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[40132] ヴァンドレッドに男オリ主を突っ込んでみた
Name: TRUST◆53d8d844 ID:7bdaaa14
Date: 2014/07/04 23:32
見渡す限りどこまでの続く広大な宇宙。そのままウィンドウ越しに辺りの宙域に目を向ける。飛び出してしまえばどこにでも行けるのではないかという魅力と同時に迷えば決して戻ってはこれないであろう不安。

それから眼を逸らすようにコクピットにある自らを映す鏡に顔を向ける。そこには変わることない自分の顔が映っている。

肩にまでかかる長い黒髪。男から見れば少女に、女から見れば少年に見えるような中性的な顔立ち。日など浴びたことがないかのような美しい白い肌。極めつけがその両眼。右が赤、左が碧のオッドアイ。悪い冗談、作り物なのではないかと思ってしまうような容姿。コンプレックスの塊。

だがそれはまだいい。どんなに悩んだところで容姿は変えられない。女に間違われるのも百歩譲って我慢しよう。だがどうしても譲れない一線はある。声を大にして宇宙の中心で叫びたい。俺は断じて――――


「何をしているアスマ。準備はできているのか」


思わず心の叫びを漏らしそうになるも寸でのところで抑え込む。目の前には新しいウィンドウがいつの間にか開かれ、白いボディスーツを着た蒼い髪の少女が映っている。

メイア・ギズボーン。

間違いなく美少女といってもいい容姿なのだがそれを補って余りある近寄り難さがある。クールで無口な性格なのは構わないが勝手に通信を開いてくるのは勘弁してほしい。もっともそうしてしまうほど俺がぼうっとしていたせいもあるのかもしれないが。


「ああ、こっちも準備完了だ。付いて行くよ、『リーダー』」


普段なら名前で呼ぶのだが精一杯の嫌味を込めてそう告げる。


「……帰ったら説教は覚悟しておけ、テリアン」


こちらの意図が伝わったのか、僅かに顔をしかめながらメイアは通信を切ってしまう。お返しとばかりに名字で呼んでくるあたり分かりやすい性格と言えば性格。少しは可愛げがあればいいものをと思うが、可愛げがあるメイアを想像して怖気が走る。宇宙人さ~ん、と叫びながら迫ってくるメイア。うん、ありえない。夢に出てきそうなのでこれ以上考えるのは止めよう。

そうこうしている間に画像は見えないものの辺りの通信が聞こえてくる。きゃいきゃいとどこか楽しげな甲高い女達の声。まるでお茶会でもしているかのよう。とてもこれから命をかけた戦いをするとは思えない空気。慣れたはずの空気だがやはり呆気にとられる。もしかしたら自分の方がおかしいのではと勘繰ってしまう。

溜息を吐く間もなくアラートが鳴り響く。どうやらおいでなすったらしい。宇宙にそれまでなかったはずの赤い無数の点が見える。その一つ一つが機動兵器であり自分達を狙う敵。無機質なキューブ状の物体。

『刈り取り』と呼ばれる行為を行うための機械。



「――――全機発進。私に続け!」

「ラジャー!!」
「……了解」


メイアの号令に応えるように女達の声が木霊する中、一つだけ男の自分の声が混じる……こともなくかき消される。だがそれは仕方ない。

150 :4 

それが俺が所属、もとい暮らしている戦艦ニル・ヴァーナの男女比率。どちらがどちらなのか語るまでもない。どんなに抗っても抗えない、冗談だとしか思えない理想郷。

それを守るための『戦闘』が今、開始された――――



「やっぱ速いな……ここら辺でいいか」


操縦桿を握りながらブーストを反転させ急停止する。十メートル程はあろうかという黒い人型兵器、ロボット。正式名称九十九式蛮型撲撃機。現在の名称は『リアガード』本来の規格、性能からはかけ離れてしまっている特機。何故そんなことになっているかは……長くなるので割愛。重要なことは一つだけ。この機体が俺の手足であり、鎧であるということ。

そのまま体勢を整えながら戦況を確認する。自分と同時に出撃したはずの三つの機体は既に戦闘を開始している。圧倒的な機動力の差。それが女達の、メイアたちが乗っているドレッドノートと呼ばれる戦闘機の実力。三十メートルを超える規格でありながらその機動力はリアガードを大きく上回る。

白、蒼、紅。

三つのドレッドが縦横無尽に駆け回り、キューブを撃破していく。花火が上がるような閃光と共に瞬く間に戦局は流れていく。圧倒的な優勢。敵も黙ってやられているわけではない。ある物は光線を、ある物は取りつくことでドレッドを破壊しようとするが全て通用しない。迎撃され、回避され、蹂躙される。

数の上では戦力差は十倍以上。にも関わらずこの現実。戦いは量よりも質だと証明するかのよう。もっともこの程度の戦力差など自分達にとっては日常茶飯事。

そこには先程まで和気あいあいとおしゃべりしていた女達の姿はない。間違いなく彼女達は『海賊』であると思い出すに十分な光景だった。


「えげつねえな……」
「何をしている! そっちに三機抜けた、迎撃しろ!」


心からの本音を漏らしながらもメイアの叱責によって身体が竦む。思わず本音を聞かれたのかと思ったがそうではなかったらしい。レーダーに機影が映り、同時にメインモニターにも表示される。三機のキューブ。いくらメイア達が精鋭だとはいえその全てを抑えるのは至難の業。加えて敵の狙いはドレッドだけではない。その本命は自分の後方に控えている戦艦ニル・ヴァーナ。それが落されれば詰み。いわば王将であり自分達はそれを守る駒。


