過ぎだったら……このまま誤解したままだといつか後悔しますよ」

 マシロが勝利する事をバトルにおいて最重要視している事は否定の出来ない事実かも知れない。
 だが、それ以上はタツヤの推測にすぎない。
 その道、明日で終わりだと言うのであれば当たって砕けると言うも一つの手ではある。
 
「最悪、タツヤさんも男の子なんですから、河原で夕日をバックに殴り合えば分かり合えますよ」
「いつの時代の話しだよ……ヤナ。でも、確かにそうかも知れないな。僕もマシロ君もファイターなんだ。なら、バトルの中で分かり合えば良いだけの事か……後は実行するだけか」

 タツヤの中で何かが開けた気がした。
 結局のところ、人と人との問題で相手がいないところで考えたでも答えが出る訳もなかった。
 タツヤもマシロもファイターで、マシロもバトルでは嘘はつけない筈だった。
 想いを新たにタツヤはガンプラを最後の改良を行う。







 決勝戦の当日、マシロはシオンより先にホテルを出ていた。
 何だかんだと言っても、久しぶりにガウェイン以外の世界レベルのファイターとのバトルで、マシロは夕べは一睡もしていない。
 その為、朝早くから会場に向かっていた。
 その道中で信号が赤となってマシロは止まろうとするが、待つのが面倒になり近くの歩道橋の方に向かった。
 歩道橋を上り道路を渡る際に人をすれ違うも、歩道橋の上ですれ違った人の事を気にしないのは当然の事だった。
 そして、歩道橋の下りの階段に足を踏み出そうとしたが、マシロの足の先には階段は無く、明らかに階段を踏み外していた。
 流石に階段を踏み外すと言うドジをする訳もなく、それ以上に踏み出そうとした瞬間に背中に圧迫感を感じた。
 人並外れは反応速度を持つマシロはすぐに自分の状況を把握する事が出来た。
 何者かに背中を押されて歩道橋の階段から落ちかけている。
 それを把握すれば次の手を考えることが出来た。
 階段の手すりを持てば無傷とまではいかないが、最悪の事態は回避できる。
 マシロは体を反転させて、手すりに手を伸ばそうとする。
 だが、そこまで考えるとある問題が生じた事に気が付いた。
 マシロは人間離れした反応速度とそこから一瞬にして思考を回転させる事が出来る。
 そこだけを聞くとマシロは超人のようにも聞こえるだろう。
 しかし、マシロの身体能力は同年代の女子にすら劣る。
 自分の身体能力では手すりに手を伸ばして掴む事も難しく、仮に掴めたとしても落下を阻止する事も難しい。
 最悪の事態は掴んで、落下の衝撃に耐えきれずに落ちることだ。
 そうなれば手すりを掴んだ腕を怪我しかねない。
 腕を怪我すれば、今日のバトルで影響が確実に出て来る。
 それは何としても避けねばならない事態だった。
 それらを総合してのマシロの判断は手すりを掴まずに落下すると言う物だった。

(糞ったれ……こういう手で来やがったか!)

 マシロは腕を庇い視界が反転する中で毒づいていた。




[39576] Battle08 「チームの形」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/20 18:32
 マシロと向き合う事を決めたタツヤは覚悟を胸に大会の会場に到着した。
 会場にはすでにシオンが到着していたが、マシロの姿は無かった。

「マシロ君は?」
「先にホテルを出た筈なんですけどね……あの人の事ですから、どこかで道草でもしてるんでしょう」

 シオンは普段から、マシロの行動からそう判断していた。
 
「ですが、バトルの時間には遅れると言う事はないので大丈夫でしょう。今日の対戦相手の事です。ユウキ様もすでに知っていると思いますが対戦チームはチームアモーレ、去年のイタリアチャンプのブルーノ・コレッティのチームです。相方はアンナ・コレッティ。夫婦ですね」
「それでチーム名がアモーレ。愛と言う訳か」
「それはさておき、使用ガンプラはメリクリウスとヴァイエイトの改造機です」
「メリクリウスとヴァイエイトか……確かにタッグバトルとなれば誰かが使ってもおかしくはないね」

 対戦相手のメリクリウスとヴァイエイト登場作品であるガンダムWにおいて攻撃と防御を分担して2機での運用を前提に設計されたモビルスーツである。
 基本的にガンプラバトルは一体一が基本だが、今回の大会のようにタッグバトルなどのチームで組むようなルールではガンダムの作中と同じ運用方法でチームを組むと言う事は珍しい話しではない。

「奥方のアンナ・コレッティもまた、イタリア予選の上位に入賞する程の実力を持ちます。それ以上に彼らは単体でのバトルよりもタッグで組んだ時の方が強いと言うデータが出ています」

 相手は世界大会に出る程の実力者である為、ホテルに帰ってからマシロに頼まれていた事を指示した残りの時間で情報収集で情報を集めることも容易だった。
 その中で夫であるブルーノだけでなく、妻のアンナの実力もイタリア予選で上位に入れる程の実力で十分に世界レベルだ。
 そして、ブルーノとアンナの実力は単体でのバトルよりも二人で組んだタッグバトルの方が強いと言う事が判明した。
 ガンプラバトルはファイターの数だけバトルスタイルがあると言っても過言ではない。
 中には一人でバトルするよりも誰かと組んだバトルの方が実力を出せるファイターもいる。
 ブルーノとアンナもそのタイプのファイターと言う事になる。

「ガンプラの方も双方の特性を更に強化していますね」
「最強の矛と盾を超えた究極の矛と盾を持つファイターか……強敵だ」
「ですね。現状ではマシロ様とユウキ様は連携のれの字もないですから」
「耳が痛いよ」

 大会において一度すらもタツヤとマシロは連携を取った事は無い。
 マシロは一人で突撃する為、タツヤは取り残されて結局一人でバトルする事になる。
 それでもここまで勝ち上がる事が出来たのは一重にマシロとタツヤの実力が参加者の中でも飛び抜けているからだろう。
 しかし、次の相手はどちらも世界レベルのファイターだ。
 その上で連携を得意をする二人に連携をしないタツヤ達では勝算は低いと言わざる負えない。

「関係ないね。俺は勝つ。それだけだ」
「マシロ君……」

 遅れて到着したマシロを見てタツヤの表情が硬くなる。
 覚悟を決めたとはいえ、やはり気まずい。

「どこで油を売っていたんですか?」
「別に良いだろ。バトルには間に合ったんだ」

 マシロはさっさと会場の方に向かって行く。
 シオンはマシロの歩き方に違和感を覚えた。
 マシロが遅れた理由は歩道橋から落ちたと言う事は二人に言うつもりはなかった。
 落ちた事でマシロは体の至るところを怪我しているが、それを押し隠している為、歩き方が微妙にいつもとは違った。
 常に行動を共にしていたが、故にシオンは小さな違和感を感じたが、タツヤの方は自分の事で手一杯である為、気づかない。

「マシロ君、この戦いが終わったら……」
「それ以上は死亡フラグ。さっさとしないと失格になるぞ」
「分かったよ」

 マシロがタツヤの言葉を遮るが、確かにマシロの言う通りだ。
 早いところ受付を済ませてないと二人は棄権と見なされて失格だ。
 マシロの動きに違和感を感じるも確証が無い為、シオンは二人を見送り観客席へと向かう。
 会場にはすでに観客が多く集まりっている。
 バトルシステム越しの対面にはすでに対戦相手のブルーノとアンナがすでに待機していた。
 長身のブルーノと妖艶なアンナが人目をはばからずに体を寄せ合っている。

「ようやく来たか少年達!」
「待ちくたびれたじゃない」
「申し訳ない」

 タツヤとマシロはバトルシステムの前に立つとバトルを行う4人がGPベースをバトルシステムにセットする。

「メリクリウス・ムーロ!」
「ヴァイエイト・ランチャ!」
「ザクアメイジング!」
「ガンダム∀GE-1」

 それぞれが自分のガンプラをバトルシステムにセットする。
 歩道橋から落ちたマシロだが、ガンプラの方は傷一つついていない。
 マシロが普段からガンプラを入れて持ち歩いているケースはマシロの伝手で特注した物だ。
 その強度は大気圏を突入しても無事だと言う触れ込みで、核ミサイルの直撃にも耐えられる仕様と言われている。
 それが事実かどうかを確かめる術は無いが、少なくとも階段から落ちた時の衝撃程度ではガンプラが傷つく事はあり得ない。
 それにより発生した衝撃も内部に届く事は無く、マシロのガンプラは無事だった。

「情報通り、メリクリウスとヴァイエイトか……てか、しれっとチーム名を入れてんなよ。まるでユウキのチームみたいじゃん」

 タツヤのガンプラは昨日までの高機動型ザクⅡ改とは少し違っていた。
 装甲にリアクティブアーマーを増設し、手持ちの火器が戦車の砲身を流用して自作したロングライフルとなっている。
 これこそが、タツヤがマシロと戦う為に完成させた新たなガンプラ、ザクアメイジングだった。
 それよりも、マシロはチームの名であるアメイジングをガンプラの名前に付けた事を講義するが、タツヤは苦笑いで誤魔化す。
 あまり、文句を言っている時間もなくバトルが開始された。

「マシロ君。相手は世界レベルだ。慎重に……」
「関係ないね」

 ガンダムAGE-FXのスタングルライフルを装備した∀GE-1はタツヤのザクアメイジングを置いて飛び出す。

「来た」

 ∀GE-1はスタングルライフルのチャージモードをいきなり撃ち込む。
 だが、放たれたビームは霧散して消える。

「プラネイトデェフェンサーか……」
「その通り。俺のメリクリウス・ムーロはあらゆる攻撃を防ぐ鉄壁の壁! ハニーへの攻撃はさせないぜ!」

 メリクリウス・ムーロの周囲にはベースとなったメリクリウスの象徴とも言える防御兵器のプラネイトディフェンサーが展開されている。
 これにより発生させられた電磁フィールドによりビームが防がれたと言う事だ。
 
「数は……30と言ったところか」

 通常、メリクリウスには10基のフィールドジェネレーターが搭載されている。
 だが、メリクリウス・ムーロにはその3倍の30基が装備されている。
 それによってより広範囲や高出力のビームに対応している。
 更には本体の両腕にはリーオーのシールドが装備され、両手には下部にビームサーベルのグリップを接着したビームライフルを装備している。
 単純に防御力を上げただけでなく、攻撃力も増強されている。

「愛してるわ! ダーリン!」
「マシロ君!」
「分かってる!」

 その後方から強力なビームが戦場を横切る。
 メリクリウス・ムーロの後方にはアンナのヴァイエイト・ランチャがメガバズーカランチャーを構えている。
 百式の装備を流用し、バックパックと両肩、両腰にビームジェネレーターを増設した事でメガバズーカランチャーのチャージ時間を短縮している。
 火力を増強しているが、巨大なビーム砲を抱えている為、機動力は皆無だ。
 しかし、それをメリクリウス・ムーロの鉄壁の防御力で補っている。
 ∀GE-1とザクアメイジングは回避するが、そこをメリクリウス・ムーロがビームライフルで狙う。

「これが究極の盾と矛……流石は世界最強クラスのタッグファイターだ!」
「知った事か!」
 
 ∀GE-1はスタングルライフルを撃ちながら、突撃する。
 ビームはプラネイトディフェンサーに防がれて、メリクリウス・ムーロはビームライフルで反撃する。

(おかしい……いつものマシロ君の繊細さがまるでない。あれでは勇猛ではない。ただの無謀だ)

 タツヤはマシロの動きからそう感じていた。
 一見、攻撃を受けることを気にしないで突撃して行く様子はいつものマシロの戦い方だ。
 だが、いつもはギリギリで攻撃をかわすか、影響のない程度の攻撃は気にしないで突っ込むが、相手は世界レベルのファイターのガンプラだ。
 一撃一撃が下手をすれば致命傷になり兼ねない。
 今のところは被弾しても、目立った損傷はないが、それでもバランスを少し崩して足を止めてしまっている。
 これはいつものマシロの戦い方ではないとタツヤには一目で分かる。
 実際、歩道橋から落ちた時に腕は守ったが、それ以外のところは守り切れずに負傷をしている為、マシロは本調子とは程遠い。
 それをタツヤやシオンには隠しているが、流石にバトルには少なからず影響が出ている。

「射撃がダメなら!」

 ∀GE-1はメリクリウス・ムーロの攻撃をかわして突っ込む。
 プラネイトディフェンサーの電磁フィールドを突撃して強引に内部に入り込む。

「全く……無茶な戦い方をする!」
「この距離ならプラネイトディフェンサーの影響はないだろ」

 ∀GE-1は左腕の装甲からビームサーベルを展開して、メリクリウス・ムーロに突き出す。
 メリクリウス・ムーロは腕のシールドを掲げた。
 ∀GE-1のビームサーベルはシールドに当たると霧散した。

「ちっ……シールドにIフィールドを仕込んでやがったか!」
「生憎とその程度の攻めじゃメリクリウス・ムーロの壁は崩せないんでね!」

 メリクリウス・ムーロのシールドには表面に特殊な塗装がされており、それによりプラフスキー粒子を変容させる事でビームを弾く事が出来る。
 この技術は世界大会において大型モビルアーマー等に使われる事が多く、ビームを弾く事からガンダム内の技術から名前を取って「Iフィールド」と呼称されている。
 メリクリウス・ムーロのシールドもまた、特殊塗装によりIフィールドが使える。
 故に∀GE-1のビームサーベルの粒子が変容して霧散した。

「なら!」

 今度は至近距離からスタングルライフルを放つが、シールドのIフィールドで防がれる。

「マシロ君!」
「分かってる!」

 後方からヴァイエイト・ランチャのメガバズーカランチャーが発射されて、∀GE-1は回避するが、メリクリウス・ムーロがビームライフルで追撃して、スタングルライフルに被弾してライフルを捨てた。
 メリクリウス・ムーロの攻撃をかわしているうちにプラネイトディフェンサーの外まで追い出された。

「離れてはプラネイトディフェンサーに接近戦ではIフィールド……ガッチガチに守りを固めやがって」
(このままじゃ駄目だ……僕達も連携しないと……)

 ブルーノとアンナを前にタツヤはそう考える。
 相手はどちらも世界レベルのファイターでタッグバトルを得意とする。
 バトル前から連携の必要性は感じていたが、実際にバトルしてそれを実感した。
 4人の中で単純な実力はマシロが一番だろう。
 だが、マシロの調子が悪い事を除いても、マシロも攻め切れていない。
 それは、アンナのヴァイエイト・ランチャが機動力を犠牲にした火力による砲撃支援のタイミングとブルーノのメリクリウス・ムーロの鉄壁の守りが成せる業だ。
 単体ではマシロに劣っても二人のコンビネーションによってマシロに互角以上の戦いをしている。
 それに比べてタツヤ達は個々の技術は優れていたとしても、個々で戦っている。

(だけど……僕は……)

 連携の重要性を感じながら、後一歩が踏み出せない。
 連携に重要な要素は互いの信頼感だ。
 マシロがタツヤの事をどう思っているかは、タツヤ自身は分からないが、タツヤはマシロの事を今一つ信じ切れていない。
 
(このままでは僕達は勝てない……なら)

 バラバラで戦うだけではタツヤとマシロに勝機はない。
 このままでは勝てないと自覚したタツヤは賭けに出る覚悟を決めた。
 
「マシロ君」
「どした?」
「君に聞きたい事がある」
「後にして欲しいんだが、こいつら予想以上にやる」

 タツヤはマシロに通信を入れる。
 二人の距離は大して離れている訳ではないが、会場の騒音で普通に話しをしても聞こえ辛いと言う事もあり、互いに通信を入れることが出来るようになっている。
 マシロは怪我や事前情報で聞いていた以上に強い為、余りタツヤと話している余裕はなかった。
 
「聞いてくれ!」

 タツヤもマシロが調子が悪いと言う事は予想以上に強いと言う事は十分に理解している。
 それでも声を上げてマシロに話しを聞いて貰おうとする。
 恐らくは出会ってから初めて声を上げた事でマシロも、驚きタツヤの言葉に耳を傾ける。

「君はガンプラバトルは勝って終わらないと意味がないと言っていたね。僕には分からない! 勝つのみを求めるバトルに何の意味があるのか! 答えてくれ!」

 タツヤは昨日抱いた疑念をマシロにぶつける。
 勝つ為にはマシロの事を信じる事が必要となる。
 昨日の事で信じる事が出来なくなったため、ヤナに入れたみたいにマシロと正面から向き合おうとした。
 これでマシロが二代目メイジンのような勝つ事のみを追求するファイターであるのなら、どの道、チームを組む事は出来ずにここで敗退する事になるだろう。 
 最後の希望を託してタツヤはマシロに叫んだ。
 意を決しての叫びだが、マシロの方はキョトンとしていた。

「確かに俺は勝って終わらないと意味がないって言ったし、勝つ事が全てだとも言った。けど、勝つ事のみを追求するなんて言ってないんだが……けど、何の意味があるかって聞かれたら、意味なんてないと俺は答えるね。勝利は何かを得る為の手段でしかない。手段が目的となった時点でそいつの器は知れてる」

 確かにマシロはガンプラバトルは勝って終わらないと意味がないとも、勝つ事が全てだとも言った。
 しかし、タツヤの言うような勝つ事のみを追求しているとは言ってはいない。
 その二つは似ているようで違う。
 マシロにとっては勝利とは何かを得る為の手段に過ぎず、勝利のみを追求する事に意味は無かった。

「じゃあ、マシロ君は何を求めて勝利を得ようとしている?」
「何って……楽しいじゃん」
「は?」

 予想外の答えに今度はタツヤの方が呆気に取られていた。

「いや、はって、何ザクがビームライフルを食らった顔してんの? 勝つと楽しいのは当たり前じゃん。勝てば楽しいし負ければ死ぬほど悔しい。だから俺は勝つ。だけど、弱い奴に勝ってもつまんねーからより強い勝つに勝つ事の方が俺は好きだね。そんで、俺の作ったガンプラは最強で俺がガンプラを一番上手く操れると言う事を証明する事が堪らなく楽しい」

 余りにも予想外過ぎてタツヤは一瞬思考が停止して言葉の意味を理解するのが遅れた。
 
「何だよ。俺、変な事を言ったか?」
「……いや、変じゃない……」

 タツヤは込み上げて来る笑いを何とか押し留める。
 マシロの答えを聞いて、今まで変に考えていた自分がおかしく思えて来たからだ。

(勝つと楽しくて負けると悔しい……当たり前の事じゃないか)

 ガンプラバトルを始めたファイターは最初は自分の作ったガンプラが動くだけ満足だが、バトルを始めるとそうではなくなる。
 バトルで自分のガンプラが勝てば嬉しくて楽しいが、負けると悔しい。
 悔しいから負けないように強くなろうとする。
 これはファイターなら誰しもが通る道だ。
 タツヤもガンプラバトルを始めた時はそうだった。
 自分の作ったガンプラが誰のガンプラよりも強いと思いたいのも誰もが思う事だ。
 マシロは楽しいから勝つ……それだけの事だった。

(二代目の思想に囚われていたのはマシロ君の方ではなく、僕の方だったみたいだ……何をやっていたんだろうな。僕はあの人からガンプラバトルは楽しい物だと言う事を教えて貰っていたと言うのに……) 

 タツヤは二代目メイジンの勝つ事のみを追求するバトルを認める事が出来ずに否定する余り、マシロの事を二代目と同じなのではないかと勘繰っていた。
 それは例えマシロの言い方に問題があったとしても、結局のところタツヤもまた二代目の思想に囚われていたと言う事だ。
 
「マシロ君、僕は理解したよ。君と言う存在を……己のガンプラが最強である事を証明する為に勝つ……その気持ち愛だ! ガンプラへの愛が君を勝利へと駆り立てそこまで強くしたと言う事か!」
「えっ……ああ……うん。まぁそんな感じだ。うん」

 疑念から一転、マシロはただひたすら自分のやり方でガンプラバトルを楽しんでいたに過ぎないと言う事が分かり、タツヤの中で何かが突き抜けた。

「で、壊れてるところ悪いんだが、どうする?」
「メリクリウスの方はIフィールドを持っているから実弾を中心とした僕のザクアメイジングの方は良いと思う。ヴァイエイトの方は完全に砲撃に特化しているから、機動力の高いマシロ君の∀GE-1の方が良いと僕は思う」
「同感だ」

 タツヤがマシロに叫んだ事でマシロの方でも少し頭が冷えて、冷静さを取り戻していた。
 
「少年の主張は終わったか?」
「律儀に待っててくれたのかよ」
「まぁな」

 二人の会話中、相手チームの攻撃は止んでいた。
 タツヤが叫んだ事は相手チームの方にも内容はともかく、届いていた。
 事情は分からないが、空気を読んで攻撃を控えていたと言う訳だ。

「そいつはどうも」
「なら、その借りはバトルで返さないとね!」

 ∀GE-1は腰のビームサーベルを両手に持ち、ザクアメイジングがロングライフルを構えた。
 待っている間にチャージされていたメガバズーカランチャーが放たれて2機は散開する。
 散開した2機にメリクリウス・ムーロがビームライフルで近づけさせないようにする。

(とは言ったものの、僕達に彼らの連携に対抗する連携は出来ない)

 マシロへの不信感が無くなったとは言っても、いきなりブルーノとアンナのような連携を取る事は不可能だ。

(あれだけの連携を取れる理由は互いへの信頼感。夫婦として人生を共に歩いて行くからこその戦いと言ったところか……ならば、僕とマシロ君だからこその戦い方でなければ二人に勝つ事は出来ない)

 タツヤは必死に打開策を考えた。
 彼らと同じように戦う事は出来ないし、やったところで勝ち目はない。
 勝つ為にはタツヤとマシロでしか出来ないやり方を模索するしかない。
 タツヤが考える中、マシロは単独で向かって行く。

「そう何度も接近させるかよ!」
「行くわよ!」

 メリクリウス・ムーロがビームライフルで牽制して、ヴァイエイト・ランチャがメガバズーカランチャーを放つ。
 辛うじてメガバズーカランチャーの直撃はかわしているが、このままではマシロの∀GE-1も限界が来る。

(落ち着け……焦ったら駄目だ。今はマシロ君が相手を引きつけている。その間に打開策を考えるんだ)

 マシロが何度も接近を試みている為、タツヤの方は考えるだけの余裕がある。
 
(僕とマシロ君でしか出来ない戦い方はきっとある筈なんだ)

 時間にそれ程、余裕がある訳ではないが、マシロが時間を稼いでいる為、その時間を最大限に使って考える。
 自分達にしか出来ない戦い方を。

(僕とマシロ君か……そう言えば、余り良く考えた事は無かったな。僕とマシロ君の関係は……友達? 相棒? 何か違うな)

 二人でしか出来ない戦い方を考えるにあたり、自分達の関係から考える事にした。
 まず浮かんで来たのが友達や相棒と言う関係だが、どこかしっくり来ない。
 友達や相棒にしては互いの事を知らなさすぎる。

(案外、分からない物だな……僕とマシロ君は友達や相棒ではない、ましてや彼らのような夫婦と言う訳でもない……そう、強敵(ライバル))

 強敵と書いてライバル。
 それが一番、しっくり来た。

(なら、やる事は一つだ)

 自分達の関係を見直して答えを見つける事が出来た事で見えて来た事があった。
 ザクアメイジングがロングライフルを放つ。

「ようやく、やる気になったか」
「まぁね。さっそくで悪いけど……僕が決めさせて貰うよ」

 ザクアメイジングはメリクリウス・ムーロの方に向かう。
 ワンテンポ遅れて∀GE-1もそれに続く。

「さっきまでサボってた癖にいきなりやる気になってんじゃん」
「当然。僕は彼らだけでなく、マシロ君にも負ける気はない!」
「上等!」

 ∀GE-1とザクアメイジングはまるで競い合うかのように向かって行く。。
 マシロとタツヤの間にはある物は信頼感ではなく、互いに強敵としてのライバル意識だ。
 マシロに負けた事でタツヤはマシロに勝ちたいと思った。
 マシロもタツヤに勝ったが、最後は本気となった事で将来的に自分に追いつくかも知れないと言う可能性を見た。
 それ故にタツヤは連携を取るのではなく、競い合うと言う道を選んだ。
 互いに互いを意識して競い合う事で互いの能力を引き出し合う。
 これがタツヤが見つけたチームアメイジングとしてのチームの形、二人の戦い方だ。
 マシロがそれを意識している訳ではないが、負ける事を嫌うマシロなら例え、相方であるタツヤに負ける事も嫌だと言う事は想像しやすかった。
 タツヤもマシロには負けたくはないと意識を今でははっきりと感じている。

「何だ……こいつら! 動きが急に!」
「気を付けて! さっきまでとは違うわ!」

 急に動きが変わった事でブルーノとアンナも困惑している。
 動きが変わった事や互いに競い合ってプラネイトディフェンサーを突破しようとしている為、メリクリウス・ムーロでは手が足りなくなる。
 砲撃支援を行おうにも、連射が出来ない為、時間をおいての支援しか出来ない。

「俺の勝ちだ!」
「まだ、終わってない!」

 ∀GE-1がプラネイトディフェンサーを突破し、それに気を取られている間にザクアメイジングも突破する。

「ちっ!」
「先にヴァイエイトから叩く!」

 ∀GE-1は後方のヴァイエイト・ランチャの方に向かう。
 ザクアメイジングがロケットランチャーを放ち、メリクリウス・ムーロはシールドで防ぎ、∀GE-1の方にビームライフルを放つが、すぐに追いかける。

「ハニーは俺が守るんだよ!」
「と、見せかけての!」

 ∀GE-1はヴァイエイト・ランチャを狙いかのように見せかけて、急制動をかけて追って来たメリクリウス・ムーロに狙いを変えてビームサーベルを振るう。
 不意を突かれて、メリクリウス・ムーロは左腕を切り落とされるが、右手のビームライフルの下部のビームサーベルで∀GE-1に切りかかり、ビームサーベルで受け止める。

「やってくれたな!」
「貰った!」

 ザクアメイジングがメリクリウス・ムーロに対してロングライフルを放つが、∀GE-1が蹴り飛ばして距離を取る。

「あぶねぇ!」
「マシロ君なら回避すると思っていたよ」

 下手をすれば∀GE-1にも当たりそうな攻撃だが、タツヤはマシロなら回避できると思っての攻撃だった。
 そして、その攻撃の射線上にはメリクリウス・ムーロと∀GE-1だけでなく、ヴァイエイト・ランチャもいた。

「避けられない!」
「ハニー!」

 火力を重視する余りに機動力を完全に失っているヴァイエイト・ランチャはザクアメイジングの攻撃を回避する術は無い。
 それを補う為のプラネイトディフェンサーだが、気づいた時には手遅れてロングライフルの弾丸はヴァイエイト・ランチャに直撃してヴェイエイト・ランチャは撃墜された。

「よくも!」

 ザクアメイジングはロングライフルを捨てて、ヒートナタを持ってメリクリウス・ムーロに振り下ろす。
 ビームサーベルでヒートナタを受け止めるが、横から∀GE-1がビームサーベルを持って突っ込んで来る。

「そいつは俺の獲物だ!」
「悪いけど、僕も譲る気はないよ!」

 ∀GE-1とザクアメイジングが互いに競い合うようにメリクリウス・ムーロに向かう。
 片腕を失ったメリクリウス・ムーロには2機からの攻撃を捌き切る事は出来ない。

「何だってんだ!」
「僕の……」
「俺の……」
「「勝ちだ!」」

 2機の攻撃はほぼ同時にメリクリウス・ムーロを捕えて切り裂いた。
 メリクリウス・ムーロが撃墜されてバトルが終了した。





 バトルが終わり二人は歩み寄る。

「俺の勝ちだね」
「どういう理屈なんだい。僕はヴァイエイトの方も撃墜している」
「いやいや、俺は元イタリアチャンピオンを倒したから俺の勝ちだろ」
「それ自体、ほぼ同時だったから、分からないじゃないか」

 バトルが終わった二人は口論を始めた。
 その内容は子供染みた物だ。
 どっちがブルーノのガンプラを倒したかで揉め、どっちが勝ちかで揉めている。
 どっちがメリクリウス・ムーロを撃墜したかと言う事は重要ではなく、二人のチームが決勝に進出したと言う事実の方が重要ではあるが、二人は気にも留めていない。
 どっちも譲る気はなく、子供染みた言い分を主張している。
 だが、口論をしている割には二人の間に険悪な雰囲気はなく、寧ろ楽しそうにしている。

「たく……俺達の事は眼中にないってか」
「良いじゃない。ああいう青春は私は好きよ」

 そんな二人を対戦相手のブルーノとアンナは微笑ましく見ていた。
 バトルが終了し、ガンプラを回収したマシロとタツヤは口論を続けながら廊下に出る。

「分かっていた事だけど、マシロ君も本当に負けず嫌いだよね」

 廊下に出ても尚、互いの主張は続くかのように思えたが、マシロは何も返さない。
 
「マシロ君?」

 その事が気になったタツヤはふと振り返る。
 そこにはマシロが倒れていた。

「マシロ君!」

 予想外の事態にタツヤは動揺しながらもマシロに駆け寄った。




[39576] Battle09 「ファイターとして」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/24 13:33

「マシロ君!」

 準決勝を終えたマシロとタツヤだが、廊下でマシロが倒れ、タツヤは慌てて駆け寄る。
 起こしたマシロは意識はあるようだが、顔色が明らかに悪い。

「……悪い。少し寝不足」
「そんな訳ないじゃないですか」

 マシロの言い分を、シオンが一蹴する。
 バトル中の動きがおかしい事は観客席から見ていたシオンも気づいていた。
 そして、バトルが終わって問い質そうとしていたが、この現場に遭遇した。

「マシロ様ならガンプラを弄っていれば一週間くらいは不眠不休で活動できるでしょう。それがたった一日程度で寝不足で倒れる事などあり得ません」
「本当なのか?」

 マシロは明らかに視線を泳がせている。
 シオンの言う通り、マシロは基本的に運動をさせるとすぐにバテる程体力がないが、ガンプラを弄っている時はガンプラのみに集中している為、一週間程度は不眠不休でいる事も過去に何度もあった。
 故に寝不足で倒れると言う事は考え難い。
 
「体調面は私が管理しているので問題はないはずです。恐らくは肉体面……怪我と言ったところですね」
「……ワタシニホンゴワカリマセン」
「馬鹿な事を言っていないで失礼します」

 マシロの誤魔化しを無視してシオンはマシロを抱きかかえる。
 今朝の動きの違和感や普段からシオンが体調管理をしている事から、マシロは怪我をしていると睨んでいた。
 そして、通路のベンチに座り込ませるとマシロの体を調べる。

「これは……」
「やはりそうですか……何があったんですか?」

 マシロの体のいたるところに痣があり、タツヤも顔を顰める。
 特に右足は腫れて赤黒く変色している。
 
「転んだ」
「いくらマシロ様が反応速度意外に取り柄の無い運動音痴でも何もないのに転ぶと言う事はあり得ません」
「……誰かに突き落とされたんだよ」

 言い訳が通用しない為、観念してマシロは全て話した。

「一体誰が……こんな事を」
「恐らくは決勝の相手……」
「何か分かったのか?」

 マシロの話しを聞いてシオンは心当たりがあるようだった。
 その反応から、マシロも何となく検討が付いていた。

「どういう事?」
「決勝のレンヤの相方の事が気になってな。シオンに調べさせた」
「試合中に報告がありました。大会登録ネームはサエキ。こちらで調べた結果、彼はガンプラマフィアである事が分かりました」

 ガンプラマフィアとは普通にガンプラバトルを楽しむだけでは耳にする事のない名だ。
 タツヤも噂程度で聞いているが、マシロも知っていた。
 ガンプラマフィアとはガンプラ関係でバトルの妨害や闇取引などの違法行為を行う者達の総称で厄介なのはガンプラマフィアの中にはファイターやビルダーの倫理感に反していても各国の法に触れていないケースが多いと言う事だ。
 法に触れない限りは警察機関は動く事は無い為、同時の自警団的な組織が作られていると言う噂もある。

「彼の専門分野は希少価値の高いガンプラ、今回の大会の商品や、何かしらの記念で作られた非売品のガンプラを初めとしたガンプラを独占しネット上で高価でマニアに売りつけると言う物です。これ自体に違法性はありませんが、余り公になっていないだけで、強奪や窃盗、脅迫紛いの事も行っているみたいです」

 ガンプラマフィアにもいろいろな専門がある。
 希少価値の高いガンプラは高値で売れる。
 高い金を出してまで手に入れないマニアがいるからだ。
 中にはチームネメシスの会長のようにファイターを雇い正攻法で手に入れようとする場合と、金で解決するケースがある。
 サエキはガンプラを高価で売って儲けているタイプのガンプラマフィアと言う事だ。
 それ自体はシオンの言う通り、違法性はない。
 大会に景品を手に入れて売る事も目的に出場しようと大会規約に違反する事でもない。
 実力で勝ち取ってしまえば、その後をどうしようと手に入れたファイターの勝手だからだ。
 だが、サエキの場合、正面から手に入れようとするのと同時に法に触れかねない方法も取る。
 今回のマシロの件がそれに当たる。

「マシロ様は昨日の予選で無駄に目立っていましたからね。それで目を付けられたんでしょう。準決勝の前に仕掛けたのは差し向けたのが準決勝の相手かも知れないと思わせる為でしょうね」

 出場者の中でマシロが狙われた理由として考えられるのが、大会の予選での結果だ。
 マシロは一人だけ撃墜数が圧倒的に多く、その実力を目障りだと思われても不思議ではない。
 その上で準決勝の前に怪我をさせれば、運営に告発したところで次の対戦相手が疑われるだろう。
 そうなれば、対戦相手のブルーノとアンナは大会運営から失格にされかねない。
 元イタリアチャンプを濡れ衣で失格にさせる事が出来れば、次は手負いのマシロを相手にすれば良いだけの事だ。

「幾らなんでもやり過ぎだ! これは大会運営に抗議すべきだ! いや、もう警察沙汰じゃないか!」

 賞品を手に入れる為に、他のチームを負傷させてまで勝とうとする事にタツヤも怒りを隠せない。
 階段から突き落とされれば下手をすればマシロは死にかねなかった。
 これはもはや、大会の運営に抗議するだけの問題ではなく、警察に通報しても良いレベルの事だ。

「少し落ち着けよ。もう、右足だって痛くない」

 そう言ってマシロは右足を振って見せるが、当然の事ながら怪我が良くなって痛みが引いたと思う訳がない。

「大会の運営や警察に通報して報いを受けさせても意味がない。それは負けと同じだろう」
「今はそんな事を言っている場合ではないよ。運営や警察は後回しでも良い。大会は棄権してすぐに病院に行くべきだ」

 階段から落ちたと言う事は頭を打っている可能性が高い。
 シオンの触診で頭に目立った外傷はなかったが、打っている可能性がある以上は病院で精密検査を受けるべきだ。
 そうなれば、大会は棄権せざる負えないが、マシロの命に係わる事だタツヤも決勝と天秤にかけるまでもなかった。

「ふざけんな。試合に棄権するくらいなら死んだ方がマシだ。それにユウキ……お前許せんのかよ?」

 そう言うマシロの顔はいつもと明らかに様子が違った。
 いつものいい加減な感じはまるでない。

「俺は勝つ為なら何だってする。バトルや制作の練習や勉強だって強くなる為ならどこまでもやるし、必要であれば対戦相手の事を研究して策を講じる。けどな、相手を負傷させて弱らせるなんて事はしない。弱った相手に勝っても意味がないから。けど、アイツはそれをやった。許せるのかよ。ファイターとして!」
「それは……」

 タツヤは言葉に詰まる。
 確かに、サエキのやった事はファイターとして許す事が出来ない行為だ。
 ファイターは皆、考えこそは違えど勝つ為に最大限の努力をしている。
 サエキの好意はそんなファイター達の努力を無為にしている。
 それはファイターとして許す事は出来ない。
 
「なら、俺達ファイターがすべき事は決まってんだろ? バトルでケリを付ける。それ以外にあり得ない」
「無茶です。こんな体で……」
「ごめん。シオン君。僕もマシロ君に同感だ」
「ユウキ様まで何を……」

 素直に言ってしまえば、マシロを止める事が出来ない。
 だからこそ、タツヤは答えに詰まった。
 しかし、覚悟を決めた。
 最後までマシロと共にファイターとして戦うと言う事を。
 その結果としてマシロの命を危機に晒すと言う事も理解している。
 だが、当事者のマシロはそんな事は些細な事でファイターとしての意地を通そうとしている。
 相手がファイターの努力を無為にするのであれば、マシロはファイターとして意地を通す事がマシロなりの報復となる。
 ここで、大会運営や警察の手を借りてしまえば、サエキのやり方に屈したも同然で、大会に優勝したところで意味はないのだろう。

「そう言う事だ。それにシオン。分家とはいえ身内の恥をこれ以上晒す訳にもいかんだろう。この辺りで兄貴に借りを作っとくのも悪くはないしな」
「身内? どういう事だい? マシロ君」
「言ってなかったっけ? 対戦相手のクロガミ・レンヤは俺んちの分家の人間だよ」
「マシロ様は、クロガミの名を嫌い名乗ってませんでしたよ」

 シオンは先ほどまでとは違い、毒気を抜かれて呆れた。
 マシロはタツヤと初めて会った時に、ファミリーネームは嫌いだと言って名乗っていない。
 マシロはその辺りの事は大して興味はなかったのか完全に忘れていた。

「そだっけ? まあいいや。マシロ・クロガミってのが俺のフルネーム。ちなみに現在のクロガミ家の当主は俺の兄貴。最悪だろ? 黒が神ってまるで黒が凄いみたいじゃん」

 マシロはあっさりとそう言うが、タツヤは衝撃の余り言葉が出なかった。
 クロガミグループの事は以前に話した事があるが、その現在の当主がマシロの兄、即ち、世界トップクラスの企業のトップの弟がマシロと言う事になる。
 タツヤ自身、自分が普通の家の子供でないと言う事は自覚しているが、マシロの家はタツヤの家以上だ。
 とてもではないが、そんな家の人間だと言う事は信じられない。
 だが、以前にシオンにマシロの事を聞いた時に後、10年もすれば分かると言う事を考えばあながち嘘とも言い切れない。
 10年も経てばタツヤは親の会社で働いているだろう。
 次期社長としてだ。
 そうなれば、父のパイプを引き継ぐ為に繋がりのある企業の人間と会う機会も増える。
 当然、その中にクロガミグループの人間もいる。
 そこから、マシロの事を知る機会もあると言う事なのだろう。

「で、身内の恥って件は分家とはいえガンプラマフィアに利用されてるって事。どうせ、適当に数合わせのつもりなんだろうけど、完全に利用されているぜ。アイツ」
 
 クロガミ・レンヤ自身は自分が大会に出る為の数合わせのつもりでサエキと組んだのだろうが、マシロの見立てではレンヤはサエキに利用されているのだろう。
 クロガミ家の人間であればそれだけで目立つ。
 そうなれば、自分への注意が削がれて、最悪の場合はクロガミ家の力を利用できると言う算段なのだろう。

「うちはさ、色々と黒い噂があるけど、実際にはガセなんだよな。何代も前から違法行為からは足を洗ったって父さんから聞いた事がある。今の警察はどこの国もやたらと優秀だからな。だから下手な犯罪はリスクが高いんだよ。一過性の稼ぎはあっても恒久的な稼ぎは得られないから違法行為はしないってのがうちの方針。まぁ、違法じゃなければ大抵の事はしてるみたいだけど、その辺りの事は流石に俺も知らん」
 
 クロガミグループの黒い噂はタツヤも聞いた事はある。
 だが、クロガミ一族で当主に近い位置にいるマシロからすれば噂は噂でしかない。
 
「なのにさ。アイツはガンプラマフィアに利用されてさ。双方が利用するならともかく、ただ利用されるのはね。面識はなくともクロガミ一族の名を背負っている以上は、常に勝利者であれがうちの兄貴の口癖」

 マシロはレンヤの事を知っている訳ではなかった。
 クロガミ一族と言っても分家の数は非常に多く、一々末端まで知る訳もなく、一方のマシロも基本的に引き籠っている為、一族の中でも本家の兄弟以外にマシロの存在を知る者は殆どいない。
 そして、レンヤはサエキの事を利用している訳ではなく、一方的に利用されているだけだろう。
 一族の事を余り好きではないマシロだが、一族の恥となる行為を見て気分の良いものではない。

「それにアイツにもいい経験になるだろうさ。本家と分家の差って奴をさ」

 その言葉にタツヤは一瞬、寒気を覚えた。
 マシロの言う本家と分家の差。
 クロガミ一族は基本的に優秀な人材の家系だ。
 それは一族の家訓として常に強者であれと言う物がある。
 常に強者の側で居続ける事が求められている為、優秀な人材を育て続けている。
 分家の人間はあらゆる分野に精通したオールラウンダーの秀才だが、一方の本家はその真逆に一つの分野を極める事の出来る天才である事を求められていた。
 世界で活躍する「天才」と呼ばれているクロガミ一族は本家の人間で、一つの分野に限り人並外れた能力を持っている。
 マシロもまた、クロガミ一族においてガンプラと言う分野における天才である。
 故に優秀だろうと秀才どまりのレンヤに天才であるマシロの力を見せつける事は今後の彼の人生において役に立つだろう。

「まぁ、そう言うのは建前で人の領分に許可なく入って来た事に対するお仕置きなんだけどね」

 尤も、それは建前でしかなかった。
 マシロは一族の中の天才として相応しいだけの実力を持っている。
 だが、一族の中では所詮はガンプラもガンプラバトルもお遊びなのだと言う目で見られている。
 だからこそ、気に入らなかった。

「これは内輪の問題だからユウキは気にすんな。俺達の目的はサエキの野郎をバトルでぶっ倒す。それだけだ」
「分かってるよ」
「全く……どうして、いつもこう……」

 もはや止める事が出来ない事を悟り、シオンはため息をつく。
 こうなってしまえば、マシロは意地でも譲る事は無い。
 理屈ではなく単に譲りたくないとだけな為、説得は不可能に近い。

「分かりました。お気をつけて」
「ああ、後は任した」
「承知しています」

 シオンは頭を下げて別行動に入る。
 そして、午後の決勝戦に挑む。





 決勝戦の時間となり、二人はバトル開始ギリギリに会場に入る。
 すでに対戦相手は到着していた。

「遅かったじゃないか。逃げ出したと思ったよ」
「逃げる理由はないんでね」

 マシロは怪我をしている事を隠し、余裕を見せつける。
 そして、マシロとタツヤはGPベースをセットしてガンプラをバトルシステムに置く。
 今回は∀GE-1はビームサーベル以外の装備を持っていない。
 歩道橋から落ちた際に∀GE-1は無事でも予備パーツの殆どが駄目になっていた。
 前の試合で使ったスタングルライフルは前日に今日の準決勝で使う予定の装備でガンプラと共に特殊ケースにしまっておいて無事だったが、決勝戦で使う装備はまだ決めていなかった。
 その為、今回は最低限の装備しかない。
 その上、時間がギリギリだったのは準決勝での∀GE-1の損傷の修理に時間を使ってからだ。
 予備パーツは無い為、タツヤが持って来ていた工具等を使って急ピッチで補修作業を行い、ギリギリまで直していた。
 二人が間に合った事でレンヤは気づいていないが、レンヤの少し後ろでサエキは舌打ちをしている。
 流石に歩道橋から突き落とせば、そんなにバトルを出来る状態ではないと踏んでいたのだろう。
 
「マシロ君。勝つよ」
「当然だ」

 卑怯な手を使われた事でタツヤもいつも以上に気合が入っていた。
 一方のマシロは自分の状態を相手に悟らせないようにするだけで、精一杯だった。
 そして、バトルが開始された。

「様子見をしている余裕は僕達にはない。一気に戦局を動かす!」

 ザクアメイジングはロングライフルを構える。
 長期戦は負傷しているマシロにはキツイ。
 マシロが全力で戦える時間は余り長くはない。
 先制攻撃を仕掛けようとするが、相手の後方からビームが飛んで来て散開する。

「クロスボーンのバスターランチャーか!」
「来るぞ!」

 後方からサエキのクロスボーンガンダムX2のバスターランチャーが放たれて、回避している隙に高速飛行形態、ストライダーフォームのダークハウンドがビームバルカンとドッズガンで弾幕を張って突っ込んで来る。

「さて、どっちから仕留めようかな!」
「まずはお前からだろ」

 ∀GE-1はビームサーベルを抜いてダークハウンドに切りかかる。
 ダークハウンドはモビルスーツ形態に変形すると、リアアーマーのビームサーベルで受け止めた。

「ビームサーベルしか持たないガンプラで! クロガミ一族も舐められたものだね!」
「教えてやるよ。所詮は子は親には勝てないと言う事をな!」

 ザクアメイジングがロングライフルを放ち、ダークハウンドは距離を取るが∀GE-1は追撃してビームサーベルを振るう。
 
「ちっ……サエキ!」
「分かってますよ」

 ∀GE-1のビームサーベルをかわすダークハウンドを援護する為に、クロスボーンガンダムX2がバスターランチャーで援護射撃を行う。
 それを回避した∀GE-1にダークハウンドがドッズガンを連射し、腕部の装甲で守る。

「マシロ君!」

 ザクアメイジングがロケットランチャーを放ち、ダークハウンドは肩のバインダーからアンカーショットを手に持ちワイヤーを射出して振り回してロケットランチャーを防ぐ。
 そして、ビームサーベルを腰に戻した∀GE-1が突っ込み振り回しているアンカーショットのワイヤーを掴んで一気に引き寄せる。
 ダークハウンドは∀GE-1の方に引き寄せられて、∀GE-1は腕部の装甲からビームサーべルを突き出す。
 
「しまっ!」

 振り回していたアンカーショットを掴まれた事で驚いた事で致命的な隙が生まれ、∀GE-1の攻撃を回避する事が出来なかった。
 ∀GE-1のビームサーベルがダークハウンドを貫くかと、思った瞬間に∀GE-1は攻撃を中断して、ダークハウンドを蹴り飛ばす。
 すると、ダークハウンドにビームが直撃してダークハウンドは撃墜される。

「やってくれたな」

 マシロがダークハウンドを蹴り飛ばして盾にしなければ、ビームは∀GE-1に直撃していた。
 それに気づいたからこそ、マシロはダークハウンドを盾に使った。
 そして、攻撃を行ったのはクロスボーンガンダムX2、つまりはサエキだ。

「味方ごとマシロ君を倒すつもりだったのか……」
「前のバトルでユウキも似たような事をしてたけどな」

 攻撃はダークハウンドごと∀GE-1を倒そうとしていた。
 前のバトルでタツヤも同じような攻撃を行っていたが、タツヤはこの程度ではマシロは大丈夫だと言う信頼の元での攻撃だが、今の攻撃はダークハウンドが破壊されても構わないと言う攻撃で同じ行動でも意味合いは違ってくる。

「ちっ……役に立たない坊ちゃんだ。まぁ良い。どの道、手負いと良いとこのボンボンだ。俺一人でも十分だ」

「それが本性って訳ね」

 ∀GE-1はクロスボーンガンダムX2へと向かい、ザクアメイジングもそれに続く。
 クロスボーンガンダムX2はバスターランチャーを放つ。

「ちっ……意外とやる!」

 クロスボーンガンダムX2の砲撃は正確で∀GE-1とザクアメイジングは中々距離を詰める事が出来ない。
 ザクアメイジングがロングライフルで対応するも、クロスボーンガンダムX2は中々、隙を見せない。

「はっ! 所詮は温い環境で育って来たボンボンはこの程度かよ!」
「ユウキ。今の俺は虫の居所が悪い。少し暴れさせて貰うから、後は任せた」
「マシロ君?」

 マシロはそう言って武装スロットを操作して「SP」と表示されているスロットに合わせる。

「行くぞ……限界を超えるぞ! ∀GE!」

 それを選択すると∀GE-1は青白く光る。

「この光は……」
「ガンプラの内部に圧縮した高濃度のプラフスキー粒子を全面に解放する事でガンプラの性能を向上させる」
「それってト……」
「違う! 名付けてプラフスキーバーストモード! 断じてトランザムではない!」

 ∀GE-1の切り札の「プラフスキーバーストモード」
 マシロの言うようにプラフスキー粒子を一気に使う事で発動する機能だ。
 一気に粒子を解放した事でガンプラが粒子によって青白く発光する。
 昨日の原理自体はマシロが自分で否定したガンダムOOに出て来るトランザムシステムと解放する粒子が違うだけだが、青白く光るところからベースとなったガンダムAGE-1の最終進化形態であるガンダムAGE-FXのバーストモードからプラフスキーバーストモードを名付けた。

「こけおどしを!」
「それはどうかな?」

 クロスボーンガンダムX2がバスターランチャーを放つが、一瞬にして∀GE-1はその場から消えた。

「速い!」

 そして、クロスボーンガンダムX2との距離を一気に縮めた。
 腕部の装甲からビームサーベルを出して振るう。
 その一閃はクロスボーンガンダムX2のスタスターを一本切り落とした。

「反応できねぇ!」
「少しそれたか」

 それと同時に∀GE-1の右腕のビームサーベルが消えて装甲が吹き飛ぶ。
 プラフスキーバーストモードはまだ未完成の機能だ。
 機能自体はバトルで使う事が出来るレベルで完成しているが、使うと動かすだけでガンプラへの負担がすぐに限界を超えてしまう。
 今の一撃で腕部装甲が限界を迎えてしまった事で装甲が吹き飛んだのだ。
 その為、プラフスキーバーストモードは使うだけで、負担で自身をも傷つける未完成の機能だ。
 その上で、扱いが非常に難しく、今の一撃も勝負を決めに行くつもりだったが、少しそれてスラスターの一つを破壊するだけになった。

「ふざけやがって!」

 バスターランチャーを放つも、∀GE-1の機動力に追いつけずに当たらない。
 攻撃こそ当たらないが、負荷のせいで∀GE-1の一部が外れて行く。
 反転して左腕のビームサーベルでバスターランチャーを切り落とすが、∀GE-1の左腕の装甲も吹き飛んだ。
 クロスボーンガンダムX2は腰のビーコックスマッシャーを取って∀GE-1を攻撃する。
 だが、∀GE-1は機体を左右に振って回避しながら、再びクロスボーンガンダムX2に向かって行く。

「何なんだよ! お前は!」
「俺は……最強のファイター……マシロ・クロガミだ! 覚えとけ!」

 ∀GE-1は腰のビームサーベルを両手に持ち、ビーコックスマッシャーごとクロスボーンガンダムX2の両腕を切り落とした。
 それと同時に∀GE-1の両腕も負荷に耐え切れずに粉砕し、プラフスキーバーストモードが解除された。

「慌てさせやがって……所詮は負け犬の足掻きなんだよ!」

 プラフスキーバーストモードが切れた事をこれ幸いとクロスボーンガンダムX2は頭部のバルカンを撃ち込む。

「死にぞこないは死にぞこないらしく死なないと駄目だろ!」

 プラフスキーバーストモードの負荷のせいで装甲も限界に近かった∀GE-1はバルカンでも十分に致命傷となり得る。
 バルカンを至近距離で直撃させられて、∀GE-1の装甲は次々と破壊されていく。

「こいつはタッグバトルなんだぜ? なぁ……タツヤ」
「そう言う事。後は任せて貰うよ。マシロ」

 サエキは頭に血が昇っていた為に完全に失念していた。
 これは一体一のバトルではなく、二対二のタッグバトルだ。
 だからこそ、マシロは使えば相手以上に自分を破滅させる未完成のプラフスキーバーストモードを使った。
 それにより、∀GE-1が破壊されようとも、相方のタツヤが居れば負ける事は無いからだ。
 一方のサエキは相方を切り捨てていた。
 ∀GE-1の後方からザクアメイジングがロングライフルを構えていた。

「くそがぁぁぁぁ!」

 ザクアメイジングの攻撃を回避しようとするも、最初の一撃でスタスターの1本が破壊されていた事で上手く動けずにロングライフルの直撃を受けてクロスボーンガンダムX2は破壊された。
 それにより、バトルは終了しマシロとタツヤの優勝が確定した。

「まさか……あいつが本家で引きこもっている奴なのか」

 レンヤも噂程度で聞いた事があった。
 本家の中で社会に貢献する事なく、家に引きこもり玩具で遊んでいるだけの当主の弟がいると言う事を。
 それがマシロで玩具と言うのがガンプラだと言う事に何となく思った。
 本家の人間は皆、それぞれの分野で特異な才能を発揮しているのであれば、マシロの強さも納得が行く。
 バトルが終了し、タツヤはマシロに向かって手を上げるとマシロもそれに合わせてハイタッチを行った。
 マシロはタツヤの行動に対して無意識の内に動いていた為、ハイタッチ後に自分の手を不思議そうに見つけていた。



 大会の決勝戦も終わり、会場が湧き上がる中、閉会式と同時に優勝賞品の授与が行われようとしているが、バトルで敗北したサエキは会場から出て来ていた。
 その手には携帯が握られており、どこかに連絡をしようとしていた。

「ちっ……まぁ良い。多少強引になるが……」
「どこに行くつもりですか?」

 連絡をしようとするサエキの前にシオンが立ちはだかる。
 マシロがバトル前に頼むと言っていたのはバトル後の事だ。
 バトルが終わって勝ったところでマシロの怒りは収まらない。
 その後に報いを受けさせてようやく、報復は完了する。

「誰だてめぇ?」
「見ての通りの執事です。私も少々、苛立っていますので手加減は出来そうにありませんよ」

 シオンがそう言った瞬間にサエキの視界からシオンは消えて、消えたと認識した瞬間には視界が反転していた。
 状況が理解する間もなく、サエキはシオンに組み敷かれていた。
 
「くそ! 離しやがれ!」

 サエキがそう言うとシオンは更にサエキを締め上げる。
 見た目は華奢なシオンだが、サエキの関節を完全に決めており、サエキは身動きを取る事が出来ない。

「本職が執事と言っても、主に怪我をさせたのは不覚でした。貴方にはその憂さを晴らさせて貰います」

 事前にある程度の情報を集めて、この辺りの治安は良いと判断してのマシロの怪我だ。
 事前情報で安全と確認したが、それでもマシロを一人で出歩かせていたのはシオンの怠慢と言わざる負えなかった。
 自分の失態から怒りをサエキにぶつけるかのように、シオンはサエキが意識を保てるギリギリのラインで締め上げる。
 意識を失う事も出来ずに、サエキは苦しむがやがて遠くからサイレンの音が近づいてくる。

「貴方は殺人未遂の現行犯で逮捕されます。ご安心をクロガミ一族には優秀な刑事や検事、弁護士が付いています。貴方にはそれ相応の報いを受ける事になります。良かったですね。この国が法治国家で……でなければ貴方マシロ様に殺されていましたよ」

 シオンの言葉は比喩にも聞こえるが、実際に起こり得た事だとシオンは思っている。
 日本は法治国家である為、マシロはバトル後にはこの国の法に委ねての報復を選んだ。
 尤も、クロガミ一族の息のかかった者達によって、サエキの過去に起こした犯罪ギリギリの事も全て明るみに出して裁判官から弁護士、検事に至るまでクロガミ一族の息がかかった出来レースの裁判で犯した罪の罰として最大限の刑が言い渡される事だろう。
 それだけの力をクロガミ一族は持っており。普段は好きではない一族の力をここまで行使するのはマシロのガンプラバトルに水を差したからだ。
 シオンも同情はしないが、ここまでやる必要はないと思いつつも、たかがガンプラバトルの為にここまでやってしまうのがマシロだ。
 だからこそ、場所によっては報復としてサエキを殺すと言う事もマシロは本気でやりかねない。
 それから数分後に到着した警察にシオンはサエキを引き渡した。 






 決勝戦が終わり閉会式の準備が進められている頃、タツヤはマシロを探していた。
 バトルが終わり、マシロを早く病院に連れていかなければならない。
 それなのに、マシロの姿が見えなかった。
 シオンもバトルの時から姿が見えなかった。
 何だかんだで連絡先を聞きそびれて来た為、今までは良かったがこういう時には非常に不便だと感じていた。
 会場内を探しているとマシロがベンチで座り込んでグッタリしていた。
 それを見つけたタツヤはマシロの元に駆け寄る。
 だが、マシロに近づいて最悪の事態では無かった為、取りあえずは安心する事が出来た。
 グッタリしている訳ではなく、マシロはベンチに座り寝ていただけだった。
 怪我をしているとは思えず、自分と同い年とは思えない寝顔で寝ている。

「全く……君って奴は……」

 余りにも穏やか過ぎて死んでいるようにも見えるが、息はしている事は見ただけでも分かる。
 流石に起こすのは悪い気がして、その場で救急車を呼んだ。

「流石にマシロをこのままにしておく事も出来そうにないな……閉会式に出なくても大丈夫だと思うけど……」

 起こす事も出来ず、かと言ってマシロをここに一人おいて行く訳にもいかない。
 タツヤはマシロの横に座り込んで救急車の到着を待っていた。

「本当に終わったんだな……」

 大会が終わった事を寂しく思うが、仕方がないことだ。
 大会が終わった後でマシロにザクアメイジングで再戦を挑む気だったが、この怪我では当分はバトルはお預けだろう。
 挑めばマシロの性格上、怪我を理由にする事なく受けるだろう。
 その様子を浮かべてタツヤは吹き出しそうになる。
 マシロと出会ってまだ一週間しか経っておらず、共にチームを組んでのバトルは二日だけだ。
 この二日のバトルはタツヤを初心に帰らせる事が出来た。
 それはタツヤにとってはファイターとして一歩前進する事が出来ただろう。
 それだけでもこの出会いは意味のある物だ。
 大会が終わり、寂しさを感じつつも、この二日間の事を思い出しながら、会場では優勝者不在のまま閉会式が進んでいた。
 こうして、大会はマシロとタツヤのチームアメイジングの優勝で幕を下ろした。



[39576] Battle10 「別れの約束」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/26 23:09

 タッグバトルから1週間が経ち、タツヤはようやくマシロが入院している病院を訪れる事が出来た。
 大会後、マシロは病院に搬送されるも命に係わる程ではないと言う診断が出た為、一安心だった。
 その後は、2日も大会に出場する為に、勉強を殆どしていなかったので、2日間の遅れを取り戻さなければならなかった。
 大会の優勝賞品のガンプラはシオンに渡してマシロの元に届いているだろう。
 その甲斐もあって、タツヤはマシロのお見舞いに来れるようになった。

「ずいぶんと元気そうで安心したよ」
「大げさなんだよ。たかが足首の骨折程度でさ。足なんて所詮は飾りだろ? 一本や二本くらいなくなってバトルは出来るさ」

 命に別状こそなかったが、マシロの足首の踝の辺りが骨折していた為、今は足が吊るされている状態になっている。
 
「宇宙ならともかく、重力下では足も重要だと思うよ。人の体にタンクはつけられないんだからね」
 
 マシロからして見れば足の一本や二本は無くても腕と違ってバトルには影響が殆ど無い為、別にどうと言う事は無いらしい。
 冗談でもそんな事を言えるマシロに呆れているが。マシロは割と本気だった。

「取りあえず、これお見舞いの花なんだけど、花瓶はないね」
「その辺に置いといて。てか、花を持って来るんなら、彼岸花とか鬼灯とかさ、後は蘭や菊とかでも可」
「生憎とシオン君からマシロにエサを与えないようにと厳しく言われているからね」

 タツヤは苦笑いをしながら、持って来たお見舞いの花を適当な場所に置いた。
 タツヤも当初は気を利かせてガンプラをマシロへのお見舞いにとでも考えたが、シオンが先回りをして、入院中のマシロにガンプラを与えないようにと言われた。
 ガンプラを与えてしまえば、それの制作に熱中する事は目に見えている。
 怪我で入院しているのに、まともに休まずにガンプラを作っていれば余り意味はない。
 タツヤとしても、一日でも早くマシロに退院して欲しいと言う事もあり、常識的な範囲でお見舞いを選んで来た。

「つか、お見舞いでサラッと恥ずかしげもなく持って来る辺り、タツヤさ学校とかでモテルだろ?」
「どうだろうね?」

 タツヤは余り自覚は無いが、マシロの言う通り学校で女子にモテている事は事実だ。
 元々の容姿はもちろんの事、その物腰柔らかい言動や家が金持ちと言う事も含まれている。

「あれか、リア充って奴か。ケッ! 俺だって年から年中ガンプラを弄っているからリア充だね!」
「今日はいつにも増してトゲトゲしいね。なんかあった?」
「あったね。シオンにガンプラを取り上げられた。俺は半日以上、ガンプラを手放した事がないってのに!」

 いつの誰に対してでも攻撃的な物言いの多いマシロだが、今日は無意味に攻撃的になっている。
 その理由がシオンがガンプラを取り上げた事にある。
 マシロは常日頃からガンプラを弄りガンプラバトルを行って来た。
 それはクロガミ一族の本家の人間としてガンプラバトルに特化した天才的な才能を持っている為、一族はマシロにガンプラバトルの実力のみを求めて来た。
 それ故に幼少期からガンプラを作り続け、ガンプラバトルを繰り返す毎日で学校に通う事もなく、必要な知識は家庭教師を付けてガンプラの合間に勉強していた。
 何年もガンプラをやり続けるマシロの生活はガンプラに対する愛を凌駕して狂気の域に達しているが、マシロ本人としてはガンプラだけやっていれば良い今の生活は非常に充実した生活だった。
 それが一週間とはいえ絶たれている。
 マシロもそろそろ我慢の限界を迎えつつある。

「それより、あれってスケッチブックだよね。マシロは絵でもやるの?」
「良くぞ聞いてくれた!」

 病室の机にはスケッチブックが置かれている。
 病室にあると言う事はマシロの物と言う事だ。
 マシロはスケッチブックを手に取ると開いてタツヤに見せる。

「これは……モビルスーツ? AGE-1に似ているけど、少し違うな……」

 スケッチブックにはモビルスーツが描かれている。
 記憶の中からそれに類似するモビルスーツを思い出すが、ガンダムAGE-1に多少は似ているが、胴体部以外はかなり異なっている。

「こいつは俺が現在考えている∀GE-1の改修プランだ」

 タツヤが分からなかったのも当然の事だった。
 マシロは既存のモビルスーツの絵を描いたのではなく、決勝戦で大破したガンダム∀GE-1の改修プランを描いていたからだ。
 病室でガンプラを触れない一週間だったが、少しでも気を紛らわせようと考えた結果の行動だった。

「∀GE-1がバトルでここまで破壊される事は珍しいからな。これはもう、新型フラグか強化改修フラグだろ? 新型にするにはまだデータが足りないからここは強化改修をする事にしたんだよ」
「へぇ……見たところ、色々と考えているみたいだね」

 タツヤはスケッチブックを見て呟く。
 スケッチブックにはマシロが考えたプランがいくつも描かれている。
 その数は一つや二つと言う訳ではない。

「まぁね。色々と考えたけど、AGE系のガンダムが持つウェアシステムの延長上と言う設定の元、近接戦闘型と砲戦型の二種類で行こうと思う」
「マシロは砲撃は苦手だったよね」

 マシロのバトルスタイルは機動力を活かした近接戦闘だ。
 人間離れした反応速度を活かした戦いを得意とする為、攻撃時のタイムラグの多い大火力の武器や大型の武器の扱いは苦手としている。

「苦手だからと言ってやらないで置く訳にもいかないしな」

 マシロも自分の得意分野と苦手な分野は理解している。
 理解しているからこそ、得意な分野で戦えるガンプラを制作したが、これからは苦手な分野も克服して行かなければならないとも考えている。
 その為の得意な近接戦闘型と苦手な砲戦型の二種類の強化プランを用意する事にした。

「でだ、今のプランだと……」

 マシロはタツヤに現在の改修プランを説明する。
 今までの鬱憤を晴らすかのように嬉々として説明するマシロにタツヤは時折、質問や意見などをして話しを聞く。
 そうこうしている間に日が傾いていた。

「そろそろ、面会の時間も終わるし予定以上に長居をしてしまったから、僕はそろそろ帰るよ」
「なぁ……タツヤ。お前、来年の世界大会に出るか?」

 面会時間の終わりが近づいた事でタツヤは帰ろうとするが、今までとは違う真剣な表情でマシロは問いかけた。
 その表情に気がついたタツヤは慎重に言葉を選ぶ。

「分からない。僕自身は出たい気持ちはある。だけど、父が何ていうか分からない」

 タツヤは偽る事なく答えた。
 来年はタツヤは高校2年に上がる。
 世界大会は毎年夏に行われている。
 高校2年の夏となれば大学受験を始める大切な時期だ。
 タツヤは親の後を継ぐ為に大学に進学しなければならない。
 地区予選は週末などに行われるが、世界大会ともなると会場である静岡に最低でも10日程度は滞在しなければならない。
 そうなると、その間は受験勉強をしている余裕はないだろう。
 更には決勝トーナメントで勝ち進めば約半月は滞在しなければならなくなる。
 流石にそれだけの期間をガンプラバトルに使うとなれば、タツヤの父親が黙ってはいないだろう。

「俺も次の世界大会は出場してサクッと優勝する。お前も出ろよ」

 そう言って真っ直ぐタツヤを見るマシロに何も言い返す事が出来ない。
 タツヤ自身、世界大会に出場したい気持ちがあるが、父に反対されると簡単にどうこう出来る問題ではない。

「才能は誰しもが持っている訳じゃない。だから才能を持って生まれて来たからにはその才能を活かす義務がある。そうでない者は万死に値する。死んだ父さんの口癖。タツヤは初めてのバトルの時、一瞬でも俺を本気にさせた。世界に俺を本気にさせるファイターは数える程しかいない。タツヤはガンプラバトルの才能がある」
「僕は……」

 マシロの言葉に答える事が出来ずにタツヤは言いよどむ。

「タツヤはガンプラの為に全てを捨てる事が出来るか? 兄妹とか故郷とか全て」

 質問が変わり考える。
 恐らくはマシロは自分がどんな答えを返すかを見たいのだろう。
 だからこそ、この答えはいい加減に答える訳にはいかなかった。

「僕には出来ないと思う。僕はガンプラが好きだ。でも、その為に家族や友人、生活を捨てると言う事は出来ないと思う。本当に捨ててしまったら、僕はきっと一生後悔すると思う。そうなれば、心の底からガンプラを楽しむ事が出来なくなるから。だから、僕は両方を取ると思うよ。それでもどちらかを選ぶのであれば捨てずに置いて来るさ。後からいつでも拾えるようにね。どちらかを捨てられないと言うのは甘いかも知れない。覚悟が足りないかも知れない。それでもそれが僕だから」

 それがマシロの望む答えかは分からない。
 だが、それが嘘偽りのないタツヤの答えだった。
 タツヤにはどちらかを選んでどちらかを捨てると言う事は出来ない。
 出来ないからこそ、両方を選ぶ。

「そっか……お前はその方がお前らしいよ」

 マシロは俯いてそう言う。
 俯いた事で、何か不味い答えだったかと一瞬、思いかけるもそうではないらしい。

「お前は大切なもんは捨てんなよ……捨てちまった俺の代わりに」
「マシロ?」
「何でもないよ」

 俯いていた事やマシロの声が少し小さかった事もあって、最後の方は聞き取れなかったが、マシロは顔を上げると先ほどまでの真剣な表情から普段のマシロに戻っていた。

「何が言いたかったかと言うとだな。お前の親父が出るなって言っても気にせずに出ろって事だ。もっと強くなって世界大会で俺が相手をしてやる。どうせなら、決勝戦が良いな。その方が面白い。けど、あんまりモタモタしてっと俺は世界王者になってるぜ」
「その時は、僕がマシロから王者の座を奪う事にするよ」
「ふぅん」

 マシロへの勝利宣言でマシロの目つきが鋭くなるが、口元は笑っている。
 タツヤもマシロに対して精一杯の強がりを見せる。
 
「それじゃまた来るよ」
 
 ある意味、マシロに対して宣戦布告を行ったタツヤは病室を出る。
 それと入れ違いにシオンが病室に入る。

「今日は遅かったな」
「空気を読みましたので」

 シオンがタツヤと入れ違いになったのは偶然ではなかった。
 タツヤが見舞いに来ていた為、シオンは気を利かせていた。
 だから、タイミング良く入れ違いとなっていた。

「それで、そろそろ見つかったのか?」
「ええ。見つかりました」

 シオンはここ数日の間にマシロの兄の一人の居場所を探していた。
 マシロの兄弟の一人にクロガミ一族本家の主治医がいる。
 その兄は世界的名医である為、その兄にマシロの怪我を治療させようとしていた。

「そっか。そんな今日の内に向かう」
「すでに手続きを済ませておきました」

 兄が見つかった時点でマシロがそう言う事はシオンも分かっていた為、タツヤが見舞いに来ている間にマシロの退院手続きを済ませていた。
 病院側はマシロの怪我の具合もある為、渋っていたが金を掴ませて黙らせている。

「その前にユウキ様に一言挨拶しては如何です?」
「何で?」

 マシロは心底意外そうにしている。
 タツヤとの付き合いは差ほど長くはないが、大会に出るにあたり最も深く関わった相手でもある。
 そんなタツヤに日本を発つ前に一言挨拶を入れると言うのは当然の事だ。

「別に一生の別れって事でもないんだ。別に挨拶の必要はないだろ」
「マシロ様がそれで構わないのでしたら」

 シオンもマシロがその必要はないと思っている以上は何も言う事は出来ない。
 その日の内に荷造りを終えて、次の日にはマシロは日本から姿を消していた。



















 マシロとタツヤの出会いと別れから半年後、マシロは再び日本の地を踏んでいた。
 季節は廻り冬となり、半年前は季節感の無かった白いマフラーも今の時季には合っている。
 この半年で足の怪我を完治させたマシロは世界大会の出場権を得る為に日本第一ブロックの地区予選が行われる静岡県を訪れる事となった。

「ここが聖地静岡か……さて、まずはホビーセンター見学だな」

 マシロは白い息を吐きながら、空港から事前に用意させた車に乗り込む。
 静岡の地にて、マシロの新たな戦いが始まる。



[39576] キャラ&ガンプラ設定
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/29 10:11
マシロ・クロガミ

主人公

クロガミ一族の本家でガンプラバトルにおいては天才的な実力を誇る。

高い反応速度を誇り、相手のガンプラが動いた瞬間に反応し、即座に相手の動きを読み、それに対抗する事が出来る。

その反応速度を活かした高速白兵戦を得意とし、逆に攻撃までの時間の遅い大振りや大火力の武器の扱いを苦手としている。
 
常に強気な発言をし、自分が最強だと疑っていない。
 
その上で家に引きこもりひたすらガンプラバトルに打ち込んでいた事もあり、対人関係においては誤解されやすく、本人も誤解を解く気もされている事に対しても気にする様子はない、。

また、白が好きなで自身のガンプラを白く染め上げて、逆に黒を嫌っている。

使用ガンプラはガンダム∀GE-1


シオン

マシロの執事兼、護衛。

華奢な体をしているが、護衛も兼ねている為、身体能力は非常に高く、格闘技に精通している。
 
常に丁寧な口調ではあるが、マシロに対しては辛辣な言葉を吐く事も少なくない。






ガンダム∀GE-1


マシロが制作したガンプラ。

ガンダムAGE-1 ノーマルをベースに機動力を重視した改造がされている。

至るところに小型のスラスターを増設した事で機動力の向上だけでなく、空中での方向転換などに使われる。

装備は腰と腕部の装甲に内蔵されているビームサーベルが4基と脚部の装甲内にゼロ距離用のグレネードランチャーが内蔵されているだけだが、バトルに応じて手持ちの火器やバックパックにブースターを増設するなどする事がある。

また、内部に高濃度に圧縮されたプラフスキー粒子を全面に解放する事で性能を格段に向上させるプラフスキーバーストモードが使えるが、ガンプラへの負担が多き過ぎる為、動かすだけで自壊して行く未完成のシステムである。





[39576] 幕間1
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/03/29 10:11
 マシロ・クロガミの人生にはいくつかの分岐点が存在した。 
 それらを経てマシロは今のマシロ・クロガミとなった。
 その最初の分岐点はマシロが10歳にも満たない幼少期に遡る。
 当時はまだ、プラフスキー粒子もなく、ガンプラも動かない時代でマシロはただのマシロであった。
 マシロは孤児院で生活していた。
 マシロには両親がいない。
 死んだのか捨てられたのか、本人も良く分かっていない。
 マシロと言う名も孤児院の院長が付けた名だった。
 家族と呼べる者は妹しかおらず、その妹ですら院長がそう言っているだけで、マシロ本人と血が繋がっているかすらも分からない。
 その日のマシロは町を歩いていた。
 ふと町を歩いているとおもちゃ屋の前で立ち止まる。
 おもちゃ屋のウインドウにはいくつかの商品が展示してある。
 マシロはその中の一つが気になった。

「ロボット?」
「それはガンプラだよ」

 マシロがポツリとつぶやくと後ろから男が訂正する。
 男は20代後半くらいで、この辺りでは見かけない東洋人だった。
 見かけない相手に対してマシロは警戒心を露わにしている。

「それは……キュベレイだね。君くらいの年の子供ならガンダムタイプの方が好きそうだけど。珍しいね」
「キュ……何?」
「キュベレイ。一年戦争時にジオン軍のララァ・スンが搭乗したモビルアーマー『エルメス』の後継機としてジオン残党軍『アクシズ』が設計、開発したニュータイプ専用モビルスーツだ。特徴的な両肩のバインダーを利用する事で高機動を実現するだけでなく、サイコミュを搭載し、エルメスが装備していた遠隔誘導端末『ビット』を小型化した『ファンネル』を始めて搭載している。作中ではマークⅡや量産型と何種類か作られているけど、やはり、一番有名なのはそこにも飾られているハマーン・カーンが登場したタイプだね」

 突然、語り出した男にマシロは軽く引いている。

「君のガンプラをやるのかい?」
「興味ないね。アニメなんて子供が見るもんだろ」
「そんな事は無いさ。ガンダムは子供から大人まで楽しめて日本では社会現象を巻き起こした程だからね」
「あっそ」

 マシロは全く興味を示す事は無かった。
 孤児院ではアニメなどの娯楽は殆どない事もあって、マシロはアニメに興味がない。

「少し待っていてくれないか」

 男はそう言って、店内に入ると数分後には中で買い物をして来たのかおもちゃ屋の袋を持っていた。

「君にこれを送ろう」
「俺はおっさんに恵んで貰う理由はないから」

 マシロはムッとしてそう言う。
 そこで男は自分の行動が早まった事に気が付く。
 マシロは子供とはいえプライドがあった。
 孤児院で生活している為、生活は決して豊かとはいえない。
 おもちゃもゲームも殆ど与えられる事は無かったが、マシロにとってはこの生活が当たり前である為、それを同情される事を嫌っていた。
 男の方はマシロの身の上など知る訳も無い為、この行為は決して同情ではない事もあってマシロからすれば理由もなく何かを与えられる事は嫌だったと解釈した。

「悪かったよ。それと僕はまだ20代だからおっさんは止めて欲しいな」
「知るかよ。20とかおっさんじゃん」

 男は謝罪しながらもおっさん呼ばわりされた事を苦笑いしていた。
 まだ、20代かも知れないが、マシロにとっては十分におっさんと呼べる歳だった。

「僕はこの町に来て日が浅いからね。この町には知り合いも友人もいないんだ。だから、一緒にガンプラを作って僕と友達になろう」
「は?」

 マシロは驚いて言葉を失っていた。
 マシロと男の間には歳が離れ過ぎている。
 それこそ、親子と言われても違和感がない程にだ。

「一緒にガンプラを作れば、歳も性別も国籍、文化も関係なく友達になれる。僕はそんなガンプラを世界に広める為にいろんな国を回ってるんだ」

 男はそう言って袋からガンプラを取り出す。
 袋の中から出て来たガンプラはマシロが気を留めたキュベレイであった。

「君はこのガンプラが気になった。一緒にガンプラを作れば何か見えて来るかも知れないしね。作り方はそんなに難しくないから、僕がきちんと教える。どうだろうか?」
「俺は……」

 マシロは葛藤していた。
 相手はどこの誰かも分からない。
 そんな相手の誘いを受けるなど、幼いマシロでも不味いと言う事は分かっている。
 それでも、断る事にも抵抗していた。
 少しの間考えて、マシロは差し出されたガンプラに手を伸ばす。

「今回だけだからな」
「構わないよ。ガンプラは誰かに強制されてやる物じゃないからね」

 一度でも手に取って、やる気になっただけでも男にとっては十分だった。
 後は実際に作って見てからだ。

「僕はイオリ・タケシ。君は?」
「マシロ。ただのマシロ」

 それが、マシロにとってガンプラとの出会いで、この出会いがマシロの人生に大きな影響を与える事をこの時のマシロは思ってもみなかった。



[39576] Battle11 「新たなステージ」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/01 00:17
 マシロが静岡に入り、3月も下旬を迎え春の足音が聞こえて来ている。
 静岡に入ったマシロは静岡内の最上級ホテルをクロガミグループの名義で買い取った。
 その最上階のフロアをマシロのプライベートルームとして改造を施す為だ。
 最上フロアの一室を自室として使っている。
 元々、高級ホテルであった為、家具は一流の物を使用されているが、以前の状況と今の有様を見れば本当に同じ部屋なのか信じる事が出来ないだろう。
 ガンプラを制作する為の作業台を初めとしていろいろと持ち込んでいる。
 更にはガンプラやガンダムのDVDや漫画、小説、資料集などが壁一面の棚に収納されている。
 それだけではなく、ガンプラ作りやガンプラバトルに役立つかも知れないと言う理由で買い集めたアニメのDVDや小説、漫画なども揃えられている。
 部屋の中央にはバトルシステムが設置されており、いつでも制作したガンプラのテストが行う事が出来るようになっていた。
 今もバトルシステムが起動して、改修したガンダム∀GE-1のテストが行われていた。
 改修されたガンダム∀GE-1は胸部に二基のビームバルカンの付いた装甲が増設されて全体的に強化されていた。
 現在の装備はマシロの得意としている近接戦闘を重視したガンダム∀GE-1 セブンスソードだ。
 右腕にダブルオーライザーのGNソードⅢをベースに制作したショートドッズライフルとCソードが一体化しているメインウェポンが装備されている。
 腰には右にはショートソード、左にはビームサーベルが、両肩には高出力ビームダガーとしても使えるビームブーメラン、左腕には先端にビームサーベルが取りつけられている小型シールドと近接戦闘用の装備が充実している。
 改修前と同様に白で塗装され、近接戦闘能力だけでなく、元々の機動力も強化されている。

「さてと……テストを始めるか」

 そんな近接戦闘重視の∀GE-1 セブンスソードの対戦相手は5機のガンプラだ。
 ガンダムWに登場する近接戦闘を重視しながらもバランスの取れたアルトロンガンダムにガンダムOOに登場するGNファングによるオールレンジ攻撃とGNバスターソード、つま先のGNビームサーベルによるトリッキーな近接戦闘を得意とするアルケーガンダム、同作品に登場しGNフィールドによる防御力と両手に5本のビーム刃からなるGNビームクローを持つガラッゾ、ガンダムAGE-1の初代主人公機にて、マシロの∀GE-1のベースでもあるガンダムAGE-1の換装形態で装甲を犠牲に機動力を重視した隠密力を活かした戦いを得意とするガンダムAGE-1 スパロー、Gガンダムに登場し、重装甲と圧倒的なパワーを持つボルトガンダムの5機だ。
 それも方向性は違えど、近接戦闘を得意としている。
 これは∀GE-1 セブンスソードの力を見る為に敢えてそうしている。
 そして、バトルが開始される。
 バトルが開始されると、アルトロンガンダム、アルケーガンダムがビームによる先制攻撃が始まる。
 それを機体を左右に振って回避する。

「反応は上々」

 攻撃を回避して、右腕のショートドッズライフルで反撃するが、ガラッゾがGNフィールドで守り、アルケーガンダムがGNファングを射出する。
 GNファングに対して∀GE-1 セブンスソードは後退させつつも、胸部のビームバルカンで応戦する。
 ある程度の数を減らしたところで背後にはAGE-1 スパローが忍びよっていた。
 AGE-1 スパローは膝のニードルガンを撃ちながらシグルブレイドを振るい、∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開して受け止める。

「流石は俺が作ったガンプラ達、良い動きをしてくれるね!」

 ∀GE-1 セブンスソードはAGE-1 スパローを弾き飛ばして、ショートドッズライフルを向けるが、ボルトガンダムがグラビトン・ハンマー投げて来た為、攻撃を中止して回避する。

「グラビトンは不味いだろ」

 ガラッゾが腕部のビームバルカンを連射しながら突っ込んで来て、その攻撃を回避するとアルケーガンダムのGNバスターソードと斬撃とアルトロンガンダムのツインビームトライデントの突きが襲い掛かる。
 アルケーガンダムの攻撃をかわして、アルトロンガンダムの突きに対してビームバルカンで迎撃する。
 ビームバルカンの直撃を受けるが、威力は低い為、致命傷を与える事が出来ないが、動きを遅める事は出来た。
 それにより、Cソードを展開し、カウンターでアルトロンガンダムを両断した。
 すぐにCソードからショートドッズライフルに切り替えて放つ。
 ガラッゾがGNフィールドを展開するが、ビームを撃ちながらガラッゾに突っ込んで行く。

「GNフィールドに実体剣は鬼門なんだよね」

 ガラッゾに接近してすぐに、Cソードを展開するとGNフィールドごとガラッゾを切り裂く。
 残っていたGNファングの攻撃を回避しながら、GNファングをショートドッズライフルで撃墜して行く。
 その間にアルケーガンダムは∀GE-1 セブンスソードに接近してGNバスターソードを振り落す。
 ∀GE-1 セブンスソードはCソードで受け止めて、アルケーガンダムはつま先のGNビームサーベルで蹴り上げるが、それよりも前に距離を取って肩のビームブーメランを投げてアルケーガンダムを破壊する。

「後は……2機か」

 ボルトガンダムがグラビトン・ハンマーを投げるがCソードでハンマーを両断すると、ビームバルカンを連射しながら一気に接近してボルトガンダムを破壊する。
 ボルトガンダムが破壊された爆風に紛れてAGE-1 スパローがシグルブレイドを振るうが、それよりも速く∀GE-1 セブンスソードはAGE-1の背後を取りCソードを突き刺した。
 5機のガンプラが破壊されてバトルは終了した。

「調子は良いようね」
「幾ら弟の部屋でもノックくらいしたらどうなん?」
「したわ」

 そう言って、クロガミ・レイコはノックのジェスチャーをする。
 レイコはマシロの1つ年上の姉に当たる。
 白い髪のマシロとは正反対の黒い髪の典型的な日本人だ。
 眼鏡をかけて知的な印象を与えている。
 部屋に入る際にレイコはノックをしたが、バトル中のマシロは聞こえてはいなかった。
 マシロの事だからと、レイコも分かっていた為、反応が無くても部屋に入って来た。

「まぁいい。それで何か用?」
「ここの所、部屋に籠っていたからそろそろ納得の行く出来になっているかと思ったのよ」

 マシロはここ数日の間、改修プランを煮詰めていた。
 レイコの予想ではそろそろ、出来上がると予測して様子を見に来ていたらテストの最中であった。

「こいつは気に入ったよ。このセブンスソードはエクシアやダブルオーから発想を取って……」
「生憎とマシロのガンダム談義に付き合う程、暇じゃないのよ」

 マシロがセブンスソードの解説を初めようとしたところをレイコは止めた。
 レイコにとってはマシロのガンプラがどのように出来たと言う事には全く興味がなかった。
 重要なのはマシロの納得の行く出来のガンプラかどうかだ。
 マシロの表情からは十分に納得が行っている事が分かればそれでいい。

「シオンなら聞いてくれたのによ」
「あの子はアンタの相手をするのも仕事の内じゃない」

 マシロは聞く気を持たないレイコに不満気な様子だ。
 いつもなら、シオンがマシロの話しを聞いているが、シオンは現在、別の仕事でマシロの元を離れている。
 
「つまんねぇの。後は対人バトルで感触を確かめるから出て来る」
「構わないけど、余り情報を出したくはないから、素顔や本名は出さないように。後はいつもの1.5倍程、偉そうに上から目線でね。ついでにバトルでは痛ぶるくらい余裕を見せなさい」
「面倒臭いな」
「こっちはマシロのやり方に合わせているんだからそのくらいは聞きなさい」

 マシロは余り乗り気ではなかったが、渋々了承した。
 夏の時から常につけていた白いマフラーで口元を隠し、白いニット帽を深々と被り、大き目のサングラスを付ければ顔は殆ど見えない。
 そこに白いコートと白い皮手袋を付ければどっから見ても立派な不審者が出来上がる。

「これで良いだろ?」
「完璧よ。もしも、警察に捕まってもこっちで何とかするから」

 レイコの冗談を聞き流してマシロはバトルの相手を探しに向かう。
 マシロを見送ると、レイコはベットに倒れ込んでため息をついた。

「全く……あの子は苦手だってのに……兄さんの奴」

 レイコは誰もいない部屋で愚痴を零す。
 レイコの専門分野は情報だ。
 世界中のあらゆる情報を収集、統括してクロガミグループに役立てている。
 今はレイコが直接動かなければならない程の重要案件が無い為、本業の方は部下に任せている。
 そして、クロガミグループの現総帥にて、マシロやレイコの兄に当たるクロガミ・ユキトの命令にてマシロのサポートをさせられている。
 ユキトの命令は一族において絶対である為、マシロもレイコも拒否は出来ない。
 レイコはマシロを苦手としていた。
 情報を扱うレイコとしては損得や合理的な判断で動く為、マシロのように損得よりも自分がやりたい事をすると言う感情でしか動かないと対極に位置しているからだ。
 その上で、マシロの補佐と言う事はマシロに合わせないといけない。

「私が補佐に付かなくなって今年の世界大会程度、マシロ一人で優勝出来るじゃない」

 レイコの役割はマシロの補佐として、マシロが出場する今年のガンプラバトルの世界大会で優勝させる事だ。
 すでに今年世界大会に出場する可能性のあるファイターのデータは全て揃えて、各ファイターごとに傾向と対策はいくつも用意してある。
 過去のデータから世界大会までに爆発的に成長したと仮定したデータも用意するなど、データの準備に余念はない。
 後は、そこから状況に合わせてマシロが戦うだけだ。
 現在のマシロの実力から考えれば、今年の世界大会においてマシロが手こずる相手はいないと言うのがレイコの見立てだ。
 それなのに、大会までマシロに付き合わないといけないのはレイコにとっては無駄でしかなかった。
 現状でマシロの優勝が確定していると言っても、不足の事態がいつ起こるか分からないと言う理由で最後まで付き合わされている。

「父さんにしろ、兄さんにしろ。あのオタクを特別扱いしてさ……」

 レイコにとっての最大の不満はマシロの扱いにあった。
 マシロはガンプラバトルにおいては天才的な才能を持っていると言う事は世界大会の出場する可能性のある選手の情報を集めた時に認めざる負えない。
 だが、所詮は玩具を動かして遊ぶ遊びでしかない。
 それだけでの才能しか持たないマシロの事と先代当主でマシロやレイコの才能を見出した父や、現在の当主であるユキトは高く評価しいる。
 特に世界的な大グループの総帥でプライベートの時間が取れなかった先代の父は、兄弟の中でマシロの事を最も可愛がっていた事は兄弟の中では周知の事実だ。
 
「やってられないわよ」

 一人で一頻りに愚痴を零したレイコは自分の本来の仕事を片付ける為に、ホテルの自分用の部屋に帰って行く。










 ガンプラ専門店「ホワイトファング」
 一か月程前に静岡に出来た世界最大級のガンプラ専門店だ。
 クロガミグループ系列の店で五階から連なっている。
 一階と二階にはガンプラや工具の販売が行われている。
 ガンプラはもちろんの事、ジャンクパーツやビルダーが制作したパーツの売買が行われており、非売品で一般的に流通していないものを除けば大抵のガンプラが手に入るとまで言われている。
 三階はガンプラの制作スペースでエアブラシなど、購入するのは金銭的な面で敷居の高い工具を無料で貸出をしている上に、土日祝日にはガンプラの制作講習が行われる事もある。
 四階にはバトルシステムが100台近くが完備されており、複数のバトルシステムを一つに纏めての大型のバトルシステムまで設置されている。
 五階には店側に申請を出せばチームの個人スペース用の個室となっている。
 一つのフロアが大型のショッピングモール並みの広さである為、店自体、一般的な模型店と言うよりもショッピングセンターに近い

「皆、凄いなぁ」

 三階のバトルスペースの片隅で、タチバナ・アオイは他のファイターのバトルを見てそう呟いだ。
 少し小柄で丸渕の眼鏡をかけていかにも気が弱そうと言う印象の少年だ。
 来年から高校2年に上がるアオイだが、余りクラスでは馴染めていなかった。
 そこそこの進学校である為、ガンプラの聖地とまで言われている静岡でもガンプラやガンダムは流行ってはいない。
 その上、元々気が小さいアオイにはガンプラバトルを見知らぬ相手に挑む事は出来なかった。
 ホワイトファングが地元に出来た時は舞い上がり毎日のように通い詰めているが未だに一度もバトルをした事は無い。
 ガンプラバトルをしたいと思っても、相手を見つける為に声を掛ける事が出来ず、いつもこうして眺めているだけだ。

「お前……うちのクラスの奴だよな」

 突然、声を掛けられてアオイは思わず、びくりとした。
 恐る恐る振り向くとそこにはアオイも良く知っている相手がいた。

「……シシドウさん?」
「何で疑問形なんだよ?」
「済みません」

 シシドウと呼ばれた少女に軽く睨まれて、アオイは縮こまる。
 シシドウ・エリカ。
 それが彼女の名前だ。
 アオイとは同じクラスだが、接点はない。
 イギリス人とのハーフらしく腰までかかった金髪と蒼い目、とても高校一年生とは思えない発育の良さ、海外で独自のルートを持つ流通企業の社長令嬢と言う事もあって入学当初から目立っている。
 その上で、多少は突っ張っているところがあるが、気さくで面倒見に良い事からクラスでは非常に人気がある。
 
「いや、謝られてもな……」
「済みません」
「たく……えっと……」
「タチバナ・アオイです」

 アオイがクラスメイトだと言う事は見覚えがあったが、名前まではうるおぼえで中々出て来なかった為、アオイは名乗っておいた。

「そう、タチバナだった。で、タチバナもガンプラバトルをやんの?」
「えっと……やってみたいとは思ってますけど……」
「ふーん。じゃぁやってみるか?」
「ふぇ!」

 エリカの言葉にアオイは驚く。
 エリカがここにいる事自体、驚く事だが、自分がガンプラバトルに誘われる事は無いと思っていた為に驚きも倍増だ。

「でも……僕、バトルした事がないから……」
「あっ……でも、アタシのガンプラはさっき、壊れたんだった」

 誘ってみたは良いものの、エリカのガンプラはついさっきバトルで壊れてすぐには使えなかった。
 アオイの言葉を聞く事もなく、エリカは少し考え込む。
 そして、何かを思いつくとアオイの手を掴んで歩き出す。
 異性と接する機会のなかったアオイは顔を真っ赤にするが、エリカは気にする様子もなく、アオイを引っ張って行く。

「センパイ! リベンジに来ました!」

 バトルシステムの一つに到着するとエリカは叫ぶ。
 アオイはイマイチ状況が理解出来てはいない。

「シシドウさん? ガンプラの修理が終わったにしては速いけど」
「アタシじゃないですよ。コイツ、アタシのクラスメイトで、アタシの代わりにこいつがリベンジします」
「へ? ちょっ……」

 アオイも何となく自体が理解出来て来た。
 要するに目の前の相手とバトルすると言う事だ。
 そして、その相手の事はアオイも知っていた。

「僕なんかが、アンドウ先輩に勝てる訳が……」

 アオイやエリカの通う高校の先輩のアンドウ・コウスケ。
 この辺りでは有名なファイターだ。
 その実力は地区予選で何回か上位に入る程だ。
 そんな相手を行き成り相手をしても勝てるとは思えなかった。

「んなもん。やって見ないとわかんねぇだろ? お前もファイターなら自分のガンプラを信じろよ」
「僕のガンプラを信じる」
「そうだ。僕なんかが何て言うなよ。自分で作ったんだろ? なら勝てると信じろ」
「……分かりました。勝てるか分かりませんがやって見ます」

 アオイも震えながらも覚悟を決めた。

「話しは纏まったようだね」
「済みません」
「構わないよ」

 コウスケは余り気にした様子はない。
 その様子にアオイも安堵する。
 だが、すぐに気を引き締めた。
 声を掛ける勇気はなかったが、いつでもバトルが出来るようにガンプラは持ち歩いていた。
 バトルシステムにGPベースをセットする。

「ユニコーンガンダム」
「ビギニングガンダムB」

 コウスケのガンプラはガンダムUCの主人公機のユニコーンガンダム。
 それに対するアオイのガンプラはビギニングガンダムB。
 ガンダムにおける、唯一、ガンダムが現実同様にアニメとして放送されていると言う設定の元、ガンプラバトルのようにガンプラを戦わせる「模型戦士ガンプラビルダーズ ビギニングG」その外伝に当たる「模型戦士ガンプラビルダーズD」の主人公機、ビギニングDガンダムをベースにしたガンプラだ。
 大きな改造はされていないが、一部を青で塗装している。
 装備も右手にハイパービームライフルと左腕にシールド、バックパックにビームサーベルと大きな変化はない。

「タチバナ・アオイ……行きます」

 バトルシステムが起動し、アオイの初めてのバトルが開始する。
 バトルフィールドは山脈地帯だ。

「まずは様子見だ」

 ユニコーンは先制攻撃でビームマグナムを放つ。

「うぁぁぁ!」

 ユニコーンのビームマグナムは作中ではモビルスーツに掠るだけで撃墜出来る程の威力を持つ。
 それを知るアオイはとっさに大きく回避する。
 だが、そのまま山に落ちてしまう。

「やっちまったな」
「っ……まだ、行けます!」

 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを迫るユニコーンに向けて放つ。
 それとユニコーンはシールドで防いだ。

「良いセンスをしている!」

 ユニコーンガンダムはビームマグナムをバックパックにマウントすると、腕のビームサーベルを抜くと頭部のバルカンを連射して接近する。

「接近戦用の武器は!」

 アオイは武器スロットをビームサーベルに合わせようとするが、その際に直接スロットの方を見てしまう。
 それを横で見ていたエリカは頭を抱える。
 これは初心者にありがちな行動だった。
 ある程度、慣れて来るとファイターは武器スロットを見ずに武器を変える。
 スロットの方に視線を向けると必然的に相手のガンプラから目を逸らす事になる。
 それはバトルにおいて致命的な隙となる事がある。

「遅い!」

 ユニコーンはシールドを掲げてビギニングガンダムBに体当たりを行い、ビギニングガンダムBは尻餅をついて倒れる。
 そして、ユニコーンはビームサーベルをビギニングガンダムBに突きつける。

「射撃のセンスは悪くないと思うよ。後は努力を重ねればきっと伸びるよ」
「……はい」

 明らかに実力差があると言う事をアオイは痛感させられた。
 勝負はアオイはバトルを棄権した事でコウスケの勝利となった。

「まぁ、気にすんな」
「はい……」

 バトルが終わり、アオイは明らかに落ち込んでいた。
 エリカも半ば無理やりバトルをさせてた事に少し罪悪感を持っている。

「何だ、センパイも言ってただろ? 努力すれば伸びるって。アタシもさっきセンパイのユニコーンに負けてさ。これで10回くらい負けてんの。あの人はこの辺りじゃずば抜け強いからな」
「それは知ってますけど。シシドウさんはそんなに負けてるんですか?」

 エリカはアオイを元気づけると言う意味も兼ねて話す。
 すでにエリカも10回も負けている。
 さっきもコウスケに負けたところだった。

「だからさ、頑張ろうぜ。今度は負けないようにな」
「……そうですね」

 アオイも少しは元気を取り戻した。
 三階から二階へと二人は降りていく。
 流石にここまで完璧に負けた為、すぐにバトルをする気も起きない。
 階段で下の階に降りる途中で、アオイは立ち止まり振り向いた。

「どうかしたか?」
「いえ……何でもありません」

 アオイはすぐにエリカに追いつく。
 大した理由があって立ち止まった訳ではなかった。
 ただ、階段ですれ違った相手がもうすぐ春になるのに、白いコートに白いニット帽、白いマフラーに白い皮手袋と白一色で真冬の如くの完全装備だった事が少し気になっただけだ。
 初めてのガンプラバトルで負けたアオイはバトルには負けたが、初めてガンプラバトルを行えた事を嬉しく思い岐路に付いた。
 



[39576] Battle12 「白い悪魔」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/03 22:35
 アオイとのバトルが終わったコウスケはガンプラのチェックをしていた。
 バトル自体はすぐに終わった為、ガンプラは何ともない。

「アンタ、強いんだって」

 ガンプラをチェックしていたコウスケは顔を上げて声の方を向いた。
 そこには明らかな不審者であるマシロが立っていた。

「君は……?」
「俺の事はどうだって良い。それよりも強いんだろ?」
「それは僕とバトルしたいって事でいいのかな?」

 コウスケはマシロの事を少し怪しむが、マシロの言葉をそう捉えていた。
 マシロはGPベースとガンプラを取り出した。
 それが質問の答えだと確信したコウスケもガンプラをバトルシステムにおいてGPベースをセットする。
 そして、マシロとコウスケのバトルが開始された。

「さて……お手並み拝見と行こうか」

 バトルフィールドは小惑星帯。
 フィールドのところどころに小惑星があり、非常に障害物の多いステージだ。
 コウスケは小惑星の影に気を付けながら、進んでいるとマシロの先制攻撃のビームが横切る。
 当てるではなく、牽制と威嚇目的のビームに対してコウスケは動じる事は無かった。
 そして、ビームの飛んで来た方にビームマグナムを向けた。

「あそこか……速い!」

 マシロのガンダム∀GE-1 セブンスソードは小惑星帯をかなりの速度でコウスケのユニコーンに接近していた。
 速度を維持しつつも、最小限の動きで小惑星を回避していた。
 ∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルを放つ。
 ユニコーンはシールドで防ぎつつも、ビームマグナムで反撃する。
 だが、∀GE-1 セブンスソードは攻撃を回避する。

「よくもまぁ……このバトルフィールドでそこまでの速度を出せる物だね」
「この程度の障害物は気にする必要はないだろ」
「言ってくれるね」

 ユニコーンはビームマグナムを5発撃ったところで弾切れを起こす。
 ビームマグナムはその威力を引き換えに1度にエネルギーパックを1つ消費すると言う設定があり、装填されているエネルギーパックは5つで5発しか撃つ事が出来ない。
 残弾が尽きるとすぐに、リアアーマーについている予備のエネルギーパックをビームマグナムに装填するが、その隙に∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開して、ユニコーンに切りかかった。
 それと、ユニコーンはビームサーベルを抜いて受け止めた。

「自信満々なだけはあるね」
「アンタは聞いてた程じゃないよな」

 ユニコーンはバルカンを放ち、∀GE-1 セブンスソードは距離を取り、小惑星を盾にして攻撃を防ぎ、小惑星の影から飛び出してCソードを振るう。
 それをかわして、ユニコーンはバルカンで牽制する。

「なら、僕も本気で行かせて貰うよ!」

 コウスケがそう言うと、ユニコーンの装甲がスライドして行く。
 装甲内のフレームが赤く発光し、バックパックのスラスターノズルが2基から4基へと増え、ビームサーベルが出て来る。
 最後に頭部のゴーグル状のメインカメラがツインアイへとなり、マスクが収納されて一本角が中央から割れてV字となった。

「変身しやがった。HGにそんな物を仕込んでたとはな」

 これには流石のマシロも関心した。
 ユニコーンはガンダムとついていながら、その外見にガンダムを連想させる物はない。
 だが、作中において特定の条件を満たす事でその姿を変える。
 それにより、通常形態がユニコーンモードと呼称されるのに対してガンダムとなった状態をデストロイモードと呼称されている。
 その速度が一瞬である為、作中ではデストロイモードへの移行を「変身」とまで言われている。
 ガンプラにおいてはユニコーンモードからデストロイモードへの変形はMGでは再現されているが、HGではユニコーンモードとデストロイモードの2種類のユニコーンガンダムとして発売されている為、変身する事は出来ない。
 しかし、コウスケは本来は再現されていないHGのユニコーンにデストロイモードへの変形機構を再現していた。

「けど、だから何だって話しなんだけどな」

 マシロは感心したが、動揺する事もなく、ショートドッズライフルを放つ。
 デストロイモードとなったユニコーンは先ほどよりも速く動いて回避する。

「さぁ……どう出る!」

 上がった機動力で小惑星帯を移動したユニコーンはビームトンファーで∀GE-1 セブンスソードの背後から切りつける。
 完全に捉えたとコウスケは思ったが、ビームトンファーは空を切り、∀GE-1 セブンスソードはユニコーンの背後を取っていた。

「なっ! 一体何を!」
「何って、普通に回り込んだだけだぞ」

 ユニコーンの攻撃の直前に瞬時にスラスターの出力を最大で使って動いた事で、その動きについて行けなかったコウスケには∀GE-1 セブンスソードが消えたように錯覚した。
 その間に∀GE-1 セブンスソードはユニコーンの背後に回り、Cソードを振り上げていた。

「させない!」
「無駄だよ」

 ユニコーンは振り向きながら、ビームトンファーで防ごうとする。
 だが、勢いよく振り落されたCソードはビームトンファーごと右腕を切り落とす。

「馬鹿な……」
「何が? その程度を切り捨てられないで何の為の剣だよ」

 Cソードは普通に振るっても十分な切れ味を持つが、本来の切れ味はその上を行っていた。
 勢いをつけて振るう事で更に切れ味を増して、ビームすら切り裂く事が出来る。
 ∀GE-1 セブンスソードはユニコーンを蹴り飛ばして、ビームバルカンを放つ。
 ユニコーンはシールドを掲げて、バルカンで応戦しようとするが、ショートソードを投げつけられて頭部に突き刺さる。
 
「くっ!」

 バックパックのビームサーベルを抜こうとするが、ビームサーベルを投擲されたビームサーベルによって潰された。
 そして、∀GE-1 セブンスソードは小惑星の陰に隠れながら、ユニコーンに迫る。

「どこから……」

 コウスケは小惑星の影から飛び出して来る∀GE-1 セブンスソードを警戒するが、∀GE-1 セブンスソードはシールドに内蔵されているビームサーベルで小惑星を両断して、突っ込んで来た。
 Cソードを突き出して、ユニコーンのシールドを貫いた。
 そのまま、ユニコーンの左腕が破壊される。
 そこからは一方的なバトルだった。
 ∀GE-1 セブンスソードのCソードでユニコーンはズタズタに切り裂かれてやがて、戦闘不能と見なされてバトルが終了した。

「こんな事が……」
「まぁ、こんなもんだよな」

 バトルが終わり、マシロはガンプラを回収した。
 切り札を出しても一方的なバトルで敗北したコウスケは茫然をするもすぐに持ち直す。

「凄いね。それ程までの実力に達するまでに余程の努力をしたんだろうね」
「努力ね……別にしてないけど」
「え?」

 バトルには負けたが、笑みを浮かべて握手の手を差し伸べようとしていたが、マシロの言葉でコウスケは止まる。

「俺さ、ガンプラバトルで努力とか頑張った事ってさ一度もないんだよね」

 コウスケの頭の中にマシロの言葉は殆ど届いてはいなかった。
 これだけの実力を持ちながら、マシロは努力をしていないと言う。
 それは、コウスケのこれまでの方針を全否定していると言っても過言ではない。
 尤も、マシロが操作技術や制作技術の向上に費やした時間はコウスケの比ではない。
 今のマシロはガンプラバトルに勝つ為に生きていると言っても良い程だからだ。
 だが、マシロにとってはそれは努力でもなんでもない。
 マシロはただ、好きな事を好きなだけやって極めようとしているだけに過ぎない。
 だからこそ、マシロの中でもガンプラバトルにおいて努力はしていないと言う認識を持っていた。
 しかし、コウスケからすれば、単なる才能だけでこれ程までの実力に到達したとしか聞こえない。

「つか、それ程って言うけどさ、俺、アンタ程度のファイターに全力を出す訳ないじゃん」

 マシロは更に追い打ちをかける。
 このバトルの目的はあくまでも改修した∀GE-1を対人バトルでの感触を確かめる為だ。
 その為、マシロは実力を殆ど発揮してはいなかった。
 その上で出かけにレイコに言われた通りに痛ぶっての勝利だ。
 マシロからすればその気になれば、すぐに決める事の出来たバトルを意図的に引き延ばした事になる。

「まっ、ガンプラバトルで努力している時点でお前は俺には勝てないし。知ってるか? 結果の出せない努力は無駄な努力って言うんだぜ? 俺はそんな努力はしたくはないけどね」

 マシロは最後に止めを刺す。
 結局のところ、マシロからすれば努力は結果を出す為の手段であってでそれが出せなかった以上は無駄でしかない。
 マシロもガンプラバトルにおいては天才的な才能を持っているが、その反面、それ以外の事は殆ど出来ない。
 故にマシロはガンプラバトル以外の事に関しては生きる上で最低限の事が出来れば後はやるだけ無駄な為、出来なくても構わないと思っていた。

「君は一体何もなんだ……」
「名乗る程じゃないさ。だが、強いて言うなら白い悪魔……ヴァイス・デビルとでの名乗って置く」

 本名を名乗る事を禁じられていたマシロはそう名乗る。
 今でこそ殆ど無名なマシロだが、いずれはガンプラバトルの表舞台に出て行く予定だ。
 そうなれば二つ名うあ通り名が必要となって来る。
 その名を聞けば誰もがマシロを思い浮かべる名だ。
 いずれは、必要になって来るのであれば、誰かに勝手につけられるよりは自分で名乗ってそれを定着させた方が良かった。
 完全に打ちのめされたコウスケの事を気にも留める事なく、マシロはホテルへと帰って行く。

 





 



 アオイの初めてのバトルから数日が経ち、アオイは毎日のようにエリカと共にホワイトファングでバトルの練習をさせられていた。
 提案はエリカからの物で、始めは渋っていたが、半ば強引に押し切られた。
 それでも、何度もバトルしているうちに操作も慣れて来ている。

「だいぶマシになったけど、接近されると弱いんだな」
「はい……接近されると動揺してしまって……」

 何回もバトルをしていれば、アオイの操作の癖も見えて来る。
 距離を取っての射撃においては、十分に使えるレベルの物になっている。
 だが、接近されると途端に動きが悪くなって負けると言うのがアオイの負けパターンだ。

「いつもは頭の中で想像しているだけでしたから、射撃の方は何とかなるんですけど、接近戦はイメージ通りにいかなくて……」

 今まで、アオイは声を掛ける勇気を持てずにバトルをした事は無かった。
 しかし、バトルをやりたいと言う気持ちを持っていた為、バトルはもっぱら想像の中で行っていた。
 その為、射撃に関しては落ち着いてイメージ通りに行えたが、接近戦はイメージ通りには行っていなかった。

「その辺は慣れていくにしても、射撃中心でバトルを組み立てた方が良いか」
「ですね。僕もそっちの方が向いている気がします」

 近接戦闘になれば、反応速度ととっさの判断力が必要となって来る。
 そのどちらもアオイは欠けている。
 ならば、射撃主体のバトルと言う方向性は間違っていない。

「さて休憩は終わりにしよう。次の対戦相手を見繕って来る」

 エリカはそう言って、アオイの返事を聞く事なく、人ごみに紛れていく。
 アオイは今更、断る訳にもいかず、自分が強くなっていると言う実感も出て来ている為、エリカの帰りを待っていた。
 数分後、エリカは戻って来た。
 
「待たせた」
「いえ……」
「たく……タチバナ?」

 エリカの連れて来た相手はアオイも知っていた。
 キサラギ・タクト。
 アオイとエリカのクラスメイトでもある。
 エリカ同様にクラスでは目立つ存在で成績は余り良くないが、運動に関してはいくつもの部活から勧誘されていると耳にした事がある。
 
「キサラギ君もガンプラバトルをやってたんだね」
「まぁな。で、なんで俺、シシドウに拉致られんだ?」
「キサラギ君……僕とバトルしてください」

 タクトは何も説明を受けなかったらしく状況が呑み込めていなかった。
 アオイは意を決してタクトにバトルを申し込む。

「良いぜ」

 決死の覚悟にも近い覚悟で申し込んだが、あっさりとバトルをする事に決まった。
 すぐに空いているバトルシステムを見つけるとバトルの準備に入る。

「タチバナ、キサラギの奴は結構やるから注意な。けど、アンドウセンパイ程じゃねぇ。コイツに勝てないとセンパイに勝つなんて夢のまた夢だぞ」
「うっせぇよ。あの人はこの辺りでも別格だし」

 明らかに踏み出しにする気満々のエリカに対して文句を言いつつも、タクトはGPベースをセットしてガンプラをバトルシステムに置いた。
 タクトが使用するガンプラはZガンダムに登場する可変モビルスーツのギャプランだ。
 モビルアーマーに変形する事が可能で空戦能力を持つ。

「ギャプラン、キサラギ・タクト。出るぜ!」
「ビギニングガンダムB、タチバナ・アオイ。行きます!」

 そして、バトルが開始される。
 今回のバトルフィールドはコロニー内だ。
 バトルが開始され、ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つ。
 ギャプランはすでにモビルアーマー形態に変形して回避すると、バインダーに内蔵されているビームライフルで反撃する。
 ビギニングガンダムBはシールドでビームを受け止めると、着地して身を隠す。

「相手は機動力の高いギャプラン。油断しているとすぐに距離を詰められる」

 ビルの陰に身を隠して上空を飛行しているギャプランに狙いを定めてハイパービームライフルを放つ。
 だが、直前のところで気づかれて回避されると、ギャプランは旋回してビームライフルを放つ。

「そこか!」

 ビギニングガンダムBはビルの陰から飛び出て回避して、ギャプランとの距離を取ろうとするが、姿を現した事でギャプランの追撃を受ける。

「悪いが、こっちの方が機動力は上なんでね!」

 ビギニングガンダムBとギャプランとの間に機動力の差は歴然ですぐに距離を詰められてしまう。
 モビルスーツ形態に変形したギャプランはビームサーベルを抜いて切りかかる。
 ビギニングガンダムBはシールドで防いでハイパービームライフルで反撃する。

「おっと!」
「当たらない!」

 ハイパービームライフルを連射するも、ギャプランはムーバブルシールドを使って回避、接近してビームサーベルを振り落す。
 ビギニングガンダムBはシールドで受け止めて、ビームバルカンでギャプランを牽制する。
 その隙に再びビルの物陰に隠れる。

「ハァ……ハァ……どうする……このままじゃ勝てない」

 何とかやられずに済んでいるが、いつまでも逃げ続ける事は出来ない。
 ギャプランはすでにモビルアーマー形態となり、上空を旋回しながらこちらの動きを窺っている。
 
「考えろ……考えるんだ。僕」

 アオイは必死に打開策を考える。
 ここで負けるようではコウスケに勝つ事は出来ない。
 逆にこの局面を乗り越える事が出来るのであれば、勝つ可能性は見えて来る。
 アオイは自身を落ち着かせる。
 そして、自分に出来る事を考えた。
 相手は近接戦闘を仕掛けて来る事は予想出来る。
 近接戦闘に持ち込まれたら、アオイに勝機は無い。
 そうなれば、接近される前に叩くしかない。

「チャンスは一度……」

 今は隠れている為、最初の一撃が最も反応が遅れる。
 そこを突くしかない。
 アオイはギャプランの動きに集中する。
 タイミングを外せば終わりだ。
 だが、時間をかけ過ぎても相手が痺れを切らすかも知れない。

「今だ!」
「そこか!」

 ビルの陰から飛び出してビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つ。
 タクトも反応したが、反応が少し遅れてしまう。
 ビームはギャプランを掠めるが、ムーバブルバインダーの片方を破壊する事に成功した。

「やべ!」

 バランスが崩れたところで、ギャプランはモビルスーツ形態に変形するが、その隙にすかさずハイパービームライフルを撃ち込む。
 ビームの直撃を受けたギャプランは撃墜されてバトルが終了する。

「勝った……」

 勝敗が決まったが、アオイは少し茫然としていた。
 最後の方は無我夢中だったが、自分の思い描いていたようにバトルをする事が出来ていた。

「マジかよ」
「今のは良かったぞ。やれば出来るじゃん」

 タクトとエリカの言葉も余り頭に入って来ないが、少ししてようやく勝ったと言う実感が湧い来る。

「いえ、偶然ですよ」
「謙遜すんなって」
「偶然だろうと勝ったんだから少しは胸を張れよな」

 勝ったものの最後は上手く想像通りのバトルが出来たに過ぎない。
 だが、実力が伴わなければ想像通りにバトルを行う事が出来ない事も事実だ。
 エリカとタクトにそう言われて、アオイは照れていた。
 そんな様子を一人の少年が遠目で見ていた。

「最後の射撃……悪くなかったな。青いビギニング使いか……俺のビギニングとどっちが強いんだろうな」

 そう言う少年の手には一部を赤く塗装したビギニングガンダムが握られていた。
 



[39576] Battle13 「ビギニングVSビギニング」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/07 00:13
 その日のマシロは珍しくガンプラを弄る時間が数時間だった。
 その分、マシロはホテルに持ち込んだレイコのPCの前で何やらやっていた。

「今日はこんなところか」
「人の部屋で何してんのよ」
「気にすんなよ」

 マシロがそう言って背筋を伸ばす。
 レイコのPCはレイコの部屋にあり、マシロは本人の許可を取る事なくレイコのPCを使っていた。
 使っていたPCは重要な情報が入っていない為、レイコとしてはマシロに勝手に使われる分にはさほど問題がある訳ではない。

「あんたねぇ……で、何やってたの?」
「何って自演だよ。自演」

 マシロはそう言ってPCのモニターをレイコに見せる。
 そこにはいくつもの掲示板サイトが表示されている。
 どれもガンプラバトルに関する掲示板だ。
 すべてに共通しているのが静岡にて白い悪魔、ヴァイス・デビルと呼ばれるファイターについての目撃談や被害報告が書かれていると言う事だ。

「ここ数日である程度の種は撒いたけど、あんまり広がってないからさ。俺が自分で適当にでっち上げて書いといたんだよ」

 マシロはここ数日、夜な夜な出かけてはファイターにバトルを挑んでいた。
 その時の状況を匂わせる事である程度の信憑性を出した上で適当な事も書いて自ら白い悪魔の事をネット上で宣伝していたと言う訳だ。

「今までは自分に関する情報を余り出さないようにしていた癖に今度は自演? 何を考えてんの」
「次の世界大会に俺も出るだろ? その為の布石。全くの無名のファイターよりも実在するのか分からない都市伝説的なファイターとして大々的にデビューした方がインパクトがあるからな」

 半年前にユウキ・タツヤと共に出場したタッグバトル大会で優勝したが、ある程度の知名度があったタツヤの方は優勝者として注目を受けたが、全くの無名だったマシロはフルネームで登録していなかった事もあり、タツヤのおまけ程度の認識しかされていない為、未だに無名のファイターと言っても良い。
 次の第6回の世界大会に出場するにあたり、白い悪魔の噂を流し、その本人として大々的にデビューする事がこの自演の目的だった。

「今の時代、ガンプラバトルは最高のエンターテイメントだからな。俺が勝つのは当然の事として、普通に勝つだけじゃ。どうせマシロが勝つんだろ。とか、はいはい、マシロの勝ち勝ちと俺のバトルを見る観客が先が読めて白けるだろ? これから先、ガンプラバトルを牽引して行く身としては自分一人が楽しいだけのバトルでは無く、観客も楽しめるバトルじゃないとクロガミの名が廃ると思うんだよ」

 マシロの言う通り、今やガンプラバトルは世界大会が毎年開かれるくらいに規模が膨れ上がっている。
 その市場は数十億をも超えているとレイコも聞いている。
 クロガミグループもまたガンプラバトルに必要不可欠なバトルシステムの製造の一部に関わり、世界大会のスポンサーの一つでもある。
 そのガンプラバトルを盛り上げるのはクロガミ家の本家、それもガンプラバトルの天才とされているマシロにとっては義務の一つだ。

「さしあたっては謎の最強ファイター、ヴァイス・デビルと言う虚像を作り上げて地区大会の一回戦で地区の優勝候補を秒殺、その後も圧勝で世界大会を制する位をやってのければマシロ・クロガミと言う史上最強のファイターとして歴史に名を刻むだろう。その後は、世界中の名だたるファイターを圧勝する圧倒的な王者として君臨する。そして、観客は期待するだろう。バトルの度に俺が見せる圧倒的なバトルを!」
「あっそ。まぁ、私はアンタが勝ち続けてくれれば何も言う事は無いわ」

 自分の将来設計を熱く語るマシロとは対照的にレイコはどうでも良いと冷めていた。
 レイコにとってはマシロが世界大会を優勝出来るかどうかの方が重要で勝ちさえすればマシロが何を思おうが関係なかった。

「そんな事よりもこれ」

 レイコはそう言って一枚のビラをマシロに見せる。
 マシロは受け取ったビラに目を通す。

「へぇ……ホワイトファングでバトル大会ね……商品はオリジナルウェポン。ありきたりだけど……このオリジナルウェポンって何さ?」

 見せられたビラはガンプラ専門店「ホワイトファング」でガンプラバトルの大会が行われると言う事を宣伝するビラだった。
 日時以外に優勝者にはホワイトファングオリジナルの武器が贈与されると書いてある。

「それをマシロが作るの」
「何で?」
「この大会の告知は店内のみでネット上での情報漏えいは私の方である程度は情報統制をかけるわ。そうすれば、大会にはこの辺りの地区のファイターが大半になるわ」
「成程ね。オリジナルウェポンはファイターを集めるエサって訳か」

 大会はレイコの指示で開かれる。
 ホワイトファング自体、マシロが静岡入りしてから作られたものだ。
 その目的はファイターをホワイトファングに集めて日本第一地区のファイターの情報を収集する事にあった。
 品揃えや設備やサービスの良さからこの辺りのファイターはこぞってホワイトファングに集まって来た。
 そこでガンプラバトルを行う事で、その情報はレイコの元に集まようになっている。
 その情報をマシロの地区予選に活かす事になる。
 だが、情報は時間が経つと鮮度が落ちていく。
 それを防ぐ為に定期的に情報を更新しなければならない。
 その為に大会を開く事で最新の情報を集めようと言う魂胆だった。
 オリジナルウェポンは参加者を集める為のエサと言う訳だ。

「けど、なんで俺が人にやる武器を作らんといけないんだよ。面倒臭いし、まだ、フルアサルトジャケットの関節強度の問題が残ってる」

 レイコの意図はマシロも理解した。
 しかし、マシロは余り乗り気ではない。
 ∀GE-1の改修プランの一つである近接戦闘型のセブンスソードの出来はマシロの満足の行く物だったが、もう一つの砲撃型の「フルアサルトジャケット」はまだ完成していない。
 武装を始め、概ね完成はしているのだが、装備の重量から来る関節強度の問題は以前よりも深刻となっていた。
 そんな問題が残されている以上、マシロは大会の賞品を制作する気にはなれなかった。

「別に性能は二の次で構わないの。寧ろ、見た目を重視して実戦では使えないレベルの方が望ましいわ」

 レイコがオリジナルウェポンに求めるのは性能ではない。
 下手に高性能の武器を作り、賞品として優勝者に渡してしまえば地区大会で当たる時に脅威となり得るからだ。
 あくまでも地区のファイターの情報を収集する事が目的である為、多少はともかく不必要に他のファイターに利益になる事は避けたかった。

「取りあえず、見栄えが良ければそれでいいから、適当に商品を用意しておいて。こっちもアンタのやり方に合わせてるんだからこの程度は譲歩しなさいよね」

 レイコは目的を果たす為なら、非合法な事も厭わない。
 無論、直接的にクロガミグループを使っての関与はしないが、必要であれば例え人の命を奪う事も辞さない。
 一方のマシロは逆で非合法やバトルのルールやモラルに反する行為を一切行わない。
 それは、正義感や倫理感から来る物ではなく、単に美学の問題であって、その辺りもまた、レイコとは反りが合わない。
 今回はマシロの補佐と言う事でマシロの意に反する事はレイコは行えない。
 隠れて行おうにもこの手の事でマシロの嗅覚は異常で、情報戦の天才と言われるレイコですら隠し通せるとは言い切れなかった。
 仮にマシロのやり方に反する事をやり、マシロの気づかれた場合のマシロの行動は非常に危険だ。
 レイコに対して怒り、へそを曲げて拗ねる程度の事なら、まだマシだ。
 最悪、レイコの行為に対してと、自分の美学を汚された抗議として、自分の命を絶つ事も十分に考えられる。
 マシロの生死はどうでも良いが、それにより現在のクロガミ一族の当主である兄、ユキトの自分に対する評価が落ちる事がレイコにとっては最も恐れている事だ。
 兄弟としての価値が無くなればユキトは平気で兄弟を切り捨てる。
 だからこそ、今回はマシロに会わせなければならなかった。

「仕方が無いな。三日で終わらせる」

 マシロも一応はその辺りの事を理解している為、渋々オリジナルウェポンの制作に取り掛かる。








 アオイはタクトとのバトル以降、エリカだけでなく、タクトともつるむ事が多くなっていた。
 タクトはタクトでアオイへのリベンジに燃えている。
 
「くっそ……また負けた!」
「偶然だよ」
「いやいや、キサラギの奴、運動神経は良いから強そうに見えるけど、結構普通だからな。ガンプラバトルは」
「うっせ!」

 あれから何度バトルをしてもギリギリのところでアオイが勝っていた。
 そして、バトルを重ねる度にアオイは目に見えて腕を上げている事が分かる。
 エリカの言う通りタクトは運動神経は良いが、ガンプラバトルの実力は並でしかなかった。

「今日こそは俺が勝つ筈だったのによ」
「アタシの指導が良いからな」
「いや、お前の指導は抽象過ぎてわかんねぇよ」

 エリカはバトルには参加せずにアオイのセコンドに付く事が多い。
 理由として、現在はガンプラを改良中である事とアオイの指導だ。
 だが、実際のところ、指導と言っても感覚的な物言いでアオイに伝わっているかは分かった物ではない。

「あ? アタシの指導のどこが分かんないってんだよ」
「全部だ!」
「二人ともやめようよ。周りにも迷惑だからさ……」

 アオイが控えめに二人を止めると二人は少し冷静になり、自分達が騒ぐ事で回りに迷惑が掛かっていると自覚して、矛を収めた。

「アオイが強くなったのは俺とのバトルのお陰だね」
「は? だから、アタシの指導だろ。なっアオイ」
「えっと……」

 エリカとタクトに迫られてアオイは視線を泳がす。
 どちらを選ぶ事も出来ず、両方を選んだところでどちらも納得しないだろう。
 
「ねぇ。あの人だかりは何だろう?」

 答えようがない為、アオイは露骨に話題を変える。
 だが、アオイの言うように人だかりは出来ている。

「誰かがバトルしてるみたいだけど、行って見るか?」
「そうだね。行こう」

 アオイは話しが戻らないように、率先して人だかりの方に向かう。
 エリカとタクトも決着がつか無かった為に不服そうだったが、人だかりの理由も気になり、アオイの後に続いた。
 何度か、人だかりをかき分けて最前列に到着すると、人だかりはバトルシステムを囲むように出来ていた。

「アイツ……この辺りじゃ見ない顔だな」

 バトルをしていたファイターの片方はアオイもタクトも見た事のないファイターだった。
 歳は自分達と同じくらいで赤いアンダーリムの眼鏡が特徴的で鋭い目つきが冷酷さすら感じられる。

「この町のファイターのレベルもこんな物か」
 
 少年はため息をつく。
 そして、周囲を見渡して次の対戦相手を探す。
 すると、アオイと目があった。

「お前は……次、バトルする気の相手をしろ」
「……僕ですか?」
「そうだ」

 突然の指名にアオイは戸惑うが、エリカとタクトがアオイの背中を押す。

「取りあえず、ぶっ飛ばして来い」
「気が合うな。俺もああいうタイプは気に入らない。アオイ。お前の力を見せてやれ」
「シシドウさん、キサラギ君……」

 勝てる自信はないが、不思議と二人に後押しされると力が湧いて来た。

「分かりました。前のバトルで少しダメージがありますから、直す時間を下さい」
「構わない」

 相手の許可を得たところでアオイは先程のタクトとのバトルでの損傷を応急的に直す。
 少年はその間、文句を言う事無く待っていた。
 そして、ガンプラを直したアオイはバトルシステムの前に立つ。

「あの……タチバナ・アオイです」
「カガミ・レッカ」

 アオイの名乗りに少年、カガミ・レッカは律儀だが完結に名乗る。
 二人はGPベースをバトルシステムにセットすると、自分のガンプラを置いた。

「赤いビギニング……」

 レッカのガンプラはアオイのガンプラと同じビギニングガンダムだった。
 アオイのビギニングガンダムBと違うのはベースがビギニングDガンダムではなく、ガンプラビルダーズDと同じくガンプラビルダーズの外伝であるガンプラビルダーズJの主人公機のビギニングJガンダムをベースにしている。
 ベース機から大幅な改造はされていない為、近接戦闘に特化している。

「ビギニングガンダムR、カガミ・レッカ。出る」
「ビギニングガンダムB、タチバナ・アオイ。行きます!」

 2機のビギニングガンダムが出撃をしてバトルを開始される。
 今回のバトルフィールドは宇宙。
 特に障害物の無いタイプのバトルフィールドとなっている。

「見つけた! 当たれ!」

 先制攻撃をしかけたのはアオイのビギニングガンダムBだ。
 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つ。

「射撃の腕は前よりも向上しているか……」

 レッカはそう言いながらも、ビギニングガンダムRを動かしてビームを回避する。
 ビギニングガンダムRはシールドもライフルも装備していない為、ビギニングガンダムBからの攻撃を回避するしかない。
 前にレッカは一度だけアオイのバトルを見ていた。
 タクトと初めてのバトルの時だ。
 あの時も勝負の決め手となった射撃の時のアオイの集中力は目を見張るものがあった。
 あの時程ではないが、アオイの射撃能力は格段に向上していた。
 それでも、レッカのビギニングガンダムRはビームを回避して確実に距離を詰めていた。

「速い!」

 アオイは距離を詰められないように、後退しつつハイパービームライフルを撃つが機動力はビギニングガンダムRの方が高く時間を稼ぐ程度の意味しかなかった。

「こちらからも行くぞ」

 ビギニングガンダムRは背部のバーニングソードRを両手に持つと一気に加速する。
 バーニングソードRを振るい、ビギニングガンダムBは回避してビームバルカンで牽制する。

「その程度攻撃など!」

 ビギニングガンダムRは両手のバーニングソードRを連結させた状態で回転させてビームを防いだ。
 そして、その状態のままビギニングガンダムBに切りかかる。
 ビギニングガンダムBはシールドで守ろうとするが、シールドは両断される。

「シールドか!」
「その程度か!」

 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルで応戦する。

「やるな」
 
 ビギニングガンダムRは牽制の為にビームバルカンを放つ。
 そのビームが構えていたハイパービームライフルに直撃して破壊される。

「そんな!」

 ビギニングガンダムRは一気に近接戦闘を仕掛る為に加速して接近する。
 ハイパービームライフルを失った事でビギニングガンダムBの装備はビームバルカンとビームサーベルだけしかない。
 ビームバルカンは決定打にならない為、ビギニングガンダムBはビームサーベルを抜いた。

「接近戦ならこっちが有利だな!」
「だからって!」

 ビギニングガンダムRは繋げていたバーニングソードRを分割させて両手に持つ。
 ビームサーベルで切りかかって来たビギニングガンダムBのビームサーベルを片方のバーニングソードRでいなすともう片方のバーニングソードRがビギニングガンダムBの胴体を切り裂いた。
 
「射撃の腕は良いが、近接戦闘はなってないな」

 ある程度の距離が保てた間はアオイも善戦していたが、近接戦闘になった途端にレッカの勝利となった。
 ギャラリー達も善戦している間はもしかして……と言っていたが、あっさりと勝負かつくと掌を返していく。
 
「今日のところは失礼する」
 
 レッカはガンプラを回収すると人ごみの中に紛れて行った。
 一方のアオイは立ち竦みうな垂れている。
 
「気にすんなよ。アオイ」
「そいだぜ。横で見てただけでもアイツは相当な実力者だよ。俺だって勝てたかどうか」

 エリカとタクトはアオイを慰めるが、アオイの耳には届いていない。
 ここまでの大敗は初めてのガンプラバトルでコウスケとバトルをして以来だった。
 ここのところはタクトとのバトルで連勝をしていた為、負けたのは久しぶりのような感覚すらあった。
 コウスケとのバトルの時は初めとと言う事もあって、最後は初心者ならではの凡ミスが原因だった。
 しかし、レッカとのバトルは違った。
 最初はある程度戦えていた。
 だが、ライフルを失い近接戦闘になった途端にあっさりと負けた。
 それは明らかにレッカとの実力差を見せつけられた事になる。

「シシドウさん、キサラギ君……悔しいよ」
「だな……」

 振り絞るような声でそう言うアオイの心中を二人も察していた。
 コウスケの時とは違い、完全に実力で敗北をして悔しくない訳が無い。

「センパイの前に借りを返さないといけない相手が出来たな」
「特訓なら俺も付き合うぜ」
「ありがとう。シシドウさん、キサラギ君」

 アオイは二人の心使いに心の底から感謝した。
 自分一人ではレッカやコウスケに負けた時に心が折れていたかも知れない。
 だが、二人が後押ししてくれたおかげで折れる事無く、リベンジに向かう事が出来た。

「特訓はさて置き、カガミの奴がいつホワイトファングに来るかが問題だな」

 方針が決まったが、問題はそこだ。
 この辺りではレッカは今まで見かけた事は無い。
 あれほどの実力があれば話題になってもおかしくはない。
 そうなれば、レッカは旅行か何かで静岡に訪れて偶然にホワイトファングに訪れたのか、最近引っ越して来たばかりなのかのどちらかだ。
 後者ならまだ挑戦のチャンスはあるが、前者なら次のチャンスが来るかは分からない。

「彼なら来週来るわよ~」

 微妙に間延びした言葉使いで三人は声を掛けられた。
 その相手は店のエプロンをしている事からホワイトファングの店員である事が分かったが、胸元の名札には店長と書かれていた。
 一見、のほほんとしているように見える彼女だが、れっきとしたホワイトファングの店長のナナミ・イチカだ。
 20代そこそこに見えるイチカだが実際にはつい一か月程までは現役の大学生だった。
 ホワイトファングを開店するにあたり、店員のバイトを募集した。
 その時にイチカもバイトに応募して、そのまま今は店長となった。
 それはクロガミグループ全体の特徴でもあった。
 クロガミグループの就職内定率は100%となっている。
 募集に応募すれば学歴や年齢、国籍、職歴に問わず採用している。
 だが、問題はその後だ。
 例え、一流大学を卒業し、過去に一流企業に勤めていようとも、才能がないと判断されると容赦なく切り捨てられる。
 逆に中卒で何年も引き籠っていようとも、才能を認められればどんどんと出世できる。
 それがクロガミグループの特徴だ。
 過去の経歴や余計な情報よりもグループにとって有益な才能を持った人材を重点的に集めている。
 イチカもその口だ。
 イチカ自身は普通の大学だが、クロガミグループにその才能を認められて、バイトから数日で店長となって大学を中退した。
 
「はい。これ~」

 イチカは三人にビラを渡す。
 そのビラはレイコの指示で開催される事となったホワイトファングでのバトル大会のビラだった。

「カガミ君はこの大会にエントリーしてたわよ~」
「へぇ……バトル大会ね。面白そうじゃん」
「優勝賞品はオリジナルウェポンか……アタシらも出て見るか」

 エリカもタクトも大会への参加に意欲的だった。
 アオイもまた、大会に出ればレッカと再戦出来るかも知れないと言う事で興味を持っていた。

「私としても~ある程度の人を集めないとオーナーにどやされるのよね~」
「俺は参加して見るけど、シシドウとアオイはどうする?」
「アタシも出る。来週にはアタシのガンプラも間に合いそうだし」
「僕も参加します」

 三人が参加の意志を表明すると、イチカは参加の登録用紙を用意していたのか、エプロンのポケットから出して三人に渡した。
 三人はその場で必要事項を明記してイチカに渡す。

「はい。これで登録は終わりで~す。来週は時間までには会場に来てね~」

 イチカは登録用紙を受け取ると、戻って行く。
 どうやら、参加者を集める為に参加しそうなファイターに声を掛けて回っていたらしい。

「来週か」
「それまでにアタシらのレベルアップと同時にアオイのレベルアップを行うか」
「二人とも、よろしくお願いします」

 アオイは大会の裏の真実を知る事無く、レッカへのリベンジの決意を胸に明日からの練習に臨むのだった。
 



[39576] Battle14 「監視の中のバトル」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/11 00:07
 日本第一地区のファイターのデータを取る為に開催されたガンプラ専門店「ホワイトファング」のショップ大会は当日を迎えた。
 集まったファイターは100を超えている。
 ホワイトファングが開店する前に、マシロはホワイトファングを訪れて応接室で待機していた。
 応接室にはいくつものモニターが持ち込まれており、大会のバトルを常に監視する事が出来るようになっている。
 ホワイトファングを訪れたのはマシロだけで、レイコはホテルで自分の本来の仕事をしながら待機している。
 レイコは録画した映像だけで十分だが、マシロはモニター越しとはいえ生でバトルを見たいと言う希望もあっての事だ。

「武器を与えれば戦う。人類とは愚かだな」
「シロ君、悪役みたいな顔してますよ~」

 モニターにはすでに会場を訪れたファイター達が映されており、マシロは応接室のソファーに座り込んでその様子を見ている。
 ワイングラスに注がれた牛乳を飲む様はまさに物語の黒幕を思わせる。

「一度やって見たかったんだよ。こういうの。俺ってさ、ザ・主人公って感じだろ?」
「…………まぁ、そうですね~」

 マシロに対してイチカはずいぶんと間を開けて答える。
 実際は露程にも思っていないのだが、マシロに合わせて答えている。
 マシロはホワイトファングのオーナーとなっているが、オーナーは名目上で実際は店の経営方針はマシロが指示を出して、それに合わせてイチカホワイトファングを取り仕切っている。
 そんなマシロの機嫌を取るのもイチカの仕事の一つだ。
 一見、のほほんとしているように見えるイチカだが、長い物には迷わず巻かれて、上司の顔色を窺う事に長けている。
 ホワイトファングの店長にバイトから抜擢されたのも、その才能を見出されての事だ。

「それにしても大変だったんですよ~これほどの人数を集めるのは~」
「だろうな」

 大会自体、この地区のファイターのデータを集める事を目的に開催されている為、大会の告知にはネットを初めとした不特定多数の人間が見る事の出来るツールは使っていない。
 基本的にホワイトファングの客を中心にビラを配ると言うアナログな手段を用いていた。
 それを行う為にイチカは客に手当り次第にビラを配って参加者を集めてた。

「さて……面白そうな奴はいるかな」

 マシロはイチカの苦労アピールを軽く無視する。 
 すでにマシロの頭の中は大会のバトルを見る事に集中していた。






 大会の開始予定時間となり、大会は開始された。
 開会式から始まり、参加者の組み合わせのクジを行いバトルが開始される。
 参加者は100人を超えている為、一つつづバトルを行ったら時間がかかりすぎる為、複数のバトルシステムを使って同時進行で行われる。
 アオイ達もそれぞれ指定されたバトルシステムでバトルを始める。
 
「悪いな。一気に活かせて貰う!」

 エリカはバトル時には長い髪を括ってバトルしている。
 コウスケとのバトル以降、改良していたガンプラ「アサルトルージュ」で対戦相手のダナジンを責め立てる。
 エリカのアサルトルージュのベース機であるストライクルージュはガンダムSEED及び続編のSEED DESTINYに登場するモビルスーツでSEEDの前半の主人公機であるストライクガンダムのデットコピー機だ。
 大幅な改造は無く、右手にビームライフルと左腕にシールドの基本装備に加えてバックパックのストライカーパックにはパーフェクトストライクのマルチプルアサルトストライカーからアグニを外した物を装備している。
 エースストライカーの推力を活かしてアサルトルージュは一気にダナジンに接近する。
 ダナジンも両腕のビームバルカンと頭部のビームシューターで迎撃する。
 バトルフィールドは密林と足元が悪く、自然環境化における踏破性を重視しているダナジンの方がフィールド的には有利だが、アサルトルージュは足場を関係なしに推力に物を言わせて突撃して来る。

「おらぁ!」

 エリカの気合の入った掛け声の同時にアサルトルージュはバックパックの対艦刀「シュベルトゲベール」を抜いてダナジンを一刀両断にしてエリカは勝利した。
 別のバトルシステムではレッカもバトルをしている。
 対戦相手のガンプラはジムⅢだ。
 ジムⅢはビームライフルを放つが、レッカのビギニングガンダムRは回避しながらバックパックのバーニングソードRを両手に持って接近する。
 ジムⅢは肩の中型ミサイルを放つが、ビギニングガンダムRはビームバルカンで迎撃する。
 迎撃されたミサイルの爆風からビギニングガンダムRは飛び出して来て、ジムⅢはビームライフルを向ける。

「遅い」

 ジムⅢがビームライフルを撃つよりも早く、懐に飛び込んだビギニングガンダムRはバーニングソードRでジムⅢの右腕を切り落とす。
 そして、すぐにもう片方のバーニングソードRをジムⅢの胴体に突き刺して撃破した。
 






 大会が開始され、各バトルシステムで白熱したバトルが繰り広げられている中、アオイとタクトはバトルシステムを挟んで対峙していた。
 100人を超える参加者の中から偶然にもいきなり、二人がぶつかる事となった。

「行き成りアオイとか……まぁ、こうなったからには仕方が無いな。互いに全力を尽くそうや」
「うん。僕もカガミ君とバトルする為に負けません」

 アオイはレッカとの再戦の為に大会に出場している。
 この一週間の練習で再選に賭けるアオイの意気ごみはタクトも知っている。
 だが、対戦相手としてぶつかった以上は手加減をする訳にはいかなかった。
 アオイとタクトはGPベースをセットしてガンプラをバトルシステムに置く。
 アオイはいつものビギニングガンダムBだが、タクトのガンプラは以前のギャプランではなかった。
 ギャプランTR-5[フライルー]……ギャプランを改修したモビルスーツでアニメではなく雑誌企画や漫画、小説などで展開されているZガンダムの外伝作品である「ADVANCE OF Ζ ティターンズの旗のもとに」に登場している。

「タチバナ・アオイ。ビギニングガンダムB……行きます!」
「キサラギ・タクト! フライルー……行くぜ!」

 二人がバトルするバトルフィールドはコロニー内だ。
 コロニー内は基本的には地上戦と変わらないが、コロニー内と言う設定が反映されている為、コロニーへのダメージレベルでバトルフィールドが更新される。

「まずは挨拶行くぜ!」

 タクトのフライルーはロングブレードライフルで先制攻撃を行う。
 距離もあり、タクト自身の腕もそこまで高くない為、ビギニングガンダムBは簡単に回避してハイパービームライフルで反撃する。
 フライルーは変形してかわすとロングブレードライフルを撃ちながら接近する。

「前よりも速い!」
「当然!」

 ビギニングガンダムBの接近して再度変形したフライルーはロングブレードライフルを振り下ろす。
 それを、シールドで受け流してハイパービームライフルで反撃するが、フライルーは後方へ下がりながらロングブレードライフルを放つ。

「くっ!」

 ビギニングガンダムBはシールドを掲げるが、さっきの攻撃を受け止めた時にすでにシールドに切り込みが入っていた為、シールドが破壊される。

「シールドが!」

 それだけに留まらず、シールドが破壊された衝撃でビギニングガンダムBはビルに落ちた。

「カガミの奴と再戦させてやりたいが、これも勝負だ。悪く思うなよ」
「まだ、僕は負けてません!」

 ビルに落ちながらもハイパービームライフルを連射してフライルーに狙いを付けさせないようにする。
 フライルーはロングブレードライフルにビームが掠るとライフルを捨ててモビルアーマー形態に変形して旋回しながら、チャンスを伺う。

「行けると思ったんだけどな」
「僕にだって勝ちたい理由がありますから簡単に諦めませんよ」
「知ってるよ。なら、俺に勝って見せろ! アオイ!」

 フライルーは旋回して、ビギニングガンダムBにビームキャノンを放つ。
 ビギニングガンダムは飛び退いて、ビームバルカンで反撃する。
 その攻撃はフライルーのスラスターノズルの一つに直撃して煙を上げた。

「やべ!」
「そこです!」

 スラスターノズルへの被弾からバランスを崩したフライルーをビギニングガンダムBはハイパービームライフルを撃ち込んだ。
 まともに回避も防御も取れずに直撃を受けたフライルーは撃墜された。

「負けたぜ。今回は本気で行けると思ったんだけどよ」
「偶然ですよ。最後の奴が無ければ勝負は分かりませんでした」

 素直に負けを認めたタクトに対してアオイは謙遜気味にそう言う。
 実際のところ、アオイの言うようにビームバルカンが偶然にもフライルーのスラスターノズルに被弾しなければ勝負の行方は分からなかった。
 それでもアオイの勝利には変わらない。

「途中までは優勢だったのによ。なっさけねぇの……」
「そんな事は無いですよ。キサラギ君」

 優勢からの敗北で少ししょげるタクトに店員の一人が慰めの言葉をかける。
 黒い髪の三つ編みに厚いレンズの丸眼鏡をかけているその店員は一言で言えば非常に地味な印象を受ける。
 ホワイトファングは店の規模も大きい為、店員の数も多い。
 その為、アオイはその店員の事は知らないが、タクトの方は顔見知りの様だ。

「ミズキさん……参ったな。かっこ悪いところを見ちゃったな」

 ミズキと呼ばれた店員に対してのタクトの言動からアオイでもタクトが彼女に対して好意を持っていると言う事は理解出来た。
 彼女のエプロンの胸元のネームプレートにはミズキと書かれており、タクトに呼ばれた事からもそれが彼女の名であると分かる。

「そんな事ありませんよ」

 ミズキに慰められているタクトを横目に会場の普段は広告などが映されている大型モニターに他のバトルの結果が映されているのを見て、アオイはエリカとレッカが勝利したと言う事を知った。

「シシドウさんもカガミ君も勝ったみたい」
「だな、お前も俺に勝ったんだ。カガミの奴に当たるまで負けんじゃねぇぞ」

 タクトのエールを受けて、アオイは次のバトルの相手が決まるまでの間に気合を入れ直した。








 会場で同時進行しているバトルを複数のモニターでマシロは観戦していた。
 モニターには別々のバトルの様子が映されているが、マシロはそれらすべてを同時に観戦し、完全にバトル内容まで把握していた。

「まぁ……こんなもんだとは思ってたけどさ」

 マシロは少し飽きて来たのか、応接室のソファーに寝そべって観戦している。
 どのバトルもマシロにとっては得る物の何もない退屈なバトルでしかなかった。
 それでも万が一と言う事もあって、マシロにしては珍しく根気強く観戦していた。
 
「ん? 今の……」

 マシロは不意にモニターの一つに目を止めた。
 それはアオイとタクトのバトルだ。
 ちょうど、アオイのビギニングガンダムBのビームバルカンがタクトのフライルーのスラスターノズルを破壊した場面だ。
 傍から見れば偶然で、本人たちも偶然だと思っている偶然からのアオイの逆転勝利にマシロは何かを感じていた。
 ガンプラバトルにおいては人並外れた嗅覚を持つマシロが偶然にしか思えない出来事に些細な違和感を持った。
 その違和感の正体にはまだ辿り付いてはおらず、それ程、興味が湧いて来る程でもない。
 そうこうしている間にバトルが終了していた。
 
「まぁ……良いか」

 釈然としないながらも、余りにも些細過ぎて心の片隅にでもおいておけばいいと判断したマシロは別の画面と見ようとするが、再びアオイとタクトが映っているモニターに視線を戻す。

「あの店員……どっかで……」

 タクトを慰めている店員、ミズキを見てマシロはそう感じた。
 マシロがホワイトファングには何度もこっそりと訪れている。
 その時に見たかも知れないが、パッと見では地味過ぎて覚えがない。
 視線の端に止まっただけの相手かも知れないが、どうもそう言う感じではない。
 マシロはホワイトファングのオーナーではあるが、最初の従業員を雇う時も全く採用には関わっておらず、レイコに丸投げしている。
 採用自体はクロガミグループのやり方である為、応募した時点で採用は確定しているが、一応は面接を行っている。
 その際にもマシロはレイコに任せて、面接や企業スパイの可能性を探る為の素性や思想の調査も全てレイコ任せだ。
 そのせいもあって、マシロはオーナーながらも従業員の事には一切、関知していない。

「まぁ……良いか」

 ミズキに見覚えがあろうと、マシロにとっては全く重要ではない。
 ミズキの事を思い出せなくても、ガンプラバトルには何の影響もない。
 影響ななければ時間を使ってまで思い出す必要がない。
 すぐにミズキの事から他のバトルの方に意識を向けた。
 マシロはまだ決着のついていないバトルに集中し、アオイのバトルから感じた違和感やミズキへの見覚えを完全に頭の中から消していた。




[39576] Battle15 「クロガミ一族の影」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/16 00:10

 ガンプラ専門店「ホワイトファング」のショップ大会の日程は初日でベスト4までを決める事になっていた。
 バトルに勝利して勝ち残ったファイターは次のバトルまでにバトルで損傷したガンプラを修理する為の工具やパーツを店側から無料で提供を受ける事が可能となっていた。
 これはバトルとバトルの間の限られた時間でガンプラの修理や補強を行えるかと言うガンプラビルダーとしての実力を測る為の事だった。
 大会が問題なく進み、エリカとレッカは危なげなく勝ち進み、アオイは試合ごとに追い詰めながらもギリギリのところで勝利してベスト4に名乗りを上げていた。

「これがベスト4に残ったファイターの資料で~す」

 大会の一日目の日程を終えて、イチカがバトルの資料をマシロに渡す。
 大会の予定では3日後に残りのバトルが行われる。
 わざわざ、日を開けて行う事で今日のバトルの経験をどのようにして次に活かすかを見る為だ。
 その間、ホワイトファングのバトルシステムはベスト4に残った4人は優先的に使用できる。

「全部のバトルを見たからいらない」
「ですよね~」

 イチカは一応は今日のバトルの展開や結果をこと細かくまとめた資料を用意しておいたが、マシロは興味のない分野の事は全く覚えれないが、ガンプラバトルに関する記憶力は無駄に良い。
 今日だけで多くのバトルが行われたが、その全てを記憶しているのだろう。
 イチカも分かっていても、仕事である以上は資料をまとめなければいけなかった。
 尤も、マシロは必要が無くとも、レイコの方は必要である為、全くの無駄ではない。

「それで気になる子はいますか~? 私の一押しはやっぱりゲンドウ君かな~」
「ゲンドウ・ゴウキね……ゴッドガンダムの改造機を使ってた奴か。確かにあのパワーは目を見張る物があるけど、パワーファイターならタイのルワン・ダラーラの方が上だね」

 イチカが押すベスト4のアオイ、エリカ、レッカに並ぶ4人目のゴウキの事をマシロは評価する。
 ゴウキのこれまでのバトルはゴッドガンダムの改造機、ゴッドタイタスによる圧倒的なパワーで勝利して来た。
 だが、マシロからすればタイのファイター、ルワン・ダラーラの方が強いと断言できる。
 それも当然の事だ。
 ゴウキは実力はあるが、地区大会の上位どまりでルワンはタイ代表として何度も世界大会に出場している。
 比較対象としては地区大会レベルと世界レベルとでは実力差があって当然だ。

「他の三人はともかく、一番気になるのはタチバナ・アオイだ」
「タチバナ君……ああ、あの子ですか~」

 イチカはアオイの事を思い出す。
 だが、4人の中で唯一ギリギリのところで勝ち進んでいる為、マシロが気にする理由が分からない。
 
「アイツのバトルは全てギリギリで勝って来た。これだけを見ると大した実力ではないように見える。けど、今日のバトルを全て総合すると不可解なんだよ」

 マシロはそう言うが、イチカにはアオイのバトルの不可解さが見えて来ない。

「レイコが用意した参加者の過去の戦績にも目を通したんだけどな。そうしたら更に訳が分からない事になった」

 そう言われてイチカもアオイの過去のデータを見るが、見た限りでは勝敗は五分五分と言ったところで特出すべき事は無い。
 だが、マシロはそのデータから何かを感じ取ったようだ。

「たとえば、今日の一回戦で当たったキサラギ・タクトは過去に何度もバトルをしている。最初と今日のバトルではタチバナ・アオイの実力はかなり向上している。それに対してキサラギ・タクトの方の実力にはさほどの変化はない。しかし、結果は初めてのバトル同様にギリギリの勝利だ」
「でも~キサラギ君は新しいガンプラを使ってましたよ~」
「確かにな。けど、データを見る限りではギャプランとフライルーの間に完成度の差はない。多少の差異はあっても大きく変わる程じゃない。バトルフィールドも似たような場所だしな」

 過去のデータを比較し易いデータをしてマシロはタクトとのバトルを持ち出した。
 アオイとタクトと初めてバトルした時と今日の一回戦でバトルした時において、アオイの実力は大きく上がっている。
 タクトの実力は大して上がっていないのに結果としてギリギリで勝利している。
 イチカはタクトがガンプラを変えた事を指摘するも、過去のデータにあるギャプランと今日のフライルーの間に大きな差はない。
 ガンプラバトルにおいてのガンプラの強さはガンプラの完成度に比例する。
 作中で強化改修されて性能が向上していると言う設定があろうとも、完成度が下がっていればガンプラバトルでは弱くなると言う事も珍しくはない。
 無論、装備が増える事などを考慮しても、ガンプラの性能向上で実力差を埋める程ではないとマシロは考えている。
 そう考えると本来は楽に勝てる筈の相手に苦戦したと言う事になる。
 
「じゃぁ~タチバナ君は手を抜いていたって事ですか~」
「そんな感じが無かったから不可解なんだよな」

 アオイがバトルで意図的に手を抜いていたとなれば辻褄が合う。
 ガンプラバトルにおいて、自分の手の内を隠すと言う事は世界大会でも使われる手段でもある。
 マシロ自身、バトルで手を抜いた事は無いが、全力で戦った事も数える程しかない。
 だが、アオイのバトルを見た限りではそうは見えない。
 マシロですら見抜けない程の高度な技術でやったとも考えられるが、自分のガンプラバトルへの嗅覚を絶対的に信じているマシロはその可能性はないと考えている。
 同時にデータを解析したレイコの方でも似たような結果が出ていた。
 マシロとレイコが違う方面からのアプローチで似た結果が出たと言う事はマシロの勘違いと言う線はない。

「まぁ、それだけの事で全力を出しても大したことはなさそうなんだけどさ。思った以上に強い奴が出て来ないからな。どうせだから、もう少し試してみたいんだよね。レイコは世界大会を前に不確定要素は減らしておきたいみたいだし」

 アオイのバトルは不可解に思えたが、マシロからすれば脅威とはなり得ない。
 放っておいても問題なないが、不可解な事を不可解のままにしておく事はレイコは好まなかった。
 
「だからさ、次の対戦カードを操作して欲しいんだけど出来る?」
「もちろんですよ~」

 マシロはアオイの実力は脅威には値しないと考えているも、レイコの方は不可解なバトルをしたアオイを不確定要素と考えていた。
 その為、アオイの情報を更に集めたかった。
 マシロの問いにイチカはいつも通りに間延びした口調で答えた。










 ショップ大会から1日が明けてアオイはタクトと共にホワイトファングで練習を行っていた。
 何とかベスト4に残れたと言っても他の3人とは違ってアオイはギリギリのところで勝ち進んできた。
 2日後の準決勝で勝つ為にも更なる練習が必要だとアオイは大会を通じて痛感した。

「今日はシシドウさんは来てないんですね」
「何か、家の用事らしいぜ。まぁ、明後日にはシシドウと当たるかも知れないんだ。一緒に練習する訳にもいかないだろ」

 アオイはあたりを見渡すも、エリカの姿は無かった。
 家の用事らしいが、準決勝でエリカと当たる可能性がある以上は練習を見られないのはこちらの情報を出さずに済むと言う事にもなる。

「ベスト4に残ったファイターは皆、近接戦闘型だ。アオイは距離を取っての射撃戦なら結構強くなって来てるけど、懐に入り込まれたら途端に動きが鈍る。多少はマシになっても準決勝で戦うには近接戦闘ももっと出来るようにしないと不味い」

 アオイは射撃重視の戦い方を得意とするが、他の3人は近接戦闘を得意としている。
 その上、レッカは素早い連続攻撃を、エリカは推力に物を言わせた突貫、ゴウキはパワーバトルを方向性も違う。
 練習の成果で以前のように接近されると弱いと言う弱点はある程度は克服したが、ベスト4に残ったファイターを相手にするには実力不足は否めない。

「今日と明日でどこまでやれるか分からないが、やれる事だけはやってみようぜ」
「お願いします」
「気にすんなよ。取りあえずは距離を取っての射撃は禁止な」

 2日で出来る事は限られているが、勝ち進む為には必要な事だ。
 その練習の為に敢えて得意の射撃を封印して近接戦闘でタクトとバトルする。

「練習とはいえ俺も勝つ気で行くからな。今日は勝利の女神が付いてるから負ける気はしないね」

 そう言うタクトの後ろにはバイトが休みなのか私服のミズキが二人のバトルを観戦しようとしている。
 ミズキの前でかっこ悪いところは見せられないのか、タクトはいつもよりも気合が入っている。
 二人はGPベースをバトルシステムにセットして、練習を始める。











 大会の翌日、マシロはホテルにて珍しく正装をしていた。
 素人目にも仕立ての良い白いスーツを着用し、白いネクタイを付けてきっちりと髪も整えていた。
 普段は周りに言われて人前に出ても恥ずかしくない最低限の身だしなみしか整えていない為、こうしてきちんとした格好をすると普通に美少年に見えるから不思議だ。

「誰?」
「酷くない?」

 そんなマシロを見たレイコの第一声がそれだ。
 余りにも普段のマシロとは別人過ぎて一瞬、誰だか分からなかった。

「てか、なんで俺が兄貴とパーティーに参加せにゃならんの」
「仕方が無いでしょ。ユキト兄さん直々の指名なんだから」

 マシロが正装しているのには理由があった。
 昨日の夜にマシロやレイコの兄のユキトから連絡があり、翌日にユキトが招待されているパーティーにマシロを同行させると言って来た。
 マシロ側の都合を一方的に無視しているが、一族の長であるユキトの命令にマシロもレイコも拒否する事は出来ない。

「私としては非常に不安なんだけど」
「俺だって面倒だよ。今日は一日ここでバトルする気だったのによ」

 マシロはあからさまに不服そうにしている。
 今日はマシロはホテルでひたすらバトルをする予定だったが、その予定を大きく狂わされている。
 一方のレイコはマシロを同行させる理由に不安を抱いていた。

「一応、聞いておくけど自分の役目は分かってるんでしょうね?」
「女を落とすんだろ? 相手を落とすのはいつもやっている事だ。大丈夫だろ」

 マシロはそう言うが、レイコには何が大丈夫なのか理解できない。
 マシロは軽く言っているが、マシロが言う「落とす」とはガンプラバトルでの話しで、今日のパーティーでの「落とす」とは意味がまるで違う。
 ユキトは今日のパーティーでマシロにある人物を落とさせるつもりだった。

「あんたねぇ……確認するわよ。ターゲットはシシドウ・エリカ。シシドウ家の一人娘よ。偶然だけど、昨日の大会のベスト4に残っているけど、アンタの事だから覚えてないから後で写真を用意しとくわ」

 マシロが落とすべき相手は、エリカであった。
 レイコは昨日のバトルでエリカの顔を知っているが、マシロは大して興味が無かった為、顔は覚えてはいない。

「けど、なんで俺が……」
「彼女の実家は運送関係で独自のルートを持ってるからそれが欲しいんでしょうね。兄さんは……その為にアンタとこの子をくっつけさせばシシドウ家を乗っ取る事も出来るわ」
「回りくどいよな。俺としては兄貴が結婚しろって命じれば別に誰とだって結婚しても構わないし。俺の邪魔さえしなければ」

 エリカの実家のシシドウ家は運送業の会社を営んでいる。
 その会社は大企業と言う程ではないが、それなりの規模で独自のルートを持っている。
 ユキトはそのルートを手に入れる為に、マシロをエリカと結婚させる算段をしている。
 エリカは一人娘である為、結婚するとなればマシロが婿養子に入るだろうが、マシロにとってはクロガミの名を名乗る事には意味がない。
 その後はマシロにユキトが指示を出してシシドウ家を動かせば実質的にシシドウ家はクロガミ一族の物になったと言っても良い。
 マシロとしては、ユキトに言われれば例えどんな相手だろうと、ガンプラバトルの邪魔にならなければ興味はない。

「うちは世界に名だたるクロガミグループなのよ。それが取るに足らない中小企業と対等な取引をするなんてプライドが許さないのよ。強引な策は最後の手段に取っておくとして、一番理想的なのはアンタとシシドウ・エリカが恋愛関係になって結婚するって事」

 マシロ本人は自覚は無いが、クロガミ一族の本家と言う肩書だけでも価値はある。
 その肩書に群がって来る連中も少なくはない。
 当然、自分の娘をマシロの嫁にしたいと考えている者も居るだろう。
 エリカの父がその手の人間かは分からないが、言い寄って来た相手を嫁にすると言うのはクロガミ一族のプライドが許さない。
 特に今回はシシドウ家の持つ運送ルートが欲しい為、プライドが邪魔をして下手に出る事が出来ない。
 故にマシロとエリカが自然とくっ付けばクロガミ一族の面目も立つ。

「つまり、一族の名誉を守る為に俺に恋愛ごっこをしろって事か……くっだらねぇ」

 マシロからすれば、一族の名誉や面目を守ると言う行為に対して意味を見出す事は出来ない。
 そんな物に拘っていたところで、それは邪魔でしかないからだ。

「まっアンタには守るプライドとか名誉とかはないからそう言えるのよ」
「プライドとか名誉とかを守って強くなれるなら死んでも守るさ。けど、そんな物は強くなる為には糞の役にも立たないからいらねぇ」

 マシロにとって重要なのはガンプラバトルに勝つ事。
 そして、その為の強さを得ることだ。
 ファイターとしての矜持を捨てた勝利にはつまならく意味がないが、自分をファイターとして高める為ならば、それ以外の誇りもプライドも必要はない。
 その為にマシロは過去のビルダーが制作したガンプラや実力のあるファイターのバトルを徹底的に研究して、必要であれば自分のガンプラやバトルに取り入れている。

「アンタの言いたい事も分かるけどね。世の中綺麗事だけじゃ生きられないわ。けど、分かってるわよね」

 レイコもマシロの言いたい事は分かっている。
 レイコも自分の目的の為なら手段を選ばないタイプの人間だ。
 マシロとは方向性こそはあ違うが変なところで意見が合った。

「当たり前だ。面倒だけど、兄貴の命令じゃどうしようもないさ。拒否って一族から追い出されても敵わんしな」

 一族の面目を守る事はどうでも良いが、これがユキトの命令である以上はやらなければ、一族にいられなくなるかも知れない。
 それは非常に不味い。
 だからこそ、気が進まなかろうとやるしかない。

「少し前までの俺には難しいミッションかも知れなかったが、今の俺には余裕だ」
「根拠はある訳?」

 マシロは非常に自信があるようだが、レイコからすればまともに外の人間と接する事のないマシロが異性を口説き落とすなどガンプラバトルで世界大会を制するよりも難しく思える。

「俺はこう見えてキャラを作るのは得意だ。やっぱ、無個性の人間がバトルで勝ちまくってもつまらないからな。日夜キャラを演じる事を練習して来た。女にモテそうな感じならまぁ……それっぽいキャラを作れば多分、行ける」

 マシロは自身満々だが、レイコは不安しかない。

「それと彼女はショップ大会に出てるからガンプラバトルをやっているみたいだけど、その話題は避ける事」
「何で? 共通の趣味の話題で攻めるのはセオリーじゃん」
「普通ならね。けど、アンタの場合は特殊過ぎて普通じゃないのよ。確実に引かれるわ」

 一般的に異性を相手にする際に互いの共通した趣味の話をする事は正しい。
 しかし、マシロの場合は趣味と言っても度を超えている。
 その為、下手にガンプラ関係の話題で話すと興味を引かれるどころか、普通に引かれてしまう危険性が非常に高い。

「まぁなるようにしかならないけどね。兄貴だってそこまで期待してる訳でもないだろうしな」

 今回マシロを連れて行く最大の理由は単にマシロがエリカと一番歳が近いと言うだけの事だ。
 ユキトの方も強硬策を取る前に一応手を打ったくらいの認識でマシロが上手く行くとは思ってないだろう。
 だからこそ、失敗してもお咎めは無いと見て良い。
 結局のところ、ユキトはマシロに何も期待してはいないのだから。











 準備を終えたマシロがホテルを降りるとすでに、車が待機していた。
 その車にはマシロの兄でクロガミ一族の現当主であるクロガミ・ユキトが待っていた。
 まだ、20代も後半だが、世界有数のクロガミグループを取り仕切っている。

「速く乗れ」
「久しぶりに弟と会ったのにそれかよ」

 ノートパソコンで仕事をしているのか、ユキトはマシロの方を見ようともしないでそう言う。
 マシロがユキトと直接会うのは、父親の葬式以来かも知れなかった。
 数年振りに直接会う弟に対する態度に文句を言うが、ユキトは気にした様子はない。
 運転手が車のドアを開き、マシロは文句を言いつつも車に乗り込む。
 マシロが乗るとドアが閉められ、車は目的地に向かって進み始める。

「それでどうなんだ?」
「今日の事を言ってんなら多分、行ける」

 相変わらずマシロの方を見る事無く、質問するユキトにマシロも頬杖をついて窓の外を見ながらぶっきらぼうに答える。

「大会の方だ」
「そっちね。兄貴がレイコを付けたから、今年は余裕。本命の来年もまぁ……大丈夫だろ」

 マシロにとっては今年の第6回の世界大会は保険でしかない。
 世界大会で優勝すれば、世界チャンピオンとしての名声やその証である優勝トロフィーを初めとした名誉等だけでなく、翌年の世界大会において大会の主催者であるPPSE社から特別招待枠の一つが貰える。
 その為、今年の世界大会に優勝しておけば、来年開かれる第7回目の世界大会では地区予選から出場する必要がなくなる。
 その特別招待枠を得る為にマシロは今年の世界大会に出場するつもりだった。
 例え、今年の優勝を逃しても来年も地区予選から出場すれば良い為、今年は保険としての意味合いが強い。
 今年の内に特別招待枠を獲得していれば来年が地区大会に出る手間が省けるが、結局のところ世界大会を2回も優勝する必要があり、今年優勝してしまえば来年は世界中のファイターあら注目され、バトルの対策を練られるが、マシロからすれば世界大会を優勝するのも、普段のバトルで勝ち続ける事との間に違いはない。
 マシロが所属しているチームネメシスの会長からは第7回大会で優勝すると言うのがマシロとネメシスの間にかわされた契約内容だ。
 来年の7回大会はプラフスキー粒子が発見されてから10年目となる節目の年である為、特別に7回大会の優勝者には優勝トロフィー以外にも様々な副賞が与えられる。
 それを手に入れる為にチームネメシスはマシロと契約した。

「チームの事はどうでも良いが、お前が世界の表舞台で絶対的な勝者となる事は一族としても重要な事だ。負ける事は許さんぞ」
「兄貴、なんか企んでんの?」

 マシロは横目でユキトの方を見ながらカマをかける。
 所詮はガンプラバトルは遊びの範疇を出ていない。
 これがスポーツなどならクロガミ一族の人間が頂点に立つ事には意味があるが、ガンプラバトルで頂点に立ったところで一族にとってはさほど重要ではない筈だ。

「いずれはお前にも伝えるが、今は関係ない話だ」

 マシロのかけたカマを気にする事無くユキトはそう言う。
 そこから、クロガミグループが水面下で何かしらの計画が進行していると言う事が分かる。
 それも、マシロに話すと言う事はガンプラバトルが関係していると言う事になる。
 マシロに話すと言う事はそれしか考えられない。
 だが、何をやろうとしているかは考えたところで分かる訳もなく、調べたところでレイコに頼んでも全貌は見えないだろう。
 レイコとしても、表だってユキトに反抗する事はない。

「あっそ……」

 結局のところ、マシロには何も出来ない為、考えたところで意味はない。
 その時が来れば嫌でも分かる事もあって、マシロはその事を考える事を止めてそこで兄弟の数年振りの会話は終わった。











 準決勝を二日後に控えたエリカは父親に同行してパーティーに出席させられていた。
 パーティーは何かを記念する物だとは聞かされていたが、実際には何かを祝うと言うよりもパイプ作りがメインなのだろう。
 エリカも着慣れないドレスを着せられて、父の後ろをついて適当に愛想笑いをしているだけだ。

「これはシシドウ社長。ご無沙汰しています」

 愛想笑いにも飽き飽きしていたところに父に一人の青年が話しかける。
 エリカもその青年の事はニュースで見た事があった。

「クロガミ会長。活躍は私の耳にも届いていますよ。先代亡き後のグループをまとめ上げているとか」
「まだまだ至らない若輩者ですよ」

 クロガミグループの現総帥であるユキトは爽やかな笑みを浮かべてそう言う。
 エリカのクラスの女子もそのルックスからユキトのファンが多く、何度もエリカの立場から会った事は無いかと聞かれる事も珍しくはない。
 エリカ自身は余り興味はなかったが、クラスの女子が熱を上げるのも分かる気がした。
 そんなユキトの後ろにはマシロが付いていた。
 マシロの方を見た時に不意に視線が合い、エリカは思わず視線を逸らしてしまう。

「そちらの彼は?」
「紹介します。弟のマシロです」
「マシロ・クロガミです。よろしくお願いします」

 ユキトに紹介されて、普段のマシロを知る者からすれば目を疑うような礼儀正しい挨拶を行った。
 マシロも伊達にクロガミ一族の本家を名乗っている訳ではない。
 普段は面倒がっているだけで、公の場での礼儀作法は一通り叩き込まれている。
 
「いつもは自分のアトリエに籠って作品の制作にかかりきりで、社交の場に出る機会がない不作法な弟ですが、今日はマシロが社交の場に出る良い機会だと思って連れて来たんですよ」
「ほう……弟さんは芸術家でいらっしゃるんですか。クロガミ会長の弟さんの作品だ。さぞかし素晴らしい物を作るんでしょうな」
「まだまだ。人にお見せする代物ではありませんよ」

 物は良いようである。
 実際、マシロの作る作品はガンプラを指している為、ユキトは嘘はついていない。
 そして、人に見せるレベルではないと言っておけば、マシロの作品を無理に見ようとはしないだろう。
 尤も、表向きは人に似せられる物ではないと言って、納得してもクロガミ一族の本家に名を連ねているマシロが作る作品が人に見せられない程の稚拙な物だとは相手も思わない為、一族としての名誉を傷つける程の事ではない。

「それで、社長。例の件の事ですが……」
「おお。そうですな。エリカ、父さんは仕事の話をするから向こうに行ってなさい」

 ユキトとエリカの父の間ですでに何かしらの仕事があるらしく、その事を話すようだ。
 エリカは自分で連れておきながら、邪魔になれば一人で放置する父に軽くイラつきながらも、必死に顔に出さないようにする。

「申し訳ない。エリカ嬢。マシロ、お前がエリカ嬢をエスコートして差し上げなさい」
「分かったよ。兄さん」
「いえ……アタ、私は一人でも……」

 まるでエリカが一人になる事を見越していたようにユキトはマシロにエスコートを命じてマシロはそれに答える。
 エリカとしてはいいとこのボンボンと二人きりにされても困るが、ユキトの言葉を受けたマシロにエスコートされてパーティー会場の端まで連れていかれる。
 実力行使をすれば、流石に父に迷惑がかかる為、エリカは殴り倒したい気持ちを抑えた。

「済みません。うちの兄が」
「まぁ……うちの父も乗り気みたいですし」

 エリカは言葉使いを細心の注意を払って答える。
 シシドウ家としても、クロガミ一族との繋がりは会社にとっては大きな利益をもたらす。
 だからこそ、親子程歳の離れているユキトに対しても下手に出ている。

「それはそうと、エリカさん。ご趣味は?」
「はい? ガンプラバトルを少々……っ」

 何の脈拍もなく、話題を変えて来たマシロの質問にエリカは反射的に答えてハッとした。
 今では世界大会を開かれる程に広まったガンプラバトルだが、マシロ達のような上流階級の人間にはただのお遊びでしかなく、一社長令嬢の趣味としては少々野蛮だ。

「それは大層なご趣味をお持ちで」

 だが、マシロの反応はエリカの予測の正反対で好感触だった。

「僕も立体芸術に携わる身としてはこの国の模型技術、特にアニメ「機動戦士ガンダム」を初めとした所謂、ガンダムシリーズに登場する機動兵器モビルスーツを模型化したプラモデル、通称ガンプラは実に素晴らしい。最初のガンダムの放送やガンプラの発売は半世紀以上も昔と言うのに未だに国を超えて愛され続けている。そして、10年程前に発見されたプラフスキー粒子のお陰で今や、ガンプラは作って飾るだけの物ではなく、実際に動くレベルまで進化している。特にこの10年でのガンプラの進化は目覚ましい。まさに至高の芸術と言っては過言ではありません」
「はぁ……(何だ。コイツ、絶対に変だ)」

 突如、語り出したマシロにエリカは圧倒されている。

「それはそうとエリカさん。結婚しましょう」
「はい?」

 更に脈拍もなく、本題を切り出してエリカはすっとんきょな声を上げた。









 パーティーが終わり、ホテルに戻ったマシロは来ていたスーツを脱ぎ捨ててベットに倒れ込む。

「疲れた……」

 ベットに倒れながらも、ベットの下にしまっておいた組み立て前のガンプラを取り出しては枕元に置いてあるニッパーを手に組み立て始める。

「その様子だと失敗したみたいね」

 マシロが帰って来た為、レイコは様子を見に来たが、どうやらマシロは失敗して帰って来たらしい。

「何が悪かったんだろうな。友達からなんて……」
「は? 友達?」

 マシロはエリカを落とす事に失敗して来たようだが、レイコの予想とは違い友達にはなって来たようだった。

「やっぱり、直接結婚を申し込むんじゃなくてホテルにでも連れ込んで既成事実でも作って責任を取るって形の方が良かったか?」
「……取りあえず。連れ込む前に殺されるわね。あの子、以外と腕っぷしも強いし、マシロは取っ組み合いなら私でも勝てるし」

 どういう状況から友達になったのかは、レイコには理解が出来ないが、ぶつぶつと変な事を呟くマシロに一応は言っておく。
 事前情報からエリカはそれなりに腕っぷしが立つ事が分かっている。
 それに対してマシロはガンプラバトルにおいては圧倒的な強さを誇るも、取っ組み合いの喧嘩となれば、肉体労働は専門外のレイコにすら劣る。

「で、実際のところ首尾はどうなの?」
「取りあえずは友達からだそうだ。携帯の番号とメアドは手に入れた」
「アンタにしては上出来じゃない」

 元々、ユキトも全く期待していない状況を考えれば、エリカと友人関係となり連絡先を交換しているだけでも奇跡と言っても良い程の戦果と言える。

「後は時間をかけてジワジワと攻めれば良いわね」
「面倒だ。俺は今日で終わらせるつもりだったのに」

 連絡をしても不自然な状況ではなくなったため、ここからが本番なのだが、マシロとしては早々にケリを付けたかった。

「とにかく、大会の方も使えるわね」

 レイコはすぐに算段を付ける。
 まずは2日後のショップ大会は利用できる。
 マシロは名前だけとは言ってもホワイトファングのオーナーだ。
 ショップ大会の視察とでも名目を付ければ当日に訪れても不自然ではない。
 そこで、偶然を装って再会させる事が出来る。

「それでアンタ的にはどうなの? 彼女の事」
「どうだろ……まぁ、胸はやばかった」
「見るところはそこ? てか、アンタもそう言う所を見るのね」

 レイコは心底意外そうだった。
 マシロはガンプラバトルさえできればどこの誰と結婚させられようと興味がない。
 そんな、マシロが異性に対して普通の回答をする事は意外以外の何物でもない。

「失礼な。俺だって人間だぜ? 人間にはガンプラ欲、食欲、性欲と言う三大欲求があるって俺だって知ってる」
「一つは明らかに違うわよ」

 異性の反応は意外だったが、結局はいつもマシロである事には変わりはない。

「俺だってシローやガロードみたいな恋愛をしてみたいって気持ちはあるさ。尤も、実際にやりたいかって聞かれると御免こうむるけどね」
 
 マシロとて10代も半ばの思春期だ。
 恋愛の一つや二つをしてみたい気持ちは持っている。
 だが、結局のところはマシロは恋愛よりもガンプラバトルの方が優先ではあった。








 初日から3日が経ち、ホワイトファングではショップ大会の準決勝戦が開始される当日となった。
 すでに4人まで絞られているが、大会を最後まで観戦しようとしている観客が非常に多い。

「アオイ。誰が相手でもこの3日間の特訓の成果を出せば優勝出来るぞ」
「全力でやります」
「言ってくれるじゃん。アタシも優勝する気だから。負ける気はないね」

 アオイと同じく、ベスト4に残っているエリカも優勝出来る自信はあった。
 この3日間は互いの手の内を見せないようにエリカとアオイは別々で練習していた。

「お集まりのみなさ~ん」

 会場の特設ステージにイチカが上がり相変わらずの間延びした口調で司会を始める。
 会場を訪れていた観客たちは一斉にイチカの方に注目した。

「それでは~ショップ大会の準決勝戦の組み合わせの抽選をするまえに~ゲストを紹介しま~す」

 イチカがそう言うとステージにスーツを着込んだマシロが上がる。
 それを見た観客たちは誰かと戸惑うが、エリカだけは顔を引きつらせている。
 
「こちらの方はマシロ・クロガミさん。このホワイトファングのオーナーなんですよ~」
「ご紹介に預かりました。マシロ・クロガミです。今日のバトルを楽しみにしています」

 相変わらずの別人っぷりをマシロは発揮している。
 会場の女性たちはその本性を知らずに黄色い声援を上げている。

「ではでは~今日の主役のファイター達の入場で~す」
「お前達の出番だぜ」
「言ってきます」

 何も知らないアオイとマシロと顔を合わせるのは気まずいエリカはステージに上がり、会場に来ていたレッカと最後の一人であるゴウキもステージに上がる。

「では~抽選を初めま~す」

 イチカはそう言って穴の開いた箱をマシロに手渡す。

「この中には~白と黒の2種類のボールが入ってま~す。同じ色を引いた人が対戦相手です~」
「ではレディファーストで」

 マシロはエリカにボールを引かせる。
 エリカはマシロと顔を合わせる事無く、穴に手を入れて少ししてボールを取る。

「シシドウちゃんが引いたボールは白ですね~」
「次は……君」

 今度はレッカの前に箱を持って来るとレッカは穴に手を入れてすぐにボールを取り出す。

「おやおや~カガミ君も白ってことは~対戦カードはこれで決まりよね~」

 レッカが白のボールを引いたと言う事は対戦相手はエリカと言う事だ。
 と言う事は自動的に残りのボールは黒となり、アオイとゴウキがバトルすると言う事が引く前から確定している。
 
「よろしくお願いします」
「ああ」

 ボールを引く事無く対戦カードが決まったアオイはゴウキに一礼をする。
 ゴウキはベスト4の中で唯一高校生ではない。
 屈強な体格の大男でアオイとの体格差は凄まじい。

(さて……見せて貰うぞ。お前の力を……)

 この対戦カードは仕組まれた物だった。
 イチカは箱の中には2種類のボールが入っていると言ったが、実際のところ4つとも白いボールが入っている。
 つまり、最初に引いた二人は確実に白を引く。
 本来ならば、観客や選手の前で不正がないと言う事を見せるべきだが、誰もが普段のイチカの言動から、対戦カードを操作すると言った事をしないと言う先入観からそれを行わずとも文句は出なかった。
 マシロが気にしていたアオイの対戦相手として他の3人の中で最も実力があるゴウキが宛がわれた。
 マシロはゴウキとのバトルの中でアオイの実力とバトルの違和感を確かめる気だ。
 そんな、裏の思惑を準決勝を戦う4人のファイター達は知る事も無く、準決勝の第一試合であるエリカとレッカのバトルが開始される。
 



[39576] Battle16 「アオイの覚醒」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/19 00:24


 ホワイトファングのショップ大会準決勝の対戦カードはエリカVSレッカ、アオイVSゴウキと言う組み合わせとなった。
 組み合わせの抽選が終わったところで一度、ステージに上がった4人とイチカとマシロが降りた。
 準決勝と決勝は特設ステージに設置されたバトルシステムで行われる。
 ここで一度、区切ったのは対戦相手が決まってからの短い時間での行動を見る為だ。
 すでにどのファイターもある程度は対戦相手のバトルスタイルを把握している。
 そこから、対戦相手に合わせたカスタマイズを行うのか、このままで行くかなどをデータをレイコは集めたかった。

「お疲れさん。二人とも」
「……ああ」

 ステージから降りたエリカとアオイをタクトが労う。
 タクトの横には今日もシフトが入っていないのか、ミズキがいた。
 アオイは皆の前に出た事で少し緊張をしていたが、エリカはそれ以上に疲弊していた。

「シシドウさん?」
「いや……何でもない」

 流石にアオイもタクトもエリカの様子がおかしいと言う事に気づくが、エリカは強がる。

「エリカさん。まさか、このようなところで会うとは奇遇ですね」

 エリカの背後からマシロが声をかけてエリカはびくりとする。

「クロガミ……さん」
「マシロで結構ですよ」

 マシロはとびっきりの笑顔を作ってそう言う。
 つい先ほど、店のオーナーとして紹介されたマシロがエリカの知り合いである事にアオイとタクトも驚きを隠せない。

「ここのオーナーだったんですね」
「敬語も結構ですよ。僕はありのままのエリカさんが見たいです」
「えっと……シシドウとクロガミさんは知り合いなんすか?」

 タクトが意を決してアオイも気になっていた事を質問する。
 互いの事を知っている事は話しの流れから分かっているが、関係がイマイチ分からない。
 エリカは余りマシロと会いたくないような感じにも見える。
 
「この前のパーティーで一目惚れしましてね。プロポーズをしたんですけど、フラれてしまいました」
「なっ!」

 マシロの爆弾発言にタクトやアオイだけでなく、ミズキも驚いている。
 当のエリカは気まずそうにしているが、心なしか顔が赤い。
 その反応だけで、マシロの話しが本当である事は分かった。

「僕もあれから冷静になって考えたんですが、いきなりプロポーズはやり過ぎました。申し訳ありません」

 マシロはそう言って頭を下げる。

「元々、この店のオーナーと言うのは名前だけだったんですけどね。エリカさんが大会に出場していると言う事を偶然に知ってしまい、無理を言って来ちゃいました」

 マシロは少しおどけてそう言う。
 そう言われたエリカは更に顔を赤らめる。
 今までエリカはその気の強さから余り、女の子扱いをされた経験が少ない。
 故にここまでストレートに異性から好意を向けられる事に慣れてはいない。

「ん? そこのあ……君」

 エリカを口説いていた、マシロだがタクトの後ろにミズキを見つけて思わず声をかけてしまう。
 声をかけられたミズキは恐ろしく速いスピードでタクトの後ろに隠れるとタクトの背に顔をうずめる。

「以前、どこかでお会いしましたか?」
「いいいいいいえ、滅相もございません!」

 マシロの問いにミズキは普段からは考えられない大声で否定した。
 流石にここまで強く否定された事が意外だったのか、マシロも呆気に取られている。

「えっと……クロガミさん」
 
 見かねたタクトがエリカの方を指を指す。
 エリカは少しむくれていた。

「エリカさん?」
「……行って来る」

 明らかに機嫌が悪くなったエリカは特設ステージの準備が整ったため、ステージに戻って行く。

「どうしたんでしょうね?」

 マシロの言葉にタクトは呆れ、アオイはついて行けず、ミズキは相変わらずタクトの背中に隠れている。

(当然でしょ。おバカ。まぁ、あの反応は脈ありね)
(レイコか。どういう事だ?)

 マシロは周りには聞こえない程、小さい声で話す。
 マシロのネクタイには小型のマイクが内蔵されている為、マシロの周囲の会話はモニター室にいるレイコに筒抜けとなっていた。
 周囲の様子はモニター室からレイコが監視している。
 更にマシロの耳には周囲からは簡単に見破れないようにイヤホンが付けられている。
 モニター室で状況を把握したレイコがマシロに指示を出せるようにしていた。
 先ほどの会話も半分以上はレイコが言葉を考えてマシロに伝えて言葉を話していたに過ぎない。
 だが、マシロはミズキを見つけた時に勝手に話しかけてしまった。
 その時の反応でエリカが少なからずマシロの事を意識していると言う事は確認出来た為、怪我の功名だ。
 それも、マシロが初対面でプロポーズをした事が影響しているだろう。

(アンタは気にしないで良いわ。だけど、彼女の事は気にする必要はないわ。その内分かるから)

 どうやら、レイコはミズキの正体に関して何かしら知っている口ぶりだった。
 マシロとしても、見覚えがあると言う程度の興味しか無い為、レイコに従った。

(それで、どっちが勝つと思う?)
(赤い方)
(どっちも赤いわよ)

 マシロならこの段階でもある程度は勝敗を予想出来ると思い質問したが、マシロはこのバトルに興味が殆どないのか、ひどく投げ槍だった。
 エリカのアサルトルージュもレッカのビギニングガンダムRも赤がメインのガンプラだ。
 赤い方が勝つでだどちらが勝つのか分からない。
 だが、余りしつこく聞いてもマシロの機嫌を損ねるだけだ。
 レイコは、マシロに予想を聞く事を諦めてバトルに集中する。





 準決勝第一試合のバトルフィールドは砂漠地帯だ。
 地上は柔らかい砂が敷き詰められている為、陸戦では砂に足を取られる。
 だが、エリカのアサルトルージュはエールストライカーの推力で強引に突き進む事が出来る為、足場を無視でき、レッカのビギニングガンダムRは飛行能力を持つ。

「悪いな。アオイ。リベンジはさせてやれそうにない!」

 アサルトルージュは出会いがしらにビームライフルを連射する。
 ビギニングガンダムRはビームを回避して、バーニングソードRを両手に持つ。

「そんないい加減な射撃が当たると思うなよ」

 アサルトルージュの射撃を易々と回避したビギニングガンダムRはアサルトルージュに切りかかる。
 
「舐めんな!」

 アサルトルージュは対艦刀「シュベルトゲベール」を抜いて振るう。
 ビギニングガンダムRは空中に回避すると、ビームバルカンを放ち、アサルトルージュはシールドで防ぎながら飛び上がる。
 何度もシュベルトゲベールを振るうが、ビギニングガンダムRはヒラリと回避する。

「シシドウの奴……」
「いつもの勢いがないです」

 エリカとレッカのバトルを見ているタクトとアオイがそう言う。
 今のエリカのバトルにはいつもの勢いがまるでなく、闇雲に攻撃しているだけだ。
 こうなったのも、マシロの事を変に意識しているせいだ。
 そんな攻撃がレッカのビギニングガンダムRを捕える事は出来ない。
 
「俺は少し過大評価をしていたな」

 ビギニングガンダムRはアサルトルージュの攻撃を回避して、地上に降りていく。

「逃げんな!」

 アサルトルージュはバルカンを撃ちながら、ビギニングガンダムRを追いかける。

(終わったな)

 その動きを見た瞬間にマシロは確信した。
 ビギニングガンダムは振り向いてアサルトルージュの方を向くと後ろに下がりながら、かかとを砂にこすり付ける。
 それによって、砂が巻き上げられてアサルトルージュは砂に突っ込む。

「くそ!」

 砂に突っ込んだ事で完全にアサルトルージュの勢いが殺された。
 その隙をレッカが見逃すわけもなかった。
 ビギニングガンダムRのバーニングソードRがアサルトルージュを切り裂いてバトルがレッカの勝利で幕を落とした。






 バトルに敗北したエリカはトボトボとステージを降りて来る。

「悪い。みっともないバトルを見せた」

 明らかにエリカは憔悴している。
 そんなエリカを始めて見てアオイもタクトもかける言葉が見つからない。

「みっともない事は無いですよ。戦うエリカさんの姿はとても美しい」

 マシロが空気を読まずに、エリカを褒め称える。
 これも、レイコからの指示だ。
 そう言われたエリカは少し驚きつつも、呆れていた。

「たく……けど、サンキューな。アオイ……負けんなよ」
「はい」

 マシロの励ましで少し、元気が出たエリカはアオイに激を飛ばす。
 いつもに比べると弱弱しいが、それでもアオイにとっては心強い。
 第一試合が終わり、今度はアオイの第二次第の番だ。
 アオイは緊張した面持ちながらも、しっかりと歩き出す。

「お前が対戦相手か……アンドウの奴が出て来ないから退屈そうだったが、あのカガミとかいう奴は骨がありそうだ」
「カガミ君とバトルするのは僕です」

 今回のショップ大会にコウスケは参加していなかった。
 コウスケが参加していない以上、大したファイターは出ていないとゴウキは考えていたが、予想外の実力者であるレッカが出場していた。
 ゴウキとしては、アオイよりもレッカと戦いたかった。
 だが、アオイもまた、レッカと戦う理由がある。

「ゴッドタイタス!」
「ビギニングガンダムB!」

 アオイとゴウキはGPベースをセットして、ガンプラをバトルシステムに置いた。
 ゴウキのゴットタイタスはGガンダムの後期主人公機のゴッドガンダムの改造機だ。
 改造と言っても四肢をガンダムAGE-1 タイタスの物に変更しているだけだ。
 それによって俊敏性は失われたが、圧倒的なパワーと防御力を獲得している。
 第二試合のバトルフィールドは荒野だ。
 特殊なギミックは無く、フィールドにはいくつもの岩が設置されている為、隠れるところは豊富だが、逆に障害物も多い。
 射撃を主体をするアオイにとっては腕の見せ所だ。

「相手は近接パワー型……接近されたらまずい」

 この3日間でタクトと近接戦闘の練習はして来たが、接近されない事に越した事はない。
 ビギニングガンダムBは上空からハイパービームライフルで先制攻撃を行うが、ゴッドタイタスは岩の陰に隠れてビームは岩で防がれた。

「貫通もしないのか……」

 岩はアオイが思っている以上に頑丈でハイパービームライフルの一撃でも多少の損傷で破壊するには至らない。
 これで破壊出来れば、障害物を破壊しながら攻撃が出来た。
 ゴッドタイタスは岩の影を利用して、ジワジワとビギニングガンダムBとの距離を詰めていく。

「こっちからも活かせて貰うぞ!」

 突如、岩陰からゴッドタイタスが飛び出して来る。
 肩からビームを出して、突っ込んで来る。

「っ!」

 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つが、ゴッドタイタスは気にする事は無く突っ込んで来る。
 肩から出したビームによって、ビギニングガンダムBのビームが弾かれて、ビギニングガンダムBはシールドで受け止める。
 ある程度は勢いが削がれていた為、シールドが破壊されて吹き飛ばされるだけで済んだ。

「なんて、パワーなんだ」
「これだけで済むと思っているのか!」

 地上に降下するビギニングガンダムBを追撃する為に、ゴッドタイタスは方向を変えて今度は拳を突き出しながら落ちて来る。
 飛び上がった先ほどの攻撃とは違い、今度は降下しながらの攻撃だ。
 自身の重量によって加速したゴッドタイタスがビギニングガンダムBを落とす。

「アオイ!」

 ゴッドタイタスは地上に激突し、岩を粉砕する。
 ビギニングガンダムBのハイパービームライフルでも殆ど損傷しなかった、岩の強度を考えると、一撃で岩を粉砕したゴッドタイタスの一撃が如何に凄まじかったか分かるだろう。
 砂煙が起こり、誰もがゴウキの勝利を予測しているだろう。

(いや……まだだ)

 砂煙からビギニングガンダムBが飛び出して来る。
 完全に回避しきれなかったのか、ビギニングガンダムBは左腕と右足を失い、至るところが壊れている。
 何とか、距離を保とうとするが、ビギニングガンダムBはバランスを崩して地上に落ちて岩にぶつかって止まる。

「運の良い奴だ」
(これが運に思えるならお前はその程度だよ)

 一見、運が良かったように見えるが、マシロには見えていた。
 ゴッドタイタスの一撃で周囲に吹き飛んだ岩をビギニングガンダムはライフルなど、失えば一気に勝算の落ちる部分への直撃を避けていた。
 アオイ自身、運が良かったと思っている為、殆ど無意識で行っていた。

「だが、次で終わりだ!」
 
 ゴッドタイタスは腕からリング状のビームを形成すると、ビギニングガンダムBに突撃する。

「ゴッドラリアット!」
「まだ!」

 ビギニングガンダムBはビームバルカンで応戦するが、ゴッドタイタスは片腕で防ぐ。

「僕は……また負けるの……カガミ君に再戦をする事も出来ないまま……そんなのは、嫌だ!」

 ゴッドタイタスの渾身の一撃はビギニングガンダムBを捕えるかのように思えた。
 しかし、ビギニングガンダムBは直前のところで回避し、ゴッドタイタスのゴッドラリアットは岩を粉砕しただけだった。

「かわしやがった!」
(目覚めた……やっぱ、アイツはこちら側の人間だよ)
 
 観客はビギニングガンダムBが攻撃を回避した事に驚いているが、マシロは笑みを浮かべていた。
 攻撃を回避したビギニングガンダムBは片足を失いながらも何とかバランスを保っていた。

「死にぞこないが!」

 ゴッドタイタスのラッシュをビギニングガンダムBはとても片足を失っているとは思えない動きで回避する。

「アオイの奴……どうなってやがる」
「種割れ」
「マシロさん?」

 マシロはポツリを呟いたが、エリカは何かを呟いたと言う事は辛うじて聞き取れた。

「いえ……彼は恐らくゾーンと呼ばれる現象に入ったのでしょう」
「ゾーン?」
「心理学用語で極限まで集中する事で発揮される精神状態の事です」

 レイコがすぐにフォローを入れる。
 とっさにフォローを入れた為、確実にそう言えるかは分からないが、そう仮定した。
 主にスポーツ選手に起こり得る現象だが、ガンプラバトルもまたスポーツに分類する事も出来なくはない。
 敗北が迫り、アオイが勝利を心の底から望み極限まで勝つ為に集中した事による物だろう。
 
「一体何なんだ! お前は!」

 幾ら連続攻撃を行っても、ビギニングガンダムBには当たらない事で、ゴウキも焦りが生じていた。
 焦れば焦る程、攻撃は大雑把となり、隙が生まれる。
 ゴッドタイタスの右ストレートに対して、ビギニングガンダムBは攻撃を最低限の動きで回避すると、ゴッドタイタスの懐に入り込む。
 そして、ハイパービームライフルをゴッドタイタスの腹部に押し付けた。

「アオイ! 特訓の成果! 見せてやれ!」

 タクトが叫び、零距離でハイパービームライフルが放たれる。
 この3日間でアオイは近接戦闘の練習を行い、その中で身に着けた技術がこれだ。
 相手の攻撃を掻い潜って零距離での攻撃。
 練習では思い切りが悪く、中々成功しなかったが、ゾーンに入り極限まで集中している今のアオイなら、攻撃を掻い潜っての攻撃は造作もなかった。
 流石に零距離でハイパービームライフルを受けたゴッドタイタスは胴体を撃ち抜かれて破壊された。

「マジかよ……アオイの奴! 勝ちやがった!」
「いつの間にあんなことを練習してたんだよ」

 優勝候補のゴウキが敗北した事で会場はシーンと静まり返っていた。
 
「僕……勝ったんですか?」

 ゾーンに入り、軽く意識が飛んでいたアオイは自分が勝ったと言う実感がなかった。
 しばらくすると、観客が歓声を上げた。

「勝ったんだよ! アオイ!」
「大したものだよ!」

 茫然としているアオイにタクトとエリカが駆け寄る。

「これで……カガミ君と……」

 実感が湧いたが、アオイはガクりと倒れそうになり、エリカとタクトが支えた。
 ゾーンに入った事でアオイの体力も限界に近かった。

「それでは~決勝戦は1時間後で~す!」

 エリカとタクトに肩を貸されてアオイはステージから降りて来る。
 決勝戦は1時間後である為、それまでアオイを休ませる必要があった。
 エリカとタクトはアオイを近くのベンチに座らせた。

(マシロ。今のバトルどう思う?)
(別に。少しはマシな奴が出て来たってところ)

 バトルの様子は当然、レイコも見ていた。
 アオイがゾーンに入った事でレイコには少なからず動揺が見えていた。
 アオイのバトルが少しおかしいと言う事はレイコもデータ解析から思っていた事だ。
 だから、アオイの相手を操作もさせた。
 その結果が予想外の事態となった。
 一方のマシロの方は大して動揺をする事は無かった。
 マシロからすれば、ゾーンに入った事は大して重要ではない。
 どの道、自分とバトルすればゾーンに入れようが関係はない。
 マシロはただ、自分が勝つと信じて疑ってはいなかった。



[39576] Battle17 「再戦」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/24 00:10
 ショップ大会準決勝戦が終了し、決勝戦の組み合わせが決定した。
 アオイもレッカもこの地区では全くの無名である為、観客たちもざわついている。
 特に地区でも上位のゴウキの敗北は誰もが予測していなかった事態だ。
 ゴウキに勝利したアオイはバトル中にゾーンに入った事により、疲弊しエリカとタクトに近くのベンチに運ばれた。

「それにしても凄かったな」
「いつの間にあんなことが出来るようになったんだよ」

 アオイをベンチに座らせて、二人は矢継ぎ早に質問した。
 座って一息ついたアオイは次第にバトルの時の事を思い出して来た。

「僕にも良く……ただ、カガミ君ともう一度バトルする為に負けられないと思って、後は無我夢中で……」
「火事場の馬鹿力って奴?」
「そうだろう……でも、頭の中がクリアになって相手のガンプラの動きがゆっくりになって……」

 次第に思い出すも、意識が朦朧となっていた事のあって、アオイは明確にバトルの事を思い出す事が出来ない。

「まるでバーサーカーのようですね」

 そこに、自販機でスポーツドリンクを買って来たマシロが割って入る。

「どうぞ」
「済みません」

 アオイはマシロからスポーツドリンクを受け取って飲み始める。

「普段は大人しいのに戦いの時になると鬼神の如く戦う。北欧神話とかに出て来る奴か?」
「ええ。まさに僕はそう感じました。尤も、からくりを解き明かすと神話と言った偶像ではなく、科学的に証明されている事実ではあるんですけどね」

 マシロはアオイにもバトル中に二人に説明した事を掻い摘んで説明した。
 
「ゾーン……僕がそんな事を……」
「ええ。僕の兄の中にプロのスポーツ選手が何人かいます。その兄達もゾーンに入る事が可能で、その時の様子があの時の君に良く似ている」

 アオイは半信半疑だったが、マシロが事例を付けて太鼓判を押すと現実味が出て来る。
 実際にマシロの兄、クロガミ一族の本家の中にはプロのスポーツ選手として活躍している人が何人か存在している。
 アオイ達も少なからず知っている程の選手だ。
 その弟であるマシロが見た事があると言えば、根拠としては十分だ。
 尤も、マシロ自身は他の兄弟とは必要以上に関わりを持っていない為、本当にゾーンに入れるかなど、知る訳もない。

「つまり、君は特別な才能を持っていると言う事ですね」
「やっぱ、アオイは凄い才能を持ってるって事だな。俺の目に狂いはなかった!」
「馬鹿言え、アオイの才能に目を付けたのはアタシの方が先だね」

 クロガミ一族の本家であるマシロに才能を保障されて、エリカとタクトは喜んでいるようだったが、一方のアオイは浮かない表情だった。

「そんな事はありませんよ。僕は皆と何も変わらない……ただの高校生ですよ」
(何だ。この反応)

 マシロはアオイの反応に違和感を感じていた。
 自分に何かしらの才能があればそれが、人殺しや犯罪と言った非社会的な才能では無く、自分が好きな分野での才能であれば喜ぶのが自然だ。
 だが、アオイは自分の才能を否定した。
 これが、単に謙虚から来る物かも知れないが、マシロはそうは思えなかった。
 そこに理屈はない。
 ただ、直感的にそう感じた。

「そんな事よりも、ガンプラの修理の方を急いでも良いですか?」
「ああ、アタシ等も手伝うぞ」
「お願いします」

 アオイがこれ以上、この話題を避けたいのは話題を変える。
 だが、決勝戦までは一時間しか残されていない。
 座ってある程度の体力が回復したら、ガンプラの修理をしなければ決勝戦では不利となる。
 アオイはまだ万全とは言えない為、エリカとタクトはアオイのビギニングガンダムBの修理を行う為に、工作スペースに向かう。
 マシロはそんな3人を見送った。
 3人とも、マシロがファイターである事は知らない為、ついて来ない事は気にする事は無かった。
 ここでついて行っても役に立たないと思われても、拒絶はされない為、ついて行ってビギニングガンダムBの情報を得る事は出来る。
 しかし、2人のように純粋な善意から修理の手伝いを行うならともかく、情報を得るの下心を持って修理を手伝うと言う事はマシロのファイターとしての矜持に反する行いだ。
 あくまでも情報はバトルの中で得なければならないからだ。
 

 





 準決勝から一時間が経過し、決勝の始まる時間となった。
 準決勝を軽く勝利したレッカの方はガンプラを修理する必要もなく、最低限の調整で余裕を持って決勝戦に臨んでいる。
 一方のアオイの方は、準決勝でも何とか勝利した事もあって、ガンプラの修理に時間を要した。
 その上で、アオイのコンディションも万全とは言えない。

「君がここまでやれるようになるなんてな。正直、想像していなかった」
「僕もです。でも、シシドウさんやキサラギ君のお陰でここまで来る事が出来ました。だから……僕は君に勝ちます」
「勝つのは俺だ」

 二人はGPベースをセットしてバトルシステムにガンプラを置く。

「ビギニングガンダムR……カガミ・レッカ。出る」
「ビギニングガンダムB……タチバナ・アオイ。行きます!」

 バトルシステムが起動し、バトルが開始される。
 決勝戦のバトルフィールドは月面だ。
 地上とりも動きが軽く、宇宙空間よりは動きが重くなる事が特徴で重力を振り切れば宇宙でのバトルも可能だ。
 どちらのガンプラも前回のバトルと同じ装備でのバトルとなる。

「まずは!」

 射撃武器を持っているビギニングガンダムBがハイパービームライフルで先制攻撃を行う。

「腕を上げたか。だが、避けられない攻撃ではない!」

 ビギニングガンダムRはバーニングソードRを両手に持って、ビームを回避しながら突っ込んで来る。
 前回よりも、アオイの射撃精度は向上し、以前のように容易に接近する事は出来ないが、それでもビギニングガンダムRは接近しようとする。
 ビギニングガンダムRはビームバルカンで牽制の攻撃を加えて、接近しようとして来る。
 ビギニングガンダムBはシールドを掲げつつも、ハイパービームライフルを連射しながら、距離を取る為に後退する。

「良し……それで良い」
「ああ。接近戦ではアオイが不利だからな」

 決勝戦を観戦していたエリカとタクトも手に汗を握りながらも、バトルを観戦している。
 いつの間にか、二人と合流していたマシロは冷静にバトルを観察している。

(射撃精度が最高時程じゃないな……)

 アオイは確かに実力をつけて、特に射撃の精度は非常に高い。
 それでも、今までのバトルの中で最も良かった精度には届いていない。
 
(アレはまぐれか……それとも別の要因があるのか?)
 
