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[40621]  ラッキーの不思議な旅 ~次はどんな酷い国かな?~─=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ
Name: パルメ◆8fb14eab ID:a6872ec0
Date: 2015/05/02 15:26
エルフの女の子ラッキーは、故郷の森を出て果てしない長い旅をしました。
旅の先に待つのは、完全に異なる価値観の人間達と異端すぎる一般常識。
少女の旅の目的は、それらと触れあう事。
次の国はどんな国かな? 

(1-3話完結の短編連作。それぞれの話で完結しているため、どの話からでも読める仕様です。)
この小説は
【個人的なネット小説リンク所】
【小説家になろう】
【ハーメルン】
【理想郷】
に投稿しています。

(このサイトURL載せられないから困った・・・)
検索 【ラッキーの不思議な旅 好きな話ランキング(1国~50国)】



[40621] プロローグ ~旅に行くから全部捨てよう~
Name: (´・ω・`)パルメ◆8fb14eab ID:a6872ec0
Date: 2014/11/05 14:02

宇宙空間まで届く大木【世界樹】がある場所に、10歳児くらいの小さい金髪の少女ラッキーが住んでいました。
心の中の知的好奇心を爆発させながら、ボロボロのローブを纏った人間の若い男性に話しかけています。

「ねぇねぇ、人間の旅人さん。
あなたはどうして旅をしているの?」

「僕が旅をしている理由かい?
そうだなぁ・・・色んな人と国に出会えるからだろうね。
国を出た理由も、そこらへんにいる、普通に結婚して生活する平凡な男として生きるのが嫌になったから旅に出たんだ」

「でも、旅って辛いんでしょ?
盗賊やオークに襲われたり、外は危険だから死ぬような目に会うんでしょ?
人間ってすぐ死ぬよね?」

「もちろん、こんな生き方してたら命を縮めるさ」

男性は一呼吸置いて、ラッキーの頭の上に手を置いて撫でながら

「旅人なんてものは格好良い仕事じゃない。
お金がないから生活を切り詰めないといけないし、旅人を入れてくれる国なんてほとんどないし、贅沢できないし、旅の途中で移動手段を失ったら死が待っている苛酷な職業だ。
でも、それでも僕は良いと思うんだ」

その答えにラッキーは首を可愛く傾げました。

「死ぬほどに辛いのにそれでいいの?」

「僕はね。
旅を通して数十人分の人生を歩んでいる。
少しくらい死にそうな目にあって辛くても、へっちゃらなんだ。
それに人生は誰でも一度切り。
長くて平凡な人生を過ごすよりも、短くても太い人生を送った方がお得だろ?
毎日を仕事に費やして平穏に生きるなんて僕には勿体なくて出来ないね」

「うーん?
ひょっとして、平凡に生きている人を見下しているのかな?」

「いや、平凡な人生を歩む人達がいるからこそ、僕みたいな旅人が旅を出来るって事を理解できているよ。
農民がないとパンも作れない。
銃器や車も、工場や職人がいないと作れない。
そういった人達のおかげで、僕は旅が出来るのさ。
旅は良い。
色んな出会いと新鮮さが待っている」

この言葉に、少女は感動して、心の中の知的好奇心が大爆発しました。
自分も旅に出たいと思ったので、その日の内に友人達にお別れの手紙を書いて郵便に投函。
少女は、拳サイズの大きさの妖精さんと一緒に故郷を旅立ったのです。
妖精さんは、ラッキーの手の中で泣き喚きました。

「やだやだ!
僕、旅なんかに行きたくない!
故郷で暮らそうよ!」

「妖精さん。旅は素晴らしいそうなんだよ。」

さてはて、この世界にはどのような国が広がっているのでしょうか?









没ネタ

旅人「いや、平凡な人生を歩む人達がいるからこそ、僕みたいな旅人が旅が出来るって事を理解できているよ。
農民や食糧生産工場がないとパンも作れな・・・ああ、農民なしでやっていける国があったね。
銃器を作るのも、軍需産業や武器職人や3Dプリンターがないと作れな・・・職人必要がない国があった事を思い出した。
うん、まぁ・・・そういった人達のおかげで旅が出来るのさ」

ラッキー「訳が分からないよ」



[40621] 1国目  死ぬ事が運命で決められている国
Name: (´・ω・`)パルメ◆8fb14eab ID:a6872ec0
Date: 2014/11/03 16:17
空は雲がないくらいに晴天で、光が燦々と降り注いでいて心地良い気候。

エルフの少女【ラッキー】は、山と山の間にある険しい小さな道を歩いていました。
背丈は人間の10歳児ほどで、とても小さい女の子です。
地面にギリギリ届きそうな長さの黄金のような金髪と、長く尖っている耳が特徴的で、白いローブ(袖つきのワンピース形式のゆったりとした外套)を着ています。
エルフを知らない方に説明すると、神の血を引く半神半人の恐ろしいほどに強い化物の事です。
寿命は存在せず、殺されない限り死ぬ事はありません。
死んだ場合、周りの地形ごと巻き込んで、オーストラリア大陸サイズの世界樹になる大変迷惑な生き物です。
今は、歩くのに邪魔な山を風の魔法で吹き飛ばして消滅させていました。
その威力は戦略核兵器に匹敵する凄い威力。
小さな国なら、この一撃で消滅しちゃうエネルギーでした。

「ラッキー!
自然を司る神様の血を引いてるのに、自然破壊しちゃ駄目ぇー!
僕と一緒に故郷の森に帰ろうよぉー!」

ラッキーの周りを、拳サイズの妖精さんが飛んでいます。
妖精さんは、背中から蝶の羽を伸ばしていて、赤色のドレス、緑色の髪をしている可愛らしい女の子。
実は、ラッキーと妖精さんは、故郷の森から一緒に旅をしている友達なのです。
妖精さんは、故郷の森に帰りたいと思っているのですが、ラッキーはあと100年くらい旅をするつもりなので、帰る気が全くありませんでした。
ラッキーは無表情のまま、妖精さんに言います。

「嫌だ、私は旅をしたいの。
静かな森でゆっくりするのは飽きた」

「人間の世界やだぁー!
コンクリートジャングルーは辛いよぉー!」

ラッキーと妖精さんは、とても仲良しですね。
少女達は今のようなやり取りを繰り返し、100時間ほど眠らずに森を歩きました。
普通の人間なら死んでしまいますが、エルフは水と光があれば生きていけます。
妖精は自然の化身なので、例え死んでもすぐに復活できるので何の問題もありませんでした。
どっちも旅をするのに最適な身体をしています。
旅はとても危険ですからね。
どう危険かは、この物語を読めば分かるようになります。












今、少女達の眼前に人間の国が広がっていました。
国の周りには、外敵から国を守るために、高い城壁が張り巡らされていて、城壁のせいで国の中を見る事ができません。
唯一の入り口である城門らしき場所には、銃で武装した軍隊と、入国審査を待っている数十のトラックの行列が出来ていました。
国とは、不審者を入れないように、こうやって日夜努力しているのです。
ラッキーみたいな国籍もない女の子は、賄賂でも払わない限り、入国する事は不可能でした。




だから、ラッキーは、魔法で自分の身体を浮かし、光を歪めて姿を消す光学迷彩を周りに展開、空から正々堂々と不法入国します。
あっという間に、国外から、国内の住宅地らしき場所へと着地し、そこで光学迷彩を解除して、入国が成功しました。
このラッキーのやり方に、妖精さんが不満そうです。

「ラッキー。
不法入国は良くないと思うの」

「いつも入国拒否されるからやだ。
この方が安全で賄賂もいらないよ」

「故郷に帰ればいいのに……」

ラッキーは、入国できた事を喜び、良い笑顔をしていました。
人間の国が好きなのです。
住宅地のコンクリートで舗装された道路を歩き、ラッキーは人間がたくさん居そうな広場へと向かいました。
この国は科学が発達して豊かそうで、道路の真ん中には鉄の車が走り、貧乏な格好をしている人間や、物乞いが1人も居ません。
皆、とても幸せで豊かです。
食べ物は捨てるほど溢れ、燃料などの資源に困らず、文化も発達していて娯楽が豊富なのが見ているだけで分かります。
でも、広場に一人だけ、不幸そうな顔をしている人が居ました。
20歳くらいの痩せている青年です。
顔を真っ青にして、ベンチに座って地面ばっかり見ています。
ラッキーは気になったので、歩いて近づいて

「そこのアナタ。
何を悩んでいるの?」

青年は、ラッキーの声に顔をあげました。
キラキラで綺麗な金髪をしているラッキーの姿を見て、青年は少し驚いています。
でも、すぐに我に帰って冷静になり

「・・・ん?お嬢さんは誰だ?」

「普通の旅人だよ。
この国には、さっき入国したの。
悩んでいる事を、私に話してくれると嬉しいかな」

(旅人?
こんなに小さい娘が?)

ラッキーは青年から怪しまれましたが、子供の戯言だと思われたので特に問題にはなりませんでした。
ラッキーの小さくて綺麗な外見は、人を油断させる効果があるのです。
青年は、少ししてから、悩んでいる内容をポツポツ話しました。

「まぁいいか。話しても損はしないしな。
俺はな。
今日、死ぬ事が決まっているから悩んでいるんだ」

「ん?
死ぬ事が決まっている?
どういう事なの?」

「お嬢さんの年齢だと、この一般常識はギリギリ知らないよな。
この国じゃ、人間が産まれた時に、1万に1人の割合で、脳味噌に超小型爆弾を仕掛けるんだ。
それで20歳の誕生日になったら、自動的に爆弾が爆発して対象者を殺す、そういう仕組みになっている」

ラッキーは不思議に思いました。
何でそんな事をするのか、全く分かりません。
青年は説明を続けました。

「何故、爆弾を仕掛けるのかというとな。
故意に国民の命を奪う事で、国民全員に命の尊さを実感させて、大切で貴重な人生を生きて欲しいっていう、この国の伝統なんだ。
かれこれ、500年ほど、この伝統が続いてる」

「・・・なるほど、アナタはそんな理由を抱えていたから、不幸そうな顔をしていたんだね。
死ぬ日が勝手に決められて大変だったでしょ?
今まで生活するのは大変だった?」

「いや、この爆弾が脳味噌にある事を本人に知らせるのは、死ぬ当日だから、俺は昨日まで呑気に暮らしてたぞ。
まぁ、お嬢さんと会話したおかげで、大分、気が楽になった。
ありがとな」

青年は右手をラッキーの頭の上に置き、綺麗な金髪を撫で撫でしました。
青年は知りませんでしたが、ラッキーの周りには常に風のバリアーが展開しています。
もしも、ラッキーが一部解除しなかったら、青年は今頃、腕がバラバラになって出血死して危ない所でした。
ラッキーは、まだ聞きたい事があるので、青年に問いかけを続けました。

「・・・ところで、この伝統のせいで死亡した人間達は、大人しく死んだの?」

「いや、俺みたいに死を受け入れる奴は9割くらいらしいな。
残りの1割は、死ぬ前に好きな娘を殺して心中したり、高いビルから飛び降りて自殺したり、家族を殺したり、銃を乱射して学校の生徒を皆殺しにしたりして、犯罪を犯してる。
死ぬ事が決まっているから、そいつらは自暴自棄になってしまったんだな」

ラッキーは驚きました。
この世は矛盾した事だらけです。

「・・・・・・うーん?
その伝統は、命の尊さを教えるための伝統なんでしょ?
なら、なんで、他者の命を奪うの?
本当に命が尊いなら、他者の命を奪わずに大人しく死ぬはずだよね?」

「この伝統が今も続く本当の理由は、俺にも分からん。
今日まで、俺には関係ないと思って生きてきたから、全て他人事だと思っていた。
当事者になったから分かるが、こんな伝統意味ないよな。
お嬢さんの言う通り、命が尊くて価値があるものならば、さっさと廃止すべきだと思う」

青年はため息を吐きました。
ラッキーは、人間世界の矛盾さに頭を悩ませながら楽しいなと思いました。
全く違う常識に触れあうのは、新鮮な出来事だったのです。
楽しかったので、青年にお礼をしようと思いました。

「よし、その話で私を楽しませてくれたお礼に、その爆弾を破壊してあげるよ」

「え?」

ラッキーは、青年の頭を、小さな両手で掴みました。
そして、探査魔法をかけ、脳味噌の何処に爆弾があるのかを調べます。
一瞬で爆弾の場所を理解したので、微弱な電気を魔法で流し、爆弾の起爆装置だけを破壊しました。
青年の頭から両手を離して、ラッキーは両手で背後に何かを隠すような仕草をした後に、見惚れるような素敵な笑顔を浮かべます。

「・・・爆弾は壊れました。
アナタには未来がある。
良かったね」

青年は小さい娘が自分を励ますためにやった冗談だと思いました。
ですが、ラッキーが目の前で光を歪めて姿を消す光学迷彩を展開して見えなくなったので、慌てます。
ラッキーの姿を探そうと、青年はベンチから立ちあがり、周りを見渡しました。
でも、青年の目には、ラッキーの姿が映りません。

「あの娘は・・・俺の幻覚だったのか・・・?
それとも、本当に俺を救ってくれた天使・・・?」

ラッキーは、青年の目の前でクスクス笑っていますが、青年の目には映りませんでした。
人間が驚く姿を見るのが、ラッキーは大好きなのです。
ラッキーはそのまま歩いて場から離れ、この国を一日観光してゆっくりしました。
ラッキーの片手には、青年の頭を掴んだ時に、風の魔法で盗んだ財布(お金を入れる袋)が握られています。
手癖が悪い娘なんですね。













翌日、ラッキーは、青年と出会った広場へとまた向かいました。
人間の国は、エルフのラッキーにとって刺激が満ち溢れていて楽しい事ばかり。
青年の財布の中の金で、遊園地にいったり、買い物をしたり、公共機関を利用して昨日一日楽しんだので、ラッキーはご機嫌です。
広場まで歩くと、昨日会った青年が地面に、頭だけを残して全身を埋めらている姿が見えました。
広場には、広場を埋めつくすほどに大勢の人間の群衆がいて、とっても怒っています。
群衆は口々に叫びました。

「伝統を破るなんて、あなたは命の尊さを知らないの!?」
「命の尊さを知っているならっ・・・!なぜ大人しく死なない!」
「運命を受け入れないのは、クズのすることよ!」
「早く死ね!」

どうやら、青年が予定通りに脳味噌の爆弾を爆発させて死ななかった事を怒っているようでした。
ラッキーは、この人間達の言葉を聞いて、命の尊さを語ってる割には、青年に死ねとか言って矛盾しているなと思いました。
群衆が一通り青年を罵倒したから、青年は泣いています。
生きている事そのものを全否定されたからです。
ここまで皆から罵倒されると、この国で生きるのは不可能でした。
一日、余分に生き延びたせいで、本当の絶望が待っていたのです。
人間、生きている事そのものを全否定されるのは、殺される事よりも辛いのです。
青年は泣きながら、群衆の心に訴えかけようと、絶望を感じながら大声で

「俺が何をしたって言うんだよ……
命が尊いなら!俺は生きてもいいだろっ!?
なんで俺が死なないといけないんだよ!?」

すぐに群衆から返答が返ってきました。
石です。
群衆が投げた100にも及ぶ石による投石。
それが返答でした。
次々と青年の頭の周りに石が落着し、その一部が青年の目に当たり、青年を失明させました。

「うあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

青年は顔から血を流して泣き叫び、絶望しています。
もう、何を言っても、自分は助からない。
そう理解してしまったのです。






しばらくすると、警官と思しき青い服を着た中年の男がギザギザのノコギリを手に持って、広場にやってきます。
まず、群衆の方へと警官は顔を向けて、大声で叫びました。
その叫びには怒りの感情が籠っています。

「青年は、我が国の伝統を侮辱し、死ぬ運命に抗いました!
この伝統が、国民達に命の尊さを教え、命とは何かを考えさせるための行いだというのに、自分の命欲しさに伝統を破ったのです!
これはとても許されない事です!
だからっ!
貴官は心を鬼にして、伝統を遂行する所存であります!
終わるはずだった命をっ!
今ここでっ!
終わらせます!」

警官はそう言うと、ノコギリを青年の首の所へと当てました。
青年は嫌そうな顔をして、泣き叫びますが、警官さんはノコギリをギコギコ引いて、首の切断を始めます。
ラッキーは、この光景を見て痛そうだなと思いました。
広場に青年の悲鳴が響き渡り、首から血が溢れ出ます。
そのまま青年の首は、ノコギリでギコギコと切断されて、広場の地面にゴロンと転がりました。
群衆は青年が死んだ事に安心し、大喜びです。

「やったぞ!伝統を破った愚か者が死んだ!」
「命の尊さを分からない若造め!これで命の大切さが分かっただろう!」
「やったー!人は何時か死ぬ!それが理解できたー!」
「なんて命は尊いのだろうー!」

ラッキーは、この群衆の姿を見て、クスクス笑いました。
群衆は命の尊さと言ってる割には、人の死を見て喜ぶ人達だったのです。
人間の国には、考えても理解できない矛盾で満ち溢れていて、ラッキーは笑い死にしそうなくらいに笑いました。
妖精さんは、彼らを見て涙を流しながら呟きます。

「ねぇ、なんで人間はこんなに残酷なの?
こんな事しても無意味なのに、どうして意味もなく命を殺すの?
・・・もうやだ、故郷に帰りたい」

ラッキーにも分からない事だから、答える事ができませんでした。
ただ、広場で警官さんが言ってる事が、頭に残りました。
警官さんは神妙な顔で語っています.

「皆さん。
青年は、私達に命の尊さを教えるために死にました。
彼のような幸先ある若い命が死んだ事を悲しみ、冥福を祈りましょう。
これは意味のある死なのです」

警官さんは、自分でその命を無意味に殺したのに、全く罪悪感を感じていませんでした。
ラッキーは、人間の世界は理不尽な事で溢れているんだなと思いました。


分かった事は、この国は伝統が一番大事であり、人間の命なんてゴミ程度の価値しかないという事です。
尊い命なんて、何処にもありませんでした。
青年の命は、伝統と比べる価値もないゴミだったのです。





群衆が立ち去った後、場に残されたのは死んだ青年の首。
この世の全てを恨むような、悲しむような絶望と憤怒が合わさった不思議な顔でした。








死ぬ事が運命で決められている国  おしまい。



[40621] 2国目 愚民の国 【前編 最悪の民主主義の国】
Name: (´・ω・`)パルメ◆8fb14eab ID:a6872ec0
Date: 2014/11/03 16:19
2国目 愚民の国
【前編 最悪の民主主義の国】

真っ白に降り積もった雪の平原。
死の世界を想像させる真っ白な世界。
その中に点々と続く寂れて細い道を女の子が歩いていました。
頭に妖精さんを乗せています。
もちろん、エルフのラッキーです。
普通の人間なら、この寒さの時期に徒歩で旅をすると、体調を壊して死んでしまいますが、エルフは半神半人の化物。
この程度の寒さは、魔法で周りを暖かくしてヘッチャラでした。
ラッキーが歩いて移動するだけで、周りの雪が自動的に溶け、雪の平原に道が露出しています。
普通なら、頭に妖精を乗せた女の子は目立ちますが、妖精さんは自然の化身。
人間には見る事ができません。
妖精さんを見る事が出来るのは、エルフと極一部の者達だけです。



ラッキーは、今日も空を飛んで城壁を超え、人間の国に不法入国します。
この人間の国は、とても貧乏そうな国です。
具体的には、街のあちこちに親がいない子供【ストリートチルドレン】で満ち溢れ、ボロ衣を纏った物乞いがたくさん居ました。
そして、建物は貧相で、台風や地震が来たらすぐに倒壊しそうです。
これでは冬を越せずに死ぬ人間が大量に出る事は明らかでした。
この地域の人間には、暖かい食べ物と、暖かくて丈夫な建物の二つが必要なのです。
この国は、その二つを満たしてない人間達が大量に居ました。

「もうやだぁー!冬の季節やだぁー!
故郷に帰りたいよぉー!」

妖精さんが、この寒い国で文句を言いますが、ラッキーはクスクス笑いながら、元気良く人間の街を歩きます。
人間にとって暮らし辛い国でも、ラッキーから見れば、新鮮さと驚きの塊なのです。





ラッキーがこの国の真ん中にある大きな広場へと行くと、縄で手足を拘束されて棒に括り付けられた大勢の人間達の姿が見えます。
ほとんどが年老いた男性で、一部は女性でした。彼らは豪華なスーツを身に纏っています。
ラッキーは、彼らの外見から身分が高い人間だと判断しました。
そして、彼らの周りには、怒り狂う群衆と、銃を持った軍人さん達の姿があります。
群衆の怒りは、縄で拘束された人間に向けられていました。

「この無能政治家っー!お前達のせいで国が腐敗したんだ!」
「死んでつぐなえー!クズー!」
「民主主義なんて、俺達には早かったんだ!」
「お前達のせいで、俺達は貧乏なんだぁー!」
「貧困を解消できなかったゴミは処刑だぁー!」

群衆は道端に転がる石を持って、投げました。
当然、標的は棒に括りつけられた人間達です。
石が次々と頭、手、足、胴体に当たり、血がでて痛そうでした。
石の殺傷力が低すぎるせいで、そう簡単に死ねなくて辛そうです。
軍人さんの持つ銃だったら、一瞬で死ねるのに、投石では生き地獄同然でした。
ラッキーは、どうしてこんな事をしているのかを気になったので、周りを見渡し、暇そうな軍人さんを見かけます。
軍人さんは緑色の迷彩服を着ていて、広場の端の方でタバコを吸って呑気にしていました。
ラッキーは、トコトコと歩いて近づき、軍人さんに話しかけます。

「そこの暇そうな軍人さん。
どうして、彼らは石を投げているの?」

軍人さんは、ラッキーの言葉を聞いて苦笑します。
ラッキーの頭に右手を置いて撫で撫でしながら、答えてあげました。

「お嬢さんは小さいから、この国の一般常識をまだ知らないんだな。
良いだろう。
オジさんは人が良いから教えてあげよう。
あそこで棒に括りつけられて、石を投げられている奴らはな。
この国の元政治家達で、あの石投げは由緒正しき伝統的な公開処刑方法なんだ」

「公開処刑……?」

「ああ、石投げは民衆のストレス発散も兼ねているから、石を人に向けて投げると楽しいぞ。
お嬢さんも石を投げてみるか?」

軍人さんが地面にあった石を拾って、ラッキーに渡しました。

「そんな事よりも、この国の事を聞きたいよ」

ラッキーは首を横に振って断りました。
軍人さんは、周りに流されない変わった娘だなと思いながら、説明をします。

「わかったわかった、オジサンが全部答えてあげよう。
この国はな。
長らく、民主主義っていう、国民が国の代表を投票して決めて、代表者が国を運営する方法でやってきたんだ。
でもな。
民主主義には欠陥があったんだよ。小さいお嬢さん」

「欠陥?」

「ああ、民主主義は、国民全てが賢くて勉強出来て、誰が国を正しく導ける指導者なのか理解できないと衆愚政治になるんだ。
人間にはそんな事は不可能だろう?」

ラッキーはエルフだから、そんな事に同意を求められても困りました。
軍人さんは、ラッキーの無言を肯定だと勝手に理解して話を続けます。

「人間は楽をしたい生き物なんだ。
日ごろから、生活や仕事で忙しいのに、正しい政治家を選ぶために勉強したり努力したりなんか面倒でしないんだよ。
だから、新聞やテレビなんかの情報メディアの言う事を信じて楽をするようになる。
こうなったら、民主主義はおしまいさ。
新聞やテレビの言う事が正義になって、民意なんて反映されない。
民衆は愚民になってしまったんだ」

「そうか。
人間は大変なんだね」

「だから、この国の民主主義は腐りに腐り果てたんだ。
国民は誰に投票すればいいのか分からず、メディアに踊らされて投票し、この10年間で大統領が100人も代わって大混乱して、国家機能が麻痺したのは有名だな。
おかげで経済も政策も安定せず、この国は落ちぶれて貧乏なんだ。
最後なんて、中小企業のほとんどが倒産して、残った大企業も潰れて経済壊滅して大変だったんだぞ」

ラッキーは、この国がよく滅亡してないなと思いました。
大陸の国は、異民族と隣り合わせなので、こんな国は普通は他国に攻め込まれて占領されたり、紛争地帯になっているのが常識です。
軍人さんの話はまだ続きます。
言葉に熱が篭っていて気合が入っています。

「そんな国の腐った現状に怒り狂った民衆は、偉大なる指導者アドルフ・ヒドラー伍長閣下とともに立ち上がった!
俺達は、最低最悪の民主主義の国から脱却し、今じゃ少数のエリートが支配する専制主義の国家に生まれ変わったんだ!
アドルフ・ヒドラー伍長閣下万歳!」

軍人さんが自分の頭に手を置いて、この場にいない誰かに敬礼しました。

「伍長……?」

ラッキーは不思議に思いました。
軍隊で伍長といえば、下から数えた方が早い底辺中の底辺階級です。
そんな底辺階級が指導者になれる訳がありません。

「ああ、我らがヒドラー伍長閣下は、民衆の民意を受けて政治家になり、民主主義を廃止して、この国を導いてくれたお方なんだ!
この国を腐らせた政治家達を次々と、あんな風に処刑して、画期的な政策を実行してくださる!」

その言葉を受けて、ラッキーは広場で怒り狂う群衆・・・いえ、喜んで石を投げて、政治家達を投石で苦しめて殺している群衆を見ました。
政治家達は涙を流しながら殺され、次々と永遠に動かなくなりました。
群衆は自分達で投票して選んだ政治家を殺しても、罪悪感なんて全くありません。
喜んで残虐に殺しています。
ラッキーはこの光景を見て、軍人さんに最後の問いかけをしました。

「……軍人さん。
あなたは投票で、どの政治家を選んだの?」

「ん?
投票なんて面倒臭いから、一度も行った事ないな。
誰に投票しても同じだろ?」

目の前にいる軍人さんは、先ほど本人が言っていた通りの存在【愚民】でした。
そして、今までの解説は、この国のアドルフ・ヒドラー伍長閣下の演説の内容そのままだったので、軍人さんは意味を理解せずに解説しているだけです。


「もうやだ、人間の世界」
あまりの軍人さんの酷さに妖精さんが呟きました。






中編に続く



[40621] 2国目 愚民の国   中編 最悪の専制政治の国
Name: (´・ω・`)パルメ◆8fb14eab ID:a6872ec0
Date: 2014/11/03 16:21
2国目 愚民の国
 
中編 最悪の専制政治の国




ラッキーは、20年ぶりに思い返したかのように、民主主義から専制主義になった国を再び訪れていました。
もちろん、今回も不法入国です。
国は以前よりも寂れていて、国中の建物がボロボロです。
親がいない子供や、物乞いが以前来た時よりも遥かに増えていました。
冬を越せずに死んだ膨大な人間達の事も考慮すると、恐ろしい事です。
国民のほとんどが貧乏人で、明日食べる物にも困る貧困国になっていました。

「ラッキー、帰ろうよぉー。
この国、寒いし、皆暗くてやだぁー」

頭にいる妖精さんが文句を垂れますが、ラッキーは無視しました。



ラッキーは20年前と同じように、大きな広場を目指して歩きます。
国のあちこちに偉大なる独裁者アドルフ・ヒドラー伍長閣下のポスターがありましたが、破られていたり、落書きされていて、無事なポスターが一つもありません。
大きな広場まで歩くと、広場の真ん中に100mサイズの巨大な石像が立っています。
鼻元にちょび髭を生やした格好良い中年の像でした。軍服らしき服装を着ています。
この像は、この専制主義の国の指導者【アドルフ・ヒドラー伍長】の像で、とっても真っ黒で豪華です。
ちょうど、大勢の怒り狂った群衆が、この像に縄を掛けて引っ張っています。
民衆は口々に文句を言っていました。

「この無能の独裁者!」
「こんな像は倒してしまえ!」
「専制主義なんて民主主義以下のクソだ!」
「ヒドラー伍長は人間のカスだ!独裁者反対ー!」

ラッキーは、20年前と何にも変わらない国だと思ってガッカリしました。
専制主義の結末が20年前から読めていたので、ラッキーの予想通りすぎて退屈です。
ラッキーは欠伸をして、自分の頭に乗っている妖精さんに話しかけました。

「この国つまんない」

「ラッキー、なら、こんな国に来るのやめようよ……」

「予想外の結末が待っていたかもしれないから、それはやだ」

二人が会話している間に、100mサイズのヒドラー伍長閣下像が群衆の力で倒れて行きます。
像はそのまま群衆の方へと向けて倒れて、群衆を踏み潰し、最後は地面に落ちて粉々の石の欠片になりました。
広場は血と肉のミンチだらけで、人間の子供が見ればトラウマになる光景です。
さすがに、この大惨事は予想してなかったので、ラッキーはクスクス笑います。
目の前の光景が、とても現実の物だとは思えなかったからです。
滅多にある光景じゃありませんでした。
周辺に居た群衆は仲間の死に泣き叫びながらも、明日への希望を捨てません。
彼らの手には、【共産主義の素晴らしさ】という表紙に大きな文字が描かれた本があったからです。
ラッキーの知的好奇心が刺激されてワクワクしています。
ちょうど、群衆の中の1人に、ラッキーが知っていた人が居ました。
20年前の軍人さんです。
年老いて初老の域に達していましたが、まだまだ元気そうです。
軍人さんの所までテコテコ歩いて近付いて、ラッキーは話しかけました。

「軍人さん。
この国は、どんな風に酷い国になったの?」

「ん?
見た事あるお嬢さんだなぁ。20年前に見たような・・・まあいいや」

軍人さんは、ラッキーが20年前の少女そっくりだと思いましたが、すぐに考えるのを放棄しました。
ラッキーに親切に解説をしてくれるそうです。

「この国はな。
20年ほど専制主義っていう、愚劣な独裁者が国を支配する糞みたいな体制の国だったんだよ。
お嬢さんは、幼いから理解してないかもしれないが、専制主義は本当に最悪だ。
国の財産を個人が欲しいままに散財して、1万人の住民を退去させて宮殿作ったり、国家財政の半分を独裁者の妻の贅沢のために使われた。それを批判する国民には苛烈な拷問と処刑が待っていたんだ。
特定の個人に無限の権力を与えると、そいつは腐って、国全体を衰退させてしまうから、専制主義は欠陥だらけで本当に駄目だ」

「軍人さん。
本当に……人間は大変だね」

「お嬢さん、この国の不幸を他人事のように言うがな。
専制主義は、民主主義とは違う意思決定の速さ、圧倒的な権力のおかげで戦争には強かったが、民衆の暮らしの改善や言論の自由がなくて大変だったんだぞ。
民主主義の方が遥かにマシだと思えるくらいにな。
今じゃ、この国は貧乏人だらけで、明日に食べる飯にも困る奴らだらけだ」

軍人さんが、ラッキーの金髪の頭に右手を置いて、撫で撫でしました。
この時、ラッキーが風の結界を一部解除しなかったら、軍人さんの右手は風のバリアーで粉砕されてバラバラになって消滅している所でした。
そして、ラッキーは、軍人さんがもう片方の手に持っている本がとても気になります。

「軍人さん。
その本はなーに?」

「ん?この本か?
これはな。
共産主義っていう素晴らしい思想について描かれた本なんだ。
なんでも異世界のソビエト連邦って所で実現した地上の楽園について描かれているらしい」

「その本は、どんな内容なの?」

「良い内容だったぞ。お嬢さん。
富は民に全て公平に分配し、搾取してくる資本家(金持ち)に独占させるなとか、民衆のための事を思って書かれてる。
俺達の国は、これから共産主義の国になって、また新しくやりなおそうとしているんだ」

ラッキーは、色んな国々を巡った事があるので、共産主義がどんな結末を齎すのか知っています。
でも、忠告するのをやめました。
だって、無駄だからです。
この国の人間そのものが駄目なのだとわかっているので、何も言わないでおきました。
軍人さんは未来へ希望を輝かせて話を続けます。

「俺達は今度こそ、理想的な社会を作るんだ。
誰も差別されなくて平等で豊かで良い国をな。
お嬢さんが大人になる頃には、この国は良い国になっていると思うぜ」

ラッキーは軍人さんの顔を見つめました。
軍人さんの顔はとっても素敵でした。
もしも、ラッキーが人間の女の子だったら惚れてしまうくらいに良い顔をしています。
ラッキーは、この国がどのような結末に至るのか気になりました。




ラッキーは気になった事があるので、最後の問いかけを軍人さんにします。

「ねぇ、軍人さん。
アドルフ・ヒドラー伍長閣下は今も生きてるの?死んでるの?」

「ん?
そんな事も知らないのか?
一カ月前に、ヒドラーはこの広場で石投げの刑に処されて、群衆の投げる石で苦しんで死んだよ。
奴が死んだ時、俺達は心の底からスッキリした!
奴は俺達の期待を裏切ったんだから、当然の報いだ!」

軍人さんは相変わらず愚民です。
ラッキーはその可笑しさにクスクス笑いました。
見惚れるような可愛い笑顔だったので、軍人さんもニコニコ笑っています。



「何も変わってない……もうやだ、この人間」
妖精さんは嫌そうに呟いていました。






後篇に続く




[40621] 2国目 愚民の国  後編  最悪の共産主義の国
Name: (´・ω・`)パルメ◆8fb14eab ID:a6872ec0
Date: 2014/11/03 16:24
2国目 愚民の国
 後編  最悪の共産主義の国





ラッキーは、また20年後に思い返したかのように、愚民だらけの国を訪れました。
共産主義を推進した国がどんな結末になったのか気になったのです。
今回は不法入国する必要すらありません。
国が死に絶えています。
建物はあちこちがボロボロを通り越して倒壊していました。
城門も城壁も補修されずに壊れています。
ラッキーは正々堂々と壊れた城門を通って入国し、街の大きな広場へと向かいました。
道中、生きている人間を全く見かけません。
動かない白骨死体だらけです。
広場に到達すると、そこには辺り一面に膨大な数の頭蓋骨が並んでいて、年老いてヨボヨボの軍人さんが頭蓋骨の上に座っています。
絶望して下を見てブツブツと呟いていました。

「なぜ……なぜ……こうなる……
皆死んだ……」

「軍人さん。どうしてこんな国になったの?」


ラッキーは、問答無用で知的好奇心を満たすために、軍人さんに話しかけました。
軍人さんは、若い女の子が目の前にいる事に驚きます。

「こ、この国の生き残りか!?」

「違う。
私は通りすがりのエルフの旅人だよ」

「……そうか。
生き残りじゃないのか」

「どうして、この国が死に絶えたのかを私に教えてほしいの」

ラッキーは、容赦ありません。
目をキラキラと輝かせています。
共産主義といえども、ここまで酷い終わり方をする国はそうはないからです。
大抵。国民の何割かが死ぬくらいの被害で済みます。
軍人さんは、寂しさを紛らわすためにも、ラッキーに全てを話そうとしました。

「・・・この国はな。
20年ほど共産主義という、全ての富を平等に分け与える体制で暮らしていたんだ。
給料も食糧も平等に分配して、理想の公平な社会を実現して・・・いたんだ。
だが、働く者にも、働かない者にも、平等に給料を支給したから、皆が働かなくなった」

「そ、か。
他の共産主義国家よりも酷いね。
まさか働かない連中にまで、賃金を払うなんて・・・クスクスクス」

ラッキーは大笑いしました。
笑い死にそうになるほど笑いました。
軍人さんは、今までずっと寂しかったので話を続けます。

「でも、俺はそれでも共産主義が正しいと思って頑張った。
皆が、この制度の素晴らしさに気付いてくれれば、働く尊さに気付いて、平等で素晴らしい国になると思って、俺達は共産主義を続けたんだ」

「クスクスクス。」

「ラッキー、笑うのやめようよ。不謹慎だよ」

「国民の中には、民主主義に戻った方が言いとか、時代を逆行させるような発言をする奴らも居たから、俺達はそんな反逆者達を全員、石投げの刑で処刑して、共産主義のために頑張ったんだ。
だけど、反逆者を殺しても殺しても、反逆者は減る事はなかった。
皆、共産主義の素晴らしさに気づかない愚民だったから、全部俺達が殺した。
挙句の果てには、軍部の中からも民主主義の方が良いとか、ふざけた発言をする奴が出て、そいつらも俺達は全員殺した!」

ラッキーは笑います。
普通の共産主義国家なら、人間には実現不可能な平等社会を実現しようとする矛盾故に、大量虐殺をしまくる専制主義寄りの国家になったり、他国に攻め込まれて政権が崩壊して、事態は収拾されるのですが、この国は予想外の事ばかり。
これには笑うしかありません。

「だがっ!
反逆者を次々と殺していたら、とうとう軍の中から離反者が出続けたんだ!
そのまま軍が複数に分裂したせいで、この国は10年以上内紛を続けて、今じゃ国は廃墟!
無事な国民や俺の同僚達は、この国を見捨てて逃げて、今じゃ、俺しか残ってない!
なぜだ!
なぜなんだ!
理想の共産主義社会を作るつもりだったのに!
なんでこんな事になる!」

ラッキーは笑うのをやめました。
見事な結末を見せてくれたお礼に、軍人さんに答えてあげます。

「軍人さん。
あなたは、長く生きたはずなのに、人間の欲望の深さに気付かなかったの?」

「なにを……言っている?」

「働く者も、働かない者も、病む者も、無能な者も、有能な者も平等に公平に富を配分する社会なんて実現できると思っていたの?軍人さん。
私はこの数十年、人間を見てきたから知っている。
人間は、そんな環境では腐ってしまう生き物だよ」

軍人さんは大きく動揺しました。
ラッキーは、笑みを浮かべながら言葉を続けます。

「人間はたくさん働けば、その働いた分だけのお金や物が欲しいしと思ってしまう生き物なんだよ。
それなのに、幾ら働いても平等に給料を払ったら、皆、働くのが馬鹿らしくなってやめてしまうのは当たり前だよ。
そんな事も軍人さんは分からなかったの?
人間の一生は短いけど、それなりに生きてきたはずでしょ?」

「違う!
人間はもっと!
進歩するはずなんだ!
反対する奴らを全員殺せば、平等な共産主義社会が実現するはずだったんだ!
俺は悪くねぇー!」

軍人さんは頭を抱えて首を左右に必死に振り、理解するのを拒みました。
ラッキーの言葉を素直に聞く事は、今までの全人生を否定した事になるからです。
ラッキーは、これ以上は何を言っても無駄だと思ったので、光学迷彩で姿を消し、場から歩いて離れました。
場に残されたのは、ヨボヨボの軍人さんと、死の国と化した元人間の国です。

「俺は・・・俺は・・・・悪くな・・・・・・・・・・うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」












ラッキーが軍人さんの国から離れて、次の国へと向かうために歩いてると、背後から銃声が響きました。

パーン

この銃声が誰に向けられたものかはラッキーには推測しか出来ませんでしたが、恐らく、軍人さんは自殺したのだろうと思っています。
人間の世界は、理不尽と矛盾で満ち溢れて、とても醜いとラッキーは思いました。
そして、だからこそ、人間の世界は楽しい。
今日のラッキーは笑顔でした。





「」
妖精さんは、ラッキーの鬼畜っぷりに今回は何も言えません。






2国目 最悪の民主主義と、最悪の専制政治と、最悪の共産主義の国
おしまい










あとがき
【ヤンが最悪の民主政治は、 最良の独裁政治に勝るって言ってたけど本当なの?】
を思い出したから、このネタ思いついた。
 
最悪の民主政治  +  最良の独裁政治

最悪の民主主義 + 最悪の専制主義 + オチに最悪の共産主義

俺は悪くねぇー! 




[40621] 3国外目  山賊オーク達の世界
Name: (´・ω・`)パルメ◆8fb14eab ID:a6872ec0
Date: 2014/11/03 16:28
3国外目  山賊オーク達の世界




皆さんは、オークという生き物を知っているでしょうか?
豚の顔を持ち、人間よりも遥かにパワーを持つ人型の亜人(人間と似て非なる生物)の事です。
この種族の特徴として、オークは♂しか産まれず、繁殖するために遺伝子的に近い人間の♀を誘拐し、無理やりお嫁さんにして、死ぬまでひたすら繁殖行為に励み、大量に子供を作らせる事で世界的に有名なのです。
一度、オークが大量繁殖すると、人間の国を圧倒的な物量で滅亡させてしまった例もあるくらいに繁殖力が強くて危険です。
無論、このような、人間にだけ極端に有害な生物が自然発生する訳がありませんから、人間を効率よく長期的に苦しめるための生物兵器なのだと、最近では認知されるようになりました。
何処の国がオークを開発したのかは分かりませんが、迷惑ですよね。

「「「ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!
女の子は全て、俺達の嫁ブヒイイイイイイイイイイ!!!!!」」」」」






なぜ、このオークの話をするのかというと、エルフのラッキーが、人里から遠く離れた森の中にある道を歩いていたから、オークの山賊団に目をつけられてしまったのです。
ラッキーの見た目は、若々しい人間の10歳の女の子に見えるから、オークからは繁殖対象として見られています。
オーク山賊団の数はざっと100匹。
人間の旅人や行商人を殺して奪った小銃で武装し、ラッキーに気づかれないように森の中を移動して包囲しようとしていました。
オーク達はとても楽しそうです。
最近は、人間の武器が発展しすぎて、オーク達はこういう人里から遠く離れた場所においやられて不自由をしているから、若い女の子は貴重でした。
若い美少女は喉から手が出るほどに欲しい人材(嫁)なのです。
絶対に逃がす訳には行かないので、オーク達は森に包囲網を敷き終わってから、茂みから飛び出して、ラッキーに襲いかかりました。
豚顔を喜びに染めて、久しぶりの溜まりに溜まった下半身の欲望を解放できるチャンスなのです。
さて?オーク達はラッキーをお嫁さんにして、幸せな結婚生活を送れるでしょうか?
答えは続きをご覧ください。

「ぶひぃー!俺達の嫁になれブヒィー!
あれ……?おでの……顔が真っ二つ……?」

最初のオークは、ラッキーに近付こうとしたら、魔法で作り出した風の刃で豚顔を真っ二つにされて死にました。

「「「「「「「ぶひ?」」」」」」」」」

次は、仲間が瞬殺されて茫然としている10匹のオークの首が、風の刃で切断されて身体から落ちて死にました。

「ぶひぃー!仲間の犠牲は無駄にしないぶひぃー!」

1匹の勇敢なオークは、ラッキーに近付いて抱きつく事に成功しましたが、抱きついたのは若々しい肌じゃなくて風のバリアーです。
この風のバリアー、台風クラスのエネルギーを圧縮して回転させている代物なので、オークは瞬時に粉々になりました。
残りの88匹のオークは、ラッキーの魔法で空気から作り出された毒ガスが周りに流されたので、既に死んでいます。


オーク達は、ラッキーをお嫁さんにする事に失敗して、永遠に動かなくなったのです。
ああ、なんて不幸なのでしょうか。
弱いとは悪い事なのですね。
強くないと、幸せを掴み取る事は出来ないのです。
あと、オーク達に足りないのは運でした。
ラッキーがたまたまここを通りかかるなんて、オーク達は運がないですよね。







オーク達を皆殺しにしたラッキーは、次の人間の国はどんな国なのかな?と楽しみにしながら、何事もなかったように道を歩きました。

「ラッキー!?これだけ死体を作ってノーコメントは駄目だよ!」

「オークは見てもつまんない。
豚肉料理にして食べる?」

エルフは光と水があれば、生きていける生物なので100匹のオークの死体は放置され、この地域の治安が良くなったそうです。
オークの嫁になりたがる人間の♀は滅多にいないので、オークの婚活は命がけで大変です。





3国外目  山賊オーク達の世界
おしまい。



[40621] 4国目  旅人の国
Name: (´・ω・`)パルメ◆8fb14eab ID:a6872ec0
Date: 2014/11/03 16:33
空は、雲がない真っ青の晴天。
昼寝するのに丁度いいポカポカとした陽気。

ラッキーは、今日も森の中の道を歩きます。
でも、道を歩いていたら、可笑しい事に気付きました。
道の周りで、人間の腐乱死体や、白骨死体をあちこちで見かけるのです。
人間は、同胞を埋葬する生き物ですから、遺体を放置するなんて通常ではありえません。
自然葬をするにしても、人間は専用の施設を用意したりする生き物です。
この光景は、 あ り え な い 光 景 な の で す 。

「なんで死体だらけなんだろう」

「ラッキー、きっと碌でもない国があると思うから、故郷に帰ろうよぉ……」

「やだ、面白い国がある気がするの」

ラッキーと妖精さんは呟きましたが答えは出ません。
そこに謎があれば、戦場でも突撃するのがラッキーという女の子です。
300時間ほど歩きに歩き続け、その間、万単位の遺体を見かけたから、疑問は余計に深まるばかり。
道の周辺だけで、これだけ大量の遺体を見つけるという事は、数百万、数千万人単位の遺体が野晒しになっていても可笑しくないという事です。
そして、ラッキーはとうとう国を見つけました。
そこは科学が非常に発達した大都市です。
車がジェット噴射で空を飛び、地上にある街の道路を皿型のロボットが掃除して綺麗にしていてハイテクでした。
道を行き交う人々は、ビッシリと身体に密着するスーツを着ていて、ファッションセンスだけは壊滅的。
街全体に高層ビル群が乱立し、ビルとビルの間に透明な道路があり、そこを人間が大量に歩いていました。
なんと言えばいいのでしょうか。
現実の20世紀の人間が想像する21世紀の未来世界。まさにそう表現するしかない国でした。
ラッキーは目を輝かせています。
こんなハイテクな国は滅多にないからです。
更に、不思議な事に外敵から国を守る城壁がなくて、この国は無防備でした。
ラッキーは、光を歪める光学迷彩を展開し、魔法で空を飛んで、今日も不法入国しようと空から国に近付きます。
すると!警報音が国中の機械から鳴りました!
国中の建造物から銃が飛び出て、無数の銃口がラッキーに向けられています。
ただの実弾銃ではありません。
ビームを撃ちだす光学銃です。
ビームは実弾よりも殺傷能力があり、速さは秒速30万kmで回避は困難。一度、標的に当たれば、傷口を焼いて貫通し、治らない傷を作ってしまう厄介な武器なのです。

【ビー!ビー!不法侵入はやめてください!
これ以上、近付くと射殺します!】

ラッキーは困りました。
不法入国できません。
これだけ科学が発達していると、風のバリアーで完璧に攻撃を防げる自信がありませんでした。
渋々と不法入国を諦めて、空を飛んだまま国から離れて、国の近くの山の山頂に着地します。
雲よりも高い場所にある山だったので、山頂には草しか生えていません。

「困った」

「ラッキー、この国はさすがにやばいから、他の所へ行こうよ……」

ラッキーは悩みます。
でも、光学迷彩を展開しても接近していた事が、人間の国にばれていたので、お手上げです。
どうしてばれたのか分かりません。
光の情報は、光を歪める光学迷彩があるから、外部に漏れないはずなのです。
音と熱の情報は、風のバリアーで一時的に遮断していたので、センサーを使っても熱と音を探知できないはずなのです。
困りました。







悩み過ぎて、一カ月ほど山で生活しながらラッキーは悩みました。
エルフは殺されない限り死なないので、とっても時間を贅沢に浪費しちゃいます。
この間、無数の不法入国を試みましたが、全て失敗してラッキーは寂しそうです。
地面に左手で絵を描いてウジウジしています。

「あの国楽しそうなのに入れない……
つまんない……
退屈はやだ……」

「ねぇ、ラッキー。
普通に入国したらどうかな?」

「え?」

ラッキーは頭に乗っている妖精さんを見上げました。
普通に入国するなんて、考えつかない発想だったのです。
ラッキーには、身分を保障するパスポートも、後ろ盾もありません。
こんな怪しい娘は、賄賂でも払わない限り、入れないはずなのです。

「試しに正面から入国してみなよ。ラッキー」











ラッキーは妖精さんの言う通りに、真正面から正々堂々と道を歩き、機械で自動化された入国審査を受けたら、普通に人間の国に入れました。
一カ月間の間の努力は無駄だったのです。
そして、ようやく国の外に無数にある遺体は何なのか、滞在中に、国の公務員のお爺さんに話を聞けました。
場所は公園で、お爺さんは青色の作業着を着ていて、ベンチに座っています。

「ねぇねぇ。
国の外に遺体がたくさんあったんだけど、あれってなーに?」

「ん?
お嬢さんは国外から来たのか?珍しいのぅ。
外の遺体はな、この国から旅立った旅人じゃよ」

「?」

「ほら、この国って文明が発達して凄いじゃろ?
車は空を飛び、家事はロボットがやってくれて、働く必要すらないほどに便利な国じゃ。
豊かで便利で暮らしやすいから、子供がどんどん産まれて、子供の育児も機械がやってくれるから、人口が増え続けて少し窮屈になりつつあるんじゃよ。
それを嫌った一部の国民は、この国の国籍を捨てる事を条件に国を出て、旅に出て遺体になってるのぅ」

ラッキーにはよく分かりませんでした。
なんで旅に出たくらいで、万単位の遺体があちこちに散らばっているのか不思議です。

「なんで遺体になるの?」

「分からないのか?
この国は文明が発達しすぎて、ほとんどの国民は電気を使う電化製品しか使った事がないから、国の外で暮らせないからじゃ。
電化製品なしだと自分で火もつけられない、料理の仕方も分からない、この国は国民の銃の所持を禁止しているから銃の使い方も知らない、内臓バッテリーが切れたら使えなくなる電化製品を頼りにして旅をする奴らが、生きていける訳ないじゃろ?
最近の若者は、外の世界の事を調べずに旅をするから、この国の外に、国内にある電力インフラ設備が無限に広がっていると思い込んでおる」

「なら、外に出ても生活できなくて死ぬなら、国外に出る事を禁止すればいいんじゃないの?」

「あー、それは無理じゃ。
増えすぎる人口を減らすための棄民政策……げふんげふん」

公務員のお爺さんがわざとらしく咳き込みました。
どうやら、言ってはならない機密だったようです。
ラッキーは必要な事を聞けたので、国を一カ月ほど観光してから出て行きました。
この国は科学が発展していて楽しいのですが、皆がビッシリと身体を覆う密閉スーツを着ていてデザイン性が皆無だったので、飽きたのです。
更に悪い事に、人口密度が高すぎて、うっかりラッキーの風のバリアーで数人の通行人に触れてしまい、バラバラ死体にしちゃったから、早く出国しないと逮捕される可能性があるのも原因の一つでした。



ラッキーが国を出る時、国の入り口で数千人の若者が未来への希望を輝かせ、国籍を捨てて、国の外へと旅立つ光景を見かけました。
きっと、一カ月以内に、外に無限に転がる遺体の仲間になるんだろうなーって、ラッキーは思いました。

「この窮屈な国から抜け出して、俺達は未来を得るんだ!」
「空飛ぶ車を持ってきたぞ!これで移動に困らないな!」
「俺は外で米を得た時のために、最新の炊飯器を持ってきた!」
「俺はゲーム機持ってきた!インターネットに接続すれば、最新のゲームをダウンロードできるんだぜ!」
「私!この電動バイクで旅をして、素敵な国を見つけるの!」









4国目  旅人の国
おしまい。



[40621] 5国目 転生トラックで異世界転生する国 前篇
Name: (´・ω・`)パルメ◆8fb14eab ID:a6872ec0
Date: 2014/11/03 16:36

ラッキーは、とある人間の国で、大繁盛している喫茶店に居ました。
とっても内装がお洒落で、人を落ち着かせる暖かい色と、古くて高価なアンティークの椅子とテーブルが店の雰囲気を引き上げています。
この喫茶店はチーズケーキが美味しいことで評判が良く、長い長い行列で3時間ほど待たないと入店できないほどに大人気。
それだけの時間を浪費するだけの価値が、この店のチーズケーキにはあるのです。
ですが、ラッキーは光を歪ませる光学迷彩で姿を消して、行列無視して店に入り、チーズケーキを注文して美味しく食べていました。
エルフは光と水だけで生きていける生物ですが、ラッキーは女の子。
甘い物が好物なのです。
それにチーズケーキの美味しさときたら、夢心地になるほどに素晴らしく、口の中に入れるとすぐに溶けて甘さが口全体に広がるのが最高でした。

「美味しい……
この国良いかも……」

「そうだね。ラッキー。
僕もこういう時くらいはそう思うよ」

妖精さんの方は、自分と同じ大きさのイチゴショートというケーキを食べています。
ケーキの生地の中に複数の果物が入っていて、それがクリームと合わさり、絶妙な美味しさでした。
妖精さんの小さい身体って、こういう時は便利ですよね。
1年くらい、この国に滞在してゆっくりしてもいいかなと、二人が思っている矢先

「転生トラックが突っ込んでくるぞぉー!」

店の外から、男性の叫び声が上がると同時に、喫茶店に巨大なトラックが突っ込んできました。

ガシャーン! ブチュンッ!ブチュンッ!ブチュンッ!ブチュンッ!ブチュンッ!

