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[4075] ゼロの使い魔と三ツ星の狩人(オリジナル)
Name: 豊◆4d075937 ID:7463db71
Date: 2008/09/20 13:49
はじめまして、初めて投稿する豊(みのる)といいます。

この作品は、サイトが居た世界=今の地球。そしてここにはハンターハンターに出てくる「念能力者」や「ハンター協会」やキャラクターなどが居る。という事を前提といています。

当初この作品を「ゼロの使い魔」と「ハンターハンターの世界」の設定を忠実に再現したクロス作品として書いている、っと誤解されてしまうような書き方をしていたので訂正します。

この作品は、「ゼロの使い魔」と「ハンターハンター」の世界、また、他にも多数の作品の設定などを参考にして、さまざまな設定を加えた(作者の勝手な思い込みによる物も含まれます)上で、オリジナルの作品として話を構成していく方針です。

ただし、「念能力」に関しては、原作準拠でいきます。

基本的には「ゼロの使い魔」の世界での話です。

そのため、「ゼロの使い魔」と「ハンターハンター」、その他の原作の設定を多少変更(作者に都合のいいように)しています。
「そういう物は邪道だ」っや、「そんな物は読めない」っといった意見を持っている方にはお勧めできません。

あくまでも「この作者はこんな感じに捉えているのか」(勘違いしているのか)っと思いながら読む事の出来る方にお勧めします。


この物語は、ルイズに召還されたサイトと、オリキャラにより召還されたハンター(これもオリ)が、「ゼロの使い魔」の世界を基にしたファンタジーの世界でさまざまな冒険をする っというストーリーです。
途中まで基になっている「ゼロの使い魔」と同じ様に進めますが、途中からはどんどんオリジナル要素を追加し、最終的にはまったく違うオリジナル展開に持っていく予定です。
基本的に原作12巻までの話の流れ(歴史)は同じです。

原作キャラ(ゼロの使い魔に登場する)などは、なるべくいじらないようにしつつ、オリジナル要素を加え、設定も多少作者の都合で変更しています。

「ゼロの使い魔」と同じ部分はサイト視点ではなく、オリ主視点で進めていく予定です

主人公最強系です。

ただし、主人公だけ突出しても面白くなくなってしまう可能性があるので、さまざまな設定(ご都合主義を含む)により、うまくバランスをとりたいと思います。

そして、いろんな場所からネタを引っ張ってきてます。自分でもどのネタを何処から持ってきたか判別不能ですが、ご了承ください。

それと、自分はタバサスキーです。そういうワケで(どういう!?)タバサだけは(タバサ×オリ主っといった感じで)いろいろといじらせてもらいます。なるべく原作と同じ様なキャラにする予定ですが、作者が暴走して「こんなのタバサじゃねぇ!」っというキャラになってしまう可能性があります。それはダメだと言う方は注意してください。もしくは、途中で指摘していただき、私の暴走を止めてください。(身勝手です)

ハンター×ハンターやゼロの使い魔で出てくる設定、単語などで、変更(作者が勝手に)した部分は、順次説明をしていく予定です。

このような勝手な物でも「まぁ読んでやるか」っと思ってくださる方は、ぜひとも、ご意見やご感想などお寄せてください。

設定などで「いくらなんでもそれは・・・」っという事や「タバサ以外にもキャラが壊れてる!」っという様なご意見もあれば送ってくださるとうれしいです。その部分は出来得る限り修正させていただきます。

最終的に「点」と「点」(?っと思う部分)をつなぎ合わせて一本の線になるようにいろいろ考えています。

完結目指してがんばって行きたいと思いますので、ぜひとも応援よろしくお願いします。

読み終わった後に「なるほど」や「こういう事か」「読んでみたら意外に面白かった」等思っていただける様な作品に仕上げることが作者の理想です。


では、長くなりましたが、こんな作品でも良いと言って下さる方は、どうぞお楽しみください。





2008/09/15 誤字を訂正しました。



[4075] 第一章  異世界×使い魔×魔法使い
Name: 豊◆4d075937 ID:7463db71
Date: 2008/09/20 13:49


「・・・俺は・・・死んだのか・・・」

そう男は呟いた。
ここが何処なのかは最早解らない。ただ光の奔流の中に自分は居た。

「・・・これが死後の世界・・・か?
味気ねぇ・・・面白いものは無さそうだな・・・」

自虐的に笑いながらそう呟いた。

「ん?なんだありゃ・・・光の門・・・?」

ソレを見つけて彼は手を伸ばしていた。
『よく解らないが面白そうだ』

自分が死んだというのにそんな事を考えていた。



「我が名はアーリャ・リヒテン・ド・ヴィ・ズィーフィード。
五つの星を司るペンタゴンよ。この世に我が使い魔を召喚せよ!」

彼女アーリャはそう言いながら、杖を振り下ろした。
振り下ろすと同時に光の門が現れ、何かが出て来た。
瞬間、辺りは薄い霧に包まれた。
ここはトリステインにある魔法学院。
現在は二年生になった生徒たちによる春の使い魔召喚の儀式の最中である。
彼女『アーリャ・リヒテン・ド・ヴィ・ズィーフィード』も、この儀式に参加している。
彼女はトリスティンのズィーフィード家の娘である。グレーの髪をツインテールにし、身長は145サントと低いが、顔立ちはしっかりしている。
世間一般でいう美少女というやつだ。

そして召喚の際に生じた霧が徐々に晴れてきた。

(・・・何が召喚されたのかしら?・・・)

僅かな期待に胸を躍らせつつ、霧が晴れるのを待っていた彼女の眼に最初に飛び込んできたのは、白銀の毛だった。

「!・・・キレイな色・・・」

それが風に撫でられ、宙を舞った瞬間。
彼女はそれに一瞬見とれていた。
しかし、見とれたのも一瞬、次の瞬間に彼女は信じられない物を目撃した。

「に・・・人間・・・!?」

そう、白銀の毛は間違いなく人間の髪の毛だった。
歳の頃は10代後半であろう。
長い白銀の髪の毛を後ろで束ね、紺色のコートに身を包み、
その場に座り込んでいる青年が居た。

「・・・なんだ・・・ここ・・・あの世ってのはこんな妙な場所なのか・・・?」

青年のそんな呟きがした。しかしこの言葉は誰の耳にも入っていない。7

「ら・・・雷鳴のアーリャが平民を召喚したぁ!?」

そう一人の生徒が叫び声を上げた瞬間、周囲はあっという間に驚愕の声に包まれた。

彼女『雷鳴』のアーリャは、学院にも数人しか居ない「トライアングル」クラスの優秀なメイジ、魔法使いである。

その彼女が平民を召喚したのだから周囲は大騒ぎだ。

「・・・?なんだ・・・随分と騒がしい場所だな・・・ここは」

そういいながら男は首だけを動かして周囲を観察した。

「・・・ミスタコルベール・・・この場合は・・・私は彼と契約を・・・?」

戸惑いながらも隣に立っている中年の頭の涼しそうな教師。
コルベールにそう問いかける。

「え・・・えぇ・・・そうですね・・・この儀式は神聖な儀式です・・・
やり直しなどは認められませんしサモン・サーヴァントも成功しています・・・
彼は間違いなく、貴方が召喚した使い魔です。契約の続きを」

異例の事態に戸惑いながらも教師は質問に答えた。

「・・・・解りました・・・・」

そう言いながら男に近づき、顔を掴みこちらを向かせ、そのまま顔を近づけるアーリャ。

「?・・・お前・・・誰だ・・・っつか、何するつもりだよヲイ!?」

「黙りなさい・・・いいからそのまま動かないで」

男の意見を即座に切り捨て、そのまま顔を近づける。
そして

「をい!きいて『我が名はアーリャ・リヒテン・ド・ヴィ・ズィーフィード。
五つを司るペンタゴンよ、この者に祝福を与え、我が使い魔と成せ』グ・・・!?」

そう呪文を唱えながら青年と少女はキスをした。

「・・・プハ・・・おま・・・いきなり何するん・・・ッ!?」

言葉を途中で切りながら男は己の右腕を抑えた。
急な事に、着ていたコートを脱ぎ、袖をまくって腕を見た。

「安心して、使い魔のルーンが刻まれてるだけだから・・・
痛いのは少しだけよ・・・多分」

「使い魔のルーン!?何だソレ!勝手にんなもん・・・って多分!?」

右腕を押さえながら様々な突っ込みをしているうちに、
焼けるような痛みが引いて、そこにルーンが現れた。

「ほぅ・・・右腕全体にルーンが・・・
しかもこれは観たことが無いルーンですな・・・
ですが使い魔の契約は無事終了したようですな。大変結構」

そう言いながら先ほどの一部涼しい教師が話しかけてきた。

「無事?結構!?ナニソレ!?っつかお前ら俺に何を」

「うるさい・・・話は後でにして・・・後が閊えてるのよ」

抗議の声を一喝して襟首を掴み、
そのまま隅へと男をズルズル引きずって行く少女・・・
その迫力に、周りで騒いでいた生徒達はみな自主的に道を開け、
男もその迫力に気圧され黙って引きずられて行った。

「・・・え~・・・では、次!ミスタ・グラモン!」

そんな声が聞こえる中、儀式が行われている中庭の端の木の下で、青年と少女は向き合っていた。

「・・・んで、俺はもう口を開いてもよろしのかな?」

少し不貞腐れながら男は少女を半眼でにらみつつそう言った。

「えぇ・・・そうね・・・とりあえず自己紹介からしましょうか・・・私はアーリャ。アーリャ・リヒテン・ド・ヴィ・ズィーフィード。貴方を召喚したメイジよ」

腰に手を当てながら彼女、アーリャはそう宣言した。

「っと・・・俺は崇。龍宮 崇 プロハンターだ」

座ったまま自己紹介をした。

「プロハンター?・・・何よソレ・・・貴方平民じゃないの?」

「へ・・・?ハンターを知らないのか・・・?っつか平民って?」

「ハァ?・・・知らないわよハンターなんて・・・狩猟で生計を立ててる平民?」

「・・・どうやら相当なド田舎らしいな・・・ここは・・・ハンターも知らないとは・・・はぁ・・・」

呆れたと言わんばかりに首を左右に振る崇。

「ちょっと!ここは由緒あるトリステインの魔法学院よ!?ド田舎って何よ!貴方何処からきたの!?」

あんまりな言い様にご立腹の様子である。

「トリスティン・・・?魔法・・・?何処だそこ・・・名前からして西ヨーロッパか・・・?でも西欧ならハンターを知らないなんて国は無いハズだが・・・」

そういいながら彼―崇は周囲に気を配り、そして驚愕した。

「ッ!?なんだここ・・・周囲にあるオーラの密度が・・・いや・・・オーラとは少し違うか・・・何だ・・・・をい・・・お前、アーリャって言ったな?」

驚きながらもタカシはそう問いかける

「平民がいきなり貴族を捕まえて呼び捨てにするなんて・・・アンタいい度胸してるじゃないの・・・」

怒り顔を隠そうともせずにタカシに詰め寄るアーリャ。しかしそんな恫喝を物ともせずにタカシはアーリャに質問を投げかけた。

「良いから質問に答えろ!・・・日本、アメリカ、イギリス。この中で知ってる単語はあるか?」

「・・・ニホン?アメリカ?イギリス?・・・ねぇ・・・何よソレ・・・何かの呪文?それとも道具?」

さっきまでの怒り顔をどこかに捨て去り、キョトンとして首を傾げるアーリャ。

「・・・はぁ・・・やっぱ知らんか・・・いくらなんでもコレを知らないっつーのはあり得ないわな・・・感覚からして違うから、もしかしてと思ったんだが・・・やっぱそうか・・・」

深いため息をつきながらうな垂れる崇である。

「ちょっと!何一人で自己完結してるワケ!?私の質問には一切答えないで自分だけ質問して、答えを勝手に出して納得って!アンタ何様よ!?」

マシンガンのようにガー!っと捲くし立てるアーリャに対して、
タカシは少し呆気にとられながらも答えた。

「あぁ・・・悪い・・・どうも俺も信じられなくてな・・・でも信じるしかねぇわなぁ・・・いいか、アーリャ。俺は別の世界から来た人間だ」

「ハァ?言うに事欠いて別の世界ぃ~?アンタ頭大丈夫?・・・はぁ・・・何でアタシはこんなの召喚しちゃったんだろ・・・」

肩を落としてOrzになり項垂れるアーリャに、「こんなのとは何だ!」
っと言い返そうとしたが、一先ず反論はそこいらに置いといて、彼は説明を続ける。

「まぁ・・・信じねーよなぁ・・・普通・・・俺もここまでオーラの濃度っつか・・・空気が違うってのじゃなきゃ信じねーし・・・ともかく、俺は地球って星、まぁ、ここと環境は殆ど変わらないっぽいから、ここも地球か?まぁそれはいい。ともかく、そこの日本って国からどういうワケか異界であるここに来ちまったって事だ」

両の手のひらを天に向けて、ため息をつきながら彼はそう説明を続けた。

「・・・そこまで言うなら何か証拠でもあるの・・・?」

半眼で睨みながらアーリャの反論に彼は苦笑しながらコートの内ポケットに入っていた携帯電話を取り出して見せた。

「この世界にこんな物はあるのか?」

突き出された携帯の液晶を眺めながら。

「わぁ・・・コレ綺麗ね・・・確かに・・・こんなものこのハルケギニアには無いわねぇ・・・でも・・・」

「はぁ・・・疑り深いやつだなぁ・・・第一、俺がそんなものを用意してまで嘘をつく理由があるのか?」

「・・・確かに・・・ワザワザこんな小道具用意してまで嘘を付く理由は無いわね・・・それに、サモン・サーヴァントでの召喚なんて、いつ、誰が召喚するかすら解らないんじゃ、用意する事も無理か」

「ふ~・・・どうやら納得してもらえたみたいだな・・・んで、異邦人である俺は、現状説明を君に要求したいんだが、いいかね?」

「何偉そうに言ってるのよ!貴方!?・・・まぁ・・・異邦人なら仕方ないか・・・いいわ。説明してあげる」

「思った以上に頭の回転が良くて助かるよ」

「一言多い!」

そう言いながら良い蹴りをプレゼントして、アーリャはそのまま話を続ける。

「まず、ここはハルケギニア大陸のトリスティン王国にある魔法学院。今は春の使い召喚の儀式の最中で、貴方はその儀式で私が唱えた『サモン・サーヴァント』って魔法で召喚されたのよ。この魔法はこの世界にいる者を呼び寄せ、自分の使い魔にする魔法なの」

人差し指を立て、眼をつぶりながらそう説明する。身長がもっとあれば三

角メガネが似合うなっと内心で思いつつも、彼は

「ふむ・・・つまりその魔法で俺はここに呼ばれたのか・・・妙な事になったモノだな・・・んで、魔法ってのは何さ?」

「それはこっちの台詞よ!平民、それも異邦人を召還するなんて前代未聞だわ!」

ガーっと顔を赤くしながら吠えるアーリャ。
もうちょっとおしとやかに出来ないモノかねぇ

「大きなお世話よ!?」

そう言いながら彼にヤクザキックをかますアーリャ。

「何!?何故俺の考えが読めたんだ!?それが魔法か!?」

「アナタ口に出してたわよ!?」

「しまった!!」

などど素敵なコントがしばらく続き、彼は再び質問をする。

「まぁ、それは置いといて、魔法って?あと平民って何さ?使い魔とも言ってたな。まぁ、確かに俺は高貴な家の出じゃ無いし、平民っちゃ平民か」

「・・・まぁ・・・いいわ・・・置いといてあげる・・・後で拾うわよ・・・」

そう半眼でいいながらアーリャは続ける。

「平民ってのは魔法を使えない一般人。貴族っていうのは魔法を使える人間の事を指して言うのよ。それで」

「ふ~ん・・・こっちの念能力者とそうでない者って感じだな」

「話の途中で口挟むな!・・・ゴホン。それで、ここ魔法学院は、そんな貴族の子供達が集まり、魔法を学ぶ場所よ。魔法ってのは・・こんなのね」

そういいながら、彼女は何か呟き近くにあった石コロに向けて杖を振り下ろす
次の瞬間、石が彼の顔面に向けて飛んできた。

それを手でキャッチするタカシ。
ッチっと舌打ちするアーリャ・・・なかなか良い性格である。

「ッチ・・・まぁ、今のが魔法ね。他にもいろいろあるけど、見る?」

「ッチってお前な・・・っつか、他の魔法も全部俺に向けてやる気か?
・・・まぁ、魔法がどんなのかは解ったよ」

「っそ・・・それじゃ今度は私から質問してもいいかしら?」

「オーケー。こっちの質問に答えてもらえたんだ。俺で答えることが出来ることなら、何でも答えましょ」

手をひらひらさせ、オドケた調子で言う彼を少し睨みつつも、アーリャは質問をした。

「まず、ハンターって?貴方自分をハンターって言ったわよね?それと平民と貴族の例えに出してたネンノウリョクシャ・・・?だっけ?なにそれ?」

「あぁ、まず、ハンターってのは・・・まぁ、一言で言うと何でも屋だな。
賞金首を狩ったり、依頼を受けてお宝を探したり。
依頼があればソレをこなせる能力のあるハンターがそれを受け、そして報酬を貰う。または、自分の探してる物や人を探したりしてるな。
んで、念能力者ってのは、念能力って特殊な力―まぁ、これは訓練さえすれば誰でも使えるんだが、ともかく、この能力を使う者だな。
ただ、一般には念は秘匿されてるから、誰でも使えるってワケでも無いのは事実か」

「ふーん・・・でもなんで秘匿されてるのよ」

「念能力を使えば簡単に人を殺すこともできちまう。そんな力を一般人に知られるわけにはイカンのさ。そんな事したら悪用する輩も増えて、治安が悪化。秩序が乱れちまうよ」

「っま・・・それもそうかもね・・・私達貴族は、血統で決まってるから、誰がメイジかってのはすぐに解るわ。確かに、一般人が誰でもそんな力を訓練次第で使えるというのは管理もできないし危険ね。でも、アナタ最初にプロハンターって言ったわよね?プロってのは何よ?」

「お!よく覚えてたなぁ~って、睨むな!プロハンターってのは、正式なライセンス。ハンター協会って組織が発行する証明書を持ってるハンターの中で、念能力が使える者。ハンターは全員が念能力者ってワケじゃない。ライセンスがなくても真似事はできるからな。あっても使えない者はアマチュアと大差ない。
ただし、プロハンターは全員念能力者だ」

そう言いながら彼は自分のライセンスを取り出し、アーリャに見せた。アーリャはそれを受け取り、手で弄びながら

「ふ~ん・・・んで、アナタはプロって事なら、念ってのは使えるのよね?」

「ん?あぁ、勿論使えるぞ」

「じゃ、使って見せてよ」

「ふむ・・・あまり能力を見せるのは気が進まんが・・・まぁ、こっちの世界なら別にいいか。んじゃ、とりあえずこの手の周りのオーラは見えるか?」

そういいながら彼は右手を上げて彼女に見せた

「オーラ・・・って、この手の周りにあるの?何これ・・・魔力・・・とは違う・・・わよね・・・何か似てるけど、でも違う・・・?」

「そそ、俺も魔力ってのはさっき見たけど、確かに似てるけど違うっぽいな。んで、念ってのはこのオーラを、簡単に言うとこれは自分の体内にある生命エネルギーなんだけど、これを自分の意思でコントロールして、様々な事に活用する。それが念能力だ」

「ふ~ん・・・生命エネルギーっか・・・ま、いいわ。それで、具体的にどんな事が出来るの?」

「ん~・・・んじゃ、解りやすいのでこんなのはどうよ?」

そう言いながら彼は自分の右手にオーラを込め、隣にあった岩を殴りつけた

「ちょっと!何やって『ドゴン』っ!?」

いきなり素手で岩を殴ろうとした彼をとめようと声を上げたアーリャだが、次の瞬間、その表情は、驚愕したものへと変わっていた

「っま、一番単純で解りやすいのだとこんなのだな。体をオーラで覆い、強化できるってワケさ」

ヘラヘラと何でもない事のように言う男。しかし彼が殴り、そしてたった今粉々にしてしまった岩は1メイルはあろうかという大きさの岩だった。

「・・・・なんてバカ力なのかしら・・・」

「をい!言うに事欠いてそれか?」

「はぁ・・・まぁ、なんとなく解ったわ・・・詳しい事はあとでってことで」

「・・・まぁいい。そういや、使い魔ってのは?俺はその使い魔として呼ばれたってさっき言ってたよな?」

すこし不満そうなタカシの事はサラっと無視して、彼女は続けた。

「あぁ、メイジってのはね、一体使い魔を持てるのよ。今その召喚の儀式の真っ最中ね。使い魔ってのは、主人であるメイジの目となり耳となり、手足として、時には盾になって主人を守る者の事ね。」

「ふ~ん・・・要するに、主人、つまり俺の場合お前の要請を受けて、いろいろするワケか」

「ま、そんな所でいいわ。ってか、アナタ理解してるなら主人に対して敬意を払って敬うとかいう気は起きないワケ?」

「見た目自分より明らかに子供な奴に敬意とか言われてもなぁ・・・」

ボソっと呟いたが、これはデンジャーだ。
アーリャは表情を固まらせたまま無言の威圧を開始した。

「・・・子供・・・ね・・・何を基準にそう言っているのか・・・是非ともおしえて欲しいわね・・・」

笑顔で言っているが全く笑顔に見えないのは何故だろう

「さぁ・・・何故だと思う?」

「!?何故心が読める!?」

「アナタまた口に出てたわよ!!!!」

そういいながら爆発した。自業自得である。

「いっ・・・ちょ・・・まて・・・解った・・・俺が悪かったって!ちょ・・・やめ!」




しばらくお待ちください





「ふ~・・・まったく・・・ヒドイ目に会ったぜ・・・」

「何が『ヒドイ目』よ!殆ど避けてたじゃない!しかも座ったままで!なによそれ!?それに子供って!アナタ歳いくつよ!?アタシとそんなに変わらないでしょ!?」

アーリャ嬢はまだご立腹であった。

「どーどー・・・歳は18だな。まぁ、とりあえず落ち着けって。まだ確認事項があるんだから」

「馬じゃないのよ私は!って・・・18?二つ上なのね・・・」

「ん?お前16か・・・やっぱりこd・・」

言いかけたが睨まれたのでその続きは飲み込んだ

「・・・ッフン・・・まぁ、それは後にして、確認事項って何?」

「あぁ。さっきも言った通り、俺はハンターだ。使い魔として呼び出されてもそれは変わらないつもりだ。」

「ずいぶんと偉そうね・・・でも、私の使い魔である事に変わりは無いわ」

「まぁ、そうだな。だからこうしないか?アーリャ。お前、俺を雇わないか?」

「雇う?だからアナタは使い魔だって!」

「いや、だからな。俺をお前の使い魔として雇うって契約だ。報酬は・・・そうだな・・・とりあえず衣食住の保障と、この世界の情報提供って所でどうだ?」

「だから・・・まぁ、べつにそんな事ならいいんだけど・・・なんでそんな契約とか報酬ってのに拘るのよ?」

「言ったろ?俺はハンターなんだ。異世界だろうが、何処だろうがそれに変わりは無い」

真剣な眼差しで見据えてくる彼に、アーリャは少し物怖じした様子だった。

「そ、そう。まぁいいわ。あなたにはまだ色々聞けそうだし、その条件、飲むわよ。これで契約成立ね」

「あぁ。んじゃ、改めて。よろしくな、アーリャ」

そう言いながらタカシは立ち上がり、アーリャの瞳をしっかり見据えて右手を差し出してきた。真剣な表情と、自分より高い身長。そして長く美しく揺れる白銀の髪に少し見とれながら、アーリャは答えた。

「えぇ。改めて、これからよろしくね。タカシ」

そう言いながら同じく右手を差し出した彼女は、初めてタカシに微笑んだ








さっそく様々なご意見、ご感想を頂き大変うれしいです。
さっそくで申し訳ありませんが、いろいろと問題点の訂正、設定の変更などをしました。詳しくは変更したプロローグをお読みください。こんな作品でも楽しんで読んでもらえれば幸いです。



2008/09/05 改行、誤字、多少の内容の修正をしました。
2008/09/15 誤字を訂正しました。



[4075] 第二章 二つの異例×二人の世界×二人の主人
Name: 豊◆4d075937 ID:7463db71
Date: 2008/09/20 13:49
二人が契約を交わし、広場に戻って来た調度その時、また一段と大きな声が上がった。

「ん?なんだ?騒がしいな」

「誰かすごい使い魔でも召喚したのかしら?」

そんな会話をしつつ、二人が人垣の中に入っていく。そして目にしたもの

「・・・ウソ・・・ルイズも・・・!?」

「あの桃色の髪したのがルイズってのか?ん?あの少年・・・あの服装・・・もしかして・・・」

二人がそう呟いた瞬間、誰かが叫び声を上げた

「ゼロのルイズも平民を召還したーー!?」

そしてまた吹き荒れる怒号の嵐。ルイズと呼ばれた桃色の髪の少女が、さきほどのハ・・・教師に何か文句を言っているが、まるで聞き入れてもらえないようだ。

「ッ・・・解りました・・・」

そう言いながら彼女は少年の顔を掴みそして

「お~・・・アレは多分俺の同郷だわなぁ・・・また・・・可愛そうに・・・」

その呟きが聞こえたのか、アーリャが反応してきた。

「同郷・・・って!?あの平民もあなたと同じ?何で解るのよ!?」

「ん?あの服装だよ。んで、あとあの荷物。ありゃ、パソコンか」

「服装?・・・確かに、あんな服見たことないわね・・・それに荷物?・・・パソコン?」

二人がそんなやり取りをしている間に、契約の儀式は終了したようだ。教師が皆を誘導し、教室に向かうつもりらしい。

「ほら、あなたの同郷の人は後ででいいから、私たちもとりあえず教室に行くわよ」

「はいよ。(・・・視たところ一般人か・・・やっぱ戸惑ってるわなぁ・・・後で少し話してやらんとなぁ)」

そして教室で軽い話をした後、今日はこれでお開きになったようで、タカシとアーリャは部屋に戻っていた。

「さて、とりあえず色々話さなきゃならん事もあると思うが、その前にひとつやる事がある」

「やる事?」

怪訝そうに言う彼女を尻目に、彼は続けた

「あぁ、さっきのルイズってのの部屋へ行くぞ」

「ルイズの?何でよ?ってか、命令すんな!」

「さっき召喚された奴の事、話してやろうと思ってな。一般人はここが異世界だって事に気づくのに時間がかかると思うし、こっちも情報が欲しい」

「ふ~ん・・・いいけど、何で一般人だってわかるの?一般人だと何で気づくのに時間がかかるの?」

「・・・一度に質問すんなよ・・・まぁいいけど、一般人かどうかってのは、オーラを見れば解る。能力者は一般人とオーラが違うからな。」

「オーラってのはさっきのよね?アナタのオーラもさっきのしか見えなかったけど、どう違うのよ?」

「あれは、オーラを集めて密度を高くしたから見えたんだろうな。元々魔法ってのも根っこはオーラに似た物を使ってるっぽいから、一定以上の密度があると見えるんだろ。多分な。んで、能力者は密度に関係なく見ようと思えば見えるのさ。」

「ふ~ん。んで、もうひとつの答えは?」

「もうひとつ?あぁ、それもオーラだ。見える人間なら解るが、この世界の大気中にあるオーラの量っつか濃度が、俺が元々居た世界より桁違いに多い。だから使い手なら一目瞭然なんだ」

「っそ。まぁ、ルイズの事は私も気になるからいいわ。行きましょ」

「友達なのか?」

「えぇ。幼馴染よ・・・大切なね」

そう言う彼女の少し暗い表情に、一瞬戸惑いながらも彼はアーリャの後を追って部屋を出た。

「ルイズ~?居る?私、アーリャよ」

ノックをしながら呼びかけると、すぐに扉が開いた

「アーリャ!いらっしゃい。!その平民は・・・あぁ・・・貴方が召喚した平民ね・・・」

一瞬明るくなったが、そう言うルイズの表情は俯いたままだ。

「えぇ・・・そうね。でね、ちょっと話があるんだけどいいかな?」

少し気まずそうに言うアーリャ

「えぇ、いいわよ・・・私の召喚したのが居るけど・・・気にしないで・・・」

なにやら気落ちした様子のルイズ嬢

そして二人はルイズの部屋に入って行った。
まず口を開いたのはタカシだった。

「よう、お前名前は?」

少年に向かってそう問いかける

「才人・・・平賀 才人・・・アンタは?」

「俺は崇。龍宮 崇だ。名前から察すると、同郷、それも日本人だな」

それを聞いたサイトの顔は、驚愕。そして歓喜の色に変わった

「え!?って事はあんたもそうなのか!?」

「あぁ、そうさ。俺もお前と同じ異世界からやってきた異邦人だよ。っつっても、30分くらいの時間差だけどな。俺もさっきの儀式でコイツに呼ばれたのさ」

そう言いながらアーリャの頭をポンっと叩く

「ちょっと!頭叩かないでよ!」

彼女は怒りを露わにする

「あ・・・わり、丁度いい位置にあったからつい・・・」

全然悪びれもせずにそうのたまうタカシに対し、アーリャが怒り顔で詰め寄ろうとした瞬間、別方向からの援護射撃があった

「ちょっと!そこの平民!アンタ貴族であるこの私を無視して、真っ先にそこの平民と会話するなんてどういう事!?しかも貴族であり、主人であるはずのアーリャの頭まで叩くなんて!アンタ死にたいの!?それに異世界って何よ!?バカじゃないの!?」

アーリャよりさらに激しい機銃掃射のような口撃。しかしタカシには効果が今ひとつのようだ

「あぁ、すまんすまん。んで、お前がルイズだよな?さっき見てたから名前は知ってたし、後ででいいと思ったんだよ。悪かった」

反省の「は」の字も見せない男の態度にルイズがさらに噛み付いてきた。

「アンタ、いい加減にしなさいよ?尊ぶべき貴族に対して、そんなナメた口利いて、タダですむと想ってるの!?」

「あぁ。だから悪かったって。謝ってるだろ?それより、こっちのほうが重要なんだよ。ちょっと待ってくれ」

その態度で最後の・・・本当にギリギリ崖っぷち、左手の薬指一本で保たれていた物がルイズのなかで吹き飛んだ

「あんたいい加減に―」

「ルイズ!ゴメン!私に免じてここは許して!お願い!彼も一応謝ってるんだし・・・・ね?」

そんなルイズを止めたのは冷や汗をかいたアーリャだった。

「放してアーリャ!こんな無礼な平民何で庇うのよ!?いくら貴方でも使い魔の教育くらい―」

「えぇ、しっかりするわ!だから、今日は・・・ね?まだ初日なんだし・・・」

友人のそんな必死な訴えに頭が冷めたのか、ルイズは振り上げていた右手

をゆっくり下ろしてため息をついた。

「はぁ・・・・解ったわよ・・・今回だけだかんね・・・」

「え・・・えぇ・・・ありがとうルイズ」

半眼で睨んでくるルイズに冷や汗と苦笑で答えつつ、アーリャは諸悪の根源に視線を移す

「っというワケだ。理解したか?」

「あぁ・・・プロハンターのアンタが言うなら・・・間違い無いんだろうなぁ・・・はぁ・・・何で俺こんな所に・・・あんな怪しい光の門なんか潜らなきゃ良かった・・・」

「まぁ・・・今更後悔してもしかたねぇ。改めて、宜しくな、俺の事はタカシって呼んでくれ。多分歳も近いし、同郷でしかも同じ日本人だろ?仲良くやろうぜ」

「あぁ。改めて宜しくタカシ。俺の事はサイトでいいよ。って、あんたいくつなんだよ?プロハンターなんだろ!?」

「あぁ。18だよ。お前もそんくらいなんじゃねぇか?」

「うっそ!?若!?俺17だよ・・・しっかし・・・一個上でプロハンターか・・・すげぇんだなぁ・・・タカシは」

「んなこと無いよ。10代のプロハンターってのは、知られてないけどそこそこ居るんだぜ?」

「マジか!?」

「おー。マジマジ」

「「何私たちを無視して話を進めてるかーー!?」」

ルイズはサイトに。アーリャはタカシにそれぞれ見事な蹴りを食らわせた。

サイトは蹴られたわき腹を押さえ危ない感じでピクピクしてる・・・タカシはいきなり蹴られた事に驚いて吹っ飛んだが、あまりダメージは無いようだ。

「アンタ・・・ご主人様を軽く無視して談笑するなんて・・・いいご身分ねぇ・・・犬!」

髪の毛を逆立て、先ほどタカシに発散させ損ねた怒りすら上乗せしたような鬼がいた。

「ねぇ・・・人様に連れて来てもらった部屋で、そこの主にケンカを売って、挙句つれて来た恩人である私が説得するのを無視して、いきなりお喋りしているなんて・・・随分とお偉いのねぇ~・・・」

声色は笑っている。しかし表情は無い。無表情で笑いながらこのような事を仰るアーニャ嬢。正直、めっさ怖いです

「まぁ・・・元々目的がサイトと話す事だったしな。問題はない」

「大有りだこの馬鹿!!」

スパーンといい音がしてアーリャがスリッパでタカシを叩いていた。その横でルイズが横たわったサイトにドスドスとトゥーキックゥをぶち込んでいらっしゃる。ルイズさん、そんな表情と行動はお嬢様が、ってか女の子がやる事じゃありませんよ。

グホとかゲハとかヤバげな嗚咽を漏らすサイトの目に、先ほどアーリャに叩かれた事で落ちてきた一枚のカードが目に入った。そしてそれを観たサイトがいきなりそのカードを拾い上げ、そして叫んだ。

「こ・・・これ!?三ツ星ハンターのライセンスカードじゃないか!?」

いきなり復活して大声を上げたサイトにびっくりしたのか、ルイズが蹴るのを止め、アーリャとタカシも振り向いた。

「あぁ、それ俺のライセンスだ。っつか、よく三ツ星の事知ってたなぁ。普通一般人はただの「プロハンター」ってくらいしか興味示さないのに」

「あぁ、俺、ハンターとか、そういう不思議探しとか、冒険とか好きでさ。たまにネットでいろいろ調べてるんだよ。知り合いにもそういうの詳しいの居るし」

「ほほぉ、なるほどねぇ。んじゃ今度そういう話でも聞かせてやろうか?」

「マジで!?いいの!?やった!!」

いきなり盛り上がる二人の会話に付いていけないお嬢様が二人目を合わせてパチクリしていた。

「ねぇ、その三ツ星ってのは何なの?いきなり大声だしてたけど、そんなに驚く事なの?」

アーリャ嬢の頭の上には3つほど「?」マークが見える。

「犬!ちゃんとご主人様に説明しなさい!」

首を傾げながら聞くアーリャと今にも飛び掛りそうな顔で命令するルイズが居た。

「ん?あぁ。まずその前に、俺たちの事を話そう。一応サイトが話したかもしれんが、確認の意味でももう一度な」

そんな彼らに見かねたのか、諸悪の根源が口を開いた。

「えぇ・・・そうね。異邦人とかハンターとか三ツ星とか・・・キッチリ順を追って説明しなさい!」

命令口調だが逆らうと面倒なので彼は無視して説明を始めた。


「―っというのが俺たちの世界と、ハンターって職業なワケだ。」

一通り説明が終わると、タカシは一息ついた。念能力のことはさすがにサイトも知らなかった様子で、興味深げに質問したりしながら聞いていた。

「そう・・・まぁ・・・いろいろ証拠もあるし、あんたの言うようにウソを付く理由も無い・・・か・・・それにしても、このパソコンってのやらケータイってのはすごいわね・・・遠く離れた相手と連絡できたり、絵を見たりできるなんて」

ルイズはまだ少し疑っていそうだったが、特に話に矛盾もないし、ウソを付く理由も見当たらないので納得してくれたようだ。

「それで、三ツ星っていうのは何?」

そう問いを投げかけるアーリャに答えたのは多少興奮気味のサイトであった。

「三ツ星ってのは、プロハンターのランクの事だよ!ライセンスを持っているプロハンターは大勢居るけど、星を持ってるハンターは限られる。さらに、一つ星、二つ星、三ツ星とあるランクで、最高位の三ツ星ともなれば、世界で数えるくらいしか居ないんだよ!」

目を輝かせながら言うサイトに苦笑しつつ、タカシが補足で説明した。

「っま、単純にランクが上がるような大きな事柄が起きる事多くないってのも理由だな。三ツ星になるには、世界規模や歴史的な大きな事柄にいくつか関わる必要があるから、滅多にいないってのは事実だ。」

やや放心状態のルイズ。だが、それでもプライドがあるのか、一言付け加える

「フン!どうせハンターってのの人数もそんなに多くないんでしょ!試験が難しいってさっき言ってたし。そもそも、そいつがそんな大物には見えないわよ!そんな雰囲気ないじゃないの!」

そんな言葉に反論したのはサイトであった。

「お前、ハンターの人数しってるのか?」

「知るわけ無いでしょ!?」

「約100万人。プロは全体の十分の一くらいだから、プロハンターは10万って所だな」

「な・・・何よそれ!?ハルケギニアのメイジより数多いんじゃないの!

?っていうか、世界人口って何人よ!?」

「60億を超えて、まだ増加中だな。50年後には100億を超えるんじゃないかって言われてる」

何気なく言ったタカシのそんな答えに、ルイズもアーリャも呆然としている。当然であろう。ハルケギニア最大の国、ガリア王国の人口でも1500万人。ハルケギニア全体でも5,6000万人居れば良い方だ。それが一気に数十億人という話になったのだ。

「・・・それじゃぁ・・・この平民は・・・その60億人の内の上から数えた人っていう位置に居るって言うの・・・?」

やや放心状態のルイズ

「別に、上位ってワケじゃない。上位とか下位とか、そんなんことはどうだっていい。ただ、プロハンターとしての功績は確かに上位に入ってる。これは事実だな。っま、いろいろ紆余曲折もあったワケだが」

どうでもいいとでも言いたげに補足するタカシであるが、二人は未だによく理解できてはいないらしい。

「しっかし・・・三ツ星の人の名前もある程度知ってるけど、お前の名前は知らないぜ?一体何やって三ツ星になったんだ?」

そう聞いてきたサイト。しかし、残りの二人のお嬢様もそれが気になるようである。60億人の世界で上位に入る男の功績(彼女たちにはやはりそう見えるらしい)に興味があるのだ。

「ん~・・・あんま表にでない事だからなぁ・・・一番お前にもわかり易

い事ってーと・・・あぁ、このまえので、テロ支援とか何やらで悪者呼ばわりされてた大統領いたろ?アレ見つけて引っ張り出したの俺だ。因縁つけられて可愛そうな気もしたが、仕事は仕事でね」

「テロ支援?」

「大統領?」

不思議そうに首を傾げる少女たちを尻目に、サイトだけは言葉を出せないで居る。

「ぇ・・・だって・・・ぁ・・・アレは軍が捕まえたんだろ!?」

「まぁ、公式発表はそうだわな。とある国のお偉いさんは、昔っからのお得意さんでね。悪の大統領が見つからないから見つけてくれって極秘依頼受けて、あのクソ熱い砂漠の中探し回って見つけたわけだ。でもな、護衛に結構良い腕の能力者が20人くらいいてな。あれは手間取ったわ」

「・・・大統領とか言われても理解できないんだけど・・・王様みたいな物?」

っというアーリャの問いに、サイトが説明をしていった。説明を聞くにつれて、首を捻っていた二人の顔が面白いように驚愕の表情に変わっていく。

「「・・・・ナニソレ」」

結局、二人から出て来た言葉はそれだけだった。

「まぁ、主に俺の功績ってのは、戦争とか、表に出来ない事情とかが絡んでくる事が多いな。勿論、他にも色々やってたけどな。だけど、公にはならないような事ばっかりなんだよ。ま、そんなことはどうでもいい。とりあえず、サイト。お前はこれからどうするんだ?」

その問いかけにサイトは我に返り返答した。

「どうって言われても・・・なんも決まって無いな・・・帰りたいけど・・・方法が解んないし・・・まぁ、とりあえずここで生活してみようとは思うんだけどな」

「とりあえずぅ~?あんた、そんな適当な気持ちで使い間が務まるとでも思ってるの!?」

っと、ルイズにドつかれているサイトを遠目にみながら、タカシは少々驚いていた。

「ほぉ・・・帰りたいとか騒ぐと思ったんだけど・・・さすがにハンターに興味をもつだけはあるの・・・か?・・・」

呟くように漏らした声を聞いているのは、この部屋では一人しか居なかった。

「それじゃ、私たちはそろそろ帰るわね。ルイズ、また明日ね」

そう言いながらタカシを促し部屋を出るアーリャ。

「えぇ。また明日ね・・・そこの平民、アンタあんまり調子に乗るんじゃないわよ」

最後にタカシに一睨みしながらルイズが笑顔で挨拶を返す。

「はぁ・・・はいはいっと。んじゃサイト、また明日な。・・・大変だろうが・・・がんばれよ・・・」

「ぁ・・・・あぁ。また明日な・・・はぁ・・・」

タカシは最後にサイトへの激動をして、笑顔で部屋を後にした







以上、第二章でした。何人かの方に指摘していただいた問題点を改正致しました。作者の勝手で実在している特定の人物、団体、国名を出し、それによって不快に思われてしまった方もいるであろうと思います。そのことについては深く反省しております。以後、そのような事が無いように細心の注意を払いながら、作品を完成させて行きたいと思いますので、長い目で見守ってください。

ではノシ





2008/09/5日、改行、誤字、多少の内容などを修正しました。
2008/09/15 誤字を訂正しました。



[4075] 第三章  理由×決意×お月様
Name: 豊◆4d075937 ID:7463db71
Date: 2008/09/23 21:54
二人はアーリャの部屋に戻って来た。っといっても、アーリャとルイズの
部屋は隣なので、大して移動もせずにすぐに部屋に戻って来れた。

「ふぅ・・・今日はいろいろな事がありすぎて・・・ふぁ~・・・流石に疲れたわね」

欠伸をしながら少し気ダルそうに言うアーリャに苦笑しつつ、タカシは部屋にあった椅子に腰掛けながら話しかける。

「まったくだ。まさかいきなり異世界につれて来られるとは思ってもみなかったよ」

「・・・・悪かったわね・・・勝手に呼びつけて・・・アナタも・・・帰りたいんでしょ?」

申し訳なさそうに、そして少し寂しそうに言う彼女にさすがにタカシも呆気にとられて、口をぽけ~っと開けてその場に固まった

「何よ・・・言いたい事があるならハッキリ言いなさいよ!恨み言くらい
なら聞いてあげるわよ」

彼の妙な反応が気に障ったのか、アーリャが捲くし立てる。

「い・・いや、まぁ、恨み言は無いな。それにしても、随分殊勝じゃないか。どうした?」

「べ、べつに!・・・ただ・・・」

「ただ?」

「・・・何も知らないのに、いきなり違う世界につれて来られたってのが
、さっきの話で少し実感できたのよ・・・全く異なる国、人・・・信じて
なかったワケじゃないけど・・・どこかで疑ってたのかしらね・・・」

俯きながらポツポツと呟くように言うアーリャ。

「っま、いきなり信じろって言うほうに無理があるんだし、別に気にして
ないぞ」

笑顔で答える彼に、少し赤面しつつアーリャは疑問に思っていた事を
口にした。

「・・・アナタは・・・帰りたくないの?さっきルイズの部屋で、サイト
の事褒めるように呟いてたけど・・・それに、ここにきてからアナタ一度
も「帰る」って言ってないわよね?」

恐る恐る、少し上目遣いで聞いてくるアーリャ。

「ほぉ、気が付いてたか・・・っま、不思議に思われても仕方ないな。」

少し驚いたっと言った表情で彼女をみるが、別段動揺している風には見え
ない。

「何で!?家族や友人、自分の故郷からいきなり引き離されて、しかも他
人の都合で勝手によ!?何で、それで恨み言の一つも言わないの!?私だ
ったら・・・その相手は許せないわよ・・・・」

目じりに少し涙を溜めながら叫ぶアーリャ。いきなりそんな事を言ってき
たのに少し驚いた。

正直、少し可愛いと思った。

「か!?かかかか、可愛いとかはどうでもいいから、質問に答えて!」

「しまった・・・また口に出てたか・・・」

「いいから答えなさい!」

誤魔化しが効かないと思ったのか、それとも今にも泣きそうな顔に負けた
のか、彼は自身の事を語り始めた。

「俺に両親は居ないよ。もちろん、育ての親は居るけどな。友人は・・・
まぁ、あんまり多くは居ないけどな・・・でも、正直帰りたいかと聞かれ
ると、返答に困るんだよ。」

「どうしてよ!?本物じゃなくても、家族でしょ?両親や友人がいるなら
、なんで!?」

家族や友人といった言葉で、急に彼女の態度が変わった事を不審に思いつ

つ、別段隠す理由もない為か、彼は語り始めた。

「・・・俺はな・・・本来死んでるはずなんだよ・・・・」

「ぇ・・・・・・・」

その言葉の意味が、彼女には理解できなかった。彼は死人だというが、目
の前にいるこの男は確かに息をしている。生きているのだ。

「・・・どういう事?」

「・・・まぁ・・・かいつまんで説明するとな・・・俺が、最後に元の世
界で敵・・・ハンター関係の事で標的と戦ってたんだ」

彼の真剣な表情。ウソは感じられない。

「そして、俺は最後に、そいつを倒した。そう思ったら、次の瞬間、そい
つが開発していた装置を起動させたんだ」

「装置?」

「あぁ。もともと依頼内容は、この装置の破壊。危険度SSS。世界最高
レベルの機密任務で、俺を含めて何人か、選りすぐりのハンター達でそい
つが装置を開発してるアジトに侵入して、それを破壊するって任務だった
。」

「・・・世界って・・・いったいどんな装置なの?」

「小型高重力場生成装置」

「・・・どんな効果があるの?」

「ん、重力ってのはわかるよな?」

「うん」

「その重力ってのが、仮に今の10倍になったら、俺たち人間はどうなる
と思う?」

「そんなの、つぶれちゃうに決まってるじゃない」

「その通り。ペッチャンコだ。Tシャツに張り付くくらいにな。」

「?」

「・・・まぁ、それは置いといて、ともかく、そのTシャ・・・じゃねぇ
、人間をペッチャンコに押しつぶしてしまう空間を作る装置って事だ。し
かも、10倍じゃなくて一万倍だ。人間どころか、星がどうにかなっちま
うほどだよ。」

「!?・・・そんな物作って一体何を!?」

「さぁ?他人の考えてる事なんざ、俺にはわからんね。ともかく、最後の
最後にそれを作動させちまった。それは俺の完全なミスだ。なにせ、その
装置がある最深部の部屋にいた唯一のハンターが俺だからな・・・完全に
俺の不始末だよ」

少し悔しそうにそういう。

「・・・それで、その装置が作動してどうなったの?」

「・・・万が一作動した場合の緊急手段として持たされたある物を使い、
装置ごと半径40キロを吹き飛ばした」

「ある物・・・?半径40キロ!?」

その範囲に驚いた様子で、途中からいきなり声を大きくする

「あぁ・・・まぁ、簡単に言えば、ものすごく強力で小型化された爆弾だ
。それで、自分も装置も、施設も周辺も、まとめて吹き飛ばした」

「そんなこと・・・その依頼っていうのは、どうしようも無くなったら最
後は自爆しろって依頼だったの!?なんでそんなの受けたのよ!?」

「簡単な事だ。俺以外じゃ、出来ないと思ったし、それにその装置を作っ
ていた組織に俺が探していた男が居た。こっちは狙ってたワケじゃないか
ら偶然なんだけどな。んで、自爆ってのは、ハッキリ言って当たり前の措
置だと思ったさ。装置が起動したら星ごと飲み込まれるかもしれないんだ
。なら、僅かな犠牲と、周囲40キロですむ方法を取ったほうが得策だ。
そのほうが確実だしな」

平然と言う彼の言葉に・・・アーリャは言葉が出なかった。

「そんで、最後に自爆したはいいけど、何かワケのわからない空間に放り
出されてな。死後の世界かな~っとか思ってたら、いきなり目の前に光の
門が現れて、あとはお前に出会った。っと、こんな所だな」

ヘラヘラと笑いながら言う彼に対して、アーリャは半分泣きながら詰め寄
った。

「何で・・・何でそんな事平気で言えるの!?確かに、世界を守るって事
に比べれば、人の命は切り捨てなきゃいけないかもしれない!でも、何で
爆弾持たされて、危険な場所に送られて、自爆して、死んじゃって、なん
でそんなにヘラヘラ笑っていられるの!?人の・・・アナタの命って言う
のはそんなに軽いものなの!?」

必死の形相と剣幕。さすがに彼も驚いた。そして、ゆっくりと、言い聞か
せるように一つ一つの疑問に答えていった。

「まず一つ、何故平気でいられるのか。これは簡単だ。俺は今生きている
。だから笑っていられるし、平気な顔でいられる」

「でも、自爆したんでしょ!?今ここにいるのだって、よく解らない奇跡
みたいなものじゃないの!?」

「あぁ。その通りだ。でも、奇跡でもなんでも、俺は生きて、ここに居る
。だから笑える」

「結果じゃないの!生きてたからいいような物の・・・死んでたらどうす
るのよ!?」

「たら、れば。の話に意味は無いさ・・・俺は今生きている・・・それが
全てであり、事実だ・・・それとも、アーリャ、君には俺が今死んでいる
用に見えるのか?」

ゆっくりと、やさしい声としぐさで彼女の手を掴み、自分の胸に当てる。

「・・・・見えない・・・心臓は動いてるし・・・あったかい・・・確か
に生きてる・・・でも・・・」

「デモもストも無い。生きている。これ以上なにも俺は要らない。それ
と、もう一つ、世界のためにってのは間違いだ」

「・・・ぇ?」

「俺はそんな出来た人間じゃぁない。正直、世界が滅びようが、人が何億
人死のうがおれ自身に害がなきゃどうでもいい」

「どうでもいいって・・・じゃぁなんで?」

「戦友の為だ」

「戦友?」

「あぁ、俺はハンターの中でも優秀な、ある部隊に所属していてな。そこ
で共に戦場を駆けたり、宝を探したり、秘境を探検したり、夜通し語り明
かしたりした戦友・・・仲間が居た」

「・・・『居た』って事は・・・」

「・・・鋭いな・・・まぁ、解るか。そう、みんな死んじまったよ。理由
はいろいろだけどな。それで、その仲間達にはそれぞれ夢や希望があった
。それを果せなかった奴らへのせめてもの弔い・・・そのために俺はこの
依頼を受けたのさ」

「・・・弔い?」

「あぁ。そいつらのやりたかったこと『夢』ってのは、地球・・・住む場
所がなきゃ、どうにもならないだろ?」

「うん・・・」

「だから受けた。そいつらにはその『夢』はかなえられなくても、きっと
、いつか他の人が同じ、もしくは似たような夢を抱いて、それを叶えようとする。
その為に必要な場所。それをどこぞの阿呆の為に奪わせてたまるか。そんな事を
黙って見過ごしちゃ、先に逝った奴らに対して顔向けできん」

「・・・じゃぁ・・・アナタが守ったのは・・・」

「そ、世界じゃない。仲間の誇りと尊厳。それだけだ。ほかはどうでもい
い。クソ食らえだな」

そんな余りにも余りな言葉に泣いていた彼女も思わずポカンとしてしまっ
た。

「世界を守る事がクソ食らえって・・・あなたねぇ・・・」

苦笑気味にそう呟くアーリャ

「をいをい、貴族のお嬢様が「クソ食らえ」なんて言葉使っていいのかよ?」

ニヤニヤしながらそう聞いてくる無礼な男を睨みながら

「う、うるさい!アナタが言わせたんでしょうが!?」

「俺は言えだなんて一言も言ってないがね」

「いいわよ!もう!・・・それより、まだ答えを聞いてない事もあるわよ」

少し元気になったのか、先ほどより表情は明るい。でもジト目で睨まれた。

「ふぅ・・・帰りたいかって事だったな。話がずれたせいだ。まぁ・・・
ともかく、俺は一回死んだ身だ。今生きてるけど、あの時死んだと思った
。流石にゼロ距離で40キロ四方を吹っ飛ばす爆弾を爆発させて、生きてる
生物なんて居ないしな」

「そりゃぁね・・・」

「だから、未練も何も、無いんだよな・・・向こうではその爆発が確認さ
れてるハズだから、俺は死亡扱いだろうしね」

「そう・・・」

「それに家族や友人と引き離されたってのはな」

「うん・・・私なら・・・許さないわよ」

再び俯いてしまった彼女を見て、ため息をつきながら彼は続ける。

「お前、何言ってるんだ?」

「え?」

「言ったろ?自爆したって」

「うん」

「つまり、奇跡だろうがなんだろうが、お前が俺を召還してくれなかった
ら、俺はここには居ないワケだ」

「・・・そうね」

「だろ?言い方は変だけど、お前は俺の命の恩人だぞ?感謝こそすれ、恨
む謂われは無いな」

さわやかな笑顔・・・本当に、邪気の無い笑顔がそこにあった。

「・・・そんなのでいいの?あなたは本当に、そんな事でいいの?」

顔を上げ、戸惑いながらも聞いてくるアーリャ。

「あぁ。これから先、ここで暮らしていく内に、もしかしたら帰りたいっ
て事になるかもしれないけど、将来的なことは置いといて、、現段階では
帰る気は全くと言っていいほどだ。何よりこの世界は非常に面白そうだ。
魔法、幻獣、未知の土地!俺の世界とは違うもう一つの世界!こういう新
鮮な気分ってのは前じゃ殆ど無かったからなぁ」

タカシは拳を握りながら力説する。
そんな態度で先ほどまでの緊張も吹き飛び、彼女も思わず釣られて笑って
しまった

「・っぷ・・・ふふふふふふ、何よそれ・・・子供みたい」

「いいんだよ。ハンターってのは、子供みたいなもんだ。自分の興味のあ
る対象を見つけたら一直線!ってな。それに、子供みたいってお前に言わ
れても・・・」 

少しだけっムっとしながらそう言い返す

「何か言った?」

笑顔が恐ろし・・・素敵なアーリャさん

「いや・・・・まぁ・・・死んだと思った矢先に、可愛い子からキスされ
たんだし、悪い気はしないな~っと・・・」

言った後に失言に気が付いても手遅れというケースが大半であるのが世の習い。っというか、手遅れでないケースを是非知りたい。

「か、かかか可愛いって・・・いや・・・それは置いておこう・・・キス
の事は・・・その・・・使い魔の契約に必要だし・・・」

「まぁ、そーだな」

ニヤニヤ顔で言っていると火に油ですよ。

「・・・・・」

「ん?どした?」

「・・・て・っ・・・から」

「ん?なんだって?」

「・じ・・だ・・ん・から」

「ハッキリ言えよ。聞こえないって」

「初めてだったって言ったのよ!この大バカ!」

半泣きで顔を真っ赤にして殴りかかってくるアーリャ嬢。正直可愛い。パ
ンチは軽く受け止められたけど、違うものがクリーンヒットしてそうな技
です。全世界の半分の人類の大半には効果はバツグンです。

「そーか、そいつぁーわるかったなー」

どーでもいーと言いたげに生返事をするタカシにアーリャは笑顔で詰め寄
る。中身は一ミリたりとも笑っていませんね。



「・・・・ねぇ・・・今日は月が綺麗ね・・・ちょっとこっちに来て窓を
開けてくださるかしら?」

まだ涙が目元に残ってますよ、アーリャさん
彼はそんな言葉を無視しようと思ったが、次の瞬間、窓に駆け寄って
空を見上げた。

「・・・をいをい・・・マジかよ」

「?どうしたのよ?」

いきなりそんな行動をとったのに驚いたアーリャが声を掛けた。

「月が二つある」

「アナタの世界では一つなの?」

「あぁ。当然だ。大体二つもあったら重力とかどうなってんだ・・・面白れぇな」



子供のようにはしゃぐ彼を見て、先ほどまでの事とか、その他もろもろど
うでも良くなってしまった

「・・・アナタ・・・変わってるわね・・・普通驚いたりとか、いろいろ
もっと他のリアクションってものがあるんじゃない?」

「驚いてるさ。しっかし、これじゃ月面への有人探査船の打ち上げも大変
だな。どっちから先に行けばいいか迷っちまう」

「月面への・・・ゆうじんたんさせん?」

「あぁ、俺たちの世界の月は一つだけど、その一つに人類は行ったのさ」

「ウソ!?月に行ったの!?どうやって!?」

目を輝かせて質問してきた彼女に苦笑しつつ

「をいをい、偉い喰いつきがいいな。月に行きたいのか?」

「えぇ。小さいころに読んだ物語に、月に行くってのがあってね・・・そ
れ以来、一度行ってみたいとずっと思っていたのよ」

「何処の世界でもその手の物語ってのはあるもんだな」

「アナタの世界にも?」

「あぁ。んで、人類はついにその物語を、夢じゃなくて現実にしてしまっ
たワケだ」

「すごいじゃない!それも貴方たち念能力者ってのがやったの?!」

「いんや科学の力さ。人の持てる頭脳、道具、環境、資材、金。多くの物
をつぎ込んで、月に行ったのが今から三十年ほど前だな」

「そんな昔に!?じゃぁ今はもっと遠くにいけるの!?」

「いんや。あいにくと人類は、未だに月までしか行ったことはないな。そ
れに、最近じゃぁそれはでっち上げじゃないかって説がチラホラ聞こえる」

「でっち上げ!?なんでよ?」

「当時の技術に無理があるとか、月で撮影したって言う画像や映像に合
成・・・手を加えている可能性があるとか、いろいろだな」

月旅行計画でっち上げ説に明らかな落胆の色を見せながら、彼女は説明を要求す
る。

「そんな・・・・でも、仮にでっち上げだとして、なんでそんな大嘘付く必要が
あるのよ?」

「お国の面子ってのがかかってたんだよ。敵対国に負けないようにってね
。実にバカらしい話さ」

「そう・・・でも・・・私は・・・月にいつか行ってみたいわ」

「そうだな・・・魔法が使える世界だ・・・もしかしたら行けるかもしれ
ないな」

二人はそう呟きながら空を見上げた。見上げた空は、満天の星で輝いていた。








以上です!   こういうお涙頂戴系の話はやめてくれ~っとい方もいるかと思いますが、一応、こういった設定もこれからに関わってくる予定なので、是非、我慢して読んでいただければ幸いです。




2008/09/07 誤字、改行等を修正しました。
2008/09/15 誤字を修正しました。
2008/09/23 誤字他を修正しました。



[4075] 第四章  初日×食堂×美味しい食事
Name: 豊◆4d075937 ID:7463db71
Date: 2008/09/23 22:22


二人は月を見上げながら暫く話し込んでいた。内容は実に多種多彩であった。

「へぇ・・・国の代表ってそんふうにして決めるんだ」

「あぁ。未だに王様が居る国もあるけど、主流は選挙による代表選出って
のだな」

どちらかがどちらかの世界の事を一つ聞くたび、お互いの世界の相違点、
類似点を挙げては次へ、挙げては次へといろいろな事を話していた。アー
リャはベットに座って枕を抱きながら。タカシは半身で窓辺に腰掛けながら
。かれこれ三時間ほど話し込んでいた。

「聞けば聞くほど面白いわね。アナタの話は」

「あぁ。アーリャの話もな。似ているようで違う。違っているようで似て
いる世界・・・っか。俺たちの世界も、魔法ってのが使えリャこっちみた
いになってた可能性だって十分にあるんだ」

「えぇ、そうね」

「あぁ・・・早く明日にならねーかなぁ・・・まずこの世界の探検の第一
歩はこの学院からだ」

目に希望を宿しながらそう言う男

「はぁ・・・まるで遠足前日の子供ね」

「だからアーリャには・・・」

「・・・・アナタ・・・本当にいい度胸ね」

「・・・そういや、さっきから違和感があったんだが・・・これか」

「・・・なによ?」

からかった事がご不満なのか、抱きかかえた枕に顔をうずめ、頬を膨らま
せながら答えていらっしゃる。正直可愛すぎるそんな行動は、こうかはば
つぐんだ

「呼び方だよ。呼び方。俺はお前の事アーリャって名前で読んでるのに、
そっちはいつも「アンタ」とか「アナタ」とかじゃねーか」

「・・・そういえばそうね。じゃぁ名前で呼ぶわ。えっと・・・・」

人差し指をあごに当てう~んっと言った様子で考え込むアーリャ

「をい!忘れたのかこのアマ?」

「失礼ね・・・冗談よジョーダン。タカシよね?」

満面の笑顔。たまに見せる笑顔は希少価値という物もついて、現在物価が
急上昇中である

「はぁ・・・まぁ、呼びたいように好きに呼べ。特に指定はしないよ」

「っそ。んじゃポチ、今からごみを捨てるから、拾って食べなさい」

「・・・・名前で呼べ」

「好きに呼べと言ったり名前で呼べって言ったり・・・タカシは随分と我
儘なのねぇ」

このくそアマとか口の中でつぶやきながら

「・・・いつか覚えとけよ・・・」

「あら、もうこんな時間、大変だわ!夜更かしはお肌に毒よ!」

「あぁ。身長も伸びないしな」

「・・・今日は遅いから・・・明日決着つけるわよ」

「お望みとあればいつでもいいぜセニョーリータ」

ゴゴゴゴゴというBGMが聞こえてきそうな空気でにらみ合う二人。

「・・・はぁ・・・とりあえず寝ましょうか」

「・・・そだな。ところでアーリャ嬢」

「何かしら?」

「俺の寝床は何処?」

クイっと人差し指で床を指すアーリャ嬢

「・・・まぁ、少し予想はしてたけどな」

「あらそう?意外と殊勝なのね」

「まぁな。ベットはお前が使ってるし、残ってるのは床くらいだろ」

ふぅっとため息をつく様にそういう

「私はてっきりベットで寝せろとか言うかと思ってたけど・・・」

「言うワケねーだろうが・・・そこはお前のものだ。男は黙って床で寝ろ
ってな」

「あら、いい言葉ね」

「まぁ、さすがに毛布の一枚くらいは恵んでくれないか?ちょいとこのま
まじゃ寒いんでな」

「えぇ。それくらいなら当然ね。いいわよ」

そう言って投げられた毛布を受け取り、紺色のコートを椅子の背もたれに
掛けながら、毛布を体に巻きつけ、そのまま椅子に座る。

「あら、床じゃなかったの?」

「ん、椅子があるんだし、いいだろ?これくらいは」

「別にいいけど、自分で「男は床で」って言ってたのに、案外と根性が無
いわね」

「まぁ、根性もいいが、床より椅子のほうが敵に対応しやすいしな」

「敵って・・・ここにはそんなもん来ないわよ」

少し苦笑しつつも

「あぁ。だろうな。でも、コレばっかりは癖でね・・・」

「・・・寝込みを襲われるような悪行でもしたの・・・?」

ジト目で睨まれたので、さらに苦笑しながら答えた。

「一々数えてたらキリが無くなる程度には」

「胸を張って言うな!自慢にならん!」

「まぁ、異世界まで追っかけてきて殺しに来るような恨みを買った覚えは
・・・無い・・・っと思う」

「・・・はぁ・・・もういいわ・・・お休み」

「あぁ、お休み」

疲れたのか、すぐにすやすやという寝息が聞こえてきた。
そして彼も、そんなアーリャの顔を眺めながら今日一日の間に、数ヶ月分かと勘違いするほど濃密な時間をすごした反動で、すぐに眠りに落ちてしまった。



次の日の朝。



タカシは「チュンチュン」というスズメのような鳥の鳴き声で目が覚めた。
こんなに熟睡したのは久しぶりである。ここまで心休まる睡眠をとったのは、元の世界では最後にいつだったか、一々思い出す気にもならない。
そして、ベットに未だ眠り続けている姫君を起こすことにした。
少し早いかとも思ったが、彼の体内時計では現時刻は七時丁度。念のため
腕時計も確認。
七時だった。ただ、これは正直当てにならない。こちらの世界でもこの時計
があってるか、未だに確かめていないのである。

「まぁいいか・・・お~い、アーリャ。アーリャお嬢様~朝ですよ~」

と言いながら体をゆする・・・と

「ん~・・・あとごふん・・・」

むにゃむにゃとヨダレを垂らしながら平仮名でのたまったお嬢様。そんな
彼女にタカシは。

「おーけー。りょーかいだごしゅじん」

そういいつつ、何かを探す。そして目的のブツを発見!手には羽ペン。イ
ンクはOKだ。

「ベタベタな展開を繰り出す相手には同じくベタになって対抗と相場は決
まっている」

ふっふっふと笑いながらにじり寄り、どんな芸術品をこの新世界に生み
出すかを僅かに思案し、決定。実行っという所で。

「・・・何してるの?」

っと愛らしいお目でこちらを睨んでいらっしゃる。

「ではタカシはそんな愛らしい目を持った私に何をしようとしていたのか
、ハッキリ報告してくれないかしら?」

「・・・また俺の考えを読みやがって・・・まぁいい。ほら、朝だぞ」

「私の質問に答えていないわよ?」

笑顔がまぶしい朝一番

「しつもんをすればいつでもこたえがかえってくるとはかぎらない」

「いい言葉ね。でも棒読みじゃ迫力がなくってよ?」

「俺の世界の朝の挨拶をしようと思ってな」

「どんな挨拶?」

「おはよう、アーリャ」

「おはよう、タカシ」


二人とも笑顔なのに、何故かここにいたら危険だと本能が告げます。
なので一時退却




そして紆余曲折があり、彼は井戸にシバカレに・・・じゃなくて水汲
みに。アーリャは着替えをする。そして洗顔、その後二人で部屋を出ると
丁度隣の友人も出てきていた。

「おはようルイズ、サイト」

「おはようアーリャ。それとコイツは犬よ」

「おはよう女王様。そしてお疲れサイト」

「おはようアーリャ・・・ありがとうタカシ」

朝の1シーンである
そんな寸劇が繰り広げられている空間にアンノウンが現れた。

「おはようヴァリエール。アーリャも、おはよう」

「おはようキュルケ」

「・・・おはようツェルプストー」

キュルケと呼ばれた女性は長身に赤髪、そして巨大な二つの兵器を常時装
備していた。肩こりそうですね。揉んであげま・・・続きです

「ちょっと、何虚空を睨みつけてるのよヴァリエール。まったく・・・マ
ナーがなってないわねぇ」

「あら、ゲルマニア生まれの成金よりはマシだと思うわよ?」

「せめて私の半分でも胸があれば少しは張り合えると思うけれど・・・そ
れじゃぁねぇ・・・」

チラっとルイズの腹部を見て目線を逸らし、軽く笑うキュルケ嬢。お願い
だから爽やかな朝に余計な爆弾に火をつけるのはご遠慮ください。
校内放送のスイッチどこですか?

「なぁ、ルイズ、この人知り合い?」

サイト君、ナイスアタック

「えぇ、クラスメートのキュルケよ」

答えたのは少し冷や汗をかいたアーリャだった

「私の名前はキュルケ・フレデリカ・アウグスタス・フォン・ツェルプス
トーよ。キュルケって呼んでね。あなた達は・・・」

「平賀才人。サイトって呼んでくれルイズの使い魔だ」

「龍宮崇 某我儘お嬢様みたいに妙な名前じゃなけりゃ、好きに呼んでくれ」

「ポチに不満ならタマでもいいわよ」

「貴様はしっかりと名前で呼べ。それといい忘れたけど、アーリャの使い魔だ」

「クスクス、あなた達、面白いわねぇ。よろしくね、二人とも。フレイム!」

キュルケは仲間を呼んだ。
フレイムが現れた。

「うお!真っ赤な何か!」

驚くサイトを尻目に、面白そうに笑うキュルケ

「あら、サラマンダーをご存知無い?この子、この尻尾の色!間違いなく
火龍山脈出身のサラマンダーよ!」

そう自慢げにキュルケはフレイムを撫でる。

「あなたはあんまり驚いてないのね」

アーリャは彼が驚いてない事に少し驚きつつも質問してきた。

「・・・まぁ、敵意は無いみたいだし、幻獣ならいくつか見た事あるしな
。こんな可愛いものじゃなかったがな」

そういいつつフレイムと呼ばれるサラマンダーに近づきしゃがんで頭を撫
でてやった。

「あら、フレイムが喜んでる。あなた、面白い人ね。フレイムがなつくな
んて」

「動物の扱いなら結構得意なんだよ」

「サラマンダーをそこいらの動物と一緒にするなんて・・・呆れるを通り
越して少し尊敬するわ」

苦笑しつつキュルケも笑っていた。そしてキュルケは踵を返して歩き出す。

「じゃぁ、また会いましょ。行くわよ!フレイム」

その声に反応してキュルキュルと鳴きながらフレイムも後に続いた。

「・・・さぁて・・・俺たちも行くか・・・アーリャ」

「・・・えぇ・・・そうね・・・じゃぁ、お先に」

先程からワナワナ震えて爆発寸前のルイズから冷や汗を書きながら目線をそらし、二人で口裏を合わせたようにそう言い去っていく

「え?ちょ!?お前ら!?それはないんじゃ!」

タカシとアーリャはそそくさと退散。
残されたのはサイトと不発弾・・・改めルイズ嬢。
その日の朝、火の塔になにかの悲鳴が響き渡った。南無阿弥陀仏。


そして食堂へ


「ほぉ・・・ここが食堂かぁ・・・随分と豪勢だな」

周辺をキョロキョロ見渡しながらタカシは呟く

「ここは伝統と格式があるトリスティン魔法学院のアルヴィーズ食堂だからね」

小さい体をめいいっぱい仰け反らせて偉そうに仰るアーリャ嬢。

「・・素直なのはいいけど、思ってる事口に出しすぎるの
もよろしくなくってよ?」

「・・・死活問題だしな・・・改善のため最大限の努力を払おう」

「言うべき事はそれだけかしら?」

「ルイズとサイト遅いな」

「なら迎えに行ってきてくれないかしら?」

笑顔での恫喝というのは中々効果がありますね

「・・・何処まで?」

「月まで」

「どっちの?」

「それくらいは選ばせてあげる」

「お、サイト。お疲れさん」

そんなとき、丁度サイトが現れた。
言うまでも無く二人とも笑顔。

「あら、今日は迎えは必要なかったようね」

「彼らなら自力でたどり着ける。迎えなど不要だな」

「そうね。違う事をお願いすることにしましょうか」


朝の食事くらい平和に食べたい。そう思わない人は居ないのではないでし
ょうか?少なくともここにいる生徒達はそう思っているはずです。

「おー。すげぇ豪勢だな」

「まったく、無駄なところに金を使ってるんじゃないのか?貴族ってのは」

「いいから黙って椅子を引きなさい犬」

「まぁ、貴族っていうのは安く見られちゃいけないのよ」

サイト、タカシ、ルイズ、アーリャの順にワイワイと話しながら食堂の中
を歩いている。

そんな事を話しながらサイトがルイズの椅子を引き、ルイズが座り、サイ
トも座ろうとした時、ルイズに蹴られ、床を指差された。

「アンタはこっち。ここは貴族専用なのよ」

床には一枚の皿が置いてあった・・・

「・・・わーお・・・流石女王様。ドSだな」

サイトを少し気の毒に思いながらも、思いっきり他人事の様にそうつぶやく

「・・・何ワケの解らない事を言っているのよ・・・所で、あなたは他人
より自分の心配をしたら?」

「・・・一応、契約内容に衣食住の保障ってのが入っていたはずだが?」

「・・・まぁ、いいわ・・・そこの使用人用の厨房に行って食べさせても
らってきなさいな」

彼女はそう言い奥を指差した。どうやら彼の食事は大丈夫らしい。
サイト君ご愁傷様です。

「お前の警護はどうするんだよ?」

「・・・アナタ、そんな事考えてたの?別にこんな白昼堂々、それも学園
の中でなんて襲われっこ無いわよ。それに、襲われるような事した覚えも
無いわね」

少々呆れ気味のアーリャ嬢。

「・・・まぁ、そうかもしれんが・・・一応契約にはアーリャの警護って
のも入ってたハズだろ?」

さすがはハンターと言うべきか、契約に関しては結構まじめである。

「・・・はぁ・・・そうね・・・いいわ、私も厨房に行って、そこで食べ
るわよ」

「ちょっとアーリャ!?何言ってるのよ!?」

思わずルイズも叫ぶ。

「別にいいわよ、彼とはきちんと取り決めをして、彼はソレを守ろう
としているだけ。それに、何処で食べようと食事に変わりはないわ。」

そういい残してテーブルにはわき目も振らずに厨房へ。そして二言、三言
使用人らしき人物と話すと、タカシが手招きされて共に厨房の中に入って
いった。

「・・・すまん、俺が余計な事を言ったからだな・・・明日からは俺がこ
こで一人で食べる」

「何で謝るの?別に悪いことをしたワケでもないわ。あなたは契約を果そ
うとして発言しただけ。私も契約には同意してたし、発言内容も間違って
はいなかった。だからこっちに移っただけよ」

「でも、お前もやっぱ皆でメシを食った方がいいだろ?ルイズとかと一緒
にさ」

「えぇ・・・ルイズやキュルケの隣だったらそれでもいいけど、生憎と、
席は決められているのよ」

「それでも、他に話したい奴とかいるだろ?」

「居ないわね。そこいらの貴族と話すよりは、あなたと食事をしながら、
話を聞くほうが比較にならないくらいマシだわ」

笑顔でそう言うアーリャ。タカシは内心ヤレヤレと苦笑しながら、表面に
は出さずに「そうか」と一言だけ言って料理が運ばれてくるまで二人で談
笑していた。そして料理を口に入れてのタカシは

「おぉ!こりゃうめぇ!」

目を見開き、次から次へと料理を口に運ぶ

「ちょっと・・・みっともないからやめてよ」

っといいつつ、アーリャも結構な勢いで食べている。本当に美味しそうです

「無茶な注文だな。うまい物をうまいといって何が悪い。食は文化だ。土地
ごとに、国ごとに違うが、うまい物を求めるという心意気は何処も同じだ。
それを褒め称えて何が悪い」

「解った。解ったから口の中の物を飲み込んでからしゃべりなさい」

ムグムグと次々に料理を口に運ぶタカシをみて、アーリャは思わず頬を緩
ませた。

(年上だし、言ってることも何もかも大人びてるけど、変なところで子供
よね)っと内心思い、苦笑しながらも、そのまま食を進める二人。
そこへ、ガタイの良いコック帽子をかぶったおっさんXが現れた。

「おう!あんちゃん、いい食いっぷりだねぇ。俺はお前さんが気に入ったぜ!」

ガハハといいながらタカシの背中をバンバン叩く。痛そうな音だが、彼に
はあまりきいてないようだった。

「ごめんなさいね、マルトーさん。急に無茶を言ってしまって」

アーリャが改まってお礼を言った。このおっちゃんXは、X改めマルトー
さんに改名した。

「無茶だなんてとんでもない。こちらとしては申し訳ないですよ。我々の
賄い食をお出ししてしまって・・・」

「私が急に言い出した事です。それに、賄い食でもこんなに美味しいじゃ
ありませんか。感謝こそすれ、怒る理由はありませんよ」

申し訳無さそうに頭を下げる親父に対して、アーリャは意外にも丁寧に接
していた。

「まったくだな。こんな美味い物で賄いだって?まったく、貴族ってのはど
んだけ贅沢なんだ」

「貴族は安く見られてはいけない・・・っと言うものの、食べ方は汚いし
、嫌いな物は残す。たしかにそんな貴族は居ても居なくてもいいかもしれ
ないわね」

「をいをい、お前も一応貴族の端くれだろ?いいのかよ、そんな事言って」

少しの驚きと、呆れを含ませた表情でそう質問した

「一応って何よ!立派な貴族です!それに、私はちゃんと残さず食べるわ
よ。食べ方も綺麗だしね。」

フフンっと鼻を鳴らしながらそうのたまうアーリャ嬢。
口の横にパン屑がついてますよ。

「お、このサラダ!ドレッシングとの愛称がいいな!この肉と一緒にくっ
てもイケル!すげぇな。何通りもの食べ方で楽しめるように作ってるのか


「聞けよ人の話!」

バン!っとテーブルを叩くアーリャ嬢、それはマナー悪いとは・・・言わ
ないらしいですごめんなさい
そんな二人を見ていたマルトーおじさんが堪え切れずに笑い出した。

「ぶあっははははははは!いや、こいつはしつれいしました。アーリャ様
。ですが・・・あなた方の会話は実にユカイで・・・」

「あぁ、いいよいいよ。こいつのことは気にすんなって。あ、俺このサラ
ダおかわり」

「お前が決めるな!・・・はぁ・・・いいえ、マルトーさん、構いません
よ。押しかけたのはこちらですから。」

「そうですか・・っくくく・・・しかし、本当にこの使い魔の方は面白い
ですなぁ」

「ん?そうか?あ、俺、龍宮崇。タカシでもなんでも、好きに呼んでくれ。
敬語もいらないよ。っつか、敬語使うべきは俺だな。年上は敬わなきゃな
。うんうん」

「ねぇ、タロウ。最後の部分、何で私を見ながら言ったのかしら?」

「いや、気のせいじゃないかな?ちょっと自意識過剰だぞ?それと、ナチ
ュラルに人の名前を変更するのは非常に悪い癖だな。早く直さないとただ
でさえ少ない嫁の貰い手が天文学的確立まで減るぞ」

「あなたに将来の事まで心配してもらえるなんてうれしいわ。そんな甲斐
性、欠片も無いと思っていたのに・・・そのときは貰ってくださるのかしら?」

「え・・・ちょっと・・・俺のペット、猫のコゴロウでも、選ぶ権利って
のがあると思うんだ。飼い主の都合でってのは良くないな」

「表に出ない?空気が美味しいわよ?」

「いいね、最近運動不足だったんだ。」


食堂でのいがみ合い終始笑顔ってのは本当に怖いからせめてもうちょっと表情作ってください。

しかし、第三次大戦勃発ギリギリの緊張感をブチ壊したのはこの人だった

「っくっくっく・・・もうだめだ・・・ぶわっはははははははは」

腹を抱えて大笑いするマルトー親父。街中でいきなりそれやると周りの人
引くからやめたほうがいいよ。

「マルトーさん、大丈夫ですか?」

「おっちゃん、笑う門には福来たるっつってな、笑うと言いことがおこるん
だ。もっとだ。もっと笑え」

「ぶわははははははははははは」

「よし」

「『よし』じゃないだろ!」

スパーンと小気味いい音がしたかと思うと、アーリャの手にはスリッパが
。そしてタカシはやや斜めに傾いていた。

「・・・なぁ・・・お前、それ何処から出した?」

「乙女の秘密よ」

「何でもそう言えば許されると思ってるのか?」

「大抵の事は許されるわ」

可愛らしく仰るアーリャ嬢。

「そーかい。んで、おっちゃん大丈夫か?」

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「おっちゃん、コイツに欲情したら人として終わりだと思うよ」

アーリャを指差し、マジかよっと言った表情でそうのたまった

「・・・その発言の意味は後で時間を掛けてゆっくり問いただしてあげる」

「いやいや・・・まったく、タカシっつったな。お前はたいした奴だよ。
貴族にそんな口を聞いて、平気な顔しているなんてな」

「うむ。俺はこう見えてたいした奴なのだ」

「そようねー。チロはすごいもんねー」

「・・・お前、そのネタまだ引きずるのか・・・可愛い顔して意外としつ
こいんだな。まったく」

「!?か、かかか顔は関係ないでしょ!」

「な?面白いだろ?」

そう言いにやりと笑う。楽しんでますね

「た~か~し~?~」

「いやいや・・・アーリャ様にこんな口聞くのも、こんなこと言わせるの
も、お前くらいなもんだよ」

「・・・ただ無礼で世間を知らないだけですよ」

「まぁ、無礼なのは否定しないけど、世間はよーっくしってるぞ」

「まぁ、これからもアーリャ様をよろしくな。坊主!俺は貴族は嫌いだけ
ど、この人とミス・タバサだけは気に入ってるんだ!」

そういいミス・タバサを指差す親父

「タバサって・・・あの青い髪の子か・・・おっさん・・・ロ○コンかよ
・・・」

「・・・・・タカシ・・・放課後、体育館の裏にきてね」

「場所がわからんし、なんでお前がそのネタを(ry

「ちげーわい!俺の料理を文句一つ言わずに食ってくれるし、ついでに俺
達平民に対しても礼をつくしてくれるからな!」

どうだ!っと言わんばかりに胸をはってそう宣言するおっちゃん

「をいをい、おっちゃん、そんな判断基準かよ・・・もうちょい中味見よ
うぜ?」

「んなこたない!お前さんも言ったろ?食は文化!言い言葉だ。実に言い
言葉だ。食に平民も貴族も関係ない!二人はそれをわかってくださってい
るのさ!」

なにやら力説するマッチョな親父。

「そういえば、アーリャ様も今度からこちらで食べられるんで?」

「えぇ、そうね。そうする予定よ。迷惑をかけると思うけど、宜しくね」

「迷惑なんてとんでもない!我ら使用人一同、お二方を歓迎いたしますよ」

「お、って事は俺もこのうまい料理毎日食えるのか~!いやぁ~今日から
食事が楽しみだ」

そうこうして、和やかな朝食は終わり、本日最初の授業が始まった。・・

・やっと?






以上です。あんまり進んでいませんね・・・もうちょっと後の方になってきたら、もっとスピーディーに進む・・・かもしれません・・・それでは またノシ



2008/09/07 誤字、改行等を修正しました。
2008/09/23 誤字を訂正しました。



[4075] 第五章 決闘×試合×念能力
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/19 09:59
 

本日最初の授業~召喚した使い魔とのコミニュケーション~心を開いて話しかけよう
 
少し妙な空気はスルーして、この授業はなんと!ただ自分の使い魔と一緒にいるだけ!まるでサボってくれといっているような授業だ。
うむ、これはアレだ。異世界不思議発見・・・じゃなくて、校内見学の時間に当てるべきだ。よし!

「『よし』じゃない!」

スパーンといい音。アーリャの暗器SURIPPAの炸裂音が響く

「・・・また口に出していたか・・」

「・・・えぇ・・・ここまでハッキリしてると逆に気持ち言いわね」

「まぁ、冗談は置いといて」

「・・・冗談じゃなかったでしょ?」

「・・・置いといて、どうするんだ?」

かなり強引に軌道修正をするタカシ。

「そうね、とりあえず、話をしましょう。相互理解を深めるにはそれが一番よ」

「確かにそうだな。特に俺たちは、当分話題が尽きそうにないしな」

「えぇ。そこは素直に同意できるわね」

二人とも微笑ましく笑い会っている・・・
少し黒いものが見えたり見えなかったりするのはご愛嬌。

そうして30分ほど雑談していた。魔法のこと、政治、経済、歴史。まだまだ話題は当分尽きそうにない。というか、この二人の話題は尽きないのではないだろうか?お互いなんだかんだで好奇心旺盛である。それに、アーリャは平民をあまり差別していないようである。先ほどのマルトーの件といい、なかなか出来た貴族の娘だ。
出会って一日しか立っていないのに、この二人はかなり気が合っていた。

そんな有意義な時間は、一人の貴族の声によって壊された。

「決闘だ!」

「・・・なぁ、アーリャ」

「・・・何?」

「この世界じゃぁ、真昼間に学生が、校内でいきなり決闘するのが日常なのか?」

はぁ、っとため息を付き、気落ちした様子でアーリャにたずねる。

「・・・いいえ、まぁ・・・決闘騒ぎが全く無いとは言わないけど・・・日常ではないわね」

呆れながら声のした方向を向く二人。

「そうか。んで、あのキザっぽい金髪の小僧が叫んでた奴か。相手は・・・って、サイト?」

「あれは・・・ギーシュね・・・無駄に見栄を張りたがる中身の無い貴族Aよ」

「ほぉ、そんなのに絡まれるとは、サイトも可愛そうに」

そうかとうなずき、そのまま他人事であると言わんばかりの態度だ。

「あら、他人事?」

「他人事だろ?」

「確かにね・・・でも、同郷人でしょ?サイト・・・下手すれば死ぬわよ?」

「まさか、子供のケンカだろ?そこまで・・・するのか?」

彼女の表情に冗談の空気が感じられなかったのか、タカシも多少驚いている。

「貴族同士だと流石にそこまでは行かないわね・・・でも、サイトは平民・・・下手をすれば殺されるわ」

「やれやれ・・・こんな異界に来てまで・・・世知辛いねぇ」

首を左右に振り、まったく とか呟きながらどうするかわずかに考える。

「・・・どうするの?」

「まぁ、一応行くか・・・魔法も見てみた・・・じゃなくて、サイトが心配だ。イザとなったら助けに入る」

そう言いながら席を立つ。

「・・・今本音が出たわね。っというか、アンタ魔法相手に勝算あるの?やけに余裕だけど、魔法がどんなものかもまだ良く解ってないんじゃない?」

「魔法がどんなものかね~・・・確かに、アーリャの石ころ飛ばしくらいだな」

へらへらと笑いながらそのような事を言った。

「あれは簡単なコモンマジックよ。あんなもん初歩の初歩よ。あれと比べられると思ったら大間違いよ!確かに、タカシは力は強いかもね。あの岩を素手で割ったんだから・・・でも、それだけじゃ絶対にメイジには勝てないわ!」

結構必死に魔法について説明する。どうやらそれだけ危険な代物の様だ。
そんな事を説明するアーリャ。しかし、その中の一言に彼は反応した。

「・・・アーリャ」

「何よ?」

「一つ、いいことを教えてやろう。絶対という事はあり得ない。この世の中に100%は存在しない。100か0かじゃない。99%か1%だ。コレは例え異世界だろうと、異次元だろうと関係ない。そして、念能力者の戦いってのは、どんな時でも勝つ気でやる。それだけだ。仮に、勝率が1%でも戦う以上は勝つ。無論、逃げられるなら逃げるし、勝つ確率を上げる小細工もする。だが、いざ戦闘になったら負けは無い。そう思いながらじゃなきゃ、勝てるものに勝てなくて、負けない相手に負けるんだよ」

真剣な表情でそう告げるタカシ。そんな彼を珍しく思いつつ、アーリャも反論。

「・・・どこからその自身が来るの?」

「俺が俺自身を信じてやらないで、他に誰が信じるんだ?」

「・・・自信過剰よ」

「まぁ、そうかもな」

気が付けば普段のへらへらした様子に戻り、ちょっとおどけたしぐさでそういった。

そうこうして、ヴェストリの広場にて、決闘が始まった。

「おぉ、あれが魔法か。土系統って奴かな?」

「えぇ。『青銅』のギーシュのゴーレムよ」

「ふむ・・・動きは・・・まぁ・・・一般の兵士より少しマシな程度か・・・。あれなら少し剣をかじってる人間相手じゃ刃がたたんな」

「そう?あれ、最大七体まで出せるわよ?」

それでもそんな事いえる?っと言った幹事のニュアンスで補足してくるアーリャ。

「たった七体じゃたいした戦力にはならんね。あんなのでも一個大隊規模いれば、脅威にはなるが・・・さすがにそれは無理だろう」

「それは流石に無いわね」

数百体出せとか抜かす男にあきれながらも、
そんな会話をしている内に、サイトは七体に増えた青銅のゴーレムに成すすべなく追い込まれていった。

「・・・ねぇ、助けないの?」

「何でさ?」

先程からサイトのピンチだ。それなのに全く動く気配の無い男に対して、少々不審に思い、そう質問したアーリャ。

「危なくなったら助けるって言ってなかったっけ?」

「あぁ。言ったよ」

「今、危ないわよ?」

「どこが?」

どこ見てるんだ?っと言わんばかりの態度だ

「ボロボロじゃない!腕も多分折れてるわ!敵は無傷なのが七体!これでピンチじゃないっての!?」

確かにサイトはすでに満身創痍であった。
だがタカシはまだピンチでは無いという。

「あぁ。まだまだだな」

「・・・あなた・・・見捨てるつもり?」

一方アーリャは多少戸惑っていた。彼が友人を見捨てるようなマネをしている。
これに驚いたのか、それとも他にあるのか・・・。

「まさか、冗談言うなよ。せっかくの同郷人で、この世界の男友達第一号だ。
死なれちゃ目覚めが悪い」

「だったら何で!」

「あいつの目だ」

「目?」

首を捻りながら言われたとおりにサイトの目を見てみるアーリャ。

「あぁ。まだあいつの目は死んでいない。危ないってのは、あの目が死んでからだ。あの目に宿る光に影が差した時。その時は助けるさ」

「目の・・・光・・・」

そういわれても彼女には今一理解できない。普通、そんな妙なものは判別できないのだ。

「あの光がある内に俺が助けることは、サイトのプライド、自尊心を壊しちまう。それは時として死よりもつらい。だから、今俺は出れない」

冷静に、しかし見捨てるつもりなど毛頭無いと言う様に彼はそう言った。

「・・・流石に、場数が違う・・・っという事?あなたの話を真実だと仮定すると・・・だけど」

さすがにそこまでは信じられないのか、疑いの眼差しを向けているアーリャ。

「真実だって・・・疑り深いねぇ」

やれやれといった風体で、首を振る男。

「だって、まだアナタの力とやらを拝んでないからね」

「そりゃごもっともで」

そんな彼らの後ろから声が聞こえた。

「まったく・・・雷鳴殿もこんな下賎な平民を使い魔にして、あまつさえ、こんな者がデカイ口を利くことを許すとは・・・落ちたものだな」

そんな雑音を全く無視するかの様に二人は話している。ちょっとヒドイんでは?


「お・・・場の空気が少し変わったな・・・戦局が動くぞ」

「空気・・・?そんなものあるの?」

「あぁ。今までがユラユラだったのが、今はパリパリしてる」

「んなたとえで解るか!?」

妙な表現をする男に思わず突っ込む。しかし、男の顔はなにやら楽しそうだ。


「おい!お前たち、僕を無視するな!」
無視というか、耳にさえ入ってないのでは?