 そう思いつつも、バトルが大きく動いて来た。
 アオイの射撃に慣れて来たレッカは最低限の動きでビギニングガンダムBの射撃を回避できるようになって来た。
 それにより、次第にビギニングガンダムBとの距離を詰めていく。

「逃げ切れない……なら!」

 このままでは追いつかれる事が時間の問題だと判断したアオイは距離を取る為に後退するのではなく、前に出た。
 流石に、射撃主体のバトルをして来たアオイが急に前に出た事はレッカにとっても予想外の行動で反応が少し遅れてしまう。
 その隙にビギニングガンダムBはシールドでビギニングガンダムRに体当たりを行う。

「よっしゃ! 練習通りだ!」

 タクトは練習通りに上手く行って声を上げて喜んだ。
 3日間での練習で行って来た事はゼロ距離攻撃だけではない。
 後退しているように見せかけてからの急接近のその一つだ。
 2機のビギニングガンダムは月面に倒れ込む。

「やられたな。まさか、前に出るなんてな」
「僕も成長しているんです」
「そのようだな。だが、接近戦ではこっちが有利だ」

 ビギニングガンダムRはバーニングソードRを構えて、一気に距離を詰める。
 すでにビギニングガンダムRがすぐに詰められる程の距離だった為、ビギニングガンダムRはバーニングソードRを振るう。
 ビギニングガンダムBはシールドで受け流して、ハイパービームライフルで反撃する。
 
「やっぱつえーな。カガミの奴」
「だが、アオイも負けてない」

 ビギニングガンダムRが近接戦闘を仕掛けて、ビギニングガンダムBが防いでハイパービームライフルで反撃する。
 これの繰り返しが数分も続いた。
 
「どっちも決定打に欠けると言ったところですね」
「また、ゾーンに入る事が出来れば……なぁ、クロガミさん。簡単にゾーンに入る方法はないんすか?」
「簡単に入れては苦労はありません」

 マシロはタクトの問いを一刀両断する。
 マシロの言う通り、簡単に入れてしまえば苦労は無く、才能も必要はない。
 マシロの正論にタクトは黙り込んでバトルを見る。

(ゾーンに入る為にはキサラギ・タクトは役不足って事もないけどな……一度、入ってしまえばある程度は入り易くなるんだがな)

 準決勝で対戦カードを操作したのは他の3人の中で最も強いファイターをアオイにぶつけたかったからだ。
 その結果、アオイはゾーンに入ると言う覚醒を果たした。
 それよりも劣るとは言っても、ここまで互角に戦えば、その兆しを見せても良い。

(あれは偶然だったのか? それも……)

 マシロが考えている間に更にバトルが動いた。
 ビギニングガンダムBの放ったビームがビギニングガンダムRの左肩を撃ち抜いて、ビギニングガンダムRの左腕が肩から吹き飛ぶ。
 
「良し!」

 だが、ビギニングガンダムRもやられながらもビームバルカンを至近距離から撃ち込み、何度も攻撃を防いでいたビギニングガンダムBのシールドを破壊する。
 更に、右手のバーニングソードRを振るい、ビギニングガンダムBのハイパービームライフルを破壊する。
 そして、2機は距離を取って対峙する。

「不味いな……」
「相手の片腕を破壊したけど、ライフルが……」

 状況を見れば、ビギニングガンダムRが片腕を失って不利にも見えるが、ビギニングガンダムBはシールドとライフルを失っている。
 特にハイパービームライフルはビギニングガンダムBにとってのバトルの要だ。
 それを失ってしまうと一気に戦力が低下すると言っても良い。
 ビギニングガンダムBはバックパックのビームサーベルを抜いて構える。

「次の一撃で勝負が決まる」

 マシロがポツリと零した言葉はエリカもタクトも聞こえてはいなかった。
 どちらも、アオイとレッカの次の行動に集中しているからだ。

「ここまでやられたのは予想外だったが、勝つのは俺だ!」
「カガミ君に勝つ為に、練習に付き合ってくれた二人の為にも僕は負けません!」

 ビギニングガンダムRも片腕でバーニングソードRを構える。
 2機のビギニングガンダムは互いの剣を構えて睨みあう。
 そして、2機は同時に飛び出した。
 ビギニングガンダムRがバーニングソードRを振り落す。
 それを、ビギニングガンダムBがビームサーベルを持っていない左腕で受け止める。
 ビギニングガンダムBの左腕はすぐには切り裂かれずに、バーニングソードRを受け止めて、ビギニングガンダムBはビームサーベルを突き出す。

「やったか!」
「まだだ!」

 その突きを無理やりに胴体をくねらせて、ビギニングガンダムRはかわして、ビームサーベルはビギニングガンダムRの脇腹を掠った。
 その後、バーニングソードRはビギニングガンダムBの左腕を切断するが、攻撃をかわす為に動いていた為、胴体までは切り裂けなかった。
 2機はそのまま、剣を振るった。
 ビギニングガンダムRの一閃はビギニングガンダムBの頭部を切り落とし、ビギニングガンダムBの一閃は少し遅れてビギニングガンダムRの右腕を切り裂いた。

「ちぃ!」
「行け! アオイ!」

 ビギニングガンダムRはビームバルカンで攻撃し、ビギニングガンダムBはビームバルカンの直撃を受けて、ボロボロになりながらもエリカとタクトの声援に応えるかのように、最後の力を振り絞ってビームサーベルを振るった。
 その一撃はビギニングガンダムRの胴体に突き刺さり、同時にビギニングガンダムBの右腕も破壊された。
 ビームサーベルが突き刺さった事で、ビギニングガンダムRは後ろに倒れ込んだ。

「アオイの奴……」
「ああ……」

 最後の攻防は時間にして僅か数秒の出来事だった。
 ビギニングガンダムRが倒れた事で勝敗は決した。
 勝負がついても、会場はシンと静まり返っていたが、やがて大きな歓声が沸きあがった。

「結局、最後の方は軽くゾーンに入った程度か」

 湧き上がる歓声の中、マシロだけは歓声を上げる事は無かった。
 最後の数秒の攻防で、アオイはゾーンに軽く入っていたが、完全に入る事は無かった。
 ガンプラショップ「ホワイトファング」のショップ大会はこうして、アオイの優勝で幕を下ろした。





 優勝者が決まった事で賞品の授与と閉会式が特設ステージで行われている。
 ステージには優勝者のアオイと司会のイチカが上がっている。

「それでは~優勝者のタチバナ君、一言どうぞ~」

 イチカにマイクを向けられて、アオイは少し戸惑い、照れて視界を泳がしている。
 すると、視界の端にエリカとタクトが見えて少しは落ち着きを取り戻す。

「えっと……優勝出来たのは僕一人の力ではなくて……一緒に練習を付き合ってくれた友達のお陰です……ありがとうございました」

 アオイは少しゆっくりだが、エリカとタクトへの感謝の言葉を述べた。
 アオイがここまで戦う事が出来たのは二人の支えがあったからだ。
 そう思ったからこそ、この場で二人への感謝の気持ちを口にした。

「ありがとうございま~す。では、優勝者への賞品の授与に入りま~す」

 イチカがそう言うと、マシロが小さい箱を手にステージに上がる。

「優勝おめでとう。ありがとうございます」

 マシロは少し笑みを浮かべながら、アオイに賞品を渡す。
 アオイも賞品を受け取り、エリカとタクトの方に見せる。
 そして、閉会式は滞りなく進み、大会は終了した。
 大会が終了し、大会の為に設営された特設ステージが解体される頃には、観客も帰っている。
 マシロは応接室のソファーに座り込む。

「はぁ……やっと終わった」
「お疲れさまです~」

 マシロはエリカたちといる間は、好青年でいた為、ストレスがかなり溜まっている様子だった。
 イチカは頼まれる前に牛乳の入ったグラスをテーブルに置いた。
 マシロはその牛乳を一気に飲み干した。

「どうでした~」
「予想以上の収穫だった。特にタチバナ・アオイ。アイツは俺と同じこちら側の人間だよ」

 始めは大して乗り気ではなかったが、終わってみれば、思っていた以上の収穫を得る事が出来た。
 アオイは思っていた以上に才能を開花させた。
 それを確かめる事が出来ただけでも収穫としては十分だ。

「以外でしたよね~あの子が優勝したのは~」
「まぁな。まだ、俺達の域に達してはいないが、アレはそこまで来るだけの才能を感じたよ。問題は本人の気持ちの方か……」

 アオイの中から才能をマシロは感じた。
 しかし、少し話して見てアオイは自分の才能に否定的な感じだった。
 その理由は分からないが、このままでは才能はこれ以上開花しないかも知れない。

「ご執心ですね~」
「興味以上の対象にはなったかな」

 そう言うマシロの目はまるで獲物を見つけた獣の様だ。
 今回の世界大会の地区予選には大した実力者もいない為、退屈だと思っていたが、少しは楽しめそうな相手を見つけた。
 これからどう転ぶかは分からないが、退屈はしないで済みそうではあった。
 地区予選が始まるまでにはまだ、期間が開くため、マシロはそれまでの退屈凌ぎとして、アオイに狙いを定めた。



[39576] Battle18 「エリカの条件」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/04/30 23:20
 ホワイトファングのショップ大会がアオイの優勝で幕を閉じ、アオイ達の春休みは何事も無く、終わりを迎えて2年生に進級しての新学年が始まった。
 幸いな事にアオイは今年も、エリカやタクトと同じクラスとなった。
 その上、以外な事実として、レッカも同じ学校であると言う事がクラス替えの掲示で判明した。
 今まで、面識はおろか、見覚えもなかったのは春休みの内に静岡に親の仕事の都合で引っ越して来たからで、今年からアオイ達と同じ高校に転校してきたかららしい。
 新学年が始り、アオイの生活は以前の物とは異なって来た。
 以前は友達と呼べる相手がいなかった為、高校は勉強をする場所でしかなかった。
 しかし、春休みの出来事でエリカやタクトと出会い、三人で行動する事も珍しくはない。
 そして、放課後になればホワイトファングでバトルをする日々が続いていた。

「今日はこの前の大会の賞品を装備させてみました」

 アオイはエリカとの練習にショップ大会の優勝賞品である装備「スノーホワイト」が装備されている。
 そのーホワイトはマシロが制作した装備で大型のビームライフルだ。
 従来のビームライフルよりも高出力で、二門の銃口が特徴的だ。

「へぇ……」

 アオイと対峙するエリカもスノーホワイトに興味深々だった。

「じゃあ撃って来いよ」
「はい。行きます」

 いつもなら、バトル開始と同時に敵に切り込んでいくエリカだが、スノーホワイトの威力を確かめる為に、対艦刀を構えているだけだ。
 そして、ビギニングガンダムBはスノーホワイトを構える。
 エリカのアサルトルージュに狙いを付けて、スノーホワイトを放つが、ビームはアサルトルージュから大きくそれた。

「なんつー威力だ」

 攻撃こそは外れたが、その威力は絶大だった。
 だが、その反動でビギニングガンダムBは後方に倒れ込んでいた。
 攻撃が大きく外れたのは発射時の衝撃に耐えきれなかったからだ。
 スノーホワイトの威力を確かめた事でバトルを中断して、アオイ達はバトルシステムを離れた。

「にしても凄かったよな」
「直撃コースじゃなくても、対峙する側からすればあれだけのビームはプレッシャーになるな」

 バトルシステムを離れて、ベンチに座ってアオイとエリカ、タクトはさっきのバトルを振り返る。
 外れこそしたが、スノーホワイトのビームはライフルが大型と言う事を考えても、凄まじかった。
 レイコはマシロに制作する際に見た目重視で性能は二の次で、寧ろ性能は低い方が好ましいと言っていたが、マシロは気にしてはいなかった。
 元々、スノーホワイトはマシロのガンダム∀GE-1の砲戦用の装備であるフルアサルトジャケット用の装備として制作していた物を使っている。
 ベースがウイングガンダムゼロのツインバスターライフルを使っている為、高出力なのは当然の事だった。
 わざわざ、性能を落とすと言う事はしなかったのはマシロ自身がビルダーでもあると言う事だ。
 ファイター程の飛び抜けた実力がある訳ではないが、マシロのビルダーとしての実力は世界に通用するだけの技術は持っている。
 そして、勝敗に拘るのと同じように、意図的に弱い装備を制作すると言う気は無かった。
 仮に優勝者がスノーホワイトを手に入れたとしても、マシロは勝つ自信があると言う自信の表れでもあった。

「でも、外しちゃいましたけどね」
「だよな」

 威力こそは凄まじかったが、目標から大きく逸れていた。
 今回は、威力を見る為でエリカも大きな動きは取っていないが、実戦となると相手も避けようとしたり、攻撃をして妨害もして来るだろう。
 そんな状況で正確に射撃する事は今の状態では困難だ。

「地区予選までには何とか出来れば良いんですけど……」
「難しいな」
「この辺りの地区予選は今月の終わりからだからな」

 世界大会の地区予選の開催は地区によって異なる。
 大会の参加枠は100程度しかない為、その椅子を巡って参加枠の少ない国によっては万単位の中から一人が選ばれる程だ。
 静岡の日本第一ブロックの開催は4月の終盤から5月の中旬にかけて行われる。
 日本の地区予選では一番早く開催される。
 それまでにスノーホワイトを使いこなせればいいが、実際問題としては残りの時間を考えると難しいと言わざる負えない。

「あの……ガンプラの方を改造しては如何でしょうか?」
「ミズキさん!」

 3人が話していると遠慮がちにミズキが声をかけて来る。

「見てたんですけど、ライフルの威力にガンプラの踏ん張りが負けてたんですよ。タチバナさんのガンプラは塗装が主で大幅な改造をしていないので、多少の改造でガンプラの性能が上がると言う事も珍しくないですから」

 珍しく、ミズキは饒舌に話しをする。
 ホワイトファングでバイトをしているだけあって、ミズキはガンプラに関する知識はあるのだろう。
 実際、アオイのビギニングガンダムBは部分的に塗装をしているだけで、大幅な改造はされていない。
 さっきのバトルでも、スノーホワイトの威力による反動を支えきれなかった。
 そこを改善すれば、安定した射撃が行える。

「改造ですか……やってみたい気もするんですが、失敗した時が怖いですからね」
「だよなぁ……」

 アオイの言葉にエリカもタクトも力強く頷く。
 これは、ビルダーならば誰もが通る道だ。
 ガンプラを改造する事自体は程度にもよるが、やり方さえ分かっていれば難しい事ではない。
 だが、その際に失敗すると言うリスクが付いて回る。
 改造の時に失敗してしまえば、最悪、直せなくなる危険性がある。
 ある程度の技術があれば、そうなった時の対処法も身に付くが、そこまで辿りつく事が出来なければ意味がない。
 そんな危険性がある事もあって、世界大会ですらも、大幅な改造をしないで基本的な部分をきっちりとやって、自分好みの塗装をしただけのガンプラで出場するファイターもいる程だ。
 エリカとタクトも手先が器用な方ではない為、ガンプラを大きく改造すると言う事はしていない。
 アオイの方は不器用と言う程ではない上に、一人でいる事が多かった事もあって、制作知識やある程度の技術はあるが、ビギニングガンダムBを改造すると言う所までは踏ん切りがつかない。

「そうですか。済みません。出過ぎた真似を……」
「いえ、こちらこそ……せっかくの好意なのに、済みません」

 余り自己主張をしない者同士が頭を下げると、空気が重くなる。

「やぁ、エリカさん。奇遇ですね」

 そんな空気を爽やか好青年モードのマシロがぶち壊す。
 表向きは店の様子を視察に来て、偶然にもエリカと出会ったと言う事になっているが、実際のところはエリカ達が店に来た事をイチカから報告を受けて来ている。
 マシロの登場で、相変わらずの速度でミズキはタクトの後ろに隠れるが、一方のマシロはミズキの事を全く気にした様子はない。

「そう……ですね」
「余り言葉使いを気にする必要はありませんよ。僕はありのままのエリスさんを見たい。それに活動的な女性の方が好ましい」
「だってよ」
「うっせ」

 茶化すタクトにエリカが軽くひじ打ちを入れる。

「ところで、エリカさん。今度の日曜、デートしましょう」

 相変わらずの脈拍もない、誘いにすでにパーティーで同じようにプロポーズをされているエリカは特に驚く事は無かったが、その辺りの事を詳しく聞いていないアオイとタクトは目を点にして言葉もなかった。















 そして、デートの当日、マシロは待ち合わせの場所に1時間程早く到着していた。
 マシロは時間ギリギリで構わないと言ったが、レイコの指示で1時間も早く待ち合わせ場所に向かわされた。
 1時間もあれば、CPU操作の相手と何度もバトルが行える為、マシロは難色を示したが、デートに際して待ち合わせよりも早く到着して待つのは当然の事だと言われて渋々、それに従った。
 相変わらずの白いスーツを着用の元、マシロは仕方が無く実際のバトルではなく、頭の中でイメージをしながらエリカを待っていた。
 待ち合わせの時間まで後、30分と言う頃にエリカも待ち合わせの場所に現れた。

「アタシの方が早く来たと思ったんだけどな……」
「いえ。僕も今来たところですよ」

 マシロは事前にエリカが来た時に言えと言われていたので、実際には30分も待っていたがそう返した。
 
「それにしてもお似合いですよ」

 そして、もう一つ事前に言われていた事を言う。
 会ってすぐに、取りあえず服装を褒めろと言われていた。
 
「つか、良い歳した男が女子高生を連れているのは不味くね?」

 エリカの今日の服装は高校の制服だった。
 マシロはデートと言っていた為、余り気合の入った服装で来れば、まるでデートを楽しみにしていたようで癪と言う事もあって、無難な制服を着て来た。
 それと同時に、日頃の意趣返しも含めて制服を選んでもいた。
 成人男性が明らかに未成年、それも制服の女子高生を日曜の昼間から連れて歩けば否応にも目立つ。
 そうなれば、社会的な地位を持つマシロは都合が悪いと踏んでの事だ。
 それで警察沙汰になっても、クロガミ一族の当主の弟と言う立場や、大事になる前に庇えばそれ程の事にはならないだろう。
 待ち合わせの時間に30分も早く到着したのも、デートに誘っておきながら、女性を待たせると言う失態をさせると言う軽い嫌がらせのような物だった。

「ご心配なく。僕とエリカさんは同い年です」

 マシロは動じる事なく、答える。
 今回もレイコのバックアップがあるが、この程度ならレイコの指示が無しでも問題は無かった。

「マジで!」
「マジです」

 マシロの年齢を知らなかった、エリカは驚きマシロは笑顔で肯定する。
 エリカが制服を着ていようともマシロとエリスが同い年であるなら、何も問題は無かった。

「では、少し早いですけど、行きましょう」

 出先を挫かれたエリカに、レイコからの指示でさり気なくエスコートをしながら目的の場所に向かう。

「けど、良くチケットが取れたな」
「ありすの所属事務所はクロガミグループ系列ですからね」

 マシロがデートの場所に選んだのは妹系アイドルのありすのライブだった。
 余りアイドルと言った方面に知識がないエリカも知っていた。
 ありすの所属事務所はマシロの言うようにクロガミグループ系列である為、マシロの立場を使えばライブのチケットを二人分、用意する事はさほど難しくは無い。
 尤も、このライブ自体、レイコがありすの事務所に圧力をかけて、急遽開催される事となった物だと言う事はエリカは知らない。
 
「しっかし、人が増えて来たな」
「ですね。車を用意しておいた方が良かったですね」

 会場に近づくにつれて、人の数が増えて来ていた。
 ライブは急だったのにも関わらず、チケットは即日完売である辺りはありすの人気が伺える。
 マシロは人が増えて来た事で、エリカの手を握った。

「これではぐれませんね」
「……ああ」

 その気になれば、マシロ達はこの人だかりを避けて会場に向かう事も出来ただろう。
 そうしなかったのはレイコの策だ。
 はぐれないようにと言う名目ならば、自然にマシロがエリカの手を握る口実が出来る。
 普段から異性に手を握られる経験のないエリカに対して、この手段は非常に有効的な策と言えた。
 マシロに手を握られて、エリカは照れもあって大人しくなっている。
 そうこうしている間に、マシロはエリカを連れて会場に到着するが、マシロは正面からではなく、会場の裏の方に回る。
 会場の裏手にも当然の事ながら、警備員がいるが、警備員はマシロを見ると敬礼して裏口から二人を通した。

「どうなってんの?」
「警備の方もうちの系列ですからね」

 さもあたり前のように言われ、もはやエリカも深く突っ込む事を止めた。
 
「ここが楽屋です」
「は?」

 会場の中を進むとマシロがある部屋の前に止まる。
 エリカの理解が追いつく前に、マシロは扉を開けた。

「お兄ちゃん!」

 開けると、中から少女が飛び出す。

「もぅ。来るときは連絡してよね!」
「ごめん、ごめん」

 飛び出して来た少女は、マシロに抱き着いてそう言う。
 その少女の事はエリカも見た事があった。
 その少女こそが、今日のライブの主役であるありすだ。
 テレビで何度も見た事のあるふりふりの付いた衣装を身にまとった人気アイドルが目の前でマシロに抱き着いている。
 次々と起こり、エリカは完全に混乱していた。

「立ち話もなんですから、中に入りましょう」
「うん! そうしてよ!」

  ありすに手を引かれてエリカは楽屋の中に入って、進められるままに座る。

「エリカさん?」
「いや……てか、お兄ちゃん?」

 エリカは座って一息ついたところで、ようやく現実を受け入れつつあった。

「紹介します。妹のありすです。ちなみにありすと言うのは芸名でして、本名はクロガミ……」
「駄目だよ。お兄ちゃん。ありすはありすだよ!」
「ああ、そうだったね」

 マシロはエリカにありすの事を紹介する。
 一般的に公表されていない事だったが、ありすもまたクロガミ一族の本家でマシロの妹に当たる。
 
「もう……なんでもありだな」
「ええ、うちは大抵の事はありですよ」

 エリカの投槍の言葉をあっさりと肯定するが、今更疑う余地もない。

「それで、お兄ちゃん。この人が?」
「そうだよ。いずれありすのお姉さんになるエリカさん」
「いや……まだそんな事は……」
「やったぁ! 私、エリカさんみたいなお姉ちゃんが欲しかったんだ!」

 エリカの言葉を遮るように、ありすがエリカに飛びつく。
 そして、エリカの事を上目使いで見つめる。

「他のお姉ちゃん達は冷たいの。いっつもありすと遊んでくれないんだもん」
「姉さん達も忙しんだよ」

 エリカにそう言うありすをマシロが窘める。
 耳につけられたイヤホンからは、ありすの言う冷たい姉の一人であるレイコがぶつぶつと言っているが、状況的に無視しても問題は無いだろう。

「ありす。エリカさんが困っているだろう」
「えー!」
「アタシは別に……アタシは一人っ子だから妹とか少し憧れているし」
「ほんと! エリカお姉ちゃん大好き!」

 エリカは一人っ子である為、兄弟に対して憧れのような物を持っているらしい。
 今は何人かの兄や姉のいるマシロからすれば、一部の兄弟はかなり煩わしい存在でもある為、その辺りは理解出来ない。

「そろそろ、時間だろ?」
「ぶー」

 話している間に時間は経過し、後、20分程でライブの開始となる。
 余り、ここで長話をしていたら、時間に間に合わなくなる。 
 頬を膨らませて、あからさまに不満と見せているありすをエリカから引っぺがそうとするが、ありすは中々離れようとはしない。
 
「マシロの言う通りだ。ここにはありすのファンが大勢来てるんだ。時間は守らないとな」
「お姉ちゃんがそう言うなら……」

 エリカに諭されて、渋々ありすはエリカから離れる。

「僕達は客席から見てるから」
「うん! 今日は楽しんで行ってね!」

 ありすに見送られて、マシロとエリカは客席の方に向かった。







 ありすのライブは大盛況で終わった。
 ライブが終わるとすでに日が落ちて辺りは暗くなっている。

「余りアタシはこういうのは良くわかんないけど、凄かったな」
「そうですね」

 エリカはアイドルのライブは初めてだったが、ありすのファンの熱気を肌で感じていた。
 その熱気に当てられたのは、少し興奮気味だったが、マシロの方はいつも通りの笑顔を張り付けていた。
 マシロからすれば、多くのファンを世界中に持つありすの歌も街中の騒音も大して変わらない。

「僕と結婚すれば、もれなくありすも義理の妹としてついてきますよ?」
「いやいや。流石にそれで受けるとか無いだろ」
「僕としてはそろそろ、良い返事を聞かせて貰いたいものですけどね」

 そう言うマシロはいつになく真剣だった。
 それを感じたエリカも真剣な表情になる。

「つってもな……」
「では、エリカさんの好みの男性をお聞きしたいですね?」
「そだな……取りあえず、強い方が良いな」

 エリカの答えに対してマシロは肩をすくめる。
 どう見ても、マシロは腕っぷしが良いようには見えない。

「それは不味いですね……」

 マシロは少し考え込む。
 根本的にエリカとの好みに自分は該当しない。
 マシロ的にはここで諦めて引くと言う事も出来る。
 元々ユキトはマシロにそこまでの期待は持っていない。
 駄目なら駄目で次の手を用意しているだろう。
 それこそ、ここで引いても次の日には全てが終わっていると言う事も考えられる。
 だが、それはそれで癪だった。
 ここでユキトに言われた事を見事にやり遂げる事が出来れば、ユキトの中でもマシロの評価も変わって来るだろう。
 ガンプラ以外の事を積極的にやる気はないが、ユキトに見直される事は少し魅力的な事でもあった。
 マシロは普段はガンプラ以外の事で殆ど使わない頭をフルに回転させて、打開策を考える。

「なら、僕の本気を見せましょう」
「本気?」
「ええ。確か、エリカさんは近々ガンプラバトルで少し大きな大会に出場されるのでしたよね?」
「まぁ……」

 マシロはそう切り返す。
 確かにエリカは今月末の世界大会の地区予選に出場予定だ。
 地区予選と言ってもPPSE社が主催している公式の世界大会だ、少し大きいと言うレベルではない。
 一般的なファイターからすれば世界大会に出場できるのは選ばれた一部のファイターのみで誰しもが憧れる夢の舞台である。
 しかし、本気で自分が最強だと確信しているマシロからすればその気になればいつでも出場が出来、いつでも優勝出来る大会と言う認識でしかない。
 
「では、その大会で僕が優勝したら僕と結婚してください。この国の法では僕は結婚できませんから、正式には婚約と言う形になりますけど」

 マシロはそう言い切る。
 エリカは呆気に取られてすぐには言葉が出なかった。
 世界大会に優勝すると言う事は名実共に世界最強のファイターとなると言う事だ。
 マシロの実力やファイターである事すら知らないエリカからすれば、後半月ほどで初心者から世界最強になると言っているようなものだ。
 幾らクロガミグループの力を総動員しても全うな方法では不可能だ。
 しかし、そう言うマシロの目は本気でやろうとしている目だ。

「……ああもう! アタシの負けだよ。良いぜ。約束してやる! マシロが世界大会で優勝すれば結婚でもなんでもしてやるよ!」

 エリカは半ば自棄になって叫ぶ。
 元々、女の子扱いされて悪い気はしていなかった。
 だからと言って、いきなり結婚云々と言われても困るが、流石にガンプラバトルで世界一に本当になってしまったとすれば、もう折れるしかない。

「けど、その代わりに優勝出来なければアタシの事はきっぱり諦める事。それが条件だ」
「構いません。そうでなければフェアではないですからね」

 マシロはあっさりとそう言うが圧倒的にマシロが不利である事はエリカも分かっている。
 地区予選はトーナメント戦である為、一度でも敗北すれば終わりだ。
 仮に地区予選を勝ち抜いて世界大会に出場しても、一度の敗北が命取りとなる。
 つまり、マシロは世界大会で優勝するまで、実質的に一度も負ける事が出来ないと言う事だ。
 
「……約束だからな」
「ええ。約束です。僕は絶対に優勝しますから覚悟していて下さいね」

 エリカは圧倒的に有利な条件である為、少し後ろめたかったが、このままズルズルと今の関係を続けるよりかはマシだった。
 マシロは自分が圧倒的に不利だとは気付いていないかのように、条件を受け入れた。
 
「では、今日はこれで。エリカさんを自宅までお送り出来ないのは残念ですが、僕も少しやる事が出来ましたからね」
「家は近いし、別に送らなくても良いって。多分、アタシの方が腕っぷしは強いし」
「確かに。ではお休みなさい」

 マシロはそう言って、タクシーを拾う。
 マシロの乗ったタクシーを見送りながらも、やはり、悪い事をしたと思いつつも帰宅した。







 ホテルに付いたマシロは自分の部屋に到着すると、ネクタイや背広を脱ぎ捨ててベットに倒れ込む。
 普段は使わない言動で、マシロは疲れ切っていた。
 マシロが戻った事を確認したレイコはマシロの許可を得る事なく、堂々とマシロの部屋に入って来る。

「お疲れ様」
「死ぬ」

 レイコはこうなる事を見越して、牛乳の入っているグラスをテーブルに置くとマシロはその牛乳を一気に飲み干した。

「生き返った」
「サチコからメールが来てたわ」

 牛乳を飲んで元気を取り戻したマシロだが、レイコの言葉で途端に機嫌が悪くなる。

「なんて?」
「キモっだってさ」

 サチコと言うのはマシロやレイコの妹で兄弟の末っ子の名だ。
 そして、そのサチコこそがマシロがさっきまでエリカとのデートで利用したありすの本名だ。
 尤も、ありすは本名のサチコがダサいと言って普段からありすで通し、本名のサチコで呼ばれると機嫌が悪くなる為、兄弟の中でも本人に対してはありすと呼んでいる。
 兄弟の中で、本人をサチコと呼ぶのはユキトとマシロ位である。

「お前もなって返しといて」
「嫌よ。自分で返しなさい。あの子と言い、アンタと言い私を中継しないで頂戴」
「嫌だね」

 マシロは即答で返す。
 エリカのいた時は仲の良い兄妹に見えたが、実際のところマシロとありすの仲が悪いのは兄弟の中では公然の事実だ。
 今日はユキトの指示でマシロが動いていると言う事やエリカが一族とは関係のない部外者だと言う事で、ありすも内心は嫌々だが、マシロを慕う妹を演じていた。

「てか、アンタは何でそこまでサチコの事を嫌うの?」
「あの言動が生理的に受け付けない。何? あのお兄ちゃん大好きオーラは」

 マシロはそう言って身震いをする。
 ありすは基本的に兄に対しては、エリカに見せた態度を取る。
 マシロにはそれを受け付ける事が出来ないらしい。

「ああいうのは。妹は二次元だからこそ許されるんだよ。リアル妹がああだと正直気持ち悪いね。妹ってのはもっとこう……普段は兄の事なんてゴミ屑を見るかのように冷たい視線を送っている物なんだよ。それでいて、いざって時に見せるデレにこそ真の妹としての価値がある! 具体的にはツンが8でデレが2と言う比率が好ましい」
「それ、アンタの性癖の問題よね。弟の性癖なんてデータは知りたくなかったわ」

 妹に対しての余りにも偏っている価値観に対して、本気で引いているレイコに対して、マシロは不満気な視線を向けている。

「俺のではない。ファイターのだ。ファイターってのはな。自分が強くなる為ならどんな苦行だって耐える事が出来る。それが強さに繋がるのであれば、苦行はやがて強くなる事に対する快楽に変わる。敢えて言おう、ファイターはドMであると!」
「知らないわよ」

 もやは、レイコは呆れて物も言えないが、マシロの一緒くたにされたファイター達には同情を禁じ得ない。

「そんな事よりも上手く事を運んだじゃない」
「シシドウ・エリカの事?」
「ええ。婚約の条件が世界大会の優勝なら決まったも同然よ」

 マシロがエリカとかわした条件は、マイクを通じてレイコの元にも届いていた。
 一見すると圧倒的にマシロの不利である、世界大会の優勝と言う条件も、レイコからすれば現状における最も成功率の高い条件だった。

「まぁね。これでこっちのフィールドに持ち込んだ」
「アンタの事だから、そこまで考えた訳ではないけど上出来ね」

 自分の得意分野に持ち込むと言う事は何をするにも基本的な事だが、マシロはそこまで考えていた訳ではないだろう。
 単にエリカの好みが強い人と言う事で、自分の強さを見せるにはガンプラバトルで世界大会はどの道、来年の為に優勝しておくつもりだったので丁度良かっただけだ。

「後は勝つだけね」
「それが一番簡単な事だよ」

 マシロにとっては世界大会で優勝するよりも、エリカを口説き落とす事の方が大変らしい。

「こっからは変に取り繕う必要もないよな」
「そうね。彼女の性格を考えると、一度交わした以上、こっちから条件を破らない限りは約束を破ると言う事はないわ」

 エリカの性格を考えると、マシロが実はずば抜けた実力を持ったファイターと言う事や今までのは全部が演技であったと言う事が明らかになったところで約束を反故にする事はない。
 ならば、もはやマシロが慣れない演技をする必要もなくなる。
 後は、いつも通りにガンプラバトルで勝ち続けるだけだ。
 
「レイコ。この地区のファイター全員の最新情報と戦術を用意しといて。戦術は最低でも1人当たり100は用意ね。地区予選までの間に全て頭に叩き込む」
「任せて」

 約束を取り付けた以上は、今までのように定期的にエリカと会う必要もない。
 そうなれば、地区大会までの時間の全てを勝つ為の準備に使う事が出来る。
 エリカの件でかなり、時間を割かねばいけなかった事もあり、その時間を取り戻すかのようにマシロは地区予選までの残り時間をひたすら勝利の為に費やすのだった。



[39576] Battle19 「地区予選開幕」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/05 00:13
 4月の後半に入り、静岡の日本第一地区の地区予選が開始された。
 日本の地区予選では第一地区が最も早く予選が開始される。
 その大きな理由は会場にあった。
 第一地区の予選会場は世界大会の開かれる人工島で行われる。
 人工島には世界大会で使用される5つのスタジアムがある。
 中央には決勝トーナメントや大規模なバトルを行うメインスタジアムにその四方には4つのサブスタジアムがある。
 第一地区の予選は4つのサブスタジアムに分かれて行われる。

「俺とアオイはDブロックで、シシドウはAか」
「カガミ君はBブロックみたい」

 会場に到着したアオイとエリカ、タクトは自分達のブロックを確認していた。
 それによれば、アオイとタクトはDブロック、エリカはAブロックでレッカはBブロックと言う事だ。

「アタシがアオイかタクトと当たるのは決勝戦になるって事か」
「その前に、ゲンドウさんもAブロックだぜ?」
「アンドウ先輩はCブロックですね」

 他の有力なファイターで地区でも上位に当たるゲンドウ・ゴウキはエリカと同じAブロックでアンドウ・コウスケはCブロックとなっていた。

「マシロの奴もAか……」
「なぁ、本気かよ? 流石に無理だと思うぜ?」

 Aブロックにはエリカとゴウキの他にマシロの名も表示されていた。
 あれからマシロにエリカからたまにメールを送っても返信もなければ、電話をかけても出る事も折り返しの連絡が来る事もない状態が続いていた。
 だが、地区予選にエントリーしている辺り、マシロも本気だと言う事になる。

「約束は約束だ」
「でも、もしかしたらって事も……」
「あり得ないって、地区予選だけでも、Aブロックにはエリカ以外にゲンドウさんがいるんだぜ?」
「そうなんですけど……」

 マシロの実力を知らない3人からすれば、初心者に毛の生えた程度の実力ではAブロックを勝ち抜く事さえも難しいだろう。

「じゃ、アタシは会場の方に行くわ。組み合わせはスタジアムの方で発表みたいだし。こっちの状況も後でメールで送る」
「頼む。こっちも後でメールしとく」
「頑張って下さい」
「お前らもな」

 各ブロックの組み合わせは各スタジアムで発表される。
 アオイとタクトは同じブロックである為、エリカは自分のブロックのバトルが行われるスタジアムに向かい、アオイとタクトも自分達のスタジアムへと向かった。





 自分達のブロックのスタジアムに向かい、そこで組み合わせが発表された。
 そして、アオイとタクトは指定されたバトルシステムに付いた。

「まさか、またいきなり当たるとはな」
「ですね……」

 アオイとタクトの初戦の相手はショップ大会と同じでアオイとタクトと言う組み合わせだった。
 それによって二人はいきなり対峙する事になっている。

「まぁ、これも運命だ。さっさと片方が予選落ちして相手を応援出来ると思えば良いってことだ」
「僕も負けるつもりはありませんよ」
「俺もだよ」

 二人はGPベースをセットしてガンプラをバトルシステムに置いた。
 タクトのガンプラはフライルーをコアに様々な強化ユニットを装備したギャプランTR-5[ファイバー]だ。
 一方のアオイのガンプラはビギニングガンダムBだった。
 流石に半月でショップ大会の賞品であるスノーホワイトを扱える程のガンプラを制作するには時間が足りなさ過ぎた。
 時間の足りない状況で、突貫作業で制作したガンプラを使って出場するには、リスクが高すぎた。
 そんな事をするよりも、ビギニングガンダムBでもショップ大会は優勝している為、改造する事無く腕を磨いた方が確実であるとタクトたちと話し合った結果だ。

「ビギニングガンダムB。タチバナ・アオイ。行きます!」
「ファイバー。キサラギ・タクト。出るぞ!」

 今回のバトルフィールドは山岳地帯だ。
 足場は傾斜となっている為、陸戦においては位置取りが重要となって来る。

「速い!」

 ファイバーは高い加速性能を誇り、一気に距離を詰めて来る。

「まずは挨拶代りの一発をくらえ!」

 ファイバーは地上のビギニングガンダムBに拡散ビーム砲を撃つ込む。
 ビギニングガンダムBはシールドを掲げて守りに徹した。

「っ……だけど、シールドも強化しているから!」

 今までのバトルでビギニングガンダムBのシールドの破壊率はかなり高い。
 その為、地区予選に向けてシールドの強度を向上させていた。
 多少は重量が増したが、防御力が向上している。

「守り切ったか」
「次はこっちの番です!」

 シールドはボロボロになりながらも何とか、ファイバーの攻撃を凌ぐと今度はビギニングガンダムBが攻勢に出る。
 ファイバーに狙いを定めてハイパービームライフルを放つ。

「そう簡単に当たるかよ!」

 ファイバーはその高い加速性能を活かして、ビギニングガンダムBの攻撃をかわしていた。
 しかし、強化したのはシールドだけではなかった。
 アオイのバトルはハイパービームライフルを中心とした射撃戦を得意としている。
 ハイパービームライフルは通常のビームライフルよりも高い威力を維持しつつも、そこそこの連射速度を持っている。
 だが、高い威力と持っていたとしても、切り札としての決め手に欠けていた。
 ショップ大会ではゼロ距離攻撃などで、補っていた。
 それを改良によって射撃能力を犠牲にして、威力を重視したバーストショットを追加した。
 バーストショットは連射が効かない上に、撃つまでに多少のタイムラグがある。
 それと通常射撃で牽制を行い、狙いを定めていた。

「そこ!」

 ビギニングガンダムBがハイパービームライフルのバーストショットを放つ。
 その一撃はファイバーのスラスターユニットに直撃した。
 
「くっそ!」

 スラスターユニットをパージすると、多数の強化ユニットを装備した事で大型となった機体を支える事が出来ずに、降下して行く。
 飛べなくなった事でファイバーは強化ユニットを全てパージしてフライルーへとなった。

「これで身軽になった!」

 フライルーはロングブレードライフルを放つ。
 ビギニングガンダムBはシールドで防ぐが最初の攻撃を防いだ時点でシールドの強度は限界に近かった事もあって、あっさりと破壊された。
 だが、シールドを破壊されつつも、ビギニングガンダムBは飛び上がりフライルーにビームサーベルで切りかかる。

「接近戦かよ!」

 今までは積極的に接近戦はして来なかった事もあって、タクトの反応は一瞬遅れるがそれでも何とか回避した。

「まだ!」

 ビームサーベルの一閃が回避されるも、ビギニングガンダムBは振り返ってハイパービームライフルを撃って、フライルーのダブルシールドブースターを撃ち抜いた。
 フライルーはそのまま、地上に着地してロングブレードライフルで、ビギニングガンダムBに突撃する。
 そして、ロングブレードライフルを振り回す。

「接近戦なら俺に分があるって忘れたか!」

 殆ど出鱈目にロングブレードライフルを振り回す、フライルーにビギニングガンダムBは近づけずにいる。
 万が一にでも、ロングブレードライフルが直撃すれば一撃で致命傷となりかねない。

「僕だって少しは成長してるんです!」

 今までなら、決定力不足だったが、今は違う。
 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルのバーストショットを放った。
 ビームはロングブレードライフルに直撃して破壊した。

「やべ!」

 その衝撃でフライルーは体勢を崩していた。

「貰いました!」

 ビギニングガンダムBは一気に接近すると、ビームサーベルをフライルーに突き刺した。
 ビームサーベルが突き刺さったフライルーは爆発してバトルは終了した。

「ああっ……くっそ。また負けた」
「良いバトルでした」

 バトルが終了してバトルシステムを離れて、アオイとタクトは互いに健闘を認め合っていた。
 タクトはバトルに負けて悔しそうにしているが、素直にアオイの勝利を認めている。

「俺に勝ったんだ。最後まで勝ち残れよ。で、次は俺が勝つ」
「はい……でも、次も僕が勝ちます」

 そう言って二人は笑い合う。
 タクトの世界大会への挑戦は一回戦で終わったが、これでガンプラバトルが終わった訳ではない。

「そう言えば、シシドウからメールが入ってた。シシドウのバトルはまだだけど、クロガミさんの試合はそろそろ始まるな」

 バトル中にエリカからのメールがタクトの携帯に届いていた。
 内容は自分のバトルの相手と時間とマシロの相手と時間だった。

「ちなみに、マシロさんの相手はゲンドウさんだってよ」
「えっと……」

 メールにはマシロの相手はゴウキと書かれていた。
 いきなり、地区上位であるゴウキと当たった事にアオイも返す言葉もなく、愛想笑いをしている。

「こりゃ、ご愁傷様か……今から、急げばバトルには間に合いそうだな。行って見るか」
「そうですね」

 時間的にマシロのバトルは急げば間に合いそうだ。
 すでにゴウキと当たった時点で、マシロに勝ち目はないと思っている為、せめて最初で最後のバトルくらいは見届けてやろうとタクトは提案した。
 アオイもそれに同意して、タクトと共にAブロックのスタジアムへと向かった。


 各スタジアムの一回戦は複数のバトルを同時に進行している。
 観客席に到着したアオイとタクトはマシロの対戦しているバトルシステムを探した。

「キサラギ君、あそこ」

 アオイがマシロよりも先にエリカを見つけた。
 今、バトルしているファイターの中でエリカが見ているバトルがマシロのバトルである可能性が高い。

「シシドウ! クロガミさんのバトルはどうなった?」
「アオイにキサラギか……」

 エリカと合流するが、エリカの様子は少しおかしい。
 
「マシロのバトルはもう……終わった」

 エリカはそう言って、一つのバトルシステムを指さした。
 そこには確かにマシロの一回戦の相手であるゴウキがいたが、ゴウキは茫然と立ち尽くしていた。
 
「ゲンドウさん……勝ったんじゃないんですか?」
「……いや、負けたよ。マシロの奴に」

 遠目だが、ゴウキの表情は勝者の物には到底見えなかった。
 
「マジかよ」
「本当だ。あのゲンドウさんが手も足も出せない程に圧倒的だった」

 エリカ自身も未だに自分で見た物が信じられなかった。
 エリカもバトルが開始されてた当初は、マシロに勝ち目はないと思っていた。
 だが、バトルが始まればゴウキは手も足も出せずに完全に敗北した。

「アイツ……本当にクロガミさんなのかよ?」

 タクトは思わず呟いた。
 マシロがゴウキに勝った事が信じられないと言う事もあったが、それ以上にゴウキの対戦相手が自分達の知るマシロからはかけ離れていた。
 いつもの白いコートではなく、髪も最低限整えられている程度で、すでに春だと言うのに白いマフラーをしている。
 何より、自分達の知る穏やかな青年を絵に描いたような雰囲気ではなく、鋭く研ぎ澄まされた雰囲気を纏っている。
 そして、プラフスキー粒子の散布が終わって機能を停止しているバトルシステムには、バラバラになったゴウキのゴッドタイタスと無傷の白いガンプラが立っていた。
 それが何より、このバトルの勝敗を物語っていた。
 



[39576] Battle20 「天才と凡人」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/08 15:12
 世界大会地区予選、日本第一地区が開幕した。
 各々のファイター達は世界大会を目指して互いに実力を競い合う。
 日本第一地区も一回戦から白熱したバトルが繰り広げられていた。
 そんな中、この地区の優勝候補の一人のゲンドウ・ゴウキがまさかの一回戦で敗退した。
 ゴウキを破ったファイターは全くの無名と言っても良いファイターであるマシロ・クロガミだった。
 バトルに勝利したマシロはそそくさとガンプラを回収し、対戦相手のゴウキの事など、バトルが終わった時点で相手にする気もないのか、互いに健闘を認め合う事もなければ一瞥すらせずに会場から出て行く。
 そのバトルを見ていたエリカもすぐに立ち上がって、観客席から走りだす。

「シシドウさん!」
「俺らも行くぞ!」

 タクトとアオイもエリカを追って行く。
 
「マシロ!」

 エリカは会場の通路でマシロに追いついて大声でマシロを呼び止める。
 その声に気付いたマシロは立ち止まって振り向く。

「……何?」

 エリカ達が知るマシロとは別人のように気怠そうに答える。
 エリカが追いつき、その後ろからタクトとアオイも追いついて来た。

「お前、ガンプラバトル滅茶苦茶強かったんだな」
「そう? あの程度のファイターで俺の実力は測れないと思うけど?」

 エリカは息を整えつつも、マシロにそう言うが、マシロの方の反応は冷ややかだ。
 息を整えて落ち着くとマシロの態度の違いが気になって来るが、今はそんな事を気にしている余裕はエリカにはなかった。

「ガンプラバトルをやっているって事を教えてくれれば、ダチにだってなれたかも知れないってのに」
「レイコに止められてたから。それに話していても友達にはなれないと思うぞ。友達ってのは同レベルでしか成り立たないからな。だから、俺、ガンプラバトルの弱くて、将来性にも乏しく、面白みのないバトルをする奴とは友達になりたくはないから」

 エリカはマシロの言葉をすぐには理解出来なかった。
 エリカはマシロがガンプラバトルをしていると言う事を知っていれば、婚約云々を抜きに共にバトルをして友達になれると思った。
 だが、マシロの答えははっきりとした拒絶だった。

「確かにゲンドウさんに勝った貴方は強いのかも知れませんが、少し言い過ぎではないでしょうか?」

 事態に頭が追いつかないエリカに代わりにアオイがそう言う。

「事実だろ? けど、タチバナ・アオイ。お前は違う。こちら側の人間だ」
「何を……言って」

 マシロの言葉に今度はアオイが動揺を見せている。
 そんなアオイの様子を気にする事なく、マシロは続ける。

「タチバナ・アオイ。彼らはお前の友人として相応しくない。即刻、手を切るべきだ」
「てめぇ!」

 マシロがそう言うと、タクトは思わず、マシロに詰め寄ってマフラーごとマシロの胸倉を掴む。

「さっきから聞いてれば勝手な事ばかり言いやがって!」
「マフラーから手を離せよ」

 タクトの言葉を完全に無視してマシロがそう言う。
 そう言うマシロの目は今まで以上に冷たかった。
 自分の言葉をまるで聞く気がないマシロの態度にタクトも頭に血が昇り、拳を振り上げた。

「止めろ」

 そのまま、マシロを殴る勢いだったタクトをレッカが止めた。

「全く、ゲンドウさんのバトルを見ておこうと思って来てみれば、何の騒ぎだ」

 レッカはBブロックですでに一回戦を勝ち抜いていた。
 その後、Aブロックの強豪であるゲンドウのバトルを少しでも見ておこうとAブロックのバトルが行われているスタジアムに来た。
 そこで、ちょうどこの場面に出くわして取りあえずタクトを止めたと言う訳だ。

「お前には関係ない」
「あるね。状況は分からんが、ここでお前がそいつを殴って大事になれば、お前だけじゃない。タチバナやシシドウにも迷惑がかかるんだぞ」

 レッカも状況を全て把握している訳ではないが、ここでタクトがマシロを殴ってしまえば、それは大事だ。
 例え、挑発的な言動をしていたマシロが原因とは言っても、タクトの方が先に手を出してしまえば、マシロが被害者としてタクトの方が悪いと言う事になり兼ねない。
 すでに敗退しているタクトはともかく、一回戦を勝利しているアオイやまだ、バトルを行っていないエリカもタクトと友人と言う事で共犯だと疑われかねない。
 そうなってしまえば、アオイとエリカは出場停止となる可能性も出て来る。
 レッカにそう言われれば、タクトも拳を下すしかない。

「くそ」

 タクトは怒りが収まらないが、渋々、マシロを解放するとマシロはタクトの事など眼中にも無いかのように乱れたマフラーを軽く手で払って整える。

「とにかく、タチバナ・アオイ。友達関係はきちんと選んだ方が良い。でないと互いに不幸になるだけだ」
「だから!」

 マシロの言葉にアオイはびくりとし、話しを戻された事で、タクトも再び頭に血が昇りかけるが、今度はレッカがタクトの前に立ってタクトを止める。
 言いたい事は言ったのか、マシロはそれ以上は何も言わずに歩き出す。
 マシロが見えなくなるまで、場の空気が重く、誰も口を開かなかった。







 一回戦を勝ち抜いたマシロは会場に用意させておいた、車で真っ直ぐホテルへと戻った。
 ホテルに戻ると、すでに終わったバトルの映像をレイコが解析していた。
 地区予選のバトルは決勝や準決勝くらいまでにならないと、放送されない為、一回戦のバトルの映像は残されていない。
 恐らくはレイコの息のかかった人間が全てのバトルシステムに配置されて、バトルの様子を録画していたのだろう。

「ご苦労さん」
「あんな感じで良かったのかよ」
「上出来よ」

 すでにマシロのバトルの映像も届いているのか、レイコはマシロのバトルの事を把握しているようだ。
 レイコはゴウキの過去の戦闘データを解析した結果など以外にもマシロへのオーダーとして圧倒的な実力を見せつけろと指示を出していた。
 本当ならば、マシロももっと早くに決着をつける事が出来たが、多少バトルを引き延ばした上で圧倒的な実力差を見せつけて勝利して来た。

「それよりも、揉め事は勘弁よ」
「耳が早いな」

 バトルの情報は事前の用意ですぐにレイコの元に来るようにはしてあったが、偶発的に起きたトラブルもすでにレイコの耳に届いていたようだ。

「で、なんで揉めたの?」

 レイコとしてもバトルでマシロが負けると言う事は微塵も思っていないが、マシロが敗退するとすれば、トラブルによる失格だ。
 大会の運営が失格と判断すれば、マシロの実力は関係ない。
 クロガミグループも世界大会に出資をしているスポンサーである為、そこから圧力をかければトラブルを揉み消す事も出来るが、マシロはそれを望まないだろう。
 クロガミグループが一声かければ、マシロとスポンサーの特別招待枠で地区予選に出る事無く、世界大会に出場する事も出来るのに、わざわざマシロの嫌う弱い相手とのバトルをしてまで地区予選から出場しているところからもそれが伺える。
 情報収集などに一族の力を使っても気にしないが、大会を勝ち進む為には一族ではなく、自分の力で勝ち進む事はレイコからすれば合理的ではなく、他のファイターにも少なからず情報を与えてしまう為、無駄としか言いようがない。
 トラブルはある程度の事は想定し、対策も用意してあるが、全ての可能性を考えてしまうと可能性は無限に近い為、全ての可能性を考慮する事は不可能だ。
 その為、実際に起きた事を把握して、対策を取るしかなかった。
 マシロはレイコに起きた事を全て話した。

「と言う事があったんだよ」
「それはアンタが悪いわよ。そう言う事は彼が一人の時に言うべき事よ」

 事の次第を聞いたレイコがそう言う。
 マシロはアオイの友人の前で友達を選んだ方が良いと言えば、その友達が怒る事は当然だ。
 それをアオイに伝えるなら、アオイが一人でいる時にした方が良い。

「にしても、以外ね。アンタの頭の中はガンプラの事しかないと思ってたわ」
「酷いな。否定はしないけど」

 トラブルは現状ではさほど問題視する程の事ではない。
 それ以上にマシロが友達関係でそのような考えを持っていた方がレイコは意外だった。
 マシロは基本的に他者の事はどうでも良いタイプの人間だからだ。
 それに関してはマシロも否定はしない。

「天才と凡人ってコーディネイターとナチュラルの関係と同じだからな。ガンダムSEEDでは突き詰めればそれが戦争の原因ともなっているし」

 マシロの言葉にレイコは黙って耳を貸す。
 これから先、マシロをマシロの思うように勝たせる為には、マシロを知る必要があるからだ。
 マシロがガンプラ関連以外で自分の考えを話す事は殆どないから、マシロを知るにはもっと情報が必要となる。

「ナチュラルはコーディネイターに嫉妬し、コーディネイターはナチュラルを見下す。これは天才と凡人にも当てはまる事だ。凡人は天才に嫉妬し、天才は凡人を見下す。その結果として、流石に戦争は起きないが互いにとっては良い影響は与える事が出来ない。凡人が天才との差を知った時、絶望して歩みを止めるか、嫉妬する。歩みを止めてしまえば、それ以上の進歩は望めない。嫉妬をしてしまえば目が曇り道を見誤る。Xラウンダーと言う才能に嫉妬したアセム・アスノがそうだったようになアセムの場合はウルフ隊長がいたから、最悪の事態にはならなかったが、何処にだってウルフ隊長がいる訳ではないからな。」

 凡人が天才との差を知った時に起こり得る可能性として、その差に絶望して諦めてしまう事がある。
 諦めてしまえば、その人はそこで立ち止まり、それ以上は何も望めない。
 もう一つは嫉妬だ。
 才能に嫉妬する事で、自分を見失って道を誤ってしまう事がある。
 それをマシロはアセム・アスノに例えた。
 アセム・アスノは父、フリット・アスノやライバルのゼハート・ガレットがXラウンダーとしての才能を持っている為、その才能に嫉妬し、Xラウンダーの力に固執した。
 その結果、自身の脳に損傷を与えて最悪、死に至るミューセルに手を出してしまった。
 アセムの場合は自身の間違いを正し、道を示してくれたウルフ・エニアクルがいた為、取り返しの付かない事態となる前にXラウンダーの力に固執する事はなくなったが、現実には常に間違いを正し、道を示してくれる相手がいるとは限らない。

「天才も天才で凡人がいるとそいつと自分を見比べて自分の方が上だと安心してしまう。そうなれば、それ以上の進歩は無くなり、慢心に繋がる。Xラウンダー部隊のマジシャンズ8が自分達の力を過信した事で腕を磨く事を疎かにしてしまったようにな」
 天才も凡人といると自分と相手を見比べてしまう。
 そこに大した差が無ければ危機感を覚えるが、圧倒的な差があると、人はその相手が自分より下だと言う事で安心してしまう。
 
安心してしまえば、無理に上を目指す必要が無くなり、それ以上の進歩は望めない。
 それだけではなく、自分は相手よりも上の存在だと慢心する事だってあり得る。
 そして、慢心をしたたままだと、隠したの相手に負けると言う事も考えられる。
 ヴェイガンのXラウンダー部隊『マジシャンズ8』の大半も自分達がXラウンダーだと言う慢心から腕を磨く事を疎かにした結果、一般兵を相手には圧倒的な優位に立つ事が出来たが、非Xラウンダーのエースパイロットを前に敗北し、命を散らせた。
 
「結局のところ、天才は天才と凡人は凡人と友達になった方が互いに刺激や意識を仕合いより高見へと進化する事が出来る訳だ」
「それがアンタの考えって訳ね」
「尤も、小難しい理屈を並べたけど、ガンプラバトルが弱い奴とつるんでもつまらないだけなんだけど」

 最後はそこに辿りつく。
 マシロの友達関係に関する持論は全く思っていない訳ではない。
 だが、弱い相手とのバトルに勝利してもつまらないから友達になる気は無いと言うだけの事だ。
 そこまで聞くとレイコはアオイに少し同情をしてしまう。
 結局のところ、マシロは自分本位の持論を押し付けたに過ぎないからだ。

「まぁ良いわ。それじゃ次の対戦相手の情報と対策を考えて置くから、アンタは少しでも休んでなさい」
「了解」

 マシロはそう言って、バトルシステムの方に向かう。
 レイコは休めと言ったが、マシロにとってはバトルをしている時が一番楽なのだろう。
 どの道、夜には明日に影響が出る前には休ませる為、無理に止める事はしなかった。

 



 地区予選の一回戦が終わり、二回戦は3日後となっている。
 一回戦から一夜が明けて、アオイ達は学校が終わるとホワイトファングに集まっていた。
 アオイは昨日のマシロの言葉を受けて、少し沈んでいる。

「アイツの言葉を気にする必要はない。それよりも、ゲンドウさんを破る実力は本物だ。シシドウはバトルを見ていたんだろう?」

 今日はいつものエリカとタクトの他にレッカも一緒だった。
 レッカとしては、ゴウキを倒したマシロの実力を知っておきたい。
 
「なんというか、まずは速かった」

 エリカがマシロのバトルを見た第一印象がそれだ。
 ゴウキのゴッドタイタスをマシロの白いガンプラは高い機動力で翻弄していた。

「高機動型……つまりはガンプラの相性が悪かったと言う事か」

 ゴウキのゴッドタイタスはベースとして、ゴッドガンダムを使っているが四肢はガンダムAGE-1タイタスの元を使っている。
 ガンプラの特性としてはゴッドガンダムよりも、タイタスの方が近い。
 そして、タイタスは作中においてヴェイガンの重MSバクトに対抗する為に設計されている。
 その為、バクトを相手にすればバクト以上のパワーと装甲で優位に立てる反面、高機動型のゼダスを前に機動力で翻弄されて手も足も出せなかったと言う場面がある。
 ゴウキのゴッドタイタスも高いパワーと防御力を持つが、機動力に関しては瞬発力はあるが、機動性は余り高くはない。
 マシロのガンプラが機動力重視ならば、特性の相性で一方的な展開になる事はあり得る。

「いや……確かに最初はそうだったけど、最後はゴッドタイタスのパンチを正面から受け止めてた」

 相性による結果であれば、実力で負けた訳ではないが、勝負が決まる前にはゴッドタイタスの攻撃を正面から受け止めていた。
 マシロのガンプラは機動力や格闘性能を重視しているが、決してパワーが低い訳ではない。
 世界レベルのパワー重視のガンプラならいざ知らず、地区予選レベルならパワー重視のガンプラを相手でも十分にパワー勝負が出来る。
 そして、わざわざそんな事をしたのも、圧倒的な差を見せつける為の事である事はエリカ達は知らない。
 
「厄介だな」
「けど、アオイならあんな奴には負けない! なっアオイ」
「えっと……」

 レッカはエリカの言葉から冷静にマシロの実力を推測して、厄介だと結論を出すが、マシロと揉めたタクトはマシロに対して敵意を隠す事はしない。
 一方のアオイの方も上の空だ。

「何だよ。アイツの言っている事を気にしてんのか?」
「そう言う訳じゃ……」

 否定をしようとするが、言葉に詰まる。
 アオイ自身、何となく心の奥底で思っている事を見透かされたような気がしたからだ。
 尤も、エリカやタクトが自分に相応しいと思っていないのではなく、寧ろ逆にエリカやタクトに自分が相応しくないとだが。

「シシドウさんもキサラギ君も僕といて迷惑じゃないですか?」
「んな訳あるかよ」
「生憎とアタシはダチになりたくないと思っている奴とつるむ程、大人じゃないんでね」

 アオイの言葉にタクトもエリカも迷う事なく答える。
 タクトもエリカも感情に素直な性格をしている。
 だから、アオイと距離を取りたいと思えばさっさとそうしている。
 そうしないのは友達でいたいと思っているからだ。

「そんな事はどうでも良い。俺とタチバナとの決着はまだついていないんだ。腑抜けられては困る」

 レッカもレッカなりにアオイを励ましているようだ。
 レッカとアオイの戦績は一勝一敗と五分五分だ。
 地区予選ではその決着をつける場としては申し分ない。

「マシロ・クロガミの事が気になったところで、決勝でお前と戦うのは俺だ」

 組み合わせ上、アオイとレッカが当たるのは地区予選の決勝戦だ。
 つまり、二人の決着をつけるとすれば、マシロとアオイが当たると言う事は無い。

「アイツは俺が倒す」
「その前に次の次でアタシが当たるけどな」

 エリカとマシロは同じブロックだ。
 二人が二回戦を勝ち進めば三回戦でエリカはマシロをバトルする事となる。
 
「タチバナ。決勝まで上がって来い。そこで俺とお前の決着をつける」
「カガミ君……分かりました」
「決勝に上がるのはアタシだっての」
「どっちにしろ。俺に勝ったんだから世界大会を目指すしかないだろ」

 マシロの言葉はアオイの心に引っかかりはしたが、今は共に戦うライバルの励ましでアオイも勝ち進む事に集中する。







 一回戦から3日が経ち、二回戦の開催日となった。
 会場は前回と同じだが、参加するファイターは一回戦の半分に減っている。
 だが、それに反しては観客の数は一回戦よりも増えている。
 
「マシロの相手のガンプラはガンダムエアマスターか」
「高機動型可変機……同じ高機動型でも可変機であるエアマスターの方に分がある。さて、どう戦う」

 マシロの試合をアオイ達4人も観戦している。
 地区の上位であるゴウキを倒した事でマシロの注目度は一回戦の比ではない。
 観客の多くはマシロのバトルを注目しているだろう。
 そして、多くの観客が注目する中、マシロのバトルが始まる。
 マシロの対戦相手のガンプラはガンダムエアマスターだ。
 ファイター形態へと変形する事で高い機動力を発揮する事が可能だ。
 エアマスターはショルダーミサイルを放って、ファイター形態に変形すると近接戦闘をさせない為に距離を取ろうとする。
 マシロのガンプラ、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは胸部のビームバルカンでショルダーミサイルを迎撃すると、一気に加速する。

「マジかよ……」
「予想以上だな」
「凄い」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはファイター形態のエアマスターに容易に取りつくとCソードを展開し、Cソードの一閃でエアマスターを両断して勝利した。
 一回戦でゴウキを圧倒していた事もあって、マシロが秒殺したところで驚く観客は殆どいなかった。

「言うだけの事はあったな」
「アタシ等も負けてられないな」

 大きな口を叩いだだけの事はあって、マシロはそれだけの実力があると言う事を認識したところでアオイ達も自分達のバトルへと臨んだ。
 アオイの対戦相手のガンプラはフォビドゥンガンダムだ。
 バックパックの大型の2基のシールドと大鎌、ビームを湾曲する事が可能だと言う事が特徴な機体だ。
 フォビドゥンガンダムが大鎌『ニーズヘグ』を振るいビギニングガンダムBのシールドを両断するが、ビギニングガンダムBはハイパービームライフルのバーストショットで反撃する。
 フォビドゥンガンダムがシールドで防ぐが、シールドが破壊されて体勢を崩したところをハイパービームライフルの通常射撃でフォビドゥンガンダムを撃ち抜いた。

「やったな! アオイ!」
「はい……何とか勝ちました」

 別のスタジアムではレッカもバトルをしていた。
 レッカの対戦相手のハイザック・カスタムだ。
 ハイザック・カスタムは狙撃型ビームランチャーで長距離射撃を行うも、ビギニングガンダムRは回避して距離を詰める。
 接近された事でビームサーベルを抜こうとするが、その前にバーニングソードRで切り裂かれてハイザック・カスタムは撃破された。
 マシロがバトルしたAブロックのスタジアムでエリカもバトルしていた。 
 対戦相手のガンプラはアデル・キャノンだ。
 アデル・キャノンは肩のドッズキャノンを放つが、エリカのアサルトルージュはシールドで守り、強引に接近すると対艦刀を振るい、アデル・キャノンを一刀両断した。

「これで次の対戦相手はマシロか」

 各スタジアムで白熱のバトルが続き地区予選の二回戦は終了した。

 



[39576] Battle21 「マシロとの賭け」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/12 12:47
 世界大会地区予選日本第一ブロックも2回戦を終え、3回戦を翌日に控えている。
 今回は1回戦でゲンドウ・ゴウキが敗退しての波乱の幕開けだが、バトルが2回も終わると落ち着き始めている。
 3回戦を翌日に控えて、マシロは次のバトルの最終調整に入っていた。
 
「次の相手はあのシシドウ・エリカちゃん。まさか、彼女と当たる事になるなんてね」
「ガンダムなら死亡フラグだけどな」

 マシロはバトルシステムを使ってCPU戦を行いながらも、レイコの声に耳を傾けている。
 
「彼女のバトルスタイルは突貫力を活かして接近、大剣での一撃、アンタの戦い方と少し似ているわね」
「まぁね。だからこそ、戦い易い相手でもある」

 エリカのバトルスタイルはここまでのバトルや過去のバトルからも明らかだ。
 エールストライカーの推力に物を言わせての突撃からの対艦刀の一撃と言うのがエリカのバトルスタイルだ。
 多少強引でも近接戦闘を仕掛けて一撃で仕留めると言うのはマシロのバトルに似ている。
 だからこそ、マシロは戦い易い。
 相手が自分の同じバトルスタイルなら、こっちから仕掛けずとも接近して来てくれると言う事もあるが、自分と同じ戦闘スタイルと言う事は相手の方も、やられると嫌だと思う事も同じと言う事になる。
 マシロは強い相手に勝つ事が好きだが、わざわざ相手に得意な戦い方をさせる事は無い。
 どんな状況だろうと得意分野に持ち込む事もファイターに必要な技術だからだ。
 その為、相手の得意分野を封じる事に躊躇いはない。
 1回戦ではマシロの実力を見せつける為に、あえて最後は相手の得意とする分野でも上回っていると言う事を見せつけたが、それを毎回やる必要もない。

「あの手のファイターは勢いを殺せば良い」
「それが無難ね」

 相手が突貫力を活かして突撃して来るのであれば、その勢いを止めてしまえば殆ど無力化したも同然だ。
 実際にエリカの過去のバトルでバトルフィールドや対戦相手のガンプラとの相性が悪く、持ち前の機動力を使う事の出来なかった時に負ける確率が圧倒的に高い。
 
「後はアンタの視点から気になる事はない?」

 データの上ではマシロの勝率は100%と出ている。
 だが、あくまでもデータの上での話だ。
 実際のバトルにおいて、バトルフィールドは公開されていない事など不確定要素は少なからずある。
 その要素を潰す為に、ファイターであるマシロの意見も重要だ。

「そうだな……あの胸は凶器だよ。バトル中に揺れても見ろ。男ならガン見してバトルに集中出来ない」
「……成程。それは盲点だったわ」
「……冗談なんだけどな」

 マシロは軽い冗談のつもりだったが、レイコには通じていない。
 寧ろ、男だからこその目線で、実際にあり得る可能性として受け取られている。

「尤も、バトル中の俺はそんな物に惑わされる事は無いけどね。例え、水着のお姉さんだろうと躊躇い無く倒せる」
「分かっているわ」

 あくまでも可能性の一つとして捉えたレイコだが、実際に起こった時の事は心配してはいない。
 マシロが年相応に異性に興味があると言う事は1か月程前に初めて知ったが、それでも色恋よりもガンプラバトル、三食のメシよりもガンプラバトル、睡眠よりもガンプラバトルだと言う事には変わりはない。
 普段ならともかく、バトル中に余計な事に気を取られると言う事はあり得ないと言う事は今更確認する必要もなかった。

「明日のバトルは問題ないと思うけど、少し気になる事があるわ」
「気になる事?」
「Cブロックのアンドウ・コウスケ。彼のバトルは過去のデータをまるっきり違うのよ」
「アンドウ……コウスケ……ああ、あの変身ユニコーンの」

 明日のエリカとのバトルは問題はない。
 だが、この先勝ち進むにあたり、1回戦と2回戦のデータの中でコウスケのデータは今までの物とは全然違って来ていると言う事はレイコにとっては予想外の出来事だ。

「彼、アンタとのバトル以降、殆どバトルをしていないからデータが古い物しか無かったのよね」
「関係ないだろ。確かにアイツのガンプラは少し面白かったけど、バトルの方は弱かったし。Cブロックって事は俺と当たるのは決勝だから、その前にDブロックを勝ち抜いて来たファイターとバトルする筈だ。Dブロックにはタチバナ・アオイがいる。バトルスタイルが変わろうと元々の素質が無ければ大した事は無いだろうしね」

 レイコは今までのデータがあてにならない事に不安を覚えるが、マシロは大して興味は無かった。
 以前にマシロはコウスケとバトルをしている。
 その時にコウスケの実力や才能は把握している。
 その為、バトルスタイルが変わっていようと大した問題ではない。
 各ブロックの代表で行われる準決勝の組み合わせはAブロックとBブロック、CブロックとDブロックの代表と言う事は決まっている。
 その為、CブロックのコウスケとAブロックのマシロでは決勝戦まで当たる事は無い。
 更に言えば、Dブロックにはアオイがいる。
 マシロの見立てではコウスケよりもアオイの方が確実に強くなる。
 つまり、現状ではマシロの決勝戦の相手はアオイだと思っている為、自分と当たらないファイターの情報など今の段階では必要はないと言う事だ。

「それはそうなんだけどね」

 レイコ自身、決勝の相手はマシロが興味を持つ程の才能を持っているアオイの可能性が高いと考えているが、情報を扱うレイコにとっては勝ち残っている全てのファイターの情報は完璧に抑えておきたい。
 マシロもそれが分かっているからこそ、自分と当たる事は無いファイターの情報は必要としていない。
 レイコの方もマシロは目の前の相手にだけ集中していれば良いと言う事は理解している為、文句を言いつつもコウスケのバトルデータの更新と共にエリカとのバトルプランの作成に入る。







 3回戦になれば、各ブロックのバトルも折り返し地点となり、これから先に進む為には更なる実力が必要となって来る。
 各ブロックで3回戦が開始され、4回戦へと進むファイターが次々と決まって行く。
 アオイもまた、3回戦を始めていた。
 アオイの対戦相手のガンプラはビームバズーカを装備したリック・ドムだ。
 リック・ドムがビームバズーカを放ち、ビギニングガンダムBはシールドで斜めに受け流す。
 そして、ハイパービームライフルで反撃した。
 ビームはリック・ドムの脇腹に当たるが、致命傷にはならなかった。
 被弾しつつも、リック・ドムはビギニングガンダムBにビームバズーカを撃ちながら接近するが、ビームバズーカは被弾してパージするとヒートサーベルに持ち帰る。
 ビギニングガンダムBに接近した、リック・ドムはヒートサーベルを振るい、ビギニングガンダムBはシールドで受け止めるが、シールドはビームバズーカを受け流した時に表面がビームで焼かれており、ヒートソードに切り裂かれた。

「まだ!」

 シールドが破壊され前にビギニングガンダムBはシールドを捨てると左手にビームサーベルを抜いて、ハイパービームライフルを構えた。
 リック・ドムに至近距離からビームを撃ち込んで、リック・ドムの右腕が撃ち抜かれ、ビームサーベルを突き刺してリック・ドムは破壊された。

「ふぅ……何とか勝てた」
「やったな! アオイ!」

 3回戦を勝ち抜いて一息ついたアオイにタクトとエリカが駆け寄る。
 
「はい。今回も厳しかったです」
「良く言うぜ。後2回でブロックの勝ち抜けだな」

 アオイは後2回勝てばブロックを勝ち抜ける。
 だが、その後に地区予選の準決勝と決勝戦の2回を勝たないと世界大会に行く事は出来ない。

「カガミの方も3回戦は問題なさそうみたいだったから、次はアタシの番だな」

 Bブロックのレッカも別のスタジアムでバトルをしている。
 対戦相手はそこそこ名が知られているファイターらしいが、実力的にレッカには及ばない為、レッカの勝利は固い。

「あの人ですね……シシドウさん。大丈夫ですか?」

 レッカの方は特に問題はないが、問題はエリカの方だ。
 エリカの相手はゴウキに勝ち、2回戦も余裕で勝利しているマシロだ。
 2回戦の後に揉めこそしたが、2回のバトルでその実力の高さは認めざる負えない。

「分かんねぇ。けど、バトルはやってみるまで何が起こるか分かんないからな。やれるだけの事はやるさ。後は気合だ。気合で負けてちゃ勝てるバトルも勝てないからな」

 マシロを相手に勝算は無いが、それでも始めから負ける気で戦うファイターはいない。

「まぁ、今日の為に武装強化もして来たしな」

 ただ、精神論で挑むだけではなく、マシロと戦う為にエリカはガンプラを少し強化して来た。
 やれるだけの事はやった為、後はバトルをするだけだ。

「じゃ、行って来る」
「あんな奴に負けんじゃねぇぞ」
「頑張って下さい」
「おう」

 アオイとタクトの応援を受けて、エリカはAブロックのスタジアムへと向かい、アオイとタクトも応戦の為にスタジアムに向かった。




 マシロとエリカはバトルシステムを挟み対峙していた。
 エリカの方は揉めた事もあって、マシロの方を少し睨んでいるが、マシロの方はエリカの方は気にも留めずにガンプラの関節部などを動かして状態を確認している。

「……マシロ。このバトルにアタシが勝ったらこの前の事、アオイに詫びろ」
「無理」

 エリカの言葉にマシロはエリカに見向きもせずに即答する。

「このバトルの勝敗はすでについているような物だからな。俺が勝つ事が決まっている以上はそんな賭けに意味はないよね」

 マシロの中では事前用意の時点で、エリカに負ける要素はない。
 自分の勝利で終わる事が確定しているバトルで自分が負けた時の事を賭けする事は無意味でしかなかった。
 バトルの前から勝った気でいるマシロに舐められている気がして、エリカはイラっとするも、マシロは気にした様子もない。

「けど……まぁ、それだけじゃつまんないから。バトル中に俺に一度でもまともに攻撃を当てる事が出来たら詫びても構わない」
「言ってくれるな」
「だってそのくらいじゃないと賭けにはならないし。もし、一度でも攻撃を当てる事が出来たら、この国の最上級の謝罪方法であるハラキリして謝ってやるよ。ちなみに俺が勝っても別に何も要求しないから。勝つ事が分かっている賭けはつまんないし」

 その言葉にエリカは少なからず動揺していた。
 マシロは自分とのバトルで一度も攻撃を受ける事無く、勝つと言って来ている。
 以前にもエリカは世界大会で優勝すれば結婚すると言う条件を出しているが、今度は更に厳しい条件だ。
 バトル中に一度も攻撃を受けないと言うのは、双方のファイターの実力に圧倒的な差が無ければ成り立たない。
 しかし、悔しいがマシロの実力を考えれば、絶対に出来ないとは言い切れないのも現実だ。
 一度攻撃を受ければマシロは切腹をする、言い方を変えれば、一度でも攻撃を受ければ死ぬと言う事だ。
 普通に考えれば、その程度の事で自分の命を捨てるなどあり得ない為、こちらを混乱させるハッタリだが、ハッタリだと切り捨てる事が出来ない不気味な雰囲気がある。

「……上等だ」

 不気味な雰囲気は拭えないが、エリカは切腹云々はあくまでも覚悟の話しだと自分を納得させる。
 そして、二人はGPベースをセットして、ガンプラをバトルシステムに置いた。
 マシロのガンプラは2回戦と同じガンダム∀GE-1 セブンスソードだが、エリカのガンプラは少し強化されていた。
 両肩にソードストライカーとランチャーストライカーの装備を付けて、攻撃力を増している。

「アサルトルージュ! シシドウ・エリカ。出る!」
「ガンダム∀GE-1 セブンスソード。マシロ・クロガミ。出る」

 そして、バトルが開始された。
 バトルフィールドはデブリベルト。
 周囲には戦艦やモビルスーツの残骸が漂うフィールドで障害物が多いフィールドだ。

「デブリかよ……こんな時に苦手なフィールドかよ」

 エリカは開始早々、愚痴っていた。
 エリカのバトルスタイルでは、障害物の多いデブリベルトでは戦い難い。
 勝ってアオイの謝らせないといけないバトルで苦手なフィールドに当たったのは運が悪いとしか言いようは無い。

「つっても、アイツだって……」

 苦手なフィールドだが、悲観するだけではない。
 マシロも高速戦を得意としている以上は、障害物の多いデブリベルトでは機動力を活かし辛いはずだ。
 そして、マシロの先制攻撃のビームがフィールドを横切る。

「いきなり撃って来たのかよ!」

 ビームはアサルトルージュの位置からは遠く離れている。
 ビームは外れたが、次々とビームが飛んで来る。

「当てずっぽうかよ!」

 ビームは正確さに欠けているが、ここまで撃って来られたら下手に動けば逆にビームに当たる危険性が高い。
 アサルトルージュはデブリの陰に隠れて、様子を伺う。
 ビームの威力は高くは無い為、デブリを撃ち抜ける程ではない。

「どこから来る……まだ、距離はあるはずだ」
「ところがギッチョン……なんてな!」

 ビームの威力が大した事は無いと言う事と、デブリで相手も速度を出せないと言う事から、エリカはまだ距離が離れていると思っていたが、実際は違った。
 ショートドッズライフルの威力を意図的に落として、マシロは威力の小ささから、撃っている距離が離れていると思わせて、デブリの中を最短距離で尚且つ、最大速度で突っ切って来た。
 デブリの影から、ガンダム∀GE-1 セブンスソードが飛び出してCソードを振るう。

「いつの間に!」

 アサルトルージュはとっさに回避すると、Cソードはデブリを一刀両断する。
 すぐに頭部のバルカンと右肩の対艦バルカンで反撃する。
 デブリを切り裂いたガンダム∀GE-1 セブンスソードはすぐに距離を取ってデブリを盾に攻撃を防ぐ。

「ちっ……逃げるな!」
「嫌だね。俺もまだ死にたくないんでね」

 アサルトルージュはガンランチャーを放つが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはデブリに上手く誘導して防ぐ。
 逃げるガンダム∀GE-1 セブンスソードにアサルトルージュはビームライフルを連射して追いかける。

「ちょこまかと……」

 デブリを避ける為に速度を出せないアサルトルージュに対して、デブリを気にしていないガンダム∀GE-1 セブンスソードの間では速度に絶対的な差がある為、距離は開いて行くばかりだ。
 その上で、デブリの影でガンダム∀GE-1 セブンスソードを一瞬見失うと、デブリの影からガンダム∀GE-1 セブンスソードが出て来てCソードを振るう。

「くそ!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードの不意打ちを回避して、対艦バルカンを放つが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは大き目のデブリの陰に隠れて防ぐ。
 そして、影から出てショートドッズライフルを撃っては逃げる。
 そのビームをシールドで受け止めるが、いつの間にかビームの威力が最大まで上げられていた事もあって、シールドが破壊された。
 アサルトルージュはビームライフルを時折撃ちながら追いかけるが、機動力の差だけではなく、アサルトルージュを中心に球を描くようにガンダム∀GE-1 セブンスソードは移動する為、アサルトルージュは方向転換を余儀なくされる。
 直進するだけなら、高い機動力を発揮するアサルトルージュだが、小回りを苦手をしている為、ここまで方向転換させられては持ち前の機動力を活かす事は更に出来なくなる。
 尤も、マシロの方もその弱点を見越した上での動きだった。

「このままじゃ埒が明かない……だったら!」

 普通に追い駆けっこをしたところで、追いつく事は出来ないと判断したエリカは次の手を打つ。
 左肩のビームブーメラン「マイダスメッサー」を手に取るとそれを投げた。
 次にガンダム∀GE-1 セブンスソードをビームブーメランの軌道上に誘い込むようにビームライフルを放った。
 エリカの思惑通りにガンダム∀GE-1 セブンスソードはビームブーメランの軌道上に誘い込まれた。

「あんまり相手を舐めすぎるからこうなる!」
「少しは頭を使って来たようだけどさ。うちのレイコの想定通りなんだよね」

 デブリの影から飛び出して来たビームブーメランがガンダム∀GE-1 セブンスソードを捉えるかと思われた。
 しかし、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは高速で回転しているビームブーメランの柄の部分を正確に掴んで、ビームブーメランを止めた。

「んな事があり得んのかよ!」

 これはエリカも予想外の事態だった。
 ビームブーメランは高速で回転している。
 そんなビームブーメランを回避したり、弾くのではなく掴んで止めるなど普通はやらない。
 一歩間違えれば、掴み損なって腕が破壊されるだろうからだ。
 そうなれば、エリカとマシロとの間で交わされた賭けは文句なしでマシロの負けだ。
 流石に賭けに負けたからと言って、切腹はしないが負けた以上はアオイに謝らないといけない。

「あり得るから起きたんだよ。じゃ、そろそろ観客も退屈して来たところだ。そろそろこっちからも仕掛けさせて貰う!」

 マシロがそう言うと明らかに空気が変わった。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは持っていたビームブーメランをアサルトルージュに目掛けて投げた。

「利子も付けて返してやるよ」

 更にはガンダム∀GE-1 セブンスソードの左肩のビームブーメランも投げた。

「そう簡単に当たってやるかよ!」

 二つのビームブーメランをアサルトルージュは回避するが、その間にガンダム∀GE-1 セブンスソードは一つのビームブーメランの軌道上に移動すると、再びビームブーメランをキャッチすると、アサルトルージュに投げる。
 この時、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはデブリで右肩がエリカの位置から見えないようにしていた為、エリカは気づかなかった。
 すでに、ガンダム∀GE-1 セブンスソードの右肩のビームブーメランが付いていなかった事に。
 投げ返されたビームブーメランを回避するが、すでに投げられていた3つ目のビームブーメランがアサルトルージュの片足を切断した。

「いつの間に!」
「余り早くやられてくれるなよ」

 移動したガンダム∀GE-1 セブンスソードがビームブーメランを掴んで今度は上に投げて、すぐに次のビームブーメランを下に投げる。

「ふざけた戦い方をして!」

 アサルトルージュはビームライフルをガンダム∀GE-1 セブンスソードに向けるが、下方向に投げたビームブーメランが戻って来て、ビームライフルを破壊し、上に投げたビームブーメランがエールストライカーについている対艦刀を破壊する。

「くそ!」
「これで、得意の突貫攻撃は使えない」
「舐めんなって言ってんだろ!」

 アサルトルージュは対艦刀を失いながらも、ビームサーベルを抜いて対艦バルカンを連射しながら、ガンダム∀GE-1 セブンスソードに突撃して行く。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはデブリの影に隠れて対艦バルカンの攻撃を防ぐ。
 アサルトルージュはこの間にガンダム∀GE-1 セブンスソードとの距離を詰めようとするが、上下に投げた物とは別の3つ目のビームブーメランが、アサルトルージュの真横からアサルトルージュの動きに事前に合わせていたかのような正確さでエールストライカーのスラスターを切り裂く。
 エールストライカーが損傷した事で素早くアサルトルージュはエールストライカーをパージする。

「ちくしょう……」

 3つのビームブーメランは示し合わせたようにガンダム∀GE-1 セブンスソードの方向に飛んで行くと、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはそれを左腕の一振りで3つとも、指の間に挟んでキャッチする。

「そんじゃ、もう一度踊って貰おうか」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは左手に持っている3つのビームブーメランを多少の時間差をつけて投げた。
 アサルトルージュは四方から飛んで来るビームブーメランを回避するが、デブリのせいで大きく動く事が出来ずにビームブーメランを完全にかわし切る事が出来ない。
 やがて、ビームブーメランが右肩のコンボウェポンポッドを掠めて切り込みが入ったためにパージし、別のビームブーメランが右腕を切り落とした。

「これで丸裸だな」
「自分だけは高見の見物かよ!」

 右腕とコンボウェポンを失った事でアサルトルージュの武器は頭部のバルカンのみだ。
 それでも尚、エリカは諦める事無くビームブーメランの攻撃を回避に専念する。

「諦めてるかよ!」

 ビームブーメランの攻撃を回避していると次第にエリカもビームブーメランの軌道に目が慣れて来て、見切れるようになって来ていた。
 そして、アサルトルージュに向かって飛んで来たビームブーメランをアサルトルージュは今までマシロがやって来たように柄の部分を掴んで止めた。 

「そう簡単にやられるか!」
「想定の範囲内だよ」

 ビームブーメランを掴んで止める事に成功したが、ビームブーメラン自体囮だった。
 エリカがビームブーメランに気を取られている間にガンダム∀GE-1 セブンスソードはアサルトルージュの背後を取っていた。

「生憎とうちのレイコは性格は腐っているけど、データ使いにありがちなバトル中の性能に対応できないなんて3流じゃないんだよね。残念な事に」

 エリカがバトル中に成長すると言う可能性は事前にレイコが予測していた可能性の一つだ。
 だからこそ、マシロはビームブーメランでエリカの気を自分から逸らした。
 成長した事で翻弄されていたビームブーメランを止めたと言う隙をつく為にだ。
 バトル中に成長したファイターで最も厄介なのは成長してすぐだ。
 成長した事で勢いが付き、バトルの流れさえも変えての逆転劇は世界大会でも度々見られる。
 しかし、始めから相手がバトル中に成長すると言う事を想定して戦っていれば、成長しても流れを変えられる心配は少ない。
 そして、エリカの成長はレイコの予想の範囲を超える事までは無い為、マシロにとっては脅威となる事は無かった。
 背後を取ったガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開して突き出した。

「ちくしょう!」

 マシロの余裕を打ち崩せたと思った途端に、背後を取られた為にエリカの反応は明らかに遅れ、アサルトルージュは動く事が出来ずに背中からCソードが胸を貫いた。
 それが致命傷となってエリカの敗北が決まった。

「……アタシの負けか」
「賭けは俺の勝ちって事で良いよな」
「……ああ」

 エリカは素直に自分の敗北を認めていた。
 バトルだけでなく、アオイに謝らせる為の条件の方もだ。
 バトルフィールドが苦手とするデブリベルトだったのは運が悪かったとしか言いようは無いが、それを差し引いても完璧にエリカの戦い方は封じ込まれていた。
 完全に実力で負けたと言う事は認めざる負えない事実だ。

「なぁ……聞いても良いか?」
「何?」
「お前、一度でも攻撃を受けたらどうするつもりだったんだよ?」

 賭けに負けた以上、その質問に意味はない。
 だが、エリカはどうしても気になっていた。

「ガンプラバトルの勝敗で決めた事は絶対……つまり、そう言う事だ」

 マシロはそう言って、ガンプラを回収すると帰って行く。
 エリカにはその答えで十分だった。
 マシロは嘘でもハッタリでもなく、本当に賭けに負けたら切腹をしてアオイに詫びる気だった。
 ただの遊びであるガンプラバトルの勝敗で命を捨てるなど、馬鹿らしいが少なくともマシロはそれ程、本気だったと言う事だ。
 エリカもバトルで壊れたガンプラを回収してバトルシステムから離れる。
 通路に出ると、観客席からエリカのバトルを観戦していたアオイとタクトもエリカのバトルが終わり、エリカと合流する。

「悪い。勝てなかった」

 エリカがそう言うと、アオイもタクトもバツが悪そうにして何も言えなかった。
 「惜しかった」や「次は勝てる」等と言う励ましの言葉をかけようにも、激戦の末の敗北ならまだしも、二人の目から見てもエリカはマシロに手も足も出せずに完敗している。
 
「アオイ。気を付けろよ。マシロは普通のファイターとは何かが違う」
「シシドウさん……」

 それがマシロと実際にバトルしたエリカの感想だった。
 エリカに完勝したマシロだが、恐らくは全力を出し切ってはいない。
 そんな余裕がバトルの終わったマシロから感じられていた。
 そして、このままアオイが勝ち進んだ場合、決勝で当たる事になる。
 
「分かりました」

 実際にバトルしたが故にマシロの力の一端を垣間見たエリカの言葉をアオイも心に留めた。
 エリカは地区予選3回戦で敗退し、マシロは4回戦へと駒を進めた。
 



[39576] Battle22 「力の価値」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/17 00:10
 地区予選も4回戦ともなれば、勝ち残っているファイターの大半は地区の中での名が知られたファイターが多い。
 だが、そんな中でもマシロ、アオイ、レッカの3人はこの地区では無名のファイターとして勝ち進んでいる。
 すでにアオイとレッカは4回戦も勝ち抜いている。
 マシロの4回戦の相手はガンダム試作3号機「デンドロビウム」だ。
 デンドロビウムはガンダム試作3号機「ステイメン」をコアユニットに巨大アームドべースの「オーキス」を搭載した拠点防衛用モビルスーツだ。
 その巨体には多数の火器と戦艦並の推力を持つ。
 マシロのガンダム∀GE-1 セブンスソードはデンドロビウムにショートドッズライフルを放つ。
 だが、ビームはデンドロビウムに直撃する前に弾かれた。

「まぁ、デカブツにIフィールドは当然か」

 ビームを弾かれるもマシロは動揺した様子は見られない。
 対戦相手のデンドロビウムにIフィールドが搭載されている事は事前情報で知っている事だ。
 デンドロビウムのように大型機に特殊な塗装を施してIフィールドによる防御能力を持たせる事はここ数年の世界大会での流行りでもあった。
 ガンプラバトル自体はまだ10年にも満たない競技ではあるが、その間に行われた世界大会では様々な工夫を凝らしたガンプラが使われていた。
 初期の第一回や第二回では大幅な改造ではなく、細かいディテールに拘ったガンプラが多かったが、第三回や第四回ではそれに加えてファンネルと言った遠隔誘導兵器によるオールレンジ攻撃を行う事が多くなった。
 しかし、ファンネルは一体一では全方位からの攻撃と言うアドバンテージがある反面、操作が難しい為、実力のないファイターが扱えばファンネルの操作に集中するあまり、本体の操作を疎かにしたり、逆にファンネルが余り意味を成さないなどが見られた。
 それに代わって高い火力を持つ大型機が使われ始めた。
 だが、大型機の最大の欠点は大型が故に機動力が低いと言う事だ。
 直線的な機動力は高いが、小回りが利かない為、幾ら火力があっても的が大きいと言う事もあって大型機と言うだけでは勝つのは難しかった。
 その欠点を補うために特殊な塗装によるIフィールドを作中でその手の防御系の機能がない機体に対しても使われるようになり、前回の第五回大会では真偽は定かではないが、Iフィールドを搭載した大型機が参加者の半数近くもいたとすら言われて、それを裏付けるかのように通常バトルにおいては大型機による大火力の撃ち合いと言うのも良く見られた光景だ。
 そんな事もあり、今年の大型機を使うファイターは決して少なくはない。
 尤も、その大型機にIフィールドを使えるようにする為にはそれなりの技術も必要である事もあって大型機で勝ち進めるファイターはほんの一握りでしかない。

「とはいえ、やっぱセブンスソードの火力でIフィールドをぶち抜くのは無理っぽいな」

 取りあえず撃っては見た物のレイコの予想通りセブンスソードのショートドッズライフルではフィールドを抜いてデンドロビウムにダメージを与える事は難しそうだった。
 この事自体はあくまでも確認である為、予想が正しいと言う裏付けとなり、無意味と言う訳ではない。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは肩のビームブーメランを取るとデンドロビウムに投げつけた。
 小回りの利かないデンドロビウムではビームブーメランを回避する事が出来ずにスラスターを破壊された。
 スラスターを破壊された事で機動性を大きく奪われたデンドロビウムだが、何度かメガビーム砲をガンダム∀GE-1 セブンスソードに向けた。

「流石にそいつの直撃は受けたくはないな」

 デンドロビウムがメガビーム砲を撃つ前に、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは腰のショートソードを抜いて投擲した。
 投擲されたショートソードはメガビーム砲の砲身の中に入ると、メガビーム砲は爆発を起こした。
 爆発と同時にデンドロビウムはメガビーム砲をパージしていた為、本体への損傷は最低限に抑えられていた。
 メガビーム砲を失うもデンドロビームは、武器コンテナから三角柱状のコンテナを射出した。
 そのコンテナの一面には38発づつ、計108発のマイクロミサイルが搭載されており、その108発のマイクロミサイルが一斉にガンダム∀GE-1 セブンスソードに襲い掛かる。
 全方位から襲い掛かるマイクロミサイルをガンダム∀GE-1 セブンスソードは機体を乱回転させつつも、胸部のビームバルカンとショートドッズライフルで迎撃する。
 その際のマシロの操縦は明らかに常人離れした速度で操縦桿を動かしていた。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードの動きに対戦相手のファイターも呆気に取られていた。
 そして、最後には108発のマイクロミサイルは全て迎撃されて辺りは爆風で視界が悪くなっている。

「ミサイルで俺に当てたかったら後、148発は撃ち込んで来るんだな」

 爆風からガンダム∀GE-1 セブンスソードは飛び出すとCソードを展開し、コアユニットであるステイメインごとデンドロビウムに突き刺した。
 ガンプラバトルにおいて、別の機体をコアユニットとしている機体やコアファイターのような脱出機能を持った機体、機体の一部を分離して独立稼動出来る機体などは本体が破壊されても、その部分さえ残されていれば敗北判定とはならず、バトルを続行する事が出来る。
 マシロはそれを見越してステイメインごとデンドロビウムにCソードを突き刺した。
 従来なら、オーキスをパージすればステイメインの状態でバトルが続行出来るが、オーキスごとCソードで貫かれていては意味がなかった。

「相変わらずむかつく程強いな」
「最後のミサイルを迎撃した時の動きとかありえないって」
「ですね」

 マシロのバトルを観戦していたアオイ達もマシロのバトルは素直に認めざる負えない。
 
「この調子じゃ次も勝って準決勝じゃカガミの奴と当たるな」

 レッカの次の対戦相手もそれなりの実力者である事は変わりないが、レッカの実力を考えると勝てるだろう。
 マシロの方も負ける要素が無ければ準決勝でマシロとレッカが当たる事になる。

「どっちが決勝に上がって来るにしても厳しい戦いになるな」
「その前に5回戦だな。準決勝は恐らくはアンドウセンパイ……アオイにとっては初めての対戦相手だ」

 決勝戦はマシロかレッカだが、その前に5回戦と準決勝に勝たねばならない。
 特に準決勝はアオイが初めてバトルしたコウスケだ。
 コウスケのバトルはマシロのバトルの方に気を取られていた事もあって、一度も観戦してはいない。
 今回も順当に勝ち上がって来ている。

「余り自信は無いです……」
「だよな。俺らもマシロの事ばかりだったけど、先輩の実力だって世界を狙えるんだ。油断出来る訳が無いか……」
「こうなれば特訓しかないな。アタシもキサラギも負けちまってるからみっちり付き合える」

 アオイが自信が無いのはいつもの事だ。
 幸いにも5回戦まで少し日にちはある。
 その間に特訓を重ねれば少しは自信にも繋がる。
 
「打倒、センパイ! 目指せ世界大会! だな」
「いやいや、ここは世界制覇! くらいの勢いでいかねーと」
「キサラギにしては良い事言うじゃん!」

 すでにアオイを置いてきぼりにして、話しが大きく膨らみ、アオイは苦笑いをしながらそんな二人を見ていた。





 マシロの4回戦の翌日、アオイはエリカとタクトと町で待ち合わせをしていた。
 三人の目的地はホワイトファングではない。
 ホワイトファングは品揃いも良く、設備も整っている為、良く溜まり場にしているが今日は別の場所で練習を行う事になっている。
 練習の場所を変える事で、少しでも違ったタイプのファイターとバトルを行う事でアオイに欠けている実戦経験を増やす事が目的だ。
 実戦経験が増えれば、それだけバトルの時に冷静に判断する事が出来るからだ。

「この辺りなんだが……」
「本当にこの辺りにあるのか?」
「間違いないってネットで調べて来たから」
「あれじゃないんですか?」

 タクトがこの辺りでガンプラバトルを行える場所を事前にネットを使って調べて来ていた。
 プリントアウトした地図を頼りにその場所を探していた。

「茨の園……ここだな」
「地下……本当に大丈夫なんだよな。アタシ等はともかく、アオイを面倒事に巻き込む事は出来ねーぞ」
「大丈夫だって……多分」

 目的地の茨の園はビルの地下にあるようだった。
 少し怪しげな雰囲気を漂わせている為、エリカは心配しているが、タクトもきちんとネットで調べている。
 その情報を信じて、タクトを先頭に3人は階段を下りていく。
 階段を下りていくと茨の園と書かれた看板とドアに辿りつく。
 中に入るとかなり開けた空間となっており、そこは熱気に包まれていた。

「中は案外普通だな」
「なんか、僕達……場違いな気がするんですが……」

 茨の園に来ている客はパッと見で30代以上が多いように見える。
 ホワイトファングは10代や20代の客が多い為、客層が違うだけでも雰囲気はまるで違う。
 ホワイトファングは和気藹々とした雰囲気ではあるが、茨の園の空気はどこか殺伐としている。
 天上からモニターがいくつも吊るされており、バトルの様子が映されている。
 そのバトルに対して、客たちは応戦にしては汚い言葉で、すでに応援と言うよりも野次に近い怒号を上げている。
 
「何事も経験だって」
「取りあえず、観戦からしとくか」
「ですね……流石にこんな中でバトルは……」

 アオイは場の雰囲気に圧倒されている為、すぐにバトルが出来る状態ではない。
 場の雰囲気にも慣れると言う意味も兼ねて3人はまずは、バトルの観戦から始める事にした。

「結構強いファイターが多いな」

 何回かバトルを観戦したが、茨の園でバトルしているファイターのレベルは思った以上に高い。
 客の人数的にはホワイトファングの足元にも及ばないが、茨の園の方が平均的にはレベルが高い。

「ん?」
「どした?」
「いや……ミズキさんがいたような気がしたんだが……」
「流石にこんなところに出入りはしないだろ」

 観戦しているとタクトの視界にミズキが入ったような気がした。
 だが、エリカの言うように茨の園とミズキとは結びつかない。
 どちらかと言えばミズキは茨の園のような騒がしい場所よりも図書館やカフェと言った静かで落ち着いた場所の方が似合っているとタクトも思う。

「こんなところで会うなんて奇遇だな」
「……マシロさん」

 ミズキがいた気がする事は気のせいだと思い直した矢先に今度はマシロと遭遇した。
 マシロに対して、タクトは明らかに敵意を向ける。

「アンタみたいなお坊ちゃんが何でこんなところにいんだよ?」
「答える必要はないけどね。俺はオーバーワーク気味だから息抜き」
「……答えんのかよ」

 棘のある言い方だが、マシロは全く気にしてはいない。
 マシロが茨の園に来た理由の一つがここ数日のオーバーワークだ。
 一日100回近くのCPU戦を行っている事もあり、今日は息抜きを兼ねて茨の園に来たらしい。
 闇雲にバトルをやり続けていたところでマシロの体が持たないのも当然で、たまに一日のバトルの回数は通常の半分程にして息抜きで出歩いて適当な相手を探してバトルしている。
 
「で、そっちは?」
「……秘密の特訓だ」
「俺に話した時点で秘密じゃなくね?」
「その辺にしとけって」

 このままではまた、喧嘩になりそうだった為、エリカが仲裁に入る。
 流石にタクトも喧嘩騒ぎを起こす気は無い為、素直に従った。

「お前達は運が良い。今日は面白いバトルが見られるかも知れない」

 マシロはそう言ってモニターの一つを指さす。
 マシロが今日、ここに来たのは偶然と言う訳ではなかった。
 あるファイターのバトルを見る為に、ここまで足を運んで来た。

「あれって……」
「アンドウ先輩?」
「ホワイトファングで見ないと思ったらここでバトルしてたのか」

 モニターに映されているファイターはアオイが準決勝でバトルすると予想しているアンドウ・コウスケだ。
 マシロはコウスケのバトルを見る為にここまで来た。
 
「何でも以前とはバトルスタイルを変えてたらしい。前は弱かったけど、面白いガンプラを使ってたからな」
「面白いガンプラ?」
「そっ、変身するユニコーン」

 そう言われて、アオイ達は互いに目配せをするが、誰もその事は知らないらしい。
 コウスケのユニコーンガンダムはユニコーンモードからデストロイモードになれると言う事は余り知られてはいない。
 去年までは違うガンプラを使っていて、デストロイモードは切り札である為、それを使わないといけない程のファイターか、そのファイターとのバトルを運良く見る事が出来なければ知らないのも無理はない。

「アレは……黒いユニコーン」
「バンシィ……」

 バトルシステムに置かれたコウスケのガンプラは以前のユニコーンガンダムではなかった。
 ユニコーンガンダム2号機、通称「バンシィ」だ。
 ユニコーンガンダムの2号機として作られた機体だが、白一色のユニコーンとは違い黒い。
 装備は原作に当たる小説版ではなくOVA版の装備であるアームド・アーマーが装備されている。

「趣味悪りぃ……それにいきなりデストロイか……」

 マシロからすれば白いユニコーンから黒いユニコーンに乗り換えたような物で少し気に入らない。
 そして、以前とは違いバンシィはデストロイモードだ。

「始まるぞ」

 マシロは嫌な予感を感じていると、バトルは開始される。
 バトルフィールドはオーソドックスは地上フィールドで対戦相手のガンプラはジム・キャノンⅡだ。
 ジム・キャノンⅡは先制攻撃でビームキャノンを放つ。
 バンシィは大きく飛んで回避すると、右腕のアームド・アーマーBSをジム・キャノンⅡに向けて放った。
 ジム・キャノンⅡは90mmジム・ライフルで反撃を行いつつも回避する。
 アームド・アーマーBSはビームを掃射しつつ、ジム・キャノンⅡを狙い、やがてジム・キャノンⅡの右足に直撃し、右足が破壊される。

「あちゃ……足をやられた。運がねぇな」
「お前の目は節穴か。今の攻撃は足を潰しにかかってる」

 マシロに指摘されてタクトはムッとする。
 だが、今の攻撃はマシロの目にはジム・キャノンⅡの足を始めから狙っていたように見えた。
 右足を破壊された事で、ジム・キャノンⅡは尻餅をついて倒れ込んだ。
 バンシィは着地すると、一気にジム・キャノンⅡとの距離を詰めた。
 ジム・キャノンⅡはジム・ライフルで応戦するが、距離を詰められるとアームド・アーマーBSでライフルが弾かれると、バンシィは左腕のアームド・アーマーVNを展開する。
 獣の爪を思わせるクローとなったアームド・アーマーVNを振り落すが、ジム・キャノンⅡはギリギリでシールドで防ぐがシールドは破壊される。
 ジム・キャノンⅡはビームキャノンを放つが、バンシィは後方に下がり、頭部のバルカンをジム・キャノンⅡに放つ。
 
「弄り殺す気か」

 バンシィの戦いを見てマシロはポツリと零した。
 ビームキャノンの攻撃を回避したバンシィは、アームドアーマーVNを通常形態の打撃武器としてジム・キャノンⅡのビームキャノンの片方を殴り飛ばして破壊する。
 再度、ビームキャノンで応戦しようとするジム・キャノンの胴体をバンシィは踏みつけるとアームド・アーマーBSでビームキャノンを破壊する。
 踏みつけられて身動きの取れないジム・キャノンにバンシィは止めのアームド・アーマーBSを撃ち込んでバトルは終了した。
 バトルが終わった後マシロ以外は茫然として、一言も喋らなかった。
 アオイ達の知るコウスケのバトルとは正反対で相手をいたぶっていた。
 それが未だに信じられない。

「つまらないな」

 そんな中、マシロはバトルの感想を口にした。
 確かに以前とは違う戦い方だった。
 前にバトルした時に比べるとバトルの腕は上がっていたが、非常につまらないバトルだった。
 以前のコウスケは弱かったが、面白いガンプラを使っていた。
 ユニコーンをデストロイモードに変身させる機能はマシロからすれば無駄の一言だ。
 それを組み込む為に装甲を削って内部に隙間を作って変身時に装甲の一部をスライドさせて収納できるようにしていたのだろう。
 それらを行う為には手間を技術が必要となる。
 だが、それに見合った性能を得られると言うだけではない。
 装甲を削った事で防御力は低下する上に、デストロイモードに変身させる位なら、初めからデストロイモードのユニコーンを買って作り込んだ方がよっぽど強いガンプラを作る事が出来る事は誰の目にも明らかだ。
 作中ではデストロイモードのリスクとして瞬間移動にも見間違う程の機動力から来る殺人的な加速とサイコミュによるパイロットの心身への負荷で5分程度しか使えないが、ガンプラバトルにおいては関係ない。
 ユニコーンを完全に変身させる事が出来る機構を再現できる程の腕があれば、リスクと手間が性能に見合わないと言う事が分からない訳が無い。
 それでも尚、変身させる事出来るユニコーンを制作したのは、本編の設定をリスペクトしたが故なのだろう。
 ガンプラバトルで勝利する事を目的にガンプラを制作しているマシロからすれば、勝つ為に必要な事として自分のやりたいように改造を施している為、コウスケの行った改造は無駄で馬鹿げているとしか言いようがない。
 無意味だと分かっていてもそれを行った事だけはマシロも面白いと認めていた。
 本当に興味を持たない相手にはバトル後に話しかけられても無視して答える事は無い事が多いマシロだが、多少なりとも認めていたが故にバトルの後に話しに応じた。

「アレが力に飲まれると言う事か……確かに醜いな。父さんの言った通りだ。ああはなりたくは無い」
 
 今のバトルを見る限り、コウスケはただ力を振るいたいだけに見えた。
 その気になれば、もっと早く勝負を決める事が出来た。
 それなのにいたぶっていた。
 大局を見据えて指示を出したレイコにやるように言われたマシロとは違い、ただ自分の力を見せつけるかのようでマシロの目には非常に醜く見えた。
 そして、それは今な亡き父から何度も言われた事でもあった。
 マシロ達は人より優れた才能と言う力を持っている。
 故に決して力に飲まれてはいけないと。

「やぁ、まさか君が見ていたとは思わなかったよ」
「……アンドウ先輩」

 バトルが終わり時間が経っていたのか先ほどまでバトルをしていたコウスケがそこにいた。
 マシロを含めた皆が以前のコウスケと面識があるが、コウスケは別人と化していた。
 以前は礼儀正しい好青年と言う印象だが、今のコウスケはどこか陰湿な印象を受ける。
 同じ高校でも学年が違えば、接点が殆ど無い為、コウスケと会う機会は無かったが、この変貌ぶりには驚くしかない。
 尤も、先ほどのバトルを見ている為、驚きは半減してはいる。

「ここは力が支配する場所だよ。君たちのような子供が来る場所じゃないな」

 コウスケはアオイ達を嘲笑うかのようにそう言った。
 ホワイトファングは地区のファイターの情報を集める為に、誰でも気軽に遊びに来れる場所と言う雰囲気を作っている。
 一方の茨の園はとにかく、強いファイターが幅を利かせている。
 つまり、遠回しにアオイ達を弱者として馬鹿にしていると言う事だ。
 その意味を完全に理解している訳ではないが、コウスケが自分達を馬鹿にしていると言う事はアオイ達にも何となく伝わっている。
 そんなコウスケの態度にタクトが食ってかかりそうになるが、マシロが何も言わずにコウスケの横を通り過ぎようとしていた為、食ってかかる事は無かった。

「待ちなよ。ヴァイス・デビル」
「それ覚えてたんだ」

 呼び止められたマシロは仕方が無く立ち止まって振り返る。
 白い悪魔、ヴァイス・デビル。
 かつて、マシロがコウスケに名乗った名だ。
 そして、ネット上に情報をばら撒いていた。
 しかし、マシロはレイコとは違い情報の扱いに長けている訳ではない。
 その為、ヴァイス・デビルの名は殆ど広まる事はなく、いつしかマシロも自演して情報を広める事に飽きていた。
 今ではその名を覚えている者は殆どいない為、本当に都市伝説を化している。

「俺は君に感謝しているんだ。あの日、君に負けた事で気づいたんだよ。圧倒的な力……力こそが全てなんだと!」

 そう言うコウスケはどこか狂信的な印象すら受けた。
 アオイの初めてのバトルの後、コウスケはマシロに大敗した。
 そして、今までの努力を否定されたコウスケはある答えに至った。
 力こそが全てなのだと。
 どんなに努力を重ねようとも圧倒的な力を前には無意味であると、マシロとのバトルを通じてコウスケは悟った。
 ここでのバトルでコウスケはその圧倒的な力を手に入れていた。

「くだらない」

 そんな、コウスケをマシロは一蹴する。
 
「力はただ力でしかない。それ自体に価値はない。そこに使う理由を与えて初めて価値があるんだよ。つまり、力を行使する為の力に価値はない。よってお前のバトルにも価値はないって事だ」

 マシロにとって、力は力でしかなかった。
 その力をバトルで勝つ為に使い、勝てば楽しいと言う理由を持たせる事で力に価値が出て来る。
 今のコウスケは力を使う為に力を欲している。
 そんな力に価値は無かった。

「言ってくれるね。なら、君と俺の力……どっちが正しいかここで決めようじゃないか」
「やだね。アンタじゃ俺には勝てないよ。力の意味すら解せないアンタじゃ俺とバトルしても勝負は見えてる」
「逃げるのかい? 意外と臆病なんだな」
「この国にはこんな諺があるらしいな。弱い犬程良く吠えるって。確かに」
 
 コウスケとバトルする気のないマシロは挑発に挑発で返す。
 
「けど、どうしても俺とバトルしたければ決勝まで上がって来いよ。まぁ、準決勝まで勝ち上がっても準決勝で負けるだろうけどな」
「準決勝……ああ、君か」

 今の今まで蚊帳の外だったアオイにコウスケの視線が向けられた。
 このままで行けば、準決勝でアオイとコウスケが当たる。
 マシロはコウスケはアオイに勝てないと断言した。
 だが、アオイに勝った事のあるコウスケは、マシロの言っている事を戯言としか捉えていないようだ。

「彼の実力を知って言っているのかい?」
「どう言う!」
「少なくともアンタよりはマシだってことは知ってるつもりだけど?」

 明らかにアオイを見下した態度にタクトの我慢の限界で、今度こそはエリカも止める気は無かったが、マシロの言葉が遮る。
 
「ふん。まぁ良い。どっちが正しいか時期に分かるからね」
「そうだな。その時に無様に泣くのはアンタの方だけどな」

 どっちも自分の意見を曲げる事は無かった。
 そして、当事者である筈のアオイは口を挟む事も無く、マシロとコウスケのどちらが正しいかと言う事はアオイとコウスケの準決勝で決められる事となった。





 アオイの意志とは関係なく、マシロとコウスケの争いに巻き込まれたが、その前に5回戦を勝ち抜かなければ意味はない。
 5回戦の時点で地区予選のベスト8となり、すでにマシロとレッカは勝ち抜いて準決勝でのバトルが決まっている。
 そして、コウスケも別のスタジアムでバトル中だが、相手を見る限りでは勝ちは見えている。
 アオイの5回戦の対戦相手のガンプラはラファエルガンダムだ。
 ラファエルガンダムはGNビームライフルで、牽制の射撃を放つ。
 ビギニングガンダムBはシールドを掲げながら、ハイパービームライフルで応戦している。
 ビギニングガンダムBの攻撃を回避して、ラファエルガンダムはバックパックのGNビッグキャノンを最大出力で放つ。

「くっ!」

 何とか回避するが、ビームはシールドに掠りシールドの表面が焼かれる。
 体勢を崩しながらもハイパービームライフルで反撃すると、ビームはラファエルガンダムのバックパックに直撃した。
 バックパックが爆発する前に、ラファエルガンダムはバックパックを本体からパージし、GNビッグキャノンもパージした。
 GNビッグキャノンは元々、パージして独立して使う事も出来る為、そのままビギニングガンダムBにビームを放つ。
 ラファエルガンダムも含めて三方向からの攻撃をシールドを使って防いでいたが、GNビッグキャノンの砲撃でシールドの表面にダメージを受けていた事もあってシールドが破壊される。

「僕は……」

 シールドを失いつつも、ハイパービームライフルでGNビッグキャノンを一つ撃ち落すと左手にビームサーベルを持って一気にラファエルガンダムの方に向かう。
 ラファエルガンダムは残っていたGNビッグキャノンを腕に付けたGNビッグクローでビギニングガンダムBを迎え撃つ。
 ビギニングガンダムBのビームサーベルをラファエルガンダムのGNビッグクローはぶつかり合う。
 GNビッグクローをビームサーベルが貫きかけるが、ラファエルガンダムは強引にGNビッグクローを振り抜いて、ビギニングガンダムBの左腕をもぎ取る。
 ビギニングガンダムBの左腕をもぎ取ったが、ラファエルガンダムのGNビッグクローもビームサーベルによる損傷で使い物にならなくなった為、パージされた。

「シシドウさんとキサラギ君の期待に応える為にも……」

 ビギニングガンダムBは振り向き、ハイパービームライフルを構えた。
 ラファエルガンダムもGNビームライフルを構えていた。

「負けたくない!」

 2機は同時にビームを放った。
 2機の撃ったビームはぶつかり合う。
 そして、ビギニングガンダムBのハイパービームライフルの方が威力が多少、勝っていた為、ラファエルガンダムの放ったビームは射線を変えてビギニングガンダムBの足を貫き、ビギニングガンダムBの放ったビームはラファエルガンダムの胴体を貫いていた。
 胴体を撃ち抜かれたラファエルガンダムは爆散し、アオイの勝利となる。
 アオイが勝利した事でDブロックの代表も決まり、ベスト4が全て出そろった事になる。
 そして、準決勝第一試合はマシロVSレッカ、第二試合はアオイVSコウスケと言う4人中3人が無名のルーキーと言う異例の形で日本第一地区の地区予選は終盤に入って行く。
 



[39576] Battle23 「努力の果て」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/18 13:57
 準決勝を当日に迎え、マシロは会場へ向かっていた。
 以前、タツヤと共に出場した大会の道中で怪我を負わされた経験から、地区予選のバトルは毎回、クロガミグループの専用車で送り迎えをさせている。
 会場までの間に頭の中で今日のバトルのシミュレーションしていると、携帯が鳴る。

「誰?」

 シミュレーションを邪魔されてマシロは少し機嫌が悪くなった。

「私だ」
「……ボスかよ」

 マシロは電話の相手を確認すると更に機嫌が悪くなる。
 マシロがボスと呼ぶ相手は一人しかいない。
 マシロが名目上所属しているガンプラチーム「ネメシス」のオーナー、ヨセフ・カンカーンシュルヤだ。
 そして、互いに用が無ければ連絡など取り合う事が無い為、何かしらの用があると言う事だ。
 大会中と言う事もあって、面倒な事この上なかった。

「どういう事か説明して貰おうか」
「何の事だよ」
「決まっている。何故、お前がガンプラバトルの世界大会にエントリーしているのかと言う事だ」
「その事か。耳が早いな」

 ヨセフがマシロに連絡を入れた理由は、マシロが世界大会に出場していることだ。
 契約では今年ではなく、来年の世界大会で優勝する事となっている。
 来年はプラフスキー粒子の発見から10年目である為に優勝時の副賞が例年とは違うからだ。
 その為に、マシロの情報を秘匿し、来年の世界大会の切り札として来た。
 しかし、マシロは一年早く表舞台に出て来た。
 ヨセフの予定は大きく狂ったも同然だ。

「今年優勝すれば、来年は地区予選をパス出来るからな。そっちの方が楽じゃん」
「だが、今年優勝すれば来年は世界中のファイターに研究される」
「だから何? それでも勝てば問題ないだろ」

 毎年、去年の世界チャンピオンはバトルを研究される。
 それは当然の事で、研究されれば圧倒的に不利となり、それ故に今までに世界大会を連覇したファイターは今までに一人としていない。
 だが、マシロからすればそんな事は関係ない。
 ただ、今年も来年も優勝すればいいだけの事だ。

「そんなに俺の事が信用出来ないってんなら、ボスが金出してる……何だっけ? フラナガン機関? フラガ機関? とやらにファイターを送って来るように言えば良いじゃん。どうせ、ガンプラバトル関係の機関なんだろ?」

 正確にはフナラ機関だ。
 マシロも興味が無い為、深く調べてはいないがヨセフはフラナ機関に出資をしている。
 タイミング的にガンプラバトルに関係していると思われる。
 恐らくは万が一にマシロが勝てなかった時の保険と言う事だろう。

「そうさせて貰う」

 ヨセフはそう言って一方的に電話を切った。

「たく……まぁ、少しは面白そうな奴が来れば良いんだけどな」

 マシロはヨセフの事を忘れて再びシミュレーションに入る。






 地区予選の準決勝ともなると観客の数はかなり増えている。
 尤も、純粋にバトルを見に来た観客だけではなく、カメラを回しバトルの様子を録画しようとしている観客も少なからずいた。
 彼らの目的は応援と言う訳ではない。
 別の地区や国で出場予定の選手たちなのだろう。
 自分の実力に自信があるファイターなら自分の参加予定の地区を勝ち抜けばいずれは世界大会で当たると言う事で偵察に来ているのだろう。
 中には外人もちらほら見えるが、国によってはすでに予選が終わって代表が決まっている国もある。
 そんな国のファイター達も世界大会の開催地である静岡に早めに滞在し、日本に慣れる事とこの地区の代表のバトルを見に来ている。
 
「勝算はあるのか? カガミ」

 準決勝一回戦の開始時間が迫り、会場入りしたレッカにタクトがそう言う。
 すでにアオイは自分のバトルの準備に入っており、タクトとエリカはアオイの応援に回る為、先にレッカを激励しに来ていた。

「彼のバトルを見る限り彼は強い。恐らくはこの地区でも彼以上のファイターはいないだろう」

 レッカは今までもマシロのバトルからそう判断した。
 後半になるにつれて確実にマシロの対戦相手のファイターの実力は上がっているが、それでもマシロは苦戦する事無く勝って来ている。
 そこから、マシロの実力は第一地区の中でもずば抜けて高いと判断した。

「だが、それと同時に非常に幼稚なバトルをしている。自分の実力を見せつけるかのように戦っている。そこに付け入る隙がある」

 確かにマシロの実力はずば抜けていた。
 しかし、同時にマシロのバトルは常に自分の実力を見せつけるかのようなバトルだった。
 その気になれば、もっと早く勝負をつける事が出来たバトルも多く、特にエリカとのバトルがそうだ。
 わざわざ、投げたビームブーメランを掴むと言う無用なリスクを何度も繰り返す辺りはマシロが自分の実力に絶対的な自信を持ち、それを見せつけたいと言う思惑が感じられた。

「力だけで勝てる程、ガンプラバトルは甘くはないさ。正面からぶつかれば勝算は薄いが、彼の攻撃をとにかく防いでチャンスを待つ。彼だって人間なんだ、いずれは致命的なミスを犯すだろう。そこを突けば勝ち目は見えて来る」

 レッカのマシロ攻略の策として、長期戦に持ち込むと言う事だ。
 幾らマシロの実力がずば抜けていても、人である以上はミスは必ず出て来る。
 そのミスを犯すまで耐えに耐えて、チャンスを待つ。
 正面からのバトルでは勝ち目がないと判断すればこその策と言えた。
 
「けど、気を付けろよ。アイツは普通じゃない」
「肝に銘じておく。タチバナに伝えて置いてくれ。先に決勝で待っていると」

 実際にマシロとのバトル経験のあるエリカの忠告を受けて、レッカはそう返す。
 尤も、準決勝の開始時間はアオイの方が少し遅いが、レッカは長期戦に持ち込む為、終わるのはアオイよりも遅い。

「おう。頑張って来いよ」

 タクトとエリカに見送られて、レッカはマシロとのバトルに向かう。
 それを見送った二人もすぐにアオイのバトルが行われるスタジアムへと向かった。
 会場にはすでにマシロが待機しており、レッカが来たところでバトルシステムが起動する。
 二人はGPベースをセットすると、バトルシステムにガンプラを置いた。
 マシロはいつものガンダム∀GE-1 セブンスソードだが、レッカのビギニングガンダムRはいつもとは違いビームライフルとシールドを装備している。
 長期戦に持ち込むに為に、距離を取って戦えるビームライフルと防御に使うシールドを装備して来た。
 二人の準備が整い、バトルが開始される。
 今回のバトルフィールドは以前にレッカがアオイとバトルした月面フィールドだ。
 バトルが開始され、レッカは周囲を警戒する。
 すると、正面からガンダム∀GE-1 セブンスソードがショートドッズライフルを撃って来る。
 それをシールドで受け止め、ビームライフルで反撃する。

「やはり、馬鹿正直に正面から来るか」

 ビギニングガンダムRの攻撃をガンダム∀GE-1 セブンスソードは左腕の小型シールドで防ぎながら突っ込んで来る。
 ビギニングガンダムRはビームライフルを連射して、ガンダム∀GE-1 セブンスソードの勢いを削ごうとする。
 しかし、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは小型シールドを掲げながらも、速度を通さない。
 本体への直撃は小型シールドで防いでいるが、ビームが掠る事を気にも留めていない。

「突貫する気か!」

 向こうが損傷を気にすること無く、突っ込んで来ると言う事にレッカが気が付くのは少し遅れていた。
 今までのバトルは一度も被弾する事が無かった為だ。
 そして、気が付いた時には遅く、小型シールドを掲げたガンダム∀GE-1 セブンスソードがビギニングガンダムRに突っ込んだ。
 ギリギリのところでシールドで受け止めてが、勢いの付いているガンダム∀GE-1 セブンスソードを止める事が出来ずに弾き飛ばされた。

「やってくれた……」
「遅いんだよ」

 吹っ飛ばされて何とか立ち上がったビギニングガンダムRだったが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは一気の距離を詰めていた。
 とっさにビームライフルで応戦するが、ビームを撃った時には懐に入られていた。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開して振り上げて、ビギニングガンダムRの右腕を切断した。
 ビギニングガンダムRはガンダム∀GE-1 セブンスソードに距離を取らせる為に至近距離から頭部のビームバルカンを撃ち込むが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは被弾を気にすること無くCソードを振り下ろした。
 その一撃はビギニングガンダムRを一刀両断した。

「そんな……」

 長期戦に持ち込んで隙をつく作戦だったが、長期戦どことが普通のバトルよりも短い時間で終わった事でレッカは茫然とするしかなかった。
 レッカはマシロのバトルを力を見せつけていると分析していたが、それは正しくもあり間違いでもあった。
 地区予選が始まった時にレイコから言われた通りのバトルをマシロは心がけていた。
 それ故に、レッカはマシロに付け入る隙があると思わされていた。
 レッカがマシロのバトルを分析したようにレイコもまた、レッカのバトルを分析した。
 その結果、今までのバトルからマシロは力を見せつけるように戦うと印象づけたところで、本来の戦い方で戦わせた。
 そうする事で、レッカが戦い方が変わった事に対処する前に勝負をつける事が出来た。
 今回の作戦は奇襲である為、次からは余り効果的とは言えないが、速攻で決めた事で単に力を見せつけるだけのバトルの中に速攻で決めに来ると言う事も印象づける事が出来た。
 次からマシロとバトルする場合は速攻も警戒せざる負えない為、他のファイターにも圧力をかける事にも繋がっている。
 そして、レッカが知らない最大の誤算はマシロは一日の大半をガンプラバトルに費やす事も珍しくは無い為、数時間くらいのバトルでは普通に戦う分には絶対にミスを犯さないと言う事だ。
 つまりは、一見ミスを犯すまで耐えると言う作戦はマシロに対して効果的とも思えたが、その実守りに徹しているだけでは始めから勝ち目などなかった。
 







 マシロとレッカのバトルが終わった頃、アオイとコウスケのバトルの方も始まろうとしている。
 観客席ではタクトとエリカが緊張した面持ちでバトルが始まるのを待っていた。
 茨の園で久しぶりに会ったコウスケはまるで別人になっていた。
 アオイにとってはコウスケは初めてバトルした相手だ。
 あの時はバトルに慣れていなかった為に、操縦をミスしてあっさりと負けた。
 今は、経験を積んだ事で実力を伸ばした為、あの時のようなミスはしないだろう。
 アオイにとっては特別な相手でその相手は変わり果てている。
 バトル前にアオイに会っているが、今日のアオイはいつもよりどことなく気合が入っているようにも見えた。

「まだ始まってないみたいだな」
「お前……」

 バトルが始まろうと言う時にマシロが観客席に来ていた。
 タクトたちは少し前にマシロとバトルするレッカを送り出した。
 長期戦に持ち込むと言っていた事を除いてもまだ、バトル中の筈だったが、ここにマシロがいると言う事はすでにバトルが終わったと言う事だろう。
 そして、マシロの様子を見る限りでは負けて来たとは見えない。
 つまり、マシロに確認せずともレッカは負けた。
 それも、この短時間でだ。

「俺としては強い方が上がってくればどっちが勝っても構わないんだけど、宣言した以上はタチバナ・アオイに勝って貰わんと超恥ずかしい事になるな」

 マシロはそう言って、何気ない顔で二人の隣の席に座り込む。
 
「アオイは勝つさ」

 タクトは自分に言い聞かせるようにそう言う。
 それに対して、マシロは何も言わない。
 そして、二人の準備が整いバトルが開始された。
 バトルフィールドは山岳地帯。
 アオイが初めてバトルしたバトルフィールドだ。
 
「センパイのガンプラが!」

 バトルが始まり、モニターに双方のガンプラが映し出されている。
 アオイの方はいつもと変わらないが、コウスケのガンプラは前に見たバンシィとは違った。
 フルアームド・バンシィ・ノルン。
 OVAに登場するバンシィを改修した総合性能向上仕様であるバンシィ・ノルンをベースにしている。
 汎用性に難がある為に撤去された両腕のアームド・アーマーを撤去せずにそのまま装備している。
 バックパックには増加ジェネレーターでもあるアームド・アーマーXCとシールドに増加ブースターとビーム砲を搭載したアームド・アーマーDEを装備している。
 右手にはバンシィ・ノルンの通常装備であるリボルビング・ランチャーが付いたビームマグナムを持っている。

「アームド・アーマーの全部盛りね。少しはマシなガンプラを仕上げて来たみたいだな」

 マシロはFAバンシィ・ノルンをそう評価した。
 バトルが開始されFAバンシィ・ノルンはビームマグナムで先制攻撃を行う。
 以前は威力にビビッて大きく回避して体勢を崩していたが、今回は冷静に着地してハイパービームライフルで反撃する。
 そのビームはビームマグナムを掠った。
 FAバンシィ・ノルンはすぐにビームマグナムをパージして着地する。
 ビームマグナムを失った事で、腰につけて来たビームマグナムとリボルビング・ランチャーの予備の弾倉をパージする。

「少しはマシになったみたいだけどな!」

 FAバンシィ・ノルンはアームド・アーマーBSを展開して攻撃する。

「先輩のように強くなりたくて僕は頑張って来ました!」
「無駄な事を!」

 ビギニングガンダムBはFAバンシィ・ノルンの攻撃を回避しながら反撃する。

「無駄なんかじゃ!」

 ビギニングガンダムBの攻撃はFAバンシィ・ノルンに掠った。
 損傷こそないが、初めてのバトルの時の印象しかないコウスケにとってはアオイに攻撃を掠らされたことは屈辱でしかなかった。
 
「雑魚の癖して!」

 アームド・アーマーDEを使ってFAバンシィ・ノルンはビギニングガンダムBに突っ込んでアームド・アーマーVNを振るう。
 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルで迎撃するが、接近を防ぎ切れ無かったが、FAバンシィ・ノルンの攻撃を掻い潜りFAバンシィ・ノルンの背後に飛び上がった。
 そして、ハイパービームライフルを放つが、バックパックのアームド・アーマーDEで防がれる。

「無駄なんだよ!」
「違います!」

 FAバンシィ・ノルンの背後に着地した、ビギニングガンダムBはシールドを掲げて前に出る。
 FAバンシィ・ノルンは振り返るが、ビギニングガンダムBの体当たりを受ける。

「僕はあの時、先輩に言われました。もっと努力すれば伸びるって……だから、それを信じて、僕は友達と共に頑張って来たんです!」
「黙れ!」

 ビギニングガンダムBの体当たりをFAバンシィ・ノルンは辛うじて受け止めた。

「嫌です! 今の先輩は間違ってます!」
「喋るなぁぁぁぁ!」

 アオイの真っ直ぐな言葉は、コウスケをイラつかせる。
 アオイの真っ直ぐな言葉は自分が如何に汚れてしまっているかを思い知らされる。
 FAバンシィ・ノルンはビギニングガンダムBのシールドを蹴り飛ばすと、至近距離からバルカンを撃ち込む。
 強度の増しているシールドなら受け止める事は容易いが、ビギニングガンダムBはその場から動けない。

「バトルは勝たないと駄目なんだよ! 敗者は惨めなんだよ! 努力なんて意味がなかったんだよ!」
「そんなの違う! 絶対に違います! 努力に意味なんてない訳がない!」

 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルで反撃する。

「努力があるから結果に繋がるんです! 僕がそうだったように!」

 ビギニングガンダムBのビームがFAバンシィ・ノルンの左腕のアームド・アーマーVNを破壊する。

「貴方は急ぎ過ぎたんですよ!」
「何も知らない癖に! 俺だって……こんな筈じゃなかった……こんな筈じゃ!」

 FAバンシィ・ノルンは左腕にビームトンファーを展開して、ビギニングガンダムBに付き出す。
 シールドで受け止めるも、次第にシールドにビームトンファーが突き刺さって行く。

「諦めたら、そこで終わりなんですよ!」
「俺だって諦めたくはなかったさ! けどな……どうしようもないんだよ! 諦めるしかないだろ!」

 コウスケは負けた事が無かった訳じゃない。
 だが、マシロに敗北した事で思い知った。
 努力だけでは超える事の出来ない壁を。
 だから、諦めた。
 自分には超える事が出来ないと。
 だから、コウスケは努力する事を止めて、自分よりも弱く勝てる相手を徹底的に弄り叩きのめす事で自分が強いと思おうとした。

「だからって!」

 ビギニングガンダムBはシールドを捨てて、ビームサーベルを抜きざまに振るう。
 FAバンシィ・ノルンも右腕のアームド・アーマーBSを向けるが、ビームサーベルが振り落される方が早かった。
 ビームサーベルがアームド・アーマーBSを切り裂き、FAバンシィ・ノルンはアームド・アーマーBSをパージした。
 2機は距離を取ってFAバンシィ・ノルンは左腕にバックパックのアームド・アーマーDEを付けて、右腕のビームトンファーを展開する。

「だからって……出来ないからって諦めてしまえば、もっと何も出来ないじゃないですか! 僕だって……何の取り柄の無い僕だって、友達に支えられて……諦めないでやって来れたからここまでこれたんです! 僕に出来て先輩に出来ない訳ないじゃないですか!」

 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放ち、FAバンシィ・ノルンはアームド・アーマーDEで防ぎながら接近してビームトンファーを振るう。
 ビギニングガンダムBは一歩下がってビームトンファーをかわして、ビームサーベルを振り落す。
 それを、FAバンシィ・ノルンはアームド・アーマーDEで受け止める。

「だから……こんな相手を叩きのめす為のバトルなんて絶対に間違ってます!」

 ビギニングガンダムは後ろに引いてハイパービームライフルを向ける。
 ハイパービームライフルのバーストショットをアームド・アーマーDEに撃ち込んで破壊する。
 だが、FAバンシィ・ノルンも負けじとビームトンファーを振り上げてハイパービームライフルを切り裂く。

「僕の知ってる先輩はこんなバトルはしません!」

 ビギニングガンダムBのビームサーベルとFAバンシィ・ノルンのビームトンファーがぶつかり合う。
 
「だから……僕が勝ちます!」
「だったら……僕に勝って証明して見せるんだ!」

 ビギニングガンダムBはもう一本のビームサーベルを抜いて、二本のビームサーベルでFAバンシィ・ノルンのビームトンファーを押し戻す。
 押し返されたFAバンシィ・ノルンも左腕のビームトンファーも展開して振るう。
 二本のビームトンファーの斬撃をビギニングガンダムBは紙一重で回避して見せた。

「これをかわした!」

 そして、ビギニングガンダムBはビームサーベルを振るう。
 二本のビームサーベルが同時にFAバンシィ・ノルンを捕えた。
 両肩からバッサリとビームサーベルで切り裂かれたFAバンシィ・ノルンは地に倒れ伏した。

「こんなもんか」

 バトルに決着が付き会場が歓声で湧き上がる中、マシロだけは冷ややかだ。
 この勝敗自体は始めから分かっていた事だ。
 最後の攻撃をかわした時にアオイはゾーンに入っていたと思われるが、そのくらいしか見どころは無かった。

「まぁ……お楽しみは最後に取っておくと言う事か」

 未だにアオイのバトルの違和感の正体が分からないが、初めから何もかもが分かっているバトルはつまらない。
 熱狂が覚める前にマシロは席を立って帰って行く。

「先輩! 何か勝手な事ばかり言って済みませんでした」

 バトルが終わって、アオイは冷静になって見るとバトル中にコウスケに対していろいろと言っていた事を思い出して謝った。
 
「……いや、君の言う通りだったよ。努力はやる事が重要なんじゃない。諦めない事が重要なんだ」

 一方のコウスケはバトルに負けたが、どこか憑き物が取れたかのように晴れやかだった。
 マシロに負けた事で諦めたが、アオイに負けて希望を見いだせた。
 初めてアオイとバトルした時とは比べものにならない程、アオイは強くなった。
 それは、アオイが諦めずにここまで頑張って来たからなのだろう。
 
「僕の負けだよ」

 コウスケはそう言って、アオイに手を差し出す。
 アオイもその手を握り返す。

「次の決勝戦は恐らく彼だろう。でも……アオイ君ならきっと……」

 まだ、二人にはマシロとレッカのバトルの結果は届けられてはいない。
 だが、コウスケはアオイの決勝戦の相手はマシロであると漠然と思っていた。
 圧倒的な力を持つマシロにコウスケは心が折られた。
 しかし、どんなに強大な力を前にしてもアオイは折れないと確信していた。
 元からアオイには才能があった。
 それに加えてここまで積み重ねて来た物もある。
 そんなアオイならマシロを相手に勝てるかも知れないとコウスケは思っていた。

「僕にどこまで出来るか分かりませんが……」
「アオイ君、君は強い。もう少し、自分に自信を持った方が良い。出ないと君に負けた僕の立つ瀬がないからね」
「……そうですね」

 コウスケは軽く茶化すが、アオイはここに来るまでにいくつも勝利を重ねて来た。
 そんなアオイが自分を卑下する事はアオイが倒して来たファイターへの侮辱となる。

「僕はあの人に勝ちたい……いえ、勝ちます」
「その意気だ」

 日本第一地区地区予選準決勝が終わり、世界大会への切符をかけた決勝戦はマシロ・クロガミとタチバナ・アオイの二人でバトルする事となった。



[39576] Battle24 「偽りの真実」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/20 14:50


 準決勝と決勝戦の間には一週間の間が空いている。
 その間にアオイは決勝戦に向けての練習をホワイトファングで行っていた。

「もう一度お願いします!」

 アオイは練習相手のコウスケにそう言う。
 今はコウスケがアオイの連中相手を務めていた。
 決勝の相手であるマシロと戦うに当たり、エリカやタクトではすでに役不足である事を本人たちが自覚している。
 すでに、エリカとの勝率が7割、タクトとは8割となっている。

「少し休んだ方が良い。余り根を詰め過ぎると体調を崩しかねないからね」
「分かりました」

 アオイもコウスケの意見に素直に従う。
 今までは闇雲にバトルを繰り返していたが、コウスケが加わった事で練習の密度が濃くなっている。
 
「お疲れさん」

 そう言って、バトルを見ていたタクトがアオイにスポーツドリンクを渡した。
 
「それじゃ休みながら今のバトルを振り返ってみるよ」
「はい!」

 時間を少しでも有効に活用する為に、休憩時間にもバトルの振り返りと行う事で、現在のアオイの問題点を対戦相手の視点や観戦していた第三者の視点から洗い出していく。

「それにしても大した物だよ。これだけの短期間でここまで成長するなんてね」

 コウスケは何度かバトルしてアオイの成長を実感した。
 コウスケに対する勝率は4割と言ったところだ。
 
「けど、相手はあのマシロだからな」
「実際に戦ったから分かるけど、アイツは口だけじゃねぇ……」

 アオイは確実に成長しているが、マシロと比べるとどうしても劣って見えてしまう。

「流石にこの短期間でアオイ君がマシロ君に実力で上回るのは不可能だよ。だけど、来週の決勝戦だけでも勝てるようにする事が先決だね」

 マシロの実力はコウスケも嫌と言う程分かっている。
 その為、一週間と言う期間内に実力でマシロを超えると言う事は確実に不可能だと思っている。
 だが、実力を超える必要はない。
 要は次の決勝戦の一戦だけでも勝てるようにすれば良い。

「けど、どうするんですか?」
「そうだね……まずはガンプラの強化、大幅な改造は難しいけど、武装を追加して必要に応じてパージすれば操縦の感覚が変わっても最悪、すぐに捨てれば良いからね」
「最終決戦仕様とかですか?」
「そんなところ」

 マシロに勝つ為の準備の一つがガンプラの強化だ。
 ここまでのバトルを見ただけでも、マシロは操縦技術だけではなく、ガンプラの性能も非常に高い。
 それに対抗する為には、今のアオイのビギニングガンダムBでは厳しい。
 それを補うために装備を増やすと言う事だ。
 それだけでも戦い方に幅が出て来る。
 
「次にマシロ君の戦い方を重点的に対策を立てると事だね。そうすれば、純粋な実力の向上には繋がらないかも知れないけど、決勝戦はある程度は戦えるようになる」

 もう一つはマシロの戦い方に絞っての練習だ。
 総合的な実力を上げるよりも、マシロと戦う事だけを重点的に練習すれば一週間でもある程度は戦えるようになるかも知れない。

「マシロの戦い方か……」
「近接戦闘だな」
「そうだね。彼は色々な戦い方が出来るけど、その根幹は近接戦闘になるね」

 マシロの使っているガンプラは右腕を初めとしていくつもの接近戦用の装備を持っている。
 準決勝までのバトルの大半は接近戦で仕留めている為、間違いはないだろう。

「今のアオイ君なら射撃戦は十分に戦えるから、近接戦闘をメインに練習をして行こう。良いね?」
「よろしくお願いします」
「なら、アタシの出番だな!」

 話しが纏まったところでエリカが名乗りを上げる。
 この中でエリカが最も近接戦闘を得意としている。
 近接戦闘の練習を行うなら、一番適任者とも言える。

「勢いだけ練習にはならないんじゃないのか?」
「カガミ君」

 エリカが名乗りを上げたところにレッカも話しに加わって来る。
 準決勝が終わった頃には、レッカも帰っていて話しが出来なかった。
 確認するまでもなく、マシロに敗北していた事は分かっていたが、長期戦に持ち込む事も出来ずに完敗したと知ってからは話す事も出来なかった。
 その上で連絡先を交換していた訳でも無い為、今の今まで話しをする機会もなかった。

「お前……」
「勘違いをするなよ。俺としてはライバルと認めたタチバナがアイツに無様に負けるのが癪なだけだ」
「素直じゃねーの」
「黙ってろ。地区予選で決着をつける事が出来なかったんだ。ここで決着をつけたいだけだ」

 レッカも素直にアオイの練習に付き合うとは言わないが、レッカも近接戦闘を得意としている。
 エリカとは違うタイプである為、両方とやる事にも意味がある。

「二人だけじゃなくて、僕とキサラギ君も含めてローテーションしながらやった方が良いね。相手を固定するとその相手でイメージが固まってしまうから」
「皆さん。よろしくお願いします」

 アオイはそう言って頭を下げる。
 アオイに協力して、アオイがマシロに勝ったところで、アオイは世界大会に出る事が出来るが、彼らには何一つとして得は無い。
 それでもアオイに協力するのは、打算からではない純粋な好意からだろう。
 それに報いる為にも、残りの時間で少しでも腕を磨くしかなかった。

「にしても、センパイが加わって練習も本格的になったよな」
「だな。この調子なら本当に決勝も勝てるかもな」
「皆さんのお陰ですよ」

 日が傾きかけた頃には練習もやり過ぎれば逆効果と言う事で練習は終わっていた。
 後はアオイがガンプラの強化のイメージを膨らませる事が次のステップだ。
 結局のところアオイのガンプラである為、強化の基礎はアオイがやりたいように考えて、そこから他の意見も取り入れて完成させる予定だ。

「ん……」

 3人は歩いているとタクトが立ち止まる。

「どうしたんですか?」
「いや……ミズキさんが路地裏に入って行った気が……」
「こんな時間に? 確かに今日はいなかったけど、流石に見間違いだろ」
「だよな……」

 タクトはミズキが路地裏に入って行った気がしたが、辺りも暗くなっているこの時間帯にミズキが路地裏に入って行くとは考え難い。

「けどな……悪い。ちょっと確認して来る!」

 見間違えかも知れないが、タクトはどうしても気になった為、路地裏に走って行く。








 同時刻、マシロはレイコの指示でホテルから人気のない路地裏に行かされていた。
 マシロはバトルをしていないと抗議するも、必要な事だと言われて渋々、指定された場所に来た。

「たく……」
「お久しぶりです。マシロ様」
「シオンか……」

 後ろからマシロは久しぶりにシオンの声を聴き、振り返るがそこにはマシロの知るシオンの姿はない。
 代わりにミズキがそこに立っていた。

「えっと……アンタ確か」
「シオンです」
「……マジで?」

 そう言うミズキの声は以前に会った時よりも少し低い。
 
「まぁ、こんな恰好ですからね。気がつかないのも無理はありません。レイコ様の指示でホワイトファングのバイトとしてファイターの情報を収集していました」

 シオンは今まで、レイコの指示で動いていると言う事はマシロも知っていた。
 それが、ホワイトファングでバイトとして働きながらファイターの情報を集めると言う物である事までは聞かされてはいなかった。
 レイコの方で集められる情報の大半はファイターとしての技術的な要素が強く、ファイターの人格や趣向などと言った方面を集める事は難しい。
 そこを補う為にシオンを使って、情報を集めさせていた。
 マシロがミズキを見覚えがあるのも当然の事だった。

「ふーん。お前も大変だな。偽名に女装とかさせられてさ」
「は?」

 マシロがそう言うと、ミズキ……シオンの表情が変わった。

「マシロ様……ミズキは偽名ではなく本名です。それに執事の恰好は去年くらいにマシロ様がインスピレーションが湧くかも知れないと言いだしてさせられただけで、私は生まれた時か

ら女です」
「……そうだっけ」

 マシロは完全に忘れていたが、シオンの本名はシオン・ミズキ。
 仕事である為、苗字の方のシオンで名乗っているだけに過ぎず、ミズキが偽名であると言う事ではない。
 そして、執事である事から誤解されがちだが、シオンの性別は女だ。
 そんなシオンが執事の恰好をしているのは、マシロの思いつきによる物だ。
 去年マシロが突然、ガンプラ制作のインスピレーションが湧くかも知れないと言う理由で男装をさせられて、男装をするなら執事でしょと言う理由だ。
 だが、いつしかマシロの方も完全に忘れていた。

「そうです。一体何年、仕えて来たと思ってるんですか」
「だって、シオンはシオンだろ? 別に性別とか名前とかどうだって良いし」
「……まぁ、マシロ様はそう言う人ですよね」

 シオンは呆れるしかない。
 シオンは高校を卒業と同時にマシロの世話役となった。
 数年もマシロの世話をしているのに、マシロの方はシオンの名前すらも覚えてはおらず、一年男装していただけで女であった事も忘れている。
 所詮、マシロにとってシオンは自分の世話をするだけの付き人に過ぎず、名前や性別はどうでも良かった。

「それより、こうして正体を明かして戻って来たって事は任務を終えたって事か?」
「ええ、何故、このような場所で合流するのかは分かりませんが、必要な情報は得て来たと思います」

 今まで、マシロにすら任務を明かさずに行動していたシオンがマシロと合流したと言う事はすでに情報収集の必要がなくなったと言う事だ。
 普通にホテルに戻ってくればいいところを、わざわざルートを指定されてまで、マシロとこんなところで合流する必要性には疑問があるが、任務が終わった事に代わりは無い。
 マシロとシオンが路地裏に入って行くことを目撃して追って来たタクトが遠くで見ていた事に気づく事無く、ホテルへと帰って行く。






 決勝戦を翌日に控え、アオイ達はホワイトファングで最終調整を行っていた。
 ある程度の技術を持つコウスケの手伝いもあって、武装強化は終わっている。
 後は、強化したビギニングガンダムBをどこまでアオイが使いこなせるようになるかだ。

「さて、明日は本番だから今日はこのくらいにして置こう」
「分かりました」

 明日が決勝戦と言う事もあって、コウスケは少し早めに練習を切り上げた。 
 この一週間で出来る事はやったが、それでもまだ何かやれることがあるんじゃないかと思ってしまう。
 どれだけの準備をしても、足りないと思わせる程の相手が決勝戦の相手だからだ。

「タチバナ・アオイ君よね。少し良いかしら?」
「そうですけど……」
「良かった。私はクロガミ・レイコ。次の貴方の対戦相手になるマシロの姉よ」

 練習を切り上げたところに、レイコが話しかけて来る。
 マシロの姉と言う事でタクトとエリカは少し警戒する。

「何の用ですか?」

 タクトが警戒しつつも、レイコに問う。
 それに対して、レイコは笑みを浮かべて対応する。

「今日は貴方たちにお願いがあって来たの」
「まさか、明日のバトルを負けてくれとでも良いに来たんですか?」
「違うわ。寧ろ逆よ。明日のバトル、貴方たちに勝って欲しくて来たの」

 予想外の用事に皆が驚く。
 対戦相手の身内が、負けて欲しいと頼みに来る事は褒められた事では無いが、理解できる。
 だが、逆に勝って欲しいと言いに来る理由は見当もつかない。

「……どういう事ですか?」
「その前にあの子の事を少し話すわ。あの子もクロガミ一族の被害者なのよ」

 レイコは少し憂いを帯びた表情で話し始める。

「あの子は私達とは血がつながっていないのよ。あの子は小さな町で生まれた孤児だったの。それを私の父がガンプラバトルの才能を見出して買い取った。そして、あの子は学校に通わ

せても貰えずにただ、ガンプラバトルの訓練を義務づけられた」

 レイコの口から語られるマシロの過去はアオイ達が思った以上に重く暗い内容だった。

「そして、勝ち続ける事を強要されて来た。その為なら手段を選ぶこともしないわ。例えば、ファイターの情報を集める為にスパイを送り込む事とかね」
「スパイって……そんな、漫画やアニメの世界じゃあるまいし」
「だけど、事実よ。この店にもミズキって子がいたでしょ。彼女はファイターの情報を得る為に送り込まれて来たわ」

 アオイ達もミズキの事は知っている。
 だが、アオイ達の知るミズキは人付き合いも苦手そうでとてもスパイには見えない。
 しかし、タクトは少し前にミズキが路地裏に入ったところを偶然にも目撃し、追ったところマシロと会っている場面を見ていた。
 その時の会話までは聞こえなかったが、遠目で見てもミズキの言動は自分達の知るミズキとは違った。
 他人のそら似だったかも知れないと自分に言い聞かせていたが、あの時、ミズキはマシロに情報を渡していたんだとすれば説明が付く。

「彼女を恨まないであげて。彼女も仕方が無く強要されてやった事なの。彼女の実家は町工場を経営していたの。だけど、その町工場はクロガミグループに買収されて、彼女も逆らえな

いわ」
「何だよ……それ!」

 タクトは怒りの余り声を上げた。

「今のマシロは勝利こそを至上とし、勝利の為なら手段を選ばないわ。私はそんなあの子を救って欲しいわ。私にとってあの子は大切な弟なの……」

 そう言ってレイコは涙を流す。

「きっと、負ければあの子も目を覚ますわ」
「……僕にマシロさんを救える自信はないですけど、僕は色んな人に支えて貰っています。だから、明日のバトル、負ける訳には行きません……それで良いでしょうか?」

 アオイ自身、マシロに勝てるかは分からない。
 だが、ここまで来る為にタクトやエリカを始めいろいろな人に支えて貰って来た。
 それに報いる為にも勝ちないと思っている。

「ありがとう……これ、あの子のバトルをまとめた物よ。良かったら使って頂戴」

 レイコは鞄の中からDVDを取り出す。
 それは、マシロのバトルの様子がまとめられているらしい。

「良いんですか?」
「ええ」
「分かりました。ありがとうございます」

 アオイはレイコからDVDを受け取った。
 それ自体の重量は軽いが、それにはレイコのマシロへの想いが籠っている様で重く感じた。

「それじゃ明日のバトル期待しているわ」

 レイコはそう言って帰って行く。

「明日、負けられなくなったな。マシロの為にも」

 レイコを見送りながら、タクトがそう言う。
 タクトはマシロと揉めた事で嫌っていたが、まさか、マシロの過去がここまで重い物を背負わされていたと知り今までのわだかまりも無くなっていた。

「……そうですね」

 レイコからも思いを託されて、アオイは決勝戦に臨む。








 アオイにマシロのバトルをまとめたDVDを渡してレイコはホテルに帰って来た。
 ホテルを出る前にもマシロはバトルをしていたが、未だにバトルをしていた。
 
「出かけてたん?」

 バトルをしていて、マシロはレイコが出かけていた事にも気づいていないようだ。
 今まではマシロを一人にする事は非常に危険だったが、今はシオンも戻って来ている為、マシロの身の回りの世話はシオンに任せれば良い。

「珍しい。引きもこりのレイコが出かけるなんて。何してたの?」
「ちょっとね」
「ふーん。余計な事をしてないだろうな?」
「してないわよ。ちょっと、最後の詰めにね」

 レイコは鞄をベットの上に放り投げてPCに向かう。

「明日の相手のタチバナ・アオイ君に貴方の事を教えてあげたのよ」
「すげぇ、余計な事な香りがプンプンするんだが……」

 バトルが終わったのか、マシロもベッドに座って一息つくと、シオンが二人分の飲み物を運んでくる。

「で……何を吹き込んで来たんだよ?」
「アンタ達が如何に不幸なのかを涙ながらの教えてあげたのよ」

 レイコはアオイ達に教えた事をマシロやシオンにも話した。
 話し終えると、マシロもシオンも呆れていた。

「よくもまぁ……そんなデタラメを……」
「デタラメじゃないわよ。事実をありのままに話しただけよ。ただ、客観的な事実のみでアンタ達の感情的な部分は向こうの想像に任せたけどね」

 レイコがアオイ達に話した事は事実であり、デタラメだ。
 出来事としては真実ではあった。
 マシロが孤児で、才能を見出されて引き取られたと言う事は事実だ。
 しかし、買われたと言う訳ではなく、マシロは自分の意志でクロガミ一族に引き取られた。
 ただ、その際に孤児院に対してクロガミ一族から寄付があったと言うだけの事だ。
 次にマシロは確かにガンプラバトルを強要されて学校にすら通っていないと言うのも、通わされていないのではなく、本人が通う気がない。
 本人が通いたいと言えば、学校に通う事も出来たが、マシロ本人がガンプラバトルをやりたいが故に行きたくないと断っている。
 勝ち続ける事を強要されていると言う事は紛れもない事実だが、マシロ自身、ガンプラバトルで勝つ事は好きなので嘘ではない。
 勝つ為に手段を択ばないと言えば聞こえが悪いが、実際のところ勝つ為なら何時間でもバトルや制作の練習を行い、必要であれば他者が確立した物でも積極的に取り入れて、バトルの

際にも相手の情報から対策を立てて策を講じて戦うなどと言った誰でもやっている事をやっているに過ぎない。
 スパイに関しては事実と嘘を合わせている。
 スパイを送り込んだのはマシロではなく、レイコだ。
 だが、タイミングを見計らってシオンとマシロが会っているところをタクトに見せた事でマシロが送り込んだと思わせた。
 シオンの事にしてもそうだ。
 シオンの実家は確かに小さな町工場を経営している。
 レイコの言う通り、今は工場はクロガミ一族が所有している。
 買収されたと言う事に関しても、事実だがそこに違法性の無ければ強引な手段を使った訳ではない。
 普通に工場を買い取りたいと申し出て、シオンの父親がそれに了承して契約は成立している。
 今ではシオンの父は雇われの身だが、工場で働いていた従業員もそのままクロガミ一族が雇い工場で働いている。
 待遇面では以前よりも良くなっているともっぱらの話だ。
 逆らえないと言うのも、別に工場の従業員を人質のように使われている訳ではなく、上司の命令だからに過ぎない。
 唯一の嘘がマシロの事が大切な弟と言う事くらいで後は事実を少し言い方を悪くして伝えただけだ。
 そうする事で、悪い解釈をさせた。

「何故、そのような事を?」
「あの歳くらいの子供は自分達の行動に酔い易いのよ。あの子たちは明日、アンタを救う為にバトルするわ。本人は現状に満足していると言うのにね。クロガミ一族と言う巨大な組織か

らアンタとシオンを助け出すと言う大義名分の元にね。これがフィクションなら最後は何とかなるんでしょうね。だけど、これは現実。そんな都合よくはいかないわ」

 レイコの狙いはマシロとシオンをクロガミ一族から助け出すとアオイ達に思わせる事にある。
 実際はマシロは今の生活に満足しているし、シオンも福利厚生等もしっかりとしている為、仕事と割り切れば不満はない。
 二人を助けると言う大義名分があれば、心の中では何とかなるかも知れないと言う思いも生まれて来る。
 なぜならば、物語において巨大な組織に囚われている人物を助けると言うのは王道的展開として珍しくはないからだ。
 そう思わせる事で隙も生まれて来る。

「けどさ、その気させたら、実力以上の力を発揮するかも知れないぜ?」
「構わないわ。それならアンタがその気になるでしょ」

 心に隙が生まれる可能性もあるが、逆に負けられないが故に実力以上の力を発揮するかも知れない。
 しかし、レイコにとってはそれはそれで構わなかった。
 マシロは気分によって発揮する実力が変わって来る。
 弱い相手とバトルする時と強い相手とバトルする時では気分のノリが明らかに違う。
 その時、相手が強い方が気分がノリ実力を発揮できる。
 つまり、相手が強くなった方がマシロの実力も出せて勝率は上がる。

「性格悪っ! いつか後ろから刺されるぜ」
「安心しなさい。そう言う可能性は事前に排除しているわ。当然、合法的にね」
「合法的にね……」

 レイコは合法的と言うが、実際は違法ではない手段でまともな手段ではないだろう。
 だが、そこをマシロは深く追求する気は無い。
 追及したところでレイコは素直に話す訳もなく、話したところで胸糞が悪くなる方法である事は確実だ。
 それ以上にマシロは自分とは関係ない他人がどうなろうと興味が無かった。

「まぁ、そんな事はどうでも良いわ。明日のバトルの作戦をまとめて置いたわ」
「んなの役に立たないって」

 レイコはすでにアオイの過去のバトルからいつも対策を考えていたが、マシロはそれを見る事もなかった。

「アイツのバトルのデータなんて殆ど役に立たない。アイツのバトルはチグハグ過ぎる。実力にムラがあるなんてレベルじゃない」

 アオイのバトルはデータ上は実力にムラがあるように見えるが、マシロから見ればそうではない。

「どういう事よ」
「シオンが持ち帰った情報を統合して分かったんだよ。違和感の正体がさ」

 シオンはアオイに関する情報を持ち帰っていた。
 その中にはバトルに関する物だけではなく、家族構成から学校内での素行などのアオイ自身の情報も含まれていた。
 その情報を繋ぎ合わせた結果、違和感の正体が見えて来た。

「アイツは単にボッチが嫌だっただけだ」
「情報は正確にしなさい」
「才能を素直に発揮すれば皆の中には入れなくなるって事だよ。俺達がそうだったようにな」

 マシロの言葉にレイコは何となく理解出来た。
 マシロ達は才能を素直に発揮し過ぎたが故に「皆」の中に入れくなった。
 幼き日のマシロは実家の近所でガンプラバトルを毎日のように行っていた。
 クロガミ一族で才能を開花させたマシロは近所の子供たちはおろか、大人たちにすら負けなかった。
 初めはマシロの強さを回りが褒め称えた。
 それからも勝ちに勝ち続けた結果、マシロは誰からもバトルして貰えなくなった。
 余りにも強くなり過ぎたマシロに対して誰もがマシロとバトルしてもどうせ勝てないと諦めてしまったからだ。
 店を変えてもマシロの噂が広まっていたのか、バトルの相手をしてくれるファイターは殆どおらず、何度かバトルするとやがてバトルの相手はいなくなる。
 マシロは自分の才能を素直に示し過ぎたせいで誰も相手にしてもらえなくなったのだ。
 レイコも少なからず似た経験を持っている。
 それは天才が故の孤独なのだろう。

「意図的ではないにしろ、アイツは本能的に理解してんだろうな。だから、手を抜いて負けたりもする」

 アオイの勝敗が安定しないのは、無意識の内に勝ち過ぎて相手にされない事を恐れているが故だとマシロは考えている。
 特にアオイは引っ込み事案で中学時代も親しい友人はいなかった。
 タクトやエリカは高校に進学しても変わる事がないところに出来た親しい友人だ。
 それを失いたくがないが故に無意識化で手を抜いて負けていたとしても不思議ではない。

「出ないと、普通のバトルは勝率が全体的に5割から6割程度なのに大会では負けなしってのも説明がつかないからな。運がいいのか悪いのか2度の大会で初めに友達と当たっているからな



 勝率が安定しないのにもかからわず、ホワイトファングのショップ大会と世界大会の地区予選では未だに負けなしだと言うも説明が実力を無意識化で落としていたのであれば説明が付

く。
 アオイはどちらの大会でも始めにタクトと当たっている。

「友達に勝った以上は途中で負ければ、友達に託された想いが無駄になってしまうから、そうなれば友達に失望される。それが怖いから何とか勝つってところだろうな」

 初めに友人であるタクトと当たり、勝利すれば当然タクトはアオイに期待を託すだろう。
 自分の分まで頑張れと。
 そんな期待を託されてしまえば、アオイは負けるに負けられない。
 負けてしまえば、自分に期待を託してくれたタクトの期待を裏切ってしまうからだ。

「強すぎても相手にされないが、弱すぎてもいずれは相手にされなくなる。だから、適度に勝ったり負けたりを繰り返す」

 アオイの勝率が安定しない最大の理由がそこだ。
 強すぎても相手にされないように、逆に弱すぎても相手にされなくなる。
 その事はマシロは痛い程理解していた。
 今でこそは圧倒的な実力を持ち、一度しか敗北をした事がないマシロだが、それはマシロ・クロガミとしてだ。
 ただのマシロだった時は寧ろ、マシロは一度もバトルで勝ったことは無かった。
 当時のマシロは誰も自分すらも、マシロの才能に気づく事は無く、それを活かしてはいなかった。
 寧ろ、その才能がマシロの足かせになっていた程だ。
 弱いマシロだったが、初めは弱い者虐めとして何度も相手をしてくれるファイターはいたが、余りのも弱い為、飽きて最後にはどうせマシロとバトルしても簡単に勝てるからつまらな

いと言われてバトルをしてもらえなくなった。
 結局のところ、強すぎても弱すぎても誰からも相手にされなくなる。

「けど……だからって無意識だろうと自分の才能を否定して、手を抜く……ムカつく」

 マシロはアオイの気持ちは良く分かる。
 かつては弱すぎて相手にされず、強くなっても強すぎて相手にされなかった。
 だが、それとこれとは話しは別だ。
 かつて、マシロはタツヤに才能がある物は才能を使うべきだと言った。
 それはタツヤにガンプラバトルの才能があり、タツヤ自身もガンプラバトルをやりたいと思っていたからこその言葉だ。
 才能があってもやりたくないなら、やらなくても良いとも思っている。
 しかし、アオイはバトルの才能が有り、バトルをやりつつも、友達を失いたくはないと心の奥底で思い無意識の内に才能を否定している。
 それだけは許せそうには無かった。

「才能は誰にだってある物じゃないんだ。才能があってやりたい事と一致している。それなのに才能を否定するとか……傲慢だ」

 マシロはガンプラバトルにおいて、天才的な才能を持っている。
 だが、その反面、それ以外はガンプラに関係しなければ人並以下でしかない。
 今の才能が開花するまでは、勉強も運動も出来ないダメダメだった。
 何の取り柄もなかった時期のある、マシロからすれば才能があってやりたい事と一致しているのに、才能を発揮しないのは傲慢以外の何物でもない。
 
「そう言う奴には死んでも負けられないな」
「そう言う奴でなくても負けて貰っては困るわ。それと、明日のバトルは砲戦用の装備で行きなさい。その為にわざわざ、アンタのバトルデータをくれてあげたのよ」

 レイコがアオイにマシロのバトルをまとめたの物を渡したのはそれを研究させるためだ。
 そうする事で砲撃戦用のフルアサルトジャケットを使わせれば、相手の裏をかく事が出来る。

「フルアサルトジャケットか……」
「問題があるの?」
「今のところは完成度は9割ってとこ、実戦には十分使える。後は装備の一部の完成と腕の関節部の強化、普通に戦う分には戦えるけど、ハイパーメガドッズライフルでぶん殴るには強度

が足りない。ハルキにその辺りは頼んでるから世界大会の途中に解決できる筈」

 ライフルと名がついている武器で何故、相手を殴る事を考えているかと言う疑問をレイコは一度脇に置いておく。
 話しを聞く限りではバトルに使えるのであれば問題はない。 
 完成系の方も世界大会の途中で完成する見込みがあるなら良い。

「構わないわ。寧ろ好都合よ。決勝戦は中継が入るから、マシロ・クロガミは接近戦意外でも戦えると言う事をアピールできればいいから」

 未完成だろうと、砲撃戦用の装備を見せれば今まではマシロは白兵戦を中心に戦って来たと言う前提が崩れる。
 そうする事で、マシロの対策を立て難くする事が今回、フルアサルトジャケットを使う最大の目的だ。
 
「それは構わないんだけどさ……フルアサルトジャケットを作っている間に変なテンションになって少しやり過ぎたんだよね。その時にさ……ヴェイガンを殲滅するって声が頭の中に入

って来て、結果的に砲撃戦と言うよりも殲滅戦用の装備になっちゃった」

 フルアサルトジャケットを作る際にマシロは一日徹夜している。
 その際にモチベーションを維持する為に取り換えずBGM替わりにガンダムのDVDを流していた。
 ガンダム∀GE-1のベースがガンダムAGE-1と言う事もあってAGE-1が搭乗するガンダムAGEを1話からBGMとして流していた。
 一日徹夜していた事もあって、その時のマシロのテンションは少しおかしかった。
 そして、そのテンションのまま調子に乗り過ぎて当初の予定を大きく外した改造となって。

「……もう、それで良いわ」

 呆れながらも、決勝戦は明日だ。
 今更、足掻いたところで無意味でしかない。
 多少は予定が狂ってもこのまま行くしかない。
 結果的にバトルに勝利してマシロに近接戦闘以外もあると言う事を見せつける事が出来ればそれで良い。
 マシロとアオイが相反する思いの中、決戦の日がやって来る。



[39576] Battle25 「勝者と敗者の境」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/23 13:36
 ガンプラバトル世界大会日本第一地区決勝戦の当日となった。
 会場には地区予選でも最大の観客が日本第一地区の代表がどちらになるのかを見に来ていた。
 マシロとアオイはバトルシステムを挟んで対峙していた。
 マシロはいつも通りの表情だが、アオイの表情は固い。
 昨日、レイコからマシロの事を聞かされた時は、ああは言ったが、家に帰り冷静になって見るとレイコに託された物は自分の想像以上に重い。
 いうなれば、今日のバトルでの勝敗はマシロの人生を左右すると言っても過言ではないからだ。
 自分が負けてしまえば、マシロを救う事が出来ないと思うと緊張して硬くなるのも無理はない。
 決勝戦の開始時間となり、マシロとアオイはGPベースをバトルシステムにセットして、ガンプラを置いた。
 すると、会場がざわめき出す。

「そんな……ガンプラを変えて来た」
「お互い様だろ」

 マシロのガンプラは今までは正反対の重装備のタイプになっていた。
 胴体部はセブンスソードとは変わらないが、脚部は大型となっており、腰の増加スラスターから左右に二本のアームが伸びており、そこに片方に4基づつの武装コンテナが付いている。
 バックパックにはAGE-1 フルグランサのグラストロランチャーが付いているが、武装コンテナのアームを干渉して前方に砲身を向ける事が出来ない為、グラストロランチャーの方針は通常の逆向きにつけられている。
 両腕にはビームバルカン兼ビームサーベルが内蔵されて、セブンスソードの物よりも大型のシールドが装備されている。
 両腕のシールドにはビームサーベルが一基つづ装備されており、右手にはドッズランサーを持っている。
 完成度は9割だが、圧倒的な火力と多彩な武器を使い、相手や状況に合わせて効果的に敵を仕留めて殲滅するガンダム∀GE-1の殲滅戦用装備のフルアサルトジャケットだ。
 対するアオイのビギニングガンダムBも武装を大幅に強化されている。
 両腕にはコウスケが制作したユニコーンガンダムのシールドに裏側にビームガトリングガンが2基つづ装備されている。
 バックパックにはレッカのビギニングガンダムRのバーニングソードRが2本、サイドアーマーにビームサーベル、右手にはハイパービームライフルがそれぞれ装備されている。
 そして、左手にはショップ大会の賞品であるスノーホワイトが装備されていた。
 マシロの戦いは相手の事を徹底的に研究している節がある事から、事前情報が全くないスノーホワイトを持たせる事で少しでも相手の策を狂わせようとしての装備だ。
 尤も、この一週間で近接戦闘の練習をしていた上に、昨日レイコから貰ったDVDから近接戦闘を想定していたアオイにとっては明らかな砲戦用の装備で来た事で出先を挫かれてた。

「マシロ・クロガミ。ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケット。出る」
「タチバナ・アオイ。ビギニングガンダムB。行きます!」

 そして、決勝戦の火蓋が切って落とされた。
 バトルフィールドはインダストリアル7。
 ガンダムUCの最初と最後の戦場だ。
 バトル開始はコロニーの近くの宙域からで、バトルフィールドはコロニー内まで含まれている。

「落ち着くんだ……」

 出先こそは挫かれたが、バトルは始まったばかりだ。
 アオイは周囲を警戒しながら移動を始める。
 相手が砲戦用の装備である以上は、遠距離からの攻撃ですぐに仕留められる危険性がある。
 
「来る!」

 ビギニングガンダムBがシールドを掲げるとビームが直撃する。
 高出力のビームだったが、ビギニングガンダムBのシールドにはコウスケが特殊塗装によるIフィールドがある為、ビームを弾いて防いだ。

「Iフィールド。変身ユニコーンの奴が作ったってところか。やるね」

 ビームの掃射が終わるとそこにはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが肩にグラストロランチャーの砲身を構えていた。
 砲身を逆向きに付けたことで、射角は殆ど取る事が出来ないが、バックパックと砲身のジョイントを一時的に外す事で手持ちの火器としてグラストロランチャーを前方に向けて放つ事が出来る。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは再度、グラストロランチャーを放つ。
 ビギニングガンダムBは回避して、スノーホワイトを放つ。
 反動で後方に吹き飛ばされるも、勢いに逆らわない事で精密さは欠けるが移動と攻撃を同時に行う事が出来る。
 正確さには欠ける攻撃だが、一撃の威力は非常に高い為、当たれば流石のガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットでも無事では済まないだろう。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは脚部のスラスターを使って回避する。

「あの装備であんなスピードが出せるなんて……」

 回避するガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットのスピードにアオイは驚いていた。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは見るからに重装備のガンプラだ。
 それなのに、高い機動力も持っている。
 尤も、高出力のスラスターは脚部に集中している為、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットのスピードはセブンスソードの時とは違い、直線的で小回りが利かない。
 バトルフィールドがデブリベルトのような障害物の多いフィールドならこうはいかない。
 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルで攻撃するが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの速度に追いつけずに攻撃は当たらない。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは体をくねらせるように反転すると、ドッズランサーを構えてドッズランサーに内蔵しているドッズガンを連射しながらビギニングガンダムBに突撃して来る。

「当たれ!」
「嫌だね」

 ビギニングガンダムBがハイパービームライフルを連射するが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは最低限の動きで回避する。
 高い推力で強引に加速したガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは勢いをつけてドッズランサーの一撃を繰り出す。
 右腕のシールドで防ごうとするが、勢いの付いたガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの突撃をシールドでは防ぐ事は出来ずに粉砕された。
 
「なんて破壊力なんだ!」

 辛うじて右腕のシールドだけで済んだが、あの一撃はまともに喰らえば一撃で終わりになる程の威力だった。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは再び距離を取って突撃をしようとしている。
 ビギニングガンダムBはコロニー「インダストリアル7」の方へと向かう。
 コロニーに近づけばコロニーで、相手の動きを制限する事が出来る。

「成程ね。まぁ、関係ないけど」

 コロニーの方に向かうビギニングガンダムBをガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが追いかける。
 機動力の差は歴然で、2機の距離は次第に縮まって行く。
 そして、ビギニングガンダムBに追いついたガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズランサーを突き出して突撃する。
 
「今だ!」

 だが、ビギニングガンダムBは突然、方向転換を行った。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの重量は突撃時の威力増加に一役かっているが、急な方向転換時には足を引っ張る。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは止まり切れずにコロニーの外壁に激突した。
 コロニーの外壁に突撃したガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは外壁をぶち破ってコロニーの中に入った。

「コロニーの中にこっちを誘い込むか……悪くはない策だよ」

 コロニーの中でガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはバランスを取って着地する。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを追ってコロニーの中に入って来たビギニングガンダムBも着地して2機はコロニー内で対峙する。

「その装備なら重力下ではまともに動けない筈です」

 ビギニングガンダムBは飛び上がって左腕のシールドについているビームガトリングガンを連射する。
 だが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは並行に後退した。
 後退するガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットをビームガトリングガンで狙うが、蛇行しながらバックするガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを捉える事が出来ない。

「悪いな。コイツは重力下の方が戦い易いんだよ」

 アオイはコロニー内に引きずり込む事で自身の重量で動きを封じようとしていた。
 しかし、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは宇宙戦よりも陸戦を得意としていた。
 脚部に高出力のスラスターが集中していたのも、重力下でホバー装甲を行う為だ。
 地上をホバーで移動する事で平面なら高い機動力と小回りが利く。

「さて……得意なフィールドに持ち込んだところで行くか」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはグラストロランチャーを構えて放つ。
 その一撃はビギニングガンダムBの横を通り過ぎる。

「外した……?」
「後ろ」

 グラストロランチャーはビギニングガンダムBを直接狙った物ではなかった。
 ビギニングガンダムBの後方のビルを破壊し、ビルがビギニングガンダムBに襲い掛かる。

「っ!」

 ビギニングガンダムBは倒壊するビルを回避するが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがすでに先回りをしていた。
 脚部のスラスターを全開にして、ビギニングガンダムBに突っ込むとドッズランサーを突き出して来る。
 ビギニングガンダムBはシールドで受け止めるが、そのまま、地上までもつれ込む。

「この程度か? お前の実力は」

 至近距離からシールドにドッズガンを撃ち込むがシールドのIフィールドを打ち破る事は出来ない。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはビギニングガンダムBを蹴り飛ばすとドッズガンを連射する。

「……強い。でも、僕は負ける訳には行かないんです! 貴方に勝つ為に協力してくれた友達の為にも……貴方の為にも!」

 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットのシールドであっさりと防がれる。

「友達ね……さぞかし気分が良いんだろうな。見下せる友達がいるってのは」
「何を……」
「気づいてないのか? お前、自分がボッチになりたくはないから、手加減してるって事にさ」
「っ……」

 マシロの言葉にアオイは返す事が出来なかった。
 アオイ自身、手加減していると言う感覚は無い。
 だが、一人になりたくないと言う事は否定できない。
 そこから、マシロの言っている事は事実なのだと、図星を突かれたような感覚を受ける。

「手加減して、接待バトルをしないと維持の出来ない関係が友達ね……笑わせる」

 アオイは茫然とし、その間にガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがドッズランサーでビギニングガンダムBに一撃を入れる。
 直撃を受けるも、損傷はしていなかった。
 
「僕は……それでも僕は! 友達の為になら戦える!」

 ビギニングガンダムBはスノーホワイトを放つ。
 反動でビルに激突するが、その攻撃をガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは距離を取りながらかわす。

「友達を理由にバトルなんかするなよ。バトルは自分の為のするもんだ」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはビギニングガンダムBに接近する。
 ビギニングガンダムBはスノーホワイトを向けるが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは気にすることはない。
 ビギニングガンダムBがスノーホワイトを放つ瞬間にガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは射線からそれて回避する。

「タイムラグは分かってんだよ」

 アオイ達は知らないが、スノーホワイトはマシロが制作している。
 その為、スノーホワイトの威力も射撃間のタイムラグも把握している。
 タイムラグを把握していれば、向けられたくらいでは動揺する事無く、対処も出来る。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズランサーを突き出すが、ビギニングガンダムBは転がるように横に飛んで回避する。

「僕は……」
「自分の為にすら戦えない奴が誰かの為に戦える訳が無いだろ」
「僕は……貴方とは違う! 貴方のように僕は一人で戦っている訳じゃない!」

 ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを連射するが、いつもの精密さはまるでない。
 そんな攻撃ではガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは回避するまでも無かった。

「それでも、友達と言っておきながら相手を心の奥底で見下している奴よりはマシだね」
「貴方だって!」
「俺は俺の力を知っている。そして、相手の力を知って仕舞えば上から目線にもなるさ」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはグラストロランチャーを放ち、ビギニングガンダムBはシールドで受け止めるが、尻餅をついて倒れてしまう。

「相手を見下していると言う点では、俺もお前も同じ穴の狢なんだよ」
「絶対に違う!」

 ビギニングガンダムBはスノーホワイトを投げ捨てると、バーニングソードRを抜いてガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットに切りかかる。
 だが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは軽くかわすと、ビギニングガンダムBに足を引っ掛けて、ビギニングガンダムBはうつ伏せに倒れる。

「どこが違う? 何が違う。俺もお前も同類だよ。同じ才能を持った者同士だ」
「僕は……そんなんじゃ……」

 もはや完全にアオイは錯乱していた。
 マシロの言っている事を否定しようにも、心の奥底ではマシロの言っている事は本当の事だと受け入れてしまっている。
 それを否定しようとしても否定しきれない。
 否定しきれなければ、マシロの言っている事が正しいと証明しているような物だった。

「僕はただ……独りでいるのが嫌だったんだ」

 錯乱している中でアオイはポツリと零した。
 アオイはいつも独りだった。
 中学時代や高校入学してから、話すクラスメイトがいなかった訳ではない。
 だが、学校が終われば誰もアオイの事を気に掛ける事は無かった。
 自分から歩み寄る勇気がなかったアオイは親しい友人を作る事が出来なかった。
 しかし、始めは偶然だったが、アオイにも親しい友人が出来た。
 エリカとタクトだ。
 二人との出会いでアオイの毎日は変わった。
 自分とは正反対の性格をしている二人だが、三人でいる事が多く、三人でいる間はアオイは独りではなかった。
 それをマシロの言葉で自覚して、マシロの言っている事が事実だったと認めざる負い。

「アオイ!」

 心の奥底を見透かされて、事実を突きつけられ、それを認めてしまえばそこには絶望しかない。
 だが、そんなアオイの耳に声が届いた。
 普通なら会場の声援でかき消されてアオイの耳に届く事のない声だ。

「アオイ! 負けんじゃねぇ!」
「お前ならやれる! アタシ等が付いてんぞ!」
「キサラギ……君、シシドウ……さん」

 アオイにとって初めての親しい友人であるエリカとタクト。
 二人が観客席の最前列から身を乗り出すように、心の底からアオイの勝利を信じてアオイを応援している。
 アオイの耳には観客の声援は聞こえず、二人の声だけが届いた、アオイの目には観客席の二人の姿しか見えなかった。
 それはアオイの願望が見せた幻かも知れない。
 だが、そんな幻でもアオイに立ち上がる力を与えた。
 そんなアオイに応えるようにビギニングガンダムBは立ち上がる。

「確かに貴方の言う通りかも知れません……それもまた、僕なのかも知れません。でも……それだけが僕の全てじゃない!」
 
 確かにマシロの言う事は正しい。
 しかし、期待を裏切りたくはないと思う反面、期待に応えたいと思うのもアオイだ。
 結局のところ、マシロの言うアオイはアオイの一面でしかない。
 立ち上がったビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つ。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはシールドで防ぐと、ビギニングガンダムBは一気に接近するとバーニングソードRを振るう。
 それをガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズランサーで受け止めた。

「ようやくその気になったか」
「はぁぁぁぁ!」

 ビギニングガンダムBは何度もバーニングソードRを振るい、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズランサーで確実にいなしていく。
 何度か切りつけると至近距離からハイパービームライフルを放つ。
 その攻撃をガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは体を沈ませてギリギリのところで回避すると、ドッズランサーを突き上げる。
 だが、ビギニングガンダムBは飛び上がって回避する。

「やるな。コイツもかわすか」

 上空に回避したビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つ。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは後退しながらシールドでビームを防ぐ。

「流れが変わったか……まぁ良い」

 後退しながらガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは先ほどビギニングガンダムBが捨てたスノーホワイトを回収する。

「使わないなら借りるぞ」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはスノーホワイトをビギニングガンダムBに向ける。
 スノーホワイトは二つの砲門から交互にビームを放つ。
 これが本来のスノーホワイトの使い方だ。
 多少威力が落ちるが、それでも十分な威力のビームを片方でも受ける為、交互に撃つ事で連射速度を補う事が出来る。
 ビギニングガンダムは回避しながら、ビームガトリングガンで反撃する。
 そして、スノーホワイトは二つの砲門からの高出力のビームを放つ。
 先ほどまでの攻撃はビギニングガンダムBを誘い込む物で、ビギニングガンダムBは回避する事が出来ずにシールドで防ぐ。

「へぇ……こいつを耐えきるか。良い盾だ」

 スノーホワイトの掃射が終わると、ビギニングガンダムBは地上に落ちる。
 大火力を正面から受けたが、Iフィールド付きのシールドで防御していた。

「アンドウ先輩のシールドのお陰だ……」

 コウスケが制作したシールドのIフィールドで普通のシールドなら確実にシールドごとやられていたビームでも耐え切る事が出来た。
 だが、代償としてシールドが使い物にならなくなってしまった。

「ありがとうございます。先輩」

 ビギニングガンダムBは左腕のシールドをパージする。
 
「感傷に浸っている場合か?」

 ビギニングガンダムBに接近していたガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがドッズランサーを突き出し、ビギニングガンダムBはバーニングソードRで受け流す。
 そして、バーニングソードRを振り落すと、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはシールドで受け止める。

「少しはやるようになったじゃないか」
 
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはシールドでビギニングガンダムBを押し戻すと、ドッズランサーの横でビギニングガンダムBを殴り飛ばした。
 殴り飛ばされながらも、体勢を整えたビギニングガンダムBはビームバルカンを連射しながらバーニングソードRを突き出す。
 それに応戦するようにガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットもドッズランサーを突き出して、2機の武器の先端がぶつかり合う。

「独りで戦っている貴方には分かりません!」

 ぶつかり合った2機の武器だが、ビギニングガンダムBのバーニングソードRが先に砕け散った。
 すぐに柄を捨てるともう一本のバーニングソードRを抜いた。

「相手を下している友達関係よりはマシだね」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズランサーで何度も突きを繰り出し、ビギニングガンダムBはバーニングソードRで弾いた。

「それでも! 僕は僕を信じて託してくれた人達の為に戦う! それは嘘ではない本当の事です!」

 やがてバーニングソードRが粉砕されるが、すぐにビームサーベルを持って接近する。
 それに合わせるようにガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがドッズランサーの突きがビギニングガンダムBの胴体に突き刺さる。
 
「終わりか?」
「まだです!」

 ビギニングガンダムBは胴体をドッズランサーで貫かれながらも左腕でドッズランサーを捕まえる。
 そして右手のビームサーベルを逆手に持ってガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットに振り落す。
 至近距離でドッズランサーを捕まれている為、振りほどく事も出来ない。
 観客の誰もが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはこの一撃を回避出来ないと思った瞬間、ドッズランサーの槍の部分が高速で回転を始めた。
 それによって、ビギニングガンダムBはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットにビームサーベルを突き刺す事が出来ずに一回転をして両足が地面に叩き付けられて破壊されながら、地に伏した。

「思い切りは悪くないけどな。悪いけど、俺には通じない」
「まだ……終わってない!」

 ビギニングガンダムBが胴体に穴を開けられて地に伏した時点で観客の誰もがアオイの敗北を確信しただろう。
 エリカとタクトですらアオイの敗北を予感させられていた。
 ただ、一人アオイを除いたマシロだけが、終わってないと確信していた。
 ビギニングガンダムBは腕を使って強引に立ち上がってビームサーベルを突き出した。
 狙いはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの胴体だ。
 ガンプラバトルにおいて、胴体は最も致命傷になり易い場所だ。
 そこを狙って、アオイは最後の渾身の一撃を放った。
 その一撃は確かにガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの胴体を捕えた。
 絶体絶命の状況からの一撃で誰もがアオイの逆転勝利を予期した。

「狙いも悪くない……けど、胴体の追加装甲は電磁装甲製……ビームは通さないんだよ」

 アオイの渾身の一撃は確かにガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの胴体を捕えていた。
 だが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの胸部の追加装甲は塗装の際にプラフスキー粒子を変容させるように特殊な塗装を施されていた。
 それによってIフィールドと同じようにビームを弾く事が出来た。
 アオイの渾身の一撃は無情にも、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを貫く事が出来なかった。

「そんな……」

 そして、アオイの最後の一撃に気づいていたマシロはすでに次の手を打っていた。
 アオイが勝負を諦めていないのであれば、狙いは胴体の一点である事を予測していれば、胴体の電磁装甲で防げることも分かっている。
 だから最後の一撃をマシロは避ける事も防ぐ事もしなかった。
 その必要がないからだ。
 その代りに反撃の動作に入っていた。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズランサーをすでにビギニングガンダムBに向けていた。
 そして、ドッズランサーに内蔵されているドッズガンをビギニングガンダムBに撃ち込んだ。
 次々と撃ち込まれたビームが威力は低いが確実にビギニングガンダムBを破壊して行く。
 ドッズガンの連射を撃ち込まれたビギニングガンダムBはビルに倒れ込む。
 
「ガンプラバトルに偶然も奇跡もない。全ては日ごろの積み重ねた力と勝ちないと願う心によって生み出される想いがそろっての結果だ。想いだけでも力だけでも勝てず、想いでも力でも劣るお前が俺に勝てないのは必然。そして、俺は最後の最後まで気を抜く事はない」

 ビルに倒れてまともに動く事の出来ないビギニングガンダムBにガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはスノーホワイトを向けた。
 流石にボロボロのビギニングガンダムBでスノーホワイトの一撃を防ぐのは不可能だ。
 ビギニングガンダムBはビームバルカンを撃つが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを止める事が出来なかった。
 ゆっくりと油断する事無く、接近するガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはもはや、回避すらも出来ない距離まで来ると無慈悲にスノーホワイトを放った。
 その強力なビームにビギニングガンダムBは成す術もなく飲み込まれた。
 スノーホワイトの一撃でバトルの勝敗は決した。
 バトルが終了すると、会場は盛大な歓声が鳴り響く。
 その歓声は両者を称える物だったが、アオイの健闘を称える声の方が多かった。
 結果だけを見ればアオイはマシロに手も足も出せずに完敗している。
 だが、ここまでのバトルでマシロを相手にあそこまで戦えたファイターは一人もいない。
 そこまでマシロと戦ったアオイのバトルが観客の心を震わせた。
 バトルに敗北した物の多くの観客からの声援を受けたアオイは少しの間放心していた。
 我に返るとすでにマシロの姿は無く、バトルシステムにもマシロのガンプラは無く、そこにあるのは無残に破壊されたビギニングガンダムBの残骸だけだ。
 唯一無事だったのは。途中からマシロが使っていたスノーホワイトくらいだ。
 アオイはそれを回収すると、バトルシステムから離れる。

「アオイ!」
「シシドウさん、キサラギ君……ごめんなさい。僕……」
「気にすんなよ。お前は良くやった」

 バトルが終わり、エリカとタクトがアオイの元に駆けつける。
 アオイはすぐに謝るが、二人は負けたアオイの事を責める事は無い。
 
「本当だって。お前、いつの間にあそこまで強くなったんだよ」
「それは……」

 アオイは興奮する二人を前に言い淀む。
 今までの練習以上の実力を今日は発揮していた。
 それは、マシロが言っていた事を証明しているような物でもあった。

「ごめんなさい。僕は二人の事を友達だって思っていたけど……心の底では信じる事が出来なかった……僕は……友達失格です」

 バトルに負けた事よりも、アオイにとってはその事の方が重要だ。
 マシロとのバトルでアオイは自分すらも気づいていない自分の本心を知った。
 独りになりたくないと言う思いから、二人の事を信じる事が出来ていなかった。
 だから、無意識の内に手加減をしていた。
 事情は呑み込めなかったが、涙を流して謝るアオイに二人もある程度の事情は察した。

「そう言うもんだろ。友達ってのはさ。なぁ、シシドウ?」
「まぁ……アタシは家の方でいろいろと人の面倒な部分も見てるからかも知れないけどさ。そう簡単に心の底から信じる事なんて普通は出来るもんじゃないって」
「そうそう。けど、それでも赦し合って、本当のダチになれるんだろ?」

 エリカもタクトも友達の事を全て信じているとは言い難い。
 時には疑う事だって何度もある。
 それでも、それを赦す事が出来るのが本当の友達だ。

「けど……アオイがそうやって胸の内を話してくれるってのは嬉しい。そうやってアタシ等はもっと友達になって行けるしな」
「シシドウさん……」
「取りあえず、そのシシドウさんは止めにしね? 俺の事もタクトで良いしさ。それにたまに敬語とかも混ざってるし」
「だな、なんか苗字だと距離を感じるな。アタシ等はもう普通にアオイって呼んでるし」

 アオイは今までエリカにもタクトにも名前ではなく苗字で呼んでいた。
 二人からすれば、名前ではなく、苗字で呼ばれる事に距離感を感じる。

「えっと……エリカさん、タクト君……で良いかな?」
「最終的には呼び捨てにして欲しいが、今はそれでいいか」
「そうだな。来年に向けて特訓に入るんだ。その内呼び捨てにもなるかも知れないしな」
「来年?」
「マシロの奴に来年の世界大会でリベンジする話しに決まってんだろ」

 タクトとエリカの中ではアオイは来年の世界大会の地区予選にてマシロにリベンジする事になっていた。
 そこまで考えていないのは当のアオイだけだ。

「やんないのかよ?」
「いえ……やります!」

 アオイは力強く答える。
 来年は今年とは違う。
 本当の意味で二人と友達になれた。
 これ程力強い物はない。
 
「取り込み中悪いけど、少し良い?」
「えっと……」
「ミズキよ」

 アオイが新たな一歩を踏み出そうとしていると、ミズキが話しかける。
 いつもの執事服は必要が無い為、今日は仕事用のスーツだが、三人はホワイトファングでバイトをしていた時のミズキしか知らない為、普段のミズキの姿に驚いている。

「余り時間がないから単刀直入に言うわ。昨日、吹き込まれた事は事実だけと結構適当だから。マシロに関しては今の生活を満喫しているし、私も仕事として割り切れば文句はないわ」

 ミズキはレイコがアオイ達に吹き込んだ事を訂正しに来たようだ。 
 内容は事実だが、マシロもミズキも助ける必要はない。
 マシロは今の生活を気にっているし、ミズキも仕事と割り切れば文句はない。
 
「本題はそんなところだけど、一つ忠告。これ以上、マシロ……クロガミ一族に関わらない方が良いわ。あそこは普通じゃないから」

 シオンは何年もマシロの世話係をしている。
 そこでクロガミ一族の内情に少し触れてもいる。
 先代のマシロ達の父親に関しては実家の工場を買収した事で実家を救ってもらっている為、恩は感じている。
 だが、今の代のクロガミ一族は以前とは少し違って来ている。
 少なくとも、一般人であるアオイ達が関わって良い相手ではない。
 
「それだけは覚えておいて」

 ミズキは用件だけを伝えて、去って行く。
 そんなミズキを見送り、言葉の意味を考えながらもアオイは来年の世界大会に向けて新たな一歩を踏み出した。
 
 
 









 アオイ達に忠告したシオンは、マシロが乗る車に戻っていた。

「遅い。何やってたの?」

 車に乗り込むシオンにマシロはそう言う。
 だが、形式的に聞いているようで、余り興味はなさそうだ。

「少し野暮用です。マシロ様」

 説明したところでマシロは興味を示す事も無い為、差しさわりの無い回答をする。
 案の定、マシロはシオンが何をして来たなどに興味はないようだ。

「それで今日のバトルはどうでした?」
「まぁまぁかな。つまらなくはないけど、おもしろくもない。その程度のバトル。だけど、終わってみればただ弱い者虐めをしただけで虚しいだけだ」

 マシロは頬杖をついてそう言う。
 傍から見れば。アオイはかなりの善戦をしていた。
 それ故に、アオイに対する歓声も凄かった。
 だが、当のマシロから見れば大したことのないバトルだったようだ。

「その割には彼は善戦していたようですけど」
「こっちの装備は武器を状況に合わせて使い分ける装備なんだよ。それでドッズランサーとグラストロランチャーしか使ってない。つまりはそう言う事。それにあの形態は格闘戦をする為の物でもないからな」

 本来、フルアサルトジャケットは装備を使い分ける事で真価を発揮する。
 だが、マシロはあのバトルでドッズランサーとグラストロランチャーしか自身の装備は使っていない。
 つまり、アオイとのバトルはその二つの装備を使うだけで足りたと言う事だ。
 その上で、あの形態では格闘戦は不向きだ。
 精々、勢いをつけてのドッズランサーでの突貫くらいが本来の格闘戦だ。
 
「まぁ……最後までゾーンに入る事は無かったからな」

 アオイはバトルで最後までゾーンに入る事は無かった。
 ゾーンこそはアオイにとって、最大の才能だ。
 それを使う事無くアオイはあそこまでマシロに喰らいついた。

「アイツなら後、1年くらい死にもの狂いで練習すれば今の俺とならそれなりのバトルは出来るようになるかもな。尤も、その頃には俺は比べものにならないくらいに強くなってるから、今更手遅れなんだけどな」

 それがマシロのアオイに対する評価だ。
 素質はあるが、アオイの場合、本気になるのが遅すぎた。
 1年練習を繰り返せば、今のマシロと戦う事は出来るだろう。
 だが、その1年でマシロは更に進化する。
 
「世界大会か……少しはマシなファイターと戦えれば良いんだけどな」

 マシロはまだ見ぬ世界の強敵達に思いを馳せる。
 こうして、タチバナ・アオイは地区大会決勝戦で敗退するも掛け替えのない物を手にれ、一方のマシロは世界大会への切符は手に入れたが、勝利から得られる喜びを得る事が出来ず、ただ虚しさだけが残り、マシロとアオイのそれぞれの地区予選が幕を下した。



[39576] Battle26 「満たされぬ心」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/26 07:05
 日本第一地区の予選から約3か月後、地区予選の時とは比べものにならない程、人工島は賑わっている。
 ガンプラバトル世界大会が開幕したからだ。
 この時は、地区予選ではバトルスタジアムしか使っていなかったが、世界大会が開幕すると選手村や各飲食店、模型店などが開店し賑わっている。
 
「たく……何でアタシ等までタクトの補習を待たないといけないんだよ!」
「悪かったって!」

 アオイ達はメインスタジアムを目指して走っていた。
 タクトが1学期の成績が悪かったと言う事で補習を受けさせられる事となり、アオイとエリカはホワイトファングで時間を潰してタクトの補習が終わるのを待っていた。
 タクトと合流して、バトルの行われるメインスタジアムへと急いでいた。

「今日のバトル……どっちが勝つと思う?」

 タクトは走りながら、二人に尋ねた。

「マシロの相手はあのカルロス・カイザーだからな。今年のカイザーのノイエ・ジールは相当なガンプラだからな!」

 マシロの対戦相手はカルロス・カイザー。
 キング・オブ・カイザーの異名を持つファイターで世界大会において何度も決勝トーナメントに出た事のある世界でもトップクラスのファイターだ。

「つっても、ここまで来るのにカイザーも相当手の内を明かしているぜ? 悔しいけど、マシロの奴なら何かしらの対策を取ってても不思議じゃねぇよ!」

 今日は世界大会の最後の一戦、つまりは決勝戦が行われる。
 ここまで来るのにカイザーはいくつもの手の内を見せて来た。
 マシロが相手の情報を徹底的に分析し、対策や裏をついて来ると言うのは地区予選でアオイ達は嫌と言う程思い知らされている。
 マシロは予選ピリオドも決勝トーナメントもそうやって危なげなく全勝で勝ち進んでいる。
 決勝戦と言う事もあって出し惜しみもしないと考えられる。

「とにかく、始まって見ないと分からないよ」
「だな……センパイが先に席を取っておいてくれてるって話しだから急ぐぞ。もうバトルが始まっちまう!」

 決勝戦の開始の時間までもう余り時間は無い。
 3人は急いでスタジアムの中に入る。
 スタジアムの観客席に入り、スタジアムの大型モニターを見ると開始ギリギリで間に合ったようだ。

「ふぅ……何とか間に合ったな」
「もう始まるみたいだから先輩を探すよりも立って見た方が良いかも」

 すでにバトル開始直前である為、下手にコウスケを探すよりもこの辺りで見た方がバトルを全て見る事が出来る。
 3人は通路の端によって、通行人の邪魔にならないようにして、大型モニターを見る。
 そして、決勝戦が開始された。
 カイザーのガンプラは機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORYに登場するノイエ・ジールだ。
 カイザーはジオン軍の整備士の「脚なんて飾りです」に感銘を受けて足の無いガンプラを使う。
 ノイエ・ジールも同様に足がない。
 作中でも搭載されていたIフィールドが搭載されており高い防御力でここまで勝ち上がってきた。
 バトルが開始され、観客たちは最強が決まる最後の一戦がどのような激戦となるのか、始まったばかりだが、心を踊らされていた。
 しかし、それは一瞬の出来事だった。
 カイザーのノイエ・ジールがバトルフィールドに出た瞬間、高出力のビームがノイエ・ジールを撃ち抜いた。
 その一撃がノイエ・ジールのIフィールドをぶち抜いてノイエ・ジールを破壊した。
 時間にしてバトル開始1秒後の出来事だ。
 その自体に観客は唖然とし、本来バトルが終了時に起こり得た筈の歓声は上がる事は無い。
 モニターにはマシロのガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが右手にハイパーメガドッズライフルを構えている映像が映されている。
 マシロはバトルが始まった瞬間に長距離砲撃でカイザーのノイエ・ジールを狙撃して仕留めた。
 ほぼ、バトルフィールドを対極の位置から始まっている為、精密な射撃能力とその距離からでも世界レベルのファイターが制作したIフィールド付きのガンプラを撃ち抜ける威力は驚異的だが、そんな事は観客たちにはどうでも良い事だ。
 世界大会の決勝戦が僅か1秒で終わった。
 唖然とする観客が我に返ると歓声ではなくブーイングが巻き起こる。
 それも当然の事だ。
 観客たちはバトルを見に来ている。
 それなのに1秒で終わればブーイングするのも当然だ。
 そんなブーイングにマシロは我関せずとガンプラを回収して早々に立ち去った。
 その後、大会の主催者側で協議が行われたが、マシロの行動は正当な物でバトルのやり直しはしないと言う事が公表された。
 それに対して観客は怒りの声を上げたが、主催者側としてもマシロの行動がガンプラバトルのルールや大会規約に違反していない為、無効には出来なかった。
 本来ガンプラバトルにおいて、マシロの取った行動はタブーとされている。
 ルール上は互いのガンプラがバトルフィールドに入った時点でバトルは開始されている。
 その時点で速攻で相手を狙撃して仕留めると言う行為自体は反則ではない。
 しかし、実際の戦闘ならその手を使う事は立派な作戦で効果的とも言えるが、これはバトルであって戦闘ではない。
 互いのガンプラの力をぶつけ合ってこそのバトルと言うのが今のガンプラバトルの風潮でもあった。
 マシロの優勝が決まり、予定を前倒しにして優勝者へのトロフィーの授与とインタビューが行われた。
 
「それではマシロ選手、優勝された今のお気持ちをお願いします」

 インタビューアーが檀上でマシロにマイクを向ける。
 マシロは鳴りやまないブーイングを気にすることなくマイクを受け取る。

「率直な今の気持ちを伝えるとすればこの程度かと心底落胆している」

 マシロがそう言うとブーイングをしていた観客たちも黙り出す。

「どれほどのファイターとバトル出来るかと思っていれば大半のファイターのガンプラは過去に世界大会で好成績を残したガンプラの劣化コピーでしかない」

 それはマシロが真っ先に感じた事だ。
 多くのファイターの使ったガンプラは過去の世界大会で上位に入ったファイターのガンプラを真似た物が多かった。
 優秀なファイターのガンプラを真似る事は悪い事ではない。
 寧ろ、他のファイターの技術を取り入れる事は成長にも繋がって来る。
 だが、そのまま取り入れただけでは劣化コピーでしかない。
 そこから自分なりのアレンジや改良を行って本当の意味で自分の物にしたと言える。
 大半のファイターはそれが出来ていなかった。
 無論、決勝トーナメントに残る程のファイターは違ったが、逆をいれば100人程の中から16人程度しかそれが出来ていないと言う事だ。
 初心者が100人ならともかく、各国の地区予選を勝ち抜いて来たファイターであるなら少なすぎる。

「戦い方も同様だ。殆どが過去のバトルを真似るか基本通りのバトルで面白味もない。それ以前に出場ファイターは低レベルのファイターばかりだ。そんなレベルで世界大会に出られると言うのであれば、世界大会の質もたかが知れている。そんな世界大会に出る事を夢見て、世界レベルのファイターに憧れているお前等に敢えて言おう! 世界レベルのファイター達は雑魚であると!」

 マシロはそう言ってマイクをインタビューアーに返す。
 マシロのインタビューが終わった瞬間にマシロに対する野次が会場中から湧き上がる。
 それも当然だ。
 マシロはファイターなら誰もが憧れる世界大会を侮辱したのだ、世界中のファイターを敵に回したと言っても良い。
 だが、マシロはそんな野次をやはり気にすること無く、檀上から降りていく。
 







 その光景を見ながら、ユウキ・タツヤは憤っていた。
 発言をしたマシロに対してではない。
 そんな発言をさせた自分に対してだ。
 タツヤはマシロとの約束を果たす為に地区予選にエントリーをした。
 タツヤの出場した地区よりもマシロの出場した地区の方が代表が決まるのが早く、マシロが日本第一地区の代表となって世界大会に出る事が決まった事を知り更に奮起して地区予選を勝ち上がり世界大会に出場した。
 そして、マシロとの約束を果たす為に予選ピリオドを戦った。
 予選ピリオドでは単純なバトル以外にも様々なルールでバトルが行われる。
 マシロはそんなルールの中でも難なくポイントを増やしていったのに対して、タツヤは2、3回のバトルでポイントを落とした。
 予選ピリオドでは1度でもポイントを落とすと一気に決勝トーナメントが遠のく過酷なバトルだ。
 タツヤはギリギリのところで決勝トーナメントへの進出を逃してし、マシロとの約束を果たす事は出来なかった。
 世界大会の中でタツヤはマシロと一度も話しをしていない。
 本当は何故、突然姿を消したのか、聞きたい事も話したい事も山ほどあった。
 だが、決勝戦で堂々を対峙するまでは、合わないと心に決めていた。
 マシロの方もバトルの時以外は選手村の部屋から全く出ていないようで二人が合う事は一度もなかった。
 決勝トーナメントに進む事が出来なかった後も静岡市内でホテルを取ってタツヤはマシロのバトルを毎回会場で見た。
 その中である事に気が付いた。
 決勝トーナメントで戦うマシロが勝ち進むにつれてつまらなそうにバトルしていると言う事にだ。
 タツヤとマシロの付き合いは非常に短い。
 マシロの事は分からない事だらけだが、一つだけ分かっている事がある。
 マシロは強い相手に勝つ事が好きだと言う事だ。
 世界大会はマシロにとっては強い相手が多く出ている大会だったが、決勝トーナメントで戦って気づいたのだろう。
 世界の強豪たちもマシロからすれば大したことがない相手だったと言う事に。
 だからこそ、決勝戦の戦いに繋がっている。
 完全にやる気を失った事で、さっさと世界大会で優勝したと言う事実だけを得る事に専念した結果が1秒で勝負をつけた決勝戦と言う訳だ。
 その事に気が付いてしまったが故にタツヤは自分に対して憤っていた。
 自分はマシロのライバルを自認していた。
 だからこそ、世界大会でマシロと戦う所まで勝ち進む事の出来ず、心の底からガンプラバトルが好きだったマシロに世界大会と言うファイターが誰もが憧れる夢の舞台でそんなつまらない思いをさせた自分自身に対して怒りを覚えてしまった。

「マシロ……今、君に謝罪をしたところで君にとっては何の意味はないんだろうね。だからこそ、僕は君に誓うよ。僕は僕のやり方で君のいる高見を目指す事を」

 約束を果たせなかった事を幾ら詫びたところで意味はない。
 今やる事は一つだけだ。
 来年の世界大会においてマシロと対峙する事だ。
 ただ、対峙するだけではない。
 マシロと対等に戦えるだけの実力をつけてだ。
 確かにマシロはタツヤが知る1年前よりも格段に強くなっている。
 だが、マシロとて人間である以上は決して届かない訳ではない。
 マシロは来年の世界大会の出場権をすでに得ている。
 それこそが今年、不甲斐ない結果をマシロに見せてしまったタツヤの贖罪だ。
 タツヤはマシロに誓いを立てて、来年の世界大会に向けて歩き出した。








 マシロがインタビューを終えて廊下を歩いていると、正面にエリカが待っていた。
 他にアオイとタクトがいないところを見ると一人のようだった。

「俺に何か用?」
「用って言うか……さっきにインタビューの事は今は置いて置く。取りあえずアタシの約束の件だ」
「約束……何だっけ?」

 マシロは少し考えるが、エリカの言う約束について思い当たる節が無かった。

「……だから、世界大会に優勝したら結婚って奴だ」
「ああ……そんな事もあったっけ。興味がないから忘れてた」

 以前、マシロとエリカの間で交わされた約束があった。
 それは、マシロが世界大会で優勝すれば結婚しても良いと言う物だったが、マシロは今の今まで完全に忘れていた。
 マシロにとっては興味のない事だからだ。

「興味って……お前」
「うちの兄貴がアンタの親の会社を取り入れたいらしくてな。それで俺がアンタを結婚すれば楽に取り入れるからってさ」
「んだよ……それ」

 エリカも生まれが生まれだけに家の為に結婚、政略結婚もある程度は理解している。
 だが、マシロに言い寄られて悪い気がしなかった事も事実だった。
 しかし、エリカに言い寄った事自体が政略結婚の為であるのは納得しがたい。

「お互い大変だよな。家に振り回されて」
「お前はそれで良いのか?」

 マシロの言い方はまるで他人事だった。
 
「別に。まぁ、アンタは中々好みだから別に構わないけど。だけど、安心しなよ。あれから兄貴から連絡はないから、多分兄貴の方で何かしらの手を打ったから結婚とか考えなくても良いと思うぜ」

 ユキトからの連絡はあれから一度もない。
 定期的に連絡を入れる手筈ではなかった物の、何か月も状況の報告をしていないのにも関わらず向こうからの連絡も無いと言う事はその必要がないと言う事だ。
 元々、マシロに期待をしていなかった事を考えると当の昔にマシロが失敗したとして、別の手を打っていても不思議ではない。

「ざけんな!」

 自分達の事を話しているのに、他人事のように話すマシロにエリカの方も堪忍袋の緒が切れたのか、拳を振り上げるが途中で止めた。
 ここでマシロを殴ったところで何の解決にもならず、エリカの気持ちが収まる訳でも無い。

「殴んないの?」
「お前を殴るならガンプラバトルでだ」
「良いね。俺も少し虫の居所が悪い。今なら誰でも良いからぶちのめしたい気分だ」

 直接殴っても意味がないが、ガンプラバトルでならマシロに対して大きな意味を持っている。
 
「どこでやる? この辺りならバトルをする場所には困らないけど」
「……来年だ。来年の世界大会で……大勢の目の前でお前をぶっ飛ばす!」

 今のエリカではマシロに勝つ事が出来ないと言う事はエリカ自身は良く分かっている。
 目の前にいるファイターは最後こそは反則スレスレの手段で勝った物の名実共に世界最強のファイターだ。
 そんな相手に準備もなしにまともに戦えると思う程、エリカは思い上がってはいない。
 
「つまんないの」
「何とでも言え」

 マシロは興が削がれたのか、あからさまにやる気をなくしている。
 そして、エリカの横を通り抜ける。

「来年こそはお前をぶちのめすからな! 短い天下を味わってろ!」

 振り返る事もない、マシロにエリカは叫ぶ。
 それに対してマシロは一切の反応がない。
 それがエリカの精々の強がりであると分かっているからだ。
 後は実力を持ってそれが強がりでないと言う事を証明しなければ、マシロは相手にすらしないだろう。
 マシロが見えなくなるまで、待ってエリカは待たせているアオイ達の方に戻って行った。








 決勝戦の行われたメインスタジアムから出るとすでに、マシロを迎えに来た車が待機していた。
 シオンがドアを開くとマシロが乗り込んでドアが閉まる。
 シオンが乗り込むと車が進み始める。

「少し言い過ぎではないですか?」
「何が?」
「さっきのインタビューですよ。マシロ様が言う程、低いレベルではなかったと思いますよ」

 マシロは世界大会に出場したファイターのレベルが低いと汚したが、実際はそこまで低いと言う訳ではなかった。
 少なくとも決勝トーナメントに進んだファイターや予選ピリオドで上位に入ったファイターのレベルは十分に高かった。
 全バトルでマシロは快勝したが、それはレイコの情報集と作戦があったからだ。
 始めこそはデータの少ないマシロだったが、予選ピリオドを勝ち進む中で少しづつ情報を出さざる負えなかった。
 そんな情報から確実に対策を練って来ていた。
 レイコのサポートが無ければ、負ける事は無かった事にせよ、勝つまでにもっと手こずっていた事は確実だ。
 少なくとも、決勝トーナメントに進んだファイターの実力はそれ程だった。

「低いね。少なくとも世界大会の初期の方に比べると小手先の技術ばかりに目が行ってる」

 マシロからすれば、世界大会に出て来るファイターの質は年々低下している。
 世界大会が開催されるようになった当初は、ガンプラの傾向は徹底的に細かいディテールを作り込む事で、今のような派手さはないが、基本的な部分を極めていたファイターが多かった。
 それに比べると今はガンプラバトルの歴史がある程度出来て来た事で、新しい技術にばかり目が行っている。

「それはマシロ様も同じなのでは?」
「まぁね。先人の真似をしたってつまんないし」

 尤も、その事をマシロは否定するつもりもない。
 今、同じような事をしても結局は過去の真似でしかない。
 
「けど、そろそろさ、既存のガンプラバトルを打ち破る新しい時代が来ても良いと思うんだよ。だから、今の時代のファイターのレベルを底上げする必要がある」
「だからあのような事を?」
「王者は嫌われ者でなければならないんだよ。コイツだけは王者でいさせることが出来ないと思わせる程にね」

 インタビューにおいて、マシロの話した事は本音ではあるが、本当の狙いはそこにあった。
 あれだけ言われれば他のファイター達はマシロを倒す為に強くなろうとする。
 マシロを倒す為には普通のやり方ではまず勝てないだろう。
 その為に、今までとは違う新しいガンプラバトルをする必要が出て来る。
 それを編み出せるファイターをマシロは待っていた。

「そうやって出て来た奴らを倒せば見つかるかも知れない」
「何がですか?」
「それが分かれば苦労は無いんだけどな。だけど……足りないんだよ。世界の強豪を倒しても王者になっても……何かが足りない」

 マシロにとってガンプラバトルの楽しみは強者に勝つ事だ。
 そう言う意味では世界大会は充実していた。
 決勝トーナメントにおいても苦戦は無かったが、強敵とのバトルは楽しかった。
 だが、そんな強敵を倒した時には達成感もなければ楽しくもない。
 あるのは虚しさだけだった。
 それを埋める為には何かが足りない気がした。
 それを求めてマシロは更なる高見を目指し強者に打ち勝つも、いつも何かが足りない気がした。
 そんな悪循環が何年も続いていた。

「私には良く分かりません」
「シオンは秀才どまりだからな」

 マシロに付いているシオンだが、天才と言う訳ではなかった。
 何事もそつなくこなし、大抵の事はある程度まで技術を身に着ける事が出来るが、その道の天才には遠く及ばないのがシオンだ。
 だからこそ、シオンにはマシロの抱えている物を理解する事は出来ないだろう。

「何でだろうな……俺はガンプラバトルが好きで勝てば楽しい……そうだった筈なんだ。でも……何で名実ともに世界最強の座に付いたってのに、こんなにつまんないんだよ」

 シオンはマシロに何も言えない。
 今のマシロは今までの自称ではない。
 名実ともに最強のファイターとなった。
 だが、それでも何かが足りず、マシロの心は満たされる事は無い。
 どんな分野でも器用にこなしても頂点を取る事の出来ないシオンにとっては理解出来ない域での悩みだ。

「こんなんならさ……外に出なかった方が良かったかもな」
 
 マシロはそう呟いた。
 家で一人でバトルする時はCPU戦でバトルしている。
 CPUを相手にするのは味気ないが、少なくとも対人戦のような虚しさを感じる事は無い。
 今となっては外に出た事自体が間違っていた気すらしている。

「マシロ様」
「分かってる。ボスとの契約は来年の世界大会で優勝する事。契約は果たす。だけど、その後の事は俺の好きにさせて貰う」

 マシロとチームネメシスとの相手の契約はプラフスキー粒子発見から10年目となる来年の世界大会の優勝者に送られる副賞を持ち帰る事だ。
 その為に、マシロは今年の世界大会で優勝して、来年の世界大会の出場権を手に入れいる。
 少なくとも、チームとの契約を果たす事はマシロの義務だ。
 それは果たさねばならない事だ。
 それさえ果たせばマシロは晴れて自由の身となる事が出来る。

「フィンランドに帰る。今年の優勝トロフィーを持ち帰ればルーカスの機嫌も良くなって取りあえずはボスのご機嫌取りも出来るから俺の面目も立つ」
「分かりました。すぐに手配します」

 シオンはすぐに各方面に連絡を取って、日本からフィンランドに戻る手筈を整える。
 その日のうちに準備が整いマシロはチームネメシスの本拠地のあるフィンランドへと帰って行く。
 名実共に世界最強の座に付いたマシロだったが、その心は未だに満たされる事は無かった。




[39576] キャラ&ガンプラ設定
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/29 00:10
マシロ・クロガミ


主人公。

チームネメシスに所属するファイター。

日本第一地区から世界大会に出場する為に静岡にやって来た。

地区予選を圧倒的な実力を持って優勝し代表となり、世界大会をも危なげなく勝ち進み第6回大会のチャンピオンとなった。

圧倒的な実力を持ち、強い相手とのバトルを望むが、いつしか世界レベルのファイターと戦った後には何がが足りないと感じるようになる。

使用ガンプラはガンダム∀GE-1 セブンスソード、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケット





タチバナ・アオイ(橘 葵)

2章のもう一人の主人公

内気な性格で今までガンプラバトルをする事が出来なかった。

長年、ガンプラバトルを行う相手がいなかった事もあり、一人想像の中でバトルを行っていた為、射撃を得意とし、逆に格闘戦を苦手としていた。

だが、エリカと出会い、タクト等様々なバトルを潜り抜け、実力を付けて行った。

そして、ガンプラ専門店「ホワイトファング」のショップ大会準決勝戦でゾーンに入る事ができ、優勝した。

その後の世界大会地区予選では一回戦でタクトに勝利し、準決勝戦ではマシロに敗北した事で力に囚われるようになったコウスケとバトルし、勝利した事でコウスケを解放する事が出来た。

しかし、決勝戦でマシロとバトルをする中で、自身の心の奥底に抱えていた孤独を拒絶するが故に、相手の実力に合わせて戦っていた事などをマシロに指摘されて、動揺して窮地に立たされた。

エリカとタクトの声で持ち直すもマシロに敗北したが、そのバトルの後にはエリカとタクトとの距離を詰める事が出来た。

使用ガンプラはビギニングガンダムB



シシドウ・エリカ(獅子堂 エリカ)

アオイのクラスメイト

ハーフで鮮やかな金髪を豊満な肉体を持つ。

偶然にホワイトファングで会ったアオイにガンプラバトルを本格的に始めさせるきっかけとなる。

実家は運送系の会社を経営している社長令嬢だが、言動からはそうは見えない。

マシロに言い寄られて、悪い気はしなかったが、素直になれずに世界大会で優勝したら、結婚すると言う約束をし、マシロは世界大会を優勝するが、当の本人は完全に忘れていて、自分に対してそこまで興味がない事を知る。

そして、マシロを世界大会で倒す決意をした。

使用ガンプラはアサルトルージュ。



キサラギ・タクト(如月 拓斗)

アオイのクラスメイト

性格は熱血漢だが単細胞。

クラスのムードメーカーで運動神経は高いがガンプラバトルの実力は人並。


使用ガンプラはギャプラン→ギャプランTR-5[フライルー]→ギャプランTR-5[ファイバー]。




カガミ・レッカ(加賀美 烈火)

アオイのライバルとなるファイター

ホワイトファングでアオイとバトルを行い勝利するもショップ大会決勝戦で敗北する。
 
それによりアオイの事をライバルとして意識する。

そして、世界大会の地区予選で決着をつけると思っていたが、準決勝でマシロとバトルをし、作戦の裏をかかれて敗北した。

その後はアオイの対マシロ戦の為の練習相手を務めたり、自身のガンプラの武器をアオイに貸している。

使用ガンプラはビギニングガンダムR




クロガミ・レイコ(黒神 麗子)


マシロの一つ上の姉

情報戦における天才

クロガミ家当主であるユキトの命令でマシロの補佐をさせられている。

論理よりも感情で行動するマシロの事を苦手に思っている。

目的の為ならいかなる手段を使う事も辞さないが、マシロの意向に沿わない事は出来ず、マシロの行動に日々頭を悩ませている。


シオン・ミズキ(四音 瑞樹)

マシロの世話役。

以前は執事の姿をマシロにさせられていたが、れっきとした女である。

マシロとは一見、仲がいいように見えるが、マシロからは自分の世話役と言う認識以上はされておらず、長年行動を共にしていたのにも関わらずマシロからは下の名前を忘れられていた。

レイコの指示で下の名前であるミズキと名乗り、ホワイトファングでバイトをしながら情報をファイターの集めていた。











アンドウ・コウスケ(安堂 康介)

アオイの先輩

日本第一地区の実力者でホワイトファングでは上位の実力を持っている。

アオイの初めての対戦相手。

性格は爽やかな努力家だが、マシロに大敗し自らの努力を否定されたと思い性格が豹変した。

バトルの腕だけではなく、ビルダーとしてもユニコーンモードのユニコーンガンダムをデストロイモードに変身させる機構を組み込む事が出来る程の腕を持つ。

アオイとのバトルで努力を続けることが大切だと気付かされた。

その後は、アオイ達に協力して訓練をさせている。

使用ガンプラはユニコーンガンダム→バンシィ→フルアームドバンシィ・ノルン



ナナミ・イチカ(七波 一香)


ホビーショップ「ホワイトファング」の店長。

女子大生であったが、ホワイトファングのバイト時にその実力を認められて店長に昇格している。

一見、のほほんとした性格をしているが、長い物にはまかれる事にかけては天才的な才能を持っている。







ガンダム∀GE-1 セブンスソード


マシロが制作したガンプラ。

ガンダム∀GE-1を改修している。

胸部に装甲とビームバルカンを2門追加している。

ガンダムエクシアを参考に主に白兵戦を重視した改修がされている。


作中設定

作中設定においてはガンダムAGE-1 セブンスソードとなっている。

フリット・アスノがアセムの戦闘データを元にアセム専用のAGE-1として設計されている。

アセムが初陣から二刀流で戦う事が多かった事から武器は対となるように装備されている。

テストパイロットとして二刀流を得意とするウルフを予定していた事もあって、白く塗装された。

しかし、アセムが連邦軍に入隊する頃にはガンダムAGE-2がロールアウトした為、製造される事がなくなった幻の形態。



装備

・ショートドッズライフル&Cソード

ダブルオーライザーのGNソードⅢをベースに制作された武器。

作中設定ではドッズガンの銃身を流用し、砲門を3門にする事でドッズライフルから低下した攻撃力を補っている。

刀身はシグルブレイドの技術を使用している。

・ビームサーベル

腰に1本とシールドの裏側に1本装備している。

・小型シールド

左腕に装備されている。

裏側にはビームサーベルが付いている。

・ショートソード

腰に1基装備されている短剣。

主にビームサーベルとの二刀流で使われる。

・ビームブーメラン

肩に一基づつ装備されている。

ビームダガーとしても使える。

作中設定ではアセムの初陣でビームサーベルを投げつけた事からより当たり易くする為にフリットが新規で設計した装備。

内部にビームサーベルの部品が使われており、出せるビーム刃の出力はAGE-1のビームダガーと同程度。

使い捨てが前提に設計されている為、間違っても、マシロが披露した曲芸をする事は想定されていない。


・ビームバルカン

胸部に2門装備されている。




ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケット


マシロが制作したガンプラ

元々は砲戦用の形態だったが、紆余曲折から砲戦を重視した殲滅戦用の装備となった。

地区予選の決勝戦で投入されたが、完成度は9割で関節強度と装備が一部未完成と言うだけで十分に戦えた。

脚部はホバーユニットも兼ねて高出力のスラスターが集中している。
 
陸戦を得意としており、陸上ではホバーで高速移動を可能とする。

宇宙でも直線的な機動力が高く、それを活かしたドッズランサーの一撃はバトルフィールドのコロニーの外壁を易々とぶち破る程。

リアアーマーからアームで左右に4基つづ計8基の武装コンテナを装備しており、そこに収容されている武器を状況や相手に合わせて使い分ける事で効率よく敵を殲滅する事を目的とされている。


作中設定


作中設定においてはガンダムAGE-1 フルアサルトジャケットとなっている。

キオがヴェイガンに捕まった際にフリットが万が一にもアセムが失敗した際のサブプランとしてディーヴァを火星圏に送り込む算段を付けていた。

その際に、大破した自身のガンダムAGE-1 フラットをディーヴァとマッドーナ工房のパーツで改修する予定を付けていた。
 
改修にあたり、両腕はクランシェカスタムの物を使用し、脚部はアセム達に渡していなかったAGE-3のGホッパーのホバーユニットを移植している。

その他にもダークハウンドのドッズランサーやクランシェカスタムのシールド、マッドーナ工房の初代工房長、ムクレド・マッドーナが生前に趣味で制作した武器等を多数装備させている。

運用方法として、ディーヴァのMS隊が囮となり、推力を活かしてヴェイガンの本拠地のセカンドムーンに突貫し、キオを救出後にその火力を活かしてセカンドムーンを内部から破壊すると言う無茶な運用方法をフリットは想定していた。

だが、アセムがキオの救出に成功した事で単機での運用が前提であった為、一部の装備を使ってAGE-1 グランサの方で運用される事になる。

終戦後はフリットもやり過ぎたと反省し、この装備は抹消された。







ビギニングガンダムB


アオイが制作したガンプラ

ビギニングDガンダムをベースに制作されているが、部分的に塗装をした程度で大幅な改造はされていない。

地区予選の決勝戦ではコウスケやレッカが制作した武器等を装備した最終決戦用の装備でバトルしている。

Bはブルーから取られている。



装備

・ハイパービームライフル

メインの装備。

高い威力とある程度の連射速度を持っている。

この武器が破壊されると勝率が大きく落ちる程。

当初は通常射撃だけだったが、後に改良されて連射速度を犠牲にしたバーストショットが撃てるようになっている。


・シールド

左腕に装備されている。

非常に破壊率が高く、後に強化されるが、やはり破壊される。

・ビームサーベル

バックパックに2本装備されている。

・ビームバルカン



ビギニングガンダムR

レッカが制作したガンプラ

ビギニングJガンダムの改造機で部分的に赤で塗装されている以外には大幅な改造をされていない。

基本的にバーニングソードRによる近接戦闘をメインにしているが、マシロとバトルする際は長期戦をする為にビームライフルとシールドを装備していた。





アサルトルージュ

エリカが制作したガンプラ

ストライクルージュをベースにアグニを外したマルチプルアサルトストライカーを装備している。

マシロとバトルする際には肩にも装備を増設している。





フルアームド・バンシィ・ノルン


コウスケが制作したガンプラ

バンシィ・ノルン(デストロイモード)をベースにアームド・アーマーVNとアームド・アーマーBSを装備している。








[39576] 幕間2
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/05/29 00:07

 マシロにとっての第二の人生の分岐点はマシロがイオリ・タケシと出会って数か月程経った頃だ。
 その頃にはガンプラは飾るだけの物ではなかった。
 プラフスキー粒子が発見されたことでガンプラは動く事が出来るようになったのだ。
 プラフスキー粒子はプラフスキー・パーティクル・システム・エンジニア社、通称PPSE社によってバトルシステムと呼ばれるプラフスキー粒子散布装置を用いる事でバトルシステム内でガンプラを実際に動かして戦うガンプラバトルが始まった。
 ガンプラを制作するモデラーにとって、自分の制作したガンプラを実際に動かすと言う事は夢のような事でガンプラバトルは瞬く間に世界中に広まる事となった。
 そして、ガンプラバトルを行うモデラーの事をファイターと呼ばれるようにもなって行った。
 イオリ・タケシにガンプラ作りを教わったマシロも、近所の模型店でガンプラバトルを日々行っていた。

「行け! ジェノアス!」
「今日こそ、俺のキュベレイ・マシロスペシャルで!」

 マシロは今日も模型店でバトルをしていた。
 マシロの後ろには、マシロの妹も観戦していた。
 だが、マシロが半ば無理やり連れて来ている為、妹の方は余り興味がなさそうだ。
 マシロの使っているガンプラはイオリ・タケシと共に制作したキュベレイを改造したキュベレイ・マシロスペシャルだ。
 大幅な改造はしていないが、ファンネルコンテナを外し、右手には模型店のジャンクパーツコーナーで自分の小遣いで足りる武器として偶然見つけたジンクスⅢ用のGNランスを持たせてある。
 そして、ところどころが破損していた。
 ガンプラバトルは実際にガンプラを動かすと言う特性上、バトルで破壊されると全てではないが、ガンプラにダメージが反映される。
 孤児で金銭的に贅沢の出来ないマシロはバトルで壊れたキュベレイを完全に直す事も出来ずに過去の損傷がそのまま残されていた。
 そのバトルを一人の男が見ていた。
 男の名はクロガミ・キヨタカだ。
 彼は世界に名だたる大企業クロガミグループの総帥にてクロガミ一族の当主でもあった。
 世界的大企業であるクロガミグループ総帥と言う立場で多忙な日々を送るキヨタカだが、そんな多忙な日々の中でも楽しみがあった。
 それがガンプラだった。
 幼少期に偶然、ガンダムの再放送がやっていた事を期に彼はガンダムにのめり込んだ。
 特にモビルスールやモビルアーマーと言った兵器系の方を好み、ガンプラを時間を作っては制作していた。
 プラフスキー粒子関連の技術を独占しているPPSE社を現会長のマシタが設立する際に彼の妻が多額の出資を行うと言った時にとんでもない額の資金を理由も聞かずに出した事が今のPPSE社が数か月でクロガミグループ程ではないが、世界的大企業になって要因の一つとされている。
 彼自身もガンプラバトルを嗜むが、クロガミグループをまとめ上げている手腕を持つキヨタカだが、ガンプラバトルの腕は余り高くないようで、今はバトルを自分でやるよりもバトルの観戦が殆どだ。
 今日も近くまで仕事で来ていたが、時間が出来た為、お忍びでバトルシステムの置いてある模型店にバトルを見に来ていた。

「ほう……あの少年」

 キヨタカはジェノアスのファイターではなく、マシロの方に注目した。
 バトルはジェノアスの方が優勢なのは誰の目にも明らかだ。
 周りの観戦者たちは優勢であるジェノアスのファイターの方ばかりを注目しているが、バトルの実力は微妙でもキヨタカはクロガミグループをまとめ上げているだけあって、マシロの秘めたる物に気づいていた。

(あの少年は目が良いのか。それも常人のレベルを遥かに上回っている。反応速度は当然の事、視野もバトルシステム全体に及んでいると言ったところか、残念なのは情報の処理が出来ていないところか)

 マシロが劣勢の最大の理由はマシロの操縦技術ではないと言う事をキヨタカは見抜いていた。
 キヨタカの見立てではマシロは常人離れした目の良さを持っている。
 単純な目の良さだけではなく反応速度や、バトル全体を見渡す視野の広さも持っている。
 だが、マシロはバトル中にバトルフィールド全体を見渡し、どんな些細な情報すらも拾ってしまう為、本人も気づかないうちにバトルフィールド全体の情報を見ている。
 それを全て頭の中で処理しようとしている為、反応が少し遅れ気味になってしまう。
 
(情報の処理が追いついていないのに、反応の遅れがあの程度で済んでいると言う事は、情報の処理を出来るようにすれば、ニュータイプ並みの反応が可能になる筈だ)

 バトルフィールド内の情報量は膨大だ。
 それを全て処理したうえでの反応の遅れが、あの程度なら瞬時にいらない情報を捨てて、必要な情報だけを選び取る事が出来るようになれば、マシロの反応速度は圧倒的な速度となるだろう。
 後はその反応速度を活かす事の出来る技術と経験を会得すれば、理論上はマシロはどんな相手にも勝てる事になる。

(惜しいな。それだけの才能を持ちながら、彼はそれを目覚めさせることも出来ず、本人すらも自覚していない。それだけの才能を持っていれば活かしようによってはメイジンを目指す事も夢ではないと言うのに……)

 マシロは才能の断片を見せているが、誰もマシロの才能に気づいてはいないだろう。
 普段からそれだけの事をしているのであれば、マシロの脳はそのバトルシステム内以上の情報にも対応できるように順応しているはずだ。
 それをしていないと言う事は、マシロが普段からそれ程の目の良さを使っていないと言う事だ。
 恐らくは何かしらの条件下でしか、使っていないのだろう。
 バトル中に使っていると言う事は、少なくともガンプラバトルの最中は使っていると言う事になる。
 そう考えている間にジェノアスのヒートステックがキュベレイ・マシロスペシャルの胴体を捕えてバトルが終了する。

「くっそ!」
「よわ」

 バトルに負けたマシロに妹が追い打ちをかける。

「今日は調子が悪かったんだよ! それに相手のガンプラが弱っちそうだったから手加減したんだよ。俺が本気を出せばな……」
「相手のロボットの動き、あんな見え見えな動きしてた何で負けるの?」

