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[40107] ミュウツーとミュウ (ポケモン)
Name: レガリア◆ed4aa8c2 ID:5748282b
Date: 2014/06/27 10:51
みなさん初めまして。レガリアです。
本作品は『ミュウツー我ハ此処ニ有リ』の続編となります。
また、独自解釈やアニメ特有のご都合展開、そして初投稿なので駄文等を含みます。

本作品は映画『ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』『ミュウツー 我ハ此処ニ有リ』
アニメ『ポケットモンスターDP』を先に見ている事を前提に作成されています。

上記三作品を良く知らない方、又はアニメのご都合バトルが苦手な方、独自解釈や駄文等が許容出来ない方はブラウザバックを推奨します。


三作品を知って尚駄文でも構わないという方は次へお進みください。




[40107] ミュウツーとミュウ (ポケモン) 第1話
Name: レガリア◆ed4aa8c2 ID:5748282b
Date: 2014/12/27 07:50
――私は誰だ――此処は何処だ?――
そう考えた頃が今では懐かしく思える私が存在している。


私の名はミュウツー。
世界で一番珍しいと言われているポケモン『ミュウ』の遺伝子を元に人間によって生み出されたポケモン。
だが、私は何のために生み出された。
誰が生み出してくれと願った!?


気付けば果てのない自問自答を私は随分と長く繰り返した気がする。
嘗て私自身の手によって行った人間への逆襲。
今思えば意味があった逆襲だったのか。
時に疑問に思えてならない。


確かに私は人間によって創られたポケモンに他ならない。
だが本物であれコピーであれ『現在』を生きている事に変わりはない。
どの様なポケモンであってもそれは命ある生物なのだ。
それは私とて例外ではない。


2度に渡り私にその真実を伝えてくれた傍らにピカチュウを乗せたあの少年。
少年のお陰で私は自らの問答にやっと答えが出せた。


私は生きている。
そして私がまだ見た事のない世界を見て回る事も出来る。


――果てのない世界へ旅立とう――
その思いから私は仲間のコピーのポケモンと共に密かに暮らしていた『ピュアーズロック』を離れた。
今は異郷の地方へと向かう船の甲板にいる。
船の目的地は『フタバタウン』。
シンオウ地方に該当する小さな町だ。


思えばあの時、ピュアーズロックにいた仲間は皆が離れ離れに散って行った筈だった。
そんな私に付いてくる1匹のポケモンが今ここにいる。
しかしピュアーズロックで共に暮らした仲間ではない。
そのポケモンとは嘗て一度だけ敵対関係にあった程だ。


「――ミュウ?」


「気にする事は無い。少し昔の事を思い出してただけだ」


「………ミュウ~」


心配そうな顔をしながら私の周りを浮遊するこのポケモンが私に付いてきたポケモン『ミュウ』。
全てのポケモンの遺伝子を持つ上にその高い知性から全ての技を覚える事が可能。
その上永遠の生命力があるとも言い伝えられている。


「それにしても、お前とこうして旅をする事になるとは
思いも寄らなかった。未来とは分からないモノだ」


なぜミュウが私と旅をしているのか――
そう思うと以前の私からは考えられなかった。
一度は敵対関係だった者と親しくなるという事など――


「ミュウ! ミュウミュウ~♪」


「何? 私と旅が出来て楽しい――だと?」


(コクコク)


「そうか……」


不思議な感覚だった。
遥か前に一度だけ感じたあの温もりを――。
『アイ』と夢の中で共に過ごした時に感じた心溢れる感情を――確かに私は今再び感じている。
決して幻想などではない。
私は友という存在の大切さをまた教えられたのだ。


『ボオオオォォォォーー』


考え事をしている最中に割り込んでくる
船の汽笛によってふと我に返る。


「やっと着いたみたいだよ~」
「あれがフタバタウンか……」
「ようやく到着か、待ちくたびれちゃったよ」


気が付くと先程までは人数が少なかったこの甲板も沢山の乗客で賑わっていた。
どうやら大勢の乗客が到着の汽笛を聞きつけて甲板へと出てきたようだ。
同時に今まで隣にいた筈のミュウの姿が見当たらないが、その原因にミュウツーはすぐに考えが及ぶ。
大勢の人が此処に来る事を見越して姿を消したのだろう。


ミュウに限らず伝説や幻と呼ばれるポケモンは滅多に人目に触れないからこそ、
その存在が希少となり、やがて伝説や幻と称されるようになる。
ポケモンによってはそこまでの経緯は様々だがこの一点に限り、共通している部分とも言えるだろう。


「間もなくか、…んっ? あの男……」


目的地間近になり騒ぎ始める乗客の中に混じる妙な感覚がミュウツーの意識を傾ける。
随分前から視界の隅に時々入る同じ甲板で景色を眺めている紫の髪色をした一人の男。
何に見入っているように一歩も動かずに甲板から景色を眺めているのが妙に印象に残っていた。
何より周りの客とは雰囲気が明らかに違う。
シンオウ地方への観光目的で乗っている客も少なくないこの船の中で唯一人、
戦闘している時のようなオーラを身に纏わせている独特の雰囲気が感じられる。
感じから察するにポケモントレーナーに見えるが……


「無闇に関係を作るのも得策ではない…か」


普通のポケモンならここで関係を築く事も決して躊躇わなかっただろう。
しかし、今此処に居るのはあらゆるポケモンより強い戦闘能力を目的に生み出されたポケモン。
また、強い力は存在を隠しても隠しきれるものではない。
その力を必要とする者がいずれ探し出してしまうからだ。


『力』そのものには善も悪も当然のごとく存在しない。
だが『力』を使う者の心次第で善にも悪にも傾いてしまう。
ミュウツーの持つ力は正に使い様によっては世界を滅ぼせる程のレベルであった。


「人間とはつくづく不思議な生き物だ」


そんな独り言を嘆きつつも干渉に浸るミュウツーだが、ふと周りを見渡すと先程までいた乗客はいなくなっている。
考え事をしている内に殆どの乗客は下りてしまった様だ。
とは言えチラホラと何人かはまだ残っている所を見ると自分達が最後という訳ではないらしい。


「行くぞ」


「ミュウ~」


姿は見えずとも傍にいるであろう相方に声を掛ける。
そして自分達が最後という事で静まり返った船を静かに下りていった。






船を降りて周りに人がいなくなった事で姿を現したミュウの表情は晴れやかだ。
多分未知の場所を訪れた事への喜びというところだろう。
しかし着いた場所は比較的小さな町。
町の名物という物や観光地があるという所ではないのか。
町としては少々寂しくも見える。


「うおわあああああ~~退いてくれーーーっ!!」


だが、そんな安息な一時を脆くも打ち崩す大声がその場全体に響き渡った。
声の発生源は自転車に乗った一人の少年。
下り坂をもの凄いスピードを出しながら暴走している。
ああして叫び声を挙げている所を見るとブレーキに何か異常が発生したのか。


「そこのポケモン危ねえってばーーーっ!!」


並ならぬ速度で走っているせいか、自身でも止められないようだ。
この速度なら一直線にこちらに向かってくる自転車とミュウツーの距離もあと数秒も満たない内に無くなってしまうだろう。


ともかく、今は暴走している少年を助ける事が先決。
そう考えると同時にミュウツーは手を前に突き出した状態で静止する。
普通なら少年の言う通りに避ける事こそがベストな方法と言えるが


「ぶつかるーーーっ!!! ―――って、おっおおおおっ!?」


さぞ少年も驚いた事だろう。
下り坂を走っているのだから本来なら進むに連れて速度は増すのが常識。
だが現実はそんな普通とは全く逆の結果。
そう、減速しているのだ、それはもう途轍もなく凄い勢いで。
物理の法則を無視しているのではないかと疑問にさえ思える不自然な急ブレーキが行き成り働いたのだから。


無論本人にも心当たりなどあろう筈がない。
何しろこれはミュウツーの仕業。
念力を使う事で徐々に増す自転車のスピードを一気に0へと持っていったのだ。


「何だよ! 何だよ!! 何だってんだよ!!? 
 こんな所を歩いてるなんて罰金だぞ!」


過失は完全に其方側にあるというのにそれを意も介さないような態度を取りながら詰め寄ってくる少年。
どうやら頭のネジが数本外れていると思って良いのだろうか。


「――って、おろっ? 見掛けないポケモンだなお前」


ミュウツーを見た途端に少年は首を傾げながら何かを考えているが少年の疑問も尤もである。
元々ミュウツーは人間によって創られた世界に一匹しか存在しないポケモン。
そしてミュウツーが生み出されたのはカントー地方でありその中でもミュウツーの存在を知る者自体が極少数である。
シンオウ地方でミュウツーの存在を知る者など皆無と言っても差し支えは無い。
一瞬ミュウの事も含めているのかと思ったが姿が消えている事でそれも直ぐに違うと断定出来た。


『――縁があればまた会う事になるかもしれん』


「へっ!? 何だコレ? おいっ、今のお前が喋ったのか? 凄えなオイ!!」


訳が分からなかった。
目の前のポケモンは言葉一つ発していないのにも拘わらず少年の頭の中に聞き覚えのない声が直接響いてくる。


現象としては極シンプルだ。
一部のエスパーポケモンが使う能力の一つであるテレパシー。
ミュウツーはテレパシーを使い、少年に念話で直接語りかけただけに過ぎない。
だが、少年にとってテレパシーを送られる事は完全な未知の体験だった様で今起きた出来事に目を輝かせている。
そしてそんな一喜一憂している少年に一言残すと同時にミュウツーは消えるようにしてこの場を後にしていった。


「消えちまった……」


度重なる異例の出来事に思考が追いつかない。
不思議な力を使い自分を助けてくれたポケモンに一言礼を言いたかったが
それは叶わぬ事となってしまい少年は小さな溜息を漏らしていた。







ここ、フタバタウンから目と鼻の先に位置するシンジ湖。
201番道路の分かれ道にある道案内の看板前でどちらに進むか悩み熟考の結果このシンジ湖に足を運んでいた。


「この湖はとても澄んでいるな」


「ミュウ~♪」


何処までも透き通る綺麗な湖だった。
先程まで姿を消したり現わしたりのミュウも今は湖の水を手でパシャパシャと掻き出したり、
湖に潜って泳いだりとこれ以上なく楽しそうに満喫している。


そんな微笑ましい一時を楽しんでいる時だった。


「ミュウ?」


急に湖の中心と思わしき場所から舞う様なそよ風が吹き始めたのは。


「アレは―――」


普通なら距離が離れているこの場所ではハッキリとは見えない。
だが、ミュウツーはその視界に明確に収めていた。
湖から次第に湧き上がる様に表れた一つの影を。


『……………』


ポケモンを模ったように見える湖のど真ん中に浮かぶ謎の影。
ポケモンという根拠は一切無い。
ただ何となくそう思ったというだけの話。


(確かめてみるか――)


そう考えるとミュウツーは瞬時に体を浮かせ影の元へと飛んでいった。


「ミュウッ」


ミュウツーに続く様にミュウも影の元へと駆け寄っていく。


『…………』


近付いて見ると益々ポケモンとしか思えない浮遊する透明の影。
浮遊する影はまるでカメレオンの様に周囲の環境と同化している。
自然現象でこのような形が出来るとは考えにくい。
となるとシンオウ地方のポケモンなのか。


「――お前は誰だ?」


『…………』


予想はしていたが一切の返事が無い。
実体が存在しないので言語を喋る事が出来ないのだろうか。


「ミュウ~?」


影の周りを旋回しながらミュウは様子を窺っている。
にも拘わらず、目の前の影は一向に微動だにしようとしない。


『……――』


そう考えている矢先。
宙に浮く影は次第に湖へと姿を沈めて消えて行ってしまった。
一体今のは何だったのだろうか。


「――――ポケモン…か」


ミュウツーも今まで数多くのポケモンを見てきている。
故に初対面でも辛うじて理解は可能であった。
今まで目の前にいた影は紛れもなくポケモンであると――。


「そんな所で何をしている」


正体不明の影に対して考えを巡らせていたミュウツーがふと我に返る。
声の方向に顔を向けたそこには助手と思われる研究員を引き連れた老人がいた。
自らも白衣を纏っている所を見ると恐らく近隣にある研究所の博士だろう。


