「よっしゃ、ダイヤめっちゃ出た!」
俺の名前は神山 拓海(コウヤマ タクミ)、引きこもりニート生活満喫中の高校生だ。中学を卒業し、義務教育とかいう呪縛から逃れたおかげで、大好きなパソコンゲームに入り浸る生活をしている。
「ダイヤ剣切らしてたから嬉しいわぁー」
そして今俺は、マインクラフトというゲームにはまっている。このゲームの中の物は全て立方体によって構成されていて、冒険してよし、建築してよしという非常に自由度の高いゲームとして人気がある。
「もう少し奥は……っと、もう松明ないじゃん。じゃ、一旦帰るか」
ゲーム内で帰宅した俺は、リアルで強烈な睡魔に襲われた。時計を見ると……深夜3時半。
「寝るか……」
眠い目を擦りつつゲームを終了させると、そのまま布団へダイブ、深い眠りへと落ちていった。
……
…………
………………
「メエエェ……」
「メエエエェェ」
うーん、五月蝿い……。
「メエッ」
「メエェェ……」
「フシューッ!(るっせぇ!)」
体を起こして怒鳴った瞬間、俺の意識は一気に覚醒した。青い空、青々とした草原、そして……立方体で作られた木と羊。
え? ……え?
目を擦ろうとして、ある事に気付く。腕の反応がない。ってか、腕自体の感覚とかが無いんですが。
慌てて体をひねり体を確認する。緑。あれっと思い、一度四角い雲の浮かぶ青空を見てから再度確認。緑。ヒジョーに見覚えのある緑。そう、この緑は恐らく多くのマインクラフターにトラウマを焼きつけたであろう、あのお方の緑。
まてまてまて、一気に多くの情報が入りすぎた。こっ、こういうときは素数を数え……あれ? 素数って何だっけ?
……よし、現実逃避はこのくらいにしておこう。まず言うと、俺の今いるこの場所、どう見てもマインクラフトワールドだ。だってあれだよ? 四角い羊が歩き回ってるんだよ? あんな動物リアルでいてたまるかって話だ。
「フシューフシュー、フシュフシュー(あーあー、テストテストー)」
現実逃避に再び突っ走りそうになる思考をおしとどめ、俺自身のこの姿についての考察を始める。
・独特の緑色の体
・四本ある足
・フシュー
で、ここがマイクラの世界という前提で考えると……。
オッス、おらクリーパー!
クリーパーというのは、マインクラフトのマスコット的存在である敵モンスターだ。こいつの特技はズバリ、自爆。プレイヤーへとこっそり近づき、自爆して周囲のブロックごと吹き飛ばす。たまに家付近に出没しては爆発し、見事に開放感のある家にリフォームしてくれるので、某リフォーム番組より『匠』の異名を持つ。
……で、どうやら俺はそいつの姿になっているようだ。っていやいやいや、確かに俺の名前はタクミだが、我が両親はそんな目的でこの名前をつけたわけじゃないぞ!?
さて、いつまでもボーッとしていてはいかんな。まずは周囲を観察っと。……うん、早速すごい違和感をハッケン。幹にあたる原木ブロックがない木がチラホラ見える。つまり葉のブロックが宙に浮いてる。重力仕事しろよ……というツッコミを内心入れつつ、考察開始。
まず言うと、このマインクラフトの世界ではブロックを扱うやつはプレイヤー、そしてエンダーマンだけだ。……と思う。俺MODとかあんま入れてないから俺の知らんそういうのがあるかもしれないけど今は忘れよう。しかしエンダーマンはこんな集中的にブロック引っこ抜いたりしないだろうし、まず間違いなくこれをやったのはプレイヤー。……つまりここはプレイヤーの活動範囲内!?
そう思ったが、周囲には松明が置いてない。昼間にしか来ないのか、モンスターなんぞ怖くないっていうような強者か……。
フシューと声を出しながら悩んでいると、視界の左下にウィンドウが出てきた。これには見覚えがある、マイクラでマルチプレイをする時、プレイヤー同士の意識疎通に使うチャットのウィンドウだ。……で、そこに、今まで俺が喋った言葉が緑色の字で表示されていた。現実(?)ではフシューとしか喋れないんだけど、ちゃんと日本語で書いてある。
『お、新しい色の字幕だな』
『仲間ですかね!? 早く合流しましょう!』
急に、黒色と白色の字がチャットに現れた。