「・・・なぁ、アーリャ」

「・・・何タカシ?」

「この下っ端B的なキャラは何だ?」

そう言い親指だけでソレを指したずねる。

「そのまんま、下っ端Bでいいわ」

一瞬ソレを見てそう言いきったアーリャ嬢。
何とか存在は認知してもらえたようです。おめでとう

「そか。をい下っ端B。今から面白くなりそうなんだ。後で飴玉やるから、あっちでおとなしくまってろ」

「飴なんてもったいない。雑草茶で十分よ」

「バカか!雑草だって生きてるんだぞ?」

「ッ!・・・そうね・・・ごめんなさい」

「いや、解ればいい。俺も強く言い過ぎたよ。ごめんな」

申し訳無さそうなアーリャに対し、タカシも申し訳ないといった感じである。
もちろん、お互いに対してのみで、下っ端Bは完全スルー。


「・・・お前たち・・・いい加減口の利き方には気おつけろよ?」

怒りで体を震わせ、顔を真っ赤にしている下っ端B。

「あぁ、まだいたの?しつこい小僧だな」

本当に意外そうな表情だ。

「前世はきっと粘着質の何かね。生物かどうかすら判断できないから「何か」っと定義しましょう」

「まてまて、せめて可燃か不燃かは決めようぜ。処理に困る」

「可燃でいいんじゃない?燃えそうだし」

「お前、さっきもちょっと話したろ?物を燃やすと有害物質が大気に流れて、そこから環境を汚染するんだよ」

「じゃぁどう処理するのよ?」

「刻んでバラして魚の餌って手段があるが・・・ダメだな。魚が死ぬ」

「じゃぁどうするのよ?」

「・・・あきらめるか・・・俺たちに出来ることはない。あぁ!あるぞ!ケツに爆竹をつめて月まで吹っ飛ばそう!」

「・・・汚い花火ね」

・・・ちょっと気の弱い子はこの時点で泣くでしょうね

「・・・・・きさまら・・・ギーシュが平民を殺したら!次は貴様らだ!覚悟はいいか!?」

さすがにキレている下っ端B。

「何鼻息荒くしてるんだよ?をいをい、何に欲情してるかしらねぇが、こっちみんなよ」

何やら汚いものでも見るような視線をぶつける。

「物体Xの適切な処理って、タカシだったらどうするの?」

「爆破する」

「・・・下駄箱じゃないんだから・・・」

「確実だろ?」

サラっと爆破とか訳のわからない事をのたまった。

「何かが飛び散らない?」

「半径2kmを立ち入り禁止区域にして、10年間隔離すれば問題ない」

「ここじゃ無理ね」

「だな」

「いいかげんに「うるさい、少しだまれ」ゴブォウェ!」

・・・いつもはケンカしてる二人ですが・・・二人で同じ敵を攻撃すると・・・いや・・・あれですね。ちなみに、最後にはタカシが蹴り飛ばしました。

「さぁ、始まるぞ」

「・・・何が?剣持っただけよ?」

「あれで完全に変わった。何かが・・・説明はできんがな」

「ふーん・・・っえ??!!」

一瞬であった。その瞬間、ギーシュの七対のゴーレムは切り裂かれ、倒れ、サイトはその目にもとまらぬスピードで一気に間合いをつめ、ギーシュに向かって剣を振り下ろした。

「・・・ウソ・・・何・・・今の・・・」

「ほぉ、なかなか早いな・・・しかしあの力・・・本人は自覚してないのか?」

それぞれ驚いている様子である。

周囲のざわめきと共に、ルイズが、遅れてタカシとアーリャが駆け寄った。

「お・・・俺・・・勝ったのか・・・・」

そう言い剣から手を離した瞬間、サイトはその場に倒れ付した。あわててルイズが駆け寄る。

「ちょっと!?どうしたの!?」

血相を変えて駆け寄るルイズを、一人の男が手を翳して静した。

「心配するな。気を失っただけだ・・・そのままゆっくり、横に寝かせろ」

タカシの指示に黙って従うルイズ。そしてタカシは右手をサイトの心臓の辺りに置くと、何かを始めた。

「何を・・・「オーラを・・・集めてるの?」

ルイズの疑問の声をアーリャが掻き消した。
この世界でも、素質、か何かは不明だが、見えるものには見えるらしい。

「オーラ・・・?コイツが説明してたエネルギーよね?そんなの何処に・・・何・・?」

言いながらタカシを観る。そこには、手にオーラを集め、サイトの胸付近に触れているタカシがいた。

そのまま数十秒後

「・・・っ・・・あ・・・・れ?・・俺は・・・?」

「よう、起きたか」

ゆっくりと目を開く少年。そんな少年の名前を思わず叫んだルイズ

「サイト!?」

「へぇ・・・そんな事もできるの」

驚くルイズに、意外に冷静なアーリャ。

「あれ・・・俺・・・ギーシュに・・・勝ったんだよな?」

サイトは未だに状況が理解できていないようである。

「あぁ。ボロボロだけど、文句無くお前の勝ちだ。お前の誇り、見せてもらったよ」

そう素直にサイトを称えるタカシ。それに対し、テレているサイトである

「・・・よせよ・・・恥ずかしい。ただの負けず嫌いだよ」

「それが一番大切なんだよ」

二人ともッフっと笑って握手。そのままサイトを起こす。

「これでとりあえずは平気だ。念のため、今日はあまり動かないほうがいい。一晩グッスリ寝れば明日の朝には直ってるさ」

「すげぇな。これも念能力って奴か?」

「まぁ、そうだな。そう解釈してくれて構わん。説明が面倒だ」

正確には、オーラを集め、神道の~一定の~と行った様々な技術を使いっている。(いずれ正確に書きます。今はとりあえずそんなもんって事で)いわば彼のオリジナルなのだが、説明も面倒だし、オーラを使っているのに変わりはないので念でいいと言った。その時。

 
「決闘だ!雷鳴のアーリャ!」


その時、広場に怒号が響いた。

「・・・な~んでこういう空気を読まない阿呆が何処の世界にも一人はいるんだろうな・・・」

「それが世界の理・・・って簡潔は悲しすぎるな」

ため息を付き。ゆっくりと声の下方向に視線を移す男と、何やら悲しそうな顔のサイト。

「アレだれだっけ?」

「あぁ・・・まだいたのね。」

ルイズがアーリャのほうを向いて「だれ?」っと聞き、アーリャは何やら肩を落としてがっかりしている。

それぞれ中々ひどい反応だ。

四人の反応に下っ端Bはさらに顔を赤くする。
「この高貴なる貴族たるヴィエリ・ド・ロレーヌ様を侮辱し、あまつさえ足蹴にした罪!死をもって償ってもらうぞ!」

デーンっという効果音と共にポーズを決めるヴィエリ氏。

「をい、アーリャ。決闘だってよ。適当にボコッてどこかに捨てて来いよ」

「いやよ。何で私があんな「何か」の相手しなくちゃいけないのよ?」

心底どうでもよさそうにそんな会話をする二人。

「だって、お前をご指名だぞ?」

「今は営業時間外よ。出直して頂戴」

「・・・俺、こいつに向こうの事教えないほうがいいかな・・・?」

一日しか立っていないのに、随分といろいろ向こうの事を学習してしまったアーリャ嬢であった。

「いい加減にしろ!はやく杖を抜け!このヴィエリ様のラインクラスの「風」をその身に受けてはいつく!」

続けようとした瞬間、風の塊が当たった。

「ヴィ・・・何だっけ?忘れそうだ。もう下っ端Bにしろ。そうすりゃ忘れん」

「別にいいじゃない。もう終わったわ。さ、これ以上騒ぎが大きくならないうちに帰りましょう」

決め台詞の途中でエア・ハンマーによる功撃という外道戦法により、アーリャ選手のKO勝ち!「外道って何よ?」・・・華麗な戦いにより、アーリャ様圧倒的勝利です。

そして何事も無かったかの用に四人でワイワイしながら去ろうとしてアーリャが動いた瞬間、二つの風が広場に舞った。












以上です。とりあえず、いろいろ突っ込みどころがありますが、ちゃんと解説もあるんで、一応、読んでみてください。

ヴィエリ君と登場です。なんか自称エリートでやられキャラにぴったりだったのでかませ犬になってもらいます。もしヴィエリ君が好きな方がいたら申し訳ない。


ご意見、ご感想はどしどし書いてください! では



9/7 修正しました。

9/13 修正しました。




[4075] 第六章 護衛×実力×三ツ星ハンター
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/15 14:48

二つの風の内一つは、先ほどの下っ端の放った物だ。
もう「B」ってやんのめんどい

下っ端のエア・カッターがアーリャの、それも首めがけて飛んできたのだ。
そして、もう一つの風は、タカシだった。
その瞬間、広場は一瞬で静まり返った。皆、何が起きたのか認識はしていたが、理解できていなかったのだ。

1、下っ端復活、スキだらけのアーリャの首めがけ功撃

2、タカシが功撃より早く両者の間に割ってはいる

3、エア・カッターがタカシの手に触れる寸前、何かの圧力に屈したように圧壊したのだ

「・・・タカシ・・・?」

搾り出した声は、ひどく不安そうで、戸惑っているアーリャの声だった。

「いま・・・何が・・・え?下っ端・・・?どうしたの?」

だが、やはり理解は出来ていない

「タカシ・・・今・・・魔法を弾いたのか?」

サイトのその言葉に場が騒然となる


「ふ・・・ふはははは!手加減していれば調子に乗りやがって!たまたま外れたのは運が良かったな!平民!そこをどけ!貴様はそこの無礼な没落貴族を殺した後だ!」

kyの下っ端君が吠える。ニャーニャー
空気を読んでいる者(下っ端意外)はみな、しゃべろうとしない。そんな中

「ッ!」

アーリャだけは怒りの表情を浮かべ、何かを言おうとした瞬間、目の前の男に手でさえぎられた

「どいてタカシ!こいつは私が―」

「いいから、俺に任せろ」

その一言でアーリャは押し黙った。
その一言には、有無を言わせない迫力があった。

「っふ・・・身の程知らずの平m「をい」っ!」

その一言で流石にkyは黙る

「お前、今何をした?」

「は?」

彼が何を言っているのか、一瞬理解できなかった。

「もう一度言おう。お前、今何をした?」

声のトーンは変わらない。しかし、空気が違っていた

(これが・・・タカシが言っていた空気?・・・でも、これって・・・さっきのをパリパリっていうけど・・・これ・・・こんなの・・・)アーリャはそう思いつつ、彼の背中をただじっと見つめていた。そこには紺色のコートに、後ろで束ねた白銀の髪が揺れているだけだった。

「っふ・・・何をされたかもわからないのか?教えてやろう!今のはエア・カッターという魔法で「それはいい。魔法で、誰に、どうしたか聞いている」ッ!・・・っふん!そこの無礼な女の首めがけて飛ばしただけだ!それがどうした?これは神聖なる決闘だ!死ぬこともある!」

ky・・・南無

「そうか・・・一つ提案なんだが、さっきお前が言っていた順番、変えてくれないか?アーリャの次が俺と言っていたな?俺をアーリャの前にしてくれないか?」

そんな言葉になぜか「弱気になった」っとでも思ったのか、kyほくそ笑んで答えた。

「ふん!主を庇うか!少しはまともな平民だな!鳴いて命乞いをすれば許してやらなくも無いぞ?」

胸を張って精一杯偉そうに小物匂を漂わせる下っ端に、どうでもいいという様に話すタカシ。

「いや、それはいいから。順番だけ変えてくれ」

「フン!いいだろう!最後の望みくらい叶えてえてやろう!まずは貴様からだ!」

「・・・つまり、たった今、これは俺とお前の決闘という事でいいんだな?」

そういいながら口元に笑みを浮かべるタカシ

「あぁ、いいだろう!ただし、これから始まるのは決闘ではなく!一方的虐殺dっ!?」

さすがにここまで言って空気の変化に気が付いたのか、kyも黙った。

「あぁ・・・そうだな。これから始まるのは一方的な虐殺だ。圧倒的強者による。弱者への無制限の暴力。まさに虐殺だな。主語と目的度が逆だが、そこだけは間違っていなかったな・・・」

そういいながら、彼は抑えていたオーラを一気に噴出した。

圧倒的な、ただただ圧倒的な圧力。オーラが見えようが見えまいが関係なく、全てを吹き飛ばすかのような威圧間が周囲を襲った。
特にひどいのはkyだろう。オーラに加え、彼の敵意までも向けられているのだ。すでに足が腹筋崩壊大爆笑だ。ガクブルなんてレベルじゃない。ガタグラだ

そんな彼のささやかな、そして有一、最後の抵抗、エア・ハンマーがタカシを襲った。
圧倒的スピードで迫る空気の塊に、タカシはなすすべなく、否。身動き一つできずに、
エア・ハンマーは何かに当たったように粉々に消え去った。

「っな!?」

驚愕。得体の知れない物への恐怖。体が動かない。声も出ない。最後の希望は、今目の前でワケもわからぬまま、粉々に砕かれた。

「何を驚く?小僧」

たった一言。それだけだ。それだけで周囲の気圧が一気に上昇したような錯覚さえ起こした。

「決闘は神聖なる物。死人がでてもおかしくない」

そう言いながらタカシは一歩踏み出す。まるで山ほどもある大きさのドラゴンと対峙したかのような感覚・・・っとでも言えばいいのか。背中を見てるだけのアーリャにさえ、そう感じた。

「ありがとう小僧。順番を変えてくれて。」

また一歩。まるで地獄が歩いてくるようだった

「お礼に苦しんで死ぬか、ジワジワ恐怖に苛まれながら死ぬか。君に人生最後の選択肢をあげよう」

もう一歩。

「よーく考えろ。っといっても、そんなに時間はやらん。俺はこう見えて忙しい」

さらに一歩

「10秒だ。君の今までの人生で最も長く、最も高価で、最も意味の無い10秒。それが俺から君へのプレゼントだ。選べ」

再び一歩

「10・・・9・・・8・・・7・・・」

一歩前へ

「6・・・5・・・4・・・3・・・」

最後の一歩 

「2・・・・1・・・0・・・さぁ、お祈りはすんだか?そして答えは出たか?最後の時間は有意義だったかな?では時間だ。さぁ、答えろ小僧」

怒気を孕んでいるワケではない。別段口調を変えてるワケでも無い。ただ、その一言。一言だけで、少年は失禁し、その場に倒れこんだ

「た・・・・たすけ・・・て・・・殺さ・・・ないで・・・お願い・・・します・・」

涙でと鼻水、汗で顔がわからない。尿で足元をぬらし、はいつくばって命乞い。

「それがお前の「答え」か?・・・そんな答えじゃダメだな。。言ったろ?これは虐殺。君にあるのはさっきの二択。それも時間切れ・・・だ。それじゃぁ、ごきげんよう。来世で会ったら・・・もう一回殺してやるよ」

そういいながら左手を振り上げ、振り下ろす

「や・・・やめなさい!タカシ!」

凛とした透き通るような声が、広場の静寂を破り、その場に響いた
その声で振り下ろしていた腕をアッサリと止め、タカシは一言言い放つ

「雇用主。もとい、ご主人様からの命令だ。よかったな小僧。ご主人に人生3回分くらいは感謝して、頭を低くして生きてみろ」

そう言った瞬間、ヴィエリはその場に倒れ、気を失った。

振り向いてタカシは戻ってくる。しかし、さっきまでの威圧感はウソのように消え去っていた。

「ねぇ・・・・」

何か言いたげなアーリャ。こんな事態は初めての様で、戸惑っているようである。それもそのはず。ここは魔法学院。魔法での模擬戦等の授業はあるが、所詮授業。子供の遊びの様な物だ。それに対して、今のは正に実戦であったと思う。当然、ここの学生はそんな経験だど無いのだ。

「ん?どした?」

いつもと全く変わらない調子で答えるタカシ

「・・・さっきの・・・・」

その後に続く言葉・・・タカシは少し予想していた。こんな場面をいきなり見せられて、普通の人間はどんな反応をするか。彼はそれをよく解っていた。が―



「完全に悪役の台詞よね・・・」


ジト目で睨みながら、見事に予想の斜め前方宙返りをしてくれた。

「・・・・そうかな?」

ズッコケないように注意しながら、そう答えるのが精一杯だった・・・だぜなら、気を抜けば今すぐ笑い出してしまいそうだったからだ。

「そうよ!あんなセリフ・・・私には絶対に言えないわよ。」

少し怒りながら、少し笑いながらそんな事を仰るアーリャ嬢。

「何言ってやがる。お前なら普通に言えるぜ。ほら、手出せ。免許やるよ。全国悪役選手権5位っとこれでいいか?」

「いらんわ!」

そんなやり取りを見て、集まっていた生徒達の緊張もほぐれ、みな散り散りに去っていった。タカシ達も完璧にいつも通り・・・っというワケには、さすがに行かないが、サイトを部屋まで送り、その最中も普通に会話し、帰っていった。


「・・・みたかね?Mrコ・・・ピカソじゃったか?」

「コルベールですよ。エロじ・・・学院長」

「おぉ、そうじゃったそうじゃった。ピカソール君。あの黒髪の少年がガンダールヴか」

「・・・もういいです・・・そうです。彼がミス・ヴァリエールが召還した平民の使い魔です。」

「そして白銀の髪の少年が・・・」

「ミス・ズィーフィードが召還した・・・これも平民の使い魔です・・・が」

「あの者の事も遠見の鏡で見ておったが・・・先ほどの決闘といい・・・彼は何者じゃ?」

「それは・・・私にも解りかねます・・・っが、我々・・・すくなくとも、ミス・ズィーフィードに敵対するものでは無さそうです」

「ふむ・・・そうじゃのぉ・・暫く様子見じゃな」

長く伸びた口ひげを弄りながら思慮深そうに言う爺

「はい・・・」

軽く頷きながらそう答えるコルベール教諭がいた。






以上です。こういうのが嫌いな方。ありがちだと思う方もいるかもしれませんが、まぁ相手がヴィエリ君だったのでこうなった っという事にしてごまかされてください。ちなみに、ここでの台詞回しなどは私の好きな作品「ヘルシング」と「ブラックラグーン」という作品の登場人物達が言いそうな台詞を、主人公に言わせて見たいな~っとか思って多少アレンジ(出来てないかもね)して言わせて見ました。
こういう事を言わせてもまったく問題が無いと(個人的に)思ったのは、やはりヴィエリ君が相手だからですかね。
私は彼嫌いじゃないんですよ?あの小物臭が結構好きです。

ちなみに、「魔法の名前や効果が違うんじゃね?」っと思う方は、「作者によるオリジナル(勝手に変更)」だと思ってください。
これからもオリジナルの魔法やルーンなどを出していく予定です。(あまり無茶にならない程度の物を)

では、引き続きご意見、ご感想などを是非!お寄せください。




[4075] 第七章  過去×現在×未来
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/20 05:27
 

部屋に戻ったタカシとアーリャ。しかし二人は無言だった。
やはり先ほどの事が引っかかっている様子である。
そんな中、先にアーリャが口を開いた。

「・・・ねぇ」

「・・・ん?どうした?」

椅子に座り、コートを背もたれに掛けながら彼はアーリャを見た。
彼女も対面の椅子に座り、俯きながら声を出した。

「・・・さっきは」

「あぁ、さっきはすまなかった。余計な事をしちまったな」

アーリャの言葉を遮りタカシが答えた。が―

「違う!そんな事は無いわよ!・・・むしろ、助けてもらって感謝しているのよ?アナタが割って入ってくれなかったら、私は本当に死んでいたかもしれないもの・・・」

いつもの元気をどこかに置き忘れてしまったのか、彼女はぽつぽつとそう呟くように言う

「いや、あいつを変に挑発して、事態をややこしくしたのも俺だ。
それに、ああなる可能性も十分考慮していながら、特に俺は行動を起こさなかった。これは俺のミスだ。」

そう言って彼は素直に頭を下げた。
そんな態度に驚きながら、彼女もまた自分の主張をぶつける。

「そんな事無い!私も一緒になって挑発してたし、結果的にアナタは私を助けてくれたじゃない!」

顔を赤くして、一気に捲くし立てる彼女を見ながら、タカシは多少呆然としつつも、言葉を続けた。

「だが、俺の無意味な行動で雇用主、ご主人を危険に巻き込んだ。
この事実にも変わりは無いさ・・・プロハンター失格だな・・・
こっちに来て、余りにも居心地がいいから、少し気が緩んでいたよ・・・」

彼にしては珍しく、っというか、こっちに来てまだ一日しか立っていないので、そういう表現が適切かは解らないがともかく、珍しく本気で落胆している彼を見て、アーリャは驚いていた。

「・・・どうして、私はアナタは悪くないって言っているのに・・・どうしてそんなに自分を責めるの?それに、結果として何も無かった。アナタも私も無事だったんだから、それでいいじゃない!」

「・・・確かに、結果としては全く問題ないかもな。
君は無事。俺も無事。全て丸く収まって万々歳だ・・・
だが、一歩間違えれば違う結果になっていた可能性も十分ある。」

「違う結果・・・?どんな?」

「最悪の場合は、俺が死に、君が死ぬ事。」

平然と、なんでも無い事のように彼はそう言った。
しかし、ここは平和なトリスティンの魔法学院。そんな事は起こらない。

「そんな事あり得ないわ!」

彼女の意見は正しい。確かに、そんな事あり得ないかもしれない。しかし

「いや、さっきも少し話したが、あり得ないっという事は存在しない。0か100かじゃない。1か99かだ。だから、俺が死ぬ確率もあるし、君が死ぬ確立もある。常にどんな事でも起こる確率は0ではないんだ。」

「そんなこと・・・・でも・・・」

彼女は納得できていない様子である。当然だ

「そうだな。ここは平和だ・・・それに、学院だ。そんな場所でそんな事が起きる確率は限りなく0に近いだろう・・・だがしかし、0ではない。俺の・・・俺達ハンターの世界では、何が起きても不思議じゃない。だから常に、細心の注意を払い、様々な事をして、そんな可能性を少しでも下げる努力をする。それがプロハンターなんだ。だが、俺は今日、それを怠った」

「・・・・そうかも知れない。確かに・・・アナタの言うとおりかも知れない・・・でも・・・私は・・・助けてもらった・・・私が侮辱されて・・・怒りそうになっても・・・私の変わりにアナタが戦ってくれた・・・私は・・・正直うれしかった。今までそんな事してくれた人は居なかったから・・・」

搾り出すような声で、一言一言話すアーリャ

「そんな事・・・ないだろ?友達とか、家族とか、君ならいくらでもいるんじゃないか?」

彼にしてみれば、何気ない一言。彼からみた彼女やこの世界は平和で、暖かく、そんな平穏が当たり前のように存在する場所―それがタカシのトリスティン魔法学院とアーリャに対する認識だった。しかし、

「友達は居ない・・・ルイズやキュルケ、タバサは・・・友達だけど、それくらいね・・・私、他人があまりスキじゃないの。特に、貴族ってのはね・・・。家族は・・・10年前に皆殺されて、私の家には私一人だけよ・・・。」

タカシの予想を完全に上回る答えが返ってきた。彼女やこの世界にはそんなこっちの世界のような事象が無い―っと勝手に思い込んでしまっていた。いや、アーリャを見ているタカシには、そう見えてしまっていたのだ。

「・・・何で・・・貴族が嫌いなんだ?お前も貴族だろ?」

そんな答えしか出なかった

「・・・私の家・・・ズーィフィード公爵家って言うんだけど、この国でも有諸ある高家だったの・・・でも、私の6歳の誕生日に、家に族が侵入してきて、家族を・・・殺していった・・・私はたまたま遅れて家に帰ってきた・・・両親からもらえるプレゼントを期待しながらね・・・」

「・・・」

タカシは無言で彼女の話を聞いていた。

「そして帰ってみれば、家族は皆殺されていたわ・・・お父様も、お母様も・・・弟も・・・それからは絵に描いたような転落よ。私意外の一族を皆殺しにされた家は、政争によってあっという間に没落。お父様と昔からの親友だったヴァリエール公爵に養っていただけなかったら、私は今頃ここには居られなかったわね・・・。」

「・・・襲撃犯は・・・?」

「さぁ?・・・未だに不明のままよ・・・でも、予想は出来るわ・・・」

その先はタカシが言った。

「ズィーフィード家を疎ましく思った他の貴族って所か・・・」

「えぇ・・・さすがね・・・あくまで予想でしかないけど・・・でも、仮にも公爵家の警備を突破して、その家の人間を皆殺しにできるような事、そこいらの平民や盗賊には無理よ・・・。」

暗い表情のまま彼女はしゃべっていた。

「・・・だろうな・・・っち・・・胸糞悪い・・・何処の世界でも、そういう事はあたりまえ・・・っか・・・」

苛立ちを隠そうともしないタカシの態度に、アーリャは頬を緩ませながら

「えぇ・・・そうね。アナタの世界も・・・そんな事はあるのね・・・ごめんなさいね。気分を悪くさせてしまって・・・」

「をいをい、何で誤る?そりゃ俺のセリフだろ?俺は勝手にお前は、いや、この世界はそんなクソみたいな事は無いって決め付け、お前にそんな話までさせちまったんだぜ?」

「・・・いいのよ・・・事実だし・・・いずれはアナタに話そうと思っていた事よ・・・丁度いい機会だったしね・・・。」

そう言いながら微笑む少女。今まで、どんな思いで生きてきたのか、タカシには、彼女の心がよく理解できた・・・何故なら

「・・・そうか・・・んじゃ、お礼ってワケじゃないけど、俺の過去も話そうか・・・俺だけお前の過去を知ってるってのは、不公平だしな」

そういいながら笑うタカシ、その笑みはをみてアーリャも思わず笑ってしまう

「ふふ・・・えぇ・・・そうね。それでお相子にしましょう?これで公平にね」

「だな。よし、んじゃ、ちょっくら語るとするか・・・言っておくけど、この話を知っている奴は、二つの世界でお前だけだ。だから・・・超レアだぜ?」

笑いながら続けるタカシ。二人の空気は、いつもの明るいものに戻りつつあった。

「そうなの?っていうかレアって?」

「あぁ。仲間は知ってたけど、皆死んだしな。レアってのは、まぁ、珍しいって意味だ。気にするな」

「ふ~ん、まぁいいわ。教えて。貴方の過去を・・・」

「あぁ・・・俺の過去・・・っつっても、18年しか生きてないから、そんなに壮大な物でも無い。俺が8歳になるまでは、そこいらの餓鬼と変わらない、平和な日常だ。一つだけ違う事は、俺の家は代々続く念能力者の家系でな。小さいころから念の修行をしていたって事くらいだ。」

「へぇ・・・私達貴族みたいね・・・。」

「あぁ。少し似てるな。んで、八歳の俺の誕生日から、俺の人生は大きく変わった。」

「アナタの八歳の・・・誕生日?」

「あぁ・・・家のしきたりで、白銀の髪を持つ子供が産まれ、が八歳になったら、継承の儀っていう儀式をする事になっているんだ。一族が今まで受け継いできた・・・物。一言で言うと、遺産みたいなもんだが、それを継承することになっていた」

「結構古い家なの?あなたの家」

「一応な。表向きは普通の道場がある家って感じだが、本当は1000年続いている家系・・・らしい。本当かどうかは知らん。興味ないしな」

「1000年も・・・本当ならすごい名家ね」

「だな。まぁ、そこはどうでもいい。ともかく、その儀式で、俺は目の前で一族を、家族を殺された。」

「ぇ・・・・?」

さすがのアーリャも言葉を失った・・・いろんな意味で、彼女は驚いていた。自分と似たような境遇にも、目の前でという異常にも、さらに彼が平然と、いつもの調子でそれを話す事にも驚いていた。

「下手人は俺の兄弟子。俺の家、龍宮家の直系じゃなく、じいちゃんの弟子として、15歳の頃に弟子入りして、以来20年間修行していた人だ。名前は 明智 錬路(あけち れんじ)俺は彼の事をレン兄とか言ってたな」

「!?・・・犯人も解ってるって・・・まぁ、目の前でってのなら・・・当然よね・・・」

「あぁ。動機は知らん。知ろうとも思わなかったな。そして、じいちゃん、親父、お袋や集まっていた親戚一同を圧倒的な力で逆殺していった。当然、当時曲りなりにも念の使えた俺も、レン兄を止めようと挑んだが、相手になるどころか、触れる事すらできなかった。」

「そんな事って・・・」

「まぁ、当然だな。レン兄は20年の修行という下積みも才能ある。何より、努力していた。数年間だけど一緒にすごした俺にはそれがよく解る。だからこそ、俺は慕っていたんだがな。」

「でも・・・なんで・・・?」

「さぁ?知らないよ。ともかく、そんなこんなで家族は殺され、いよいよ俺の番になったワケだ。でも、そんな中で奇跡が起こった。
死んだはずの。っつか、レン兄も俺も死んでると思っていたじいちゃんが起き上がって、最後の力・・・まさに、死力を尽くして俺を抱えて逃げてくれた。そして、レン兄を振り切って、安全な場所までたどり着くと、俺を抱えていたじいちゃんは崩れ落ちたんだ」

「・・・タカシのおじいさん・・・すごい方ね・・・」

「あぁ・・・今でもハッキリとあの光景は覚えている。今の俺は当時と比べられないほどの実力があると自負してるけど、それでもあの時のじいちゃんには絶対に届かなかったと思う。流石は、一族の歴史上最強といわれてた人だよ」

「そんなに・・・」

「あぁ。んで、俺は泣きながらじいちゃんにすがり付いてわめき散らしていたよ。「おじいちゃん!大丈夫!?今すぐ医者を呼ぶから!もうちょっとだけがんばって!」ってな。当然、じいちゃんには自分の体のことは解っていたみたいでな、「もういいんだ」って、やさしく微笑みながら、俺の頭を撫でてくれた。」

そう言った瞬間。ほんの一瞬だが、タカシの表情が、悲しみと懐かしみを含んだものに変わっていた。しかし、一瞬の出来事で、すぐにまた笑いながら彼は続けた。

「そのときのじいちゃんの最後の言葉・・・当時の俺には意味が解らなかった。でも、今ならハッキリとわかる」

「・・・なんて仰ってたの?」

「『人はいつか必ず死ぬ。今夜は俺の番だった・・・それだけさ・・・お前が悲しむ事じゃない・・・胸を張って、明日を生きろ。皆の命はお前と共に。』そう言っていた・・・そして、そのまま何も言わずに冷たくなっていったよ。俺は、そのままじいちゃんの死体を埋葬することにした。本来は国への手続きやら、専門の資格をもった業者への連絡やらをしなきゃいけないんだけど、そんなの無視してたな」

「・・・そう・・・」

「あぁ。んで、じいちゃんが好きだった家の裏山に戻って、そこで一番見晴らしのいい場所に穴を掘って、そこに埋めた。そこは一族代々の墓でな、家に残ってた親父やお袋も、みんなそこに弔ったよ。」

そういいながら彼は遠い目で窓を見つめた。つられてアーリャも窓を見ていた。

「んで、その日から俺の人生が変わったのさ。遠い親戚に引き取られた俺は、来る日も来る日も念の修行をしていた。学校に通うけど、友達も作らず、授業が終わると真っ先に家に帰っては修行していた。そのかいあって俺は4年後、12歳で史上最年少でハンター試験に合格。そのままプロハンターになった。」

「・・・どうしてプロハンターになったの?

「最初に少し話したと思うが、ハンター目指す奴ってのは、大体人をさがしているか、宝を探しているかだ。俺の場合は、アレ以来消息不明のレン兄を探すために。そのためだけにプロハンターになった。」

「・・・復讐のため?」

「その通り。レン兄を探し出して、必ずこの手で殺すためだ。いや・・・だったっつったほうが正しいな」

そう言いながら自分の手を広げ、それを見つめる

「・・・だったって事は・・・今は違うの?」

「今はっつか、途中からだ。プロハンターとして、情報を得るためにはまず、信頼を、名声を得るのが手っ取り早い。だから俺は片っ端から依頼を受け続けた。そんな生活が三年ほど続いたら、一つ星のハンターになっていた。んで、当時15の俺に、人生二度目の転機が訪れたのさ」

「・・・どんな?」

「ある人・・・いや、人たちとの出会いだ。これも前ちょっと話したけど、そこであるチーム・・・部隊に俺は入ることにした。
その部隊の通称は、伊隅ヴァルキリーズ。」

「イスミ・・・ヴァルキリーズ?」

「あぁ。創設者の伊隅 みちるって人が女で、創設当時は女12のみの部隊だったからってのが名前の由来らしい。俺が入った時はメンバーも入れ替わって、男が俺を含め三人。女が五人になってたけどな。ちなみに、ヴァルキリーってのは、俺の世界の神話で出てくる、まぁ女神みたいなものだ。」

「ふ~ん・・・っで、そこで人生が変わったってのは?」

「あぁ。恋人が出来た。」

「はぁ!?」

予想外の答えに声を荒げるアーリャ

「冗談だって、まぁ、話を続けよう。」

「今逸らしたのはアナタよ・・・」

「ゴホン!ともかく、入隊した。んで、この部隊ってのは、全員プロハンターでな。その中でも一つ星を持ってるのは俺ともう一人いた。隊長ってか、リーダーの伊隅さんは二つ星のハンターだった。チームを組む目的は単純、そのほうが効率がいいからだ。現地で見ず知らずのハンターと組むより、あらかじめチームを組んでをいて、そこから行動したほうが早く終わるし、確実だ。」

「なるほどね。つまり、凄腕の集まりで、より効率的に仕事をこなす手段として、アナタはそこを選んだわけね」

「そう言うこと。はっきり言って最強のチームだったね。こいつらとなら出来ない事は何もない。そう思うような奴らだった。俺は目的は忘れてたわけじゃないけど、それでも純粋に、そいつらと一緒に居る事が楽しくて仕方なかった。そんで、気が付いたら二年たっていた。その頃になると、ハンターの世界で俺達の名前を知らないものは居ないってほどに有名になってたよ。俺は二つ星に昇格してたしな。んで、俺の17歳の誕生日に、ある依頼を受けた。何の因果か、俺の誕生日にはイベントが盛りだくさんってワケだ。」

「・・・また・・・何かあったの?」

「あぁ。その依頼をこなすため、いつものように俺達伊隅ヴァルキリーズは、依頼内容をこなして、いざ依頼完了。帰って俺の誕生日を皆で祝おうって事になってた。その時に、敵に襲われた」

「敵?」

「あぁ。奇襲ってワケでも、俺達が油断していたわけでもない。でも、俺達は一人。また一人と殺されていった。」

「そんな!?タカシと同等の人たちが7人も居たんでしょ!?そんな事って・・・」

「言ったろ?あり得ないって事は無い。どんな事でも可能性があるって。それに、自分を最強だなんて思ってないよ。俺より上はいくらでも居る。そして、そんな奴らに俺達は敵として出会ってしまった。それだけだ。」

「そんな・・・」

「そして、いよいよ俺と伊隅さんの二人だけになった。敵もなんとか倒して残り二人。人数は互角。一対一でそれぞれ目の前の敵を倒せば終了。そのはずだった・・・事実、俺が自分の相手とやり合っているうちに、伊隅さんが相手を倒し、残りは俺の目の前の一人になった。そして、ほんの一瞬、相手に一杯食わされて、俺は油断した。その瞬間、俺は死んだと思ったね。実際、伊隅さんが助けてくれなければ、俺は死んでいた。それくらい致命的な一瞬だったんだ。」

「でも、助けてくれたんでしょ?伊隅さん」

「あぁ。代償として、彼女の命が失われたけどな。」

「ぇ・・・」

「彼女は、自身の身を犠牲にして、俺を助けてくれた。俺は彼女に生かされたんだ」

「・・・そんな事って・・・」

「事実だよ。実際、俺は伊隅さんが繋いでくれたこの命を使い、残った敵を倒し、彼女に駆け寄った。彼女は完全な致命傷。手の施しようが無い状態だったよ。意識があって、俺に話しかけていられるのが不思議なくらいに・・・な」

「・・・なんて・・・言ってたの?」

「・・・俺は謝った。謝罪してすむ事じゃないけど、泣きながら誤った。俺なんかの為に、こんなすばらしい人が、人たちが犠牲になって、俺一人生き延びた事の罪悪感と、生き残れた事の喜びをほんの少しだけ感じながら、ひたすら謝った・・・そしたら、俺は瀕死の伊隅さんに殴られたんだ。」

「ぇ!?」

「瀕死の状態で、手を少し動かす事も出来ないような重症なのに、なんとあの人、俺を殴ってふっとばすと、俺の目の前で仁王立ちになったんだ。信じられるか?少し詳しく話すと、心臓に穴が開いている状態でだぜ?」

「・・・なによそれ」

「信じられないだろ?俺も自分の目を疑ったよ。でも、あの人はそんな状態で俺を殴り飛ばして、大声で怒鳴りつけてきたんだ。
『甘ったれた事を言うな!誰が貴様なんぞのためにこの世で一番大切な自分の命を捨てるものか!うぬぼれもいい加減にしろ!虫唾が走る!』
ってな。」

「・・・・えぇ!?」

「正直、俺は一瞬この人は実は死なないんじゃないかと思ったよ。んで、伊隅さんはさらに俺をののしった
『いいか!?誰もお前のような虫けら一人を生かすために死んでいない!私達は、己の尊厳と誇りを守るために命を掛けて敵に挑み、そして勝利したんだ!』
ってな。」

「・・・部隊はアナタを残して全滅・・・それでも?」

「あぁ。俺もそう思い、お前と同じ事を聞いたよ。そしたらもう一発殴られて『当たり前だ!』って怒鳴られた。んで、
『我々は文字通り、全身全霊を掛けて戦った。そして結果として、我々は死んだ。しかし、お前は生き残った。それが事実だ。そして、敵は全滅。これを我々の勝利といわないで何というんだ?』
っとおっしゃるワケだ。」

「・・・それでも・・・」

「それでも、伊隅さんは俺を庇わなければ死ななかったハズだ!俺はそう言ったよ。そしたらさらに一発殴られて
『いい加減にしろ!いつまで過ぎた事をグダグダ言うつもりだ!?いいか!?それ以上ウジウジするようなら、それは我々への冒瀆だ!我々が全てをかけて貫き通した尊厳と誇りを貴様一人で踏みにじるつもりか!?』
とな。そんで『我が伊隅ヴァルキリーズの格言を忘れたか!』ってな」

「・・・格言?」

「おう。
『死力を尽くして任務に当たれ。生有る限り最善を尽くせ。決して犬死するな。』これが俺達、伊隅ヴァルキリーズの格言だ。んで、これを伊隅さんは大声で言って、こう続けた
『私達は死力を尽くして任務に当たった。生ある限り最善を尽くした。決して犬死しなかった。それにどんな不満がある?』
っとな。さっきまでの怒鳴り声とは違って、静かでやさしい口調だったよ。
『ただし、最後の一つ、決して犬死するな。これが実現できるかどうかは貴様しだいだな』
っとか付け加えやがったんだ」

「・・・どういう事?」

「俺もそう質問した。そしたら
『私達は今日、ここで死んだ。そして、確かに、私はお前を庇わなければ今日この場では死ななかったかもしれない。しかし、もしお前が、その事に責任を感じるのならば、笑え。笑いながら、多くの人々に、我々の事を語り継げ。お前が我々の存在を、我が隊の格言を誇らしげに人々に語り継ぐ事こそ、我々を犬死させない有一にして絶対の方法だ』
っと仰ったワケだ」

「・・・ごめん・・・どういう意味かわからないわ・・・」

「無理も無いな。つまり、逝った者達のことを、人々に誇らしげに話すことによって、その存在が記憶として残り、意味を持つ。もし、逝った者達のことを皆が、世界が忘れ去ってしまうなら、それこそ意味の無い死。犬死になる。そういう事だ。また、話すときに語り手が暗い顔をしてウジウジしながら話したとして、誰がその話を記憶にとどめる?誰がそんな事を他に語り継ぐ?そうなれば世界に忘れ去られた者は犬死になってしまう。って事だ」

「・・・なんとなく解った・・・」

「それでいい。なんとなくでも何でもな。んで、俺は伊隅さんに最後に了解したと返事をした。そしたら、
『よし!いい顔だ!では、格言を私と共に復唱しろ!』 
『死力を尽くして任務に当たれ!』
『生有る限り最善を尽くせ!』
『決して犬死するな!』
言い終わると、伊隅さんは最後に一言、俺に笑いながら『ありがとう』って言って、そのまま立ち往生。つまり、俺の目の前で仁王立ちしたまま逝ったんだ・・・すげぇ人だよ。心臓を貫かれてるのに、俺を殴り、ののしり、散々怒鳴り散らして、最後に自分の言いたい事を言って立ったまま死ぬ。尊敬を通り越して呆れるね。俺は、あの瞬間一生あの人に勝てなくなったのさ」

「・・・・そうね・・・」

アーリャは俯き、小刻みに震えながら、小さく呟いた。

「んで、俺は仲間達の遺体と持ち物を、それぞれ家族や親戚に届けた。一人ひとり、丁寧にな。念の事を知らない人にも、本来は禁止されているが、しった事じゃない。すべてを一から丁寧に説明した。俺が知っている全てを。最高の仲間達の最高の武勇伝を。誇らしげにな。んで、伊隅さんの家族にも伝えたんだ。その時、なんで彼女が俺を庇ったのかが、なんとなく解った。」

「・・・・なんでだったの?」

「伊隅さんはな。弟が居たんだ。でも、その子は殺されたんだって・・・彼女は復讐のためにプロハンターになり、見事復讐を果した。その復讐を果すために作ったのがあのチームだったんだ。弟さんを殺したのは、ある大規模な組織の・・・いわば実験のようなものだった。だから、彼女はその組織をつぶす事にしたらしい。でも、組織相手に一人じゃ無理だ。そこで部隊を作り、お互いの目的のために動く事にしたんだと。そんで、その弟が生きていれば、丁度俺と同い年だったらしい。何の因果か、誕生日も俺と同じ10月31日。多分、彼女はどこかで俺に弟の影を重ねてたんだろうな・・・だから最後の『ありがとう』は『守れなかった者を守らせてれてありがとう』って意味とか『もう一度弟に合わせてくれてありがとう』って意味もあったんじゃないかって、俺が勝手に思ってる。このことは、まだ誰にも言っていないな。家族の人もそういう想像をしたかもしれんがね」

「・・・・」

アーリャはもう何も言わなくなっていた。

「そして、俺はその一件で三ツ星になった。面倒だからはぶくけど、その件はそれだけの価値がある事だったそうだ。今の三ツ星の俺があるのは、あの人たちのおかげだよ。俺一人だったらせいぜい一つ星止まりだったろうな。そして、あの日に俺はいろいろな事に気が付いた。じいちゃんが最後に言っていた言葉。俺はあの言葉を『自分に代わって復讐してくれ』っという意味だと思っていたが、その日からまったく違った意味に思えた。『自分達の事を語り継ぎ、お前は生きてくれ』って意味に思るようになったんだ。じいちゃんは復讐は望んでいない。本心がどうだったかは、もう知るすべが無いけど、俺はそう思えた。そんで、俺はその日から一年。世界中を見て回った。復讐ためにレン兄を探すのではなく、俺の戦友が、家族が暮らしていた世界が見たくなってな。そんな放浪しながらもいくつか依頼をこなして、一年たって、あの日っつってもまだ昨日なんだけどな。ここに居ると時間の感覚が狂うぜ。んで、ともかく依頼を受けて突っ込んで自爆した。ちなみに、最後に俺が倒したって言った男は、どんな因果かレン兄だったってワケ。こんなもんなだ。俺の今までの人生は。どうだ?なかなかに充実していると思わないか?」

彼らが部屋に戻って来た時は夕方だったが、タカシが話し終わった頃には、夜になっていた。

明るい声でアーリャに問いかけるタカシだったが、アーリャの顔を見た瞬間、動きを止めた。彼女は―――泣いていた。

「ぅっく・・・なんで・・・何で・・・そんな風に笑えるのよ・・・どうして・・・アナタだって辛いハズなのに・・・なんで・・・」

ボロボロと泣きながら呟くように言うアーリャ。そんな彼女の頭に手を置いて、やさしく撫でながらタカシは言った。

「辛かったよ。でも、楽しかった。辛い顔をして、涙を見せていれば皆が生き返るってんなら、俺もそうするさ。でも、そうじゃないだろ?死者は蘇らない。これはこの世の絶対の理だ。それは、アーリャも解るよな?」

やさしく、丁寧に彼女の頭を撫でているタカシ。

「っ・・・うん・・・でも・・・・」

それでも彼女は泣き止まない。

「だったら、そんな人たちに俺達生者が出来る事ってのは何だ?悲しむ事か?違う。俺達が出来る事は、精一杯生きる事だ。生きて、生きて、命の限り生き延びて、死んだ者達の分も人生を楽しんで、最後に笑って死ぬ。これが俺の彼らに対する弔いだ。」

アーリャの目をしっかりとみて、その瞳に強い意志を宿しながら、彼はそう言った。

「・・・・・」

アーリャは返事が出来なかった。自分の中で答えが出ていなかったからだ。そんな彼女にタカシは

「いいか、アーリャ。今すぐ答えを出す必要はない。でも、君もいつかは答えを出さなければならない。そして、その答えが俺と同じである必要も無い。百人居れば百通りの考え、価値観があるんだ。でも、一つだけ。これだけは絶対にが言える事がある。」

「・・・・それは・・・何?」

「俺はお前の泣き顔を見たくない。お前は笑っている方が可愛いよ。」

そんな歯の浮くようなセリフを真顔で言うタカシ。かなりの大物ですね。もしくはただの女垂らし。そんな言葉が飛んでくるとは思わなかったのか、アーリャは一気に無きたんで、硬直している。そしてどれくらい彼女は固まっていたであろうか。

「18・・・19・・・20」

・・・タカシが時間を数えていた。

そして時は動き出す

「・・・な・・・なな・・・なななな何言ってるか!」

一気に赤面しながら、ガタンと椅子を倒して立ち上がりズザザっと一気に壁まで後退。

「お、動き出した。大丈夫か?」

そういいながら近寄り、彼女の顔を覗き込むタカシ。顔がにやけている・・・完全に楽しんでいますね。

「あ・・・・あああああアナタが変な事言うからでしょ!?」

「をいをい、人のせいにしちゃいけないよお嬢さん。それに、俺は本当のことを言っただけだぜ?」

「っ!?――――もういい!寝るわよ!」

そう言いながらベットにダッシュ。そして、毛布を頭からかぶり横になる。そんな彼女を、おもしろそうに。実に面白そうにニヤニヤとSな笑みでみながらタカシは―――

「おう。んじゃ寝るか。ところで、体長悪そうだな?大丈夫か?何なら添い寝してやるぞー?」

っとのたまった。誰か、コイツを簀巻きにして東京湾にコンクリと一緒に沈めるの手伝ってくらないか?

そして大声で騒ぎながら彼らの一日は幕を閉じた。



追伸~防音処理は完璧です 
byトリスティン魔法学院設計主任








以上、一気に突っ走りました。ここで登場した「伊隅ヴァルキリーズ」っというのは「アージュ」という会社が製作したゲーム「マブラヴ オルタネティブ」という作品からお借りしました。
元々伊隅 みちる とうい人は同社が作成した「君がいた季節」っというゲームに出ていたそうなのですが(実はこっちは知らないので良くわかりません)「マブラブ」では伊隅ヴァルキリーズという部隊の隊長として出演しています。
このゲーム、簡単に言えば宇宙人との戦争です。
そして人類は負けそうです。世界人口は10億まで減っていて、絶望感溢れる中、決して諦めない人類の活躍を描く~っといった作品です。興味がある方は是非、プレイしてみる事をお勧めします。


ここまでいくつか突っ込みがありましたが、「全て彼女達を登場させるため」です。私はこのゲームに登場する伊隅ヴァルキリーズの事が非常に大好きで、「彼女達のすばらしさを伝えたい」っという思いもありました。最初は「○○ヴァルキリーズ」っといった感じで、キャラもオリジナルで、でも格言と隊の名前だけ使わせてもらおうとも考えましたが、「この言葉や考えは彼女達の物だ。自分が勝手に変えることは出来ない」っと結論をだし、そのまま使わせてもらいました、


オリキャラ二人が似たような境遇(ありがち)なのは、そういった共通点があれば、お互い打ち解け安く、話もスムーズに進められるのではないかと思い、このような設定にしました。当初はアーりゃ嬢だけそういう(家族死亡)にしておこうとも思ったのですが、「伊隅ヴァルキリーズ」のすごさ(実質一つ星の少年を三ツ星にする。世界観を変えてしまう)を少しでも(たとえ間違った方向だとしても)伝えたいと思った次第です。(弟云々は作者の勝手な設定です。すいません)

ちなみに、原作中の伊隅さんはもっとすごいです。自分にも大きな影響を与えてくれたキャラの一人として、私なりに最大限の敬意を持ってこのように書かせていただきました。

原作準拠でも、18歳で実質一つ星っという事なら、納得できる方もいらっしゃるのでは?

まぁ、長くなりましたが以上です。
これからもご意見、ご感想等大募集です!ぜひとも、いろいろと書いてやってください。では、失礼します

一部誤った記述があったので訂正します。










[4075] 第一回 オリキャラ紹介~  
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/19 10:00


ここでのオリキャラ紹介は、キャラが質問に答えるという方式でやっています。
そういう物が嫌いな方、気に入らない方は、読まないで飛ばす事をオススメします

























ここで、オリキャラの設定を少し紹介したいと思います。

まず赤コーナ~ 龍宮崇選手~


「チス」
はい、では自己紹介をお願いします。

龍宮 崇 (たつみや たかし)
身長 174cm 体重58kg
白銀の長い髪を後ろで縛っている
体型は細身
三ツ星ハンター 
性格  傍若無人 唯我独尊 悪戯大好き
好きなもの 面白いこと 面倒ごと
嫌いな物 ムカデ バカ カボチャ 変体
念能力 ??系統 ?? ?? ??
8歳の頃に家族を殺され、復讐のためにプロハンターになった。
犯人の「レン兄」を捜す為にハンターになり、その目的の為に世界中を回っていた。
途中、伊隅ヴァルキリーズに出会い、彼らとの劇的な別れにより、復讐以外の目的を見つける。
三ツ星だが、実質一つ星。(二つ星と三ツ星は伊隅ヴァルキリーズでの功績なので)
最後に、偶然出会ったレン兄が作動させた装置に巻き込まれ消息不明になった。




はい、ありがとうございます。では質問です。
  その髪の色になった(した)理由はなんですか?

「ん?さぁ?作者の趣味じゃね?伏線とかいろいろあるように書いてるけど、結局の所それだろ。まぁ、細かい事は気にすんな」


なるほど。では次の質問、
  なぜハンターになったのですか?

「だ~か~ら~、いろいろ理由も書いてるだろ?でもやっぱ一番の理由は作者がハンターハンター好きだからだろ?ほかにも「念能力はいろいろ便利だから~」っとか言ってた気がしたけど、ともかく、そういう事だ」


なるほど。では次!
  あなたは何系統の能力ですか?

「自分の系統をベラベラと喋るバカはいねーよ。あ、でもあのサイトを直したのは一応、少しだけ俺の能力にも関わってるかな?ちなみに、アレで直せるのは打ち身、骨折といった負傷だけだ。擦り傷程度なら直せるけど、切り傷や外傷は手に負えん。骨折も完治じゃなく、とりあえず繋げる 程度の応急処置だな。あの後(決闘)の後サイトが少し無茶やって(ルイズに悪戯)また折ったのは内緒だ」


なるほど。つまり作者の都合で付加された物ですね。わかります


では次!
 なぜ貴方がここにいるのですか?(サイトがいるのに)
「だから!俺が知る訳ねーだろ!?作者はサイトもみんなも好きだから、極力そこに触れないでオリジナルの展開に持っていくためとかなんとか、そんなんじゃねーのか?何度も言うが本人に聞け!あ、あとアーリャは虚無じゃねーよ。さすがにそれは無いだろ?」



では最後の質問。
  ズバリ!これから貴方はどのような事をしていく予定ですか?

「んなもん俺に聞くな。作者に聞け。あぁ、この後のアーりゃの自己紹介の後、少しだけ「こういうのがあるよ~」ってのを書くらしいから、興味がある奴はそっち見ろ」


はい、ありがとうございました。ではまた次の機会にお願いします。

ではお次です。
青コーナー アーリャ・リヒテン・ド・ヴィ・ズィーフィード選手~

「はじめまして。アーリャと言います。これからもよろしくお願いします」

はい、大変礼儀正しい挨拶をありがとうございます。どこかの誰かとは違います。さすがは貴族のお嬢様ですね。

「いえ、それほどでもありません」

「猫被ってるだけだもんな」「ギロ」

・・・ゴホン。では、早速自己紹介をお願いします。

アーリャ・リヒテン・ド・ヴィ・ズィーフィード
身長 145cm 体重 43kg Cカップ
グレーの髪を後ろで二つに分けて縛り、ツインテールにしている。
トリスティンに昔から使える名家「ズィーフィード」公爵家の末裔。6歳の頃、両親と弟を殺され、以来領地も失い、父の友人であったラ・ヴァリエール公爵家で保護され、現在トリスティン魔法学院に通っている。
性格 強気で負けず嫌い 
嫌いな物 雨 オバケ カボチャ
好きなもの 可愛い動物 しょっぱい物
トライアングルクラスのメイジ。二つ名は『雷鳴』だが実戦経験は無い。
ルイズとは幼馴染なので非常に仲が良い。子供の頃の境遇からか、他の貴族と距離をとっており、学園でも孤立気味。まともに会話するのはほんの数人のみ。
身長の低さを指摘されると切れる


なるほど。どうもありがとうございます。ではまず最初の質問です。
  貴方はどんな容姿ですか?

「・・・どんなと言われると表現しにくいのですが、イメージとしては原作12巻ででてくるベアトリスと(髪の色はグレー)顔はタバサとベアトリスを+÷したような顔・・・っという事らしいです」


なるほど。作者の趣味ですね。わかります。では次!
  トライアングルだが実戦経験は無い=戦闘下手 っでいいのでしょうか?

「・・・はい・・・授業などの模擬線での成績はギーシュの方が上です・・・どうも戦い方が判らなく、いざ実践になると致命的なミスを連発してしまうで・・・
だからヴィエリも自信満々で勝負を挑んできたんです・・・」

「ップ」「ギロ」


・・・はい、答えにくいことをワザワザありがとうございます。ご都合主義臭いですが次にいきましょう
 二人とも嫌いな物にカボチャとありますが、何かの伏線ですか?

「え!?そうなんですか!?」

「げ・・・をいをい・・・人の嫌いな物をか勝手にバラすなよ・・・」

「あら、貴方カボチャなんかが嫌いなの?お子様ねぇ」

「お前もだろ!アレは俺じゃなく、作者の嫌いな食い物だよ!俺のせいにすな!」


・・・なるほど、では次の質問です
 アーリャさんのスリッパは念能力ですか?


「へ?」

「あぁ。そうだ。あれは「絶対知覚不可能」(スリッパ)という能力だ(笑)元ネタは「フルメタルパニック」のヒロイン。「千鳥カナメ」のハリセン「絶対突っ込み」だな。まったく・・・恐ろしい能力だよ・・・」

「私にそんな能力は無い!」


・・・え~っと・・・次・・・
 何でオーラが見えるんですか?

「えっと・・・・私にもよくわからないんだけど・・・普通の状態じゃ見えないのよ・・・一箇所に集めたりとかしてると見える・・・らしいわ」

「あぁ。作者の中で原作の 魔力=精神力+α っと言う方程式と オーラ=生命力+精神力(イメージ) って事になってるらしくてな。この「α」の部分をオーラに似た物と判断して、「密度が高まったり量が多ければ見える」って設定にしたらしい。原作でも魔力自体は目視できてたんじゃなかったか?これは作者の勘違いかもしれんな」

「だから!何で貴方が答えるの!?そして何でそんな事しってるのよ!?」

「細かい事気にするとハゲるぞ?」

「うるさい!」


・・・なるほど。判りました。では最後の質問です。
 あなたの性格がルイズに似ているのはなぜですか?

「えっと・・・」

「あぁ、それは前にキュルケが言っていた「トリスティンの貴族の娘はプライドばかり高い云々」から、作者が「=みんなルイズほどでは無いが、あんな感じ」っと解釈して決めたらしい。本人の趣味が入っていないと言えば嘘になるがな」

「ちょっと!?何でさっきから貴方が答えてるのよ!?貴方の出番はもう終わったでしょ!?とっとと部屋に戻ってなさい!」

「いいじゃねーか。面白そうなんだし」

「よくない!私の出番をとるな!」


・・・・え~、ではこの辺りで今回はお開きです。今回このような形の自己紹介をしてもらいましたが、どうでしたでしょうか?
この後、この先に出す予定の物(っとは言っても、原作4巻付近で)を少しだけ紹介します。「そんなのは今みたくない」という方うや「一々細かい設定とかださなくていいよ」っという方はご遠慮ください。
また、「後の楽しみにしたいからみたくない」っと言ってくださる方のために、
ソレについての具体的な感想、意見は控えていただきたい。感想やご意見がある方は、「いいと思った」や「これはダメ」っといった感じでお願いします。
では、またお会いしましょう





































オリジナル設定 

念禁鋼 (ねんきんこう)

触れている対象のオーラを吸い取ってしまう金属。自然界には存在せず、いくつかの鉱物を溶かして混ぜる事により、生成可能。
神字(しんじ)を刻むことにより様々な効果を発揮できる。

材料
200年以上噴火していない活火山の山頂付近にある鉱石
金、銀、鉄等の各種金属


っと言った物を原作で言う4巻辺りから使い始める予定です。無論、これだけで上手くバランスが取れるわけでは無いんで、他にも様々な物を用意しています。
元は「悠々白書」で玄海ばぁさんが雄介の修行に使ったアレを参考に、材料は作者の趣味となんとなくソレっぽい物をで作りました。
念字で云々っというのは、ご都合主義です。
「念字」で片付けてしまう事象を、もっと細かくいろいろな要素を使って使用することも出来ますが、はっきり言って面倒なのでもう「念字」でいいや。っとか思い、勝手にそうさせていただく予定です。

ちなみに、なぜ火山の山頂かというと、作者の趣味と趣向です。
ファンタジーで宝があるといったらやはり、ダンジョン、山、っと言った所でしょうか?(私の私権)
そして噴火していない活火山っというのは、私の中では「山などの自然のオーラを持っていて、それが一定量溜まる=火山が噴火、地震の原因になる」っという空想があります。なので「本来噴火して放出するはずのオーラが、噴火していない事により溜まり、特殊な物質が生成される」っという設定です。「だったらなぜ山頂?火口付近とかそういうのじゃね?」っとか思う人もいると思いますが、これも作者の趣味です。
宝といえば山頂!これに限ります!




以上、この他にもいろいろと考えてます。ですが、こういう設定はバランスをとり話を面白くするための物です。
ちなみに作者の中の設定だと「ネテロ>>ゾルディック>幻影旅団>オリ主>>>ゴン、キルア」っと言った感覚です。このままの設定だと、仮に
「タバサガリアに拉致→オリ主一人で特攻→救出。ついでにジョセフも殺っちゃったぜ☆」ってな感じのことが実行可能でしょう。(実力的にそうかと思います)もちろん、そんな事をさせるつもりはありません。
そういう事を実行不可能にする要因を設定などして、「一人無双で解決」っとか「敵瞬殺」っという展開になりにくいようにします。(ごくまれにあるかもしれません)

とりあえず、このあたりはフーケ戦を見てから判断していただければ幸いです。
自分で(フーケ戦)はかなり上手く書けたと思っています。

ちなみに、私はサイトも好きなので、彼には少しづつ成長してもらって、最終的には主人公と同じ「サイトの成長+オリ主の弱体(バランス調整)」くらい強くする予定です。


では、長々と私の妄想に付き合っていただきありがとうございました。
もっとすごいものを想像していただいた方には申し訳ありません。
ご意見、ご感想など、引き続きドンドン募集しておりますので、遠慮なく書き込んでくださるとありがたいです。では、失礼します。

9/5 感想板にも記述した部分を修正しました



[4075] 第八章  噂×爆発×ゼロ
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/19 10:08



決闘騒ぎのあった次の日。サイトとタカシを正面切って馬鹿にする物は居なくなった。
サイトはたとえドットであろうと、事戦闘に関してはそれなりの成績を収めていたギーシュを正面から剣一本で圧倒したから当然だが、タカシの方は・・・少し違う。

彼が相手にした・・・えっと・・・ほら・・・・ky!kyは学年でも数少ないラインクラスのメイジ。いわゆるエリートだ。そもそも、タバサ、キュルケ、アーリャと、学生でトライアングルが三人も居ること自体が異例中の異例であり、彼女らが居なければ彼は間違いなく秀才、エリートと呼ばれていたであろう。

そんな彼を、指一本触れることなく、圧倒的。もはやそれ以外言葉が無いような勝ち方をしてしまったのだ。否。勝負にすらなっていなかった。弱者と強者が居て、弱者は盲目。強者にぶつかり勝手に震えて許しを乞うた。この表現が一番しっくりとくるであろう。

ともかく、そんな事をしてしまったのでタカシの噂にはもう尾びれや背びれ、胸鰭や第三の目とか触覚とかもうワケのわからないものがいろいろ付いていた。

―――ここは伝統あるトリスティンの食堂。その厨房裏である

「ぶわっはっはっはっはっはっはっはは」

ロリトーもとい、マルトー親父が豪快に爆笑している。厨房にいるのはタカシ、アーリャ、サイト、そしてルイズに数人のメイドと親父だけである

「いーっひっひいっひっひひひひひひひ」

まだまだ親父の独走状態。他の追随を許さないっというか、誰も追随しない

「ぶひゃーっゃっひゃっはっひゃっひゃっ」

もうアレだ。NASA辺りに電話したほうがいいのでは?と思いタカシ携帯を取り出した
「ブルアァァァッァァァァァァ」

○元はいろいろまずいからそろそろ止めよう

「・・・アーリャ・・・このロリ若○を止めるにはどうすればいいと思う?」

「笑えば言いと思うよ」

「・・・そうか・・・」

アーリャ・・・俺、そんなネタ君に話したっけ?

「ふぅ・・・ふぅ・・・・ふしゅー」

なにかを排出したネオロリトー親父。

「いやぁ・・・タカシよぉ・・・お前さんが来てまだ二日しかたってないってのに・・・お前さんはこの俺の腹筋を一体何処へ誘いたいんだ?っぷふ」

また噴出す親父。殴っていいかな?

「・・・なぁ・・・サイト・・・俺はどうすればいいと思う?」

「・・・Orzれば少しは気が楽になるよb」

とりあえずサムズアップした指を手の甲にくっつける手伝いをしてあげた。親切だな俺。

「おぉ、どうした我らの剣よ!?」

そう言いながら親父がサイトに駆け寄る。
そう。サイトはあの一軒以来、平民の使用人たちの前では「我らの剣」なんてクソ恥ずかしい名前で呼ばれているのだ

「・・・その程度で恥ずかしいとはよく言えるわね」

アーニャお得意の読心術を発揮し、俺の考えを読む。アーリャ・・・恐ろしい子

「そう思うなら口に出すな!」

SURIPPAだ・・・俺はコレの功撃にどうしても対応できない・・・念能力か?

「でもタカシ・・・っぷ・・・ごめん・・・やっぱいい・・・」

口を押さえて横向きやがった桃色のちび=ルイズだ。昨日の一軒でのイザコザを嫌がり、しばらくここで飯を食うことになった。本人曰く、アーリャがいるからとの事だ。これだからツンデレってやつは・・・

「ねぇタカシ?つんでれって何?」

「・・・アーリャさん・・・それは今アナタが知る必要は無い。知るべき時がくれば知らされる。Need to Knowって奴だ」

「・・・・・ふーん・・・・」

よし、完璧だろう。しかし、今日の俺はおかしい。モノローグを完全に口に出してしまっている。いつもならたま~に致命的なのが出るくらいなのに・・・何故だ・・・いや・・・原因はハッキリしている。俺の精神に異常をきたす物。すなわち、昨日広まった噂だ。

「マルトーおやじさん、もう一度今広まってる噂っての、全部聞かせてくれないか?」

「おう、何度でも聞かせてやろう!ラピュtじゃない。いいか?まずは――――」

曰く タカシは平民に変装したエルフである
曰く ガリアが作成した最新式のガーゴイルである
曰く ロバ・アル・カイ・リエからやってきた殺人ロボットである
曰く 違う次元からの侵略者である
ここまではいい。まぁ、正体不明の人物について、アレコレ噂をするのは人間。

それも学生の性分というやつだ。だからいい。問題は、どのキャラクタ-にも共通したあるスキル(魔法)である

「んで、共通点は「相手の目を見ただけで相手を失禁させ、さらに5秒見続けると鼻水を出させる。さらに5秒で汗、そしてさらに3秒。つまり、計13秒で相手は死ぬ」

「バカかお前ら!!??」

思わず突っ込んでしまった。しかもノリで。丁度いい位置にあったアーリャの頭を思いっきり叩いてしまったのだ。

「ったいなぁ!何で私を殴るの!?私関係ないでしょ!?」

当然の抗議をしながら殴りかかってくる獣を片手で抑える。腕のリーチでは俺のほうが長いので楽勝だ。まだまだだね。

「誰がチビか!?」

「いや、いってねーって!?モノローグにも書いてねーって!?」

ニトロブースターに石炭を入れてしまったらしい。え?壊れるって?知るかんなもん

もちろん今は食後だ。学生もまばらにしか居ない。ここで飯を食った連中は、全員食い終わった時点でこの噂をマルトー親父から聞かされたのだ。一瞬、この学園を本気で更地に変えてやろうと思った・・・いや、思い直したよ?ウソじゃないんだからね!?

「くっくっくくくく」

「っぷ・・・ちょっと・・・だめ・・」

「をいをい・・・笑うな・・・ってゴメン無理」

「・・・・・・・・・・・・」

マルトールイズサイトアーリャの順番だ。
俺的KOROSUリストにそのままの順番でランクインっと

「・・・・なんでそれに私が入ってるの?」

「・・・いいじゃん・・・消すの面倒だし、ついでに」

「良くない!私はむしろ被害者だ!」

そうなのだ。実は彼女も直接的ではないにしろ、間接的な被害者なのだ。何せ昨日まで彼女は「平民を召喚した女」だった。それが今日になって「ピーーーーを召喚した者」にランクアップしたのだ。おめでとう。

「うれしくない!」

つっこみありがとう。もはや放送禁止用語になってしまった俺の存在・・・・いつかこの学園の奴らを全員機械の体に改造手術してやる。

そんな俺の新たな野望が芽生えつつある今日この頃、今日は待ちに待った初授業だ。

「よっし!授業に行くぞお前ら!」

そう言って食堂の外に出る。

「どうしたのよ・・・急に張り切って」

訝しげな目でみるな。

「何って魔法だぜ魔法?ついに授業だよ!楽しみだ!なぁ、サイト?」

「あぁ!だな。どんな不思議な授業なのかな!?」

「きっとアレだよ!目からビーム出したり、分身したち、死人を生き返らせたりするんだぜ?」

「うおぉ!?マジかよ?行こうぜ!?」

よし。一人クリア。男のロマンという甘い誘惑。この決戦兵器により、サイトは先の忌まわしい記憶は上書きされたはずだ。つぎは・・・

「おい、ルイズ!お前も早く教室いかなくていいのかよ?」

「えぇ。いくけど、でも何でアンタなんかに指図されなきゃいけないのよ!?」

「いや、だってさっきサイトが「昨日のお詫びにってギーシュがエロい物くれるって言ってた」って言って喜んでたし・・・」

「あの犬ぅ~~~!待ちなさいサイト!」

ッフ・・・計画道理・・・ニヤ

二人目もクリア。最後はっと・・・

「タカシ・・・さっきから何やってるの?」

ばんなそかな!?この俺が背後を取られただと!?いかん!?投げとばさなけれb――

ドスン

鈍い音と共に俺は地面に横たわっていた

「・・・・なぁ・・・アーリャ」

「なぁに?」

万遍の笑み

「何で俺はこんな所でお昼ねしてるんだ?」

「さぁ?」

「・・・太陽とお前の笑顔がまぶしいな・・・」

「っそ。それじゃ、行きましょ」

「あぁ・・・なぁ・・・ところで俺はさっきまでの記憶があやふやなんだが・・・何があったんだ?」

「・・・さぁ?・・・治ったならいいわ」

「治る?誰か病気だったのか?」

「いいえ。なんでもない。ごめんなさい、私の勘違いだったみたい」

「・・・・そうか・・・・」

おかしい・・・何で雨じゃないのに目元がぬれているんだろう・・・



そして教室に到着。


「・・・何故みんな俺と目線をあわせようとしないのかね?アーリャ君」

「私の口から言わなければいけませんか?タカシさん?」

「是非とも聞きたいものだ」

長いひげが欲しいな。あとパイプと帽子

「申し訳ございません、私にも解りません」

丁寧に頭を下げるアーリャ。うむ。役者だ

「ッチ!使えん助手だ。誰だね?こんな子供を雇ったのは!?」

「・・・タカシさんは一度、眼科に行かれたほうがよろしいかおと・・・幸い私が良い病院を存じ上げております」

「うむ。そこまで言うなら行ってみるか。何処だね?そこは」

「放課後、火の塔の屋上でお待ち申し上げております」

「生憎と私は多忙でな。すまないがまた後日にしよう」

「解りました。では明日ですか?明後日ですか?明々後日ですか?」

「後日は後日だよ君」

「作用でございますか」

わはは うふふ と笑顔でノリノリの俺達。周りはいろんな意味で引いている。

「・・・これでいいの?」

小声で俺に話しかけてくるアーリャ

「うむ。完璧だ。流石は我がご主人様!」

同じように小声で返事

「・・・うれしくない」

「褒めたんだぞ?素直に喜べよ」

「演技を以外を褒めなさいよ!いくらでもあるでしょ?」

「ぇ・・・ちょっとまって・・・時間をくれ・・・オーディエンスとフィフティーフィフティーのコンボで答えを絞るか。」

「あと三秒」

「解った!子供料金で公共施設が利用できる!」

「ファイナルアンサー?」

「ファイナルアンs」

ガ~ンゴ~ンっと金の音が

「・・・命拾いしたわね」

「・・・そうですね」


始業ベルは皆の味方


始業ベルが鳴るまでの時間、俺とアーリャは特別ミッション「悪い噂を上書きセヨ」を所定の目標通りに完遂。ミッションコンプリートだb

おそらく八割の生徒はこれで忘れるであろう。残りの二割にはさらに強烈な記憶か、なんらかのショックを与えて記憶そのものを

「いい加減にしろ!」

スパーン!・・・やはりダメだ・・・知覚不能の究極兵器SURIッパ・・・俺には回避できない設定らしい

「それはともかく、さて、授業だ授業!」

「・・・別に、アナタが期待しているような事は無いと思うわよ?」

「・・・俺の楽しみの芽を摘むのがそんなに楽しいのか?」

「結構楽しいかもね」

「笑顔で言うなよ」

「笑顔は大切よ」

「そこは同意できるな」

などといつものをやっていると――

「静粛に!ゴホン!みなさん、私が今日からこの授業を担当するシュヴルーズです。よろしく」

どこぞの自称魔女っ子や、自称魔砲少女よりも魔法使いってイメージのオバタリアンXもとい、ミセス・シュヴルーズが現れた。

「MP450くらいありそうだな・・・」

「MP?何よそれ?」

「あぁ・・・きにするな。専門用語だ」

面倒なのでごまかした。ジト目で睨むなって

そして挨拶――使い魔についても一言。俺やサイトは「変わった例」でおkらしい。良い先生だ。そしていよいよ実演が始まる。

「おぉ・・・アレが本物の魔法か」

「・・・私のも魔法なんですけど?」

「いや・・・だって、何か格好っつか、雰囲気からして違うじゃないか?」

あれは完璧な魔法だな。うん。石を真鍮に変えたのか。一応凝でみていた。

「ふむ・・・やはりあの杖が変換機・・・か?」

「変換機?」

キョトンとして首を傾げる俺の隣の女の子。小さくて気が付かなかった「ギロ」はずはない。こんなに愛らしい子に気が付かないなんてそんな阿呆は死んだほうがいいな。

「そうよね」

「うむ。話がずれたな。戻そう」

「ずらしたのはアナタよ」

「ゴホン!ともかく、俺のオーラってのは体内エネルギーだ。んで、お前らの魔力だな。んで、空気中にあるオーラをこれをお前らは杖を媒介にして自分の魔力と合わせ、魔法を使う。ここまではいいよな?」

「うん」

「まだ観て勝手に推理している段階だから何ともいえないが、おそらく体内の魔力。これは絵で言う紙の様な物だと過程する。」

「ふ~ん・・・それで?」

「そして、この紙を杖にもってきて、そこに自らのイメージという下書きをする。そして、外部の魔力を杖に取り込み、着色する。この時の着色する筆があのスペル。ルーンだっけ?それだな。そして、最後に杖にある「絵」これを具象化すつための「鍵」みたいなもんで、扉を開ければ魔法一丁出来上がりっと。こんなもんか」

「お~・・・なんとなくそれ解るかも・・・しかも合ってそう・・・」

「まだ出鱈目な仮説を立てただけだよ。これから書物で細かいことを確認して、理解し、分析して、再構築する!」

「人体練成はダメよ?」

「しねーよ。でも、何かに使えないか実験するんだよ」

「何かに使うんじゃなくて、貴方にも魔法は使えるんじゃないの?オーラ・・・魔力に似た物はあるんだし。イメージも持てるわ。」

「・・・いや。それでも最後の「鍵」みたいな物が足りない・・・多分、これがこの世界で貴族と平民。メイジとそうでない者を分けている決定的な違いなんだろうな・・・」

「ふ~ん・・・でも、タカシはもう念能力って力が使えるじゃない。新しい技術を使って実験なんかしてそうするの?」

「まぁ、単純な好奇心だな。それに、この魔法ってのは、どうやらこの世界の濃いオーラ・・・魔力によって支えられている技術体系だと思う。だから、ここでしか使えないだろう?こんな事を経験するチャンスは早々無いさ」

「でも、そんな不便な物より、アナタには万能の力があるじゃないの」

「万能でもないが・・・まぁ、人生日々勉強ってね。常に新しいことを学ぶってのは大切だぜ?まぁ、お前が止めろって言うならやめるよ。そこまでして知りたい事じゃぁないしな」

「・・・なんか、理念とか信念とかはどうしたのよ・・・もっとこう・・・説得するくらいは言ったらどうなの?」

「ダメといわれる物を主の強力無しでやるか、他の事をやるかの違いだ。こっちは面白そうなものだらけだからな!どれから手を付けていこうか・・・」

「・・・まぁ・・・別にいいけどね。ダメとも言わないよ。拒む理由が無いもん」

「はいよ、サンキューな。っつーわけで、今日授業終わったら、こっちの文字教えてくれないか?」

「・・・何がツーワケなのかは知らないけど・・・まぁ、いいわよ」

「お、素直だな」

「別に・・・予定もないし、あなたに字が読めないと私が困ることがあるかもしれないからよ。」


そうこうしている内に、魔法使いのおばさん。通称マホババが何やらルイズを指名した。
その瞬間、教室の中から何やら抗議の声があがった。

「なぁ、何で皆ルイズが指名されたら騒いでるんだ?これから水着審査でもあるのか?それなら納得だ」

「・・・口は災いの元って諺知ってる?・・・まぁ、とりあえず置いといて、えっと・・・言いにくいんだけど、ルイズが魔法を使うと危険なのよ・・・こればかりはいくら仲が良くてもどうにもならないの・・・」

すこし悲しそうに言う彼女。そしてルイズを見ると、何やら教卓の上で呪文を唱える準備をしている。

「危険・・・ねぇ。どれどれ」

そう言いながら興味深そうに凝るタカシ。もう一人、意味がわかっていないサイトも見ていた。他のものは皆、机の下に避難している。アーリャですら・・・命を掛けてまで友情を貫く気は無いようである。
ルイズが呪文を完成させ、杖を振り下ろす。

「ん?・・・何だ?・・・旨く噛み合ってない・・・?」

タカシのその呟きは、次の瞬間爆音にかき消された。

そして教室は大惨事である。窓は割れて、ドアは吹き飛び、使い魔達が興奮して暴れている。教卓やいくつかの机も吹っ飛んでいた。最前列に居た者は全滅と見ていいだろう。すばらしい。テラカオスフリーダム。この爆発で例の忌まわしき記憶も一緒に吹き飛ぶに違いない。ルイズ、ナイスプレーだ。

「何処がだ!?」

スパーンというお約束の打撃音。彼女の念能力「絶対知覚不可能」(スリッパ)による功撃だ。ダメージは無いが精神に効くな。

「もはやお前が俺の考えを読む事を不思議には思わないが、そのスリッパだけは不思議に思う。いったいどんな能力なんだ?」

「乙女の秘密だって前に言ったでしょ?」

「もういい。それより、この惨状をどうするか・・・だな・・・」

「・・・・えぇ・・・」

教室に無傷の物質は存在しなかった







以上、ここまで突っ走りました。ここでサイトを延命(三日間気絶せず)させた意味がでます。初期のこの段階で、主役の一人が居ないという状況は少しつらいので(あと、個人的にサイトにはすこしでも長くこの世界を体験してもらいたく)延命措置をとらせました。


ここまで一気に投稿しましたが、ひとまず休憩です、4日か5日ごろに次を投稿する予定ですので、楽しみにして下さっている方は、少々お待ちください。
この後、オリキャラの設定資料を載せます。ここまで来てやっとですw
まぁ、興味がある方はご覧ください

休憩中にも、ご意見、ご感想は読ませていただく予定ですので、引き続きドンドンと書き込んでください!

では、失礼します





[4075] 第九章  図書館×出会い×青の少女
Name: 豊◆4d075937 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/15 15:00
  






「しかし・・・妙だ」

その呟きに反応したのは、アーリャである。

「何が妙なの?」

あの後、教室の片付けを命じられ、サイトと共に教室にいるルイズ。アーリャの「手伝う」という申し出を、彼女は頑なに拒否した。そのため、授業が終わり、暇になった俺達は俺の「字を教えて」という要請により図書塔に向かっている。ちなみに、急にモノローグが「俺主体」になった事は気にしないでくれ。理由をつけるなら、例の忌まわしき噂による精神的ダメージの後遺症とでもしておこう。途中で変わるかも知れないし、このままかもしれない。それは作者のみが知る事だ。それはともかく―


「あぁ。俺はあの爆発の瞬間、オーラで身を守った。だが、結果はこの様だ。」

そう、俺の一張羅は所々焦げていた。ちなみに、コートの方は今日は着ていない。昨日の忌まわしき事件で、この世界で見慣れない形状の紺色のコートはかなり強烈な印象を与えてしまったようで、それ以来、俺はアレを平時に着用しない事に決めた。今は元々来ていた紺色のGパンに学院のYシャツ。黒のタンクトップといった格好だ。Yシャツのボタンを全部あけ、裾はズボンから出して、首から掛けたドックタグが見えるようにしている。様は町のチンピラAという所だ。


「そういえば、タカシのオーラって魔法を無力化できるんだっけ?」

首をかしげ「?」っという判りやすい行動

「いや、無力化じゃない。ただ単純に、オーラで防御しているだけだ。だから、守っているオーラよりも強い力の功撃を受ければ当然、俺にもダメージはある」

「それなら、ルイズの爆発はアナタの体を守るオーラよりも強い力だったって事でしょ?」

「あぁ・・・そうなんだが、それが妙なんだ」

「どうしてよ?」

さっきから疑問符ばっかだね。まぁ、俺のせいだけど

「俺は、ルイズの魔法に使うオーラ。魔力を凝ていた。そしてその威力も計算て、それでも余裕を持って防御できるであろうオーラで体を守った。なのに、この様だ」

両手を広げ「ほら」っという感じで見せてやる

「魔法の威力とか、発動前に見て判断したり計算したり出来るものなの?」

「あぁ。何度か視て慣れてきた。体内から杖へ回すオーラ。魔力の量と大気中から取り込む魔力の量。両方とも、凝れば解るからな。そして、ある程度予測もでる。事実、ルイズの爆発を受けるまでは俺の予測は全て当たっていた」

「外れたのはルイズのたった一回だけだったって事?」

「いや、そうでもない。教室の被害。そして俺の受けたダメージを見ても、あの量の魔力が爆発した場合の俺の予測どおりの威力だった」

「・・・つまり、あなたの防御を一切障害にしないで、あなたの予測どおりの威力で爆発したって事?」

「そういう事だ。オーラ無効化・・・いや、無視というのか・・・なんだろうな・・・それを調べるためにも、とりあえず図書館!そして文字の勉強だ」

一人テンションを上げていくタカシに少し引きつつも、アーリャが質問を続ける

「でも、調べたからって解るとは限らないわよ?」

「あぁ。それでかまわないよ。とりあえず、仮説を立て、対策だけでもいくつか考えないといけないからな」

「対策なんて立ててどうするのよ?」

「仮に、このまま何の対策もしなかったとして・・・っだ」

「うん。別にルイズを敵に回す気は無いでしょ?それに、一回だけの偶然かもしれない」

「そうだな。だが、それが偶然じゃなかったら?その方法が確立されていたら?そして万が一、この世界で俺に敵意を持つ者、もしくは持った者がその方法を知っていたら?これに対する予防措置だけでもとる必要がある」

「・・・考えすぎじゃないの?」

「いや、念のためだ。いざそうなってからでは対応できない可能性もある。だったら今のうちに対策を立てておいたほうがいい。」

昨日の彼の話を聞き、彼の経験を聞いたアーリャは、今彼が言った事態が起こる可能性が全く無いとは言えない事をよく理解できた。

「っそ・・・まぁ、どちらにせよ文字を教えるつもりだったし、どちらでもいいんじゃない?」

「あぁ。そうだな。っと、ここか?」

「えぇ。この塔全部が図書館よ」

デーンっと聳える塔の前で彼が上を向いて塔を見据えていた。

「ほら、早く行くわよ」

そう言ってさっさと中に入っていくアーリャを追って、タカシも中に入って行った。

そして本を読みながら字を教える事三十分ほど、タカシの文字の翻訳の異常に気が付いたアーリャとタカシであったが、ルーンによる翻訳機能との仮説を立て、実際、それで早く覚えられるならよしという結論に達し、夕食までの時間、二人で図書館の書物を読みふけることにした。
そんな中、青い髪の小柄な少女。アーリャと同じくらいの身長の子が入ってきた。

「あらタバサ、あなたも来たのね」

ほう、あの子は確か、マルトー親父が気に入っていた食いっぷりの良いって子だったな。

「私の友達を変な覚え方するな!」

スパーンっと 以下略

「・・・・」

そんな二人のやり取りを無言で見つめるタバサ。そして―

「・・・貴方は誰?」

「おう、俺は崇。龍宮崇。崇って呼んでくれ。こいつの使い魔だ」

そう言いながらポンっと隣にいたアーリャの頭に手を置くタカシ

「アナタは人の頭を何だと思ってるの!?」

そしてまたいつものコントがはじまった
っと思ったら、タバサがそれを阻止した。

「何故彼がここに?それに、アナタも休日以外にここに来る事は滅多に無い」

余計な事はしゃべらずに、必要な事だけを聞くタバサ嬢

「えぇ、実は、彼にこっちの世界の文字を教えて欲しいといわれてね。今教えているところなのよ」

「・・・こっちの世界?」

「あ!?」

思わず「こっちの世界」っと言ってしまったうっかりアーリャ嬢。口をあんぐりあけて硬直しています。

「なぁ、アーリャ。お前のうっかりとか、いろいろ言いたいことはあるけど、一ついいか?」

「・・・何よ?」

う~っと唸りながら睨んでくる

「このタバサって子はお前の友達なんだよな?」

「えぇ。そうよ」

「なら、別に話してもいいと思うぞ?っつか、そもそも俺は、秘密にする必要は無いと思ってるからな。あるとしたら一々説明が面倒だってのと、説明する意味が無いって事だけだな。この子がお前の友達なら、別に知っててもいいだろうし。俺もそのほうが接しやすい。それに、黙っててくれる様に頼めば黙っててくれるんじゃないか?」

タカシの提案に、しばし俯き、考えながらアーリャは口を開いた。

「えぇ・・・そうね・・・ねぇ、タバサ?今から彼の事を説明するけど、信用する、しないは別として、ここで話した事は他には話さないって約束してくれない?」

「・・・かまわな」

そっけなく、ポツリと呟くタバサの顔をみて、アーリャは安心したように息を吐いた。

「安心しているところ悪いが、今度から注意しろよ?今回はたまたま彼女だったからよかったものの、もし、違う奴なら面倒だからな」

そう釘をさされて「っう」っとなっているアーリャを放置し、タカシはタバサと会話を開始した。

「まぁ、とりあえず立ったままってのも何だし、すわれよ」

そういわれて素直に正面の席に座るタバサ

「んじゃ、話すけど。最初に言っておく。これから俺が話す事はかなり突拍子も無い事だ。信じられないかもしれないが、さっきアーリャが言ったとおり、他には漏らさないでくれ」

「わかった」

そういい小さく頷く。それを確認し、タカシは語り始めた。

「―――っというのが俺の正体だ。まぁ、突拍子も無い話ではあるな」

「・・・・そう」

別の世界、ハンター、念能力。それらの事を聞いてタバサは一言だけそう呟いた

「信じてもらえないかもしれないけど、彼の言ってる事は事実・・・だと私も思うわ。一応部屋にはその携帯ってのもあるし、念能力ってのは昨日広場で見たね」

アーリャもそう言って援護する

「そう、私も昨日ソレを見て、彼に対して興味を持った。今日は丁度よく此処で見かけたから声を掛けた」

「なるほど。そんじゃ、一応信じてもらえたって事でいいのかな?」

「いい。アーリャやアナタがこんなウソを付く必要も無いし、実物を昨日見せられた。疑う理由がない」

「そっか。んじゃ、改めてよろしくな。タバサ」

「よろしく。あなたの話には私も興味がある。是非私にもアナタの話を聞かせて欲しい」

そういい笑顔で握手をするタカシと無表情ながらどこかやさしい雰囲気を出しているタバサ。そして横で小さく「ぅ~」っと唸るアーリャと共に、彼らは本を読みながら様々な話をしていた。
そしてしばらく話をした後、彼は先ほどの疑問を改めて二人に効いてみた。

「んで、どう思う?ルイズの爆発」

「そうね・・・一応この本にも書いてある通り、魔法の詳しいシステムってのはさっき貴方の解釈した通りね。かなり感覚的な話だけど、間違っていないわ。そうなるとあなたの守りを突き抜けたっていうルイズの爆発は確かに妙ね」

「・・・そう。確かに、アナタの話に矛盾はない。この書物による裏づけも取れている。でも、ルイズの爆発の説明だけが付かない・・・確かに、これは妙」

二人のトライアングルメイジの同意を受け、改めてタカシは考えてみた。

「・・・一つ・・・可能性がある・・・」

「どんな?」

「それはなに?」

アーリャとタバサも自らの考えを中断し、タカシの話しを聞く。

「まず、前提として、この世界の魔法ってのは、『物質を司る小さき粒』への干渉による事象の変化。だよな?」

「うん」

「そう」

二人とも素直にうなずく

「これはさっき説明したとおり、俺の世界の科学で「分子」(分子,原子、電子、陽子、中性子など、細かくあるという意見をいただきましたが、紛らわしいのでとりあえず、分子とします)等と呼ばれるものへの干渉ってことだ。そして、俺達の念能力者のオーラってのも、これらの「粒」への干渉って事で様々な事象をおこしている。ここまではいいな?」

「ええ」

「問題ない」

「そして、それらの「粒」に干渉する俺のオーラの防御を破る手段だ。まず一つ、単純な力技。俺の防御力以上の攻撃力で押しつぶす。そして二つ目、俺のオーラをなんらかの特殊な手段により無力化する」

二人が頷く

「一つ目は除外だ。って事で二つ目だ。これは、俺の世界ならいろいろあるが、こっちの世界で出来ることは限られる。」

「それは?」

「どのような手段?」

「まず、前提として、ルイズはとくに意図していない。つまり、準備も装備も経験も無い。この条件を加えて推測した結果。ある一つの仮説ができた」

「「・・・それは?」」

二人の声が見事に重なる

「原子(これは素粒子であるとの指摘をしていただきましたが、先程と同じ理由で原子としておきます)へ干渉しての事象変化だ」

「「・・・原子?」」

「あぁ。さっき言った「粒」ってのがあるだろ?その「粒」ってのを作っているさらに小さい粒。それがこの粒だ。つまり、家の土台みたいなものだな。そこからによる干渉。これなら俺がいくら強大なオーラで防御をしようとも無駄だな。網目よりも小さな物は素通しになるだろ?」

「・・・でも、そんな事ができるの?」

そんなアーリャの疑問に―

「・・・はっきり言おう。人間には不可能だ」

彼がそう答えた。

「「え?」」

「いや、すまん。言い直そう。普通の人間には不可能だ。確かに、俺の世界にもオーラに干渉する力を持った存在も居た。だが、これは特殊な念能力か、特異体質によるものだった。だが、人の身一つで何の装備、準備も無しにこの粒に干渉するような人類は俺の世界では確認されていない。そもそも、普通の人間にできる範囲を超えている。この粒ってのはこの世界の源だ。それに対して干渉する・・・言っちまえば、神の力って所だな」

「・・・神の力・・・」

そう呟くアーリャ。そして

「・・・虚無」

そのタバサの呟きにアーリャが驚きの声を上げる

「虚無!?まさか!あれは失われた伝説の系統のハズよ!?・・・でも・・・確かにそんな伝説級の物じゃないとそんな事は出来ないって事かしら・・・」

そんな事を言いながら考え込む二人

「をいをい、何だ?その虚無ってのは?俺をスルーして話すなよ。グレるぞ」

「んなことでグレるな!・・・虚無ってのはね、今は四つしかない系統魔法の五番目の系統。このハルケギニアで伝説になっている始祖ブリミルが用いたとされる伝説の魔法よ」

そして始祖の事、系統魔法、虚無の事など、彼女達が知っている事を全てタカシに話し、さらにこの書庫でも集められるだけの資料を集め、三人で調べていたが、彼がついに結論を出した。

「ふむ・・・ルイズは虚無系統の使い手である可能性があるな」

「っな!?」

「っ!?」

二人の驚きをよそに、彼は淡々と自分の考えを話す。

「いいか?まずさっき言った粒への干渉。これは系統魔法。念能力双方でも不可能。ならば全く別の技術体系ならば可能かもしれない。そしてルイズの「ゼロ」という不名誉な二つ名。魔法成功率ゼロから来たと言っていたが、俺がさっき凝ていた段階で、別段失敗とは言えないと思った。ただ、最後の最後で何かが違った。俺はあの時「何かが噛み合っていない」っと感覚的に思った。これを「ルイズが虚無の使い手である」という仮説に当てはめれば説明できる。虚無に特化したメイジだから、通常の四系統の魔法とは根本から違い、魔法を発動しても爆発という結果につばがってしまう。っとな」

「・・・確かに・・・その仮説だとアナタが言っている事に全て説明が付くわね」

「他に有力な説が無い以上、その説を否定する要因が無い」

二人は肯きながらそう呟き、再び考え始めた。

「まぁ、全ては仮定の話だ。今の話で実証されているのは「ルイズの爆発が俺の防御を突破した」という事象だけだ。他は全て仮定に仮定を重ねた穴だらけの仮説だよ。それに、大部分は俺の感覚や経験、知識といった部分もあるしな。」

だが、そでも信用するには十分すぎる推測であった。

「まぁ、どちらにせよこの件は三人の秘密にしよう」

「なんで?ルイズや学院長に報告しなくていいの?」

そういってくるアーリャ。そしてタカシは―

「あぁ。言ったろ?いくら俺達の中で説得力があったって、所詮憶測だ。一度限りのマグレって事や、俺の防御の計算ミス。もしくは、虚無とは関係なしに粒に干渉するような体質であるって可能性もある。」

「・・・確かに」

「その可能性もある」

しぶしぶと言った様子で頷く二人。

「それに、仮に本当にルイズが虚無の使い手であるとしても、やはり今は話せないな。」

「何で?学園長に報告は無しにして、ルイズにだけは、「あくまでもそういう可能性がある」って事だけは言ってもいいんじゃない?」

アーリャは純粋に、友人のためを思っての発言であった。しかし

「だめだ」

一言でタカシに一蹴されてしまった。

「なんでよ!?」

なおも食い下がるアーリャに、タカシはため息をつきながら説明した。

「いいか?仮にルイズが虚無だとして、仮説を説明。そして自力でそれに到達。虚無に目覚めたとする」

「うん」

「その場合、考えられるのは

1、自身の力の成長に他が追いつかず、その力の扱いに困る。

2、その事実が国又は虚無を狙う組織、人物に知られ、争いの火種になる
こんな所だ」

「「・・・」」

二人は黙り込んだ

「いきなり大きな力を持った。もしくは、持ってしまった者の運命はこの二つだ。そして、この二つに対抗するには、自らの力のコントロールと、確固たる強い意思が必要だ。通常、強大な力というものは、そう簡単に手に入るものではない。俺の念能力だって、これまでの人生の下積みがあったからこそ使える物だ。」