 言い訳するマシロに止めが刺された。
 今日は調子が悪いと言っていたが、マシロはガンプラバトルで勝った試しがない。
 ガンプラの出来では相手のジェノアスよりもマシロのキュベレイ・マシロスペシャルの方が良い。
 多少、ボロボロでも制作時にタケシによって厳しく基本に忠実に制作されている為、元々の完成度は素組レベルでは非常に高い。
 それなのに負けたのは完全にマシロが弱いからに他ならない。

「それじゃ私、帰るから」

 妹はそれ以上、マシロの良い訳を聞く事なく、帰って行く。
 マシロはそんな妹を追いかけて孤児院までひたすら言い訳をしていた。




 その翌日、マシロは孤児院の院長に呼び出されていた。
 マシロが孤児院の応接室に入ると、そこには院長の他にキヨタカがソファーに座っていた。

「このおっさん、誰?」
「マシロ! そんな言葉使いを!」
「院長。私は気にしていないさ。このくらいの歳の子はこれくらいわんぱくじゃないと」

 初対面であるキヨタカに対しての言葉使いを院長は叱ろうとするが、キヨタカの方は気にしていない。
 マシロ位の歳の子供なら、目上の人に対する態度が多少悪くても子供らしい。
 キヨタカの長男であるユキトがマシロ位の歳の頃には、将来クロガミグループを継ぐ者としての教育を受けさせていた為、子供らしいとは無縁な子供だった。
 そんなキヨタカからすれば、子供らしいマシロは微笑ましいものだ。

「そうですか……」
「で、なんで俺だけが呼び出されたの? 俺、別に悪い事してないけど」

 呼び出された理由はマシロも聞いていない。
 考えられる理由としては孤児院の子供と言う理由で良く、難癖のような事を言って来る事がある。
 マシロの目から見てもキヨタカはそこいらにいる大人とは少し違って見えるが、思いつく理由はそのくらいしかない。

「この方はマシロの事を引き取りたいと言って来たんだよ」
「俺を? 何で?」

 キヨタカは昨日、マシロのバトルを見て、部下に命じてマシロの事を調べさせた。
 そして、マシロがここの孤児院で育てられている孤児だと知った。
 そこで、キヨタカはマシロを引き取ろうと思った。
 マシロは才能を持っている。
 それを埋もれさせることは勿体ないと思ったからだ。

「昨日のガンプラバトルを見ていたよ。君には才能がある。私の元に来れば君の才能を伸ばす事が出来る」
「俺に才能……」

 マシロにとってはキヨタカが自分を引き取りたいと言って来た事よりも衝撃的な事だった。
 マシロは運動が得意な訳でも無ければ、勉強が得意と言う訳でもない。
 ガンプラバトルも一度も勝ったことがない。
 何をやってもダメダメなマシロは初めて自分に才能があると言って貰えた。
 マシロをその気にさせる為のデタラメかも知れないが、信じさせるだけの力がキヨタカの言葉にはあった。

「本当に……俺に才能があるのかよ」
「私が保障しよう。君はいずれメイジンを超える事も出来る」

 メイジンカワグチ、それは大昔の伝説的なモデラーからPPSEが名を借りてガンプラバトルの象徴的とも言える人物として、最強のファイターとしてファイターの憧れの的だ。

「俺がメイジンを……俺、行く!」

 最強のファイターであるメイジンを超える。
 その言葉を聞いてマシロは二つ返事で返した。

「そうか。しかし、私の家は少々、普通とは違ってね。悪いけど、引き取るのは君だけだ」

 マシロを調べた中でマシロに妹がいると言う事はキヨタカも知っていた。
 その妹との間に血縁関係があるのかと言う事は、時間が無かった為、調べてはいない。
 だが、キヨタカが引き取るのはあくまでもマシロ一人だ。
 クロガミ一族は特殊な家である為、自らが見出したマシロは問題はないだろうが、妹を引き取ったところで危険かも知れない。
 だからこそ、引き取るのはマシロだけだ。
 当のマシロはそんな事は気にしてはいなかった。
 キヨタカは今日のところは用件だけを伝えに来た為、マシロを引き取る件は後日詳しく話す事となり、帰って行った。







 キヨタカがマシロを引き取る事になった1週間程が経って、マシロが引き取られる日となった。
 孤児院の子供たちは血の繋がりに関係なく、兄弟のような物だった。
 だからこそ、マシロが引き取られる事となって、寂しく思う反面、相手の家がかなりの資産家だと言う事で喜びもした。
 昨日は、皆でマシロの送別会を行った。
 その際にマシロが妹に自分だと思って欲しいとキュベレイ・マシロスペシャルを押し付けて、いらないと拒否られた事で妹と喧嘩となり、最後の夜まで騒がしかった。

「それじゃ元気でな」
「俺はいつだって元気だし」

 孤児院を離れる日だと言うのにマシロはいつも通りだ。
 マシロを見送る子供の中にはすすり泣いている子供もいる。

「元気でな」

 子供たちを代表して子供たちのリーダー格のヨハネスがそう言う。

「お兄ちゃん……これあげる」

 院長の後ろに隠れるようにしていた、妹がマシロに白いマフラーを投げつけた。

「お兄ちゃんはへなちょこだから、それでもつけてれば」

 少し照れているのか、マシロとの別れを悲しんでいるのか妹は院長の足にしがみついて顔を見せようとはしない。

「そう言ってられるのも今の内だね。俺はいずれ最強のファイターになってここに舞い戻って来る!」

 マシロはそう宣言する。
 マシロが孤児院を出て行くと言うのに、いつもと変わらないのはいつでも戻って来る事が出来るからだ。
 例え、どんなに離れていても、同じ地球にいる以上はその気になればいつでも帰って来る事が出来る。
 だからこそ、マシロは今まで育って来た孤児院を離れる事になっても寂しくはない。
 マシロはこれからの未来に向けて希望を持って、孤児院を去って行く。
 だが、マシロがこの孤児院に笑顔で戻って来る事は二度となかった。



[39576] Battle27 「新たな思惑」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/06/02 09:40
 世界大会を制したマシロはフィンランドに戻っていた。
 フィンランドにはチームネメシスの拠点が湖のど真ん中の小島に建てられている。
 この小島はチームネメシスのオーナーのヨセフ・カンカーンシュルヤの所有物となっていた。
 拠点にはネメシスに所属するファイターの宿舎や訓練場などの設備が整えられている。
 マシロの部屋は宿舎の中でも世界レベルのファイター用の特別室が与えられている。
 今日もマシロはバトルルームで適当な相手を見つけてバトルして来た。
 マシロが拠点に戻ってから今日まで一月、毎日のように相手を見つけてはバトルをしていた。
 そのせいでマシロに負けたファイターは自信を喪失し、チームを去っていた。
 一時期はヨセフが世界中からファイターを集めて1000人近くいたファイターも数日の内に100人を切っていた。
 だが、ヨセフからすればマシロに負けた程度でチームを去るファイターなど必要としていない為、マシロの行動を咎める事は無い。

「マシロ様。会長がお呼びですよ」
「めんどくさい」
「至急来るようにと」

 シオンはマシロにそう言うが、マシロは乗り気ではない。
 世界大会が終わってからもマシロはいつもこうだった。
 手当り次第にバトルを挑んではつまらなそうにしていた。

「ちっ……」

 マシロは渋々、ヨセフの元に向かった。
 ヨセフのオーナールームにマシロはノックもなしに入る。

「ノックくらいしたらどうなんだ?」
「んな事よりも何の用? 俺も暇じゃないんだけど……てか、誰?」

 オーナールームにはヨセフ以外に二人の人物がいるが、マシロは見覚えがない。
 尤も、マシロはチームの中でも顔と名前を憶えている相手など皆無に近い。

「始めました。君がマシロ君だね。私はフラナ機関から来たナイン・バルト。こっちがアイラだ」
「……アイラ?」

 眼鏡をかけたナイン・バルトは、にこやかにそう言うがマシロが興味を示したのはアイラと呼ばれた少女の方だ。

「何か?」
「別に」

 マシロがじっと見ている事に気が付いたアイラがそう言うとマシロは視線を逸らす。

「つか、あんた等がフラム機関ね」
「フラナ機関だ」
「フラム・ナラ機関の略称だろ? まぁ、アニメキャラの名前を付けた機関とか恥ずかしいから隠したい気持ちは分からんでもないけど、その辺りの恥じらいは捨てないと駄目だと思うぞ。俺は」
「茶番はそこまでにしておけ」

 ヨセフに言われてもマシロもこれ以上言う事は無い。
 
「ヘイヘイ。で、どっちが俺の保険?」
「どうやらこのアイラがそうらしい」

 ヨセフがそう言うが、明らかに不服だと言う事が分かる。
 マシロが今年の世界大会で実力を見せ過ぎたせいでヨセフも来年の世界大会での保険をかける為に、フラナ機関に優秀なファイターを寄越すように指示を出した。
 そして、送り込まれて来たのがアイラと言う事だ。

「ふーん。で、俺が呼ばれた理由は?」
「はっきり言って私はアイラの実力を信用しておらん。お前から見てどうだ?」

 マシロがヨセフに呼ばれた理由はそこにあった。
 ヨセフにはアイラが優秀なファイターにてとても見えない。
 見た感じではアイラはマシロよりも少し年下に見える。
 そんなアイラの実力を信用出来ないのも無理はない。
 そこで、ファイターとしてずば抜けた嗅覚を持つマシロを呼んで見極めさせようとしていた。

「彼女は我がフラナ機関が作りあげた最強のファイターです。必ずやオーナーの意向に沿う事が出来るでしょう」
「言うね。現最強ファイターの俺を前にして」
「なら、証明して見せます」

 バルトがヨセフにアイラの事を売り込むが、世界大会を制したばかりのマシロを前にしては「最強」と言ったところで意味はない。
 そして、アイラがそう言う。

「私が勝てば最強である事を証明できると思います」
「しかしだな……いきなり彼を相手にするのは……それに、お前のガンプラは」

 挑戦的なアイラにバルトはアイラを諌めようとする。
 流石にいきなりマシロを相手にするのは分が悪い。
 少なくとも世界大会を優勝出来るだけの実力をマシロは持っている。
 その上で、アイラの専用機は今は完成していない。

「ガンプラは俺が作った奴を特別に貸してやる。ボス、ガヴェインの奴はいたよな。すぐにお呼び出してくれ」
「貴方が相手をするのでは? それとも逃げるんですか?」
「ゲームだって始めからラスボスと戦える訳じゃないだろ。俺とバトルしたかったら、せめてガヴェインを倒せる程度の実力は無いとな。それとも自信がないとか? まぁ、俺とバトルして負けるんなら仕方が無いと言うのも分かるけどさ」
「分かりました」

 アイラは少しムッとして答える。
 マシロより先にガヴェインとバトルする事になるが、勝って実力を証明すればいい。

「良かろう」
 
 アイラとガヴェインのバトルがオーナーであるヨセフに了承されてしまえば、バルトにはどうしようもない。
 すぐに、ガヴェインがバトルルームに呼び出されてマシロ達もバトルルームに移動する。
 
 



 バトルルームに呼ばれたガヴェインはマシロを見た途端に顔をしかめる。
 呼び出された事自体はさほど問題ではないが、マシロの差し金と言う事は面白くはない。
 だが、オーナーのヨハンの命令である以上はガウェインはアイラとバトルせざる負えない。
 そして、バトルが開始された。
 ガウェインのガンプラは独自の改造を施したデビルガンダム。
 アイラのガンプラはマシロが制作した白いジェガンだった。
 二人のバトルが開始されるとすぐに状況はアイラに傾いて行く。

(あの動き……)

 アイラの動かすジェガンはガウェインのデビルガンダムの攻撃をいとも簡単に回避する。
 そして、ガウェインの反撃を許す事無く、デビルガンダムが破壊された。

「まさか……ガウェインをここまで容易く」

 アイラの勝利にヨセフは驚き、バルトは満足そうにしている。
 今となってはネメシスにおいてマシロが不動のエースだが、この前まではネメシスエースと言えばガヴェインだった。
 マシロの陰に隠れているが、ガウェインの実力も世界レベルと言っても良い。
 そんなガウェインをアイラは苦も無く勝利した事をヨセフは信じがたかった。
 以前にもマシロがチームに来た時に一番強いファイターと戦わせろと言いガウェインと戦わせたが、その時もマシロの圧勝だった。
 マシロの場合はクロガミ一族と言う特殊な一族から引き入れている為、驚きこそしたが同時に納得も出来た。

「勝ちましたけど?」
「言うだけの事はあるね。だが、奴はネメシス四天王の中でも最弱! 勝ったところで良い気にならないで貰おう」

 ガウェインに勝ったアイラはマシロにそう言う。
 マシロはバトルシステムの前に立つとガンプラを置いた。

「こいつはハンデだ。まさか、いきなり全力の俺とバトル出来るなんて思ってないよな」

 バトルシステムないにマシロのガンプラが出て来る。
 アイラも事前にマシロの事は少し聞いている。
 だが、その時聞いたマシロの使うガンプラではないと言う事はすぐに分かった。
 マシロの出して来たガンプラはコレルル、ガンダムXに登場する機体だ。
 異様に長い手足が特徴のコレルルは明らかにマシロのガンダム∀GE-1とは違う。

「武器もこいつだけで十分だ」

 マシロはそう言ってコレルルの持つビームナイフを軽く上に投げて見せる。
 そう言われたアイラは少しムッとするが、マシロは気にしない。

「止せ、アイラ!」
「問題ありません。このまま行きます」

 ガンダム∀GE-1ではないにしろ、いきなりマシロとバトルする事は分が悪いと判断したバルトはアイラを止めようとするが、アイラは聞く耳を持たない。
 バルトとしてはガウェインを倒した時点でアイラの能力が高いと言う事を見せる事が出来たが、ここでマシロとバトルして万が一にも負ける事があってはヨセフの心証に関わって来る為、避けたい。
 そんなバルトに意に反して、バトルが再会された。
 ジェガンはビームライフルを放ち、コレルルは飛び退いて回避する。

「ちょこまかと」

 コレルルは高い運動性能を発揮してジェガンのビームライフルを回避していた。

(この動き……間違いない。コイツ……俺の動きが見えてるな)

 攻撃を回避しながら、マシロはそう判断した。
 ガウェイン戦の時もアイラのジェガンの動きはまるでデビルガンダムの次の動きを読んでいるかのようだった。
 そして、実際にバトルして見て確信した。
 アイラはこっちの動きを見えていると言う事をだ。
 単純に動きを読んでいるにしては正確過ぎる。
 バトルの中でジェガンの動きだけでなく、アイラ自身にも注目してみるとアイラは視線が僅かながらこちらの動く先に向かっている。
 からくりまでは分からないが、アイラは確実にマシロのコレルルの動きが見えている。

(こっちの動きの先を見るファイターか……悪いな。お前がXラウンダーならこっちはスーパーパイロット。相性が悪い)

 アイラがこちらの動きを先読みしていると言う事が分かった時点でマシロは反撃を開始した。
 先ほどまでは、ギリギリのところで防いでいた攻撃が次第に余裕を持って回避できるようになって来ていた。

(何で……動きが)

 余裕を持っていたアイラも次第に焦り始めていた。
 マシロのコレルルの動きが見えていた物と違って来ているからだ。
 アイラはマシロのガンプラの動きの先を見た上で攻撃している。
 だが、マシロはそんなアイラのガンプラの動きを見た上で動かしている。
 その為、アイラが攻撃した時にはすでに、コレルルはアイラの見た動きとは違う動きをしている。
 アイラの能力が先読みなら、マシロの能力は後出しだ。
 アイラが何千手先を読んだところで、動いた時点でマシロがその動きに反応して動きを変えて来る為、先読み能力は意味を成さない。
 それどころか、先を分かっている事で、それと違う事で一瞬の隙が生まれる。
 そして、コレルルはジェガンのビームライフルを回避して、接近するとビームナイフを振るう。
 ジェガンはシールドで防ぐが、シールドはビームナイフで簡単に切断されてしまう。

「っ!」

 至近距離でビームライフルを向けるが、それよりも先にビームナイフがジェガンの右腕に突き刺さり破壊される。
 ジェガンはバルカンでコレルルを牽制しようとするが、コレルルはジェガンの背後に回り込む。
 
「速い!」

 そして、コレルルが背後からジェガンの首元にビームナイフを突き刺すとジェガンは力無くうな垂れてバトルが終了した。

「馬鹿な……アイラがこうも簡単に」

 先ほどとはうって変わってバルトが信じられないという表情をしていた。
 アイラは専用のガンプラを使っていなかったとはいえ、ここまで一方的なバトルになるとは予想もしていなかった。

「会長! これはですね。アイラは専用のガンプラを使っていなかったからでして……」
「構わん。ガウェインに勝った時点でアイラの実力は分かっておる」

 バルトはすぐに釈明するが、ヨセフは負けた事に関しては気にはしていなかった。
 ヨセフの中ではマシロが勝って当たり前で、ガウェインに勝った時点でアイラの実力は十分だった。
 ヨセフはそう言ってバトルルームから出て行く。
 バルトはアイラが負けた物の、フラナ機関への評価が落ちる事が無かった為、複雑そうにしている。
 マシロはバトルを終えて、バトルルームを出て行くとバトルを見ていたガウェインがマシロを追いかける。

「お前、俺と当て馬に使いやがったな」
「何の事?」

 マシロに追いついたガウェインはマシロの横を歩きながら問い詰めた。
 マシロはとぼけているが、マシロはガウェインをアイラに対しての当て馬として利用していた。
 アイラのバトルの情報を集める為に、それらしい理由を言ってガウェインとバトルさせた。
 その時にジェガンを渡したのも、癖の無いガンプラで戦わせる為だ。
 癖が強いとファイターの方がガンプラの特性に合わせる必要が出て来るが、汎用型のジェガンならそれもない。
 そして、ガウェインとのバトルの中からアイラの戦い方の癖や傾向を見極めていた。

「それに何がハンデだ。ふざけやがって」
「ハンデだろ? ∀GEで行くよりはさ」
「よく言うぜ。あの餓鬼には素組に毛が生えた程度のガンプラを渡して、自分は作り込んだガンプラを使っておいて」
「ばれてた?」

 マシロはバトルの前にハンデを付けると言ったが、それはアイラが使っているジェガンよりマシロが使ったコレルルの方が性能が低いと言う意味ではなかった。
 マシロが世界大会を制した時に使ったガンダム∀GE-1よりも性能の低いコレルルを使った事はマシロの言うハンデだ。
 二人の使ったガンプラには性能に大きな開きがあった。
 アイラのジェガンは素組した後に塗装し、墨入れをしてつや消しを行った程度だが、コレルルの方は細部まで作り込んでいた。
 ガンプラに関する知識のない他の三人はコレルルの装備の貧弱さから勝手にコレルルがジェガン以下だと思い込んでいた。
 だが、実際にはコレルルの作中の致命的な欠点であった装甲の薄さもジェガンのビームライフル程度なら数発は直撃しても耐えるだけの強度はあり、申し訳程度の威力しかないビームナイフの切れ味もジェガンのシールドを容易に切り裂ける程に強化されている。
 バトルを見ていた者の中で唯一ガウェインだけはその事実に気づいていたが、アイラに負けた腹いせに黙っていた。
 マシロからすれば気づかない方が知識不足で悪い。

「で、ルーキーに負けた感想はどうよ?」
「……次は勝つ」
「だろうね。若いんだよ。動きに感情が乗り過ぎてる。私は強いんです。私は先が見えて凄いんですってね」

 ガウェインは次にアイラとバトルすれは勝てると思っている。
 それは強がりでは無く、マシロも肯定している。
 アイラの実力は決して低くない。
 ガウェインが負けたのはアイラに対して油断があった事は確かだが、アイラが予想以上に強いと考えを改めた時には手遅れだった。
 並のファイターなら持ち直す事は出来ただろう。
 そうできなかった事はアイラの実力が高いと言う事でもある。
 だが、次にバトルした時は油断は無い為、先ほどのような展開にはならないだろう。
 アイラの先読み能力も事前に分かっていれば幾らでも打つ手はある。
 実力は世界レベルだが、世界でたそこそこしか通用しないと言うのがアイラと戦って見ての感想だ。
 実力はあるが、致命的のが自分の能力に絶対的な自信を持っている事だ。
 自分の実力に絶対的な自信を持っていると言う点ではマシロも同じだが、アイラの場合は能力を過信しすぎている。
 だから、ガウェインとバトルした時も自分の能力を隠そうともしなかった。
 並のファイターから見れば、圧倒的な実力でしかないが、世界レベルのファイターの目はごまかせない。
 実際、マシロだけでなく、ガウェインも一度のバトルでアイラの能力に気づきかけた。
 これでは世界大会に出たところで始めこそは勝てても、決勝トーナメントに進む事は精一杯だ。
 その頃にはアイラの能力は知れ渡り、世界の強豪たちは確実に対策を練って来る。

「対人バトルの経験が極端に少ないんだろうな。一体、どんな練習をして来たんだか」
「お前が言うか」

 マシロの見立てではアイラは対人バトルを殆どして来ていなかったと推測できた。
 だからこそ、相手が自分の能力を見極め、対策を取って来ると言う事を余り重要視していない。
 CPU戦なら、自己学習プログラムでも組み込んでいない限りはパターン化された動きしかしてこない為、柔軟な思考は出来ない。
 それがマシロが度々、対人バトルをする理由の一つでもあった。

「色々と足りないところはあるが、その辺りを克服すれば化けるね。少なくともガウェインには勝ってるし」
「煩い」
「まぁ、精々三番手に落ちてボスに首切られないようにするんだな」

 マシロはガウェインにそう言って自分の部屋の方に戻って行く。
 後ろからガウェインが抗議の声を上げているが、マシロは気にすることは無かった。











 マシロが部屋に戻ると、シオンが荷造りをしていた。
 マシロは準備ができ次第、世界中を飛び回る予定で、その準備だ。

「マシロ様。報告書の準備が出来ています。会長から今日のバトルの報告書、特にアイラ・ユルキアイネンに関する物を提出するようにと連絡がありました。すでにPCの用意は整っています」
「相変わらず仕事は速いな」
「まぁ……これが最後の仕事になりますから」

 マシロはシオンが準備したPCの前に座ると報告書の作成に取り掛かる。
 すでに、報告書のテンプレートはシオンが作成している為、マシロは必要事項を打ち込むだけで良かった。

「ああ……そう言えばそうだったな」

 マシロはPCに向かいながらそう呟く。
 シオンは一月ほど前、マシロが世界大会に優勝した後に、シオンはマシロに移動願を提出していた。
 マシロはそれを二つ返事で了承した。
 シオンとしては、マシロが引き止めたり、自分が離れる事にショックを受けているようなら少しは考えもしたが、マシロは全く動じる事も気のすることもなかった。
 結局のところ、何年行動を共にしてもマシロにとってシオンはどこまで行っても自分の世話係でしかなかった。

「一応、聞いとくけど移動願の理由は?」
「今更ですか……強いて言うのでしたら、これ以上、クロガミ一族と深くかかわって行くと人として大切な物を失いそう……と言う事ですかね」
「ふーん。まぁ、シオンは無駄に器用だから新しい現場でも上手く行くと思うけどさ」

 相変わらず、気にした様子はマシロには見られない。
 マシロがそうだからこそ、シオンは移動を決意した。
 初めて会った時はまだ、マシロも今よりもずっと子供で、性格的な問題もその内普通になると思っていたが、数年経った今でもあの時と大して変わらない。
 変わった事と言えば歳を重ねた事で無駄な知識を増やしたくらいだ。
 それは、マシロ個人の問題と言うよりもクロガミ一族全体の問題に思えた。
 それを何とかするだけの力はシオンにはない。
 マシロだけとも考えた時期もあったが、本人がそれを望んでいない以上は何を言っても無駄でしかなかった。
 そうして、出した決断がクロガミ一族と距離を置くと言う事だ。
 移動先はクロガミグループ内である為、完全にクロガミ一族と繋がりを断ち切る訳ではないが、本家の人間と関わらないのならば問題はない。
 マシロはシオンに移動に関して対して興味がないのか、作業を進めシオンの方も今更気にすることでも無い為、マシロの荷造りを進めた。







 アイラとのバトルの翌日、マシロはヨセフの呼び出しを受けていた。
 面倒に思いつつも仕方が無くオーナールームに来た。

「昨日のバトルの事なら報告書を出したけど? まだ、何かあんの? 俺、暇じゃないんだけど」
「報告書は読ませて貰った」

 マシロはソファーに座り込む。
 
「お前の報告書を見るかぎりではアイラでは世界大会を優勝する事は難しいと?」
「現段階ではね。次の世界大会まで1年くらいある」

 報告書には今のアイラでは世界大会を優勝する事は無理だとマシロははっきりと書いてある。
 ヨセフもガンプラバトルに関してはマシロの意見を全面的に信用している。
 そんなマシロが無理だと言うのであればそうなのだろう。

「そこで本題だ。マシロ、アイラを育てて見る気はないか?」
「俺に父親役をやれと」
「対人バトルの経験の少いとはいえ、ガウェインを倒すだけの実力は持っている事は確かだ。経験を積むと言う点ではお前に付いて学ばせる事が一番の方法だからな」

 ヨセフはマシロの冗談をスルーして話しを進める。
 マシロがアイラが世界大会で優勝出来ないと判断した最大の理由が対人バトルの経験不足。
 だが、単純な実力だけならガウェインに勝てるだけの物は持っている。
 つまり、経験不足を補えばアイラは十分に世界大会の優勝を狙える事になる。

「けど、俺はファイターを育てた経験とかないぜ?」
「構わん。結局のところ、アイラはお前の保険でしかない。お前が来年の世界大会で優勝すれば事足りる」
「それはそうだけどな」

 アイラが優勝を狙えるようになればそれに越したことはなかったが、ヨセフの中ではマシロが優勝すれば目的を果たす事は出来る。

「保険をかける必要が出て来たのはお前の責任でもある」

 本来は来年の第7回大会でマシロを投入して一気に優勝する予定だった。
 それをマシロが7回大会の出場権を得る為に6回大会に出場し、優勝した。
 更にはインタビューで全世界のファイターを挑発もしている。
 だから、ヨセフは保険としてアイラをフラナ機関から呼び寄せた。

「それに、ファイターを育てて見る事もお前にとってはいい経験になると思うのだが」
「一理あるな」

 マシロは今まで自分の実力を上げる為に事はして来た。
 その中でファイターを育てると言う事は一度もない。
 直接的な練習でなくとも、ファイターを育てると言う事は今までとは違う視点でガンプラバトルに関わる事でもある。
 そうなってくれば、もしかしたら新しい発見もあるかも知れない。

「分かった。引き受けよう。但し、やり方は俺の好きにさせて貰う。結果がどうあれ文句は無しだ」
「任せる」

 面倒だと思いつつも、アイラをファイターとして育てる事で何かしら自分が得る物があるかも知れないと考えたマシロは了承する事にした。
 ヨセフとしてはやり方にあれこれ指示を出す気はない。
 元々、ファイターを育てる事はおろかガンプラバトルに関してもヨセフの知識は多くはない。
 ヨセフとしてはやり方はどうでも良く、最終的に結果を出せばそれで構わない。
 話しを終えたマシロは早々にオーナールームを出て行く。
 マシロが出て行き、戻って来ない事を確認するとヨセフは電話を出した。

「私だ。予定通りに事は運んだ」
「でしょうね」

 ヨセフの電話の相手はマシロの姉であるレイコだった。
 レイコは一度、マシロを優勝させたことで今は本業の方に戻りつつも部下に来年の為の情報収集を命じている。
 そんな中でレイコの方からヨセフに要望を出していた。

「本当に大丈夫なんだろうな。フラナ機関にはかなりの額の出資をしたんだ。アイラが潰されるようなことがあっては出資が無駄になる」
「さぁ……それはマシロ次第ですね。ただ、あの子は勝ち続けますよ。それしか能がない子ですから。マシロが優勝さえすれば、どこの馬の骨かも分からない子供が一人潰された事や、フラナ機関に出資した額なんてどうだって良いはずです」

 アイラをマシロに育てさせると言うのはレイコからの要望だった。
 マシロなら自分の為にもなると言えば受ける確率が高くなると言う事を教えたのもだ。
 ヨセフとしては高い額の出資をして、呼び寄せたアイラが世界大会を前にマシロに潰される事を危惧していた。
 優勝は狙えずとも世界を相手に戦えるだけの実力は持っている。
 本命のマシロのサポート役としては十分だ。
 潰されるリスクを負ってまで、育てる意味はヨセフの側からすればない。
 だが、レイコは確実にマシロが7回大会でも勝つ為にやらせた。
 レイコもマシロがここのところ、勝っても何かが足りないと思っている事にも気づいている。
 大抵の物はクロガミグループの力を使って用意は出来る。
 性質が悪い事に本人すらも何が足りないのか気づいていない。
 マシロ本人ですらも気づいていない為、直接用意する事が出来ないでいる。
 そこで、レイコは今までマシロがやって来なかった事をさせて見てはと思い至った。
 その一環として、ファイターの育成だった。
 マシロはファイターの育成を行った事も、誰から直接指導を受けた事もない。
 ファイターの指導方法は完全に我流でいつも通りの自分の練習をさせれば潰れる可能性もある。
 しかし、レイコからすればアイラが潰れたところで関係は無かった。
 潰れてしまえばマシロの足りない何かではなかったと言う事に過ぎないだけの事だ。

「当然だ。マシロには勝って貰わねばならん」

 ヨセフはそう言って、レイコとの電話を終えた。 
 こうして、本人たちの知らないところで新たな思惑が動き始めた。



[39576] Battle28 「マシロの家族」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/06/09 08:56
 マシロがアイラをファイターとして育てると言う事を正式にフラナ機関の方に通達された翌日、マシロはネメシスの本拠地にあるヘリポートにいた。
 本拠地は孤島である為、出入りには船がヘリで行われる。
 そのヘリポートにはマシロがクロガミグループに建造させた飛行船が停泊している。
 飛行船はマシロのガンプラと同じように白一色で塗装され、旅の拠点となる事もあってマシロは初代ガンダムの母艦から取って「ホワイトベース」と名付けている。

「どういう事だ?」

 ヘリポートにはマシロ以外にキャリーケースを持ったアイラとバルトがいたが、バルトがマシロを問い詰めていた。

「だからさ、アンタはここでお留守番だって言ってんの」

 バルトがマシロを問い詰めているのは、連れて行くのはアイラのみだとマシロが言っているからだ。

「アンタさ、レイコ見たく神経質そうだから。それにアイラの立場は俺の弟子って事になってるし、師匠の俺を差し置いて弟子にマネージャーが付くとかおかしくね?」

 バルトのネメシスでの立場はアイラのマネージャー兼主治医だ。
 その為、アイラについて行くと言う事は自然な流れだが、マシロからすれば神経質そうなバルトと一緒にいる事は嫌だった。
 これが、身内であるレイコなら気にしないが他人ならいっしょにいる気にはなれない。

「このホワイトベースにはうちで抱えている医師が何人も乗ってるから医者も必要ないしな。アイラの方もこの眼鏡君がいなくても問題ないよな?」
「全く問題ありません」

 マシロの問いにアイラは間を開ける事無く即答した。
 アイラが何かしらの理由で、バルトがいなければ練習に影響が出ると言うのであれば、マシロも何か手を考えたが、別に問題は無かった。

「そう言う訳だからさ。大人しく留守番してな。安心しろって、アイラは俺が責任を持って一人前のファイターとして教育……もとい再調整するからさ」

 アイラの育成に関してはヨセフの方からマシロに一任したから、マシロのやり方を最優先に尊重するように言われている。
 そのマシロが残れと言う以上は、バルトは残るしかなかった。





 マシロはアイラを連れてホワイトベースの中を進んでいた。
 廊下を進み、マシロは扉の前に立つと扉の横のパネルに手をかざした。
 すると、扉のロックが解除されて扉が開いた。

「ここはバイオメトリクスの認証がないと開かないようになってる。すでに俺とお前のバイオメトリクスが登録してある」

 マシロが部屋の中に入り、アイラも続いた。
 中は開けた部屋となっており、アイラは中を一通り見渡した。
 まず、目に入ったのは壁にかかっている映画館のスクリーンを思わせる巨大なテレビだ。
 他にも普通サイズのテレビに中央にはバトルシステムが置かれている。
 そして、作業台にガラスで仕切られた塗装用の部屋、山のように積まれたガンプラ、業務用の冷蔵庫やソファーやテーブルなどが無造作に置かれている。
 その手の家具に詳しくないアイラでも、一つ一つが非常に高価な物だとは分かるが、明らかに必要な物を部屋に押し込んだようで内装に拘りが一切見られない。

「さて……まずはガンプラだ」
「私はガンプラを持っていませんが」

 荷物を置いてすぐにマシロがそう言いだす。
 しかし、アイラは自分のガンプラを持っていなかった。
 この前のバトルも自分専用のガンプラが無い為にマシロから借りていた。
 昨日の今日でガンプラを用意していなければ、持っている訳がない。

「マジで? たく……常識を疑うな」

 マシロは心底呆れていた。
 マシロからすれば、ファイターがガンプラを常に持ち歩く事は常識で持っていないと言う事はあり得ないからだ。
 アイラは軽くイラっとするがマシロが気にした様子は無く、収納スペースを漁っている。

「そうだな……これなんかよさそうだ」

 マシロはそう言って、収納スペースからガンプラを持って来る。

「サザビー改。俺が何年も前に作ったガンプラで出来はイマイチだが、練習用には丁度良い。コイツをお前に貸してやる」

 そう言ってアイラに渡したガンプラはシャア・アズナブルの最後の搭乗機であるサザビーを改造したサザビー改だ。
 シャアのパーソナルカラーである赤からマシロの白に塗装され、全体的に軽量化されている。
 その為、スラスターは足と脚部、腰に外付けされている。
 装備は腹部の拡散メガ粒子砲に手持ちの火器として、ロングビームライフル。
 左腕にはベースとなったサザビーのシールドだが、裏側にゲルググから流用したビームナギナタが付けられている。
 バックパックにはファンネルコンテナがそのままつけられており、全体的に高い機動力と運動性能を重視されている。

「分かりました」

 アイラはサザビー改を受け取るとマシロはバトルシステムを起動させる。

「まずは……リフティングだ」
「は?」

 アイラは思わず聞き返してしまった。
 リフティングが分からない訳ではない。
 話しの流れ的にガンプラバトルの練習をさせられると思っていたからだ。

「やるのは当然、ガンプラでボールはこいつを使う」

 マシロはアイラにスーパーボールを渡した。
 どうやら、このスーパーボールを使ってサザビー改にリフティングをさせろと言う事らしい。

「取りあえず100回を目標にやって見ろ」
「……分かりました」

 釈然としないが、アイラには従う以外の選択肢はない。
 リフティングを100回やらせれば終わると言うのであれば、さっさと終わらせればいいだけの事だ。
 アイラはマシロに言われた通りにリフティングをサザビー改にやらせた。
 スーパーボールを軽く蹴ったつもりだが、スーパーボールは勢いよく飛び上がり落ちた。

「1回かよ。下手くそ」
「もう一度やります」

 アイラは2回3回と繰り返すも数回続けばいい方ですぐに落ちてしまう。
 その度にマシロは野次を飛ばした。
 それから数時間が経過していた。
 いつの間にかホワイトベースは飛んでいたが、このホワイトベースの最大の売りは飛行時の衝撃が限りなくゼロだと言う事だ。
 飛ぶ時も着陸する時も気を付けていないと気付かない程に静かで飛んでいると言う感覚を受ける事もない。
 その為、アイラはホワイトファングが飛んでいると言う事も忘れる程だ。
 その間にようやく10回に到達するか否かと言う所までになっていた。
 始めの方はマシロも野次を飛ばしながら見ていたが、いつの間にか飽きたのかガンプラを作っていた。
 それでも、失敗した時は必ず野次を飛ばして来る。

「下手くそ。これで何回目だよ」

 9回成功し、10回目と言う所でスーパーボールに追いつけずに落としてすぐにマシロの野次が飛んで来た。
 中々成功しない事でアイラもかなり鬱憤が溜まり、マシロの野次でそれが一気に爆発した。

「出来るか!」

 部屋の外まで響きそうな大声でアイラは叫び、流石にマシロの視線もアイラの方に向いた。

「……この練習の意味が分かりません」
「切れんなよ。これだから最近の若い奴は……てか、この程度でキャラが崩壊しているようじゃキャラを作るのに向いてないと思うぞ」

 平静を装うアイラにマシロがそう言う。
 今まで物静かに感情を表に出さないアイラが切れて大声で叫んだところでマシロは気にしない。
 アイラとバトルして、アイラの操作するガンプラに感情が乗っている事から、アイラ自身は自分で思っている程、感情を抑える事を得意としていないと言う事には薄々気が付いていた。

「取りあえず、無感情キャラは一先ず置いとけ。で、この練習の意味だっけか? 俺がやれと言った。やる理由はそれで十分」

 何か理論的な説明が来るかと思われたが、マシロの言い分は理不尽極まりなかった。

「だったら、マシロがやって見せてよ。まさか、自分が出来ない事を人にやらせる訳が無いわよね?」

 流石に我慢の限界に来ていたのか、今までとは違いアイラの方も感情を隠す気がない。

「そっちが素? 本当は自分で試行錯誤する事も必要な事なんだけど……良いだろう。もう一度、師弟の腕の差と言う物を見せてやろう」

 マシロはアイラとサザビー改の操作を変わってリフティングを始めた。
 サザビー改が太ももで蹴ったスーパーボールは1ミリ程上がって落ちると、サザビー改はひたすら太ももで1ミリ程上げてリフティングを続けた。
 その光景は余りにもシュールでアイラも引いていた。
 しかし、アイラは気づいてはいなかった。
 一見、シュールな光景だが、ゴム製で少し蹴り上げただけでも大きく飛んでいくスーパーボールを何回も同じ高さに飛び上がるように力加減を調整している微妙な操作や、右手にロングビームライフル、左腕にシールドと左右のバランスが取れていない状況で両足ならともかく、片足だけでバランスを保っている等、マシロがやっている事は神業かかった微妙な操作だと言う事にだ。

「99……100っと!」

 そうして、100回目をサザビー改は大きく蹴り上げた。
 スーパーボールはまるで狙ったかのようにバトルシステムから飛び出してマシロの目の前に落ちて来た。
 そのスーパーボールがマシルの胸の辺りに差し掛かる頃にマシロはスーパーボールをキャッチしようとした。
 だが、スーパーボールはマシロの手に収まる事無く、床に落ちて飛び跳ねた。
 何とも言えない空気となるが、マシロは黙ってスーパーボールを回収して戻る。

「まぁこんなもんだ。俺はこれを3歳で極めたからな」

 そして、先ほどの事を無かった事にした。
 最後の事はともかく、マシロが一度でやった事は事実だ。
 その為、文句も言えない。
 尤も、マシロが3歳だったのは10年以上も前の事でその当時にはプラフスキー粒子は発見されていない為、3歳で極めると言う事は不可能だ。

「さて、続きをやれ」
「分かったわよ! やればいいんでしょ! やってやるわよ!」

 マシロからスーパーボールを受け取ったアイラは半ば自棄になって叫ぶ。
 マシロは出来て自分は出来ていない。
 このままではマシロにコケにされたままで気分が悪い。
 やり方はマシロの奴を見て把握をしている為、さっきまでよりかは簡単になった。
 アイラは再度挑戦した。
 だが、アイラが思っている以上にマシロがやった事は高度でやはり上手くはいかない。

(先読みをしていないのか? あの動きは)

 マシロは組み立て途中のガンプラを作業しながらアイラのやっているのを見てそう感じた。
 アイラの先読み能力を持ってすれば、スーパーボールの動きを先読みすればある程度は簡単に続けることは出来る。
 後はそこから細かい操作を会得させるつもりだったが、アイラはまるでスーパーボールの動きが見えていないかのように失敗している。

「なぁ、お前、先読み能力持ってんだろ? 使っても良いんだぜ?」
「うるさい!」

 横から声をかけられた事でアイラの気が散ってスーパーボールは地面に落ちた。

「横から声をかけられたくらいで気を散らすなよ。バトル中は相手と話す事も珍しくはないし、どんなに優秀な実力者でも一瞬の気の緩みで負けると言う事は良くある事だ」

 マシロが失敗するたびに野次を飛ばしていたのも、9割くらいは単にからかっているだけだが、1割は精神面の練習でもある。
 どんなに優秀だろうと、精神的な面で隙を作って負けると言う事は良くある事だ。 
 
「で、なんで使わないのさ」
「マシロには関係ない事よ」
(こりゃ使わないんじゃなくて使えないって事か……つまり、アイラの先読み能力には制限があるって事か)

 マシロの質問にアイラは取り合う事はしなかった。
 だが、そのやり取りからマシロはそう判断する。
 会話の中でアイラの性格をある程度は掴みつつあった。
 使う所を最低限の物にして、自分の情報をマシロに明かさないとも考えられるが、アイラの性格上ここまで何度も失敗し、マシロに野次を飛ばされても頑なに使わないと言う事は考え難い。
 寧ろ、早いところ成功させてマシロを見返そうとして来るだろう。
 つまりは、今は能力が使えないと言う事になる。
 それから更に数時間が経過するも、回数は増えるが目標に達する事は無かった。
 次第にアイラの体力も限界を迎え、回数を重ねるごとに操作も雑になって来ている。
 その間にマシロは制作したガンプラを白く塗装まで済ませた物がいくつも完成している。

「もう限界か?」
「……まだ行けるわよ」

 強がるアイラだが、目に見えて体力の方も限界だと言う事が分かる。
 だが、自分から休憩させて欲しいとは言えないのだろう。

「最近の若い奴は体力が無くていけないな。そんな状態でやっても大して身にはならないから少し休め。もう少しでアメリカに付く頃だし、俺も腹減ったからメシにするぞ」

 ホワイトベースの行先はアメリカだ。
 余りにも静かに飛んでいる為、アイラも自分が飛行船で移動していると言う事は完全に忘れていた。
 これ以上、変に意地を張ったところで結果は出ないと言う事もあり、アイラも仕方が無くそれに従った。
 
「アメリカと言えばステーキと言う事で用意させてみた」

 それから数分後、二人の目の前に肉厚なステーキが並べられていた。
 ホワイトファングには医師以外に一流のシェフも乗せられているらしい。
 アイラも一目見ただけで高い肉が使われていると言う事が分かる程だ。

「しっかり食うのもファイターの務めだ。しっかりと食って食った物は力に変えろ。遠慮はいらない。好きなだけ食っていいぞ」
「……本当にいいの? 後で請求とかしないわよね?」
「気にすんな。どうせ、チームの金だからな」

 ネメシスの最大の武器は豊富な資金にある。
 その中でもチームのエースであるマシロはチームの資金の大半を好きに使っていいとオーナーであるヨセフに言われている。
 クロガミ一族の方からもかなりの資金を使えるが、使って良いと言われている以上は好きに使っている。
 
「凄い無駄使いな気がするわ」
「俺の栄養になるんだ。無駄じゃないさ。一流の食材と言うのは希少価値だけでなく、栄養は豊富だったりするからな。それを損ねないように一流の職人に調理させる。すべては必要な事だ」

 マシロは食に対してこだわりがある訳ではない。
 あくまでも体調管理と空腹で集中力を欠かないようにする為に食事を取っているだけだ。
 裏がない事を確認し、アイラも食べ始める。

「遠慮するなとは言ったけどさ……」

 それからしばらくして、マシロは呆れていた。
 確かにマシロは遠慮はいらないとは言ったが、アイラはマシロの何倍も平らげた。
 マシロ自身、歳を考えるとそこまで食べる方ではないが、アイラの食べた量は相当な量だ。

「マシロが遠慮しないで良いって言ったからよ」
「そうなんだけどよ。太るぞ? まぁ……無感情キャラを捨てて食いしん坊キャラで行くなら太ってもありかも知れないけどさ」
「うるさい。さっきの練習は少し休んでからでも構わない?」
「ご自由に」

 マシロとしてもここまで食べてすぐに、運動をさせる気は無い。
 少なくともアイラはこのまま引き下がると言う事は無いようだ。
 アイラは食休みも兼ねて普通サイズの方のテレビをつけた。

「この子、最近よく見るわね」
「ああ……こいつか」

 テレビをつけるとマシロは少し機嫌が悪くなる。
 テレビにはバラエティーに出演するありすが映されているからだ。
 余り芸能方面に詳しくないアイラですらも、ありすの事は知っているらしい。

「マシロはこういうの好きじゃないの?」
「こういうのと言うよりもコイツが気に入らない」

 アイラも明らかにマシロの機嫌が悪いと言う事は察した。
 
「以外」
「コイツはうちの末っ子だからな。世間では甘えん坊の妹キャラとして大ブレークしているらしいけど、身内から見れば糞生意気が糞ガキでしかないんだよ」

 マシロがありすの事を毛嫌いしている事よりも、ありすがマシロの妹である事の方が驚きだ。

「まぁ……それでもコイツの出生には同情するけどな」
「どういう事?」
「コイツは母さんのエゴの被害者なんだよ。この事で同情される事をすっごく嫌ってるから俺は心の底から同情してやるね」

 ありすには一族の中でも一部の人間しか知らない出生の秘密があった。
 本人はその事で同情される事を嫌っている為、マシロは嫌がらせで同情している。

「マシロのお母さんってどんな人?」

 アイラはマシロの母に付いて訪ねてみた。
 クロガミグループは世界的に有名である為、アイラも当然知っている。
 マシロの母親と言う事は先代の代表の妻と言う事だ。
 先代の代表であるクロガミ・キヨタカは有名で事故死した時も代々的なニュースとなっているが、その妻に関しては余り多くの情報は出ていない。

「そうだな……生きたEXA-DB、現代のイオリア・シュヘンベルグと言った人」
「私にも分かるように説明してよ」

 マシロは母親の事を簡潔に説明するも、ガンダムの事を知らないアイラからすれば全く意味が分からない。

「母さんは科学者でな。それも歴史上の天才と呼ばれた科学者が凡人に成程の化け物じみた程のな。けど、母さんの場合、自分の研究成果を世間に出す気はないどころか、自分で研究した物は自分だけの物だって言って公表しないどころか、研究成果を独占するんだよ。だから母さんの事は本当に一部の科学者しか知らない。で、母さんの頭の中にある技術を使えば世界を豊かにする事も出来れば世界を滅ぼす事も出来るとすら言われている。尤も当の本人は研究する事しか興味がないから世界がどうなろうと関係はないって人だよ」

 マシロの母親を知る者は余り多くはない。
 研究を一人でやる事を好み、研究が完成したところで資料の一切を破棄し、研究成果は自分の頭の中に残すに留めている。
 別の人間が同じ研究をする事を妨害する気は無いが、公表して情報を共有すると言う事もしない。
 ただ、自分がやりたいように研究をすると言うのがマシロの母親だ。

「今だってどっかで好き勝手やってるだろうね」

 マシロも父親が死んでから一度も母親と顔を合わせてはいない。
 元々、自分のやりたいように生きているところがあり、行方不明になっている事も珍しくは無かった。
 
「まぁ……うちの家族じゃ俺と父さんと兄貴くらいしかまともな奴はいないからな。母さんは別格だな」
「ふーん」

 マシロはそう言うが、アイラから見ればマシロも普通とは思えない。
 尤も、その事自体はマシロが自分で言っているだけで、他の兄弟からすればマシロは血縁関係こそないが、最も母親に近いタイプの人間だと口をそろえて言うだろう。

「さて……体を動かさずとも出来る事はある」

 マシロは収納スペースを漁る。

「せっかく、超大型テレビを置いたんだ。勉強しようか」

 マシロが取り出したのはブルーレイディスクだ。

「まずはファーストを1話から見て、その次08小隊にポケットの中の戦争、イグルーで一年戦争を終えて、スターダストメモリー、Z、ZZ、逆シャア、ユニコーン、F91、Vと宇宙世紀を時系列に見る。次はアナザーをまずはG、W、Xと見てSEED、SEED DESTINY、スターゲイザー、OOのファーストシーズンから劇場版、AGEと来て最後に∀で締める。それが終わったら外伝作品を網羅する」
「……それ、全部見たらどの位になるのよ……」
「さぁ? 計算しようか?」

 全てのガンダム作品を見るとなると数時間では済まないだろう。
 そして、ここはまだ空の上で逃げ場はない。

「……練習に戻るわ」
「好きにしたら。どの道俺は見るけど」

 アイラが練習を再開する中、マシロはブルーレイディスクをプレイヤーにセットし、壁にかかっている超大型テレビで見始める。
 大きいのはテレビだけでなく、音量もだった。
 アイラは何度も大声でうるさいと抗議するも、大音量にかき消されてマシロに届く事は無かった。
 
 







 ホワイトベースはその静かな飛行を持ち味にする反面、飛行速度は大して早くない。
 アメリカの空港に着陸した頃には真夜中だった。
 空港に付いたところで、マシロも明日に備える為に休む事になった。
 そこでアイラが抗議の声を上げた。
 流石に同じ部屋で寝る事に抵抗があると主張するも、マシロは完全に無視して布団に包まって寝てしまった。
 それを見て、変に考えていた事が馬鹿らしくなり、アイラも寝るが次の日、アイラが起きるとすでにマシロの姿は無かった。
 テーブルにはサザビー改と一枚の紙が置かれており、紙には「出かけて来る。昨日の練習してろ」と書かれている。

「何なのよ」

 アイラは紙を握り潰して呟く。
 マシロはアイラにガンプラバトルを指導する立場だが、行動を共にする気は余りないらしい。
 部屋の外に出ようにも試してみるとロックがかけられているらしく外に出る事は出来なかった。
 つまりは、今日はここで一日中、練習をしろと言う事だろう。
 部屋の中には生活に必要な物は一通り揃っている為、ここにいても何日かは生活は出来そうだ。
 テレビなどで時間を潰す事は出来るが、サボったらなぜかマシロに気づかれそうだ。
 それ以上にマシロが戻って来た時に上達していなければ何を言われるか分かった物ではない。
 
「やってやろうじゃない」

 戻って来た時に堂々をリフティングを100回こなす事が出来れば少しはマシロの鼻を明かす事も出来るかも知れない。
 アイラはその一心で昨日と同様にリフティングの練習を始める。
 



 アイラが練習を始めた頃、マシロは事前に用意させた車でアメリカ国内の大学に来ていた。
 車を降りたマシロは大学内の研究棟を歩いている。

「確か……ここだ」

 研究棟の一室の前でマシロは止まってかかっているネームプレートを確認した。
 そこにはレティ・クロガミと書かれている。
 この研究室の主はマシロの姉の一人だ。

「さて……」

 研究室の前でマシロは深呼吸をして覚悟を決めた。
 以前に来た頃はこの部屋はゴミ溜めだった。
 レティは研究に没頭すると身の回りの整頓が適当になって研究資料とゴミの区別こそはしても、片付けようとはしない。
 覚悟を決めたマシロはドアを開けた。
 だが、そこにはマシロが思い描いたゴミ溜めは存在しなかった。
 資料はきっちりと棚に整理整頓されており、床には塵一つ無く床が見えている。
 マシロはそっとドアを閉めてネームプレートを確認する。

「何があった……」

 再度確認するもそこには紛れもなく姉の名で間違いはない。

「アンタこそそこで何をやっている」

 状況が掴めないマシロが茫然としていると後ろから声をかけられた。
 マシロの後ろには白人女性が立っていて、明らかに不機嫌だと言うオーラを纏っている。

「レティ……この部屋がおかしい」
「おかしいのは君の行動だろうに」

 そう言ってレティは研究室に入って行きマシロも中に入る。

「前来た時とは別世界だぞ」
「言いたい事は分かる。最近、ここに出入りする奴は何かと几帳面でな。うるさいからだったら自分で片付けろと言ったところ、本当に片付けてたんだよ」
「成程……まぁ、そんな事はどうでも良い。頼んだ物は出来てる?」

 レティの部屋が綺麗に片付いていたところで、マシロはどうでも良い為、本題に入る。
 レティは物理学者で主に資材の強度や耐震性等の方面に精通している。
 そこでマシロはレティにいくつかの頼みをしていた。

「ほら。そこにおいてある。さっさと持って行け」

 レティは顎で研究室の片隅に置かれているアタッシュケースを指してマシロが中を確認する。
 そこには金属が入っていた。

「要望のあった通りに合成した金属だ」
「助かる」

 マシロが要望したのはレティに金属を合成して欲しいと言う事だ。
 要望として頑丈で軽いと言う物だ。
 頑丈さはともかく、実際に手に取って見るとかなり軽い。

「それをどうするつもりだ?」
「ああ……カナタのところに持って行くつもり」
「カナタ兄さん? あの人、まだ生きていたのか?」
「さぁ? でも死んだって話しは聞いてないから多分、生きてると思う」

 カナタとはマシロやレティの兄だ。
 現在はどこかの山に籠っていると言う話しを最後に行方を暗ませている。
 生きているかも分からないが、死んだと言う話しを聞かない以上は生きているとマシロは考えている。

「そうか。それはそうと、ハルキ兄さんにも頼みごとをしているようじゃないか」
「耳が早いね」
「アホか。お前の頼みでシャトルを何度か打ち上げているだろう。シャトルを一回打ち上げるのに幾らかかると思っている」
「知らね」

 ハルキと言うのも二人の兄で現役の宇宙飛行士だ。
 そんなハルキがマシロの頼みで宇宙に何度も上がっていると言う事はレティの耳にも届いていた。

「ハルキの奴にはガンプラに使うプラスチックを宇宙で作って貰ってんだよ」
「わざわざ作る必要があるのか?」

 レティの疑問も尤もだ。
 プラスチックなど地球でも幾らでも作る事が出来る。
 わざわざ、シャトルを打ち上げてまで宇宙で作る必要などない。

「あるんだよ。そいつはただのプラスチックじゃないんだよ。無重力下でなら、練り込む金属片が重力で偏らないからな。そうして出来たプラスチックがガンプラバトルにおいて従来のプラスチックよりも強度の高い、いわばガンダリウムプラスチックだ」 

 ガンプラバトルにおいて金属パーツは強度の向上に使われると言うのは一般的に知られている。
 金属パーツは砲身やシールドと言った直接稼動しない部分に使わないとプラフスキー粒子に反応しない為、使えない。
 だが、マシロはナノレベルの金属片をプラスチックの内部に練り込む事でプラスチック自体の強度を上げると言う方法に出た。
 その為に何千、何万回と言う試作を経て、金属片が練り込まれてもプラスチックとして粒子が反応するギリギリの配合を割り出している。
 それを無重力空間で金属片が偏る事なく作り出した。

「試作品の出来は上々で、ようやく完成品のサンプルが出来たからこの後、取りに行くんだよ」

 すでにガンダリウムプラスチックの試作品は完成しており、フルアサルトジャケットの関節部に使用している。
 その結果、関節部の強度は格段に上がり、ハイパーメガドッズライフルを持たせても無茶をしなければ関節への負荷に耐える事が出来るようになっている。

「お前もハルキ兄さんとよく付き合えるな」
「レティはハルキの事苦手だったっけ」

 クロガミ一族の本家は皆が仲がいいと言う訳ではない。
 寧ろ、顔と名前を知っている程度で顔を殆ど合わせないと言うのも珍しくはない。
 その中でも相性が存在していた。
 マシロの兄弟たちはいくつかの分類に分けられる。
 大きな括りとしては2種類の分類方法がある。
 一つ目は本人の持つ才能で分類する方法だ。
 その分類は3つに分けられる。
 頭脳型、肉体型、バランス型の3つだ。
 頭脳型はその名の通り、頭脳面で秀でた才能を持っている者達の事を指す。
 レティやマシロの母がそれに該当する。
 肉体型もその名の通り、身体的な面で秀でている。
 ハルキは宇宙飛行士である為、宇宙飛行士に必要な知識も持っているが性格的な面からこちらの肉体型の該当する。
 バランス型は頭脳型と肉体型の中間で肉体も頭脳の必要とする才能に秀でている。
 現在のクロガミ家の当主であるユキトにありす、マシロがこれに該当する。
 そして、肉体型と頭脳型とでは相性が悪いらしく余り仲が良いとは言えない。
 レティもハルキの事を嫌っているとまではいかないが、苦手意識を持っている。
 もう一つの分類方法が内向型と外向型だ。
 それは、自身の能力を積極的に外に向けるか中に向けるかだ。
 一般的にクロガミ一族として有名なのは外向型でマシロのような内向型は世間に認められる気が無い為、能力的にはずば抜けた物を持っていても有名にはならない。

「まぁ……俺もハルキのノリにはついて行けないからな。けど、ハルキの能力が必要だから、頼んださ。兄を落とす必殺の上目使いを使ってまでな」
「それ、弟じゃなくて妹がやる物だと思うがな。いや……あのハルキ兄さんになら通用するか」

 レティは呆れると同時に納得もした。
 ハルキには弟はマシロしかいない。
 その為、ハルキはマシロの事を妹である自分達よりも可愛がっていた。
 だから、マシロに頼まれれば頼みを聞いてしまうのだろう。
 
「そんじゃ、ハルキのところにもいかないといけないから俺は行くわ」
「マシロが何をしようと私には関係のない事だが、余り私の手を煩わせると言う事は無いようにな」
「どうだろうな。必要なら力を借りるし、必要じゃないなら何もしないさ」

 今回はレティの力が必要だから力を借りた。
 必要が無ければ、マシロもレティに連絡を入れる事もなければ、会いに来る事もない。
 レティとしては、自分の研究を優先したのだが、マシロが頼みごとを言って来た場合、無視する事も出来ない。
 頼みごとをして来たと言う事は確実にレティの力が必要だと言う事で、マシロはレティの都合など一切気にする事は無い。
 マシロはレティが合成した金属を受け取ると研究室を出て行く。
 これで暫くはマシロが来る事は無い為、落ち着いて研究に没頭できるとレティは一息ついた。
 マシロは外で待たせている車に戻ると、そのままホワイトベースには戻らずに次なる兄弟の元に向かった。



[39576] Battle29 「ストリートバトル」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/06/15 07:48
アメリカの大学で姉の一人のレティからレティが合成した合金を受け取ったマシロはそのまま、車で半日以上の時間をかけて移動した。
 目的の場所は兄の一人が務めている宇宙センターだ。
 目的地に到着したマシロは受付で兄を呼び出すとロビーで待っていた。

「良く来たな!」
「……相変わらず声デカいよ」

 ロビー中に響き渡る程の大声で来たのがマシロの兄の一人のクロガミ・ハルキだ。
 日本人離れした屈強な体格のハルキは宇宙飛行士として有名だ。
 ハルキが来た事でマシロは立ち上がるとハルキはマシロに抱擁する。
 マシロは苦しそうにもがくが、ハルキを押しのける事は出来ない。
 マシロの意識が軽く飛びかけたところで、ハルキはマシロを解放する。

「聞いたぞ! 世界一になったらしいじゃないか! 俺は信じていたぞ! マシロはやれば出来る奴だって事はな!」
「もう少し、声を落とせって。それに世界大会って言っても一般レベルでの話しだし。規格外の化け物はこんな大会には出ない」

 どこで聞きつけたのか、ハルキはマシロが世界大会で優勝したと言う事を知っているらしい。
 だが、世界大会で優勝した事は大した意味はない。
 名実的に世界一になったところで、元から自分が最強だと思っているし、世界大会に出場したファイターは確かに実力者が揃っている。
 しかし、中にはかつてのマシロのように圧倒的な実力を持ちながら、世界大会に出場していないファイターも少なからずいる。

「流石の俺でもそいつらに対する勝率は7割と言ったところだよ。今のガンプラではね」
「大した自信じゃないか! 男はそのくらい自信がないとな!」

 ハルキは規格外の化け物に対する7割と言う勝率はマシロの自信の表れと取るが、マシロは常に自分が最強で絶対に勝てると言う確信を持ってバトルしている為、7割と言う勝率はマシロの中ではかなり低い。

「そんな事はどうでも良いから、頼んだ奴は持って来たんだろうな」
「久しぶりに弟と会ったんだ、ゆっくりしたいではないか!」
「知るか。俺は暇じゃないんだよ」

 ハルキとしては、久しぶりに会った弟とゆっくり話したいと思っているが、マシロはハルキの相手をするのは面倒で早く帰りたかった。

「忙しない奴だな! これが頼まれていた物だ!」
 
 ハルキは持って来ていたケースをマシロに渡す。
 その中にはマシロがハルキに頼んで宇宙で製造して来た特殊プラスチックが入っている。

「これだけか?」
「仕方が無いだろう! これが完成品の試作だ! これを実際にガンプラバトルとやらで使ってマシロの満足の行く結果が出ればすぐにでも量産に入る!」

 マシロは量に不満気だったが、あくまでも完成したプラスチックの試作に過ぎない。
 以前、マシロに渡した試作品を改良して完成の域に達してはいるが、頼んだマシロが納得いくかは分からない。
 これで納得が行かないのであれば、再度作り直さなければならない為、最低限の量しか製造していない。
 実際に使ってみて、納得が行くのであればハルキが再び宇宙に上がってマシロに頼まれていた量を作る事になっている。

「分かったよ。なるべく早く、結果は伝える。これで良いと仮定して量が揃うのはどの位になる?」
「シャトルを打ち上げるのにも相応の日数はかかる! そこから様々な要因を考えて頼まれていた量を生産するとなると……最短で数か月と言ったところだろう!」
「数か月か……厳しいな」

 マシロは頭の中で計算を始める。
 少なくとも第7回の世界大会までには特殊プラスチックを使ったガンプラを完成させたい。
 だが、肝心のプラスチックが用意出来るまで最短で数か月かかる。
 その時間はあくまでも最短で最悪の場合は更に時間がかかる可能性もある。
 時間を短縮する事は不可能だろう。
 ハルキは一見、頭が悪いように見えるが、クロガミ一族の本家の人間だ。
 宇宙飛行士として必要な知識やスキルはマシロの比ではない。
 そんなハルキが提示した数か月と言う日数は多少前後しても、大幅に短縮する事は無理と考えた方が良い。
 世界大会が開催されるまで、後10か月程度ある為、特殊プラスチックを用意するのは可能だろう。
 しかし、プラスチックが完成したところで、それをガンプラにするまでにも時間がかかる。
 それらを計算すると、マシロの新型のガンプラは世界大会が開催されるまでに完成する事は時間的に不可能となる。

「予選ピリオドなら、レイコの策があれば今のままでも勝ち抜く事は出来る……問題は決勝トーナメントか」

 ハルキそっちのけでマシロは頭をフルに回転させて考える。
 世界大会の予選ピリオドは毎回ルールが変わる為、単純な操縦技術の他にルールに対する順応性が勝ち抜く為に必要となる。
 そこはレイコの策があれば乗り切る事は出来る。
 問題は予選ピリオドを勝ち抜いた先の決勝トーナメントだ。
 決勝トーナメントは一体一のバトルとなっている。
 今年はレイコの策や、予選ピリオドまで完全なノーマークと言う事もあって、圧倒的に有利な状況から一気に優勝まで行ったが第7回はそうはいかない。
 総勢100名のファイターは皆、マシロを王座から引きずり落とす為に世界大会に出場しているようなものだ。
 去年のバトルのデータからマシロに勝つ為に1年間、腕を磨きガンプラを強化して来た。
 参加者の大半は、マシロにとっては取るに足りない相手だが、一部の優勝を狙えるファイターを相手にする為には今のガンプラでは心もとないと言わざる負えない。

「弱音を吐くな! それがクロガミ家の男の台詞か!」
「うるさい。ハルキに言われなくても分かってる」
「それでこそマシロは俺の弟だ!」

 ハルキは笑いながらマシロの背中をばしばしと叩いて激励する。
 
「俺を殺す気か!」
「この程度で死ぬなら鍛え方が足りない証拠だ! どうだ? 俺と一緒に訓練に参加いて見ないか! マシロはもう少し体を鍛えた方が良いぞ!」
「だから、死ぬって」

 ハルキの誘いにマシロはゲンナリする。
 宇宙飛行士としての知識は豊富だが、ハルキは基本的に脳筋だった。
 レティ達と相いれないと言うのも十分に理解出来る。

「とにかく……頼むからな」
「分かっている! こっちもプロだ! 頼まれた仕事はきっちりとこなして見せよう!」

 多少は時間的な不安要素はあるが、ハルキもプロである以上はこちらの都合に合わせて来るだろう。
 その点に関してはマシロも信用している。

「俺も次はカナタのところに行かないといけないから、この辺で返るぞ」
「次はカナタ兄さんのところか! あの人も元気でやっているか心配だから頼むぞ!」
「どうだろ? 元気ではない事は確かだと思うけどな」

 マシロはそう言って席を立つ。
 次に尋ねる兄のカナタは体が丈夫ではない。
 死んだと言う話しを聞かない以上は生きているとは思うが、カナタが元気でいる様子は想像できない。
 マシロはハルキから特殊プラスチックを受け取ると、ホワイトベースがある空港へと、また数時間をかけて戻って行く。
 










 マシロにおいて行かれたアイラはマシロの言いつけ通りに練習をしたが、結局、その日の内にマシロが帰ってくることは無かった。
 事前に連絡用として携帯を渡されていたが、電話をかけてもメールを出してもマシロからは何も返答は無かった。
 マシロが出た翌日にはマシロから自由にしてろと言う簡潔なメールが届き、部屋のロックも解除されていた。
 自由にしても良いと言われたのでアイラは町をぶらついていた。
 出かけの際にマシロから渡すようにと言われていたと船長から財布を受け取っている。
 中を確認すると約1月程生活が出来る程の現金が入っていた。
 これを持たされたと言う事はこの金を好きに使っていいと言う事なのだろう。

「高級な奴も良いけど、やっぱりこっちの方が私の口には合ってるのよね」

 アイラはその辺のファーストフード店で大量にハンバーガーを買い込んで抱えていた。
 ホワイトベースで食べたステーキも良かったが、アイラには親しみのあるチープな味のハンバーガーの方が口には合っているようだ。
 せっかく、かなりの現金を持たされてたので、この基に今までなら変えなかった程の量のハンバーガーを買い込んで食べながら歩いていた。
 食べる事に夢中で回りの事は人や物にぶつからない程度の注意しかしていなかった事もあり、アイラは気づけば裏路地に入っていた。
 裏路地に入ると表とは違い、荒んでいる。
 
「どこの国にもこんな場所はあるのね」

 普通の少女であれば、こんな場所に入り込むと怖がってさっさと出て行くが、アイラはフナラ機関にスカウトされる前はストリートチルドレンだった事もあり、こんな場所でも臆する事は無かった。
 余り気にせず食べ歩いていると裏路地の一画に人だまりを見つけた。
 何気なく覗いてみると人だかりの中央にはバトルシステムが置かれ、ガンプラバトルが行われているようだ。
 
「何でこんなところにまで……」

 普通に考えればこんな場所にバトルシステムを設置するメリットは無い為、恐らくはどこかから持ち出された物なのだろう。
 
「どっちも弱すぎ」

 バトルを見たアイラはそう感じた。
 どちらのファイターもアイラから見れば大したことはない。
 尤も、アイラは対人バトルの経験は殆ど無い為、基準となっているのは世界レベルの実力を持つマシロやガウェインで、ストリートバトルのファイターとは実力が段違いなのは当然だ。
 そして、バトルが終了する。
 勝ったのは明らかにガラの悪い大男だ。
 勝った男は相手のガンプラを手にすると地面に叩き付けて踏みつけた。

「くだらない。あんなことで自分の力を見せつけようなんて」

 男の行為は自分の力を周囲に見せつけようとしていると言う事はすぐに分かった。
 アイラが暮らしていたところでも似たような事は日常茶飯事だった。
 一帯を仕切っているボス気取りの奴が自分の力を周りに見せつけて、周りを従わせる。
 尤も、アイラの暮らしていた町の場合はガンプラバトルではなく純粋な暴力でだったと言う違いはある。
 直接的に被害を与える暴力に比べたら、玩具のバトルで優劣をつけている辺り温いとも感じた。

「流石裏キングだな。圧倒的だった」
「えっ! あの程度で!」

 アイラは誰かがそう言った事に反応して声を上げてしまう。
 さっきのバトルを見る限りではそこまで強いとは思えない。
 思わず声を上げた事で、周囲の視線はアイラの方に向く。
 そして、裏キングと呼ばれた男もアイラの方を睨みつけている。

「言ってくれるな小娘が」
「はぁ……」
「待てよ!」

 面倒事になる前にアイラは立ち去りたかったが、そうはいかないようだ。
 余り大事や荒事にはしたくはないが、逃げれば追い駆けて来る事は目に見えている。
 逃げ切る事は恐らくは難しくはないだろう。
 元々、そうやって生き延びて来た。

「……何?」
「ガンプラバトルも禄に知らない癖に勝手な事言ってくれる」
「知ってるし、私はアンタよりも強いわよ。何なら証明しても良いけど?」

 普通に逃げたら面倒な事になる。
 そこで、アイラは一つの策を打った。
 アメリカに来る道中でマシロに一つ言われた事があった。
 大抵の事はガンプラバトルで蹴りを付ける事が出来ると言う事だ。
 余り信じがたい事だが、ガンプラバトルで相手の戦意を削ぐ事が出来れば面倒事にならずにこの場から去る事も出来るかも知れない。
 さっきのバトルを見る限りでは裏キングとやらは自分より強いとは思えない。

「良いだろう! 徹底的になぶり殺しにしてやるよ!」
「出来る物ならね」

 声を上げて威嚇して来る裏キングの事を気にすること無く、アイラはバトルシステムの前に立つ。
 マシロからファイターたるもの、ガンプラは常に持つとうるさく言われていた事もあり、仕方が無くサザビー改を持っていたがこんなところで役に立つとは思わなかった。
 もしも、ガンプラを持っていなければ恰好が付かず、引っ込みも付かなかった。
 アイラはサザビー改をバトルシステムに置いた。
 裏キングも自分のガンプラを置く。

「……さっきとは違う」
「言ったろ? なぶり殺しにするってな!」

 裏キングのガンプラはさっきまでのとは違った。
 前に使っていた奴も今回使う奴もアイラは名前は知らないが、前の奴とは違って今度のは頭部からガンダムだと言う事は分かる。
 裏キングの使用するガンプラはブリッツガンダムだ。

「ブリッツ! 出るぞ!」

 2機のガンプラがバトルフィールドに射出されてバトルが始まる。
 今回のバトルフィールドは廃墟だ。

「見せてやる! 俺のブリッツの真の力をな!」

 裏キングがそう叫ぶとブリッツは風景と同化して行く。

「ガンプラが消えた……」

 ブリッツには作中ではステルスシステム「ミラージュコロイド」が搭載されている。
 それを使う事でブリッツは肉眼からもレーダーからも消える事が出来る。
 ガンプラバトルにおいてこの手のシステムは演出として使用する事が出来る。
 ミラージュコロイドも消えているような演出をしているだけで、実際には少し見えにくいと言う程度でしかない。
 だが、完成度によっては、演出ではなく実際に作中に限りなく近い効果を得る事が出来る。
 裏キングのブリッツもまた、姿を完全に消す事が出来た。

(姿を消す事の出来るガンプラもあるのね。まぁ……姿を消しても粒子で位置はバレバレなんだけど)

 姿を消した事にアイラは驚くがそれだけだ。
 アイラは自分でも何故なのか分からないが、プラフスキー粒子を肉眼で見る事が出来た。
 先読み能力もその能力で粒子の動きが見えているからこその芸当だ。
 リフティングの時にスーパーボールの動きが見えていなかったのはスーパーボールはゴム製である為、粒子が反応していなかった事が原因だった。
 そして、ミラージュコロイドでブリッツが姿を消したところでプラフスキー粒子を見る事が出来るアイラには大した効果は無かった。
 確かにブリッツ自体はミラージュコロイドで見えないが、ブリッツの居る場所は粒子でシルエットだけが浮かんでいるからだ。
 ブリッツが動きながら右腕を上げるとサザビー改は後方に飛び退いた。
 サザビー改がいたところにはブリッツが撃ったランサーダートが突き刺さった。

「良くかわしたな」
(あの槍……接近戦用の武器じゃなかったんだ)

 裏キングはアイラが初撃を回避した事を感心しているが、アイラはブリッツのランサーダートは接近戦で使用する装備だと思っていたらしく、裏キングの言葉など聞いてはいなかった。
 ミラージュコロイドで姿を消しているブリッツはレーザーライフルを連射するもサザビー改を捕える事は出来ない。

(取りあえず……)

 サザビー改はロングビームライフルをブリッツの移動先を狙って放った。
 ビームはブリッツの右腕を撃ち抜いた。

「そのガンプラ、右腕がなくなれば何も出来ないでしょう」

 サザビー改はロングビームライフルを捨てるとシールドに装備されているビームナギナタを抜いてブリッツに接近する。
 
「糞ったれ! 何でこっちの位置が!」

 裏キングはミラージュコロイドで見えていない筈のブリッツに一直線に向かって来る為、狼狽えている。
 ブリッツは左腕のグレイプニールを射出する。

「まだ、武器を持っていたの」

 だが、ミラージュコロイドで見えない筈のグレイプニールをサザビー改はビームナギナタで切り落として、ブリッツを間合いに捉えた。

「裏キングってこの程度? 表のキングの方が強いじゃない」

 サザビー改のビームナギナタは何もない空間を切ったように見えたが、ビームナギナタで切り裂かれた空間からブリッツが浮き出て来て、胴体にはビームナギナタで切り裂かれた傷がついている。
 そして、ブリッツは爆散した。

「大したことないじゃない」

 ミラージュコロイドで姿を消しているのにも関わらず、あっさりと勝利した事で周囲がどよめている。
 バトル相手の裏キングも茫然とするしかない。
 
「今の内に……」

 明らかに向こうの戦意が落ちている為、アイラはさっさと逃げる。
 バトルで戦意を削いだのが功を奏したのか、誰も追って来る事は無かった。
 アイラはこれ以上、面倒事になる前に空港に向かいホワイトベースに帰った。

「全くもう……」

 ホワイトベースに戻ったアイラはベットに倒れ込む。
 裏キングが大したことなかったとはいえ、自由にしていいよ言われておきながらガンプラバトルをした事で少し疲れている。

「さっきのバトル、中々の物だったじゃない」
「アレは相手が弱かった……って!」

 アイラは余りにも自然に話題を振られた為、普通に返しそうになるが、それがおかしいと言う事に気が付いて起き上がる。
 ホワイトベースには生体認証によるセキュリティーシステムが完備されている。
 その為、登録されていない人間が内部に入る事は容易ではない。
 ホワイトベースの船員はこの部屋に黙って入る事はない。

「……アンタ誰なのよ?」

 起き上がり声の先を見るとそこには白衣とセーラー服と言う奇妙な組み合わせの少女が不敵な笑みを浮かべて座っていた。
 
 



[39576] Battle30 「母」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/06/24 09:44
 ストリートバトルを終えて帰って来たアイラの前に一人の少女が現れていた。
 見た感じだとアイラと同年代に見える少女だが、どこか違った空気を纏っている。

「一体どこから……」
「どこってドアからに決まってんじゃん。このユキネ様に書かれば、バイオメトリクス認証を書き換えるなんて余裕なのよね」

 ユキネと名乗った少女はそう言う。
 ホワイトベースのセキュリティは生体認証を採用している。
 ユキネは生体認証のコードを書き換える事で、内部に入って来たらしい。
 言うのは簡単だが、ホワイトベースの生体認証のコードのセキュリティはレイコが制作した物で並のハッカーでも簡単に破れる物ではない。
 それを簡単に書き換えたユキネはただ者ではないのだろう。

「帰ったぞ」
「お帰り! シロりん!」

 ユキネの正体も目的も分からないまま、状況が掴めないところにレティとハルキと会って来たマシロが帰ってくる。
 アイラよりも先にユキネがそう言い、アイラはキョトンとした。
 ユキネの物言いからユキネとマシロは知り合いなのだろう。

「……何でいんだよ」

 ユキネを見た途端にマシロは顔をしかめる。
 その反応からもマシロはユキネの事を知っていると言う事が分かる。

「何でって私のシロりんに会いに来たんじゃない」
「いつから俺がアンタの物のなったんだよ」
「マシロの知り合いなの? てか、シロりん?」

 マシロが帰って来た事で落ち着きを取り戻したアイラが質問する。

「シロりん言うな。この人は……母さんだよ」
「え?」

 アイラはマシロとユキネを何度も見る。
 ユキネはどう見ても自分と同年代でマシロよりも年下に見える。
 そんなユキネがマシロの母親だとは素直には信じられない。

「父さんの名誉の為に言っておくが、母さんはこう見えても40後半のれっきとしたババァだ」
「失礼しちゃうわね」
「本当の事だろう。ほんと、女って怖いよな。若作りでここまで歳を誤魔化せるとかさ」

 もはや、どこから突っ込まばいいのか分からなかった。
 マシロの父親が自分の息子よりも若い少女を妻に迎えたと言うのであれば、分かり易かったが、ユキネは自分の倍以上の歳らしい。
 そして、若作りと言うレベルではない。

「独自に研究したアンチエイジングの結果よ。女はいつまででも若々しくありたいじゃない」
「やり過ぎだっての。その容姿で父さんと一緒に表に出て見ろ。一発でアウトだぞ」

 アンチエイジングでそこまでの効果はあるとは思えないが、マシロはそこは気にしていない様子だった。
 あくまでも未成年にしか見えない容姿の事が問題らしい。
 ここまで気にされないと、自分の認識の方がズレているかも知れないとまで思わされてしまう。

「んな事より、今までどこに行ってたんだよ。父さんが死んだ時に探したんだのにさ。アリアンに言って来るってだけじゃ分かんないんだよ」

 ユキネは数年前にアリアンに言って来ると言う置手紙を残して行方を暗ませた。
 ユキネが研究の為に行方を暗ませると言う事は珍しくも無い為、その当時は誰も気にすることは無かった。
 しかし、父キヨタカが死んだ時には妻であるユキネの行方を捜した。
 クロガミ一族の情報網をフルに活用してユキネの行方を捜索させた。 
 だが、ユキネのいると思われるアリアンを見つける事が出来なかった。
 国や町、村を始めとして辺境の集落や個人に至るまで捜索の幅を広げたが、ユキネはおろかアリアンの手がかりすら見つける事が出来なかった。
 まるで、ユキネもアリアンも地球上のどこにも存在していないかのようにだ。
 
「シロりんはおバカさんだからなぁ……そんなシロりんの頭でも分かるように一言で言うと……異世界?」

 ユキネがそう言うと、アイラは無言でマシロを部屋の隅まで引っ張って行く。

「こう言う事を言うのは抵抗あるんだけど、マシロのお母さん……大丈夫なの?」
「いや……流石に今回はダメかも知れん。まだ、木星圏でGNドライヴを作ってたとかの方が説得力がある」

 二人は済みでユキネには聞こえないように話す。
 流石にいきなり異世界と言われても信じる事は出来る訳が無い。

「それもどうなのよ」
「母さんは海外旅行のノリで月に行ったりするからな。それにSF……特に父さんも好きだったガンダムの技術に対抗して過去に本当にやった事がある」

 アイラには信じ難いが、マシロからすれば異世界に行っていた事は信じる事が出来なくても、木星圏に行っていたと言われれば信じる事が出来るらしい。
 少なくとも、ユキネは過去にいつの間にか月にいた事もある。
 
「良くないなぁ……自分の理解出来ない事を全て否定するなてさ。昔はママ、ママって素直で可愛かったのに……これが噂に聞く反抗期! ユッキーは素直過ぎてなかったなぁ……」
「科学者の癖に捏造するなよ。兄貴は反抗期なんてガキみたいな事、ある訳ないだろ。てか、俺も反抗期じゃないし」
「シロりんの癖に細かすぎ」

 ユキネはそう言ってむくれる。
 実際、マシロはユキネに甘えた過去など全くない。
 尤も、兄弟の中でマシロが最もユキネに可愛がられていたが、当時のマシロはガンプラに夢中でやたらと構って来るユキネの事を鬱陶しく思っていた。

「で……何の用? 俺、アイラの指導で忙しいんだけど?」
「は?」

 マシロがそう言うが、アイラは指導らしい指導は受けた覚えはない。
 完全にユキネを帰らせる理由に使われている事は明らかだ。

「ふーん。あのシロりんがねぇ……まぁ良いけど、ああ、そう言えばシロりんが喜びそうなお土産を向こうから持って来たんだった」

 ユキネは白衣のポケットに入っていた物をマシロに放り投げる。
 マシロは掴み損ねるも、床に落ちる前に何とか受け止める事が出来た。

「何これ?」

 ユキネが放り投げたのは小さな宝石のような石だ。

「それはアリアン王家の秘宝で……プ……」
「そう言う設定は良いから、ほら母さんも何かの研究で忙しんだろ」

 ユキネは渡した石の説明をしようとするも、マシロは聞く気が無い為、ユキネを追い返そうとする。
 マシロはユキネを部屋から追い出すと入って来れないようにロックをかける。
 ユキネに対して意味のない事だとは分かっているが、ユキネの方も用は済んだのか戻って来る気配はない。

「さて……母さんにああ言った手前、何もしないと言う訳にはいかないか」
「え……あ、うん。けど、良かった訳?」
「アイラさは……いい年こいてあんな恰好の母親を人前に出したい訳?」
「……何かごめん」

 アイラ自信、母親と言われてもピンと来ないがマシロの言いたい事は何となくわかった。
 見た目こそはアイラと同年代だが、中身は倍近くの歳だ。
 そんな母親がセーラー服を来て人前にいると言う事は息子としては拷問なのだろう。

「気にするな……俺のいない間に指示した練習はやり続けただろうから少し別の事にするか」
「……うん。お願いするわ」

 実際のところ、マシロに練習を指示された昨日は練習をサボった訳ではない。
 だが、元々始めこそはマシロを見返す為にやる気を出していたアイラだが、失敗が続きやる気を無くして、日が傾く頃には休憩時間の方が長かった程だ。

「アイラさはガンダムに関する知識は無いに等しいだろ?」
「だって見た事も興味もないし」
「その辺りの知識を増やすと言う事も重要だ。知識に頼りっぱなしと言うのも先入観となりかねないが、全く知識がないと言うのは論外だからな」
「まぁ……そうかも」

 アイラにはガンダムやガンプラに関する知識は無いと言っても過言ではない。
 元々、ガンダムやガンプラが好きだった訳ではない。
 たまたま、プラフスキー粒子を見る事が出来たのでフラナ機関にスカウトされたに過ぎない。
 その為、知識の無さは他のファイターと比べると不利に働いてしまう。
 今日のバトルでも、姿を消す敵に対して、粒子が見える為、意味を成さなかったが、自分の知らない能力を持ったガンプラとバトルした時に一気に劣勢になる事はあり得る。
 ガンプラバトルでそこまでして勝ちないとまでは思わないが、負けてしまえばフラナ機関から切り捨てられるかも知れない。
 そうなれば、アイラはまたストリートチルドレンに逆戻りだ。
 それを避ける為には面倒だろうと知識を増やすと言う事は訳の分からない練習よりかは納得も出来る。

「キャラに関する事は後回しで構わないから、映像化されている機体の判別と能力の判断程度は瞬時に出来るようにはならないとな」
「参考に聞くけど、それそのくらいあるの?」
「聞く?」
「……止めておくわ」

 リフティングに比べれば必要性は理解出来たが、リフティングとは別の方向で厄介な事になったとアイラは後悔しかけるも、そんな事はお構いなしにマシロは持ち込んできた資料集や設定集を漁っていた。









 マシロにより、追い出されたユキネは大人しくホワイトベースから降りていた。
 元々、マシロの様子見と土産を渡すだけの目的で会いに来ている。

「レイレイの差し金で面白い事になってるから見に来たけど、余り状況は動いてない感じだったわね。まぁ、あの子は運命的な確立は無意識に排除して考えるから、今の状況が核弾頭を抱えているって事に気づいてそうもないけど」

 ユキネも今のマシロの現状がレイコによる物だと言う事は調べが付いている。
 だが、レイコは自分で思っている以上に今の状況が危険だと言う事には気づいていない。
 レイコは情報戦においては天才的な才能を持っている。
 その点に関してはユキネも認めている。
 それでもユキネからすれば、まだレイコは甘い。
 あらゆる事態を想定していても、実際にはありえない程の確率は無意識にうちに捨てて考えている節がある。
 しかし、今回に限ってはその奇跡とも呼べる確率の事態となっていた。

「シロりんも気づいていない筈がないんだけどね……これはもう、無意識化でラノベ主人公並みの鈍感さを発揮して気づかないようにしてるんだろうね。自分の本当の望みすら気づいていないみたいだし」

 そして、今の現状はマシロなら気づかなければおかしいが、ユキネが会った感じからはマシロはまだ気づいていないようだ。
 マシロは本家の兄弟の中で最もユキネに近い。
 自分の欲望に素直で、その為なら普通の人間はおろか、クロガミ一族の本家の人間すらも躊躇する場面で躊躇う事無く前に進む事が出来る。
 少なくとも、自分以外で長い歴史を持つクロガミ一族でそこまで人間的に壊れていた者は多くはない。
 そんな自分に一番近いマシロだからこそ、ユキネは実の息子であるユキト以上に愛情を注いでいるつもりだ。
 
「まぁ……気づきたくないと言うのは分かるし、それが正解なんだけどね。知ってしまえば、その先にある物は希望ではなく絶望だと言う事をシロりんは知ってる」

 マシロが今、物足りなさを感じ何かを求めている。
 それをユキネは知っている。
 そして、マシロもすでに気づいている筈だった。
 それでも尚、気づいていないのはマシロ自信は知る事を拒んでいるのだろう。
 例え、物足りなさを感じていても、気づいた先には絶望しかないからだ。

「だけど……私とクロりんの息子なら単純な終わり方もしない筈。私は向こうでまだやりたい事が山ほどあるからしばらくはこっちに戻らないけど……シロりん。期待しているから。シロりんが絶望にぶち当たった後にどんな答えを出すのか、その果てにどんな結末を迎えるのか……」

 知れば絶望する事は分かり切っている。
 マシロが望む物はそう言う物だからだ。
 だが、ユキネはその先にマシロが何を見出すのかに興味を持っている。
 クロガミ一族の中で最も異質で最も自分と先代当主のクロガミ・キヨタカに愛されたマシロだからこそ、どんな答えを出すかユキネにも今のところは殆ど予想は出来ない。
 だからこそ、ユキネはマシロの動向を見守る事にした。
 
「私とは違って純粋に愛したクロりんの為にも絶望して終わりだと言うありきたりでつまらない終わり方だけはしないで頂戴よね」

 ユキネは自分が親としては全うな愛情を注いでいたとは思わないが、キヨタカはマシロにファイターとしての英才教育や必要な物を与えた反面で、自分と同じようにガンダムやガンプラに魅入られていたマシロを子供たちの誰よりも愛情を注いでいた。
 そして、ユキネもまたそんなキヨタカの事を誰よりも愛していた。
 だからこそ、血は繋がらずともユキネにとってマシロはキヨタカの忘れ形見でもある。

「尤も、私はクロりん程良い親にはなれないから、後は自分で何とかして貰うしかないけどね」

 マシロに対して愛情がない訳ではない。
 それでも、ユキネにとっては自分の興味のある事の研究を止める事は出来ない。
 ユキネは飛び立つホワイトベースを見送り路地裏に入る。
 そして、路地裏が少し光ると、そこにはユキネの姿は無かった。







 アメリカを発ったホワイトベースは次の目的地へと道中にある。
 そして、アイラはテーブルにひれ伏していた。
 その周りには、マシロが用意した「教科書」が山のように積まれている。
 当初は映像化されているガンダムの数は10数種類程度で、かなり多いが、何とかなると軽く見ていたが、そうでもなかった。
 なにせ、平均して10機は最低でも覚えないといけないケースが大半だ。
 始めのファーストガンダムの辺りでは、余裕を見せていたアイラだったが、数時間後のZ、ZZに来る事には覚えきれなくなっていた。

「だらしがないな」
「うるさい……」

 マシロからすればこの程度の数を覚えると言うのは難しい事ではない。
 今のところは映像化されている機体のみである為、普通に作品を見れば覚える事が出来る。
 そこに設定集で足りない部分を補うだけで良いのだが、興味のない人間からすれば、苦痛でしかない。
 
「仕方が無いな……俺も鬼ではないからな。特別にザクとジムの系列の機体を覚えるだけで一先ずは勘弁してやる」
「本当に!」

 マシロの提案にアイラは食いついて来た。
 だが、アイラは知らなかった。
 マシロが出したのは決して妥協案ではないと言う事に。
 ザクもジムもファーストガンダムに登場した量産機の中でも有名なモビルスーツだ。
 アイラも名前くらいは聞いた事がある。
 その2機の種類と言っても精々、10機程度の事に過ぎないと考えていた。
 しかし、それは大きな誤りだと言う事に気づいていない。
 ザクもジムもバリーションの数を上げればキリがないからだ。
 ガンダムにおいて漫画などでの外伝作品やゲーム化において最も舞台とされやすいのがファーストガンダムの一年戦争となっている。
 そして、その中でザクとジムを改良した専用機やカスタム機が生み出される事は決して珍しい事ではない。
 更には一年戦争の後もその2機の流れを汲む機体は次々に生まれている。
 その上、ザクに至っては宇宙世紀と限定していない為、ガンダムSEED DESTINYに登場したザク・ウォーリアとザク・ファントムも含まれている。
 元々がザクやジムの流れを汲んでいる為、外見からは微妙な違いしかない機体もある事もあって、マシロの代案は分かる人からすれば見分ける事は容易いが、アイラのように興味もなければ知識の少ない者には見分ける事はおろか、同じ機体に見えると言う事もあり得る。

「ああ、本当だって。ただし、機体を見ただけで即答できる程に完璧に覚える事が条件だけどな」
「それで良いわ。何とかガンダムとかガンダム何とかよりかは覚えるよりかは簡単そうだしね」
「それじゃ資料を整理するから待ってろ」

 マシロは用意した設定集の整理を始める。
 すると、室内に備え付けの船内用の通信機が鳴る。

「何?」
「申し訳ありません。当初の予定よりも食料の消費が激しく、どこかで補充をする必要が出て来ました……」
「ああ……成程ね」

 マシロはアイラの方を見る。
 元々は食糧もある程度は積んでいる。
 だが、予想外の事態として、アイラの一度の食事量はマシロ達の予想を大きく上回っていた。
 その為、予定よりもだいぶ早く食料の補充が必要になったらしい。
 通信の相手は船長だが、予定外の事で申し訳なさそうな声をしているが、マシロの方も状況は察している。

「別に構わないから、近くで降りられる場所を探して補給しておいて」

 マシロとしても特別急いでいると言う訳ではない。

「了解しました。すでに降りる場所と食材の手配は済ませてあります」
「流石、仕事が早いね」

 向こうもクロガミグループで雇っている一流の人間だ。
 予想外の事態でこそあったが、その後の対応としてすでにホワイトベースを下す場所と、降りてからの補充の手配は済ませてあった。
 後はマシロへの報告と補充を受ける承諾だけでこの問題は解決する。
 
「恐れ入ります。それで、降りる場所は……」
「なっ……」

 船長が降りる場所の名を報告した途端、マシロは目に見えて動揺した。
 幸いにも船長の方は音声のみで、アイラもマシロの方を見ていなかった為、誰にも気づかれる事は無かった。
 船長は当然知らずに一番近くでホワイトベースを着陸させる事の可能な場所として、その場所に決めた。
 しかし、どんな偶然なのか、その場所こそがマシロがかつて育った故郷の町だったからだ。
 



[39576] Battle31 「帰る場所」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/07/02 10:31
 マシロは約10年ぶりに生まれた町に帰って来た。
 町に向かう時にアイラを誘うと言う事は無かったが、アイラは町に行く気は無いのか、珍しく真面目に勉強をしていた。
 それがいつまで続くか分かった物ではないが、マシロはアイラを誘う事無く、生まれ故郷の町を歩いていた。

「結構変わったな。この町も」

 マシロは歩きながらそう感じた。
 マシロが町を出てから10年近くも経てば町も変わるだろう。
 それとも、以前のマシロと今のマシロとでは見えている物が違うからそう感じるのかも知れないが、それを判断する事は出来ない。
 
「治安が悪くなってんのか?」

 そう思う根拠として、明らかに以前よりも巡回している警察官の姿が多い。
 それは以前に比べて、治安が悪くなっている証だ。

「あの店……」

 マシロは不意に立ち止まる。
 その視線の先には、かつて、マシロがイオリ・タケシとガンプラと出会った模型店があった。
 しかし、その模型店は今は営業していないと言う事が一目でわかった。
 模型店のショーウィンドウのガラスが割られているからだ。
 そして、模型店の中に人気は感じられない。
 マシロにとって全ての始まりとも言える場所が無残に変わり果てた姿に虚しさを感じる。
 この模型店の店主は子供好きで、ガンプラのジャンクパーツを格安で売ってくれたりしていた。

「マシロ?」

 干渉に浸っていると、後ろから声をかけられた。
 振り向くとそこには一人の男が立っていた。

「……ヨハン?」

 マシロはすぐには思い出せなかったが、記憶の片隅から何とか引っ張りだした。
 記憶の中ではまだ、幼いが確かにマシロと同じ孤児院にいたヨハネスの面影がある。

「やっぱり、マシロだったのか! 帰って来てたのか!」
「まぁ……な」

 多少、ガラが悪くなったと印象を受けるも、ヨハネスは相手がマシロだと言う事を確認すると、あの時と変わらない笑顔を見せた。
 一方のマシロは少しバツが悪そうにしている。

「折角、再会したんだ。こんなところで立ち話もなんだ。俺達のアジトに来いよ」
「アジト?」

 アジトと言う言い方に違和感を覚えるも、半ば強引にマシロはヨハネスに引っ張られて車に乗せられた。
 そして、ヨハネスに連れて来られたのは、町から少し離れたショッピングセンターだ。
 マシロの記憶の中では、このショッピングセンターは町から少し離れて交通の便は不便だが当時は憧れていた場所でもあった。
 そんなショッピングセンターもこの10年近くで営業が立ち行かなくなったのか、廃墟と化していた。
 確かにここなら、アジトと言うのもしっくり来た。

「ようこそ! 俺達のアジトに! 歓迎するぜ!」

 ヨハネスはそう言って、マシロを中に招き入れた。
 中には二人以外にも人がいるが、どう見ても全うな生活をしているようには見えない。
 ストリートチルドレンがつぶれたショッピングセンターを根城にしているかのようにも思えた。
 その中にはマシロの見覚えのある顔もちらほらあった。

「まぁ、座れよ。ろくにもてなしもできねぇけどな」

 ヨハネスに連れて来られた部屋でマシロは座り込む。
 潰れたショッピングセンターと言えども、元々物があったのか部屋は潰れたショッピングセンターの中だと言う事を除けば少し汚いだけの普通の部屋だ。

「ここに住んでんのか?」
「まぁな。見てくれは悪いけど、住んでみれば結構快適なんだぜ」

 マシロは何故、ヨハネスがこんなところに住んでいるかは聞かなかった。
 大体の理由は分かっているからだ。

「で……何で俺をこんなところに連れて来たんだよ。ヨハン」
「おいおい……10年振りくらいの再会だってのに、冷たいな。兄弟」

 ヨハネスは少しおどけてそう言う。
 確かにかつて兄弟のように同じ孤児院で育ったマシロで偶然にも再会したら、話しをするのに特別な理由も必要はないだろう。
 尤も、マシロは自分でも驚きく程、ヨハネスとの再会をどうでも良く感じていた。

「まぁ……今日、マシロと再会したのも運命だな。マシロ、俺達に協力しろ」
「協力?」

 さっきまでのおどけた表情からうって変わり、ヨハネスの表情は真剣になる。
 
「俺達の家が今どうなってるのか知ってるか?」
「いや……」

 マシロは今は孤児院がないと言う事は知っていた。
 10年程前、マシロを引き取る際にクロガミ・キヨタカから多額の寄付を受けた孤児院の院長はその金を使って孤児院の改修や、子供達に勉強の場や玩具などを与えた。
 しかし、金回りの良かったところを性質の悪い連中に目を付けられ、院長の人の好さを利用されて、寄付された金は巻き上げられて、多額の借金まで背負わされたと聞いている。
 それを聞きつけたキヨタカは借金の肩代わりを申し出るも、院長は自分の責任だからと肩代わりを拒否し、自ら働いて借金を返そうとした、
 だが、その無理が祟り院長は過労で亡くなり、孤児院は借金の形に差し押さえられて取り壊されたと聞いていた。
 その際に孤児院の子供たちはバラバラになった。
 孤児院がなくなったと聞いた、マシロは世界一になって帰ってくると言う目標がなくなった事で、今のマシロのように表舞台で活躍して認められる事はどうでも良くなり、誰かに認めて貰わなくても自分の実力を磨き続けるとようになったのかも知れない。

「孤児院を潰した奴はその辺りに大型のショッピングモールを建設する為に、院長を嵌めやがったんだよ!」

 元々、孤児院のあった場所はショッピングモールを作るのに立地条件が良かったらしい。
 その為、金回りが良かった事はきっかけに過ぎなかった。
 今では、そこには大型のショッピングセンターが建てられて、町の中心と言っても過言ではない。
 その影響で交通の便の悪いこっちのショッピングセンターは潰れてしまったのだろう。

「ヨハンは一体何をする気で俺に何をさせたい」
「何、お前に難しい事はさせないさ。お前でも見張りくらいは出来るだろ」

 そう言うヨハネスからは明らかにマシロを自分よりも下に見ていると言う印象を受ける。
 それも当然の事だろう。
 ヨハネスの知るマシロは運動も勉強も出来ないあの時のマシロのままだ。
 子供だった当時はともかく、今では完全にマシロの事は見下す対象なのだろう。
 それだけでも、自分の知るヨハネスから変わってしまったと言う事が分かる。
 以前のヨハネスは何の取り柄の無いマシロが、周りから苛められた時には率先して、マシロを守っていた。
 そんなヨハネスだからこそ、孤児院ではリーダー格でもあった。

「俺のダチに爆発物関係に詳しい奴がいるんだよ。コイツに頼んで、ショッピングモールをぶっ壊す」
「正気か?」

 マシロはガンプラバトルでも滅多に見せない程、内心では驚いていた。
 ヨハネスは悪がきの悪さでは済まされない事をしようとしている。
 ショッピングモールの爆破など、悪戯では済まないれっきとした犯罪行為でテロと言っても差し支えは無い。

「当然だ。あそこは俺達の家のあった場所だ! そんなところにあんなもんがあるなんて許せる訳が無いだろ!」

 ヨハネスは次第に声を荒げていく。
 彼らからしてみれば、自分達の家を土足で荒らされたような物だろう。

「なぁ……ヨハン。お前達はさ、こんな生活をしているみたいだけど……そうなる前に大人とかに助けを求めたりしたのか?」

 マシロは不意に思いついた事を話す。
 ヨハネスたちがここで生活しているのは、当然の事ながら正式に認められている訳ではない。
 孤児院がなくなって住むところがないから、こんなところに住んでいると言う事は予想がつく。
 孤児院が取り壊されたのは、何年も前の話しで当時はヨハネスもまだ幼い子供だろう。
 そんな子供が行き場を無くせば、大人たちは何かしらの手を差し伸べてくれたかも知れない。

「……お前、ふざけてんのか? 俺達の家を奪ったのは大人たちなんだぞ? そんな大人たちは信用できるか! そんな大人たちの力に頼るなんて俺達のプライドが許さねぇ!」
(プライドか……何だろう。なんかむかつく)

 ヨハネスの言葉を聞いて、マシロはそう感じた。
 今のヨハネスたちは大人を信用していない。
 住んでいた孤児院を奪われ、父のように慕っていた院長を失ったからそれは仕方が無いかも知れないが、マシロにとってそんな事はどうでも良かった。
 まだ、幼かったヨハネス達が大人の力を借りずに生き抜く方法は限られて来る。
 少なくとも、全うな方法では不可能だ。
 つまりは違法行為にだって手を染めている。
 そして、大人の力を借りたくない理由がプライドだった。
 そんな、ヨハネスに対して、マシロは自分でも驚く程に嫌悪していた。
 マシロにとってはプライドなど、自分の目的を達成する為に邪魔となれば躊躇いも迷いもなく捨てる物でしかない。
 しかし、マシロの兄であるユキトは一族の誇りやプライドに拘る事がある。
 同じプライドに拘ると言っても、ユキトの場合はプライドを守ると言う行為は、一族の長としての矜持であって、先代の父に恥じない為に拘っている為、プライドに拘る事はマシロにとっては意味のないように見えるが、その姿はかっこよく見えた。
 だが、ヨハネスの場合はつまらない見栄や自尊心を守る為にやっているようで、その為に犯罪にまで手を染めている為、非常にかっこ悪く見える。

「そんな事はどうでも良いさ。それよりも計画の方だ。流石にお前はいきなり決断は出来ないから、猶予はやるよ。結構は今日の夜だ。その時間帯ならレストラン街で食事する客たちも巻き込む事が出来る」
「急だな」
「まぁな。だからそんな日にお前と再会するのは運命かも知れないな」

 ヨハネス達の予定していた日に偶然にも10年振りに故郷に帰って来たマシロと再会する確率はとんでもなく低いだろう。
 そこに運命じみた物を感じてしまうのも無理はない。

「取りあえず、車で送るけど、くれぐれも計画の事は漏らすなよ」
「分かってる」

 ヨハネスは、仮に計画を漏らした場合はマシロと言えども殺すと言わんばかりの威圧を込めた警告をするが、マシロには余り意味がない。
 マシロには常にSPが警護している。
 仮にマシロにヨハネスが危害を加えるようならば、そのSPがヨハネス達を瞬時に制圧するだろう。
 ヨハネス達もある程度は荒事の経験があるようだが、マシロに付いているSPはクロガミ一族が雇っている一流の者達だ。
 個々のスキルや統率力に関してはヨハネス達の比ではない。
 その為、幾ら威圧されたところで、マシロは気にする必要はない。
 マシロに警告し、ヨハネスはマシロを町まで送り届けた。




 

 町に出る事なく、ホワイトベースに残ったアイラは頭を抱えていた。
 マシロがいない中、マシロに言われた通りにザクとジムの種類を覚えようとするが、中々上手く行かない。

「何なのよ……F型とか、S型とか専用機とかどんだけあるのよ。敵は全部、ザクで良いじゃない。ジムも改とかⅡとかカスタムとか……味方の奴は全部ジムで良いじゃない」

 思っていた以上の種類にもはや見分けを付ける事は出来ないでいた。
 ザクもジムもベース機から大幅に見た目が分かる事は無い為、微妙な違いで判別しなければならない事が多い。
 簡単に思えたが、マシロに嵌められたと思い始めた頃にマシロが帰ってくるが、マシロは何も言わずにベッドに倒れ込む。

「何かあったの?」

 降りる前から少し様子がおかしかったように思えたが、今は明らかに様子がおかしい。

「何で?」
「何か、マシロらしくないわよ」
「俺らしいか……なぁ、アイラから見て俺ってどんな奴に見える?」

 突然の問いにアイラは少し考え込む。
 すでに一か月近く行動を共にしている。
 その大半がホワイトファングの中で、二人でいる時間は多い。
 だが、殆どがガンプラバトルに費やしている為、そんな事を考える事は一度もなかった。

「そうね……自分の好きなように生きているって感じだと思う」
「成程ね。まぁ、間違いではないか」

 それがアイラのマシロに対する率直な感想だ。
 とにかく、マシロは自分のやりたい事をやりたいようにしている。
 それでアイラは色々と振り回されている。

「話しを変える。アイラは何かを壊したいと思う程、憎んだ事ってある?」
「は? 何言って……」
「答えてくれ」

 マシロはアイラの知る限り初めて、真面目な表情をしている為、流石に適当に答える事は出来ずに考える。

「マシロが何を聞きたいのか分からないけど、あるかないかで言えばあると思う……だけど、私はソレに生かされているような物だから、多分……どんなに憎んでもそれを壊す事は出来ないと思うわ。これで満足?」
「ああ……うん」

 マシロはそれ以上は深く追求する事は無い。
 話しのニュアンスから大体の事は想像は出来るが、それはアイラの事情でマシロには今は関係のないことだ。

「で、それが何なの?」
「やっぱ駄目だわ。考えたって埒がない」

 マシロはそう言って起き上がる。

「ちょっと出て来る」
「は? マシロ!」

 マシロはそう言うとアイラに何も説明する事なく出て行く。
 
「何なの!」

 訳も分からずに取り残されたアイラはただ叫ぶことしかなかった。





 マシロはホワイトベースから車を出せると、町に戻って来た。
 目的の場所は今夜、ヨハネス達が爆破を予定しているショッピングモールだ。

「ただいま……って言っても意味はないか。けど、まぁ……これで約束は果たしたって事で」

 マシロはショッピングモールの前でそう言う。
 だが、そこにはマシロの返ってくる筈の場所は無い。
 当然、マシロを出迎える者も居ない。

「本当に無くなったんだな」

 ここに来てようやく、それを実感した。
 孤児院が無くなったと聞いて、ここに来る理由も無い為、クロガミ家に引き取られて初めてここに帰って来た。

「俺って結構、薄情な奴だったんだな。何も感じない」

 孤児院も無くなり、ショッピングモールとなってかつての名残を全く見せないが、マシロはそれに対して何も思う事は無かった。
 そう思いつつも、マシロはショッピングモールの中に入って行く。
 すでに日が傾き始めているが、中にはまだ大勢の客が買い物を楽しんでいる。
 この様子だと夜になっても人足が減ると言う事は無いだろう。
 中を歩いていると、マシロはおもちゃ屋を見つけて立ち止まる。
 
「結構、大きい奴が入ってんだな。まぁ、うちホワイトファング程じゃないけど」

 そう言いながら、店の中を覗いてみる。
 おもちゃ屋であるが、ガンプラのブースは結構確保されている。
 特に目的もなく、マシロは店内をぶらついていた。

「あー! マシロだ!」
「ん?」

 後ろから、そう呼ばれてマシロは立ち止まって振り返る。
 そこには幼い子供がマシロを指さしている。
 取りあえず、周囲を見渡したが、騒音で周りは子供の声は聞こえていないのか、マシロは注目されていない。

「こら! 駄目じゃない」

 その後から、子供の母親が子供にそう言う。

「ごめんなさい。この子、なんか大きい大会をやっているのを見てから貴方のファンなんです」
「ふーん」

 マシロが出て、テレビで放送されているとすれば、世界大会くらいだろう。
 その世界大会で、マシロは世界のファイターに喧嘩を売ったが、この子供くらいの歳ではそこまで理解はしていないのだろう。
 純粋に強いファイターであるマシロに尊敬の目を子供が向けている。

「今日ね。ママにガンプラを買って貰うの! それでね! パパと一緒に作るんだ!」

 子供は持っていたガンプラをマシロに見せる。
 それはマシロのガンダム∀GE-1のベースとなっているガンダムAGE-1 ノーマルだった。
 世界大会で活躍したファイターが使用するガンプラは世界大会終了後に売れると言う事は毎年の事だ。
 子供も、マシロのバトルを見てAGE-1を買って貰いに来たと言う所だろう。

「ねぇ、僕が大きくなったらバトルしてくれる?」
「どうだろうな。お前が世界大会に出られるようになったら相手をしてやっても良いぞ」
「本当! 僕頑張る!」

 マシロは遠回しに世界レベルのファイターでなければ、相手をしないと言ったのだが、子供はそれに気づく事な無く、世界大会に出られるまで頑張ればバトルしてくれると取ったようだった。
 
「……まぁ頑張れ」
「うん!」

 子供はマシロに手を振りながら、母親に手を引かれてガンプラをレジに持っていく。
 マシロは少し疲れながらも、子供を見送っているとある事に気が付いた。

「……何だよ。変わらない物もあったじゃん」

 子供がガンプラを持っていたレジを担当していた店員に見覚えがあった。
 10年近くも経った事で老け込んではいるが、マシロがイオリ・タケシと出会った模型店の店長だった。
 自分の店は経営が立ち行かなくなったが、今もここで子供たちにおもちゃを売っていた。
 その様子はあの時と何も変わっていなかった。
 例え、町や友が変わって、何もかもが変わってしまったように見えてが、それでも尚変わってない物がここにある。

「やっぱ……駄目だよな」

 ヨハネスに協力を頼まれた事は正直どうでも良いと思っていた。
 孤児院が無くなったことも、院長が死んだ事もどこか他人ごとだった。
 だから、ここに来て確かめたかった。
 自分がヨハネスに同調出来るかどうかをだ。
 結果としては、何もかもが変わってしまったと言う事を認識したに過ぎない。
 すでにここに自分の帰る場所は無いと言う事をだ。
 その為、ここを破壊する事はマシロにとってはどうでも良い。
 だが、何もかも変わってしまった故郷の町で唯一変わらない物がここにはあった。
 例え、ここには以前のように自分やヨハネス達が笑って過ごした家は無いが、別の笑顔を作っている。
 例え、ここが善意を利用した悪意や犠牲の上に成り立っているとしても、あの子供の笑顔は純粋で、あの時の自分達の笑顔を何も変わらない。

「……シリアスとかヒーロー見たい事は俺のキャラじゃないんだけどな……けど、仕方が無いか」

 すでに答えは出ている。
 マシロは携帯電話を出してどこかにかけると車に戻り、ヨハネスの待つショッピングセンターへと向かった。



 ショッピングセンターに到着して中に入ると、ヨハネス達は計画実行の準備に追われていた。
 マシロが中に入ってすぐにヨハネスがマシロに気が付いて寄って来る。

「マシロ。来てくれたんだな」
「まぁな……それより、ヨハン。久しぶりにガンプラバトルしようぜ」

 いきなりマシロにそう言われて、ヨハネスは驚いている。

「何だよいきなり。忙しいの分かってんだろ」
「せっかく、再会したんだ。爆破した後だとやってる暇はないだろ?」
「確かに。今日はめでたい日だからな。久しぶりにやるか」

 マシロがガンプラを貰ってから、孤児院の男子の中でガンプラが流行った時期があった。
 ガンプラ自体、高い物から安い物まである為、安い物なら子供たちに買い与えるくらいの余裕は当時の孤児院にはあった。
 ガンプラバトルが始まってからもそうだった。
 ヨハネスは孤児院の子供たちの中でも一番強かった事はマシロは今でも覚えている。
 尤も、今のマシロがガンプラバトルの世界チャンピオンだと言う事は知らないようなので、今は殆どやっていないのかもが知れない。
 ヨハネスは今日が計画の実行である事で気分が良いのか、唐突な申し出にあっさりと受け入れた。
 それかは数十分後にショッピングセンターの広場にバトルシステムを設置された。
 バトルシステム自体はここのゲームセンターに残されていた物を持って来た。
 プラフスキー粒子が残っているのは、この辺りのゲームセンターのバトルシステムから粒子を盗んで来て度々暇つぶしで遊んでいたのだろう。
 電源もどこかから盗んで来たのか、発電機を置いているのかは分からないが、ショッピングセンター自体に電気は通っているようだ。
 バトルシステムが設置されて、余興として、ヨハネスの仲間たちが観戦している。

「じゃ始めるか」

 マシロはGPベースをバトルシステムにセットしてガンプラを置いた。
 今回はセブンスソードで行くようだ。
 対するヨハネスのガンプラはデスティニーガンダムだった。

「マシロ・クロガミ。ガンダム∀GE-1 セブンスソード……出る」

 大勢の観客が観戦する中、バトルが開始された。
 今回のバトルフィールドは宇宙で障害物の類は存在しないオーソドックスなバトルフィールドとなっている。

「せっかくの余興だ。あっさりと負けるなよ」

 ヨハネスはそう言って先制攻撃を仕掛ける。
 デスティニーはビームライフルを連射して、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは回避する。

「少しは出来るようになったんじゃないのか?」
「そりゃどうも(ヨハンとのバトルは久しぶりだけど……何だろうな)」

 デスティニーのビームライフルを回避しながらマシロは思い出していた。
 かつて何回もヨハネスとバトルをした。
 その時は全く歯が立たずに一度も勝ったことはない。

(ヨハンってこんなに弱かったっけ?)

 だが、今、バトルして見て感じた事がそれだった。
 以前は一度も勝てなかったヨハネスとのバトルにおいて、マシロはヨハネスの事を弱いとしか感じられない。
 それも当然のことではあった。
 元々、マシロが一度も勝てなかったのは自信の才能に気づかずにそれを伸ばす事をしていなかったからだ。
 今のマシロは自分の才能を知り、それを活かす術を知っている。
 そして、この10年近く、ひたすらに上を目指し続けて来た。
 そんなマシロと暇つぶし程度でしかバトルをして来なかったヨハネスとの間の実力差が覆り、圧倒的に開いた事は必然だ。

「逃げ回ってるだけじゃ勝てないぜ!」

 デスティニーはバックパックの長距離ビーム砲を放ち、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはシールドで防ぐ。

「なぁ……ヨハン。一つ賭けをしないか?」
「賭けだと?」
「このバトルで俺が勝ったら、爆破計画は中止にしろ」

 マシロがそう言うとヨハネスの目つきが変わる。
 今まではかつての兄弟分とガンプラバトルで遊んでいただけだったが、マシロの申し出はそれでは済まない。

「……お前、自分の言っている事が分かってんのか?」
「分かってる」
「ふざけやがって! ここまで来て俺達の悲願を止めと! それにお前が俺に勝ったことが一度としてあったのかよ!」

 デスティニーは対艦刀「アロンダイト」を抜いて光の翼を展開する。
 残像を残しながらガンダム∀GE-1 セブンスソードに突っ込んで来るが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはデスティニーの攻撃をヒラリと回避する。

「それにあそこは俺達の家があるべき場所なんだよ! それが分からないのかよ!」
「分かるさ。俺も行って来た。けど……あそこにはもう、俺達が帰る場所は無いんだよ」
「だから、俺達はあそこを破壊しないといけないんだよ! そうして奪い返すんだ!」
「んだよ。それ……壊されたから壊して、奪われたから奪って……それで最後は全て元通りになるのかよ!」

 ヨハネスはただやり返したいだけだった。
 自分が壊されたから壊し返して、奪われたから奪い返す。
 だが、すでに失われた物は戻って来る事も元通りになる事はあり得ない。

「知った事か! そんな事で晴れる程、浅い恨みじゃない! 俺達から全てを奪った奴らに復讐する事が俺達のすべきことだろう!」

 デスティニーはアロンダイトを振り下す。

「この……馬鹿野郎!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開して、振り上げる。
 Cソードは正確にアロンダイトの折り畳む繋ぎ目を捕え、アロンダイトは繋ぎ目から切り裂かれる。

「なっ……」
「いつまでもそうやって、俺の事を見下せると思うなよ!」

 アロンダイトを失いながらも、デスティニーは下がり長距離ビーム砲を放つ。
 だが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードには掠りもしない。

「……お前が……お前が裏切るから!」

 長距離ビーム砲ではガンダム∀GE-1 セブンスソードを捕える事が出来ない為、デスティニーはビームライフルに切り替える。

「お前が、俺達を裏切って、俺達を捨てて出て行ってから全てがおかしくなった! お前のせいで孤児院も院長も!」
「否定はしない。だからって、お前達のやろうとしている事はテロに過ぎない」

 今までは同じ孤児院の出身である為、ヨハネスもマシロを仲間に加えてやろうと思っていた。
 だが、心の奥底では全てが狂い始めたのはマシロが引き取られて孤児院を去ってからだと思ってもいた。
 それがここで、爆発してマシロにぶつける。
 一方のマシロもその事は否定のしようがない。
 元々、ショッピングモールの建設の計画があった時点で遅かれ同じ結末になっていたかも知れない。
 しかし、マシロがクロガミ一族に引き取られた際にキヨタカからの援助金が目を付けられるきっかけになった事も事実だ。

「違う! これは院長の無念を晴らす為の戦いだ!」
「院長の為? 大抵、テロリストってのは大義を振りかざす。けどな。院長は俺達に言っていたよな。俺達はどんな境遇だろうと人間で人間は法やルールを守らないといけないって」

 マシロ達は孤児と言う事もあって、冷たい目で見られる事も少なくはない。
 孤児院も多少の余裕はあってもお世辞にも裕福とは言えなかった。
 そこで魔が差して万引きやひったくりなどの犯罪行為を行ってしまう子供も出て来る事があった。
 そんな時、普段は人の良い院長は厳しく叱りつけた。
 例え、孤児だろうと人として超えてはいけない一線がある。
 どんなに苦しくても、家族と共に乗り越えなければならないと。
 それを平気で超える事が出来るようになってしまえばそれはもはや人ではないと何度も言われてきた。

「それは人が人である為に必要な事で、院長が俺達に臨んだ事は全うな人間として生きる事……それを捨ててまでやる大義に何の意味があるんだよ!」

 マシロもお自覚はないが世辞にも普通の生き方をして来た訳ではない。
 それでも、マシロは法を破る事はしなかった。
 それが自分が院長にマシロが出来る唯一の事だからだ。
 
「俺達を捨てて温かい家庭でのうのうと生きて来たお前に何が分かる!」

 デスティニーは両肩のフラッシュエッジ2を投擲する。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは一つ目をシールドで弾くと、二つ目を蹴りあげて弾き飛ばした。
 その間にデスティニーは距離を詰めて、掌に内蔵されているパルマフィオキーナを突き出す。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはその一撃を最低限の動きで回避すると、デスティニーの背後を取る。

「言ったろ。今までの見たいにはいかないって」

 背後を取ったガンダム∀GE-1 セブンスソードはシールドからビームサーベルを展開すると、ビームサーベルを振り落す。
 デスティニーはパルマフィオキーナで受け止めるが、受け止めきれずに腕が破壊される。

「今の俺はあの時の何も出来ないただのマシロじゃない!」

 デスティニーはガンダム∀GE-1 セブンスソードを蹴り飛ばそうとするが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードも蹴りあげて、2機の蹴りがぶつかり合うがすぐに、デスティニーの足が関節部からもげた。

「今の俺は……」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはシールドから展開しているビームサーベルを振り上げて、デスティニーの片翼を切り裂く。

「世界最強ファイターの……」

 次にCソードを振るい、デスティニーを胴体かた真っ二つにする。

「マシロ・クロガミだ!」

 それでも尚、頭部のバルカンを撃って来るデスティニーに、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは距離を取りながらショートドッズライフルを撃ち込んで止めを刺した。
 
「俺が……マシロなんかに」

 バトルが終わり、ヨハネスは愕然としていた。
 以前のマシロとは比べものにならない程の力でヨハネスは手も足も出せなかった。

「俺の勝ちだな」
「……だからどうした? 所詮はお遊びの余興……こんなお遊びの勝敗なんて知った事か!」

 バトルに負けたヨハネスはそう言う。
 マシロはバトルの勝敗で賭けをしようと言ったが、ヨハネスはそれを承諾した訳ではないので、このバトルの勝敗はヨハネスにとっては重要ではない。
 一方のマシロは驚いた様子は無かった。
 
「まぁ……俺もテロリストとの約束なんて守って貰えると思ってなかったしな」

 マシロも始めから賭けが成立するとは思ってはいなかった。
 それでもバトルを挑んだ理由は二つあった。
 一つは過去に一度も勝てなかったヨハネスに勝っておくと言う事ともう一つは時間稼ぎであった。

「それと、俺は単にガンプラバトルで強くなっただけじゃない。権力を動かす事の出来る力を得る事が出来た」

 マシロがそう言うと、広場の全ての出入り口から警察とマシロのSPが雪崩れ込む。
 
「何だ!」

 ヨハネス達は突然の事態に対処する事なく、ものの数秒で全員が無力化、拘束された。

「俺はあくまでも時間稼ぎだったんだよ。俺とバトルしている間は爆破はしないだろ? だから、その間にここを包囲して、ショッピングモールに仕掛けられた爆弾も解除して実行犯も抑えた」

 マシロが時間稼ぎを行っている間にはヨハネスは爆破をしないと予測して、マシロが囮となって時間を稼いでいた。
 その間にマシロが一族の名を使って、警察を動かした。
 ショッピングモールの方にはマシロのSPの中から爆発物の専門家を向かわせて処理をさせ、同時に爆発物を設置した実行犯を抑える。
 最後はここに集まったヨハネス達を抑えれば全てが終わる。

「……マシロ! お前、俺達を売ったのか!」
「勘違いしないで欲しいけど、俺は売ったんじゃない。義務を果たしただけだよ。善良な一般市民としてのね」

 ヨハネスは取り押さえられて身動きが取れないが、マシロに掴みかかる勢いで叫ぶ。
 どんなに、体をよじらせても拘束から抜け出す事は出来ない。

「お前は罪を犯して来た。なら、その罪は償わないといけないよな? ごめんなさいで済めが良かったけど、それで済まないなら仕方が無いだろ」

 今までにもヨハネスはやんちゃをして、院長に怒られた事は何度もある。
 その時に誰かに迷惑をかけた時は、院長と一緒に謝りに行かされた。
 だが、今度は謝って済むレベルではない。
 これから更に追求されると更に余罪が出て来るだろう。

「くそ! ふざけやがって! マシロ!」
「さよならだ。ヨハネス。もう会う事もないだろう」

 マシロへの恨み言を叫びながら、連行されていくヨハネスをマシロは見送る。

「いやぁ……助かりましたよ」

 ヨハネス達が連行されて行くと、警官の一人がマシロに声をかけて来る。

「これで爆破事件に発展していたら、今日は帰れないところでしたよ。今日は、息子とプラモデルを一緒に作る約束をしていましてね」
「それは何よりだ」

 マシロは素っ気なく返す。
 そして、次第に人気のなくなる広場を眺めていた。

「……これで本当に返る場所がなくなったな」

 この町にはマシロの帰る家が無ければ、待っている友人もいない。
 ヨハネスが逮捕された事で、マシロは本当に返る場所を無くした。
 後悔はしていない。
 少なくとも、マシロは人として正しい選択をする事が出来た。
 帰る場所がなくなっても、この町には変わらない物があったと言う事も分かっている。
 それでも、今になってどうしようもなく寂しさを感じてしまった。
 後は、地元警察に任せてマシロはホワイトベースに帰って行く。

「おかえり」

 マシロが戻るアイラがそう言う。
 アイラはテレビを見ており、こっちを見ていないが流石にドアが開けば誰かが入って来れば音で分かるだろう。
 そして、ここに断りもなく入って来る事はマシロしかいないと言う事は分かっている。
 「おかえり」と言う何気ない言葉にマシロは思わず立ち止まってしまった。
 今までに一度も言われた事がない訳ではなく、至極当たり前の言葉で特別な言葉と言う訳ではない。
 アイラもテレビの方を見ている為、特別意識して出した言葉と言う訳でもない。
 だが、その一言はマシロにとって特別に感じた。
 
「何かあったの? てか、ニヤついて少し気持ち悪いんだけど」

 アイラもマシロの様子がおかしいと言う事にすぐに気が付いた。
 出てく時もおかしかったが、帰って来た今もおかしい。
 
「うるさいな」

 マシロはムッとしながら、椅子に座り込んでガンプラを取り出す。

「アイラ」
「何よ?」
「……ただいま」

 マシロはガンプラを弄りながらそう言う。
 その様子は少し照れているようにも見えて、アイラはますます訳が分からなくなる。

「本当に何があったのよ」
「別に……ただ、ここが今の俺がいる場所で俺にはまだ帰れる場所がある。こんなに……ってだからなんでもないって言ってんの」

 マシロは新しいガンプラの箱を引っ張り出して来る。
 そして、組み立てを始めるとこれ以上は話す気がないと言うオーラを全身から出している。

「何なのよ……もう」

 マシロがこの町で何をして来たのか、何があったのか知らないアイラは事態を把握する事は出来なかった。

「ただ、こんな寄り道も偶には悪くない」

 ガンプラを組み立てながら、マシロはアイラにも聞こえない程の声で呟いた。
 ほどなくして、ホワイトベースは食糧の補充を終えて、次なる目的地へと飛び立った。



[39576] Battle32 「未来無き未来」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/07/10 16:47
 故郷の町を発ち、ホワイトファングは次の目的地を目指して飛行していた。
 その間の退屈凌ぎと称して、マシロはアイラにガンプラバトルの相手をさせていた。
 アイラも渋々ではあったが、マシロに負けた借りを返す機会としてバトルに応じていた。
 だが、アイラのガンプラとマシロのガンプラでは性能に大きな差がある為、すでに何度も負けている。
 今回、マシロは完成したフルアサルトジャケットを使用している。
 完成系は膝にもホルスターを追加し、計10基の武器を内蔵したホルスターを装備している事になる。
 更には右手にはガンダムAGE-3 ノーマルのシグマシスライフルを改造して制作したハイパーメガドッズライフルを装備し、左手にドッズランサーを装備している。
 胸部のビームバルカンは取り外し、腰にはビームサーベルのラック兼、ビームガンを増設している。

「今度こそ……」

 再びバトルが開始される。
 バトルフィールドは地上基地だ。
 特にガンダムの作中に登場する基地とは設定されていない市街地の一つに分類されるバトルフィールドだ。
 バトルが開始されて、アイラのサザビー改がロングビームライフルで先制攻撃を仕掛けるが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはホバー装甲で左右に移動しながら回避する。

「ちょこまかと!」
「こっちからも行くぞ」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルを構える。
 アイラはすぐにサザビー改を建物の陰に隠す。
 だが、マシロはそんな事をお構いなしにハイパーメガドッズライフルを放つ。
 放たれたビームは地面を抉りながら、建物に直撃すると難なく建物をぶち抜いた。
 サザビー改は建物が破壊される前に避けていた為、ダメージは無いが、射線上の物は跡形もなく吹き飛んだ。

「冗談でしょ……」

 アイラがハイパーメガドッズライフルの威力に驚いていると、次の攻撃が放たれた。
 サザビー改はギリギリのところで回避するが、右腕がビームに掠ってもぎ取られた。
 
「掠めただけで……」

 ガンダムAGEにおいてガンダムAGE-1 ノーマルのドッズライフルから派生してドッズ系のビーム兵器はビームを回転させる事でビームの貫通力を上げていると言う設定がある。
 ガンプラバトルでもドッズ系の装備はエフェクトとしてビームが回転しているように描写されている。
 だが、マシロのガンダム∀GE-1の装備しているドッズ系の装備は実際にプラフスキー粒子を回転させて貫通力を増している。
 それ故に、元々から高い火力に設定されているシグマシスライフルを改造して作られているハイパーメガドッズライフルの威力はガンプラが携帯出来る装備では破格の威力を持ち、掠っただけでも回転により削り取って破壊する事が出来る。
 それにより、特殊な塗装により粒子を弾くIフィールドも、塗料を削り取って無効化する事が可能となった。
 世界大会の決勝戦で、カルロス・カイザーのノイエ・ジールを一撃で破壊出来たのもそのお陰だ。

「驚いている暇があるのか?」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルとドッズランサーを捨てるとホルスターの中からロングドッズライフルを出して、空のホルスターをパージする。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの武装の一つのロングドッズライフルは長距離狙撃用の装備だ。
 先端部のバレルとパージする事でハンドドッズガンとしても使える。
 ロングドッズライフルで空中のサザビー改を狙撃するが、サザビー改は回避しながら着地して、ビームナギナタを左手で持って突っ込む。

「そんなに欲張ってるから!」

 距離を詰めてビームナギナタが振り落されるが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは膝のホルスターで受け止めた。

「残念」

 そして、膝のホルスターから2基目のロングドッズライフルを射出してサザビー改にぶつけた。
 
「お次はこいつでどうだ?」

 ロングドッズライフルを捨てると、今度は別のホルスターからニードルライフルを抜いて、空のホルスターをパージする。
 そして、ニードルライフルを放つ。
 ビームでも弾丸でも無く、針が撃ちだされる。
 これは設定上はガンダムAGE-1 スパローのニードルガンを手持ちの武器としている為、同口径の針を撃ちだす武器だ。
 サザビー改はシールドで防ぐが、撃ちだされた針はシールドに刺さると爆発した。
 針の内部には火薬が仕込まれていると言う設定で、対象に刺さる事で対象を内部から爆破する。
 シールドをを破壊された隙にガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはニードルライフルを捨てて、レイザーアックスを抜いた。
 レイザーアックスはガンダムAGE-1 レイザーのレイザーブレイドの発展系と言う設定で柄の長い斧だ。
 レイザーウェアのレイザーブレードは複数の刃を重ねた多層構造の刀身を採用されていると言う設定から、薄いプラ版を何層にも重ねて制作されている。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはレイザーアックスを振るう。

「この!」

 だが、レイザーアックスは威力は大きいが、大型で振りも大きい為、サザビー改は空中に飛び上がって回避する。
 空中に逃れたサザビー改はバックパックのファンネルを展開する。

「これならどうよ!」
「ファンネルか……」
 
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはレイザーアックスを捨てると大型のドッズマシンガンと小型のビームマシンガンを抜いて空のホルスターを捨てる。
 ホバーで左右に動きながら前進し、包囲しようとしているファンネルに2種類のマシンガンで弾幕を張って、ファンネルを撃墜する。

「で、本体が疎かになってるぞ」

 両手のマシンガンを捨てて、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは折りたたみ式のビームランスを出すと、サザビー改に目掛けて投擲する。
 アイラはファンネルの操作に気を取られていた事もあって反応が遅れて、左腕がビームランスに貫かれた。

「くっ!」

 サザビー改は残された装備である、腹部の拡散ビーム砲を撃とうとするが、その時には空中にいるサザビー改の下をガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは走り抜けていた。
 サザビー改の拡散ビーム砲は腹部に内蔵されている為、射線はサザビー改の向いている方向にしか撃てない。
 下を通り、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは完全に拡散ビーム砲の死角に入り込んでいた。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはGバウンサー用のドッズライフルを出して攻撃する。

「まだ!」

 サザビー改は何とかビームを回避して、着地する。

「マシロのガンプラは!」

 着地してすぐにマシロのガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの位置を掴もうとするが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズライフルⅡBを出して投げていた。
 ライフルの下部の実体剣がサザビー改に突き刺さりバトルがマシロの勝利で終了した。

「さて、また俺の勝ちな訳だが今回の敗因は?」
「……マシロが変な武器とか使ったから」
「まぁ、それもあるがな。得体の知れない武器をギリギリのところでかわすからそうなる」

 マシロはバトルが終わるたびに、アイラに自身の敗因を訪ねていた。
 敗因を理解する事で、次から同じミスをしないように心掛ける事が出来るようになるからだ。
 今回のバトルの敗因の一つが初めて見る武器に対する対応の甘さがあった。
 ロングビームライフルごと片腕を失ったのは、ハイパーメガドッズライフルの威力の見積もりが甘かったからだ。
 多少、大きく回避しても相手の動きに注意していれば、片腕と武器を失う事は無かった。
 尤も、マシロはそれならそれで別の手を用意していた事は今は言わない。
 次に同じような場面になった時に使う為に取っておく。

「二つ目は武器の特性を把握していないって事だ。サザビーの拡散ビーム砲は内蔵式だ。内蔵式のメリットは持つ必要がないから他の武器を持ったままで使えると言う事。デメリットは内蔵している為、手持ちの武器のように射角を取り辛いと言う事」

 アイラはライフルを失いサザビー改は遠距離攻撃の手段は拡散ビーム砲かファンネルのみとなった。
 拡散ビーム砲は腹部に内蔵されている為、前方にしか撃てない。
 その為、死角に回り込まれないように気を付ける必要があった。
 だが、それを怠った事で、拡散ビーム砲の死角に回り込まれて使えなかった。

「後は、ファンネルの扱いだ。お前はファンネルの操作に集中していたせいで本体の操作が疎かになった。世界レベルの上位はその隙を確実について来るから通用しないぞ」

 アイラのファンネルはマシロが弾幕を張って対処したが、操作自体は問題は無かった。
 今のレベルなら世界大会でも十分に通用する。
 問題はファンネルの操作に気を取られ過ぎて、本体であるサザビー改の操作を疎かにした事だ。
 これはファンネルを使う上で、大抵のファイターが一度は陥るミスだ。
 格下ならば、全く対処できずに一方的に倒す事も出来るだろう。
 だが、世界の上位のファイターとバトルする上で、致命的なミスとも言える。
 
「ファンネルは基本的に補助的な武器だと認識しとけ。実力差のある相手ならともかく、世界の上位クラスのファイターにはファンネルで囲んで相手の意識を散らす程度の効果で、全滅しても構わないくらいの武器だと思っておけば全滅してもバトルに支障はない」
 
 アイラの今までの考えではファンネルを撃墜させないようにしていたが、それで本体が疎かになっては意味がない。
 だから、発想を変えさせた。
 別に撃墜されても構わない武器と思っておけば実際に撃墜されても精神的なダメージも受けない。
 例え、有効的なダメージを与える事が出来ずとも、適当に操作して周囲をうろうろさせておくだけでも、相手がファンネルを少なからず意識させて、注意を拡散させる事が出来る。
 仮に完全に無視を決め込んだとしたら、ファンネルの攻撃を当てる気で攻撃させれば、ダメージを与える事や意識を逸らす事も出来る。
 撃墜されたとしても、敵の攻撃をファンネルに向ける事が出来れば少なからず隙が生まれる。
 世界レベルのバトルにおいて、実力で上回り、圧倒的な優位な状況からでもほんのわずかな隙で逆転される事も珍しくはない。

「最後にずっと思っていた事でこれが最も重要な事なんだが、アイラ……お前、なんで無言でファンネルを使ってんの?」
「は?」
 
 さっきまでは、マシロの講義を黙って聞いていたアイラだが、流石に理解は出来ないようだ。
 確かにアイラはファンネルを使う時に何も言う事は無かったが、別に問題は無いように思える。

「お前、馬鹿か。バトルを初める時も何も言わないしさ。マナーがなってないんだよ」
「それ……マシロだけには言われたくはないわ」

 マシロは相手が誰であろうと自分の態度を崩す事は無い。
 それこそ、自分達のチームのオーナーにすらタメ口だ。
 そんなマシロにマナーを指摘されると言う事は腹が立つ。

「出撃時には自分の名前とガンプラ名を告げて、出ると言う旨を伝えなければならない」

 言われてみれば、マシロは毎回のように言っていた気がする。
 これは厳密にはルールにはないが、大抵のファイターが行っている行為だ。
 それは、どのガンダム作品の中でも登場キャラが出撃時に行っている事が多い為、ガンプラバトルでも行う事が暗黙の了解となっていた。

「ファンネルも然りだ。無言で使って良いのは、ドラグーンとかガンバレルとかでファンネルやファングはきちんと言わないと駄目だ」

 これも同様にガンダムの作中にはファンネルなどの武器を使う際にキャラクターがそう言う事を言うからで言わなければならないと言うルールは無い。

「今回のバトルでの課題点はこんなところだ。後10回はバトルで体に叩き込んでおきたいところだが、そろそろ目的地に着く時間だ」

 アイラも今日中に目的地に着くと言う事は聞かされていたが、どうやら到着の時間が近づいていたようだ。
 散々駄目だしを受けている為、バトルを続けずに済んでアイラは安堵する。

「今日は特別に同行させてやる。有難く思え」

 だが、マシロのその一言に悪い予感を感じずにはいられなかった。







 その予感は的中した。
 ホワイトベースから降りたアイラは山を登っていた。
 マシロを背負って。
 この山がどこの国の山で名称は知らないが、マシロの目的地がこの山にあり、ホワイトベースでは近くに着陸出来ないと言う事から最も近い場所に着陸して、そこからは徒歩で登る事となった。
 ある程度の登山の装備を持って山を登り初めて1時間もしないうちにマシロがバテた。
 その結果、アイラはマシロを背負って山を登る破目となった。

「何でこんなことになったのよ……」
「ガンプラバトルなら何日もやり続ける事が出来るんだけどな。やっぱ無理だったわ」

 どうやら、始めから登り切る事が出来ないと言う事を分かった上でアイラを連れて来たらしい。
 アイラはマシロを落として帰りたい衝動に駆られるが流石に、こんなところでマシロを置いて帰れば、マシロは野垂れ死にそうだった。
 日頃の意趣返しをしたいが、流石に命に係わる事をするところまでは不満は堪ってはいない。

「後、どのくらいでつくのよ?」
「さぁ……もう少しだと思うんだけどな」

 マシロの曖昧な言い方に本当に目的地に辿りつけるか、心配になって来る。
 すでに数時間はマシロを背負って山を登っている。
 体力には人並以上の自信を持つアイラだが、人ひとり背負って数時間も山を登っていれば体力の限界も近づいて来る。

「アイラ、多分……あそこだ」

 背中越しにマシロが指を指して、アイラはそっちの方に向かう。
 その先には一件の小屋が立っていた。
 小屋と言うには大きいが、何故、こんなところにあるのかなど疑問はあるが、あそこがマシロの目的地ならそこまで運んでしまえば、楽になる事が出来る為、アイラはマシロを小屋まで背負って歩く。

「……着いたわよ」
「ご苦労さん」

 小屋の前まで来るとマシロはアイラの背から降りる。
 背負われている間に体力が回復している為、マシロの足取りは軽い。
 ようやく、マシロを背負う事から解放されたアイラは息を整えながら、マシロの後について行く。

「たのもー!」

 マシロはそう言って小屋の扉を開いて中に入って行く。
 疲れが溜まっている事もあって、アイラはマシロの行動にもはや何も言う事は無い。
 中に入ると少年が一人いるが、明らかに歓迎している雰囲気ではない。

「カナタは奴は……」
「帰れ!」

 マシロが言い切る前に少年が叫ぶ。
 どうやら、マシロは事前に来ると言う事を伝えずに来たようで、歓迎どころから敵視すらされているようだ。
 
「お師匠様は具合が悪いんだ! それなのに仕事ばかり持ち込んできやがって!」
「んなもん知るか。さっさとカナタを出せよ。俺はカナタに用があって来たんだよ」

 少年の言葉を全く聞かずにマシロはそう言う。
 アイラも大体の状況が掴めてきた。
 マシロは少年の師に仕事を頼みに来たが、その師は体調が悪いらしい。
 マシロはそんな事は気にした様子は無く、一方的に用件を突きつけている。

「それでも通さないと言うのなら、ガンプラバトルで勝負だ。俺が勝ったら通して貰う」
「は?」
「何でそうなる訳?」

 マシロは持って来ていたガンプラを少年に突きつける。
 マシロはバトルする気満々だが、アイラと少年は完全に流れに付いて来ていない。

「何でそうなるんだよ!」
「何でってこの流れはバトルで決着をつけると言うのが当然な流れだろ」
「知るかよ! 大体、こんなところでどうやって戦う気なんだよ!」

 マシロはガンプラバトルで決着をつける気ではあったが、この小屋にバトルシステムは無く、少年もガンプラやガンプラバトルの事は少し知っているが、ガンプラを持っていない為、バトルは出来ない。

「何……だと」
「騒がしいな。トウヤ」
「お師匠様!」

 トウヤと呼ばれた少年の声が大きかった事もあり、奥から一人の男が出て来る。
 和装の男はアイラの目から見ても健康には見えない程、血の気がない。

「まだ生きてるってのは本当だったみたいだな。カナタ」
「これは珍しい客が来たものだね」

 双方は顔見知りで、男の名はカナタと言うらしい。

「マシロは僕のところを訪ねて来るのは初めてかな? まぁ、こんなところで話しもなんだから居間においでよ」
「お師匠様!」
「そうさせて貰う」

 トウヤは抗議の声を上げるが、マシロは気にする事無く、カナタと共に奥に入って行く。
 マシロと一緒に来た事で、アイラもトウヤに睨みつけられて居心地が悪く、さっさとマシロの後を追いかけて行った。
 奥には囲炉裏を中心に座布団が敷かれている古い日本家屋の居間となっていた。
 カナタが座布団に座ると、マシロはその対面の座布団に座り込み、トウヤがマシロをにらみながら座って余った座布団にアイラが座る。

「一応、紹介するけど、彼は僕の弟子のトウヤ。こっちは……」
「そう言うのは良いから」

 カナタがマシロにトウヤを紹介する流れをマシロは遮る。
 マシロにとってはカナタとトウヤの関係には興味がないからだ。
 師であるカナタに対する無礼な態度に、トウヤはマシロに対する敵意を隠す事はしない。

「相変わらずだね。マシロも……けど、そっちの彼女の事くらいは紹介して欲しいな」
「こいつはアイラ、俺の弟子みたいなもん」
「へぇ……マシロが弟子をね」

 余りにも適当な紹介の仕方にアイラはムッとするも、カナタの方は興味深そうにアイラを見る。
 どことなく、値踏みをされているようでアイラは少しむず痒い。

「んな事はどうでも良いから。わざわざカナタのところに来たのは仕事の依頼だ」

 マシロはホワイトベースから持って来たケースをカナタの前に出す。
 その中にはマシロがアメリカでレティから貰って来た特殊金属が入っていた。

「これは……見た事もない金属だが?」
「レティに作らせた」

 アイラやトウヤには普通の金属と大して変わらないように見えるが、カナタは一目見ただけで、この金属が普通の物ではないと見抜いていた。

「これを使って刀を打って欲しい。当然、ガンプラサイズの物をだ」

 カナタは刀鍛冶として天才的な才能を持っている。
 カナタの打った刀に日本円で最低でも億の値がつく事は珍しくはない。
 マシロはそんなカナタにガンプラが持つ武器を作らせようと訪ねて来た。
 金属で刃を作れば当然、プラフスキー粒子には反応しないが、ガンプラが持って振えば武器として使う事も出来る。
 そして、大会規約には武器に関するルールで本物の刀をガンプラに装備させてはいけないとは書かれていない為、ガンプラサイズの刀をガンプラに持たせる事は違反ではない。
 尤も、大会運営側も本物の刀をガンプラサイズに収縮させた物を持たせると言う事は想定していない為、当然の事でもあった。

「ふざけんな! そんな玩具に持たせる為にお師匠様の手を煩わせる気かよ!」

 カナタの手前、敵意を向けるだけで黙っていたトウヤがついに我慢が限界に達してマシロに掴みかかる。
 それも当然だ。
 カナタは元々、体が弱い為、刀を一本打つだけでも普通の人間よりも重労働だ。
 それを玩具に持たせる刀を作れと言うのだ、トウヤが怒るのも無理はない。
 ここに来る理由を知らされていなかったアイラも、こんなところまで来てガンプラの武器を作らせると言うマシロの常識を疑っている。

「俺はカナタに仕事の依頼として来てんだ。お前がカナタと同じかそれ以上の刀を打てると言うなら、お前でも別に構わないが、俺はカナタ以上の鍛冶師を知らない」

 マシロにそう言われて、トウヤは完全にマシロに飲まれていた。
 アイラも今までのマシロはいい加減で適当だと思っていたが、ここまでのマシロは知らなかった。

「トウヤ。離すんだ」
「……ちっ」

 トウヤもカナタに言われてしまえば離すしかない。

「分かった。その仕事は受けよう」
「お師匠様!」
「マシロは僕の鍛冶師としての腕を信頼して仕事を依頼しに来たんだ。これは誰でも出来る訳じゃない」

 単に刀を作るだけなら、金さえあればすぐに用意出来るだろう。
 だが、マシロは自分の知る限り最高の腕を持つカナタに仕事を依頼しに来た。
 それはマシロがファイターとして妥協をしていないからだ。
 ならば、カナタも職人として受けざる負えない。

「それで、どんな刀をお望みだい?」
「そうだな。取りあえず、ビームとか炎を出すとかは最低でも欲しいな」
「出せるか! お前、刀を何だと思ってんだよ!」

 マシロのオーダーにトウヤが突っ込む。
 マシロはカナタの方を見るとカナタは黙って首を横に振る。
 流石のカナタでもマシロが言うビームや炎を出す刀など作る事は不可能だ。
 
「何だよ……じゃあ、空間を切り裂いたり、斬撃を飛ばしたりとかも出来ないのかよ」
「出来ないね。フィクションならともかく、現実にそんな刀は作れないよ。母さんなら出来そうだけどね」

 マシロの言う刀は全てフィクションの中の産物だ。
 フィクションはフィクションであって、カナタを持ってしても作る事は不可能だ。

「……じゃぁ、硬くて切れ味が最高の物で頼む」

 マシロの刀に対する像が完全に破壊された事で必要最低限の要望だけになった。

「分かった。マシロの期待には添えるようにする。今から下山するのは危険だから泊まって行くと言い」
「始めからそのつもり」

 すでに日が傾いて来ている。 
 流石に今から山を下りる事は危険だ。
 マシロは始めからここで泊まって行く気だった。
 余りの図々しさに、トウヤがマシロを追い出そうと思うかけるが、仕事の話が終わったところで、カナタからマシロが弟だと聞かされて追い出す事が出来なかった。








 日が完全に沈み日付が変わる頃になっても、マシロは居間でガンプラを弄っていた。
 小屋は見た目こそは古い日本家屋で囲炉裏などもあるが、体の弱いカナタが生活する上で最新の技術が使われている為、快適に過ごす事が出来た。
 すでにアイラもトウヤも寝静まっている。
 当初は自分とアイラは同じ部屋で構わないとマシロが言い、今更抗議したところで意味がないとアイラは諦めていたが、流石に年頃の娘と同じ部屋で寝ると言う事は問題だとカナタはアイラだけ別の部屋を使わせた。
 マシロは寝れればそれで良いと一人居間で寝る事になっている。

「マシロは相変わらずのようだね」
「お互い様だろ」

 カナタはマシロがまだ、寝ていない為、様子を見に来たようだ。

「確かに」

 カナタはマシロの前に座る。
 マシロは相変わらず、ガンプラに夢中でカナタは刀を作る為に命を張っている。
 体が弱いカナタにとって、体調の悪い時に刀を打てば命を縮め、最悪命を落としかねない。
 それでも、仕事として受けた以上は持てる技術の全てを注ぎ込んでマシロのオーダー通りの刀を作るだろう。

「でも、例え僕が死んでも僕の作った刀は後世に残る。それを打った僕の名と共にね。けど、マシロ……君はどうだい? 自分の全てを注ぎ込んでも未来には何か残る物はあるのかい?」
「無いだろうな。ガンプラもガンプラバトルも後何年、流行るか分かった物じゃない」

 カナタの打った刀は、刀本来の武器として使われる事は無いだろう。
 武器としては使われないが刀は美術品としての価値がある。
 特に刀のカタナの価値は非常に高い。
 例え、カナタが命を落とそうとも、カナタの名は後にも残るだろう。
 しかし、マシロの場合は違う。
 ガンプラは玩具に過ぎず半世紀以上もの間、続いて来た事自体は奇跡的な事だ。
 どんなに流行った玩具も遊びもいずれは新しい物によって風化し、忘れ去られて行くことは人の歴史上には幾度もあった事だ。
 ガンプラも例外ではない。
 今でこそはガンプラバトルは世界大会が開催される程だが、10年や20年後に続いているかは分からない。
 だが、永遠に続く遊びなど決して存在しない。
 いずれはガンプラバトルも終わりを迎える時が来るだろう。
 ガンプラバトルが終わってしまえば、例え世界チャンピオンだろうと意味はない。
 
「仮にガンプラバトルが廃れてしまって、誰もやらなくなった時はガンプラバトルと心中するさ。どの道、ガンプラバトルが終われば一族にいる事も出来ないし、一族の外に出て生きる事は俺には出来ないからな。それに……もう、帰る場所もないしな」

 マシロがクロガミ一族でいられる理由がガンプラバトルがあるからだ。
 仮にガンプラバトルが誰もやらなくなって、完全に廃れてしまった場合、マシロは一族において何の価値も無くなる。
 そうなれば、ユキトはマシロを一族に置いておく理由は無くなる。
 そして、一族に置く理由がなくなれば、容赦なくマシロは切り捨てられるだろう。
 マシロはガンプラバトルでは世界最強となったが、それ以外の事は何も出来ずに、何もして来なかった。
 その為、一族の庇護がなくなれば、生きていくことは出来ない。
 つまりは、ガンプラバトルの終焉はマシロの人生の終焉でもある。
 尤も、マシロにとってガンプラバトルの無い人生には何の価値も見いだせない為、ガンプラバトルと共に人生が終焉を迎える事には何の抵抗もなかった。

「悲しいな」
「そうでもないさ。好きな事をやって好きに生きられるからな。今の世の中、そうやって生きる事も難しいからな」

 他者から見れば、一時の流行りで生きているマシロの人生は悲しく見えるだろう。
 それでも当事者であるマシロは自分の人生に悲観はしていない。
 世の中には自分がやりたくても才能や金銭的な理由から諦めざる負えない人だって大勢いる。
 それに比べたら好きな事を好きなだけやれる今のマシロの人生は幸せなのだろう。
 未来が無くとも今が良ければそれで幸せなのは、未来に名を残す為に今、苦しい思いをしているカナタとは対極の事だ。
 
「そうか……余り無茶はするなよ」
「カナタ程の事はしないさ」

 結局のところ、カナタにはどうする事も出来ない。
 カナタはカナタでマシロの人生が終わる前に、自分の人生が終わるかも知れない。
 心配をしたところで、マシロにとっては意味のないことだ。
 カナタは自分の部屋に戻り、マシロはカナタとの話しの事など気にすること無くガンプラを弄り夜を明かした。
 小屋で一晩を明かし、翌日にはマシロは用を済ませている為、さっさと下山する事になった。

「それじゃ、世界大会の決勝トーナメントが始まるまでに完成させればいいから。で、そいつを静岡まで届けて欲しい」
「分かった。納得が行くまでやらせて貰うよ」

 どの道、金属粒子を内蔵した特殊プラスチックが届くのは決勝トーナメントには間に合わない。
 その為、早く完成させる必要はない。
 最高の一振りが出来るまで、何度でも作り直すだけの金属は用意してある。
 カナタも職人として、期限までに完成させる事は当然だが、マシロが満足の行く最高の刀を作る事は職人としての意地だ。
 用が済んだ事で、マシロはアイラを連れて山を下りていく。
 それを見送ると、カナタはすぐに刀の構想に入る。
 山を下りたマシロは再び、途中で力尽きてアイラに背負われてホワイトベースに戻ると次の目的地へと向かうのだった。



[39576] Battle33 「感謝の言葉」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/07/16 21:17
 カナタに刀の制作を依頼したマシロはフランスのパリに来ていた。
 相変わらずアイラとは別行動でマシロはそこの研究施設を訪ねて来た。
 そこにはマシロの兄の一人であるリュック・クロガミが所長をしている。
 研究では機械工学の研究が日々されている。
 
「何かすげぇな……その内モビルスーツとか作れそうだな」

 マシロは研究所内を歩きながらそう言う。
 研究所には過去にここで制作されたと思われる機会がいくつも展示してあった。
 その中には人型のロボットもいくつも展示されている。
 普通の人間サイズの物から巨大な手など、その種類はさまざまだ。

「フン、10Mをも超える人型の兵器などナンセンスだ」
「うっわ。夢がねーの」

 神経質そうな男こそがマシロの兄の一人であるリュック・クロガミだ。
 リュックはマシロの感想を鼻で笑った。
 リュックからすればガンダムの作中に出て来るモビルスーツは非科学的な存在でしかないらしい。

「フン……で、何の用だ。俺は遊び歩いているお前と違って暇じゃないんだ」

 リュックの研究室に入ると、リュックは研究資料に目を通し始める。
 
「率直に言うけど、俺のガンプラの内部フレームを設計してくれ」
「帰れ」

 リュックは即答する。
 マシロは機械工学、特に義手を初めとした人体の代わりとなる機械に精通しているリュックに自身のガンプラの内部フレームの設計を頼みに来ていた。
 ガンプラの性能を図る上で可動域は重要な要素の一つだ。
 可動域が狭いとガンプラの動きも狭まる。
 逆に広いとガンプラの動きにも幅が広がる。
 特にマシロの場合は格闘戦を好む為、可動域は重要となって来る。
 そこで、リュックの技術を当てにした。
 リュックは機械工学の中でも義手のような人体の代わりとなる機械の設計の分野で成功している。
 その能力を持ってすれば、限りなく人間の動きに近い動きが出来るガンプラの内部フレームを設計する事も可能だ。

「設計図だけで良いぞ。後から装甲と装備も取りつけないといけないし、そっちの方はもう考えてあるから、装甲と装備をフルに装備した状態で限りなく人間に近い動きが出来るように設計してくれ。ああ、強度の問題はある程度はクリアしてあるからそこまで重要視する必要はないかな」
「だから帰れと言っている。何故、俺がお前の玩具を設計しないといかんのだ。そんな事よりも義手の一つでも設計した方が有意義だ」

 マシロはリュックの話しを完全に無視して続けた。
 だが、リュックにとってはガンプラの内部フレームを設計するよりも義手などの方が社会的に認められる為、その気は無いらしい。
 例え、マシロがガンプラバトルの世界王者だろうと、所詮、ガンプラは玩具に過ぎない。
 そんな物を作ったところでリュックにとっては一文の得にもならない。

「そんな権利があると思ってんの? こっちは兄貴の許しを得てんだよね」

 マシロはさっそくリュックが断れない切り札を切る。
 今回の事で他の兄弟の力を借りる事はユキトに許可を取ってある。
 どういう訳か、ユキトは全面的にマシロを支援している。
 リュックもそれが真実かどうかは今の状況では判断は出来ないが、マシロがハッタリをかましたところですぐにバレる為、そんな嘘を言うメリットはない。

「そう言う訳だから、最優先で設計しろ。後、手を抜いたら兄貴にチクるから」
「……ちっ」

 幾ら、それらしい物を設計したところで、マシロもまたクロガミ一族の一員だ。
 適当な仕事で誤魔化したところで気づかれる事は目に見えている。
 そして、その事をユキトに報告されると言う事は非常に不味い。
 一族の本家として例え、玩具の設計だろうと適当な仕事をすればそれなりのペナルティを課せられるかも知れない。
 マシロのバックにユキトがいる以上、リュックには拒否権は無いも同然だった。

「必要な物を置いてさっさと帰れ」
「んじゃ頼んだ」

 マシロは始めから自分の話しを押し通すつもりだった為、設計に必要な資料はまとめて用意してあった。
 それをリュックに渡して、マシロはさっさと研究施設から帰って行く。
 





「これで一通りは揃ったか」

 研究所を後にしたマシロは歩きながらそう言う。 
 マシロの目的はこれで大方片付いた。
 後はそれらが完成して届くのを待つだけだ。

「これから何をすっかな」

 新型のガンプラを作る為の用意は出来ている。
 後は待つだけである為、マシロは次の事を考えている。
 
「そろそろ、本腰を入れるとするか……」

 色々とやりたい事もあるが、今のところ興味があるとすればアイラに対するバトル指導だ。
 始めは余り乗り気ではなかったが、アイラに教える事でマシロにとっても良い復習になっている。
 今までは休憩中の片手間程度で、マシロにとっては基礎中の基礎の事しか教えていないが、そろそろ本腰を入れて指導するのも悪くないとも思っている。

「今までは少し易し過ぎたからな。少し難度を上げるか」

 マシロにとってはアイラに今までやって来た事は当たり前の事を身に着けさせる程度の事で、練習としては生温かった。
 これを機にもっと本格的に教えようと考えていた。
 アイラの練習メニューを考えていると、マシロはふと足を止めた。
 大型の模型店の店先にポスターが貼られていた。

「カップルバトルね……ふーん。飛び入りもOKか」

 ポスターにはイベントの知らせとしてガンプラバトルの小さな大会が行われると言う旨の事が書かれていた。

「カップル限定とかリア充専用かよ。けど……面白そうではある」

 マシロは軽く大会の要項を見てそう感じていた。
 大会参加の大前提として、2人組でカップルでないと参加資格自体がない。
 マシロのガンプラバトルの大会の参加経験はユウキ・タツヤと参加したタッグバトル大会と世界大会の2回くらいしかない。
 優勝する事は当然の事として、一風変わった大会に出て見るのも経験としてアリだ。

「とはいえ、カップル専用……仕方が無いか」

 マシロは携帯を取り出して電話をかける。

「何よ? 今日は別行動の筈でしょ?」

 電話に出たのはアイラだった。
 前提条件であるカップルを満たす為にはマシロは相手となる異性はいない。
 この際、アイラで妥協する為に電話をかけた。

「アイラ、俺の彼女になれ」
「は?」

 電話の向こうでアイラは困惑した声を出す。
 それも当然だ。
 一か月以上も、同じ部屋で寝泊まりをしても一度も間違いはおろか、異性として見られている事すらも怪しい相手からの突然の告白を受ければ誰だって困惑する。

「だから、カップル専用の大会に出たいから俺と付き合え」
「…………」

 マシロが正直に話すと電話の向こうでアイラは黙り込む。

「アイラ?」
「ふざけんな!」

 そして、マシロが思わず携帯を耳から話してしまう程の大声でアイラは怒鳴り、電話を切った。

「何なんだ。訳が分からん」
 
 マシロは切れた電話を見ながらそう呟いた。
 マシロからすれば正直に話している為、アイラが切れる理由は検討も付かない。
 尤も、アイラが切れるのも当然の事だ。
 アイラも今更マシロの事を異性としては殆ど見ていないだろう。
 それでも年頃の少女がいきなり告白をされて何も思わない訳が無い。
 そこに、自分の事が好きだからではなく、ガンプラバトルの大会に出る為に付き合って欲しいと言われれば誰だって怒る。

「どうした物か……手頃な奴でもいれば良いんだけどな」

 マシロは店内を軽く見る。
 どの道、参加すればマシロ一人で優勝する事は容易い。
 ならば、相手は誰も良い。
 だが、共に参加するとなればある程度の実力が無ければ自分の相方として参加する事は嫌でもあった。

「ん? あいつ……」

 店内で相方を探しているとマシロは一人の女に目を止めた。
 マシロは基本的にバトルした相手の事はバトルの内容は覚えていても相手の事は覚えていない事が多い。
 だが、相手によっては覚えている。
 将来的に伸びるファイターや面白い戦い方をするファイターなどだ。
 そして、その女の事も覚えていた。
 シシドウ・エリカ。
 以前にマシロがユキトの命令で何とかして口説こうとしていた相手だ。
 そのエリカが店内に掲示されているポスターと睨みあっている。

「よう」
「……げ」

 マシロは普通にエリカに声をかけるが、エリカの方は顔を顰めた。
 最後に会った時はマシロが世界大会で優勝した時だ。
 あの時にマシロはエリカに宣戦布告をされている。
 マシロの方は大して気にしてはいないが、エリカからすれば余り会いたくはない相手だろう。

「何でお前が……」
「お前こそ」
「アタシは母さんの実家がこっちなんだよ。で、お前をぶっ倒す為に武者修行で少しこっちに来てんの。てか、なんでアタシばっか説明しないといけないんだよ」

 エリカはこっちにいる理由を話すも、マシロの方は話す気は無いらしい。

「俺の事はどうでも良いけどさ。それに出んの?」
「いや……賞品は欲しいけど相手がいないんだよ」

 マシロは優勝が前提である為、賞品になど興味は無かったが、優勝者には賞品が贈られるらしい。
 大型の大剣とライフルとソードの複合武器が賞品として乗せられている。
 エリカはその賞品に興味があるが、マシロ同様に共に参加する相手がいない為、出るに出られないと言う状況だった。

「ふーん。ならさ、俺と出ない? 俺も面白そうだから出たいんだけど相手がいなかったんだよね」
「は? 何でアタシがお前となんか」

 マシロとエリカは共に相手がいない。
 マシロとしては賞品に興味は無く、参加自体が目的だ。
 エリカにとっては両方の賞品を手に入れる事が出来る。
 だが、エリカとしてはマシロとカップルとして参加する事に抵抗があった。

「俺達の利害は一致してるんだしさ。俺としてもレベルの低い相手と組むのは正直嫌だ。その点、エリカなら最低限の基準は満たしてるしな」

 エリカは正直なところ以外だった。
 マシロは自分の実力に絶対的な自信を持っている為、自分以外のファイターの事など眼中にないと思っていた。
 実際のところ、自分の実力に絶対の自信を持っているし、眼中にない相手の事は徹底的に相手にしないが、マシロから見てエリカはマシな方だった。
 今の実力的にはマシロの足元にも及ばないが、潜在的なセンスではマシロの記憶に留めて置くだけは持っている。

「……分かった。一緒に出てやる」
「決まりだな」

 抵抗はあるが、マシロは実力的に問題はない。
 寧ろ、自分は何もしないで優勝する事も可能とすら思えてしまう。
 流石に、マシロを完全に当てにする事はしないが、それでも相手がある程度の実力があった方が良い。
 
「で、大会に参加するガンプラはどうすんだよ。アタシ等のガンプラじゃ参加出来ないって事分かってんだろうな」
「マジで?」

 マシロは参加要項を流し読みしていたが、参加条件の一つには使用ガンプラは原則として作中の再現以外での改造を認めていない。
 マシロのガンダム∀GE-1はセブンスソードもフルアサルトジャケットも胴体部や頭部は殆ど改造していないが、それ以外は原型を留めていない。
 更には2人のガンプラは作中ではパイロット同士が恋人やそれに近い関係でなければならないともある。
 これらはあくまでもイベントとしての大会である為の制限だ。

「マジか……俺の∀GEをAGE-1仕様に戻すとしても問題はエリカのガンプラか……AGE-1のパイロットとなるとフリットか、アセム。となると相手はエミリーとロマリー……どっちもモビルスーツに乗ってない……まてよ。エリカ、お前、ディーヴァで」
「出ないって。大体、なんでそっちが基準なんだよ。マシロがこっちに合わせれば良いだけの事だろ」

 エリカはため息をつきながらそう言う。
 マシロはあくまでも自分の方を主体に考えて、エリカに戦艦での参加をさせようとしている。
 そこまで、するくらいならエリカに合わせた方が良いのは明白だが、マシロは相手に合わせると言う事を今までやって来た事がない。

「アタシのルージュを貸してやる。お前を倒す為に新しく作ったガンプラはセイバーだからな。セイバーとルージュなら参加できるだろ」

 エリカはそう言って持っていたガンプラをマシロに見せる。
 マシロを倒すと宣言したエリカは自分の腕を磨く以外に新しいガンプラの制作にも取り掛かっていた。
 それがガンダムSEED DESTINYに登場する可変モビルスーツのセイバーガンダムだ。
 セイバーガンダムのパイロットであるアスラン・ザラとストライクルージュのパイロットのカガリ・ユラ・アスハは作中で恋人同士である為、参加条件は十分に満たしている。

「ふーん。セイバーね」
「まだ、本格的に改造はしてないけどな」

 マシロはエリカの持っているセイバーの方を注目した。
 以前にバトルしたストライクルージュと比べると細かいところで出来が良くなっている事がわかる。 
 それだけでもエリカが以前より成長していると言う証明だ。

「分かった。ルージュの方を借りる」

 自分で制作したガンプラが使えないと言うのは正直なところ不本意ではあるが、使うガンプラが何であれ、マシロは負ける気は無い。
 エリカからストライクルージュを借りるとマシロとエリカは大会の参加申し込みを済ませる。








 大会はマシロとエリカが申込みをした次の日ですぐに大会の当日となった。
 開催がすぐだったのは参加申し込みが思った以上に少なく全部で8組しかいない事が原因で8組目のマシロ達が申し込んだ時点で他の参加者に連絡を入れて開催される事になった。

「参加が8組か……」
「3回勝てば優勝。ガンプラバトルをカップルでやってるリア充はそうそういないって事か」

 バトルの組み合わせの抽選も終わり、マシロとエリカはステージに置かれているバトルシステムの前に向かう。

「観客の皆さん! まさかの現役世界王者が参戦! 生で王者のバトルが見られます!」

 集まった観客に対して、大会を仕切っている模型店の女性定員が実況する。
 マシロは別に自分の素性を隠す事もしなかった為、すぐに世界大会優勝者である事が明らかになっている。
 参加申し込みをしたのは昨日の今日だが、マシロのバトルを見る為に客の数は主催者側が想定していた数よりも多くなっている。
 尤も、マシロは世界大会で世界のファイターに喧嘩を売っている為、必ずしも友好的な目で見られている訳ではない。

「使用ガンプラはストライクルージュとセイバーガンダム! しかしこれは……」

 バトルシステムにマシロとエリカはガンプラを置いた。
 エリカのセイバーは目に見えて改造はされていないが、マシロのストライクルージュは違った。
 その名が示す通り、ストライクルージュは赤色だが、マシロが置いたストライクルージュは赤でなく、トリコロールカラーでストライクルージュではなくストライクだった。
 しかし、シールドだけはストライクルージュとなっている。
 更にはバックパックがオオトリを装備している。

「これはストライクカラーのルージュ! つまり、アスキラと言う事か!」

 マシロはエリカのストライクルージュを赤い色よりもこっちの方が好みだと言う事で塗装している。
 シールドだけ塗装しな無かったのは、ガンダムSEED DESTINYの作中で一度だけ、ストライクルージュのOSの設定を弄りストライクカラーとなった事があるからだ。
 それで、ストライクルージュと言い張って参加している。
 尤も、それにより女性店員は何やらスイッチが入ったようだ。

「なぁ、マシロ……あの人、何でテンションが上がってんの?」
「さぁな。どっか腐ってんだろ」

 マシロはテンションの上がる女性店員をスルーして、GPベースをバトルシステムにセットする。
 興奮している女性店員がバトル開始の合図をするとバトルが開始される。
 バトルフィールドは山岳地帯で対戦相手のガンプラはアプサラスⅡとガンダムEz8の2体だ。
 ガンダムEz8だけは飛行能力を持たない為、ベースジャバーに乗っている。

「俺がアプサラスをやる。エリカはEz8だ」
「分かった」

 マシロはエリカにそれだけ言うとアプサラスⅡの方に向かう。

「さて……リア充は殲滅だ!」

 ストライクルージュはアプサラスⅡに対してビームライフルを連射する。
 だが、ビームはアプサラスⅡのまで弾かれる。

「Iフィールドか……当然か」

 マシロにとっては大型のモビルアーマーにはIフィールドを持たせる事は必須だが、それが出来るだけでも相手の実力はある程度は持っていると言う事になる。
 ストライクルージュはオオトリのビームランチャーを放つが、アプサラスⅡのIフィールドに阻まれる。

「ちっ……流石は鉄の子宮。硬いな」

 ストライクルージュにビームランチャー以上の火器は無い。
 アプサラスⅡは反撃のビームを放って来る。

「反応が遅い」

 ビームを回避するも、マシロは反応の遅さを感じていた。
 今までは自分が使う為の制作している為、ガンダム∀GE-1の反応速度を遅く感じる事は無かったが、このストライクルージュはエリカが作った物だ。
 どうしても、反応の遅さを感じてしまう。

「けど、その程度の事で」

 ストライクルージュはシールドとビームライフルを捨てると対艦刀を取る。
 そして、オオトリをパージするとオオトリが一直線にアプサラスⅡの方に向かって行く。
 オオトリは本体からパージされて支援機としても運用が可能である。
 オオトリはレールガンとミサイルをアプサラスⅡに撃ち込む。
 ビームはIフィールドで防げるが、実弾系の装備には効果がない。
 レールガンとミサイルの直撃を受けて、最後はオオトリがアプサラスⅡに突っ込み、アプサラスⅡは大破し地に伏した。
 一方のエリカの方もガンダムEz8と交戦を始めていた。
 ガンダムEz8はベースジャバーに乗っている為、機動力では単独で飛行が出来、変形も出来るセイバーに分があった。
 しかし、思いの他、エリカの方は手こずっていた。

「空中戦はこっちが有利なんだがな!」

 ガンダムEz8のビームをセイバーはモビルアーマー形態で回避するとモビルスーツ形態に変形して、アムフォルタスで反撃する。
 ガンダムEz8はシールドで防ぐと頭部のバルカンでセイバーを牽制する。
 セイバーはシールドで守りながらビームライフルで応戦する。

「流石は優勝候補って訳か……」

 初戦の相手は今大会ではマシロ達が参加するまでは優勝候補とされていた。
 エリカもセイバーの操縦はまだ完全な物ではない為、簡単に勝てる相手ではない。
 
「けど……アタシの目指す先に行くにはここで足踏みは出来ないんだよ!」

 エリカは意を決して、シールドを掲げながら突撃する。
 セイバーは肩のビームサーベルを抜いて、ガンダムEz8もビームサーベルで応戦する。
 互いのビームサーベルをシールドで受け止める。
 すると、上空に影が出来た。
 エリカとガンダムEz8のファイターがその影の正体を確かめる前に影が落ちて来た。
 その影はマシロのストライクルージュでスラスターを最大出力で使って上に上がってからの降下だった。
 降下して来るストライクルージュは対艦刀でガンダムEz8を後ろから切りつける。
 計算していたのは対艦刀の鼻先はギリギリ、セイバーに当たるか否かのところでガンダムEz8を一刀両断にして、落ちていく。
 ガンダムEz8を撃破したところでバトルが終了した。

「おいしいところを持ってったな」
「気にすんな」
「てか、アタシのルージュをなんて使い方してんだよ!」

 完全に良いところをマシロに持ってかれた形となったが、それ以上にマシロのガンプラの扱いにエリカは抗議した。
 ストライクルージュに装備されているオオトリもエリカが制作した物でマシロはそれを躊躇う事無く、アプサラスⅡにぶつけて使った。
 当然、オオトリは破壊されている。

「ぶつけただけじゃん。ちゃんと直すさ」

 そう言う問題ではなく、借りたガンプラの使い方としてどうなのかと問い詰めたいが、マシロを相手に一般的な常識は期待できないとエリカは直す気があるだけマシだと諦めた。
 1回戦を勝ち抜いたマシロとエリカは次の対戦相手が決まるとすぐに準決勝を始める。
 準決勝のバトルフィールドは宇宙で対戦相手のガンプラはガンダムF91とビギナ・ギナの2体だ。

「俺はビギナをやる」
「好きにしろ」

 連携を取る気なしのマシロに対して、エリカは気にすることはない。
 言ったところで大して意味はないからだ。

「さて……あんまり動けないからな」

 ストライクルージュはビギナ・ギナにビームライフルを向ける。
 今、使っているストライクルージュはガンダム∀GE-1のようにマシロの動きについて来る事は出来ない。
 その為、高速戦闘は出来ない。
 ビギナ・ギナはビームライフルとビームランチャーを連射するが、ストライクルージュは最低限の動きのみで回避しながら狙いをつける。
 そして、ビームライフルを放ち、その一撃はビギナ・ギナの胴体に直撃し、一撃で撃墜した。

「こっちは終わったから。エリカの方に行くか」

 あっさりと勝負を決めたマシロはエリカの方にガンプラを向けた。
 ガンダムF91とバトルするエリカも優勢にバトルを進めていた。
 一回戦は完全にセイバーになれていないと言う事もあったが、前回に比べて扱い方も分かって来ている。
 ガンダムF91のビームをモビルアーマー形態に変形して回避して、一気に加速、モビルスーツ形態に戻りビームサーベルを振るう。
 その一撃にガンダムF91のファイターは対応しきれなかったが、まだ微妙に狙いが反れ、ガンダムF91の右腕を切り落とした。
 右腕を切り落とされながらもガンダムF91はヴェスバーをセイバーに向けるとセイバーも反転してアムフォルタスを向ける。
 2体にガンプラがビームを撃ち合おうとする瞬間にガンダムF91の背後からオオトリがガンダムF91に激突した。

「はい。終わり」

 オオトリに突撃された事でガンダムF91は撃墜されてバトルが終了した。

「次で最後か」
「最後かじゃねーよ。また、オオトリをそんな事に使いやがって……」
「直せば問題ないだろ」

 1回戦に続き準決勝でもオオトリをぶつける為に使われて文句を言いたいが、言ったところで無駄なのだろう。
 そして、すぐに決勝戦が開始される。
 決勝戦のバトルフィールドは海上、バトル相手はアーチャーアリオスだ。
 バトルが開始されて、ストライクルージュとセイバーはビームライフルを放つ。
 だが、アーチャーアリオスは回避する。

「やっぱ早いな」
「今回はマシロの出る幕はないだろ」

 セイバーはモビルアーマー形態に変形してアーチャーアリオスを追いかける。
 だが、マシロのストライクルージュではアーチャーアリオスやセイバーの機動力にはついて行くことが出来ない。
 セイバーがアムフォルタスを放ち、アーチャーアリオスはGNアーチャーとアリオスガンダムに分離して回避する。
 元々、アーチャーアリオスはその2機がドッキングした状態である。
 2機の分離して、セイバーの攻撃をやり過ごすとセイバーの背後を取って、集中砲火を浴びせる。

「へぇ……意外とやるね」

 アリオスとGNアーチャーの動きを眺めていたマシロはそう言う。
 単純な実力で言えば1回戦の相手の方が上だが、決勝戦のファイターは2機の連携が取れている。
 少なくともマシロにはその動きを1人でやるならともかく、2人でやるのは難しい。

「流石にエリカ一人に押し付けるのも悪いな」

 エリカは上手い連携に苦戦している為、マシロも動き出す。
 
「ちょこまかと……」

 セイバーはモビルスーツ形態に変形するとビームライフルを放つ。
 だが、アーチャーアリオスは分離とドッキングを繰り返して、セイバーを翻弄する。
 アーチャーアリオスは分離して、GNアーチャーがGNミサイルの弾幕を張る。
 セイバーはシールドを掲げながらビームライフルと頭部のバルカンでGNミサイルを迎撃する。
 しかし、GNミサイルを迎撃している間にアリオスがGNビームサーベルを抜いて回り込んでいた。
 セイバーは何とかシールドでアリオスの攻撃を受け止める事が出来たが、今度はGNアーチャーがGNビームサーベルを抜いてセイバーに迫って来ていた。
 完全にアリオスの相手で手一杯である為、GNアーチャーの攻撃にまでは対処しきれなかった。
 GNアーチャーがビームサーベルでセイバーを攻撃しようとしたが、その前にオオトリがGNアーチャーに激突した。

「またかよ!」

 1回戦、準決勝に続き決勝戦においてもオオトリをぶつけて、流石にエリカもバトル中にマシロに文句を言うが、マシロのストライクルージュは降下していた。
 元々ストライクルージュには重力下での飛行能力は無い。
 オオトリをぶつける為に使ってしまえばストライクルージュは海に落ちる。

「後はお前が決めろ」

 マシロがそう言ってストライクルージュは海に落ちた。
 この程度では戦闘不能にはならないが、暫くはストライクルージュはバトルに参加は出来ないだろう。

「勝手な事言って!」

 セイバーはシールドでアリオスを押し戻す。
 アリオスを押し戻すとビームサーベルを抜いて、反撃する。
 アリオスは肩からビームシールドを出して、防ごうとする。

「舐めんな!」

 セイバーのビームサーベルがアリオスのビームシールドにぶつかる寸前に、セイバーはビームサーベルを止めた。
 そして、そのまま機体を回転させて、アリオスのビームシールドを発生させている肩のユニットを切り裂いた。

「こいつで!」

 止めに左腕のシールドを捨て、2本目のビームサーベルを抜いて、アリオスに留めの一撃を入れた。
 その一撃はアリオスを両断した事でバトルは終了した。




 大会の決勝戦が終わり、表彰式が始まる頃には観客の大半は帰っていた。
 現役の世界王者であるマシロが参加する以上は優勝者はマシロとエリカであると言う事は誰もが分かり切っていた為、決勝戦が終われば残っている理由もない。
 こうして、カップルバトルは終わりを迎えた。

「本当に良いのかよ? アタシが2個とも貰ってさ」
「俺要らないもん」

 大会が終わって賞品である大剣とガンソードを貰ったが、本来は二人で分ける為に賞品が二つ用意されていたが、マシロは元から賞品に興味は無かった。
 エリカとしても流石に二つとも貰うのは気が引けた。

「武器は持ってて楽しいコレクションじゃない。使ってこそだろ」

 ガンプラの楽しみの一つとして作ったガンプラを飾って楽しむと言うのがあるが、マシロとしてはガンプラは戦わせてこそのガンプラだ。
 その為、使い道のない武器を貰っても仕方がない。

「まぁ……マシロがそう言うならアタシが使わせて貰うけど……」

 大会自体、殆どマシロが勝ったような物で、活躍出来なかったエリカは賞品だけ貰うと言うには抵抗があるが、マシロがいらないと言っている以上、貰うしかない。
 
「アタシに負けて後悔すんなよ」
「俺が負けるとかありえないね」
「言ってろ。アタシだけじゃない。アオイだって格段に腕を上げて成長してんだ。余り余裕をかましていると足元を掬われるぞ」

 マシロは相変わらずの絶対的な自信だが、静岡ではアオイは今でも成長を続けている。
 特にアオイは自分やタクトと本当の意味で友達となった事で急激に成長している。
 そのまま成長を続ければ自分もアオイもマシロに届き勝つ事が出来ると信じている。

「やれるもんならやって見ろ。お前達が幾ら成長しようとも関係ない。俺はそれ以上の速さで進化しているから」

 アオイやエリカが成長しようとマシロには関係なかった。
 幾ら成長したところで、マシロは進化して行く。
 そうすれば差は縮まるところか開いて行くだけだ。

「とにかくだ。これだけは言っておく……今日は助かった。ありがとう」

 エリカのお礼にマシロは少し驚いていた。
 理由までは分からないが、エリカがマシロに敵対意識を持っていると言う事は気づいていた。
 今日の事も互いに利害の一致でしかない為、礼を言われる理由などない。
 だが、エリカにとっては形はどうあれ、マシロに助けられた事に代わりは無い。
 例え、それがマシロにとっては利害の一致でしかないと分かっていてもだ。
 流石にマシロに面と向かって、お礼を言うのは気恥ずかしいのか、視線を逸らしていた。

「ああ……うん」
「何だよ?」
「……何でもない。ただ、悪くない」

 マシロはそう言うが、今度はエリカの方がついて行けない。
 エリカとしては、マシロに対する感謝の気持ちを口にしたに過ぎない。
 多少、気恥ずかしい事もあり、マシロとは決して友好的な関係でもない。
 とはいえ、別にエリカとマシロはガンダムの作中における戦争をしている組織同士のような敵同士と言う訳でもない。
 倒すと言っても、マシロがファイターとしてずば抜けている為、同じファイターとして実力者であるマシロを倒したいと思っているだけで、マシロが思っている程、敵視をされている訳でも憎まれている訳でもない。
 だから、エリカにとってはマシロに感謝する事があれば、感謝の言葉を口にするのは当然の事だった。

「そんじゃ、俺は用は済んだから帰る」
「次に会うのは世界大会の会場だからな」
「そう言い切るには観客としてじゃない事を願うね」

 最後は憎まれ口を叩いて、エリカと別れるが不思議と気分が良く足取りは軽かった。
 
「ありがとうか……さて、アイラの奴を鍛えるとするか」

 マシロはネメシスの拠点に戻った後のアイラの練習メニューを考えながらホワイトベースに帰って行く。
 そして、気分が良いが故にマシロの考えた練習メニューがアイラにとっては地獄の始まりである事は、この時、マシロと別行動でパリを満喫していたアイラは知る由も無かった。
 



[39576] Battle34 「弱点」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/07/18 21:30
 マシロが新たなガンプラを制作する為に、自身の兄弟たちを巡る旅は終わりを迎えた。
 その帰還は約3か月程になる。
 3か月ぶりにマシロとアイラはチームネメシスの拠点の島に帰って来た。

「ようやく戻ったか」

 島に戻るとマシロとアイラはオーナーであるヨセフに呼び出されていた。
 オーナー室にはヨセフの他にバルトも二人を待っていた。
 島に付いてホワイトベースを降りた時点でアイラは初めて会った時のように無表情となっている。

「ただいま」
「それで首尾はどうなんだ? 納得の行くガンプラは作れそうなのか?」

 ヨセフは旅の事よりもそっちの方が聞きたかった。
 マシロが次の世界大会用の為に制作するガンプラはネメシスが優勝する為には重要となって来る。

「決勝に間に合わせる事が限界みたい」

 マシロも隠す必要も無い為、現状を素直に話した。
 余り良くない状況にヨセフは顔を顰めるが、その反面、ヨセフの横にいるバルトは少し嬉しそうだ。
 マシロの新型が間に合わなければ、その分、フラナ機関が送り出して来たアイラの活躍の場が増える。
 そうなれば、ヨセフからの評価も変わって来る。

「それで、アイラの指導はどうなんだ? まかさ、3か月も連れまわして何の成果もなかったとは言わないだろう?」

 結果が思わしくない事を言い事に散々、フラナ機関の予定を狂わしたマシロに対し、バルトは嫌味も込めてそう言う。
 だが、マシロは気にした様子はない。

「その事なんだが、ガウェイン以外でチームのファイターを全て貸して欲しい」
「どういう事だ?」
「アイラに本格的な練習をさせる為に必要なんだよ」

 マシロは自分の用事も済んだ為、本格的にアイラを鍛えようとしていた。
 その練習の為にガウェインを除いたネメシスのファイターを全て使いたかった。

「説明次第だ」
「練習は簡単。今日からアイラにはひたすらバトルをして貰う。相手はガウェインを除いたネメシスのファイター全員とだ。期間は3か月。その間、ファイター達にはアイラに何度も挑んで貰う。アイラにはバトルを拒否する権利はない。但し、一日100勝をノルマとし、クリアすれば拒否する事も許可する。そんで、一日の最後に俺がガンプラの修理とメンテをするけど、それ以外は全てアイラ自身がやる事。必要な道具やパーツはチームから支給させるけど、手伝いの人員はチームやフラナ機関から使う事は一切禁じる。バトルが終わる度にレポートを俺に提出、一回の提出忘れで一か月期間を延長する」

 マシロは次々とアイラの練習メニューを告げる。
 ヨセフは顔色を変える事は無いが、その無茶苦茶な内容にバルトは顔を青ざめている。
 顔にこそ出さないが、アイラも同様だ。

「最後にこれが重要。その間に一度でも負けたらチームを去れ」
「何を馬鹿な事を!」

 最後の条件にバルトがついに口を挟んだ。
 幾ら練習とはいえ、たった一度の敗北でアイラをチームから追放するなど無茶も良いところだ。
 一か月を30日として計算すると、一か月で3000回、3か月で9000回のバトルを行い、尚且つ全て勝利しなければならない。
 その上で毎回、レポートを提出しなければならず、一回の忘れに対して一か月の期間延長すると言う。
 更には一日の最後にマシロがやってくれるとは言っても最低100回のバトルでの損傷はアイラ一人で直さなければならない。
 被弾しなければ修理の必要はないが、ガンプラを実際に動かしていると都合上、バトルの回数が増えれば関節部などは消耗して来る。
 そこに回数を重ねる事で疲れが溜まればアイラでも厳しいだろう。
 
「幾らチームのエースだろうとそこまでの権限は……」
「許可しよう」

 抗議するバルトを遮りヨセフが許可を出した。
 
「しかし! オーナー……流石に彼の条件は……」
「負けなければいいだけの事だろ? それに世界大会ってのは一度の敗北で終わるって事も珍しくはないんだよ」

 世界大会は予選ピリオドと決勝トーナメントの2つに分けられる。
 決勝トーナメントはその名の通りトーナメント戦で一度の敗北で終わりとなる。
 予選ピリオドは8つのピリオドからなるポイント制だ。
 各ピリオドは観客を飽きさせないように、毎年のように様々なルールや形式で行われる。
 その中で各ピリオドで定められた条件を満たす事でファイターにポイントが振り分けられる。
 そのポイントの獲得数が多い上位16名が決勝トーナメントに駒を進める事が出来る。
 一見、一度や二度程度ポイントを落としたくらいでは挽回が出来るように見えるが実際は上位16名の大半は全勝で勝ち抜けている。
 その為、予選ピリオドにおいて、1つ落とすだけでも決勝トーナメントに進める可能性は格段に落ち、2つ落とせばまず勝ち進めないシビアな戦いが毎年のように繰り広げられている。
 ルールも単純なバトル形式から変わり種と多種多彩で本来は決勝トーナメントで上位に勝ち進めるだけの実力を持っていても、変わり種の種目でポイントを逃してしまい、予選ピリオドで敗退するファイターも毎年出て来る。
 単純なバトルの実力はあって当たり前でどんなルールだろうと、対応する事が世界大会で必要とされる強さと言っても良い。
 つまり、世界の頂点を狙うのであればどんな条件や状況だろうと勝たなければ生き残る事は出来ない。

「問題ありません。勝てば良いだけの事でしょう」
「しかしだな……」
「俺とガウェインがいないだけ有難いだろう」

 マシロがガウェインを除くと言ったのは、ガウェインも含めてしまえば1か月も待たずにアイラはどこかでガウェインに負けると考えているからだ。
 その点、ネメシスには自分とガウェインを除けば準世界レベルが関の山で世界レベルのファイターはいない。
 
「文句を言っても中間管理職のアンタじゃどうにもならないんだ。どの道、勝ち続ければ良いだけの簡単な練習なんだからさ」
 
 尚も納得の行かないバルトにそう言う。
 マシロにとってはバトルで負けないと言う事は当たり前の事でしかない。
 どの道、ヨセフが認めた以上は、バルトが抗議したところで決定が覆る事は無い。
 
「ちなみに練習は今日からだから」

 こうして、アイラの地獄の3か月が始まった。










 練習開始から1週間が経過した。
 始めこそは一日100回のノルマとそのバトルレポートに苦戦するも、元々の実力差が圧倒的である為、一週間もすればアイラも序盤と終盤の戦い方が分かり余裕も出て来た。
 次のバトルの相手はイージスガンダムだ。
 イージスはビームライフルを連射して、ある程度の距離を詰めると両腕からビームサーベルを展開して接近戦を仕掛ける。
 
「その程度の動きで……」

 イージスのビームサーベルをサザビー改はギリギリのところで回避する。
 ビームサーベルを回避されたイージスは右足を蹴りあげる。
 
「無駄よ」

 粒子の動きからそれを見えていた為、サザビー改はシールドで受けようとした。
 しかし、シールドで受ける前に、イージスの足からビームサーベルが展開した。

「っ! そんなところに」

 粒子の動きからはイージスの動きは蹴りの動作でしかなかった為、足からビームサーベルが出せると言うのは完全に予想外の事だった。
 イージスの足のビームサーベルはサザビー改の頭部を切り落とすが、すぐに至近距離からサザビー改にロングビームライフルを撃ち込まれてイージスは撃墜された。
 ガンプラの修理の経験のないアイラは、その日のバトルはサザビー改は頭部がない状態で戦う事となり、これを好機と何人のファイターが挑むが結局、アイラを負かす事は誰も出来なかった。




 訓練から一か月、この頃になると一回のバトルに使う時間が短くなって来ていた。
 時間をかければかける程、体力も使う為、速攻でバトルを決めて速い段階でノルマを達成すれば体を休める時間も増える。
 そんなアイラの次のバトル相手はセラヴィーガンダムだった。

 サザビー改はロングビームライフルを連射しながら、セラヴィーに突っ込む。
 セラヴィーは両手のGNバズーカⅡを両肩のGNキャノンに接続したGNツインバスターキャノンを放つ。
 サザビー改はシールドで受け止めながら突っ込んだ。
 そして、ビームナギナタで切りかかる。
 セラヴィーはGNフィールドで防ごうとするが強引にビームナギナタで押し切る。
 ビームナギナタがセラヴィーを切り裂くが、セラヴィーの膝のGNキャノンから隠し腕と共にビームサーベルが突きだされた。

「また、そんなところに……」

 サザビー改はギリギリのところで回避するが、ビームサーベルはサイドアーマーを破壊する。
 そして、セラヴィーのバックパックが稼動する。
 バックパックが変形して、もう一機のガンプラであるセラフィムガンダムへと変形する。

「そんなところにも……」

 セラフィムは腕をGNキャノンに変形させると、セラヴィーを切り裂いている途中のサザビー改にGNキャノンを放つ。
 とっさにセラヴィーを盾にして、サザビー改はファンネルを飛ばす。
 セラフィムの攻撃でセラヴィーが破壊される間に、ファンネルがセラフィムを囲い全方位からの集中砲火によりセラフィムを撃墜した。
 その様子をマシロはモニターしていた。
 アイラの行ったバトルは全て録画されており、マシロはリアルタイムとアイラが書いたレポートを見ながら見直していた。

「一か月で全然進歩してないな」

 それがマシロの素直な意見だった。
 この一か月でアイラはいかに修理なしで回数を重ねるやり方を身に着けつつあるが、マシロから見れば全く進歩していない。

「今日もやってんな。今、何勝目だ?」
「さぁ? 大体60勝くらいだな」

 モニター室に、アイラの練習から外されて他のファイターは打倒アイラで手一杯である為、練習相手のいないガウェインが入って来る。
 すでにガウェインもアイラが何をやらされているのかは聞いている。

「これ見てみ」
「……何だこりゃ」

 マシロは持っていた紙の束をガウェインに見せる。
 それを見たガウェインは内容を殆ど理解出来てはいない様子だ。

「アイラの奴に書かせたレポート。ふざけてんだろ?」
「これがか?」

 流石にすぐには信じられなかった。
 マシロはアイラに書かせたレポートだが、内容が酷かった。
 レポートと言う体は成してはいるが、相手のガンプラは名称ではなく外見や印象などで書かれている事が多い。
 ファイター達には外見が変わる程の改造を禁止している為、単純にアイラは相手のガンプラの名前を知らないだけだ。
 その上で内容は簡単な結末くらいしか書かれていない。

「俺は俺の視点からしかアイラのバトルを見る事は出来ないからな。だから、アイラの視点のバトルを知る為に書かせたんだが、意味がない」

 マシロがアイラに書かせたレポートの意味は大きく分けて二つある。
 一つはアイラが自分のバトルを客観的に見直す為だ。
 もう一つはアイラの視点からのバトルをマシロが知る為だ。
 どうやっても、マシロは自分の視点からしかバトルを見る事は出来ない為、アイラが自分のバトルを客観視して書いたレポートを見る事で多少は、アイラの視点のバトルを見る事が出来る。
 同じバトルでもファイターによって見えている物は違ってくるからだ。
 だが、アイラの書いたレポートは取りあえず、書けと言われたから書いた程度の物だ。

「だったら言ってやれば良いだろ?」
「言ってどうなるってレベルの話しでもなさそうなんだよな」

 マシロはアイラと共に行動する中で多少なりとも、アイラの事は見て来たつもりだ。
 
「アイツさ、俺達と違ってガンプラバトルをやっているんじゃなくてやらされているって感じがするんだよな」

 マシロも今でこそ、ガンプラバトルで勝ち続ける事を義務つけられているが、今のクロガミ一族になった事もガンプラバトルを始めた事も誰に強制された事じゃない。
 自分でやりたいから進んだ道だ。
 それは程度の問題がどうあれ、ガウェインや大抵のファイターに当てはまる事だろう。
 自分でやりたいと思ったから強くなろうとする。
 だが、アイラの場合は事情が少し違っているように感じた。
 詳しい事情はマシロは興味がないが、アイラはガンプラバトルをやりたくてやっている訳ではないようだ。
 それは、行動を共にしていた中でも、マシロが自由にしていいと言った時、アイラがガンプラに触れていた時間は殆どない。
 自主練をさせても、集中力が長く続かないなど、明らかにアイラはガンプラバトルに対する熱意が絶対的に足りてない。

「そんな奴に何を言っても意味し、成長もない。それでも、実力はあるから3か月間で負ける事は無いだろうけど」

 本人の熱意に実力が比例する訳ではない。
 幾ら、熱心に練習を繰り替えいても、ファイターとしての芽が出ないファイターも居れば、アイラのように本気で練習をせずともファイターとして実力を付けるファイターもいる。
 
「取りあえず、残りの2か月は様子見も兼ねてこのままやらせるけど、アイラ自身が変革しなければ多少は強引な手を使わないと駄目だな」
「ふん。アイツの事はどうでも良い。後、2、3か月で世界大会の地区予選が始まり出すんだ。それに備えて練習相手を探していたんだが、お前のせいで見当たらないんだが、どうしてくれる」
「仕方が無いな。俺が相手をしてやるよ」

 ネメシスのファイターはマシロの指示でアイラの練習に駆り出されている。
 チーム外のファイターとのバトルは自信の情報を流出しかねない為、この時期には極力避けたい。
 マシロとしても少々、退屈していた為、ガウェインの相手をする事にした。





 練習開始から2か月。
 この頃になると、ネメシスのファイター達も、単純に回数を重ねても正面から攻めたところでアイラに勝ち目がないと言う事を悟り始める。
 それと同時にアイラは一度の敗北も許されていないが、他のファイターは何度負けようとも挑戦が許されている。
 その中で、気づき始めている。
 アイラはバトルの腕はずば抜けているが、その反面、ガンダムやガンプラに関する知識は皆無なのだと。
 アイラは通常バトルでは無敵とも言えたが、何度か危うい場面がある。
 その場面は外観からは予測し辛いギミックによる物だ。
 ファイター達はガンダムに関する知識は相当な物である為、そんなギミックは当然始めから知っている物だと言う前提だったが、知識がないのであれば十分に使える物だと気付き、その情報は瞬く間に拡散した。
 そんな、ガンプラを用意しアイラのバトルが続く。
 次の対戦相手のバウだ。
 バウはビームライフルを連射するが、サザビー改は簡単に回避して、ビームナギナタで接近戦を仕掛ける。
 ビームナギナタでバウを胴体から切断しようとするが、バウはバウ・アタッカーとバウ・ナッターに分離して攻撃をやり過ごす。

「分離した……」

 そして、バウ・ナッターをサザビー改に特攻させる。
 サザビー改はバウ・ナッターを拡散ビーム砲で撃墜すると、バウ・アタッカーはサザビー改の背後を取り、攻撃するも決めてにはならずにサザビー改のロングビームライフルで敢え無く撃墜された。



 3か月目にもなると、アイラの不意を付く作戦もネタ切れ寸前となって来た。
 その頃になると、ひたすら挑んで偶然の勝利を当てにするも、そう都合よくはいかない。
 結局のところ、アイラは3か月の間、一度も負ける事は無かった。

「どーよ!」
「格下相手に連勝したところでなぁ」

 アイラは3か月間、全勝しマシロに対して若干の疲れを見せるも得意げにしている。
 マシロからすれば、アイラの実力ならこの程度は出来て当たり前だと思っている為、驚きも何もない。

「言われた通りに全部勝ったじゃない」
「相手が弱かったからな。うちのチームは俺とガウェイン以外は良くて準世界レベル。ガウェインに一度でも勝つ事が出来たお前なら勝って当たり前なんだよ」

 言われた通りに勝ち続けたのにこの言われようでは、アイラも面白くはない。
 得意げな表情から一変、ムスっとするが、マシロは続ける。

「だから見せてやるよ。最強ファイターのバトルって奴をな」
「見せて貰おうじゃない!」
「そんじゃ、出かけるぞ」

 アイラはここでマシロの実力を見せるものだと思っていたが、どうやら違うようだった。

「目的地は世界レベルのファイターを多く輩出しているらしい。ガンプラバトルのメッカ。ガンプラ塾だ!」
 



[39576] Battle35 「勝利の重み」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/07/25 07:36
 ガンプラ塾……PPSE社が出資の元、二代目メイジンカワグチが開校しているガンプラのビルダー及びガンプラバトルのファイターを育成する専門機関。
 入塾する為にも世界に通用するレベルの技術が要求され、そこからメイジンの方針で徹底的な弱肉強食を基礎理念とした競争が繰り広げられていた。
 マシロはアイラを連れてガンプラ塾に来ていた。
 マシロも以前からガンプラ塾の存在は知っていた。
 だが、マシロは基本的に集団行動をする気は無く、必要が無ければ他者から教えを請うと言う事をしなかった。
 そんな事をしなくても、クロガミグループの力があれば、ガンプラ塾と同レベルの環境で実力を磨く事が出来たからだ。

「前にここに来ようとした時はタイミングが悪かったから結局来なかったんだよな」

 ガンプラ塾で学ぶ気は無かったが、数年前にマシロはガンプラ塾に来ようとしていた。
 理由はここのファイターとバトルする為だった。
 ガンプラ塾で腕を磨いているファイターの実力はチームネメシスのファイターよりも全体的に上だ。
 だが、結局来る事は無かった。
 当時、マシロがバトルしたかったファイターの筆頭であった、ジュリアン・マッケンジーが塾を止めた事が原因だった。
 ジュリアンは三代目のメイジンカワグチの筆頭で、同年代では頭一つ抜けた実力を持っていると、マシロは耳にした。
 そんなジュリアンとバトルする為に、ガンプラ塾に来ようとしたが、その前にジュリアンは塾を止めて、ガンプラバトル自体を止めてしまった事もあって、マシロはガンプラ塾に来る気が失せた。

「頼もー!」

 マシロはガンプラ塾の門を力強く開いた。
 始めは何事かと、塾生たちはマシロの方を見ると次第にざわつき出す。
 マシロが町で歩いていたところで、騒ぎはまず起きないだろう。
 世界王者とは言ってもマシロは玩具のバトルの世界王者に過ぎない。
 一般的な知名度は低い。
 だが、ここにいる者達は皆、ガンプラバトルで世界一を目指している。
 その為、ここにいる者達の中で現世界王者であるマシロの顔を知らない者はいる筈もない。
 そして、マシロはインタビューの時に全世界のファイターに対して喧嘩を売っている。
 当然の事、マシロの事を良く思わないファイターも大勢いる。

「本日はどのような……」
「メイジンを出せ」

 以前にアポすら取らずに来ている為、塾の受付嬢がマシロの用件を聞こうとするが、マシロは最後まで聞く事無く、用件を伝える。

「メイジンは少々、出ていまして……」
「戻って来るまで待たせて貰う。丁度、暇つぶしの相手には困る事は無いみたいだしな」

 当然、やって来ていきなりメイジンを出せと言うマシロの物言いに塾生たちは明らかに歓迎ではなく、敵意を見せている。
 
「相手をしてやるよ」

 マシロはガンプラを出して、塾生たちを挑発する。
 そして、すぐにマシロはバトルシステムの元まで案内された。
 マシロが来た事はすぐに、塾全体に知れ渡り、マシロとバトルする為に塾生たちの行列が出来上がった。

「アイラ、良く見ておけよ。世界最強のファイターのバトルと、勝つ為に必死こいている奴らのバトルをな」

 マシロのセコンドにアイラが付いていた。
 外からバトルを見るよりも、マシロのセコンドに付いて見た方がバトルの状況が良く分かるからだ。
 余り目立つ事は避けるように言われていたが、塾生たちはマシロの方に注意を向けている為、アイラの事は誰も気にしてはいない。
 マシロがGPベースをセットし、ガンプラをバトルシステムに置いた。

「マシロ・クロガミ。ガンダム∀GE-1 セブンスソード。出る」

 マシロのバトル相手のガンプラはガンダムアストレイゴールドフレーム天だ。
 ゴールドフレーム天はミラージュコロイドを展開して姿を消した。

「マシロ! う……」

 アイラは以前、アメリカで同じようにミラージュコロイドを使って姿を消すガンプラとバトルしている。
 アイラはプラフスキー粒子を肉眼で見えている為、意味を成さなかったが、マシロには粒子が見えていない。
 その為、アイラはゴールドフレーム天が背後に回り込んでいると言う事を警告しようとするが、アイラの警告よりも先にガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開し、背後を切りつける。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードの一閃は正確にゴールドフレーム天を切り裂いていた。

「うそ……」
「姿を消してたって、微妙にバトルフィールドが歪んでいるからな。それを見逃さなければ対処は出来る」

 マシロはアイラに説明をする。
 マシロにはアイラのように粒子を見る事は出来ない。
 だが、人並外れた目の良さで、マシロはミラージュコロイドで消えているゴールドフレーム天の位置をバトルフィールドの微妙な歪みから把握していた。
 マシロは簡単に言うが、肉眼でそんな事は並の人間では不可能な芸当だ。
 ゴールドフレーム天が撃墜されると、ファイターが変わりバトルフィールドも変更され、次のバトルがすぐに開始される。
 今度のバトル相手のガンプラはザクⅢだ。
 ザクⅢはビームライフルをガンダム∀GE-1 セブンスソードに連射するが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは簡単に回避して、Cソードを振るう。
 ザクⅢはビームライフルに付いているヒート剣でCソードを受け止める。
 
「流石ガンプラ塾の生徒ってところか、内の連中なら今の一撃で半分は終わってたよ」
「チャンピオンだからって!」

 ザクⅢはフロントスカートに内蔵されている隠し腕のビームサーベルを使おうとするが、その前にガンダム∀GE-1 セブンスソードは膝蹴りでフロントアーマーを蹴り飛ばす。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルでザクⅢを撃ち抜いて撃破した。
 2人目を倒すとすぐに、次の相手がガンプラを置いた。
 今度の相手はガンダムAGE-3 ノーマルだ。
 ガンダムAGE-3はシグマシスライフルを撃って、ガンダム∀GE-1 セブンスソードを牽制する。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルで反撃する。
 そして、接近すると、シールドのビームサーベルで切り裂く。
 だが、ガンダムAGE-3はコアファイターとGセプターに分離した。
 Gセプター分離した状態で変形せず、シグマシスライフルをガンダム∀GE-1 セブンスソードに向けるが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはGセプターを踏みつける。

「Gセプターを踏み台に!」

 Gセプターを踏み台に、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは加速して、コアファイターに追いつくとシールドのビームサーベルでコアファイターを両断し、踏み台にされた事で体勢を崩していたGセプターにショートドッズライフルを撃ち込んで破壊する。
 3人目に勝利し、4人目のファイターとバトルするも、マシロは簡単に勝利し、それが何度も続いた。
 マシロに挑むファイターはことごとく勝利していく。
 それが数時間も続くが、塾生たちの勢いは止まる事は無い。
 その中には一度や二度も挑戦するファイターもいたが、マシロに勝つ事はおろか、数分以上も持ち堪えたファイターはいない。

「情けない。それでも名誉あるガンプラ塾の塾生か」

 マシロとのバトルで相手にならない事に痺れを切らした塾の講師が生徒を押しのけてバトルシステムを挟んでマシロの前に立つ。

「今度はアンタが相手?」
「俺は塾生程、甘くないぞ」

 講師はバトルシステムにガンプラを置いた。
 相手のガンプラはクシャトリヤだが、微妙に改造されている。
 左腕がクシャトリヤ・リペアードと同じハイパービームジャベリンとなっており、右手にはビームガトリングガンを2基装備している。
 今までのファイターとは違い細部の出来も違うと言う事が見て取れる。
 それだけでも、ガンプラ塾の講師が塾生よりも頭一つ抜けていると言う事が分かる。

「関係ないな」

 だが、マシロからすれば少しの違いでしかなかった。
 そして、バトルが開始される。
 バトルフィールドはオーソドックスな宇宙だ。

「行って来い。ファンネル」

 バトルが始まってすぐにクシャトリヤはファンネルを展開する。
 ファンネルはガンダム∀GE-1 セブンスソードを囲むように展開して、全方位からビームを放つ。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは最低限の動きとシールドでファンネルの攻撃を防ぎつつ、胸部のビームバルカンでファンネルの数を減らしていく。

「やるな。流石はチャンピオンだ」
「アンタもね。少しはウチのルーキーにファンネルの使い方を見習って欲しいよ」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードを囲み全方位からビームを放っていたファンネルだが、数基のファンネルがガンダム∀GE-1 セブンスソードに向かって飛び出して来る。
 相手のクシャトリヤのファンネルは全てがビームを撃つタイプではなかった。
 見た目こそは同じファンネルの中に何基かはミサイルのように使う改造ファンネルを仕込んでいた。
 その改造ファンネルが普通のファンネルのビームに合間を縫ってガンダム∀GE-1 セブンスソードに襲い掛かる。
 迫るファンネルに対してマシロは冷静に対処する。
 一気に加速して、通常ファンネルのビームの檻から飛び出ると追って来た改造ファンネルをショートドッズライフルで迎撃する。
 何基かはそれで撃墜し、残った改造ファンネルをシールドのビームサーベルで切り裂いて破壊した。
 だが、その隙にクシャトリヤは回り込みガンダム∀GE-1 セブンスソードに接近し、左腕のハイパービームジャベリンを突き出して来る。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードで受け止めるが、クシャトリヤは勢いに任せてガンダム∀GE-1 セブンスソードを押し込む。

「これがファンネルの正しい使い方の一つだ。覚えておけ」
「何、悠長な事言ってるのよ」

 クシャトリヤに押されている状況だが、マシロは余裕な態度を崩さない。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはスラスターを最大出力で使い、勢いを殺した上でCソードでハイパービームジャベリンを押し返す。
 次にシールドのビームサーベルを振るうが、クシャトリヤは4枚のバインダーの1枚を盾のように使って受け止めた。
 バインダーに当たったビームサーベルは、バインダーを切り裂く事は無く弾かれた。

「Iフィールドか」

 相手のクシャトリヤの4枚のバインダーの全てに特殊塗装によるIフィールドの機能が組み込まれている為、ビームサーベルで切り裂く事は難しい。
 クシャトリヤはバインダー内のサブアームのビームサーベルを突き出すが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはサブアームを蹴ってサブアームを折る。
 
「逃がすか!」

 クシャトリヤはビームガトリングガンをガンダム∀GE-1 セブンスソードに向けて放つ。
 距離が近い為、この攻撃は回避出来ないかと思われたが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはスラスターを使って反転するかのように、クシャトリヤの背後に回り込んで回避した。
 そして、Cソードを振るう。
 Cソードはクシャトリヤのバインダーを1枚切り裂くが、残っていたファンネルの攻撃で追撃が出来ずに距離を取って、ファンネルをショートドッズライフルで撃墜する。
 
「講師と言うだけあって少しはやるみたいだけど、この程度か……まぁ、いい暇つぶしにはなったよ」
「ぬかせ!」

 クシャトリヤはバインダーのメガ粒子砲を放つが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは軽々と回避して距離を詰める。
 ある程度、距離を詰めたところで、拡散メガ粒子砲を撃つも、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはシールドを使いながら最低限の回避行動で回避する。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードの間合いに入ったところでガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを振るう。
 クシャトリヤはバインダーで守ろうとするが、Cソードは易々とバインダーを切り裂く。
 完全に懐に飛び込まれたクシャトリヤは胸部のマシンキャノンでガンダム∀GE-1 セブンスソードを追い払おうとするも、威力の小さいマシンキャノンを完全に無視したガンダム∀GE-1 セブンスソードは腰のショートソードを抜くとクシャトリヤの頭部に突き刺す。
 最後にシールドのビームサーベルを最大出力で展開して横に振り抜いた。
 ビームサーベルがクシャトリヤの胴体を真っ二つに両断した。

「くっ……」
「さて……こっちはアップが終わってるけど、アンタはどうする?」

 バトルが終わりマシロがそう言う。
 その先には赤いマフラーの人物、二代目メイジンカワグチがいた。
 周囲のファイター達もメイジンの存在に気が付くと彼の前に道が出来る。

「成程、何か騒ぎが起きていると思えば、また貴様か」
「酷い言われようだな。ファイター同士、目が合えばバトルするのは常識だろ?」

 この騒ぎを起こした原因は紛れもなく、マシロにあるがマシロは気にした素振りは無い。
 
「まぁ良い。それで私に用とは?」
「今日はウチの新人教育に来たんだよ。で、アンタにはその生け贄になって貰う」
 
 マシロがそう言うと、マシロについて来たアイラの方をメイジンは一瞥する。
 アイラは反射的に目を逸らす。
 アイラでもメイジンの実力が一流であると言う事は肌で感じ取れる。
 アイラを一瞥したメイジンはバトルシステムの前に立つ。
 メイジンを生け贄にすると言う発言で、塾生たちは野次を飛ばすが、メイジンは相手にしていない。
 マシロの態度が挑発的だと言う事は世界大会で分かっている事だ。一々相手にしたところで相手のペースに乗せられるだけだ。
 メイジンはGPベースをバトルシステムにセットするとガンプラを置いた。

「二代目だけに第二世代のアストレアの改造機か」

 メイジンがバトルシステムに置いたのがガンダムアストレアの改造機ガンダムアストレアF3だ。
 ガンダムアストレアはガンダムOOのファーストシーズンの主人公機であるガンダムエクシアのベースとなった第二世代のガンダムだ。
 そのアストレアを改造したアストレアF2を更に独自の改造を施したのがメイジンの使うアストレアF3だ。
 メインにはアストレアF2を使い、バックパックにはダブルオーガンダムの物をベースに両肩にGNドライヴが来るようになっている。
 その両肩にはオーライザーの翼が装備される事で機動力と攻撃力を強化している。
 右腕にはGNソードⅡブラスターを装備されている。
 左腕には4基のGNフィンファングと先端にGNハンマーの付いたシールドにカートリッジが4つに増設されているNGNバズーカ、両腰のサイドアーマーにはGNソードの刃を流用して制作されている大型のGNブレイドとリアアーマーにビームサーベルが2基、右足にはハンドミサイルコンテナ、左足にはGNビームピストルのホルスターと全身にあらゆる距離での戦闘が可能な装備がされている。

「思い上がった小僧に引導を渡してくれる」
「アンタの時代は終わりにしてやるよ。今日、ここでな」

 互いに準備が出来たところで、現役の世界王者と二代目メイジンカワグチの世界最強クラスの二人によるバトルが開始された。
 バトルフィールドは今回も宇宙となっている。
 バトル開始早々、メイジンのアストレアF3がGNソードⅡブラスターで長距離狙撃を行う。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは回避しながら距離を詰めていると、GNソードⅡブラスターの射撃の合間にNGNバズーカからビームが放たれる。
 NGNバズーカは作中設定ではカートリッジを変える事で実弾だけではなく、ビームを撃つ事も可能とある。
 アストレアF3のNGNバズーカはビーム用のカートリッジが2基と実弾用のカートリッジが2基の計4基のカートリッジを搭載する事で、バトル中にビームと実弾を切り替える事が可能だ。

「近づけさせない気か」
「凄い……完全にマシロを抑え込んでる」

 マシロのガンダム∀GE-1 セブンスソードは近接戦闘を重視している。
 近接戦闘を避けると言うのは近接戦闘型に対する対処法のセオリーだ。
 アイラもガンダム∀GE-1 セブンスソードに対して何度も距離を取っての射撃で足止めを狙うが、マシロの操作技術でギリギリのところで防ぐか回避されて失敗して来た。
 だが、メイジンはマシロの回避先を予測しての時間差攻撃で完全にマシロの足を止めさせて回避に専念させている。

「やるね」
「そのままガンプラの性能を活かせぬまま落ちるが良い!」
「嫌だね」

 足止めをさせられていたガンダム∀GE-1 セブンスソードは多少強引に距離を詰め始める。
 アストレアF3は後退して距離を保つ。
 だが、重装備であるアストレアF3よりも機動力重視のガンダム∀GE-1 セブンスソードの方が機動力は高い。
 ビームを回避してはいるが、次第に距離が縮まって行く。
 アストレアF3は両肩のバインダーからGNマイクロミサイルを放ちながら、GNビームマシンガンを使う。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはGNマイクロミサイルをショートドッズライフルで迎撃しながら、アストレアF3の攻撃をかわす。

「高出力ビームの次は弾幕で足止め。メイジンを名乗る癖してやってる事がセコイよね」
「勝つ為にあらゆる手段を使うのは当然の事だ」
「同感だね」

 アストレアF3の攻撃をシールドを掲げながら、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは強引に突破しようとする。
 時折、GNソードⅡブラスターとNGNバズーカからの高出力ビームが飛んで来るが、そのビームは流石にシールドでは防ぐ事は難しい為、回避する。
 そうやって、距離を詰めてようやくガンダム∀GE-1 セブンスソードの射程に入る。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルで反撃を行うが、アストレアF3はGNフィールドで防ぐ。

「GNフィールドか……まぁ、予測の範囲内ではある」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルを連射するが、全てアストレアF3のGNフィールドに阻まれる。
 アストレアF3はNGNバズーカを放つ。
 放たれた弾丸が弾けてガンダム∀GE-1 セブンスソードを襲う。

「散弾まで用意してんのかよ」

 NGNバズーカの2種類の実弾用のカートリッジは1つは通常弾頭でもう一つが散弾用の弾頭となっており、それも切り替えて使う事が出来る。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは散弾をシールドを掲げて守るが、広範囲に広がった弾丸を小型のシールドだけで全て守り切る事は出来ない為、被弾する。
 幸い散弾である為、威力は高くない事もあって損傷はしていない。

「やってくれるな」
「このアストレアF3はお前のガンプラとは違い、あらゆる状況やあらゆる敵に対して常に効果的かつ、合理的に優位に立つ事が出来るガンプラだ」
「成程……ずいぶんとつまらなくなったよ。アンタ」

 マシロは一息つくと目つきが変わる。
 今までは様子見であった。
 マシロは二代目メイジンカワグチとバトルする為にここまで来た。
 当然、さっきまで相手にしていたファイターとは違い、ここに来るまでにメイジンの過去のバトルを見て徹底的に研究して来ている。
 その情報は過去の物である為、今のメイジンの実力を把握する為に抑えて戦って来た。
 そして、バトルの中でマシロは今のメイジンの実力を把握した事で攻勢に転じる。

「ここに来るまでにアンタのバトルを研究して来た」

 一気に加速したガンダム∀GE-1 セブンスソードはアストレアF3を中心として球を描くように動く。
 アストレアF3はGNソードⅡブラスターとNGNバズーカで攻撃するが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードの速度に狙いを定める事が出来ない。

「昔のアンタのバトルには鬼気迫る物があった」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルを放つが、アストレアF3のGNフィールドを突破する事が出来ない。