「さてと……それじゃいくか、相棒!」


誰かの影響によって自分の機体を相棒呼ばわりしながら攻撃態勢に移る。アイライトが赤く光ると同時に背中にしまわれていた二本の巨大な砲身が両肩に接続される。リア・キャノンと呼ばれるこの機体の主兵装。それが示す通り、この機体は射撃に特化している。近接兵装は全くなし。それ故に鈍足でドレッドと共に行動することはできない。だからこそ後衛、殿を守ることが自分の役目。『リアガード』の名を示す在り方。


「発射――――!!」


ロックオンを確認したと同時にリア・キャノンから二つの光が放たれる。赤と青のエネルギーが直進するも感知したのかキューブ達は軌道を変え、砲撃を回避せんとする。しかしそれは叶わない。まるで追い縋るようにビームは軌道を曲げながら外れることなく二機のキューブを射抜き爆散させる。ホーミングというインチキ臭い性能を持ったリア・キャノンの為せる技。だが


「っ!? しまった!」


着弾の煙に紛れて残った三機目がすりぬけそのままニル・ヴァーナまで攻撃を仕掛けようとしている。どうやら仲間を盾にして上手く攻撃を逃れたらしい。すぐさまキャノンで追撃せんとするも叶わない。キャノンは強力ではあるが発射には数秒のインターバルが必要になる。


「おいおいおい! なにやってんだよアスマ!? このままじゃこっちに来ちゃうじゃないか!?」


同時に情けなさを感じさせる男の悲鳴が響き渡る。ニル・ヴァーナからの通信。もはや確認するまでもない程聞きなれたもの。

バート・ガルサス。

数少ない男の仲間であり、同時に全裸でニル・ヴァーナを操縦している操舵手。もう一度言うが全裸で。何故そうなっているのか知らないが操縦席に入ると全裸になってしまうらしい。何度か見たことがあるが酷い有様だった。何故女性では操縦できないのかペークシスに小一時間説教したいところ。もしかしたらペークシスもタラークやメジェールと同じようにおかしな価値観を持っているのかもしれない。


「ぎゃあぎゃあ騒ぐなよ。シールドは張ってるじゃねえか」
「そういう問題じゃないだろ!? 痛いものは痛いんだから! 早く何とかしてくれよ!」


本当にビビっているのか、その挙動がニル・ヴァーナにも現れている。人馬一体ならぬ人機一体なのかもしれない。何でもダメージをうけると痛みもフィードバックするらしい。どれだけ理解を超えているのかは分からないがこのまま放っておくことはできない。何より舐められっぱなしは性に合わない。


「分かってるって……そう簡単に行かせるわけねえだろ!」


そのまま腰にある銃を手にしながらキューブを狙い打つ。いわゆる早撃ちに近い技。同時に閃光の弾丸がキューブを射抜き破壊する。それがリアガードのもう一つの兵装。二丁拳銃を模したツインバレッド。キャノンの隙を補うための物であり、近距離での戦闘に適した切り札。片方はエネルギー方式、もう片方は実弾方式という自分と誰かさんの趣味がそのまま反映されている代物だった。

そんなこんなの間に戦闘も終息に向かって行く。明らかにレーダーに映っている敵機も後わずか。この調子なら心配することもないだろうと安堵しかけたその時、


「いやーん、またニセモノさんだー!?」


どこか気の抜けるような少女の声とともにモニターにキューブではない機影が映り込む。そこにはどこか禍々しい色調の鳥の形を模した巨大な兵器がある。もっともそれは自分にとってある意味何度も見慣れた、もとい使いなれた機体の姿でもある。

ヴァンドレッド・メイア。

メイアが乗るドレッドと男が乗る九十九式蛮型撲撃機が『合体』することで完成する姿。そして今現れたのは敵にコピーされた文字通り偽物、紛い物だった。

だが偽物とはいえその性能は折り紙つき。ただのドレッドではその能力、特に特化した機動性に対抗し得ない。数の利はあるものの敵機はその包囲を抜け、ニル・ヴァーナへと突進してくる。だが、こちらに向かって来ているのは敵機だけではなかった。


「宇宙人さ~ん! ディータと合体してニセモノをやっつけよー!」


まるで待ってましたと言わんばかりに赤みがかった髪をした少女、ディータ・リーベライが蒼いドレッドに乗りながら接近してくる。もといこちらを捕まえようとしてくる。その口調からも分かるように、どこか天然が入っている上に何故か自分を宇宙人呼ばわりしてくる女の子。純粋無垢であり、悪意がないことは分かっている分余計苦手にしている存在だった。


「何度言ったら分かるんだ……俺は宇宙人じゃない、アスマだ。宇宙人のままじゃ紛らわしいって言っただろ」
「そうだった、今宇宙人さんは一人だけになったんだよね。じゃあアスマ、ディータと合体しよ♪」
「断る。俺は寝取りの趣味はない」
「? ネトリって何? 何でアスマはディータといつも合体してくれないの?」