トラックは喫茶店にいる数十人のお客さん、従業員を巻き込んで押し潰して死体を量産しています。
そのままトラックは店内の高価なテーブルや椅子も弾き潰して喫茶店内を進み、とうとうラッキーのところに到達しました。
図にするとこんな感じです。

      ♀  ←ラッキー
●●●●●●
●●●●●●
●●●●●●
●●●●●●   ← トラック
●●●●●●
●●●●●●
●●●●●●
●●●●●●
●●●●●● 




トラックは哀れにも、ラッキーが周辺に展開している風のバリアーに触れてしまい、圧倒的なエネルギーで真っ二つに引き裂かれ、トラックの運転座席に乗っていた人間さんを座席ごとばらばら死体にしてしまいました。
トラックの破片を更に細かく、高速回転している風のバリアーがゴリゴリ砕き、生き残っている生存者へと向けて破片が飛び散り、死傷者が激増。
店内は見るにも無残な有様になりました。
人間の血肉が、喫茶店の内装に飛び散り、生き残っている僅かな人間がゲロを床に吐いています。
ラッキーは、悲しそうな目で、目の前にあるトラックの破片で潰されたチーズケーキを見ていました。

「私のケーキが…
………………また、新しいの注文すればいいかな」

長い沈黙の後、ラッキーは犠牲になったチーズケーキの事を諦めました。
喫茶店は壊滅状態ですが、料理人がいる厨房は奥の方にあるので、ケーキはまだまだたくさん注文できると思って安心したのです。
ですが、そのラッキーの期待はすぐに破れ去ります。
事故を起こしたトラックの燃料タンクに穴が開いていて、そこから燃料のガソリンが出ていたからです。
すぐにガソリンは、壊れたトラックから出るバチバチ出る火花で引火。
一瞬にして喫茶店は吹き飛び、生き残りも厨房に居たケーキ職人も死に、場に残されたのは喫茶店の廃墟と、無傷のラッキー、死んですぐに復活した妖精さんだけでした。
ラッキーは、この美味しいチーズケーキを二度と食べる事が出来ないんだなと思って、悲しんでいます。

「私のチーズケーキ……」

「……もうやだ、人間の世界」

妖精さんはこの短い間に、トラックに潰され、すぐに復活したら爆発に巻き込まれて、合計2回も死んだから嫌そうな顔をしていました。
そして、喫茶店があった場所は、車が無数に行き交う大通りだった事もあり、大勢の通行人達が足を止めて騒いでいます。

「おおっ!転生トラックによる事故だ!」
「いいなぁ!俺も転生トラックに轢かれて死んで異世界転生したいなぁ!」
「喫茶店の奴ら運がいいな!」
「今ごろ、異世界で大勢の可愛い娘と一緒にハーレムやってるぜ!」
「死んだのが女性なら、異世界で逆ハーレムだわね。」 

ラッキーは、人間達の言葉を聞いても、意味をさっぱり理解できませんでした。
常識そのものが全く異なるから、ラッキーには、それを理解するための下地がないからです。

「・・・・?
転生トラック?
なにそれ?」

疑問を疑問のままにしておけないので、ラッキーは、近くの通行人の所までテクテク歩き、話しかけました。
その通行人は、16歳くらいの若い少年です。
眼鏡を掛けていて、あんまり運動をしてなさそうなひ弱な外見でした。

「ねぇねぇ、転生トラックってなーに?」

少年は、ラッキーに話しかけられたから心臓がドッキリして爆発しそうになりました。
あんまり他者とのコミュニケーションが好きではない、残念な少年のようです。
ですが、小さい女の子の姿をしているラッキーの事を無碍にする訳には行かないので、少しづつゆっくりと話し始めました。

「・・・・そうか。
君は小さいから、学校で転生トラックの事を学んでないんだね。
なら僕が話してあげよう。
この国ではね。
トラックに轢かれて死んだ人間は、異世界に転生して幸せになるっていう宗教があるんだ」

「変な宗教だね」

ラッキーは常識の違いにクスクス笑いました。
少年は笑われたから不機嫌です。

「他人事のように言うけど、僕達の国の宗教だからね?
学校で必ず習うから、覚えておいた方がお得だよ?」

「うん、わかった。
話を続けてくれると私は嬉しいな」

ラッキーはこの国の人間ではなく、不法入国した旅人なのですが、それを話すとややこしい事になるので黙ります。

「先ほども言ったように、僕達の国の宗教では、トラックに轢かれたり、トラックの爆発に巻き込まれて死ぬのは、幸せな事なんだ。
さっき喫茶店で死んだ人達の事を、一般常識を知らない君は気の毒に思うかもしれないが、死んだ彼らは今頃、異世界に転生して、神様から凄い才能や魔法を与えられて、良い人生を送っているはずだから、彼らを哀れむ必要がない事を覚えていて欲しい」

「うん、わかった」

「もうやだ人間の世界」

妖精さんはラッキーの頭の上で嫌そうに会話を聞いています。
妖精さんから見れば、目の前にいる人間はキチガイです。
精神病院に送った方が良い人材でした。
少年の話がまだまだ続きます。

「実は言うと、僕は死んだ彼らが羨ましい。
こんなつまらない現実から抜け出して、今頃、神様から色んな才能を貰って、異世界で王様や英雄になって、美少女達とハーレムしている彼らの事を考えると、今すぐトラックに轢かれて死にたい。
羨ましい。死にたい。金髪ロリババアの吸血鬼エウァちゃんと一緒にベットで眠りたい」

「クスクスクス」 
ラッキーは少年のセリフで笑い死にそうになりました。
少年は馬鹿にされていると思って、少し怒りながらも話を続けます。

「小さい君がトラックに轢かれて死んだ時、参考になるように僕の願いを教えてあげよう。
僕はトラックに轢かれて死んだら、こう神様に願うんだ。
健康で老いる事がない不老不死の身体。
世界最高の魔力。
戦略核兵器みたいな威力を持つ魔法。
台風を圧縮した風のバリアーで、攻撃も防御も無敵の超人になって、可愛い美少女達とハーレムをしたいって願うんだ」

「クスクスクス……もう駄目……笑い死ぬ……クスクスクス」

「この人間っ!ラッキーみたいになりたいだけじゃない!」

妖精さんが叫びました。
少年の願いは、ラッキーが容易くやれる事ばっかりです。
ラッキーが死ぬほど大笑いしたから、少年は怒って場を立ち去りました。









ラッキーは、この国の人間の常識が面白いと思って、次々と通行人に話しかけます。
丁度いい暇つぶしに最適な面白い国に思えてきたのです。
今度は、ヨレヨレのスーツを着た50歳のオジサンに話しかけてみました。
オジサンは人生に疲れているような顔で、仕事も人生も家庭も嫌という雰囲気を醸し出しています。

「ねぇねぇ、あなたは転生トラックで死んだら、神様に何を願うの?」

「そうだな。
私は、働かなくて、遊んでいるだけで良い世界に産まれたいな。
もう、それだけでいい。
現実は嫌だ・・・。
年老いた妻、俺を馬鹿にする部下達、大変な仕事を任せる癖に安月給の会社・・・そんなのがない世界なら、何処でもいい」

「他の人みたいに異世界転生してハーレムはやらないの?」

「ハーレム?
女なんて、どれもこれも年老いて劣化するババァだぞ?
私はもう1人で良い。
結婚生活はこりごりだ。
犬や猫の方が私を癒してくれる」

オジサンの精神は、現実が辛くて病んでました。







「ねぇねぇ、君は転生トラックで死んだら、神様に何を願うの?」

次は、野球のバットを持った10歳くらいの勝ち気な少年にラッキーは話しかけました。
ラッキーも外見上は、10歳に見えるので、少年は気安く、自分の願いを話します。

「俺は世界最強の野球選手になって、野球バット(棍棒のようなもの)で大魔王を倒し、世界を救う野球ヒーローになるんだ!
そんで、君みたいな娘をお嫁さんにして、幸せな家庭を築くんだ!
ねぇ?俺と付き合わない?
君って可愛いね!
そんなに綺麗な金髪を見たのは初めてだ!」

ラッキーはプロポーズされちゃいましたが、その事を無視して話を続けました。

「他の人みたいにハーレムはやらなくていいの?」

「ハーレム?
男なら純愛だぜ!
可愛い娘と添い遂げたい!」

その清清しさに、ラッキーはちょっと関心しちゃいました。












ラッキーは1000人近い人間に、今のような問いかけを何度も繰り返し

「ねぇねぇ、お爺さんは転生トラックで死んだら、何を願うの?」

最後に、100歳くらいのヨボヨボのお爺さんに問いかけました。
お爺さんは、身体がボロボロで、ベットの上で寝た切り状態。
明日死んでも可笑しくありません。
そして、ここは病室。
お爺さんは死ぬはずの命を無理やり延命させられて、身体に栄養を注入する管が刺さっています。

「ワシは……死んだ婆さんと一緒に……老いる事がない身体で暮らしたい……
若さが羨ましい……転生トラックの出迎えは……まだかのぅ……」

死にかけのお爺さんは、転生トラックに最後の希望を抱いていました。
この時、ラッキーは理解したのです。
どうして、こんな可笑しい常識が出来たのか?ラッキーなりに考察できました。
指をズバッと頭上に掲げて

「なるほど。
この国の異常な常識の謎が解けた!」

「もうやだ、このエルフ」

妖精さんはどうでも良さそうな顔で、ラッキーの頭の上で呟きました。
さすがに1000人近い人間とのやり取りは、聞かされるだけでも疲れるのです。
ラッキーは、妖精さんと自分に言い聞かせるように、考え付いた考察を話します。

「転生トラックの概念が何故産まれたのか。
私は理解できたよ。
この豊かな国の人間が、死ぬ最後の瞬間まで希望を抱いて死ねるように作ったんだと思うんだ。
ね?この考え方なら合理的でしょ?」

「もうそれが事実でいいよ……ラッキー……
僕、故郷に帰りたい……」

「人間は私達エルフと比べると、すぐに寿命が尽きて死んでしまう生き物だけど、この転生トラックの概念を持ったまま生活すれば、自分がどのようにありたいかを考える事ができるし、それを元に人生設計を建てる事も出来て、どのように死にたいかを意識する事で死への恐怖も少なく出来て、合理的だよね。
私、人間という生き物に感心しちゃった。
死にかけのお爺さんにすら、希望を抱かせるなんて、そう簡単にできる事じゃないよ」

ラッキーは、感心したから1年ほど、この国に住んでみようと思いました。
さてはて、このラッキーの考え方があっているのか?
その答えは


後篇に続く。



[40621] 5国目 転生トラックで異世界転生の国 後篇
Name: (´・ω・`)パルメ◆8fb14eab ID:a6872ec0
Date: 2014/11/04 09:56
   


ラッキーは、転生トラックの国が面白かったので、1年間住み着きました。
美味しいケーキの店が多く、人間の様々な欲望・願望を簡単に聞ける国だったから楽しかったのです。
そして、転生トラックの概念を除けば、ここは普通に発展し、普通に楽しめる普通の国。
今までの旅で、ラッキーは普通の国を維持するのがどれだけ大変なのかを理解しているので、あと10年か20年ほど滞在する気でした。

「こんな良い国、そう滅多にあるもんじゃないね……
チーズケーキ美味しくて、毎日が楽しい。
ここは天国かも」

ラッキーは、チーズケーキを10ホール分注文して、大人気のケーキ専門店の真っ白なテーブルの上に置き、美味しく幸せそうに食べていました。
周りの女性客が驚いてチラチラ見ていて目立っていますが、そんなの気にしません。
チーズケーキは口に入れるだけで、フワリと溶けて、食べる時の感触が絶妙。
妖精さんは自分と同じサイズのチョコケーキを食べて、その甘さにうっとり。
二人とも女の子だから、甘い物が好きなのです。以下略。




でも、その時間が終わる時がやってきました。
このケーキ専門店に備え付けられたテレビの画面がいきなりニュース番組に変更されて

「大統領からの緊急発表です!」

この国の最高責任者である【大統領】と、国営テレビ局の有名アナウンサーの顔が映し出され、荘厳な国歌が流れているのです。
テレビの中の初老の大統領は真剣な顔持ちで、アナウンサーから受け取ったマイクを片手に取り

「国民の皆さん。ごきげんよう。
大統領のテンセ・イオリヌシです。
今日、皆さんにお知らせをしたい事があります」

テレビの大統領の真剣そうな顔に、ケーキ専門店にいたお客さん達も、テレビに意識を集中しました。
余程、大きなニュースなのだろうと、皆が期待し、ラッキーも楽しさを隠せません。
大統領は笑みを浮かべて

「とうとう!我らの悲願!超巨大転生トラックが完成しました」

その言葉とともにテレビの映像が切り変わり、巨大なトラックが映し出しされました。
外見は普通のトラックですが、サイズが違います。
トラックの傍にいる人間が、蟻にしか見えない、そんな超巨大トラック。
これだけ巨大だと、既存の道路を通る事は不可能です。
コンクリートの道を通ったら、道を陥没させて破壊し、橋は重量で落ちてしまうので、既存の交通インフラでは運用不可能でした。

「この転生トラックの中には、今年度の国家予算を投入して作った爆薬が入っています!
爆発すれば、この国を丸ごと焼き尽くし、全住民を異世界転生させるほどの量です!
そうっ!
我々は国ごと異世界転生する日がやってきたのです!」

この大統領の発言で、国中の国民達はワァーワァー大喜び。
嫌いな現実を捨てて、神様に特別な力を持って、異世界で第二の人生を送れると思うだけで、国民は生きる気力が湧いてきます。
これから死ぬのに、生きる気力って変ですよね。

「……もうやだ、人間の国」

「……私の考察、全部外れてた」

妖精さんとラッキーも、この狂った大統領と、熱く叫んでいる国民達を見て驚きました。
ラッキーは転生トラックの概念の考察が間違っていたから、しょんぼり。
そう、転生トラックという概念は、人間が生きるための希望ではなかったのです。
もっと後ろ向きな暗い感情の産物でした。
国中にいる国民達は現実という絶望から解き放たれる事を喜び、口々に

「やったぁー!皆で異世界転生っー!」
「異世界でハーレムハーレム!俺は小さくて可愛い娘達を嫁にするぜ!」
「私なんて異世界でお姫様になって、王子様と結婚よ!おほほほ!」
「金髪ロリ吸血鬼娘のエウァちゃんになりたい!」
「この漫画の世界に行かせてくれぇー!若い娘達とイチャイチャしたい!」
「神様ぁー!俺を英霊エロヤにしてくれぇー!無限の銃製で無双したいんだ!」

この醜い願望を叫びまくる人間達を見て、ラッキーは理解しちゃいました。
この国の皆は、現実に絶望して死にたいだけの、自殺願望者の国だったのです。
転生トラックは、絶望が産みだした、ただの   妄   想   で   し  た。
人間が前向きに生きるための概念ではなかったのです。
テレビに映し出されている大統領は、活き活きとした笑顔でカウントダウンを開始します。

「皆さん!
確実に死ねるように、家の外に出てください!
地下室に居たら、爆発で即死できません!
今から1分後に、この国を消滅させます!
カウント開始!
60!59!58!57!」

ラッキーは悲しみます。
この国はキチガイだらけで面白くて、ケーキが美味しかったから、消えてなくなるのが勿体ないからです。
極上のチーズケーキを作れるケーキ職人がいる国は、そう滅多にないのです。
あ、この時点で普通の国という評価が、ラッキーの頭の中から消えてしまいました。
極上のケーキを除くと、この世界によく存在するキチガイ国家Aという認識になっています。

「50!49!」

喫茶店にいる客、従業員、ケーキ職人は笑顔で店の外へと走り出し、死ぬ瞬間を待ち望んでいます。
道は人で溢れました。

「40!39!」

ラッキーは、少しでもチーズケーキを堪能しようと、急いで食べました。
残り9ホールも残っています。
ラッキーの小さい身体の何処に、これだけのケーキが入るのか謎です。

「30!29!」

妖精さんは、嫌そうな顔で喫茶店の外にいる人間達を見ていました。

「20!19!」

ラッキーは一気に2ホール食べましたが、残り7ホールのチーズケーキが残っています。

「10!9!」

国民達の顔が幸せに包まれています。
今まで辛い現実に耐えて、生きてきたかいがあったもんだと大喜び。
もうすぐ転生トラックで異世界転生なのです。
叶うかどうかは神様だけが知っています。
その神様自体、存在するかどうかは神のみぞ知るって奴です。

「2!1!ゼロぉー!」

この大統領の言葉とともに、テレビで映し出されていた超巨大トラックが爆発しました。
その爆発が国を真ん中から吹き飛ばし、ありとあらゆる家屋を崩壊させていきます。
何気に触れただけで死ぬ強烈な毒ガスも使っていたので、生き残りが居たとしても、毒で生存率0%になるように配慮されていました。
大統領閣下は、国民を思いやる優しいお方な事で有名です。
中途半端な仕事は絶対しません。
そういう点は、職人魂に通じる物がありますね。
ラッキーは毒と爆風を風のバリアーと魔法で完璧に防ぎ、空を飛んで逃げます。
国そのものが吹き飛んで、巨大なキノコ雲だけが最後に残りました。
国民は一人残らず爆風に巻き込まれてバラバラ死体になったり、蒸発したり、崩れた家屋に押し潰されて死んでいます。
彼らの夢は叶ったのです。
この辛い現実から解放されました。




ラッキーは、何とも言えない顔で、消滅した国を見下ろしています。
人間とそれなりに接して、思考を読める気になっていましたが、今回は想像もしない結末だったからです。
普段なら笑っちゃいますが、1年間住んで、将来的に結婚しちゃうかも?というくらいに仲のいい人間の少年も居たために、涙をぽろぽろ流しています。

「ラッキー。
そんなに辛いなら、旅をやめて故郷に帰る?」

妖精さんはラッキーを気遣いました。
ラッキーは無言で空中に佇んでいます。
少しすると、秒速100mくらいの遅い速度で、ラッキーは場から去り、場に残されたのは




爆発跡の巨大なクレーターだけでした。







5国目 転生トラックで異世界転生する国
後篇   

おしまい




あとがき
テーマ①【転生トラックがネット小説で流行してるから】
テーマ②【現実からの究極の逃避】



[40621] 6国目 半万年の歴史を持つ偉大な国前篇
Name: パルメ◆fbbc9d2f ID:51d210cb
Date: 2014/11/07 13:33
何処までも広がる広大な青い海、それを照らす太陽。
そんな海の遥か上空の彼方に、一つの黒い点が秒速300mで飛んでいました。
それはよく見ると、エルフの小さい女の子。頭に妖精さんを乗せています。
無論、ラッキーです。
今は、大変評判が悪く、二度と行きたくないという噂で有名な国へと向かっていました。
普通の旅人は、命の危険を感じて、そんな所に近寄ったりしませんが、ラッキーの知的好奇心が騒ぐのです。
そこに楽しい何かがあると。

「もうやだ、このエルフ」

妖精さんが嫌そうな顔で呟きました。






空を飛んでいると、評判が悪い国が見えてきました。
国土のほとんどが荒れ果てた土地で、山は木が少なくて禿山ばっかり。
どうやって農業をしているんだろう?と思わせる光景です。
建造物はほとんど1階建ての貧相な木造建築で、道は人間や動物の排泄物でゴロゴロ転がり、人間の遺体も落ちています。
そんな酷い場所を、低くて薄い城壁を張り巡らして囲んだ評判通りの国でした。


ラッキーは、光学迷彩で姿を消してゆっくりと降下。
話を聞けそうな人間の大人を探して、そこへと降りて行きます。
ラッキーが見つけた大人は、30歳くらいのボロボロの身なりの男性で、汚れた白衣を着ていて、手に水を汲んだ瓶を持っていました。
普通の国なら、ポンプやら、木を曲げる技術を利用して作った桶で水を汲みますから、瓶で水を汲むという行為を見た事で、この国の技術力がとんでもなく低い事がラッキーには分かります。

「ねぇねぇ、この国ってどんな国ー?」

ラッキーに突然、背後から話しかけたから、男は驚いてバッと後方に急いで振り返りました。
そして、ラッキーの姿を見て、とっても身なりが綺麗な金髪の女の子だったから

「あ、あなた様は貴族の御令嬢様でございますか!?」

男は、ラッキーをこの国の貴族だと勘違いしていました。
ラッキーは面白そうにクスクス笑って

「違うよ。
私はエルフの旅人だよ」

「え、エルフ???
あなた様は貴族じゃないのですか?」

「うん」

「ちっ!
派手な格好しただけの余所者か!
びびらせやがって!」

ラッキーが貴族じゃないと分かると、男の口調が横柄な物に変わりました。
ラッキーはそんな事も気にせずに

「ねぇねぇ、この国ってどんな国ー?」

「あ?
よそ者だから、この偉大な国の事を何にも知らないのか?
この国はな……5000年の歴史を持つ偉大な国なんだよ!」

ラッキーは驚きました。
5000年の歴史といえば、ラッキーが今まで生きた人生以上の長さです。
具体的に言うと、ラッキーの両親がそれくらいの年齢でした。
だから、驚きびっくり。
親と同じくらいの歴史がある国なんて、そう滅多にあるもんじゃありません。

「本当に5000年も歴史があるの?」

「ああ!
この国は凄いんだぞ!
ありとあらゆる物を開発して、偉人も出してきた事で有名だ!
国民軍を率いて●ーロッパ中で無双した!ナ●レオン!
山脈越えで有名なハ●ニバル将軍!
発明王エ●ソン!
砂漠の狐!ロン●ル将軍!
大陸を騎馬軍団で席巻したチン●スカン!
どうだ!凄いだろ!」

男の口から、この世界の偉人の名前が次々と出てきました。
この世界に住む者ならば、最低でも1人は必ず知っている超有名人物だらけです。
でも、可笑しい事に、それは滅亡した国家や、別の国の偉人の名前。
この国が輩出した偉人ではないはずなのです。

「?
ねぇねぇ、それって、他の国の偉人じゃないの?」

男はラッキーの問いかけに怒りました。
息を荒くして、眼を血ばらせて

「それは他国の捏造だ!
この国の偉大な歴史に嫉妬して、歴史を俺達から奪おうとした奴らの卑怯な情報工作!
騙されちゃ駄目だぞ!」

「うーん?」

「この国の周りの国は、どれもこれも最低最悪な国ばっかりなんだ!
定期的に俺達の国を侵略して、財産・文化・歴史を奪っていく!
酷い事をしておいて謝罪も賠償も寄越さずに、俺達の事を否定して馬鹿にするんだ!
でも、だからといって、そんな奴らに俺は屈しない!
俺達には半万年の歴史があるからだ!」

ラッキーは困りました。
ここで男の言葉を素直に認める事は、今までの世界史の常識を覆す事になるからです。
ラッキーの頭の中の常識では、この国の方が可笑しいと結論が出ています。
だから、ラッキーは

「この国の歴史を纏めた本って、何処で閲覧できるの?」

この国の歴史を調べてみようと思ったのです。
さてはて、世界が可笑しいのか、この国が可笑しいのか、どちらでしょうか?
答えは


中篇に続く。



[40621] 6国目 半万年の歴史を持つ偉大な国 中篇
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/11/10 17:37
ラッキーは、この貧乏な国の図書館へとやってきました。
図書館そのものは、この国の建築水準に比べると豪華な作りになっていて、石作りの4階建てです。幅も広く、全長50mほどの大きさがありました。
でも、この国の印刷技術が発達してない事から、本は手書きでしか量産できず、人件費がかかって、とても貴重で高価。
そのため王族と貴族しか使用が許されない特別な図書館だったのです。
入口に兵士二人が槍を持って警備している時点で、ラッキーみたいな不審人物は、賄賂でも払わないと入る事が出来ません。
ですからラッキーは

「妖精さん。最近、光学迷彩~って叫んでみたい気分」

「……ラッキー、最近は不法侵入と不法入国と不法滞在ばっかりで犯罪のオンパレードすぎるよ……」

光を歪ませる光学迷彩を展開して姿を消し、図書館に侵入しました。
妖精さんは不満そうに呟いていましたが、いつもの事なのですぐ諦めます。
図書館の中には、無数の木製の本棚があり、全ての棚に本がギッシリと詰まっていました。
ラッキーは歴史を調べたいので、歴史の本が整理されて置かれている場所を探そうと、図書館の中を歩いてテクテクと探索。
歴史コーナーと書かれた場所を見つけたので、歴史コーナーの棚から次々と本を手にとって、ページを高速でペラペラめくって一瞬で読んで内容を理解し、また新しい本を取ってページをペラペラめくって内容を理解するを繰り返しました。
普通の人間さんには無理ですが、速読という技術です。
現実の地球でも、この技術を極めた人間さん達が居て、一瞬でページをぺらぺらめくって、内容をイメージに変換して記憶したりしています。

そして、その速読で、一つの棚にある本を全部読んでラッキーが理解した事は

「この国、歴史を捏造してるね」

本によって歴史の内容が全く食い違っていて、古い文献だとこの国は戦争に一回も勝利した事がない貧乏な国と書いてあるのに、最近の文献では全く類似点がない別の文字で、戦争に勝利した輝かしい歴史が描かれていました。
この文字が違うという所が重要です。
現在と過去で使っている文字が全く違うという事は、この国の人達は過去の文献を解読するのが困難なのです。
歴史を捏造し放題の環境が整っているという事でした。

「今の国を支配している人達が、自分達の正統性を示すために、文字そのものを変更して、歴史を最初から最後まで捏造して酷い国になったのかな。
どうなんだろう。
妖精さんはどう思う?」

「僕は人間の国の歴史なんてどうでもいいよ……」

妖精さんに聞いても完全に無駄でした。
ラッキーは、図書館にいる貴族や王族の子弟を見かけたので、彼らに聞いてみようと近付いて

「ねぇねぇ、この国の歴史で不自然に思った事はなーい?」

14歳くらいの、長い綺麗な黒髪を持つ賢そうな少年に話しかけたのです。
少年は、紅い煌びやかな龍の刺繍を施された服を着ていて、自分は偉いんだぞ!という雰囲気を醸し出していました。
図書館内にいる他の貴族の子供達よりも、遥かに金がかかった服装な事から、偉い人物の子供だと分かります。
実際に返ってきた返答も傲慢な口調でした。

「小娘、余を誰だと心得る?
この国の王子であるぞ。
すぐに頭を下げて跪け」

「うん、わかったから、私の質問に応えてくれると嬉しいな」

ラッキーの容赦ない返答を気にいったのか、王子様は残忍そうな笑みを浮かべ

「ほぅ?
余を恐れぬというのか?
見た所、金髪、長い耳、真っ白な肌、変わった白い服。
この国の人間ではないな?
何をしにこの国に来たのだ?」

「私はエルフの旅人だよ。
今日、入国したばっかりなの」

「ふん、王族と貴族しか使えない図書館に、旅人だと?
貴様は何者だ!
この国の偉大な歴史を盗みにきたのか!
皆の者!こやつを捕えよ!
余がじきじきに死ぬまで尋問してやろう!!」

その叫びとともに、王子と名乗る少年の周りに潜んでいた屈強な男達が飛び出してきました。
ラッキーを捕まえようと、一番先頭に居た男が、ラッキーの手を掴もうとすると

バシュンッ

「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!
手があああああああああああああああ!!!
俺の手があああああああああああああああああああああああ!!!」

ラッキーの高速回転している風のバリアーに触れてしまって、両腕が綺麗さっぱり切断され、切断された両腕がバリアーに潰されてミンチになり、図書館中に血をばら撒いてしまったのです。
図書館中に居た人間さん達が、血を浴びて騒いで逃げ惑い、屈強な男達と王子様は何が起こったのか分からない顔で茫然としていました。
図書館が血だらけで生臭く、腕を切断された男は出血多量で倒れて死んでいます。
ラッキーはこの事態に全く動揺せずに、王子様の所までトコトコ歩き

「うーん、話を聞ける環境じゃなくなったね。
君を誘拐して、何処かで話を聞けばいいかな?
ちょっと痛いと思うけどごめんね」

「余を誰だと思・・・ヒデブッ!」

王子様の周りごと光を歪めて光学迷彩で姿を隠し、腹にパンチ叩きこんで気絶させ、王子様とラッキーの両方の身体を魔法で飛ばし、一瞬で図書館の外へと逃げました。
場に残されたのは、同僚の血でまみれた屈強な兵士さん達。
王子様の姿が消えたので、周りを必死に探しますが何処にも姿がありません。
このままだと、王子様が失踪した責任を取らされて、家族ごと処刑ENDです。
困りましたね。
人間の世界は仕事に失敗すると、重い責任とやらが発生するのです。
基本的に報酬が良ければ良いほど、失敗した時の責任は重くなる仕様になっているそうです。






ラッキーが誘拐した王子様を運んだ先は、国の外にある禿山の一つでした。
木が伐採されすぎて、元々あった土壌が雨に流され、岩山と化してしまった悲惨な場所です。
王子様の身体を大きな岩の上に仰向けに置き、起こすためにペチンペチンと顔をビンタしました。
ラッキー、一国の王子様相手といえど容赦ありません。
知的好奇心を満たすためならば、何をして良かろうなのだぁーなのです。

「ラッキー。
人間の世界のいかれた常識に染まっちゃ駄目だと思うの……」

妖精さんが忠告しましたが、ラッキーは無視し、王子様の顔を叩いて無理やり起こしました。
王子様はラッキーの顔を見て驚いて、恐怖で震えています。
今までの出来事で
【こいつは人の形をした・・・化物だ!】という事がばれているからです。
ラッキーは恐怖で震えている王子様に、可愛らしい笑顔で

「ねぇねぇ、この国の歴史で不自然に思った事ってなーい?」

「よ、余は化物に屈せぬぞ!
5000年の歴史を持った国の偉大な王子として、死ぬ最後の瞬間まで、祖国の歴史は本物だと言ってやろう!
そして!化物を謝罪させて、余の配下にしてやる!」

ラッキーは、王子様の無謀ともいえる勇気に感心しました。
ちょっと意地悪をしたい気分になったので、問いかけの内容を変えて

「じゃ、その偉大な歴史を話してみてよ。
そしたら、お家に返してあげるよ。
ね?簡単でしょ?」

「……よしわかった。
余の国の偉大な歴史にひれ伏すがいい!」

こうして、5000年の長きに渡る昔話が始まりました。
具体的な内容は以下の通りです。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
昔々~、今から5000年ほど前。
私達のご先祖様は、世界で初めて農耕をして、更に鉄器を作り上げ、世界で唯一といってもいい高度な文明を持っていました。
でも、優しかったので、周りの野蛮な国々に技術を無償でプレゼントしたのです。
世界で初めて剣、槍、弓を作っても、優しいのでプレゼントしました。
船を作ったり、家を作る技術も、優しいのでプレゼントしました。
蒸気機関や鉄道、飛行機を世界で初めて開発しても、優しいので無償で技術提供しました。
ありとあらゆる便利な技術を、周りの国々に分け与えたのです。

ですが、周りの国々は最低最悪の悪鬼のような奴らでした。
ご先祖様がプレゼントした技術を使って軍備を整え、この5000年の間に1万回も攻め込み、私達から富・技術・人・文化を奪っていったのです。
私達が今、貧乏なのは、恩知らずの周辺国が全部悪いのです。
今では遠い国々すら、我が国の偉大な歴史を盗み捏造してしまう有様なのです。
この恨みを決して忘れないように、本にして歴史を記録しましょう。
他国の捏造された歴史に描かれた偉人は、元々は私達の国が輩出した偉人なのです。
ありとあらゆる技術は、私達が作ったのに、彼らは歴史を捏造して自分の物だと言い張っているだけなのです。
この理不尽な事をされた恨みを決して忘れてはいけません。
そして、謝罪と賠償を求め続け、何時の日か、ご先祖様の恨みを果たしましょう。
彼らの持っている物は、全て私達が持っているはずの物なのです。

おしまい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ラッキーは、上記の内容を聞いてクスクス笑いました。
王子様は笑われたので怒っています。

「何が可笑しい!
余の国の偉大な歴史だぞ!
古代の五大文明の一つにも数えられ、ありとあらゆる文化の発祥の地となった祖国を馬鹿にするなら許さぬ!」

「だって可笑しいんだもん。
そんな馬鹿な事を、本当の事だって信じ込むなんて……クスクスクス」

「何処がどう可笑しいのだ!
余に説明してみせよ!」

ラッキーは腹を抱えて死にそうになるくらいにしばらく笑った後に

「じゃ、楽しませてくれたお礼に、私の記憶を、魔法を使って見せてあげるね。
人間に対して使うの初めてだけど、死んだらごめん。
その時はお墓くらいは作ってあげるよ」

「や、やめ」

王子様の頭を両手で掴み、魔法をかけたのです。
その魔法は、脳味噌や魂が記憶している内容を、他者に見せる魔法。
ラッキーのそれなりに長すぎる人生経験や歴史知識の一部が、これから王子様の頭に流れ込むという事なのです。
王子様はどうなってしまうのでしょう?

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」




後篇へ続く



[40621] 6国目 半万年の歴史を持つ偉大な国 後篇
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/11/14 11:44
6国目 半万年の歴史を持つ偉大な国 後篇



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

王子様は、ラッキーに魔法をかけられて長い長い夢を見ていました。
まず、最初に見せられたのは、エルフがどれだけ化物なのかを証明する日常風景1000年分でした。
1人のエルフの小さい少女が、巨大な大陸を風の魔法で真っ二つに破壊し、人類側の反撃の戦略核ミサイルで死んだら、エルフの少女はオーストリア大陸サイズの巨大植物【世界樹】と化して、幾つものの国を瞬時に滅亡させています。
世界樹の枝の一つ一つが小国サイズ、
世界樹のエルフよりも遥かに強大なバリアーは、戦略核兵器や放射能すら完全に無効化して、人間はその地に誰も住めなくなりました。
人間の国は、エルフに恐怖して戦争を仕掛けますが、いつもいつもユーラシア大陸サイズ以上の領土を失い敗退。
自然とラッキーの故郷周辺は、世界樹だらけになり、人間が全く住み着かない場所になっていました。
この世界のサイズは木星(地球サイズの台風が存在する星)よりも大きくて、土地がいくらでも余っていた事もあり、人間とエルフは全く違う場所で生活し、お互いに交流する事もなく、何年も何年も経過しています。
ラッキーは人間と会えないから暇で暇で仕方なく、悠久の時を森の中で安穏と平和に暮らして、退屈で死にそうでした。
世界樹の枝の上でゴロゴロと転がり、呑気です。

「あー、暇で辛いよー。
退屈で死んじゃうー。
戦争でもいいから、人間が攻め込んでこないかなー 」

おしまい
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

王子様はこの光景に耐えきれず絶叫しました。
何に耐えきれないかと言うと、1000年分の情報を、王子様の脳味噌が処理しないといけないから、頭が痛くて辛い的な意味です。

「うああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!! 」

「あ、ごめん。
私達エルフのつまらない日常生活を見せても退屈だよね。
他の人間の国の光景に変更するよ」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ラッキーは、王子様に見せる夢の内容を、王子様の国の周辺国の内容に変えました。
今回からは短い内容なので、王子様の脳味噌でも情報を処理できます。
まずは北方の大国「ロシアヤー」。
そこは寒い寒い国で、海すらも凍る広大な氷の国です。
寒すぎて、国民はアルコール度数が高い酒を浴びるように飲んで、凍死しないように必死。逆に酒の飲み過ぎて死んでしまうくらいに寒い国なのです。
この国は、ここ500年の間、凍らない港を求めて、南の国々に攻めこんで戦争しますが、その度に現地の国々に撃退されて敗退続きの悲惨な国でした。
でも、王子様の国よりも発展し、幾つもの高層ビルがそびえ立つ大都市を複数作り上げ、生きるのが辛い土地でも彼らは生きていました。
大半がラッキーの歴史知識で補正されているイメージ映像でしたが、人間は叩かれても叩かれても這い上がる生き物な事が分かります。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

王子様は、この内容を見せられて呟きます。
人間の逞しさを見せられて感動したようです。

「……これは、北の大国ロシアヤーか?」

「うん、そうだよ。
君の住んでいる所よりも、凄く寒くて大変なのに、戦争に何度も敗北しては、また侵略を繰り返してはボコボコに負けているのに、諦めずに這いあがってまた敗戦しては、国民が奴隷のように必死に働いて、周りから大国だと認識されるようになった国だよ。
君の国がなくても、この国は大国だったんじゃないかな?
それに、ロシアヤーが使っている技術は、君の国とは全く関係ないよ?」

「そんなはずはない!
余の国は、ロシアヤーのために、防寒着を作る技術を教えて、寒い場所でも暮らせるように彼らを徹底的に善意で支援したのだ!
ロシアヤーが大国になったのは、余の国のおかげなのだ!
化物は嘘を言っている!」

王子様は信じませんでした。
なぜなら、素直にこの内容を信じる事は、今まで習った常識を全否定し、心の寄り所となるアイデンティー……【自分は何者であり、何をなすべきかという個人の心の中に保持される概念】を破壊する事になるからです。

「防寒着も他の技術も彼らが自分達で産みだした道具だよ?
例え、君の言う通りそうだったとしても、なんで君の国はロシアヤーよりも貧乏で発展してないの?
さっき見せたよね?
何回も何回も戦争に負けて、立ち上がるロシアヤーの国民の姿。
貧乏なのは君達の責任なんじゃないかな?」

「そ、それは周りの国々が、余の国から富を奪ったからだ!」

「まだ、納得しないようだし、次の国を見せてあげるよ」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

王子様が次に見せられた内容は、東の海洋大国【ジャパンヤー】でした。
そこは水と森林資源に満ち溢れた豊かな土地でしたが、工業を発展させるための石油などの資源に乏しく、資源を輸入しないと大国を維持できません。
国民は必死に働き、国中で【24時間働こう!】という恐ろしい労働推奨番組が流されている国なのです。
王子様は、この国を見て青ざめました。
国の労働者はひたすら労働労働、休まずに働き、家に帰るのは夜の12時、朝起きるのは5時という常軌を逸した光景が流れ、挙句の果てには二週間家に帰らずに職場で働いている労働者の姿が見えます。
しかも低賃金。残業代なしのサービス残業。
人間の家族がぎりぎり生活できる程度の金で、ここまで働いてるのです。
豊かだけど、人間の暮らしを放棄していました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「うああああああああああああああああああああ!!!!
働き過ぎだああああああああああああああ!!!!
やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「?
人間の子供には刺激が強過ぎたかな?
人間の短い一生を労働のために消費して凄い国だよね。
この国が発展してるのも、君の国のおかげなのかな?かな?
この国の技術も、君の国とは全く関係ないよ?」

「わ、わかった!
認める!
ジャパンヤーが発展したのは、余の国のおかげではない!
あの国が異常だからだ!
ジャパンヤーは、この世に舞い降りた地獄だ!
だが、余の国が5000年の歴史を持つ偉大な国である事に変わりはない!」

王子様の返答に、ラッキーがクスクスと笑いました。
気分は、楽しい玩具を手に入れた子供です。
ラッキーは王子様の常識をぶっ壊すために、最後の夢を見せます。

「じゃ、周りの国々が、君達の国をどう思っているのかを見せてあげるよ。
世界が可笑しいのか、君の国が可笑しいのか。
これを見て答えを出してね」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
王子様が次に見せられた夢は、周辺国が王子様の国をどのように思っているか、認識しているかでした。
西の国に住む住民達は言います。
「え?あの国?俺達の国の永遠の奴隷だ」
「3000年間、俺達に金と女を貢いできた属国」
「5000年の歴史は俺達の国の歴史だろ。勝手に奪うなよ」

北の国に住む住民達は言います。
「え?知らん」
「●●っていう大国の一部じゃないの?」

東の国に住む住民達は言います。

「いつも、謝罪と賠償を要求してきてうざったい」
「あれだけ湯水のように技術とお金を上げたのに、逆恨みしてくる上に、なんで中世の暮らしをしているんだろう」

南の国に住む住民達は言います。

「さすが半万年の歴史があるっていう嘘を信じ込んでいる国ですね!お兄様!」
「そんな嘘信じるのは、あの国くらいだよ。そんな国、そう滅多にあるものじゃないよ」

周辺国の住民は、皆、王子様の国の事を否定していました。
誰も5000年の偉大な歴史なんて認めていません。
皆が嘲笑い、5000年の歴史とやらを馬鹿にして、王子様の国を否定しているだけです。
そもそも5000年の歴史を証明するための公正な証拠や根拠が、王子様の国には何一つなく、 た  だ の 妄 想 だ と 笑 わ れ て  い まし  た 。
証拠として出されている史料も、過去の文献に記された文字が読めないから、とてもいい加減で、5000年の歴史を証明する証拠になっていませんでした。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

王子様は、自分の国が周りからどのように認識されているのかを知ってしまって

「誰も……余の国を認めてない……5000年の歴史は嘘……ひ、ひやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

発狂しました。
今まで信じてきた偉大な5000年の歴史なんて、自国以外では全く通用しない嘘だと、ようやく理解したのです。
そして、自分達の国が想像以上に、他国よりも遥かに未発達で劣っている事が、王子様の劣等感を刺激し、多大なストレスを与えています。
他国じゃ高層ビルがあって当たり前なのに、王子様の国に並んでいるのは一階建てのボロボロの木造建築ばっかりなのです。

「ねぇねぇ、大丈夫?」

ラッキーは、発狂した王子様の顔をペチンペチン叩いて、正気に戻す努力を試みます。
でも、王子様の叫びは止まりません。涙や鼻水が大量に出て、その絶望は終わりそうにありませんでした。
ラッキーは困ります。
頭にいる妖精さんを見上げて

「妖精さん、私どうすればいいかな?」

「ラッキー……人間が面白いからって、発狂して壊れるまで遊んじゃ駄目だよ!
この少年が可哀そうすぎるよ!
鬼畜っー!」

妖精さんがラッキーの頭をポコポコ、小さすぎる手で殴ります。
ラッキーは大した痛みがないので妖精さんの抗議を無視して考え込み、名案を思い浮かんだような顔で

「えい!」

「ヒデブッ!」

王子様のお腹を右ストレートで殴って気絶させました。
こんな時、いつもラッキーはちゃんと拳の所だけ風のバリアーを一部解除してあげている所が優しいです。
解除するのを忘れていたら、王子様の身体がバラバラになっている所でした。

「もうやだ、このエルフ」

妖精さんは嫌そうな顔で呟いていました。








「はっ!夢か?!
……ば、化物っ!!!?」

王子様が、次に目が覚めた時、今まで起きた出来事は夢だと思い込もうとしていましたが、目の前にラッキーが居たので、今までの光景が現実だとすぐに理解しました。
ラッキーは可愛らしい笑顔で

「ねぇ、5000年も国の歴史があるって、今も言えるの?
君の国、建国されたの60年前で、最近出来た国だって理解したよね?
それとも私の記憶や、世界が可笑しいのかな?かな?」

「……嘘だと認めてやろう。
この化物め。」

長い沈黙の後、王子様は渋々と認めました。
とても長い長い悪夢を見たような、そんな気分になっています。
でも、心は辛うじてギリギリ、奇跡的に折れていませんでした。
王子様はラッキーの顔を見つめて

「だが、余が国を変えてみせる。
王位を引き継ぎ、5000年の歴史に勝る偉大な国を作り上げて、化物を驚かせてやる!
また、余の国に来るがいいぞ!
化物!
その時、余の偉大さにひれ伏して謝罪するなら、配下にしてやらないでもない!」

「うん、楽しみにして、また訪れてあげるよ。
じゃ、国に帰ろうか」

これがラッキーと王子様との最後の会話です。
ラッキーは王子様をすぐに国に戻して、また新しい旅に出ました。
二人は二度と会う事はなかったそうです。













ラッキーは100年後、思いだしたかのように王子様の国を訪れました。
そこは相変わらず貧乏で1階建ての木造建築ばっかりが並ぶ貧困国です。
木を曲げる技術すらなく、水を瓶で汲み、技術も大して発展していませんでした。
ラッキーは近くにいた30代のボロボロで、汚い白衣を着た男に問いかけます。

「ねぇねぇ、この国ってどんな国ー?」

「あ?
この国の事を何も知らねぇのか?
この国はな……1万年の歴史がある偉大な国なんだよ!」

100年前に別れた王子様に何があったのか分かりませんが、歴史が二倍に増えていたそうです。







6国目 半万年の歴史を持つ偉大な国 後篇

おしまい

テーマ【嘘を嘘で塗り固めたらこうなる】



[40621] 7国外目 普通の旅人の話
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/11/18 10:37
とある平和な人間の国に、冒険に憧れる女の子がいました。
真っ黒な髪をポニーテールにして後ろに纏めた可愛らしくて元気な娘です。
道ですれ違えば、10人中1人くらいは振り返るくらいに魅力的で惹かれるものがあります。
でも、この女の子は、16歳になった当日の朝に、父親のバイクを盗み、バイクの後ろに大量の食糧と燃料をロープでグルグルと固定し、そのまま国を出ていきました。
はてさて、旅人となった女の子は、どのような旅をするのでしょうか?