「けど、今のアンタにはそれがない。ただ、勝つが作業になって、執念を感じない」

 昔のメイジンのバトルは人によっては受け入れがたい物があるだろう。
 ひたすらに勝利を追い求め、その為なら悪魔に魂を売ろうとも構わないと言った勝利に対する執念があった。
 だが、今のメイジンにはそれがない。
 かつてのメイジンは勝つ為に必死が故に、そこまでの執念があったが、今のメイジンは実力を付け、経験を積んだ事で勝てることが当たり前となって慣れてしまった。
 故に最低限のリスクや効率良く相手を倒す事に長けているが、マシロは怖くない。

「知ったような口を!」
「生憎と俺はアンタが何の為に戦っているとか興味がないんでね。ただ、言える事はアンタは俺よりも弱いって事だけだ」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは腰のショートソードを取ると、アストレアF3に投げる。
 ショートソードはGNフィールドに阻まれるが、弾き飛ばされる前にショートドッズライフルを撃ち込んだ。
 ショートソードは破壊されるが、その爆風をアストレアF3はモロに受ける。

「ちっ」

 アストレアF3は小回りの利かないNGNバズーカを捨てると左足のGNビームピストルを持つ。
 そして、シールドの先端に付いているGNハンマーを射出する。
 GNハンマーはシールドをワイヤーで繋がっている為、ハンマーに付いている小型のスラスターを使ってある程度は自由に操作できる。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは迫るGNハンマーをシールドを使って勢いを殺して、逆にアストレアF3に蹴り返す。
 その勢いはワイヤーとスラスターでは制御しきれ無い為、ワイヤーを切断して回避する。
 その間にもガンダム∀GE-1 セブンスソードは距離を詰めようとしている為、アストレアF3はGNビームピストルで牽制する。
 しかし、威力の小さいGNビームピストルの攻撃などマシロは全く気にも留めていない為、牽制の意味を成さない。

「アンタのバトルは確かに効率的だよ。だからこそ、動きが読み易い。本当に怖い相手ってのは形振り構わずに勝ちに来る相手の事だよ」

 メイジンのバトルは相手に合わせてより確実性の高い戦い方をする事だ。
 その戦い方自体は間違ってはいない。
 寧ろ、勝つ為には効率的だ。
 だが、効率的が故にマシロには動きが読み易い。
 自分の動きに相手が合わせてくれているような物だからだ。
 これが中途半端な実力者なら、逆に自分の読み以下の行動を取られる為、それはそれで面倒だが、メイジンは世界トップレベルと言っても過言ではない。
 その為、メイジンの動きはマシロの思った通りに動いてくれる。
 逆に効率等を完全に無視して勢いで来る為、読みが全く出来ない。
 そうなれば、マシロの反応速度を活かした出たとこ勝負となってしまう。
 反応速度に絶対的な自信を持つが、相手の動きを事前に読めるか否かでは戦い易さは大きく変わって来る。

「今のアンタには負ける気がしないね」

 アストレアF3の牽制を無視して、距離を詰めたガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを振るい、アストレアF3はGNソードⅡブラスターで受け止めるが、十分に勢いが付いていた為、CソードはGNソードⅡブラスターを切り裂いて破壊する。
 すぐにアストレアF3はGNソードⅡブラスターをパージし、GNビームバルカンで牽制しながら後退するが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは追撃する。
 GNフィールドで追撃から身を守ろうとするが、CソードはGNフィールドを切り裂き、アストレアF3の片方のバインダーを切り落とす。
 アストレアF3は右足のハンドミサイルコンテナに内蔵されているミサイルを全弾放つがガンダム∀GE-1 セブンスソードは胸部のビームバルカンであっさりと迎撃される。

「この私が!」

 アストレアF3は両手に大型GNブレイドを持つと接近戦に切り替える。
 大型GNブレイドを振るい、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードで受け止める。

「金持ちのボンボンが道楽でやっているガンプラバトルと私のガンプラバトルでは背負う物が違うのだ!」
「知った事かよ」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードがアストレアF3を弾き飛ばすが、アストレアF3はすぐに体制を整えて突撃して来る。
 2機のガンプラは互いの実体剣を振るい何度もぶつかり合う。

「トランザム!」

 アストレアF3が赤く発光する。
 ベース機にも搭載されているトランザムシステムを使用したからだ。
 本来はエフェクトだが、作り込み次第では機体性能を3倍相当まで引き上げる事の出来るシステムとして使う事も出来る。
 それによって、アストレアF3が優位に立つ。
 武装の大半を破壊されて捨てた事で重量が大幅に減った事もあり、トランザム中の機動性能はガンダム∀GE-1 セブンスソードを完全に上回っていた。
 
「当然、トランザムも使えるよな」

 トランザムを使ったアストレアF3は機動力を活かして、ガンダム∀GE-1 セブンスソードに攻撃を仕掛ける。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは逆に殆ど動く事無く、アストレアF3からの攻撃に対して致命傷だけは避けている。
 だが、アストレアF3の狙いは関節部だ。
 関節部なら大きな損傷を与えずとも、多少の亀裂でも十分に効果的だ。
 特にガンダム∀GE-1 セブンスソードのような格闘戦重視のガンプラにとっては関節部の損傷は死活問題でもある。

「派手なシステムを使ってやってることは地味過ぎなんだよ」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルで反撃するがトランザム中のアストレアF3には当たらない。

「どうするのよ?」
「トランザムに使う粒子が切れるのを待つのがベターなところなんだけどな」

 自身の得意とする高速戦闘で相手に優位に立たれているが、マシロは相変わらず余裕な態度を崩してはいない。
 逆にメイジンの方は少し焦り始めている。
 トランザムは使用中は圧倒的な性能を発揮する反面、使用可能時間を過ぎてしまうと一気に性能が低下すると言う欠点も持っている。
 何度も関節を狙った攻撃を行うも、効果的な損傷を与える事が出来ていない。
 メイジンは知らないが、マシロは独自に金属粒子を練り込んだプラスチックを作らせていた。
 その試作品をマシロはフルアサルトジャケットだけではなく、セブンスソードの関節にも使っていた。
 試作品である為、完成品に比べると強度は落ちるが、それでも多少の損傷を狙った攻撃では簡単に損傷させる事は出来ない。

「けど……そんな必要もないけどな」

 背後からアストレアF3が大型GNブレイドを振り下ろすが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはギリギリのところで回避して、逆にCソードを振り上げてアストレアF3の肩のバインダーを切り裂く。
 そして、Cソードをパージすると両肩のビームブーメランを持つ。
 
「最後に一つ忠告をしとく……もう、アンタの時代は終わったんだよ」

 ビームブーメランをビームダガーとして使い、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはアストレアF3に振り落す。
 アストレアF3は回避する間も無く、二本のビームダガーの斬撃をまともに喰らう事となった。
 その攻撃が致命傷となって、アストレアF3は爆散した。

「馬鹿な……この私が……」

 バトルが終わり、メイジンは膝をついた。
 それに伴い周囲もざわめき始めた。
 そして、マシロは自覚していないがいつも、バトル後に少なからずあった虚無感がない事に気が付いては居なかった。

「アイラ、良く見とけこれが勝ち続けることを望まれているファイターが負けるって事だ」

 アイラにはメイジンの事情は知らないが、可愛そうに思えて来た。
 周囲のファイターは皆、ガンプラ塾の塾生だ。
 そんな塾生たちは目の前で敗北したメイジンの事を何とも言えない表情で遠巻きに見ているだけだ。
 誰一人としてメイジンの事を励ます事も慰める事もしない。
 メイジンは常に絶対的な勝利を信条として、それを塾でも徹底的に教え続け、自身もそれを体現し続けて来た。
 だがらこそ、その信条に心酔するファイターも多かった。
 しかし、そんなメイジンが目の前で敗北した。
 それは絶対的な強者であったメイジンが敗者となった瞬間でもあり、負ける事など微塵も思っていなかった塾生たちからすればすぐには信じがたい光景だ。
 
「こうなりたくなければ、誰にも負けない事だ」
「……そう、ね」

 メイジンとアイラの間に関わりはないが、他人事でも無かった。
 今でこそはマシロに負けてもチームとしては、文句はない。
 だが、いずれは世界大会でマシロに勝って優勝しなければならない。
 それはチームの為ではなく、アイラをチームに送り込んだフラナ機関の思惑の為だ。
 アイラが結果を残さなければ、チームはフラナ機関を必要としなくなる。
 それ自体はどうでも良い事だが、それによってアイラは自分の生活すらも失いかねない。
 その為には、このマシロに勝つ事は必須条件でもあった。
 
「さて、これで今日の講義は終了だ。帰るぞ。次は世界大会の予選だからな。もう、エントリーは済ませてあるし」

 マシロはすでにメイジンの事など眼中にないかのように次の事を話し始める。
 マシロにとっては、すでにメイジンは興味ないのだろう。
 メイジンが負けた事で、塾生や講師もマシロに挑む気概は残されてはいない。
 その時点で、マシロの中でガンプラ塾に対する興味も失せていた。
 マシロはさっさと帰ろうとして、アイラもそれに続く。
 メイジンが負けたと言う、塾の人間には信じられない事態が起きている為、誰もマシロ達の事を気にしている余裕はなかった。
 ガンプラ塾を事実上、壊滅的な打撃を与えたマシロの頭の中ではアイラの最後の訓練の事を考えていた。




[39576] Battle36 「仕組まれた敗北」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/07/26 08:40
 ガンプラ塾でのバトルから一か月、マシロはアイラと共にエントリーしたオーストラリアに来ていた。
 マシロはアイラの世界大会の地区予選の場としてオーストラリアを選んだ。
 元々、大会規約では自分の国籍以外の国からのエントリーを認められていない訳ではない為、ネメシスの地元のフィンランドから出る必要はない。
 だが、何故オーストラリアだと言うアイラやバルトの疑問にマシロは答える事は無く、地区予選一回戦の前日となった。
 マシロはアイラに会場の近辺で、最高級のホテルのスイートルームを貸し切りにして、泊まらせている。
 流石にこの待遇をアイラは怪しんだが、マシロは公式戦の前に心身共に万全の状態にすると言うのもファイターの仕事だと言いくるめた。
 そして、マシロはホテルのバーにいた。
 素顔を隠す為か、大き目のサングラスをしているが、愛用の白いマフラーはいつも通りに着用している為、知っている人から見ればすぐに分かる。

「……で、俺をこんなところに呼び出した用件は何だよ? 俺は明日バトルなんだかな」

 マシロはバーで待ち合わせをしていた。
 正確に言えば、相手の都合を完全に無視して呼びつけていた。
 その相手はマシロと同じチームでもあるガウェインだ。
 ガウェインは敢えて、チームのホームではなく自分の故郷でもあるオーストラリアから出場していた。
 これは、アイラがフィンランドから出ると思っていた為、わざと出場地区をずらした為だ。
 ガウェインは去年まではネメシスのエースとして各国のファイターに知られていたが、今となってはネメシスのエースはマシロと言う事で定着している。
 そして、アイラの加入で今はネメシスのナンバー3にまで落ちている。
 その上で世界大会に出場する事が出来ないとなると、チームでの地位が完全に崩壊する。
 それを避ける為に確実に世界大会に出る為に、アイラとは別の地区から出場しようとしていた。
 尤も、それもアイラが自分と同じオーストラリア予選に出る事となって完全にご破算だ。
 更に言えば、ガウェインの一回戦の相手はアイラであった。

「まぁ、座れよ」

 マシロは椅子を指さして、ガウェインを座るように急かす。
 ガウェインもマシロが用件をすぐに話す気がないと理解し、渋々座る。

「さて、今日、君を呼んだのは他でもない」
「前置きは良いから用件だけを言えって」

 マシロは両手を肘をついた状態で組みながら、勿体ぶっている。
 
「急かすなよ。今日は良いものを持って来た」

 マシロはそう言うと、足元に置いてあった包みをバーのカウンターに置く。
 包みを開くと中には壷が入っていた。
 流石にこのタイミングで、マシロが自分に壷を渡す理由に見当が無い為、ガウェインは状況が呑み込めずにいる。

「冗談だって、ノリが悪いな」

 マシロはガウェインが乗って来ない為、少し機嫌を損ねるが、壷の中からUSBメモリーを出す。

「これをやるよ」
「何が入っている?」
「聞いて驚け、アイラのマル秘映像だ」

 ガウェインはますます理解出来なくなる。
 取りあえず分かった事は、USBメモリーの中にアイラの映像が入っていると言う事だ。
 だが、それをガウェインに渡す理由が分からない。

「騙されたと思って見て見ろよ。今夜は眠れない事を保障するぜ」

 マシロは言うだけ言うとガウェインからの質問を一切させる事無く、バーから出て行く。
 ガウェインが我に返る事には、マシロを完全に見失い、バーにはマシロから渡されたUSBメモリーと壷、マシロが待っている間に飲んだミルクの伝票だけが残されていた。












 そして、オーストラリア予選当日、会場の駐車場にはフラナ機関が用意したトレーラーが止まっている。
 このトレーラーの内部には様々な設備が整えられている。

「何でコスプレ?」

 マシロは第一声でそう言う。
 今回は公式戦と言う事で、アイラはフラナ機関が用意した専用のスーツとヘルメットを着用している。
 
「君には関係ない事だ」

 マシロの質問に対して、バルトが答える。
 いつもは、オーナーからチーム内の事でかなりの権限を与えられていると言う事もあって、マシロに振り回されているバルトだが、アイラが着用しているスーツとヘルメットの事に関してはマシロに何も話す気は無いと言う事が言葉からも分かる。
 一方のアイラも、マシロに何も話さないと言う事に後ろめたい事があるのか、ヘルメットを付けていても分かる程、視線を逸らしている。

「まぁ良いけど、サザビーの調整は済ませてある」

 マシロはアイラにサザビー改を渡す。
 アイラ専用のガンプラはすでに完成してあるらしいが、情報の漏洩を最小限に留める為、世界大会まで使わないらしい。

「相手はガウェインだが、大丈夫か?」
「問題ありません」

 アイラはバルトがいると言う事もあって感情を殺してそう言う。
 すでにアイラは一度、ガウェインに勝っている。
 あの時はマシロが用意した素組よりも少し作り込んだジェガンを使ったが、今回はジェガンよりも性能の高いガンプラを使う為、アイラは余裕だ。
 そんなアイラを見て、マシロはバルトの方に歩く。

「ちょっと、俺に付き合って貰う。アイラは一回戦は一人でバトルしといてくれ」
「何を勝手に……」
「大丈夫です。問題ありません」

 流石にガウェイン相手にアイラ一人でバトルさせる事に、バルトは反対だったが、アイラは一人で大丈夫と言い、マシロは有無を言わせない雰囲気を漂わせている。

「そいつは頼もしい。んじゃ、こいつは借りてくから」

 トレーラーにアイラ一人を残してマシロはバルトをトレーラーの外に連れ出す。
 そして、マシロがバルトを連れて来たのは、予選会場の観客席だ。
 観客席に到着すると、マシロは席に座り、バルトに座るように席を指さす。

「どういう事か説明して貰おう」
「説明も何も、アイラは一人で大丈夫だって言ってんだ。俺達はここでアイラのバトルを観戦しに来たんだよ」

 マシロは当たり前の事だと言わんばかりにそう言う。
 確かに観客席でする事はバトルを観戦する事だが、わざわざ、観客席に来てまでする事でもない。
 マシロはすでに世界大会への出場が確定している為、アイラのセコンドにはつけないが、アイラにはバルトが補佐としてつく手筈となっている。
 マシロはともかく、バルトがここに来る必要性は無かった。

「始まるぞ」

 マシロから詳しい説明がされる事なく、アイラとガウェインが会場に入って来るとバトルシステムの前に立つ。
 そして、アイラとガウェインのバトルが始まった。
 バトルフィールドは市街地となっている。
 バトルが始まり、互いのガンプラがバトルフィールドに入る。
 ガウェインのガンプラはデビルガンダムだった。
 バトルが開始し、アイラのサザビー改がバトルフィールドに入ると、サザビー改は直線的に前進する事無く、傾いて落ちていく。
 そのまま、地面に着地するがサザビー改は膝をついてしまう。

「どういう事だ? アイラは調子でも崩しているのか?」

 開始早々の操縦ミスからバルトはそう予測するが、バルトの横でマシロは面白そうにバトルを見ていた。

「違う。サザビーの重心が傾いてんの。片足に鉛を仕込んであるから」

 マシロがそう言うと、バルトはすぐには理解出来なかった。
 アイラの操縦ミスはアイラの問題ではなく、ガンプラの方にあると言う事だ。
 マシロは事前にサザビー改の片足に鉛を仕込んでいた。
 それにより、サザビー改の重心は大きくずれて、アイラはガンプラを制御し損ねた。

「事前に気づいていればアイラでも外せるようにしておいたんだけどな。アイツ、気が付かなかったみたいだな」
 
 鉛を仕込んでいる為、サザビー改はいつもより重くなっている。
 そこに違和感を覚えれば、鉛が仕込まれている事に気が付く事が出来た。
 増えた重量はある程度、サザビー改の事を理解していれば気づけるレベルで、気づきさえすれば簡単に外せるようにしてあった。
 だが、アイラは今の今までそれに気づく事は無かったらしい。
 バトルが開始されてからおかしいと言う事に気づいてところで後の祭りだ。
 そんなアイラの事情にはお構いなしにガウェインはアイラのあぶり出しにかかる。
 デビルガンダムは至るところに装備してある拡散ビーム砲で障害物を破壊にかかる。

「相手はこっちの事情なんて気にしてはくれないぞ。どうする?」

 サザビー改は飛び出して、ロングビームライフルを放つ。
 デビルガンダムは巨体と言う事もあって、回避する事は出来ない。
 だが、ビームはデビルガンダムに直撃するが、弾かれた。

「見た目が同じだからって性能が同じだとは限らない」

 以前は無かったが、ガウェインはデビルガンダムにIフィールドを搭載させていた。
 そのIフィールドがサザビー改のビームを弾いたのだ。
 デビルガンダムの攻撃を何とか回避しながら、ロングビームライフルを連射する。

「あーあ……やっちまったな」

 マシロがそう言うと、ロングビームライフルの銃身が爆発を起こす。

「今度は何が起きた!」
「あのライフルは欠陥品でさ、長距離射撃用に威力は高いんだけど、銃身の強度がそれに見合ってなくてさ。連続で撃ち過ぎるとああなる」

 サザビー改のロングビームライフルの威力は長距離の敵を狙えるように高出力となっている。
 だが、銃身の強度が足りず、連続で使い続ければ銃身が威力に耐える事が出来なかった。
 今までアイラはバトル中に連射した事が無かった為、その事は知らなかったようだ。
 今までは実力差がある相手では連射する必要が無く、マシロとバトルする時は連射する前に破壊されるか、その前に負けるかのどちらかだった。

「鉛に気づかなかったと言い、ライフルの欠陥を知らないと言い……思った以上に自分の使っているガンプラの事を理解してないようだな」

 マシロがアイラにサザビー改を持たせていたのは、暇な時にでも自分で弄る事で自分の使うガンプラの事を理解させる為だ。
 だが、アイラは持っているだけで、サザビー改の事はバトルで知った以上の事は理解していないようだ。
 ライフルが壊れた隙をついて、デビルガンダムは高出力ビームを放つ。
 それをサザビー改はシールドで受け止めるが、シールドは破壊され、サザビー改は地面に叩き付けられる。

「アレを正面で受ければそりゃそうなるわな」
「どういう事だ? 何故、アイラはこうまで押されているんだ?」

 マシロはアイラの戦い方に呆れているが、隣でバルトがマシロを睨みつけてそう言う。
 マシロにアイラを預けて半年近くになるが、半年前には圧倒出来たガウェインに今は押されている。
 バルトとしては納得が行く物ではない。

「色々と要因はある。俺も色々とアイラに教えたし、ガンプラ塾で色んなガンプラの対処法を見せた。けど、アイツはそれで理解して覚えた気になったに過ぎない。知識として増えても技量として会得した訳じゃない。聞いたり横から見ていただけでバトルが強くなれたら練習も必要ないし、苦労はないよ」

 この半年間、マシロは色々とアイラに教え込んだ。
 実際のバトルの中で指摘したり、ガンプラ塾では実演もした。
 それでアイラはそれを理解はした。
 だが、理解しただけでそれを実際にバトルで実行できるかは別だ。
 アイラは頭では理解したが、マシロに指示された以上の練習をしなかった事もあり、知識として理解しただけで、技術としては殆ど吸収していないと言う訳だ。
 マシロも何度もバトルの相手をさせたが、一度として同じ展開には持って行かせなかった為、バトル後に教えた事をマシロとのバトルの中で実践する機会は無かった。
 その為、頭ではどうするべきか分かっていても、実際のバトルの中では行う事が殆ど出来ていない。

「もう一つは勝利に対する執念。ガウェインは余り後がないからな。その上で、相手がアイラだから、勝つ為に必死になってんだよ。多分、昨日渡した奴も何度も見返して来てるな」

 アイラにとっては勝つ事が当たり前だった。
 唯一、負けたマシロはチームからのお咎めは無い。
 その為、普通にバトルすれば勝てる為、勝つ事に必死になる事は無かった。
 対するガウェインはチームでの地位を守る為に、必死に勝ちに来ている。
 マシロは昨日、ガウェインに渡したUSBメモリーの中にはアイラのバトルに関する情報が入っていた。
 ガウェインはそれを何度も見てアイラのバトルを徹底的に研究して来ている。
 アイラが幾ら粒子の流れから相手の動きを先読み出来たところで、自身の動きを完全に見切られていては完全に優位に立つ事も出来ない。
 その上で、ガンプラに細工がされている為、圧倒的に不利な状況に追い込まれている。

「何故、そのような事を? これではアイラが潰れるかも知れないんだぞ」

 今までのバトルならともかく、これは公式戦だ。
 それで負けると言う事がどういう事か、マシロが分からない訳が無い。

「必要な事だからな。アイツに最も足りてないのは勝利に対する執念だ。ガンプラバトルをやってる奴の大半はガンダムが好きでガンプラが好きな奴だ。だから、自分のガンプラが最強で自分が一番、ガンプラを上手く操れると言う事を証明する為にバトルしてる。世界大会に出て来る奴はそんな連中の中でも世界の頂点を狙えるだけのセンスを持ってる。ガンダムもガンプラも好きじゃないって時点で、アイラは大きなハンデを背負ってる事になる」

 半年間、アイラを見て来たマシロはアイラの最大の欠点はガンプラバトルに対する熱意、そして、勝利に対する執念と見ている。
 それは今までの練習態度からも明らかだ。
 なまじ実力がある分、勝利に対して執着する事は無くても勝つ事が出来ていた。
 だが、世界大会で本気で優勝を目指すのであれば、今のままでは勝ち進む事は出来ない。

「だから、多少荒療治でも知る必要があるんだよ。負ける事がどういう事なのかをな。ガンプラ塾で勝ち続ける事が出来なかったファイターの末路は見せた。そろそろ、それが頭の中でチラつく事だ」

 サザビー改はファンネルを出すが、デビルガンダムの拡散ビーム砲であっさりと全滅してしまう。
 そうすると、明らかにサザビー改の動きが鈍り始めて来た。
 ライフルとシールドを失い、ファンネルが全滅した時点でサザビー改の武器は胸部の拡散ビーム砲のみだ。
 すでに敗色が濃厚となった事はアイラも気づいている。
 そして、アイラは否応なく、ガンプラ塾での二代目メイジンカワグチの敗北した時の事を思い出してしまう。
 勝ち続ける事を義務づけられたメイジンはマシロに敗北し、惨めな醜態を塾生に晒した。
 このバトルで負ければ、今度は自分も同じことになる。
 相手は自分より弱いとして、マシロやバルトに大見得を切ったガウェインだ。
 公式戦である事もあり、負ける事が出来ないバトルで勝ち目が殆ど無くなった。
 
「マ……」
「終わったな」

 アイラはちらりと後ろを見た時点でマシロは確信した。
 このバトルでアイラの勝ち目は無くなったことに。
 恐らくは、アイラは自分を頼ろうとしたのだろう。
 この半年でマシロはアイラに様々な事を教えて来た。
 アイラは面倒がりながらも、マシロに一定の信頼を置いていた。
 故にこの状況を打破する為の策を聞こうとでもしたのだろう。
 だが、すぐに気が付いた。
 マシロはバトルの前にバルトと共にどこかに行っている。
 今は、マシロもバルトもいないと言う事に。
 自分が一人だと気付いた事で、アイラの敗北の予感も確信に変わりつつあった。
 勝算が薄くなったことで、アイラは勝利の重圧がプレッシャーとなり、アイラに重く圧し掛かる。
 何とか状況を打開しようと、頭をフルに回転させるも、思うようにはいかない。
 それが更にプレッシャーになると言う悪循環にアイラは陥っている。
 そんな状況を打開する為には冷静になる必要があるが、こんな状況は初めてである為、容易ではない。
 幾ら考えても答えは出せない事に加えて、サザビー改に細工をされている事が更にアイラを追い込む。
 サザビー改に細工を出来るのは、マシロしかいない。
 マシロが意図的にサザビー改に細工をしていた事で、アイラは本当にマシロに教えられたことが正しいかと言う疑心暗鬼に陥り更に冷静さを失わせている。

「この敗北でアイラはどん底に落ちるだろう。だが、そこで絶望するのも這い上がるのもアイラ次第だ」

 元からマシロはアイラをこのバトルで負けさせるつもりだ。
 それにより、アイラが負けた事で潰れるかも知れない。
 それでも、今のアイラに必要なのは勝利ではなく、敗北であると考えていた。
 マシロもマシロ・クロガミとして過去に一度だけバトルで負けた事があった。 
 そこで敗北を知ったからこそ、慢心する事無く強くなる事が出来た。
 後はその敗北からアイラが立ち直れるかどうかだ。
 
「くっ……アイラにはどれだけの金をかけていると……」
「知ったこっちゃないな。それはそっちの事情でアイラを育てるのはこっちの事情。やり方はボスから俺に一任されてんだ」

 バルトは今更ながら、マシロにアイラを預けた事を後悔している。
 アイラにはフラナ機関が大金をつぎ込んでいる。
 バルトもフラナ機関もそれだけの価値がアイラにあると確信している。
 それが、何の成果を出せないまま、潰されてしまっては堪った物ではない。
 ただ、潰されるだけでなく、結果を出せなければフラナ機関への資金援助も打ち切られかねない。
 だが、今更後悔しても遅い。
 マシロはアイラが這い上がる可能性に賭けているが、流石に根拠もない事をバルトは信じる事が出来ない。
 今になって、マシロの存在は自分達が思っている以上に危険な存在だとバルトは思い知る。
 普通では考えない事をマシロは普通にやろうとする。
 ただの自分勝手なボンボンではなく、確実にマシロは自分達と同じ側の人間だと確信する。
 それも、自覚がないタイプで自覚がないが故に何をしでかすか分からない。
 バルトはアイラの事は最悪、切り捨ててる事も考え始める。
 そうこうしている間に、アイラは最後の賭けに出る。
 確実に一撃でデビルガンダムを倒す為に拡散ビーム砲をかわしながら接近している。
 多少、被弾しても構わずにデビルガンダムにサザビー改は突っ込んで行く。
 そして、至近距離からデビルガンダムに拡散ビーム砲を撃ち込もうとする。
 しかし、サザビー改が拡散ビーム砲を撃つ前に、デビルガンダムの周囲の地面に潜ませてあったガンダムヘッドがサザビー改に襲い掛かる。
 完全に目の前のデビルガンダムしか見えていなかった事やデビルガンダムにそのような攻撃方法がある事を知らないアイラは完全に不意を突かれた。
 無数のガンダムヘッドはサザビー改に突撃する。
 不意を突かれた事で、アイラは完全に対処する事が出来ずに次々とガンダムヘッドの攻撃を受けてサザビー改はボロボロになって行く。
 ボロボロとなったサザビー改に止めを指す為にデビルガンダムは下半身の一部が展開し、高出力のビームが放たれる。
 すでにサザビー改には回避する事が出来ず、アイラにもそれだけの気力は残されてはいなかった。
 デビルガンダムのビームをサザビー改は回避する事も出来ずに直撃を受けた。
 それが決めてとなり、バトルは終了し、アイラは世界大会はおろか、地区予選の一回戦で敗北した。








 地区予選の一回戦で敗退と言う結果に終わり、アイラはホテルの部屋に閉じこもっていた。
 バルトの方はマシロに軽く文句を言うが、マシロは完全に無視している。
 始めからマシロはアイラを負けさせる気だったと言う事もあって、今回の敗北でアイラをどうこうする気はバルトにはないが、絶対に勝てると思っていた相手に負けた事はアイラにとってはショックな出来事なのだろう。
 部屋に閉じこもり、アイラは呼びかけても電話をかけても一切応じる事は無かった。
 流石にこのままではまずいと踏んだバルトはマシロを説得に行かせることにした。
 全てはマシロが仕組んだ事だからだ。

「出て来ないと思ったら泣いてたのかよ」
「……泣いてないわよ。それに何で勝手に入って来てんのよ」

 アイラはベッドに座り、クッションに頭を埋めている。
 大見得を切った手前、マシロとは顔を合わせ辛いのだろう。

「何しに来たのよ? 笑いにでも来たの?」
「生憎と俺も世界大会の準備があるからそこまで暇じゃないんだよ。コイツを持って来た」

 マシロは直したサザビー改をテーブルの上に置く。
 バトルが終わった後に、マシロはサザビー改を直していた。
 
「何よ……今更そんな物」
「まぁ……あれだけ大見得を切ったんだ。負けて死ぬほど恥ずかしいのは分かる。けどな、お前は負けるべくして負けた。俺がガンプラに細工してなくてもな」

 アイラも気が付いていた。
 ガンプラに細工したのはマシロであると。
 その理由はともかく、今更、文句も湧いてこない。
 ただ、アイラは負けたのだ。
 自分よりも格下だと思っていた相手にだ。

「うるさい」
「自信を持つのと過信するのは違う。お前は自分の実力を過信し過ぎた。だから、自分のガンプラの事も相手の実力も理解しようとしなかった」

 アイラの最大の敗因は自信の実力の過信と油断だ。
 確かにアイラの実力は世界上位と言っても良い。
 今までは実力差のある相手が多かったが、ガウェインもまた、世界に通用するレベルのファイターだ。
 一度勝ったことで、今度も勝てると根拠もなく確信していた為、予想外の事態に対処出来なかった。
 その上でサザビー改の理解不足も相まってアイラは何も出来ずにガウェインに敗北した。

「うるさい! マシロが変な事をしなければ!」
「勝てたと? 大体、確認する時間は十分にあったし、サザビー改に対する理解を深める時間もだ。それを怠った時点で俺に文句を言う資格はねーよ」

 マシロが兄弟を訪ねている間に、アイラは何度も自由時間を与えられた。
 その時間を活用すれば、少なくともサザビー改の事をより深く知る事は出来たはずだ。
 だが、アイラはそれを怠った。
 アイラは感情のままに抱きかかえていたクッションをマシロに投げつける。
 マシロはかわす事が出来ずに顔面に直撃してよろける。

「本気で世界の頂点を目指すなら、それだけ真剣にガンプラと向き合わないと勝てる訳ないだろ。それが出来ないってんなら、世界の頂点を目指すのは諦めて、国に帰って格下相手に遊んでろ」

 マシロはそれだけ言って部屋から出て行く。
 ここから先はアイラの問題だ。
 マシロがガンプラバトルを続けるように言ったところで意味はない。
 アイラが自分でやろうとしない限り、世界の壁を突破する事は不可能だ。
 この事はアイラ自身で決めなければならない事だ。
 勝っても負けても楽しいガンプラバトルをやるのか、本気で頂点を狙うガンプラバトルをやるのかをだ。
 後の判断をアイラに託したマシロはその事をバルトに伝えに行く。
 そして、アイラはホテルから姿を消した。



[39576] Battle37 「マシロとアイラ」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/07/31 09:25
 オーストラリア予選にてアイラは一回戦で敗退した。
 その後、マシロの追い打ちによりアイラはホテルから姿を消した。
 荷物が一式無くなっていた事からも少し出かけた程度ではない事が分かる。

「どうしてくれる!」
「俺もびっくりしてる。まさか家出をするなんてな」

 バルトはマシロを非難するが、マシロは気にした様子を見せない。

「あの年頃の娘は色々と難しいんだよ。その内帰って来るだろ」

 マシロからすれば、アイラが家出した程度の事だが、バルトからすれば全く違う。
 予選敗退はマシロが意図的にやった事でネメシスのオーナーであるヨセフから何か言われると言う事は無いだろう。
 だが、アイラが行方を暗ませたことは、フラナ機関から責任を追及される事は確実だ。
 アイラはフラナ機関の最高傑作とされている為、そのアイラが行方を暗ませて戻って来る事が無ければ、バルトの首は軽く飛ぶだろう。
 フナラ機関の内情を知り過ぎているバルトは場合によっては死活問題でもある。

「悠長な事を! 大体、君が無茶をやったせいで……」

 怒りの矛先がマシロに向いた。
 元々、バルトからすればアイラが世界大会で優勝する必然性はない。
 優勝出来る事に越したことはないが、重要なのはアイラの有用性をヨセフに認めさせてフラナ機関への更なる援助をさせる事にあった。
 だが、マシロはアイラを世界大会で優勝する事を念頭に置いていた。
 その上で、マシロはアイラが途中で諦めようとも構わない為、かなり無茶な事も平気でさせている。
 全てはマシロのせいで狂ったと言っても良かった。

「うるさいな。男のヒスはモテないぞ。まぁ、アイツが持ってった荷物の方は別に構わないとアイラの奴、サザビーまで持ってったからな。せめて、それだけは回収しとかないとな」

 アイラは自分の荷物を持ち出しているが、その際にマシロが貸していたサザビー改も紛れたのはホテルの部屋には見当たらなかった。
 アレはアイラにあげた訳ではない為、返して貰う必要がある。

「家出してからそう時間は経ってないし、仕方が無いから探しに行って来る」

 マシロも渋々だが、バルトの相手が面倒だと言う事もあり、アイラを探す事にした。










 ホテルを飛び出したアイラは公園のベンチにいた。
 マシロに色々と言われて頭に来て飛び出したが、アイラに行く当てもない。
 取りあえず、荷物は一通りまとめて持って来ている。
 マシロからある程度の金は貰っていた為、当分は金に困ると言う事は無いが、いずれは尽きる。
 金を稼ごうにも働き口を見つける事も困難だろう。
 
「何やってんだろう……私」

 飛び出して冷静になって見ると少し馬鹿な事をしたと思い始めている。
 実際、ガウェインに負けた事はショックだが、それ以上にマシロに色々と言われた事に腹を立てた。
 負けたとはいえ、たかが玩具の戦いで負けた事で何故、ここまで言われないといけないと言うのが本音だ。

「これからどうしよう」

 勢いで飛び出した事もあり、今後の事は考えてはいない。
 
「見つけたぞ。家出娘が」
「何よ」

 今後の事を考えていると、アイラを探しに来たマシロが声をかける。
 いずれは連れ戻しに誰か来るとは思っていたが、それがマシロなのと予想以上に見つかる事が早かった。
 それも当然だ。
 マシロは近くのホテルなどの宿泊施設の全てにアイラらしき客がいないかと確認させて、同時に町中の監視カメラの類を使いアイラの同行を追わせた。
 普通ならば、警察機関でもないマシロにそのような事は出来る訳もないが、そこはクロガミグループの名と金を積んでやらせた。
 アイラ自身、追手を撒こうとはしていなかったと言う事もあり、すぐにアイラの足取りを掴む事が出来た。
 
「私を連れ戻しに来たって訳?」
「あの眼鏡がヒスってんの」
「知らないわよ」

 マシロはアイラの横に座り込む。
 アイラはあからさまにマシロとの距離を取る。

「後、俺のガンプラを持ったままだろ」

 マシロにそう言われると、アイラは自分の持ち出して来た荷物を確認すると、確かにマシロから借りていたサザビー改が紛れ込んでいた。

「たく……もっと丁重に扱えって……よし、どこも壊れてないな」

 マシロはアイラからサザビー改をひったくると、状態を確かめる。
 幸いな事にサザビー改は無事で、一先ず安堵する。
 その様子を横目で見ながら、アイラはまるで自分の事よりもガンプラの方を優先して来たみたいで面白くない。

「用が済んだらさっさとどっか行きなさいよ」
「だから、あの眼鏡がヒスってんだって。だから帰って来い」
「絶っ対、嫌!」
「ハァ……仕方が無い。ここは腹を割って話し合おう」

 アイラは戻って来る気は無いが、マシロとしてもこれ以上の面倒事はごめんだ。
 力づくで連れ戻そうにも、身体能力ではアイラに敵わない事はマシロも自覚している。
 いつも通りにガンプラバトルの勝敗で決めようにも、今のアイラはバトルすらしてくれない。
 そうなれば、説得する事が最も確率が高いと言える。

「アイラはガンプラが好きか?」
「嫌いよ」
「……だよな」

 マシロの問いにアイラは即答で返す。
 今までの事を考えると、アイラはガンプラが好きではないと言う事は明らかだが、目に見えて敵意や憎悪を見せるのは初めてだ。

「逆にさ、マシロは何でそこまでガンプラに熱中するのよ」
「そりゃ、楽しいからだよ」
「何で?」
「何でって……」

 アイラの質問にマシロは答える事が出来なかった。
 マシロは常日頃からガンプラバトルで勝つ事が好きだと公言している。
 その為なら、ルールや法に触れない限りはあらゆることをして来た。
 バトルで勝つ事が楽しいから好きだ。
 特に強い相手に勝つのが好きだ。
 だが、その根源である何故、好きだ、楽しいかとまで深く考えると答えが出なかった。
 単純に勝てれば楽しいから好きだと言う物ではなく、楽しいと思える理由があると言う事は分かる。
 だがそれ以上、考えようとすると頭痛がした。
 まるで、マシロ自身がそこに辿りつく事を拒んでいるかのようだ。
 
「マシロ?」
「……俺の事はどうでも良いって。それよりもアイラは何でそこまで、ガンプラを嫌うんだよ。嫌うって事はそれなりの理由があるんだろ?」

 普通に生きる上でガンダムやガンプラと関わらずに一生を終える人間は決して少なくない。
 そんな人間のガンプラに対する感情は無関心だ。
 アイラのように嫌うと言う事は嫌うだけの理由は必ずある筈だ。
 自分の事は話さない癖に、アイラの事は深い部分まで聞いて来ると言う事は少しムカっとするも、アイラは仕方が無く話す事にする。
 どの道、話さなければマシロは引く事は無いと諦めた。

「私はフラナ機関にスカウトされる前はいわゆるストリートチルドレンだったんだけど、その前は普通に孤児院で生活してたの。親の事は何も覚えてないけど、兄妹はいた。兄妹と言っても、孤児院の人がそう言っているだけで、本当に血が繋がっているかも分からない兄よ。大して何も出来ない癖に私の前でかっこつけようとして、いつも失敗ばかりする馬鹿な奴。そんなアイツはガンプラバトルに熱中してた。一度も勝ったところは見た事もないけど。そんな、アイツは私や孤児院を捨てたのよ。どっかのお金持ちのところに一人で引き取られて行った。その理由がガンプラを好きなだけやらせて貰えるって理由でよ」

 アイラの声は震えていた。
 アイラにとっては思い出したくはない過去なのだろう。

「信じられる? アイツにとってはたかが私達よりもたかが玩具の方を取ったのよ。孤児院に居たってガンプラは出来たのに……」

 すでにアイラは兄の事は顔も名前もおぼろげな程、昔の事ではあったが、今でも自分達よりもガンプラを選んだ兄の事を憎んでいるのだろう。
 同時に兄を奪ったガンプラの事も。
 かつて、マシロはアイラに壊したい程、憎い物があるかと聞いた事があった。
 その時にあると答えたが、それはガンプラの事なのだろう。

「ガンプラは私から全てを奪ったの……最も、そんなガンプラに生かされて来たんだからお笑いよね」
「……そっか」

 マシロはその程度の事しか返す事が出来なかった。
 アイラの過去はマシロの想像以上に重い物があった。
 だが、それはマシロからすれば、そこまで重い話しとも言えない。
 マシロを初めとしたマシロの今の兄弟たちも少なからず心に傷を負っている。
 それ以上に、アイラの過去は似すぎていた。
 自分の過去に。
 
(何でこんなことになったんだろうな……)

 始めて会った時から薄々は気づいていた。
 だが、マシロはそれを偶然として否定し続けた。
 妹と同じ名前なのは大して珍しい事ではない為、ただの偶然だと。
 妹の面影を感じたのは、ただ過去に未練と罪悪感があるからだと。
 全て、偶然なのだと。
 しかし、これ以上否定する事は出来ないだろう。

「……俺とお前は似てるな」

 それが精一杯だった。
 今更名乗り出る事はしない。
 これ程までに恨んでいるのにこの半年の間に何もないと言う事はアイラは何も気づいていないのだろう。
 自分達の関係に。
 ならば、今更話す必要もない。
 話したところで、いい方向に何かが変わると言う事もない。
 なら話す必要も知る必要もない。
 どの道、マシロは元通りに戻る気は無い。
 自分の意図した事ではないにしろ、自分の選んだ行動で破壊してしまったからだ。

「どこがよ」
「俺もお前もガンプラによって世界が変わった。俺は全てを得て、アイラは全てを失ったと言う違いはあるけどな。だけど、俺が全てを得たようにアイラもさ、ガンプラバトルを続けていれば、何かが変わるかも知れないし、何かを得られるかも知れない。その為にもう少し真剣に続けて見てたらどうだ? 少なくともお前は変わる事が許されてるんだ。俺とは違ってな」

 マシロはガンプラと出会った世界が変わった。
 元々、何も出来なかったが、ガンプラバトルをしていた事で自身の中の才能を見出された。
 結果として失った物もあるが、同時に多くの物を得た。
 もしも、ガンプラと出会う事が無ければ、マシロは今でも何も出来ない役立たずのままだっただろう。
 だからこそ、アイラもガンプラバトルを続けていれば得られる物も、変われることも出来るかも知れない。 
 少なくとも、マシロは今更変わる事は出来ないし、変わる気もない。
 全てを捨ててまで、今の道を選んだ以上、マシロにはこの道を突き進むしかない。
 それがマシロが望んだ事でもあるからだ。

「ガンプラバトルを続けても変われる保証も何かを得られる保証もないじゃない」
「俺がそうだったからだ」

 マシロがそう言い切る。
 マシロにとってはそれだけで十分だ。
 自分が変わる事も得る事も出来た以上、アイラだって同じように変わる事も得る事も出来ると。

「それに案外、簡単に変わるかもよ。女ってのは男に惚れるだけで変わるって都市伝説を聞いた事あるし」
「絶対にあり得ないわ。ガンプラに熱中している男なんて碌でもないに決まってるわ」

 アイラは鼻で笑う。
 アイラからすれば、ガンプラに熱中している人間など碌でもないように見える。
 尤も、その基準はガンプラに熱中している人間の中での最も多くの時間を過ごしているマシロではある。

「でも……マシロがどーして持って言うならもう少し続けても良いわよ。だけど、本当に少しだけだからね! その気がなくなったらすぐに止めるから」

 恐らくはアイラは自分で思っている程、ガンプラを憎んではいないのだろう。
 本当に心の底から憎んでいれば、そもそも生活の為とは言え、フラナ機関でガンプラバトルをする事もなければ、マシロの説得に応じる事もなかっただろう。
 これなら、出会い一つでガンプラに対する感情も変わるかも知れない。
 だが、それはマシロの役目ではない。
 ここまで、ガンプラを嫌うようになったのはそもそも、マシロの過去の行いが原因だ。
 その上、今のマシロは自身の根源にあるガンプラの楽しさを思い出せずにいる。
 そんなマシロにアイラを変える事は出来ない。
 
「ご自由に」
「尤も世界大会に出る事も出来なくなったから、フラナ機関にもネメシスにも居られないけど」
「それなら問題ない。次のフィンランド予選で勝ち抜けばね」
「は?」

 アイラはすぐには理解出来なかった。
 アイラはすでにオーストラリア予選で敗北している。
 その為、すでに世界大会への道が絶たれていた。
 だが、マシロは次と言う。

「お前、オーストラリア予選とは別にフィンランド予選にもエントリーしてあるから」

 地区予選のエントリーはマシロに任せてあった。
 だから、ネメシスの地元であるフィンランドではなく、オーストラリアの地区予選に出場する事になった。
 だが、マシロはフィンランド予選にもアイラをエントリーさせていた。
 大会規約では複数の地区予選にエントリーする事は禁止されていない。
 それでも、複数の地区にエントリーするファイターはまずいない。
 それにはいくつもの理由があった。
 1つ目は地区予選は日本は開催国でガンダムを作った国と言う事もあって5つのブロックに分けられているが、大抵の国は参加枠が1つしか与えられていない。
 その為、複数の地区予選に出場する為には国を超える必要があるからだ。
 2つ目はスケジュールの問題だ。
 地区予選は国によって始まる時期が違う。
 場合によってはバトルの日が重なる事もある為、重ならないように調整しなければならない。
 3つ目は開催時期は違ってもエントリーの締切は同時期と言う事だ。
 複数の地区にエントリーすると言う事はどこかで負ける事を前提にしている。
 程度の差はあるが、誰も始めから負ける気で出場する事は無い。
 そして、複数の地区に参加し、本命の地区で勝ち上がり、保険としてエントリーしていた地区のバトルに出なかったり、複数の地区の代表になったりと言う事があれば、大会の運営から悪質な大会の荒らし行為と見なされて出場停止処分になり兼ねない。
 これらのリスクを背負ってまで保険をかけるよりも本命一本で行った方が安全と言う事や、そもそもそんなリスクを背負ってまで世界大会に出る程の執念を持ったファイターは保険をかける必要すらない。
 アイラの場合は、マシロは始めからオーストラリア予選は捨てていた。
 オーストラリア予選を選んだのも、ガウェインがチームの地元のフィンランドを避けて出場しようとしていたからだ。
 ガウェインは世界レベルの実力を持ち、アイラに対する対抗意識が強く、アイラが一度勝ったことで油断していると、アイラを負かす条件としてはこれ以上もない適任者だった。
 マシロにとっての最も幸運だったのは、一回戦でガウェインと当たった事だ。
 流石のマシロも対戦カードまでは操作出来ない。
 クロガミグループは世界大会のスポンサーの一つである為、その気になれば対戦カードの操作や世界大会でのルールの漏洩などは簡単に行えるが、それは明らかに不正行為だ。
 当然、勝つ為に出来る事は全てするマシロだが、不正行為をする気は無い。
 ガウェインといつ当たるかは完全に運任せだった。
 一回戦で負けた事でフィンランド予選までは時間が十分に残されている上に後で大会の運営から出場停止処分を受ける事もないだろう。
 後はアイラ次第だ。

「フィンランド予選には去年、俺が決勝で秒殺した元キング・オブ・カイザーも出場して来る。そいつはガウェインよりも強いぞ。残った時間を真面目にやればアイラなら問題なく当てる筈だ」

 フィンランド予選にはカルロス・カイザーも出場して来る。
 カイザーと言えば、去年の第6回大会の決勝戦でマシロに僅か1秒と言う時間で敗北し、大会のバトル最短レコードを更新した事でも有名だ。
 そんな不名誉なレコードを残した事で、今年のカイザーは例年よりも気合が入っていると情報が入っている。
 元より現役最強とまで言われたカイザーの実力はガウェインの比ではない。
 その上、全くの無名だったマシロに秒殺されている以上、相手が無名だろうと油断も容赦もないだろう。
 
「俺と同じステージでバトルしたいんなら。カイザー程度はこいつで軽く倒して来い」

 マシロはアイラにサザビー改を差し出す。
 サザビー改はライフルの欠陥など、性能は大して高いとは言い難く、カイザーの作るガンプラには確実に及ばない。
 それで、カイザーに勝とうとすれば後はアイラが何とかするしかない。

「そんで、這い上がって来たらお前も俺と同じファイターだ」
「別にそこまでは目指してないけど、どの道、使えるガンプラはそれしかないから仕方が無いけど、使ってあげるわよ」

 アイラはそう言いながらも、サザビー改を受け取る。
 取りあえず、アイラは少しは真面目にバトルをする気になり、一先ずは問題は解決したと言っても良いだろう。

「そんじゃ、後は任せる。俺は一足先に日本に向かうから。どの道、世界大会に出場すれが俺達は敵同士だ」

 このまま、アイラが行方を暗ませると言う事は、今のところなさそうである為、マシロは先に日本に向かう事にした。
 戻ってバルトに小言を言われるのが面倒だからと言う事もある。
 そして、いつまでもマシロがアイラに師事する事も出来ない。
 世界大会が始まり、アイラも出る事になれば、同じチーム同士だろうと優勝と言うたった一つの席を巡って戦う敵同士となる。
 ある程度はともかく、今まで通りとはいかない。
 フィンランド予選くらいは自分達の力で勝ち進まなければ、どの道、世界大会で勝ち続ける事は出来ない。
 
「分かったわよ。精々、残り少ない天下を満喫する事ね!」
「聞き飽きたよ。その手のリアクション」

 アイラの宣言をマシロは軽く流す。
 マシロに対して倒すと言う宣言はエリカを初めとして、何度も言われている。
 一々、気にすることでもない。
 マシロはその足で日本へと向かう。
 その数か月後、カルロス・カイザーがフィンランド予選で敗退すると言うニュースが世界中のファイターを震撼させた。




[39576] キャラ設定
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/08/02 22:05
クロガミ・キヨタカ(黒神 清貴)


クロガミグループの前総帥。

マシロの才能を見出して、引き取った義理の父ですでに故人。

マシロを引き取った理由としてガンダムやガンプラが好きと言う事もあり、兄弟の中でもマシロを可愛がっていた。



クロガミ・ユキネ(黒神 雪音)


マシロの義理の母。

天才的な科学者でマシロ曰く、「生きたEXA-DB」「現代のイオリア・シュヘンベルグ」

自由気ままに生きており、研究の為に時折行方を暗ませることも多い。
 
天才的な頭脳を持つが、自身の研究成果は自分だけの物として一般的に公表される事は無い。

見た目は10代の少女をしている。

自身と同類でキヨタカと同じ物が好きだと言う事で兄弟の中でマシロを特に可愛がっている。

PPSE社が設立された時に出資していたり、異世界に言っていると言ったりと行動に謎が多い。



クロガミ・ユキト(黒神 雪斗)


マシロの義理の兄。

キヨタカとユキネの血を引いている実の息子。

キヨタカの死後、若くしてクロガミグループを引きついている。

表向きは父と同じ方針だが、裏ではマシロを道具として政略結婚をさせようとしたりと非情な面も持っている。


クロガミ・サチコ(黒神 幸子)


マシロの義理の妹。

兄弟の中では末っ子。

ありすと言う芸名で妹系アイドルとして世界的に有名となっている。

兄弟の中でマシロはその言動から毛嫌いしている。

本名を気に入ってはいない為、本名で呼ばれる事を嫌う。

その出生には特殊な秘密がある。


レティ・クロガミ


マシロの義理の姉。

アメリカの大学で教鞭を執っている。

物理学者でマシロから特殊な金属の合成と金属粒子を練り込んだ特殊プラスチックの研究などを頼まれていた。


リュック・クロガミ


マシロの義理の兄。

フランスで機械工学の研究をしている。

マシロからガンプラの内部フレームの設計を頼まれるも、自身の社会的な評価には繋がらない為、断るもユキトの事を後ろ盾にして半ば無理やり設計をさせられる事になる。


クロガミ・ハルキ(黒神 晴樹)

マシロの義理の兄。

宇宙飛行士で唯一の弟であるマシロの事を可愛がっているが、マシロの方からは鬱陶しがられている。

典型的な脳筋タイプだが、あくまでも言動だけで、宇宙飛行士として必要な知識は人並以上に持っている。

マシロから宇宙で特殊プラスチックの生成を頼まれている。


クロガミ・カナタ(黒神 彼方)

マシロの義理の兄。

刀鍛冶でその刀は高値で取引されている。

病弱で体が弱いが、鍛冶師と言う事で山に籠った生活をしている。

刀を打つ為であれば、自身の命すらいとわない。

マシロからガンプラが装備する刀の制作を依頼されている。




[39576] 幕間3
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/08/02 22:06
 ただのマシロからマシロ・クロガミとなり数か月。
 その間、マシロは自分の才能を知り、活かす為の術を教え込まれた。
 そして、マシロはキヨタカに連れ出されていた。
 目的はガンプラを買う事だ。
 マシロはクロガミ一族に引き取られる際に今まで使っていたガンプラを孤児院に残して来ている為、今はガンプラを持っていない。
 その為、マシロのガンプラを買う為にキヨタカと二人で買いに来た。
 二人を乗せた車は東京郊外の住宅地で止まる。
 
「ここ?」
「そうだよ。ここは私の行きつけの店でね」

 車を降りたマシロは目的地の店を見る。
 看板にはイオリ模型店と書かれている。
 立地が悪いのか、お世辞にも繁盛しているとは思えない模型店だ。
 だが、キヨタカの行きつけと言う事もあり、マシロはキヨタカに続いて模型店の中に入る。

「いらっしゃいま……キヨさんじゃないですか!」
「おお! タケシ君、今日は店にいたのか」

 店に入ると店の店主であるイオリ・タケシが出迎える。
 両者は顔見知りと言うよりも友人に近いように見える。
 方や対して繁盛していないしがない模型店の店主で、方や世界有数のクロガミグループの総帥と言う社会的な立場から見れば生涯関わる事もなさそうな二人だが、どちらもガンプラ好きと言う事でどこかで知り合いとなり、対等な友人になっているらしい。
 最も、キヨタカは簡単に休みを取る事が出来ず、タケシもガンプラを広める為に世界を旅して店にいない事も多い為、直接会うには何年振りかにはなる。
 
「それで今日は何をお探しで?」
「ウチの末の息子が使うガンプラを買いにね」

 二人には目もくれず店内を見ていたマシロをタケシに紹介する。
 
「君は……」
「あの時の変なおっさん」

 だが、二人はすでに知り合いでもあった。
 マシロがガンプラに出会うきっかけとなったのがタケシだからだ。
 タケシも世界を回り、多くの人達にガンプラを広めているが、それでガンプラに興味を持った相手の事は忘れてはいない。
 
「知り合いなのか?」
「ええ、以前に彼にガンプラを教えた事がありまして」
「それは凄い巡り合せとしか言いようがないな」

 かつて、タケシがガンプラを教えた子供が、タケシの友人のキヨタカに引き取られて、店の客となる。
 早々ある物でもない巡り合せだった。

「確かに、それでマシロ君。マシロ君はどんなガンプラが良いんだい?」
「強い奴」

 マシロの答えに、タケシもキヨタカも苦笑いをする。
 ガンプラバトルにおいて、明確に強いガンプラは存在しない。
 なぜなら、ガンプラバトルではガンプラの出来が性能に比例しているからだ。
 同じ出来と想定しても、ファイターの求める強さによって強いガンプラは変わって来る。

「強いガンプラか……具体的には?」
「何だって良いよ。どんなガンプラだろうと結局は俺の実力で勝負は決まるんだし」

 マシロの言い分も分からない事ではない。
 どんなに性能の良いガンプラを作ったところでファイターがそれを扱う事や活かす事が出来なければ、せっかくの性能も宝の持ち腐れだ。
 逆にガンプラの性能はそこそこでもファイターの腕で補うと言う事も十分出来る。
 だが、ガンプラ選びと言う状況において、何でも良いと言うのが一番困る。
 何せ、ガンプラの種類は1000を超えている。
 その中から選ぶ為には何かしらの基準が必要となって来る。
 
「マシロ、だったら私に選ばせはくれないか?」
「好きにしたら」

 マシロは使うガンプラに拘りはないようなので、キヨタカが申し出る。
 そして、キヨタカは迷う事無く店内のブースに向かう。
 大抵の模型店でもそうしているようにイオリ模型店でも目的のガンプラが見つけやすいようにシリーズごとに分けて商品が陳列してある。
 キヨタカはすぐにガンプラを持って戻って来た。

「ガンダムAGE-1……成程、そう来ましたか」
「息子にガンプラを買ってやるときはまずはこれだと決めていたからね」

 キヨタカがマシロの為に持って来たガンプラはガンダムAGE-1 ノーマルだった。
 それを見て、タケシもその意図に気が付いた。
 ガンダムAGE-1は作中でフリット・アスノが自分の息子であるアセム・アスノに渡した機体でもある。
 それに見立ててキヨタカも自分の息子に送るガンプラとしてガンダムAGE-1を選んだと言う事なのだろう。

「ふーん。まぁ良いか」
「向こうに制作スペースがあるから使うと良いよ。道具も一通り揃ってるしね」
 
 タケシは店の奥を指さす。
 店の奥にはガンプラの制作スペースがある。
 本来は自分がガンプラを作る為の場所だが、友人の息子に使わす分には問題はない。
 マシロはすぐに購入したガンダムAGE-1の制作に取り掛かる。

「AGE-1を選んだと言う事は後でAGE-2も用意してあげないといけませんね。それでマシロ君の息子にAGE-3もですね」
「確かに」

 マシロがガンプラを制作している間、二人は他愛もない話しで時間を潰した。

「それにしてもあの時の子供がキヨさんのところに引き取られて驚きましたよ」
「ウチの長男が最近ではめっきりガンプラを作らなくなってね」

 そうこうしている間に一時間程が経過していた。

「出来た!」

 マシロが完成したガンダムAGE-1を持って制作スペースから出て来る。

「ほう、中々の出来じゃないか」
「当然」
「確かに」

 マシロの作ったガンプラを見てキヨタカもタケシも関心していた。
 完全に素組で色々と直す事の出来る点は多いが、マシロの歳を考えると十分に良い出来と言える。

「おっさん。俺とバトルしろ!」
「僕とかい?」

 ガンプラが完成して、マシロがタケシにそう言う。
 タケシはちらりとキヨタカの方を見る。
 それに気が付いたキヨタカはコクリと頷く。

「分かった。すぐにガンプラを持って来るからバトルシステムのところで待っていてくれ」

 タケシは店の奥に向かい、自分のガンプラを取りに向かう。
 マシロは店内にあるバトル専用の部屋でタケシを待つ。

「待たせたね」
「早く始めようぜ」

 マシロは早くバトルがしたくてウズウズしている。
 そして、互いにガンプラをバトルシステムに置く。
 マシロのガンプラは先ほど作ったばかりのガンダムAGE-1 ノーマルで、タケシのガンプラはガンダムだ。
 そして、バトルが開始される。
 バトルフィールドはコロニー内(サイド7)
 ファーストガンダムにおいてガンダムが初めて起動したコロニーでもある。

「見せて貰うとするよ」

 まずは、マシロの実力を見る為にタケシは先制攻撃のビームを放つ。
 その攻撃をガンダムAGE-1は易々と回避して見せた。
 次にビームを連射するも、ガンダムAGE-1は回避する。

「成程、良い反応速度だ。キヨさんが見出した事はあるな」
「この程度の攻撃は余裕だね!」

 タケシはマシロの実力に素直に関心していた。
 こちらの攻撃に対する反応速度が尋常ではない。
 単純な反応速度だけを見るなら、自分以上だとも思える。
 だが、反応速度だけで動きに無駄が多い。

「ならこれはどうかな?」

 ガンダムは機体を少し動かしながら距離を詰めようとする。
 並のファイターならば、気づかない程の僅かな動きでも、マシロの目には見えていた。
 その為、その動きにマシロは惑わされてしまう。
 自身の才能を理解し、活かす術を見に付けたと言っても、瞬時にフェイントを見抜くにはマシロはまだまだ、経験と知識が足りない。
 ガンダムは加速し、頭部のバルカンを連射して突っ込む。
 ガンダムAGE-1はシールドで防ぐが、バルカンの弾丸は次々とシールドに穴をあけていく。

「たかがバルカンの癖に!」
「バルカンを甘く見ない方が良いな」

 ガンダムはビームライフルを捨てて、ビームサーベルを抜いた。
 ガンダムAGE-1はドッズライフルを向けるが、ビームサーベルによって破壊される。
 
「糞!」

 ガンダムがビームサーベルを振るい、ガンダムAGE-1は一度下がり、ビームサーベルを持つと前に出る。
 ガンダムはシールドでガンダムAGE-1のビームサーベルを受け止める。

「今後が楽しみだ」

 ガンダムAGE-1はガンダムのシールドを弾こうとするも、ガンダムはびくともしない。
 すでにガンプラの性能差は歴然となっている。
 
「終わらせる!」

 ガンダムはシールドでガンダムAGE-1を弾き飛ばして体制を崩す。
 そして、ビームサーベルを突き出した。
 ガンダムAGE-1はとっさにシールドで守ろうとするが、すでにシールドはバルカンでボロボロになっている。
 ガンダムのビームサーベルはシールドを貫通し、ガンダムAGE-1の胸部に突き刺さる。
 それが致命傷となり、バトルは終了した。

「もっと、練習すれはいずれは……」

 バトルの内容だけ見れば、タケシの圧勝だった。
 だが、尋常ではない反応速度など、磨けば光る物があった事は事実だ。
 
「ふん……いい歳した大人が子供相手に全力かよ! 大人げないんだよ!」

 負けたマシロは涙目になりながら叫ぶ。
 タケシとしては手を抜いたつもりはないが、全力を出したとは言えない。

「ばーか! ばーか! 次は俺がおっさんをけちょんけちょんにしてやるからな! 覚えとけ!」

 マシロはタケシにそう言い残して、ガンプラを回収し、店の前に止めてある車に駆け込む。

「少しやり過ぎましたかね?」
「いや、あれで良いんだよ」

 タケシとしても子供であるマシロを泣かせた事に少し罪悪感を覚えるが、キヨタカとしてはこれで良かった。
 
「天才とは才能を持つが故に対等に立てる者がいなくなる。それが己の能力に対する自身にも繋がるが、逆に過信となる事もあり得る」

 キヨタカの子供たちは一般的には天才に分類される。
 同年代はおろか、年上だろうとその分野では誰にも負けない才能を持っている。
 キヨタカはそんな子供たちに才能を最大限に活かせる場を与える事は出来るが、天才は時に自身の才能に溺れる事がある。
 才能を持つが故に、自身の能力に自信を持つ。
 それ自体は必要な事だが、自身も行き過ぎれば過信へと変わる。
 その過信は時にミスを起こしたり、格下を相手に足元を掬われると言う事は決して珍しい事ではない。
 
「今日の敗北でマシロは負ける悔しさを身を持って知った事になる。これからマシロはタケシ君に勝つ為に更に腕を磨く事になるだろう。そして、それはタケシ君に勝つまで続く事になる」
「彼はいずれは世界を代表するファイターになるでしょうね。その時にバトルする事が今から楽しみですよ」

 マシロは敗北を知った。
 今までの敗北とは違う完全に実力での敗北だ。
 ガンプラの完成度、操作技術、戦術眼、マシロがタケシに勝てる要素は一つもない完璧な敗北だ。
 この敗北はマシロが成長する上で欠かせない。
 タケシは世界大会で準優勝するほどの腕前を持つファイターである為、簡単に勝てる相手ではないが、マシロにとってはそんな事は関係ない。
 これは天才が誰もが体験できる事ではなく、キヨタカにも与える事が出来ない事だ。
 敗北を知る事で、天才は驕る事無く、自身を高め続ける事が出来る。
 それだけで、負けた価値はある。

「その時はウチのマシロが勝つだろうけどね」
「僕も若い世代には負ける気はありませんよ」

 キヨタカがマシロが勝つと言うのに明確な根拠はない。
 強いて根拠を上げるなら自分の息子と言う事くらいだ。
 一方のタケシもいずれは再戦するだろうマシロとのバトルで負けるつもりは毛頭ない。

「さて、マシロの機嫌を取らないといけないから今日のところは」
「またいつでも来て下さい」

 今回の用事はマシロにガンプラを買い与える事だ。
 そのままバトルになる事は予想外だったが、マシロに敗北の悔しさを知る良い機会となった。
 キヨタカはマシロが先に戻った車に戻る。
 この日、マシロは本当の敗北の悔しさを知り、それから世界チャンピオンになるまでただの一度も敗北する事は無かった。
 



[39576] Battle38 「新世代」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/08/07 22:19
 世界各地でガンプラバトルの世界大会地区予選が開始され、次々と代表が決まって行く中、マシロは大会の会場のある静岡に到着していた。
 去年の予選の為に買ったホテルの最上階を開催までの拠点にしている。
 今まで、別行動だったレイコも合流し、世界大会に向けての調整を日々していた。

「やっぱり、過去に何度も出場しているイタリアのリカルド・フェリーニ、タイのルワン・ダラーラ辺りは今年も出て来てるわね」
「だろうね」

 マシロはバトルをしながら話しを聞いている。
 すでに出場が決まったファイターの中には大会の常連も入っている。

「ただ、去年のアメリカ代表だったグレコ・ローガンは今年は予選落ちしているわね」
「グレコ・ローガン……確か、決勝トーナメントで中々決着が付かなかった奴だよな」

 マシロは去年の大会の事を思い出す。
 去年の世界大会ではマシロが決勝戦でわずか1秒で勝利すると言った最短レコードを更新した事が有名だが、逆にリカルド・フェリーニVSグレコ・ローガン戦においては両者が互角のバトルを行い中々決着が付く事が無かった。
 それにより、世界大会の決勝トーナメントにおいて初めてのサドンデスバトルである「Vアタック方式」により決着が付けられた。

「で、相手は?」
「ニルス・ニールセン。大会参加最年少の一人よ」
「聞いて事がないな」
「こっちの調べでは彼は数か月前からガンプラバトルを始めたらしいわ」

 マシロの記憶の中にニルスと言う名のファイターはいない。
 グレコは決勝トーナメントに進める程のファイターである為、そのグレコに勝ったと言う事はそれ相応の実力者と言う事になる。
 直接面識が無くとも実力のあるファイターは常にマークしているが、ニルスは過去に公式戦に一度も出ていない為、マシロが知らないのも当然だ。

「成程。他に面白い情報は?」
「今年は日本代表が総入れ替えになってるわ」

 レイコの言葉にマシロはバトルの手を止める。
 
「どういう事だよ」
「その言葉通りよ。日本は5つの枠を持ってるけど、今年は全員初出場って事。第一ブロック代表はタチバナ・アオイ」
「アイツか」

 去年、地区予選の決勝でマシロが倒したアオイが今年は第一ブロックを制したらしい。
 だが、その事は特別驚く事ではない。
 元々、世界を目指せる程の潜在的な才能を持っていた。
 それが開花すれば第一ブロックを勝ち抜く事は大して難しくもない。

「第二ブロック代表はアンドウ・コウスケ」
「変身ユニコーンの奴か。何でまた? 第二ブロックは北海道とかそっちの方だろ」
「彼の大学がそっちの方だからよ」

 第二ブロックを勝ち抜いたコウスケの事はマシロもまだ覚えている。
 ユニコーンガンダムを改造してデストロイモードになれるようにしていたファイターだ。
 元々は静岡の第一ブロックに何度か出ていたが、コウスケは今年から北海道の方の大学に通っているらしく、世界大会も別のブロックに出たと言う事らしい。
 
「第三ブロックはイオリ・セイ、レイジ組」
「誰だよ。てか、タツヤはどうした? まさか、その二人に負けたって事はないよな」

 第三ブロックは東京を中心としたブロックだ。
 去年はユウキ・タツヤが代表として出場していたが、今年は違う。
 二人組だが、どちらの名もマシロは聞いた事は無い。
 だが、タツヤの出ている第三ブロックの代表と言う事はタツヤに勝って代表の座を勝ち取ったと言う事になる。

「彼は途中で棄権しているわ」
「は? 何でだよ!」
「知らないわ。流石に私も個人の事情にまで踏み込む事は出来ないわよ」

 余りのもレイコらしからぬ白々しさだが、マシロはタツヤが負けたのではなく、途中で棄権したと言う事実に驚き気づく事は無かった。
 当然、レイコはその辺りの事情も調べてある。
 だが、それは敢えて話す事は無い。
 
「イオリ・セイはあのイオリ・タケシの息子よ」
「あの大人げないおっさんのね……」

 マシロはそれを聞いた途端に少し拗ねた。
 イオリ・タケシはマシロにガンプラを教えた相手だが、マシロが唯一負けた相手でもある。
 まだ、あの時の雪辱を果たしてはいない為、余り思い出したくはないのだろう。

「問題は相方のレイジと言う少年の方ね。素性を調べたけど、数か月前に初めてバトルした後からは、足取りが度々分からなくなるけど、ある程度は掴んでいるけど、それ以前の足取りが全く掴めてないのよ」

 レイコはイオリ・セイと共に出場しているレイジなる少年の情報も集めているが、クロガミグループの情報網を駆使しても完璧に調べる事は出来ない。
 確認しているだけで最初のバトルはイオリ模型店で、同地区のファイターであるサザキ・ススム戦だ。
 それ以前は度々、目撃情報を得る事が出来たが、レイジに関する個人的な情報は全くと言って良い程集まってはいない。

「次の第四ブロック代表はありすなのよ」
「ふざけんな。何でアイツが出てんだよ」

 ありすの名を聞いた途端に、マシロは不機嫌になる。
 レイコもこうなる事は分かっていなた。
 マシロはありすの事を明らかに嫌っている。

「ドキュメント番組の撮影らしいわ。あの子の新規のファン層を確立する為のね。ガンプラバトルに嵌っているオタク層は金になると踏んだのよ」

 マシロが知る限り、ありすはガンダムやガンプラバトルに一切の興味は無かった筈だ。
 それどころか、一般的にオタクと呼ばれる層の事を毛嫌いしていたほどだ。
 だが、ありすのファン層を一層広げる為に、ドキュメント番組が企画された。
 それがありすがガンプラバトルを始め、世界大会を目指すと言う番組だ。
 そして、第四ブロックの代表となったらしい。

「気に入らない」
「気にする必要はないわよ。あの子が優勝を目指している訳でもないんでしょうし、適当なところで頑張ったけど、ガチ勢には及ばず敗退ってのが番組の筋書きだから」

 すでに、レイコは番組に付いて調べた。
 地区予選でバトルした相手は番組とは関係ない為、ありすの実力だが、今後の番組の方針としては表向きは優勝を目指していると言う事になっているが、番組としては優勝する必要はない。
 ある程度、勝ち進んだところで本気で優勝を目指している所謂「ガチ勢」に負けて終わると言う事になっている。
 余り勝ち進み過ぎると下手をすれば、ありすと言うアイドルに余計なイメージが付きかねないからだ。
 最後はガチ勢に負けて涙の一つでも流せば番組としては成り立つ。
 ありすが本気で優勝を狙いに来たとすれば、今大会において間違いなく最も厄介な相手となっていた。

「最後の第五ブロック代表はヤサカ・マオ」
「だから誰だよ」
「情報によればガンプラ心形流造形術の跡継ぎらしいわ」
「ガンプラ心形流造形術……あの珍庵の爺さんのとこか」

 マシロは第五ブロックの代表であるマオの事は知らないが、ガンプラ心形流造形術の事は知っている。
 ガンプラの歴史の中で武術のように流派が生まれて来ている。
 ガンプラ心形流造形術もその中の一つだ。
 そして、その現在の師範である珍庵はマシロがいずれは戦いたいファイターの一人だ。

「たまにあるんだよな。こういうのは」

 数回の世界大会の出場者の大半は何度も出場経験があるファイターだが、毎年初出場のファイターの中でも一人は有望な新人が出て来る。
 去年のマシロのようにだ。
 今年は更に一気に実力のある新人が出て来る珍しい年になっているようだ。

「他はフランス代表はアンタが落とし損ねたシシドウ・エリカで決定したみたい」
「まぁ、妥当なところだろうな」

 以前にフランスでエリカと組んでバトルをした事があった。
 あの時はガンプラが使い慣れていなかったと言う事もあって苦戦していたが、根本的なところではガンプラの制作技術もバトルの腕も格段に上がっていた。

「後、警戒すべきは今年カイザーを破ってフィンランド代表となったアイラ・ユルキアイネンとオーストラリア代表のガウェイン・オークリー。どちらもマシロと同じネメシスのファイターでマシロとのバトル経験が多い二人よ」
 
 アイラは去年、マシロが決勝戦で秒殺したカルロス・カイザーに勝ってフィンランド代表となった事で話題となっている。
 ガウェインはオーストラリア予選の一回戦でアイラに勝利すると言う大金星を挙げ、その勢いでオーストラリア代表となっている。
 それにより、今年のチームネメシスはマシロを含む3人のファイターを世界大会に送り込んだ事になる。
 そして、アイラとガウェインはマシロとのバトル経験が最も多い二人だ。
 アイラはマシロに付いていた間に相手をさせられ、ガウェインもアイラが来るまではチーム内でマシロの練習相手になるファイターはガウェインしかいなかったと言う事もありガウェインの都合を無視して相手をさせられていた。
 その中で全力を出したバトルは一度もないが、マシロとのバトル経験が豊富なのは優勝を目指す上で他のファイターにはない大きなアドバンテージだ。

「最後に最も警戒すべきファイターは今年、PPSEが特別参加枠を使って送り込んで来た三代目のメイジンカワグチね」
「三代目? 二代目はどうしたん? クビにでもなったのか?」
「二代目は倒れたそうよ。アンタがガンプラ塾を潰したせいで精神的な負担から体調を崩してね。今は絶対安静で危険な状態よ」

 二代目のメイジンカワグチはマシロに負けてから体調を崩し、遂には倒れた。
 PPSE社は急遽、メイジンカワグチの後釜を用意して三代目のメイジンカワグチが誕生している。
 そして、大会の運営の特権を使って三代目メイジンカワグチを特別参加枠で世界大会に出場させた。

「三代目ね……二代目が二代目だっただけにあんまり興味はないな。今のところ」

 マシロは三代目メイジンカワグチに対して興味を持つ事は無い事で、レイコは内心安心していた。
 当然、レイコはすぐに三代目の事も調べてある。
 PPSEがワークスチームと共に送り込んで来た以上は優勝を目指せる程のファイターである事は確実だからだ。
 PPSEはその正体を秘匿しているが、クロガミグループの情報網ならすぐにメイジンの素顔を特定する事が出来た。
 その正体こそが日本第三地区予選を辞退したユウキ・タツヤだった。
 その事をマシロに話してしまうと、マシロが余計な行動を取りかねない為、今は知らせずにいつも通り勝ち続けることを優先させた。
 いずれは分かる事かも知れないが、今は知る必要のない事だと判断した。

「さてと……レイコは情報収集を続けてくれ」
「どこに行くの?」
「ちょっと出る杭を打って来る」

 マシロはそう言って出かける用意をする。
 レイコは流石に本命の大会を前に無茶はしないだろうと、詳しく聞く事は無かったが、すぐに護衛と車を手配させた。









 ホテルを出たマシロはレイコが用意した車で海に居ていた。
 海ではあるが、マシロは海に泳ぎに来た訳ではない。
 季節が夏と言う事もあって、海の方には海水浴客が大勢いるが、マシロは海に目もくれずに目的の場所を目指していた。

「ここであってんだよな」

 マシロは目的地である旅館「竹屋」を見つけてそう言う。
 地区によって異なるが、日本地区では毎年、地区予選を勝ち抜いたファイターには副賞として旅行券が与えられる。
 場所は毎年異なるが、今年は副賞の宿泊先はこの竹屋らしい。
 マシロも去年には貰ってはいるが、興味がない為、副賞は使ってはいない。
 そして、マシロはここに泊まりに来る日本ブロックを勝ち抜いたファイターが目当てだった。
 副賞を使うタイミングはファイターによって違うが、取りあえず思い立ったから来た為、待ったところで遭遇出来るかは運次第だ。

「それにしても……コロニーでも落ちたのか?」

 それが竹屋を見た第一印象だ。
 竹屋の正面玄関は何かが突っ込んだのか大破している。

「まぁ良いか」

 明らかに普通ではないが、マシロは竹屋の事情はどうでも良い為、竹屋の中に入って行く。

「ご予約のお客さ……」

 マシロが中に入ると従業員と思われる少年が出迎えるが、マシロを見た途端に動きが止まる。

「なっ……あああああああああああ!」
「幸先がいいな」

 マシロはここに来る道中にレイコに自分の知らない3人、イオリ・セイ、レイジ、ヤサカ・マオの顔写真を手配させていた。
 その為、この少年がヤサカ・マオである事はすぐに気が付いた。
 そして、マオの方もまさか、現チャンピオンのマシロがここに来る事など考えもしていなかった為、大声をあげる。

「どうしたの? マオ君。そんな声を上げて」
「また、昨日の連中でも来たのかよ」

 マオの叫びを聞いて竹屋に泊まっていたセイとレイジが上の階から降りて来る。
 セイはすぐにマシロの事に気が付くが、レイジの方はマシロの事を知らないらしく、反応しない。

「誰だ?」
「誰だって知らんのですか!」
「チャンピオンだよ! チャンピオン!」

 マシロの事を知らない事が余程信じられないのか、マオはレイジに詰め寄り、セイが説明する。

「チャンピオン? こいつが?」

 だが、レイジは半信半疑ではある。

「そんなに強そうには見えないけどな……まぁ良いや。アンタ、強いんだろ? なら、バトルしようぜ」
「こっちはそのつもりで来たんだけどな」
「ちょ! レイジ!」

 行き成り、世界王者にバトルを挑むレイジの腕を掴んでセイはレイジを引っ張って行く。

「何考えてんだよ! 相手は去年の世界大会で優勝してるんだよ!」
「だからだろ。世界大会で優勝してるって事はあのユウキの奴よりも強いんだろ?」
「それは……そうかも知れないけど」
「なら、バトルするしかないだろ。どの道、いずれは戦う事になるんだ。それに、世界で一番強いファイターがそこにいるんだぞ。戦いたくなるだろ。ファイターなら」

 セイはまだ、心の準備が出来ていない事や、去年の世界大会でのマシロの戦いを知っている為、及び腰になるが、レイジは相手が世界チャンピオンだろうが関係なかった。
 寧ろ、世界最強だからこそ、ファイターとして戦いたいとさえ思っている。
 レイジにそこまで言われ、セイも自分の作ったガンプラと相棒のレイジがどこまでマシロと戦えるか知りたくなって来た。

「分かった。やろう。レイジ」
「おう、そうこないとな!」

 セイも覚悟を決めて、二人はマシロと対峙する。

「そっちの赤い方がレイジで、青い方がイオリ二世か……」

 覚悟を対峙する二人に対してマシロは値踏みするように見る。
 レイジは怯む事は無いが、セイは怯みかけるも何度か踏みとどまる。

「成程ね。世界大会に出る程はある……だけど」

 マシロは視線を二人からセイの方に向ける。
 そして、ゆっくりと近づき、セイの方にポンと手を置く。

「親の事は気にするな。ファイター以外にも道はあるさ」
「えっと……はい?」

 マシロはセイに対してそう言う。
 マシロは相手を見るだけである程度は本能的に相手の力量や才能を見抜く事が出来る。
 そして、直接二人を見た感想として、レイジは世界大会に出る程の実力と潜在的な才能を秘めているが、セイからはまるで感じない。
 精々、人並か少し上程度にしか今後はファイターとして伸びる事は無い。
 練習次第ではある程度の実力者となる事は可能だが、世界レベルのファイターになる事は不可能だと言うのがマシロから見たイオリ・セイのファイターとしての才能だ。
 これが普通のファイターであるのなら、世界大会で優勝すると等と言う身の丈に合わない夢さえ持たなければ十分にガンプラバトルを楽しむ事は出来るが、セイの場合父親が問題だ。
 セイの父親のイオリ・タケシはガンプラバトルをやっていれば嫌でも耳に入って来る。
 イオリ・タケシの息子としては世界レベルに到達できないセイはこれからは苦労させられるだろう。

「まぁ良いや。で、バトルしてくれるんだろ?」
「当然だ!」
「よろしくお願いします」
「ちょい待ち! 二人だけズルいですやん!」

 三人の間にマオが割って入る。
 
「ワイもチャンピオンとバトルしたい!」

 レイジがマシロとバトルしたいようにマオもまた、世界チャンピオンであるマシロとバトルしたいと思っている。

「俺は別に二人同時に相手しても構わないけど」

 マシロは元より、セイとレイジ、マオの二組と戦う気でいた。
 レイジ達だけでなく、マオもその気ならバトルをする事に問題はない。
 レイジは一人づつではなく、二人同時に相手をすると言って来ている辺りは、マシロが自分達を下に見ていると不満そうだったが、それをセイとマオが宥める。
 少なくとも、自分達はまだ実績を残していない為、各下と見られても仕方が無く、相手にされているだけマシなのだと。
 話しが纏まったところで、バトルの為に移動する。
 竹屋の中には卓球と言った温泉旅館では定番の遊具の他にガンプラバトルのバトルシステムも置かされている。
 これは竹屋の経営が思うようにいかない為、他の旅館にはない売りとして導入した物だ。
 バトルシステムをマシロ達4人が囲みバトルの準備が行われていた。
 いつの間にか、セイ達と共に泊まっていたラルさんとセイの母親であるイオリ・リン子、そして、セイのクラスメイトであるコウサカ・チナもセイとレイジがバトルをすると聞きつけて観戦している。

「イオリ君たちは大丈夫なんでしょうか……」
「相手はあのマシロ君だからね」

 チナは心配そうにセイを見ている。
 ガンプラバトルに詳しくないチナだが、マシロが世界チャンピオンだと聞いて心配している。

「だが、このバトルは彼らにとって大きな意味を持つ。セイ君はともかく、レイジ君はマシロ君の実力を知らない。ここで世界最強の実力を知る事は今後の世界大会を勝ち抜く上で彼らの財産となるだろう」

 このバトルでセイ達がマシロに勝てるとはラルさんは考えてはいない。
 セイとレイジはビルダーやファイターとして優れた才能を持ち、戦う度に強くなっている。
 それでもまだ、マシロには届かないだろう。
 だが、このバトルで世界最強の力を知れば、今後世界大会で強敵と当たっても動じる事無くバトルが出来る。
 今は圧倒的な差を見せつけれるかも知れないが、長い目で見ればそれはいずれマシロと同じ世界最強の座を争う時にマシロの力を何も知らずにバトルするのと知った上でバトルするのとでは大きく違ってくる。

「あの子ってキヨさんのところの……大きくなったわね」

 二人の相手が現世界最強のファイターである事に心配していないのか、リン子は以前にキヨタカがガンプラを買う為にマシロと共にイオリ模型店を訪れた時よりもマシロが成長している事をしみじみ感じていた。







 マシロとレイジ、マオがGPベースをバトルシステムにセットしてガンプラを置いた。
 直接バトルしないセイはレイジの後ろでセコンドに付いている。
 そして、バトルが開始される。
 今回のバトルフィールドは市街地だ。
 マシロはセブンスソードでのバトルだ。
 マオのガンプラはガンダムXを改造したガンダムX魔王、セイとレイジのガンプラはガンダムMk-Ⅱの改造機ビルドガンダムMk-Ⅱだ。

「まずは!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードに対してガンダムX魔王とビルドガンダムMk-Ⅱが一斉に射撃を行う。
 集中砲火をガンダム∀GE-1 セブンスソードはギリギリのところで回避しながら2機に接近する。

「当たらねぇぞ!」
「アレがマシロさんの……」
「実際に見るのは初めてですけど、どないな目をしてんですか!」

 セイとマオは去年の世界大会でのマシロのバトルを何度み見た事がある。
 その中でのマシロのバトルスタイルの特徴の一つが攻撃を回避する際に当たる事を全く気にしていないギリギリでの回避行動だ。
 下手をすれば直撃しかねないギリギリだが、マシロは躊躇う事無くやって見せた。
 それにより動きが最低限である為、距離を取ろうにもガンダム∀GE-1 セブンスソードの機動力を簡単に振り切れないで接近されると言う事が多い。

「ちっ……射撃が駄目ならよ!」
「レイジ!」

 撃ったところで簡単には当たらないと踏んだレイジは接近戦に切り替える。
 ビルドガンダムMk-Ⅱはビームサーベルを抜いて、向かって来るガンダム∀GE-1 セブンスソードを迎え撃つ。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開し、ビルドガンダムMk-Ⅱのビームサーベルを受け止める。

「成程ね。良いガンプラだ」
 
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは後退しながら胸部のビームバルカンを放つ。
 ビルドガンダムMk-Ⅱはすぐに降下して回避すると、後方からガンダムX魔王がシールドバスターライフルで援護射撃を行う。

「そっちもやるね」

 短いやり取りの中でマシロは二人のガンプラの性能を把握して行く。
 すでにレイコの方からある程度の情報は回して貰っているが、データとして見るのと実際にバトルして見るのとでは違ってくる。
 
(全く、最近のガキは怖いね。総合的な性能じゃこっちの方が負けてるし)

 ビルドガンダムMk-ⅡとガンダムX魔王もガンプラとしての出来は非常に高い。
 マシロもこれ程の出来のガンプラとの世界大会以来、久しぶりだ。
 マシロはファイターとしての実力は紛れもない世界最強クラスだが、ビルダーとしての腕が飛び抜けている訳ではない。
 その為、セイとマオが制作したガンプラは総合的な出来ではマシロのガンダム∀GE-1 セブンスソードを上回っている。
 だが、機動力や格闘戦能力ではまだガンダム∀GE-1 セブンスソードに分がある。

「俺もさ、まだ新しい世代に譲る気は無いんでね!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはビルドガンダムMk-Ⅱに向かって行く。
 ビームライフルMk-Ⅱで応戦するが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはギリギリのところで回避すると、Cソードを振るう。
 ビームサーベルで受け止めるもビルドガンダムMk-Ⅱは弾き飛ばされてしまう。

「なんてパワーだよ!」
「レイジはん!」

 ビルドガンダムMk-Ⅱが体勢を整える間をガンダムX魔王が稼ぐ。
 シールドバスターライフルをシールド形態にするとビームソードを抜いてガンダム∀GE-1 セブンスソードに切りかかる。
 それをガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードで受け止める。
 その間に体勢を整えたビルドガンダムMk-Ⅱが両腕のビームライフルMk-Ⅱでガンダム∀GE-1 セブンスソードを狙う。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはガンダムX魔王を蹴り飛ばして回避すると、ビルの屋上に着地する。

「こっちは二人掛かりだってのに……」
「まだ、チャンスはあります! レイジはん、少し時間を稼いで下さい!」
「レイジ」
「何だ知らないが、頼んだぞ! マオ!」

 ガンダムX魔王が後方に下がるとビルドガンダムMk-Ⅱは両腕のビームライフルMk-Ⅱを放つ。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは飛び上がって回避すると、ショートドッズライフルをガンダムX魔王に向ける。

「何をするかは知らんが、大人しくやらせてやるほど、お人よしでもないんでね」
「やらせるかよ!」

 ビルドガンダムMk-ⅡはバックパックのビルドブースターMk-Ⅱをパージすると支援戦闘機となり、ビームライフルMk-Ⅱでガンダム∀GE-1 セブンスソードの攻撃を妨害する。

「無人戦闘機か……先に仕留めさせて貰う」
「お前の相手はこっちだ!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは先にビルドブースターMk-Ⅱにショートドッズライフルを向けるが、ビルドガンダムMk-Ⅱ本体がビームサーベルを抜いてガンダム∀GE-1 セブンスソードに切りかかる。
 その攻撃をガンダム∀GE-1 セブンスソードは回避する。

「やるな」
「ちっ……こっちは一杯一杯だってのによ!」

 ビルドブースターMk-ⅡはビルドガンダムMk-Ⅱのバックパックとなり、背部に戻る。
 そして、ビームライフルMk-Ⅱを連射して、ガンダム∀GE-1 セブンスソードにガンダムX魔王に狙いを付けさせないように牽制する。

「そろそろか」
「レイジはん! セイはん! お待たせしました! こっちは行けますよ!」

 ビルドガンダムMk-Ⅱが時間を稼いでいると、後方に退いたガンダムX魔王はハイパーサテライトキャノンを構えていた。

(成程な。まぁGXの改造機が粒子を集めたらサテライトキャノンを撃って来るわな)

 マオのガンダムX魔王が後方に退いたのは自信の切り札であるハイパーサテライトキャノンを撃つ為であった。
 圧倒的な操縦技術を持つマシロに対抗する為の圧倒的な火力で勝負と言う事だ。
 この一撃が当たれば流石のガンダム∀GE-1 セブンスソードも確実に仕留める事が出来る自身がマオにはある。

「サテライトキャノンか。月のないステージで撃って来るのは凄いけどさ、当たってやる気はないぞ」

 ガンダムXやガンダムDX等に搭載されているサテライトキャノン及びツインサテライトキャノンはガンプラバトルにおいては最強クラスの火力が素組でも使う事が出来る。
 だが、制限として作中の2機は月の太陽光発電施設からスーパーマイクロウェーブを受信してエネルギーを確保している。
 ガンプラバトルでも同様で月のないバトルフィールドでは使えない。
 しかし、マオのガンダムX魔王は月のないバトルフィールドでもハイパーサテライトキャノンを撃てるように改造している。
 それを行う為にも時間が必要である為、マオはレイジに時間を稼いで貰った。

「逃がすかよ!」

 普通に撃ったところでガンダム∀GE-1 セブンスソードの機動力とマシロの腕なら回避する事は余裕だった。
 ビルドガンダムMk-ⅡがビルドブースターMk-Ⅱをパージしてガンダム∀GE-1 セブンスソードの動きを制限する。
 
「行きますよ!」

 ガンダムX魔王はガンダム∀GE-1 セブンスソードにハイパーサテライトキャノンを放つ。
 ビルドブースターMk-Ⅱに足止めをされているガンダム∀GE-1 セブンスソードに高出力のビームが一直線に向かって行く。

「流石にアレを食らう訳にはいかないからな、こっちも切り札を切らせて貰う」

 するとガンダム∀GE-1 セブンスソードは青白く発光する。

「何だ!」
「アレは……バーストモード!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードもまたバーストモードが使える。
 以前のガンダム∀GE-1の時はその出力にガンプラが耐え切れずに動くだけで損傷する程だったが、今は一応の解決策を用意している。
 青白く光るガンダム∀GE-1 セブンスソードだが、光は右腕のCソードに集まる。
 そして、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは高らかにCソードを上に上げると、Cソードから巨大な青いビームサーベルが出て来る。

「ライザーソード!」
「違う! バーストソードだ!」

 マシロがバーストソードと名付けた巨大なビームサーベルはバーストモード発動時の粒子をCソードに集中させる事で使うガンダム∀GE-1 セブンスソード、第七の剣だ。
 そうする事でバーストモードを使っても、本体への負荷は無くなり、必殺の一撃を使う事も出来る。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはバーストソードを振り落す。
 その際に足止めをしていたビルドブースターMk-Ⅱを一瞬にして破壊し、ガンダムX魔王のハイパーサテライトキャノンとぶつかる。
 2機の使った最大級の攻撃のぶつかり合いはガンダム∀GE-1 セブンスソードのバーストソードが打ち勝ち、バーストソードがガンダムX魔王を襲う。

「マオ!」
「マオ君!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードがバーストモードに使った粒子が切れるとバーストソードは消え、Cソードにヒビが入り壊れた。
 バーストモードの粒子をCソードに集めた分、Cソードが本来、本体にかかる筈の負荷を一手に受ける為、一度使えばCソードは破壊されると言うのはバーストソードのデメリットだ。
 Cソードが壊れた為、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルごとCソードをパージする。
 バーストソードの一撃が終わるとそこには、バーストソードの直撃を受けたガンダムX魔王がボロボロになっていた。
 辛うじて完全に破壊される事は無かったが、もはや戦闘を続行する事は出来そうに無い。

「耐えたか」
「ハイパーサテライトキャノンが撃ち負けるやなんて……」

 マオは月のないバトルフィールドでは最大出力では撃てないにしても、ハイパーサテライトキャノンが撃ち負けた事に少なからずショックを受けている。
 一方のマシロも少なからず驚いている。
 バーストソードはガンダム∀GE-1 セブンスソードの必殺の一撃だ。
 その一撃の直撃を受ければ世界レベルのガンプラだろうと確実に仕留める事が出来る。
 それでもガンダムX魔王はボロボロとはいえ完全に仕留める事が出来なかった。
 恐らくはハイパーサテライトキャノンによって威力が大きく削られたからだろう。
 並のガンプラが撃ったサテライトキャノンなら問題はない筈だったので、ガンダムX魔王のハイパーサテライトキャノンは最大出力でなくとも相当な威力だったと言う事だ。

「その損傷ではこれ以上のバトルは出来ないだろ」
「……そうですね。後はお二人にお任せします」
「……ああ、任せろ」
「だけど……」

 マオのガンダムX魔王は戦闘不能でこれ以上のバトルには参加できない。
 マシロも戦えない相手と戦う気は無い。
 後はレイジとセイのビルドガンダムMk-Ⅱだが、すでにビルドブースターMk-Ⅱを失っている。
 残っている装備はビームサーベルが2本だけだ。
 対するマシロのガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードとショートドッズライフルを捨てただけだ。

「降参するなら認めても良いけど。どうする?」

 すでに勝敗は見えている。
 流石のレイジもこの状況でマシロを相手に勝てると思っている程、自身の実力に自身を持っている訳ではない。
 
「……なぁ、セイ」
「レイジ?」
「ユウキの奴も凄げぇと思ったけどよ。世界は広いな」

 レイジもタツヤとバトルした事はある。
 その際に世界の実力を身を持って体験している。
 そして、その上が更にいると言う事をこのバトルで実感した。

「うん」
「それが分かっただけでもこのバトルには意味があったのかも知れない。ここで諦める事が賢い選択かもな」

 レイジは世界最強の力を知った。
 勝ち目がない以上は、降参する事が賢い選択と言える。
 このバトルで負けたところで世界大会に出れない訳ではない。
 寧ろ、バトルを続けることはガンプラを無用に傷つける事になる。

「そうだね」
「けどよ……これから先、世界大会でこいつみたいな奴らを相手にしないといけないんだろ? なら、ここで諦めちまったら、多分……一生アイツ等には追いつく事も超える事も出来ない気がする。だからさ……悪い。お前の作ったガンプラが壊れるかも知れないけど、俺は諦めたくねぇ!」

 賢い選択をすればガンプラが壊れる事は無い。
 レイジもそれは理解している。
 だが、レイジは本気で世界大会で優勝を目指している。
 優勝を目指すと言う事はいずれはマシロに勝たないと優勝する事は出来ない。
 ここで降参すると言う事はマシロに勝つ事を諦めてしまうと言う事だ。
 一度、諦めてしまえば二度とマシロに勝つ事もそこまで辿りつく事も出来ない気がした。

「そうだね……レイジは後の事なんて考えなくても良い! 思いっきりぶつかろう!」
「おうよ!」

 覚悟は決まった。
 例え、負ける事が分かり切っていても今は、諦めて負けるよりも諦めずに負ける事を二人は選択した。
 だが、レイジは負ける気など毛頭ない。
 どの道、勝ち目はないがそれでも尚、勝つ気でマシロのガンダム∀GE-1 セブンスソードに向かって行く。
 ビルドガンダムMk-Ⅱは両手にビームサーベルを持ってガンダム∀GE-1 セブンスソードに突撃する。

「勝ち目がないと分かって尚、挑むか……悪くない選択だ」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは向かって来るビルドガンダムMk-Ⅱを迎え撃つ構えをする。
 そして、ビルドガンダムMk-Ⅱはビームサーベルを振るった。

「……ちくしょう!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードの最後の一撃はセイはおろか、レイジすら完全に捉える事が出来なかった。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードが腰のビームサーベルを抜いたと思った瞬間にガンダム∀GE-1 セブンスソードの姿は消え、ビルドガンダムMk-Ⅱにビームサーベルが突き刺さっていた。
 最後の一瞬だけ、マシロは全力を出した。
 いつもは全力を出すとガンプラがそれに耐え切れない為、滅多に全力を出す事は無いが、マシロは全力で止めを刺した。
 それにより、ガンダム∀GE-1 セブンスソードも関節が悲鳴を上げて、右腕は力なくうな垂れて膝をついている。
 胸部に突き刺さったビームサーベルが決めてとなり、ガンダムX魔王も戦闘不能である為、バトルはマシロの勝利で終わる。



 





 バトルが終わるとレイジやセイ、マオは一言も出て来なかった。
 終わってみればマシロの圧勝だ。
 相手が世界王者だろうと世界大会に出場する自分達が二人掛かりなら或いはと心のどこかでは思っていたが、見事に打ち砕かれた。

「まずまずだったよ。お前ら」

 口を開かない三人に代わりマシロが口を開く。
 終わってみれば圧勝ではあったが、マシロからすれば中々のバトルだったらしい。

「まず、マオだっけか。お前のGXの改造機はあんな方法で粒子を集めているところから察するにサテライトキャノンに重きを置いたガンプラと言ったところか」
「まぁ……そうですけど」

 ガンダムX魔王が後方に下がり、ビルドガンダムMk-Ⅱと戦っていた時もマシロはガンダムX魔王から目を離した訳ではなかった。
 その為、月のないバトルフィールドでハイパーサテライトキャノンを撃つカラクリも一部始終見ていた。
 敢えて、あんな方法と方法を言わないのはこの場にマオ以外のファイターがいるからだ。
 わざわざ、自分が見抜いた秘密を意味もなく他のファイターに教える気は無い。

「今回はチーム戦だったから良かったものの、格下相手じゃないとサテライトキャノンのチャージは出来ないだろう」

 図星だった。
 ガンダムX魔王のハイパーサテライトキャノンを撃つには時間がかかる。
 今回はレイジに時間を稼いで貰ったが、世界大会で使う為にはまだ難が残る。

「マシロはんはワイの魔王にサテライトキャノンを捨てた戦い方をしろと言うんですか?」
「合理的に考えればそうだな。サテライトキャノンは威力は高いがチャージにかかる時間が長い上に使えるバトルフィールドが限られて来る。チーム戦向きの武器でタイマン向きじゃない」

 ガンダムX魔王のハイパーサテライトキャノンはベースとなったガンダムXよりも使い易く改造している。
 だが、それでも撃つまでの時間はかかる事はどうしようもない。
 実力差のある相手ならまだしも、世界レベルのファイターを相手に何度も使える武器ではない。
 複数のガンプラで戦うチーム戦ならまだしも、世界大会の決勝トーナメントまで来ると全てのバトルが一体一で行われる。
 そこまで勝ち抜いた場合、ハイパーサテライトキャノンは非常に使い辛い。
 そんな装備を無理に使い続ける位なら、いっその事装備しているだけで、相手にサテライトキャノンがあると言う事を印象づけて警戒させる戦いの方が合理的で確実に勝つ事が出来るだろう。

「だが逆だ。あんなに使い難い装備を使い易くしてまで使うって事は思い入れがあるって事だ」

 マオがガンダムXの改造機を使うきっかけとなったのは元から大火力の機体が好みだった事もあってガンダムXのサテライトキャノンに惚れ込んだからだ。
 その為、月のないバトルフィールドでも使えるように考えて改造した。

「つまりは、好きで選んだガンプラから好きな部分を捨てた時点でそいつは負けてんだよ」

 自分のガンプラを選ぶ際には様々な基準がある。
 その中でもマオはガンプラの好きな部分で決めている。
 それが好きで選んだガンプラからその要素を捨てた時点で、どのガンプラでも良いと言っているような物でそんなファイターが勝てる訳が無い。

「結局のところ、好きなんてものは合理的から最も離れているんだ。合理的に考える必要なんてどこにも無いんだよ」

 マオだけでなく、誰もが好きでガンプラバトルを始めている。
 バトルの技術を磨く為に合理的に考える事は必要ではあるが、ガンプラを作る際にも合理的に勝てるガンプラよりも自分の好きなように作ったガンプラの方が強いとマシロは考えている。

「だけど、好きな事を突き詰めたところで限界はあるが、好きな事を最大限に活かす術を考える上でそれ以外の事に目を向ける事は案外大事な事だ」

 好きで始めた事でも勝敗を付ける勝負である以上は、好きを貫いたところでいずれは限界が訪れる。
 その限界を突破する為には好きな事以外にも目を向ける必要が出て来る。
 マシロの場合は近接戦闘を好んでいる。
 その為、好きな近接戦闘かは離れた砲撃戦の装備を用意している。
 そうする事でマシロは接近戦だけのファイターではないと言う印象を付ける事で、最も好んで使う近接戦闘が活きて来る。
 
「つまりは、ハイパーサテライトキャノンを最大限に活かす為に別の方向にも目を向けろと言う事ですか?」
「その通り。後は自分で色々と試して見るんだな。答えは自分でしか出せないし」

 マシロが出来る事はここまでしかない。
 結局のところガンダムX魔王のハイパーサテライトキャノンを最大限に活かすバトルはガンダムX魔王を作ったマオでしか答えを出す事は出来ない。
 
「次にイオリ二世のマークⅡの改造機だ」

 話しが自分の方に向くと、ビルダーの腕はすでにセイの方が上ではあるが、相手はチャンピオンである為、緊張して無意識の内に背筋が伸びる。

「完成度は悪くない。けど、小さく纏まっていてつまらない」

 まさに一刀両断だった。
 セイのガンプラを貶された気がして、レイジが掴みかかりそうになるが、セイがレイジの腕を引いて止める。
 世界大会を勝ち進むにあたり、マシロが実際にバトルして感じた意見はセイにとっては貴重な意見だ。

「多分、イオリ二世は自分のガンプラに俺設定を付けるタイプだろ」
「えっと……はい」

 セイは図星を付かれて視線を逸らす。
 実際、ビルドガンダムMk-Ⅱには色々と作中設定を付けている。

「俺もやるけど、俺設定は時に選択の幅を狭める事がある。俺の場合はAGE系のガンダムはその辺は割と自由が利くけど、宇宙世紀はそうもいかないしな」

 作中設定、いわゆる俺設定を考える際に重要なのはガンダムの作中で決してありえる設定を作る事だ。
 マシロのガンダム∀GE-1は元々AGEには意図的に視聴者が自分で考察出来るように設定をぼかしている上にAGEシステムと言うある程度は突拍子もない改造でも作中であり得るだけの受け皿も用意されている。
 逆に宇宙世紀はファーストガンダムに始まり、続編や外伝作品、OVA作品等によって通常のアニメではあり得ない程の膨大な歴史や世界観と言った深い設定を持つ。
 それ故に作中設定に準じた設定を守ろうとすると自ずと選択の幅を狭めてしまう。

「それが悪いとは言わないし、お前のマークⅡは俺の∀GEよりも戦い方の幅も広い。けど、お前のマークⅡは多分、過去に一度は誰かが似たような事を考えてると思う」

 セイは反論出来なかった。
 確かにセイは宇宙世紀、特にベースとなったガンダムMk-Ⅱが登場したZガンダムの設定をある程度は順守して使っている。
 Zガンダム自体、かなり昔の作品である為、ビルドガンダムMk-Ⅱの設定の一つである、公式には存在しない幻の5号機と言う設定もセイが始めて考えたと言う可能性はまずない。
 装甲が旧来の物ではないと言う設定やギャプランの装備が参考となっていると言うのも然りだ。
 だが、それはビルダーがいずれは当たる壁だ。
 そこで、その壁を破り新たなステップに上がるか、現状で満足するかはビルダー次第だ。

「後は俺の好みの問題だが、特徴があんまりないのもな」

 ビルドガンダムMk-Ⅱはバランス型のガンプラと言える。
 マシロのガンダム∀GE-1 セブンスソードは近接戦闘に特化し、マオのガンダムX魔王はサテライトキャノンの使用に特化している。
 特化しているガンプラは特化した分野なら圧倒的な強さを発揮するが、逆に弱点を突かれると何も出来ずに敗北する事もあり得る。
 その点、バランスの良いガンプラには弱点らしい弱点が無い為、特化する事が悪い事ではない。
 だが、過去の世界大会においてギリギリのバトルとなった時にはバランス型のガンプラの勝率は低い。
 これはバランス型が故に相手に勝る武器がないからだ。
 ギリギリのバトルで必要となって来るのは如何に相手より弱点が少ないと言う事ではなく、如何に相手より優れた武器を持っているかとなって来る。
 それ故にバランス型で勝ち残る為には、ファイターの腕が特化型以上に必要となって来る。

「けど、誰か考えそうなガンプラよりも、新しいガンプラの第一人者の方が俺は良いと思うな」
「新しいガンプラ……」

 マシロからすれば勝てるガンプラを作ると言う事は根底にある絶対条件だ。
 だが、過去のビルダーがすでに確立した物をそのまま使う事は好まない。
 必要であれば、真似する事も辞さないが、自分なりにアレンジしたり、自分に合わせて変化させなければそれは自分の物にしたとは言えない。
 そして、自分が最初の人になる事は他人よりも優位に立ったことにもなる。
 後から同じような事をしても、結局は二番煎じでしかないのだから。

「人の相方に好き勝手言ってくれるじゃねぇか」
「今のところは事実だからしょうがないよ。レイジ」

 マオの時とは違いセイに対してはマシロはかなり辛辣な物言いだった。
 だが、セイはそれを受け入れていた。
 それが今の自分に必要な事だと感じているからだ。
 
「最後にレイジだが、良いね。その負けん気は実にファイター向きの気質だ」

 セイの時とはうって変わり、レイジの評価はマシロの中では高いようだ。
 レイジはマシロの事を知らないと言う事もあり、相手が誰だろうと物怖じしない図太さ、圧倒的な差を見せつけられても尚、勝とうと前進する負けん気。
 ファイターとして必要な要素を持っている。
 これは練習で簡単に会得出来る類の物ではなく、本人の性格による要因が大きい。

「後はどれだけ修羅場を潜り抜けるかだが、ファイターが良くてもガンプラがそれに追いついてこなければ宝の持ち腐れだ」

 それはセイに大しての言葉でもあった。
 マシロも同様だが、幾らファイターの実力があってもガンプラがそれに追いつかなければファイターの腕を活かし切れない。
 逆にガンプラの性能が良くてもファイターの実力が無ければ、ガンプラの性能を活かし切れない。
 
「それをクリアすれば、お前らがまだまだ強くなれる」

 レイジにはそれだけの可能性を感じた。
 まだ粗削りだが、その潜在的な才能は計り知れない。
 世界レベルの実力者とのバトルを繰り返せば爆発的に成長する可能性をレイジは持っている。
 それに加えて元よりビルダーとしての高い能力を持つセイが壁を突き破る事が出来れば、二人は自分のいる高見へと上がれると思える程にだ。

「さてと、チャンピオンの有難い講義はこの辺りで終わりにするか。後は自分で考えて自分の答えを出せれば俺と同じステージに来いよ」

 マシロは色々と言ったが、最後に決めるのは自分でしかない。
 マシロの言葉はマシロの考えに過ぎず、それを受け入れて答えを出すのか、否定して自分なりの答えを出すのか、それは誰にも明確に答えを出す事は出来はしない。
 だが、その答えを出来れば、セイとレイジだけでなく、マオも世界レベルのファイターやビルダーとしてマシロと同じステージに上がる事が出来る。

「それで精々、俺を楽しませてくれ」

 何もマシロは善意でアドバイスをした訳でも無い。
 マシロは根本的な部分を思い出せずにいるが、勝つ事が好きで強い相手に勝つ事が好きだと言う事に変わりはない。
 3人にアドバイスを送るのも、それだけの可能性を感じた事による。
 そして、強くなったところを自ら世界大会で倒すと言う算段だった。

「その時には楽しめない程に強くなってるかも知れないぜ?」
「やれるもんならな」

 レイジの挑発的な態度にマシロも挑発的に返す。
 チャンピオンを相手に強気な態度に、マオは素直に関心し、セイは気が気でない。
 バトルを終えたマシロはさっさと帰って行く。

「で……結局、アイツは何しに来たんだ?」
「さぁ?」

 何かしらの用事があって竹屋に来た事は確かだが、マシロはバトルをして帰って行っただけだ。
 結局、何の目的で来たのか分からず終いだった。
 バトルを終えたマシロはすぐに静岡へと戻っていた。
 始めから今年の新人の実力を把握する事が目的でセイ、レイジ組とマオの実力を把握する事が出来た為、目的は果たした。
 そして、結果としては上々だ。

「アメリカのニルスと言いウチのアイラと言い今年は豊作だな」

 今年の初出場のファイターのバトルの映像で確認したが、その中でも何人かは相当な実力者が揃っている。
 それこそ、マシロがバトルしてみたいと思える程のファイターだ。

「タツヤが出ないからつまらない大会になりそうだけど、今年は少しは楽しめそうだ」

 バトルを楽しみにしていたユウキ・タツヤがまさかの予選辞退で、マシロはテンションが落ちていたが、それを補える程のファイターの登場にマシロも機嫌が良い。
 世界大会まで残り一か月を切っている。
 現時点で世界大会の出場者は全て確定している。
 出場するファイターは優勝、打倒マシロを目指して残りの時間を調整や練習に費やしているだろう。
 マシロもまた、チームネメシスのオーナーであるヨセフとの契約である第7回大会優勝を目指す為に最後の調整に入る。
 それぞれのファイター達が世界一の栄光を目指し、世界大会が開催される。




[39576] Battle39 「大会前夜」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/08/19 21:07
 全ての地区予選が終わり、勝ち抜いたファイター達が会場である静岡に集まり、世界大会の開催が翌日に迫って来た。
 会場では明日から始まる大会の準備の最終確認で運営スタッフたちが慌ただしく動いていた。
 決勝トーナメントも行われる会場のメインスタジアムの前にマスコミが集まっていた。

「それでは! 前大会を圧倒的な力で優勝した現チャンピオンのマシロ選手にインタビューをしたいと思います!」

 カメラが回る中、今回の世界大会で公式イメージアイドルとして抜擢されたキララがマシロにマイクを向ける。
 
「去年の大会での事で他のファイターから非常に意識されているようですが、その辺りはどう思っていますか?」
「別に。どうせ、今年も俺が優勝するに決まってんだし」

 このインタビュー自体、大会のプログラムに組み込まれている為、やっているがマシロからすれば興味がない。
 さっさと切り上げたい為、質問に対する答えも適当になる。

「凄い自信ですね!」
「事実だから」

 番組としてある程度の盛り上る必要があるが、マシロが乗って来ない為、キララは視線でカメラの方に何とかするように訴えるも、どうにもならないようだ。

「それでは、今年の参加者の中で注目しているファイターを上げるとすれば誰ですか? やはり、PPSE社が満を持して送り出して来た三代目メイジンカワグチでしょうか?」
「どうだろう。そもそもさ、メイジンを担ぎ上げるってのはどうなんだろうな。初代メイジンのビルダーとしての実力は俺も知ってるし、尊敬に値するとも思ってるよ。でも、彼はビルダーであってファイターじゃない。そんなメイジンをファイターとして担ぐのはどうかと思うよ。まぁ、俺が言いたい事はメイジンはメイジンらしくガンプラでも作ってろって事。ガンプラバトルの世界にファイターとしてのメイジンはお呼びじゃないんだよ。だから二代目も大したことがないんだよ」

 取りあえず、マシロが興味を持ちそうなバトル関連の話題を振って見れば、出て来るのはPPSE社に対する批判だった。
 世界大会はPPSE社が開催している為、公共の電波に乗せてPPSE社に対する批判を放送する事は、大会のイメージアイドルとしては避けたい事ではあるが、これは生放送である為、どうしようもない。

「ああ、注目しているファイターの話題だったよな。今のところは面白そうな奴は何人かいるってところだな。後、今思いついたんだけどさ。俺が優勝するのは分かり切ってんだから、面倒な予選ピリオドとか全部飛ばしてさ、俺が参加者と全員バトルして俺に勝った奴が優勝ってのはどうだろう。これなら俺が参加者全員と直接バトル出来るし」

 マシロはさも名案かのように言うが、あくまでもそれで得するのはマシロ位だ。
 マシロからすれば、世界大会に勝ち進んだファイターの全てとバトルが出来る。
 面白そうだと目を付けていても、バトルの形式や巡り合せが悪いとバトルをする事が出来なくなる。
 去年もタツヤとは一度も直接バトルが出来なかったようにだ。
 それを避ける為にも、全てのファイターとバトル出来ると言うのは大きい。
 だが、世界大会は参加するファイターだけの物ではない。
 大会を開催する為に大金も動いている為、スポンサーやPPSEとしてもある程度の利益を出さなければ開催する意味がない。
 予選ピリオドがピリオドごとにルールが違うのは観客や中継を見ている視聴者を飽きさせないようにすると言う狙いもある。
 仮にマシロの案が採用されたとしても、終盤には客達は確実に飽きるだろう。

「今年の世界大会も変わらない自信で優勝宣言をするマシロ選手でした!」

 これ以上、生放送でマシロに好き勝手にさせると、色々な方面からの苦情が殺到する事を避ける為、キララは強引にインタビューを終わらせた。







 
 インタビューを終えたマシロは会場の駐車場に止められているトレーラーに戻って来ていた。
 大会の出場者は大会期間中は大会側が用意した選手村のホテルに部屋を用意されている。
 だが、情報の漏洩などの危険性を最小限に留める為に、チーム内でのミーティングはこちらで行う手筈となっている。

「相変わらず好き勝手にしてるみたいね」
「そっちこそ、もう少し可愛げって物を見せてもいいんじゃね?」

 今までミーティングルーム内の大型モニターでマシロのインタビューを見ていたアイラがそう言う。
 アイラとはオーストラリア予選の後から直接的には一度も会っていない為、こうして会うのも久しぶりとなる。
 
「嫌よ」
「別に良いけど。それよりも本当にカイザーに勝って来るなんてな」
「何よそれ」

 勝って来いと言っておきながら勝った事に驚かれているようでアイラも面白くはない。
 だが、実際のところカイザーとのバトルはギリギリだった。
 ガンプラは今まで通りのサザビー改でフィンランド大会に臨んだ。
 ガウェインに大敗した事もあってアイラはフィンランド大会までにサザビー改の事を知ろうと試みた。
 その結果、今までは気づかないところに色々と問題を抱えていた事に気づく事が出来た。
 修正しようにも、アイラにはそこまでの知識と技量が無い為、下手に弄る事が出来ずに問題は全てそのままで大会に参加するしかなかった。
 決勝戦までは大した事もないファイターだった為、問題は無かったが、キング・オブ・カイザーとまで言われたカルロス・カイザーはレベルが違った。
 ガンプラの性能は圧倒的に劣っていた。
 ファイターとしての実力は五分と言っても、向こうは何度も世界大会に出ている程で経験の差は埋めようもない。
 それでも何とか、カイザーに勝利してマシロと同じ舞台まで登りつめて来たのだ、少しくらい褒めてくれても良いと思うが、マシロからすれば世界大会は出れて当たり前だ。

「まぁ、取りあえずは良くやったと褒めて置く。だからご褒美をくれてやる」

 マシロはそう言ってポケットから何やら取り出す。
 それは以前、マシロが母親のユキネから渡された小さい石だ。
 ユキネ曰く、異世界「アリアン」から持って来たとされる石である為、それが本当なら非常に学術的な価値はあるのだが、マシロからすれば何の価値もない石でしかない。
 それを加工させて首からぶら下げれるようにした。

「……何よ。マシロの癖に。盗聴器とか発信機でも仕込んでるんじゃないの?」
「酷い言われようだな」

 マシロが自分に対して褒美を出す事など、今までに一度もなかった。
 寧ろ、嬉々として厄介な練習をさせて来ると言う印象しかない。
 
「それに良いの? それ、お母さんから貰った奴じゃない」
「別にいらないし。それに母さんからの物は禄な物じゃないしな」

 アイラもその石を貰ったところを見ている。
 流石に母親からの土産をそのまま、貰う事は気が引けた。
 だが、マシロにとっては例え母親から貰った物だろうと必要ないと思えば人にあげる事も気にしない。

「だから気にすんなよ」
「……そこまで言うなら貰ってあげない事も無いけど」

 渋々、アイラはマシロから石を受け取る。
 受け取ると首からぶらせ下て見る。

「どう?」

 アイラはつけて見た感想をマシロに求めるも、マシロはすでに用事を終えた為、ミーティングルームのソファーの座りガンプラを弄り出していた。
 その態度にイラっと来るが、マシロに一言言う前にバルトとレイコが来た為、何も言う事が出来ずに終わった。
 それから少しして、ガウェインが来たところでミーティングが開始される。

「すでに明日の第一ピリオドのルールが公表されているわ」

 参加者の3人が揃った事でレイコは本題に入る。
 レイコはマシロのセコンドと言う立場ではあるが、予選ピリオドではチーム全体の参謀と言う立場でもある。
 
「第一ピリオドは4人によるバトル。4人の内最後に残った1人がポイントを取れると言うシンプルなルールね」

 予選ピリオドのルールは毎回変わるが、ルールは前日に参加者達に公表される。
 それから当日までに準備をするのも参加者の実力が試されている。
 そして、第一ピリオドは4人によるバトルだ。
 過去の世界大会を見ても第一ピリオドはバトル系が多い。
 それも単純な1対1でのバトルよりも3人以上でのバトルが多い傾向だ。
 これは大会の最初と言う事もあり、派手なバトルになり易いからだ。
 
「シンプルだけど、私達は最初に狙われる危険性があるから各自、その事を頭に入れておく事」

 ルールとしては自分以外の3人は全て敵ではあるが、場合によっては徒党を組む事がある。
 その大きな理由が自分達と同じグループに飛び抜けた実力者がいる場合だ。
 徒党を組んで最初に倒しておけば、自分にポイントが転がり込んで来る可能性が上がり、実力者の出だしを挫く事にも繋がる。
 今回の場合、前回の優勝者であるマシロや、世界屈指の実力者のカイザーに勝って世界大会に参加しているアイラは真っ先に狙われる可能性が高い。
 ガウェインもオーストラリア予選でアイラに勝ったと言う事実は一回戦だった事もあり、殆ど知られてはいないが、ネメシスの元エースとして名が知られている為、最初に狙われる可能性は決して低くはない。
 
「徒党を組んだ時点で敗北フラグだろ。いつも通りにやれば勝てるだろ」

 マシロは相変わらず負けると言う事は考えてはいないようだ。
 今更、マシロの強きな発言を誰も気にする事は無い。
 その後も細かい打ち合わせを行いミーティングを終わらせる。









 世界大会の予選ピリオドの一回戦を明日に控え、大会の主催であるPPSE社が毎年レセプションパーティーを開いている。
 招待されているのは大会に参加するファイター達やスポンサーなどの大会関係者などだ。
 参加は各自自由だが、多くのファイター達がパーティーに参加している。

「何か、俺ら場違いだな」
「うん……かもね」

 会場の隅でアオイとタクトが会場を眺めていた。
 今回の大会ではタクトはファイターとしてはエントリーしていない。
 アオイのセコンドとしてエントリーしている。
 セコンドの役目として、バトル中の状況の把握やアドバイスなどがあげられるが、タクトはそこまでの事は出来ない。
 だが、アオイに声をかけて励ます事が出来る。
 アオイにとって、それが何よりの力となり、日本第一地区を勝ち進む事が出来た。

「招待されてんだ。堂々としてれば良いんだよ」
「……そう言えば。お嬢様だったよな」

 慣れない場で緊張する二人に対して、エリカは緊張した様子はない。
 普段の言動から忘れがちだが、エリカがお嬢様だと言う事を思い出させる。
 
「アタシもあんまりこういうのは好きでもないけどな。肩が凝って来る」

 そう言って肩を解す真似をするエリカを見ていてアオイの緊張も解れて来る。

「でも、未だに信じられないよ。まさか、僕がこんなところにいるなんて」

 予選を勝ち抜いてここにいるアオイだが、未だに実感がない。
 パーティーに参加している参加者の中にはアオイ達が今まで、テレビの向こう側の存在だったファイターも多い。
 その中に自分が入って行くと未だに信じられない。

「明日になれば嫌でも実感するって」
「だな、で……マシロの奴はまだ来てないのかよ」

 タクトは会場を見渡すが、マシロの姿は見えない。
 アオイにとって打倒マシロは世界大会に出る大きな理由の一つだ。

「アイツの事だから来る気は無いんじゃないのか? こういう事に興味なさそうだし」
 
 エリカの知る限り、マシロはこの手の物に一切の興味を示すタイプではない。 

「そう言うもんかね」
「きっと明日に備えてるんだよ」

 タクトはマシロに一言宣戦布告をしたかった為、この場にマシロがいない事に釈然とはしないが、いないものは仕方が無い。
 余り慣れない場だが、今だけはこの場を楽しむ事にする。






 レセプションパーティーがある事はマシロも知っていたが、エリカの予測通り興味が無い為、静岡の町を歩いていた。
 マシロは両手にビニール袋を持ち、肉まんを頬張っていた。
 適当に歩いている時に見つけて殆ど買い占めていた。

「あの眼鏡からか……どうせ面倒な事だから無視だな」

 肉まんを食べていると携帯にバルトから連絡が入っている事に気が付いたが、マシロは無視を決め込む。
 何か重要な用事であれば、レイコの方から連絡が来る筈なので、バルトからの連絡であれば気にする事でもない。

「さて……隠れてないで出てきたらどうだ?」

 マシロは立ち止まる。
 先ほどから自分の後を付けている気配を感じていた。

「流石はチャンピオンと言う所ですね。気配は消していたつもりだったんですけどね」
「生憎と幾ら気配を消しても強いファイターは分かるんだよね」

 電柱の影からアメリカ代表のファイターであるニルス・ニールセンが出て来る。
 ニルスは気配を消していたようだが、マシロは強いファイターなら気づく事が出来るらしい。

「で、俺に何か用? サイン? それともバトル? それともこれでも食うか?」
「謹んで遠慮させて貰います」

 マシロは肉まんを差し出すが、ニルスは遠慮する。
 
「後を付けた事はお詫びします。僕は個人的に貴方に用があった物で」

 ニルスはマシロに用があったが、個人的な物でマシロがチームの人間といる時や人の目があるところでは接触出来なかった為、今まで後を付ける形となっていた。

「レティの次は俺に用って事か」
「ご存じでしたか」

 すでにある程度はマシロもニルスの情報を得ている。
 ニルスは大会最年少の一人で13歳だが、ニルスもまた天才に分類されている。
 その若さで飛び級で大学に通っている。
 その大学はマシロの義理の姉であるレティが教壇を取っている大学だ。
 更にはニルスがレティの研究室に通っていると言う情報がレティ本人からも得ている。
 マシロがレティの研究室を訪れた時に研究室が片付いていたのも、ニルスが片付けたかららしい。

「プロフェッサーから聞きました。ドクターユキネは兄弟の中でマシロさんの事を最も可愛がっていたと」
「どうなんだろ。後、別に敬語とかいらないから」

 ニルスの用件が大体分かって来た。
 どうやら、母親であるユキネに関連する事らしい。
 まずは、レティに近づいたところ、ユキネはマシロを最も可愛がっていたと言う事を聞いた。

「で、俺に接触する為に世界大会に出て来たと。ご苦労な事で」
「それが最も確実にマシロに接触する方法ですので」

 マシロの方で得た情報によればニルスは数か月前までガンプラに関わる事は無かったが、急にガンプラを始めている。
 その理由としてプラフスキー粒子を研究テーマにしたからと推測していたが、理由は明確にはなっていない。
 だが、世界大会に出た理由の一つがマシロに接触する為だった。
 マシロは家に引きこもっているか世界を飛び回っているかのどちらかで普通に接触するのは難しい。
 しかし、今年は世界大会に特別参加枠で出場する為、世界大会の開催期間中には確実に静岡に滞在している。
 観客として来るよりも、選手として世界大会に出場した方がマシロと接触する機会も増え、場合によっては自分に興味を持たれてマシロの方から接触して来る可能性もある。

「そっちの理由は正直どうでも良い。それで用件は?」
「ドクターユキネがPPSE社の設立に関わっていると言う事は?」
「らしいな。その時は俺はいなかったし、余り興味はないけど」

 マシロも何となくだが、ユキネがPPSE社の設立の際に関わっていると言う事は聞いた事がある気がする。
 だが、マシロにとっては余り興味のない話しで、当時はマシロはクロガミ一族とは何の関わりもない。

「まだ、噂の段階ですが、彼女がプラフスキー粒子の生成に関わっていると言う話しがあります」
「それは無いな。あの人が自分の研究成果を表舞台に出すって事はあり得ない」
「その話は僕も知っています。ですが、世界最高の頭脳を持つとされる彼女が何かしらの情報を持っている可能性はあります」

 ニルスもユキネが自分の研究成果を公表しないと言う話しは知っている。
 それでもユキネは世界最高の頭脳を持つと言われている。
 ニルスの知りたい事を知っているかも知れない。

「そんなに何が知りたい訳?」
「プラフスキー粒子の生成の秘密……マシロもガンプラバトルを極めようとする者として気にはなりませんか?」
「別に」

 ニルスの最大の目的はそこにあった。
 プラフスキー粒子は生成方法に至るまでPPSE社によって秘匿し、技術は独占されている。
 その秘密を知る為に、粒子の研究を行っているが、更に深く知る為には情報が足りない。
 そこで世界大会に出る事でPPSE社の上層部と接触すると言う目論見もあった。
 だが、マシロの方は生成の秘密には興味はないようだ。
 マシロもかつてはプラフスキー粒子についてある程度調べた時期がある。
 ニルスと違うのは生成の秘密ではなく、特性の方面でバトルに利用する為だ。
 その結果としてガンダム∀GE-1のバーストモードに繋がる。

「粒子なんてそこにあるで十分だしな」
「そんな適当な……」

 マシロにとってはプラフスキー粒子はそこにある物で十分だ。
 ガンダムにおいて粒子と言えば宇宙世紀のミノフスキー粒子とガンダムOOのGN粒子が有名だ。
 どちらもそれらしい設定があるが、架空の粒子である為、実際に突き詰めて考えて行くとやがて設定は破綻する。
 その為、どこかでそう言う物だと割り切る必要がある。
 マシロにとってプラフスキー粒子もミノフスキー粒子やGN粒子と同じでそこにある物で十分なのだ。
 しかし、学者であるニルスはそれでは納得しない。

「それで俺に母さんの事を聞きたいと」
「ええ。無論、タダでとは言いません」

 ニルスは前もって用意していたデータディスクをマシロに見せる。
 マシロにユキネの事を聞くにあたり、タダで聞けるとは思っていない。
 それなりの対価を事前に用意していた。

「この中には僕の作った戦国アストレイの情報が入っています」
「へぇ……アレのね」

 ニルスはアメリカ予選ではオリジナルカラーの百式を使っていたが、決勝戦のみガンダムアストレイレッドフレームの改造機である戦国アストレイ頑駄無を使用していた。
 マシロも決勝のグレコ戦の映像は見ている。
 そこで見せた戦国アストレイの技には興味があった。
 ニルスは事前の情報からマシロは金銭では動かないが、ガンプラバトルに関係する事なら物によっては食いついてくると踏んでいた。
 その為、世界大会の為に制作した自身の最高傑作である戦国アストレイの情報とユキネに関する情報を交換しようとしている。

「けど、こっちも親の情報を売るんだ。そう簡単には教える事は出来ないな」
「……では、何を用意すれば? 僕に可能なら用意はしますが」

 ニルスは内心焦っていた。
 アメリカ予選でグレコと当たる時に戦国アストレイを使った事は、そうしなければ勝ち目が薄い事もあって仕方が無いと割り切っている。
 予選で戦国アストレイの隠し玉を使った事で、それを取引の材料に使えると考えたが、読みが甘かったらしい。
 
「俺もお前もファイターだ。で、ファイターが対峙した時にやる事をと言えば一つしかないだろう」
「……成程。どういう事ですか」

 ニルスも理解する。
 マシロを動かす最も確実な物。
 それがガンプラバトルであると言う事に。

「では僕が勝ったら」
「何でも話してやるよ。父さんと母さんのなれ初めから何までな」
「それは結構です。僕が負けた時の場合は? こちらばかり条件を出すのはフェアではないですからね」
「俺が勝つのは当然だから別に必要ないだろ」

 ニルスは自分が負けた時の事も考えるが、マシロにとっては自分が勝つ事が当たり前の事である為、ニルスが負けた時の事など決める必要はない。
 口では負けた事を言ったのはあくまでも条件はフェアだと言う事にする為だ。
 自分だけ勝った時の条件を出して、バトル後から難癖をつけて有耶無耶にされては困るからで、負けた時の条件が無いのはニルスにとっては好都合だ。
 勝てば欲しい情報が好きなだけ手に入る。
 負けたところで失う物はない。
 何か裏があると思える程に好都合な条件だ。
 予選で戦国アストレイを使った時点で、そこからかなりの情報が漏れている可能性が高い為、ここでマシロとのバトルに使っても大して問題ではない。
 明日の予選ピリオドに影響するほどに損傷しそうならば、ギブアップすればいいだけの事だ。
 このバトルで負けたところで、ニルスには失う物が無いからだ。
 
「分かりました。このバトル受けます」
「話しが早い」
 
 ニルスとしても断る理由もない。
 話しが纏まり、二人は移動する。
 選手村のホテルには選手たちがガンプラの調整に使う為のバトルシステムが用意してある。
 だが、予選ピリオドが明日に控えた今、参加者同士のバトルは大会規約では禁止されていないものの、運営側等に止められかねない為、二人は近場でバトルシステムを探した。
 幸い、静岡はガンプラの聖地とされている事もあり、難なくバトルシステムを見つける事が出来た。
 時間も夜が遅い為、ギャラリーもいない。

「約束は果たして貰います」
「俺に勝ったらな」

 そして、バトルが開始される。
 バトルフィールドは荒野。
 地上ステージで障害物が少ないステージだ。

「なぁ、アメリカ予選でグレコを倒した時の技、アレなんて名前な訳?」

 マシロは今回はフルアサルトジャケットを使っている。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルを放つ。

「名前はありません。その必要性を感じないので」

 ニルスのガンプラ、戦国アストレイはビームをかわすと、二本のサムライソードを抜いて振るう。
 戦国アストレイは粒子を斬撃のように飛ばして、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを攻撃しながら接近する。

「そいつは駄目だな。必殺技には名前を付けないと」

 ハイパーメガドッズライフルを可能な限り連射するが、戦国アストレイを捕える事が出来ない。

「流石にこの威力を防ぐのは危険か」

 戦国アストレイはグレコのトールギルワルキューレとのバトルでサムライソードでビームを切り裂くと言う事をやって除けたが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットのハイパーメガドッズライフルはただでさえ威力が高い上にビームが回転している。
 不用意にサムライソードで切り裂こうとすれば、下手をすれば自滅しかねない。
 いずれはサムライソードで切り裂けるか検証したいが、失敗すれば明日の予選ピリオドに響きかねない為、今は出来ない。

「俺が勝ったら、あの技の名前を考えるって事にしようか」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルを捨てて、ホルスターからバズーカを取り出す。
 バズーカの横には左右合わせて12発のグレネード弾が付いている。
 
「やはり、実弾系の装備も用意していたようですね」

 これはニルスの想定内の事だ。
 ニルスはマシロのバトルを研究して来ている。
 マシロは口では相手を見下す態度を取り絶対的な自信を持っているが、バトルでは相手の能力を徹底的に分析した上で弱点を突く事も厭わない。
 アメリカ予選で戦国アストレイを使った時点で、ある程度の対策を用意されていると言う事は想定できた。

「まぁな」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはバズーカを放ち、戦国アストレイの回避先を狙ってグレネードランチャーを放つ。
 だが、グレネードランチャーは戦国アストレイの両肩の装甲が稼動して防がれた。
 そして、そのまま、可動した装甲が第三、第四の腕となりサムライソードを持つ。

「へぇ……そんなギミックも持ってたんだ」
「貴方を相手に出し惜しみは出来ませんからね」

 情報はなるべく出したくはないが、このバトルで勝てばそれ以上の成果を得られる。
 世界大会で勝ち進めばいずれは、知られる為、今知られたところで大した問題でもない。
 戦国アストレイは粒子の斬撃を飛ばして距離を詰める。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはホバー移動をしながらバズーカで反撃するが、バズーカの弾速は遅い為、戦国アストレイは確実に距離を詰める。

「接近戦をお望みなら受けてやるよ。俺も得意なんでね」

 戦国アストレイは運動性能ではガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットに勝っている物の、平面上での機動力は圧倒的に劣っている。
 粒子の斬撃である程度はガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの機動力を殺してはいるものの、簡単には距離を詰めさせては貰えなかった。
 だが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはバズーカを捨てて、ドッズライフルを出すとビームを撃ちながら逆に突っ込んで来る。

「その装備で接近戦を行う事も想定内です!」

 一見、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは中遠距離の砲戦用の装備だが、マシロは世界大会で度々、この装備で接近戦を行っている。
 大抵は不得手とも思える戦い方に戸惑い隙が生まれていたが、事前に知っていれば戸惑う事もない。
 戦国アストレイはビームをサムライソードで切り裂きながら、突っ込んで来るガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを迎え撃つ。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは勢いと共にドッズランサーを突き出す。
 だが、戦国アストレイはドッズランサーをギリギリのところまで引きつけて回避する。
 それにより戦国アストレイはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの懐に飛び込む事が出来る。

「これで!」

 戦国アストレイはサムライソードを振り落す。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズライフルを捨てると腰のビームサーベルでサムライソードを受け止めた。

「馬鹿な!」
「生憎とこっちのライフルはドッズなんだよ」
「ドッズ……そうか!」

 戦国アストレイのサムライソードはビームを切り裂く。
 それはビームサーベルも例外ではない。
 だが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットのドッズライフルはエフェクトの回転ではなく、実際に粒子を回転させている。
 サムライソードの表面にはビームを切り裂く粒子変容塗料が塗られているが、ドッズライフルのビームを弾く際に少しづつ塗料がビームの回転で削られていた。
 それにより、部分的に塗料が完全に剥がれた事でビームサーベルで受ける事が出来るようになっていた。
 マシロは近接戦闘を好む事から射撃戦が苦手だと思われがちだが、実際にマシロが苦手としているのは大振りとなる武器や連射の出来ない大火力の武器だ。
 人間離れした反応速度を活かしたバトルを得意としている為、攻撃にタイムラグが出る武器を嫌っている。
 それを隠す為にセブンスソードもフルアサルトジャケットもメインの装備がCソードやハイパーメガドッズライフルと大振りな武器や大火力の武器を使っている。
 マシロは序盤にハイパーメガドッズライフルを連射して、ニルスにその威力を印象づけた。
 ハイパーメガドッズライフルの威力はサムライソードで切り裂くにはリスクが高いが、ドッズライフルの威力なら十分にサムライソードで切り裂けると思わせた。
 そして、ニルスの戦い方は洗練されて無駄が殆どない。
 それ故にマシロは戦国アストレイの動きを予測し、正確にサムライソードの一点のみで防ぐように狙う事が出来た。

「ビームを切り裂く刀を過信し過ぎだ」

 ドッズライフルで塗料が剥がされた上に一点にビームを受け続けたと言う事もあって、サムライソードが折れてしまう。
 
「ですが!」

 戦国アストレイの唯一の武器でもあるサムライソードの一本が折られた事はニルスにとっては想定外の出来事であったが、ニルスの中では勝機は失われてはいなかった。
 サムライソードは残り一本だけだが、まだ、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの懐には飛び込んでいる。
 戦国アストレイはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの胴体を目がけて掌底を繰り出す。
 勢いは大してないが、それでも構わなかった。
 戦国アストレイの掌底をガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは強引にドッズランサーをねじ込んで受け止める。

「幾ら防ごうと無駄です!」

 すると、ドッズランサーにヒビが入り、ヒビはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの左手に広がり、ドッズランサーが粉砕されて、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットも左腕が肘から下が破壊された。

「馬鹿な……」

 去年の世界大会においても被弾はあっても、バトルに支障が出る程の損傷はしなかったマシロのガンプラに片腕を破壊すると言う快挙ではあるが、ニルスが予測していた結果からはかけ離れていた。
 本来ならば、最後の掌底が決まった時点で勝てた筈だ。
 それなのに、左腕を破壊したにとどまった。

「粒子を流し込む技か。やっぱり、それ……プラスチックじゃないと壊せないようだな」

 戦国アストレイが使った技はアメリカ予選で一度見せていた。
 その映像からマシロはある程度は推測を立てていた。
 それが、相手に粒子を流し込んで内部から破壊すると言う物だ。
 プラフスキー粒子はプラスチックに反応する。
 それ故に、プラスチック以外の物が間にあれば破壊出来ないかも知れないと言う仮説も立てていた。
 その仮説は正しく、破壊されたドッズランサーも破壊されたのはプラスチックの部分だけだ。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの装備するドッズランサーはドリルのように回転させる為に軸の部分に金属柱が仕込まれている。
 それによって多少の重量が増えるが、強度を突撃時の威力を上げる事が出来る。
 その金属柱には傷はついてはいない。
 そして、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの膝や肘等の関節部には金属粒子が練り込まれたプラスチックが使われている。
 プラフスキー粒子が反応するギリギリのラインで練り込まれた金属粒子が戦国アストレイの攻撃を大きく軽減させたことで左腕は肘から下の部分しかまともに破壊されたなったと言う訳だ。
 戦国アストレイの渾身の一撃が不発に終わり、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが戦国アストレイにビームサーベルを突きつける。

「まだやる?」
「……いえ、降参です」

 最後の一撃で仕留める事が出来ない以上、このバトルを続けたところで勝ち目は薄い。
 その為、ニルスは戦国アストレイが明日からの予選ピリオドに影響が出る前に降参した。

「さて、俺の勝ちな訳だが」
「分かっています。そうですね……あの技は中国武術の発勁に通じるところがあります。なので粒子発勁と言う所でしょうか」

 バトル中にマシロが言い出した事だが、今後の事を考えると従った方が得策だと考えた。
 今回はバトルで負けたが、マシロは自分の目的を果たす為に必要な相手の一人だ。
 この程度の事で機嫌を損ねる事は避けたい。

「別に俺のガンプラじゃないから好きにすれば。それと母さんの事が聞きたいんだよな。母さんの居場所は俺も良く知らね」

 ニルスはバトルに負けた事で次の案を考えているとマシロが話し出す。
 
「ちょっと待って下さい! それは僕が勝った時の話しでは?」
「俺に勝ったら話すって言ったけど、負けたら話さないとは言ってないだろ?」
「確かにそうですが……」

 マシロは確かに自分に勝ったらニルスが知りたい事を話すとは言ったが、ニルスが負けた時には話さないとは言っていない。
 ただ、勝ったら話すと言う事からニルスが勝手に負けた時は話さないと思っていたに過ぎない。
 マシロからすれば、ニルスとバトルをするエサでしかなく、バトルが終われば話さない理由はない。

「この前に会った時はアリアンとか言う異世界にいるとか、訳の分からない事を言ってたけどな」
「異世界……」

 以前に会った時の事を話すが、それを聞いたニルスは考え込む。

「プラフスキー粒子が異世界からもたらされた物だと言う可能性も……」
「いやいや。流石に異世界とかありえないだろ」

 マシロはユキネの言う異世界に付いて全く信じてはいないが、ニルスはその事を完全には否定しないようだ。

「確かにいきなり異世界と言われても荒唐無稽です。しかし、今のところ異世界の存在はあると言う事を証明できていないだけで、ないと言う事も証明できていません。それはつまり、異世界が存在している可能性もあると言う事です」

 マシロからすれば、異世界などあり得ないが、科学者と言う立場から見れば、あると言う事が証明されていないだけだ。
 逆に無いと言う事も証明されていない為、科学者としては異世界は無いとは言い切れない。

「と言っても、現状では異世界に対して何かを出来ると言う訳でもないので、僕の方では何かが出来ると言う訳でも……何か異世界に関係する物でもあれば少しは……」
「そんな訳だから俺の方からはあんまり期待しない方が良いぞ」
「いえ、とても興味深い話ではありました」

 ニルスが欲しかった明確な答えを得る事は出来なかったが、興味深い話しを聞く事は出来た。
 その上で、マシロと顔見知りとなる事が出来た為、今後も接触しやすくはなった。
 
「そんじゃ、明日の予選ピリオドに備えるから帰る」
「貴重な情報をありがとうございます」
「情報って程でもないけどな」

 マシロもニルスとバトルが出来て、満足している為、明日に備える必要もある事もあり、ホテルへと帰って行く。
 ニルスも戻らないといけないが、マシロから聞いた話しを落ち着いて整理する為、その場に残った。






 ニルスとのバトルを終えたマシロはネメシスのトレーラーに戻る。
 ニルスとのバトルでフルアサルトジャケットの左腕と装備が壊れている為、明日の予選ピリオドで使えるように修理する必要がある。
 ホテルの部屋にも備え付けの作業台が各部屋に用意され、必要な道具も基本的な物は一通り大会側から用意されているが、マシロは使い慣れた物を持ち込んでいる。
 
「ご機嫌ナナメだけど、なんかあった?」
「……別に」

 トレーラーのミーティングルームを通りかかると、アイラが明らかに機嫌が悪いと言う事が分かった。
 マシロは知らないが、バルトからの電話はアイラの行方が分からない為、マシロに聞こうとしていた物だった。
 アイラもまたマシロ同様にパーティーに参加する事無く、町に出ていた。
 そこでトラブルやバルトに強制的に連れ帰されて機嫌が悪かった。

「ねぇ……マシロ。何持ってるの?」

 機嫌が悪いアイラだったが、マシロが持っている袋に気が付いた。
 マシロは袋の中から肉まんを取り出す。

「肉まん。町を歩いていたら見つけてな。この白さに惚れて衝動的に勝ってしまった」

 マシロは袋をアイラに見せる。
 その中には明らかにマシロ一人では食べきれない程の肉まんが入っていた。

「どんだけ勝ってるのよ……」
「店の物を全部かな。ああ、でも流石に買い占めるのは良くないと思って一つだけ残して来た」
「…………」

 マシロはまるで、良い事をして来たように自慢げにするが、アイラにはどうでも良かった。
 袋にはマシロが肉まんを買った店の店名が記されていた。

「アンタのせいか!」
「は?」

 機嫌が悪い事は気づいていたが、流石にいきなりアイラが切れる事は想定外の事でマシロは珍しく驚いている。

「アンタのせいで私は肉まん食べれなかったし! 変な奴にはいちゃもんつけられて絡まれるし! 強制的に連れ戻されるし! 散々だったのよ!」
「取りあえず、最後のは関係なくね?」

 マシロは状況が掴めなかったが、どうやら、アイラはマシロのせいで散々な目にあったと思っていると言う事は分かった。
 
「だから一個頂戴よ!」
「……何かヤダ」
「だったら、交換はどうよ! 私が勝って来たかりんとうを一個上げるわ」
「なぜに一個? ここは一袋だろ。つか、やんない」

 別にアイラにあげたくない理由がある訳ではないが、マシロ的にはいきなり怒鳴られて散々な目あった事を自分のせいにされた事で意固地になっている。

「これは……そう、ガウェインとか眼鏡とか男同士で食べる為に買って来た者だ。食べる時は女人禁制だからお前はアウト」

 元々、勢いで買って来た為、そんな予定はない。
 だが、ここまでくればマシロの方も意地がある。
 
「全く。何の騒ぎだ。これは」

 マシロとアイラは睨みあうが、その声が外まで響いていた事もあり、バルトが入って来る。
 アイラはバルトの前では感情を押し殺している為、これ以上はマシロに何も言えない。
 マシロもそれを知っている為、勝ち誇ってた顔をする。

「良いところに来た。日頃の労いも込めて土産を買って来たんだ。一緒に食べよう」
「君がそう言うのは気味が悪いが、頂こう」

 バルトは普段のマシロからは考えられない行動を怪しむが、明日から世界大会が始まると言う事でマシロもチームのスタッフを労おうとする気持ちくらいは持ち合わせているのだろうと納得する。
 マシロから肉まんを受け取るバルトから見えないが、アイラがバルトを睨みつけている。
 流石にこの辺りでやり過ぎたと罪悪感を覚えるも、ここまでやって置いて自分から折れるのもみっともない為、さっさとニルスとのバトルで損傷したガンプラの修理に入る。
 それぞれ、明日の世界大会初日に向けて、最後の時間を過ごし、第7回ガンプラバトル選手権世界大会が開幕する。
 




[39576] Battle40 「世界大会開幕」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/09/02 08:34
 ガンプラバトル選手権世界大会の開幕当日となり、会場には世界大会をまじかで見ようと多くのファンが訪れている。
 ファン以外にもテレビ関係者も多く集まっている。
 世界大会はネットやテレビで全世界に中継されている。
 予選ピリオドは大規模なバトルでない限りはメインスタジアムではなく、4つのサブスタジアムで行われる。
 第一ピリオドは4人同時のバトルで大会参加者は100人である為、全部で25試合行われる事になる。
 その為、バトルは4つのサブスタジアムで同時進行となる。
 マシロはサブスタジアムの一つで最初の一戦から出番となっている。
 マシロのバトルの行われるサブスタジアムは他のスタジアムよりも観客が多く入っている。
 圧倒的な強さで優勝してから1年が経ち、その間、マシロは公式戦等に殆ど顔を出していない為、非常に注目されている。
 尤も、必ずしも勝つ事を期待されている訳でもなく、去年の大会で大口を叩いている為、マシロが初戦から負ける事を期待して見に来ている観客も少なくない。
 その証拠に現王者にも関わらず、応援の声よりもブーイングに方が多い。
 しかし、マシロはそんなブーイングにもどこ吹く風だ。

「マシロ。分かってるわね。この所詮は大事よ。まずは圧倒的な力で勝利しなさい」
「了解」

 マシロのセコンドに付いているレイコがそう言う。
 初戦で大事なのは勢いをつける事。
 初戦で負けたり苦戦していると勢いがつかず、後のバトルに影響しかねない。
 ここで圧倒的な力で勝利する事は世界大会で勢いをつける為には大きな意味がある事だ。
 その為、世界大会において最初の一戦は勝ち進む為には最も重要な一戦でもあった。

「マシロ・クロガミ。ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケット。出る」

 重要な一戦だが、マシロは緊張した様子も気負った様子も無く、いつも通りだ。
 初戦のバトルフィールドは宇宙だ。
 バトルフィールドに入って少しすると、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットに強力なビームが飛んで来る。

「いきなりか」
「速いわね」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは余裕を見せながらビームを回避する。
 
「ウイングガンダムか」

 攻撃して来たのはガンダムWの前半の主人公機であるウイングガンダム。
 可変機能と高い火力を持っている。
 飛行形態であるバート形態からモビルスーツ形態に変形するとバスターライフルを放つ。

「当たらないでよ」
「分かってる」

 ウイングガンダムはバスターライフルを連射するが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは推力に物を言わせて振り切る。
 
「回り込まれてるわ」
「知ってるよ」

 ウイングガンダムを振り切っていると、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの進行方向に別のガンプラの姿がある。
 Gガンダムの前半の主人公機であるシャイニングガンダムだ。
 シャイニングガンダムはビームソードを振るい、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルの砲身で受け止める。
 ハイパーメガドッズライフルの砲身は高い火力でも大丈夫なように強固に作られている為、ある程度の攻撃を受け止める事が出来る。
 シャイニングガンダムの攻撃を受け止めている間にバード形態のウイングガンダムがバスターライフルを撃ち2機は距離を取る。
 そして、ウイングガンダムはモビルスーツ形態となると、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットにバスターライフルを放ち、シャイニングガンダムはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットに突っ込んで来る。

「どっちもこっちが狙いか。つか、バスターライフルを撃ち過ぎなんだよ」

 シャイニングガンダムは位置的に完全にウイングガンダムに背を向けている為、マシロガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットのよりも狙い易いが、狙わない。
 恐らくは事前にレイコが懸念していた通り、マシロを優先的に狙って来ているのだろう。

「さて……どうやって圧倒的に勝とうかね」

 ウイングガンダムもシャイニングガンダムも大幅な改造はされていないが、細かいところの出来は流石は世界レベルのファイターと言ったところだが、マシロからすればすぐに勝てる相手だ。
 だが、レイコの言う通りに圧倒的な力で勝つと言う条件を満たす為にはある程度は考えて戦う必要がある。
 そうこうしている間に先ほどのウイングガンダムのバスターライフルとは比にもならない強力なビームが戦場を横切る。

「そっか。このバトルフィールドには月もあったよな」

 バトルフィールドの端にはサテライトキャノンを担いだガンダムXがいた。
 このバトルフィールドには月がある為、ガンダムXはサテライトキャノンを使う事が出来る。
 4機目が参戦しなかったのはサテライトキャノンを使う準備をしていたかららしい。

「3人とも俺優先と言うか、組んでるな」

 相手の戦い方を見てマシロは確信した。
 中距離からウイングガンダムがバスターライフルで牽制して、近距離でシャイニングガンダムが足止めをする。
 止めに後方からガンダムXがサテライトキャノンで止めを刺す。
 シンプルだが、即席チームとしては抜群のチームワークでもあった。

「マシロ」
「分かってる。そろそろ終わらせる」

 余り時間をかけていればそれだけで、圧倒的な勝利には遠のく。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの背後からシャイニングガンダムがビームソードを振り下す。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルでシャイニングガンダムの横っ腹を殴打する。
 そのまま、シャイニングガンダムをウイングガンダムの方に放り投げた。
 ウイングガンダムはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットにバスターライフルを向けていたが、射線上にシャイニングガンダムが入った事で反応が一瞬だけ遅れてしまう。
 その遅れが命取りとなって、シャイニングガンダムとウイングガンダムは激突して、2機ともバランスを崩す。

「はい。終了」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは体勢を立て直せずにいる2機に向けてハイパーメガドッズライフルを最大出力で放つ。
 ウイングガンダムが何とか、バスターライフルを向けるが撃つ前にハイパーメガドッズライフルのビームに飲み込まれて2機は一撃で葬られた。
 そして、その射線上にはサテライトキャノンを構えているガンダムXもいた。
 ガンダムXはすぐにチャージしていたサテライトキャノンを放つ。
 2機のビームはぶつかるが、あっさりとガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットのビームが撃ち勝ち、ガンダムXを飲み込む。
 見た目こそは派手だが、見た目に反してガンダムXのサテライトキャノンはマシロが先日バトルし、勝利したガンダムX魔王のハイパーサテライトキャノンと比べると圧倒的に劣る為、正面からぶつかったところでハイパーメガドッズライフルのビームには何の影響もなかった。
 ガンダムXが撃墜された事で第一ピリオド第一試合の勝者はマシロで決まった。

「これで良いんだろ」
「ええ。上出来よ」

 三機のガンプラに対して一回の射撃でマシロは勝利を収めた。
 自身の実力を完全に見せる事無く、一射で勝利したと言う事は今年のマシロの実力を見せつけるには十分だ。
 初戦から相変わらずの実力を見せた事で会場は静まり返っていた。
 バトルに勝利した事でマシロは、他のバトルの情報を解析する為に戻ったレイコと別れて、選手用の控室に向かう。
 各サブスタジアムには選手用の控室がある。
 そこからそのスタジアムや他のスタジアムの試合を見る事が出来る。
 観客席で一般の観客と共に観戦する事も可能だが、選手によってはファンに囲まれる事もある為、用意されている。 
 控室にマシロが入ると、自分のバトルを待っているファイター達が一瞥するが、特に絡まれると言う事もなかった。
 マシロは控室を見渡した。
 すると、同じスタジアムでバトルするのか、エリカが他のスタジアムのバトルを見ていた。

「他のファイターはどうなってんの?」
「さっき、アンドウセンパイが勝った」

 後でレイコから今日のバトルの様子は全て見る予定だが、マシロはそう切り出す。
 普通にエリカの隣に座った事でエリカも一瞬、面倒な顔をするが、マシロの問いに答える。
 別のスタジアムの初戦に出ていたのか、モニターの一つにコウスケが映されている。
 モニターにはコウスケと一緒にコウスケの使ったガンプラ、ユニコーンガンダム・ノルンも映されている。
 コウスケは地区予選の段階では相手に合わせて多少の武装の変更はあったが、普通のユニコーンを使っていたが、世界大会に合わせてガンプラを強化して来たようだ。
 本体へは目に見えての改造はされていないが、装備がライフルとシールドがバンシィ・ノルンの物に変更となり、脚部にはグレネードランチャー、バックパックにハイパーバズーカと火力方面が強化されている。

「他は?」
「さぁ? まだ第一試合だからな」

 マシロは第一試合である為、他のスタジアムでも大抵は第一試合で早く決着が付いたスタジアムが第二試合に入っている。
 その為、有名どころのファイターはまだバトルをしていない。

「けど、次はアオイの出番だ」
「タチバナ・アオイか……」

 モニターの一つにアオイとタクトの姿が映されている。

「良く見とけよ。アオイの奴は以前とは比べものにならないくらいに強くなってるぜ」
「ふーん」

 エリカはまるで自分の事のようにアオイの実力に対して自信があるようだ。
 アオイのバトルシステムにガンプラを置く。
 アオイは今年の世界大会に向けてガンプラを強化して来た。
 すでに地区予選で使っている為、そのガンプラを知っているが、地区予選でアオイの新しいガンプラは性能をフルに使っていないように見えた。
 アオイの新たなガンプラ、ビギニングガンダムB30はビギニング30ガンダムをベースに制作されている。
 ビギニングガンダムBの射撃性能を引きついているが、近接戦闘を行う事も考えている。
 両手にはスノーホワイトをベースにして制作されたハイパーバスターライフルを持っている。
 元々スノーホワイトはウイングガンダムゼロのツインバスターライフルをベースにされている為、半分にして2つのライフルにする事は大して難しくは無かった。
 腰には二連装ミサイルポッドを装備し、バックパックには実体剣が一つとビームサーベルが三本装備されている。
 そして、両腕に1つづつ、脚部に4つづつ、バックパック2つのIFSファンネルが装備されている。

「行くぞ」
「うん」

 準備が出来たところでバトルが開始される。
 アオイの相手のガンプラはそれぞれ、ストライクフリーダムガンダム、ダブルオークアンタ、ガンダムAGE-FXとそれも遠隔誘導兵器を装備しているガンダム達だ。
 バトルフィールドはデブリベルトでデブリで視界が悪い上に宇宙である為、ファンネルのような武器が最大限に能力を発揮できる。

「気を付けろよ。相手は全部ファンネル持ちだからな」
「そうだね」

 視界が悪い為、アオイは慎重に事を進める。
 すると、バトルフィールドの前方でビームが飛び交っている。

「始まってるみたい」
「どうする? 落着きまで待つか?」
「僕達からも仕掛けた方が良いと思う」
「だな。相手に勢いつかせる訳にもいかないしな」

 ここで待って潰し合うのを待つのも作戦の一つだが、アオイは敢えて戦いの中に入る事を選んだ。
 ビギニングガンダムB30はビームが飛び交う方へと向かう。
 そこにはガンダムAGE-FXとストライクフリーダムが交戦している。
 ガンダムAGE-FXはダイダルバズーカを装備しており、デブリを無視して攻撃している。
 一方のストライクフリーダムは両手のビームライフルで反撃するも、ガンダムAGE-FXはデブリを盾代わりに使って攻撃を防いでいる。

「どっちから行く?」
「まずはFXから行くよ。あの火力は厄介だから」

 ビギニングガンダムB30はガンダムAGE-FXに向けてハイパーバスターライフルを放つ。
 ストライクフリーダムに気をとられていたが、ガンダムAGE-FXは直前で気づくが、回避が遅れてダイダルバズーカに直撃した。
 ダイダルバズーカが爆発する前にバレルをパージして、ビギニングガンダムB30にスタングルライフルで牽制を入れる。

「アオイ! 2機を相手にするのは」
「分断する」

 両手のハイパーバスターライフルでガンダムAGE-FXとストライクフリーダムを攻撃し、2機とも回避する。
 3機が互いを牽制し合って睨みあいに入ろうとすると、ビギニングガンダムB30の後ろからダブルオークアンタがGNバスターソードで切りかかって来る。

「アオイ!」
「IFSファンネル!」

 ビギニングガンダムB30の各部に装備されているIFSファンネルが展開される。
 ビギニングガンダムB30の周囲に展開されたIFSファンネルは、独自にIFSフィールドを展開して、フィールド同士が結合し全方位にIFSフィールドが展開された。
 それにより、ダブルオークアンタの攻撃を受け止める。
 IFSフィールドで受け止めている為、ビギニングガンダムB30はハイパーバスターライフルをダブルオークアンタに向けるだけの距離を確保できる。
 ビギニングガンダムB30がハイパーバスターライフルを放ち、ダブルオークアンタはとっさに肩のGNシールドで防ぐが、GNシールドが破壊されて体勢を崩す。
 2機が交戦している隙を狙ってガンダムAGE-FXがスタングルライフルのチャージモードでビギニングガンダムB30を、ストライクフリーダムがビームライフルを連結させたロングライフルでダブルオークアンタを狙う。
 体勢を崩していたダブルオークアンタは成す術もなく撃墜され、ビギニングガンダムB30はIFSフィールドを展開していた為、IFSフィールドで防いだ。

「あぶねー」
「フィールドを展開していなかったら不味かった」

 攻撃を防いだところで、IFSファンネルの展開可能時間が限界を迎えた為、一度本体に戻す。
 そして、2機を牽制する為にハイパーバスターライフルを放つ。
 2機は回避して、ガンダムAGE-FXはデブリの影に隠れ、ストライクフリーダムはバックパックのスーパードラグーンを展開する。

「少し耐えてくれ! ファンネルがもう少しで使えるようになる!」
「分かってる!」

 ストライクフリーダムの攻撃をビギニングガンダムB30はデブリを使いながら防ぐ。
 それでもかわせない攻撃は腕に装備したIFSファンネルからIFSフィールドを直接展開するIFSシールドで防いで行く。

「アオイ!」
「ファンネル!」

 本体に戻した事で、短時間ながらもIFSファンネルの再展開が可能となり、ビギニングガンダムB30は再びIFSファンネルを展開する。
 ストライクフリーダムはスーパードラグーンとビームライフル、レールガン、胸部のビーム砲を使ってのフルバーストを行うが、ビギニングガンダムB30はIFSファンネルを前方に集中させて、最大出力のIFSフィールドを使って防ぐ。
 
「これで……」

 その間に両手のハイパーバスターライフルを連結させて、スノーホワイトの状態にする。
 そして、最大出力でスノーホワイトを放つ。
 以前はその威力に耐える事が出来ずにまともに使えなかったスノーホワイトだが、今のビギニングガンダムB30ならば、十分に扱える。
 射線上のデブリごとスノーホワイトから放たれたビームはストライクフリーダムを吹き飛ばす。

「後一機だ!」
「FXはどこに……」

 ストライクフリーダムの相手をしている間にガンダムAGE-FXの姿を見失っていた。
 デブリの影に隠れたガンダムAGE-FXはいつの間にか、ビギニングガンダムB30の背後に回り込んで、腕部のビームサーベルで切りかかる。
 その攻撃をビギニングガンダムB30は何とか回避し、スノーホワイトをハイパーバスターライフルに分離させて反撃する。
 だが、ガンダムAGE-FXはCファンネルを展開して防ぐ。

「固い……」
「アイツ……ファンネルにIフィールドを積んでやがる!」

 ビギニングガンダムB30のハイパーバスターライフルをCファンネルで防げる最大の理由はそこにあった。
 Cファンネルの一つ一つに特殊塗装を施しIフィールドの機能を持たせる事で高い防御力を得ている。

「なら……」

 遠距離での攻撃では厳しいと判断したアオイは右手のハイパーバスターライフルを左手の物にドッキングさせて、三本のビームサーベルを抜いて接近戦に切り替える。
 ガンダムAGE-FXもスタングルライフルをCファンネルを組み合わせて応戦して来る。
 Cファンネルをかわし、スタングルライフルをIFSシールドで防ぎながら、ガンダムAGE-FXに接近する。

「もう少し……」

 ガンダムAGE-FXも簡単に接近を許す気は無い。
 Cファンネルを駆使して、ビギニングガンダムB30の道を塞いでくる。
 ビギニングガンダムB30は腰のミサイルを放ち、前方のCファンネルを破壊する。
 そして、遂には接近して、ビームサーベルを振るう。
 ガンダムAGE-FXは両腕からビームサーベルを出して受け止める。

「このまま一気に押し込め!」

 ビギニングガンダムB30は左手に持っていたスノーホワイトを手放すと、バックパックの実体剣を取ると、ガンダムAGE-FXの横から振るう。
 両手が完全に塞がっている為、ガンダムAGE-FXはまともに防御態勢を取る事も出来ず、Cファンネルを間に入れる事も出来ずに胴体が真っ二つに両断される。
 ガンダムAGE-FXが撃墜された事でアオイ達の勝利が決まった。

「なっ。アオイは強くなってただろ」
「まぁまぁかな」

 アオイのバトルを見てエリカがそう言う。
 だが、マシロからすれば想定の範囲内だ。
 地区予選ではIFSファンネルは使ってなかったが、それだけの事だ。

「射撃の精度は世界上位レベル。格闘戦もそこそここなせるようになってる。それだけだろ。この程度の事は去年にバトルした時から分かってた事だ」

 アオイは去年に比べて苦手だった格闘戦も世界大会で十分に使えるレベルとなっている上に、得意だった射撃の腕は単純な精度だけならすでに世界の上位のファイターともやり合える程だ。
 しかし、マシロは去年の地区予選でアオイとバトルした時にここまでなら一年あれば十分可能だと踏んでいる。

「可もなく不可もないってところか」
「相変わらず。素直じゃないな。ここは素直に期待通りだって言っとけよ」
「別に期待はしてないし」

 マシロからすれば、それは期待ではなくアオイの潜在的な才能を正当に評価したに過ぎない。
 それを期待と言わない辺りがマシロらしいとエリカは内心思っていた。

「そんじゃそろそろ、アタシの出番だから。アタシの上がった腕前見せてやるよ」
「地区予選で見せて貰ったけどな」
「一言多いんだよ」

 エリカは文句を言いながらも、会場の方に向かう。
 エリカの実力もフランス予選で見ているが、マシロは他のスタジアムのバトルと並行して、エリカのバトルにも注目していた。



 会場についたエリカはバトルシステムにガンプラを置いた。
 以前にフランスでマシロと会った時に使っていたセイバーを改造して完成させたのがセイバーガンダム・エペイストだ。
 右手にはマシロと参加した大会の賞品であるソードライフル、バックパックの アムフォルタスの横には同様に賞品のバスターソードを装備している。
 脚部にはグリフォンビームブレイド、肩にはフラッシュエッジ2ビームブーメラン、腰にラケルタビームサーベルと近接戦闘を主眼に置いた装備を持っている。
 左腕にはベース機と同じシールドを装備し、セイバーと同様にモビルアーマー形態への変形機構も残している為、高い機動力と格闘能力を持つ。

「さて……マシロの奴に目に物見せてやる!」

 エリカのバトルするバトルステージも宇宙だ。
 バトル開始早々にモビルアーマー形態に変形して、相手を探す。
 機動力を活かした事もあり、早々に他のファイターのガンプラを見つける事が出来た。

「見つけたのは良いが……ここは宇宙フィールドだぞ」

 エリカの見つけた相手のガンプラはザクⅡJ型である。
 数あるザクの中でJ型は陸戦ようだ。
 今回の宇宙用のフィールドでは相性が悪い。
 無重力で思うように動けずにいた。

「可愛そうだが、運が悪かったと思ってくれ」

 セイバーガンダム・エペイストはモビルアーマー形態でつけた勢いを殺す事無く、モビルスーツ形態に変形すると、ザクマシンガンを連射するザクⅡJ型に接近して、脚部のグリフォンビームブレイドでザクⅡJ型を蹴り飛ばして両断する。

「……次行くか」

 流石に殆ど抵抗でき無い相手を一方的に撃破したのは後味が悪い為、すぐに次の相手を探す。
 移動していると、不意にレールガンの弾丸が飛んで来て、セイバーガンダム・エペイストはシールドで防ぐ。

「今度こそは……って今度はバクゥかよ」

 次の相手を見つけるも今度の相手も陸戦用であるバクゥだった。
 バクゥはレールガンを連射するも、中々狙いが定まらずにセイバーガンダム・エペイストには当たらない。
 セイバーガンダム・エペイストはバックパックのアムフォルタスを前方に向けて放つ。
 まともに動けないバクゥはあっさりと撃墜された。

「仮にも世界大会なんだから陸戦用のガンプラでも宇宙戦が出来るように改造しとけよ」

 愚痴りながらもエリカは残り1人を探しに向かう。

「……お前ら、どんだけ陸戦やりたかったんだよ!」

 最後の1機は陸戦型のモビルスーツですらない61式戦車だった。
 ここまで来るとエリカも突っ込む気力すらない。
 大会規約では使用するガンプラはガンダムシリーズ内に登場する兵器のプラモデルと言う定義がある為、モビルスーツ以外でもモビルアーマーも使用が可能で極論を言えば、戦艦だろうと戦車、戦闘機だろうとガンダムの作中に登場していれば使える。
 果ては要塞や大量破壊兵器の類もルール上は使える。
 だが、実際にその手のプラモデルで参加しているファイターはまずいない。
 基本的にチームではなく一人でバトルする為、その手のプラモデルでは一方的にやられるからで、総合的なバランスを考えればモビルスーツかモビルアーマーでなければ勝ち進む事は出来ないと言う結論に誰もが達している。

「……もう、どうにでもなれよ」

 61式戦車は懸命に155mm2連装滑腔砲で攻撃するが、セイバーガンダム・エペイストはソードライフルを一発撃ち込んで61式戦車を破壊した。
 これでエリスが一人三機を撃墜して勝利と言う形となったが、相手が陸戦用のガンプラで宇宙戦と言う余りにも無謀な事をしている為、素直に喜べない。
 釈然としないながらも第一ピリオドを勝ち抜いて控室に戻ると、控室のファイター達が少しざわついている。

「何かあったのか?」

 取りあえず、マシロに聞いて見る。
 マシロは特別驚いている様子は見られない。

「うちのガウェインが負けたんだよ」
「マジかよ」

 エリカもガウェインの事は知っている。
 今でこそはマシロやアイラの影に潜んでいるが、元々はチームネメシスのエースとして名が知られている。
 そんなガウェインが第一ピリオドを落としたのだ周りのファイター達がざわつくのも無理はない。

「相手は?」

 ガウェインが負けた事は驚くべき事だが、それ以上に重要なのは勝った相手の事だ。
 すぐにモニターで確認すると、ガウェインと同じバトルシステムにありすがいた。
 ありすが観客のファンに向けてポーズを取っている辺り、ありすが勝者だと言う事が分かった。

「あの子ってお前の」
「アイツはうちでも特別だからガウェインに勝っても不思議じゃない」

 マシロからすれば相手がありすだと言う事であれば、ガウェインが負けるのもうなずける。
 それほど、ありすはクロガミ一族の中でも特別だからだ。

「にしても、ジムダガーね……ただのジム頭じゃん」

 ありすの使ったガンプラは地区予選の時と同じだ。
 ありすのガンプラは一般的にミキシングと呼ばれる技術で制作されている。
 自分オリジナルのガンプラを作る際に簡単な方法としてあげられるのが、塗装とミキシングだ。
 自分の好きな色で塗装する事で所謂専用機とする方法ともう一つはパーツの組み換えだ。
 ガンプラの四肢のパーツを組み替える事で、手軽にオリジナルのガンプラとする事をミキシングと言う。
 昔は四肢のジョイント部分がガンプラによっては、改造をしなければ合わないと言う事があったが、ガンプラバトルが始まってからは特殊な構造をしていない限りは四肢を初めとしたジョイント部分が統一されている為、組み換えが容易となっている。
 そうやって、制作されたのがありすのジムダガーだ。
 マシロの言うようにジムダガーのジム要素は頭部しかない。
 頭部はパワードジムの物だが、胴体はストライク、両肩と左腕がストライクフリーダム、腰がフリーダム、右腕と脚部がアレックス、バックパックにIWSP、右手にジェガン用のビームライフルとジム要素は殆どない。

「まぁ、ガウェインは相手が悪かったとしか言いようがないな。次はうちのルーキーの出番だ」

 別のモニターには専用のヘルメットとスーツを着込んで第一ピリオドに臨むアイラが映されている。

「キュベレイの改造機か……」

 今まではマシロが貸していたサザビー改を使っていたが、今回からアイラも自分専用のガンプラであるキュベレイパピヨンを使っている。
 そして、マシロはそれに見覚えがあった。
 キュベレイから大きく改造されているが、それはかつてマシロがアイラに押し付けて来たキュベレイをベースにされている。
 そんな複雑な思いを余所にアイラのバトルが始まる。
 アイラの相手はジ・O、ガンダムスローネツヴァイ、ガンダムヴァサーゴだ。

「まずはアイツからだ!」

 相手の3人はフィンランド予選でカイザーを倒しているアイラに狙いを定めているようだ。
 だが、事前にその可能性は示唆されている事もあり、アイラは冷静に対処する。

「俗物が……ファンネル」

 キュベレイパピヨンのファンネルを展開する。
 対戦相手の3機のガンプラは自分達を包囲するファンネルに対して、背を預けるように陣形を取り全方位に対して持ちうるすべての火器を使って応戦する。
 だが、小さい上に素早く動くファンネルを破壊する事は中々出来ず、ファンネルの数を減らす事は出来ていたが、ファンネルの攻撃で被弾し、ガンダムスローネツヴァイとガンダムヴァサーゴが撃墜される。
 残りはジ・Oだけとなるが、ジ・Oはビームライフルで何とか最後のファンネルを撃墜する事に成功した。

「これで!」
「終わり」

 何とか全てのファンネルを撃墜したが、ファンネルを撃墜する為に完全にキュベレイパピヨンから注意が離れていた。
 その隙をアイラが見逃す筈もない。
 最後のファンネルが撃墜されると同時にキュベレイパピヨンは腕部のビームガンをジ・Oに撃ち込む。
 一発辺りの威力は大して高くない為、キュベレイパピヨンはジ・Oに反撃の隙を与えないように何度も撃ち込んだ。
 そして、ジ・Oは体勢を整えて反撃をする事無く一方的な攻撃で撃墜された。






 バトルを終えたアイラはホテルの自室に戻って来る。
 流石にここまではバルトも気軽に出入りできない為、一人になりたい時には最適だった。

「あのファンネルの使い方は良かったぞ」

 何故か自分より先に部屋にいるマシロの事をスルーしてアイラは被っているヘルメットを取る。
 今更、マシロがここにいる理由や鍵はアイラが持っていると言う事には突っ込まない。

「それにしてもさ、そんなに疲れるようなバトルとも思えないけど?」
「別にそんなに疲れてないわよ」

 マシロから見てアイラのバトルした相手の実力は凡庸で実際に圧勝している。
 だが、マシロにはいつもよりアイラが疲れているように見えた。
 
「そう言う事にしといてやるよ」

 マシロも深くは追及する事は無い。
 今回はアイラにとっては初めての大舞台でのバトルである為、意外と緊張して疲れたのだと適当に納得しておく。
 
「で、何しに来たの?」
「そろそろ俺の一押しの奴が出て来るからな。お前もチェックしておけ」

 マシロはテレビをつけてチャンネルを合わせる。
 テレビにはどこかのスタジアムの様子が中継されている。

「まだ始まってないのか?」

 予定ではそろそろ始まる筈のバトルが未だに始まっていないようだ。
 
「初戦から遅刻ギリギリか。大物なのかただのバカか……ようやく登場だ」

 時間に遅れなければ失格にはならないが、本来は予定されている時間にはバトルを開始する為、開始時間よりも前に集まらなければならない。
 まだ、第一ピリオドも序盤である為、時間が早い。
 場合によっては寝過ごしたと言う事もあり得るが、大事な初戦を前に寝過ごして遅刻ギリギリだと言うのは初戦だからと言って特に気にしていないと言う事になる。
 
「来たな」
「……あああああああ!」
「何だよ。うるさいな」

 バトル開始ギリギリで、ようやく最後の一組であるセイとレイジが会場入りした映像が映されるとアイラが叫ぶ。

「こいつよ! 赤い方が昨日、因縁つけて来た変な奴!」
「赤い方……レイジの事か。そんな事はどうでも良いから始まるぞ」

 昨日、アイラが因縁をつけられたと言っていたが、その相手はどうやらレイジのようだった。
 だが、マシロからすればそんな事はどうでも良く、セイとレイジのバトルの方に興味があるようだ。

「ビルドストライクを強化して来たか……」

 二人が到着した事でようやく、バトルが開始される事になる。
 マシロはバトルシステムに置かれた二人の新しいガンプラの分析に入る。
 二人が地区予選の準決勝まで使っていたストライクガンダムの改造機であるビルドストライクガンダムを強化して来た。
 外観からは武装を一新し、脚部などに若干の改良を加えただけに見えるが、果たしてそれだけなのかは未だに未知数だ。
 そんな、二人の新たなガンプラ、スタービルドストライクのバトルが開始される。
 セイとレイジの初戦の相手はゲーマルク、スーパーカスタムザクF2000、デュエルガンダムASの3機だ。

「性能が格段に上がっているな。アレはストライカーを新しくしただけじゃないな」

 バトルが始まるが、始まったばかりと言う事もあって誰もが様子見の段階だ。
 それでも、地区予選までのビルドストライクとスタービルドストライクとの性能差は見て取れる。

「ただの性能が上位互換だけならつまらんガンプラのままだが……」

 今のところはビルドストライクの性能を向上させただけに過ぎない。
 ビルドストライクの時点でマシロのガンダム∀GE-1と互角で総合的な性能では上回っている為、それ以上の性能を持つスタービルドストライクはすでに世界トップレベルの性能を持っていると言っても過言ではない。
 それでも、まだ物足りない。
 バトルが進みデュエルガンダムASは持っていたバズーカ「ゲイボルグ」を放つ。
 本来はレールバズーカであるゲイボルグだが、デュエルガンダムASのファイターはビームバズーカとして改造している。
 そして、スタービルドストライクは左腕のシールドでビームを防いだ。

「ビームが……」
「今のは……消した? いや、ビームその物を粒子に戻して吸収したのか」

 スタービルドストライクは左腕のシールド、アブソーブシールドでデュエルガンダムASのビームを完全に消して見せた。
 だが、ただ消しただけではなくビームを粒子に変換して取り込んでいた事をマシロは辛うじて見逃さなかった。
 ビームに対してIフィールドのように弾く防御系の能力を持たせると言う事は何年も前に確立されている技術ではあるが、ビームを粒子に戻した上で自機に取り込むと言う事は初めての事だろう。
 わざわざ、そんな事をして取り込まずとも、プラフスキー粒子はバトルシステム内に充満している為だ。
 
「消すのではなく、吸収した……」

 わざわざ、ビームを弾いて防ぐのではなく、粒子に変換して取り込むと言う行動をするという事は必ず意味がある。
 ゲーマルクがデュエルガンダムASごとスタービルドストライクにビームを放つ。
 デュエルガンダムASは消滅するが、スタービルドストライクはアブソーブシールドで吸収して防ぐ。

「やっぱり、粒子を吸収してんだ」

 マシロは2度目でそう確信した。
 ビームを吸収したスタービルドストライクにスーパーカスタムザクF2000が火器を一斉掃射する。
 スタービルドストライクはミサイルを専用のビームライフル、スタービームライフルで迎撃し、弾丸を回避する。

「ふーん。そう言う事か。で、ビームを吸収したって事はだ」

 そして、スタービルドストライクはディスチャージシステムを起動し、バックパックのユニバースブースターからプラフスキーパワーゲートを形成すると本体がゲートを抜ける。
 すると、吸収した粒子を全面に展開し、粒子の翼を展開した。

「何なの……」
「吸収した粒子を全面展開、俺の∀GEのバーストモードと原理自体は同じだが……」

 スタービルドストライクのディスチャージシステムは原理としては機体内のプラフスキー粒子を全面に展開すると言う物で、それ自体はマシロのガンダム∀GE-1のバーストモードと同じだ。
 だが、ガンダム∀GE-1のバーストモードは元々、機体の中に蓄積している粒子を使っているが、スタービルドストライクのディスチャージシステムは相手のビームを利用して粒子を大量に集めている分、解放時の粒子量はバーストモードの比ではない。
 尤も、バーストモードの方が出力は低いが、機体内の粒子で発動出来る分、発動が容易だと言う利点もある。

「どうかしたか? アイラ」
「……何でもないわ」

 マシロですら肉眼で見える程の高密度の粒子の翼をスタービルドストライクは展開している。
 その為、普段から粒子が見えているアイラは余程粒子が眩しいのか目を細めている。
 粒子の翼、プラフスキーウイングを展開するスタービルドストライクに対してゲーマルクはマザーファンネルを展開して応戦する。
 マザーファンネルから更にチルドファンネルを展開する。
 スタービルドストライクを狙うファンネルだが、スタービルドストライクの驚異的な機動力を前に成す術がないどころか、すれ違っただけで風圧で破壊されてしまう。

「速いな」

 プラフスキーウイングを展開するスタービルドストライクはバーストモードを使ったガンダム∀GE-1と同等かそれ以上の機動力を発揮している。

「だが、それ程の粒子を使っている以上、発動限界時間が短い上に操作性は最悪の筈。どうする?」

 圧倒的な機動力を発揮する為に、スタービルドストライクは大量の粒子を使用している。
 幾ら、相手のビームを利用して粒子を集めているとはいえ、これだけの粒子を長時間使い続ける事は不可能だ。
 すぐに粒子が尽きる上に、それだけの速度のガンプラを操作するのは至難の技だ。
 だが、スタービルドストライクはスタービームライフルでゲーマルクのマザーファンネルを一発で撃破し、ゲーマルク本体を撃ち抜いて撃墜する。
 その勢いのまま、スーパーカスタムザクF2000に向かって行く。
 スーパーカスタムザクF2000も腕部のザクマシンガンで応戦するが、スタービルドストライクの機動力に追いつけない。
 旋回したスタービルドストライクはビームサーベルを抜いて、ザクⅡF2000に突撃する。
 スーパーカスタムザクF2000はデッドエンドGヒートホークを構えるが、反撃する前にスタービルドストライクのビームサーベルで一刀両断されて終わった。

「アイツ……中々やるじゃない。まぁ、私やマシロに比べれば全然まだまだだけど」
(機動力重視の汎用型ってのはビルドストライクと同じだが、基本性能は今大会じゃ最高レベル。その上でビームを吸収する事によるビームに対する圧倒的な防御力とそこからの粒子を一気に解放するシステムを使えば、俺の∀GEと互角以上の機動力にライフルの形状的に粒子を火器に回せるとすれば、バーストモードを使ったハイメガドッズや魔王のサテライトキャノンに匹敵する火力。弱点の少ない汎用型としての性能を突き詰めた上で勝負の決め手となる切り札を用意して来たか……それだけのガンプラを作るイオリ・セイとそれを完璧に扱いこなして来たレイジ。面白い……正直予想以上だ。)

 以前にセイとレイジとバトルした際にマシロは汎用機である事をつまらないと評価した。
 だが、セイはビルドストライクの元々持つ、機動力を重視した汎用性を強化して来た。
 素直にマシロのアドバイスを聞く気は無いと言う事なのだろう。
 そして、完成したスタービルドストライクの基本性能はこのバトルを見るだけでも高いと言う事が分かる。

「マシロ?」

 レイジと揉めたアイラはそこまで評価してはいないが、マシロは完全にこの大会においてセイとレイジを倒すに値する敵だと認識した。
 それから、他のバトルを観戦するも、セイやレイジ程のファイターが現れる事無く、マシロもリアルタイムでの観戦に飽き始めている。
 第一ピリオドのバトルは全てチームのファイターに録画させている為、リアルタイムで見る必要もない。
 
「ようやくお出ましか」

 第一ピリオドも大詰めに入ったところで、飽きてベッドで寝転がっていたマシロが起き上がる。
 今年の大会において最も警戒すべきだとレイコが言っていた相手の登場だからだ。

「PPSEのワークスチーム、三代目メイジンカワグチ。二代目のようにつまらんバトルはしてくれるなよ」

 マシロと同じ特別参加枠での出場となるPPSE社のワークスチーム。
 ガンプラバトルは玩具のバトルとはいえ、世界大会を開く程の規模で世界に広まっている為、ファイター個人に企業がスポンサーとしてつくと言うケースは珍しくはない。
 そのファイターが成績を残す事で企業側としても利益を得る事が出来るからだ。
 その中でもPPSE社はプラフスキー粒子に関する技術を一手に独占し、ガンプラバトルを運営していると言う事もあって、大会に入れる力は他の企業とは比べものにならない。
 そんなPPSE社が今年は満を辞して三代目メイジンカワグチが社内の優秀な人材を集めて結成したワークスチームを引き連れての参加だ。
 今年の優勝候補の大本命であるマシロに勝てる可能性が最も高いとして注目されている。
 
「アイツがそのメイジン? メイジンって言うくらいだから結構な歳だと思ってたけど、マシロと同い年くらいじゃない」
「そのようだ……どっかで見た気がするが……まぁ、良いか」
「良い訳?」
「良いんだよ。良いか、アイラ。良い機会だ言っておくが、仮面キャラってのは早々に素性を明かしちゃ駄目だし、例え素性を知っていても素顔の名前を呼ぶ事はするなよ。仮面をつけて偽名を名乗ってんのに本名で呼ばれるとか軽い羞恥プレイだからな。仮面キャラって点はメットで素顔を隠しているお前も同じだから滅多に素性を明かすなよ。今後、チーム以外で知り合いになった時とかは適当に偽名でも名乗ってろ」

 そう言うマシロをアイラは軽く流す。
 マシロが理解出来ない事を言い出す事はいつもの事で、それに対して真面目に考えるだけ馬鹿だと言う事は約1年の間でアイラは学習している。
 それでも、いつ役に立つのか分からない為、心の隅にでも留めて置く程度で良い。

「要するにメイジンの中の人はどうでも良いんだよ。重要なのは強いか弱いかだ」

 マシロにとってはメイジンの素性はどうでも良かった。
 マシロにとって重要なのは倒すに値するファイターか否かだ。
 それを見極める為の三代目メイジンカワグチのデビュー戦が始まった。
 バトルフィールドは雪原、メイジンの使用するガンプラはポケットの中の戦争に登場するモビルスーツ、ケンプファーの改造機であるケンプファーアメイジングだ。
 メイジンのバトル相手はジンクス(連邦軍仕様)、ガンダムF91(ハリソン機)、陸戦型ガンダム(ジム頭)の3機だ。

「ケンプファー。三代目だけにエクシアじゃないのかよ」

 バトルが始まり陸戦型ガンダム(ジム頭)が両手のマシンガンを乱射しながらケンプファーアメイジングに接近しようとする。
 ケンプファーアメイジングは手持ちのアメイジングライフルを放つ。
 ビームが陸戦型ガンダム(ジム頭)の頭部を撃ち抜き陸戦型ガンダム(ジム頭)の頭部が吹き飛ばされて仰向けに倒れる。
 すぐにジンクス(連邦軍仕様)がGNロングビームライフルを放つが、ケンプファーアメイジングには当たらない。
 GNロングビームライフルでは埒が明かないと判断した、ジンクス(連邦軍仕様)はライフルのバレルとパージしてGNビームライフルとして、GNビームサーベルを抜いて近接戦闘を仕掛けようとするが、GNビームライフルを抜こうとした隙をついてケンプファーアメイジングはアメイジングライフルでジンクス(連邦軍仕様)の頭部を撃ち抜いた。
 頭部を撃ち抜かれたジンクス(連邦軍仕様)はそのまま地に落ちていく。
 その時点でケンプファーアメイジングは最後の相手であるガンダムF91(ハリソン機)の方を向いている。
 ガンダムF91(ハリソン機)はビームライフルを撃つも、ケンプファーアメイジングは最小限の動きで回避してアメイジングライフルで頭部を撃ち抜いた。
 最後のガンダムF91(ハリソン機)を撃墜し、メイジンの勝利が決まる。

「大したもんだ」
「そうなの?」
「世界大会で全機をヘッドショットを狙ってやってんだ。余程の実力がないと無理だろ」

 メイジンは3機全て頭部を撃ち抜いている。
 相手も地区予選を勝ち抜いて来たファイターだ、マシロからすれば弱いが実力がない訳ではない。
 それを正確に一発で撃ち抜いている辺り、メイジンの実力が伺える。

「それに全力を出してない」

 意図的に頭部を狙っていると言う事はそれだけ余裕があると言う事だ。
 だが、それ以上にマシロにはメイジンが全力を出さずに抑えていると感じている。
 メイジンの事情は知らないが、メイジンの全力はこの程度ではない。

「それだけじゃない。あのケンプファー、企業が全面的にバックアップしてるだけあって基本性能が半端ない。ホント、セコイよな大人って奴は」

 ケンプファーアメイジングはPPSE社が最新の技術を使っているだけあって、個人レベルの技術で制作できる代物ではない。
 特にPPSE社はガンプラバトルにおいてあらゆるノウハウを持っている。
 尤も、マシロもマシロで各分野で天才と言われている兄弟達を使って新型のガンプラを制作している為、人の事は言えない。
 
「全く……今年は本当に豊作の年だよ。色々と目移りしそうだ」

 この一戦だけでもメイジンの実力とケンプファーアメイジングの性能が高いと言う事は分かった。
 他にも去年の出場者の多くが去年よりも強くなって来ている。
 初出場のルーキーを含めて今年の世界大会はマシロにとっては非常に満足の行く相手が多い。
 メイジンのバトルが終わった事で第一ピリオドにおける注目しているファイターのバトルが終わった為、マシロはテレビを消した。







 初日の第一ピリオドが問題が起こる事なく終わりを迎えた。
 日が落ちた会場は観客もいない為、非常に静かだ。
 第一ピリオドが終わり、第一ピリオドのバトルの分析を終えたメイジンはセコンドのアラン・アダムスと共にホテルの部屋に戻って来る。
 部屋に戻るとメイジンはサングラスを取り、メイジンカワグチからユウキ・タツヤに戻る。

「お疲れ様」

 今日一日メイジンカワグチとして表舞台に立ったタツヤをアランが労う。
 
「今日のバトルはメイジンの実力を示す素晴らしいバトルだったよ」
「当然の事だよ」
「確かにね。それはさておき、何故、彼らに素顔を? 一応、メイジンカワグチの素性に関しては秘匿する必要があるんだけど」
「さて……気が触れたとしか言いようがないな」

 第一ピリオドのバトルが終わった後、セイとレイジがタツヤの前に現れた。
 セイはタツヤの通う聖鳳学園の中等部に通っている。
 そして、セイとレイジは2度に渡り、タツヤに敗北をしている。
 タツヤの前に現れた二人はメイジンカワグチはユウキ・タツヤではないかと問い詰めて来た。
 本来、メイジンカワグチの素性は一般には秘匿されている。
 だが、タツヤはサングラスを取って素顔を見せた。
 その理由をタツヤは誤魔化す。

「そう言う事にしておくよ」

 アランも何かしらの意図があって、タツヤが素顔を晒したと考えるが言わないと言う事はそれだけの理由がある。
 そう考えて、タツヤの言葉で納得しておく。

(これは僕の個人的な理由だからね。イオリ君とレイジ君……彼らはマシロとは別の道で同じところを目指している彼らだからこそ、その強さを乗り越える必要があるんだ)

 マシロは兄弟の手を借りる事はあっても、一人で戦い続けている。
 それがマシロの強さと言える。
 一方のビルダーとしての実力は高いがファイターとしての実力がないセイとファイターとしての素質が高いが、ビルダーとしての能力がないレイジの二人は足りない物を補い合って戦っている為、マシロとは対極と言える。
 それでもマシロもセイとレイジは同じ世界最強の座を目指している。
 二人で補い合う事で世界のファイター達と対等に戦う事の出来る強さだ。
 だからこそ、そんな二人の強さを超える事で、マシロのいる高見へとタツヤは登ろうとしている。
 二人に素顔を晒したのは、メイジンカワグチとしてではなく、ユウキ・タツヤとして世界大会で戦うと言う決意を込めての事だった。












 第一ピリオドのバトルを一通り確認したマシロはバルトに呼び出されていた。
 アイラがまた、勝手に出かけて行方が分からないでいる為、その捜索の為らしい。
 マシロの他にフラナ機関のスタッフたちも、アイラの捜索に駆り出されている。

「見つけ次第、アイラを確保して連れて来い」

 バルトが陣頭指揮を執る中、マシロはバルト達に気づかれる事無く、近くの茂みを横目で見ていた。
 バルトの指示が行き渡ったところで、散開してアイラの捜索が開始される。

「さて……どういう状況なんだよ」

 マシロが横目で見ていた茂みの後ろ側が見える位置に遠回りで移動したマシロがそう言う。
 見ていた茂みにはアイラが隠れていたが、予想外の事態としてアイラの他にレイジもいた。
 アイラがレイジと揉めたと言う事は軽く聞いているが、状況が呑み込めない。

「流石に出て行く訳にもいかないな」
 
 アイラは今はバトル中とは違い素顔を晒している。
 レイジがいる以上は、下手に接触は出来ない。
 
「何か面白そうだし、もう少し眺めていくか」

 マシロは二人にばれないように隠れた。
 それから、二人の様子を観察する。
 距離がある為、会話の内容までは聞き取れなかったが、やがてレイジの方がアイラに何かを放り投げて帰って行く。
 レイジが完全に見えなくなった頃合いを見計らってマシロがアイラに近づく。

「よっ」

 後ろから声をかけるとアイラはビクりとして振り向く。
 声をかけたのが、マシロであると確認して安心するも、さっきの事を見られていたかも知れないと気付くと気恥ずかしくなり視線をあからさまに逸らす。

「……いつからいたのよ?」
「そんな事よりも俺はレイジと茂みの中で何してたのか気になるだけど」

 そんなアイラの心情をマシロが察する事も気にする事は無い。
 重要なのはアイラとレイジがあんなところで何をしていたかだ。

「……マシロには関係ないわよ」
「関係あるね。アイツ等は俺の方が先に目を付け、唾を付けたんだ。勝手に変なフラグでも立てられると困るんだよ」
「は? 何言ってんのよ」
「要するにアイツ等は俺の獲物なんだよ」

 アイラに釘を刺すマシロの目は普段のマシロとは違い鋭く獲物を狩る獣の目を思わせた。

「別にアイツの事なんて……ガンプラバトルに熱中してる奴なんて碌な奴じゃないに決まってるし」
「なら良いけど。後、そろそろ帰るぞ。さっき、大会の運営から次のルールが公表されたからな」

 アイラは自分に言い聞かせるようにそう言う。
 それでマシロもいつものマシロに戻る。
 すでに第二ピリオドのルールが各ファイターに公表されている。
 ネメシスがアイラの捜索に人員を裂いたのも、その打ち合わせの必要があるからだ。
 アイラもこれ以上、出歩くと後で面倒な事になる為、大人しくマシロと共に帰る。
 そして、夜が明け第二ピリオドの全員参加のバトルロワイヤルの幕が開ける。



[39576] Battle41 「激突! マシロVSメイジン」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/09/13 08:21
 世界大会開幕2日目の第二ピリオドは全員参加のバトルロイヤルだ。
 過去の世界大会においてもどこかで必ず大規模なバトルが行われる。
 通常のガンプラバトルにおいてチーム戦でも10機以上を超えるガンプラでバトルする事は無い為、世界大会参加者全てが同時に同じバトルシステムでバトルする光景はまるで本物の戦場にいるかの様で、毎年のように盛り上がる。
 全員参加と言う事もあって、第二ピリオドはメインスタジアムで行われる。
 メインスタジアムには出場選手が全員囲む事が出来る大型のバトルシステムが設置されていた。
 このサイズのバトルシステムは他に存在しない為、世界最大のバトルシステムでもあった。
 バトルシステムの周囲には100人の選手とそのセコンドが運営側から指定された場所で待機し、全員が揃い開始予定時刻となった事で第二ピリオドが開始される。
 世界最大のバトルシステムと言う事もあり、バトルステージは宇宙と地上の二つとなっている。
 普通のバトルステージでも宇宙と地球の両方でバトルする事が可能だが、その場合はバトル中にバトルステージのデータを更新すると言う形でデータを変える事で行うが、このバトルステージではその必要がない。
 100機のガンプラはランダムに配置される。
 そして、第二ピリオドのルールは至極簡単だ。
 100機のガンプラの内、30機となるまで戦い続けるだけだ。
 70機のガンプラが撃墜、もしくは戦闘不能と見なされた時点で残る30人のファイターにポイントが与えられる。
 それ以外のルールは通常のバトルと同じとなっている。
 
「さて……戦い易い地上になったのは良いが、敵はどこかな」

 マシロは地上ステージからの開始となっていた。
 今回も装備はフルアサルトジャケットである為、宇宙ステージよりかは地上ステージの方が戦い易い。
 地上ステージと言っても場所によっては市街地もあれば水中もある。
 マシロの現在位置は荒野で見渡す限り、他のファイターのガンプラは見当たらない。

「マシロ、まずはキュベレイかデビルガンダムとの合流を優先しなさい」

 ルールは30人になるまで、戦い続ける事だが、他のファイター同士が徒党を組む事は禁止されていない。
 その為、ある程度は仲間を作る事も勝ち残る為の方法の一つだ。
 自分以外は全て敵だが、極論自分以外の99機が全て敵となって同時に襲って来る可能性もある。
 尤も、仲間を作ったとして、土壇場で裏切られたり、利用される危険性もあるが、そんな状況下で確実に信用出来るのが同じチームに所属しているアイラとガウェインだ。
 いずれはチャンピオンの座をかけてバトルする時が来るが、今は互いに確実にポイントを取る必要がある為、最も信用が置ける相手だ。

「めんどくさいな。向こうから来るように伝えといて。後、作戦はオペレーションS&Dだと言っておいて」
「そんな作戦は聞いてないわよ」
「分かってないな。S&D、つまりはサーチアンドデストロイ。自分以外は全て敵、見つけ次第、即殲滅。コレ常識」

 レイコはあくまでも複数で徒党を組み確実に第二ピリオドを取る策を提案するも、マシロは手当り次第に敵を倒す事を優先したいようだ。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは敵を求めて荒野を疾走する。

「見つけた。いきなり大物だな」
「アレは……航空機?」

 荒野を疾走していると、前方の空に敵影を発見する。
 近づいて行くと、それは通常サイズのガンプラではない。

「ガウか。ご苦労な事だな」

 見つけたのはモビルスーツでもモビルアーマーでもない、大型輸送機であるガウ攻撃空母だ。
 オリジナルとは違う塗装をしている。
 
「どこのどいつか知らないが、己の運の悪さを呪うんだな」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはガウにハイパーメガドッズライフルを向ける。

「ちょっと待った!」
「あ?」

 ガウに対してハイパーメガドッズライフルを放とうとした時に相手側から通信が入る。
 相手はドイツ代表のファイター、ライナー・チョマーだった。
 マシロも第一ピリオドで勝っているチョマーの事は覚えていた。

「命乞いなら聞かないけど?」
「そんな事をする気はない! 俺達にはやるべき事がある!」
「やるべき事ね……」

 マシロはチョマーの言うやるべき事には興味はないが、一応は聞いて見る。

「俺達は男達の敵である憎きリカルド・フェリーニを討伐すると言う目的の為に手を組んでいる。今は、世界大会の勝敗よりも奴を討つ事が最優先だ!」
「成程……大体分かった」
「そうか!」

 チョマーの目的はあくまでもフェリーニであると、マシロに伝わった事で、戦いを回避出来てチョマーは一息つく。
 流石にここでマシロとバトルすれば、フェリーニと戦う前に全滅しかねない。
 だが、そんなチョマーを余所にガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルをガウに向ける。

「ちょ!」
「まぁ、頑張ってくれ。俺から逃げ切る事が出来たらな」

 マシロもチョマーの事情は理解した。
 しかし、マシロからすればチョマーの事情など関係もなければ興味もない。
 目の前にいる敵を見逃す理由はどこにも無い。
 その上、チョマーの話しを聞く限り、チョマーは一人でフェリーニを倒しに行っている訳ではない。
 ガウは輸送機と言う事を考えれば、ガウの中に手を組んだファイターのガンプラを収容している可能性が高い。
 ここでガウを撃墜する事は、敵の数を一気に減らすチャンスでもある。

「その前に、やられとけ」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがガウにハイパーメガドッズライフルを撃とうとした、その瞬間にガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットにミサイルの雨が降り注ぐ。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはとっさに移動して、ドッズランサーのドッズガンで対応する。

「見つけたぞ! マシロ・クロガミ!」
「去年の雪辱!」
「ここで仕留める!」
「ちっ」

 ガウに対する攻撃をフルアーマーZZガンダム、ウイングガンダムゼロ(EW)、ガンダム試作3号機ステイメンの三機が妨害する。
 彼らは皆、去年の大会に出場していたらしく、マシロに雪辱を晴らしに徒党を組んで来ている。
 ウイングガンダムゼロ(EW)が空中からツインバスターライフルを放ち、ステイメンがフォールティングバズーカを放つ。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは回避して、ハイパーメガドッズライフルを放ち、3機は散開する。

「この隙に!」
「逃がすかよ!」
「お前の相手は俺達だ!」

 乱入して来た3機の狙いはマシロである為、チョマーはこの隙に退避しようとする。
 逃がさないように、ハイパーメガドッズライフルを構えるが、フルアーマーZZガンダムがハイパービームサーベルで切りかかって来る。
 それを、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルで受け止める。

「ちっ……」

 フルアーマーZZガンダムを押し戻して、ドッズランサーを向けるも空中からウイングガンダムゼロ(EW)がツインバスターライフルで妨害する。

「雑魚が徒党を組んだところで」

 上空のウイングガンダムゼロ(EW)のツインバスターライフルを振り切る為に、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはジグザクに動き続ける。
 そうやって、ウイングガンダムゼロ(EW)に狙いを付けさせるに、ステイメンに接近する。
 ステイメンはフォールティングバズーカを撃つが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは腰のビームガンでバズーカの弾丸を撃ち落して、接近するとハイパーメガドッズライフルの銃口の先端をステイメンに叩き付ける。
 ツインバスターライフルでは埒が明かないと判断し、ウイングガンダムゼロ(EW)はマシンキャノンに切り替える。
 だが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルで串刺しになりかけているステイメンを盾にする。
 そして、そのままステイメンごとウイングガンダムゼロ(EW)にハイパーメガドッズライフルを放つ。
 ウイングガンダムゼロ(EW)は翼を盾代わりにしようとするも、あっけなく吹き飛ばされた。

「よくも同士を!」

 残ったフルアーマーZZガンダムが背後からハイパービームサーベルで切りかかるも、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは振り向きざまにハイパーメガドッズライフルで殴打して吹き飛ばされた。
 地面に叩き付けながらも、体勢を整えるが、すでにガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはフルアーマーZZガンダムにドッズランサーを向けている。
 ドッズランサーの槍の部分が高速で回転を始め、内蔵されているドッズガンがまるでガトリング砲の如く、フルアーマーZZガンダムを襲う。
 フルアーマーZZガンダムの追加装甲には対ビームコーティングをしている為、早々に壊れる事は無いが、威力は小さくても圧倒的な連射速度で放たれるドッズガンに次第に装甲がボロボロに破壊されていく。
 ドッズガンの雨が終わり、フルアーマーZZガンダムは膝をつく。
 追加装甲は完全に装甲の意味を成さず、ダメージは本体のZZガンダムにも及んでいる。

「まだだ……まだ!」

 ボロボロになりながらも、ZZガンダムは頭部のハイメガキャノンをチャージする。
 だが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはすでにハイパーメガドッズライフルをZZガンダムに向けていた。

「……悪魔が」

 そして、ZZガンダムのハイメガキャノンが放たれる前に、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがハイパーメガドッズライフルを放ち、ZZガンダムは跡形もなく吹き飛んだ。

「さて、アイツの方は運が良いみたいだな」

 乱入して来た3機を倒した頃には、チョマーのガウの姿は周囲にはなかった。
 すでに戦闘中に離脱していたらしい。
 3機の乱入が無ければ、確実にマシロに落とされていた為、運が良いのだろう。

「レイコ。近くに敵がいそうな場所は?」
「そうね。市街地エリアがここから少し離れたところにあるわ。そこなら、隠れる場所も多いから。隠れている敵がいるかも知れないわね」

 マシロがバトルをしている間にレイコは周囲の地形を調べていた。
 その中で近くに市街地エリアがあった。
 市街地エリアには隠れる場所が多い為、敵が減るのを隠れてやり過ごすファイターも少なくはない。
 
「分かった」

 市街地エリアの場所のデータを表示すると、マシロはガンプラをその方向に向ける。

「行く気なの!」
「当然。こういう時は強気なくらいが丁度良いんだよ」
 
 レイコとしては敵が潜んでいそうな場所は避けるべきだとして、市街地エリアの情報を出したが、どうやらマシロは市街地エリアに向かうらしい。
 そこで、敵と遭遇する確率は高いと言う事はマシロも承知している。
 つまり、マシロは積極的に敵を減らしにかかると言う事だ。
 積極的に敵の数を減らして行けば、第二ピリオドは長丁場にならずに済み、明日の第三ピリオドの準備に専念出来ると言うメリットもあるが、こちらの戦闘データを他のファイターに流出させたり、最悪、消耗したところを狙われると言う危険性もあり得る。
 レイコとしては、この場面で無駄に危険な橋を渡る必要はないと、マシロに言いたいが、マシロは基本的に自分のやりたいようにしか動かない。
 今のレイコにはマシロに戦闘を避けさせるだけのカードが無い為、ここは諦めるしかなかった。
 嬉々として次の獲物を探すマシロを見て、強敵と遭遇しない事をレイコは願った。








 一方の宇宙エリアでも交戦が始まっている。
 宇宙エリアは通常の宇宙空間の他に複数のデブリベルトや小惑星帯、廃棄されたコロニーなどが配置されている。
 宇宙エリアからスタートとなったアオイは一先ず移動していた。
 
「気を付けろよ。どこに敵が潜んでるか分からないぞ」
「そうだね」

 宇宙ステージは地上ステージとは違い、全方位を警戒しなければならない。

「アオイ。向こうで戦闘が怒ってるみたいだ。どうする?」
「一応、様子だけでも見ておこう。ここからでも見えるビームは相当な威力だから」

 少し離れた場所で戦闘が行われていると思われるビームが見える。
 距離的に相当な出力のビームが撃たれている為、相手を確認する必要があった。

「おいおい……デカいクシャトリヤかよ」
「戦っているガンプラは……エリカさんのセイバーだ!」

 交戦しているガンプラの一機は大きなクシャトリヤではなく、肩のバインダーを4基に増設した赤いクイン・マンサだ。
 もう片方のガンプラはエリカのセイバーガンダム・エペイストだ。
 クイン・マンサのビームをセイバーガンダム・エイペストがモビルアーマー形態で回避している。

「アオイ!」
「分かってる!」

 ビギニングガンダムB30はクイン・マンサにハイパーバスターライフルをドッキングさせたスノーホワイトを撃ち込む。
 ビームは直撃するが、クイン・マンサはよろけるだけで、ビームは弾かれた。

「Iフィールドかよ!」
「アオイか!」
「援護するよ!」

 スノーホワイトを分離させて、ハイパーバスターライフルを放つ。
 セイバーガンダム・エペイストはモビルスーツ形態に変形すると、アムフォルタスを放つ。
 2機のビームはクイン・マンサのIフィールドに阻まれる。

「ビームじゃ駄目だ」
「つってもな……このクイン・マンサは防御力だけじゃなくて、火力も半端ないぞ」

 エリカもすでに接近を試みたが、クイン・マンサの全身のビーム砲で下手に近づく事が出来ずにいた。
 ビギニングガンダムB30のスノーホワイトですらも弾く事の出来るIフィールドを持っているクイン・マンサを相手にビームによる攻撃は効果はない。
 実弾系の装備で攻めようにも、ビギニングガンダムB30には腰のミサイルとセイバーガンダム・エイペストには頭部のバルカンくらいしかない。
 どちらも牽制を目的としている為、実弾だろうと余り意味はない。
 強力なIフィールドを持つクイン・マンサを攻めあぐねていると、クイン・マンサにグレネードランチャーが撃ち込まれる。

「あのユニコーンは!」
「やばそうな相手だから僕も協力させて貰う」

 クイン・マンサのビームを見て様子を見に来たのはアオイだけではなかった。
 コウスケもまた、相手を確認する為に来ていた。

「センパイのユニコーンなら」
「そう言う事」

 コウスケのユニコーンガンダム・ノルンは脚部のグレネードランチャー以外にハイパーバスーカを装備している。
 戦い様によっては、バズーカはクイン・マンサに対して現状では最も有効な装備だ。
 元々、知り合いと言う事もあって、3人が手を組む事は確認する必要もない。
 ユニコーンガンダム・ノルンはハイパーバズーカを左手に持って放つ。
 クイン・マンサは圧倒的な防御力と火力を持つ反面、機動力は低く大型である為、バズーカの弾頭を回避できずに直撃した。
 
「一撃では駄目なようだな。なら、もう一発!」

 再度、ハイパーバスーカを撃ち込もうとするが、クイン・マンサはファンネルを展開する。
 テールバインダーだけではなく、4基のバインダーの中にも大量にファンネルを搭載していたらしく、100基近いファンネルを展開された。

「冗談だろ!」
「先輩! 僕達が何とか抑えます!」

 ビギニングガンダムB30がハイパーバスターライフルでファンネルを一掃するが、ファンネルの数は多く、一射で破壊したところで意味はない。
 3機を囲むようにファンネルが展開されて、全方位からの集中砲火が始まる。

「ちっ!」

 セイバーガンダム・エイペストはシールドで守りながら、常に動き続けてソードライフルでファンネルを減らすが、ソードライフルだけでは手が足りず、頭部のバルカンも使って迎撃する。

「数が多すぎる!」

 ユニコーンガンダム・ノルンも頭部のバルカンとアームドアーマーDEに内蔵されているメガキャノンでファンネルを迎撃するが、迎撃しきれずにハイパーバズーカにビームが掠り、爆発する前に捨てる。

「エリカさん! 先輩! こっちに!」

 ビギニングガンダムB30がビームバルカンとハイパーバスターライフルを撃ちながらIFSファンネルを展開する。

「助かる!」

 セイバーガンダム・エイペストとユニコーンガンダム・ノルンがファンネルを迎撃しながらも、ビギニングガンダムB30の周囲に集まる。
 2機が集まったところで、ISFファンネルが全方位にIFSフィールドを展開する。
 IFSファンネルによって、ファンネルの攻撃からは何とか身を守る事が出来るが、このままでは完全に防戦一方だ。
 守りに入ると、クイン・マンサは破壊された分を補充するかの如く、ファンネルを追加して来る。

「この程度の攻撃なら防げるのに……Iフィールドさえ何とかなれば」
「接近さえできればあんなデカブツなんて……ファンネルと砲撃さえ何とかなれば」
「アレを使えばファンネルは何とかなるのに……火力とIフィールドさえ何とか出来れば」

 クイン・マンサの火力、Iフィールド、ファンネルの3つは一つ一つで見ればアオイ達は何とか出来る。
 だが、3つが合わさる事で難攻不落となっている。
 
「ちょっと待った! エリカは接近さえすれば何とかなるんだよな?」
「そうだよ! あんなデカブツ、バスターソードで!」

 セイバーガンダム・エペイストのバスターソードならばIフィールドも関係なしにダメージを与える事が出来る。

「先輩はファンネルはどうにか出来るんですか?」
「まぁね。隠し玉さえ使えば」

 ファンネルはユニコーンガンダム・ノルンの切り札を使えばどうにか出来るらしい。

「アオイのビギニングの防御力なら、アイツの火力に耐える事は出来るよな」
「うん……そうか!」
「成程な!」
「そう言う事か」

 3つの機能で難攻不落となったクイン・マンサは無敵に見えたが、アオイ達はそれぞれの機能を攻略する策がある。
 そこに気づく事が出来れば、クイン・マンサは無敵でも難攻不落でもない。

「まずは僕から行く!」

 IFSフィールドを解除し、IFSファンネルがビギニングガンダムB30に戻ると再び、ファンネルの攻撃が始まる。
 
「ユニコーン!」

 ユニコーンガンダム・ノルンの装甲がスライドし、デストロイモードへと変身する。
 次に赤く発光する内部フレームが緑色の輝きを放つ。
 すると、周囲のファンネルが沈黙して行く。

「……ファンネルジャック」
「ジャック出来るのはファンネルくらいだけどね」

 緑の輝きを放っているユニコーンガンダム・ノルンの周囲ではプラフスキー粒子の流れを掌握できる。
 流れを掌握すると言う事は、ガンプラの動きを完全に掌握する事に等しい。
 尤も、掌握できるのは粒子の流れの少ない小さいファンネルくらいで、他のガンプラの動きを掌握する事は出来ないが、ファンネルの動きを掌握するだけで十分だ。

「シシドウさん!」
「任せろ!」

 セイバーガンダム・エペイストはバスターソードを取ると、クイン・マンサに突っ込んで行く。
 ファンネルを封じられたが、クイン・マンサには大火力がある。

「エリカさん! 僕が守るから!」
「頼んだ!」

 ビギニングガンダムB30がIFSファンネルを展開して、セイバーガンダム・エペイストの前方にIFSフィールドを展開して、クイン・マンサの砲撃からセイバーガンダム・エペイストを守る。

「これで!」

 クイン・マンサの砲撃を突破して、懐に飛び込むとバスターソードをクイン・マンサの胸部に突き刺した。

「終わりだ!」

 そのまま、バスターソードを振り上げてクイン・マンサの胸部に大きな切り傷を付けた。

「アオイ!」
「任せて!」

 セイバーガンダム・エペイストの攻撃で胸部に傷が出来た事で、その分は特殊塗装がされていない為、Iフィールドは張れない。
 ビギニングガンダムB30はハイパーバスターライフルをドッキングさせてスノーホワイトを正確に傷を狙って放つ。
 その攻撃は切り傷に直撃する。
 Iフィールドが無い為、ビームは弾かれる事もない。
 スノーホワイトが直撃し、クイン・マンサは内部から爆発を起こして行く。
 やがては完全に破壊された。

「ふぅ……何とかなったね」
「だな。流石に一人じゃ不味かった。アオイにセンパイ助かった」
「これが世界大会のファイターの実力と言う訳か。第二ピリオドを乗り越える為にここは共闘した方が良いと思うけど、アオイ君にシシドウさんはどうかな?」

 アオイだけでなく、エリカもコウスケも第一ピリオドを勝ち抜いている。
 だが、今回のように強力な敵と出会った時に一人で戦うよりも共闘した方が勝てる確率は高い。
 共闘する相手の事は良く知っている為、アオイもエリカも断る理由もない。

「決まりだな。この戦闘で他のファイター達も集まって来るかも知れないからここを離れよう」

 アオイ達も手を組む事に異論が無い為、共闘の話しはすぐにまとまった。
 クイン・マンサを撃破した時の爆発は派手で、その爆発を見た他のファイター達がバトルで消耗しているところを狙って来る危険性がある。
 3機のガンプラは速やかに戦闘宙域から離脱して行く。








 



 市街地エリアで3機のドム・トルーパーと遭遇したメイジンカワグチのケンプファーアメイジングは最後のドム・トルーパーを撃破する際に投擲したアメイジングナイフを回収していた。
 
「他愛もない」
「君が強すぎるんだよ」

 回収したアメイジングナイフを脇に戻す。
 相手のドム・トルーパーのファイターも決して実力が無かった訳ではないが、メイジンの実力はそれを遥かに凌駕している為、3機を瞬く間に撃破している。

「この程度のバトルはメイジンとして当然の……」

 ケンプファーアメイジングは大きく飛び上がると、ビームがビルをぶち抜く。
 回避行動を取っていた為、ビームに当たる事は無いが、ビームは射線上の物を抉って行く。

「このビームは!」
「アラン……どうやら次の相手は一筋縄ではいきそうもないな」

 メイジンの視線の先にはハイパーメガドッズライフルを構えたガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがいた。

「あのガンプラは……マシロ・クロガミの!」
「まさか、こんなに早く戦える時か来るとはね!」
「同感だ。やはり、僕と君は運命で結ばれているようだ!」

 空中のケンプファーアメイジングにガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルを放つ。
 脚部のスラスターを使ってケンプファーアメイジングは空中で回避すると、アメイジングライフルで応戦する。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは気にする事無く、ケンプファーアメイジングに突っ込んで来る。
 ケンプファーアメイジングはビームサーベルを抜いて迎え撃つ。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがドッズランサーを勢いに乗せて突出し、それをケンプファーアメイジングがビームサーベルで受け止める。

「カワグチ!」
「分かっている。今の装備で彼をやり合うのはナンセンスだ。だが、向こうは見逃す気は無いようだ」

 ケンプファーアメイジングの最大の武器はアメイジングウェポンバインダーにルールに合わせた装備を収納する事であらゆるルールに対応する汎用性の高さにある。
 今回はバトルロイヤルと言う事で、長時間の戦闘や多数の敵を相手にする事を想定して、使い勝手の良い武器を複数用意している。
 その代わりにマシロのような実力者を相手にするには攻撃力が足りない。
 その為、ここは無理に戦わずに撤退すべきだが、マシロはここで仕留める気でいるのがぶつかり合ってメイジンも感じていた。

「やるね。勢いを付けたこの一撃を止められるガンプラは早々いないと思ってたけどな」
「メイジンの名を受け継ぐ者として、この程度の事は造作もない」
「そうかよ!」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルでケンプファーアメイジングを殴りつける。
 ケンプファーアメイジングはとっさに腕でガードするが、そのまま殴り飛ばされる。
 だが、殴り飛ばされた勢いを利用して、ケンプファーアメイジングはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットとの距離を取る。

「逃がすか!」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルを連射するが、ケンプファーアメイジングは後退しながら、アメイジングライフルで直接狙わずにビルを攻撃する。
 それにより、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの上空からビルの瓦礫の雨が降り注ぐ。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは真上にハイパーメガドッズライフルを放って瓦礫を一掃した。
 その間にケンプファーアメイジングは隠れていた。