何とかディータに捕まりそうなところを紙一重のところで回避しながら逃げ回る。見ようによってはディータに俺が襲われているように見えるかもしれない。ある意味間違ってはいないのだが。

とにもかくにもディータと合体するのはできれば避けたい。別に嫌なわけではないがやはりどこか忌避感がある。当人達にはそんな気はないだろうがやはり寝取りのように感じてしまう。俺ではヴァンドレッド・ディータの性能を生かし切れないのも理由の一つ。


「仕方ないわね。ならジュラが代わりにしてあげる。それなら文句ないでしょ、アスマ?」


そんな中割って入ってくるように紅のドレッドがやってくる。パイロットも機体に負けず劣らずの派手さを感じさせる金髪の美女。ジュラ・ベーシル・エルデン。その言動に現れているようにどこかお嬢様気質、もとい虚栄心が満ちている。ディータとは違う意味で苦手な存在だった。


「いや、いい。お前とすんの疲れるし、あとダサイ」
「な、何ですって!? ヴァンドレッド・ジュラのどこかダサイっていうの!? あんなに美しいドレッドはないわ!」


自分の合体形態を馬鹿にされたからか、ジュラはヒステリーを起こしている。確かに蟹のようにダサイ形態ではあるがそれ以上にジュラと合体するのは疲れる。どの合体にも言えることだが男は大きく体力を持って行かれる。正確には精力が。連続合体できる誰かさんには尊敬の念を禁じ得ない。


「お前達、何をグズグズしている。敵はもうニル・ヴァーナに到達しつつある。アスマ、私と合体しろ。敵の性質上、それが一番効率が良い。いいな、二人とも」
「はーい……」
「うぅ……覚えてなさいよ、アスマ」


ついに見かねたのかメイアが二人を諫めながら接近してくる。流石にリーダーには逆らえないのか二人とも黙りこんでしまう。確かに性質上、同じヴァンドレッド・メイアで挑む方がリスクは少ない。だが結局収まる所に収まった感は拭えない。そういえば合体しているのは何だかんだでメイアが一番多い気がする。まあ一番相性が良いので当然と言えば当然かもしれないが。それでも合体するのは避けられないらしい。もうここは観念するしかないとあきらめかけたその時


「どけどけどけてめえら―――!! 遅れた分を取り戻させてもらうぜ!!」


この状況を打破できる救世主がついに現れる。自分が乗るリアガードと瓜二つのフォルムを持つもう一つの九十九式蛮型撲撃機。違うのは自分が乗っているのが射撃特化なのに対し、あいつが乗っているのは近接、格闘戦に特化していると言うこと。

ヒビキ・トカイ。数少ない男の仲間であり、自分にとっての親友。戦友がようやく戦場に現れたのだった。


「おらおらおら、邪魔だどけええ!!」


言葉通り後れを取り戻す勢いでヒビキはその手に剣を持ちながら残ったキューブを一刀両断にしていく。女にはない男だからこそ持つ荒々しさは危なげながらも戦場に勢いを取り戻させる。ムードメーカー、戦場において要となる者はやはりこいつなのだと確信できる何かがある。


「宇宙人さん♪」
「遅いじゃない、もうほとんど終わっちゃったわよ?」
「修理は終わったのか、ヒビキ。まだ戦線復帰の許可は」
「ごちゃごちゃうるせんだよ。負けたら死ぬ状況でちんたらしてられねえだろうが!」


三者三様の反応を受けながらもヒビキは変わらない。言っていることも無茶苦茶であるがある意味正論ではある。ヒビキの機体、『ヴァンガード』は先日の戦闘で破損し修理中であったのだがどうやら間に合ったらしい。何よりもこれで態勢は決したも同然。後はヒビキに任せれば問題ない。


「ヒビキ、悪いな。後はお前に任せ」


そのまま後のことを託す。これでようやく肩の荷が下りたと安堵しかけるも


「行くぜ、アスマ! 合体だ!!」
「…………は?」


ヒビキの意味不明な叫びによって、完全に思考が停止してしまった――――


気づけばヒビキは真っ直ぐこちらに向かってきている。そう、ディータではなく、ジュラでもなく、メイアですらない。間違いなく、俺の方に向かって突撃してきている……!


「ちょ、ちょっと待て!? お前さっきの話を聞いて――――!?」


悲鳴を上げながらその場から脱出しようとするが逃げられない。射撃特化のリアガードでは近接特化のヴァンガードのスピードからは逃れられない。そのまま言葉にならない悲鳴と閃光と共に男同士の合体が再び実現したのだった――――


「よっしゃあ! 女ばっかりにいい顔はさせられねえ! だろ、アスマ!」
「…………そうだな、ほんとにそう思うよ」


どこか満足気なヒビキの姿にもはや言葉も出ない。見なくても分かる。何故なら今、俺とヒビキは同じコクピットの中にいるのだから。正確にはヒビキが俺の背中に覆いかぶさっているような体勢。いわばヴァンドレッド・メイアの男同士バージョン。背中から感じるヒビキの体温に寒気がする。男に背中から抱きしめられて喜ぶ趣味はない。というか見ようによってはマジで洒落にならない光景。頼むからそれ以上腰を押し付けないでくれ。こんなことならさっさとメイアと合体しておけばよかったと後悔するももう遅い。