「・・・私達の魔法と同じじゃない?」

「そうかもな。ちょっと違うけど似ている、でも、魔法を使えるメイジってのは、はっきり言って血統できまってるだろ?それはある種の才能という。っま、それはいい。そしてそこからどれだけ努力したかでスクウェアやトライアングルといった強力なメイジになる。そうじゃないのか?」

「そうね」

「お前達二人はトライアングルだったな?ここまで来るのに、全く努力しなかったのか?」

「いえ・・・そんな事は無いわ」

「私も・・・実力を身につけるため、相応の努力はしてきたつもり」

「そうだ。お前達は実力に見合った努力をした。だからその見返りに強力な力を持っている。これが普通なんだ。才能があろうが無かろうが、努力した分だけ見返りが来る。等価交換って奴だな」

「・・・ルイズだって、たくさん努力しているのよ?ゼロだと、無能だとののしられながら、私はそれを知っている・・・だから」

「解っている。彼女は努力家なのだろう。でもな、虚無の力ってのは、彼女の今までの努力に釣り合わないほど強大なんだ」

「・・・見てもないのにどうしてわかるの?」

不満そうに言う彼女に、苦笑しながらタカシは答えた。

「いいか?自分で言うのも何だが、俺ははっきり言ってお前らとは比べ物にならない努力をしてきたと思う。そして、かなりの経験をつみ、その下積みで俺は強大な力を手に入れた。だがな。さっきのルイズの爆発。アレを虚無とすると、もしルイズが俺を殺す気なら、一瞬で出来てしまう。なんせ大本への。根本への介入だ。俺に防ぐ手段は無い。俺の努力と力を数字化して千。ルイズを百とすると、虚無という魔法自体の力は軽く一万はあるだろう。つまり、現時点までのルイズの努力に釣り合わないんだよ。そんな突拍子も無い力をいきなり制御できる人間は居ない。だから危険なんだ」

「・・・そんなにすごいの?虚無って」

訝しげに首をかしげ、質問してくるアーリャ。タバサは先ほどから、終始無言である。

「あぁ。さっきの俺の防御。これは数々の実戦で鍛えてきた俺の技術だ。さっきミスがあったかもしれないと言ったが、実際それは無いだろう。なんせ、俺はミス=死に直結するような事を今まで多く経験してきたんだからな。そんな命のかかっている事でミスはしないさ」

「・・・そう・・・じゃぁ、この件は三人だけの秘密、他言無用でルイズは様子見って事でいいのね?」

納得できていない!っという顔の彼女にさらに苦笑しつつ、

「あぁ。少なくとも、彼女の精神。心がそれを扱えるようになる日まではな。それがいつかはわからない。だが、もしかして虚無ってのは、そうなった時点で自然に覚醒するのかもしれないな。まぁ、全て憶測でしかないがな」

その答えを聞いて、納得したのか、彼女が一度大きなため息をつき、返事をした。

「はぁ・・・解ったは。タバサも、それでいいわね?」

「かまわない」

「よし、んじゃこの話はここまで!とりあえず、俺はさっきからコレが気になってるんだが―――」


そうして、この日三人には共通の秘密が出来た。この後も二つの世界の事を夕方になるまで三人で話していた。








以上です。ここでタバサの登場です。タバサ=本っというイメージなので、やはり図書館での出会いという事にしました。
予告通りにタバサは頂いた!w
ルイズの虚無に関する仮説についてですが、別に現段階で仮説を立てる意味はあまりありません。強いて言うなら「三人の共通点」っというのを少しでも作りたかった。っという作者の私情と、「虚無>>系統魔法、念能力」っという不等式の成り立ちを設定したかったと言うことがあります。

オーラ&系統魔法=分子への干渉 っというのは作者のイメージです。実際、原作(ゼロの使い間)では虚無を「粒の中のさらに小さき粒」っと言っていますし、これは=原子と解釈してもいいかと思っています

タバサはこんな感じでしょうかね。たぶんキャラは崩れていないと思うのですが、断言出来るほどの自信は正直無いです;;

では、これからもご意見、ご指摘、ご感想等どんどん書き込んでいただければ幸いです。それでは、失礼します


さっそくですが一部明らかに不自然な部分を修正しました。ご意見ありがとうございます

さらにご指摘のあった部分を「分子」としていた部分を「分子、原子、陽子、電子、中性子」っと表記し、「原子」の部分を「素粒子」っと変更しました。
これならば特に問題も無いのかと思います。「ごちゃごちゃしてて判りにくい」っという方は、ご自身で理解しやすい単語へと置き換えて読んでいただければ幸いです。
さらに少し修正です





[4075] 第十章  武器屋×城下町×プレゼント
Name: 豊◆4d075937 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/19 10:09



タカシとサイトがこの世界に来て一週間が立っていた。
タカシとアーリャは相変わらず、授業が終わると図書館へ直行し、様々な資料を読みながら話をする。最近はタバサも一緒になって三人で話す。話題は尽きるどころか、次から次へと沸いて出てくる。夜は部屋で寝るまで話している。
たまにタバサも一緒になっている日があった。タバサが来た時は、彼女は結局帰らず、アーリャと一緒になってベットで寝ていった。

サイトはルイズにいたずらしたり、お仕置きされたり、タカシにハンターの事を聞いたりしている。

そんなこんなで一週間。その日の夜、事件が起こった。サイトがキュルケの部屋に拉致・・・じゃない、自主的にお邪魔するという事件だ。当然、ルイズは怒り、突貫。無事?救出し、部屋へ連行・・・帰った。その時サイトはルイズに「武器を買ってくれ」と頼みルイズはそれを了承。そして次の日、彼らはトリステインの首都、トリスタニアに行く事になっていた。そして、休日なので朝から図書館で借りてきた本を読みながら談笑しようとしていた二人にも、サイトから誘いがかかったのだ。

「タカシもこないか?城下町ってのに興味あるだろ?」

そんな誘いに大喜びで了承する男がいた

「おぉ!すばらしい!そいつは実に面白そうだ!是非行こう!すぐ行こう!さぁ行こう!」

そういいながら大はしゃぎでサイトと肩を組み二人して部屋を出て行った。そして残されたのは不機嫌そうなアーリャ嬢。

「ちょっと!?私を置いて何処行くつもりよ!?」

そういいながら二人を追いかけて部屋を出て行った。

その数分後、タバサが彼らの部屋を訪れていた。今日は休日なので、一日中彼らと話が出来る。そう思い、浮かれながらやってきていた。何だかんだで彼女も三人の話――――
主にタカシによる異世界の話や、ハンターとしての冒険談を聞く事を大変楽しみにしていたのだ。そして、部屋のドアをノックする。

コンコン・・・ 

「?」

コンコン・・・・・・

「??」

ノックしても物音一つしない。寝ているのかと思いドアにアンロックの呪文をかけ、開錠。本来学院ではこの呪文は禁止されているのだが・・・よほど話を聞くのが楽しみだった様子のタバサ嬢。そして部屋の中へ入り、誰も居ないことに気がついた。

「???」

休日なので図書館は休みである。気分を変えて中庭辺りで話でもしているのかと思い、部屋を出る。
丁度そこで彼女のもう一人の親友、キュルケに泣きつかれた。なんでも、サイト達が城下町に出かけ、自分も後を追いたいらしい。どうやらサイトをルイズから奪いたいようである。正直彼女にはどうでもいい。というか、今はそれより優先事項があるので断るつもりでいた。次の一言を聞くまでは―

「タカシとアーリャも行っちゃったのよ~お願いタバサ!力を貸して!アナタにとって虚無の曜日がどれだけ大切かは私も解っているつもりよ!でも・・・・ね・・・・?」

「タカシとアーリャも行った」の時点でタバサは部屋の窓を開け、口笛を吹いていた。その口笛に呼ばれて一匹の風龍。シルフィードが現れ、タバサは無言でその背中に乗る。そして「早く乗って」っといってキュルケを促す。

「ちょ、ちょっとタバサ?どうしたの?アナタが「早く乗って」わ・・・解ったわよ」

そうしてキュルケを乗せ、龍の頭の近くで

「タカシとアーリャを追って」

っと呟いた。龍は一言「きゅい?」っと心なしか焦ったように鳴いたがタバサの「とっとと行け」という目線に負けて大急ぎで羽を羽ばたかせ、大空へと飛び立っていった。



一方、こちらはトリスタニアの城下町~



「お~!アレがお城って奴か!?なんか、ドラク○とかに出てきそうだな!」

っとはしゃぐサイト

「おぉ!なかなかいい雰囲気の町じゃないか!某国の宮殿には流石に負けるか?いや、そうでもないかな」

っと、こちらも目を輝かせながら辺りとキョロキョロしいていた。そんな大はしゃぎのお子様二人の後ろで、恥ずかしそうに俯き、顔を赤くしている少女が二人。

「犬!アンタ!少しは恥ずかしいと思わないの!?田舎物じゃないんだから!あんまりはしゃがないでよ!?」

っとルイズ嬢

「~~~お願いだから少しだけ黙って・・・」

っとアーリャ嬢

そんな二人を無視してズンズンと肩を並べて歩く二人。何か鼻歌を歌っている。

「ふんふふっふ~んふん♪ふんふふっふ~ふんふん♪ふんふふっふ~ん♪」

「をいサイト、それって『ワルキューレの騎行』だろ?それじゃここのイメージじゃない。っここは『未知との遭遇』でいこうぜ」

「俺ソレ知らないなぁ~・・・んじゃ、あれで行こう!『明日があるさ』俺これ結構スキなんだよ」

「をいをい、一気にそっちに飛ぶか?それなら「Wild Flowers」はどうだ?知ってるか?」

「おぉ、それは知ってる!俺もアレ好きなんだよ!」

「だろ?んじゃいくぜ?♪♪」

「~~♪♪」

中略~

「「~♪」」

「「いい加減にしろ!?」」

人ごみの中で肩を組み、異国の歌を上機嫌で歌うという怪しすぎる二人組み。
っとその後ろを羞恥で顔を真っ赤にし、俯いたまま歩いている美少女二人。こんな光景を繰り広げておいて、注目を集めないワケがない。そしてそんな視るからにヤバげな集団に近寄る人も居るはずもなく、彼らの周囲だけ人は居なかった。いい加減そんな状況に業を煮やしたのか、ルイズとアーリャによるヤクザキックが二人を襲った。

「「何をする!?」」

気分良く歌っていた所をいきなり後ろから蹴り飛ばされた二人は当然←(本人達の視点で)の抗議をする。

「「黙れ!いいから来い!!」」

有無を言わせぬその迫力に、二人がしぶしぶ立ち上がり、彼女達の後を追おうとした次の瞬間、タカシが足を止めた。

「おい、どうした?行かないとこいつら怖えぇぞ?」

そういうサイト。しかし彼は一人の男を見たまま動かない。

「・・・タカシ?」

ただならぬ雰囲気を感じたのか、アーリャが疑問の声を上げる。その時、その男がタカシの視線に気がつき、こちらに寄ってきた。

「をい小僧!?何ガン飛ばしていやがる!?ケンカ売ってるのか!?」

身長180サントはあろうかという筋肉もりもりのマッチョがいた。そしてそんなのに詰め寄られた経験の無い三人は固まった。ルイズは無意識にサイトの服の裾を掴み、アーリャも同じくタカシのコートの裾を掴んだ。
そんな三人をよそに、タカシは平然としてこう聞いた

「あんた、名前は?」

「あぁ?んなもん聞いてどうするってんだ!?ケンカなら買うぞ!?」

凄まじい剣幕に、周りに居た人々もおびえていた。しかし、彼の次の一言で男の態度が変わった。

「アンタの名前、ウィンコットだな?」

そう言った瞬間、男は凍りついた

「・・・誰だそれは・・・知らんな・・・俺の名前はローカスだ・・・」

明らかにさっきと違う態度だ。しかし――

「下手な演技はやめるんだな。指名手配中のメイジ盗賊、ケイン・ド・ウィンコットさんよ。そんなちゃちな変装じゃ俺の目は誤魔化せないよ」

そう彼が言い放った瞬間、ウィンコットは一気に距離をとり、懐に入れてあった杖を引き抜き、タカシに向けた。

「・・・よく解ったな・・・小僧」

「生憎、もっと高等な変装でも見破れる訓練はしてきたんでね。無駄な努力ご苦労さん」

二人のやり取りに固まっていた残りの三人。
しかし、杖を向けられた事で、さらに固まってしまった。犯罪者――しかもメイジこのような形で出会ったことの無い三人は、足がすくんで動けなくなっていた。

「後ろの奴らの方が賢かったなぁ、小僧。プルプル震えてりゃ、お前ももうちょい長生きできたかもしれないぜ」

ニタっと笑いながらルーンを唱え、杖を掲げる大男。

「いや、お前もな。あんなところに指名手配書さえ張ってなけりゃ、俺に目を付けられる事の無かっただろうに・・・ご愁傷様」

「そうか。今度から注意するよ。じゃぁな」

そういいながら油断無く、容赦なく杖を振り下ろすメイジ盗賊のウィンコット。しかし、いつまでたっても魔法は飛んでこなかった。
一番疑問に思ったのが杖を振るった本人だ。ルーンは言った。魔力も込めた。完璧。ならば何故魔法が出ないのか?それが理解できるものは、この場で一人しか居なかった。

「無駄だぜおっさん?悪いがつなぎ目を・・・アンタに解りやすく言うと、杖との契約を途中で切らせてもらった。あんたらは杖と契約しないと魔法が使えないからな」

「な!?何いってやがる!?」

そういいながら何度もルーンを唱え、杖を振る男。しかし、いつまでたっても魔法が出ない。そして、男は魔法を使う事をあきらめ、逃走しようとしたその時―――

「っクソ!覚えてやがr!?」

さっきまで3メイルほど離れていた白銀の髪が、彼の目の前にあった。そしてそのまま

「御託の続きは檻の中でな」

そう言いながら男の腹にオーラを込めた拳をめり込ませた。男はそのままズルズルと崩れ落ち、動かなくなった。

「・・・タカシ・・・?」

状況が理解できていない三人を代表してアーリャが声を発した。

「ん?あぁ、それより、コレ、何処に持ってけば賞金くれるのかな?」

そう言いながら近くの壁に貼ってあった手配書を一枚剥がし、戻ってくる。

「お、ここか。うし、ちょいと行って来るわ。って、これ、ドットかよ・・・まぁいい。無いよりはマシだな。とっとと課金してこよう」

そう言いながら大男をなんでもないようにズルズルと引きずって行く。彼をボーっと眺めていた三人は、一斉に我に帰り、後を追った。

男を引き渡し、賞金100エキューを貰って出て来たタカシに、まずはじめに声をかけたのはサイトだった。

「なぁ・・・タカシ・・・さっきの、どういう事だ?」

「あぁ。つまり、俺がたまたま見かけた手配書と、そこにかかれてた男が居たから、ひっ捕まえて小遣いを頂いたってワケだ。あんなの捕まえるだけで100エキューもくれるなんてな。ここで賞金稼ぎでもしようかな」

うっしっしと笑いながら答える男に対し、次はルイズは質問した。

「ソレよりアンタ!さっきのどういう事!?変装を見破ったってのは・・・まぁいいわ・・・よくないけど、いいわ。それより、杖との契約を切ったって!そんな事、杖自体を破壊しないと無理よ!?」

「ん?別に杖を壊さなくてもつなぎ目、つまり、契約により、杖と結ばれている部分ってのをみつけて、そこにこっちから大量のオーラを当ててぶった切ってやればいいだけの話だよ」

「なによそれ!?ってそれより!どうやって切ったのよ!?アンタあいつの杖に触れても居なかったでしょ!?」

「直接は触れてないな。でも、あんなもん切るのに直接触らなくたって、服の上からで十分だ。」

「アンタいつあいつに触ったのよ!?」

「あいつが最初に近づいてきて、「ケンカ売ってるのか?」って言ったとき」

「へ・・・・?」

っと間抜けな声を出すルイズ。だが、それは皆が思った事だ。「いつ触ったんだ」そしてその瞬間も見ていたが「まったく動いたようには見えなかった」のだ。そして今まで黙っていたアーリャが口を開いた

「・・・アナタ・・・こういうの慣れてるでしょ・・・?」

ジト目で睨みながらそう言ってきた。

「ん?あぁ。旅費が足りなくなった時とか、ちょっと入用になった時とかにちょくちょくな。指名手配者は携帯で見れるから、必要に応じて適当に捕まえてたんだよ。でも、こっちは楽でいいな!向こうのだと疲れるし時間かかるし、割に合わない事も多かったんだよ!」

ははははと笑いながら過去の横暴を話す男。そんな態度に呆れてため息をつき、彼女は此処に来た目的を思い出した。

「まぁ・・・それはいいわ・・・サイト、アナタの剣を買いに来たんでしょ?行きましょう」

「お、おう・・・そうだな。ルイズ、武器屋って何処だよ?」

「・・・はぁ・・・こっちよ・・・」

「おし、んじゃ行くか」

「「「お前が仕切るな!」」」


そんなこんなで無事?に武器屋に到着した四人であった。

サイトとルイズが色々な剣を見ている中、タカシは壁に背中を預け、腕を組みながら周囲を見渡しているだけだった。
そんな中、キュルケとタバサが現れ、キュルケはルイズとケンカ。サイトは一人で色々眺めていた。タバサはトトトっとタカシとアーリャのほうに寄ってきた。

「よう、タバサ。キュルケに付き合わされたのか?」

ニカっと笑いながら挨拶をしてくるタカシに対して、ちょっと赤くなりながらコクンと頷き、

「・・・そう」

っと返事をした。
そんなタバサを何やら見ていたアーリャだが、ため息をつき、話題を変えた。

「そういえば、さっきのアレ。どういうことよ?」

「さっきの?」

「えぇ。実は―――」

そう言いながらアーリャは先ほどの出来事をタバサに説明していた。そして――

「っというワケなのよ。それで、私が聞きたいのは、何であんな回りくどい事をしたかって事よ。アナタならあんなのの魔法を正面から受けても平気だったんじゃない?」

実際彼が魔法を正面から受けたのは二回だけ。それも学院の生徒からによるものなので、あのような戦いなれている者との実戦は違うであろう。それでも、彼女は彼なら平気だと思えていた。

「まぁ、確かにそれでも良かったんだが、いくつか理由があってな。二人とも、何だと思う?」

苦笑しつつそう言って質問を返してきた。そして最初にタバサが答えた。

「目立つから。メイジ相手に正面から、ソレも素手で戦って勝ってしまったら非常に目立つ。おまけにここは城下町。厄介」

タバサも彼なら何の問題も無く勝てると思っているようである。淡々とそう告げる

「うん。それも理由に含まれるな」

そう言いながらタバサの頭にポンっと手お置いた。そんな行動にタバサは少し顔を赤くしながらも、黙ってされるがままになっていた。そして次にアーリャが答えた。

「じゃぁ、自分の実力は極力隠したいから。あなたはそういう生活をしてきたんでしょ?」

「うん。それも正解。でももう一つ理由があるんだな。それは解るか?」

そんな問いにタバサは首を捻り、アーリャは何故自分の時はご褒美(頭を撫でる)が無いのかと少し不満げになりながら自分の中で(別に撫でて欲しいから答えたわけじゃない!)といい首を左右に振っていた。実に愛らしいツンデレである。
そうして暫く考えていた二人だが、結局答えはわからず、彼に聞いた。そして――

「うん。んじゃ最後の一つ。っつか、これが一番大きい理由だ。「あの方法が最も危険が少ないから」だな」

そう言う彼の言葉に、二人は首を傾げる

「でも、それなら最初に言った正面からってのでもよかったんじゃない?」

「うん。だけど、その場合万が一がありえる」

「でも、アナタなら平気でしょ?」

「俺ならな。でも、お前らに向いたら危険だろ?」

平然とそういうタカシに。二人は呆れとか驚きとかそういう表情を浮かべポカンとしていた。そんな中彼は説明を続けた。

「まず、魔法を封じる。これでその危険を除外できるわけだが、一番良いのが杖の破壊だな。だが、これだと別の危険が浮上してくる。」

「「別の危険?」」

「あぁ。罠とかな。あんな人通りの多い場所に居たんだ。プロの盗賊なら、緊急時の罠とか、そう言った手段の一つや二つ用意している可能性がある。っま、あいつはそんなタマじゃなかったけどな。でも一応この手段を捨てさせるために、俺はバレ無い様に杖を無力化。これによって標的は俺達を獲物だと判断。自分の優位が確立されているうちはその非常手段は使わないだろ?」

「「・・・」」

「んで、最後の詰めだ。標的は魔法の発動に失敗。この時点でもう奴の中のプランはめちゃくちゃだな。それにより混乱する。なんせ、やつのプランの中に「杖の契約を遮断されて魔法の使用が不可能になる」なんてのは無いハズだからな。せめて「杖を破壊。もしくは紛失して魔法の使用が不可能」ってのならあるだろうがな。んで、そんな混乱状態の敵に俺が一言「つなぎ目を切った」っと意味不明なことを言ってやる。これでもう奴は混乱する。そして奴の頭の中は「こんなわけの解らん奴と係わり合いになるな。逃げろ」という考えが出る。もしくは、一時撤退。杖を修理っとかな。そして、それを実行しようと週順する。その時一瞬意識が俺から外れる。んで、俺はその一瞬の隙を突いて、一気に距離を積め、油断している奴の腹に一発ブチ込んでやったってのが事の真相だな」

「・・・・」

アーリャは無言だった。変わりにタバサが

「・・・つまり、回りくどい手段をとったのは、万が一のもアーリャ達に危害が加わらないようにするため?」

「ッ!?」

それを聞いて狼狽するアーリャ。その頭にポンっと手が載せられる。

「っま、そう言うことだね。万が一の可能性を考慮し、限りなく0に近づける。そうした上で俺の小遣いを稼ぐ。完璧な作戦だろ?」

ニカっと笑う男。いつも無表情のタバサが、少しだけ、ほんの少しだけ頬を緩ませ笑ったように見えた。一方、頭に手を載せられたまま、どう反応していいか迷って言るアーリャ嬢。そんな彼女を無視するかのように、彼が何かを見つけた。

「お!」

っといって、武器が無造作に乱列されている棚に足を運び、そのなかから一本のナイフを取り出した。

「・・・・・よし、これでいいかな」

そういいつつそのナイフを店主の下へ持って息、5エキューという値段でそれを購入。ついでに主人に何かを聞いて、メモ用紙をもらい、何かを書き込み二人の下へ戻って来た。

「そんなナイフなんか買ってどうするのよ?」

「何を聞いたの?」

アーリャとタバサが同時に質問してきた。二人とも質問は別だが、首を少しだけか傾げるという動作は同じであった

「そんなとか言うなよ。コレは結構いいものだぞ?それと、さっきのは店を聞いたんだ。ちょっと買い物があってな」

「どうしてそんなのがいい物だって解るのよ?」

「買い物?」

また二人して別の質問。先ほどと同じである。それに苦笑しつつ

「このナイフからオーラが出てる。こういう現象ってのは、匠による創作か、何かの因縁か、もしくはこっちだと魔法によるものかって事になる。どれにしろ、これを5エキューで買えるなら安いものさ。んで、欲しいものってのは・・・まぁ、服とか、そんなんだよ」

「そうなんだ?」

「そう」

どうやらお二人には納得していただけたようである。
丁度その頃、サイトはデルフリンガーを見つけた。

「おぉ、しゃべる剣だ!ルイズ!コレ買ってくれよコレ!」

「え~・・・そんな錆びてるのじゃなくてもっといいのにしなさいよ」

っというやり取りをしている。それを視ていたタカシ達。

「へぇ、インテリジェンスソードなんて珍しいわね」

「でも錆びてる」

っとアーリャとタバサの反応。そして

「・・・・どういうことだ・・・?」

一人疑問の声を上げるタカシ。しゃべる剣についての疑問かと思いアーリャが答えた。

「あれはインテリジェンスソードと言って」

「そんな事はどうでもいい。俺が問題にしているのは、そんな事じゃない」

アーリャの厚意を一蹴し、なにやら真剣な目つきでサイトの手にある剣を凝る。

「・・・あの剣がどうかしたの?」

タバサの疑問。確かにインテリジェンスソードは珍しいが、彼が騒ぐほどの物でもない。

「・・・あの剣。オーラが見えない。」

「「?」」

「インテリ・・・あの剣。ようするに、魔法で意思を持ち、喋ってるんだよな?」

「えぇ」

「そう」

「だったら必ずオーラが見えるハズなんだよ。魔法による物ならな。学院の中の魔法がかかってるって物も色々凝てみたけど、どれもちゃんとオーラがあった。なのにあの剣は、さっき俺がこのナイフを探すときに凝た時、オーラを纏っていなかった。今も喋っているのに全く見えない。」

「・・・つまり、どういう事?」

っとアーリャが質問する。ここ一週間で、彼の洞察力や観察力、さらに推理力はよく理解している二人に、「彼が見逃した」や「彼が間違っている」っという考えは無かった。

「・・・解らない・・・確かに面白いが・・・危険かもしれない・・・危険じゃないかもしれない・・・すまん、答えは出ない」

「「・・・・・」」

タカシはここ一週間、大量の本を読み、彼女達の話を聞き、その全てを理解していた。そして元の世界でも数え切れないくらいの事を経験してきたであろう。それらの経験、知識をもつ彼でも、あの錆びた剣について何も解らないというのだ。


そんな黙っている一行をよそに、ルイズはしぶしぶその剣を購入。キュルケも対抗してキンピカの剣をサイトにプレゼントし、また二人でいがみ合っていた。

「・・・はぁ・・・まぁ、とりあえず今は考えなくていいだろう。それより、飯にしよう、飯」

そう言ってサイト達を呼び、店の外に出た。

「あ、ちょっと俺欲しいものがあるんだけど、飯の前に寄っていいか?その代わりって言っちゃなんだけど、昼飯は全部俺が奢るからさ」

「別にいいぞ!俺は剣買えたしな」

「まぁ、奢ってくれるってのなら別にいいわ」

「まぁ、タカシは太っ腹ねぇ。どこかのケチなお子様とは大違いだわ」

「いい」

「いいわよ。行きましょう」

サイトが了承し、ルイズも続く。キュルケがさりげなくルイズを挑発し、タバサも即答。アーリャにも許可がもらえたので、さっそく目当ての店に行った。そして彼はそこで欲しいものを店主に言い、現物を改造しなきゃならんと言われ、その時間に飯を食ってくる事にした。
そして昼、武器屋の親父についでに教えてもらった良い料理屋のオープンテラスで、彼らは食事をしていた。

「そういえばタカシ、おごりって言ってたけど、アナタお金持ってるの?」

キュルケがそうたずねてきた。

「あぁ。さっきちょっとした臨時収入があってな。100エキューくらいあるぞ」

平然と答えるタカシに、キュルケは目を丸くした。

「100エキューもの臨時収入!?一体何があったのよ?」

キュルケが驚くのも当然である。平民一人の一年間の生活費が120エキュー程。ほぼそれに近い稼ぎを、数時間で出すほどの臨時収入にキュルケは興味を持った。そしてそれに答えたのはアーリャだった。

「実はさっき―――」

何だかんだで彼の、自分の召喚した使い魔の活躍を自慢したいのか、上機嫌でキュルケに説明するアーリャであった。そしてタカシの活躍を聞き終えたキュルケが目を輝かせて

「ねぇ!今度アタシにも手伝わせてよ!報酬は山分けでいいわ!二人でこの辺りの賞金首を片っ端から捕まえましょうよ!」

など仰った。彼はそれに苦笑しながら、どう答えようか僅かに悩んでいると

「ダメよ!そんなくだらない事!時間の無駄よ。」

「ダメ。それよりは図書塔の本を読んでいるほうが好ましい」

っと、アーリャとタバサから援護が来た。二人の何か言い知れない迫力に押され、キュルケはしぶしぶながら素敵なお金儲け計画を放棄したのだった。

そんなこんなで昼食が終わり、タカシの注文していた店に戻って来た一行。
そして、彼が完成した服を受け取り、ついでにシャツなどを多少購入して店から出て来た。

「さて、このあとどうするかねぇ」

「もうちょっと探検しようぜ!?」

「よし来た相棒!さぁ行くぞ!未知の土地が僕らを待っている!」

ッガっと手を組み二人は力強く頷きあう。そんな二人を残りの四人の少女は苦笑しながら見守っていた。

そんな一行は、この城下町の露天に顔を出していた。サイト、キュルケ、ルイズの三人は、通りの反対側の店を見ている。
タカシ、アーリャ、タバサはアクセサリーや小物が売っている露天を繁々と眺めていた。

「「・・・」」

アーリャとタバサ。それぞれ違う物だが、じっと凝視している。

「お前ら、それが欲しいなら買ったらどうだ?」

そんな彼の提案。

「・・・急いで来たから、お金持って着てないわ」

「・・・私も」

そう言う二人はどこか寂しげである。そんな光景に心打たれたのか、見かねた彼が

「そんなら、俺が買ってやろうか?二人には色々世話になってるし、まださっきの金も残ってるしな」

「「・・・いいの?」」

声のトーンは違うが、見事にセリフをハモらせ、瞳に期待の光を宿らせながらッバっと振り返る二人。そんな二人に苦笑しつつ

「あぁ。んで、どれが欲しいんだ?安心しろ。後で返せとかは言わん」

「「コレ」」

そう言い、またもやハモりながら別々の物を指差す二人。笑いをこらえきれなくなり、思わず噴出しながら

「っぷ・・・・はいはい。おっちゃん!コレとコレくれ!」

「はいよ、毎度!あんちゃん、妹思いのいい兄ちゃんだねぇ」

店主のそんな何気ない一言に、目を輝かせ、頬を僅かに赤く染め、上機嫌だった二人の空気が固まった。

「そいつはどーも。んじゃほい、確かに渡したぜ?よし、行こう・・・か?」

店主のお世辞に適当に返答しながら金を渡して、商品を受け取り二人に手渡す。それだけなのだが、最後の手渡す段階になって、なぜか二人とも雰囲気が違ってた。

「・・・どした?いらないのか?」

「「・・・」」

そんな彼の手にある物。タバサは腕輪。アーリャはイヤリングをそれぞれ無言で受け取り、踵を返し、そのままルイズたちの方へ歩いていった。

「・・・おーい・・・置いてくなよ」

そんな彼の小さな叫びが午後の城下町に響いた。











ども、以上です。「最強キャラで瞬殺したらつまらん」って言う事で、基本的にそういう事はしないのですが、コレは別です。原作キャラ相手ではなく、オリジナルのヤラレ役を用意しました。まぁ、ここでちょっとお金を補充しておきたくて、どうしようかと思ったのですが、手っ取り早く「賞金首」を用意。それを捕まえるという事にしました。アーリャかタバサに奢ってもらう っと言う手段もあったのですが、それよりもこっちのほうがこの後いろいろと都合がいいので、こういう話になりました。

ちなみにWild Flowersっと言う曲を出しましたが、これは作者が好きな作品「ZOIDS」っというアニメの主題歌だった曲です。作者の中でこの曲は「澄み切った青空」っと言うイメージがしますね。中々良い曲なので、機会があれば是非、聞いてみる事をオススメします。

次回、いよいよフーケ戦(前半)です。

では、この辺りで失礼します。引き続きご意見、ご感想など募集中です!



早速ご指摘があった「歌詞引用」の部分の修正をしておきました。無知故の行動とは言え、勝手に使用してしまいましたので、お詫びして訂正します
この場合「曲名」だけは平気なのでしょうかね?





[4075] 第十一章  盗賊×討伐×土くれのフーケ
Name: 豊◆4d075937 ID:e471b931
Date: 2008/09/17 22:06




そして、トリスティン城下町探検ツアー一向は無事(?)学院に帰ってきた。そしてそれぞれ、自らの部屋に帰っていった。タバサだけは例外で、アーリャ達の部屋にお邪魔していた。その腕にはしっかりと先ほどのブレスレットをつけたまま

そしてそのまま三人でいつものように話をしていた。そんな何気ない平和な日常は、一人の侵入者により破られた。

「かくまってくれ!」

結構必死の形相で頼み込むサイト君。

「・・・どうした?ルイズに悪戯でもしてお仕置されそうなのか?」

へらへらと笑いながらそう言うタカシに

「それは今日はやってない!それよりもっとやばそうなんだ!頼む!かくまってくれ!」

そういいつつ部屋の中にすでに入っているサイトである。

「・・・一体何をやらかしたんだ・・・?」

タカシだけでなく、何処と無く不機嫌そうな二人の少女も首を傾げていた。その疑問に答えたのは、この部屋にいる誰でもなく、正に今、この瞬間「ドン!」という音と共に怒り顔で部屋に突入してきたルイズとキュルケであった。

「さぁ犬!どっちにするか選びなさい!」

「そうよダーリン!早く選んで頂戴!」

「・・・状況の説明を要求したいんだが・・・いいかな?」

呆れながらもそう聞く彼の問いに対し、

「この犬が剣を選ばないのよ!」

「ダーリンがルイズに脅されてるのよ!」

などとルイズ、キュルケからそれぞれ状況が説明された。説明になってねーよ

「「・・・」」

アーリャとタバサも無言・・・状況が理解できて無いのだ。そして、そんなカオスに終止符を打ったのは人間ではなかった。

「つまりよ、相棒が俺様とそこのキンピカの剣。どっちを持つかって事でもめてるんだよ」

そう錆びた剣が説明してくれた。っつか剣に説明されてるよ・・・これって人としてどうなのかな?

「・・・なるほど・・・ありがとよ剣」

少し悲しそうな顔をしながらそう答えた

「なぁに、いいってことよ」

「よかったよ・・・まともに思考できる奴が残ってて」

「っま、伊達に長く生きてるわけじゃねえさ」

「何年物なんだ?」

「聞いて驚け?6000年だ!」

「ほぉ、そんなにか?そいつはすげぇな」

ほぉ、っという驚きの表情である

「だろう?俺様のすごさがわかるなんて、お前さん、なかなか見所があるな」

「まぁな。俺は崇。龍宮崇だ。タカシって呼んでくれ」

「俺様はデルフリンガー様だ!デルフでいいぜ!」

カタカタと音を鳴らしながら喋る剣とのファーストコンタクトを果し、二人(?)は何気ない話をしていた

「さっきは危険かもしれないって言ってたのに・・・何やってるのかしら・・・」

「あくまでも可能性として言っただけ。何も解らないなら少しでも情報を引き出すために会話という手段は有効」

などとアーリャとタバサは顔を寄せ合い小声でボソボソと話している。

その横でルイズ、キュルケ、サイトがギャーギャーと叫ぶ。

誰か止める奴はいないのか


しばらくそんなカオスが繰り広げられたあと、結局サイトはどちらも選ばずに「どっちもって・・・ダメ?」っとテヘっと可愛く笑いながら言ったところ、キュルケとルイズに蹴り飛ばされた。
そして、お互いに杖を突きつけてゴングが成るまであと二秒っといった所で、レフリーによる横槍が入った。

「室内」

ッスっと二人の間に長い杖を入れるタバサ

「ルイズも落ち着いて、建物の外でやりましょうよ!」

ルイズの肩を押さえ、必死でなだめるアーリャ。自分の部屋を破壊されたく無い様子

そしてタバサとアーリャがそれぞれ、キュルケとルイズを外へと誘導

「・・・どっちもやめろと言わないのが怖いな・・・」

「ありゃ無理だろ・・・俺様もあの迫力には恐怖を感じた」

呆れた表情でそんな冷静な突っ込みをする二人(?)の言葉を聞くべき対象は、すでに部屋を出て行った後であった。


タカシとデルフが中庭に下りたとき、サイトが縄で縛られ塔の頂上からつるされていた。


「・・・新手の苛めか?・・・それとも拷問か?サンドバックにするならあんな位置じゃ意味無いだろ」

塔(サイト)を見上げ、そんな暢気な意見を仰る男何気にダメだししてます

「いや!そんな感想はいいから、頼むタカシ!助けてくれ!」

結構必死です

「ごめん無理」

即答しました・・・

「薄情者!!」

「だって、助けたら吊るしたであろう二人に何されるかわかんねーんだもん」

「もん」とか言いながら、実に楽しそうにニヤケてます。・・・最悪ですね

「お前!?友人がこんな事になってても助けてくれないのかよ!?」

「友情よりも命が大切だぜ・・・短い付き合いだったけど、お前の事は忘れないよサイト


「それ!笑いながら言うセリフじゃねーよ!?せめて少しでも悲しそうにして言え!」

最後の切り札「男の友情」すらも笑いながら流され、目にちょっと涙を浮かべるサイト君・・・最早この場に彼の味方は居なかった・・・

「んじゃ、それやったら許してくれるんだな?」

「あぁ・・・って、そういう問題じゃねぇ!助けろ!」

「だが断る」


そんなやり取りをしている内に、今回のデスゲームの内容を説明しよう。


勝利条件 サイトの吊るされている縄を切断する
敗北条件 縄を切断できなかった方
商品 サイトが使う剣。(キュルケが勝ったら金ピカ。ルイズが勝ったらデルフ)

以上。20メイル以上はあろうという塔の頂上からサイトが紐なしバンジーをするという結果は揺るぎようが無い確定事項らしい。

「あそこから一般人が落ちたらトマトだな」

「トマト?」

「どういう意味?」

タカシの暢気な感想に、アーリャ、タバサが質問する。

「高い場所から落ちて地面とキスした段階で赤い汁が飛び散るという現象だ。昔、仲間とそういう現象をトマトと定義した」

「・・・なんか・・・想像できるわね・・」

「・・・気持ち悪い」

少し青ざめながら言う二人の少女

「そう思うなら助けろよお前ら!?」

そんなトマト候補の悲痛な叫びを無視し、三人は観戦モードで見上げている。

そしていよいよゴングが鳴った!

「レディー?ファイト」

正確にはタカシが言った。外道ですね

「私の専攻(ターン)ね!行くわよ!」

そう言いながらルーンを唱え、魔法を発射!
光の玉が飛んでいく

「おぉっと?これは逝ったか?直撃コースだ」

もう笑い顔を隠そうとすらしてません

「うぎゃぁぁ!」

そんな男の実況を聞きながら、サイトは直撃コースの功撃を根性で回避した。縄で縛り上げられてるのに・・・実に器用です。避けた功撃は当然、背後にある塔に直撃。ひび割れが起こった。

「何で避けるのよ!?」

怒り顔のルイズの抗議

「何で俺本人に当てるんだよ!?縄切るだけだろ!?あんなの当たったら死ぬわ!」

必死にこのゲームの危険性を訴えます。意味無いですね
その様子を見ていて、腹を抱えて爆笑している男が一人・・・

「じゃぁ次は私の番(ターン)ね・・・ファイヤーボール!」

そう宣言し、ルーンを唱えて杖を振るキュルケ。

「おぉ!これは完璧に紐のみを直撃するコースだな。これでサイトの運命(トマト)は決まったか?」

少し関心しながらそう言う・・・だが助けようとはしない・・・

そう言いながらキュルケの魔法は、見事なコントロールで縄だけを切断。結果サイトはバンジー中・・・かと思いきや、そうは問屋が下ろさなかった。

ゴゴゴゴという音と共に、巨大な土ゴーレムが地面より現れ、そしてサイトをその頭に載せたのだ。

「な!?何だこいつは!?」

「な、なによあれ!?」

「ちょっと!聞いてないわよ!?」

「何!?あれ!?」

「・・・土くれのフーケ・・・」

「ほぉ・・・でかいな」

サイト、ルイズ、キュルケ、アーリャ、が驚愕しながら。タバサ、タカシ。は冷静なままそれぞれ別の言葉を口に、20メイルはあろうかという巨大な土ゴーレムを見上げていた。


そしてゴーレムがヒビの入った塔を殴り始めた。
「どわあぁぁぁ!た、助けてくれぇ!」

っというサイトに悲痛な叫び

「何よこれえぇぇ!?」

「ちょと!こんなのどうすんのよ!?」

っとパニックに陥るルイズとキュルケ。そんな彼らを尻目に、冷静に状況を見ている三人が居た。

「・・・ねぇ、あんなのが出るって、あなたもしかして知ってたの?」

アーリャが目を細めて聞いてくる

「何でそう思う?」

取り乱した様子も無く、平然と聞き返す

「だって、やけに冷静なんだもの」

「いや、焦っても仕方ないだろ」

そう言う彼に、今度はタバサが

「どうして?」

僅かに首をかしげながらそう聞いた。たった一言だったが、何を聞きたいのか理解したであろう男が、その質問に答える

「何か起こる可能性がある・・・とは思っていたさ。妙な視線を感じてたからな。人間じゃない・・・動物か他の何かか・・・ともかく、監視されてた。まさかあんなのが出るとは思わなかったがね」

そう言ってゴーレムを見据える

「・・・そう。ところで、タバサがさっき言ってたのってもしかして・・・」

「そう。土くれのフーケ。最近この辺りに出るという貴族のみを狙う盗賊メイジ」

今度はタバサに質問するアーリャに、淡々と答えるタバサ

「あのゴーレムがそうだっての?」

「おそらく。可能性は高い」

そんな二人のやり取りを見て、

「っつーことは、アレは金庫破りな訳だ。随分と派手だねぇ」

っと暢気な感想を述べる男が居た

「でも宝物庫って、何人ものスクウェアクラスのメイジが固定化の魔法を掛けていたハズよ?ゴーレムが殴った程度じゃどうにもなら無いんじゃない?」

やはり「キョトン」っとしながらそんな当然の疑問をそ口にするアーリャに

「だからルイズの呪文の後なんだろ?あれでヒビが入ったからな」

「・・・虚無・・・」

タバサの呟きに頷くタカシ。そして納得するアーリャ。

「っで、これからどうするの?言っておくけど、私もタバサも、もちろんキュルケやルイズにもあんなのどうにかする事なんて出来ないわよ?」

「あなたならできる?」

そう言い問いかけてくるアーリャとタバサの目に「やってみて」っという多少の期待の色が見て取れる。しかしタ彼は、その期待にはこたえなかった。

「・・・確かに。あの程度のデカブツならどうとでもできると思うが・・・無理だな」

20メイル以上の土ゴーレムを捕まえて「あの程度」とかほざく男に、呆れる二人。そんな二人をよそに、彼は言葉を続ける。

「まず、術者が何処にいるかわからない。これじゃ、下手にアレに手を出して、メイジ本人に逃げられる可能性が高い。そしてもう一つ、アレの目的は宝を奪う事。俺達に危害を加える事じゃない。だったら宝を奪う瞬間、術者を抑えたほうがいい。それに、万が一奪う場面で使い魔やガーゴイルを使用したとしても、そのまま泳がせて後を付け、本体にたどり着いてから捕まえればいい話だ。」

「・・・」

お嬢様方は少々ご不満の様子だ。そんな二人に苦笑しつつ、どうやってなだめるか考えていると、状況が動いた。

「お、壁が壊れたな・・・「ッシュ」・・・っち・・・人間じゃない・・・ガーゴイルか何か?」

ゴーレムが破った壁に入り、そこから出て来た人影の額に問答無用でナイフを投擲。人間じゃなかったと知り舌打ちする男・・・殺る気満々だった様です

「逃げたわよ!早く追いかけないと!」

「シルフィードを使う」

そんな非人道的(?)な行為を見なかった事にするかのように二人が言う

「いいよ。追跡なら俺がやるから。100メイル先までなら見えなくても追跡できる。目印もあるし、もっと離れてもなんとかなる」

そんなぶっ飛んだ事を平然とのたまう男

「それがあなたの能力ってやつ?」

「いや、まぁ、そう言えなくもないけど、とりあえず、円っていって、100メイル四方を全て包み込むようにしてオーラを張って、それで感知できるんだよ」

そんなぶっ飛んだ意見に驚く二人をサラっと無視しながら、残ったデカブツの処理を考えていると、用が無くなったゴーレムは土くれに帰っていった。

「おぉ、用が無くなれば無意味な行為はせずに速やかに処分か・・・なかなか手際のいい奴だな。」

ほぉ、っと言って関心したように軽く頷きながらそう言った

「感心してる場合か!?」

久々にスパーンという音が響く。

「・・・おかしい・・・円まで使っている現状で、お前がそのスリッパをどこから出したのか察知できないなんて・・・絶対におかしい。」

「だから、乙女の秘密だって!」

「固有結界」

そんなやりとりをしている最中、サイトは土くれの中から無事生還を果していた。

「んじゃ、ちょっと行ってくる」

そう言い残し、彼は目標を追いか闇夜に消えていく。残された者は、一先ず、部屋に戻る事にした。タバサだけは「彼の帰りを待つ」ッと言って、アーリャの部屋に来ていた。


そしてしばらくして部屋に戻り、崇はアジトは発見したが、他は何の成果も得られなかったとの事を部屋で待っていた二人に報告した。時刻は夜11時を回っていたので、タバサはそのままアーリャの部屋に泊まる事になり、二人してベットに入り、寝息を立て始めた。
そんな二人を少し苦笑しながら眺め、彼も椅子に座り、何事か考えながら眠りに付いた。




一夜明けて学院長室に呼ばれた六人。そこでフーケの隠れ家が判明した事をミス・ロングビルが報告、破壊の杖奪還の志願者を募る学院長。真っ先に志願したのが、なんとタカシだった。

「じいさん、俺に行かせてくれ」

右手だけポケットから出し、手をひらひらとさせている。

「お主は・・・確か、ミス・ズィーフィードの使い魔じゃったな?」

「あぁ。すぐに見つけてきてやるよ」

「ふむ・・・」

口ひげを弄りながら週順するじいさん。そんな中、別の名乗りがあがった。

「学院長先生!私も行きます」

「私も行く」

そう言いながら、自らの杖を空に向け掲げるアーリャとタバサであった。
そんな彼女達を見た他の教師は口々に「しかし・・・」とか「もしもの事があったら・・・」とか言っているが、誰も自分が志願しようとはしない。

(・・・自らの身の保全のみを考える無能・・・っか。何処の世界も、やはり変わらんね・・・そのくせ口だけはそれなりに回る・・・いっそ縫い付けて喋れなくしてみるのも面白いな)

くっくっくっと内心で笑いながら、彼はは二人の少女に目を向けた。

「お前ら、危ないんだから、ここで待ってろ。キッチリ片つけてくるから。」

そう言い苦笑しつつ、二人の頭に手をポンっと置く。
タバサはされるがままに。アーリャはその手を置かれて少しして、「っハ」っとして払いのけた。

「使い魔であるアナタが行くのに、主人の私が一人安全な場所に居るわけにはいかないわ!」

「私も。現場に居会わせながら何も出来なかった。その汚名を濯ぎたい」

二人とももっともらしいことを言っているが、内心は(彼の活躍を見てみたい)っと思っている様子である。
そしてそんな彼らに、さらに追加メンバーが名乗りを上げる。

「私も行きます!学院長!」

「私もいかせて頂きますわ」

元気良く言いながら杖を掲げるルイズと、平然としながら「ッス」っと杖を掲げるキュルケ

「なぁ、ルイズ?お前が行くってことは、もしかして俺もか?」

自分の事を指差しながら首を傾げるサイト君

「当たり前でしょ!?ご主人様にだけ危険な事させて、使い魔のアンタが安全な場所にいるなんてどういう事よ!?」

怒りを隠そうともせずに怒鳴るルイズ。
先ほどとは反対の光景を眺めながら、崇は(
やれやれ・・・面倒な事にならなきゃいいがな・・・)っと思いつつ苦笑していた

「ふむ・・・よろしい!では諸君ら六名に、破壊の杖の奪還を言い渡す!くれぐれも、奪還が最優先じゃ。土くれの相手をする必要はないから、心しておくように」

威厳ある声でそう言い、コレにて解散。っという所で、横槍が入った。

「じいさん、その前に報酬の交渉をしよう」

「ちょっと!何言ってるのよ!?」

平然とそのような事をのたまう男をアーリャが必死で止めに入る。他の者は皆、理解が追いついていない様子で、ポカンとしながらそんな様子を見ていた。

「報酬じゃと?」

タカシの突拍子も無い言葉に少し驚きながらも、平静を保ち質問を返す学院長の爺

「あぁ。別に金銭や物を要求するわけじゃない。欲しいのは情報だ」

そんな一同を無視しながら、話を進める

「・・・どの様な情報じゃ?」

少し険しい表情になりながらさらに質問を返すじじい

「っま・・・それは帰ってきてからだ。今は破壊の杖の奪還が最優先だろ?」

ニヤっと笑い、質問をはぐらかして了承を促した

「・・・そうじゃな・・・いいじゃろう。では奪還が成功した際の君への報酬は情報。これで文句は無いかね?」

長い口ひげを弄りながら、何事か週順し、そう確認するように言う

「問題ない。契約成立だ。んじゃ、ちょいと行って来る。あぁ、契約に違反したら、生まれてきた事を後悔させてやるからそのつもりでな」

頷きながら普段と何も変わらないという様子で学院で一番偉いじじいに脅しを掛ける男。なんとも非常識である。

「あ、アナタ!学院長先生になんて事を!?」

いい加減我慢の限界と言わんばかりに怒鳴りつけるアーリャ

「別に?ただの事実確認だ。問題ない」

「大有りよこのバカ!」

そんなアーリャの抗議をサラっと流して、そのまま部屋を出て行くタカシ。そして残った者達もそれに続き続々と退出していく。そして最後に残ったコルベールが少し汗を流しながら学院長に話しかけていた

「いやはや・・・学院長にあのような啖呵を切るとは・・・恐ろしい少年ですな」

額の冷や汗をぬぐいながらそう話しかける。

「うむ・・・しかし・・・ワシはそれよりも、彼を敵に回してしまったフーケが哀れでならんわ・・・アレは何事か企んでおる目じゃった・・・」

こちらも汗を拭きながらそう言い、ゆっくりと窓の外に視線を移しながらそう言った







以上 フーケへ戦前半です。最初にフーケを目撃させてしまうと、その場で捕まえるor殺っちゃったぜ☆になってしまうので、「がーゴイル」を出しました。

この後、いよいよフーケ戦後半です。 ご意見、ご感想、ご指摘など、どんどん募集しておりますので、今後とも宜しくお願いします







[4075] 第十二章   奪還×襲撃×百面相?
Name: 豊◆0ec87a18 ID:e471b931
Date: 2008/09/19 10:10




ミス・ロングビルの容易した馬車に乗り、学院を後にした彼等。
そしてそして彼等は彼女の案内の下、フーケの隠れ家を目指していた。
皆、多少なりとも不安の色が見て取れたが、そんな中

「いい天気だ・・・盗賊イビリ・・・じゃねぇ・・・盗賊退治にはうってつけだなぁ」

っと、背筋を伸ば「う~ん」っと言いながらついそんな事を口走る男が居た。

「・・・あなた・・・盗賊イビリなんてやってたの・・・?」

そんな彼を半目で睨む彼の主人

「んなワケないじゃないか・・・盗賊なんて無駄に手間がかかるくせに、報酬の落差が激しいんだ。そんな面倒事に首は突っ込まんさ」

そういいつつ、何気に細かいことを知っているってのは肯定と取られますよ。

ふぅ、危ない危ない。小遣い稼ぎの主なターゲットが、盗賊であった事がバレる所だったぜ。奴ら、何気にアジトに金品を隠し持ってることが多いからな。報酬よりもこっちのほうが旨いんだ。

「・・・ねぇ・・・口に出てるわよ?」

「内心吐露」

「何?最近治ったと思ったが・・・また復活してきたか・・・」

そんな彼を中心に、馬車の向かって右側にアーリャ、タバサとすわり、向かって左側にキュルケ、サイト、ルイズの順番で座っている。正面の三人は、未だに剣の事でもめているらしい。そんな彼らを眺めてボーっとしていたタカシは、アーリャの声で現実に引き戻された。

「ねぇ・・・あなたも盗賊のアジトってのは掴んでいるんでしょ?昨日後をつけたって言ってなかった?」

「ん?あぁ・・・ばっちり掴んでるよ・・・このままのスピードで行けば、あと10分ほどで到着するかな・・・」

天上を見上げ、心此処にあらずといった感で答えるタカシ。

「そう・・・でも、さすが学園長秘書のミス・ロングビルね。こんなに早くフーケのアジトの位置を掴むなんて・・・」

そんなアーリャの賞賛の言葉に、彼は頷かなかった

「いや・・・まぁ・・・・そーだな」

何処か気の抜けた返事が返ってきた

「どうかした?」

黙っていたタバサが首をかしげて聞いてくる。もうちょっと喋ってください。書くの忘れてしまいそうです

「ん~、まぁ・・・いろいろね」

「・・・」

そんな彼を半目で睨む少女達
そんな彼女達を無視して

「ま~・・・何とでもなるかな」

そんなどうでも良いとでも言いたげな態度である

「・・・さっきからどうしたのよ?」

アーリャが少し心配そうに聞いてくる

「いやぁ・・・まぁ、何とかなるか」

何やら自己完結したようだ。
さっきからそんな態度の男を二人の少女が睨みつけ、サイト達は相変わらず揉めている。
そうこう言っている間に、馬車は目的地に到着。ミス・ロングビルは周辺を見てくるといいながら森のほうへ歩いていった。

「大丈夫なのかしら・・・あの人」

心配そうにアーリャが言うが、タカシは全く心配していないようだ。

「別に平気だろ?それよりとっとと終わらせてじじいの所に戻るぞ」

そう言いながら全く警戒しないかのように小屋に向かってまっすぐ歩いていく。

「ちょ、ちょっと!?罠があるかも知れないし、敵が中にいるかもしれないのよ!?そんな所に正面から」

そう叫び止めようとしたアーリャを無視し、
一同が唖然とする中、一人平気な顔して小屋に入り、中にあった箱を持って何事も無かったかのように出て来た。

「よし、帰るか」

『えええぇぇぇ!?』

想像していた物と全く違う展開に一同驚く

「ちょ・・・ちょっとまって!こんな簡単にいくなんて、おかしすぎるわ!?」

真っ先に立ち直ったアーリャが叫ぶ

「だろうな。待ち伏せか奇襲か、ともかく、襲ってくる前にブツを持ってトンズらだ。さぁ、帰るぞ」

なんでもない事のようにそう言う

「でも、その杖偽物かもしれないし!」

「っつっても、小屋の中にはこれしかなかった。偽物なら間違った情報を掴んだ学院側の責任だ。俺には関係ない」

「でもミスロングビルがまだ!」

「ん?あぁ、依頼内容は破壊の杖の奪還。これが最優先事項だ。だからまずこれを果せばいい。彼女は後で迎えに来れば平気だろ?」

様々な疑問をぶつけるアーリャに、次々と当たり前の事のだと言わんばかりに平然と答える。さらに「ロングビルは放置」っと言ってのけたのだ。

「っさ、っとっとと撤収だ。頂くもの貰ったら長居は無用だ」

やたらと良い手際である。しかもなにやら嬉しそうに笑いながら・・・さすが常習犯

「・・・私・・・こいつのほうがよっぽど盗賊らしいと思うわ・・・」

「同感」

肩を落とし、ゲンナリしながらそう言うアーリャの呟きにタバサが同意。残りもみんな「ウンウン」っと頷いている。
そんな時、彼の笑み「ヘラヘラ」から「ニヤ」へと変化した。これに気がついたのはアーリャとタバサだけであった。

「ちょっと、どうしたの?」

何事かあるのではないかと思い、そう尋ねる

「・・・やっとご登場か。重役出勤だなぁ」

不適に笑いながらそう言うと、彼は振り向いた。瞬間、さっきまであった小屋は土くれにつぶされていた。



『出たあぁぁ!』


ゴーレム出現→パニック のコンボにより混乱する一同。そんな彼らを他所に、タカシは持っていたケースin破壊の杖を地面に置き、ゴーレムにむかって悠然と歩いていった。

「ちょっとタカシ!?何やってるのよ!?逃げなさい!?」

そんなアーリャの必死の叫びなど何処吹く風か、ゴーレムのすぐ近くまできて彼は足を止める。

「来いよデカブツ。遊んでやる」

右手をポケットから出し、クイックイっと挑発する。そんな挑発に乗ったのか、巨大なゴーレムが右手を振り上げ、振り上げた10倍の速度で振り下ろした。

「タカシっー!?」

「っ!?」

「タカシ!?」

「何やってんのよ!?」

「ちょっと!?」

アーリャが悲鳴のような声をあげ、タバサが息を呑み、サイト、ルイズ、キュルケがそれぞれ叫ぶ。

そして振り下ろされた腕により、巻き起こった土煙が晴れ、そこに悠然と立つ男が居た

「をいをい、その程度か?ファンタジーならもうちょいマシな事をしてくれよ。俺はそんな事も少しは期待して此処に来たんだぞ?」

っふっと笑いながら何事も無いように言う。
彼の位置は、先ほどの位置より一メイルほど右に移動していた。必要最小限の動きで、ゴーレムの功攻撃を回避したようだ。

『ッえ・・・?』

次の瞬間、その場に居た者たちは言葉を失った
次から次へと繰り出されるゴーレムのパンチ。しかし、ドッチボールか何かのようにヒョイヒョイとそれを紙一重で回避するタカシ。
そんな光景が続いていた。

彼の体を張った時間稼ぎ(?)により、タバサが使い魔である風龍を呼び、皆がその背中に乗り移っていく。しかし、アーリャだけは違った。

「アーリャ!?何やってるの!早く乗って!」

ルイズの叫びを無視し、彼女はゴーレムの方へと駆け出していた。


彼女は今、悔しかった。

自分だけ、また何も出来ない。そう思うと悔しくて涙が出てきそうだった。

彼女は今、うれしかった。

自分が召喚した異世界から来たという青年。彼から様々なことを聞いて、彼の実力は如何程かと想像していた日々。今彼は、目の前でその実力の一旦を示そうとしている。

彼女は今、杖を振り、ルーンを唱えていた。

実戦は初めてである。授業の模擬戦も、成績は下から数えたほうが早いくらいだ。彼女はトライアングルクラスのメイジであったが、いざ戦闘になるとドットにすら負ける。

彼女は今、この瞬間に全てを掛けていた。

「ライトニング・クラウド!」

そう叫び杖を振り下ろし、そこから生まれる雷の魔法。
雷鳴のアーリャのライトニング・クラウドだ。
威力はトライアングルなだけあってかなり強力な物だ。しかし、彼女は致命的な間違いを犯していた。

ゴーレムに直撃するライトニング・クラウドの魔法。しかし、ゴーレムには傷どころか、焦げあと一つ付いていない。

「アーリャ!?土ゴーレムに雷の魔法を唱えても効果はないわよ!?」

風龍の上に乗ったルイズとキュルケからそんな注意の声が聞こえた気がした。

しかし、彼女にそれに答える余裕は無かった

彼女の魔法を受け、ダメージこそ無かったゴーレムだが、いくら殴ってもかわされるタカシから、アーリャに狙いを変えたようだ。

「アーリャ!?」

そんな彼が珍しく焦りを孕んだ驚きの声を上げる。

「ッキャァァ!」

ゴーレムは巨大な腕を振り上げ、アーリャに殴りかかる―
―そして、腕が振り下ろされた。

彼女はみっともない悲鳴を上げてしまった。

彼女の足はすくんで動けなかった。

しかし、彼女は目を逸らさなかった。

最後の瞬間まで、決して目を背けず、相手を見据えていた。

その瞳に、強い意志が宿っていた。

そして、その目に気がついている者が居た。

そんな彼女の前に、白銀の風が吹いた



ドシンと言う重低音が辺りに響く



「まったく・・・随分と無茶をするご主人様だな」

いつものおどけた調子でヘラヘラとそう言う男。

「タカ・・・シ?」

「ん?何だ?」

別になんでもない。そんな感じである。しかし、その光景は異様だった。


「・・・・ぇ?」

「・・・ウソだろ・・!?」

「え・・・何で・・・!?」

「うっそ・・・・・」

タバサ、サイト、ルイズ、キュルケ。それぞれ驚きの表情。当たり前だ。
何故なら―


ゴーレムの巨大な腕が、青年の細い腕一本で受け止められていたのである。
体はゴーレムの方をむいている。左腕をあげ、まるで手を添えているだけの様子でゴーレムの巨椀を受け止めていた。


「まったく、度胸は良い。魔法の威力も、まぁ良いと思うがな。初めての実戦でいきなりこんなのを相手にする必要はないんだぞ?」

前を向いたまま、顔だけを彼女に向け、彼は言い放つ。彼の背中では、紺色コートに白銀の髪が幻想的に揺れていた・


「ぇ・・・あなた・・・今何してるの・・・?」

唖然としたままポツリポツリと、搾り出すように声を出し、質問してくるアーリャ

「ん?何って、お前に少しレクチャーしてるんだよ。いいか?実戦ってのは、もっと楽な物からこなして、その空気を体に覚えさせることからはじめなきゃいけないんだ。特に、お前のような完全な素人はな」

いつもと同じ様子でそんな事を言う。彼女が聞きたいのはそんな事ではない。

「いえ・・・そうじゃなくて・・・ゴーレムの腕を・・・」

「ん?あぁ、ちょっと邪魔だな。コレ」

そう言って彼は軽く、端から見たら本当に軽く。巨大ゴーレムの腕を押し返し、そのまま数メイル後退させた。


『ハアアアァァァァァ!?』



その場の全員。どこかに居るフーケですら、そう叫んだ。

170サント少しの青年が、20メイルほどのゴーレムの振り下ろした腕を受け止め、あまつさえそれを押し返し、数メイル後退させた。夢でも見ているような光景だった。
そして彼は完全にゴーレムに背中を見せ、アーリャに向き合って左手の人差し指を上げ、語り始めた。

「っさ、これで問題はない。いいか?さっきの続きだ。実戦ってのはな、しっかりと経験を積まないと実力が出せない。だから、焦らずじっくりと経験していくんだ。それを高々デカブツとはいえ、初っ端からこんなのを相手にするもんじゃない。解ったか?」


・・・もうその場に居た者に答える気力は無かった。


「こら。聞いてるのか?」

スパンとアーリャの頭に左手刀を打ち込む

「ッ!?っったい!何するのよ!?」

突然頭に手刀を打ち込まれ、目の端に涙を浮かべながら当然の抗議をするアーリャ

「お前が俺の話をぼけっとして聞いていないからだ」

「聞いてたわよ!ただ、どう反応していいか解らなかっただけよ!?」

「だったら返事くらいしろ」

「だからって殴ること無いでしょ!?」

「殴ってない!叩いたんだ」

「同じよ!女の子に手を上げるなんて!最低ー!」

「知るか。男女平等だ。俺のありがた~い話をボケっとして聞かないお前が悪い」

「何よ!?」

「何だよ?」

ガーっと一気に文句を言う彼女を、いつもの様子で平然としながら質問に答えていく崇。
いつもの二人がそこに居た。
そして、存在を忘れ去られたゴーレム。
感情を持たないはずの土の塊が、何故か怒こっているように見えた。

「そもそも ッチ!」

タカシがまた何か言おうとした瞬間ゴーレムが一直線に突っ込んできた。
瞬間、彼はアーリャを抱えて脇に飛んだ

「ちょ!何を!?」

「いいから、口を開くな。舌噛むぞ」

行き成り抱き抱えられて狼狽する彼女を一喝しながらゴウンゴウンと唸る高速の連続攻撃をヒラリ、ヒラリとかわす。

「っち、しつこい野郎だ。こういうタイプはモテないね。間違いない」

その呟きが聞こえたかのように、さらに攻撃が激しくなる。

「っ~~~~~!?」

タカシに抱えられたまま、右へ、左でと移動させられているアーリャはもう混乱していた。

そんな中、救いの女神が舞い降りた。

「アーリャ!タカシ!待ってて!今この破壊の杖で!」

そう言いながら大地に降り立つルイズ。そして、その手には、ケースに収められていたはずの破壊の杖があった。

そんな小さな援軍に、敵の伏兵が襲い掛かる

フーケが使用していたと思われる人型のガーゴイルだ。その手には剣が握られている。

「っ!?」

驚くルイズ。しかし、彼女は逃げない。

「この!この!これでどう!?」

そう言いながら必死に破壊の杖を振っている

「どうして!?何で何も起きないのよ!?」

そう言いながらも杖を振っている。

ガーゴイルが目の前まで来た。

彼女は下唇を噛み、悔しそうな表情を浮かべた

そこに 黒い風が吹いた。

ザン!っという音と共に切られ、崩れ落ちるガーゴイル

そこには、昨日キュルケにもらった金ぴかの剣。今は半分に折れてしまっていたが、それを持ったサイトが居た。

パン!っと乾いた音が響く

「何やってるんだこのバカ!死ぬぞ!?」

ルイズの頬が赤くはれていた。一瞬自分が何をされたのか理解できなかったルイズだが、すぐに再起動して動き出した

「何するのよ!?それにバカって何よ!?死なないわよ!アレくらい!」

そう一気に捲くし立てる。

「ふざけるな!無茶しすぎなんだよ!お前は!何で逃げないんだ!?」

サイトも負けじと怒鳴り返す

ルイズ目に涙を貯めながら叫び返す

「うるさいわね!それにね!私は貴族よ!魔法が使える者を貴族と言うんじゃないの!敵に後ろを見せない者を!さっきのアーリャみたいな者の事を貴族と言うのよ!」

「バカか!?そんな事のために死ぬ気か!?」

必死に叫ぶ彼女のセリフを聞いて、今までで一番大きな声で怒鳴るサイト。
そんなサイトに、ついにルイズは泣き出してしまった

「・・・ばか・・・泣くなよ」

「泣いてないわよ・・・ただ・・・悔しくて・・・いつもいつも・・・みんなにゼロってバカにされて・・・アーリャはあんな敵に挑んだのに・・・私は・・・」

涙を流し、目を擦っているルイズ。
そんな彼女を見ていると、サイトの胸は熱くなってきた

「ったく・・・そんな顔見せられたら・・・守ってやりたくなるじゃねえかよ・・・」

小声で、誰にも聞こえないようにボソっとそう呟いた。
サイトの持っていた金の剣は折れていた。

しかし、彼の心の剣は折れるどころか、鋼の芯が一本入り始めていた。

そんな彼は、破壊の杖を改めて視て、驚愕する。そして同時に勝利を確信した。

「よし、んじゃ一丁やるか!」

そう叫び、破壊の杖を拾い上げる

「・・・何してるの?それは使えないんじゃ」

そんな疑問を投げかけるルイズに

「いいや、使えるさ・・・」

少し笑いながらそう答えるサイト。

彼の左手のルーンが輝いている。

「タカシ!一瞬でいい!そのデカブツの動きを止められるか!?」

今までサイトとルイズの方を見ていたタカシは、すぐに反応した。

「おう、任せろ。そいつを奴にぶち込んでやれ」

そう・・・ヒョイヒョイと攻撃をかわしている最中も、先ほどから彼はずっとルイズとサイトの方を見ていた。それなのにかわされるゴーレムの攻撃・・・何か・・・目頭が熱くなってくる

「一瞬と言わず永遠に止めてやってもいいが、お前の晴れ舞台だ。派手にいこうか」

そういいながら、彼は大きく後ろに飛び、ゴーレムから距離をとった。

そしてアーリャを地面に下ろすと、その場でゴーレムを正面から見据えた。

当然それを追いかけ、ゴーレムが追撃してきた。

そして、ゴーレムが腕を引き、右腕に最大の力を込め、パンチを打ち込む。タカシはそれを避けるそぶりも見せずに、左手にオーラを集める。そして―

「ッシ」

短く、小さく息を吐き、ゴーレムのパンチに正面から自分の拳を打ち込んだ。

「ちょっと!?」

あまりの行為に驚くアーリャ。

しかし、次の瞬間―

二つの拳がぶつかった瞬間、ピシという音と共に、ゴーレムの右腕に亀裂が走った


『エエエエエエエエエェェェェ!?』


皆がそう言う中、彼は一言叫ぶ

「今だ!デカブツに一発食らわせろ!」

そう叫び、その声にサイトが反応する

「待ってました!食らえファンタジー!」

そう言ってサイトは構えていた魔法の杖のボタンを押した。

次の瞬間、大きな爆発と共に、ゴーレムの体が完全に吹き飛んだ

粉々に吹き飛び、パラパラと破片を撒き散らす元ゴーレム。そんな物を無視し、風龍に乗っていた二人がサイトの下に駆けていく。

「汚ぇ花火だぜ」

「・・・完全に悪役のセリフね・・・」

笑いながらそう呟き歩き出すタカシ。
それにしっかりと突っ込みをいれ、その隣に並び歩くアーリャ。

そんな二人が合流し、タカシとサイトが―

「ナイスシュート」

ッスっと左手を上げるタカシ。

「ナイスアシスト!」

ッバっと同じように左手を上げるサイト。
二人はイエーイっとハイタッチを交わした。

その時

「・・・そういえばフーケは?」

そうキュルケが呟いた瞬間、今までどこかへ行っていたミス・ロングビルが現れ、破壊の杖を拾い上げた。

そして―

「ご苦労様」

微笑みながらそう言った。

キュルケ、ルイズ、サイトは「いえいえ」っと言った顔をしていたが、タカシ、アーリャ、タバサは無表情で彼女を見ていた。

その余りにも良すぎるタイミング―

「いやいや、そちらこそ。ご苦労だったなぁ、土くれのフーケさん」

タカシのそんな言葉に場に居た者たちが固まった

「・・・おやおや・・・まったく・・・さっきの動きといい・・・今の言動といい・・・坊やみたいな手ごわいのが居るなんて・・・まったくの計算外だよ・・・」

一瞬驚き、しかし次の瞬間には薄ら笑いを浮かべながらそう言い放つ

「世の中ってのは、常に自分の思い通りには行かないものさ」

ヤレヤレといった風に首を振るフーケに、
ッフっと笑いながら答えるタカシ。

「まったく・・・坊やの言うとおりだねぇ・・・ところで、このまま見逃す気は無いかい?」

「破壊の杖奪還ってのが依頼の内容だ。そいつさえ渡してくれるなら、あんたは好きにすればいい」

「おやおや・・・私を捕まえるとかは言わないのかい?私は盗賊だよ?賞金も掛かってる」

「興味ないね。依頼の内容はあくまでも「杖の奪還」それ以上は俺の感知する範囲じゃない。それに、賞金もな。別に今金が欲しいわけでもないしな。入用になったら適当にそこいらの獲物を狙うさ。もっとも、くれるってんなら遠慮なくもらうぞ?」

ニヤ二ヤ笑いながらそうほざく男

「・・・アンタそれ・・・悪役のセリフだよ・・・正義の味方が口走ることじゃないよ」

少し、というか結構呆れた表情でそう言うフーケ

「っは!正義の味方?誰だよ?そんな間抜けな称号名乗ってるのは?頭沸いてるんじゃねぇのか?」

「正義」を履き捨てるように言ったタカシ

「・・・何でこんなのにアタシは関わっちまったんだろうねぇ・・・」

「まったくだ。アンタ、ツイてないな」

はぁっと大きな溜息を付きながらうな垂れるフーケ
ニヤニヤと笑いながら答えるタカシ
他の一同は色々ショックが大きいようで、口を挟むどころか、喋ることもできずにただただ唖然としていた。

「まったく・・・つくづくおもしろい坊やだ。どうだい坊や?アタシと一緒に盗賊やらないかい?アンタとなら、最高のコンビが組めると思うんだけど?」

「ふむ、アンタみたいな美人とコンビを組めるってのは、なかなかそそる条件だな」

「っふふ、だろう?」

そんな言葉に反応しッムっと怒り顔を出す少女が二名居たが、ソレを無視して彼は続ける

「あぁ、だが断る」

「初めから予想はしてたけどねぇ・・・一応、理由だけでも聞かせてくれないかい?」

たいして落胆した様子もなく、質問をぶつけるフーケ

「俺は自分が認めた奴以外と組まない事にしてる。今の所七人だけだったがね。アンタも、まぁ筋は悪くないと思うが。まだまだ精進が足りないな。出直してきな」

「ふふふ・・・まったく、変な奴だねぇ、アンタは」

「あぁ、それはよく言われる」

そう笑いながらフーケは破壊の杖をこちらに向けてきた

「動くんじゃないよ!杖を捨てな!」

そして破壊の杖をしっかりと構え、怒鳴り声を上げる。
先ほど破壊の杖の威力を見せ付けられた一同は、素直に杖を捨てた。

「そうそう、それでいいのさ。使い方はさっきそこの黒髪の坊やが教えてくれたからねぇ。まったく、ワザワザ手の込んだことをしたかいがあったって物さ」

上機嫌なフーケ

「盗んだはいいが、使い方が解らなかったなんて間抜けな話だな」

っくっくとバカにしたように笑う男が一名

「っふ・・・そうだね・・・白銀の髪の坊や、最後のチャンスだ。アタシとこないかい?」

「同じことを言わせるな。修行して出直して来い」

「そうかい・・・残念だ・・・じゃぁね」

そう言ってフーケが先ほどのサイトと同じ用に、ボタンを押そうと手に力を込めた

キュルケとタバサが目を瞑った。

アーリャとルイズが唇を噛んだ。

サイトとタカシは、お互いの顔を見ながらニヤっと笑った

「おや、この状況で笑うなんて、あんた達、大した度胸だねぇ」

「それはちょいと違う」

ニヤニヤしながらタカシが言う

「アンタは俺達を撃てないよ」

ふふんと笑いながらサイトが言う

「ナメるんじゃないよ!坊や達!」

そう叫びフーケがボタンを押した―

そして何も起こらなかった

「な!?何故だい!?さっきの坊やと同じ使い方をしたのに!何故爆発しないんだ!?」

その瞬間、「ハイ、チ-ズ」っという効果音と共に、一瞬当たりが光った。

「な!?なんだい今のは!?」

謎の声と光にうろたえるフーケ

「ぷ・・・くくくく、どうだサイト?よく撮れてるだろ?これ?」

そう言い、実に楽しそうに笑いながら自らのコートから、いつの間にか取り出した携帯電話。そこに移ったフーケの焦りの表情が移った写真を、サイトに見せるタカシ

「っぷ・・・をいをい・・・お前いつのまに」

噴出しかけた口を手で押さえ、プルプルと震えながら言うサイト

「しかも連続撮影にしてあるからこのように」

っと言いつつ携帯を操作し、フーケの余裕の笑みがだんだん驚愕して、最後に飛び切り驚いた顔が映っていた。

「おま!すげぇなをい!これは・・・ぷぷぷ・・・あとで皆にもみせてやらなきゃな!」

口元を押さえ、反対の手で腹を抱えて少し前かがみになり笑うサイト

「あぁ、だろう?我ながらなかなか良い腕だ」

ニヤニヤと笑いながらそうのたまう男。

破壊の杖を向けられたまま、携帯の画面をみて笑いまくる二人。

「な、何を笑ってるんだいあんたたち!」

「ほら、これだよこれ」

そう言いながらフーケの驚愕した顔が映った携帯のディスプレイをフーケに向けて見せてやる

「っな!?なんだいそれ!っというかそんなものを!?一体どうやって!?」

ソレは何だとか、どうやったとか、いつの間にとか、色々言いたかったが、何よりも自分の醜態を絵に残され、見せ付けられたことに怒りを覚えた

「いい加減にしな!」

そう言って再度、破壊の杖のボタンを押す。

「だから無駄だって。なぁ、サイト?」

「あぁ。そいつはな、バズーカって言って、単発式なんだよ」

タカシは相変わらずニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながらサイトに話し掛け、頷きながらそう答えるサイト。

「な!?単発!?どういうっ」

そう叫びながら自らの杖を出そうとしたフーケに、二人は飛び掛った。タカシが杖を蹴り飛ばし、デルフを持ったサイトが、剣の柄でフーケの腹に一撃を入れた
「っぐ・・・」ッといって未だに意識を保っているフーケにズバン!っという凄まじい音で手刀を叩き込むタカシ。

「・・・をいをい・・・今すげぇ音がしたぞ?」

さすがに女性を思い切り殴る気には慣れなかったサイトが、冷や汗をかきながら言うが、

「をいをい、お前こそ、一発で楽にしてやらずにジワジワいたぶるなんて、なかなか素敵な事をするな」

まったく悪びれた様子もなく、平然とタカシは答えた。

「・・・まぁ、結果オーライだな・・・」

そういい目を逸らし、人差し指でぽりぽりと頬を掻きながら言うサイト

「そういう事だ。っと、をい、お前ら。いつまでそうやって固まってるんだ?」

っとタカシ

「フーケを捕まえて、破壊の杖を取り戻したぜ」

そう言い笑顔を向けるサイト

サイトに向かってルイズ、キュルケが。
タカシに向かってアーリャ、タバサがそれぞれ飛びついた。





以上。フーケ戦後半でした。いかがでしたでしょうか?「何で一気に倒さないんだ?」っという意見の方も当然、いると思いますがその理由は次のアルビオン編で記述してありますので、その時点までお待ち下さい。
自分としてもそんなに不自然では無いと思われる理由なので、予想してみるなどして楽しんでいただければ幸いです。

さて、話は少し変わりますが、「盗賊いびり」っと言えば「スレイヤーズ」という作品が作者の中では一番に思い浮かびます。さいきんアニメで復活した様ですが、私はこっちを実は見ていません。いつか機会があれば見たいと思っているのですがねぇ・・・っと、そんなこんなで今回はこの辺りで終了です。
みなさんが予想していた物とくらべ、いかがだったでしょうかね?「こうなるとは思わなかった」っという意見を頂けると、作者としては大変うれしいですね。

では、次回は原作一巻の最終章です。引き続き、ご意見、ご感想などお待ちしておりますので、どんどん書き込んでくだされば幸いです。それでは、失礼します



[4075] 第十三章 ダンス×ダンス×ダンス
Name: 豊◆0ec87a18 ID:e471b931
Date: 2008/09/20 22:21
そして、ミス・ロングビル改め、フーケの最後の抵抗というべきか、馬車が無くなっていたので、仕方なく彼らは歩いて帰ることにした。

その道すがら、さすがにキュルケは不審に思ったようだ。
アーリャとタバサの親友にして、ルイズの天敵である彼女なら信用できる、そう思ったので、彼らは全てをキュルケに語った。

「なるほどねぇ・・・異世界・・・ハンターねぇ・・・っま、あんな馬鹿みたいなのを見せ付けられちゃ、否定できないわよねぇ・・・それにこのケイタイっていうののシャシン!これ、最高じゃない!フーケのこの顔!ぷふふ」

そう、先ほど撮影した「フーケ百面相」の画像は、ここにいる全員にタカシが見せた。

タバサてすら見た瞬間、後ろを向き、手で口を押さえてプルプルと小刻みに震えていた様に見えた。

「何度見ても最高ね!これは。しかし、ハンターってのはすごいのねぇ、あんな事ができるなんて」

笑いながらそういうキュルケ

「あれが、あなたの前言っていた念能力って奴?敵の攻撃を避けたり、あんな大きなものを吹き飛ばしたり」

この際気になっていた事を聞くアーリャ。しかし、予想外の答えが返ってきた。

「いんや?攻撃を避けたのは、ただの体術だ。パンチは、ただオーラを集めて殴っただけ。一応、オーラを操る技術を「念能力」と言うからあながち間違いじゃないが、俺の言ってる能力ってのは、個人で持っている特殊な力だよ。あんな事、それなりの能力者なら誰でもできる」

そんなセリフにみんな口ポカン

そんな中、サイトが真剣な顔をして、タカシに話しかけてきた

「なぁ・・・後で少しまじめな話があるんだが・・・いいか?」

「・・・・解った。んじゃ、今日の夜10時、ヴェストリの広場でいいか?」

サイトの真剣な表情。彼の目をじっと見つめ返し、っふっと笑ってタカシは答えた。

その後も皆で談笑しながら学園に戻った。時刻は昼を少し過ぎた所だった。




「諸君!良くやってくれた。しかし・・・ミス・ロングビルがフーケじゃったとは・・・しかし・・・この絵は・・・ぷははは!」

タカシの携帯の画像を見ながら笑う学院長。

「彼女を一体何処で雇ったのですか?オール・ドオスマン?・・・しかし・・・これは」

っといいつつも笑っているコルベール。なんと外道にも、タカシはフーケ百面相を彼らにも見せていた。まさに外道

「いや・・・町の酒場で・・・尻を触っても怒らないから・・・ついでに魔法も使えるというし・・・テヘ」

「テヘ」まで口にだしたエロじじいに、女生徒達は冷ややかな視線を浴びせている。

「・・・死んだほうがいいのでは?」

「・・・まったくだ・・・」

「・・・じいさん・・・もう引退したんだろ?その歳でエロに走ってどうするつもりだよ?」

コルベール、サイト、タカシも半眼でエロ爺を見据えている。そんな空気に耐えられなくなった爺は

「カァーッ!」

っと一喝。一人以外は皆その迫力に気圧され一歩下がる。

「ひゅぅ、やるなぁ爺さん」

一人だけ涼しい顔でそうのたまう男は無視

「いいか諸君!美人はそれだけで、悪い魔法使いなんじゃ!」

目を見開き、ものすごい剣幕でそう一喝するエロ爺

「た・・・確かにそうですなぁ・・・いやぁ、さすが学院長、なかなか良いお言葉です」

「ま・・・まぁ、わからなくも無いな」

「おぉ、爺の名言だな。良い言葉だ。俺も今度使わせてもらおう」

多少心辺りがあるのか、コルベールとサイトが少し焦りながら同意し、一人堂々と頷く。そんな野郎どもを先ほどよりさらに冷ややかに見つめる少女達。

「ま、まぁそれは今後の課題として、とりあえず、ご苦労じゃッた諸君!ミス・ヴァリエール、ミス・ズィーフィード、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサにはそれぞれ、王宮へ「シュヴァリエ」の爵位を申請しておいた。追って沙汰があるじゃろう。」

長い口ひげを手でさすり、っふぉっふぉっふぉと笑いながらそう言う爺

「本当ですか!?」

「・・・」

嬉しそうに言うキュルケと、無表情、無言のタバサ。

「でも・・・サイトは?」

「タカシはどうなんですか?」

自分達の使い魔の事を、少し不安そうな表情で尋ねるルイズとアーリャ

そんな反応を見て

「残念ながら、彼らは貴族ではない・・・そのため、申請は却下されてしまったのじゃ・・・すまんのぉ」

「「「「そんなっ!?」」」」

全員が見事にハモった。実質、フーケを捕まえたのはこの二人で、彼女達は何もしていないと言っても良い。しかし、

「そんなのいいですよ。別に。その代わりと言っては何ですが、聞きたいことがあります」

っと笑いながら言うサイト

「俺もいらん。それより、俺の報酬は大丈夫なんだろうなぁ?じじい?」

っと凶悪な笑みを浮かべて言うタカシ。誰かこの悪役を倒せる奴はいないのか!?

「あ、あぁ。情報じゃったな・・・解っておるわい」

少し冷や汗を書きながらしっかり答える爺

「そうか。命拾いしたなじじい」

満足そうに一回頷きながらそう言う男・・・
・・・何人も彼を止められないのか・・・

「・・・まぁ、とりあえず解散じゃ。サイト君とタカシ君は少し残ってくれ」

そういわれ、少女達は部屋を後にする。
残ったのは爺、コルベール、サイト、タカシの四人だけだ。そして爺が口を開いた

「まず、サイト君の用から済ませようかのう」

そう言い、サイトの左手のルーン。ガンダールヴのルーンについて説明をした。

「伝説の使い魔・・・どうして俺が?」

「わからん・・・すまん・・・ワシらにも解らん事だらけなのじゃ・・・」

不思議そうに尋ねる少年に、申し訳無さそうに答えるじじい

「いえ・・・それより、あの破壊の杖はどうやってここに?」

すまなそうに言うオスマンは、破壊の杖の事も語った。

「アレは、俺の、俺達の世界の武器なんです」

「なんと!?」

そうしてしばらくその話をした。終始無言のタカシ。何か企んでいそうで少し怖い
そして話が終わり、最後に

「ともかく!ワシは全力で君の力になろう!改めて!ようこそわが魔法学院へ!」

そう言い、サイトに退出するよう促し、彼も黙ってそれに従った・・・そして―

「さて・・・またせたのぉ」

僅かに間を置き、本題に入る

「別にかまわんよ。丁度俺の疑問にも一つ答えが出たしな・・・まぁ、それは置いといて、じじい、ウソはいけないぞ?」

少しだけニヤ付きながらじじいを問い詰める

「ウソじゃと?ワシはウソなどついてはおらんよ」

はて?っと言った風体で、すっとぼけようとするじじい

「いや・・・嘘っというより、全てを話していないっと言ったほうが正しいかな?」

ニヤっと笑いじじいを見るタカシ

「・・・何のことじゃ?」

僅かに眉を顰め、訝しげに問い返してきた

「ガンダールヴのことだ。まだ話していない事があるだろ?」

「・・・何故そう思うのじゃ?」

そうとぼける爺に対し、彼はまず、自分の正体から明かした。

「お主もやはり異世界から・・・ハンター・・・オーラ・・・それに先ほどのケイタイなる物・・・なるほどのぉ・・・」

コルベールとじじいは黙って聞いて、最後にそう呟いた。

「んで、ガンダールヴの話をしている最中、じじいのオーラに僅かに変化があった。体の反応や表情はいくらでも誤魔化せるかもしれんが、オーラだけは訓練してないとどうにもならんものなんでな」

ニヤニヤと実にいやらしい笑み。悪役です

「隠す気は無い・・・っが、今は話すべきではないと思ったのじゃ。」

「・・・そうか。んじゃ、まず俺からカードを切ろう。ルイズ、あいつは虚無の使い手の可能性がある」

「「っな!?」」

その発言に、流石に驚くコルベールとオスマン

「あくまでも可能性だが―」

っと前置きをして、彼は己の経験、そして見たもの。仮説を説明して見せた。

「・・・最後の宝物庫の壁にヒビを入れた・・・これはが決定的じゃのぉ・・・あの壁は、普通の系統魔法でどうこうできるような作りではないのじゃ・・・」

「だろうな。俺もあの塔は凝てみた。あれは普通の・・・すくなくとも、俺が見た普通の魔法じゃむりだ」

「・・・この事は他に誰が知っておる?」

僅かに険しい表情をし、確認のための質問

「この仮説を一緒に考えたタバサ、アーリャだけだ。二人には硬く口止めしてある。信用していいぞ」

「・・・そうか・・・ではそのまま秘密という事にしておいてくれんか」

確かな答えに安心したのか、僅かに胸をなでおろす

「かまわないがじじい、こっちのカードだけ見て、そっちを見せないのか?」

相変わらずのニヤニヤ顔だが、「話さなければ・・・解るな?」ッと言った意味合いが見て取れた

「・・・これはその仮説を裏づけるような物じゃが・・・ガンダールヴというのは、始祖ブリミルが用いた、虚無の使い魔なのじゃ」

その発言を聞き、僅かに驚きの表情を浮かべた

「・・・なるほど。確かに、これを今サイトに知らせる必要は無いな。」

「うむ・・・そういえば、君の報酬である情報とは何かな?今の事ではあるまい?」

「まぁ、今までの話もだいぶ含んでいたが、もう一つあるな。これは虚無とは関係ない。俺個人のためのものだ。」

「ほぉ、何かね?」

「ここに書いてある物が何処にあるかを探してもらいたい」

そう言い、ポケットから一枚の紙切れを取り出し、それを手渡す

「ふむ・・・全てかね?」

「少なくとも、線が引いてある物は絶対に調べて欲しい。最悪、この世界に存在するのかしないのかだけでもかまわない。現物が無くても、有る可能性の有る場所等も調べておいてくれ」

「・・・いくつかは知っておるが、一体何に使うつもりじゃ?」

「あんた達の迷惑にはならんさ。俺個人で使う。まぁ、おたのしみっと言っておこうか」

「・・・わかった。コルベール君、頼めるかね?」

「えぇ、解りました。少し時間をいただけますかな?タカシ君」

そう言い、コルベールに紙を手渡し、髭を弄り始めるじじい

「あぁ。かまわないよ。早いに越した事は無いが、別段緊急で入用ってワケでもない。」

「わかった。ではこれで君への報酬の支払いは終了でいいのかね?」

「あぁ。用があれば呼んでくれ。報酬次第で、どんな事でも請け負うよ。あぁ、例外は、アーリャに害を及ぼす事。これ以外なら・・・っな」

ニヤリと笑いながらそう言い放ち、退出しようとドアに向かう

「そうか・・ふぉっふぉっふぉ・・・いや、なかなか出来た使い魔じゃのぉ」

なにやら嬉しそうに笑うじじいを見て、ドアまで到着した時、振り返り一つ確認をする

「そんなんじゃねぇよ。あいつとの契約でな。そうそう、一つだけ確認させろじじい」

「・・・なんじゃ?」

タカシの空気が変わったことに気がつき、表情をこわばらせる二人

「虚無の話・・・誰かに話すのか?」

「・・・いや・・・本来ならば王宮へ報告しなければならないのじゃが・・・あの戦争好きの盆暗どもには、虚無の力は大きすぎるわい・・・この話はワシで止める。無論、コルベール君なら信用できるので、彼にならかまわんがのぉ」

それを聞き、普段どおりにしながら、ドアに手をかけ、開けて退出しようとする

「そうか・・・そいつは良かったよ」

出る前に振り返りオスマンの目を暫く凝視して、っふっと表情を緩めるタカシそしてそのままドアから外へ

「・・・よかった?」

「あぁ。あんたらなら信用できそうだ。もしアンタが上に伝える気だったら・・・ここであんた達を始末するつもりだったしな・・・この平和な場所で、そんな事はしたくない物でな。アーリャ辺りにもしバレたら、何かと煩く言われそうなんでね。んじゃ、また来るよ」

笑いながらそう言い残し、部屋を後にする悪役一名
そんな性悪者全開の男を見送った二人。

「・・・ミス・ズィーフィードは・・・随分ととんでもない者を召喚してくれたようじゃのぉ・・・」

さすがに肝が冷えたのか、ため息をつきながら椅子に深く腰掛けるオスマン老。

「いやはや・・・しかし・・・彼は乱暴そうに見えますが、言葉からはしっかりとした信念が感じられます。少なくとも、今の行動もミス・ズィーフィードやミス・ヴァリエール。サイト君を思っての発言・・・決して悪い人間ではないですよ」

首を左右に振り、「ヤレヤレ」っという感じでそう答えるコルベール

「そうじゃのぉ・・・しかし・・・もしこの世界で彼を敵に回すような人間がいたら・・・わしは心底その者に同情するよ・・・」

「全く持って、その意見には全面的に賛成ですな」

さきほどのフーケの百面相をみなにみせながら凶悪に笑う悪魔――タカシの事を思い出しつつ、ふたりは遠い目をして空を見上げ、彼の犠牲者が現れない事を祈った・・・



オスマン等にキッチリと釘をさし、意気揚々と部屋に戻って来たタカシであったが、入ってすぐアーリャに「先に食堂に行ってなさい」っと言われて部屋からたたき出されてしまった。同じく、すでに部屋を追い出され、火の塔の入り口でタカシを待っていたサイトを見つけ、二人で食堂へと向かった。

「まったく・・・なんなんだあのチビ助は・・・人がせっかく一仕事終えて、のんびりしようと思ってた矢先に部屋をたたき出しやがって。今度寝てるときに鼻毛書いてやる」

不満そうにしながらも、仕返しの悪戯の事を想像して少しニヤける男が居た

「・・・やめとけ・・・俺が前ルイズの顔に素敵アートを施したとき・・・覚えてるだろ?俺の無残な・・・じゃない・・・勇姿を」

そう言い、少し遠い目で虚空を眺めるサイト君

「あぁ・・・アレか・・・確かにあれは見事だった・・・お前の心意気は、確かに伝わってきたよ・・・」

こちらもその光景を思い出し、遠い目をして虚空を見つめる

「いくらお前でもあぁなるぞ・・・?」

「・・・・かもしれん・・・」

僅かにその光景を想像して、首をゆっくり左右に振りながら肯定した

「そんなにひどかったのかい?」

サイトの背中にいるデルフも交え、そんなくだらない会話をしながら食堂に付いた二人。しかし、いつもならこの時間でも人はいる筈なのに、誰一人いなかった。

「?何だ?集団失踪か?神隠しか?」

「・・・プロハンターのお前が言うと、何か知らないけど、妙なリアリティがあるな」

「まったくだ。サラっと恐ろしい事を言うねぇ、白銀の兄ちゃんは」

そういいつつ、丁度通りかかったメイド――
シエスタにサイトが声を掛けた。

「あ、シエスタ!他の連中は今日どうしたの?」

彼らはギーシュとの決闘騒ぎで知り合い、退屈な授業を抜け出したサイトが、しょっちゅう話をしていた。

「あら、サイトさんにタカシさんも。今日はみなさん、フレッグの舞踏会なので二階ですよ」

「「フレッグの舞踏会?」」

「えぇ、ともかくお二人とも二階へ行ってください」

そう言われ、二人して二階に上がった。
そこには、映画や漫画でみたような風景が広がっていた。

「・・・うへぇ・・・あんなド派手なドレスをマジで着てるなんて・・・」

っと少し引くサイト

「向こうでも某王室の舞踏会とかこんなのあるぞ?」

っというタカシ

「マジで!?漫画や映画や異世界だけじゃないのか!?」

「あぁ。ただし、あっちはこんなガギばかりのお遊戯じゃなくて、本物の大人達の舞踏会だがな。子供もいたが、みんな名家の子供達で、お行儀がよかったよ」

サイトの反応を見て、っふっと笑いながら言う男の顔をみながら、ある疑問が浮上したので聞いてみた。

「お前・・・もしかして参加した事あるのか?」

「あぁ。その舞踏会にちょっかいを出す馬鹿がいるから、適当に処分してくれって依頼でな。本当はそんな舞踏会に参加したくなかったんだが、丁度路銀が尽きて、他に仕事も無かったから・・・仕方なくな」

話しながら近くにあったワイングラスを取り、人が居ないテラスへと移動し、そこに背中を預けながら話を続ける二人。

「へぇ・・・どうだったよ?」

「馬鹿は進入する前に始末できたんだが、血が付いたままの手袋を持ち込んじまってな、多少の騒ぎを起こしちまった」

「きちんと証拠を消さなきゃダメだぜ?白銀の兄ちゃん」

わははと笑いながら言うタカシに、少々呆れ気味のサイト、何気にアドバイスをするデルフであった。

「しっかし・・・さすがは三ツ星。ほんと、いろんな事してるんだなぁ」

「三ツ星だからっていろんな事をしてるわけでもないぞ?それに、星が無くてもいろんなことをしてる奴もいる」

「お前が別段変わり者って事か?」

「まぁ、そうかもな。路銀稼ぎで盗賊や指名手配版をイビル三ツ星なんて、俺くらいだろ?」

「・・・確かに・・・そんなのが三ツ星だって世間にしられたら、ハンターの品位が下がりまくるな・・・お前が三ツ星なのに知られて無い理由がわかったよ」

「あ、ひでぇなぁ・・・これでも世のため人のためにいろいろ殺ってきたんだぜ?」

溜息をつき、呆れながらそういわれて、苦笑を浮かべながら反論した。なってないけど

「字が違げぇよ!?」

二人と一本は、ワイングラスを片手に、そんな会話で時間をつぶしていると―

「ラ・ヴァリエール家が息女!ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~り~~~」

そんな声が聞こえ、サイトとタカシは思わずそちらを見た。

「あれ・・・ルイズか?」

「おぉおぉ、着飾ってるねぇ。貴族の娘っ子」

「馬子にも衣装だな」

サイトが驚きの表情を浮かべ、デルフがちゃかし、タカシが失礼な事をサラっとのたまう

そんな会話をしていると知ってか知らずか、何人かの生徒に声を掛けられながら、それらを断りこちらに歩いてくるルイズ

「やべ・・・まさか聞こえたか?」

などとすこし冷や汗をかくタカシ
そんな不安はすぐに解消された。

「楽しんでるみたいね」

「・・・まぁな」

そう聞かれたので、少々ぶっきらぼうに答えたサイト

「でも、踊らないの?」

「相手が居ないんだよ。お前こそ、踊らないのか?」

「・・・相手が居なくって」

「いろいろ誘われてたじゃねぇか」

ちょっと不貞腐れているサイトに苦笑しつつ、ルイズがッスっと手を出した。

「踊ってあげてもよくってよ?」

「断る」

「アンタじゃないわよ!サイトに言ってるの!」

ニヤニヤしながら会話に横槍を入れ、ルイズに怒られた

「俺とか!?」

その答えを聞き、かなり驚いているサイト

「えぇ」

「・・・踊ってください・・・じゃね?」

「・・・今日だけよ・・・私と踊ってくださらない?ジェントルマン?」

一回俯き、少し考え、顔を赤くしながらそう言うルイズ。そして、そのような誘い方をされ、サイトは顔を真っ赤にして、どうすればいいかとタカシを見た。しかし―
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら―

「ほら、逝って来い!男だろ!」

っといいながらボンっと背中を押しやがった
そして二人は中に入り、ぎこちないダンスを開始した。

「っくっくっく、いやぁ、お似合いじゃねーか。そうは思わんか?デルフさんよ?」

「っくくく、そうだなぁ、白銀の旦那。あんた、さすがだよ。もし相棒に出会わなかったら、あんたの相棒になりたかったな」

どこぞの悪代官と子悪党のように笑いあいながらそう言う二人(?)