(声を掛けられた以上何も話さないままこの場を去る訳にもいかんか)


一瞬何事も無くこの場を立ち去ろうとも考えたが、見た処悪人とも思えない。
何よりミュウが姿を現したままというのが何よりの証拠である。
伝説ではミュウは清らかな心を持つ者の前にしか姿を現さない。
それに此処はシンオウ地方。
ミュウツー達にとっては未知の大陸である以上この人間達からある程度の情報を収集しておいた方が得策と言えるだろう。


考えが頭の中で纏まるとミュウツーは声の主の元へと素早く駆け寄っていった。


「この湖の関係者か?」


「いや、私はマサゴタウンにある研究所のナナカマド博士だ。君は見た処ポケモンの様だが……」


ミュウツーを凝視しながらナナカマド博士は何かを考え込んでいる。
先程の少年はともかくナナカマド博士にさえミュウツーの存在は知られていないのか。


「分からないのも無理は無い。私は元々カントーで生み出されたポケモンだ。
 …まだ名前を言っていなかった。私はミュウツー」


「―――ミュウツーだとっ!?」


「博士、このポケモンの事を知っているんですか?」


「…いや、私も詳しくは知らん。随分前に資料で名前を目にした程度だ。」


「資料――ですか?」


「ウム、カントーの孤島と化しているニューアイランド謎の研究所爆発事故でな」


そう、ミュウツーはニューアイランド研究所でミュウを元に造られたポケモン。
研究所はミュウツーによって大爆発を起こし跡形も無くなっている。
当時の調査の結果では現場からは爆発の原因が何一つ掴めない為この一連の騒動は研究中の事故として処理されていた。
しかし噂に戸は立てられず既に一部の研究員達の間では専らの噂になっていた。


――姿を消したポケモンの仕業なのではないか――


元々ミュウツーの情報については出来る限りの隠蔽を研究所でも行っていた為に
調査でもミュウツーの名を表に出す事は無かった。
だが、研究所が爆発した際に残った一枚の石版から後にミュウツーの情報が僅かずつだが漏れ始めていたのだ。


決定的な証拠となった一枚の石版にはミュウツーの元となった『ミュウ』の姿。
そして姿の横には爆発した研究所で働いていた研究員の筆跡が見つかり古代文字である名前が記されていた。


後に各地の研究員達の調査によって石版の文字は『ミュウツー』と解明されたが
その事実も公には公表されずに一部の研究資料にのみ記載される。
ナナカマド博士が目にした資料もその一部であった。


「……まさか、キミがそのポケモンだったとは。
 ――それはともかく、君は何故このシンオウ地方に?」


研究所の博士ともなればこのシンオウ地方にも詳しいだろう。
その上事情が複雑なのでここは話しておいた方が良い。
そう考えたミュウツーは自分の全てをナナカマド博士に話す事にした。


自分が永遠の生命力を持つ幻のポケモン『ミュウ』を元に造られたという事。
研究所の爆発の真相の全て。
嘗て最強のポケモンマスター、また最強のポケモンとして人間に復讐を行った事。
最強のポケモン『ミュウツー』を手に入れる為にコピーのポケモンと共に暮らす
ミュウツーの隠れ家であったピュアーズロックを襲撃した『ロケット団』と
その最高幹部サカキの存在。
その果てに得た答えから未知の世界へと旅立ちこのシンオウ地方に訪れた事。


「――そうだったのか」


全てを聞き終えたナナカマド博士は何かを考え込みながらポツリとそう呟いた。
その眼はどこか懐かしい者を見る様にも見える。


「――やはり、あの事件はキミが発端だったのか」


資料に目を通した時点でナナカマド博士もある程度の予測がついていたのだろう。
特別に驚く事も無く、ただ此方の話に聞き入っていた。


「一つだけ聞かせて欲しい。君は今も自分を創りだした人間を憎んでいるのか?」


質問に一度だけ首を横に振るミュウツー。
ナナカマド博士も全てを理解する。
資料に掛かれていた事が全て真実であったという事を。


「そうか、それで君はこれからどうするのだ?」


「………」


明確な答えを持っていない為に質問に窮するミュウツー。
この世界を見て回るという漠然な目的は有るもののナナカマド博士が望んでいる
答えはもっと別の何かであろう事ではミュウツーも薄々は感づいている。
だからこその沈黙でもあった。


「―――ならポケモントレーナーとしてこのシンオウ地方を回ってみてはどうかね。
 君が再びトレーナーの道を歩みたいというのであれば…だが」


「!?」


驚愕の提案にさしものミュウツーを驚きを隠せない。
それは彼の助手一同も同様だった様でナナカマド博士の提案に狼狽していた。


「博士っ!本気ですかッ!?ポケモンがポケモントレーナーなど――」


「確かに通常ならば有り得ない事だ。しかし君ならば可能であると私は思う。
 人間の言葉を話す知性とトレーナーとしての才を併せ持つ君であればな」


「し…しかし……」


助手達が納得が出来ないのも無理は無い。
何しろナナカマド博士が行おうとしている事は前例の無い試みなのだから。
ましてポケモンがポケモントレーナーになるなど聞いた事がある筈も無い。



「責任は私が持つ。君達は今すぐ研究所に戻り必要な手続きを頼む」


「わっ…わかりました」


異例の事態に疑問を感じつつも助手達は
ナナカマド博士の一言で足早とこの場から去って行った。


「何故初対面である私にそこまで肩入れする?」


この場に二人が残された事に最早遠慮をする必要は無い。
そう判断したミュウツーは核心に迫る問いをナナカマド博士へと投げかけた。


「君の話を聞いた時からずっと気になっていた。
 君は後悔しているのだろう。人間やポケモンに復讐した事を」


「それは――」


口には出さないが間違いない。
彼も伊達に長年ポケモン博士をやってきた訳ではない。
長年培われたトレーナーとポケモンを観る観察眼は少なくとも並み大抵ではない。
ミュウツーが嘗ての過ちに対して後悔している事はナナカマド博士も話を聞いた時点で理解していた。
だからこそ彼はこの提案を持ち出した。


「もし――君が過去の過ちに少しでも負い目を感じているのなら
 私は君にもっと知って欲しいのじゃ。
 君と同じポケモンの素晴らしさを。そしてポケモントレーナーの素晴らしさを」

差し伸べられる彼の手。
決して目を逸らさずに淡々と語るその眼は何処までも真剣な色で満ちている。
本気で彼は私にポケモントレーナーの道を歩ませる気だ。


ここまでの覚悟を見せられては無碍にする訳にはいかない。
ならば彼の言う通りもう一度ポケモントレーナーの道を歩むのも悪くない。


「――確かに。お前の言う通りだ。私は嘗ての過ちを後悔していたのかもしれない」


差し伸べられた手を取る。
その手は老人である筈なのにこの瞬間に限って妙に力強く感じられた。


「いいだろう。私はこれからポケモントレーナーとしてこのシンオウ地方を回る」


「君の様なポケモンと出会えた事は私にとっても僥倖だ。
 君の旅の健闘を心から祈っている」


ミュウツーがポケモンである事を知りつつも現在のその実態はポケモントレーナーである。
ナナカマド博士はミュウツーをポケモントレーナーとして送り出す事を決意する。


「それと君に渡す物がある。
 後でマサゴタウンにある私の研究所に寄ってくれ。では私はこれで失礼する」



そう言い残し、ナナカマド博士も静かにこの場を去って行った。


「ミュウ~?」


「ミュウ、どうやら私はもう一度
 ポケモントレーナーとしての道を歩む事になりそうだ」


「ミュウミュウ!! ミュウ~♪」


「私がポケモンマスターの道を行く事が嬉しいというのか」


(コクコク)


「そうか…。どうやらお前とも長い旅になりそうだ」


これより誕生するのは前代未聞の最強のポケモンにして最強のポケモンマスター。
未知の可能性を秘める2匹のポケモンによる壮大な旅が今――――幕を開ける。











あとがき

私自身映画のミュウツー及びミュウがとても好きで
この作品を投稿させていただきました。
これからも温かい目で見ていただけると幸いです。
宜しくお願いします。




[40107] ミュウツーとミュウ (ポケモン) 第2話
Name: レガリア◆ed4aa8c2 ID:ea7dce0f
Date: 2014/12/27 08:02
処変わって此処はマサゴタウン。
シンジ湖でナナカマド博士との出会いからもう一度ポケモントレーナーの道を歩む事を決意したミュウツーはナナカマド研究所に来ていた。
トレーナーとしてシンオウ地方に回る為の最低限の手続き及び必要な物を取りに来る必要があったからだ。


「よく来てくれた。改めて紹介しよう。私はナナカマド博士」


本来2度目の自己紹介など不必要なのだがこれも様式美というものなのだろう。
特に疑問を口にする事も無くミュウツーはナナカマド博士の紹介に耳を傾けつつ研究所内の周りの物に意識を傾けていた。
場所は違えど研究所とはミュウツーを生み出した施設である。
なればこそ生み出された本人が意識を傾ける事も不思議では無い。


「此処の研究所は―――不思議な感じがするな」


決してニューアイランド諸島研究所の時には感じる事が出来なかった感覚。
言うならばそれは『安らぎ』なのかもしれない。
ただ居るだけで心が穏やかになる様な感じであった。
それは研究所で待機している沢山のポケモンが証明していた。


まず目についたのが研究所の庭で研究員に餌を与えられていた3匹のポケモンである。
『ポッチャマ』『ナエトル』『ヒコザル』の3匹が仲良く並んで与えられた餌を食べていた。
その表情は極上の笑顔。
自分達の世話をしてくれる研究員を心の底から信頼している事が伺える様な表情であったのだから。


「ベストコンディションでこのポケモン達を新たな旅立ちへと歩む
ポケモントレーナーへと託す事が私達の使命の1つであるからね」


「なるほど」


使命感もあるだろうが、それだけでこれ程の愛情をポケモンに注げるとは到底思えなかった。
しかし現実に目の前の研究員達はポケモンに対してまるで我が子に接する様に可愛がっている。
ならばこの矛盾を解決するとすれば………


「好感…か」


「君はポケモンがトレーナーに懐く事に疑問を持っているのかね?」


「そうではない。このポケモン達も初めから研究員に懐いていた訳では無いだろう。
だが恐らく研究員は始めてあのポケモンと出会った頃から今と変わらない接し方をしていたに違いない。
ならばあの研究員は心の底からポケモンが好きなのだろうと感じてな」


「確かに…。トレーナーもそうなのだが私達研究員も多くのポケモンと接して来た。
気付けば我々はポケモンを好きになったのだろう。この世界で生きる全てのポケモンを」


「ならば私も―――何時かは
同じ感情を人間に対して持てるのだろうか」


「それは君次第……と言いたいが、私は持てると思うぞ」


確信があるかの如く強く言うナナカマド博士に疑問を持つミュウツーだが、続く言葉に素早く意識を傾ける。


「創られたポケモンとはいえ君は今を生きている。
なら今を生きる者同士心を通わせる事が出来る筈だ」


「そうか……」


心の奥底がむず痒くなる感覚だった。
最強と謳われた私の力に対してではなく、ポケモンとしての私を称えてくれた者は居なかった。
だがそれは今まで孤高の道を歩み続けてきた故の必然なのかもしれない。
孤高は決して理解される事が無い。


しかし今より自らが歩む道は対極の道。
トレーナーを理解し、ポケモンの事を理解し力を引き出してやらなければならないのだ。


全てが未知の感覚であったが湧き上がるのは一つの躍動感。
初めて『ミュウ』と対決した時と同様、ただ只管楽しいと感じた懐かしいあの感じをミュウツーは今再び味わっていた。