「あー!? ずるい宇宙人さん! 何でディータじゃなくてアスマと合体してるの!?」
「お、男同士で合体なんて……不潔よ!」
「何をしている二人とも。合体したのなら早く敵を倒せ」


三者三様の態度に晒されながらも応える余裕は自分にはない。この場にはいないニル・ヴァーナのクルー達の反応も聞こえてくる。大体はジュラと同じ反応。だが中にいくつか逆の意味で興味を示している反応があるのは聞き違いだと思いたい。というか貴方達、本当に意味が分かっているのか? 男女の価値観の違いも知らないはずなのに……あれか、本能的に察しているのだろうか。


「ちくしょう……ああ、いいさ。やってやるよ、やりゃあいいんだろおおお!!」
「やっとその気になりやがったか……行くぜ、相棒! 俺達の力を見せてやろうぜ!!」


もう何もかもがどうでもいい。とにかく今は敵を倒すだけ。一刻も早くこの合体を解除するために。もはや合体事故とでもいうべき悪夢から覚めるために。

今、ヴァンガードとリアガードは一つになっている。正確にはヴァンガードを基本としてリアガードが分離し、鎧のようになっている。黒の鎧を纏ったヴァンガード。それがヴァンガード、ヒビキが主体となった男同士の合体の姿。


「これで終わりだああああ!!」


その性能も近接特化。本来射撃に使われるはずのキャノンはブースターに。その他のパーツは剣と一体化している。二人の意志に呼応するように剣からエネルギーが発せられ巨大な、雄々しい形を為していく。戦艦すら一刀両断できるであろう巨大な光の剣。一撃離脱のみを追求した男のロマンを形をにした形態。


その一刀が紛い物の鳥を切り裂く。


ここに戦闘は決した。文句なしのニル・ヴァーナ側の完勝。だがクルー達は知らなかった。


その陰で己の純情を汚されている少年の苦悩があることを。


それが異物である少年、アスマ・テリアンが舞台に上がった一幕だった――――





あとがき

何となく勢いで書いた。後悔はしていない。もしかしたら続くかも。スパロボ参戦しないかなー。



[40132] ♯01 Red Angel
Name: TRUST◆53d8d844 ID:7bdaaa14
Date: 2014/07/05 00:56
そこは理想郷だった。

何人にも犯されない聖域。辺りは全て自然に満ちている。仮初の人工物。人々はその中で生きている。なのに誰一人自分以外を見ようとしない。己以外に何の興味も持っていない。

ディストピア。この生活が何に支えられ、何を犠牲に成り立っているのか。この時の俺には分からなかった。あったのはたった一つだけ。

『どうして』という疑問。どうして俺は生まれてきたのか、何のために生きるのか。当たり前すぎて他の誰も気づかないもの。

そのまま一歩、そこから歩き出そうとした時、誰かが目の前に立ち塞がる。

それは自分だった。もう見慣れた筈の容姿。男とは思えない黒い髪に白い肌。赤と碧のオッドアイ。中性的な顔の造形。姿見の鏡を見ているかのよう。でも、それは違っていた。

彼女は女性だった。自分と瓜二つの容姿を持ちながらも所々が違う。髪は腰に届く程長く、胸には確かな膨らみがある。男ではあり得ない、女性の証。何よりも確かなのが瞳の色。

俺は右目が赤で左目が碧。だが彼女は逆だった。右目が碧で左目が赤。互いが互いを補い合うような一対の人形。


『――――?』


彼女が微笑みながら話しかけてくる。でも聞こえない。何を言っているのか。唇の動きを追うことしかできない。分かるのは一つだけ。

これが自分が見ている夢なのだということだけ――――




「がっ!?」


突如襲ってくる鈍い痛みによって悶絶し声にならない悲鳴を上げる。何が起こったのか分からず混乱するも目を開けてようやく気づく。自分の額の上には誰かさんの足がある。恐らくはかかと落としを食らったのだろう。文句の一つも言ってやろうと起き上がるも当の本人、ヒビキは未だに起きることなくイビキをかきながら幸せそうに眠っている。離れて寝ていたはずなのにここまで来るとは、分かってはいたが寝相の悪さは神がかっていると言わざるを得ない。


「…………はぁ」


ボサボサの髪をかき、寝ぼけた頭を振りながら溜息を吐く。それが自分、アスマ・テリアンの憂鬱な、いつも通りの一日の始まりだった。




「夢?」
「ああ。ここ最近よく見るんだ。内容はよく覚えてないんだが、こう毎日だと気になってさ」


椅子に腰かけながらここ最近の内容を目の前の男に相談することにする。黒い長髪で顔の右半分を隠している、どこか科学者を彷彿とさせるような雰囲気を纏っている。

ドゥエロ・マクファイル。

ニル・ヴァーナに乗っている四人の男の中の一人であり、唯一の医者である存在だった。


「私は精神科ではないので確かなことは言えないが、もしかしたらそれは夢ではなく記憶なのかもしれんな」
「記憶? でも俺、記憶喪失なんだぜ。覚えてもないのに夢なんて見るもんなのか?」
「覚えていないだけで記憶自体が無くなっているわけではないのだろう。記憶が戻りかけている兆候かもしれん」
「そうか……」
「どうした? 記憶が戻りかけているというのに嬉しくなさそうだが」
「そうじゃねえけど……何というか」