「そいつはどーも」

っと苦笑し、酒の肴にサイト達のダンスを見ていた。そんな時

「アーリャ・リヒテン・ド・ヴィ・ズィーフィード嬢の、おな~り~~~!」

そんな声が聞こえたと思うと、会場がザワっとざわめいた。
そんな彼女。アーリャは、先ほどのルイズの様に何人かから誘われたが、全て無視し、タカシの元までやってきた。

「よう、さっきはよくも締め出してくれたな」

ニヤけながら、そう言う男

「・・・レディーの着替えを見るつもりでいたの?あなた」

多少顔を赤くし、俯き加減で仰るアーリャ嬢

「まぁ、もうちょいあちこちこう・・・足りてればな」

「・・・月の無い夜に注意することね」

「あぁ。普段から十分注意してるよ」

クスクスと笑いながら笑顔で仰るアーリャ様。お顔が笑っておりませんよ?あと、そこ!挑発するな!

「・・・・おれっちは動けねぇから・・・逃げられねぇな・・・」

っとデルフが怯えるような光景が広がる

「・・・はぁ・・・まぁいいわ・・・今日だけは許してあげる。」

大きなため息をつくと、少し顔を赤らめてそういうアーリャ。

「ほぉ、めずらしいな、どういう風の吹き回しだ?」

わりと驚いた様子で、彼女を観察しだす男

「・・・」

うつむいたまま、何も言わないアーリャ

「・・・どうした?」

そんな態度に、真剣な物を感じたのか、タカシもからかうのをやめる

「わ・・・・・」

搾り出すように

「?」

「わ・・・私と踊ってくださらない?」

顔を真っ赤にして、早口で一気に捲くし立てた

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

予想外の言葉にポカンと口をあけ、珍しく放心しているタカシ

「・・・・・」

そんなタカシを、真っ赤な顔のまま瞳に僅かに涙を貯めて睨んでいるアーリャ。

「・・・・・・・・・・・・・・っぷ」

呆気にとられ、暫く沈黙していたタカシだが、最後に噴出した。

「っ!?な・・・何よその反応は!?人が」

いくらなんでもあんまりな反応に、怒りを隠そうともしない彼女に対し、

「あぁ・・・すまない・・・馬鹿にして笑ったんじゃないんだ」

気持ち悪いくらい素直に謝罪するタカシ

「・・・まぁ・・・あんまりにも可愛くってなぁ・・・つい・・・な?」

どうやらアーリャの功撃は、彼にクリティカルしたようだ。タカシ撃沈?―――

「~~~~~~~~」

アーリャが顔を真っ赤にして硬直している

「っさて、それじゃせっかくのお誘いだ。踊りましょうか。お嬢様」

そう言いアーリャの手をとり反対の手で腰を抱き寄せた。アーリャは何やらあわてていたが、そんな事は無視してそのままホールの中心辺りまでやってきて、そこで踊り始めた

「・・・意外ね」

「ん?何がだよ?」

「貴方、ダンス出来たのね」

「失礼な・・・俺をどんな奴だと思ってたんだよ」

ものすごく意外だっと言った顔でそう言われ、さすがに少しッムっとして答える。
相変わらず真っ赤な顔だが、うれしそうに笑いながら話すアーリャ。

「傍若無人で唯我独尊の無礼な奴」

「・・・一部否定できないから反論に困るな」

それを聞き黙り込む男

「あら、意外と自分がわかってるのね。でも、一部じゃなくって全部よ?」

「・・・このやろう・・・頭来た」

「え!?ちょっと・・・何!?」


さすがに気に障ったのか、それでもニヤリと笑いながら彼はダンスのリズムを変えた。
今まではゆったりしたものだったが、今はそのゆったりの中に、様々な動きが入ってより複雑に、より優雅に踊っている。

「うわぁ・・・何・・・これ?」

感嘆の声を漏らすアーリャ。

「俺の世界の社交界とかで踊るダンスだな。ちょっと前にもぐりこむ仕事があって、そのために覚えたんだよ」

「へぇ・・・でも、アナタ上手ね。私が全く知らないのに、旨くく誘導してくれてる」

相変わらず嬉しそうにしながらそう話す。

「まぁな」

「でも、頭にくると踊るのかしら?」

少し馬鹿にした様子で、クスクスと笑いながら生意気な事を言う

「っふ・・・強がって居られるのも今のうちだ。」

ニヤニヤ顔で、そう言う男

「どういう事よ?」

「このダンスな、体中の筋肉をかなり酷使するんだよ。普段運動しないお嬢様が、どこまで耐えられるか見ものだぜ」

っくっくと笑いながら真相を明かす

「あら、こんなの余裕ね。たいしたこと無いわ」

それに負けじと「フン」っといった風に強気な反論。

「っくっくっく・・・もう途中でやめてくださいと泣きながら言っても止めないからな。このパーティーが終わるまで、踊り続けていられるかな?」

新しい悪戯に、そのうち疲れ果て、許しを請う彼女のすがたを想像しながら、楽しそうにそう言う悪役

「もちろん。そんなことでよければいくらでも」

「ほぉ、たいした自信だな」

「えぇ。そうだわ、私が最後まで踊りきったら、私のいう事を一つだけ聞いてもらうわよ?」

胸を若干そらし、自信満々にそう言うアーリャ

「いいだろう。正し、途中でヘバッたら、俺のいう事を一つ聞けよ?」

「面白いわね」

「あとで泣くなよ?」


二人ともニヤリと笑い、そのまま踊り続ける。
二人とも至近距離でしか聞こえないような小声で話していたため、回りで見ていた生徒達には、二人が中むつまじく、見たことも無いような華麗なダンスを踊っている――そう見えた。
まぁ、実際仲良く踊ってるよね




そして舞踏会終了まであとわずか――――



「はぁ・・・はぁ・・・・」

「どうした?いい加減限界だろう?もうギブアップしろ」

「ま・・・まだまだよ・・・」

「無理するなって。いや、実際お前はすごいよ。正直かなり驚いた。その根性にもな」

「ま・・・まだ・・・・まだよ・・・・」

息を切らし、ぜぇぜぇと肩で呼吸しながらも、踊り続けるアーリャ。いい根性である

「いや・・・いい加減限界だろう?さっきの俺の条件は取り下げるから、もう休め」

「まだ・・・・・ま・・・だ・・・よ!」

「・・・をいをい・・・」

「ま・・・だま・・・だぁ!」

このままでは本当に倒れるまで踊り続けるんじゃないか?っとか思い、苦笑しながら彼女を見る。
不屈の闘志でなんとか踊り続けるアーリャ嬢。流石のタカシも全くの予想外であった。

「・・・・こりゃ、俺の負けだな・・・」

軽い溜息をつきながらそう呟いた時、終了の声が聞こえた。

その声を合図に、集まっていた生徒達が続々と出て行く。そんな中―――

「わ・・・私の・・・勝ちね・・・」

舞踏会が終了し、疲れきった彼女の姿がそこにあった

「あぁ。お前の勝ちだ。俺の完敗だよ・・・いや、正直、まいったね・・・ここまで粘るとは思って居なかった。馬鹿にして悪かったよ」

そんな珍しい、本当に珍しい心よりの賞賛と謝罪を受け、彼女は満足そうに微笑むと、倒れそうになった

「っをい!・・・ったく・・・だから無茶するなって言ったのに・・・・このお嬢様は」

倒れそうになった彼女を、抱きかかえるようにして支え、苦笑を漏らす。

「・・・うるさい・・・私の勝ちに変わりは無いわ・・・約束は覚えてるでしょうね・・・?」

相変わらず肩で息をしながら顔を真っ赤にして睨んでくる。これはもう無条件降伏しかないな

「・・・あぁ。約束どおり、お前のいう事を何でも一つ、聞いてやるよ。ただし―」

そう言って彼女を・・・いわゆるお姫様抱っこして食堂を後にする

「!?ちょ・・・なにするのよ!?」

いきなりの事に驚きながら、特に抵抗しないで―というか、動けないから出来ない―そのままおとなしく部屋に運ばれていった。
そしてそのままベットにやさしく寝かせてやる。

「まぁ、お前がんばってたし、これくらいはサービスだな。んで、お願いは何ですかな?お嬢様?」

そう言いながら片手を胸に当て、恭しく頭を下げる。その後、椅子に座る。
そんな彼を珍しいものでも見たように見つめて、しばらくしてから――――

「・・・―――――」


そう言った




以上です、これを一巻の最終話にする予定だったのですが、長くなってしまうのでもう一話追加することにしました。申し訳ありません。
さて、次の話で本当に原作一巻終了です。それでは、ご意見、ご感想等お待ちしておりますので、どんどんお寄せ下さい!




2008/09/20 誤字を訂正しました。



[4075] 第十四章  決意×答え×強い意志
Name: 豊◆0ec87a18 ID:e471b931
Date: 2008/09/20 14:10


舞踏会が終わり、僅かに残っていた生徒達から冷やかしの声と黄色い歓声を聞きながら、二人は部屋に戻っていた。

運ばれている最中、アーリャは終始顔を真っ赤にしていたとかいないとか。

そして部屋に戻り、ベットに移され、タカシが椅子に付き、お願いは何かと聞かれたので、彼女は僅かに迷いながら

「私を・・・鍛えてくれない?」

少し間を置き、恭しく下げていた頭を上げて、怪訝そうに聞くタカシ

「・・・・鍛える?」

「えぇ・・・今日の闘い・・・私にとっては初めての・・・命を掛けた実戦だった・・・そこで私・・・改めて解った。自分が何の力も無い、弱い人間だって事・・・」

すこし俯きながら、搾り出すようにポツリポツリと言う彼女

「・・・・」

そんな彼女をじっと見つめ黙って聞いてるタカシ

「・・・今までだって、頭の中じゃわかってたつもりよ・・・実戦向きじゃないってね。トライアングルで、授業じゃ旨くやれるけど、いざ戦闘になるとてんでダメ・・・でも、本番になれば大丈夫かもしれないって・・・心のどこかで思ってた・・・それが、今日改めて思い知らされた・・・」

「・・・そうだな・・・」

アーリャの真剣な表情を見て、一言だけ、真剣な顔で答える。

「私は・・・強くなりたい・・・」

「何故?」

真剣な目―――決闘騒ぎがあった日の夜。彼が自分の過去を語ったあの夜――あの時と同じ・・・いや、そのときよりもさらに真剣な・・・まっすぐな目で彼女をみつめる

「・・・アナタの過去を聞いたあの日・・・あの日まで私は、復讐のために力が欲しかった・・・家族を皆殺しにされ・・・政略で貶められた・・・そんな事をした奴らへの復讐・・・それだけを考えて生きてきた」

「・・・今はどうなんだ?」

「アナタの話を聞いて・・・それからずっと考えてた。タバサと三人で話すときも、常にアナタからの話を私の中でもう一度整理して、何度も・・・何度も考えてた」

「・・・・それで・・・答えは出たのか?」

彼女が今まで何を考えていたのかは解らなかったが、真剣な表情から、軽いものでは無いと思い、慎重に、自分の中で言葉を選びながら彼女に質問していく

「えぇ・・・私は・・・復讐を絶対にあきらめない!」

そうはっきり言うアーリャ。その答えを聞き、一瞬、ほんの一瞬、彼の表情に影が差した

「・・・・それが・・・答えか?」

「えぇ・・・どんな事があっても、私の家族を殺した奴らに復讐してやるわ!」

「・・・・そうか」

ほんの少し表情を暗くするタカシを見て、アーリャはクスっと笑い、続ける


「ねぇ・・・アナタ何か勘違いしてない?」

「・・・勘違い?」

本気で首をかしげ、彼女の言葉の意味が良く理解できていない様子だ

「えぇ・・・私の復讐ってのはね、犯人を見つけ出して殺すことじゃないわよ?」

それを聞き、一瞬、安堵の表情を浮かべたが、すぐに疑問がわき、それを聞いてみる

「じゃぁ・・・どんなんだ?」

「私の復讐・・・それは、我がズィーフィード公爵家の復興!それも、前以上に立派な家にする事!そして、私はおばあちゃんになるまで生きて、最後は孫達に囲まれて笑って死ぬの!最後の一言は「ざまぁみろ」これが私の復讐よ」

胸を張り、しっかりとした口調。強い意志を込められた瞳でタカシを見据えながら、アーリャはそう宣言した

「・・・・・・・」

彼は身動き一つしない

「私の家族を殺した奴らが憎くないって言えばウソになる。でも、そいつらを探し出して復讐するより、そいつらの行動を否定してやったほうがダメージが大きいと思わない?」

「・・・・どうしてそう思うんだ?」

「だってそうでしょ?人を殺すような、それも公爵家を殺せるような、おそらくプロの人殺しは、その友人や身内が命がけで復讐してくることなんて想定してるでしょう?」

「あぁ。そうだな・・・それがプロの殺し屋って人種だ」

「だから、そんな正面から正攻法なんてやってやらない!私は、彼らが行った行動を否定してやるの!」

ッグっと握りこぶしを胸の辺りで作り、そう宣言する。

「・・・行動の否定?」

「えぇ。頼まれたにしろ、自分の意思にしろ、目的は我が家を潰す事。殺しはその手段でしかなかった。だったら、今頃その目的を達成して喜んでるでしょうね?」

「・・・そうだな」

「だから、その根本から吹っ飛ばしてやるの!私がズィーフィード家を復興させ、前以上に繁栄させたら、そんな奴らのケチな行動も無意味になる!少なくとも、私はそう思うわ」

先ほど作った握り拳を、さらに強く握り締め、一度大きく頷き、そして最後に。万遍の笑顔を浮かべるアーリャ

「・・・・・・・それが・・・・答えでいいんだな?」

確認するように、ゆっくり、しっかりとそう問い返した

「えぇ。これ以上の答えは無いわね!」

大きく頷き、自身に満ち溢れ、その瞳には希望や、確信といった色が映る。そこに暗い色は一切見られない。そんな瞳をしばらく見続け、そして――

「・・・・・っふ・・・・・・そうか」

小さく笑い、そのまま下を向き、黙っている

「なによ?何か文句でもあるの?」

そんな反応を不審に思い、何事かと聞いてくるアーリャ嬢

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「ちょっと!何とか言いなさいよ!」

相変わらず黙っている男に、いい加減じれて怒鳴る

「・・・・・っふ・・・ふふふふふふふふ」

「・・・?」

「っはははははは」

「ちょっと・・・・大丈夫・・・・?」

さきほどまで下を向いてじっとしていたのに、急に笑い出す男。そんな怪しい行動をみたアーリャはかなり引き気味だ


「あ~っはっはっはっはっは」

「・・・・・・・」

コレをどう処分しようか少し悩んでいるご様子だ

「ふふ・・・いやぁ・・・すまん」

「・・・全くよ。人が全身全霊を掛けて考え
て、やっと見つけた答えをあんなに笑うなんて・・・」

ようやく笑い終えて、謝罪を述べる男に
頬を膨らませながらそう仰せになられた

「いやぁ、そうだな・・・いや、大変失礼致しました、アーリャ・リヒテンド・ヴィ・ズィーフィード様」

片ひざをつき、彼女の正式な名前をはじめて呼んだタカシ

「・・・どうしたの?」

そんな彼を驚愕の表情でみつめているアーリャ。そんな彼女の前に、椅子から立ち上がり、ベットの横にやってきて片膝を付くタカシ

「我が主人であり、崇高なる理念をお持ちの貴方様の此度の復讐、そのために微力ながら、この私。龍宮崇、全身全霊を持って、お手伝いをさせて頂きたく存じます」

「!?どうしたのよ!?急に!いつもどおりに喋ってよ!」

片膝を付き、恭しく頭を下げながら、しっかりとした礼を取った。そんな急な態度の変化に驚きしかない顔で叫び声を上げるアーリャ

「・・・そうか?俺は、貴族ってのに対する礼儀で答えたつもりだったんだが?お前が「答え」を出した一人の人間として、しかも俺が今まで見てきた中でも最も立派で、最も愉快な答えを自信満々で言い放つ。そんなお前に俺なりに敬意を持って言ったつもりだったが、不服だったか?」

頭を挙げ、そのまま立ち上がると椅子に座る。

「・・・そんな立派な物じゃないわよ・・・貴方からの話がかなり元になったのよ?」

さすがに驚いたのか、少し照れたのか、そっぽを向きながらそう言う彼女

「何を基にしているかなんて関係ない。大事なのはその「答え」にたどり着いた事だ。俺は今まで・・・っつっても、そんなに長く生きてるわけじゃないが、こんなに立派な「答え」を出し、そしてあんなに自信満々に胸を張ってそれを「コレが答えだ!」っと言い張った奴は見たことないな」

「・・・私は・・・そんな・・・」

真剣な表情で彼女の顔を見つめたまま、そう言って彼女を褒める。そんな行動に恥ずかしくなったのか、顔を赤らめ、少し俯くアーリャ。今まで、少なくともこの世界に来て全くと言っていいほど人を褒めない彼に、ここまで褒められて彼女は動揺していた。

「喧騒するな。さっきまでの自身はどこにいったんだ?それともまさか、さっきのはウソだったのか?」

挑発するようにそう言うと、

「っ!まさか!そんなワケないでしょ!?アレが私の答えよ!何よ!?文句あるの!?掛かってきなさい!相手になるわよ!」

ッハっと顔を上げて、そう一気に捲くし立てたアーリャ嬢そんな彼女に苦笑しながらも、

「そうだ。それでいい。お前は自分の出した「答え」を自信を持って言えばいい。もう一度言おう。アーリャ。俺は君の復讐の助けになろう・・・いや、俺に君の復讐を手伝わせてくれないか?このの通りだ」

そう言って彼は深く頭を下げた。
彼女は今まで彼のこんな行動は見たことが無かった。
そしてそのまま微動だにしない。自分の全てを相手に任せるかのように、頭を下げたまま動かないでいる。
アーリャはまさ彼がこんな事をするとは夢にも思わなかった。
しかもアーリャに対して、何か悪い事をしたわけではない。ただ単純に、彼の願いを聞き入れて欲しくてしているのだ・・・・

「・・・・タカシ?」

そんな彼の姿が信じられないのか、やや放心状態で疑問の声を上げるのアーリャ

「・・・・・・・」

彼は身動き一つしない。ただただアーリャの答えを待っていた。そして、ソレを察した彼女が口を開いた

「・・・・龍宮崇殿。私の使い魔・・・貴方にお願いします・・・どうか私の復讐を手伝ってください」

微笑みながら、しっかりとそう言ってきた。
その言葉でようやく彼は顔を挙げ、そして今までで一番の笑顔をつくり――――

「ありがとう」

そう言った
その表情をみてアーリャは顔を真っ赤にしながらも微笑み返した





そしていくつか話しをして、


「それで、結局貴方は何をしてくれるの?」

そう問いかけられ、少し悩んで彼は答えた

「そうだな。まずは最初にお前が言った実戦訓練だな。何だかんだでお家再興ってのは、戦場で手柄を立てることが手っ取り早い。っと思う。戦場ってのは、強ければ強いほど手柄を立てられるからな。手柄の分、報酬を要求できるわけだし」

「貴方の意見は経験が入ってるから説得力があるわね」

一回頷き、そのまま話を進める

「だろ?だがまぁ、お前にっつか、この世界のメイジにそれは厳しいな」

「どして?」

「この世界のメイジってのは、魔法って技術がすっかり体系化しちまってる。当然、対策も立てられてちまってるだろ?だから一人で千人倒す~なんて事はお前らには出来ないのが現実だ。まぁ、遠距離から魔法撃つとか、いろいろやり方を考えれば不可能じゃないとは思うが・・・真正面からぶつかった場合は無理だな。数に押されて死ぬだけだ」

「・・・確かにね・・・でも、貴方ならできそうね」

一度頷き、確認の意味と冗談のつもりでそういったが、意外な答えが返ってきた。

「ん?あぁ、この世界の千人くらいならのどうとでもなるんじゃねぇかな?」

「・・・・はぁ!?」

あんまりにもぶっ飛んだ答えである。さすがに驚きを隠せていない

「俺は多数の敵を相手にした戦闘は苦手なんだが、別に一撃離脱を繰り返して数を削ってもいいわけだし。俺をどうこう言わせたいなら、こっちの世界だと・・・せめて、一個師団くらい引っ張ってきてもらわないとな」

「・・・一個師団って何人よ・・・?」

「俺の世界だと一万~二万人くらいだな。こっちは違うのか?」

「さぁ・・・連隊ならあるけど・・・」

「まぁ、俺を殺したいなら一個師団くらい引っ張ってきて、周囲を完全に方位、その後全方位から一点に向け集中砲火って感じか?それくらいされたら、流石に死ぬ自信があるな」

わははと笑いながらそんな事をほざく男を見て、本気で疑問に思った様で

「・・・・今日の戦い見てから改めて思ってたんだけど・・・貴方人間?」

本気でそう聞いているようだ。まぁ、無理も無いのかもしれない

「失礼な。人間以外の何に見える?」

少しだけッムっとしながらも反論

「さぁ・・・化け物でいいんじゃないの?」

「をいをい、自分の使い魔を化け物扱いとは、ヒドイ主人も居たもんだな」

呆れた顔でそんな事言われ、おどけた調子で返事をした

「自分を殺したいなら2万人連れて来いなんていう奴は化け物よ」

「ただのはったりかもしれないぞ?」

「あなたならありそうだわ」

「・・・信用してくれてありがとよ」

彼のいかなる反撃も、全て一瞬、一言で「化け物である」っと断言されてしまった。せめてもの抵抗で皮肉を言う。
そしてっふっと苦笑しながら話を戻す

「まぁ、話がずれたな。ともかく、一騎当千は無理だ。だがまぁ、実力はいくらあっても困らないから鍛える。それでいいな?」

「えぇ。お願い」

「よし。んで、一騎当千じゃなくても、指揮官としての技量が高ければそれでどうとでもなる。っつか、むしろこっちのほうが重要だ」

「・・・私、指揮官なんて・・・」

俯き加減で肩を落としながらそう言うが、

「大丈夫、俺が指導してやる」

「・・・貴方指揮官の経験もあるの?」

その答えを聞いたとき、顔を上げ一瞬嬉しそうにする

「まぁ、多くても連隊規模だけどな」

「連隊!?」

「っつっても、小さな連隊だったし、1000人くらいしかいなかったからな」

「ちょっと!?そんな事した事あったの!?」

結構本気で驚く少女

「ん、いろいろあってな」

「・・・こっちでは連隊を指揮できるのは貴族だけよ。っというか、連隊ってその家系の所有物みたいなものなのよ?」

「ほぉ、そうなのか。こっちも昔はそうだったみたいだけど、基本的に部隊の規模として「連隊」っつってるだけだな。っま、当時の名残が残ってるのも多いけど」

「昔はって事は・・・私達は貴方達から見れば古い人間って事かしらね」

少々気落ちした様子でそう答えるアーリャ。自分にはまったく無いのに彼にそう言った経験がある事が羨ましいのか、自分達は遅れているのだと思い、落胆しているのか

「まぁ、そう言えなくも無いかもしれんな。だが、そうなるとますます、切り札が有効になってくる」

「切り札?」

気落ちしていた様子の彼女だが、切り札と聞き顔を上げ、明るい表情を作る

「あぁ。それが俺の知識だ」

「・・・確かに頭は切れるし計算高いけど」

「違う違う、そんなんじゃない。いいか?俺は俺の世界での戦略や戦術を記憶してるんだ。少しでも戦いを有利にしようと必死に色々覚えた事だけどな。そんで、そのなかには歴史上で最高と呼ばれた戦略家達の作戦や戦略も含まれる。この世界の戦史もこの前みたけど、はっきり言ってぬるい。あんなもの戦じゃないってほどにな。いや、正確には俺の世界の昔の戦史と告示しているな。魔法があるか無いかの違いがあるが、他は大差ない」

「そうなの?」

「あぁ。そしてそんな昔の戦なんて、俺の世界の戦略、戦術を使えば容易に裏を掻けるし、先読みも可能だ」

「・・・なるほど・・・未来を知ってる様なものなワケね」

手を顎に当て、ウンウンと頷くアーリャ。そんな彼女を見ながら、少し満足気に頷き

「そう言うことだ」

「ちょっとズルい気がするけど・・・でも確かにそれは切り札といえるわね」

「だろ?俺とお前が組めば、このハルケギニア征服も夢じゃないぜ?どうする?やるか?」

うっしっしと笑いながら世界征服をするかと誑かす異世界から侵略者

「やるかンな事!?」

「ちぇ・・・面白いと思ったんだがなぁ・・・」

ちょっとだけ本気だったのか、少しだけ拗ねたご様子です

「・・・あんた・・・子供の頃に「将来の夢は世界征服」って言ってそうね」

「・・・・なんで知ってる?」

「本当なのかよ!?」

本気と書いてマジだったらしい。もし彼女が「やる」っと答えていたら本当にやってたのですかね・・・

「あぁ・・・八歳の誕生日まで俺の夢は「最強の念能力者になって世界を征服する事」だったんだ・・・今思い出してみると、じいちゃんや両親、レン兄に自慢げに夢を語ると遠い目で乾いた笑いを浮かべられたよ」

「・・・世界はレン兄って人に感謝するべきかしらね?」

「かもしれねーな」

クスクス笑いながら言うアーリャに、クククと笑いながら答えるタカシ。彼の忌まわしい記憶のはずなのに、この二人は冗談でそれを語れていた。

「っと、まぁ現状はこの二つだな。お前自身を鍛え、机上で戦略や戦術について教える。しばらくはこれでいくぞ?」

「えぇ。改めて、よろしくねタカシ!」

「あぁ、こちらこそ。よろしくなアーリャ」

二人は再び微笑み合い、握手を交わした








「っと・・・もうこんな時間か」

「あら・・・そういえば、サイトと待ち合わせしてなかった?」

「あぁ。丁度いい。少し実験もしたいし、お前も一緒に来てくれないか?」

「いいわよ」

そう言い二人は部屋を後にし、ヴェストリの広場に立ち入った。

そこには、デルフリンガーを背負ったサイトが夜空を見上げ立っていた。

「・・・待たせたかな?」

「いや・・・丁度良かった・・・考えがまとまったところだ」

「そうか」

タカシはそれだけ言うと、そのまま黙り込んだ。

そう言って二人はしばし見詰め合い

「それで・・・何の用だ?」

そう口を開いたのはタカシが先

「・・・俺と戦ってくれないか?」

真剣なサイトの目。曇りは無かった

「・・・わかった」

「ちょっとタカシ!?」

彼の答えに驚き、止めようとするアーリャを手で制し、

「・・・いいから、俺に任せろ」

そう言うとアーリャは素直に下がった

「すまんね・・・さぁ、やるか!」

そう言うと彼はオーラを開放した。
タカシは真剣だった。あの日の決闘の時も―――今日のゴーレムの時も―――彼は全くと言っていいほど本気を出していなかった事が――――今初めてアーリャには理解できた。

「・・・・・」

圧倒的なオーラ。圧倒的な、しかし、他者を苦しめるようなものではなく、純粋な力・・・そう表現するのが正しいだろう。そんな彼をじっと見つめるサイトが居た。彼にはオーラは見えていない。しかし、その存在はタカシに聞いて知っている。今も、何か得体の知れない感覚に苛まれている。それでも、彼は退こうとはしなかった

「・・・サイト・・・俺は手を抜かないが、それでいいんだな?」

「・・・・あぁ・・・・ありがとう」

そう言うとサイトは、背中のデルフを引き抜き走る・・・早い・・・まるで風のような速さだ。その速さに一気に間合いが詰まる。
アーリャもサイトの圧倒的な速さに驚き、タカシが一歩も動けない事が気になっていた

否――動けないのではなく――動かないのだ

サイトが高速で間合いを詰め、そのままの速度で剣を振り下ろす。普通のメイジや平民なら文句無しでサイトの勝ちだ・・・しかし、
サイトの剣は空中で制止していた・・・否、タカシのオーラに当たり、そこで止められていた。彼から数十センチの位置で停止しているデルフリンガー。
タカシは指一本動かしていない。しかし、ただオーラに剣が触れた瞬間、剣が停止したのだ

「っ!?」

「え!?」

アーリャとサイトがそれぞれ驚愕している

「・・・」

黙って立っている男がいる・・・
まるで弾かれたかのようにサイトは後退、そして体制を整える。

「ッハァ・・・っはぁ・・・っはぁ・・・」

サイトの息が荒い。疲れからではなく、プレッシャーからくる乱れだ。
たった一回。その一回で解ってしまった彼我の圧倒的な力の差。しかし、彼は再び切りかかった。今度はタカシも動いた

「うおおおおおぉぉぉぉ!」

叫びながら先ほどよりさらに早く切りつけるサイト。が、それよりも早く・・・いや、早いわけではなく、自然に、緩やかにタカシの拳がサイトの体に吸い込まれていく。

「っぐっがっぐぁ!」

そんな叫びを上げながら吹き飛ばされるサイト。

(何だ今の・・・見えなかったけど・・・4発以上殴られたぞ!?5以上は数えてられない・・・一体今の一瞬で何発うった!?)

「10発だ」

まるでサイトの心を呼んだかのような発言である。

「ックソ!」

口の中に滲む血をはき捨て、彼は再び風になる。

「・・・今度は戦法を変えたか・・・正面からではなく、機動でかく乱、他方向から攻撃を仕掛ける・・・いい判断だ」

感嘆の声を上げながら、しっかりとサイトの考えを読む。

完全にサイトの行動は読まれている。しかし

「読まれていても認識できない。もしくは読みきれない速さなら勝ち目がある・・・っか?」

「!?」

彼がそう言った瞬間、彼の背後に回っていたサイトの視界から彼が消えた。

変わりに、サイトの頭上から。そしてすぐに後ろから声が聞こえてきた

「着眼点は悪く無い・・・っが、相手の実力を知らないうちにそう判断してしまうのはかなり危険だぞ?」

そう言われながら、サイトの視界は回っていた。本人は何をされたのか解ってい無いのであろう。しかし、離れてみていたアーリャにははっきり見えた。
緩やかな、ただ単純に緩やかな放物線を描いてサイトが地面に倒れたのだ。何かを叩きつけるような音は一切なかった。まるでやさしく寝かせるかのように・・・

「っく・・・あれ?体が・・・動かない?」

どうやらサイトは動けないらしい

「あぁ。今お前を投げたんだよ。衝撃を余すところ無く、全身に行き渡らせたから、音も出ない。しばらくは動けないぞ」

「「・・・・・」」

あまりの異常っぷりに、サイト、アーリャ双方無言である

「それで、何か掴めたのか?」

そう尋ねたタカシ

「・・・解らない・・・でも・・・お前は強い、そして俺はまだまだ弱い・・・これだけはわかった・・・」

「そうか」

そう一言。しかし、何処か嬉しそうに言う

「・・・それで、本題なんだけど」

「あぁ。なんだ?」

今までのは本題ではなかった様である。タカシもそれを理解していたのか、驚く様子も無い

「・・・俺に、念能力を教えてくれ」

「・・・理由は?」

「・・・わからねぇ・・・ただ強くなりたいと思った・・・強いて言うなら・・・守るために」

「何を?」

真っ直ぐな目で自分を見上げるサイトの目を、こちらも正面から見つめ返す

「俺の誇り・・・いや・・・それ以上にルイズを守りたい」

「今のままでも、今日は守れたろ?」

「あぁ・・・今日はな・・・でも、今日は武器があった。お前がいてくれた」

「・・・そうだな」

「もしお前や武器がなかったら、俺は今日、ルイズか俺。どちらかの命を失っていたかもしれない」

「・・・そうだな」

ただ純粋な目のサイト。しかし、何処かに憂いを帯び、少しだけ怯えた目だ

「だから・・・今度は一人でも守れるようになるために・・・力がいるんだ!・・・もうあいつのあんな泣き顔見たくない!あいつは・・・性格キツイし、我儘だけど・・・あんなのでも優しいところがある俺の大切な主人なんだ!」

少し目を伏せ、それでもはっきりと、強い意志の籠った瞳と口調でそう叫んだ。
そしてそんな彼の表情を見て、にっと笑ったタカシが一言で答えた

「いいだろう」

「・・・本当か?」

アッサリと了承され、少々驚いているサイト

「あぁ。なかなか良い「答え」だ。しかし、まさか今日一日で弟子を二人も取ることになるとは思いもし無かったよ」

っくっくと笑いながら、楽しそうに言う

「二人?」

疑問を思わず口にだすサイト

「あぁ。一人はこいつだ」

そう言いながら近くに来ていたアーリャの頭にポンっと手を置いた。

「・・・貴方、私の頭を何だと思ってるのよ」

少しだけ頬を朱に染めながら、不機嫌そうにそう言う

「ん?いや・・・毎度毎度丁度いい高さだからつい・・・」

「・・・サイト?修行中に弟子の技を受け、師匠が事故死っていうシナリオ・・・素敵だと思わない?」

ニッコリと言い笑顔でそう言い放つアーリャ
しかもサイトに話を振る

「うぇ!?俺!?・・・いや・・・えっと・・・」

いきなり振られて、狼狽するサイト。下手な事を言えばこっちに火の粉が飛ぶので結構必死です

「そうだな。修行が余りにも過酷で、弟子の身長がこれ以上伸びなくなっちまったってのは、まぁよくある話だよ」

腕を組み、うんうんと頷く馬鹿一名

「あらそう・・・そうならないように注意してね?」

「前向きに検討し、善処しよう」

そんな政治家答弁をしながら「うふふ」「ふふふ」っと仲良く笑いあう二人。サイトとデルフはガクブルであった。

そしてそんないつもの夫婦漫才を中断し、タカシが以前のようにサイトの胸付近に手のひらを当てる。

「じっとしてろよ。すぐ終わる」

そう言うと再び手にオーラを込めてしばらくそのままでいた。そして―――

「よし、終了。んじゃ、今日はグッスリ寝て、明日の授業が終わったら・・・そうだな・・・火の塔の入り口に集合だ。いいな?」

「あぁ。わかった。あぁ・・・そういや、一つだけ気になってたんだが、いいか?」

「ん?何だ?」

「デルフがお前に触れる前に弾かれたんだが・・・あれが念能力ってのなのか?」

「あぁ。あの時、お前は俺の放出するオーラに触れたんだ。もっとも、普通はオーラに触れただけじゃあんな現象は起きない。っま、その辺りは追々説明してやるよ」

そう説明し、それで納得したのか

「そっか。んじゃ、また明日な!」

そう元気良く言い放ち、部屋に戻って行った

「やれやれ・・・明日から忙しくなりそうだ」

っと苦笑しながら見送るタカシ

「そういえば、実験がどうとか言ってたわよね?何やるのよ?こんな夜中に」

「ん?あぁ、お前を鍛える上で、ちょいと知らなきゃいけない事があるんだ」

「どんな?」

「お前の魔法の威力」

そういいながら数メイルアーリャから離れ

「よし、お前が使える魔法、片っ端から俺にぶつけてみろ」

「ちょ!そんな事出来るわけ無い!?怪我するわよ!?」

いきなりそんな事を言われ、大いに焦るアーリャ。

「いいから。黙ってやれ」

「でも!」

「これをやらんなら修行ができん。いいからやれ。心配なら、一番弱いのからでいい」

「・・・解ったわよ・・・」

そう返事をし、しぶしぶ、一番殺傷力の低い
ストーン・エッジ(小さな石の塊をぶつける)を使った。そしてそれが彼に触れる事は無い。

「よし、次」

そうポケットに両手を突っ込んだままそう言う。まるで何も無かったかのように

「・・・いくわよ・・・」

そんな態度が気に障ったのか、今度は少し強いので行く。

ウィンド・ブレイク。エア・ハンマー。エア・ニードル。ウォーター・ウォール。エア・カッター。ファイアー・ボール。エア・ストーム。ウィンディ・アイシクル。それらの魔法を片っ端からぶち込んでいくが、タカシは微動だにしないどころか、ポケットから手すら出していない。

「・・・なんか・・・腹立つわね・・・」

最初は心配していたアーリャだが、ここまで平然とされると流石に腹が立つ。そして――

「ならこれは!?ライトニング・クラウド!
そう叫びながら、彼女の覚えている魔法の中で最も殺傷力が高く、彼女の二つ名「雷鳴」に相応しい一撃をぶち込む。
凄まじい轟音と共に、タカシは煙に包まれた。
「殺った!」

っぐっと拳を握り締め喜ぶアーリャ。
・・・あの・・・アーリャさん?殺っちゃダメなんでは・・?

そんなアーリャをよそに、風で煙が吹き消されると、そこには平然と立ち、ポケットに手を入れたままをタカシが居た。

「コレで終わりか?」

「・・・・えぇ・・・・そうよ・・・」

「何でお前Orzってんだよ?」

「だって・・・傷どころか身動き一つさせられないなんて・・・理不尽よ・・・」

Orzりながら目の幅涙をダーっと流すアーリャ。そんな彼女に苦笑しながら

「まぁ、仕方ないさ。今は俺を一歩も動かす事が出来ない。っま、普通はこうなら無いんだが、安心しろ。お前が未熟だからってだけじゃない。それに、その為に修行するんじゃないのか?」

そういいながら彼女に近づき、やさしく頭を撫でる

「えぇ・・・そうね・・・そうよ!強くなる!そして貴方に一発ぶち込んでやるわ!」

拳を握りながら「ふふふ」と笑う。そんな笑い方は貴族の娘さんの笑いじゃないですよ?

「・・・なんか目的が変わってる気がするが・・・まぁいい。んじゃ、帰るか」

そんな彼女の姿に苦笑を漏らしつつ、部屋に向かって歩き出す

「え?もういいの?」

「あぁ。言ったろ?知りたかったのはお前の魔法の威力。魔力は一晩寝れば回復するんだろ?だったら明日の修行でやるより、今やって明日は完全な状態になっていた方が良い」

「なるほど・・・やっぱり貴方、いろいろ考えてるのね」

「そりゃな。さて、続きは明日だ。行くぞ」

「まってよ!」

先に歩き出していた彼の隣までトトトっと小走りで行き、、そのまま並んで部屋に戻り、少しの雑談。のちに寝ようとした時―――

「あぁ、そういや、さっきの勝負でお前が勝った時の賞品。まだだったよな?」

「賞品?」

「あぁ。俺は一つお前のいう事を聞くっての」

「え?だってそれは私の復讐を―」

「いや、それはさっき俺がお前に手伝わせてくれと頼んだ物だ。だから、別のにしろ」

「え?・・・どういう事?やけに気前がいいじゃない?」

ジト目で睨む。いつもの彼なら無理やりこじつけてでも手間を減らそうとするのだ

「うん。自分でもらしくないと思ってるよ・・・まぁ・・・礼だな」

「・・・お礼?」

らしくないと言う事は理解しているのか、理由を探すように少し考え答えた

「あぁ。愉快な「答え」を聞かせてくれた礼。それと、あんなに笑わせてくれた礼だ。あんなに笑ったのは・・・昔の仲間達と居た時以来だな」

嬉しそうにそう言いながらも、少しだけ昔を懐かしむ目をした

「一つ目はいいとして・・・二つ目・・・何で笑ったのよ・・・」

やはり笑われた事を根に持っているご様子だ

「あぁ、だって、俺の予想してたのと全く違う、何一つ違う答えだったんだぜ?コレでもかなりの数の人間を見てきているんだ。それなりに予想はできる・・・なのに、お前はそれ以上の、いや、最高と言って良い答えを示してくれた。しかも堂々と声高らかにだ。普通、そんな時は何処か不安そうな表情とか、自信が無さそうにするのに、お前ははっきりと、そんなの関係ないと言わんばかりに言い切りやがったからな。まるで自分が世界の支配者で在るかの様に・・・な。そんなお前を見て俺はお前の「可能性」ってのを見てみたくなった。こいつに色々教えたらどんな人間になるか。こいつと一緒にいたら、俺は何を見れるのかってな。そして今まで俺はお前って存在を、何処かで「こう言う奴だ」と決め付けていた。それをお前は吹っ飛ばしてくれたから、思わずそう決め付け、勝手に判断した自分が馬鹿らしくなって笑っちまったんだ」

「・・・えっと、褒められてるの?私」

長く語る彼の話を、今一理解できて居ない様子だが、なにやら馬鹿にされたと思ったらしい

「もちろん!これ以上ないくらいにな。だから、お前の可能性ってのを試したくなった。そんな面白そうな事を俺に教えてくれた。お前への礼だよ」

「・・・なんか今一納得できないけど・・・まぁいいわ・・・」

自分の中で無理やりまとめた様である

「そそ。んで、何にする?」

「そうねぇ・・・」

そういいながら窓の外を見て、思案しているとポつポツと雨が振り出した

「お~、振ってきたなぁ・・・こりゃ今夜は土砂降りになるな」

彼が窓を開けて空を見上げ、そう言う

「・・・・・」

しかしアーリャは俯き目を背けた

「・・・どうしたんだ?」

そんな態度を不審に思い、アーリャに近寄る

「・・・」

無言だが、体が小刻みに震えている

「・・・どうした・・・どこか具合でも悪いのか?」

さすがに心配になって顔を覗き込む。そこには恐怖の色があった

「・・・私ね・・・雨が怖いの・・・」

ポツリとそう呟く

「・・・そうか」

「・・・理由を聞かないの?」

何故?っとか聞かれると思っていた様だが、特に聞かれなかったので驚く少女

「誰にだって、苦手な物の一つや二つはある。お前にとってのそれが雨だった。それだけだろ?」

「・・・普通は聞くと思うんだけどなぁ」

はぁっとため息を吐きながら思わず笑う

「でも・・・いいわ。話を聞いてくれる?」

「話して楽になるなら、いくらでもな」

「・・・ありがと」

「いいさ」

そう言い、少し悲しそうにしながら彼女は語り始めた。

「でも・・・面白くもない話よ・・・私の家族が殺された日・・・あの日は土砂降りの雨の日だったの・・・それだけ・・・たったそれだけなのに・・・私は雨がとてつもなく嫌になっちゃったの・・・小雨程度なら平気になったんだけど・・・土砂降りになるとだめね・・・ガタガタ震えながらベットにもぐりこんでるわ・・・今でもね」

「そうか」

「みっともないわよねぇ・・・雨だからって命を狙われるってわけでもないの―――」

そんな彼女の言葉は、タカシの行為によって遮られた。

「・・・無理するな・・・怖いなら雨が降ってる時ずっと、こうしていてやるから」

そういいながら彼女を抱き寄せるタカシ

「・・・ぇ?」

一瞬自分がどうなっているのか理解できないでいるアーリャ

「・・・俺はな、満月が嫌いなんだ・・・理由はさっきのお前のと似てるな・・・家族が死んだ日・・・満月だった・・・たったそれだけだ」

「・・・・」

「俺が昔の仲間と出会うまで・・・満月が嫌いで、憎くて、怖かった・・・誕生日に満月なんて見たら、冗談抜きで震えてたよ。誰にも見られない場所で涙を流しながらな」

笑いながら過去の醜態を話す

「・・・今も?」

「・・・いいや、確かに満月は嫌いだけど、もうそこまでじゃぁない・・・あの時、昔の仲間達で、俺の16の誕生日を祝ってくれるって日、満月で俺は一人、皆から隠れるようにして廃墟の一室に閉じこもり震えていた。そこに彼女が来てな・・・俺は恥ずかしかったが、この人ならいいと思って、打ち明けた。そしてら、同じ様に抱きしめてくれたんだ・・・そして「もう大丈夫だ。無理をするな。怖くなくなるまでずっとこうしていてやる」そう優しく言われた・・・俺はその日初めて、満月が怖いと感じなかったんだ」

そう言いながら彼女を抱きしめる腕に力を込め、さらに片手で彼女の頭をやさしく撫でる

「俺が克服できたんだ。お前もきっと克服できる・・・出来なかったら出来るようになるまで・・・こうしていてやるから・・・な?」

そう言いながら優しく微笑みかけた

「・・・・ありがとう・・・」

顔を真っ赤に染めながらそう呟くアーリャ。そしてそのまま眠りに付いた・・・今夜は良い夢が見れると思った

 

以上、原作一巻終了です。いかがでしたでしょうか?
以前から疑問に思われていた方もいらっしゃると思うのですが「オーラだけで魔法をはじく」っというのは出来ないと私は思います。オーラ=それで体を強化 っと言う物でしょう原作(H×H)のキメラアントクラスならできるかもしれませんが(作者はそう考えています)・・・この主人公には無理です。あれは彼の念能力によるものです。どういう能力かはまだ記述できませんが、三巻辺りで出しますので、それまでお待ち下さい。

予想していた方もいらっしゃると思いますが、サイト君に念能力をつかわせてみます。もちろん、すぐにではありません。基礎からみっちり叩き込みます。そんな彼の成長も楽しみにしていただければ幸いです。




2008/09/20 誤字を訂正しました。


それでは、引き続きご意見、ご感想など宜しくお願いします。



[4075] 第二部 第一章 修行×弟子×新たな仲間
Name: 豊◆0ec87a18 ID:e471b931
Date: 2008/09/20 14:27



その日――彼女は夢を見ていた

久しく見なくなった・・・幸せだったあの日の夢―――

父が笑っていた―――

母が微笑んでいた――――

弟が犬とじゃれていた――――

父がこちらに来て一言言った



この人が君の婚約者だよ―――



どんな人だろう?そう思い期待に胸を膨らませながら、彼を見た―――

そこには、白銀の髪を後ろで束ねた紺色のコートの青年が立っていた―――

やぁ、よろしくねアーリャ―――

そういいながら彼は微笑み、手を差し伸べてくる―――

アーリャもその手を握り返し、微笑み返す―――

こちらこそよろしくね、タカシ―――


そんな暖かい夢を――彼女は見た――


「っ・・・・ん・・・」

スズメの鳴き声と共に目を覚ますアーリャ

「・・・・夢・・・久しぶりに見たな・・・」

そう呟き、先ほど視た夢を思い返していた

「・・・お父様もお母様も・・・みんな笑ってた・・・」

そう言いながら、気がつけば涙が出ていた

そんな時、丁度水を汲みに行っていたタカシが戻って来ていた


「お、起きたか。おはよ・・・をい?どうした?」

彼女の顔に流れる涙を見つけ、驚きの声を上げるタカシ

「ぇ・・・?」

彼が何に対して驚いているか解らない彼女

「をい?どうしたんだ?」

そう言いながら寄ってきて彼女の顔を覗き込む

「っ~~~~!」

しかし、今朝の夢を思い出して彼女は思わず硬直してしまった

「・・・大丈夫なのか・・・?」

心配そうに言うタカシ

「~~~~ぇ・・・・えぇ・・・ダイジョウブヨ!」

あんまり大丈夫では無さそうな返事である

「・・・・まぁ・・・平気そうだな」

なんでもないと思ったのか、苦笑しつつもポンっといつものように彼女の頭に手を置いて離れるタカシ

「~~~~~~」

今朝の夢のせいか、普段は怒るのに今日は赤くなり俯くアーリャ

「んじゃ、俺は先に下で待ってるぞ?早く着替えて降りて来い」

そう言うと彼はさっさと部屋を出て行った

「・・・・・はぁ・・・・着替えよ・・・」

大きなため息をつき、着替えを始めたアーリャ。いつもよりも少し早いが、すぐに下りて来た

「お、今日は早いな」

「そう?まぁ、そんな日もあるわよ」

「っま、そうだな」

「そうよ」

「そういや言い忘れた。おはよう、アーリャ」

「っ!・・・おはよう・・・タカシ」

最後に名前の部分で声が小さくなってしまった。そんな感じで朝の挨拶を済ませ、そのまま歩いていく

「まだ早いし、少しその辺でのんびりするか~」

「・・・えぇ・・・そうね・・・あら?タバサ!」

「お~、おはようさん、タバサ」

「おはよう、タバサ」

「・・・おはよう」

そう言いながら無表情でこちらに近づいてくる。そしてその手には一本のナイフが握られていたそして―――

「これ」

そう言いそのナイフをタカシに手渡す

「ん?何だこれ?くれるのか?」

そう質問した瞬間、別の場所から声が上がった

「っな!?なんだこいつ!?」

何処からとも無く聞こえる声。アーリャは驚き、タカシはナイフを凝ている

「な!?何で操れない!?それ以上に!何だ!?こいつのこの魔力!?」

さらに一人(?)で騒ぐナイフ

「・・・タバサ?これは・・・?」

「インテリジェンスナイフ。とある事情で、私の手元に来た。でも私には必要ない。だから貴方にあげる」

アーリャの問いに答え、目線をタカシに向ける

「ほぉ、こいつは面白いな・・・をいナイフ!」

「へ、へい!」

その一言で納得したのか、目線をナイフにむけ呼びかける。新しいおもちゃを貰った子供の様だ

「さっき操れないっつったな?お前、もしかして俺を操るつもりだったのか?」

そういいながら凶悪な笑み

「い・・・いえ・・・そいつは・・・」

すっかり怯えるナイフ
そんなナイフへ助け舟が

「そのナイフは、傭兵メイジの地下水と呼ばれている。人から人へと渡り、様々な依頼をこなしてきたらしい。おまけにそれをもっていれば魔法が使える」

「ほほぉ、面白い」

タバサの説明をうけ、面白そうに笑うタカシ

「ナイフ!いや、地下水か?魔法ってのはどう使えばいいんだ?」

「へ、へい!でもその前に、ちょいとだけあっしの質問に答えてもらえませんか?」

「おう、いいぞ」

「それじゃぁ一言で・・・あんた・・・何者だ?俺が操れない人間なんて今まで居なかった・・・いや・・・それはいい。意思の強い人間なんかは操れないらしいからな・・・あんたの意思が強かっただけだろう・・・それ以上に、アンタの体内の魔力だ。少し違うが・・・・・・よく似ている。信じられねぇ・・・アンタ本当に人間か?」

「・・・そんなにすごいの?」

「それはどれくらい?」

アーリャとタバサが逆に首をかしげて質問する

「お嬢ちゃん達メイジの基準にすると・・・スクウェアクラスが・・・どんなに少なくとも5人・・・それ以上はわからねぇ・・・なんというか・・・底が深すぎてみえねぇんだ・・・・」

「「!?」」

そんな地下水の言葉に声が出ない二人の少女
そして

「俺の正体か・・・それはな・・・」

っふっふっふと笑いながら一拍置いて

「俺は地獄からやってきた魔王だ」

ドーンというBGMが聞こえてきそうな雰囲気で、そう宣言した

「・・・やっぱり・・・」

「地獄とはどんな所?」

「・・・どうりで」

アーリャ、タバサ、地下水は頷いて納得した

「納得すんなよ!突っ込めよ!んなワケないだろう?」

あんまりな反応に、仰った本人が焦ってますよ。魔王様

「だって・・・別に不思議じゃないし」

「ありえる話」

「こんな馬鹿げた魔力を持ってるんだ。人間っていわれるよりは納得できまさぁ」

そんな二人と一本の反応に多少ショックを受けるタカシ。

「まぁ、冗談は置いといて、ちょいと場所移すぞ?ここじゃ人通りが多い」

そういいつつ、人気の無い隅のほうへ移動し、木陰に腰掛け、彼は自分の事を話した

「・・・異世界・・・念能力・・・信じられねぇが・・・実際こんな馬鹿げた力を持ってる・・・疑う余地がねぇな・・・」

彼の話しを聞き、納得する地下水

「んで、さっきの俺の質問に答えろ地下水。魔法を使うには?俺はルーンを唱えればいいのか?」

「・・・その前にもう一つだけ・・・アンタ、俺を使ってくれないか?」

「言われなくてもぶっ壊れるまで使いつぶすつもりだが?」

何を当たり前の事言ってるんだこいつ?っという感じで平然と仰る魔王様

「・・・・悪魔だ」

「さすが魔王」

「・・・容赦ねぇな・・・」

「褒めるなよ。照れるぜ」

「「「褒めてない!」」」

一斉にそう突っ込んだ。タバサですら少し声を張り上げていた

「・・・ともかく、俺はアンタを気に入っちまった。傭兵メイジ地下水も廃業する!俺の使い手はあんたしかいない!」

「おう、お前もなかなか面白そうな奴だな。便利だし、ん?でも地下水ってのは傭兵の名前か・・・廃業って事はお前をなんて呼べばいいんだ?」

「旦那が決めてくれ。アンタは俺が数千年生きて来て、唯一俺の主に相応しいと思った人だ。そんなアンタに、俺は名前を決めて欲しい」

そう言うナイフ。

「・・・んじゃ・・・群雲ってのでどうだ?」

「「「ムラクモ?」」」

全員が首を傾げる

「あぁ。俺の国の字でな」

そういいながら「群雲」っと地面に字を書いた

「どういう意味の字なの?貴方の国の漢字っていうのは、一文字一文字意味があるんでしょ?」

アーリャのそんな問いに

「あぁ。まず「地下水」、つまり「水」ってのは、蒸発して空に上るんだ。そしてソレが集まって「雲」になる。でも、少量じゃ雲にはならない。あちこちから「群がる事」によって雲になる。そういう感じだな。どうだ?」

「地下水から群雲か・・・いい名前だ!気に入った!流石だぜ!タカシの旦那!」

「おぉ、気に入ってくれて何よりだ。それじゃ改めて宜しくな!群雲!」

「へい!よろしくお願いしやす!」

「あぁ、俺をまた操ろうとしたら、色々愉快な状態に改造してやるからな?」

笑顔でそう釘を刺しておいた

そういいながら笑う二人(?)そして

「んで、魔法ってのは?」

「へい!まず俺に魔力を・・・アンタの場合はオーラを込めてくだせぇ!そして、ルーンを唱える。これはあっしがやっても良いんですが、ルーンはご存知で?」

「あぁ。一通りは知っている。イメージはいらないのか?あと「鍵」あぁ・・・これはお前が「鍵」になるのか・・・」

そう言い何か思案しながら、彼は一人納得した

「そっちは俺がやりまさぁ。多分、何回か俺っちを使っていれば、アンタにもイメージって物が出来ると思うんで、そしたらアンタ一人でも魔法が使えると思います。「鍵」ってのが何かは解らないですが・・・とりあえず!ためしに一発!」

「そうだな。んじゃ、とりあえず」

そう言いながら適当にストーン・エッジのルーンを唱え、「硬」で全てのオーラを込め、振るう

「ちょ!こんなに!?」

そんな群雲の声がしたが、気にせず振る。
そして――――

ズドオオーーン

「「・・・・・・は?」」

絶句し、搾り出した様に言った一言が見事にハモる二人の少女

「ほぉ」

少し驚いたっと言った様子の魔王様

「・・・旦那・・・力加減を・・・」

何か肩を落として溜息をついたように感じられた群雲の一言。

ストーン・エッジとは、小石を作って相手にぶつける程度の軽い魔法。しかし、彼の作った小石は、3メイルはあろうかと言う、もはや大岩である。そしてそれをぶっ放したのだ

「「・・・・化け物」」

アーリャとタバサは目を見開いてそう呟く事しか出来なかった。




そんな騒ぎの後、三人は食堂へ。そしてなんと、今日からタバサも厨房裏で食事することになった。そこで丁度いいので地下水改め群雲を皆に紹介した。

「こいつが群雲だ。結構面白い。」

「群雲だ!よろしくな!」

そして食事が終わり、教室に移動する途中、アーリャとサイトがタカシに弟子入りすることを知ったタバサが

「私にも教えて欲しい」

そう言いだした

「まぁ、お前にはいろいろ世話になってるし、理由次第だな。何故なんだ?」

タカシのその問いにタバサはしばし考え込む

「言っておくが、サイトもアーリャも、俺を納得させるだけの理由があった。だから俺は二人を鍛えることにした。何の理由もなく、ただ力が欲しいっていうなら、いくらタバサでも教えられないな」

「・・・解った。理由を話す」

そう言ってタバサは己の過去を語り始めた。それは、タカシやアーリャとどこか似ている過去――幼いころに父親を殺され、母親の心を壊されたガリアの王族――そんな己の秘密を話した

「・・・それで、復讐の為に力が欲しいのか?」

彼女の理由を聞き、表情を消す

「・・・そう。ガリア王、ジョセフを殺す。そのために、私は強くならなければならない」
「・・・・ダメだ」

無表情のままそう答えた

そう答える彼に、驚きを隠せない様子のタバサ

「どうして?」

彼なら解ってくれると思っていたのだろうか、かなり驚いている様子だ

「そいつを「殺すためだけに力が欲しい」何て言う奴に、力を与えるわけには行かない。力をただの暴力として使う奴に力を与えたって、力に飲まれるだけだ。そんな奴は、勝手に突っ走って、勝手に死ぬ」

そう言いはなって彼はアーリャを一瞬だけ見て、去って行った

「・・・どうして・・・」

彼に言われた言葉の意味が解らなく、呆然とそう呟く少女。
そんなタバサに、一人の少女が話しかけた

「ねぇタバサ・・・私の話・・・聞いてくれる?」

アーリャがそう言い、自分の過去を―そして自分の出した答えを―その答えに至った過程を全て彼女に話した。時間が過ぎ、とっくに授業が始まっていたが、彼女達にそんな事は関係なかった。すべてを聞き終えてタバサは

「・・・そう・・・あなたも・・・」

っとだけ呟いた

「えぇ・・・私、今までなんで貴方と友達になれたかはっきりしなかったんだけど・・・私達って境遇が似てるのね・・・そんな匂いがしたから・・・友達になれたのかもしれないわね」

「・・・そうかもしれない」

そう言い微笑みあう二人

「そして・・・タカシもね」

「彼も?」

「・・・えぇ・・・」

そう言い、彼女はタカシから聞いた彼の過去を話した。僅かな罪悪感もあったが、それ以上に、タカシの「胸を張って逝った先人達の事を誇らしげに語る!そして、俺の話を聞いた人が、さらにそれを語り継ぐ。それが弔いになる!」そう言っていた事で、彼の事を誇らしげに語り始めた。彼女達の事を~彼の祖父の事を~

全てを聞き終えて

「・・・・そう・・・・」

っと一言だけ呟くタバサ

「ねぇ・・・タバサ?私達の話を聞いて、それでもまだ、ジョセフを殺したい?」

優しく、諭すようにそう質問を投げかけるアーリャ

「・・・解らない・・・でも・・・」

そう呟く彼女に、アーリャはさらに続ける

「タカシがあんな事言ったのは、多分貴方に自分を重ねてたからよ。家族を殺され、その相手を殺すためだけに人生を賭け、努力してきた」

「・・・」

「でも、彼には仲間達が居た。彼女達が、彼の目を外に向けさせてくれた」

「・・・そう」

「でもね、貴方には今までそんな人が居なかった・・・だから・・・彼はそんな貴方に、自分のようになって欲しくないと思って、あんなことを言ったのよ」

「・・・そう」

先ほどから、何かを考えながら呟くように返事をしているタバサ。

「でも、彼にはその役目は無理・・・だって、彼の場合はそのことに気がつくまでに、仲間が死んでいるのだから・・・だから、私にその役目を任せたんだと思うの」

「・・・あなたに?」

「えぇ・・・私は、彼の話を聞き、自分で考えて答えを出せたわ・・・何も失わずにね・・タカシは・・・貴方に何かを失ってから答えに気がつくようなことになって欲しくなかったのよ・・・きっとね・・・」

「・・・・・・・」

タバサは無言で俯く

「タカシは・・・やさしいから・・・」

そう言って微笑むアーリャ

「・・・でも不器用」

同じように微笑むタバサ

「そうね」

そして二人は笑いあった。


「もう大丈夫ね。ここから先は、貴方一人で考えないとね」

「・・・大丈夫・・・ありがとう・・・アーリャ」

そう言い彼女は微笑んだように見えた

「いいのよ・・・私達、友達でしょ?」

そうして笑顔で別れ、アーリャは教室へ、タバサはその場でそのまま考えこんでいた




いつもはタカシも授業に出ているのだが、今日は修行の時間までに群雲のコントロールと、修行のプランを考えると言って参加しなかった。



そして放課後~火の党の入り口にサイトとアーリャが居た


「よし、んじゃ二人ともこっちだ」

そう言い、人気の無い場所に二人を連れてくる。

「まず、始める前に言っておく。いいか―――」

その時、タバサが風龍に乗って現れた

「・・・少し、話がしたい」

そういいながらタカシの目を見る。

「・・・解った。こいつに乗ればいいのか?」

そんな彼女の目を暫く見て、そう答えた

「そう」

頷くタバサ。それを見て風龍の背中に飛び乗る。そして龍はそのまま空へと飛び、空中で制止した。

「さて、お前の「答え」は出たのか?」

そう聞いてくる

「・・・まだ確実ではない・・・けど出た」

俯き、顔を上げそう答えるタバサ

「では聞こう。それは?」

「・・・私は・・・強くなりたい」

「何のために?」

「・・・これ以上、あの男に奪わせないために」

「・・・」

「あの男に父は殺され、母の心は壊された。でも、まだ私を慕ってくれる多くの人が居る。ここにも、私の友人がいる。あの男は・・・そんな人たちにも手を出す可能性がある・・・決して低くはない・・・」

「なるほど・・・」

「あの男のせいでこれ以上人が苦しむのは見たくない・・・私で最後にしたい」

「・・・お前で最後?ジョセフは殺さなくていいのか?」

「・・・解らない・・・でも・・・死んだお父様のためにあの男を殺すより、今生きている人の為に、何かをしたほうが建設的だと・・・・思った・・・」

搾り出すように、しかし、はっきりとそう告げた

「それでいいのか?」

「・・・いいと思う・・・かりに私があの男を殺しても・・・あの男を慕うもの達から、今度は私が狙われる・・・そんな事が、ずっと繰り返される・・・だから・・・私で最後」

はっきりと彼の目を見据えてそう言うタバサ

「お前で終わり・・・っか」

「そう・・・ジョセフを許すわけじゃない・・・でも、どこかで止めなくては、ずっと続く」

「それがお前の「答え」でいいんだな?」

「・・・そう、コレが私。タバサとしてでなく、ガリア王家第二皇位継承者、シャルロット・エレーヌ・オルレアンとしての答え」

あまり大きな声ではない。それでも、その声が空に響く

「・・・・・・そうか」

そこまで聞いて、タカシは一回空を見た。そして

「・・・まったく・・・・こっちに来てまだ一週間とちょっとしか経っていないってのに・・・っくくくくくく」

「・・・?」

「いや・・・まだまだ面白い事が山のようにある世界だと思って、ま・・・いやはや・・・それにしても、俺の周りには特に面白いのが集まってるなぁ・・・・本当、召喚してくれたアーリャには感謝しないとな」

「・・・・」

いきなり笑い出した失礼な男を睨みつけるタバサ。

「おっと、すまん。そう睨むな。お前の「答え」確かに聞かせてもらった。合格だ。今のお前になら、俺が何を教えても大丈夫だろ」

「・・・そう」

っと言ってタバサは微笑んだ様に見えた

そして二人は地上に戻り、先ほどの続きを話し始めた

「少し遅れたな。それじゃ、改めてここにいる三人に言おう」

そのまま三人を順番に見渡し、

「いいか、俺がお前らに教えることは、力の使い方だ。それだけしか俺に教えられることは無い。その力で何をするのかは、お前達が自分で決めろ。だが、三人、それぞれの話を俺は聞いた。そしてお前らならば、力をただの暴力としてではなく、何か違う物として使えると俺は思った。だから教える。いいな?俺の期待を裏切るなよ?」

「「「はい!」」」

元気良く返事をする三人
そんな三人に苦笑しつつ

「そんなかしこまらなくてもいいがね、んで、最後に一つ、確認だ」

そう言って彼は群雲を取り出し一回振るった。それだけで地面が削れ、そこに一本の線が出来る。三人の目の前。タカシと三人を分ける境界線だ

「いいか、俺の修行ってのは、はっきり言って邪道だ。俺は強くなるために、まっとうな修行はしてこなかった。常に命を掛けたギリギリの修行だった。お前らに同じ事をさせるつもりはないが、それでも途中で死んでもおかしくない。それでもいいと、己の命を俺に預けられると思う奴だけその線を越えろ。今ならまだ間に合う。ただし、その線を越えて一歩こちらにきたら、もう後戻りは許されない。五分、時間をやる。良く考えて答えをだせ」

そう言った瞬間、アーリャが一歩踏み出した

「・・・お前・・・俺の話を聞いていなかったのか?」

呆れながら言うタカシ

「あら?ちゃんと聞いてたわよ?」

笑いながらこたえた

「・・・よく考えたのか?」

「考えるまでも無いわね。私は、貴方に教えを請うと決めた時点で、どんな事でもする覚悟よ。私は貴方を信頼している。だから、私の命、貴方に預けるわ」

にっこりと笑った

「・・・はぁ・・・とんでもないご主人様だなぁ・・・まったく・・・」

苦笑しながらそう言うタカシ。そして――
っすっとタバサも一歩踏み出した

「私は本来、あの日に心を壊していた。それでも庇われて生かされている身・・・ならば、信頼できる貴方にこの命を預ける・・・それになんの不満もない」

まっすぐにこちらを見ながらそう仰られる姫君

「・・・まったく・・・この国の高位の貴族ってのは・・・娘の教育くらいもちょいしっかりとやったらどうなんだろうなぁ・・・」

そのままおかしそうに笑う

そして

サイトも一歩踏み出した

「・・・俺は、大した覚悟じゃない。多分、二人に比べれば、ちっぽけな覚悟だ・・・それに、普通の家で、のんびりと平和に生きてきた・・・それでも・・・そんな俺にだって、譲れないものがある!守りたい者がいる!そして、それを貫くには、力がいるんだ!そのためなら・・・ちょっとくらいの無茶!やってやる!」

そう言い、全員線を越えた―――

「・・・・はぁ・・・・まったく・・・解ったよ・・・いい覚悟だ、お前ら」

そう言いっくっくと笑い

「さて、お前らの意思。確かに見せてもらった。さぁ、それじゃぁ修行をはじめよう」

邪悪な笑みでそう言った





さて、ここまででです。予想していた人もいると思いますが、彼によりいろいろと特訓が行われます。

そして「念能力者なら魔法使うな」っと思っている方。判っております。彼に地下水を持たせ、それを「群雲」っと改名した理由は、まず、「地下水=持てば魔法が仕える存在」を「主人公に合いの手を入れるなどの相棒的役割」っとするためです。(もちろん、作者の趣味趣向も大いに含まれますがw)そして、魔法を使う場合も、教導する際のお手本、もしくは軽く「フライ」や「コンタクト」(作者設定。風による短距離通信)などの、補助的なものです。これも基本的に極力使わない方針です。もちろん、「ナイフ」として、武器として利用することはあります。そんな感じですね。

さらにもう一つ。タバサの件。これは作者が「タバサに復讐をしてほしくない」っと言う考えがあったので、ここで少し、修正を入れさせてもらいました。もちろん、今後の原作の流れに影響は与えません。あくまで、タバサ個人の変化です。
私には友人、家族を失った人の心境が解らないので、甘っちょろい綺麗事でしかないかもしれませんが、多くの書物(小説、マンガ、等も)でも、「復讐は無意味」等言っています。それらも参考にし、いろいろ書かせていただきました。

以上、長くなってしまいましたが、ここから盛り上がっていきます(作者的に)これからの展開に、是非、ご期待ください。それでは、失礼します。





2008/09/20 誤字を訂正しました。



[4075] 第二部 第二章 念×魔法×お勉強
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/20 14:51









そうして彼らの修行が始まった


「んじゃ、まず一番初めに、絶対に覚えることが一つある」

そういいつつ息を吸い込み

「死力を尽くして任務に当たれ!
生有る限り最善を尽くせ!
決して犬死するな!」

そう・・・彼の昔の仲間達の格言・・・その意思だ

「いいか、これは俺から教えを受ける以上、絶対に忘れてはならない言葉だ!一日100回以上は復唱しろ!いいな!?」

その迫力、大声に三人は黙って頷いた。
タバサとアーリャには、その言葉の重さが、意味が良くわかっていた。そして、タカシがその言葉を自分達にも託してくれることがうれしかった

「よし!それじゃぁ全員復唱!」

『死力を尽くして任務に当たれ!
生有る限り最善を尽くせ!
決して犬死するな!』

「よし!いいか?ではこの言葉の意味を教えよう。まず一つ目、これは、まぁ任務といっているが、この場合「言われたこと」とか「自分がすべきこと」と解釈してくれてかまわない。つかり、「やるべきことは死力を尽くしてやれ!」って事だ。二つ目、これは単純だな。その通りに「生きている限り、命がある限り最善を尽くせ!生きることをあきらめるな!」って意味だ。最後、これは・・・たとえばサイト、今仮に、ここにお前の両親、親友などを殺したという男が現れた。そいつの手にはしっかりとそいつが殺した人たちの首が握られている。お前、もしこうなったらどうする?」

「・・・解らないけど・・・多分・・・そいつに切りかかると思う・・・」

少し悩んだあとにサイトはそう答えた。

「そうだな。いいか?それじゃダメだ。明らかに相手は場数を踏み、そしてお前が切りかかってくるであろう事を予測した上で、そのような行動をしている。しかも、お前は冷静さを欠いている。そしてその場合、ほぼ確実にお前も殺される」

「・・・・」

それを聞き黙り込む。確かに言うとおりだとでも思っているように

「いいか?その場合は逃げろ!全力でな。そのばで勝ち目の無い戦いを挑み、死ぬこと。これは犬死だ。死んだもの達の死が、全く意味の無いものになってしまう。これは許されない行為だ。それが最後の言葉の意味だ。「犬死するな!」とは自分に対して「死ぬな」だけではなく「死者を愚弄するな」っという意味合いが強いかな。ともかくそういう事だ。解ったか?」

「「「・・・はい」」」

皆が呟く様に、頷きながらそう言った。ソレを見て一度頷いてから

「よし、そして最後に、これは俺が昔、仲間達に教えてもらったの格言だ!その仲間ってのは―――」

そう言い、彼は語り始めた。最高の仲間の最高の武勇伝を、誇らしげに、堂々と。彼女との最後の約束の通りに・・・人々に語り継ぐ


「っと言うわけだ。俺はそんな人たちの礎の基に成り立っている。もし、俺に感謝する場合などがあったら、俺でなはく、彼女達に感謝しろ!いいな?」

「「「・・・・はい!」」」

そう言い、深く頷く三人

「っま、堅苦しい話は此処までだ。それと、いい返事だが、普段どおりにしろ。いくら俺から教わると言っても、そんな大層なことじゃない」

そう言って笑う

「よし、んじゃ、早速はじめよう。まずはサイトからだ」

そういい、サイトが一歩前へ出る

「初めに一つ言っておく。まず、今からお前の精口(しょうこう)を開く」

「精口?」

「あぁ。まぁ、オーラを出す穴みたいなもんだ。んで、これは普通、長い時間を掛けてゆっくり開くんだが、そんなちんたらやる気は無い。そこで、外道だが、無理やり開く」

「そんな事ができるのか?」

「あぁ。正し、これに失敗すれば最悪死ぬ」

「いきなりかよ!?」

行き成り「死ぬ」っと言われ、早速戸惑うサイト君。当然の反応ですね

「そう、人生はいつだっていきなりなのさ」

「・・・・えぇい!もういい!矢でも鉄砲でももってこい!」

・・・大丈夫でしょうか?

「よし、いい度胸だ。んじゃ、いくぞ」

そうしてタカシは手をサイトの背中に当てる
次の瞬間、サイトの体から、まるで湯気のようにオーラが吹き出た

「うお!?これがオーラか!?すげぇ!?」

「あぁ、それがオーラだ」

「でも、これどんどん噴出してるけど、平気なのか?」

流れ出る様に彼の体から放出されているオーラを見て、大いにあわてている

「いんや?そのまま出してリャ死ぬな」

「をい!?どうすんだよ!?」

軽く「死ぬ」とか言われたらそりゃあわてます

「落ち着け。いいか?まずは目を閉じろ」

そしていわれたとおりに目を閉じるサイト

「いいか?イメージしろ。念能力はイメージ・・・意思の強さが重大な要素になる。強いイメージ、強い意思こそ、強い念能力の源だ。いいか?まず今溢れているオーラを・・・」

そう言いながら、サイトは言われたとおりにイメージをしていく。


「よし、目を開けてみろ」

「・・・お!?なんじゃこりゃ!?」

そうして目を開けて驚くサイト。彼の周りにもやもやが纏わり付くようにしている

「見えるだろ?それが念能力の基本中の基本「纏」だ。オーラを体の回りに纏い、防御力、攻撃力などを強化してくれる」

「おぉ・・・見える・・・お前のオーラもはっきり見えるな・・・でも・・・お前のは・・・何か違うな」

自分の体を見回しながら、タカシを見て、そう言うサイト

「ほぉ・・・それが解るのか?さっきのイメージもそうだが、お前、才能あるよ」

そう言いながら笑った

「そうなのか?」

「あぁ。普通はあんないきなり言われたイメージなんかできない。お前はそれをたった一回でやったんだ。しかも、初めて俺のオーラを見て、一目で何か違うと気がついた。これはなかなか、将来有望だ」

「そうか・・・んじゃ、がんばるかな!」

そううれしそうに言うサイトであった。調子に乗ってると後悔するかと・・・もう遅いかもしれません。

「んで、お前のこれからの課題。その「纏」の状態をずっと維持しろ。慣れたら寝てるときでその状態でいられるようになる。無意識でも纏ができるようになるまで、そのままだ」

「げ!?これ、結構疲れるんだぜ?」

早速少しだけ後悔したサイト

「なに、すぐなれる。それに、常人なら今の状態になるまで1,2ヶ月はかかるんだぜ?それに比べリャお前は飲み込みが早い。大丈夫さ」

「・・・解った。んで、俺はこの状態を維持しながら何をすればいい?」

ここでちょっと持ち上げられてます

「ん~、別にもう何もしなくてもいいんだが・・・せっかくだ。俺が「いい」っと言うまで腕立て、腹筋、スクワットをやってろ」

「はぁ?!なんじゃそりゃ!?」

そして一気に突き落とす。流石ですね

「なんだ?文句でもあるのか?」

「・・・・イイエ・・・」

そういうとサイトはおとなしく腕立てを始めた。線を越えた事を、少しだけ後悔しながら

「いいか?ゆっくりでもいいからサボるなよ?俺の許可無く中断したら・・・泣いたり笑ったりできなくしてやるからな?」

邪悪な笑みを浮かべそう言い放つ鬼軍曹


「さて、お待ちかね、魔法の訓練だ」

そういい爽やかな笑顔で二人の少女に向き合う悪魔

アーリャもタバサも、そんな恐ろしい男に身の危険を感じ、冷や汗を流しながら一歩後ずさった

「さって、では具体的にこれからやることを説明する。まず、「収束」と「変化」だ」

「「収束と変化?」」

二人が首を傾げる

「そう。これは、魔法だけじゃなく、念能力にでも言える事なんだが・・・そうだな・・・とりあえず実物を見せよう。いくぞ群雲?」

「あいあいおー!」

そう言いながらタカシは群雲を構え、ファイヤー・ボールの魔法を唱えた。

「ますは普通のファイア・ボールだ。コントロールはもう万全だから大丈夫」

そういいつつ、タカシが予め用意していた案山子に向け、魔法を放った。

ボンっという音を上げ炎上する案山子

「これは普通だな?んじゃ次、「収束」ってのを実戦するぞ?」

そう言いながら再び魔法を唱える。

そして

生み出されたのは極小の火の玉

「・・・魔力が弱すぎたんじゃない?」

「・・・・失敗?」

心配そうな二人

「いんや?魔力はさっきと同じだ。なぁ?群雲」

「おうよ!ただ、密度がダンチだな」

「「密度?」」

「まぁ、論より証拠ってね!」

そう言いながら生み出された火の玉を別の案山子にぶつける。

普通のファイア・ボールの十分の一以下の大きさの火の玉が、十倍以上の速度で飛ぶ。

そして命中した瞬間

ッジュ

っという音を出し、案山子を貫き、後ろにあった大岩(最初にタカシが群雲で作った岩)に当たり、そこに風穴を開けた

「「・・・・何今の?」」

口を開け、ポカンとしながらもそう聞く少女達。それになんでもない事のように答える。

「今のが「収束」だ。力ってのが、分散させるよりも一点に集中させた方が効率が良いって事さ。「変化」は・・・まぁ、今はいい。とりあえず、この「収束」からだ。」


「「どうすればいいの?」」

二人の声が見事にハモる。それに苦笑しつつも

「とりあえずイメージだ。いいか?」

そう良いながら大きな綿の塊を二つ投げてよこした。

「まず、コモンマジックでその綿を直系1サントまで圧縮しろ。周囲から均等に圧力を掛けてやればできる」

コモンマジックとは、物体に魔力を注ぎ、その物体を有る程度自由に動かす物だ。

「でも、コモンマジックは「物」を動かすだけよ?圧縮するなんて事できないわ!」

「それはお前らがそういう使い方をした事が無いからだろ?俺が書物で調べた限り、実現は可能だ。っつか、ちょいと実戦してやるよ」

そう言いつつ、新しい綿を出してきて、群雲を片手に唱える。
そして綿に向かって群雲を振ると、見る見るその綿の塊が縮んで行った。

「っと、まぁこんな感じだ。いいか?この綿全体に魔法を掛けて、周囲から均等に押しつぶすんだ。同時に、内側から外の物を引っ張りこむ。この二つのイメージをしっかり持ちながら出来るまで何度でもやれ!とりあえず、一日100個だ。」

そう言うとタカシはサイトの方へ向かって行った

「・・・やれって言われたって・・・」

「やるだけやってみる」

ぶつくさ言いながら二人は綿の塊に魔法を掛けた。


そして数時間後―――


「ぜぇ・・・・ぜぇ・・・・も・・・むり・・・・」

全身をピクピク痙攣させながら倒れ伏せたサイトが居た

「・・・ま・・・・ま・・だ・・・ま」

「ままだま」っという意味不明の呪文を呟きながらタバサと背中合わせで座り込むアーリャが居た

「・・・・・・・」

アーリャと背中合わせに座りながら、無言のまま肩で息をしているタバサが居た

「っま、初日だし、軽くこんなもんにしておくか」

そんな三人を腕を組みながら見下ろす自称魔王。爽やかな笑顔です

「「「・・・・・・」」」

そんな「初日だから」とか「軽く」とか言う意味不明な呪文を聞いて、三人とも線を越えてきた事を後悔し、ガクっと崩れ落ちた








以上です。サイト君の精口は無理やり開きます。ちんたらやってるよりもいいってか、話的にこっちのほうが手っ取り早いですからね。ウィングさんが「悪意のある者が行えば死ぬ」等と原作(H×H)でおっしゃっていましたが、まぁ・・・一応彼には「悪意」等は無いとの事でw

そしてここで「魔法=イメージ云々」っと言った作者の勝手な設定が生きてきます。もともと「魔法って個人差とかでいろいろ変化させられるんじゃね?」っとか思っていました。そこで、いろいろとやらせてみようと思うんです。もちろん、余りにも馬鹿げた様な物は出しませんが、ある程度ありそうな変化等は出していきたいと思います。いずれ、彼女達は「オリジナル」の魔法等を自分たちで考える等、いろいろさせてみたいと思っています。

では、引き続きご意見、ご感想、ご指摘などありましたら、どうぞよろしくお願いします。




2008/09/20 誤字を訂正しました。



[4075] 第二部 第三章 日記×女王×任務!?
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/20 22:24






○月×日 はれ 

二日ほど前からはじまった拷問・・・じゃなくて、修行は今日も夜まであった。

彼はどうやら「特訓」や「修行」、「訓練」などをする場合は容赦が無い、っというかキャラが変わるという事が解った。俗に言う「おにぐんそう」っという奴だろう

本日、私とタバサの「余り遅くなるとお風呂に入れないから時間を決めよう」っという提案は「なら早く今日のメニューを終わらせろ」っという一言により却下された。

しかも、自分はチャッカリと風呂を用意していやがる。何でも彼の国の「ゴエモンブロ」と言うらしい。食堂裏に捨ててあった巨大鍋を発見して、マルトーさんに頼み込み、サイトと共に設置したらしい。
そして修行が終わるとサイトと共に「ばばんばばんばんばん」とか言いながら風呂に入るのだ。私設なので時間制限も無い。

私とタバサは心を一つにした。

その甲斐あってか、私とタバサは本日、悪魔・・・じゃなくて、タカシの出した課題「綿を圧縮しろ」をお風呂が閉まるギリギリの時間でクリアした。

彼は「まさかこんなに早く出来るとは・・・一週間くらいはかかると思ってたんだが、よく頑張ったな」とか言いながら私とタバサの頭をいつものように叩いた。

「綿を圧縮する」という訓練と平行して、彼は教本片手に(何やら自分で作ったらしい)私達に兵法と言うものを教えてくれた。

ちなみに、圧縮の作業をしたままで。サイトは筋トレをしたままで・・・そんな状態で、問題を出され、答えられなかった時は、さらにノルマを追加すると言う徹底振りだった。

その兵法の中に「敵の油断を誘い、その隙を付け」っというのと「敵の弱点。急所を狙え」っと言う物。「実力差が有る相手には奇襲による一撃離脱も有効だ」っという記述があったので、私とタバサは早速それを目の前でうんうんと言いながら腕を組んでいる男に試してみた。結果は見事に成功。

馬鹿男の急所にタバサと共に正義の鉄槌を食らわせ、私達はお風呂へと走った。

何か泡を吹いていた気がするが、見なかった事にする。

ちなみに、この日記は彼に「書け」と命令されて今日から付け始めた物だ。

「今日やった事、思った事などをしっかりと書いておけ。後日それを見て、改めて復習する時に必要だ」っと言って、私達三人に渡してきた。

私はこの「復習」という文字を「復讐」にしたいと思っている。




○月○日 くもり

今日は修行を開始して三日目。
昨日私達は「綿を圧縮」っという課題をクリアしたため、今日から新しい事をやるのだろう。そう思い、少しだけ期待していつもの場所に行った。

結論。私の期待は裏切られた。

かれは昨日のノルマの時の物よりもっと大きな綿を持ってきて「今日からはコレだ」っと言って突き出してきた。しかも数も倍の200個になっっていた。ここまでくると、何処から持ってきたのか気になったが、怖いので聞かない事にした。

さらに彼は「今日からこの作業以外で魔法を使うのは禁止だ。もちろん、授業もな。何かヤレっつわれたら「魔力が無い」っとでも言っておけ」っとか言いやがった。

だが、私達はまだマシかもしれない。サイトは「纏」を維持したまま腹筋、腕立て、スクワットを延々と続けさせられているのだ。

しかも時々「同じことばかりじゃ飽きるだろ?ちょっと学院の周りを10週して来い、20分以内にな」っと言い、遅れると「遅れたのか?気にするな。その分他の回数を増やして調整する」っと笑顔で言うのだ。

最初に「死ぬほどの無茶はさせないつもり」っと言っていたが、サイトを見ていると「これ死ぬんじゃない?」っと思ってしまう。
そして「私達は鍛えなくてもいいのか?」っとつい聞いてしまった。そしたら彼は笑顔で
「安心しろ。しっかり考えてあるから。今は魔法に集中だ。もうちょい先に進んだら、しっかりとメニューを組んでやるよ」っと仰った。

それでも私達は「強くなれるなら・・・」っと思っていたが「まぁ、これで強くなれるとは限らないけど、とりあえず頑張れ」っとか言いやがったのだ。

しかし、明日は休みだ。何せ明日はアンリエッタ姫殿下が学院にいらっしゃるのだ。
最初タカシは「あ?たかが姫様が来るくらいで休みにするわけないだろ?」っとかほざいたので、私はルイズとキュルケにも協力を仰ぎ、必死に説得した。その甲斐あってか、しぶしぶと一日の休憩を認めさせることに成功する。でも最後に「っち・・・仕方ない。明日の分は後日のに上乗せするか」っとの呟きが聞こえた気がしたが、私は聞かなかった方向で考える。

今日は昨日の倍のノルマだけあって、お風呂の時間に間に合わなかった。そこで、私達は全身全霊を懸け交渉し、なんとか「ゴエモンブロ」に入れた。まさに「生有る限り最善を尽くした」っと言っていいだろう。
私達が入る際は、周囲に布で天幕を張り、タカシが外で見張るとの事だ。そしてお風呂から上がって彼を見てみると、気持ちよさそうな顔で寝ていた。
とりあえず無防備な腹に一撃加え、日記を付けて寝ることにする。


いつか「復讐」する日を夢見て





「っふ~」

う~んっと伸びをしながら日記を書き終わり、机の中にしまうアーリャ。

丁度そんな時

「っ~っててて・・・何か、ちょっと寝て起きたら脇腹が痛いんだけど・・・どうしたんだろ・・・」

そう言いながら部屋に戻って来た馬鹿一名

「さぁ?普段の行いが悪いんじゃなくて?」

「・・・そっか・・・最近気が緩んでたからな・・・もうちょいちゃんとするかな・・・」

心当たりがあるのか、何やら神妙な顔でそんな事を述べた。

「いや旦那、それは「群雲?貴方って土に埋められるとどうなるの?」・・・もうちょい注意したほうがいいですぜ」

群雲に笑顔で恫喝・・・ではなく、質問をして、真実は闇へと葬られた。



次の日



トリスティン魔法学院の正門付近に、この学院の全ての生徒達が集結していた。

学院総出で本日、学園に立ち寄ることになっている「トリスティンの花」っとよばれるアンリエッタ姫殿下を迎えるためである。

正門から校舎へと真っ赤な絨毯が敷き詰められ、その左右に生徒達が集まる。

まさに、学院をあげての一大イベントであった。

そして、そんなイベント(面白いこと)が大好きの悪餓鬼もここに居た。

「まったく・・・たかがお姫様一人迎えるのに、学院総出とは・・・暇人どもめ」

何だかんだ言いながらも楽しそうにうっしっしと笑っている。

そういうタカシもその一人である

「じゃぁなんで貴方が此処いるのよ」

彼の隣でアーリャが呟く

「ん?だって「トリスティンの鼻」って間抜けな称号を持ってる姫様だぜ?一目拝んでおかないとな」

「鼻じゃない!花よ!ワザと言ってるでしょ!?」

「おーおー。それそれ、どっちも読み方一緒なんだし、いいじゃん。最初は作者が変換したら「鼻」って出てきて、そこから「面白いからネタに使おう」って思って書いたんだ。気にしたら負けだぞ?」

いつものへらへらとした調子で裏設定を暴露する男。畜生、仕返しにお間抜けな事させて「やってみな?」・・・なんて事したら怒る人もいるでしょうし、やめときましょうか

そんなおバカな会話で時間を稼いでいる内に、姫殿下が爺に挨拶。そしてその周りのお偉いさんにも挨拶をされている

「なんだ。ただの小娘じゃないか」

自分と殆ど歳の変わらない姫殿下を見てそうのたまう崇君。かれは熟女趣味ですね。わかりま・・・そんなワケない。

「・・・?どうしたの?」

「いや、今日は神様がやけにハッチャケてるみたいでな。釘を刺しておいた」

「・・・あなた、神様にも何か恨み買うような事したの?」

この男ならやりかねない。そんな視線を向けるアーリャ。

「さぁ?一々覚えてねーな」

ソレに対し、適当に答えるバカ野郎。
そうこうしている内に、姫殿下は学院に一泊される事になった。

そしてその夜、本来は修行をしている時間なのだが、それが中止になったので、久々にタカシ、アーリャ、タバサの三人+新たな仲間。地下水改め、群雲が加わり、さらに今日は何故かサイトも加わり、二つの世界の話で盛り上がっていた。


「っと言うワケで、俺はギリギリで敵から大事な物を守り抜きましたっとさ」

「・・・今一よくわからないわね・・・」

「?」

アーリャ、タバサ共に、首をかしげて「?」ットいう感じを体で表す

「・・・お前、幻影旅団にまで手出してたのかよ・・・」

っと呆れるサイト

「いよ!さすが旦那!」

そう合いの手を入れる群雲

「あぁ・・・あの時はまだ仲間達が居たからよかったけど・・・二度と係わり合いになりたくないね・・・いろんな意味で」

「・・・その奇術師みたいな人ってのはそんなに強かったの?」

っと小さく首を傾げるアーリャ

「ん~・・・ソイツだけじゃなく、旅団全員化け物だよ。でもソイツは・・・強いだけじゃなく・・・危ない?それはもうあらゆる意味でな。命を賭けた戦闘中にテントを建設し始めるし、実力自体も半端じゃない。化け物みたいな奴だよ。奴に俺の背後を取られたら、もう「アッー」って事になるのが目に見えてるから・・・会いたくない。さすがに異世界にまでは追ってこないだろうし、新しい相手を見つけてるだろうから、こっちに来て本当に安心できるよ」

そう言いながら、思い出すように少し遠い目をし、そのまま小刻みに震えている。一体何があったのであろうか・・・

「「どういう事?」」

そんな彼の行動の意味が本気で解らない少女二人がますます首をかしげている

サイトは何かをッキュっと締め付け、一瞬こわばっていた

「・・・お嬢ちゃん達は知らなくても良い世界ってのもあるんだよ・・・」

っと何かを悟ったように言う群雲

そんな話をしていたら、思わぬ来客があった


「お邪魔いたします」

ローブを被った女性が丁寧に挨拶をし、その後ろからルイズが続く。

「ん?誰だアンタ?見ない顔だな。所属と階級、認識番号を述べろ」

「お客様に意味不明な事言うのはやめなさい!」

そんな会話をしながらも、またワイワイと場が盛り上がっていく。そして取り残されたルイズとローブの女性

「ちょ・・・ちょっと!あんた達!?無礼にも程が有るわ!そこに直りなさい!」

たまりかねてルイズが怒鳴り散らす。そんな彼女を止めたのは、ローブのフードをとった姫殿下だった。

「いいのですよルイズ。私が勝手に押しかけたのです。彼らの邪魔をしているのは私です。皆さんが話し終わるまでここで待ちましょう」

にっこりと微笑みながらそう仰られる姫殿下

そんな彼女を見て、一瞬場が固まる。そして、その硬直からいち早く立ち直った――っというか、最初から硬直していなかったタカシが

「ほぉ、トリスティンの何とかの姫さんが、こんな時間にこんな汚い部屋に来るとは・・・悪巧みか?」

ニヤっと邪悪な笑みを浮かべながらそうほざく男。先ほどの姫殿下の微笑みを天使の微笑みとすると、丁度この男の笑みこそ悪魔の笑みです。比べるまでもないですね。

そして残りのメンバーが再起動

「あ、アンリエッタ姫殿下!?わざわざこんな汚い部屋へ・・・って!私の部屋を汚いとは何よ!?」

「いや、お前今自分で言ったぞ?」

見事なノリ突っ込みです

「うるさい!貴方が先に汚いって言ったでしょ~」

う~っと唸りながらタカシに殴りかかるアーリャ。しかし、ここ数日、彼女は過酷な修行によるストレスからか、性格が変化してますね。前は口論で済んだ場合も、最近は手が出てます。しかも姫殿下の御前で。

しかし、この部屋にいる人間に、「姫様の御前でなんてことを!」っという意見を言う人物は二人だけ。一人は無論ルイズ。彼女は現在、あまりの光景に再起動できていません。もう一人は我らがアーリャ嬢。現在暴走中の為そんな余裕はありません。
タバサは無言。サイトは「何でここにいるんだろう?」程度にしか思っていない。群雲も特に気に留めた様子がない。
本来「無礼ですよ?」などど仰るべき姫殿下はニコニコ笑いながらそんな光景を楽しそうに見ている。う~む。実に出来たお方です。


「っは!ちょっと!いい加減に―」

ルイズが再起動をはたし、止めようとした瞬間

「んで、お姫様?何の用なんだ?」

暴れていたアーリャを羽交い絞めにし、口を押さえてそう質問するタカシ。どうでもいいですけど、鼻も一緒に押さえてるからそのままだと窒息しますよ?