女の子は国を出て、ウキウキとした気分で、広大な平原にある道をバイクで走っています。
憧れの大冒険。
真っ青の空から降り注ぐ陽気と、草原の冷たい風の二つが心地よく思え、歌を口ずさんでご機嫌です。
銃器の類を持っていないので、悪い奴らに会うだけで抵抗できなくて人生終了なのですが、そんな事は気にしていません。
危険は承知の上なのです。

「私はぁ~冒険家シャロン・ストーン~
この旅を本に纏めてぇ~有名になる~」

今は人生の絶頂期という奴でした。
後に旅に出た事を後悔して、一生悩むそうですが、それはまた別の話。









「あ、道が分かれてる……」

女の子がバイクを走らせて、道を4時間ほど進むと、道が三つに分かれていました。

一つは険しい険しい山々へと続く道 (※オークが大量に住んでいます)
一つは深くて暗い森へと続く道 (※近付くだけで銃を撃ちまくる独裁国家があります)
一つはただ広い草原の道 (※国も何もない未開拓地域です。)

女の子には、道の先に何が待ち受けているのかの情報がないから呑気にしていますが、これは大変です。
どれを選んでも死ぬ可能性が大です。
山の道に行けば、オークの花嫁さんとして死ぬよりも酷い屈辱的な繁殖家畜生活。
森の道に行けば、良くてすぐに殺され、悪ければ拷問された後に殺されたり奴隷にされます。
草原の道に行けば、燃料を補給できないので、バイクはただの荷物と貸し、国に戻れずに死ぬ可能性があります。
女の子は、どの道を選ぶか悩みました。
まさに自らの運命を選ぶに等しい内容なのです。
問題は……どれもこれもハズレクジなので、正解がない事でした。
でも、あえて言うなら、来た道を引き返して帰るのが唯一の正解の道です。

「よぉーし!
森と山は何か居そうだから、草原の道に行こうー!
目指せ!大冒険家シャロンの旅!第一章!」

1分ほど悩んでから答えを出し、女の子は草原の道にバイクを向けて走りました。
直感で、二つの道の先に、凄く危険なものがあると判断していて凄いです。














女の子は、途中でいくつかの休憩を挟んで20時間もバイクで草原の道を走ったら、予備の燃料も全て使い果たし、ただの鉄の塊と化したバイクの横で、草原の地面に指で文字を書いてウジウジしていました。
帰ろうにも、自国までの距離が長すぎて、徒歩じゃ無理です。


「なんでこんな事に……私死んじゃうのかな。
山の道とか、森の道を選んでおけば良かった……
というか、燃料補給も出来ない場所になんで道があるのよ……ありえないでしょ……
他の人はどうやって道を使ってるんだろう……」

女の子が愚痴っていると、草原の道の先から歩いてくる小さい女の子の姿が見えました。
地面にギリギリ届きそうな綺麗な金髪を持ち、耳が尖っている不思議な女の子です。
仮の名前をラッキーという事にしておきましょう。
ラッキーの頭に妖精さんが居ますが、人間には見えません。

「あれ?
こんな所に女の子?
きっと人間の集落があるんだわ!」

女の子は生存への道が開けたと思って元気を取り戻し、ラッキーの元へと走って近づき、話しかけます。

「ねぇ!
そこのアナタ!
アナタのお家はどこ!?
私は自分の国に帰れなくて困ってるの!
助けて!」

ラッキーは首をキョトンと傾げた後に、ゆっくりと頷いて、バイクを指で指し示し

「うん、わかった。
その代わり、そこにあるバイクが面白そうだから頂戴」

「そ、それは駄目よ!
お父さんのバイクだから、後で怒られちゃう!」

「じゃ、ここでのたれ死ぬ?
私はそれでいいんだよ?」

ラッキーは容赦ありません。
女の子は、バイクよりも自分の命が惜しいので、少し考えた後に

「わ、わかったわよ!
バイクはあげるから、私を助けて!」

「うん、お願いを聞いてあげる。
えい!」

「オニャノゴ!」

ラッキーは女の子のお腹をパンチで殴って気絶させ、女の子の手を掴んで空を秒速1kmで飛び、ここから近い国の広場に放り込みました。
軍事大国の方ではなく、女の子の住んでいる国の方だったので、女の子は大助かり。
ラッキーは女の子の命を救ってあげたのです。
バイクには燃料はありませんでしたが、風の魔法でバイクを動かせばいいだけなので、燃料の問題は特にありませんでした。
ラッキーが遊びつくして飽きて捨てるまで、バイクは酷使され、天寿を全うしたそうです。








女の子は、国を勝手に出たから、両親から散々怒られましたが、全くめげません。
逆に、絶望的な状況でも奇跡的に生きて帰って来れる幸運を持っていると勘違いして、一年後に、今度は父親の車(キャンピングカー)を盗んで、また旅をしました。
今度は草原の道ではなく、山か森の道を進むそうです。

「よぉーし!
今度こそ旅を成功させるわ!
燃料も食糧も大量に詰んだし、成功間違いなしだわね!
今度は●の道を進むわ!」

山に進めばオークの花嫁。
森に進めば危険な軍事大国。
女の子の1人旅は身体が幾つあっても足りないほどに危険でした。

「目指せ!大冒険家シャロンの旅!第二章【新たなる人生の始まり】!」





















「「「「「「「「「「「「「「「「ぶひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!
こんなところに若いメスがいるブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」

7国外目 普通の旅人の話
おしまい





テーマ【馬鹿は死ななきゃ治らない】
テーマ【普通の旅人の旅の難易度】




[40621] 8国目 お金の国 前篇
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/11/24 09:30



ラッキーは、今日も人間の国に不法入国して、街中を散歩していました。
その人間の国は、他国と比べるとそれなりに豊かで、街中には無数の高層ビルが立ち並び、広い道路には休む事もなく鉄の車が走り、人目のつかない場所に多数の住所不定のホームレスがいる普通の国です。
光あるところ闇ありという奴ですね。
でも、可笑しい事に、皆が希望を持って、目をきらきらと輝かせていて不気味なのです。
富める者も、貧する者も、明日への希望を平等に持っていました。

「?
この国、どうして皆が元気なんだろう?
貧乏な人も希望を持てる良い国なのかな?」

ラッキーは疑問に思ったので、近くにいた70才くらいのヨボヨボで、ボロボロの茶色のジャケットを何カ月も着ていそうなホームレスのお爺さんに話しかけてみる事にしました。
そのお爺さんは、道に落ちている空き缶を拾う資源回収という仕事をやっています。
常識的に考えると、恐ろしいほどに低賃金で割に合わない作業なのですが、お爺さんは笑顔です。

「ねぇねぇ、どうしてそんなに笑顔なの?
最近何かいい事があったの?」

「ん?
なんじゃ?
可愛らしい娘子じゃな。
ワシが幸せじゃとあかんのか?」

聞き方が悪かったのでお爺さんが少し怒っています。
ラッキーは知的好奇心を満たすために情け容赦なく

「普通は、あなたみたいな底辺階層の人間って、食うにも困るはずだから自暴自棄になったり、将来に絶望しちゃうはずだよね?
なんで笑顔なの?
ここってそんなに良い国なの?
気になるから教えてほしいの」

「口がなっとらん! 」

お爺さんは怒って場から立ち去ってしまいました。
ラッキーは話をしてもらえなくてションボリ。
でも、知的好奇心を満たしたいからめげません。
次は、ベンチに座っている貧乏そうな痩せている青年に話しかけます。
青年は、何日も風呂に入っておらず、身なりがボロボロのシャツとズボンでしたが、眼は希望でギラギラ輝いていました。
こんな貧乏人でも希望を持てるなんて、普通の国ではありえません。

「ねぇねぇ、最近良い事あったの?
良かったら教えてくれないかな?」

「ん?
可愛い娘だな。
今の俺は気分が良いから答えてあげよう!
この国はな!
新しく発行される紙幣を大量に刷って、国民全員に毎月配布する政策が実現する事が決まったんだ!
……まぁ、お譲さんも知ってるよな。
毎日ニュースになってるし」

「え?
お金を刷って配る……?
富を平等に配分する共産主義の一種なのかな?」

ラッキーには、意味が分かりませんでした。
青年は、若くて可愛い女の子と会話したのが久しぶりだったので、親切に教えてくれます。

「分かってないような顔をしているな。小さいお嬢さん。
小さいから理解できないのも無理はない」

「うん、分かんない」

「いいか?
お金を大量に刷ればな。
それだけ、皆がお金を使うんだ。
そうなると皆が儲けて、お金を更に使う循環が産み出されて……経済が活性化されて豊かになるんだ。
更に、そのお金が他国にも大規模に流通するようになれば、他国を支配したも同然。
他国は、我が国の通貨によって市場を牛耳られ、戦争に負けたも同然の状態になるんだ。
我が国が、相手国に紙幣の流通量を減らすぞ!と脅すだけで、市場が窒息し、我が国の言いになりならざる負えない。
ここまではいいか?」

「うん、分かった」

ラッキーには訳がわかりませんでしたが、わかった振りをしました。
通貨で他国の市場を支配しようとする所は理解できますが、その流通のさせ方が謎です。
ラッキーの頭の上にいる妖精さんは、男のことをキチガイを見るような目で見ています。

「今言ったような事を繰り返して、全世界に我が国の通貨を流通させれば・・・俺達は働かなくて良いんだ。
他国の富を我が国の通貨で買い上げて、一生、紙幣を量産するだけで贅沢に暮らしていける。
俺達の国は、そんな素敵な日々を送るために、来月から大量に紙幣を印刷して、俺達に配ってくれるんだ」

「うーん、それって酷い事にならないの?
紙幣の印刷のしすぎて、お金の価値がなくなって物価が極端に上がったりとか。
きっとそんな展開になると思うよ」

「は?何を言ってるんだ?
お金の価値が上がったり、下がったりする訳ないだろ?」

「え?そうなの?」

ラッキーには訳が分かりません。
金貨や銀貨なら話はともかく、低コストで過剰に印刷機で大量生産できる紙幣の場合、青年の言った通りの事を実行したら、紙幣の信用度が下がり、紙幣の価値が紙くずになるはずなのです。
青年は自信満々な顔で

「食料品の値段は不作・豊作の影響で極端に上がったり下がったりするかもしれないが、お金の価値は大して変わらないんだ。
この国は長年、金貨・銀貨・銅貨の三つの金属の貨幣で商売をやってきたから、ちゃんとその点はわかっている。
きっと、紙幣も同じようなもんだろう?
だから幾ら、紙幣を刷っても価値はなくならず、大量生産された紙幣による無限の富で国が豊かになるはずなんだ」

「あの、この国って、紙のお金って初めて体験するの?」

「ああ、そうだよ。
そんな一般常識も小さいお嬢さんは知らなかったのか?」

ラッキーはここで合点がいきました。
この国は、金属の貨幣を中心とした貨幣経済でやってきた国で、紙のお金を体験するのが初めてだったのです。
貨幣の場合、貨幣の中の金や銀を減らさない限り、価値は暴落しませんが、紙幣の場合は違います。
貨幣以上に紙幣は、国の信用度=紙幣の価値になっているのです。
紙幣は信用がなければ紙クズなのです。
この国の人達はそれを分からずに、馬鹿な事をやろうとしていました。



ラッキーは面白い事になりそうだったので、この国にしばらく不法滞在しようと思っています。
そして男にこう言いました。

「うん、私はこの国の事は何にも知らないよ。
でも、この国の未来は分かるよ。クスクスクス」







後篇に続く。



[40621] 8国目 お金の国 後篇
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/12/01 17:16



ラッキーが人間の国に住み着いて約一カ月が経過しました。
国中に、大量に発行された紙の金【紙幣】が流通し、民衆が大喜びしています。
街を行き交う人々は、国から貰った紙幣の札束を手に、あちらこちらにある店に入り、欲しい物を買っていきした。

「ママ!このケーキ頂戴!」「あらあら、仕方ないわね!」
「この自転車が欲しかったんだ!紙幣最高!」
「うひょぉー!紙幣って素晴らしいっー!いつもよりも贅沢な生活ができる!」
「よし!生活に余裕が出来たし猫も飼おう!」
「にゃー!」

紙幣と交換で欲しい物を買えた人々の顔はとっても素敵な笑顔に包まれています。
ラッキーは道を歩きながら、彼らの幸せな姿を見てクスクス笑っていました。
大通りの歩道をしばらく歩くと、一カ月前に親切に解説してくれた青年が、お洒落なスーツを着た小奇麗な格好で、手にアイスを持ちペロペロ舐めながら歩いてました。
ラッキーは知り合いだったので、青年に近付いて話しかけます。

「ねぇねぇ、今、あなたは幸せ?」

「ん?
ああ、一カ月前に会った綺麗なお嬢さんか。
久しぶりだな。
幸せと聞かれたら、好きな物を買えて幸せだぜ。
お嬢さんもアイス食べるか?」

青年が持っていたアイスを差し出してきましたが、ラッキーは首を横に振って断りました。
そして忠告します。

「そ、か。
なら、今の内に、そのお金を全部使って、これから先、生きていくために必要な食料品を買い漁った方がいいよ。
お金の価値が減るからね」

「はははははは!
まだそんな事を言ってるのか。
そんな事にはならんよ。
この街の皆を見てみろよ?
皆、紙幣を持って幸せだろ?
まぁ、国から支給される紙幣は節約して一カ月間生活できるかどうかの額だから、働かないと贅沢は無理だろうがな」

青年は、街中にいる大勢の人間を指でさし示します。
皆、幸せの絶頂期でした。
老いる者も、幼い者も、男も、女も、皆が笑顔で好きな物を買い、商品を売る店側もたくさん商品が売れるから幸せです。
不幸になるとは欠片も思ってないほどの笑顔と活気で、紙幣で物を購入して豊かな生活を送っています。
ラッキーは能天気な青年へ忠告を続けました。

「彼らが笑顔なのは、紙幣の価値が 今  だ け あるからだよ。
すぐに価値がなくなって、元の貨幣経済に戻ると思うの。
しばらくは国の経済が混乱すると思うから、その前に、紙幣で貨幣を安く買い叩いて購入したり、食料品を貯めこんだ方がいいよ?」

「ん?貨幣?
全部、国が回収したから、誰も持ってないぞ」

「え?」 

「新しい紙幣と、昔の貨幣を強制的に交換する法律が出来てな。
今じゃ全国民が貨幣を手放して、この国の通貨は紙の金【紙幣】だけだぞ」

ラッキーはとんでもない事を聞きました。
国が全部の貨幣を回収しちゃったのです。

「……ひょっとして、これって、国が全ての富を集めるための政策……?」

ラッキーの脳裏には、この馬鹿みたいな政策の裏に、国の誰かさんの陰謀があるように思えてなりません。
でも、どっちにしろ、経済がその過程で壊滅するはずだから、馬鹿としか言えない政策でした。
人間の考える事は常軌を逸していて、ラッキーには理解できません。
そして、だからこそ、人間という生き物は見ていて楽しいと、ラッキーは思いました。









青年と別れたラッキーは道をテクテク歩きます。
すると大通りの道端で可笑しい光景を見かけました。
軽トラックの荷台に、大量の紙幣を満載して、片っ端から宝石店で貴金属や宝石を購入している人間達を見かけたのです。

「おーい!これで宝石店の宝石を全て売ってくれ!」
「金なら幾らでもあるぞ!ガハハハハ!」

その人間達は真っ当な仕事についている人間には思えず、ゴロツキ(悪い人達)にしか見えません。
試しに探査魔法で、軽トラック一杯の札束を調べてみると、国が発行した紙幣と違って、印刷がいい加減な 偽 札 だった事がわかりました。

「・・・・・うーん、想像以上にこれはまずい事態だね。
偽札は紙幣の信用度を落としちゃうから、すぐに経済が終わっちゃうかも」

とりあえず、ラッキーは近くにあった公衆電話の所へと歩き、110のボタンをポンポン押して、警察に通報しました。

「ねぇねぇ、警察ですか?
●●●●という場所に、偽札を使って物を買っている男達がたくさんいるよ。
捕まえて死刑にしないと、国が終わっちゃうかもね?
あ、車の車種も教えるね。●●●●●だよ」

それ以上の事は、ラッキーはしませんでした。
これで一応、この国で色々と解説してくれた青年への恩を果たしたつもりになっています。
あとは国が、偽造し辛い紙幣を作り、紙幣の生産量を減らせば、経済に少ないダメージを受けるだけで済む段階なので、全ては人間側の問題でした。










更に一カ月の時が流れると、街の様子が可笑しくなっています。
大通りを埋め尽くす群衆が紙幣の札束を手に持って、小麦を販売している商店へと押し寄せているのですが、小麦を買えないのです。
群衆は口々に怒声を、商店の太った店主に浴びせました。

「おい!可笑しいだろ!
金があるのに小麦を売ってくれないなんて酷い!」

「さっさと売ってくれ!2日も飯を食べてないんだ!」

「以前の10倍のお金を出すから、俺に優先的に売れ!」

群衆の一方的な言い分に、商店の店主のオジサンも怒り返して

「いい加減にしろ!
そのお金は紙屑なんだよ!紙屑!
そんな簡単に複製できる紙屑と、小麦を交換しろと言われても、誰がやるか!
欲しいなら貨幣を持ってこい!
小麦一袋銀貨1枚!OK?!」

店主のオジサンが言っている事は正しいのですが、群衆の怒りという火に、ガソリンスタンドの燃料タンクをかけるような行いなので、群衆の怒りが爆発しました。
群衆は足もとにあった石を拾い、店へと投げ、ガラスを次々とパリーンパリーンと割ります。
更に、先頭にいた群衆が店の内部へと強行突入し、店内にある膨大な数の小麦粉を手に持って次々と店の外へと運び出しました。
店主のオジサンは止めようと叫びますが

「おい!やめ……ブデンっ!ヒデブッ!」

「ゆっくりせずに死ね!このドケチ!」
「金を持ってきた俺達に売らずに偉そうにしやがって!」
「どうせ、小麦の値段をお前らが釣り上げて、大儲けしようと企んでいたんだろう!」

店主のオジサンは激怒した群衆達に取り囲まれて、ひたすら殴られたり、蹴られたりして、何も言えない死体になってしまいました。
この騒ぎは、この店だけではなく、国中に広がり、デパート、酒屋、商店街、行商、宝石店、風俗店、政治家の豪邸、会社のビル、そこら辺の住宅地などが怒り狂った群衆に略奪されて餌食になり、国はもう目茶苦茶です。
経済活動は完全に停滞。
治安は悪化。
女の子が歩くだけで拉致されて、臓器売買、人身売買されちゃいます。
街中で火の手が上がっていますが、消防隊も軍隊も警察も、給料が【価値がない紙クズ】だったので誰も働きませんでした。
政治家は責任を取らずに、国中から集めた貨幣の中で、特に価値がある金貨と銀貨だけを持って国外逃亡。
少し前までは、普通に働けば、それなりに暮らせる普通の国だったのに、ただの地獄になってしまったのでした。






ラッキーは空中に身体を浮かせて、この光景を見下ろしてクスクス笑っています。

「この国……可笑しくて……笑っちゃう……
普通に考えたら、馬鹿でも分かるのに……クスクス」

「もうやだ人間の世界。
……ねぇ、ラッキーはこの国って、この後どうなると思うの?」

妖精さんは怖い物見たさに、ラッキーに聞いてみました。
ラッキーは笑うのを堪えて

「そうだね。
ここまで酷くなると、経済が壊滅しているし、膨大な数の失業者がでて、国が複数に分裂して紛争地帯になったり、良くても凄く貧乏な国になるって所かな」

「ラッキーは、人間のために何かしてやろうって思わないの?」

妖精さんの言葉にラッキーは両手を組んで、少し考えた後に

「うーん、今まで善意で助けたりしたら、もっと酷いことになったし、助ける対象の人間に恩がなかったら、特に助けたいとは思わないよ。
助けても、人間ってすぐに死ぬし」

妖精さんは、それ以上何も聞きませんでした。
今までの人間の国々の幾つかが酷すぎただけに、ラッキーの気分がわかります。
今回の国なんて、入国してたった2ヶ月そこらで、この有様です。
ラッキーは60時間ほど、空に浮いたまま、人間の国を見下ろして見物し、興味を失って飽きたから場を立ち去って新しい旅へと出ました。

この国に残されたのは、略奪される弱者、略奪しまくる暴徒と化した群衆、放火されて廃墟になった建造物。

そして、信用を完全になくして価値がゼロになった紙の金【紙幣】が、国中にゴミのように散らばっていました。
その内の99%が偽札だったそうです。





テーマ 【お金の値段は、その国に対する信用の表れ】






没ネタ


この経済が崩壊した国に、ラッキーが再び訪れたのは、約10年後の事です。
さすがに10年の年月があれば、国の混乱も収まり、雇用と経済も安定していましたが、流通している通貨は別の国の紙幣でした。

かつて、この国は自国の通貨で世界征服を企んでいましたが、経済が一度崩壊したせいで他国の通貨に市場を支配され、自国の富を他国の紙屑(紙幣)と交換して吸い上げられてしまう国になっていたそうな。

ラッキーは大笑いしました。



[40621] 9国目 無責任な国 前編
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/12/05 11:36



真っ青の晴天な空。
ポカポカと昼寝をしたくなる暖かい陽気。
鳥のカモメ達が大量に空を舞う広大な海を、人間が作った巨大な船が航行していました。
それは人間の世界でいう豪華客船です。
内部に映画館、ホテル、商店街、テニスコート、レース場、銀行、カジノなどなど、一つの小さな街の機能を丸ごと圧縮したかのような設備群を誇っており、1万人の人間の客が乗船しています。
ただ、可笑しい点が多く、脱出用の救命カプセル(ボート)が多数故障してたり、異常なくらいに貨物を積んでいる癖に、船の設計が可笑しくて、船の重心が低い所ではなく、 高 い 所 にあるのです。
船は重心が高くなると、バランスが不安定になって転覆しやすいのに、この船は異常でした。
安全対策を全くしていません。
しかも、この船の運行会社が将来的にフィリピンヤーという国に、売り渡そうと交渉中の船でした。
こんな何時沈んでも可笑しくない船を、売り渡そうとする時点で、無責任ですよね。

「わぁー!凄い!
この船楽しいよ!」

そんな可笑しい豪華客船の通路を、キラキラと光る金髪の髪が特徴的な小さい女の子ラッキーが走っています。
青と白の縞々パンツと、ピンク色のスカートが一体になった【セパレート】という水着を着ていて、胸元の大きな赤色色のリボンが少女の可愛らしさを演出しています。
飾りすぎず、シンプルすぎない絶妙なデザインでした。
今日は白いローブじゃなくて、スカートつきの水着なのです。
道行く人達の一部は、綺麗な金髪を持つラッキーに注目していますが、本人はその事を気にせずに、豪華客船を水着の格好で走り周って遊んでいました。
ラッキーの後ろを12歳ほどの若い少年ゼウォルが走って追いかけてきます。

「おーい!
ラッキーちゃんっー!
そんなに走りまわったら迷子になるぞー!
……ふぅ、ラッキーちゃんはなんて魅力的な娘なんだろう!
僕の青春は爆発寸前だ!」

ゼウォル少年は格好良いというより、可愛らしいと表現したくなる短い黒髪の少年です。
青色のサーフパンツ(半ズボンみたいにブカブカの水着)だけを下半身に履いていました。
年上のお姉さま達が見たら、ついついイタズラしたくなる雰囲気を持っています。
何を隠そう!
ゼウォル少年は、ラッキーに初々しい一目惚れをして、この船旅で仲良くなろうと企んでいました。
若いっていいですよね。
12歳だから10歳くらいに見えるラッキーに手を出しても、外見上は全く問題ないのです。
実年齢は気にしないでください。

「ラッキーちゃん!
待ってー!」

今、少年とラッキーは豪華客船をあちこち走りまわって、船の隅々を見まわって楽しんでいます。
そこに映画館があれば、少年のお金で映画鑑賞。
少年はラッキーと手を握りながら映画鑑賞出来て心臓がドキドキでした。

スイーツ屋があれば、少年の財布から出した金で、甘い甘いスイーツ食べ放題。
少年は、ラッキーがスイーツを食べすぎて確実にブヨブヨに太る未来を予測して困りました。

ゲームセンターがあれば、少年の財布のお金で、ゲームを全て遊び倒し。
ラッキーの着ている可愛らしいセパレートの水着も、少年の金で買ったものです。
少年はデート感覚だったので、顔を赤らめてラッキーの事が気になりながら走り、財布からポンポン金を出して貢いでいます。
男という生き物は、こうやって自分が魅力的な男性である事をアピールする生き物なのです。
しかし、ラッキーの頭の中にあるのは知的好奇心。
ラッキーの次の行き先は、豪華客船を操作している人間さん達がいる操舵室でした。
普通なら、お客さんが入る事は許されない重要な場所です。
でも、ラッキーは普通に、白い扉を一気に開けて、操舵室に侵入しました。
操舵室の中は、大量の計器と装置で一杯で、白色の制服を着た20代前半の女性船員が操舵室のハンドルを握って、豪華客船を操作しています。
ラッキーは女性船員に向かって

「ここが船を動かす場所なの?
ねぇねぇ、どうやって操縦してるの?
この計器はなーに?
大量にあるボタンの機能を全部覚えてるの?
他には船員さんいないの?
年は幾つ?若いよね?
どうしてそんなにストレス溜まっているような顔なの?
何か不満があるの?
ねぇねぇ教えてー!」

知的好奇心を満たすために質問責めをしました。
でも、女性船員からは答えが返ってきません。
なぜか、手を震わせながら

「お、お嬢ちゃん、私に話しかけちゃ駄目!
今、大変なのよ!」

「?
何が大変なの?」

「私、この航路が初めてで緊張しているのよ!
出港時間が濃霧のせいで2時間も遅れているし、急がないとスケージュルに間に合わなくて、私が怒られちゃうわ!
実は私っ!
入社したばかりの新入社員なのぉー!
なんでこんな大変な仕事をやらせるのよぉー!」

この時、女性船員はついつい手を滑らせてしまいました。
ハンドルを大きく回転させてしまって、豪華客船が急旋回。
急旋回した事に慌てて、もう一度、急旋回。
二回大きく傾いた後に

ドゴーン!

豪華客船の貨物室に大量に積んである自動車の固定器具が外れて、車が動き出し、そのまま船の内部に当たり、船体に穴を開けてしまったのです。
ラッキーはこの時は知りませんでしたが、この船は儲けるために、法律上許されないほどに膨大な貨物を搭載し、その違反行為を国の役人達の目から誤魔化すために船を軽くしようとバラスト水という、船の重心を低くしてバランスを安定させるための水を、船から大量に抜いていたから、とても不安定になっていたのが事故の原因でした。
船に穴が開いたから、大量の水の浸水が始まり、船は沈没一直線です。
女性船員が悲鳴を上げました。

「あああああああああああああああああああああああああああ!!!
お嬢ちゃんのせいで、船に穴が開いたじゃないいいいいいい!!!!!!」

「うーん、私のせいのかなー?」 ラッキーは首を可愛く傾げました。

「このままじゃ沈むううううううう!!!!!!!!!!!
わ、私は悪くないわよおおおおお!!!!!!!! 」

若い女性船員の無責任な悲鳴が、操舵室に響きます。
ラッキーは、不思議そうな顔で、慌てる女性船員を見ていました。
少しすると操舵室にゼウォル少年と、船長と他の船員達が走ってやってきます。
船長さんは、白い帽子と白い制服を纏った渋いお爺さんです。
船長は女性船員に詰め寄って問いただします。

「おい!
何が起きた!」

「ど、どうやら貨物が外れて動き出して、船に穴を開けたみたいです!
で、でも、わ、私のせいじゃありません!」

「な、なんだとぉー!」

船長は驚きます。
それはとても最悪な事態だからです。
何せ、船長が所属している会社は、最小限のコストで豪華客船を運用するために、安全対策に全くお金をかけていないから、船員達はこういう非常事態の時のための訓練をほとんど受けていませんでした。
そして、ここからが重要です。
船が沈没するという事態になった時、緊急時の脱出マニュアルでは、乗客を真っ先に脱出させ、次に船員、一番最後に脱出するのが船長と決まっています。
一番偉い船長が逃げ出すと、部下の船員も逃げて、誰も避難誘導をやってくれないから、こう決まっているのです。
でも、この安全対策を怠った豪華客船で船員達が避難誘導をやると、船長には100%の死が待っているので、船長の取った行動は、操舵室にあるマイクを右手で掴んで、船内放送を流す事でした。

「えー、乗客の皆様。
今の揺れで不安を感じた方もおられるでしょうが、ご安心ください。
混乱を避けるために船内の自室に待機し、その場を動かないでください。
繰り返します。
今の揺れで不安を感じた方もおられるでしょうが、ご安心ください。
混乱を避けるために船内の自室に待機し、その場を動かないでください」

「うーん、早く逃げた方がいいんじゃないかな?
今、探査魔法かけたら、船に水がどんどん入ってくるようだし、沈むと思うよ?
その指示じゃほとんど死ぬんじゃないかな?」

ラッキーは、船長の後ろで呟きましたが、船長は船内放送するのが忙しくて、聞いていません。
他の船員達から、操舵室から退室するように言われたので、ラッキーは渋々と出て行きました。
ゼウォル少年は、知的好奇心を満たせなくてションボリしているラッキーの肩を掴んで

「おーい!ラッキーちゃん!
船員達が言った通り、僕達も自室に戻った方がいいんじゃないか?
ぼ、ぼくの部屋とか、美味しいジュースがあるし、テレビもあって快適だぞ?
へ、変な事はしないから安心してくれ!」

少年は緊張して顔が真っ赤です。
ひょっとしたら、部屋でラッキーと素敵で親密な仲になる展開が待っているかもしれないと思っているからです。
ですが、ラッキーはそれを首を横に振って断り

「いや、船内に居たら私はともかく、ゼウォル君は死んじゃうよ?
それでもいいの?」

「え?
ラッキーちゃんは何を言っているんだ?
船長さんがさっき言っていた通りの事をすれば安全だろ?」

「ゼウォル君は理解してないんだね」

ラッキーは残念そうな口調でそう言った後に

「さっきの船長の船内放送はね。
乗客全員を船内に閉じ込めて見捨てて、船長達が真っ先に脱出するためにやった行為だよ。
このままじゃ、1万人の乗客のほとんどが船ごと沈没して死ぬんじゃないかな?」

この言葉を言った直後、ラッキーの言葉を証明するかの如く、船が急激に傾き、ゆっくりと沈み始めました。



中篇に続く

テーマ【文学は現実を模倣する。 セウォル号事件をそのまんま書いただけ】

HP検索【「セウォル号」沈没事故
【全員無責任/軍はレイプ事件/水上警察はゴルフ場建設/大統領は責任転嫁して水上警察解体のデタラメだらけのオンパレード】】



[40621] 9国目 無責任な国 中編
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/12/09 20:02
船がどんどん浸水してきた海水と、膨大な貨物の固定器具が外れて船の片方側に移動したせいで、斜めに大きく傾き、船の側面からも海水が入ってきました。
1万人の乗客は、この事態に混乱して右往左往しますが、船内放送で船員達から何度も何度も

「ご安心ください!
この豪華客船はこんな事では沈みません!
慌てずゆっくり冷静に船内に待機してください!
繰り返します!
この豪華客船はこんな事では沈みません!
慌てずゆっくり冷静に船内に待機してください!」

こう言われたので、1万人の乗客は自分達で助かる方法を考える事を放棄し、船内で動かずにじっと待機しました。
この間に船長と船員達は、この船の船員である事を示す白い制服を脱ぎ捨てて、下着姿になっています。
救助船が来た時、船員の格好をしていたら、場に残って乗客の救助活動をするように命令されてしまうから、船長達は下着姿になる事で、ただの乗客の振りをしようとしていました。
船長達の後ろには、光を歪めて姿を消す光学迷彩で透明になったラッキーと、ゼウォル少年がいます。
少年は光学迷彩で、誰からも自分が見えてない事に驚き、水着姿のラッキーに無言で抱きつき、綺麗な白い肌と密着しているから、心臓が緊張してドキドキしていました。
ラッキーは、この少年から、色々と貢いで尽くして貰った恩があるので、その義理を果たすために少年だけは助けてあげようと思っています。
船長は近くにいるラッキー達の存在に気づかずに、船長として情けない事を言いました。

「よぉーし!
海上警察と会社に通報したから、救助船を真っ先に発見できる場所に移動だ!
途中の通路に乗客が居たら、自室に戻って待機するように言うんだぞ!
そうしないと、通路が人で溢れて、俺達の生存率が下がるからな!」

船長はとても無責任な男でした。
自分の命のためならば、1万人が死んでも良かろうなのだぁーな精神の持ち主なのです。
1人の若い男の船員は、それに反発して

「待ってください!
乗客を助けるのは、私達の義務のはずです!船長!
最後まで残って避難誘導しましょうよ!」

船長に正義感たっぷりに抗議しましたが、船長から返ってきた返答は

「はぁ?
乗客を助けるのが義務?
何を言ってるんだ?
会社は、俺達にその義務に見合う大金を払ったか?
俺達の給料すらコストカットして、低賃金で働かせてる糞会社だぞ!
そんな会社に忠誠を尽くすな!
今は生き残る事だけを考えろ!」

男の船員は沈黙しました。
確かに、この豪華客船を運営している会社は、本当に酷い会社なのです。
オーナーは、信者だけが天国にいける教義を持つカルト宗教の教祖だったり、自分はアヘ(神様)だと名乗ったり、多数の違法行為を賄賂を払って見逃してもらうような、そんな人間の屑だから、社員に待遇に見合う給料を払っていません。
そして船長の言葉が更に続きます。

「それにな!
乗客を脱出させるための救命カプセルはな!
コストカットの影響で全く整備せずに、何年も放置してたから故障しているぞ!
しかも、この前見たら、救命カプセルを固定している器具が絶対に外れないようにガチガチに固定されていたり、錆びていたから、短い時間で救命カプセルを船から外すのは不可能だ!
他の道具も経費削減のために、賄賂払って検査を見逃してもらった故障品ばっかりだから諦めろ!
わかったら、さっさと俺達と一緒に逃げるのを手伝え!
いいな!?
それしか俺達が生き残る道はないんだ!」

「そ、そうでした……」

男の船員が納得したので、船長達はぞろぞろと歩いて、場から離れて行きました。
皆、無責任です。
先ほど、船が斜めに傾いた時に、別の場所で船員数名が怪我を負って動けなくなっていますが、自分達の生存率を上げるために見捨てました。

「おーい!怪我して動けないから、俺を連れていってくれぇー!」
「俺達を見捨てる気かぁー!」

見捨てられた船員達の死ぬ未来が確定した瞬間でした。
これらの光景を、ラッキーの頭の上でずっと今まで見ていた妖精さんは呟きます。

「もうやだ、人間の世界」










ラッキーは船長達が居なくなった事を確認した後に光学迷彩を解除して、姿を隠すのをやめてゼウォル少年をどう助けようか悩みました。
少年の方は、ラッキーに密着して抱きついた姿勢のまま顔を赤らめ、正義感たっぷりに船長達の無責任さに怒って叫んでいます。

「ラッキーちゃんの肌スベスベで良い……げふんげふん。
なんて事だよ!ちくしょう!
船長達は僕達を見捨てる気だったのか!
早く、この事を皆に伝えないと大変だ!
ラッキーちゃんは、何か不思議な事をやれるようだけど、僕が守ってあげるからな!」

そして、こっそりとラッキーに男らしさをアピール。
でも、ラッキーから返ってきた返答は、少年が考えるような内容ではありませんでした。

「ゼウォル君。
君には、この船で色々とお世話になったお礼があるから、助けてあげる。
確か、1人でこの船に乗りこんだから、船に家族や知り合いは居ないよね?」

「あ、ああ、僕は1人で豪華客船に乗ったからそうだ!
だからラッキーちゃんを守れるから安心して欲しい!」

「よし、最小限の手間暇で済むから安心した。
えいっ!」

「アベシッ!」

ラッキーが、右ストレートパンチで、少年のお腹を殴って気絶させました。
起きている人間よりも、気絶している人間の方が運搬しやすいからです。
すぐに少年の手を持って、船内を出て空を飛び、秒速1kmで移動して、近くの陸地にある人間の街に少年の身体を置いて、ラッキーは豪華客船へと飛んで戻りました。
ラッキーは楽しそうに笑っています。
こんな歴史に残りそうな大事故に遭遇するなんて、滅多に経験できる事じゃないからです。
大事故を最大限楽しむのに邪魔だから、ゼウォル少年は安全な場所に退避させたのです。











豪華客船の船内に水が浸水してから40分後、海上警察の救助艇がやってきました。
まだ、豪華客船が沈み切るのに1時間くらいの猶予がありますが、小さい救助艇で助けられる人数には限りがあります。
豪華客船の外側の通路にいた下着姿の船長と船員達は、救助艇に向かって叫びました。

「おーい!助けてくれぇー!」
「こっちだぁー!こっちー!」

救助艇は、約300人ほどの船員達を乗客だと思い込んで、大きく斜めに傾いている豪華客船に近づき、次々と救助艇に船員達を載せて助けました。
海上警察の人達は、この連中が、本来は最後まで豪華客船に残って避難誘導する義務がある連中だと思ってもいません。
船長は、助けられたから安心し、財布の中の紙幣が海水を浴びて濡れていたから、救助艇の床に紙幣を置いて乾かす作業をやっていました。
船長の中では乗客の命は、この紙幣以下のゴミだったのです。
あとの問題は、陸地に戻れば確実に犯罪者として制裁される未来が待ち受けている事でした。

(あー、やばいやばい。
俺やばい。
陸地に戻ったら、社会から制裁される。
どうしよう。
今のパァククネ大統領、法律無視して人を制裁するからやばい。
俺、死刑にされるかも。)

船員達は、そんな内心では焦っている船長の紙幣をこっそり盗もうとしましたが、それが船長にばれて喧嘩になりました。






ラッキーは、豪華客船の通路から、無責任な船員達が脱出した姿を見た後に、この豪華客船で一週間くらい遊んで楽しかった記憶があったので

「たまには恩がない人間達を救ってみるのもいいかな。
魔法を大勢の人に見られると厄介だから、あまり目立たない方法で頑張ろう」

珍しく、恩も義理もない人間達を助ける気になっていたのです。
まず、最初にやったことは、操舵室に行き、そこから船内放送を流す事でした。
船内放送のやり方は、先ほど、船員達がやっていたから覚えています。
船内放送のためのスイッチをポチッと押し、マイクを口元に寄せて

「えー、マイクチェック、マイクチェック。
私は臨時船長のラッキーです。
この豪華客船は、あと1時間もすれば確実に沈みます。
乗客の皆さんは、慌てて急いで、救命胴衣っていう服を探して、着て脱出してください。
外に海上警察の救助艇が来ているので、海に飛び込めば助かると思います。
繰り返します。
この豪華客船は、あと1時間もすれば確実に沈みます。
乗客の皆さんは、慌てて急いで、救命胴衣っていう服を探して、着て脱出してください。
外に海上警察の救助艇が来ているので、海に飛び込めば助かると思います」

ラッキーは楽しい気分になっていました。
自分の行為で、どれだけの人間が助かるのか気になったのです。
気分はゲーム感覚でした。
この船内放送を聴いた乗客達は、パニックを起こし、我先に救命胴衣を探したり、船の外へと出ようと懸命な努力をし、個人個人の命がかかった壮絶な脱出劇が始まりました。







次にラッキーが乗客救出のためにやった事は、1000個の救命カプセル(ボード)が器具で固定されている船の外です。
昔、タイ●ニック号という豪華客船が沈んだ時、救命カプセルが少ないせいで被害が拡大した事から、本船乗員乗客数以上の救命ボート定員確保が世界各国で義務づけられていますが、なぜか数が足りていません。
きっと、賄賂で国の検査を乗り越えたのでしょう。
しかも

「錆びてる……
この国の人間って、いい加減な仕事をするね」

救命カプセルを固定している器具が錆付いているから、人力で外すのは困難。
本来ならば、水没した時に固定器具は自動で外れる仕様なのですが、故障して錆びているせいで、本来の仕様通りの機能は望めませんでした。
ラッキーは少し頭を悩ませた後に

「うーん、救命カプセルを壊さないように威力調節しないといけないから面倒だけど、全員を助ける必要はないし、まぁいいか。
えい!」

かけ声は必要ありませんでしたが、ラッキーは風の刃を同時に2000発を発生させ、固定器具を切断しました。
うっかり力加減を間違えて、救命カプセルの1割が真っ二つに壊れてしまいましたが、残りは無事に床や海に落下していきます。

ポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっポチャンっ

でも、可笑しい事に海に落下した救命カプセルのほとんどが海に浮かびません。
そのまま沈んでいます。
本来なら水に浮かぶはずの救命カプセルは故障していました。
まともに作動して浮いていたのは、10個くらいです。
これではせいぜい100人か200人くらいの命しか救えません。

「どうしよう。
人の命を助けるのって難しいね。妖精さん」

ラッキーの頭の上にいる妖精さんは飽きれた顔で

「●●●●●●●●●●●●●●すれば楽勝だと思うよ。ラッキー。
でも、僕は沈没事故なんかとうでもいいから故郷に帰りたい……」

とても素晴らしい名案が、妖精さんの口から出ていたのです。





後篇に続く



[40621] 9国目 無責任な国 後編
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/12/12 13:01




沈没中の豪華客船の周りに、海上警察の救助艇、海軍の船が数十隻が集まっていました。
軍の船がすぐにやってこれたのは、この近くの海域で軍事演習をやっていたからです。
海軍は、最精鋭の潜水士部隊を投入して、救助活動を始めようとしますが、海上警察が無線で連絡して阻止して海軍を遠い場所に追い返しました。

「軍はただちに救助活動をやめてください!
これから民間会社ウンコィーネのレスキュー部隊を投入するから邪魔です!
法律でも軍よりも民間のレスキュー部隊が優先されます!」

民間のレスキュー部隊よりも、税金で育てた海軍の最精鋭部隊の方が遥かに優秀なのですが、これには海上警察の利権問題と縄張り争いが絡んでいます。
民間の会社に仕事を任せると、癒着している海上警察のお偉いさんの懐に、お礼の賄賂が入るので、民間会社にやらせた方が私腹を肥やせるからです。
更に酷いことに、海上警察の警官達は訓練してないから泳げません。
ですから警察の方達の救助活動は

「乗客の皆さんっ!
ここまで泳いできてください!
そしたら助けます!」

警察達は泳げないから、泳いでやってくる乗客達を待ち、彼らが救助艇に近づいてきたら救助するという消極的な救助活動をやっていました。
ラッキーのおかげで、次々と乗客が救命胴衣を自分で探して、海に飛び込むのはいいのですが、これらの複数の要因で、乗客の生存率が減っています。
この水上警察が傍観して待っている光景を見た海軍の軍人は呟きました。

「これは駄目だ……乗客がほとんど死ぬぞ……国は腐ってる!
無責任な奴らめ!」

後に、救助艇の警備艇責任者は、消極的すぎる救助活動を非難され、業務上過失致死容疑を適用されて、社会的に制裁されました。
この事件は無責任すぎる行動が連発しすぎて、ラッキーが居なかったら、大変な事故になっていた事は間違いありません。
周辺国の訓練されて質の良い海軍も、救助活動を手伝おうとしましたが、この海域を領有する無責任な当事国が全て拒否したため、他国からの支援も当てにできない状況でした。







豪華客船の事故発生から7時間後、なぜか豪華客船は沈んでいませんでした。
本来なら5時間前に乗客ごと完全水没しているはずなのですが、斜めに傾いたまま浮いています。
この時間的な猶予を利用して、膨大な数の漁船、救助艇、民間レスキュー船が周りに集まり、1万人の乗客が次々と救出されていきました。
1000人ほどは、救命胴衣を見つけられずに、海に飛び込んだので、溺死体になっています。
豪華客船は、乗客9000人の救助が終わったあとに、ゆっくりと海に沈み、そのまま完全水没。
結果的に9000人の人間の命が助けられ、周辺国中で奇跡だと、ニュースになります。
本来なら、1万人のほとんどが死んでも可笑しくない事故なのです。
無責任な船長達が、適切な避難誘導をせずに逃げ出したから、このケースだと生存率は絶望的な数字になるのですが、9割が生存という奇跡が起きました。




救助艇にいる豪華客船の船長は、携帯でゲームをして遊んでいましたが、この奇跡の光景を見て後悔して大変です。
心臓が死にそうになるほどに脈動して、後悔と言い訳で、頭の中は一杯でした。

「もしかして、適切に避難誘導したら、俺、英雄になれた?
うあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

船長と船員達の今の立場は、自分の命欲しさに乗客を全員見捨てたゲス(悪い奴)でした。
このまま、陸地に戻れば、業務上過失致死、もしくは処刑が待っています。
今の国の女性大統領は、人気取りのためならば、法律を無視して何でもやっちゃうお方なのです。
それを理解している船員達は、船長に詰め寄り、怒りの感情とともに問い詰めました。

「お前のせいで、俺達は英雄になれなかった!
どうするんだ!
国に戻れば、俺達は犯罪者として制裁されるぞ!?」

「責任をとれぇー!」

「携帯ゲーム機で遊んでいる場合じゃないだろぉー!全部お前の責任だぁー!」

船長は船員達に怒鳴り返します。

「うるせぇー!そんなの俺が知るかぁー!」

救助艇の中で、船長と船員達は殴りあう喧嘩になり、船長はみんなからぼこぼこにされて、永遠に動かなくなりました。
最後まで皆、誰も責任を取る気が全くなく無責任です。










そしてこの事件の最大の謎、どうして、豪華客船が7時間もの間、海に沈まなかったのか?
それはラッキーが、船の浸水箇所や側面に行き、空気を送り込んだり、凍らせて浸水を食い止めていたからです。
今は沈んだ豪華客船から、誰にも見られないように光を歪める光学迷彩を展開して脱出し終えて、空から救助された乗客達を見下ろして、クスクス笑っていました。

「妖精さん、私、9000人も助けたよ。
これで凄い事だよね」

「ラッキー、今日は珍しくやる気出してたね。
人助けは気分が良かった?」

「たまには、無償で人助けも悪くないかな」

ラッキーも妖精さんも良い気分でした。
ですが、後日、その気分が台無しになります。
この事件は、ここからが本当の地獄の始まりだったからです。














結果的に1000人の人間が死んだ事で、豪華客船の乗客を救出する義務があった国は、大騒ぎになっていました。
1万に近い遺族達は群れをなして、溺死体になった遺体の捜索活動を何カ月もやるように、女性の大統領相手に怒鳴りこみ、海上警察や政府の高官を土下座させて殴ったり謝罪させたり、捜索活動を妨害して遺族が現場に命令したりして、国中がパニックになったのです。
更に遺体の捜索活動中に何人もの潜水士が窒息して死んだりして、二次被害で死ぬ人が続出。
遺体を回収するために遺体を次々と量産しています。
誰も責任を取りたくないので、全員が他者に責任転嫁するので必死でした。
軍も警察も大統領も政府も会社も遺族も、皆が無責任です。

海軍の人は、海上警察が一番悪いと思ったので非難しました。

「我が軍の最精鋭部隊を投入しようとしたら、海上警察に妨害された!
これは明らかに水上警察と民間のレスキュー会社との癒着関係が原因である!
軍は断固として、海上警察を非難する!」

海上警察の人は、言い返せなかったので別の案件を暴露して、海軍を非難しました。

「軍は今月だけでも複数のレイプ事件を起こしている!
海上警察は軍に失望した!
それに民間会社の救助活動を優先させたのは、政府が作った法律が原因だから、政府が悪い!」

政府を非難されたので、パァククネ大統領は激怒して海上警察を解体しました。

「海上警察は、税金を使って訓練設備ではなく、ゴルフ場を作っていた事が判明しました!
大統領として、このような海上警察の腐敗は許せません!
海上警察を解体し、このような事は二度とないようにします!
そして、沈没船を運行していた会社に謝罪と賠償を要求します!」

豪華客船の運行会社は、責任を取りたくないから叫びました。

「こ、この船はニッカン国が作った船だ!
だから、全てニッカン国が悪い!
ニッカン国に謝罪と賠償を要求する!
会社には責任はない!」

隣国のニッカン国は激怒して反論しました。

「船を作ったのは、確かに我が国だが違法改造で沈みやすくしたのはそちらの責任だ!
船体の重心が高くなるように増築して違法改造!
過剰な貨物の搭載!
救命カプセルの定期点検を賄賂で凌いだ事による、安全対策の不備!
低賃金で働いている非正規の社員と船長!
これでは何処の国の船でも沈んで当たり前だ!」

大統領はニッカン国が大嫌いだから激怒して叫びました。

「我が国の国民の心が傷ついた!
ニッカン国に謝罪と賠償を要求する!
誠意をみせろー!」

互いに相手を貶める非難の応酬は、数か月に渡り続き、国は大混乱です。
各地で大事故が次々と相次ぎ、自動車事故、火事、鉄道事故が大発生。
国民は、国の無責任さに失望しました。
ラッキーと名乗る少女が臨時船長と名乗って船内放送をしていた事がニュースになりましたが、次々と軍、警察、会社、政府がお互いに相手を叩くために情報をメディアにリークしたから、不祥事が大量に明らかになったので、謎の臨時船長の事は誰も注目しませんでした。











ラッキーに助けられたゼウォル少年は、毎日のように続く、この国の有様を見て、皆に失望していました。
少年が恋した金髪の女の子ラッキーを、生存者リスト、死亡者リストから探そうとしたのですが、何処にもラッキーの名前や、写真がなかったからです。
この国の人間は、黒髪で、頬にエラがあるのが特徴的な黄色人種なので、耳が尖っている金髪碧眼の白人は目立つはずなのに、見つからないのは異常な事なのです。

「なぜだ……なぜ……ラッキーちゃんの名前や写真が何処にもないんだ!
可笑しいだろ!?
あんな可愛くて目立つ娘が、リストに載ってない?!
きっと、海上警察か政府の仕事がいい加減だから、リストに載ってないんだ!
そうに違いない! 」

実はラッキーがお金を払わずに不法乗船していたのが原因なのですが、今回の件で、国そのものが無責任でいい加減な事に気づいた少年は、そう推理しました。
そして、偶然ですが、目の前に道路を、沈没船の運航会社のオーナーらしき人物が歩いています。
テレビで毎日のように非難されている諸悪の権化とも言うべき人物で、国から莫大な賞金がかかっている賞金首です。
事故の責任を一切取りたくないから、他国に亡命しようとしましたが、こんな犯罪者を受け入れてくれる国がある訳もなく、亡命申請を全て拒否られて、未だに国内を逃げ回っています。
無責任すぎる人は、何処の国でも御断りという奴でした。

「あ、あれは沈没船のオーナー【ユ・ユックリー会長】?!」

オーナーは周りにばれないように変装して帽子を深く被り、サングラスをして格好も地味でしたが、少年は写真やテレビで見ていたから、オーナーだとすぐに分かりました。
少年は、死んだかもしれないラッキーの復讐のためにも、街中にいる人間さん達に向かって叫びます。

「あそこに沈没船事故の責任を取らずに逃げ回っているユ・ユックリー会長がいるぞ!」

人間さん達はその声で、最初に少年を、次に少年が指し示した方向にいるオーナーの方を見ました。
オーナーは、慌てて逃げようとしましたが、少年と人間さん達に取り囲まれ、殴る蹴るの激しい暴行を受けて、永遠に動かなくなりました。







ちょうど少年の後ろに、白いワンピースと花飾りで可愛らしく着飾ったラッキーが、少年に会いに来ていたのですが、国中が過剰なくらいに大混乱していて滅亡しそうだわ、少年が目の前で人を殺しているわと衝撃的だったので、対応に困りました。
豪華客船での少年のセリフが格好良かったので、一年くらいは少年と遊んで見るのも悪くないかなと思って、服装に気合入れて可愛らしい格好をしたら、この有様です。
少年の手足は、オーナーの血でまみれ、国の皆の無責任すぎることへの絶望と怒りで狂ってい、オーナーの死体を他の人間さん達と一緒に担いで、近くの畑に投げ捨てていました。
オーナーには莫大な懸賞金がかかっていますが、どうせ懸賞金を無責任な政府が払う訳がないと、人間さん達は知っているから、遺体は畑に放置されました。
ラッキーは、少年が僅かな間に変わってしまったんだなと残念な気分になりながら、場を立ち去りました。
少年は、後ろにラッキーがいたことに気づきませんでした。
少年の初々しい初恋は、欠陥だらけの豪華客船のせいで台無しです。
事故がなかったら、最低でも1年くらいはラッキーと遊べたはずなのです。
そして、死んだ1000人の人間の未来もあったはずなのです。
少年はユ・ユックリー会長を殺した後に、虚しい気分を誤魔化すかのように叫びました。

「なんだよ!
なんなんだよっ!
この国はっ!
船長も、警察も、軍も、政府も、大統領も、遺族も、会社も全員無責任だ!
ラッキーちゃんは、こいつらのせいで死んだのかっ!?
そんなのあんまりだ!」









ラッキーが国を出るために、国の外の方角に向けて散歩していると、街の街頭テレビで、このような内容を放映していました。
遺族達が、災害で自宅を被災した訳でもないのに、なぜか港に無数の仮設住宅を建設して、そこに住み着いて大統領に連日抗議する映像が流れ、その次に女性の大統領の姿が放映され、こう宣言しています。

「この事件を受けて、私は決断しました!
海上警察は完全に解体します!
事故犠牲者の追悼碑を建立し、4月××日を「国民安全の日」に指定します!
遺族の皆さんを生涯サポートする事をここに宣言します!
責任を取らずに逃げ回っているユ・ユックリー会長を捕え、制裁します!」

ラッキーは、この国が理解できなくて訳が分かりませんでした。
海上警察を解体したら、その業務を誰が担当するの?とか
悲惨な事故が起きる度に、記念日を作っていたら、一年のほとんどの日が記念日になるよ?とか
国民をその場その場で納得させれば、後で実行しなくてもいいっていう大統領の短絡さが伝わってきます。
ラッキーは人間の考えている事が訳が分からなさすぎて、大笑いしながら国を出ました。








9国目 無責任な国 
おしまい


テーマ【ノンフィクションへの挑戦】
テーマ【膨大な数の情報を圧縮して簡略化して、短く纏めてみる事への挑戦】
テーマ【書くの大変だった。】

検索【「セウォル号」沈没事故 【全員無責任/軍はレイプ事件/水上警察はゴルフ場建設/大統領は責任転嫁して水上警察解体のデタラメだらけのオンパレード】】



[40621] 10国目 世界平和の国  前編
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/12/14 22:48


空は雲が薄らと満面に広がり、陽光を遮っていました。
そんな人を不安にさせる雲空が広がる中、白いワンピースを着た、小さい金髪の女の子ラッキーが道を歩いています。
周辺諸国にとても評判が悪い人間の国の大通り。
他の国々と違って貧相な国です。
道は、コンクリートではなく、整備すらされていない土の地面。
国にある建造物は、全て低コストで建築できるように全く同じ外見・共通規格で作りあげられた一階建ての鉄筋コンクリート製の建物、自動車も服(緑色の人民服)も全ての国民が、外見が同じ物を使っていました。
ラッキーはこの国を見て残念そうな顔で

「うーん、ファッションセンスがない国だね。
散歩しても建物が同じのばっかりだから見てもつまんない。
安い物しか買えないくらいに貧乏なのかな?」

他の国々みたいに、違う種類の服や車があまりにも少なかったから疑問に思っています。
ラッキーは知的好奇心を満たすために、道を歩いている丸坊主の17歳くらいの少年に話しかけました。
少年は不良っぽい悪そうな顔をしています。

「ねぇねぇ、どうしてこの国は、皆同じ格好しているの?」

「え?
なんなんだ?この娘?
お洒落な格好しているなぁー。
他の国から、この国に来たのか?」

「質問を質問で返されても困るけど、そうだよ。
私はエルフのラッキー。
よろしくね」

「おう、よろしくな。
オラは人民高等学校に通っているモウ・ブタトウ」

ラッキーは、体中を好色な目線でジロジロと見られています。
地面に届きそうな綺麗な金髪。
青い目。
白くて高そうなワンピース。
髪のところにある薔薇の花飾り。
どれもこれも、この国では見かけないものばっかりです。
ラッキーは、視線を気にせずに質問を続けました。

「ねぇねぇ、さっきの質問に答えてくれないかな?
どうして、皆は同じ服を着たり、建物が全部同じなの?」

「あー、そりゃ、オラの国が恒久的世界平和のために頑張ってるからだよ」

「恒久的世界平和?」

唐突に、凄い言葉が出てきたので、ラッキーは驚きました。
恒久的世界平和は、現実でも、この世界でも一度も実現した事がない概念です。
人間がいるところに、争いの種があり、平和は次の戦争の準備期間とか言われちゃうくらいに儚い概念でした。
でも、少年は実現できると信じ切っている真剣な顔で

「オラ達の国は、昔から世界平和の事を考えてやってきた偉大な国なんだ。
特定の動物……クジラやカンガルーが乱獲で全滅しそうになったら、原因になった国を攻め滅ぼして動物を助け、
自然が人間の活動で壊滅しそうになったら、原因になっている国に攻め込んで滅ぼし、
戦争している国があったら、どっちも皆殺しにして世界のために頑張ってきたんだ」