ドゥエロのどこか腑に落ちないといった問いに応えることができない。そう、本当なら喜ぶべきこと。自分には過去の記憶がない。正確にはタラークに漂着し、ヒビキに出会うまでの記憶が。俗に言う記憶喪失というもの。だがそのことに感情が湧かない。本当なら喜ぶべきことのはずなのに喜べない。むしろ


「何だ、アスマ。まだ朝のことグチグチ言ってんのか? 男らしくねえぞ。男ならドンと構ときゃいんだよ!」


どこから湧いたのか、何故か偉そうに持論を展開しているヒビキの姿に呆気にとられる。


「誰かさんのせいで夢の途中で起こされたってのに、何でそんなに偉そうなんだお前は」
「こ、細けえことは気にすんな。それに夢なんてすぐ忘れちまうんだ。思い出すならきちっと思い出さねえと意味ねえだろ」
「一理ある。焦らず自然と思い出すのを待つのが最良だろう」
「そうかい……ま、何か思い出したら相談するよ」


結局為になったのかどうかは謎だが現状維持しか方針はない。別段記憶喪失で困っていることがあるわけでもない。ヒビキ曰く故郷を探しに行けばいいとのことだが今は残念ながらそんな余裕はない。一刻も早くタラークとメジェールに戻り刈り取りの危機を伝えなければならないのだから。


「お、いたいた! もう、酷いじゃないかボクだけ仲間外れにして。男同士、仲良くしようじゃないか!」


そんな中、診療室に新たな客、バートが現れる。相変わらず無駄にテンションが高い。できれば朝から会いたくはなかったのだがあきらめるしかない。


「仲間外れか……どうせ女達に近づこうとしたけど追い返されたってオチだろ?」
「な、何を言ってるんだアスマ。そんなわけないだろ。ボクはただ男同士で親交を深めようとわざわざ」
「ふん、親交はどうでもいいが女達が調子に乗ってるのは確かだぜ。ここのところちょっとオレ達も甘くしすぎたからな。ここはビシっと言ってやらねえと」
「そうそう! ボクもそう言いたかったんだよ。後はアスマも加わってくれれば完璧さ。腕っ節なら女にも負けないんだろ?」
「断る。やりたきゃ勝手にやってくれ。いつかの二の舞になるのは御免だ」


何故か勝手に盛り上がっているヒビキとバートに返す言葉もない。最近ようやく男女間のイザコザも多少マシになってきているのに何故火に油を注ぐ真似をしようとするのか。タラークの教育の賜物か、それともただ単に二人が単純、もといバカなだけか。きっと後者だろうなと勝手に納得していると


「そういえばアスマ。今週のレポートの期日は明日までだ。忘れないようにしてくれ」


ドゥエロが思い出したように告げてくる。今日は自分の診察でここを訪れたのだがどうやらこっちが本命だったらしい。だが思わず顔をしかめるしかない。何故ならそれに比べればまだ女に喧嘩を売る方が幾分マシかもしれないのだから。


「レポート? ああ、昨日部屋でこそこそ書いてた奴か。一体何を書いてたんだ?」
「それは……」
「『男と女の関係について』のレポートだ。毎週アスマにはそれを提出してもらっている」
「男と女の関係……? ああ、そういえばアスマは男と女が一緒に暮らしている星から来たんだっけ。ちょっと信じられないけど」
「俺からしたらお前達の方が信じられねえよ。ま、今更言ってても仕方ないけどな……」


溜息を吐きながらもアスマは未だに信じられない思いだった。何故ならヒビキ達の故郷タラークは男だけの、このニル・ヴァーナに乗っている女性達はメジェールという星で女だけの環境で生き、同時に戦争しているのだから。どうしてそうなったのかは定かではないがともかく、この船に乗っている船員は皆、男と女がどんなものか互いに全く知らないという状況だった。たった一人、自分という例外を除いては。


「うむ。だがこれは君の記憶にとっても大きな手掛かりだ。男女が共に暮らしている星が君の故郷だということは間違いない」
「……一緒に暮らしていないのはタラークとメジェールぐらいだと思うんだがな。記憶喪失なのにこんなことは覚えてるもんなんだな」
「君が失っているのはエピソード記憶の類なのだろう。見当識や意味記憶は保持されている証拠でもある」
「何言ってんのか分からねえが、そのレポートってのはそんなに重要なのか?」
「重要だ。これには副長も関わっている。曰くタラークとメジェールの未来のためだそうだ。私も同意見だ。何より」
「何より?」
「すこぶる面白い」


ドゥエロは心底楽しそうに、怪しいマッドサイエンティストのような笑みを浮かべている。思わずその場にいる全員が引いてしまうほど。だが自分は他の二人とは違う意味で引いている。そう、自分は取り返しがつかないことに協力しているのではないかと。