「博士。ポケモン図鑑とモンスターボールです」


「おお、ご苦労」


シンジ湖で先に研究所へと戻っていった研究員が奥の部屋から突如出てくる。
その手には数個のモンスターボールとポケモン図鑑が握られていた。


「それで手続きの方は完了したのか?」


「すみません。それが……シンオウリーグ協会への新規のトレーナー認証が認められなくて。
それよりも博士っ! 今から此処に―――」






「お久しぶりです。ナナカマド博士」






突然入り口の方向から聞こえてきた気高い声。
振り向くと底には金髪を腰より下まで伸ばした一人の女性が立っていた。


「シロナ君っ!! 何故チャンピオンの君が此処にっ!?」


「突然の来訪で驚かせてしまって御免なさい。
本当は直前に其方の研究員に連絡をしていたのですがどうやら刹那のタイミングだったようですね」


話から察するにどうやらこの女性がシンオウリーグのチャンピオンらしい。
その姿は正に才色兼備という言葉の一言に集約されると言っても過言ではなかった。


「それより先程の申請の件ですが―――」


話を突如区切ると同時にミュウツーへと顔を向けるチャンピオン。
不意に目が合う。
此方を見るチャンピオンの瞳にはポケモンを包み込む慈愛という優しさが籠められている気がした。
先程の研究員達の目とはまた違う不思議な感覚を漂わせている。


「君が例のポケモンね」


「お前は」


「私はシロナ。シンオウリーグチャンピオンをやらせてもらってるわ」


「私はミュウツー。カントー地方の―――」


「知ってるわ。君がニューアイランド諸島の研究所で『ミュウ』を元に創り出されたポケモンという事も。
君を創り出したのがフジ博士という事も」


「何故、私の事を知っている?」


「シロナ君の祖母はシンオウのカンナギタウンでは有名な博士だからね。彼女も記事の内容を聞いていたのだろう」


ニューアイランド諸島爆発事故の資料自体は各地方に広まりつつある。
ましてナナカマド博士が知っているのだから祖母が同じ地方の博士であるチャンピオンがミュウツーの事を知っていても決して不思議では無いだろう。


「君はとても綺麗な目をしているわね。もっと殺伐な感じをイメージしていたのだけれど」


「元々の私は確かにそうだっただろう。
だが人もポケモンも生きとし生ける者は成長する。それは私とて例外では無いという事だ」


「そうね」


そう言いながら私の頬に手を添えるシロナ。
その仕草や優しさはどこか懐かしいものを感じさせ――


「―――――ア…イ――――?」


不意にその名を呼んでしまった。
嘗て私の前から永遠に居なくなってしまった初めての友達の名前。
もう決して会う事の叶わない親友の名前を。


「フジ博士のお孫さんの名前ね。彼女とは知り合いだったの?」


「死の間際にテレパシーでな。お前と似た暖かい雰囲気を持つたった一人の友達だった」


「……ごめんなさい」


悲痛な表情を浮かばせながらシロナは私に謝罪をする。
他人の痛みをまるで己自身の痛みとするそんな優しさが特にアイと似ていた。


「でもミュウツー。これだけは忘れないで。
そんな数々の苦難を乗り越えてこそ今の貴方がいる。
過去を悔やむのでは無く未来を変えるべきよ」


まるで母親の様に諭す様な優しい言葉。
不思議とその一言一言が心に響いてくる。


「しんみりした雰囲気になっちゃったけど、 私から言いたかったのはそれだけ。
長々と引き止めてしまってごめんなさい」


言いたい事が終おわると踵を返して私はこの場を去ろうとする。
だが、その歩みも直ぐに止まる事となる。
――何故なら――


「待て」


ミュウツーが私に静止の声を掛けてきたのだから。


「どうかした?」


「急にこんな事を頼むのは不躾かもしれないが、私とポケモンバトルをして欲しい」


「「「!?」」」


ミュウツーから出された突然のポケモンバトルの申し込みにシロナを含めるこの場にいた誰もが驚愕した。
それも当然、相手はシンオウリーグのチャンピオンなのだ。
その強さは現在の四天王ですら歯が立たない程である。
腕に覚えがあるトレーナーでも彼女に勝つのはほぼ不可能であるといってもいいぐらいだ。


「待ちたまえっ! 幾ら何でもチャンピオンとポケモンバトルとは――」


堪らず周りの研究員達からの制止の声が沸きあがるがそれもシロナによって中断される。


「……野試合の申し込みなんて久しぶりね。一応理由を聞いてもいい?」


「私は嘗て最強のポケモン。また最強のポケモンマスターとして恐れられていた。
だが私の持つ強さとお前の持つ強さは何かが違う。
故に私はお前が心に秘めている強さを知りたくなった」


「成程、……挑戦を受けましょう。博士、少し裏庭をお借りします」


「ウム、審判は私が勤めよう」


トントン拍子に進む話に研究員達は暫し呆然としていたが、
チャンピオンのバトルが見れるという絶好の機会に意識を取り戻し各々がその幸運に歓喜していた。
今これより始まるのは嘗てのカントー地方最強のポケモンマスターとシンオウリーグチャンピオンのポケモンバトル。
最早想像を絶する戦いが容易に想像できてしまうポケモンバトルなのだ。
ポケモンバトルに一度でも身を置いた事のある者ならば歓喜する事も寧ろ必然と言うべきかもしれない。


裏庭に移動したミュウツー達はさっそく各々がバトルの準備に入っていた。


「使用ポケモンは1体。戦闘不能になった方の負けで良いか?」


「構わないわ」


バトルの最終ルールを確認するとモンスターボールを構えるシロナ。
今よりミュウツーのシンオウ最初のバトルが開始される。




「天空に舞え――ガブリアスッ!!」









あとがき
お待たせしました。第2話投稿しました。
2話目にしてシロナさん登場です。
最後の決め台詞はアニメ版の伝統です。
少し中二臭さを醸し出してるところがまた良いですね。
今回は短めでまたミュウの出番が……(汗)
期待してた方はすみません。
次回は初バトルでミュウもしっかり出ますので安心を(笑)
書き溜めはしない方針ですのでご了承下さい。
それでは!!



[40107] ミュウツーとミュウ (ポケモン) 第3話
Name: レガリア◆ed4aa8c2 ID:5748282b
Date: 2014/07/28 23:16
「天空に舞え、ガブリアスッ!!」


繰り出されるモンスターボールから飛び出したのはガブリアス。
フカマルの最終進化形であり、空中を高速で舞うその姿から
マッハポケモンと称されるドラゴン・じめんタイプのポケモンである。


「ガアアアアアーーーーーッッ!!」


只ならぬ威圧感と風格。
それだけでも目の前のポケモンがどれ程強いのかが容易に想像できる。
だがそれも当たり前と言えば当たり前だ。
何しろそのガブリアスのパートナーはこのシンオウ地方で最強のトレーナーなのだから。


「さあミュウツー、貴方のポケモンがまだの様だけれど」


急かす様にシロナが放つ言葉もある意味での期待だった。
このポケモンバトルはミュウツーを一人のトレーナーと認識した上でのバトルなのだ。
更に相手は嘗てカントー地方で最強のポケモントレーナーとして噂されている。
ならば相手が何を思いポケモンを繰り出すのか。
何を考えた上でどの様な戦術を繰り出してくるのか。
同様の高みへ存在する者同士興味を抱かない筈がない。


「此方のポケモンは――――お前だ」


私のガブリアスに合わせてミュウツーが繰り出したポケモン。
それは唐突にガブリアスの眼前に姿を現した。


「ミュウミュウ、ミュウ~~♪」


私は唯々そのポケモンを驚愕の表情で見ていた。
今自分が見ている光景は果たして現実なのかと疑ってしまう程に。


「貴方は―――――」


辛うじて絞り出した言葉に歓喜が入り混じっている事が自分でも良くわかる。
噂だけならポケモントレーナーに成り立ての頃から何度も聞いた事があった。
そしてニューアイランドの爆発事件以来正式に明かされる正体。
おばあちゃんに姿が描かれた一枚の石版の資料を見せてもらった事がある。
その名前を忘れた事は無い。
世界で一番珍しいポケモンである。
そして私がポケモンの神秘について興味を持ち始めた切欠でもある。
そのポケモンの名前は―――――


「ミュウ」


ミュウツーの言葉でその記憶が確信となる。
私の目の前にいるポケモンは紛れも無くミュウなのだ。
溢れかえる至福感で私は一杯になる。
だが、いつまでも呆けては要られない。
今はポケモンバトルの真っ最中であり、戦いの最中に気を緩めるなど言語道断もいい処だ。


「まさか幻のポケモンを目の前で見られるなんてね。
貴方との出会いには感謝するわ」


「その言葉はバトルが終わった後で聞きたかったがな」


「新米トレーナーに指摘されるなんて、私もまだまだね」


それは未熟というには余りに小さな隙である。
ミュウに遭えたという奇跡に我を忘れ歓喜した。
しかしそれも無理は無い、寧ろ歓喜する事が必然と言っていい。
何しろ全てのポケモンの始まりとも伝説では謳われているポケモンだ。
地方が違うとはいえ時空伝説という神話について研究するシロナにとって未知の存在と言っても過言ではない。


「さて、それじゃ気を取り直して。
ミュウツー、先攻をどうぞ」


「ミュウ、『へんしん』だ」


ミュウツーの命令でミュウが行ったのは変身。
その名の通り対戦相手と全く同じ姿になり、ステータス及び技まで完全にコピーする技である。


「ガアアアアアアアッッ!!」


変身したその姿は対峙するガブリアスと同様。
ガブリアスVSガブリアス
己のポケモンをどれ程理解し信頼しているか。


そんなトレーナーの資質が試される勝負が開始された。


「ミュウ、ドラゴンダイブッ!」


「ガアアアアアアッ!!」


指示を受けて先に仕掛けたのはミュウ。
飛翔した直後急降下からのドラゴンダイブを繰り出す。
“ドラゴンダイブ”
大量のエネルギーを身に纏い相手へ突進する技であり、
その迫力は技を受ける相手を怯ませる効果を含んでいる。
トレーナーの指示が遅れようものなら直撃は免れないが、シロナはそんな甘い相手ではない。


「ガブリアス、あなをほるっ!」


「ガアアーーっ!!


ドラゴンダイブが届く前にガブリアスは穴を掘り地中へと避難する。
相手を見失った事でミュウも攻撃を中断し上空から様子を窺っていた。


『ミュウ、そのまま上空で様子を窺え。
必ずガブリアスは地中から何かしらの行動を起こす。
現れた時に再度ドラゴンダイブで攻撃だ』


『ガアッ!』


ガブリアスが掘った穴から此方も穴を掘り追跡する方法も考えたが
ミュウツーはその方法を取らなかった。
その理由はガブリアスにあった。
ガブリアスは元々シロナのポケモンである。
ならばシロナはガブリアスの事について誰よりも理解しているだろう。
故に姿を隠して此方の攻撃を誘う戦術も十分に考えられるからだ。


そして戦況が動いたのは数刻後だった。
小さな地響きと共に地面のとある一カ所に亀裂が走る。
それはミュウツーが狙っていた
ガブリアスの現在地を知らせる合図。


「ミュウ、亀裂に向けてドラゴンダイブッ!」


「ガアアアアアアアッ!!」


次第に大きくなる亀裂へ向けてミュウはドラゴンダイブにより突進を開始する。
そこからガブリアスが出現する事は間違いない。
ならば出現地点からカウンターの要領で繰り出されたドラゴンダイブが躱される事は無い。
それ故の判断だった。


しかし、


「ッッ!?」


ミュウツーは一瞬だが確実に感じ取っていた。
今にも崩れかねない亀裂の部分から発せられる
ミュウのエネルギーを凌ぐ凄まじい量のエネルギーに。


「ミュウッ! 攻撃を中断し回避行動を取れっ!」


「ガアッ!?」


突然の回避指示に一瞬戸惑うミュウだが迷いを振り切りドラゴンダイブを中断する。
それと同時に地中からガブリアスが飛び出し一直線にミュウへと突進を繰り出す。
しかもその姿は