「うーん?
全部滅ぼしたり、殺すの?」

「分かってない顔をしているな。小さいお嬢さん。
平和は無料じゃないんだ。
平和を守るためには、あえて戦争を起こして殺す必要があるんだよ。
オラ達は、世界の平和のためならば、どんな事でもやってきた勇敢で偉大な国なんだ」

ラッキーの頭に載っている妖精さんが、キチガイを見るような顔で少年を見ていました。
ラッキーは、少年の斬新すぎる発言の数々に、眼をキラキラ輝かせて、問いかけを続けます。

「その世界平和がどうして、君達の格好が同じ事に繋がるの?」

「そりゃ、相手国を皆殺しにするのに、膨大なお金が必要だからだよ。
兵器はハイテクになればなるほどお金がかかる。
オラの国の大人達は、世界平和のために、いつも15時間くらい働いても、安い服、安い食べ物、安い家で我慢して、その苦労した分、大量の兵器を作ってるんだ。
どうだ?オラ達は偉いだろ?」

「凄いね。
そんな目標のために、忍耐強く我慢するなんて、私にはできそうにないよ。
国に反発する人はいないの?
普通なら、我慢できずに暴徒になったりするよね?」

ラッキーが言ったこの言葉のせいで、少年の態度がガラリと横柄なものに変わりました。

「は?
分かんねぇのか?
国に逆らうという事は、世界平和の敵だから、全員殺されるって事だぞ。
オメェは死にたいのか?
ちょっと警察の交番まで来い。
余所者のオメェをオラの奴隷にしてやる」

少年がラッキーに親切に説明していたのは、ラッキーの失言を待っていたからでした。
この国では政府に対して、疑問を持つ事すら許されず、疑問を口にすれば奴隷の身分に格下げです。
少年は、綺麗で楽しい玩具を手に入れたと思って、ラッキーの体に触れようとすると
少年の手首が風のバリアーで切断されて、粉々になって砕け散りました。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!
おらの手がああああああああああああああああ!!!」

そのまま手首からドバドバ溢れ出した血液のせいで、体が壊死し、少年は永遠に動かなくなりました。
ラッキーはこういう類の面倒事は嫌なので、光を歪める光学迷彩で姿を消し、国の中央へと向けて歩きます。








国の中央付近の大きな大きな広場まで歩くと、そこには200万人近い人間が集まっていました。
200万人といえば、この国の総人口の1割くらいです。
広場の中央には、無骨な真っ黒な宮殿があり、そこの屋外テラスに、この国の指導者マルクスという80歳くらいのお爺さんがいます。
紳士スーツを着こなした意地悪そうな顔をしたお爺さんです。
髭が顔を3分の1覆うほどに生えていて、苦労して生きてきた人間特有の威厳があります。
どうやら、ここに200万人の人間が集まっているのは、指導者の言葉を直々に聞くためのようでした。
マルクスは、マイクを手にとり、こう言いました。

「諸君!
世界は腐っている!
クジラを調査捕鯨と言いながら殺して食べる残虐な国!
それを批判しておきながら、カンガルーを大量に間引する身勝手な国!
人口を15億人も抱え込み、膨大な資源を浪費して、世界を滅亡へとおいやろうとする国!
1万年の歴史を捏造して、文化を盗もうとする国!
世界の警察と自称しながら、利権のために侵略する国!
この世界は間違っている!」

「「「「「「「「「「ジーク!マルクス!ジーク!マルクス! 」」」」」」」」」」」

200万人の民衆は、この宣言に大喜びして賛同しました。
安っぽい演説なのですが、娯楽が少ないこの国ではご褒美なのです。
ラッキーは、あのテラスから、人間達を見たら、とても気分が良いんだろうなぁって思いました。
マルクスは、200万人の民衆の視線と賛嘆に気分を良くして、言葉を続けます。

「故に!
世界のためにっ!
全て殺さねばならない!
必要のない国っ!
必要のない人間っ!
それらは必要がないから、殺さねばならぬのだ!
そうっ!全ては世界平和のために殺そう!
私はそのための手段を持っているっ!
みよっ!かつて世界の一部を焼き尽くした兵器の姿を!」

マルクスがそう言うと、宮殿の周り中のコンクリートの地面が真っ二つに開き、そこから長い長い塔のような棒状の物が出てきました。
数はざっと1000。
ラッキーはこれらを見て、心臓がドッキリします。
そうこれは

「これは大陸間弾道ミサイル!
一度飛ばせば、遠くにあるオストリア大陸にも届く!
弾頭には、一撃で小国を消滅させる核兵器を搭載している!
まずは、周辺の国を世界平和のために消滅させ、最終的に我が国以外の全ての国を滅亡させて、恒久的世界平和を実現させるのだぁー!」

この世界は、地球サイズの台風が自然発生する大きさの星のため、大陸間弾道ミサイルといえど、星のごく一部の地域しか攻撃できませんが、周辺国を全て滅亡させるだけの量の核兵器だったのです。




後編に続く。



[40621] 10国目 世界平和の国  後編
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/12/16 15:22
長くて細い塔のような大陸間弾道ミサイル1000発は、今にも発射されそうでした。
既にそのための燃料は充填してあり、一度点火すれば、ミサイルが発射されて周辺諸国は滅亡してしまいます。
この巨大な星だと様々な要因でその程度の僅かな被害(死者100億人)で済みますが、もしも、この量の核兵器を現実の地球で使った場合、核兵器が巻きあげた膨大な粉塵が太陽からの熱を吸い取り、地球全体を寒冷化させて降水量を減らし、作物が育ち辛い環境になり、全人類滅亡クラスが餓えて死ぬ量の核兵器なのです。
地球にも、約1万7千の核兵器がある事は気にしないでください。
マルクスは清々しい笑顔で、景気良く演説を続けました。

「世界に必要とされるのはっ!
我が国だけである!
勤勉でっ!
質素でっ!
世界一優秀な人民がいる我が国だけなのだ!
もう一度言う!
世界は我が国のためだけにある!
さぁっ!
有象無象のゴミどもを今すぐ殺そう!
このボタンを押せば、周辺諸国へと向けてミサイルは発射される!
すなわちっ!人類史初めての恒久的世界平和の成就の一歩となる!!」

「「「ジーク!マルクス!ジーク!マルクス!ジーク!マルクス!ジーク!マルクス! 」」」」

200万人の群衆は、無邪気な顔で喜びジーク(勝利)と叫び続けました。
マルクスの手には、小さい赤いスイッチつきのボタンがあります。
ポチッと押すだけで、既に目標を設定済みのミサイルが目的の国へと出発し、核兵器の破壊力で消滅させるハイテク仕様です。
ラッキーは、まだ周辺の国に訪れておらず、旅の楽しみを奪われるのが嫌だったので、3000発の風の刃を作り出して飛ばし、核ミサイルを全部、縦や横に真っ二つにしてあげました。
マルクスはそれに気づかずに、スイッチの上に右手の親指を置いて叫びます。

「さぁっ!
世界の命運は我が国は握ったぞ!
古き世界よ!滅びよっ!
新しき世界……恒久的世界平和実現のためにっー!」

ポチッ

ボタンを押しても、既にミサイルが真っ二つになって壊れているから、飛びませんでした。
核弾頭を搭載した所も真っ二つなので、この場で爆発しない所が幸いです。
何もおきないから、200万人の民衆や、マルクスは呆然として口を開けています。
マルクスは何度も何度もボタンをポチッポチッ押しますが、ミサイルが真っ二つに割れて、地面へと次々落下しているだけでした。

「何故だ!
不良品か!?
ミサイルを製造した責任者は、全員処刑だ!一族郎党まとめて処刑!
世界平和実現の妨害をする奴らとして認定する!
……あれ?
ワシの視界が二つ……?
マルクスゥッ!」

バタン

ラッキーの風の刃で、マルクスは顔が縦に真っ二つになって、身体が仰向けに倒れました。
二百万人の群衆は、偉大な指導者の突然の死に驚いて叫び声を次々とあげています。

「「「「「「「「「ま、マルクス様が死んだっ?!!!!!」」」」」」」」」」

普段はこういう馬鹿げた惨劇を無視するラッキーがマルクスを殺したのは、旅をしている最中に、その地域ごと核兵器で破壊されたら、ゆっくり旅もできないから、マルクスを殺した。ただそれだけでした。
ラッキーは、この国で知的好奇心を満足させたので、国の外の方へと向けて笑顔のまま歩きます。
光学迷彩を常に展開していたから、誰も広場にラッキーが居たことに気づきません。
200万人の群衆が大騒ぎして、警戒している軍人が疑心暗鬼になって、指導者を暗殺したテロリストをあぶり出そうと、民衆に銃を向けて乱射して殺していますが、ラッキーの知った事ではありませんでした。

タタタタターン! 何度も何度も銃声が広場に響き渡りました。

「「「「「うあああああああああああああああ!!!
軍が俺達を殺そうとしているぞっ!?
俺達は世界平和のために必要な人材だろっ!?!」」」」」

タタタタターン! 

「「「うぇーん!お母さんーっ!」」」

タタタタターン!

「「いやぁー!」」

タタタタターン!タタタタターン!タタタタターン!
タタタタターン!タタタタターン!タタタタターン!
タタタタターン!タタタタターン!タタタタターン!
タタタタターン!タタタタターン!タタタタターン!

何時までも、何時までも、広場には銃声が鳴り響いていました。












ラッキーが国の外を出て、平地の地面の道を歩いていると、前方から何かが飛んできました。
それはブォーンブォーンという音を鳴らした数十の黒い点です。
上空10000m付近を飛んでいます。
ラッキーは両手を広げて無邪気に喜んでいます。

「飛行機だ!
凄い!」

よく見ると、それは爆撃機と呼ばれる飛行機の一種でした。
爆弾を大量に内臓し、標的の所に爆弾を投下して破壊する事を目的に作られています。
ラッキーの目は、好奇心でキラキラ輝きました。
爆撃機の編隊なんて、制空権を確保した戦場でないと、そう滅多に見られないものです。
爆撃機の行き先は、全世界を滅亡させようと企む、先ほどの国。
すぐに爆撃機の編隊は、予定の場所に到達して、内臓している爆弾を雨のように降らして爆撃していきます。
効率よく、相手国の戦争遂行に必要な能力を削ぐために、爆撃機の標的は基地・軍事工場・政府の施設でしたが、ラッキーにはそんな事は分かりません。
投下される黒い爆弾は、次々と標的を吹き飛ばし、戦争に必要な設備が消滅していきます。
ラッキーは、その新鮮な光景を見て、とっても楽しい気分になりました。
こんなの初めてです。
目を輝かせて、何時までも何時までも、この光景を見ていました。
知的好奇心で心は一杯です。

「もうやだ、このエルフ」

ラッキーの頭の上にいた妖精さんが嫌そうな顔で呟きました。




数時間後、次の爆撃機の編隊がやってきました。
今度は住宅地へと向けて無差別に爆弾を投下しました。
普通は、こういう住宅地や民間人への攻撃は、条約で禁じられているのですが、この国はそういった条約に加盟してないので、幾ら民間人を殺しても問題にはなりませんでした。
鉄筋コンクリートの建物だらけなので、爆撃で効率よく破壊するのが困難です。


爆撃機が爆撃を繰り返し続けて3日が経過すると、今度は数十万人で構成された周辺国の連合軍がやってきます。
彼らを指揮する茶色のコートを着た初老の将軍は部下達にこう言いました。

「あの国は、世界を危機に陥れようとする邪悪な国だ!
だから全員皆殺しにして、完全に破壊する!
奴らは世界に必要のない存在なのだ!
我らは世界の平和を守るためにっ!
我らは世界の警察としての義務を果たすためにっ!
奴らを殲滅せよ!」

「「「「「「「「「「「「イエスっ!サーっ!」」」」」」」」」」」」

世界に必要とされていると思い込んでいた世界平和を願う国は、周りの国々から、世界に必要のない国だと思われていました。







おしまい






テーマ【世界に要らなかったのは、お前の国の方だ!】
テーマ【核兵器怖いお。】




[40621] 11国目 自然保護の国
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/12/18 14:40

白いワンピースを着ている、綺麗な金髪の小さな女の子ラッキーは、自然に飲み込まれた巨大な都市の廃墟の中を歩いていました。
頭に拳サイズの妖精さんを乗せています。
ここは、かつては高層ビルが乱立していたようですが、今では見る影もありません。
人間の建築物は草木に完全に隠れ、人間は一人も住んでない野生の王国です。
時折、動物の絶叫が聞こえて不思議でした。
ラッキーは残念そうに、都市の廃墟を見て呟きました。

「うーん、可笑しいなぁ。
200年前は、自然と人間が共存する素晴らしい都市だったのに、滅亡しちゃってるよ」

「そうだね、ラッキー。
僕でも安心できる普通の都市だったのに、残念だよ……」

妖精さんも残念そうです。
二人の言葉から分かる通り、ここに来たのは200年ぶりです。
ラッキーは昔を思い出しながら、道なき道を歩きました。

「人工物と自然の調和が、今じゃ人工物が自然に蹂躙されて台無しだね。
どうしてこんな事になったんだろう」

かつては電気自動車が通った大通りは、全て木で埋まっています。
試しに昔の道路でも出てこないかと、ラッキーは魔法で全て消滅させてみました。
具体的には風の刃を大量に射出して表面上の植物を全て粉々に切断し、魔法で遠い場所へと飛ばして捨てました。
すると、200年前にはなかった物が見えます。
青色の錆びない金属製の道路に……刻まれた文字です。
滅亡した国の文字でこう描かれていました。

【これを読む、あなたは驚いたかね?
あなたは男かね?女かね?
年寄りかね?赤子かね?
人間かね?人間以外かね?
あなたは、この国が滅亡した理由を知りたいかね?
知りたいなら、かつて国道一号線と呼ばれた道路があった場所を発掘すればよい。
吾輩は道路に真っ直ぐ、一定間隔で文字を彫った。
他の国道には、吾輩以外が文字を彫った。
知りたいなら見るが良い】

「うーん、暇だからいいかな。
知的好奇心でワクワクしちゃう」

ラッキーは、この文字が何を伝えたいのか気になったので、最後まで付き合ってみる事にしました。
昔の道路が何処にあったのかを思い出しながら、次々と魔法で植物を粉砕し、遠い場所へと飛ばして捨てていきます。
それを200m先まで繰り返しながら歩くと、次の文字が見つかりました。

【あなたは、自然を愛しているかね?それとも人工物の方が愛しいかね?
吾輩は自然が愛しい。
出来れば、木に文字を刻みたかったが、それだと後世に伝わらないから、仕方なく錆びる事がない金属の道路に文字を彫っている。
続きを読みたいなら、また発掘作業をやりたまえ】

植物を全部破壊しながら、ラッキーは200m歩きました。
そこからようやく本題の文章が道路に彫ってあります。

【あなたから見れば、遥か大昔。
吾輩達は、自然と人工物の調和を保った素晴らしい都市で暮らしていた。
ビルの中も外も自然で満ち溢れ、共存していた訳だね。
だが、その自然は人間にとって都合が良いだけの紛い物に過ぎない事に気付いたのだよ。
あなたは驚いたかね?驚いたかね?
この真理に気付いた吾輩達の英知を褒めるかね?
続きを読みたいなら、また発掘作業をやりたまえ】

ラッキーはまた自然を全部破壊しながら200m歩きました。以下略

【我輩達は、自然と人間の共存を謳いながらも、自然を自分達の都合で虐げていたことに気づき、深く反省したのだよ。
でも、我輩達【人間】が暮らしていく上で、どうやっても自然を犠牲にしてしまう。
新しい建物を建築する時に、その土地にある自然を壊し、紙を作る時に木を材料にするから、一方的に自然を傷つけ略奪してしまう訳だね。
そこで良い事を思いついたのだよ。
自然が大事なら、自然と一体化すれば良いのだと。
どうかね?驚いたかね?
あなたはきっと、私達を キ チ ガ イ ……狂人だと思っているのではないかね?
続きは発掘して読みたまえ】
 
「うーん、良い感じに怖いオチが待ってそう。
これは楽しみだね。
人間をやめたのかな?」

ラッキーは文字を読んでいて楽しい気分になりました。
妖精さんは文字が読めないので、ラッキーの頭の上で眠っています。
また、道路上にある自然を全て魔法で破壊しつくし、200m歩いて次の文字を読みました。

【自然と一体化するために、我輩達は様々な方法を考えたのだよ。
建造物を植物にしたり、木を改造して住居にしたりと、試行錯誤した。
だが、どれもこれも自然の一体化とは、遠いかけ離れたことだと理解して、我輩達は絶望したのだよ。
そこで我輩の頭脳は閃いた。
究極の自然の一体化とは、人間が動物である事をやめて、植物になる事なのではないかとね。
どうかね?驚いたかね?尊敬したかね?
それとも、我輩が怖いかね?
続きはまた発掘して読みたまえ】

「クスクスクス」

ラッキーは笑いながら、周りの自然を全て破壊して、200m先まで歩きました。
また道路に文字があります。

【人間が植物になるのは、非常に難しい苦難の連続で大変だった訳だね。
でも、我輩は諦めない人間だから、何度も人体実験して奇跡的にやり遂げた訳だよ。
反対する愚民が国民の半分を占めたが、全員を捕えて、名誉ある人体実験に使って有意義だった訳だね。
我輩達は、人間を植物に出来た時、大喜びした。
植物の身体を自由自在に動かし、根っこで移動し、光で光合成して栄養補給、植物の身でありながら人間の英知を持つ新人類になれた事を喜んだ訳だよ。
どうかね?凄いかね?
私の天才っぷりを褒めるかね?
この文字も、植物になった私の体で彫っている訳だよ。
続きは、また発掘して読みたまえ】

ラッキーはここにきて気づきました。
今まで破壊した植物って、元人間なんじゃないかと。

「あ、どうしよう。
植物人間を殺しちゃったかも」

でも、気にせずに、知的好奇心を優先しました。
更に周りの自然を破壊しながら、200mを歩くと
そこには、歪んだ文字がありました。

【あなたは女かね?男かね?
吾輩は女の子が好きだ。
特に10歳くらいのピチピチの女の子が大好物だ。
生々しい太股がたまらない。
お尻もモチモチして実に良い。
人生経験が少なそうで、声が良い。
ああ、そうだ、可愛い美少女だともっと良い。
我は金髪で碧眼の娘を求める】

「あれ?
植物人間なのに、人間の女の子に発情するの?
うーん、植物人間と人間との恋愛って、どんな感じなんだろう」

ラッキーは内容が可笑しいから、少し考え込みましたが、周りの自然を全て破壊しながら200m先まで歩いて文字を読む事を優先しました。
そこには更に歪みきった文字で

【美味い!美味い!
人間は美味しい!
若い女の子の肉は柔らかくて美味しいっ!
あなたは男かね!?女かね!?
吾輩は若い女の子を所望ずるうううううううううううううう!!!!!!!
うまいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!
人肉おいじいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!
女の子の悲鳴が最高うううううううううううううう!!!!!!
太股が一番うまいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!
お尻も美味いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!】

「なにこれこわい」

ラッキーは気付きませんでしたが、ラッキーの死角から無数の植物の蔓が蠢いてやってきています。
普通の女の子だったら、身体を拘束されて、色んな所をガポガポ食べられちゃう所です。
危険です。
でも、植物の蔓は、ラッキーの風のバリアーに触れて粉々に砕けてしまいました。

「え?え?」

ラッキーは突然の事に驚きました。ちょっと心臓がドッキリ。
さっき見た文字のせいで、いつもよりも怖がっています。
背後を振り返ると、膨大な数の人間の顔を持った大木が、ラッキーを半包囲していました。
人面樹という奴です。
どの人面樹も、ラッキーの事を美味しい獲物だと思って、無数の触手(木の蔓)を向けてきました。
ラッキーは恐怖でガクガク震えて涙目になり、うっかり反撃も過剰になり

「えいっー!」

ドカァーンっ!ショボォーン!

魔法で産みだした圧倒的なエネルギーで、廃墟な都市が周りの地形ごと消滅して、巨大なクレーターになりました。
ラッキーはやりすぎた事を後悔して

「……やっちゃった」

新しい人間の国を目指して、空を飛んで旅立ちました。
久しぶりに恐怖というものを味わったので、眼から涙がぽろぽろでていました。





自然を愛しすぎて狂った元人間な植物モンスター達は、一瞬で皆殺しにされて、愛した自然と一緒にあの世へと旅立ったのです。
場に残ったのは巨大なクレーターと、奇跡的に、ラッキーがまだ見てない文字が刻まれた道路が残っていました。
そこには

【人肉美味しいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!
性欲と食欲が一体化した食事が楽しいいいいいい!!!!
人間の時には味わえない究極の快楽うううう!!!
犯しながら食べると美味しいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!
人間の女の子美味しいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!
何処だあああああああ!!!!
どこに女の子がいるんだあああああああああああああ!!!!
美味しいイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!
女の子美味しいイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!
あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
国の外へと逃げても無駄だああああああああああああ!!!!
我輩は何処までも追いかけて食べるうううううううううううう!!!!
人肉美味シイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!
女の子オイシイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!
うまいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!】












11国目 自然保護の国
おしまい

テーマ【ホラーへの挑戦】



[40621] 13国目 世界一幸福な微笑みの国 前篇
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/12/20 09:45
空は、真っ青で過ごしやすい良い天気。
美しい自然が溢れた山脈地帯にある道を、一台の大型のバス(乗り物)が走っていました。
中には、十数人の人間と、白いワンピースを着た、小さな金髪の女の子ラッキーがバスの席に座ってゆっくりしています。
ラッキーは今日も、頭に拳サイズの妖精さんを乗せていました。
バスが向かう先には、世界一幸せな国民達が住む王国があると言われており、その噂を聞いた人間達と一緒に、ラッキーは行動しているのです。

「車っていいかも」

ラッキーはいつも徒歩だから、バスでの移動に新鮮さを感じて、目をキラキラ輝かせていました。
人間の乗り物そのものに知的好奇心が爆発です。








バスがしばらく道を進むと、山に覆われて、あまり技術が発達してなさそうな小さな国が見えます。
城壁に大きく掲げられた国旗は、竜が細かく描かれています。
国の大きさは現実の日本の九州ほどの小ささで、そこに70万人の人間が住んでいました。
辺り一面に農地が広がり、機械化が進んでいないから人の手で、農地を耕作しています。
ゴミの収集システムが確立してないため、美しい自然には、ゴミが投棄され、景色は台無しでしたが、人間の世界ではよくある事なので、ラッキーは気にしませんでした。
そのままバスが国へ近付くと、軍帽を被り、銃で武装した兵隊さん達がやってきました。
大型バスを攻撃されたくないから、運転手がブレーキを踏んでバスを停車させ、兵隊さん達が周りを包囲して銃を向けて口々にこう言ってきました。

「外国人さんっ!
滞在費は1日250ドルです!」

「何日の滞在ですか!?」

「法律で王様への批判は禁じられています!ご注意を!
批判したら国外追放です!」

「民主主義者ですか!?
民主主義を喧伝する事は王政への重大な犯罪行為です!」

250ドルといえば、かなりの高額の大金です。
具体的には、給料が高い先進国で3日働いて得る賃金、後進国なら1カ月か1年働いて、そのお金を得られるか、得られないかの微妙な高額です。
バスに乗っていた人間さん達は困惑しました。
想像していた秘境の理想郷とは全然違う、泥臭い現実の匂いがぷんぷんしたからです。
ラッキーは、1人だけ席から離れて、とことこ歩いてバスを降りて外に出て、兵士達に近付いて金貨を1枚渡し

「この国に10日滞在するけど、この金貨でいいかな?」

珍しく、不法入国ではなく、正式に入国しようとしました。
兵士達は歓迎して満面の笑みを浮かべて

「「「「ようこそ!
小さいお嬢さん!
ここは世界一幸せな国民が住む微笑みの国です!」」」」

ラッキー以外の他の人間さん達は、来た道を引き返して、入国するのをやめました。
多額の金を要求する時点で、とっても胡散臭い国に見えたからです。
でも、ラッキーには、この胡散臭さがたまらないほど好きになれました。










入国したラッキーは、国内を散歩してみる事を、最初にしました。
国民の五分の3が農業に従事し、国そのものが高地にあるから、国内は畑と山だらけです。
子供達は、木の銃の玩具を手に持ち戦争ごっこして遊んでいました。
親達は、機械を使わずに手作業で農業をやっています。
機械化が他の国と違って、全く進んでいません。
最貧国といっても過言ではない貧乏さです。

「うーん、幸せな国?」

ラッキーはこれらの光景を見て疑問に思いました。
人間は基本的に物の豊かさに比例して、幸せを感じる生き物だからです。
頭の上に乗っている妖精さんは、逆に良い国だと思ったので、ツインテールの緑色の髪を揺らしながら、話しかけてきます。

「ラッキー。
ここは良い国だよ。
自然に溢れて、人間が日々頑張って暮らしているから、僕は素敵だと思うの。
ほら、他の国と違って物乞いや、スラム街がないよ?
ここはとても健全だよ」

「あ、本当だ」

ラッキーはここで初めて気付きました。
この国は、自給自足で生活している人がほとんどなため、スラム街や物乞いが存在しないのです。
つまり治安が良くて、散歩に適している国でした。
妖精さんは、久しぶりに満面の笑みを浮かべて

「ね?良い国だよね?ラッキー」

ラッキーは、妖精さんが笑顔なので、そっと微笑みを返しました。
ここが微笑みの国なだけに。








ラッキーが徒歩で、この国の最大の都市であり首都ティンプーの方向へと向けて散歩していると、前方から10万人以上の大勢の人間さん達が、ぞろぞろ歩いている姿が見えます。
彼らは国の外の方角へと向けて、ひたすら移動していました。
表情はとっても暗く、嫌そうな顔をしています。
10万人の人間の周りには、銃を装備した兵士達が歩き、誰も逃げ出さないように監視していました。
ラッキーは気になったので、道の周りの畑で農業をしている30歳くらいの青年に話しかけてます。

「ねぇねぇ、あの人達はどうして暗そうな雰囲気で歩いてるの?」

ラッキーの声で振り返った青年は、手に鉄製の農具を持ち、泥だらけのシャツとズボンを着ていました。
顔は日で焼けて真っ黒で、働き者で人のよさそうな顔をしています。

「ん?
お嬢さんは変わった髪と目をしているね?
外国の人かい?」

「うん、今日、入国したばかりなの。
だから教えて欲しいな」

ラッキーが首を可愛く傾げたので、青年は微笑みましたが・・・すぐに質問内容のせいで気まずい顔になり、周りを見渡して、ラッキーの耳に口を近づけて小さな声で

「あれはな。
国外追放の刑を受けたネパァルゥ人だ」

「ネパァルゥ人ってなーに?」

数人の兵士達がラッキーの声を聞いて、顔を向けました。
青年は黙り込んで、何も言わなくなったので、これ以上の話を聞けません。
どうやら、ネパァルゥ人というのは、この国の触れてはならないタブー的な存在のようでした。

「もうやだ、人間の世界」

頭の上にいる妖精さんは、ようやくめぐり合えた国がいつもと同じような酷いオチを抱えている事を理解して、不貞寝しました。




ラッキーは、畑にいる人達に話を聞こうと何度も何度も話しかけましたが、誰も教えてくれないから、残念な気分でションボリしているラッキーは10万人の人間が通り過ぎる光景をゆっくり見る事にしました。
10万人の人間は、この国の人達とは違う服を着ています。話している言語も違います。
人数が人数なので、通り過ぎるのに1日の時間がかかりそうでした。
ひたすらラッキーは景色と人を眺め続けて、太陽が地平線の彼方へと落ちそうになっています。
農作業をしていた人達は、暗くなったから自宅へと帰る帰路につき、10万人の人間の大行進の方は未だに終わっていません。
人の流れは途切れる事もなく、ぞろぞろ歩いています。
ラッキーは、首都へ向かう散歩を再開しようかな?と思っていると、背後から声をかけられました。

「おい、小さいお嬢さん」

ラッキーが振り返ると、先ほど、ラッキーと会話した30代の青年がいました。
全身から、一日分働いた臭い汗が染み付いて臭ってきます。
ラッキーは、暇だったので嬉しそうに返事を返しました。

「私に何かようかな?」

「いや、小さいお嬢さんが、何時まで経っても、ここから動かないから心配になってな。
今日、泊まる宿は決まっているのかい?
女の子の野宿は危険だよ?」

ラッキーは首を横に振り、宿に宿泊する予定がない事を伝えました。
青年は顔に笑みを浮かべて

「なら、俺の家に泊まっていくといい。
夕食と朝食つきで10ドルでいいぞ。
外国人だから、お金は持っているよな?」

「うん、持ってるよ。
はい」

ラッキーは、銀貨を1枚ポケットから出して青年に渡しました。
明らかに10ドルという金額じゃありません。
200ドル相当の銀貨です。
青年は、銀貨というものを見た事がないので、ただの青銅のお金だと勘違いしました。

「うーん、これは青銅のお金かい?
これじゃ1ドル分の価値しかないね。
まぁ、おじさんは優しいから、無料で泊めてあげ」

「いや、それは銀貨だよ。」

「え?」  青年は呆然としました。

「銀貨だよ。
たぶん、ドルで換算したら200ドルくらいするんじゃないかな?
これで足りないなら、もう一枚払うよ」

ラッキーは無造作に、銀貨をもう1枚取り出して、青年に渡しました。
青年は一気に大金を稼げた事を喜び、ラッキーを自宅がある場所まで案内しました。






青年が案内した家は、日干しレンガ造りの小さな家でした。天井裏は昔は食料の貯蔵庫にしていた名残で風通しが良いようにつくられています。
青年は木製の扉を開け、大きな声で

「おーい!
外国のお客さんを連れてきたぞぉー!」

家の中から、青年のお嫁さんと思われる20代後半の美しい女性と、5人の子供達が出てきました。
子供達は、珍しい外見をしているラッキーに纏わり付いてベタベタ触りながら、質問を次々としていきます。

「すげぇー!綺麗な金髪だぁー!」
「何処の国の出身なの?綺麗な髪!」
「綺麗なお洋服!私も欲しい!」
「肌真っ白!いいなぁ!」
「目が青色?不思議な色!」

ラッキーは困りました。
子供達が触れる度に、風のバリアーの一部解除を頻繁にやらないといけないから、うかつに制御に失敗すると青年の家族は次の瞬間に、風のバリアーに巻き込まれてあの世送りです。
子供達に身体のあちこちを触られたり、スカートを破られそうになって、とっても困りました。

「長い耳!長い耳だ!凄い!これ本物?!」
「わぁー!髪ツヤツヤ!絵本の中のお姫様みたい!」
「いいなぁ!このお洋服いいなぁ!頂戴っー!」
「耳とがってる!変なのー!」
「ばぁーか!ばぁーか!」

子供達に、長くとがった耳を何度も触られ、真っ白の肌も、地面に届きそうな金髪も弄られ、白いワンピースも引っ張られて大変です。
  子 供 達 の 命  が 大 変 で す 。
青年はラッキーの困っている様子を見て微笑みながら、子供達に説教しました。

「おーい!お前達!
お嬢さんが困ってるぞ!
少しは遠慮しろ!」

「「「はーい!」」」

子供達は父親である青年の言うことを聞いて、ラッキーから離れました。
子供達の命が救われた瞬間でもあります。
あと10分ほど、この展開が続いたら、風のバリアーの超高速回転に子供が5人とも巻き込まれて死んでいるところでした。
ラッキーは、ほっと胸を撫で下ろします。
常に周囲に展開している風のバリアーは、魔法ではなく、エルフの生態そのものなので、完全解除が不可能なのです。
人間で言う呼吸のようなものでした。

(危なかった。あとちょっとでばらばら死体にしちゃう所だった)

青年の家族はそんな事情を知らずに、ラッキーに微笑みます。
ラッキーも彼らに向けて、そっと微笑みました。
ここは微笑みの国なのです。




後編に続く






テーマ 【ブータン】



[40621] 13国目 世界一幸福な微笑みの国 後篇
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/12/21 15:41
青年の家で出された料理は、エマ・ダツイと呼ばれる辛いトウガラシとチーズの煮込み料理でした。
どの料理にもトウガラシが入っていて、干し肉を使った料理もあります。
この国は高地が多いため、日本のように米が栽培できず、トウモロコシやソバなどが主食なので、トウモロコシがたくさん使われていました。
ラッキーは、次々と出てくる美味しい料理を手で掴み、口に入れて平らげます。
エルフは水と光だけで生きていけますが、味覚があるので美味しい物は好きなのです。
青年の家族は、食事に夢中の無邪気なラッキーを見て微笑みます。
ラッキーも彼らに微笑み返した後に、食事しながら知的好奇心を満たそうと

「ねぇねぇ、さっき聞きたかったんだけど、ネパァルゥ人ってなーに?」

青年の家族の微笑みの表情が真っ青になりました。
どうやら、こんな状況でもネパァルゥ人の事を聞くのはタブーのようです。
でも、青年はラッキーから多額のお金を貰っているから、覚悟を決めてゆっくりとした口調で教えてくれました。

「ネパァルゥ人というのはな。
この国の隣にあるネパァルゥっていう国に住む人間達を示す言葉なんだ。
小さいお嬢さん」

「?
他の国の人なのに、この国に10万人も住んでいたの?
さっきのあの光景って、国外追放だよね?」

「ああ、正確にはネパァルゥ人というより、ネパァルゥ系の我らの同胞と言った方が表現として正しいな。
彼らは今から100年ほど前に、ネパァルゥからこの国の南部に大量に住み着いて、当時の法律で国籍を得たんだ」

ラッキーは、この時点で分かりました。
他の国でもよくある移民問題だからです。
ラッキーは、頭の中に浮かんだ答えが正解なのかを確かめるために青年に聞きました。

「つまり、かつての移民達を、この国は追いだしているという事なのかな?
この世界じゃよくある事だよね」

「・・・そういう事になるな。
でも、これは仕方のない事なんだ。
総人口の2割を占めていて出生率が高いネパァルゥ人を追いださないと、国が纏まらずに勢力が分裂してゴチャゴチャな事になってしまうから、国外追放は仕方のない事なんだ。
現に、ネパァルゥ人が多数移住した隣国のシッキム王国は、ネパァルゥ人が多すぎたせいで、インドォという国に併合されてしまって、今は存在していない。
だから、国外追放は仕方のない事なんだ」

青年は気不味そうな顔でした。
青年の家族達は、ラッキーを睨んでいます。
この国では、既にネパァルゥ人という言葉はタブー(禁止)だからです。
でも、ラッキーは知的好奇心を満たすために、この国にやってきたから遠慮しません。
首を可愛く傾げて質問を続けました。

「うーん、この国ってそんなに大事なのかな?
国民の2割を国外追放するくらいなら、近隣の大国のインドヤー国にでも併合された方が、皆は幸せじゃないの?
インドヤー国って色んな民族が共存する民主主義国家だよ?
まぁ、衛生環境は悪いけどね」

「……小さいお嬢さんは、この国に関係ない外国人だからなんとでも言えるのかもしれない。
でも、俺達はこの国の文化を守りたいんだ。
国と文化を維持するには、多少の犠牲もやむ得ないんだよ。
ネパァルゥ人は俺達と信仰している宗教も文化も違ったから、一緒に共存できなかったんだ。
ただ、それだけを小さいお嬢さんには理解して欲しい」

ラッキーは、それで一応納得しました。
青年はラッキーが納得してくれたと思って微笑んでくれます。
ラッキーも微笑み返しました。
ここは幸福と微笑みの国ですから。







食事を終えた後、ラッキーは、青年の子供達と一緒に同じ部屋で下着(シャツとパンツ)だけで寝ることになりました。
寝ることになりました。
ラッキーは困りました。
エルフは、1年間平然と起きて生活できる生物なので、寝るは趣味の類なのです。
子供達は明日の農作業のために、深くグースカグースカ眠っています。
ここらへんは、国の辺境といっても言い場所なので、人間達が遊べたり、楽しめる場所は夜にはありませんでした。
ラッキーは下着姿で粗末なベットの上を寝転がり、退屈を持て余しています。

「うーん、暇だなぁ」

暇すぎるからラッキーは窓を開けて、夜空を見て暇潰しをしようとすると、後ろから足音がします。

ギシ ギシ ギシ  ギシ ギシ

音はだんだん大きくなり、この部屋へと近づいてきました。
ラッキーはすぐに探査魔法を使ったので、この足音の主は青年だと分かりました。
青年は足音を立てないように慎重ですが、音が鳴っているから無駄な努力です。
そして、青年はこそこそ部屋に入り、ラッキーがいるベットの所へと、真っ黒闇の部屋の中をゆっくり歩んできました。
明らかにこれは、夜這いという伝統です。夜這いは日本でいう、女性を妊娠させて出来ちゃった結婚の上位互換バージョンなのです。
この国は一夫多妻制、その逆も認められている国なので、こういうことはよくあることでした。
ラッキーも旅の最中に、この手の事をされるのは、慣れているので

「小さいお嬢さん。実は俺は情熱的な一目惚れをして、今にもこの恋心が爆発しそうだから、結婚を前提に、情熱的な愛を語り合お」

「えいっ!」

「ロリコン!」

ラッキーに覆いかぶさろうとする青年の腹を問答無用で殴り、気絶させました。
女の子の1人旅は、こういう事だらけで危険ですね。






夜は暇なので、ラッキーは服を着て、やっぱり散歩する事にしました。
この国は街以外には街灯がなく、外は真っ暗です。
谷があったりするから、夜の移動は危険を伴うため、歩く人は10万人の国外追放を受けたネパァルゥ人と軍人以外は見かけませんでした。
ラッキーは、遠くに野営しているネパァルゥ人達の姿を見たので、そこまで歩きます。
彼らは焚き火を囲んで、暖を取っていました。
ネパァルゥ人が逃げ出さないように、遠い所に軍人が数人立っているだけです。
ラッキーは知的好奇心を満たすために彼らに近付いて問いかけました。

「ねぇねぇ、この国から追い出されてどんな気持ちかな?
この国は他の国から、世界一幸福な微笑みの国って聞いたけど、あなた達はどう思うの?」

ネパァルゥ人の20代前半の細身の男性が怒りの気持ちを籠めて、ラッキーを睨みながら返事が返してきました。

「何が幸せだ!
その世界一幸福な国ってのはな!
この国の嘘だよ!」

「そうなの?」 

「幸福の基準を、この国が勝手に決めて作っているから、世界一になっているだけだ!
こんな国は幸福じゃない!
むしろ不平等だらけの不幸の国だ!
俺達を国から追放する時点で、小さいお嬢さんにもそれがわかるだろっ!?」

男性の言葉に同調するかのように周りのネパァルゥ人も頷いていました。
でも、ラッキーは彼らのことをよく知らないので首を可愛らしく傾けて

「どうして国外追放されるの?
この国の人達と文化や宗教が違うせいなのかな?」

「ああ!そうだよ!
でも、俺達にだって言い分がある!
この国は、俺達の文化や宗教を否定して、同化政策をやろうとしたんだ!
腐敗した王族が権力を握る王政な事に不満をもって、人権の尊重と民主主義を要求したら仲間が弾圧されて拷問された!
挙句の果てには、ネパァルゥ語を国が禁止させて、この国の民族衣装を着るように要求してきたんだぞ!?
それを拒否したら、学校や病院を閉鎖されて、今じゃネパァルゥ人全員を国外追放政策だ!!
こんな理不尽な国が幸福な国であるはずがない!
俺達は移民の子孫だけど、100年もこの国に住んできたのに可笑しいだろ!?」

ラッキーは、この男性のおかげで、だいたいの歴史背景を知れて、知的好奇心を満足させれて、ゆっくりできました。
この場に居た数人の男性が、男性の言葉に耐え切れなくて呟いています。
とっても辛そうな顔をしながら

「……俺なんてネパァルゥ人じゃないのに、10年前に、王族が税金を横領したことを告発しただけで、10年間刑務所に入れられた後に国外追放だぞ……」

「俺もネパァルゥ人じゃないけど【豊かな農民だから民主主義活動をやるかもしれない】という理由で家族ごと国外追放だぞ・・・
他の豊かな農民達も纏めて国外追放だから酷い……」

ラッキーは、この時点で理解しました。
この国は、王政を維持するために、自分達に従わない連中を全員追い出そうとしていると。
残る事を許されたのは、王様に従う国民だけなのです。
民主主義を扇動して、王政を崩壊に導く可能性がある高い国民は、王族の敵でした。
ネパァルゥ人の皆や、それ以外の人達は明日へ絶望しながら、ぶつぶつと呟いています。
彼らに待っているのは、国外での数十年以上に及ぶ予定の難民キャンプ生活です。
今まで自給自足で働いてきた人達が、他国から恵んで貰わないと、生きていけない貧困難民生活をしないといけないということでした。
運が良ければ、他国に移住して今よりも良い生活が出来ますが、そういう人間はどの国でも少数派です。
国というものは、国内を不安定にさせる可能性が高い難民を受け入れたがらないのです。
ラッキーは、話を聞かせて貰えたお礼に銀貨を一枚放り投げて、お金を恵んであげました。

「はい、話を聞かせて貰えたお礼だよ。
これから大変だと思うから頑張ってね」

このラッキーの行動で、ネパァルゥ人達は、複雑そうな顔をしています。
俺達は物乞いじゃないと、言いたそうな顔でした。








難民になる未来がすぐそこまで迫っているネパァルゥ人達との会話を終えたラッキーは、夜の暗い道を歩いて帰路につきます。
夜空には66個以上の小さな月が浮かんでいて綺麗です。
楽しい気持ちになりながら、ラッキーはトコトコ歩くと、宿泊している家の前に、先ほど気絶させた青年が起きて立っていました。
青年は神妙な顔でラッキーに

「小さいお嬢さん。
ネパァルゥ人と会話してきたんだね?」

「うん、そうだよ」

「小さいお嬢さんは、この微笑みの国の現実に失望したかい?
俺は失望したり、俺達を見下してきた外国人をたくさん見てきた。
小さいお嬢さんが、この国に失望しても可笑しくはない。」

その言葉を聞いたラッキーは顔を横に振り

「ううん、この国に失望してないよ。
この国は・・・普通の国だよ。
世界の何処にでもある普通の国。
住んでいる国民が世界一幸福かどうかは知らないけどね」

「そうか」

青年は安心した顔でした。
そして、ラッキーに近付いで抱きしめようとしたので

「えいっ!」

「ペド!」

ラッキーにお腹を殴られて、青年は気絶させられました。
ラッキーはクスクス笑いました。







ラッキーは、この幸福な微笑の国で、10日の日程を楽しんで過ごして、この国から出て行きました。
別れる前に、兵士も青年の家族も微笑をラッキーに向けていました。なぜか青年は顔が傷だらけで泣きながら微笑んでいます。
ラッキーも、彼らに素敵な満面の微笑を返しました。
ここは幸福な国民が住む微笑みの国です。
彼らは彼らの守りたい物があったのです。
守りたいから、人口の2割を切り捨てる道を選んだのです。






国の外から13万人以上の捨てられた難民達が、憎悪の感情を、この国に向けていました。


13国目 世界一幸福な微笑みの国
おしまい



[40621] 14国目 怠けものの国 前篇
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/12/22 21:11
天気は雲が僅かにあるだけの真っ青の晴天。
体を焼く日向ぼっこするのに丁度いい気候でした。
広大な何もない海の上を、白いワンピースを着た、金髪の小さい女の子ラッキーが、秒速100mの遅い速度で魔法を使って飛んでいます。
ラッキーはしばらく空を飛んで、快適な気分になっていると、眼下に絶海の孤島が見えてきます。
周りの島々から大きく離れた場所にあるため、文明が発展しつらい絶望的な立地です。
せいぜい利用価値は、漁業をするための拠点に利用する以外になさそうです。
ですが、この島はいくつものビルが立ち並び、道路を超高級車が走りまわり、港に複数の船が係留してある豊かな島でした。
そう、ここが今回のラッキーの目的地です。
1万人の世界一豊かな人間達が住む金持ちの国なのです。
豊かすぎて、国民が全員、働かずに済むほどに豊かです。







ラッキーは、浜辺の近くに、光を歪めて周りから見えなくする光学迷彩を展開しながら降下しました。
浜辺には、若い人間の男女達が、海で泳いで遊んだり、魚を釣ってゆっくりしていました。
ラッキーは光学迷彩を解除して、海パンを履いた16歳くらいの褐色肌の黒髪の少年の背後から話しかけます。

「ねぇねぇ、そこの君、
この国ってどんな国ー?」

ラッキーの声で振り返った少年はとっても笑顔で元気で、未来に不幸が待ち受けていると思ってないほどに無邪気な少年です。
一瞬、ラッキーに見惚れた後に、少年は大きな声で

「あっひゃっー!
金髪が綺麗な別嬪さんだぁー!!
オメェさんは何処から来たんだ?!
オラに何かようか?!
オラの名前はナウル!」

「私はエルフのラッキー。
今日、この国に来たばかりだから、この国の事を教えて欲しいの」

少年はラッキーに惚れたのか、顔を真っ赤に赤らめています。
ラッキーの気を引くために、少年は良い笑顔で質問に答えてくれました。

「別嬪さんと会話できるなんてオラ幸せものだぁー!
オラの国はな、世界一豊かな国で国民全員が幸せなんだ!
島からリン鉱石っていう肥料に使える石が採掘できるから、それを外国に売るだけで世界一の大金持ち!
そんな事よりもラッキーちゃん、オラと一緒に遊ぼうぜ!
服を脱いで泳ぐと気持ちいいぞ!
水着を持ってないなら、オラが買ってやる!」

「うーん、それだけなの?
他にも国の魅力はないの?」

首を傾げたラッキーが可愛かったから、少年は更に顔を赤らめて、話をしてくれました。
青春とか、若いって良いですよね。

「そうだなぁ……そうだ!オラの国は、リン鉱石のおかげで大儲けしているから、税金がないんだ!
仕事は全部、外国からやってきた外国人がやってくれる!
他の国は税金が高くて労働や生活が大変なんだろ?
ラッキーちゃんも・・・この国の誰かと結婚すれば快適に暮らせると思う!
だから、オラと一緒に泳ごうぜ!」 

さり気なく、結婚して欲しい事を少年はアピールしてきました。
でも、ラッキーは知的好奇心を満たすことが最優先なので、返答は少年が期待するセリフではありません。

「ふーん、君の国はレンティア国家って奴なんだね」 

「レンティア国家?なんだそりゃ?」

「レンティア国家ってのはね。
君達の国みたいに、土地による天然資源収入に依存して暮らしている国家の事だよ。
大抵、税金が安くて、この国の場合は労働力を外国人労働者に依存して、低賃金で働かしているだろうから、国民は労働を敬遠するんだ。
君達、働いたことないでしょ?
まぁ、私も働いたことないんだけどね」

「あっひゃっー!
ラッキーちゃん頭いいな!
確かにオラの国は、外国人に全部労働やらして、オラ達は一度も働いた事がねぇ!
そんなことよりもオラと一緒に泳ごうぜ!
服を脱ぐと気持ち良いぞ!」

ラッキーは、このあっひゃーという叫び声がうざったく思いましたが、ちゃんと話をしてくれるから我慢して、知的好奇心を満足させるために質問を続けることを選びました。

「泳ぐ事よりも、この島の案内をしてくれた方が私は嬉しいかな。
そしたら服を脱いで、君の買った水着で一緒に泳いで遊んであげるよ。
だから、色々と教えてくれないかな?かな?」

「あっひゃっー!
なら、オラの車で島をあちこち巡ろう!
ラッキーちゃんに似合う水着も買おう!」

少年は大喜びでした。
ラッキーの背中に手で触れて、浜辺の近くにある高級自動車に連れ込もうとしています。
この自動車はフェラーリと呼ばれる高級スポーツカーでした。
ところどころ手作りで作られ、車体全てが職人芸の塊です。
大金持ちじゃないと、買う事はできない金額なのです。
少年は車の扉をカパッと開けて、運転席の隣の座席にラッキーを座らせ
少年は運転席の方に座り、鍵を車の鍵穴に差し込んでエンジンを起動させます。
エンジンが活発に動いたから、車は振動で震え、少年が操作した通りに、この島の道路を高速でスイスイ走りました。
少年はとっても笑顔です。気分は可愛い娘と一緒にデート感覚です。
時折、ラッキーの方をチラチラと見てくるから、何時、事故がおきても可笑しくありません。

「あっひゃっー!
別嬪のラッキーちゃんと一緒に、車でデートなんてオラは幸せものだぁー!
オラはお嫁さん募集中だから、ラッキーちゃんが嫁になってくれたら幸せだぁー!
どうだ?!
オラと結婚する事を前提に、恋人になってくれねぇかな!?」

「うーん、それはどうだろうね。
この国、すぐ飽きそう」

「あっひゃー!?」

小さい娘達は、絶対、知らない人にホイホイついてゆくラッキーの真似をしないでください。
大抵、酷い目にあって、お家に二度と帰れません。








車で数分移動すると、病院と学校が見えてきました。
こんな小さな島国にあるのが不思議なくらいに立派な大きい建物です。
気になったので、運転中の少年にラッキーは話しかけました。

「ねぇねぇ、この国って病院や学校で働いている人も外国人労働者なの?」

「ラッキーちゃん。
オラ達の国は、政府職員以外は全員働いてないぞ。
食料品とかも全部、海外からの輸入!
それに病院での治療も教育も全部無料でここは本当に良い国だぁー!」 

「・・・・リン鉱石が取れなくなったら、この国はどうする気なの?
そんな滅茶苦茶なシステムじゃ、何時か酷いことになるよ?」

「あっひゃっー!
小さいラッキーちゃんが心配する事じゃねぇー!
大人や国が何とかしてくれるから、安心して毎日遊んでればいいんだ!
銀行の預金だって、100万ドルある!」

うざいほどに少年は笑顔でしたが、ラッキーは、少年の言い様にクスクス笑いました。
この国の未来がどうなるのかわかってきたからです。
少年はラッキーが笑っているから、自分に好意を持っているんだと勘違いして喜んでいます。
そして意地悪な問いかけをしようとラッキーは思いました。

「ねぇねぇ、君達の先祖は昔はどのように生活していたのかな?かな?」

「オラ達の先祖?
そりゃ、漁業と農業で貧しい生活していたらしい。
でも、オラ達は違う。
リン鉱石のおかげで毎日がばら色生活だぁ!
売るだけで働かずに生活できる!
あっひゃっー!」

「ふーん、でも、私は君達の事を思って忠告するよ。
近い将来、働かずに暮らす生活は破綻するよ。
その時に後悔しないように農業や漁業でもやって、産業を作ったら、この国にも未来はあるんじゃないかな?」

「オラは頭が悪いから分かんねぇー!
そんなことよりもデパートに着いたから、ラッキーちゃんの水着を買うぞ!」

「・・・・まぁ、この国がどうなっても楽しめるだろうし、私はそれでいいんだけどね」

車は大きなデパートに到着しました。
そこは多数の商品が溢れている大きな大きな店です。一階にチュウゴクヤー人の経営するレストランがあります。
ラッキーは少年と一緒に車から降り、その店の自動ドアを通って入りました。
店内には、全て海外から輸入した商品がずらりと並び、働いている人達は全員が外国人です。
近隣のミクロネシアヤー諸国や、チュウゴクヤーという国から出稼ぎにやってきています。
外国人労働者達は笑顔で、ラッキーたちを出迎え、黒い紳士スーツを身にまとったオーナーらしき初老の男性が歓迎の声を浴びせてきます。

「ようこそ!初めて来店してくれた可愛いお嬢様!常連客の格好いいナウル様!
今日は何をお買いになるので?
店には何でもあります!」

少年はオーナーに向かって笑顔で、ラッキーの肩を両手で掴んでモミモミしながら

「この娘に似合う素敵な水着を売ってくれ!
10着でも20着でも買うぞ!」

ラッキーは、その豪快な買い物っぷりにクスクス笑いました。
こうやって、人間の♂から貢がせるのは慣れていますが、こんなに金使いが荒い人はそうはいません。
ラッキーは店員達が次々と持ってくる水着を着て、少年にどれが似合っているかを何度も何度も聞きました。

「君は、私にどの水着を着て欲しいのかな?
え?
これ?
ふーん。」

「あっひゃっー!
ラッキーちゃん最高だぁー!
スカートつきの水着は本当に可愛くていいっ!
オラ、ラッキーちゃんの事が余計に好きになった!」

「・・・人間の男はこういうのが好きなんだね」

ラッキーが今着ているのは、ピンクと白の縞々パンツと、青色のスカートが一体化したセパレート型の水着です。
【9国目 無責任な国】のゼウォル少年も、ラッキーにこの水着を買ってくれた事を思い出しました。
人間の♂は、なぜか無地より色や模様つきのパンツと、スカートつきの水着を着た女の子が好きなのです。
なぜかはここでは説明できません。
あえて言うなら、パンツと水着も、外見上はそんなに変わらないとしか言うしかありません。
ラッキーはこの水着を着たままデパートを出て、一日中、少年と海で遊びました。
少年はラッキーと遊べる事に大喜び、太陽が海の向こうへと落ちて真っ黒になるまで泳いで遊び、二人は仲良くなりました。
ある時は水の掛け合い。
ある時は浜辺の砂で城作り。
少年はラッキーの笑顔を見ながら、どんどん惚れて顔が真っ赤になり、とっても初々しい青春の時間が流れていました。
でも、もうお別れの時間です。
60個以上の月が空に浮かんで、地上を照らしています。
この惑星は巨大な惑星なので、大きな衛星の数も恐ろしいほどに多いんです。
ラッキーは遊び終えて疲れて、浜辺で倒れている少年の顔を隣で見ながら、別れの言葉を容赦なく言いました。

「この国飽きたから、また10年後に来るね。
今日一日楽しかったよ」

「え?」 少年は起き上がり、死にそうなくらいに顔を歪めて呆然としました。

「楽しかったけど、この国小さくて退屈で飽きたから、もう出ようと思うの」

「あっひゃっー!?」

少年は驚いた後に泣きました。
初恋の娘とのお別れ。
せめて、最後の思い出を作ろうと人気のない洞窟にラッキーの手を掴んで連れ込もうとしましたが

「オラ、とても良い場所を知っているんだ!
ほら!この洞窟は凄いんだ!
具体的には、中で何があっても、遠くには聞こえないから、ここでカップルが大量に出来た逸話があるんだ!
オラの父ちゃんもお母ちゃんをここに連れ込んで」

「えい!」

「パピプベポっ!」

ラッキーにお腹を殴られて気絶させられたから、少年の初恋はおしまいです。
良い思い出は、可愛い金髪の小さい女の子と一日楽しく海で遊んだ。それだけ。
ラッキーはそのまま体を魔法で浮かせて飛んで国を出て、この国の未来を想像してクスクス笑っています。

「10年後はどうなっているだろう?
滅亡かな?
衰退かな?
繁栄かな?
人間の国の未来を想像するのは楽しいよね。妖精さん」

「もうやだ、このエルフ。
あー、森に帰りたい……
他の妖精達と会いたいよ……」

ラッキーの頭の上にいる妖精さんは嫌そうに呟きました。
はてさて、単一の資源産業に依存した国はどうなるのでしょうか?
少年の未来は?