男と女の関係。自分が書いているレポートの内容はその通りのもの。だがその内容は男女の価値観、風習の違いといったものを大きく超えている。端的に言えばそれは性教育。男女の体の違いから子供の作り方まで含めた内容。自分がたまたま副長、ブザムにそのことを漏らしてしまったのが事の始まり。それからあれよあれよという間にドゥエロを巻き込み、俺を含めた三人の中でこのレポートが作られている。もっとも作っているのは自分だけ。副長とドゥエロはその内容を確認し、まとめているだけ。


「できれば実践結果があれば完璧なのだが……」
「……悪かったな、実践経験がなくて。知りたきゃ自分でやってくれ」
「確かにそれが一番確実だが、私には対象となる相手がいない。だがしかし……」
「なあなあ、そのレポート、ボクにも見せてくれよ。面白いんだろ?」
「ダメだ。大体お前には必要ないものだ。ヒビキには必要かもしれねえけど」
「何でオレなんだよ? オレは小難しい文字なんて読む気はねえぞ」


一人でブツブツ独り言をつぶやいているドゥエロを放っておきながら興味を示しているバートを諫める。こいつに内容が知れればどんなことになるか想像もしたくない。下手すればニル・ヴァーナが内部分裂を起こすかもしれない。

何よりレポートを読まれること自体が恥ずかしい。何故自分が経験もしたことのない(はずの)性知識をレポートしなければならないのか。羞恥プレイ以外の何者でもない。だがそれに見合う対価ももらっている。ニル・ヴァーナの食堂の食券無料券。しかも一年分。その魅力に負け、餌付けされたことによって自分は自己嫌悪に陥りながら毎週黙々と性教育の資料を作っているのだった。考えるのはもうよそう。余計に死にたくなってくる。

だが冗談はともかくヒビキには必要になってくるかもしれない。何故なら


「あ、やっと見つけた宇宙人さん!」


ヒビキには俺やバートにはいない、知識が必要となるであろう相手がいるのだから。


「げっ!? 何でこんなところに、オレには付き纏うなって言ってんだろ!」
「いいじゃない、ディータ、宇宙人さんに用事があったんだもん。あ、もう一人の宇宙人さん……じゃなかったアスマもおはよう。今日は診察なの?」
「ああ、そんなところだ。相変わらず元気そうだな、ディータ」
「うん! ディータはいつでも元気だよ!」
「いいからお前、ちょっと離れろ……! 暑苦しいんだよ!」


突如現れた侵入者、もとい少女ディータは目を輝かせながら宇宙人さんことヒビキに抱きついて行く。どうやら今日も逃げおおせることはできなかったらしい。端から見れば男としてうらやましいことこの上ないのだが当の本人にとってはそうではないらしい。わりと必死に逃げ惑っている。まだ女性に対する苦手意識があるのだろうか。最初は女は男の肝を食うと教え込まれていたらしいし、無理もないのかもしれないが。


「いちゃつくのもいいんだがここ一応診察室だぞ。静かにしろって」
「はい、ディータ静かにします!」
「誰がいちゃついてんだ! さっさと助けろアスマ、男だろ!?」
「逆だ。俺は馬に蹴られる趣味はない。で、ディータは何の用でここに来たんだ?」


息も絶え絶えのヒビキを無視しながら強引に話を進める。ヒビキの助けは完全に無視する。これは日常茶飯事であり、その証拠にバートもドゥエロも気にしてすらいない。対するディータも相変わらずマイペース。懲りる、あきらめるという単語は彼女の中にはないのかもしれない。


「そうだ、忘れてた。はい、宇宙人さんこれ! ディータが作ってきたの、食べて食べて♪」


鬼ごっこをしている間に本当に忘れてしまっていたのか、慌てながらディータは大きな風呂敷に包まれた物体を取り出してくる。そこから大きく、不揃いな丸い物体が転がって行く。どうやらあれはおにぎりらしい。


「誰もそんなもん頼んでねえだろ! 余計なことすんじゃねえ!」
「えー? せっかくディータ作ってきたんだから食べてよ宇宙人さん」
「そうだぜヒビキ。せっかくディータちゃんが作ってきてくれたんだし……うん、上手いぞこれ」
「あー!?」
「バートお前、勝手に食ってんじゃねえ! それはオレのだぞ!」


頑としてディータの好意を受け取ろうとしないヒビキに仕方なく助け舟を出そうとする間もなくバートがさも当然のようにおにぎりを食べ始める。この空気の読めなさは称賛されるべきかもしれない。それを見ながらヒビキも慌てて食い始める。というかどれだけ面倒な奴なんだこいつ。男のツンデレとか誰も得をしないので止めてほしい。


「ふぅ……じゃあ俺は帰るわ。腹も減ってきたし」


そのまま席を立ちその場を後にする。一応掌に負った火傷の診察は済んでいる。大体傷自体は問題なく、痕が残ってしまったが仕方ない。何でも俺とヒビキは治療データがなく、俺自身の体は再生力が劣っているらしい。まあこんな白い肌なら当たり前かもしれない。身体能力は高いのだがどういう理屈なのだろうか。我がことながら謎は尽きない。そんな中、頭に鋭い一瞬の痛みが走る。思わずうめきながら顔を上げるとそこには何故か俺の髪の毛を一本抜いているドゥエロの姿があった。