「ガアアアアアーーーーッッ!!」


自身を覆い尽くす気に覆われているガブリアスだった。


「今だミュウッ!」


「ガアッ!」


俊敏な動きで直撃直前でミュウは回避に成功する。
正に刹那のタイミング。
一瞬でも回避が遅れていれば勝負は終わっていただろう。


「地中からの攻撃は奇襲の筈だったのだけれど。
的確な行動を瞬時に分析する力と判断能力。
トレーナーとしての資質も十二分と言った感じね」


「―――先程の技は?」


「アレは『ギガインパクト』。
想像通りドラゴンダイブを上回る
エネルギーを身に纏い相手へ突進する技よ。
尤も技が命中した後はその強力過ぎるエネルギーの
反動から使用したポケモンも動けなくなるのだけどね」

シロナの説明は正に真実。
先程感じたエネルギーは正に相手を
一撃で戦闘不能へとしてしまう程だった。
その強さは使用ポケモンに影響を及ぼしてしまう程に。


「カントー地方では決して見る事の叶わなかった技か…。
これが旅の醍醐味というものなのかもしれないな」


「そうね。今まで知らなかった未知なる存在を知る歓喜。
それは人もポケモンも同じであると私は思うわ」


自分の知らない世界がまだ沢山広がっている。
未知という未知が溢れ返ってある。
その事実に少なからず私は歓喜に打ち震えていた。
歓喜から来る躍動感は間違いなく私がポケモンとして。
そしてトレーナーとして生きている証拠なのだから。
嘗ての問答の答えを私は間近に感じているのだから。


「お前には礼を言わなければならない。
お前のお陰で新たな一歩を踏み出す事が出来そうだ」


「先程の言葉をそのまま返すわ。
その言葉はバトルが終わった後で聞きたかった」


「そうか、……私とお前は何処か似ているな」


「そうね。誇張かもしれないけど
私も貴方も頂点に上り詰めた存在。
でもそれは飽くまで私達が知る範囲での話。
私達の知らない所にはもっと強い者がいる。
貴方はそんな存在とバトルをしたいと思っている。
違うかしら?」


「確かに―――お前の言う通りだ」


「一つ聞いてもいい。
それはポケモンとして?
それともトレーナーとしてかしら?」


「それは……」


予想外の質問に戸惑うミュウツー。
私は間違いなくポケモンとしてこの世に生を受けた。
しかし今はトレーナーとして旅を続けている。
どちらの道を歩む事も出来る故に生まれた選択肢だが、
その選択肢に対しての答えなど早々に出せる筈も無く答えが纏まらない。


「ミュウツー。悩む事は無いわ。貴方には貴方の意志がある。
ポケモンであれトレーナーであれ貴方が貴方で有り続ける事。
それがあなたにとっての最善だと私は思う」


「それが最善だというのなら、
今私はトレーナーとしてお前に勝つ事を望むっ!」


「なら私も一人のポケモントレーナーとして
貴方に勝負を挑む事にするわっ!」


中断されたバトルが再開する。
片やギガインパクトからの反動から脱出したガブリアス。
片やギガインパクトによる直撃を辛うじて回避したミュウ(現在はガブリアス)。


互いの状況はほぼ五分五分と言ったところだろう。
クリーンヒットは無く、ダメージも皆無同前である。


「ミュウ、『かわらわり』!」


「ガブリアス、此方も『かわらわり』」


「「ガアアアアアッ!!」」


急降下するガブリアスの瓦割りと
地上から急浮上するミュウの瓦割りの鍔迫り合い。
互いに同じステータス故通常はその力に差が生じない。
だが現実は違っていた。


「ガアッ!?」


「何っ!?」


ミュウの方が力負けし始め鍔迫り合いは完全にガブリアスが主導権を握っているのだから。
だがその結果に至る理由が思いつかない。
何故受けたダメージにもステータスにも差が無いのにも拘わらずミュウが力負けするのか。
いや、そもそも何故シロナは同じ瓦割りでの鍔迫り合いに態々応じてきたのか。
他にやり様が幾らでもある中でシロナが選んだ戦術は効率が良いとはお世辞にも言い難い。
にも拘わらずシロナは躊躇いも無くこの戦術を選んだ。
そう、まるで鍔迫り合いの結果が初めからこうなる事を知っていたかの様に。


「―――まさか…」


そこまで考えると同時に嫌な予感がミュウツーを襲う。
シロナは鍔迫り合いの結果がこうなる事を分かっていたのではないか。
効率の悪い戦術を迷い無く選んだ事も納得がいく。
ならば必然的にその原因もシロナは知っている。
本来なら開かない筈の差が開いた原因を―――。


「となれば考えられるのは―――」


謎を解明していくと共に明かされていく真実。
そこから導き出される答えはただ一つ。


「ガブリアスの『ギガインパクト』かっ!!」


遅まきながらも真相にたどり着くミュウツー。
そう、思えば何故ガブリアスは勝負が再開される前に反動を受けていたのか。


『アレは『ギガインパクト』。
想像通りドラゴンダイブを上回る
エネルギーを身に纏い相手へ突進する技よ。
尤も技が命中した後はその協力過ぎるエネルギーの
反動から使用したポケモンも動けなくなるのだけどね』


あの時のシロナの説明が正しければガブリアスが反動を受ける筈がない。
紙一重とはいえ確かにミュウはギガインパクトを避けたのだから。
だが実際はガブリアスは反動を受けていた。
そして鍔迫り合いに途中から生じ始めた力の差。


そう、結果としてあの時ガブリアスのギガインパクトはミュウの片翼を掠めていた。
そのダメージが時間差となって鍔迫り合いの最中に表れてしまったのだ。


「ガブリアス、そのまま押し切りなさいっ!」


「ガアアアアアーーッ!!」


振り抜かれるガブリアスの瓦割り。
鍔迫り合いに敗北し瓦割りを直撃で受けたミュウは
地上へと叩きつけられる結果となった。


「ガ…ガア…」


戦闘不能ではないものの多大なダメージを追ってしまったミュウの動きは明らかに鈍っていた。
当然その好機を見逃すシロナではない。


「ガブリアス、『ドラゴンダイブ』ッ!」


「ガアアアアアーーッ!!」


非常に不味い。
唯でさえ鍔迫り合いに負けて
勝負の流れを持って行かれた上に
これ以上のダメージは戦闘不能に成りかねないからだ。


「ミュウ、『ギガインパクト』ッ!」


回避行動が取れない以上迎え撃つ以外にない。
そう考えたミュウツーは今のミュウが持てる
最高の威力を持つギガインパクトを選択する。
決してミュウツーの選択は間違っていない。
それは考える限り最適な行動を指示していたといっても言いだろう。
しかしミュウツーは直ぐに思い知る。


シロナがその選択のさらに上をいっていた事に


「ガアアッ……アア……」


思い知る切欠となったのはミュウの怯み。
それはガブリアスのドラゴンダイブにより齎されたのだ。
元々ドラゴンダイブは強烈なエネルギーと共に相手に体当たりする技であり、
この技には相手を怯ませる効果も含まれている。
そしてこの怯みとは自分が優位であればある程その効果も上がるのだ。
鍔迫り合いの敗北直後のガブリアスのドラゴンダイブに
ミュウは完全に怯んでしまい動けなくなっていた。


回避も迎撃も出来ない。
それは事実上の直撃宣告でもあった。


「ミュウ~~~……」


その結果ガブリアスのドラゴンダイブが直撃し露わになったのは
変身が解けて元の姿に戻った状態で気絶しているミュウの姿だった。


「ミュウ、戦闘不能っ!! よってこの勝負チャンピョンシロナの勝利っ!!」


審判をしていたナナカマド博士の判定が下る。
結果はミュウツーの敗北に終わった。


最強と称された自分の初めての敗北。
だが不思議と敗北感や屈辱感は無かった。
寧ろ心から湧き上がるのは全く逆の感情だった。


私にとっての初めての超えるべき相手が出来た。
それは言うなればライバル。
好敵手という存在を漸く私は見つけたのだから。
目標が出来た事で進むべき道も自然と定まっている。
ならばやるべきことはただ一つ。
いつか必ず好敵手であるシロナより強くなる。
それだけで私はこの先の何処までも進む事が出来るから。


「済まないな、ミュウ」


(キュ~~~)


完全に気絶しているミュウへ
労いの言葉を掛けながら治療を開始する。
それは自己再生の応用だった。
以前女医からポケモンの体について詳しく聞いていたミュウツーは治療に関してかなりの知識がある。
その知識と自分の高い能力を併せる事で即席の治療を可能としていた。
とはいえ、この治療は遺伝子パターンが酷似している
ミュウが対象だからこそ出来る芸当であって他のポケモンには施す事が出来ない。
ミュウ限定の治療という訳だがこの場に限って言えば十分過ぎる応急処置である。


「………ミュウ……?」


「気が付いたか」


「―――ミュウ~~」


自分達が負けた事を認識したのか。
目に見える程ミュウは落ち込んでいた。
そう、勝ちたいと思っていた気持ちはミュウもミュウツーも同様なのだ。
ならば勝負に負けたミュウが平気である訳がない。


「お前が落ち込む必要は無い。
お前の力を引き出せなかった私の責任だ」


「ミュウ~♪」


そう言い、ミュウの頭を撫でるとミュウはとても気持ち良さそうにしていた。
まるでその姿は顎を撫でられている猫の様だった。


「シンオウ地方での初めてのバトルとは
思えない良いバトルだったわね」


ガブリアスを回収し此方へと歩み寄るシロナ。
決して楽勝とは口にせず相手を褒め称えるその姿は彼女がポケモンに向ける慈愛の心に満ち溢れていた。


そして対峙すると同時に差し出されるシロナの右手。
それは誓いの握手。
何時かライバルとしてもう一度戦おう。
そんな心の奥底の願望が声となって聞こえてくる様だ。


「これ程充実したバトルは久しぶりだ。礼を言う」


そしてミュウツーも右手を伸ばす。
結果交わされる好敵手としての証の握手。
それはどんな誓いよりも重い意味を持つモノだった。


「――全ての命は別の命と出会い、何かを生み出す――」


「何かの言い伝えか?」


「ええ、私が調べている
シンオウ時空神話に纏わる言い伝えよ。
貴方には是非覚えていて欲しかったの」


「そうか…」


「名残惜しいけれど私はそろそろ失礼するわ」


「ああ。次は私が勝つ」


「フフッ。じゃあその時は
シンオウリーグ決勝で会いましょう」


去っていくその後ろ姿は何処までも凛々しく気高かった。
先程まで自分とポケモンバトルを繰り広げていた相手が如何に強大なのか。
決して自惚れていた訳では無いがミュウツーは己の未熟さを痛感するのだった。


「如何だったかな。彼女とのポケモンバトルは?」


「強かった。…私は嘗て
あれ程強いポケモントレーナーを見た事が無い」


「彼女も幼き頃は君と同じ様に只管強さを求めていた。
だが、戦いの中で学んだのであろう。
ポケモンとの絆が如何に大切なのかを」


「それがアイツの強さの起源という訳か」


持つべき強さの種類は真逆。
だがその過程は酷似していた。
ならば私も何時かはシロナの様な強さを手に入れる事が出来るのだろうか。


『――全ての命は別の命と出会い、何かを生み出す――』


彼女はそう言っていた。
その言葉を信じてみるのも悪くない。
そして何時か私の全てが別の生命へと受け継がれていく。


そうやって一つの命はまた別の命と接触し新たな何かを生み出していく。
それは世界で生きるあらゆる生命に共通するのだろう。
決して尽きる事は無く、無限に広がる可能性。
そう思うだけでも世界が如何に広いのかをミュウツーはその身で実感する。


「挑戦するのだな―――シンオウリーグに」


「ああ。私はどうやらアイツに魅せられた様だ」


初めて喫した敗北を胸に刻み込み、ミュウツーは彼女との再戦を誓う。
次こそは負けられない。
負けて終わるなど最強のポケモンと謳われたミュウツーのプライドが許さない。


「ならば私から言う事はもう何も無い。
君の旅に幸運を祈っているよ」


ミュウツーを見送るナナカマド博士と研究員達。
紆余曲折が予想される彼の旅の始まりを博士達は心から祝福し送り出すのだった。


「ミュウー! ミュウッ」


「次は必ず勝つ…か。頼もしい言葉だな」


「ミュウ~♪」


一人のトレーナーによって
更なる成長を見せるミュウツーとミュウ。
彼ら2匹の旅はまだ―――始まったばかりである。








あとがき


お待たせしました。3話投稿です。
流石シロナさんです。正直パネェです。
互いにライバルとして認め合った二人が今後どうなっていくか楽しみですね。
アニメのガブリアスもチート乙っていう位のデタラメっぷりですのでご了承を(笑)
シロナさんの言葉は何故か心に響きますね。
やはり彼女の慈愛がそうさせるのでしょうかね。
今後も『ミュウツーとミュウ』をよろしくお願いします
それでは!!