中篇に続く



[40621] 14国目 怠けものの国 中篇
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/12/24 09:20
10年後、ラッキーは思い出したかのように単一の資源に依存して生活している島国へと向けて飛んでいました。
今日は白い綺麗なローブを着ています。やっぱり、こういう服の方が気軽で、魔法ですぐに生産できるから、旅に適しているのです。
ラッキーはとっても良い笑顔で、楽しそうにウキウキとした気分で呟きました。

「どんな国になっているかなー?」

秒速300mほどの速度で空をしばらく飛んでいると、例の国が見えてきます。
絶海の孤島の各地は荒れ果てて、かつての活気をなくしていました。
以前は、複数の船が港に止まっていたはずなのに、船が1隻しか止まっていません。
話を聞くために、島の中央付近にある整備されずにボロボロになっている広場へと、ラッキーは光学迷彩を展開しながら降下して着地、光学迷彩をすぐに解除して誰かに話しかけようとすると

「あっひゃっー!
凄い別嬪だぁー!
あれ……?ラッキーちゃん?
いや、小さいくて若いし、そんな事あるはずがねぇ!
ラッキーちゃんの娘さんか!?
すげぇ別嬪だぁー!
あっひゃぁー!」

26歳になったナウル少年……いやナウル青年が目の前に居ました。
身体は遊びぬいたおかげか、褐色に焼けており、しっかりとした筋肉がついています。
日々、ストレスなしで暮らして居そうな呑気っぷりが顔から分かりました。
ラッキーは、知人に会えたから笑顔で挨拶をします。

「お久しぶり。
私が来なかった10年間の間に、この国は何か変わったかな?
君は元気だったようだね?」

「え?本当にラッキーちゃん?
昔と同じ小ささだなぁー!
あっひゃっー!
オラの娘よりも小せぇー!」

ラッキーの心が少し傷つきました。
でも、めげずに質問を続けました。

「そんな事よりも、この国は今はどうなっているの?
10年前よりも国そのものが元気ないよね?
リン鉱石が枯渇でもしたの?」

「ああ!ラッキーちゃんの言う通りになって、この国は大変だぁー!
掘っても掘っても出てくるリン鉱石の数が少なくなりすぎた途端、国の財政と経済が一気に崩壊して大変だぁー!
今じゃ電力も燃料も飲料水も不足して、生活が困難な貧乏国家!
贅沢な暮らしができねぇ!
あっひゃー!」

「?
そんな状況なのに、君は明るいね?
ひょっとして、私の忠告を守って農業とか、漁業とか、仕事を作ったの?」

「オラは産まれてから、一度も働いた事がないから、労働なんてできねぇ!
他の皆もオラと同じだから、ほらっ!
こんな感じだぁー!」

青年が指し示した指の先には、昼間の広場をひたすら歩く大勢の人間の姿が見えます。
この島の住民です。3分の1が過剰な栄養摂取のせいで太ってブヨブヨでした。
この光景を見ても、ラッキーは訳が分からないので

「散歩している人間さん達?
それがどうかしたの?」

「皆、働き方すら知らないし、国から支給されるお金もなくなったから、無為に散歩したり、釣りしたり、島を一周したりして時間を潰してゆっくりしているんだ!
オラも暇だから、毎日遊んでる!
釣りをして食べる魚はうめぇー!」

「あ、そうか。
労働そのものをしてこなかったから、勤労意欲以前の問題だったんだ。
この状態じゃ、労働者なんて存在しないから、産業を作るのは不可能だったんだね。
これじゃ会社の起業や、外国起業の誘致も無理って事か。
10年前の忠告は、全部無意味だった訳だよね……凄すぎて笑い死にそう」

ラッキーはこの国の絶望的な状況にクスクス大笑い。お腹が笑いすぎて痛くなりました。
この国の人間は歴史上、「自給自足で暮らす生活」→ 「つらい労働を強いられる生活」 →「遊んで暮らす生活」という時系列で三つの生活しか経験してないため、給料を貰って、その金で暮らすという概念そのものが存在しません。
これでは近い内に、文明が石器時代に戻って国が滅亡してしまいます。
でも、この状況でも青年は笑顔です。心は希望に満ち溢れていました。

「あっひゃっー!
ラッキーちゃんは頭がいいなぁー!
オラの国は失業率90%で大変だぁー!
でも、オラは絶対働かなねぇー!」

「ふーん?
君は元気だね?
どうしてそんなに希望を持っていられるの?
普通の人間なら、明日に絶望するよ?
なんでかな?かな?
今までの稼いだ莫大な金があるから、自分が生きている間は大丈夫とか、そういう安心の仕方でもしているの?」

「あっひゃっー!
今までリン鉱石を売って儲けた金も既にないんだぁー!
ラッキーちゃんに言われたから、一応、資源枯渇に備えて、オラ達は、リン鉱石を売って稼いだ金で外国のオフィスビルやホテル、国営の保険会社、海運会社、航空会社の経営に乗り出していたけど、全て外国人任せだから失敗して、不良債権だらけの大赤字で大変だった!
オラはもう働きたくねぇー!
でも、働かずに暮らすお金もねぇー!
きっと、オラ達が知識もない素人な事を見抜いて、外国人達が騙したんだぁー!
知らない間に財産ほとんど消えてた!
あっひゃぁー!」

「うーん?
未来が真っ黒だね?
私、人間の事が分からなくなってきた……
どうしてそんなに君は元気なの?」

青年がこんな絶望的すぎる状況でも、笑顔だったからラッキーは不気味がります。
儲けた金もない。
話を細かく聞くと、国民は祖父母の代から、無職ニートなので労働しない。
産業もない。島国だから普通は漁業?この国では釣りという趣味の範疇内です。
それ以前に漁業権は他国に既に売り渡していました。
こんな酷い国はそう滅多にあるもんじゃありません。
青年は、満面の笑みを浮かべて、ラッキーの右手に触れて

「そんな事よりもラッキーちゃん!
久しぶりに海で遊ぼうぜ!
未来の事なんて誰にも分かんねぇよ!
あっひゃっー!」

ラッキーは青年の反応に戸惑って、首を可愛く傾げて呟きます。

「うーん?
それでいいのかな?
君がそれでいいなら、良いけど、近い将来死ぬよ?きみ?
そんな末路でいいの?
それはそれで楽しめそうだけど、今の内に働いて国を何とかする方法を死に物狂いで見つけないの?」

「人間いつか死ぬ!
そんな事はオラは気にしねぇ!
今は服を脱ごうぜ!」

ラッキーは一日中、青年と一緒に海で泳いで遊ぶ事になりました。
今回、水着がないからラッキーは下着姿(黒色パンツとスポーツブラ)です。
青年はラッキーと遊べて、とても楽しそうでした。
お嫁さんと子供がいるそうですが、そんなのは関係ありません。
初恋とは人にとって特別な意味があるのです。
でも、ラッキーはすぐに島の生活に飽きたので、夕方になる頃には、ナウル青年と向かい合って別れの言葉を告げていました。
この娘、興味がなくなると容赦ないです。

「ナウル君。
私、この国飽きたから……もう、さようなら。
きっと、次にここに来る時、君は死ぬか、それ以上に酷い目にあっていると思うから、これが最後の別れになると思うの」

「あっひゃー!?
ラッキーちゃんっ?!!?!
一年間くらいオラと一緒にゆっくりしようぜ!」

「うーん、自然くらいしか、見どころないよね?
その自然も微妙だし、私はこういう国はつまんないんだよね。」

「オラはラッキーちゃんとお別れするのは嫌だぁー!」

青年は悲しんで泣きます。
悲しみの余り、小さいラッキーの身体を強引に掴んで持ち上げて、お姫様抱っこしました。
行き先は、近くの人気がないボロボロの家屋です。
このままじゃ(青年の命が)大変です。

「この先に、オラの今のお嫁さんとの素敵な思い出になっている場所がある!
周りに誰も住んでないから、そこでついムラムラして押し倒しても、誰にも迷惑がかからなくて、暗くて顔も分からないから、島の女性は誰も近寄らない場所な」

「えい!」

ラッキーが青年の首に、小さな両手をそっと回して、一気に力強く抱きしめました。

「あっひゃー!!?!!」

一気に、首に強いダメージを与えられた青年は、地面に倒れ、そのまま気絶しています。
ラッキーは、倒れた青年の顔に、そっと優しく手で触れながら

「うーん、次はどんな事になっているかな?
次に会う時、ナウル君は生きているかな?死んでいるのかな?
どっちなんだろう?
君の末路、私は興味があるけど、それを目にする事ができるのかな?」

ラッキーはナウル青年の寝ている顔を見て、あまりにも可哀そうな存在に見えたから、お礼に頬にキスをしてクスクス笑いました。
30分ほどすると、新しい国へと向けて、秒速100mほどの速度で空を飛んで移動を開始し、場には呑気に気絶しているナウル青年と、静かな自然が残されました。



さて、お金もない、無職ニートだらけのこの島国はどうなってしまうのでしょうか?
続きは



後   篇        に       続      く   



[40621] 14国目 怠けものの国 後篇
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/12/26 12:52
20年後、ラッキーと妖精さんは再び空を飛んで、例の島国を訪れてみました。
他の国で、「泥棒も入らない貧乏長屋」国家と噂されていたのを聞いたからです。
今、ラッキーの遥か下に、島全体がはっきり見えています。
そこには元気に働いている国民の姿があったのです。
一世紀前の原始的な生活に戻り、朝から晩までココヤシの実の収穫や、釣りをして食べ物を自分達で確保していました。
おかげで、20年前に訪れた時は、国民の3分の1が太っている肥満国家だったのに、今じゃ健康的なのです。
あと、なぜか全く別人種の人間達が大量にいて、島の各地で暴動を起こしていましたが平和でした。

「凄い……滅亡せずに残ってる……」

「うん、僕もそう思うよ。文明が崩壊した後の人類の生活がこんな感じだよね」

頭の上で妖精さんが残酷なツッコミをしている事を無視してラッキーは驚愕しました。
まさか、滅亡せずに残っているとは思わなかったからです。
そのままゆっくりと人気のない浜場へと光学迷彩を展開して誰にも見えないように降下し、着地してから光学迷彩を解除すると、浜辺には、切り取ったフェンスの上にお魚を置いて、炭火焼で焼いて食べている若々しい中年男性が居ました。
この顔には見覚えがあります。
ラッキーの知り合いのナウル青年が、そのまま年齢を取った外見です。
顎に長い髭が生えている以外は、外見的特徴はあんまり変化していません。
中年はラッキーが現れた事に驚いて、焼いている最中の魚を地面に落としいました。
でも、すぐにラッキーが誰なのかを中年は思いだしたので踊りながら

「あっひゃっー!
ラッキーちゃんだぁー!
相変わらず小さくて若くて別嬪さんだぁー!
俺の孫娘よりも小せぇー!
オラのお嫁さんになってく」

抱きつこうとしたので、ラッキーは右ストレートパンチをお腹にプレゼントしました。

「えいっ!

「パププペオ!」

中年はその場で気絶して倒れました。
ラッキーは話を聞きたいので、中年の顔をペチンペチン、手でビンタして起こす努力をします。
中年は顔を何度も何度も叩かれたから、その痛みですぐ起きました。

「あっひゃっー!
顔が凄く痛てぇー!
相変わらず、ラッキーちゃんは身持ちが固い別嬪だぁー!」

「ねぇねぇ、私が来なかった20年の間に、この国で何が起きたの?
教えてくれたら、一カ月くらい遊んであげてもいいよ?」

「あっひゃー!
これは教えてあげるしかねぇー!」

中年は大喜びです。
なにせ初恋の娘との思い出が、たった2日しかない悲しい人という事もあり、喜んで次々とラッキーの質問に応えてくれます。
ラッキーは知的好奇心を満たすために、徹底的に質問責めをしました。

「この国、リン鉱石が尽きたはずなのに、どうして滅亡してないの?
よくニートだらけだった国民を働かせる事に成功したね?」

「オラ達は、最初は働かずに暮らすために頑張っていたけど、全部失敗したから働く事にしたんだ!
今じゃ、朝から昼まで果物や魚を取るために時間を使って、喰って遊ぶだけで精いっぱいの暮らしだけど、健康的で最高だぁー!
あっひゃっー!」

「ふーん、ちなみに働かずに暮らさないために、どんな努力をして失敗したの?
私はそっちに興味があるかな?」

「ラッキーちゃんが可愛いから、どんな事でもオラは答えちゃうぞ!
オラ達は、最初に、登録料2万5000米ドルを払えば銀行を開設できるように法律を整備したんだ!
そうしたら、海外のロシアノマフィアって人達とかが、住所と郵便箱以外なんの実態もないダミー銀行を400以上も登録して作ってくれたんだ!
そうしたら、登録料と毎年の更新料で銀行は大儲け!
オラは商才があるなぁって、自惚れて浮気したんだ!
今じゃお嫁さんに離婚されて、華の独身!お嫁さん募集中だぁー!」

中年がラッキーの方をチラチラ見てきてお嫁さんになってくださいな雰囲気でしたが、ラッキーは無視しました。
そんな事よりも、先ほどの中年が言った発言は大問題です。
ラッキーは呆れた態度で

「え、と、ひょっとして君の作った銀行は、マネーロンダリングに利用されたの?」

「オラはそういう難しい専門用語は分かんねぇ!」

「マネーロンダリングってのはね。
犯罪とかで得たお金の出所を、銀行とかカジノを通す事で隠蔽・洗浄する事で、そのお金を市場で使っても金の出所が分からないようにする犯罪行為だよ。
この場合は、ロシアノマフィアーって人達が、そのダミー銀行を利用して、マネーロンダリングをしたんだね」

「ラッキーちゃんは頭がいいなぁ!
オラはよく理解できなかったけど、しばらくしたら、アメリガ合衆国っていう超大国が【お前達のせいで金融業界は目茶苦茶だ!制裁する】とか言って激怒して、オラ達の国をブラックリストに指定して大変だった!
突然、すべての免許が取り消されて金融事業は継続不可能になって、オラは泣いた!
もう、金融業はやらねぇ!
金を動かすだけの虚業はやっちゃいけないんだ!
おかげで100万ドルの預金があったのに、窓口から引き出せなくなって、国の経済が完全に壊滅した!」

「うーん、よくこの国無事だね……
能天気すぎて感心しちゃうかも……」

アメリガ合衆国といえば、この辺りの周辺地域に大きな影響力を持っている強大な大国です。
定期的に他国に戦争を吹っ掛けては、利権を得るためにボコボコにする世界の警察としても有名でした。
中年の話はまだまだ続きます。
好きなラッキーちゃんの好意を得るために、国の恥部を容赦なく暴露してくれました。
愛って偉大ですね。

「おらは、これ以外にも、この国のパスポートの販売をやっていたんだ!
そしたら、世界中の悪そうな顔の人達がたくさんやってきて、パスポートを買ってくれて大儲け!
オラは儲けた金で、新しいお嫁さんと結婚して、幸せになったんだ!」

「うーん、働かないために、こんな大それた事を次々とやっちゃう君は、大物なのかもしれないね。
それでその結果はどうなったの?
今、地道に働いているって事は、失敗したんでしょ?」

「あっひゃー!
ラッキーちゃんは頭がいいなぁ!
そうそう失敗したんだよ!
今度もアメリガ合衆国が怒って、パスポートの販売行為を、テロ支援行為と批判してきたんだ!
何でも14年前(西暦2000年)の9月11日にテロリストがハイジャックした飛行機が、巨大な世界貿易センタービルに突撃するテロが発生して何千人も死亡して、そのテロ集団の構成員達がオラの国のパスポートを使ってたとか、そんな事言ってた!
おかげで、オラ達は非合法活動をしないように契約を結ばされた上に、数日後に当時のドウィヨゴ大統領が心臓発作で死亡して大変だった!
もう、アメリガ合衆国は怖くて怖くて嫌になった!
新しい嫁にも愛想尽かされて離婚ざれた!
あっひゃー!」

「大変だったんだね」

ラッキーはクスクス笑いました。
ここまでくると喜劇の類です。
話が面白すぎて、笑い死にしそうでした。
中年の話はまだまだ続き
オーストラリアヤーという国から、大勢の難民を押しつけられた代わりに、毎年、莫大な援助金を引き出す事に成功。
チュウゴクヤー、タイワンヤー、ニホンヤーという国々の間の外交駆け引きを上手く利用して、援助金を何度も引き出して大儲けしたりと、中年の人生は激動だらけで楽しそうです。
結局、財政破綻して貧困生活ですが、皆が釣りや採集活動をして毎日楽しく働いて健康的に暮らす国になりました。
相変わらず失業率90%でしたが、楽観的な国民性のおかげで平和な生活が維持されていたのです。
ラッキーは、中年の話にとても感心したので一カ月間、中年の家で同棲してあげようと思いましたが、やっぱり無理でした。
中年が発情しすぎて、ラッキーが海で泳ぐために下着姿になる度に

「オラはもう我慢できねぇー!
オラの迸る熱い情熱を受け取ってくれぇー!
オラは二度とラッキーちゃんをはなさねぇー!
結婚を前提に、そこの浜辺で楽しい事を」

「えい!」

「ヒデブッ!
でも、オラは諦めねぇー!
ラッキーちゃんはオラの嫁にするだぁー!」

「え?気絶してない!?えい!」

「ピヨア!
あ、諦めねぇー!
オラはラッキーちゃんが好きだぁー!」

何度も何度も襲われそうになる度に、ラッキーが殴ってナウル中年を気絶させてしまうので、このままだと中年の命が危ないから、一週間で国を出て行きました。
でも、ラッキーはナウル中年に何度も襲われたにもかかわらず、とても良い笑顔です。
この国を通して、人間の逞しさって奴を教えてもらった気がしたからです。
この世界は楽しい事に満ちています。
ラッキーは、60以上の月がある夜空を見上げて、頭の上にいる妖精さんに語りかけました。

「妖精さん、次にあの島に行ったら、石器時代の頃の人類を見れそうで楽しみだね」

楽観的で平和に暮らしていましたが、文明そのものは、下手したら石器時代の頃に逆戻りしそうでした。









14国目 怠けものの国
おしまい。



テーマ【ナウル共和国】
検索【ナウル共和国の歴史 ニートの楽園/問題だらけの島国史】


没ネタ

そして、この国の資源枯渇して最貧国に転落する問題は、人類世界全体に言える事だったので、将来的に石油資源が枯渇したら、人類の国々はどうなるのかな?ってラッキーは思いました。
安価で便利なエネルギーがないと、社会を維持するのは大変なのです。



[40621] 15国目 信号の国
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2014/12/30 09:31
金髪の小さい女の子ラッキーは、住んでいる住民に黒人が多くて、貧乏そうな国の道を歩いていました。
そこは歩道も車道もコンクリートで舗装されていましたが、道路には段差があったり,陥没していたりと最悪の道です。
そして、交差点にある物を見て、ラッキーは可笑しい事に気が付きました。
交差点の信号が可笑しいのです。
信号の細長い棒の先にある青、赤、黄色の三つの照明が一つ残らず光っていません。
信号は、車に交通ルールを守らせて、事故を減らすための装置ですから、これは可笑しい事でした。
普通なら、赤色に光って車に止まれと命令したり、青色に光って進めと車に命令するのが、普通なのです。
信号がまともに機能してないから、道の交差点を、事故を起こす寸前の状態で車が次々と通ったり、渋滞を起こしていて交通機関が麻痺寸前です。
この可笑しな信号を見たラッキーは、知的好奇心が爆発しそうになるくらいに、考えて悩みました。
でも、悩んでも分からないので、近くを歩いていた10歳くらいの生意気そうな顔をした黒人少年に話しかけます。

「ねぇねぇ、なんでこの国の信号は光ってないの?
普通は信号って光るよね?」

黒人の少年は、まるで訳がわからない事を聞いたような顔で返事をしてくれました。

「はぁ?
何訳のわからない事をいってんだ?
でも……あんた、凄く綺麗な娘だな!
俺、アンゴラっていうんだ!
あんたの名前は?」

「私の名前はラッキーだよ。
この国に来たばかりだから質問に応えてくれると嬉しいな。
なんで、この国は信号が光らないの?」

ラッキーが首を可愛く傾げながら言ったので、嬉しい気持ちになったアンゴラ少年が元気よく答えてくれます。

「はぁ?
信号が光る?
なんだそりゃ?
信号は光らんだろう」

「え?」

「信号ってのはな。
ここが交差点ですよ、って事を、遠い場所から車に知らせるための長い棒だろう?
それが自分から光る訳ねぇじゃん。
この国、電気不足して、よく停電を起こしているから、夜になっても信号が光るなんて事はねぇし」

「うーん、でも、他の国じゃ、信号って青色や赤色に光って、車の運転手に進めや止まれとかの命令を伝えるための装置だよ?
そうする事で事故を少なくしたり、交通機関が麻痺しないようにするための道具なのに、なんで、この国ではそうなの?」

「はぁ?
そんな訳ねぇだろ。
信号は交差点がある事を教えるために存在して、そんな機能はな」

アンゴラ少年が続きの言葉を言おうとしたら、すぐ目の前の交差点で、車と車が激しくぶつかる交通事故が発生しました。

ドシャーン!
ドカーン!

2台の車は、搭載していた燃料に引火してすぐに大爆発を起こし、破片をばら撒く爆弾と化しました、アンゴラ少年は車の破片が身体中に刺さって、お腹からドバドバ血を流して死にそうになって倒れています。
ラッキーは風のバリアーがあったから無傷です。
歩道に倒れたアンゴラ少年は助けを求めて手を伸ばしていますが、ラッキーは、呑気そうな顔で

「うーん、こんな事にならないように、信号があるはずなのに、なんでこの国はこうなんだろう。
気になるなぁ。
命が軽い国なのかな?
やっぱり、君がいっていたように電気不足だから、節約でもしているのかな?」

「た、たすけて……」

「信号が機能してたら、君は助かったかもしれないね?
それにしても、この国は可笑しい。
でも、そこが面白いのかも」

知的好奇心を優先させて、この国の常識の可笑しさに悩みます。
その間にアンゴラ少年は血を流し過ぎて死にました。
どうやら、この国では人間の命がとっても安いんだなぁーっというのが、ラッキーの結論でした。







15国目 信号の国

おしまい
テーマ【アンゴラの電気不足】 



[40621] 16国目 二つに分かれた国
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2015/01/01 09:28
寒い寒い場所に、一つの小さな国がありました。
国の大きさは地球の日本の北海道より少し小さい程度で、バグパイプやキルトなど独自の文化を育み、スコッチウイスキーというお酒が世界的に有名です。
国の中にある小さなバー(酒を飲む店)のカウンターの席に、白いローブを着た金髪の女の子ラッキーが、スコッチウイスキーを、ガラスの容器に入れて飲んでゆっくりしています。
店内はお洒落な木造で薄暗く、棚に大量のお酒が並んでいる大人の店でした。

「うーん、この酒美味しいね。
ほろ酔い気分?」

子供が来ても良い場所ではありませんでしたが、ラッキーは気にしません。
バーの店主スコットランドおじさんに、多額のお金を払ったから、無問題なのです。
スコットランドおじさんは、鼻に洒落ているちょび髭を生やした紳士な男性です。黒っぽいウェイターの服を着ています。
おじさんは、ガラスの容器をタオルで拭きながら、店内の上部に備え付けられたテレビを見てました。
店内にいる客達も、テレビに夢中です。
テレビでは【住民投票で、イギリスヤー国からの独立が決まりました!】と叫んでいる女性記者が映っています。
その内容に、店内にいるお客さん達が笑顔で独立を喜び、席から立ちあがって次々に叫びながら踊りました。

「やったぁー!これからは北海油田の収益を全部独占して豊かな生活ができるんだぁー!」
「スコッチウイスキーの税率を自分達で決めて、儲けるぞ!」
「やったー!やったー!これでイギリスヤー国から搾取されずに済むんだぁー!」
「イギリスヤー国の借金から解放されて、健全な財政でゆっくりできるんだ!」

ラッキーはスコッチウイスキーをグビグビ飲みながら、人間達の喜びようが気になったので、目の前にいるスコットランドおじさんに話しかけました。

「ねぇねぇ、テレビでなんか独立投票とか言ってるけど、あれってなーに?」

「うん?
ああ、ラッキーちゃんは外国人だから、この国の事情を知らないんだったね。
あれはね。
我々を長年、搾取して不平等に扱ってきたイギリスヤーという国からの独立を決める住民投票の事だよ」

「?
この地域が独立するの?」

「長年、この地域はイギリスヤー国に搾取されてきたから、僕達の不満は限界だったからね。
独立して、これからの人生を自分達で決めて行く事にしたんだ」

「ふーん。具体的にイギリスヤー国からどんな風に搾取されたの?
私的にはそっちが気になるかな。
住民投票で独立できるって事は、そんなに悪い国じゃないんでしょ?」

スコットランドおじさんは少し悩みながら答えました。

「そうだね・・・・でも、僕達の地域は、海に北海油田っていう、年に1兆円相当の利益を産みだす油田を領有しているのに、その利益をイギリスヤー国は搾取してきたんだ。
しかも、この地域は、イギリスヤー国から見れば投資する価値が低い辺境で、どんどん寂れて衰退する一方だからね。
最近は炭鉱を閉鎖して経済的にも辛いし、若者は出て行くし、僕達の我慢は限界だったんだよ」

「そうなの。大変だね。
でも、独立しても、この国はやっていけるの?
見た所、人口も少ないよ?
イギリスヤー国って大国でしょ?独立するデメリットの方が多くないの?」

「ああ、その点は独立派が大丈夫だって宣伝しているよ。
何でも、イギリスヤー国の借金を一切背負わずに、北海油田の収入を独占して、EUっていう地域統合体に加盟して、イギリスヤー国の通貨ポンドも使えるそうだから、経済的なメリットだらけでとても良い事らしい。
そうなったら、若者の雇用も増えて、この店もお客さんで一杯になって繁盛間違いなしだね。
僕としては独立すると嬉しいんだよ」

「・・・なるほど。
ありえないほどに都合が良い事だらけだね。
それにしても、この酒は美味しい」

ラッキーはお酒をグビグビ飲みました。呑んだ後のほろ酔い気分が良くて、顔を赤らめています。
スコットランドおじさんは、笑顔で酒の話をしてくれました。

「そのスコッチウイスキーっていう酒は、この地域……いや今は国か。
僕らの国の主要産業になるほどの人気の酒なんだ。
世界200カ国に輸出して、年に6000億円ほどの売り上げをあげているんだよ。
何でも、ジャパンヤーっていう経済大国では、世界5大ウイスキーに数えられるほどに人気らしい。
これはとっても光栄な事だよ」

「なるほど、これだけ美味しいなら納得したよ。
お酒って飲むと頭が気持ちよくなるよね」

ラッキーは、スコッチウイスキーを飲み続けました。
エルフは人間とは身体の構造が違うため、深く酔えませんでしたが、身体がポカポカ暖かくなって良い気分です。
スコットランドおじさんは、次々とお酒を飲むラッキーに笑顔を向けていましたが内心では

(これは将来アル中になるな。
僕が止めた方がいいかもしれない。
お酒はほどほどが一番良いんだ)

ラッキーに説教してでも、お酒を飲ませるのをやめようかどうか悩みました。
しかも、ラッキーが次々とお酒を飲むせいで、このままだと店の酒のストックが全部なくなりそうです。
オジサンは何度か止めようとしましたが

「ラッキーちゃん、そろそろ飲むのをやめて、眠らないかい?
そうしないと、さすがに健康に悪いよ?
ほら、夜も遅いし、オジサンの部屋のベットを貸してあげよう。
そんなに酒を飲んだら、酔い潰れて悪い大人に酷い事をされ」

「えい!」

「マッサン!」

ラッキーの身体に触れて、無理やり移動させようとしたから、ラッキーは襲われたと勘違いして、オジサンを殴って気絶させてしまいました。
オジサンが気絶している間に、店内に残った酒、オジサンが秘蔵している高級酒も全部ラッキーのお腹の中に次々と入りました。
スコットランドおじさん、とんでもない大損です。

「うーん、飲み心地がいいなぁ。
この国のお酒好きかも。
頭が熱くて気持ちいい……」

オジサンが言った悪い大人とやらも後でやってきましたが、全員、ラッキーに殴られて気絶させられ、財布を全部没収されました。






ラッキーが10時間かけて店内のお酒を全部飲み終わって、店の扉を開けて外に出ると、街中が大騒ぎになっています。
10時間ほど前は、イギリスヤー国から独立できた事に街中の人間が希望を持っていたはずなのですが、今じゃ絶望してあちこちで喧嘩が起きていました。
ちょうど目の前で、二人の男の若者が口論して争っていたから、ラッキーは聞き耳を立ててゆっくりしていると、内容が聞こえてきます。
どうやら、イギリスヤー国からの反独立派と独立派が口論しているようです。
反独立派の若者は、大声で叫んでいます。

「俺は独立に反対だったんだ!
イギリスヤー国が、色々と脅してきた時の内容を知っているだろう!?
独立したら、俺達は経済的に不味い事になるからデメリットが多いと何度も言ったはずだ!」

「はぁ!?
自分達の人生は自分達で決める!
それは正しい事のはずだ!
イギリスヤー国に従っても、この地域には衰退しか待ってなかったんだぞ!?
なら一か八かに賭けて、独立した方が良かったはずだ!」

「実際にやったら、北海油田を独占できないわ、借金を背負わされるわ、EU(地域統合体)には加盟交渉ないと参加できないわ、イギリスヤー国の通貨ポンドも使えなくなって、大混乱になっているだろ!?
資本を持っている外資もどんどん国から出て行く予定のようだし、最悪だ!
俺はこの国を出て、イギリスヤー国に移住する!」

「こ、この恥知らずがぁー!
故郷を見捨てる奴は修正してやるっー!」

「無知で馬鹿なお前達みたいな奴が悪いんだろう!
お前みたいな奴は粛清してやるっー!」

若者達はすぐに殴る蹴るの喧嘩になっていました。
この光景は、あちこちで繰り広げられて国中が大混乱です。
国を出ようとする人々が乗った車で、大通りは渋滞が起きて、交通機関が麻痺しています。
ラッキーは、頭の上に乗っている妖精さんに向けて、こう言いました。

「ゆっくりお酒を飲める雰囲気じゃないね。
妖精さん。
こんな混乱はつまんない。
もっと面白い事ないのかな?」

「ラッキー・・・・嫌なら、さっさと国を出て、故郷に帰ろうよ・・
この国寒くて大嫌い・・・」

妖精さんは寒さで震えて辛そうだったので、ラッキーのローブの中に飛んで避難しました。
ラッキーは妖精さんの反応が可愛らしいからクスクス笑います。
街の方は大混乱でしたが、ラッキーはスコッチウイスキーを飲みたいから、近くに見かけたバーへと向けて歩きました。
店の扉を開けると、店内に設置されているテレビに、イギリスヤー国の首相の演説が放映されています。
それはこの国の住民に対する呼び掛けと警告でした。

【今なら間に合います!
イギリスヤー国と再び一つになりましょう!
皆さんは独立派に騙されているのです!
独立派の薔薇色の未来は、現実ではありえない理想です!
北海油田の収入を独占して、イギリスヤー国の借金を一切背負わずに独立という無責任な事は、一切認めません!
地政学的に重要な北海を、イギリスヤー国の軍事力なくして守る事はできないのです!
そんな不安定な地域からは企業は逃げ出し、経済が今以上に衰退するのは明白!

独立派の語った薔薇色の未来は、存在しないものなのです!
それにEUへの加盟も出来ません!
EUは欧州統合を目指して作られた地域共同体です!
その趣旨に反して独立した国の加盟は認めません!
さぁ!再び一つに戻りましょう!
我が国は反乱を許しません!】

どうやら、この国の未来は独立したせいで、大混乱して真っ暗のようです。
店内の人間は悲嘆にくれていました。
うっかり独立したせいで、どうすればいいのか分かりません。
でも、ラッキーには関係ないので、美味しいスコッチウィスキーを注文して、グビグビ飲みました。

「この国、酒が美味しいね」





16国目 二つに分かれた国
おしまい。



テーマ【スコットランドの独立END書いてみようと思ったけど、経済的に衰退にした後に、イギリスにまた合併される未来が思い浮かんだ。】 
検索「イギリス分裂の危機【スコットランド独立/北海油田の収入独占】
 
テーマ【店主の絶叫が「マッサン」なのは、日本ウィスキーの父と呼ばれる人物が、この地でウィスキー作りを学んだから、愛称使った。】



[40621] 17国目 チュリープバブルの国 前篇
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2015/01/03 09:16
天気は真っ青の晴天。
そんな清々しい気分になれる日に、白いローブを身に纏った金髪の女の子ラッキーと妖精さんは、海よりも低い場所に国があると聞き、ひたすら歩いて現地に訪れていました。
その国は、風車と花畑が一面に広がる風光明美な国です。
国の北西には、大きな大きな・・・具体的には32kmの三重の防波堤があります。
この防波堤を使って海水を堰き止め、広大な入り江を干拓して出来た土地が国土の4分の1を占めています。
もしも、三重の防波堤が壊れたら、国そのものが壊滅しちゃう大ピンチなので、ラッキーは思った事を呟きました。

「うーん、なんで、わざわざこんな所に国を作ってるんだろう?
全ての防波堤が何らかの事故で壊れたら、一気に海水が押し寄せてきて、国が海中に沈んじゃうよ?
気になるなぁ。」

「でも、ラッキー。
この国は自然の景色が綺麗だよ?
僕はこういう国がいいなぁ。」

ラッキーの頭の上に乗っている妖精さんは、とても良い笑顔です。
妖精さんは個人的にお花が好きだから、こういった花が咲き乱れる国は大好きなのです。
でも、ラッキーはついつい頭の中で考えている物騒な事を言いました。

「あの防波堤を、私の魔法で切断したら、きっと凄い事になると思うんだ。
やってもいいかな?かな?
きっと、海水がドバーと流れてきて、国が沈んで大勢の人間が死んで凄い光景になると思うの。」

「だめぇー!
そんな事したら、さすがの僕でも絶縁だよ!絶縁!」

妖精さんが怒ったから、ラッキーはしぶしぶ諦めて、人間の国に不法入国しました。
ラッキーが光学迷彩で姿を消して、空をピョンと飛べば、すぐに人間の国の中です。







人間の街は、西洋ヨーロッパ風の石造りの建物がずらりと並んでいて、とても豪華です。
中世から受け継がれる街並みの美しさというものがあります。絵画の中の街がそのまま出てきたような重厚感なのです。
でも、可笑しい事に街中が恐ろしい熱狂に包まれていました。
街の各所で、チューリップ(植物)の丸い球根を持った男達が商談をやっているのです。
ちょうど市場の真ん中で、1人の商人が袋一杯の球根を見せびらかして、大きな声で商売をやっています。

「へい!らっしゃい!らっしゃい!チューリップの球根が今なら金貨50枚だよ!
すぐに値段が上がるからお得だよ!お得!
転売すれば大もうけは確実でさぁー!」

「「「「「買った!全部売ってくれ!」」」」」」

周りにいた人間さん達は、商人の元に殺到して、次々と金貨50枚という大金を出して買っていきます。
そして、球根を購入した人間達は、近くにいた人間達に高値で転売しょうと、新しい商談が始めます。それぞれが片手に球根を掲げて叫びました。

「今買ったチューリップの球根を金貨55枚で売るよ!
すぐに値段が上がるからお得だよぉー!」

「こっちも金貨55枚で売るよ!」

「こっちも金貨55枚!」

「金貨100枚で売るよ!」

「「「「「買った!俺に売ってくれぇー!」」」」」

このような常軌を逸した光景が繰り広げられ、一つの球根にどんどん高値がついています。
ラッキーは、不思議に思ったから、市場にいた少年に背後から話しかけてみました、

「ねぇねぇ、この国では、チューリップって特別な意味があるの?
栽培が少し難しいだけの花じゃないの?」

ラッキーの声で少年が振り返りました。12歳くらいの貴族然とした格好良い顔をしている金髪の男の子です。
背にマントを羽織っていて、手に薔薇を持っています。

「ん?
小さいレディ、どうかしたのかね?
この僕に用があるのなら、後にしてくれたまえ。
僕は忙しい・・・・・・よく見たら綺麗で可愛い娘か。
僕に何でも聞いてくれたまえ!
僕の名前はオランダ!
この国の貴族さ!」

「私の名前はラッキーだよ。よろしくね。
チューリップの球根が、どうしてこんなに高い値段で売買されているのか不思議になったから、話を聞きたいんだよ。
どうしてこんなに値段が高いの?」

オランダ少年は、目の前に可愛い娘がいるから、顔を赤くして調子に乗りながら答えてくれました。
ラッキーは、若い少年を誑かす魔性の女ですね。

「ラッキーちゃんは、この国の最近の事を知らないのかい?」

「うん、この国に来たばかりだから、事情がさっぱりなの。
教えてくれると嬉しいかな。」

「なら説明してあげよう。
美しい花を咲かせるチューリップは、最初は王族や貴族にだけ愛される高貴な花だったのだよ。
その頃から高い値段で取引されていたが、今のように値段がどんどん上がる事態になったのは最近の事なんだ。
今まで園芸家と収集家の間だけ取引されていたチューリップの売買に、一般大衆が参加してから、どんどん値段が上がってね。
今じゃ、チューリップは黄金よりも価値がある偉大な花となったのさ!」

その言葉と同時に、オランダ少年は、手に持っていた赤色の薔薇の花をラッキーにプレゼントしました。
薔薇もそれなりに高い値段の花なので、これは豪華な贈り物です。
ラッキーは素直に薔薇を受け取った後に、薔薇を見ながら呟きました。

「ふーん、この国はバブル経済の真っ只中にあるんだね。」

「?
バブル経済?
それはなにかね?」

「バブル経済ってのはね。
本来、そんなに高い値段がつかない物なのに、どんどん値段が釣りあがって、右肩上がりに経済が成長しているように見える状況の事だよ。
最後は、価値が暴落して、経済に大打撃を与えるから、非常に危ういんだ。
この国の場合はチューリップだね。」

オランダ少年は理解できなかったのか、頭を傾げます。
でも、すぐに綺麗さっぱり忘れたような笑顔で、ラッキーの右手を掴み

「それよりもラッキーちゃん。
僕と一緒においしい料理でもどうかね?
今日はチューリップの転売で大もうけして、財布が重くて仕方ないんだ。
何でも奢ってあげよう!」

「うーん、今の話を理解しないと、君、大損しちゃうだろうけど、まぁいいかな。
付き合ってあげる。
どんな美味しい料理を食べさせてくれるの?」

「それはついてからの楽しみさ!」

オランダ少年とラッキーは、二人で連れ添って、街の中心部へとゆっくり歩きました。
デートという奴なのです。





歩く最中も、街中でチュリープの球根が高い値段で売買されて、すぐに球根が転売にかけられ、住民は庭に植えてあるチューリップを盗まれないように、24時間監視している異常な光景が繰り広げられていました。
貧しい人間達は、家の中のありとあらゆる物を売って、チューリップを買うための資金を得ようと必死です。
ラッキーは、この熱狂っぷりが可笑しくてクスクス笑います。
オランダ少年は、ラッキーが何に笑っているのか、わかってないけど、ラッキーの笑顔が可愛いから微笑んでいました。
ラッキーも微笑み返します。
端から見れば、若い男女がとても初々しい甘酢っぽい恋愛をやっているようにしか見えません。
大人達が二人を見て、若い頃を思い出したり、死にたい気分になったりしています。
しばらく二人が街中を歩くと、3階建の高そうな料理屋さんが見えてきました。
少年が木星の扉を開けると、10人ほどの従業員が挨拶してくれて、席まで案内してくれます。
店の内装はお洒落で、あちこちに絵や像が飾られ、高そうなテーブルや椅子があちこちにありました。
その店内でも大勢の人間さんがチューリップの売買をやっている異常な光景が繰り広げられています。

「チューリップの球根を売るよ!球根!
すぐに値段が上がるから、転売すれば大もうけ間違いなしでさぁー!」

「「「「「「「「「「買った!俺に売れぇーー!」」」」」」」」」」」」」

ラッキーは、球根の売買を見てクスクス笑いながら、少年と一緒に一つのテーブルを挟んで、向かい合う席に座りました。
少年はやってきたウェイターの青年に、ステーキ2枚を注文してから、ラッキーと向かい合い、申し訳なさそうな顔で

「ラッキーちゃん、ちょっとここで待ってくれるかな?
僕はチューリップの転売をして、小金を稼いでくるよ。」

そういって、少年は店内で繰り広げられるチューリップの転売に参加しました。
ラッキーはちょっと不満です。
女を持たせて、チューリップに夢中な男なんて信じられません。
ラッキーは頭の上で、嫌そうな顔をしている妖精さんに愚痴りました。

「うーん、あの少年で一年くらい遊んでみようと思ったけど、ああいうタイプの男の子は私は駄目かも。
国全体がギャンブル依存症だね。
オランダ君は結婚したら、暴力夫に変貌して、無職ニートになるタイプだと思ったよ。
さっさと捨てた方がいいかな?」

「・・・ラッキー、男遊びはほどほどにした方がいいよ。
いつか、ラッキーより強い男に襲われて大変なことになるよ?
そんな事になる前に、故郷に帰った方がいいと思うの。」

呆れた顔をしている妖精さんに忠告されたから、ラッキーはクスクス笑いました。

「それで私が死ねば、世界樹になって綺麗な花を咲かせるだけだよ。
チューリップよりも遥かに綺麗な花をね。
さて、この国は私にどんな末路を見せてくれるんだろう?
私は楽しみで仕方ないよ。妖精さん。」

ラッキーの笑みは、とても良い笑顔でした。
チューリップの転売で大儲けして戻ってきたオランダ少年が、見惚れるほどに、純粋で可愛らしい無邪気な笑顔だったのです。
その笑顔には人生というものを全力で楽しもうという前向きな意志を感じられます。
少年は、若い純情に任せて、大胆な行動をしました。
ラッキーの両肩を掴んで少年は顔を真っ赤にさせて叫びます。

「ラッキーちゃん!
僕は君に言いたい事がある!」

「?
どうしたの?」

「僕と結婚を前提にお付き合いをしてください!
初めて見た時から好きでした!
ラッキーちゃんは僕の天使です!」

「えい!」

「アベシッ!」

でも、すぐにラッキーが少年の顔を殴ったから、台無しでした。
そう簡単に容易く攻略できるロリババァ(ラッキー)ではありません。


 後 編 に 続  く  



[40621] 17国目 チュリープバブルの国 後篇
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2015/01/05 10:14
ラッキーは衝動的にオランダ少年を殴り飛ばして、気絶させてしまいました。
少年は店の床に倒れています。
ラッキーは小さい声で呟きました。

「あ、うっかり殴ちゃった。」

「・・・・ラッキー、罪もない人を殴るのは良くないと思うの。
お詫びに1年くらい付き合ってあげたら?
どうせ僕達、暇だし。」

妖精さんが頭の上で呆れています。
兎にも角にも、これがラッキーとオランダ少年が1年間、恋人として付き合う切欠となったのです。






1年間の間に、ラッキーはオランダ少年の金払いの良さに付け込んで、デートの度に物を買わせて貢がせたり、黄金や宝石を買わせたりとやりたい放題。
少年は、ラッキーに貢ぐ金を得るために、チューリップ取引に余計にのめり込み、一日に何十回と取引して大金を得ていました。
最近だと、持ち運ぶと危ない大金で球根が取引されているため、手形(多額のお金のやり取りを一枚の紙でやれるシステム)で取引されています。
実際には払えるはずもない金額の手形が次々と作られ、実際のお金を全く動かさずにチューリップ売買が成り立ち、球根一つで家が買える値段になっていました。




そんなバブル経済も末期になりつつある状況の中、今日も少年は、チューリップの球根を持って、市場まで走り、大金を稼ごうとしていました。
最近は、球根の売買をしても得られるのは手形だけなので、貨幣を得られず、ラッキーとのデートをするための金が少なくなりつつありますが、少年はとても笑顔です。
金髪の可愛らしい女の子ラッキーと恋人になれて、未だにキスすらしてない初々しい関係ですが、少年の脳内では薔薇色の未来が広がっています。
このまま大金を簡単に得られる生活が続けば、将来は安泰なのです。
何時か、 手 形 を 現 金 に 変 え ら れ る と 思 っ て い ま す 

(僕はなんて幸運な男なんだろう!
ラッキーちゃんは、不思議な娘だけど、良い娘だ!
ああ!何時になったらキスを許してくれるんだろう!?
いつも、キスしようとするだけで・・・僕が殴られてツンデレすぎるよ!ラッキーちゃん!
可愛いけど、身持ちが硬過ぎだよ!?
あと何年、僕はこの純情を耐えればいいんだいっ!?)