「アンタいい加減に」

「実は・・・貴方方にお願いがあるのです」
ルイズが何か言いかけたのを手で静し、事情を説明する姫殿下

そして事情を聞き終えた一堂。そんな中

「なるほど。ラブレターを取り返して来いっつーのは解った。だが、何で俺達に頼むんだ?」

っと一人平然と言うタカシ。アーリャが何やらゼーハー息を荒げている。開放されて良かったです。

「・・・王宮の人間は信用できません・・・そこで私の古い友人であるルイズとアーリャにお願いしようと思い、ここに来たのです」

ルイズとアーリャは幼いころ、姫殿下と一緒に生活していた時期があったのだ。

「なるほど・・・事情はわかった。んで、報酬は?」

無礼にも姫殿下にそのような事を言いやがった。もはやこんな事言うのは一人しかいないので一々記述しません

ルイズとアーリャがそんな野郎を叱ろうとしたが、またもや姫殿下が制し

「・・・そうですね・・・金品など可能な限りの物をお渡ししようと思っているのですが・・・いかがですか?」

「ダメだな。金なんてそこいらで賞金首を狩ればいくらでも手に入る」

姫殿下に対する態度じゃないですね

「・・・では、どのような物ならよろしいのですか?」

それでもお怒りにならない姫殿下。何処かの誰かにも見習わせたいです。

「そうだな・・・っと、その前に」

そう言いながら扉を開け放つ。そしてそこには金髪のキザな少年、ギーシュが居た

「・・・・や・・・やぁ・・・」

ドアに耳を当てた体勢で硬直し、片手を上げる事のみの挨拶

「おう。人様の部屋の扉に耳を当てて、何の用だ?」

そんな彼を笑顔で見下ろす男

「い・・・いや・・・姫殿下らしき人物がこの部屋に入っていくのを見て・・・つい」

冷や汗をかきながら答えるギーシュ

「ほぉ、ローブ越しにも判断できたのか?」

っと素直に賞賛の声を上げる。

「もちろんだ!僕が一度見た女性を間違えるハズがない!」

胸を張って偉そうにそう言うギーシュ少年。状況理解してますか?

「そうか。まぁ、つもる話もあるし、上がっていけよ」

言い笑顔で言うタカシ。有無を言わせぬ迫力があった。後にギーシュは「まるでエルフの一個大隊と対峙した気分だった」と語った

そして入るとタカシは

「よしサイト、とりあえずお前、この前の恨みもあるだろ?好きなようにボコッてそこいらに放置しておけ」

そう言い放ち、返事を聞かずに再び姫殿下の方を向いて

「待たせたな。んで、報酬は「借し」だ。これでいい」

ニヤっと言いながらそう言うタカシ

「か、借しですか?」

すこし冷や汗をかいていらっしゃる姫殿下

「あぁ。いつか俺の願いを聞いてくれればいい。何、出来ないような無茶を言うつもりは無い。実行可能な範囲のはずだ」

そう言われ、僅かに逡巡し

「・・・わかりました・・・私にできる範囲で、その際は協力いたします」

しっかりと目を見据えてそう仰った

「よし、交渉成立だな。手紙はしっかりと持ってきてやる。安心して待ってな」

「わかりました・・・よろしくお願いします」

その場の全員がもはや言葉も無かった。
打ち首にされても不思議の無い事を平気でのたまう男。そんな男に対して特に怒りもせずに平然と対応していらっしゃる姫殿下。
そして部屋の隅に転がされているギーシュ

「ではルイズ。あなたにこれを渡しておきます」

そう言って水のルビーという指輪を手渡す

「そして、貴方がルイズの使い魔ですね?土くれのフーケのゴーレムを倒したと聞き及んでいます。貴方のような人が一緒なら、ルイズは安心できますね」

そう言いながらサイトの方を見て微笑む姫様

「いやぁ・・・でも・・・ゴーレムを倒したのは破壊の杖で・・・俺じゃないですし」

テレながらそういうサイト君

「いいのです。それでも貴方が倒したことに変わりはありません。頼もしい使い魔さん、これからも私のお友達をお願いしますね」

そういいながらスっと左手を差し出す。ルイズの抗議をよそに、アンリエッタ姫殿下が平民にお手をお許しになるそうだ。

「・・・何すりゃいいんだ?」

小声で呟くサイト

「これだから平民は・・・お手を許すって事は、キスしていいって事よ」

そう答えるルイズ

「何!?マジか!?いいんだな!?」

サイト大喜び

「いいから!早くなさい!失礼よ!」

ご主人様のお許しが出て、サイトはゆっくり姫殿下の手に―そのままもっと距離を積め、唇にキスをした。そのまま姫様は倒れた。

「あ、あああああアンタなんて事してんのよ!犬ーーーーーーーーー!」

「わん?」

ルイズの高速の一撃。それによりサイトの体が宙を舞う

アーリャは口ポカン

タバサはどこから出したのか、本を読んでいる

ギーシュは気絶中

タカシと群雲はもう大爆笑。転がって腹を抱えて笑っている

そしてそんなカオスが収まるまでにかなりの時間を必要とした。



「それではルイズ、アーリャ。よろしくお願いします。そして二人の使い魔さん、私のお友達を、どうか宜しくお願いしますね」

まるで何事もなかったかのように、にっこりと微笑みながらそう仰る姫殿下

「はい!任せてください!」

っと元気良く答えるサイト。鼻の下伸びてますよ?

「っま、適当にな」

っとヘラヘラと答える無礼者

そんなこんなで姫殿下が退出し、今日はその場でお開きになった。








そしてそんな頃、チェルノボーグの牢獄にある男が訪れていた

「お前が土くれのフーケだな?」

長身に仮面をつけた男がそう言う

「そうだけど・・・アンタは何者だい?アタシをここから出してくれるとでも言うのかい?」

フンっと鼻を鳴らしながら、皮肉気にそう言うフーケ

「そうだ。私に協力するのなら、ここからだしてやろう。マティルダ・オブ・サウスゴータ」

「!?」

いきなり自分の本名を言われ、硬直するフーケ。そんな彼女を見て男はニヤっと笑ったように見えた。

そして

「まて!」

そんな声が聞こえてきた











以上です。今回のお話に出てきた「奇術師の様な人」は、まぁ言わずと知れたアノ人ですね。ここで少し伏線というか、崇君は何事かトラウマを持っている(?)様です。これが今後どのように影響してくるのでしょうかね?
とりあえず、「彼の実力=少なくともアノ人と対峙して生還できる」っという感じですね。作者の中で二人を戦わせて見たりもしましたが・・・正直、「負けないかもしれないけど勝てる場面が想像できない。」っと言った感じでした。



それでは、引き続きご意見、ご感想等お待ちしております。





2008/09/20 誤字を訂正しました。



[4075] 第二部 第四章  港×襲撃×盗賊
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/20 22:11






そして 次の日の朝



昨日までとは打って変わって静けさを取り戻した学院の正門前に、いくつかの人影があった。

「・・・なぁ、なんでお前がここにいるんだ?」

不満そうなサイトの呟きにギーシュが答える

「いいだろ?僕だって姫殿下のお役に立ちたいんだ!」

ちょっと泣きそうな顔で必死に訴えるギーシュ

「まぁ、足手まといになるようなら口を封じてその辺に転がせば問題ないだろ?」

サラっとすごい事を言う男

「そうね」

っと仰るアーリャ嬢。ちょっと?止めないんですか?

「ギーシュなんか居ても居なくても一緒でしょ?」

ヒドイ事を言うルイズ嬢

それを聞き、頷く一同。後ろでギーシュが何か抗議の声を上げていたがスルーした。

「ところで、僕の使い魔も連れて行っていいかな?」

そんな状況でもめげないのが彼の強さです!きっと・・・

「お前の使い魔?」

「あぁ。おいで!ヴェルダンデ!」

ギーシュがそういうと一匹の巨大なモグラが地面から出て来た。

「ヴェルダンデ!あぁ、僕の可愛いヴェルダンデ!」

っといいながらモグラに擦り寄るギーシュ。みんな結構引いている

そんな中、モグラが鼻を引くつかせルイズに詰め寄る

「ちょ、ちょっと何よこのモグラ!」

巨大モグラに行き成り詰め寄られ、怯えるルイズ

「主人に似て女好きなんじゃないか?」

そう暢気な発言。ご主人様放置ですか?

「をいをい、ロリ○○かよ。嫌なモグラだな」

面白そうにそういうタカシ。さり気に凄い事言いませんでした?

巨大モグラはそのままルイズを押し倒すと、鼻で体をまさぐり始めた。ちょと代われ!

「や!ちょっと、何処触ってるのよ!」

そのまま鼻でつつきまわされ、地面をのたうち、スカートが乱れ、派手にパンツをさらけ出して暴れるルイズ

「いやぁ、巨大モグラと戯れる美少女ってのは有る意味官能的だな」

目を細めながらそんな事を言うサイト君

「まったくその通りだね」

腕を組み、うんうんと頷きながらギーシュが同意

「獣○じゃねーんだから・・・それに、それならもっとスタイルがこう・・・」

お前は暫く黙れと、そう言いたいです。
などと口々に言う男ども

「ちょっと!?助けなさいよ!」

そんな助ける動作を微塵も見せない野郎どもを置いて、アーリャがルイズ救出に向かう。
そしてルイズの手を引っ張っていると、その指にはまっていた水のルビーが抜け、アーリャの手に収まった。すると

「え?ちょっと!?何でこっちに来るのよ!?」

いきなりモグラがこちらに向いたので、あわてるアーリャ。
モグラはターゲットを変更し、アーリャに向かう

「おぉ、やっぱ主人に似てるな」

納得するようにそう結論付けるサイト

「・・・僕はそこまで見境がなく見えるのかね?」

少し冷や汗をかきながら、見境無いといわれてショック気味なギーシュ

「やっぱり○○コンじゃねーか・・・ギーシュ。使い魔の教育くらいしっかりしろよ?」

他人より自分をどうにかしろと、
そんな事を言う三人をよそに

「ちょっと!?何でよ!?いやあああ!」

などと悲惨な悲鳴を上げるアーリャ嬢
先ほどのルイズと同じ様な光景が繰り広げられ

「ふむ、ツインテールもいいな」

顎に手を当てながら頷くサイト

「うむ。あれには何か魔法が掛けられているのではないかね?」

サイトと反対の手を顎に当て、同意するギーシュ

「それよりも身長とか、胸とかいろいろ足りないだろ?アレじゃだめだな」

ご主人様のピンチに一切動こうとせず、ダメだしをする男。

などと言いながら静観を決め込む三人

「お、あの指輪じゃないか?さっきからアレに反応してるみたいだぞ?」

っというタカシの意見に真っ先に反応したのは

「ルイズ!パス!」

そう言いルイズに指輪を投げるアーリャであった

「え?何?えぇ?何でまたこっちに来るのよ!?ちょっと!?イヤーーー!」

友人に裏切られて悲痛な叫びを上げるルイズ。アーリャは「ふー」っと額の汗を拭い、着衣の乱れを直している・・・
ギーシュとは逆で、こっちは主人が使い魔に似てきているようです

そしてまたルイズが襲われていると、突如突風が吹き、モグラが吹き飛ばされた

「な!僕のヴェルダンデ!?誰だ!?」

自分の使い魔を功撃され、怒るギーシュ

そして朝もやの中から、羽帽子を被った貴族が現れた。「誰だ貴様!」
そう叫ぶギーシュに、自分は敵ではなく、
魔法衛士隊、グリフォン隊隊長のワルド子爵だと名乗る男。姫殿下に言われて同行するようである。
そう名乗り周囲に居るもの達を一瞥するワルド子爵そして

「すまない。僕の婚約者が襲われていたので見てみぬフリが出来なくてね」

皆が驚き硬直する

「をいをい、どうしてこの国にはこんなにロ○○ンが蔓延っているんだ?ここは○リ大国か?子爵様まで○リ○ンだと、もうそうとしか思えないな」

「・・・ねぇ?さっきからとっても気になる事を仰っているようだけれど、どういう事かしら?」

一人平然と、面白そうにそう呟くタカシと、そんな彼を睨みながら言うアーリャ


そんなこんながあり、ワルドのグリフォンにルイズが一緒にのり、
その後ろを不満そうな表情で馬に乗るサイトが続き、
その横でそれを茶化すギーシュ。
そして最後尾にタカシ、アーリャと続き、
一向は港町、ラ・ロシュールに向かっていた。



一方、その頃学園長室で、
アンリエッタとオスマンがフーケ脱獄の知らせを聞き、
城下に裏切り者が居るという可能性に狼狽していた

「間違いありません!アルビオンの貴族の仕業です!」

「そうでしょうなぁ」

ずずずと茶をすすりながら答えるじじい

「どうしてそんなに悠長に構えていられるのですか!?」

「ワシらに出来ることが何も無いからですよ。
それに、彼らなら何があってもうまくやってくれるでしょう」

目を細めながらも、全く心配するそぶりを見せないじじい

「彼らとは・・・ワルド子爵やギーシュという者ですか?」

「いやいや、もっと恐ろし・・・頼もしい。異界からの二つの風ですじゃ」


そう言いながら窓の外を見つめるオスマン老に、
不安そうなアンリエッタがそこに居た








そして馬を乗り継ぎ、
その日の夜にはラ・ロシュールの付近までたどり着いた一行だった。

しかし


「とまれ!」

タカシがそう叫んだ。そしてその声で一向が停止する

「どうしたのかね?我々は一刻も早くアルビオンに行きたいのだが」

そういうワルド子爵

「黙れロリ子爵。行きたきゃアンタ一人で行け。この先で待ち伏せがあるぞ」

そう言い馬から下りて一人で進んでいく
学院を出てからずっと「円」で周囲を警戒していた様だ

「ちょっと?タカシ!何処行くのよ!」

っというアーリャの声を無視して一人でどんどん進んでいく

「待ち伏せ?何故そんな事が」

っと言いかけたワルドの横に、弓矢が突き刺さった。

「今は別に入用じゃねーけど、くれるってんなら賞金をもらうぜ?」

そういいながら不適に笑い、敵に突っ込んでいくタカシ

「まてよ!俺も行く」

デルフ片手に人間離れした速度で切り込むサイト

そして丁度その時、空から火の玉が降ってきた

「ハ~イ、何かおもしろそうな事になってるわねぇ」

シルフィードと共に、キュルケとタバサが現れた。

「キュルケ!?タバサ!?どうしてここに!?」

「あら~、アタシはタバサに頼まれたのよ。
「タカシ達の手伝いをする」
って言って出て行こうとしてた所に無理やり便乗なんかしてないわ」

「思いっきりしてるな」

ルイズの抗議にキュルケが答え、サイトが突っ込んだ

そうもいいながら、シルフィードの上で杖を振るうキュルケが居た
そして、彼女と共に、本を読んでいるタバサが居た

そんな彼らに大した抵抗も出来ず、アッサリと盗賊達は捕縛された

そして



「さて、お前ら先に行ってろ。俺はこいつらとちょ~っとお話してから行く」

上機嫌でそういうタカシ

「しかし、船の出港に間に合わなくなるぞ?」

「大丈夫だ。間に合わなけりゃ、タバサにつれてってもらうさ」

タバサの許可さえ取らずにそう言うタカシ。
彼女が此処に残ることは決定したらしい。
しかし抗議の声が上がらない所を見ると、特に不服と言うワケでは無さそうです。
そう言いッシッシと手を振り、
キュルケ、ワルド、ギーシュ、サイト、ルイズを先に行かせる

「ん?お前も早く行け。すぐ追いつくから」

「使い魔を置いて先にいけないわよ。
それに、目を離すと貴方何するか解らないし」

そう言いながらその場に留まるアーリャと
無言で本を読んでいるタバサがこの場に残った。

「やれやれ・・・信用無いねぇ・・・まぁいい。
さて、お前ら、一体何者だ?賞金首か?ならいくらだ?」

縛り上げられた男たちに向けそう言い放つ

「・・・・」

「そうかい。だんまりか。いい度胸だ」

黙り込む盗賊にニヤニヤと笑いながら近づく
そして縛り上げられている盗賊の一人を指差し

「よし、それじゃぁお前。答えろ。お前が答えれば、お前の命だけは助けてやる。答えなくても別にいいぞ?その場合はお前を殺して他の奴に聞くだけだ」

平然とそう言い放った。
その言葉で一瞬盗賊達が縮こまる。
そこへ間髪入れずに

「いや、それよりこうしよう。素直に答えれば、答えた奴一人だけを逃がしてやる。答えなかった連中はその場で皆殺しだ。別に盗賊なんだ。それくらいされても文句は言えないだろ?尤も、文句があっても殺すけどな」

懐から群雲を出し、邪悪な笑みで獲物を見据える悪魔が一人

「・・・何であんな奴が私の使い魔なんだろう」

頭を抱えて呟く様に言うアーリャ。

「悪逆非道」

半眼で彼を見ながら一言言うタバサ。

そう呟く少女達が居た


そんなタカシの問いかけに、我先にと
「雇われ、襲えといわれた」と叫ぶ男たち。

「っち・・・賞金は無しか。まぁいい。んで?雇い主は?
ん?フードを被った美人と仮面をつけた男?なるほど。よし、もういいぞ」

そう言い彼は、なんと群雲片手にルーンを唱え始めた

「ちょ、ちょっと!?何やってるのよ!?」

そんな彼の悪行に驚き、声を張り上げるアーリャ。

「いや、聞きたい事は聞けたし、もうこいつらに用はないだろ?
だから始末するんだよ。お前らは向こう向いて耳塞いでな」

当然のようにそう言い放つ

「ちょっと!?話せば助けるって約束してたじゃない!?」

「したけど、その約束を俺が守る義理はないな。
約束ってのは、台頭の条件でのみ有効なんだ。
どちらかが一方的に有利な場合、意味を成さない」

そう言い盗賊改め、傭兵達に向け、群雲を振るう。
その時、タカシの前にアーリャが両手を広げ、立ちはだかった

「・・・何のつもりだ?」

そんなアーリャを睨みながら呟く

「貴方こそ・・・一体どういうつもりよ?」

冷静に、しかし瞳には怒りの色を浮かべたアーリャが呟くように言う

「どういうもこういうも、言ったろ?こいつらとの約束を守る義理はない」

全くの無感情でそう言うタカシ

「・・・約束には違いないわ・・・それを破るなんて、人として最低よ」

「かまわんよ。最低だろうが何だろうが。
だいたい、こいつらは俺達の命を狙ってきた。
雇われていようとなんだろうとな。人を殺すってことは、逆に殺されても文句は言えないって事だ」

特に感情を込められていない声色で平然とそう言う男

「それでも・・・それでも彼らはもう私達を襲う気は無いハズよ・・・
今だってそうじゃない」

一つ一つ言葉を搾り出す様に言うアーリャ。

「縛られてるからな。それに俺が居るからだ。
それじゃ一つ聞くが、仮に、今ここで俺がそいつらの縄を解いてどこかに行ったとして、お前が無事である保障があるか?」

「・・・・・あるわ・・・」

「ほぉ、どんな?」

目を見開き、興味深げに聞き返した

「彼らの目を見れば解る。彼らは確かに雇われた。そして私達を殺そうとして襲ってきた。そして今、こうしてつかまっている。そして貴方との約束を信じて彼らは自分の心を曲げて、貴方に屈服したのよ・・・それでも彼らを殺すの?」

「心を曲げて屈服?」

意味が解らないという風体で首を僅かに傾げるタカシ

「彼らは傭兵よね?そんな彼らが、雇われた主の事を話したのよ?少なくとも、私達はその情報に報酬を払うとは言って無い。それなのに彼らは口を割った。これは傭兵としての自分の信念を曲げ、そして貴方に屈服したって事じゃないの?」

少しの自信を持ちながらそう言うが

「・・・違うね。お前、傭兵の事を何か勘違いしてないか?」

「勘違い?」

そう言い返され、僅かに戸惑う

「そうだよ。をい!群雲!いや、今は地下水と呼ぼう。
地下水、お前、自分の命と雇い主の秘密、どちらを守る?」

「・・・自分の命だね・・・命といえるのかどうかはしらねぇが、
俺ならそうする」

そう聞かれ、僅かに逡巡して、
いや、言いにくそうにしながら質問に答えるナイフ

「!?」

そんな予想外の答えに驚くアーリャ

「っだそうだ。地下水はプロの傭兵だ。
そんなこいつがこう言うんだぜ?そいつらがプロとは思えないが・・・
基本的に傭兵は自分の命が一番大事。依頼主は二の次さ」

ほらなと言う感じで肩を竦めて見せる

「・・・でも貴方は違うわよね?」

「俺は傭兵じゃない。ハンターだ。そいつらとは違うな」

「・・・・・・・」

ついに黙り込んでしまうアーリャ

「っさ、もう解ったろ?それに此処で逃がしても逆恨みで襲ってくる可能性がある。キッチリと後腐れないように始末するのが一番だ」

「・・・嬢ちゃん・・・旦那の言うとおりだよ・・・」

平然と言う男と、申し訳無さそうだが、事実を言うナイフ

「・・・・・・いいえ・・・まだよ」

そんな反応を見て、何かを決意したように言うアーリャ

「いや、もう終わりだ。どけ。
まぁ、どかなくてもそいつらだけを殺す手段はいくらでもある。
そうするだけだ」

そう言い、別の手段を使おうとすると

「いいえ。貴方、約束を破るの?」

「何度も言わせるな。そいつらとの約束なんか―」

「違う。私との約束よ」

「・・・・お前との約束?」

首をかしげながら言う。

「えぇ。舞踏会の時の勝負。私が勝ったわよね?本来は私を鍛えてもらうって言うのに使うつもりだったけど、貴方はそれはいいと言った。だから今まで保留してきたけど・・・今、その約束を使うわ。「私の願いを一度だけ聞く」だったわよね?だからお願いするわ」

スーっと息を吸い込み

「彼らをこのまま見逃しなさい!」

そう怒鳴った
その瞬間、彼は珍しく硬直していた。

「・・・・・・・・・」

呆然とするタカシ

「さぁ、お願いしたわよ?それとも、私との約束も破るというのかしら?」

どこか誇らしげに胸を張り質問する
そんな彼女を見て、一度うつむき、目を瞑り、そして顔をあげて

「・・・・・っち・・・・まったく・・・とんだ甘ちゃんだな・・・俺の雇用主は」

無愛想にそんな事を言い、溜息を吐きながら、
今、笑いをこらえるので精一杯だった

「解ったよ。約束だ。俺とお前のな。をい!そこの傭兵ども!いいか?お前らはこいつに助けられたんだ!お前達が殺そうとしていた中の一人にな。それだけはしっかりと覚えておけ!」

そう言いながら踵を返し、後ろでシルフィードに乗り本を読んでいたタバサの所まで歩いていく。しかし、その手にはしっかりと群雲が握られている。ちょっとでも妙な動きをすれば、すぐさま行動する気の様だ

「まったく・・・あなた達、ごめんなさいね。私の使い魔があんな事を言って」

申し訳無さそうに言いながら彼らを縛っている縄を解くアーリャ

「・・・お嬢ちゃん・・・何で俺達を庇った?俺達はあの兄ちゃんの言ってた通りの人間だ。雇い主だろうが何だろうが、報酬次第で裏切るし、命が惜しいときはお構いなく逃げる。そして俺達はアンタ達を殺そうとした。それなのになんでだ?」

傭兵達のリーダーらしき人物がそう聞いてきた

「・・・・だって・・・あなた達が死んだら悲しむ人だっているでしょ?」

縄を解き終わり、そう言い、微笑むアーリャ

「・・・・アンタ貴族だろ?何で俺達みたいな平民の事を気にかける?しかも、何度も言うが、俺達はあんた達を殺そうとした」

「平民も貴族も関係ない。人が死ねば、悲しむ人が必ず居るわ。貴方達にも家族や友人はいるでしょ?」

それを聞いて頷く男

そう言い、シルフィードの元に向かおうとするアーリャ

「待ってくれ!あんた!名前は?」

「・・・アーリャ。アーリャ・リヒテン・ド・ヴィ・ズィーフィードよ。貴方は?」

「俺はラッセル・・・」

「そう、じゃぁ、家族を大切にね、ラッセルさん」

そう言い微笑み、そのまま彼らから遠ざかる。
そうしてシルフィードにアーリャが乗り込むと、彼らを乗せた風龍がラ・ロシュールの港に向かい、飛んで行った。







以上です。いよいよロ・・・じゃない。ワルド子爵の登場ですね。次回はvsワルドという事で、どうなる事やら・・・少なくとも、何事も無く平穏に終るとは思えませんね・・・

ではこの辺りで。ご意見、ご感想等、どんどんお寄せください。





2008/09/20 誤字を訂正しました。



[4075] 第二部 第五章 決闘×私闘×折れない心
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/20 22:37




結局、すぐにサイト一行にタカシ達が合流
し、一行は港町ラ・ロシュールに到着した

「何で港なのに岩山なんだ?」

「ここの船ってのは、空を飛ぶんだとさ。だから少しでも高い方がいい。
そう書物に書いてあったな」

サイトが目を輝かせて辺りをキョロキョロみている。
タカシも興奮気味だ

「おぉ!船が飛ぶのか!さすがファンタジー!」

「まったくだな。しかし、ここは随分にぎわってるな」

など言いながら一行は本日泊まる宿へと足を運んだ。
そしてそこで一先ず休憩を取ることになった。

「ふむ、どうやら船が出るのは二日後らしい」

そのまま食事をしていた者達に、
船の予定を調べていたワルドが合流、報告した

その報告で、一同は仕方なく、此処に二日滞在する事になった。
そして部屋を三つとり、ワルドとルイズ。アーリャ、キュルケ、タバサ。
そしてタカシ、ギーシュ、サイトと言った組み合わせで、部屋へと向かった。

ちなみに、この部屋割りを決めたとき

「っぷ!をいをい、ロリ子爵様、いくらなんでもそれは・・・っぷ」

っと言い腹を抱えてるタカシがいたとか居ないとか



そんなこんなで一夜明け、翌朝サイト達の部屋にロリ子爵様が訪れた

「すこしいいかね?」

「よくない。ロリは失せろ」

ワルドの挨拶を一蹴する男・・・後ろでギーシュが慌てている

「・・・サイト君と言ったな?すこし、付き合ってくれないか?」

そんな彼を無視し、目的を果そうとする子爵様

「俺ですか?」

自分を指差し怪訝そうなサイト

「をいをい!?ロリだけじゃなくてモーホーかよ!?
ちょっと・・・お前、本格的にやばいな。
こういう変態は今のうちに殺しておくか」

そう言い群雲を片手にワルドを本気で殺そうとか考えているタカシを、
ギーシュが必死に抑えている

「・・・・少し、君の実力が見てみたいのだが・・・どうかな?」

あくまでもスルー

「いいだろう。さぁ、表に出ろ。キッチリと殺してやる。
変態は発見次第駆逐することに決めているんだ」

「・・・・・・・どうかな・・・・・サイト君?」

一応・・・名前で呼ぶことで目標を定めた様です・・・

「・・・・・・・まぁ・・・いいですけど」

そう言い、サイトとワルド。ついでにタカシも後を追って、
宿の裏の空間にやってきた

「ここは昔、貴族が――」

「いいかサイト?必ず奴を殺せ。手加減は一切無用だ。
「纏」の維持も忘れるな?いいな?お前のスピードなら、
あの変態が魔法を詠唱し終わるより早く、奴の首と胴体を分断できるハズだ」

サイトの目を見ながらしっかりはっきりとそうのたまう男。
本気と書いてマジと読みます

「・・・・お前・・・あのワルドって人に何か恨みでもあるのか?」

そんな男に冷や汗を流しつつも、疑問を口にすると

「いや、ただ変態が嫌いなんだ。発見次第駆逐することにしている。
いいか?特殊な性癖が一つくらい。つまり、
あいつの場合はロリだったわけだが、ともかく、一つなら構わん。
だが、ロリでホ○。これはダメだ。っと言うより○モはダメだ。
いいか?必ず殺せ」

何故かそこにこだわる男・・・トラウマでもあるんでしょうかねぇ・・・

「・・・・・・・・」

もはやワルドの話は誰も聞いていなかった。怒っているとは思うが、表情にも仕草にもそう言ったものは見えない。いや、
なにやら眉をヒクヒクさせている気がする・・・

「では、はじ…」

「よし!殺れ!」

ワルドが開始の合図をしようとしたが、
それを遮る声・・・そしてサイトが突っ込む。
どこかの馬鹿には誰も突っ込まない・・・

「っち」

流石に苛立ったのか、ワルドが舌打ちし、サイトの剣をかわす

「何!?」

一瞬で勝負を決める心積もりだったのか、かわされて驚くサイト。

「バカ野郎!?何やってるんだ!?早く殺れ!」

サイトの驚きに一喝する男

「くっそ・・・うおおおおお!」

そう言い再びとびかかるサイト

「君は確かに」

「バカ野郎!正面から突っ込むな!」

先ほどからワルドは口上を述べさせてもらっていません

「うるせぇ!さっきからすき放題言いやがって!だったら自分でやれ!」

先ほどから無茶苦茶を言われて、流石にサイト君も怒りましたね

「いいのか?俺が殺っていいんだな?
よし殺ろう。すぐ殺ろう。さぁ殺ろう」

そう言い群雲も懐から出し、ワルド目掛けて飛び掛ろうとした瞬間

「良い訳あるかこの大馬鹿!」

そう言いながらスリッパでタカシを殴り飛ばす少女。
ナイスタイミングです。ちなみに、後ろにはルイズが付いてきてます。
ワルドに呼ばれ、アーリャと共に様子を見に来た様ですね。

「何しやがる?」

本気で質問する馬鹿一名

「お前が何してやがる!!」

スパーンともう一発ぶち込むアーリャ

「何って、ゴミ掃除」

何を当然のことを?っと言いた気です

「・・・・・・」

こめかみに人差し指を当てピクピクしているアーリャ嬢

「ゴミは見つけ次第分別してきちんと処理しないとな。
変態はその場で殺るのが一番だ」

「・・・・・・・・・」

ワナワナと全身を震わせている

「わかったろ?んじゃ、ちょっと殺ってくるから、いい子で待ってろ」

そう言い立ち上がり、再びワルドを殺そうとするその時―

「ぐが!」

ワルドの魔法に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられるサイト

さらにそこに追い討ちと言わんばかりに
もう一発エア・ハンマーをぶち込むワルド。
どうやらどこかの誰かのせいでご立腹の様子です

「っがは!」

マトモに攻撃を食らい、倒れるサイト

「・・・あれであの程度なのか・・・なかなか頑丈な平民だな。しかし」

「バカ野郎!もういい!どけ!俺が殺る!」

「・・・・・・・ルイズ、見ていたかな?」

ワルド氏はタカシを完全に無視する事に決めたらしい

一方タカシはアーリャに説教を食らっている

「・・・彼は弱い。彼では君を守る事が」

「お前の方が弱い」

「人の話の途中に割り込むな馬鹿!」


「・・・・だって貴方は魔法衛士隊の隊長でしょ?」

ルイズも彼の言動は流す気です・・・冷や汗が流れてるのはご愛嬌

「そうだよ。でも、君はアルビオンに行っても敵を選ぶのかい?」

「・・・・」

それを聞いて黙り込むルイズ。

「行こうルイズ。とりあえず彼を一人にしてあ」

「とっとと失せろ。さもなきゃ俺が強制的に退場させてやる。無論、永遠にな」

「いいから!アンタはもういいから!」

「・・・・・・・・・・・」

無言でルイズの腕を掴み、連れて行くワルド。
シリアスに決めたかったのを何処かの馬鹿に邪魔されてゴキゲン斜めの様子です。
そしてその場にうな垂れるサイト

それを見て、先ほどまで暴走(?)
していたタカシが正気(いつもの調子)に戻り、話しかける

「よう、どうした?いつもの元気は」

「・・・俺は・・・・弱いな・・・」

そんな元気の無いサイトに苦笑しながらも

「んなことは無い。お前は強い」

「慰めは止めろ!・・・俺はあいつに勝てなかった・・・」

「だから?」

「え?」

だから?っと問われ、顔を上げて驚いた表情だ。

「あいつに勝てない=お前は弱い。そう言う方程式が成り立つのか?」

「・・・・・・」

「仮にそうだとして、お前はずっとそのままなのか?」

「・・・・・そんなの嫌だ・・・」

搾り出す様にそう呟いた。その呟きを聞き、ニヤリと笑う男。

「でも・・・・」

「なら、お前はこれ以上、絶対に強くなれないんだな?
今のお前の力。それがお前の限界なんだな?」

さらに挑発するように続けた。サイトも小さな声で、しかしはっきりと答える

「・・・・違う」

「聞こえないぞ」

「違う!」

先ほどまで座り込み、うな垂れていたが、立ち上がり、
拳を握り締めながらそう叫んだ。
そんな彼を見て満足そうな顔をしながら一言「そうか」と言う男。

「あぁ、そうだ!あんなスカした奴に・・・ルイズを渡してたまるか!」

っぐっと再び拳を強く握るサイト。
そんなサイトの姿を見て、ニヤっと笑う男

「ヒュ~♪熱いな」

「・・・うるせ!」

自分で叫んだことに、少しテレているサイトに苦笑しつつも、

「大丈夫。お前は強い。そしてまだまだ強くなれる。
お前の努力次第で、お前は何処までも強くなれる。
それは俺が保障してやる」

「・・・・本気でそう言ってるのか?」

結構本気で驚いている様子。今までそんな事を言われた事も無いし、
この男が言った所を見たことが無いので当然かもしれない。

「あぁ。お前があの日、俺に念を教えて欲しいといった日・・・
あの時のお前の目の光を見て、俺はそう思った。
だからお前を鍛える事にしたんだぞ?」

そんなサイトを意に介さず、ニヤリと笑いながらもそう言った。

「・・・・・そうか・・・そこまで期待されてちゃ、答えなきゃ男じゃないな」

そういいッフっと笑うサイト

「そうだな」

ニヤっと笑うタカシ。

そのままサイトは何か考え、呟く様に聞いてきた

「・・・なぁ、今の俺があいつに勝つにはどうすればいい?」

「勝ちたいのか?」

「勝ちたい」

今度はしっかりと言った

「そうか・・・なら、心を強く持て」

そんなサイトを少しだけ目を見開いて見て、僅かに考えてから答えてやった。

「心を?」

「そうだ。お前は、いくらガンダールヴで、
纏を覚えてきたと言ってもまだまだ一般人と大差ない。
あいつが言っていたように、「少し早くて頑丈な平民」だな」

「・・・また随分な言いようなだ」

事実を言われ、少し落ち込み気味のサイト君

「事実さ。だから、そんなお前があいつに負けないためには、
心を折られない事だ。そして勝つために、心を燃やせ」

「心を・・・?」

「念能力者の戦いにおいて、敗北は無い。戦う限り、必ず勝つ。
それ以外は無いんだよ」

「でも」

「いいか?負けると思ってしまえばそれまでだ。
その瞬間、負けが決定する。念に限らず、全てにおいていえる事だ」

何か言いかけようとしたところで、言葉を遮り続ける。

「この世に絶対は無い。だが、自分の心だけは絶対だ」

そう聞き、考え込んで黙るサイト。

「強い心を持てサイト。そして心を燃やせ。
思いを、感情を薪としてくべて燃やせ。そうすればお前は強くなれる」

真剣な表情でそう言う

「俺がお前を強いと言ったのは心の事だ。お前の心は強い」

「・・・・・そうか・・・・」

暫くそのまま考えてから、呟く様に言うサイト。何か吹っ切れた様子だ

「あぁ。さて、そんじゃぁ俺は、
世界の平和を守るために、ちょっと町の見回りでもしてくるかな」

「・・・あなた、それ本気で言ってるの?」

いつものおどけた調子に戻り、そんな事をほざきました。
それを聞き、今までだまっていたアーリャが訝しげに睨む

「俺はいつだって本気さぁ~」

「・・・・・あっそ」

「あ、なんかひでぇな」

「・・・自業自得よ」

そう言いながらその場を後にする二人

「・・・・ありがとよ」

その場に残ったサイトが小さくそう呟いた








以上、ワルド戦前半でした。いかがでしたでしょうか?アルビオンでの戦いはどうなっていくのか。サイトががんばるのか、それとも何処かの誰かが「変態は殺す」っといい乱入してくるのか。

では、引き続きご意見、ご感想等お待ちしております。





2008/09/30 誤字を訂正しました。



[4075] 第二部 第六章 襲撃×出航×リサイクル!?
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/20 22:48








そしてその日の夜、サイトは一人、ベランダで月を眺め、泣いていた。
タカシに言われた事は理解できるし、自分でもそうだと思う。しかし、純粋に勝負に負けた事が悔しくて泣いていた。

「をいをい、銀の兄ちゃんにも言われただろ?心を」

「解ってるよ!・・・それはわかってるんだ・・・でも・・・ケンカに負けるのは・・・やっぱり悔しいんだよ・・・」

「まぁ、ほれた女の前で負けちゃぁ、悔しいだろうなぁ」

「そんなんじゃねぇよ!」

「どーだかなー」

カタカタと音を鳴らしながらちゃちを入れてくるデルフを見て、深いため息を付く
ちょうどそんな時に、ルイズがやってきた

「・・・負けたからって泣いてるんじゃないわよ」

「・・・負けたからじゃない。帰れなくて泣いてたんだよ」

思わず心にも無い事を言ってしまった。

「・・・・そう・・・悪いとは・・・思ってるわよ」

「どーだか。犬扱いしてるくせに」

そんな憎まれ口を叩いている内に、どんどんエスカレートしてしまう二人。そして、ルイズはワルドと結婚すると宣言してしまった。

「勝手にしろ!」

「えぇ、勝手にするわ!」

そうしてルイズが歩き出そうとしたとき、

「うわ!」

サイトが悲鳴を上げ、巨大なゴーレムが現れた。





そんな事が起きている時間に~




「・・・ふ~・・・」

「・・・・」

「ここからだと月がよく見えるな・・・」

遠い目をして空を見上げる男。

「・・・・・・・・」

「お!天道虫だ!ほら!見ろよアーリャ」

「天道虫なんかどうでもいいから!ここは何処なのよ!?」

アーリャ嬢ついに爆発。
彼らは、「世界の平和を守るために町の見回り」をしていて、現在位置の把握が困難な状況に陥ってしまっていた。ぶっちゃけ迷子

「落ち着け」

「落ち着けるか!?」

「いいから、いいか?こういう時は深呼吸だ。さぁ、吸って、吐いて、吸って」

とりあえず言われたとおりに息を吸う

「吸って、吸って、吸って、吸って」

「すぅーすぅーすぅーゲホガハゴホ」

・・・言われたとおりにしてむせた・・・

「よし」

「よくない!」

「落ち着いたか?」

「落ち着けるか!?」

「まぁ、とりあえず帰るか」

「って、帰り道解るの?」

そんな意外な事を言われ、今まで怒鳴っていたのが嘘のようにキョトンとしている。そんな彼女を見て、苦笑しつつも

「道は解らんけど、場所くらいならわかる」

「道は・・・誰かに聞けばいいわね」

「嫌だよ面倒くさい」

「へ?」

そう言うと、アーリャの首を猫のように持ち、近くの家の屋根に飛び乗った

「あっちか。んじゃ、さっさと戻るぞ」

「ちょ!ま!せめて!もう!すこし!丁寧に!あつかえ~~~!」

屋根の上をぴょンぴょンと飛びながら宿へと向かう。
そして、宿への一本道に入った所で地面に着地

「ここまでくりゃいいだろ」

「・・・・・」

平然としてそう言う男と、ぐったりとしている少女が居た。

「さて、さっさと戻ってメシだメシ」

「・・・はぁ・・・もういい・・・おなかすいたし・・・」

何か文句でも言おうと思ったのか、しかし、あきらめ肩を落として溜息を付き呟く様に言った。

「食い気優先か」

「そうよ。文句ある?」

「いんや?別に無いな」

アーリャ嬢は多少自棄気味の様である。
ニヤニヤと笑いながらそう言うと、二人で宿に向け歩き出した。
その時

「ん・・・あれは・・・ゴーレム?」

「え!?」

そんな時、宿のベランダで腕を振るう巨大なゴーレムを見つけた。

「っち・・・面倒だな・・・いくぞほら!」

「ちょっと!自分で走れるってば~~~~」

また首を掴んで宿に向け疾走するタカシ。アーリャは首をつかまれ足が宙に浮いている

「文句は後だ!急いで!っち」

セリフを途中で切って急停止。急制動にアーリャも目を回している 

「出て来い!何の用だ?俺は忙しいんだ。出てこないなら」

「そう言うな。久々の再開じゃないか」

そう言い、建物の影から身長180サントはあろうかという大男が姿を現した。

「んで、何の用だ?」

「だから、久々の再開を祝して、ちょいと付き合ってもらおうかと思ってな」

ニヤリと不適に笑う男。しかし、そんな彼を見たアーリャとタカシは、お互いの顔を見合わせ「知り合い?」っと聞きあっている。

「・・・知り合い?」

「さぁ?お前の知り合いじゃないのか?」

「私にあんなゴリラみたいな知り合い居ないわよ。あなたのじゃないの?」

「俺にもあんな暑苦しい知り合いはいないな」

そんなあんまりにもあんまりな二人に、いい加減男が切れた

「・・・てめぇら!忘れたとは言わせないぜ!?」

「「忘れた」」

・・・即答しました。しかも見事にハモってます

「ケイン・ド・ウィンコット様だよ!?」

「「誰?」」

「トリスティンの城下町でてめーにとっつかまった賞金首だ!」

「「・・・・・・・・」」

二人とも顎に手を当て考え込む。本気で忘れてるみたいです。

「賞金100エキューのだよ!」

「「あぁ、あの時の」」

ッポンっと手を打ち思い出したっと言う感じですね

「それしか印象ないのかよ!?」

「「うん」」

「・・・そうか・・・よーっくわかった・・・お前らは死にたいんだな?言っておくが、俺様はあの時はドットだったが、今はお前達へ復讐するために修行してラインになったんだ!」

肩を震わせながら怒るケイン氏。気持ちは解ります。でもそのセリフは死亡フラグですよ?

「あっそ。でも今忙しいから後にしてくれ」

「っくっくっく、そいつはだめだな・・・なにせ、俺様はフーケが宿にいる連中を皆殺しにするまでに、お前らを殺さないといけ」

そんなやられ役みたいなセリフ言っていいんですか?

「なるほど。フーケか。んじゃ、いくぞアーリャ」

「えぇ、急ぎましょう」

「貴様ら!人の話をき」

ズドンという音と共に、男は吹き飛ばされ、民家にぶち当たり気絶した

「悪いな、今度遊んでやる」

そう言い残し、タカシはまたアーリャの襟首を掴み宿に向けて走っていった。・・・ケイン氏南無



そして、宿にたどり着くとゴーレムが宿の入り口を破壊し、中に入ろうとしていた。

「よう!フーケ。久しぶり」

そう言いながら右手を上げ挨拶するタカシ

「!?っち・・・あの男・・・口ほどにも無い・・・ひさしぶりだねぇ、坊や」

一瞬驚くが、すぐに平静を装っいながらゴーレムの肩に立つフーケ。
店の中ではキュルケ、ギーシュ、タバサが机や椅子でバリケードを作り、立てこもっていた

「おーい、サイト達はどうした?」

フーケのゴーレムを素通りして、彼らに近づく、ちなみに、首筋を掴まれたままのアーリャは気絶しており、そのままズルズルと引きずられている

「彼らは先に行った。私達は囮」

そんなアーリャを一瞬だけ見て、すぐにタカシの方を見て状況を説明したタバサ。

「そうか。そういやタバサ、魔法使って無いだろうな?」

「使って無い」

「ならいい」

コクンと頷きながら言うと、そのまま頭に手を置かれ撫でられ、少し顔を赤くするタバサ

「そ~なのよ~。この子ったら、いくら言っても魔法を使おうとしないのよ?ギーシュは役にたたないし・・・まったく・・・」

っと嘆くキュルケ。ギーシュOrz

「すまんね、俺と約束してるんだ。アレは俺が始末するから、それで勘弁してくれ」

そんな二人を見て苦笑しながら肩を竦め、ゴーレムを始末すると言い出した。
そう言いアーリャをポイっとバリの中へ放り込むと、フーケのゴーレムと対峙した

「っふ・・・いい度胸じゃないか坊や」

ゴーレムの肩からそんな彼らを見下ろすフーケ

「だろ?そういや、あの時のお前の顔。学院長のじじいにも見せたけど、大好評だったぞ?」

悪魔の微笑みに顔を引きつらせるフーケ

「・・・そうかい・・・・それじゃぁ・・・死にな!」

そう言いゴーレムの腕を振るい、バリケード諸共全てを吹き飛ばそうとするフーケ

「わりぃな。今日は時間を稼ぐ意味も無いし、すぐ終わらせてもらうよ」

そう言いながらその腕を受け止め、そのまま押し返す。前回は数メイル後退させただけだったが、今回は後退どころではなく、そのまま押し倒した

「な!?」

驚愕するフーケ。さすがにここまでとは計算外だったようだ

「これで終わりっと」

「硬」で右腕にオーラを集め、ゴーレムの体の中心を打ち抜く。そしてゴーレムは粉々に吹き飛んだ。その直後、フーケに駆け寄り杖をヒョイっと取り上げ、握りつぶした。

「うっそ・・・」

目を見開き驚きの声を上げるキュルケ。

「・・・」

同じように目を見開くが、声は出さないタバサ。

「流石は僕の友人だタカシ!」

三者三様にコメントしている。それと今日からタカシはギーシュの友人になったらしい。男友達第二号である・・・

「っく・・・アンタ、あの時もこうしようと思えばいつでも出来たってのかい」

倒れ、悔しそうに見上げ、唇をかみながらそう言ってくるフーケ。

「まーな」

なんでもない事のようにへらへらしながらそう言った。

「・・・だったら何故」

「いや、単純に何か仕掛けがあるのかと思って、様子を見ていたんだ。それに、こいつらが近くにいたから、一応非難させておこうと思ってな。最も、途中からサイトが来て、何かやりそうだったからただの囮に変更したんだけどな」

楽しそうに種明かしをした。

「っく・・・・・アタシじゃアンタに勝てないって事かい・・・・」

「そーだな。まぁ、筋は悪くない。精進しろよ?おねーさん」

くっくと笑いながら、そう言い放ち背を向けフーケから離れていくタカシ

「・・・・殺さないのかい?」

「殺して欲しいのか?」

首だけで振り返りそう聞き返してきた。

「・・・こんな無様な負け方したんだ・・・いっそ殺して欲しいね」

一瞬だけ何か考えたが、俯きながらそう言った・・・っが

「んじゃ嫌だ。殺さない」

「んな!?どうしてそうなるんだい!?」

意地の悪そうな顔をしてそうほざいた。あんまりなそのセリフに、顔を上げ、声を荒げるフーケさん。

「だって、自分から殺して欲しいなんて言う奴殺しても面白くないだろ?」

ニヤっと笑い、悪役全快で言う

「・・・・・・悪魔め」

忌々しそうにフーケが一言。

「・・・最悪ね・・・」っとキュルケ。ジト目である。「・・・卑劣」っとタバサ。同じくジト目「・・・それでも僕は君の友人だよ」少し冷や汗をかきながらも、友情を選んだギーシュ君。「いよ!さすが大将!」っとか合いの手を入れてきたナイフが居た。
そうすると、

「いーんだよ。ひとごろしはよくないよ」

「「「「思っても無い事言うな!」」」」

思わず全員突っ込んだ。

「んじゃ、さっさとサイト達を追いかけよう。あの変態め・・・俺が怖くて逃げるとはなかなか良い度胸だ。地獄の果てまで追いかけて必ず殺してやる」

っふっふっふと笑いながらも、彼は仲間の下で戻り、シルフィードにのってサイト達を追いかけて行った

「・・・まったく・・・とんだ奴を敵に回しちまったねぇ・・・」

呆れながら、少し笑ってそう呟くが

「お前がやられるとは、驚きだな」

独り言のつもりで言ったフーケの呟きに答える声があった

「・・・おや、アンタかい・・・見てたのかい?」

「いや・・・たった今来たのだが・・・この惨状と、飛んで行った竜・・・お前を見ればわかる」

「そういかい。悪かったねぇ・・・足止めにすらならなかったよ・・・」

「お前をここまで追い詰めるとは・・・あの餓鬼ども、油断できんな」

「・・・そうさねぇ」

フーケはそう呟き、月を見上げた










以上です。 以前「最強キャラ使って瞬殺はしない」っと言いましたが、まぁこれは例外です。ヤラレ役は再登場ですね。資源は有効利用という事でリサイクルしましたw
今回、対フーケ戦において、「タバサの魔法使用禁止令」が出ているため、キュルケ一人(ギーシュは・・・まぁね?)で相手をしなければならないのと、彼らには予めサイト達に合流してもらわないとこの先の展開として少し問題が出来てしまう~っという作者的な都合もあってフーケさんにはご退場願いました。

次回、いよいよアルビオンへ到着です。
それでは、引き続きご意見、ご感想等おまちしております。





2008/09/20 誤字を訂正しました。




[4075] 第二部 第七章 理由×夜空×最強の剣
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/20 23:02

先に出航した船に追いつき、サイト達と合流を果した一行。
サイトが途中で敵に出くわし、
ライトニング・クラウドの魔法を喰らったと聞き、
サイトの様子を見に彼の部屋に来ていた。


「こりゃ~ひでぇな」

っと呟くタカシ。しかし顔は笑っている

「いつつ・・・まったくだ・・・」

サイトの腕は半分ほど火傷していて、所どころ皮膚がただれていた。
さらに僅かだが、内出血もしているようだ

「それでも相棒、俺っちに当てて威力を吸収したとはいえ、
それだけで済んだんだ。相棒の習ってる纏ってのは、
なかなかの防御力じゃねーか」

「・・・これでこの程度なのかよ」

己の背中の剣を半眼で睨む

「あたりめぇよ。本来なら即死。おれっちに当たったとしても、
もっとヒドイ状態になってたハズだぜ?」

「まぁ、通常の纏ならこんな物かもな。
まだ修行を始めて日がたってないし、
安心しろ。みっちり修行すれば素手で弾けるようになる」

へらへらととんでもない事をほざく男。

「・・・なんかとんでもない話だなぁ」

「でも、旦那なら普通にやりそうだねぇ」

二本の剣と二人の男でそんな話をしていると、
ルイズとアーリャも部屋に入ってきた。

「・・・・大丈夫?」

少し不機嫌そうにそう呟いたルイズ

「・・・大丈夫に見えるのかよ?」

などと憎まれ口を叩いてしまうサイト

「うるさいわねぇ・・・いいから腕出しなさい」

そう言い船員にもらったと言う薬を取り出し、
サイトの腕に塗り始めるルイズ。

「・・・さて、んじゃ俺はもう寝るわ~。
何せ久しぶりに労働して疲れちまったからな~おら、行くぞアーリャ」

手をヒラヒラさせながらそう言い、
アーリャの首根っこを掴みズルズルと引きずって行く

「ちょっと!?またなの!?ってか、私は別に」

「いーからこい」

そんな彼女の抗議を無視し、そう言って二人はそのまま部屋を出て行った。

「何よあれ?」

「・・・さぁな(気使ってくれた・・・のかな?)」

不思議そうな顔をするルイズに適当に答え、
そのまま少し話し、眠りにつくサイトであった。



「・・・・・・」

ズルズルと引きづられているアーリャは無言だった

「・・・どうした?無言ってのはそれはそれで怖いんだがね・・・」

珍しく少し冷や汗をかきながらそう言うタカシ

「・・・別に・・・って言うか、自分で歩くから放してくれない?」

「・・・おう」

何やら大人しいな。普段からこれくらい大人しけりゃ、少しは可愛げも

「普段はガサツで悪かったわね」

「しまった・・・久々にやってしまった・・・っつか、
誰もガサツとは言ってねーって」

「・・・」

「おい、どうしたんだ?体調でも悪いのか?」

いつもと違って何やら元気が無いように見える

「・・・別に平気よ・・・」

「平気って言う奴の面じゃないな」

「・・・ふくれっ面で悪かったわね」

「誰も悪いなんて言ってないっつか、ふくれっ面とも言って無いな」

「・・・」

「おい?どうしたんだ?」

先ほどから不自然な彼女を、流石に心配に思った様だ。

「・・・・別に」

「・・・はぁ・・・っま、話す気になったら言え。
どんな事でも聞くだけ聞いてやるから」

「・・・・ありがと」

妙に素直っというか変な態度の彼女を不審に思いつつも、
本人に話す気が無いのなら仕方ないと思い、そのまま廊下を歩いていく

「ふむ、少し甲板で涼んでいくか」

そう言いアーリャの手を引き、甲板へ向かう。
彼女は何も言わず、ただされるがままであった

そして甲板に到着

「お~良い眺めじゃねーか」

甲板に着くと、そのままヘリに行き下の景色を眺めるタカシ

「・・・貴方の世界でも空は飛べたんでしょ?
別にそんなに珍しくも無いでしょうに」

そんな彼に少し呆れ気味に言うアーリャ。やはり何処か元気がなさそうだ

「んな事は無い。空を飛ぶっつっても、完全に周囲を壁で覆われていたしな。
違うのもあるけど、俺はそれしか知らん。
小さな窓から見るのと、こうやって見下ろすのでは全然違うよ」

「・・・贅沢ねぇ」

「贅沢は人生の娯楽の一つだぜ?」

「贅沢は敵って言葉があるんじゃない?」

「敵を知り、己をしらば百戦して危うからずって言葉もある。
つまり、贅沢を知らなければならないのだな。うむ」

「何勝手に解釈してるのよ」

あんまりにも無茶なその言い様に、思わず
クスっと笑いながらそう突っ込むアーリャ

「お、やっと笑いやがったな」

「・・・」

「またそこで黙りこんで・・・一体どうしたんだよ?」

そう言いながらヘリに背を預け、その場に座り込んだ。

「・・・貴方、フーケのゴーレムと戦ったんだってね?」

彼女もその隣に座った

「ん?あぁ、そうだな。お前が気絶してる間にな」

「・・・気絶させた本人がよく言う・・・でも、一瞬で終わったって」

俯きながらもそう聞いてくる。

「そーだな。今日は急いでたし、時間を稼ぐ必要も無かったしな~」

「時間稼ぎ?」

「前はサイトが何かやろうとしてたろ?
だから、一体何をやらかしてくれるのか見たくて、時間稼ぎしてたんだよ。
最も、最初は何か仕掛けでもあるのかと思ったから様子見てたってのと、
お前らが離れるのを待ってたってのもあったんだけどな」

「・・・そうだったの」

「あぁ。でもアレにはびびったね。
まさかバズーカをぶっ放してくれるとは。
くっくっく、それにあの時のフーケの顔。
写真に収めておいたからいつでも見て笑えるぜ・・・
サイトには感謝だな」

意地悪そうに笑いながら、楽しそうに言う

「・・・・そうね」

再び、っというかさらに俯いてしまった。

「をいをい、どうしたんだ?
いい加減に何があったか言えよ?気になるだろ?」

「・・・貴方、サイトの事随分と気に入ってるのね」

そう聞かれ、呟くように言った。

「あぁ。あいつは面白い。
最初はただの同郷人って認識しか無かったけど、あの決闘。
あれは平和ボケした国の小僧が出来る事じゃねーよ。
しかも、妙なルーンで強くなるしな」

「・・・・そうね」

「そんで今度はフーケを吹っ飛ばした後にいきなり
「話がある」っだ。しかもこれ以上ないくらいに真剣な顔でな。
そんで行って見りゃ前置き無しに「勝負してくれ」だぜ?
いやはや、本当に面白いよあいつ。
しかも、その勝負もなかなかだった」

思い出すように少し遠くを見ながらそう言い、楽しそうに笑った。

「・・・そんなにすごいの?彼」

この男がそんなに人を褒めたところを見たこと無いアーリャが、
驚きながら聞いてきた。

「あぁ。ガンダールヴ云々以前に、心が強い。
俺のあの時の気迫に真っ向から突っ込んで、
しかも勝つために次の手段をとる。
そして負けた後にもあいつの目はギラギラ光ってた」

「・・・そうだったの」

「あぁ。そんで「念を教えろ」っだ。
教えてみたらどんどん吸収していくしな。
スポンジが水を吸い込むどころじゃなく、砂漠に水撒いてる感じだよ」

そう言い楽しそうに笑うタカシ

「・・・そんなに」

それを聞き、再び俯いた。

「あぁ。感情で流されやすいから波が激しいけど、
それを自分でコントロールできるようになったら一気に伸びるな。
まったく・・・呆れるくらいだぜ」

そういいながらも楽しそうに言っていた。
そして呟く様に、何処かを見ながら

「あいつは強くなる・・・俺よりもな」

「貴方よりも!?」

そんな言葉に大いに驚くアーリャ。

「あぁ。無論今すぐは無理だ。
でも、あいつは必ず強くなる。
ならなけりゃ、俺が強くして見せるさ」

「だからあんなに筋トレさせてるの?」

「ん?あれはただの基礎だ。
健全な精神は健全な肉体に宿るってね。
強さってのは、念や筋力じゃない。心だ」

「心・・・」

「あぁ。今はまだいろいろ揺らいでいるけど、
そこに芯を通して、焼入れすれば絶対に折れない最強の剣が出来上がる。
俺はそれが見てみたい。あいつはそんな可能性がある」

そう言い、楽しそうに笑う

「・・・何で?」

そんな彼の言動を不審に思い、思わず質問するアーリャ。

「人の可能性ってのを見るのは面白いんだぜ?
こいつは何処まで出来るか。自分は何処まで行けるのか。
ってな。そんな可能性を追い求めて人は生きてきたんだ」

遠くを見るようにそう呟く。

「・・・私には無理ね・・・」

「は?何言ってるんだ?」

そんな言葉を聞き、俯き、意気消沈するアーリャに逆に驚き質問する

「だって・・・私にはそんな物無いもの・・・
トライアングルなのに実戦じゃ何の約にもたたないし・・・」

「あのなぁ・・・もしかしてさっきからそんな事気にしてたのか?」

そんな彼女に呆れたように質問した。

「そうよ・・・悪い?」

「あぁ。具体的に何処がと言うと、頭が悪い」

真顔で言い放ちましたよ。アーリャさんも思わず突っ込む。

「大きなお世話よ!」

そんな彼女に苦笑しながら、言い聞かせるように言う

「いいか?お前は十分大きな可能性って奴を持ってるんだ。
あの時、あの夜にそれを俺は見せてもらった」

「・・・何の事?」

「あの日、お前は「答え」を出したろ?
俺は「いままでこんな答えを見たことが無い」と言った。
あれは本当だ。これでもいろんな人間を見てきた。
そして、お前はその中で最高と俺が思える答えを出したんだ」

「でも・・・だからどうってワケでもないわ」

「お前馬鹿か?」

どうやら本気で「馬鹿か?」っと聞いているようです。

「何よ!失礼ね」

「お前、あの日は俺を召喚して丁度一週間くらいだったよな?」

「えぇ、そうよ」

「そしてそれ以前のお前は全く違う考えだったんだよな?」

「・・・えぇ・・・そうね」

「そんで、たった一週間。
しかも、俺は特に何もして無い。お前が自分であの答えを出した」

「でも、それは貴方の話を」

「誰の話を聞いてなんて関係ない。
お前があの答えに自力でたどり着き、そしてあんなに堂々と言い放った
「これが答えだ」とな。
一週間でここまで変われるという「可能性」をお前は見せてくれたわけだ」

「・・・でも貴方が居たから」

「何度も言わせるな。誰が居たか、誰の影響を受けたかは関係ない。
「お前が自分で考え、自分で結論を出し、自分であんな啖呵を切った」
それだけだ。それにな、俺は自分の答えを出すまでに人を死なせた。
それでも、お前みたいな答えは出なかった。
別に自分の答えに不満があるわけじゃないが、
お前に比べるとはるかに見劣りしちまうよ」

「・・・でも・・・それは」

「しつこい!あぁ、解った。ならこうしよう。
お前は俺の影響を受けた。しかし、今の俺があるのは俺の昔の仲間達のおかげだ。だから、お前が感謝し、敬うのは彼女達だ。俺じゃない。いいな?」

それでもしつこく食い下がるアーリャに、
いい加減焦れて怒鳴るようにそう言った。

「っぷ・・・・何よそれ」

あんまりにも無茶な物言いに思わず噴出してしまった

「ともかく、お前の可能性ってのも俺は見てみたい。
だからお前も鍛えてるんだぞ?」

笑いながらそう言った

「・・・一つだけ聞かせて・・・」

「おう、いいぞ」

「・・・私は強くなれる?心も、魔法も・・・私にそんな可能性がある?」

しっかりとこちらを見据えて聞いてきた。

「二つだな。まぁいい。お前は強くなれる。
サイトの時にも言ったが、ならなけりゃ強くさせる。
俺に教えを請うんだ。それくらいになってくれなきゃ困る。
そして二つ目。お前には可能性がある。
どのくらいかなんて想像も付かない程の可能性がな。
だから俺はそれも見てみたい」

「・・・そう」

それを聞き、何事か考えている様だ。

「あぁ。最初はお前やサイトに特にそう言った興味は無かった。
それより、この世界自体の方に興味があったからな。
適当に愛想でも振りまいて、一人で好き勝手やろうと思ってた。
でも、お前らと過ごすうちに、そんなお前らの可能性の方が見たくなってきた。
それだけだな」

「っそ・・・でも、貴方まだこの世界に来て10日くらいしか立って無いんじゃないの?」

「おぉ・・・そう言われればそうだな・・・
どうも此処は時間の感覚が狂うぜ・・・
もう2,3ヶ月居たような気になってたよ」

「まったく・・・しっかりしてよね」

少しだけ元気が出たのか、微笑みながらそう言ってきた。

「へーへー、わるーござんしたね」

「まったく・・・
こんなのがあのフーケのゴーレムをパンチ一発で吹っ飛ばすような奴なんてねぇ」

「・・・もしかして、その時一人だけ気絶してた事、根に持ってるのか・・・?」

「そ・・・そんな事ないわよ?」

頬を引きつらせながらそう答えられても説得力ゼロですね。

「・・・ふーん。そーかそーか」

なにやら嫌らしい笑みを浮かべる男。

「え・・・・えぇ・・・そうよ」

そんな男に冷や汗を流しながらあくまで違うと言い張るアーリャ。

「っま、別の機会に見せてやるから、それまで我慢しな」

そう言い彼女の頭に手をのせぐりぐり動かす

「だから!貴方は私の頭を何だと!」

「いやぁ・・・丁度良いい位置にあるんだよ・・・本当に」

「・・・遠まわしにケンカ売ってるのかしら?」

「まさか、褒め称えているのだよ」

「ウソつけ!」

「ほんとーだって」

「あなたいい加減に・・・ふぁ~ぁ・・・もう・・・今日は疲れた・・・」

今日はいろいろあってお疲れのご様子です。

「おぉ、もうこんな時間か。っま、今日はいろいろあったしな」

「えぇ・・・無抵抗の人間を・・・
殺そうとしたり・・・ワルドししゃくに・・・
けんか・・・う・・・った・・・り・・・」

うつらうつらと船を漕ぎながらもそう言うアーリャ。
そんなアーリャに苦笑しながらも会話する。

「昨日とごっちゃになってるぞ」

「・・・えぇ・・・そうね・・・」

そんな彼女を見て、
彼は自分の着ているコートを彼女の方にかけてやった

「風引くぞ」

「・・・・だい・・・じょう・・・・ぶ」

「いや、ダメだろ」

そのままポテンっという音と共に、
彼女はそのままタカシの肩に頭を預けて眠りに付いた

「・・・まったく・・・いろいろ難しく考えすぎなんだよ・・・
もっと思ったとおりにすりゃいいものを・・・あの傭兵の時みたいにな・・・」

っふっと笑い、そのまま一度空を見上げる。

そして一言

「もう出てきて良いぞ」

そう言うと、物陰から青い髪の小柄な少女がスッと出て来た

「どうして?」

どうして気がついたの?ではなく、
どうして出て来いと言ったのかを聞いている様だ。

「いや、何か話しがあるのかと思ってな」

どうやらアーリャの様子がおかしい事に気がつき、
様子を見ていた様だ。そんな彼女に苦笑しつつも、そう質問する

「聞きたい事はあった。でも既にアーリャが聞いた」

「そーかい」

そしてそのまま彼はアーリャの頭をやさしく撫でていた。
そんな行動を見たとき、タバサはトトトっと駆け寄り、
アーリャとは反対側、彼の隣に腰を下ろし、
同じように肩に頭を預け、そのまま目を瞑り動かなくなった。
そんな彼女の思わぬ行動に多少驚きながらも苦笑交じりでその頭を反対の手でやさしく撫でてやる。

そしてふと、空を見上げた。そこには二つの満月。
苦手だった満月が、何故か不快には感じられなかった








以上ですね。 ここでも少し言ってますが、
彼の方針としてはサイトを鍛えること。です。(作者的にも)
私としてはサイト君はすごいと思いますよ。小説の中の事なので、「実際にそうなったら」なんて言っても意味無いんですが、それでも、実際に私が同じ立場になったら、最初の決闘の時のサイトの様な事をする自身はありません(ヘタレとか言わないでw)そんな彼に対する作者の評価は結構高いんです。

それから「最初とキャラかわってね?」っと言う意見の方もいらっしゃると思いますが、「最初は適当に愛想ふりまいてた」っと言う事です「あれで!?」って突っ込みは置いておいてくださいwまぁ、理由としては話をスムーズに進めるためっと言う事もあります。ともかく、そういう事ですねw

以上、次はいよいよアルビオンへと到着します。アルビオン編は後三話の予定ですので、いよいよ大詰めです。

引き続き、ご意見、ご感想等お待ちしております。





2008/09/20 誤字を訂正しました。



[4075] 第二部 第八章 空族×お城×王子様
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/21 00:17


一夜明け、サイトの腕もほぼ治ってきていた。
そして甲板に出て、ルイズ、サイト、タカシ、アーリャが、前方に見える巨大な大陸を見ていた。

「おぉ、あれが浮遊大陸って奴か」

手を翳しながら空に浮く大地を見るタカシ。

「おぉ!すげぇ!あんなのが浮くのかよ!?」

っとタカシと一緒になってはしゃいでいるサイト。

「あれを地上に落としたらどうなるのかな」

悪戯小僧の顔でそんな事をのたまう男。

「・・・まさかとは思うけど、やるつもりじゃないでしょうね?」

この男ならやりかねない。
そう思ってしまえるような事なので、一応突っ込むアーリャ嬢。

「今は別に落とす気ねーな」

「今後とも落とすな!」


そんな騒ぎは一人の船員の叫び声により中断された。

「く、空賊だああぁ!」

「「何!?空賊だと!?海賊じゃないのか!?」」

そんな船員の声の方向へ、勢い良く、目を輝かせながら振り向く二人。

「「喜ぶな!」」

目を輝かせて喜ぶ二人に一応突っ込みを入れておきましょう。

そして船はあっさり降伏。空賊が続々侵入してきた。

そんな中

「をい!見ろよ!あれ、間違いなく海賊だな」

っとはしゃぐサイト。

「あぁ、あの格好。間違いないな」

腕を組みうんうん言うタカシ。

「でも、空だから空賊か・・・なんかロマンがねーな。男なら海だろ」

ダメだししてます。

「いや、俺は空だね。海なんて塩くさい」

サイト君は空が好き。

「空なんて浮いてたらいつか落ちるだろ?それに海は魚が食える」

いや・・・そこ重要?

「海だって船に穴開いたら沈むだろ?それに空だって鳥が食える」

いや・・・鳥は・・・

「穴あいても塞げばいいんだよ!」

「燃料さえ補給すりゃ空も落ちねーよ!」

「海!」

「空!」

海派と空派で見事に意見が分かれていますね。
ちなみに私は海派です。どーでもいーですね。さーせん

自分達を無視してそんな騒ぎを起こしている二人に
空賊達が一人、また一人とよってくる。

「海だ!男なら荒波を感じる海!」

「空だ!何者にも縛られない自由な空!」


「おい」


「ただフヨフヨ浮いてるだけだろ!?」

「ただチャプチャプ漂ってるだけだろ!?」


「をい!」


「んじゃ、こいつに聞いてみよう」

「いいだろう」

そう言い男を指差すサイトと、大きく頷くタカシ

「「をいあんた、男なら「空」「海」、どっちだ?」」

「え・・・いや・・・急に言われても・・・」

そんな急に訳解らない事振られても困りますよね。

「「いいから早く答えろ!」」

「えっと・・・自分は個人的に空かと・・・一応自分、空賊なもんで・・・」

頭をかきながらそう答える空族A。

「ほら見ろ!空だ!」

その答えを聞き、喜ぶサイト君。よかったですね。

「っく、この世界に男のロマンがわかる奴は居ないのか・・・Orz」

などと馬鹿をやっているうちに、完全に包囲された四人。
え?ルイズとアーリャ?もちろんさっきから居ましたよ?
ただ呆れて黙ってただけです。

「・・・・・あれ?」

「ん?どうしたサイト?」

「・・・いや・・・何かこの人たち怒って無い?」

今更気が付きました?

「さぁ?溜まってるんだろ?何がとは言わないが」

「そっか・・・」

何か悟ったような目ですね。
もう一人の馬鹿は放置します。

「それより、そろそろ朝メシじゃねぇか?」

「・・・・なぁ、そんな雰囲気じゃなくねぇ?」

「んな事無いって。
なぁおっちゃん、ちょい腹へったんだけど、メシ何処で食えばいい?」


「・・・・こっちだ・・・こい!」

「おう、さんきゅー」

「「「・・・・・・」」」



そして四人は船底の一室に放り込まれた。
そこにはすでに先客として、タバサ、キュルケ、ギーシュ、ワルドが居た。

「おっちゃん、さんきゅーな」

まだそんな馬鹿な事を言う男が一人。

「貴方・・・状況がわかってるの?」

いい加減アーリャがジト目で突っ込んだ。

「あぁ。訓練され、統率が取れた空族にこの船は拿捕された。
俺達は此処にまとめて閉じ込められ、現在大ピンチ。これでいいか?」

「・・・・解ってるじゃないの・・・」

「まぁ、あの場で暴れてもよかったんだけど、とりあえず全員集合しとかないといざって時に困るしな。船に積んである硫黄を爆発させられてもたまらんしね」

「・・・あれは演技?」

「いや、実際腹減った」

「・・・・あっそ・・・」

一瞬期待?したのか、うな垂れて溜息をついたアーリャ嬢。

「え!?あれ演技だったの!?」

「アンタは途中まで素でやってたわよね・・・」

そんなサイトを半眼で睨むルイズ嬢。

「ち、ちげーよ」

サイト君は途中まで素だったようです。


そしてそのまましばらくして、空賊が首領を連れてきた。
タカシは特に何もせずに、だまって状況を見ていた。
無論、何かあればすぐに動くつもりだった様だが、
その必要も無くなったようだ。
何故なら、空賊はアルビオン王立空軍の残党だったからである。

そしてそのまま彼ら、アルビオン王党派が立てこもる
「ニューカッスル城」の地下にある港に船は入港した。


「ほ~。こりゃすげぇ。鍾乳洞か」

「・・・ねぇ、もしかして最初からこうなる事が解ってたの?」

手を翳してキョロキョロと周囲を見る男に、もしやと思い聞いてみた。

「まさか。ただ、錬度も連携も一流の兵隊だったから慎重に行動しようと思って、様子をみてたらこうなったのさ。これは正直予想外だった」

「・・・その割には落ち着いてるわね」

「んな事ねーって。十分驚いてるさ」

「本当かしら・・・?」

「本当だって、信用ねーなぁ」

タカシとアーリャがそんなやり取りをしている間に、
船は無事寄航し、積荷を下ろして行った。
そして、彼らはアルビオン王家最後の客として、
その夜の晩餐に招待されたのだった。


パーティーは城のホールで行われ、
王座にアルビオン王、ジェームズ一世が腰掛け、
集まった者達が次々と踊り、騒ぎ、食事をしていった。

そんなことがしばらく続いている様を
壁に背を預けながらタカシは眺めていた。
そこへワイングラスを二つもってアーリャがやってきた。

「・・・飲まないの?」

「・・・気分じゃねーんだ」

少し元気が無いアーリャに、何事か考えているのか。
何処か上の空の返事が返ってくる。

「何でよ?」

「ちょっと考え事をな」

「彼らの事?」

「ん?」

「彼ら。アルビオンの王党派の人たちよ。この人たち、明日死ぬつもりね」

そう言いながらうな垂れていく

「あぁ、そうだな」

「・・・私は・・・この人達が死ぬのは見たくない」

「そうか」

「・・・あなたならなんとか出来る?」

僅かな希望にすがりつくようにそう言った。
しかし、彼女の期待に答える返事は無かった。

「・・・無理だな。「数万の敵を足止めしろ」なら出来る。
一撃離脱なり、頭を潰すなり、いろいろと方法はある。
だが、「押し寄せてくる数万の敵を撃退しろ」っというのは無理だ。
俺一人が仮に1000人倒しても、残りは俺を無視して城を攻めればいい。
確かに、ここの連中だけで戦うよりは敵に被害を与えられるかもしれんが。
結果は変わらない。
押し寄せてくる敵に対して必要なのは個人の力ではなく、一定の数だ」

そう淡々と、事実をありのままに答えてやった。

「・・・そう・・・出来れば・・・何とかしてあげたい」

その答えを聞き、先ほどよりさらに沈み込んでしまうアーリャ。

「そうか・・・ん・・・・そうだな・・・・
ん?・・・そうか・・・まてよ?」

そんな事をして、何やら自問自答し、思い立った様子だ。

「ん?どうしたの?」

そんな会話の最中に、サイトとウェールズ皇太子が何やら会話し、
サイトがそこから離れて行った。
そして、サイトが出て行った頃、ウェールズ皇太子がこちらにやってきた。

「やぁ、楽しんでいるかい?」

片手にもったグラスを掲げ、気さくに挨拶してくる皇太子。

「皇太子様・・・はい・・・」

「っふ・・・そうは見えないが・・・何か不満でも?」

明らかに元気がなく、楽しんでいないアーリャに苦笑しつつも
会話を続ける皇太子。

「いえ・・・そんな事は・・・」

明らかに何か言いたそうなアーリャに対し、
タカシは顎に手を当て、何事か考えていたが

「なぁ、さっきサイトに何を言った?」

「ん?サイトとは先ほどのヴァリエール嬢の使い魔の少年かね?」

いきなりタメ口を利く無礼者にも、平然と答える皇太子。

「あぁ」

「あぁ・・・私達はここで王家の義務を果たして死ぬ。そう言ったのだよ」

「サイトは止めただろ?」

「あぁ。かれはやさしいな。私達の事を心配してくれたよ」

「あぁ、あいつはそういう奴なんだ」

その答えを聞き、少しだけ楽しそうに笑った。

「君は何か無いのかね?先ほどから何事か考えていた様子だが」

「ふむ・・・そうだな・・・いや・・・よし。
なぁ、あんた。いや、失礼した。ウェールズ皇太子。一つお願いがございます」

「急に改まって何だね?」

急に態度を改めてきた男を怪訝そうに見る皇太子。

「国王陛下にここへご足労頂ける様に取り計らって頂けないでしょうか?」

「・・・父上に?今なら私と共に玉座へと連れて行けるが・・・」

「いいえ、国王陛下御身にお越しいただきたいのです。無論、貴方もご一緒に」

「・・・・わかった・・・お聞きしてこよう。しばし待たれよ」

そう言うとウェールズは国王の下へと向かい歩いて行った。
いきなりそんな態度を取ったタカシを
奇妙な物でもみるかのような目で見るアーリャ。

「・・・一体どういうつもり?」

「・・・うん。名案が浮かんだんでな。」

「・・・名案?」

「おぉ、アーリャ。お前の望み、かなえてやるよ」







そして、国王がウェールズに支えられながらタカシ達の下へやってきた。

「国王陛下。此度はワザワザ御足労頂き、恐悦至極に存じます」

片膝をつき、頭をたれて礼をとるタカシ。
その横でアーリャも同じようにしていた。

「そう改めんでもよぞ、少年よ。
貴行等は我がアルビオン王国最後の客人。これくらいの事、どうと言う事は無い」

そう言いながらアルビオン国王、ジェームス一世は用意された椅子に腰掛けた。


「恐縮です・・・では、早速ですが・・・
此度ワザワザお越し頂いた理由をお聞かせしたいと思います」

「うむ、何かな?」

「単刀直入に申し上げます。あなた方は明日、死ぬ気ですね?」

そう言われ、ほんの一瞬だけ固まったが、すぐに答える国王。

「その通りだよ少年。私達は明日、反乱軍と戦い、王族の義務を果す」

「・・・たとえ犬死になるという可能性があったとしても?」

「その可能性があったとしても。
それでも我々は王家の誇りを示さなければならないのだよ。
王家がコソコソしていては、反乱軍になめられる。
ハルケギニアの他の王家のためにも、我々は明日、死ななければならないのだ」

「残された者達がそれを望まないとしても?」

「・・・そうだな・・・残された者達には・・・
確かに気の毒だ・・・しかし・・・我々は為政者だ。
そんな我々ばかりが身内の事を心配していては国が滅びる」

そう聞かれ、僅かに考えるが、やはり考えは変わらない様だ。

「既に滅んでいるのでは?」

「ちょっと!何を」

注意しようとしたアーリャを片手で制し、国王は続けた。

「少年、国とは人だ・・・我らではなく、そこに暮らす民だ・・・
我らが死んでも、民が残る。
その民の中の我らが命惜しさに逃げ出した臆病者として見えるか。
誇りを持ち、決して敵に後ろを見せぬ勇者として見えるか・・・
どちらが映れば国が残ると思う?」

答えは出ている。確認事項として問いかけてきた様だ。

「普通なら此処で後者というでしょう」

「君は何か違う意見があるのかね?」

それを聞き、一瞬だけニヤリと笑った。

「あります」

「是非聞かせてもらえないだろうか」

そんな彼の意見とやらが気になったのか、質問してきた国王。

「その前に、もう一つお答え頂きたい」

「なんだね?」

「あなた方は、最善をつくしますか?」

「最善を尽くすさ」

「貴方の信じる神に誓って?」

「我が始祖ブリミルに我等は最善を尽くす事をここに誓う」

そう淡々と言う国王を見て、さらに少しだけ笑う男。

「・・・わかりました。では申し上げます」

「私は、敵を倒し、民を救うために勇気ある決断。
戦略的撤退をし、改めて民を救う。
これこそ、民の望み、皆が望む事だと考えます」

「・・・・少年・・・それは理想だ・・・たしかに・・・
最高の結末かもしれない・・・しかし、それは現実的ではないのだよ」

そんな答えを少しだけ予想していたのか、僅かだが落胆の色が見て取れた。

「何故ですか?」

「まず、撤退が成功しない。
数人なら撤退する時間を稼げるだろう。数十人でもなんとかなる。
しかし、それが限界。
それ以上撤退しようとすれば敵の進行を食い止めることが出来ないのだよ。
そして、少人数を撤退させたところで、何も出来ない・・・仮にワシやウェールズが脱出したとしても。
そのような少人数では何の意味も成さないのだ・・・」

「なるほど。では仮に、全員撤退できた場合はどうですか?」

そう問われ、僅かに考えた。
そして

「・・・あくまでも仮にだが・・・
ここにいる者達は皆、一騎当千の古強者ばかりじゃ・・・再びこの地に舞い戻り
敵を打ち倒す事も夢では無いかもしれん・・・だが」

「ならば、その撤退の時間を稼ぐ方法があるとしたら?」

「・・・そのような方法など無いのだよ・・・
我等とて、何度も検討したのだ・・・」

「いいえ。あります。あなた方だけでは不可能です。
しかし、違う要素を加えることで、それが実現可能になります」

「何だと!?ほんとうかね?」

思わずウェールズが横から口を挟んだ。

「はい」

「・・・そのような夢物語など・・・」

国王はそれでもそんな方法は無いと言いた気だ。当然の反応であろう。

「では、詳しく説明いたしましょうか?」

「してみたまえ・・・」


そして、彼により発案された計画が、ハルケギニア史に残るある大きな事象を起こす。








以上です。次回いよいよ大詰めです。
ちなみに、最初に言っておきますが、「一人無双でどうにかする」っという事はありません。理由は本文でも書いてある通りです。


では、引き続きご意見、ご感想等お待ちしております。




2008/09/20 誤字を訂正しました。



[4075] 第二部 第九章 結婚×決着×脱出
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/21 00:44





そして翌日、ルイズとワルドの結婚式が行われていた



「え~っと、それでは二人は永遠の愛をちかいますか~?
って、アタシこういうの苦手なのよねぇ・・・ともかく、
誓うか誓わないかはっきりなさい!」

ワルドとルイズの二人の他に、この城の礼拝堂にキュルケが居た。
本来なら、ウェールズがここにいる予定だったのだが、
何故か彼はここに居ず、代理と言う事でキュルケが居た。

「さぁ、どっちなのよ?早くしなさい」

じれったいっと言った雰囲気出しまくりのキュルケ。

「・・・・・・僕は始祖ブリミルの名の下に、ここに永遠の愛を誓う」

不機嫌そうに言うワルド。本来の計画と違えばそりゃ~ねぇ。

「・・・・・・・・・」

黙っているルイズ。何事か考えているようで、ずっと上の空だ。

「ルイズ?どうしたのよ?イエスかノーではっきりいいなさいな」

ルイズの顔を覗き込むのうにキュルケが言う。

「・・・彼女は少し緊張しているようだね」

「あら、この子は緊張したらもっとガチガチになるタイプよ?」

「・・・そんな事僕は知らない」

「そう。まぁ、とりあえず!返事なさい!」

ワルドの言葉をどうでもいいと言う様に答え、ルイズの返答を促すキュルケ。

「・・・・・・・・・」

「もう!私は早くダーリンの所に行きたいのよ!とっとと返事して終わらせなさい!」

「・・・・・ダー・・・・りん・・・・」

相変わらず何事か考えているルイズが、キュルケの一言に反応した。

「そうよ!サイトよサイト!」

「サ・・・・イト・・・・・サイト!?」

そこで「ッハ」っとしたように顔を上げるルイズ。
何か自分の中の考えに整理が付いたようである。

「あら・・・・どうしたのよ?」

そんなルイズを怪訝そうに見るキュルケ。

「ワルド様。申し訳ありません。私は貴方と結婚できません」

そしてワルドに頭を下げ、出て行こうとすると

「ルイズ、君は僕と来るべきだ。
僕には君が必要なんだ!君の「力」は、僕に必要不可欠なんだよ!」

ルイズの肩を掴み、そう言い放つワルド。

「・・・ワルド・・・貴方・・・私を見てないわね」

「見ているさ!君には力がある!
今はまだ目覚めていないが、僕と一緒にくれば必ず目覚める!」

興奮気味にそう言い放ち、肩に置いた手に力を込めるワルド。
しかし、彼の目にルイズは映っていない。

「嫌!貴方は私を見ていない!そんな貴方と、私は絶対に結婚なんてしないわ!」

「ルイズ!考え直すんだ!僕と一緒に来い!」

「嫌ったら嫌!」

「ちょっと子爵?フラれたからってみっともないわよ?
あきらめて違う相手を探しなさいな」

そんなワルドを見苦しいと思ったのか、溜息を付きながらワルドによるキュルケ。

「うるさい!貴様に何がわかる!」

そう言い、詰め寄ってきたキュルケを突き飛ばすワルド。

「ちょっと!何するのよ!?」

いきなりのそんな暴挙にワルドから距離をとり、抗議するルイズ。

「まったく・・・あの餓鬼といいお前達といいウェールズといい・・・
こうも僕の予定を狂わせてくれるとは・・・・」

怒りに顔を歪め、ギリっと言う音を立て歯をかみ締めるワルド。
今回の任務は散々ですね。

「・・・何・・・こいつ、危ないんじゃないの?」

「ワルド・・・?」

キュルケとルイズが後ずさる。

「・・・・僕の物にならないなら・・・お前は必要ない」

そう言いルイズに杖を向けた。

「ちょっと!」

「何を!?」

咄嗟にキュルケがファイヤ・ボールの魔法を使う。
そして生み出された火の玉ごと、ワルドの放ったエア・ハンマーにより
壁に向かって吹き飛ばされた。

「君達にはここで死んでもらおう・・・
結局、三つの目的の内一つしか果せそうにないな・・・」

「三つの目的・・・?」

キュルケの方に駆け寄ろうとして、足を止め質問するルイズ。

「一つはウェールズの暗殺。
二つは君の持っている手紙の入手。
三つ目はルイズ、君だったのだが、仕方ない。死んでくれ」

「あなた!?反乱軍の!?」

そう言うと同時にエア・ハンマーでルイズをキュルケの位置にまで吹き飛ばす。

「では、ここでさよならだ。まもなく我が軍がここに到着するだろうからね」

そういい杖を構えた。

「いや・・・・助けて・・・助けて・・・・サイトーーーーー!」

そしてワルドが魔法を放ったその時








その瞬間、壁をぶち破り部屋に突入する物があった








丁度キュルケがワルドに吹き飛ばされた頃、サイトはイーグル号の甲板に居た。

「どうしたよ相棒?結婚式見に行かないのか?」

「・・・いきたくねー」

「不貞腐れるなよ」

「ふてくされてなんかいねーよ」

「まったく・・・素直じゃないねぇ」

「うるせぇ」

腕を組み、そこに顔をうずめてそう呟く様に言うサイト。
昨晩ルイズと何事かもめて、それで落ち込んでしまっている様だ。
背中に背負ったデルフとそんな会話をしていたら

「・・・あれ?何か・・・右目が変だ・・・」

「ん?どうした?」

「何か・・・違う景色が写る・・・キュルケ!?」

「おい!どうした相棒!」

デルフがそう言い終わる前に、サイトは甲板を飛び出し、走って行った。




そして



「・・・・こんな所にまで出てきて邪魔をするとはな・・・ガンダールヴ」

忌々しそうにそう吐き捨てるワルド。

「・・・・・・」

壁をぶち破り、ワルドの魔法をなぎ払って、ワルドと対峙するサイト。
彼は何も言わない。
首だけを動かし、キュルケと彼女に抱きかかえられているルイズを見る。

「ルイズ・・・キュルケ・・・」

「ダーリン・・・安心して。ルイズは気絶しているだけよ」

キュルケの腕の中でぐったりとしているルイズを見て、すぐに視線をワルドに移す。

「てめぇ・・・・・許さねぇ」

ギリっと歯を噛み、怒りを隠そうともしないサイト。

「っふ・・・たかが平民が。大きな口を叩くな」

余裕の仕草でそう言い放ち、魔法でサイトを功撃し始めた。
その魔法がデルフに当たる。

そして、デルフがそれを吸い込んだ。

「何!?」

いきなり起きたありえない現象に驚くワルド。

「いやぁ・・・悪いなぁ相棒・・・あまりにも退屈だったんで・・・自分の姿を変えていた事をすっかり忘れてよ・・・相棒の心が震えてくれたおかげで思い出したぜ・・・今、元の姿に戻ってやるよ」