「痛えな……いきなり何するんだよ!?」
「すまない、君の遺伝情報を調べる必要があるので拝借した。医者として把握しておかねばならない」
「だったらそう言えよ。いきなり髪の毛抜かれるこっちの身にもなってくれ。大体前皮膚を採ってたじゃねえか」
「念のためだ。君とヒビキは他の者と比べて特別かもしれないのでな」
「……? まあ俺はお前達に比べたら特別だろうけどな……」


首をかしげながらもその場を後にする。確かに他の星、男女が一緒に暮らしている星からきた自分は特別だろう。ヒビキに関しては何が特別なのかは分からないが。そんなヒビキたちが騒ぐのを無視しながら診察室を早々に脱出する。腹が減ったという単純な理由。何よりも自分にはバートのように他人の恋路を邪魔する気はさらさらないのだから。




「さてと……何にするかな」


そのままきょろきょろと目の前を流れている食事を眺める。そこには多種多様な料理がある。軽食からステーキといったこってりしたものまで。それがまるで回転寿司のように流れている。そこから好きな物をとって食べる、いわゆるバイキング形式がニル・ヴァーナの食堂もとい女性の食事風景。その証拠に料理にはカロリーを表示する札が付いている。だが男である自分はそんな物を気にする必要もない。目についたステーキを手にしながら食堂の席を探そうとするも既に満席。しかも女達からの視線が突き刺さる。最初の頃は忌避感、敵意のような物がほとんどだが今はただ単に珍しいからといった感じ。残念ながらフランクに会話ができるほど関係は改善されてはいないのだが。そんな中


「……げ」
「お」


座っている女の中に見知った顔を見かける。相手も自分と視線が合ってしまったのに気づいたのか目を丸くしている。すぐさま顔を逸らすももう遅い。


「よう、バーネットじゃねえか、奇遇だな。ジュラは一緒じゃねえのか?」


そのまま料理を持ったまま前の席にお邪魔する。明らかに不満そうな表情を見せているがとりあえず無視することにしよう。


「何勝手に前に座ってんのよ。あたしはこれからジュラと食事するんだからさっさとどこかに行って頂戴」


バーネット・オランジェロ。

パイロットでありジュラの親友でもある女性。その腕は確かでドレッドの腕ならメイアに次ぐのではないかというほど。パイロットという職業柄、面識も多い存在だった。


「いいじゃねえか、減るもんじゃないし。それにジュラの席ならまだあるじゃねえか」
「そういう問題じゃないわ。何であたしが男のあんたと一緒に食事しなきゃなんないのかって聞いてんのよ」
「仕方ねえだろ、他に知り合いいねえんだし。どいつもこいつも珍しそうに見てくるから食いづらいんだよ。お、お前もステーキか。いいのか、太るんじゃねえか?」
「うるさいわよ! 文句があるならさっさとどっかに行けばいいじゃない!」


地雷を踏んだのか、バーネットは怒りをあらわにしながら声を上げるも周りからの視線に気づいたのか顔を赤くしながら座り込んでしまう。


「大体何であんたがここで食事してんのよ。ここは食券が買えないと食べれないはずでしょ?」
「失礼だな。ちゃんと食券なら持ってるぞ。ほら」
「っ!? 食堂の一年間無料券!? 何であんたがこんな物を」
「色々あってな。どうだ、何ならこれから奢ってやってもいいぞ」
「冗談。男に奢られるなんて死んでも御免よ」


本気でそう思っているのだろう。なにせここは男尊女卑ならぬ女尊男卑の世界。男よりも女の方が地位が高いと言ってもいい。まあ自分にとってはどうでもいいことなのだが流石にその格好はいかがな物か。今、バーネットはハイレグのレオタードのような格好をしている。水着と言ってもおかしくない。加えて認めたくないがそのプロポーションは桁外れ。見たくなくてもその胸の谷間や足に目が行ってしまう。悲しい男の性。ヒビキ達は何も感じていないようだがこれから先はどうなるのか。本能的に意識したりするのだろうか。それとも自分のレポートが活用される日が来るのか。不安は尽きない。


「あら、アスマじゃない。珍しいわねこんなところで。もしかしてジュラに会いに来てくれたの?」
「そんな訳ないだろ。飯を食いに来ただけだ」
「ジュラも何か言ってやってよ。こいつ、勝手にあたし達の席に来たんだから」
「いいじゃないバーネット。同じパイロット同士なんだし」


遅れてやってきた金髪の美女、ジュラはどこか楽しげにしながら席につく。ジュラの服装もバーネットに引けを取らず露出が多い。扇情的と言った方が正しいかもしれない。やはり親友同士、思考も似るのだろうか。そんなことを考えていると


「そういえばちょうどよかったわアスマ。ねえ、ジュラと子供を作ってみない?」


そんな意味が分からないことをさも当然のようにジュラは口にしてきた。


「な、何言ってるのジュラ!? 男との子供なんて絶対ダメよ!」


飲んでいた水を噴き出したのか、むせながら息も絶え絶えにバーネットはジュラに食ってかかって行く。そのあまりのリアクションにこっちはリアクションを取り損ねていた。逆にバーネットのおかげで平静を取り戻せたので感謝すべきかもしれない。