そんな妄想をしながら、少年は市場に到着しました。
すぐに顔見知りの初老の商人を見かけたので、手持ちのチューリップの球根10個を売ろうと声をかけます。

「そこの商人!
僕のチューリップを買ってくれたまえ!
一つ金貨10000枚の手形で売ろう!」

「あー、オランダか?
すまんな。その値段じゃもう買えないんだわ。」

「え?!」

「ほら、周り見てみろ。」

商人に言われたとおりに、オランダ少年は周りを見ました。
すると、そこでは大勢の人間達がチューリップの球根を売ろうとしているのに、誰も買い手がつかない光景が見えます。
球根を片手に騒いでいる姿が滑稽でした。

「なんでチューリップが売れないんだよぉー!」
「誰か買ってくれぇー!買ってくれないとオラは破産するだぁー!」
「このままじゃ借金であばばばばばばばばば!!!」
「借金して、ようやく球根を買ったのにこの有様だよ。」

慌てる彼らを見て、少年は驚愕しました。
まさか、こんな事になっているとは思ってもいなかったからです。
少年は商人に詰め寄って叫びました。

「なぜだ!?
なぜ、チューリップを買ってくれないんだ!?
昨日までは買ってくれたじゃないか!?」

「昨日まではな。
でももう、そのチューリップには大した価値がないんだよ。
残念だったな。オランダ。
俺は仕事で忙しいから、またな。」

商人は少年を無視して、近くに来たお客さんと新しい商談を始めました。
どうやら、この商人は将来的にチューリップの超高値が崩壊する事を予測した上で、勝ち抜いて大儲けしたようです。
少年は困りました。
国中の人間達も困りました。
今まで、チューリップの売買をやるだけで大金を得てゆっくり出来たのに、今では・・・膨大な借金を背負った債権者になってしまったのです。
手形でありえない金額で取引していたため、40か国以上の人間を巻き込み、少なくとも30万人以上の人間が一生かけても払え切れない金額の借金を背負った事になります。
地球のオランダのチューリップバブル崩壊の場合は、実体経済に何らダメージを与えませんでしたが、この国のバブルは周辺国を巻き込んだ上でのバブル経済だったので、大きな後遺症が経済に残ります。
1国だけなら取引停止などの措置で何とかなりますが、複数の国が絡むと、ややこしくなり、そう簡単に解決できなくなるのです。
結果的にオランダ少年は、ラッキーとの結婚生活を考えて、大金を稼ごうとチューリップに投資しすぎたせいで、家を10件買えるほどの莫大な借金を背負う事になりました。
少年は必死に、街中を走り回り、チューリップの球根を売ろうと必死になりますが、誰も相手にしてくれません。
国中で口論が起き、殺人事件まで発生して大混乱です。

「なんで借金を払えないんだ!?
借金を払え!」

「うるせぇー!
俺も大量のお金を他人に貸してるから、ちょっと待て!」

「なんなんだよぉっー!これはぁー!
俺なんて、家を全部売って、ようやくチューリップを買ったのに、今になってこれかよ!?
うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「そうだ!借金払えないし、他の国に逃げよう!」

「借金を払えないならしんじゃえー!」

少年は街中を彷徨い、チューリップの球根を売ろうとしました。
ですが、売れません。
チューリップを対象にしたバブル経済は泡のように弾けてしまったのです。
少年は涙が出ました。
薔薇色の人生が終わったのです。
少年は貴族ですが、家が裕福ではない上に、家を継げない次男だから親も助けてくれません。
少年は絶望して道にへたれ込んでいると、手に大きな袋を持ったラッキーが目の前を歩いてきました。
ラッキーはクスクス笑いながら、少年に話しかけてきます。

「ねぇ?オランダ君。
ひょっとして、多額の借金を作っちゃったのかな?
きっと、君が一生かけても払えきれない金額だよね?
私、デート中に何度も何度も忠告したよね?
どうして理解できなかったの?
これからの人生どうするの?
失踪して逃げる?
それとも諦めて死ぬ?
君はどんな行動をするのかな?
・・・・え?」

少年はラッキーに抱きついてきました。
いつもながら殴り飛ばしますが、ラッキーは何もしません。
少年はラッキーを強く強く抱きしめながら、熱い口調で語りかけてきます。

「・・・ラッキーちゃん!
よく分からないが、僕はとんでもない借金を背負ってしまったようだ!
そんな僕と一緒に逃げて、そこで僕と添い遂げてくれるかい?
僕は絶対に君を幸せにする!
絶対だ!約束する!」

「うーん、オランダ君には悪いけど、私はそこまでの覚悟はないよ。
君とはそろそろ別れて、新しい旅に出るつもりだったし。
私みたいな娘より、新しい娘と恋した方が健全だよ?」

「ええええええええええええええええええええええええええええええ?!!!
ぞんなあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

予想外の返答だったから、少年の心は激しく傷つき、ラッキーの身体を離して地面に倒れこみました。
将来的にラッキーにプロポーズして、純白のウェディングドレスを着せて結婚するつもりだったからです。
しかも、少年にとってラッキーとの恋愛は初恋でした。
ラッキーは、手に持っていた袋を、悲しんでいる少年に投げ渡して、優しい声で話しかけます。

「その袋には、この1年間の間に、オランダ君が私に貢いだお金の約半分が入ってるよ。
それだけあれば、何処かに逃げてもしばらくは生活できるよね?
借金取りから逃げれば、新しい地でもやっていけるはずだよ。
じゃ、さよなら。」

そう言ってラッキーが場から立ち去ろうとすると、少年はラッキーの白いローブの裾を掴んで叫びました。

「ちょっと待ってくれ!
ラッキーちゃん!
僕と一緒に逃げよう!」

「うーん、私はもう飽きたんだ。
バブル経済が崩壊するまで長すぎて、待つの退屈だったし、この国にいると堤防破壊して遊びたくなるし、これ以上いると、この国は私の手で壊滅するけどそれでいいの?
海に沈没したい?
また、堤防を再建しても、土地から塩を抜く作業で膨大な人件費がかかるよ?
この国って農業が盛んなんでしょ?
じゃ、さようなら。
オランダ君と過した一年は楽しかったよ。」

ラッキーは容赦ありませんでした。
この国に居ると、堤防を破壊したらどういう光景になるのか知りたくて、好奇心がウズウズしています。
でも、妖精さんに毎日のように怒られたからやってないだけです。
少年はラッキーの言いように絶句し、掴んでいたローブを離しました。
そのままラッキーは歩いて場から立ち去り、オランダ少年と二度と会う事はなかったそうです。
恋って儚いですよね。
少年はラッキーの後姿が見えなくなった後も、ずっとラッキーが居た方角を見続けました。

「うああああああああああああああああああああああああああ!!!
ラッキーちゃんんんんん!!!!!
どうじでぞんな酷いごと言うんだああああああああああああああ!!!!
君は僕と結婚じで幸せになるべきなのにいいいいいいいいいいいい!!!!
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!
どうじでごんなごどにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!
ラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキーラッキィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!」

翌日、少年は失踪しました。
何処かで幸せに暮らしてるといいですよね。
失恋は新しい恋のための糧なんだと思い込めたら、前向きに生きられると思います。







後に、このバブル経済崩壊は、この地に住む人々から世界恐慌(自称)と呼ばれ、200カ国以上の国々を巻き込んだ大きな大きな大戦【第二次世界大戦(自称)】の切欠になりました。
少し説明すると、チューリップバブル崩壊で経済に大きなダメージを与えたせいで、失業者が大量発生し、各国は自国の産業と経済を保護する事を優先しすぎて、国際間の貿易が縮小し、資源がない国は活路を見いだすために、他国に侵略するという形で戦争に手を染めて激しい応酬になってしまったのです。
この惑星は木星よりも大きな星のため、物理的に断絶している地域が多数あるおかげで、世界経済に影響を与えるほどの事件ではありませんでしたが、それでも極一部の狭い地域に住んでいる40億人近い人間を戦争に巻き込む起爆剤になりました。

「うーん、なんで戦争の名前が世界大戦なんだろう?
星の極一部の地域しか戦争してないよね?
気になるなぁ。
自分達の地域が世界とでも思ってるのかな?」







17国目 チュリープバブルの国
おしまい








テーマ【チューリップバブル】 

テーマ【20世紀の世界恐慌】

テーマ【第二次世界大戦】

人類初めてのバブル経済事件やってみた。
史実だと、大量の債権者(3000人)と同時に債務者を量産しちゃったけど、議会が「調査が終わるまでチューリップ取引は保留とする」って言ったから、僅かな被害者を出すだけで終わり、現実はここまでは酷くないEND
オランダ経済に何らダメージなし。



[40621] 18国外目 宇宙から来た狸型ロボット
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2015/01/07 23:36
白いローブを着た、小さい金髪の女の子ラッキーは、氷で閉ざされた大陸を歩いていました。
人が住むのが不可能な環境のため、人間の国なんてありません。
居るのはペンギンという鳥モドキや、白熊、時折、襲いかかってくる雪女くらいです。
ラッキーは退屈そうな顔で呟きました。

「人間いないからつまんない。」

いつも頭の上にいるはずの妖精さんは、寒すぎて何度も何度も死んでしまうから、ラッキーの服の中でゆっくりしているせいで、会話相手がいません。
ラッキーは余計に退屈になり、そろそろ空を飛んで、別の地域に行こうかな?と思っていると、目の前に氷漬けにされた青い狸を発見しました。
分厚い氷の中に、間抜けな顔のまま凍っているから、ラッキーは可笑しくてクスクス笑います。
でも、青狸をよく見ると可笑しいのです。
耳がありません。
狸にしては恐ろしいほどに大きく、人間の12歳くらいの子供ほどの大きさがあります。
顔も非常に大きく、顔だけ真っ白で不気味でした。

「うーん、なんだろう?
生命反応ないみたいだし、既に死んでるよね?」

気になったラッキーは、魔法で氷を温めて溶かしました。
具体的には1000度の熱の塊を、氷の近くに放置して、溶けるのを待ちました。
氷が解けると・・・死んでいるはずの青狸が動き出したのです!
ラッキーは心臓がドッキリして驚いて、涙がちょっと出ました。
青狸は笑顔で、ラッキーに頭を下げてお礼を言ってきます。

「やぁ!
僕は宇宙から来た狸型ロボットのタヌキモンだよ!
氷漬けになっている所を助けてくれてありがとう!」

「?
ロボット!」

ラッキーは、ロボット(機械仕掛けの人形)という単語を聞いて、眼をキラキラ輝かせます。
ここまで高性能な会話ができるロボットはそうはありません。
知的好奇心で爆発寸前でした。
だから、ラッキーは青狸に徹底的に情け容赦なく質問責めをしました。

「ねぇねぇ、何処で作られたの?
なんで青いの?
何を目的に作られたの?
どんな機能があるの?
自爆機能とかあるのかな?かな?
耳がないのはなんでなの?
宇宙にも狸が住んでいるの?」

「・・・質問は一つにしてほしいなぁ。
君には悪いけど、僕は忙しいから、すぐに宇宙の平和を守る仕事をしないといけないんだ。」

「うーん、じゃ、【何を目的に作られたの】ていう質問に応えて。」

青狸がとても良い笑顔になります。
使命を果たすために作られた道具ですから、自分の存在意義を話せるのは嬉しいのでしょう。
青狸はゆっくりと誇らしげに説明してくれます。

「僕はね。
宇宙の平和を守る正義の狸型ロボットなんだ。
どんな相手でも、僕にかかれば瞬殺なんだよ。」

「うーん?宇宙平和?
具体的にどんな驚異から宇宙を守るの?」

「僕の最近の仕事だと、宇宙中に版図を広げる邪悪な機械人類の国を、タイムマシンで過去に遡って、ご先祖様ごと皆殺しにして時間軸から消滅させたり
自然を愛する動物達の惑星を守るために、宇宙海賊を壊滅させたり
小さな子どもの夏休みの宿題のために、大魔境や宇宙や海底とかを旅して、子供の宿題を手伝ったり
過去に全滅した恐竜を、地下に逃がしたら恐竜帝国が誕生しちゃったから、後始末をやったり
並行世界を作ったら、大魔王が誕生しちゃったから、後始末をやったり
タイムマシンを悪用する奴らを殺したりとか、そんな仕事をしているよ!」

「へぇ、凄いんだね。」

この話が事実なら、ラッキーを超える戦闘力を青狸が持っている可能性があります。
でも、ラッキーは知的好奇心を満たしたいから、満足でした。
命の危機なんて感じてません。目を輝かしています。

「だから、僕は忙しいんだ。
でも、恩を返さないのは失礼だから、僕が持っている道具を一つあげるよ。」

青狸が、お腹についているポケットを両手で漁って、大きな大きな爆弾っぽい黒いものを出しました。
ポケットのサイズは人の拳よりも少し大きい程度だから、これはありえない光景です。
青狸は素敵な笑顔でそれをラッキーに差し出して説明を始めます。

「銀河系破壊爆弾~
これはね。宇宙全体で使用が禁じられている爆弾なんだ。
一度起爆すれば、銀河(100兆個の星々)そのものが消滅するから、扱いに困って捨てようと思っていた所なんだ。
これいる?
使うと気分がスッキリするよ?
銀河がまるでゴミのようだ!ってムゥスカ大佐が叫んだ事で有名な爆弾なんだ。」

「うーん、私は自殺願望ないから要らないなぁ。
銀河を吹き飛ばすって事は、この星も吹き飛ぶって事だよね?
なら要らないよ。
他の道具頂戴。」

「君は我がままだなぁー。
生産中止が決まって、マニアに高く売れる爆弾だよ?
使ったら楽しいよ?
なら次の道具を出そう。」

青狸は爆弾をポケットに仕舞って、新しい道具を取り出しました。
次に出したのは、拳サイズの小さなスイッチつきの箱です。
青狸の呑気な解説がまたもや始まります。

「抹殺スイッチ~
これはね。
抹殺したい相手の顔を思い浮かべて押すだけで、全時間軸から相手を消去しちゃう道具なんだ。
これも宇宙全体で使うのを禁じられているから、捨てようと思っていたんだ。
これ、いらない?
気にいらない相手を消すのは楽しいよ?」

「うーん、それもいらないなぁ。
殺すなら、魔法で殺すから、もっと平和で役立つ物とかないの?」

「君は本当我が儘な娘だなぁー。
将来、嫁ぎ遅れるよ?
結婚はババァになってからだと遅いんだよ?」

青狸はスイッチをポケットにしまいこみ、また両手をゴソゴソ入れて新しい道具を出してきました。
今度は大量の錠剤が入ったガラス瓶です。
そこらへんにありそうな品物でしたが、青狸はゆっくりと解説してくれます。

「若返り薬~
これはね。飲むと若返る薬なんだ。
君は女だから、きっと欲しがると思」

「いや、私は不老のエルフだよ?
ずっと、老化せずにこの外見だから要らないんだけど・・・」

「じゃ、次の道具を出そう。
これはどうだ~」

青狸がガラス瓶を投げ捨てて、次のアイテムをポケットから出してきました。
それは大きな電話ボックスです。
ガラスの箱の中にダイヤル式の電話が入っています。
青狸は満面の笑みで説明をやってくれました。

「パラレルワールド製造機~。
これはね。中の公衆電話に語りかけるだけで、好きな並行世界を自由自在に作りあげる事ができる究極の道具なんだ。
君が宇宙の支配者な世界も作れるよ?
逆ハーレム興味ない?
イケメンに囲まれた人生を送れるよ?
これいらない?
これも宇宙全体で使用を禁じられているから、捨てようと思っていたんだ。」

「私、思ったの。」

「うん?」

「そのポケットみたいに何でも異次元に収納できる道具は他にないの?」

「え?あるけど、それでいいの?
異次元ポケットは安物だよ?
そう滅多な事では壊れないけど、せいぜい100万年くらいしか品質保証ないよ?」

「私は旅をしているから、そういうポケットの方が重宝するよ。」

青狸は、ラッキーの事を欲がない奴だなぁという顔で見ていました。
少しすると、ポケットにゴソゴソ両手を入れて、白いポケットを中から出してきます。
それをラッキーに手渡ししてから

「異次元ポケット~。
これはね。
異次元に何でも物を収納できる普通の道具なんだ。
本当にこれでいいのかい?」

ラッキーは、青狸から白いポケットを受け取り微笑みました。

「うん、ありがとう。
良いものを貰ったよ。」

「そんなもので喜ぶなら、僕は良い事をしたという事だね。
じゃ、僕はそろそろ仕事をするために、この星から旅たつよ。
君とは二度と会うことはないだろうね。」

「さよなら。
また会えるといいね。」

ラッキーは満面の笑みを向けました。
青狸もそれを見て笑顔になり、とうとうお別れの時間がやってきます。
青狸はポケットから、大きな大きな円盤型の宇宙船を出し、それに乗ろうとします。
ラッキーは、何処に行くのかな?っていう好奇心が湧いたので、最後の質問をしてみました。

「ねぇねぇ、これから何処にいって何をするの?」

青狸【タヌキモン】は素敵な笑みを浮かべて

「僕はね。
旧型ロボットだから、これから分解工場にいってバラバラに分解されて、新しい新型ロボットの部品になるように命令されているんだ。
人格も全部消去されて、今の僕は無に還るんだよ。
 僕 は も う 用 済 み な ん だ。」
 
生きているように見えても、所詮、機械は機械でした。
命令を迷うことなく実行するだけの道具に過ぎなかったのです。
ラッキーは、ロボットは人間と違いすぎて面白いなぁって思いました。







18国外目 宇宙から来た狸型ロボット

おしまい



[40621] 19国目 小説家になろうという国
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2015/01/10 23:55
19国目 小説家になろうという国


ラッキーは、国民のほとんどが小説家だらけの国に訪れました。
そこでは、毎日のように新しい小説が作られ、インターネットという情報流通網に投稿されているのです。
人気がある小説はランキング形式で国民全員に紹介され、面白かったら読者が評価して点数をつけるので、点数が新しい読者と点数を呼んで更に人気になり、恐ろしいほどに人気になれば書籍化(紙媒体)されて、お金を貰えるプロの小説家として尊敬される国でした。
ラッキーは、この国の小さな板状の電子媒体を購入し、すぐに人気の小説を見ようとしました。
すると、電子媒体に表示されたのは


        ★歴代人気作品★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
1位 無職転生 - 異世界行ったら本気だす -  ジャンル:ファンタジー 212,096pt

2位 謙虚、堅実をモットーに生きております! ジャンル:恋愛 172,628pt

3位 異世界迷宮で奴隷ハーレムを ジャンル:ファンタジー 170,642pt

4位  八男って、それはないでしょう!  ジャンル:ファンタジー 158,225pt

5位  盾の勇者の成り上がり ジャンル:ファンタジー 125,576pt

6位  ありふれた職業で世界最強 ジャンル:ファンタジー 124,889pt

7位 デスマーチからはじまる異世界狂想曲 ジャンル:ファンタジー 124,846pt

8位 異世界食堂 ジャンル:ファンタジー 122,959pt

9位 理想のヒモ生活 ジャンル:ファンタジー 122,252pt

10位 この世界がゲームだと俺だけが知っている ジャンル:ファンタジー 116,561pt】
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ほぼ全てファンタジー小説だったのです。
ラッキーは、1位~10位の作品を10分ほどかけて、サラサラッと全部速読しました。
どの作品も、異世界でハーレムやったり、ゲームの世界にいったり、女王のヒモになったりして幸せになったりする物語な事が分かりました。

「うーん、異世界に転生して、第二の人生?
この国の人達も、自殺志願者なのかなぁ。
やだなぁ・・・・。」

ラッキーの脳裏には、国民丸ごと総自殺した【5国目 転生トラックで異世界転生する国 】と、この国がそっくりのように思えます。
特に一位の【無職転生 - 異世界行ったら本気だす -】は、引き篭もりの超絶駄目人間が主人公で、親の葬式にすら引き篭もって出ず、家を追い出された末に死亡し、異世界の第二の人生で本気を出して努力して成長し、複数の嫁とハーレムやっている壮大な物語だったのです。
この作品が一位の時点で、明らかに、この国の読者は、現実が大嫌いでした。

「他の作品も読んでみよう。」

今度は11位から100位の物語を1時間かけて全部読みました。
普通の人間なら、1年くらいかかりそうな量ですが、ラッキーの速読にかかれば一瞬です。

「うーん、他の作品も、現実から異世界にいってハーレムしたり、ゲームそっくりの異世界で幸せになる物語?
現代とか現実を舞台にした作品はないの?」

ラッキーは、この国で人気になる作品の傾向が、恐ろしく偏っているので、ゆっくりできない気持ちになりました。
具体的に人気な要素を纏めると、以下のようになります。

① ジャンルがファンタジー。この要素がないと人気になるのは不可能といっても過言ではありません。恋愛も人気なジャンルですが、必ずファンタジー要素があります。

② VRMMO、オンライン、ダンジョンなどのゲーム要素が大人気で、ゲームそっくりの異世界に行ったり、ゲームの中に閉じ込められてデスゲームをやると人気を得やすいです。
主人公は周りから評価されない職業やスキルを使って、成り上がる傾向の作品が評価されていました。

③過去の人気作品の設定をパクリまくる。
冒険者ギルドというものがよく登場し、冒険者という労働者達がE~Sのランクでランク分けされていたり、レベルや職業などの細かい情報が記載された冒険者カードがよく登場しています。
どれもこれも、ギルドから仕事の依頼を受けて成功させる事で、ランクをアップさせて、最終的にハーレムをやったりしています。

④トラックに弾かれて殺されて異世界転生。この展開を律儀に守る人気作品が非常に多いのです。

⑤主人公最強。努力して最強になるもよし、知恵を使って最強になるもよし、敵相手に主人公が無双する展開が好まれます。

⑥ハーレム、大勢の女を嫁にする男の夢です。

この国で人気作家になるには、上記のテンプレ(定石)を踏まないといけず、ラッキーはそれを理解しました。
ラッキーはすぐに国を出て、旅に出ました。

「もうやだ、この国。」

どうやら、この系統の国はトラウマになっているようです。





おしまい


テーマ【ただの攻略本】
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【神様転生/チート/ハーレム/チーレム/逆ハー/無双/学校/集団異世界トリップ/ゲームキャラに憑依/俺TUEEEEEE 】



[40621] 20国目 ゲームの国 (超絶ムリゲー イス・ラム国オンライン) ① (4話構成)
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2015/01/13 00:02

空は薄らと雲が広がり、日光を遮っています。
人を不安にさせる気候の中、白いローブを着た、小さい金髪の女の子ラッキーは険しい険しい山道をトコトコ歩いていると、地面にある不思議な階段を見つけました。
今いる場所は、人が住んでいない秘境中の秘境なのに、これは可笑しいのです。
階段は最近作られたような感じで真新しく、大量の荷物を運搬するエレベーター用の通路が隣にありました。

「何があるのかな?
地獄でもあるのかな?
どうだろ?妖精さん?
やっぱり入ってみるしかないよね。」

「もうやだ、このエルフ。」

気になったラッキーは、知的好奇心を満たすために、階段を下りました。頭に乗っている妖精さんは植物が皆無の場所へ行くから嫌そうな顔をしています。
階段は恐ろしいほどに長く、10時間ほど歩いても、終わりが見えません。
でも、ラッキーの知的好奇心がざわめくのです。
こんな長い階段を作る時点で、それに見合うだけの価値がきっと行く先にあると思ったのです。







ひたすらひたすら、100時間ほど階段を下ると、とうとう階段に終わりが見えてきました。
地下の広い空間に10万人は住めそうな地下都市があります。
街全体が照明で照らされて綺麗で明るく、高層ビルが乱立し、道を無数の色んな形をしたロボットが通っていて賑やかです。
ラッキーは人間が1人も居ない事に驚いて、近くを通りかかる人型のロボットに問いかけました。

「ねぇねぇ、この国ってどんな国ー?
なんで人間が一人もいないのー?
ひょっとして人間を全部殺しちゃう国だったりする?」

人型のロボットは動くの止めて、ラッキーの顔を無表情で見つめました。
そのロボットは人間としか思えないくらに可愛らしい黒髪のメイドさんの外見をしています。
返ってきた声もロボットとは思えない透き通るような女性の声でした。

「・・・・?
あなたは外国のお方ですか?」

「うん、そうだよ。
私の名前はラッキー。よろしくね。
どうしてこの国は地下にあるの?
人間は住んでいるの?」

「そうですか。
ならラッキー様のために説明をしましょう。
この国は、ゲームが盛んな国なのです。」

「ゲームの国?」

ラッキーは首を可愛く傾げました。
国民全員がギャンブルでもしているのかな?と今までの人生経験から酷い国を想像しています。
メイドロボットは、ゆっくりと丁寧に説明を始めました。

「この国は、科学とゲーム産業がとても発展した国なのです。
ラッキー様は、ゲームと聞いたら何を思い浮かびますか?」

「うーん、ゲームと言えば、パチンコとか、競馬とかのギャンブルだね。
最近、見かけた国だと、タタタターン人っていう民族を、二つの国の軍隊が競い合って虐殺して、殺した人間の総重量が重い方が勝ちっていうゲーム形式の戦争やってた。
人間の発想力には、未だに驚かされるよ。」

「そうですか、外の国は未だにそのような原始的なゲームをしているのですね。
この国のゲームは、他の国のゲームとは、格段に違います。
全て、バーチャル・リアリティ(仮想現実大規模多人数オンライン)なのです。」

「バーチャル・リアリティ?
小説でしか、その単語を聞いた事がないね。
どんなゲームなの?」

ラッキーは知的好奇心で目をキラキラと輝かせました。
ロボットメイドさんは無表情のまま、ゆっくりと答えてくれます。

「バーチャル・リアリティは、現実としか思えない仮想現実でやるネットゲームの事を指します。
大勢の人間達が、現実としか思えないゲームの世界を同時に体感し、ゲームの内容次第ですが、そこで恋愛や繁殖行為をしたり、生き物を殺して遊んだり、美味しい物を食べたり、戦車や戦闘機や宇宙船に乗って戦争して遊んでいます。」

ラッキーの頭の上にいる妖精さんがそれを聞いて嫌そうな顔で呟きました。

「・・・この国も駄目な国だよ。らっきー。
技術が発展しているだけで、やっている事は他の国と同じだよ。」

「でも、楽しそうだよ?
私は体験してみたいな。
バーチャル・リアリティって奴。
どこで遊べるの?
私、この国の人間じゃないけどいいかな?かな?」

「分かりました。ラッキー様。
私についてきてください。」

メイドロボさんがそう言うと、近くに停車している車のところまで歩き、ラッキーはその後を追いかけました。
車は2人乗りの小型車で運転座席が存在してない謎構造です。
内部には座るためだけの座席しかありませんが、メイドロボが車の扉を開いて

「どうぞ、お乗りください。
ラッキー様」

「・・・えと、誰が運転するの?
運転座席がないよ?」

「運転座席は、この国の車には付いていません。
必要がない機能なのです。
騙されたと思って、車に乗ってみてください。」

「・・・?」

ラッキーは首を可愛く傾げた後に車に乗り込み、メイドロボさんが車の反対側に移動して扉をあけ、ラッキーの隣に座りました。
車は人間が運転しなくても、勝手に目的地にいくハイテク仕様だったので、乗車してすぐに道路を走り始めます。

「わぁー!
この国って車は無人運転なんだね!
すごい!」

ラッキーは喜びます。
メイドロボさんは無表情でした。
車は、地下都市の道を高速で移動し、ラッキーは窓から外の光景を見てゆっくりしています。
見えるのはやはり、大きな大きな建造物とロボットと、誰も乗らずに放置されている二人乗りの車だけでした。
少し進むと、車は停車し、二人は車から降りて、目の前の岩壁をくり貫いて作ったと思われる高層建築物の中に入りました。
ラッキーは知的好奇心がウズウズして我慢できないので、歩きながらメイドロボに問いかけます。

「ねぇねぇ、なんでこの国は深い地下にあるの?」

「惑星に巨大隕石が落ちてきても大丈夫なように、都市そのものがシェルターも兼ねているのです。
災害時は、ラッキー様が通った入り口通路は爆破されて消えてなくなるように作られ、仮に破壊するのに失敗しても、この区画が犠牲になることで、他の地下都市を守るように作られています。
そのため、この区画には人間は誰一人住んでいません。」

「ふーん。面白そうな国だね。
国民全員が地下に引き篭もりか。」

「はい、この国では家から出ずに一生を遂げる事が可能なため、引き籠りが社会問題になっています。」

「地下都市どころか、家からも出ないんだね。
なにそれこわい。」

そんな雑談をしながら歩いていると、ゲームをする場所が見えてきました。
そこは寝るためのベットが100個ほどあり、ベットの周りに無数のコードと青色のヘルメットがあります。
メイドロボは、ラッキーの顔を見ながら言いました。

「それではラッキー様。
パンツ以外の衣服を全て脱いで、このベットに仰向けに寝てください。」

「?
えと、どういう事なの?」

「ゲームをするために必要なのです。
脱いでください。」

「うーん、わかった。」

ラッキーはすぐに白いローブをめくりあげて頭から脱ぎ、スポーツブラも外して下着姿になりました。
露出した肌がとっても真っ白で、外で生活していたとは思えないほどに綺麗でしたが、ロボットメイドさんは無表情です。
ラッキーがベットに仰向けに眠ると、次々とメイドロボが周りのコードを持ってきて、ラッキーの小さい体に装着していきます。
知的好奇心で一杯のラッキーは気になったから聞いてみる事にしました。

「ねぇねぇ、そのコードはなーに?」

「これは人間がゲームをしている間も、体の筋肉が衰えないようにするための装置です。
電流を流して筋肉を動かし、健康な体を保つために作られています。」

「なるほど。
でも、私には必要ないよ?
不老のエルフだし?
運動しなくても筋肉衰えないよ?」

「コードをつけるのは規則なのです。
例外は認められません。」

「うん、わかった。
君は融通が効かない娘なんだね。」

2分もすると、ラッキーの全身がコードだらけになりました。
メイドロボは、ベットの下に置いてある青色のヘルメットをラッキーに被せて、ヘルメットのボタンをポチポチ押して操作し、無表情のまま

「ラッキー様。
準備が整いました。
ゲームの世界へ行ってらっしゃいませ。
私はここでラッキー様の身体と、その頭の上に乗っている妖精様を見ております。」

「妖精さんが見えるんだ。
ここは科学が発達して凄いね。
妖精さんの話し相手を頼めるかな?」

「わかりました。」

次の瞬間、ヘルメットから来る謎の電波を無防備に受けたラッキーは、強制的に深い深い眠りにつきました。
視界が真っ黒です。














次にラッキーが目を覚めた時、真っ暗のゲームの世界でした。
何処まで続く、暗闇の深淵の空間です。
この世界のラッキーは、黒色のパンツしか身に纏っていませんでしたが、異性の目がないから気にしていません。

「ここがゲームの世界?
変わってるなぁ。」

ラッキーが不思議に思って周りを見渡していると、男なのか、女なのか分からない声が聞こえてきました。
耳に馴染む良い声です。

【やぁ!ようこそ!
外国のお客さん!
あなたはゲームに接続した事で、この国の市民権を得た!
一生働かずにここで暮らせるよ!
労働は全部機械がやるからね!
さぁ!どのジャンルのゲームを遊ぶ?
最近のオススメは、戦略アクションゲーム『イス・ラム国オンライン』だよ!】

「君はだーれ?
どこに居るの?
良い声してるね。」

【私はナビゲーターのナビ君!
残念ながら外見は設定されてないのさ!
その方が色々と想像できるって、昔の偉いゲーマーのお爺さんが言っていたからね!
キャラクターデザインはリアルばっかり求めても駄目なのさ!
ちなみに私はドット絵こそ至高だと思っているよ!】

「ふーん、そうなんだ。
どういうゲームがあるのか、教えて欲しいかな。」

【現在、稼働しているオンラインゲームは約1万!
オンラインゲームの中に、膨大な数のゲームセンターとゲームがあるから、それらも数えると総数は1億種類って所だね!
人気ジャンルはざっと並べると、ガンアクション、剣と魔法の冒険ファンタジー、アダルトゲー、恋愛学園物が特に人気!
でも、アダルトゲーは子供にはやらせちゃ駄目だと規則で決まっているんだ!
君が大きくなってから、アダルトゲーをやろうね! 】

「色々とあるんだね。
ところで、一番最初に言ってたイス・ラム国オンラインってのはどういうゲームなの?」

【イス・ラム国オンラインは、異世界【地球】の中東地域を舞台に、冒険者集団(職業テロリスト)と一緒に、国を建国する難易度ルナティックゲームさ!
どう難しいのかは、ネタバレになるので、これ以上言えないよ!
だが、これだけは言えるね。
難しいからやり甲斐があって、やり遂げた後の達成感が大きい!
どうだい?やってみるかい?】

「うん、わかった。
イス・ラム国オンラインをやってみるよ。」

【では、イス・ラム国オンラインに接続します!
ゲームの世界でゆっくりしていってね!】

ラッキーの視界はまたもや完全に真っ暗になりました。
ラッキーはとても笑顔です。
こんな斬新すぎる経験ができる国は、そう滅多にないからです。






その②に続く



[40621] 20国目 ゲームの国 (超絶ムリゲー イス・ラム国オンライン) ②
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2015/01/15 12:41
ラッキーが次に目を覚ました時、目に映った光景は、熱い太陽に照らされた砂漠が広がる荒野でした。
遠い所とか、タタターン!という銃声が時折、響き渡り物騒です。
何かが燃えたり壊れたのか、白い煙が砂漠のあちこちから上がっています。
ラッキーは状況把握のために探査魔法を使おうとしますが

「?
魔法が使えない・・・?」

ゲームの世界だから、ラッキーの力はここでは使えません。
よく見ると、先ほどまでパンツしか纏ってなかったのに、今は黒色のローブを着て、背中にリュックサックがありました。
手には、旧ソ連軍が開発した歩兵用アサルトライフル【AK47】を持っています。
威力が高い、耐久性が高い、コストが安いの三つが揃っている傑作銃なのです。
そのため、テロリスト達もよく勝手に生産して使っていて、地球だけでも5億挺以上あります。
操作方法も簡単なので、素人でもすぐ使いこなせるのです。

「うーん、人間の銃か。
これで戦えって事かな?」

試しに空を飛んでいる黒い鳥に向けて、AK47を構えてトリガーを引いて撃ってみました。

タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタターン!

AK47に装填されている7.62mm弾を全弾撃ちましたが、全て外れて一発も当たりませんでした。
砂漠に銃弾というゴミをばら撒いただけです。
黒い鳥は優雅に遠い空へと去りました。

「・・・・当たんないや。
風の魔法なら、自動追尾してくれるのに、人間の銃って駄目駄目だね。
でも、人間の武器で戦うのは新鮮かも。」

ラッキーは、背中のリュックの中身を探って、マガジン(7.62mm x 39弾)を見つけて取り出し、AK47に新しいマガジンを入れ、もう一度、射撃をしてみようと思いました。
すると、遠くからこちらに近づく大きな影がある事に気付きます。
それは茶色の戦車です。
重厚な装甲で覆われて、小銃弾では破壊するのは困難、そびえ立つ砲塔が格好良いです。
戦車の頭上には【シリア正規軍】と、大きく文字が表示されています。
ラッキーは、好奇心を爆発させて、目をキラキラ輝かせながら戦車に近付いて、話を聞こうとトコトコ歩くと、戦車の砲身がラッキーの方に向いていました。

「?
あれ?
これってひょっとして撃たれる?」

そのままドパーンという音とともに、榴弾が飛んできて空中で爆発。
榴弾の弾殻が破砕され、その破片が広範囲に飛び散り、ラッキーの身体に破片が大量に刺さり、地面にドサッと倒れました。
明らかに致命傷です。
ラッキーは身体を動かそうとしましたが、ほとんど動きません。
空中に文字が表示されて不思議でした。

【ラッキーは、シリア正規軍の戦車に殺された!死因は榴弾。
おお!なんて情けない冒険者なんだ!
神は嘆いておられる!】

「うーん、風のバリアーがないと、私ってこんなにすぐ死んじゃうんだ。
人間の気持ちが理解できたかも。」

【でも、我らが神は寛容だ!
復活を許してくださる!
10秒後にイス・ラム国の拠点で復活だ!
ちなみにイス・ラム国は『椅子に座ってラム酒を飲む会』の略称だ!
2014年の中東地域を荒らしまくってる世界最大規模のテロ組織とは関係ないぞ!】

「妖精さん、なんか変な文字が空中にあるよ?」

ラッキーが自分の頭の上を目線だけ動かして見上げると、そこには妖精さんの姿がありませんでした。
現実に放置したままだという事をうっかり忘れています。

「あ、そうか、妖精さんは現実にいるんだった。
友達が居ないのは、少し寂しいね。」

ラッキーがしばらく、砂漠の中で死体の姿のままゆっくりしていると、視界が暗転。
砂漠からラッキーの死体が消え去りました。







ラッキーが次に目を覚ました時、そこは白色の貧相な建物の中です。
イス・ラム国の旗と思しき複雑な模様の絵が飾ってあり、ラッキーの身体が自由に動きます。
目の前に、黒い長衣とターバンを身に着け、白髪交じりのあご髭のおじさんがいました。
彼の頭上に【偉大なる指導者ハクダディ 職業テロリストのボス】と文字が表示されています。
オジサン(指導者)は口を開いて

「ようこそ!
小さな新しき冒険者よ!
私の名は、ハクダディ!
中東諸国の統一を武力で実現しようとする偉大な指導者だ!
冒険者の国【イス・ラム国】を共に築きあげよう!
かつて世界中を植民地にしたヨーロッパの線引きにより作られた現状の中東諸国・・・「サイクス・ピコ体制」を打破するのだ!」

「うーん、よくわからないけどよろしくね。
私の名前はラッキーだよ。」

「さぁ!君には仕事を選ぶ権利がある!
イス・ラム国は、君が貢献する事を望む!
仕事が終わったら椅子に座って、一緒にラム酒を飲もう!」

「会話が成り立っているのかな?かな?
ゲームって初めてだから、色々と教えてほしいよ?」

「さぁ!次の仕事から選びたまえ!」

「君、人から話を聞かない奴だとか言われた事ない?
私は君みたいな人間は嫌いかな。」

指導者はラッキーに複数の真新しい紙を渡してきます。
一方的すぎる要求でしたが、ラッキーは渋々と諦めて読む事にしました。
その紙には下記のような事が書かれています。

【資産家の家族を誘拐して、身代金を要求する仕事。拒否したら首を切断して動画サイトに投稿】
【世界各国で無差別テロをする仕事、具体的には無辜の市民の首を切断して、その動画を動画サイトに投稿】
【シリア正規軍を壊滅させる仕事】
【イラク正規軍を壊滅させる仕事】
【イラクに駐留しているアメリカ軍を壊滅させる仕事】
【石油関連施設の制圧】
【女性だから兵士達の嫁になる仕事(18歳以上じゃないと受けれません)】
【略奪】

どれもこれも碌でもない内容でした。
ラッキーは困ります。

「うーん、まともな仕事がないね。
こんなのが大人気のゲームって奴なのかなぁ?
まぁ、一番楽しそうなこれにしよう。
さっき殺されたし。」

ラッキーは【シリア正規軍を壊滅させる仕事】と書かれた紙を選び、指導者に渡しました。
指導者は満面の笑みを浮かべて、激励をしてくれます。

「おお!その難しい仕事をやり遂げようとするのか!
冒険者ラッキー!
未だに誰も成し遂げた事がない依頼を初心者なのにやる勇気やよし!
現地には冒険者が500名ほどいるから、協力して頑張りたまえ!
イス・ラム国は、君が貢献する事を望む!
君に武装トヨタ車と、3人のNPCの部下を与えよう!」

「車をくれるの?
やったー!」

ラッキーは両手をあげて喜びました。
最近、車が大好きになりつつあります。
指導者はラッキーの事を微笑ましい笑みとともに見送りました。










今、砂漠の中をピックアップ式のトラックが走っています。
トラックは壊れ辛い事で有名な日本のトヨタ車であり、砂漠の中で車が故障する事は死を意味する中東地域では、頼れる相棒なのです。
荷台の所には、黒い機関銃が一丁備え付けられて、装甲が薄い敵限定で火力が凄そうでした。
ラッキーは助手席に座って窓の外を見てゆっくりしています。
できれば自分でトラックを操縦したかったのですが、ラッキーの手足が小さくて、アクセルやブレーキに足が届かないから諦めて、NPC(ノンプレイヤーキャラ)という部下に任せました。
残りの2人の部下は荷台の方で、機関銃のトリガーに触れながら周りを見渡したり、座っています。
ラッキーは、好奇心を満たすために、運転座席にいる部下を何度も何度も質問責めにしました。
部下の頭の上には【ムハンマトさん 職業テロリスト】と表示されています。

「ねぇねぇ、指導者が言ってたけど、ノンプレイヤーキャラってなーに?」

「中に人がいないキャラの事です。
ラッキー様はテレビゲームがお好きなのですか?」

「テレビゲームはあんまりした事がないよ。
じゃ、次の質問。
君達はこの世界に何時から住んでいるの?」

「30年ほど前から、このシリアの地に住んでいます。
今のシリアは、ハッシャール・アル=サドという独裁者が権力を握り、悪魔のような男なのです。
そのせいで内戦になり、シリアの地は荒れています。
元々サドは、医者を目指していて控えめで穏やかな人間だったのですが、辛辣な政治の道に放り出され、今のような強権な独裁者になってしまったのです。」

「ここがゲームの世界だって知ってる?」

「ここは現実です。
ゲームの世界ではありません。」

「なるほど、リアリティを持たせるためにゲームキャラの認識はこうなっているのか。
さっき会話していた指導者さんは、たぶん、中身が人間なのかな?」

運転手は顔をしかめています。
さすがに何度も何度も質問されたら、運転に集中するのも大変です。
しばらく砂漠を走行すると前方で銃声や砲撃の音が聞こえてきました。
どうやら、イス・ラム国の冒険者達と、シリア正規軍が戦っているようです。
ラッキーは一応、リーダーだから指揮しないといけません。

「うーん、魔法を使わない戦い方ってよく分かんないなぁ。
どうすればいいと思う?」

首を可愛く傾げて、運転手に聞いてみると答えが返ってきました。

「どうやら現地のシリア正規軍には空軍戦力がいないようです。
このまま、戦いに参加するのがよろしいかと。
どうせ死んでも、私達は偉大な神様の力で拠点で復活します。」

「なるほど、じゃ!突撃ぃっー!」

ラッキーの可愛らしい叫び声とともに、トラックは戦場へと突撃しました。
あちこちに膨大な数のシリア正規軍の歩兵、戦車、装甲車が展開していて壮観な光景です。
シリア正規軍は歩兵を大事にする戦術を取る軍隊なので、歩兵の周りに盾代わりになる車両を展開しています。
ここからでは分かりませんが、近くに複数の機甲部隊があり、順番に入れ替えて戦う事で、敵地域を制圧する戦術【槍機戦術】を得意とする軍隊なのです。
具体的には

①小槍部隊を先遣させて、攻撃を受けたら撤退
②次に高速で生存性の高い戦車・歩兵戦闘車から成る大槍部隊が進撃。攻撃を受けたら撤退
③次の大槍部隊が進撃して、攻撃を受けたら撤退する。
④ ②~③を繰り返して、敵地域を制圧する。

この戦術を得意とするため、戦車は被弾する事を恐れないほどに重装甲なのです。
そのため、ラッキー達のトラックにある機関銃では、相手にするのが大変な相手でした。
幾ら機関銃を撃っても、分厚い装甲で防がれて、大したダメージになりません。

「うーん、魔法使えたら、全部一度に撃破できるのに、人間の武器は面倒だね。」

ラッキーは窓からAK47をドバドバ乱射しますが、ほとんど銃弾が敵に当たらず、逆に空間ごと薙ぎ払うような銃弾がラッキー達の方向に飛んでくる有様でした。
トラックを運転していた運転手は運悪く、頭に銃弾が当たり即死。
車を運転する人がいません。

「あ、死んじゃった。
ねぇねぇ、後ろの荷台の人ー。
代わりに運転してくれると嬉しいよ。」

運転手を失ったトヨタ車はシリア正規軍の大部隊のど真ん中に無謀にも突撃しました。
無数の銃口が向けられて、あちらこちらから銃弾が飛んできます。
トラックに雨のような膨大な銃弾が当たり、部下2人は即死、最後は燃料に引火して爆発してラッキーも死にました。

ドカーン

【シリア正規軍の兵士に殺された!死因は爆死だ!
ラッキーはなんて情けない冒険者だ!
神はマニュアルを兼ねている聖典『コーラァン』を読め!と嘆いておられる!
イス・ラム国の冒険者は、誰も『コーラァン』を読んでくれない!
なぜだ!?】

「人間の戦争って難しいんだね。」

砂漠に死体となって倒れたラッキーは、風のバリアーが恋しくなりました。
台風を圧縮させて高速回転している風のバリアーがあれば、全ての攻撃を防ぎながら反撃できたのになぁと悔しい気持ちになっています。

「よぉーし!
また挑戦するぞー!」

悔しいから、勝つまで何度でも挑戦してみようと思いました。





ラッキーはこれから200回ほど、シリア正規軍相手にガムシャラに戦いました。
戦いの中、AK47の扱い方、戦闘車両(トヨタ車)の上手い使い方、部下の率い方がわかり、冒険者(職業テロリスト)としてどんどん上達していきます。
でも、やっぱり駄目です。
シリア正規軍は手ごわく、軍人を殺しても殺しても戦局は有利になりません。
現実なら、一般人の振りをして戦車に近付いて、対戦車ロケット攻撃などで容易く戦車は破壊出来るのですが、頭の上に表示されている文字のせいで敵である事が簡単にばれるゲームの仕様のせいで、テロリスト戦術が通用しないんです。

戦場に戦闘機が現れるだけで、クラスター爆弾(大量の小型爆弾を散布する爆弾)を投下されて一方的に殺されて戦局が逆転しちゃいます。
だから、ラッキーは受ける仕事を変更して、資産家の家族を誘拐して、身代金で大金を儲けたり、払わなかったら首をナイフで切断してプレゼントしたり
石油施設を制圧して、密売して儲けたり
そういう仕事をラッキーはたくさんやりました。
地味ですが、どの仕事も達成すれば、組織に膨大な大金が入ってきます。
お金さえあれば、NPCを雇いたい放題なので、イス・ラム国に所属する冒険者は短期間で1万人を越え、この地球で最大規模の冒険者組織として君臨するようになりました。
ラッキーの人生経験がゲームで生かされたのです。






ラッキーがこの世界に来てから1カ月の時が流れました。
トルコという中東の強国から、移動式石油精製機を購入したおかげで、イス・ラム国はシリアの地で得た石油をトルコ、イラン、ヨルダンなど中東の国々に売り渡し、どんどんお金が入って大儲けです。
ラッキーは、石油の密売取引の責任者となり、今はトルコの偉い商人と会話していました。
商人は頭にターバンを巻いていて、熟練した雰囲気がある初老の男性です。

「ノー!ノー!」

「ねぇねぇ、もう少し高い値段で石油を買ってくれないかな?かな?」

「ノー!ノー!
安い値段じゃないと買いませーん!」

「うーん、商談って難しいね。」

ラッキーが首を可愛く傾げても、トルコの商人さんは反応すらせず、安い値段で石油を買い叩いていきます。
ラッキーは困りましたが、イス・ラム国から言われたノルマ(金額)は達成できたので、渋々諦めました。
現金の入ったケースを商人から受け取り、部下達が乗っているトヨタ車のトラックへと向かいます。
ケースを荷台に放り込み、ラッキーは助手席に乗り込みました。
ラッキーの可愛らしい命令とともに、トラックは帰路へと着きます。

「本部まで帰るよ。
トラック発進ー!」

「了解しました。ラッキー様。」

ラッキーは、イス・ラム国の本部と連絡を取るために、携帯電話をポケットから取り出して連絡を取ります。
連絡・報告・相談は社会人にとって必須といっても良い義務なのです。
しばらくプルプルプル携帯電話が鳴ると、本部の人間が電話に出てくれました。

【こちらイス・ラム国本部。】

「私は冒険者のラッキーだよ。
石油をトルコに密輸する仕事終わったよ。
買い叩かれたけど、ノルマは達成したから帰っても良い?」

【同志ラッキー。
仕事御苦労さまです。
仕事をしたばかりで忙しいでしょうが、朗報があります。】

「?
どんな良い事かな?」

【イラクに駐留していたアメリカ軍が完全撤退したのです。
今ならば、イラクを陥落させるチャンスという事で、指導者は兵力を集めています。
ラッキー様も可能な限り、兵力を集めて戻るようにとの命令があります。】

「イラク正規軍ってそんなに弱いの?
確か、アメリカ軍ってこの世界最強の軍隊だよね?
そのアメリカ軍が居なくなったくらいで、イラク落とせるの?」

【現在のイラク正規軍は、イスラム教シーア派で構成されていて新兵だらけなんです。
サッダーム・フセイン大統領が生きていた頃の強い旧イラク軍は、以前のイラク戦争でアメリカ軍の手で壊滅した上に、イスラム教のスンニ派の人材を中心にしていため、現在のシーア派を主流としたイラク正規軍では採用されず、現在のイラク正規軍はベテランの兵士が居なくて脆弱なのです。】

「なるほど、ならイラクを落とせそうだね。
じゃ、あちこち周って、兵士を募ってくるよ。」

【ありがとう同志ラッキー。
帰ったら椅子に座って、ラム酒を飲みましょう。
イス・ラム国(椅子に座ってラム酒を飲む会)なだけに。】

ラッキーは携帯電話のスイッチを押して、通信を切り、近くの街へと向かいました。
イラクといえば、石油が取れる良い土地です。
サッダーム・フセイン大統領が処刑されずに生きていた頃は、中東の優等生と言われるくらいに豊かで良い国でした。
でも、2003年頃に石油利権を発端に起きたイラク戦争で、アメリカ軍を始めとした有志連合軍に一方的にボコボコにされて荒廃した過去があります。
戦争で悪化した治安を回復させるのに5年の歳月を要し、ようやくイラクは発展して頑張ろうとしているのに、その土地に戦乱の嵐がまたもや吹き荒れようとしているようです。
ラッキーは砂漠の綺麗な空を見上げながら呟きました。

「このゲーム、何時になったら終わるのかな。
10年くらい光や水がなくても、風のバリアーから栄養を吸収すれば生きていけるけど、このままじゃ現実の身体が危ないかも・・・?
ゲームの世界から出るのってどうすればいいんだろう。」










その③に続く



[40621] 20国目 ゲームの国 (超絶ムリゲー イス・ラム国オンライン) ③ 
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2015/01/21 17:36
イス・ラム国は、トヨタのトラックを改造した戦闘車両部隊1万人を率いてイラクの各都市に攻め込みました。
ここで問題になるのはイラク軍です。
イラク軍は規模から言えば、中東で3位の軍隊です。これを上回る規模を持つ軍隊はエジプトとイランだけ。
装備も、米国や北大西洋条約機構(NATO)がイラク軍に提供した戦車336台、装甲 兵員輸送車3600台、重砲類1300台などの高機能の兵器があります。
兵器の性能は高ければ高いほど、戦術なんてものを無視して容易く覆す代物になるので、これはイス・ラム国から見れば大きな脅威なのです。
でも、イラク軍は新兵だらけで弱い軍隊でした。
イス・ラム国がイラク北部の都市モスルを侵攻しただけで、将校が部隊を見捨てて逃亡してしまったのです。
指揮は混乱し、兵士達の士気も低い。
これでは勝てるはずの戦いにも勝てません。

イス・ラム国はイラク軍90万人(武装警察も含めた数)と各地で交戦しましたが、容易くイス・ラム国の冒険者達がイラク軍を蹂躙して敗走させ、冒険者達はすぐにイラクの首都バグダッド北東約60キロのバアクーバまで快進撃を続けています。
ラッキーも、戦闘車両(トヨタ車)に乗り込んで、イラク軍を追撃してひたすら進撃。AK47の7.62mmを1分に約600発の速度で撃ちまくり、マガジンを再装填してずっと乱射しまくりです。
ラッキーはようやく一方的に無双できる展開になったから笑顔で叫びました。

「やっちゃぇー!
どんどん殺しちゃぇー!」

タタタタターン!

荷台にいる部下が機関銃を乱射し、敗走中のイラク軍らしき人達を射殺しました。
砂漠には無数の軍服を纏ったイラク軍兵士の死体が転がっています。
イラク軍は新兵だらけで構成されているせいで、戦いに慣れたイス・ラム国の冒険者に対応できません。
指揮系統が混乱して士気が低い軍隊なんて、ただの烏合の衆でした。
あっという間に潰走して、背後から追撃を受けて大被害です。

タタタタターン!

ラッキーはAK47を振りまわして、助手席から次々とイラク軍の人々を射殺して爽快感を味わっていました。
イラク軍から組織的な抵抗を受けないから、一方的にやりたい放題なのです。
しかも、現地に住んでいるイスラム教スンニ派住民が、現在のイラク政権(シーア派)に不満を持っているから、スンニ派過激派で構成されているイス・ラム国に協力的で助かりました。
でも、イス・ラム国のせいでイラク人100万人が次々と住んでいる場所から逃げ出して難民となり、国全体からみれば大迷惑です。
ラッキーはそんな事を気にせずに銃を乱射して楽しみました。
気分はシューティングゲーム。ストレス解消にぴったり、爽快感があります。

「楽しいなぁ。楽しいなぁ。
これがガン・アクションゲームの醍醐味って奴なんだね。
たまには人間の銃もいいかも。」

タタタタターン!

ラッキーが笑顔でAK47を振りまわして無抵抗の兵士達を殺す姿に、イラク軍はラッキーに恐怖しました。
うわようじょこわい。

タタタタターン!

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「虐殺幼女だああああああああああああああああああ!!!」
「うあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「ひゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

ラッキーは虐殺幼女という異名がこの戦いでつけられました。
可愛らしい金髪幼女が兵士を一方的に虐殺するギャップに、兵士達は絶望したようです。
ラッキーは他の戦闘車両部隊と一緒に、敗走するイラク軍をひたすら追撃につぐ追撃。
AK47と機関銃で、大勢の兵士を虐殺しました。
イス・ラム国の冒険者は、アフガニスタンやイラクで戦ってきた経験豊富な戦闘員が多い、それが勝敗を分けてしまったのです。

タタタタターン!
タタタタターン!
タタタタターン!
タタタタターン!
タタタタターン!
タタタタターン!
タタタタターン!
タタタタターン!
タタタタターン!
タタタタターン!
タタタタターン!
タタタタターン!
タタタタターン!
タタタタターン!