そうデルフが言うと刀身が輝き、錆が消え、鋼の刃に変わった。

「さぁ、相棒!これがガンダールヴの左手!魔剣デルフリンガー様の真の姿だ!
魔法は全部俺様が吸い込んでやる!お前は奴を切る事だけを考えろ!」

その言葉を聞くと頷くだけで返事をし、ワルドへと突っ込んでいくサイト。

「っふ、ならばこれでどうだ!ライトニング・クラウド!」

そう言い、以前サイトに怪我を負わせた魔法、ライトニング・クラウドを放つワルド。しかし、その魔法がサイトを傷つける事はなく、デルフに吸収されていった。

「何!?」

その言葉と共に、サイトが振り下ろした剣を、自らのサーベルで受ける

「無駄だ!俺に魔法は通用しねーよ!」

サイトに変わってそう叫ぶデルフ

「うおおおおおお!」

そう叫び声を上げながら、ワルドを突き飛ばした、

「っく・・・ならば・・・ユビキタス・デル・ウィンデ」

ワルドが唱えた魔法。
風の四乗 ユビキタス。
四人のワルドが現れた。

そして、四人のワルドは一斉にライトニング・クラウドの魔法をサイトにぶつけた

「っく!」

危険を感じ取り、間一髪でそれを回避するサイト。

「相棒、ありゃ、俺が吸収しきるまえに相棒の体を傷つけちまう。
喰らわないように」

そんなデルフの言葉を聞いていない様子。何事か呟いている。

「・・・・強い・・心・・・」

「相棒?」

デルフの声を途中で切り、サイトが呟くように言う。


「―負けない為には、心を折られない事だ勝つためには、心を燃やせ―」

そんな言葉が脳裏を横切る。

「・・・折れない・・・心・・・思いを・・・込める・・・」

「・・・・相棒?」

「・・・心を・・・燃やす!」

そう言うとサイトのオーラが膨れ上がった。

まだ彼は知らない。
それは念能力の基礎の一つで「錬」。彼は知らずにそれをやった。

「うおおおおおおお!」

体の中の怒りを吐き出すように、感情を吐き出すようにして彼は叫ぶ。
ビリビリとその声だけで、腹に響く感じだ。

「・・・・おい、そこの貴族・・・お前・・・死んだぜ?」

デルフリンガーが楽しそうにカタカタなる。
そして叫びながら、再び四人のワルドに突っ込むサイト。
先ほどよりもさらに早い。

「馬鹿め!死ね!」

そう言いながら再び、四つのライトニング・クラウドをサイトに打ち込む。本来、これで確実にサイトは死ぬであろう。しかし

「征け!相棒!!なるべく多く吸い込んでやるから!あの野郎を叩ききれ!!」

そうデルフが叫び、そしてサイトと魔法がぶつかった。

その瞬間。

それは起きた。

デルフが吸収し切れていないライトニング・クラウドの余波がサイトの体を焼こうとした。

しかし、余波程度では彼の体に傷は付かなかった。体を覆うオーラを「錬」により増強されている事により、彼自信の防御が格段に強くなっているのだ。
恐らく、今の彼なら一発程度の直撃をくらっても死ぬことは無いであろう。

「なに!?」

驚愕の表情を浮かべ、一瞬動きを止める四人のワルドしかし、その一瞬が致命的。

黒い風が三体のワルドを切り刻んだ。

「っく!」

それでもワルドはユビキタスを切り、一瞬体勢を崩したサイトにエア・ハンマーを当て、壁まで吹き飛ばす。さすが、魔法衛士隊の隊長と言った所か。

「っく・・・たかだか平民風情が・・・
いくらガンダールヴといえど・・・一体何だ」

唇をかみ締めながら言うワルド。
そう自問した心算だろうが、その疑問に答える声があった。





「だから言ったろう?サイトはお前より強いと」





そんな声が聞こえてきた





「!?」

ワルドが声のする方を睨む。そこには、楽しそうに。
実に楽しそうに腕を組みながら彼らの戦いを見ていたタカシが居た。

「貴様!いつからそこに!」

彼に杖を向け、そう怒鳴る。

「丁度サイトがこの部屋の壁をぶち破った時だな。いやぁ、派手に注意を引いてくれたおかげで、こうして良い物を見せてもらえたよ」

本当に楽しそうに笑いながらそう言う男。
そしてその後ろに、アーリャとウェールズが居た。

「ウェールズ!?何故ここに」

「っふ・・・それは」

何事か可笑しそうに種明かしでもしようとするウェールズだが

「をい、ウェールズ!変態と口を聞くな。変態がうつるぞ」

「っふ・・・そうだね。もはや彼と話すことは無い」

あんまりな言いがかりに苦笑しつつも、その意見には賛同するようだ。

「っく・・・ならば死ね!」

そう言い魔法を放つが、その前に翳された手ではじかれた

「をいをい、お前の相手はサイトだ。俺達じゃない」

ニヤリと笑い、顎でサイトのほうを指す。
そう言うと吹っ飛ばされたサイトが起き上がってきた。

「っく」

忌々しそうに言い、杖をサイトに向けるが

「サイト!お前がコイツを殺したいのは解るが、時間切れだ!退くぞ!」

っといきなりタカシが叫び、後ろの二人を引き連れて、三人は彼の元へ向かう。

「邪魔するな!俺はあいつを許さない!」

怒りを隠そうともせずに叫ぶサイト。
そんなサイトの様子を嬉しそうに見ながらも

「それはいい。よく解ってる。でも、耳をすませて聞いてみろ」

そう言われ耳をすませてみると、兵士達の叫び声が聞こえてきた。
どうやら敵が城に乗り込んできた様だ。

「な?作戦は当初の予定を終了した。
これより最後の仕上げをする。その前に、俺達は脱出だ」

ニヤリと笑う。
丁度その時、ボコっと地面に穴が開き、そこからモグラが現れた。

「サイト!」

そういいながらギーシュがモグラの穴から顔をだした。

「「ギーシュ!?」」

サイトとキュルケが驚きの声を上げる。

「タカシに言われたとおり、ルイズの指輪に向けて穴を掘らせたよ!
さぁ、いこう」

そう叫び、再びモグラと共に穴に戻るギーシュ。

「よし、お前ら行け。穴の出口でタバサとシルフィードが待機している。
シンガリは俺が務めるから安心して行け」

そして彼らとワルドの間に悠然と立った。

「でも」

「解ってるさサイト。あいつを倒すのはお前だ。
俺は時間を稼ぐだけ。安心しろ。アレはお前の敵だ」

何事か、納得出来ない様子のサイトに苦笑しつつ、そう言い聞かせ、しぶしぶ納得したのか、気絶したルイズを抱え穴に入っていく。

「・・・あなたがいろいろ言ってたのってこのためだったのね」

キュルケがジト目で睨んできた。そんな彼女にへらへらと

「んな事ない。まさかこんな状況になってるとは・・・まぁ、ちょっとだけ予想はしてなくもなかったが、予想外だよ」

そう言い、それを聞いたキュルケは少し笑いながらそのまま穴へと入る。

「私は最後までここに一緒にいるわよ?」

「好きにしろ」

アーリャのそんな発言に苦笑しながら答え、アーリャは彼の後ろに控える。

「では、先に行かせてもらうよ。すぐ追いつくんだろう?」

「あたりまえだ。あんな変態に俺がどうこうできる訳が無い」

その答えを聞き、っふっと笑い穴に向かウェールズ。

「逃がすか!」

ワルドが杖を向け、魔法を使おうとした瞬間、
その杖が、タカシがオーラを込めて投げた石によって弾き飛ばされた。

「焦るな。お前のような変態はここで殺してやりたいが、
お前を殺すのは俺じゃない。サイトだ」

楽しそうなままそう言う。実にSな笑みです。

「っく・・・何故、何故貴様はあの小僧にそこまでこだわる!」

いい加減むしゃくしゃしてきたのか、当り散らすように問いかけるワルド。

「面白いからさ。あいつ、この土壇場で自力で「錬」を使いやがった!
いくらなんでもアレは予想外だ。予想外にも程がある。信じられないよ!
ありえないと言っても良い!まったく、あいつは何処まで強くなるんだろうな?
何処まで俺に見せてくれるんだろうな?」

目を輝かせ、子供の様な笑顔でそう言った。

「あの平民が強いだと!?」

そんな事は信じられないといわんばかりのワルド。当然であろう。

「そうだよ。あいつは強い。お前なんかよりもな。
いいか?お前をここで殺さないのはサイトのためだ。
お前はサイトの踏み台として、有効的に活用させてもらう」

大きく頷きながら、真面目な声で、それでも
楽しそうにニヤニヤしながらといった難しい行動をするタカシ。

「踏み台だと!?」

「あぁ。いいか変態?サイトはまだまだ強くなる。
そんな強くなったサイトに、お前は正面から戦いを挑まれ、容赦なく敗北する。
そしてサイトは憎むべき敵であるお前を倒す事により、さらに一段階上へ登る」

実に楽しそうだ。

「っく・・・貴様・・・最初に会ったときから一々絡んできたが・・・
僕に何か恨みでもあるのか?」

今まで思っていた疑問を、片っ端からぶつける様であった。

「あるっちゃあるし、無いっちゃない。
お前は俺の弟子にちょっかいを出した。まだまだ未熟で基礎から叩き込んでるのに、お前の様な輩に弄られたくないんでな」

「弄られる?」

「そうだよ。まったく、人のモルモット・・・じゃない。
友人兼弟子の成長を阻害しようとしやがって・・・
だが、結果だけ見ればお前はよくやってくれた。感謝しているよ」

本気で感謝しているようだ。
どうやら本当にワルドを、「風のスクウェア」の彼を踏み台程度にしか思っていないのか・・・

「どういう事だ!?」

「サイトがお前に明確な敵意を示してくれた。
そんな倒すべき敵の姿がはっきりする事で、あいつはさらに強くなれる。
しかも、ぶっつけ本番。何も教えてないのに「錬」まで使って見せた。
本当に感謝してるよ変態。いや、ワルド子爵殿」

っくっくっくと笑いながらそうのたまった。

「っく・・・」

そんな男を忌々しそうに見つめる。
杖を飛ばされているので、拾いに行くまで魔法が使えない。
かといって、取りに行こうと動けばこの男がどう行動するかわからない。
ワルドは動けず、ただ質問を投げかけるだけであった。

「っと、おしゃべりは此処までだ。俺達は撤退する。
お前にここで死なれると困るから言っておこう。今すぐ城を出ろ」

「何?」

「死にたく無ければ今すぐ城を出ろと言ったんだ。
それじゃ、俺達は行くぜ?せいぜ精進しろよ?
お前ごときでも、サイトの踏み台として有効なんだからな?」

ニヤっと笑い、そのまま後ろでだまってみていたアーリャを抱え、穴に飛び込んで行った。

そして群雲片手にフライの魔法で滑空。
前方で待っていたシルフィードの背中に着地した。

「やぁ、お疲れ様」

気軽に片手を挙げ、そう挨拶するウェールズ。

「おう。ウェールズ。計画通りにしたろうな?」

「もちろん。抜かりはないさ。そろそろだよ?」

二人してニヤリと笑いあいながら彼らがニューカッスル城を見据える

「なぁ、何が始まるんだ?」

そう質問するサイトに

「○ピュタだ」

楽しそうに、本当に楽しそうにしながらっと答えたタカシ。そして―――






「突撃ーーーー!城内に立てこもっている王党派を皆殺しにしろーーー!」

そう叫びながら反乱軍が次々に城へと突撃していく。

「隊長!敵が何処にも見当たりません!」

「そんなはずは無い!よく探せ!」

そんな部下の報告を一蹴し、次の指示を出そうとしたとき。

いくつかの大きな爆発音がした

「何事だ!?」

「解りません!我が軍ではないようです!」

「敵か!?」

「しかし、敵の姿は」

そう言いかけた時、ゴゴゴゴゴと言う音と共に、地震が起きた

「な!?」

そんな男の言葉と共に、大地がずり落ちた。







『・・・・・・・』

シルフィードの背中で、その光景を見ていた皆は唖然としていた

浮遊大陸の岬の先端に建設されたニューカッスル城。
その城がゴゴゴと音を立てながら、城が立っていた大地ごとゆっくりと落下している。

「あーっはっはっは!見ろ!人がゴミの」

「黙りなさい!」

それはもう、悪戯大成功で目を輝かせ、大はしゃぎする子供のように。
そしてそんな喜びを我慢しきれないと言わんばかりに両手を広げ「ふはははは」
っと笑いながら何事か言おうとしたが、
スパーンとアーリャに叩かれ不満そうな顔をするタカシ。

「・・・・一応君から作戦を聞いたときに、少し予想はしていたが・・・実際にこれを見ると・・・すさまじいね・・・」

ウェールズがかつての自分達の根城が地上に向け落下していく様を見ながらそう呟いた。

「・・・・なぁ、お前俺達の所に来るまでに一体何をしてたんだ?」

そんなありえない現象が目の前で起きている。
サイトは思わず質問した。それに楽しそうにしながら答えるタカシであった。

「ん?それはな――――








以上です。次回、種明かし編です。いったいどんな悪戯をしてきたのか。
少なくとも、ただ城を落としただけではありません。
それとサイトの本番で「錬」ですが、まぁ以前、原作(H×H)のウィングさんも言っていた「燃える方の燃」と似たような事を言わせていたので、それもあながち間違いではないそうで。まぁ、多少無茶があったかもしれませんね。
そして「ここでこんな事すると原作の流れ変わる」っと言う疑問がある方。大丈夫です。ちゃんとしっかりとした理由も本文で記述します。

それと、ワルド子爵の腕。原作だと切られてますが、ここは「踏み台として少しでもベストの状態のほうが好ましい」っとか思って残してありますw

ちなみに、ラピュ○ですが「あれって宇宙に飛んでったんでね?」っとおっしゃる方。その通りですね。ただ、あのニューカッスル城を見たときの作者の第一印象が「天空の城」=「ラピュ○」っと言う感覚だったんですよw

それでは、引き続きご意見、ご感想等お待ちしています。






2008/09/20 誤字を訂正しました。



[4075] 第二部 第十章 戦略×撤退×真実
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/21 01:29



そしてタカシは、夢物語のような方法を説明する前に、タバサ、キュルケ、ギーシュを呼ぶように頼み、まず彼らの協力を仰いだ。

「頼む。三人とも。俺の計画に協力してくれないか?」

「まず内容をきかせて」

「私に出来ることなら協力するわよ?」

「友人の君の頼みなら、出来る範囲で協力させてもらうよ」

タバサ、キュルケ、ギーシュの返事を聞き、再び国王とウェールズに説明を始めた。

「では、改めてご説明いたします。まず、作戦は五段階に分かれています」

「ふむ。続けてみたまえ」

「まず第一段階。敵の先鋒の駆逐。
第二段階。罠の設置。
第三段階。設置した罠へのさらなる仕掛け。
第四段階。罠による敵の侵攻への時間稼ぎ。
第五段階。城の建設されている岬の先端部。大地を爆破することにより、城ごと地上に落下させ、進入してきた敵の殲滅、及びかく乱。
っと、簡単に言えばこうなります。詳しい内容を説明してもよろしいですか?」


「・・・・うむ」


いつの間にか周囲の声が消え、ホールに居た者たち全員が計画を聞いていた





そして作戦の内容を聞き終えた。

一同は言葉を発しない。

「・・・大変興味深いが・・・不可能だよ」

ジェームス一世が呟くように言った。

「何故不可能だと思うのですか? 作戦に何か不備でも?」

「・・・確かに、計画はすばらしいが・・・最初の段階で挫折するだろう・・・それに最後の城を落とす事など本当に可能なのかね?」

「まず、最初の第一段階での事ですが、貴方は先ほど、自分達は歴戦の古強者ばかりだとおっしゃいましたね?そんな者達と私ならば、十分可能です。そして最後の城の落下。これは爆薬等を仕掛ける位置を計算し、適切に設置できれば十分に可能です」

そして国王は何事か考えて

「・・・・・・・君が言う事が真実なら・・・確かに可能性は高い・・・・しかし、君の話はとても信じられないのだよ・・・少年」

そんな答えを予想していたのか、平然と次のカードを切った

「では実証いたしましょうか?」

「・・・どうやってだね?」

「ここに居る者のうち最も腕の立つ者と私の決闘でどうでしょうか?」

「・・・しかし、たとえ君が勝ったとしても、それでも先ほどの話を信じるに足る根拠にはならんぞ?」

それでも渋る国王に、さらにたたみかける。

「では、ここにいる者全員と私の決闘でも構いません」

「な!?ちょっとタカシ!?」

「お前はちょっと黙ってろ」

いい加減アーリャが咎めようとするが、彼に一喝されて黙りこむ。
そんな彼を見て、国王が呟く様に言う。

「・・・・随分な自信だな少年」

「自信ではなく確信です。私はでき無い事は言いません」

言葉に一切迷いは無い。そこから感じられるのは確かな自信。

「・・・・・しかし・・・」

それでも渋る国王。
さすがにいきなりそのような事を言われてもとても信じられないと言った様子だ。当然であろう。

「・・・・・はぁ・・・いい加減にしろよじじい」

「な!?貴様!国王陛下に何たる無礼を!」

いい加減にじれたのか、いつもの無礼な態度に戻りスっと立ち上がり王を見下しながら言う。
そんな彼を嗜めようと叫び声を上げる者もいる。

「うるせぇ、人がせっかく貴様らの命を繋ぐ方法を延々と語ってやったってのに、今度はそれが信用できないだと?」

「いい加減にせんか!」

周りに居た重鎮が力ずくでとめようと杖を出した瞬間

ドゴンっという音が響く。

見ると、壁を叩くタカシが居た。

その壁には巨大なクレーターが出来、周囲にも亀裂が走っていた。

その音と光景を見て、一堂が静まり返る。

「・・・少年、そこまでして君は一体何をしたいのだね?」

国王が平静を保ちながらも質問を投げかけてきた。

「俺はあんたらの命を繋ぐ。そう言ったはずだが?」

「何が目的かね?金か?地位か?名声か?」

「そんな物はいらないね。俺が欲しいのは駒と借し。
それとアルビオン王家からの信頼だ」

「・・・駒?」

「そう。優秀な駒だ。あんたらはその優秀な駒に選ばれたんだ。感謝しろ」

ニヤリと笑いながら、国王に向けて駒と言い切った。
あまりの言いように周囲は唖然としてしまった。そんな彼をみて、何か考えるようにしながら質問を続ける国王。

「・・・・どういうことだね?」

「今はそれを言うべき時じゃない」

「・・・それで我等が納得すると?」

「・・・いい加減にしろよ?じじい、お前はさっき最善を尽くすと誓ったな?」

そう問われて即答する。確かに彼はそう誓ったのだから。

「確かに誓った」

「それなら今の貴様らは何だ?その最善という「可能性」が今、目の前にあるのにそれを無視し、あくまでも下らない自尊心のためにせっかくの「可能性」を無視し死のうとしている」

「・・・自尊心?」

「そうだろ?自分達は逃げられない。そう決め付ける。
ならば我等は此処で勇ましく散ろう。あ~、我等はなんと勇ましいのだろうか」

両手を広げ、ワザとらしく下手な演技。そんな演技に少し、流石に怒りを覚えたのであろうか、声を低くして国王が聞き返してきた。

「・・・それが我等の自尊心だと?」

「そうだ。いいか?どうせお前ら死ぬんだろ?なら、人生最後で最大の賭けをしてもいいんじゃないのか?チップはお前らの命。成功すればそのまま手元に残る。失敗したら無くなる。それだけだ」

「・・・・その賭け・・・・勝率は如何程なのかな?」

ここまで黙っていたウェールズが一言そう聞いた。

「8割以上」

ニヤリと笑いながらその質問に即答する。

「・・・随分な自信だね」

「自信じゃない。事実だ。その理由をいくつか列挙しよう。
1、敵はこのような方法が存在する事を全く知らない。
2、敵はお前達が篭城すると決め込んでいる。
3、敵は数は圧倒的だが、この城の地形。ここを攻めるなら、どんなに数が多くても一度に相手にする人数はせいぜい千~二千。その程度ならどうとでもなる」

それを聞き、しばし思案するウェールズ。

「・・・君一人で私達三百人分の働きをする・・・っと?」

「だからさっき言ったろ?ここにいる全員対俺で決闘してみせようかと。
それに俺一人でやるわけじゃない。さっきも説明したろ?」

さらに何事か考え

「・・・その賭けで勝って君が得るものは?」

「さっきも言ったが優秀な駒とアルビオン王家への借しそして信頼」

「地位や名誉はどうなのだね?」

「いらん」

地位や名誉を「いらん」と即切り捨てたので、少し興味を持ったように理由を聞いてくる。

「・・・・何故かね?」

「そんなお飾りが何の役に立つ?」

ニヤリと笑いながらそういった。

「・・・・っそうか・・・そうか」

それを聞き、一瞬目を見開き、そしてウェールズはしばし思案。

「・・・父上、私は彼の策に賭けてもよいと思います」

「ウェールズ様!?何を!?」

「・・・ワシもそう思っておったのだよ。ウェールズ」

「陛下!?」

国王と皇太子のそんな言葉に周囲が慌てる。

「おぉ、なかなか話のわかる親子だな」

一人にやりと笑い、そんな二人を褒めた(?)

「・・・まったく・・・無礼もここまでくるといっそ清清しいわ。少年、名を何という?」

小さく笑いながら名を聞いてくる国王。

「崇。龍宮崇。アーリャ・リヒテン・ド・ヴィ・ズィーフィードの使い魔だ」

「ちょっと!?私の名前出さないでよ!こっちに火の粉が飛ぶでしょ!?」

いきなり名前を出されて焦るアーリャ。
でも、王族の何やらを火の粉と例える貴方も十分無礼では?

「をいをい、使い魔を見捨てるのか?ご主人様?」

「都合のいいときだけ人を主人扱いするな!」

おどけた調子で言ってくる男に、今まで黙っていた分も話すように叫ぶアーリャ。

「そんな・・・おれは君が主人であることを一時でも忘れた日は無いというのに」

「私の目を見てそれ言いなさいよ」

「できるわけねーだろ?」

「なぜかしら?」

「は、はずかしいからだよ」

「棒読みよ?」

「は、はずかしくなんかないんだからね」

「セリフ変えても棒読みに変わりは無いわよ?」

「しつこいなぁ~」

「あ~な~た~ね~」

「ふわっはははははは」

いつもの馬鹿な光景を見て、たまらず国王が笑い出した。

「おうじじい、良い笑いっぷりだな」

「いやいや・・・まったく・・・若い者には敵わんな」

目の涙を拭きながらそう仰った国王。

「まだ引退するなよ?あんたにはまだ使い道があるんだ」

「一国の国王を捕まえて使い道と申すか」

これまた愉快と言った表情だ。

「あぁ。一国の王なんて使えるか使えないかの違いしかないからな。所詮お飾りだ」

「本人を目の前にしてそれを言う奴を初めてみたぞ」

「俺もだ。初めて言った」

そして二人は笑いあった。

「そうか・・・くくくく。いいだろう!皆聞け!我等は明日、彼の立てた計画通りに行動!ニューカッスルを撤退し、来るべき決戦の日のために命を繋ぐ!」

『な!?』

「いいか?我々は必ずこの地に戻ってくる!その日のために、我々は明日死んではならない!諸君は私に命をささげると言った。そして私は、彼、崇殿に命を預ける!諸君も彼の指示にしたがえ!」

そう叫び、立ち上がった。

『・・・・』

「おい、お前ら。いいか?これは逃げじゃない。勝ち目の無い戦いを避け、勝機を待ち攻勢に出る事は逃げとは言わない。お前らの国王はそう言ってるんだぞ?それとも、ここで死んで楽になるつもりか?お前は主君を残して楽になるつもりか?」

そんな国王の言葉に、今だ迷いがあるであろう者達に向け、追い討ちをかける。

『・・・・』

「お前らはさっき王家の義務を果すと言ったな。
王家の義務とは死ぬことか?それとも、民のために生きることか?どっちだ?」

「諸君!我々は必ず戻ってくる!そのことを、我が始祖ブリミルに誓おう!」

その国王の言葉に、その場に居た者たちが答えた。

『おおおおぉぉぉーーーーーー!!』



「さて、一丁あがりだな」

やれやれと言った風体で、軽くそう言うタカシ。

「・・・・貴方・・・なんて無茶な事を・・・」

いつもの無茶と違い、アルビオンの王族への無茶である・・・
流石に慣れてきたアーリャも呆れ気味だ。

「多少の無茶はしないとな」

「・・・でも、一番危険なのは貴方よ?」

「解ってるさ」

「・・・・そう」

一応、彼の身を案じている様だ。

「失礼、少しいいかね?崇殿」

そんな二人の会話に、ウェールズが割ってはいる。

「おう、ウェールズ。「殿」はいらねーよ」

「そうか・・・ではタカシ。君に礼を言いたい」

「いらねぇ」

「そういわずに言わせてくれ」

いらないと言われても、言いたいと食い下がるウェールズ。
どうやら、彼は生きるという希望を見せてくれた事を相当感謝しているようであった。

「嫌だね。いいか?俺は俺の目的のためにあんたらを生かす事にしたんだ。
あんたらが感謝することじゃない」

「それでも我等は」

「わかったわかった。んじゃ、脱出した後に聞く。これでいいな?」

それでもしつこく言うウェールズに、適当に言い放つ。

「・・・わかった・・・必ず言わせてくれよ?」

「まかせろ」

だが、それでも彼は礼が言いたい様である。
そしてそう言いタカシはニヤっと笑った。

それを後ろで見ていた友人達に話しかける。

「んで、お前らは協力してくれるのか?」

「協力する」

タバサが即答した。

「・・・ここまで話を進めておいて今更ね・・・いいわ!面白そうじゃないの!」

何だかんだで、彼女も結構乗り気の様だ。

「友人の君の頼みなら断れないな」

友情に厚い男ギーシュ君。

「おう、さんきゅー」

そんな答えを聞き満足そうに笑う。
そんな中、ウェールズが

「そういえば、私は明日ワルド子爵に結婚式の司祭を頼まれているのだが・・・」

「何!?あの変態に!?っつか、相手は・・・・ルイズか!?」

それを聞き、驚くタカシ。

「あ、あぁ・・・そうだが・・・どうかしたのかね?」

「キャンセルしろ」

「ぇ?」

一瞬何を言われたのか解らず、思わず聞き返してしまった。

「いや・・・待てよ?」

そう言い何事か考え出す。
そんな彼に冷や汗をかきながら、ウェールズが質問してきた。

「・・・どうしたんだね?」

「うん。そうだな。よし、キュルケ!その役目お前がやれ」

そしてキュルケを指差した。悪戯小僧の顔で

「えぇ!?私が!?」

「そうさ。ウェールズにはちょいと別の仕事があるんだ。
だからお前だ。もちろん、お前にも別の仕事があるが、それまで暇だろ?」

突然話をふられ、とんでもない事を言われ、そのまま無理やり了承させられたキュルケ。

そして

「くっくっく・・・せっかく王子様に立ち会ってもらえると喜んでいた奴が、落胆するのは実にいいだろうな」

実に楽しそうですね・・・。
性格悪すぎです。
そんな彼らを見てウェールズが冷や汗をかきつつ

「・・・君は彼が嫌いなのかね?」

「あぁ。人のモルモット・・・もとい、親友にちょっかいをかけやがったからな」

「・・・最初の部分は聞かなかったことにしよう・・・だが、王族としての」

「些細なことだ。変態に敬意を払う必要はない」

「・・・・君に嫌われると散々な目に会いそうだね」

溜息を吐きながら、苦笑してそう言った。

「タチが悪いんです・・・」

アーリャが頭を抱えながら呟く

「自称魔王」

タバサも溜息を吐いてそう呟いた

「・・・激しく不安ね」

キュルケもなにやら脱力感がある様子

「同感だね」

ギーシュも冷や汗を流しながら同意していた。

「それでこそ旦那だ!」

群雲はそれでもはやし立てる。

そんな一同を無視し、楽しそうに笑う男。







一夜明け、いよいよ決戦となったその日

反乱軍レコン・キスタによるニューカッスル総攻撃が開始されようとしていた。
まず初めに、空中に浮かぶレキシントン号を旗艦とした戦列艦隊による艦砲射撃が行われていた。

ドーン、ドーンという大砲の重低音や、城壁の崩れる音が聞こえる中。
城の一室に彼らが居た。

「お~、派手に始まったな・・・そろそろか」

手を翳し、人事のようにそんな光景を眺めている。

「・・・随分とお気楽なのね」

不満そうな表情のアーリャ。

「気をはってりゃ上手くいくワケでもねーしなー」

へらへらと笑いながらそうのたまう。

「それでも・・・戦いよ?命を賭けた・・・それをそんな・・・」

「人生ってのはいつでも命がけさ。人間、生きてる限りいつ死ぬかわからん。
学院に居ても事故か何かで死ぬ確立はゼロじゃないんだぞ?」

あくまでもいつもの調子。

「・・・・それでも」

「ま、言いたいことは解るがね」

「・・・本当、いつもと変わらないのね」

そんな彼に苦笑しつつも、そう言ったアーリャ。

「かわらんさ。この程度はピンチにも入らん。
俺は予定通り行動し、奴らも予定通り動き、敵も予定通り動く。
お前はそれを高みの見物だ」

「・・・私、残るわよ」

何かを決意したようにそう呟いた。

「っま、好きにしていいぞ」

「・・・止めないの?」

止められると思っていたのか、かなり驚いている。

「お前、止めて聞くのか?」

呆れて溜息を付きながら、苦笑しているタカシ。

「・・・聞かないかもね」

そんな彼にこちらも少し笑いながら答えた。

「だろ?それに危険なら止めるさ。でも危険じゃねーからな。止めない」

「・・・っそ・・・貴方のやり方・・・見せてもらうわよ」

「おう!泥舟に乗ったつもりでいろ」

「そんなのに乗れるか!」

そんな時、部屋の扉が開かれウェールズ皇太子が現れた。

「タカシ。全ての準備が整ったよ」

「そうか。んじゃ、あとは待つだけだな」

「・・・本当にこれでうまく行くのかね?」

流石に不安そうである。無理も無い。

「信じろ。それと、何ならアンタもアーリャと一緒にここで見ていくか?」

「なに!?アーリャ嬢は此処に残るのか!?」

予想外の事に驚いている。
彼はてっきりアーリャは艦隊に乗り脱出するものとばかり思っていた様だ。

「あぁ。本人の希望でな」

「何故止めない!彼女は君の主人だろう!?危険ではないのか!?」

「主人だよ。危険に晒す気は無いな。なにせ、危険じゃないから。
最悪の場合でも、俺はこいつを抱えて逃げれるしな」

「・・・そこまで言うなら、彼女と共に見させてもらうよ・・・
君の言う「可能性」をね」

そう言われ、少し考えて笑いながらそう言った。

「おう!存分に見ろ。さって・・・暇だな・・・一つ歌うか・・・
人生五十年~夢幻の時を~」

「それは死亡フラグよ」

「気にすんな」

そんな時、部屋に新たな人物がやってきた。

「伝令!敵、戦列艦隊が後退を開始!
まもなく、敵本隊の攻撃が開始される模様です!」

直立して報告をする伝令兵。

「そうか・・・よし!それでは予定通り。
現時刻を持って作戦を開始する。お前は行け!」

「っは!」

そう答えると駆け足で部屋を出て行く伝令。

「さて、お二人さん。特等席はこっちだ」

そう言い放ち、部屋を出て行く彼を二人は追って行った。



そして、三十人の一騎当千の兵が集結している城の入り口付近。
少し見晴らしの良い場所に着く。

「さて、諸君にも何度も説明したとおりだ。我々は予定通り作戦を遂行する。
全ての行動が完了すれば予定通り、諸君の脱出が完了する訳だ」

それを聞き、うなずく一同。
そう言うと、丁度敵の叫び声が聞こえてきた。

「さて、では行くぞ!全員!作戦通りに行動しろ!
アーリャ!ウェールズ!お前達はここから見物だ!」

そう言うと彼ら、30人と一人は外に出て、敵に向かい杖を向けた。

敵の先鋒は約1000人。
まずコレを退けなければ、この後の予定も全て狂ってしまうのだが

「さぁ、地下水改め群雲のデビュー戦だ!派手に決めるぜ!」   

「了解だ旦那!俺っちと旦那に不可能は無い!」

そう言い、群雲にオーラを込める。
もう片方の手に以前購入したナイフを持ち、そちらにもオーラを込めて、そのまま敵に真正面から突っ込んで行く。

敵の中に真正面から突入し、突き、殴り、なぎ払いながら次々に敵を吹き飛ばす。
そんな人外の光景を見せられ、動揺する敵の先鋒。

その隙を集まった一騎当千の古強者達が見逃すはずも無く、広範囲功撃系の魔法等で、敵を片っ端からなぎ倒し、殲滅するまで時間はかからなかった。

「よし!作戦を第二段階へ移行!各員行動開始!」

そう叫ぶと集まった三十人ほどのメイジ達が一斉に魔法を使った。

土の二乗 ロック・ウォール。
土の壁を作り出す魔法だ。
一つの壁が高さ五メイル、横10メイル。厚さ1メイルほどであろうか。
そんな壁を、先ほど敵を薙ぎ払った何も無い空間にいくつも出現させる。
さながら敵陣と城の間に、巨大な迷路が誕生したかのようである。
しかし、この迷路はただ単純に左右どちらに進んでも前に進めば簡単に抜けられる。そして迷路の出口は一箇所だけという作りだ。
そこへさらに

『錬金!』

総員で群雲や杖を手にそう叫び、その土の壁を全て鉄に変えた。

「よし、第二段階クリア。これより、第三段階へと移行する!やれ!」

その合図で三十人のメイジ部隊は次の魔法を使った。

水の二乗。ウォーター・プール。
大量の水で相手を押しつぶすための魔法だが、それを迷路の一つだけの出口から一気に流し込んでやる。さっそく迷路を超え、城へと突入しようとしていた兵士を一気に押し流し、そのまま迷路を水浸しにした。

「よし、第三段階クリア!これより第四段階へと移行する。
いいか?俺の合図で撃て」

そう言うと、彼ら三十人は横一列に並んだ。
そしてタカシが迷路の出口で悠然と構える。
そこへ壁があろうが水があろうが関係なく、再び敵が突っ込んでくる。

「さぁ、馬鹿どもの登場だ!準備はいいな?」

そう言うと彼ら、はそれぞれ思い思いの返事をして杖を構えた。
そして迷路に突っ込んだ敵の先頭が迷路から出ようとするところを
「堅」で身を包んだ一人の男が押しとどめる。
そうして迷路に突入する敵の数が増え、迷路に飽和量の敵が集まった事を確認し、タカシは大きく後ろへ跳躍。

その瞬間

「今だ!『ライトニング・クラウド!』

三十人によるライトニング・クラウドの一斉射。
これにより突っ込んできた一団を殲滅―
―しただけではなく、そのまま「水で濡れた鉄の壁」にも当たる。
そしてその結果、迷路の中に居た大勢の敵兵を黒焦げの死体に変えた。

それを特等席と言われた彼らの後ろで見ていた二人は

「うそ・・・本当にあんな事が・・・」

「・・・この目で見るまで信じられなかったが・・・これほどとは・・・」


そんな二人を他所に、命知らずな敵兵の第三陣、第四陣を同じような方法で黒焦げ死体に変えていく兵達。

さすがにここまでくれば敵も慎重になったようで、攻勢が一旦止んだ。


「・・・敵の攻勢が・・・止んだ!?五万はいるであろう敵の攻勢を・・・たった三十人で止めたのか!?」

「・・・これが・・・タカシの言っていた戦術・・・」


「さて、これで奴らはあの壁とそこを埋め尽くす死体の始末でしばらく止まる・・・指示を仰ぎ、魔法か大砲等で壁を処理する時間で・・・
よし、現時刻を持って、作戦を最終段階へと移行する!」

そう言い、彼ら三十人と一人は、城の中へと戻って行った。

敵の注意が完全に「壁」に向かった事で彼ら30人はそのまま、
アルビオン王立空軍残存艦隊に合流。
城を脱出した。

そのままタカシとアーリャ。ウェールズはキュルケを迎えに礼拝堂へと向かう。


そしてそんな戦闘が開始される以前から、その他の王党派の人間は、
タカシの計算により出された計画書を読み、タバサが正確に指示を出し、
その通りにギーシュとモグラが穴を掘り、そこに爆薬等を設置していた。

そして導火線を引き、彼らも船に乗り込んだ事を確認したタバサは、
ルイズの指輪に向け穴を掘るギーシュとモグラを他所に
シルフィードを城の下へと回し、そこで本を読んでいた。



「っと、こんな所だな。んで、最後に導火線にキュルケが火を付けてそのまま撤退。計画も無事完遂ってところだ。めでたしめでたし」

サイトの知らぬ間になにやらとんでもない事になっていたようである・・・

「そういえば、脱出したらお礼を言わせてくれるんだったね?」

「そうだな。受けてやろう」

そう言いお互い笑いあう。

「では改めて。ありがとうタカシ。
君のおかげで、我々アルビオンの王族はまだ義務を果せる」

「うむ。感謝して敬え」

偉そうに胸を張り、そう告げた。

「っふ・・・そうだね」

そんな彼に苦笑しつつも二人は笑い、シルフィードは飛び続けた。
いつの間にか夜になり、皆疲れたのか次々に眠りについて行った。



罠はこんな感じ

       敵陣
{ーー -- -- -- --}
{ -- -- -- --  }
{ーー -- ーー -- --}
{ ーー -- ーー --  }
{ーー -- -- -- --}
{――――――  ――――――}

       城







さて、いかがでしたでしょうか?これなら余り無茶でも不自然でも無い・・・っと思ったんですがねぇ。ちょっとオリジナル(?)の魔法も登場しました。

以上、原作二巻終了です。次は三巻です。

それでは、引き続きご意見、ご感想等お待ちしています。





2008/09/21 誤字を訂正しました。



[4075] 第三部 第一章 訪問×事実×暗躍!?
Name: 豊◆4d075937 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/21 01:43

夜があけた頃、サイト達はトリスティンの城の上空に到着し、そのまま降下していった。
しかし、ここ数日に様々な噂があり、王宮はでは厳戒態勢がしかれていた。
そのため彼らは不審者として王宮警護をしていたマンティコア隊に包囲され、杖を向けられていた。

そんな中

「なぁ、こいつらやっちゃっていい?」

警備の者を指差し暢気に質問するサイト

「だめよ。ワルドに勝ったからって調子にのらないで」

と問題発言ですよルイズさん

「お?殺っていいのか?」

「ダメだって言ってるでしょ!?」

字が違う!っとか言う突っ込みは無し。

ともかくそんな騒ぎを聞きつけてアンリエッタ姫殿下がやってきた。
そしてギーシュ、キュルケ、タバサを謁見待合室へと案内。
サイト、ルイズ、タカシ、アーリャと、彼等がどうしてもと言ったローブを被った男を自室へと招きいれた。
そして、ローブを被っていたウェールズがフードを取り
アンリエッタと再会を喜ぶ。
その後、彼が全てを説明した。

「何てこと!ワルドが裏切り者だったなんて・・・」

そして説明を受け、ワルドが裏切り者と知りショックを隠せない様子のアンリエッタ。

「まぁ変態だったしな」

「・・・ゴホン、とにかく、僕達は彼らに助けられたんだ」

無理やり話しをまとめるウェールズ。

「そうですか・・・皆さん、有難うございます」

「いいえ。姫様のためならこのような事はいくらでも。ねぇ?アーリャ」

「えぇ。姫様の助けになれた事を光栄に思います」

ルイズとアーリャは彼女の助けになれた事が嬉しいらしい。

「気にするな。俺は報酬さえもらえればいいなぁ?サイト」

「え!?いや・・・俺にふられても・・・」

いきなりそんな話を振られても困りますよねぇ・・・っつか、無礼ですね。
そんな彼らの答えに満足したのか、クスクス笑いながらアンリエッタはルイズに水のルビーを渡し、サイトの手を握りながらお礼を言った。

「ありがとう、やさしい使い魔さん」

「い、いえ!俺は別に・・・」

アンリエッタに面と向かってお礼を言われてテレながら焦るサイト君。

「そして貴方には・・・」

「俺は「借し」でいいと言ったハズだ」

「そうでしたね・・・」

そう言い、そのまま皆で少し話した後。

「よし、んじゃ話も終わりだな。行くぞ?ウェールズ」

そう言うとウェールズを連れて何処かへ行こうとする。

「ウェールズ様!どちらへ!?」

いきなりの行動に、焦るアンリエッタ。

「すまないアンリエッタ。僕にはまだするべき事がある。今は行かせてくれ」

そう言い踵を返し、退出して行く。

「そんな・・・せっかくお会いできたのに・・・」

「すまない・・・」

最後に一言だけ言い部屋を出るウェールズ。

「うるさい小娘だな。死んで無いんだ。それで十分だろ?」

そんなウェールズの後を追い、出ようとした所

「ちょっと、いい加減に姫様に対してその口の聞き方どうにかならないの!?アルビオンの国王にはちゃんと出来ていたじゃないの!」

そう怒鳴られたのでとりあえず足を止め、答えてやる。

「まぁ最初はな。一応目上だし引っ張り出すのに行き成りこんな口じゃぁ来てくれないだろ?」

「・・・」

へらへらとそんな事をほざいた。
あまりにもあまりな言い様に呆然とするアーリャ。
一応無礼だという事は自覚している様ですね。

「ともかく俺達は行く。お前らは先に学院に戻れ。俺はちょっと用事を済ませる」

そう言いウェールズの後を追い退出して行った。

そして城下から離れ、アルビオン王国王党派の集合地点にウェールズとタカシは到着した。

「さて、わざわざ護衛までしてくれてすまなかったね」

「気にすんな。せっかく苦労して生かした駒だ。こんな場所で死なれちゃ困るんでな」

「ふ・・・そうだね。僕はまだ死ぬわけにはいかない。そういえば君の条件は」

「あぁ。その前に色々と取り決めをしておこう。とりあえず、じいさんの所に行くぞ」

ヘラヘラと笑いながらそんな会話をし、二人はアルビオン国王。ジェームス一世の元へと向かった。




一方、戦が終わったニューカッスル城ではハルケギニア史上ではあり得なかった事態に大混乱に陥っていた。

反乱軍「レコン・キスタ」の被害は、死者四千以上。
負傷者を含めるを約一万という数に達していたのだ。
敵の「罠」に突っ込み死亡した者約三千。
その後城に突入した部隊で、確認されているだけで死者千。
城ごと地上に落とされたため、行方不明者など膨大な数になっていた。
しかも、投入した戦力の約五分の一というこれだけ膨大な被害を出して、王党派の被害はゼロ。
その上彼らの行方は不明。
当然、事実をそのまま公表できる訳も無いので、厳重なかん口令が布かれ、
「王党派は城と共に落下し全員死亡」
っと言う公式発表がなされた。


「・・・・まったく・・・とんでもないねぇ・・・」

「・・・まったくだ・・・あの小僧にまんまとしてやられたよ・・・」

フーケとワルドが元城の近くの大地で地上を見下ろしながらそう呟いていた

「・・・城ごと地上に落とすなんて・・・そんな事考えた事も聞いたことも無かったよ」

「・・・僕もだ・・・奴に警告されなかったら今頃城と共に落ちていただろうな」

「警告されたのかい?」

「あぁ。「お前はサイトの踏み台だ」とかいう理由で「生きていてもらわなければ困る」そうだよ・・・まったく・・・ふざけた奴だ」

「くっくく。風のスクウェアのアンタを踏み台!?まったく・・・出鱈目にも程があるよ」

そんな二人の下に、神聖アルビオン共和国の総司令官オリヴァー・クロムウェルと名乗る男が現れた。

「ワルド君!ワルド子爵!任務ご苦労だったね!どうだね?任務は?」

両手を広げてワルドに接近する男。

「・・・閣下、申し訳ありません・・・何一つ任務を達成できませんでした・・・」

「・・・なんと・・・君ほどの男がかね?」

「・・・はい」

「そうか、ならば仕方ない。君にはまた別の仕事を頼みたいのだが、引き続き私に力を貸してくれるかね?」

「っは」

任務を何一つ達成出来なかったワルドを特に咎める事もせず、引き続き力を貸して欲しいというクロムウェルに、ワルドはその場で深くひざまずいた。




そして皆が学院に戻ってから遅れる事数時間して、タカシが学院に戻って来た。
戻って来たその足で学院長室に行きいくつか話しをしている。

「っと言うワケだ。どうだじじい?」

「ふむ・・・なるほど。よかろう。そちらは何とかしておく」

「おう、話のわかるじじいで助かるよ」

「ふぉっふぉっふぉ・・・しかし・・・アルビオンまで行ってそんな無茶をしてきたとはのぉ・・・城ごと敵を地上に落とすなど、聞いたことも無いぞ?」

「だろうな。俺も実際に見たこと無い。ただ、立地条件が良かったんだ。
だから出来た事だな。多分、もう二度とお目にかかれないだろうぜ?」

「ふ~む・・・それは少し残念じゃのぉ。その光景をこの目で見てみたかった物じゃ」

「あぁ、しまった!携帯で写真撮っとけばよかったな!そうすりゃじいさんへの土産にもなって丁度良かったんだが・・・失敗した」

二人とも実に楽しそうに話をしている。
そしてそんな事等を学院長に報告と話を終わらせ、アーリャの部屋に戻った時は既に夜になっていた。

「おかえり・・・随分遅かったわね」

「お~、ただいま。いやぁ、いろいろとやる事があってな~」

「・・・また何か企んでいるの?」

「企むなんて人聞きの悪い・・・せめて暗躍していると言ってくれよ」

何やら半眼で睨みながら言ってくるアーリャ嬢。
そんな彼女にいつもの様にへらへらと答える。

「そっちのほうが悪いじゃない・・・まったく・・・」

「っま、どうでもいいがな。とりあえず、悪いが今日は寝かせてもらうぞ?流石に三日続けて徹夜はキツイ。いい加減死ぬ」

そう言いつつ、いつもの様に椅子にコートをかけてそこに深く座り、そのまま大きな溜息をついた。

「貴方、三日も徹夜してたの!?」

なんと彼は、ラ・ロシュールの港町を出発してから、一睡もしていなかった様であった。

「まぁな。途中でちょっとだけなら寝たけど・・・ふ~・・・んじゃ、お休み」

そう言い目を閉じた。

「ちょ、ちょっと待って」

「・・・ん~?悪いがいい加減眠いんだ・・・明日にしてくれないか?」

本当に眠そうにそう言う。
しかしアーリャもなにやらモジモジしながら

「・・・・・ベットで寝て良いわよ」

「・・・言った・・・ろ?そこはお前の・・・・場所だ・・・俺は・・・椅子で・・・いい・・・」

うつらうつらと船を漕ぎながら生返事をする。

「いいから!寝不足なんでしょ!?黙ってこっちにきなさい!」

何所か顔を赤くして叫ぶアーリャ。

「・・・それじゃぁ・・・お前の・・・寝る場所が・・・無いだろう・・・」

「・・・・いいわよ・・・・一緒で」

搾り出すようにポツリと呟くが、しっかりと聞こえている様である。

「あぁ・・・・そうか・・・・あぁ?」

「・・・・・」

「今なんつった?すまん、眠くて幻聴が聞こえたようなんだが・・・」

己の耳を疑いたくなった様で、一気に現実に引き戻された。

「だから・・・・一緒に寝れば別に問題ないでしょ・・・・」

下を向いたまま真っ赤になって仰る。

「・・・問題無いといえば無いが・・・有るといえばあるんじゃねぇか?」

そんな予想外の言葉にポカンとなりながら一応答える。

「・・・・・なによ」

「いや・・・年頃の若い男女が寝所を共にするっつーのはなぁ・・・」

「・・・あなた、私に何かする気なの?」

何やら睨みつけるように言ってくるアーリャ。

「はっ、まさか」

それを鼻で笑いました。

「・・・そう鼻で笑われるのも何か納得いかないわね・・・」

「何だ?何かしてほしかったのか?」

ニヤリと笑い、いつもの様にからかう男。

「そんなわけないでしょ!?」

そしてついに爆発したのを見て、楽しそうに笑いながら

「そーかい・・・まぁ・・・久々にベットで寝れるってのは悪くねーな。いいんだな?」

「・・・・えぇ、良いわよ・・・私の願いもかなえてくれたしね・・・」

彼はその答えを聞き終わる前にすでにベットにもぐりこみ、ゴロンと寝転んでいた。

「・・・まぁ成り行きでな・・・それにしても・・・このベットは良い物だなぁ・・・ぁ~・・・わり・・・もう寝るわ・・・」

そう言うと彼はそのままスースーと寝息を立てて眠りに付いてしまった。
本当に限界だった様だ。

「・・・まったく・・・そういえば・・・タカシが寝ている所って見たこと無かったわね・・・いつも私が先に寝てたし・・・」

そう言いながら寝顔を眺め

「寝顔は意外と普通なのね・・・」

っと失礼な事を言いながら、彼女もそのまま眠りに付いた。


そして翌朝、朝食を終えて、教室に向かういつもの面々。
サイトとタカシは最後尾にいて、何やら話しをしていた。

「っつー感じに・・・帰ってきてからルイズが妙なんだ」

サイトは昨日帰ってきてからルイズが妙である事に気がつき、不審に思い一応相談を持ちかけた様だ。

「なるほどねぇ・・・もしかして、シルフィードの上でキスしてた事がバレたんじゃねぇか?」

ニヤっと意地悪く言われ

「え!?マジか!?っつか、お前なんでそれを!?」

大いに動揺するサイトであった。

「いやぁ~ばっちりしっかり見てたから・・・安心しろ。他の連中には見られていない・・・ハズだ」

「ちょ!おま!」

「まぁまぁ、落ち着け。良い物見せてやるから」

そう言い、ニヤニヤと笑いながら携帯を取り出し、一枚の画像を見せたそれを見たサイトは

「んな!?おま!いつの間に!」

なんとそれはサイトがルイズにキスをしている瞬間の写真だった。一体どうやって撮ったのか・・・

「なかなか良く取れてるだろ?」

「!!!お前!!!それを一体どうするつもりだ!!!」

そう言いながら片手でデルフを握るサイト。
公表するといったら切りかかる心算でしょうか・・・

「別に、どうもしないよ。お前が携帯持ってれば送ってやったんだが・・・持って無いもんなぁ」

意地の悪い笑みでそうほざく男。

「んな!?」

「安心しろ。誰にも言わない。それに、見たくなったら携帯ごとかしてやるから」

悪魔の笑みでサイトの肩をポンと叩き、そのまま校舎へと入っていく。
サイトの運命が今、ここで決定したのかもしれない。

教室に入ると、ルイズ達は生徒達に囲まれた。
数日学院を留守にしていたため、彼女達は「何か危険な任務をしてきて、とんでもない手柄を立てた」っという噂がたっていたのだ。


「しっかし・・・ここの学生は噂が好きだねぇ・・・」

そんな人だかりを眺めて暢気な事を言う男。

「まぁ・・・貴族なんてそんな物よ」

同じ様に暢気に答えるアーリャ。

「暇人」

本を読みながらも、しっかり会話は聞いているタバサ

「だから、お前等も貴族だろ?」

「そうだけどね」

「そう」

「お、ルイズ、このままだと爆発するんじゃないか?キュルケは上手くかわしてるし。ギーシュは何かチヤホヤされて嬉しそうだな・・・バラさない様釘はさしてあるが・・・平気か?」

「・・・もう少し釘刺しておいたら?」

「安全第一」

何気に信用があまりないギーシュである。

「だなぁ。お!サイトの奴、あのロール髪を足かけて転ばせやがった。なかなかやるなぁ」

すっかり観戦気分で机に片肘を付いて眺めているタカシ。

「ルイズがモンモランシに馬鹿にされた事に怒ったようね・・・あなたは私が馬鹿にされてもあぁいう事してくれるの?」

クスっと笑いながら、少し期待した様に聞いてくるアーリャ。
タバサも何やら見つめている。

「は?何で俺が?自分でやれよんなもん」

本気で言っている様ですね・・・

「・・・はぁ・・・そう言うと思ったわよ」

ゲンナリしてため息をつき、机に突っ伏す。
タバサも何所か肩を落とし、本に目を移している。
ちなみに、最初は彼らの方にも人だかりが出来たのだがどこぞの魔王様の
「鬱陶しい、散れ」っとのお言葉により、蜘蛛の子を散らすようにルイズ達の方へと向いたのだった。

そしてそのまま本日、コルベールによる授業が始まった。
ほぼ全ての生徒がつまらなさそうに聞いていたが、約一名が大変興味を持ち、一名が驚きの表情を浮かべ、二名が顔を見合わせて頷いていた。

「先生!すばらしい!それはエンジンです!俺達の世界ではそれはそう呼ばれています!」

そう叫んだ興味を持っていた一名。

「おぉ!君は確かミス・ヴァリエールの使い魔だったね!いや!すばらしい!やはり気がつく人は気がつく物なのだね!」

興奮気味な中年親父。

「だが、ちょいと・・・ここをこうしたほうが・・・ほら」

いつの間にか教卓に近づき、「えんじん」を少し弄る驚いていた男。

「おぉ!なるほど!こうしたほうがいいのですか!・・・君は・・・」

「アーリャの使い魔って肩書きだな」

「肩書きじゃなくて使い魔でしょ!」

そう抗議の声を上げた顔を見合わせていたうちの一人。
もう一人の青い少女も、めずらしく本を読んでいない。
彼女達は彼らの世界の事をよく聞いていたので、コルベールの装置がどういうものかを理解していた。

そうこうしている内に、何やらルイズが挑発にのって前に出て、装置を跡形も無く破壊した。

その日の修行は、タバサ、アーリャ共にノルマをクリア。
サイトは「錬」を覚えた(自力で)事によりその「錬」の修行も含めたさらに過酷なノルマを与えられ、灰になっていた。
タバサとアーリャが心配して「ちょっと軽くしてあげないと次の日に動けなくなって何もできない」っと言ったのだがタカシはいつかの様にオーラを手にあつめ、サイトに当てそのまま数十秒置いて「安心しろ。これで一晩寝れば明日には全快だ」っとニッコリ笑って言い放った。
それを見たとき、少女達は「サイトは死なない限りこの地獄から抜け出せないのだ」っと悟り、彼の冥福を祈っていた。



その日、学院長室でオスマンが一冊の本を訝しげに見ていた。

「これが始祖の祈祷書じゃと?偽者ではないのか?」

そう言いながら自問していた。

「ちょっと凝せてみろ」

その部屋に居たもう一人がそう言い放ち、オスマンの手から本を奪い取る。

「・・・どうかね?文字すら書いていないのだが・・・・」

髭を弄りながら訝しげに聞いてくる爺。

「・・・わからない・・・」

首を横にフリ、男はそう答えた。

「君にも解らない事があるのじゃのぉ」

ひげを弄りながらふぉっふぉっふぉと笑うじじい。

「そりゃ、そんな事いくらでもあるさ。世の中解らない事だらけだよ」

肩をすくめて彼は答えた。

「そうじゃのぉ・・・とりあえず、女王陛下にもいわれておるが、これはミス・ヴァリエールに渡すぞ?」

「あぁ。いいんじゃねぇか?それより、俺の用件はどうなった?」

「あぁ・・・それなら―――」


そしてオスマンは後にやってきたルイズに本を渡し、窓の外を眺めていた。


本日、突然「用事が出来た。修行は自主的にやってろ。別に休んでもいいぞ」
っと言い残し、どこかへ出て行ってしまったタカシ。
「私も行く」っとアーリャとタバサが言ったが「邪魔だ」の一言で切り捨てられ、そのまま学院に残っている。

そのためサイトは早めに風呂に入り、そこでシエスタと混浴という羨ましいイベントを終え、部屋に戻って行った。
その後部屋に戻り、ルイズと共に眠りに付いた。昨晩、突然そういわれたときには戸惑ったが、彼としては願っても無い事だったので喜び(表面上はぶっきらぼうに)ながら寝床についた。
そんな二人をタバサの風龍の上から見ていたキュルケが何やら思案し、タバサにからかわれていた時―――――


「――――ここか」

地図を片手にそう言い、目的地に向かう者がいた。









以上です。 少し原作と違う展開(ウェールズ生存)になってきましたので、いろいろと暗躍しだしましたねぇ。ちなみに、何度も言いますが途中まで流れ(歴史)は原作と同じですので、そっちには影響が出ない様な暗躍ですw

では、引き続きご意見、ご感想、ご指摘等お待ちしております。




2008/09/21 誤字を訂正しました。



[4075] 第三部 第二章 財宝×秘宝×お宝探し!
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/21 19:14

次の日、キュルケの策略によりルイズに追い出されたサイトは
(彼女はここまでの事になるとは思っておらず、罪悪感を感じていた)
テントを作り、ギーシュと酔っ払い、キュルケに焼かれるなど
紆余曲折があり、宝探しに出かける事にした。


そんな事でサイト達が出かけた後、タカシが学院に戻って来ていた。

「ふぅ・・・ここに来ると「帰ってきた」っと感じるまでに馴染んだんだなぁ・・・」

学院を見上げながらそう言っていると、後ろから声をかけられた。


「・・・おかえり・・・随分遅かったけど・・・
今度は一体何やらかしてきたの?」

不機嫌そうに頬を膨らませているアーリャ。

「夜・あ・そ・び♪」

っと茶目っ気たっぷりにほざく男。
なにやら「ブチ」っと言う音が聞こえた気がしたが、無視して学院長室へと向かう。


「おーう、じじい。帰ったぞ」

「おぉ、早かったのぉ。どうじゃった?」

「あぁ。ついでに頼まれたお遣いも終わって、こっちも目的を達成できたさ」

「そうかそうか。すまんかったのぉ」

目を細めながらキセルを吸うじじい。

「気にするな。何だかんだでアンタには借りがあったり無かったりしてるし、
これからも利用させてもらう予定だ。大口の顧客にはサービスしとかないとな」

うっしっしと笑いながら言いたい放題である。

「そうかそうか。それで、こっちはどうするのじゃ?」

ふぉっふぉっふぉと笑いながら尋ねる爺。

特に気にした様子も無い。

「あぁ。さっそく今日辺りから行こうと思ってる。一週間くらいかかるかな」

「そうか。まぁ、老い先短いじじいに土産話でも持ってきてくれ」

そんな返事を聞き、また笑いながら言うじいさん。

「おう、任せろじじい。思い残す事が無くなるような面白い土産話を考えておいてやる」

そう言いニヤリと笑い、部屋を出て行く男。

「まったく・・・最初は危険な奴かと思ったが、随分と面白い奴じゃのぉ」

口ひげを弄りながら楽しそうに微笑む爺が残っていた。



タカシが学院長室から出て数歩歩き

「出て来い。バレてるぞ」

そう彼が言うと、なにやら気まずそうな表情をしたアーリャが曲がり角から出て来た。


「んで、何処から何処まで聞こえてたんだ?最初から居たようだけど、さすがにドア越しに何処まで聞こえてるか判断はつかんからな」

別段責める様子も無く、確認の為に聞いている様である。

「・・・貴方が何処かにお遣いに行って来て、これから一週間くらい出かけるって所」

俯きながらも素直に答えるアーリャ。

「つまり全部か。まぁ、聞いてたなら話が早い。
っつーわけで、ちょいと出かけてくるわ。戸締りをしっかりして、知らないおじさんに声賭けられても付いていくなよ?」

いつもの様に笑いながら子ども扱いしてからかう。が

「・・・・一人で行くの?」

なにやら意気消沈の様子のアーリャ嬢。
いつもの元気が無い様子。

「ん。そうだ」

「・・・私は・・・足手まとい?」

「そうだな」

呟くように言った質問にはっきりそう答える。

「・・・貴方に言われたとおり、修行してるわよ?」

「まだまだダメだな」

「・・・貴方はいつになったら私を認めてくれるの?」

「別にお前を認めてない訳じゃない。ただ、足手まといだと言ってるんだ」

「・・・・・どうしても・・・・どうしても一人で行くの?」

何やら切羽詰った様子で、結構必死に見える。

「そうだ」

「どうして!私はそんなに頼りにならない!?確かに足手まといにしかならないけど、何かの役には立てるはずよ!」

ついにたまりかねて怒鳴り出すアーリャ。
昨日からずっと溜め込んでいた様だ。

「いや邪魔だ。いいから、大人しくまってろ」

そんな彼女の言葉も「邪魔だ」の一言で切り捨てる。

「嫌!もういい加減後ろから見ているだけなんて真っ平!何で!?少しは頼ってくれてもいいじゃない!何で何でも一人でやるの!?」

涙を流しながらそう喚き散らすアーリャであった。

「・・・・っち、面倒だな・・・」

「ふぉっふぉっふぉ・・・
とりあえず二人とも、廊下では周りに響く。こっちに入りなさい」

いきなりドアを開け、そこから笑いながら出て来たじじい。

「・・・・じじい・・・」

「学院長・・・」

いきなり現れたじじいに驚くアーリャと、何か言いた気なタカシであったが

「っま、いいからいいから」

そう言いながら爺は二人の背中を押して、学院長室に入って行く。
そして自分の席に腰掛けて、

「さて、ミス・ズィーフィード。
彼が君を連れて行く事を頑なに拒んだ理由が知りたいかね?」

キセルを加えながら神妙に聞いてくる。

「えぇ・・・」

その質問に俯きながらも答えるアーリャ。

「よかろう・・・実は「じじい!」・・・そう怒鳴りなさるな・・・きちんと理由を話してあげなければ、納得せんじゃろ?」

学院長の言葉を遮ろうとしたが、逆に諭され、ッチっと舌打ちするタカシ。

「・・・・どのような理由なんですか?」

そんな二人の様子を不思議に思ったのか、質問してきたアーリャ。

「うむ。まず距離が問題じゃ。ここからかなり遠い。
そして目的地。これが一番の問題じゃ」

「一体何処なのですか?」

もったいぶるじじいに焦れている様である。

「常夜の森じゃよ。そしてその奥の霧の山。そこが彼の目的地じゃ」

「な!?」

彼女が驚くのも当然であろう。
常夜の森とは、そのまま読んで字のごとく「常に夜のようにくらい森」
の事である。
生い茂る木々で日の光が届かず、危険な野生動物や幻獣などが数多く生息しているらしい。詳細は不明で、誰も立ち入ろうとはしない。
空から行こうとしても、竜などが脅えて近寄れない。
そしてその奥にあるのが霞の山。
高すぎて頂上が常に霧に覆われている事から、そう呼ばれている。
ハルケギニア全土でもトップクラスの危険地帯である。
そしてこれらはガリアを超え、火龍山脈の向こう側にある。
今までマトモに人が足を踏み入れた事が無い土地だ。

「何故そんな所に!?」

「ワシもそこまでは聞いておらん。
ただ、彼にとって必要な物がそこにあるそうじゃ」

そんな二人を他所に、適当な調子で

「っま、そういう事だ。一週間で戻るから、いい子で待ってな」

いつものようにポンっと頭に手を置く。
しかしその手は払われた。

「何考えてるの!?あんな場所に行くなんて!死にに行くような物よ!?」

必死の形相で詰め寄るアーリャ。

「だから、ちょっと欲しいものがあってな。
そこにしか無いんだよ。いや、確実にあるとは限らないけど。
ともかく、条件に当てはまる場所が他に無いんだ。だからちょっと行ってくる」

平然とそう言い放った。

「ダメよ!危険すぎる!そんな所に!しかも一人でなんて!」

「人数を連れて行けば足手まといが増える。
元々一人の方が行動しやすいしな。心配するな。
ハンターってのはこう言う事は慣れっこだ。
さすがに、こんなファンタジーな事は滅多に無いがね」

いつもの様に笑いながらそう言った。

「ダメ!絶対ダメ!」

大きく首を横に振り、必死に止めようとするアーリャ。

「しつこいな」

「しつこくて結構!」

「はぁ・・・だから言いたくなかったんだ・・・仕方ない・・・じじい。
コイツを気絶させるからあとは任せたぞ?
お前が余計な事言ってくれたおかげでこうなったんだからな」

そんなアーリャを見て、説得は無理だとでも思ったのか、一歩彼女に近寄る。

「私に手を上げるつもり!?」

そんな彼を見て一歩あとずさる。

「だってそうでもしないといつまでも五月蝿そうだしな」

はぁっと溜息をつき、更に一歩詰め寄る。

「もう!何よ!何なのよ!貴方は!」

そんな無茶苦茶な男に、泣きながら首を横に振り出したアーリャ。

「俺は俺だよ。何と言われてもそうとしか答えられないね」

そんな彼女に苦笑しながらも、何事かしようとした所

「さて、その辺りで止めにしたらどうだね?」

言い争う二人をそう言い制したじじいが

「ミス・ズィーフィード。
彼は、君を危険な目に会わせたくなくて一人で行くと言っているのだよ?
それにタカシ君。彼女も君の身を案じて言っているのだ。
お互い、それくらいは分かるじゃろう?」

諭す様にそう言った。

「・・・ハイ」

「さぁね」

その言葉に落ち着きを取り戻し、うな垂れながら返事をするアーリャと、肩を竦めて苦笑しながら返事をするタカシであったが、一応了承の返事をする。

「さて、そうと決まれば出発してはどうだね?
ミス・ズィーフィードの休学はワシから話しておこう」

ふぉっふぉと笑いながらそんな事を言い出した。
ここでじじいの常時発動型念能力
”逝って来い”「生徒を危険に放り込む」が発動。

「え!?」

「・・・待て、じじい」

急な展開に驚くアーリャと、そんな事を言うじじいを睨みつけるタカシ。

「いいかね?崇君。仮に君がここに彼女を置いて一人で行くとして、彼女が君の後を追わないという保障があるかね?もし、彼女が一人で君の後を追いかけたら。そっちのほうがよっぽど危険ではないかね?」

己を睨んでくる男に諭す様に言い聞かせるじじい。

「・・・・・そうなる可能性があったからこそ。俺は何も言わないで行くつもりだったんだがな・・・」

その言葉を聞き、目を瞑り、腕を組みながらもそう返事をした。

「ふぉっふぉっふぉ。まぁ、知られてしまったからには致し方あるまい?なぁに。君がしっかりと守ってやれば良いだけの事じゃろ?」

楽しそうにそいじじいが仰った。

「・・・・っくそ・・・最初からこうするつもりだったろ?じじい」

そんなじじいを半眼で睨むが、効果は無い様だ。
この能力は発動されたら阻止できないらしい。

「ふぉーっふぉっふぉっふぉっふぉ」

「・・・覚えとけよじじい・・・キッチリとこの落とし前は付けさせてもらうからな・・・」

「うむ、楽しみにしているよ」

そんな悪役みたいなっつか、悪役のセリフを吐くが、やはり効果は無い。

「まったく・・・自分の生徒を危険な場所に送り込むなんて・・・とんでもないじじいだ」

そんなじじいに盛大な溜息を吐きながらも最後の抵抗をするが

「授業では得られない貴重な経験を得られるのじゃ。むしろそっちの方がよかろう?それに頼りになる護衛が居る。危険では無いじゃろ」

笑いながらそう言うじじい。
良い性格である。
これがこの能力の効果によるものなのか、本人の趣味による物なのかは誰にもわからない。

「・・・・・・・・はぁ~・・・・・解った・・・・今回は俺の負けだ・・・・おら!出発するからとっとと準備するぞ!」

最後に大きな溜息をつき、少しうな垂れ、そのままアーリャの首根っこを掴みズルズルと引きずっていく。

「え?えぇ?」

今だ状況が理解できず、混乱している彼女をズルズルと引きずり退出して行くタカシと、それを楽しそうに見つめるじじいが居た。


そして二人は部屋に戻り、準備を始めた。

そんな中

「・・・・本当に付いて行っていいの?」

上目遣いでオドオドしながら聞いてきた。

「来たくないなら残れ」

「そんな事言ってない!ただ・・・付いて行っても迷惑じゃない?」

ぴしゃりと言われ、違うと叫ぶが後の方はどんどん声が小さくなる。

「はっきり言えば迷惑だ。
だが、置いて行ってあとから付いて来られたりするほうが迷惑だからな」

「・・・・そう・・・」

はっきりと「迷惑」だといわれて落ち込むアーリャであった。

「お前のしたいようにすればいい。
ただし、残ると決めたのなら絶対に後から来ようとはするな」

「・・・足手まといが居ても平気なの?」

俯いたまま呟く様に聞いてくる。

「平気じゃない。平気じゃないが、まぁ一人くらいならどうとでもなるかね」

「・・・・・そう・・・・それじゃぁ、私も連れてってくれる?」

期待を込めて、おどおどしながらそう聞いてきた。
いつもとは全然違うそんな態度を見て、苦笑しながらも

「あぁ。ほら、さっさと準備しろ!置いてくぞ」

そう言いはっぱをかけるが

「おいてったら後から追いかけるわよ!」

逆効果っつか、効き過ぎた様で、すっかりいつもの元気を取り戻し、そんな事を言ってきた。
そんな彼女にさらに苦笑しながらも

「まったく・・・何でこうお嬢様っぽく無いのかねぇ・・・」

「悪かったわね」

「っま、いかにも「お嬢様~」って感じの鼻持ちなら無い奴らよりは遥かにマシだがな」

「あっそ。よかったじゃない」

「へーへー。そーですね」

そう笑いながら適当に返事をした。
そんな言い会いをし、笑いながら準備をするアーリャであったが

「・・・そういえば・・・準備って具体的に何をすればいいの?」

「・・・・もういい。俺がやる。かカバン貸せ」

ぴたりと手を止めてどうすればいいか聞いてきた。
そんな彼女を見て溜息を吐きながらそう言うと、彼女が持っていたカバンを奪い、クローゼットを無断で開け、適当に服を放り込み、他にも必要な物を部屋の中から選びカバンに詰め込んでいった。

「タカシの荷物は?」

「俺は途中で買い揃えるつもりだったんだよ。っつかいざとなったら身一つでもどうとでもなる」

そう言いながら手馴れた様子で準備をして行く。

「ぁ・・・そういえば、コレをサイトから預かってたんだけど・・・」

っと言い、ポケットからガサゴソと手紙をだしてきた。それを受け取り声に出して読むタカシ。

「ん?何々?
『きゅるけたちとたからさがしにいってきます
しゅぎょうはすこしやすみます
このてがみはたばさにかいてもらっていますさがなさないでください  
Byさいと
追伸 キュルケに無理やr~』
・・・ふむ・・・最後の部分はタバサが何か書こうとしてそのまま拉致られたか・・・」


手紙を見てそう感想を漏らすが、目が笑っていない。

「えっと・・・何かいろいろ事情があるみたいで・・・」

そんな彼に冷や汗を流しながら、一応サイトの援護をしてやるアーリャさん。

「そうかそうか。まぁ、運が良かったな。俺も丁度出かける訳だし。
もしこれがこのタイミングじゃなかったらとても楽しい事が起きただろうなぁ。
俺が帰ってきた時に戻ってなかったらいろいろ楽しい事を経験させてやろう」

なにやら肩を震わせて恐ろしい笑みを浮かべながらそう言う。

「・・・・血の雨が降らなきゃいいわね・・・」

そんな彼を見て、窓の外を見上げるアーリャであった。


そんなこんなで彼らは魔法学院を出発しようとしていた。

「馬で行くんじゃないの?」

「んなもんに乗ってったら片道だけで一週間掛かっちまうよ」

そう言い準備運動をする男。

「・・・まさか走って行くの?」

「そーだよ」

「私、馬より早くなんて走れないわよ?」

「俺が引っつかんで連れてくから安心しろ」

「またこの前みたいに首掴まれるのは嫌!」

「はぁ・・・・まったく・・・んじゃこれでいいだろ?」

そう言い彼女に近づきヒョイっと持ち上げてそのまま両手で抱きかかえる。
いわゆるお姫様抱っこである。

「へ?」

「さて、行くぞ」

いきなりそんな事をされたので、素っ頓狂な声をあげるアーリャ。
だが、そんな彼女は無視し、足にオーラを集め、風となり目的地へと向かって走り出した。

「ちょ!?えぇ!?何これ~~~~~~~」

そんな叫び声はすぐに聞こえなくなって行った。








以上です。 え~、ここからオリジナル展開です。
サイト達がゼロ戦を探しに行く一週間を使って冒険をしてきます。
ここでタバサも連れて行こうかどうか悩んだんです・・・・ですが、「連れてったらサイト達の足が無くなるなど困るな~」っとか考えている間に、キュルケさんが拉致して行きました。なので悪いのは作者ではなく、キュルケさんですw
彼女の活躍を期待していた方には申し訳ありません。
ですが、次の第四部から大活躍(?)してもらう予定ですので、それまでお待ちください。



ここで一応、以前言った「H×Hを知らない方。もしくは、忘れてしまった方の為。さらに作者の認識が正しいか確認するため」に、念能力について少し記述します。(こちらは原作と同じで行きますので、おかしな部分などあったらご指摘等よろしくお願いします)


自らの肉体の精孔(しょうこう)という部分からあふれ出る、「オーラ」とよばれる生命エネルギーを、自在に操る能力のことを念能力と呼ぶ。

念の基本(四大行)
纏(てん)
オーラが拡散しないように体の周囲にとどめる技術。
纏を行うと体が頑丈になる。
絶(ぜつ)
全身の精孔を閉じ、自分の体から発散されるオーラを絶つ技術。
気配を絶ったり、疲労回復を行うときに用いられる。
練(れん)
体内でオーラを練り、通常以上にオーラを生み出す技術。
発(はつ)
自分のオーラを自在に操る技術。念能力の集大成。必殺技ともいわれる。

応用技
周(しゅう)
「纏」の応用技。物にオーラを纏わせる技術。対象物の持つ能力を強化する。
凝(ぎょう)
「練」の応用技。オーラを体の一部に集め、増幅する技術熟練者は「隠」で隠されたオーラをも見ることが出来る。
隠(いん)
「絶」の応用技。自分のオーラを見えにくくする技術。
「凝」を用いても、全ての「隠」を見破ることが出来るとは限らない。
堅(けん)
「纏」「練」の応用技。「練」で増幅したオーラを維持する技術。維持する時間を10分間伸ばすだけでも1ヶ月掛かると言われている。
円(えん)
「纏」「練」の応用技。体の周囲を覆っているオーラを自分を中心に広げる技術。「円」内部にあるモノの位置や形状を肌で感じとることができる。
硬(こう)
「纏」「絶」「練」「発」「凝」を複合した応用技。練ったオーラを全て体の一部に集め、特定の部位の攻撃力・防御力を飛躍的に高める技術。
「凝」による強化との違いは、「絶」を併用してオーラをより強く集中するため、攻防力が桁違いに高い。
流(りゅう)
「凝」の応用技。オーラを体の各部に意識的に振り分ける技術。



では、引き続きご意見、ご感想、ご指摘等、お待ちしております。






2008/09/21 誤字を訂正しました。



[4075] 第三部 第三章 陰謀×策略×武道大会!?
Name: 豊◆4d075937 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/21 19:28

霧の山目指して学院を出発した二人。
途中で何度か休憩を入れながら走り続け、日が暮れて来た。

そこでまず、ガリアのピクトネスという村で宿を取り、休憩する事にした。

「お~、なかなか人がいるじゃないか」

「言って置くけど、ここじゃトリスタニアみたいな事はしないでよ?」

暢気に辺りを見回す男をジト目で睨む少女。

「あぁ。サイトも居ないし、それにもう大分見慣れちまったからなぁ・・・いい加減んな事しねーよ」

「っそ、なら良いわ」

「そんな事よりメシだメシ」

「旅支度は途中でするとか言ってたけど、ここで買い物とかしなくてもいいの?」

「ん~・・・もうちょい先に行ってからでいいかな。とりあえず宿を取るか」

「そうね。それじゃ、行きましょう」

そう言い二人は町を散策し始めた。
そのまましばらく町を歩いていると

「お、武器屋がある。ちょっと行ってみよう」

そう言い、返事を聞かずに店に向かい歩いていく。

「旦那!武器なら俺っちがありますって!」

「ん~、それもそうなんだが、もうちょい使い捨てが出来るようなのも欲しいんだよ。出来ればオーラを纏っているような物がいいんだが・・・贅沢言ってらんないし、とりあえず見るだけ見てみるよ」

群雲とそんな会話をしながらも店に入って行った。

その武器屋の中には、数人の客が居た。
そこそこ繁盛している様である。

「おぉ、中は結構広いな」

「・・・まったく・・・人の意見を聞かないで勝手に・・・」

ぶつくさ文句を言いながらしっかり付いてきてますね。

「さて、さっそく凝るか」

そう言い、目を凝らして周囲を見渡す。

「どう?」

「うん・・・ここには良い物がねぇな。仕方ない。適当に使い捨て用の投げナイフでも買っとくかな」

オーラを纏った物が無いと解ると、適当に使い捨て用の投げナイフを10本ほど手にとり、購入しようとしたが

「おう兄ちゃん!そんなチャチなナイフなんか買ってどうするつもりだい!?」

ガハハと笑いながら自分が買おうとしている剣を見せる筋肉質な大男

「剣ってのはこう言うのを言うんだぜ?もっとも、そんなヒョロっちい体じゃマトモに剣も震えないだろうがな!」

再びガハハと言い笑い出す男

「おう、おっちゃん。これで幾らだ?え?10本で6エキュー?高いよ!2でどう?え~・・・んじゃ4!お、いいの?おっしゃ、サンキューおっちゃん!また来るよ」

店主と交渉し、投げナイフを値切り、男を無視してそのまま出て行こうした。

「貴方ねぇ・・・そんな安いナイフで一々値切ってるんじゃないわよ」

そんな安いナイフを一々値切る男に呆れているアーリャ嬢。

「お前ねぇ、旅ってのは少しでも節約する物なんだよ。それに、俺は貧乏なの。この前の賞金も半分も残ってないしな」

「貴方、前路銀は賞金で稼いでたとか言ってなかった?」

「そうだよ?そりゃ金が無くなれば働くさ。でも、なるべく面倒な事はしたくないんだ。まぁ最も、目の前に賞金首が現れりゃキッチリ頂くけどな」

わははとか笑いながら言ってますよ・・・賞金首にげてー。

「・・・・こんな奴に出くわして捕まる賞金首ってのも哀れよね・・・」

そんな男の主人は頭に指を当てピクピクしていらっしゃる。

「何を言う。俺の生活の足しになるんだ。むしろ感謝してもらいたいね」

なんて偉そうに言ってます。
そこへ先ほどの男が

「おい!そこの餓鬼!さっきから俺様を無視しやがって!挙句の果てに賞金で暮らしてるだぁ?大法螺吹くんじゃねぇよ!」

いい加減怒り、先ほどの男がこちらに来たが

「さて、欲しい物も買ったし。宿探すぞ」

「今度は寄り道しないでよ?」

「寄り道じゃない。必要事項だ」

「思いっきり寄り道よ!目的は宿でしょ?!」

「違うな。目的は「面白いもの」を探す事だ」

「最初と言ってる事違う!」

「気にするな。宿が見つからなけりゃ野宿すりゃいい」

「私は野宿なんて嫌よ!」

「まったく・・・これだからお嬢様ってのは」

「アナタが無茶苦茶言うからでしょうが!」

そうギャーギャーと言い合いながら外へと出る。
すると、それを先ほどの男が追ってきた。

「おい!いい加減にしやがれ!剣の錆になりてぇか!?」

「・・・なぁ、このおっさんお前の知り合いか?」

「いいえ?貴方のじゃない?」

「ん~・・・・知らん。まぁいいや、行くぞ」

「えぇ」

そう言って歩き出そうとした時、前方の地面に剣が叩きつけられる。

「いい度胸だな餓鬼!この俺様を誰だと」

「邪魔」

「ぐへ!」

目の前に立ちふさがった男に足蹴りを食らわせ、そのまま無視して通り過ぎて言った。

そしてこの町の宿に到着。
部屋にチェックインしようとした所

「申し訳ありません、生憎一部屋しかご用意できません・・・」

「ん、なら一部屋でいいよ」

「解りました。それでは、ご案内いたします」

そんな返事をしたとき、後ろでアーリャが赤くなっていたとかいないとか。
そうして部屋に案内される途中に

「なぁ、ここはそんなに小さな町じゃないけど、有名な町にも見えない。なのに何でこんなに人が居るんだ?」

「はい。明日この先の「トゥールの町」で武道大会が行われるんです。恐らくここにいる多くの方がその大会へ参加されるのではないですかな?」

主人のそんな話を聞き、少し嫌そうな顔をしました。

「なるほど。また在り来たりだなぁ」

「っは?」

「気にするな。こっちの話だ」
等という会話を宿主として部屋に案内され、軽くこの町の事を聞き、二人は部屋に入って行った。

「武道大会ねぇ・・・貴方は出ないの?」

「・・・またそうやってフラグを立てるのか?」

「純粋な質問として聞いただけよ」

「・・・今更俺が出てどうするんだよ・・・」

「優勝して賞金稼ぐとか?」

「いやだよ。面倒くさい。でもこう言ってると、お前が攫われて「この娘を取り返したくば優勝しろ」とかいう子悪党が出てきそうだな」

ヤレヤレと言わんばかりに首を振り、少しげんなりしながらも質問には答えてやっている。

「そしたら取り返しに来てくれる?」

そんな態度を面白く思ったのか、少し笑いながら、少しだけ期待をする様にアーリャが問いかけるが

「もちろん放置・・・・・・はしないから睨むな。んなもん、ワザワザ大会に出るまでも無い。お前がとっ捕まってる場所に直行してそのまま拉致って先に進むさ」

人が折角苦労して立てたフラグを裏技で抜けようとするチート野郎。

「あっそう・・・まぁ、とりあえずおなかすいたし、さっき聞いてたお店に行ってご飯食べましょう」

そんな裏技使うなって感じで、とりあえず二人は夕食を取りに宿を出る。
そして料理屋に到着―――

「あら、結構おいしそうね」

「・・・・・・」

「どうしたの?」

「ちょっとそのままでいろ」

そう言うと彼は自分の料理とアーリャの料理に鼻を近づけ匂いをかぐ。
そして、そのまま席を立った。

「いくぞ」

「えぇ!?まだ食べてないじゃない!っていうか!来たばかりよ」

「いいから、説明は後だ」

そう言うと料理に手を伸ばしたままの彼女を引きずり店を出た。

「・・・どうしたのよ?」

「臭うんだよ」

「え!?私そんなに汗欠いてなんか・・・」

「お約束のボケはいらん。いいか?ここは大きくは無いが、小さくも無い。それなりの大きさの町だ。そして、そこで宿が何故か一件しかない」

「・・・普段は観光客も少なくて、一件だけしか営業してないんでしょ?」

「いや、それなら平時は違う店で、こういうイベントが近い日などは宿としても営業するような店が最低一件はあってもいいはずだ」

「・・・それで?」

「そして、この町の人間に聞けばみな口をそろえてあの宿への道を教えた。そしてそこの主人はさっきの料理屋を教えた。更に、宿に行く前少しこの町を見たが、メシ屋が見つからなかった」

「だから?」

「・・・あの料理、嫌な感じがした」

「嫌な感じ?」

「あぁ・・・・なんかもう嫌な予感しかしない。俺はこういう予感には従う事にしてるんだ」

「・・・どういう事?」

「さぁね。とりあえず、今夜はこのまま町を出るぞ」

「えぇ!?どうしてよ!」

「こんな妙な町で一晩過ごす気は無い。宿に戻って荷物取って出るぞ」

「えぇ~・・・・ごはん・・・」

おなかを押さえ、少し悲しそうに訴えてくるが

「安心しろ。ちゃんと用意してやる」

「・・・・普通の人間が食べられる物なんでしょうね?」

ぜんぜん安心できないっと言った感じで睨みつける。

「・・・・お前が俺をどういう目で見ていたかよ~っくわかった・・・」

「今更よ」

そして宿に「忘れ物をした」といい戻り、荷物だけ持って窓から飛び出た。

「・・・ここまでする必要あったの?」

「念のためさ。面倒ごとはゴメンだ。トゥールの町は迂回するぞ」


そう言い、町を出てしばらく移動した森の中。
川の辺で腰を下ろした。

「さて、今日は此処で野宿だな」

「・・・結局こうなるのね・・・」

うな垂れながら目の幅涙を流すアーリャ。

「そう言うな。野宿ってのも結構悪くないぞ?」

楽しそうに笑いながら、川に入って行くタカシ。
そんなに深くなく、深さ30サントほどの小川で、水が透き通っており、魚が泳いでいた。

「何するの?」

「夕食の支度」

そう答えると無造作に川に手を突っ込み、熊のように手を振り、魚を4匹ほど捕まえた。

「それが夕食?」

「そうだ。贅沢言うなよ?」

「・・・言わないわよ・・・」

もう贅沢を言う余裕も無く、ともかくおなかが空いているご様子です。
そしてタカシは周囲の小枝などを集め、マッチ(自作)を使い火を付け、適当な大きさの岩の上で、群雲を使いハラワタを取り出そうとした。

「ちょ、旦那!俺っちで切らないで!魚の匂いが!!」

「気にするな。ちゃんと洗う」

なんと惨い事に、彼は群雲で魚を切り始めた・・・そんな光景を見ながらも、手馴れた手つきを見てアーリャが

「・・・・慣れてるのね」

少し感心したように聞いてくる。
そんな言葉を聞きながら、捌いた魚を串にさして、火で魚を焼く。

「まぁ、こういうのも個人的に好きだしな。結構野宿とかはしてるんだぞ?金の節約にもなるしな」

そう言い、笑いながら川へ入り、上半身裸になる。
そしてそのまま服を水につけゴシゴシと洗い出した。

「お前も水浴びしとけ。次はいつ浴びれるか解らんからな」

「な!何でよ!?別に次の町で宿に泊まればいいだけでしょ!?」

少しテレながら、驚きの声が上がる。

「次の町で泊まるとは限らない。だから出来るときに出来る事をやっておいたほうがいいのさ」

「・・・・でも・・・・」

それでも渋るアーリャをみて、少し苦笑しながら

「安心しろ。俺は後ろ向いててやるから」

「・・・・それじゃぁ、ご飯食べた後にするわ」

「そーかい」

恥ずかしくて渋っていたのかであろう。
そんな彼女に苦笑しながらもそのままバシャバシャと体を洗い、火の近くに濡れた服をかけて乾かす。
そうこうしている間に、魚が焼きあがったようだ。

「ほら、できたぞ。食え」

そう言い、串焼き魚を突き出してきた。

「・・・・これ、食べられるの?」

魚の串焼きなど見たことが無かった貴族の娘は、怪訝そうな顔で魚を眺める。

「・・・はぁ・・・要らないってんなら食うな。その代わり、食い物は自分で用意しろ」

そんなお嬢様をみて、ため息を吐きながらも肴を食べだした。

「・・・背に腹は変えられないわね・・・」

アーリャは少し魚を眺め、あきらめて一口パクっと食べてみた。

「!これ・・・美味しいわね」

食べた瞬間、目を見開いて、そのままパクパクと勢い良く食べ始めた。
そんな彼女の反応を楽しそうに見ながら

「だろ?取れたての焼き魚ってのは美味いんだ。ちょっとだけ塩をまぶしてやるのがコツだな。勿論、そのまま焼いても美味いがね」

「塩なんて何処にあるのよ?」

口の周りを少し汚しながら、食べる手を止め質問するお嬢様。

「汗だよ」

その答えを聞いた瞬間、彼女は思わず噴き出した。

「っぶ・・・あ、汗って!?」

「ぷっ・・・冗談だ。ほれ、ここに塩がある」

笑いながら自分のコートの中から塩の入った小瓶を取り出し掲げて見せた。

「・・・・・冗談に聞こえないのよ・・・ってか、それいつの間に用意してたの?」

それをジト目で睨むアーリャ嬢。
どうやらまだ疑っている様である。

「軽い調味料程度なら野宿用にいつでも持ち歩いてるぞ。汗は使って無いから睨むなっての」

ジト目で睨んでくる彼女を宥め、そのまま食事を終えた。

「ふ~・・・意外と美味しかったわね、ご馳走様」

「はいよ。んじゃ、とっとと水浴びして来い」

手で行けっと指示を出し、周囲の片付けを始めた。

「・・・覗かないでしょうね?」

ジト目で睨んでくるが、シッシッと手を振り、さり気に失礼な事をほざいた。

「見るならもっとマシなのを見る」

そんな事を言われ、不機嫌になりながらも、アーリャは川で水浴びを始めた。
しばらくして、持ってきていた変えの服に着替えて戻って来た。

「ふ~、冷たかったけど気持いいわね」

ご機嫌は治っている様で、サッパリした感じである。

「この時期は過ごしやすいからな」

「そうね。ところで、明日は何処まで走るの?」

「さっき地図を見て確認した、トゥールの町を迂回して進むと少し時間がかかるが、エヴルーの町まで行く予定だ」

「って何処よ・・・知らない」

「あぁ。俺も地図でしかしらん。とりあえずもう寝ろ。明日は早いうちに出発するぞ」

「はいはい・・・見張りは任せてもいいの?」

「あぁ。いいから、安心して寝ろ」

「そ・・・んじゃ、お休み」


そのまま夜は更けて、辺りには虫の声と小川のせせらぎだけが響いていた。








以上です。え?フラグ?武道大会?ナンデスカソレ?