[40107] ミュウツーとミュウ (ポケモン) 第4話
Name: レガリア◆ed4aa8c2 ID:ea7dce0f
Date: 2014/08/16 07:33
「ふう…」


一息着きながら光り輝く太陽を含む空を見上げるのは先程まで激戦を繰り広げていた一人のポケモントレーナー。
私の名前はシロナ。
今はシンオウリーグチャンピオンをやっていると共にシンオウ時空伝説を調べている学者の一人でもある。


そんな私の前に現れた一人のポケモントレーナー。
それは唐突と言えば唐突な出会いだった。
私がポケモン神話について興味を持ち始めた切欠となったポケモンである『ミュウ』を連れていた。
しかもそのトレーナーはポケモンだった。
ポケモンがトレーナーを兼任するという前代未聞の異例の事態。
けれど私は不思議と疑問を抱かなかった。
ミュウを連れるそのトレーナーは私を納得させるだけの力を兼ね備えていたから。


彼の名前はミュウツー。
ミュウの睫毛の化石を元にどんなポケモンよりも強いという理想が
人間の手によって具現された結果この世界に生を受けたポケモン。
彼についての噂は各地の学者や研究員の間で広まっていた様で
私もカンナギタウンで博士をしているおばあちゃんからその資料を見せてもらった事がある。


思えばその時からだったろうか。
私がポケモンとの絆について深く理解を示す様になったのは。
嘗ては私もただ只管強さを求めていた。
ポケモンバトルに勝ちたかったから。
チャンピオンになりたかったから等理由は色々あった。
けれどシンオウリーグチャンピオンになってからそれは次第に変わっていった。
チャンピオンという名の下に敗北は許されない日々。
勿論ポケモンバトルが楽しくなくなった訳ではない。
けれど次第にただ純粋にポケモンバトルを楽しんでいたあの頃が懐かしく思えてきて。
そう思い始めるという事はリーグ挑戦を業務の様にこなしている今の日々に私は不満足なのかも知れない。


当然そんな内心を表には出さない。
私はポケモンが好きだから。
ポケモンを自分と同様に好きになってくれる沢山の挑戦者がポケモンバトルをしてくれる事が嬉しかったから。


それでも心の奥底で私は求めていたのかもしれない。
チャンピオンに長い年月をついて何処か虚しくなってしまった私の心を
満たしてくれるそんな強いポケモントレーナーが現れるのを。


そんな私の願いが叶えられたのか、ミュウツーは私の前に現れた。
彼にポケモンバトルを申し込まれた時は心の中で私は歓喜していた。
嘗てカントー地方最強のポケモントレーナーと噂された者の強さがどれ程なのか。
そしてミュウツーが連れていたポケモンであるミュウがどの様な戦い方をするのか。
彼との戦いの全てに興味が沸き、バトルの最中も楽しくて無我夢中だった。
まるでタイムスリップした感覚に陥った。
ポケモンという友達を手に入れて一喜一憂し、
そんな相棒とも呼べるポケモンとただ只管ポケモンバトルを楽しんでいたあの頃に。


「ライバル…か」


ミュウツーの事を考えながらポツリと私は呟く。
先程のバトルで気付けば私は彼の事をそう認識していた。
バトルの結果は私の圧勝だったが、そんな事は問題ではなかった。
あのバトルでミュウツーはミュウに『へんしん』を使わせていたのだ。
ポケモンとの絆の強さによってチャンピオンになった私の強さを理解したいが為に。
他に戦い方など山の様にあった筈、それこそ戦術次第では私は負けていたかもしれない。


ミュウは全てのポケモンの始まりとも呼ばれているポケモンである。
あらゆるポケモンの遺伝子を含み更に持ち前の高い知性から
あらゆるポケモンに姿を変える事もあらゆる技を使用する事も出来る。
そんなミュウの無限の可能性を最大限に引き出すのがミュウツーである。
ミュウの事を誰よりも理解している彼だからこそそれは可能となる芸当なのだろう。


けれどそんな山の様にある勝利の可能性をミュウツーは先のバトルで全て破棄したのだから私も内心驚愕していた。
ポケモンとの絆の強さを明確にするが為の同じステータス、同じ技を持つ同じポケモン同士のバトル。
ミュウは私のガブリアスに変身し、最後は私のガブリアスのドラゴンダイブが直撃し私の勝利。


きっとこのバトルを見ていた周りは私の圧勝だと感じていたのだろうか。
ミュウツーと戦っていた私は断じて違う答えを出していた。
圧勝? それはとんでもない勘違いという事を誰も理解していない。
近い将来ミュウツーはシンオウリーグを勝ち抜いて私の元までやってくる程の力を有している事に。


最強と呼ばれる力。
多くの技を使いこなし数多くの戦術を生み出す高い知性。
勝利する為に更なる力を求める飽く無き向上心。


彼が今後更なる成長を遂げる要因は十分にある。
そんな事実を前に不思議と喜びを隠せない私がいた。
遂に私も見つける事が出来たのだろう。
真のポケモントレーナーにとって必要不可欠な存在を。
切磋琢磨する事で互いの力を高め合う事が出来るライバルという友を。


「あー、チャンピオンがいるぞっ!」
「本当だ。こんな所でなにやってるんだろう」
「すごい、私初めて見た」


一体何時までそんな物思いに耽っていたのだろうか。
気付けば周りには私がいる噂を耳にした沢山のトレーナーで溢れ返っていた。


「一体どうしたんですかチャンピオン。こんな場所で」
「シロナさん何か物思いに耽ってたみたいですけど」
「もしかして彼氏ですかっ!? シロナさんにも気になる人が出来たとかっ!?」


思わず目を細める程の太陽の光が照りつけるこの晴天で物思いに耽る私を見て
周りのトレーナーは有らぬ誤解を招く話題で捲くし立て始める。
私がそういった恋愛関係に対してあまり興味を示していないのは既に周知の事実となってしまっているのが原因か。
隙有らばと言わんばかりにこういった恋話に話題を降ってくる者が最近は後を絶えなくなってしまっていた。
まぁ今回ばかりは誤解されても仕方ない事を考えていたのかもしれないのだけれど。


「フフッ、違うわよ。ただちょっと次のシンオウリーグ挑戦者について考えていただけだから」


「もうチャンピオンは次の挑戦者に目星がついてるんですか?」
「やっぱ四天王のゴヨウさんじゃないか?」
「いや、オーバさんの方が強いって」


現在のシンオウリーグ四天王であるエスパー使いのゴヨウと炎使いのオーバ
どちらも次のシンオウリーグチャンピオン挑戦者の筆頭と言われている。
だが、シロナが考えている挑戦者は全く別だった。


『お前には礼を言わなければならない。
お前のお陰で新たな一歩を踏み出す事が出来そうだ』


私とはまた別の強さで頂点へと辿り着いたミュウツー。
私の中の予想では彼以外の挑戦者は既に考えられなかった。


「チャンピオン何か嬉しそうですね」
「やっぱり気になる人の事を考えてるんじゃないんですか?」
「くっそー、チャンピオンに想い人が遂に出来ちゃったー!!」


私の表情を終始伺っているトレーナー達は再び恋話を振ろうとする。
何故年頃の子というのは此処まで恋愛話に興味を持つのだろうか。
私の事を周囲はよく才色兼備のチャンピオン、戦う女神などと呼称している。
そう呼ばれること事態は別に悪い気分ではない。
唯私自身そういった地位を余り鼻にかけたくなかった。
私も嘗ては唯の一人のポケモントレーナー。
それこそ何処にでもいるポケモンが好きな一人の少女に過ぎなかったのだから。
何時かは君達にも同じ高みに来ることが出来る。
人はそういった可能性を無限に秘めているのだ。
その当たり前を決して忘れずにポケモンとの絆を個性を大事にして欲しい。
それこそが私がチャンピオンとして貴方達ポケモントレーナーに唯一望んでいる事なのだから。


「っ!?」


そんな事を考えている時に数刻遮られる太陽の光。
今まで差し込まれていた太陽の光を遮ったのは一つの大きな影だった。


「何あれっ!? あれポケモンなのかっ!?」
「カッコいいー。何あのおっきなポケモン?」
「あのポケモン見た事ある。えっと確か――」


「―――ボーマンダ―――」


上空を見上げながら影の正体であるポケモンを見て私はその名前を口にした。


”ボーマンダ ”
タツベイの最終進化形態であり翼が欲しいと思い続けた結果体の細胞が突然を起こしたのだ。
その結果、見事な翼が生えたと言われるドラゴンポケモン。
その巨体から繰り出される桁外れのパワーはドラゴンタイプの中でも屈指の強さを誇っている程のポケモンである。
そして上空を飛ぶボーマンダの背中には一人のトレーナーが乗っていた。
果たしてその者をトレーナーとして認めてもよいのだろうか。


「アレは、――ポケモンハンターJッ!?」


”ポケモンハンター ”
それはポケモンを闇取引の材料として狩りをするシンオウ地方に限らず各地に出没している犯罪集団である。
希少価値の高いポケモン、依頼の有ったポケモンを他のトレーナーから独自の方法で奪っては高い金で売り捌くと云われる。
その悪名高き名は今でもシンオウ全土のポケモン達を脅かし現在各地で指名手配をされている。
だがポケモンハンターの居住として使用されている飛行艇は独自の改造が加えられている。
離陸後はその姿が見えなくなる為に警察でも追跡が困難を極めていた。
故に今警察が掴んでいるポケモンハンターの情報も謎の部分が大半なのだ。


そんなポケモンハンターを統括する一人のリーダーの名はJ。
その正体や経歴はポケモンハンター同様で全くの不明。
そんな完全なUNKNOUWNな彼女が使役するポケモンは並みのポケモンでは相手にすらならない程の強さを持つ。
それがポケモンハンターJを逮捕する事の難しさに繋がる要因の一つになっているのだ。


彼女が乗るボーマンダも当然その一匹である。


「皆は此処に居る様に。それから付近の巡査の人にポケモンハンターが現れた事を伝えてきて」


「「「わかりましたっ!!」」」


周囲に集まるトレーナーに指示を伝えると共に私はポケモンハンターJが飛んでいった方へと駆け出した。
きっとこれからポケモンハンターの魔の手によってポケモンがトレーナーから強奪されてしまう。
そんな事態を私は決して看過しておく事が出来なかったから。


「天空に舞え、ガブリアスッ!!」


「ガアアアアーー!!」


このままでは間に合わないと判断した私はガブリアスを先に現場に向かわせることにした。


「ガブリアス。貴方は先にポケモンハンターJの行方を追ってっ!」


「ガアッ!」


指示を受けると同時に即座にガブリアスはJの後を追うように飛んでいった。
私も急がなければならない。
ポケモントレーナーが自分のポケモンという唯一無二の友達を失ってしまう。
そんな悲劇を私の前で繰り広げる訳にはいかないから


「お願い、間に合って―――」


私が辿り着くまでどうか無事でいて―――。
必死に走りながら私は襲われるであろうポケモンの無事を祈っていた。









あとがき
皆さんお久しぶりです。レガリアです。
第4話投稿しました。
今回はシロナさんの話でした。
バトルが無いからか今回は短めでした。次こそは頑張ります!!
今作品ではシロナさんはメインヒロインの一人ですので彼女中心の話があっても良いかなと思いまして。
次回はシロナとポケモンハンターJのご対面です。
今回ミュウツー&ミュウの出番を期待していた方はスミマセン。
それでは!!