素人を寄せ集めただけのイラク軍は大被害を受けました。
この短期間の戦いで、イス・ラム国はアラブ最大級の巨大油田を制圧し、フセイン前政権の化学兵器施設を掌握、今以上に強大な軍事力を持つ組織に変貌するのは時間の問題でした。
世界中の国々が、イス・ラム国に警戒感を持ち、今までの過小評価の姿勢を変え、イス・ラム国に対処するための動きを見せつつあります。













ラッキー達はイラク軍を追撃して大被害を与えたから、現在支配しているイラク北西部の街へと他の戦闘車両と一緒に戻りました。
そこでは、地域の少数派民族やシーア派の住民が広場に集められて、次々とナイフで首を撥ねられ処刑され、その光景をイス・ラム国の冒険者がスマートフォン(電子媒体)で撮影しています。
広場の周りには大勢のスンニ派の住民が、処刑を見物するために集まっていました。
ラッキーは何でそんな事をするのか気になったので、隣にいる運転手な部下に聞いてみます。

「ねぇねぇ、なんで処刑しているの?」

「ラッキー様。
あれは我ら冒険者に逆らうとこうなる!っという事を世界に知らしめるための処刑です。
あとで動画をインターネットにアップロードして、イス・ラム国がどれだけ残虐かをシリア軍やイラク軍や民衆に教えて、戦闘意欲を喪失させる心理作戦なのです。
こうすると結果的に犠牲者は少なくなり、我らに従う民衆が増えます。」

「なるほど、合理的な処刑なんだね。
現実でも恐怖で統治とかよくある事だよね。」

「はい、そうです。」

「・・・・ゲームなのに、凄くリアルだよね。
皆、本当に生きているみたい。
いや、NPCから見れば、ここが本当の世界なのかな。
だとしたら、このゲームを作った人間達は残酷な事をするね。」

ラッキーがしばらく、このリアルすぎる世界に愚痴って、ゆっくり休んでいると、携帯電話に連絡が入りました。
携帯電話をポケットから取り出してスイッチを押すと、イス・ラム国本部の人の声が携帯電話から聞こえます。

【同志ラッキー。
イラクのモスル市で、我らイス・ラム国はイラク国軍が放置した最新米国製武器を大量に入手する事に成功しました。
これらを配りますので、モスル市にトラックで来てください。】

「?
米国製武器?
性能凄いの?」

【はい、どれもこれも我々が使っている武器よりも良い武器ばっかりです。
それと、指導者ハクダディが冒険者の国イス・ラム国の国家樹立宣言をするので、現地の住民を集めて演説を聞くように仕向けてください。】

「国家を作るの?
うん、わかった。
何分くらい後に、演説やるの?」

【1時間後です】

「なら、急がないといけないね。
電話切るよ。」

ラッキーは携帯電話の通信を切って耳を離し、車の外で警戒している部下に顔を向けて命令しました。

「偉大な指導者ハクダディが、一時間後にイス・ラム国の国家樹立宣言するみたいだから、この街の住民を集めて欲しいな。」

「分かりました。ラッキー様。
みんなー!とうとう俺達の国が出来上がるぞー!
喜べー!」

部下は建国宣言をすると聞いて喜び、車から降りて、周りに居る冒険者達に次々とこの情報を伝え、街中の住民を今いる広場へと集めようとしました。
住民は困惑の顔とともに、ぞろぞろと家を出て、広場へと歩いています。
既に広場には、処刑を見物するために集まっていた見物客で溢れていたから、広場はすぐに満杯。
住民達は不安な顔を、イス・ラム国の冒険者達に向けていました。
冒険者達の銃口は地面に向いていましたが、何時、自分達に向けられるか分からないので恐怖しています。
ラッキーの部下達は、広場の高い場所に、大きなテレビ(略奪品)を設置し、この配線で放映できるかどうかテストしていました。
ラッキーがそれを見て、部下に質問責めするから、部下達は困っています。
一応、ラッキーは幹部なので、部下達は粗雑な対応をする訳にはいきません。

「ねぇねぇ、そのテレビは何処のテレビなの?
大きいよね?
こんなに薄いのに、画面映るの?
君達、前はどんな職業についていたの?
手が器用だよね?
こんな組織に入らなくても普通に就職できたんじゃないの?」

住民達は、小さな女の子が武装集団を質問責めしている光景を見て、気分を和らげていました。
実は優しい奴らなんじゃないか?と住民に思われ始めています。












1時間後、イス・ラム国の指導者ハクダディの演説が始まりました。
黒い長衣とターバンを身に着け、白髪交じりのあご髭のおじさんです。
テレビに大きく映っています。

【全世界の冒険者よ。
この冒険者の国イス・ラム国に移住できるなら移住すべきだ。
なぜならそれは冒険者の義務だから。
シリアはシリア人のものではなく、イラクはイラク人のものではない。
この地は冒険者、全ては冒険者のものだ。】

【私は、たぶん、あなた方の中で最良の人物ではない。
だが、あなた方を統括する指導者だ。
だからもし私が正しいと思うなら私を支えてほしい。
もし私が間違っていると思うなら、私に助言し、正しい方向に向かわせてほしい。
そして私が神に従う限り、私に従ってほしい。
冒険者になってくれるNPC大募集。
月給は3万円で、とてもやり甲斐がある職場です。】

こんな感じに政治家らしいセリフを次々と喋りました。
ラッキーはどうでも良さそうな顔で、演説を聞いています。
部下や冒険者達は、大喜びで泣きながら演説に感動していました。
住民達は、話が分かる奴かも?と指導者にそういう印象を持ったので笑顔です。

「うーん、でも、これからどうするのかな?
イラクの首都バクダットを攻略しようにも、クルド人が背後から襲ってくるみたいだし、補給ルート確保できない状態で戦争やらないといけないのかな?
超大国アメリカも黙ってないだろうし、また、難易度高くなりそう・・・・。」

ラッキーは、早く現実に戻りたいなぁって思いました。
一方的に虐殺するのにもすぐ飽きて、銃での戦いに飽きつつあります。
魔法と風のバリアーと一緒に生活していた頃を懐かしく感じました。









イス・ラム国の指導者の演説を聞いた各国の対応は様々でしたが、共通点がありました。
それはイス・ラム国を国家として絶対に認めないという事です。
他国から見れば、イス・ラム国はただのテロ組織、それが世界からの評価でした。
イス・ラム国は、周辺の中東国家をほとんど敵に回し、ヨーロッパの先進国家群、中国、超大国アメリカすらも敵に回し、辛い受難の日々を建国当初から迎える事になります。
世界全体に影響力を持つ超大国アメリカのイケメンの黒人大統領さんは世界中の国々に力強く、こう語りかけました。

「冒険者の国イス・ラム国は最終的に打倒されなければならない!
こうした殺人者達が理解する唯一の言葉は力だ!
アメリカは幅広い有志連合と共に、死のネットワークの廃棄に取り組む!
具体的には、ひたすらアメリカ空軍は、イス・ラム国の指令部と拠点を爆撃して泥沼の地上戦は避け、地上戦は現地の国々や部族に任せた!
泥沼な地上戦を恐れてアメリカの陸軍は動かさないから、現地の国々頑張れ!
前のイラク戦争で正面装備だけで50兆円もかかって、米国史上最大の財政赤字になったから、明らかにアメリカだけじゃ無理だ!
世界中の国々の協力を求める!」

この演説に世界中の国々が賛同し、序盤の時点でイス・ラム国 VS 有志連合(41カ国以上)の戦いに発展してしまったのです。
ラッキーはこの時、世界情勢がこんな事になっているとは思っても居ませんでしたが、未来に不安を何故か感じていました。

「なんだろう。
凄く無理な気がするよ。
これどうやって勝利すればいいんだろう?
早く現実に帰りたいなぁ・・・」

頭の上に妖精さんがいなくて、ラッキーはゆっくりできませんでした。

検索【イスラム国
世界一豊富な資金源を持つテロリストグループ/徹底的に略奪して2000億円以上ゲッ】



[40621] 20国目 ゲームの国 (超絶ムリゲー イス・ラム国オンライン) ④ (4話構成)
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2015/01/21 17:38
全世界VSイス・ラム国同然の戦いは、熾烈な物になりました。
超大国アメリカの空軍は、恐ろしい高性能機で構成されているため、イス・ラム国は制空権なしで戦争しないといけません。
制空権がないという事は、トヨタ車を改造した戦闘用車両で移動なんてしていたら、ただの的にしかならないという事です。
イス・ラム国は支配していたイラク北部の街を次々とアメリカ軍を中心とした有志連合軍に奪還される嵌めになりました。
今も、数両の戦闘用車両(トヨタ車)で構成されたイス・ラム国の軍勢が砂漠を逃げ回り、アメリカ軍の執拗な攻撃を受けています。
その中の一両は、助手席にラッキーが乗っているトラックでした。
それを攻撃するのはアメリカの最新鋭戦闘機です。
ミサイルを次々と遠くから撃ちまくり、イス・ラム国の戦闘車両をスクラップにしています。
ラッキーは車の窓から身を乗り出してAK47の銃弾でミサイルを迎撃できないかな?と思って、乱射しますが無理でした。
一発のミサイルがラッキーの乗るトラックに一瞬で近づいて大爆発!

ドカーン

トラックをばらばらの鉄くずにしてしまったのです。
部下もラッキーも黒こげのバラバラ死体になって倒れました。
これってグロゲーですよね。

【アメリカ軍に殺された!死因はミサイル!
おお!なんて情けない冒険者だ!
と言いたいところだが、世界最強のアメリカ軍相手なら仕方ない。
こいつらは軍事費に可笑しいくらいにお金を掛け過ぎて、兵器の性能が異常だぞ!
何度でも挑戦して頑張れ!
あと、聖典【コーラァン】を読め!
あちこちで墓壊すな!墓は復活する予定の身体を収納する設備という設定があるんだぞ!
ラッキーがやった訳じゃないが、イス・ラム国はモスルにあった預言者ヨナの墓壊したろ?!
預言者ヨナを復活させるイベントが台無しだ!
誰か聖典【コーラァン】を読んでくれ!」

「うーん、アメリカ軍っていうの強すぎだよ・・・・
速いし、飛行機の存在に気づいた時には既に殺されてるのがほとんどだし・・・・もう、やだ、このゲーム。
難易度可笑しい。」

ラッキーは死体の姿で呟きました。
このゲームの世界が嫌になりつつあります。
魔法と風のバリアーがあれば、アメリカ軍なんて単独で撃破して、アメリカ大陸ごと滅亡させられるだけに、現実の世界が恋しくなりました。
なにせゲームの兵器は面倒なのです。
銃は手入れしないと壊れるし、銃弾を何処かで補充しないとすぐ使い果たすし、トヨタ車にガソリン入れないと動かないから、現実の魔法での楽な旅に慣れているラッキーには、ゲーム内での生活は面倒な事だらけでした。
更に厄介な事に、お知らせの文字が頭上に表示されています。

【大変だ!
中東の強国トルコもイス・ラム国討伐に乗り出した!
クルド人がクルド人国家を作り出すために、イス・ラム国を攻撃し始めた!
強大なイラン軍がイラク国境付近に迫っている!】

ラッキーは、短い間しか住んでないので、中東情勢がよく分かりませんでしたが、イス・ラム国が詰んでいると思いました。
なお、クルド人というのは、3000万人の人口を持つ少数民族の事です。
自治区という名前の国家と、数千台の戦車+25万人の正規軍を持ち、3000万人もいるのに世界の偉い人の都合で、少数民族として利用され続けてきた過去があります。
イス・ラム国とアメリカのせいで大混乱した中東の情勢を利用して、悲願であるクルド人国家をを世界に認めさせたり、同時に領土拡大をしようと頑張っているのです。
その悲願が完全な形で成就すると、イラン、イラク、シリア、アルメニア、トルコの領土を分捕って新国家が誕生してしまうので、シリアとイラクは南にイスラエルという強大な軍事国家、北をクルド人国家に挟み撃ちにされてしまう形になるので、新しい騒乱の火種が中東に転がっていました。
まさに中東情勢は火薬庫です。
どこをどう転んでも物騒です。
イス・ラム国が地上から消えたとしても、問題は山のように砂漠の国々に転がっています。






復活したラッキーは、シリアにあるイス・ラム国の拠点の地面にゴロゴロと寝転がりました。
偉大な指導者ハクダディが近くの椅子に座って、ラッキーを微笑ましい顔で見ています。
ラッキーは服が汚れるのも構わずに、何度も何度も地面を転がり、暇そうに愚痴りました。

「うーん、そろそろゲームやめてもいいかな?かな?
どうしたら現実に戻れるんだろう。
このゲーム飽きた。クソゲーだよ。
難易度高すぎ。」

「どうした?同志ラッキー。
アメリカ軍と戦って忙しい時期だから、早く戦場に戻りなさい。
戦力が足らなくて、皆、大変なんだ。」

偉大な指導者が優しく命令してきますが、ラッキーにはやる気が見られません。
どうやら、テロリストごっこに飽きたようです。
ラッキーは偉大な指導者のヒゲ顔を見上げながら質問しました。

「ねぇねぇ、このゲームの世界から出るのってどうすればいいの?
指導者さんって、中身人間だよね?」

「同志ラッキーが24時間接続しっ放しだと思ったら、ログアウトの方法も知らなかったのか?」

偉大な指導者は呆れた顔をしていました。
ラッキーは首を縦に振って肯定の意味を示し

「うん、そうだよ。
ゲーム初めてだから、ログアウトの方法が分からないの。」

「親御さんが泣くぞ・・・・
この3ヶ月間ずっとログインしっ放しだったろ?
学校にちゃんと行けよ。
まだ10歳なのにネットゲーに嵌っちゃ駄目だろ・・・・・
この国は働かなくても暮らせるけど、現実とゲームの両方を両立しような!」

「おじさんもずっとログインしてるよね?
無職なの?」

「いや、私はこのゲームの開発者の1人だ。
プレイヤーを盛り上げるために、仕事とかを作って、皆に渡している。
あ、これは秘密だから他の人に言うなよ。」

「ふーん、そうなんだ。
でも、もうイス・ラム国の存続って無理でしょ?
なんか戦場は凄い大軍だらけだし、包囲されてるし、アメリカの空軍が攻撃してきて大変だよ?」

偉大な指導者は少し黙った後に、ゆっくりと答えてくれました。

「いや、まだ石油の密売による利益が1日に3億円くらいあるから、これを上手く使えば兵隊を幾らでも雇えるし、民衆を盾にする非道なゲリラ作戦を展開すれば、アメリカ軍相手でも勝ち目があるんだ。
民主主義国家はテロに弱いし、長期戦に持ち込めば何時か諦めてくれる。」

「うーん、それは無理なんじゃないかな?」

ラッキーが首を可愛く傾げました。
偉大な指導者は黙ったままなので、ラッキーが続きの言葉を紡ぎます。

「アメリカ軍は石油関連施設を爆撃すると思うの。
こちらの収入源を消し飛ばしてから、世界中の国々が動くとなると 、まず勝ち目がないよ?
冒険者に給料払えないとどうなるの?」

偉大な指導者さんはようやく詰んでいる事を理解しました。

「・・・・そうか。
その手があったか。
今回もゲームリセットか。
もう少し難易度を下げた方がいいかもしれ」

ドカーン

偉大な指導者が最後の言葉を呟く前に、この拠点がアメリカ軍の戦闘機に攻撃されて、全員死にました。
ラッキーも偉大な指導者も他の人達も黒焦げの死体です。
現実なら、何処が拠点なのか入念に調べないと分からないのですが、頭上に【職業 テロリスト】とイス・ラム国の冒険者の頭の上に表示されているから、何処にいるのかバレバレでした。
隠れる事ができません。
戦闘機から見ても、位置が筒抜けです。

「もうやだ、この世界。
妖精さんの気持ちが理解できた気がする・・・・」

「難易度高くしすぎた・・・・」

【偉大な指導者まで戦死するなんて情けない!
だが冒険者は幾らでもいる!
我らの戦いは終わることはない!】

ラッキーは偉大な指導者に、再び会ってログアウトの方法を聞くのに更に三ヶ月の時を要することになりました。
イス・ラム国は有志連合の空軍に、空からぼこぼこにされ、石油関連施設は根こそぎ空爆。
周りの国々全てが敵に回りから、勝ち目がなくなり全拠点を破壊されて詰みました。

最初からイス・ラム国は詰んでいたのです。
軍事的にはテロ組織の割には異常なほどに強い組織だったのですが、外交面が駄目駄目です。
世界中の国々と敵対しちゃった時点で、勝利なんて無理だったのです。
あと、現実と違って【職業テロリスト】と表示されているせいで、テロ攻撃する前にばれて返り討ちにあったり、一般の人民にボコボコにされたりして、現実でテロリストやるよりも難易度高すぎでした。















ラッキーはゲームの世界から現実の世界にようやく戻ってきました。
今のラッキーは黒色のパンツ以外身にまとってない姿です。
体中についているコードを外して、ベットから起き上がり、軽く両手を組んで背伸びをしました。
半年間全く運動していませんが、特に肉体に影響はありません。

「ふー、やっぱり現実の方がいいなぁ。
ゲームの世界も楽しかったけど、魔法と風のバリアーが懐かしいー。」

台風を圧縮した風のバリアーが常にラッキーの周辺に展開され、魔法の力を感じることが出来て、ラッキーは幸せです。
近くに置いてあった白いローブを被るように着ると、部屋の入り口からメイドロボと、その頭の上に乗っている妖精さんがやってきました。
妖精さんがとっても怒っています。

「ラッキー!
半年もゲームの世界に行って帰ってこないなんて酷いよ!
僕、暇だったから、メイドロボさんと親友になるくらい会話しっちゃったよっ!?」

ラッキーもさすがに申し訳なく思ったので、頭を下げて

「妖精さんごめんね。
ログアウトの方法知らないから、半年間もログインしちゃった。」

妖精さんは空を飛び、ラッキーの頭の上に乗りました。
そこが居心地がいいのが妖精さんは、顔を満面の笑みで染めます。
ラッキーは、そんな妖精さんを見て微笑みました。
メイドロボさんは、ラッキーに近づいて、相変わらずの無表情のまま話しかけてきます。

「ラッキー様。
半年間、栄養を注入しなかったのですが、体は大丈夫ですか?
高速回転しているエネルギーの塊のせいで、寝ているラッキー様に何も投与できなかったのです。
注射をしようとしたら、私の腕ごと粉々に消滅しました。」

「あ、そうか。
普通の人間なら、毎日食事をしないと死んじゃうよね。
エルフは個体によって差があるけど、10年間くらい食事しなくても、風のバリアーから栄養を補給できるから、生活できるんだよ。」

「ラッキー様のおっしゃる事は、私には分かりません。」

メイドロボさんは無表情のまま不思議がりました。
ラッキーは、この地下都市を出て、旅を再開しようと思ったので、メイドロボさんに

「この半年間、ゲームを楽しませてもらってありがとうね。
また50年くらいしたら、ここにやってくるよ。
次はもっとまともなゲームがいいな。」

「そうですか。ラッキー様。
またのご来訪をお待ちしております。
次は妖精様もゲームを出来るように、専用の設備を用意しておきます。」

メイドロボさんは無表情のまま頭を下げました、
ラッキーは、地下都市の外へと向かうためにトコトコと歩き、建物を出て、新しい旅を始めます。
頭の上にいる妖精さんが、ラッキーに問いかけてきました。

「ねぇ、ラッキーはどんなゲームをしていたの?」

「うーん、全世界を敵に回す無理ゲーっかな。」

「なにそれ怖い。」









おしまい

【テーマ 2014年現在の中東情勢】

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世界一豊富な資金源を持つテロリストグループ/徹底的に略奪して2000億円以上ゲット】



[40621] 21国目 スポーツの国 ①(5話構成)
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2015/01/26 08:43

大きな体育館で、小さい金髪の女の子ラッキーはバトミントンの試合をやっていました。
バトミントンを知らない方に説明すると、ネットで二つに分けられたコートの両側に選手が位置し、シャトルと呼ばれる羽つきのボールをラケットで打ち合い、相手のコートの中にシャトルを落して得点を競うスポーツの事です。
今日のラッキーは動きやすくて短いピンク色のスカートとTシャツを着ています。
動く度にスカートがヒラヒラして、レースの可愛らしい白色のパンツが見えそうですが大丈夫です。
テニス、ゴルフ、バトミントンの女性選手が履くパンツは見られても良い見せパン(見せても良いパンツの略称)だからです。
見せパンだから、可愛らしいデザインで作られており、ラッキーは恥ずかしさを感じて居ません・・・という理屈で、一応、納得していました。
身体を良く動かしているせいか分かりませんが、顔を薄ら赤らめています。

「ちょっと、ラッキー!?
さっきからスカートがヒラヒラしすぎて大変だよっ!?
ちょっとは他人の目を気にしようよ!」

頭の上にいる妖精さんがツッコミを入れましたがラッキーは試合に集中し、ラケットの重量を無視したかのような動きで、素早くシャトルを打ち、相手選手の反撃を許さずにコートにシャトルを落して一方的に勝利していました。
逞しい身体つきの相手選手は絶望します。
ラッキーは10歳児くらいの小ささなのに、身体能力が可笑しいのです。
大人と子供が戦っているようなものなのに、ラッキーに勝てるとは微塵も相手選手は思いませんでした。
そのまま精神的にも負けた相手選手は、ラッキーの猛攻の前に敗北し、次々とシャトルをコート内に打ちこまれて、泣きながら体育館を去って行きます。
きっと、小さい娘に負けた事が恥ずかしくて悔しいのでしょう。

「うーん、なんで私と試合すると、相手は泣くのかな?」

ラッキーは不思議そうな顔で立ち去った相手選手の背中を見送りました。
すると、身長180cmほどの格好良い男性がラッキーに近寄ってきます。
青いジャージとズボンを着ているスポーツ体育会系のイケメンです。
顔に茶色のサングラスをかけています。

「そこの君!
今の試合は良い試合だった!
バトミントンで世界を目指さないか!?」

「世界?」

ラッキーは首を可愛く傾げました。

「今の試合を見て、私は感動した!
君なら世界の頂点を目指せる!
今から頑張れば、来年行われるインチョーンアジア大会2014に出場できるだろう!
どうだ?
一緒に頂点を目指さないか!?」

一方的な会話でしたが男の熱い熱意が伝わってきます。
ラッキーはバトミントンが楽しいと思っているので、顔を縦に振って承諾しました。

「うん、いいよ。
なんか楽しそうだしね。」

「よし!
一緒に世界を目指そう!
まずはアジアを制覇して、その後に世界大会で世界制覇だ!
そうだ!まだ私の名前を紹介してなかったな!」

男は両手でラッキーの肩を強く掴んで、大きな声で明るく自己紹介を始めました。
危うく風のバリアーの一部解除をラッキーが忘れてしまう所だったから、男の両手が吹き飛ぶ大ピンチだったなんて事は本人は知りません。

「私の名前は、熱血・コーチ!
君に世界の頂点を取らせる男の名前だ!
親愛の感情を籠めてコーチと呼べ!」

「うん、わかった。
私はラッキーだよ。よろしくね。」

「ラッキー・・・幸運か!
良い名前だ!
文字通り、幸運の女神様が君についているのかもしれないな!
私達の未来は、あの夕陽のように輝いている!」

コーチが指で指し示した先は、体育館の外に見える太陽でした。
まだ地平線の彼方に落ちるまでに3時間ほどの時間が必要な位置にあるので、夕陽なんかではありません。

「夕陽・・・・?まだ昼の15時だよ・・・?
この人のテンション高すぎて、ついていけないかも・・・。」

こうして二人は世界を目指すための、猛特訓の日々が始まったのです。
ラッキーの頭の上にいる妖精さんは、楽しそうな顔で二人のやり取りを見ていました。















ラッキーは、この一年間、ひたすらバトミントンの練習に励みました。
基礎体力が既に十分だったので、ひたすら強敵と書いて【とも】と書く強敵達と戦いまくり、富士山の山頂や、火山の火口、海の底、東京ドーム、国会議事堂、金閣寺、彦根城、姫路城、大阪城、大津の自衛隊駐屯地、富士の自衛隊の演習場、竹島、尖閣諸島などで激戦を繰り広げました。
そして、とうとう、国内最強の覇者【テニヌの王女様】との戦いにラッキーは挑みます。
テニヌの王女様は全身筋肉だらけで、お前の何処が女だ!とツッコミたくなるようなゴリラ女です。
シャトルを次々と手榴弾のように爆発させる技を使う厄介な選手でした。

「おっほほほほほほほ!!!!!
あなたは私には勝てないのよ!
爆発する魔球!」

テニヌの王女様が神速の勢いで打ったシャトルは、ラッキーのラケットに触れた途端、大爆発を起こしました
ラッキーは風のバリアーで爆発を防いで無傷ですが、ラケットが黒焦げでバラバラです。

「シャトル(球)が・・・爆発するっ・・・?」
魔法かな? 

「魔法?それは違うわ!
シャトルはね!
凄い速度で打てば爆発するのよ!」

「ねぇ、ラッキー。
この人、本当に人間なの?
僕達と同じ人外じゃないの?」

妖精さんが嫌そうな顔で呟きました。
爆発する魔球を撃つ【テニヌの王女様】との戦いで、ラッキーは初めての敗北を喫し、一度はバトミントンを諦めかけたりもしましたが、熱血コーチの熱烈な説得の末に修行を再開。
爆発する魔球を打ち返すために、ラケットを最大限効率よく振り回すまで練習し、その果てに爆発する魔球を自分のものにしました。
二回目の戦いでラッキーはテニヌの王女様に圧勝して黒こげにして、国の代表選手としてインチョーンアジア大会2014に参加する事が決定したのです。
ラッキーは、大勢の強敵達に見送られ、戦場(大会)へと向かうためにジャパンヤー国の代表選手団や、熱血コーチとともに大きな飛行機に乗りました。
ラッキーはとっても良い笑顔です。隣の座席で座っている熱血コーチはラッキーに熱い視線を向けていて、ラッキーがそれに微笑みを返す、そんな良い関係を構築できています。
バトミントンを通して、多数の強敵(とも)と知り合い、ラッキーの小さい身体に、今まで戦ってきた強敵(とも)の期待を背負っているのです。
大勢の強敵(とも)は、ラッキーが乗る飛行機に、外から何度も何度も声をかけ続け、ラッキーの勝利を祈っています。
絆で結ばれた美しい友情でした。皆、若い癖に筋肉がモリモリのゴリラ女ばっかりです。
基本的に身長180cmを越えて当たり前、平均身長2m以上の怪物だらけでした。
とても女性には見えません。

「頑張れ!ラッキー!小さき勇者よ!」
「爆発する魔球を攻略したアンタなら、世界を取れるわ!」
「べ、別にあんたの事なんて好きじゃないんだからね!でも応援してあげる!」
「頑張れー!頑張れー!頑張れー!殺せー!殺せー!殺せー!がんほー!がんほー!」
「負けるなー!勝てー!殺せー!」
「世界をその手に掴むんだァー!全てをねじ伏せよぉー!」
「私の教えた分裂する魔球を世界で使えよ!絶対だぞ!」

スポーツのフェアプレイの精神っていいですよね。清々しさがあります。
激戦を潜り抜けた末に、敵が友になるなんて美しいです。












ラッキーが乗る飛行機は数時間の飛行の後、インチョーンアジア大会2014の開催国であるチョウセン国の仁川国際空港に着陸しました。
ラッキーと、国を背負う代表選手達の心は緊張感で一杯で、窓から外の光景を眺めています。
インチョーンアジア大会2014では、陸上競技を始めとして、マイナー競技も含めた膨大なスポーツの大会があり、全ての国を合わせて1万人以上のプロスポーツ選手が参加するビックイベントなのです。2010年の広州アジア大会の時は参加国44国、参加選手14302人と言えば、その凄さがわかるでしょうか?
あまりにも規模が大きすぎる大会だったため、チョウセン国のインチョン市は、3300億円の借金を背負って大変でした。
財政が大赤字なのです。
そもそもインチョン市は2012年に公務員の給料遅配を引き起こし、2008-13年に月尾銀河レールというモノレールを作ったのですが、碌に技術者がいないから多数の不祥事が発生して開業できず、巨大な廃墟と化しました。
こんな状況で開催するインチョーンアジア大会2014は、インチョン市のヤケクソ気味の最後の大博打なのです。
失敗すれば、その莫大な負債はインチョン市に住む住民に高い税金として返ってくる予定です。
つまり、この大会に自治体の存亡を賭けているのです。








ラッキー達は飛行機から降りて、空港の外に止まっている大型のバスに次々と乗り込み、戦場(会場)へ陸路で向かいます。
これからインチョーンアジア大会2014の開会式に参加する予定なので、きっと観客席には何十万人もの観客が集まっている事は間違いなし。
ラッキー達はそう思っていました。
バスから降りて、大会のスタッフと通訳専門ボランティアスタッフに案内されるままに大きな大きな会場へと入ってみると

「あれ?可笑しいな?
なんで席がガラガラなの?」

広大な会場にある七万席近い観客席は、空席だらけだったのです。
開会式のチケットは、商店が抱き合わせ商法で無料配布していたのに、席がガラガラです。
ラッキー達どころか、アジアの各地から集まった一万人以上いる選手全員が驚愕しました。
あまりにも不人気すぎる大会に、不安を隠せません。

「なんだよ!これは!」

しかも、更に可笑しい事実に気付いて、代表選手達の1人が叫んでいました。
手に、大会のパンフレットを持っています。
ラッキーは気になったのでトコトコ歩いて近付いて、パンフレットの内容を見てみました。
するとそこには、ラッキー達の国がこう紹介されていたのです。

【ジャパンヤー国は周辺国とトラブルを起こす問題国!要注意!】

思いっきり、スポーツ大会に政治を絡めて、国際試合大会憲章に違反していました。
こんな事は、普通の国では絶対起こらない出来事だけに、ラッキーも代表選手達も驚きます。
政治とスポーツを絡めるとややこしい事になるため、こういう場では禁止されているのです。
それなのにチョウセン国は一方的にルールを破って嫌がらせをしていました。

「うーん、この国酷いね。
でも、不正とかしないだろうし、正々堂々と勝てばいいだけかな?」

「「「おお!そうだ!俺達は勝つぞー!」」」」

代表選手達は士気を高める事を優先して、今のパンフレットを見なかった事にしました。
しばらくすると、開会式が始まり、花火が打ち上げられます。
花火は空にこのような文字を点火で大きく表示していました。

「HELL COME(地獄が来た)」 

会場にいた一万人の選手達と観客が驚愕します。
なぜかスポーツ大会なのに、地獄が来たとか、洒落にならない文字が表示されていたのです。
恐らく、WELCOME(ようこそ)と表示したかったのでしょうが、表示に失敗してHELL COME(地獄が来た)になっていました。

WEL COME

HELL COME

でも、代表選手達は気にしない振りをします。小さい事に拘っていては、試合に影響しちゃうからです。
それに次は開会式選手団行進をしないといけないので忙しいという事情もあります。
次々とアナウンスで他の国々の選手団の行進が始まり、会場の真ん中へと向かい、すぐに順番が回ってきます。

「ジャパンヤー選手団行進!」

そのアナウンスとともに、ラッキー達は見事な整然とした行進をして会場の中心部に進みます。
そんなジャパンヤー選手団に対して、観客席にいる大量のチョウセン国人が熱い熱い・・・・罵倒を浴びせてきました。
それは憎しみと恨みだけが籠った恐ろしい罵声とブーイングです。
ジャパンヤーという国に、これほど恨まれる理由はないのですが、チョウセン国では子供の頃からやっている反ジャパンヤー教育のせいで反射的に理不尽に恨んじゃう人達なんです。
洗脳教育って恐ろしいですよね。

「ジャパンヤーの選手は帰れ!!!!!!!!!!」
「死ね!死ね!死ね!死ね!」
「犯されろ!ビッチ!糞ビッチ!」
「謝罪と賠償をしろおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「ははははは!チビがいるぞ!おい!お前達の国は小学生がプロスポーツ選手になれるのか!がははははは!!!!!!!」

代表選手達は驚愕を通り越して、呆然としています。
まさか、こんなにも酷い国際大会だとは思わなかったからです。
スポーツ選手は若い年齢で引退しちゃう苛酷な職業のため、こういう大会は貴重すぎるチャンスなのですが、観客席から罵声なんて浴びせられたら、精神的に辛くて敗北する確率が高くなってしまいます。
幸先は真っ暗でした。

「うーん、なんか、私の想像していた大会と違うな・・・・
久しぶりに酷い現実を見た感じで、カルチャーショック?」

「ラッキー、もうやだこの国。」

ラッキーの頭の上に乗っている妖精さんは嫌そうな顔をしています。
兎にも角にも、世界中から酷評される事になるインチョーンアジア大会2014は、こうして幕を開いたのです。
大勢のチョウセン国人の人達が、罵声、五月蠅い叫び声が何度も何度も会場に響き渡りました。













※今回だけ特別に大会参加国の言語が全部共通設定。
※ バトミントンはこんなに危ないスポーツではありません

テーマ【インチョンアジア大会2014】

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[40621] 21国目スポーツの国② バトミントン大会
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2015/02/02 10:34
酷過ぎる開会式は終わり、ラッキー達は宿泊先へとバスで向かっていました。
皆、精神的に疲れています。
ラッキーはそんなに精神的なダメージを受けていませんが、10~11歳くらいの幼い少女だと思われているので、熱血コーチが隣の席に座って励ましてくれます。

「ラッキー君。
あの観客達は、ラッキー君の凄さが分からないだけなんだ。
試合をすれば、きっと認めてくれる。
大会が終わる頃には、罵倒は拍手に変わっているはずだ。」

「うん、わかったよコーチ。」

「・・・・その調子なら大丈夫そうだな。ラッキー君。」

「皆のために勝たないといけないからね。
じゃないと、ここまで来た意味がないよ。」

ラッキーの脳裏には、今まで激戦を繰り広げた強敵(とも)達の姿が浮かんでいます。
熱血コーチはラッキーに熱い闘志が宿っている事を理解したので、静かに微笑みました。
ラッキーもそれに気付いて、満面の可愛らしい笑みを返します。
この1年間のおかげで二人は熱い友情と愛で結ばれていました。
描写をほとんど省略しちゃいましたが、長い長い激闘の日々と思い出があったのです。
そんな二人を見て妖精さんは、誰にも聞こえないような小さな声で

「さっさと結婚すればいいのに。」









バスはインチョン市の道路を走り抜け、チョウセン国が手配したホテルへと到着すると・・・・そこにはピンク色のラブホテルがありました。
ラブホテルとは、男女で生殖行為を行って楽しむ場所を提供する休憩所です。
こんな場所を宿泊場所として確保する時点で嫌がらせでした。
ラッキーは隣にいる熱血コーチに問いかけます。

「ねぇねぇコーチ。
ホテルなのかな?かな?」

「・・・・・小さい子供が知って良い場所ではない。。ラッキー君は勝利を目指せばそれでいいんだ。」

「うん、わかったコーチ。」

熱血コーチは疲れた顔をしていました。
代表選手達は、精神的な疲れを癒すためにバスを降りて、次々とラブホテルに入って行きます。
休憩できるならラブホテルだって構いません。
でも、ホテルのエレベーターが故障しているから、目的の部屋(22階)まで階段を登る必要がある時点で、チョウセン国側からの嫌がらせでした。
灰色の階段が遥か上へと続いています。
それを代表選手達はひたすら上りつづけます。
皆、プロスポーツ選手だから、この程度の運動は大した運動ではありませんが、多少の不便さを感じていました。








22階まで上がった代表選手達はようやく部屋で寛いで、(精神的な)疲れを癒せると思って油断しました。
チョウセン国が用意した部屋の灰色の扉を開けると、そこには

「「「「うああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」」」」

ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、ぶーん、

大量の蚊が居て襲ってきたのです。
蚊といえば、世界で一番、人類を大量殺戮している凶悪で小さい虫です。
空をぶんぶん飛んで五月蠅く、近付いて血を吸ってくるから精神と肉体の両方にダメージを与えてくる辛辣な敵なのです。
稀に凶悪なウィルスを保有しており、それを人間に感染させて対象を死に至らしめる事があるため大変です。
なお、二番目に人類を殺戮しているのは、人類と地球の統計で出ていました。
代表選手達はイライラしています。
ここはラブホテルの22階の部屋、普通はこんな高層階(蚊が住みにくい環境)に蚊は大量に生息しません。
完全にチョウセン国側からの嫌がらせです。
熱血コーチは頭をピクピク引き攣らせて、とっても怒っています。

「なんだ!この宿泊設備は!?
我々に対する嫌がらせだな!
ちょっと私は抗議してくる!
ラッキー君は蚊がいない場所へと退避するんだ!
わかったね?!」

「うん、わかったよ、コーチ。」

熱血コーチがチョウセン国に抗議するために階段を降りて行きました。代表選手達は複雑な気持ちで大量の蚊を見て、不快な気持ちになっています。
ラッキーは、代表選手達が可哀そうになったから、近くの窓を魔法で静かに開けて、魔法で作り出した風で一気に蚊を全部ホテルの外へと叩きだしました。
蚊が勝手に外へと飛んでいった事に代表選手達は驚きますが、部屋が快適になったから、ただの幸運だと思って気にしない事にしました。
この階層のエアコン・排水が故障している問題も気にしない気にしない。
どうせ、チョウセン国からの嫌がらせです。
代表選手達は、試合に集中するために、それらの嫌がらせを見ないように必死です。
こんな事でイライラしていたら、試合で敗北する確率が高くなってしまいます。
戦いは精神的なものを含めて既に始まっているのです。

「とりあえず!チョウセン国から支給された弁当を食おうぜ!
お腹が空いたら戦もできねぇよぉー!」

代表選手団の一人がこう言ったので、皆は食事を取る事にしました。
ラッキーは、コーチと一緒に食べたいから、コーチが帰ってくるまで大人しく待ち、聞き耳を立てると、他の階層にいる外国の代表選手団の叫び声が聞こえてきます。

「なんで弁当が配達事故で届かないんだよぉー!腹減ったぁー!
餓えたまま試合に出場しないといけないのかよぉー!
早く弁当を配達してくれぇー!」

「うあああああああああああああ!!!!食糧を自炊したら、チョウセン国人の選手が嫌がらせに異物を混入してきやがったああああ!!!!!!!
モンゴルヤー国はこれに抗議する!」

「なんで、昼飯がパンと牛乳、チョコバー!?!!質素すぎる!」

「焼き肉とキムチしかない。」

「ちょっと近くの食堂で食べてくる。
その方が美味しくて安全だ!」

ラッキーはちょっと不安になりました。
ひょっとしたら、弁当に毒入ってるんじゃないかな?って。
でも、コーチが丁度帰ってきたから、仲良く談笑しながら    弁  当  を食べちゃいました。
後に、この地で戦うには、忍者のように食事を自分で用意する必要がある事を、世界中の皆が知る事になります。
自炊しても異物を混入される事件が発生したので、ちゃんと警戒もしないといけません。











翌日、桂陽体育館でバトミントン大会が開催されました。なぜか対戦表が操作されて、チョウセン国の選手が有利になるように対戦表が作られていますが、熱血コーチは全ての試合に勝利すれば良いだけだと思っているから余裕ぶっています。
あと、バトミントンという競技は、シャトル(球)に羽がついているため、とても風の影響を受けやすいので必然的に屋内でしか公正な試合が成り立たないスポーツです。
試しに風がある日に屋外でバトミントンをやってみてください。
難易度が高くなり過ぎて、打つのが極端に難しくなります。
ラッキーは可愛らしいピンク色のスカートと、リボンのついたTシャツの格好で試合に臨み、次々と強敵を打ち破りました。
可愛らしい掛け声とともに、鍛え上げた必殺技が炸裂なのです。

「えい!」

「球が分裂?!!?!!」

分裂する魔球で敵を翻弄し、反撃を許さず圧勝

「えい!」

「ぐぁー!」

【対戦相手死亡!ラッキー選手の勝利!】

爆発する魔球で、相手のラケットを人間ごと粉砕して勝利

「えい!」

「棄権しま・・・カチコーン」

【対戦相手死亡!ラッキー選手の勝利!】

凍らせる魔球で全身を凍らせて勝利。
次々と勝ちまくって、すぐに準々決勝でした。
対戦相手はチョウセン国のカン・コク選手です。
顔にエラがある女性で、憎しみと恨みの感情をラッキー選手に向けて叫んでいます。

「あんたには絶対に負けないわ!」

尋常ならない気迫です。ラッキーはカン・コク選手との戦いを楽しめそうだなと思いました。
試合は審判の「ラブ オール プレー!」の叫びとともに始まり、ラッキーはシャトルを左手で空に飛ばし、素早く右手で握ったラケットで打ちました。
シャトルは10個に分裂し、チョウセン側のコートにすんなり落ちます。
あっさりと得点を取られたカン・コク選手の顔が憤怒の表情に染まっていて冷静じゃありません。
第一ゲームは、この調子でラッキー優勢で進んでそのまま終了し、ラッキーは笑顔です。
この調子で勝てれば、準決勝。
アジア地域の頂点はもうすぐでした。
でも第二ゲーム開始から異変が起きます。審判の「セカンドゲーム ラブ オール プレー!」という試合の開始を告げる言葉とともに、ラッキーがシャトルを空に向けて投げると、向かい風が吹き、シャトルが飛ばされてしまったのです。
シャトルはそのままラッキーのコート外に落ち、一点を取られてしまいました。
審判が「カン・コク選手 ワン(1)!」と叫び、得点をカウントしています。
気にせずにラッキーは試合を続行しましたが、5回ほど強い風が吹き、不利な結果を齎していくので疑問を抱きました。
強い風でスカートがめくれて、可愛らしいレースの白い見せパンツも見えて大変ですが、これは他人に見られても良いパンツだから恥ずかしくないんです。

「?
なんで風が吹くんだろう?」

「ラッキー、パンツ見えてるから少しは隠そうよ・・・観客席の男達がジロジロ見てるよ?」

妖精さんの呟きに少し反応してスカートを手で抑えながら、疑問を解消するためにラッキーは周りを見渡します。
ここは競技場の屋内施設なのに、何故か強い風が吹いたのか原因を突き止めようとしました。
すると上の方にあるクーラーが力強く作動し、強い冷風を送りつけている事をすぐに理解します。

(偶然かな?
わざと試合を妨害しているのかな?
とりあえず抗議しよう。)

ラッキーはクーラーの方向を指で指し示しながら、黒いジャージを着た審判に向かって抗議しました。

「審判さん。
あのクーラーから吹き付ける風が邪魔です。
止めてくれませんか?」

「ノー!
電力の節約のために、on offを繰り返しているだけだ!
大人しくさっさと試合しろ!
ジャパンヤー人の抗議は一切認めない!
ノー!ノー!ノー!」

審判から帰ってきた言葉は、抗議の破却です。
クーラーは、最初の消費電力100%近くで分回って冷気を作り、そこから消費電力を20%前後まで落として巡冷させる仕様のため、スイッチのon offをしても節電にはならないのです。
審判の言っている事は、ただの言い訳でした。
つまり、これはチョウセン国側からの試合への妨害工作という奴なのです。
ラッキーはちょっとイライラしています。
スポーツはフェアプレイの精神が大切で、だからこそ熱くて盛り上がるのに、こんなインチキをされたら気分が台無しです。
だからラッキーは、魔法を使う事にしました。
風の刃を100ほど作り出し、屋内にあるクーラー全てに向けて射出して一気に破壊しました。
クーラーのバラバラ破片があちらこちらに落下して五月蠅いです。

ガシャン ガシャン  ガシャン ガシャン ガシャン ガシャン ガシャン ガシャン ガシャン ガシャン

クーラーを全部破壊した事で、屋内にいた選手全員が呆然とし、空気を冷やしてくれる設備がないから温度が少しづつ上がって辛くなりました。
ラッキーはカン・コク選手に微笑みながら

「じゃ、試合続けようか。
ごめんね。
審判への抗議のために、試合を勝手に中断して。」

カン・コク選手は、ラッキーの笑みを見て怖い幼女だなぁと何故か思いました。
微笑んでるのに、睨んでいるような、そんな怖い不思議な顔です。
きっと、ロリババァの貫禄がなせる顔と言う奴でしょう。
試合結果は当然、クーラーによるインチキ向かい風戦法で妨害されなくなったので、ラッキーの大勝利です。
カン・コク選手は爆発する魔球で死にました。
準決勝で、爆発する魔球を連発して大勝利、途中でなぜか20分ほど停電する事故が発生して試合が中断されています。
決勝で、競技場を破壊して廃墟にしちゃう激戦をやった末にラッキーは金メダルを得ました。
表彰式の台の上に立ち、ラッキーは金メダルを周りに見せびらかしながら良い笑顔をしています。
マスコミ達は無数のカメラをラッキーに向けて、パシャパシャ撮っていて眩しいです。
小さい金髪美少女が優勝して金メダルなんて、そう滅多にない事態だから、いつもよりも多くのマスコミの人達が周りに居て華やかでした。
死んだ選手達がなぜか蘇って、ラッキーに盛大に拍手していますが、気にしてはいけません。
大抵、こういう格闘技物(球技)での死は、死んだ死んだ詐欺だからです。
これを専門用語で【これで何回でも人気キャラを使い回せるな! by 週刊少年ジャ●プ】といいます。

「お前強いな!次はオリンピックで雌雄を決しようぞ!」
「それにしても、この大会は序盤だけはクーラーの風が凄かったな!」
「爆発する魔球・・・やりおるわ・・・・」
「ふはははははは!世界は広い!」
「小さき勇者よ!試合後に私のラケットをプレゼントしよう!」

無論、皆、平均身長2mくらいの怪物です。
妖精さんは、彼女達を見て嫌そうな顔で呟きます。

「この競技、化け物しかないからやだ。」








ラッキーは金メダルを持って、熱血コーチがいるかもしれないラブホテルへと向けて走っています。
最初は表彰式を行った会場の周りを探したのですが、何故か熱血コーチを含め、ジャパンヤー国のスタッフの姿がなかったので、ラブホテルにいるんだと思いました。
ラッキーとコーチは、なんだかんだいって、一緒に1年間、共に戦いぬいた仲。
愛に変わるかもしれない深い絆で二人は結ばれているのです。

(コーチは喜んでくれるかな?
でも、なんでコーチは会場に居なかったんだろう?
私の優勝を喜んでくれないのかな? )

ラッキーは笑顔のまま、インチョン市内を駆け抜けて、コーチのいるラブホテルへと向かうと・・・ホテルの入口に救急車が複数止まっていました。周りを救急車の頭上に設置している緑色の回転灯が照らしています。(日本だと回転灯は赤ですが、この国では緑色が多いのです。)

「え・・・・・?
まさかテロ・・・・?」

悪い予感がします。
ひょっとしたら、テロがあったのかもしれません。
人間が簡単に死んでしまう事を知っているラッキーは、慌てて何があったのかを知ろうと近付きました。
よく見たら、救急車の隊員達が、顔を真っ青にしているジャパンヤーの代表選手達や、目を瞑って気絶しているコーチを運搬しています。
思わずラッキーは、コーチが運ばれている担架に駆け寄って叫びます。

「コーチ?!
どうしたんですか!?」

コーチはラッキーの言葉で目を覚まし、手を震わせながらゆっくりと

「・・・・ラッキー君・・・か・・・・
どうやら・・・チョウセン国から支給された弁当に・・・・賞味期限が切れていたり・・・サルモネラ菌・カンピロバクターが入っていたようだ・・・
ぐああああ・・・お腹が痛い・・・・」

「ま、まさかっ!?
これはチョウセン国の卑劣な罠!?
しっかりしてください!コーチ!」

ラッキーの悲痛な叫び。
でも、現実は非情です、
コーチは死にそうな雰囲気を漂わせ、最後の力を振り絞って言葉を紡ぎました。

「・・・ああ・・・・お腹が痛い・・・・
あとの競技・・・全て・・・君に・・・・任せた・・・・勝て・・・勝つんだ・・・ラッキー・・・・
私の幸運の女神・・・君が・・・勝つ姿を・・・見たか・・・た・・・・ガクリ」

コーチは項垂れて気絶しました。
ラッキーは泣け叫んで、コーチに抱きつきます。

「コーチが死んじゃったあああああ!!!!
いやあああああああああああああああああああ!!!」

特に死んでいません。
サルモネラ菌による食中毒でお腹が痛すぎて大変なだけです。
ラッキーもコーチと同じ弁当を仲良く食べていましたが、エルフの身体が丈夫すぎて何ら影響を与えていませんでした。
30秒ほどコーチに抱きついたまま泣いていたラッキーでしたが、コーチに最後に言われた事を思い出して、唐突に宣言します。
このラッキー、熱血コーチのせいで完全に今までとは別人です。

「コーチやります!
私、全ての競技は時間的に不可能ですけど、可能な限り、色んな競技に出て勝ちます!」

国際大会では、一人の選手が違う競技に幾つも出る事は制度上可能ですが、競技によって鍛える場所が違うので勝つのが難しく、こういう無茶をした事で有名なのは8種目に出場して金メダル全部獲得したアメリカの水泳選手のマイケル・フェルプ選手です。
恐ろしい体力が必要であり、魔法なしで挑むとなると、ラッキーは肉体の限界に挑戦しないといけません。





なお、チョウセン国には、救急車に道を譲る習慣や、法律を守る意識がないから、病院に到着するのに恐ろしい時間がかかってしまい、代表選手団の病状が悪化してしまった事を後でラッキーは知りました。







※現実のインチョンアジア大会では毒弁当を廃棄して、事前に食中毒を防いでいます。
※毒弁当ネタは本当にあったネタだけど、現実の代表選手団は壊滅してません、ラッキーを多数の競技に参加させるためのネタです。



[40621] 21国目 スポーツの国③ ボクシング
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1047c68c
Date: 2015/03/02 23:08
ジャパンヤー代表選手団は、チョウセン国の策略で、毒入り弁当を食べさせられ食中毒で壊滅状態でした。
だから、ラッキーは特例として、男子・女子の競技関係なく、次々と出場して試合をしています。
今はドリームパーク近代五種フェンシング競技場で、フェンシングという細い剣を相手に当ててポイントを競う競技をしていました。
3分間×3セット、合計15ポイント先取で勝敗が決定します。
ラッキーに見合うサイズの防具と面が用意できなかったから、相変わらず短いピンク色のスカートと白色のシャツのまま戦っています。
激しい攻防の最中にスカートがめくれて、レース入りの可愛らしいパンツが見えそうになったりしますが、見せるためのパンツだから恥ずかしくないんです、そう納得しているようですが、ラッキーの顔は真っ赤でした。
顔が赤いのは、きっと激しい運動をしているせいでしょう。
これが周辺諸国中のテレビで放映されちゃったりしています。

「えい!えい!」

「ええい!これがうわようじょつよい という奴なのか!?」

今、戦っている相手はチョウセン国のファビ・ョォーン選手です。細身の身体に筋肉が詰まっている男性でした。顔に面を被っています。

「えい!えい!」

「認めたくないものだな!チビ娘相手に劣勢な自分を!」

ラッキーが一方的に細い剣で攻撃しまくって、ファビ・ョォーン選手は劣勢でした。
ラッキーは初心者の癖に、身体能力だけで全てをカバーしています。
ファビ・ョォーン選手の剣なんて容易く回避し、逆に相手を刺していました。
刺されすぎたファビ・ョォーン選手は身体の各所から出血して命が危ないです。

「えい!」

「やらせんはせん!チビ娘に負けたりせんぞぉー!
うわようじょつよ・・ヒデブっ!」

「えいえい!」

ラッキーの剣が、ファビ・ョォーン選手の頭を切りつけて大ダメージです。
血がどばどば、ファビ・ョォーン選手の頭から溢れていました。
そのままラッキーの圧倒的優勢で試合が終わり、あとは勝利宣言を待つだけという状況になります。

(完全に私の勝ちだよね。
この競技楽勝かも。
金メダルをたくさん見せたら、コーチは喜んでくれるかな?)