そうそう、獲りたての魚をその場で捌いて焼いて食べるっていうのは良いですよ~。私も釣りが好きで、川などに行った時は釣った魚を捌いて食べてます。


では、引き続きご意見、ご感想、ご指摘等、お待ちしております。




2008/09/21 誤字を訂正しました。



[4075] 第三部 第四章 お仕事?×盗賊!×賞金!?
Name: 豊◆4d075937 ID:b0cd6971
Date: 2008/09/21 20:38

霧の山目指して学院を出発して二日目。

早朝に出発し、念のためトゥールの町を迂回。
そのまま昨日以上のペースで走り続け、エヴルーには昼ごろに到着した。

「・・・・はぁ・・・」

「どうしたよ?ため息なんてついて」

二人並んで町を歩いているが、アーリャはゲンナリしている。

「疲れたのよ・・・」

「何でさ?お前は抱えられてるだけだろ?」

「貴方!昨日はちょくちょく間に休憩入れてくれたのに、今日はずっと走りっぱなしだったじゃないの!」

「だって、妙な町に関わりたくなかったし」

「・・・・・はぁ・・・・・」

肩を落とし、がっくりしているアーリャ。
相当お疲れの様です。
そんな彼女を見て、少し笑いながら

「ま、もう一つ理由があるがね」

「何よ?」

ちょっと不機嫌そうに返事をしている。

「ここいらでちょと軍資金を補充したいんだよ。そろそろ心もとなくなってきたし」

「お金なら私も持ってるわよ?」

「いいよ。俺の都合に付き合わせてるんだ。俺が出す」

「・・・無理やり付いてきたんだけどね」

妙に律儀というか、細かい男に苦笑しつつ、少し冗談の心算で言うが、真顔で返された。

「その自覚があるなら大人しくしてろよ?」

「・・・わかったわよ・・・」

そう言いながら、手配書が張ってある壁の前に到着した二人。
タカシはその壁を一通り眺めて

「ふむ・・・どれも小物か・・・」

「そりゃ、その辺りに大物がゴロゴロしてたら大変よ」

「それもそうだが・・・もっとこう、俺のために少しでも賞金を上げておこうとかいう努力をする奴はいないのかっとね」

等と好き勝手な事をほざく男。

「お前はあんまり調子に乗るな!!!」

そんなとんでもない事をほざく男を叱っていると後ろから

「兄ちゃん、アンタ賞金稼ぎなのかい?」

そう声をかけて来た憲兵の様な格好の男。

「いんや。路銀の補充だ。あんたは?」

「をいをい、そんな適当な覚悟で賞金首に挑むと死ぬぞ?あぁ、俺はロイター。憲兵だ」

呆れた顔をされてしまった。当然ですね。

「さてね。それより、ここにいる小物以外でもっとマシで楽に見つけられるのは居ないのか?出来ればこの町に変装とかして潜り込んでくれてりゃ最高だ。すぐに引っ張ってきてやるよ」

などど図々しい要求をぺらぺらと述べる。

「・・・本当、こんなのにつかまる賞金首ってのは哀れよ・・・」

隅で頭を抱え、しゃがみこんでしまったアーリャさん。その男の主人である。

「自分の使い魔にそりゃねーんでね?」

「もういいの・・・私はあきらめてるから」

そんなアーリャにおどけた調子で抗議をするが、彼女は何処か遠い目をして虚空をながめ、はははと乾いた笑みを浮かべている。

「そーかい。んで、どうだ?」

「まぁ、そこまで言うなら・・・心当たりというか、最近ある噂がある」

そんな彼女を放置し、ロイター氏に向き話す。

「「噂?」」

頭を抱えていたアーリャもいつの間にか復活し、二人そろって首をかしげた。

「あぁ。凄腕メイジ傭兵のカールがここいらの盗賊に雇われたって話だ」

「カールだか海老煎だか知らんが、賞金はいくらだ?」

「カール本人の賞金は無いよ。傭兵だからな。それより、雇った盗賊団に賞金が懸けられている」

「いくらよ?」

思わずアーリャが聞き返した。

「3000エキューだ」

「ヒュ~♪なかなか肥えた獲物だな。どんな奴らなんだ?」

口笛を吹き、だんだんと機嫌がよくなる男。

「バリエラファミリアって連中だ。リーダーはバリエラという女で、そこいらの貴族や町の銀行、様々な場所で盗みを働いてるんで、賞金がどんどん上がってるんだ。実際、腕もいいしな」

忌々しそうにしながら、盗賊の悪行を語るロイター。
どうやらそうとう派手に暴れている連中の様だ。

「ほほぉ、そいつは実に良い。もう少し肥えさせてからでもいいが、他の奴に取られちゃ適わん。俺がその金を有効的に活用してやろう」

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、上機嫌にそうのたまう。

「・・・強気なのは結構だが、どうするんだ?凄腕の盗賊団に凄腕の傭兵メイジ。はっきり言って軍にでも出張ってもらわにゃ敵わんぞ」

「そんな物はいらん。それより、次にそいつらが出そうな場所とか、出来ればそいつらのアジトとかわかってりゃ文句ないが、何か情報は?」

「・・・まぁ、なんとか出来るものならしてみろ・・・ちょっと事務所に来い。情報をみせてやる」

そんな男を暫く眺め、溜息を付いたにそう切り出した。
溺れるものは何とやらであろうか。

「おぉ、おっちゃん、中々話がわかるじゃねーか」

「アンタみたいなのでも、もしかしたら奴らの一人か二人くらいなら刺し違えてでも始末してくれるかと思ってな。どんなに少ない可能性でもいいから賭けてみたいのさ。それくらい、奴らによる被害がでかいって事だ」

もう自棄だと言わんばかりのロイター氏。
対照的に男の機嫌はどんどんよくなる。

「おぉ、なかなか良い判断だ。まかせろ。俺がきっちり生死を問わずに解決してやる」

「殺してどうする!賞金が無くなるでしょ!」

いい加減突っ込むアーリャ嬢だが

「いや・・・こいつらはDEAD OR ALIVE。つまり、生死を問わずって奴らさ・・・生け捕りなんて甘っちょろい事言える段階じゃなくなっちまった連中さ」

「おぉ、ますます結構。全員殺っていいんだな?遠慮しないぞ?俺は」

もう賞金を貰ったかのように楽しそうだ。
そんなロイターの言葉にさらに機嫌を良くする馬鹿一名。

「少しは遠慮しろ!」

さっきから必死に突っ込んでいるアーリャ嬢。
しかし、マトモに取り合ってもらえていません。

そうこうして憲兵と二人は事務所に到着。
奥から何やら地図を出してきた。

「んで、こいつが今までの犯行のポイントだ。かなり広範囲だが、中心はこの辺り。俺はここに奴らのアジトがあるんじゃねぇかって睨んでる。残念ながら、確認できていない。何人かアンタみたいな賞金稼ぎも来たんでこの情報を渡したが、その後何の音沙汰も無い。やられたか逃げたか・・・」

「すばらしい、ここから近いじゃないか!なんて奴らだ。まるで俺のために今まで頑張っていてくれた様な物だな。これも普段から俺の行いがいいからに違いない」

やたら上機嫌で鼻歌を歌い出しながらそんな事をほざく。

「・・・アンタみたいなのは初めてだな。この話を聞かせてそこまで言った奴は居ないよ。とりあえず、少しだけ期待させてもらうか」

そんな男を見て、呆れながら、自棄気味に言い放つロイター氏。

「おぉ、じゃんじゃんしとけ。んじゃ、ちょっと始末してくるわ」

「ちょっと!?いいの!?こんなんで!?」

「いーのいーの」

抗議は全て無視。
「こいつが盗賊団じゃね?」とか言う意見も全て無視。
罠に自ら、カモとネギと鍋とコンロと材料各種を持って突っ込んでいきます。


そしてしばらく歩き、地図に示してあった辺りに到着。

「・・・・ねぇ・・・本当にここなの?ってか、本当にここだとして、平気なの?」

不安そうに聞いてくるアーリャに対し

「おー。多分ここじゃねーかな?それにへーきだろー」

めちゃくちゃどうでもいい事のように答えた

「・・・・罠だとか考えないの?」

「罠でもどうでもいいさ。向こうからで向いてくれりゃ手間が省ける。それにあの地図を見る限り、確かにこの辺りの可能性が高いしな」

「ふ~ん・・・」

その答えを聞いても、やはり不安そうだ。

「ま、安心しろ。きっちり皆殺しにしてやるよ」

ニカっと笑ってくる男。

「安心できるか!?」

堂々と殺人予告をする男に、いい加減アーリャが突っ込んだがその時

「まったく、一々お前は・・・・お?来たぞ?」

「え!?」

先ほどからずっと「円」で周囲を警戒していたタカシが、何かを察知したようだ。
しかし、わずかに表情を険しくする。

「6人だな・・・盗賊・・・?軍隊じゃねぇか?」

「え?軍隊!?何で?」

「動きの統率が取れてる・・・これは、斥候・・・偵察隊って所か?・・・何だ?本当に盗賊か?」

そう怪訝そうにしながら、油断無く構える。
そしてどうやら、敵もこちらを発見したようだ。

「・・・くるぞ。俺の傍から離れるなよ」

そう言われッキュっと彼のコートの裾を掴むアーリャ。
そんな彼女に苦笑しながら

「・・・お前ねぇ、それじゃ俺が動けないだろ?」

そう言い視線をずらした瞬間、周囲に隠れていたであろう六人がいっせいに襲いかかってきた。

「おぉ、人間の特性をよく理解し、完璧に統率の取れた功撃だな」

六方から一斉にサーベルを振り下ろし、切りつけてくる男達を余裕にコメントしながら見ているタカシ。

「ちょっと!?そんな余裕」

アーリャが焦って何か言いかけた瞬間、六本の剣がタカシに当たる――前に空中で停止した。
以前ヴェストリの広場でサイトと戦った時の様な現象だ。
そんなありえない現象で、声こそ上げていないが、明らかに驚きの表情を浮かべる盗賊達。

「悪いな、その武器じゃ俺を殺すのは無理だ」

そう言いながら手を動かしたように見えたが、良く見えない。
次の瞬間、男達はそのまま地面に崩れ落ちた。

「な、何!?何したの!?」

突然倒れた盗賊達を見て、キョロキョロしながら驚くアーリャ。

「別に?ちょっと殴っただけだ」

「殴った!?いつ!?」

「今だよ。他にいつ殴れたってんだ」

別段なんでもないと言った具合に答えるタカシ。

「えぇ!?全然見えなかったけど!?」

「そか。っま、それより・・・アーリャ。目瞑れ」

「・・・え?何で?」

「これの後始末」

そう言いながら倒れている盗賊を足で蹴る。

「ッ!貴方!またそんな事を!」

「おい、いいか?この前のは雇われの傭兵だ。でもな、今回のは完全に盗賊だぞ?自分の意思で、明確な殺意を持って俺達を殺そうとした。しかもこいつらの動き。そこいらのザコと違う。訓練され、統率のしっかり取れた本物だ。軍隊かと疑いたくなる程のな」

また殺すのかっと抗議をしようとしたアーリャの言葉を遮り、諭す様に言う。

「・・・・・それでも・・・」

「ダメだ。いくらなんでもそれは許さん。前の奴らはまだ良い。完全に害意を削いでいたからな。だが、こいつらは違う」

そこまで言われ、黙り込んでしまった。

「・・・・・」

「いいか?お前は甘い。だが、それは悪い事じゃない。俺のようにほいほい人を殺せる人間にロクな奴は居ない。お前の反応は普通だ。お前はそうなるな。なる必要もない。だから、目を瞑って見て見ぬフリをしろ」

そんなアーリャを見かねたのか、珍しく慰める様な事を言っている。

「・・・・・でも」

っと言いかけた瞬間、倒れたはずの一人が起き上がり、アーリャに飛びかかろうとした。

「往生際が悪いぞ。しかもよりによって俺の主人に向かうとは、いい度胸だ」

その男より早く、そう言いながら手刀を首に打ち込む。
相手は手刀が当たり気絶――はしない。
そのまま首と胴を二つに分けた。
派手に血を吹きながら崩れ落ちる死体。
返り血を浴びぬように一瞬で距離をとったタカシに抱えられて、アーリャも移動していた。

「・・・わかっただろ?あいつは、よりによってお前を狙ってきた。俺を狙ってきたってんならまぁ、まだ救い様もあったかもしれんがね」

「・・・・・・・」

青ざめ、ショックで何もいえないアーリャ。
当然だろう。倒れていた、自分で助けようとした人間に行き成り襲われ、目の前で首が飛ぶ様を見せ付けられたのだ。
普通の人間の反応である。

「・・・いいか?お前の反応は正常だ。俺が異常なんだ。お前は何も悪くない。気に留めるな」

そんな声も何処か遠くから聞こえる感じがした。
そして今度こそアーリャに目を瞑らせ、残りの五人の内四人を始末した。

「・・・その人どうするの?」

それを見て、少し脅えながら質問してくるアーリャ。

「尋問して情報を聞き出す。動きと位置取りからして恐らく、こいつがあの隊のリーダーだ」

そう言い、縛り上げて上半身を起こし、グっと背中の一部を押し込む。
すると男の目が覚めた。

「・・・ッー!」

「・・・目が覚め、縛られている状況でも声一つ上げない・・・っか・・・なかなかどうして・・・お前ら、本当に盗賊か?」

「・・・・」

起きた瞬間に驚いた様だが、それ以降はずっと目を瞑り黙っている盗賊。

「だんまり。敵に一切の情報は与えない・・・っか・・・さて、どうするかね」

そう言いながら後ろをチラっと見た。
後ろにいるアーリャは先ほどから元気がない。

(無理も無いな。さて・・・どうするか・・・尋問してもいいが、話すかな・・・ちょいと本気で拷問でもすれば話すかもしれんが・・・アーリャがなぁ・・・)

そうこう思案していると、アーリャが隣にやってきた。

「ん?どした?」

「・・・・ねぇ、この人どうするの?」

縛られている男を見ながらそう問いかけてきた。

「それを今考えてる。このままでも絶対に口を割らんだろうな。拷問でもすれば割らせる自信があるが・・・・」

そう言いながら視線をアーリャに向ける。

「・・・口を割らせて・・・それで盗賊のアジトがつかめて、敵を倒せて、周辺への被害は減るの?」

何かを考えながら言っている様だ。

「少なくとも、盗賊のアジトは見つかるな。もちろん、俺はこいつらを狩るが、その結果周辺への被害も・・・まぁ減るかな」

その答えを聞き、さらに何か考えてから

「・・・・・あなたは、一人の犠牲で百人を救うか、一人を見逃し百人を危険に晒すか問われたら、どっちを選ぶ?」

「その質問に答えてもいいが、俺の答えは参考にならんぞ?」

「いいわ・・・聞かせて」

真剣な目で見上げてきた。
そんな彼女を見て、少しだけ考えてから質問に答える。

「・・・どちらに自分の守るべきものがあるかによる。それで答えが変わる」

「守るべきもの?」

「そうだ。たとえば、今お前が殺されそうで、それをそのままにすれば百人の命が助かると言われれば、俺は百人を殺す。逆に、お前が百人の中にいれば俺は一人を殺す」

その答えを聞き、しばらく黙り込む。
そして

「・・・・そう・・・なら私は・・・百一人救いたい・・・」

搾り出す様に言った。

「それは理想だ。だが、決して間違っているとも言えない。そう思える事が大切だ」

その答えを少し予想していたのか、僅かに落胆の色が見て取れたが、次の一言で目を見開く。

「うん・・・だから・・・でも、今は私にその力は無い・・・だから・・・今は一人を殺すわ」

喋りながら何事か考え、最後にはっきりと言った。

「それが・・・「答え」でいいんだな?」

「えぇ・・・悔しいけど・・・今の私に全員救うなんて力は無い。それが現実・・・なら・・・一人を犠牲にする。ただし、二度とそんな事したくない・・・そのために・・・最後まで、しっかりこの目で見届ける」

しっかりと目を見据えてそう言ってきた。
そんな彼女を見て、思わず笑いだしてしまった。

「・・・ふ・・・っふふふ・・・いやぁ・・・お前を連れてきて良かったなぁ・・・あのじじい・・・確かに・・・なるほど。授業や机上じゃ学べない事を学べているなぁ・・・こりゃあのじじいにはしっかり礼をせにゃならん」

アーリャを見てうれしそうに、楽しそうに言う。

「えぇ・・・学院長先生には感謝しなくちゃ・・・この現場にいなかったら・・・私はいつまでも現実を見なかったかもしれない」

「だなぁ。よし、覚悟はいいな?俺は遠慮せずにやるぞ?」

「・・・・いいわ・・・最後まで見届ける」

その言葉を聞き、にやりと顔を歪め、以後、拷問が終わるまで彼はアーリャに振り向く事が無く、アーリャも決して目を背けずに、その光景をしっかりと見ていた。

そして捕虜から情報を聞き出し、そのまま捕虜を始末して彼らは再び進み出した。

だが、さすがにショックが大きい様子のアーリャ。
すっかり元気が無くなってしまっている。
そんな彼女を心配したのか、言い聞かせる様にして

「いいか?何度も言うがお前の反応は正しい。普通の反応だ。異常なのは俺。奴らに手を下したのも俺。お前は何もしてない」

「えぇ・・・でも、何もしていない・・・いえ、出来なかった事を気にしているのよ」

目の前で見せられた光景にショックを受けているよりも、何も出来ない自分を歯がゆく思っているのか。

「・・・そうだな・・・もっと色々学んで・・・強くなれば・・・お前にもいろいろ出来るようになるよ」

そんな彼女を見て、優しく頭を撫でるタカシ。
すると彼女が顔を上げ、少し不安そうにしながら聞いてきた。

「・・・本当にそうなれると思う?」

「なれる。前も言ったが、なれなかったとしても、俺がそうさせてやる」

しっかりと肯定してやる。
その答えを聞き、アーリャもいくらか元気が出たようだ。

「そうね・・・もっと・・・もっと頑張る」

「ほどほどにな。あんまり張り詰めてると身が持たん。休憩も大事だ」

「えぇ・・・良いお手本が目の前にいるしね」

「そーそー」

ようやく少しだけいつもの調子になってきた。
そのまま二人は進み、情報どおりの場所にアジトらしき洞穴を見つけた。

「あそこ・・・か・・・見張りもいるな・・・どうやって攻めるかなぁ(俺一人なら正面から突っ込んでもいいんだが・・・アーリャが居ると下手に動けん・・・っま、今更だな)」

「・・・私に考えがあるわ」

そんな思案をしている事を知ってか知らずか、アーリャが何事か考えついた様だ。
いきなり小声でそう言ってきた。
それに目を見開き、興味を持った様子で

「・・・ほぉ?どんな?」

「まず―――っと言う計画・・・どうかな?」

そして彼女は自分の思いついた事を話し、不安そうにやや上目で聞いてきた。
そんな彼女を見て、タカシはは驚いている様だ。

「・・・それ、今お前が考えたのか?」

「えぇ・・・今まで聞いて見て、覚えて来た事とかいろいろ考えて・・・だけど・・・ダメかな?」

「いや・・・悪くない・・・悪くないが・・・お前が」

そのまま顎に手を当て思案していると、遮るようにアーリャが

「私も危険になるって事は百も承知よ!貴方が私との契約でそういう事をしたくないと思ってくれている事も知ってる。でも、それでも私は・・・もう黙って見ているだけは嫌なの・・・私に出来る事があればしたいのよ・・・」

少し泣きそうになりながらも必死にそう訴えてきた。
それを見て、しばし思案し

「ふむ・・・そうだな・・・安全な場所から高みの見物してるだけじゃぁ解らない事もあるか・・・よし、それでいこう。正し、――――。それと危険と判断したら遠慮なく逃げろ。逆に俺が危険と判断しても同じだ。いいな?」

「わかった」

「よし、んじゃ、準備するぞ」

そのまま何事か訂正をし、そう念を押した。
それにしっかりとうなずくアーリャ。
その答えを聞き、ニヤリと笑い、二人は何処かへ向かって行った。




以上です。 次回、アーリャの作戦による盗賊退治です。
ちなみに、町や村の名前などですが、実在していたとしても関係はありません。適当に資料でそれっぽいのを選びました。
なので「これ、ここにあるんだけど明らかに場所違うんでね?」とか「これ、町の名前じゃなくて別の物の名前でね?」などと言う疑問をお持ちの方は、そこらへんは適当にスルーしてくださいw

では、引き続きご意見、ご感想、ご指摘等、お待ちしております。




2008/09/21 誤字他を修正しました。



[4075] 第三部 第五章 作戦×実戦×盗賊団
Name: 豊◆0ec87a18 ID:4a68f909
Date: 2008/09/21 20:37
そして数時間後。
盗賊のアジトにて


「バリエラ姉さん!カールの旦那!偵察に行った連中、いつまで経っても戻ってきやせんぜ!?」

盗賊の一人が走ってアジトに戻り、報告してきた。

「だねぇ・・・まったく・・・まさか、やられたのかね?」

盗賊団のリーダバリエラがその報告を聞き、少し考えながら問いかける。
年のころは二十代後半。オレンジ色の髪をショートカットにし、細身だが、しっかりと筋肉の付いた女性だ。

「ふむ・・・僕の訓練した通りに動いていたのであれば、そこらの賞金稼ぎや憲兵に遅れを取るような連中では無いのですがねぇ」

メイジ傭兵。カール・フォン・マイヤーが顎に手を当てながら思案する。
彼は三十台前半で、茶色の髪にインテリメガネをかけた長身の優男だ。

「そうだねぇ・・・まさか軍が出張って来たって訳じゃぁあるまい?」

「えぇ。いくら何でも早すぎる。それに、仮に軍が出て来たとして、一人も戻ってこないという事は無いはずですよ。僕は「危険なら危険なほど一人でもいいから知らせに戻れ」としっかり教えましたしね。尤も、たかが盗賊団に軍が出てくるとも思えませんが」

バリエラは腕を組み立ったまま。カールは顎に手を置き腰を下ろしたままで考え込んでいる。

「・・・だとすると、余程大人数の賞金稼ぎ達とかかい?」

「それも無いでしょう。人数に不利がある場合も遠慮無く退く事を教えてあります」

あっさりとその可能性も否定。

「それじゃぁ一体・・・」

「可能性として列挙すれば、少数精鋭の敵ですね。一人、無いし二人です。この場合、彼らが一斉に襲い掛かり、全滅させられたと言う可能性がかなり高い」

「それほどの奴がいるのかい?」

その答えがよほど意外だったのか、組んでいた腕を解き、驚きの表情を浮かべるバリエラ。

「さて・・・この世界はまだまだ広いですからねぇ・・・僕のあった事の無い人物に、そういう者もいるかもしれません」

「少なくとも、アンタはそんな奴見たこと無いって事かい」

「えぇ。撃退するという事だけなら、可能な者も多くいるでしょうが、全滅となると・・・メイジが相手でも、僕の教えた通りにしていれば問題無いはずですし・・・」

そのまま何やら考え込むカールであった。

「そうかい・・・とりあえず、捜索の数を出して死体だけでも見つける事にするかね」

「・・・そうですね。どのような手段で彼らがやられたのか、ソレを知る必要があります」

バリエラの提案を聞き、しばしそのまま思案して同意したカール。
二人の指示により20人ほどがアジトから出て行った。
そして出て行った者達を見送りながら二人は

「さすがに20人も居れば全滅は無いだろ」

「えぇ。とりあえず結果を待ちましょうか」

そう言うと二人はそのまま黙って腕を組み、その場から動かなかった。
そして

「伝令!偵察隊の死体を発見!さらに、人影が目撃されたので一斑が追跡中!指示を!」

「三班、死体をここへ。二班も人影を負わせてください」

走ってきた者の伝令を聞き、即座にそう指示を出すカール。
そして数分後、死体が運ばれてきた。

「ご苦労様です。あなた方も追跡に加わってください」

そう言い、三班を追跡に向かわせると死体を検分した。

「ふむ・・・六人中四人が、頚動脈切断による出血死・・・一人が首を跳ねられ、一人が行方不明ですか・・・」

死体の横にしゃがみこむ様にして呟くカール。
その後ろから腰に手を当ててバリエラが質問をしてきた。

「どう見るね?」

「・・・おそらく、こちらの情報が漏れている・・・かもしれません」

しばし思案し、そう結論を出した。
その答えを聞き、大いに慌てるバリエラ。

「んな!?どういう事だい!?」

「・・・発見されていない一人・・・これは恐らく拷問された可能性が高い。そして、この手口を見る限り、敵は相当な腕前です。
そんな者から拷問を受ければ恐らく、吐くでしょうね・・・」

「・・・じゃぁ、目撃された人影というのは?」

「罠でしょうね。そちらに戦力を割かせ、その隙にここに忍び込む・・・っと言った所でしょうか」

立ち上がり、そう予測してバリエラの方を向く。

「・・・とりあえず、見張りの人数を増やすよ?」

「えぇ。それと、捜索班を全員呼び戻してください。こちらの守りを固める方が重要です」

「解ったよ」

二人はそう結論付け、出て行った者達を呼び戻す。
そうしてしばらくして、偵察にでた20人は戻って来た。
そんな時

「伝令!櫓の見張りが人影を発見!」

「カール!?」

「・・・不自然では無いでしょうか・・・この時に・・・恐らく囮かと」

焦るバリエラに対し、冷静に分析をし、結論を出す。

「なるほど・・・いいかい!無視しな!」

それを聞き、伝令に来た者にそう指示を出した。
そんな時、別の者が

「!敵が矢を打ち込んで来ました!櫓に居た奴がやられました!」

「っち・・・カール!どうする!」

「・・・このまま被害が出るのは得策では無い・・・ですか・・・人員を出しましょう」

「第三隊!いきな!」

バリエラが即座に指示を出し、部下もそれに答える。
しかし、そのまましばらくしても敵を発見できず、第三隊は戻って来た

「・・・逃げられましたね・・・しかし・・この隙を突いて攻めてくると思ったのですが・・・来ませんでしたね」

「あぁ。まったく・・・苛立つねぇ」

「落ち着いてくださ「今度は歩哨がやられました!また人影です!」っ!すぐに第二隊を!」

何事かバリエラに言おうとした所、報告が来た。そしてそれに即座に指示を出す。

「何でさっきの第三隊の連中を出さないんだい?」

「彼らは今戻って来たばかり・・・いくらか消耗しています。万が一を考え、違う部隊に行かせました」

「なるほどね」

その答えを聞き、関心したように声を出すが
しかし、第二隊も敵を発見できず、そのまま戻って来た

「っちぃ!またすかしッぺか!フザケやがって!」

怒りを発散させるように、洞窟の壁を殴りつけるバリエラ。それに対し、顎に手をあて冷静に分析をするカール。そこへ

「・・・また襲ってきませんでしたね・・・一体何を・・・」

「また人影が!」

「っち!第一隊!い「待ってください」なんだい!」

「いけません、これ以上無駄な消耗は避けるべきです」

バリエラが何事か指示を出そうとしたのを遮った。

「・・・・仲間がやられたのにかい?」

「仇を討つためにも、ここは無駄な消耗は避けるべきです。敵の狙いは我々に何度も無駄足を踏ませ、消耗させる事です」

「・・・なるほど・・・確かに、そうかもしれないねぇ。さすが、カール殿」

確信を得た様に答え、バリエラもその答えに同意した。彼の判断を信用する様である。
しかし、その間も矢による功撃は続く。

「っく・・・いつまで・・・しつこい奴だね・・カール!本当に撃って出ちゃダメなのかい!?」

「・・・それが敵の狙いでしょう・・・我々に撃って出させ、戦力を分散、さらに消耗させ、本陣を奇襲」

アジトの奥から入り口付近まで出て、その岩陰に身を隠しながら外を見て、議論をする二人。
しかし、かれらは洞穴の外に出られなかった。
一歩でも出ればすぐさま矢が飛んでくるのだ。
そして、日が傾いてきた時間

「また人影です!」

「・・・もう我慢できん!第一、第二隊!いけ!カール!文句ないね?」

有無を言わせぬ迫力でそう問いかける。
相当頭に血が上っている様だ。

「・・・確かに・・・ここで敵の誘いに乗ってみるのも手ですね。第三隊はここの守備です。敵はこの機に乗じて必ず攻めて来るでしょう!いいですか?警戒を厳にしてください!」

そして60人近くもの人数が敵を追いかけ森に入って行った。
・・・しかし、敵を発見できず、さらに本陣への奇襲も無かった。

「くそ!どういう事だい!」

拳を握り締めながら歯をかみ締めるバリエラ。

「・・・わかりません・・・今が絶好のチャンスだったはず・・・なぜ?」

カールも予想しない事態に戸惑っている様だ。
そして最後に人影が出てから一時間ほどたった。
そんな時、ガサっと茂みが動いた。

「誰だ!出て来い!」

そう叫び、茂みに見張りが近寄る。
そして

「何事だい!」

入り口付近に居て、その声を聞いたバリエラがその場に向かう。
そこには地に膝を付き、怯えて震える少女が居た。

「誰だい!お前は!」

「っひ!す、すいません、ごめんなさいころさないで!」

今日一日の怒りをぶつけるかのように怒鳴るバリエラ。
そして少女は気の毒なほど振るえている。

「いいから!何しに此処へ来た!」

「ひぃ!」

そう怒鳴られ、ますます頭を抱えて震える。

「っち・・・殺さないから知っている事を話しな。何故此処へ来た」

「ぃ・・・ぁ・・・あの・・・渡して欲しい物があるって・・・・その・・・頼まれて・・・」

このままではらちが明かないとでも思ったのか、声を抑えて問いかける。
そんな彼女に、震えながらゆっくりと答える少女。

「誰に!」

「っ!・・・ごめんなさいごめんなさい!ロイターって憲兵さんにです!すいませんすいません、私は何も知らないんです!」

急に怒鳴られ、必死に誤りながらも事情を説明しようとする少女。

「ロイターだと!?あたし達をコソコソかぎまわってる奴か・・・っで?何を渡せといわれた?」

「こ、ここここれです」

そう言い震えながらポケットから紙をだし、バリエラに渡す。
バリエラはそれを受け取り、そのまましばし見て

「どれ・・・「5000でどうだ?」・・・何だいこれは?」

「わ、わわ私にもわかりせん!ただ、ここに来ればそれを受け取りに来る男が居る!って!そいつに渡せば解るって!そしたら何か皆さん大声でしゃべってて私どうすればいいか解らなくて」

必死に早口でそう説明する少女。

「あぁ、もういいよ・・・お前ら!このお嬢ちゃんを縛り上げて連れてきな!」

その言葉を聞き、何か思い当たったのか。
バリエラが部下に命令し、少女は縛り上げられ、そのまま連れて行かれた。
そして

「カール。こんな物が出て来たんだが、心当たりは無いかい?」

「・・・?何ですかこれは?5000?」

突きつけられた紙を訝しげに見るカール。

「ロイターって憲兵が、このお嬢ちゃんに「ある男に」渡せと頼んだそうだよ」

それを聞き、紙から目をバリエラに移し、

「それで?・・・そのある男が僕だ・・・っと?」

「・・・今日のアンタはどうも様子がおかしいからねぇ・・・いつもは絶対に読みをはずさないのに、今日に限って全部はずれだ。そしてこのタイミングでこんな物が出て来た。しかも、出所はロイターときたもんだ・・・これで疑うなって言う方に無理があるんじゃないかねぇ?5000って数字。エキューだとするとアタシ等がアンタに払ってる報酬より遥かに高い。傭兵のアンタだ・・・報酬次第で簡単に人を裏切るからねぇ」

そんなカールを上から見下ろし、自分の考えを述べた。

「僕には何のことか解りませんね。それは敵の罠です。ここで僕達を争わせ、その隙にここを襲うつもりでしょう」

それでも冷静に考慮し、意見するが

「ほぉ・・・罠かい・・・そうかいそうかい、ならアンタを牢屋にブチこんで置けば争いは起きない。敵が来ても撃退できるというわけだね。お前達!この裏切り者とお嬢ちゃんを牢にぶち込んでおきな!」

そうバリエラが叫ぶと、数人の男が来て、二人を牢に閉じ込めに行った。
そしてアジトの奥に作られた牢屋に入れられた二人。



「まったく・・・なんて頭の悪い連中だ・・・騙されている事に気がつかないなんて・・・敵はかなりの曲者だぞ?僕抜きで対処など出来るはずがない・・・ックソ!」

いい加減腹に据えかねたのか、吐き捨てる様にそう言うカール。そんな彼に、少女は申し訳無さそうに

「ぁ・・・あの・・・すいません・・・私が何か余計な事をしてしまったようで・・・」

「いやいや、お嬢さんは運悪く巻き込まれただけですよ。恐らく、ここを襲っている奴がロイターという男に貴方にこうさせるよう指示させたのです。僕のほうこそ、巻き込んでしまって申し訳ない」

そんな少女に逆に謝るカール。

「ぁ、ぁの~・・・貴方は何故・・・その・・・盗賊さんなんかを?この人たち、盗賊さんですよね?貴方は・・・そうは見えないのですが・・・」

そんなカールの態度を不思議に思ったのか、恐る恐る質問をする少女。

「あぁ、僕は盗賊じゃなく傭兵ですよ。ここでは彼等を訓練してくれるようにと雇われただけです。ですが、この程度の連中・・・見限るのが遅かったですかねぇ・・・」

肩を落とし、自分の判断の甘さを悔いるカールであった。

「傭兵さん・・・ですか・・・」

「えぇ。お嬢さんは、町に住んでいるのですか?」



「・・・・・いいえ、私は貴族ですよ」

「・・・は?」

予想していた事とまったく違う答えが返ってきて、素っ頓狂な声を上げるカール。

「メイジ傭兵カール・フォン・マイヤーさん、私達に雇われてみませんか?」

「!?何故僕の名を!っというか!ここには看守が!」

いきなり名前を呼ばれ驚くが、ここには看守が居る。
そんな中こんな事を言う彼女を嗜めようとするが

「俺っちの事は平気ですよ。俺っちはこの人たちの仲間ですからね」

ナイフを片手にそう言う見張り。

「な!?それじゃぁまさか!」

「えぇ。私達は先ほどからここを功撃していた者です。どうですか?報酬はここからの脱出の手引きと、盗賊団の報奨金の三分の一、1000エキュー」

先ほどの怯えが嘘の様に、堂々と言うアーリャがそこに居た。

「・・・・もし断れば?」

「残念ながらこのまま此処で眠っていてもらいます。私達は貴方さえ居なければここを落とせますからね」

慎重に聞いてくるカールに対し、笑顔でそう答えるアーリャ。
その答えを聞き、そのまましばし考えていたが

「・・・なるほど・・・確かに、あなた達なら僕が居ない此処など容易に落とせるでしょうね・・・いいでしょう。その条件を飲みます」

「ありがとうございます。では、手順を説明します。まずは―――」




そして





「敵襲!敵は一人!まっすぐこっちに歩いてきます!」

「なんだと!?一人!?それは囮だ!他にいるはずだよ!注意しな!」

そんな報告を聞き、一人で真正面から突っ込んでくるなどありえないと決め付け、指示を出すバリエラ。
しかし、それは囮ではなく・・・

「よう、盗賊ども。俺は今日機嫌がいいんだ。特別に殺さないでやるよ♪」

上機嫌でニコニコ笑う男だった。
ダースベー○ーのテーマの鼻歌まで歌っている・・・似合いすぎです。
そう言うと彼はズンズンと洞窟目掛けて歩いてくる。

「っち!とりあえず弓隊!撃て!」

その合図に、弓を構えていた者達が一斉に矢を放つ。
しかし、矢は一本たりとも当たらない。
触れるどころか、数十センチ手前で止まり、弾かれたようにあらぬ方向へと飛んでいく。

「んな!?」

そんな驚愕の声を他所に、鼻歌を歌いながらバリエラの元へと向かい歩いていくタカシ。

「いやぁ~・・・あんたら、のおかげでまた一つ、良い物が見れた。その礼だ。お前等は殺さない。全員生け捕りにしてやるよ♪」

「っく、ふざけやがって!野郎ども!一斉にかかれ!」

そんなワケの解らん奴に、焦りと苛立ちを覚え、全員で仕留めるように指示を出す。
そう言いうと、おおよそ100人にはなろうかと言う大盗賊団全員が一斉に飛び掛る

「をいをい、こんな場所で一人を相手に一斉に攻撃する最大効率ってのは、せいぜい10人って所だぞぉ~♪」

「っな!?」

一瞬で飛び掛った者達が倒れ、他の者も次々と倒されていく。
そんな光景を見て驚愕するバリエラ。

「き、貴様!?一体何者だ!?」

焦るバリエラを他所に、鼻歌交じりで歩いてくる。

「俺か?俺は・・・・そうだな・・・・こういう時は何がいいと思う♪?」

「くっ、ふざけるな!」

「いやいやいやいやいや、全~然ふざけてなんかないって~の♪ただ、機嫌が良いんだよ。それもかつて無いくらいに最高だ♪」

怒り、焦るバリエラとは対照的にニコニコしながら近寄って

「っくそ!あたし等はこんなわけのわからん奴に潰されるのか!」

「安心しろよ~♪殺さないから。捕まえるだけさ。脱獄でもしてまた暴れりゃいい。何なら、脱獄の手伝いもしてやるよ?本当、それくらい俺は今機嫌がいい♪」

「ナメるなぁ!?」

そう言い剣を振りかざし、襲い掛かってくるバリエラ。
そんな彼女に向けて、楽しそうに拳をぶち込みまくる。
いつもなら見えないほどの速度で一瞬でやるのだが、今日は本当にゴキゲンだ。
手加減し、意識を失わない程度。

「♪~」

バシズバドカズシャっという悲惨な音が響く・・・
そのままさらに続けようとすると、いきなり後頭部を叩かれた。

「いい加減にしろ!」

スリッパで叩かれる不快感さえ、今の彼には快感にすら感じられる。
目覚めたのか!?

「何すんだよ~」

ニコニコしながら言ってます。

「何すんだじゃないでしょ!計画と違う!しかもそんなに殴ったら死んじゃうじゃない!」

「死なないように殴ってるから安心しろ。それに計画は・・・すまん、途中から忘れてたんだ♪」

えへ♪って感じで笑って言ってくる男にアーリャが切れた。

「この~~~~~!」

そう言い、いつものやり取りが始まり、それを後ろで眺める者が二人。

「・・・・僕はこんな人たちに完敗したのか・・・」

肩を落とし、何所か悲哀な感じがするカール。

「気にすんなや・・・人生そんなもんさね」

そんなカールの肩を叩き、励ますナイフを持った男。
そして、そのまま彼等を縛り、町へと運ぶ(この作業は全てカールがやった。正確には「やれ♪」っと言われたのでやった・・・)その後、憲兵の事務所で、賞金を受け取る手続きをする。

「・・・まさか本当に奴等を潰すなんて・・・アンタたち、一体どうやったんだ?しかも、カールまでここにいやがる・・・一体何がどうなってるんだ?」

驚きを隠せない様子のロイター氏である。

「おぉ、おっちゃん。俺は今日すこぶる機嫌がいいから特別に話してやろう。あれはなぁ――――」




時は遡り、彼女が計画を話す段階。


「まず、最初に人影を見つけさせるの。同時に死体もね。拷問したのだけは隠しておいて。これは私でも貴方でもどっちでもいいけど・・・貴方のほうが良いわね。逃げられるし」

「ふむ、んで、何でそんな事を?」

「彼を尋問してわかった事は
1、バリエラ盗賊団は三つの隊と偵察隊で構成。人数は合計百近い。
2、リーダーのバリエラは気象が荒い。
3、傭兵メイジカールが少し前から彼等を鍛えている。彼については詳細不明。知っているのはリーダーのバリエラのみ。
っと、こんな所ね。群雲もカールの事はしらないんでしょ?」

「あぁ、俺っちも知らないねぇ。あぁ、頭が切れる凄腕っ事くらいしかね・・・」

「えぇ。まぁ、要するに「詳細不明で厄介な存在」っと。彼に対してはこう言う認識でいいと思うんだけど、どう?」

「あぁ。問題ない。そこは俺も同意見だな。続きは?」

首をかしげて問いかけてくる少女に頷きながら肯定し、続きを促す

「ん、それで、まず彼を排除・・・彼の言う事が間違っている・・・っとか、信用を失墜させる・・・っとか・・・そんな感じで彼を舞台から下ろしたいのよ」

「ほぉ、具体的にどうやって?」

「ん~・・・たとえば、何度も彼の予測をはずさせて、その後、何も知らない平民に扮した私が彼の裏切りをにおわせる証拠をもって現れる・・・って感じかなぁ・・・」

「ほぉほぉ。んじゃその原案を元に詳細を決めてみろ」

必死に考えながら言うアーリャを、楽しそうに見ながらそう言ってきた。
その後しばし思案し

「ん・・・まずは・・・
1、最初の死体発見で敵はこちらの情報漏洩を知る。
2、カールはそれでこちらの実力を測る。
3、タカシが何度か敵に目撃→撤退を繰り替えす。追ってこなければ・・・弓を撃つなどして出てくるまで嫌がらせ。
4、彼は「こちらが留守の間に攻めてくる」と予想するはずだから、そこであえて攻めない。
5、バリエラが焦れて戦力の半分以上を投入してきたら作戦開始。それももちろん見逃す。この段階で彼は「今こそ襲撃がある」と読むがそれもはずす。
6、今までの行動で、敵の動きをよく群雲に覚えさせておく。そして敵の誰かに持たせる。
7、そして時間を置いてから私が「ロイターって憲兵からの預かり物」として裏切りを匂わせる物を持って登場。
8、それを見せ、信用が落ちているカールを内紛もしくは投獄により退場。
9、恐らく、私は捕まり牢屋へ。違う場合は群雲が看守を操作してカールと交渉。かれをこちらに引き込む。カールが既に居ない場合や、死亡したらその段階でそのまま10へ。
10、これで準備が完了。タカシが正面から突っ込む。
11、内部から私達とカール。もしくはカールと群雲が。外から貴方が攻めて挟み撃ちにする。っと、こんな感じでどうかな?」

それを聞いた瞬間の彼の顔は・・・驚き・・・今までみた事の無いような驚きと喜びと楽しみを混ぜた表情だった。

「うん。ただ、「裏切りを匂わせる」ってのは・・・お前じゃ無理か?」

「・・・・うん・・・ごめん・・・」

その質問に俯きながら答えるが彼は大して気にした風もなく、

「気にするな。ここまででも十分すぎる。そこは「5000でどうだ?」こう書いた手紙でいい。そして「ここで男と落ち合い手紙を渡せと言われた、行けば解ると言われた。何も知らない。これでいい」

「・・・たったそれだけ?」

「あぁ。あれこれ具体的な内容より、抽象的でどうとでも解釈できるほうがいい。そして、人間ってのは人から教えられた事より、自分で答えにたどり着いた場合のほうが、信憑性があるんだよ」


「ふ~ん・・・それで・・・どうかな?」

「ところで・・・それ、今お前が考えたのか?」

「えぇ・・・今まで聞いて見て、覚えて来た事とか、いろいろ考えて・・・だけど・・・ダメかな?」

「よし、それで行こう、正し、一つでも予定が狂えば一気に10へ飛ばすぞ?その場合はお前は後ろに下がれ。いいな?」






「っと言うワケさ・・・くっくっく・・・いやぁ・・・見事に嵌まってくれて。最初から俺一人で突っ込んでも良かったんだが、折角だしなぁ」

「では・・・僕は君じゃなく、彼女にしてやられたのか?」

楽しそうに種明かしをする男に対し、驚愕の表情を浮かべるカール。

「あぁ。計画段階で俺が関与したのは「手紙の内容」だけだ」

それを聞き、ロイター氏やカールが唖然としている中

「いやぁ、でも、何が一番面白かったって、こいつの演技だな」

そう言いながら隣に居るアーリャの頭に手を置く。

「あの平民の子供に扮した演技。いやぁ~、こいつの見た目も手伝ってか完璧だったね。近くで見てて、笑いをこらえるので大変だったよ♪」

ものすごい楽しそうに、上機嫌でそうほざく男。
しかし―

「・・・ねぇ?その段階だと、貴方は遠くに居るハズよね?・・・今近くで見てたって言わなかった?それに結局アナタ一人で全員倒して・・・挟み撃ちする意味ないじゃないの・・・」

なにやらプルプルと震えながら俯きそう仰った。

「ん?あぁ。何かあればすぐにでも飛び出そうと思って、すぐ近くの木の上から見てたんだよ。そうそう、携帯で写真も撮ってあるぞ?見るか?」

そう楽しそうに言いながら彼女の醜態(?)を見せ付けてきた愚か者・・・

「タ~~~カ~~シ~~~!!!」

そんな大馬鹿にキレ、ものすごい形相で襲い掛かるアーリャを、いつもの様にヒョイヒョイと交わしながら、楽しそうに笑う男。
そんな二人を見つめながら、ポカンとしている残りの二名と、なにやら「やれやれ」っと言う雰囲気を出しているナイフがその場に残っていた。








以上です。いかがでしたでしょうか?
最初から一人で突っ込ませても良かったんですがねぇ、折角の機会だし、アーリャが少し、活躍してみました。
次回、なぞの男が登場ですw





2008/09/21 誤字他を修正しました。



[4075] 第三部 第六章 準備×山越え×竜
Name: 豊◆0ec87a18 ID:4a68f909
Date: 2008/09/21 21:20



そんなこんなでロイターやカール達に別れを告げた二人は、
火龍山脈の麓の町「ソシエテス」に向けて出発しようとしたが、本日はもう日が落ち夜になっていた。
アーリャは今晩も野宿かぁ・・・っとか思いながら溜息をついたが、そんな彼女の予想を上回る答えが返ってきた。

「ん?野宿はしないぞ?」

それならもしや宿に?っとか思い、期待に胸を膨らませたが、次の瞬間、信じられない一言が聞こえてきた。

「今夜は一晩中走って一気にソシエテスに行く。お前は寝てていいぞ?そのまま抱えて走るから」

などと突拍子も無い事をヘラヘラとほざかれ

「へ?」

と素っ頓狂な声を上げている所をそのまま抱えられ、一気にソシエテスに向けて走り出したタカシであった。

「ちょっと~~~こんな状態で眠れるわけないでしょ~~~!」

とか叫ぶ声が、ハルケギニアの夜空に響いた。

そしてそのまま暫くすると、何だかんだと言いながらも疲れていたのであろう。
彼女はスースーと彼に抱かれながら眠りに付いた。そんな少女を起こさない様、なるべく振動を立てぬ様に注意しながら、タカシは一晩走り、翌朝にはソシエテスに到着した。


「・・・信じられない・・・」

学院を出発して三日目の朝。

チュンチュンとスズメらしき鳴き声が聞こえる中、彼等はソシエテスに到着。
現在、いろいろと店を回って、装備を整えている真っ最中だ。

「ん?どうした?」

何やら店の主人と会話を終えて出て来た男が不思議そうにそう聞いてきた。

「・・・本当に一晩で付くなんて・・・」

もうどこから突っ込めば良いのか解らないと言った様子で、そう呟くように言うアーリャ。

「ま、たまにはこう言うのも良いさ」

「良いワケあるか!」

そんなやり取りをしながらも、色々と買い物をして朝食を取り、いざ火龍山脈へと向け出発する二人。

「・・・ねぇ?本当に火龍山脈を超えられるの?ここって竜とかサラマンダーとかの巣なんでしょ?」

「んー。へーきだろ」

不安そうに聞いてくる少女を何かどうでもよさそうに適当にあしらい、そのまま山脈に向かい歩き出した。

そしていよいよ、登頂を開始。
っと言う所で、後ろから声がかけられた。

「やぁ、君達も火龍山脈に何か用があるのかい?」

爽やかなハンサム。10代後半~20代前半であろうか。金髪で長身細身の青年が、歯をキラっと光らせながら笑顔でそんな事を言ってきた。

しかし、そんな彼に一々反応してやるようなやさしい心を誰かは持っていない。

「いいか?勝手にウロチョロするなよ?」

「子供じゃないんだからそんな事言われなくても解ってるわよ!」

「どの口が言うかねぇ」

「どういう意味よ!」

そんな二人はサラっと青年をスルー・・・訂正。
「誰か」ではなく、「彼等」ですね。

「・・・・・」

笑顔で片手を上げたまま硬直するハンサム。
まさか此処まで完全スルーされるとは欠片も思って居なかった様である。
当然ですよね。

そして二人はそのまま山を登っていく。

「ちょっと・・・何でワザワザ・・・こっちの険しい・・・道行くの?・・・向こうの・・・方が・・・なだらか・・・じゃないの」

ゼェゼェと肩で息をしながらそう質問してくるお嬢様。
火龍山脈は普通の山ではない。
火龍山脈は6000メイル級の山々が連なる長大な山脈だ。
そして雪や氷河の変わりに、赤い岩肌と黒い溶岩石が延々と頂上まで続いている。溶岩をいたるところで噴出し、雨を水蒸気に変え、辺りは白く濁った霧とむせ返るような熱気に包まれている山だ。
それもあり、アーリャは息を荒くしていた。

「向こうはあの先に竜が居る。さっきちょっと見てきたんだ」

「じゃぁ・・・せめて・・・魔法を・・・使わせてよ・・・」

「ダメだ。それに、仮に良いと言ったとしても、ここで使ってイザって時に魔力や精神力が切れて使えませんでした~っじゃ洒落にならん。同じ理由で俺がお前を抱えて登るのも却下。別に登れない程の場所でも無いし、少しは努力してみろ」

涼しい顔でそう答えながらも、険しい岩山のような斜面をヒョイヒョイと登っていく男。
しかも何気にちゃんと杭などを等間隔で打ち込んだり、岩を少しずらしたりと、ルートを作ってやっているようです。
そんな彼の作った道を息を切らしながら必死に追いかける少女。

「じゃぁ・・・ちょ・・・ちょっと・・・休憩・・・しない?」

「しない。っつか、こんな所で出来ないだろ?せめてもう少し上に行ってからだな」

そんな必死の訴えを却下し、そのまま登り続ける。

・・・そうして何とか斜面を登りきり、少し開けた場所に出るとアーリャが崩れ落ちた。

「・・・全く・・・これだから貴族のお嬢様は・・・」

「・・・き・・・貴族じゃなくたって・・・普通は・・・こうなるわよ・・・」

溜息を突きながら半眼で睨んでくる男に、息を切らしながらも必死の抗議をする少女。

そんな二人が暫く休憩していると、先ほどのハンサムが彼等と同じルートで上ってきた。

「ふぅ・・・中々にキツイね。でも君達、よくこんな道を見つけたねぇ」

爽やかに額の汗を拭うハンサム。
年頃の少女達が見たらキャーキャー言いそうな場面だが

「さて、そろそろ行くぞ?」

「え~・・・もうちょっと休ませてよ・・・」

「お前ね。俺は今日中には此処を越えたいの。そのためには少しでも早く登らなきゃいけないの。だいたい此処って竜の巣なんだろ?そんな場所にいつまでもいられるかよ」

立ち上がり出発しようと言う男に、抗議の声を上げるが逆に諭すように言われ、渋々立ち上がり、彼の隣に並んで山を登り出すアーリャ。

そんな二人にまた無視・・・っというか、視界に入れてもらってないのでは?
って感じのハンサム(未だ名無し)は再びその場で硬直していたとか・・・

そうこうして昼ごろには、山脈の中で一番越えやすいであろう道程の半分まできていた。

「ここ・・・湯気でよく見えないわね・・・」

そう言いながらもタカシの服の裾を少し掴み、キョロキョロと辺りを見回すアーリャ。

「竜の巣って事らしいけど・・・今の所出くわしてねーな・・・まぁ、出くわさないようにワザワザ道を選んだんだが・・・いいか。面倒なのが来ない内にとっとと抜けるぞ」

そう言いそのまま進もうとした時、彼等の後を追ってきていたハンサムが叫び声を上げた。

「ま、待ってくれ君達!」

勿論、やさしい(?)アーリャは仕方なく(?)反応してあげた。

「えっと、貴方だれ?何処かで会ったかしら?」

訂正、今はじめて気がついた様です。

「そんな妙なのに関わるな。俺は先を急ぎたいんだ」

不満を隠そうとすらしない男がそう言い放つ。

「・・・まぁ、面倒ごとはごめんよね」

何だかんだでアーリャさんも使い魔の影響でヒドイ人間になってきている様です。

「お願いだ!僕の話を」

言いかけたところで、そんな叫び声を聞きつけたのか、遠くから火竜が一匹こちらに向かってきた。

「チッ。こいつ、さっさと始末しておけば良かったか・・・こんな所でバカみたいに叫びやがって」

そう言いながらも臨戦態勢を取り、構えるタカシ。

「ちょっと!?竜相手に戦うつもり!?」

「竜と戦ったことは無いが、戦いを避けれるなら避けるさ。でも、向こうはこっちに気がつき、向かってきてる。現状じゃ厳しいね・・・いや、まてよ?」

驚きの声を上げるアーリャの質問に答えながらも、ニヤリと何か企む男。
そして

「よし、逃げるぞアーリャ」

そう言い彼女を抱え、一気に走って距離をとろうとした所

「ちょ、ちょっと!?あの人はどうするのよ!?」

「知らん。自業自得だ。丁度良いから囮になってもらおう」

そんな外道な事を言いながら、そのまま逃げようとする。

「だ、だめよ!いくら自業自得とはいえ、そんな事出来ないわ!」

「んじゃ何か名案があるのか?あと10秒くらいなら待ってやるから考えろ」

「えぇ!?そんな!?」

「あと7秒」

そんな事を行き成り言われても無理である。そこへ先ほどのハンサムが

「僕は竜を捕まえたいんだ!協力してくれないか!?」

とか訳の解らない事をほざいてきた。
そんなハンサムに怒りを隠そうともせずに

「いい加減にしろよ?お前の軽率な行動で竜がこっちに向かってきてるってのに、そんなワケの解らない事に付き合えるか。死にたいなら一人で死ね」

そう履き捨て、ハンサムを睨みつけるタカシ。
そして

「時間切れだ。行くぞ」

そう言い放ち、アーリャを抱えたまま数十メイルを一気に走り、そのまま岩陰に身を隠す。

「ちょっと!どうするのよあの人!」

小声だが耳元で叫ぶように言われると煩い。

「知らん、あのまま食われて死ぬか焼かれて死ぬかの違いだろ」

そんな外道な事を言う悪魔。

「助けてあげてよ!」

「お前ね、無茶言うなよ。自分で言ってなかったか?「竜と戦うつもりか?」って。俺もこっちの資料で見ただけで実物は知らないんだ。勝てるかどうかも解らん相手に、自分からワザワザ戦いを挑む理由は無いな」

そういわれると黙り込むしか無いアーリャ。
確かに、自分達が襲われているならともかく、ワザワザ見ず知らずの、それも竜に襲われる原因を作った男を助けてやり義理は無い。
そんな時、小さく舌打ちが聞こえた。

「チッ、あのトカゲ野郎・・・こっちが狙いかよ・・・」

そう聞こえたので岩陰から顔を出し見てみると、竜はこちらを目指して飛んでいる様だ。
ハンサムはちゃっかりどこかに隠れている。

「クソ・・・仕方ない・・・戦るか」

軽く溜息を付き、岩陰からでてオーラを開放した

そして竜が目の前に現れた。
全長12メイルはあろうかと言う大きさだ。

そんな竜を岩陰から見て思わず縮こまるアーリャ。
一方、その使い魔は

「よう、トカゲ野郎。頭悪そうな顔してるが、素直に退いてくれんかね?」

いつもの調子で挑発している。
これじゃぁ人語を理解できてたとしても退くはずないですよ。
そんな挑発に怒ったのか(?)ともかく、何やら雄叫びのような声を上げた。
そんな竜に物怖じもせず、正面から向き合う男。
今までそんな生物を見たことが無いのか、竜は僅かに固まった。
瞬間―一気に間合いをつめ、オーラを込めた拳で顎を打ち抜く。
どんな生物も脳を鍛える事は出来ない。
その脳に衝撃を与えるように拳を打ち込んだ。
そして、竜はゆっくりと崩れ落ちた。

「・・・・ふ~」

僅かに竜を眺め、大きく息を吐くタカシ。

「・・・竜を素手で殴り飛ばすなんて・・・やっぱり貴方化け物ね」

岩陰から出てきて、そんな失礼な事を平然と仰るアーリャ嬢。
その化け物の主人である。

「お前ね・・・まぁ、一瞬退いてくれたしな。マトモに正面からぶつかってたらどうなったか・・・それは解らんね」

ヤレヤレという感じで首を振りながらもそう言い笑いかけ、そして竜を向いた。

「さて、丁度良い。食えるか分からんが食料にしよう」

そう言い群雲を取り出す。

「旦那!俺っちを使って切る気ですかい!?」

「ん?そうだよ。せっかくなんだし、使わないとな」

元メイジ傭兵地下水~肉を切るために使われるただのナイフに成り下がった様だ・・・

「・・・もうちょいマシな事に」

「食料は大切だぞ?」

笑顔でそんな事を言われ、なにやら溜息をついた群雲。
そんな彼(?)の抗議を黙殺し、まず息の根を完全に止めようとした所

「まってくれ!」

そう言い、どこからかハンサムが飛び出し、竜の前で両手を広げて立ちはだかった。

「・・・アーリャ。目瞑れ」

かなり不機嫌な様子でそう彼女に命令する。
それが何を意味しているのか、彼女には理解できたので

「ちょっと!やめなさい!いくらなんでも」

「黙れ。これ以上こんなのに付き合いきれん。竜から逃げたのは別にいい。叫び声を上げて竜が寄って来たのも・・・百歩譲って良いとしよう。だが、人が仕留め、処分しようとする獲物を横から奪う?いい加減にしろよ」

彼にしては珍しく怒りを露にし、アーリャの言葉を途中で切る。

「それでも殺すこと」

「こう言う馬鹿は生かしておく価値が無い。お前が目を瞑らないなら良いよ。そのまま殺る」

そう言い放ち、殺気をハンサムにぶつける男
その殺気に当てられ「ヒ」っと小さく縮こまるハンサム。

「・・・一度だけ。一度だけ言う。どけ」

それでも一応アーリャの意を組んでくれたのか、一度だけと警告して退く様に命令する。

そんな男に、全身を震わせながらもハンサムはそこを動かない

「ぼ・・・僕は竜を相棒にしにここまで来たんだ!ここで帰るわけには行かない!」

そうはっきりと宣言。
そして

「なら死ね」

そのまま群雲を無造作に投擲した。





以上です。次回、謎のハンサムの運命やいかに!




2008/09/21 誤字を訂正しました。



[4075] 第三部 第七章 火竜×覚醒×ハンサム!?
Name: 豊◆0ec87a18 ID:789b7561
Date: 2008/10/10 22:53




タカシが投げたナイフがハンサムに当たる―

瞬間、何かに当たってナイフが弾かれた。


ナイフはハンサムの前に現れた風の障壁に阻まれる。

「・・・どういうつもりだ?」

そのまま首だけ後ろを向くと、そこには杖を構えたアーリャが居た。

「ダメ!そんな無造作に人を殺めるなんて!しかも彼は何も罪を犯したわけじゃないのよ!?」

杖を構え、魔法で風の障壁を作った少女がそう叫んだ。

そんな少女に内心少し笑いながらも、ぶっきらぼうに質問を続ける。

「・・・そこは置いといて、俺の許可無く魔法を使うなと言わなかったか?」

「目の前で罪の無い人が殺されそうな時にまで、それを守るつもりは無いわ!」

アーリャも負けじと言い返す。

「・・・まぁ、そこは後で追求すればいいか・・・とりあえず、コレを始末してからだ」

そう言い、彼女からハンサムへと視線を移し、今度は以前武器屋で購入したナイフを手に持ち、そのまま

「やめて!」

叫びながらも二人の間に割って入るアーリャ。

「・・・お前が甘い事は知ってるが・・・優しさと甘さは違うぞ?」

そう言い、二人にまとめて殺気をぶつけた。

アーリャは生まれて初めて自分に対して向けられる強烈な殺気で、足が震えていた。

しかし、目を背けず、そのままタカシを睨み返す。

「それくらい分かってる!でも!私だって出来る事がある!盗賊を尋問する時は私に出来る事は無かった!今は違う!」

必死にそう叫ぶアーリャ。

「違わんよ。お前には何も出来ない。お前に俺を止める事もな」

冷めた目で彼女を見据える。
その目には特に感情が込められていないようだ。
そして、そう言い再び「錬」でオーラを増やす。
アーリャには先ほどの竜の気持ちが少しだけ分かった。
こんな「力」を見せられ、殺気をぶつけられたら竜の気持ちが。
しかし

「いいえ!私は貴方を止めてみせる!」

そう叫びながら、再び禁を破り、魔法を使う。

ライトニング・クラウドの、「雷」の魔法。

彼女が最も得意とする魔法だ。

それが彼に直撃した。

そして周囲に煙が立ち込める。

そんな光景をじっと見つめるアーリャ。
これでどうにかなるとは最初から思っては居ないであろう。
その時、彼女の前の煙が揺らぎ、目の前に男が現れた。

「・・・これで分かっただろ?無駄だ。今のお前には何もできない」

そう言い、彼女の目の前まで歩いてくる。

「っく!」

悔しそうにしながらも、再び何か魔法を使おうとしたが、杖を払われた。

「これでもう魔法も使えないな。さぁ、もういいだろ?お前は十分よくやった。正直、嬉しいくらいにな」

そう言い、彼女の横を通り過ぎようとしたが、再び彼女は彼の前に回り込み、両手を広げて立ちふさがった。

「・・・でも!」

そう叫ぶ少女。
しかし次の瞬間、彼女が予想してなかった事が起きた。

パンっと乾いた音が鳴り、アーリャの頬が赤く張れていた。

「いい加減にしろ。勝ち目の無い勝負をするな。この男はお前にとって何の価値がある?見ず知らずの、勝手に話しかけてきて勝手に騒ぎ、勝手に竜を呼び勝手に人がしとめた獲物を横取りしようとする。お前とは何の接点も無い男だ」

冷たい目で見下ろしながら、そう言い放つ。
アーリャは目に涙を貯めながらも、必死に食い下がった。

「だって・・・人の命はそんなに軽くは」

「人の命ってのはそんな物だよ」

アーリャの言葉を遮り、冷酷に言い放つタカシ。その言葉に、彼女は更に声を荒げて抗議した。

「そんな!命はそんなに軽くない!」

「なら聞こう。お前が一昨日食べた魚の命とこの男の命。違いは何だ?」

そう言われ、彼女は固まってしまった。
人と魚は違う。
そう言おうとしたが、同じ命に変わりは無い。
違いなど無い。
ただ、人であるか魚であるかの違いだ。
そして自分は、その魚を食べた。
直接殺した訳ではないが、特に何も感じないで、ただ「おいしい」と言い食べたのだ。
そんな自分が今ここでこの男の命を救えなどといえるのだろうか。
命は軽くな無いと言えるだろうか。
彼女は固まりながら必死に、答えを出そうとしていた。

「・・・まぁ、とりあえずその答えを聞くのは後だな。いい加減その竜がいつ起きてもおかしくない頃だ。その男は放置して竜だけでも止めを刺さないとな。後から追ってこられても迷惑だ」

何だかんだ言いながらアーリャの意を組み、竜のみを始末すると言い、竜に止めを刺そうとするが

「だめだ!やめろ!こいつを殺すな!」

竜の頭を抱えるようにして、先ほどのハンサムが再び叫んだ。

「・・・・」

そんなハンサムを冷めた目で見据える。

「今の内に逃げていれば、追いかけてまで殺すつもりも無いんだが・・・今度こそ最後だ。退け。退かなければ竜諸ともまとめて殺す」

「だ・・・だめだ!」

「そうか」

何の感情も篭もっていない目で。
オーラを集めた右腕で男諸とも竜の頭を吹き飛ばそうとした。

が、その瞬間、彼に向かって魔法が飛び、タカシは後ろに飛び退いた。

「チッ」

舌打ちをし、攻撃の来た方向を見る。
そこには、先ほど弾いた杖を構えるアーリャが居た。

「やめなさい」

低い声で言うアーリャ。
しっかりと杖を構え、彼の目を正面から見据えている。

「いいか?俺は竜を始末しようとしたんだ。そしたらこの男が邪魔をした。そして俺は最後の警告をしてやった。それでも直、この男はソレを拒否し、自ら死んでも良いと言った」

そんな彼女に言い聞かせる様に言うが

「それでもよ。何か理由があるのかもしれない」

「どんな理由があろうとも自ら死を厭わぬと言ったんだ。それをお前が止める必要は無い」

「でも・・・だからって」

先ほどから怒っている訳ではない。
静かに、しかし熱く、冷静に言葉を発するアーリャ。

「・・・もういい。お前の答えは分かった。だが、今はそれどころじゃない。いい加減竜が起きても不思議じゃないんだ。悪いが実力で排除させてもらうよ。主殿」

そんな彼の答えをアーリャは予想していた。
自分の言っている事がこの場では間違っているであろう事も。
予想していたからこそ、ルーンを唱え魔法を準備していた。
唱えた魔法はファイヤ・ボール。
火球を生み出す魔法だ。
しかし、彼女が生み出した火球は、通常の物より遥かに小さく、そして力強い物だった。
それをそのままタカシに向かって放つ。

「!?」

珍しく、本当に珍しく一瞬だけ硬直しているタカシ。

だが、その一瞬で十分だった。
圧縮されたファイヤ・ボールの魔法。
力を収束し、無駄な破壊ではなく、一点に集中した魔法。
彼に教えられ、ここ最近練習してきた事だ。
それを行き成り、ぶっつけ本番でやったのだ。
彼が驚くのも無理は無いかもしれない。
そして、その魔法は彼に直撃した。

ドゴーンっと言う音と共に直撃し、爆発を起こす火球。
通常のファイヤ・ボールは爆発はしない。
だが、圧縮された魔法である。
恐らく当たった瞬間、それが開放されて爆発を起こしたのだろう。

「・・・・・」

杖を油断なく構えたまま、タカシの方を向いてじっとしているアーリャ。咄嗟に魔法を撃ってしまったが、この程度でどうこうなる男ではない事は理解しているので、そのまま杖を構えるアーリャ。
やがて煙が晴れ、そこにはやはり無傷の男が――居なかった。

「まったく・・・お前は本当に何を仕出かすか分からんね」

いつの間にか後ろから声が聞こえる。
そこに振り向くと、先ほどまでの冷たい表情ではなく、いつものニヤニヤとした表情のタカシが居た。

「っ!?」

背後に立たれ、思わず杖を向けたアーリャ。

「をいをい、無抵抗の使い魔に杖を向けるのか?ヒドイご主人様だなぁ」

一方、タカシは今までの態度が嘘の様に、少しおどけて見せてくる。

「あ、貴方が無茶するから!」

いきなり態度が変わったので困惑し、叫びながら抗議するアーリャ。
そんな姿に笑みを浮かべながらも、嬉しそうにしているタカシ。

「ま、正直ここまでとは思わなかった。まったく、こっちで出会う奴等はどいつもこいつも俺の予想を上回るどころか、考えもしなかった事をするのが好きらしい。良くやったな、アーリャ」

そい言い彼女の頭を撫でてくる。
いつものニヤニヤ顔ではなく、嬉しそうな笑顔だ。
そんな行動を全く予想してなかったので、アーリャは顔を赤らめ、硬直するだけだった。

そして、

「さて、んじゃ、あいつらは放置して先に進む。これでいいか?」

「・・・うん・・・でも、いいの?」

「をいをい。自分で人の事止めておいて、そんな事聞くのか?まっ、良い教材になってくれたって事でな」

自分の禁を破り、魔法を使い、しかも自分の教えてきた事を使って自分を止めてきた少女。
そんな彼女が、上目遣いで不安そうにそう聞いてきたので、思わず噴出してしまった。

「・・・分かった・・・。先に進みましょう」

そう言うと彼等はその場を立ち去ろうとした―
が、丁度その時、脳を揺さぶられ倒れていた竜が起き上がった。

「チッ・・・面倒だな。アーリャ。今度こそ、文句は無いな?」

「・・・でも・・・・出来れば、殺さないであげて」

今度こそトドメを刺す。
その了承を求められ、咄嗟に答えが出せずに、迷うアーリャ。
そんな主人を見て、ため息を吐きながらも

「全く・・・まぁいい。命は取らないでやるよ。感謝しろトカゲ」

12メイルほどある竜をトカゲ扱いしながら威嚇する。

そんな竜が何事か行動しようとし、タカシも何事かしようとした時―

「やめろ!」

そう叫びながら、竜の目の前にハンサムが飛び出した。

「・・・・アーリャ。アレはどうすりゃいい?」

「・・・・私にソレ聞くの?」

「・・・だって、お前がアレを助けたんだぞ?」

「・・・まさかここまでするとは思ってなかったわよ」

かなり呆れながら暢気にそんな事を言う二人。
っというか、竜が起きてるんですよ!?竜が!

そんな彼等の視線を無視し、竜の目を睨みつけるハンサム。

「お前!僕と一緒に来い!」

そう叫んだ。
そしてそのハンサムは、竜の頭突き(?)を食らい吹っ飛ばされた。

「・・・なぁ、何でアレを助けたんだ?」

「・・・さぁ?」

宙を舞うハンサムを見ながら、そんな暢気なことを言う二人。
だから竜がこっち見てるって!

そして再び、竜はこちらを向き、何事かしようとする。

「・・・・まぁいい。んじゃ今度こそ」

再び竜に何かしようとしたが、不屈の闘志でハンサム復活。
再び竜の前に両手を広げて立ちふさがった。

「待て!僕の相棒になってくれ!」

そう言った瞬間、再び頭突きを食らい飛ばされる。

「「・・・・・」」

そんな光景をポカンとしながら眺める二人。

そして再び竜が

「おい!お前!僕のあいぼぶ」




そして・・・・また・・・やっぱり・・・それでも・・・さらに・・・しかし・・・いやいや・・・・まだまだ・・・おぉっと?これは決まっか!?・・・・いいえ、オフサイドです・・・






「ふ~・・・何回生き返るか賭けないか?」

「んじゃ、私はあと五回」

「俺はあと二回と見た」

竜の前に立つ→頭突き食らい飛ぶ→復活→
のループをするハンサムと竜。
そんな二人(?)を暢気に、すっかり観戦モードで眺める二人。
スナックがあったらボリボリ食べてそうですね。

そして何回かそんな事が続いた時、竜の頭突きが止まった。

「お。あのトカゲ止まったぞ?流石に不気味に思って火でも吐いて焼く気になったか?」

「それじゃ少し移動しましょ。ここじゃ射程に入るわ」

「だな」

そう言い二人は横に移動。
っつか、助ける気は無いんですね。

そして何度目かの不屈の闘志で蘇り、ボロボロになりながらも、竜の前に立ちはだかるハンサム。

「ぼくの、あいぼうに、ならないかい?」

アザだらけでボロボロの顔。
せっかくのハンサムが台無しになりながらも、竜に向けそう言い放つハンサム。
いい根性です。
そんな不思議生物ハンサムに、竜が自分の鼻先をゆっくりと近づける。

「おぉ、直接食う気か」

「どうせなら一飲みにして欲しいわ。目の前でバリバリやられると流石にちょっと」

などと外野の意見。

そんな外野を無視し、竜はゆっくりと鼻を近づける。

そしてハンサムもゆっくりと擦り傷だらけになった自分の両手を竜に向けて伸ばす。

そのまま、竜がハンサムの手の匂いを鼻をヒクヒクさせて嗅ぎ、ベロっとその巨大な舌で舐めた。

「僕の相棒になってくれるのかい?」

そう尋ねるハンサム。
それに答えるように頭をハンサムの胸元に摺り寄せる竜。
そこだけ見ると実に感動的です。

「わぁ・・・自分の主人と認めたみたいね」

「いや、ただ単に何か不思議な生物だと思ってるだけかもしれんぞ?」

感嘆の声で言うアーリャに対し、何気に失礼な事をほざく男。

そんな二人を無視し、竜とハンサムはじゃれあっていた。

そのまま暫くして

「君達!有難う!感謝しているよ!」

ハンサムがいきなりそう言ってきた。

「いいえ、私達は何もしてないわ。貴方が自分でその子と打ち解けたのよ」

そういいニッコリと微笑むアーリャ。

「そーだな。なかなか良い根性してるよお前」

なにやらどうでもよさそうに言いながらも、珍しく賛辞を送るタカシ。

「いや、君達のおかげだ!そうだ!君達、火龍山脈を超えたいんだろ?せっかくだし、乗せてってあげるよ」

そう言うと、たった今手なづけた竜の背中に飛び乗るハンサム。

「まぁ、乗せてくれるってんなら乗ってくか」

「えぇ。これで楽に越えられるわね」

そう言いながら、二人も竜の背中に乗り、火龍山脈を超え、少し行った川の辺に着陸した。
そこで竜がピチャピチャと水を飲み、それを撫でているハンサム。

「そういえば、貴方は何故竜を相棒にしたかったの?」

ずっと疑問に思っていたのであろう。
少し目を輝かせながらも質問するアーリャ。
しかし

「僕は竜騎士隊に入りたいんだ。でも、平民の僕ではそれは難しい・・・だから、竜を相棒にしてから入ろうと思ったんだ!」

「・・・・それだけか?」

「あぁ。それだけだよ?」

「「・・・・」」

最初アーリャは何か特別な事情があるとでも思ったのだが、意外にたったそれだけだった・・・流石の二人も唖然としている。

そんな二人を他所に、楽しそうに竜とじゃれるハンサム。

そして

「さて、では僕はガリアに戻るよ。君達!有難う!またいつか会おう!」

「えぇ、貴方も元気でね」

「まー。頑張れよハンサム」

キランと歯を光らせ、シュタっと手を挙げて竜にのり飛び立とうとしているハンサムに、アーリャが笑顔を向け、タカシが適当な事を言うが

「あれ?僕の名前を君に教えたっけ?」

「いや?聞いてないが?」

「でも今君、僕の名前を呼ばなかったかい?」

「「は?」」

「いや、ハン・サムって。僕はハン。サム村のハンだよ!それじゃぁ、元気でね!」




「「・・・・・・・・・・・・はぁ!?」」




ここでようやく自ら名乗ったハンサム。
いや、ハン・サム。
彼は元気良くそう言うと、竜と共に空へ飛び上がった。

地上ではしばらく呆然としていた二人が素っ頓狂な声を上げた。






「・・・なぁ、もうちょい真面目に名前くらい考えてやれよ?」

っと虚空を睨みつける男が居た。








以上です。ハンサム青年の正体はなんと、ハン・サムでした・・・・すいませんw
最初はここいらでジュリオとか出してみるのも面白いかな~っとか思ったんですが。それはやっぱ却下して、違う人を用意しました。
でも、この理屈で言うとシエスタはシエスタ・タルブって名前って事になるんでしょうかねぇ・・・まぁ、その辺りは適当にw

では、引き続きご意見、ご感想、ご指摘等お待ちしております。

何人かの方にご指摘いただいたので、少し修正しました。
話の流れとしてはあまり変わってませんが・・・。




[4075] 第三部 第八章 常夜の森×霧の山×山の主!?
Name: 豊◆0ec87a18 ID:789b7561
Date: 2008/09/22 19:43



ハンサム青年ハン・サムと別れ、再び川の辺で一晩過ごす事にした二人。

「はぁ・・・小川がこんなに良い物だったなんて・・・」

岩に腰を下ろし、足だけ水につけて気持ちよさそうに目を細めるアーリャ。
先ほどまで蒸し暑い火龍山脈に居たので、ここはまるで天国の様であった。

「だろ?」

とか言いながらにやっと笑い、タカシは手にはぬれタオルを持ち、それを彼女の頬に当てた。

「ひゃ!いきなり何するのよ!」

冷たいタオルをいきなり頬に当てられ驚き、怒るアーリャ。

「いいから。少し冷やしとけ。まだちょっとはれてるぞ」

少し目線を逸らしながらタオルをあてがうタカシ。
一応罪悪感はある・・・・・のかな?

「・・・叩いた本人がよく言うわね」

「わるーござんしたね」

ジト目で睨んできた彼女から目を逸らしながら適当な返事をしていた。
そんなやり取りをして以前の様に魚を取り、食べ終わって水浴びをしてから、二人とも眠りに付いた。


そして翌日。学院を出発して四日目。

いよいよ二人は常夜の森の前まで来ていた。
そこから先はまるで別世界のように中が暗くて見えない。
なにやらギャーギャーっと鳥か何かの鳴き声や獣の遠吠えなども聞こえている。

「ここが・・・常夜の森・・・」

タカシのコートの裾を少し掴みながら、不安そうに森を見つめるアーリャ。

「おー!ナウシ○の○海みたいな場所だなぁ」

とか暢気な事を言いながら森を眺め、購入したランプに火を入れ、二人は森へと入って行った。

しばらく進み、アーリャが口を開く。

「・・・意外に動物とか幻獣とか、襲って来ないのね」

キョロキョロと周囲を見ながらも結構楽しそうである。

「あぁ。動物ってのは敵には敏感なんだ。特に、自分より強い相手にはな。そして野生の動物はそんな奴に無闇に襲い掛かる事は滅多にない」

「へぇ・・・それじゃぁ・・・貴方がいるから襲って来ないの?」

「だろうな。一応警戒はしてるけど、こっちを見つけた奴等は今の所すぐに引き返してるよ」

動物は優しい人が解るって言いますよね?つまり怖い、危ない人も解るんですね。
わかります。
そんな危ない人の話を聞き、少しだけ安心したようにはぁっと小さく息を吐くアーリャ嬢。

「ただし、自分より弱いと思ったら襲ってくるぞ?」

「え!?」

「もしくは、それすら分からない馬鹿とかな」

などとワザワザ不安を煽るような事をニヤニヤ顔で言う男。
ヒドイですね。
動物も寄り付かないわけ・・・・・・じゃないですよ!?

「ゴホン。まぁ、何とかなるだろ」

などと無理やりまとめ、そのまま二人はしばらく進む。
森はどんどん深くなり、周りには見たことが無いような植物や奇妙な虫などの姿が見られた。

「ひっ!ナニ!?アレ!?」

「あ?蝶か何かだろ?いや、蛾か?」

何か1メイル近くありそうな蝶(?)を見たアーリャがものすごく怯えています。
そんなこんなで半日ほど歩いて、ここらで一旦休憩を入れる事になった。

「う~・・・もう・・・来るんじゃなかった」

少し涙目になりながら、今更来た事を少し後悔しているアーリャさん。
後悔先に立たずと言うやつですね。

「ま、来たからには生きて出るか、出られないかの二択しかないんだ。がんばれ」

笑顔でそんな事を言ってくる男を涙目で睨みつけながら、改めて回りを見渡す。

見たこと無い種類の木や草花。
リスのような小さい生き物。
羽の生えた蜘蛛のような生物。
黒い墨のような丸い生き物。
未発見の珍種、新種がそこいらじゅうにうじゃうじゃいる。

「・・・ここに探検に来た事を日記にでもして出版しようかしら」

などど言い出したアーリャさん。
多少自棄気味ですね。

「お?いいね。印税入るから売れりゃ遊んで暮らせるぞ?こっちではどうか知らんがね」

そんな会話をしながら二人は休憩を終え、再び歩き出す。

そのまましばらく歩いたところで

「ご・・・ごめん・・・もう無理」

そう言いアーリャがその場にへたり込んだ。
無理も無い話しだ。
そんなに険しい道程ではないとは言え未開の地を、草木が生い茂る地を半日以上も歩いてきたのだ。
普段から運動していない貴族の娘にしてはかなり頑張った方だろう。
そう思うのか、タカシも特に不平を言わずに

「そうかい。んじゃ」

と言いながら、アーリャをお姫様抱っこして、そのままずんずんと進んで行った。
最初は戸惑いなにやら文句を言っていた彼女も、やがて大人しくなり、小さく呟くように

「・・・ごめん・・・コレじゃ本当に足手まといにしかなって無いわよね」

「まぁ、気にするな。そうかもしれんが致命的な足かせになってるって訳でもない」

そんな殊勝な態度を取るアーリャに苦笑しつつ、少し慰めてやっていると、ついに森を抜け霧の山の麓へとたどり着いた。

「・・・これが霧の山か」

「・・・頂上が見えないわね」

アーリャを下ろし、二人並んで上を見上げている。
頂上は雲の中にあるようで深い霧(雲)に覆われていてここからでは確認できない。
否、遠くからでも確認できていない。

「・・・こんな山どうやって登るの?」

かなり傾斜の激しい急斜面で、ちょっとやそっとでは登れそうに無い。

「ふむ。これは仕方ないから俺がお前を抱えて登るよ」

そう言い、とりあえず登る前に一回休憩を入れようと言って、その場で準備を含めて少し休憩をした。

「私を抱えていて登るなんて出来るの?」

「試した事は無いが、俺一人なら確実に出来る。お前一人くらいなら何とかなるんじゃないかな?」

などといつのも調子でヘラヘラとしながらも何やら準備を始めたタカシ。

そんな彼に少し呆れながら、いつもと全く変わらない態度に苦笑したアーリャだった。

そのまま少し時間が経過。


「んじゃ、行くぞ?」

「えぇ」

そう言いアーリャを抱き、足にオーラを集め、大きく跳躍した。
そのまま斜面の一部に着地。
しかし、このままでは落ちるであろう。
そこへ町で購入したポーチから一本の杭を出し、それを急斜面へと打ち込む。
そこを足場にして、もう一度大きく跳躍。
そんな感じで4,5回跳躍した

「わぁ・・・もうこんな位置まで・・・」

などと驚きの声を上げるアーリャを他所に、ヒョイヒョイと山を登っていく。
そうこうして20分ほどそんな跳躍による登頂が続き、少しだけ開けた空間に出たので、一旦休憩を入れる事にした。

「ふぅ、結構登って来たなぁ~。なかなか良い眺めだ」

手を翳し、景色を堪能しながらうんうん肯いているタカシ。
携帯を取り出し、写真なんか撮ったりしている。
完全に遠足気分だ。

「・・・20分ちょっとでこんな位置まで一気に登って・・・そんな暢気な事言うなんて・・・」

自分達が、正確には彼が登ってきた道を見下ろし、少し体を震わせながら。
呆れたといわんばかりの表情でそう言うアーリャ嬢。

そんな二人が休憩していると、なにやら竜の一団がこちらを目指して飛んできている様であった。

「ふむ。もしかしてここって奴等の巣か?」

そんな暢気な事を言いながら周囲を少し見渡す。
すると木の枝など、なにやら巣の材料らしき物があちこちにある様に見える。

「ちょ、ちょっと!?そんな暢気な事言ってる場合!?」

そんな焦るアーリャを他所に、へーきへーきとか言いながら再び彼女を抱え跳躍して行った。

「ちょっと!竜に襲われたらどうするの!?」

「あの距離だ。多分大丈夫・・・じゃないか?」

「そんな適当な事言うな!!」

そんな抗議を無視し、先ほどよりもさらにペースを上げ、跳躍しながら山を登る二人。

「旦那、なんなら俺っちがフライの魔法を使いますが?」

「いや、アレ結構集中力いるだろ?イザって時にあの状態だとちょっとキツイ。今は平気だ。まぁ、そうなったらアーリャだけでもフライか何かで逃がしてくれ」

そんな群雲の意見を却下し、そのまま一気に山頂を目指す二人と一本。
そしてそのまま数十分が経過。
周囲の霧がかなり濃くなってきていた。

「・・・もうすぐ山頂かしら・・・霧の部分に入ったわ」

「あぁ。これ霧じゃない。雲だ」

そう訂正を入れながらそのまま二人は山頂へ。
そして最後の跳躍で雲を抜け、かなり広い平地に到着した。
2,30メイルはあろうかと言う平らな土地だ。
舞台の様にも見えるかもしれない。
その奥に大きな洞窟がある。

ここはほぼ頂上付近なのであろう。
ここから山頂をはっきりと目視できた。

「お~、ここまで来たか。しかし、いい景色だ。絶景絶景」

そう言い、先ほどと同じように手を翳し、携帯で写真を撮ったりしてはしゃいでいるタカシ。
そんな彼を尻目に、アーリャも結構浮かれていた。
なにせ誰も来た事が無い場所に今、自分達は立っているのだ。
そして何より、目の前に広がる光景がすさまじい。

一面に広がる雲。
それを見下ろせる位置に居る。
雲海と言う言葉が正に当てはまる様な壮大な光景だった。

「わぁ・・・・すごい・・・」

「あぁ。こりゃなかなか良い眺めだ」

「・・・すげぇ、俺っちもこんなのは見たことねぇや・・・」

二人と一本はこの光景をしばらく眺め、満喫


しようとした時、タカシがアーリャを抱え横に飛んだ。

次の瞬間、彼等が居た位置に何かが飛んできた。

その飛んできた何かは、そのまま突き進み、たった今まで見下ろしていた雲の大海原に、雲の無い太い道を作った。

「え?えぇ?ナニ?何なの!?」

いきなり訳の解らない事になり、驚きを隠せないアーリャ。
それに対し

「ちっ・・・何だ今の・・・来る瞬間まで察知できないなんて・・・」

珍しく焦りの色を浮かべ、慎重に周囲を警戒するタカシ。

周囲を警戒し、どうやら方向から見てあの洞窟の中から何かが打ち出された様である事が解った。

そしてその洞窟を慎重に警戒しながら、今まで周囲だけを警戒していた「円」の範囲を洞窟内部まで伸ばし探索する。

しかし、何も感知できない。
いや、何か「ある」という事は解った。
だが気配は感じられない。
しかし「円」でもその程度しか解らなかった。

「くそ・・・どういう事だ?」

「円」でさえその程度しか解らないという異常に、彼は少し戸惑っていた。

そしてその疑問の答えが「出て来た」


ドシンっと言う効果音と共に、洞窟の奥から巨大な。
先に見た火龍よりもはるかに巨大な、全長20メイル以上はあろうかと言う、紺色の竜が姿を現した。

「・・・あれがさっきのをやったのか?しかし・・・何で「円」を使ってもアレの形が判別できないんだ・・・気配も・・・目の前に来てようやく分かった・・・魔法を使ってる様子も無い・・・どういう事だ」

そんな彼を尻目に

『人間。この地に何用だ?』

腹に響く様な重低音でそう喋る竜。
いや、竜が喋ったのかは分からないが、竜の方向から声が聞こえてきた。

「くそ!一体何処に!?」

姿の見えない声の主に焦るタカシ。
こんな彼を見るのは初めてのアーリャ。
いつも平然としていて、あの火龍にさえ特に物怖じしなかった彼が、ここまで焦る原因。
それが自分にあると彼女は少しだけ気がついていた。

(私が一緒にいるから・・・だからこんなに焦ってるの?正体の解らない物がいて、私に万が一の事があったら・・・そう考えてるのかしら?)