「どうする? カワグチ」
「迎え撃つしかないだろうな」

 ビルに逃げ込んだケンプファーアメイジングはウェポンコンテナから狙撃用のロングバレルをアメイジングライフルのバレルと交換する。
 そして、ビルの壁をアメイジングナイフでケンプファーアメイジングが通れる程度に穴を空けて移動する。
 そうする事でマシロの目から逃れる事が出来る。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットから距離を取ったところで、ケンプファーアメイジングはアメイジングロングライフルでガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットに狙いを定める。

「一撃で仕留めないと不味いぞ」
「分かっている」

 狙撃において、最初の一撃が最も効果的だ。
 ビルの中を移動して来たと言う事もあって、マシロはこっちを見失っている。
 今がガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを仕留める最大のチャンスだ。
 そんなチャンスにメイジンは動じる事無く、狙いを定めている。
 町の中をケンプファーアメイジングを探して徘徊するガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが自分達に背を向けた瞬間に引き金が引かれた。
 ケンプファーアメイジングの放ったビームがビルの合間を抜けて、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットに迫る。
 セコンドに付いているアランは直撃を確信したが、直撃する直前にガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが向きを変えた。
 そして、ビームはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットのリアアーマーから伸びているホルスターのアームを撃ち抜いだ。
 だが、同時にガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがハイパーメガドッズライフルをケンプファーアメイジングが隠れているビルの方向を向けている。

「馬鹿な!」
「想定内だ」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが向きを変えた瞬間にメイジンは狙撃の失敗と、こちらの位置がばれたと確信して、すぐに移動を始めていた。
 そのお陰で、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットのハイパーメガドッズライフルの攻撃に当たらずに済んだ。
 もしも、少しでも遅れていたら、ビルごと跡形もなく消滅させられていただろう。
 ビルから飛び出したケンプファーアメイジングをガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが追撃に入る。
 片方のアームが撃ち抜かれた事で、バランスが悪くなった為、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはもう片方のホルスターも一式パージしている。
 ケンプファーアメイジングを補足したガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズランサーのドッズガンを連射する。
 
「次はどうする? メイジン!」

 ケンプファーアメイジングはアメイジングロングライフルで応戦しながら着地するが、距離を止められている為、ロングバレルの付いた状態では分が悪い。
 すぐにアメイジングロングライフルを捨てて、ウェポンバインダーから新しいアメイジングライフルを出して反撃する。
 その後、空となったウェポンバインダーをガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットに向けて射出する。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは腰のビームガンでウェポンバインダーを破壊する。
 ウェポンバインダーが破壊された時の爆発に紛れてケンプファーアメイジングはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットに突撃する。

「正面突破か?」

 爆発に紛れての正面突破自体はそこまで驚く事でもない。
 それでもメイジンが馬鹿正直に正面から突撃して来る事には違和感があった。
 マシロはケンプファーアメイジングの動作を見逃さないように注意する。
 いつでも撃てるように、ハイパーメガドッズライフルを向けるが、一向にケンプファーアメイジングが何かをする気配はない。

「そう言う事かよ!」

 そこでマシロもメイジンの狙いに気が付いた。
 敢えて、メイジンは馬鹿正直に正面から突撃する事で、何かあると思わせる事が狙いだ。
 マシロの人並外れた目の良さを持ってすれば、ケンプファーアメイジングが動いた瞬間に対応できる。
 それは裏を返せば、動かなかればマシロは距離を詰めるまで待っていてくれると言う事だ。
 尤も、ハイパーメガドッズライフルは大抵のガンプラは一撃で破壊出来るだけの威力を持つ為、それを向けられた状態で正面から突撃する事など正気の沙汰ではないが、マシロの事を良く知るタツヤだからこそ、マシロの戦い方を熟知しているからこそできる事だ。
 メイジンの狙いに気が付いた事でガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルを放った。
 しかし、いずれ気が付かれる事も想定していた事だ。
 ハイパーメガドッズライフルが放たれた瞬間にケンプファーアメイジングは大きく飛び上がって、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの後ろに着地する。

「この動き……」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの背後を取ったケンプファーアメイジングは更に距離を詰める。
 ハイパーメガドッズライフルを掃射しながら、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは強引に振り向こうとする。
 だが、ケンプファーアメイジングは急制動をかけて、ハイパードッズライフルの一撃をかわす。
 そこから更に加速して振り向いた時にはケンプファーアメイジングは完全に懐に入り込んでいた。
 マシロも反応は出来ていたが、重いハイパーメガドッズライフルを強引に振るった事で、それがかわされ隙が生まれている。
 懐に入り込まれ、この位置のケンプファーアメイジングを狙える腰のビームガンを撃つも、ケンプファーアメイジングの装甲を貫く事が出来ない。
 そして、ケンプファーアメイジングはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットにショルダータックルをお見舞いする。
 そのまま、ケンプファーアメイジングはガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットをビルまで押し込んでビルに叩き付ける。

「やったのか?」
「この程度で済めば良いんだがな」
 
 衝撃でビルが倒壊し、瓦礫と土煙でガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの状態を確認する事が出来ない。
 しかし、この程度で倒せるとはメイジンも思っていない。

「フルアサルトジャケットをここまで押せるとか、パワーも相当だな」
「まさか、これ程とは……」
「大した損傷はないか」

 瓦礫の中からガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが姿を現す。
 目立った損傷は無く、傷は殆どない。

「ほんと……予想以上だよ」

 瓦礫から出て来たガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが青白く輝く。

「バーストモードか!」

 それを見た瞬間にケンプファーアメイジングは全力で後退して距離を取り始める。

「カワグチ!」
「逃げるぞ。アラン」

 ガンダム∀GE-1のバーストモードは去年の世界大会を初めとした公式戦では殆ど使っていない。
 公式戦で使ったのは、タツヤと出たタッグバトル大会のみで、非公式戦ではセイとレイジ、マオとバトルした時のみだ。
 その為、バーストモードを知るファイターは少ない。
 だが、タツヤはその力を目の当たりにしている。
 その当時は未完成の欠陥品だが、あれから1年以上も経っている為、マシロも実戦で十分に使えるようにして来ているだろう。
 故にとにかく逃げ延びる事が最優先だ。
 バーストモードが起動し、青白い光は右腕のハイパーメガドッズライフルに集約する。
 
「逃げれるもんなら逃げて見ろよ」

 バーストモードを使ったハイパーメガドッズライフルが放たれる。
 元々の威力が非常に高いハイパーメガドッズライフルだが、バーストモードを使う事でその威力は壮絶な物となっている。
 射線上の構造物を飲み込むと一瞬の内に消滅させる。
 掃射状態のまま、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは砲身を自身を中心に円を描くように動かす。
 一回りする頃には市街地エリアはただの更地となっていた。
 掃射が終わると、その威力に耐え切れずにハイパーメガドッズライフルの銃身は焼きついている。
 使い物にならなくなったハイパーメガドッズライフルはその場に捨てられる。

「倒したの?」
「どうだろうな。流石に仕留めた瞬間は見えないし。だけど……決着をつけるのは今じゃないって事だけは確かだ」

 ケンプファーアメイジングを仕留めたかどうかは、その瞬間を見ていない為、判断は出来ない。
 だが、マシロはそれを確かめる事無く次の獲物を探して荒野を走り出す。
 マシロが離れて少しすると、更地の一部が盛り上がり、そこからケンプファーアメイジングが出て来る。

「行ったようだね」
「向こうの決着をつける気が無くなったようだな」

 本気でここで仕留める気ならば、確実に仕留めたと言う確証を探そうとするはずだ。
 そうなれば、地面に隠れていたケンプファーアメイジングを見つける事は容易だったかも知れない。
 だが、理由は分からないがマシロは確認する事なく立ち去った。
 ここは見逃して貰えたと見るべきなのだろう。

「予想外の事態だったけど、ここで彼とバトルしたデータは今後に役立ちそうだよ。カワグチ」
「メイジンとして、相手をやり過ごすと言う醜態を晒したんだ。そうでなければ困る」

 メイジンカワグチとしては、相手がマシロだろうと正面から勝たねばならないが、最終的な勝利の為に今日のところはやり過ごすと言うメイジンを受け継ぐ者としてはあり得ない選択をした。
 そこまでして、ただ生き延びただけでは釣り合わない。

「分かってる。この戦闘データは研究班の方に回すさ」
「頼む」

 ケンプファーアメイジングはPPSE社のワークスチームが総力を挙げて制作したガンプラだが、あくまでも予選ピリオドを勝ち抜くためのガンプラだ。
 その為、基本性能よりもウェポンバインダーに内蔵する武器の方に重きを置いている。
 そして、現在、ワークスチームの研究班の方で世界大会に出ている他のファイターの情報や各ピリオドごとに送られて来るメイジンのバトルデータを基に決勝トーナメント用の切り札となるガンプラの制作が行われている。
 今回のマシロとのバトルはメイジン達にとっても、生の情報として有効に活用できるだろう。

「カワグチ、君にとっては屈辱かも知れないが、残りの時間は余り動かずに行こう」
「……分かっている。ようやく、彼の背中が見えたんだ。こんなところで終わる訳には行かないからね」

 マシロとのバトルで装備の大半を失ったケンプファーアメイジングの戦闘能力は大きく低下している。
 最後の一撃から逃げる為にかなり無理をさせた事も響いている。
 その為、残りの時間は確実にポイントを稼ぐ為に無理をせずに戦う事になった。







 メイジンとのバトルを終えて、次の獲物を探しながらガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは荒野をホバーで疾走していた。
 メイジンとのバトルで、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは10基の内8基のホルスターを失いハイパーメガドッズライフルを失っている。
 それでも、マシロは獲物を探していた。

「なぁ……あのザク、遠近法とかで大きく見えているって事は無いよな」
「そんな訳ないでしょ」
「だよな。デカいな。メガサイズの奴か」

 視線の先にはザクⅡが見える。
 だが、距離があるのにも関わらずザクⅡが普通のサイズよりも大きい。
 恐らくは一般的にガンプラバトルで使われるHG、1/144スケールの物ではなく1/48スケールのメガサイズのザクⅡなのだろう。

「バトルしてんのは……へぇ。面白い組み合わせだ」

 ザクⅡの周囲には3機のガンプラが確認できた。
 セイとレイジのスタービルドストライク、マオのガンダムX魔王、そして、フェリーニのウイングガンダムフェニーチェだ。
 そして、現在の状況としてはスタービルドストライクが何かをやろうとしているようだ。
 アブソーブシールドの先端のアームをスタービームライフルに接続し、機体の前方にプラフスキーパワーゲートを展開している。
 砲撃形態をとりながらも攻撃しないのは、チャージが完了していないからだろう。
 ガンダムX魔王とウイングガンダムフェニーチェがザクⅡの気をスタービルドストライクから離そうと攻撃しているが、ザクⅡは気にも留めずにザクバズーカをスタービルドストライクに向けている。

「そいつは俺の獲物なんだけどな」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはバックパックのグラストロランチャーを構えて放つ。
 足を狙った一撃は距離もあった為、直撃してもまともなダメージを与える事が出来ないが、ザクⅡの膝をつかせる事は出来た。
 ザクバズーカの攻撃を阻止する事が出来たが、脚部に装備されているミサイルがスタービルドストライクに放たれた。
 3発のミサイルの内、1発はグラストロランチャーの狙撃で破壊し、1発はガンダムX魔王とウイングガンダムフェニーチェのビームで何とか撃ち落す事が出来た。
 しかし、ミサイルは1発残っていた。
 最後の1発がスタービルドストライクに迫るが、とこからともかく投擲された刀がミサイルを貫く。
 ミサイルが全弾、迎撃されてザクⅡはクラッカーをスタービルドストライク目掛けて投げつける。
 基本的には対人用や牽制用の武器ではあるが、ザクⅡがメガサイズと言う事で通常サイズのガンプラに対しては十分に有効な攻撃と言える。
 だが、スタービルドストライクもチャージが終わり、スタービームライフルを放つ。
 砲撃形態をとっているスタービームライフルのビームがプラフスキーパワーゲートを通す事で威力を跳ね上げると同時に散弾のようにザクⅡを襲う。
 これが、スタービルドストライクのディスチャージシステムの一つだ。
 第一ピリオドでは自身の機動力を大幅に向上させるスピードモードだが、今回は砲撃能力を向上させるライフルモードを使っている。

「えげつないな」

 スタービルドストライクの放ったビームの一つ一つが並のガンプラでなくとも一撃で致命傷となり得る威力を持っている上に、散弾による広範囲の攻撃は巨大なメガサイズであるザクⅡには有効な攻撃だ。

「だが、デカいだけあってしぶといな」

 スタービルドストライクの攻撃が止み始めた時にはザクⅡはボロボロだが、完全に戦闘不能には至ってはいない。
 そこに背後からガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがグラストロランチャーを撃ち込む。
 距離を詰めていた事と、スタービルドストライクの砲撃ですでにボロボロだったザクⅡはその攻撃に耐え切れずに倒れて沈黙した。

「さて、前座が終わったところで真打の登場って訳だ」
「最悪だ」

 メガサイズのザクⅡを撃破したところで、マシロは3機のガンプラと対峙する。
 彼らからすれば、ようやくメガサイズのザクⅡを撃破したと言うのに、更に厄介な相手が出て来た。

「お前ら、まだやれるな」
「当然だ。奴には借りもあるしな」
「そうは言っても、この状況じゃ……」

 マシロのガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは何があったのか、かなりボロボロになっている。
 絶対的な力を持つマシロに黒星をつけるなら、今が最高の好機と言えるが、フェリーニ達も無事ではない。
 スタービルドストライクは通常戦闘は可能だが、アブソーブシールドの一部が損傷している為、ビームの吸収が出来ず、ディスチャージはすでに使っている。
 ガンダムX魔王はハイパーサテライトキャノンを失っている。
 ウイングガンダムフェニーチェもバスターライフルの残弾が尽きている。
 3対1で戦うとしても、数の有利以外ではマシロに対して有利に働く物がない。
 だが、ここが好機であるのも事実だ。
 ここを逃してしまえば、次にいつ好機が巡って来るか分からない。
 
「レイジ! 上から何か来る!」

 4機のガンプラが対峙する中、周囲を警戒していたセイが叫ぶ。
 そして、大気圏を突入してキュベレイパピヨンがガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの前に下りて来た。

「あのキュベレイ……」
「おいおい。勘弁してくれよな」

 キュベレイパピヨンの事はフィンランド予選でカイザーを倒して世界大会に出て来たアイラのガンプラであると言う事はすでに周知の事実だ。
 そして、そのアイラがマシロと同じチームネメシスに所属していることもだ。
 
「加勢に来たわ」

 状況的にアイラは第三勢力としてではなく、マシロに見方するだろう。
 キュベレイパピヨンは他の4機とは違い無傷だ。
 数に上では3対2と優位に立っているが、キュベレイパピヨン無傷である以上、数の優位に意味はない。
 去年の世界大会ではマシロはチーム戦では完全にスタンドプレーで勝利しているが、去年とは違い、アイラは同じチームで尚且つ、カイザーを倒すだけの実力者だ。
 そんな二人が連携を取れば確実に勝ち目はない。
 いよいよ、本気で撤退を考えなければならない時が来る。
 この場を何とか逃げ切る事が出来ればいずれは万全の状態でバトルする事が出来る時が来るかも知れない。
 勝ち目のない今よりも、万全の状態で戦える時に賭けた方が賢明な判断でもある。
 だが、敵を前に逃げると言う選択を取るのも癪だ。
 しかし、負けると分かって挑むと言うのも愚かな選択でもある。
 アイラも出方を窺っている為、戦いは完全に膠着状態に突入しようとしていたが、最初に動いたのはマシロだった。

「はぁ?」
「レイコが伝えた筈だがな。自分以外は全て敵、見つけ次第、即殲滅って」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはドッズランサーを突き出した。
 その一撃は正確にキュベレイパピヨンを背中から串刺しにした。
 誰もが全く予想もしていない出来事にアイラも人前に出る時のキャラを忘れて素の声を出してしまう。

「まずは一人だ」
「てめぇ! そいつは仲間じゃないのかよ!」

 キュベレイパピヨンを後ろから仕留めた事でレイジが怒りの声を上げる。
 
「確かに同じチームだが、第二ピリオドは全員敵のバトルロイヤル。別に俺はこいつを組んだ訳ではないからな。敵に背を向けて棒立ちになったコイツが悪い」

 レイジ達だけではなく、アイラやレイコですらも、マシロとアイラは手を組む事が当たり前だと思っていたが、マシロは別にアイラと手を組んだ覚えはない。
 同じチームに所属している為、情報の共有などを行う事があるが、第二ピリオドはチーム戦と言う訳でもない。
 マシロは始めからアイラともガウェインとも共闘する気は毛頭なく、出会ったガンプラは全て敵としていた。
 故に、マシロに背を向けて警戒していないアイラは恰好の的だった。
 キュベレイパピヨンからドッズランサーを貫くとキュベレイパピヨンは膝から崩れ落ちて倒れた。

「次はどいつが相手をしてくれるんだ?」
「上等だ!」

 スタービルドストライクがスタービームライフルをガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットに向ける。
 だが、スタービルドストライクがガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを攻撃する前にバトル終了のアナウンスが入る。
 どうやら、アイラのキュレベイパピヨンが倒された時点で残り30機となったらしい。

「は? ちょ……ふざけんなよ! これからいいところなんだよ!」

 バトルの終了するが、マシロは運営に抗議する。
 第一ピリオドで目を付けていたセイとレイジのスタービルドストライクとバトルしようと言う所で第二ピリオドが終了したのだ、マシロも納得が行かない。
 運営に抗議するも、ルールで決まっている以上は覆す事が出来ない。
 それでも、納得が行かない様子のマシロは世界大会とは関係なしにセイとレイジにバトルを挑みそうな勢いだった為、レイコに頼まれたアイラとバルトによって強制的に連行されていく。
 こうして、世界大会2日目の第二ピリオド、バトルロイヤルが終了した。



[39576] Battle42 「スポーツバトル」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/09/23 11:39
 世界大会2日目のバトルロイヤルが終わった時点で、100人の出場者の中でも決勝トーナメントに進める見込みがあるかないかが出始めている。
 第1、第2ピリオドの両方を勝ったファイターはまだ可能性はあるが、この時点で両方を落としたファイターは決勝トーナメントに進む事は絶望的となっている。
 片方を落としたファイターは今後の勝敗が運命を分ける事になる。
 第2ピリオドは全員参加と言う事もあって、終わる時間は早く、バトルが終了しても時間は遅くはならない。
 複数回行われるバトルなら自分の出番が終われば、他のファイターの情報収集に費やす事も出来るが、バトルロイヤルではそうもいかない。
 第2ピリオドを勝ち抜いたマシロは、選手村を歩いていた。
 その頬は赤く腫れている。
 運営に抗議仕掛けて、強制的に下がらされた後に、マシロはアイラにぶん殴られている。
 マシロに何度も振り回されて来て、ある程度は耐性が付いたものの、チーム内で何だかんだで一番信頼を置いているマシロに後ろから攻撃された怒りは相当な物だっただろう。
 尤も、マシロの方はアイラがそこまで切れている理由は見当も付かなかった。
 マシロからすれば、敵を背を向けて無防備になっているアイラが悪く、敵に無防備を晒すと言う失態を犯した自分に怒りを覚えるならともかく、隙を見せた敵を倒した自分に怒りを向けられる理由として考えられるのはやられた事に対する八つ当たりくらいしかない。
 今まで散々、アイラはマシロに負けている為、今更自分の致命的なミスによる敗北で八つ当たりをする事は考え難かった。

「訳が分からん」

 根本的な部分でズレている為、幾ら考えても答えが出る訳が無い。
 見当違いな事を考えていると、ありすとすれ違う。
 互いに見向きもしないが、すれ違い立ち止まる。

「何でお前がここにいる」

 互いに振り向く事は無い。
 
「ユキト兄さんの指示。それ以上は知らないわ」
「兄貴の?」

 ありすは普段とは違い高揚感のない淡々とした口調で話す。
 元々、ありすが世界大会に出場しているのはテレビのドキュメンタリーを撮影する為だ。
 だが、どうやら、その裏ではユキトが絡んでいるらしい。
 ユキトが何を考えているかは、マシロには想像もつかないが、自分の領域に勝手に入って来られるのは面白くはない。

「相変わらず兄貴の人形なんだな。お前」
「兄さんの犬に言われたくはないわ」

 振り向く事も無く、話しが進むにつれて二人の間に険悪な空気が漂う。

「自分がない人形よりかは犬の方がマシだ」
「こんな人形遊びしか能のない犬に何の価値があるのかしらね」
「それでも自分で操っているだけ、操られるしかない人形よりかはマシだ」

 次第に空気が悪化し、一触即発になりかけていく。

「マシロ、止めなさい。ありすも」

 そんな中、マシロを探しに来たレイコが仲裁に入る。
 だが、マシロもありすも簡単に引く気は無い。

「ありすも、こんなところを誰かに見られたらどうするの?」

 ありすは妹系アイドルとして世界的に人気となっている。
 表向きは甘えん坊で子供っぽいと言う事になっている為、誰かに見られでもしたら大問題となる。

「そんなに怒らないでよぉ」

 ありすはさっきまでとは一変して、アイドルの顔になる。
 そんなありすを見てマシロは心底、嫌そうな表情をするが、レイコは肘で突いてそっぽを向く。

「私も負けないからね。お兄ちゃん」

 ありすはそう言い残して去って行く。
 ありすが見えなくなって、レイコは一息つく。

「何やってんの! あの子を挑発して、本当に潰されるわよ!」
「レイコと言い、他の奴らと言い。そんなにアイツの事が怖いかね」

 クロガミ一族の兄弟の中でマシロだけが、ありすと険悪な関係で他は良好な関係だと言うのが表向きの兄弟たちの関係だ。
 だが、実際のところ大半の兄弟たちはありすの事を恐れていた。
 恐れるが故に可愛がって、ありすの機嫌を取っているに過ぎない。

「マシロだって知っているでしょ? あの子は……」
「母さんに何度も自慢されたから俺が一番知ってる。サチコがスーパーコーディネイターを超える究極のコーディネイターって事はさ。けど、それが何だよ」

 ありすの出生の秘密、それはマシロ達の母であるユキネが自分とキヨタカの遺伝子を使って人工的に生み出された命であると言う事だ。
 更にはユキネがその際に遺伝子を徹底的に弄っている。
 その結果として、ありすはあらゆる分野で天才を超える才能を持っている。
 見た目は可愛らしい少女だが、その気になれば数日で武術の達人になる事も天才科学者となる事も出来る。
 だからこそ、兄弟たちはありすを恐れていた。
 ありすがアイドルをしているのは一族の中でも芸能関係、特にアイドル方面で活躍が少ない為、ユキトの指示で年齢や容姿がアイドルをやるのに丁度良い事もあってアイドル活動をやらされているに過ぎない。
 その為、下手にありすの機嫌を損ねると、自分の分野で自分以上の成果を出して潰されると言う事を恐れている。
 兄弟でユキトとありす以外はキヨタカとユキネの血を引いていない為、結果を残し続ける事でしか、クロガミ一族の名を名乗る事が出来ない。
 一族の名を名乗る事が出来る限りは、一族から様々な恩恵を受けられる為、それ手放したくないと言うのは当然だ。

「けど、コーディネイターつっても人間だろ? ガンプラバトルなら俺は誰にも負けない」

 兄弟たちがありすを恐れているが、マシロからすれば気にする程ではない。
 他の分野なら並以下だが、ガンプラバトルにおいてマシロは自分が最強だと一切の疑いを持ってはいない。
 そこに根拠がある訳ではない。
 ただ、自分が最強だと確信している。

「とにかく、あの子の事を下手に刺激しない事! 良いわね!」
「約束は出来ない。俺、アイツの事嫌いだし。けど、俺の前に立ちはだかるなら誰であろうと倒す」

 レイコはありすを刺激して、本気でマシロを潰しに来る事を恐れている。
 今年の世界大会で優勝させなければ、ユキトからどんな制裁を受けるか分からない。
 その為には、ありすと正面切ってぶつかる事は絶対に避けたい。

「あんな自分すら持ってない奴に俺は負けない」

 ありすは常にユキトの指示で動いている。
 一族の長であるユキトの指示は絶対だが、マシロを含む兄弟たちとは決定的に違う事が一つだけあった。
 マシロ達は自分達の意志で今の分野に進み才能を開花させて活躍している。
 しかし、ありすに限り、自分でアイドルと言う道を選んだ訳でも無く、ユキトの指示でアイドルをしている。
 そこにマシロがありすを嫌う原因もあった。
 マシロにはファイターとしての素質の他には並以下の能力しかない。
 その為、自分の意志ではあったが、ファイターとしても道にしか進む事が出来なかった。
 だが、ありすは望めばどんな分野でも才能を発揮して、活躍する事が出来る。
 にも関わらず、ありすは自分で望む事も無く、ユキトの意志と指示で動くまさに人形に甘んじている。
 何にでもなれる才能を持ちながら、自分では何にもならないからこそ、マシロはありすを嫌っていた。

「……好きにしなさい。場合によってはユキト兄さんに何とかして貰うから」
「勝手にしろ。それで俺に用があって探してたんだろ?」
「さっき、次の第3ピリオドの種目が公表されたわ。これからミーティングよ」
「……アイラの奴は?」

 第3ピリオドの種目も気になるが、アイラの機嫌も問題だった。
 アイラが自分に対して怒る理由が見当たらない以上、アイラの怒りを抑えるのは難しい。
 謝るとしても、謝る理由に心当たりが無い為、謝りようがない。

「大丈夫よ。彼女は出かけたみたい。帰りはいつになるか分からないわ」
「分かった。さっさと済ませよう」

 取りあえずはアイラが出かけている様だ。
 ミーティングと言っても、チーム全体でやる必要もない。
 先にミーティングを済ませても問題はない。
 アイラがいないと知り、マシロはすぐに明日に備える為のミーティングに戻った。








 第3ピリオドのバトル内容はスポーツ対決だ。
 第1、第2ピリオドと規模は違えど乱戦系のバトルだった為、第3ピリオドはバトル系ではなく競技系の種目が選ばれた。
 バトル内容は各ファイターがそれぞれ、ランダムに対戦相手と競技スポーツが選ばれる。
 ガンプラに制限はないが、固定武装でパーツ単位で交換しなければならない場合を除き、武装の装備は禁止で固定装備の使用も禁止されている。
 
「お前の不敗神話も今日限りで終わりだ。マシロ!」
「お前も運がないな。ガウェイン」

 第3ピリオドにおいて、マシロとガウェインは対峙していた。
 互いが第3ピリオドの対戦相手となっていた。
 マシロはここまで2つとも勝って来たが、ガウェインは第1ピリオドでありすに負けている。
 第2ピリオドは危なげなく勝ちぬいているが、1つ落としている為、後1つ落としてしまうと決勝トーナメントが一気に遠のいてしまう。
 そんな中、マシロと当たるのは運がないとしか言いようがないが、ガウェインにはマシロに勝つだけの自信があった。

「幾ら、お前がバトルの腕が化物だろうと攻撃が禁止されているこの状況で、俺の鉄壁の守りを貫く事など物理的に不可能!」

 二人の種目はPKであった。
 PKのように攻撃を守り別れて戦う競技の場合は、運営側がランダムに指定した方のみで行われる。
 競技によっては確実に有利不利が出て来る為、一部からは攻守の交代がない事を疑問視する声が挙げられたが、運営側はそれも含めてファイターの腕の見せ所だとしている。
 そして、マシロがキッカーでガウェインがキーパーだ。
 その為、マシロの方が有利ではあるが、ガウェインの絶対的な自信は自分の使っているガンプラにある。
 ガウェインの愛機であるデビルガンダムは通常のガンプラよりも大型で、ゴールは通常サイズのガンプラの大きさに合わせてある。
 それにより、デビルガンダムが完全にゴールを塞ぐ形となり、どうやっても、ボールをゴールに入れるのは物理的に不可能だ。

「どんな通り、俺の必殺シュートでこじ開けるさ」

 巨体のデビルガンダムを前に、マシロはいつも通り自分の勝利を確信していた。
 今回の装備は身軽に動けるセブンスソードだ。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはボールを垂直に蹴り上げた。
 そして、自身のスラスターを最大出力で使って蹴り上げたボールを追いかける。
 ボールを追い越して、十分に勢いをつけてガンダム∀GE-1 セブンスソードはデビルガンダムが守るゴールを目がけて思い切り蹴った。
 ボールはとんでもない勢いのまま、デビルガンダムに一直線に飛んでいく。
 完全にゴールを塞いでいる為、ガウェインは余裕の表情を崩さないが、ボールがデビルガンダムに当たるとそれは起きた。
 勢いよく回転が加えられたボールはデビルガンダムを抉り、そして、デビルガンダムを貫いてゴールのネットを揺らした。

「そんなのアリかよ!」
「アリに決まってんだろ。大体、俺がガンプラでサッカーをするんだ。それが普通の次元な訳が無い。いわば、新たな次元のサッカー、超次元サッカーとでも言っておこうか。そして、超次元サッカーにおいてキーパーをぶっ飛ばしてゴールを決めるなんて事は当たり前の事だ」

 完全に塞いだゴールにボールを決める為にキーパーに風穴を開けるなど、聞いた事は無いが、運営側から何も言わない以上、バトルは成立している。
 第3ピリオドのルールでも武器を使う事は禁止されているが、ボールを使う競技で相手のボールをぶつける行為そのものは攻撃とは見なされないとある。
 つまりは、ガウェインが何を言おうとも、マシロの勝利を覆す事は出来なかった。




 

 第3ピリオドを難なく勝ち抜いたマシロはチームのトレーラーに戻って来た。
 トレーラーには大型のテレビがある為、他のファイターのバトルを観戦する為だ。
 トレーラーに入るとすでにアイラがバトルを終えて戻って来ていた。
 マシロはソファーに座るとアイラはマシロとの距離を取って座る。
 
「今日のバトルはどうだったんだよ」

 明らかに避けられているが、マシロはアイラの結果を聞いた。
 アイラとは開始時間が近い為、バトルの様子はリアルタイムで見る事は出来なかった。

「誰かさんのせいで負ける事が出来なくなりましたから、勝ちましたとも。それも速攻で」

 アイラはマシロと視線を合わせる事無く、明らかに棘の含んだ言い方をする。
 アイラの種目はテニスで最初のリターンで相手にボールをぶつけて戦闘不能にして勝って来ている。
 
「ハァ……取りあえず機嫌を直せって」
「別に機嫌が悪いと言う事はありませんが?」
「……分かった。俺が悪かった。今度、メシでも奢ってやる。それもこの国の名物でもある寿司をだ」

 アイラが怒った理由は分からないが、取りあえず謝る事にした。
 そして、アイラが寿司を奢ると言った時に微妙に反応した事をマシロの人並外れた目は見逃さなかった。

「それもただの寿司じゃなくて回転寿司とやらだ」
「……普通のとどう違うのよ?」

 アイラが多少なりとも食いついて来た為、この話題なら行けるとマシロは確信した。

「俺も食べる時は回ってない奴しか食べた事は無いが、ドッズライフルもビームを螺旋状に回転させる事で貫通力を高めているからな。寿司も回転させる事で何か上手くなるんだろう」

 マシロが寿司を食べる時は板前を呼び寄せている為、回転寿司を食べた事が無い。
 故に自分の中の知識として、そう考えるが実際はマシロが普段から食べている寿司は10年以上も修行を行って店を構えている一流の職人による物で、マシロが言う回転寿司が一般家庭でも気軽に食べられる物だと言う事はアイラは気づいていない。
 
「……しょうがないわね。マシロがどーしてもって言うなら、許してあげるわよ。でも、次に同じ事をしたら絶対に許さないから。後、回転寿司とやらにも連れてって貰うから」
「分かった。分かった。時間があるときにな」

 一先ず、アイラの機嫌は直ったようだ。
 そして、マシロは約束を時間がある時としておいた。

「次はメイジンか……」

 モニターにはメイジンのバトルの様だ。
 メイジンの種目は水泳で対戦相手のガンプラはズゴック。
 ズゴックは水陸両用モビルスーツである為、水中では有利に思われた。
 だが、メイジンのケンプファーアメイジングは水中とは思えないスピードでズゴックを振り切って勝利した。

「水中でケンプファーに負けるとかジオン水泳部も形無しだな」

 口では軽口を言う物の、作中設定において水中戦に対応していないガンプラでは水中ステージでの機動力は大きく低下する。
 だが、ケンプファーアメイジングは水中でも以前に戦った時と大して変わらない機動力を発揮している。
 これはケンプファーアメイジングが水中でも十分に戦えると言う事だ。
 ステージの特性上、どうしても動きが鈍る水中はマシロが最も苦手とするステージでもある。

「次はアイツらか……それにしても運ないな」

 テレビにはセイとレイジが映されている。
 横でアイラが心配そうに見ている事にマシロは気が付いていない。
 対峙しているファイターはタイ代表のルワン・ダラーラで種目は野球。
 ルワンのアビゴルバインが刺付きのバットを構え、セイとレイジのスタービルドストライクがグローブとボール型のボールを持っている。
 スタービルドストライクがボールを投げると、アビゴルバインはあっさりと打ち返した。
 ボールはファールだったが、勢いが付き過ぎてバトルシステムを飛び出して観客席まで届いていた。

「怪我でもしてんのか?」
 
 スタービルドストライクの一投目を見た感想がそれだ。
 今の一投はこの手の競技に慣れていないと言う事以上にいつものキレがなかった。
 動きからガンプラの方に問題がある訳ではないとしたら、ファイターの方の問題だろう。
 マシロの怪我と言う言葉にアイラは反応するも、マシロは気づいていない。

「勝てるの?」
「さぁな。怪我している上に競技と相手が悪い」
「そんなに凄いの?」
「ルワンは元プロの野球選手だからな。競技は相手の方が熟知しているからな」

 世界大会に出場しているファイターの大半は興味が無く、バトルする時にデータを把握すれば良い程度の相手だが、一部はそうもいかない。
 ルワンもその中の一人だ。
 去年の世界大会においても決勝トーナメントでマシロはルワンと当たっている。
 単純なファイターとしての実力は世界大会常連と言われているだけあって戦った。
 アビゴルバインのパワーは世界トップクラスである為、バトルした際に正面からぶつかり合うのは勝算が低いと判断して、徹底的にアビゴルバインのパワーを封じて完封した。
 その際にルワンの情報は頭に入っている。
 ルワンは元タイ代表の野球選手である為、野球に関しては二人よりも経験豊富と言うアドバンテージを持つ事になる。

「それに野球ってのは圧倒的に打者が有利なスポーツだからな。投手は一度投げてしまえば、ボールをコントロールする術はないが、打者は投手が投げてから捕手が取るまでにボールの回転や球種、軌道とかを把握する時間があるから、後はタイミングを合わせてバットを振るえば確実に打つ事が出来る。その上、投手は投げる場所は制限されている上に打者は最低でも2回はボールを見る機会がある」

 アイラもそこまで野球に詳しくない為、納得する。
 尤も、誰もがそんな事が出来る訳でも無い。
 投手が投げて捕手が取るまでの時間にそこまで見れるのは早々出来ない。
 それでも出来ると思っているのは自分が出来るからだ。
 常人離れしたマシロの目ならプロの選手が投げたボールを瞬時に見切り、タイミングを合わせる事は容易に出来る。
 だが、出来るのもそこまでだ。
 幾ら見切ったとしても、マシロの身体能力ではタイミングが分かっていようともバットを当てる事は出来ず、仮に奇跡的に当たったとしても前に飛ばす事も出来ないだろう。

「アイツ等に勝機があるとすれば、ルワンの打率が9割程度と大した事がないと言う事か……」

 マシロからすれば、野球は打者の方が圧倒的に有利なスポーツだ。
 それでもルワンの生涯打率は約9割となっている。
 10回に1回は打てないと言う事で、大したことはないと思っているが、実際のところプロの選手の平均的な打率が約3割だと言う事を考えるとルワンの打率は化物じみている。
 そして、スタービルドストライクの二投目をアビゴルバインは軽々と打ち返した。
 今度は観客席まで飛ばず、スタービルドストライクの正面だった。
 打球をスタービルドストライクはグローブで取るも、ボールごとスタービルドストライクの左腕が引き取んだ。
 これでボールを落としていれば、ルワンの勝利で取っていればセイとレイジの勝利となるも、ボールは衝撃で跡形もない。
 その為、試合は継続するようだ。

「怪我に対戦相手と種目に恵まれない……何者かの意志すら感じる。まるで、俺と同じステージに立つ為の試練の様だ」

 レイジの怪我に元プロ野球選手を相手に野球で勝負。
 二人に偶然で片付けるには余りある不運が連続している。
 それは、この窮地を乗り切る事がセイとレイジが自分の前に立つだけの資格があるかを試しているようだ。
 
「俺の前に立つに相応しいファイターであるなら勝って見せろ」

 カウントではルワンを追い込んでいる物の、状況は圧倒的に二人の方が不利だ。
 この2球でルワンも球筋を把握している。
 普通に投げたところで勝ち目はない。
 すると、スタービルドストライクが青白く発光する。

「これは……あれか……いや粒子の放出量が違う。まだ隠し玉があったのか」

 始めは粒子を大量に放出するディスチャージシステムかと思ったが、粒子を放出していない。
 光はスタービルドストライクの右腕に集まって行く。

「何だ?」
「多分……粒子を中に向けてるんだと思うけど……」
「内部フレームに粒子を……(コイツ……粒子が見えているのか)」

 ディスチャージシステムのようにマシロでも肉眼で粒子が見える訳ではないが、元から粒子を肉眼で見えるアイラにはスタービルドストライクが粒子を内部に集めていると言うのが見えていた。
 同時にマシロはアイラが粒子を見えていると言う事にも気づいた。
 ディスチャージシステムが外部に粒子を放出するシステムなら、RGシステムは内部に粒子を浸透させる事で機体の性能を底上げさせるスタービルドストライク第三のシステムだ。

「恐らくは機体強化系のシステムだろうが、使う粒子量から推測しても強化されるのは大した事は無いか」

 圧倒的な粒子を放出する事で爆発的な威力を発揮するディスチャージシステムに対して、RGシステムは使う粒子量が少ない。
 その為、ディスチャージシステムのようにアブソーブシステムと併用する必要はないが、その分、爆発力に欠ける上に内部に粒子を浸透させている分、放出させているディスチャージシステムよりも内部フレームにかかる負荷は大きい。
 尤も、使う粒子量が少ない上に、放出せず内部に浸透させている為、ディスチャージシステムよりも長時間安定して使える。
 汎用性を重視し、高い基本性能に加えて、アブソーブシールドによるビームへの圧倒的な防御力、ディスチャージシステムによる圧倒的な攻撃にRGシステムによる基本性能の向上させると言うのがセイの考えたスタービルドストライクだった。
 ある分野に特化させたマシロのガンダム∀GE-1が究極の特化機であるなら、スタービルドストライクはあらゆる分野で圧倒的な力を発揮できる究極の汎用機だ。
 しかし、ギリギリの接戦で使えば、流れを変える事が出来るが、この場面で使ったところでそこまでの効果はない為、RGシステムを使ったのは少しでも勝率を上げる為の苦肉の策だろう。

「後は執念だ。どちらがより勝利を望むかと言うな。こういう真向勝負の場合、勝利への執念が意外と勝利に影響して来る事が多いからな」

 RGシステムを使ったところでルワンの有利に変わりはない。
 だが、勝利への執念は戦局を変えうる力を持っている。
 この場面で新たなシステムを見せてまで勝とうとしている二人はそれ程、勝利への執念が強い。
 そして、運命の三投目が投げられた。
 何の戦略性もないど真ん中のストレートに対して、ルワンはいとも簡単にバットで捉える事が出来た。
 後はそれを振り抜いてスタンドにボールを運ぶだけだった。
 しかし、ルワンのアビゴルバインはバットを振り抜く事が出来ずにいた。
 RGシステムを右腕に集中させての渾身の一投は今までの二球とは比べものにならない程の重みだ。
 その重みこそはセイとレイジの勝利に賭ける執念なのだろう。
 ボールをバットに当てた物の、振り切る事が出来ずにアビゴルバインは遂にボールの勢いに負けて後ろまで吹き飛ばされた。
 後方のフェンスにアビゴルバインは叩き付けられる。
 
「それでこそだ」

 それにより試合の勝敗はセイとレイジの勝利となる。
 劇的な勝利に観客たちの歓声が沸きあがる。
 圧倒的に不利な状況からの勝利にマシロも満足げで、隣のアイラも胸をなでおろしている。
 試合終了後はスポーツらしく、セイとレイジはルワンと熱い握手を交わして第3ピリオドを勝ち抜いた。




[39576] Battle43 「ガンプラレース」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/09/27 20:46
 4日目の第4ピリオドは1対1のバトルだが、特殊ルールとして運営側が用意した武器以外の使用は禁止されている。
 使う武器はクジで決まる為、使い勝手のいい武器を引き当てる運とどんな武器でも使いこなせる技術が必要とされる。

「こいつで一刀両断にしてやるよ!」

 マシロの対戦相手のガンプラ、クロスボーンガンダムX3が引き当てた武器であるアロンダイトを構える。
 相手のファイターは攻撃力の高い武器を引き当てた事で、優勢になった気になっていたが、すぐに固まる。

「残念」

 マシロの引き当てた武器はジャイアントガトリングガンを構えていた。
 クロスボーンガンダムX3のアロンダイトとジャイアントガトリングガンでは間合いが圧倒的に違う。
 クロスボーンガンダムX3はアロンダイトの威力を発揮する事無く、ジャイアントガトリングガンで蜂の巣にされて終わった。


 5日目の第5ピリオドは殲滅バトルだ。
 各ファイターは迫り来る1000機のガガを制限時間内に何機撃墜出来るかを競う。
 また、ガガの特攻による自壊は撃墜数にカウントされず、尚且つ、制限時間が来るまに戦闘不能となれば撃墜数が0となる。
 半数の500になるとガガは一斉にトランザムを使う為、第5ピリオドで大半のファイターはポイントを獲得できないファイターが続出していた。

「殲滅戦とは俺の∀GE-1の為にあるルールじゃないか」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはハイパーメガドッズライフルを構える。

「一機残らず殲滅してやるよ!」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはバーストモードを起動する。
 バーストモードにより威力が向上した、ハイパーメガドッズライフルが迫り来るガガに放たれた。
 元から高い威力の上に強化されて圧倒的な威力となったビームが射線上のガガを一掃して行く。
 ビームを掃射しながらガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは向きを変えて、瞬く間に1000機のガガを一機も残さずに殲滅した。

 6日目の第6ピリオドは3対3のチーム戦だ。 
 チーム分けによってはマシロを倒せるかも知れないと言う希望を持ったファイターも少なくなかったが、そんな希望は完全に打ち砕かれた。
 マシロとチームを組む事となったファイターはメイジンとアイラの2人だ。
 今年の優勝候補の本命であるマシロとメイジンに加えて、カイザーを破って出場しているアイラの組み合わせとなり、相手には同情と同時に優勝候補を一手に受け付けてくれた事に感謝された。
 そんな3人の対戦相手のガンプラは∀ガンダム、Hi-νガンダム、ゴッドガンダムの3機だ。
 バトルが開始されると、キュベレイパピヨンがファンネルを展開し、ガンダム∀GE-1 セブンスソードが突っ込む。
 ファンネルを∀ガンダムがビームライフルで応戦していると、ガンダム∀GE-1 セブンスソードがCソードで切りかかる。
 ∀ガンダムがシールドで受け止めるも、Cソードにシールドは真っ二つに切り裂かれた。
 とっさにシールドを捨てて後退していた為、本体へのダメージは無かったが、∀ガンダムのファイターの注意がガンダム∀GE-1 セブンスソードの方に向いていた為、ケンプファーアメイジングがアメイジングロングライフルで狙撃し、撃墜された。

「ちっ」

 ∀ガンダムを仕留め損ねたガンダム∀GE-1 セブンスソードはフィンファンネルを使ってキュベレイパピヨンのファンネルと相手をしていたHi-νガンダムの方に向かう。

「邪魔」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはファンネルを蹴って、フィンファンネルにぶつける。
 そして、Hi-νガンダムにCソードで切りかかるが、HI-νガンダムは回避してバルカンで牽制する。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルでフィンファンネルを撃墜しながら、Hi-νガンダムを攻撃する。
 Hi-νガンダムはビームを回避しながらビームライフルを向けるが、ケンプファーアメイジングの狙撃でビームライフルが破壊され、ファンネルの集中砲火で撃墜された。

「またかよ!」

 2機目も撃墜し損ねていると、ガンダム∀GE-1 セブンスソードの背後にゴッドガンダムが回り込んでいた。

「せめてお前だけでも!」
「見え見えなんだよ」

 背後のゴッドガンダムはゴッドフィンガーを繰り出すも、マシロは背後に回り込んでいた事は気づいていた。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはシールドからビームサーベルを展開する。
 ゴッドガンダムがゴッドフィンガーでガンダム∀GE-1 セブンスソードを攻撃するよりも早く、ケンプファーアメイジングがゴッドガンダムの右手を狙撃した。

「余計な事を」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは、振り向きざまにゴッドガンダムをシールドのビームサーベルで一刀両断して撃破した。






 6日目の第6ピリオドが終わり、ネメシスでもミーティングが行われている。
 チームと言ってもホテルのマシロの部屋で、マシロとレイコの二人だけしかいない。
 ここまで来ると決勝トーナメントの事も念頭に入れる為、決勝トーナメントに出場する可能性のある、アイラやフラナ機関関係者にこちらの情報を少しでも与えない為だ。

「6日目が終わり、マシロが全勝でアイラさんが5勝と言う結果となっている訳だけど」

 この時点でマシロは全てのピリオドで勝利し、アイラもマシロに背後から攻撃を受けた第2ピリオド以外は全て勝っている。
 ガウェインは第1ピリオドのバトルと第3ピリオドのスポーツで敗北し、第5ピリオドでガガを捌き切れずに戦闘不能となり、ポイントを取り損ねている。
 3つ落とした時点で、ガウェインの決勝トーナメントへの出場は絶望的となった。

「現時点でマシロと同じ全勝でここまで来ているファイターはマシロと同じ特別枠のメイジンカワグチ、アメリカ代表のニルス・ニールセン。イタリア代表のリカルド・フェリーニ。アルゼンチン代表のレナード兄弟。日本代表からは、イオリ・セイ、レイジ組、ヤサカ・マオ、タチバナ・アオイとマシロを含めて8組みね」

 6回も異なるルールでバトルを行えばどこかで負ける可能性は高いがマシロを含む8人のファイターは一度も負けずにここまで勝ち抜いて来ている。
 優勝候補であるマシロとメイジンは驚く程ではないが、8人の中で半分が今年初めての出場となる。
 セイ、レイジ組もレイジの怪我があったが、レイジがギリギリのところで踏ん張って何とか勝ち抜いて来た。

「それを追うのがフィンランド代表のアイラさんに、フランス代表のシシドウ・エリカ。日本代表のアンドウ・コウスケ、ありす。タイ代表のルワン・ダラーラ、イギリス代表のジョン・エアーズ・マッケンジーの6組みの計14組が今のところの決勝トーナメント進出の本命ね」
「今年の日本勢は優秀だな。全員が決勝トーナメントに手が届く位置にいる」

 日本は参加枠が最も多い5つだが、だからと言って毎年のように成績を残す訳でも無い。
 だが、今年は日本の出場枠から出場した5人が決勝トーナメントに出場する可能性がある。
 その中でもセイ、レイジ組、マオ、アオイは全勝している。
 エリカは第4ピリオドで使い慣れない武器を引き当てて敗北し、コウスケは第3ピリオドでルールもまともに知らないマイナーな競技をする事となり敗北、ありすは第5ピリオドで敗北している。
 尤も、マシロの見立てではありすは第5ピリオドで適当なところでやられているように見えた。

「全勝組は明日の第7ピリオドで勝てば決勝トーナメント進出が確定するわ」
「負ければ崖っぷちだけどな」

 マシロを含む8組みは明日の第7ピリオドで勝てば、第8ピリオドを待たずに決勝トーナメント進出が確定する。
 だが、そこで落としてしまえば、第8ピリオドで負ける訳には行かなくなる。
 現在、全勝組と一敗組は14組、決勝トーナメントに進めるのは上位16組だ。
 一敗組の後には二敗組が多数残されている。
 全勝組が残り2つを落とすか、一敗組がどちらか1つを落とした場合、残りの椅子を二敗組と争わねばならない。
 特に全勝組はここまで順当に勝ち進んでいる分、この局面での一敗は第8ピリオドにも影響しかねない重要な一戦となる。
 その為、全勝組にとっても明日の第7ピリオドは最後の第8ピリオド以上に大事なバトルだ。

「明日の第7ピリオドの種目が発表されているわ。種目はレース」
「俺向きな種目じゃないか」

 すでに大会運営から第7ピリオドの種目がレースだと発表されている。
 決勝トーナメント行きの重要な場面で、速さを競うレールはマシロにとっては好都合だ。
 マシロのガンダム∀GE-1 セブンスソードは格闘戦だけでなく、機動力も重視している。
 並のガンプラでは、高速飛行形態に変形したとしても、スピードでは敵わないだろう。

「使用ガンプラや装備の規定は無し」
「何でもありか。本当に俺向きな種目をここで持って来たな」

 第7ピリオドではガンプラや装備は特に規定されていなかった。
 つまりは、機動力に特化したガンプラだけでなく、武装をする事で他のファイターを妨害する事も許可されていると言う事だ。
 細かいルールが指定されていれば、それに従わないといけないが、好きにやっていいのであれば、マシロは好き勝手に出来る。

「そうね。だけど、油断はしないでよ」
「俺が負けるとかありえないな」

 マシロは相変わらずの自信だが、今回は普通のバトルではなくレースだ。
 スピードには自信があると言っても、相手を倒すのでなく、いち早くゴールに辿りつかなくてはならない。
 このルールなら直接バトルをする必要が無い為、十分にマシロに勝つ事も出来る。
 重要な一戦でマシロが無茶苦茶な事をやり出して、足元を掬われない事をレイコは願った。






 7日目の第7ピリオドが各スタジアムで開始している。
 終盤と言う事もあり、確実に勝とうと躍起になるファイターやすでに決勝トーナメントに進む事が出来ない事が確定し、明らかにやる気が見られないファイター、どうせ、決勝トーナメントに進めないのであれば、せめて決勝トーナメントに進める可能性のあるファイターを妨害するなど、各ファイターによってレースに対する姿勢が違う。
 マシロのレースの出番となり、バトルシステムにガンプラを置く。
 今回は陸上での機動力の高いフルアサルトグランサではなく、セブンスソードでレースに挑む。
 レース開始のシグナルと同時にガンダム∀GE-1 セブンスソードは隣のスターゲイザーをCソードで切り裂いて破壊する。
 武装が許可されている時点で他のファイターを攻撃して妨害する事は予想され、すでに終わったレースでも行われているが、レース開始直後から潰しにかかる事は無かった為、他のファイターの間でも動揺が広がっている。
 スターゲイザーを破壊してすぐに、ベースジャバーに乗っていたガンダムMk-ⅡをCソードで切り裂く。
 ガンダムMk-Ⅱを撃破すると、ショートドッズライフルでガンダム試作1号機とΞガンダムを破壊する。
 2機を破壊してすぐに、混乱に乗じて先に進もうとしていたアドバンスドヘイルズを腰のビームサーベルを投げつけて撃破する。
 流石にここまで暴れた時点で、混乱も収まりかけてV2ガンダム(ザンスパインカラー)がガンダム∀GE-1 セブンスソードにビームライフルを向けるが、右腕ごとCソードで落とされた。
 追撃を行おうとするが、ビームの横やりが入る。

「やり過ぎなんだよ!」
「エリカもいたのか」

 エリカのセイバーガンダム・エイペストがバスターソードを振り下ろして間に入る。

「レースだってのによ!」
「ルール上は問題ない」
「そうかよ!」

 セイバーガンダム・エペイストはバスターソードで、ガンダム∀GE-1 セブンスソードに何度も振るうが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはヒラリと回避して当たらない。
 エリカがマシロの相手している間にV2ガンダム(ザンスパインカラー)は進もうとするも、ガンダム∀GE-1 セブンスソードが腰のショートソードを投擲して倒す。

「それにしてもエリカも運がないな。俺と同じレースとかさ」
「そうでもねぇよ! 去年の借りをここで返せんだからよ!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードがバスターソードの間合いから距離を取ると、セイバーガンダム・エイペストはアムフォルタスを放つ。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを突き出してビームを弾いた。
 ビームが弾かれるとセイバーガンダム・エイペストはバスターソードを投げ捨てた。
 バスターソードは威力は高いが、大振りとなる為、マシロのガンダム∀GE-1 セブンスソードを相手にするには不向きだ。
 セイバーガンダム・エペイストはソードライフルのソードモードを構えると、距離を詰める。
 ソードライフルの連撃をガンダム∀GE-1 セブンスソードは余裕を持って回避している。

「ほらほら。俺はこっちだよ」
「舐めやがって!」

 ソードライフルの攻撃に加えて、脚部のグリフォンビームブレイドの攻撃を合わせてセイバーガンダム・エイペストは責め立てるが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは守りに徹している。

「エリカとのダンスも悪くないけど、そろそろ時間だから終わりさせて貰う」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはセイバーガンダム・エイペストの蹴りをシールドで受け止めた。
 その後、蹴りとは逆の軸足を払って体勢を崩した。
 そして、空中でグリフォンビームブレイドの出せない脹脛の部分を掴んだ。

「うん。無事に戻って来てくれて何よりだ」

 マシロとエリカが戦っている間に残っていたZガンダムとガンダムAGE-2 ノーマルがレールを始めていた。
 レールはコースを3周しなくてはならない為、絶対にスタート時点に戻って来る。
 レースを始めていたZガンダムとガンダムAGE-2 ノーマルが変形した状態で1周を終えて、スタート地点へと戻って来ている。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはセイバーガンダム・エイペストを振り回して勢いをつけると戻って来た2機に向かって投げ飛ばす。

「マシロ!」

 セイバーガンダム・エイペストはガンダムAGE-2 ノーマルに直撃して体勢を崩したところにショートドッズライフルを撃ち込んで2機を仕留めた。

「悪いな。俺の為にコースを走って貰ってさ」

 残ったZガンダムをガンダム∀GE-1 セブンスソードが待ち構えていた。
 マシロは武装が許可されている時点で、他のファイターの妨害の他にコースに武器がないと切り抜ける事の出来ない障害の可能性も考慮していた。
 その為、ZガンダムとガンダムAGE-2 ノーマルは意図的に見逃して、先に1周を走らせた。
 2機が無事に戻って来たと言う事は少なくとも、普通に走るだけでは障害はないと言う事だ。
 それを確認する為に、エリカとのバトルは敢えて守りに徹して、先行する2機のレースを観察していた。
 無事に戻って来た以上は、もはや用済みだ。
 Zガンダムはビームガンでガンダム∀GE-1 セブンスソードを牽制するが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは最低限の動きでビームを回避して、Cソードを振るう。
 Zガンダムとすれ違いざまに、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを振るった。
 ギリギリのところでZガンダムはモビルスーツ形態に変形してかわしたが、Cソードは軌道を変えて、Zガンダムの両足を切りつけた。
 何とか、1周をした物のZガンダムは両足を損傷してまともに歩く事が出来ずに座り込む事となる。

「だけど、終わって良いぞ」

 Zガンダムはビームライフルを放つが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは軽く回避して、ビームライフルを掴むとライフルの銃身を捻じ曲げた。
 足を損傷した時点でZガンダムの機動力は殆ど失われているが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは至近距離からショートドッズライフルを撃ち込んでZガンダムに留めを刺した。

「さて、これでゆっくりとレースが始められる」

 自分以外の9機のガンプラはすでにレースが出来る状態ではない為、もはやマシロと止める事は誰にも出来なかった。
 後はコースのトラップに気を付けながら、マシロは悠々と3周を走り終えた。






 第7ピリオドを終えてトレーラーに戻ると先にアイラが戻っていた。
 アイラは心配そうにモニターを見ている。
 ここ数日は毎日こうだ。

「そんなに心配する必要もないだろ。ここまで何とか勝って来てんだ。元々、大した怪我でもないんだろ」

 そして、アイラが心配そうにバトルの様子を見る理由は一つしかなかった。

「知ってる。でも、私は別にアイツの事なんか、どうでも良いし……私はただ、そう、相手の事を分析する為に……」
「そう言う事にしといてやるよ」

 以前に比べると、ほかのファイターのバトルを見る事が多くなってはいるが、バトルの中から相手の情報を徹底的に得ようとまでは行ってはいない。
 アイラがここまで真剣に見ているのはレイジの出るバトルくらいな物だ。
 理由は分からないが、アイラはレイジの事を気にかけているようだ。

「まぁ、今日は普通に圧勝だろ」

 ソファーに座りながら、マシロがそう言う。
 セイとレイジのスタービルドストライクならば、順当にいけば第7ピリオドで勝つ可能性は高い。
 そして、セイとレイジの出ているレースが開始される。
 開始早々、スタービルドストライクが飛び出して先頭に立つと、後方からビームによる一斉射撃がスタービルドストライクを襲う。

「馬鹿だろ」

 そのビームはスタービルドストライクがアブソーブシールドで吸収した。
 武装が許可されている為、飛び出した相手を攻撃して妨害する事は当然の事だが、ビーム兵器で攻撃する事は悪手でしかない。
 ビームを吸収したスタービルドストライクはディスチャージシステムのスピードモードを使って一気に加速した。
 元々、高い機動力を持ったスタービルドストライクがディスチャージシステムを使えば他のガンプラは距離を離されて行くだけだ。
 ある程度後続のガンプラを引き離したところでスタービルドストライクはディスチャージシステムを解除して普通に飛ぶ。
 ディスチャージシステムを解除したところで、機動力の差は埋まる事は出来ない為、後続との距離が縮められる事は無い。

「これ、もう決まりじゃない」
「どうだろうな」

 後続との距離が開いている為、アイラはレイジの勝利を確信している。
 だが、単独で首位を独走しているスタービルドストライクだったが、湖の上を飛んでいると突如、湖の中に落ちた。

「今、何か下から!」
「今のは……どういう事だ?」

 湖に落ちたスタービルドストライクは湖に落ちたまま中々浮かんでこない。
 その間に、後続のガンプラがスタービルドストライクを抜いて、遂には首位から最下位にまで転落してしまう。

「何やってんのよ……」

 最下位となり、少しすると爆発と共にスタービルドストライクが湖から飛び出して来る。
 湖の中で戦闘でもしたかのように装備を失いスタービルドストライクは損傷している。
 そして、すぐに再びディスチャージシステムを起動させて、追い上げる。
 損傷しているが、機動力は圧倒的である為、瞬く間に他のガンプラを追い抜いては順位を上げていく。
 怒涛の追い上げもあって、2位にまで順位を上げて、ようやく首位が見えて来た。

「後一機……」
「だが、最後はレナード兄弟のガンプラだ」

 首位のバクゥタンクはレナード兄弟のガンプラだった。
 レナード兄弟は目立つ事は無かったが、ここまで毎回ガンプラを変えて全勝している。
 派手さはないが、全勝している為、素直に首位を譲って貰える訳が無い。
 バクゥタンクは追い上げて来るスタービルドストライクにミサイルで牽制すると、加速する。
 それでも、スタービルドストライクの機動力を振り切る事は出来ない為、じりじりと距離が詰まって行く。

「後少し……」
「いや、もう粒子が足りない」

 最後のカーブを抜けて、後はゴールに辿りつくだけと言う場面で、スタービルドストライクはバクゥタンクを捕えた。
 だが、最後の最後でディスチャージシステムの粒子が尽きてスタービルドストライクは失速してしまう。
 それによりギリギリのところで、バクゥタンクを追い抜く事は出来ずにスタービルドストライクは2位でゴールする。

「さっきのアレは何だったんだ?」
「さっきって?」
「お前も見てただろ。アイツ等のガンプラが水に落ちたところ」

 レースの結果よりもマシロにはそっちの方が気になった。
 普通に見ただけでは何故か、スタービルドストライクが湖に落ちたようにしか見えなかったが、マシロの目ははっきりと何かによって湖に引きずり込まれていた。
 アイラも直前に下から粒子が動いているのが少し見えていた。

「あんなトラップ俺の時にはなかった」

 マシロはわざわざ、他のガンプラを使ってトラップの有無を確かめた上で、注意しながらレースを行った。
 湖の中はトラップを仕込むには最適な場所を見落とす訳が無い。

「どういう事?」
「さぁな。ただ、俺のレース以外にもコース上にトラップが仕込まれていたレースは無いからな。このレースのみにトラップが仕掛けられているなんて事は無いだろうから……」

 毎レースで固定のトラップなら後の方のレースの方がトラップの場所が分かってしまう為、マシロやアイラのレースとはトラップの種類や位置が違うと言う事はあり得る。
 だが、ここまでのレースで一度もコース上にトラップが仕掛けられていた事は無い。
 流石にスタービルドストライクだけがトラップの起動条件に当てはまってしまったとも考え難い。
 そうなって来ると、トラップは運営側による物ではない可能性が出て来る。

「誰からレイジを負けさせようとしたって事?」
「どうだろう。ただ、大会の警備はうちの系列の警備会社を使ってるからな、その警備を掻い潜って妨害して来たとなると、相当な実力者と言う事になる」

 世界大会にはクロガミグループがスポンサーをしている。
 その為、大会を成功させる為に、警備も請け負っている。
 特にリアルタイムで世界に配信されるバトルで乱入などがされると非常に困る為、バトル中の警備は最も厳重となっている。
 そんな警備を掻い潜って、妨害出来たとなると、妨害者は相当なやり手と言う事になる。

「だが、そんな奴にしては直接的にリスクが大きい過ぎる。ガンプラを使って妨害すればすぐに足が付く」

 警備を掻い潜る事の出来る相手にしては、レース中に妨害して来るのリスクが高い。
 湖に隠していても、レース終了後に回収前に運営側に見つかる危険性が高いからだ。
 大会で妨害工作を行えば、当然クロガミグループは妨害者を確保しようと動く。
 そこまでの実力がありながら、証拠を残しかねないやり方を選ぶとは考え難い。
 そんな事をするくらいなら、レース前に下剤でも飲ませて体調を崩させるか、事前にガンプラを傷つけるかした方がマシだ。
 それなら、運営側もファイターの体調管理やガンプラの管理の不備で済ませるからだ。

「だから全くの外部犯と言う事は考え難い。寧ろ、運営側が意図的に仕込んだと考えた方が良いだろうな」
「でもなんで……確かにレイジは口とか態度は悪いし、食い意地も張ってるけど……」
「運営と言っても警備状況を知れたのはPPSEの幹部クラスくらいだからな」

 運営が関わっているとすれば、レース終了後にガンプラを回収する事も容易で、セイとレイジが騒いだところでどうにでも出来る。
 二人のレースにだけトラップが仕掛けられていたのも、全てのレースで仕掛けられていたと言い張ってしまえば、それがデタラメだと証明する事は今となっては出来ない。
 それがスタービルドストライクだけがかかったのも、トラップの発動理由をスタービルドストライクだけが満たしていたと幾らでもでっち上げが出来る。
 そして、それを行ったのは警備状況を知る事が出来た限られた一部の人間だけだ。

「アイツ等を狙った理由などは知らん。PPSEの上層部が絡んで来ているなら、メイジンを勝たせる為と言う事も考えられるが、今年優勝するのは俺だから、俺よりも先にアイツ等を狙う理由はないしな」

 PPSE社の上層部が絡んで来ているとなれば、PPSE社のワークスチームのファイターであるメイジンカワグチを勝たせる為に有力なファイターを振るい落とすと言う事は十分に考えられる。
 だが、回数を重ねるごとに成功率は低下して行く。
 今年の優勝候補の本命であるマシロよりも先にセイとレイジを狙う理由はない。

「となると、個人的な恨みと言う事になるけど、そこまでは知らん。ただ、言える事は運営が妨害して来たと言ってもアイツ等は負けたと言う事だ。俺ならもっと素早く対処出来た」

 PPSEの上層部の誰かが、セイかレイジに対して恨みを持っていて、彼らを決勝トーナメントに進ませない為に仕込んだと考えれば辻褄がある。
 だが、それ以上の事は現状では考える事が出来ず、マシロもその辺の動機には興味はない。
 レイコを使えば、1日もあれば実行犯も指示を出したPPSEの上層部を特定する事は容易だが、自分に被害が出ていない為、決勝トーナメントの準備をしているレイコを使う気は無い。
 この事で運営に抗議を入れると言う事も可能だが、明確な証拠はすでになく、運営側が関わっているならいくらでも良い訳が効く為、抗議するだけ無駄だ。
 そして、何より妨害その物は何とかなるレベルの物で、二人の敗北は妨害の対処に時間を使い過ぎた事だ。
 もっと早く対処出来れば十分に一位を狙えた。
 結局のところ、何者かにより妨害を受けたが、対処に時間を使い過ぎたレイジの実力不足と言う事だ。
 
(ただ……アイツ等は俺が先に目を付けてたんだよな。どこの誰かは知らないが、面白くはないな)

 妨害者の目的は分からなし、興味もないが、セイとレイジは以前からマシロが目を付けていた。
 今回は敗北こそしたが、バトルで負けた訳でも無く、将来性が失われた訳でも無い。
 そんな二人を今後も狙って来るとしたら面白くはない。

(けど、これはある意味チャンスかも知れん。狙われていると言うのであれば、それを乗り切った時に更にアイツ等は強くなる)

 二人が狙われる理由は分からないが、二人が完全に脱落した訳ではない。
 明日の第8ピリオドで勝利すれば、決勝トーナメントに進む事が可能で、仮に敗北したとしても、全勝組と一敗組で全ての決勝トーナメントの椅子が埋まる訳ではない。
 そこから2敗組を相手に決勝トーナメント進出を勝ち取れば、問題はない。
 その為、今後も二人に対して妨害工作は十分に考えられた。
 それを事前に潰す事は可能だが、それよりも敢えて妨害させる事で、二人にそれを乗り越えさせた方が、二人をより強くする事が出来ると考えた。

(つっても、大人が本気で子供を潰しにかかられたら勝ち目はないからな……仕方が無い。あのおっさんにでも連絡を入れておくか。これは借りにはならないからな。寧ろ、息子の事だから俺に貸しを作る事になる)

 マシロの推測通りにPPSE社の上層部が絡んでいるとしたら、その気になればバトルをする事無く二人を潰す事は容易だ。
 セイもレイジも将来性はあっても所詮は子供だ。
 ガンプラバトルで高い実力を発揮しても、大人が本気を出せば太刀打ちは出来ない。
 それは、マシロにとっても困る。
 その為、マシロは保険をかける事にした。
 マシロは携帯を取り出して、操作する。
 携帯には身内以外の連絡先は殆どないが唯一、クロガミ一族とは無関係な連絡先が登録されていた。
 いずれは過去の雪辱を晴らす日が来た時に使おうと独自に連絡先を調査させていた。
 それを今、使おうとしている。

(直接、連絡すると向こうのペースに持ってかれそうだからここはメールで……)

 マシロは用件だけを簡潔に打つをメールを送信した。
 後で返信が来るかも知れないが、今は話しをする気は無い為、携帯の電源を切って無視を決め込む。
 そして、決勝トーナメント進出を賭けた最後の一戦が始まる。




[39576] Battle44 「譲れない戦い」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/10/01 11:26
 予選ピリオドの最後である第8ピリオドの時点で半数以上の決勝トーナメントの椅子が埋まっている。
 そして、最後の第8ピリオドのバトルはオーソドックスな1対1でのバトルだ。
 1対1と言う事もあり、バトル数は全部で50回となる為、第8ピリオドは2日に分けられる。
 1日目のバトルですでに決勝トーナメントが確定したファイター達は順当に勝利して、2日目に入る。
 2日目には一敗組であるアイラとセイ、レイジ組のバトルが控えている。
 どちらも今日のバトルで勝たなければ決勝トーナメントが一気に遠のく為、勝たねばならない重要な一戦だ。
 アイラは第8ピリオドのバトルも苦も無く勝利し、決勝トーナメントに駒を進めた。

「何とか生き残れたみたいで良かったよ。予選落ちとか俺が教えた時間が無駄にならずに済んだよ」
「おかげさまで」

 第8ピリオドのバトルを控えて、すでに決勝トーナメントが確定しているマシロはトレーラーでくつろいでいた。
 序盤の第2ピリオドで勝ち数を逃して、残りの全てを確実に勝たねばならなくなって苦労したのはマシロのせいである為、文句を言いたいが、マシロに言ったところで意味がないとアイラは諦めてソファーに座る。

「それにしてもさ……この局面で、イタリアのフェリーニか。本当に運がないよな」

 セイとレイジの第8ピリオドの相手は去年も決勝トーナメントに出ているイタリア代表のリカルド・フェリーニであった。
 今年もマシロやメイジンを除けば優勝候補の一人に上げられている。

「でも、そいつってここまで全勝でしょ? 適当に流すんじゃないの?」
「どうだろうな」

 フェリーニはマシロ同様にここまで全勝している為、すでに決勝トーナメント進出は確定している。
 その為、第8ピリオドは流して負けたとしても、問題は無かった。
 寧ろ、下手に本気で戦ってガンプラが壊れてしまったら、決勝トーナメントに支障が出かねない。
 
「まぁ、バトルが始まれば分かるさ」
「……マシロから見て、本気で戦えばどっちが勝つと思う?」
「どうだろうな。ガンプラの性能で言えばスタービルドストライクの方が上だ。けど、フェリーニは強いんじゃなくて上手いんだよな」

 互いのガンプラの性能で言えばセイの作ったスタービルドストライクの方が確実に上だ。
 フェリーニのウイングガンダムフェニーチェも一般的な世界レベルの水準よりも性能は高いが、スバ抜けて高いとは言えない。
 しかし、フェリーニはウイングガンダムフェニーチェの事を熟知し、100%以上の性能を引き出す術を知っている。
 だから、マシロの印象としてフェリーニは強いと言うよりも上手い。

「普通のバトルならば、苦戦するかも知れないが、泥臭いバトルに持ち込めばガンプラの性能で勝るアイツ等の方が有利だろうな」

 ギリギリのバトルまで持ち込めば戦い方の上手さよりも、ガンプラの性能が高い方が優勢となる。
 特にスタービルドストライクにはギリギリのバトルで切り札となり得るRGシステムがある。
 
「アイラ、このバトルは良く見ておけ、今のお前に一番足りない物があるからな」

 バトルが始まり、スタービルドストライクとウイングガンダムフェニーチェは序盤から激しいぶつかり合いを見せる。
 ビーム兵器が主体のウイングガンダムフェニーチェは序盤の内にスタービルドストライクのアブソーブシールドにビームを吸収されないように気を使いながらアブソーブシールドを破壊して見せた。
 機体性能で劣っても、それをフェリーニの経験と技術で覆して、バトルの流れを掴みかけるが、セイとレイジも負けていない。
 バトルフィールドの渓谷を利用して、バックパックのユニバースブースターを分離した状態で隠して、本体を囮にウイングガンダムフェニーチェの背後から攻撃した。
 だが、負けじとウイングガンダムフェニーチェもバルカンとマシンキャノンでスタービルドストライクを牽制しながら、バスターライフルカスタムでユニバースブースターを破壊する。
 牽制でスタービルドストライクのスタービームライフルを破壊するも、その前に撃ったビームがバスターライフルカスタムに被弾してウイングガンダムフェニーチェは爆発する前にバスターライフルカスタムを捨てた。
 互いに火器を失い睨みあう。
 ここまでは完全に互角だ。
 スタービルドストライクはビームサーベルを、ウイングガンダムフェニーチェはビームレイピアを抜いて構える。
 2機は一気に接近すると切り合う。
 2機は激しく切り合い一進一退の攻防を繰り広げていた。
 一瞬の油断が命取りとなり得る。

「何で……」

 二人のバトル見ていたアイラの感想はそれだった。
 フェリーニはすでに決勝トーナメント行きが確定している。
 その為、このバトルで勝つ必要はない。
 レイジもこのバトルで負けても、次がある。
 ここで、全てを出し切って負けるよりも、ここは軽く負けて次で決めた方が確実だ。
 少なくともここで負けても終わりではなく、残りの椅子を賭けて戦う相手はここまでに2回も負けているため、確実にフェリーニよりも弱い。
 それなのに、レイジもフェリーニも後の事はまるで考えずにこのバトルで全てを出し切っているように見える。

「意地があるんだよ。ファイターにはさ。それに次があるなんて考えている奴はそこまでだ」

 合理的に考えるとレイジやフェリーニのやっている事は無駄な事でしかない。
 だが、二人を動かしているのはファイターとしての意地だ。
 例え、合理的でなくとも目の前の相手には絶対に負けたくはないと言う意地だけで二人は戦っている。

「だから目に焼き付けろ。今のお前に足りてない物がこれだ」

 アイラは地区予選でガウェインに敗北した。
 その後は真面目に練習をするようにもなり、相手の事を研究するようにもなった。
 だが、まだ死にもの狂いに勝ちに行くとまでは行っていない。
 元々、相手を舐める傾向にあったとはいえ、アイラは十分に世界に通用するだけの実力を持っている。
 そんなアイラだが、ギリギリの戦いをした事は殆ど無い為、例え全てを失っても勝利すると言う事が決定的に足りていない。

「……分からないわよ。そんなの……」

 今の生活を失わない為にアイラはガンプラバトルで勝ちたいとは思っている。
 だが、目の前の一勝の為に全てを捨ててまで勝ちたいと言う気持ちはアイラの戦う理由と正反対でり、捨てられた側であるアイラには理解など出来る筈もなかった。








 スタービルドストライクとウイングガンダムフェニーチェのバトルは熾烈を極めていた。
 互いに一歩も引かずに切り合っていたが、2機は一度距離を取った。
 
「たく……しぶといんだよ」
「お前もな。フェリーニ」

 レイジもフェリーニも限界が近いが、どちらも勝利を譲る気は無い。
 激しい切り合いで高いの武器も限界を迎えている為、どちらも武器を捨てて拳を構える。
 どちらも武器の全てを失っている為、残されているのは拳だけだ。
 距離を詰めて、2機はノーガードで殴り合う。
 ウイングガンダムフェニーチェの拳がスタービルドストライクの胴の装甲をへこますと、スタービルドストライクの拳がウイングガンダムフェニーチェの頭部を潰す。
 例え、損傷しようとも一歩も引かずに殴り合う。
 だが、ウイングガンダムフェニーチェの胸部にスタービルドストライクのパンチが決まると、ウイングガンダムフェニーチェは大きく後ろに飛ばされるが、何とか倒れずに踏みとどまる。
 その一撃でウイングガンダムフェニーチェの胸部に皹が入る。
 追撃をしようにもスタービルドストライクもボロボロだ。

「レイジ……RGシステムだ」
「この場面でか? アレは負担も大きいんだろ? 今使ったら……」

 RGシステムはガンプラにかかる負担が大きい。
 その為、使えば攻撃力を上げる代わりに、相手からの攻撃のダメージも大きくなる諸刃の剣だ。
 下手をすれば、ウイングガンダムフェニーチェの攻撃で逆にやられる危険性も高い。

「それでも使うならここだよ。大丈夫。前にも言ったろ? 壊れても僕が直す。それにフェリーニさんは全てを賭けてるんだ。ならこっちも全てを賭けないと勝てない!」

 フェリーニは決勝トーナメントが決まっている為、このバトルに勝つ必要はない。
 それでも、フェリーニは勝つ為に全てを賭けている。
 そんなフェリーニに勝つにはこちらも全てを賭けて戦うしかない。

「……分かった。勝つぞ! セイ!」
「ああ!」
「来るか!」

 レイジも覚悟を決めてRGシステムを起動させた。
 それに対応する為に、ウイングガンダムフェニーチェも本来は防御用のビームマントを腕に巻き付けた。
 これにより、拳にビームを纏わせる事が出来る。

「これで!」

 RGシステムを起動させたスタービルドストライクとビームを纏った拳のウイングガンダムフェニーチェは全ての力を込めた一撃を繰り出す。
 2機のガンプラの拳はぶつかり合う。
 その余波で周囲を破壊するが、2機は衝撃を踏みとどまる。

「勝つのは……」
「俺達だ!」

 スタービルドストライクの拳がウイングガンダムフェニーチェの拳を打ち砕きながら、ウイングガンダムフェニーチェの胸部を捕えた。
 すでに皹の入っていたウイングガンダムフェニーチェではその一撃を耐えきる事が出来ずにウイングガンダムフェニーチェの胸部の装甲は破壊された。
 最後の一撃が決まり、その余波で今までの殴り合いでボロボロとなっていた、ウイングガンダムフェニーチェの装甲が次々と破壊されて行く。
 そして、ウイングガンダムフェニーチェは倒れた。
 スタービルドストライクは最後の一撃の衝撃で右腕の至るところが損傷し、膝をつくも何とか立ち上がった。

「……俺の負けか」

 地に伏したウイングガンダムフェニーチェと、立っているスタービルドストライク。
 それにより勝敗はスタービルドストライクとなった。

「分かってたけど、最後でアレが来るのはキツイな」

 バトルが負けたが、フェリーニは全力を尽くした為、悔いはないようだった。
 ギリギリのバトルに勝てて、セイとレイジは一息ついた。

「けど、まだ俺の方が200回くらい勝ち越してるからな。これで勝った気にはなるなよ。レイジ」

 今回のバトルは負けたが、フェリーニは過去にレイジに200回程勝っている。
 尤も、その200回はレイジに練習を付けていた時の頃で、レイジはセイのガンプラを使ってないし、フェリーニも練習と言う事で手加減をしている。
 それをここで持ち出して来る辺り、フェリーニも大人げない。

「すぐに勝ち越してやるよ」
「無理だな。次は俺が勝つ」
「次も俺達が勝つね!」

 どっちの始まってもいない次のバトルで勝つ事を主張している様子をセイは苦笑いしていたが、ある事に気が付いた。

「フェリーニさん。フェニーチェは……」

 このバトルでウイングガンダムフェニーチェは大破している。
 セイもビルダーからこそ分かるが、ウイングガンダムフェニーチェの損傷は簡単に直せるレベルではない。
 決勝トーナメントは3日後である為、今から修理しても間に合うかは分からない。

「気にすんな。俺もお前達も全力を尽くした結果だ。悔いはない」

 フェリーニも下手をすればこうなる事は分かっていた。
 それでも、レイジに負けたくは無い為、覚悟を決めた。

「俺の事よりも自分達の事を心配してろ。決勝トーナメントともなれば、こんなバトルを繰り返すんだ。今年もアイツがいるし、メイジンだって出て来てんだ」

 フェリーニに勝って、セイとレイジは決勝トーナメントに進出する事が出来た。
 だが、決勝トーナメントではフェリーニと同等のファイターばかりだ。
 絶対的王者のマシロに加えて、カイザーを倒したアイラにメイジンと今年は例年よりも実力者が揃っている。

「それに、俺のフェニーチェは不死身だからな。決勝トーナメントじゃフェニーチェの真の姿になって復活するから、次はこうも行くと思ったら大間違いだ」

 フェリーニはそう言い残して戻って行く。
 今日の勝利は次に繋いだに過ぎず、本番はこれからで、決勝トーナメントはこれ以上のバトルとなる。
 
「どうした? セイ」
「……何でもない。レイジ、すぐにスタービルドストライクの修理に入るから戻ろう」

 世界大会の為に制作したスタービルドストライクをレイジは完璧に使いこなしている。
 だが、序盤とは違い、スタービルドストライクのデータは他のファイターの知るところとなり、今日の勝利もギリギリだった。
 その為、セイはスタービルドストライクの更なる強化の必要性を感じていた。










 セイ、レイジ組とフェリーニの激闘の熱気がスタジアムで残る中、アオイはタクトと共に最後の調整をしていた。
 アオイも第7ピリオドの時点で決勝トーナメント出場を確定させている。
 だが、第8ピリオドの相手はマシロとなった。

「調子はどうだ?」
「こっちは万全です。エリカさんの方はどうでした?」
「首の皮一枚で繋がったよ」

 マシロとのバトルを前にエリカが様子を見に来たが、アオイは必要以上に気負ったりもせずにいつも通りだ。
 エリカも第7ピリオドを落として2敗だったが、今日の第8ピリオドで勝ち、まだ決勝トーナメントへの可能性が残されたようだ。
 
「決勝トーナメントが確定しているとはいえ、よりにもよってここでマシロと当たる事になるなんて、アオイも大変だな」
「けど、アイツも決勝トーナメントが確定してんだ、少しは気が抜けてるかもな」
「それは無いと思う」

 マシロもアオイも今日のバトルの勝敗には関係なく、決勝トーナメントが決まっている。
 その為、タクトはマシロが今日のバトルを軽く流すかも知れないと考えるも、アオイは否定する。
 去年も全勝で予選ピリオドを通過したが、決勝トーナメント出場が確定した後もマシロは容赦なく敵を叩き伏せている。

「でも……マシロさんに勝つ為にこの一年、皆で頑張って来たんだから優勝とは関係なくても、今日のバトルは勝つよ」
「だな。あの人を見下したムカつくマシロの鼻を明かしてやろうぜ。アオイなら絶対に出来る」
「うん。そろそろ時間だから行こう」

 アオイ達は去年、地区予選でマシロに大敗してからの一年、マシロに勝つ為に努力を重ねて来た。
 その結果、今年の世界大会では決勝トーナメント進出出来るまでに成長した。
 だが、アオイ達にとって最大の目標はマシロに勝つ事だ。
 そして、そのチャンスは決勝トーナメントの前に訪れていた。
 マシロとアオイのバトルの時間となり互いにセコンドと共にバトルシステムの前に立っている。
 会場には観客の数は目に見えて少なかった。
 どちらも決勝トーナメントを決めている為、このバトルは軽く流すと思われているのだろう。
 尤も、すでに決勝トーナメントを決めたファイター達は出場者用の観客席からバトルの様子を見ていた。
 彼らからすれば、マシロが決勝トーナメント出場者とサシで戦う為、少しでもマシロに勝つ為の情報が欲しい。
 マシロが決勝トーナメントが確定したところで、手を緩める気がない事は分かり切っており、実力に差がある相手ならともかく、自分達と同じレベルのファイターとのバトルは決勝トーナメントを前に良いデータとなる。

「マシロ。今日のバトルは……」
「分かってる」

 マシロはGPベースをセットしてガンプラを置く。
 以前のバトルでは未完成だったフルアサルトジャケットを使ったが、今回はセブンスソードを使っている。

「アオイ、勝つぞ」
「うん」

 アオイもGPベースをセットしてガンプラを置く。

「マシロ・クロガミ。ガンダム∀GE-1 セブンスソード……出る」
「タチバナ・アオイ。ビギニングガンダムB30……行きます!」

 そして、バトルが開始される。
 今回のバトルフィールドは宇宙だ。
 多少のデブリが流れている以外は特に障害物は無い。
 互いのファイターの実力が直に試されるフィールドとなっている。
 バトルが開始し、2機のガンプラが接触するよりも早くビギニングガンダムB30が先制の砲撃を繰り出す。
 その一撃をガンダム∀GE-1 セブンスソードは難なく回避する。

「この距離から……」
「想定内だろ」

 ビギニングガンダムB30との距離はかなり離れているが、事前の打ち合わせではこの距離でも十分に狙って来れると言う事は分かっている。
 位置と距離さえ分かれば、どんなに正確な射撃だろうと、マシロは回避できる。
 ビギニングガンダムB30はハイパーバスターライフルで時間差攻撃するが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードには当たらない。

「成程ね。射撃精度は悪くない。俺じゃなかったら楽にかわせない」
「当たらない……」

 バトルはビギニングガンダムB30がガンダム∀GE-1 セブンスソードの射程外からの砲撃で一方的に見えるが、実際のところアオイが攻めあぐねている。
 何度、砲撃をしても掠りもしない。
 アオイは牽制を混ぜているものの、何度も当てに行っているが、一度も当たりそうにもない。
 これではどちらが攻めているのか分からない。

「落ち着け。アオイ。向こうも攻撃出来なんだ」
「分かってるけど……」

 フルアサルトジャケットとは違い、セブンスソードは格闘戦用の装備である為、射程は短い。
 これだけ距離が離れていれば、撃って来ても脅威にはならない。
 だが、最も自信を持っている射撃がここまで当たらない事でアオイも焦りを見せている。
 一瞬でも油断をすれば一気に流れは持っていかれて、流れを戻せずに攻めて来るのがマシロだ。
 撃ち続けるしかない。
 それでも、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは確実に回避して来る。

「やっぱりな。ここまでかわされ続ける事に慣れてない。精度が落ちて来てる」

 マシロは回避に専念する事で、攻撃する事無くアオイを攻めていた。
 過去のバトルを見ても、アオイに射撃能力は世界大会の出場者の中でも群を抜いている。
 単純な射撃能力だけなら、自分と同等レベルとまで見ている。
 しかし、射撃能力が高いが故にアオイの射撃が全く当たらないと言う事は無かった。
 今までにも何度か回避されている事はあるが、ここまで一方的に撃っていても掠りもしないと言う事は無い。
 だから、揺さぶりにかけた。
 徹底的に砲撃を回避し続ける事で、アオイを焦らせて射撃精度を狂わせる事でアオイの最大の武器を封じにかかっている。
 それが可能なのも、マシロが圧倒的に上位にいる事で、一瞬の油断も出来ないと言うプレッシャーと何より、アオイはそこまでの強者とのギリギリのバトルの経験が致命的に不足している。
 特に経験の少なさは今更どうする事も出来ない。
 
「俺の勝ちだ」

 アオイの射撃精度を狂わす事が出来れば、アオイにマシロと対等に戦うだけの能力は無い。
 その上で更にプレッシャーをかける為にガンダム∀GE-1 セブンスソードは前に出る。
 ビギニングガンダムB30の砲撃を軽々と回避しながら、距離を詰める事で更にアオイに対してプレッシャーをかける。

「前に出て来た!」
「落ち着け! お前ならやれる!」
「分かってるけど……」

 タクトがアオイを落ち着かせようとするも、並のガンプラとは比べものにならない速度で迫るガンダム∀GE-1 セブンスソードを前にアオイにかかるプレシャーも増えていく。

「ここは俺の距離だ」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは十分に間合いを詰めるとCソードを展開してビギニングガンダムB30に迫る。
 Cソードを振り落すが、タクトがとっさにIFSファンネルの1基でIFSフィールドを展開して防ぐ。

「落ち着け! アオイ! お前の実力はこんなもんじゃんないだろ!」
「タクト君……」

 タクトの叱責で少しは冷静さを取り戻して、ビギニングガンダムB30はハイパーバスターライフルをガンダム∀GE-1 セブンスソードに向けて放つ。

「精度が戻って来たか……だが、俺の間合いに持ち込まれた時点で終わってんだよ」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルを放ち、ビギニングガンダムB30はIFSファンネルを展開して防ぐ。
 ハイパーバスターライフルとビームバルカンで応戦するが、距離を詰めた事で正面以外にも位置取りの出来るガンダム∀GE-1 セブンスソードを捕える事は出来ない。

「アオイ、幾らちょこまかと動いても、向こうだってこっちの防御は簡単に打ち破れないんだ」
「分かってる」

 ビギニングガンダムB30の周囲を移動しながら、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはビームを撃って来るが、IFSファンネルのIFSフィールドは撃ち破れない。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードのショートドッズライフルもビームが回転しているが、IFSフィールドなら削られてもその部分のフィールドを再展開すれば早々に撃ち破られる事は無い。
 
「硬いな。ただ、その手のフィールドは実体剣が鬼門だったりするんだよな」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは一度距離を取ると。ビギニングガンダムB30に向けて一直線に加速する。

「来る!」

 ビギニングガンダムB30は迫るガンダム∀GE-1 セブンスソードに向けてハイパーバスターライフルを放つ。
 回避するかと思われたガンダム∀GE-1 セブンスソードだったが、左腕のシールドでビームを正面から受け止めた。
 ビームに負ける事無く、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは向かって来る。
 やがて、シールドがビームに耐え切れなくなってガンダム∀GE-1 セブンスソードの左腕ごと吹き飛ぶ。

「やったか!」
「左腕はくれてやる」

 左腕を失ったガンダム∀GE-1 セブンスソードだが、気にする事無くCソードを展開して突き出す。
 それをビギニングガンダムB30はIFSフィールドを最大出力で展開して受け止めた。
 
「っ!」

 勢いの付いたガンダム∀GE-1 セブンスソードをIFSフィールドで止めてはいるが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードの勢いを完全に殺しきれてはいない。

「そんなフィールドなど、正面から打ち砕いてやるよ」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは青白く発光する。
 そして、Cソードからバーストソードが展開される。
 バーストモードによる圧倒的な出力のビームソードであるバーストソードはIFSファンネルごとIFSフィールドを貫いた。 
 幸いな事にバーストソードはビギニングガンダムB30に当たる事は無かったが、IFSファンネルの大半を失い、ガンダム∀GE-1 セブンスソードがフィールドを突破してしまう。
 すぐにハイパーバスターライフルを向けるも、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは完全にライフルの死角まで接近していた。
 その間にバーストソードの使用の負荷で使い物にならなくなったCソードはパージしている。

「この距離ならライフルも使えない」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは完全にビギニングガンダムB30に取りつくと、両足でがっちりとビギニングガンダムB30の腰に絡みついて、離されないようにする。
 そして、すぐにビギニングガンダムB30の頭部を鷲掴みにする。
 頭部を鷲掴みにして、頭部を握りつぶすかのように力を入れると次第にビギニングガンダムB30の頭部が変形し、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは頭部をもぎ取る。
 腰のミサイルでは爆発で自分にもダメージを受ける為、頭部のビームバルカンが組み付いて来たガンダム∀GE-1 セブンスソードを引き離す為の唯一の装備だった。
 だからこそ、マシロは真っ先にに頭部を潰した。
 後は残っているIFSファンネルを直接ぶつけるしかない。

「アオイ!」

 ビギニングガンダムはすぐにハイパーバスターライフルを捨てて、バックパックのビームサーベルを取ろうとする。
 3本のビームサーベルを抜いて、ガンダム∀GE-1 セブンスソードを引き離そうとするが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはビギニングガンダムB30の腕を掴んで強引にビームサーベルを自分ではなく、ビギニングガンダムB30の方に向けようとする。
 このままでは、自分のビームサーベルでやられてしまう為、すぐにビームサーベルのビーム刃を消して、ギリギリのところでやり過ごすが、そのまま腕は握り潰される。
 片腕を握り潰して、すぐにビギニングガンダムB30のもう片方の実体剣に手を伸ばす。
 
「こっちの武器を!」
「使わせて貰う」

 実体剣を接続部がもげる事も気にする事無く、強引に奪ったガンダム∀GE-1 セブンスソードは逆手に持ったまま、体をエビぞりに仰け反らせて実体剣をビギニングガンダムB30の胸部目掛けて突き立てる。
 ギリギリのところで、両腕をねじ込ませるが、勢いの付いていた実体剣は両腕を貫通して、胸部に突き刺さる。
 両腕をねじ込ませた事で実体剣は深くは刺さってはいなかったが、片腕と今の体制では力が入らず実体剣を貫く事もそのまま、ビギニングガンダムB30を切り裂く事も出来ない。
 その為、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはビギニングガンダムB30から離れる。

「とにかく守りを固めるぞ!」
「お願い!」

 この状況でも、アオイもタクトも諦めてはいない。
 圧倒的に不利な状況だろうと、まだ負けてはいないからだ。
 残る武器は腰のミサイルとIFSファンネル。
 それで逆転するしかない。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードも無傷ではない。
 左腕のメインの武器を失っている。
 まだ、希望は残されている。
 しかし、マシロはそんな希望すらも打ち砕いた。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードがビギニングガンダムB30から離れたのは、回収する為だった。
 取りつかれた事で、使えなくなったビギニングガンダムB30のハイパーバスターライフルをだ。
 すでにハイパーバスターライフルは2基とも回収されて、連結したスノーホワイトの状態となっている。

「んなのアリかよ……」
「そんな……」

 もはや、二人には一筋の望みすらも残されてはいなかった。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは奪ったスノーホワイトを放つ。
 まともに回避行動も取れないビギニングガンダムB30に残された道はIFSフィールドで防ぐしかない。
 IFSフィールドの防御力なら多少はスノーホワイトの攻撃でも防ぐ事は出来るが、すぐに粒子が尽きてIFSファンネルごとビギニングガンダムB30はスノーホワイトのビームに飲み込まれた。
 すでにボロボロのビギニングガンダムB30ではスノーホワイトの攻撃に耐える事が出来ずに撃墜され勝負が決まった。
  
「こんな感じで良かったか?」
「上出来よ」

 このバトル自体、勝つ事は必須だったが、もう色々な思惑があった。
 決勝トーナメント出場が確定したアオイの出鼻を挫くと言う事だ。
 序盤に砲撃をかわしてプレッシャーをかけるだけでなく、最後は去年と同じようにスノーホワイトを奪って決める事で、アオイ達の一年間の努力を無意味だと見せつけた。
 もう一つの思惑として、このバトルを見ていた他のファイターに対するプレッシャーを与える事だ。
 マシロのバトルスタイルは近接戦闘がメインだ。
 その中でもライフルを鈍器のように使う事もあったが、基本的に接近してビームサーベル等の接近戦用の装備で決めると言う接近戦においては基本的な戦い方は多い。
 だからこそ、今回のバトルで相手に組み付いたりと、普段は見せない荒々しいバトルをやらせた。
 それにより、他のファイター達もマシロとバトルする際には今のようなバトルも警戒しなければならない。
 決勝トーナメントが3日後と言うこのタイミングで、今までとは違う戦い方を見せる事で意図的に情報を増やして混乱させる狙いがあった。
 その点、強引に攻めた今回のバトルはレイコからして見ても十分な結果だ。

「さてと。今日は軽く流したから、ガウェインにでも付きあわせてもう少し調整しとくか」

 バトルが終わり、アオイ達には見向きもせずにマシロはスタジアムを後にする。
 その後も残りのバトルが消化されて、第8ピリオドが終了した。



[39576] Battle45 「逃れられない物」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/10/07 12:36
 8回に渡る予選ピリオドが終わり、決勝トーナメントまでは会場のセッティングなどで3日程空いている。
 その間に決勝トーナメントに駒を進めたファイター達は決勝トーナメントに備える。
 現在の時点では全勝組と一敗組が確定するも、決勝トーナメントの席は空いている為、残りの枠を争って二敗組が最後のバトルを行う事になっている。
 
「暇だ」

 マシロは公園のベンチに座り空を見上げてそう言う。
 昨日までの予選ピリオドは連日行われた為、今日は決勝トーナメントに備えての休養日としている。
 幾ら、実力があっても当日に体を壊していては勝てない為、こうして月に一度くらいは一日ガンプラを触らない日を作っている。
 そして、そんな日は必ず、時間を持て余す。
 ガンプラバトルに勝つ為だけに毎日を過ごしているマシロにとってガンプラを取ってしまえば何も残らない。

「王者の余裕って奴か?」
「そんなところだ」

 空を見上げていると、通りかかったエリカがそう言う。
 
「そっちは忙しいそうじゃん」
「おかげさまでな」

 マシロの皮肉に一瞬、ムッとするも実際のところエリカは暇と言う訳でもない。
 元々、一つ落としたところに第7ピリオドのレースで負けたエリカは決勝トーナメントが危うい状況で今日のバトルで決勝トーナメントに進めるかが決まる。
 今は丁度、会場に向かう途中だった。

「んな事よりも、こんなところで油を売ってていいのかよ。アオイの奴だって今頃は……」
「興味ないね」

 昨日、マシロに負けたアオイだが、レイコが想定していたよりも精神的なダメージは少なかった。
 負けた事は当然、ショックではあったが、アオイには自分を励ましてくれる仲間がいる。
 その上、去年もマシロに大敗している為、そこまでのショックは受けていなかった。
 今は、大破したビギニングガンダムB30の修理に全力を尽くしている。

「アイツが潰れようと、這い上がってこようと関係ない。俺に向かって来る奴は倒す。例え、メイジンカワグチだろうとね」

 マシロはそう言って、ベンチの後ろの木の影に軽く視線を向ける。

「そうかい」
「取りあえず。エリカは今日のバトルに勝って来ないと向かって来る事すら出来ないけどな」
「うっせ」

 マシロに挑もうにも、アオイとは違いエリカは決勝トーナメントすら危うい状況だ。

「まぁ、頑張って来いよ」
「……おう」

 その言葉にエリカは一瞬戸惑う。
 マシロは基本的に相手が誰だろうと強ければ気にしない。
 そんなマシロがかける言葉とは思えなかった。

「……何だよ?」
「……何でもない。精々、アタシにぶっ飛ばされる覚悟をしとくんだな」

 流石に照れているのか、エリカは足場やに会場に向かって行く。

「何なんだ……まだいいか。それよりも盗み見とは余り良い趣味とは言えないな。タツ……いや、今はメイジンカワグチだったな」
「今はタツヤで良いよ。いつから気づいて?」
「始めからかな」

 先ほど軽く視線を送った木の影からメイジンカワグチこと、ユウキ・タツヤが出て来る。
 今日は今までもようなメイジンの衣装ではなく髪も下した普段着だ。

「成程」

 タツヤは感心しながら、マシロの横に座る。
 二人は気づいていないが、タツヤの問いのいつから気づいていたと言うのは、自分がメイジンカワグチだと言う事で、マシロの答えはいつから見ていた事に気が付いたかだ。
 エリカと話している最中に、たまたま通りかかったタツヤがマシロを見つけるも、エリカと話していた為、邪魔をするのは不味いと気を利かせて隠れた。
 そして、その違いに気づかない為、タツヤも始めから自分の事に気づいていたと勘違いを起こしている。
 マシロがメイジンカワグチの正体に気が付いたのはチーム戦の時だ。
 始めは第2ピリオドで戦った時の動きが、初めてタツヤとバトルした時の動きと酷似していた事だったが、確信を持ったのはチーム戦だった。
 明らかにケンプファーアメイジングの動きがマシロの動きが分かった上での援護だった。
 マシロの動きは多くのファイターが研究しているが、マシロを援護する事を前提に考えると言う事は無い。
 だが、メイジンはまるでマシロとチームを組んだ事があるようなスムーズな動きで援護している。
 マシロがまともにチームを組んだ事のあるファイターはエリカ以外ではタツヤしかいない。

「それで……彼女はフランス代表のだよね? ずいぶんと親しげだったけど。どういう関係なんだい?」
「あれで親しげに見えたのかよ」

 タツヤには先ほどのやり取りの会話までは殆ど聞こえなかったようだが、二人は親しげに見えたらしい。
 尤も、興味のない相手に関してはとことん興味を示さないマシロと言う事を考えれば会話がまともに成立している分だけ親しいかも知れない。

「まだいいや。関係って言われてもな……こっちにも色々とあるんだよ」
「色々ね……それよりも調子は良さそうだね」

 始めから説明するのは面倒である為、マシロも適当に濁す。
 タツヤも気にはなるものの、どうしても知りたいと言う訳でもない。
 単にガンプラにしか興味を示さないと思っていたマシロが異性と仲良くしているところを見て、関係が気になったに過ぎない。

「どうだろう。俺はいつも通りに勝ってるに過ぎないけど……ただ、去年よりかはなんか充実してる」

 去年の世界大会同様にマシロは順当に勝ち進んで決勝トーナメントを勝ち取った。
 去年は勝つたびに虚しさを覚えてが、今年は不思議と虚しさを覚えるどころか不思議と充実感すら感じていた。
 今年はセイやレイジ、タツヤなど実力者が多いと言う事もあるが、去年も実力者は多かった。
 予選ピリオドでは圧倒的に格下の相手とのバトルでも、勝った後には虚しさを感じる事は無い。

「何か今年の俺は全てが上手く行きそうな予感すらする」
「それは怖いな」

 そう言うマシロを見てタツヤは苦笑いする。
 話す限りでは今年のマシロはいつも以上に絶好調に見える。
 
「マシロ、あの時の約束は覚えているよね」

 タツヤは立ち上がりマシロを真っ直ぐと見る。
 あの時の約束……かつてタッグを組んだ大会の後、マシロとタツヤは世界大会で戦う事を約束している。
 去年は、その約束は叶わなかったが、今年は違う。

「僕は君から王座を奪う。メイジンカワグチとしてではなく、ユウキ・タツヤとして君に勝って見せる」
「やれるものなら」

 二人の視線はぶつかり合う。
 どちらも譲る気は無いようだ。
 すると、マシロの携帯が鳴り、マシロが確認するとマシロは眉をしかめる。

「兄貴……悪い。兄貴からの呼び出し」

 メールはユキトからで、会場に来ているからすぐに来いとだけ書かれてある。
 用件は分からないが、わざわざ自分から来ると言う事はそれだけの用である為、決勝トーナメントを前に厄介な事になりそうだ。
 
「そうか。最後にこれだけは言わせてくれ。決勝で待っていてくれ」
「なら、勝ち抜いて来いよ。俺が勝ち上がるのは分かり切ってるからな。尤も、決勝より前に俺と当たったらタツヤは決勝に行けないけどな」
「その時はその時さ」

 決勝で戦うと約束した物の、トーナメントの組み合わせ次第では初戦で当たる可能性すらある。
 そして、マシロは誰と当たろうとも負ける気は無い。
 タツヤがマシロと戦う為にはそこまで勝ち続ける必要があった。
 今年の世界大会は例年よりも平均的にレベルが上がっている為、勝ち上がるのも楽ではない。
 
「兄貴から呼び出し受けてるから、行くけど。俺とやりたいなら負けんじゃねーぞ」

 マシロはそれだけ言って、ユキトに指定された場所に向かって行く。





 マシロがユキトに呼び出された場所はメインスタジアムのVIPルームだ。
 スタジアム内にはいくつも、こういった部屋が用意されている。
 幾ら、現チャンピオンと言えども、出場者は入る事は出来ないが、ユキトの方から話しが行っているのか、すんなりと入る事が出来た。
 出入り口を固めている護衛がいるもののVIPルームにはユキトしかいない。
 
「久しぶり」
「挨拶は良い。まずは順調のようだな」

 ユキトと会うのは1年くらいになるが、ユキトは久しぶりに弟と会ったところで前置きは最低限の物でしかない。
 ここまで勝ち進んでいる事も、当たり前の事でマシロと褒める気も労う気もない。
 マシロはユキトの対面に座る。

「どうも。で、何か用?」
「この大会の後の事だ」

 世界大会はこの後から決勝トーナメントが始まり、最大の盛り上がりとなるが、ユキトの中ではその後の事まで考えているようだ。
 ユキトは持って来た鞄の中から書類を出すとマシロの前に出す。 
 マシロは書類を流し読みするが、書類には数式やグラフが書かれているが、まともに学校にすら通っていないマシロには書類に書かれている事の殆どは理解出来ない。
 だが、これがガンダムやガンプラ、ガンプラバトルに関係している事だけは理解出来た。

「これは?」
「ガンダム及び、ガンプラバトルに関連している商品の収益を纏めた物だ。ガンプラバトルが始まって10年での収益がとんでもない事になっている事くらいはお前でも理解は出来るだろう」
「まぁ……」

 内容は理解出来るとも、グラフを見れば何となくそんな気はする。

「父さんもこうなる事を見越していたのだな。流石としか言いようがないな」

 まだ、父であるキヨタカが生きていた頃で、マシロが引き取られる以前にキヨタカはユキトにガンダムやガンプラを勧めていた。
 ユキトは幼少期こそは父の影響でガンダムやガンプラにはまっていた時期があったが、歳を重ねるごとに興味を失って行った。
 ユキトからすれば、将来的に更に人気が出る事を見越していたと思っているが、実際のところは一般家庭でもある、父が息子に自分の趣味を押し付けているだけに過ぎない。

「それで、兄貴は俺に何をさせない訳?」
「本題はこれからだ。ガンダムの人気はわが社にとっては莫大な利益をもたらす物だと判断した。だからこそ、クロガミグループは毎年のようにガンダムの新作と制作する事で、利益を出す。その為の用意はすでにできている」

 ユキトはガンプラバトルによって火の付いたガンダムの人気を利用しようと画策していた。
 毎年のようにガンダムの新作を作れば、その分、ガンプラの種類を増やす事が出来る。
 種類が増えればガンプラバトルにおいても、同じようなガンプラばかりではなく飽きられる事を防ぐ。
 種類も作中で出さずともMSVや外伝作品で改造機などを出す事で幾らでも水増しが出来る。
 その新作のガンダムも、クロガミグループが抱えている人材を使えば、方向性の違った作品を作る事も可能だ。
 その上でグループが総力を挙げて広報する事で、世界レベルで人気を広げる事も出来る。
 更にはガンプラを流通させる為の独自のルートも確保している。
 元々、マシロにエリカを落とさせるように指示をしたのもその為だった。
 そうして、全世界規模でガンダムとガンプラバトルの人気を広める事はクロガミグループの力を持ってすれば容易い。

「うちがその気になれば、可能かも知れないけどさ……ガンダムのファンってのは面倒なのも多いぞ。アンチとかさ信者とかさ」

 ガンダムは長年続いているシリーズだけあって、ファンの形にも様々だ。
 シリーズ全体を通して好きなファンも居れば特定の作品が好きなファンもいる。
 だが、長年続き多くの作品があるが故に、一部では好き嫌いが出て来るのも当然の流れだ。
 好きな作品の事に熱を上げるのなら、問題がないが、そうもいかないのが現実だ。
 ファンの中には嫌いな作品の事を徹底的に貶める所謂アンチと呼ばれるファンも少なくはない。
 単に嫌いだと思うだけなら、まだしも自分がつまらないと思うと言うだけで作品の粗を探し、制作サイドを貶め、面白いと楽しんでいるファンの感性すら貶める。
 また、逆に一部の作品を好き過ぎて、他の作品を否定するファン、所謂信者と呼ばれるファンたちもおり、アンチと信者は制作サイドにとっても普通に楽しんでいるファンにとっても害悪でしかない。
 当然、毎年のように新作を作れば、アンチや信者の恰好の的となる。


「無論。その辺りの事は問題はない。所詮、奴らは言いたい事を言うだけで、自分では何もできない屑どもだ。寧ろ、煽ってくれるのであれば好都合だ」

 ファンにとっては害悪でしかない存在もユキトにとっては利用価値がある。
 アンチにしろ、信者にしろ、作品を叩けば叩く程、好きなファンの感情を逆なでする事になる。
 そうなれば、ファンは更にのめり込んでいくだろう。
 それはクロガミグループにとっても、好都合な事だ。

「そんなやり方で長続きが出来るとは思わないけど」
「だろうな。長く続いても10年くらいと言ったところだろうな。だが、こちらが不利益を被る前に切り捨てる」

 ファン同士で貶めあうと言う事が続けば、やがてはガンダムと言うシリーズの存続にすら関わって来るだろう。
 だが、ユキトにとっては使い潰しても構わなかった。
 利益を得るだけ得た後は、グループに損害を出す前に切り捨てれば問題はない。
 
「何だよそれ……」
「安心しろ。切り捨てたとしてもお前の功績次第ではうちで面倒を見てやる」

 ガンダムやガンプラバトルが廃れてしまえば、一族においてもマシロの存在価値は無くなる。
 ユキトはそれを気にしていると思い、マシロの面倒を見ると言う。
 一族からすれば、マシロが死ぬまで面倒を見る事くらいは何の負担でもない。
 
「その代り、お前にはそれまでしっかりとグループの役に立って貰う」
「俺に何をさせる気だよ」
「今まで通りだ。観客達が求めている物はギリギリの緊張感と圧倒的な力で蹂躙する爽快感だ。前者は幾らでも作り出す事が出来る。お前がやるのは後者だ。圧倒的な力で勝利する絶対的な王者だ」

 ガンプラバトルでギリギリのバトルは観客を燃え上がらせる。
 それと同時に、表にこそ出さないが、圧倒的に相手を蹂躙する光景もまた観客が求める物だ。
 マシロには圧倒的な力を持った絶対的な王者として君臨し続ける事が、ユキトがマシロに望んでいる事だ。
 その為に、ユキトはマシロの支援を行って来た。
 外部から祭り上げられるよりも、確実に操る事の出来る内部の人間を使った方が良いと言う判断だ。
 
「作り出すね……」

 ユキトは前者、ギリギリのバトルは作り出す事が出来ると言っていた。
 つまりは、バトルを予め内容を決めると言う事だ。
 ガンダムを初めとした戦闘があるフィクションで手に汗握る戦いは全て製作者が意図的に作っている為、ガンプラバトルだろうと可能だ。
 だが、それでは客が満足しようとも、戦っているファイターはシナリオ通りに戦っているだけに過ぎない。
 それではファイターが満足できないが、ユキトから見ればそんな事はどうでも良いのだろう。

「だからお前は余計な事を考えずに勝ち続けろ」
「分かったよ。兄さん」

 ユキトはそう言うとノートパソコンを出して、別の仕事を始める。
 マシロに対する用件は終わり、後は用がないのか、マシロの事を一切気にしている様子はない。
 マシロもこれ以上、ユキトと話しをする気は無くVIPルームから出て行く。

(なぁ、兄貴……兄貴がやろうとしている事はかつて誰もがやらなかった悪行だって事。分かってんのか?)

 ガンダムは制作サイドからすれば商売である為、ある程度は儲ける為の事は考えている。
 それでもここまで露骨にはやっていないだろう。
 そして、ガンプラバトルも今までとは違ってくる。
 今まではただ、勝利し続け、一族の事には必要最低限の関わりで使える時に使っていたに過ぎないが、マシロはガンプラバトルをも自分達の為に捻じ曲げようとしているクロガミ一族と言う物を思い知る事となる。
 だが、今さらどうする事も出来ない。
 全ては自分の意志で全てを捨ててここにいるのだから。






 決勝トーナメントを2日後に控えた大事な時期にセイは相棒のレイジを喧嘩をしていた。
 原因はレイジがフェリーニとのバトルで損傷したスタービルドストライクを修理すると言いだした事に始まる。
 スタービルドストライクの損傷は決して軽くはないが、ギリギリのところで決勝トーナメントに間に合う事は出来そうだった。
 そんな時にレイジが自分も手伝うを言い始めた。
 セイはレイジが一度もガンプラを作った事が無い為、知識も技術もない事を知っている事もあって気持ちだけ受け取ろうとした。
 だが、レイジは頑なに手伝うと言って聞かなかった。
 そうして、口論となり弾みでスタービルドストライクが軽く壊れた事で、レイジがホテルを飛び出した。

「何だよ。レイジの奴……」

 レイジが飛び出した後、セイの方も頭に血が昇り、集中力が欠けてスタービルドストライクの修理が捗らず、気分転換の為に散歩していた。
 尤も、散歩をしていても気分転換にはならず、歩きながら一人でレイジに対する愚痴ばかりが出て来る。
 一人愚痴りながら、歩いていると昨日と同様にベンチに座りながらボーっとしているマシロと出くわす。

「何だ。イオリ二世か。今日はレイジと一緒じゃないのか?」
「別にいつもレイジと一緒って事はないですよ」

 レイジの事で機嫌の悪かったセイは、少し棘のある返しをしてしまう。
 

「喧嘩でもしたのかよ」

 図星を突かれてセイはあからさまに視線を逸らす。

「まぁ良いんだけどさ。この国では喧嘩する程仲が良いって言うし。そんな事よりもバトルに付き合えよ」
「えっと……僕はバトルの方は……」

 コンビを組むファイターとビルダーが喧嘩すると言う事は珍しくはない。
 そうやって、喧嘩し仲直りをする事で更に強くなるとマシロも聞いた事がある。
 セイとレイジが喧嘩をしたと言う事は、その時なのだろう。
 仮にコンビが解散したとしたら、マシロの見込み違いだったと言う事なだけだ。
 それよりも、マシロにとっては昨日、ユキトと話した事を考えたくは無い為、誰でも良いからバトルの相手を探していた。
 ガウェインやアイラを相手にすれば、どうしても勝つ為のバトルをしてしまう為、相手は勝とうを意識しなくても勝てる相手が望ましかった。
 そう言う意味ではセイは丁度良い相手だった。
 一方のセイは世界大会の地区予選で毎年一回戦敗退で、実力は並以下でしかない。
 本人もそれを自覚しているからこそ、ビルダーに徹してレイジと組んでいる。
 だからこそ、現役の世界王者とバトルしても相手にすらならない事は分かり切っている。

「それにガンプラは持ってませんし……」
「ガンプラは俺のを貸してやる。それに子供相手に本気を出す程、俺も子供じゃないからな」
「それなら……」

 勝つ事が出来ない事は分かり切っている。
 だが、本気で無ければ運が良ければ一矢報いる事が出来るかも知れない。
 もしも、それが可能なら、レイジを見返す事が出来るかも知れないとセイは考えてバトルの申し出を受ける事にした。
 それから二人は会場のフリーバトルが行えるバトルシステムに向かうが、そこでセイは軽く後悔する事になる。
 マシロから借りたガンプラは白く塗装されたシャイニングガンダムだった。
 一方のマシロは決勝トーナメント前だと言う事もありガンダム∀GE-1ではなくGエグゼスを使用する。
 セイの見立てでは、シャイニングガンダムは白で塗装されているものの、どちらのガンプラも素組で完成度に差はない。
 だが、シャイニングガンダムは格闘特化機で、Gエグゼスは高機動型のガンプラだ。
 戦い方が限られて来るシャイニングガンダムと高機動ながらもバランスの取れた装備を持つGエグゼスではセイの方が分が悪い。
 その上、ガンプラを借りている手前、自分が不利だからとガンプラを交換して欲しいとも言い出せない。

「やってやるさ。レイジに出来たんだ。僕にだって……」

 マシロ相手にある程度でも戦えたら、レイジを見返せる。
 その一心でセイは久しぶりのバトルを行う。
 今回のバトルフィールドはオーソドックスは地上ステージだ。
 バトルが開始され、Gエグゼスがビームライフルで先制攻撃を行う。
 その攻撃をシャイニングガンダムは紙一重で回避した。

「このガンプラ……凄く扱い易い」

 セイが使うガンプラは自分で制作した物が殆どだ。
 実家が模型店と言う事で幼い頃からガンプラに触れる機会の多かった事もあり、セイのビルダーとしての実力は世界レベルのファイターでも認める程だ。
 そんなセイのガンプラの性能は特別な改造をしなくても、高い性能を誇る。
 だが、それ故に扱う為にはある程度の実力が必要となっている。
 ガンプラの性能にファイターとしてのセイの実力は全く追いついていない事もあって、セイは実力を発揮する事が出来なかった。
 しかし、素組同然のシャイニングガンダムならセイの実力でも十分に扱う事が出来るようだ。

「これなら……僕にだって!」

 自分の思い通りにガンプラを動かせる為、セイは今までバトルの腕には自信が無かったが、少し自信を取り戻す。
 尤も、マシロは当てる気のない様子見の攻撃で、レイジなら余裕で回避して反撃が出来た。
 シャイニングガンダムはGエグゼスとの距離を詰めると、パンチやキックで攻めたてる。
 その攻撃を、シールドで流すか最低限の動きでGエグゼスは対応する。

「当たらない!」
「動きが単調過ぎる」

 今まではガンプラを思うように動かせ無かった為、セイの攻撃は単調で次に繋がっていない。
 だからこそ、その一撃さえ防いでしまえば問題がない。
 シャイニングガンダムが大きく振りかぶってパンチを繰り出すが、Gエグゼスはギリギリまで引きつけて回避するのと同時に足を引っ掛けてシャイニングガンダムをこけさせる。

「強い……やっぱり僕なんかじゃ……」
「諦めんのか?」

 運が良ければマシロに一矢報いる事が出来るかも知れない。
 そんな甘い希望はマシロに軽く打ち砕かれた。
 ガンプラの性能は互角で、本気を出していなくても、セイとマシロとの間には決して超える事の出来ない絶対的な差があると思い知らされるだけだ。
 どんなに足掻こうと勝ち目はない。
 このまま続けても一矢報いる事も出来ずに無様に負けるだけだ。
 ならば、潔くここで負けを認めるのも一つの手だ。
 どの道、相手はマシロである以上、負けたところで何一つ恥ずかしい事は無く、負けて当然な相手だ。
 だが、シャイニングガンダムは立ち上がり、Gエグゼスに向かって行く。
 勢いを乗せたパンチもGエグゼスに届く事は無く、シールドを突き出して吹き飛ばされる。

(何かないか……このまま負けるとしても何か出来る事は……レイジは諦めなかったんだ)

 以前にマオと組んでレイジはマシロとバトルしている。
 その時も数の差をもろともせずにレイジとマオを圧倒した。
 あの時も圧倒的な差を前にレイジは諦めずに向かって行った。
 ここで諦めてしまったら、レイジを見返すことなど一生出来ない。
 だからこそ、セイはマシロに立ち向かう。
 セイは頭をフルに回転させて状況を変える方法を模索した。
 自分と相手のガンプラの特性、バトルフィールド……状況を変える事が出来れば何でも良かった。
 不思議と周囲の情報は頭の中に入って来た。
 セイは気づいていないが、レイジがここまでのバトルを通して成長しているようにセイもレイジをサポートする事で、ファイターとしては得られない視野の広さを会得していた。
 セコンドは目の前の相手に集中しているファイターとは違い、常に変わるバトルの様子を見ながらガンプラの状態や相手のガンプラの打開策などを考えなければならない。
 そして、セイは状況を変えられるかも知れないたった一つの答えに辿りつく。

(これだ!)

 武器スロットの中にそれがあった。
 それを使うとシャイニングガンダムの右手が光輝く。
 シャイニングガンダムの代名詞とも言える必殺技のシャイニングフィンガーだ。
 当然の事ながら、シャイニングガンダムの武器スロットにシャイニングフィンガーは登録してあった。
 これなら通常の攻撃よりも攻撃力が高い。

「シャイニングフィンガーか……なら」

 シャイニングガンダムがシャイニングフィンガーを使うのを見たマシロはシールドとビームライフルを捨てて両手にビームサーベルを持たせる。
 Gエグゼスが二本のビームサーベルを構え、シャイニングガンダムがシャイニングフィンガーを構える。

「シャ、シャイニングフィンガー!」
「ウルフファング」

 シャイニングガンダムが勢いよく、Gエグゼスに突っ込む。
 シャイニングフィンガーがGエグゼスを捕えるかと思った瞬間にセイはGエグゼスを見失った。
 そして、シャイニングガンダムは一瞬の内にGエグゼスの二本のビームサーベルでバラバラに切断された。
 ガンプラの性能に差は無かった筈だ。
 だが、セイでは反応出来ない程の動きを可能にしたのはマシロの実力なのだろう。
 改めてセイは自分では一矢報いる事はおろか、対等に戦う事すらも出来ない相手だったと言う事を痛感した。
 マシロとの実力差を思い知らされたセイは落ち込むどころか、清々しくすらあった。
 ここまで差を見せつけられてしまえば、悔しさすら湧いてこない。

「あ……マシロさん! ごめんなさい!」

 バトルが終わって、負けた余韻に浸る事無く、セイはマシロに謝った。
 今のバトルでマシロから借りたシャイニングガンダムはバラバラに壊れてしまった。
 パッと見る限りでは簡単には修理出来ない程に壊れている。
 壊したのはマシロだが、セイは自分がもっとうまく戦えていたらここまで壊れずに済んだかも知れないと思った。
 そして、セイはある事に気が付いた。
 今までは自分の作ったガンプラでバトルをしていた為、バトルに負けて壊れてもまた直せば良いと思っていた。
 だが、今回は人が作ったガンプラを使ってバトルをして壊した。
 自分の作ったガンプラの時とは違い、壊してしまった事に対して申し訳ないと言う気持ちとなった。
 それは今までレイジが感じていた事でもあった。
 セイはレイジの事を全面的に信用している為、レイジの操作なら負けて修理不能になっても納得し、その事でレイジを責めたりはしない。
 全ては自分が納得した上で、レイジに自分のガンプラを託しているからだ。
 しかし、レイジからしてみれば、自分を信じて託したガンプラを壊しているのだ、マシロのガンプラを壊してしまったセイの比ではない。
 そんな気持ちを抱えて、常にレイジはバトルしていたのだと、セイは初めて知る事になる。
 だからこそ、レイジはフェリーニとのバトルで損傷したスタービルドストライクを直す手伝いをしようとしつこく言って来たのだろう。

「マシロさんはそれを僕に教える為にこのバトルをしたんですね!」
「……ああ、うん。まぁ、そんなところだ」

 セイからすれば、並以下の実力しかない自分にマシロがバトルを挑む訳が無い為、自分にレイジの気持ちを教える為にバトルをしたのだと解釈した。
 だが、実際のところ誰でも良かったとは純粋に感謝の眼差しを向けているセイに対して言える訳もなかった。

「それに今回のバトルで見えて来た事もあります。僕は帰ってスタービルドストライクの修理に専念します!」

 セイはバトルにこそ負けたが、ファイターとしてバトルした事でレイジの気持ちを理解しただけでなく、何か閃いたようだ。
 そんなセイを見て、マシロは罪悪感を覚えた。
 この世界大会が終われば、クロガミグループによりガンダムもガンプラバトルもクロガミグループが利益を得る為だけの道具をなる。
 そして、自分はガンプラバトルを破壊する側の人間だと言う事を思い知らされる。
 




 その事すらも忘れる為に戻ったマシロをガウェインを相手にひたすらバトルを繰り返していた。
 だが、何度やっても忘れる事などできはしない。
 今更どうする事もマシロには出来ない。
 ガウェインとのバトルが10回を超える頃に、アイラが帰って来る。
 そして、アイラはバトルが終わるタイミングを見計らいマシロに近づく。

「マシロ。これを見て頂戴」

 アイラは自信満々にガンプラをマシロに見せる。
 一般的なガンプラではなくそれはSDガンダムと呼ばれるシリーズだ。
 作中に出て来るモビルスールを縮小したガンプラとは違い、2等身となっている為、女の子や子供に人気のシリーズだ。
 アイラが見せて来たのはコマンドガンダムだった。

「色々あって作って見たけど、どうよ。私だって少しは作れるのよ」

 バトルの練習をある程度、真面目に練習するようになっても、アイラはガンプラを作った事は無い。
 マシロも自分の使うガンプラの事をきちんと理解さえしていれば、わざわざ自分で作る必要はないと、制作に関しては特に課題も出していなかった。
 寧ろ、時間が限られている以上、ガンプラの制作技術よりもバトルの技術を優先させていた。
 だが、どういう訳か、アイラは自分でガンプラを制作したようだ。

「どうって……それ、墨入れとつや消しはしてるけど、初心者レベルの出来だろ。何、その程度で良い気になってんだよ」

 アイラのコマンドガンダムは初心者が制作したにしては基本を押さえて丁寧に作られている。
 アイラも出来には自信を持っていたが、マシロの反応は冷たい。

「……マシロの馬鹿!」

 自信作を酷評されて、アイラは怒りながら出て行く。
 その様子を見てガウェインはため息をつく。

「アレはないわ。どう見たって褒めて欲しいって言ってるようなもんだろ」

 ガウェインはアイラとは別に親しくはないが、流石にアイラがマシロに褒めて欲しくてコマンドガンダムを見せて来たのは明白だ。
 誰でも初めてガンプラを上手く作れた時は親や兄弟、友達に見せて凄いと褒めて欲しいと思うのは良くある事だ。
 アイラにとっては、褒めて欲しい相手と言うのはマシロだったのだろう。

「良いんだよ。あれで。大体さ、俺が師匠とか始めから柄じゃなかったんだよ。俺は昔から強くなる為に必要な物と要らない物を選んで来た。だから選んだだけだ。俺が俺である為にアイツは要らない」

 マシロはガンプラバトルに必要な物を選んで来た。
 必要ないと判断した物は捨てた。
 そして、アイラも必要ないと判断した。
 ユキトがガンプラバトルを売り物にすると言う事はマシロにとっては自分にとっての全てを壊される事だ。
 だが、ガンプラバトル以外に取り柄の無いマシロにはどうする事も出来ない。
 そんなところにアイラが居たら、マシロは昔のただのマシロであった時の事を懐かしみ戻りたくなって来るだろう。
 今までアイラの面倒を見たのも心の奥底ではあの時に戻りたいと言う願望があったのかも知れない。
 しかし、どんなに望んだところで、マシロには帰る場所はクロガミ一族の中にしかない。
 これも自分で選んで捨ててしまった事だ。

「結局、俺は何をしたかったんだろうな」

 マシロはそう呟いて、バトルを切り上げる。







 

 決勝トーナメントを翌日に控えた頃に、ベスト16に残ったファイター達の組み合わせが公表された。
 その組み合わせを見たマシロは顔を顰めている。

(なんだこれ。ずいぶんと露骨に操作されてるな)

 トーナメン表を見たマシロの第一印象がそれだ。
 マシロはAブロックの第一試合で対戦相手はアルゼンチン代表の双子のファイターであるレナート兄弟だ。
 それはどうでも良い。
 マシロとは逆のBブロックにはメイジンカワグチの名がある事は今はどうでも良かった。
 問題はAブロックとBブロックの組み合わせにある。
 Aブロックには他にはルワン・ダラーラにアイラ、エリカにコウスケの4人と後はギリギリ出場したマシロも注目する気にもなれないレベルのファイターが2人だ。
 対するBブロックはその大半が全勝組となっている。
 流石にこれを偶然と考えるのは不自然だ。
 まるで何者かがBブロックのファイターの誰かを意図的に強敵と当てて負けさせようとしているかのようだった。
 仮に最後まで勝ち上がったとしても決勝で自分を当てると言う狙いが見える。

(となると……レイジとセイか)

 Bブロックで狙われている可能性として考えられるのがセイとレイジだ。
 第7ピリオドで妨害された他にも考えてみれば、第3ピリオドでレイジが怪我を負った状態で圧倒的な不利な条件でバトルをさせられている。
 もはや、運が悪いでは済まされないレベルだ。
 決勝トーナメントにしても二人の1回戦の相手はここまで圧倒的な火力を駆使して勝って来たマオで2回戦には粒子を使った技を使うニルスと大会でも最高クラスの射撃能力を持つアオイのどちらかだ。
 2回戦を勝ち進んだとしても、3回戦ではメイジンと当たりかねない。
 その上で決勝で自分と当たる。
 
「流石にこいつは……」

 セイとレイジに次々と強敵を当てる事自体に不満はない。
 だが、不満点があるとすればAブロックの組み合わせだ。
 1回戦で当たるレナート兄弟はともかく、2回戦で当たるのはルワンかエリカだ。
 どちらもすでに一回は勝っている相手だ。
 3回戦は順当にいけばアイラとなるが、アイラとは何度もバトルしている。
 トーナメントと言う方式上、マシロが優勝までに戦えるのは4回と限られて来る。
 その限られた回数の中で、強い相手と戦いたいが、メイジンとレイジと両方を戦う事は出来ない。

「仕方が無い」

 今までは一族を動かすことはしなかったが、この大会が終わればガンプラバトルが変わってしまう。
 その為、貴重な残り少ないバトルを邪魔しようとするのであれば、マシロも黙ってはいない。
 流石に明日から決勝戦と言う事もあって、レイコを使う事は出来ないが、クロガミグループの情報網があれば、数日で今までセイとレイジを妨害するように指示を出した相手を割り出すことが出来る。
 マシロはすぐにその為の指示を出した。






 決勝トーナメントが明日に迫り、会場内のPPSE社ワークスチームは慌ただしく動いていた。
 本社の方から予選ピリオドで得たケンプファーアメイジングのデータから、決勝トーナメント用のガンプラを用意していた。
 ギリギリまで制作をしていた事もあり、メイジンの手に渡るのは前日となっていた。

「これがアメイジングエクシアか」
「そう。PPSE社が総力を挙げて制作した君専用のガンプラだ」

 メイジンのセコンドとしてついているアランは自慢げに説明する。
 メイジンの為に用意された新しいガンプラはガンダムOOのファーストシーズンの主人公機であるガンダムエクシアを改造したガンダムアメイジングエクシアだ。
 ケンプファーアメイジングは中遠距離でのバトルに重きを置き、アメイジングウェポンバインダーにより毎回ルールの変わる予選ピリオドに対応できる汎用性を重視したガンプラだった。
 一方のアメイジングエクシアは中近距離での戦闘を主眼において、決勝トーナメントの共通のルールである一対一でのバトルを重視したガンプラだ。
 
「本体は届いても武装は最低限の物しか用意されていないようだが?」
「まぁね。そこは僕達の方で作るしかないね。けど、そうする事でこのアメイジングエクシアは完璧な状態で完成する」

 現在のアメイジングエクシアはバトル可能な状態ではあるが、武装はシールドとGNソードをベースとしたアメイジングGNソードのみだ。
 ここから実際に操作するメイジンが必要と思う武器を自ら制作する事でアメイジングエクシアは完成する事になる。

「余り時間がないのに開発班も無茶を言う」
「そう言うなよ。彼らだって君を勝たせる為に最大限の努力をしているんだ。今回だって……」
「理解はしている」

 最後をメイジンに投げる形となったのは開発班の怠慢ではない。
 メイジンを優勝させる為には最強の王者であるマシロに勝つ事は必須だ。
 マシロとの戦闘データは第二ピリオドの物があるが、記録映像と実際のバトルとでは違ってくる。
 だからこそ、実際に戦ったメイジン自らが、マシロに勝つ為に必要な物を付け加えれるように必要最低限の装備しか用意しなかった。

「分かってるよ。まずは目の前の相手の方だ。君の1回戦の相手はイギリス代表のジョン・エアーズ・マッケンジー」
「2代目メイジンのライバルだったマッケンジー卿か」

 メイジンの1回戦の相手は今大会では最年長のファイターであるイギリス代表のジョン・エアーズ・マッケンジーだった。
 大会最年長の78歳と言う高齢と言う事もあり、ここまで目立った活躍はない。
 だが、ガンプラバトル歴はメイジンとは大きな差はないが、ガンプラ歴ではメイジンの何倍も長くやってきている。
 相手は自分以上にガンプラの事を知り、かつては2代目メイジンカワグチのライバルでもあったファイターだ。

「余り気負う必要はないさ。孫のジュリアンならともかく今のあの人なら君とアメイジングエクシアなら十分に勝機はある」
「どうだろうな」

 アランはメイジンの実力とアメイジングエクシアの性能に絶対的な信頼を持っている。
 だからこそ、メイジンが負ける事など考えてはいない。

「心配症だね。無理もないか。まだアメイジングエクシアは調整段階。トランザムも未調整だからね」

 メイジンの1回戦は初日に行われる。
 決勝トーナメントは基本的には1日2回のバトルで進められる。
 午前中にAブロックが、午後からBブロックのバトルだ。
 メイジンのバトルはマシロのバトルの後になる。
 流石にそれまでに装備を用意する事は出来ない。
 その上で、開発の段階ではガンダムOOのガンダムの多くが持つトランザムシステムは搭載する事にはなっていなかった。
 安定して高い性能を発揮する為には、一時的とはいえ性能を底上げする代わりに使用後の性能がガタ落ちするトランザムは不要と言うのが研究班の見解だった。
 だが、第二ピリオドで見せたガンダム∀GE-1 フルアサルトグランサのバーストモードの存在が、研究班も脅威を考えていざと言う時の切り札であるトランザムシステムの搭載を急遽決まった。
 そのせいでトランザムシステムは未調整となっている。

「だからトランザムは使わないでくれよ」
「分かっている。そこまで危険な賭けには出る気は無い」
「それは何よりだ。油断が無ければ1回戦の勝利は固い。問題は次の2回戦だね」
「イタリアのフェリーニか」

 初戦の相手は油断さえなければ脅威とはなり得ない。
 次の2回戦で予想される対戦相手はイタリア代表のリカルド・フェリーニだ。 
 フェリーニの1回戦の相手はありすだが、ありすのここまでの戦歴を考えると2回戦の相手はフェリーニの可能性が高い。
 1回戦以上に油断の出来ない相手だ。

「アラン。これは僕に対して課せられた試練だと思っているんだ。Bブロックには多くの強敵がひしめいている。だからこそ、そんなBブロックを勝ち抜いてこそ、僕はマシロの前に立つ資格があるんだ」

 先ほどまでのメイジンとしてではなく、ユウキ・タツヤとしての言葉だ。
 BブロックはAブロックと比べて実力の高いファイターが集中している。
 そんなBブロックを勝ち抜いてこそ、マシロと対等に対峙する資格が与えられると言うのが、このトーナメント表を見たタツヤの感想だ。
 それぞれの想いや思惑が交差しながら、遂に世界大会も終盤の決勝トーナメントの火蓋が切って落とされる。



[39576] Battle46 「それぞれの理由」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/10/10 09:19
 世界大会決勝トーナメントの当日を迎え、メインスタジアムには大勢の観客が詰めかけている。
 特に初戦は前回の王者であるマシロのバトルと言う事もあり、観客はマシロのバトルに期待を寄せている。
 会場の中継をメイジンは会場内の控室で見ていた。
 
「相手はアルゼンチンのレナート兄弟だ。予選ピリオドを全勝で勝って来たものの目立った活躍は第7ピリオドでイオリ・セイ、レイジ組を破ったくらいだが……一回戦の勝敗は決まったも同然かな」
「どうだろうな。能ある鷹は爪を隠すと言う」

 レナート兄弟の戦果はマシロやメイジンと同じ全勝で勝ち抜いて来た。
 だが、圧倒的な実力で勝ち抜いたマシロやメイジンとは違い、レナート兄弟は目立った戦果を挙げていない。
 これまでのバトルを見る限りでは、マシロとの実力差は明白でマシロの初戦の勝利は固いように見える。
 しかし、メイジンは逆に目立たな過ぎて違和感を感じていた。
 決勝トーナメントに勝ち抜いて来たファイターは誰もが自慢できる武器を持っている。
 レナート兄弟は今まで毎回使用するガンプラを変更している事もあって、目に見えた武器は無い。
 逆に言えば、そんな武器を見せる事無くここまで勝ち抜いて来たと言う事だ。
 
「尤も、それは彼も同じことかも知れんがな」

 レナート兄弟が何かを隠していると言う事は明白だ。
 だが、マシロもまた全てを見せてはいない。
 予選第8ピリオドで見せた荒々しいバトルもそうだが、マシロは勝つ為に全てを晒さない。
 一部の手札を晒して相手を揺さぶりにかけて置いて、状況に応じて新たな手札を見せて相手を翻弄する。
 それで去年の世界大会は誰一人としてマシロを出し抜く事が出来ずに優勝している。
 今年も去年と同じガンプラを使っている以上はまだ、マシロには隠している手札があると言う事になる。
 つまりは、この一回戦は双方が手札を隠した状態でのバトルと言う事だ。
 隠している手札がより強い方がこのバトルを制するだろう。

「確かに、そう言う点では一回戦の相手はレナート兄弟で良かったとも言えるか……」

 手札を隠すマシロだが、すでに公開した手札で対処可能であれば、新たなに手札を切っては来ないだろう。
 だからこそ、実力を隠して来たレナート兄弟はマシロの新しい手札を切らせるのにはうってつけの相手だ。

「メイジン! 大変です!」

 マシロとレナート兄弟のバトルが始まるのを待っていると、アランの部下が慌てて入って来る。

「何事だ?」
「先ほど、メイジンの対戦相手からファイターの交代申請が出されて受理されたと……」
「交代だと? マッケンジー卿に何があった?」

 世界大会のルールにおいて、エントリー時に登録したファイター以外での交代は認められていない。
 だが、場合によっては例外が認められていた。
 その条件として本来の出場選手が怪我、または病気などで大会を続けることが出来ないと医師の判断があった時と言うのが前提としてある。
 一つ目は交代が可能なのは決勝トーナメントのみである事だ。
 PPSE社としても様々なところから融資を受けて、大会を開催している以上は大会は失敗出来ない。
 予選ピリオドなら出場者の一人くらいの欠場では問題がないが、決勝トーナメントとなればそうもいかない。
 バトルが一つ抜けるだけでも盛り上がりに欠けて大損害に繋がりかねない。
 そうなるくらいなら、交代してでもバトルを成立させると言う事は重要だ。
 二つ目は代わりのファイターの実力だ。
 決勝トーナメントは全世界にリアルタイムで中継されている。
 その為、代わりのファイターの実力が決勝トーナメントに参加するに相応しくないファイターを代わりにされると、盛り上がりに欠ける。
 それを避ける為にも交代するファイターの実力も必要だ。
 メイジンの対戦相手であるジョン・エアーズ・マッケンジーが交代申請を出してその申請が通ったと言う事はこれらの条件を全てクリアした事になる。

「それでカワグチの相手は誰になったんだ?」
「代わりのファイターの名はジュリアン・マッケンジーとあります」
「ジュリアンだと!」

 その名を聞いて、メイジンとアランは驚愕して顔を見合わせる。
 二人はその名を知っていた。
 メイジンがユウキ・タツヤとして、マシロと出会う以前にアランと共にガンプラ塾にいた時の先輩がジュリアンだ。
 ジュリアンはガンプラ塾の一期制で、三代目メイジンカワグチに最も近いファイターとされていた。
 そして、タツヤはガンプラ塾で一度もジュリアンに勝った事は無い。

「全く……まさか、こんなところで超えるべき壁が出て来るなんてね」

 ジュリアンはガンプラ塾と二代目メイジンカワグチの方針を受け入れる事が出来ずにガンプラ塾を去り、ガンプラバトルから離れた。
 多少のブランクはあるとしても、その実力は健在だと考えるべきだ。
 何故、ファイターの交代と言う過去にも殆どない事が起きたかと言う事はこの際、どうでも良い。
 だが、タツヤにとってはマシロに挑む前に越えねばならない壁が目の前に立ちはだかったと言う事だけは事実だった。









 マシロとレナート兄弟のバトルの開始時間がまじかに迫って来るが、控室のレナート兄弟は対戦相手が現王者と言うにも関わらず余裕を見せていた。
 尤も、弟のフリオはネットの予想を見て不満そうにしていた。

「どいつもこいつも……好き勝手に言いやがって」
「言わせておけ」

 ネット上では一回戦で、どんな風にレナート兄弟を倒すと言う話題で持ちきりだ。
 その意見でもレナート兄弟が勝つ事はおろか、善戦すら出来ずに負けると言う事を前提にどれだけ圧倒的な差を見せつけるかで議論は盛り上がっている。

「けどよ……」
「気にすることはない。確かに去年の大会で優勝した実力は本物だ。それに二代目に勝ったと言う噂すらある」

 言いたい放題入れているが、兄のマリオは動じた様子はない。
 結局のところ、ネットの意見は自分達の真の実力を知らないから言える事だ。

「実力はあっても所詮は全てを与えられている坊やだ。俺達の戦争をすれば勝ち目は十分にある」

 レナート兄弟からすれば、マシロはクロガミ一族と言う家に生まれて自分で得ることもなく、全てを与えられている子供に過ぎない。
 実力がある事は認めざる負えない事実だが、決して勝てない相手ではない。

「だから余り熱くなるな。こちらのペースにさえ持ち込めば負ける事はない」
「分かってるけどよ。ようやくあの時の屈辱を返すことが出来ると思うと……」
「それは俺も同じだ。だが、忘れるなよ。俺達にとってマシロ・クロガミは通過点に過ぎない。最終的には決勝で三代目メイジンカワグチの化けの皮を剥がす事だ」

 レナート兄弟の最終的な目的は優勝以上にメイジンカワグチに勝利して、今のメイジンはメイジンたる実力がないと言う事を世界大会を通じて世界に見せつける事だ。
 だが同時にレナート兄弟はマシロに恨みを持っていた。
 数年前、たまたま二人で出場したタッグバトル大会において、レナート兄弟はマシロと出会っていた。
 その時のマリオのガンプラはガンダムデュナメスでフリオのガンプラはガンダムサバーニャだった。
 予選のバトルロイヤルで二人は身を隠しトラップで周囲を固めて狙撃で敵を仕留めていた。
 順調に撃墜数を稼いでいたところに、マシロのガンダム∀GE-1が通りかかり、トラップをあっさりと掻い潜り二人のガンプラを撃墜した。
 ただ、負けたのならいざ知らず、その時のマシロはただ近くにいたから仕留めた程度でレナート兄弟の事など眼中にないと言う事が伝わって来た。
 それは二人にとっては何よりの屈辱だった。
 そんなマシロがタッグバトル大会で優勝しただけでなく、去年の世界大会で優勝した事を知り、この世界大会の場であの時の屈辱を晴らす為にレナート兄弟は出場した。
 尤も、出場後に三代目のメイジンカワグチが大会に出て来る事になり、たった一度の屈辱の復讐よりもメイジンカワグチのメッキを剥がすことを最優先事項に変更にはなったが、復讐も忘れてはいない。

「あの時、奴はこう言った。俺と倒したければもっとトラップを用意して来いと。お望み通りに地獄を見せてやるさ」
「当然だ。兄貴!」

 レナート兄弟は過去の復讐の為にマシロとのバトルに向かう。
 同時刻、マシロの控室からマシロがレイコと共に最後の打ち合わせを終えて、会場に向かっていた。
 予選ピリオドから今日までの間に何があったのか知らないがマシロの様子が変わったと言う事にレイコは気が付いていた。
 今日もバトルが始まる前から、臨戦態勢でまるで触れれば全てを切り裂く、抜き身の刀のようなオーラを全身にまとい、血に飢えた獣を思わせた。
 何がここまでマシロを駆り立てるのかは分からないが、今日のマシロは今までとは一味違う。
 だが、味方である筈の自分すらも切り裂きそうな感覚すら覚える今日のマシロには正直近づきたくはないとも思いながらも、逃げる訳には行かない為、少し離れている。
 二人がメインスタジアムのステージに上がり、バトルシステムの前に立つ。

「よう。チャンピオンさんよ。あの時の借りを返しに遥々来てやったぜ」

 フリオがマシロを煽るがマシロは完全に無視してガンプラをバトルシステムに置いた。

「ちっ……無視かよ」
「気にするな。向こうのペースに乗せられるぞ」

 完全に無視されて、頭に血が昇りかけるフリオをマリオが沈める。
 
「出るぞ」

 そして、決勝トーナメントの第一回戦第一試合が開始する。
 今回のバトルフィールドは廃墟となっている。
 マシロの装備はフルアサルトジャケットだ。

「マシロ。相手のガンプラは見えた?」
「ジムスナイパーⅡの改造機だ。外付けで色々と持ち込んでいた」
「スナイパー……プランはそのままで構わないわ」
「了解」

 マシロはバトルフィールドから出た一瞬の間にレナート兄弟のガンプラを見ていた。
 今までは殆ど改造していなかったが、今回はレナート兄弟も決勝トーナメント用のガンプラであるジムスナイパーK9を投入している。
 マシロの見立て通り、ジムスナイパーK9はジムスナイパーⅡの改造機だ。
 レイコはジムスナイパーⅡの事は知らないが、スナイパーと名のつく以上は狙撃機であると言う頃は理解した。
 そして、相手が狙撃用の機体を使うとなれば、事前の作戦のままでいい。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは手頃な広場を見つけると、広場の中央の陣取った。
 バトルが開始されて、すぐにバトルが止まった。
 マシロのガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは広場の中央から全く動かずに、レナート兄弟のジムスナイパーK9は廃墟の建物に姿を隠して動かない。
 膠着状態が1時間程続き、バトルを期待していた観客からは口々に野次が飛ばされる。
 だが、マシロもレナート兄弟も野次には動じない。

「そろそろか」

 余り時間を使いすぎるとタイムオーバーとなる為、マシロが先に動き出す。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが動き出そうとした瞬間にガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの四肢が爆発する。

「何が起きたの!」
「狼狽えるな。四肢の関節にジオン兵が爆弾を仕掛けただけだ」
「いつの間に……」
「小さいからレイコは気づかなかったんだろう。想定内だ」

 レイコは完全に裏を突かれていた。
 この一時間の間にジムスナイパーK9はバックパックに内容されているジオン兵を使って、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの四肢に爆弾を仕掛けていた。
 その余りにの小ささにバトルフィールドの地形を把握していたレイコは完全に気づかなかった。
 レイコはガンプラバトルの作戦を立てる上で、様々な戦術を把握していたが、まさか、人間に対して更に小さい人間が四肢に爆弾を付けるなど言う事は考えてはいなかった。
 尤も、マシロは気づいていたようだ。
 四肢が爆破されるも、爆弾の威力は大したことは無かった為、四肢は吹き飛ばされる事は無かった。

「ちっ……あれで破壊出来ないのかよ」
「狼狽えるな。この程度で仕留められる相手ではない事は分かっていた事だろう」

 並のガンプラなら今ので四肢を破壊されて終わりだが、関節部に特殊プラスチックを使っていたガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの関節は破壊出来なかった。
 だが、直接爆破した事で四肢にダメージを与える事が出来た。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの両手に装備されているドッズランサーもハイパーメガドッズライフルも重量が重い為、ダメージを受けた腕の関節では持ち上げる事が出来ずに両腕が下がる。

「両腕が……」
「問題ない」

 そして、どこからともなく、狙撃されるが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはホバー装甲で回避する。

「すぐに狙撃場所の特定を……」

 レイコがジムスナイパーK9の位置をビームの軌道から割り出そうとするが、全く別の方向からビームが飛んで来る。
 それをかわすが、やはり別の場所からビームによる狙撃が行われる。

「狙撃場所が複数!」
「当然だろ。狙撃用のライフルも体に括りつけて10本くらいは持ち込んでる」

 一瞬で見てだけでも、手持ちの一つを含めて最低でも10本の狙撃用のライフルをレナート兄弟はバトルフィールド内に持ち込んでいる事になる。
 それを時間をかけてバトルフィールド上に配置しているのだろう。

「やってくれるわね。素人の癖に」
「だが、1000本以下なら想定の範囲内だ」

 事前の情報からレナート兄弟は真っ向勝負よりも情報戦などを駆使した搦め手の方が得意だと予測している
 そこからある程度の行動も予測できる。
 その中に狙撃も含まれていた。
 バトルフィールドにもよるが、今回のように市街地戦ならば、マシロは1000方向位からの狙撃までは想定していた為、10本程度なら気にする程でもない。

「作戦通りにやる」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは狙撃をかわしながら走っていると、ビルとビルの間に張り巡らされているワイヤーに引っかかる。
 すると、爆発と共にビルが倒壊して、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの頭上に落ちて来る。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはビルの瓦礫を破壊しようにも両手の武器は真上には上げる事が出来ない為、加速して回避するが、回避先にもワイヤートラップが設置されていた。

「いい気味だな」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットがトラップにかかって行く様をレナート兄弟はビルに隠れながら見ていた。
 この1時間でバトルフィールド内の至るところに持ち込んだトラップが設置されている。
 
「そうだな。これが俺達のやり方だ。坊やのお遊びっじゃない。戦争だ。だが、油断するなよ」

 マシロがトラップにかかっている為、気分が良くなるフリオだが、マシロは諌める。
 トラップにかかったとはいえ、まだガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを仕留めた訳ではない。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは地上のトラップを回避する為に推力を最大にして飛び上がる。
 ビルを飛び越す程に飛び上がったガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは若干下を向いているがハイパードッズライフルを構える。

「アイツ! ここら一帯を吹き飛ばす気か!」

 幾らトラップを仕掛けて隠れていようとも、トラップごと周囲のビルを破壊してしまえば全てが無駄となる。

「想定内だ」

 だが、当然の事ながら、マリオもその可能性は考えている。
 マシロのバトルは基本的に圧倒的な力で相手を叩き潰すことにある。
 だからこそ、強引な攻めも予測して対処法を考えていた。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの四肢に爆弾を仕掛けたジオン兵はそのまま廃墟に隠れていた。
 その中の1体が狙撃ライフルでガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを狙撃する。
 ジオン兵の大きさは小さい為、豆鉄砲程の威力もないが、人並外れた反応速度を持つマシロは一瞬だけ気を取られる。
 普通なら気づかない程の隙だが、事前に予測していればその隙を狙う事も出来る。
 念を入れてジムスナイパーK9ではなく、囮の狙撃ライフルで背後からガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットを狙撃する。
 ギリギリのとことでバックパックのグラストロランチャーの一つをパージして盾替わりに使って防ぐ。

「ちっ……防がれたか」
「気にするな。予定通りだ」

 マシロの反応速度ならば、この一撃を防がれる事も予測は出来る。
 ダメージこそは与えられないが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの武器の一つを潰すことには成功した。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはそのまま、降下を始める。
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの姿はビルの影に隠れて見えないが、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが落ちた方向から爆発は起こる。
 レナート兄弟はワイヤートラップだけでなく、地雷も設置していた。
 それにガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが着地時に引っかかったのだろう。
 流石のガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットも足を潰されてしまえば動く事は出来ない。
 だが、爆風から殆ど無傷のガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが飛び出して来る。

「膝の武装コンテナを身代わりにしたか」
 
 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは殆ど無傷だが、膝のホルスターが片方だけになっている。
 恐らくは地面に着地する前にホルスターを先に地面に落として地雷の直撃を防いだのだろう。

「大人しくやられていれば地獄を見ずにすんだののによ」
「フリオ。こちらの狙撃も完全に見切られているぞ」

 自分達の位置を把握されずに一方的に攻撃して、フリオは気が大きくなるも、こちらの狙撃は完全に見切られている。

「分かってよ! 行って来い!」

 狙撃が当たらない為、次の手を打つ。
 ジムスナイパーK9のバックパックは分離可能して、K9ドックとして独立可能が出来る。
 K9ドックを使って自分の仕掛けたトラップにかからないようにガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの死角を突いては狙撃を行う。

「自走砲か」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは腰のビームガンを使うが、K9ドックはビルの影に隠れてかわす。

「良い気なもんだな! 兄貴! 絶対的王者様が何も出来ずに地を這いずるのを見るのはよ!」
「おかしい……」

 ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットは次々とトラップに掛かり圧倒的に優位に立っている筈だが、マリオは素直に今の状況を受け入れる事は出来ずにいた。
 今の状況は考えていた状況の中で最も理想的な形で事が運んでいる。
 なのに、背筋が凍る感覚を感じている。

「……まさか!」
「ああ。そのまさかだよ」

 マリオはマシロの思惑に気が付いた。
 今まで、マシロはトラップにかかっていると思っていたが、それは逆だった。
 トラップにかかっているのではない、マシロは自らトラップにかかる事でトラップを一つ一つ潰していたのだった。
 バトル開始時に持ち込んだ資材を使って仕掛けられているトラップの数には当然限りがある。
 だから、マシロ達はわざとトラップを仕掛ける時間を与えて、仕掛け終えたところに自らかかることでトラップを潰して回っていた。
 自らトラップにかかると言う行為は自殺行為に他ならない。
 一歩間違えれば自滅するだけだ。
 それでも、マシロはトラップを潰す為に意図的にトラップにかかり続けた。
 ある程度は身代わりを立てる事で、ダメージは軽減しているが、それでも無傷とは言えない。

「レイコ」
「ええ。私の見立てではトラップの9割以上は駆除したわ」
「やられた……」

 レナート兄弟が狙撃をして来た時点でトラップを仕掛けて来る事は想定していた。
 先にトラップを始末すれば後はゆっくりと狙撃ポイントを潰して回れば良い。
 狙撃は相手に一方的に攻撃出来る反面、位置を特定してしまえば一対一では圧倒的に不利となる。
 それを補う為のトラップだが、その大半はマシロが意図的にかかって排除してある。

「狼狽えんなよ! 向こうだってボロボロだ!」
「ああ……そうだな」

 自分達の策の裏を突かれた事で動揺するマリオだが、フリオの言う通り、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットはボロボロでまともに戦える状態ではない。
 裏をかかれたが、自分達の有利は変わらない。

「ここまで徹底した戦いは初めてだ。だが、ここからは俺のターンだ」

 自分達の方が有利なのにも関わらず、マシロは自分の勝利を確信して疑わない。
 それだけの根拠があった。
 レイコの立てた作戦は二つだ。
 一つ目は相手の仕掛けたトラップを潰すことと、もう一つはその後は圧倒的な力で叩き潰すと言う事だ。
 レナート兄弟のような策を巡らすタイプの相手には対処法は大きく分けると二つある。
 一つは策で相手の上を行き続ける事だ。
 もう一つは策など通用しない圧倒的な力で叩き潰す事だ。
 一つ目はすでにクリアした。
 最初こそは裏を突かれた物の、後は完全にレイコの想定内の展開だ。
 そして、次で一気に仕留めるだけだ。
 マシロがコンソールを操作すると、正面のモニターに「G」と表示される。
 そして、マシロは右手を握って腕を振り上げる。

「フルアサルトジャケットの真の姿を見せてやる……強制、解除」

 右腕を「G」の表示に目掛けて振り落すと、ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの装甲が次々と落ちていく。
 バックパックに残っているホルスター、胸部の装甲、両腕のシールド、手持ち武器、脚部のホバーユニットと次々とパーツが落ちていく。
 最後にはガンダム∀GE-1だけが残される。

「これがこいつの真の姿、ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリだ」

 ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリ、それこそがフルアサルトジャケットの中に隠されていたもう一つの∀GEだ。
 全ての装甲と武器を捨てる事で身軽となる事で高い機動力を発揮する。
 その反面、武装は腕と腰のビームサーベルのみだ。
 ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリは腰のビームサーベルを両手に持って、振り返る。
 その先には狙撃ポイントの一つがある。
 そして、そここそがジムスナイパーK9が隠れているビルでもあった。

「かくれんぼの次は鬼ごっこだ」

 ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリは迷う事無く、ジムスナイパーK9の方に突っ込んで行く。

「馬鹿な!」

 10か所の狙撃ポイントから真っ先にジムスナイパーK9のいる場所を当てる確率は10分の1だが、マシロは確信していた。
 ダミーの場所はセコンドのマリオの方がタイミングを見計らって撃っていた。
 だからこそ、10か所の内1か所だけが狙撃時に微妙な違いをマシロは見逃さなかった。
 その場所が本命だと推測して、マシロは突っ込む。
 ジムスナイパーK9は迎撃するが、位置がばれた狙撃ではマシロのガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリを捕えることなどできはしない。

「見つけた」
 
 一直線にビルのジムスナイパーK9のいるフロアまで来た為、場所が特定された時の為にビルの中にもトラップは仕掛けてられていたが、そのトラップを全て無視してビルまで到達した。

「まだだ!」

 ジムスナイパーK9は狙撃用ライフルを捨てると、胸部のヒートナイフを抜いて切りかかる。
 ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリは真っ向から迎え撃つが、振り落されたヒートナイフを気にすること無く、反撃する。
 ヒートナイフはガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリの頭部に突き刺さるが、そのままビームサーベルを振るう。
 ビームサーベルがジムスナイパーK9を切り裂く寸前に、ヒートナイフを捨てて一気に距離を取る。
 
「バイザーが赤く……EXAMか」

 ジムスナイパーK9の頭部のバイザーがEXAMシステムが起動しているとき特有に赤くなっている。
 白兵戦に持ち込まれた時の為にマリオはジムスナイパーK9に機体性能を向上させるEXAMシステムを搭載していた。
 それをとっさに使ってガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリの攻撃を回避した。

「フリオ。まだ地の利はこちらにある」
「分かってるよ! 兄貴!」

 ジムスナイパーK9は逆手にビームサーベルを持つと、俊敏に動きながらガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリの背後を取ろうとする。
 スタスターの推力では敵わないが、閉鎖空間ならばEXAMによる高い俊敏性を持つジムスナイパーK9に分がある。
 だが、幾ら素早く動こうとも、ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリは対応して来る。

「糞ったれが!」
「フリオ! 熱くなるな! 負けるぞ」

 攻めあぐねていた事で熱くなりかけるフリオをマシロが止める。
 元より正面から戦っても勝ち目のない相手だ。
 ここで熱くなって冷静さを欠けば勝てるバトルも勝てない。

「すまねぇ……兄貴」
「頭を冷やしたなら、次にすべきことは分かるな?」
「ああ!」

 ジムスナイパーK9は片手にハンドガンを持って、ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリを牽制しながら交代して隣の部屋に入る。
 ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリはハンドガンを最低限の動きでかわしながら、追撃する。
 部屋に入った瞬間に目の前のジムスナイパーK9ではなく真横からK9ドックの攻撃を受けた。
 ビームがガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリの膝の関節を撃ち抜いて、ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリは両足を破壊されて転がる。

「くたばれ!」

 ジムスナイパーK9はもう片手にもハンドガンを抜いて一気に畳み掛ける。
 ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリはビームサーベルを投擲して、ジムスナイパーK9のハンドガンを潰す。
 両足を失っている為、バックパックのスラスターを全開にして、ジムスナイパーK9に飛び掛かる。
 ジムスナイパーK9はハンドガンで応戦しながら、ビームサーベルを抜いて突き出す。
 ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリはハンドガンのビームを気にすることは無かった。
 ビームが直撃して損傷するも、致命傷にならないのであればマシロは気にしない。
 ジムスナイパーK9のビームサーベルがガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリの脇腹に突き刺さる。
 だが、ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリは退くどころか、脇腹をビームサーベルで刺されながらも前進する。
 そして、ゼロ距離まで詰めるとビームサーベルを振り上げる。
 ビームサーベルを持つ手を手首ごと回転させて、ジムスナイパーK9の頭部から垂直にビームサーベルを突き刺していた。

「正気かよ!」
「正気だよ」

 その一撃でジムスナイパーK9は戦闘不能となるが、自立可能しているK9ドックがいる限り、レナート兄弟の負けにはならない。
 K9ドックがガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリを狙ってビームを放つも、ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリは重心を移動させてジムスナイパーK9を盾にしながら倒れ込む。

「ふざけがやって!」
「アンタ達ささっき戦争とか言ってたよな。アンタ達の言う戦争は負ければ死ぬのか? 死なないよな。結局、アンタ達がしてるのは戦争ゲームに過ぎないんだよ。けどな、俺はバトルに全てをかけてんだ。アンタ達とは生きてる世界が違うんだよ」

 レナート兄弟はバトルを戦争に見立てている。
 だが、実際の戦争とは違って、レナート兄弟が負けても死ぬことはない。
 一方のマシロは勝ち続ける事だけが、一族の中で自分の存在価値を証明する事が出来る。
 負けた時点でマシロの存在に価値は無くなる。
 それだけじゃない。
 このバトルが終わればガンプラバトルが今までとは変わる為、マシロにとっては残り少ないバトルだ。
 ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリはスラスターの推力だけでジムスナイパーK9を盾にK9ドックに突っ込む。

「こいつ!」

 K9ドックはビームを撃つもジムスナイパーK9を中々貫けなかった。
 そして、そのままK9ドックに突撃してビルの壁をぶち抜いた。
 ビルの壁をぶち抜いたガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリはジムスナイパーK9とK9ドッグごと降下を始める。

「やばいぞ! 兄貴!」

 フリオがそう言い、ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリはK9ドックとジムスナイパーK9を下にするようにして、地面に落ちる。
 すると地面が爆発を起こす。
 ビルの出入り口にもノコノコと居場所を見つけて攻めて来る敵を嵌める為に地雷を設置していた。
 そして、マシロも地雷の存在を知りつつもビルから逃がさない為に残しておいた。
 
「……イカれている」

 爆風からガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリが飛び出てて来る。
 両足が破壊されているガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリはそのまま転がるも、まだ動けない程のダメージではない。
 それでも、すでに満身創痍である事には変わらない。
 だが、K9ドックはジムスナイパーK9とガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリの2機分の重量と落下のエネルギーを一気に受けた上に地雷によって跡形もなく吹き飛んでいた。
 それにより第一試合の勝敗が決して。
 それと同時にレナート兄弟は自分達の認識の違いを思い知らされた。
 レナート兄弟は実力こそ認めていたが、マシロを温室育ちのお坊ちゃんだと思っていた。
 だが、実際は温室とはかけ離れているだけでなく、マシロの勝利に対する狂気とも言える執念を知らなかった。
 このバトルでマシロは敢えてトラップをかかると言う戦い方や、損傷を無視して勝ちに行くスタイルはまともなファイターならまず取らない。
 それでも勝つ為ならマシロは躊躇い無い。
 もはや復讐などよりもマシロのバトルに対しては、恐怖しか感じない。
 バトルに勝ったマシロはボロボロとなったガンプラを回収して帰って行く。

「マシロ。バトル中に連絡があったけど、メイジンの対戦相手が変わったみたいよ」
「だから? 誰に変わろうと関係ない。Bブロックを勝ち抜いた相手が俺の最後のバトルに相応しいだけの事だ」
 
 レイコがメイジンの相手がジュリアン・マッケンジーに変わったと言う情報を伝えるも、マシロは興味を示すことはない。
 どの道、Bブロックのファイターは一人しか戦えない。
 ならば、誰が勝ち上がろうと関係ない。
 最後まで勝ち上がった一人が最後の相手として倒すだけの事だからだ。








 第一回戦の第一試合が終わり、会場は静まり返っていた。
 一時間の膠着から始まり、マシロの損傷を無視した強引な戦いは観客達を盛り上がらさせるどころか恐怖すら与えた。
 第一試合が終わり、第二試合の準備が開始された。
 準備が終わり、会場ではアランと共にメイジンカワグチはジュリアンと対峙していた。
 互いに言葉を交わすことはない。
 二人はGPベースとセットしてガンプラをバトルシステムに置く。

「メイジンカワグチ。ガンダムアメイジングエクシア、出る」

 今回のバトルフィールドは砂漠地帯。
 足場が緩い砂地である為、飛行能力を持たないガンプラは苦労させられるフィールドだ。
 
「やはり、ガンダムF91イマジンで来るか」

 サブモニターにジュリアンのガンプラ、ガンダムF91イマジンが映される。
 ガンダムF91の改造機ではあるが、見た目は一部が赤く塗装してある程度だが、完成度は非常に高く、かつてタツヤは一度もガンダムF91イマジンから勝利を得ることが出来なかった。

(降って沸いた障壁)
(君な何故メイジンの名を襲名したのか)
(超えさせて貰う!)
(見極めさせて貰う!)

 アメイジングエクシアはアメイジングGNソードを展開する。
 ガンダムF91イマジンもビームサーベルを抜いて、2機は加速しながら接近する。
 2機は互いの剣を振るいぶつかり合う。

「無敵を誇ったガンダムF91イマジン……だが、所詮は3年前のガンプラ! このエクシアの敵ではない!」

 ぶつかり合う2機だったが、アメイジングエクシアがガンダムF91イマジンを弾き飛ばす。

「くっ……流石はPPSEの新型」

 だが、ガンダムF91イマジンは弾き飛ばされながらも、ビームライフルでアメイジングエクシアの追撃を防ぐ。

「腕を上げたようだね!」
「やはりその腕は衰えていない!」

 アメイジングエクシアがシールドを使いながら、アメイジングGNソードで切りかかり、ガンダムF91イマジンは上昇しながらバルカンで牽制する。

「こちらから仕掛けさせてもらう!」

 ガンダムF91イマジンが一気に加速すると、機影が増えたように見える。
 
「質量を持った残像か!」

 ガンダムF91が最大稼動時に表面装甲の金属粒子を強制的に剥離する事で冷熱を行うが、それをセンサーが誤認する事でガンダムF91が分身しているように思わせる事が出来た。
 ジュリアンのガンダムF91イマジンもガンプラの表面塗装を剥離して分身しているかのように見せる事が出来る。
 アメイジングエクシアはアメイジングGNソードのライフルモードで応戦するが当たらない。
 最大稼動状態による質量を持った残像を使い、相手を惑わしながら一撃を入れる。
 これこそが、かつてジュリアンを次期メイジン候補の筆頭と言わしめた、バックジェットストリームだ。

「相変わらずの早さか……」
「タツヤ! 君はどうして!」

 ガンダムF91イマジンがビームサーベルで切りかかり、アメイジングエクシアは回避して、左腕のGNバルカンで弾幕を張る。

「二代目の思想に囚われたのか!」

 ジュリアンは通信越しに叫ぶ。
 今までガンプラバトルから離れていたジュリアンが祖父の代わりに決勝トーナメントに出場した理由はそこだ。
 かつての後輩が二代目の後を継いで三代目のメイジンカワグチとなった事で、二代目の思想に囚われたのかをバトルで確かめたかった。

「答えてくれ!」

 ガンダムF91イマジンはヴェスバーを放つ。
 シールドで防ぐもシールドは一撃で破壊されてしまう。

「アラン……済まない。私はしばしメイジンを捨てる!」

 3年のブランクを見せないジュリアンを前にメイジンとしてのバトルでは勝てないとタツヤは感じていた。
 だからこそ、メイジンのバトルを捨て、ユウキ・タツヤとしてのバトルに切り替える。
 最大稼動状態のガンダムF91イマジンが背後を取るが、アメイジングエクシアは振り向きざまにアメイジングGNソードを振るう。
 ガンダムF91イマジンは回避は出来たが、ビームライフルの銃身の先端に掠っていた為、ビームライフルを捨てた。

「僕はユウキ・タツヤとしてあの人を超える! その先に私の目指すメイジンが……そして!」
「タツヤ!」

 アメイジングエクシアがアメイジングGNソードを振るおうとした瞬間に、ガンダムF91イマジンの頭部のフェイスガードが展開する。
 そこには小型のビーム砲が内蔵されていた。
 ギリギリまで引きつけた上で、強烈な閃光と共にビームが放たれた。

「彼が居る!」

 強烈な閃光にアランは目を瞑るも、メイジンはサングラスのお陰で何とか目を瞑らずに攻撃をギリギリのところで回避し、ガンダムF91イマジンを蹴り飛ばして距離を取る。

「だから、僕は先輩に勝つ! 今日、ここで!」

 アメイジングエクシアはライフルモードのアメイジングGNソードで攻勢に出る。

「それが君の覚悟か!」

 ガンダムF91イマジンはビームシールドで攻撃を防ぐ。

「我が盟友と作りし、エクシアの奥義を使う!」
「タツヤ? トランザムは!」
「紅蓮を纏え! エクシア! トランザム!」

 アランの生死を聞く事も無く、メイジンはトランザムシステムを起動させた。
 赤く発光するアメイジングエクシアは一気に加速する。

「トランザムか!」

 ガンダムF91はヴェスバーを放つも、トランザムを使っているアメイジングエクシアには当たらない。
 その機動力を前に射撃では簡単には当たらないと判断したジュリアンは接近戦に切り替える。
 最大稼動状態のガンダムF91イマジンとトランザム状態のアメイジングエクシアは高速で動きながら切り結ぶ。
 切り結ぶ中でも互いに隙あらば、ビームを撃って仕留めようとする。
 そんな高速戦闘も終わりを迎える。
 先に最大稼動状態に入ったガンダムF91イマジンが通常の状態に戻る。

「くっ!」

 バルカンを放つが、アメイジングエクシアを止める事は出来ない。
 ガンダムF91イマジンはサイドアーマーから予備のビームシールドをアメイジングエクシア目掛けて射出する。
 それをバルカンで破壊して、爆風で煙幕を張って、ヴェスバーを放った。
 だが、それよりも速くアメイジングエクシアはガンダムF91イマジンの背後を取る。

「後ろ!」
「これが……私の……僕の覚悟だ!」

 完全に背後を取ったアメイジングエクシアはアメイジングGNソードを振り下ろした。
 その攻撃をガンダムF91イマジンは回避しきれずに直撃し、それが勝敗を付けた。

「僕の完敗だったよ。メイジン」

 バトルに負けたジュリアンはメイジンに歩み寄る。
 このバトルでジュリアンは確信した。
 タツヤは二代目の思想に取り込まれてはいなかった。
 二代目ならば、ジュリアンのガンダムF91イマジンの最大稼動状態と正面からは戦わずに徹底的に封じて来た筈だ。
 だが、メイジンは正面からぶつかって来た。
 これは勝つ為だけのバトルではなく、相手を正面から見て受け止めようと言うメイジンのバトルの表れなのだろう。

「良いバトルだった。これでようやく壁を一つ乗り越えられる事が出来た」

 過去に一度も勝つ事の出来なかったジュリアンに勝った事でタツヤは更に高見へと昇る事が出来た。

「ガンプラバトルに戻る気は?」
「君の真意を確かめるつもりだったんだけどね」

 元々、ジュリアンはタツヤの意志をバトルの中で確かめる気でバトルに戻って来た。
 しかし、バトルの中で考えが変わった。

「こんなに熱くなったのは3年振りだよ」

 ガンプラバトルから離れていた3年間でジュリアンは本気で熱くなったことは一度もなかった。
 
「こんなに楽しい物はそう簡単に止める事は出来そうにないな」
「同感です」

 タツヤとのバトルはかつてのガンプラバトルの楽しさを思い出させるのには十分だった。
 それを思い出してしまった以上は、再びバトルから離れる事は出来そうに無い。

「僕が離れていた間にとんでもないファイターも現れたようだしね」
「ええ」

 去年の優勝者としてジュリアンもマシロの事は知ってるが現役時代にはマシロは表舞台にはいなかった。
 そんなマシロと戦ってみたいと思うのはファイターの性なのだろう。
 負けこそしたが、このバトルはジュリアンにとっては収穫も多かった。
 次期メイジンの筆頭とまで言われていても、バトルから離れていた3年間でガンプラバトルは大きく発展し、新たな世代のファイター達も台頭を始めている。
 決勝トーナメント一日目の第一回戦、第一第二試合はマシロとメイジンが勝ち抜けて二日目へと進んでいく。








[39576] Battle47 「真向勝負と茶番」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/10/14 11:40
 決勝トーナメントの初日は順当に優勝候補の筆頭であるマシロとメイジンが勝ち抜けた。
 2日目は午前にタイ代表のルワン・ダラーラとフランス代表のシシドウ・エリカのバトルで勝者がマシロの2回戦の相手となる。
 午後は日本代表のありすとイタリア代表のリカルド・フェリーニとなっている。

「どっちが勝つと思う?」
「単純に正面からぶつかり合えばルワン・ダラーラだろうな。奴のアビゴルバインのパワーは脅威だ」

 マシロは自分の控室でバトルが始まるのを待っていた。
 エリカとルワンも搦め手を使うよりも正面からの真っ向勝負を得意としたファイターだ。
 だが、正面からのぶつかり合いではルワンに分があるとマシロは見ている。
 ルワンのアビゴルバインのパワーは世界大会でも最強クラスと言っても過言ではない。
 去年もマシロは決勝トーナメントでルワンと当たっているが、その際には徹底してパワーを封じた。
 そうでもしないとアビゴルバインのパワーは一撃でマシロのガンダム∀GE-1を沈めかねないと判断したからだ。
 そうやって、完封して勝利したが、今年のアビゴルバインは更にパワーが増している。

「だが、エリカのセイバーの持ち味は変形機構による緩急の付いた動きだ。攻撃力自体は低くはないんだ。多彩な武器と機動力で揺さぶり一撃を与えればあるいは」

 エリカのセイバーガンダム・エペイストはベース機から残されている可変機構を持っている。
 アビゴルバインも変形は可能だが、変形時の機動力ではセイバーガンダム・エペイストに分がある。
 その上で、セイバーガンダム・エペイストは多くの近接戦闘用の武器と高い火力の火器も持っている。
 変形機構を活かした戦い方で上手くやれば、勝機は十分にあり得る。

「どちらに転ぶにしても、力を温存する事は出来ないだろうな」
「つまりは私達の前で色々と情報を出してくれると言う訳ね」

 両者の間の差は大きくはない。
 そうなって来れば次のマシロ戦を意識して実力を隠すと言う事は出来ない。
 このバトルはマシロの次の対戦相手を決めるだけでなく、マシロ達も次の相手の情報を手に入れる絶好の機会と言う事になる。
 両者が向き合いバトルが開始された。
 バトルフィールドは宇宙だ。
 単純な宇宙ではなく、周囲には大型の戦艦が何隻が破壊された状態で漂っている。
 バトルが開始されて、セイバーガンダム・エペイストが先制攻撃を放つ。

「捕捉されたか……だが、当てる気のない攻撃など」

 先制攻撃だが、ルワンは冷静に対処する。
 攻撃その物は、アビゴルバインにダメージを与える物ではない為、落ち着いて対処すれば問題はない。

「しかし、思い通りにさせる気はない!」

 アビゴルバインは腕部のビームガンで反撃する。
 セイバーガンダム・エペイストはビームで牽制を入れながらモビルアーマー形態で一気に接近しようと目論んでいたが、アビゴルバインの攻撃を防ぐ為にモビルスーツ形態に変形してシールドで防ぐ。

「そう簡単にはいかないよな」

 セイバーガンダム・エペイストはアムフォルタスを放つが、アビゴルバインは戦艦の残骸を盾にして、残骸の影から出た瞬間にビームガンを撃ち込んですぐに隠れる。

「くっそ……残骸が邪魔で」

 アビゴルバインが戦艦の残骸の影に隠れているせいで、エリカは相手の位置を大まかでしか分からないでいた。
 すると、残骸の影からミサイルが飛び出して来る。

「ちっ!」

 セイバーガンダム・エペイストはすぐに後退しながら、頭部のバルカンでミサイルを迎撃する。
 だが、ミサイルの飛んで来た方向とは別方向からアビゴルバインがビームサイズを持って飛び出して来る。

「ミサイルは囮か!」

 気づいた時にはアビゴルバインは自分の間合いに持ち込んでいた。

「これで!」

 アビゴルバインがビームサイズを振るい、セイバーガンダム・エペイストはギリギリのところでシールドで防ぐ。
 何とかシールドで防ぐ事は出来たが、シールドにはビームサイズにより傷つけられた後がくっきりと残っている。
 セイバーガンダム・エペイストは追撃をさせないためにソードライフルを連射する。

「良い反応だ。流石はここまで勝ち抜いて来た事はある。女子供とはいえ油断は禁物か」

 アビゴルバインはビームを回避しながら距離を取る。

「やっぱ、世界大会常連は強いな」

 ルワン・ダラーラと言えば、マシロですらも正面対決を避けたパワーが売りと言う印象が強かったが、実際に戦って見るとバトルフィールドを活かした戦い方や相手の動きを冷静に分析して来るなど、パワー一辺倒ではない事を実感させられる。
 
「でも……マシロ程じゃないんだ。この人の勝たないとマシロに勝つなんて出来る訳が無い!」

 セイバーガンダム・エペイストはアムフォルタスを連射する。
 
「自棄を起こしたか? 違うな。この程度で自棄を起こすとは考え難い……成程、そう言う事か」

 アムフォルタスをアビゴルバインは回避に徹していたが、その間にルワンがエリカの狙いに気が付く。
 高出力のビームであるアムフォルタスなら戦艦の残骸を破壊する事も出来る。
 連射する事で次々と残骸を破壊して、アビゴルバインが隠れる場所を潰すのがエリカの狙いだった。
 それによりバトルフィールドを活かした戦いをさせない事で、経験の差を出させないようにした。

「面白い! 私に真っ向勝負を挑んで来るか!」
「生憎と細かい事を考えるのは苦手でね!」

 セイバーガンダム・エペイストはバスターソードを貫くと、アビゴルバインに突撃する。
 アビゴルバインもビームサイズを持って、迎え撃つ。
 2機はぶつかり合うが、やはりパワーではアビゴルバインに分があるようで簡単に押し戻される。
 だが、セイバーガンダム・エペイストは至近距離でアムフォルタスを撃つ。
 ビームを回避している間に、セイバーガンダム・エペイストは体勢を立て直してアビゴルバインに向かって行く。
 
「だから突っ込む!」
「良い覚悟だ!」

 セイバーガンダム・エペイストのバスターソードをアビゴルバインがビームサイズで受け止める。
 だが、今度はパワーで圧倒される前に、脚部のグリフォンビームブレイドで蹴り上げる。

「パワーで勝てなくても!」

 今更、アビゴルバインにパワーで勝とうとは思っていない。
 パワーで負けていても、セイバーガンダム・エペイストには接近戦で使える多彩な武器がある。
 それを最大限に使えば、パワーの差を補う事も出来る。
 セイバーガンダム・エペイストの蹴りを、バスターソードを押し戻して、そのままビームサイズで受け止める。
 すぐにセイバーガンダム・エペイストは左腕のシールドを突き出して、アビゴルバインは腕で受け止める。

「このバトルに勝って!」
「負けられない理由は私にもある!」

 アビゴルバインはセイバーガンダム・エペイストを膝蹴りで弾き飛ばすとビームガンを連射する。
 セイバーガンダム・エペイストはシールドで防ぐが、序盤でビームサイズを受けた時の損傷もあって数発で破壊されてしまう。

「シールドが!」

 シールドが破壊された衝撃で体勢を崩したところを、ルワンは見逃さない。
 アビゴルバインはビームサイズをしまう事無く、手放してすぐに距離を詰める。
 勢いをつけて、アビゴルバインは渾身の一撃を撃ち込む為に拳を握りしめる。
 セイバーガンダム・エペイストはバスターソードを盾にして待ち構えている。

「これで!」
「耐えてやるよ!」

 アビゴルバインの渾身の拳をバスターソードで受け止めるセイバーガンダム・エペイストだったが、バスターソードは耐え切る事が出来ずに刀身は粉々に破壊された。
 
「まだ!」

 何とか頭部のバルカンでアビゴルバインを攻撃するが、ルワンは怯む事無く一気に畳み掛ける。
 もう片方の手でセイバーガンダム・エペイストの胴体にアビゴルバインは重い一撃を入れた。

「ここまでかよ……」

 その一撃でセイバーガンダム・エペイストは戦闘不能となって勝負は決まった。

「良いバトルだった」
「どうだか。終始押されてた気もするけど」
「だが、君は臆する事なく向かって来た。その勇気は賞賛に値する」

 バトルはあっさりとルワンの勝利で終わった。
 だが、エリカは果敢にもルワンと正面からぶつかった。
 だからこそ、バトルに勝ったルワンはエリカの健闘を称えて手を差し出す。

「来年はマシロだけじゃなくて、アンタにもリベンジするから」

 エリカは差し出された手を握り返す。

「いつでも挑戦は受けるさ」
「その前にマシロとだけど、勝算は? あいつは出鱈目に強い」
「分かってるさ。私も去年に味わっている。だからこそ、勝つ為の秘策を用意して来た」

 去年は一方的にマシロにしてやられた。
 常にこちらの先を読んだ戦いをして、それに対処しようとするとすぐに手を変えて来る。
 そうやって翻弄して、結局は何も出来ずに敗北した。
 その敗北を糧にルワンはマシロに対する策を用意して来ている。

「今年は私が勝つ」

 バトルが終わり、負けこそはしたが、健闘したエリカとバトルに勝利したルワンに対して観客達は惜しげない歓声と拍手を送った。

「順当にルワン・ダラーラが勝ったようね」
「そうだな。最後の一撃を見れたのは大きい」
 
 エリカのルワンのバトルはマシロにとって有益な情報をもたらした。
 特に最後の決め手となった一撃を見れたのは最大の収穫だ。

「あれなら当初のプランに変更は無しで構わないな」
「そうね。後はマシロが上手くやるだけよ」

 ルワンとエリカのどちらが勝ち上がっても良いように事前に両者に対する策はレイコが考えていた。
 このバトルを見る限りでは対ルワン戦の作戦に変更はない。

「やって見せるさ。アイツに出来て俺に出来ない訳が無い」
「次がそのありすのバトルね」

 対ルワン戦ではいつもとは違う事をしなければならない。
 それが上手く行くか否かでは勝敗に大きくかかわって来る程だ。
 だが、ありすは次のバトルでそれをやって見せると言う事が、レイコが掴んだ情報の中にあった。
 ありすを毛嫌いしているからこそ、マシロはありすがやって自分が出来ないと言う事は我慢できない。

「精々見させて貰うさ」

 ありすの事は気に入らないが、ありすの技術を盗むと言う事に躊躇いはない。
 だからこそ、午後からのバトルも茶番と知りつつも、観戦を決め込んだ。
 






 エリカとルワンのバトルが終わり、バトルシステムや会場の整備が終わり、午後からのありす対フェリーニのバトルが始まろうとしていた。
 すでにありすは会場入りしているが、開始時間が迫る中、ありすの対戦相手のフェリーニは中々姿を見せない。
 もうすぐバトルの開始時間となるが、フェリーニが姿を見せない事で会場もざわめきつつあった。
 同時に大会のスタッフたちもバトルが始められずに焦り出している。
 このまま、バトルが行われないかとも思われるが、ギリギリのところでフェリーニが会場入りする。

「何とか間に合った」

 フェリーニは余程急いで来たのか軽く息切れをしている。
 それだけではなく、普段からいつでもナンパを出来るように身だしなみには気を付けているフェリーニだが、今日は余り気にしてはいないようだった。
 よれよれの上着に目の下にもクマが出来て明らかに寝不足と言った感じだ。

「悪いな。お嬢ちゃん」
「気にしないで良いですよ。お兄さん」

 ありすはフェリーニに笑顔を向ける。
 普段なら軽く口説くところだが、フェリーニはGPベースをバトルシステムにセットして、ガンプラを置いた。
 フェリーニのウイングガンダムフェニーチェは左右非対称と言うのが特徴的だったが、置いたガンプラは完全に左右対称となってる。
 元々、フェリーニがバトルで壊れる度に、その部分を直して行った結果、左右非対称となったと言う経緯があった。
 去年からフェリーニはウイングガンダムフェニーチェをより完全な姿にする為に改造プランを構想していた。
 一年かけてある程度は構想をまとめ、新規で制作する分にはすでに制作を終えていた。
 後は、本体の改修作業だけだったが、世界大会の期間中と言う事もあって、中々手を付ける事が出来なかった。
 だが、レイジとセイとのバトルで大破した事で、この基に修理だけではなく、全面改修を行った。
 昨日の決勝トーナメントの初日とそれまでの3日間の4日間を徹夜で改修作業を行って完成させたのが完全版フェニーチェであるガンダムフェニーチェリナーシタだ。

「重ね重ね悪いが、今日の俺は容赦ないからな」

 幾ら女好きだろうと、世界大会と言う大舞台である為、相手が女子供だろうと手を抜く気は無い。
 それが新しくなった相棒の初陣なら尚の事だ。
 そして、バトルが開始される。
 バトルフィールドは岩山だ。

「まずは挨拶代りに!」

 ガンダムフェニーチェリナーシタはバスターライフルカスタムから新しく下部のハンドライフルが改造されたリナーシタライフルのバスターライフルを放つ。
 ありすのジム・ダガーは高度を落として回避すると、バックパックのレールガンで反撃する。
 だが、ガンダムフェニーチェリナーシタはバード形態に変形して回避する。
 修理の中でウイングガンダムフェニーチェはウイングガンダムのバード形態への変形機能を失っていた。
 今回の全面改修にあたり、バード形態への変形機能も復活させた。

「早ーい」
「当然だ。じっくり行くのも得意だけど、早いのも得意なんでね」

 バード形態のまま一気に加速してジム・ダガーとの距離を詰めてモビルスーツ形態に変形すると、リナーシタライフルを振るう。
 新しくなった下部のハンドガンは先端から幅の広いビームサーベル出すことが出来る。
 ビームサーベルをジム・ダガーは左腕のビームシールドで受け止める。

「もう……強引なんだから」
「多少強引じゃないと口説けない相手ってのも居るんでね」

 ガンダムフェニーチェリナーシタはジム・ダガーを弾き飛ばす。
 ジム・ダガーはビームライフルで反撃するが、ガンダムフェニーチェリナーシタは両肩のビームマントを使って攻撃を防ぐ。
 そして、ハンドライフルを連射する。

「流石は俺の相棒ってところだ!」

 ガンダムフェニーチェリナーシタはバスターライフルを放ち、ジム・ダガーはビームシールドで受け止めようとするも防ぎきれずに左腕が吹き飛ぶ。
 
「今日の俺はメイジンをも凌駕しそうだ!」

 フェリーニは徹夜明けと言う事もあるが、全面改修したガンダムフェニーチェリナーシタが自分の予想通りの出来と言う事もあってハイになっている。
 ジム・ダガーはビームライフルを捨てて、右腕のガトリング砲で応戦するが、ビームマントを展開して距離を詰める。

「しつこいよ! お兄さん!」

 懐に飛び込もうとする、ガンダムフェニーチェリナーシタに対して腰のレールガンを撃ち込むが、ガンダムフェニーチェリナーシタはギリギリのところでシールドをねじ込ませていた。
 至近距離からのレールガンはシールドを弾き飛ばしたが、ガンダムフェニーチェリナーシタにはダメージを与える事は出来ていない。
 ジム・ダガーは脇の対艦刀を貫くが、すでにガンダムフェニーチェリナーシタはリナーシタライフルのハンドガンを持ち替えていた。
 対艦刀の一撃をビームマントで受け止めると、ハンドライフルからビームサーベルをジム・ダガーに突き刺した。
 その一撃が決めてとなり、バトルはフェリーニの勝利で終わった。

「皆……応援してくれたのに負けちゃった……」

 バトルが終わり、ありすは涙ながらに観客席のファンに謝るが、ありすを責めるところか手加減をする事無く攻めたてたフェリーニへの野次が殆どだ。
 ありすにとっては全てが想定通りの展開となっている。
 ここまで勝ち上がればこれ以上は変にありすのイメージを付ける為、この辺りが幕引きだ。
 だが、負け方によってはイメージが悪くなるが、ありすの対戦相手のフェリーニは過去にも世界大会に出場している常連の一人だ。
 そんな相手に負けるのであれば、ありすが大人げない相手に一方的に倒されたとして、悪役をフェリーニに押し付けてありすは悲劇のヒロインとなる。

(何なんだ……今のバトル。なんかすっきりしねぇ)

 普段なら野次を飛ばす相手に言い返すところだったが、フェリーニはそれどころではなかった。
 ガンダムフェニーチェリナーシタの性能は申し分もない。
 この出来なら次のメイジンを相手にでも十分に戦えると思えるくらいにだ。
 そのガンダムフェニーチェリナーシタを自分は完全に扱えていた。
 その上で初戦を難なく勝ち抜いたのにフェリーニはすっきりとしなかった。
 ありすは上手く誤魔化してはいたが、実際にバトルしたフェリーニは無意識の内にありすが手を抜いてわざと負けたと言う事を感じていたのだろう。
 だからこそ、勝利時の高揚感を感じる事が出来ずにすっきりしないのだろう。
 真向勝負により勝利したルワンと意図的に勝ち上がる事となったフェリーニが次のマシロとメイジンの対戦相手となり、二日目のバトルも終わった。







 2日目が終わり日が落ちた。
 3日目はアイラのバトルがあるが、アイラの対戦相手との実力差はバトルが始まる前から歴然で午前中のバトルはアイラの勝利は固い。
 午後からはどちらも日本代表であり、大会最年少のファイターでもあるセイ、レイジ組とマオとのバトルだ。
 
「まだ起きてたのか?」
「うん。明日はバトルだからね」

 セイは明日のマオとのバトルに備えてスタービルドストライクの調整をしていた。
 フェリーニとのバトルでボロボロになったスタービルドストライクだが、セイの手によって完全に修復されていた。
 それだけではなく、マシロとのバトルを経て、見た目にこそ変化はないが若干の改造を施してもある。
 あの日、一度は喧嘩した二人だが、あの後、レイジもセイを見返す為にガンプラを作ってバトルした事でセイの自分のガンプラがバトルで壊れる気持ちを知り互いに互いの気持ちを知った事で和解した。
 和解した事で互いの事を更に理解を深めて絆が強くなったように思えた。

「マオ君は強い。だから出来る事は今の内にやっておかないと」

 元々、同年代に同レベルのビルダーがいなかったセイにとってはマオはビルダーとして最大のライバルだ。
 そのマオと明日、バトルする事になった。
 その為、出来る事は全てやっておかないと落ち着かないのも無理はない。

「それは分かってるけどよ。あんまり無茶すると持たないぞ」
「大丈夫。バトルするのはレイジだからね。僕の役目はレイジが万全の状態で戦えるようにする事だから」

 マシロとバトルした事で世界レベルで戦うと言う事がどういう事なのか少し分かった気がした。
 だからこそ、レイジの負担を少しでも減らす為に、セイは躍起になっている。
 最悪自分が倒れても、レイジが自分の実力を全て発揮できれば問題はないと言う程にだ。
 そうして、レイジはマオに勝ってくれるのであれば、ビルダーとしてはこれ以上の事は無い。

「なら、セイもちゃんと休めよ。俺はバトルになると前しか見えないし、ガンダムの知識もない。だから、マオや他のファイターに勝つ為にはお前が必要だからな」

 レイジは性格的に周りを見る事よりも目の前の相手に集中しがちだ。
 フェリーニはバトルフィールドの地形を把握して活かしたバトルをする事はレイジには出来ない。
 だからこそ、熱くなるレイジをセイが周囲の状況を把握してサポートをしなければこれからのバトルを勝ち抜くのも厳しい。

「レイジ……そうだね」

 ビルダーとしてガンプラを万全な状態でレイジに託す以外にも、レイジに必要とされることはセイにとっては嬉しい事だ。
 それがコンビを組んで戦う事なのだろう。
 一人では出来ない事でも二人なら出来る。
 だからこそ、去年までは地区予選で一回戦も勝ち抜けなかったセイが世界大会の決勝トーナメントにまで勝ち進んでいる。
 全てはレイジと出会って、レイジと組んだからだと思っていたが、そうではなかった。
 レイジもまた、セイと組む事でセイの高性能のガンプラを使えると言うだけではなく、セイと組んだからこそ自分の負けはセイの負けでもある。
 セイの信頼を裏切りたくはないと言う思いは一人で戦う時よりも力となる。

「明日は勝とう」
「当然だ。明日だけじゃない。最後まで勝つんだよ。俺達はな」

 明日の相手のマオは強い。
 だが、レイジと二人なら勝てる気がした。
 そんな思いを胸にセイとレイジは明日のマオとのバトルに挑む。

 



[39576] Battle48 「貫き通す物」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/10/15 23:06
 決勝トーナメント3日目の午前のバトルは大方の予想通りにアイラの圧勝で終わった。
 午後からは初出場で最年少のセイ、レイジ組とマオとのバトルだ。

「ようやく決着をつける日が来ましたね」
「そうだね。マオ君」
「勝つのは俺達だけどな」

 セイとレイジだけではなく、マオも同年代のビルダーとしてはセイが初めてのライバルと言える相手だった。
 だからこそ、世界大会と言う舞台で決着をつける日を待ち望んだ。
 遂に決着をつける日が来たが、これ以上の話しは無意味だ。
 
「スタービルドストライク! イオリ・セイ!」
「レイジ! 行くぜ!」

 そして、バトルが開始される。
 バトルフィールドはオーソドックスな宇宙だが、バトルフィールド内には月が配置されているタイプだ。
 普通ならそこまでの意味を成さない月だが、マオのガンプラ、ガンダムX魔王はその能力を発揮しやすいフィールドでもあった。

「レイジ、距離を作っての戦いはこっちの方が圧倒的に不利だ」
「だろうな」

 レイジもセイに言われるまでもなく、ガンダムX魔王のハイパーサテライトキャノンの脅威は知っている。
 その為、すぐにガンダムX魔王の位置を見つけようとしている。
 だが、それよりも早くガンダムX魔王が長距離からのハイパーサテライトキャノンを撃って来た。

「いきなりかよ!」
「こんなに早く!」

 スタービルドストライクは何とか、アブソーブシールドで受け止めた。
 距離を取られている限り撃って来る可能性はあったが、幾らなんでも早すぎる。
 月からスーパーマイクロウェーブを受信すれば、その光で方向と位置を特定できるのだが、その光は無かった。
 つまりはガンダムX魔王はスーパーマイクロウェーブを受信せずにハイパーサテライトキャノンを撃って来た事になる。

「レイジ! このままだと持たない!」

 アブソーブシールドで受け止めてはいるが、ハイパーサテライトキャノンの威力を完全に無効化する事は出来ない。
 いずれはシールドが耐え切れずに直撃される。
 幾ら、アブソーブシールドで威力を無効化していても、完全には出来ていない為、スタービルドストライクに致命傷を与える事は十分に出来た。
 その前にスタービルドストライクは射線上から飛び出した。

「やってくれるな……」
「ディスチャージ用の粒子は溜まったけど……」

 ハイパーサテライトキャノンをアブソーブシールドで受け止めたお陰でディチャージ用の粒子は満タンなで溜まっている。
 その代償として、アブソーブシールドの粒子の吸収口がビームの余波で損傷している。
 まだ普通のシールドとしては使えそうだが、ビームを吸収する事は出来そうに無い。
 最初のハイパーサテライトキャノンでガンダムX魔王の方向は把握できた。
 その方向に向かおうとするが、二射目のハイパーサテライトキャノンが放たれる。

「こんなに早く!」

 ハイパーサテライトキャノンに限らず、大火力のビーム兵器は高い火力の代わりにチャージに時間がかかると言うのは常識的な事だ。
 だが、明らかにハイパーサテライトキャノンのチャージ速度は異常だ。
 飛んで来る方向さえ分かれば、レイジの腕なら回避する事は可能だった。
 二射目をかわすとすぐに三射目のハイパーサテライトキャノンが放たれる。

「どうなってんだ!」
「居た……そうか! リフレクターのソーラーパネルで周囲の粒子を集めてるんだ!」

 ガンダムX魔王のリフレクターはソーラーパネルにより周囲の粒子を吸収する事でスーパーマイクロウェーブを受信する事無くハイパーサテライトキャノンを撃つ事が出来る。
 これは月がないステージでも使えるようにするための改造だ。
 セイのスタービルドストライクもディスチャージを使う為の時間短縮に相手のビームを吸収しているが、やっている事は相手のビームを利用するか周囲の粒子を利用するかの違いだ。
 スタービルドストライクの場合は防御も兼ねているが、フェリーニ戦のように警戒されてしまえば上手くチャージが出来ない場合や、今回のように許容範囲を超える威力のビームは吸収しきれないと言う欠点もある。
 だが、ガンダムX魔王の場合は吸収する事に重きを置いている為、周囲にプラフスキー粒子があれば安定して短時間で必要な粒子を確保できる。
 そして、バトルシステム内には常にプラフスキー粒子が充満している為、粒子には事欠かない。

「ご名答です。流石セイはん」
「で、どうすんだ。向こうはアレを撃ち放題なんだろ?」
「突っ込んで! 幾ら連射が出来ても、砲身の長さはどうしようもないから! 接近はこっちが有利!」

 ハイパーサテライトキャノンの砲身は長い為、取り回しが効かない。
 長距離からの砲撃戦では気にする必要はないが、接近戦に持ち込めば邪魔でしかない。
 つまりはハイパーサテライトキャノンを封じる最も簡単な方法は接近戦に持ち込む事だ。
 接近戦に持ち込めばガンダムX魔王は独自の装備は無く、全てが元々ガンダムXが装備している武器しかない。

「分かった! ディスチャージで一気に!」
「ディスチャージは一度しか使えないから駄目だ! レイジの腕なら行ける!」
「簡単に言ってくれるな!」

 アブソーブシステムが使えない以上、ディスチャージシステムが使えるのは一度くらいしかない。
 まだ、序盤で使ってしまえば、終盤で使いたい時に粒子が足りなくなるかも知れない。
 ハイパーサテライトキャノンは連射していると言っても、搦め手を使っている訳ではない。
 ディスチャージを使わずともレイジの操作技術ならかわしながら距離を詰める事も出来る。
 一撃でも当たってしまうと終わりと言う状況だが、セイはレイジなら出来ると確信している。

「けど……やってやんよ!」

 スタービルドストライクはハイパーサテライトキャノンを回避しながら突っ込む。
 ある程度の距離を詰めると回避しながらスタービームライフルで反撃する。
 回避をしながらである為、精度は高くないが、直撃すれば損傷は確実である為、ガンダムX魔王は砲撃を中断して回避する。

「流石に好き勝手はさせてくれませんね」
「当然!」

 距離を詰められた事でガンダムX魔王はシールドバスターライフルで応戦する。
 すでにアブソーブシールドが使えない為、マオもビームを吸収される心配はない。
 その攻撃を回避しながらスタービルドストライクはビームサーベルを抜いた。

「こんだけ接近すれば!」
「そうは問屋が卸さへんのですよ!」

 更に距離を詰めて完全に格闘戦に持っていこうとするが、ガンダムX魔王は大型ビームソードを抜いて構える。
 明らかにソードの間合いから外れた所から大型ビームソードをガンダムX魔王は振おうとしていた。
 そして、大型ビームソードを振るうと同時に通常のビーム刃よりも高出力の赤いビーム刃が形成された。
 レイジはとっさに回避させていなければ、今頃ガンダムX魔王に一刀両断されていただろう。

「何なんだよ……アレ」
「多分、ビームソードにサテライトキャノンのエネルギーを回したんだと思う。でも……ここまでの出力を出して来るなんて……」
「ご名答です。これがワイのガンダムX魔王の魔王剣!」

 元々、ガンダムXの大型ビームソードはサテライトキャノンに使われるエネルギーを回すことが出来る。
 それにより従来のビームソードを圧倒的に上回るビーム刃を形成するのが、ガンダムX魔王の新たな武器である魔王剣だ。
 ガンダムX魔王は魔王剣でスタービルドストライクに切りかかる。
 スタービルドストライクはバルカンで牽制しながら距離を取る。
 サテライトキャノンのエネルギーを使っているだけあって、魔王剣の威力は凄まじい。
 正面から切り合っていては勝ち目が無い為、一度距離を取るしかなかった。

「距離をとってええんですか?」

 ガンダムX魔王は距離を取るスタービルドストライクを追撃する事はしなかった。
 寧ろ、自らも後退して更に距離を取ると今度はハイパーサテライトキャノンを構える。

「レイジ!」
「分かってる!」

 ガンダムX魔王がハイパーサテライトキャノンを放ち、スタービルドストライクは回避する。
 ビームを掃射したまま、回避するスタービルドストライクを狙い砲身を移動させる。

「当たって堪るかよ!」

 スタービルドストライクは懸命にハイパーサテライトキャノンに当たらないように逃げる。
 完全に粒子を使いきる前にガンダムX魔王はハイパーサテライトキャノンの掃射を中止して、シールドバスターライフルでの攻撃に切り替える。

「距離を取ればサテライトキャノン、接近戦では魔王剣……遠距離と近距離でこれだけの威力の武器を見せられたら……」

 今まではハイパーサテライトキャノンに注意するだけで良かった。
 マオ自身、ガンダムX魔王はサテライトキャノンの使用に特化した改造を施している。
 マシロとのバトルで世界大会で優勝する為にはそれだけでは駄目だと思い知らされた。
 だからこそ、ハイパーサテライトキャノンを活かす為に近接戦闘用の武器として魔王剣を用意した。
 接近すればハイパーサテライトキャノンが使えない為、大抵の相手は接近戦を挑んで来る。
 実力差があれば、接近する前に撃墜するか接近戦でも勝てるが、決勝トーナメントともなればそうはいかない。
 その欠点を補う為に魔王剣を使う事で相手はその威力を前に距離を取らざる負えない。
 そして、距離を取ればハイパーサテライトキャノンを使う機会も増えて来る。
 相手は接近すれば魔王剣、距離を取ればハイパーサテライトキャノンと言う一撃でガンプラを破壊出来る強力な武器を前にどちらを選択しても脅威が残される。

「やっぱり凄いな……マオ君は」

 一対一のバトルには向かいハイパーサテライトキャノンを活かす為に更にガンダムX魔王を強化して来たマオの事をセイは素直に凄いと感じていた。

「何言ってんだ。お前だってこれほどのガンプラが作れるんだ。十分に凄いだろ」

 マオの実力に関心するセイだが、レイジから見ればセイも十分凄い。
 セイを見返す為に自分でもガンプラを作ったが、素組をするだけでもかなり苦労させられた。
 そこから、世界大会を勝ち抜けるだけのガンプラを制作するのは更に困難だろう。

「レイジ……」
「確かにマオの奴も凄いけど、お前だって負けてない。だからこのバトルも勝つぞ!」

 スタービルドストライクはビームサーベルを抜いて再度ガンダムX魔王に突撃する。

「レイジ! 接近すれば!」
「確かにな。だけど、距離を取ってもダメなら前に出るしかないだろ!」

 接近すれば魔王剣を使って来る。
 だが、距離を取っても変わらないならレイジは前に出る。

「やっぱりレイジはんはそう来ますよね」

 ガンダムX魔王は大型ビームソードで迎え撃つ。
 魔王剣は確かに接近戦において相手の接近戦用の武器ごと相手を葬るだけの威力を持つ。
 だが、その反面、長時間の使用が出来ない上にハイパーサテライトキャノン用の粒子が尽きれば使えない。
 完全に粒子を使いきってしまうと脅しにも使えない為、さっきは粒子を使い切る前に砲撃を中断した。
 本来の魔王剣の使い方は敵を撃破する以上にこちらにも強力な接近戦用の武器があるのだと見せつけて、距離を取らせる事だ。
 だから、レイジのように突っ込んで来られるのは余りよろしくは無い。
 距離を取っていれば周囲の粒子を集めるのも容易だが、接近戦では粒子を吸収している余裕はない。

「せやけど、ワイかてここまで来たんです!」

 スタービルドストライクとガンダムX魔王は互いに切り合う。
 サーベルの出力ではガンダムX魔王に分があるが、ガンプラ自体のパワーではスタービルドストライクに分がある。
 総合的ではやはり、スタービルドストライクにはガンダムX魔王は届かない。
 致命傷こそは避けているが、ガンダムX魔王は次第の損傷を負って行く。

「まだや! まだ負けてへん!」

 劣勢ながらもガンダムX魔王はスタービルドストライクと殆ど互角の切り合いを見せる。

「ちぃ!」
「接近戦でも負けてない!」

 ガンダムX魔王は大型ビームソードの出力に物を言わせてスタービルドストライクを弾き飛ばす。
 スタービルドストライクはそのまま月面に叩き付けられた。

「いつの間にこんなところまで」

 スタービルドストライクとガンダムX魔王は切り結びながらもいつの間にかバトルステージに配置されている月まで来ていたようだ。

「月……まさか!」
「そのまさかですよ! セイはん! レイジはん!」

 スタービルドストライクが起き上がるまでの間にガンダムX魔王も月面に降り立っていた。
 そして、マオの狙いは月面まで戦いを持っていくことにあった。
 月面のスーパーマイクロウェーブ送信システムからガンダムX魔王に対してスーパーマイクロウェーブが送信される。
 今までは距離があり、動き続けている以上、簡単にスーパーマイクロウェーブを受信できずにいたが、ここまでくれば受信も容易だ。
 それによりソーラーパネルで周囲の粒子を集めるよりも短時間で大量の粒子を集める事が出来る。

「レイジ! まずいよ。ディチャージで!」
「なぁ……セイ、マオの奴はこれを狙ってたんだよな。これだけの為にガンプラを傷つける事を覚悟して……」

 マオは不利な接近戦をしてまで、ハイパーサテライトキャノンを最大出力で撃つ為にここまでやって来た。
 その覚悟があるからこそ、接近戦でもスタービルドストライクに遅れを取る事もなかった。

「確かにディスチャージを使えばサテライトキャノンの一撃を回避できるだろうけど、マオは意地を貫いてこの状況を作り出した。そんなマオの覚悟から逃げて勝って満足できるか? 俺は……嫌だ!」

 接近戦になれば魔王剣を織り交ぜて確実に勝つ事も出来た。
 だが、マオは敢えてハイパーサテライトキャノンで勝つ事に拘った。
 それはマオの意地なのだろう。
 効率良く勝つのではなく、自分の好きな勝ち方で勝つと言う。
 その為にマオはガンダムX魔王の損傷も覚悟して戦った。
 この状況はその覚悟と意地を貫いた結果だ。
 セイの言う通り、ディスチャージのスピードモードを使えば確実にかわすことが出来るだろう。
 マオもそれが分からない訳がない。
 それでもハイパーサテライトキャノンを撃とうとしている。
 この一撃をかわすことが出来れば、一気に勝利が見えている。
 しかし、そんな形で勝ったとして本当に満足できるかと聞かれるとレイジは満足できない。
 覚悟を持って挑む相手から正面からぶつかる事を避けて勝ったとしても、それは逃げただけだ。
 マオは楽で確実な方に逃げる事無く困難な道を選んだ。

「レイジ……そうだね。ここで逃げたら僕達の負けだ!」
「そう来ないとな!」

 スタービルドストライクはセイが丹精込めて作ったガンプラである為、セイが正面からぶつかる事を避けると言うのであれば、レイジも従うつもりだった。
 だが、セイもレイジと同じように正面からぶつかる道を選んだ。
 スタービルドストライクはアブソーブシールドの先端のプラグをスタービームライフルに接続した。
 ライフルのバレルが変形すると、砲撃形態を取る。
 そして、バックパックのスタービームキャノンを前方に向ける。

「行くぞ! セイ!」
「ああ!」

 スタービルドストライクはディスチャージシステムのライフルモードが起動してチャージを始める。
 ガンダムX魔王もすでに撃つだけなら可能だが、最大出力を出す為に更にチャージする。

「行きますよ! お二人さん!」

 スタービルドストライクとガンダムX魔王の最大出力の砲撃が同時に放たれる。
 スタービルドストライクのディスチャージライフルモードは以前にメガサイズのザクⅡに使った時とは違い、スタービームキャノンも使った収束砲だ。
 2機の放ったビームが正面からぶつかり合った。
 その余波で周囲が吹き飛んでいく。

「勝つのは!」
「俺達だ!」

 2機のガンプラの砲撃はどちらも譲る気がないと言う事を表しているかのように拮抗している。

(もうちょっとや……もうちょっと……ガンダムX魔王、ワイに勝利を……)

 最大出力のハイパーサテライトキャノンを使う事には成功したが、ガンダムX魔王の損傷は軽くはない。
 この状況での最大出力はガンダムX魔王自体に大きな負荷をかけている。
 だが、時間をかければスーパーマイクロウェーブでチャージしている分、マオに分がある。
 そして、遂に決着の時が来た。
 先に粒子が切れたのはスタービルドストライクだった。
 
「勝った!」
「ちくしょぉぉぉぉぉ!」

 ディスチャージ用の粒子が切れたことで、正面から砲撃のぶつかり合いで多少は威力が落ちているハイパーサテライトキャノンだったが、スタービルドストライクを戦闘不能に持ち込むのは十分の威力は残されている。
 砲撃勝負に打ち勝った事で誰もがこのバトルの勝者はマオだと確信した。
 だが、ガンダムX魔王の砲撃はスタービルドストライクには直撃せずに横にそれていた。

「外……れた……」
「あかんかったわ……」

 砲撃勝負に打ち勝ったガンダムX魔王だったが、同時に今までの無理が祟り限界を迎えていた。
 そのせいで砲撃が僅かに逸れてスタービルドストライクには当たらなかった。
 限界を迎えたガンダムX魔王は自身の砲撃の負荷に耐え切れずに損傷していた部分から壊れて遂には倒れた。
 ガンダムX魔王はそれによって戦闘不能と見なされてバトルはセイ、レイジ組の勝利となった。
 セイにとって最大のライバルであったマオに勝利したが、セイの表情は晴れない。
 最後の砲撃勝負では完全に負けていた。
 ガンダムX魔王がハイパーサテライトキャノンに特化したガンプラだと言う事は関係ない。
 正面からの真っ向勝負で自分のスタービルドストライクが負けたと言う事実は変えられない。
 バトルに勝利しても砲撃勝負で負けては素直に喜べない。
 同様にレイジも悔しそうにしていた。
 セイに言ったように、意地を通した相手に対して逃げるのは嫌だと感じて真っ向を挑んだ選択を間違いだとは思わない。
 だが、そのせいでセイの作ったガンプラで負けるところだった。
 あの時、自分も意地を張らずに回避に徹していれば完勝出来た。
 尤も、逃げて勝ったところで胸を張って勝った事を誇れると言う訳ではないが、意地を張ったせいでスタービルドストライクは砲撃勝負で負けたと言う事実には変わらない。

「お二人さん。どっちが負けたのか分かりませんよ」

 マオは悔しそうではあるが、どこか晴れ晴れとしていた。
 マオは自分の好きを貫いて砲撃勝負に勝った。
 バトルには負けて悔しさはあるが、意地を貫いた事は後悔はしていない。
 
「どんな形であれ、お二人さんは勝ったんですから、胸を張って下さい」
「マオ君……」
「今日のところはワイの負けですけど、第二第三の魔王は現れますよ。ここで足踏みしていたら来年はワイの圧勝で終わります」

 マオはそう言い残して去って行く。
 
「セイ……今日は悪かった。俺のワガママのせいで……」
「レイジのせいじゃないよ。僕達の負けだ」
「そうだな……俺達はもっと強くならないよな」

 二人は今日のバトルを敗北として受け入れる事にした。
 その敗北を糧に強くなると言う決意を固め、次のバトルへと駒を進めた。
 
 
 





 4日目の午前のバトルはコウスケが危なげなく勝利を収めた。
 それによりアイラとコウスケのバトルが確定した。
 そして、決勝トーナメントの1回戦は残すはセイ、レイジ組の相手を決める日本代表のアオイとアメリカ代表のニルスとの対戦だ。
 アオイは長距離からの攻撃を得意とするのに対して、ニルスは接近戦を得意と言う両極端な対戦カードとなっている。

「緊張はしてないようだな」

 バトルを前にすでに敗退したエリカと地区予選でアオイに負けたレッカがアオイを激励しに来ている。
 
「うん。マシロさん以外にも凄いファイターが多いからね。緊張しても仕方が無いよ」

 一回戦の最後と言う事もあって、マシロの第一試合から見て来ている為、他のファイター達の実力を知っている。
 だからこそ、誰が相手でも強いと言う事が分かっている為、緊張する事なく逆に開き直っている。

「負けたアタシが言うのもなんだけど、思いっきり行って来い」
「エリカさんの分まで頑張って来るよ」
「お前の仇はアオイと取って来るぜ」
「そんな番狂わせがあるか」

 タクトにレッカが突っ込む。
 アオイがエリカの仇を取ると言う事は決勝戦でルワンと対戦必要があるが、ルワンの次の対戦相手はマシロだ。
 流石に常連のルワンだろうとマシロに勝つ姿は想像できない。
 
「それだけの意気込みだって事だよ。なっアオイ」
「うん。行って来る」

 エリカとレッカに見送られてアオイはタクトと共に会場に向かう。
 会場にはすでにニルスが待機していた。

「相手は子供とは言え天才少年らしいからな。油断するなよ」
「アメリカ予選は凄かったからね」

 アオイも事前にニルスに関する情報を集めていた。
 アオイ達に集められる情報は大したことはないが、ネット上でニルスのアメリカ予選の決勝戦の映像を見つける事が出来た。
 去年のアメリカ代表で決勝トーナメントでフェリーニと激戦を繰り広げたグレコを終始圧倒して勝利した。
 特に最後に何かしらの方法でグレコのガンプラを破壊した事は今でも鮮明に思い浮かぶ。

「とにかく接近させるなよ」
「そうだね」

 元々、射撃戦が得意と言う事もあって、接近戦に持ち込まれるとグレコを破った技の餌食になり兼ねない。

「行こう。タクト君」
「参ります」

 一回戦の最後のバトルのバトルフィールドはデブリベルトだ。
 
「デブリか……」
「隠れるところは多そうだね」

 ビギニングガンダムB30は様子見も兼ねてハイパーバスターライフルで射線上のデブリを吹き飛ばす。
 すると、ニルスの戦国アストレイを補足する。
 続けてハイパーバスターライフルを放つが、戦国アストレイはサムライソードでビームを切り裂く。

「本当にビームを切り裂いたな」
「タイミングもばっちりだったよ」
「この距離からこれ程までの精密な狙撃……成程。確かに厄介ですね」

 最初はどちらも様子見だったが、ニルスが先に仕掛ける。
 戦国アストレイはデブリの中を最低限の動きで殆ど一直線にビギニングガンダムB30に向かって来る。
 ビギニングガンダムB30もハイパーバスターライフルで迎撃するが、戦国アストレイは両手のサムライソードでビームを切り裂く。
 ある程度の距離を詰めたところで戦国アストレイはサムライソードを振るって粒子の斬撃を飛ばす。

「IFSファンネル!」

 それをビギニングガンダムB30はIFSファンネルを展開してIFSフィールドで防ぐ。

「火力に射撃精度もですけど、そのファンネルも厄介ですね」

 戦国アストレイは立て続けに粒子の斬撃を飛ばすが、IFSファンネルを突破は出来ない。
 ビームを切り裂き、戦国アストレイはビギニングガンダムB30を自らの間合いに入るとサムライソードを振るうが、IFSフィールドに止められる。

(直接触れる事が出来れば粒子発勁で潰すことが出来るのだけど)

 戦国アストレイの粒子発勁は直接触れる事でしか相手に粒子を流し込む事は出来ない。
 マシロがやったように粒子の反応しない物を間に入れる以外にもIFSフィールドのように直接触れる事が出来ない物も対処としては有効だった。

「行けるぞ! アオイ!」

 ビギニングガンダムB30は左右のハイパーバスターライフルで時間差をつけてビームを放ち、戦国アストレイはサムライソードとデブリを使って攻撃を防ぐ。

「後々の為に余り無茶はしたくはないんですけど……背に腹は代えられないか」

 IFSフィールドで守りを固められて粒子発勁を撃ち込むどころか、中々接近もさせて貰えない。
 ビギニングガンダムB30はIFSファネルを常に全て使うのではなく、数を制限している為、チャージの隙を突く事も出来ない。
 ニルスとしては勝ち上がる為に一回戦から無茶をしたくはないが、このまま長期戦に持ち込んでも勝機は薄い。
 ここで敗退するくらいなら多少は無茶をした方が良いと判断した。