[40107] ミュウツーとミュウ (ポケモン) 第5話
Name: レガリア◆ed4aa8c2 ID:ea7dce0f
Date: 2014/09/24 22:39
森を抜けた先にある一つの高台。
その高台の辺り一面を覆い尽くす花が満開に咲いていた。


「今日もこの子達が綺麗な花を咲かせます様に」


全ての生物を祝福するかのような晴れやかな空。
大空に向かいながら優雅に咲く花を照らす太陽の光。
そんな快晴の中で私は祈りを捧げる様に花達に水を撒いている。


私の名前はティア。
マサゴタウンで暮らすポケモンコーディネーターを目指しているポケモントレーナーである。
今私が育てている花は亡くなってしまったお母さんが大切にしていた花であり、こうして毎日花達に水をやりに来るのが日課になっている。


「サーナッ」


少女と同じく両手を合わせながら祈りを捧げるのは彼女のポケモンであるサーナイト。
その純粋な姿は彼女の心の優しさを見事に体現していた。
たがそんな彼女の優雅な一時は脆くも崩れ去る事となってしまう。


「グワアアアアアアアアアッッ!!!」


突如上空より飛来してきた巨大なドラゴンポケモンであるボーマンダの出現によって。


「ターゲット、発見」


ボーマンダの背中に乗った女。
彼女こそ悪名高きポケモンハンターの首領であるポケモンハンターJその人であった。
両目を覆う計測器の様な機械を取り付けたJは少女のポケモンであるサーナイトに視線を向けながらそんな冷徹な一言を言い放つ。


「あ、あなたは……」


彼女もJの只ならぬ雰囲気を少しでも感じ取ったのか。
これから起こるであろう己の不幸に不安と恐怖を声色に滲ませていた。
獲物を射竦める独特の視線。
トレーナーにとって一番大切なポケモンを微塵の躊躇なく略奪する残忍さ。
その全てが彼女にとって今まで出会ってきたどんな人よりも異質に感じられていた。


「アリアドスッ!」


空高くに舞い上がったモンスターボールより繰り出されたのはアリアドス。
イトマルの進化系で蜘蛛の巣で動きを抑えてから持ち前の牙で敵を仕留めるという習性を持つ。
Jが繰り出したこのアリアドスもそんな敵の動きを抑える事が一番の目的なのだ。


「アリアドス、いとをはくっ!」


「アリアーーッ!!」


故に実践では余り見られない『いとをはく』攻撃による捕獲戦法。
Jにとってサーナイトのトレーナーであるこの彼女の存在は邪魔でしかない。
ならばこその捕獲攻撃による対象の無力化をJは真っ先に選択した。


「きゃあああああーーーっ!!」


彼女の体はアリアドスの『いとをはく』攻撃によって後方に聳え立つ一本の大木に縛り付けられてしまう。
その衝撃で身に着けていたモンスターボールも散乱する。
何とかしたいが厳重に縛られており最早自力での脱出は不可能だった。
同時に彼女は突然現れた人物がポケモンハンターだということを認識する。


幼い頃からマサゴタウンに住んでいた少女は飽くまで噂の上でポケモンハンターの存在を知っていた。
トレーナーからポケモンを奪う犯罪集団。
その話を聞いた時は心底震え上がった事を覚えている。


彼女は幼い頃からポケモンが大好きでサーナイトも彼女と生を共にしてきた親友である。
そんな大切な存在を奪うような人達がこのシンオウにいると知った当時はその不幸がいつか私にも降りかかるのではないかととても不安だった。


思えばその時からだっただろうか。
毎晩うなされる様に奇妙な夢を見る様になったのは。
夢の中に出てきたのは一度も見た覚えの無い女性。
夢の中で奪い去られていく私のポケモン。


何度も泣いた記憶がある。
友達を失ってしまう悲壮感と絶望感。
何より私一人になってしまうという孤独感。
幼かった私はその怖い夢を見る度に泣いていた。


そんな私の両隣で眠るサーナイトとキルリア。
特にキルリアは私と同じ様に泣きながら眠っていた。
悪夢にでも魘されていたのかもしれないが、不思議と私はそう思わなかった。


キルリアは持ち前のサイコパワーを操る事によって現実には無い風景を見る事が出来る。
また、私と同じくポケモンハンターの話を聞いていたキルリアも似たような恐怖を抱いていたのかもしれない。
飽くまでその結果は無意識であったが、潜在意識の奥深くに潜むポケモンンハンターへの強い恐怖がキルリアの力を引き出していた。
その光景は今なら断言出来る。
あの夢はキルリアのサイコパワーによって引き出された未来の光景なのだと。


「サーナイトお願いっ!! 逃げてっ!!」


もうあの時のような悲しみは二度と味わいたくない。
気付けば私はポケモンハンターに狙われているサーナイトにそう叫んでいた。


「サーナッ!!」


サーナイトも身の危険を感じ取ったのだろう。
私が言うと同時にテレポートを使用して瞬時にこの場を離脱した。


「テレポートを使ったか…。テレポート先をSENSINGする」


しかしJはサーナイトのテレポートに決して動じず、計測器にスイッチを入れる。
実際Jはサーナイトがこの場から離脱したとは微塵も思っていなかった。
ポケモンとはトレーナーとの信頼関係が高い程常に傍にいる事が多い。
それは今回の様なトレーナーの危機的状況であれば尚更である。
ならばサーナイトも自分のトレーナーが視認できる程の近距離にテレポートした可能性が非常に高い。
そんな今までの経験と判断からJは計測器のサーチ機能をフル稼働させながら周囲を隈なく見渡す。


「―――見つけた」


そして数秒の内に計測器はサーナイトのテレポート先を導き出す事に成功していた。
其処にサーナイトの姿は微塵も見当たらない。
だが計測器越しにはハッキリとテレポートで姿を隠すサーナイトを捉えていたのだ。


「感謝しろ。お前の美しさを永遠のモノにしてやる」


サーナイトの姿を捉えたJは右腕に取り付けている小型の光線発射装置を構える。
しかも装置から発射される光線には特殊な加工が施されており、光線を浴びた対象はまるで石化したかのように固まってしまう。
この装置を駆使してポケモンハンターはありとあらゆるポケモンを略奪しているのだ。
そして今宵、ポケモンハンターの魔の手により新たなポケモンが一匹トレーナーの手から略奪される。


「サーッ……。――――」


テレポートを解除したと同時に発射された光線をその身に浴びてしまったサーナイトの前身は完全に石化していた。
其処には全く生気を感じない変わり果てた一つの銅像だけが残される事となった。


「ターゲットを搬送しろ」


Jの指示と同時に現れる一台の大型車が石化したサーナイトが即座に回収していく。
その後大型車から降りてくるのはJの部下でざっと見ても10人以上いるだろう。
最早私にはどうする事も出来ない。



「サーナイト…、サーナイトーーーーッ!!!」


それは幼き頃の夢の再現だった。
キルリアが無意識の内に夢の中で見せてくれた未来の映像。
二度と思い出したくもない悪夢の様な惨状が現に目の前で繰り広げられていた。


私は名前を呼ぶことしか出来なかった。
あの夢がキルリアのサイコパワーによって映し出された未来の映像だとわかった時点でこうなる事は予想できた筈なのに。


しかし結果は何もできなかった。
家族であるサーナイトが奪われてしまうのを黙って見ている事しか出来なかった。


そんな私自身に対しての無力感なのか。
家族を失った事へ対する悲しみなのか。
私は唯只管慟哭の涙を流しながらサーナイトの名前を呼び続けていた。


無残な姿に変わり果ててしまった家族の名前を。


しかし私の呼び掛けは無常にも虚空へと虚しく響く。
その呼び掛けに応じる筈の者は――もう既に私の前から消えてしまったのだから。


「お前達は後始末をしておけ」


部下に一言通達を残すとJはボーマンダに飛び乗り早々にこの場を後にした。
そこに残されたのは大木に縛り上げられたテティアとJの部下一同のみ。


「さて……、お前の残りのポケモンも序でにいただいておくとしよう」


残された部下が私を一瞥した後に辺りに散らばるモンスターボールを回収しようと手を伸ばす。


もうこれ以上家族がいなくなるのを見たくない。
これ以上大切な存在を失う事が堪らなく嫌だ。


―――助けて―――


「―――やめて………」


―――誰でもいいから―――


「やめてっ!」


―――お願いだから―――


「やめてええええええーーーーーーーーっ!!!!!!」












「ガアアアアアーーーーーッ!!!」










それは誰の仕業だったのだろう。
それとも私の願いが叶えられたのか。
大空より急降下してきた一体のポケモンが私を守るようにポケモンハンター達の前に立ちはだかっていた。


「なっ、何故こんな所にガブリアスがいるっ!?」


「調査では全く報告されていないポケモンだぞっ!!」


ポケモンハンター達は予想外の敵に対して明らかな動揺の様子を見せていた。
しかしそれも無理はない。


これ程のポケモンがこの近辺に生息しているという報告は一切無く、近隣のトレーナーが所持しているポケモンのデータの一覧にもガブリアスのデータは存在していなかったのだから。


完全に想定外のポケモンの出現。
その上目の前に立ちはだかるこのガブリアスは只ならぬ敵意をポケモンハンターに対して向けていた。
その威圧感は並大抵のトレーナーならそれだけで戦意喪失してしまう程の迫力を醸し出している。


「ガアッ!!」


突如私の方へと振り返るガブリアス。
そして次の瞬間には片腕を空高く振り上げ―――


「ガブリアス、ドラゴンクロウッ!」


この場を支配する第三者の声によりその巨大な腕が振り下ろされた。


「っ!」


眼前に振り下ろされる恐怖に私は思わず目を瞑る。
そして次の瞬間には私を拘束していた何重もの糸がバラバラに切り刻まれて紙吹雪の様に宙を舞っていた。


「どうやら危機一髪といった感じね」


私は誰ともわからない声の主の方へと視線を向ける。
それはポケモンハンターも同様で突然の救援者に若干の苛立ちを滲ませながら
声の主の方へと振り返る。


そこには


「あ……あなたは―――」


このシンオウ地方に身を寄せるトレーナーならその名を知らぬものはいないと言っても決して過言ではない。
そんな雲の上の存在である人物。


「―――チャンピオンっ!?」


シンオウリーグチャンピオン。
それが彼女の現在の肩書きである。
その実力は数多のポケモントレーナーから尊敬され憧れの眼差しを向けられる程に強い。


「もう大丈夫よ。あとは私に任せて」


子供を諭すように優しく言い聞かすシロナ。
だがティアはそのまま素直に引き下がる訳にはいかなかった。


「でも、私のサーナイトが……」


涙を滲ませながらのティアの一言でシロナは全てを察知した。
そう、ポケモンハンターにとっての本来の目的は既に遂げられた後だったのだ。
現在の状況は後始末の段階である。


「ごめんなさい。もう少し私が早く駆けつけていればこんな事にはならなかったのに」


タイミングとしては完全に後の祭りという間の悪い事を理解したシロナは力が及ばなかった自分の不甲斐なさを悔いるように謝罪していた.