ラッキーは勝ったと確信して、観客席にいる若い男達を魅了しかねない良い笑顔をしていました。
ですが、現実は非情で理不尽。
顔にエラがある審判さんがこう叫んだのです。

「ラッキー選手の決勝ポイントは無効!
よって!チョウセン国のファビ・ョォーン選手の勝利!」

「え!?」

ラッキーは驚きます。
明らかにラッキーの勝利だったはずなのに、なぜか相手選手が勝利した事になっていたからです。
ラッキーは審判に走って詰め寄り、抗議しました。
でもラッキーの背が低すぎるから、迫力がありません。
審判は馬鹿にしたような眼でラッキーを見下しています。

「さっきの戦いは私が優勢だったよ!
ほら見て、私、無傷だよ!?
相手選手は血まみれだよ!?
インチキよくない!」

「ノー!ノー!
抗議は認めない!
あれは我が国の無敵防御ルール!(※そんなルールありません)
幾ら攻撃されても、ラッキー選手に加点されず無効になる!
これ以上抗議するなら、バトミントンで得た金メダルの資格を剥奪するぞ!」

「ひ、酷い!」

「もうやだ、この国。」

妖精さんが嫌そうに呟きました。
なんだかんだいって、ラッキーが一年間楽しそうにスポーツに打ち込み、熱血コーチと良い仲になっている姿を見て、妖精さんはニヤニヤしていたのですが、この国に来てから、スポーツのフェアプレイの精神が全く見られない試合ばっかりだったので、嫌そうにしています。
ラッキーは、勝利したのに勝手に敗北認定されたから、悔しくて涙目です。
審判さんはゲスな顔で、ニヤニヤしていました。

(この国、消し飛ばしていいかな?かな?
この半島の地形丸ごと海にしてもいいよね?
その方が海産物がたくさん取れて美味しいよ?)











それからも幾つものの競技にラッキーは出ましたが、チョウセン国側からの妨害・不正行為に困る事になりました。
10mエアライフル団体戦で優勝したら、銃重量オーバーと一方的に顔にエラがある審判に言われて失格させられたり
競泳会場で水着の用意がないから、下着姿で出たら失格させられたり、出場する前に4日間連続でドーピング検査と称して血を毎日抜かれる嫌がらせを受けたり(なぜかプールと台が一直線じゃない可笑しい競泳場でした)
体操男子床に出場したら競技開始から立ったまま3分以上待たされる事態になり、スカートを履いたままやったから会場中に見せパンツを見られた末に、一方的に減点される不正行為をやられて、ラッキーは涙をポロポロ出しています。
全世界にパンチラ大公開。
見せても良いパンツだから恥ずかしくないもんという理屈に疑問を抱いています。
白いレースの可愛らしいパンツは、可愛いからこそ、逆に恥ずかしい気がしたのです。

(よく考えたら・・・スカートじゃなくて、スパッツ履けばいいのかな。
見せても良いパンツって、男の人から見たら、ただのパンツだよね。
なんで、私、こんな理屈を納得しちゃったんだろう。
スポーツって、女の子のパンツを見せるために行う競技なのかな?)

この時点で、スポーツに対して幻滅していました。
でも、熱血コーチの事や、ジャパンヤーの各地で戦った強敵(とも)の事を思い出して、必死に戦い続けます。
ラッキーはスカートの代わりにスパッツ(腰から脚までにぴったりとフィットするズボン)を着て、残りの競技に出場しました。
なぜか、観客席からパンツ見せろというブーイングの嵐でしたが、ラッキーは無視しました。
パンツを見せるためにアジア大会に出場した訳じゃないからです。








この酷過ぎる大会は、ラッキー以外にも苛酷な戦いを強いました。
各国の選手達が何人も行方不明になったり、中東地域からやってきた選手達が教会の人達からテロリスト呼ばわりされたり、チョウセン国人は徹底的に嫌がらせをして、選手達を疲れさせて寝る事を許しません。
挙句の果てには、試合前にドーピング検査と称して血を抜いたり、同じ選手から4回も血を抜いたりして寝る事すら妨害、徹底的に選手達を苛めぬきました。
特に最悪なのは、チョウセン国のお客さん達と大会スタッフです。
顔にエラがあるお客さん達は恐ろしいほどに五月蠅く、試合を妨害して罵声を浴びせてきます。
注意すると逆切れして、もっと大変な事態になるから、歯止めが利きません。

「おい!ジャパンヤー国のラッキー選手ちゃん!
何で1人で複数の競技に出てるんだ!?
身体で審判を買収でもしたのか?!
あはははははは!!!!
あとパンツ見せろ!パンツ!スパッツなんか履くんじゃねぇー!」

「死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね! 」

「あの外人!転倒したぞ!あはははははは!!!!」

「おい!イスラム教徒はテロリストなんだろう?」

選手達は連日のように次々と行方不明になって行方を眩ませました。
こんな酷い開催国はそう滅多にありません。




こんな苛酷な大会で、多数の競技に出場する事になったラッキーでしたが、体力的にヘロヘロになっても彼女は決して諦めません。
コーチと約束したからです。
【勝て】と。
ラッキーは、今、ボクシングの試合に出ています。
専用の服を用意していないから、スパッツとTシャツという簡素な格好です。
ラッキーは対戦相手を次々と一撃、もしくは数撃で倒し、勝利しています。
基本的に、体術は得意なので、この分野で負けるなんてありえません。
でも、ラッキーは緊張して冷や汗を流しています。
次の対戦相手がチョウセン国のヒ・ビョウ選手だからです。
必ず何らかの不正・インチキ行為をしてくる人達なので、 ラッキーは判定勝利に持ち込まれないように倒そうと思いました。
必殺右トルネード回転パンチ!

「えいっー!」

「ぎゃー!」

ヒ・ビョウ選手をラッキーは徹底的に殴って殴って殴りました。
ラッキーの体格は10歳児くらい、ヒ・ビョウ選手の体格は成人した大人の身体なので、これはありえない光景です。
ラッキーは頭、腹を殴りまくって、ヒ・ビョウ選手をすぐに倒そうと頑張ります。
でも、ヒ・ビョウ選手の耐久力は凄く、試合時間が終了するまで粘られ、勝敗は審査員による判定に委ねられました。
ラッキーは緊張した気持ちとともに、顔にエラがある審査員達を睨みます。
どうせ、不正行為をやってくるからです。
審査員達は次々と点数を言って、こう宣言しました。

「ヒ・ビョウ選手の勝利!
ラッキー選手の負け!」

「く、悔しいっ・・・!」

ラッキー、涙目のまま、床に座り込みました。
もう、スポーツに幻滅しすぎて大変です。
ヒ・ビョウ選手は死にそうなくらいに、あちこち血まみれ、それに対しラッキーは無傷なのに一方的な審査で敗北認定されてしまったから腹が立ちました。
あまりにも悔しかったのでラッキーは妖精さんに怖い声でゆっくり語りかけます。

「ねぇ妖精さん。」

「どうしたの?ラッキー。」

「この国、魔法で消滅して海に変えてもいいかな?かな?
こんな国なくてもいいよね。
海にしたら、たくさん海産物が取れて皆幸せだよ。」

「駄目ぇー!それは駄目ぇー!
熱血コーチが病院で入院しているから、コーチも死亡しちゃうよ!?」

妖精さんが止めなかったら、危うくチョウセン国が魔法で消滅して海になっている所でした。
インチョーンアジア大会2014は、このような悲劇で満ち溢れています。
現実は書き手の許容量を超えた膨大なイベントが発生するから、どんな小説よりも凄いんです。
これだけ書いても極一部しか描けないのです。








続く。



[40621] 21国目 スポーツの国 ④ マラソンと障害物競争
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1767fbcf
Date: 2015/04/13 12:32

こういう国際的なスポーツの祭典中は、聖火と呼ばれる大切な炎が、主競技場でともされ続けるのが常識となっています。
聖火はオリンポス山で太陽を利用して採火された貴重な炎を現地まで輸送したものであり、閉会式の最後に消灯されるのですが・・・インチョンアジア大会の会場の聖火は鎮火していました。
天候不順とか事故とかそういうのではありません。
チョウセン国側の不手際です。
大会期間に聖火が消える事例は非常に異例だから、皆が大慌てて、新しい火を灯していました。


そんな光景を見ながらラッキーは、そろそろ旅に出たくなっています。
可能な限り、多数の競技に出場したのですが、ジャパンヤー国の選手の点数は低く抑えられ、タイムすら放送されません。
男子クリケットにも出場しましたが、試合を延長せずに勝敗をコイントスで決定する有様です。
卓球女子団体なんか、台が斜めでネットの高さがおかしく、チョウセン国側からの嫌がらせが盛りだくさんでした。
テニスなんか、他の大会(チャイナオープン、楽天ジャパンオープン)と日程が重なるようにスケジュールされていたので、ジャパンヤー国と中国ヤー国の選手は参加できませんでした。
これらの不正行為は、他の試合でも多数見られ、イラン、モンゴル、マレーシア、タイヤー国を始めとした国々を激怒させて、各所で裁判沙汰になっています。
特にタイヤー国のタイ国王にウンコを食べさせる画像をチョウセン国の人達が作り、インターネットと呼ばれる情報流通網に画像をばら撒いたから、タイヤー国の民衆が激怒しています。
タイ国王はタイヤー国民からとっても慕われており、人民の最高点に立つ人物とされ、日本でいう天皇陛下みたいなお方なので、タイヤー国民の怒りはとても大きいのです。
ラッキーは醜い騒動だらけでスポーツが嫌になったから、頭の上にいる妖精さんにこう語りかけました。

「旅に出てもいいかな?
スポーツのプロの世界ってこんなに汚くて辛いんだね。
私はアマチュアのままでいいよ。」

「ラッキー、あと少しで大会終わるから、それまで頑張ろうよ・・・」

悲しそうな顔をしている妖精さんに辛抱するように言われたから、ラッキーはそのまま次の女子マラソンに出場しました。舞台は道路です。
マラソンとは長期間、長い距離を走り抜ける苛酷なスポーツ。
持久力と耐久力がものをいいます。
しかもマラソンを始めとした陸上競技は見てて面白いと思う人が少ないから商業的価値が低く、世界の頂点を取っても、大して報酬が出ないので、何処かに勤めて働かないと暮らしていけません。
そのため、陸上競技の選手はお金欲しさじゃなくて、好きだからやっている。そういう人達です。
将来性皆無の陸上競技で、そこまで努力できる人は【陸上競技が好きだから】という人種じゃないと務まらないんです。
ちなみにラッキーは走ったり、歩くのは、旅で慣れているので、マラソンは得意分野でした。
スカートではなく、スパッツを履いているおかげで、恥ずかしい思いをせずに競技場を走っています。
周りが大人達の中で、金髪の小さな女の子がいる光景はとても微笑ましく、ラッキーのおかげでマラソンのTV視聴率がアップしていました。
道路にいるチョウセン国人からも熱烈な声援が、ラッキーに向むけられています。

「ち!スカート履けよ!パンツ見せろよ!パンツ!
お前のパンツ見るために来たんだぞ!」

「おい!そのチビ!幾ら金を出したらやらしてくれるんだ!?」

「ジャパンヤー国人は死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね! 」

観客からの熱い声援が、ラッキーに次々と降り注いでいました。
ラッキーは泣きたい気持ちです。
プロスポーツのアジア頂点を決める戦いが、こんな凄惨なものだなんて、思ってもみなかったから、走りながら泣いてました。

(私、なんでこんな辛い思いして、走ってるんだっけ・・・?
もう、諦めてもいいかな・・・?)

こんな事を思いながら走っていますが、ラッキーはどんどん周りにいるマラソン選手を追いぬいて首位争いに参加しそうな速度で走っています。
さすが旅慣れたロリババァです。エルフの身体能力は伊達ではありません。
このままだと一位を追い抜くのも時間の問題。
でも、油断すると観客達からレーザーが、ラッキーの目玉に向けて飛んできました。
ラッキーは風のバリアー + 魔法の二重防壁を展開してレーザーを完全に防ぎます。
怒ったラッキーは冷たい口調で、頭にいる妖精さんに語りかけました。

「ねぇ、妖精さん。
観客全員殺していいかな?かな?
攻撃してきたから殺していいよね?」

「ラッキー!
それは駄目ぇー!
マラソン棄権していいから、殺すのは駄目ぇー!」

「うん、そうだね。
棄権しようか。」

妖精さんの説得の末、ラッキーはマラソンを棄権しようとすると、スポンサーを喜ばせるためにペース配分なんかせずに先頭を全力で走って疲弊しているチョウセン国のオ・ビワン選手が体当たりを仕掛けてきました。
顔にあるエラが特徴的な人なのです。

「ふはははははは!怪我させてやる!」

どうやらラッキーを転倒させて怪我させるのが目的のようです。
うっかり風のバリアーを解除するのをラッキーが忘れたので、そのままオ・ビワン選手は風の超高速回転に巻き込まれてバラバラ死体になり、周り中に肉と血液が降り注ぎました。
観客達もマラソン選手達も、肉と血を浴びて真っ赤です。

「きゃぁー!人が死んだぁー!」
「なにこれー!?」
「犯人はラッキーだ!間違いない!」

観客からたくさんの悲鳴が上がっています。
そして、何故か、マソランに使っている道路が、波打つようなポンコツ道路で不思議です。
ラッキーは走るのをやめて棄権しました。







スポーツに幻滅したラッキーは陸上競技場の女子3000メートル障害物競争に出たら、スポーツ辞める事を決断しました。
ラッキー達を始めとした選手達は身軽そうな短いスポーツ用の服を着ています。
場所は仁川アジア主競技場(陸上)です。
ゴム製の地面は柔らかく、走るのに丁度良さそうでした。
ラッキーはスタート位置について、走るための体勢を取り、スタートを待ちます。
審判がピストルを頭上に構えて、引き金を引くと

ターン!

ピストルの銃声と白い煙とともに、女子3000メートル障害物競争が始まりました。
ラッキーは凄い速度で競技用のコースを走り抜け、コース上にある障害物を飛び越して他の選手達を引き離します。
でも、心に余裕はありません。
きっとチョウセン国の人達が、絶対嫌がらせをしてくると、確信していました。
警戒しながら障害物を次々と飛び越えて、3000メートルを走り抜けて・・・・独走したままゴール!
不思議な事に、妨害行為もなく、優勝して金メダルです。

「あれ・・・・?
妨害してこない・・・・?
やったー!
金メダルだぁー!」

ラッキーは、ゴール近くにいた黒人さんに嬉しさの余り、抱きつきました。
黒人さんは困惑していますが、小さい娘に抱きつかれて微笑ましい笑顔を浮かべています。
今まで散々、酷い不正行為をやられただけに、ラッキーは感動して泣いていました。
妖精さんは、そんなラッキーを微笑ましそうな眼で見ています。
熱血コーチは病院から、テレビ中継を通して、ラッキーの勝利を見て泣いて喜んでいました。
友情(愛)!努力!勝利!
それがようやく叶った瞬間です。
スポーツはやはりいいですね。









しばらくすると陸上競技関連のほとんどの競技が終わり、とうとう表彰式です。
陸上競技は、オリンピック種目でAランク判定されている凄いスポーツなので、ここでメダルを取る事は凄い事なのです。
次々と各種種目で1位の金・2位の銀・3位の銅メダルを取った選手達が表彰され、メダルを渡されて行きます。
共に戦った選手達から拍手が送られて爽やかです。ラッキーも清々しい気持ちになりました。
それが何十回と繰り返され、ようやくラッキーの出番です。
金メダルを二つも獲得したという事もあって、皆が注目しています。
表彰式の場所は、三つの段が作られ、金メダル獲得選手(ラッキー)が一番高い段に立ち、次に高い段に銀メダル、一番低い段に銅メダルの選手が立って、視聴者や観客から誰がどんな成績を取ったのかわかりやすく配慮されています。
ラッキーは一番高い段の上で、満面の笑みを周りに向けていました。
各国の選手達も、ラッキーに向けて微笑ましい笑みを向けて拍手しています。
ラッキーは、人生最高の気分です。
こんな栄誉ある舞台に短期間で二度も出れるなんて、そう滅多にできる事じゃありません。

(やったよ。
コーチ!私頑張って金メダルをまた獲得したよ!
喜んでくれるかな?
やっぱりスポーツを諦めずにやった方がいいかも。
金メダル取れて嬉し)

【ラッキー選手に不正行為があった事が判明しました!
金メダル取り消しです!】

「え?」

突然、表彰式の場で、金メダルを取り消すチョウセン国側の放送があったのです。
完全に嫌がらせでした。
普通、表彰式の場で金メダル取り消しなんて事はありえない事態です。
放送は続き、内容は以下の通りでした。

【ラッキー選手はコースから外れて走っていました!
第2コーナーを回る際にコースをはみ出したのです!
失格!失格!
金メダルは認めません!
チョウセン国の宗主国様の選手が、繰り上げで金メダルという事になります!
おめでとうございます!
宗主国様!
これも全て私達の努力のおかげです!
褒めてください!】

「そんな・・・・そんな・・・馬鹿な・・・私、コースから外れないように注意して走ったのに!
私、スポーツやめる!」

ラッキーは涙をぽろぽろ流します。
そして、場から逃げるように、去っていきました。
各国の選手達が、不憫な顔をラッキーの後ろ姿に向けています。
2位の中国ヤー国の選手が繰り上げで金メダル獲得して大喜びです。
その傍で、大会スタッフが賭けトランプやって遊んでいました。
他の会場にも、何故か大会スタッフ用の賭博場があちこちにあります。

「1000ウォン賭けた!」

「こっちは10万ウォン!」

「ラッキーっていうチビのパンチラ写真!
白いレースと綺麗な肌がいい!」

「もう価値ねぇよ。そのパンチラ写真。
全世界に放映しただろ。」

女子3000メートル障害物競争の最大の障害物は、コースに設置された障害物ではなく、チョウセン国人が最大の障害物だった事を、ラッキーは短時間の間、すっかり忘れていました。
でも、理解していても、一選手でしかないラッキーにはどうしようもありません。
こうして、インチョーンアジア大会2014は、終局を迎えつつあります。



[40621] 21国目 スポーツの国⑤  閉会式 
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1767fbcf
Date: 2015/04/21 09:29
ジャパンヤー代表選手団が宿泊するラブホテルの一室で、ラッキーはTシャツとスパッツを豪快に次々と脱いで裸になり、脱いだ服を何でも入る異次元ポケットに入れ、いつも着ている白いローブに着替えていました。
頭に花飾りをつけて可愛らしいです。
忘れ物はないか、何か欲しい物はないかを、最後に確認し、ラッキーは

「よし、旅に出る準備できた。」

チョウセン国から出国するために、扉を開けて部屋の外へと出ようとすると、そこには病院からようやく無理して退院した熱血コーチの姿がありました。
パジャマを着ているコーチの身体は、食中毒のせいでガリガリに痩せていて、動悸が荒いです。
ラッキーは今までお世話になったから、その場で一礼して別れの挨拶をしました。

「コーチ。
この1年間、ありがとうございました。
私、旅に出ようと思います。」

ラッキーはコーチの傍を通り抜けようとすると、両肩をガッシリ掴まれ、コーチが顔を近づけて叫びました。
別れる寸前に至った恋人を、説得するような雰囲気です。

「ラッキー君!
さっきの金メダル取り消し騒ぎは残念だったが、戦いから逃げては駄目だ!
こんなに酷い大会をやるのは、チョウセン国だけだ!
他の国で開催される大会は、まともだから安心して欲しい!
君は世界の頂点を取れる逸材!
その才能を無駄にしないでくれ!
お願いだ!頼む!」

コーチはラッキーから両手を離して、その場に土下座しています。
熱意が凄く伝わりましたが、このインチョーンアジア大会2014で酷い目にあったラッキーの決意は揺るぎません。

「うーん、そうなのかなー?
結局、審判に賄賂払った方が勝つんだよね?
私、スポーツはもっと公平で紳士な物だと思っていたのに、プロスポーツの汚さに辟易したよ。」

「この国だけが酷いだけなんだ!
私を信じてくれ!
他の国はまともなんだ!
この国が極端に酷いだけなんだ!」

コーチの目は真摯です。
思わず、ラッキーはここに留まりそうになりました。
でも、この大会のせいでスポーツに未練はありません。
ラッキーは右腕を振り被り、コーチの首に強い空手チョップを浴びせました。
まるでコーチへの想いを振り切るような爽快な一撃です。

「えい!」

「オバロド!」

コーチはこの一撃で脳震盪を起こして床に倒れて気絶しています。
ラッキーは悲しそうな顔でコーチの顔を30秒ほど見つめた後、1年間、一緒に過ごした楽しい思い出の日々を振り払い、場を後にしました。
これ以上、この国に居たら、国丸ごと海にしちゃいそうなだけに、急いでラブホテルから出ると、秒速1kmの速度で遠い場所へと飛んでいきます。ビューン!
空の彼方へと、ラッキーは消えました。








コーチが次に目を覚ました時、そこはやはりラブホテルの通路でした。
数十匹の蚊がコーチの身体のあちこちを刺して、血液を抜き取っているから、身体が痒いです。
少し前に何をしていたのかを思い出して

「・・・・?
そうだ!ラッキー君を説得しなければ!」

首から感じる痛みを無視して、場から立ちあがって、ラッキーが何処にいるのか一生懸命探します。
部屋にある回転ベットの上にも下にも、ラッキーはいません。衣服も下着も全部ありません。
だから、ラッキーが外にいると思ったコーチはエレベーターが故障しているから階段を下って一階まで降りて、ラブホテルの従業員に話しかけました。
従業員は面倒くさそうな目を、疲れてヨロヨロの姿のコーチに向けています。

「そ、そこの君!
ここを金髪の小さくて10歳くらいの女の子が通らなかったか!?」

「あー、通ったかな?
わかんないなー。」

従業員は、まともに仕事をせずに周りを全く見てなかったから、ラッキーの事を見ていませんでした。
コーチは従業員の態度にイライラしながら、ラブホテルを出て、仁川広域市の街中を探しまわります。
チョウセン国第三都市であり、250万人以上が住んでいる大都市で、コーチは必死に夜になった後も、ラッキーを探しました。
でも、ラッキーは既に遠い場所に飛んで行ったから、会える訳がありません。
コーチは、涙を流し、悔しい思いとともに叫びました。

「私は・・・・私は・・・この大会でラッキー君を失った・・・・?
うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
世界を狙える才能が、この国に潰されだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

1年間頑張って育て上げた天才選手ラッキーと、コーチは二度と会う事はありませんでした。
もしも、この大会にラッキーが出てなかったら、2年後のオリンピックの後に二人は結婚していたかもしれません。












インチョーンアジア大会は16日間の日程を、奇跡的に死者ゼロで切り抜けて、閉会式です。
1万人の選手達は、最悪な大会だったなと思いながら、広大な会場へと向けて次々と入場しています。
さすがにもう、可笑しい事は起きないだろうと思って油断していると

ドカーン!

会場の音響設備が故障して白い煙が上がり、選手達は唖然としました。
大会のスタッフ達は急いで、故障した音響設備を運搬して、他の場所へと持って行き、大事故に繋がらずに済んでいます。
でも、選手達からのインチョーンアジア大会2014の印象は最悪です。
各試合でインチキが大量に行われ、外国の選手の方が圧倒的優勢だったにも関わらず、なぜか一方的にボコボコにされたチョウセン国側の勝利判定という事態が各競技で多発して裁判沙汰
大会中に卓球のファビョーン・ションファー監督が飲酒運転してタクシーと衝突して逮捕。
チョウセン国の柔道協会会長が許可証なしに3人をvip席に招待し警備に暴行して刑事告発。
公衆トイレにはトイレットペーパーがなく、簡易トイレは詰まりっぱなし。
障害者用の駐車場をVIP用として利用し、肝心の障害者が乗っている車を送り返す。
メディア関係者専用のバスの中で放映されていた番組は、思いっきり政治を絡めた反ジャパンヤー国ドラマ。
蚊にどれだけ刺されたかを記者達は皮肉気に語り合い、各国の選手もサポーターも記者もとんでもない経験を得たのです。


次に閉会式を飾るショーが開催されましたが、他の大会と比べると華やかさにかけていました。
パフォーマーがたった170人なんです。
最初に登場した児童合唱団が30人程度。
続いて女性ダンサー8人のダンス
28人の太鼓演奏
少年100人のテコンドー演舞が続き、合わせて170人程度の地味なショーでした。しかもチョウセン国の放送局が中継に失敗して、リアルタイムで視聴する人達が少ない前代未聞の閉会式なのです。
4年前の広州アジア大会の歴代最少と報じられた閉会式のパフォーマーが2700人だった事を考えると、明らかに可笑しいのです。
膨大な予算を投じられたはずなのに、こんな事になっている時点で、大会予算は横抜きされすぎて、審判の買収などに使われて現場にまで行き届いてない証拠でした。
1万人の選手達は、後に香港ヤーのメディアから村の運動会並と揶揄される大会の地味なショーを見ながら、世界最悪の大会がもうすぐ終わるんだなと、苛立ちながらも安心した気持ちになっています。
不正判定が多すぎて散々でしたが、このチョウセン国から出国できる、もうそれだけが救いです。
一通りショーが終わり、インチョーンアジア大会2014はもうすぐ幕を閉じる事になります。
最後に大会を運営するお偉いさんの演説で最後です。
何故かとっても誇らしげな顔をしています。

「この大会は大成功でした!
限られた予算を上手く運用し、既存施設の利用や、多少の不便を残して切り抜けました!」

会場中に居た1万人の選手達が(おいおい約2200億円も使ったのに、限られた予算なのかよ。それ以前に多少の不便が多少じゃないだろ)と、心の中や、実際に言葉に出してツッコミました。

「他の予算が多い大会と比べてはなりません!
それは現実的な考えではありません!
インチョーンアジア大会は全員が満足する大会となりました!」

チョウセン国の新聞記者達の心の中は(2002 FIFAワールドカップなどの過去の大会に比べても、建国以来最悪のスポーツ大会だろ・・・記事にしてやる。)翌日、チョウセン国の主要メディアが建国史上最低最悪の大会と酷評してインチョン市を叩きました。

「犠牲者はゼロで済んだから大成功なのです!
失踪(行方不明)した選手はたった7人で済みました!
さぁ!皆で拍手して、大会の終わりを締めくくりましょう!」

1万人の選手が熱烈な拍手をパチパチとやり、ようやく最悪の大会が終わった事を喜びました。
今月の18日に障害者用のパラリンピックが開催される予定になっているから、スポーツ選手達は彼らに同情しています。
このチョウセン国、障害者や外国人への差別が酷過ぎる国なのです。
チョウセン国で生まれ育った中国ヤー人の二世や三世は、大学を出ても大企業や公務員への就職の門戸が閉ざされ、チャイナタウンはこの国では規模を縮小し、彼らは海外に出る事が非常に多いんです。
人間は居心地が悪い場所には住みたがりません。
次々と外国人とチョウセン国人が海外に逃げるように出て行くのは、そういう意味なんです。
この国は、この世に存在する地獄の一種といっても過言ではありませんでした。
現に、チョウセン国のインチョン市が2200億円以上のお金を使って開催したインチョーンアジア大会2014は、世界中で反チョウセン国ネガティブキャンペーンを展開したも同然の効果を発揮しており、他の国々から悪い印象を持たれて悲惨なだけです。
インチョン市は莫大な負債を抱え込み、 地 域 経 済  ご と 巻 き 込 ん で 破産コース一直線なのです。










大会終了後、熱血コーチはジャパンヤー国へ飛行機で帰り、大きな成田国際空港の窓から空を見上げていました。
空は曇っていて、コーチの気分を反映したような感じの天気です。
コーチの脳裏には、ラッキーと一緒に過ごした熱い戦いの日々が浮かんでいます。
一年間、ラッキーが良い笑顔をよく見せてくれた事が今では懐かしく感じます。
でも、ラッキーはコーチの隣に居ません。
人生の相棒を失ったような寂しい気持ちになりました。

「・・・・・・あの国は、スポーツをする気はなかったんだな。
興味があるのは反則してでも勝ちたいだけ・・・・あんな国の大会にラッキー君を連れてきて、スポーツそのものに失望させた私は愚かだった。」

コーチの瞳から涙が数滴ポロリ。
後悔後を絶たず。
コーチの後ろには、チョウセン国インチョン市で10月18日から開催されるパラリンピックに出場する選手達が、チョウセン国行きの飛行機に乗ろうとぞろぞろ歩いている姿がありました。





おしまい




テーマ【インチョンアジア大会2014】

どれだけ大量のイベントがあったのか知りたいなら、下記の文字で検索どうぞ。

【インチョンアジア大会2014がイベント盛りだくさんで凄かった(イベントまとめ)】




没ネタ


そして、空港の入り口には、ジャパンヤー国内でラッキーとバトミントンという格闘技(球技)で戦った強敵(とも)が大勢、手にシャンパン(酒)を持って待ち構えていました。
皆、平均身長2m超えが普通の化物だらけです。

「小さき勇者ラッキーはまだか!?」
「金メダルを取った事を祝福したいのになぜ、三日経過してもやってこぬ!」
「勝ち逃げは許さぬぞ!」
「私が傷心した心を慰めてあげるわ!」



[40621] 22国目 田舎が首都になった国
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1767fbcf
Date: 2015/04/28 08:21
惑星の南半球に、現実のオーストラリア大陸と全く同じ大きさの陸地がありました。
地球ではオーストラリア大陸以上の大きさの陸地を大陸、それより下は島と定義しているので、これは大陸という事になります。
その大陸の南東部、タスマン海に面するニューサウスウェールズ州の州都シドニーはとっても発展していて、大陸で一番大きな大都市です。
海に臨むオペラハウスが美しく、都市には無数の高層ビルが立ち並び、夜になればライトアップされた美しい夜景が見れる事間違いなし。
東に太平洋・・・もとい広大な海、西にブルーマウンテン、北にホークスベリ川、南にロイヤル・ナショナルパークがあって自然風景も素晴らしい。
その大都市の浜辺で、長い金髪をポニーテールにして纏めた小さな女の子ラッキーが歩いています。
青と白の縞々パンツとピンク色のスカートが一体となっているセパレートという水着を着て可愛らしいです。
どうやらこの国に来たのは海水浴目的のようですが、浜辺で2人のいい年をした男達が言い争いをしていたから、ラッキーの知的好奇心が刺激され、トコトコ歩いて、男達に近付きました。
すると、口論の内容が聞こえてきます。

「我が国の首都は、経済的に大発展した、ここシドニーしかありえない!
総人口2000万の人口の内、462万人がここに住んでいるんだぞ!」

「ふざけるな!
首都は文化の中心地メルボルンの方がいい!
セント・キルダ、王立植物園、飲食店、有名なMCG、活気なバー、オーストラリア・グランプリがあって、大勢の人間が楽しめる観光地なんだぞ!」

「はぁっ!?
シドニーはな!
世界でもっとも美しい都市と言われている上に、2000年には夏季オリンピック【シドニーオリンピック】をやった事で有名なんだぞっ!
だから、シドニーの方が観光地としても格上だ!」

「メルボルンも1956年にメルボルンオリンピックをやったぞ!
こっちの方が先だ!
どうだ!参ったか!?」

どうやら、この国の首都が、シドニーとメルボルンのどちらが首都としてふさわしいか議論しているようです。
分かりやすくするために、二人の仮の名前をこうしましょう。
①シドニーを首都にしたい男をシドニーおじさん。
②メルボルンを首都にしたい男をメルボルンおじさん
と呼称すれば分かりやすいと思います。
ラッキーはどうしてそんなことで口論しているのか分からなかったので問いかけました。

「ねぇねぇ、なんで議論しているの?
この国って首都がないの?」

二人の男はラッキーの方に振り向きました。
恰幅の良い40代の白髪の男性メルボルンおじさんは、笑顔を浮かべてやさしい口調で答えてくれます。
どうやら小さい娘が好きなようです。

「小さいお嬢さん。
まだ学校で習ってないようだね?
なら私が説明してあげよう。
この国の首都はね。
建国当初からメルボルンなんだよ。
イギリスヤー国と貿易するのに便利な位置にあるし、黄金がよく取れて世界中から人々が集まってゴールドラッシュになった事もあり、人もたくさん住んでいるんだ。」

「首都がメルボルンなのにどうして口論しているの?」

「首都になれば、この国の中心になったも同然だからね。シドニーが首都になろうと必死なのさ。
そのせいで最近はシドニーとメルボルンの二つの都市のどちらが首都に相応しいか、あちこちで住民が議論をしているんだよ。
この二つの都市は伝統的に仲が悪くてね、二つの都市の住民が出会うと、こういう口論が絶えないんだ。
まぁ、メルボルンの方が首都に相応しいんだけどね。
だからシドニーや他の都市なんて、メルボルンのオマケ達扱いで良いんだ。」

その言葉に、30代のよく鍛えられた体を持つ黒髪のシドニーおじさんが反論してきます。

「ふざけるな!
当時の最大都市がメルボルンだったから、臨時の首都になっただけだろうが!
今じゃシドニーの方が遥かに大発展して、人口が462万人もいるんだぞ!」

「メルボルンは434万人の人口を許容する大都市だぞっ!?
シドニーと人口は大して違わないだろ!
メルボルンはな!
【世界で最も暮らしやすい都市】ランキングで一位を獲得した素晴らしい大都市だ!
そういう都市こそ、首都に相応しい!」

二人は怒りながら口論を再開しちゃいました。
ラッキーは黙って、二人の口論を眺めます。
質問しなくても、二人がお互いにシドニーとメルボルンを自慢してくれるから、知的好奇心は十分満たせるのです。
口論の内容は次第にエスカレートし、シドニーおじさんがメルボルンの事を馬鹿にし始めました。

「メルボルンなんて糞だ!
糞!
距離が離れすぎて他の国の都市に移動するのに、とんでもない時間がかかるだろうが!」

「それはメルボルンだけの問題じゃない!
この国全体の問題だ!
我が国は他の大陸と離れすぎて、必然的に海路も空路も世界でも有数の超長距離路線になってしまうから、シドニーも同じ問題を抱え込んでいるだろっ?!」

「なら産業はどうだ!
シドニーはな!ニューサウスウェールズ州の貿易の大部分を担っている上に、原材料調達が容易だから、製材、造船、化学、農業土木機械、電気機械、石油精製などの工業が発展していて、この国で突出しているんだぞ!」

「それならメルボルンだって負けないぞ!
ファッションの中心地だし、多くの国内の大企業の本社があるし、多額のお金を産む自動車工業の中心地でもある!
どうだ!?メルボルンの方が凄いだろ!?」

「シドニーは、海外企業の地域本部が大量にあるから、メルボルンよりも発展しているんだ!
シドニーの方が首都に相応しい!
今は国際化の時代だから、海外の企業に好かれた方が凄いんだよ!」

ラッキーは、どっちもこの国の中では突出した凄い都市なんだなと思いました。
そろそろ、楽しい海水浴や、お金を貢いでくれる男でも探したくなったので場から離れようとすると、二人の厳しい視線がラッキーに向けられています。
二人はラッキーに迫りながら怒鳴りました。
でも律儀に順番を守ってシドニーおじさんから先に叫んでくれます。

「小さいお嬢さん!
あんたはどっちの都市が首都だとうれしいんだ!?
シドニーの方がいいよな!?
その水着可愛いぞ!シドニーの水着はファッションセンスも抜群だ!
やっぱり水着は縞々が良いよな!」

「メルボルンの方が、ファッションを楽しめていいぞ!
小さいお嬢さん!
メルボルンでもっと可愛い水着を買うといい!
シドニー製の水着なんて糞だ!ファッキン!
ピンク色の水着が子供には似合うぞ!」

ラッキーは面倒臭かったので、二人が納得できそうな内容を即座に考え付き、場を誤魔化す事にしました。

「二つの都市の間に計画都市作って、そこを首都にすればいいんじゃないかな?
あと、この水着は他の国で買った水着だから関係ないよ。」

「「?!」」

「じゃ、さようなら。」

二人のオッサンは驚きました。
とても妥協できそうな内容だったからです。
ラッキーは場から離れて、海の方へと向かい、場には二人のオッサンが残されました。
オッサン達はお互いの顔を見つめ合いながら、納得したような顔でシドニーおじさんが呟きます。

「今の小さいお嬢さんの案・・・良いかもしれない。」

「これ以上喧嘩すると、経済にも悪影響出そうだしなぁ。
あの小さいお嬢さんの案は良いかもしれない。
他の州にも、この案なら不満がでないし、全員が納得しそうだなぁ。」

「メルボルンとシドニーの間に何があったけ?」

「確か・・・・キャンベラっていう田舎町があったな。
海に面してない内陸だけど、どうせ名目上の首都だし、それでいいか。
(首都機能はメルボルンに残したままにすればいいし。」

こうして、シドニーとメルボルンの二つの都市の間にある田舎キャンベラに都市が作られ、この国の首都になったそうです。
なお、このような経緯で首都を決めてしまったので、この国のほとんどの人達が一度も首都キャンベラに行かずに、人生を終えてしまい、首都としての威厳はありません。
首都機能もシドニーとメルボルンから移転するのに膨大な歳月を必要とし、キャンベラは政治家と官僚中心の町なのでビジネスも興らず、人口が伸び悩んで30万人都市のまま停滞する事になりました。
シドニーは経済の中心地。
メルボルンは文化の中心地
キャンベラは政治の中心地として栄えて税金を湯水のように使いまくってシドニーの住民の反感を買い、お互いにいがみ合いながらも、今日も世界を生きています。



ラッキーは、シドニーで海水浴を楽しんだ後に、金を貢いでくれる男を恋人にしてシドニー中を遊び歩いて楽しみ、その後にメルボルンに行って観光を楽しんで、この国から出て行きました。無論、恋人はポイ捨てです。
自分の発言のせいで、国の首都が田舎に決まってしまったなんて、最後まで知る事はありませんでした。



おしまい









テーマ「オーストラリアの地域対立」

※キャンベラが首都として選ばれたのは1908年



[40621] 23国目 仕事がない国
Name: パルメ◆8fb14eab ID:1767fbcf
Date: 2015/05/12 10:04
金髪の小さい女の子ラッキーはコンクリートで舗装された道を歩いていると、広大な畑が見えてきました。
そこでは大勢の汚れても良い服を着た人間さん達が、鍬で畑を耕し、ジョウロで作物に水をやっています。
農作業の全てが人力だったから、世界一貧乏な国なのかな?と思いましたが、10km先に無数の高層ビル、空飛ぶ自動車がある大都市が見えたので違和感を感じました。
気になったラッキーは、近くで農作業をしていた20代の黒髪の青年に話しかけました。
青年は薄汚れたTシャツとGパンを着ていて、健康的に身体が焼けている逞しい男です。

「ねぇねぇ、なんで農作業に機械を使わないの?
あの大都市の上に飛んでいる自動車を作れる技術があるなら、ほとんどの作業を機械化できるよね?」

「ん?
なんだ?
小さいお嬢さんは外国の人か?」

「うん、私の名前はラッキー。
さっきここに来たばかりなんだよ。
だから教えてくれると嬉しいかな。」

「そうか。
なら知らないのも当たり前だな。
この国は・・・・・・人間が生きるための仕事、軍事、政治などを全てを機械がやってくれる便利な国なんだ。
知能がある機械が科学をどんどん発達させるから、人間がする仕事がないんだ。」

疑問が増えたからラッキーは首を可愛く傾げました。
それを見て青年がちょっと顔を赤く染めています。

「あれ?
なら、なんで農作業をやっているの?
人間がやる仕事がないなら、一日中遊んで暮らせるって事だよね?
趣味で家庭農園でもやってるの?」

「いや、生きるために必要な物を購入するために、お金が必要になるから、働かないと暮らしていけないんだ。
一日中遊んで暮らせるのは、機械を発明した人間の子孫
と、特許を持つ企業だけだな。
一般には販売してないし、俺らみたいな貧乏人はこうして働かないといけない。」

「うーん、富の再分配をするためのシステムが上手く作れなくて悲惨なんだね。
つまり、あなた達は作物を作って、それを売る事で生計を立てているという事でいいのかな?」

青年は顔を横に振り、嫌そうな顔で静かにこう言いました。

「いや、ここで作った作物は収穫期になると全部潰して、畑の肥料にするから、作物は売らないんだ。
ここで苦しい農作業をすると、国からお金を貰えるから、わざわざ労働しているだけだ。」

「なんで作物を全部潰すの?
折角、作ったなら食べないと勿体ないよ?」

「そりゃ、人間が作った野菜よりも、機械が作った野菜の方が安全で安くて美味しいからだよ。
大抵の作物が野菜工場の人工の光を使って、短期間に大量生産できるから、凄い安い値段で売られているんだ。
人間が作った野菜なんてコストがかかるし危なくて仕方ねぇよ。」

「えと、あなた達の仕事は無意味な事をしているって事でいいのかな?
穴を掘って、穴を埋めるのと同じような事だよね?」

「ああ、そうだよ。
俺達の仕事に意味はない。
でも、苦しい仕事をやり遂げたという事が大事なんだ。
それを国が評価してお金をくれる。
そういう意味では、ここは公平で良い国だよ。
そろそろ仕事を再開しないと給料を貰えないから、小さいお嬢さん。
また何処かで会えるといいな。」

青年は鍬で畑を耕作する仕事に戻りました。
ラッキーは周りを見渡すと、皆、ボケーとしながら思考を停止して農作業をやっている事がわかりました。
どうやら、仕事中は脳味噌の中で映画やアニメ、ゲーム、好きな事を想像して現実逃避しながら働いているようです。
そうじゃないと、人間の精神は無意味な労働に耐える事ができません。
ラッキーはボソッと呟きました。

「変な国。」









ラッキーは高層ビルが無数にある都市の方向へと向けて歩きました。
道中、色んな仕事をしている人間さんがいます。
穴を掘って、それをすぐに埋める仕事。
放映されないのに、カメラを向けて生中継をやっているTV局の人達。
料理を大量に作ってゴミ箱に入れる人間の料理人。その隣で極上の美味しい料理を作る料理人ロボット。
ロボットが警察業務をやっている傍ら、【犯罪者】と書かれたサンドバックを殴る人間の警察官。
誰も見る事がない映画を作って、イライラしながらすぐにフィルムを壊す映画監督とスタッフ。
学校で、将来、必要もない勉強を大人になるまでずっとする子供達。意味もないのに教育を施す人間の教師。
機械が全て掃除した後に、部屋や窓を拭く人間の清掃員。
手作業で大量の製品を一生懸命作って、すぐに製品をスクラップ工場に送る工員。
仕事が嫌になって高層ビルから飛び降り自殺する若者。
赤ん坊ロボットを抱いて、子育てゴッコをしている母親。その隣で赤ん坊の世話をしている人型の育児ロボット。
誰も居ないのに講演をする学者さん。
機械が既に研究し尽くした事を研究する科学者。
誰も読まない小説を書く小説家。その隣で瞬時に名作を作り出す小説家ロボット。
誰も読まない漫画を書く漫画家。その隣で瞬時に神がかった絵で傑作を作り出す漫画家ロボット。

「うーん、うーん、うーん?」

これらの光景を見たラッキーは、頭が痛くなりました。
人生を丸ごと無意味な事に費やす。
そんな人間達を全く理解できません。
最初は可笑しくてクスクス笑っていたのですが、さすがにこれは常軌を逸しています。
都市の中心部まで歩くと、そこは1000人の人間が遊べるだろう広大な広場。
整った草木、様々な色の薔薇を咲かす薔薇園、小さい子供達が遊べるように大量の遊具が設置されています。
青色のベンチに座っている80歳ほどのお爺さんを見つけたから、ラッキーはとことこ歩き、お爺さんに問いかけました。
お爺さんは白い割烹着を着ている料理人の男性で、今は休憩中のようです。

「ねぇねぇ、お爺さんはこの国の事をどう思っているのかな?」

「ん?いきなり、なんじゃい?
子供は学校に通って勉強労働をしている時間じゃろ?」

お爺さんが渋い顔をラッキーに向け、逆に問いかけてきました。
ラッキーはその場で頭を一回下げた後に、自己紹介を始めます。

「私の名前はラッキー。
今日、この国に来たばかりだから、色々と教えて欲しいんだよ。
この国の人間達って、生きるために必要のない無駄な事をしているけど、それをどう思ってるの?」

「仕事が生きるために必要がない?
小さいお嬢ちゃんは本当にそう思っておるのか?」

「うん、この国の場合は無意味だよね。
誰の役にも立ってないし。」

ラッキーがそう答えると、お爺さんは顔を顰めました。
どうやら悪印象を持たれたようです。
お爺さんはベンチから立ちあがり、ゆっくりと静かに怒りながら説教を始めました。

「馬鹿もん!
仕事が無意味だと?!
意味のない仕事なんかないわい!」

「んー?
でも、苦労して作った野菜とかを全部捨てたりして、すっごく無駄だよね?
機械が仕事を全部やってくれる国を幾つか見た事あるけど、どの国も人間が人生を楽しめるように頑張っている国が多かったよ?
なんで、この国は変なの?」

「小さいお嬢ちゃんは仕事をわかっておらん!
人間は仕事を通して、一人前の大人になる試練なんじゃ!
苦労して仕事をしないと人間は駄目になる!
どうせ、小さいお嬢ちゃんの言ってる事は全部嘘じゃろ?
ワシ、一度もそんな国の話を聞いた事がないぞ?」

老人だから頭が頑固でしたが、常識的な反応でした。
ラッキーが先ほど言った国は、この国から離れすぎていて、名前すらこの国に知れ渡っていませんので、説明しても信じてもらうのは無理です。
嘘だと決めつけられたラッキーは、ちょっと怒りながら反論する事にしました。

「嘘じゃないよ。
機械にほとんどの仕事をやらせても、人間はそれに対応して新しい社会システムを構築する生き物だよ。
大抵は失敗して滅亡しちゃうだろうけど、成功して上手くやっている例がそれなりあるんだよ。」

「・・・・小さいお嬢ちゃん。
想像してみるんじゃ。
苦労して一日汗水垂らして働いた日の夕方。
これから自由に時間を使えると喜んで帰る楽しい道のり。
お主を照らす綺麗な夕陽。
辛い仕事から解放された充実と爽快感。
帰りを暖かく迎えてくれる家族。
どうじゃ?
仕事を終えた後は充実してるじゃろ?」

「?
うーん、わかんない!」

ラッキーはニートみたいなものです。
一度もそんな労働をやった事がありません。
自由気ままに旅をして、お金は男に貢がせて、一切、働いた事がないので想像できませんでした。
お爺さんの問いかけに首を可愛く傾げるだけです。
お爺さんは、ラッキーが理解してない様子を見て怒りました。

「馬鹿もんっー!
最近の若い者はなっとらん!
小さいお嬢ちゃん!
そんな事じゃ、将来、立派な大人になれんぞ!?
仕事は試練じゃ!試練!
拘束される分だけ、休暇を楽しめるんじゃ!」

「いや、さすがに、この国の大人みたいにはなりたくないなぁ。
人生つまんなそうだし。
嫌いな仕事をして人生楽しいの?
どうせやるなら、好きな仕事をやればいいのに・・・・」

「仕事は生きるためにやるもんじゃ!
楽しいとか、嫌いとかそんなの関係ない!
家族を養うために、嫌な仕事でもやり遂げるのが大人っていうもんじゃよ!
子供がいるのに、仕事を放棄して無職になるのが大人か!?
これだから最近の若者は怠け者で困る!
ワシは仕事に戻るぞ!」

「この国の大人は大変なんだね。」

ラッキーには理解できませんでした。
この国の人間がやっている仕事は、誰にも必要とされていない仕事ゴッコ。
社会の何の役にも立っていません。
お爺さんは怒って場から歩いて去って行きます。
お爺さんの行く方向には、複数の屋台(簡易店舗)があり、お爺さんが入った屋台に【おでん】と書かれた大きな看板がありました。
ラッキーは、これがお爺さんの仕事かな?と思って、眺めます。
お爺さんはひたすら、大根や卵、ジャガイモ、肉、コンニャクなどを鍋で煮る作業を開始しました。
【おでん】は現実の日本の冬によく食べる美味しい美味しい料理の事です。
冬のコンビニ(小さい万能店舗)の定番メニューであり、美味しい汁をたっぷり含んだ大根が昔からナンバー1の人気を誇っています。
美味しそうな匂いがしたから、ラッキーはトコトコ歩いて近付いて注文してみました。

「お爺さん、屋台の料理全部頂戴。」

「はぁ?
これは全部作ってすぐに捨てるんじゃ。
客に出すおでんは、ほれ、隣の屋台が出しておる。」

隣を見ると、ロボットが次々と完璧な作業をして、おでんを作り置きしている光景を見れました。
どう完璧なのかと言うと、おでんは食材がだし汁をたっぷり吸収すると美味しくなるから、作ってから1日以上経過した鍋が30個以上置いてあります。
虫が入らないように鍋の蓋を閉めてあり、鍋の上に作った日付を書いた紙を貼ってあって完璧です。
でも、ラッキーはお爺さんの作った おでんを食べたかったので、笑顔で注文を続けました。

「私はお爺さんの料理を食べたいんだよ?
どうせ捨てるなら、全部頂戴。」

「・・・どうせ食べてもそんなに美味しくないぞ?
それでええんか?」

「うん。」

ラッキーは満面の笑みを見せました。
お爺さんはちょっと顔を赤らめていて嬉しそうです。
鍋から料理を次々と箸で取り出し、大きな陶器の器に入れ、ラッキーの前にドンと置きました。

「ほれ、ワシの料理じゃ。
大根が一番オススメじゃぞ。」

綺麗に切られた大根は出し汁を吸収して、茶色になっていて美味しそうです。
出し汁が茶色だから、全体的に食材は茶色です。
ラッキーは屋台に備え付けられた箱から、木製の割り箸を取り出し、両手を合わせて

「それじゃ頂きます。」

感謝の祈りを捧げた後に、茶色のゆで卵を最初に頂きました。
パクン、卵は出し汁がよく染みていて、絶妙の味です。
普通にゆで卵を食べるよりも遥かに良い味でした。

「美味しいね。」

次にこれまた出し汁をよく吸収した大根を箸で掴み、口にいれてパクン。
だし汁と、大根の繊維の感触が心地よく、それを味わいながら食べました。
最終的にラッキーは屋台にあった鍋を次々と食べ、お爺さんを呆れさせる食欲を発揮。
パクンッパクンッパクンッパクンッパクンッパクンッ
あっという間に、屋台にあった全ての料理はラッキーの胃袋の中に消えました。
相変わらず、胃に何でも入る異次元ポケットです。
ラッキーは両手を合わせて、食べた命へ感謝の祈りを捧げます。

「御馳走様です。
お爺さんの料理美味しかったよ。
はい、これお金。」

ポケットから銀貨を一枚出しました。
お爺さんはそれを受け取り、嬉しいような複雑そうな顔をしています。
ラッキーは笑顔のまま、問いかけました。

「ねぇ?
自分の作った料理を人に食べてもらって、報酬を貰うのって嬉しいよね?
私はこの国の社会システムが正しいのか、間違っているのか、よくわかんないけど、全部機械任せじゃなくて、ある程度の仕事は人間に残した方が幸せだったんじゃないの?」

お爺さんは何も言いませんでした。
ただ、親指を上げて、皺くちゃの顔に笑みを浮かべてガッツポーズを取っています。
俺の料理食べてくれてありがとう、嬉しかったんじゃぞ。と言外に語っています。
ラッキーは満面の笑みを返しました。
お爺さんは誰かのために料理を作る事の楽しさを、今更ながらに知り、照れています。

























おしまい

テーマ【富を再分配するためのシステムを構築するのは辛いお】
23国目 (意味のある)仕事がない国




没ネタ

ただ、問題があるとするならば、この社会は既に人間の物ではなく、機械が完全に支配している社会だから、これからも無意味な労働に費やす日々が待ち受けている事です。
機械が人間に仕事を割り振っている時点で、人間が政治にかかわる隙が全くありませんでした。
国中にいるロボットは、人間では決して辿りつけないだろう職人芸で、様々なものを産みだし、人間の代わりに仕事をしています。
ラッキーは、この世には地獄も天国も同時に存在するんだなぁと、感心しました。


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