「仕掛けて来る!」

 戦国アストレイはデブリを思い切り踏み台として一気に加速して、一直線にビギニングガンダムB30に突撃する。
 ビギニングガンダムB30がスノーホワイトで迎撃するが、戦国アストレイは二本のサムライソードを使って、スノーホワイトのビームを切り裂いた。
 
「ちぃ! アオイ!」
「分かってる!」

 すぐにIFSファンネルを何基か使ってIFSフィールドを張る。
 
「幾ら守りを固めようとも! 打ち塗らぬくのみ!」

 戦国アストレイは二本のサムライソードを前方に向けた状態で回転を始める。
 全体をドリルの如く、戦国アストレイはIFSフィールドに正面から突撃した。
 回転する戦国アストレイはIFSフィールドをジワジワを削って行く。
 以前にマシロとバトルした際にドッズライフルでサムライソードの特殊塗料を削られた時の応用だ。
 IFSフィールドはドッズライフルの回転は防げたが、戦国アストレイは当たれば消えるビームではなく、実体を持っている。
 削れて再展開してもすぐに再度フィールドを削る。
 やがてはフィールドの再展開が間に合わずにIFSフィールドは戦国アストレイに突破される。

「まだ!」

 IFSフィールドを突破されたが、ビギニングガンダムB30はスノーホワイトを分離させて迎撃する。
 だが、サムライソードによりビームが切り裂かれる為、戦国アストレイを止める事は出来ない。

「ビームが駄目なら!」

 ビギニングガンダムB30は実弾である腰のミサイルで対処する。
 ミサイルはサムライソードに直撃すると先ほどの無茶のせいもあって、サムライソードは粉々に砕け散った。

「良し!」
「ハァァァ!」

 サムライソードを失いこそしたが、戦国アストレイはすでに自らの間合いに詰めていた。
 ビギニングガンダムB30がハイパーバスターソードを戦国アストレイに向けるが、戦国アストレイは肩の装甲が腕となり、ビギニングガンダムB30の両手のハイパーバスターライフルごとビギニングガンダムB30の両腕を掴む。

「両腕が!」
「粒子発勁!」

 腕を掴んだ事でビギニングガンダムB30は防御を取る事も出来ない。
 その上で、完全にゼロ距離まで距離を詰められて戦国アストレイの必殺の一撃である粒子発勁がビギニングガンダムB30の胴体に撃ち込まれた。
 マシロのようにガンプラに金属パーツなどが使われていない事もあって、ビギニングガンダムB30はその一撃で内部から破壊された。

「ここまでかよ!」

 粒子発勁が決めてとなりバトルは終了した。

「終わったな……」
「うん。やっぱり世界は広いね」

 バトルが終わり、ニルスは二人に一礼してそそくさを帰って行った。
 タクトもアオイもここまで勝ち抜いた来た事で、決勝トーナメントでもそれなりの戦いが出来ると思っていたが、自分達が思っていた以上に世界の壁は厚かった。

「タクト君。また一から来年に向けて練習をしないと駄目みたいだね」
「だな。来年も一緒にここに来て今度こそ、マシロをぶっ飛ばして優勝しないとな」

 今年は決勝トーナメントの1回戦で負けたが、去年は地区予選で負けている。
 そう考えると確実に前進している。
 負けた事は悔しいが、全く歯が立たなかった訳ではない。
 世界大会を通して、色々と課題も見えて来た。
 マシロに勝つ為には負けて腐っている時間は勿体ない。
 今年は一回戦で敗退しても、また来年この舞台に戻って来ればいいだけの事だ。
 少なくとも負けて全てが終わりと言う訳ではないのだから。

「ぶっ飛ばすは穏やかじゃないけど」
「そのくらいの気合がないとアイツには勝てないって事だよ。マシロの奴なんか刃向う奴は皆殺しって感じだぞ」

 タクトの例えにアオイは愛想笑いで濁す。
 例えは少し乱暴だが、そのくらいの気迫が無ければ世界大会を連覇など出来ないのだろう。
 そう思える程の気迫をアオイも感じた。

「タクト君。来年もここに来てもっと上を目指そう」
「だな。次こそはだ!」

 アオイ達の世界大会はここで終わったが、来年に向けて新たな決意と共にアオイとタクトは会場を去る。
 アオイとニルスのバトルが終わり、今年の世界大会のベスト8が出そろい、2回戦の組み合わせはマシロVSルワン、メイジンVSフェリーニ、アイラVSコウスケ、セイ、レイジ組VSニルスで確定した。
 



[39576] Battle49 「ベスト8」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/10/18 14:58
 決勝トーナメント一回戦が終わり、二回戦の第一試合は相手のトラップに対して、自らトラップに飛び込む事でトラップを潰して勝利したマシロと真っ向勝負で実力を見せて勝利したルワンのバトルだ。
 一回戦は対象的な展開で勝利した二人だが、去年の世界大会でも決勝トーナメントで当たっている。
 その時はマシロが徹底的にルワンのアビゴルバインを抑えて勝利した。
 ルワンにとっては去年の雪辱を晴らす機会でもあった。

「この一年は君に勝つ為に努力して来た」
「無駄な努力だな」
「努力に無駄は無いさ。それをこのバトルで見せる」

 会話もそこそこに二人はGPベースをセットしてガンプラを置く。
 今回の装備は格闘戦用のセブンスソードだ。
 準備が整いバトルが開始される。
 バトルフィールドは草原。
 陸戦では草に足を取られなけないフィールドだ。

「まずは様子見だ」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルで先制攻撃を行う。
 距離もあり様子見と言う事でモビルアーマー形態のアビゴルバインは難なくかわして2機は接近する。
 すれ違いざまにガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを振るうが、アビゴルバインは回避してモビルスール形態に変形する。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは着地すると、Cソードを展開したまま、アビゴルバインに突撃する。
 アビゴルバインもビームサイズで応戦した。

「動きが単調過ぎる……どういう事」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードがCソードを振るいアビゴルバインがビームサイズを振るう。
 その様子をレイコはバトル中に分析する。
 過去のデータからルワンはアビゴルバインのパワーを活かした戦いを得意とする反面、冷静に相手を分析して弱点を突いてくることも多い。
 世界大会に何度も出場しているだけあって、熟練のバトルと言う印象だが、今日のルワンは勢いや力に任せて攻撃そのものは単調だった。

「成程。そう言う事か」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードがビームサイズを左腕のシールドで受け止めて、アビゴルバインはCソードを実体剣ではない部分を腕で受け止める。
 少ないやり取りの中でマシロはルワンの意図に気が付いたようだ。

「どうやら今回はレイコの出番はないようだ」
「何か分かったの?」
「ああ。コイツ……何も考えずに出たとこ勝負をしてる」

 去年の世界大会でマシロに敗北したルワンはその敗因を考えた。
 単純な実力以上にマシロはアビゴルバインのパワーを封じて来ている。
 当然、ルワンもバトルの中でその事に気が付いて何度も手を打った。
 だが、マシロはルワンの対応も事前に分かっていたかのようにルワンの手を潰して来た。
 そこから、マシロは単純に圧倒的な力で相手を潰すだけではなく、相手の事を徹底的に研究して相手がやるであろう全てを事前に考えて対策を用意していると考えた。
 ルワンも相手のバトルから情報を得て対策を練る事はあるが、マシロはそれをとんでもないレベルでやっている。
 情報戦においては絶対にマシロには勝てない。
 それがルワンの出した結論だった。
 そこを割り切ってしまえば、話しは簡単だ。
 情報戦で勝てないなら情報戦をしなければ良い。
 情報戦で勝てずともガンプラバトルで勝てば良いのだから。
 だからルワンはこのバトルでは策も何も考えずにマシロの動きに合わせる事にした。
 普通なら簡単な事ではないが、ルワンは元はプロの野球選手だった。
 プロ野球時代には何千、何万のプロの投げたボールを見て来た事で培った動体視力と反射神経を持ってすればマシロの動きに即座に反応して動く事が出来る。
 奇しくもルワンはマシロと同じ戦い方でマシロに挑む事となった。

「お前じゃ俺達にはついて来れないだろ」

 ルワンもマシロ程ではないが、常人では追いつけない程の動体視力と反射神経を持つ。
 幾ら頭の回転が速くてもレイコの動体視力と反射神経は常人の域を超えていない。
 そんな二人の間にレイコが入り込む余地はない。

「作戦に変更はない。俺一人でやる」

 今回のバトルではレイコはお荷物でしかない。
 事前の作戦会議ではルワンの過去のデータから何も考えずに来るのはマシロ相手にはリスクが高すぎるとして優先順位は低かったが、元々の作戦には影響がない。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードとアビゴルバインは距離を取って対峙する。
 そして、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードとシールドをパージする。

「武器を捨てた?」

 肩のビームブーメランを取るとビームダガーの状態で構える。
 腰のビームサーベルとショートソードもパージする。

「身軽になっての肉弾戦か。ならば、私もそれに応じよう」

 アビゴルバインはビームサイズを構えると拳を握り構えを取る。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードが一気に接近してビームダガーを振るう。
 それをアビゴルバインはギリギリまで引きつけて回避すると殴りかかる。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは素早い動きでアビゴルバインを翻弄し、アビゴルバインは強力な一撃を繰り出す。
 どちらも一瞬でも判断を誤るか、躊躇えば命取りとなりかねないが、常人離れした二人は瞬時に見切って反撃している。

「ここまで俺について来るとは流石だな」

 殆どゼロ距離で殴り合っているが、どちらも完全にかわしている。
 マシロの方は話しているだけの余裕があるが、ルワンにはそこまでの余裕はない。
 だが、ルワン自身は焦りは感じてない。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードのビームダガーは威力が低い為、切りつけられても当たり所が悪くなければ一撃ではやられない。
 一方のアビゴルバインの拳は当たり所が悪くなくても一撃でガンダム∀GE-1 セブンスソードは沈められる。
 ルワンは一撃でも当てればマシロに勝てるが、マシロは何度も切りつけないといけない。
 攻撃が中々当たらずとも、一撃で勝てると言うだけで焦る必要はない。
 マシロの操縦技術の正確さはずば抜けているが、マシロも人間である限りは疲れからのミスを無くすことは出来ない。
 持久戦に持ち込めば基礎体力で勝るルワンに分がある。
 だからこそ、今は致命傷を避けるだけで後はひたすら攻め続けるだけだ。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードとアビゴルバインの肉弾戦は1時間近くも続いた。
 マシロの1回戦では何も動かずに過ぎた1時間だが、この1時間で野次を飛ばす観客はいない。
 寧ろ、いつ均衡が崩れるかも知れない状況に観客達は息を飲んでみている。
 そして、遂に均衡が崩れた。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードがアビゴルバインの攻撃を避けて踏み込んだ瞬間、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは草に足を取られて、片足が滑って体勢を崩した。

「貰った!」

 その瞬間にルワンは遂に千載一遇の好機が来たと確信した。
 アビゴルバインは力強く踏み込んで渾身のパンチをガンダム∀GE-1 セブンスソードに繰り出した。
 完全に崩していたガンダム∀GE-1 セブンスソードはその一撃を回避できずに胸部にまともに受けてしまう。
 胸部の追加装甲は粉々に破壊され、ガンダム∀GE-1 セブンスソードの胸部、ベース機からあるAのマークにも皹が入っている。
 渾身の一撃を受けたガンダム∀GE-1 セブンスソードの手からビームダガーが滑り落ちて、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは膝をついた。
 会場はシンと静まり返ると、状況を理解した観客達は歓声を上げた。
 今まで圧倒的な強さにより君臨していた絶対的王者の敗北。
 それはマシロの圧倒的勝利を望むのと同じ程に観客達が望んでいた事だ。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードが膝を付き、歓声が上がりルワン自体も勝利を確信した。
 だが、それが致命的な隙となった事にルワンが気づいた時にはすでに遅かった。
 アビゴルバインは不意にビームにより貫かれた。

「……ビームサーベルだと」

 膝をつくガンダム∀GE-1 セブンスソードの手には身軽になる為に捨てた筈のビームサーベルが握られていた。
 そのビームサーベルがアビゴルバインを貫いていた。
 マシロが敗北して事で上がった歓声も一気に静まり返る。
 アビゴルバインにビームサーベルを突き刺していたガンダム∀GE-1 セブンスソードは何事もなかったように立ち上がるとビームサーベルでアビゴルバインを両断した。

「馬鹿な……確かに最後の一撃は決まった筈」
「決まってたさ。ただ、届かなかっただけだ」

 最後のアビゴルバインの渾身の一撃はガンダム∀GE-1 セブンスソードに直撃した。
 だが、その一撃すらもガンダム∀GE-1 セブンスソードを撃破するには至らなかった。
 マシロは説明を省いていたが、その秘密は胸部の追加装甲にあった。
 この装甲は表面に特殊な塗装を施すことでビームを弾く。
 それは何度も見せている為、周知の事実だ。
 しかし、これだけではなかった。
 今までは防げるビーム以外は被弾させず隠していたが、追加装甲は複数のプラ版により形成されている。
 それが攻撃の直撃時に自壊する事で衝撃を吸収するチョバムアーマーとなっていた。
 最後の一撃をマシロは敢えて胸部装甲で受ける事で最低限のダメージで耐えきった。
 エリカ戦で最後に見せた一撃ならば、追加装甲の許容範囲内であると確信したからこその策だ。
 後はやられたフリをすれば、マシロの敗北を望む観客が勝手にマシロが負けたと思いマシロが敗北したのだと言う事を盛り上げる。
 そうなれば、ルワンもマシロに勝ったのだと錯覚して、普段ではあり得ない致命的な隙を作り出す。
 そして、マシロは戦いながらもゆっくりと自分が捨てたビームサーベルの場所まで移動していた。
 膝をついたのも、やられたと言う事を印象づける為の演技であると同時に、落ちているビームサーベルを拾い易くする為と言う意図もある。
 武器を捨てた事でルワンはガンダム∀GE-1 セブンスソードの武器はビームダガーのみだと思わせもした。
 その上でルワンの性格上、真っ向からの肉弾戦をやろうとすれば付き合う確率も高いを読んでいた。
 最後は足を滑らせたと言うミスをしたフリをして敢えて攻撃を正面から受けた。
 その気になれば、衝撃を逃がして当たったフリをする事も出来たが、観客の目は誤魔化せても、攻撃時の感覚からルワンに気づかれる可能性も考慮して逃がすこと無く攻撃を受けた。
 追加装甲がチョバムアーマーだと知らないルワン達からすれば、自壊したのではなくアビゴルバインの強烈な一撃で粉砕されたのだと誤認させれば、やられたフリにもリアリティが出て来る。
 その上でルワンがマシロに勝つ為にとった出たとこ勝負はマシロにとっては逆にやり易かった。
 普段のルワンなら冷静に相手の動きを分析して来る為、様々な行動でルワンの思考を誘導して誤魔化しながら持っていく必要があったが、何も考えずに戦ってくれたおかげでこの状況に持って行き易かった。
 隙を作った時も普段なら考え難い致命的な隙だが、ギリギリの肉弾戦では一瞬の迷いや躊躇が好機を逃すだけでなく、流れを変えかねない。
 この作戦を取ったのも過去のデータからこの場面で罠の可能性があってもルワンが臆する事無く打って出ると読んでの事だった。
 
「流石としか言いようがないな。私の負けだよ」

 一度は勝利を確信しながらの敗北を喫したルワンだが、素直に敗北を受け入れていた。

「だが、次は負けない」
「次ね」

 今年もルワンはマシロに負けこそはしたが、来年の世界大会を見据えていた。
 悔しい訳ではないが、負けた事は受け入れなければならない。
 だが、そんな前向きな姿勢はマシロの心を抉るだけだ。
 来年の世界大会はルワンが思っているようなバトルではない事をマシロは知っている。
 だからこそ、全てをぶちまけてやりたい衝動に駆られるが、そんな事をしても何も変わる事は無い。
 互いの健闘を称える為にルワンはマシロに握手を求めるも、マシロはルワンの事を完全に無視して帰って行く。
 









 午前のマシロの騙し討ちによる勝利は観客達に大きな衝撃を与えた。
 そして、午後のバトルは現在のところ、マシロに対する有力な対抗馬であるメイジンカワグチと、二人を除けば優勝候補の一人と目されているイタリア代表のリカルド・フェリーニとのバトルだ。

「ジュリアンに勝ったとはいえ、今日の相手も油断は禁物だ」
「分かっている。ここまで勝ち残ったファイターの中で油断出来る相手などいる筈もない」
「メイジンカワグチに高く評価して貰えて光栄だ。けど、いつまでそのスカした態度を取れるか見ものだな」

 バトルが始まる前だが、フェリーニが軽く挑発するもメイジンは挑発に乗る事は無い。
 尤も、フェリーニもこれで少しはムキになってくれれば儲け物と言う程度でしか思っていない為、挑発に乗って来なくても気にすることはない。
 
「装備を強化して来たのか。また厄介な事を」

 一回戦では最低限の装備しかしていなかったメイジンのアメイジングエクシアだが、今回は武装を強化していた。
 腰にはGNソードの刀身を流用して制作したアメイジングGNブレイドを追加している。
 更にはバックパックには大型のユニット、トランザムブースターが追加されている。
 これによって機動力の強化だけではなく、トランザムを安定させた上で使用時間を延ばすことが出来る。
 その上、分離して独自に運用する事も出来る為、戦いの幅が広がった。
 
「けど、俺のフェニーチェだって強化したんだ。勝って次に進ませて貰う」

 メイジンのアメイジングエクシアも強化されているが、フェリーニも予選ピリオドから強化したガンダムフェニーチェリナーシタとなっている。
 そして、このバトルに勝利する事が出来れば、次のバトルの相手はセイ、レイジ組と戦えるかも知れない。
 セイとレイジも次のニルス戦で勝つ必要があるが、その前にフェリーニもメイジンに勝利しなければ戦う事は出来ない。

「心意気は認めよう。だが、私とて負けられない理由はある」

 フェリーニがセイとレイジと戦う事を望むようにタツヤもまた、決勝まで勝ち進んでマシロとの約束を果たさねばならない。
 どちらもこのバトルで勝たなければならない理由がある。
 この先に進む事が出来るのはどちらか一方だけである為、どちらも譲る事は出来ない。
 メイジンとフェリーニの負けられない一戦が始まる。
 二人がバトルするのは宇宙のステージだ。
 障害物となる物は少なく、互いの純粋な技術が物を言う。

「相手がエクシアなら。まずは近づけさせない」

 ガンダムフェニーチェリナーシタはまだ、距離があるがリナーシタライフルのハンドライフルで先制攻撃を行う。
 相手は近接戦闘に特化しているガンダムエクシアを改造している以上、近接戦闘を得意としている。
 ある程度の距離を保っていれば相手の攻撃は恐れるに足りない。

「距離を詰めさせないつもりか。良い判断だ。だが、それがどうした!」

 距離があってもかなり正確に狙って来るが、アメイジングエクシアはトランザムブースターで強化された機動力に物を言わせて接近する。

「ちっ……そりゃそんなにデカい背負い物をしてんだ。機動力は強化されてるのは当然か」

 ガンダムフェニーチェリナーシタはバスターライフルを放ったが、アメイジングエクシアは当然のように回避して、アメイジングGNソードを展開する。
 すでに殆ど距離を詰められている為、ガンダムフェニーチェリナーシタはハンドライフルからビームサーベルを出して、前に出る。
 前に出た事で、アメイジングエクシアがアメイジングGNソードを振るう前にガンダムフェニーチェリナーシタがビームサーベルを振るい、アメイジングエクシアがアメイジングGNソードで受け止める。

「悪いが接近戦でも負ける気は無いんでね」
「そのようだな」

 アメイジングエクシアはガンダムフェニーチェリナーシタを弾き飛ばすと、アメイジングGNソードをライフルモードにして連射する。
 ガンダムフェニーチェリナーシタはビームマントを展開して防ぐ。

「パワーはダンチかよ」

 ガンダムフェニーチェリナーシタは頭部のバルカンと胸部のマシンキャノンで牽制する。
 弾幕を掻い潜り接近しようとするところを狙ってガンダムフェニーチェリナーシタはハンドライフルを放つ。
 この距離なら直撃させればハンドライフルでも十分にアメイジングエクシアに損傷をさせる事が出来る為、メイジンも慎重にならざる負えない。

「そう簡単に踏み込ませてはくれないようだな」

 アメイジングエクシアはベースのガンダムエクシア同様に近接戦闘でその能力を発揮する。
 フェリーニもそれが分かっている為、近づけさせないようにする事を最優先にしている。
 距離を取ってでの戦闘ならば豊富な火器を持つフェリーニのガンダムフェニーチェリナーシタの方が有利だ。

「カワグチ。今日は思い切り行っても問題はないよ」
「そうだな。ならば、全力で行かせて貰おう。トランザム!」

 前回とは違いトランザムブースターを装備したお陰でアメイジングエクシアはトランザムを安定して使える。
 その為、アランもトランザムを使う事には反対ではない。
 どの道、距離を詰めなければ分が悪い為、ここでトランザムを使ってでも距離を詰める必要がある。

「使って来たか!」

 前回も使っている為、フェリーニもトランザムは警戒していた。
 ガンダムフェニーチェリナーシタにはバトル時に機体性能を向上させる特殊システムの類は搭載されていない為、トランザムを使って来られると一気に流れを持って行かれる。
 ガンダムフェニーチェリナーシタはバード形態に変形すると一気に距離を取る。

「逃がさん!」

 トランザムを使った事で赤く発光しているアメイジングエクシアはガンダムフェニーチェリナーシタを追いかける。
 高速移動が可能なバード形態だが、トランザムを使っているアメイジングエクシアを振り切る事は出来ずにジリジリと距離を詰められていく。

「生憎と逃げる気は無いんでね!」

 一見、逃げているように見えたガンダムフェニーチェリナーシタだったが、急にモビルスーツ形態に変形すると急制動をかけた。

「何?」

 バード形態だったガンダムフェニーチェリナーシタを追いかける為に最大速度を出していたアメイジングエクシアは一気にガンダムフェニーチェリナーシタを追い抜くと、ガンダムフェニーチェリナーシタに背を向ける形となる。
 これがフェリーニの狙いだ。
 始めから逃げる気は無かった。
 逃げようとすれば近接戦闘を仕掛けたいメイジンは必ず追って来る。
 バード形態のガンダムフェニーチェリナーシタに追いつくにはトランザムを使っていても簡単ではない。
 そこで途中で急制動をかける事で、アメイジングエクシアに自分を追い越して貰う事で背後を突くと言う狙いだ。
 
「こいつで!」

 背後を突いたガンダムフェニーチェリナーシタはアメイジングエクシアにリナーシタライフルを向ける。
 そして、最大出力でバスターライフルを放つ。
 完全に背を向けていた為、回避が間に合わずに、バスターライフルはアメイジングエクシアの背後に直撃して爆発を起こす。

「やったか!」
「これしきの事で!」

 だが、爆風からはトランザム状態のアメイジングエクシアが飛び出して来た。
 
「今のでも仕留めきれないのかよ」

 爆風から飛び出して来たアメイジングエクシアだが、シールドとトランザムブースターを失っている。
 ガンダムフェニーチェリナーシタのバスターライフルが直撃する瞬間に、アメイジングエクシアはトランザムブースターを切り離した。
 それにより、直撃を受けて爆発したのはトランザムブースターだけだ。
 ほぼゼロ距離での爆発だった為、シールドを使って爆風から身を守ったが、代わりにシールドが使い物にならなくなり、シールドも捨てた。

「けど、その状態なら!」

 急制動を使った攻撃はアメイジングエクシアを撃破には至らなかったが、バックパックとシールドを破壊する事には成功している。
 その上でトランザムを使っている為、トランザムが終わるまで凌ぎ切れば勝機が高まる。
 ガンダムフェニーチェリナーシタはハンドライフルを連射する。
 アメイジングエクシアは回避しながらも、アメイジングGNソードのライフルモードで反撃した。
 そのビームが運悪くリナーシタライフルの先端に掠った為、すぐにバスターライフルとハンドライフルを切り離してハンドライフルだけ回収する。
 その間にアメイジングエクシアはガンダムフェニーチェリナーシタに接近してアメイジングGNブレイドを振るう。
 ガンダムフェニーチェリナーシタはハンドライフルからビームサーベルを出して受け止めるが、正面からぶつかるのではなく、アメイジングエクシアの勢いに吹き飛ばされる形で後方に下がりながらバルカンとマシンキャノンで弾幕を張る。

「カワグチ! トランザムの限界時間が!」
「分かっている」

 トランザムブースターを失った事でトランザムの限界時間が一気に短縮されたせいで発動時の予測よりも早く限界時間が訪れていた。
 アメイジングエクシアの発光が消えた事でトランザムが終わった事を示した。
 トランザムは一度使って限界時間を迎えるを機体性能ががた落ちする諸刃の剣だ。
 その上、使用時には赤く発光する為、トランザムを使っているのかが一目で分かってしまう。
 トランザムが終わったところでガンダムフェニーチェリナーシタは一気に攻勢に出る。
 ガンダムフェニーチェリナーシタはビームサーベルを振るい、アメイジングエクシアはアメイジングGNブレイドで受け止める。
 だが、アメイジングエクシアは弾き飛ばされてアメイジングGNブレイドを手放してしまう。

「今度こそこれで!」

 ガンダムフェニーチェリナーシタは一気に畳み掛ける為に体勢を崩しているアメイジングエクシアに接近する。

「カワグチ!」
「この瞬間を待っていた!」

 ガンダムフェニーチェリナーシタがアメイジングエクシアに留めの一撃をしようとした瞬間にアメイジングエクシアは再び赤く発光した。
 それを見た瞬間にフェリーニは下手を打った事を理解した。
 だが、それを理解した時にはすでにガンダムフェニーチェリナーシタはビームサーベルを振り下ろしていた。
 再度トランザムを使ったアメイジングエクシアは瞬間的に加速して、ガンダムフェニーチェリナーシタの一撃をかわすと発光が終わった。
 トランザムの限界時間が迫った時にメイジンはとっさにトランザムを自分から中断させた。
 それによりギリギリ使用時間を1秒だけ残すことが出来た。
 その1秒間のトランザムを最大限に活かす為のタイミングを見計らっていた。
 ガンダムフェニーチェリナーシタの一撃をかわしたアメイジングエクシアはアメイジングGNソードのライフルモードをガンダムフェニーチェリナーシタの胴体装甲に殴りつけるように押し付けた。
 
「この距離ならば!」

 装甲に押し付けてゼロ距離からアメイジングエクシアはビームを撃ち込む。
 元からライフルモードのビームの威力は低い上にトランザムを限界時間まで使ったため、威力はかなり落ちているがゼロ距離からビームを撃ち込まれてはガンダムフェニーチェリナーシタも無事ではない。
 
「まだ! 俺達は負けてねぇ!」

 胴体を撃ち抜かれながらも、最後の力を振り絞ってガンダムフェニーチェリナーシタはシールドでアメイジングエクシアを殴りつける。

「くっ! 私も負ける訳には行かない!」

 殴り飛ばされながらも、アメイジングエクシアはアメイジングGNソードを展開すると、短距離ではあるが勢いをつけて、ガンダムフェニーチェリナーシタの胴体に突き刺す。

「アイツ等と戦う為に!」
「マシロと戦う為に!」

 腹部にアメイジングGNソードを突き刺すアメイジングエクシアにガンダムフェニーチェリナーシタは頭部のバルカンと胸部のマシンキャノンを至近距離から撃ち込む。
 バルカンの被弾しながらも、アメイジングエクシアもアメイジングGNソードを突き刺したまま、左手でガンダムフェニーチェリナーシタの胴体を殴り、GNバルカンを撃ち込む。
 もはや、策も技術も関係ない。
 至近距離からのバルカンの撃ち合いはどちらが先に限界を迎えるのかの根競べだ。
 ガンプラバトルにおいてガンプラの完成度が性能に左右する。
 ここで簡単には埋める事の出来ない差が出て来る。
 どんなに制作技術があっても、個人が企業が総力を挙げて制作したガンプラと基本性能で対等に立つ事は難しい。
 アメイジングエクシアとガンダムフェニーチェリナーシタを比べると総合的には火力や可変機構などを持つ為、大きな差はないが、基本性能においてアメイジングエクシアはガンダムフェニーチェリナーシタよりも高い。
 この状況においてはその差が決定的な物となって覆すことは出来ない。
 バルカンとマシンキャノンの集中砲火を浴びているアメイジングエクシアよりも、片腕のGNバルカンを受けているガンダムフェニーチェリナーシタの方が先に限界を迎えようとしていた。
 
「ここまでかよ……」

 至近距離からバルカンを撃ち合っていたが、ガンダムフェニーチェリナーシタが機能を停止した。
 アメイジングエクシアも至近距離からバルカンとマシンキャノンの集中砲火を浴びて無傷とは言えないが、まだ十分に動く事が出来る。
 ガンダムフェニーチェリナーシタが機能を完全に停止し、メイジンの勝利が決まった。

「今回も勝ったね」
「ああ。何とかな。エクシアの性能があってこそだが」

 最後は策も実力も関係なく、純粋にガンプラの性能で勝負が決まった。
 一対一でのバトルに重きを置いたアメイジングエクシアだからこそ、勝つ事が出来た。
 
「次のバトルに勝てば決勝……Aブロックはマシロ・クロガミが勝ち上がって来る事が硬いか」
「その前に次の相手も油断は出来そうにない」

 メイジンの次の相手はセイ、レイジ組かニルス・ニールセンのどちらかだ。
 双方が大会初出場ながらも、その実力を発揮している。
 どちらが勝ち上がろうとも強敵になる事は間違いない。
 マシロとバトルする為の最後の壁もそう簡単には突破できそうにはない。

「だが、勝って見せるさ。その為に私はここに居る」

 だが、あの日の約束を果たす為にもタツヤは負ける訳には行かない。
 決勝トーナメント5日目が終わり、優勝候補の二人は順当に勝ち上がり、大会常連の二人が姿を消した。












 5日目が終わり、マシロはホテルを抜け出して適当に歩いていた。
 今日のバトルで勝利したは良いが、胸部装甲の秘密を見せた。
 この時点でガンダム∀GE-1の隠し玉を全て使い切った事になる。
 まだ、フルアサルトジャケットの使っていない武器のストックは大量にあるが、切り札にすぐ程ではない。
 今年の大会用の用意しようとしていた新型は思った以上に時間がかかり、まだ手元に届いていない。
 
「後2回か……」

 マシロは日が落ちた空を見上げてそう言う。
 後2回のバトルが終われば今年の世界大会は終わる。
 そうなれば、ガンプラバトルは今までとは大きく変わる。
 それを止める術は無い。

「何でこんなことになったんだろうな」

 今更言ったところで何が変わる訳でも無い。
 ユキトがガンダムやガンダムバトルが利益となると目を付けられた時点でマシロがいなくても結果は変わらないだろう。

「マシロ? ずいぶんと久しぶりのように思えますね」
「こんな時間に子供が出歩くのは不味くないか?」

 適当に歩いているとマシロはニルスと遭遇した。
 ニルスとは世界大会の開催前夜にバトルした時からまともに話してはいない。
 あれから2週間程度しか経っていないが、ずいぶんと時間が経った気がする。

「少し良いでしょうか? 聞きたい事もあります」

 ニルスがそう切り出して来て、マシロも断る理由はない。
 話しは長くなりそうだった為、二人は場所を移動して適当にベンチを見つけて座る。

「少し合わないうちに雰囲気が変わった気がします」
「どうだろ。で、話しって何? 母さんからの連絡はないけど」

 ニルスも以前に会った時とはマシロの雰囲気が変わった事に気が付くが、それ以上は追及しない。
 だが、決勝トーナメントに入り集中しているのだろうとして話しを進める。
 ニルスの話しとしては今日の昼間にPPSE社の会長秘書から接触を受けて、PPSEが次のバトルに勝てばニルスの事を資金的に援助したいと申し出て来た事。
 独自のルートから会長はプラフスキー粒子の秘密を知り、その秘密を「少年」により暴露される事を恐れている事などを話した。

「クロガミグループがPPSE社の創立に出資している事は簡単に調べが付く事です。マシロは何か知ってますか?」
「そっちは管轄外」

 マシロもPPSEの会長とクロガミグループの関係については深くは知らない。
 だが、ニルスの話しか見えて来た事がある。
 このタイミングでニルスを支援すると言ってまで次のバトルに勝たせないと言う事と会長が暴露を恐れている秘密を知っている少年。
 そこからその少年はセイかレイジを指していると仮定すれば全ての辻褄が合う。
 今まで二人を妨害していたのがPPSEの会長の差し金と言う事になる。
 尤も、全ては推測の域を出ない為、確定は出来ない。
 しかし、調査を指示したが、中々成果が出ない事を考えるとあながち間違いでもないだろう。
 大会期間中はPPSEの会長にもクロガミグループがある程度警護をしている。
 期間中に会長にもしもの事があっては、大会に影響が出るかも知れないからだ。
 クロガミグループの人間が警護している以上、簡単に情報を得ることが出来ないのも当然だ。

「そんな事よりも明日のバトル方は?」
「僕は元々、プラフスキー粒子の秘密を暴く為に大会に参加しています。次の対戦相手の二人のどちらかがその秘密を知っていると分かった以上は勝ち上がる必然性はないです。だから、さっき彼らと接触して明日の勝利を譲る事を条件に秘密を話して貰おうとしましたけど、断られましたよ。それで、明日のバトルに勝てば知っている事を全て話してくれることになりました」
「そりゃそうだろ」

 ニルスがこんな時間に出歩いていたのは、セイとレイジと会う為らしい。
 明日の対戦相手と人目の多い昼間に会うにはリスクが高いから、人目の少ない時間帯を選んだ。
 そこで、明日のバトルでニルスがわざと負ける事を条件にプラフスキー粒子の情報を聞き出そうとした。
 結果は失敗に終わった。
 優勝を狙っている彼らからすればその前の一戦を楽に勝ち抜けるなら情報を提供する程度の事は気にする程ではないと考えていた。
 学者であるニルスからすれば、研究の為に誰かに答えを教えて貰いそのまま発表する事はあり得ないが、目的の為に必要ならば分からい事を誰かに教えを請う事は間違いではないと考えている。
 今回の事もニルスからすれば決勝で勝利を譲られるならともかく、ニルスとのバトルは優勝を目指す上での過程に過ぎない為、勝てるならそれに越したことはないだろうと提案した物だが、二人からすれば違うらしい。
 マシロも二人の言いたい事は理解出来る。
 優勝を目指しているが、一戦一戦も適当に流すことの出来ない重要な戦いなのだろう。
 残り少ないバトルとなった今ではそれも理解できる。

「で、天才少年としては明日のバトルに勝機はあるのか?」
「当然です」

 セイの作ったスタービルドストライクとそれを動かすレイジの実力は高い。
 それでもニルスは勝機を見出していた。

「彼らのガンプラは確かに強い。ビームを粒子変換して吸収する能力に吸収した粒子を全面解放する能力、機体性能を底上げする能力と様々な能力を持っています。ですが、ビーム兵器を持たない僕の戦国アストレイにはビームを吸収する能力は意味を成さない。ビームが吸収できないであれば全面開放する能力も使えない」

 ニルスにとっては最も厄介だったのがディスチャージシステムだ。
 今のところはディスチャージシステムは膨大な粒子を推力に回すか、火器に回すかをしている。
 推力に回した状態の機動力は火器を持たない戦国アストレイで対処するのは厳しい。
 火器に回した状態でもビームを切り裂く刀を持っていたとしても、第二ピリオドで見せた拡散状態では全てを凌ぐ事は不可能で、マオとのバトルで見せた収束状態もガンダムX魔王のハイパーサテライトキャノンと正面からぶつかり合えるだけの火力を持っている為、完全に防ぐ事は出来ない。
 しかし、ニルスの見る限りディスチャージシステムはアブソーブシステムと併用しなければバトル中にはまともに使えない。
 戦国アストレイはビーム兵器を持っていない為、アブソーブシステムを気にする必要は無い為、必然的にディスチャージシステムをバトル中に使われる危険性は大きく減る。

「機体性能を上げる能力は厄介ですが、解放する能力に比べれば爆発的ではない為、決して対処出来ない事は無い」

 残るはRGシステムだが、RGシステムはディスチャージシステムと比べると発動条件が容易で安定している分、ディスチャージシステムのような爆発的な性能を発揮する事は無い。
 元々のスタービルドストライクの性能が高い分、更に性能を底上げするRGシステムは厄介ではあるが、ディスチャージシステムを使われる事よりかは対処が可能だ。

「つまりは彼らに隠し玉がない限りは僕の勝利は揺るがない」

 ディスチャージシステムが使えない以上、RGシステムにさえ警戒していれば良い。
 スタービルドストライクには実体剣や実弾系の装備は今のところ使ってない為、ビーム兵器なら戦国アストレイのサムライソードで対処が出来る。
 その上で、白兵戦に持ち込めばスタービルドストライクを相手に勝機は十分だ。
 切り札である粒子発勁もマシロの時のように金属パーツが使われている形跡もなければ、アオイの時のように直接触れる事が出来ないと言う事もない。
 つまりは懐に入り込んで粒子発勁を撃ち込めば勝てる。
 予選ピリオドや1回戦を見る限りではセイもレイジも切り札を温存できるタイプではない。
 ここまでのバトルの中で全ての機能を晒したと見て良い。
 隠し玉がない以上はニルスの有利は変わらなかった。 

「俺も良く言われるけど、その余裕に足元を掬われないようにな」
「分かっています。彼らが油断できない相手だと言う事は百も承知です。ですが、彼らは自らの能力を見せ過ぎている。すでに彼らに関するデータは集まっています」

 世界大会で今まで誰も連覇できていない最大の理由はそこにあった。
 公式戦で結果を出せば出す程、自分の情報が流出する為、常にファイターは進化し続けなければ対策を立てられて、時代に取り残されて追い越されて行く。
 世界大会の常連と言われているファイター達は単純な実力の上に常に進化しているからこそ常連として名を馳せている。
 ニルスもまた、これまでのデータからスタービルドストライクのデータを集めている。
 だが、マシロは敢えて言わなかったが、過去のデータなど参考程度でしか役には立たない。
 特にセイとレイジは安定して実力を発揮するタイプと言うよりも、追い詰められて一気に進化するタイプのファイターだ。
 その為、バトルを重ねるごとに過去のデータは役には立たなくなり、場合によってはバトルの中で進化する事もある。
 それらを踏まえなければデータなど何の意味もない。

「明日のバトルは僕にとっては優勝以上に意味のある事。必ず勝って見せます」

 ニルスは優勝を目的にしている訳ではない。
 明日のバトルに勝利すればセイやレイジからプラフスキー粒子に関して知っている事を聞く事も出来て、PPSE社から援助も受けられる。
 情報だけでなく、PPSEから援助を受ける事が出来ればPPSEがひた隠しにしている粒子の謎にも迫る事が出来る。
 ニルスにとっては明日のセイ、レイジ組とのバトルは世界大会での優勝以上の価値がある物だ。
 
 
「あっそ」

 ニルスの思惑はマシロにとってはどうでも良い事だ。
 明日のバトルでセイとレイジが負けるならそこまでの事でしかない。
 どの道、Bブロックからは一人としかバトルが出来ない。
 メイジンも順当に勝ち上がってもいる。
 その為、セイとレイジが負けても別に構わなかった。
 二人に勝てるのであればそれはそれで戦うに値する。

「それでは失礼します」

 ニルスは明日のバトルに備えて先に戻る。
 ニルスが帰った後はマシロもしばらくベンチに座ってボーっとしていた。

「俺の準決勝の相手は多分……」

 そこまで口にするもそれ以上は考えないにした。
 考えたところでどうしようもない。
 今はただ一回でも多くバトルをする為に勝つ事しか考えないようするだけだった。



[39576] Battle50 「必殺技」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/10/20 11:49




 世界大会決勝トーナメントもすでに半数以上のバトルが終わり、ベスト4を決めるバトルも後2試合となった。
 午前は初戦を無難に勝ち上がったアイラとコウスケのバトルだ。
 午後はプラフスキー粒子を応用する能力を持ったガンプラを使うセイ、レイジ組とニルスのバトルとなっている。
 このバトルに勝利したファイターがベスト4となり、マシロとメイジンと対戦する事になる。 
 午前中のバトルは初戦で実力差があった為、実力を殆ど見せていない同士のバトルであり、勝った方が次のマシロの相手となる事もあって注目を受けている。

「相手はチームネメシスの2番手……ガンプラの相性ではこちらに分があるけど……」

 アイラはファンネルを中心に使ってここまで勝ち上がって来た。
 コウスケのユニコーンガンダム・ノルンならファンネルをジャックする事が出来る。
 その為、ガンプラの相性は良い。
 だが、今までファンネルを中心として来た分、ファンネルを使わない戦いは未知数だ。
 以前に圧倒的な差を見せつけられたマシロが所属しているチームのナンバー2と言う事を考えると油断は出来ない。

「余計な事は考えるな……いつも通りにやれば良いんだ」

 情報の無い相手の事で色々と考えていてもどうにもならない。
 コウスケは頭を切り替える。
 アイラの方も準備が整いバトルは開始される。
 バトルフィールドは小惑星帯。
 デブリベルト同様に障害物の多いバトルフィールドとなっている。

「アイラ。分かっていると思うが」
「分かっています」

 キュベレイパピヨンは小惑星を避けながら相手を探していた。
 第二ピリオドでユニコーンガンダム・ノルンはクイン・マンサのファンネルのコントロールを奪っている。
 原理はともかく、ファンネルの制御を奪える以上はキュベレイパピヨンもファンネルは下手に使えない。
 ファンネル以外の武器は手持ちのランスビットと腕部のビームサーベル兼ビームガンでどちらも近接戦闘用の武器だ。
 相手に接近しなければ一方的に攻撃される。
 相手を探しているとユニコーンガンダム・ノルンがビームマグナムで先制攻撃を行う。
 その攻撃はキュベレイパピヨンは軽々と回避する。
 一発目を回避するが、すぐに二発目、三発目のビームマグナムが撃たれる。

「3……4、5……」

 5発目のビームマグナムを回避したところでキュベレイパピヨンは一気に攻撃して来た方に向かう。

「弾切れを狙って来たか」

 ユニコーンガンダム・ノルンはすぐにビームマグナムのカートリッジを装填する。
 装填するとシールドのビーム砲で接近するキュベレイパピヨンを迎撃する。
 キュベレイパピヨンは小惑星を盾に姿を隠してやり過ごす。
 コウスケが見失っている間に回り込んで腕部のビームガンを放つ。
 ユニコーンガンダム・ノルンはとっさにシールドで受け止めた。

「……Iフィールド」

 すぐにビームマグナムを放つが、キュベレイパピヨンは小惑星の影に隠れてかわす。

「何処に……」

 周囲を捜索しているが、キュベレイパピヨンは背後から飛び出して来てランスビットを突き出す。
 
「後ろか!」

 振り向きざまにビームマグナムを向けて放つが、向ける前にキュベレイパピヨンはビームマグナムを向ける前に回避行動を取り、撃った時には懐に入り込んでいた。
 すぐに頭部のバルカンで応戦しようとするも、腹部にランスビットの一撃を受けて体勢を崩しながら後方に飛ばされる。
 キュベレイパピヨンはビームガンを連射して追撃する。
 ユニコーンガンダム・ノルンはシールドで受け止めながら体勢を立て直すとバルカンで牽制するが、すぐに小惑星に隠れて当たらない。

「その調子だ。アイラ」

 小惑星帯に隠れながらキュベレイパピヨンはユニコーンガンダム・ノルンの背後から現れてはランスビットで攻撃する。
 コウスケも何とか反応するが、ギリギリ防御をするので精一杯だ。
 背後から攻撃して来る為、コウスケも自分の背後に敏感になりかけたが、背後から来ると思った瞬間に背後にビームマグナムを撃つが、キュベレイパピヨンはそこにはいなかった。
 何度か同じ方向から攻撃する事でその方向に注意が行く辺りから、背後と見せかけて別方向から攻撃を行う事で相手を翻弄する。

「こっちの動きが見切られてるのか……」

 ユニコーンガンダム・ノルンの背後からキュベレイパピヨンがランスビットを突き出し、ユニコーンガンダム・ノルンは何とかビームマグナム下部のリボルビング・ランチャーからビ

ームジュッテを出して受け止める。
 だが、キュベレイパピヨンは左手にビームサーベルを持って振う。
 ビームサーベルがビームマグナムを切り裂いて破壊されるとその爆風に紛れて再びキュベレイパピヨンは小惑星帯に姿を隠す。

「流石はチームネメシスのナンバー2。簡単には勝たせてはくれないか」

 ユニコーンガンダム・ノルンはシールドをバックパックに装着する。
 そして、デストロイモードへと変身する。

「……変身した」
「こけおどしだ」

 デストロイモードとなったユニコーンガンダム・ノルンは一気に加速して小惑星帯を駆け抜ける。

「速い」

 バックパックに装着したシールドの推力も合わせてユニコーンガンダム・ノルンの速度は相当な物になっている。
 単純な機動力ではキュベレイパピヨンを遥かに凌駕していた。
 これでは幾ら粒子の動きから先読みしても追いつく事は困難だ。

「悪あがきを……」
「問題ありません」

 機動力では圧倒的だが、この程度でアイラは動じる事は無い。
 今のユニコーンガンダム・ノルンはただ機動力が高いだけに過ぎない。
 その程度なら何度もマシロとの練習でやっていた。
 キュベレイパピヨンはランスビットを手放すと左手でビームガンを撃ちながら右手にビームサーベルを持ってユニコーンガンダム・ノルンを追いかける。
 ユニコーンガンダム・ノルンは両腕からビームトンファーを出して、ビームをかわしながらキュベレイパピヨンに接近する。
 高い機動力を活かして、一気にキュベレイパピヨンを責め立てる。

「アイラ! 何とかしろ!」
「少し黙ってて下さい」

 ユニコーンガンダム・ノルンが攻勢に出ているように見えるが、その動きは直線的である為、動きを読んで攻撃を流すことは容易だ。
 キュベレイパピヨンは動きを止めてひたすらユニコーンガンダム・ノルンのビームトンファーの攻撃を凌ぐ。

「これで!」
「余り調子に……」

 ユニコーンガンダム・ノルンがキュベレイパピヨンに接近してビームトンファーを振り上げた瞬間にランスビットが横からユニコーンガンダム・ノルンに襲い掛かる。
 ランスビットはユニコーンガンダム・ノルンのバックパックとシールドの間に突き刺さり、ユニコーンガンダム・ノルンは体勢を崩す。
 
「槍が! どうして」

 キュベレイパピヨンのランスビットは今まで手持ちの槍としてしか使っていなかったが、「ビット」と名がついているようにビット兵器として遠隔操作できる。
 アイラがランスビットを手放したのは、小回りの利く武器に持ち替えただけではなく、相手の意識からランスビットの存在を消す為だ。
 その上で攻撃を凌ぎながらチャンスを見ていた。
 ランスビットの横やりで一気に形勢は逆転した。

「行きなさい。ファンネル」

 今までファンネルジャックを避ける為にファンネルは温存してあった。
 それをこの好機に一気に使う。
 横やりで完全に体勢を崩しているユニコーンガンダム・ノルンはファンネルジャックを使うだけの余裕はない。
 瞬時にユニコーンガンダム・ノルンを囲んだファンネル達は全方位からの攻撃を開始する。
 真っ先に武器を持つ両腕と頭部、脚部が破壊される。
 ファンネルが攻撃している間にキュベレイパピヨンは両手にビームサーベルを持ってユニコーンガンダム・ノルンに突き刺す。
 ランスビットの横やりからわずか数秒の出来事である為、コウスケはまともな抵抗をする事無く勝敗は決した。

「良くやったぞ。アイラ」
「この程度の事は想定内です」

 バルトは終盤のデストロイモードを使ってからは冷っとさせられたが、アイラはマシロの攻撃と比べると分かり易すかった。
 アイラがコウスケに快勝した事で準決勝の組み合わせがマシロとアイラで同じチーム同士のバトルで確定した。






 マシロの準決勝の相手がアイラで決まり、午後のバトルの勝者がメイジンの準決勝の相手となる。
 どちらもプラフスキー粒子を応用したバトルを行うファイターだが、ニルスは接近戦に特化したガンプラを使い、セイとレイジは汎用に特化したガンプラを使う。
 そして、どちらも大会最年少だ。

「今日は絶対に勝つぞ。セイ」
「うん!」

 初戦でマオと砲撃勝負で負けながらもバトルには勝った事や、昨夜の出来事でセイもレイジも気合十分だ。
 一方のニルスも静かに集中している。
 ニルスにとってはこのバトルは決勝で勝つ以上の意味がある。
 互いに譲れない思いを持ちながらバトルが開始される。
 バトルフィールドはキャッスル。
 地上ステージだが、一般的な物やガンダムの作中を再現したステージではなく、巨大な城がそびえ立つフィールドだ。
 
「アイツはどこに!」
「あそこだ! 天守閣の上!」

 バトルフィールドの中央の城の天守閣にニルスの戦国アストレイは待ち構えていた。
 城が西洋ではなく日本の城をイメージした作りとなっている為、待ち構える戦国アストレイが絵になる。
 だが、そんな事はお構いなしにスタービルドストライクは天守閣へと向かう。
 天守閣でスタービルドストライクと戦国アストレイが向かい合う。

「まずはこいつで!」

 スタービルドストライクはスタービームライフルで様子見を行う。
 しかし、戦国アストレイは肩の装甲を稼動させて、サムライソードでビームを切り裂く。

「やっぱ……ビームは効かないか……ならコイツはどうだ!」

 スタービルドストライクはバックパックのスタービームキャノンを前方に向けるとスタービームライフルと同時に攻撃する。
 戦国アストレイはサムライソードで切り裂くのではなく、飛び上がって回避する。

「やっぱり、切り裂けるビームにも限界があるようだな!」

 戦国アストレイのサムライソードはビームを切り裂くが、両手に2本しか持っていない。
 スタービルドストライクは同時に三つのビームを撃っている為、確実に防げるビームは二つしかない。
 その気になれば、三つとも防げるが、防ぎ損ねた時のリスクを考えると無理に防ぐ必要もない。

「その程度の事で!」

 戦国アストレイは降下しながら、スタービルドストライクに向かう。
 それをスタービルドストライクはスタービームライフルとスタービームキャノンで迎撃する。
 戦国アストレイは二つのビームをサムライソードで防いで残り一人を回避する。
 最後の一つは足にギリギリ掠るが気にする程ではなかった。
 降下しながらサムライソードを突き出して、攻撃し、着地してすぐにサムライソードで責め立てる。
 スタービルドストライクは至近距離からスタービームライフルを放つが、戦国アストレイは紙一重でかわす。

「ちっ! ならよ!」

 ビームをかわされてすぐに左手でビームサーベルを抜かずに柄の部分だけ向けてビーム刃を出して攻撃するが、戦国アストレイは背中の盾である鬼の盾でビームサーベルを防ぐ。
 そして、サムライソードを振り落す。
 スタービルドストライクはシールドで受け止める。
 シールドで受け止めた瞬間に金属音がなった。

(金属パーツを仕込んでいるのか……)

 ニルスは金属音からそう判断して内心舌打ちをする。
 ニルスがスタービルドストライクの情報から対策を考えていたようにセイも戦国アストレイの情報から対策を考えていた。
 戦国アストレイはビーム兵器を持たない為、スタービルドストライクのアブソーブシステムは意味を成さない。
 ビーム兵器を持っているのなら存在だけでも牽制に使えるが、ビーム兵器を持っていなければ牽制にすら使えない。
 その為、セイはアブソーブシールドを軽く改造して、粒子の吸収口を潰して金属板を仕込んでおいた。
 これにより多少の重量は上がるが、同時にシールドの強度も上げられる。
 アブソーブシステムが使えなくなるが、ビーム兵器を相手が持っていないなら使えなくても問題は無かった。
 セイは知らないが、ニルスにとっては非常に面倒な事でもあった。
 戦国アストレイの粒子発勁は粒子の反応しない金属パーツが間にあると効果が一気に落ちるのはマシロとのバトルで実証済みだ。
 意図せずにセイは戦国アストレイの粒子発勁の対策もしていた事になる。
 ニルスにとっての幸いはまだ、その事をセイが知らないと言う事だろう。
 戦国アストレイは一度、距離を取ってサムライソードを構える。
 事前にシールドに金属板が仕込まれている事を知れたのもニルスにとっては幸運だ。
 
「流石に接近戦は厳しいな」
「ビームを撃ってもあの刀で防がれる……」

 ビームを連射して手数を増やせばサムライソードで防げないが、当てる事は難しい。
 近接戦闘では接近戦に特化している分、戦国アストレイに分がある。
 このままではジリジリを置きこまれる。

「向こうには一回戦で使ったあの技もある」
「ムカつく奴だけど実力は本物だって事かよ」
「レイジ……アレを使おう」
「良いのか? 出来るだけ温存したかったんだろ?」

 この状況を一気に打開する方法が一つだけある。
 だが、それはセイが決勝トーナメントの為に用意した切り札だ。
 ここで使ってしまえば、その存在が露見してしまう。

「ここで勝てなければ一緒だよ。このバトルに勝てばユウキ先輩と戦える。その先にはマシロさんも居る。勝つんだろ。僕達は」

 このバトルに勝てば、セイとレイジの目標の一人であるメイジンカワグチこと、ユウキ・タツヤと戦える。
 その為、このバトルは何としても勝ちたかった。
 勝たねば次に戦える機会はいつになるのか分からない。
 もう少しで手が届きそうなところまでタツヤやマシロが来ている。
 ここで伸ばさない理由はない。

「……分かった。行くぜ!」

 スタービルドストライクはシールドとライフルを捨てるとRGシステムを起動するとフレームが青白く発光を始める。

「性能強化の能力……この状況で?」

 対峙した状態でRGシステムを使っても大したことは出来ない。
 ニルスから見れば対応しやすいがこの状況で使って来たと言う事は自棄を起こしたか、何か理由があるかのどちらかだ。
 その為、ニルスはサムライソードを構えながらも注意を怠らない。
 RGシステムを使ったスタービルドストライクだったが、フレームの光が小さくなって行く。
 それと同時に右手の光が増していく。

「これは……一体?」
「RGシステムを右手の一点に集中する事でその威力を一気に高める。これが僕達のガンプラの必殺技!」
「名付けてビルドナックルだ!」

 セイはマシロとのバトルの中で足りない物を見つけた。
 それは必殺技だ。
 ディスチャージシステムも圧倒的な能力を発揮するが、必要な粒子量が膨大である為、いつでも使えると言う訳ではない。
 RGシステムは発動が容易だが、その分、必殺の一撃を繰り出す程の力はない。
 バトルの流れを変えたい時や一気に攻勢に出る時にいつでも使え、一撃で状況を覆す程の力が必要となって来る。
 そして、マシロとのバトルで使ったシャイニングガンダムのシャイニングフィンガーからヒントを得たで生み出したのがレイジ命名のビルドナックルだ。
 RGシステムは元々、部分的に使う事も出来る為、全体に使う分を右手の一点に集める事でRGシステムの発動の容易さを維持したまま、一点集中で必殺の一撃にまで攻撃力を圧縮下のが

ビルドナックルだ。
 修理の際に内部フレームを強化している為、ビルドナックルの負荷にも十分に耐えきれる。

「ビルドナックル……」

 RGシステムを普通に使うならともかく、一点に集中したとなると、その一撃の威力は計り知れない。
 ニルスも流石に今まで以上の警戒の色を濃くする。
 サムライソードを仕舞うと、戦国アストレイは粒子発勁の構えをする。
 データに無い未知数の必殺技に対して、ニルスも自分の持てる最強の一撃で迎え撃つつもりだ。
 それだけの自信を戦国アストレイの粒子発勁には持っている。
 粒子発勁の一撃はマシロにすら通用する。
 スタービルドストライクと戦国アストレイは互いに睨みあって動かない。
 そして、遂に2機は距離を詰める。

「粒子発勁!」
「ビルドナックル!」

 スタービルドストライクのビルドナックルと戦国アストレイの粒子発勁が正面から激突する。

(この程度の攻撃など……僕の戦国アストレイなら!)

 双方の必殺技がぶつかり合い、戦国アストレイの右腕が吹き飛び、スタービルドストライクの右腕の装甲が吹き飛ぶ。

「左だ!」

 セイが叫び、ニルスはとっさにスタービルドストライクの左腕の方を見た。
 そこには右腕の時よりも光は小さいが確かにビルドナックルと同様に光っていた。

「左の!」

 ビルドナックルと粒子発勁がぶつかった時にセイは流し込まれた粒子を左手に移動させていた。
 ビルドナックル自体、RGシステムで使っている粒子を移動させている為、自分の中の粒子を移動させる事は可能だ。
 そのお陰でスタービルドストライクは右腕の装甲だけが吹き飛ぶ程度で済んでいた。

「俺達はこの手で勝利を掴んで見せる!」

 ニルスがセイの声に反応してスタービルドストライクの左腕を見ていたが、レイジは左腕を見る事無く、セイの声と同時に左で殴ろうとしていた。
 左のビルドナックルが戦国アストレイの胴体に撃ち込まれる。 
 右の時と比べて明らかに威力が落ちている為、直撃しても何とか踏ん張れている。

「くっ! ならば、こちらも左の粒子発勁で!」

 左のビルドナックルに耐えながらも、戦国アストレイが粒子発勁を左腕でスタービルドストライクに撃ち込もうとする。
 だが序盤でスタービームキャノンが掠った片足がビルドナックルに吹き飛ばされないように踏ん張った負荷に耐え切れずに損傷が広がっていた。
 片足の損傷が広がった事で戦国アストレイは粒子発勁を撃ち込む前に踏ん張りが利かなくなった。

「行け! レイジ!」
「おうよ!」

 スタービルドストライクは左のビルドナックルを振り抜いて戦国アストレイは天守閣の上を転がりながら吹き飛ばされた。
 天守閣の端まで吹き飛ばされた戦国アストレイはすでに戦闘不能な損傷を受けている。

「あり得ない……僕の戦国アストレイが……」

 ニルスは自分の戦国アストレイが負けた事を受け入れる事が出来ずにいたが、バトルシステムは勝敗を告げる

「やったな! セイ!」
「うん!」

 一方のセイとレイジは一回戦のマオの時とは違い明確に勝利した為、笑顔でハイタッチをかわしていた。
 そんな二人にニルスは顰め面で近づいて来た。
 少し揉めたと言う事もあり、セイとレイジも表情が強張る。

「次は僕と戦国アストレイが勝ちます!」

 ニルスは壊れた戦国アストレイを突き出して宣言する。
 それを聞いた二人はキョトンとしている。
 自分達と思っていた事とは違ったからだ。

「何か?」
「いや……てっきり、昨日みたいに粒子の秘密云々とか言い出すと思ってたから」

 レイジはセイに目線を送るとセイも頷く。
 昨日、二人に勝利を譲るから粒子に関する秘密を話すようにと言った事から、二人はプラフスキー粒子に関する事かと思っていた。
 それを聞いたニルスも、キョトンとした。
 ニルスも負けたからと言って、諦める事は無いが、二人を前にして出た言葉がそれだった。

「何だよ。バトルに夢中で忘れてたのかよ」

 そう言われてニルスはハッとした。
 確かにバトル中はいかにして、二人に勝つかを考えていた。
 だが、バトルに勝って粒子の事を聞くなど頭の中から完全に抜けていた。

「君もガンプラが好きなんだよね」
「僕がガンプラを……」

 ニルスは壊れた戦国アストレイを見つめる。
 セイに言われてニルスも気づいた事がある。
 バトルに負けた時に真っ先に考えた事は粒子の事を聞き出す方法よりも、戦国アストレイの雪辱を晴らすことだ。
 元々、ニルスがガンプラバトルを始めたきっかけは粒子の秘密を知る重要人物であるユキネの息子であるマシロに接触する為だ。
 最も確実にマシロに接触するには世界大会に出る事は近道だと判断して世界大会に出る為のバトルや制作技術を磨いた。
 今まではガンプラは粒子の秘密に至る為の手段に過ぎないと思っていたが、バトルをやっているうちに自分でも気がつかずにガンプラにのめり込んでいたようだ。

「昨日は感情的になってごめん。少しニルス君の事を誤解していたみたい」
「いえ……」

 セイはニルスの物言いから珍しく激怒した。
 だが、ニルスもまた自分達と同じだと知り認識を改めた。

「僕達に出来る事があったら言ってね。出来る事なら協力するから」
「けど、次に勝つのも俺達だけどな」

 バトルにこそ負けたが、セイとレイジと和解する事は出来た。
 ニルスはそんな二人を見送った。
 ここで二人が知るかも知れない粒子の事を聞くのは野暮だと感じていた。

「まだ精進が必要だな」
「そうですわね。ニルスの事は今後、ヤジマ商事が全面的にバックバックアップしますわ。私も彼女として協力を押し切ませんわ」
「お願いします。キャロライン」

 いつの間にか、ニルスのスポンサーでもあるヤジマ商事の社長の娘であるキャロラインが立っていた。
 ニルスは自分のガンプラに対する本当の気持ちを知った事で、キャロラインの最後の重大発言には気が付いてはいなかった。









 セイ、レイジ組のバトルをVIPルームで見ていたPPSE社会長のマシタは秘書であるベイカーに泣きついていた。
 とある理由から世界大会でセイ、レイジ組を排除しようと試みたが、失敗に終わりついには準決勝にまで勝ち進んでいる。

「また勝っちゃったじゃないか!」
「ご安心を次こそは」
「それ何回も聞いた!」

 二人を排除するように指示を出すも、すでに何回も失敗している。
 その度にベイカーは次は大丈夫だと行って来た。

「これなら決勝じゃなくて初戦で当てた方がマシだったよ! なんかいつにも増して怖いし!」

 決勝トーナメントの組み合わせはベイカーが意図的に組み合わせた物だ。
 最後の最後でマシロと当たるように仕組んだもの当然、ベイカーだ。
 回りくどいやり方だが、最後の最後で最強のファイターをぶつけると言う目論みらしい。

「それに次のメイジンだって思った程じゃないし……」

 セイとレイジの次の相手はメイジンカワグチとなっている。
 PPSEが送り出して来たとはいえ、メイジンは一回戦と二回戦と決して楽に勝ち上がって来てはいない。
 マシタからすれば思った程強くないように見える。
 尤も、メイジンの実力が悪いのではなく、対戦相手のジュリアンとフェリーニも実力者であるから苦戦しても仕方が無い。

「分かりました。念には念を入れて彼を使いましょう」
「本当に信用出来るの? だって彼は……」
「心配ないでしょう。彼はチーム内での立場は危ういみたいですし、そう言う手合いはこちらの信用を得ようと必死になる物です」

 普通に戦っても十分に勝機があるようにベイカーは思うが、マシタが納得しないのであれば、更に手を打つだけだ。
 ちょうど、とある人物からの接触を受けていた。
 マシタの言うように全面的に信用するのは危険かも知れないが、相手にもそれなりの事情があってわざわざこちらに接触して来た。
 信用を得たいと思っている事は確かである為、今回だけは信用しても大丈夫だろう。

「ほんとにほんと?」
「ええ。余計な邪魔が入らなければ確実に……メイジンにはその為の人柱になって貰いましょう」

 今までは間接的に妨害工作を行って来たが、遂にマシタも本格的に動き出す。



[39576] Battle51 「新しい力」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/10/22 23:31
 半月以上もかけて行われて来た世界大会も残ったファイターは4人となっている。
 ここまで圧倒的な実力で勝ち上がって来た前回優勝者のマシロ・クロガミ。
 PPSE社のワークスチームと共に参戦し、マシロの対抗馬として勝ち進んで来た三代目メイジンカワグチ。
 チームネメシスのナンバー2としてフィンランド予選でカルロス・カイザーを破って来たアイラ・ユルキアイネン。
 大会最年少でありながら、プラフスキー粒子を応用する事の出来るガンプラで勝ち残ったイオリ・セイ、レイジ組。

「まさか、東京で君が戦った少年達がここまで勝ち上がって来るのは正直予想外だったよ」
「そうか? トーナメント表を見た時から私はこうなる運命を感じていたよ」

 ベスト4を決めるセイ、レイジ組とニルスとのバトルが終わってすでに日も落ちている。
 メイジンの次の相手はセイ、レイジ組と決まった。
 アランも直接的な面識はないが、二人の事は知っていた。
 タツヤがメイジンの名を継ぐ前に、ユウキ・タツヤとして地区予選に出ていたころの話だ。
 タツヤがメイジンの名を継ぐ為に地区大会を辞退したが、その前に東京でやり残した事があると、東京に戻った事がある。
 アランもタツヤのやり残したことが気になり、こっそりと様子を見に行った。
 その時にタツヤは自身の通う聖鳳学園でセイとレイジとバトルしていた。
 そのバトルからアランもタツヤが興味を持つ事は理解は出来た。
 だが、そんな二人がここまで勝ち進んできたことは正直なところ予想外だ。

「マシロと戦う為に乗り越えなければならない最大の壁は彼らこそ相応しい。だが、ここまでの成長は僕の予想を遥かに上回る。それこそ彼らの拳はマシロに届くとすら思える程にね」

 タツヤはそう感じていた。
 元々高い制作技術を持っていたセイだが、世界大会を前にビルダーとしての壁を乗り越えて大きく成長した。
 それにより生まれたスタービルドストライクとそれを完璧に扱うレイジ。
 レイジもバトルの度にその実力を高めている。
 
「だから僕は彼らに勝ちたい」

 成長をし続ける彼らを見て、その強さはタツヤはマシロと対等に戦う為に越えねばならないと思っていたが、決勝トーナメントの戦いを見て考えを変えた。
 純粋に一人のファイターとした二人と戦い勝利したいと思うようになっていた。
 それはマシロに抱いていた気持ちと同じ互いに高め合うライバルとして二人を見るようになっていたのだろう。

「その気持ちはビルダーとしても理解は出来る。そして、君とアメイジングエクシアならそれが出来ると信じている」

 アランはビルダーだが、タツヤの気持ちも理解しているつもりだ。
 ここまではメイジンカワグチとしてのバトルに徹する必要があるが、決勝トーナメントに残ったファイターを相手にそうもいかない。
 すでに初戦のジュリアンや二回戦のフェリーニとのバトルでメイジンとしてではない地の部分を出している。
 多少のメイジンとしてのキャラが崩壊しても、バトルに負ける位ならと上もそこまで言って来てはいない。
 次のバトルも上辺はメイジンとしてのバトルを装いながらも、実際はユウキ・タツヤとして戦わねば勝てないだろう。

「それだけじゃ足りないんだよね」
「マシタ会長?」

 語り合う二人にマシタが割って入る。
 その後ろには黒服の男たちが待機している。
 流石に激励の類ではないと空気で感じて、二人は警戒している。

「次のバトルだけはどんなことをしても勝って貰わないと困るんだよ」
「お言葉ですが、ガンプラバトルは互いの敬意を持って正々堂々と戦う物です。だからこそ、皆に愛され誇りとされるメイジンになりたい」
「だからそんじゃ勝てないんだよ。君がライバル視してるマシロ君を見てごらんを勝つ為なら手段を選んでないじゃん」

 タツヤにとってはガンプラバトルは勝ち負けも重要ではあるが、前提として互いに敬意を持って戦うと言う事がある。
 だからこそ、勝っても負けても相手を恨む事は無く、負けても次に勝とうと努力出来る。
 そんなタツヤの主張をマシタは鼻で笑う。
 同時にマシロの事を例に出されるのは余り気分が良いとは言えない。
 マシロの戦い方は一見、正々堂々とはかけ離れているように見える。
 だが、マシロはマシロなりにガンプラバトルと向き合った結果のバトルスタイルだ。
 それを共にタッグを組んでタツヤは知っている。
 確かに最近のマシロのバトルは今までとは違うようにも見えるが、マシロなりにガンプラバトルと向き合っているとタツヤは信じている。

「まぁ君と議論する気は無いんだよ」

 マシタがそう言うと控えていた黒服の男たちはタツヤとアランを取り囲む。
 そして、その後ろからチームネメシスでアイラのセコンドをしていたナイン・バルトが出て来る。
 タツヤもアランもバルトの事はアイラのセコンドと言う程度でなら知っている。
 だが、何故PPSEの会長であるマシタと一緒にいるのかは分からない。
 バルトはアイラのセコンドをしながらも、独自にPPSEと極秘裏に接触を図っていた。
 ネメシスもフラナ機関に出資をしているが、機関の最高傑作であるアイラはあくまでもマシロの保険程度としか見ていない。
 それはフラナ機関としては面白くはない。
 その為、ネメシスよりもフラナ機関の研究を高く評価してくれそうな相手としてPPSEを選んだ。
 
「君には悪いが、我らの研究成果の礎となり、あの糞ガキを倒す為に協力して貰おう」
「その仮面は一体……」

 取り押さえられたタツヤは身動きが殆ど取れない。
 バルトは仮面のようなサングラスを持ってタツヤに近づく。
 そして、タツヤの意識はそこで途切れた。

 



 ベスト4が決まり、準決勝は一日空いて行われる。
 ここまで勝ち抜いたファイターの休養も兼ねてバトルシステムの完全メンテナンスの為だ。
 一日置いてマシロとアイラのバトルが行われ、翌日にメイジンとセイ、レイジ組のバトルと言う予定だ。

「お前達を呼んだ理由は分かっているな」

 会場のVIPルームの一つにチームネメシスのオーナーであるヨセフはバルトとアイラを呼び出していた。
 ベスト4にチームのファイターが残った事でヨセフも孫のルーカスを連れて観戦に来た。
 この場にはマシロやルーカスがいない為、呼び出された事に対してバルトは気が気では無い。
 昨日、本格的にPPSEと接触をした昨日の今日で呼び出されたのだ、PPSEと通じた事がばれたのではないかと疑ってしまう。

「明日のバトルの事だ」

 ヨセフの用件はPPSEと通じた事ではなかったと知ると顔には出さないものの安堵する。
 だが、直接呼び出している以上は余り楽観も出来ない。

「明日のバトルのお前達の役目は上手くマシロに負ける事だ」
「負けると言いますと?」
「ルーカスはマシロの大ファンでないつもマシロが圧倒的な力で相手を倒すところを楽しみにしている。決勝を前にマシロを消耗させる訳には行かないのだよ」

 話しはある意味単純な話しでもあった。
 ヨセフからすればマシロが優勝しようともアイラが優勝しようともチームネメシスのファイターが優勝すると言う事に代わりは無い。
 その為、準決勝で潰し合って互いに消耗させるのは得策ではないと言うだけの話だ。
 そして、ルーカスは圧倒的な力を持って相手を叩き潰して来たマシロが勝つ事を望んでいる。
 だから、アイラには負けろと言う。
 
「余り露骨では面倒な事になる。だからある程度は善戦して負けるんだ。無論、決勝に響くようなことは避けろ」

 同じチームで片方が余りにもやる気のないバトルをすれば八百長が疑われる。
 そうなれば双方が共倒れになり兼ねない。
 だからこそ、ある程度は善戦しなければならない。
 だが、同時に決勝に影響がない程度にしなければならない。

「分かったな。アイラ」
「……分かりました」

 アイラに拒否する権限はない。
 アイラも理由は理解出来る。
 しかし、理解は出来ても納得は出来なかった。
 マシロには何度も負けているが、今まで全力で戦った事は一度もない。
 いつの間にか、アイラもファイターの思考に染まって来たのか、全力のマシロと戦ってみたいとも思ってはいる。
 だが、指示に従わ無ければ、指示通りに負けたとしてもフラナ機関に対するヨセフの評価が変わり、ひいては自分の進退にも関わって来る。
 
「分かったら明日に備えろ」
「分かりました。行くぞ。アイラ」

 バルトも大人しく従いこそするが、内心は面白くはない。
 マシロの実力は認めざる負えないが、実力以上にヨセフは孫のお気に入りだからマシロを優先している。
 結局のところ、フラナ機関の研究成果など始めからマシロが駄目だった時の保険程度にしか見ていないと言う事を改めて突き付けられた。
 大人しく指示を聞いて、部屋を出るとマシロが待ち構えていた。
 ヨセフがフラナ機関の研究を軽視する元凶の登場に舌打ちをした衝動に駆られるが、PPSEと通じていると言う事がばれない為にも余り印象を悪くする行為をする訳には行かない。
 マシロを軽く一瞥して、バルトはさっさと歩いて行く。

「ボスに余計な事でも吹き込まれたんだろ」

 マシロがそう言いアイラが立ち止まる。
 マシロもヨセフが二人を呼び出した理由についてはある程度は予測しているようだ。

「マシロには関係ない事よ」

 アイラがマシロに初めて作ったガンプラを見せた日以来、マシロとアイラはまともに口を聞いていない。
 マシロの方が明らかにアイラの事を避けているからだ。
 その時の事が原因でアイラの方もマシロに余所余所しい態度を取る。

「関係あるね。勝つ気のないファイターがバトルシステムの前に立つな」

 勝つ気がないと言う所にアイラが反応した為、用件が予想通りであるとマシロは確信する。
 今までにも何人もの挑戦を受けて来たが、誰しもが大なり小なりマシロに勝つ気で挑んで来ている。
 だからこそ、マシロもそれなりの対応をして来た。
 弱くても勝とうと言う意思があるなら、興味を持つ事は無くても一応相手はする。 
 しかし、始めから勝つ気のない相手とのバトルに価値はない。

「こっちの事情も知らないで……」
「知るかよ。だが、始めから勝つ意志がないなら消えろ。目障りだ」

 アイラにはアイラの事情がある。
 バトルに勝ったところで、ヨセフが納得するかと言えば納得はしないだろう。
 ネメシスが優勝するのも重要だが、ルーカスがファンであるマシロが優勝する事も重要なのだから。
 常に勝つ為にバトルしているマシロからすれば、負けなければならない事情など理解は出来ないだろう。
 用件はそれだけなのかアイラの返事を聞く事無くマシロは部屋に帰って行く。
 部屋に戻ったマシロはガンプラの調整に入る。
 新型のガンプラは明日の準決勝には間に合わないが、部分的に部品は届いている為、ある程度は組み上がっていた。
 現在の完成度は5割程度だがバトルで使う事も出来る。
 尤も、完全ではない為、明日の準決勝はガンダム∀GE-1を使うつもりだ。
 新型のガンプラの調整をしていると、電話がなる。

「俺だ」

 電話を取りマシロは黙って聞いていると電話を切る。

「全く……流石に俺も堪忍袋の緒が切れたぞ」

 マシロは調整途中の新型のガンプラを持って出かける。














 ヨセフに呼び出されたバルトだが、その後はマシタと合流して実験に立ち会っていた。
 実験の結果にマシタも大満足だ。

「圧倒的じゃないか!」
「ご満足いただけてないよりです」

 マシタの視線の先にはメイジンカワグチが先ほどまでバトルをしていた。
 相手はPPSEが抱えるファイターが数人で、かつては三代目のメイジンの候補とされていた実力者たちだ。
 だが、メイジンはそんなファイター達を圧倒的な力で倒した。
 対戦相手のガンプラは無残にも破壊され、一機のガンプラが残されている。
 PPSEが総力を挙げて開発したアメイジングエクシアをフラナ機関が更に改造を加えたガンプラ、ガンダムエクシアダークマターだ。
 改造に一日もかけていない為、元々のアメイジングエクシアから大幅な改造は出来なかったが、その禍々しさや性能は圧倒敵だった。
 そして、メイジンの様子もおかしかった。
 今までのバトルではここまで相手のガンプラを破壊する事のなかったメイジンだが、このバトルでは相手のガンプラを徹底的に破壊している。
 
「まさかアリスタにこんな効果もあったとはね」
「PPSE科学班の研究の成果です。プラフスキー粒子の結晶体であるアリスタは人の意識を増大させる」
「それを我らフラナ機関が研究したエンボディシステムを通すことで人の意識を支配する」

 メイジンが付けられた仮面はアイラが普段のバトルで使用しているエンボディシステムを応用した物だった。
 そして、マシタが持つプラフスキー粒子を結晶化した石、アリスタでマシタの意識を拡大させたうえでエンボディシステムを利用すれば人の意識を支配する事が出来る。
 今のメイジンは完全にマシタの制御化にある状態だ。

「これなら明後日のバトルも……」
「何か面白い事やってるじゃん」

 そう言って、メイジンの前にサングラスをかけたマシロが来る。
 顔はサングラスで隠しているが、普段から身に着けている白いマフラーを付けている辺り素性を隠す気は無いらしい。
 マシロは決勝トーナメントの組み合わせが明らかに意図的に仕組まれていると疑い探りを入れていた。
 そして、探りを入れていたクロガミグループの手の者から情報が届いた。
 レースの時のような関節的な妨害なら、力で捻じ伏せれば良いだけの事で一々気にも留めないが、今回の場合は無視は出来なかった。
 マシロの登場にマシタやベイカー以上にバルトが動揺していた。
 流石に裏切りを隠したまま、この場に居る事を説明する事は出来ない。

「俺の相手もしてくれない?」

 マシロはサングラスを取って、挑戦的にメイジンを見る。
 だが、メイジンはマシロに対して全く反応を見せない。

「何で彼がここに居るの!」
「それが……警備の者はクロガミグループから派遣されているらしく……」

 マシロが出て来た時点でベイカーは警備の方に連絡を入れていた。
 警備の人間もクロガミグループ系列の会社から来ている為、現総帥の弟には逆らえないらしく、マシロが正面から来ても黙って通して、その事を伝える事も口止めされていたようだ。

「良いではないですか、奴もバトルをする気のようですから、ここで叩きのめしてしまっても。そうすれば大人しくなるでしょう」

 動揺していたバルトだが、同時にチャンスでもあった。
 バルトにとってはマシロは色々と予定を狂わされた元凶でもある。
 その相手をここで倒すことが出来れば憂さも晴れる。
 
「それしかないでしょう。この事は公になれば私達は破滅です」

 ベイカーもバルトの意見に賛同する。
 流石にメイジンを洗脳までしてバトルに勝とうとしていた事が公になれば、PPSEを追われるだけでは済まない。
 完全に警察沙汰にされる。
 だが、マシロにバトルで勝ってこの事を口止めすればまだ、何とか出来るかも知れない。

「早いところ始めようぜ。俺は明日もバトルがあるんだ」

 マシロはバトルシステムの前に立つとガンプラを置いた。
 今まで使っていたガンプラではなく、今年の世界大会用に新しく用意した新型のガンプラだ。
 ガンダム∀GE-1のベースとなったガンダムAGE-1の後継機であるガンダムAGE-2をベースとしている。
 胴体部はガンダムAGE-2 ノーマルの物を使用しているが、両腕と手持ちの武器はガンダムAGE-2 ダークハウンドの物で下半身はガンダムAGE-2 ダブルバレットの物となっているが、まだ未完成である為、仮の部品で組み立ててある。
 見た目にこそ出ていないが、マシロが独自に作らせた金属粒子が練り込まれた特殊プラスチックでできている。
 内部にはリュックが設計した内部フレームを使用しより格闘戦に特化し、ベースであるガンダムAGE-2の変形も差し替え無しで再現されている。
 そして、マシロのパーソナルカラーである白で塗装されているのがマシロの新しいガンプラであるガンダム∀GE-2だ。
 
「さぁ……行くぞ。ガンダム∀GE-2」

 マシロの準備が出来たところで、準決勝を前にベスト4の二人のバトルが始まる。
 ガンダム∀GE-2がバトルフィールドに出た瞬間に真上からダークマターが蹴りかかる。
 通常はある程度の距離が離れたところからバトルは始まるが、事前にバトルシステムの設定が変更されて、ダークマターは始めから真上と取れるようになっていた。
 開始早々の攻撃をガンダム∀GE-2はドッズランサーで受け流す。

「悪いけど、それは前に俺がやってる事なんだよ」

 ダークマターを受け流したガンダム∀GE-2はドッズランサーのドッズガンを連射する。
 ダークマターはビームを回避しながらダークマターライフルで応戦する。
 ガンダム∀GE-2はストライダー形態に変形して変わると、ビームバルカンとドッズガンで弾幕を張りながら突撃する。
 モビルスーツ形態に変形して、ドッズランサーを突き出して、ダークマターは腰のブライクニルブレイドで受け止める。

「で、ずいぶんとキャラ変わりしたみたいだけど?」

 マシロがメイジンに話しかけるもメイジンは何も返さない。
 互いに押し合っていたが、ブライクニルブレイドを鍔迫り合いをしていたドッズランサーが凍り出す。

「だんまりかよ」

 強引にダークマターを弾き飛ばしてドッズランサーを振って表面の氷を取る。

「相手を凍らせる剣か……ならもう片方の剣にも何かしらの能力を持ってるって事か」

 ガンダム∀GE-2はドッズガンを連射しながら、ダークマターに接近する。
 ドッズランサーの突きとブライクニルブレイドで受け止めると、もう片方の剣、プロミネンスブレイドを抜きながら振るう。
 その一撃を回避するも、プロミネンスブレイドから炎が発生して、斬撃をかわしたガンダム∀GE-2を襲う。

「そっちは炎の剣か」

 炎から飛び出て来たガンダム∀GE-2は全くの無傷だった。
 普通のガンプラならかなりの損傷を受ける炎だが、特殊プラスチックで出来ているガンダム∀GE-2にとっては大したダメージを受ける事は無い。

「ならこっちは電気の鞭だ」

 ガンダム∀GE-2は肩のアンカーショットを取ると発射する。
 ダークマターはブライクニルブレイドで弾くとGNバルカンを連射しながら距離を詰めてプロミネンスブレイドを振るう。
 ダークマターの攻撃を回避しながら、ガンダム∀GE-2はドッズランサーを突き出して、ダークマターはブライクニルブレイドで受け止めると、ドッズランサーを凍らせようとする。

「以外と厄介な武器を持ってるな」

 プロミネンスブレイドは炎によって剣よりも間合いが広い為、回避しづらい。
 ブライクニルブレイドは凍らせる為、ドッズランサーで長時間の鍔迫り合いが出来ない。
 炎と氷の剣は接近戦ではかなり厄介な武器だった。
 そして、ダークマターはプライクニルブレイドとプロミネンスブレイドを構えてガンダム∀GE-2に向かう。
 2本の実体剣を巧みに操りダークマターは攻撃する。

「関節狙いか」

 ガンプラにおいて最も脆い場所は関節部分だ。
 だからこそ、メイジンは関節部分を徹底的に狙う。

「そんなに関節を狙いたいなら」

 ダークマターの攻撃を回避していたガンダム∀GE-2だったが、プライクニルブレイドの左ひじ関節への攻撃を避ける事は無かった。
 関節は最も脆いところである上に格闘戦を重視しているガンダム∀GE-2にとっては最も負荷のかかる部分と言う事もあって、関節部に使用されている特殊プラスチックは最も硬い物を使っている為、関節部へのブライクニルブレイドの攻撃は傷をつける事すら出来なかった。
 攻撃をかわさずに受けた事でガンダム∀GE-2はドッズランサーを突き出す。
 ダークマターは頭部ギリギリのところで回避するが、至近距離からドッズガンを頭部に撃ち込んだ。

「案外と硬い」

 至近距離からの攻撃ではあったが、ドッズガン自体の威力は低く、ダークマターも並のガンプラよりも頑丈である為、頭部を破壊しきれなかった。
 だが、ダークマターの頭部のマスクに皹が入る。

「なぁ。タツヤ……ずいぶんとつまらないバトルをするようになったな。俺の真似でもしてんのか?」

 マシロは語りかけるもタツヤは反応しない。
 今までのタツヤのバトルは一言でいえば正攻法だった。
 常に相手を正面から受け止めた上で勝つ戦い方をしていた。
 だが、今は意図的に最も脆い関節を狙って来たりとあの時の面影はない。
 関節部を狙う事をマシロは否定しない。
 マシロも必要があれば迷う事無く関節狙いをする。
 しかし、それはタツヤのやって来たガンプラバトルではない。
 
「そんなやり方で本気で俺に勝てるとでも思ってんのか? 邪道な戦い方なら俺は絶対に負ける気はしないぞ」

 タツヤの戦い方が正攻法の王道ならば、マシロの戦い方は正反対の邪道だ。
 相手の弱点を探しては徹底的につく事も相手が実力を発揮させない方法があるのならマシロは勝つ為に迷わずやる。
 ルールや一般的な倫理さえ守ればどんな手を使っても勝ちに行くマシロは同じ土俵でなら相手が誰であろうと負ける気はしない。

「けど、違うだろ? お前のバトルは馬鹿みたいに優等生だったよ。とても俺には真似出来ないバトルだ」

 マシロからすれば相手を正面から相手をするのはそれが勝つ為に最善と判断した時だけだ。
 だが、タツヤは常に正面から相手を受け止めている。
 それはマシロには到底真似のできない戦いだ。

「こんな戦いで満足か? お前が欲しかった力はこれか? やりたかったバトルはこんなバトルかよ!」

 タツヤがメイジンカワグチの名を継いでまで欲しかった力もやりたかったバトルもマシロは知らない。
 タツヤの考えは分からないが実際に戦ったから分かる。
 これがタツヤが望んだバトルではないと言う事はだ。 
 
「っ!」

 今まで、マシロの言葉に対して無反応だったタツヤだが、遂にマシロの言葉に反応した。

「相手のガンプラを一方的に蹂躙して破壊する! そんなバトルの中にお前の大義があるのかよ! お前のバトルはそんなんじゃないだろ! 」
「っ……!」
 
 マシロの言葉に明らかにタツヤは動揺を見せていた。
 だが、ダークマターはトランザムを起動して一気に加速する。
 
「答えろ!」

 ダークマターの攻撃をガンダム∀GE-2はドッズランサーを使って確実に弾く。

「タツヤ……分かった。俺がお前を止めてやる!」

 ダークマターの攻撃を防いでいたガンダム∀GE-2だったが、青白く光り始める。

「プラフスキーバースト!」

 ガンダム∀GE-1の時から搭載されてはいたが、その出力からガンプラへの負荷が強すぎて動くだけで自壊して行く欠陥システムだった、バーストモードだが、武器に集中させる事で一初限りの使用は可能となった。
 ガンダム∀GE-2は全身が特殊プラスチックとなっている為、バーストモードを全身で使っても負荷に耐えるだけの強度を確保していた。
 バーストモードを起動したガンダム∀GE-2はトランザムを使っているダークマターに肉薄する。
 ガンダム∀GE-2の槍とダークマターの剣がぶつかり合う。

「お前を歪ませているのがそのガンプラなら俺が破壊してやるよ! 俺の新しい力で!」

 ガンダム∀GE-2がダークマターを蹴り飛ばす。
 ダークマターはダークマターライフルで反撃するが、ガンダム∀GE-2はリアアーマーのビームサーベルを貫くと投擲する。
 ビームサーベルはダークマターの右腕に突き刺さる。
 ダークマターライフルごと右腕を失ったダークマターは左腕のGNバルカンで牽制するが、ガンダム∀GE-2は構わず突っ込む。
 ドッズランサーの突撃でダークマターの左腕は肩から破壊されると、ガンダム∀GE-2は肩のアンカーショットを手に持たせると、ダークマターの頭部に引っ掛けてワイヤーを使って背後に回り込むとビームサーベルでバックパックのダークマターブースターごとダークマターの腹部に突き刺した。
 流れるような鮮やかな手際にメイジンは抵抗すら出来なかった。
 だが、マシロの攻撃はこれで終わらない。
 ストライダー形態に変形すると、頭部にアンカーショットがダークマターに引っかかっているのにも関わらず一気に加速する。
 アンカーショットのワイヤーが限界まで伸びきるとダークマターも引っ張られて行く。
 そして、モビルスーツ形態に変形すると、アンカーショットのワイヤーを一気に引き戻す。
 ダークマターは抵抗できずに勢いよくガンダム∀GE-2の方に向かって行く。
 ガンダム∀GE-2もワイヤーを引き戻しながら引き寄せられるダークマターに突っ込む。

「この……馬鹿野郎!」

 バーストモードを使っているガンダム∀GE-2は全身から今までのようにドッズランサーの先端に粒子を集める。
 そして、引き寄せられるダークマターに向けてドッズランサーを突き出した。
 ワイヤーに引き寄せられる勢いと、ガンダム∀GE-2が突っ込む勢いの二つが合わさった一撃がダークマターの胴体にぶつけられる。
 もはやボロボロだったダークマターはその一撃を耐える事は出来る訳もない。
 ガンダム∀GE-2の一撃でダークマターは胴体から粉砕された。
 最後、ガンダム∀GE-2がダークマターを破壊するまでにかかった時間は1分にも満たない約55秒と言う短い時間での決着と言う事もあってバトルを見ていたマシタ達は唖然とするしかない。

「……僕は一体……」

 ダークマターが破壊され、タツヤにつけられていた仮面が連鎖的に破壊された事でタツヤも正気に戻ったようだ。

「また、俺に負けただけだ」
「……そうか。君に助けられたようだね」
「別に……俺はただこういうやり方は気に入らないだけだ」

 タツヤは記憶のある最後の状況と今のこの状況から何となく状況を察する事が出来た。

「さて……」

 タツヤが正気に戻り、マシロはマシタ達の方を向く。
 このバトルにさえ勝てればどうにかなると踏んでいたが、結果はマシロの勝利に終わった。
 明らかに三人はマシロに対してビビッている。

「今日のところは見逃してやる。次に同じことをやって見ろ。殺すぞ」

 マシロの脅しにマシタはただ頷く。
 マシロの目はそれも辞さないと語っていた。
 実際のところ、ここでマシタを殺しても構わないとマシロは思っている。
 マシロにとっては後2回が全うなガンプラバトルが出来る機会だ。
 それをこんな形で汚して来たのであれば、殺すだけの理由になる。
 例え、それがこの国の法を破る事になっても構わなかった。
 殺したところでクロガミグループの力を使えば殺人を隠ぺいする事など容易だ。
 だが、大会期間中にPPSEの会長が行方を暗ませると大会の進行に支障を来しかねない。
 だからこそ、今回限りは見逃すことにする。
 
「マシロ。その辺にしておくんだ。余り穏やかな話しでもないし」

 タツヤがマシロを制止した事で、マシタ達も安堵するが、タツヤもいつもの温和な表情よりもメイジンとしての厳しい表情のままだ。

「マシタ会長。貴方の思惑はどうあれ、私は必ず勝ちます。余計な真似はこれ以上は止めて頂きたい。これ以上やると言うの出ればこちらも相応な対処をさせて貰う」
「分かった! 分かったから! もう余計な事はしないから、二人してそんな怖い顔をしないでさ!」

 マシタは二人に必死で頭を下げる。
 その勢いは次に土下座をしそうな勢いだ。
 マシタからすれば、マシロを敵に回したくはない。
 マシロを敵に回すと言う事はひいてはクロガミグループを敵に回すと言う事だ。
 PPSEがガンプラバトルやプラフスキー粒子関連の技術を独占している大企業と言ってもクロガミグループが本気で牙を向けば数日で潰されてしまう。
 それだけは避けたい。

「それとナイン・バルト。何でお前がここにいんの?」
「いや……それはだな……」

 今まで二人の怒りの矛先はマシタに向かっていたので、隙を見つけて逃げようとしていたバルトだが、マシロの矛先が遂に自分の方を向いた。
 この状況では何を言っても誤魔化すことは出来ない。

「まぁ良いや……お前も俺の邪魔すんなよ」

 だが、マシロはバルトがここに居る理由に興味はない。
 ただ、自分のバトルの邪魔をしなければ別にバルトの思惑はどうでも良かった。

「んじゃ俺は帰る。用も済んだし」
「ああ……今日は助かったよ」
「だから俺は気に入らないからぶちのめしただけだ」
「そう言う事にしておくよ。先に決勝で待っていて欲しい。僕も君に続くから」

 あくまでもマシロは自分がやりたかったからやったと言う事と言い張る。
 タツヤもマシロがそう言うなら、そう言う事にしておく。
 結果的にマシロに助けられたが、マシロがそう言い張るならタツヤは礼を言わない。
 言葉での礼などマシロは望んでいないからだ。
 この事で礼が出来るのであれば、それは次の準決勝で全力でセイとレイジと戦う事だ。
 そのバトルでどちらが勝ったとしてもマシロの決勝戦は最強のファイターとのバトルとなる。
 それが何よりのマシロへの礼だからだ。



 

 

 マシロがタツヤとバトルしている頃、レイコはアイラの部屋を訪れていた。
 アイラはマシロとのバトル経験が豊富ですでにガンダム∀GE-1の隠し玉は使い切っている為、決勝トーナメントで最も厄介な相手とも言えた。
 すでにヨセフの方からアイラとバルトに負けるように指示を出した事は伝わっており、それとは別に一つ手を打ったもののより確実に勝つ為の切り札が必要と感じていた。
 その為、勝つ為に少しでも有利となる情報を得る為に、徹底的にアイラの身辺情報を集めた。
 最近の同行からフラナ機関での事、それ以前の情報に至るまでアイラの過去を徹底的に調べ尽くした。
 そこでフラナ機関にスカウトされる前にアイラが孤児院に居た事を掴んだ。
 それ自体はどうでも良い情報かと思ったが、その孤児院にレイコは注目した。
 アイラが過去にいた孤児院は今でこそは潰れているが、その孤児院はマシロがクロガミグループの養子になる前にいた孤児院と同じだと気付いた。
 時期的にマシロとアイラが同じ孤児院で生活したいた事はすぐに分かると流石にその関係性を調べずにいられなかった。
 結果、二人は実際のところはともかく、孤児院では兄妹と言う事に辿り付いた。
 今までを見る限りではマシロはともかく、アイラの方はその事実には気づいていないように見えた。
 その情報をマシロが引き取られた時の状況を合わせると、単なる過去がレイコにとっては切り札をなった。

「……何か用ですか?」

 アイラは少し警戒していた。
 レイコとはチームの参謀でマシロの姉と言う認識はある物のそれ以上の関わりはない。
 ヨセフから負けるように言われた後で、レイコが自分の部屋を訪ねて来る理由に見当はつかないが、良い理由でない事は確かだ。

「少し話しがあるのだけども、良いかしら?」
「ええ……まぁ」

 怪しいが流石にバトルを明日に控えて変な事はしないだろうと、警戒を解く事は無いが、アイラはレイコを部屋に入れる。

「それで……私に何か?」
「会長から話しを聞いているわね」
「負けろと言う事ですか? 会長の指示ですから従います」

 負けろと言う指示の確認でアイラはうんざりする。
 つまりは確認を取る程、自分は信用されていないのだろう。

「良かったわ。万が一の事があっては困るわ。貴女にとっても。貴女もお兄さんを殺したくは無いものね」
「……え」

 アイラは一瞬、レイコの言葉が理解出来なかった。

「何を……」
「知らなかったの? 私はてっきり……余りにも仲が良かったからマシロも本当の事を貴女に話しているのばかり……」

 レイコはてっきり、マシロから聞いて全てを知っていると思っていたと装ってその事実を話す。

「そんな訳が……マシロが……だって」

 アイラは更に混乱する。
 アイラにとっての兄は自分達よりもガンプラを選んだ憎むべき相手だった。
 対するマシロは今でこそは距離を取られているが、何だかんだで慕っていた。
 その対極に居る二人が同一人物であるととても信じられない。

「だって……あの人は私達を捨てて……」
「そんな事は無いわ!」

 レイコはアイラの言葉を否定する。
 マシロがクロガミ一族に引き取られた経緯や孤児院が潰れた経緯などを知れば、ある程度は予想できた事だ。

「マシロは貴女達を捨てた訳じゃないわ。寧ろ貴方たちの為に……」
「どんな理由があったって……」
「当時のクロガミグループはガンプラバトルが世界的にヒットする事を予想してガンプラバトルの才能を持った子供を探していた。そこで目を付けられたのが貴女のお兄さんのマシロなの。それで私達の父はマシロをお金で買ったの。マシロも孤児院の為に自ら……」
「そんなの……嘘よ」

 今まで自分達を捨てたとして恨んでいただけあって、すぐに信じる事が出来なかった。
 だが、考えてみれば、マシロが引き取られてから孤児院は金に余裕が出来たのか孤児院の改築や勉強道具や遊び道具が充実した。
 それがマシロが自分を売った事による物だとすれば納得が良く。
 尤も、レイコの言った事は起きた事を都合よく言ったに過ぎない。

「だって……お兄ちゃんは……」

 混乱するアイラを余所にレイコは目的を果たした為、部屋を出て行く。

(これで明日の仕込みは万全)

 わざわざレイコが真実を軽く捻じ曲げてアイラに伝えた事でアイラは明日のバトルは精神的にはボロボロだろう。
 後は自分が真実をアイラに伝えたと言う事がマシロの耳に入るかどうかだ。
 少なくとも明日のバトルまでにアイラが落ち着くと言う事は考え難い。
 バトルさえ始まってしまえば後はもう一つの仕込みでどうにでもなる。

(後、二つ……後二つ勝てばこんな面倒な事からも解放される)

 世界大会は後2回のバトルで終わる。
 だからこそ、レイコもここで強引な策を取れる。
 残り少ないなら、強引な事をしても大会が終わるまでに面倒な事になり難い。
 準決勝を確実に勝つ為の最後の仕込みを終えたが、ここで油断してしまっては元も子もない。
 レイコはギリギリまでアイラの過去の戦闘データから対策を用意する為に自分の部屋へと戻って行く。








 マシロが帰ってから、タツヤもマシロに破壊されたガンプラを修理する為に解放されたアランと共に作業に戻った。
 バルトも流石に居辛い為、チームの方に戻ったのかそこ場にはいない。
 マシタもベイカーと共に自分用に用意した部屋に逃げ帰った。

「全くもう! 何で邪魔が入るかな!」
「流石に彼の介入は予想外でした」

 ベイカーも邪魔が入らないように警備を厳重にしていたが、その警備が全く意味を成さないマシロが出て来る事は正直予想外だ。

「ほんとだよ! 最近の若者は何を考えてるか分かった物じゃないね!」

 マシロやタツヤがいなくなったところで、マシタの怒りは爆発している。

「ご安心を。次なる手はすでに考えてあります」
「ベイカーちゃんは本当にそればっかり! 本当に本当に大丈夫なんだよね! 次は余計な邪魔が入らない完璧な策なんだよね!」
「ええ。もちろんです。今までのは相手の出方を窺う威力偵察に過ぎません。次の作戦こそ本命……」
「何か面白そうな話しをしてんじゃん」

 今まで二人切りだと思っていたが、突如、第三者が話しに割り込んで来る。
 話しが話しだけに警備だけではなく部屋にロックをかけて部外者が簡単に入って来れる事もないはずだった。

「ななななななんで!」
「うわ……流石にそこまで驚かれるとこっちもびっくり」

 マシタは第三者、クロガミ・ユキネを見た瞬間に顔を青ざめてトランザムを使ったの如くベイカーの後ろに隠れる。

「何でここに居るかって言うとうちの子が勝ち進んでいるみたいだから応援に来たに決まってるわ」

 ユキネがそう言うが、本当かどうかは怪しい。
 去年もマシロは優勝しているが、ユキネは応援になど来ていない。
 ユキネがその気になれば異世界からでもすぐに飛んで来る。

「そのついでに昔の知り合いに挨拶に来たのに……傷つくなぁ」
「それで……今日はどのようなご用件で?」

 ユキネに付き合っていては完全にユキネのペースになり兼ねない為、ベイカーが決死の覚悟で用件を聞き出す。

「用もないと会いに来ちゃ駄目な訳でも無いじゃん。強いて言うなら確認かな? 私との約束はしっかりと守っているかのね」

 その言葉にベイカーも青ざめる。
 ユキネの言う約束とはプラフスキー粒子に関する事だ。
 かつて、マシタとベイカーが出会い事業を始めようとした時にどこからともかく、ユキネが湧いて出て来た。
 その時にマシタが持っていた石、アリスタを勝手に研究を始めた。
 その後、アリスタを粒子化した物がプラスチックに反応すると言って来た。
 情報と引き換えに、その粒子はある特定の目的以外に使わないと約束させた。
 その粒子は今ではプラフスキー粒子と呼ばれ、特定の目的と言うのがガンプラバトルだ。
 
「あの人はいないけど、しろりんがガンプラバトルをやっている以上は約束は守って貰うわ」

 自分の研究成果を自分だけの物にする事で有名なユキネだが、それを捻じ曲げてまで粒子を一般的に広げさせたのは、キヨタカの為でもあった。
 キヨタカが昔からガンプラが好きと言う事もあって、ユキネがマシタの持っていたアリスタから作ったプラフスキー粒子はガンプラを実際に動かせることが分かった。
 それだけの為に粒子をマシタに広げさせた。
 今はキヨタカは死んでいるが、マシロがガンプラバトルをやっている限りはその約束は守らせる必要があった。

「もちろんだとも! 僕が約束を違える訳がないじゃないか! あはははは!」
「そうよね。変な事に粒子を利用しようだなんて思ってないわよね」

 マシタはつい先ほどまで完全にユキネとの約束を破った使い方をしていた。
 そんなタイミングでユキネが現れたと言う事はその事を知っての事だと生きた心地がしない。

「それを聞いて安心したわ。これで私はしろりんの応援に専念できるわ」

 ユキネは嵐のように去って行く。

「……会長。次の策はメイジンを信じると言う物です。やはり不正な方法で彼らを排除する事は人道に反します」
「……うん。それが良い」

 ユキネが大会が居る以上は下手に動けば、ユキネの逆鱗に触れかねない。
 会場にはクロガミグループの現総帥であるユキトも来ていると言う以上、下手に動けば隠しておきたい事実が明るみになるだけではなく、完全に身の破滅もあり得る。
 後は、次の準決勝で実力でセイ、レイジ組が負けるのを願いしかなかった。














 タツヤとのバトルから帰ったマシロはベッドに倒れ込む。
 普通に戦っていたように見えて、ガンダム∀GE-2はマシロが全力で扱う事を前提に作られている。
 その為、マシロの反応速度に合わせてガンプラが反応する。
 少しでも気を抜けば簡単に操作をミスしそうな程だった。

「こいつは凄いガンプラだ」

 ガンダム∀GE-1に特別不満を持っていた訳ではないが、ガンダム∀GE-2は申し分ない性能を持っている。
 それでもまだ未完成である為、完成系はそれ以上の物が出来上がる事になる。

「明日はアイラとのバトルか……初めてだな。アイツを本気でバトルするのは」

 今までにもアイラとは何度もバトルをしている。
 だが、アイラは自分が貸したガンプラを使い、マシロも練習である為本気を出していない。
 明日のバトルは決勝行きがかかっている為、マシロも今までとは違い全力で勝ちに行くつもりだ。
 考えてみればマシロは孤児院に居た時もアイラと本気でぶつかった事は一度もない。
 当時から気の強かったアイラと喧嘩になる事は何度もあったが、本格的に喧嘩になる前にマシロが折れていた。

「俺もアイツも遠くまで来たもんだ」

 ほんの10年程前はこんなことになるとは思ってもみなかった。
 あの時は貧しくても、家族や友達がいる生活がずっと続くかと思っていた。

「最初はただ……」

 過去を懐かしんでいたが、マシロはそこで止まった。
 それ以上を考えようとしても何も出て来ない。
 
「俺は……何がしたかったんだっけな」

 今となってはそれを思い出すことも出来ない。
 考えようとすれば頭痛によって遮られる。
 その内、考えないようにしていた。
 最初はどうあれ、今の自分には昔の何も出来なかった頃とは違うと自分に言い聞かせてだ。

「明日のバトルで何か分かりそうな気もする」

 漠然とだが、そう感じていた。
 今までバトルの度に感じていた虚無感に今年の世界大会に限り、それが無かったが決勝トーナメントからは再発している事も全てがだ。
 そして、自分が何がしたかったのか。
 全ては明日のアイラとのバトルの中で分かる気がした。
 そんなマシロとアイラの運命の一戦が遂に幕を開ける。




[39576] Battle52 「望み」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/10/25 10:24
 世界大会ベスト4が決まり、決勝を賭けた準決勝の第一試合の当日となる。
 第一試合は前回の優勝者のマシロとフィンランド代表のアイラのバトルだ。
 どちらもここまで殆ど順当に勝ち上がって来ただけあり、注目されている。
 バトルシステムの前に両者が揃うが、双方は対象的だった。
 マシロ側はマシロの方は相手に特に興味を示すこともなく、ガンプラの最終確認を行いながら、レイコと軽く確認をしている。
 一方のアイラ側はヘルメットで顔を隠してはいるが、アイラはどこか落ち着かないように見える。
 セコンドに付いているバルトもどこか居心地が悪そうにしている。
 アイラは昨夜にレイコに言われた事で未だに自分の中で整理が付いていない。
 バルトもバルトでマシロにPPSEと繋がって来た事が知られている。
 今のところ告げ口はされていないが、いつ暴露されるか気が気ではない。
 だからと言って、アイラのセコンドとして来ないとヨセフに怪しまれかねない。
 両者の準備が終わったところでバトルが開始される。
 準決勝第一試合のバトルフィールドは廃コロニー内だ。
 コロニー内ではあるが廃棄されたと言う設定がある為、無重力空間となっている。
 だが、コロニー内と言う事もあってコロニーの外壁である程度の広さはある物の行動範囲が通常のバトルよりも制限されている。

「どこに居る」

 バトルフィールドに入るとすぐに相手の位置を探る。
 アイラのキュベレイパピヨンはファンネルを多数持っている。
 重力の無いバトルステージなら重力下よりもファンネルは使い易い。
 その上、ファンネルはガンプラよりも圧倒的に小さい為、普段よりも注意しなければならない。

「正面か」

 相手の位置が分からない為、ファンネルによる奇襲を警戒していたが、キュベレイパピヨンは正面から仕掛けて来る。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルで牽制の射撃を行うが、キュベレイパピヨンは最低限の動きで回避する。
 ある程度、距離を詰めたところでキュベレイパピヨンも左手のビームガンを撃ちながらランスビットを構えて突撃して来る。
 それをガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードで受け止める。

「ただの突貫か?」

 キュベレイパピヨンの周囲を警戒するが、周囲にファンネルの類は見られない。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはキュベレイパピヨンを蹴り飛ばしてショートドッズライフルを連射する。
 キュベレイパピヨンは何とか回避しながらビームガンを撃つ。

「どうした? アイラ!」
「何でも……」
(どういう事だ。数値は安定していると言うのに……)

 今日のアイラは明らかにいつもと違うとバルトも感じていた。
 昨日、負けろと言われた事が原因なのか、マシロとのバトルが原因なのかは分からないが、動きがバルトですらも分かる程におかしい。
 だが、精神的な事ならば、エンボディシステムの数値に異常が出る筈だが、数値は正常だと表示されている。

「とにかく、このままでは露骨に負けたと思われるぞ」
「……分かってます」

 キュベレイパピヨンはファンネルを数基射出する。
 ファンネルはビームを撃ちながらガンダム∀GE-1 セブンスソードに向かって行く。

「この程度なら」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは十分にファンネルと距離を取って胸部のビームバルカンで軽く弾幕を張って対処した。
 射出されたファンネルの数が少なかった事もあって、出されたファンネルを掃討するのに時間はかからなかった。
 だが、それはアイラも分かっていた事だ。
 マシロを相手に幾らファンネルを出しても意味はない。
 なら、マシロの注意を一瞬でも逸らせる最低限のファンネルを使って、その隙に距離を詰める事が狙いだ。
 キュベレイパピヨンはガンダム∀GE-1 セブンスソードに接近すると、ランスビットを突き出す。
 しかし、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは左腕のシールドで受け止める。
 ランスビットを受け止められたが、この程度の事は分かっていた事だ。
 キュベレイパピヨンは掌をガンダム∀GE-1 セブンスソードに押し付ける。
 その状態からビームガンを放つ。
 完全にゼロ距離の攻撃だが、掌を押し付けてからビームを撃つ僅かな間に体を反らしてビームはかわされた。

「馬鹿な!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは体を反らした反動で、キュベレイパピヨンを蹴り飛ばす。

(何でだろうな……何で、今日のバトルは……)

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルでキュベレイパピヨンを牽制する。

(こんなにつまならいんだよ)

 マシロはバトルをしながらそう考えていた。
 実力差のある相手の場合は実際のバトルの中でいかにミスをしないかと言う練習の一環程度だが、一度もつまらないと感じた事は無い。
 だが、このバトルははっきりと思ってしまった。
 つまらないと。

(俺はこんなバトルがしたがったんじゃない……俺がしたかったのは……)

 完全にマシロはバトルに集中せずに別の事を考えていた。
 それでもキュベレイパピヨンの動きに対応して攻撃しているのは、長年に培って来た経験が故なのだろう。
 だが、明らかに普段の動きとは違うが、アイラも戦う事に迷いを感じている為、動きがいつもとは違う事もあって、踏み込んで来る事も出来ない。
 
(俺が本当に欲しかったのは……)

 バトルの中でマシロは思い出していた。
 初めてガンプラに触れた日の事を。
 あの時のガンプラは今ではアイラの手に渡り、改造されて自分の前に敵として立ちふさがっている。
 イオリ・タケシと出会いガンプラを知り、やがてプラフスキー粒子の発見によりガンプラバトルが始まった。
 それを知ったマシロもガンプラバトルの道に足を踏み入れる事になった。
 その時の事を思い出していて、あの時の同じ気持ちが蘇って来る。
 そして、それこそがマシロが今まで心の奥底で望んでいた事でもあった。

「なんだよ……そう言う事だったのかよ……俺はただ……」

 初めてガンプラバトルをした日の事を思い出した事で、マシロは知ってしまった。
 自分の本当の望みに。

(俺はただ……アイラにカッコいいところを見せたかっただけだ)

 それがマシロがガンプラバトルを始めたきっかけだ。
 ガンプラバトルだけじゃない。
 マシロが何かを始めるきっかけは大抵は同じだった。
 ただ、アイラの前で恰好を付けたかっただけだ。
 何も取りえのないマシロはいつもアイラの前で情けない姿しか見せた事は無かった。
 当時のアイラもマシロの事は兄でありながら、完全に舐めきっていた。
 だからこそ、兄の威厳を見せる為に何かを始めようとした。
 しかし、何をやっても駄目だと分かるとすぐに止めてしまった。
 不思議とガンプラバトルは長続きしたが、一度も勝つ事は出来なかった。
 それでも、自分に才能があると言って貰えたことで、ガンプラバトルならアイラの前でカッコいい兄でいられると思い、キヨタカの養子となった。
 今までのバトルで感じていた虚無感はバトルに勝ってもアイラが見ていないと意味がなかったからだ。
 二代目メイジンのバトルは今年の予選ピリオドで感じなかったのはアイラが見ていたからだ。
 
(けど……それはもう……叶わないじゃないか)

 マシロはただアイラの前で恰好を付けたかっただけだ。
 だが、それは叶わない事だ。
 すでにマシロは自分から捨ててしまったからだ。
 どんなに望んでももう戻る事は無い。

(なら……俺はもう、戦えない)

 自分の望みを自覚した事で、マシロは無意識の内に孤児院を出る際にアイラから貰った白いマフラーに手をかけていた。
 そして、自分の望みはもう叶わない事に気づき、マフラーから手が離れる。
 その際に、マフラーがずれてやがて、マフラーはマシロの首から落ちた。

「マシロ!」

 レイコが叫び、バトルシステムを挟んだアイラとバルト、そして、会場の観客達は目を疑った。
 マシロは完全にバトルシステムの操縦桿から両手を話していた。
 これでは、ガンプラを操作する事が出来ない。
 先ほどまで攻撃していたガンダム∀GE-1 セブンスソードもまるでパイロットが乗っていないかのように漂っている。
 全てを気づいた今、マシロには戦う理由もなければ意志すらも残されてはいなかった。

「何やってるの!」

 完全に戦意を失ったマシロは虚ろな目をして、レイコの言葉にも反応しない。
 そんな状態で、アイラも思わず手を止めている。
 距離もあり、バトルシステムを挟んでいる事もあって、アイラにはマシロの状況は完全には把握できない。
 だが、マシロに戦う意志がないと言う事は分かった。
 それに気づいた時に湧き上がったのは憎悪だった。
 バトル中に戦う事を放棄した事に対する憎悪、何も本当の言わずに孤児院から去った憎悪、今まで知りながらも黙っていた憎悪。
 様々な憎悪がアイラの感情を支配して行く。

「何よ……偉そうな事を言っておいて!」

 キュベレイパピヨンはガンダム∀GE-1 セブンスソードに接近するとランスビットで殴りかかる。
 完全にマシロの手を離れたガンダム∀GE-1 セブンスソードはランスビットで殴られるままだ。

「馬鹿にして!」
「これは……システムが暴走しているのか!」

 幾らなんでもアイラの様子がおかしいとバルトは感じ、その原因に心当たりがあった。
 エンボディシステムの暴走だ。
 エンボディシステムは使い方次第ではマシタがタツヤに対して行ったように人の精神に作用する。
 タツヤに使った時同様にここには大量のプラフスキー粒子がある。
 それによりアイラの感情は遥かに増幅した事で、アイラは自分の感情を抑える事が出来ずに暴走したのだろう。

「だが……数値上は問題は……」

 明らかにアイラはシステムを暴走させているが、数値上は問題はない。
 暴走の危険性がある為、システムの状況はバルトの方で監視して、暴走しないように調整している。
 だが、数値上は異常はないのは当然だ。
 レイコがそうなるようにすでに細工しているからだ。
 アイラの事を探る過程で素性よりも先にフラナ機関の研究成果であるエンボディシステムの存在に辿りついていた。
 エンボディシステムの事を大会運営にリークすれば一発でアイラを不正行為を行ったとして失格にする事は出来た。
 しかし、それではマシロは納得しない為、リークは出来なかった。
 その変わりにエンボディシステムを調べていくうちに暴走の危険性にも気づいていた。
 レイコは隙を見計らいエンボディシステムに細工して、バトル中に徐々にシステムの出力を上げて暴走するように仕組んだ。
 バルトが気づかないように数値の上では常に正常だと表示する細工も同時に行った。
 暴走の他にもレイコはエンボディシステムの危険性として、暴走すればアイラが精神崩壊する危険性も知った上で暴走させた。
 これは後になって気づいたマシロとアイラの関係をアイラに暴露した時に後で、自分から情報が漏れたと言う事をマシロが知らないようにアイラの口を封じる事に一役買っている。
 このバトルの後にアイラがどうなろうとも、レイコには関係なく、アイラが精神崩壊しようともその罪はバルト達フラナ機関が被ってくれる。

「何で……何でアンタが!」

 キュベレイパピヨンはガンダム∀GE-1 セブンスソードをランスビットで滅多打ちにする。
 ただ殴っているだけが幸か不幸かガンダム∀GE-1 セブンスソードは中々壊れはしない。
 やがて、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはコロニーの外壁まで殴られながらも移動し、壁に到達しても殴られるづける。
 余りにも一方的な暴力を前に観客達も静まり返っている。

「アイ……ラ?」

 今まで完全に戦意を喪失していたマシロもアイラの異変に気が付いたようだ。

「何が……どうなって」
「分からないわ」

 レイコはアイラが暴走したのだと気付いていたが、知らない振りをする。

「今のアイラはシステムに乗り込まれて暴走している!」
「システムに……機体に飲み込まれたのか」

 完全に暴走したアイラをバルトの方からは止める事が出来ず、マシロの方に助けを求める事にした。
 このままでは全世界にフラナ機関の行いが明るみになりかねない。
 そうなれば、完全に身の破滅だからだ。
 この際、マシロだろうと頼れるなら頼るしかない。

「どうすれば彼女を止められるの?」
「キュベレイパピヨンがシステムと連動している。キュベレイパピヨンを破壊すればあるいは……」

 ある程度の事はレイコも分かっていたが、何から何まで分かっていると、流石に後から疑われかねない為、バルトに説明させた。

「聞いての通りよ。マシロ。彼女を止める為にはあのガンプラを破壊するしかないわ」
「あのキュベレイを俺が……」

 変わり果てた姿になっても、あのキュベレイはマシロにとっては初めてのガンプラだ。
 それを自らの手で破壊する事には抵抗がある。
 自分で操作するなら多少は壊れる事も気にしないが、流石に自分自身の手で練習用に組み立てたガンプラ以外を破壊する事は初めてだ。

「……分かった。俺がやる」
 
 自分の望みを知った事で、戦う意味を無くしたマシロだが、最後にやる事が残されていたようだ。
 ここでキュベレイパピヨンを破壊してアイラを助ける事がマシロに残された最後の戦う理由だ。

(俺の最後に初めて作ったガンプラを自分で破壊するか……俺に似合いの最後じゃないか)

 マシロは一度は手放した操縦桿を握る。

(これが俺のラストバトルだ)

 キュベレイパピヨンがランスビットを振り下ろすが、マシロが再び操縦桿を握った事でガンダム∀GE-1 セブンスソードが息を取り戻して受け止める。
 そして、ショートドッズライフルの銃身でキュベレイパピヨンを殴って、怯んだところを足で押し返す。
 多少の距離が出来たところで胸部のビームバルカンで牽制する。
 キュベレイパピヨンは両腕で防ぐ。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルを放って接近する。
 Cソードを展開して振いキュベレイパピヨンはランスビットで受け止める。

「アイラ! これ以上は止めろ! 今のお前はガンプラに飲み込まれてる!」
「うるさい! 今更!」

 キュベレイパピヨンは強引にガンダム∀GE-1 セブンスソードを弾き飛ばすとビームガンを連射する。

「勝手にいなくなって! なのに!」

 キュベレイパピヨンはファンネルをありったけ出すと、ガンダム∀GE-1 セブンスソードに差し向ける。
 
「何でアンタが!」

 全方位からの攻撃をガンダム∀GE-1 セブンスソードは全て紙一重でかわしながらCソードを振るってファンネルを切り裂く。

「何でなのよ!」
「こいつは……」

 大量のファンネルを相手にしていたガンダム∀GE-1 セブンスソードだが、スラスターを使って強引にファンネルの群れから抜け出すとショートドッズライフルを放つ。
 その射線には何もない筈だが、爆発が起こる。

「こんな物まで仕込んでいたのか」

 キュベレイパピヨンのファンネルはベースとなったキュベレイと同じタイプ以外にもう一つ持っていた。
 クリアパーツで作る事で肉眼では殆ど見えないクリアファンネルだ。
 そのクリアファンネルを通常のファンネルと同時に使用する事で存在を誤魔化していたが、ギリギリのところでマシロは気づいた。
 だが、その間にキュベレイパピヨンはガンダム∀GE-1 セブンスソードに接近してランスビットで攻撃して来る。
 大量のファンネルと同時にクリアファンネルを使った事で、マシロの注意は殆どがファンネルに向いていた為、反応が一瞬遅れた。
 それでも、マシロは対応して何とか胸部の装甲で受ける事は出来た。
 しかし、今まで殴られ続けていたと言う事もあって、胸部装甲がランスビットに貫かれた。 
 幸い、本体までは貫通しなかったが、胸部装甲は使い物にならない為パージする。
 
「アイラ!」
「うるさい! アンタが全て悪いんじゃない! アンタが!」

 キュベレイパピヨンは出鱈目にランスビットを振るう。
 それを確実に防ぐ。

「ああ……そうだな。全部、俺が悪いんだろうな。今更どうする事も出来ない。お前が俺を恨むのも当然だ。恨みを晴らしたいなら好きにすればいいさ……けどな。ガンプラをそんな事には使うな!」
「こんな物が無ければ! 私が全てを失う事もなかった! こんな物が!」

 キュベレイパピヨンがファンネルの全方位攻撃とビームガンによる同時攻撃を行う。
 流石にガンダム∀GE-1 セブンスソードもかわし切れずに被弾して行く。

「そうだな。俺もお前もガンプラで何もかも失った。だけど、ガンプラがあったからこそ得た物だってある筈だ! 俺がそうだったみたいに!」

 マシロもアイラもガンプラがきっかけでいろんな物を失った。
 だが、マシロはガンプラがあったからこそ、キヨタカと出会う事が出来た。
 血は繋がらずとも、息子として可愛がられて来たからこそ、今を捨てきれずにいた。
 それはガンプラが無ければ決して得ることが出来なかった物だ。

「そんな物ない!」

 全方位からの攻撃でガンダム∀GE-1 セブンスソードは次第に損傷が目立ち始めている。

「こんな物があるから!」
(何だ……この声……)
「何……何で……こんな時にアイツの声が……」

 暴れるように攻撃していたキュベレイパピヨンの動きが止まる。
 そして、急にアイラは観客席の方を見渡す。
 大勢の観客達で個人の区別は殆ど出来ないが、アイラにははっきりとレイジの姿が確認できた。
 同時に頭の中にレイジの声が響いていた。

(お前……)
(レイジ……)

 アイラ自身何故このような事態になったのか理解は出来ないが、レイジの方もアイラの声を聴いているようだ。
 以前、マシロはユキネからユキネ曰く異世界から持ち帰ったと言う石をアイラにあげていた。
 その石こそがプラフスキー粒子の結晶体であるアリスタで、レイジもまたアリスタを持っていた。
 そして、アイラの暴走やタツヤの洗脳時のように人の精神に反応して、石同士が共鳴して意識が繋がった。

(お前がアイラ・ユルキアイネンだったのか)
(何が起きてるのよ……何でアイツの声が!)

 アイラとレイジは度々、顔を合わせていたが、互いに名乗る事は一度もなかった。
 アイラの方はレイジの事を知っていたが、レイジの方は名前やアイラがガンプラバトルをしている事など全く知らなかった。
 多少は前向きにガンプラバトルをやるようにはなったものの、根本的な部分でガンプラに対しての憎しみを持っていた事もあって、レイジには自分がガンプラバトルをやっている事を知られてたくは無かった。

(見ないで!)
(何で……お前)
(見ないで!)
(そんなに辛そうにバトルしてんだよ!)

 決して知られてたくは無かった秘密を知られた事でアイラは半狂乱になる。
 そして、その矛先は今、バトルしているマシロに向けられた。
 キュベレイパピヨンのランスビットの乱打を受け止めていたCソードはやがて耐え切れなくなりヒビが入って行く。

「さっきから何が起きてんだよ」
「何で! 何でなのよ! アイツもアンタも! こんな物に!」

 キュベレイパピヨンの一撃がCソードを破壊して、ガンダム∀GE-1 セブンスソードの胸部に突き刺さる。
 胴体を貫通したランスビットはガンダム∀GE-1 セブンスソードの背中まで貫通する。

「アイツ?」

 マシロはアイラが半狂乱になる前に、観客席を見渡していた為、観客席を見る。
 常人よりも優れた目を持つマシロはすぐに気づく事が出来た。
 レイジがセイや仲間と共にこのバトルを見ている事に。
 そして、レイジはこっちに向けて何かを叫んでいるようにも見える。
 流石に読唇術までは使えない為、レイジが何を言っているか分からないが、単純な応援と言う訳ではないと言う事は分かった。

「良くわからんが……」

 胴体を貫かれたガンダム∀GE-1 セブンスソードはランスビットを握って引き抜かれないようにする。

「アイラ、お前にだってあっただろ? ガンプラで得た物が」
「違う! 私は全てを!」
「それでも! 得た物はある! それに目を向けろよ! 過去に囚われたまま戦ったって何も戻りはしない!」
「うるさい!」

 キュベレイパピヨンはガンダム∀GE-1 セブンスソードを串刺しにしたまま、外壁に叩き付ける。

「失った物は二度と戻らない! だからお前は過去も捨てて全部忘れてやり直せ! もう、あの日は二度と戻って来ないんだよ。そんな可能性は捨てちまえ!」

 アイラがガンプラに全てを奪われたと憎みながらも、マシロから貰ったキュベレイを捨てずに持っていたのは、マシロが過去に未練を持っていたと同じように未練があったのだろう。
 だが、どんなに待っていたところで、あの日が戻って来る事は無い。
 マシロ自身がそれを一番、良く知っている。
 すでに孤児院は無く、院長もこの世にはいない。
 共に暮らした仲間も散り散りで、一部はテロを企てて掴まっている。
 マシロも、クロガミの名を捨てる事はキヨタカの息子である事を捨てなければならない為、捨てる事が出来ない。
 アイラが望む、あの日は二度と戻って来る事は絶対になかった。

「それが捨てられないから苦しいんじゃない! アンタが私の前に現れなかったら、アイツと出会わなかったら……憎むだけでいられたのに!」

 今まではガンプラと憎んで、自分達を捨てた兄を憎んでいれば良かった。
 だが、今となっては今までのように憎めずにいた。
 
「憎むんなら俺だけにしろ! 俺がお前の憎しみを全て受け止める! だから、その憎しみを全て吐き出せ!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは左腕のシールドでキュベレイパピヨンを殴り飛ばす。
 ランスビットはガンダム∀GE-1 セブンスソードを貫いたままで、ガンダム∀GE-1 セブンスソードが握っている為、刺さったまま手放すことになる。

「うっ……ああああああああ!」

 アイラは叫びながらファンネルで集中砲火を浴びせる。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは被弾し、装甲がボロボロになって行く。
 だが、胸部を貫いていたランスビットを自ら引き抜いた。

「そのキュベレイがお前を縛る過去の未練なら俺が破壊する!」

 腰のビームサーベルを抜いて、近くのファンネルを切り裂く。
 ファンネルをビームサーベルで切り裂きながら、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはキュベレイパピヨンに向かって行く。
 キュベレイパピヨンは両手にビームサーベルを持って迎え撃つ。
 
「過去を清算してお前は前に進め」

 キュベレイパピヨンがビームサーベルを突き出すが、ギリギリのところでガンダム∀GE-1 セブンスソードはかわしてビームサーベルでキュベレイパピヨンの腕の肘の関節部から切り落とす。

「進めない俺の変わりに!」

 ファンネルのビームからシールドで身を守るが、シールドも限界を迎えて破壊される。

「お前は俺のようにはなるな!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはキュベレイパピヨンに向かうが、ファンネルに阻まれる。
 ファンネルのビームがガンダム∀GE-1 セブンスソードの片足を吹き飛ばすが、同時にファンネルをランスビットで潰す。

「今まで一人で耐えて来たんだ。お前はもう……一人じゃない!」
 
 キュベレイパピヨンに迫ろうとするが、ファンネルが数基、行く手を遮る。
 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはバーストモードを起動する。
 ガンダム∀GE-1ではその負荷に耐え切れない為、部分的に集中させていたが、今回はガンダム∀GE-2の時同様に全身に使っている。
 機動力を上げて強引にファンネルを突破するが、ファンネルを突破する際にファンネルと接触した。
 それによってファンネルを破壊するもガンダム∀GE-1 セブンスソードの装甲が一部吹き飛んだ。

「ああああああああああ!」

 キュベレイパピヨンはビームガンを連射する。
 そのビームが何発か、ガンダム∀GE-1 セブンスソードに直撃し、腰から下が吹き飛び、頭部も半分が抉れる。
 それでも尚、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは止まらない。
 胴体への直撃コースを左腕で防いで左腕が吹き飛ぶ。

「もう……苦しまなくても、憎まなくても良いんだよ……だから、もう止めろ!」

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは最後の力でキュベレイパピヨンにランスビットを突き刺す。
 その反動でガンダム∀GE-1 セブンスソードも肘の関節が壊れて右腕はランスビットを持ったまま、本体から離れる。
 だが、マシロの最後の一撃はキュベレイパピヨンを貫いていた。

(お兄ちゃんの……ガンプラが……)

 そして、キュベレイパピヨンは爆発を起こした。
 爆発をまともに受けたガンダム∀GE-1 セブンスソードは爆発が晴れると、残っているのは胴体だけだ。
 そんな状態ではその辺りに漂っている残骸と何も変わらないが、キュベレイパピヨンは完全に破壊されている為、バトルシステムがマシロの勝利を告げた。
 バトルが終了し、アイラは破壊されたキュベレイパピヨンの残骸を見ながら次第に意識が薄れていった。
 そのまま、アイラはバトルシステムに覆いかぶさるように倒れた。
 それを見て、会場のスタッフは慌ただしくアイラに駆け寄り救護班を出すように指示を出している様子をマシロは遠巻きに見ていた。
 アイラが倒れた事で、会場中の注目はそっちに向いていた。

「終わったな。俺の最後のバトルが」

 マシロは誰に気づかれる事も無く、そっとメインスタジアムを後した。








 準決勝第一試合が終わり、日が傾き始めた頃にアイラは会場内の病院で目を覚ます。
 窓からは夕日が見ている。
 バトルは午前中だったと言う事を考えると、最低での数時間は寝ていた事になる。

「よっ。起きたか」
「……何でいるのよ」

 病室にはレイジが座ってアイラが起きるのを待っていたようだ。
 だが、バトル中に謎の現象によって自分がファイターだと言う事を知られてしまい顔を会わせ辛い。

「覚えてないのかよ。お前、マシロに負けた後にぶっ倒れたんだぞ」

 アイラが聞きたい事はそう言う事ではないが、一々訂正する気力も無い為、そのままにしておく。

「それより。これ、どこで?」

 レイジの手にはマシロから貰った石があった。

「マシロから。マシロはお母さんから貰ったけど、それが何なのよ」
「ふーん。まぁ良いか」

 石自体は早々出回るような物でもないが、そこまで出所に興味がある訳でも、あの時の現象の事に興味がある訳ではない。
 あの時、レイジ程ではないが、同じ石を持っていたセイも声を聴いたらしい。
 一緒にいたマオやニルス達は聞こえなかった事から、レイジとセイが持っていたアリスタが原因らしいと言う事は分かるが、それ以上はニルスも分からないと言っていた。
 セイ曰く、この手の意識共有はガンダムでは珍しい事ではないらしいので、実際にも起こる時は起こると言う事にしておいた。

「で、疲労と寝不足だってよ」

 アイラが倒れたのはエンボディシステムの暴走による物ではない。
 それ以前にシステムは暴走はおろか起動すらしていなかった。
 レイコは事前に細工して、暴走するように仕向けた後にユキネによって更に細工されて、システムが起動しているように見えても実際には全く起動していないように細工された。
 バトル中に暴走して、アイラの精神が崩壊したり、死んだりした場合、それを目の当たりにしたマシロの心がそれを受け止めきれずに壊れると危惧しての事だ。
 暴走しているように見えたのは、レイコの言葉で精神的に不安定となっている上に、その事で寝不足による疲れが更に精神的に追い詰めて、止めに勝つ気がないなら消えろとまで言っていたマシロがバトル中にバトルを放棄した事でアイラはブチ切れただけの事だった。
 キュベレイパピヨンが破壊されてバトルが終わった事がきっかけで、アイラも心身共に限界だったことで倒れた。
 だからこそ、数時間点滴を打って寝ただけで回復している。

「んな事よりも、本題だ。何でファイターだって事を隠してたんだよ」

 レイジにとっては石の出所や、謎の現象などはどうでも良い事だ。
 それ以上にアイラがファイターだと言う事を隠していた事の方が重要だ。
 アイラが自分の名前を知っている時に大会に出ていたからだと言っていた。
 レイジもファイターだと知りつつもアイラは隠していた。
 その理由を知りたかった。

「……嫌いだったのよ。ガンプラが」

 知られてしまった以上は、隠す必要もない。
 アイラは事の始まりから全てレイジに話す。
 長い話しになるが、レイジは普段の喧嘩越しの態度ではなく、黙ってアイラの話しに耳を傾けた。

「成程……要するにアレだ。アイラはその兄貴の事が大好きだって事だろ」
「は? 何言ってんのよ! 今の話しからなんでそう言う事になるのよ! ばっかじゃないの!」

 孤児院に居た頃から話しを始めてようやく終わったが、レイジが感じた事はアイラが思っていたような事とは全く違った。
 それをアイラは真っ赤になって否定する。

「だってそうだろ。大好きな兄貴が自分よりもガンプラを取ったから、自分から兄貴を奪ったガンプラの事を嫌ってたんだろ?」

 レイジが聞いた話しを要約するとそうなった。
 アイラがガンプラを嫌う理由はガンプラのせいで全てを失った訳ではなく、自分達よりも兄がガンプラを選んだからガンプラを嫌ったとレイジは感じた。
 つまりは、アイラはガンプラよりも自分達を選んで欲しかったと言う訳だ。

「……そうかも知れない」
「それで兄貴の事もね……気持ちは分からん事もないけどよ。ちゃんと言ったのかよ。行かないで欲しいってさ」

 アイラはレイジの言葉に返すことも出来なかった。
 マシロが引き取られる日、皆でマシロを見送った。
 マシロは周りと比べると勉強も運動も出来ず、それをからかう事もあったが、それでも孤児院の子供たちからは家族として思っていた。
 孤児院の皆もこのまま孤児院に居るよりも、お金持ちの家に引き取られた方がマシロも幸せになれると思い笑顔で送り出した。
 アイラも周りがそう言い、その方が良いと思っていた。
 しかし、本心では一緒にいて欲しかった。
 確かに勉強も運動も出来ないマシロだが、いろんなことに挑戦し、例え、勝てなくても必死にガンプラバトルで勝とうとする後ろ姿はアイラにとっては何よりもかっこよく見えた。
 だからこそ、ガンプラバトルに興味が無くてもマシロに連れていかれた時も文句を言いながらもついて行った。
 
「何だ……そんな簡単な事で良かったんだ」

 たった一言、「行かないで」と言うだけで良かった。
 素直にその一言が言えれば全てが変わったかも知れない。

「そう言うこったな。いつか会った時にはきちんと話してガンプラバトルでもすれば仲直りは出来ると思うぞ」
「かもね」

 マシロならそうだろう。
 何も知らなかったとはいえ、アイラはマシロと行動を共にしていた。
 その時に、マシロがどれだけガンプラバトルに打ち込んでいるかを嫌と言う程見て来た。
 だから、正面から向き合いバトルをすれば少しは今までのわだかまりが解ける気がした。

「取りあえず、元気そうだから。俺は帰る。明日は俺もバトルだからな」
「レイジ……ありがとう」

 アイラのお礼にレイジは一瞬固まった。
 今まで、会った時は大抵は喧嘩をしていた。
 今日はアイラが倒れたと言う事もあって、喧嘩をする気は無かったが、礼を言われるとは思ってなかった。

「おう……そう言えば、ここに医者が言ってたけど、起きたなら退院しても良いってよ」

 元々、アイラは過労で倒れたような物だ。
 点滴を打って寝たら退院しても問題はない。

「分かったけど……流石にこれじゃ行くところはないわね」

 ヨセフの指示ではマシロとのバトルに負ける事だった。
 その指示は果たすことが出来たが、前提条件とした決勝に影響がないようにだ。
 だが、アイラはマシロのガンプラを思いっきり破壊している。
 最後の方は記憶が曖昧だが、少なくともすぐに修理出来るレベルではない事は確かだ。
 予備のガンプラを使ったとしても、全く同じように作っても、使い込んだガンプラとの違いは微妙に出て来る。
 実力があればあるほど、その微妙な違いに敏感になる。
 そこまで破壊してしまった以上は負けても意味はない。
 
「そうなのか? だったら俺のところに来るか?」
「は……?」

 今度はアイラが固まった。
 それを見て、レイジは首を傾げる。

「つっても、明日のバトルに負けちまったら出てかないといけないんだけどな。負ける気は無いけど」

 そこでアイラは理解した。
 レイジが来るかと誘ったのは自分達のホテルの事だ。
 事情を知らないレイジからすれば、負けて今日中には荷物をまとめてホテルの部屋を開けないといけない。
 すでに夕方となっている為、今から近くでホテルを取る事も難しいと思っていた。
 だから、今晩くらいは自分達の部屋にアイラを泊める気だったらしい。
 尤も、アイラはホテルに泊めて貰うと言う意味ではなく、大会後も含めて自分のところに来るかと思ってしまったらしい。

「……じゃあ今日だけ、お願いするわ」

 誤解が解けたことで、アイラは深く考えてはいなかったが、レイジの部屋に泊めて貰うと言う事は今晩はレイジと共に一夜を過ごすことだとはこの時は気づいてはいなかった。
 その後、ホテルの自分の部屋の荷物をまとめてアイラはレイジの部屋に厄介になる事になった。
 







 日が落ちて会場の観客達も泊まっているホテルや家に帰り会場は昼間の賑やかさを失っている。
 それでも屋台が出ている為、ある程度の人はいた。
 そんな中、マシロは一人歩いていた。
 帽子を深くかぶり伊達眼鏡をしているだけで、誰もマシロがいると言う事に気が付かない。
 それにより、結局のところ、自分がいたのはその程度の場所だったと言う事に思い知らされる。

(悪いな。タツヤ。今度は俺が約束を破る事になる……だけど、俺にはもう戦う意味を理由も無いんだよ)

 アイラとのバトルで自分の望んでいた事にマシロは気が付いた。
 同時にそれが二度と得ることが出来ないと言う事にもだ。
 それに気づいたマシロは完全に折れた。
 もはや、ガンプラバトルの事はどうでも良い。
 決勝戦に出なければクロガミ一族に居る事すらも出来ないだろうが、それでも構わなかった。
 今まではクロガミ一族に居る事はクロガミ・キヨタカの息子である事だったが、それもアイラから貰ったマフラーと同様に過去に対する未練でしかない。
 親の事を殆ど覚えていないマシロにとってはキヨタカだけが唯一の父だった。
 そんな父の期待に応えようと思って強くなろうとした。
 今となって思えば、心の奥底で自分の望みが叶わないと知った事で代わりに父の期待に応えたかったと思う。
 それすらも、叶わない。
 だから、ガンプラバトルもクロガミ一族の事もマシロにとっては何の価値もない物にしか見えなくなった。

(だから……俺はもう戦えない。そこに居る資格もない)

 戦う意志を失ったマシロにこれ以上のバトルは出来ない。
 アイラに言ったように勝つ意志が無ければ、世界大会の決勝と言う舞台に上がる資格もない。
 ならば去る事しかない。
 
(さようならだ)

 クロガミ一族を出たところでマシロに行く当てがある訳でも無い。
 一応は最低限の準備はしていたが、それも長くは続かない。
 いずれは資金も尽きれば、食糧の確保も出来なくなり野垂れ死ぬだけだが、それも今の自分に相応しい最後だとも思っている。
 ここから去る事を誰にも告げては来なかった。
 マシロは誰からも気づかれる事無く、世界大会の会場から行方を暗ませた。



[39576] Battle53 「暴走」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/10/28 16:02

 準決勝の第一試合が終わり、日が沈み会場も静まり返る頃、ユキネは会場のメインスタジアムの下にいた。
 そこには巨大なアリスタが隠されていた。
 大型アリスタからはガンプラバトルに必要不可欠であるプラフスキー粒子が半永久的に生成されている。
 この技術はユキネがPPSE社に提供したものだ。
 本来はPPSE社の生命線でもある為、厳重な警備やセキュリティが施されているが、ユキネにとっては意味は無いに等しい。

「気づかない方が幸せだったのにね」

 ユキネは一人呟きながらも大型アリスタに繋がられている装置を操作する。
 ユキネは始めから知っていた。
 マシロが何を望んでいたと言う事をだ。
 だが、同時にそれを得ることは出来ないとも知っていた。
 だからこそ、知りながらもマシロに教える事はしなかった。
 教えてしまえばマシロは終わってしまうかも知れないからだ。

「それでも、まだ可能性は残されている。あの子にファイターとしての心が残されているなら」

 そうしているうちにユキネの作業が終了する。

「悪く思わないでね。先に約束を破ったのはそっちなんだから。これでガンプラバトルが終わろうともあの子が復帰しなければどうなっても構わないもの」

 誰に対してと言う訳ではないが、ユキネはそう言う。
 ユキネのやろうとしている事は場合によってはガンプラバトル自体が終わりを迎えかねない事だ。
 だが、元々は愛する物の為でしかない為、キヨタカが死に、マシロがバトルから離れてしまえば、ガンプラバトルが終わろうと関係なかった。
 ユキネは全て知っていた。
 マシタが自分との約束を破った事を。
 これはその報復でもある。

「さて……ガンプラバトルの危機にしろりんはどう出るのかしらね」

 用事を済ませたユキネは自分がここに来た痕跡を完全に消して、その場から姿を消した。










 準決勝第二試合の当日となり、セイ、レイジ組は会場でメイジンカワグチこと、ユウキ・タツヤと対峙している。
 レイジはタツヤに負けた借りを返すことがバトルを始めた理由でもある為、やる気は十分だ。
 一方のセイは少し眠そうにしていた。
 それも、昨日レイジが突然、アイラを連れて来て一晩泊めると言いだした事に始まる。
 時間が時間だけに行く当てがないと言うアイラを追い返す訳にもいかずに了承するしかなかった。
 だが、セイは異性よりもガンダムに興味があると言っても年頃の中学生だ。
 異性に全く興味がないと言う訳でもない。
 その為、異性と同じ部屋で一晩を過ごすと言う事で緊張をしない訳が無い。
 連れて来たレイジは全く気にすること無く、さっさと寝て、アイラもアイラでマシロと世界を回った時に同じ部屋で寝泊まりとしていた為、気にすることは無かった。
 結局セイだけが、変に意識して中々寝付けなかった。
 尤も、アイラはチーム自体が優勝しか狙っていない事もあって聞かされていなかった事で世界大会では決勝戦の前に前座として3位決定戦を行う為、準決勝まで残れば大会終了までホテルの部屋は使えるのだった。
 セイもセイでその事を突然の事態に頭の中から抜け落ちていた。

「ようやくこの日が来たな。あの時の借りを返す時がな」
「うん……ユウキ会長は強敵だけど、今の僕とレイジなら勝てるよ」

 ここまで来るのは決して平坦な道のりではなかった。
 だからこそ、それを乗り越えてここまで来た。

「当然だ。勝つぞ。セイ!」
「ああ!」

 二人にとってはタツヤも目指すべき相手の一人だ。
 その一人とようやく、世界大会と言う大舞台で戦う事が出来る。
 後は全力で戦い勝つだけだ。
 バトルシステムにGPベースをセットしてガンプラを置く。
 同様にメイジンもGPベースをセットして、ガンプラを置いた。

「おい、セイ……ユウキの奴のガンプラ」
「ケンプファー? エクシアじゃない」

 メイジンがバトルシステムに置いたガンプラはアメイジングエクシアではなく、ケンプファーアメイジングだった。
 セイとレイジは知らないが、アメイジングエクシアはフラナ機関によりガンダムエクシアダークマターとして改造された。
 その後、マシロのガンダム∀GE-2とバトルして破壊されていた。
 その時の損傷は酷く、一日で修理出来るレベルではなかった。
 予備パーツを使ってもある程度は形にはなったが、準決勝に間に合う事は無かった。
 現在も、アランたちが急ピッチで修理をしているが、準決勝はアメイジングエクシアではなく、ケンプファーアメイジングを使わざる負えなかった。

「どういうつもりだ?」
「あの装備は……ビーム兵器を避けて実弾系の装備で固めてると思う」

 ケンプファーアメイジングは今までは、ビーム兵器を主体とした装備を使っていた。
 だが、ビーム兵器は二人のスタービルドストライクのアブソーブシールドの餌食になり兼ねない。
 それを避ける為に実弾系の武器を使うと言う事は理に適っている。
 実際、ケンプファーアメイジングは手持ちの火器に、以前、タツヤが使っていたザクアメイジングのロングライフルを持っている。
 4基のアメイジングウェポンバインダーには外付けのミサイルポッドも見える。
 恐らくはウェポンバインダーの中身も実弾系の武器を積んで来ていると推測できた。

「多分、アブソーブシステムを警戒しての事だよ。気を付けて、エクシアじゃないけど、ユウキ会長は本気で勝ちに来てる」

 メイジン側の事情を知らない二人だが、アブソーブシールドを警戒して、実弾系の武器を中心にしているところから、向こうは手を抜いている訳ではないと言う事が分かる。
 今回はニルス戦の時のように金属板を仕込んでいない為、アブソーブシールドはただの盾に過ぎない。

「分かってる。あのユウキが舐めた事する訳がないからな」
「なら良いよ。行くよ。レイジ!」
「おうよ!」

 そして、決勝を賭けた一戦が始まる。
 今回のバトルフィールドは火山地帯だ。
 火山から吹き出ているマグマは触れたガンプラにダメージを与える為、マグマにも注意が必要だ。
 バトル開始早々、ケンプファーアメイジングはウェポンコンテナに外付けして来たミサイルを一斉掃射する。

「レイジ!」
「いきなりやってくれるな!」

 スタービルドストライクはバルカンとスタービームライフルで迎撃する。
 ミサイルを撃ち尽くしたケンプファーアメイジングは外付けしたミサイルポッドを全てパージして身軽になると、突撃する。

「嬉しいよ。君たちとこうして再び相見える日が来る事を!」

 ケンプファーアメイジングはロングライフルを連射する。
 それをかわしながら、スタービルドストライクはスタービームライフルで迎え撃つ。

「君たちの強さを乗り越えさせて貰う!」
「ユウキの奴!」
「突貫!」

 ロングライフルの残弾を一気に打ち尽くしたケンプファーアメイジングはビームサーベルを抜いて突撃する。
 スタービームライフルで迎撃するも、ケンプファーアメイジングは速度を緩めずに最低限の動きで回避する。
 そして、ビームサーベルを抜いて迎え撃った。
 2機はビームサーベルで鍔迫り合いとなる。

「行き成り飛ばして来るじゃねぇかよ!」
「様子見をしている余裕はないのでね!」

 ケンプファーアメイジングは鍔迫り合いをしながら、空いている方の手をウェポンバインダーの中に入れる。
 そして、中からチェーンマインを取り出すと振るう。
 とっさにスタービルドストライクはアブソーブシールドで受け止める。

「これはチェーンマイン!」
「何だ。この武器は!」

 アブソーブシールドに付いたチェーンマインが爆発し、アブソーブシールドを吹き飛ばす。
 幸い、破壊されたのはシールドだけで済んだが、これで身を守る盾が無くなった。

「何なんだよ!」
「次が来るよ!」

 ケンプファーアメイジングはウェポンバインダーからシュツルムファウストを両手に3基つづ出すと一気に使う。
 スタービルドストライクはかわし切れずに両腕でガードする。
 損傷する事は無いが、その間にケンプファーアメイジングはザクマシンガンとショットガンを出す。

「君たちの実力はこの程度では無いはずだ!」

 ザクマシンガンで弾幕を張って接近すると、至近距離からショットガンを何発も撃ち込む。

「くそ!」
「落ち着いて! 威力は大したことはないよ!」

 ケンプファーアメイジングはウェポンバインダーに大量の武器を仕込んで怒涛の攻撃を見せるが、スタービルドストライクへの損傷は殆どない。
 これはギリギリのところでケンプファーアメイジングを使う事になった為、武器は殆どが市販品の物を素組して少し手を加えた程度でしかない。
 その為、武器の威力は元々、ケンプファーアメイジングが装備していたビームサーベルとアメイジングナイフ以外は簡単にはスタービルドストライクの装甲に傷をつける事が出来ない。

「みたいだな!」

 怒涛の攻撃を耐え切ったスタービルドストライクはスタービームライフルで反撃する。
 ケンプファーアメイジングはショットガンを捨てて後退する。

「全く。ここまで効果が薄いとPS装甲で出来ていると思いたくもなる」

 愚痴りながらも、ザクマシンガンで弾幕を張る事を忘れない。
 弾幕を張りながらも、ウェポンバインダーから次の武器を出す。
 次に取りだしたのはクラッカーだ。
 ケンプファーアメイジングはクラッカーを投げつける。
 降り注ぐ榴弾でスタービルドストライクのスタービームライフルが破損する。
 
「ちぃ!」

 ケンプファーアメイジングはビームサーベルで切りかかるが、スタービルドストライクはバックパックと本体が分離して回避する。

「そこだ!」
「イオリ君か!」

 分離したユニバースブースターはセイが操作している。
 ユニバースブースターは上空からスタービームキャノンでケンプファーアメイジングを攻撃する。
 セイのファイターとしての実力はさほど高くないが、メイジンからすればこの状況では非常に厄介だった。
 ある程度の実力のあるファイターなら大抵の動きは事前に予測できる。
 だが、セイの場合は実力が低いが故に、攻撃を読んでいても、セイ自身が狙ったところにビームが飛んでこない事もある為、読みにくかった。
 これが一対一でのバトルなら問題はないが、このバトルはセイ一人ではない。
 セイの方に気を取られ過ぎていると、レイジが操作するスタービルドストライクへの注意が散漫になる。

「お前の相手は俺もなんだよ!」

 スタービルドストライクはビームサーベルを振るうとバックパックに付いているウェポンバインダーの先端に掠る。
 すぐにウェポンバインダーをパージするが、パージしたウェポンバインダーの中の武器はまだ一つも使っていない為、手痛い損失だ。

「流石だ。それでこそだ!」

 ウェポンバインダーから今度はビームナギナタとギャン用のビームサーベルを取り出す。
 それぞれ形状の違うビーム刃を形成すると、スタービルドストライクに切りかかる。
 スタービルドストライクもユニバースブースターをバックパックに戻してビームサーベルで迎え撃つ。
 ケンプファーアメイジングの武器は形状の違うビーム刃を出している為、動きが変則的で攻撃が読みづらくスタービルドストライクが若干、押され気味だった。

「野郎!」

 ビームナギナタをビームサーベルで受け止める。
 そして、スタービルドストライクはRGシステムを起動させた。
 それにより機体性能が底上げされて、ケンプファーアメイジングを弾き飛ばす。
 
「厄介なシステムだよ」

 ケンプファーアメイジングは両手の武器を手放しながら、マグマを踏まないように後退しながら、ウェポンバインダーからジャイアントバズⅡを取り出して使う。
 スタービルドストライクも足元に気を付けながらもかわして距離を取る。
 
「一気に決めるぞ!」
「来るか」

 RGシステムを起動させていたスタービルドストライクの青白い光が右手に集まって行く。
 完全に右手に集まると輝きを増した。
 スタービルドストライクはビルドナックルを使う為に右手を構える。
 ケンプファーアメイジングはジャイアントバズを捨てるとビームサーベルを貫く。
 2機のガンプラは正面から対峙し、睨みあう。
 そして、同時に前に出る。

「ビルドナックル!」

 スタービルドストライクはビルドナックルを繰り出して、2機のガンプラが交差した。
 
「確かにその技は一撃必殺で強力だよ。でも……当たらなければどうと言う事はない」
「やってくれるぜ」

 スタービルドストライクのビルドナックルに対してケンプファーアメイジングはカウンターでビームサーベルをスタービルドストライクの右腕に突き刺していた。
 いかに強力な必殺技だとうとも、直接当てなければ意味がない。
 ビルドナックルは拳で直接殴る為、どうしても間合いはビームサーベルよりも劣ってしまう。
 そこを付け込まれた。

「が……掠めただけ……」

 ビルドナックルを完全に打ち破ったものの、ケンプファーアメイジングの右腕にビルドナックルは掠っていた。
 右腕が使えない程ではないが、ケンプファーアメイジングの右腕の装甲が抉り取られていた。

「レイジ!」
「ああ! まだ負けた訳じゃねぇ!」

 必殺のビルドナックルが撃ち破られたが、バトル自体に負けた訳ではない。
 すぐに頭を切り替えて、左手でビームサーベルを貫く。

「やはり向かって来るか」

 ケンプファーアメイジングはウェポンコンテナからハンドグレネードを出して投げつけるが、スタービルドストライクはバルカンで迎撃する。
 アメイジングナイフを抜いて、ケンプファーアメイジングは応戦する。
 アメイジングナイフはククリの形状をしている為、スタービルドストライクのビームサーベルよりも間合いが短い。
 その為、正面から切り合うと間合いの短さで不利になる。

「レイジ!」
「おうよ!」

 切り合うスタービルドストライクは再びRGシステムを起動させる。
 外に粒子を放出するディスチャージシステムとは違い、内部フレームに粒子を浸透させるRGシステムは使用後に再び使うまでにかかる時間は殆どない。
 ただでさえ、間合いの優位を持つスタービルドストライクがRGシステムを使う事で機体性能を向上させれば更に切り合いはスタービルドストライクが有利となって来る。
 ケンプファーアメイジングも致命傷こそは避けているが、損傷個所が少しづつ増えていく。

「行けるよ!」
「本当に君たちは強くなったよ。だけど!」

 ケンプファーアメイジングは右腕でビームサーベルを受け止める。
 右腕にはビームサーベルを防ぐ事は出来ないが、元々並のガンプラよりも性能が良い分、簡単に腕を切り裂かれると言う事は無い。
 右腕で時間を稼いでいる間にケンプファーアメイジングはアメイジングナイフをスタービルドストライクの左肩の関節部に突き刺す。
 
「こんの!」

 スタービルドストライクは至近距離からスタービームキャノンを前方に向けて放つ。
 ビームがケンプファーアメイジングの腰を掠りサイドアーマーを破壊する。
 ケンプファーアメイジングは右腕を切り裂かれながらも、スラスターを全開にして体当たりを行う。
 
「勝つのは僕だ!」
「俺達が勝つ!」
 
 体当たりをしたまま、スタービルドストライクを地面に引きずるも、スタービルドストライクの膝蹴りでケンプファーアメイジングが蹴り飛ばされる。
 転がりながらも体勢を立て直すと、ウェポンバインダーからロングライフルを出す。
 
「まだあんな大物を残してやがったか!」

 ロングライフルを構えるケンプファーアメイジングに対して、スタービルドストライクもスタービームキャノンで対応する。
 ロングライフルの弾丸がスタービルドストライクの頭部に直撃する。
 対するスタービームキャノンは、頭部に直撃してよろけた為、ビームは明後日の方向に飛んでいく。
 だが、そのビームはステージの岩盤を撃ち抜いた。
 ステージのギミックにより、岩盤によって塞き止められていたマグマが噴き出るとケンプファーアメイジングを飲み込む。

「何だと!」

 マグマの中からケンプファーアメイジングは転がり出て来るが、マグマに飲み込まれていただけあってところどころがボロボロとなっていた。
 ウェポンバインダーも残っていた3つの内2つはマグマに飲み込まれた時に外れている為、残るウェポンバインダー

「チャンスだ! レイジ!」
「ユウキには悪いがな!」

 完全に偶然の重なりだが、これは千載一遇のチャンスだった。
 スタービルドストライクはビームサーベルを抜いて仕掛ける。
 ケンプファーアメイジングは何とか使えそうだったハンドガンを出して迎撃するが、ハンドガンの威力ではスタービルドストライクを止める事は出来ない。
 
「くっ!」

 ボロボロのケンプファーアメイジングではスタービルドストライクとの接近戦では分が悪い。
 何とか状況を打開しようと考えているとそれは起きた。
 スタジアム全体の揺れと同時にバトルシステムから通常のバトルではあり得ない量のプラフスキー粒子が溢れ出て来る。

「これは……」
「何が起きてんだ!」

 バトル中に特定の条件が満たされるとバトルシステムが更新されて、ステージが変化すると言う事は多々ある。
 だが、これは明らかに異常事態だ。
 
「アレは……ア・バオア・クーか?」

 今までは地上ステージだったが、バトルステージが宇宙に変更となり、バトルシステム中央にジオン軍の宇宙要塞ア・バオア・クーが現れる。

「レイジ! セイ! 無事か?」
「フェリーニさん」
「何とかな」

 明らかに異常事態と言う事もあって、バトルを観戦していたフェリーニがニルスとマオと共にセイとレイジの元に駆けつける。
 外まで溢れだした粒子が結晶化し、スタジアムを侵食し始めている。
 観客達もその事態が大会の演出でも無いと気付き軽くパニックを起こしている。

「ユウキ会長!」
「とにかく今はここから退避しよう」

 状況は分からないが、ここに居る事が危険だと言う事は確かだった。
 バトルシステムからGPベースとガンプラを回収すると、脱出を試みる。
 だが、レイジの足にいつの間にか、現れたマシタがしがみ付いた。

「レイジ王子~ 助けて下さい! 宝物庫からアリスタを盗んだ事は謝りますから! ごめんなさい!」
「お前、アリアンの人間か!」

 マシタがセイ、レイジ組を大会から排除しようとした理由はマシタがレイジと同じ異世界アリアンから来た事が理由だ。
 マシタはこちらの世界に来る前に、アリアンの王宮の宝物庫からアリスタを盗んでいた。
 そのアリスタによってこちらの世界に飛ばされたところを、現在の秘書であるベイカーと出会い、アリスタを何かに利用出来ないかと模索しているところにユキネが現れてアリスタを粒子化した物がプラスチックに反応する事などを教えられた。
 そうして、ユキネのバックアップを受けて設立したのがPPSE社だった。
 元々、アリスタはアリアンから盗んで来た物である為、大会でレイジを見つけた時に、マシタはアリアンからの追手だと思って排除にかかった。
 尤も、レイジはアリアンからの追手ではないどころか、マシタがアリアンの人間だとは知らなかった。
 マシタが自分の事を覚えているかも知れないとも思っていたが、一国の王子であるレイジがただの盗人であるマシタの事を知る訳もない。
 更に言えば、追手によってガンプラバトルに影響が出ないようにする為に、ユキネがアリアンで話しを付けてある為、追手が来る事は無い。

「地下のアリスタが暴走して止めようが無いんですよ! 王子なら何とかしてください!」
「勝手な事を……」
「また、貴方の仕業か」

 マシタにはメイジンを洗脳してまで勝とうとした前科がある。
 バトルの中でメイジンが劣勢となった事で、レイジが勝ち上がる事を恐れて必死にレイジが負けるように祈った。
 その感情がマシタの持っていたアリスタと地下の大型アリスタが共鳴を起こして大型アリスタが暴走を始めた。
 だが、引き金はマシタの感情だが、直接的な原因はユキネが事前に大型アリスタに細工をしかけた事だ。

「違うって、僕じゃない!」
「今はそんな事を話している場合ではないわ」

 突如、ユキネが現れて回りの視線がユキネの方を向く。

「お前……何でこっちにいんだよ」
「私はこっちの人間だから」

 ユキネはアリアンの王宮に出入りしていた事もあって、王子であるレイジとは顔見知りだった。
 尤も、レイジはユキネがこちらの世界の人間だとは知らない。

「貴女はもしや……」
「さっきも言ったけど、今は時間がないわ。このままではガンプラバトルが終わりを迎えかねないわ」

 ユキネの言葉に一同は思わず息を飲んでしまう。
 だが、この状況が悪化すればそれもあり得るだろう。
 世界大会でここまでの事件となれば、世間はガンプラバトルを危険視するかも知れない。
 そうなれば、公式戦は自粛するしかない。
 今なら、クロガミグループの情報操作能力を駆使すれば、何とか誤魔化せるがそれにも限界がある。

「どうすれば良いのですか?」

 突然、現れたユキネの事をレイジとマシタ以外は知らないが、ニルスは何となく察したらしい。
 ユキネならばこの状況でもどうにか出来る考えがあるかも知れない。
 ユキネが自分の知識を公表しないと言う事はニルスも知っているが、状況が状況だけに今はダメ元で聞くしかない。

「簡単な事よ。大型アリスタを破壊すればこの状況を止める事が出来る」

 今の状況を作り出しているのが大型アリスタならば、その大型アリスタを破壊する事が最も簡単な方法だ。

「直接、破壊しに行くのは危険だけども、貴方たちには直接行かなくても大型アリスタのところまで行く方法がある」

 ユキネの言葉で誰もが思いついたものはガンプラだ。
 プラフスキー粒子があれば、ガンプラを動かして大型アリスタに向かう事が出来る。
 そして、ガンプラを使って大型アリスタを破壊すればこの状況を止める事が出来る。
 尤も、わざわざガンプラを使って行かずとも、大型アリスタを破壊する事が出来るが、ガンプラで破壊しに行って貰わなければユキネが困る為、あだかもガンプラで行くしか方法が無いように言う。

「なら、私の力も必要よね」
「アイラ……けど、お前のガンプラは」

 観客の避難は始まっているが、アイラはそこから抜け出してレイジのところまで来た。
 話しの最初の方は聞いていなかったが、ガンプラを使ってこの状況を止めると言うのは聞いていた。
 だが、アイラのキュベレイパピヨンはマシロとのバトルで破壊されている。
 その上、実質的にチームを離れている為、アイラはガンプラを持っていない。

「大丈夫よ。マシロから貰った奴があるから」

 アイラはマシロから借りていたサザビー改を見せる。
 フィンランド予選もサザビー改を使っていた為、まだマシロに返してはいなかった。
 それから中々返す機会を逃して今に至る。

「戦力は多いに越したことはないから、後何人かに声をかけて来たわ。数が揃う前に準備を」

 ユキネは始めからこの状況を作り出すことが目的だった為、すでに戦力の確保は行っている。
 バトルシステムには今はメイジンとセイ、レイジ組の2組みしかバトルが出来ないようになっているが、バトルシステムはかなりの大型である為、まだ何人かのファイター達がバトルを行えるように出来る。
 すぐに準備に取り掛かる。
 準備が出来た頃には、ユキネが声をかけたアオイ、エリカ、コウスケ、ルワン、ジュリアンと言った世界大会のファイナリスト達が集まっていた。
 すでに観客達がスタジアムから避難している為、観客の安全は気にする必要はない。

「無茶だ! あのステージには世界大会の余興で使おうとしていたから派手にする為にこっちの方で無人機を10万程用意してるんだよ! 敵いっこない!」

 ガンプラを使って大型アリスタを破壊しに行く準備が整ったところで、マシタがそう言う。
 現在のステージはマシタが世界大会の余興としてどこかで使おうとしていたステージだ。
 バトルを盛り上げる為に、大量の無人機を用意していた。
 その数はおよそ10万機だ。
 その発言でマシタを非難する視線が集まって、マシタは縮こまる。

「だって! ベイカーちゃんが戦いは数だって言うから!」

 元々はベイカーが余興として盛り上げるなら大量のガンプラを使って見てはと提案していた。
 それを聞いたマシタが10万ものガンプラを用意させていた。
 尤も、ベイカーは流石にそこまでの数を用意するとは思ってもみなかった。

「戦力差は1万対1……状況は絶望的か……」
「でも! ガンプラバトルが駄目になるかも知れないんです。やってみる価値はあります!」
「イオリ君……確かに。なのに、僕は何も出来ないのか……」

 マシタが用意していたガンプラは10万、対する破壊に向かうファイターの数はセイ、レイジ組、マオ、ニルス、フェリーニ、アイラ、アオイ、エリカ、コウスケ、ジュリアン、ルワンの10組だ。
 タツヤのガンプラは手元にはケンプファーアメイジングだけだ。
 準備の間にセイがスタービルドストライクを修理したが、ケンプファーアメイジングの損傷はこの短時間で修理出来るレベルではない。
 何も出来ないもどかしさをタツヤは味わっていた。

「タツヤ!」

 だが、そこにアランがアタッシュケースを抱えて入って来る。
 そのケースの中にはバトル中も修理を続けていたアメイジングエクシアが入っていた。
 本体の修理を最優先にしていた為、武器はアメイジングGNソードとアメイジングGNシールドしか用意できず、バックパックのトランザムブースターもない。
 しかし、アメイジングエクシア自体は万全な状態に修理されている。

「助かった。これで僕も戦える(マシロ……君はどこに)」

 タツヤが加わったところで、作戦の成功率に大きな変化はない。
 それでも今は一人でも多くのファイターが必要だった。
 顔にこそ出さないが、この場面でマシロがいない事が気がかりだった。
 もしも、マシロがこの場に入れば戦力差が一万倍だろうと、自分一人でも勝てるくらいの事は言って見せただろう。
 マシロが居てくれたら、この状況ではこれ以上もなく心強いのだが、いないマシロをあてにもしてられない。
 タツヤがアメイジングエクシアを受け取り、それぞれのファイター達はバトルシステムを囲む。
 そして、それぞれのガンプラをバトルシステムに置く。

「ガンダムアメイジングエクシア!」
「ガンダムX魔王!」
「戦国アストレイ!」
「ガンダムフェニーチェリナーシタ!」
「サザビー!」
「ビギニングガンダムB30!」
「セイバーガンダム・エペイスト!」
「フルアーマーユニコーンガンダム・ノルン!」
「ガンダムF91イマジン!」
「アビゴルバイン!」
「スタービルドストライク!」

 11機のガンプラがバトルシステムの中に射出されて、ア・バオア・クーの方に向かう。

(世界最強の座を巡って戦ったファイター達がガンプラバトルの未来を守る為に協力して戦う……後は遅れて真打が登場して勝利する。状況は整えたわ。後はしろりんが来るのを待つだけね)

 ここまでの展開は全て、ユキネの思惑通りだ。
 大型アリスタをマシタを利用して暴走させる事でガンプラバトル自体の危機を作り出す。
 その危機を回避してガンプラバトルを守る為にファイター達が戦う事も想定内だ。
 そして、最後はここにいないマシロがこの事態を聞き付ける。
 まだ、マシロの中にファイターとしての心が残っているのであれば、この状況を知って動かない訳が無い。
 逆にマシロが動かずに戦いに負けてしまえば、ガンプラバトルは本当に終わりを迎えるだろう。
 クロガミグループも金になるからある程度は情報を操作するが、操作にかかる手間やコストがガンプラバトルで得られる利益をこれば躊躇い無く、ガンプラバトルを切り捨てるだろう。
 マシロがガンプラバトルに戻って来ないなら、ユキネにとってはガンプラバトルに守る価値はない。
 寧ろ、キヨタカやマシロが愛した物として美しい思い出の中にしまって過去の物となっても問題はない。 
 そんなユキネの思惑を知るよしもないファイター達はガンプラバトルを守る為の戦いを始める。





[39576] Battle54 「ラストシューティング」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/11/02 21:16

 世界大会準決勝第二試合にてメインスタジアム地下の大型アリスタが暴走を始めた。
 ユキネの思惑もあり、世界大会ファイナリスト達が大型アリスタを破壊する為に大型アリスタを目指してア・バオア・クーを目指す。
 11機のガンプラがア・バオア・クーに向かおうとするが、ア・バオア・クーから大量のガンプラが迎撃の為に出て来る。
 マシタが言うには全部で10万程のガンプラが用意されていると言っていたが、出て来たガンプラは精々数千と言ったところだ。
 それでも数の差は圧倒的だった。

「あんなガンプラは見た事もない!」
「アレはモック。PPSE社で開発したコンピュータ専用の無人機だ」

 出て来たガンプラはどのガンダム作品にも登場しないPPSE社のオリジナルガンプラ「モック」だ。
 見た目に派手さはないが、頭部と武装に違いがある。

「性能はさほど高くはない。すぐにデータを送る」

 モックを知るアランから各ファイターへとモックとその武装データが送られて来る。
 元々、モックはコンピュータ戦で使う事を前提にしている為、最低限のバトルが出来れば良く性能は高くはない。
 その分、頭部と武装のバリエーションで飽きさせないようにしてある。
 だが、性能は大したことは無くとも、これだけの数が居れば性能の差など関係はない。

「一番槍はワイとガンダムX魔王が貰いましたよ!」

 ガンダムX魔王がハイパーサテライトキャノンを構えて飛び出す。
 このステージにも月はないが、大型アリスタが暴走している為、ハイパーサテライトキャノンを使う為に集める粒子は大量にある。
 その為、チャージ時間は普段よりも格段に早い。
 ガンダムX魔王がモックの大軍にハイパーサテライトキャノンを撃ち込む。
 世界大会の出場者のガンプラの中でも最大級の火力を持つハイパーサテライトキャノンにより、射線上のモックは次々と破壊されている。
 掃射が終わると、モックの大軍にぽかりと穴が開くが、すぐにモックにより穴が埋め尽くされる。

「もういっちょ!」

 二発目のハイパーサテライトキャノンを撃ち込むが、モックの数を減らしても焼石に水でしかない。
 先制攻撃こそしたが、圧倒的な数を前に大した意味を成さない。
 ア・バオア・クーに接近して行くとやがて、モック達の射程に入る。
 モック達が一斉に攻撃を始めた事で一斉に回避行動を取る。
 数の暴力を前に、とにかく回避しなければ被弾する為、連携を取る暇さえない。
 そうしているうちに次第に孤立させられていく。

「このままでは各機撃破され兼ねない……しかし」

 アメイジングエクシアはアメイジングGNソードでモックを切り捨てる。
 圧倒的な戦力差がある為、多少強引にでも11機が一丸となって、ア・バオア・クーに突撃して1機でも内部に入り込んで大型アリスタを破壊出来れば良かったのだが、完全に分断されている。
 何機かとは連携が取れそうだが、分断されては各個撃破されかねない。

「この数を前にしてはな……」

 1機の戦闘能力は高くはないが、ここまで数が揃うと目の前の敵を倒して前進し続けるしかない。
 だが、武装が最低限しか装備して来てはいないアメイジングエクシアでは思うように前進が出来ない。

「タツヤ!」
「ジュリアン先輩!」

 近くいたジュリアンのガンダムF91イマジンがビームライフルでモックを撃ち抜く。
 アメイジングエクシアもアメイジングGNソードをライフルモードにして左腕のGNバルカンと共に連射してモックを撃墜する。

「他のファイター達は?」
「分からない。だけど、他のファイターを気にしている余裕は僕達にはないよ」
「確かに」

 他のファイターとは通信を使えば状況を確認する事は出来る。
 しかし、この状況で余所見が出来るだけの余裕は誰にも無い。
 無用な通信は逆に他のファイターたちの邪魔になり兼ねない。

「僕が援護する」
「お願いします!」

 ガンダムF91イマジンがビームライフルを連射して、アメイジングエクシアがアメイジングGNソードを展開して切り込んでいく。










 モックの大軍を前にファイター達は完全に分断されてしまった。
 それでも前に進まなくてはならない。

「たく……こういうごりゃごりゃしたバトルは苦手だってのに……」

 セイバーガンダム・エペイストはソードライフルをライフルモードで連射する。
 エリカのセイバーガンダム・エペイストは多数の格闘戦用の武器を持つ近接戦闘型のガンプラだ。
 一対一でのバトルを得意とし、多数との敵とのバトルは余り得意ではない。
 モックの攻撃を回避しながら、アムフォルタスを放つ。

「こんだけいたらこっちの機動力が活かせない!」

 変形して一気にア・バオア・クーに近づきたいが、数が多すぎる為、小回りの利かないモビルアーマー形態は使えない。
 攻撃を回避しながら、脚部のグリフォンビームブレイドでモックを蹴り壊すと背後からヒートソードを持ったモックに接近される。
 ヒートホークがセイバーガンダム・エペイストを捕える前に、アビゴルバインがモックを殴り飛ばす。

「大丈夫か?」
「何とか」

 アビゴルバインが両腕のビームガンで弾幕を張る。

「友軍と合流できたのは良いけどよ」
「言いたい事は分かる。だが、この状況だ。贅沢も言えないな」

 エリカのセイバーガンダム・エペイストもルワンのアビゴルバインも同じ接近戦を得意としたガンプラだ。
 欲を言えば、連携は中距離か遠距離での火力支援が行えるガンプラとやれれば良かった。
 その方が互いに連携が取りやすい。
 どちらも似たようなガンプラである為、必然的に2機で突撃するしか方法はない。

「だよな。アタシの方が火力は高いから、アタシが援護する。つっても、援護は苦手だから余り期待すんなよ」
「この状況で援護が受けられるのならば文句はないさ!」

 アビゴルバインはビームサイズを持ち突撃すると、セイバーガンダム・エペイストがソードライフルを連射しながら援護する。





 分断されて殆どは前進しながらも、友軍との合流を目指す中、フェリーニのガンダムフェニーチェリナーシタはバード形態で単機で突撃していた。
 可変機能を持つガンダムフェニーチェリナーシタは機動力においては他のガンプラよりも高い。
 その機動力を活かして、先陣を切る事で後続機が少しでも消耗する事なく前進させる為だ。
 先陣を切って暴れていれば、後続機も自分を目指して終結も多少は早くなると言う目論見もあった。

「それにしても多過ぎだろ!」

 翼に内蔵されているミサイルでモックを破壊すると、ビームガンを連射する。
 バスターライフルならば、一気に撃墜する事も出来るが、マオのガンダムX魔王の砲撃ですら大した効果がない以上は使用制限のあるバスターライフルの使用はギリギリまで控えなければならない。
 モックからの攻撃をかわしながら、ガンダムフェニーチェリナーシタはア・バオア・クーに向かう。

「ちっ……どんだけいやがる!」

 近づくにつれて、分断された事である程度は分散されていたモックもガンダムフェニーチェリナーシタに集まり出している。
 流石にバード形態での接近に限界を感じて、ガンダムフェニーチェリナーシタはモビルスーツ形態に変形すると、バルカンとマシンキャノンで弾幕を張る。

「流石にコイツはキツイな。さっさと誰でも良いから来やがれってんだ!」

 ガンダムフェニーチェリナーシタはシールドで身を守りながら、ビームガンでモックを撃破する。







 大型アリスタの破壊に際して、コウスケは対大軍仕様として用意していたフルアーマーで今回のバトルにユニコーンガンダム・ノルンを投入していた。
 基本的に通常のフルアーマーユニコーンと変わらないが、3つのシールドはアームドアーマーDEとして、右手リボルビング・ランチャーが付いたビームマグナムを左手にはZ系のビームライフルを装備している。
 フルアーマーユニコーンガンダム・ノルンは両腕のアームドアーマーDEに付いている6基のビームガトリングガンでモック部隊を次々と撃墜して行く。
 
「こいつであそこまで行くのは難しい。ならば、少しでも敵を引きつけて数を減らす」

 フルアーマーユニコーンガンダム・ノルンは大火力と推力がある反面、小回りが利かない。
 その為、ア・バオア・クーに向かおうとしても、途中で被弾する事は確実だ。
 被弾して火器を失うくらいなら、始めからア・バオア・クーに向かう事をある程度は捨てて火器を短期間で使い切るくらいの勢いで、少しでもモックの数を減らして、モックの注意を引きつけた方が他のファイターがア・バオア・クーに取りつこうとコウスケは考えていた。

「とは言っても……」

 目論見通りにモックを引きつけてはいるが、幾ら撃ってもモックの数が減っているようには見えない。
 グレネードランチャーを全弾撃ち切って少しは身軽になる。
 そして、左手のビームライフルを高出力射撃モードのギロチンバーストで放つ。
 そのまま、ビームライフルを動かしてモックを破壊して行く。
 だが、モックはフルアーマーユニコーンガンダム・ノルンに取りつこうとして来る。

「数が多すぎる!」

 ビームマグナムを放ち、リボルビング・ランチャーからホップミサイルを使ってモックを掃討するが、モックが左右から襲い掛かる。
 片方をビームライフルで撃墜し、もう片方が別方向からのビームが破壊する。

「先輩!」
「アオイ君! 助かった!」

 フルアーマーユニコーンガンダム・ノルンの戦闘を見つけたアオイのビギニングガンダムB30がハイパーバスターライフルを放って、フルアーマーユニコーンガンダム・ノルンに取りつこうとしていたモックを一掃する。

「先輩、少し離れて!」

 ビギニングガンダムB30はハイパーバスターライフルを左右に向ける。
 そして、最大出力で放つとその状態で回転を始める。
 始めは横に回転していただけだったが、途中から縦や斜めの回転を加えて周囲のモックを次々と破壊する。

「流石だよ」
「いえ……少しお願いします」
「任せてくれ」

 ビギニングガンダムB30は最大出力のハイパーバスターライフルを長時間使ったため、すぐに大火力のビームは使えない。
 その為、今度はフルアーマーユニコーンガンダム・ノルンが前に出てビームガトリングガンでモックを破壊する。
 その間にビギニングガンダムB30はIFSファンネルでフルアーマーユニコーンガンダム・ノルンを援護しながら、ビームサーベルでモックを切り裂いていく。


 

 


 投入されたガンプラの中で最も性能が低く、メインの装備に欠陥を抱えているアイラのサザビー改はモックを相手に劣勢を強いられていた。
 ロングビームライフルは連射し過ぎると銃身が持たない為、時間を空けてでしか使えない。
 欠陥を抱えていようと、失えば一気に戦闘能力が低下する。
 ロングビームライフルの使えない間を埋める為に拡散メガ粒子砲で対応する。
 幸い、拡散メガ粒子砲の方が多数の相手をするのに適している。
 
「何なのよ……こんなにも粒子が多いと見づらいじゃない」

 他のファイターには気にすることではないが、プラフスキー粒子を肉眼で見る事の出来るアイラにとっては、大型アリスタが暴走して生成されている大量の粒子のせいで回りの状況が見えにくい。
 その為、ファンネルもまともに使えず、粒子の流れから相手の動きを読む事も殆ど出来てはいない。

「だからって!」

 ロングビームライフルでモックを撃ち抜くと、拡散メガ粒子砲を放つ。
 
「アレは……レイジのガンプラ?」

 モックを撃墜していると、近くでも戦闘を行っているのが見えた。
 その動きから何となく、レイジのスタービルドストライクであると判断する。

「アイラか? 無事だったか」
「当然じゃない。アンタより先にやられる訳ないじゃない」
「言ってろ!」

 スタービルドストライクはスタービームライフルでモックを正確に撃ち抜く。

「アイラさん! こっちにビームを撃ってください!」

 アイラと合流したセイ達はアイラの方に通信を入れる。
 セイの指示の意味は分からないが、この状況で適当な事を言う訳がないと信じてロングビームライフルをスタービルドストライクに向けて放つ。
 そのビームをスタービルドストライクはアブソーブシールドで吸収した。
 モックの武器の中にビーム兵器を持つタイプも居るが、マシンガンやバズーカのように実弾系を持つタイプも大勢する。
 その中からビーム兵器をアブソーブシールドで吸収する事は難しい為、ディスチャージ用の粒子を溜める事が出来ずにいた。
 そこでアイラと合流した事で必要な粒子をアイラから受け取った。

「少し任せた!」
「全く……任せなさいよ!」

 スタービルドストライクがディスチャージシステムを使うまでの時間をアイラが稼ぐ。
 レイジに命令される事は少し面白くはないが、今はそんな事を考えている暇はない。
 このまま、ガンプラバトルが駄目になれば、マシロとちゃんとバトルする事が出来なくなる。
 サザビー改は拡散メガ粒子砲を放ってスタービルドストライクを守る。

「アイラ! 避けろよ!」

 サザビー改に守られていたスタービルドストライクはアブソーブシールドとスタービームライフルをアームで接続して、ディスチャージシステムのライフルモードを起動させる。
 砲撃形態のスタービームライフルから放たれたビームをプラフスキーパワーゲートが拡散させる。
 サザビー改も攻撃の直前に射線から離れて、射線上のモックを破壊する。
 だが、それでも簡単に数の差を覆すことは出来ずにモックの反撃を受ける。
 スタービルドストライクはかわしながらスタービームライフルで反撃するが、サザビー改の性能では完全にかわし切れずにシールドを使いながら防ぐ。
 攻撃を確実にかわして反撃を行うスタービルドストライクと攻撃をシールドで防ぎながらのサザビー改では足並みを揃えて前進する事は出来ず、次第に距離が出て来る。

「アイラ!」
「私の事は言いから行きなさい!」

 サザビー改はロングビームライフルでモックを撃ち抜く。
 機体性能に差がある為、サザビー改ではスタービルドストライクに付いて行くことは難しい。
 だからと言って、スタービルドストライクに合わせて貰う訳にはいかない。
 投入されたガンプラの中でもスタービルドストライクは総合的な性能はトップクラスだ。
 そんなスタービルドストライクを付きあわせる訳には行かなかった。

「……レイジ」
「分かってる! アイラ、やられんじゃねぇぞ」
「レイジこそ」

 ここでアイラを置いて行けば、アイラは単機で戦わなければならない。
 アイラのサザビー改の性能を考えれば、かなり厳しい。
 それでも前に進まなければならない。
 このバトルに負けてしまえば二度とガンプラバトルが出来なくなってしまうかも知れないからだ。

 




 各ファイター達がア・バオア・クーを目指す中、マオのガンダムX魔王はモックの殆ど来ない後方に控えていた。
 前に出れば出る程、モックの数が増える為、ハイパーサテライトキャノンが使い難くなる。
 ハイパーサテライトキャノンならば一撃で数百の敵を葬る事が出来る。
 数の差を覆すことは難しいが、それでも撃たないよりかはマシだ。
 後方からのハイパーサテライトキャノンの砲撃は前線で戦うガンプラ達の生命線でもある。
 ある程度の威力で撃てるようになった時点でガンダムX魔王はハイパーサテライトキャノンを撃ち込む。

「まだあんなに距離がある……」

 後方から戦場を見渡せるマオは仲間が戦闘をしている場所がモックを撃墜した時の爆発はビームの光でおおよそは見えている。
 それを見る限りではまだ、ア・バオア・クーまでの距離は遠い。
 中々、仲間の進撃が上手く行っていない事で少し注意が散漫となっていた為、モックの接近を許してしまう。
 
「やらせません!」

 完全に虚を突かれたマオだが、ニルスの戦国アストレイがサムライソードでモックを一刀両断する。

「ニルスはん!」
「マオ君は砲撃に集中して下さい。僕が露払いをします!」

 戦国アストレイは火器を持たず、遠距離攻撃はサムライソードを投げるか粒子の斬撃しか出来ない。
 その為、無理に前に出ずに一撃で多くの敵を薙ぎ払う火力を持つガンダムX魔王を守る事が最善と判断して、前に出ずに付近でガンダムX魔王にモックが取りつかないようにしていた。
 サムライソードを振るい粒子の斬撃でモックを破壊すると、チャージを終えたガンダムX魔王がハイパーサテライトキャノンを撃ち込む。

「くっ……戦力差があり過ぎる!」

 ハイパーサテライトキャノンで多くの敵を薙ぎ払ったところで、敵は失った戦力を補充するかのように増えて来る。
 始めから分かっていた事だが、11機のガンプラで10万の大軍を相手にするなど、始めから不可能も良いところだ。

「せめて、こちらにもっと戦力があれば……」

 数の差を性能で埋めるには無理がある。
 数の差を埋めるにはこちらも更にガンプラを投入する必要がある。
 だが、そう都合がよくこちら側の数が増える訳もない。
 ニルスも頭では分かっているが、口にする。
 
「そんな君たちに朗報があるのよね」

 突如、ファイター全員に対して、ユキネからの通信が入る。
 すると、ガンダムX魔王と戦国アストレイよりも後方からビームが飛んで来る。
 それも10や20と言う数ではない。

「なにがおきたんです!」
「増援?」

 同時に大量のガンプラが2機を追い越して、ア・バオア・クーへと向かって行く。
 ユキネもたった11機でマシロが来るまで持ち堪える事が出来るなど思ってはいない。
 ファイナリスト達はあくまでも先陣を切らしたに過ぎない。
 後から増援を送り込む予定だった。
 送り込む増援のファイターはこの会場には大量にいる。
 観客の殆どは少なからずガンプラバトルをやっているファイター達だからだ。
 そんなファイター達も非難してから遠隔操作で自分のガンプラを送り込んだ。

「これなら……」

 それでも1000機程である為、戦力差を埋めるには至らない。
 実力やガンプラの性能的にも戦力となり得るのはファイターは世界大会に出場して決勝トーナメントに進めなかったファイターくらいだ。
 まだ、会場に残っているファイターも居るが、100人にも満たない。
 しかし、絶望的な戦力差からの増援は先陣を切っていたファイター達にとっては何よりも心強い。
 ガンプラの未来を守る為に戦っているのは自分達だけではないと実感できるからだ。






 皆がガンプラの未来を守る為に戦っている頃、マシロは駅に向かっていた。
 公園で一晩を過ごしたマシロは取りあえず、新幹線に乗ろうとしている。
 町を歩いていると電気屋の前を通りかかる。
 ガラス越しにふと中を見ると店内の大型テレビで世界大会の様子が中継されている。
 軽く聞こえてくる声によれば、ファイナリストと観客が参加しての大規模な戦闘をしているらしい。
 世界大会を盛り上げる為のイベントバトルと言うらしい。
 決勝トーナメントは全世界にリアルタイムで中継されている。
 そんな状況でバトル中に中継を止めてしまえば、何かトラブルがあったと言っているようなものだ。
 そこでユキトの指示であくまでも事前に予定されていたイベントだと言い張って中継を続けていた。
 冷静に考えれば、バトル中にそんなイベントが始まる事はあり得ないが、向こうがイベントだと言い張っている以上はどうしようもない。
 現状さえ乗り切る事が出来ればクロガミグループの力なら適当に誤魔化して有耶無耶に出来る。
 そんな疑問よりもテレビを見ている視聴者は世界大会のファイナリスト達が圧倒的な物量差を前に懸命に戦うバトルの迫力に熱中している。
 バトルしているファイター達もまるで本当にガンプラの未来を賭けた戦いをしているかのような必死さが見ている者達を熱くしている。
 だが、マシロは軽く引っかかった。
 今日はタツヤとセイ、レイジ組による準決勝のバトルが行われる日だ。
 事前にそんなイベントがあるなら、ファイナリストの一人であるマシロの耳に入っていてもおかしくはない。
 しかし、そんな話しは全く聞いていない。

「……俺には関係のない事だ」

 軽く引っかかるものの、今のマシロにとっては関係のない事だった。
 ガンプラで大量の利益を得ようとユキトは画策している。
 その為、ガンプラ熱を盛り上げる為にこのようなイベントを独断で用意していたかも知れない。
 そもそも、ユキトが会場に居ると言うのに大会の成功に関わる程のトラブルが起きるとも考え難い。
 ならば、これは本当にイベントである可能性の方が高い。
 マシロはそう判断した。
 そう判断したマシロは駅へと向かった。
 現在の世界大会会場の事件はユキネがマシロをガンプラバトルの世界に引き戻す為に引き起こしたものだが、皮肉にもクロガミグループによる隠蔽工作によりマシロがその事態に気づく事は無かった。




 




 増援により戦況は一気に変わった。
 モックが最大で10万機と言っても常にそれだけの数が居る訳ではない。
 今までは圧倒的な数の優位で押していたが、増援により数の優位は多少なりとも埋める事が出来た。
 それでも数の差は圧倒的だが、モック自体の性能は高くない為、ある程度の数が揃えば、ア・バオア・クーへと侵攻は一気に楽になる。
 
「まさか、これほどの増援が現れるとは……」
「それだけ皆がガンプラバトルを守ろうと言う意志があると言う訳だ」

 アメイジングエクシアがモックをアメイジングGNソードで切り裂く。
 切り込むアメイジングエクシアを的確にガンダムF91イマジンがビームライフルで援護する。
 圧倒的な戦力差には変わりはないが、多くのファイター達が自分達と同じようにガンプラを守りたい気持ちを持っていると実感できて、この戦力差すらも覆せる気すら起きて来る。

「会長!」

 連携して道を切り開く2機に金色のターンXがビームライフルを撃ちながら近づいて来る。

「ゴンダか!」
「会長、ご無事で!」

 金色のターンXのファイターはタツヤの後輩でもあるゴンダ・モンタのガンプラだ。
 タツヤを慕うゴンダはタツヤのガンプラを探してここまで来たらしい。

「お供します!」

 アメイジングエクシアに追従するかのようにターンXはビームライフルを撃つ。
 その光景を見て、ジュリアンは状況も忘れて笑ってしまう。

「先輩?」
「済まない。時間は流れているんだと実感してね」

 3年間バトルを離れていたと言う事もあって、実力を付けたが、ジュリアンからすればタツヤは後輩と思っていた。
 だが、その3年間でタツヤは先輩となり、後輩から慕われれいる様子を見ると時間が経った事を実感する。

「僕と同じ良い後輩を持ったね。タツヤ」
「ええ」

 後輩の成長を嬉しく思うが、今はそんな事を考えている余裕はない。
 増援で戦況が変わったが、ア・バオア・クーの方でも動きがあった。
 今まではモックしか出て来なかったが、ア・バオア・クーからモック以外のガンプラも出て来るようになった。
 
「アレは……ジオング……じゃないみたいだね」
「ア・バオア・クーでジオングではなく、ネオジオングを持ち出して来るとは無粋にも程があるな」

 タツヤ達の方に向かって来たガンプラはガンダムUCに登場するネオジオン残党軍「袖付き」が最終決戦に投入した拠点防衛用モビルアーマーのネオジオングだ。
 
「来るぞ!」

 ネオジオングは肩の大型メガ粒子砲を使う。
 その巨体から繰り出されるビームの威力は圧倒的で周囲のガンプラを敵味方問わず破壊して行く。
 
「拠点防衛用としての性能をこんなところで味わう事になるとはね」
「無事か? ゴンダ」
「何とか……」

 ネオジオングに対して、アメイジングエクシアはアメイジングGNソードのライフルモード、ガンダムF91イマジンはウェスバー、ターンXはビームライフルで応戦するが、全て直撃こそしたが、ビームは弾かれた。

「Iフィールドか……」
「先輩のF91イマジンでも撃ち抜けないとなると簡単には行きそうもないですね」

 3機の中で、ジュリアンのガンダムF91のヴェスバーが最も威力の高い火器だ。
 その攻撃すらも通用しないのであれば、付近のガンプラの火器ではどうしようもない。
 
「だとすると接近戦か……」
「あの火力を相手に会長達でも無茶ですよ!」
「だが、ここで僕達がアレを仕留めなければ一気に殲滅されかねない」

 ネオジオングの火力と防御力、そして、今は殆ど動いていないが、巨体ながらもネオジオングの推力も相当な物だ。
 ここでネオジオングを避けたところで、逃げ切れるかは定かではない。
 その上、ネオジオングを野放しにして暴れさせると他の場所で懸命にア・バオア・クーに突入しようとしているファイター達にも危険が及ぶ。
 ここで全滅しようとも、ネオジオングを最低でも戦闘不能にしなければ危険だ。

「まだ、サイコシャドーソードを使っていない。使われる前に仕留める。僕とタツヤで仕掛ける。ゴンダ君は援護を頼む」
「……分かりました」

 圧倒的な火力を持つネオジオングに2機で仕掛ける事は、ゴンダには幾らタツヤの実力を信じていても無茶だとは思うが、二人は躊躇う事は無かった。
 ここでネオジオングを仕留める事が出来るのは自分達だけだからだ。 
 先陣はジュリアンのガンダムF91イマジンが仕掛けた。
 ネオジオングは両腕の有線式ファンネルビットを射出する。
 ガンダムF91イマジンは最大稼動状態となってファンネルビットを翻弄する。
 表面塗装が剥がれる事で起こる質量を持った残像にファンネルビットはつられてしまう。
 これがガンダムを知る人間ならそう簡単に引っかかる事は無いが、ネオジオングはコンピュータにより制御されている。
 ネオジオングのビームを回避しながら、ガンダムF91イマジンはネオジオングに接近する。

「バックジェットストリーム!」

 最大稼動状態でビームライフルを連射しながらガンダムF91イマジンはネオジオングの懐に入り込む。
 ビームライフルはIフィールドに阻まれるが、ガンダムF91イマジンはネオジオングのコアユニットであるシナンジュに取りついた。
 シナンジュは自身の腕部からビームサーベルを取り出して突き出すが、ガンダムF91イマジンはかわしてビームサーベルでシナンジュの片腕を切断する。
 そして、頭部のフェイスマスクが開閉し、口部のビーム砲をシナンジュに撃ち込む。
 シナンジュの部分には特殊塗装はされていなかったらしく、シナンジュはビームに撃ち抜かれる。
 その上で、ガンダムF91イマジンを狙っていたファンネルビットがビームを撃ち込んで来る。
 ガンダムF91はビームを回避して、ファンネルビットが撃ったビームは自身に直撃する事となった。
 圧倒的な火力を持つが故にIフィールドでは防ぎ切れなかった。

「タツヤ!」

 ジュリアンがファンネルビットを引きつけていたお陰でタツヤのアメイジングエクシアがネオジオングの懐に飛び込んでアメイジングGNソードを突き刺す。
 そして、そのまま下へと移動してネオジオングを切り裂いていく。

「先輩! ゴンダ!」

 ネオジオングの前面を切り裂いたところで、ガンダムF91イマジンとターンX、周囲のガンプラ達が一斉にネオジオングに集中砲火を浴びせる。
 アメイジングエクシアによって切り裂かれているネオジオングのIフィールドはすでに機能していない為、次々と被弾してやがては崩れ落ちて完全に沈黙した。

「流石は会長!」
「何とかなったが……」

 ネオジオングを撃破する事には成功したが、強引にネオジオングを切り裂いて破壊した為、アメイジングGNソードが限界を迎えてヒビが入っている。
 ライフルモードは使えるが、メインのソードモードでは戦えない。

「タツヤ。待たせたね。こんなこともあろうかとこいつを用意しておいた」
「アラン? アレは……」
 
 アランからの通信が入り、アメイジングエクシアを目がけてソレスタルビーイングがガンダムエクシアの支援機として用意したGNアームズが到着する。
 トランザムブースターの修理が追いつかない為、市販品にアメイジングエクシア用に手を加えたGNアーマータイプAEとして使える。

「助かる!」

 アメイジングエクシアはGNアーマーとドッキングする。
 手を加えているとは言っても市販品だが、GNアームズの火力と防御、機動力は今は有難い。

「タツヤ、それの機動力に僕達がついて行くのは厳しい。君は先行して道を切り開いて欲しい」
「分かりました。ゴンダ、先輩の援護を任せた」
「お任せを! 会長はぞんぶんに暴れて来て下さい!」

 GNアーマーとドッキングしたアメイジングエクシアは後方をジュリアンとゴンダに任せて、ア・バオア・クーに向けて先行する。






 単独で交戦するフェリーニは他のガンプラよりも先行している為、増援が来てもしばらくは単機で交戦していた。
 
「このままじゃジリ貧だぞ……」

 モックからの攻撃を回避しながら、ガンダムフェニーチェリナーシタはリナーシタライフルのハンドガンでモックを撃ち抜く。
 左右からヒートホークとビームサーベルを持ったモックが切りかかり、ガンダムフェニーチェリナーシタは両肩からビームマントを展開して受け止める。
 両サイドを抑えられて、前方のモックが唯一のオリジナル装備であるモックライフルを構えて、ガンダムフェニーチェリナーシタを狙っていた。

「ここまでかよ!」

 動きを封じられて流石のフェリーニもここまでかと諦めかけたが、前方のモックがビームにより蜂の巣となった。

「ずいぶんを言いようにされてるじゃないの」
「キララちゃん! 何で!」

 モックを撃墜したピンク色で塗装され頭部にブレードアンテナが付いているガーベラ・テトラがモックを撃墜したようだ。
 そして、そのファイターは世界大会の公式イメージアイドルであるキララだ。
 開催前夜のパーティーで知り合って以来何かとフェリーニとキララは縁があった。
 
「何でってこのままじゃガンプラバトルが危ないんでしょ? せっかくここまで来たのにこんなところで終わられると困るのよ!」

 キララは事務所の方針でガンプラアイドルとして売り出されている。
 その為に世界大会の地区予選に出場したが、セイとレイジに敗れていた。
 だが、何の因果か世界大会の公式イメージアイドルに抜擢された。
 自身の夢であるトップアイドルを目指す上でガンプラバトルが終わる事は避けたいらしい。

「その為ならこんなところにだって来てやるわよ!」
「たく……女ってのは強いよな」

 ガンダムフェニーチェリナーシタは片方のモックを蹴り飛ばして、ハンドガンで撃墜するともう片方のモックを頭部のバルカンを撃ち込みながらハンドガンからビームサーベルを出して突き刺した。

「ならよ。俺もイタリアの伊達男の異名が伊達じゃないってのを見せないとな」

 キララと合流した事である程度は楽となったが、ガンダムフェニーチェリナーシタの横を強力なビームが横切る。

「フェリーニ。俺も居るんだがな」
「グレコ! お前も来てたのか!」

 濃い緑で塗装され、トールギスⅢのメガキャノンを装備するトールギスはフェリーニのライバルであるグレコ・ローガンのガンプラ、トールギスワルキューレだ。
 グレコはアメリカ予選でニルスに敗北したものの、ライバルであるフェリーニが決勝トーナメントまで勝ち残ったと言う情報を聞きつけてわざわざアメリカから応援に駆け付けていた。
 フェリーニが敗北後も折角、日本まで来た以上は最後まで世界大会を生で見ようと日本に滞在していた。
 そして、ライバルの危機に駆けつけたと言う訳だ。

「こんな形で共にバトルをする事になるとはな」
「たまには良いんじゃないか?」

 ガンダムフェニーチェリナーシタはバスターライフルをトールギスワルキューレはメガキャノンを最大出力で放ってモックを一掃する。
 2機の砲撃を逃れたモックをガーベラ・テトラがビームマシンガンで落とす。
 すると、3機のガンプラの横を赤と紫で塗装された戦艦、リーンホースJrが横切る。

「あの戦艦……まさか」

 その独特のカラーリングにフェリーニは嫌な予感しかない。
 この世界大会で何度も同じカラーリングのガンプラと戦っている。

「何だ! その反応は折角、助けに来てやったと言うのに!」
「やっぱりお前か! チョマー!」

 リーンホースJrのカラーは予選ピリオドでフェリーニを執拗に狙っていたドイツ代表のライナー・チョマーが使用していたガンプラと同じだった。

「今日はお前をやり合っている暇はないぞ」
「ふん……俺達もお前を後ろから撃ってやりたかったさ……けど、この状況で後ろから撃つわけにもいかんだろ。だが、勘違いするなよ! お前の為ではなくガンプラの為だからな!」
「おっ……おう」

 そして、リーンホースJrから数機のガンプラが出撃して来る。
 どのガンプラもフェリーニには見覚えがあった。
 第二ピリオドのバトルロイヤルでフェリーニを苦しめたファイターのガンプラだ。

「行くぞ野郎ども!」

 あの時はフェリーニに彼女を奪われた憎しみでフェリーニに銃を向けてが、今は味方のようだ。
 だが、リーンホースJrから出て来たガンプラ達は瞬く間に撃破されてしまった。

「馬鹿な……」

 それを行ったのはたった1機のガンプラだった。
 ア・バオア・クーから出て来たガンダムエピオンがチョマー達のガンプラを一瞬で破壊した。
 そして、ガンダムエピオンはリーンホースJrに向かって行く。
 主砲で迎撃するが、ガンダムエピオンを捕える事が出来ない。

「こうなったら!」

 護衛のガンプラを失い主砲も当たらない以上、戦艦の行く末はガンダムを知る者なら誰でも分かる事だ。
 
「せめてお前だけでも道連れに!」

 リーンホースJrはビームラムを展開してガンダムエピオンに特攻する。
 どの道、取りつかれて終わるくらいなら相討ち覚悟でガンダムエピオンに特攻する道を選んだ。

「フェリーニ! 後は……」

 チョマーは憎き仇であるフェリーニに後を託そうとした。
 だが、次の瞬間、チョマーは固まった。
 後を託そうとしたフェリーニはかなり離れたところで、ガーベラ・テトラとトールギルワルキューレと共に交戦しており、こちらの事は全く見てはいなかった。
 これだけの乱戦でいつまでも同じところに留まっている訳が無かった。

「フェリィィィィニ!」

 そして、ガンダムエピオンがビームソードを最大出力で使い、リーンホースJrをビームラムごと真っ二つに切り裂いてリーンホースJrは沈んだ。

「チョマーの奴……何しに来たんだ?」
「考えるのは後だ。アイツが来るぞ!」

 リーンホースJrを沈めたガンダムエピオンはフェリーニ達を次の獲物に選んだ。

「とにかく撃ちまくるぞ! 近づけさせるな!」

 ガンダムエピオンは作中と同じで射撃武器を持っていない。
 近接戦闘では無類の強さを発揮するが、距離を取っていれば怖い相手ではない。
 3機が一斉に集中砲火を浴びせるが、ガンダムエピオンはモビルアーマーに変形すると一気に加速する。

「なんて機動力してんだよ!」

 集中砲火をかわしてガンダムエピオンは距離を詰めてモビルスーツ形態に変形する。
 そして、ビームソードを持ちガーベラ・テトラに切りかかる。
 ガーベラ・テトラは後退しながらビームマシンガンを撃つも、ガンダムエピオンはシールドで防ぎながらガーベラ・テトラを狙う。

「一番、弱い私を狙って来てる! 舐めんな!」

 ガーベラ・テトラを狙うガンダムエピオンをガンダムフェニーチェリナーシタとトールギスワルキューレが援護射撃を行うも、ガンダムエピオンに気を取られ過ぎていたと言う事もあり、逆にモック達の集中砲火を浴びる。
 ガンダムフェニーチェリナーシタはマシンキャノンで、トールギスワルキューレは通常射撃のメガキャノンで応戦する。
 その間にもガンダムエピオンにガーベラ・テトラは追い詰められていく。

「キララ!」

 ガーベラ・テトラが追い詰められて、ガンダムエピオンのビームソードに餌食になるかと思われた瞬間に別方向からの鞭が間を割る。
 
「あのグフは!」

 思わずフェリーニはバトル中だと言う事を忘れてしまう。
 本来陸戦用である筈のグフがそこにいた。
 大幅な改造を施してはあるグフをフェリーニは知っていた。

「青い巨星の……」
「どうやら間に合ったようだね」
「ラル大尉!」

 ラルさんの愛機、グフR35の参戦にフェリーニは子供のように目を輝かせていた。
 グフR35はガーベラ・テトラの前に来ると、両腕のフィンガーバルカンでガンダムエピオンを牽制する。

「フェリーニよ! 彼女は私に任せろ! 君たちはエピオンを頼む!」
「頼みます! グレコ!」
「ああ!」

 キララを狙われてしまうと、フォローに入らなければならないが、ラルさんが加わり、戦力の増強だけではなく、キララの援護を任せる事が出来る。
 そうする事で、フェリーニとグレコがガンダムエピオンの相手に集中できる。
 トールギスワルキューレがメガキャノンを最大出力で使い、ガンダムエピオンは回避する。
 だが、そこにはガンダムフェニーチェリナーシタが先回りしていた。
 リナーシタライフルからハンドガンを分離させて、ビームサーベルをして振り落す。
 ガンダムエピオンはビームソードで受け止めるが、後方からトールギスワルキューレが、通称射撃のメガキャノンで援護する。
 それをガンダムエピオンはガンダムフェニーチェリナーシタから距離を取ってかわすが、今後はガンダムフェニーチェリナーシタがバスターライフルを放つ。
 何とかシールドを使って防ぐも、その一撃でガンダムエピオンのシールドは破壊される。

「フェリーニ!」
「行くぞ!」

 そこにすかさず、トールギルワルキューレとガンダムフェニーチェリナーシタが多少の時間差をつけてビームサーベルで切り込む。
 シールドを失い、ガンダムフェニーチェリナーシタのビームサーベルは何とかビームソードで弾いたが、後から来たトールギルワルキューレの攻撃には対処しきれずに右腕を切り落とされた。

「今だ!」

 ガンダムフェニーチェリナーシタとトールギスワルキューレの同時攻撃で体勢を崩したガンダムエピオンをグフR35とガーベラ・テトラが集中砲火を浴びせる。
 自身を守る物を失っているガンダムエピオンは成す術無く、集中砲火を受ける事になる。
 それによってボロボロとなったところにガンダムフェニーチェリナーシタのバスターライフルと、トールギスワルキューレのメガキャノンが止めを刺した。

「何とかなったな」
「うむ。敵にも多くの増援が出て来ているらしい。油断は禁物だぞ」
「分かってます。今のでバスターライフルの残弾も使い切ってしまいましたからね」

 強敵であるガンダムエピオンを撃墜したが、ア・バオア・クーからはモック以外のガンプラも出て来ている。
 1機撃墜したところで戦局が傾く訳でも無い。
 その為、ガンダムエピオンを倒した余韻に浸る事も無く、先を目指さなければならない。










 エリカのセイバーガンダム・エペイストとルワンのアビゴルバインは強引に突破しようとするが、接近戦重視の2機では一度に撃墜出来る数も限られている為、中々思うように進む事が出来ない。
 アビゴルバインがビームサイズで2機のモックを同時に切り裂き、セイバーガンダム・エペイストがライフルモードのソードライフルでモックを撃ち抜く。
 
「ちっ……」
「余り焦るな。焦りはミスを誘発するぞ」
「分かってはいるけど」

 ルワンは冷静にモックを撃破して行くが、エリカの方は中々前に進めずに苛立って来ている。
 その苛立ちのせいで操作が多少荒くなっている事は目に見えて分かる。
 だが、ルワンもその気持ちが分からないでもない。
 他のファイター達はア・バオア・クーを目指して進撃しているが、自分達は殆ど出来てはいない。
 増援部隊でさえもかなり進撃している。

「今は確実に数を減らす。それが仲間たちの為にもなる」

 そう自分にも言い聞かせる。
 最前線で活躍できずとも、相手を1機でも落とせばそれだけで確実に敵の戦力を削る事が出来る。
 10万の数の前に1機程度は意味がないが、その1機の差が戦いを変えるかも知れないと信じるしかない。

「ルワンさん! アレ!」
「モビルアーマーか」

 前方でビームが飛び交う様子が見えた。
 ビームの出力からモビルスーツではなくモビルアーマーだと推測できた。

「相手がモビルアーマーだってんなら、アタシ等の出番だよな」

 一般的にモビルアーマーはモビルスーツに比べて火力、防御力、推力が高い傾向にある。
 それの上でIフィールドのような防御機能を持つ場合が多い。
 そう言う時に二人のような近接戦闘型のガンプラなら、Iフィールドに影響を受けずに戦える。

「そうだな」

 2機はモビルアーマー形態に変形すると、モックを撃破しながら向かう。
 二人が目指す先でデストロイガンダムがその猛威を振るっていた。
 長距離からの攻撃は陽電子リフレクターにより阻まれて、圧倒的な火力で周囲の敵を殲滅していた。
 そんなデストロイに対してビギニングガンダムB30がハイパーバスターライフルを放つ。
 だが、デストロイの陽電子リフレクターは貫けない。

「固い……」
「あの火力を使われたら、流石に前にでは出れないぞ」
「何でこんな時にエリカの奴はいないんだよ!」

 すでにアオイとコウスケは増援で駆け付けたレッカのビギニングガンダムRとタクトのフライルーと合流している。
 そんな所に、ア・バオア・クーから出て来たデストロイと遭遇した。
 二人以外にも何機か増援のガンプラはいたが、すでに二人を除いて全滅していた。
 デストロイを相手に砲撃戦では勝ち目は薄い。
 接近するにしても、ビギニングガンダムB30のIFSファンネルで守っても、レッカのビギニングガンダムRでは決定打にかける。
 エリカのセイバーガンダム・エペイストならバトルロイヤルでクィン・マンサを仕留めた時のようにデストロイも仕留める事が出来そうだが、ここにはいない。
 だが、戦闘を見つけたエリカとルワンがデストロイに攻撃しながら到着する。

「エリカさん!」
「アオイ! それにタクト達もいたのか」
「再会を喜ぶのは後だ。私達で仕掛ける。援護を頼めるか?」
「分かりました」

 セイバーガンダム・エペイストとアビゴルバインがデストロイに仕掛ける。
 デストロイはミサイルを大量に放って2機を足止めしとうとする。
 だが、フルアーマーユニコーンガンダム・ノルンとフライルーが弾幕を張ってミサイルを迎撃する。
 ミサイルが迎撃されて、デストロイは両腕をパージする。
 両手の指に内蔵されているビームで狙いを付けるが、ビギニングガンダムRがバーニングソードRを突き刺して一つを破壊し、もう一つをビギニングガンダムB30がハイパーバスターライフルで落とす。
 モビルアーマー形態だったデストロイがモビルスーツ形態に変形して胸部のビーム砲を撃とうとするが、その前にセイバーガンダム・エペイストのバスターライフルが胸部を切り裂き、アビゴルバインがビームサイズで傷口を広げる。
 連続攻撃にデストロイが怯んだところにビギニングガンダムB30がスノーホワイトを撃ち込む。
 体勢を崩しながら、デストロイは最後の悪足掻きで、口部のビーム砲を撃つも、それはIFSファンネルによって止められた。 
 最後の悪足掻きも失敗に終わったデストロイに対して周囲のガンプラが一斉にビームを撃ち込んで止めを刺した。

「一時はどうなるかと思ったけど、何とかなったな」
「お前は役に立たなかったけどな」
「うっさい!」
「タクト君もレッカ君も今はそんな事をしてる場合じゃないよ」

 レッカに喧嘩腰になりかけるタクトをアオイが諌める。
 タクトはレッカの言う通りそこまでの戦果を挙げている訳ではない。
 デストロイの砲撃からも自力と言うよりもアオイのフォローによって生き延びている。
 尤も、敵の数が多い事もあって、フライルーの火器を撃てば大抵、敵に当たる為、全く戦果を挙げていないと言う訳ではない。
 レッカもタクトも今は仲間内で争っている場合ではないと言う事は十分に理解している。
 アオイ達はエリカとルワンと合流して勢いを増して、モックの掃討に入る。
 









 ガンプラの性能差からセイとレイジを先に行かせた後、アイラはひたすらモックを撃墜して前進していた。
 だが、流石に数の差はどうにもできず、所々に被弾の後が出来ている。
 相手の性能が大したことは無い為、多少の被弾でもバトルに支障が出る程ではない。
 ロングビームライフルでモックを撃ち抜くとサザビー改を黒い影が覆う。

「何なのよ。アレ……」

 ア・バオア・クーから出て来たガンプラの1機、ガンダムAGEに登場する大型自立モビルスーツであるシドだ。
 モビルスーツでありながら人型からは大きく離れた外観を持つシドが巨大な翼を広げていた。
 シドは普通のガンプラの数倍の巨体を持ちながら高い機動力を持っている。
 サザビー改が拡散メガ粒子砲を撃つが、シドは軽々と回避する。

「何で、あんなに大きくて動けるのよ!」

 シドの動きに合わせてロングビームライフルを撃つが、直撃こそしたが、シドの装甲を貫く事は出来ない。
 シドはビームライフルを一斉に放つ。
 サザビー改は回避しようとするが、シドの撃ったビームはサザビー改を追うように曲がった。

「曲がった!」

 アイラは懸命にビームから逃れようとするが、シドのビームは執拗にサザビー改を追い回す。
 やがて、ビームは正面からだけではなく、全方位からサザビー改を襲い、かわし切れずにロングビームライフルに直撃する。
 すぐにライフルを捨てるが、シドが撃っていたフェザーミサイルがサザビー改を襲う。
 サザビー改はシールドで身を守るが、片足に被弾してしまう。
 片足を失い体勢を崩したところにシドが止めを刺すべく6基のビームライフルをサザビー改に向けていた。
 流石にここまでかと覚悟を決めるが、シドにビームが直撃してシドが大きくよろける。

「次から次へと……」

 止めが刺されずに済んだが、手放しに喜ぶことは出来なかった。
 シドを攻撃したガンプラはデビルガンダム、明らかに味方とは思えなかった。

「たく……俺だよ」
「ガウェイン? 紛らわしい。それで何でこんなところに?」
「この状況で自分だけバックれれる雰囲気じゃないだろ」

 敵かと思われたデビルガンダムだが、デビルガンダムのファイターはガウェインだと知り一先ず安心した。
 
「それよりも、何でマシロが居ないの? アイツの性格なら嬉々として暴れそうなのに」
「知るかよ。昨日からアイツは見てないぞ」

 アイラもタツヤ同様にマシロがこの場にいない事は気になっていた。
 マシロはガンプラバトルに全てを賭けている事はアイラも知っている。
 そんなマシロがこんな状況で何もしないとは考え難かった。
 だが、ガウェインもマシロの事は何も知らないようだ。

「そう……ここは任せたわ」
「は? おい!」

 アイラはそう言い残してシドの相手はガウェインに押し付けて先を急ぐ。
 シドはサザビー改を追撃しようとするが、デビルガンダムが妨害する。

「マシロと言い……ガキが好き勝手にやりやがって!」

 アイラは完全にシドをガウェインに任せる気のようで、振り向く事も無くア・バオア・クーへと向かっている。
 文句を言いたいが、仕方が無くガウェインはシドの相手をする事になった。

 






 単独でスタービルドストライクはア・バオア・クーに向かい最もア・バオア・クーに接近していたが、ア・バオア・クーの防衛網は前に進むにつれて強固となって行く。
 速度を緩めずにスタービームライフルでモックを撃ち抜き、左手のビームサーベルですれ違いざまにモックを切り裂く。

「後少しだってのに!」

 スタービームキャノンでモックを数機撃ち抜く。

「せめてディスチャージが使えれば……」

 これだけの乱戦となればRGシステムはその負荷から多少の被弾でも命取りになり兼ねない。
 必殺のビルドナックルも一体一でのバトルならともかく、多数の敵を当時に破壊する事までは考えてはいない。
 ディスチャージシステムを使えば一気にア・バオア・クーまでの道を切り開く事は出来るが、粒子が足りない。
 アイラにやって貰ったように仲間のビームを利用しようにも、周囲に友軍機はいない。
 かと言って、友軍のいる場所まで戻るか、友軍が追いつくまで待つと言う事も出来ない。
 せめて、前に進みながら友軍が追いついてくれるのを期待するしかない。
 スタービルドストライクはスタービームライフルを連射して、モックを破壊して行く。
 スタービルドストライクは汎用性に特化しているが、ディスチャージシステムなしでは殲滅能力はさほど高くはない。
 その為、一度に多くを撃墜する事は出来ない。
 今までは強引に突破して来たが、流石にここまで来るとそうはいかない。

「数ばかりごちゃごちゃと!」

 レイジがモックと戦っている間にセイはア・バオア・クーへと侵攻ルートを探す。
 出来るだけ、モックの数の少ない方向から向かいたいが、モックが次々とア・バオア・クーから出て来る為、どの方向から攻めても変わらない。