「でも大丈夫。あなたのポケモンは絶対に無事だから」


そうティアに諭すシロナの表情は絶対的自信に充ち溢れていた。


「えっ、どうしてですか……?」


この危機的状況で何故こうも自信満々でいられるのか。
決してチャンピオンの実力を疑っている訳ではなかった。
それでも芳しくないこの現状を前にしては疑問に思わざるを得ない。
しかしシロナの続く言葉に私は不安を抱く事を無意識の内に中断させられていた。


「―――私の”ライバル”が既に救出に向かっているから」








時は少し前に遡る。


「お願い―――間に合って」


シロナがポケモンハンターJの追跡に向かっていた時である。


「どうやら緊急事態の様だな。救援は必要か?」


「ッ!?」


突如背後より聞こえてきた声にシロナは驚き足を止めて振り返る。
そこには先程まで熱いポケモンバトルを繰り広げた一人のトレーナーの姿があった。


「ミュウツー…。何故此処に。それにミュウはどうしたの?」


「ミュウはポケモンセンターに預けてきた。バトル後の応急処置は済んでいたが念のためにな」


次から次へと湧き出てくる疑問だがミュウツーは慌てる事無く一つ一つ疑問を解消していった。


「そしてポケモンセンターを出た途端に頭上を通り過ぎるボーマンダの姿が見えたのでな。
 気になって後を追っていたらお前の姿が見えてな。声をかけた訳だが…」


自体が逼迫している事はシロナの顔を見れば火を見るより明らかであった。
逆に言えばそれほどまでに焦らなければならない何かが起きているという事だ。
ならば言葉を交わしている時間が今は惜しい。
一刻も早くその何かが起こっている現場に駆けつけなければならない。


「どうやら何か良からぬ事態が発生している様だな」


「ええ。貴方は初耳かもしれないけどポケモンハンターJが現れたの」


「ポケモンハンターJというのは?」


「シンオウ地方で目撃されていうポケモンをトレーナーから奪ったり、野生のポケモンを捕らえては商品として売りつけている犯罪集団よ」


「………そうか」


ポケモンハンターの話を聞いたミュウツーの顔はどこか沈んでいる様にも見えた。
決して気のせいではないだろう。




――思えばあの時の私も、そうだったな――




そう、事実ミュウツーは遠い過去を思い出していた。
人間に対して逆襲を誓ったあの頃の事を。






『ポケモンがポケモントレーナーッ!? バカなっ!!』


『人のポケモンを取る気なのっ!?』


『やめろっ!! そんなの反則だっ!!』


『何なの―――この闘いは……。本物だって、コピーだって、今を生きている』


『やめろっ! もうやめてくれーーっ!! やめろーーーーーーっ!!!』






繰り広げられた数々の破壊と略奪。
それは最早ポケモンバトルと呼ぶには程遠い力による暴力だった。
慈悲も何も無くトレーナーの前から奪い去られていく数々のポケモン。
ミュウとミュウツーの本物とコピーの存在意義を掛けた熾烈な闘い。
思わず目を背けたくなる惨状。


ミュウツーはそんな過去の自分と重ねて考えていたのだ。
只管力に任せて人間へ逆襲の為に破壊と略奪を繰り返していたあの頃の自分を。


「今は長々と話している時間は無いわ。一刻も早く現場に駆けつけないと」


過去を振り返るミュウツーだがシロナの一言で意識が現実へと引き戻される。
そう、今時分が成すべき事は過去を振り返る事では無い。
今時分と同じ過ちを犯そうとしているポケモンハンターを食い止める事なのだから。


そんな現場へ向かう2人の足は遥か前方の上空へと再び飛び立ったボーマンダの姿を視認する事で静止していた。
大型のトレーラーが入れ違いのタイミングで現場へ向かう所が少々遠いが現時点でも確認できる事から最悪の展開もある事が容易に想像できる。


「ミュウツー。貴方はJの行方を追って」


「お前はどうするのだ?」


「私はこの先の現場に駆けつけるわ。妙な胸騒ぎがするから」


「……わかった」


色々と気になる事はあるが、今は話を深めている時間はない。
何か考えがあってのことだろうと判断したミュウツーはシロナの命令通りにJの後を追うべく上空へと飛び立ち去っていった。
そんな飛び去ったミュウツーの方角を遠い目で見詰めながらシロナは静かに呟く。


「……ごめんなさいミュウツー。重荷を押し付ける様な真似をして。
 でも他でもない貴方なら―――彼女を救う事が出来るかも知れないから」















あとがき

皆様お久しぶりです。レガリアです。
大変長らくお待たせいたしました。第5話投稿しました。
今回はアニメから一人モブをヒロインとして昇格し登場させてみました。
設定や名前はオリジナルです。
気になる方はアニメの方を一度確認してみてください。
投稿が遅れてしまい申し訳ございませんでした。
それではっ!!



[40107] ミュウツーとミュウ (ポケモン) 第6話
Name: レガリア◆ed4aa8c2 ID:ea7dce0f
Date: 2014/10/06 00:13

ポケモンハンターに襲撃された高台遥か上空にて浮遊する飛行艇。
地上の辺り一面が見渡せる操縦席へと戻ってきたのは先程までターゲット捕獲へと出陣していたJ。
ハンターの中でもリーダーであるJは部下達からは常に尊敬と羨望の眼差しで見られていた。
圧倒的な強さと多くの部下を纏め上げるその圧倒的なカリスマ。
その絶対的な悪の存在に惹かれた者は決して少なくない。


だがJのJ足る所以はそこではなかった。
悪にとって必要不可欠な要素である非情の心。
時には仲間すらも切り捨てる程の冷酷非道な精神を持ち合わせた心こそがJの最大の強さである。


「「「「J様。お疲れ様ですっ!!」」」」


「次の依頼はどうなっている?」


「カントー地方からロケット団最高幹部様よりアブソル捕獲の依頼が入っています」


「……わかった……」


「…J様?」


必要最低限しか交わさないいつもの会話。
だが部下からはJの表情が少しだけ浮かないように見えたのだ。
らしくない一面を目の当たりにした事を疑問に思ったのか。
部下達は気付けば主を心配そうな目で見ていた。


だがJにしてみればそれは堪らなく苦痛でもあった。
自分より弱い存在に同情や情けの類を向けられている事自体がJにとっては自分を侮辱されている事に他ならなかったからだ。
それほどまでにJはプライドが高く、そんな所も部下が惹きつけられている要因の一つでもあるのだろう。


「何でもない。アブソルの捕獲に向かう」


「目標ポイントに向けて既に移動を開始しています」


「それから取引相手に連絡しておけ。今日中に商品を受け渡すとな」


「了解しました」


この飛行艇内にとって最早日常になったやり取り。
そんな日常ともいえる一時を変えたのは突如飛行艇を襲った巨大な振動だった。


「J様。最下層閉鎖室から地響きが発生していますっ!!」


「またアイツか……。気にするな、放っておけ」


「は…はい…。しかしJ様。何故あのポケモンを固めずに放置しておられるのですか?」


「気にするなと言った筈だ。三度目は無いぞ」


「もっ、申し訳ありませんっ!!」


閉鎖室に監禁しているポケモンが起こしている地響きは何も今回に限った話ではない。
Jがそのポケモンを捕獲して以来、度々この飛行艇全体が揺れる地響きが発生しているのだ。
今でこそ地響きの頻度もなりを潜めているが、監禁した当初はその余りの頻度に飛行艇が墜落しかけた事も何度も存在した。
そんな危険分子をJは何故放置し続けているのか部下達は理解出来ない。
この飛行艇は自分達にとって必要不可欠とも言うべき移動手段なのだ。
地上でポケモンハンターの行方を追う警察の連中からの目を欺くステルス機能を持つこの飛行艇を失う事はポケモンハンター達にとっては致命傷だ。
最悪取引相手との信頼関係が崩壊し、商売としての息の根が完全に止まってしまう事も十分に有り得る。
そして部下達が更に疑問に思っていたのがそんな危険を背負ってまで捕獲する程のポケモンにも拘わらず、通常通りに石化させる事も無く閉鎖室に監禁している事だった。
一体何の為にこんな事を。
そんな部下たちの疑問や不安が心の声となって聞こえてくる様な状態であるが、Jは何処吹く風といった様子で監禁室のカメラ映像をモニターで注視し始めた。


映し出されたのは一匹のポケモン。
その手足には頑丈な鎖に繋がれた錠が嵌められており、完全にそのポケモンの動きを封じていた。
しかも拘束しているその錠にはポケモンの力を封じる特別な加工が施されている。
これによって拘束されたポケモンは自らが持つ力の殆どが封じられて技も出す事が出来なくなってしまう。
また鎖には電気が流れる仕組みになっていて、少ない力を振り絞り力づくで脱出を試みるポケモンへの予防対策となる。


正に万全の対策。
通常はこれ程の拘束具に張り付けにされた時点に完全に詰んでいる。


だが、モニターに映し出されたそのポケモンは余りに異例だった。


死んでしまわない様に最低限の食事を与えているとはいえ、精神には微塵も乱れが存在しない。
そのポケモンの格好は正に瞑想という言葉が相応しかった。
四肢を拘束された上で只管精神を集中させている。
そして時折動きに反応を見せたと思えば次の瞬間には途轍もない衝撃波がその部屋全体を襲うのだ。


そう、それは言うなれば波動。
ポケモンならば誰もが持つであろう生命エネルギー。
見るからに衰弱したそのポケモンはそんな不思議な力を見事に使いこなしていた。
それこそ誰の目にも明らかに見えてしまうほどに。


Jは初めてこの波動を見た時に心を奪われた事がある。
それは何処までも澄んでおり綺麗だった。
まるでポケモンの魂の色が具現化しているのではないかと錯覚するが、後にそれが波動という生命エネルギーと知った時に私は喚起した。
同時にそんな未知の力を使いこなす目の前のポケモンの強さに魅せられた。
このポケモンを自分のモノにしたい。
絶対的な力を誇るこのポケモンを私の手で絶対に服従させてみせる。
波動の力に見せられたJはその時からそのポケモンを閉鎖室へ監禁する事を決めていた。


思えばその頃だった。
ポケモンが持つ強さについて感心を持つようになり始めたのは。
その時の捕獲はいつもの獲物とは違い、多大な苦戦を強いられた。
普段なら苦も無く達成する捕獲もこの時だけは違ったのだ。


手持ちのポケモンは殆どが瀕死の状態に陥り、唯一生き残ったボーマンダも満身創痍の状態に陥った。
それだけの犠牲を支払う事で初めて倒す事が出来た。
初めての苦戦、初めての強敵にJは思わぬ苦渋を舐める結果となる。
無論結果はJの勝利に違いない。
だが、それはJからしてみれば不覚以外の何者でもなかった。


伝説のポケモンでもない。
幻のポケモンでもない。
世界中で見かけるであろう何の変哲の無いポケモン一匹にここまでの苦戦を強いられた事がJのプライドを傷つけたのだ。


二度とあのような醜態は晒さない。
その上で私に屈辱を味あわせてくれたあのポケモンを私のモノとしてみせる。


そう、これはJと監禁されているポケモンとの意地と誇りを賭けた一つの勝負だった。
ポケモンが制するのか。Jが制するのか。
その行方は正に神のみぞ知る結果となるだろう。


「様子は相変わらずか」


「ハイ。それからJ様にお渡しする物がありましてですね」


「私にか?」


「こちらになります」


そう言い、部下から渡されたのは光り輝く一つの腕輪だった。


「…これは?」


「いえ、私共にもよくわからないのですが。奴が填めていたその腕輪を気にしていた様子でしたので一応J様にお渡ししようと思いまして」


「……フム、その時奴はコレについて何か言っていたか?」


「うわ言の様に何かを呟いていましたが。確か……『コルニ』と。一体何の事か見当も付きません」


「そうか。ご苦労だった。下がれ」


「ハッ!」


Jに一礼すると部下は足早にその場を後にした。
同時にモニター画面に意識を戻し、拘束されているポケモンを観察する。


「必ずお前を私のポケモンにしてやる。待っていろ――――『ルカリオ』」









飛行艇最下層閉鎖室。
現在そこは廃墟と化していた。
原因はもちろんルカリオが起こした地響きである。


元々囚人を繋ぎ止めておくような部屋で手入れも碌にされていなかったのだが、現在はそれすらも気にならなくなる程の酷い参上だった。
ルカリオが背にしていた側の壁は所々が陥没し、クレーター状に幾つもの穴が開いている。
また床もルカリオの足元を中心に巨大な亀裂が走っていた。