「そう? でも他の星では男女で子供を作るらしいわよ。そうなんでしょ、アスマ?」
「そうだが……お前、子供の作り方知ってんのか?」
「? ええ。男から種をもらえばいいんでしょ?」
「そうか。何で男と子供が作りたいんだ? 大方メジェールで初めて男の子供を産んだっていうステータスが欲しいんだろ?」


大方の魂胆が読めたので嫌味を込めてそう返す。どうやら男女で子供を作ることは知っていても作り方までは知らないらしい。何よりもその理由もはたはた呆れるもの。恐らくは男と初めて子供を作ったという事実が欲しいのだろう。それとも合体できる俺やヒビキの資質に目をつけたのか。どちらにせよ邪な理由であることは変わらない。


「そ、そんなことないわ……あたしはただ男との子供はどんな物なのか興味があっただけで」
「ならバートかドゥエロにでも頼んでみたらどうだ? 喜んで協力してくれるかもしれねえぞ」
「な、何であなたとヒビキは入ってないの? それにあなたは子供の作り方を知ってるんじゃ」
「俺は子供を作る気はねえし、ヒビキにはディータがいるだろ」


魂胆を読まれたからか、どこか落ち着かない様子のジュラに淡々と返す。もしここがニル・ヴァーナでなければセクハラで訴えられそうな会話のオンパレード。だがこうでも言わなければジュラはあきらめないだろう。


「そんな子供が欲しいんならバーネットと作ればいいじゃねえか。メジェールでは女同士で子供が作れるんだろ?」
「ちょ、ちょっとあんた勝手に何言ってるのよ!」
「え、バーネットはジュラのオーマになってくれないの?」
「そ、そんなことはないわ……でもそれとこれとは話が別で……!」


思わぬところで飛び火したからなのかバーネットは顔を真っ赤にしながら右往左往している。ジュラもそんなバーネットをからかいながらも楽しんでいる。

だがやはり価値観の違いは拭えない。女同士で子供を作る、という感覚。オーマとは遺伝子を提供する女性のことで種馬に相当するらしい。男同士で遺伝子をかけ合わせて試験管で生まれてくるよりは健全なのかもしれないが。そう感じるのはやはり自分が男なのだからかそれとも。だが


「騒がしいぞ、お前達。ここは食堂だ、大声は慎め」


静かだが、芯の通った声が割って入ってくる。振り返るとそこには蒼い髪をした少女、メイアがいた。どうやら偶然通りかかったらしい。流石にリーダーには逆らえないのか、それとも騒いでいた自覚があったのかバーネットとジュラは黙りこんでしまう。それを見ながら自分も黙々と食事を再開する。触らぬ神に祟りなし。しかし


「……アスマ、フォーメーションで確認したいことがある。昨日のことも含めてな。後でブリーフィングルームに来い、いいな」
「……了解」


既に自分は昨日神に触ってしまっていたことを思い出す。お説教という名のお仕置きが待っているのだろうは目に見えているが拒否すればどうなるか。文字通りリーダーの命令は絶対。そのまま目を逸らしたまま。メイアは何かを言いかけるもそのまま食堂を後にしていった。


「もう、何でジュラが怒られなきゃいけないのよ」
「当然だろ。はぁ……メイアの奴、昨日のことまだ根に持ってたのかよ」
「御愁傷様。でも自業自得よ。作戦中によそ見して、いつもはしないリーダー呼ばわりなんてしたんだから」
「…………分かってるよ。でも、昔に比べればちょっとは丸くなったよな。昔はもっと周りに壁を作ってたような気がしてたが」


気落ちしながらも思い出す。いつも無口でクールなメイアだが最近は少し丸くなってきているかもしれない。残念ながら自分に対してはその対象にならないらしいが。そんなことを考えていると


「そうね……でもここにきて一番変わったのはアスマ、あんただと思うけど」


バーネットはどこか神妙な顔をしながらそんなよく分からないことを口にした。


「俺が? そうかな……確かに、昔に比べたらヒビキにくっついてることは少なくなった気はするが」


ピンとこないまま思い返す。確かにこの船に乗ってからはしばらくヒビキに付きっきりだった。周りから言われて気づいたが少しおかしかったかもしれない。今はディータがいるので前ほど一緒にいることは少なくなった。きっとそのことでまたネタにするのだろうと思い自分で先に口にするも


「違うわ。何て言うか……そうね、初めて会ってからしばらく、あたし達はあんたが怖かったわ」


言葉を選ぶように、バーネットは真剣にそう口にする。いつもは茶化すはずのジュラも口をはさむことはない。


「怖かった……? 俺が男だからか?」
「……ううん、男とか女とかじゃない。あんたがあたし達を見る目が怖かったの。何でかは言葉にできないけど……」
「……? よく分からねえけど今はもう大丈夫なんだろ。どうしたんだよ、らしくないぜ?」
「うるさいわね、何でもないわ。さっさと行かないとまた『リーダー』に怒られるわよ」
「はいはい……じゃあ行くとすっか」


不可解なことを言いながら戸惑っている気味が悪いバーネットをからかいながらも席を立とうとした瞬間、警報が鳴り始める。もう聞き慣れてしまった、『敵』がやってきた証。


説教を後回しにしながら、アスマ・テリアンは自らの愛機であるリア・ガードがある格納庫へと向かうのだった――――


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