「このままじゃ……押し戻される」

 数が多くても性能が低い為、すぐに撃墜されると言う事はないが、このままではスタービルドストライクは数に圧倒されて押し戻される。
 だが、大量のミサイルがスタービルドストライクを追い越してモックを撃墜して行く。

「増援か!」
「アレは……ギャン! まさか!」

 両腕にミサイルシールドを装備し、独自のバックパックと細部の改造を施したギャンがミサイルシールドを掲げていた。

「勘違いしないでくれよ。そのガンプラはいずれ僕とこの最強のギャンであるギャンバルカンが倒すんだからね!」
「やっぱりお前か! サザキ」

 サザキはセイとレイジと同じブロックのファイターで、レイジが初めてバトルした相手だ。

「倒すって僕のガンプラの事は諦めたんだ」

 サザキはかつて、セイのビルダーとしての実力を高く買って、自分用のガンプラを作るように言って来た。
 だが、セイはサザキとは馬が合わずに断っていた。
 セイが世界大会用にビルドストライクを制作した際にはセイがバトルが弱いと言う事を知って上で、ビルドストライクを賭けてバトルを挑んできた。
 その際に途中からセイに代わって、セイに対する借りを返す為にレイジがバトルした事は二人のガンプラバトルの始まりだ。
 
「気づいたんだよ。そんな性能が高いだけのガンプラよりもこのギャンのシールドこそが至上だと言う事にね!」

 ギャンバルカンはミサイルシールドからミサイルを大量に発射する。
 セイがレイジと組んだ後もサザキはセイのビルドストライクに未練があったものの、当時使用していたギャンを改造して行く中で、ギャンの持つシールドの魅力に取りつかれたようだ。
 特定のシリーズや特定の機体を愛するだけではなく、ガンプラの特定の武器を愛する事もまた、ガンプラの楽しみの一つだ。
 ギャンバルカンはバックパックのガトリング砲とミサイルでモック達を殲滅して行く。

「やるな。アイツ」

 セイからすれば、過去にしつこく言い寄って来て、自分のガンプラを賭けで奪おうとした相手で余り好きにはなれないが、サザキの事をそこまで嫌っている訳でも無く、この場面での増援は素直に助かる。

「いかなる攻撃をも寄せ付けない究極の盾を持つ僕のギャンの勇士を……」

 モックを殲滅して行くギャンバルカンだったが、胴体をビームに撃ち抜かれてあっさりと撃墜された。

「ギャンバルカァァァァァン!」
「レイジ!」
「ああ……さっきまでの奴らとは違うな」

 増援のギャンバルカンが撃墜されてたが、その攻撃は明らかにモックの物とは威力が違った。
 セイとレイジは周囲を警戒する。
 すると、何もないと思っていた場所からビームが飛んで来る。
 とっさに回避行動を取った事でスタービルドストライクは被弾せずに済んだ。
 それを皮切りに全方位からビームが襲い掛かってくる。

「どうなってんだ!」
「これは……ファンネル? いや、ドラグーンだ!」

 何もないように見えるところからの攻撃。
 この攻撃でセイが真っ先に思いついたのがファンネルだが、モック以外ガンプラを見つけた事でそれがファンネルではなく、ドラグーンであると判断した。
 ガンダムSEEDでラウ・ル・クルーゼが登場したプロヴィデンスガンダムが大型ビームライフルを撃って来る。
 アブソーブシールドで吸収できるレベルの攻撃だが、周囲からドラグーンによる攻撃によって足を止める事が出来ない為、回避するしかない。

「くそ!」
「レイジ、本体を狙うんだ! 本体であるプロヴィデンスを倒せばドラグーンも止まる!」
「んな事言ってもよ!」

 本体を叩けばいいと言う事は分かるが、多数のドラグーンに加えてモックが居る為、早々プロヴィデンスを直接仕留める事は難しい。
 ドラグーンは小さい上に黒いだけではなく、宇宙では目立つ白い色のモックが居る為、余計に見辛くなっている。
 スタービルドストライクは足を止めずに、常に移動をしながらモックを撃墜して行く。
 その間にドラグーンの位置を特定しようとするが、ドラグーンは常に移動する為、位置を把握する事は難しい。

「イオリ君! レイジ君!」
「ユウキ会長!」
 
 プロヴィデンスと大量のモックに苦戦しているところに、GNアームズタイプAEとドッキングしたアメイジングエクシアが合流する。
 アメイジングエクシアはアメイジングGNキャノンを放つ。
 それによってドラグーン数基とモックを破壊する。
 アメイジングエクシアが合流した事で、プロヴィデンスの狙いにアメイジングエクシアが加わる。
 ドラグーンがモックと共にアメイジングエクシアに全方位から攻撃するが、アメイジングエクシアはGNフィールドを展開して防ぐ。

「GNフィールドを張れる僕がドラグーンを引きつける。君たちはプロヴィデンスを直接叩いてくれ」
「任せた!」

 アメイジングエクシアなら全方位からの攻撃に対してもGNフィールドで対処できる。
 その為、ドラグーンをタツヤに任せた。
 スタービルドストライクはビームサーベルを抜きながら、プロヴィデンスに接近する。
 プロヴィデンスは大型ビームライフルを撃ちながら、左腕の複合シールドの先端からビームサーベルを出して応戦する。
 2機は互いのビームサーベルを振るって切り合い、ライフルを撃ちながら距離を取ると再度、接近して切り合う。

「こんの!」

 プロヴィデンスは胸部のバルカンを撃ちながら、下がるとアメイジングエクシアに使っていたドラグーンを戻してスタービルドストライクを狙う。
 それを、スタービルドストライクはアブソーブシールドで吸収し、スタービームライフルでドラグーンを撃ち抜く。
 プロヴィデンスは大型ビームライフルを撃つが、ドラグーンを戻した事で余裕の生まれたアメイジングエクシアが間に割って入りGNフィールドで攻撃を防ぐ。

「レイジ君!」

 アメイジングエクシアが攻撃を防いでいる間にスタービルドストライクは先ほど吸収したビームの粒子を使ってディスチャージシステムを起動させていた。
 吸収した粒子の量が少ない為、出力は最低限でしか使えず、プラフスキーパワーゲートも小さい。
 スタービルドストライクはスタービームライフルをアブソーブシールドと接続せずに砲撃形態をとって構えていた。

「吹き飛べ!」

 その状態でプラフスキーパワーゲートを通して威力を強化したビームを放つ。
 通常のライフルモードと比べると威力は圧倒的に低いが、プロヴィデンスを射線上のドラグーンごと葬るには十分の威力はある。
 スタービルドストライクのビームがプロヴィデンスを一撃で葬り去った。

「これで先に進める」
「いや……まだ何か来るようだ。ここに来てモビルアーマーか!」

 タツヤと合流してプロヴィデンスを撃破した事で、ア・バオア・クーに向かう事が出来るかと思ったが、新たな敵がスタービルドストライクとアメイジングエクシアの前に現れる。
 ガンダムOOに登場する大型モビルアーマー、アルヴァトーレだ。

「アルヴァトーレ、また面倒な」
「それでもやるしかありません!」
「だな。何が出て来ても押し通るだけだ!」

 アルヴァトーレは大型ビーム砲の発射体勢を取る。
 それを見て警戒するが、別方向からのビームがアルヴァトーレを撃ち抜いた。

「パーフェクトガンダム!」
「あのガンプラは!」

 アルヴァトーレを撃墜したパーフェクトガンダムをセイは見覚えがあった。

「間に合ったようだね」
「やっぱり父さんのガンプラ!」
「父さん? まさか……イオリ・タケシさんか!」

 パーフェクトガンダムはセイが見覚えがあったように、セイの父親であるイオリ・タケシが制作した物で、当然ファイターも同じだ。 

「久しぶりの再会を喜びたいのは山々だけど。まだ、終わってないようだ」

 パーフェクトガンダムに撃墜されたアルヴァトーレから本体であるアルヴァロンが出て来る。

「話しは全てを終わらせた後だ」

 3機はアルヴァトーレから出て来たアルヴァロンと交戦を始める。








 増援が現れて、戦局は変わりつつある。
 それでも数の差を埋めるには至らず、時間が経つにつれて序盤では敵の数の少なかった後方にもモックの数が増えて来ている。
 後方にはガンダムX魔王を中心として狙撃や長距離砲撃に特化したガンプラによって砲撃部隊が形成されている。
 
「はぁぁ!」

 戦国アストレイがサムライソードでモックを切り裂く。
 そして、粒子の斬撃を飛ばしてガンダムX魔王に接近するモックを破壊する。
 モックの数が増えた事で戦国アストレイが守っていたガンダムX魔王も自衛しなければならない場面が増えている。
 そのせいでハイパーサテライトキャノンによる砲撃の頻度が明らかに低下している。

「くっ……ここまで増えてるるとは……」

 両腕の腕でモックを掴み、別のモックに投げつける。
 ぶつかって体勢を崩したモックを別のガンプラが破壊する。

「流石にきつくなって来ましたわ」

 ガンダムX魔王はブレストバルカンでモックを落とす。
 前線に比べるとマシではあったが、ア・バオア・クーの方からのビームで後方の砲撃部隊の一画が打ち崩される。

「アレは……アシュタロンにヴァサーゴ! 向こうもサテライトキャノンを!」

 砲撃部隊に対してガンダムアシュタロンHCとガンダムヴァサーゴCBがサテライトランチャーを撃ち込んで来る。
 圧倒的な火力の差に砲撃部隊は一撃で壊滅的な打撃を受けてしまう。

「不味い! あの2機に好き勝手にさせていては!」

 2機のガンプラに気を取られていたせいで戦国アストレイは背後と取られるが、それを騎士ガンダムが破壊する。

「キャロライン!」
「油断は禁物ですわよ!」

 騎士ガンダムの援護で難を逃れた戦国アストレイは近くのモックを切り捨てる。

「余り無茶はしないように」
「分かってますわよ」

 とにかく、近くの敵をサムライソードで破壊するが、ガンダムアシュタロンHCとガンダムヴァサーゴCBを何とかしなければ砲撃部隊は完全に壊滅させられてしまう。
 砲撃部隊が壊滅させられると前線の支援が出来なくなる。
 
「とは言った物の……」

 ガンダムX魔王もハイパーサテライトキャノンを撃てる機会が減り、戦国アストレイや騎士ガンダムではあの2機に接近するのは難しい。
 下手にガンダムX魔王から離れると、ガンダムX魔王の守りが薄くなり、自分で身を守らせる事になる。
 そうなって来ると更にハイパーサテライトキャノンを撃つ機会が減る。
 更にタイミングが悪い事が重なり、サテライトランチャーを撃つ2機の他にガンダムXに登場する大型モビルアーマーのパトゥーリアが砲撃部隊を強襲する。
 パトゥーリアは有線ビーム砲で砲撃部隊のガンプラを破壊して行く。
 砲撃部隊も応戦するが、パトゥーリアの防御用フィールドジェネレーターの前に阻まれる。

「流石にパトゥーリアはあかんて!」
「あれから先に落とすしか!」

 砲撃に間が開くサテライトランチャーとは違いパトゥーリアの有線ビーム砲に発射のタイムラグは殆どない。
 このままではサテライトランチャーが撃ち込まれる前に、砲撃部隊が壊滅させられてしまう。
 戦国アストレイはパトゥーリアに向かおうとするが、多数の有線ビーム砲に邪魔をされる。
 何とかサムライソードでビームを切りながら自身の身を守るが、有線ビーム砲の数が多すぎる為、接近する事が出来ない。

「マオ君! サテライトキャノンは?」
「駄目です! もうちょい!」

 接近が駄目ならハイパーサテライトキャノンなら一撃でパトゥーリアを沈める事が出来るが、まだチャージが出来ていないようだ。
 接近戦も駄目で砲撃で仕留める事も出来ない。
 完全に手詰まりだった。

「まだまだ主らも未熟よの!」

 砲撃部隊のガンプラを破壊して行くパトゥーリアに一機のガンプラが突撃をしかけた。
 一部を金色に塗装したマスターガンダムだ。

「あのマスターガンダムは師匠! 無茶です! 単機で突撃やなんて!」

 マスターガンダムはマオの師匠である珍庵のガンプラのようだ。
 パトゥーリアは突撃して来るマスターガンダムに対して有線ビーム砲で迎撃する。
 だが、マスターガンダムは回転を始める。
 回転するマスターガンダムは有線ビーム砲を薙ぎ払って行く。
 その様子は流派東方不敗流の奥義の一つ、超級覇王電影弾を思わせる。
 マスターガンダムは有線ビーム砲を剥ぎ払い、パトゥーリアに突撃すると、パトゥーリアの装甲をぶり抜いて出て来る。
 そして、パトゥーリアを目がけて急降下しながら、パトゥーリアに蹴りを入れる。
 その蹴りによってパトゥーリアの巨体は真っ二つに避けていく。

「何だ……アレは……」
「流石師匠です!」

 武器も使わずにパトゥーリアを破壊する様子にニルスは軽く茫然とし、師である珍庵のバトルをまじかに見れてマオは目を輝かせている。

「何しとるん! マオは自分の役目をしぃ!」
「分かってますよ! 師匠!」

 パトゥーリアを珍庵のマスターガンダムが倒した事で砲撃部隊の壊滅は何とか食い止める事は出来た。
 それでも、砲撃部隊の被害は尋常で事実上、壊滅したも同然だ。
 だが、ガンダムアシュタロンHCとガンダムヴァサーゴCBが健在である以上は次にサテライトランチャーを撃ち込まれると、確実に砲撃部隊は壊滅するだろう。
 そうなればその2機は次は前線のガンプラを破壊に向かうだろう。
 味方への被害を無視すれば、サテライトキャノンはア・バオア・クーへと侵攻部隊に対して脅威となる。
 ガンダムX魔王はサテライトランチャーを撃たれる前に仕留める為にハイパーサテライトキャノンのチャージを急ぐ。
 その間にパトゥーリアを仕留めたマスターガンダムが次々とモックを破壊して行く。
 しかし、チャージは一足先にサテライトランチャーの方が早かった。
 サテライトランチャーはガンダムX魔王に対して放たれた。

「あかん!」
「やらせはしません!」

 放たれたサテライトランチャーは真っ直ぐガンダムX魔王に向かって行く。
 チャージに気を取られ過ぎていた為、回避が間に合わず直撃するかのように思われた。
 しかし、間に戦国アストレイが入り込み、二本のサムライブレードをクロスさせてサテライトランチャーを正面から受け止めた。

「ニルスはん!」

 圧倒的な威力を持つサテライトランチャーをビームを切り裂く刀であるサムライソードを持ってしても完全に切り裂く事は出来ない。
 受け止めたビームの余波で戦国アストレイはダメージを受けていく。
 やがて、サテライトランチャーの掃射が終わると、ボロボロの戦国アストレイが残されていた。

「マオ君!」
「後はワイに!」

 ボロボロになりながらもサテライトランチャーを戦国アストレイが受け切って、ガンダムX魔王もハイパーサテライトキャノンのチャージが完了していた。
 ガンダムX魔王はチャージを終えると、ハイパーサテライトキャノンを構えて放つ。
 サテライトランチャーは撃ったばかりである為、すぐには使えない。
 ガンダムヴァサーゴCBはガンダムアシュタロンHCから降りると、トリプルメガソニック砲で応戦する。

「無駄や! ニルスはんが体を張ってまで稼いだ時間で撃ったんや! 止められる訳がない!」

 トリプルメガソニック砲とハイパーサテライトキャノンがぶつかり合うが、すぐにハイパーサテライトキャノンが打ち勝つ。
 ガンダムアシュタロンHCとガンダムヴァサーゴHBは一瞬でハイパーサテライトキャノンのビームに飲み込まれて消滅した。
 
「まだや!」

 ガンダムアシュタロンHCとガンダムヴァサーゴHBを消滅させたハイパーサテライトキャノンはそのまま、前線への砲撃支援となる。
 そして、戦場を一気に横切る。

「ガンダムX魔王! お二人に力を!」

 戦場を横切るハイパーサテライトキャノンの射線上には最前線で戦うセイとレイジのスタービルドストライクの戦う戦場があった。










 タツヤとタケシと共にアルヴァロンと交戦するセイとレイジは苦戦していた。
 3機がかりとはいえ、アルヴァロンは強力なGNフィールドで身を守っている。
 アメイジングエクシアが接近しようにも、アルヴァロンの収束ビーム砲はGNフィールドで守っても押し返される程だ。
 
「レイジ! サテライトキャノンが来る!」
「は? そう言う事かよ!」

 後方のガンダムX魔王の撃って来たハイパーサテライトキャノンが戦場を横切って、スタービルドストライク達が戦っている場所まで到達していた。
 それに合わせるようにスタービルドストライクはハイパーサテライトキャノンの射線上に入ると、アブソーブシールドでハイパーサテライトキャノンのビームを吸収する。
 決勝トーナメントではその威力から粒子を完全に吸収しきれずに吸収口を破損させられたが、戦場を横切って威力の落ちていたハイパーサテライトキャノンならば、吸収も出来た。
 そして、それがわざわざスタービルドストライクのいる方向に対してハイパーサテライトキャノンを撃った意図でもあった。

「これでディスチャージシステムが最大出力で使える!」
「レイジ君、イオリ君。ここは僕達に任せて君たちはア・バオア・クーに!」
「ですけど……」
「構わない。行くんだ」

 ディスチャージが使えるようになったことで、それを使えばア・バオア・クーに到達する事も出来る。
 だが、この場から離脱すれば戦力が落ちる。
 ただでさえ、アルヴァロンのGNフィールドに苦戦している為、戦力が低下するよりもディスチャージシステムを使ってアルヴァロンを倒した上で3機で向かうと言う事も出来る。

「セイ、ここは2機で十分だ。君たちはア・バオア・クーに向かってガンプラの未来を切り開いて来るんだ」
「父さん……」
「行くぞ。セイ」
「分かった……ディチャージシステム、最大出力だ!」

 スタービルドストライクはディスチャージシステムのスピードモードを起動させる。
 プラフスキーパワーゲートを潜り、プラフスキーウイングを展開する。
 そのまま、プラフスキーパワーゲートを背中に付けて、スタービルドストライクは一気にア・バオア・クーへと向かう。
 アルヴァロンがGNビームライフルを向けるが、パーフェクトガンダムがビームキャノンで妨害する。

「悪いが、息子たちの邪魔はさせない」
「タケシさん! 僕が盾になって前衛を務めます!」
「任せた!」

 アメイジングエクシアにはGNアーマーとドッキングした事でGNフィールドを展開できる。
 その上、アルヴァロンのGNフィールドに対して有効的な実体剣を装備している。
 アルヴァロンが両手のGNビームライフルを放ち、アメイジングエクシアがGNフィールドを使って防ぐとパーフェクトガンダムがビームキャノンを放つ。
 ビームをアルヴァロンはかわし、アメイジングエクシアが接近を試みる。
 ある程度、接近したところで大型アメイジングGNソードを振るう。
 だが、アルヴァロンは赤く発光して急加速により回避した。

「トランザムだと!」
「あの時代の疑似GNドライブ搭載機では使えなかった筈だが……」

 アルヴァロンは赤く発光している。
 それは明らかにトランザムシステムを使っている。
 ガンダムOOのガンプラで一部はエフェクトとしてトランザムの使用が可能だが、それが出来るのは作中でトランザムシステムが明確に搭載されているモビルスーツのガンプラのみだ。
 アルヴァロンが出て来た時にはトランザムはソレスタルビーイングのガンダムに搭載されているオリジナルのGNドライブを搭載しなければトランザムは使えない。
 その為、普通ではアルヴァロンはトランザムは使えない筈だった。

「厄介な物を……」

 トランザムシステムを使って機動力の増したアルヴァロンはアメイジングエクシアやパーフェクトガンダムの攻撃を掻い潜る。
 そして、アメイジングエクシアよりも先にパーフェクトガンダムを狙う。

「タケシさん!」
「そう簡単にやられる訳にはいかないさ」

 パーフェクトガンダムは火力はあるが、機動力はさほど高くはない。
 だが、アルヴァロンの攻撃を紙一重で回避して、ビームガンで反撃する。
 何発かを牽制に使って、アルヴァロンの動きを制限した上で狙うも、アルヴァロンはGNフィールドで防ぐ。
 タケシのパーフェクトガンダムを先に狙われた事で、注意がそちらに向いた事でアメイジングエクシアのGNアーマーにモックの攻撃が被弾した。

「しまった!」

 すぐにGNアーマーとのドッキングを解除した為、アメイジングエクシアへの被害は無かった。

「仕方が無い……トランザム!」

 アルヴァロンのトランザムが切れるまで待つと言う手もあったが、機動力で翻弄されている為、長期戦には持ち込みたくはない。
 下手をすれば、自身もトランザムの限界時間で窮地に立たされる可能性があったが、今は気にする必要はない。
 単機ならともかく、タケシが居る為、ある程度のフォローは受けられる。
 何より、セイとレイジのスタービルドストライクがア・バオア・クーに突入している。
 最初の難関をクリアした為、ア・バオア・クーに取りつくよりも、強敵を一機でも多く撃破する事で、セイとレイジの負担を軽くする方が優先される。
 トランザムを使ったアメイジングエクシアはアルヴァロンを追いかける。
 機動力においては元々の性能でアメイジングエクシアに分があった。
 アルヴァロンを抑えながら、アメイジングGNソードのライフルモードで攻撃するが、アルヴァロンのGNフィールドを貫く事は出来ない。

「やはり、実体剣でなければGNフィールドは突破できないか……だが」

 アメイジングエクシアのアメイジングGNソードはネオジオングを倒した際に刀身が限界に近づいている。
 普段ならともかく、今の状況で何度もGNフィールドを貫こうと出来る訳ではない。

「チャンスは一度か……」

 刀身が持つのは一度が精々と言う所だろう。
 アルヴァロンのビームをかわしながら、チャンスを見計らう。
 アメイジングエクシアとアルヴァロンは高速で動きながらもビームを撃ち合うが、どちらも決め手には欠けている。

「トランザムの限界時間が……」

 後にトランザムを起動させた筈のアメイジングエクシアの方が先にトランザムの限界時間を迎えようとしていた。
 あれだけビームやGNフィールドを使っても尚、アルヴァロンはまだトランザムを使い続ける事が出来るようだ。
 トランザムが限界時間を迎えれば、アメイジングエクシアは戦力どころか、足手まといにしかならない。
 焦りを感じつつも、チャンスを見計らうしかなかった。
 アルヴァロンがGNビームライフルを向けた瞬間にパーフェクトガンダムがビームキャノンを放つ。
 アルヴァロンはとっさにかわそうとするが、GNビームライフルが破壊された。
 タツヤがチャンスを見計らっていたように、タケシもまた、決定的なチャンスを生み出すためのタイミングを見計らっていた。

「今だ!」

 アルヴァロンがGNビームライフルを失った事で、最初で最後のチャンスが訪れた。
 アメイジングエクシアは被弾も覚悟で、アルヴァロンに突撃した。
 アメイジングエクシアに向けていたGNビームライフルを失った事で、アルヴァロンはGNフィールドで身を守るしかない。
 
「貫け!」

 アメイジングGNソードを正面からGNフィールドで受け止めるが、次第に先端からGNフィールドに入り込んでいく。
 同時にアメイジングGNソードの刀身にヒビが入って行く。
 だが、刀身が限界を超える前に何とかGNフィールドを突破し、アメイジングGNソードはアルヴァロンに突き刺さる。
 アルヴァロンに突き刺さった事で遂に限界を迎えて、アメイジングGNソードは折れてしまう。

「タケシさん!」

 アルヴァロンのGNフィールドを突破して、アメイジングGNソードを突き刺した時点で、アメイジングエクシアのトランザムが限界時間を迎えていた。
 GNフィールドを突破して、アメイジングGNソードが突き刺されるも、アルヴァロンはまだ動く事が出来た。
 それでも受けた損傷は激しくトランザムも解除されている。
 その隙を逃すこと無く、パーフェクトガンダムがビームキャノンで止めを刺した。

「何とかなりましたね」
「後はセイ達に任せよう」

 すでにアメイジングエクシアはトランザムを限界時間まで使ったため、戦力外だ。
 パーフェクトガンダムも火力は高くても、ここから単機でア・バオア・クーまで行くのは困難だった。
 後は、モックを1機でも多く仕留める事しか二人には出来ない。
 すでにア・バオア・クーに突入した二人のスタービルドストライクが大型アリスタを破壊して来る事だけを信じるしかなかった。
 










 ディスチャージシステムを使ってスタービルドストライクはモックを強引に蹴散らしてア・バオア・クーへと突入に成功していた。
 中に入り込んでしまえば、数の差は大して意味を成さなくなる。
 だが、ア・バオア・クーの内部にはモックはいなかった。

「どこにあるんだよ」
「分からない。だけど、今は奥に進むしかないよ」

 突入したものの、肝心の大型アリスタの位置は分からない。
 それどころか、内部の構造すらも分からない状況だ。
 幾ら、セイがガンダムの知識を豊富に持っていても作中に登場する要塞の見取り図など明確に設定されている訳でも無い為、知りようがない。
 要塞系のバトルフィールドにおいて、要塞内の構造は毎回同じではない。
 同じにしてしまうと繰り返せば構造を覚えてしまうファイターも居る為、面白みが無くなると言う事でいくつかのパターン化がされて、その中からランダムに選ばれる。
 その為、道は完全に把握が出来ないが、今は前に進むしかない。
 スタービルドストライクが通路を進んでいると、開けた空間に入る。
 そこに入った途端にバトルフィールドの更新によって、入って来た通路が消える。

「閉じ込められた!」
「レイジ! 敵だ……アレはガンダムレギルス!」

 スタービルドストライクは完全に空間に閉じ込められる形となってしまった。
 そして、スタービルドストライクの目の前に真紅のガンダムレギルスが待ち構えていた。

「ガンダム? あいつが?」
「火星圏の独立国家ヴェイガンがガンダムAGE-3 オービタルのデータを元に開発したガンダム。閉鎖空間で相手にするのは厄介が相手だよ」

 ガンダムレギルスはシールドからレギルスビットを展開する。

「気を付けて! あの光は一つ一つがビームでファンネルのように使える!」
「さっきの奴と似たような武器か!」

 ガンダムレギルスはレギルスビットをスタービルドストライクに差し向ける。
 スタービルドストライクは頭部のバルカンで迎撃しながら、回避する。
 だが、レギルスビットの利点の一つは通常、ファンネルやビット兵器の数には限界があるが、ガンダムレギルスの胞子ビットにはそれが明確にない。
 スタービルドストライクが幾ら迎撃しても、新しく出す為、数を減らすことが出来ない。

「くそ!」

 プロヴィデンスと交戦しているときには宇宙空間と言う事もあって、モックとぶつかる事を気を付けていれば良かったが、閉鎖空間では動きが制限されてしまう。
 スタービームライフルでレギルスビットを撃ち落していたが、別方向からのレギルスビットがスタービームライフルを捕える。
 すぐにスタービームライフルを捨てて、爆風からアブソーブシールドで身を守るが、ガンダムレギルスはレギルスライフルを放った。
 アブソーブシールドを掲げた状態で、吸収口を開閉する前にビームを受けた事でビームを吸収する事無く、アブソーブシールドが破壊された。

「シールドが! これじゃディスチャージが使えない!」

 マオから受け取った粒子はア・バオア・クーに突入する為に使い切っている。
 再度、ディスチャージシステムを使う為にはアブソーブシステムで粒子を集めるしかなかった。
 アブソーブシールドが破壊された事でアブソーブシステムだけではなく、ディスチャージシステムも事実上、使えなくなった。
 残るはRGシステムだが、使いどころが難しく、RGシステムしか使えない状況では出来る事も限られて来る。
 ガンダムレギルスはレギルスライフルを手放すと、頭部のバイザーが上がりツインアイを晒す。
 そして、バックパックが開閉すると翼のようになり、両手からビームサーベルを展開して、スタービルドストライクに切りかかる。
 スタービルドストライクはスタービームキャノンで応戦するが、回避されてビームサーベルで迎え撃つ。
 ガンダムレギルスのビームサーベルを受け止めるが、ガンダムレギルスはスタービルドストライクを蹴り飛ばすと、股の下から尾のレギルスキャノンを放つ。

「何だよ! こいつ!」
「今までの相手とはレベルが違う!」

 ここに来るまでにセイとレイジはプロヴィデンスとアルヴァトーレと交戦している。
 まともに交戦する事無く、タケシによって破壊されたアルヴァトーレはともかく、プロヴィデンスは大きな改造こそはされていないが、高い戦闘能力を持っていた。
 だが、目の前のガンダムレギルスはそれとは比べものにならない力を持っている。
 それも当然だ。
 そもそも、この事態そのものがユキネがマシロをガンプラバトルに引き戻す為に画策したものだ。
 ユキネの予定ではこの場に居るのはセイとレイジではなく、マシロの筈だった。
 そして、この真紅のガンダムレギルスは大型アリスタを破壊して事態を収束させるための最後の敵として用意された物だ。
 その為、このガンダムレギルスはマシロと正面から互角に戦えるだけの力を与えられている。

「だからってな!」

 スタービームキャノンを放つが、ガンダムレギルスを捕える事が出来ない。
 勢いをつけての斬撃を何とかビームサーベルを使っていなしているが、完全に防戦一方だ。
 ガンダムレギルスがビームサーベルを振るいながら突っ込み、スタービルドストライクは何とかビームサーベルで受け止めるが、勢いまでは止める事が出来ずにそのまま、壁まで叩き付けられる。
 壁に叩き付けられたスタービルドストライクを上から覆いかぶさるようにガンダムレギルスはスタービルドストライクを抑え込む。
 そして、頭部のバルカンを使おうとしたスタービルドストライクの頭部を掴むと握り潰しながら頭部を引き抜いて後ろに捨てる。
 その後、何度もスタービルドストライクを殴る。
 押さえつけられている為、まともに防御の取れないスタービルドストライクは抵抗も出来ずに殴られるままだ。
 
「どうにも出来ないのかよ!」
「レイジ!」

 スタービルドストライクを殴っていたガンダムレギルスの動きが止まると、胸部のビームバスターが光り始める。
 明らかにこの至近距離から、ビームバスターを撃ち込んで来るつもりだ。
 流石のスタービルドストライクもこの距離でビームバスターを撃ち込まれたら終わりだ。

「させるかよ!」

 ビームバスターが撃ち込まれるよりも先にビルドストライクはRGシステムを起動させた。
 RGシステムにより機体性能を底上げされたスタービルドストライクは強引に、ガンダムレギルスの拘束を解いた。

「好き勝手にやってくれたな!」

 ガンダムレギルスの拘束を解くと、距離を取られる前に左手でガンダムレギルスを掴んで逃げれないようにする。
 
「こいつはその礼だ! 受け取れ!」

 逃げれないようにした状態でスタービルドストライクは右手を振り上げる。
 そして、ガンダムレギルスの胴体を目がけて殴りかかる。
 殴る瞬間にセイがRGシステムの操作して、右手にRGシステムのパワーを収束させた。
 殴る前にビルドナックルにしてしまうと、ガンダムレギルスの拘束を解かれる危険性があった為、セイがレイジの攻撃のタイミングに合わせた。
 スタービルドストライクがガンダムレギルスを殴る直前にRGシステムを使っただけの攻撃がビルドナックルとなり、ガンダムレギルスの胸部に突き刺さる。
 ガンダムレギルスは爆発を起こして、スタービルドストライクは至近距離で爆風を受ける。
 爆風から飛び出たスタービルドストライクはガンダムレギルスを掴んでいた左腕を失ったものの動く事には支障はないようだ。

「レイジ! まだ終わってない!」

 ガンダムレギルスを倒したかに思われたが、ガンダムレギルスは爆発の直前に、頭部やバックパックを分離させたレギルスコアとして一部が難を逃れていた。
 しかし、レギルスコアとなったガンダムレギルスに先ほどまでの戦闘能力は無い。
 レギルスコアはそれ以上の戦闘行為をする事無く、逃げ始めた。
 
「逃がすかよ!」

 閉鎖空間だったが、レギルスコアが壁に近づくとバトルシステムが再度更新されて、出口が出て来た。
 スタービルドストライクは戦闘の序盤で手放したレギルスライフルを回収して、レギルスコアを追いかける。

「気を付けて、罠の可能性もあるから」

 レギルスコアが逃げた時にスタービルドストライクを完全に閉じ込める事も出来たが、それをしなかったと言う事はこの先に罠を仕掛けて待ち構えている可能性が高い。
 レイジも相手が殆ど戦闘能力がないが、周囲だけは警戒してレギルスコアを追う。
 通路は一本道で途中で内部データが更新されたようには見えないが、いつの間にか、レギルスコアを見失っていた。

「どこに……この場所は……まさか、レイジ……曲がり道で上に曲がる時には気を付けて、そこにレギルスコアが居るかも知れない」
「分かった」

 セイの忠告は具体的だが、そう思う理由までは問わない。
 セイがそう言うならセイなりに何か確信を持って言っている。
 そして、スタービルドストライクの進路上に壁が見えた。
 上が開けている事から、レイジはセイの忠告通りに集中する。
 スタービルドストライクは曲がり角に入るとすぐに上に向けてレギルスライフルを向けた。
 そこにはセイが言った通りに、レギルスコアがレギルスキャノンを向けていた。
 レギルスコアの後ろには二人も持っているアリスタと同じだが、その大きさは段違いである大型アリスタがあった。
 ある程度の損傷を受けて戦闘不能となった時にガンダムレギルスはレギルスコアだけを逃がして、マシロをここまで案内する役目も兼ねていた。
 尤も、ここまで連れて来たのはマシロではないがコンピュータ操作のガンダムレギルスにはそこまでを見分ける事は出来ない。
 レギルスコアの最後の役目として、大型アリスタの前で追撃者を待ち構えいた。
 レギルスコアとスタービルドストライクはほぼ同時にビームを放つ。
 レギルスコアの撃ったビームはスタービルドストライクの右腕と右足を撃ち抜いた。
 スタービルドストライクの撃ったビームはレギルスコアを撃ち抜いてレギルスコアは撃墜された。
 片足を失った事でスタービルドストライクは崩れ落ちるように倒れた。

「もう少しだってのに!」
「まだ手はある!」

 頭部と両腕、右足を失った事でスタービルドストライクは戦闘能力の殆どを失って倒れた。
 大型アリスタを前にまともに戦う事すら出来ないが、幸いにもバックパックのユニバースブースターへの損傷はほとんどない。
 スタービルドストライクからユニバースブースターが分離して上昇して行く。
 大型アリスタの周囲に敵影はいない。
 
「ようやくここまで辿り付いたな」
「そうだね」
「こいつを破壊すれば終わるんだな」
「うん」

 全てはこの大型アリスタを破壊する為にここまで来た。
 多くのファイター達がガンプラバトルを守る為に絶望的な戦力差を知りながらも、諦める事無く戦い、遂にセイとレイジはここまでたどり着いた。
 大型アリスタを破壊すれば、この騒動を収束させる事が出来る。
 だが、同時にセイもレイジも口にこそしないが、薄々感じていた。
 これを破壊してしまうとガンプラバトルが今までのようには出来なくなるかも知れないと言う事に。

「行こう。レイジ。可能性がない訳じゃないんだ。でも、ここで終わらせないとそんな可能性すらも無くなるかも知れないから」
「だな」

 どの道、この事態の後にはガンプラバトルにとって厳しい時代が来るかも知れない。
 だが、ここで終わらせなければ、二度とガンプラバトルが出来なくなるかも知れない。
 ならば、躊躇う事は出来ない。
 ユニバースブースターは2門のスタービームキャノンを大型アリスタに向ける。

「「行っけぇぇぇ!」」

 2門のスタービームキャノンからビームが大型アリスタに撃ち込まれる。
 ビームの撃ち込まれた大型アリスタは簡単に破壊された。
 大型アリスタを破壊した事で爆発が起きて爆風にユニバースブースターは飲み込まれる。


 






 大型アリスタが破壊された事でモックやア・バオア・クーから出て来たガンプラの動きが全て停止した。
 始めから大型アリスタが破壊された時点で機能が止まるようになっていたからだ。
 大型アリスタが破壊された事で、ア・バオア・クーの至るところで爆発が起きて、ア・バオア・クーが崩壊して行く。
 敵が停止した中で、ファイター達は崩壊するア・バオア・クーを見ていた。
 同時にモック達の機能が停止した事と合わせて考えると誰かが大型アリスタを破壊したのだと誰もが理解した。
 そして、崩壊するア・バオア・クーから満身創痍のスタービルドストライクが飛び出して来る。
 大型アリスタを破壊した時の爆風を受けたものの、距離があった事もありユニバースブースターの損傷は大きくは無かった。
 その後、本体のスタービルドストライクとドッキングして何とか、崩壊するア・バオア・クーから脱出して来た。

「終わったんだな」
「うん」

 外から崩壊するア・バオア・クーを見て全てが終わったと言う事を実感する事が出来た。
 脱出したスタービルドストライクは脱出するのに全ての力を使い果たしたかのように宇宙を漂う。

「イオリ君!」
「委員長! 委員長も来てたんだ」
「うん。私もイオリ君たちの力になりたくて」

 漂うスタービルドストライクの横にセイの同級生でガールフレンドのチナのベアッガイⅢが寄り添う。

「全く。ボロボロじゃない」
「お前が言うなよ」

 スタービルドストライクもボロボロだが、合流したアイラのサザビー改も何とか原型を留めている状態だ。
 大型アリスタが破壊された事で、大型アリスタの暴走により過剰に生成されたプラフスキー粒子がバトルシステム外に放出されて結晶化される事も無い。
 それにより大型アリスタの暴走により起きた事件は一応の終結となった。




[39576] Battle55 「それぞれの想い」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/11/16 22:42
 世界大会準決勝第二試合のメイジンカワグチVSセイ、レイジ組のバトル中に起きた大型アリスタ暴走事件はスタービルドストライクが大型アリスタを破壊した事で集結した。
 大型アリスタが破壊された事で、周囲のプラフスキー粒子が舞っていた。

「結局、しろりんは来なかったわね」

 大型アリスタを破壊してバトルしていたファイター達は一息つく中、ユキネは一人つまらなそうにしていた。
 元々、大型アリスタが暴走したのはユキネが細工したからだ。
 全てを知ってバトルから離れたマシロをガンプラバトルに引き戻す為だ。
 大型アリスタが破壊されたところでマシロが戻って来なければ意味はない。

「まぁ、興味深い物も見れたから別に良いけど」

 ユキネの見立てでは、戦力差が1万倍と言う絶望的な状況下でファイター達が勝つ事は不可能ではないが、限りなく不可能に近かった。
 だが、彼らは勝った。
 
「後は好きにしたら良いわ」

 マシロが戻らない以上、ユキネに取ってはガンプラバトルは何の価値もない。
 ユキトが好きに使っても別に構わない。
 
「私はもう少し向こうでやりたい事もあるしね」

 ユキネはそう言って、誰に気づかれる事無く姿を消した。



 

 ユキネが消えた事に誰一人気づく事は無かった。
 バトルが終わって落ち着いた頃に、マシタが悲鳴を上げて、一同の視線がマシタに向く。
 大型アリスタの暴走の後でさほど驚く事ではないが、マシタが次第に透けていた。

「いっ嫌だ! せっかくこっちの世界で成り上がれたのに! ユキネちゃん! 何とか!」

 マシタは自分の体が透けている意味に気づいていた。
 元々、アリスタはアリスタ同士共鳴し合う事が出来る。
 大型アリスタが暴走し、破壊された事でマシタが持っていたアリスタも壊れてしまった。
 アリスタによってアリアンからこちらの世界に転移している為、アリスタが壊れてしまった事もあって、マシタはアリアンに戻されるのだろう。
 マシタにとってはアリアンに戻れば罪人として捕まり罰を受ける事になり兼ねない。
 王家の宝物庫からアリスタを持ち出した事は重罪だ。
 下手をすれば死罪もあり得る。
 その上、こちらの世界では世界的企業のPPSE社の会長と言う社会的な地位も獲得している。
 それを失いたくはないが為に最後の望みであるユキネに頼ろうとするも、すでにユキネの姿はない。

「会長!」

 騒動が収まってベイカーがマシタと合流しに来たが、マシタの姿が消えていく最中だった。
 ベイカーはとっさにマシタに手を伸ばした。
 そして、ベイカーの手がマシタに届いた瞬間にマシタはベイカーと共に姿を消した。
 目の前で人が姿を消した事は流石に皆も驚いているが、レイジだけは驚く事もなかった。
 軽く自分の腕輪に視線を向けるとタツヤの方を向く。

「まだ、俺達のバトルの決着はついてないぜ」
「アンタはこんな時に何言ってんのよ!」

 アイラの言葉を無視して、レイジはタツヤの前に立つ。

「まさか、このままお流れって事はないよな?」
「……確かに。このまま有耶無耶にするのは気が進まないな」

 大型アリスタを破壊した今、誰も口にしないがガンプラバトルに必要なプラフスキー粒子を生成する事が出来なくなった。
 そうなれば、いずれガンプラバトルが出来なくなる。
 そうなる前に、準決勝の決着を付けたかった。

「だけど、レイジ……僕達のガンプラは」

 セイはレイジにスタービルドストライクを見せる。
 大型アリスタを破壊するまでにスタービルドストライクは大破している。
 とてもすぐに修理出来るレベルではない。

「たく……なら俺のフェニーチェのパーツを貸してやるよ」

 フェリーニは自分のガンダムフェニーチェリナーシタの両腕をセイに渡す。
 
「フェリーニさん」
「なら、僕の戦国アストレイの足も使って下さい」

 今後はニルスが、戦国アストレイの両足を差し出す。

「なら、ワイからはハイパーサテライトキャノンをお貸しします」
「流石にそれは……」
「冗談ですって。流石にそう簡単にワイのガンダムX魔王のハイパーサテライトキャノンは扱いこなせませんからね」

 マオがセイにシールドバスターライフルを渡す。

「全く……これで少しは身を守る事が出来るでしょ」

 アイラはサザビー改で唯一、まともに使えそうなビームナギナタの付いたシールドを渡した。
 仲間たちから受け取ったパーツをスタービルドストライクにつけていく。
 それによって不格好ならがもバトルが出来そうだ。

「イオリ君! これも使って!」
「委員長!」

 息を切らしながら、チナが自分のベアッガイⅢに付いているリボンストライカーをセイに手渡す。
 
「なら、最後は俺のビギニングだな」

 レイジは初めて自分で作ったビギニングガンダムの頭部をスタービルドストライクに取りつけた。
 最終的に大型アリスタを破壊する際に破損した部分は仲間のガンプラによって補う事が出来た。

「こっちのガンプラの準備は出来たぜ」
「僕の方も問題はないよ」

 タツヤの準備が終わり、セイとレイジはバトルシステムを挟んでタツヤと対峙する。
 タツヤはバトルフィールドにケンプファーアメイジングを置いた。
 先の戦闘ではアメイジングエクシアの損傷はすぐに直せる程度だ。
 それでも、タツヤは準決勝はケンプファーアメイジングで臨むと決めていた。
 ここで、ガンプラをアメイジングエクシアに変更しても、セイもレイジも文句は言わないだろう。
 だが、あのバトルで大型アリスタが暴走しなければ、バトルに負けていたかも知れない。
 そんな状況でガンプラを変えないのはタツヤなりのケジメなのだろう。
 ケンプファーアメイジングは準決勝での損傷を最低限の修理と両腕にトランザムGNブレイドを装備させているだけだ。
 
「行くよ。イオリ君! レイジ君!」
「行くぜ!」

 バトルフィールドはフォレストでバトルが開始された。

「なぁ……セイ、溜まんないよな! ガンプラバトルはよ!」
「そうだね」

 ケンプファーアメイジングが見えて来たところで、スタービルドストライクはマオから借りたシールドバスターライフルで先制攻撃を行う。
 それをケンプファーアメイジングは最低限の動きで回避する。

「でも、多分、それはお前と一緒だからだろうな」
「レイジ?」

 セイはレイジの様子が少しおかしいと感じた。
 まるで、このバトルがレイジとの最後のバトルかのようだ。

「うん。僕もレイジに会えたから今、ここに居る」
「そいつは違うな。俺もガンプラを作って見たから分かる。お前の作るガンプラは本当に凄いぜ。こんなガンプラが作れる奴はガンプラが好きで好きで堪らないから出来るんだろうな。そんなお前ならいつかは俺やユウキと同じところまで来れる」
「僕にはそんな事は……」
「ガンプラが好きなら諦めんなよ」

 ケンプファーアメイジングがトランザムGNブレイドを振るい、スタービルドストライクはシールドバスターライフルを捨ててビームナギナタで受け止める。

「そんでさ……いつかバトルしようぜ。俺とお前で」

 ケンプファーアメイジングに押し切られて、スタービルドストライクは後方に飛び退きながらもビームバルカンで牽制する。

「レイジ……」
「約束だぞ。絶対にいつか一緒に……」

 バトルが進む中、レイジの姿も次第に薄くなって行く。
 マシタのアリスタが壊れたようにレイジが持っていたアリスタも壊れていた。
 それによりこちらの世界に留まれなくなったようだ。
 同様にセイやアイラが持っているアリスタも壊れている。
 自分の持っているアリスタが壊れたと気付いたからこそ、レイジはタツヤとの決着をこの場でつけようとしていた。

「うん! 約束する! だから!」
「来るぞ!」

 ケンプファーアメイジングは距離を詰めてトランザムGNブレイドを振るい、スタービルドストライクはシールドで受け止めるが、シールドが弾き飛ばされてしまう。

「僕は君たちが羨ましかった。共にバトルをして勝利を分かち合い、苦難を支え合う。そんな関係が」

 ケンプファーアメイジングのトランザムGNブレイドをビームナギナタで受け止める。
 タツヤは今まで多くのファイターと出会って来た。
 その中でバトルを通じて、絆を紡いできた。
 だが、そんな彼らもタツヤと共に戦う道に進む事は無かった。
 だからこそ、常に二人で戦って来たセイとレイジの事を羨ましくも思った。

「だから、僕は君たちに勝つ! そして、僕は彼と同じ高見に立って戦う!」
「上等だ! 俺達のも負けられないんだよ!」
 
 ケンプファーアメイジングとスタービルドストライクは戦略も何も無く切り合う。

「レイジと出会えたから!」
「セイと出会ったから!」
「僕はここに居る!」
「俺はここまで来た!」

 ケンプファーアメイジングを弾き飛ばすとビームナギナタを突き出す。
 それをケンプファーアメイジングがトランザムGNブレイドの刃で受け流す。

「そんな君たちを僕は超える!」

 ビームナギナタを流しながら、もう片方のトランザムGNブレイドを振るうが、フェリーニから借りたガンダムフェニーチェリナーシタのビームマントがケンプファーアメイジングの刃を止める。

「アンタに勝つ為に俺達はここまで来たんだ!」
「ユウキ会長に勝ってマシロさんにも!」

 攻撃を受け止めるスタービルドストライクは膝蹴りでケンプファーアメイジングを吹き飛ばすが、ケンプファーアメイジングは空中で一回転して着地する。

「その覚悟を僕の覚悟で撃ち破る!」
「アンタを超えてその先に!」
「僕達は行くんだ!」

 ケンプファーアメイジングとスタービルドストライクは一気に距離を詰める。
 そして、同時にトランザムGNブレイドとビームナギナタを振るう。
 だが、どちらの斬撃が相手を切り裂く事は無かった。
 2機のガンプラはバトルシステムの上で止まっていた。
 最後の一撃がどちらかに決まる事も無く、大型アリスタの破壊によって舞っていたプラフスキー粒子が切れたことでガンプラはただのプラモデルとなってしまった。

「くっそ……相変わらず強ぇな……」
「うん。後、少しで届いたんだけどな」

 プラフスキー粒子が無くなった事で、またバトルが中断された。
 レイジはセイの方に振り返る。

「悪りぃ。また、負けた」

 レイジはセイにそう言う。
 バトル自体は粒子が切れたことで中断された。
 しかし、止まったガンプラを見て、レイジは自分達の負けだと悟った。
 スタービルドストライクのビームナギナタをケンプファーアメイジングは片腕で止めようとしている。
 対するケンプファーアメイジングのトランザムGNブレイドはスタービルドストライクの腰に触れている。
 もしも、あのままバトルが続行していた場合、スタービルドストライクの攻撃は止められて、ケンプファーアメイジングの刃がスタービルドストライクを切り裂いていただろう。

「大型アリスタが暴走しなければ、負けていたのは僕の方かも知れない」
「どうだろうな」

 確かに大型アリスタが暴走する前のバトルではセイとレイジが優勢だった。
 だが、明確に勝敗が付いていた訳ではない。
 タツヤ程のファイターなら最後の最後まで諦めずに戦って、状況が変わったかも知れない。
 尤も、過ぎてしまった事でもしもと言っても意味はない。
 
「セイ……またな」
「次に会う時は強くなってるから!」
「楽しみにしてるぜ」

 涙を堪えながらセイはレイジを笑顔で見送る。
 そして、遂にレイジは完全に消えた。
 マシタに続いてレイジが消えたと言う事態だが、誰もその事に付いては触れようとしない。
 理由はどうあれ、セイとレイジのコンビはここに解消されたと言う事実があるだけだ。
 
「実に素晴らしいバトルだったよ」

 そんな空気を読まずにユキトが拍手しながら入って来る。
 ユキトにもレイジやマシタが消えた理由は分からないが、そんな事は今はどうでも良い。
 何とか大型アリスタの暴走を事故ではなく、演出としてやり過ごす事が出来た。
 セイとレイジの最後のバトルも全世界に中継した為、結果的にユキトの思惑は成功している。

「相方を失ったところで、申し訳ないが、君は3位決定戦をする気はあるかな? こちらとしてはやって貰いたいのだけどね。場合によっては新しい相方を見つけて来ても構わない」

 セイ、レイジ組とタツヤのバトルはタツヤの勝利に終わって、レイジはアリアンに帰ったが、世界大会はまだ終わっていない。
 後は準決勝で勝利したマシロとタツヤの決勝戦とその前に、準決勝で敗れたアイラとセイ、レイジ組との3位決定戦が残されている。
 決勝までは前夜祭を挟んで1週間後である為、セイが相方の不在で3位決定戦を辞退したところで幾らでも埋め合わせは出来る。
 だが、出来れば予定を変える事は避けたい。
 大型アリスタは破壊されたが、事前に生成していた粒子を使えば、3位決定戦と決勝戦を行う事は出来る。

「やります! だけど、新しい相方は必要ありません。僕がファイターとして出ます」

 ユキトはレイジの代わりを立てる事を良しとしているが、セイにはその気は無かった。
 セイにとっては自分の相方はレイジしかいないからだ。
 その為、例えバトルの実力は無くてもセイは自分でバトルする事を選んだ。
 ユキトとしては実力のないセイよりも誰か実力のあるファイターとレイジの代わりに出して欲しいがセイにその気がない以上は強制は出来ない。
 これが決勝戦ならどんな手を使ってでも代理を立てさせたが、3位決定戦は所詮は決勝戦の前座に過ぎない。
 
「分かった。1週間後の3位決定戦と決勝戦に期待するよ」

 ユキトは爽やかにそう言うが、マシタが消えた理由はともかく、PPSE社の会長及び会長秘書が行方を暗ませたと言う事はユキトにとってはチャンスだった。
 大型アリスタ暴走事件はクロガミグループの手によって、闇に葬られ、1週間後にはセイとアイラによる3位決定戦とマシロとタツヤによる決勝戦が行われる事となった。









 大型アリスタ破壊から一晩が明けた。
 大型アリスタの暴走でメインスタジアムに被害が出たが、すでに修復作業に取り掛かっている。
 一晩が明けてセイはマオとニルスと共にフリーバトルルームにいた。
 大型アリスタが破壊された事で、プラフスキー粒子の生成が出来なくなり、粒子はすでに生成してある備蓄分しか残されていない。
 その為、会場のバトルシステムには制限がかけられている。
 今日から1週間は決勝戦の前夜際として、会場では出店や毎日何かしらのイベントが行われる予定だ。
 本来ならば、前夜祭を楽しみたいところだが、セイはマオとニルスに頼んでバトルの練習をしていた。
 まずはビルドガンダムMk-Ⅱでマオとバトルするが、あっさりとセイは負けてしまった。

「何と言いますか……」
「思った以上やな」

 マオもニルスもセイのビルダーとしての実力は言うまでもないが、ファイターとしての実力は正直なところそこまでは無いと思っていた。
 だが、実際にマオがバトルしてみた結果、二人の予想以上に弱かった。
 ビルドガンダムMk-Ⅱはビルドストライクやスタービルドストライクと比べると機動力が落ちる分、扱い易い。
 それでも、マオのガンダムX魔王と序盤こそはそこそこ戦えていたが、最後はあっさりと負けた。

「ですが、とっさの判断やマオ君の動きの予測は大した物です」
「せやな。射撃精度が良ければヒヤリとしましたわ」

 実力だけを見ると良くて並と言う所だが、それでもバトルの中でセイはとっさの判断や相手の動きの予測に関しては光る物があった。
 レイジと共に世界大会を戦う中で、セイもまたセコンドとして戦って来た。
 世界も猛者を相手に戦って来た事はセイにとっても決して無駄ではなかった。
 だが、致命的に操作技術が足りてはいない。
 幾ら、相手の動きを予測して攻撃しても射撃の精度が低ければ意味はない。

「後、一週間であのアイラはんと戦えるだけの実力を身に着けるとなると……」

 アイラの実力は世界でも上位に入るだろう。
 そんなアイラと1週間でセイが対等に戦えるだけの腕を身に着けるのは難しい。

「分かってるよ。だけど、出来ないからって何もしなかったら、もっと何も出来ない。それに僕は1週間でそこまでの実力を身に着けれるとは思ってないよ」

 セイは家にバトルシステムがある為、普通のファイターよりも練習時間が多い。
 それでも何年も実力を付ける事が出来なかった。
 今更、1週間やそこらでアイラと戦えるだけの実力を身に着ける事が出来ないと言う事はセイ自身が一番良く分かっている事だ。

「でも、そこで諦めたくはないんだ。レイジとの約束もあるし、何より僕達の世界大会を何もしないで終わらせる訳には行かないから」

 レイジがアリアンに帰る時に約束した。
 ファイターとビルダーとしてではない、互いにファイターとしてバトルすると言う事を。
 だからこそ、セイは諦めたくはなかった。
 レイジは常に諦めなかった。
 後で聞いた話しだが、地区予選の前にレイジはフェリーニと相手に200回近くのバトルを行って練習していた。
 フェリーニは当然、愛機であるウイングガンダムフェニーチェを使い、レイジはセイのガンプラを使わずにバトルしていた。
 200回もバトルして負け続ければ普通は諦めるかも知れない。
 しかし、レイジは元々の性格もあって諦める事なくフェリーニに挑んだ。
 マシロと初めてバトルした時も圧倒的な実力差を見せつけられて勝機が無くとも、レイジは勝つ事を諦めずに向かって行った。
 レイジは元々、ファイターとして天才的なセンスを持っていたが、ここまでの実力を付けたのも諦めずに向かって行ったからだろう。
 セイはレイジと出会った時に、レイジなら自分のガンプラを完全に使いこなして、世界を相手に戦えると確信した。
 それと同時に心の奥底で諦めていた。
 自分が自分のガンプラで世界を目指すと言う事をだ。
 その事は後悔はしていない。
 だが、アイラとのバトルで何も出来ずに負けると言う事はしたくは無かった。
 すでに優勝する事は叶わないが、レイジと二人で臨んだ世界大会の最後のバトルをそんな形で終わらせる事はここまで共に戦って来たレイジの戦いをも無駄にしてしまう。

「それに、ファイターの実力がバトルの勝敗を決める絶対条件じゃないからね」

 セイは今更、自分がガンダムの主人公たちがそうだったようにバトルの中で才能を開花させると言う奇跡を信じてはいない。
 信じているのはレイジが最後に自分に言った言葉だ。
 諦めなければ、いずれは自分達と同じくらいに強くなれると言う言葉だ。
 その言葉を嘘にしない為にも、セイは諦める訳には行かなかった。
 実力差はあるが、セイには勝算がない訳ではない。
 その勝算を少しでも高める為に、少しでも腕を磨く必要があった。
 セイにはセイなりの考えがあると知り、マオもニルスも最後までセイの練習に付き合うことを決めた。







 前夜祭の半分が過ぎた頃、静岡県内の旅館でアイラは自身のガンプラの改造を進めていた。
 準決勝でマシロに敗北してから、セイとレイジの部屋に厄介になっていたアイラだが、後から3位決定戦が終わるまではホテルの自分の部屋を使えると言う事を知ったが、荷物をまとめて出て来た手前、戻る気にはなれなかった。
 色々と吹っ切れてネメシスにもフラナ機関にも戻る気は無い。
 今まで使っていた部屋でガンプラを制作するとチームやフラナ機関の人間に接触される事を避けて落ち着いてガンプラ制作に取り掛かる為にも戻る事は出来ない。
 始めはそのまま、セイとレイジの部屋で寝泊まりをして、セイからガンプラ作りを本格的に習おうとしたが、セイも自分の準備で忙しいと断られた。
 そして、最終的には静岡県内のセイの母親であるリン子が泊まっている旅館に厄介になる事が決まった。
 それだけではなく、アイラの身の上を聞いて行く当てのないアイラを暫くイオリ家で預かると言う話しまで出ていた。
 本来はセイに教わる予定だったガンプラ作りは、セイの代わりにラルさんからアドバイスを受けながら制作している。

「ほう……元の出来が良かったとはいえ、筋が良い」

 ラルさんは制作途中のガンプラをそう評価する。
 アイラが自分のガンプラの素材として使用していたのは、マシロから借りていたサザビー改だ。
 それを大型アリスタ戦で大破させている為、サザビーのキッドを買って来て修理してから改造している。

「足にビームサーベルを内蔵し、ファンネルを隠したか。メインの武器に注意を向けて不意を突くと言うのが基本的な戦いからだな。マシロ君と同じ戦法か」

 軽く見ただけでアイラが制作し、ミスサザビーと名付けたガンプラの特性をラルさんは見抜いていた。
 マシロは様々な戦い方が出来るが、最も得意としていた戦い方が相手の注意を何かに釘つけた上で相手の知らない新しいカードを切って来ると言う物だ。
 今のアイラには多くの隠しギミックを付けるだけの技術は無い為、足の先端にビームサーベルを内蔵するのと、ファンネルを従来の物からキュベレイなどが装備している小型の物にした上で外からは見えない部分に装備させる事でファンネルを付けていないように思わせる事だ。
 それにより格闘戦をしながら相手の不意を突く事をメインの戦い方としている。
 
「残りの時間でもう少し作り込んで見ます」
「油断はないようだな」

 ラルさんがひいき目で見てもファイターとしての実力には圧倒的にアイラに分があった。
 だが、アイラにはセイとバトルする上で油断はないようだ。
 3位決定戦はアイラにとっては世界大会の最後のバトルだが、自分のガンプラで戦う最初のバトルでもある。
 今まではマシロから借りたサザビー改を使い、キュベレイパピヨンもマシロから押し付けられた物だが、改造はフラナ機関によって行われている。
 ミスサザビーの素体に使ったサザビーもマシロからの借りものだが、キュベレイパピヨンの時とは違い自分で考えて改造している。
 セイとのバトルを最後に世界大会は終わるが、世界大会が終わった後にはマシロと面と向かってバトルをする気でいた。
 その為にも、セイとのバトルは全力を尽くさなければ胸を張ってマシロの前に立つ事は出来ない。
 最後にマシロとまともに話した時に勝つ気のない奴はバトルシステムの前に立つ資格がないと言っていた。
 レイジと別れても尚、戦う意志を持って自分と戦う事を選んだセイに対して、自分も持てる力の全てを出さなければマシロと対峙する資格はないと思っている。
 すでに殆ど完成しているが、少しでもガンプラの性能を上げる為に、ラルさんの指導の下アイラはガンプラ作りを行う。







 3位決定戦と決勝戦を明日に控えて、すでに日が落ちているがタツヤは会場内のPPSE社専用の制作スペースでガンプラの最終調整をしていた。
 最後の決勝戦だけはタツヤはメイジンとしての責務を完全に捨ててワガママを通していた。
 今まではPPSE社のワークスチームが用意したケンプファーアメイジングやアメイジングエクシアを使っていたが、次の決勝戦だけはタツヤが自分で作ったガンプラで戦うつもりだ。
 セコンドのアランもマシロとの因縁は聞いている為、タツヤの気持ちを察して明日のバトルにはセコンドとしての参加はしない。

「ずいぶんと根を詰めているようだけど、明日の為にも休んだ方が良いんじゃないか?」
「分かってはいるんだけどね。ようやくこの日が来たとなるといても立っても居られないんだよ」

 タツヤも決勝に備えて今日は早く休んだ方が良いとは理解している。
 だが、遂に明日はあの時の約束を果たす日が来た。
 去年は自分の至らなさから、約束を守れずにいた。
 しかし、今年は違う。
 2年前の約束を果たす事がようやくできた。

「アラン。僕は二代目の勝つ事を至上とするバトルを今でも認める事は出来ない。だけど、勝ちに拘るバトルは今なら分かる気がするんだ」
「今の君を見ていれば分かるよ」

 タツヤは二代目メイジンカワグチのバトルを認める事は出来ないでいた。
 だが、今は一定の理解が出来るようにはなっていた。
 タツヤは心の底からマシロに勝ちたいと思っている。
 この1週間でマシロに勝つ為にガンプラを作った。
 空いた時間でマシロに勝つ為のシミュレーションを幾度もして来た。
 この1週間でタツヤは常にマシロに勝つ事だけを考えて来た。
 そして、その時間は堪らなく楽しかった。
 自分がこうすれば、マシロはきっとこうする。
 またはこう出るかも知れない。
 はたまた自分では思いつかない手を打って来るかも知れない。
 そう考えてはならば、自分は次にどうするかを考えた。
 そうやって考えている間はずっとマシロとバトルしている錯覚すら覚えた。
 それは、全ては勝つ為の行動だが、二代目の勝利のみを追求するガンプラバトルのような独りよがりのバトルではない。
 相手の事を理解して、考えるからこそできる事だ。
 互いに切磋琢磨し合い互いに高め合う。
 それもまたガンプラバトルの有り方の一つだ。

「だから、僕は誓うよ。このガンプラ、アメイジングザク・ヴレイブでマシロのガンプラを倒すと言う事を」

 タツヤはマシロに勝つ為のガンプラ、アメイジングザク・ヴレイブで決勝戦に臨む。
 










 世界大会決勝戦の当日を迎え、マシロは東京にいた。
 この1週間で何も考えずに日本を回って東京に流れ着いた。
 東京に用があった訳ではない為、当てもなく適当に歩くだけだ。

「ここは……」

 適当に歩いていると、見覚えのある場所に辿り付いた。
 そこは数年前に、キヨタカと共に初めてガンプラを買って貰ったイオリ模型店だ。
 今はセイが世界大会に出ている為か、店は閉まっている。

「ここに来たのも久しぶりだな」

 マシロはあの日からここには一度も来てはいない。
 次にイオリ・タケシと会う時は実力を付けて倒す時と決めていたからだ。
 あれから数年が経ってずいぶんと懐かしく思えてくる。

「今の俺には関係ない事だけどな」
「悪いけど、今日は店はやってないんだよ」

 イオリ模型店から立ち去ろうとすると、店主であるイオリ・タケシに呼び止められた。

「ずいぶんと久しぶりだけど……」

 タケシと会うのは数年振りだ。
 だが、マシロはさっさと歩き出そうとしていた。

「立ち話も何だから中に入ると良いよ」

 立ち去ろうとするマシロの意見を聞く事なく、タケシはマシロを店の中に連れて行く。
 タケシは強引にマシロを居間まで連れて来た。
 始めこそは軽く抵抗していたマシロもここまで連れて来られると諦めたのか黙って居間まで連れて来られて椅子に座る。

「まずは情報提供を感謝するよ」
「そんな事もあったな」

 マシロは以前に世界大会で何者かが組み合わせなどに介入している可能性を疑って、国際ガンプラバトル公式審判員をしているタケシにメールで情報を提供していた。
 その情報により、不正な方法でガンプラバトルに介入していたガンプラマフィアを捕える事が出来た。
 だが、マシロにとっては遠い昔の事のように思える。

「テレビとかで見た印象とだいぶ違うようだけど、何かあった?」
「別に……ただ、色々と自分の事を見つめ直しただけ。そんで、分かったんだよ。俺はこんなにも何もないってさ」

 日本を転々としていた1週間でマシロは改めて自分を見直す時間を得た。
 その結果、幾ら考えたところで自分には何もないと言う結論に辿り付いた。

「俺はガンプラが好きでガンプラバトルが好き……そうやってずっと誤魔化し続けて来た。自分に嘘をついて。本当はガンプラが好きなんじゃない。なんでも良かったんだよ。俺は誰かよりも優位に立ちたかっただけなんだ」

 自分を見つめ直したからこそ、マシロは気づいた。
 マシロは常日頃から強い相手と戦う事を望んでいた。
 それは強い相手に勝つ事が好きだからと公言していた。
 だが、実際のところは強い相手に勝つ事で自分を相手よりも上だと思えるからだ。
 それがたまたま、ガンプラバトルだったと言うだけの事だ。

「強い相手とのバトルは熱くなれる。それはそれが普通だからそう思い込もうとしただけで、本当はバトル自体はどうでも良かったんだよ。自分は最強だって強い言葉を使って自分を強く見せないと自分を保つ事すら出来ないでさ」

 マシロは自分の事を最強のファイターなど常に言っていた。
 人から見れば、それは自分の実力に自信を持って見えたりもしたが、実際は自分を強く見せてたいと言う見栄でしかなかった。

「実際、俺にはそれを嘘にしないだけの力があった。だけど、その力だって偶然の産物でしかない」

 最強と自ら名乗っても負けてしまえば意味がない。
 マシロには最強と名乗りづつけるだけの力を持っている。
 だが、それもキヨタカが偶然にもマシロを見つけたからだ。
 もしも、あの時、バトルをしていたのは自分ではなくアイラだったらキヨタカはマシロに気づく事もなかったのかも知れない。
 アイラにはプラフスキー粒子を肉眼で見る事が出来る。
 それはマシロよりもよっぽどガンプラバトルの為の才能だ。
 そんな偶然の出会いが無ければ、マシロは何も出来ないマシロのままだった。
 全ては偶然が重なった結果に過ぎない。

「どうして、俺はこんなに遠くまで来たんだろうな。俺はただ、カッコいい兄でいたかっただけなのに」

 全てはそこから始まった筈だった。
 何も出来ないからこそ、何か一つでも得意な事を見つけてアイラの前で良い恰好をしたかっただけだ。
 それが、自分の変える場所を捨てて、家族を捨てて、戻る事の出来ないところまで来てしまった。

「そうか……」

 そんなマシロの言葉をタケシはただ黙って聞いていた。
 そして、タケシは店の方に行くと少しして戻って来る。 

「確かに君は今まで自分に嘘をついていたのかも知れない。だけど、始めからそうだったわけじゃない筈だ。初めて会ったあの日、君はガンプラに心を奪われていた。それは嘘じゃない筈だ」

 マシロがいつから自分に嘘をついたのかは分からない。
 タケシとマシロが初めて会ったのはマシロが年端もいかない子供の頃だ。
 あの頃のマシロは自分の気持ちに嘘をついて誤魔化していた訳ではない。
 ただ、偶然見かけたガンプラに心を奪われていただけだ。
 そこに嘘も誤魔化しもない。

「君はガンプラが好きなのもバトルが好きなのもそう思い込もうとした嘘だと言っていた。だけど、幾ら、才能があっても本当に好きでもない人間が強くなれる程、ガンプラバトルは甘くはないよ。ましてや世界の頂点になんてなれる訳が無い。君はとっくにガンプラもガンプラバトルの事も好きになってるんだよ。だからこそ、世界のファイター達が君を意識している」

 才能があっても、本当に好きでなければ、熱中する事もない。
 熱中していたからこそ、マシロはここまで強くなれた。
 本気でバトルに撃ち込んでいたからこそ、多くのファイターはマシロを目標として、倒すべき最強のファイターとして挑んできた。
 そこにもまた、嘘はない紛れもない真実だ。

「クロガミグループの事は僕も多少なりとも知ってる。だけど、キヨさんはそんなしがらみとは関係のなく、マシロ君にはガンプラバトルをやって欲しいと願ってると思う」
「何でそんな事が分かるんだよ」
「分かるさ。これでも父親だからね。父親って言うのは子供に夢を託したい物だからね。ここだけの話し、キヨさんはファイターとして上を目指したかったんだよ」

 タケシは少しおどけてそう言う。
 マシロにとっては初耳だ。
 キヨタカがファイターとして上を目指したいと思っていたが、ガンプラバトルが始まった頃にはすでにクロガミグループの総帥の地位にいた。
 それ自体、自ら望んで進んだ道でもあり、その地位から退くには後継者であるユキトは若すぎた。
 自分の身勝手で、地位を退く事も出来ない為、ガンプラバトルは趣味の範囲でしか出来なかった。
 だからこそ、ガンプラバトルで上を目指すと言う夢はマシロに託した。

「だから、世界の頂点となった今のマシロ君はキヨさんにとっては自慢の息子だと思うよ」

 タケシも息子を持つ父だからこそ、キヨタカの気持ちが分かった。
 自分の成す事の出来なかった夢を代わりに息子が叶えたとなると、父親としてはこれ以上もない親孝行だ。

「俺が父さんの……」
「キヨさんから預かっている物がある。君が自分の行く道を見失った時に渡すように頼まれていた」

 タケシは先ほど取りに行った物をマシロに差し出す。
 それは一つのガンプラだった。

「このAGE-1……」

 そのガンダムAGE-1にマシロは見覚えがあった。
 キヨタカと共にイオリ模型店に来た時に勝って貰った初めてのガンプラだ。
 あの時はタケシに負けて、自分で直した。
 その後もバトルの練習で使い続けてやがては関節部の摩耗やバトルの損傷で新しく買い換えた。
 買い換えてからは、無くしたと思っていたが、キヨタカによりタケシに預けられていたようだ。
 渡されたガンダムAGE-1を見るとところどころが補修されており、多少の手直しを加えるだけでバトルにも使えそうだ。

「そっか……俺」

 無意識の内にガンダムAGE-1を強く握りしめていた。
 マシロはこのガンプラを使っていた時はアイラにカッコいいところを見せないや、キヨタカに認めて欲しいなどは考えずに純粋にバトルを楽しみ強くなろうと思っていた。
 そこにはタケシの言うように嘘も誤魔化しもなかった。

「俺にも残された物があったんだな」

 全てを知って、自分には何もないと思ったが、それは間違っていた。
 少なくともガンプラバトルはアイラの事もキヨタカの事も関係なく、自分の意志でのめり込んでいた。
 いつしか、それすらも忘れていたようだ。
 マシロは勢いよく立ち上がり、イオリ模型店から出て行こうとする。

「マシロ君!」
「俺、行かないと。俺を待ってる奴がいるから!」

 マシロはそう言い残して走り出す。
 マシロは全てを失った訳ではない。
 自分でアイラに言ったように、ガンプラバトルを通じて得た物があった。
 だからこそ、走り出した。
 間に合わないと本当に全てを無くしてしまうからだ。
 マシロは静岡に戻る為に駅を目指すが、5分もしないうちに息が切れて、まともに走れずに千鳥足となっていた。
 元々、ガンプラバトル以外に興味を示す事は殆ど無い為、運動などして来てはいない。
 運動をしなくても移動は出来ていた。

「くそ……こんな時に」

 今までは気にすることのなかった体力不足を今になって痛感させられることになった。
 すると、後ろから車のクラクションがなって、マシロは振り向いた。

「マシロ君!」
「おっさん! 助かる!」

 マシロがイオリ模型店を飛び出してすぐに、タケシは車を取りに行った。
 マシロの行く場所は聞くまでも無い為、車でマシロを追いかけた。
 車が路肩に止まってマシロは車に乗り込む。
 マシロが車に乗るとすぐに、車は発進してマシロの目的地である静岡へと向かった。
 幸いにも世界大会の決勝戦は3位決定戦の後に行われる為、時間的な余裕は十分にある。
 再び、バトルの世界に戻る為、マシロはタツヤが待つ世界大会の会場へと急ぐのだった。



[39576] Battle56 「二人で」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/11/10 23:08
 再びバトルの世界へと戻る決意をしたマシロは世界大会の決勝で待つタツヤの元へ向かっていた。
 だが、そんなマシロに最大の危機が訪れようとしていた。

「何でこんな時に……」
「流石にこればかりはどうしようも……」

 タケシの運転する車で東京から静岡へと向かう最中の高速道路にてマシロの乗る車は渋滞に捕まっていた。
 ラジオの情報によれば事故により渋滞が起きてしまったらしい。
 こればかりは事前に予測する事は出来ない為、運が悪いとしか言いようがない。
 静岡までは多く見積もっても3時間程度で、決勝には間に合うはずだったが、渋滞によってそれも分からなくなった。

「渋滞の一つ、クロガミグループの力で……」

 クロガミグループの力を使えば速やかに事故を処理して、静岡に向かう事も出来たが、マシロは携帯などは全て置いて来ている。
 その為、身内に連絡を取る事も出来なかった。

「とにかく、今は耐えるしかない」

 クロガミグループの力があてにならない以上、マシロは無力だ。
 今のマシロに出来る事は、決勝が始まるまでに会場に辿りつく事が出来る事を願うだけだった。








 マシロが渋滞に捕まって動けなくなっている頃、静岡の世界大会会場では、3位決定戦が始まろうとしている。
 3位決定戦は決勝戦の前と言う事もあって、決勝目当てで来た観客でメインスタジアムは満員となっている。
 3位決定戦自体は決勝戦の前座に過ぎないが、対戦カードが準決勝で初めてマシロを追い詰めたアイラとガンプラの世界では有名人であるイオリ・タケシの息子であるセイと言う事もあって、注目度は高い。
 バトルシステムを挟んでセイとアイラは対峙している。
 互いにレイジを通じて知り合いとはいえ、バトルの前に話す事はしない。
 二人はGPベースをセットしてガンプラをバトルシステムに置いた。
 二人の使うガンプラはこれまでのガンプラとは違った。
 アイラはサザビー改をベースに独自の改造を加えたミスサザビー。
 対するセイはスタービルドストライクをベースに重装甲、重武装化したフルアーマースタービルドストライクだ。
 FAスタービルドストライクは全身に追加装甲と、予備パーツの火器を搭載している。
 バックパックにはビルドストライクが装備していたビルドブースターを改造して装備し、ビームキャノンは肩越しに前方を向いている。
 脇の下からは追加装甲の下に装備されている、スタービルドストライクのユニバースブースターのスタービームキャノンが前方を向いた状態となっていた。
 左腕にはビルドガンダムMk-ⅡのビームライフルMk-Ⅱが、右腕の追加装甲にはビームサーベルが複数内蔵されている。
 脚部の追加装甲にはミサイル、右手には強化型ビームライフルを装備している。
 全身の追加装甲と火器によって、スタービルドストライク本来の機動力や運動能力は殆ど失われているが、その分、火力と防御力は大幅に向上している。
 このFAスタービルドストライクがセイがアイラに勝つ為に用意したガンプラだ。
 対照的な2機による3位決定戦のバトルが開始された。
 3位決定戦のバトルフィールドはオーソドックスな宇宙となっていた。

「相手は重装備……接近さえすれば」

 FAスタービルドストライクが機動力を犠牲にして火力と防御力を重視していると言う事はアイラでも分かる。
 そんな相手には接近戦が有効でミスサザビーもまた近接戦闘を重視している。
 その為、いかに接近戦に持ち込むかが勝敗を分けると言っても良い。
 バトルが始まり、先制攻撃はFAスタービルドストライクだった。

「その程度の砲撃なんて」

 FAスタービルドストライクのビームキャノンをミスサザビーは軽く回避する。
 だが、回避してすぐに二射目が撃たれる。
 それをも回避するが、更に続けて攻撃が行われる。
 FAスタービルドストライクの砲撃をミスサザビーはかわし続ける。
 しかし、幾らかわしてもFAスタービルドストライクからの砲撃は休みなく続く。
 FAスタービルドストライクはビームキャノン2門とスタービームキャノン2門の系4門のビーム砲を時間差をつけて使う事で、休みなく砲撃を続けていた。
 その間に強化型ビームライフルをチャージして、チャージが完了し次第撃っている。
 
「まずは作戦通り」

 FAスタービルドストライクの砲撃はミスサザビーに掠りもしないが、これはセイの思惑通りの展開だ。
 1週間の練習の中でセイはとにかく、射撃の練習を行った。
 それによって多少は射撃の腕は上がったが、アイラには通用するレベルではない。
 ニルスの計算では今のセイの射撃技術でアイラのガンプラに命中させる事が出来る確率は1%程度だと出ている。
 それだけを見れば絶望的とも言えるが、単純計算で100回撃てば1回は当たる。
 だからこそ、その1回の為にセイは休みなく攻撃し続けてた。
 たった1回の直撃でもガンプラの性能においてはセイのFAスタービルドストライクに圧倒的に分があった。
 アイラもそれを知っているからこそ、ただの1発も当たる事が出来ない為、FAスタービルドストライクの連続攻撃を確実にかわさなければならない。
 全く当たらないセイと全てをかわしているアイラ。
 一見、アイラの方が有利に見える展開だが、実のところは1発当てれば一気に有利となるセイの方が1発で致命傷になり兼ねないアイラよりも優位になっている事になる。
 この状況を作り出した事で、バトルの流れはセイの方に向いている。

「やってくれるわね」

 セイは気づいていないが、セイの戦い方はアイラにとっては面倒な戦い方でもあった。
 アイラはプラフスキー粒子の流れから相手の動きを先読み出来る。
 だが、セイのFAスタービルドストライクはひたすら砲撃を撃って来るだけで微動だにしていない。
 相手がその場から動かなければ、アイラの先読み能力は殆ど意味を成さない。
 これが大したことのないガンプラなら、多少は被弾を覚悟で強引に突っ込むのだが、1撃でやられなけない今の状況では強引に突っ込む事は最後の手段だ。

「なら……行きなさい! ファンネル!」

 ミスサザビーはファンネルを射出した。
 このまま攻撃をかわし続けていても状況が好転しない為、ファンネルで揺さぶりをかけようとしている。
 セイの砲撃の精度は低い為、ファンネルを操作しながらでも、十分にかわす事は出来る。
 ファンネルは砲撃を避けながらFAスタービルドストライクの方に向かって行く。

「ファンネル! なら!」

 FAスタービルドストライクは砲撃を続けながら、右腕の装甲に内蔵されているビームサーベルを全て射出した。
 そして、射出されて回転しているビームサーベル目掛けて左腕のビームライフルMk-Ⅱを連射する。
 それによって何発かが、回転するビームサーベルに当たるとビームが拡散して、ファンネルを落としていく。

「嘘!」

 ビームサーベルを使ってビームを拡散してファンネルを落とすと言うやり方にアイラは少なからず驚いていた。
 アイラの中ではファンネルは一つ一つ攻撃を回避しながら落とすものだと思っていた。
 だからこそ、そこまでの技術がセイに無い為、揺さぶりとして使っていた。
 しかし、セイも自分にそこまでの技術がないと言う事を自覚している為、アイラがファンネルを使っていた時の対策を事前に考えていた。
 セイには操作技術はないが、それを知識で補う事が出来る。
 ファンネルを落としたやり方もセイが独自に考えた物ではなく、Zガンダムの劇場版でZガンダムがキュベレイのファンネルを落とす際に使ったビームコンフューズだ。
 尤も、セイには回転するビームサーベルに一発でビームを当てる技術も無い為、ビームサーベルの数を増やしてビームを連射する形で補っている。
 揺さぶりを目的にしたファンネルが簡単に落とされた事で逆にアイラの方が動揺する事になった。
 ミスサザビーは近接戦闘を得意としている為、ある程度は近づかなければその能力を存分に発揮する事は出来ない。
 遠距離からでは右手のスィートソードのライフルか拡散メガ粒子砲しかないが、どちらもある程度の距離が近くなければ使えない。
 唯一のファンネルがあっさりと対応されてしまったため、この距離では打つ手がない。
 幾ら、攻撃をかわし続けていたとしても、いずれは操作ミスをしてしまう危険性が高い。
 マシロがアオイとバトルした時のように攻撃をかわす事で精神的なダメージを期待しても、外れる事が前提で撃って来ている為、期待は出来ない。
 セイが操作をミスする可能性もここまで精度は低いと余り意味がない。
 どちらが先に致命的なミスを犯すかと考えると、こちらの動きに合わせて砲身の向きを合わせるだけのセイと攻撃をかわす為に常に操縦桿を動かし続けているアイラの方だろう。

「全く……ガンプラバトルにはこういう戦い方もあるのね」

 セイの事を侮っていた訳ではない。
 だが、アイラにとっては初めて戦うタイプのファイターである事は確かだ。
 今までの相手はファイターとしてもビルダーとしてもある程度の実力があったが、セイの場合はビルダーとしての能力は世界でもトップレベルだが、ファイターとしての実力は並程度だ。
 その上で自分の実力を自覚した上で戦い方に織り込んで来ている。
 実力は大したことは無くとも、ガンプラの性能を最大現に活かしたバトルをしている為、厄介な相手だと認めざる負えない。

「おに……マシロがあそこまで相手を研究する訳ね」

 マシロが相手の事を徹底的に研究する事自体は、アイラもある程度は理解出来た。
 相手の事を知れば、それだけバトルを優位に運ぶことが出来る。
 だが、マシロは少々やり過ぎのようにも思っていた。
 そこまで研究せずとも、ある程度のバトルの傾向さえ調べれば対策は幾らでも出来る。
 今でもやり過ぎだと思う事に代わりはないが、そこまでやる理由も理解出来る。
 似たようなバトルスタイルでもファイターによって微妙に異なり全く同じスタイルのファイターはいないと言う事なのだろう。
 だからこそ、確実に勝つ為にマシロは相手の事を徹底的に調べ尽くしていた。

「流石に私もこれ以上好きにさせ無いわよ!」
「来る!」

 回避に専念していても、状況は好転しない。
 なら、多少強引でも攻める必要がある。
 ミスサザビーは一気に加速してFAスタービルドストライクの方に突撃する。
 多少の被弾を覚悟して、突撃する。
 今後はセイの顔色が少し変わった。
 セイにとっては多少のリスクを覚悟して突撃して来る事は最も避けたい事だった。
 被弾を覚悟と言ってもセイの射撃精度は低い為、突撃して来てもかわせない事もない。
 ガンプラの性能の有利を活かして先制攻撃と連続攻撃で、距離を取るようにさせ、覚悟を決める前に被弾させておきたかったが、そこまで上手くはいかないようだ。

「今度はこっちの番よ!」

 FAスタービルドストライクの砲撃をかわしたミスサザビーはFAスタービルドストライクの上を取る。
 FAスタービルドストライクのビーム砲は全て前方に固定されている為、前方以外は死角となる。
 上を取ったミスサザビーは拡散メガ粒子砲を放つ。
 重装甲により機動力は殆ど無い為、FAスタービルドストライクはかわす事なくビームが直撃するかのように思えた。
 だが、FAスタービルドストライクに直撃する直前にビームが消えた。

「ビームが……まさか!」
「このFAスタービルドストライクは全身がアブソーブシステムで出来ているんです!」

 FAスタービルドストライクの両肩の装甲がスライドしており、そこからはアブソーブシールドと同じビームの吸収口が見えている。
 この追加装甲は単に装甲を厚くするだけの物ではない。
 セイが事前に用意していたアブソーブシールドを流用して制作した物でアブソーブシールド同様にビームを吸収するいわば、アブソーブアーマーだ。
 ミスサザビーの攻撃を吸収したFAスタービルドストライクは体勢を変えて、ビームキャノンで牽制する。
 予想外の事態で軽く動揺していたと言う事もあって全砲門で一斉に攻撃を完全にかわし切れずにミスサザビーは右足を撃ち抜かれた。

「くっ!」
「浅い!」

 続けてビームを撃ちつづ付けるも距離が近い事である程度は当たりかけるが、流石にそう簡単に直撃はさせて貰えない。
 ミスサザビーはビームをかわしながら距離を取る。
 だが、序盤のように自分の射程から外れるような事はしない。
 ある程度の距離を詰めても、十分にかわせると言う事はここまでの戦いの中で分かっている。
 それなら無理に距離を取って向こうの思惑に乗らずに、いつでも距離を詰める事が出来るだけの距離を保っておいた方が良い。
 FAスタービルドストライクは時間差でビームを撃つもミスサザビーを捕える事は出来ない。
 序盤とは違い距離が近い為、その気になればいつでも接近戦に持ち込める為、セイは焦り始めるがそれを抑える。
 ここで焦ってしまえば、勝ち目はない。
 この距離でビームを撃って来てもアブソーブアーマーで防ぐ事が出来る。

「守ったら負ける。攻めるんだ!」

 ガンプラの性能では分がある物の、アイラとのファイターとしての実力差はそれを覆す事は出来る。
 守りに入っていては勝つ事が出来ない。
 FAスタービルドストライクはひたすらビームを撃ち続ける。

「そうそう好き勝手には!」

 アブソーブアーマーのせいで下手に攻撃してもビームを吸収されるだけだ。
 ビームを吸収されると言う事は単に無効化されるだけではなく、ディスチャージシステムに利用されると言う事でもある。
 その為、アイラも下手に攻撃は出来ないが、機動力を活かしてFAスタービルドストライクを翻弄する。
 元々の射撃精度が高くないと言う事に加えて、ある程度の距離から機動力で振り回されている為、射撃の精度は更に落ちている。
 FAスタービルドストライクの砲門は両手のライフル以外は固定されている為、体ごと動かさないと銃身の向きを変える事が出来ない。
 距離が離れていれば、多少の修正で良かったが距離が近くなればなるほど、修正は大きくする必要がある。
 砲撃をかわしながら、ミスサザビーは接近する。
 FAスタービルドストライクは左腕のビームライフルMk-Ⅱで応戦するが、ミスサザビーはかわして左足のビームサーベルで蹴りかかる。
 その一撃はFAスタービルドストライクの強化型ビームライフルを切り裂いた。

「っ! まだ!」

 すぐに頭部のバルカンでミスサザビーを狙うが、ミスサザビーは左腕のスィートシールドで身を守りながら、砲撃を避けながら後退して行く。
 序盤の先制攻撃でガンプラの性能差を活かして流れを引き寄せこそしたが、時間が経つにつれてアイラの方もセイの攻撃に慣れ始めていた。
 まともに直撃すれば、一撃で倒せると言う状況には変わりはないが、慣れて来た事でアイラの方も多少のリスクを冒してでも、攻めに行けるようになっている。
 接近戦に持ち込まれるとファイターの腕の差が出て一方的にやられる。
 セイはこうなる前に仕留めたかった。
 FAスタービルドストライクは脚部のミサイルを一斉掃射する。
 撃たれたミサイルは更に細かいミサイルに分かれてミスサザビーに向かって行く。

「また面倒な物を……だけど!」

 ミサイルはミスサザビーを追尾し、ミスサザビーはスィートソードからビームを撃って迎撃して行く。
 だが、小さい上に数が多い。
 迎撃できなかったミサイルをスィートソードからビーム刃を出して切り裂いていく。
 しかし、それでも完全に迎撃しきれずに、ミサイルがミスサザビーを襲う。
 とっさにスィートシールドで身を守るが、数発のミサイルの直撃でスィートシールドは破壊されて被弾する。
 ミサイルによる爆発からミスサザビーが飛び出して来る。
 ミサイルにより、スィートシールドごと左腕が吹き飛び、頭部や至るところに損傷が見られるが、戦闘は十分に出来る。

「仕留め損ねた!」
「危なかったわ」

 接近された時の対策として用意したミサイルは数で圧倒する事で被弾率を上げた。
 想定通りにミスサザビーに損傷を与える事には成功したが、数で圧倒する為にミサイルを小型にして数を用意している分、ミサイル一発辺りの威力はさほど無い為、ミスサザビーに致命傷を与える程ではなかった。
 ミサイルの威力の小ささだけではなく、ミスサザビーを制作するにあたり元々、アイラの筋が良かった事に加えてラルさんから色々とアドバイスを受けている為、ミスサザビーの完成度も並のビルダーが作ったガンプラよりも高い事も致命傷にならずに済んだ理由の一つだ。
 そして、ミサイルは使い切った為、後は今まで通りの時間差攻撃でミスサザビーを倒さなければならない。

「まだ! 負けてない!」

 接近された時のミサイルは最後の手段でもあった。
 ミサイルを使うと言う事はそれだけ相手に接近されていると言う事。
 この攻撃で仕留めきれなければ、後は今までと同じように戦うしかない。
 だが、仕留めきれなくとも、ミスサザビーに損傷を与えている。
 FAスタービルドストライクは畳み掛けるようにビームを撃つが、多少は損傷しているものの、問題なく回避する。
 損傷こそ、ミスサザビーの方が酷いが、流れは完全にアイラの方に向いていた。
 
「悪いけど、勝たせて貰うわよ!」

 FAスタービルドストライクの砲撃をかわしながら、ミスサザビーはFAスタービルドストライクの背後を取る。
 機動力においてはミスサザビーに分がある為、背後を取るのも容易だ。
 背後を取ってスィートソードのビームを撃つもアブソーブアーマーに吸収される。

「後ろも駄目……なら!」

 距離を取ってのビーム攻撃はどの方向からもアブソーブアーマーにより吸収されると見て良い。
 元々、火力は大して高くない為、ミスサザビーはFAスタービルドストライクに接近する。
 スィートソードの一撃がFAスタービルドストライクの背後に決まる。
 だが、FAスタービルドストライクの装甲は厚く、スラスターの一部を切り裂くだけで致命傷にはならない。

「固い!」

 スラスターの一部を損傷しながらも、FAスタービルドストライクは懸命に砲撃を続けて、ミスサザビーに距離を取らせる。

「動きは遅いし、射撃は当たらない。なのに攻めきれない」
「やっぱりアイラさんは凄い」

 流れは完全にアイラの方を向いているものの、FAスタービルドストライクの厚い装甲をミスサザビーの攻撃力では簡単に突破する事は出来ないようだ。
 一撃を浴びせても仕留めきれなければ至近距離で撃って来ても先読み能力とアイラの実力なら、回避する事も出来るが、逆に言えば相手にも至近距離で撃ち込めるチャンスを与えるようなものだ。
 一撃で決めたいところだが、装甲を強化しているFAスタービルドストライクを一撃で仕留めるのは至難の技だ。

「あそこまで強固なガンプラに損傷を与えるなら関節……」

 FAスタービルドストライクは追加装甲により動きが遅くとも守りは固い。
 近接戦闘ならアブソーブアーマーによるビームの吸収を受けないが、反撃の恐れがある。
 一撃で確実にFAスタービルドストライクに損傷を与えるのであれば、追加装甲で覆われていない各関節部を狙う事が最も有効だ。

「仕方が無いわね!」

 関節を狙う事は実力差を考えるとさほど難しい事ではない。
 問題は関節部で最も狙い易いのは正面だと言う事だ。
 後ろからだとバックパックが邪魔で本体を狙いずらい。
 上下左右からだと狙える場所は少なく、最小限の動きで関節への攻撃がずれる事もあり得る。
 正面からだと、殆どの関節を狙えて、動いても先読み能力を持ってすれば、修正も容易い。
 しかし、正面からの攻撃はFAスタービルドストライクの砲撃に正面から向かって行くと言う事だ。
 セイの射撃精度が大したことはないと言っても、距離を詰めれば詰める程、当たる危険は増える。
 だが、このまま手をこまねいている訳にもいかない。
 セイの方が実力はともかく、ガンプラバトルの経験も知識も上だ。
 時間をかけ過ぎるとセイの方が先に打開策を思いつくかも知れない。
 ガンプラの性能で劣り、損傷しているミスサザビーでは長期戦は不利だった。
 今ならまだ、ファイターとしての実力差で押し切る事が出来る。 
 アイラは覚悟を決めて、FAスタービルドストライクに突撃して行く。

「正面!」

 FAスタービルドストライクは全砲門でミスサザビーを迎え撃つ。
 だが、アイラはFAスタービルドストライクほ砲門の動きを先読みして、最小限の動きで回避する。
 流石にここまで小さい動きを先読みするのは初めてである為、ビームはミスサザビーを掠めるが、アイラは構う事は無かった。

「懐に!」
「これで!」

 ミスサザビーは砲撃をかわして、FAスタービルドストライクの懐に入る。
 ミスサザビーはFAスタービルドストライクの上を取る。
 その際に左足のビームサーベルでまずはFAスタービルドストライクのビームキャノンを破壊して、スィートソードのビーム刃を最大出力で展開する。
 そして、スィートソードをFAスタービルドストライクに目掛けて振り下した。

「終わりよ!」
「くっ!」

 今までは実力をガンプラの性能と戦い方で補って来たが、流石にこの一撃をかわす事は出来ない。
 全てを出し尽くして戦ったため、セイはここまでかと覚悟を決めた。
 しかし、ミスサザビーのスィートソードがFAスタービルドストライクを捕える直前に、セイの腕が誰かに引かれる感覚と共にFAスタービルドストライクはギリギリのところで攻撃をかわした。

「かわされた!」

 確実に決まったと思った一撃がかわされてアイラは驚くが、同時にセイも驚いていた。
 
「嘘……」
「何で……」

 セイはバトル中と言う事も忘れて振り向く。
 アイラはバトルシステムを挟んで対峙して居る為、セイよりも先にその事に気が付いた。
 そして、自分の目を疑った。

「何だよ。折角戻って来たってのによ」

 そこには1週間前にアリアンに帰った筈のレイジがセイの腕を引いていた。
 レイジはセイの反応に不服らしく、少しむくれていた。

「だって……」
「俺も次にこっちに来れんのはいつか分かんなかったんだけどさ。さっき、ユキネの奴がこっちに来れるって言うから急いで来た」

 レイジ自身、1週間前の別れの時にはセイと戦う約束こそしたが、次に来れるかは分からなかった。
 だが、少し前にいきなりユキネがレイジの元に来てこちらの世界に来れると言いだした。
 その話しに乗ったレイジがこちらの世界に来た時には3位決定戦がすでに始まっていた。
 急いでセイの元に来た時にはアイラが止めの一撃を入れるところで、何とかセイの腕を引いて攻撃を回避できたと言う訳だ。

「それに俺達の世界大会はまだ終わってないようだしな」
「全く……君って奴は」

 レイジがセイに代わり操縦桿を握る。
 それに伴いセイはセコンドの席に移動する。
 セイがレイジの代わりにバトルに出たようにエントリーの時点で登録していれば、バトルの途中にファイターが変わると言うのもルール上は問題ない。
 レイジと戦う為にファイターとしても諦めないようにと思ったものの、やはりレイジと共に戦えるのは落ち着く。

「いきなり出て来たと思ったら、いきなりいなくなって……本当に勝手なんだから」
「んな事よりも、俺の言った通りだったろ。アイツを相手にここまでやれたんだ」

 レイジがこちらの世界に来た時にはバトルが始まっていた。
 ここまで来る最中にセイのバトルをレイジは見ていた。
 自分とは違ったやり方だが、圧倒的に格上であるアイラを相手に互角以上に戦った。

「そんな事言っても誤魔化されないからね! だけど」
「ああ……今は目の前の相手に集中だな」

 セイはレイジに言いたい事は山ほどあった。
 だが、今はバトル中だ。
 アイラも空気を読んでこの間に攻撃はして来ないが、いつまでも待っていて貰う訳にもいかない。

「全く……かっこよく出て来たところ悪いけど、私がボッコボコにして上げるわよ!」
「言ってろ! 俺とセイが組んでんだ。誰にも負ける訳がなぇよ!」

 FAスタービルドストライクは左腕のビームライフルMk-Ⅱでミスサザビーを攻撃する。
 先ほどまでとは違い正確な射撃を何とかミスサザビーは回避する。

「少し見ない間に色々と付いてるしやり難いぞ」
「分かってるよ」

 元々、スタービルドストライクは機動力重視の汎用機だ。
 それをセイがフルアーマー化して機動力を殺している。
 スタービルドストライクの操作に慣れているレイジからすれば、FAスタービルドストライクは動かし辛い。 
 セイはパネルを操作する。

「フルアーマーはパージする物だよ!」

 セイが操作するとFAスタービルドストライクの装甲が次々と剥がれていく。
 最後の装甲がパージされて、フルアーマー化に伴い、前方に向けて固定されていたスタービームキャノンが定位置に戻るとFAスタービルドストライクは普通のスタービルドストライクとなる。
 
「成程……こっちなら扱い易い!」

 スタービルドストライクは腰のビームサーベルを抜いて加速する。
 ミスサザビーはスィートソードで迎え撃った。

「戻って来なかったら私に負ける事もなかったのにね!」
「負けんのはお前だ!」
「アンタよ!」

 スタービルドストライクとミスサザビーはぶつかり合い切り合う。
 サーベルの出力ではミスサザビーに分があるが、スタービルドストライクがパワーで押し切る。

「行きなさい! ファンネル!」

 アイラはファンネルを序盤のゆさぶりで全て使わずにいざと言う時の為に温存していた。
 数は少ないが、身を守る盾のないスタービルドストライクはファンネルの攻撃を確実にかわすしかない。
 動きの少ないセイの戦い方はアイラにとってはやり難いが、レイジの戦い方は動く為、先読みがし易かった。
 スタービルドストライクの動きを読んで攻撃して来るファンネルのビームをスタービルドストライクは左手でもビームサーベルを抜いて切り払う。
 そして、片方のビームサーベルを投擲してファンネルを一つ落とすと、近くのファンネルをビームサーベルで落として、残りをスタービームキャノンで撃ち落す。

「へっ! どうだ!」
「そのくらいで良い気にならないでよね!」

 スタービルドストライクがファンネルの相手をしている間にミスサザビーは距離を詰めていた。
 スィートソードを振るい、スタービルドストライクは何とかビームサーベルで受けるが、勢いのままに弾き飛ばされる。

「やるじゃないかよ!」
「アンタもね!」

 スタービームキャノンでミスサザビーを牽制しながらスタービルドストライクは体勢を整える。
 ミスサザビーも一度距離を取って身構える。

「セイ……お前がこの1週間で努力して来たように俺もこの1週間でお前に負けないようにして来た」
「レイジ?」

 セイがアイラに勝つ為に1週間の間に努力したようにレイジもアリアンに帰ってからの1週間で何もして来なかった訳ではない。
 尤も、アリアンではガンプラバトルが出来ない為、イメージの中でだ。

「見せてやるよ! 俺達のガンプラの新たな力をな!」

 レイジはそう言うとRGシステムを起動させる。

「セイ! ディスチャージは?」
「行けるよ!」
「上等だ!」

 RGシステムを起動させて、それを右手の拳に集中させてビルドナックルの準備を行う。
 それに対してアイラもいつでも迎撃が出来るようにスィートソードを構える。
 レイジはそのまま、ビルドナックルを行うのではなく、今度はディスチャージシステムを起動させた。
 ディスチャージシステムに使うプラフスキー粒子はアブソーブアーマーでミスサザビーのビームを吸収した時に集まっている。
 ディスチャージシステムを起動させて、正面にプラフスキーパワーゲートをいくつも作り出す。

「これは……」

 元々、スタービルドストライクの3つの機能の内、アブソーブシステムとディスチャージシステムはセットのようなもので、RGシステムだけが独立して使う事を想定していた。
 ディスチャージシステムとRGシステムは粒子を使うと言う点では同じだが、ディスチャージシステムは外にRGシステムは内側に対して粒子を使う為、正反対で両立をさせる事はないと考えていた。
 だが、RGシステムは内部に粒子を浸透させる分、使う粒子量は少ない為、ディスチャージシステムとRGシステムは理論上は同時に使用する事は出来る。
 プラフスキーパワーゲートが出来るとスタービルドストライクはゲートを潜る。
 一つ目のゲートを潜りスタービルドストライクはプラフスキーウィングを展開して加速する。
 二つ目、三つ目のゲートを潜り更にスタービルドストライクは加速して行く。

「っ……何が起きて!」

 元々、粒子が見えるアイラにとっては圧倒的な量の粒子を放出するディスチャージシステムは粒子が多すぎて本体が見え辛い。
 その上で複数のゲートを通って加速するスタービルドストライクの動きを先読みしても速すぎて目が追いつかない。

「ビルドナックル!」
「フルブースト!」

 ディスチャージシステムで加速したスタービルドストライクは一直線にミスサザビーに向かう。
 それ自体は一直線ではあるが、プラフスキーパワーゲートを複数通っているスタービルドストライクの速度は圧倒的だ。
 その上で、ディスチャージシステムにより放出されている粒子がアイラにとっては目暗ましとしても効果している為、アイラはその一撃に反応する事は出来なかった。
 元々、一撃必殺の威力を持つビルドナックルがディスチャージシステムで超加速した一撃はミスサザビーを一撃で粉砕した。

「そんな事が……」

 ディスチャージシステムによる粒子放出が収まって、ようやく視界が安定して来た時にはミスサザビーは破壊されていた。

「よっしゃぁ!」

 アイラは何が起きたのかと茫然とし、バトルに勝利したレイジはセイとハイタッチをかわしていた。
 3位決定戦はセイ、レイジ組の勝利で終わった。
 会場は熱狂し、午後からは世界大会の最後の1戦にして、世界最強のファイターを決める決勝戦、現世界最強ファイターのマシロ・クロガミとPPSEワークスチームが送り出して来たメイジンカワグチことユウキ・タツヤの1戦が行われようとしていた。
 だが、決勝戦を前にマシロは未だに会場に到着する事無く、決勝戦の時間が刻一刻と近づいていた。




[39576] Battle57 「約束の場所」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/11/16 21:36
 世界大会3位決定戦はセイ。レイジ組の勝利で終わった。
 それにより、第7回世界大会において第3位が決まった。
 3位決定戦が終わり、遂に今年の世界大会王者を決める決勝戦が始まろうとしている。
 決勝戦の組み合わせは第6回の王者であるマシロと、PPSEワークスチーム所属の三代目メイジンカワグチとなっている。
 どちらも、始まった時点から優勝候補の大本命と目されており、この組み合わせは決勝トーナメントの組み合わせが発表された時点で予測されていた事でもあった。
 それでも、最強のファイターであるマシロに最強のチャレンジャーであるメイジンのバトルと言う事もあって、全世界のファイター達がこの一戦に注目している。

「たく……今日に限って何で寝坊すんだよ!」
「仕方が無いだろ!」
「とにかく急ごう。決勝戦の時間までもうすぐだから」

 決勝戦の時間が迫る中、アオイとエリカ、タクトはメインスタジアムに急いでいた。
 アオイもエリカもすでに決勝トーナメントを敗退しているが、静岡に住んでいる為、自宅から会場まで電車を乗り継いでくることが出来た。
 敗退後も毎回、会場を訪れていたが、今日に限ってタクトが寝坊をして時間ギリギリとなっていた。

「アレって……」

 決勝戦まで時間が余り無い為、急いでいたがタクトが立ち止まる。
 その視線の先にはサングラスに目出し帽と言った全身を絵に描いたような不審者がメインスタジアムのモニターを見ていた。
 
「どうしたの?」
「いや、あれってミズキさんだよな」
 
 サングラスと目出し帽で分かり辛いが、確かにシオン・ミズキだった。
 シオンはマシロの世話係を辞任してからも、クロガミグループ系列の会社に勤めていた。
 どの分野でも天才的な技術を持たずとも、一定以上の成果を出せるシオンは重宝されていた。

「ミズキさん? こんなところで何してんすか?」
「……貴方達。ちょっとね」
「アイツのバトルならこんなところで見なくても」
「色々あるのよ」

 アオイ達は知らないが、シオンはマシロの世話係を辞任している手前、会場に行き辛かった。
 今日の決勝戦は全世界にリアルタイムで中継される為、ここに来なくてもバトルを見る事は出来る。
 それでも、シオンはここに来た。
 今日のバトルはマシロにとって特別なバトルだと知っているからだ。
 去年とは違い、今日の決勝戦の相手はユウキ・タツヤ。
 マシロが珍しく興味を持った相手だ。
 シオンもマシロとの付き合いは長い方だが、ここまでマシロが感心を持った相手は珍しい。
 昔は今ほどではなかったが、勝ち続けたせいで誰からもバトルの相手をしてもらえなかった時期があったものの基本的にマシロはCPU戦よりも対人バトルを好んでいた。
 だが、いつの間にかマシロは他人に対して興味を示す事が殆ど無くなった。
 シオンとも始めから仕事だけの付き合いと言う訳でもなかった。
 マシロとシオンは対して歳が離れていない。
 初めて会った時はまだ、マシロがまだ子供の時だった。
 当時のシオンもまだ10代で、仕事だと割り切れる程大人ではなかった。
 その為、当初はマシロの世話係と言う立場と同時に弟のように可愛がっていた事もあった。
 それがいつしか、今のように仕事だけの関係になったのかはシオンも覚えてはいない。
 
「マシロのバトルが気になるならアタシ等とスタジアムで見た方が良いですって」

 エリカがシオンの腕を取る。
 シオンは直接スタジアムまで行く気は無いが、結局、エリカに連れていかれる形でスタジアムまで連れていかれた。
 
「やっぱ座れないか」
「誰かのせいでな」
「悪かったって」

 観客席に到着するが、時間が迫っていると言う事もあって、席は全て埋まっていた。
 座る席はないが、立見席の方は若干の余裕がある。

「そろそろ時間だけど、マシロさんはまだ来てないようだね」

 スタジアムの中央に大型のバトルシステムが設置してある。
 そこにすでにメイジンことタツヤがスタンバイしているが、マシロはまだいない。
 
「アイツ、去年優勝したから今年の優勝には興味がないってのかよ」
「マシロに限ってそんな事は無いと思うけどな」
「絶対に来るわ」

 シオンはそう断言した。
 マシロにとっては世界大会で優勝する事に興味はないだろう。
 だが、今年の決勝の相手がタツヤである以上、マシロは来ない訳が無い。
 決勝の時間が近づくにつれて、会場がざわめき始めて来た。
 すでに10分を切っている。
 流石にこの時間で来ないとなれば、本当に決勝戦に出ないかも知れない可能性が出て来る。
 残り1分と言ったところで、マシロが走りながらバトルシステムの前に到着する。
 時間ギリギリと言う事もあって、会場内は大ブーイングとなる。
 去年の騒動もあって、マシロにとっては完全にアウェーな空気となっていた。








 渋滞で足止めを食らったマシロはギリギリのところで間に合わった。
 体力の限界を超えて走って来た為、息も切れ切れだからそれ以上のピンチがマシロを襲っていた。

(やっべ……俺、ガンプラ持って来てないし……)

 マシロは会場に到着してすぐにメインスタジアムを目指した。
 そうでもしなければ、間に合わなかった。
 だが、マシロが1週間程前に会場を出た時にガンプラは持って来てはいなかった。
 それから自分でガンプラを買うと言う事も無かった為、マシロはガンプラを持っていない。
 流石にすでに開始時間となっている為、ガンプラを取りに戻ると言う事は出来そうにない。
 ガンプラは自分の意志で置いて来ていたが、ファイターとしての性か、GPベースだけは持っていた。
 
(この空気で∀GE-2を取りに行けそうにないし……あ)

 ホテルの部屋に戻れば未完成状態のガンダム∀GE-2がある。
 それがあれば、バトルが出来るが、この状況ではどうしようもない。
 しかし、マシロはある事に気が付いた。
 
(まさか……お前が俺の手元にあるなんてな)

 マシロはガンプラを置いて来た為、持っていないと思っていた。
 だが、実際は一つだけ持っていた事を思い出した。
 東京のイオリ模型店でタケシから返して貰ったガンダムAGE-1。
 渋滞で足止めを食らっている時に時間つぶしも兼ねて、手直しを加えて居る為、すぐにもバトルに使える。

(いや、俺の俺としての最初のバトルにはお前が一番相応しい。そして、これが最後のバトルでもある)

 このガンダムAGE-1はマシロが初めてキヨタカに買って貰ったガンプラだ。
 マシロの初めての勝利のこのガンダムAGE-1だった。
 新しく自分のバトルをする今日のバトルにこのガンダムAGE-1以上に相応しいガンプラは無い。
 そして、このバトルの勝敗に関わらず、ガンプラバトルが変わる最後のバトルでもある。
 マシロにとってはこのバトルが本当の自分の最初で最後のバトルだ。

「さぁ……行こう。AGE-1」

 性能面での不安があるが、マシロは躊躇う事は無かった。
 バトルシステムにガンダムAGE-1が置かれてタツヤは少なからず驚いていたが、すぐに気を取り直す。
 マシロがこの場面で適当なガンプラを使う訳がない。
 この場面で使って来ると言う事はそれなりの理由がある筈とタツヤは考えていた。
 自分と同じように。
 タツヤはこの日の為に用意したアメイジングザク・ブレイヴをバトルシステムに置いた。
 ザクアメイジングを更に改造したもがアメイジングザク・ブレイヴだ。
 ベースとなったザクアメイジングに両腕には右腕にはブレードユニット、左腕にはガンユニットのマーキュリーレヴが装備されている。
 これはタツヤが初めて作ったνガンダムヴレイブの物だ。
 そして、バックパックの右側にはロングライフルの銃身を流用して制作されたロングキャノン、左側にはロケットランチャーが2基装備されている。
 また、バックパックからは稼動アームにより3基つづ計6基のアメイジングウェポンバインダーが装備されており、まるでHi-νガンダムを思わせる。
 頭部には小型のバルカンが増設され、腰やバックパックにはハンドガンやヒートナタと言った元のザクアメイジングからの装備や、脚部には予備の装備であるザクマシンガンとヒートホークが付いている。
 これまで培って来た技術の全てを注ぎ込んだのがアメイジングザク・ヴレイブだ。

「ザクアメイジングか」
「このザクで君に僕は勝つ。ガンダムに勝つのはザクでないとね」
「言ってろ。勝つのは俺だ」

 二人はそれ以上は何も語らない。
 その必要はないからだ。

「ガンダムAGE-1!」
「アメイジングザク・ヴレイブ!」
「マシロ・クロガミ」
「ユウキ・タツヤ」
「「出る!」」

 2年前の約束の舞台である決勝戦が遂に始まった。
 決勝のバトルフィールドはアクシズ。
 ファーストガンダムからの宿命のライバルである、アムロ・レイとシャア・アズナブルが最後に戦った場所だ。

「僕はこの日を2年も待った」

 バトルが開始され、アメイジングザク・ヴレイブがロングキャノンで先制攻撃を行う。

「なら、後1年待った方がキリが良かっただろうに」

 ガンダムAGE-1が砲弾をドッズライフルで撃ち抜く。

「生憎と僕は意外と我慢弱くてね」

 マーキューレヴのロングレンジライフルを展開して、ガンダムAGE-1の射程外から狙撃する。
 その攻撃をガンダムAGE-1は回避しながら、ドッズライフルで応戦する。
 距離が遠い事もあってガンダムAGE-1のビームはアメイジングザク・ヴレイブに当たる事は無いが、射撃の精度は正確である為、タツヤは一瞬の油断も出来ない。
 アメイジングザク・ヴレイブの狙撃をかわしながら、ガンダムAGE-1は自分の間合いまで接近すると、ドッズライフルをリアアーマーに付けるとビームサーベルを貫く。

「そうかよ!」

 ガンダムAGE-1がビームサーベルを振るい、アメイジングザク・ヴレイブがマーキューレヴのブレードで受け止める。
 2機のガンプラは鍔迫り合いとなるが、アメイジングザク・ヴレイブがガンダムAGE-1を弾き飛ばす。

「やるな」
「この日の為に僕は強くなったからね!」

 アメイジングザク・ヴレイブがマーキューリーレヴのガトリング砲を展開する。
 ガンダムAGE-1はドッズライフルを撃ちながら後退する。

「僕は今まで弱い事を罪だとは思わなかった。無用に力を追い求める位なら、弱くても一歩一歩前に進んでいければ良いと……だけど、思い知ったよ。強さを追い求める事も必要な事なのだと」

 タツヤは2代目メイジンの教えである強さを追い求め、勝利のみを追求するバトルを否定した。
 だが、去年の世界大会で痛感した。
 自身の実力が足りないが故にマシロとの約束を果たせなかった。
 
「あれか、力はただ力。多く望むのも愚かだけどむやみに嫌うのもまた愚かって奴か。俺には良く分からん事だけどな」
「そう言う事かな。君と肩を並べて戦うにはそれに見合った力が必要なのだとね!」

 マシロと対等でいるには、力が必要だった。
 それだけの力が無ければ、マシロと対等の立場になる事すら出来ないと言う事を去年の世界大会で思い知らされた。
 だからこそ、二代目の思想を否定しながらも、三代目のメイジンとなって力を得ようとした。

「これがその果てに得た力! 全てはこの日の約束の場所の為!」

 アメイジングザク・ヴレイブはバックパックの6基のアメイジングウェポンバインダーをパージする。
 パージされたウェポンバインダーはそれぞれ、独立した推力を持っており、ファンネルのように独自に動かす事が出来た。

「行け!」
「ちっ!」

 ガンダムAGE-1はドッズライフルを連射し、パージされたウェポンバインダーは散開する。
 そして、ウェポンバインダーが開閉して中に収納されている武器が顔を出す。
 ウェポンバインダーの一つからはガトリング砲であるアメイジングミニガンが出て来る。
 別のウェポンバインダーからはザクバズーカが出て来て、同時攻撃を行う。
 ガトリング砲とバズーカである為、弾速が違う事もあって回避するのは難しいが、ガンダムAGE-1は回避しながらドッズライフルでザクバズーカが出ているウェポンバインダーを撃ち落す。

「面倒な!」

 流石のマシロでも、ガンダムAGE-1で攻撃を全てかわし切る事は出来そうに無い。
 ドッズライフルでウェポンバインダーを攻撃するが、アメイジングGNブレイドを出したウェポンコンテナがガンダムAGE-1の背後から迫っていた。
 その攻撃をギリギリのところで回避して、ドッズライフルで撃墜する。

「ならよ!」

 ガンダムAGE-1は一気に加速してアクシズの方に向かう。
 開けた空間ではファンネル系の武器が全方位から攻撃出来る為、閉鎖空間に逃げ込む事で全方位からのオールレンジ攻撃を封じる為だ。
 アクシズに逃げ込んだガンダムAGE-1をアメイジングミニガンと対艦ライフルが出たウェポンバインダーがガンダムAGE-1を追撃して来る。
 背後からの攻撃を避けながらアクシズの狭い場所に逃げ込み、肩越しにドッズライフルを後ろに向けて連射して、2基のウェポンバインダーを撃ち落す。
 だが、ガンダムAGE-1の前方から別のウェポンバインダーが回り込んでいた。
 ウェポンバインダーからは折りたたみ式のアメイジングロケットランチャーがガンダムAGE-1に狙いを定めていた。
 
「回り込んでいたか」
 
 狭い場所に逃げ込んだ時点で、出口に待ち伏せをしている事は予想できた事だ。
 ガンダムAGE-1はウェポンバインダーにドッズライフルを放つ。
 それによって、ウェポンバインダーは破壊したが、その前にアメイジングロケットランチャーが放たれていた。
 狭い場所に逃げ込む事で、ウェポンバインダーの動きを封じていたが、同時にガンダムAGE-1の動きもある程度封じられている。
 アメイジングロケットランチャーのミサイルをドッズライフルで迎撃するが、4発の内3発は迎撃できたが、最後の1発は迎撃しきれずにシールドで防いだ。

「やってくれる」
「まだだ!」

 ガンダムAGE-1が爆風から抜けると、アメイジングザク・ヴレイブがマーキューレブからビームサーベルを出して切りかかる。
 その斬撃を何とかかわして、ドッズライフルで反撃するが、アメイジングザク・ヴレイブは至近距離にも関わらず回避すると、そのままガンダムAGE-1を蹴り飛ばす。

「メイジンの名を受け継ぎ、メイジンとしてここまで戦って来た。しかし! 今日だけはメイジンもPPSEも関係ない! ユウキ・タツヤとして君に勝つ!」

 アメイジングザク・ヴレイブはロケットランチャーを出して追撃する。

「それは俺も同じだ! 俺は俺の意志でお前に勝つ!」

 アメイジングザク・ヴレイブの攻撃を回避しながら、ドッズライフルで反撃を行う。
 2機のガンプラは互いに距離を保ったまま撃ち合いとなる。
 射撃武器が一つしかないガンダムAGE-1に対してマーキューレブを初めとした多彩な火器を持つアメイジングザク・ヴレイブの方が射撃戦では優位になっている。
 それでも、ガンダムAGE-1は押されながらも被弾する事は無かった。

「弾切れか!」

 撃ち合いをしていると、アメイジングザク・ヴレイブのロングキャノンの残弾が尽きた為、ロングキャノンがパージされる。
 ロングキャノンをパージした隙をついて、ガンダムAGE-1はドッズライフルを放つ。
 その一撃がアメイジングザク・ヴレイブの肩に直撃するが、肩の装甲を破損させる程度に留まった。

「距離を取っての戦いはこっちが不利……なら接近戦にするしかないよな!」

 接近戦はマシロが最も得意としている。
 接近戦ならば武器の差を埋める事も出来る。
 ガンダムAGE-1は接近戦を仕掛ける為に距離を詰めようとするが、思ったよりも加速しない。

「不味いな。地球の重力に捕まったか」
「いつの間に……」

 マシロもタツヤも目の前の相手に集中していた為、気づくのが遅れたが、バトルフィールドのアクシズは地球に降下している。
 その為、ガンダムAGE-1もアメイジングザク・ヴレイブも地球に近づき過ぎた為に地球の重力に捕まっていた。
 
「ちっ!」
「重力を振り切る事は出来ないか」

 2機は完全に地球の重力に捕まっている為、重力を振り切る事は出来なかった。
 すでに大気圏に突入仕掛けている為、無理に戻る事も出来ない。
 ガンダムAGE-1はシールドを掲げて大気圏に突入体勢を取る。
 アメイジングザク・ヴレイブも近くのデブリを盾にして降下を始める。
 ガンダムAGE-1とアメイジングザク・ヴレイブが大気圏に突入すると、バトルシステムが更新された。
 今度は地上ステージとなり、地上には巨大なクレーターが出来ている。

「タツヤのザクはどこだ?」

 無事に大気圏に突入したガンダムAGE-1だが、シールドが大気圏に突入した時に使い物にならなくなり、手放して地上へと降下して行く。
 バトルが続行していると言う事は、タツヤのアメイジングザク・ヴレイブもバトル可能な状態だと言う事だ。
 すぐに周囲を索敵するが、その前にアメイジングザク・ヴレイブがロケットランチャーをガンダムAGE-1に撃ち込んで来た。
 ロケットランチャーが背後から直撃して、ガンダムAGE-1は体勢を崩しながら、降下する。
 ロケットランチャーを撃ち尽くして、アメイジングザク・ヴレイブはロケットランチャーをパージすると、少しでも軽くなる為に両腕のマーキューレブもパージするとスラスターで降下する速度を軽減させる。
 その間にもガンダムAGE-1は地上に落ちていく。
 体勢を崩しながらも地上に受け身を取りながら落下時の衝撃を逃がしてガンダムAGE-1が先に地上に降りる。

「やってくれたな!」

 一足先に地上に降りたガンダムAGE-1はドッズライフルを精密射撃モードにして、降下して来るアメイジングザク・ヴレイブを狙撃した。
 アメイジングザク・ヴレイブはザクマシンガンで反撃しながら降下するが、降下中と言う事もあって最低限の回避行動しか取れない。
 直撃はしなかったが、ビームに掠りながらアメイジングザク・ヴレイブも地上に降りると休む間もなく、ヒートナタを抜いてガンダムAGE-1へと突撃する。
 ガンダムAGE-1もドッズライフルを通常モードに戻すと、左手でビームサーベルを抜いて迎え撃つ。






 

 バトルの場が宇宙から地上へと移り代わり、会場の熱が更に上がって行く。
 開始当初こそは去年の世界大会優勝時の発言や、遅刻ギリギリの登場で会場の空気はメイジン一色だったが、もはやどっちが勝つかなど観客達には関係なかった。
 ただ、マシロとメイジン、世界最強クラスの二人のファイターが持ちうる全ての実力を出し切って戦う。
 そんな二人のバトルに熱くなり、二人に声援を上げている。

「ガンプラの性能で劣って、ファイターの腕でまで劣ってたら立つ瀬ないだろ!」

 ガンダムAGE-1がドッズライフルを放ち、アメイジングザク・ヴレイブはかわすと懐に入り込み、蹴り上げる。
 それをガンダムAGE-1は腕で受け止めると、アメイジングザク・ヴレイブはそのまま、飛び上がる。
 上空からヒートナタを振るいながら降下し、ガンダムAGE-1はビームサーベルを突き上げる。
 アメイジングザク・ヴレイブのヒートナタがガンダムAGE-1の肩の装甲を切りつけて、ガンダムAGE-1のビームサーベルがアメイジングザク・ヴレイブのサイドアーマーを突き刺す。
 アメイジングザク・ヴレイブはサイドアーマーを破壊されながらも着地すると、体勢を低くしてガンダムAGE-1の足を払おうとするが、ガンダムAGE-1は飛び上がってかわして、アメイジングザク・ヴレイブを蹴り飛ばす。
 ギリギリのところでアメイジングザク・ヴレイブは腕でガードするが、そのまま蹴り飛ばされながらザクマシンガンを連射して距離を取る。
 後退するアメイジングザク・ヴレイブにドッズライフルを向けるが、ドッズライフルにザクマシンガンの銃弾が直撃して、ガンダムAGE-1はドッズライフルを投げ捨てる。

「それがどうした!」

 ドッズライフルが爆発し、爆風をガンダムAGE-1が突き抜ける。
 右手にもビームサーベルを持って、距離を詰めるとビームサーベルでアメイジングザク・ヴレイブのザクマシンガンを切り裂くと、もう片方のビームサーベルを突き出す。
 アメイジングザク・ヴレイブはヒートナタを使って、ビームサーベルを受け流しながらザクマシンガンを失った右手でヒートナタを貫くと同時にガンダムAGE-1を切りつける。
 ヒートナタは間合いが短いと言う事もあって、ガンダムAGE-1はギリギリのところで回避する。
 それによって距離が空き、アメイジングザク・ヴレイブは頭部のバルカンを連射する。

「このバトルがいつまでも続けばいいのにね!」
「全くだ。だが、勝つのは俺だ!」
「悪いけど、それを譲る事は出来そうにないね!」

 ガンダムAGE-1がビームサーベルを振るい、アメイジングザク・ヴレイブがヒートナタで受け止める。
 その体勢のまま、アメイジングザク・ヴレイブがビームサーベルを受け止めているヒートナタとは別のヒートナタを振るい、ガンダムAGE-1はビームサーベルの柄を逆手に持ってヒートナタを受け止めた。
 互いに武器を振り抜こうとするが、どちらの武器も振り抜く事は出来ない。
 そして、同時に互いを蹴り飛ばす。
 蹴り飛ばされた2機は体勢を整えて対峙する。

「そろそろ終わりにしようか」
「そうだね」

 アメイジングザク・ヴレイブはガンダムAGE-1との撃ち合いでボロボロになりかけているヒートナタを捨てるとヒートホークを手に取る。
 ガンダムAGE-1も片方のビームサーベルを手放すと、残るビームサーベルを両手でしっかりと持って構える。
 ガンダムAGE-1とアメイジングザク・ヴレイブは睨みあったまま動かない。
 互いにタイミングを見計らっている。
 観客達も次が互いに最後の一撃であると、雰囲気から察して息を飲んでこのバトルの結末を見届けようとしている。
 そして、同時に地を蹴る。

「マシロ!」
「タツヤ!」

 ガンダムAGE-1とアメイジングザク・ヴレイブの距離が一気に縮まり、アメイジングザク・ヴレイブがヒートホークを振り下ろす。
 ガンダムAGE-1はアメイジングザク・ヴレイブよりも一歩踏み込んでビームサーベルを突き出した。
 アメイジングザク・ヴレイブのヒートホークがガンダムAGE-1の頭部を切り裂き、そのままバックパックのブロードアンテナを切り裂いた。
 そして、アメイジングザク・ヴレイブよりも一歩踏み込んでいたガンダムAGE-1のビームサーベルがアメイジングザク・ヴレイブの胴体に突き刺さる。
 互いの最後の一撃が終わり、会場はシンと静まり返る。
 アメイジングザク・ヴレイブのモノアイから光が消え、両腕が力無くうな垂れて、ガンダムAGE-1にもたれかかるように倒れる。

「そうか……終わったんだな」
「ああ。俺の勝ちだ」

 バトルシステムがバトル終了のアナウンスを告げる。
 バトルの勝者が決まると当時に観客の声援が一気に湧き上がる。
 今まで色々と問題発言の多いマシロだが、タツヤとの全力バトルはそれらを全て吹き飛ばすだけの物があった。
 バトルに勝利したマシロは拳を握り締めて高らかに腕を上げて歓声に堪えた。
 バトルに負けたタツヤだが、全力を出し切って負けた為、晴れやかな表情でマシロを見ている。
 決勝戦の決着が付いて、マシロは過去の世界大会で初めての2連覇を遂げた。
 










 決勝戦が終わった後は表彰式と閉会式で今年の世界大会は終わりを迎える。
 決勝の行われたメインスタジアムでは大会スタッフが表彰式の準備で慌ただしく動いていた。
 そんな様子をマシロは観客席に座って眺めていた。
 決勝中は満員だった観客席も表彰式の準備で、今は観客はいない。

「終わったんだな」

 表彰式の準備が進められている光景を眺めて、改めて世界大会が終わったんだと実感していた。
 去年は優勝した事に対しては何も思う事はなく、ただ世界大会のレベルもこの程度かと言うだけだ。
 だが、今年は色々あった為、感慨深いものがある。

「チャンピオンがこんなところに居て良いのかい?」
「別に良いだろ」

 準備を眺めているところにメイジンの衣装から私服に着替えたタツヤがマシロに話しかけて来る。

「そうだね。まずは優勝おめでとう」
「それ、本気で言ってんの?」
「……それはどういう意味だい?」

 タツヤはマシロの席に座る。

「別に。俺がお前と同じ立場ならそんな事は言えないと思ってな」
「……君には敵わないな。確かに、僕の中で心の底から君の優勝を祝う事が出来ないと言う気持ちはある」

 タツヤがマシロにかけた言葉に嘘はない。
 マシロが世界大会を2連覇したと言う事はガンプラバトルの歴史に残る快挙だ。
 それを祝う気持ちはある。
 だが、同時に友人の快挙を素直に喜べないと言う気持ちもタツヤの中にあった。

「正直、悔しいよ。僕は君に負けた事が」

 決勝で全力を尽くした。
 それでも負けたが、悔いはない。
 悔いはないが、バトルに負けた事は悔しい。
 当然だ。全力を出して、本気だったからこそマシロに勝ちたかった。

「嫌になるよ。友達の事を素直に祝ってやれない自分自身の事を」
「それが普通だろ。本気でやって負けて……それを受け止めて当たり前のように相手を心の底から称賛できる奴なんていない。それは諦めだからな」

 感情がある以上は、負けた事を受け入れて賞賛しながらも次は勝とうと思う事はあっても、負けを受け入れて相手を称えるだけと言う事は出来る訳が無い。
 それが出来ると言う事は相手に対して勝つ事を諦めていると言う事だ。

「俺なら絶対に無理。負けて相手に祝いの言葉をかけるなんてさ。俺なら祝いじゃなくて呪いの言葉をかけるね」
「君らしいな。羨ましいよ。僕も君のようにしがらみとは無縁なバトルをしてみたいよ」
「そうでもないさ」

 マシロは今まで自分の好きなようにバトルをしていると思って来た。
 だが、実際のところ色々なしがらみを抱えていたと言う事に気づかされた。
 それこそ、自分が本当に望んでいた事を忘れてしまう程に。
 しかし、決勝だけは違った。
 クロガミ一族もネメシスも関係なく、自分の為だけに戦えた。
 これまでのマシロのバトルは勝つ為にある程度の力をセーブするのではなく、勝つ為に全てを出し切ったバトルは観客達の心を動かし、マシロに対する印象をも変える程だ。
 
「君はこれからどうするつもりだい?」
「そうだな……」

 今年の世界大会は終わった。
 タツヤは来年の世界大会に向けてと言う意味で聞いているが、マシロの頭の中では別の事を考えていた。

「色々とやる事があるんだよな」
「そうか。来年こそは僕がマシロに勝つ」

 裏でクロガミグループが動いている事を知らないタツヤからすればマシロの色々と言うのは来年の世界大会に向けての事だと解釈しているようだ。

「来年か……そうだな。それも良いけど、来年と言わず今からやろうぜ」
「今から?」
「まさか、一戦だけで燃え尽きたって事はないよな?」
「……当然」

 来年の事はマシロにもどうなるか分からない。
 だが、来年の事よりも今、マシロは無性にガンプラバトルがやりたい気分だった。
 今まで色々としがらみにより束縛されて来たが、タツヤとの決勝戦で今までの抑えて来た物を抑えきれなくなっていた。
 そして、タツヤもまたマシロの誘いを断る事が出来なかった。
 決勝戦でマシロと全力でバトルし、結果は敗北に終わったが、タツヤの中でもガンプラバトルに対する熱は収まってはいなかった。




 


 会場ではマシロとタツヤの激闘の決勝戦の熱が残る中、表彰式を閉会式の準備が終わり、メインスタジアムに観客達が再び入っている。
 最後と言うだけあって決勝と同様にメインスタジアムは立ち見席まで満員となっていた。
 そんな中、セイはレイジを探していた。
 決戦が終わり、表彰式の合間に少し目を離すとレイジは消えていた。
 流石に自分の世界大会最後のバトルが終わって、決勝戦が終わったからアリアンに帰ると言う事は無いと思い探している。
 途中でアイラやラルさんにレイジの事を聞くもどちらも知らないと言い別れて探して貰っている。

「全く……最後の最後まで」

 セイは愚痴りながらもレイジを探した。
 セイとレイジは3位に入賞している為、表彰式に出なければならない。
 二人でエントリーしているが、どちらか片方でも出ていれば問題はないみたいだが、セイはレイジと共に世界大会を勝ち抜き3位と言う成績を収めた。
 それは二人で戦って来た結果である為、表彰式には二人で出たい。
 
「くっそ! また負けた!」

 レイジを探しているとレイジの声が聞こえて来た。
 その方向に向かうと、どうやらレイジの声は会場内のフリーバトルルームからのようだ。
 決勝が終わったが、まだフリーバトルルームは使える。
 元々、バトルシステムには使用制限があり、流石に表彰式を前にフリーバトルルームを使うファイターはいないが、レイジが中に居る事は確実だ。
 セイはフリーバトルルームの中を覗きこむ。
 そこにはやはりレイジが居るが、レイジはマシロとバトルをしていたようだ。

「レイジ! 何やってんのさ!」
「セイ! 良い所に来た! スタービルドストライクは直ってたよな? なら少し貸してくれ! 流石に俺のビギニングはバトルになんねぇ!」

 レイジは自分で制作したビギニングガンダムでマシロとバトルしていたようだが、ビギニングガンダムは初心者にしては良く出来てはいるが、完成度はさほど高くはない。
 そんなガンプラでマシロに挑んでも勝ち目はないのも当然だ。

「肩慣らしは出来てる。そいつとは結局戦えなかったからな」

 マシロの方もスタービルドストライクとバトルする気満々のようで言ったところで止める気配はない。
 表彰式の時間が迫っている為、こんなところでバトルをしている時間は無い。
 だが、レイジもマシロもやる気満々である為、どうやって説得しようと考えていると、視界にタツヤが入る。

「ユウキ会長からも言ってください!」

 この場において最も常識人であるタツヤなら表彰式の時間が迫っていると言う事も分かっている筈だ。

「そうだね。レイジ君、次は僕の番だ」

 だが、セイの希望は脆くも崩れ去った。
 元々、マシロとタツヤがここでバトルを始めたところにレイジが通りかかり、レイジも混ざって交代でバトルをしている。
 始めからマシロとタツヤが抑えられない衝動から始まっている為、タツヤに期待する事が間違いだった。

「どうせだ、3人でバトルすれば良い」
「それは妙案だ」
「面白れぇ!」
「ああもう! どうにでもなれ!」

 レイジにマシロ、タツヤまでも表彰式に出るよりも、ここでバトルする気満々でもはや止める手立てのないセイは半ば自棄になる。
 今年の世界大会の上位3人の同時バトルはファイターとして興味もある。
 セイはレイジにスタービルドストライクを渡す。
 3人の準備が整った時点で3人のバトルロイヤル形式のバトルが始まる。
 第7回世界大会はマシロが前回から連続して優勝する快挙を遂げた記念すべき年でもあり、同時に上位3組のファイターが皆表彰式をサボると言う異例の年として幕を下ろした。




[39576] Battle58 「マシロの決意」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/11/21 22:20
 第7回ガンプラバトル世界大会は前回の王者、マシロ・クロガミの二連覇で幕を下ろした。
 最後の表彰式に上位3組がサボってガンプラバトルをしていたと言う異例の事態こそあったが、大会は多少のトラブルこそあったが、大きな問題が無く終わりを向けた。
 閉会式が終わった会場は今までのお祭り騒ぎが嘘のように静まり返っている。
 すでに大会の運営が会場の撤収作業に入っている。

「これがアンタからの依頼のブツだ」
「ご苦労だった。ルーカスも喜ぶ」

 マシロは今年の優勝トロフィーと賞品をチームのオーナーであるヨセフに渡す。
 元々、マシロがチームネメシスに在籍していたのは、プラフスキー粒子発見から10年目と言う節目の年である今年の世界大会は例年とは違い、賞品が多いと言う事でそれをヨセフが孫のルーカスにプレゼントする為だ。
 マシロにとっては優勝トロフィーも賞品にも興味は元からない。
 今回の大会ではそんな物よりも価値のある物をすでに得ている為、ヨセフに契約通り渡しても構わない。

「これで任務完了な訳だが、ボスに言いたい事がある」
「契約を果たしたんだ。話しくらいは聞いてやる」
「これ以上、アイラに関わるな」

 マシロはそう言って、ヨセフに資料を渡す。
 その資料に目を通したヨセフは顔を顰める。

「これがどういう物なのか分かるよな。アイツがチームに戻らない以上、アイツに関わって見ろ。それを兄貴に教える。そうなればボスがどうなるかも分からない訳ないよな?」

 マシロが見せた資料はマシロがレイコに言って作らせた物だ。
 レイコも準決勝で色々やっている為、その事をネタにされた。
 資料にはフラナ機関が開発したエンボディシステムに関する情報が記されている。
 専門的な知識が無い為、ヨセフは全てを理解出来る訳ではないが、これが大会の規約に違反している事や、場合によっては違法行為と見なされると言う事は分かった。
 今こそは友好的な関係を築いているクロガミグループだが、隙を見せれば一気に飲み込まれるだろう。
 マシロがユキトにこの事実を知らせると言う事はその隙を作る事になる。

「俺としてもそんな事はしたくはない。少なからずチームに愛着はあるしな」
「……良いだろう」

 ヨセフはそう答えるしかない。
 マシロからすれば、約束させて守らせると言う事には相応のリスクを伴う行為だ。
 所詮は口約束でしかなく、この場を乗り切る事が出来れば、幾らでも誤魔化す事が出来るかも知れないからだ。
 そんな事をしなくても、クロガミグループの力を使って潰した方が確実である為、マシロがチームに愛着があると言う事はあながち間違いではない。
 チームのエースであるマシロが抜けて、アイラまで手放すのは惜しいが、チームには二人の影に隠れているが十分に世界に通用するレベルのガウェインも居る。
 ここでマシロ、その後ろに居るクロガミグループと事を構える必要もない。

「だが、聞かせて欲しい。何故、そこまでアイラに」
「ボス……世の中には知らない方が良いって事があるくらい分かるだろ」

 ヨセフも今まで犯罪とまではいかずとも褒められたやり方ではない事を何度もやって来た。
 その中で知ってはいけないと言う事が多い事も知っている。
 不用意に好奇心で踏み入ってしまえば、その対価は己の命で払う必要があるかも知れない。
 尤も、マシロはそれらしいことを言っているだけで、話す気がないだけだが、ヨセフもそこまでして知りたいとも思わない。

「それじゃ俺も暇じゃないんだ。そろそろ行くわ」

 マシロの用事はヨセフにトロフィーと賞品を渡す事をアイラの事を釘を指しておく事だ。
 それが終わった以上は、のんびりとしている訳にもいかない。
 ヨセフもマシロが契約を果たしている為、マシロを無理に引き止めると言う事はしない。
 無理に引き止めてへそでも曲げられたら大変だからだ。
 チームを抜けても、孫のルーカスがマシロのファンである事には変わらない。
 今後もマシロがガンプラバトルの世界で活躍すれば、それだけルーカスが喜ぶ。
 ヨセフはマシロを見送り、今年の世界大会の優勝を持ってマシロはチームネメシスを抜けることとなった。
 











 チームネメシスを抜けたマシロはその足で会場内の公園に来ていた。
 そこにはすでに呼び出していたイオリ・タケシがマシロを待っていた。

「まずは優勝おめでとう。素晴らしいバトルだったよ」
「俺がバトルしたんだから当然だって。それに優勝は2回目だし。それよりも本題」

 マシロにとっては世界大会での成績自体はどうでも良い事だ。
 そんな話しをする為に、わざわざタケシを呼び出した訳ではない。

「アイラの事だけど、アイツを暫くおっさんのところで面倒見てくんない?」

 身よりのないアイラはチームやフラナ機関を抜けると行く当てはおろかまともな生活を送る事もままならない。
 流石にクロガミ一族に連れて来る訳にもいかず、だからこそ、マシロはタケシにアイラを任せる事を頼む為にタケシを呼び出した。

「行き成りだね」
「分かってる。けど、頼める相手はそんなにいないんだよ。俺、友達少ないし」

 マシロは冗談半分でそう言う。
 実際のところ、マシロの交友関係はクロガミ一族の中が大半を占めている。
 それ以外の関係も無くはないが、アイラを任せられるだけの信用関係はない。
 唯一、タツヤは信用出来るが、決勝戦を経てライバルとなった以上は直接頼みごとをしたくはないと言う意地がある。
 そうなって来るとタケシくらいしかマシロが信用してアイラを任せられる相手はいない。

「取りあえず、アイツの生活費は渡しておく。中にカードとかが入ってる」

 マシロは封筒を取り出す。
 アイラを預かる以上は何かとお金がかかって来る。
 マシロの個人的な口座には膨大な額の貯金がある為、人ひとりが一生遊んで暮らす事も出来る程にだ。

「悪いけど、それは受け取れないな。まぁ、アイラちゃんをウチで預かる件に関してはリンちゃんが乗り気だから断る気は無い。だけど、僕はね。君の事はキヨさんの息子であると同時に共にガンプラを愛する友人だとも思っている。友人からの頼みを無下にはしないし、そこに金銭を要求する事はしないさ」

 タケシも子供を持つ親だから、子供を育てるのにお金がかかって来ると言う事はマシロ以上に理解している。
 だが、マシロの事は親子程年が離れているが、ガンプラを愛する者同士友人だとも思っている。
 そんなマシロからの頼みなら断る理由もなければ、金銭を要求する気もない。

「そっちがそれで良いなら、無理にとは言わないけどさ」
「君が何故、彼女の事を気にかけるかと言う事は詮索はしない。だけど、僕も君に聞きたい事がある。君のお兄さんのユキト君に関しての」
「兄貴の?」
「クロガミグループは強大が故に動けば噂になり易い。幾ら、情報統制を敷いても人の口はどうにも出来ない部分があるからね。それで最近、色々と噂が入って来てるんだ」

 タケシは国際ガンプラバトル公式審判員として活動している関係上、ガンプラに関する様々な情報が入って来る。
 その中に不確定情報として、クロガミグループがガンプラバトルに対して何かしらの動きがあると言う物があった。
 流石にクロガミグループの情報統制の中から正確な情報を得る事が出来ない為、クロガミグループでも総帥に近い位置に居るマシロに直接聞く事にした。

「噂ね……生憎と俺もグループ全体の事は聞かされないし、聞かされたところで小難しい事は分かんない」

 マシロは現在のグループ総帥の弟と言う立場にあるが、実際ユキトと話しをする機会も限られている。
 グループ全体の話しなど、ユキトからある訳でも無く、話しをされたとしてもマシロには理解出来ないだろう。

「だけど……兄貴は変わったよ。昔から選民的な考えを持ってたけど、ここまでじゃなかった」

 マシロも以前のユキトは今のユキトは違うと感じていた。
 以前のユキトは生まれた立場から自分は特別な人間としてそれに相応しい言動をしようとしていたように見えた。

「多分、父さんが殺されてから兄貴は変わったよ。他人を能力でしか見なくなって本当の意味で誰も信用してないだと思う」
「殺された? 確か、キヨさんは事故で亡くなったと聞いているけど?」

 タケシの記憶の中ではキヨタカは事故死したとある。
 当時はクロガミグループの総帥の死と言う事もあって色々と憶測が流れた。
 それでも最終的には事故と言う事になっているはずだ。

「事故だったよ。普通の交通事故。父さんを乗せた車が信号で止まっているところにトラックが突っ込んで来るって結構ありふれた事故。事が事だけに警察だけじゃなくて、ウチの方でも様々な観点や可能性から事故の事を探った。その結果は運転手の居眠り運転って事を動かす事は出来なかった」

 キヨタカが事故死した事でクロガミグループはその情報の全てを駆使して真実を探った。
 その結果として運転手の居眠り運転だと言う事が動かしがたい真実として導き出された。
 そこには一切の事件性も陰謀もないただの事故でしかなかった。

「ただの凡ミス。だから兄貴は才能のない凡人を憎んでるんだと思う。結果から見ればただの事故。でもさ、事故だから仕方が無い事だって思える訳が無い。意図的じゃないにしても殺されたんだよ。父さんは殺された。だけど、この恨みをどこにぶつければ良い? 相手の運転手も一緒に死んでる。運転手の遺族に復讐しても運転手が死んでいる以上は意味なんてない」

 遺族からすれば、事故だとうと殺人と同義だ。
 恨みを晴らそうにも、晴らす相手もまたその事故で命を落としている。
 事故の真実を探る際に運転手の事を調べて家族が居ると言う事も分かっているが、家族に復讐したところで本人が死んでいる以上は無意味な事でしかない。
 だからと言って父親を殺された恨みが消える訳でもない。

「だから、俺はそんな事実から逃げる為にガンプラバトルにのめり込んで、自分だけの世界に閉じこもる事にしたんだと思う。で、兄貴は父さんを奪った世界を憎み、くだらないミスを犯すような人間を憎んだんだと思う」

 恨みを向けるべき相手がいないが故に恨みの矛先をどこかに向けなければならなかった。
 マシロはガンプラバトルにのめり込み、ユキトは世界を恨んだ。

「俺が分かるのはこのくらいだな」
「そうか……君はこれからどうするつもりだい? 君が望めば君も……」
「その必要はない。俺はマシロ・クロガミでそれ以上でも以下でもない」

 それは拒絶の言葉だった。
 キヨタカの望みはマシロが心の底から熱くなれるガンプラバトルが出来ればそれで構わなかった。
 クロガミ一族に居てはそのしがらみがマシロをこれからも縛る事になる。
 
「俺にはまだやる事がある」
「……それは君がやるべき事なのかい? それとも……」
「やりたい事だよ。俺が俺である為にも……もう才能とかを言い訳にして逃げるなんて恰好の悪い事したくない。ちゃんと世界を向き合わないと駄目だから」

 マシロは自身にはガンプラバトルの才能しかないと言い、他の事は才能がないからと無駄だとしてやらなかった。
 だが、無駄だからやらないのではなく、出来ない自分をみっともないと重いやる前から諦めて逃げて、確実に出来る事しかやって来なかった。

「マシロ君……君は一体、何を……」

 マシロの目は覚悟と決意を持った目だ。
 それこそ、自分の全てを賭けて何かをやろうとしている。

「イオリのおっさんが気にするような事じゃないさ。そんな事よりもだ。全てに決着をつけて来たらアンタを倒しに行くから。情けないガンプラに勝っても意味はないから、その時の為に最強のガンプラを用意しといてよ。俺はそれを超える究極のガンプラでアンタを倒すからさ」
「……分かった」

 マシロがキヨタカと共にイオリ模型店で始めてバトルした時に漠然と感じていた。
 マシロはやがて実力を付けて再びバトルする事になる日が来る事を。
 その日が遂に来た。

「だけど、約束して欲しい。僕は僕の持ちうる全ての技術と情熱を注ぎ込んで最高のガンプラを用意して待っている。君も何があっても僕の前に来てバトルをするんだ」

 マシロの覚悟を動かす事はタケシには出来ない。
 だからこその約束だ。
 そうでもしなければ、これがマシロと会う最後になりそうだと感じていた。

「それと最後に言わせて欲しい。マシロ君が覚悟を決めたと言う事は十分に分かった。だけど、君は自分で思っている程大人じゃないんだ。少しは周りを頼っても良いんだ」
「頼るか……悪いけど、今までに誰かに頼るって事はした事がないから分からないんだよな」

 マシロは今まで他者との関わりの大半は利害の一致や強制である事が多かった。
 大抵は金銭的なやり取りで相手の力を借りると言う事や、クロガミグループやユキトの威を借りて相手を従わせていた。
 その為、マシロは頼り方と言う物をイマイチ分からない。

「けど……覚えておく」

 これ以上、タケシはマシロに何も言う事は出来ない。
 マシロは自分で決めた。
 タケシに出来る事はマシロが次に自分の前に現れた時にバトルする為の最高のガンプラを用意する事だけだ。
 マシロはタケシに見送られながら新たな戦いへと赴く。
 



[39576] ガンプラ設定
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/11/25 00:15
ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケット

ガンダム∀GE-1の重砲撃形態。

砲撃能力を強化した形態で、10基の武装ホルスターを装備する事で多彩な火器を状況に分けて使い分ける事が出来る。

重装備ながら脚部のホバーユニットで地上では平面移動、宇宙では直線移動においては高い機動力を発揮する。

武装

・ハイパーメガドッズライフル

右手に装備されているメインの火器。

大火力だが、連射は効かない。

大火力である為、銃身の強度も高い事もあってマシロは打撃武器としても使う。

バーストモード時の最大出力は周囲を更地に変える程の威力を持つ。

・ドッズランサー

左手に装備されている武器。

ガンダムAGE-2 ダークハウンドの物を改良しており、2門のドッズガンを内蔵している。

槍の中心部には金属柱が内蔵されている為、一撃の威力を増している。

また、槍の部分が高速で回転し、スピードと重量を乗せての強力な一撃を放つ事が出来る。

・グラストロランチャー

ガンダムAGE-1 フルグランサの物を流用している。

武装ホルスターの位置の関係上、ベース機とは銃身の方向が逆向きに付いており、ベース機と同様の使い方は出来ず、バックパックとのジョイントを一時的に外して手持ちの火器として使う。

・シールド

両腕に装備されている。

裏側にはビームサーベルが装備されている。

・ビームサーベル

両腕に内蔵式が1基つづ、シールドに1基つづ、腰に1基つづの計6基装備されている。

・ビームガン

腰のビームサーベルがビームガンとして使用可能。

威力は低いが、懐に飛び込まれた時などに使用する。

・武装ホルスター

腰のアームから左右に4基つづ、膝に1基つづの計10基を装備されている。

1基当たりが薄い為、内蔵できる火器は限られているが、既存の物から独自の物まで幅広く状況に合わせて武器を事前に入れて置く事が出来る。






ガンダム∀GE-1 ユマラテゥーリ


ガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットの武装や装甲などをパージしたガンダム∀GE-1の第3形態

重装備のフルアサルトジャケットから全ての武装をパージしている為、身軽に動く事が出来る。

その反面、武装はビームサーベルが4基だけと非常に貧相ではあるが、マシロ自身ビームサーベルでの白兵戦を最も得意としている為、余り問題は無く、寧ろこの形態こそがマシロのバトルスタイルを最も反映させた形態である。

ユマラテゥーリとはフィンランド語の神(ユマラ)と風(テゥーリ)を組み合わせた言葉である。

武装

・ビームサーベル

腰に2基と腕部の内蔵式が2基の計4基装備れている。







セイバーガンダム・エペイスト


エリカが制作したセイバーガンダムの改造機。

ベース機の可変機構を残しつつ格闘戦を重視した改造が施されている。

その為、機動力は多少落ちたもののモビルアーマー形態への変形で補っている。


武装

・バスターソード

マシロと参加した大会の優勝賞品。

バックパックにマウントされており、格闘戦用の武器では最大級の攻撃力を持つ。

・ソードライフル

右手に装備されている武器。

マシロと参加した大会の優勝賞品。

ライフルモードとソードモードを切り替える事で射撃戦にも格闘戦にも対応できる。

・ビームブーメラン

両肩に装備されている。

・ビームサーベル

ベース機では肩に装備されていたが、ビームブーメランの装備に伴い、腰に装備されている。

また、柄を連結させて使う事も出来る。

・グリフォンビームブレイド

脚部に装備されている。

インフィニットジャスティスの脚部を流用している。

・アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲
・ピクウス76mm近接防御機関砲
・20mmCIWS
・シールド



ビギニングガンダムB30


アオイが制作したビギニングガンダム30の改造機。

以前に使っていたビギニングガンダムB同様に一部が青く塗装されている。

ハイパーバスターライフルとアオイ自身の高い射撃能力により長距離で戦闘で能力を発揮する。


武装

・ハイパーバスターライフル

両手に1基つづ装備されている。

個々で高い威力を持ち長距離からでも相手のガンプラを破壊する事が出来る。

ベースとなったのは以前にマシロが情報収集の為に開催した大会の優勝賞品である装備、スノーホワイトが使われている。

・スノーホワイト

2基のハイパーバスターライフルを連結させた状態。

本機における最大火力を誇る。

・IFSファンネル

ベース機であるビギニングガンダム30のIFSユニットをベースに改造したファンネル。

ファンネル一つ一つがIFSシールドを展開する防御用の装備。

一つ一つが別方向からの攻撃に対応するだけでなく、集めて強力なIFSシールドを展開したり、IFSシールド同士を結合させて全方位からの攻撃を防ぐ、IFSフィールドを展開する事も出来る。

また、アオイのセコンドであるタクトの方からもある程度は操作する事が可能。

・ビームサーベル

バックパックに3基装備されている。

・実体剣

バックパックに装備されている。

・ミサイル

腰に2基つづ計4基装備されている。

威力は小さいが、ビームの効かない相手などに使われる。





ジムダガー

ありすが使用するガンプラ。

改造はパーツの組み換えによって行われている。

機体名はジムとあるが、ジムのパーツは頭部にしか使われておらず、他のパーツの殆どガンダムタイプから流用されている。

武装

・ビームライフル

ジェガン用の物を流用している。

・レールガン

フリーダムガンダムの物を流用している。

・ガトリング砲

ガンダムNT-1の左腕を流用している。

・ビームシールド

ストライクフリーダムガンダムの右腕を流用している。

・バルカン

頭部に2門装備されている。

・I.W.S.P

バックパック





ユニコーンガンダム・ノルン

コウスケが制作したガンプラ

ユニコーンガンダムにバンシィノルンの装備を流用し火器を追加している。

以前に使っていたユニコーンガンダム同様にユニコーンモードからデストロイモードへの変身も可能。

また、ユニコーンが作中で行ったようにファンネルジャックをする事も可能。



フルアーマーユニコーンガンダム・ノルン

ユニコーンガンダム・ノルンのフルアーマー形態

ベースとなったユニコーン同様に装甲系の追加は殆どされていないが、Z系のビームライフルなどが独自に追加されている。








[39576] 幕間4
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/11/25 00:16
 イオリ模型店でイオリ・タケシに負けてからのマシロはひたすら強くなろうとした。
 手始めにとにかくバトルをして、合間にガンダムを見ながらバトルの相手として使うガンプラの制作をしながらガンプラ作りの方を勉強した。
 余りにガンプラバトルに熱中している為、キヨタカも心配となり、年の近いシオンをマシロの世話係としてマシロの傍に置いた。

「……何で、俺より後に初めてミズキの方が上手い訳?」

 世話係となったシオンもマシロに付きあわされてガンプラ作りをさせられたが、すぐにマシロよりも上手く作れるようになってマシロは面白くはない。

「私は手先は器用な方だから。それにバトルの方はマシロの方が強いわよ」
「そんなの分かってる」

 元々、シオンは大抵の事は平均以上にこなす事はできる。
 その為、制作だけではなくガンプラバトルの実力も短期ながらもある程度の実力となった。
 だが、すでにマシロはその才能を順調に開花し続けて、バトルの腕前はマシロの方が若干上だ。

「それが出来たら、もう一回バトルするから」
「はいはい」

 今日だけで10回以上もバトルをやっているが、マシロはまだやり足りないらしい。
 そんなマシロを微笑ましく見ながらシオンはマシロに付き合う。







 
 マシロは腕を上げて近所でガンプラバトルで勝利を重ね過ぎたせいで、誰も相手になって貰えなくなると言う事もあったが、シオンだけはマシロのバトル相手となっている。
 シオンの実力もマシロとのバトルの中で磨かれて行き、その辺のファイターよりも手ごたえがある為、マシロも近所で相手にして貰えなくてもバトルの相手に困る事は無かった。
 バトルの相手が自分だけだと言う現状はシオンとしては余り良い傾向ではないと思い、いろんな相手とバトルする事をマシロに提案するも、マシロはシオンが相手になれば十分だと言って外に出る頻度は次第に減って行った。
 そんな状況をキヨタカに報告し、キヨタカもマシロに学校に行くように進めるが、マシロは行きたくないと言って聞かなかった。
 流石にガンプラバトルだけの生活は将来的に危険である為、学校に通う事は強制しなかったが、代わりに家庭教師役をシオンに任せた。
 だが、マシロは面倒だと言って、勉強の時間になると逃げだした。
 マシロを捕まえる事はシオンには簡単な事ではあったが、本人がやる気が無い為、幾ら教えても身に付く事は無い。
 そんな事が続き、シオンもマシロに対して口うるさく勉強をする事を言う為、シオンとのバトルの時間も次第に少なくなり、マシロは一人でCPUを相手にバトルをする時間が増えて来た。
 一人でバトルする時間が増えていくが、マシロはバトルを重ねるごとに自分が強くなって行く事を実感し、強くなればキヨタカが褒めてくれる為、毎日が充実していた。
 しかし、そんな日常はある日突然、終わりを迎えた。
 その日は、久しぶりにキヨタカが時間を作って会いに来てくれる予定があった。
 前に話した時に、次に会う時は一緒にガンプラバトルをやろうと言う約束もした。
 キヨタカの仕事が終わるまで、マシロはCPUを相手にバトルの練習をいつも通り行っていた。
 マシロがバトルしている中、使用人の一人がシオンを呼びに来た。
 バトルに集中しているマシロはそれに気づく事は無いが、シオンは使用人と共に部屋を出て行く。
 少しすると、シオンは部屋に戻って来るが、シオンの様子は血の気が引いていた。

「マシロ……」
「何だよ。今良いところなんだから」

 バトルをシオンに止められて、マシロは不機嫌になる。
 だが、シオンはそんな事を気にする余裕はない。

「さっき、連絡があったわ。総帥が事故に遭われて亡くなったそうよ」
「は? 何言って……」

 マシロはすぐにシオンの言葉を理解出来なかった。
 使用人はシオンにキヨタカがこちらに向かう途中で事故に遭ったと言う事を伝えてに来た。
 すぐに事実確認を行うと、それが紛れもない事実だと確認して、シオンはマシロに伝えに来た。
 次にシオンが適当な事を言っているのかとも思ったが、シオンの様子が嘘ではないと語っている。

「だって……父さんは……俺とバトルするって」

 マシロの頭の中は完全に混乱していた。
 先ほどまではキヨタカに自分の実力を見せようとしていた。
 だが、そのキヨタカは事故に遭って死んだ。
 まだ幼いマシロにはそれを受け止める事などできはしなかった。

「すぐにユキト様達が集まるようだから、マシロもすぐに準備を……」

 シオンが言い切る前にマシロはふらふらとバトルシステムの前に立つ。

「今はそんな事をしている場合じゃ……」
「……そんなには兄貴達に任せておけばいいだろ。俺は忙しんだよ」

 マシロは酷く冷めた声でそう言って、中断していたバトルを再開する。
 
「マシロ……」
「もっと強くならないと……でないと父さんに……」

 虚ろな目をしながら、マシロはボソボソとつぶやきながら、バトルを続ける。
 シオンは痛々しくて見てはいられなかった。
 あれだけ慕っていた父親を急に亡くしたマシロに対して、シオンは何もする事が出来なかった。
 シオンもまた、突然の事態に動揺しており、シオンもまだ若い為、この状況でマシロに何かを出来る程大人ではない。
 マシロはただ、現実から逃れるようにバトルに没頭し、シオンはただ見ている事しか出来ない。
 それから、マシロはキヨタカのお通夜や葬式、告別式にすら出る事は無かった。
 元々、キヨタカとユキネの愛情を最も受けていたと言う事もあって、この事が兄弟の中でマシロの立ち位置が更に悪くなった。
 クロガミ一族の中でマシロの味方は少なく、最大の後ろ盾であったキヨタカが死亡し、ユキネはこんな時でも行方を暗ませていた事もあってマシロは完全に一人だ。
 それを知るからこそ、シオンはマシロの味方であろうと決意した。
 だが、この日を境にマシロは周囲に心を閉ざし、笑う事は無くなった。
 ある程度の時間が経つにつれて以前のマシロに戻りつつあるが、完全に元のマシロに戻る事もなかった。
 シオンも心を閉ざすマシロにせめて世話係としてはとマシロの望む事を叶え続けた。
 それから数年が経って、マシロはあの日のまま変わる事は無かった。
 遂にはシオンの方も限界を迎え、マシロの元を去る事となり本当に一人となる。
 そして、時間は現在へとたどり着く。

「本当に色々あったけど、ようやくここに来る事は出来たよ。父さん」

 マシロはキヨタカの墓標の前で今まで人生を振り返った。
 孤児院で生活し、ガンプラと出会った時、ガンプラバトルの才能をキヨタカに見出されてクロガミ一族に引き取られた時、キヨタカと初めてのガンプラをイオリ模型店で買ってイオリ・タケシに敗北した時、そして、キヨタカが事故に遭った時。
 キヨタカが死んだ日からマシロは一度もキヨタカの墓を訪れる事も、線香をあげる事もしてはいない。
 今まではキヨタカが死んだと言う事を受け止めきれずに逃げ続けて来た。
 だが、今年の世界大会を経てマシロはキヨタカの死を受け入れて墓参りに来る事が出来た。

「俺さ決めたんだよ。戦うって。俺はもう過ちは……イヤ、あの日の選択を過ちにしない為にも」

 マシロは自身の選択でクロガミ一族に来る事でアイラを初めとした孤児院での居場所を失った。
 だが、同時にクロガミ一族の中でも大切な物を貰った。
 だからこそ、マシロはその選択を間違いにしたくはない。

「ただのマシロじゃなくて……クロガミ一族のマシロ・クロガミとして戦う。俺なりの戦いで俺の大切な物を守る為に……その為なら何とだって戦える」

 今日、ここに来たのは決意表明の為だ。
 キヨタカの墓前で決意表明する事でこの先何があっても、自身の決意が揺らがないようにする為だ。
 
「その為に父さんが守ろうとした物が壊れるかも知れない。それでも俺は行くよ。俺の道を、俺の戦いを……だから見ていてよ。父さん」

 キヨタカの墓前で誓いを立てた。
 これでマシロの決意は固まった。
 ガンプラバトルしか能のないマシロなりに色々と考えて来た。
 穴だらけでの計画だが、今のマシロにはこれが精一杯だ。
 その果てにキヨタカが守りたかった物を壊すかも知れない。
 それでもマシロには立ち止まる訳には行かない理由もある。
 決意表明は終わった。
 これでマシロの決意が揺らぐ事は無い。
 後はただ前に進むだけだった。





[39576] Battle59 「新会長」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/12/04 21:50
 第七回世界大会が終わり数か月が経った。
 季節は夏から秋へと変わり、冬が近づいている。
 世界大会準決勝時の大型アリスタ暴走事件により大型アリスタが破壊された事で、PPSE社は全世界にプラフスキー粒子の供給はすでに生成してあった備蓄分でやりくりするしかない状況に置かれていた。
 更に大会期間中に会長のマシタ及び秘書のベイカーが行方不明となっている為、状況は最悪だ。
 プラフスキー粒子を再び安定供給しようにも、PPSE社の内部でも粒子の関する情報は一部にのみか知らないトップシークレットとなっている為、難航している。
 そんな中、PPSE社の重役達は本社の会議室に召集されていた。
 重役達も呼び出された理由については誰も聞かされていないらしく、ざわついている。
 重役達が集まって、少しすると一人の人物が入って来た。
 ざわついていた重役達もその人物を見て静まり返る。

「やぁ諸君。こうして直接会うのは初めましてだね」

 重役達も面識こそないが、その人物を知っていた。
 きっちりとスーツを着込んだ人物こそがマシロ・クロガミ、今年の世界大会の覇者だ。
 マシロは重役達を気にする事無く空いていた席に座る。

「ここに皆を集めたのは他でもない。今日から俺がPPSEの会長になったから」

 マシロは普段と変わらない口調だが、とんでもない事を口にした。
 世界大会の時にマシタが行方を暗ませてから会長の席は空白だった。
 それよりもプラフスキー粒子の供給が出来ない事の方が重要だったからだ。
 そこにPPSEとは無関係なマシロが会長になったと言ってもすぐに理解できる訳もない。

「マシタ前会長は歳のせいで田舎に帰って隠居する事になったから。ついでに秘書も付き添いで」

 マシタの行方もPPSEは探していたが、未だに行方が分からず最悪警察の方に届け出る用意もしていた。
 だが、マシロの言っている事は無茶苦茶だった。
 マシタは若いとは言えないが、隠居する程の歳ではない。
 更にわざわざ秘書であるベイカーが付き添う理由もない。
 隠居するならするで事前に重役達は聞いている筈だ。

「俺が会長になるって事はいろんなところにも話しは通してあるから」

 マシロが会長になると言って簡単になれる物でもない。
 マシロがここまで自信満々に言っているところから察するにすでに双方に根回しは済んでいるのだろう。
 そして、これが意味する事は一つしかない。
 クロガミグループによるPPSE社の乗っ取りだ。
 マシロ自身に会長としての職務が全うできるとは思えない。
 それでもマシロを会長としておいたのはクロガミグループからの指示で動くからだろう。

「文句があるなら聞くけど? お宅らも良い大人なんだからさ。ここでどういう態度を取ればいいか分かるでしょ?」

 それは遠回しの脅しでもあった。
 マシロのバックにクロガミグループがある以上、下手に抵抗すれば今まで培って来た地位が一瞬で崩れ去る事になる。
 場合によってはクロガミグループがマシタに対して何かをした可能性もあるが、そこに踏み込んだところで自分達に利益がある訳でも無く、そこまでマシタに忠誠を誓っている訳でもない。
 寧ろ、ここはマシロに対して下手に出て気に入られた方がクロガミグループに引き抜かれる可能性もある。
 PPSE社も世界的な企業だが、プラフスキー粒子の生成できなり後のないPPSE社よりも様々な分野で功績を上げているクロガミグループに引き抜かれた方が良い思いが出来る。
 重役達はマシロに反発するよりも大人しく従った方が得だと考えると誰もがマシロを新会長と認めていく。

「よろしい。まずはワークスチームのアダムス主任」
「何でしょうか?」

 アランはマシロが新会長になると言う事は納得はしていないが、周りがマシロを認める空気となっている為、大人しくしていた。
 
「君のところのメイジン、クビ」
「は?」

 マシロは親指で首を切る仕草をする。
 余りにも軽く言う為、アランはすぐには理解出来なかった。

「だからクビだって言ってんの。前から思ってたんだよね。メイジンをファイターとして看板にするのは良くないってさ。だって初代はファイターじゃなくてビルダーじゃん。ファイターとも今年の世界大会で結果を出せなかったし」

 今年はワークスチームから三代目のメイジンが出場し、準優勝を果たしている。
 優勝は逃したが、準優勝と言う事で結果を出したと言う事になっていたが、マシロはそれでは結果として認めないらしい。

「しかし!」
「これは決定事項。すぐにでもメイジンには荷物をまとめて出て行くように通達しといて。もう、メイジンの時代は終わったんだよ」

 抗議するアランだが、マシロは意見を聞く気が無いらしい。

「で、これからは新しい象徴が必要な訳」

 マシロが指を鳴らすと新たな人物が入って来る。
 フルフェイスの仮面に黒いマントをなびかせて入って来る。

「紹介するよ。彼はマイスター、俺が認めた最強のガンプラファイター。彼に今後のガンプラバトルを先導して貰う」

 素顔はおろか名前すらも伏せたマイスターの登場に重役達も動揺を隠せない。
 だが、マシロはそんな重役達の事を気にする事無く話しを進める。

「今後の事は負って通達する。んじゃ、解散」

 有無を言わさずにマシロはこの場を解散させる。
 重役達は混乱しているが、マシロが新たな会長となった事を様々な方面に通達する為に、仕方が無く出て行く。

「はぁ……終わった」

 重役達が出て行き自分とマイスターの二人きりとなってネクタイを緩めてマシロは一息つく。

「ご苦労さま。しろりん」

 マイスターがフルフェイスの仮面を脱ぐと中にはマシロの義理の母であるユキネが入っていた。

「だからその呼び方は……」
「頼まれていた通りにしたけど、これで良かった訳?」
「まぁ、上出来だよ」

 マイスターの中身にはマシロがユキネに頼んで入って貰っていた。
 マイスターの衣装はフルフェイスの仮面とマントである程度は中身を誤魔化せる。

「しろりんにしては回りくどい事してるわね。ユッキーに頼んでPPSEを乗っ取ったりまでしてさ」
「元々兄貴はそうするつもりで動いていたよ。それに俺の目的を果たす為にPPSEもマイスターも必要だからね。プロジェクトエデンにはさ」

 マシロがPPSEの新会長となったのは、マシロがユキトに頼んだからだ。
 世界大会でマシタが行方不明になった時からユキトはPPSEを手中に収める為に動いていた。
 マシロを会長に据えたのも、単に会長を傀儡にするのにちょうどいいと言う理由だ。
 そして、マシロもPPSEの会長になる事で目的の一つを果たせる。

「しろりんのやりたい事は大体予想出来るけどさ……分かってるよね? しろりんのやろうとしている事は下手をすれば膨大な死人が出かねないわ。しろりんはそうなった時に責任を負う覚悟はあるの?」

 ユキネもマシロがやろうとしている事の全貌は聞いていない。
 それでも、自分の聞いている範囲の情報からある程度の事は予想出来る。
 そこから推測できるだけでも、下手をすれば死人が出かねない。
 それも一人や二人と言うレベルの話しではない。

「覚悟なんてないよ。母さんの言う通り、下手をすれば人類の半分だって死ぬかも知れない。だけどさ……そんな責任は人の背負えるレベルじゃない。それにさ、俺はもう自分に嘘をつく事は止めたんだよ。だから、俺は完全無欠の大団円以外の結末は要らないし、認めない。それでも俺の望む結末を得られない世界なら一度滅んだ方が良い」

 マシロも自分の行いの果てに起きうる可能性は分かっている。
 だが、マシロは今まで自分に嘘をつき続けて来た。
 だからこそ、自分に嘘をつく事は止めて自分のやりたいように生きる事を選んだ。
 マシロにとって、その結末は望む物ではない。
 
「要は全てが上手く行けば良い。それだけの事だろ」
「成程……さっすが私のしろりん」

 ユキネはマシロに自らの行いに対する責任を背負う覚悟を聞いたが、マシロはそんな覚悟ではなく、自分の望む結末を得る覚悟を決めているようで満足そうにしている。

「私に出来る事があればどんどん言っちゃってよ! もう、何だってしちゃうよ!」
「別に良いよ。これは俺の戦いだから。母さんは俺の言った事だけしてくれれば十分だから。後は余計な事をしないでくれれば良いから」

 ユキネに頼めば楽にマシロの望む結果を得る事が出来るだろう。
 それでは意味がなかった。
 マシロが自分でやるからこそ意味がある。
 マシロは緩めたネクタイを締めて出て行く。

「少し見ない間にずいぶんと成長したみたいだけど……もう、やってたりするんだよね。余計な事」

 そんなユキネの呟きがマシロに届く事は無かった。
 






 マシロがPPSEの会長に就任してから数日、マシロはPPSEの研究施設を訪れている。
 現在のPPSEが生き残るにはプラフスキー粒子の再製造が急務となっている。
 マシロは外部からプラフスキー粒子を再製造する為に必要な人員を大量に引き抜いて研究させている。
 その甲斐もあって、すでにある程度の目途が立ちつつあった。
 後はそれを出来るだけ早急に安定供給を可能にさせる必要がある。

「流石は会長です」
「当然の事だよ。優秀な人材をわざわざ引っ張って来たんだ。成果が出なければ意味はない」

 マシロに研究者が現在の進捗状況に付いて説明している。
 マシロが引っ張って来た研究者が入って来た事で、粒子製造に関する研究は一気に進んでいる。

「そもそも、情報を秘匿し過ぎたせいでいざと言う時に対応できないからこうなった」

 今まで研究が上手く行かなかった最大の要因は粒子生成に関しては社内でもトップシークレットだった事にある。
 そのせいで、情報が殆ど無く、行き成り粒子を生成するように言われてもすぐには出来ずにいた。

「とにかく、順調で何よりだ。プロフェッサーにはこの調子で研究を続けるようにと伝えて置いてくれ」
「了解しました」

 現在の粒子生成の研究はマシロが外部から連れて来た学者を中心となって行われている。
 マシロがプロフェッサーと呼ぶ科学者が加わった事で一気に研究が進んでいる。

「俺は少し忙しいから後は任せる」

 粒子製造の方が順調であると確認できればマシロがここに来た目的は果たされている。
 粒子の製造に関しては専門外である為、これ以上ここにいたところでマシロに出来る事は何もない。
 マシロは後の事は研究施設の職員に任せる。
 そのままマシロは待たせて置いた車で静岡にあるホワイトファングを訪れていた。
 元々はマシロが静岡の日本第一地区から世界大会に出る際に地区のファイターの情報を集める為に作った場所ではあるが、用が無くなったと言ってすぐに撤去出来る規模の物でも無い為、未だに営業は続けている。
 すでに営業時間が終わっている為、店内は営業時間の時のような賑わいは無くガラリとしている。
 
「で、何でお前が居る訳?」

 マシロがここに来たのは視察と言った類の物でも客として来た訳でも無い。
 
「騙すようで悪いと思ったけどな」

 マシロを呼び出したエリカは少しバツが悪そうにしている。
 マシロの前には呼び出したエリカだけではなくシオンの姿もある。

「私が彼女に頼んだのよ。私が呼び出しても無視しそうだから」
「確かに」

 呼び出したのはエリカではあるが、シオンがエリカに頼んだらしい。
 シオンもエリカ同様にマシロの連絡先は知っているが、シオンが呼び出してもマシロは無視しそうだから、自分よりも呼び出しに応じそうなエリカに頼んだ。
 エリカがこの場に居るのは自分の名を使って呼び出して置いて、自分がいないのは流石にまずいと思ったからだ。

「で、エリカを使ってまで俺を呼び出したのは何で? 俺は色々と忙しいんだけど」
「クロガミグループ内に居ると色々な情報が入って来るわ。その中に少し気になる話しが耳に入ったのよ」
「情報ね……」
「グループがピンポイントでガンプラバトルに関わって来るようだけど」

 シオンはマシロの世話係を止めたとはいえ、優秀さは買われている為、クロガミグループ内で働いている。
 そんなシオンの耳にクロガミグループがガンプラバトルに本格的に参入すると言う話しを耳にしたらしい。

「事実だけど、シオンには関係のない話しだろ」
「そうね。ただ、余り良くない噂も聞いているのよ。わざわざPPSEを乗っ取った事とかね」
「それも事実だ(情報が洩れてる? レイコの奴がこんなミスをするとは考え難い……成程、余計な事をするなって言っておいたんだがな。手遅れだったか)
 
 クロガミグループがガンプラバトルに参入する事は少し調べれば分かる事だ。
 だが、PPSEを乗っ取ったと言う事はマシロが会長になってからまだ数日の事で、マシロが会長になったと言う事も公にされていない。
 当然、情報管理はレイコによって徹底されている為、幾らシオンでもそこまで調べる事は不可能だ。
 そうなれば、内部から情報が意図的に漏れていると考えられる。
 レイコがそんな事をすればどんな制裁を受けるか分かっている為、情報を漏らした事による制裁を恐れず、レイコの目を誤魔化して情報を流せる人物は限られている。

(だが、この事実は使えるか)
「PPSEが乗っ取られたとかどういう事だよ!」

 エリカは事情を知らない部外者である為、驚いている。
 
「言葉通りの意味。PPSEはクロガミグループが乗っ取った。で、俺が新しいPPSEの会長って訳」
「マシロが? 一体総帥は何をしようとしているの?」

 マシロが新しい会長になったと言う事はシオンも知らない事だが、驚きを隠しながら問いかける。

「ガンプラバトルの支配。PPSEを乗っ取ってやる事はそのくらいでしょ」

 ある程度は誤魔化すかとも思われたが、マシロはあっさりと話す。
 PPSEは世界的な企業ではあるが、あくまでもプラフスキー粒子関連の技術を独占する事で成り立っている。
 その為、ガンプラバトル関連の方面にしか強みは無い。
 だが、粒子関連の技術を秘匿し独占しているが、故にガンプラバトル関連においてはクロガミグループですら抑えている。
 
「支配って本気かよ!」
「でなければ、PPSEを乗っ取る意味はない」
「あのバトルを見て少しは変わったと思ったけど……堕ちるところまで堕ちたようね」

 世界大会の決勝戦でのタツヤとのバトル。
 あの時のバトルはシオンの見て来たマシロとは違っていた。
 キヨタカの死からガンプラバトルに執着して、人との関わりに興味を無くしていたが、初めて会った時のように純粋にバトルを楽しんでいた。
 だからこそ、PPSEに関する噂を耳にして、エリカに頼んでまでマシロと接触した。
 
「酷い言われようだな。聞きたい事がそれだけなら俺は帰る。これでも多忙の身何でな」

 マシロは帰ろうとするが、その前にシオンが立ちふさがる。

「悪いけど、そうも言ってられないわ」
「ふーん。で、俺に言う事を聞かせないって言うなら、どうするか分かってここに呼び出したんだよな」

 シオンがここにマシロを呼び出したのには理由がある。
 マシロが話し合いに応じる気がない時の事も想定して、ここを選んだ。
 状況は少し変わったが、やる事は変わらない。

「ええ。私が勝ってマシロを止める」
「そいつは無理だな」

 ホワイトファングにマシロを呼び出した理由はここにバトルシステムがあるからだ。
 ここのバトルシステムなら確実にバトルするだけの粒子がある。
 話し合いに応じなかった時はマシロにバトルを挑んで勝って話し合いに持ち込むか、話しをさせるつもりだった。
 マシロの性格上、話し合いに応じる事は無くてもバトルを拒否する事はあり得ない。
 そして、バトルに勝てばマシロはその決定に従うだろう。

「ちょっと待った。悪いけど、アタシも戦わせて貰う」
「俺は構わないけど」

 今まで蚊帳の外だったエリカも黙って見ている訳にもいかなかった。
 マシロとしてはシオンとエリカを同時に相手にするくらい訳ない。
 そして、マシロとシオン、エリカは店内の大型バトルに移動する。

「始めるか」

 マシロはGPベースをバトルシステムにセットするとガンプラを置いた。
 そのガンプラを見てエリカとシオンは少なからず驚いた。
 今までのマシロのガンプラは白で塗装されていた。
 だが、マシロが使おうとしているガンプラは今までのガンプラとは正反対に黒を基調としていた。
 マシロが新たに使用するガンプラはガンダムAGE-3をベースとしたガンダム∀GE-3だ。
 ガンダムAGE-3をベースにしながらも頭部はガンダムタイプ特有のツインアイではなく、ガンダムAGEにおける敵対組織であるヴェイガンのモビルスーツの特徴でもあるスリット状のセンサーをなり、掌にはビームサーベルと兼用のビームバルカンが内蔵され、サイドアーマーには推進ユニットも兼ねているヴェイガン系のモビルスーツ特有の翼のような形状となっている等、ヴェイガンのモビルスーツの特徴を持っている。
 肩にはガンダムAGE-2を思わせる4枚の推進ユニットが取り付けられている。
 頭部には2門の小型バルカンに両腕にはシグマシスドッズキャノンが装備されている。
 
「ガンダム∀GE-3。目標を殲滅する」

 マシロが似つかわしくない黒いガンプラを使う事に対する動揺を隠しながら、バトルが開始される。
 今回のバトルフィールドは海上ステージだ。
 バトルステージに陸地は無く、水中と空中の二つで攻勢されている。
 その為、水中適正か飛行能力や海上移動の方法を持たないガンプラの能力は著しく低下するステージだ。
 エリカのセイバーガンダム・エペイストはベース機から飛行能力を持っている為、水中に入らなければ問題はない。
 マシロのガンダム∀GE-3も肩と腰の推進ユニットは光波推進システムとリアアーマーとバックパックの高出力スラスターのお陰で、その見た目からは想像も出来ない機動力を発揮できる。

「シオンの奴は海か……」

 エリカのガンプラは目視できたが、相手は1機だけだ。
 空中にいないとなると、シオンの用意して来たガンプラは海の中と言う事だ。

「ガンプラの選択をミスったか? まぁ良い。先にそっちから落とす」

 ガンダム∀GE-3は両腕のシグマシスドッズキャノンをセイバーガンダム・エペイストに向けて放つ。
 シグマシスドッズキャノンはその名の示す通り、ドッズ系の武器同様にビームを回転させて貫通力を高めている。
 その上で大火力である為、距離が離れていても十分な威力を発揮できる。

「この距離でこの威力かよ!」

 セイバーガンダム・エペイストは回避して、アムフォルタスで反撃するも距離が離れている為、ガンダム∀GE-3に当たる事は無い。
 
「近づきさえできれば!」
「その必要はないわ。彼は私が何とかするから援護をお願い」

 今まで波すら殆どなかった海上に突如、水柱が上がるとそこから三本の爪の付いた巨大な手が出て来る。
 ガンダム∀GE-3はシグマシスドッズキャノンを向けるが、ガンダム∀GE-3の下に巨大な影が出ていた。
 マシロがそれに気づくが、すでに遅かった。
 巨大な影からもう一つの手がガンダム∀GE-3を捕えた。
 普段のマシロなら反応出来たが、水中の巨大な影によって手の影が隠れていた為、反応が少し遅れてしまった。
 巨大な手に捕まったガンダム∀GE-3は水中へと引きずり込まれて行く。

「成程……ずいぶんと手の込んだ事をするな」
「このくらいはしないとマシロには勝てない事は分かり切っているわ。だけど、まだ終わりじゃないわよ」

 シオンのガンプラは水陸両用の大型モビルアーマー、シャンブロだ。
 そして、ガンダム∀GE-3を捕えているのは改造を施してワイヤーで遠距離まで飛ばせるようになったアイアンクローだ。
 普通にバトルしてもシオンではマシロに勝てない事は十分に分かっている事だ。
 だからこそ、策を弄して来た。
 その一つがバトルフィールドだ。
 マシロが得意としている高速での白兵戦において、水中でのバトルではぞんぶんに戦う事が出来ない。
 それを見越して、多少は不公平にはなるが、バトルシステムを事前に設定でバトル時にランダムで選択されるフィールドは水中ステージに限定させている。
 水中に引き込めばそれだけでマシロの能力は一気に低下する。
 ガンダム∀GE-3は強引にシャンブロのアイアンクローから抜け出すとシグマシスドッズキャノンを向ける。
 だが、ガンダム∀GE-3が撃つ前にシャンブロは大量の魚雷を撃ちだす。

「そう来たか」

 水中で機動力を落としてもマシロの反応速度と技術なら攻撃に対処する事は予想出来る。
 だからこそ、大量の魚雷を使って点ではなく面で責める。
 ガンダム∀GE-3はシグマシスドッズキャノンで迎撃する。
 水中である為、ビーム兵器の威力は大きく減退させられている為、シグマシスドッズキャノンの出力を上げざる負えない。
 出力を上げる事で水中でも使えるが、威力を上げている分、連射速度が落ちている事もあって魚雷の迎撃は追いつかない。
 ある程度は迎撃が出来ている為、迎撃した穴をすり抜けながら魚雷を回避するが、回避しても魚雷は追尾して来る為、かわし切れずにシグマシスドッズキャノンでガードする。

「けど、その程度の攻撃じゃ効果はないけどな」

 ガンダム∀GE-3はガンダム∀GE-2同様に特殊プラスチックでできている為、装甲の強度は高い。
 魚雷を撃ち込まれた程度では傷を負う事は無かった。

「それも想定内よ」

 シャンブロはアイアンクローを射出する。
 2基のアイアンクローはガンダム∀GE-3の砲撃をかわしながら、2方向からガンダム∀GE-3を襲う。
 シグマシスドッズキャノンで応戦しているが、水中で機動力の出せないガンダム∀GE-3は海上に出ようと浮上する。
 だが、空中で待機していたセイバーガンダム・エペイストがアムフォルタスで攻撃する。

「こういうのは柄じゃないけど、悪く思うなよ」

 空中からの攻撃を回避していると、シャンブロのアイアンクローがガンダム∀GE-3を再び水中に引きずり込む。

「やってくれるな」
「今日はどんな手段を使ってでもマシロに勝たないといけないのよ」

 シャンブロの大量の魚雷がガンダム∀GE-3を襲う。

「これ以上、マシロに馬鹿な事をさせない為にも!」

 魚雷をガードしたガンダム∀GE-3をアイアンクローで追撃する。
 だが、特殊プラスチックで出来ているガンダム∀GE-3はこれだけの攻撃を受けてもダメージを受けているようには見えない。
 シャンブロのアイアンクローはガンダム∀GE-3を攻撃しながらも本体を繋いでいるワイヤーでガンダム∀GE-3の動きを拘束した。
 そして、先端部が開閉するとそこにはハイパーメガ粒子砲が内蔵されている。

「ここで止めて見せる!」

 ワイヤーで動きを封じられているガンダム∀GE-3に対してシャンブロはハイパーメガ粒子砲を撃ち込む。
 水中とはいえ、圧倒的な火力のハイパーメガ粒子砲が身動きの取れないガンダム∀GE-3を飲み込む。

「流石にマシロのガンプラでも……こいつは」

 水中ではなく空中に居るエリカにもハイパーメガ粒子砲のビームが海面を突き破って見ている。
 
「……言いたい事はそれだけか?」

 ハイパーメガ粒子砲の掃射を終えるとそこにはワイヤーで拘束された状態のガンダム∀GE-3が残されていた。
 水中で多少の威力は落ちていたが、まともに回避も防御も出来ずにガンダム∀GE-3に直撃したが、ガンダム∀GE-3は目に見えた損傷はしていなかった。

「あの一撃を殆ど無傷で……」
「ずいぶんを好き勝手に言ってくれて」

 ガンダム∀GE-3はハイパーメガ粒子砲により脆くなっていたワイヤーを強引に引きちぎる。

「あの日、俺と向き合う事を止めた癖に虫の良い事ばかり言って……」

 ワイヤーの拘束を逃れたガンダム∀GE-3はシャンブロに一直線に向かって行く。
 
「だからこそよ。あの時、私がきちんとマシロと向き合っていればマシロは一人で戦い続ける事もなかったかも知れない!」

 シャンブロは魚雷でガンダム∀GE-3を迎撃する。
 
「これは俺の戦いなんだよ。俺と向き合う事を止めたアンタが出る幕はないんだよ」

 ガンダム∀GE-3は魚雷を無視して突っ込む。
 魚雷がガンダム∀GE-3に直撃するが、ガンダム∀GE-3にダメージは無い。

「だからさ……」

 魚雷を突破したガンダム∀GE-3はシャンブロに取りついた。
 そして、両腕のシグマシスドッズキャノンをシャンブロに押し付けるとガンダム∀GE-3は青白く発光を始め、スリット状のセンサーがスライドし、ツインアイが露出する。。

「っ! マシロ!」
「邪魔すんなよ」

 バーストモードを起動させたガンダム∀GE-3がゼロ距離からシャンブロにシグマシスドッズキャノンを撃ち込む。
 バーストモードで強化された上にゼロ距離である為、シャンブロは表面に対ビームコーティング処理をしているのにも関わらずビームに撃ち抜かれた。
 ガンダム∀GE-3に撃ち抜かれたシャンブロは戦闘不能とまではいかないが、海底へと沈んでいく。
 そんなシャンブロを気にする事無く、ガンダム∀GE-3は海面へと浮上して行く。
 そのままガンダム∀GE-3は勢いよく海上へと飛び出した。

「さて……次はお前の番だ」
「何だってんだよ」

 ガンダム∀GE-3はシグマシスドッズキャノンを連射する。
 セイバーガンダム・エペイストは回避するが、回避しきれずにバスターソードを抜いて盾の代わりにするが、一撃でバスターソードは破壊された。

「なんて威力してんだよ!」

 セイバーガンダム・エペイストはソードライフルを連射し、ガンダム∀GE-3は両腕のシグマシスドッズキャノンをパージすると一気に加速する。
 それに対してセイバーガンダム・エペイストはソードライフルをソードモードに切り替えて前に出る。
 ガンダム∀GE-3は掌からビームサーベルを出して振い、セイバーガンダム・エペイストもソードライフルを振るう。
 
「世界大会での借りもついでに返させて貰う!」
「必要はないね」

 2機はぶつかり合うも、ガンダム∀GE-3がセイバーガンダム・エペイストのソードライフルを押し退けると左手の掌からもビームサーベルを出して振るう。
 とっさにシールドで防ぐも、シールドは易々と切り裂かれる。
 シールドの爆発からガンダム∀GE-3が飛び出し、手を伸ばすとソードライフルを鷲掴みにする。
 その状態からビームサーベルを出してソードライフルがビームサーベルに貫かれた。

「っ! こんの!」

 セイバーガンダム・エペイストは足のグリフォンビームブレイドを展開して蹴るが、ガンダム∀GE-3は蹴りを頭部スレスレのところで回避する。
 それと同時にタイミングを合わせて頭部のビームバルカンでセイバーガンダム・エペイストの足を破壊した。

「実力差もガンプラの性能差も圧倒的だ。悪い事は言わない。諦めろ」
「お前がガンプラバトルを支配するとか馬鹿な事言い出してんだ。退けるかよ!」

 両肩のビームブーメランをガンダム∀GE-3に投げつけるが、ガンダム∀GE-3は両手のビームバルカンで撃ち落す。
 その間に腰のビームサーベルを両方とも抜いたセイバーガンダム・エペイストは一気に距離を詰める。

「無駄な足掻きだな」
「うるせぇ!」

 バルカンを連射しながら突っ込みセイバーガンダム・エペイストはビームサーベルを突き出す。
 だが、ガンダム∀GE-3はセイバーガンダム・エペイストの腕を掴んだ。
 片腕を掴まれるが、すぐにもう片方のビームサーベルを突き出すが、その腕も掴まれて止められる。

「ガンプラバトルは変わろうとしている。その変革は誰にも止める事は出来はしない」

 セイバーガンダム・エペイストはガンダム∀GE-3を振り払おうと動くがガンダム∀GE-3を振り払う事は出来ず、距離が近い為、アムフォルタスは使えない。
 この距離で使えるバルカンを至近距離から撃ち込むがガンダム∀GE-3の装甲に傷をつける事すら出来ない。

「だから支配するってのかよ! んなバトルに何の意味があるんだよ!」
「言いたい事はそれだけか?」

 セイバーガンダム・エペイストの腕を掴んでいたガンダム∀GE-3は腕に力を入れて引く。
 やがて、セイバーガンダム・エペイストの両肩のジョイント部分が限界を迎えてセイバーガンダム・エペイストの両腕が肩からもがれる。

「終わりだ」

 両腕がもがれたセイバーガンダム・エペイストは最後の武器であるバックパックのアムフォルタスを前方に向ける。
 しかし、ガンダム∀GE-3はビームを撃つよりも早く懐に入り込むと頭部を鷲掴みにする。
 その状態でセイバーガンダム・エペイストを振り回すと首のポリキャップが外れて首より下が勢いよく吹き飛ばされる。
 ボロボロなセイバーガンダム・エペイストでは体勢を立て直すだけの余力は残されていない。
 そのまま、バトルフィールドの場外までセイバーガンダム・エペイストは飛ばされた。
 ガンプラがバトルフィールドの外に出た為、その時点でエリカは敗北となる。
 海底に沈んだシオンのシャンブロは戦闘不能と判定されていない為、まだバトルは継続中だ。

「これで分かっただろう。お前達が何をしても無駄だって事がさ」

 エリカのセイバーガンダム・エペイストが場外、シオンのシャンブロは海底に沈んでいる。
 バトル自体は終わっていないが、明らかに勝ち目はない状況だ。
 マシロは二人の回答を待つ事無く、バトルを中断してガンダム∀GE-3を回収する。

「だから変革する世界を黙って見てろ」

 マシロはそう言い残して帰ろうとする。
 バトルに勝ってマシロを止める気だったシオンも結局、マシロに勝つ事が出来ずに何も言えない。

「待てよ! お前は良いのかよ! それで!」

 だが、エリカはマシロの前に立ちふさがる。
 そして、マシロの襟を掴む。

「離せよ」
「本当に正しいと思ってんのかよ! こんなこと!」
「正しいかどうかは関係ない。必要な事だ」

 マシロとエリカは正面から睨みあう。

「ちっ……そうかよ」

 マシロの言っている事に納得は出来ないが、エリカは掴んでいたマシロの襟を離す。
 解放されたマシロは襟を正すと、エリカの横を通り過ぎる。

「……見損なった」
「だろうな。けど、俺はもう前に進むしかないんだよ」

 エリカとすれ違いざまにマシロはエリカに聞こえるかどうかと言うくらいの声で呟く。
 そして、マシロは振り返る事も無く店から出て行く。
 マシロは立ち止まる事も戻る事も出来はしない。
 すでに賽は投げられているのだから。



[39576] Battle60 「集いし戦士達」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2014/12/16 21:24
 エリカとシオンとのバトルから数日、マシロがPPSEの会長に就任してから約半月が経った。
 マシロが会長になったところでPPSEに大きな動きはない。
 精々、マシロが新会長となった事に対する会見の準備が進んでている程度だ。
 その間、マシロは会長らしい仕事は何一つ行ってはいない。
 マシロは単にクロガミグループの傀儡に過ぎず、会長としての仕事はマシロ同様にクロガミグループから送り込まれて来た秘書たちがマシロの指示として行っている。
 いずれは会長として表舞台に立つ時が来るが今はその時ではない。
 その為、会長と言う職に就きながらマシロは自由に使える時間が多く、その間に色々と準備を進める事が出来た。

「準備の方は万端だよ。兄さん」
「そうか」

 マシロはPPSE本社ビルの会長室からユキトに定期連絡を入れていた。
 クロガミグループがガンプラバトルをビジネスとして牛耳る為の準備の中でマシロはユキトにとある提案をしていた。
 その準備はマシロに全て任せてある。

「これが終わればクロガミグループに逆らうファイターはいなくなる。そうなれば、クロガミグループはガンプラバトルにおいて不動の地位を得る事になる」
「好きにしろ。但し、敗北は許さんぞ」
「分かってるよ。それと、兄さんにも当日は会場に来て欲しいんだ。連中にとってこのバトルはまさにガンプラの未来を賭けたバトル。こちらの御大将がいた方が向こうも盛り上がるからね」

 マシロの提案はクロガミグループがガンプラバトルにおいて不動の地位を得る為に、現在世界で活躍中のファイターと相手にバトルする事だ。
 世界レベルのファイターに勝利する事で、クロガミグループの力を見せつける事で、世界レベルのファイターをクロガミグループの傘下に置く算段だ。

「良いだろう」

 ユキトは用件が済んだ事で一方的に電話を切る。
 電話が終わったところで、マシロは一息つく。

「負けんは許さんか……兄貴にとってはこのバトルの勝敗に意味はないんだろうな」

 ユキトにとってはバトルに勝って世界レベルのファイターを参加に置く事は、バトルを盛り上げる上でマシロ以外のスターを用意する手間が省ける程度の事でしかない。
 そして、バトルに負けたところで別の手段を用意して、バトルの勝敗自体を有耶無耶にして最終的にクロガミグループが不動の地位を得ると言う結末には変わらないだろう。

「結局、兄貴は兄弟である俺達すらも信用してないんだよな。だからこそ、勝機がある」

 普通に向かったところで、マシロにはユキトは強大過ぎる。
 しかし、このバトルにおいてユキトは勝敗など気にはしていない。
 ユキトにとってはそれは勝負ではなもなんでもない。
 ただの余興に過ぎない。
 だからこそ、ユキトと直接的に対峙する事無く動けた。

「これでやれる事はやった。ここから先は競争か……」

 そう言うマシロの視線の先には机に置かれた7通の封筒がある。
 余り時間を空けすぎる訳にもいかない為、これ以上の引き伸ばしは出来ない。
 しかし、マシロの準備は全て整っているとは言い難い。

「後はアイツ等次第だ」

 すでにいくつもの仕込みは終えている。
 後はマシロでも大した事は出来ない。
 マシロが望む結末を迎えるか否かはもはやその時が来るまで誰も分かりはしなかった。
 






 イオリ・セイが学校から帰るといつもの光景が広がっていた。

「だから! 今日は私の番だって言ってるじゃない!」
「セイはお前と違って繊細なんだよ! お前のやり方じゃセイが潰れちまう!」
「何ですって!」
「何だよ!」

 世界大会からセイの生活は大きく変わった。
 世界大会後、アイラがイオリ家に居候している。
 元々はセイの母親のリン子が独断でアイラをイオリ家で預かる事を決めていたが、父親のタケシが帰って来た時にはあっさりと話しが纏まってアイラはイオリ家に居候する事が決まった。
 同時にレイジもたまにアリアンに帰るものの基本的にイオリ家にいる事が多くなった。
 世界大会でセイはレイジの相棒のビルダーとしてではなく、ファイターとしても上を目指す事を決めた。
 大型アリスタの破壊でプラフスキー粒子の再生産が出来なくなった事で粒子の使用制限が付く事になったが、セイとレイジが世界大会で3位になった事で一時的にイオリ模型店の客の数は増えたものの今ではすっかりと落ち着いている。
 そのお陰もあってイオリ模型店に設置されているバトルシステムを使っての練習時間を取る事が出来た。
 そして、セイの練習にレイジとアイラが自分が教えると名乗りを上げて来た。
 イオリ家の居候となったアイラは初めは戸惑う事もあったが、今ではすっかりと馴染んでいる。
 今まで自分がマシロを初めとして年下と言う立ち位置にいた事もあって、アイラはセイの前ではやたらと年上ぶっている。
 居候をしてすぐの時はマシロと連絡を付けようとしていたが、マシロの連絡先はチーム用の物ですでに使ってはいなかった。
 チームを勝手に抜けた手前、チームからマシロに連絡を取って貰う訳にもいかず、クロガミグループ経由にしてもどこに連絡を入れれば良いか分からない。
 その為、今のアイラにマシロと連絡を付ける手段は無かった。
 だが、今年の世界大会同様に特別枠での参加が出来る。
 来年の世界大会まで待てば会場でマシロを探す事も出来る為、今は焦らずにチャンスを待つ時期としている。
 一方のレイジもセイにガンプラバトルを教えるのは自分しかいないと言い、アイラと日夜どちらがセイにバトルを教えるかで口論が絶えなかった。
 
「なら勝負だ!」
「上等よ! 今日も負かしてあげるわよ!」

 レイジとアイラは喧嘩しながらもガンプラを取りに言ってバトルのブースに入る。
 二人が口論となった時、ガンプラバトルで決着をつける事が多い。
 今のところの勝率は五分と言ったところだ。
 それによってセイはレイジとアイラの二人からガンプラバトルを教えて貰っている。
 しかし、問題があった。
 レイジはバトル中に考える事はセイに任せて勢いと直感でバトルするタイプだ。
 その為、レイジの教え方は自分の感覚を基本に感覚的な事が多い為、イマイチ伝わらない。
 アイラはアイラで、マシロからしかバトルに関しては教えて貰っていない。
 マシロがアイラにやらせた練習はアイラの実力に合わせている。
 セイとしてもアイラの練習の意図は理解出来るが、今のセイの実力ではついて行く事が出来ずに練習にならない。
 どちらの練習も余り意味がない事もあって、レイジとアイラは相手のやり方はセイには合っていないと言って自分こそが教えるに相応しいと言って聞かない。
 二人がセイに教えようとしているのは純粋な好意であると言う事が分かっている為、断りきれないでいる。

「あらセイ、帰ってたの。セイに手紙が来てるわよ」
「手紙?」
「そう言えばそうだったな」

 リン子の言葉にさっきまで喧嘩していたレイジが戻って来る。
 セイが学校に行っている間にセイとアイラ充てに手紙が届いていた。
 封筒が同じだった事から送り主も同じと考えてセイが帰って来るまでアイラも開けるのを待っていた。

「PPSEから? 何だろう」

 送り主はPPSEとある。
 PPSEから何かが送られて来る心当たりは無い為、首を傾げながらも封筒を開けて中を確認する。

「何これ?」
「日時と……新幹線のチケット?」

 封筒の中には日時と場所の書かれた紙と新幹線のチケットが入っているだけだ。
 セイとアイラ充ての封筒の中身の違いはセイの方には新幹線のチケットが2枚だと言う事だ。

「この場所って世界大会の会場だよね。何でPPSEが僕達をこんなところに?」
「それに何で私がここにいるって知っている訳?」

 日時と場所以外にはPPSEが送って来たと言う事以外は分からない。
 そして、何よりアイラ充ての封筒がイオリ模型店に来る事がおかしい。
 アイラはチームに何も言わずに抜けている為、アイラ充てに届くとならば、ネメシスの方に行くのが自然だ。
 セイ充ての封筒と一緒に届いたと言う事は向こうもアイラがここにいると言う事を知っていると言う事だ。
 だが、セイの方に入っていたチケットが2枚と言う事は恐らくはレイジの分なのだろう。
 しかし、セイ充ての方はレイジの名は無く、セイを経由してレイジを呼ばせようと思われる。

「とにかく行って見れば何か分かるだろ」
「あからさまに怪しいじゃない」
「取り合えず、明日学校でユウキ会長に聞いて見るよ」

 PPSEがどのような理由で自分達を呼び出したのかは分からない。
 色々と謎が残るが、まずはPPSEとも関係の深いタツヤに聞いて見る事が一番の近道でもある。
 タツヤは世界大会後にメイジンを襲名する為に休学していた学校に復学している。
 話しを聞くタイミングは幾らでもある。
 これ以上、この事で話したところで進展は無く、レイジとアイラは今日はどちらがセイにバトルを教えるかを決める為にバトルを始める。

















 セイがタツヤに封筒の事を聞いたが、進展はタツヤにも同じ物が送られて来たと言う事、まだ公になっていないが、タツヤがメイジンを解任された事程度だった。
 タツヤもアランに連絡を取って、メイジン解任の事や封筒の事を聞こうとしたが、アランに連絡がつく事は無かった。
 それから数日が経過し、タツヤは静岡に向かおうとしていた。
 メイジン解任から始まり、自分達の知らないところで何かが動いていると言う事をタツヤは感じていた。
 それが何かを確かめる為にも、あえて誘いに乗る事にした。
 本来ならば、自分一人で行こうとも考えてたが、セイもレイジも自分達も無関係ではないと言ってアイラも含めて4人で向かう事となった。

「よぅ」
「君は……」

 新幹線の駅に向かう為に屋敷から車で向かおうとすると、屋敷を出てすぐのところでエリカが車を止めた。
 タツヤも直接話した事は無いが、エリカの事は知っている。

「出かけるところ悪いが、少し話しがある」

 時間には余裕がある為、タツヤは話しに応じる事にした。
 タツヤは車から降りると、エリカと共に車から少し離れる。

「悪いな」
「いや、それで僕に何か?」
「短答直入に言う。マシロを助けてやって欲しい」
「どういう事なのか詳しく聞かせて欲しい」

 エリカの用件はタツヤが想像もしていない話だった。
 マシロとは世界大会以外連絡も取り合っていない。
 いずれは世界大会で戦う事になるまで、互いに腕を磨き合おうと約束した訳ではないが、タツヤは漠然とそう思っていた。
 エリカはマシロとホワイトファングでの一件を掻い摘んで話す。

「まさか……そんな事になっていたとはね」

 用件も去る事ながら、内容もタツヤの予想を遥かに上回っていた。
 マシロがPPSEの新たな会長となり、ガンプラバトルをクロガミ一族が支配する。
 そんな事を予想出来る訳もない。

「アイツも多分、本意じゃないんだと思う」

 口ではクロガミグループのやろうと肯定していたが、去り際にポツリと零した言葉は、マシロが自分の行いについて自覚していると言う事が分かった。

「アタシの親もそれなりの地位だからクロガミグループの噂ってのは多少は耳にしてる。今のアイツは自分じゃどうしようもない状況に置かれて流される事しか出来ないんだと思うんだよ」

 クロガミグループの力は強大だ。
 マシロが幾ら足掻いたところで意味はない。
 マシロ自身は何も出来ずに流されるしかないとエリカは考えていた。

「だから頼む。マシロを助けてやって欲しい。アタシやミズキさんの言葉はアイツには届かない。届くとしたら後はアンタだけだ」

 マシロは全てを拒絶した。
 エリカの言葉もシオンの言葉もマシロを動かす事は出来なかった。
 だが、シオンは自分達で駄目なら後はタツヤしかいないと言ったため、エリカはタツヤにわざわざ会いに来た。
 タツヤは周囲に心を開く事のなかったマシロが唯一、関心を持った相手だからだ。

「正直な話し信じられない事も多い。だけど、僕は君の話しを信じるよ」

 マシロがPPSEの会長になった事等、公になっていない事も多く、話しも突拍子もない。
 だが、PPSEで何かが起きている事はタツヤも良く分かっている。
 そして、何よりマシロに何かが起きていると言う事を信じるになる確証をタツヤは持っている。

「僕がマシロを救えるかは約束は出来ない。でも、やれることはやって見ようとは思っている。今はこんな事しか言えない」
「それで十分だよ。アイツの事は任せた」

 エリカの言葉を疑っている訳ではない。
 だが、事態の全貌が見えていない為、それ以上の事は何も言えない。
 エリカの方もマシロの事をタツヤに伝える事が出来れば十分だ。
 エリカに見送られてタツヤはセイやレイジ達と共に世界大会の会場のある静岡へと向かった。
 










 

 タツヤ達は何事も無く、世界大会の会場に到着した。
 会場は開催期間の盛り上がりのかけらもないが、到着してすぐにPPSEの職員に案内されてメインスタジアムの中に通された。
 案内する職員も、控室に案内するように指示をされた事以外は何も知らず、やがてはメインスタジアムの中の出場選手用の控室に案内された。

「セイはん達も呼ばれたんですか?」
「マオ君!」
「それでフェリーニたちまで」

 控室にはタツヤ達以外にも呼び出されたマオやフェリーニ以外にもルワンにレナード兄弟もいた。
 タツヤ達を含めて全部で7組のファイター達だ。

「これで全員か? で、何で俺達がPPSEに呼び出されるか分かる奴いるか?」

 フェリーニの問いに誰も答える事は無い。
 共通点と言えば、セイとレイジ以外はメイジンがタツヤだと気付いていないが、全員に共通しているのは今年の世界大会のファイナリスト達と言う事だが、ファイナリスト全員ではない。
 他にも呼び出されているファイターがいるかも知れない為、控室で待つしかない。
 タツヤ達が来て少しすると、ドアが空いてステージ衣装のキララが入って来る。

「キララちゃん! まさかキララちゃんも?」
「違うわよ。私は主催者側」

 どうやらキララは皆のように呼び出された側ではないらしい。

「詳しい説明は後からされるけど、なんかPPSEが世界レベルのファイター達を相手にバトルのイベントをやるみたいなのよ。で、私は実況の為に呼ばれたって訳」

 PPSEがイベントを開催すると言う事は分からない話しでもない。
 だが、未だにプラフスキー粒子の再生産に関わる発表がない事や、事前に連絡も無しにイベントを開催すると言うのは不自然だ。

「私としてはこのまま仕事を成功させれればいいんだけど……ちょっと不味い話しを聞いちゃったのよ」

 先ほどまでとはうって変わり、キララは真剣な表情をする。

「さっき廊下でチャンピオンが変な仮面とマントを付けたのに言ってたのよ。このバトルで世界レベルのファイター達を完膚なきまでに叩き潰すって。そしてガンプラバトルをクロガミ一族で支配するって」

 チャンピオンと言うのはマシロの事を指している事は説明するまでもなかった。
 だが、マシロの話していた内容は穏やかではない。
 そして、タツヤはエリカから聞いた内容と合わせるとエリカの話しの信憑性が出て来る気がした。

「とにかく、私としてはアンタ達がボッコボコになっても構わないけど、用心はしなさいよね」

 キララはそう言って出て行く。
 キララとしては雇い主であるPPSEの思惑通りに言った方が良いのだろうが、話しが話しだけに警告に来たようだ。
 尤も、ガンプラバトルを支配するなど突拍子もない事で、どう反応すれば良いのか困りものだ。
 その後、PPSE側からバトルのルールが一方的に通達された。

「ルールを要約するとだ。一対一でバトルして勝ち数が多い方が総合的に勝利するって訳か」

 提示されたルールをフェリーニが要約する。
 ルールは至ってシンプルだ。
 各ファイターがバトルを行い7回のバトルの中で勝った数が多い方が最終的に勝利となる。
 バトルする順番は自由だが、各ファイターは1度しかバトルが出来ない。

「少し拍子抜けな気もするけど……いきなりこんなバトルをして来て一体何が狙い何だ」

 タツヤの疑問は最もだ。
 いきなり集めてルールだけを提示して来ているが、バトルの趣旨すらも明かされていない。

「そんな物は始まれば分かる事だ」

 レナード兄弟の兄マリオが一蹴する。

「つってもな。向こうの狙いが分からん以上は俺達だって動きようがないぞ」
「ビビったんなら逃げれば良いだろ。今のところは強要はされてないんだしよ」

 レナード兄弟の弟フリオの言葉に一同は顔を顰める。
 
「そんな事はどうでも良いわよ。さっきの話しが本当ならマシロはここにいるんでしょ。私はマシロに用があるわ」

 今までは接触する機会が無かったが、アイラにとってはマシロと接触できる機会が訪れたと言う事でもある。
 PPSEの思惑よりもそっちの方がアイラにとっては重要だ。

「確かにね。バトルとなればマシロは必ず出て来る。彼の相手は僕に任せて欲しい」
「ちょっと待ちなさいよ! セイの先輩だか知らないけど、私がマシロの相手をするのよ!」

 キララがマシロを目的していると言う事はマシロはPPSE側として出て来るだろう。
 タツヤにとってはバトルを通じてマシロの真意を確かめる機会でもあるが、アイラにとってもマシロとバトルする機会でもある。

「悪いけど、君とマシロとの間にどんな因縁があるかわかないけど、これは誰にも譲る事は出来ないな」

 タツヤとアイラはマシロと戦わなければいけない理由がある。
 どちらも譲れないだけの理由だ。

「僕はかつてマシロとチームを組んでいた時がある。本当はあの時、気づくべきだったんだよ。彼の抱えている物に……」

 以前にタツヤはマシロと共に大会に出た時がある。
 その時の決勝戦でマシロは負傷しながらもバトルを行った。
 あの時は相手が意図的にマシロを負傷させてバトルを有利に運ぼうとしていた事もあって卑劣な手段には屈しない為にもとマシロと共に戦った。
 一重にガンプラへの愛がマシロを動かしたのだと思っていたが、今になって思えばそう思おうとしていたのかも知れない。
 例え、命に係わる程の重傷を受けていたとしてもマシロはバトルをしていただろう。
 そこまで行けば愛を通り越している。
 一度はマシロに対して疑念を感じたが、ガンプラに対する愛は本物だと知った時点でそれ以上踏み込む事をタツヤはしなかった。

「もしもの事は考えても仕方が無いと言う事は分かってる。でも、あの時、僕がもっと踏み込んで理解し合う事が出来ればマシロを救えたかも知れない。だから、マシロと戦うのは絶対に譲る事は出来ない」

 タツヤに言葉に一同は黙り込む。
 普段のタツヤを知るセイが一番驚いているだろう。
 
「私にだって……」
「止せよ。アイラ、こいつは男同士の問題だ。女が口を挟むな」

 タツヤの事情は理解出来るが、アイラはアイラの事情がある。
 だが、レイジがアイラを止める。
 アイラは不服そうにするが、周囲の空気はマシロの相手はタツヤに任せるとなっている。

「どうせ、アイツとのバトルは捨てるんだ。好きにすれば良い」

 そんな空気をフリオがぶち壊す。

「当然だろう。ルール上、こちらがマシロ・クロガミに勝つ必然性はない」

 マリオもさも当然かのように言う。
 ルールでは7回のバトルで勝ち数が多い方が最終的に勝利となっている。
 つまりは4勝すれば良い。
 一人が2度出れない為、マシロに負けたとしても他で4勝すれば問題はない。
 これがチーム戦や勝ち抜き戦であれば、どこかでマシロを倒さなければならない。
 尤も、バトルするファイターは事前に決める必要が無い為、向こうが3勝した状態で出て来られた場合はどうしようもない。

「アイツは異常だ。無理に勝つ必要はない」

 レナード兄弟は世界大会でマシロと戦った。
 その時にマシロは自らのガンプラがどこまで壊れようとも構わなかった。
 それ自体は決勝トーナメントまで勝ち進んだファイターなら少なからず持っている。
 自身のガンプラの強さを証明して世界大会で優勝する為には必要な覚悟だ。
 だが、マシロは一般的なファイターとは違うように感じた。
 そんなマシロに無理に勝つ必要はどこにも無い。

「確かにね。僕はバトルを通じて彼と対話を試みるつもりだ。だから勝つ必要はないと言う意見には賛成するよ。だけど、本気で勝つ意志が無ければ彼と対話する事は出来ないと思っている。僕も彼もファイターだからね。ファイター同士が分かり合う為には本気でぶつかり合わないと分かり合う事は出来ない」

 タツヤにとってはバトルの勝敗自体に大きな意味はない。
 あくまでもバトルでマシロの本心を探る為にマシロとバトルする。
 しかし、マシロは常に勝つ為にバトルをして来ている。
 マシロとバトルを通じて対話し、マシロの心を知るにはマシロに勝つつもりで挑まなければならない。
 
「勝手にしろ」

 レナード兄弟もタツヤがどんな思いでマシロとバトルするかなどはどうでも良い為、それ以上は何も言わない。
 そして、少しすると一方的に開始が告げられる。






 バトルは世界大会と同じ大型のバトルシステムで行われる。
 互いが控室で待機し、バトルを行うファイターだけがバトルシステムのあるホールに出ると言う形となっている。
 直前まで相手側のファイターが分からない為、一見フェアに見えるが、PPSE側は相手を呼び出している事もあって7人のファイターの情報は持っているが、タツヤ達はマシロがどこかで出て来る事以外は分からない。
 その為、出来る手は時間のギリギリまで粘って相手のファイターが先に出て来てから誰が行くかを決める事くらいだ。
 PPSE側もその事は十分に予測して来ると思っていたが、PPSE側の1戦目でファイターはすぐに出て来た。

「おいおい……何だ。あのコスプレ野郎は」

 PPSE側の最初のファイターはいきなりマイスターだ。
 キララがマシロが変な仮面とマントの人物を話していたと言う事は知っているが、実際に本物を目の前にすると呆れるしかない。

「挑戦者諸君。この最強のファイターたる私に挑む哀れなファイターは誰かね?」

 マイスターがそう言う。
 その声は控室のスピーカーから届いていた。
 その瞬間に誰もがマイスターの中身を思い浮かべた。

「まさか、いきなり彼が出て来るとはね」

 そう言ってタツヤが立ち上がる。
 誰もがPPSE側の切り札であるマシロは戦局を決める重要なタイミングで出て来ると考えていた。
 初戦も流れを作る為には重要ではあるが、ここでマシロと投入して流れを作っても最後まで流れを維持する事は難しい。
 多少は面を食らったが、マシロが出て来る前に勝負をつけてしまえばマシロと戦う機会を逃してしまうよりかはマシだ。
 事前にマシロが出て来た場合はタツヤに任せると決まっている為、タツヤが控室を出て行く。
 アイラだけは未だに納得がし切れていないのか、不満そうだったが、タツヤにも譲れない思いがある。
 申し訳ないと思いつつもタツヤは世界大会からさほど時間が経つ事無くマシロと対峙する事となる。

「久しぶり」
「何の事かな?」

 マシロはあくまでもシラを切る気らしい。
 
「君の事は少し聞いてる。本気か?」
「私は常に本気だよ」
「分かった」

 マシロの言葉がどこまで本気かは分からない。
 そして、言葉を交わしたところでマシロが本心を告げる事は無いと確信する。
 そうなればもはやバトルしかない。
 タツヤはGPベースをセットして持って来たガンプラをバトルシステムの上に置く。
 そのガンプラを見て、控室のセイ達だけでなく、マシロも仮面の下で驚いていた。
 タツヤのガンプラはメイジンとして使っていたケンプファーアメイジングでもアメイジングエクシアでもない。
 決勝戦で使ったザクでもない。
 マシロが決勝戦の為に用意していたガンダムAGE-2をベースにしたガンダム∀GE-2の完成系だった。
 