そして極めつけは部屋の所々に飛び散った夥しい程の血痕だ。
その殆どは拘束されているルカリオ自身のものであり、現在生きているのが不思議な程の出血量でもある。
しかし現実としてルカリオは生きている。
正に風前の灯という瀕死の状態で。


「…………どう……やら……、……限界……か………」


モニター越しではわからなかったがすでに体力も限界を向かえ、ルカリオは気力で何とか意識を保っている状態である。
このまま放って置けばあと1日持つかどうかという感じだ。


既に持てる力は全て使い果たし、もう持ち前の波動を使いこなす事もままならない。
このままならば死は確実。
ルカリオ自身も現在の状態に陥り己が辿るであろう運命を悟り始める。


だが不思議と後悔は無かった。
もし、このままJに死ぬまで使い回される位ならばいっそこの場で死を選ぶ。
それがルカリオの決断だった。


そしてルカリオがこの決断に至った要因はもう一つ存在した。


「……コレとも…、ようやく……オサラバ出来るな……」


ふと自分の首の根元に視線を下げる。
そこには自分の体に埋め込まれた一つの石が光り輝いている。


それはルカリオの人生そのものと言っても差し支えない物だった。
名前は公には公表されていない。
それでも周りの一部の人がこの石をこう呼んでいた事はよく覚えている。


――メガストーン――


何でも特定のポケモンの真の力を引き出すものだという。
未知の可能性を秘めたこの石に対してあらゆる観点からの研究が行われた。


どのような条件で真価を発揮するものなのか。
この道具の効果、需要、価値、それこそ一から十まで隅々の可能性が検証された。


ルカリオもそんな中での実験ポケモンとして使われたのだ。
無論ルカリオがそんな事を望む筈も無かったが、無闇に拒絶し自分の家族ともいえるトレーナーに危害が加えられる事だけは避けたかった。


「……済まない……、……コルニ……」


もう二度と会う事の無いだろう生き別れた家族の顔がふと頭を過ぎる。
彼女の故郷であるカロス地方のシャラシティ。
何でもこのシャラシティにはある秘密が隠されており、コルニもこの秘密に関して何かを知っている様子だった。
気になって一度聞いた事もあったのだが、その時はなんやかんやで有耶無耶にされてしまいルカリオがその秘密について知る事は無かった。


だが、彼女の元を離れて研究施設に閉じ込められてからルカリオはその真相を知る事になる。
”メガシンカ”
それが隠されていた秘密の正体だった。


聞き慣れない単語に当初は首を傾げたが、今では一部の者にだけその正体は明らかにされていた。


それはポケモンの潜在能力を一時的に最高値まで高める正に次世代のポケモン達の可能性を秘めた発見でもあった。
メガストーンとキーストーンが填め込まれたメガリングを共鳴させる事で起こる進化現象の一つ。
その強さは余りにも強大だが、ポケモンにかかる負担も生半可なものではなく一度のバトルでメガシンカは一回出来るか出来ないかという結論が出されたほどである。


その鍵となる二つの道具も未だに入手経路が明らかになっておらず、その所有数の希少さから突然変異の一種ではないかとの噂も出回った位だ。
入手の困難、実例の少なさなどからこの”メガシンカ”に関してはデタラメという意見と真実という意見が二つに分かれ、結局信憑性が失われたままなのである。


しかし、それも最近になってコルニのシャラシティにメガシンカの秘密が隠されているという情報が何処からか流れ出し、その情報源を元に研究が再び進み始めたのだ。
そして遂に昨今このメガシンカが実用性に至る事が一部の研究者の間で発表された。
だが現実としては入手困難な事からまだこのメガシンカを起こすメガストーン及びメガリングの需要増加には至っておらず、殆どの者はこのメガシンカの存在自体を知らないのだが。


「…………?」


朦朧とする意識の中、ルカリオを含む部屋全体を突然地震が襲った。


しかしこれはルカリオ本人にしてみれば今までは自分自身がこの地響きを起こしていた為、自分以外が起こしているこの地震の発生については全く心当たりが無い。
そして何度も発生する地震の最中にルカリオは少しずつだが近づいてくる一つの波動に気が付く事になる。


それは異様という他無かった。
今までに感じた事が無い位の波動の強さだった。
ルカリオも今まで数々の戦いを潜り抜けてきた歴戦のポケモンであったが、ここまで強い波動は一度も感じた事は無かった。


だが不思議と不安や恐怖は沸いて来ない。
これ程までに強大な力を持つ何かが近づいてきているというのに気がつけばそれを唯一の希望とする自分がいる。


「何が起こっているっ!?」


「どうやら侵入者がいるらしい。早速向かうぞっ!!」


「おい、急げっ!!」


入り口の向こうが騒がしくなり幾つもの足音が駆け抜ける。
どうやら侵入者の仕業らしい。


一体何者なのだろうか。


この地震の発生源が知らない侵入者だと知った時にルカリオは慢心相違の体で一つの好奇心に捕らわれていた。


遠ざかっていく足音に比例して徐々に静かになる艇内。
そして時間が経つにつれ、強い波動が間違いなく近づいてきている。


一体どれ程の時間が経ったのだろうか。
時間にしてみれば数分も経っていないのだが、不思議と長く感じてしまうこの静寂。
閉鎖室に閉じ込められてから何度も感じたこの孤独感。


それはどこまでも冷たくとても耐えられるものではなかったが、もうそんな事がルカリオにとってどうでも良かった。


静寂の中に一つだけ存在した近づいてくる微かな足音にルカリオの全神経は向けられているのだ。
それが人間の足音では無いことはルカリオは瞬時に理解すると同時に問題の足音が入り口の扉の前で停止した。


そして次の瞬間だった。


強固な閉鎖室の扉が唐突な爆発によって吹き飛ばされる。


「っ!?」


まるで打ち捨てられたボロボロの木材の様に宙を舞い粉々になってしまった扉。
爆発から発生した砂塵の中に確認できる一つの影。


それはポケモンなのだろうか。


「…………誰だ…………?」


謎の影にルカリオは一言問い掛ける。
答えが返ってくるかどうかも定かでは無いが聞かずにいられなかった。


Jでは無く部下でも無い。


果たして自分にとって目の前の存在は敵なのか、味方なのか。
そんな事を考えている中、謎の影が己を包み込む何かを振り払うか如く静かに言い放った。


「……私の名は、『ミュウツー』」









ポケモンハンターの飛行艇内に見事潜り込んだミュウツー。
しかし艇内は予想以上に広く一つ一つの部屋を虱潰しに探さざるを得ない。
だがミュウツーの能力をもってすれば全てを虱潰しに探し回る必要は無かった。


固められているポケモンも死んでいる訳では無い。
確かに見た目は何の反応も示さないが、その状態でも生命エネルギーである波動は発生しているのだ。
ミュウツーも波動を感じ取る事が出来る数少ない存在の一つである為、ポケモンの波動の痕跡を辿る事である程度の捜索短縮が出来る。


だが間も無くミュウツーは己が犯している致命的な一つの失態に気付く。


そう、肝心の救出するポケモンが何なのかがわからないのだ。


シロナから肝心の救出するポケモンについて聞き忘れていたミュウツーはどうしたものかと思案していたが、考えていても埒が明かないと察したのか捜索を開始する。
いざとなれば捕獲されている全てのポケモンを連れてこればいいだけの話なのだから。


しかし先程から感じられる波動は微細な為、痕跡を掴むのがミュウツーでも困難を極めていた。
寧ろ艇内を歩き回る度に現れるポケモンハンターの部下がミュウツーの行く手を遮っている事も捜索が捗らない原因の一つになっている。


だがそんな部下にミュウツーをどうこう出来る筈も無くポケモンバトルが始まって間も無く決着がついてしまっているのだが、それでも塵も積もれば山となる。
先程から天井知れずに沸いてくる部下にミュウツーは苛立ちを徐々に見せ始めていた。


そして遂にその苛立ちが臨界点を超えたのか。


ミュウツーは己が力の一部を目の前の部下達の前で披露してしまう。


それは最早阿鼻叫喚であった。
ミュウツーの周囲を取り囲んでいた数十体のゴルバットは完全に気絶している。
その上目の前に立ちはだかっていた部下達はミュウツーの圧倒的な力の前に恐怖の余りに腰を抜かしていた。


やってしまったと後悔するミュウツーだがそれも一瞬で次の瞬間には普段の無表情に戻り周りの部下を気にも掛けずに捜索を再開する。
その中でミュウツーは感じ取れる波動の中で一つだけ妙な波動を感じ取っていた。


その波動のみ、他の波動と比べて先程から急激な変化を現しているのだ。
数多く感じ取れる波動の中でも時に大きくなったり小さくなったりと絶え間無く変化してるのは一つだけなのでより一層目立っていた。


他に当ても無く、激しく変化する波動を目印に捜索を始めるミュウツー。
僅かずつだが波動の発生源が近づいていく。
時折邪魔な部下が妨害に現れるがそんなのは物の数では無い。


邪魔な虫を払うが如く外敵を排除しつつ目的の場所へと近づいていく。
そして遂に波動の発生源と思わしき部屋の前まで辿り着いた。


強固な扉の中から確かに感じる一つの波動。
間違いなく何かがこの中にポケモンがいる。


そう確信したミュウツーは意識を集中させて念動力を扉に送り込む。


”サイコキネシス”


ミュウツーの最も得意とするエスパー技の一つでもあるこの技はあくタイプのポケモンを除くあらゆる物に対して有効であり、その圧倒的な念動力は強固な扉をまるで粘土の様に捻じ曲げていく。
そして頃合を見計らいミュウツーは右手に力を集約させて邪悪な球体を作り出す。


”シャドーボール”


ゴーストタイプの技でこれもミュウツーの得意とする技の一つである。
遠距離攻撃も出来て連射も可能という使いやすさで注目している技なのだが、それはあくまで膨大な力を宿すミュウツーだから出来る芸当だ。
並みのポケモンが同じ事をすればあっという間に力を使い果たしてしまうだろう。


以上の二つの技を使う事で扉は跡形も無く吹き飛んでいた。
明らかになる室内。
その部屋の奥に監禁されている一匹のポケモン。


ナナカマド博士にポケモン図鑑を渡された時にシンオウのポケモンについて一通り情報に目を通していたミュウツーは目の前のポケモンがルカリオだと理解する。
しかしそのルカリオは図鑑で見た姿とは異なる部分が存在した。


一つは体の一部が微妙に違っていた。
正確に言えば体の一部に通常のルカリオには無い赤い模様が見られ、髪の毛であろう部分も通常よりも長い。


そしてもう一つ気になる部分があった。
実際ミュウツーが一番初めに気が付いたのもこの部分である。


それはルカリオの目と首の部分だった。


眼の前のルカリオの両目には夥しい傷跡が見られた。
両目をずっと閉じているのもその時の後遺症で目が見えなくなってしまったのだろう。


ルカリオの首の根元で光り輝く一つの石。


それはどこまでも清んだ輝きを放っており、夜空に光り輝く星の如く綺麗な色をしている。


「…………誰だ…………?」


目が見えないであろうルカリオは此方の気配を感じ取ったのか。
衰弱し切った体を僅かに起こしてミュウツーに問いを投げる。


その仕草一つを見ていても目の前のルカリオがどれ程瀕死の状態かは瞬時に理解できた。
そう判断したミュウツーは端的に、そして静かに自分の名前を口にする。


「……私の名は、『ミュウツー』」


ポケモンハンターJとの接触により、決して出会う事の無かったルカリオとミュウツーの出会い。


今宵はその序章の幕開けに過ぎなかった。

















あとがき
皆さんお久しぶりです。レガリアです。
第6話投稿しました。
このルカリオは盲目&常時メガシンカという鬼畜仕様になっております。
コルニの登場は当分先です。期待した方は失礼しました。
それでもしっかり登場はしますよー!
何故常時メガシンカなのかはこれからの話で明かされます。
それではっ!!


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