(何でタツヤが……またか)

 世界大会では様々な事情が重なりプロトタイプを一度だけ使って使う事のなかったガンダム∀GE-2だが、大会後にマシロはきちんと完成させていた。
 両肩に大型のスラスターを増設し、腰にはカナタが制作した日本刀とビームサーベルが2基、両腕にはビームソードの展開が可能なシールドライフル、右手にはドッズランサーとマシロの得意とする高速白兵戦を重視したガンプラとなっている。
 ベースとなったガンダムAGE-2が高速飛行形態であるストライダー形態への変形が可能な可変機と言う事でガンダム∀GE-2もストライダー形態への可変機構が残されており、両足のふくらはぎにはストライダー形態で主に使われるカーフミサイルが内蔵されている。
 完成後にすぐにガンダム∀GE-3を制作している為、保管してあった筈のガンダム∀GE-2だが、どうやらタツヤの手元に渡っていたらしい。
 そして、こんな事をするのは一人しか思いつかない。
 シオンやエリカの事で問い詰めては見たが、のらりくらりとはぐらかされてしまったが、二人の事以外でもユキネが勝手な事をしていたと言う事だ。

「このガンプラは君が世界の頂点を取る為に作ったガンプラ。いわば君の分身をも言えるガンプラだ。僕はこのガンプラで君と戦う。そして、君の本心を見極めさせて貰う!」

 タツヤ髪を掻き上げて戦闘体勢を取る。
 このバトルにおいてタツヤは自分のガンプラではなく、マシロが作ったガンダム∀GE-2でバトルをしようとしている。
 ガンダム∀GE-2はマシロが世界大会で優勝する為に制作したガンプラだ。
 マシロの本心を探る為のバトルでこれ以上の適任は無い。
 PPSEから届けられた封筒の他にガンダム∀GE-2の入った小包を受け取った時は訳が分からなかったが、今となっては誰が何の理由で送って来たかはともかく、このガンプラでマシロと対峙する為に送られて来たのだと解釈していた。

「やって見ろよ」

 マシロもGPベースをセットしてガンダム∀GE-3を置く。
 両者の準備が完了し、世界大会の決勝戦を争ったタツヤとマシロのバトルが開始された。




[39576] Battle61 「望まぬ戦い」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2015/01/01 00:00
 タツヤとマシロ、世界大会決勝戦で激闘を繰り広げた2人のファイターが再び激突する事となった。
 バトルフィールドは月面だ。
 月面は地上ステージに比べると重力が小さい為、ガンプラが軽く感じるが宇宙ステージと比べるとガンプラが重く感じる。
 バトルが開始されてタツヤは軽く操縦桿を動かす。
 するとガンダム∀GE-2はすぐに反応して危うくバランスを崩しかけた。

「反応が敏感過ぎる」

 元々ガンダム∀GE-2はマシロが自分の反応速度に合わせている。
 その為、ガンダム∀GE-2は非常に操縦性に難がある。

「しかし! 使いこなして見せる!」

 タツヤはガンダム∀GE-2を一気に加速させた。
 操作性は悪いが、そこをマシロは自身の技術で補うつもりだ。
 ならば、マシロのライバルを自認するタツヤとしてはマシロが扱えるのであれば自身もまた扱えなければならない。
 扱い切れなければ操作技術でマシロに劣っていると言っているような物だからだ。

「モビルスーツ形態でこの加速性……流石と言ったところか」

 マシロの戦闘スタイルは高速白兵戦。
 ガンダム∀GE-2はガンダムAGE-2をベースにしている為、ストライダー形態に変形する事が出来る。
 当然、ストライダー形態の方が機動力は上がっている。
 にも関わらず、ガンダム∀GE-2はモビルスーツ形態で並の可変機の機動力とは比べものにならない。

「アレがマシロの新しいガンプラ。何と禍々しい」

 加速してすぐにタツヤはマシロのガンダム∀GE-3を補足した。
 ガンダム∀GE-3はまるでタツヤとガンダム∀GE-2を待ち構えていたかのように月面で立っている。
 そして、シグマシスドッズキャノンをガンダム∀GE-2に向けて放つ。

「この距離でこの威力……だがしかし!」

 ガンダム∀GE-2はストライダー形態に変形する。
 そして、ガンダム∀GE-3に一直線に向かって行く。
 先ほどまでの約3倍相当の速度のガンダム∀GE-2は瞬く間に距離を詰めると速度に乗った状態でモビルスーツ形態に戻るとドッズランサーを突き出す。

「この程度で臆する訳には行かない!」

 ガンダム∀GE-2の攻撃をガンダム∀GE-3は正面から受け止める。
 勢いに乗ったガンダム∀GE-2の攻撃を簡単に止められる訳もなく、ガンダム∀GE-3は後ろに衝撃を逃がして受け止めた。

「流石だ。このガンプラの攻撃を熟知している」

 ストライダー形態で勢いをつけての攻撃はガンダム∀GE-2においては基本的な攻撃の一つだ。
 それ故にガンダム∀GE-2を制作したマシロなら攻撃のタイミングは知っている。
 タツヤも今の攻撃においては単純に突っ込んでいる。
 これが他のファイターならば、その速度に圧倒されるところだが、マシロならば圧倒される事無く攻撃のタイミングを見切って勢いを殺す事など造作もない。
 この一撃はガンダム∀GE-3を倒す物ではなく、確認だった。
 そして、この攻撃のタイミングを完全に見切った上で衝撃を殺して見せたマイスターの中身はマシロしか考えられない。
 ガンダム∀GE-2はガンダム∀GE-3を振り払って一度距離を取って仕切り直す。

「君に聞きたい事がある!」

 ガンダム∀GE-2はドッズランサーに内蔵されているドッズガンで牽制しながら距離を詰める。
 対するガンダム∀GE-3はシグマシスドッズキャノンを連射する。

「君たちはこのバトルに勝利してガンプラバトルを支配すると聞いている。本気なのか!」

 ガンダム∀GE-3の攻撃を掻い潜り、懐に這い込んでドッズランサーを突き出す。
 マシロは何も答えずに攻撃をかわして、距離を取る。

「答えてくれ! マシロは本当にそんな事を望んでいるのか!」

 ガンダム∀GE-2は左腕のシールドライフルからビームソードを展開して追撃する。
 機動力はガンダム∀GE-2に分があり、すぐに距離を詰めてビームソードを振るう。
 それをガンダム∀GE-3はシグマシスドッズキャノンの砲身で受け止めた。

「そんな事が君がやりたかったバトルなのか!」

 タツヤは叫ぶがマシロは答えない。
 タツヤの問いの答えを示すようにガンダム∀GE-3はガンダム∀GE-2を蹴り飛ばす。
 ガンダム∀GE-2は月面に叩き付けられ、ガンダム∀GE-3が追い打ちのシグマシスドッズキャノンを撃ち込む。

「くっ!」

 ガンダム∀GE-2は仰向けの状態で肩のスラスターを使って何とか回避する。

「マシロ!」

 体勢を整えて、再度ガンダム∀GE-3に接近してドッズランサーを突き出すが、ガンダム∀GE-3はギリギリまで引きつけてシグマシスドッズキャノンを放つ。
 ガンダム∀GE-2はストライダー形態に変形して急加速する。

「本当に君は満足なのか! これが君のやりたかったガンプラバトルなのか!」
「いずれガンプラバトルは衰退期を迎える事になる。そうなる前にガンプラバトルをクロガミグループが手中に収めて管理する事でガンプラバトルは存在し続ける」
「だからと言って!」

 距離を取ってガンダム∀GE-2はモビルスーツ形態に変形すると左腕のシールドライフルを撃つ。

「いずれ来るかも知れない未来の為にガンプラバトルを支配する! そんなバトルに何の意味がある!」
「さぁな。だが、終わるよりかはマシだ」

 ガンダム∀GE-3は攻撃を回避しながらシグマシスドッズキャノンを放つ。

「君はそんな事を本気で言っているのか!」

 ガンダム∀GE-2のビームソードをかわしてガンダム∀GE-3がシグマシスドッズキャノンで攻撃する。
 それを、左腕のシールドライフルで受けるがシールドライフルは粉々に破壊されてしまう。

「お前達が正しいと言うのなら証明して見せろ。俺に勝ってな」
「分かった……こんな形で君に勝つのは僕としても本意ではない。だが、勝たせて貰う!」

 ガンダム∀GE-2は一気に加速して接近する。
 ドッズランサーの一撃をガンダム∀GE-3はシグマシスドッズキャノンで逸らす。
 だが、ガンダム∀GE-2はその状態から強引に腰の刀を抜く。
 刀はそのままガンダム∀GE-3のシグマシスドッズキャノンの砲身に切り込みを入れた。

「ちっ!」

 すぐにガンダム∀GE-3は切り込みの入ったシグマシスドッズキャノンをパージする。
 パージしてすぐに刀を蹴り飛ばして残ったシグマシスドッズキャノンをガンダム∀GE-2に密着させる。
 ゼロ距離からの砲撃が来る前に、ガンダム∀GE-2は砲身を蹴り上げて防ぐ。
 ゼロ距離攻撃を防いだガンダム∀GE-2はストライダー形態に変形して距離を取る。

「君が歪まさせられているのなら、僕は君のガンプラでその歪みを破壊する!」

 距離を取ったガンダム∀GE-2更に加速する。
 ガンダム∀GE-3はシグマシスドッズキャノンで応戦するが、加速するガンダム∀GE-2を捕える事は出来ない。
 月の重力を完全に振り切って、バトルフィールドを最大に使ってガンダム∀GE-2は加速する。
 バトルフィールドの端でターンしたガンダム∀GE-2はガンダム∀GE-3へと向かって行く。

「全力の一撃で破壊して見せる!」

 加速するガンダム∀GE-2はバーストモードが起動して青白く発光する。
 それにより更にガンダム∀GE-2は加速して行く。

「なら最強の一撃でそれすらも破壊してやるよ」

 ガンダム∀GE-2と共鳴するかのようにガンダム∀GE-3もバーストモードが起動し青白く発光する。
 ガンダム∀GE-3は右腕のシグマシスドッズキャノンをガンダム∀GE-2に向ける。
 そして、バーストモードで威力を底上げしたシグマシスドッズキャノンが放たれる。
 圧倒的な火力のシグマシスキャノンにガンダム∀GE-2は正面から突撃した。
 ストライダー形態で、勢いをつけて更にバーストモードを使ったガンダム∀GE-2はビームを突き抜けながらガンダム∀GE-3へと突撃して行く。

「ビームを正面から……この程度の事出来て当たり前か」

 ビームを正面から突破するガンダム∀GE-2だが、ビームを直接ぶち抜いているドッズランサーの強度が次第に限界を迎えて皹が入って行く。

「マシロを止める為に僕に力を貸してくれ! ガンプラァァァァァ!」

 それでも尚、ガンダム∀GE-2は止まる事は無い。
 遂にガンダム∀GE-2のドッズランサーの槍が粉々に粉砕するが、ギリギリのところでガンダム∀GE-2はガンダム∀GE-3へと体当たりを行う。
 ガンダム∀GE-3と共にガンダム∀GE-2は月面に激突した。

「まだだ!」
「終わってない!」

 月面に突撃したガンダム∀GE-2は何とか立ち上がるが、特殊プラスチックで出来ているのにも関わらず、ガンダム∀GE-2はボロボロだ。
 すでに満身創痍だが、ガンダム∀GE-2は立ち上がって、ガンダム∀GE-3を迎え撃とうとする。

「……マシロ?」

 激突時に舞い上がった砂煙が収まらない中、ガンダム∀GE-3が立ち上がる気配はない。
 砂煙に紛れて仕掛けて来る可能性を考えてタツヤは気を緩める事無く、周囲を警戒する。
 少しすると砂煙が収まって行き、ガンダム∀GE-3の姿を見る事が出来た。
 ガンダム∀GE-3は月面に仰向けに倒れており、機体の至るところを失っている。
 マシロが動かそうとしているのか、ガンダム∀GE-3は立ち上がろうと足掻いているように見える。
 強引に体を起こそうとしたのか、ガンダム∀GE-3の膝と肩の関節部が壊れて、起き上がろうとしていたガンダム∀GE-3は地に伏した。
 それと同時にバトルシステムがバトルの終了のアナウンスを入れる。

「……マシロ」

 この数年間、マシロに追いつく事を目標にマシロに勝ちたいと心の底から望んだ。
 ようやく、マシロに勝つ事が出来たが、タツヤはマシロに勝った事に対する高揚感は全く感じなかった。
 バトルに勝ったと言っても、マシロもタツヤも本来のガンプラを使ってのバトルではない。
 これはタツヤが望んだバトルでは無い。
 そんなバトルに勝ったところで意味はない。
 望まぬ勝利に虚無感を覚えているタツヤが気が付いた時にはすでにマシロはその場から姿を消していた。












 バトルを終えたマシロはメインスタジアムの通路を歩いていた。
 だが、マシロの歩いている通路はクロガミサイドの控室の方ではない。

「まさか、君が負けるなんてね」
「そうでなければ困る」

 タツヤが連絡を取ろうとしていたが、連絡の付かなかったアランが、そう言う。
 マシロは特に驚く事は無かった。

「タツヤが使っていたのは∀GE-2だからな。完成度では∀GE-2の方が上だからな」
「そう言う事にしておくよ」

 ガンダム∀GE-2とガンダム∀GE-3では完成度ではガンダム∀GE-2の方が上だ。
 その上、マシロの得意とする高速白兵戦を重視したガンダム∀GE-2と苦手としている砲撃戦を重視したガンダム∀GE-3では相性が悪い。
 だが、2機のガンプラの完成度の差は多少でバトルの勝敗に大きな影響が出る程ではない。
 ガンダム∀GE-2も操作性には難がある為、ガンプラの性能と相性だけで負けたと言う訳ではない。
 
「後、俺は負けてないから。バトルにおいて真の敗北とは勝つ事を諦めた時だからな」

 マシロは仮面をつけている為、表情は見えないが、少し拗ねているようだ。
 マシロにとって敗北とは勝つ事が出来ないと諦めた時で、諦めない限りは負けではないらしい。
 
「そんな事よりも、こんなところで油を売っている時間は無いはずだが?」
「そうは言ってもね。君が無茶振りするからね。少しは妥協をしてくれると助かるんだが」
「ヤダ」
「だろうね」

 アランは自分で言いながらもマシロの答えが分かっていた為、予想通りの答えが返って来て肩を竦める。
 タツヤがアランに連絡が出来なかったのは、マシロにこき使われていたからだ。
 
「だからこそやりがいがあるんだけどね」
「俺もここからは自由に動ける」
「助かるよ」

 マシロが認めていなくても、客観的な事実としてマシロはバトルに負けている。
 そんなマシロは控室に戻る事など出来る筈もない。
 だが、マシロにとっては好都合だ。
 負けた時点で、控室にいるユキトにとってはマシロに価値はない。
 その為、ここからはマシロがどこに居ようとも気にも留められないだろう。
 マシロが主催したバトルの初戦、タツヤ対マシロはタツヤの勝利と言う結果から始まった。



[39576] Battle62 「プラフスキージャマー」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2015/01/25 22:07
 マシロが主催した7対7で行われるガンプラバトル。
 初戦はクロガミサイドのエースであるマシロの敗北と言う番狂わせからスタートした。
 バトルを終えたタツヤは皆の待つ控え室に戻って来る。
 誰もがマシロに勝ちたいと願いながらも、その圧倒的な実力を前に世界大会では誰も勝つ事が出来なかった。
 そんなマシロの敗北の瞬間を見た物のすぐには信じられずにいた。

「やりやがったな。まさか、あのマシロに勝っちまうなんてな」

 レイジがそう言うも、タツヤの表情は浮かない。

「ユウキ会長? どうかしたんですか?」
「いや……彼と戦って分かったよ。彼の中に迷いは一切ない」

 実際にバトルをした中でタツヤは感じていた。
 マシロは一切の迷いも躊躇いも無く、勝ちに来ていた。

「だけど、アイツはそんな事に興味があるとは思えないわよ」
「僕もそう思う。彼は良くも悪くも自由だからね」

 アイラの言う通り、マシロは支配等に興味があるとは思えない。
 マシロは常に勝つ為に戦い続けている。
 そんなマシロが全てを理解した上で戦っているとは思いたくはない。
 だが、一つ言える事はマシロの真意を知る機会が失われたと言う事だ。
 初戦を勝ってスタートしたは良いが、マシロの真意が分からずに終わるも全体的な流れからは7戦の内の1戦目が終わったに過ぎない。
 そうこうしている間にクロガミサイドから次のファイターが出て来る。

「あの人って……」

 次のファイターはレイジとアイラ以外は顔くらいは知っていた。
 中でもルワンは思わず立ち上がった。

「アレはアレックス・アーロン・クロガミか!」
「なぁ、セイ、誰だよ?」
「僕も良くは知らないけど、凄い野球選手だよ」

 アレックスの事を知らないレイジにセイが耳打ちする。
 セイも詳しい訳ではないが、一般常識として彼は有名だ。
 アメリカのメジャーリーグで活躍中の選手で投手としてさまざなな快挙を果たしている。
 
「まさか、彼が出て来るとは……」

 アレックスがクロガミ一族である事は有名な事でもあるが、流石にこんなところで出て来るとは同じ野球選手のルワンも予想外の事だ。

「次のバトル、私が行こう」

 マシロとは違い完全に未知数である為、誰も反論はしない。

「勝算は?」
「正直なところ何とも言えないが、私は一人のスポーツマンとして彼だけは認める事は出来ない」

 誰に対しても態度の悪いマシロに対しても大人な対応をしていたルワンにしても珍しく相手を否定する発言に誰もが少なからず驚いている。

「彼とは試合で対峙した事がある。確かに実力は桁違いと言っても良い。だが、彼にとっての打者は誰だろうと関係ない。ただ、彼にとって打者は叩き潰すだけの相手に過ぎない」

 ルワンはかつてアレックスと対戦した事がある。
 常人離れした打者であったルワンが唯一完封した相手がアレックスだ。
 だが、アレックスにとって一流の打者であるルワンでも草野球の補欠選手だろうと同じただ、叩き潰すだけの相手だと言う事がプレーの端々から見てとれた。
 相手を叩き潰す事に関してはマシロも同様だが、マシロの場合は相手の実力や性格まで徹底的に調べ尽くしすのに対して、アレックスは相手の実力にも性格にも興味がない。
 だからこそ、マシロとは違いルワンにはアレックスを受け入れがたい。

「野球では遅れを取ったが、ガンプラバトルでも遅れを取る訳には行かない」

 1戦目のタツヤのようにルワンにとっては譲る事の出来ない相手だと言う事はルワンの様子からも見てとれる。
 その為、誰も異論はなかった。

「久しぶりだな。こうして対峙するのは何年振りか」

 ルワンはバトルシステムを挟んで数年振りにアレックスと対峙している。
 
「誰だっけか? まぁ良い。こっちはこんな玩具の遊びに駆り出されてるんだ。さっさと終わらせる」

 アレックスはルワンの事も覚えていないようだ。
 その事は半ば予想していた為、ルワンも一々反応する事は無い。

「アビゴルバイン! 出撃!」
 
 今回のバトルフィールドは宇宙だ。
 デブリ等と言った障害のないタイプのバトルフィールドとなっている。
 ルワンのアビゴルバインは見た目こそは世界大会の時と変わらないが、マシロとのバトルで大破するも更に作り込んで機体性能を上げている。

「何だ! あのガンプラは!」

 モニターにアレックスのガンプラが映される。
 一般的にガンプラはモビルアーマーでない限りは人型に近いシルエットを持つ。
 だが、アレックスのガンプラは球体に大型のスラスターが付いているだけのガンプラだった。
 それが、マシロが制作したボールの改造機、Dボールだ。
 その名が示すようにボール状であるボールを更に突き詰めて180mm低反動砲や作業アームすらついていない。
 ボールと言えば戦闘能力が低いと言うイメージがあるが、この場面で投入するガンプラが並のガンプラであるとは考え難い。
 ルワンは見かけに惑わされずに気を引き締める。

「まずは小手調べだ」

 アビゴルバインは様子見の攻撃として腕部のビームガンを放つ。
 その攻撃に対する反応を注意深く見ていたが、Dボールは微動だにせずにまっすぐアビゴルバインに向かって来る。
 アビゴルバインの撃ったビームがDボールに直撃するかと思われたが、直前でビームが弾かれた。

「Iフィールドか! ならば!」

 Dボールの表面には特殊塗装によるIフィールドの機能が備え付けられているらしい。
 ビームせは決定打に欠けると判断したルワンはIフィールドの影響を受けないミサイルを放つ。
 同時にビームサイズを出して接近戦を仕掛ける。
 大量のミサイルがDボールを襲うがDボールはミサイルに構う事は無い。
 ミサイルの直撃をするもDボールは無傷だった。
 外観からは分からないように偽装されているが、Dボールの大半は金属でできている。
 それは稼動させる場所の少ないDボールだからこそ出来る事だ。
 それにより、多少重量は増えるが装甲の高度は飛躍的に高まった。
 増えた重量は大出力のスラスターで補っている為、バトルに影響する程の問題になる事もない。
 アビゴルバインはDボールにビームサイズを振るうが、直前でDボールはスラスターの角度を変えて急に進路を変えた。
 ビームサイズは空振りし、Dボールはアビゴルバインの片足に直撃して足を粉砕する。

「なんて威力だ!」
「運の良い奴だ」

 大出力のスラスターで勢いをつけての体当たり、これがDボールの唯一の攻撃手段だ。
 金属によって得た強度と大出力スラスターによる速度での体当たりは並のガンプラでは一溜りもない。
 更に金属を多く使用する事で増えた重量が突撃時の威力を更に上げる結果にもつながっている。
 アビゴルバインの片足を粉砕したDボールは旋回して、再びアビゴルバインに突撃して来る。

「くっ!」

 再びビームサイズ向かえ撃つも、Dボールは先ほどとは違う軌道で避ける。
 Dボールを辛うじて直撃は避けたが、アビゴルバインは体勢を崩し、その間にDボールは旋回している。
 それから何度もDボールはアビゴルバインに突撃を行い、アビゴルバインは何とか直撃を受けずに凌いでいる

「ちっ! 往生際の悪い!」

 一方的にDボールの攻撃を凌ぐばかりだが、防戦一方も無駄ではなかった。
 相手の攻撃にはある程度の法則性が見えて来た。
 アレックスのDボールの軌道は全てルワンには見覚えがある物だ。
 それはかつてガンプラバトルではなく野球でアレックスと対戦した際のボールの球筋と同じだった。
 ガンプラバトルにおいて、重要な要素としてあげられる物の一つにイメージがある。
 イメージトレーニングの一種とされているが、必ずしも効果がある訳ではないが、ニルスのように自分が実際に会得した技術をバトルに反映させる上では重要な要素と言われている。
 アレックスもガンプラバトルは素人も同然だが、実際に自分の投げる球の動きを参考にしているのだろう。
 そこに気づく事が出来れば、次は攻撃に転じる事が出来る。
 アレックスに打ち取られた後、ルワンは再びアレックスと対峙する時の為に何度もアレックスの球をイメージして来た。
 あの時のボールの動きとDボールの動きは全く同じだ。

「すでに2度も空振りしている。これが野球なら次空振れば三振して終わりか……ならば次で決める!」

 ルワンは次に備えて神経を集中する。
 同時にアビゴルバインはビームサイズを短く持ち帰る。
 後はDボールが突撃して来る事を待つだけだ。
 
「下手な小細工を!」

 加速し、勢いを増すDボールの動きをルワンは冷静に見極める。
 そして、十分にDボールを引きつけるとアビゴルバインはビームサイズを振るう。
 Dボールはそれに合わせてスラスターで軌道を変える。

「見切った!」

 Dボールの動きに合わせてアビゴルバインはビームサイズを振るう。
 迷いのない全力の一振りだ。
 これがマシロ相手なら、次の手を考えている可能性を考慮していたところだが、今回に限ってはその必要はない。
 過去に負けてからアレックスの試合を何度も見ているが、相手に合わせて変化のないアレックスの投球は自信の表れであり、過信でもあった。
 アビゴルバインのビームサイズの柄はDボールの芯を正確に捉えていた。
 勢いを重量のあるDボールだが、アビゴルバインの最大の武器はマシロですらも警戒していたパワーだ。
 更にチューンされて向上したアビゴルバインのパワーはDボールを打ち返すには十分だ。

「馬鹿な!」

 打ち返されたDボールは回転しながら飛ばされて行く。
 勢いを殺そうとするも、Dボールにはスラスターが一つしかついていない。
 そのスラスターも方向転換の為に必要な最低限度の稼動範囲しか確保されていない。
 他に勢いを殺す手段が無い為、Dボールは勢いよくバトルフィールドから飛び出ると観客席まで飛んでいく。
 Dボールがバトルフィールドから出た事でルワンとアビゴルバインの勝利をバトルシステムが告げる。

「やりましたね! ルワンさん!」
「ああ……厳しいバトルだったけど、何とかなったよ」

 バトルに勝利して戻って来たルワンをセイ達が出迎える。
 これで2連勝となり、残り5戦の内で2勝すれば良い為、一気に余裕が出来た。

「次はワイが行って王手を決めて来ますよ! 新たな魔王と共に!」

 マオはそう言ってさっさと飛び出していく。
 状況的に余裕がある為、マオを連れ戻そうとは誰もしない。
 そんな中、タツヤの表情は厳しい。

「何か心配ごとでもあんのか?」
「ああ……いや、考え過ぎかも知れないが、向こうもこの状況で何か手を打って来るんじゃないかと思ってね」

 皆が2連勝で多少なりとも浮かれていたが、タツヤの言葉でハッとする。
 確かにこちらからすれば連勝をしているが、向こうからすれば連敗している。
 7回の内4回負ければ終わりである以上、次負ければ一気に状況が悪くなる。
 あのクロガミ一族がこれ以上の負けを容認するとも思えない。
 そうなれば、次は確実に勝ちに来るだろう。

「問題ないだろう。そいつの言う通り、次は何が何でも向こうは勝ちにする。あいつを当て馬にしてやり過ごせば良い」
「俺らの中じゃアイツが一番弱いからな」

 不穏な空気が流れる中、レナード兄弟がそう言う。
 その発言に誰もが顔を顰める。
 次のバトルで確実に勝ちに来ると言うなら、最も弱いファイターをぶつけて相手に勝ち数を一つ与える代わりにこちらが戦力を温存する。
 それは理解出来るが、マオを一番弱いファイターとして送り出すと言う事には抵抗がある。
 残っているファイターの中で世界大会の成績はセイとレイジは3位でアイラが4位、フェリーニはベスト8位、マオとレナード兄弟がベスト16位となっている。
 マオとレナード兄弟は共に初戦で敗退しているが、兄弟の中では自分達の方がマオよりも強いと言う位置付けらしい。

「次の相手が出て来たぞ」

 クロガミ側の手を考える時間も無く、次のファイターが出て来る。

「あれって……マシロのお母さんじゃない」

 クロガミ一族の人間は各分野でその才能を発揮している為、有名人が多いが、誰もユキネの事は知らない。
 この場で唯一、知っているのはユキネと面識があるアイラくらいだ。
 そして、次の相手は見た目は10代の半ばから後半にしか見えない。
 そんなユキネがマシロの母親だと知り誰もが驚きを隠せない。
 
「お姉さんには悪いけど、ワイの新しいガンプラで勝たせて貰います」
「残念だけどさ、そろそろ勝ち数を稼いでおかないと不味いんだよね」

 ユキネはそう言ってガンプラを置く。
 ユキネのガンプラは何の変哲のないローゼンズールだった。
 見た目が変わる程の改造もなければ塗装もされていない。
 かと言って、徹底的に作り込まれているかと言えばそうでもない。
 ただの素組と比べると丁寧に作られている程度のガンプラで、この程度のガンプラは世界大会でも使われるレベルではない。
 この局面で投入するガンプラとしては不気味だ。
 だが、マオはそんな事を気にする様子はない。
 このバトルではマオの新ガンプラをライバルたちに披露する。

「これがワイの新たな魔王! クロスボーンガンダム魔王や!」

 マオは意気揚々とガンプラをバトルシステムに置く。
 世界大会での経験を元にマオはガンダムX魔王に次ぐ新たなガンプラを制作していた。
 それがクロスボーンガンダムX1をベースに改造したクロスボーンガンダム魔王だ。
 ガンプラバトルにおいて、作中の設定は反映されている訳ではないが、機体特性は反映されている。
 素組の場合、元々格闘戦が得意な機体は格闘戦の方が強く、射撃戦が得意な機体は射撃戦が強い。
 だからこそ、近接戦闘を重視しているクロスボーンガンダムX1を改造ベースに選んだ。
 それにより、対戦相手はクロスボーンガンダムX1の元々持つ近接戦闘能力を警戒してある程度の距離を取って来るだろう。
 それがマオの狙いでもあった。
 胸部の髑髏部分にはガンダムX魔王から受け継いだサテライトキャノンが内蔵されている。
 距離を取って貰えればそれだけ胸部のサテライトキャノン、スカルサテライトキャノンが使い易くなる。
 マオの新たなガンプラとユキネのローゼンズールのバトルが始まる。
 今回のバトルフィールドはサルガッソー。
 フィールド内はデブリだけではなく、氷の粒で非常に視界の悪いバトルフィールドだ。

「この程度のデブリなら問題あらへん。先に見つけてしまえば一気に勝負を付ける」

 クロスボーンガンダム魔王のスカルサテライトキャノンの威力を持ってすれば、デブリごと相手を焼き払う事は可能だ。
 先にローゼンズールを見つけてしまえば、先制攻撃で一気に勝負を決める事が出来る。
 だが、そんなマオの思惑は外れ、ローゼンズールの本体から切り離されたクローアームに内蔵されているビームがクロスボーンガンダム魔王を襲う。

「こっちからは丸見えなのよね」

 マオのモニターにはサルガッソーの氷の粒で視界が悪いが、ユキネ側のモニターには画像処理によって氷の粒が表示されておらず、クロスボーンガンダム魔王の姿が鮮明に映されている。
 その上で、事前にローゼンズールとクロスボーンガンダム魔王の出撃時の初期位置は事前にユキネが設定し、自分の方が有利な位置からバトルが始められるように設定していた。

「こういうやり方はしろりんは嫌いだろうけどさ」
「後ろを取られた!」

 2基のクローアームの攻撃をクロスボーンガンダム魔王はデブリを避けながら回避する。
 以前のガンダムX魔王とは違いサテライトキャノンを内蔵式にしている分、巨大な砲門を抱えていない事やクロスボーンガンダムX1自体小型である為、クロスボーンガンダム魔王は非常に小回りも効いている。

「せやけど!」

 ある程度の余裕が出来たところでクロスボーンガンダム魔王は反転すると、骨を模した武器であるクロスボーンガン&ソードを構える。
 背後を取られたもののローゼンズールの性能は大して高くは無く、ユキネの操作技術も世界レベルのファイターから見れば驚異ではない。
 クロスボーンガンダム魔王はローゼンズールのクローアームを2基とも簡単に撃墜した。
 ローゼンズールの装備は両腕のクローアームにビーム砲を内蔵したシールドのみだ。
 クローアームを2基とも潰した時点でマオは勝利を確信していた。

「ふーん。じゃ、こっちも禁じ手を切っちゃうよ」

 ローゼンズールのバックパックからバラのようなパーツが射出される。

「サイコジャマー? 残念ですけど、ワイのクロスボーンガンダム魔王にはサイコミュなんて積まれてませんよ」

 ローゼンズールの切り札としてバックパックにはサイコジャマーが搭載れている。
 本来はサイコミュを妨害するサイコジャマーだが、当然の事ながらクロスボーンガンダム魔王にはサイコミュ等搭載されていない。
 マオはサイコジャマーではなく、ファンネルやビットの類の武器の可能性も考えるが見た限りではサイコジャマーも特別な改造をしているようには見えない。

「坊やはあのガンプラ心形流だったのよね。だけど、私以上にコレの事を知る人間はいないのよね」

 ローゼンズールから射出されたサイコジャマーがクロスボーンガンダム魔王を取り囲むとそれは起きた。
 突如、クロスボーンガンダム魔王がまるでエネルギーが切れて機能が停止したかのように力無くうな垂れた。

「何や! 何が起きたんや!」

 マオは操縦桿を動かすがクロスボーンガンダム魔王はピクリとも反応しない。
 同時にサイコジャマーの端末の範囲内のフィールドエフェクトも解除され、動かないクロスボーンガンダム魔王は落ちていく。
 それに合わせるかのようにサイコジャマーの端末も下に移動し、それに伴い範囲内から外れた部分にはバトルフィールドのエフェクトが再び出て来て、範囲内に入った部分のエフェクトが消える。
 
「これはプラフスキー粒子の動きを阻害するいわば、プラフスキージャマー。この中ではいかなる粒子操作技術も意味を成さない」
「何やて! そないな事されたら!」

 マオのガンプラ心形流には独自の粒子応用技術を持っている。
 ユキネのローゼンズールのプラフスキージャマーは粒子の動きを阻害する為、ガンプラ心形流との相性が悪いように見える。
 だが、事はそんなレベルの話しではない。
 ガンプラバトルはガンプラを動かしているように見えるが、実際はガンプラのプラスチックに反応しているプラフスキー粒子を操作している。
 つまりは粒子の動きを阻害すると言う事はいかなるガンプラだろとこの中ではただのガンプラに過ぎない。
 ガンダムにおいてもサイコジャマー以外にミノフスキー粒子やニュートロンジャマー、GN粒子と言った何かを阻害する物が多数存在している。
 ガンプラバトルでもチーム戦での通信妨害を初めとして、相手の行動を阻害する事は珍しい事ではない。
 しかし、粒子の動きその物を阻害すると言う事は今まで行われた事は一度もない。
 なぜなら、それはガンプラを動かして戦うと言ったガンプラバトルの根源から揺るがす事で、相手のガンプラを粒子の動きを阻害して止めてしまえば、バトルその物が成立しないも同然だ。
 
「さてと……こっからどうしようかな~」

 ローゼンズールはプラフスキージャマーの影響で動く事のないクロスボーンガンダム魔王の周りをグルグルと周る。
 プラフスキージャマーはガンプラバトルの根源を揺るがしかねないが、欠点があった。
 ジャマーを形成しているフィールド内ではいかなる粒子の動きを阻害する。
 範囲内のエフェクトが解除されているのも、その範囲内の粒子がバトル中に行っているバトルフィールドのエフェクトを解除しているせいだ。
 だからこそ、攻撃をしたくても遠距離からの攻撃はジャマーの範囲に入った時点で無効化され、直接攻撃を行おうにも近づく事は出来ず、出来る事と言えば、バトルフィールド内で唯一粒子とは関係なく存在している自分のガンプラの一部を切り離して直接投げつける位だろう。
 これなら、範囲内に入った時点でただの動かないガンプラに戻るもクロスボーンガンダム魔王にぶつける事は出来る。
 しかし、その程度ではクロスボーンガンダム魔王を戦闘不能にするまでに自分のパーツを使いきっても足りないだろうが。
 それ以前に両腕は破壊されている為、投げつける事も出来ない。
 ユキネがその気になれば、都合よく自分はジャマーの影響を受けないようにする事も出来たが、ユキネの目的上、その必要はない。

「どうしよっかな~ 降参する?」

 ユキネはそう勧めるもマオは降参する事無く、操縦桿を動かし状況の打開を試みる。
 それ以外でも状況の打開策を考えるも時間だけが過ぎていく。
 尤も、ユキネが多少考えただけで状況を打開できるような物を用意する訳も無い為、時間の無駄でもある。
 ユキネも攻撃出来ず、マオも言葉通り何も出来ずに時間だけが刻一刻と過ぎていく。
 これが世界大会等の公式戦ならば、ブーイングが起こるが、観客席には誰もいない為、マオが何とかしようとしている声だけしかない。
 そうしている間にバトルシステムがバトル時間の終了を告げる。
 このバトルは世界大会の公式ルールに準じている為、時間内に決着が付かない場合は延長戦として先に攻撃を当てた方が勝利となるVアタック方式で決着をつける事になる。
 また、ルール上ガンプラの補習は認められないが、ガンプラにまともな武装が残されていない場合は一つだけ装備をする事が許可されている。
 ユキネはローゼンズールのシールドを腕に取りつけてバトルが再会される。

「アレを使われる前に!」

 バトルは同じフィールドで仕切り直しとなる為、マオのクロスボーンガンダム魔王はプラフスキージャマーの影響化から抜け出している。
 時間切れに追い込まれたプラフスキージャマーが使われるとマオにはどうしようも無い為、先に一撃を入れて勝つしかない。
 一撃を入れるだけならガンプラの性能とファイターの実力差で簡単に出来る。
 だが、バトルフィールドに入って少しすると、先ほどまでと同じようにクロスボーンガンダム魔王の動きが止まる。

「何でや! フィールドエフェクトが残っとるやないの!」

 マオはプラフスキージャマーが予め展開されている事も事前に想定していた。
 その目安としてバトルフィールドのエフェクトの有無だ。
 範囲内のエフェクトは強制的に解除されている為、すぐに分かる。
 しかし、それが落とし穴だ。
 控室でバトルを見ていたセイ達は届く事のない声でマオに危険を知らせていた。
 控室からはクロスボーンガンダム魔王のスタート位置の正面にプラフスキージャマーを使っている事が見えていた。
 だが、マオのモニターには映像に修正が加えられていた為、気づく事は無かった。
 その為、マオは正面にジャマーが形成されている事を知らずにジャマーの範囲内に自分から飛び込んで行った。
 無論、その場所にジャマーを張る事が出来たのは事前に双方のガンプラの位置はユキネが設定し、本来ならばバトルフィールドには同時に入る筈だが、ユキネのローゼンズールの方が数秒早く入っている事もあって、クロスボーンガンダム魔王がバトルフィールドに入った時点でプラフスキージャマーは展開済みだった。

「本当にしろりんが見てなくて助かったわ」

 これらの策は全てマシロが見ていないからこそできた事だ。
 マシロは現在、他の事にかかりきりである為、バトルは結果しか聞かずにいる。
 ユキネのやっている事はバトルの根源を揺るがす行為だけではない。
 バトルシステムのシステムへの介入や自分や相手のモニターの画像処理等は完全に不正行為だ。
 勝ちに拘るマシロだが、バトルのルールを守った上で勝つ事は前提条件であって絶対条件だ。
 そこを破ってしまえば勝利の意味はない。
 だが、ユキネにとってはバトルを出来るだけ引き延ばして時間を稼いだ上で勝つ事が重要だ。
 ユキネの頭脳は並の天才を遥かに凌駕しているが、身体能力は並の人間と大して変わらない。
 頭脳だけでは確実に勝つ事が出来ない為、ユキネは確実に勝つ為に今回のような手段を行っている。
 幾らクロガミ側の勝ち数を稼ぐ為とは言え、バトルのルールを破ればマシロが出て来てバトルを止めかねない。
 
「さてと……これ以上の引き伸ばしはユッキーに怪しまれるから終わらせるとしますか」

 ここまでは圧倒的優位を前に遊んでいる程度で幾らでも誤魔化しが効く。
 しかし、何度も時間切れとなっていてはユキトが時間を稼いでいると感づかれる危険性がある。
 ローゼンズールは新しく装備して来たシールドをクロスボーンガンダム魔王の頭上から投げる。
 プラフスキージャマーの範囲に入ってただのガンプラとなるが、クロスボーンガンダム魔王の上から投げている為、シールドは重力によってそのままクロスボーンガンダム魔王の頭上に落ちる。
 シールドはクロスボーンガンダム魔王にコツリと当たるとバトルシステムはクロスボーンガンダム魔王に攻撃が当たったと判断し、ユキネの勝利を告げた。

「ほんまに済んません」

 バトルが終わり、控室を出た時とは違い意気消沈してマオが戻って来る。
 あれだけ大口を叩いた手前、戻り辛くはあったが、誰もマオを責める事はしない。

「気にすんなよ」
「そうだよ。マオ君、それにあのバトル……少しおかしな気もしたし」

 外から見ていても、Vアタック時のマオは明らかにおかしかった。
 サルガッソーは視界が悪いがあそこまで簡単に敵の張ったプラフスキージャマーに嵌るとは思えない。
 今となっては相手が何かを仕掛けて来たと言う事を証明する手段はない。

「それにまだ1敗だ。後は俺達に任せろ」
「フェリーニはん……後は頼みます」

 マオが負けたがまだ2勝1敗だ。
 まだ、世界大会で上位に入賞しているセイとレイジ、アイラが残っている上に世界大会の常連であるフェリーニと策を弄する事に長けているレナード兄弟が残っている。
 この4組むで2勝すれば勝てる。
 マオの時のように不正な手段で来る可能性もあったが、今からではどうしようもない。
 考えても意味がないなら、余計な事を考えずに勝つ事を考えた方がマシだった。

「そう上手く行けばけどな」

 前向きに考えようとする中、レナード兄弟の弟、フリオが茶々を入れる。

「どうやら次の相手はお前達を良く知っている相手のようだぞ」

 兄のマリオがそう言い、皆の視線が次の対戦相手に向けられる。

「嘘だろ……何でアイツが!」
「そんな……」

 対戦相手を見たセイ達は今までの対戦相手以上の驚きを見せた。
 それもその筈だ。
 この場に呼ばれていない事に違和感を覚えてはいたが、それ以上は考えていた訳ではない。
 そして、この状況を想定していた訳でも無い。
 4戦目の相手は見間違える筈もなくセイ達も良く知る相手。
 次のクロガミ側のファイターはアーリージーニアス事、ニルス・ニールセンだった。



[39576] Battle63 「裏切りのサムライ」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2015/02/25 23:31
 タツヤに続きルワンが勝利するも、3戦目のマオはユキネのプラフスキージャマーにより成す術もなく敗北した。
 そして、折り返しの4戦目の相手はアーリージーニアスこと、ニルス・ニールセンだ。

「アイツ! 何で向こう側のファイターとして出てんだよ!」
「ちょ! レイジ!」

 相手側のファイターとしてニルスが出て来た事で、レイジが飛び出して行こうとする。
 だが、それをフェリーニが止める。

「落ち着けよ。レイジ」
「これが落ち着いていられるか!」
 
 これが単なるチームバトルならレイジがここまで激昂する事は無い。
 だが、このバトルは世界大会上位入賞者である自分達を倒す事でクロガミグループの力を見せつけて、ガンプラバトルを支配する為のバトルだ。
 
「気持ちは分からんでもないが、乗せられてるぞ」
「そうよ。こういう相手を精神的に揺さぶるようなやり方はマシロのやりそうな事よ」
「こいつがマシロの考えかはともかく、今のお前じゃあのサムライボーイには勝てるとは思えないな」

 マシロが相手に対して挑発的な態度を取る事で、相手の冷静さを奪うと言う事は普段からやっている事だ。
 それを抜きにしても、見知った相手をぶつけて来る事で、裏切られたと言う怒りから冷静さを失わせると言う策である事は容易に想像がつく。
 まさに今のレイジがそんな状態だ。
 その上で、ニルス実力は実際に世界大会で戦ったレイジも良く知っている。
 あの時は隠し玉であるビルドナックルを使い、セイのとっさに機転で勝っている。
 少なくとも、レイジが冷静さを欠いた状態で勝てる相手ではない。

「このバトルは重要だ。これで勝てば王手、負ければイーブンに戻されちまうからな」

 現在は2勝1敗で勝ち越してはいるが、負ければ2勝2敗と並ばれる。
 タツヤとルワンで2連勝からの2連敗は流れを完全に持っていかれるだろう。
 まだ1敗で余裕があるとはいえ、向こうも本気で勝ちに来ている以上は流れを持っていかれる事だけは避けたい。

「だから俺が行く。少なくとも冷静さを欠いているお前より勝算はある。その間に頭を冷やして置け。俺がここで勝って、お前らのどっちかで勝って勝負を決めろ」

 残りの4組の内、セイとレイジ、アイラは世界大会でも上位に入っている。
 ここでフェリーニが勝っておけばレイジとアイラのどちらかが勝てば良い。
 レナード兄弟に関しては、同じ世界大会のファイナリストと言っても関わり合いが殆どない上に先ほどから場の空気を悪くする発言が多い為、後を任せるだけの信用はイマイチ出来ない。

「それで構わないな」
「好きにしろ」

 レナード兄弟もここでフェリーニが出る事事態には異存はないようだ。

「……分かった。任せた」

 レイジは渋々ながらフェリーニが出る事を認める。
 4戦目のファイターがフェリーニと決まり、フェリーニとニルスはバトルシステムを挟んで対峙する。

「僕の相手は貴方ですか、ミスターフェリーニ」
「不服か? けど、こっちもお前さんには少しばかり借りがあるからな」

 ニルスは相手がフェリーニである事に特に反応を示す事は無い。

「いえ、相手にとって不足はありません」
「グレコの仇は取らせて貰う」

 互いにガンプラをバトルシステムにおいてGPベースをセットする二人の準備が完了した事でバトルが開始される。
 今回のバトルフィールドはテキサスコロニー内だ。
 コロニー内でありながら荒廃している為、地上ステージの荒野等に近いステージだ。
 そんな荒野をフェリーニのガンダムフェニーチェリナーシタはメテオホッパーで駆け抜ける。
 元々はフェニーチェがバード形態に変形出来なくなった事による機動力の低下をカバーする支援機だが、バード形態へと変形出来るようになった今でも地上用の支援機として運用は出来る。
 これにより、陸戦においてモビルスーツ形態でも高機動戦を行う事が出来る。

「サムライボーイのアストレイは近接特化。メテオホッパーの機動力なら早々、間合いを詰められるって事は無いはずだが……」
「それはどうでしょうか」

 疾走するガンダムフェニーチェリナーシタの上を影が飛び越す。
 
「成程な……」

 ニルスの戦国アストレイは近接戦闘に特化している。
 だからこそ、フェリーニはメテオホッパーでモビルスーツ形態のままでも高速移動を可能として距離を詰められる事を避けた。
 しかし、ニルスもそうもそれは想定内の事だ。
 今回は戦国アストレイは以前にも世界大会の予選ピリオドで使用した風雲再起に乗り、アストレイの純正ビームライフルを装備している。
 それによって、フェリーニのガンダムフェニーチェリナーシタに劣らない機動力を得るのと同時に最低限の火力も得ている。

「だが、そんな付け焼刃がどこまで通用する!」

 ガンダムフェニーチェリナーシタはメテオホッパーの先端に装備されているリナーシタライフルのバスターライフルを放つ。
 だが、戦国アストレイは肩の装甲が稼動し、それにサムライソードを持たせてビームを切り裂くとビームライフルで反撃する。

「厄介な物を持っていやがる」
 
 戦国アストレイのビームを切り裂くサムライソードはビーム兵器を主体としているガンダムフェニーチェリナーシタでは厄介な物だ。
 肩の装甲に持たせる事で、戦国アストレイは片手で風雲再起の手綱を握り、安定した状態を維持しつつ片手でビームライフルを使える。
 ガンダムフェニーチェリナーシタはリナーシタライフルを戦国アストレイの方に向けるとバスターライフルとハンドライフルを同時に放つ。
 大火力のバスターライフルと連射速度の高いハンドライフルを同時に使用する事で、戦国アストレイがサムライソードで全てのビームを切り裂かせない為だ。

「その程度で!」

 だが、戦国アストレイは高く飛び上がって回避する。
 同時にガンダムフェニーチェリナーシタの上を取り、ビームライフルを連射する。
 リナーシタライフルはバスターライフルの弾数を増やす為にメテオホッパーに装着している為、上を取られると攻撃手段が一気に無くなる。
 戦国アストレイのビームをかわしながら一度、ガンダムフェニーチェリナーシタは距離を取ろうとする。
 
「ちっ……どうも強制されてるって訳でも無さそうだな」

 向こうの策として、何かしらの方法でニルスを強制的に戦わせているとも考えられるが、戦い方は明らかにバトルに勝ちに来ている。
 勝つ事も強要されているとも考えられるが、ニルスの戦いには迷いが感じられない。
 
「当然です。僕は元々、プラフスキー粒子の謎を解き明かす為にガンプラバトルを始めています。彼はPPSEを掌握している。その上で彼は僕の頭脳を研究を必要とし、僕もクロガミグループの情報と技術を必要としている。僕達の利害関係は一致している以上、こうなるのは必然!」

 セイとレイジとのバトルの中でニルスはいつの間にかガンプラバトルにのめり込んでいたと自覚している。
 だが、ニルス自身は元々の研究テーマでもあったプラフスキー粒子の謎についての研究を諦めた訳ではない。
 世界大会後には再び研究を始めようとしているところにマシロから連絡があった。
 クロガミグループの持つ研究施設や研究員、資金等を提供する代わりにニルスは粒子の研究を行い粒子を再生産する事を可能にして欲しいとの事だ。
 ニルスとしては断る理由はどこにも無かった。

「その研究とやらの為に奴らのやろうとしている事に加担するってか?」
「クロガミグループは合理的です。ガンプラバトルを純粋に商売をしてみている。だからクロガミグループにとってはガンプラバトルが衰退する事は避けたい。クロガミグループの力を持ってすれば、ガンプラバトルの反映は約束されています」
「そうかよ!」

 ガンダムフェニーチェリナーシタは反転すると、バスターライフルを放つ。
 戦国アストレイは飛び上がるとビームライフルを放つ。
 ビームがメテオホッパーのタイヤに直撃し、ガンダムフェニーチェリナーシタはリナーシタライフルを回収してメテオホッパーから飛び退くとバード形態に変形する。
 バード形態に変形した事で空中戦においてはガンダムフェニーチェリナーシタの方が降下するだけの戦国アストレイよりも有利だ。
 
「生憎と俺はお前みたいにお利口さんにはなれないんでね!」

 ガンダムフェニーチェリナーシタはビームはサムライソードで防がれる為、主翼に内蔵されているミサイルを撃ち込む。
 戦国アストレイもビームライフルでミサイルを迎撃するが、その隙にバスターライフルが撃ち込まれ、サムライソードで防ぐには間に合わないと判断したニルスは風雲再起を踏み台にして、ガンダムフェニーチェリナーシタに突っ込む。
 空中でガンダムフェニーチェリナーシタと戦国アストレイが交差する瞬間を狙って戦国アストレイはサムライソードを振るうが、ガンダムフェニーチェリナーシタは紙一重でかわす。
 しかし、同時に戦国アストレイもビームライフルを放ち、ガンダムフェニーチェリナーシタの片翼を撃ち抜く。
 片翼を失ったガンダムフェニーチェリナーシタはバランスを崩しながらモビルスーツ形態に変形すると、ハンドライフルで牽制射撃を行う。
 戦国アストレイも風雲再起を踏み台にした時の勢いを失い降下を始め、ガンダムフェニーチェリナーシタのビームをサムライソードで防ぎながらビームライフルで反撃する。
 片翼を失っているガンダムフェニーチェリナーシタはバランスを崩しているが故に、ニルスは動きの予測が付きにくいが、フェリーニにとってはガンプラのバランスが悪い事は慣れている。
 どちらも決定打を与える事も無く、着地して対峙する。

「やるじゃねぇかよ」
「貴方の実力も想像以上だ」

 ガンダムフェニーチェリナーシタと戦国アストレイは睨みあったまま動かない。 
 どちらも仕掛けるタイミングを窺っている。
 先に仕掛けたのは戦国アストレイだった。
 牽制目的のビームライフルを放ち、ガンダムフェニーチェリナーシタはリナーシタウイングシールドで防ぐとバスターライフルで反撃する。
 戦国アストレイはビームライフルを捨てて両手にサムライソードを持たせるとビームを切り裂きながら突撃する。
 ビームを切り裂きながら距離を詰めた戦国アストレイに対して、ガンダムフェニーチェリナーシタはハンドライフルの先端からビームサーベルを出して、リナーシタライフルを振り下ろす。
 だが、戦国アストレイはギリギリまで引きつけてガンダムフェニーチェリナーシタの攻撃をかわして、サムライソードを突き出した。
 それを、リナーシタライフルで防ぐ。
 サムライソードはリナーシタライフルに切り込みを入れるが、完全に切り裂かれる前にハンドライフルの部分をパージして、バスターライフルを戦国アストレイに付き付ける。
 ゼロ距離のバスターライフルの一撃が放たれる前に戦国アストレイは横に飛び退くと、サムライソードの一本を戻すと再度距離を詰める。

「粒子発勁!」
「させっかよ!」

 戦国アストレイの粒子発勁を撃ち込まれないようにガンダムフェニーチェリナーシタはすでに残弾の尽きているバスターライフルを盾に後方に飛び退くと、頭部のバルカンと胸部のマシンキャノンを撃ち込む。
 バスターライフルは爆発を起こし、爆風が戦国アストレイを包み込む。
 それに乗じてガンダムフェニーチェリナーシタはリナーシタウイングシールドの先端で戦国アストレイに追撃を入れようとガンダムフェニーチェリナーシタは距離を詰める。
 だが、爆風からは持っていたサムライソードを捨てた戦国アストレイが飛び出して来る。
 それによりフェリーニは反応が一瞬だけ遅れてしまう。

「左もあるんですよ!」

 右手はバスターライフルの爆発で失ってはいるが、左手でも戦国アストレイは粒子発勁を使う事は出来る。

「粒子発勁!」

 戦国アストレイが前に出て来た事で、反応が遅れた事でガンダムフェニーチェリナーシタは戦国アストレイの粒子発勁をリナーシタウイングシールドで受け止める事になる。
 粒子発勁はプラフスキー粒子を流し込む為、シールドで防ごうと金属パーツ等、粒子の反応しない物を挟まなければ防御は不可能だ。
 
「くそったれ!」

 粒子発勁の威力はフェリーニも初めてニルスが戦国アストレイを公式戦で使ったアメリカ予選で見ている。
 ライバルのグレコのトールギスワルキューレを一撃で仕留めた戦国アストレイの粒子発勁を受けては流石のガンダムフェニーチェリナーシタも一溜りもない。
 強引に後ろに飛び退いたガンダムフェニーチェリナーシタだったが、粒子発勁によりガンダムフェニーチェリナーシタの左腕が粉々に破壊され、胸部や頭部に至るまでヒビが入っている。
 形振り構わず飛び退いた為、ガンダムフェニーチェリナーシタは勢い余って倒れ込む。

「勝負ありですね」

 戦国アストレイは残っているサムライソードを抜いて構える。 
 すでに状況は圧倒的にニルスが優勢となっている。
 ガンダムフェニーチェリナーシタはメインの武器であるリナーシタライフルを失い、武器は頭部のバルカンと胸部のマシンキャノン、ビームサーベルに右肩のビームマントだ。
 バルカンとマシンキャノンは損傷により片方しか使えない。
 種類はあっても、バルカンとマシンキャノンは基本的に牽制目的の武器で決定打に欠ける。
 ビームサーベルとビームマントは戦国アストレイのサムライソードで容易に切り裂かれる。
 戦国アストレイは片腕を失いながらもサムライソードは1本持っており、肩の装甲も健在だ。
 更には粒子発勁も使える。
 フェリーニは戦国アストレイの動きに注意しながらも周囲の状況を把握する。
 状況は圧倒的に劣勢とはいえ、ここで負けるとタツヤとルワンで作った流れを一気に断ち切る事になる。
 少しでも勝機を探すがバトルフィールドのテキサスコロニーはステージギミックが少ない。
 見渡す限り荒野が広がりオブジェクトは岩山程度しかない。
 ステージギミックを使っての状況の打開は出来そうに無かった。

(このバトルを落とす訳にはいかねぇ……悪いな。フェニーチェ。アレを使う!)
「では……覚悟!」

 戦国アストレイはサムライソードを構えると、ガンダムフェニーチェリナーシタに止めを刺そうと一気に接近して来る。
 この劣勢の中でフェリーニは打開策を一つだけ思いついていた。
 止めを刺す為に接近して来る戦国アストレイに対して、フェリーニはスラスターを最大出力で使って、避けるどころか逆に戦国アストレイに突っ込む。
 戦国アストレイが突き出したサムライソードがガンダムフェニーチェリナーシタの胸部を貫くが、フェリーニは気にする事は無い。
 胸部を貫かれながらもガンダムフェニーチェリナーシタは戦国アストレイごと岩山に突っ込む。

「一体何を!」

 岩山に突っ込んだ時に舞い上がった砂塵が収まると、そこには戦国アストレイの腕をガンダムフェニーチェリナーシタがしっかりとつかんでいた。

「こうしてしまえば粒子発勁も使えんだろ!」

 フェニーチェリナーシタは戦国アストレイの腕を掴みながら覆いかぶさるようにしている為、サムライソードを刺したまま岩山に押し付けられて身動きが取れない。
 
「しかし、こちらには!」

 身動きが取れないが、戦国アストレイも肩の装甲は辛うじて動かす事が出来る。
 サムライソードは使えずとも、ガンダムフェニーチェリナーシタを殴り飛ばす事くらいは出来る。

「悪いが俺は負ける訳にはいかないんでな!」

 ガンダムフェニーチェリナーシタには改修前のウイングガンダムフェニーチェの時から搭載しながらも一度も使わない機能があった。
 それはフェニーチェのベースとなったウイングガンダムが作中でも使った自爆システムだ。
 フェリーニもそれに倣ってウイングガンダムフェニーチェに自爆システムを搭載させていた。
 元々はウイングガンダムをベースにするなら自爆システムは必須と言うだけで実際には使う気の無かった物だが、最後の手段としてフェリーニは今まで一度も使わなかった自爆システムをここで使おうとしている。
 それをこの距離で使えば戦国アストレイを戦闘不能に持ち込む事は出来る。
 それでバトルを引き分けに持ち込んでしまえば、負ける事は無い。
 負けなければ相手に勝ち数を与える事が無い為、全体の勝敗条件である勝ち数で並ばれる事は無い。
 ここで引き分ければ、残りの3戦で全勝しなければクロガミ側に勝ち目は無く、こちら側は3戦の内2勝すれば良い為、優勢を崩す事は無い。

「……まさか! 正気ですか!」

 ニルスもフェリーニの意図に気が付く。
 
「当然だ! ガンプラバトルを好きにさせて堪るかよ!」

 ニルスはクロガミグループならガンプラバトルを繁栄させると言っているが、フェリーニは具体的にどのような方法を取るかは分からない。
 だが、支配すると言っている以上は実際にガンプラバトルを行うファイター達にとっては禄でもないやり方であると言う事は分かる。

「お前ら……後は任せた!」
「軟弱者!」

 相討ちに持ち込む為の自爆システムの起動ボタンをフェリーニが押そうとした瞬間、スタジアムにキララの怒号が響き渡る。
 キララは音響ブースでバトルの様子を見ながら、全世界に中継しているバトルの実況を行っているが、どうやら音響ブースからスタジアムのスピーカーを通じて声を届けているようだ。

「何恰好つけてんのよ! 相討ち覚悟の自爆? アンタは何の為に戦ってんの!」
「なっ!」

 いきなりの乱入にフェリーニは自爆システムを押そうとした手が止まり、ニルスも軽く混乱し手が止まっている。
 どうやらキララはフェリーニの行おうとした自爆に腹を立てているらしい。

「そんなやり方でガンプラの未来とか守っても自分の未来を潰したら意味ないでしょ!」

 キララに言われてフェリーニはハッとした。
 フェリーニがバトルに負けても自爆システムを使わなかったのは使えば、下手をすればフェニーチェが再起不能な程に壊れるからだ。
 ガンプラバトルの性質上、バトル後にガンプラが壊れると言う事は珍しい事ではない。
 バトル時の損傷によってはビルダーの技量では修復出来ないレベルで損傷する事も決して珍しい事態ではない。
 その場合、新しいガンプラを制作すると言う事が一般的だ。
 しかし、フェリーニは幼少期に始めて制作したウイングガンダムがプラフスキー粒子により初めて動いた時の感動から、何度バトルで壊れても新しいガンプラを作る事なくウイングガンダムを直し続けた。
 その結果、左右非対称と言うバランスの悪いウイングガンダムフェニーチェとなり、全面改修してガンダムフェニーチェリナーシタとなっている。
 ここで自爆させて、再起不能となった場合、フェリーニはガンプラを続けるだろうが、ガンプラバトルを行う事は無いだろう。
 フェリーニにとってバトルで使う相棒はフェニーチェ以外にはありえないからだ。
 つまりは、ガンダムフェニーチェリナーシタを自爆させて、バトルを引き分けに持ち込んで次にセイとレイジ、アイラが勝って全体で7勝したとする。
 それによってクロガミグループの思惑からガンプラバトルを守ったとしても、フェニーチェを失ったフェリーニにファイターとしての未来はない。
 
「確かに……それに勝ち目がないから相手を道連れにするってのもクールじゃないな」

 ガンプラの未来を守る。
 それに囚われすぎて、バトルで敗北寸前まで追い込まれていた事で、フェリーニは失念していた。
 だが、キララの喝で自分が馬鹿げた事を行おうとしていた事にも気が付いた。
 ガンプラの未来を守ると言う理由があったとはいえ、自分の相棒を犠牲する戦いなどファイターとしてやってはいけない事だ。

「……やれよ」
「よろしいので?」
「ああ……これ以上、俺の相棒に無様な真似をさせられるか」

 ガンダムフェニーチェリナーシタは戦国アストレイから離れて対峙する。
 最後の手段の自爆をする気がない以上はフェリーニに逆転の為の策はない。
 後の事はレイジ達に託し、フェリーニは敗北を受け入れた。
 バトルシステムの外に自ら出たり、降参する事でこれ以上、ガンプラを傷つけずに負ける手段はあるが、フェリーニはそれをしない。
 例え、敗北を受け入れても相手に背を向けて逃げると言う事も戦いその物を放棄したくはないと言うフェリーニの最後の意地だ。
 
「そうですか……」

 戦国アストレイは立ち上がりサムライソードを構える。

「では……お覚悟を!」
「悪いな……相棒。後で必ず直してやるからな」

 サムライソードの横一閃はガンダムフェニーチェリナーシタの捉えた。
 そして、ガンダムフェニーチェリナーシタの上半身と下半身が腰の辺りから離れて真っ二つとなり、バトルシステムがニルスの勝利を告げる。
 バトルは終わり、ニルスはフェリーニに対して一礼をして戻って行く。

「こいつは……」

 フェリーニは壊れたガンダムフェニーチェリナーシタを見てある事に気が付いた。
 ガンダムフェニーチェリナーシタの損傷は決して軽いとは言えない。
 だが、最後の戦国アストレイの一撃は制作に下半身を腰のパーツの間を破壊して、ガンプラが上半身と下半身が分かれるだけの損傷で収まるようになっている。
 
「アイツ……」

 単に止めを刺すだけなら、もっと簡単に一撃を与えるだけで良かったが、ニルスが敢えてこんなやり方をした理由は一つしかない。
 バトル後に修理が少しでも簡単に行えるようにすると言う事だ。
 最後の一撃を確実に勝利する為に粒子発勁で止めを刺されていたら、この程度では済まなかっただろう。
 それは単なる気まぐれなのか敗北を受け入れても尚、戦う姿勢を止めなかったフェリーニに対する武士の情けなのかは分からない。
 理由は分からないが、少なくとも最低限の破壊で済ませたと言う事実は事実だ。
 フェリーニはそれを好意的に取る事にした。
 ニルスの語る理由で本当に向こうに付いたか否かはともかく、ニルスは相手のガンプラを必要以上に破壊すると言う事はしなかった。
 
「悪い。負けちまった」

 ガンプラを回収して控え室に戻ったフェリーニを誰も責めたりはしない。
 これで連敗し、2勝2敗と状況をイーブンに戻されたが、バトルの内容はどちらも正々堂々とバトルした。
 その結果として今回はフェリーニが負けただけの事で、敗北自体は責められる事ではない。

「仕方がありませんよ」
「まぁ……ニルスの奴も腕を上げてたしな」

 バトル前にはガンプラバトルではなく、直接ニルスに殴りそうな勢いだったレイジもフェリーニとニルスのバトルを見てニルスの戦いから何かを感じとったのか、ニルスに対しての敵意は薄れているようだ。

「つっても、流れが悪いな」

 誰もその事に触れないが、最初の2戦での勝利で得たリードはマオとフェリーニが負けた時点で無くなっている。
 その流れを最初に作ったマオもばつが悪そうにしている。

「やっちゃった物は仕方が無いでしょ。次は私が出るわ。これ以上、負けが続かせる訳には行かないもの。そんな状態で単細胞馬鹿のレイジを行かせる訳には行かないわ。精々、私のバトルでも見て頭を冷やしてなさい」
「んだと!」

 アイラはそう言ってレイジの反論を無視して出て行く。

「だから落ち着けって、彼女の実力はお前らも分かってんだろ。それにアレだ。ああいう娘を日本では何つったけな……ああ、あれだツンデレ? 要するに最後はお前に任せるって事だろ?」

 アイラの言葉を言葉通りに受け取れば、単にレイジを馬鹿にしているが、仮にこのバトルでアイラが勝ったとしても、3勝だ。
 残るレナード兄弟かセイとレイジの2組で最後の一勝を勝ち取らねばらない。
 当然、残りの2戦は相手も勝たせないように手を打って来る事は確実だ。
 そうなれば、勝つのは次の1戦よりも難しい。
 ここでアイラが出ると言う事は最も勝つのが難しいであろう最後の1勝をセイとレイジに任せると言う信頼の証だ。
 普段は良く喧嘩をしている為、アイラの言葉を言葉通りに受け取っていたレイジもフェリーニにそう言われて、落ち着く。

「アイツ……恰好付けやがって」

 馬鹿にされた怒りも収まってレイジは最後を自分達に託したアイラのバトルを見守る事にする。
 そして、アイラの対戦相手が出て来る。

「サムライボーイの次はあの娘かよ」
「せやけど、楽勝やん」

 アイラの次の相手は世界大会に出場していたファイターなら知っているありすだ。
 ニルス同様に決勝トーナメントまで勝ち進むだけの実力は持っている為、クロガミサイドは連れて来ると言うのも納得が出来る。

「……どうだろうな」

 ありすの成績は決勝トーナメントの初戦でフェリーニに負けている。
 片やアイラは準決勝でマシロに敗北し、3位決定戦でセイとレイジに負けて4位だ。
 成績だけを見れば決勝トーナメントに残ったと言っても、世界でも上位の実力者のアイラとでは分が悪いのは誰の目にも明らかだ。
 しかし、実際に世界大会でありすとバトルしてありすを下したフェリーニはバトルの際に妙な違和感を感じていた。
 あの時は思いのほかあっさりと勝負を付いたからだと深く考えはしなかったが、このタイミングで出て来たとなると嫌な予感は拭えない。
 そんな不安を余所にありすはGPベースをセットして、ガンプラを置く。

「あのガンプラは! 何故彼女がアレを!」

 ありすのガンプラは世界大会で使用した物から変わっていた。
 セイ達は単にガンダムエクシアの改造機だと言う認識しかなかったが、タツヤだけは違った。
 あの時の記憶はおぼろげだが、ありすのガンプラはかつてタツヤがPPSEの前会長のマシタにフラナ機関のエンボディシステムによる洗脳化に置かれた時に使わされていたガンプラ、ガンダムエクシアダークマターそのものだ。
 ダークマターは元々は、アメイジングエクシアを更に改造した物でベースとなったアメイジングエクシアは修理されてタツヤの手元にある。
 ありすのダークマターはデータを元に作られたレプリカだろうが、一目みたけでもその完成度は以前のダークマターと同等かそれ以上だ。
 フェリーニの感じた違和感、使用ガンプラがダークマターと多くの不安要素のある中、アイラとありすのバトルが開始される。
 バトルが開始され、アイラが進みながらもありすのダークマターを探す。
 今回のバトルフィールドは宇宙。
 アイラのミスサザビーのファンネルが使い易いフィールドだ。
 ミスサザビーは見た目こそ変化はないが、アイラとレイジがセイにガンプラバトルを教えたのと同じように二人もセイからガンプラ作りを教わっている。
 セイに教わりながら、ミスサザビーをチューンしている為、性能は世界大会の時よりも向上している。
 控室のファイター達は単に世界大会のファイナリストと言う程度の認識だが、アイラは以前にありすがマシロ達の兄弟の末っ子だと聞いている。
 少なくともただの可愛いだけのアイドルではないと言う事は確かだ。

「あの子ってマシロの……」

 世界大会で見せた実力はともかくとして、ありすがマシロの妹だと言う立場がアイラは少し面白くはない。
 そんな事を考えていると、すぐにありすのダークマターを補足した。

「正面から?」

 奇襲を警戒していたが、ありすは正面から隠れる事も無く向かって来ている。

「おて柔らかに。お姉さん」

 マシロ曰くキャラ作りらしいテレビの中と変わらない愛らしいありすだが、撃って来るダークマターライフルの精度は精密で、ミスサザビーはスィートシールドで攻撃をいなしながらスィートソードのライフルで反撃する。

「悪いけど、幾ら可愛くしても負ける気は無いわよ!」

 スィートソードのビーム刃を展開してミスサザビーはビームを回避しながら接近する。
 射撃は正確だが、アイラの先読み能力を持ってすれば、かわしながら接近する事も容易い。
 ダークマターはダークマターライフルからビームサーベルを展開して迎え撃つ。

「せっかくの美人さんなのにそんなに怖い顔してたら台無しですよ」
「うっさい!」

 脚部の先端からビームサーベルを出しての蹴りをミスサザビーは繰り出すも、ダークマターは紙一重でかわす。

「そんなに足を上げるのははしたないですよ」

 ダークマターはGNバルカンを撃ちながら後退する。
 ありすの言動の事はアイラはどうでも良かった。
 今の一撃はバトルを決めるとまでは行かなくてもある程度の損傷を狙っていたが完璧にかわされた。
 腹部の拡散メガ粒子砲を撃ってみるもダークマターは上手くかわした。

(この子……強い)

 口では軽口を叩いているもののありすの実力は世界大会の時とは別人のいようだった。
 始めから油断をしていた訳ではないが、ありすの実力が未知数と言う事でアイラは気を引き締める。

「ファンネル!」

 真向からぶつかるだけでは勝機を見つけるのは難しいと判断したアイラはファンネルで揺さぶりをかける。

「スカートに武器を仕込むのも女の子としてどうかと思いますよ」

 ありすの言葉に耳を貸す事無く、アイラはバトルに集中する。

「ありゃ……ノリが悪いですね。それじゃこっちはこうしますよ!」

 ダークマターは腰のプロミネンスブレイドを貫く。
 プロミネンスブレイドの刀身が炎を纏うとダークマターはプロミネンスブレイドを振るう。
 プロミネンスブレイドを覆う炎は広がりファンネルを破壊して行く。

「その程度!」

 ファンネルを全部落とされたが、ミスサザビーは炎を突っ切ってダークマターに突撃する。
 ダークマターもダークマターライフルで応戦するが、ギリギリのところでかわしてスィートソードを振るう。
 勢いよく振るわれたスィートソードをダークマターはプロミネンスブレイドで受け止める。
 勢いをつけていたと言う事もあり、若干ながら2機の唾是り合いはミスサザビーの方が優勢に見える。

「流石世界大会のベスト4……だけどさ!」

 劣勢だったダークマターが赤く発光を始めるとミスサザビーを簡単に弾き飛ばす。
 
「トランザム!」
「それじゃ反撃行きますよ!」

 トランザムを起動させたダークマターは残像が残る程の速度でミスサザビーを圧倒する。

「さっきまでの勢いがありませんよ?」

 粒子を全面開放するタイプのシステムは粒子を肉眼で見る事が出来るアイラにとっては機体性能の向上するだけでなく、相手が見辛いと言う目暗ましの効果も副次的に起きてしまう。
 セイとレイジのスタービルドストライクのディスチャージシステムの放出量と比べると可愛いものだが、それでも見辛いと言う事には変わりはない。

「いつまでも……」

 ダークマターの攻撃をミスサザビーはギリギリのところで致命傷にはならずに防いでいる。

「好き勝手にしてんじゃないわよ!」

 ダークマターが接近して来るタイミングに合わせて、ミスサザビーはつま先からビームサーベルを出してカウンターの蹴りを繰り出す。
 アイラの粒子が見える故の粒子放出系のシステムとの相性の悪さは世界大会の3位決定戦で身を持って味わっている。
 そんな弱点をいつまでも抱えている訳がない。
 粒子が見えると言う能力自体はアイラにはオンオフの切り替えは出来ないが、自身の弱点として自覚していれば、多少なら何とかする事も出来る。
 ミスサザビーの蹴りがダークマターを捕えた……ように見えた。

「へぇ……情報だとこれに対応できない筈だったんだけどな。マシロの情報もあてにならないわね」

 だが、ミスサザビーの背後にはバックパックのないダークマターが回り込んでいた。

「さっきのは……」
「フェイク。結構簡単に引っかかってくれたわ」

 ミスサザビーが破壊したのがダークマターではなく、直前に分離させていたダークマターのバックパックであるダークマターブースターだった。
 普段なら見間違う訳もないが、トランザムによる粒子放出でアイラが相手を粒子の塊としか見え辛いと言う事が災いして、ダークマターとダークマターブースターを誤認させていた。
 背後に回ったダークマターはブライクニルブレイドをミスサザビーに突き刺す。
 そこを中心にミスサザビーに氷が広がって行く。

「ねぇ……貴女、世界大会の4位なんですってね」
「この程度の事で!」

 腹部の拡散メガ粒子砲が潰されたが、まだ負けた訳ではない。
 何とか氷漬けになる事を防ぐ為に体を動かそうとするが、関節部が凍りつき、ミスサザビーは動きを封じられている。
 すでにファンネルを使い切り、背後を取られている以上、ミスサザビーにダークマターを攻撃する手段はない。

「世界4位でこの程度」
「このバトルに勝って……」

 ミスサザビーを完全に氷漬けにしたダークマターはブライクニルブレイドを手放すと距離を取って、ダークマターライフルから最大出力でビームサーベルを展開する。

「……ガンプラバトルってのも大した事ないわね」
「レイジに……」

 氷漬けで身動きすら出来ないミスサザビーを無慈悲に背後からダークマターがビームサーベルを振り下ろす。
 最大出力のビームサーベルが氷漬けで動けないミスサザビーを氷ごと切り裂いていく。
 動けないミスサザビーは避ける事も防ぐ事も出来ない。

「繋がないと……」

 負ければ状況は最悪の物になり、勝って最後に繋ぐと言うアイラの想いを切り裂くかのようにビームサーベルはミスサザビーを一刀両断にした。
 バトルシステムがバトルの終了を告げる。
 それにより戦績は2勝3敗となり、状況は逆転され残り2戦の内、1度でも負ける事の出来ない窮地に立たされる事となった。



[39576] Battle64 「8人目のファイター」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2015/03/05 23:30
 序盤の二連勝からの三連敗。
 余裕のあった序盤からの一気に後がない状態へと追い込まれただけでなく、世界でもトップレベルのファイターの一人であるアイラが不安要素があったとはいえ、ありすにここまで簡単に敗北した事の衝撃は大きい。
 残る2戦はどちらかを落としただけで勝負が決まってしまう。

「行くぞ。セイ」

 最悪の状況の中、レイジがそう言う。
 残るファイターはレナード兄弟とセイ、レイジの2組だ。
 もう片方のレナード兄弟はまだ動く気がないように見える。
 レイジはニルスが敵側に回った事で頭に血が昇っていた事で、バトルを後回しにされていたが、もはや後回しに出来る程の余裕はない。
 
「ちょっ! レイジ!」

 レイジはセイの制止を聞く事無く、控室を出て行く。

「次は僕達が行って来ます!」

 セイもすぐにレイジの後を追いかける。
 すぐに追い駆けた為、セイはすぐにレイジに追いついた。

「レイジ、分かってると思うけど」
「……あの女、世界大会じゃ実力を隠してやがったんだな」
「多分ね。理由は分からないけど」

 ありすの実力は世界大会の時とは別人のようだった。
 使用するガンプラの性能もあったが、単純にファイターの実力も桁違いだった。
 あれから1月程が経っている為、それまでに実力を付けたと言う可能性もあるが、ありすの場合はそんなレベルではない。
 実力を意図的に隠すと言う事は決して珍しい事ではない。
 自身の情報を秘匿するのも策の内だ。
 しかし、秘匿した情報を最後まで見せないと言う事は殆どない。
 その場合は実力を見せる前に敗退するか、実力を全て出し尽くす必要がない時くらいで、大抵はタイミングを見計らって出すのが普通だ。

「俺たちが全力で戦って来た世界大会で最後まで実力を隠して負けて去ったってのが気に食わない」

 アイラとのバトルで見せた実力ならば、世界大会でフェリーニとバトルした際にももっと奮戦できたか、あるいはフェリーニに勝つ事も不可能ではない。
 だが、ありすは実力を隠したまま敗退している。
 理由は分からないが、実力を隠して負けたありすの行動は世界大会で優勝を目指して全力を尽くして来た他のファイターを馬鹿にしている。

「クロガミだか何だか知らねぇけど、ここまでガンプラバトルをコケにする奴らは俺たちでぶっ飛ばす!」
「言い方は少し物騒だけど、僕も賛成」

 世界大会はファイターならば誰もが憧れて目指す場所だ。
 セイもレイジと出会うまではファイターとして実力を伸ばす事が出来ずに毎年一回戦で敗退している。
 自分に世界大会まで勝ち進む実力がない事を自覚しながらも、負ける度に悔しい思いをして来た。
 そんな世界大会の決勝トーナメントで手を抜いて負けたと言うのはセイも良い気はしない。

「だけど、フェリーニさんが言ったように少し頭を冷やそう。僕達の次の相手は彼女じゃないんだからね」

 今回のルール上、同じファイターは2度はバトルする事は出来ない。
 その為、セイとレイジの相手がありすであると言う事は無い。

「あ……」

 会場に向かう途中で、セイとレイジは控室に戻るであろうアイラと遭遇する。
 二人を見つけたアイラは立ち止まり顔を背ける。
 レイジに大見得を切った手前、何も出来ずに負けて来て合わせる顔がない。
 セイもそんなアイラの心中を察してアイラを直視する事が出来ずに立ち止まるが、レイジは特に気にした様子も無く進んでいく。

「仇は取って来る」

 アイラとすれ違った時にレイジがそう言う。
 負けたと言う事実は変えられない。
 そして、負けたのは相手が卑怯な手を使った訳ではなく、単純に実力が足りなかったせいだ。
 だから、アイラに惜しかったや頑張ったと言っても慰めにはならない。
 今のレイジ達に出来る事はバトルに勝って次に繋げる事だ。
 繋ぐ事の出来なかったアイラの分まで。

「……お願い」
「ああ。俺達に任せろ」

 アイラの絞り出すような言葉をレイジは受け取る。
 レイジは振り向く事無く、進みセイはアイラの方をちらりと見ながらも声をかける事が出来ずにレイジの後を追いかけていく。 二人が会場に入るとすでに次の相手が待っていた。


「俺の相手は君たちか! 相手が子供とはいえ手加減はしないぞ!」

 バトルシステムから離れていても聞こえる程の声でハルキが二人を迎える。
 
「なぁ、セイ。あのおっさんの事、知ってるか?」
「ごめん。どこかで見た気はするんだけど……」

 セイもガンダムファンとしてはガンダムの舞台として使われる宇宙に興味がない訳ではない。
 
宇宙飛行士として活躍しているハルキの事はニュースか何かで見た事はあっても、宇宙飛行士自体にそこまで興味がある訳ではない為、記憶の片隅にしか残っていない。

「ガンプラバトルは練習以外でやるのは初めてだが可愛い弟の為にも勝たせて貰う!」
「こっちも譲れない物があんだよ」

 会話もそこそこにセイとレイジ、ハルキはバトルの準備を始める。
 互いにGPベースをセットしてガンプラをバトルシステムに置く。

「スタービルドストライク!」
「行くぜ!」

 第6試合のバトルはランタオ島。
 地上ステージの中でも陸地と海があるステージだが、島の周囲にはリングバリアが展開されている為、島の外に出るにはリングバリアを何かしらの方法で破壊しなければならない。

「さぁ! バトルを始めよう!」

 開始早々ハルキのガンプラ、ガンダムマックスターはスタービルドストライクの前に降りて来てファイテングナックルを構える。

「何のつもりだ? 武器を持ってないぞ」
「あれで良いんだよ。Gガンダムのガンダムは拳その物が武器だから」
「そんな奴もあるのか」

 レイジは相手が武器を持っていない事を不審に思うが、ハルキの使用するガンダムマックスターはガンダムシリーズの中でも変わり種であるGガンダムに登場するガンダムだ。
 本来は腰に射撃装備のギガンティックマグナムを装備しているが、ハルキのマックスターはそれすらも持っていない。

「だから、距離を取って」

 セイが言い切る前にマックスターは距離を詰めると、スタービルドストライクの懐に飛び込むと拳を振り上げてアッパーを繰り出して来る。
 スタービルドストライクは後方に大きく飛んで、スタービームライフルを撃ちながら着地する。
 だが、マックスターは最小限の動きでビームを回避すると、再び距離を詰めようとする。

「やってくれるな!」

 距離を詰めようとするマックスターをスタービームライフルで迎え撃つが、やはり最小限の動きで回避する為、勢いを殺す事すら出来ない。

「コイツ!」
「目には自信があってね!」

 スタービームライフルだけでは手数が足りず、スタービームキャノンを使ってマックスターを止めようとするが、スタービームキャノンのビームをマックスターは拳で殴ってかき消す。
 マックスターはそのまま、自身の拳が届く距離に到達すると、連続でジャブを撃ち込む。
 それをスタービルドストライクは後退しながら回避する。

「良い反応だ! だが!」

 スタービルドストライクを責め立てるマックスターは更に踏み込んで渾身のストレートを撃ち込む。
 背後には岩があった為、スタービルドストライクは空中に逃げるしかない。
 マックスターのストレートはスタービルドストライクを捕える事が出来なかったが、代わりに直撃した岩を一撃で粉砕する。

「なんて威力してんだよ。俺達のビルドナックルと同じくらいか?」
「流石にそんな事は無いけど……」

 マックスターの一撃を同じパンチであるビルドナックルと比べるが、マックスターの一撃はビルドナックルと比べても劣ってはいない。
 単純な威力ならスタービルドストライクのビルドナックルの方が上だが、ビルドナックルとは違い、マックスターのストレートは使用に制限がない。

「ガンプラの性能はこっちの方が上なのは確かなのに……」
「こんな戦い方をする奴は初めてだ」

 ハルキのマックスターはかなり丁寧に作り込まれているが、世界大会では平凡なレベルだ。
 セイのビルダーとしての技術とアイディアを注ぎ込んで制作したスタービルドストライクとは完成度は大きく差が付いている。
 だが、流れは完全に向こう側だ。
 最初の一撃で流れを持っていかれたのだろう。
 レイジ自身、近接戦闘に特化したガンプラやファイターとのバトルは何度も経験している。
 しかし、ハルキの場合は更に踏み込んで来る。
 そんな相手とのバトルの経験の少なさに加えて、ハルキはここまで踏み込んだ戦いになれている。
 初戦のマシロやフェリーニとバトルしたニルス、手を抜いて決勝トーナメントまで勝ち進んだありす、プラフスキージャマーを使ってバトルすらしなかったユキネを除いて、ルワンとバトルしたアレックスは実力はルワンを追い詰める程だったが、明らかに油断が見えていた。
 それは元々、ガンプラバトルとは無縁だが、自分の持つ能力にに絶対の自信を持って上で相手を見下していたのだろう。
 ハルキはガンプラバトルの世界では名が知られていない辺り、アレックスと同様に元々はガンプラバトルとは無縁だったと推測は出来る。
 アレックスはガンプラの性能と自分の能力を過信した戦いをしていたが、ハルキの動きはそれがない。
 自分の持つ能力からバトルスタイルを確立し、今日の為だけにそれを磨いて来ている。
 そして、相手が年端もいかない子供が相手だろうと決して手を抜く事も気を緩める事もしないで勝ちに来ている。

「けど……燃えて来た」

 レイジはありすの行動やアイラの仇討ちなどはどうでも良くなりつつあった。
 相手がありすのようにムカつく相手ならばそうはならなかったが、運が悪い事に目の前の相手は今まで世界大会で戦って来たファイターの様に本気でバトルしている。
 そんな相手を前に余計な事を考えてバトルする事など出来る訳が無い。
 スタービルドストライクは着地するとマックスターを対峙する。

「ビームを幾ら撃っても当たる気がしねぇ。それに相手が拳一つで来るならこっちも……構わないな! セイ!」
「そうだね。本来なら、止めて有効な策を考えるのが僕の役目なんだけど……このバトルステージで火器は無粋だ。思いっきり行け! レイジ!」
「おうよ!」

 スタービルドストライクは持っていたスタービームライフルを捨てると左腕のアブソーブシールドをパージする。
 バックパックのユニバースブースターも少しでも軽くなる為にパージすると拳を握り締めて構える。
 そして、RGシステムが起動するとスタービルドストライクの内部フレームは青白く発光する。
 RGシステムの光が次第に右手に集まって行き、右手の光が強くなる。

「面白い! 真っ向勝負で来るか!」

 対するマックスターも金色に輝きハイパーモードとなって拳を構える。

「ビルドナックル!」

 2機はほぼ同時に地を蹴り渾身の一撃を繰り出す。
 スタービルドストライクとマックスターの拳がぶつかり合って、その余波で周囲を吹き飛ばす。
 
「大した威力だ! だが、踏み込みが甘い!」

 ビルドナックルと渾身のストレートの勝負はマックスターのストレートに軍配が上がり、スタービルドストライクは大きく吹き飛ばされる。

「ちくしょう!」
「そんな……ビルドナックルが正面から破れるなんて!」

 地面に叩き付けられたスタービルドストライクの所々にヒビが入り、そのダメージの大きさを物語っている。
 今まで必殺の一撃だったビルドナックルが正面から破られた事で、スタービルドストライクを制作したセイの精神的なダメージは大きい。
 二人は気づかなかったが、純粋な威力でビルドナックルが破られた訳ではなかった。
 マックスターはぶつかる直前にスタービルドストライクよりも更に一歩踏み出す事で、スタービルドストライクがビルドナックルを振り切る前にストレートをぶつけてビルドナックルの威力が最大になる前に勝負している。

「まだだ! まだ俺達は負けてねぇ!」

 損傷しながらもスタービルドストライクは立ち上がる。
 ビルドナックルを破られたものの、スタービルドストライクは戦闘不能となった訳ではない。
 立ち上がったスタービルドストライクは拳を構える。

「レイジ……確かに僕達はまだ負けてない。それに負けられない理由もある」
「そう言うこった」
「さっきは競り負けたけど……」

 セイの方からRGシステムを起動させてスタービルドストライクの内部フレームは再び青白く光始める。
 そして、ビルドナックルを使う為に右手に光が集まって行く。
 通常のビルドナックルを使う時は全ての粒子を右手に集中させる事で威力を一点に集めているが、今度は全ての粒子を回していない。
 その為、通常時よりも右手の光は小さく、内部フレームが微かに光を帯びている。

「これなら威力は少し落ちるけど、踏ん張りは効くよ」

 セイがわざわざ、全ての粒子を使わなかったのは、RGシステムを少しで全体で維持させる事で正面からぶつかった時に少しでも踏ん張りを効かせるようにする為だ。
 これなら、ビルドナックル自体の威力は多少落ちるものの、機体性能を上げている為、正面からぶつかった時に踏ん張りが利いて競り負けないようになる。

「成程な……なら、俺も負けてられないな」

 レイジがそう言って、操縦桿を操作するとスタービルドストライクの右手の拳が腕との付け根から回転を始める。
 セイがRGシステムの粒子の操作を工夫したようにレイジもビルドナックルの威力を上げる工夫をした。
 世界大会でアイラとバトルした際にはディスチャージシステムのスピードモードと併用する事でビルドナックルの威力を上げたが、今回は相手がビームを使わないと言う事でアブソーブシステムが使えず、ディスチャージシステムを使うだけの粒子はまだ集まっていない。
 ディスチャージシステムが使えない為、別の方法で威力を上げようと右手を回転させた。
 これならば、右手が回転している分、ビルドナックルの威力も上がる。

「こいつで!」
「ただの遊びだと思っていたが、成程! マシロが熱を上げるのも分かる!」

 ハイパーモードのマックスターの拳が炎を上げる。
 そして、2機のガンプラは再び一気に加速して距離を詰める。

「スピニング!」
「ビルドナックル!」

 スタービルドストライクの拳を回転させたビルドナックルと炎を纏うハイパーモードのマックスターの拳がぶつかり合う。
 最初の激突よりも更に激しい余波が起こる。

「ぶち抜け!」

 RGシステムで機体強化を行っている為、スタービルドストライクも前のように競り負けると言う事は無いが、競り勝つと言う事も容易ではない。
 
「いっけぇ!」

 ぶつかり合う2機のガンプラだが、遂にはマックスターの拳にヒビが入って行く。
 回転するビルドナックルがマックスターの拳を打ち砕き、その胴体にビルドナックルを打ち込んだ。
 ビルドナックルを撃ち込まれたマックスターは島を覆うリングバリアまで吹き飛ばされると機能を停止する。
 マックスターとの勝負に競り勝ったスタービルドストライクだが、受けたダメージも相当でRGシステムが解除されて膝をつく。
 リングバリアまで吹き飛ばされたマックスターは完全に沈黙し、バトルシステムがバトルの終了を告げた。

「負けた! 負けた! 油断していたつもりはなかったんだがな!」
「おっさんも結構、強かったぜ」

 バトルが終わったが、ハルキは余り負けた事を気にしていない様子だった。
 一方のレイジの方もバトル前までは頭に血が昇っていたが、正面からぶつかり合った事で相手を認めるだけの冷静さは取り戻している。

「次が最後か! 健闘を祈る!」

 ハルキはそう言って戻って行く。
 そんなハルキを見てセイとレイジは呆気にとられて顔を見合わせて苦笑いする。
 だが、これで3勝3敗で次の7戦目の勝敗で勝負の行く末が決まる。
 バトルに勝利したセイとレイジは控室に戻る。

「勝って来たぞ」
「あれだけ大きい事を言ったんだから当然じゃない」

 控室に戻ってすぐにレイジはアイラにそう言うが、アイラは素っ気なく返す。
 それによって売り言葉に買い言葉でレイジとアイラは口論を始めるが、世界大会後のイオリ模型店では日常的に行われている為、セイは苦笑いをするだけで止める気は無い。

「何とか勝つ事が出来ました」
「遂に真打登場ってか」

 今までバトルに行く気が全くなかったレナード兄弟が立ち上がる。
 レナード兄弟の実力は世界大会でマシロを相手に十分に戦える程だが、この場面で全面的に信頼できるかと言えば否だ。
 だが、ルール上7戦目のファイターはレナード兄弟意外に出る事が出来ない。

「まっ、俺達がサクッと勝って来てやるから安心して見てろよな」

 弟のフリオが捨て台詞を吐いてレナード兄弟は控室を出て行く。

「フリオ、手筈通りにやるぞ」
「分かってるって。兄貴」
「最後が貴方達なら私の勝ちは揺るがないわね」

 レナード兄弟の対戦相手は世界大会でマシロのセコンドを務めていたレイコだった。
 レナード兄弟にとっては世界大会で策を強引な策で潰した因縁の相手でもあった。
 
「はっ! 頭でっかちに俺達兄弟が負けるかよ」

 フリオが軽く挑発し、バトルが開始される。
 今回のバトルフィールドはコロニーレーザー内だ。
 要塞内のように閉鎖空間だが、外には宇宙が広がり一定時間でコロニーレーザーが発射される為、場所によってはコロニーレーザーの発射時は危険となるバトルフィールドだ。

「俺達に有利なフィールドになったな」

 ジムスナイパーK9はコロニーレーザー内の通路を進む。
 今回は通常装備に加えて、ブルバップマシンガンとシールドを装備して、狙撃だけでなく通常戦闘でも十分に対応できるようになっている。
 すでにバックパックを分離させて別行動をさせている。
 コロニーレーザー内は閉鎖空間である為、狙撃はやり辛いがトラップを設置するには適している。
 通路を進むジムスナイパーK9の前にビームキャノンを装備したビルゴⅡがビームキャノンを構えていた。
 すぐにブルバップマシンガンを連射するが、ビルゴⅡのプラネイトディフェンサーが弾丸を弾く。

「ちっ!」

 ビルゴⅡがビームキャノンを放ち、ジムスナイパーK9は別の通路に逃げ込む。
 それをビルゴⅡが追いかける。

「釣れたぞ。兄貴」
「そのままだ」

 後ろを取られているが、ビームキャノンをチャージしているビルゴⅡとジムスナイパーK9との距離が次第に離れていく。
 
「そこだ」

 ジムスナイパーK9を追うビルゴⅡの近くが突然、爆発を起こしてビルゴⅡは爆発に巻き込まれた。

「やったか?」
「この程度で終わる訳が無い。次のポイントへ向かうぞ」
「了解だ」

 爆発の中からプラネイトディフェンサーを展開したビルゴⅡが出て来る。

「相変わらず芸のないトラップね」

 レイコがパネルを操作すると、コロニーレーザー内のマップが映し出される。
 そこにはジムスナイパーK9の現在位置が映し出されている。

「成程ね。次は……」

 レイコはパネルを操作すると、ビルゴⅡは動き出す。
 本来ならばファイターが操縦桿でガンプラを動かすが、レイコは自分ではなく予め用意したプログラムによって自動操作でバトルを行っている。
 レイコ自身は一切の操作をする事無く、状況に合わせてプログラムを切り替えるだけだ。

「さて……借りの始まりよ」

 移動するジムスナイパーK9の現在位置を見てレイコはほくそ笑んでいた。

「ついて来ないな」
「油断するなよ」

 ビルゴⅡを撒いたジムスナイパーK9は次のポイントを目指して通路を進んでいた。
 すると、前方からビルゴがビームライフルを構えて出て来る。
 ジムスナイパーK9はすぐさまブルバップマシンガンを連射してプラネイトディフェンサーを展開する前にビルドを撃破した。

「モビルドールか」
「向こうも俺達みたいな事をしてるって事か」

 ビルゴを撃墜したが、バトルシステムはレナード兄弟の勝利を告げない。
 ルール上は各ファイターが使用できるガンプラは1機のみだが、中にはビットモビルスーツやモビルドール等、複数のガンプラを使用する事が出来る。
 その際にはファイターが操作しているガンプラが撃墜されない限りは幾ら、撃墜しても意味はない。
 逆に支援機扱いではない為、ファイターが操作しているガンプラが撃墜された時点でそのバトルには敗北となる。
 レイコは自分の操作するビルゴⅡ以外にも複数のビルゴをモビルドールとして配置しているのだろう。
 ジムスナイパーK9が通路を進んでいると、ビルゴが飛び出して来て、そのつどブルバップマシンガンで撃墜して通路を変えるざる負えない。

「向こうも誘っているな」

 ビルゴが出て来るのは決まって進路を変更できる場所のみだ。
 恐らくは向こうもレナード兄弟を誘導しているのだろう。

「どうする兄貴?」
「誘っていると言う事はその先に切り札を用意していると言う事。ならば、そいつを潰してしまえば万策も尽きるだろう」
「違いない」

 相手が直接戦闘を避けて誘っていると言う事はその先で確実に仕留める事が出来るだけの物を用意していると言う事だ。
 それが分かっていれば、それを避けると言う手段も取れるが、兄、マリオは敢えて相手の術中に飛び込むと言う選択をした。
 相手にとって必勝の策ならば、それを打ち破れば相手の万策も尽きる。
 ジムスナイパーK9はビルゴを破壊しながら先へと進む。
 一方のレイコのプログラムで動いているビルゴⅡもレナード兄弟が設置したトラップを破壊しながら進んでいる。

「この短時間で良くやるわね」

 以前世界大会でマシロがバトルした際には敢えてトラップを設置する時間を与えた上でバトルしているが、今回はそんな時間を与えてはいない。
 だが、接触するまでの短時間でレナード兄弟は多数のトラップを設置していた。

「成程。カラクリはあれね」

 モニターの片隅にはトラップを設置するジオン兵の姿が映されている。
 レナード兄弟はマシロとのバトルで設置したトラップを全て破壊されると言う対策を取られた事から、相手の関節部に爆弾を仕掛ける役目のジオン兵に新たな役目としてバトル中に独自に動いてトラップを仕掛けさせた。
 これなら、時間の経過と共にトラップの位置が増える事で、安全確認をしても意味を成さなくなる。
 トラップを設置しているジオン兵をビルゴⅡはビームサーベルで破壊する。

「これも想定内よ」

 ジオン兵を破壊したビルドⅡはジムスナイパーK9を追って通路を進む。
 ビルゴに誘導されながらも、ジムスナイパーK9は開けた空間へと出る。
 すでにK9ドックパックと合流し、バックパックに装備している。

「おいおい。マジかよ」
「戦いは数とは良く言った物だな」

 ジムスナイパーK9の前には多数のビルゴⅡが待ち構えていた。
 狭い通路ならば、数が多くても大した問題ではないが、ジムスナイパーK9は開けた空間に居る。
 今まで通って来た通路に戻って迎え撃とうにも、すでに完全に包囲されている為、後退する事もままならない。
 無数のビルゴⅡは一斉にビームライフルでジムスナイパーK9を攻撃する。
 ジムスナイパーK9はビームを回避しながらブルバップマシンガンを連射して対応する。
 密集している為、ビルゴⅡはプラネイトディフェンサーを展開する事も、殆ど動く事も無く撃墜されて行くが、数が多い事もあって余り意味がない。

「ちっ! どうすんだよ! 兄貴!」
「落ち着け。今は少しでも数を減らして耐えろ。まだその時ではない」

 圧倒的な数に焦りを見せている弟のフリオだが、兄のマリオはまだ余裕を残している。
 ブルバップマシンガンを連射していたが、ここに来るまでに何機かのビルゴを撃墜していた事もあってすぐに残弾が尽きてしまう。
 残弾の尽きたブルバップマシンガンをビルゴⅡに投げつけると、大腿部のホルスターからビームガンを抜いてビルゴⅡを撃ち抜く。
 ビームガンはブルバップマシンガンと比べると威力も連射速度も低い為、ビルゴⅡを一機撃墜するのにも時間がかかってしまう。
 火器をビームガンに持ち替えた事で、ビルゴⅡを1機撃墜する時間が増えた為、ジムスナイパーK9への集中砲火が激しくなり、かわし切れないビームはシールドで防いでいたが、遂にはシールドが攻撃に耐え切れずに破壊されてしまう。
 シールドが破壊されてすぐに、流れ弾が背部に直撃し、バックパックのK9ドックパックをパージする。
 幸いにも爆発で、K9ドックパックに装着していたビームスナイパーライフルが外れて破壊されずに済んだが、この状況では回収する余裕もなければ連射速度の低いビームスナイパーライフルは使い辛い。

「くそ!」

 ジムスナイパーK9は空いた左手にビームサーベルを抜いてビルゴⅡを破壊する。

「兄貴! このままじゃやばい!」

 ビルゴⅡの数はかなり減らしたが、減らした事で今度はある程度のスペースが生まれた。
 それによって今まではまともに動く事の出来なかったビルゴⅡが動けるようになり、プラネイトディフェンサーを使っているビルゴⅡも出て来ている。
 ビームガンではビルゴⅡのプラネイトディフェンサーを突破する事は出来ない。

「仕方が無い。EXAMを使う」

 マリオがそう言うとジムスナイパーK9の頭部のセンサーが赤くなる。
 ジムスナイパーK9の切り札であるEXAMシステムが起動したからだ。
 EXAMを起動させた事でジムスナイパーK9の性能が上がり、プラネイトディフェンサーを展開しているビルゴⅡの懐に飛び込むとビームサーベルを突き刺して、至近距離からビームガンを撃ち込んで破壊する。

「次はどうすんだ? 兄貴」
「このままモビルドールを潰しても意味はない。ファイターが操作している1機を叩く」

 多数のモビルドールに圧倒されているが、レイコが操作している1機さえ仕留めてしまえば、モビルドールが何機残っていようとも意味はない。

「けどよ! あの女のガンプラはどこにいるんだよ!」
「恐らくはこの中にいるだろう。モビルドールの動きは最低限の事しか出来ていない。俺達が疲れ切ってミスを犯した瞬間の千載一遇のチャンスを狙う為にな」

 ここに誘うまではビルゴだったのに対してここに配置されているのはビルゴⅡだ。
 単純にビルゴとビルゴⅡの間には装備の違いの他に外見の違いがある。
 今までは一目で違うと分かるようにビルゴを配置していたのにも関わらずここにビルゴⅡを配置した理由はここにレイコが操作するビルゴⅡが紛れる為だとマリオは推測していた。
 ここに配置されているビルゴⅡの動きは単純でビームライフルをジムスナイパーK9に撃つか、軽く回避行動を取る、プラネイトディフェンサーを展開してビームライフルを撃つと単純だ。
 だからこそ、千載一遇のチャンスを逃さない為に、本体がここに潜んでいる可能性は高い。
 恐らくはすでに武器をビームキャノンから他のビルゴかビルゴⅡからビームライフルを受け取って装備での違いを悟らせないようにしている。

「成程な。けど、そいつを見つけてもこれだけ数がいたらどうしようもないぜ」

 見つけるだけなら、ここまで来る途中で少なからずレナード兄弟が設置して来たトラップで損傷しているビルゴⅡを見つければ良い。
 だが、相手もそのビルゴⅡが落とされると負けると言う事は分かっている為、撃墜されやすいジムスナイパーK9の近くには来ないだろう。
 遠距離での攻撃ではビームガンでは威力も射程も殆ど無い為、見つけて狙ってもプラネイトディフェンサーで防がれてしまう。
 それ以前にパッと見で分かるようなヘマをする相手でもない。
 何機かは同じように外装に損傷を付けて簡単には見分けがつかないようにされている。

「俺に考えがある。まずはスナイパーライフルを回収して来い」
「了解だ!」

 ジムスナイパーK9はEXAMシステムで底上げされた性能でビルゴⅡを接近戦で仕留めては、先ほど落としたビームスナイパーライフルの回収に向かう。
 その最中に何発かは被弾したが、ビームスナイパーライフルは無事に回収する事は出来た。

「次はどうする?」
「俺の指定したポイントを狙撃しろ」

 フリオの側にマリオからの狙撃位置のポイントが転送されて来る。
 ジムスナイパーK9はビームスナイパーライフルを構えて指定されたポイントを狙う。

「隙だらけよ」

 ジムスナイパーK9がビームスナイパーライフルを構えているが、それを本体のビルゴⅡからビームキャノンを受け取ったモビルドールのビルゴⅡが狙っていた。
 ジムスナイパーK9とビルゴⅡが同時にビームを放つ。
 ビームスナイパーライフルのビームが指定されたポイントを撃ち抜き、ビルゴⅡのビームがジムスナイパーK9の下半身を吹き飛ばす。

「兄貴!」
「これで良い」

 下半身を吹き飛ばされたジムスナイパーK9は地面に落ちる。
 メインスラスターは無事だが、下半身を失った事でまともに動く事が出来なくなる。
 その上で周囲にはまだビルゴⅡが残っている。
 ビルゴⅡがビームライフルを動けないジムスナイパーK9に向ける。
 まともに回避行動の取れないジムスナイパーK9にとっては絶対絶命の状態だが、先ほどのジムスナイパーK9の狙撃により撃ち抜かれた場所が爆発を起こす。
 ジムスナイパーK9が撃ち抜いた場所には事前にジオン兵を使って爆弾が仕掛けてあり、ビームを撃ち込んだ事で爆弾を爆発させた。
 それによって閉鎖空間に大きな穴が開き、外に空気が漏れだす。
 空気が漏れだした事で、ビルゴⅡ達は次々と外に放りだされて行く。
 抵抗しようにも空気の流れが激しく抵抗も空しく外に放り出される。
 ジムスナイパーK9も例外ではない為、外に放り出された。
 外は宇宙空間だが、ちょうどコロニーレーザーの発射口となっている。

「時間通りだ」

 このバトルフィールドは一定時間でバトルフィールドのギミックとしてコロニーレーザーが発射される。
 本来は宇宙でバトルしている時に気を付けるギミックで、コロニーレーザー内でバトルしている時はそこまで気を付ける必要もない。
 しかし、ジムスナイパーK9とビルゴⅡのいる場所はコロニーレーザーの射線上に位置する。
 そして、コロニーレーザーは今にでも発射しようである。

「本物が分からないなら纏めて始末すれば問題はない」
「だからってな! このままじゃ俺達だって!」

 多数のビルゴⅡをコロニーレーザーの射線に出す事でコロニーレーザーを使って一掃すると言う策は良いが、射線上にはジムスナイパーK9もいる。
 このままコロニーレーザーが発射されればビルゴⅡもろともジムスナイパーK9もコロニーレーザーで消し炭となる。

「相手もそう考えるだろう。フリオ。アレが本体だ」

 フリオ側のモニターの映像が切り替えられる。
 そこには多数のビルゴⅡの中で1機だけが、射線上から退避しようとしている姿が映される。
 
「ずいぶんと慌てているようだな。フリオ」
「任せな!」

 逃げようとするビルゴⅡの動きは素人も良いところだ。
 捨て身の策はレイコの方でも想定外らしく、手動に切り替えて逃げようとしているのだろう。
 他のビルドⅡは単調な動きしか出来ない為、無理に助けるのではなく全て切り捨てて本体だけが逃げろようとしている。
 ここで多数のビルゴⅡが一掃されても、ジムスナイパーK9がコロニーレーザーに巻き込まれてしまえば勝ちとなる。
 その為、自分だけが生き延びれば良いと言う事だ。
 下半身を失っているがメインスラスターは生きている為、ジムスナイパーK9は逃げようとしているビルゴⅡを追撃する。
 その最中にモビルドールのビルゴⅡの攻撃を受けて損傷するが、ジムスナイパーK9はビルゴⅡを羽交い絞めにして拘束する。

「離しなさい!」

 ビルゴⅡは懸命にジムスナイパーK9を振り払おうとするが、ジムスナイパーK9は決してビルゴⅡを離す事は無い。

「貴方達を心中する気は無いのよ!」
「兄貴!」
「フリオ、意地でも離すな。現状で負けない為に出来る事はそれだけだ」

 それがマリオからフリオへの最後の指示だった。
 すでにマリオはこのバトルにおいて勝つ事を放棄して負けない方法を取ると決めていた。
 ビルゴⅡが何とかジムスナイパーK9を振り払おうとするも、ジムスナイパーK9はビルゴⅡを捕まえて離す事は無い。
 最後の抵抗でプラネイトディフェンサーを展開する。
 そして、遂にコロニーレーザーが発射されて、多数のビルゴⅡと共にジムスナイパーK9とビルゴⅡはコロニーレーザーに飲み込まれた。
 ビルゴⅡがプラネイトディフェンサーを展開していたが、コロニーレーザーの威力は並のガンプラの防御力では防げないレベルに設定されている為、意味を成さない。
 レナード兄弟とレイコのガンプラがコロニーレーザーに飲み込まれた事でバトルシステムはバトルの終了を告げる。
 ルール上、どちらのガンプラが定められた時間を経過しても決着が付かない場合はサドンデスであるVアタック方式で決着を付けられるが、同時に戦闘不能となった場合はサドンデスを行わずに引き分けとなる。
 その為、このバトルの結果も引き分けで終了した。
 バトルが終わってレナード兄弟が控室に戻るが、兄のマリオは気にした様子はないが、弟のフリオは少し機嫌が悪い。
 散々、大口を叩いて勝てなかった為だ。

「気にするな。俺達は負ける事は無かった」

 マリオがそう言うが、フリオの機嫌が直る事は無い。

「これで勝敗は3勝3敗1引き分け……どうなるんだ?」
「その質問には私が答えよう」

 7回のバトルの結果がどちらも勝ち数が同じとなった。
 その為、勝ち数が多い方が勝利と言う前提が成り立たない。
 そんな疑問にいつの間にかレイコと入れ替わりにバトルシステムの前に立っているユキトが答える。

「おいおい……総帥自ら出て来たのかよ」

 ユキトの顔はレイジを除き誰もが知っていた。
 クロガミグループの若き総帥として大々的にメディアに取り上げられた事は何度もある。
 その世界でもトップクラスのグループをまとめている総帥がこんなところに自ら来ているのだ驚くのも無理はない。

「事前に配布したルールにあるように勝敗が同じだった場合は延長戦を行う」

 ユキトがそう言うとすぐにバトルの前に渡されたルールを確認する。

「ほんまや! 決着が付かんかった場合は8戦目を行うてあります!」

 ルールの中には確かに決着が付かなかった時の事は書かれていた。
 だが、誰もその事を知る事は無かった。
 ルールはやたらと細かく書かれているが、大半は直接的には関係のないどうでも良い事ばかりで重要な要項は始めの方に纏められている。
 だからこそ、誰もがルールを見た時に重要な部分のみを把握して後は適当に流し読みしていた。
 延長戦はその中のどうでも良いルールの中に紛れてひっそりと書かれていた。

「さて、ルールを理解したところで次のファイターは誰かな?」

 決着が付かなかった時の延長戦が行われると言う事は理解出来たが、同時に重大な事実にも気が付いた。
 今回のルールでは公平を期す為に同じ一人一度しかバトルに出る事が出来ない。
 セイやマリオと言ったセコンドも同様にだ。
 そして、ここに居るのは7組で皆がすでに一度はバトルを行っている。
 つまり、ここには8戦目に出る事の出来るファイターがいないと言う事だ。

「分かっていると思うが、10分以内に次のファイターが出て来ない場合は不戦敗となる。こちらの8人目は私だ。そちらは誰が出て来る?」

 今までは気にしていなかったが、次にバトルするファイターを選ぶのにも時間制限が設けられている。
 その時間は10分で揉める事が無ければ簡単にクリアできたが、その10分が今はとてつもなく短く思える。

「始めからそのつもりだったのかよ!」
「卑怯よ!」
「だが、ルールに書かれている以上はこちらの落ち度と言われればそこまでだ」

 引き分けとなった場合の延長戦は決着をきちんとつける為にあるが、実際は引き分けとなった時点でクロガミサイドの勝利となるように仕組まれているも同然だ。
 だが、そのルールは多くのルールの中に隠すようにされているが、確かに書かれている為、文句を言ったところで自分達がきちんとルールを見てないと言われればそこまでだ。
 そして、ルール上はこの7組のファイター以外の助っ人の参加も認められていた。
 しかし、誰もが世界レベルのファイターで、バトルは7回、ファイターも7組と不測に事態によって誰からバトルに出られないようにならなければ助っ人を呼ぶ事は誰も考えてはいなかった。
 今から誰かを呼んだところで10分以内にここに到着するのは不可能だ。
 唯一、バトルに出られるとしたら実況で来ているキララくらいだが、キララもクロガミグループに仕事の依頼を受けて来ている以上、すぐには当てに出来ない。
 始めから引き分となった時点で敗北したも同然だったのだ。
 もはや打つ手もなく、時間ばかりが過ぎていくだけだ。
 バトルすら出来ずに後は敗北を待つだけとなって誰もが諦めかけたその時、控室のドアが開いた。

「8人目ならここにいる」
「君は……」

 突然の来訪者は誰もがこのタイミングで出て来るとは予測すらしていなかったこのバトルを開催した張本人であるマシロであった。
 マシロはマイスターの恰好でも無ければ気取ったスーツでもない。
 白いマフラーこそしていないが、世界大会で来ていたような適当な恰好だ。

「俺が来たからには勝利しかあり得ない。何故ならば俺が最強だからだ」

 突然のマシロの来訪に誰もが唖然としていたが、アイラがマシロに詰め寄る。

「アンタは始めに負けたじゃない!」
「負けた? 俺が? ずいぶんと会わない間に頭の中がお花畑にでもなったんじゃないのか? 俺がいつ負けったって? 何時何分何秒? 地球が何回回った時だ?」

 いきなり出て来て子供じみた事を言うマシロに、アイラが掴みかかりそうになるが、セイとレイジが抑える。

「だって俺こそ、マシロ・クロガミはこのバトルにおいて一度も出ていないからな」

 その言葉でマシロの言いたい事は皆にも伝わった。
 マシロが初戦に出てタツヤとバトルした事は今更誰もが分かっている事実だ。
 だが、マシロはマシロ・クロガミとしてではなく、謎の仮面ファイターであるマイスターとしてバトルをしている。
 つまりはルール上、マシロは一度もバトルに出ていない。

「しかし、問題は向こうがそれを認めるかだ。向こうのやっている事は卑怯だが、こちらの落ち度を狙って来ている。だが、君のやろうとしている事は少し強引すぎる」

 ルワンの指摘も尤もだ。
 あくまでも違う名前で出ているだけで、マシロ自身はすでにバトルに出ている。
 当然、マイスターの中身を向こうが知っている以上はマシロが8人目として出ると言う事を認めないと言う事も考えられる。

「その点は大丈夫だって、だってさ、マイスターが俺だって証明するって事は謎の仮面ファイターの正体を暴いてまで俺とバトルする事を避けたいって言っている訳だ。全世界に生中継されているこの場面でそんな事は出来る訳が無い。まぁ、俺がマイスターだって事は絶対にあり得ないけどな」

 マシロがあくまでもマイスターの中の人ではないと言う事を認めないと言う事は置いておいても、正体不明の実力者と言う肩書であるマイスターの正体を全世界に明らかにしてまでもい、マシロが8戦目に出る事を許可しないと言う事は実質的にマシロには勝てないと言っているようなものだ。
 そんな事をユキトはするとは考え難い。

「つまり、兄貴は俺が出る事を認めざる負えないって訳。尤もマイスターの正体を明かしたところで俺じゃないから問題はないんだけどな」

 相手は分かっていても、マシロがバトルする事を認めざる負えない。
 マシロの実力は誰よりも分かっている以上、マシロを出すのが最も勝率が高い。
 そんな事は頭では理解出来ている。

「お前を信用出来るって確証は? お前は向こう側の人間だ。そんな奴が都合良く出て来て、それが罠だと言う可能性は十分にあり得る」

 マシロの実力は誰もが知っている。
 だが、マシロの立場を考えれば素直に信用して任せて良いのか分からない。
 誰もがそんな疑念を持つ中、フェリーニがそれをマシロに問う。
 マシロはクロガミグループの回し者で8戦目を成立させた上でわざと負けてより確実にクロガミサイドが勝利する為の罠だと言う可能性も考えられた。
 その可能性があるからこそ、素直にマシロに任せるとは誰も言えない。

「そんなもんはないな。だけど、この場で次のバトルには俺しか出れない。で、時間はもう半分を過ぎてる。どう考えても俺意外のファイターが出る事は不可能だ。つまりは俺を信用するしかないって事だ」

 そう言われてしまえば、フェリーニも黙るしかない。
 マシロを信じるか否かは別としても、すでに残り時間は5分を切っている。
 マシロ以外に8戦目に出れるファイターがいないのも事実だ。
 このまま時間が来ればバトルすら出来ずに敗北が決まってしまう。

「マシロ。一つ聞かせて欲しい」

 そんな中、タツヤがマシロの前に出て来る。

「この状況は恐らく君が作り出した物だ。君は一体何がしたいんだ?」

 マシロが2回も出れる状況にありながら、マシロは1度しかバトルに出ていない。
 マシロが2回出ていれば勝ち数が並んで8戦目に持ち越す前に決着をつける事も出来た。
 それなのにこのタイミングで2回目のバトルに出ると言う事はマシロは始めからこちら側で2回目のバトルを行うつもりだったと言う事になる。

「俺がやったのはお膳立てだけだよ」

 今の状況はタツヤの推測通り、マシロの望んだ形だ。
 だが、マシロが行ったのはクロガミサイドの勝ち数の確保と引き分けを作り出した事だけだ。
 そうでもしなければ、クロガミサイドが負け越すと考えていたからだ。
 クロガミサイトの勝ち数を確保する為に、ユキネがどんな手段を使おうとも黙認し、嫌っていたありすを出した。
 そこで2勝を確保した上で、自分とニルスのどちらかで1勝を取って後は1回だけ引き分けにすればこの状況を作り出せる。
 その1回の引き分けも、事前にレナード兄弟の兄、マリオとの間で取引が成立させていた。
 弟のフリオと相手に選ばれたレイコはその事実を知らなかったのは、バトルを見ているユキトにばれないようにする為だ。
 事実を知らないフリオとレイコは状況が悪くなると、必死に勝とうとする。
 演技ならば見破られる可能性があった為、あえて伏せられていた。
 その上で、ユキネに頼んでレイコの当日の戦術等をマリオに流して意図的に引き分けとなった。
 レナード兄弟が最後まで動かなかったのは、引き分ける相手であるレイコが最後まで出て来なかったからだ。
 勝ち数を引き分ける上での3勝だが、下手に細工をすればユキトにバレる危険性を考慮して始めから勝つ気でバトルさせている為、そこはタツヤ達に自力で勝って貰うしかなかった。
 そうやってマシロなりにタツヤ達に任せた結果、マシロの期待通りに3勝してこの状況に持ち込んでくれたと言う訳だ。

「で、俺がしたい事ってのは端的に言えば兄弟喧嘩」

 流石にマシロの答えに唖然とした。
 ここまでの事をやっておきながら、マシロの目的は兄弟喧嘩だと言うから当然の反応だ。

「兄貴の事だから、この状況なら兄貴自ら出て来ると思ってね。兄貴は俺達の能力は信用はしてるけどさ、俺達の事は信頼してないから」

 ユキトはマシロを初めとした兄弟の事はそれぞれの分野や能力においては信用はしている。
 だが、勝つ事を前提のバトルで勝ち数が並んで引き分けと言う状態で他の誰かに任す程兄弟を信頼はしていない。
 だから、マシロはこの状況ならば、ユキトが自ら蹴りを付けに来ると考えた。
 その為に、それっぽい理由を付けてユキトをここまで連れて来てもいる。
 
「兄貴は俺の事なんて相手にもしてないからさ。こうでもしないといけなかった」
「ガンプラの支配云々は僕達をやる気にさせる為のブラフだったと?」
「それは本当。兄貴は本気でガンダムもガンプラもビジネスの為に食い物にしようとしてる。それは事実。俺はそれに至る過程をある程度は任されていたから便乗したに過ぎない」

 キララを通じてタツヤ達が知った事は事実だ。
 マシロはただ、それを利用したに過ぎない。

「だから、タツヤ達としても俺が出た方が良いって事には変わりはないんだよね」
「……正直。僕はマシロのやろうとしている事が本当にそうなのか信じる事が出来ない。だから、マシロ……僕に君を信じさせて欲しい」
「どうだろ。俺は結構いい加減なところがあるからな。信じて馬鹿を見ても俺は責任を持てない。だけど、これだけは言える。俺が最強だ」
「それが聞ければ十分だよ。マシロ」

 色々とマシロに振り回されている為、タツヤにはマシロが何をしたいのかは分からない。
 だから、マシロを本当に信じて良いかも分からない。
 しかし、タツヤがマシロの事で分かっている事は一つだけある。
 マシロは常に自身を最強のファイターと言い続けて、それを貫いている。
 少なくとも、マシロはわざと負ける為にバトルをする事は無い。
 それはマシロがファイターであり続ける限り信じる事が出来る事だ。
 
「僕はマシロのその言葉に賭けてみたい。どうだろうか?」

 タツヤは他のファイター達にそう言う。
 もはやここまでくればマシロに最後を託すしかない。
 どの道、今の状況でマシロ以外のファイターがバトルに出る事は出来ないのだから。
 だからこそ、信じるしかない。
 
「決まりだな」

 誰も反論しないと言う事は直接面と向かっては言わないが、マシロが8人目として出る事を黙認したと言う事だろう。

「それと俺を信じた以上は馬鹿を見る事はない」

 マシロはそう言い残して会場へと向かう。
 会場ではすでにユキトが来るかも分からない8人目を待っていた。

「どういう事だ?」
「どういうも何も俺が8人目だよ。兄貴」

 ユキトも土壇場で8人目のファイターが来る事は想定してはいたが、流石にマシロが出て来るとは予想外の事態であったが、それを顔に出すと言う事は無い。

「俺が8人目でも問題はないよな」
「好きにしろ」

 控室での説明はユキトには不要なようだ。

「なぁ、兄貴。ここは一つ賭けをしよう」
「賭けだと?」
「そう。このバトルで俺が勝ったらクロガミグループを俺にくれ」

 流石にこれにはユキトは眉を潜める。
 ユキトからみればたかが玩具の遊び程度の事でグループを賭けると言っているから当然の反応でもある。

「自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「分かってるつもりだけど。だって考えても見ろよ。このバトルは全世界の生中継されてんだぜ。例え、玩具の遊びとは言っても天下のクロガミグループの総帥が弟に負けたとあっては常に勝者たれってウチの家訓に背く事になるだろ? だから、俺に寄越せって事。いわばこのバトルは下剋上」

 ユキトは常に勝者である事を兄弟たちに求めて来た。
 ガンプラバトルとはいえ、マシロが勝てばユキトは敗者となる。
 例え兄弟であってもユキトは一度の敗北すらも認める事は無い。
 つまりは玩具の遊びであっても、公衆の面前で負けてしまえば、誰もユキトをクロガミグループの総帥としては認めないだろう。

「お前が何かで俺に勝った事があるのか?」
「ないよ。だけど、ガンプラバトルでだけは相手が兄貴だろうと負ける気はしない。だから、ガンプラバトルで兄貴と戦う事を選んだんだよ。ガンプラバトルなら俺だって兄貴に勝てるから」

 ユキトはあらゆる分野で才能を発揮している。
 マシロには決して届く事は無い。
 しかし、ガンプラバトルだけはマシロでもユキトに届き得るからこそ、マシロはユキトとガンプラバトルで対峙する道を選んだ。

「俺が勝ってクロガミグループを手に入れて、ガンプラバトルも世界も俺色に染め上げる。それがプロジェクトエデン。俺による俺の為の俺の楽園を作り出す計画だ」
「馬鹿な。お前にそんな事が出来ると本気で思っているのか?」

 クロガミグループは様々な分野に根強く入り込んでいる。
 それを手に入れる事が出来れば、使い方では世界を手中に収めると言う事は決して夢物語と言う訳ではない。

「出来るさ。兄貴の言う通り、俺は馬鹿だからな。知ってるか? この世で最も面倒なのは力を持った馬鹿なんだぜ。馬鹿だから利口な奴は出来ないと思う事でも平気でやろうとする。そこにそれを実現できる力があれば、もう誰にも止める事は出来はしない。俺のようにな。俺は兄貴をガンプラバトルで倒してクロガミグループを手に入れる。クロガミグループの力があれば世界を手に入れる事など造作もないんだろ?」
「くだらない。お前のその思い上りを俺が自ら叩き潰してやる」
「やって見ろよ。今の俺は不可能を可能にだって出来る気がしてんだ。負ける気はしないね」

 あくまでもマシロもユキトも自分が勝つと言う事を信じて疑わない。
 そんな様子を控室ではタツヤ達が緊張した面持ちで見ている。
 マシロの実力は疑う事は無いが、クロガミグループを統べているユキトの実力は完全に未知数だ。
 この場面で出て来ると言う事は確実に勝つだけの自信があると見て間違いはない。
 その余裕はクロガミグループが抱えるガンプラバトルの天才であるマシロを前にしても揺るぐ事は無い。

「そう言えば、マシロの奴。ガンプラはどうすんだよ」

 レイジはふと思った事を口にする。
 マシロが自身満々で出て行ったため、誰もが失念していた事だ。
 マシロがタツヤとのバトルで使用していたガンダム∀GE-3はタツヤとのバトルで大破している。
 直すにしても時間的にまともに直しているとは考え難い。
 タツヤが使用したガンダム∀GE-2は未だにタツヤの手にあり、修理もしていない。
 考えられる事は世界大会で使用したガンダム∀GE-1だが、それを超えるガンプラを制作している以上はガンダム∀GE-1であそこまでの自信を持つとは考えられない。
 考えたくはないが、マシロはまともなガンプラすら持っていない状況でいつものように自信を持っているのかも知れないとまで思ってしまう。

「その心配は必要ない」

 レイジのふとした発言から場が氷つくがいつの間にか控室に居たアランとニルスの内アランがそう言う。

「アラン。君も一枚噛んでいたのか」
「済まないとは思っているよ。だけど、一人のビルダーとして最強のガンプラを作ると言われては手を貸さない訳にはいかなかったんだよ」

 アランはマシロから最強のガンプラを作るから手を貸して欲しいと頼まれていた。
 アラン自身、マシロが何をしでかすかとも思ったが、ビルダーとしては最強のガンプラを作ると言う魔力には勝てずにタツヤには黙ってマシロに協力していた。

「お前もそうなのか?」
「ええ。皆さんには悪いと思ったんですけどね。敵を騙すのはまずは味方からとも言いますし、マシロの全面的な協力でプラフスキー粒子の再生成の目途も経ちました」

 ニルスもまた、プラフスキー粒子を研究していたと言う事からクロガミグループの研究施設で粒子の生成方法を研究していた。
 表向きはクロガミグループの支援の元、粒子の研究を行っていたが、裏では研究と並行してマシロのガンプラ作りに手を貸していた。

「そして、ようやく完成しました」
「PPSEが今年の世界大会で得たガンプラの出たを元に技術班の技術の推移と彼の粒子関連の情報、マシロが今まで得て来た経験の全てを注ぎ込んで完成させた最強のガンプラ、ガンダム∀GE-FXがね」
「ガンダム∀GE-FX……それがマシロが完成させた最強のガンプラ」

 そんなやり取りが行われているとは知らないマシロは完成させたガンダム∀GE-FXをバトルシステムの上に置く。
 ガンダム∀GE-FXはその名の通りガンダムAGE-FXをベースに改造したガンプラだ。
 ガンダムAGE-FXの特徴でもあった全身のCファンネルは全て外された上で3種類の形状のCファンネルがバックパックの大型シールドに装備されている。
 手持ちの装備として、右手には分離可能なドッズガンの付いたバスタードッズライフルカスタム、左手にはブライクニルランスを持っている。
 べース機からの両腕のビームサーベルに両肩の装甲は大型化され、ビームバルカンが内蔵されている。
 バックパックのコアファイターにはガンダム∀GE-FXの装備の大半が集中し、プロミネンスバスターソード、大型シールド、フォトンブラスターキャノン、ハイパーバズーカ、ガトリング砲と多数の武器をてんこ盛りになっている。
 これらは全てPPSEが記録した今年の世界大会の決勝トーナメントで使われたガンプラを初めとしてPPSEに保管されているガンプラのデータを元にマシロ独自の物を取り入れている。
 更にはプラスチックにプラフスキー粒子を練り込んで常にRGシステムを使っている状態と同じにするRGフレームを採用している。
 RGシステムの欠点でもあった負荷による強度の問題も、マシロが独自に制作した金属粒子を練り込んだ特殊プラスチックを金属粒子とプラフスキー粒子の配合率を再計算して最適化させる事でクリアしている。 
 Cファンネルの代わりに全身にはプラフキー粒子の結晶体が付けられている。
 これはニルスの研究の中でプラフスキー粒子は結晶体の大きさならば、人の想いに反応する可能性があると分かり、マシロが取りあえず結晶体をいくつかつけて見たら何かが起こるかも知れないと言い出して結晶体が付けられている。
 今までのマシロのガンプラは白一色だが、このガンダム∀GE-FXは違った。
 胴体周りはベースとなったガンダムAGE-FXから大幅に変更はしていないが、今まで嫌っていた黒を追加した事で、青と白、黒の三色をメインにバックパックの装備等はベースとなったガンプラのイメージから変更してはいない。
 これは色々な色が混ざっても尚、自分が黒く染まらないと言うマシロなりの意志表示の為だ。
 そして、それは今まで多くのファイターとバトルを行い、それを自らの力を変えたマシロの今までの戦いの集大成とも言えるのがこのガンダム∀GE-FXとなる。

「行くぞ。ガンダム∀GE-FX。これがラストバトル。ガンプラの存亡を賭けた対話の始まり!」

 マシロとユキト。
 二人の兄弟のクロガミグループのガンプラバトルの命運を賭けた最後のバトルの火蓋が切って落とされた。
 



[39576] Battle65 「兄」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2015/03/23 20:08
 マシロとユキトの兄弟対決が幕を開けた。
 バトルフィールドはコロニー「ヘリオポリス」となった。

「ヘリオポリス……新世代の始まりの場所か。コイツは俺に新世代を作り出せって言っているような物だな」

 マシロがそう言っていると、ガンダム∀GE-FXに高出力のビームが飛んで来る。
 それをガンダム∀GE-FXはバックパックにアームで固定されている大型シールドで受け止める。

「あのシールドは!」

 控室でバトルを観戦していたセイが思わず声を上げる。
 一見するとガンダム∀GE-FXはビームを大型シールドで受け止めているように見えるが、良く見るとシールドの隙間にビームが吸い込まれているようにも見える。

「流石はセイ君です。あのシールドは君の作ったスタービルドストライクと同じアブソーブシールドです」

 ガンダム∀GE-FXの制作に関わっていたニルスが説明をする。
 ガンダム∀GE-FXはPPSEの情報を元にマシロが最強のガンプラに必要と思う技術は全て取り入れている。
 その中にはビームに対して圧倒的な防御力を持つスタービルドストライクのアブソーブシステムが挙げられていた。
 それを大型化し、腕ではなく、アームで稼働出来るようにする事でより広範囲をカバーする事が可能になっている。

「アレが兄貴のガンプラ……ずいぶんと貧相な癖して大した火力だな」

 モニターには先制攻撃をして来たユキトのガンプラが映されている。
 ユキトのガンプラはエクストリームガンダムをベースに両腕にGNドライヴとGNバスターライフル、GNシールドを装備されているくらいで大幅な改造はされていない。
 マシロのガンダム∀GE-FXのベースとなっているガンダムAGE-FXとユキトのエクストリームガンダムはどちらも進化するガンダムだ。
 マシロのガンダム∀GE-FXが戦いの中で他のファイター達のガンプラの技術を取り込んで多くの装備を持つのに対して、必要最低限の装備のみで、機体名すらもエクストリームガンダムで登録し、徹底的に無駄を省いたユキトのエクストリームガンダムは対極の進化を遂げている。

「それに完成度は俺のFXと同等……個人でここまで作り上げて来るかよ。どうせ片手間で作った癖に」
「この程度の事は資料を見れば誰でも出来る事だろう。こんな事に時間を費やしている連中の気が知れないな」

 マシロのガンダム∀GE-FXはPPSEの技術班の技術を総動員しているが、ユキトのエクストリームガンダムは個人製作だ。
 それも普段のクロガミグループの総帥としての仕事の合間に用意していた。
 元々、ガンプラの制作において画期的な手法は滅多に出て来る事は無い。
 大抵は先人達が確立した手法を手本に技術を会得するのが一般的だ。
 それ自体は特別な流派でない限りはホビー誌などにも載っている。
 ユキトからすれば、それらで得られる情報通りにガンプラを制作すれば、この程度の完成度のガンプラは簡単に作る事は可能らしい。
 尤も、やり方が分かってもそれを実際に会得してガンプラ作りに反映させるにはそれなりの経験が必要になる。

「言ってくれるな。けど、やられたら倍返しにして返すのが礼儀だよな!」

 ガンダム∀GE-FXはバックパックのフォトンブラスターキャノンを前方に転回する。
 同時に大型アブソーブシールドに付いている6基のCファンネルが展開する。 
 Cファンネルはガンダム∀GE-FXの前方で円を描くように配置されると周り始める。
 それによりフォトンリングゲートが形成された。

「だから……受け取れ!」

 ガンダム∀GE-FXがフォトンブラスターキャノンを撃ち、フォトンリングゲートを潜るとガンダム∀GE-FXの撃ったビームに回転が加わると同時に威力が一気に上がる。

「アブソーブシステムだけじゃなくて、ディスチャージシステムも!」
「それにあの火力はワイのサテライトキャノンに匹敵……それ以上や!」

 ガンダム∀GE-FXのフォトンブラスターキャノンはマオのガンダムX魔王のハイパーサテライトキャノンのデータを元にされている。
 圧倒的な火力を維持する為にマオは周囲の粒子を集めていたが、マシロはスタービルドストライクのアブソーブシステムと組みわせた。
 そこに同じくスタービルドストライクのディスチャージシステムのプラフスキーパワーゲートを合わせて更に火力を向上させると同時にリングを回転させる事で、ビームにドッズ系と同じ回転を加える事で、貫通力を上げた。
 ガンダム∀GE-FXのドッズフォトンリングキャノンはエクストリームガンダムを飲み込んでコロニーの外壁に穴を空けた。

「これで終わったとか言うなよ」
「当然だ」

 ビームの掃射が終わるとそこには中が見えない程の高密度の粒子を圧縮したGNフィールドを展開するエクストリームガンダムがいた。

「GNフィールドか……けど、こっちの最大火力が通用しないってのは流石にへこむな」

 ガンダム∀GE-FXはバスタードッズライフルカスタムを連射する。
 エクストリームガンダムはGNフィールドを解除すると、残像が残る程の速さでガンダム∀GE-FXの後ろに回り込む。

「機体が薄らと赤い……成程ね。考える事は同じかよ!」

 ガンダム∀GE-FXが振り向きざまにバスタードッズライフルカスタムを向けるが、それよりも早くエクストリームガンダムがビームサーベルを振り下ろす。
 バスタードッズライフルカスタムはビームサーベルで切り裂かれて、ガンダム∀GE-FXは肩のビームバルカンとガトリング砲で牽制するが、エクストリームガンダムは素早く後退する。
 エクストリームガンダムは肉眼では分かり辛い程度に赤く発光している事をマシロは見逃さなかった。
 マシロのガンダム∀GE-FXも内部フレームが常にスタービルドストライクのRGシステムを起動させた状態を維持しているように、ユキトのエクストリームガンダムも常に微弱ながらトランザム状態を維持しているのだろう。
 それによって残像が残る程の機動性を確保している。

「機動力はこっちの十八番だってのに、てんこ盛りのFXとの相性は悪いな。それにコロニーに穴が開いたせいで空気が漏れてやがる」

 ガンダム∀GE-FXはマシロの得意としている高機動戦が出来ない訳ではない。
 だが、通常時は多くの武装を持つが故に機動力は余り出せない。
 その上で先ほどマシロがヘリオポリスに穴を空けたせいでバトルシステムが更新されて、穴から空気が漏れている。
 空気が漏れだした事で、ガンプラはその流れに巻き込まれている。
 ユキトのエクストリームガンダムは装備が少ない為、機体重量も軽い事もあって空気が漏れる影響を余り受けないが、ガンダム∀GE-FXはその影響をモロに受けて更にスピードが出ない。

「先に穴を塞ぐか」

 ガンダム∀GE-FXは左手のブライクニルランスを構える。
 ブライクニルランスはアイラのキュベレイパピヨンのランスビットにガンダムエクシアダークマターのブライクニルブレイドを合わせた武器だ。
 本来ならば、接近戦において相手を氷結させるための武器だが、周囲の粒子を氷結させる事も可能だ。

「行って来い」

 ブライクニルランスの機能により先端から氷塊を作り出してヘリオポリスに空いた穴を氷塊で塞いだ事で空気の流れを止める事が出来た。
 空気の流れを止めたガンダム∀GE-FXはバスタードッズライフルカスタムを失った事で開いた右手にバックパックに装備されているハイパーバズーカを構える。
 
「高速で動く相手にはコイツで動きを制限させて貰う」

 ハイパーバズーカは多種多彩な弾頭を選択する事が出来る。
 マシロはその中から特殊弾頭の一つを選択して放つ。
 ハイパーバズーカから放たれた特殊弾頭は着弾する前に弾けて周囲にワイヤーが飛び出す。
 これはレナート兄弟がマシロとのバトルで使用したワイヤートラップの応用だ。
 ワイヤーには特殊な接着剤が浸透しており、一度でも触れたら最後、専用の除去剤を使わない限りは決して取る事は出来ない。
 ガンプラにワイヤーを接着させる事で、ワイヤーにより機動力を封じる事が出来る。

「小細工を」

 ワイヤーに触れれば動きを制限されるが、ワイヤーを避ける為にも行動が制限されてしまう。
 だが、エクストリームガンダムのGNシールドが開閉すると、そこから胞子状のビームが多数形成されるとワイヤーを吹き飛ばす。

「胞子ビット持ちかよ」

 エクストリームガンダムの胞子ビットはワイヤーを吹き飛ばすと、今度はガンダム∀GE-FXを狙う。
 ガンダム∀GE-FXはブライクニルランスで周囲に小さい氷塊を作りだすと胞子ビットにぶつける。
 だが、その間にもエクストリームガンダムはガンダム∀GE-FXの背後に回り込む。

「そう何度も後ろを!」

 振り向きざまにブライクニルランスを突き出すが、ブライクニルランスがエクストリームガンダムを貫くよりも先にエクストリームガンダムがGNバスターライフルを放った。
 ガンダム∀GE-FXはブライクニルランスを捨てて、本体を大型アブソーブシールドでビームを吸収して防ぐが、ブライクニルランスまでは守り切れずに破壊されてしまう。
 ガンダム∀GE-FXはハイパーバズーカの通常弾頭を撃ちながら後退するが、通常弾頭の弾速ではエクストリームガンダムを捉える事は出来ない。
 エクストリームガンダムはハイパーバズーカの弾丸を回避しながらも、胞子ビットをガンダム∀GE-FXの周囲にばら撒く。
 
「流石は兄貴だよ!」

 大量の胞子ビットの攻撃をCファンネルを使って防ぐが、ハイパーバズーカに被弾し、ハイパーバズーカをパージする。

「反応速度はこっちの方が早いってのに!」

 マシロが常人離れした反応速度で攻撃に対処しても、ユキトは対処した瞬間に次の手を打って来る。
 まるで、マシロが次にどう来るかを事前に分かっているかのようだ。
 これではマシロがユキトの動きに反応してから行動しても、それを読んだ上で次々と手を打って来る為、マシロは後手に回り続け胞子ビットによる飽和攻撃で被弾する。

「そっちがその気なら! こっちは力で捻じ伏せるだけだ!」

 ガンダム∀GE-FXはバックパックの大剣、プロミネンスバスターソードを抜いて構える。
 プロミネンスバスターソードの表面には粒子変容塗料が塗ってある。
 それにより、プロミネンスバスターソードは粒子を変容させた炎を纏う。
 これはエリカのセイバーガンダム・エペイストにバスターソードにニルスの戦国アストレイのサムライソード、ガンダムエクシアダークマターのプロミネンスブレイドを合わせた物だ。
 炎を纏うプロミネンスバスターソードを大きく振るうと炎の斬撃がエクストリームガンダムに向かって行く。
 それをエクストリームガンダムはGNフィールドを展開して防ぐ。

「GNフィールドなら実体剣で切り裂ける!」

 ガンダム∀GE-FXは一気に加速してエクストリームガンダムに接近を試みる。
 だが、ガンダム∀GE-FXの前に胞子ビットが飛来する。


「その程度!」

 胞子ビットの攻撃を完全に見切ってガンダム∀GE-FXはプロミネンスバスターソードで切り払うが、エクストリームガンダムは逆にガンダム∀GE-FXとの距離を詰めるとビームサーベルを振るう。
 ビームサーベルはプロミネンスバスターソードを持つ右手を狙うが、ガンダム∀GE-FXはプロミネンスバスターソードを手放すと右手のビームサーベルを出して受け止めて、エクストリームガンダムを弾き飛ばす。
 弾き飛ばされたエクストリームガンダムはその勢いを利用した加速して距離を取る。
 同時に胞子ビットを大量に出して追撃をさせないように置き土産も忘れない。

「流石にかわし切れないだろ!」

 大量の胞子ビットはどんなにマシロの反応速度が速く、高い操縦技術を持っていたところで物理的に全てを捌いて防ぐには不可能な数を用意し、まさにビームの壁だ。
 その壁を肩のビームバルカンとバックパックのガトリング砲でこじ開けるには火力が足りない。
 大型アブソーブシールドでビームを吸収しようにも全方位から休みなく押し寄せて来る為、一つでは手が足りない。

「ならよ!」

 ガンダム∀GE-FXの肩の装甲が稼動して、戦国アストレイと同様に第3、第4の腕をなり、ビームバルカンの先端からは突きに特化したビーム刃が形成されビームレイピアとなる。
 2本のビームレイピアを前方に向けて強引に突破する。
 
「お前ならそうするだろうな」

 しかし、それはユキトの読み通りの行動でもあった。
 ビームの壁を突破すると全方位からの胞子ビットがガンダム∀GE-FXに襲いかかる。
 それをビームレイピアを両腕のビームサーベルで捌くが、やがて大型アブソーブシールドのアーム部分に被弾してアームが破壊される。

「これで防御は崩れた」

 大型アブソーブシールドが破壊された事で、エクストリームガンダムはGNバスターライフルを最大出力で放つ。
 ガンダム∀GE-FXはCファンネルを集めてビームを防ぐが、防げたのは数秒でCファンネルが破壊される。
 












 バトルが始まった時は誰もがこの光景を予想はしていなかった。
 特にガンダム∀GE-FXの制作に関わっていたニルスとアランからすれば目の前の光景は信じられないだろう。
 PPSEの技術班やニルスの知識を注ぎ込んで制作されたガンダム∀GE-FXと世界最強の座に付いているマシロと言う組みわせでここまで一方的にバトルが展開されている等あり得ない。
 だが、実際にバトルはユキトが圧倒している。
 その様子を控室ではただ見ている事しか出来ない。

「マシロがここまで一方的に追い詰められているなんて……」

 マシロは勝つ為ならガンプラがボロボロになる事も厭わない。
 だが、今回に限っては一方的にやられているように見える。
 大量の胞子ビットを使って、マシロがどんなに攻撃に反応して防いでも次から次へと攻撃し続ける事で確実にダメージを蓄積している。
 同時に確実に装備を潰している為、すでにガンダム∀GE-FXの装備の大半は潰されている。
 そうしている間にも肩の装甲の片方がアーム部分が破壊され、体勢を崩したところにガトリング砲が破壊されてしまう。

「マシロが……負ける?」

 この展開に誰もが思い始めた事を、アイラがポツリと零した。
 誰もがマシロに勝つ事を目標にしながらも、未だに明確に勝つ為のビジョンが浮かばないマシロの負ける場面。
 以前にもルワンが勝ちかけたが、あの時はルワンを油断させる為にわざとそう見せかけていたが、今回は違う。

「マシロ……君はこんなところで負けるのか? 君の力はそんな物なのか……僕を信じさせるんじゃなかったのか」

 今回ばかりはマシロの誰もが望んでいる。
 だが、現実は非常にもマシロが追い詰められている。

「流石にやばいな……」

 胞子ビットの攻撃に大型アブソーブシステムを失った事でGNバスターライフルの砲撃を何とか防いでいるものの、マシロはかつてなく追い詰められている。
 どんなに防いでも、ユキトは無限に手を打ち、こちらが被弾するまで終わらない。
 まるでユキトは詰将棋でもやっているようだ。

「所詮、お前のやっているガンプラバトルとやらも、この程度のお遊びでしかないと言う事を思い知るが良い」

 ユキトは淡々とマシロを追い詰めていく。
 ユキトの中ではすでにマシロのガンダム∀GE-FXを戦闘不能に追い込むまでの手順が出来上がっている。
 後は一切のミスをする事無くそこまで辿りつけば終わる。

「……ほんと、兄貴は凄いな」

 GNバスターライフルのビームが肩を掠めて肩のビームレイピアが破壊される。
 同時に胞子ビットが全方位からガンダム∀GE-FXを包み込むように襲い掛かる。
 完全に全方位から来ている為、逃げ道はない。

「俺が何年もかけてここまで来たってのに簡単に追いつくんだからさ……だけど、俺はまだ……負けてない。負けてない!」

 全方位からの胞子ビットがその包囲を狭めていく。
 誰もがマシロの敗北を確信したが、包囲網の中から青白い光と共に胞子ビットが吹き飛ばされる。

「馬鹿な……」

 今まで淡々とバトルを進めていたユキトの表情が初めて変わった。
 ユキトの中ではこれで勝負がつく筈だったからだ。
 胞子ビットが吹き飛び、ガンダム∀GE-FXが両腕からビームサーベルを展開した状態でそこに浮いていた。

「あんな機能を搭載はしてない筈だ!」

 絶対絶命のピンチを乗り切った事がアランとニルスは本来、ガンダム∀GE-FXには実装されていない現象に驚きを隠せない。
 ガンダム∀GE-FXにはバーストモードが搭載されているが、明らかにそれとは違う。
 RGフレームだけでなく、全身に装備されているプラフスキー粒子の結晶体も光り輝いている。
 同時に、レイジやセイ、アイラの持つアリスタも輝いている。

「何が起きているんだ」
「ありゃりゃ。流石の私もこれは予想外の事になっちゃったわ」

 いつの間にか控室に居たユキネがそう言う。
 ユキネにとってもこれは想像していなかった事らしい。

「一体、何が起きているんですか?」
「うーん。多分、しろりんの勝利への執念がガンプラに付いているアリスタが反応、その結果、ガンプラとの感覚のシンクロが極限まで達した事で完全にガンプラと感覚が一体化したって所だと思うんだけど」
「ガンプラと一体化? そんな事が可能なのですか?」
「さぁ? でも科学者としては目の前の事態は受け入れないと。実際問題としてさっきのアレは幾らしろりんが目が良くても操作時のタイムラグが全くないなんてありえない事よ」

 胞子ビットの檻をガンダム∀GE-FXは両腕のビームサーベルで切り裂いた。
 だが、その速度は並の人間ならば何が起きたのか分からない程の速さだった。
 幾らマシロが反応速度は人並外れて、高い操縦技術があっても反応してから操作していては確実に間に合わない。
 だからこそ、ユキトもアレで確実に勝利出来ると思っていた。
 しかし、実際にはマシロが理論的にはあり得ない事を起こした。
 それを理論的に説明すれば、マシロが反応してからガンプラを動かすまでのタイムラグを完全になくすしかない。
 つまりは、マシロとガンプラが完全に一体化していないと不可能だ。

「ガンプラとファイターの一体化。いわば同化現象……アシムレイト。まさか、しろりんがガンプラバトルの新たな扉を開く事になるなんてね。くろりんが生きていたら泣いて喜びそうな事態ね」
「アシムレイト……(マシロ、君はまた先に進もうと言うのか)」

 タツヤは無意識の内に拳を握り締めていた。
 世界大会において、マシロにようやく追いついたと思ったが、マシロは更にその先へと進んだ。
 それもガンプラと自身の感覚の一体化と言う常識では考えられない方法でだ。

(ならば、追いついて見せよう。君のライバルとして)

 危機を乗り越えたガンダム∀GE-FXは胞子ビットの攻撃を掻い潜って行く。
 装備の大半を失った事で、今は身軽となって本来の機動力を出せるようになっているだけではなく、操作時のタイムラグが限りなくなくなった事で、流れも変わりつつあった。
 しかし、胞子ビットの一つが掠った事で、ガンダム∀GE-FXは体勢を大きく崩して地面に落ちていく。
 何とか、体勢を整えてガンダム∀GE-FXは着地する。

「いって……(何が起きてんだよ。なんかさっきからFXの動きが俺の反応速度に完全に合ってると思ったら今度は掠った場所が痛いしよ)」

 控室でユキネがマシロの身に起きている現象を解析している事など、知るよしもないマシロは自分がガンプラバトルの新しいステージに到達していると言う自覚は無い。
 だが、ガンダム∀GE-FXが自分の反応速度に追いついている事や、被弾した場所が痛いと言う事はすぐに結びついた。

(なんだかよく分からんが、この調子の良さとこの痛みは連動してるって事か。まぁ、そう都合よくメリットだけのシステムは無いよな。だけど……その程度か)

 被弾すれば、被弾した場所と同じ場所が自分もダメージを受けると言う事は察しが付いている。
 ガンプラの被弾した場所が同じようにダメージを受けると知るも、マシロは気にした様子はない。

(勝つ為ならお前の受ける痛みなんてのは大した事は無い)

 両腕にビームサーベルを展開して、ガンダム∀GE-FXはエクストリームガンダムへと向かう。
 エクストリームガンダムは胞子ビットとGNバスターライフルで応戦しながら、ガンダム∀GE-FXを迎え撃つ。
 すでに勝利を決める筈だった攻撃で勝負がつかなかった事で、エクストリームガンダムの攻撃は今までのような計算し尽くされた物ではない。
 ガンダム∀GE-FXは胞子ビットをビームサーベルで切り裂き、GNバスターライフルのビームをギリギリでかわす。
 ビームが掠り、掠った場所が痛むがマシロは気にしない。
 勝つ為であれば、自分のガンプラが損傷しようが構わないように、自分が痛かろうが構わない。
 ガンダム∀GE-FXのビームサーベルがエクストリームガンダムのGNバスターライフルを切り裂く。
 エクストリームガンダムは胞子ビットをばら撒きながら後退する。
 それをガンダム∀GE-FXは胞子ビットを捌きながら追撃する。

「何故だ。何故この私が、マシロに押される」
「何でだろうな。多分、兄貴は一人で戦ってるからだと思う。だけど、俺は一人じゃない。こんな俺でも信じようとしてくれる酔狂な奴がいるんだよ」
「くだらん。所詮、人は一人で生きていくしかない。他者等使えるか否かだ」

 エクストリームガンダムはガンダム∀GE-FXのビームサーベルをビームサーベルで受け止めるが、常時RGシステムを使っているガンダム∀GE-FXの方がパワーは上だ。
 ユキトにとっては他人は自分にとっては使えるか使えないかでしかない。
 それは兄弟とて例外ではない。

「多分、兄貴は知らないけどさ……一人ってつまらないんだよ」

 マシロも最近になって分かって来た事がある。
 今までは一人でCPUを相手にバトルをする事も多かった。
 だが、一人でやるバトルは味気ない。
 どんなに実力差があっても生の人間とのバトルの方が充実していると言う事にだ。

「父さんもそれを知っていたから、俺達を集めたんだと思う。俺達はその才能が故に孤立してた。一人でいる事のつまらなさを知っている」

 マシロの兄弟たちは特出した才能を持つが故に回りに理解されず馴染む事無く孤立した者も少なくはない。
 マシロ達の父であるキヨタカがそんな兄弟たちを集めたのは単に才能を活かす環境を与えるだけではなく、同じ痛みを知るからこそ理解し合える真の家族となり得るとして引き取ったのではないかとマシロは考えていた。

「戯言を……」
「父さんは人を切り捨てるんじゃなくて、人を活かす人だった!」

 ガンダム∀GE-FXはバックパックの中で唯一、ユキトが破壊していないフォトンブラスターキャノンに付いているビームソードを抜いた。

「兄貴が父さんの後継者だって言うならさ!」

 ガンダム∀GE-FXがビームソードで切りかかり、エクストリームガンダムは後退しながらGNバスターライフルを威力を絞って連射する。

「まずは父さんのやっていた事と同じラインに立って見せろよ!」

 エクストリームガンダムのビームを掠りながらも、距離を詰めてビームソードを振り下ろし、エクストリームガンダムはシールドにGNフィールドを展開して受け止めるが、パワーではガンダム∀GE-FXの方が優勢だ。

「父を超えるのは息子の務めだろ! 必要のない人間を切り捨てるなんて誰でもやれるようなやり方してんなよ!」

 ビームが掠った場所が痛むがマシロは気にせずに突っ込んで行く。

「父さんはそれが出来る人なんだよ。だから、その血を引く兄貴だって!」
「だが、そんな父さんは無能な凡人に殺された。そんな奴らを使う等あり得ない事だ。世界を動かすのは我らのような限られた一部の人間だけで十分だ」
「確かに、いつの時代だって世界を変革させて来たのは俺達のような天才かも知れない……だけど、いつの時代だって世界を支えて来たのはその他大勢の凡人だったんだよ。父さんはそれを知ってた!」

 バーストモードが起動し、ガンダム∀GE-FXは青白く輝く。

「だから兄貴も父さんのやり方以上のやり方で世界を動かして見せろよ! そんで、俺に自慢させろよ! 俺の兄貴は地球圏一の兄貴だって!」

 バーストモードを起動したガンダム∀GE-FXは武装を失って軽量化したと言う事もあり、機動力でもエクストリームガンダムと対等以上となっている。
 ビームソードで攻めたてるガンダム∀GE-FXをエクストリームガンダムは上手くかわしている。

「ガンプラバトルしか能のない俺だって世界一の兄貴になれてんだ。大抵の事は完璧にこなせる兄貴なら出来ないとは言わせない!」

 徐々に圧倒されて行くエクストリームガンダムだが、今までは肉眼では確認し辛い程度で使っていたトランザムの出力を上げた事で赤く発光を始める。
 バーストモードを起動させたガンダム∀GE-FXとトランザムを最大出力で使用しているエクストリームガンダムは機動力ではほぼ互角だが、常にRGシステムを使っている分、正面からのぶつかり合いではガンダム∀GE-FXの方が優勢だが、エクストリームガンダムには遠距離からの攻撃が出来る。

「この期に及んで下らない事を!」

 エクストリームガンダムはGNバスターライフルを最大出力で放つ。
 ガンダム∀GE-FXはバーストシステムを使っている事もあって、かわす事も無く正面から突っ込む。
 高出力のビームが直撃するが、ガンダム∀GE-FXの損傷は軽微だ。
 尤も、ガンプラと一体化状態にあるマシロには全身に同じだけの痛みが走るが、マシロは操作に集中している。
 強引にビームを突っ切ってビームソードをGNバスターライフルに突き刺す。
 ガンダム∀GE-FXはビームソードを手放して、両腕からビームサーベルを出して連続攻撃を行うも、エクストリームガンダムもビームサーベルで上手くいなして行く。

「下らなくなんてない! 兄貴は妹や弟の前で恰好を付けたがる物だし、弟や妹からすればカッコいい兄貴は自慢なんだよ!」

 それはマシロ自身が良く分かっている事だ。
 かつてはマシロも兄だった事がある。
 兄として妹の前で恰好を付けたかった。
 同時に今は弟と言う立場としてカッコいい兄がいるだけで他者に自慢できる。
 だからこそ、マシロは今のユキトが許せない。
 マシロ達の父であるキヨタカは人を活かす事に長けていた。
 どんな人材であれ適材適所を見出し、誰も切り捨てる事なく、その者の持ちうる能力を最大限に引き出していた。
 そんな父の後を継いでおきながら、誰でも出来るやり方をしているユキトの事はカッコいいとは思えない。
 かつてのユキトは確かに選民的な思想を持ってはいたが、キヨタカの元で人を活かすやり方を学んでいた。
 その上で、人の上に立つべき人間がいるのだと言っていた。
 しかし、キヨタカの死後は方針を一転して、徹底的な能力主義に走っている。
 マシロに取っては、現実的ではない理想論を貫いて、それで成功し続けていた父の姿は誰よりもカッコよく見え、ユキトにもそんなやり方を望んでいた。

「兄貴は他人は眼中になくて見下してすらいないから分かんないけどさ。兄貴の言う取るに足らない凡人がいるから俺達才能を持って生まれて来た天才は追いつかれないように出来る。俺はそうして来た。他者より先に、他者より上に! これはその果ての強さなんだ! だから一人で誰からも脅かされずに停滞している兄貴には止める術などはない!」

 ユキトは他人の事を能力でしか見てはいない。
 故に、他人の事を客観的にしか見てはおらず、他人の事を意識すらしていない。
 それは他人の追従すらも許さなかった圧倒的な能力を持つユキトだからこそできた事だ。
 マシロはガンプラバトルで勝ち続ける為に常に他者を意識して負けないようにして来た。
 その為に、自分を脅かす可能性のあるファイターは徹底的にマークし、自分の実力を磨き、それに見合ったガンプラを用意した。
 その結果として、マシロはガンプラバトルにおいては最強の称号を維持し続けている。

「兄貴は一人で生きていくしかないって言うけど、俺のこのガンプラにはいろんな奴の想いが詰まってる」

 ガンダム∀GE-FXは世界で戦う多くのファイター達が今まで培って来た経験や技術が詰まっている。
 
「俺を信用しようとして想いを託してくれた奴もいる。この状況に持ち込むのだって俺一人じゃ何も出来なかった」

 好き勝手に行動して来たマシロの事をタツヤは今でも信用しようとしている。
 ユキトと対峙しているこの状況を作り出したのはマシロだが、この状況を作りだすだけでもマシロ一人では到底出来い。

「今、ここにいるのは俺一人だけど、もう……俺は一人でバトルをしなくても良い! 今度は強がりなんかじゃない。敢えて言う。今の俺は最強だ!」

 バーストモードとトランザムを使う二機は高速でぶつかり合う。
 GNバスターライフルを失うも、エクストリームガンダムには胞子ビットがある為、胞子ビットを上手く使う事でパワーの差を補っている。

「だから、俺は兄貴に勝つ! 勝って俺の強さの方が正しいと証明してみせる!」

 ガンダム∀GE-FXはアームを破壊されて落とした肩の装甲を回収する。
 肩の装甲は戦国アストレイと同様に手として機能する為、その手を右腕に装着する。
 元々、肩の装甲は手に装着する強化装置としての機能も持っている。
 ユキトが簡単に破壊出来るアーム部分を狙って破壊している為、その機能は生きている。
 腕部に装着すると、バーストモードの青白い光が腕部に集中して行く。

「アイツ! ビルドナックルまでパクってやがったのか!」

 控室でレイジが叫ぶ。
 ガンダム∀GE-FXの腕部に光が集まって行くのはセイとレイジのスタービルドストライクの必殺技であるビルドナックルと同じだ。

「アレはビルドナックルを元にしていますが、ビルドナックルとは違い、バーストモードで放出している超高濃度の圧縮粒子を集めているのでその威力はビルドナックルとは桁違いです」

 制作にかかわったニルスが解説を入れる。
 ビルドナックルはRGシステムの粒子を一点に集中する事で必殺の威力を得ている。
 だが、マシロはRGシステムに使われる粒子とは桁違いの粒子量であるバーストモードの粒子を使っている。
 粒子の使用量の少ないRGシステムでも世界レベルに通用するだけの必殺技となるビルドナックルを粒子量の多いバーストモードの粒子を使えば当然、一点に集められた粒子の密度は違う。

「マキシマム・アルティメット・スペシャル・インパクト・ロイヤル・オーバーナックル。通称マシロナックル。あの一撃はまさに必殺の一撃です」

 その威力を知っているニルスはそう断言出来た。
 ニルスがそう断言する以上はそれ相応の威力を持つ事は確実で誰もが息をのみ、技の名称に突っ込みを入れる者はいない。

「行くぞ。兄貴!」

 ガンダム∀GE-FXは一気に加速すると、エクストリームガンダムに一直線に突っ込んで行く。
 エクストリームガンダムは胞子ビットを差し向けて迎え撃つ。
 右腕に粒子を集中している為、バーストモードは解除されているが、気にせずに突っ込む。
 胞子ビットに正面から突っ込むが強引に突破する。
 エクストリームガンダムは右手にビームサーベルを持ちながら、左腕のシールドに最大出力のGNフィールドを展開して受け止める構えをする。
 ガンダム∀GE-FXの攻撃をGNフィールドで受け止める。

「そんな物で今の俺を止められると思うなよ!」

 GNフィールドを正面からぶち抜こうとするガンダム∀GE-FXだが、腕部にヒビが入って行く。
 元々、圧倒的な粒子量を使うバーストモードの負荷に本体が耐え切れない時期があった。
 それによる自壊を防ぐ為にマシロは粒子を一点に集中する事で、負荷で自壊する部分を一か所に留めていた。
 マシロナックルはそれと同じで始めから肩の装甲を使い捨てにする事を前提とした技だ。
 自身の威力の負荷で、腕部が限界を迎えるかと思われたが、ギリギリのところでGNフィールドをぶち抜いてGNシールドに腕部が練り込むが、そこで攻撃が止められてしまう。
 マシロの渾身の一撃が止められた事で、控室でもこれまでかと思われたが、GNシールドにヒビが入り、ヒビはエクストリームガンダムの腕にまで広がって行く。
 この一撃はビルドナックルだけではなくニルスの戦国アストレイの粒子発勁の合わせ技だった。
 粒子発勁は当てれば一撃で相手を破壊出来る必殺の一撃だが、最大の欠点として粒子の反応しないプラスチック以外の物を間に挟んでしまえば、それ以上は粒子を流し込めないと言う事だ。
 そこにビルドナックルの破壊力を加える事で、金属パーツを仕込んでいようとも、ビルドナックルによる外部破壊により金属パーツを破壊した上で粒子発勁で粒子を流し込んで内部から破壊する事が出来るようになっている。
 つまりはGNフィールドを打ち破って拳がGNシールドに到達した時点で必殺の一撃を撃ち込んだと言う事だ。
 この一撃で勝負はついたかに思われたが、ユキトはヒビが胴体に到達する前に、ビームサーベルで左腕を切り落として、それ以上の破壊を食い止める。
 そのまま、ビームサーベルをガンダム∀GE-FXに目掛けて突き出す。
 ガンダム∀GE-FXは渾身の一撃でバーストモードが解除され、回避行動も防御体勢も取る事が出来ずにビームサーベルはガンダム∀GE-FXの腹部に突き刺さる。

「ここまで食らいついた事は褒めてやろう。その健闘を認めて今日の事は不問にしてやる」

 エクストリームガンダムはガンダム∀GE-FXからビームサーベルを貫く。
 ビームサーベルが抜かれたガンダム∀GE-FXは降下して行く。
 やがて、ヘリオポリスの地面に仰向けの状態で落ちた。
 何度も、窮地を耐えてユキトを追い詰めたが今後こそはガンダム∀GE-FXはまともに立ち上がる事出来そうに無い。
 勝負が完全に付いたようにも見えてが、マシロの目はまだ死んではいなかった。

「安心したよ。兄貴。アンタも人間だったんだな」
「何だと?」

 それはほんの一瞬の出来事だった。
 ユキトが勝利を確信し、バトルシステムがバトルの終了を告げるのを待つほんの一瞬。
 その一瞬が致命的な隙となった事にユキトが気づいた時にはすでに遅かった。
 エクストリームガンダムの背後からガンダム∀GE-FXのコアファイターがエクストリームガンダムに突っ込みフォトンブラスターキャノンの銃身の先端をぶつけて来た。
 ガンダム∀GE-FXにはベースとなったガンダムAGE-FXと同様にコアファイターが内蔵されている。
 マシロはそれを渾身の一撃がGNフィールドを貫く前に分離させていた。
 エクストリームガンダムが戦闘不能にしたガンダム∀GE-FXの本体からはすでにコアファイターが分離した状態である為、本体が戦闘不能になってもバトルは継続している。
 本来ならば、完全に決着が付くまで油断する事のないユキトも、自分の予想を超えるマシロの戦いを前にいつもの余裕を失っていた。
 だからこそ、予想を超えて食らいつくマシロに勝利を確信した時に隙が生まれた。
 マシロはその隙を見逃す事はしない。

「この距離ならGNフィールドも張れないだろう!」

 コアファイターに唯一残されている武装であるフォトンブラスターキャノンの銃身はエクストリームガンダムの背部に押し付けている。
 不意を付いて、突っ込んでいる為、胞子ビットが使えないエクストリームガンダムには反撃の手段はない。
 そして、フォトンブラスターキャノンのエネルギーは最大出力では使えないが、アブソーブシールドで吸収した粒子が残されている。
 ユキトは的確に武装を潰したが、フォトンブラスターキャノンはアブソーブシールドとの併用でなければまともに使用できないと考えて、あえて狙わずに残しておいた。
 まともに使えない武器を残す事でフォトンブラスターキャノンをデットウェイトにして、ガンダム∀GE-FXの機動力を少しでも削ろうとしていたが、それが仇となった。
 最大出力で使えずとも、背後からゼロ距離で撃ち込まれれば流石のエクストリームガンダムもGNフィールドで身を守る事も耐えきる事も出来ない。

「俺が……負ける?」
「俺の勝ちだよ。兄貴」
 
 フォトンブラスターキャノンがゼロ距離で放たれて、エクストリームガンダムはビームに飲み込まれた。
 最大出力でないにしても、並のガンプラの火力ではない為、一撃でエクストリームガンダムは消し炭となる。
 エクストリームガンダムを消し飛ばしたフォトンブラスターキャノンだが、ゼロ距離での砲撃と言う本来の仕様に無い使い方をした事で、銃身への負荷が大きく、すぐにコアファイターからパージされる。
 それによって完全にコアファイターは全ての武器を失った事になるが、エクストリームガンダムを完全に破壊する事が出来た。
 ユキトのエクストリームガンダムが破壊された事で、バトルシステムがバトルの終了を告げた事でマシロとユキトの兄弟対決に終止符が打たれた。



[39576] Battle66 「最強」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2015/04/02 00:06
 マシロとユキトの兄弟による第8戦目はマシロの勝利で終わった。
 バトルに勝利した事でマシロの気が緩んだのか急にマシロの意識は朦朧とし始めた。
 マシロがバトル中に起きたガンプラとの一体化現象、ユキネの言うアシムレイトの副作用だ。
 マシロはアシムレイト中にも関わらず損傷を気にすること無く、被弾しても前に出ている為、被弾時のダメージはマシロ本人にも跳ね返っている。
 バトル中は集中している為、気にする事は無かったが、バトルが終わって体力の限界を迎えて一気に体が重く感じている。

「何だこれ?」

 体力の限界を迎えて、マシロは立っている事すら出来ずに倒れかける。
 それをバトルが終わって控室から来たタツヤが支える。

「君って奴は……」
「言ったろ? 俺は最強だってさ」

 立っているのもやっとな状態だが、マシロは強がって見せる。

「何言ってんのよ。滅茶苦茶ギリギリだったじゃない」
「流石のお前でも今回ばかりは負けるかと思ったぞ」
「だが、君は勝った。それでこそ、我が目指す価値があると言う物だ」

 タツヤ以外のファイター達も最後のバトルに勝利したマシロを労いにやって来る。
 そんな様子をユキトはバトルシステムを挟んで見ていた。
 ガンプラバトルとはいえ、ユキトにとっては万全を尽くして勝つ為に戦った戦いで初めての敗北を味わう事になった為、少し茫然として自体を認識していた。
 
「俺は負けたのか……」

 ふと、マシロを見るとマシロと父であるキヨタカが重なって見えた。
 キヨタカの周りには常に多くの人が集まっていた。
 今のユキトの周りにも多くの部下がいるが、それとは違いキヨタカの周りにはキヨタカを慕い心の底からキヨタカを信じて付いて来ていた。
 
「……そう言う事か」

 その様子を見てユキトは理解した。
 ユキトの周りにいる部下はユキトを慕う部下もユキトを信じている部下もいない。
 いるのはクロカミ・キヨタカの後継者としてのユキトと、ユキトの能力を見て付いて来ている部下だけで、誰もユキト自身を見てはいない。
 それはユキトが今まで兄弟にすらして来たことと同じだ。
 だが、人の上に立つ上で本当に必要なのはずば抜けた能力ではなく、人を見る目、そして、人を活かす事。
 キヨタカはそれを持っていたからこそ、ここまで大きなグループを維持し続けて来た。

「敵わないな」

 それは今のユキトには無い物で、形は違えど人を見る目に関してはマシロの方が優秀だった。
 だからこそ、ユキトはマシロに負けたのだろう。
 そこに思い至ると不思議と負けた事に対して、清々しさすら感じた。

「俺の負けだ。マシロ、クロガミグループの全てはお前に渡そう」

 ユキトがマシロに近づいてそう言う。
 クロガミグループの総帥と言う立場から誰もがユキトの言動に警戒しているが、ユキトは気にした様子もない。

「そう言えば、そう言う話しだったっけな。けど、俺にはPPSEがあるからクロガミグループはいらね」

 バトルの前にマシロはクロガミグループを賭けてバトルするように言っていた。
 バトルに負けて、今の自分よりも父に近いマシロになら素直にグループを明け渡す気になっていたユキトはあっさりとそう言うマシロに呆気にとられている。

「大体、俺にクロガミグループの総帥とか常識的に考えて無理だって。3日で潰すね。だから、兄貴がやってよ」
「だが、玩具とはいえ、負けた俺の事など誰も総帥とは認める事は無いだろうな」

 このバトルはネットやテレビを通じて全世界に生中継されている。
 今まで常に勝つ事を強要して来たユキトがガンプラバトルで負けた様子を流されている以上は誰もユキトの事を総帥として認める事は無いだろう。

「ああ……これを全世界に中継してるって話しは嘘。だから兄貴が俺に負けたのは俺達しか知らない事だから大丈夫」

 今度はユキトだけでなく、その話しを聞いた皆が驚いた。
 誰もがこのバトルの様子を全世界に中継していると思い込んでいた。
 わざわざ、キララを事務所を通して起用して実況をしていると言う事になっていたが、実際のところどこにも中継等されてはいなかった。
 バトルの最中に反響を確認される事を想定して、ユキネがスタジアム内からバトルの中継を見ようとした時はキララの実況と合わせてバトルの様子があだかも本当に全世界に中継されているかのように思わせるように頼んでおいた。
 バトルが終わればいずれはバレる事だが、その時には全てが終わった後で、マシロの思うような結果にならなければバレたところでどうでも良い事だった。

「俺はただ、兄貴と正面切って兄弟喧嘩をしたかっただけだから。そんなの世界に中継する意味はないし」

 もはや呆れるしかない。
 マシロはただ兄弟喧嘩をしたいが為にこれだけの事をやっている。
 
「なぁ、兄貴。知ってるか? 一緒にガンプラを作ればそれだけで友達になれるらしい。だから、俺らも一緒にガンプラを作れば本当の兄弟になれるんじゃないか? ついでに他の奴らも誘って皆でさ」

 それはかつて、マシロが初めてガンプラを作った時にイオリ・タケシに言われた事でもあった。
 ガンプラを一緒に作れば、人種も国籍、年齢、性別も関係なしに友達になれると。
 マシロにそう言われて、ユキトは今までは気にも留めていなかったが、幼少期に良くキヨタカがガンプラを持って来た事を思い出した。
 昔は良く、キヨタカと一緒にガンプラを作っていた。
 いつしかガンプラに対する興味を失って一緒にガンプラを作ると言う事もなかったが、アレは仕事で忙しいキヨタカなりに親子のスキンシップを取ろうとしていたのだろう。

「そうだな。家族皆で作ろう」
「手始めにデンドロかネオジオングだな。当然、一人一個はノルマで」

 マシロが兄弟喧嘩の為に周囲を巻き込んでこれだけの事をしたことも、どうでも良いような空気になりかけたが、爆発音と振動が場の空気を破壊する。

「何だ? マシロ、これもお前の仕掛けか?」
「いやいや。流石に爆発オチは用意してないって。俺の筋書きでは兄貴と和解して感動的なエンディングを迎えた後に、皆でガンプラを作って、その流れからガンプラバトルで俺が皆をボコってのハッピーエンドの予定だって!」

 マシロの筋書きではこんな爆発は用意していない。
 流石に爆発物を使うのは危険で、後から言い訳するのも難しい。
 だが、実際に爆発は起きている。

「常に勝利者たれ。それがクロガミ一族の家訓。だから負けたクロガミ一族は滅ぶのがルール」

 マシロの筋書き外の事態が起き、スタジアムのメインモニターにはありすが写し出される。
 いつものような愛くるしい姿からは想像も出来ない冷たい目でマシロ達をモニター越しから見下ろしている。

「だからさ……皆、死ねばいいのに」

 ありすはそれだけ言うとメインモニターが切れる。
 同時に至るところで爆発が起こる。

「俺の計画が滅茶苦茶だ! あの馬鹿!」
「落ち着け。マシロ。こういう時の為に、この人工島にはクロガミグループが抱えているレスキュー隊を待機させている」

 爆発が起こる中、ユキトは冷静にそう言う。
 元々、勝つ気ではいたが、自分達が勝った時に負けを認めずに暴挙に出て来た時の事を想定して、ユキトはレスキュー隊等の救助部隊を事前に用意させていた。
 用意した救助部隊は末端に至るまで優秀な人材を集めている為、この状況化ですぐに救助に入るだろう。

「流石兄貴、抜かりがない」
「そんな体で何処に行くのよ!」

 マシロはタツヤに支えられていたが、タツヤから離れて歩き出すが、それをアイラがマシロの腕を掴んで止める。
 身体能力ではマシロはアイラよりも劣るが、今のアイラはそこまで力を入れていないが、すでにマシロはアイラを振りほどくだけの力すら残されてはいない。
 そんな状況でマシロは一人、どこかに向かおうとしていた。

「アンタには色々と聞きたい事があるのよ!」
「俺にはまだやらないといけない事が出来たんだよ。だから、離してくれ」
「こんな状況で何をするってのよ!」

 アイラがマシロを離す事は無かった。
 漠然とこの手を離してしまうと二度とマシロと話す機会は無くなると感じている。

「あの馬鹿の事は大っ嫌いだけどさ……やっぱり、俺はあいつの兄貴なんだよ。兄貴として妹が間違いを犯しそうになった時には殴ってでも止めるのが兄貴の……家族の役目だからな。俺は今、アイツの事を無性にぶん殴りたい」
「だからって死ぬ気?」
「俺は死なないさ。兄貴に何かで勝つなんて不可能に近い事だってのに、俺は勝った。不可能を可能にしたんだよ。全てを終わらせたら会いに行ってやる。勝利と共にな」

 マシロはありすの元に向かおうとしているのだろう。
 ありすの居場所はさっきの映像から大体は想像がつく。
 だが、今も爆発は続く中でさっきのバトルで体力が限界であるマシロが一人で行くのは自殺行為だ。

「何やってんだ? さっさと避難するぞ!」

 そうこうしている間にユキトが先導して、避難の準備に入っていた。
 安全なところまで避難して救助を待つ為だ。

「レイジ。男と見込んだ。このじゃじゃ馬を頼む」
「……分かった」
「ちょっと!」

 二人を呼びに来たレイジにマシロはそう言う。
 レイジはアイラをマシロから引き離して皆のところまで、引っ張って行く。
 アイラは抵抗するが、レイジはアイラを離す事は無い。

「これは男同士の問題だ。アイツは覚悟を決めたんだ。お前が口を出して良い事でも無ければ俺達が何か出来る事もないんだよ」

 レイジはマシロが何かを覚悟した事を感じていた。
 恐らくは何を言っても、その覚悟を変える事は無い。
 今出来る事はマシロに頼まれたアイラを無事に外まで連れて行くことだけだ。

「悪いな。こんな役目を押し付けて。アイラ……俺達はもう、ファイターとしてしか関わり合う事は無いんだよ。だから、お前はお前の人生を生きてくれ」

 マシロは誰に聞こえる事もないが、そう呟く。
 それは決別の言葉でもあり、決意の言葉でもある。
 アイラが何を話したいと言うのかは何となく分かっていた。
 だが、マシロはそれに関して今更話す事は無い。
 すでに、マシロとアイラの道は違えている。
 もはやファイターとしてでしか同じ道を進む事は出来ない。
 マシロは振り返る事も無く、ありすの元へと向かう。
 









 映像を流し終えたありすは映像を送ったVIPルームで椅子に座ってくつろいでいた。
 このVIPルームは世界大会中にPPSEの前会長のマシタも使っていた部屋だ。
 ありすが仕掛けた爆弾が爆発している音が聞こえる中、ありすは逃げる事も無くただくつろいでいた。

「何もかも消えれば良いのよ。これで全てから解放される」
「勝手に、終わろうと、してんなよ」

 後は全てが破壊されて終わるのを待つだけだと思っていたところにマシロがVIPルームに入って来る。
 映像の背景からマシロはありすがメインスタジアム内のVIPルームにいると予想して、VIPルームを片っ端から確認してここに辿り付いた。
 ユキトとのバトルで体力を使い果たした上にここまで来るのに急いで来たのか、すでに息も絶え絶えだ。
 マシロがここまで来るとは思っていなかったのか、ありすは一瞬驚くがすぐに表情を隠す。

「何しに来たの?」
「ガンプラバトルだ」
「は?」
「俺とガンプラバトルで勝負だ。俺が勝ったら一緒に帰るぞ。億が一にもお前が勝てばアクシズでもユニウスセブンでも好きなだけ落とせば良い」

 流石にありすもマシロの正気を疑わざる負えない。
 ここに来た理由はいくつも考えられるが、この状況でガンプラバトルをする意味が分からない。

「私を止めに来たなら力づくか説得したら?」
「やめろよな。俺がお前と喧嘩したら俺がお前に勝てる訳がないだろ」

 マシロは臆面もなく言い切る。
 確かに、ありすは見た目こそ少女だが腕っぷしでマシロに負ける気は無い。
 マシロもそれを知っているから自分が唯一自信を持っているガンプラバトルで勝負をしようと言う気なのだろう。
 
「あっそ。じゃぁガンプラバトルでも叩き潰してあげるわ」

 このまま時間が来れば全てが終わりを迎える。
 マシロ一人なら相手をする必要もないが、全てを終わらせる前にマシロを絶対の自信を持つガンプラバトルで負かしておくのも一興だとありすはバトルを受ける。
 VIPルームにはバトルシステムも完備されており、プラフスキー粒子も残っている。

(ノリでバトルに持ち込んだは良いが……)

 バトルシステムを挟んでありすと対峙するマシロだが表情には出さずに苦笑いしていた。
 勢いでありすにバトルを挑んだものの、マシロの手元には来る前に回収したガンダム∀GE-FXしかない。
 そのガンダム∀GE-FXもユキトとのバトルで受けた損傷を修理する時間は無い為、バトルで受けた損傷はそのままだ。

(全く……いつもボロボロだな俺達)

 思い返して見れば、今までのバトルの中でここぞと言う一戦ではマシロが万全の状態で戦えた試しが殆どない。
 タツヤとのタッグバトル大会の決勝戦では階段から突き落とされた怪我をしたままでバトルし、世界大会の決勝では何とか持ち直したものの精神的にはボロボロでガンプラも手直ししたガンダムAGE-1を使った。
 今回もすでに体力は限界でガンダム∀GE-FXもボロボロでバックパックはコアファイターから使い物にならず、両肩の装甲も壊れたままで武装は両腕のビームサーベルくらいしか使えそうには無い。

(ビームサーベルが使えるだけマシか。逆にそれしかないから腹を括って開き直る事も出来ると考えるか)

 今更、修理をする時間は無い。
 出来ない事を考えるよりも、出来る事を考えた方が建設的だ。
 元々、マシロが最も得意とする戦い方は二本のビームサーベルを使った高速白兵戦だ。
 ガンダム∀GE-FXに残されている装備はビームサーベルが二本とその戦い方は可能だ。
 
(何度目になるか分からないけど……これがラストバトルだ)

 マシロはボロボロのガンダム∀GE-FXをバトルシステムに置く。
 ありすもガンプラをバトルシステムにおいてバトルが開始される。
 
「長期戦になればこっちが不利。速攻で決める」

 マシロは軽く深呼吸をする。
 同時にユキトとのバトルでの感覚を思い出す。
 それによってガンプラとの一体化現象、アシムレイトに入った。
 今回のバトルフィールドはオーソドックスな宇宙空間でのバトルだ。
 障害物やギミックが無い為、奇襲や奇策は使い辛い。
 ただでさえ、ガンダム∀GE-FXの状態は最悪である為、バトルが長引けば圧倒的に不利となる。
 バトルが開始されるとすぐに高出力のビームがバトルフィールドを横切る。
 ガンダム∀GE-FXはビームを回避する。

「ダークマターを更に改造して来たか」

 ありすのガンプラはアイラとのバトルでも使用していたガンダムエクシアダークマターを更に改造したガンダムアヴァランチダークマターだ。
 ガンダムエクシアダークマターにガンダムエクシアの高機動オプションのアヴァランチとダッシュユニットを装備して改造している。
 右腕にはダークマターライフルをベースにブライクニルブレイドの刀身にバックラーを追加し、エクシアのGNソードに近い形状となったDMソード、左腕にはGNフィールドの展開機能を持つ、DMシールドが追加されている。
 バックパックのダークマターブースターは簡略化し分離機能がオミットされて純粋な推力強化となり、DMブレイドの刀身が脇の下から前方に突き出す形となっている。
 左手にはプロミネンスブレイド、肩と腰にはGNビームサーベルと全体的に攻撃力、防御力、機動力と万遍なく強化されている。

「だからと言って俺のやる事は変わらない。バトルに勝つだけだ」

 ガンダム∀GE-FXは両腕からビームサーベルを展開して、アヴァランチダークマターへと向かう。
 アヴァランチダークマターは背部から伸びているMDブレイドの刀身の間から収束した高出力の粒子ビームで応戦する。
 それをガンダム∀GE-FXはギリギリのところで回避して、接近するとビームサーベルを振るう。
 
「そんなボロボロなガンプラで」
「関係ないね。俺は相手が誰であろうと勝つだけだ」

 アヴァランチダークマターはDMソードで受け止めるが、ボロボロとはいえRGフレームで常時RGシステムを使っているガンダム∀GE-FXの方がパワーは勝るようで簡単に後方に弾き飛ばされる。
 だが、アヴァランチダークマターはプロミネンスブレイドを振るい、炎の壁を作る。
 しかし、ガンダム∀GE-FXは気にすること無く炎の壁に突っ込んで強引に壁を突き破る。
 
「兄貴に従順な人形が何してんだよ。お陰で俺の筋書きが台無しだ!」
「うるさい。アンタに何が分かるのよ」

 ガンダム∀GE-FXのビームサーベルをDMソードでいなして距離を取ったアヴァランチダークマターは収束粒子砲を威力を絞って連射する。
 ガンダム∀GE-FXはビームサーベルの出力を上げて粒子ビームを切り裂いていくが、片足が吹き飛ぶ。

「っ! 足の一つや二つ!」

 足が吹き飛んだ事で、マシロの足にも激痛が走るが気にせずに突っ込む。
 
「好き勝手にやりたいように生きてるアンタなんかに」

 ビームサーベルをDMシールドにGNフィールドを展開して受け止める。

「あの人の言われるままに生きて、言われるままのキャラを演じて……何をやっても頂点を取れてしまうから、何をやってもつまらない。だからあの人の言う通りに生きる事が私の正しい生き方だと思って生きて、なのに何なのよ。あの人も結局はアンタに負けてさ!」

 アヴァランチダークマターはガンダム∀GE-FXを蹴り飛ばすと収束粒子砲を至近距離から撃ち込む。
 ガンダム∀GE-FXは両腕のビームサーベルを重ねる事で簡易的なビームシールドとして使って粒子ビームを防ぐが、勢いを完全に防ぎ切れずに弾かれる。

「左腕のサーベルの出力が上がらない……」
「だから、一族の掟通りに全部壊すのよ!」
「そうかよ!」

 至近距離からの粒子ビームを受けた事で左腕のビームサーベルの出力が思ったように上がらないが、バトルに大きな支障はまだ出る程ではない。

「俺はお前の事が大嫌いだった! 俺とは違ってお前は何にでもなれるのに何にもなろうともしない。だからムカついた。けど、今のお前は多少は好きになれそうだ」
「は? 何言ってんのよ! 馬鹿じゃないの!」

 バトル中にも関わらず、ありすは呆気に取られていた。
 ありすは自分のやっている事を自覚している。
 それを否定するのではなくマシロは肯定している。

「今のお前は兄貴に反抗してる。だから、俺の大嫌いだった兄貴の人形だったお前じゃない」

 マシロにとっては望めば何にでもなれるのにも関わらず自分は何も望まず、自分の意志で何にもならないありすの事を嫌っていた。
 だが、今は自分の意志で全てを破壊しようとしている。
 
「私はアンタも兄さんも全部破壊しようとしてんのよ!」
「知ってる。お前が自分のやりたい事を見つけたのは、兄として喜ぶべき事だが、クロガミを破壊するのは見過ごせないんでね。だから……サチコ、俺がお前を止める!」

 アヴァランチダークマターがDMソードのライフルモードを連射する。
 それをガンダム∀GE-FXはビームサーベルで弾きながら接近しようとする。
 接近しようとするガンダム∀GE-FXとそれを拒むアバランチダークマターの間でいくつもの攻防が繰り広げられていく。

「何で……」

 攻防して行く中、次第にアヴァランチダークマターが押されて行き、ありすは焦り始めていく。
 純粋な反応速度は若干ながら自分の方が上回っている。
 マシロのガンダム∀GE-FXが動いた瞬間に動きを予測し、それに対する対策を導き出して行動に移している。
 それまでの時間は一瞬で、そこに間違いはないはずだ。
 だが、それでもガンダム∀GE-FXを止める事が出来ない。

「サチコの反応を超えろ! FX!」

 相手の動きを瞬時に把握し、そこから対策を導いて行動に移すと言うのはマシロの得意分野でもある。
 反応速度ではありすに劣るマシロだが、それでもありすの動きを上回っている理由は大きく分けて二つある。
 一つ目はアシムレイトだ。
 ガンプラを操作する上で、操縦桿に操作を入力してからガンプラが動くまでにはわずかながらのタイムラグが生じている。
 それはガンプラバトルを行う上で、誰もが同じである為、通常はどちらの不利になると言う物でもないが、ガンプラと一体化するアシムレイトはそのタイムラグを限りなくゼロに近づけている。
 二つ目は動きを判断し、最も適した行動を判断する時間だ。
 ありすは動きを判断して、そこからあり得る動きの全てを予測し、そこから相手の動きを導き出して、それに対する自分の動きを何パターンも考えた上で、相手の対応も含めて行動を決めている。
 一方のマシロはその辺りを全て省略して、動いている。
 そして、省略する際にありすが行っている段階を全て自身のカンで行っている。
 マシロはガンプラバトルを始めてから普通の生活を犠牲にしてまでガンプラバトルをやり続けていた。
 その間に行って来たバトルの回数はありすの比ではない。
 膨大な数のバトルの中で、得た経験則を元にマシロは行動を決めている。
 どちらも一瞬の出来事とはいえ、何段階にも分けて判断するありすに対して、それらを全てカンで省略しているマシロの方が早く、アシムレイトを合わせる事で少しの差が積み重なって、ありすを圧倒し始めていた。

「動きが……読めない」

 遂にはありすもマシロの動きを読めなくなっていた。
 マシロは動きの中に敢えて、被弾する事で常に合理的に判断しているありすの思考をかき乱した。
 
「確かにお前は母さんによってお前はスーパーコーティネイターすら超えた才能を持ってるかも知れない。けどな、コーティネイターが生まれた時からなんでも出来る訳でも無いと同じようにお前も同じなんだよ!」

 ありすはユキネによって圧倒的な才能を持って生まれて来た。
 並の相手なら才能だけで圧倒する事も出来たが今回ばかりは相手が悪い。
 元より天才的な才能を持ちながら、膨大な実戦経験と挫折を初めとして様々な経験を経てここまで来たマシロと、今まで言われた事しかやって来ていないありすではガンプラバトルにおいてはまだマシロに追いつく程の力はない。
 その上、マシロは相手をかき乱すのは得意としている。
 ここまでの戦闘からすでにありすのバトルの傾向は把握している。
 傾向を把握してしまえば、ありすをかき乱す事は簡単に出来る。
 かき乱すだけなら、世界大会で戦って来たファイター達よりも簡単に思える程だ。

「お前は何でも頂点を取れるからつまらないとか言っていたな。ならファイターになれば良い! ガンプラバトルなら頂点を取る事は絶対にあり得ないからな」

 ガンダム∀GE-FXは遂にアヴァランチダークマターに取りついた。
 そして、両腕のビームサーベルを突き刺す。

「最強ってのは最も強い奴だけが名乗り続けることが出来る称号だ!」

 腕部のビームサーベルを突き刺したまま、ビームサーベルを内蔵している装甲だけとパージするとガンダム∀GE-FXはアヴァランチダークマターの肩のビームサーベルを奪って突き刺す。

「だから俺は勝ち続ける!」

 次に腰のビームサーベルを奪ってアヴァランチダークマターに突き刺す。

「ガンプラと共に!」

 6本のビームサーベルが突き刺さりながらも、アヴァランチダークマターは辛うじて動く事が出来た。
 何とか左手のプロミネンスブレイドを振り上げるが、ガンダム∀GE-FXはアヴァランチダークマターの左手を掴んで手を握り潰すとプロミネンスブレイドを奪い取る。

「俺が……俺達が最強だ!」

 プロミネンスブレイドを奪い取ったガンダム∀GE-FXはプロミネンスブレイドをアヴァランチダークマター目掛けて振り下した。
 すでにまともに動けず、ダークマターブースターの分離機能をオミットしている為、アヴァランチダークマターはプロミネンスブレイドの一撃をまともに直撃する。
 その一撃が致命傷となって、アヴァランチアダークマターは爆散した。
 爆発が収まると、そこにはアヴァランチダークマターの残骸と爆発で右腕を失ったガンダム∀GE-FXが残されていた。
 アヴァランチダークマターが戦闘不能と見なされてバトルシステムがバトルの終了を告げる。

「そんな……」
「お前がどんなに強くても俺はその先を行く。誰よりも強くないと最強を名乗る事は出来ないからな」

 バトルが終わり、マシロはゆっくりとありすの元まで来る。
 すでに体力は限界で、今のバトルの影響か、マシロの右腕は力なくうな垂れている。
 マシロは左腕を上げるとコツリとありすに拳骨を落とす。
 マシロの拳骨には力が無く、ありすは全く痛くもかゆくもない。

「今回の事は俺からはこれで勘弁してやる。後は兄貴にちゃんと謝れよ。この国の流儀でハラキリまではいかなくても頭丸めて土下座でもすれば兄貴も許してくれるだろ」

 マシロはありすを一発殴った事で、ありすの行いをこれ以上追及する気はない。
 一方のありすは軽くマシロを倒しておくつもりが、結果を見れば手も足も出せずに完敗した事やバトルの中のマシロの言葉を自分の中で整理できずにへたりと座り込んでいる。

「ほら、行くぞ。約束は約束だ。こんなところでお前を死なす訳にもいかないからな」

 バトルに集中していたが、メインスタジアムはありすが所々爆破した事で早く非難しなければ不味い。
 座り込んで動かないありすをマシロは引っ張ろうとするが、マシロの力ではありすを引っ張る事も出来ない。
 どうした物かと考えていると、ありすの真上の天上が崩れて来たと言うのをマシロは視界の端に見えていた。
 それを見た瞬間にマシロはとっさに自分の左腕が引きちぎれるかと思う程の力でありすを自分の方に引き寄せた。
 ありすは一瞬の事で、自分に何が起きたのか分からなかった。
 気が付くと地面に倒れていた。

「っ……」
「生きてんな」

 周囲には土煙が舞っているが、ありすはマシロの声を頼りにマシロの方に向かう。

「マシ……」
「アイドルの癖になんて顔してんだよ」

 マシロを見つけたありすは立ち竦む。
 爆発で落ちた瓦礫にマシロの右腕は完全に押しつぶされており、小さい瓦礫がマシロの体を半分程埋めている。

「それにしても……流石に今回は不味いかな」

 マシロは軽く笑っているが、マシロの顔色は明らかに悪い。

「くっそ……イオリのおっさんとかアイラに言った事は完全に死亡フラグじゃねぇかよ……」

 口調こそはいつも通りではあるが、言葉の端々に力が感じられない。
 そんなマシロの状態にありすはどうする事も出来ずに座り込む。

「まだ、死にたくないな……死ぬなら死ぬほどガンプラバトルをやって、バトルの中で死にたい……俺はまだバトルし足りないんだよ」

 次第にマシロの声が小さくなるのと同時にマシロの意識は遠のいて行く。
 ぼんやりとする視界の中で、ありすが何かを叫んでいるようだが、マシロに届く事は無い。
 そして、遂にマシロは完全に意識を失った。
 



[39576] Last Battle「始まりのバトル」
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2015/04/01 22:23
 マシロとユキトとのバトルの決着後にありすが起こした騒動でメインスタジアムが完全に崩壊するも、事前にユキトが救助隊を用意していたと言う事もあって死亡者が出る事は無かった。
 だが、スタジアムは完全に崩壊し、流石にスタジアムの崩壊そのものは誤魔化し切れない為、表向きは新スタジアムの建設の為だと言う事になっている。
 真実を知る者達も事情が事情なだけに真実を公にする気は無く、新スタジアムの建設は続いている。
 あのバトルからクロガミグループは少しつづ変わり始めている。
 ユキトも少しでも父に近づく為にまずは自分の直属の部下や兄弟たちの事を良く理解しようと努力を始めている。
 すぐに変わらないが、それでも他者を理解しようとしているのは大きな一歩と言えた。
 そして、ガンプラバトルの方は大きく変わり始めている。
 世界大会においてプラフスキー粒子の製造元であった大型アリスタが破壊された事によるガンプラバトルの存続問題は、ニルスが新プラフスキー粒子の製造成功によって次の世界大会は問題なく開催される事になった。
 同時に今までは粒子に関係する技術の全てはPPSE社が独占し、それにより一部のPPSE関係者がガンプラバトルで有利になると言った事態が起きていた為、粒子やそれに伴うバトルシステム関係の利権は全て、ニルスのスポンサーでもあったヤジマ商事に譲渡された。
 これによってPPSE社はガンプラバトルの公式戦の管理運営のみを行う事となった。
 そんなガンプラバトルの変化はガンプラバトルに関わりのない大勢からすれば、大したことではなく、それ以上に世界的なアイドルとして活躍していたありすの突然の無期限の活動休止の方が世界を驚かせていた。
 それから数か月が経ち、季節は春を迎えようとしていた。
 ガンプラバトルが変わるも、イオリ模型店では最近ではすっかりとおなじみの光景がそこにあった。

「今日もアイラさん機嫌悪そうだね」
「うん……ここ最近はずっとあんな感じなんだよ。レイジが向こうに帰ってるからまだマシな方だよ」

 セイが苦笑いしながらチナにそう言う。
 あの事件から怪我もなく無事に帰って来てから数か月、日増しにアイラの機嫌が悪くなっていた。
 理由はマシロにあった。
 崩壊するスタジアムから重症を負いながらもマシロは救出された。
 そのままクロガミグループ系列の病院に搬送されて一命は取り留めたと言う連絡は受けているが、それ以降何の連絡も無い。
 最初の1、2か月はマシロの状態を考えると仕方が無いと思っていたが、流石に会いに来ると言っていたにしては遅すぎる。
 こちらから連絡を取るにも肝心の連絡先を知らず、会いに来ると言っていた手前、こちらから会いに行くのも癪だと意地を張って、待っているが待てどもマシロが会いに来る事はおろか、連絡の一つもない。
 アイラの機嫌が悪い為、下手に刺激すると切れかねない。
 こんな時にレイジが居れば店の外にまで聞こえる程の大ゲンカになるだろう。
 レイジは現在はアリアンに帰っている。
 時折、アリアンに顔を出して来ると言って帰ってはいたが、最近では向こうにいる時間の方が長くなっている。
 レイジ曰く、王子としての立場上色々とあるらしい。
 レイジが異世界の王子と言う事は未だに信じがたい事だが、いずれはこちらに来る事も出来ない程忙しくなるとセイは察してこの時間も長くはないと漠然と思っている。
 レイジとアイラが喧嘩になっても母親のリン子は喧嘩する二人を微笑ましく見ているだけで、特に止める事はしない。
 最終的に店に1台しかないバトルシステムを使ってのガンプラバトルに発展する。
 レイジとの時間は余り長くは無い為、セイも少しでもファイターとしての実力を付ける為に練習をしたい。
 レイジやアイラでは練習にならない為、最終的にファイターとしての実力はセイと殆ど変らないチナと二人で練習する事は一番だと言う事になり、放課後や春休みはチナが空いている日は一緒に練習をしている。
 
「店の方は母さんやアイラさんに任せておけばいいから僕達は練習の方を始めてようか」

 機嫌の悪いアイラを刺激しないように、セイとチナはこっそりとバトルシステムの方に向かい、日課となっている練習を始める。
 








 



 
「これが……想像以上だな」
「全くだよ」

 三代目メイジンカワグチこと、ユウキ・タツヤとアランは目の前の光景に軽く圧倒されていた。
 タツヤは休学していた聖鳳学園を卒業し、今はメイジンカワグチとして正式にPPSEの社員と言う扱いとなっている。
 そして、タツヤはアランと共に静岡で建設されたPPSEの施設の視察に来ていた。

「ガンプラ塾を母体に世界で活躍するファイター、ビルダーを育成する専門学校、ガンプラ学園か」
「まさか、入院中に思いついてこの春から開校にこぎつけるなんてね」
「それに関しては同感だよ。入院中から何か企んでいるとは思っていたが……」

 二人が視察している施設は、かつて二代目メイジンが行っていたガンプラ塾を母体として、マシロが設立したガンプラの専門学校だ。
 入院中に何を思ったのか、次世代のファイターを育てると言い出したマシロが自らの伝手を最大限に利用して、僅か数か月で完成させて、この春から開校する予定となっている。

「僕の甥っ子もここに1期生として入学する予定だけど、ここの施設はまさにガンプラの制作やバトルの実力を高める事のみに特化しているよ。下手なプライベートチームとは金のかけ方が近い過ぎる」
「マシロのやる事だからね。だからこそ、気を付けなければならい。かつてのガンプラ塾と同じ間違いを犯さないように」
「分かっているさ。だから、僕もここで講師をする仕事を受けたんだよ」

 アランはPPSEの技術主任の傍らで、ガンプラ学園で講師をする予定だ。
 ガンプラ学園は将来的にPPSEの社員や次期メイジンを育成すると言う目的を持っている。
 学園の理事長はPPSEの会長でるマシロが兼任する予定だ。
 ガンプラ学園は世界で活躍する事を念頭に置いている為、開校すれば世界を目指す若者たちが切磋琢磨する事になる。
 それはかつてのガンプラ塾と同じで、マシロの勝つ事に拘る姿勢はガンプラ学園にも強く反映し、場合によってはガンプラ塾と同じ過ちを繰り返しかねない。
 タツヤも勝ちに拘る姿勢を否定はしないが、勝つ事に拘ると言う事は相手の事を疎かにし兼ねない危険性も持っている。
 だからこそ、アランはマシロからガンプラ学園で講師をして欲しいと言う話しを受けた時に渋りながらも受けた。

「それで、肝心の彼はどこに? 僕の方に所在を確認する連絡が来たんだけど」
「ああ……彼なら」

 すでにマシロはPPSEの会長として復帰している。
 だが、肝心のマシロは周囲に何も告げずにフラりといなくなる事が多い。
 大抵は仕事をサボりガンプラバトルを行っている事が多く、マシロと個人的な付き合いのあるアランやタツヤ等は良く秘書の方からマシロの居場所についての確認が来る。
 今回はアランはマシロの居場所については知らないが、タツヤは知っているようだ。

「僕も視察の仕事が無かったら見に行きたかったんだけどね」

 タツヤは軽く肩を竦めて空を見上げていた。













 とある国でイオリ・タケシは相変わらず子供たちにガンプラを教えて回っていた。
 セイの方から大まかな事情を聴いて、一度はイオリ模型店に戻って模型店の作業室に籠っていたが、今は世界を回ってガンプラを広めている。

「約束を果たしに来た。イオリのおっさん」
「来ると思っていたよ」

 子供たちにガンプラの作り方をレクチャーしていたタケシの前にマシロが現れた。
 スタジアムの崩壊で重傷を負ったマシロは今ではすっかりと回復して、かなり前に退院していた。
 そして、満を持してタケシのところにやって来た。

「場所を変えようか。少し話したい事もあるしね」

 子供たちに分かれを告げて、タケシとマシロは場所を変える。
 町の路地に入ったところに初期型のバトルシステムを見つけて、二人は近くのベンチで腰を据える。

「怪我の方は?」
「問題ないさ」

 マシロはそう言って右手をタケシに見せる。
 それを見たタケシは少し表情が暗くなるが、マシロは気にした様子も見せずに右腕をいじくる。
 命こそは助かったマシロだが、救助時に瓦礫で右腕を挟まれており、流石のクロガミグループ系列の病院と言えども右腕を直す事は出来なかった。
 右腕を失った事でファイター生命が一度は絶たれたマシロだが、兄の一人で機会工学に専門家であるリュックが義手の研究をしていた事を思い出して、リュックの最新式の義手を付けて、リハビリを行った。
 その甲斐もあって、マシロの右手はかつてと同じだけの細かい動きも出来るようになっている。

「この義手は凄いんだよ」

 マシロがそう言うと、義手の指から小型のニッパー、ヤスリ、瞬間接着剤、速乾性のパテ、ガンダムマーカー(白)が出て来る。
 これはマシロが折角義手にするなら色々とギミックを仕込みたいと無理を言った結果だ。
 義手を自慢げに見せる辺り、右手を失った事に関してはマシロは落ち込んでいないようで、タケシも一安心した。

「それは何よりだ。だけど、PPSEの会長がこんなところで油を売っていていいのかい?」
「良いんだよ。ミズキの奴、ガンプラは一日6時間までって言い出すんだぜ? 兄貴は兄貴で俺の私生活には色々と文句をつけて嫁でも貰えば少しはマシになるかも知れないって言い出してさ、最近は顔を合わせる度にお見合い写真を見せてくんだぜ」

 あの一件で兄弟の仲は少しつづ改善されつつある。
 尤も、マシロはユキトから普段の生活に問題が多いと指摘されている。
 PPSEの会長としての職は退く気は無い為、元々は傀儡としてだった会長から本当の会長としての仕事をする筈がマシロは基本的に好き勝手にやっている。
 それでは当然、会社としては成り立たない為、好き勝手にやるマシロに堂々と意見を言える秘書として、かつてはマシロの世話係をしていたシオン・ミズキを会長秘書としてPPSEに入社させた。
 元々、ミズキは大抵の事はそつなくこなせる事もあって、マシロが仕事をまともにしない分、ミズキがそれを補ってPPSEは何とかやって行ける状態だ。
 だが、流石にミズキにマシロの私生活にまで管理させるのは申し合分けがないのか、私生活に関してはマシロを強制的に結婚させてその妻に管理させようと動いているらしい。
 今まで好き勝手に生きて来た分、兄弟間の関係が改善される事での不満を愚痴るマシロを見てタケシも家族も上手く動き出していると感じていた。

「それはそうと、セイから連絡があったんだけど、いい加減、アイラちゃんに会いに来たらどうなんだい?」
「それは無理な相談だな。そもそも、俺はあいつに『全て』が終わったら会いに行くって言ったからな。俺はまだ全てが終わったとは思っていない。寧ろこれから始まるんだよ。家族間の問題は解決したけど、俺のガンプラバトルはこれからも続く。俺がガンプラバトルを止める時は死ぬ時で、その時が来てようやく全てが終わる。だから、それまでは会いに行く気はないさ」

 アイラを納得させる為に会いに行くと言った物の、マシロはアイラに会いに行く気は無かった。
 今更、マシロに話す事はないからだ。

「悪いとは思ってるけどさ。この先、生きていればそう言う理不尽な事も多いし、いつかは受け入れる事も出来る。アイツの人生に俺は必要ないと思うしな。俺とアイツはもう別の人生を歩いている。俺はもう、自分に嘘をつく事を止めたから、俺はアイラに会いに行くつもりはないし……ぶちゃけ、アイツ怒ってるだろうからな。あったら確実に一発殴られる」
「そうか……」

 タケシもそれ以上はこれに関しては追及する事は無い。
 無理にマシロを連れて帰ったところで、マシロはちゃんと話す事は無い為、強制しても拗れるだけだ。
 いずれは顔を合わせる機会が訪れるかは神のみぞ知る事だが、いつかきっと話しが出来る日が来る事を願うだけしか出来そうにない。

「んな事よりも、バトルやろうぜ」

 元より、世間話をする為にタケシの元を訪れた訳ではない。
 マシロはタケシと騒動が終わった後にバトルをする約束をしていた。
 今日はその約束を果たす為に来た。

「良いだろう。今日の為に最高のガンプラを用意してある」

 タケシも遠からずこの日が来る事を確信していた。
 その為にイオリ模型店に帰ってマシロが来た時の為のガンプラを用意して来た。
 これ以上、二人が語る事などは何もない。
 
「行こう。AGE-1……このバトルは終わりじゃない。このバトルに勝って俺達は次に進むんだ」

 マシロは今日の為に用意して来た新たなガンプラ、ガンダムAGE-1 リブートをバトルシステムの上に置く。
 かつて、世界大会の決勝戦で使用したガンダムAGE-1を徹底的に改修して作り込んだのがガンダムAGE-1 リブートだ。
 見た目こそは通常のガンダムAGE-1と同じだが、徹底的に作り込んでき来た事で完成度は高い。
 一方のタケシのガンプラは以前にマシロとバトルした時にも使用していたガンダムだ。
 以前と同じガンダムではあるが、マシロとのバトルの為にタケシのビルダーとしての全てを注ぎ込んで作り込んでいる。
 更に二人が戦うバトルフィールドは奇しくもあの時と同じサイド3のコロニーでバトルが開始される。
 バトルが開始され、タケシのガンダムがビームライフルで先制攻撃を行う。
 マシロのガンダムAGE-1 リブートは最低限の動きで回避する。
 多少のフェイントを入れるが、あの時とは違いマシロはタケシのフェイントには全く釣られると言う事は無い。
 互いにライフルを撃ち合いながら、速度を緩める事も無く突っ込む。
 どちらもギリギリのところでビームをかわしている。
 そして、そのまま二人のガンプラはシールドを掲げて激突する。

「相当ガンプラを作り込んで来たみたいだね」
「そっちもな!」

 シールドでぶつかり合う2機のパワーは互角だ。
 ガンダムがシールドから頭部だけを何とか出して、ガンダムAGE-1 リブートをバルカンで狙うが、ガンダムAGE-1 リブートは体勢を低くしてかわす。
 同時にガンダムに対して足払いをするが、ガンダムは上空に飛んで避ける。
 そのまま逆さになりながらも、ガンダムAGE-1 リブートの背後まで飛び上がるとビームライフルでガンダムAGE-1 リブートの背後を狙う。
 だが、ガンダムAGE-1 リブートは腕だけを動かしてのシールドで防ぐと、ドッズライフルを肩越しに後ろに向けて放つ。
 逆さの状態であるガンダムはスラスターを使って体勢を立て直すのと同時にビームを回避して着地する。
 着地したガンダムはビームライフルをガンダムAGE-1 リブートに向けようとするが、ガンダムAGE-1 リブートは振り向きながらドッズライフルを振り回して、ガンダムのビームライフルにぶつけての射線を逸らす。
 
「やるようになった!」
「まだここからだよ!」

 ガンダムはバルカンを連射し、ガンダムAGE-1 リブートはシールドで防ぎながら、ドッズライフルをリアアーマーに付けるとビームサーベルを抜いて切りかかる。
 ガンダムもビームライフルを左手に持ち変えるとビームサーベルを抜いて応戦する。
 2機のガンプラのビームサーベルの出力に差は無く、互いに弾かれるが、ガンダムは左手のビームライフルを放つ。
 ガンダムAGE-1 リブートはビームを回避するとビームサーベルを振うがバルカンの牽制を行ってガンダムは一度後退する。
 サイドアーマーにビームサーベルを戻してドッズライフルをガンダムAGE-1 リブートは連射する。
 ガンダムもビームライフルを右手に持ち変えてビームライフルを連射する。
 正面からビームをぶつけてもドッズライフルの方がビームが回転している分、貫通力があって有利だが、タケシは回転するビームに対して正面からビームをぶつけるのではなく、微妙にずらしてビームの軌道を変えている。
 それからも2機は一進一退の攻防を繰り広げていく。

「いい加減に時代を譲ったらどうなんだ?」
「そう簡単に負けて上げる訳にもいかないんでね」

 激しい攻防の末、互いはライフルを失いところどころ損傷している。
 ガンダムAGE-1 リブートはシールドも失いマシロ得意の2刀流で戦い、ガンダムのシールドもところどころに穴が開いている。

「いつまでも続けていたいけど、そろそろ終わらせて貰うよ」

 ガンダムは余り使い物にならなくなったシールドをパージしてビームサーベルを両手で持って構える。

「同感だな」

 ガンダムAGE-1 リブートも2本のビームサーベルを構える。
 2機は睨み合って動かない。
 どちらも最後の一撃の為にチャンスを見計らっている。
 そして、2機は同時に飛び出し、渾身の一撃を繰り出す。
 マシロとタケシの一騎打ちは観客のいない路地裏で終わりを迎えた。
 だが、マシロにとってはこのバトルは終わりではなく始まりに過ぎない。
 マシロのガンプラバトルはこれからも続く。
 マシロはただ戦い続ける。
 自身が最強のファイターである事を証明し続ける為に。





あとがき



今回でガンダムビルドファイターズ White&Blackは完結となります。

気づけば約1年の連載を何とかやり切りました。

そして、偶然にも最終話はトライの最終回と同じ日となりました。

トライ編もいずれは始めると思っています。

最後まで読んで頂いた方々、1年間ありがとうございます。

 



[39576] ガンプラ設定
Name: ケンヤ◆1eb49d15 ID:19a39974
Date: 2015/04/02 00:03

ガンダム∀GE-2


マシロが制作したガンダムAGE-2 ノーマルの改造機。
 
マシロのパーソナルカラーである白で塗装されているが、あくまで塗装であって特務隊仕様のAGE-2ではなく通常のAGE-2をベースになっている。

AGE-2の可変機構もそのままで、ストライダー形態に変形する事で高い機動力を誇る。

素材には金属粒子を内蔵した特殊プラスチックを使用しており、高い強度を持ち、バーストモードの負荷にも耐える事が出来る。


武装

・ドッズランサー

・シールドライフル×2

・ビームサーベル×2

・刀

・カーフミサイル



ガンダム∀GE-3

ガンダムAGE-3の改造機

今までの白い塗装とは違い黒を中心に塗装されている。

完成度ではガンダム∀GE-2に劣るものの、パワーや火力においてはガンダム∀GE-2よりも勝っている。


武装

・シグマシスドッズキャノン×2

・ビームバルカン×4

・ビームサーベル×2




ガンダム∀GE-FX


ガンダムAGE-FXの改造機

マシロがPPSEのデータベースに記録されている世界中のガンプラのデータを元にPPSEの技術班やニルスの協力の元制作した究極のガンプラ。

フレームにプラフスキー粒子を練り込んで常にRGシステムの状態を維持できるRGフレームを採用している為、パワーにおいてはガンダム∀GE-3をも凌駕している。

全身にプラフスキー粒子の結晶体が装備されている。

重装備のガンプラだが、機動力は並のガンプラと比べると高く、コアファイターの分離機能を持つ。

装備の大半はコアファイターに集中している為、コアファイターの状態でも十分な戦闘が出来る。

機体名のFXはベース機の名残で特に意味はない。


武装

・バスタードッズライフルカスタム

ガンダムフェニーチェリナーシタのバスターライフルカスタムにドッズ系の武器の回転を加えた装備

・ブライクニルランス

キュベレイパピヨンのランスビットにガンダムエクシアダークマターのブライクニルブレイドの氷結能力を加えた装備で、対象を氷結させるだけでなく、氷塊をビット兵器のように使う事も出来る。

・ビームバルカン×2

両肩の装甲に内蔵されている。

肩の装甲は戦国アストレイのデータ、先端から突きに特化したビーム刃を出す事が可能で、ウイングガンダムフェニーチェのビームレイピアのデータが使われている。

・大型シールド

バックパックに装備されている大型のシールド。

スタービルドストライクのアブソーブシステムのデータが使われている。

・Cファンネル

大型シールドに6基装備されている。

大型シールド同様にスタービルドストライクのディスチャージシステムのデータが使われ、フォトンリングゲートを形成する事が出来る。

・フォトンブラスターキャノン

ガンダムX魔王のハイパーサテライトキャノンのデータを使用している大型ビーム砲。

粒子の消費が激しい為、大型シールドのアブソーブシステムとの併用が必要。

また、フォトンリングゲートを通す事で、威力を増して回転を加えたフォトンドッズブラスターキャノンとして使う事も出来る。

・プロミネンスバスターソード

セイバーガンダム・エペイストのバスターソードとガンダムエクシアダークマターのプロミネンスブレイド、戦国アストレイのサムライソードのデータが使用されている。

・ハイパーバズーカ

様々な種類の弾頭を切り替える事が出来る。

ケンプファーアメイジングのアメイジングウェポンバインダーのデータが使われている。

ちなみに弾頭の種類は武装スロットの残りを全て埋めている。

・ガトリング砲

バックパックに装備されている。

ビームと実弾の切り替えが可能。

・ビームサーベル×2

・ビームソード

・マシロナックル

スタービルドストライクのビルドナックルと戦国アストレイの粒子発勁を組みわせた攻撃。

外部と内部からの破壊で当てればほぼ確実に相手を破壊出来る威力を持つ。

肩の装甲を腕に付ける必要がある為、一度の戦闘で2回しか使えない。

名称は頭文字を取ると自分の名前になるように強そうな単語を選んだだけで特に意味はない。




ガンダムAGE-1 リブート

マシロが始めて制作したガンダムAGE-1の改造機

見た目に変化はないが、細部に至るまで徹底的に作り込んでいる。






エクストリームガンダム


ユキトが制作したエクストリームガンダムの改造機

最低限の改造だが非情に高い完成度を誇る。
 
両腕にGNドライヴが追加され、常に目では確認できない程の出力で常時トランザム状態を維持している。



ガンダムアヴァランチダークマター


ありすが制作したガンダムエクシアダークマターの改造機。

アヴァランチユニットによる機動力強化の他、火力や防御力と言った基本性能を全体的に向上させている。








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