そんな二人を他所に再び声が響く。

『何処を見ている?人間。我はお前の目の前に居るぞ?』

そう。
目の前にいるのは一匹の巨大な竜。
そしてそれが喋っていると言うのだ。
そんな信じられない現象に答えを出したのは

「・・・韻竜か。しかもこんなにデカイ」

彼の所有するナイフ、群雲であった。

「「韻竜だと「ですって」!?」」

二人も書物で読んで知っている。

知っているが、目の前の存在がそれだと判断は今だついていなかったのだろう。
韻竜とは、既に絶滅したとされる伝説の竜眷属で、人語を操り高い知能を持ち、先住の魔法と言う系統魔法とは別の魔法を駆使する強力な幻獣である。
しかも、目の前にいるのはそこいらにいる竜よりはるかに大きい。

『確かに、我はお前達の間で韻竜と呼称される存在だ』

目の前の紺色の韻竜がそう答えた。

「・・・そうか。んで、何故いきなり攻撃をした?こっちは特にお前をどうこうする気はないんだが?」

疑問に答えが出て冷静さを取り戻し、話せるのなら会話しようと試みるタカシ。

『それは我が初めに問うたぞ?この地に何用かと』

「ここにある可能性がある「あるもの」を探しに来た」

そう答えた瞬間、韻竜の雰囲気が変わった。

『・・・そうか・・・お前達人間はやはりそうなのだな』

そう言い、今まで首だけでこちらを向いていたのを、体全体でこちらの正面に来るように移動させた。

『お前達がこの地を荒らすのであれば、我が排除しよう』

そう言い、なにやら呟く様に言葉を発する。
すると、周囲の風が韻竜の口に集まった。

「何だ?一体どうしたんだ?」

「貴方!また何か余計な事言ったの!?」

「旦那!あぶねぇ!避けて!」

また何か余計な事をっとアーリャが叫ぶが、それを遮り、群雲が何事か叫ぶ。
それに反応し、そして自分でも知覚してアーリャを抱えて大きく横に跳んだ。
すると口から巨大な「風」の塊を発射する韻竜。

その打ち出された「風」は先ほどと同じように彼等の居た空間を通り過ぎ、雲に大きな道を作った。

「ちっ・・・何だってんだ・・・直接凝てたのに判別できないなんて・・・いや、風が動くのは見えた・・・でもそれだけだ」

そう舌打ちしつつも冷静に周囲を警戒し、分析をしようとする。

そして

「おい!お前!分かった。お前が俺達を殺す気ならそれでいい!正し、こいつには手を出すな!あくまで、俺がお前と戦う!」

アーリャを指差し韻竜に向かって叫ぶ。
何事か抗議しようとする彼女を黙らせ、じっと竜を睨みつける。

『・・・いいだろう。正し、お前を排除したら次はそこの者だぞ?』

しばらくその目を見て、韻竜は肯いたように見えた。

「解った!それでいい!」

そう言い頷きアーリャに視線を向ける。

「って訳だ。お前はここで待ってろ」

「あなた!あんなのと戦う気!?」

必死に止めようとそう叫ぶアーリャ。
だが

「あぁ。向こうがやる気だしな。群雲、こいつの周りに何か防御を張って守れ。俺が危なくなったらフライか何か、なんとしてもこいつを逃がせ。いいな?」

アーリャにナイフ、群雲を手渡しながらそう言う。

「ちょっと!「解ったぜ旦那。こっちは任せてくれ!旦那は安心してあの馬鹿をぶっ飛ばせ!」群雲!?貴方まで!?」

抗議しようとするアーリャの声を遮り、群雲がまるで大きく頷いたように了承の意を伝えた。
それに満足そうに頷き、彼等から距離を取る。

「待たせたな。さぁ、やろうか」

不適に笑い、そう言いながら竜を見据えた。


『・・・一応貴様との約定だ』

「律儀だな。そこいらに居る馬鹿どもにも見習わせたい物だ」

そう笑いながら「錬」でオーラを増強。
そして巨大な韻竜と対峙する。
それを見て、竜が目を見開いて驚いている様に見える。

『・・・貴様何者だ?何だそれは?』

「答えたら見逃してくれるのか?」

『・・・いいだろう。何者であれ、この地を荒らす者である事に変わりは無い』

こんな巨大な竜に対してもどこか挑発するような事を言う愚か者。

そしてそんな事どうでもいいからお前を殺すという竜。

いよいよ、世紀の一戦が開始されようとしていた。








以上です。次回、「激闘×先住魔法×念能力」です。
念能力vs先住魔法で巨大韻竜とガチバトルを繰り広げます。
今まで退屈だった方もいらっしゃるかもしれませんが、ここに来てようやく大詰めですw
ファンタジーで山、お宝を守るボスと言えば竜でしょう!(作者の勝手な意見w)
っとい事で、普通の竜ではつまらないので、巨大な韻竜さんにご登場頂きました。


では、引き続きご意見、ご感想、ご指摘などお待ちしております。



[4075] 第三部 第九章 激闘×先住魔法×念能力
Name: 豊◆0ec87a18 ID:789b7561
Date: 2008/09/25 07:37
そして巨竜と人との一戦。

普通に見れば人に勝ち目は無い。
しかも竜は全長20メイルはあろうかという伝説の韻竜。
しかし、この「人」は普通の人間ではない。
なにしろ「地獄からやってきた魔王陛下」・・・ではなく「異世界からやってきた念能力者」だ。

今だ誰も見たことも聞いた事も無いような戦いが、今アーリャの目の前で開始されようとしていた。



「・・・どちらも動かないわね・・・」

「動けないのさ・・・お互い相手の出方が解らないんだ・・・」

呟く様に言うアーリャと群雲を他所に、先ほどから一人と一匹はお互いの目を睨みつけたままピクリとも動かない。

ゴゴゴゴというBGMが何処からか聞こえてきそうである。



「・・・(さて、どうするかね。火龍は一瞬の隙を突いて顎に一発入れたんだが・・・竜と正面からはこれがはじめて・・・しかも、こいつデカイしなぁ・・・とりあえず、顎を狙って打ち込んでみるか)・・・よし」


そう思い、タカシは一瞬で間合いを詰めた。

そしてそのまま顎を狙い打ち上げるように拳を入れる。
だが、その手前で何かにぶつかり拳が阻まれた。

「!(何だ?何も凝えないのに・・・いや、何かの「力」の壁・・・これが「円」を妨害したのか?何だ?)っち」

一瞬思考しているとそこへ竜の右腕(前足?)により横なぎの攻撃が来たので、後方へと飛び回避する。

そしてそんな彼の疑問に

「旦那!それは先住の魔法で恐らく「反射」って奴だ。俺っちも噂でしか聞いた事が無いが、あらゆる攻撃を跳ね返すそうだ!」

群雲のそんな声を聞きながら、さらに考える。

「・・・(あらゆる攻撃を?それが本当なら俺に勝ち目は無いな。だが、絶対は無い。少なくとも「この世界のあらゆる攻撃」だろう・・・系統魔法クラスじゃ歯が立たないって事か・・・だったら)おら!」


そう思案しながら、もう一度竜に殴りかかる。

しかし、今度は竜が先に攻撃してきた。

巨体とは思えないようなスピードで体を回し、尻尾による一撃で彼を壁に吹き飛ばす。

タカシはそのまま壁に向かって凄まじい勢いで吹き飛ばされ、まなすすべなくズドーンという効果音で激突。

土煙が上がっている。

「タカシ!?」「旦那!?」

そんな二人の悲鳴のような声を他所に、竜はゆっくりと土煙をしばらく眺め、やがて首を動かしてアーリャ達を見た。

『あの者は死んだ。さて、次は』

そう竜が言いかけた所で、煙の中から何かが飛び出した。

「絶」で気配を完全に消していたタカシが「硬」で全てのオーラを右手に集め、そのまま先住魔法の「反射」ごと竜を殴り飛ばす。

ミシっと言う音が聞こえたような雰囲気で、何かが霧散する。

そしてそのまま彼の拳が完全に油断していた竜の脇腹へと直撃。

竜の巨体を雲海の上、空中まで吹き飛ばした。

しかし、竜も空中で何度か羽ばたき体勢を整える。

「・・・(アレであの程度か・・・一応「反射」とやらは破れる事は解っが・・・「硬」じゃなきゃきついな・・・しかも奴は今空中にいる。仮に群雲を持ってフライで飛んだとしても、そんな状況であんな化け物と戦うなんてのは危険すぎるし・・・気配はやっぱあの「反射」が遮断してたのか・・・分かった所で意味無いがね)っち」

空中で制動をかける竜を睨みながらもそう思案し、対策を考えていると

『・・・何故だ?貴様は先の一撃で完全に気配も絶たれていた・・・何故死んでおらず、生きているのだ?』

「さぁね(もう今の手は通じないな・・・どうするか・・・仕方ない、まぁ出し惜しみしても意味無いしな)」

そんな間に竜は警戒しながら、彼等の上空数十メイルの位置に来た。
その位置からならこの「舞台」の全てが見えるであろう位置取りだ。

(くそ、ここから跳んでも向こうに届く前に対処される・・・良い位置取りだな畜生)

そうしてどうするかまた少し考えていると、竜が先に動いた。
何事か呟き、空気中から「水」で形作られた「剣」や「槍」など、様々な刃物の形状をした物を作り出し、、こちらに向かって放つ。
そしてそれ等が降り注いできた。

「!(何だ!?これが先住の魔法って奴か。初期動作が観測できないから後手に回るしかないな・・・くそ。この距離じゃ詠唱中に攻撃もできん。手ごわい竜だねぇ)」

そう思いつつも次々に飛んでくる剣や槍をヒョイヒョイと回避。
または拳にオーラを纏い弾くなどして対処していると、また何かを呟く様にする竜。

次の瞬間、周囲の地面から次々と尖った岩が突き出し、彼を襲った。

「っち(全方位からか!逃げ場は・・・上しか無い。防御するか?出来るか解らん。上に跳ぶしかないか)」

そう一瞬で判断し、足にオーラを集め上へ向かって跳躍。

しかし、やはりというべきか、それは竜の罠だった。
口を開け、先ほどのように「風」を集める竜。
そして、そのまま「風」を。
先ほども雲海を裂いた「風」を彼に向かい放った。

「タカシ!」「旦那!」

地上からそんな声が聞こえる。

「ふ」

そんな声を他所に不適に笑いながら、タカシは空中でコートから投げナイフを一本取り出し、横に向け投擲した。

「何を!?」「旦那!?」『?』

そんな他の者の思いを他所に、彼は一言、呟くように

「マグネッション」

そう呟いた瞬間、呟く以前から彼の体がナイフに引き寄せられるように空中を滑空。

同時に飛んでいたハズのナイフも彼の手に吸い寄せられる様にして戻ってくる。

彼の居た空間を「風」が通り過ぎて行った。

そしてそのままオーラを篭めたナイフを竜に投擲。

さきほど反射を破られていた竜はその一撃を仕方なく左腕(前足?)で弾く。

しかし、その隙にタカシはナイフをもう一本地上に向け投擲していて、そこに吸い寄せられるような勢いで地面に着地していた。

「え!?」「何だ!?」『っむ!?』

一瞬で起きた不可解な現象を見て、驚く三者。
そんな者達を他所に、不適に笑う男が地上に立っていた。

「さて、これだけじゃ足りないか・・・「アレ」も使うかな」

そう言うと彼は長く伸ばし、後ろで束ねている髪に手を伸ばし、そこから一本抜き取った。

そして右手にそれを持つと、それを掲げ一言呟く様に言った。

「グングニール」

そう呟くと彼の右手の髪の毛が輝き、一瞬で一本の白銀の槍が姿を現した。

長さは2,5メイルほどの長槍。
何やら文字の様な記号の様な模様が書かれているが、判別できない。
先端に刃渡り30サントほどの両刃の刃が付いていて、そこには大きな返しが付いている。
刺さったら簡単には抜け無さそうだ。

そんな槍を中ほどから持ち構え、タカシは竜を見据える。

「・・・・え?いつの間に?っていうか何処から!?」

「旦那・・・?」

『何だ!?』

(槍をS極。自信をN極として)

そんな驚く一同を無視し、そのまま槍を投擲する体勢に入る。
それを見た瞬間、竜は再び何事か呟き「反射」をかける。
しかし、そんなものを無視するかの様にタカシは槍を竜に向かい投擲した。

竜に向けまっすぐに飛ぶ槍。

そして槍を投げた瞬間、タカシもまた足にオーラを集め、竜に向かって跳躍した。
しかも、先ほど投げた槍に吸い寄せられるような速度で一瞬で槍に追いつく。

(自信をS極に転換)

今度はそのまま突き放される様に加速し、槍を追い越し一瞬で竜に接近した。

『っな!?』

そんなありえない現象を目撃し狼狽する竜。

そこへ移動したタカシが「硬」で右の拳にオーラを集め、一撃入れる。

「おらぁ!」

ズドンという音が響き、反射を打ち破る。

しかし、空中でのパンチは反射を打ち破っただけで、竜本体にダメージを与えられていない。

だが、そこへ先ほど投擲した槍がまるで吸い寄せられるように彼の左手に納まった。

「食らえ!」

そう叫びながら、槍を竜に向かい振り下ろす。

「流」「周」「硬」により槍の一部にオーラを込め、そのまま振り下ろした。

刃の部分は位置的に当てる事が難しいと判断したのか、棒の部分にオーラを集中。

その一撃を回避しようと一瞬あがくが、それよりも早く槍が竜の頭の後ろ。
人間でいう首の辺りにぶち当たり、そのままアーリャ達がいる開けた「舞台」のような地面に向かいふっ飛んでいく。

そして竜はそのまま地面に激突。

大きな音と共に、土煙を上げた。

そのまま数秒は経過した。

「・・・・」「・・・すげぇ・・・」

アーリャと群雲は言葉が出ないと言った感じで、呆然とその光景を眺めていた。
するとそこへ、先ほど跳び上がった男が空から着地。
そのまま油断無く、土煙が晴れぐったりと倒れている竜の顔に槍の刃先を突きつけた。


「(これでどうかね)さて、まだやるか?(戦る気ならこのまま処分せにゃ、同じ手は使えんね。聞きたい事もあるが、背に腹は変えられん)」

槍を突きつけられた竜は苦しそうに声を絞り出した。

『・・・どうした・・・殺さぬのか?』

「お前がまだやる気なら殺すさ。ただ、こっちも聞きたい事があるんだ。出来れば殺さずに済ましたいんだが、どうだ?」

『・・・聞きたい事?』

「あぁ。お前、ここにある「何か」を俺達が取りに来たと思った様だが、どうだ?」

『・・・そうだ。お前達はここにある「命の水」を取りに来たのだろう?』

「・・・何だそれ?」

『何?』

怪訝そうに「なにそれ?」っと言う男に、戸惑いの声を上げる竜。

「俺が探しに来たのは「石」だ。しかも、特殊な石で普通の山には無い物でな。調べたら可能性があるとしたら此処だと思い、その石を取りに来た。「命の水」なんて物は初耳だ」

『・・・それは真か?』

「嘘ついてどうするんだよ?もし俺達がその水とやらをとりに来たとして、お前をこのまま殺せば手に入るだろ?」

『・・・我を殺す気が無いのか?』

「だからそれはお前次第だ。お前がまだ戦うってんなら、このまま殺す。戦わないなら殺す理由は無い」

そう言う男の目を暫く見て、竜はしばらく考え込む様にして、呟く様に言った。

『・・・その石の事は知らぬが、命の水を狙ってきたので無いのなら、我はお前達と戦う理由は無い』

「そうかい」

そう言うと彼はスっとその槍を下ろす。
そしてふーっと力を抜くと、槍は消滅していった。

『・・・本当に我を殺さぬのか?』

「何だ?殺して欲しいのか?敵意の無い無抵抗の動物苛める趣味はねーぞ?」

いつものヘラヘラとした調子に戻り竜と会話。

『・・・よい。もうお前達を襲わぬ。その必要も無い様だ』

溜息を吐いた様にも見えるし、少し呆れている様にも見える竜。

「そうかい。んじゃ、ちょいとじっとしてろよ?」

そう言うと彼は竜の首、先ほど彼が攻撃した位置に手を当て、目を瞑りながらオーラを集めた。

「ちょっと?何してるの?」

「わり、ちょい人間以外は、しかもこんなわけのわからんのは難しいんだ。少し黙っててくれ」

そう言うとそのまま30分ほど手を当て続けた。


そして

むっくりと竜が起き上がった。

「ふー・・・流石に疲れた・・・」

そう言い笑いながら彼はその場に座り込んだ。

『・・・痛みが退いた・・・お前、一体何をした?それ以前にお前は何者だ?先ほどの妙な現象。あれは何だ?』

「そうよ!あの槍とか、さっきの不可思議な動きとか!一体どういう事!?」

「旦那!説明!説明してくれよ!」

そんな三人(?)に苦笑しつつも、彼はまず竜の疑問に答えた。

『・・・異世界・・・念能力か・・・先ほどの物がそうなのだな?』

「そうさ。あれはその念能力の、まぁ、個人個別に持てる特殊な力だ」

全く疑おうとしない竜に少し苦笑しつつも、そう説明してやると、別の二人が突っ込んでくる。

「さっきの槍?あと、明らかに不自然な動きだったけど・・・」

「そうだよ旦那!そこんとこ説明してくれよ!」

「はいはい。まず念能力ってのは系統があって、俺は「変化系」の能力者だ。これは個人で違う。んで、さっきのが俺の能力。マグネッション(磁力制御)とグングニール(磁力法則変化の槍)だ。詳しく言うと―(あとがきの部分に記述しますので、詳しくはそちらを参照してください)―っと言うワケだ」

そんな事を三人(?)に説明してやる。

「ほえ~・・・」

「なるほどねぇ」

『ふむ・・・得心が行った』

等と三者三様の反応に苦笑しつつ、本題に移す。

「んで竜よ。俺がお前を治した理由が二つあるんだが、言っていいか?」

『ふむ、如何なる理由だ?単純に敵意が無いからと言うワケでもあるまい?』

「あぁ。一つ、此処の案内をしてくれ。俺達はさっき言ったように、命の水とやらが目的じゃない。だから、それを俺達が弄らないようにお前が見張り兼案内をしてくれ」

座りながらも自分を見上げてくる男の目をみながら、少し考えるように竜は喋利出す。

『・・・それは構わんが、そうする事でお前の得るものは何だ?』

「それが二つ目。俺達を運んで欲しい。出来ればトリステインまで頼みたいが、最低でもこの森を抜けた所まででいい」

『・・・お前達は来る再にも森を抜けてきたのであろう?何故ワザワザ我に頼む?』

「一つ、俺は今日かなり消耗した。此処まで来るのと、お前との戦いでな。だから正直、安全に抜けられる保障が無い。ここで一晩休めば回復するが、目の前に手段があるんでな。
二つ、そのほうが楽だから。これだけだ」

うっしっしと笑いながら笑顔を竜に向た。

『・・・そんな理由で韻竜たる我にお前達を運べと?』

どこか呆れた雰囲気が見て取れる竜である。

「そうだ。最低でも森を抜けるまでだ。これは譲れん」

真面目に、しかし「もし逆らえば・・・」っと言う目で韻竜を脅す・・・竜相手でも変わらない様です。

『・・・っふ・・・いいだろう。トリステインと言う場所までは無理だが、森を抜けるまでなら運んでやろう』

「そいつは助かるが、何でトリステインまでだと無理なんだ?」

しばし思案し、笑うようにしながらそういう竜に、何気に「水臭い、いいからのせてけ」っといったニュアンスの言葉をぶつける・・・

『命の水を守るのが我が役目。故に、我はこの地を離れるわけにはいかん』

何処かエッヘンっと言う感じでがしてくる。

「一体だれがそんな物狙ってここまでくるんだよ?」

真面目な顔(?)でそう言う竜に、タカシは呆れながら聞きかえす。

『お前達人間以外におるまい?ここに暮らすものたちはアレを奪おうなどとはせん』

「お前バカだろ?」

『何?』

伝説の韻竜に面と向かって馬鹿とか言うお前も結構バカだろ?などとは置いといて、

「あのな?俺達はここに来る際、この場所について十分下調べをして来た。それなのにお前の存在どころか、命の水の話なんて欠片も出てこなかったんだぞ?それに、こんな場所まで来れる人間はこの世界じゃ今の所俺くらいだぞ?普通は途中で動物や他の竜に襲われておっ死ぬよ。大体、今までも此処は人が立ち入ろうとさえしなかったんだ。誰が好き好んでこんな場所に来るかよ」

呆れながらそう言うタカシ。
それを驚きの表情で聞く竜。
意外と抜けてますね。

『何!?・・・では我がこの千年して来た事は一体・・・』

「お前、千年もここにいたのか!?馬鹿だな~」

『・・・韻竜たる我にそこまで言う存在など此処には居らぬぞ?』

どこか悲しそうにしながらも半眼(?)でにらんでくる竜。しかし

「だって、そんなに居てもこのことに気がつかないなんてな~。まぁいい。これで此処を離れられるだろ?他の動物は狙わないって事だし、トリステインまで乗せてけ」

へらへらと笑いながらそう図々しく言いましたよ。

『・・・しかし・・・我はその後どうすればよいのだ?』

「知るか。自分で好きな様に決めろ。俺がお前の事をとやかく言う権利も義理も無い」

俯き(?)どこか悲哀な感じの竜にはき捨てる様に言う。
動物を苛める趣味は無いとか言ってましたが、自覚ないんですか?

しかし、竜から反撃があった。

『・・・ならば我はお前達と行動を共にする事にしよう』

「「えぇ!?」」

「いらん。そんなでかい図体で付いてこられても迷惑だ」

そんな展開に驚くアーリャと群雲を他所に、伝説の韻竜を「いらん」の一言で切り捨てましたよこいつ。

『っふ・・・ならばこれなら文句はあるまい?』

そう不適に笑うと

『我を纏いし風よ。我の姿を変えよ』

そう呟くと、竜の巨体は消滅・・・いや、代わりに一匹の紺色の全長20サント程のシマリスが居た。

「おぉ、それなら文句も無い。移動に便」

移動に便利だしっと言いかけた所。

「~~~かわいいい~~~!!」

とか目を輝かせてシマリスに飛びつき、そのまま頬ずりをするアーリャが遮った。
・・・元は竜ですよ?

そんな彼女のせっかくの(?)一時を邪魔したのは

『なにをする!離さぬか!』

っと言う腹に響く重低音で喋るシマリス・・・シュールですね・・・

「そんなギャップも可愛い~~~!!」

っとか言いながら相変わらず頬ずりとかッギュっと抱きしめるとかしてシマリスを弄繰り回すアーリャ嬢・・・どちらでも良い様です。

それを腹を抱えて笑ってみている馬鹿一名。

そしてもがくシマリス・・・そんなアーリャが落ち着きを取り戻すまで、少し時間を要した。



「ふ~・・・堪能した・・・」

などと額の汗を拭うアーリャ嬢。

『・・・何故我がこのような目に・・・』

ぐったりしてそう呟くシマリス。

「いやぁ・・・お嬢ちゃんも凄い所があるんだなぁ」

などと感嘆の声を漏らす群雲。

「災難だったな竜。いや?今はリスか?お前、そういや名前は?」

ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、楽しそうです。

『我に名は無い。折角の機会だ。お前が我が名を付けてくれ』

とか暢気に言うリス。
そんな事言うと危険ですよ?

「そうか、んじゃ「ナマモノ」とでも呼んでおくか」

ほらね。

「ダメ!もっとちゃんとした名前付けてあげなさいよ!可愛そうでしょ!?」

「旦那・・・そりゃいくらなんでもヒドイですぜ」

そんなヒドイ(?)名前を勝手に付けようとする男に、抗議の声を上げる二人。

「っち・・・んじゃ・・・リンドヴルムてのでどうだ?」

『「「リンドヴルム?」」』

小さく舌打ちしながらも(本気だった様子です)三人(?)一斉に首をかしげて繰り返したのを見て、少し笑いながら説明してやる。

「あぁ。「リンドヴルム」ってのは、俺の世界で昔の人々が「竜」みたいな存在を言う時に使った言葉なんだよ。実際竜なんて居ないけどな。いや、居る事は居るらしいが、知られて無いし俺も見たことは無い。ともかく、そんな存在を言い表した言葉だ」

『・・・ふむ、気に入った。それでよい』

顎に手をあてしばし思案するリス・・・
某○ィズニーのアニメに出てくるリスに似てますね。

そんなリス・・・リンドヴルムに苦笑しつつ

「んで、そのリスの状態の時は「リント」って呼ぶ。そうすりゃその状態でもばれねーだろ。別にばれてもいいけど、説明するのが面倒だし、一応他人の前では竜の姿で喋るなよ?」

『ふむ、承知した。しかし、この姿なら会話しても良いのか?』

「別にいいんじゃね?喋るリスくらい居ても。何か聞かれたら適当にごまかせ。いやなら喋るな」

どうでも良いと言わんばかりの態度でそうはき捨てる男・・・もうちょい色々心配してやるとか、世話を焼くとか・・・ねぇ?

『委細承知した。ではこれから宜しく頼む。タカシ殿』

律儀な竜ですね。
どこかの誰かにも少しでもいいから見習って欲しいものです。

「よろしくな。便利だし、こき使わせてもらおう」

笑顔の大ばか者。

「よそしくね~リント~♪」

なにやらゴキゲンのアーリャ嬢。
地面に寝転がり、両手で頬杖を付いて目線をリスにあわせながらニコニコしていらっしゃる。

「よろしくな!俺っちはインテリジェンスナイフの群雲だ!旦那の相棒として一緒に頑張ろうぜ!」

かつて同じように「使い潰す」っと言われた地下水改め群雲が、仲間が出来た事を喜んでいる様です。

「ところで、お前リス以外にも化けられるのか?」

『うむ。対象を観察するか、我が知っている物になら変化できる』

「ほほぉ、それじゃぁ」

面白い物を見るような目でリスを見ながら、何かに化けてもらおうと提案しようとしたタカシであったが

「だめ!絶対だめ!」

必死の形相でリスを抱き寄せながら声を張り上げるアーリャ嬢。

「いや・・・あの」

「ダメったらダメ!コレばかりは譲れないわ!」

リスの首の辺りを締め付けて持ちながら、杖をこちらに向けてきました。
そんなアーリャの迫力に少し冷や汗をかき、ため息を吐くタカシ。
どうでもいいけどリスの顔青くなってきてませんか?
そのままだと死にますよ?



そんなこんなで一同はリントの案内で洞窟の中を進む。
そして

「ほぉ、もしかしてコレが「命の水」ってやつか?」

岩の窪みに溜まっている水。
極まれに天上から水滴が落ち、その水溜りのような泉に波紋を落とす。

『うむ。これを飲めばいかな病でも完治するらしい。実は我も詳しくは知らぬ。遥か昔、大いなる意思にそう言われて以来、我はこの地を守護してきたのだ』

「大いなる意思ってのは、さっき言ってた先住の元か・・・っま、今はそれは良い。それより」

と命の水にまったく興味を示さず、辺りを凝わたす。


「お、あったあった。アーリャ。カバン貸せ」

そう言うとアーリャからカバンを奪い、その中に入っていた町で購入した別のカバンに適当に壁の石を剥がし、詰め込んでいく。

『・・・それが崇殿の欲しいと言っていた物なのか?ただの石ではないか』

「そーだよ。これは念禁鋼っつって、いろいろ便利に加工できるんだ」

それだけ言うと、上機嫌で次々とカバンに石をつめていく。
そのカバンが一杯になると、新たなカバンを取り出し、そこにも一杯になるまで石を詰め込んだ。

「・・・私はそんな石を取るためにここまで頑張ってきたの・・・」

「お嬢ちゃん・・・世の中そんなもんだよ・・・特に、旦那相手じゃぁな・・・」

『・・・我はこんな石の為にあのような戦いをしたのか・・・』

三人(?)はため息を吐き、なにやら上機嫌の男を呆れながら見つめていた。


そして大きめのカバン三つ分たっぷりと石を取り、こちらに歩いてきた。

「さて、目的も果したし帰るぞ」

「命の水は?」

「せっかく此処まで来たのに、そんな石ころだけですかい?」

『お前達なら、僅かだが持って行っても良いと思うのだが?』

「いらん」

命の水をいらんの一言です。

「え~~・・・折角なのに・・・」

お宝を前にして残念そうなアーリャ嬢。

「んじゃお前が貰ってけ。俺はいらん」

「・・・いい?リント」

物干しそうな目でリスを見つめる少女。
そんなアーリャを少し見て、何やら呆れたのか、そんな雰囲気で小さく息を吐いて

『・・・まぁ良かろう。何か入れ物はあるか?』

そう言われ、ごそごそとカバンを探り、入っていた空の小瓶をリスに手渡す。

リスはそれを両手(両前足?)でしっかりと受けとり、トタトタと水たまりに行き、それに水をいれてまたトタトタと戻って来た。

なんか可愛いですね。

「ありがと~~リント♪」

そんな可愛らしいリントの姿に顔を綻ばせながら小瓶を受け取り、蓋をしてリスの頭をグリグリと撫で回す少女。

『えぇい!そう思うならやめぬか!?』

必死に抵抗する元韻竜現リス。
所詮リスなので抵抗も可愛らしく、そんなのが余計アーリャの行動に拍車を賭けてるって本人(?)気がついてませんね。

群雲がなにやら溜息を付き、そしてそんな二人(?)を微笑ましそうに見ているタカシ。
しかし、彼は捻くれ物なので何処か嫌らしい笑みに見えてしまいます。

そうこうして、彼等は洞窟を出た。

「んじゃさっさと帰るぞ。あぁ、ちょいと寄って欲しい場所があるから。まぁ、そこは途中まで飛んでから言うよ」

そう言いリスに視線を向けた。

『うむ。ではゆくぞ」

そう言うとリスは再び巨大な竜へと姿を戻し、その背中に二人は乗り込む。

「よし!行け!リンドヴルム!」

元気良く!楽しそうにそう叫びポンっと背を叩く。
そうされて小さく頷き、巨竜は天に舞った。

「お~~~!これは良い!かなり良いな!」

「わぁ!すご~い!」

「おぉ!すげぇや!」

雲の上からの絶景を眺め、大はしゃぎの三人を見て、なにやら満足そうな顔をしたリンドヴルムは、彼等を乗せ、霧の山を後にした。



以上です。戦闘の時間が短かったですかねぇ・・・でもあんまり長くしても逆に変な風になってしまうと思ったのでこのくらいにしたのですが・・・いかかでしたでしょうか?
次回からいよいよ!皆さんお待ちかね(?)のシルフィード(人間形態)の登場です。そしてタバサも次回から本格的に活躍していきますので、お待ちください。


 
磁力制御(マグネッション)
オーラを磁力に変える。
磁力を帯びていない物質でも、自分のオーラを込めれば、磁力を帯びる。
オーラが込められている、もしくは磁力を帯びている物質を対象とし発動。
正し「生物」は対象に出来ない。
自分を対象とすることは可能。(仮に生物に自分のオーラを込めた銃弾などを打ち込み、それを動かす。もしくはそれに向かって自分を動かすっといった事は可能)
二つ対象を決め、双方を「N極、S極」等と想定し、吸引、反発させる。
対象物、対象のオーラを「N極」か「S極」と想定し、そのまま反発、吸引などをさせる。
対象物が磁石など、磁力の影響を受けやすい物質であればあるほどより強力に発動する。
吸引、反発する力は、能力使用時に消費されるオーラの量に比例する。
自分以外の物を対象とするには、そこに纏われている以上の自分のオーラを消費しなければ発動できない。
複数の対処を選択する事はできない。
種類が同じ物なら、一つに纏めて対象と出来る。
例、魔法を反発させる場合、そこに使われている魔力(オーラ)以上のオーラを自分が用い、反発、吸引等させる。ただし、ファイヤ・ボール×5、弓矢多数など、が一斉に飛んできて、ファイア・ボールのみを対象とした場合、弓矢多数は対象に出来ない。っといった様に、複数を対象とはできない。(対象が「剣」や「矢」「ナイフ」など、それぞれ形状や大きさが違う物は一括りにできる)


 磁力法則変更の槍(グングニール)

白銀の槍を具現化する能力
自分の体の一部を媒介にする事により具現化できる。媒介にする体の一部が重要であればあるほど強力な槍になる。(強度、能力の強さ等)
先端に返しが付いた長さ30センチほどの刃を持つ2、5メートルほどの細長い槍。
神字が刻まれている(現在は詳細不明)
この槍は、磁力の法則を好きなように変更できる。(一方的に引き寄せる。もしくは反発させる。)

槍を投げ、本人をそれに向かい一方的に引き寄せる。
(槍は引き寄せられない。そのまま飛ぶ)
さらに、これを本人が(能力者が)持っている間、磁力制御(マグネッション)の発動対象に「人間」を付け加える事ができる。
例、槍を投擲する際「人間」を対象とし、N、Sを決め、投擲。
後に吸引、反発等可能。
自分より多いオーラに対し、干渉はできないが、自分を干渉させることはできる。
例、敵が自分以上のオーラを持っている場合、(仮に500、自分が200として)敵を引き寄せる事はできない。が、自分を敵に向かって引き寄せる。もしくは、反発させると言った事は、この槍を持っていれば可能。
この槍は対象には数えられない。
例、ナイフを「N」自分を「S」とした場合、それとは別に槍を「N、S」と出来る。


名前の由来は北欧神話。「投げたら戻ってくる」っと「必ず敵を貫く」等他様々。もちろん、作者の趣味趣向も含まれる。

 回復促進 (リカバリー)
強化系の性質を使い、様々な医学知識様々な技術を使い人体を治す念能力。ただし、骨折、(骨折は形だけくっつける程度が限界)打ち身などの体内の修復しか出来ない。擦り傷程度なら外傷も治せるが、深い外傷は手に負えない。(ご都合主義です。適当に流してくださいw)

ちなみに、一応作者の中では 
            虚無魔法
           /    \
         先住魔法――系統魔法、念能力
っと言った感じの設定です。


以上、念能力です。
磁力は必ず「N」と「S」が両方ある~等の突っ込みはとりあえず「念能力だから」っという事で納得していただければ幸いですw

では、引き続きご意見、ご感想、ご指摘等お待ちしております。





[4075] 第三部 第十章 開戦×虚無の覚醒!×魔王光臨!?
Name: 豊◆4d075937 ID:789b7561
Date: 2008/09/24 08:36



そして一向は霧の山を抜け、常夜の森を超え火龍山脈上空へとやってきた。

「お~、ここをこの高度から見下ろすとこうなってるのか!」

「私達、ここを超えてきたのねぇ」

「素手で火龍を殴り飛ばすって伝説を旦那が作りましたよね!」

『・・・崇殿・・・そのような事までしたのか・・・』

大はしゃぎのタカシと、思い出すように言うアーリャ。
元気に彼の悪行(武勇伝?)を話す群雲に、半眼で背中のタカシを睨むリンドヴルム。

しかし、何処か楽しそうだ。
そんな一行は火龍山脈を超え、そんなこんなで三日かけ、トリステイン領内へと戻って来た。

学院を出発して七日目 昼


「よし、今からちょいと寄り道だ。俺の言うとおりに飛べ」

そう言うと竜に指示を出し、目的地を変更するタカシ。

「一体何処に向かうの?」

「ウェールズの所」

「皇太子様の!?」

そんな驚く彼女を他所に暫く飛ぶと、地面に降り、リンドヴルムをリスに化けさせて少し歩いた。

そして

「やぁ、何やら巨大な竜が飛んできたと警戒したら、君達だったのかい」

何人かの兵士を連れながら笑顔で片手を挙げて挨拶をして来たウェールズ皇太子。

「おう、ウェールズ。どうだ?何か変化はあったか?」

「こちらとしては特に無いが、実は」

「あぁ、それはお前の親父を交えて話そう。アーリャ。お前は此処で待ってろ」

そう言い残し、群雲と肩に乗っけていたリントも一緒にポイっとアーリャに投げて、奥にある小屋へウェールズと共に入って行った。

「ちょっと!?私は~~!?」

そんな二人(?)を押し付けられ、放置されたアーリャが叫ぶ。

「・・・リント・・・本当にこんな人についてきてもいいのか?今ならまだ間に合うぞ?」

投げられたり魚や肉を切るために使われたりと、散々な扱いを受けている群雲が何やら諭すように言う。

『・・・少し・・・もう少しだけ・・・様子を見よう・・・・』

何やらうな垂れながらも、彼を「まだ」見捨てないというリント。
実に、実に良い竜です。

そんな彼等が待たされ、いつの間にか夜になっていた。

「待たせたな。っさ、帰るぞ」

そう言い放ち、文句を言うアーリャを引っつかんでそのままリンドヴルムで学院に向け飛んで行った・・・
早速こき使われてますね・・・有限実行はすばらしいと思いますが・・・
もうちょいマシな事言って実行してください。

そうこうしてそのまま竜の背中で眠りに付くアーリャ。
彼女は何処でも眠れる特技を持っているようです。
もしくは疲れたんでしょうね。
そんな彼女を見てコートを賭けてやり、そのまま竜やナイフと会話をしながら月夜を飛ぶ二人と一匹と一本。

そして翌日。

サイト達が戻ってきて一日立った日に、彼等も学院に到着した。


そこでコルベールの研究室の隣に置かれたゼロ戦を見て、驚くタカシ。

「・・・をいをい、半世紀以上昔の戦闘機が何でここに・・・」

そんな彼に後ろからサイトが声をかけ、事情を説明した。

「・・・なるほど・・・どうやって来たのか知らんが、こんな物まで来てるのか・・・いやぁ・・・面白いねぇ」

楽しそうに笑うタカシ。
アーリャがこのゼロ戦の説明を要求してきたので、説明してやると

『ふむ。なるほど。しかしこんな物で空を飛べるとは、御主達の世界も真に珍妙だな』

タカシの肩に乗った珍妙なリスが重低音で喋り出した。
どうやらそこが彼の定位置になった様です。

「うお!?何それ!?喋るリス!?しかも声と顔が合ってねーよ!?」

そんなリスを見て驚くサイトに、今度はタカシが今までのいきさつを話してやった。

「―って訳。一応、こいつが韻竜だって事は秘密な?別に隠すことも無いが、説明が面倒だ」

「解った。でも、そんな伝説の珍しい竜なら政府とか、王室だっけ?まぁ、そいつらがよこせとか言ってくるんじゃないか?」

頷きながらも、そんな尤もな意見を言うサイトであったが

「あ?何でそんな奴等にこんな便利なの渡さなきゃいけないんだ?何か言われたら「文句があるなら力づくで来い」っつって追い返すよ」

王室へ宣戦布告するとか言い出したので、冷や汗を流しながら適当に話をしていたサイトであった。

後ろでアーリャが頭を抱え、絶対に秘密にしなければならないと固く誓っている。

伝説の巨大な韻竜とガチバトルを繰り広げる男が、この国の王室と争わないように彼女が奔走する日は遠くないだろう・・・。



そんなこんなで食事をし、久々の修行。

その前に、タバサにもリントの紹介と説明をしてやる事にした。
何だかんだで自分よりも彼女に優しい気がするタカシを「う~」とか言い睨むアーリャがいたとか居ないとか。

そして話を聞き終えるとタバサは意外にも、目を見開いて驚いていた。

「どうした?韻竜ってのがそんなに珍しかったのか?」

そんな彼女を苦笑しながら見ていたが

「・・・私の使い魔も韻竜」

っと言う発言を聞き、逆にその場に居たサイト、アーリャ、デルフ、群雲が驚いた。
タカシも驚いていたが「ほぉ」っと言った顔をした程度で、リントは何やら頷きながら『なるほど。仲間が居たのか』などと特に驚いた様子も無かった。

そして、タバサはシルフィードを呼ぶと、改めて紹介をした。

「私の使い魔、風韻竜のシルフィード。本名はイルククゥ」

シルフィードの顔を撫でながらそう言うタバサ。何処か嬉しそうなのは、こんな話が出来るとは思ってなかったからであろうか。

そして

「きゅいきゅい。私は古代の竜眷属たる韻竜のイルククゥ。お姉さまに貰った名前はシルフィードなのね!きゅいきゅい」

きゅいきゅいと可愛らしく鳴き、喋れる相手に出会った事を喜ぶように首を左右に振るシルフィード。

『我は韻竜。名をリンドヴルムと言う。この姿の再はリントと名乗っている。以後、宜しく頼む』

そう言うシルフィードとは全く逆に、可愛げの欠片も無い声で言うリス。
シルフィードと中身交換したら丁度良いのでは?

「そっか、宜しくな~シルフィード」

適応の早いサイト君が、シルフィードの頭を撫でながらそう言う。
竜は嬉しそうにきゅいきゅい鳴いている。
「ねぇねぇ、お兄様って呼んでいい?きゅいきゅい」とか言っているのを了承するサイト。

「・・・でも、風韻竜を召喚するなんて貴方はすごいわね、タバサ」

そう賛辞を送るアーリャ。後ろで「お姉さまって呼んでいい?」とか言われたので、頷きながらもそうタバサに話しかけている。

「貴方の方がすごい。彼を呼び出した」

そう言いタカシを指差すタバサ


「ん?お前には何々~韻竜ってないのか?こいつは風韻竜っつってたろ?」

『ふむ。あるのかも知れぬが、我も良く解らぬのだ。我はいつの間にやら生み出され、そしてただ存在していたのでな』

自分の肩にちょこんと乗ってるリントを見ながらそう質問するタカシに、顎に手を置きながら神妙な顔で言うリント。

そんな二人(?)を見て

「きゅいきゅい、ならリントさん、「おじさま」って呼んで良い?タカシさんはお兄様!きゅいきゅい」

可愛らしく首をかしげながらそう聞いてくるシルフィード。

実は、作者はシルフィードにこれを言わせたくて彼(リント)を出したとの説がある事は内緒である。

『・・・別に構わぬ。好きに呼ぶが良い』

ちょっと照れてるように見えるのは気のせいですかね?

「きゅいきゅい!ありがとうおじさま」

タカシも別にどうでもいいと答え、そんな答えを聞いて嬉しそうにきゅいきゅいと鳴くシルフィードは

「お兄様達やお姉様達、おじ様までできた~る~るる~♪」

っとか言って喜んでいる。

「おおリント。よかったなぁ。可愛い?舎弟が出来て。この場合舎弟でいいのか?義娘って所か?」

「全くだね。仲間が居るってのは良いものだ!義娘もできて、出てきて良かったなぁ、リント」

そんな事を言いながら肩に乗ったリントを指でちょんちょんと突きながらからかうタカシとナイフ。

そんな彼を先ほど「すごい」と表現したタバサだったが、何処か冷や汗をかいて目線を逸らした。
アーリャの「あれでもそう思う?」っと言いた気な視線による効果だろう。


そして、再び修行に戻る一行。

サイトは一週間のうちに、「錬」「纏」を自力でちゃんと練習していた様で、それを褒められ「いやぁ」っとか照れていたが、次に「絶」や「凝」など加え、さらに過酷なノルマを与えられてOrzっていた。

一方、タバサも圧縮したファイア・ボールを途中で使ってしまっていた様で、少し申し訳無さそうに禁を破った事を詫びたが

「良いんだ。結果習得できたみたいだし、良くやったな」

っと言いながら笑顔で頭を撫でられて、頬を染め嬉しそうに少しだけ微笑んだ。

そんな中「何処かの馬鹿と違って素直だねぇ。師匠に杖を向けたりしないし。ギャーギャーと喚かないし」っとか言い出したので、後ろからそのどこかの馬鹿と表現されたであろう少女が蹴りを入れたりしていた。

そして彼女達には次の修行が言い渡された。

「んで、お前達は「雪風」と「雷鳴」って二つ名だよな?それぞれ、得意な魔法は?」

そう聞き、二人が言い終わると

「んじゃタバサ。お前は自分で氷を作って、それを修行の時間ずっと触ったり舐めたり、それで遊んだりしてともかく「氷」と言うものをしっかりと理解しろ。「風」はシルフィードにでも乗って空を飛び回って体で感じろ。ちなみに、氷はちゃんと「圧縮」するんだぞ?」

っと言いながら、さらに「ついでにコレも全部頭に入れとけ」っと言い、彼が自分で作ったらしい教本をタバサとアーリャに放り投げてきた。「何故?」っと聞くと「今は説明しない。あとでしっかり説明してやるから、ともかくやれ」っと命令し、アーリャの方を向いた。

「んで、お前は・・・どうするかなぁ・・・今はちょい無理なんだよなぁ・・・よし、お前もタバサと一緒になって氷で遊ばせて貰え。お前の方は準備が出来たらちゃんとしてやるから、それまでまってろ」
っと言い、抗議の声を無視して、先ほどから頑張っているサイトに「遅い!あと40回追加!」っとか激を飛ばしながら教導していた。



そんな事をしつつも、彼はコルベールと何やら会話をしていた。

「―って訳だよ」

「ふむ、なるほど。参考になります。あぁ、お礼ですね?どうぞ工房を使って結構ですよ」

「おぉ、さんきゅーコルベール先生」

彼にしては珍しく、普通の貴族の名前の後に名詞を付け、っというか初めてでは?
ともかく、そう言いながらコルベールの工房を少し借り受け、何やら作っていた。



そんなこんなで彼らが帰ってきてから二日が過ぎたある日。

コルベールがゼロ戦のガソリンを練成したとか騒いでいる。

そしてサイトと共にゼロ戦を動かし、量が足りないと言われ、嬉しそうにまた研究室へと戻り、ガソリンを作り始めた。

サイトはそのままゼロ戦を弄っていたらルイズに絡まれ、部屋へと引き摺られていき、そのまま枕の代わりとか言われて喜びながらも(表に出さずに)了承し、眠りについた。

ちなみにその日修行を無断でサボったサイト君は次の日。

膨大なノルマと笑顔の鬼(タカシ)が「ん?まだ足りなかったか?そーかそーか。んじゃこれもな」っとか言いながらさらに何やら追加され、死の一歩手前まで体とオーラ(生命力)を酷使し、ピクリとも動けなくなったとかならないとか。



そんなこんなで、トリステインのアンリエッタ姫殿下と、ゲルマニア皇帝のアルブレヒト三世の結婚式が行われようとしていたある日。

アルビオンが言いがかりの様な理由で宣戦布告をして来た。

先日、不可侵条約を締結していたアルビオンからいきなり宣戦布告され、王宮は大混乱。
そんな中、アンリエッタ姫殿下が自らタルブへと王軍を率い、出撃して行った。


そんな知らせがトリステインの魔法学院に届いたのは、宣戦布告から一日が立ってからであった。

王宮からの使いが何やらあわてて学院長室に向かうのをたまたま目撃したサイト、ルイズ、タカシ、アーリャ、タバサは、学院長室の扉へ耳をつけ、聞き耳を立てている。
すると「アルビオンが宣戦布告。姫殿下ご出陣」との知らせを聞き、ルイズが飛び出して行くのを、サイトが追いかけ、二人はその場から走って行った。
そして

「じじい、何やら大変な事になってるなぁ」

面白そうなものを見つけた様にニヤニヤ笑いながら、無断で学院長室へと足を踏み入れる男が居た。

「な!?貴様!?いつの間に!?」っとかまだ中に居た王宮からの使いを「邪魔だ、失せろ」といい追い払う。
後ろから付いてきていたアーリャとタバサが何やら見つめあい、溜息を吐いていた。

そして

「うむ・・・聞いておったかね?」

髭を弄りながら、神妙に言うじじい。

「あぁ。あのレコンキスタだっけ?なかなか良い戦略を使うな」

くっくと笑いながら敵を褒める男。

「ちょっと!?良い戦略って何よ!?敵は先日不可侵条約を結んできたのに、今度はそれを手のひら返して破り、言いがかりをつけて宣戦布告してきたのよ!?」

「あぁ、良い戦略だよ。敵の油断を誘い、逆転不可能なタイミングで戦力を一気に投入し、押しつぶす。いやぁ、アルビオンにはなかなかの戦略家がいるんじゃないのか?」

アーリャの抗議を黙殺し、相変わらず敵を褒める。

「・・・確かに、誇りとかそんなものは置いといて、見事に成功してるよな」

『うむ。しかし、我が知っている貴族とはそのような事は断じてせぬぞ?』

群雲とリントもそんなことを言いだした。

「・・・ふむ・・・ところで、君は何か協力してくれんのかね?」

「・・・じじいにはこの前感謝しなきゃならん事があったからなぁ・・・アンタの頼みならトリステイン側に手を貸すよ?あぁ、どっちにしろ今ここで潰れてもらっちゃ困るか」

なにやら企むように言うじじいを少し見ながら、溜息を吐く様にそう言ったタカシ。

「うむ。では一つ、アルビオンでの奇跡をもう一度見せてくれ」

にっこりと微笑むじじい。

「奇跡じゃないな。確信があってやった事だ」

そんなじじいに肩を竦めて言う男。

そんな会話を二人でしながら、そのまま何やら話し込んでいる。


「・・・今度はどんな無茶する気かしら・・・」

「・・・でも少し楽しみ」

肩を落とすアーリャと、少し楽しみだと仰り、微妙に微笑むタバサ嬢。

「また旦那と一緒に暴れられるのかな!」

『またっという言葉が気になるが・・・お主達、以前もそのような事をしたのか?』

などとリスとナイフが会話していた。

そんな頃サイトがゼロ戦にガソリンを入れてもらい、ルイズと共に、タルブへ向けて出発しようとしていた。



そして、サイト達がタルブに到着。

サイトはそのままゼロ戦の圧倒的なスピード、旋回性能、機銃の射程を使い、アルビオン艦隊の周辺に居た敵の竜騎士を全て落としていった。

ちょうどその頃、あとから彼らを追って出て来たリンドヴルムに乗ったタカシ、アーリャ、タバサ、そして人の姿をしているシルフィードが到着した。

彼女は先住魔法の「変化」で人の姿になるらしい。
青く長い髪の毛で、20代の美しい女性といえる容姿である。
彼女は何やら

「折角だからおじさまに乗りたい!乗せて乗せて!きゅいきゅい」

っとか言いながらタバサの許可なく変身し、彼女の部屋に合った大きめの変身時に着用するための(?)服をきて付いてきていた。

途中でタバサに杖でどつきまわされ

「いたいいたい!ごめん!ごめんなのね!」

とか言っていたが、見かねたのか『それくらいで許されよ』っというリンドヴルムの一言でどうやら許してくれたようである。

「あとでお仕置き」と呟いた声は誰にも聞こえていなかった。



「おーおー。派手にやってるねぇ」

アルビオンの時と同じように、暢気に戦場を見渡しながらそんな事を呟く。

そんな暢気な男を、二人の少女がジト目で睨むが全く効果が無いようだ。

「ねぇねぇおじさま?敵の竜はどこいったの?きゅいきゅい」

『あのサイトと言う少年と「ぜろせん」なるもので全て落とした様だな』

可愛らしく聞いてくるシルフィード(人)に腹に響く重低音で答える竜。
そして

「さて、リンドヴルム!サイトの横につけろ」

そう命令され、リンドヴルムはゼロ戦と併走する。

「サイト!敵はあの大艦隊だ!こんな戦闘機一機じゃどうにもならんぞ!?どうする気だ!?」

そう叫ぶタカシ。

「何とか近づきたいんだが敵が攻撃してきて接近できないんだ!ルイズが何かしたいらしいんだけど、このままじゃ近づけねぇ!」

そう叫びながらの返事を聞き

「ほぉ・・・ルイズが?面白い・・・」

ニヤリと企むような、面白そうな笑みを浮かべるタカシ。
そして

「解った!俺が隊列を崩す!お前は合図があるまで後ろに下がってろ!」

そう叫び、ゼロ戦の前にでた。
そこへ

「ガンダールヴ!それと平民の小僧!覚悟!」

等と言いながら黒い風龍に乗り、こちらに迫ってくるワルドが現れた。

「っち・・・あの野郎!またきやがった!」

憎しみを込めてそう吐くサイトだが、

「をい!変態!邪魔するな!今から面白くなるんだ!お前の出番は今じゃない!引っ込め!」

サイト以上の剣幕と、憎しみを込めてタカシが叫んだ・・・自分であれこれ言っておいて酷い扱いですね・・・。

「黙れ!貴様に言われたとおり!私は再び」

以前彼に散々な事を言われ、その通りにっと何事か言いかけたワルドに

「邪魔だ!」

そう叫び両者がすれ違う瞬間、ワルドがライトニング・クラウドの魔法を放つが、それをN極と想定し、自身もN極としてその魔法以上のオーラを使い、手で弾き飛ばした。

さらにそのままワルドに飛び膝蹴りを食らわせる。

「お前はまた今度だ!」

そう言い、膝蹴りを食らい一瞬空中に浮いているワルドを地上へ向けて反対の足で蹴り飛ばす・・・。
彼の乗っていた風龍諸共、凄まじい勢いで地上に激突した・・・・・

サイトが「コレ死んだんじゃね?」っとか思っていたが、そんな事は今の彼には関係ない様だ。

落下するタカシをリンドヴルムが拾い上げ、再び飛行する一行。

「よし。これで邪魔は居なくなった。んじゃ、今から面白い物を見せてやるよ」

上機嫌でそう言うと、髪の毛を一本抜き、それを手に持ち

「グングニール」

そう言うとそこに一本のやりが出来上がる。

「・・・さて、どれにしようか・・・」

アルビオン艦隊は、旗艦レキシントン号を中心に陣形を組み、先ほどからサイトの上空への侵入を阻止していたのだが

「よし。アレだな」

そう言うと、槍にオーラを込め始めた。

目標の敵艦の一部。
恐らく機関部か風石の物であろうオーラを凝る。確認。
そのオーラを「N」極と想定。
グングニールを「S」極とする。

そして

「タバサ、アーリャ。ジャンけんしろ」

そう言われ、二人は首をかしげながらもジャンけんをして、タバサが勝った。
すると

「んじゃこれ。適当にでいいから投げてみろ」

楽しそうに笑いながらそう言って、具現化したグングニールをポイっとほおって来た。

「・・・槍なんか投げた事無い」

首をかしげながらそう言ってくる少女に

「大丈夫。その槍の名前は、俺の世界の神話、物語からとってるんだ」

『物語?』

タバサやシルフィ、アーリャやリンドヴルム、群雲が声をそろえて聞いてくる。

「そう。グングニール。狙った物を必ず貫くってね。いいから投げてみろ」

タバサの頭にポンっと手をのせニヤニヤと笑う男。
そんな彼の顔を訝しげに眺めながらもとりあえず、タバサは言われたとおりに投げてみた。

しかし、彼女は筋力も経験も技術もない。
へろへろと飛び、そのまま落ちる―っと思ったら

「マグネッション」

そう呟いた瞬間、槍は自ら意思を持ったように、敵艦の一隻へむけて急加速してすっ飛んでいく。

一同が呆然とその光景を見守っていた。

彼の能力を詳しく説明されていた一同も、ここまではっきりとは見ていない。
彼が投げたりしていたところは見ていたが、へろへろと飛ぶ槍がいきなり加速して突っ込んでいくなど・・・。

そのまま槍は飛行し、ズドンと言う音と共に、敵艦の一隻に突き刺さった。
しかし、どんなに威力があろうが所詮細い槍である。
当たった部分に多少ダメージはあるだろう。
それでも、船は平然と空に浮いている。

「・・・何も起きないわよ?」

そう聞いてタカシの顔を覗き込むアーリャ。
彼女は、世にも恐ろしい物を見た。

ニヤリと凶悪に、それはもう楽しそうに、しかし凶悪に笑う男だった。
そして、そんな男が敵艦に手を翳し

「グングニール。必ず敵を貫き、持ち主の下へ戻ってくるってな・・・マグネッション」

そう言い自信を「N」にし、能力を発動。





一方、レキシントン号では

「さきほどの竜は撃退できた様ですな」

「うむ。これであとは地上部隊が敵を殲滅すれば我々の勝利です」

そう言い笑いあう老指揮官達。
そこへ

「伝令!四番艦の機関部に何か槍のような物が直撃!」

「そんな事はどうでもよい。それより、ワルド子爵はどうした?奴には地上部隊を任せていたはずだが?」

などとそんな妙な事を黙殺しようとした所

「よ、四番艦が隊列を崩しています!」

「何!?」

急いで四番艦をみやる指揮官。

そこには不自然な方向へ、引っ張られるように移動する四番艦の姿があった。




そして能力を発動。自信を「N」とし「槍」ごと敵艦を一方的に引き寄せる。


「くっくっく・・・お空にプカプカ浮かべるために軽量化したのが仇となったなぁ・・・だ~から海にしろと言ったのに」

悪魔の笑みでそう言いながら、敵艦をゆっくりこちらに引き寄せている。
アルビオンへ行った時の船上での事を、まだ根に持っているようだ・・・。

「お前達には足りない物が多すぎる。それは情熱理念理想頭脳気品優雅さ勤勉さそして何よりも~~!ロマンが足りない!」

『・・・』

そんな意味不明な事を声高らかに、楽しそうに宣言するタカシを見て、言い知れぬ恐怖により小刻みに震わせながらお互いの体を抱き寄せ合うアーリャとタバサ。

さらにその二人をまとめて抱きしめるシルフィード(人)が恐ろしい物を見るようにして、三人一緒になって震えていた。

そうしていると、引き寄せられた敵艦が他の船に激突。

面白いようにそのまま数隻を巻き込み、隊列を崩しながらこちらに向かい突っ込んでくる。

そこで

「さて、んじゃ返すぜ」

そう言い、自身を「S」へと変更。
「槍」を一方的に反発させる。
その再、少し方向をずらしてやる。
そうすると、そのまま別の船へと突っ込んで行った。


「ふはははははははは!見ろ!これだから空に浮いてる船ってのはダメだんだよぉ~?解ったか?理解したかぁ~?」

両手を広げコートをはためかせ、ふははと笑い、竜に乗る。
全てを見下ろし、悪の大ボスの様なその姿。
もう・・・・ねぇ?


そして


「サイトぉ!征けぇ!お空に浮いてる馬鹿共に何かするんだろ!?今がチャンスだ!」

そう言いズビシっと音がするように敵の旗艦、レキシントン号を指差す魔王閣下。

それを聞き、半分自棄になりながらサイトがゼロ戦で突っ込んで行った。


「・・・大丈夫かしら?」

「とても凄く不安」

「きゅいきゅい・・・お兄様怖いのね」

「・・・旦那・・・」

『・・・我は道を間違えたか?』


そんな一同を無視し、相変わらず高笑いを続ける魔王様。

そして、敵の旗艦レキシントン号の頭上で


太陽が生まれた。



空を遊弋する艦隊を光が包む。

さらに光は大きくなり、視界を埋め尽くす。

音は無い。



そんな光景を、リンドヴルム、タカシ、アーリャ、タバサ、シルフィード、群雲は、それぞれ見つめていた。そして

「・・・・・これが虚無・・・・か?」

そうタカシが呟く様に言うと、丁度光が収まる。
そこには

艦隊が炎上。
全ての船が燃えていた。


王軍ではマザリーニがサイト達のゼロ戦を指差し、フェニックスだと叫んでいる。




「・・・・すごい」

「・・・虚無」

「きゅい・・・」

「・・・これが」

『・・・』

リンドブルムの上で皆が言葉を失った。
そしてサイト達のゼロ戦が着陸する。
それを確認して

「さて、これでこの戦はトリステインの勝ちだな。俺達も長居は無用だ。学院に引き上げるぞ」

空に浮かぶ(目障りな)敵が居なくなった事を確認し、普段どおりに戻るタカシ。
そしてそうリンドヴルムに言うと、彼らはそのまま学院へと引き返して行った。








以上。勝った!第三部完!っでしたw
何か毎回大規模な戦いになるとキャラが変わりますね・・・たぶんコレが最後(?)だと思います・・・たぶんw
スクライドの兄貴の名台詞頂きました。
クーガー兄貴カッコいいっす!
ワルド子爵は、今回は「ゼロ戦Vsワルド」であって「サイトVsワルド」では無いので、少し席を外して頂きました。
シルフィードに言わせてないのは・・・おじい様、おばあ様、おば様か・・・さて・・・。

では、引き続きご意見、ご感想、ご指摘等お待ちしております。







[4075] 第四部 第一章 妹×デート×セーラー服
Name: 豊◆0ec87a18 ID:789b7561
Date: 2008/09/25 07:22



タルブの戦いから数日、不可侵条約を無視して攻め込んで来たアルビオン軍を撃退したとして、アンリエッタはゲルマニア皇帝との婚約を解消。
そのままトリステイン王国の女王へと即位した。

戦勝パレードが行われる中、彼女は伝説のフェニックス「竜の羽衣」に関する調査資料を読み、何事か指示を出し、そのまま机に頬杖をついて空を眺めていた。

「・・・はぁ・・・ウェールズ様・・・いつになればお会いできるのでしょうか・・・」

そう、ウェールズはあの日、アルビオンを脱出して一度だけ城に来ただけであった。生きている事は間違いない。
アンリエッタはそんな彼を思い、再び大きな溜息をついた。


そんな頃


魔法学院ではルイズがギーシュのモグラに穴を掘らせそこにデルフと立て篭もり(?)サイトとシエスタを監視。
ギーシュにからかわれ、それを2秒で倒すといった行動をしている丁度その時。

魔法学院の学生寮。

とある部屋に数人(?)が集まり、作戦会議をしていた。

「ごほん・・・それでね?タカシは私達の事を妹くらいにしか思ってないんじゃないかって思うのよ・・・どう思う?」

椅子に座り、お茶を一口飲みながら少し顔を赤らめ、そう聞いてきたアーリャ。

「そう。私もそう思われてると推測している」

ベットに腰掛け、アーリャを正面から見ながらこくんと頷き、何処か不機嫌な様子のタバサ。

「きゅいきゅい。タカシお兄様は年上なんだし、別に間違ってないのではないの?きゅいきゅい」

とか言うシルフィ(人)をアーリャとタバサが『ギロ』っという音がする様な視線で睨みつけ黙らせる。

「まぁ旦那はそんな感じに見てるだろうねぇ」

『うむ。だが彼にそう思われるだけ、お主等は大事にされているのではないか?』

と言う机に置かれたナイフとその横で腕を組みうんうん言っているリス。

噂の本人は
「ちょいと今日は忙しい。修行は休み。好きにしていいぞ」
っとか言い残し、何処かに行ってしまっていた。

それなので「それじゃぁ」っとか言いアーリャの提案にタバサが即断で同意。
他の面子を引っ張り込み、万が一彼が戻ってきてはまずいので、タバサの部屋で会議をしていた。

「ともかく!どうすればこの現状を打開できるか皆で知恵を絞りましょう!」

ぐっと拳を握り立ち上がりながら力説するアーリャ嬢。

「粉骨砕身」

っといいながらアーリャと同じような動作をするタバサ嬢。

そんな二人がガッチリと腕を組む様を溜息を吐きながら眺める他の一同。

「でも・・・一体どうすればいいのかしら・・・」

「・・・分からない・・・」

勢いで言ってみたは良いが、方法が思いつかない二人はそのまましょんぼりとうな垂れてしまった。


そんな二人に

「だったら、でーとすればいいんじゃないの?きゅいきゅい!」

っとか言うシルフィに『それだ!』っと大声で叫び指を突きつけてきた二人。
そんないきなりの行動にビビるシルフィ。


「・・・俺達・・・居る意味ないよなぁ」

『・・・うむ・・・』

取り残される男二人(?)を他所に、綿密な(?)計画を三人で喧しくっというか、主にアーリャとシルフィが喋り、タバサが同意したり何か付け加えたりとしている。

ともかく、そんな平和な日常であった。



そんな裏で、何処かの誰かに蹴り飛ばされて重症を負ったワルドをフーケが呆れながら介抱。
そこへシュフィールドを引き連れたクロムウェルが現れ、何事か企てていたりいなかったり・・・。



そして後日。

学院長室へと殴りこんだ・・・じゃなくて、直訴しにタバサとアーリャが行き
「一日休む許可をくれ」
と言い
「しかし何の理由も無しに・・・」
っとかほざくじじいを視線のみで威圧。
冷や汗をかいたじじいから一日休む許可を貰い、そのままいくつか要求を出し、意気揚々と二人が退室して行った。



そしてサイトとルイズが王宮へと呼ばれている時。




「・・・なぁ・・・何で俺がここに居るんだ?」

っと不思議そうに聞く男。
その両手をタバサとアーリャがそれぞれ引っ張り現在、トリステインの首都トリスタニアの町に来ていた。

彼は用事を済ませ、学院へと戻るとそのまま学院長室に何事か話しに行った。
その際、鬼気迫る表情で必死に
「明日、ミス・タバサとミス・ズィーフィードを連れてトリスタニアへ行け!頼む!ワシを助けると思って!この通りじゃ!」
とかいいながら頭を下げてくるじじい。

そんなじじいを今まで見たことが無く、またどうしても都合が悪い訳でも無いので軽く了承すると
「ありがとう・・・本当にありがとう」
手を握られながらものすごく感謝されたりして、部屋に戻り
「明日トリスタニアへ行く」
っと部屋に居た二人に伝え、二人とも目を合わせ、同時に頷き了承。

そしてリンドヴルムに乗り学院を出発。

現在に至るのだが・・・



「・・・どうも周りの視線が気になるんだが・・・」

先ほどから周囲の視線が気になる様子。

それもそうだろう。

美少女と呼べる小さい二人の少女が、何やら顔を赤らめ、必死に彼の手を引き歩いているのだ。

「似てないけど仲の良い兄弟」
微笑ましく見られたり。
「どっちが本命なのかしら?」
クスクスと暖かく見られたり。
「このロリ○ンめ!」
忌々しそうな視線を浴びせられたり。

ともかく、周囲の視線をすべて集めているのだった。


「・・・なぁリント・・・俺何かしたか?」

『何もして無いからこそ問題なのだろう』

己の肩に乗るリスに問いかけるが、何やら溜息を吐かれ「?」っと言う感じに首を傾げる馬鹿男。


そんなこんなで

一同は洋服店にやってきた。


「「・・・・どう?」」

そこで選んだ洋服を着て試着室から出て、彼の前に並ぶタバサとアーリャ。
タバサは幾何学模様のワンピース。
アーリャは袖の無いシャツの様な上と、フリフリの付いたスカートといった格好。


「お~。まぁ似合うんじゃねーのか?」

一応驚いているが、どこかどうでもいいと言った感情が見て取れる・・・。

そんな馬鹿をジト目で睨む少女達。

その無言の視線に負けたのか

「あぁ・・・解った!可愛い!似合ってる!これでいいか?」

少し冷や汗をかきながら多少自棄気味になりそう言うタカシに、
その肩で『やれやれ』っとか呟くリスがいた。

しかし、当の少女達は顔を赤らめ「かわいい・・・」とか「にあってる・・・」とか小声で呟いている。

そして二人同時に「これ買って」っと上目遣いでおねだりをし、そんな彼女達に苦笑しながら言われるがままにその服を購入してやる。

良いお兄ちゃんで・・・・・・・・・すいませんごめんなさいゆるしてください。


「・・・お前等、何も無いところを睨んでどうした?」

「「なんでもない」」

そう微笑みながら返す少女達であった。




先ほど買った服を着て上機嫌な二人と共に、再び町を歩く三人。

そのまま昼食を取り、午後の計画を実行しようと二人の少女でなにやら密談をしている所



「お、サイト。奇遇だな」

「おぉ、お前等も来てたのか」

等と言う邪魔者が現れ、少し不機嫌になるアーリャとタバサ。
そしてサイトに手を引かれ歩いていたルイズも一緒に不機嫌になった。


そのまま男二人で笑いながら話をしていると、古着屋の前についた。

そしてその一点をっじーっと見つめるサイト。
その視線に気が付き、同じものを見つけるタカシ。

「・・・なぁ、あれって」

「あぁ。アレは元々、水兵の服なんだよ。こっちじゃ空でも服は同じなんだな」

ボーっとしながらそんな事を言う。

「・・・・なぁ」

「・・・言うな。分かってる」

そして男二人はニヤリと笑い合い、ガッチリと腕を組み、そのまま真剣な表情で何事か話し始めた。

それを首をかしげ見つめる三人の少女達。

なにやら「いや、だがしかし」とか「これもありだろ?」とか、そんな意見を交換しながらも店に入り、サイトが三着。
タカシが残っていた四着を言い値で購入した。


そして一向は結局、そのまま学院へと帰って来た。







後日。

サイトとタカシはシエスタに仕立てを頼んだ「ブツ」を受け取った。

そして一度それぞれ部屋に戻り、再びアウストリの広場に集合していた。




「うおおおおおおおおぉぉぉもうさいっこうううううおおおおお!シエスタ!最っっっ高っっっ」

叫びながらッビシっとサムズアプするサイト。

「うむ。良いな。完璧だ」

大きく、しっかりと頷くタカシ。

そんな二人に退いているシエスタ。

彼女は先日彼らが購入した「水兵服」を着ている。
下はサイトがルイズのを無断で拝借したスカートをはいている。

「・・・で、でもこのふく・・・」

「何!?どうしたの!?どこか不具合でも!!!???」

「ふむ、別におかしな部分は無いな。文句のつけようが無く、完璧だろ」

そう言い少し戸惑うシエスタに、二人の野郎は「どうした?」と問いかける。
そして「これ軍服ですよね?」っとシエスタが質問してきた所

「バカいうな!!!!」

「軍服にしておくには勿体無い代物だ」

大きく怒鳴ったり大きく頷いたりしている馬鹿ども。

『ふむ・・・これはその様に良い物なのか?』

「分かってねぇ・・・分かってねぇなぁ・・・リントよ。これはかなりの物だ」

首をかしげながら質問してくるリス。
そんなリスの答えるナイフ。

そして彼らが固執する理由を聞き、サイトを喜ばせたいと思い、どうすればいいか訪ねると



「「・・・・・」」

真面目に。ものすごく真面目に考える二人。

「ここをこうして」っとか「いやいや、それよりも」っとか相談し出す始末。

そして二人で「それだ!」っとお互いを指差す。

「「回ってくれ!」」

そう叫んだ。

それに少し、っつかかなり退きながらも、シエスタは言われるがままにクルっと回る。
それを見て大きく頷く二人。

そこで、タカシが新たなカードを切った。


「サイト、確かに彼女もすばらしい。いや、しかしな?すばらしく、完璧な故に欠点がある。それは「完璧だ」という事そのものだ。既に完成されてしまっているのだ」

「うむ。なるほど。確かにその通りだ。だが・・・コレばかりは解決策は・・・」

「安心しろ。そんな時の為に、俺も用意したんだ。おーい!」

ものすごく真面目な雰囲気と声で神妙に話し合う二人。
そしてサイトの全身全霊をかけた悩みに、タカシがニヤリと笑い「用意した物」を呼ぶ。


するとそこには



「~~~~~~」「・・・・・~」「きゅいきゅい!この服可愛いのね!」

顔を赤らめたセーラー服のアーリャとタバサ、そしてきゅいきゅいはしゃぐシルフィードが現れた。







サイトは死んだ





そして後日・・・







じゃなくて、サイトは正気に戻り


「お、おおおおおおま、おまおまおま」

「落ち着け。どうだ?アレが完成されて無いが故の物だ。シルフィはまぁ、一緒に居たからオマケだな」

三人を指さしながら、めちゃくちゃ動揺するサイトと、その肩にポンっと手を置き、うんうん頷くバカ二人。

そんな二人の反応で、恥ずかしがっていた二人も「?」っと首をかしげている。
そこへシエスタがやってきて、彼らの故郷の服だと説明してやっている。

すると

「そ・・・まぁ・・・なら、私達も回ればいいの?」

「・・・協力する」

等とテレながら言う二人と。

「きゅいきゅい!お姉さま達とおそろい~る~るる~♪」

等と相変わらず能天気なシルフィード。

そしてそんな四人を見たバカどもは




「「・・・・・・・・・・・・・」」


顎に手を当て再び考え出した。
先ほどと同じように何やら意見を交換し、最終的に意見が一致した。

そして

「「くるりと回転。その後、元気良く「お待たせ!」っと挨拶!これだ!」」

ドーンと指を刺しながら、ものすごい迫力でそう宣言した。
三人の少女達は退いた。

しかし、喜ばせてあげたい人のため、それぞれ言われたとおりにした。
まずはシエスタが


「お、お待たせっ」

「「違う!!最後は指を立てて!元気良く!!」」

シエスタがッヒっと言いビビる。


「きゅい~!お兄様達お待たせなのね~!」

シルフィードが元気良く言われた通りにしながら、オマケにウィンクまでして来た。

「「エクセレント」」

二人一緒にそう言い放つ。
それを聞ききゅいきゅいと喜ぶシルフィード。


「お・・・・おまたせ・・・・」

ものすごく顔を真っ赤にしながら、搾り出すような声でアーリャが言う。羞恥でプルプル震えながらそう言った。



「・・・・これはアリでは?」

「・・・・うん・・・アリだな」



合格したらしい。




「おまたせ・・・・・~」



ポツリと呟く様に言い終わり、少し硬直してから顔を赤らめるタバサ。

「「アリだな」」

再び合格。


そんなこんなで最後にもう一度。
四人そろってやれと言われ、そのまま四人一緒に言われたとおりにすると、途中で「ハイ、チ~ス」という効果音と共に、周囲が一瞬光る。


「見ろサイト。どうだ?」

「うむ!完璧だ!すばらしい!さすがだ!」


その携帯で取った写真を見ながら、腕を組むバカ二人。
そして、写真に残された事に気が付き、羞恥で顔を赤くしながらタバサとアーリャが魔法で馬鹿共を消し飛ばそうとしたところ

「あぁ!こ、こここんなけしからん衣装は見たことが無い!ののの」

「の、脳髄を直撃するじゃないか!!」

そう言いたまたまその場にあわられたマりコルヌとギーシュ。  
馬鹿二名様ご案内~


そうして目をギラギラさせ、鼻息を荒くして彼女達を見つめてきた。

四人の少女達はあまりの異様にお互いの体を抱き合って震えている。
・・・可愛そうです・・・

そんな少女達を無視して
「可憐だ・・・」とか「まったくだ」とか言うギーシュとマリコルヌ。
そんな二人に「何なんだお前等!」とか「中々見る目があるな」っとか言う元馬鹿二人。

そして計四名に増えたバカどもが、何事か話し合っている。
ギーシュが衣装をよこせと言い、サイトが断ると「ルイズに言う」っと脅しをかけられ、サイトは泣く泣く二着を二人に渡した。
最初はタカシにも「~に言う」っと言う脅しをかけようかとしたが、アーリャもタバサも既に着ているし、他に誰か名前を挙げても「好きにしろ」っとか言ったので、彼には影響は無い様であった。




その日の夜、ギーシュはモンモンに服をわたし、モンモンが怪しいポーションの完成を急ごうとしている時。

タバサがアーリャの部屋で泊まるという事になったのだが

「・・・・」

「・・・・」

「・・・なぁ・・・何でこうなってるんだ?」

「旦那・・・いいじゃないですかい」

『うむ。別に好かれても困る訳でも在るまい?』


タカシの疑問にナイフとリスが答えた。

現在、アーリャのベットで寝ているのだが、彼を中心に、向かって右側にタバサ。
左側にアーリャとなり「川」の字になっている。



さかのぼる事数分前。


いつもの様にいろいろな話をしていざ、寝ようとした時。


「んじゃ、俺今日は椅子で寝るわ」

そう言いながら椅子で寝ようとした男の「今日は」の部分にタバサが反応。
アーリャに対し、視線のみで無言の威圧を開始。
そんな攻撃に耐えかね、すぐに彼女は白状した。
アルビオンから戻ってきてから彼は自分と一緒にベットで寝ている~っと。
そんな事を自白し、それを聞いたタバサが

「私も一緒に寝る」

等と言い出して、現在に至る。


二人とも彼の腕をがっちりホールドし、逃がさぬと言わんばかりにしっかりと捕獲していた。


「・・・なぁ?別に逃げねーから放してくれんか?」

「「・・・」」

先ほどからそんなささやかな抵抗も無言で却下され、大きく溜息を吐くが、
何やら必死な彼女達を見て、思わず苦笑をもらしつ

「ま、別にいいか」

っと結論をだしその日。

三人で眠りについて行った。












以上です。セーラー服のタバサとシルフィの登場です。
シエスタもここに来てようやくマトモ(?)な出番がありました。
今回はまぁ、ほのぼの~っと言った感じの話にしてみたつもりなのですが、いかがでしたでしょうか?
次回はキュルケさんの登場です。


それでは、引き続きご意見、ご感想、ご指摘等お待ちしております。





[4075] 第四部 第二章 念禁鋼×帰郷×彼女の頼み
Name: 豊◆0ec87a18 ID:789b7561
Date: 2008/09/26 15:09




その日、タカシがアーリャとタバサ、サイトに何やら渡すものがあると言ってきた。

「まずサイト。これを両手両足に付けろ」

そう言いながら、金属のブレスレットの様な物をサイトに手渡すタカシ。
何やら文字のような記号が書いてあるが、読む事は出来ない。

「なにこれ?」

そんなサイトの素朴な疑問は「良いから付けろ」の一言で却下され、言われるがままにつける。

すると

「え?「纏」が・・・あれ?」

サイトは何が起こっているのか分からないと言った感じで、自分の体をキョロキョロと見始めた。
今まで普通に維持してきた「纏」が突然、維持出来なくなってしまったのだ。

「それは先日取って来た念禁鋼ってのを加工して作った物でな。オーラを吸収しちまうんだよ。弱い「纏」だと維持する事も出来なくなる。とりあえず、ソレつけた状態で「纏」を維持できるようになれ」

いきなりそんな事を言われ、文句の一つでも言おうとしたサイトであったが、
その前に

「んで、この文字。ここのコレを「0」これを「1」・・・・んで「10」って読むんだが、とりあえず「0」から時計回りに「5」辺りまで指でなぞってみろ」

そう言われ、素直に指示に従い、言われた通りになぞってみると、急にそのブレスレットが重くなった。

「うお!なんじゃこりゃ!?」

「今「5」だな?それは5kgの重さになってるって事だ。その文字は神字っつってな。いろいろな組み合わせでその念禁鋼に書くと様々な効果が得られる。今は「重量調整」の組み合わせにしてある。とりあえず、最初は軽く5kgから行ってみようか。あぁ、足は15kgにしておこう」

「ううぇ!これ両手両足全部!?ってちょ!?弄ってるし!?うお!重!」

彼のささやかな抵抗もむなしく、笑顔の鬼に、両手両足計40kgの重りを付けられたサイト君・・・そして
「そのままで生活しろ。イザとなったら目を閉じて、念じる様に「開」っつえば外れる。だが緊急時以外、俺の許可無く外すなよ?外したら・・・な?」
そんな事を言いながら良い笑顔で話してくる悪魔に、涙を流しながら頷くサイト。
心の中でタカシをボコボコにしている自分を思い浮かべながらも、ささやかな抵抗。
「お前はどうするんだ?」っと言った。
もしこれで「お前だけだよ」なんて言い出したら何か言いがかりをつけて、重量を軽くしてもらうつもりであった。
だが、そんな希望を打ち砕く様に、タカシは自分の腕についている物を見せた。

「・・・これ、何って書いてあるんだ?」

「ん?50だよ」

そんな事を平然と言われ、もう黙り込んでしまうサイトであった。

「んで、お前等にもプレゼントだ」

そう言いながら、タバサとアーリャには、ネックレスの形状の物を手渡してきた。
それを受け取り、首をひねっていた二人だが、「いいから付けろ」と言われ、素直に付けてみた。
そして彼が、ネックレスに付いているリング状のアクセサリーを同じように指でなぞる。
すると

「えぇ!?」「!?」

急にそれが重くなった事に驚く二人。
そんな彼女達を他所に

「それは今5kgだな。まぁ、お前等は今はそれでいい。少し体力を付けるって程度でな」

そんな事を、「これくらいなら全く問題ないだろ?」っというニュアンスで言ってきた。
普段から運動していない貴族の娘には、これでも十分な重さなのであろうが、誰かはそんな事を一切気にしない。

そして今度はサイトの方を向き、笑顔になった。
その笑顔に、何やら言い知れぬ恐怖を感じたサイトが、どうにかして逃げ出そうと、少し考えていたのだが、既に手遅れであった。

タカシは何処からか持ってきた(多分、学院の宝物庫にあったであろう)車のタイヤを出してきた。

そして、そのタイヤとサイトの体を紐で繋ぐ。

「な、なぁ・・・コレ、何?・・・っつか、どうすんだよこれ?」

そんな奇妙な行動に、不安を覚え、抗議の声を上げるサイトだが

「おぉ、コレか。昔漫画で見たんだけどさ・・・中々面白そうだから、ちょっと試してみようと思ってな。いいか?俺が良いと言うまで走り続けろ。男だろ?泣き言言うなよ?」

タイヤの上に乗りながらも、タカシは笑顔でそんな事を言ってきた。

「はぁ!?漫画で!?ってか、面白そうって何!?試す!?ちょ!おま!イデェ!」

色々と問題のある部分に、必死に突っ込むサイトであったが、笑顔の誰かは「黙って走れ♪」っと言い、槍を具現化し、その棒の部分でサイトをズバンっと叩いた。

まるで馬の様な扱いを受け、怒りを感じるのだが、今の自分に抵抗する力が無いと言う事が分かっていたので、涙を流しながら「くっそーー!覚えてろよ!絶対!いつか痛い目にあわせてやるんだからなーー!」っとかいうヤラレ役みたいな台詞を叫びながらも、サイトは走り出した。

そんな必死に走るサイトの後ろで、タイヤに乗り、楽しそうにしながらも「遅い!亀に抜かれるぞ♪」っとか言いながら槍を振り回す悪魔がいたとか・・・。

そんな男二人を見ながらも、女に生まれた事を神に感謝する人物が二人ほど居たらしい。


余談だが、その後、この光景はトリステイン魔法学院の名物の一つになったとかならないとか。



そして後日、モンモランシが先日、サイトが購入していた服を着て教室に登場。

一同騒然となっていた。そんな現象を不振に思うルイズ。

さらに、マリコルヌが同じ服を着て、変態的な行動をとっている場面をルイズに目撃され、そこからサイトの情報が漏れた。

そしてサイトを追跡していたルイズは、サイトとセーラー服を着たシエスタ(ノーパン)が会っている場面を目撃。
二人の命を賭けた(サイトのみ)「ト○とジェリー」が始まった。
最初サイトは

「きょ!虚無が何ぼのもんじゃい!念能力舐めるな!」

とか叫びながら「錬」でオーラを増強し、デルフを構えたが

「―いいか?念の防御はルイズの、虚無の爆発には効果が無い―」

そんな事を以前、タカシに説明された事を思い出し、そのまま全速力で逃げ出した。



そしてそのままモンモランシの部屋へと逃げ込み、見事な「絶」を使い隠れたサイトだったが、布団の中に入っただけであった為、その布団が盛り上がっているのをルイズに発見され、追い詰めらた。

その際偶然、モンモランシが調合したほれ薬を飲んだルイズ。

そしてサイトはそのまま惚れられてしまうと言う事件が起きる。


それより、以前。時間を戻す。



「タバサ!ほら見て!牛よ!牛!ほら!あんなにたくさん」

馬車の中から外を指差し、必死に(?)隣に座るタバサと会話をしようとするキュルケ。

「お~、中々美味そうだな」

「すぐそっちに持ってって・・・可愛そうよ」

「でもお嬢ちゃん?牛の肉食ってるだろ?」

『生食与奪だ。感謝して食せ』

等と向かいに座った面々が、いつもの様に会話をしている。
そんな一同を乗せた馬車は、のんびり進みながらも、タバサの実家に向かっていた。

何故こうなっているのかと言うと

キュルケが丁度、タバサの部屋に遊びに行った時、彼女は荷物をまとめていた。
「旅にいくのか?」と聞くキュルケに「実家に帰る」と答えるタバサ。

しかし、そんな言葉に何か含むところを感じたのか、キュルケも付いていくことにした。
ちなみに、タカシとアーリャも。
彼等は、実家に行こうとする二人を途中で見つけ、何やら様子が少し違うタバサを心配して、そのまま付いてきたのだった。

そしてキュルケは今、必死に友人の事を知ろうとしていた。
普段から自分の事をあまり話さない、三つほど歳の離れた妹の様な彼女の大切な友人。

そんな彼女達を他所に、いつもの様にワイワイがやがやと話すタカシとアーリャとリスとナイフ。

そんなこんなで、一向はガリア王国領内へと向かって行った。

そんな一行とすれ違うフードを被った10人に満たない一行。
その中の一人に美男子が居て、キュルケが「ウホ、いい男」っとか思いつつ、「何処かで見た気が」などと思案していたりいなかったり。

そのまま数日かけ、ゆるゆると旅をして一行はガリアの関所へと到着した。

手形を確認した兵士が「この先は通行できない。迂回しろ」と言ってきた。
なんでも、ラグドリアン胡から水が溢れ、道が水没してしまっている様である。
その為仕方なく迂回し、途中で見つけた農民に、りんごを売ってもらって食べていた。

「美味しいわねぇこれ」

「あぁ。いけるな」

「うん。これ美味しい」

「俺っちは食えねぇけど、いい色だねぇ」

『うむ。美味だ』

等とそれぞれが賞賛している。

そんな中、キュルケが農民と会話し、ここは国王の直轄領である事を知る。
そしてタバサを見つめ「あなた・・・もしかして」とか呟いていた。
残りの者は皆、タバサの事を本人から聞いているので別段驚いた様子も無い。

そのまましばらく進み、彼等はタバサの実家に到着。

その紋章を見てキュルケは息を呑む。
交差した二本の杖。
ガリア王家の紋章であった。
しかし、近づき、よく見るとバッテンの傷が付いている。
不名誉印であった。
これは、王族でありながら権利を剥奪されている事を意味する。
そうこうしている内に、馬車が玄関前へと到着。

一人の老僕が近づいてきて、馬車のドアを開け、恭しくタバサに頭を下げた。

「お帰りなさいませお嬢様」

そんな老人一人だけの出迎えを見て
「寂しいわねぇ」等と思うキュルケを他所に
「うむ、ご苦労」等とほざく男と、そんな男をひっぱたく少女が居るなど、騒ぎながらも、彼等は客間へと案内された。

客間のソファーに腰掛けたキュルケが

「まず、お父上に挨拶がしたいわ」

と言うが、タバサは首を横に振り「ここで待ってて」と言って、キュルケがポカンとしている。
そのままタバサは何処かへと向かい、部屋を後にした。
ある程度事情を知っている二人は、黙ってそれを見ている。

そして、キュルケはお菓子とワインを持ってきた先ほどの老人に会話を持ちかける。
すると

「貴方様はお嬢様のご友人ですか?」

老人にそう聞かれ、彼女はそうだと答えた。

そして老人は

「オルレアン家の執事をさせて頂いております、ペルスランと申します」

恭しく挨拶をし「オルレアン家」にキュルケが反応。
何故王弟家に不名誉印があるのか聞くと
「お名前を伺ってよろしいですか?」
等と聞かれ、素直に答える。
その後、ペルスラン執事は、彼女が「タバサ」と名乗っている事を知り、
「お嬢様の友人ならば信用してお話します」
と言い、残りの二人に目を向けた。

「・・・あなた方は・・・」

「アーリャ。アーリャ・リヒテン・ド・ヴィ・ズィーフィード。彼女の友人よ」

「タカシ。龍宮崇。アーリャの使い魔だな」

「おれっちは元メイジ傭兵の群雲だ!」

『我はリントと名乗っている』

何故かリスとナイフまでしっかりと自己紹介。お前等はイインダヨ。

それを聞き、何事か考えてから、タバサの事をキュルケに話そうとする。
だが、待ったがかかった。

「待てじじい」

そんな事言うのはこの場で一人。

「・・・何でございましょうか?」

訝しげに聞いてくる執事であったが、老人の態度を一切気にせずにタカシは続ける。

「それはお前の口から言うべきことじゃない。タバサ本人の口から言うべき事だ。確かに、キュルケは信用できるし、話しても構わんとは思う。だが、それを最後に決定するのはタバサ本人だ」

真面目な顔でそう言い放った。
その言葉にキュルケと執事が反応。

「貴方!何か知ってるの!?」

「貴方様は・・・もしや?」

「あぁ。全部知ってるよ。こいつもな」

そう言いいながら、隣に座っていたアーリャの頭をポンっと叩く。
いつもなら何かしら文句を言う彼女だが特に何も言わずに

「えぇ。私も知っています。そして、彼と同意見です。それはタバサ本人がキュルケに言うべき事。私達の口から語るべきではありません」

二人口をそろえてそう言った。
そんな二人の意見を聞き、黙り込むキュルケと老人。


そのまま暫くして、タバサが戻って来た。

そして

「タバサ。いい加減キュルケに話してやったらどうだ?彼女なら信用できるだろ?それに、彼女自身もお前の事を知りたいと言っている」

諭すように話しかけるタカシ。
タバサはしばらくそんな彼の目をじっとみてキュルケに視線を移し、そしてアーリャに移す。
アーリャはそんなタバサの目を見て、一回だけ頷く。

それを最後に、暫く目を瞑り、何事か思案しているタバサ。
そんな彼女を、何処と無く不安そうに見つめるキュルケ。
そして目を開き、タバサは自分の境遇を話し始めた。


全てを聞き終えたキュルケ。
彼女は唇をかみ締めていた。
彼女にしては珍しく、その表情に怒りの色が現れている。

「・・・自分の弟やその妻を手にかけて・・・タバサにまでこんな目にあわせて・・・」

拳を握り締め怒りを露にするキュルケだが、次のタバサの発言に、執事と共に驚愕した。

「でも私はジョセフに対し、復讐はしない。許せるかと聞かれれば許せないと答えるかもしれない。けど、私は彼を殺さない。目の前に現れ、チャンスがあっても」

「ちょっとタバサ!?」「お嬢様!?」

そんな驚く二人を他所に、満足そうな笑みで腕を組む男が居た。
そしてタバサは続ける。

「私に出来る事。私がすべき事は、彼に復讐することではなく、彼による犠牲者をこれ以上出さない事。こんな事はもうたくさん。私で終わりにする。その為に、タカシとアーリャ。そしてあなた達にも力を貸して欲しい」

そう言い、タバサはその小さな頭を深く下げた。

そんな彼女の行動に、思わず硬直する一同。

しかし、一人。

一人だけ嬉しそうにしながら、彼女の元へと歩いていき、その頭を優しく撫でた。


「教え子にそう言われちゃなぁ。俺に出来る範囲でなら協力しよう」

そしてアーリャも彼女の前に来て、その手を握る。

「私もよ。私に出来る限りの事で貴方に、協力を惜しまない!」

キュルケが反対の手を握る。

「水臭いわねぇ・・・私達、友達でしょ?少なくとも私はそう思っているわよ?」

後ろで執事、ペルスランが涙を拭いていた。

「お嬢様・・・ご立派になられて・・・」



そんな者達を見て、タバサはニッコリと優しく笑い、一言だけ呟くように言った。



「ありがとう」


その言葉を聞き、一同も皆、笑顔になった。











「ま、可愛い妹分に頭まで下げられちゃなぁ」

等とへらへら笑いながらほざくバカのせいで、そんな優しい表情が固まった。

「可愛い」という単語より「妹分」に反応した様だ。

アーリャが「あちゃー」と言った感じで手を顔にあて「あれ?って事は私も?」とか思い、何やらブツブツ言っている。
キュルケも「あ~ぁ・・・」という感じだ。
ナイフが「旦那・・・一言多いですよ・・・」等と呆れ声。
リスも『・・・崇殿・・・』とか言いながら深く溜息を吐く。

タバサが無言で杖を持ち、バカに魔法をぶつけようとしている。

そんな光景を見ながらも「お嬢様・・・ご立派に」とかほざく老僕ペルスランが居たとか居ないとか。

その後、オルレアン家の客間に、氷と風が吹き荒れる事になった。





     


以上です。ここでまた少し、オリジナルです。
本来キュルケだけがタバサと帰郷したのですが、二人も一緒に行かせる事にしました。
次回、「例のあの人」登場です。

ここで書かれた「漫画で見た修行」っと言うのは、「史上最強の弟子ケンイチ」と言う漫画で書かれている拷問・・・じゃなくて、修行の事です。
それとやはり、修行といえば重りです。コレに限ります!w

ちなみに、念禁鋼は作者のオリジナルで、「ご都合主義」ととって頂いて構わない代物です。
詳しくはオリキャラ紹介の最後の方に記述してあります。


では、引き続きご意見、ご感想、ご指摘等お待ちしております。




[4075] 第四部 第三章 任務×強襲!?×ギャンブル!
Name: 豊◆0ec87a18 ID:789b7561
Date: 2008/09/27 10:52






タバサが過去を語り、皆で笑い合い、バカに制裁を加えた後(本人はケロッとしている。被害が出たのはオルレアン家の客間の方であった・・・)この機会にタバサは、シルフィードが風韻竜である事をキュルケとペルスランに明かした。
ついでにリントも韻竜だと教えた。

「きゅいきゅい!あなたの事もお姉さまって呼んでいい?ペルスランさんはおじい様!きゅいきゅい!」

相変わらず家族(?)が増えた事に大喜びのシルフィード。
そんなこんなでペルスラン執事が任務の召集が来た事を伝えた。

「何だそれ?」と言うタカシに、任務の事を伝えるタバサ。
彼等にも、未だそこの部分は話していなかった。
北花壇騎士七号。
それがタバサの裏の顔であった。
そして、それを聞いたタカシは

「くっくっく・・・人の教え子を勝手に招集しようなんて・・・いい度胸だなぁ」

凶悪な笑みを浮かべ「俺も行く」とか言い出したのだ。

タバサはかなり驚きながらも
「彼と一緒に任務をするのも悪くないかもしれない」
等とか思ってしまい、特に拒否はしなかった。
後に、この時の決断を少しだけ後悔したとかしないとか。

そんな事を聞き、キュルケとアーリャも一緒に行くと言い、一同はリンドヴルムに乗り、ガリア王国の首都リュティスに到着。

ガリアの王宮。
ヴェルサルテイル宮殿の一角にある通称プチ・トロワと呼ばれる建物。
宮殿の手前で降り、リンドヴルムをリスにしてその入り口に来ていた。


「さぁて、その北花壇騎士団とやらの団長様の顔でも拝みにいくか」

宮殿を見据え、楽しそうに言い放つタカシ。

「・・・お願いだから。お願いだから!面倒ごとは起こさないで!ここはガリアの首都なんだからね!?ハルケギニア一の大国ガリアの首都なんだからね!?」

目に少し涙をためて、必死に懇願するアーリャ。

「・・・無理じゃないかしら・・・私は何かいやな予感しかしないわ・・・」

キュルケは何処か遠い目をして、ため息を吐いている。

「ここも懐かしいねぇ・・・」

元メイジ傭兵で、北花壇騎士として何度か訪れたことのある場所を。懐かしそうに眺める(?)群雲

「きゅいきゅい!あの小憎らしい小娘に一発かましてやってお兄様!」

とか煽るなバカ!!!

『・・・大丈夫なのだろうか・・・』

心配そうに溜息を吐いているリント。一番大人っぽいですね。

そんな一同は、城の入り口に到着。そこで門番に
「北花壇騎士七号到着」
の旨を伝えると、ゆっくりと門が開いた。

そして

「お前達はここで待機だ」

当然の事を言う門番。
大人しく従う三人。
そしてそのまま門の中に消えていくタバサ。

「大丈夫かしら・・・」

「平気でしょ?いつもこんな感じの呼び出しなんでしょうし」

アーリャは何やら不安そうであるが、キュルケはそこまで心配していないようである。
それとも、アーリャの不安は別の部分にあるのであろうか・・・。

「ねぇねぇ、お兄様は何処?」

そう言いながらキョロキョロと周囲を見渡すシルフィードの声が、そんな二人を慌てさせた。

「「あああぁぁぁ!?」」

周囲を見渡し、必死にタカシを探す二人であったが、見つけることができない。
・・・今更気がついた所で、既に手遅れ感が否めなかった・・・




タバサはプチ・トロワの通路を進む。

足音だけが周囲に響く。

何度も通ってきた道だ。

いつもは無感賞に。

何も感じることなく歩く道。

しかし、今日は違った。


「ほぉ、なかなか良い作りじゃないか」


不適に笑いながら言う男が、彼女の横を歩いていた。

何故ここにタカシが居るのか。

彼は、門番の隙を付き侵入。
その後内部でタバサと合流。
タバサ最初、はかなり驚いていたが、平然と「さぁ、行こうか」とか言われ、少し微笑んでそのまま二人並んで歩いている。
当然、途中にいる兵士が「貴様!何者だ!?何処から入った!?」等と聞いてきたが、全て「きさ」の辺りまで口にする前に、言葉が聞こえなくなっている。


「殺したの?」

何人目になるか、崩れ落ちる衛兵を見てからタカシに視線を移し、彼を見上げて聞いてくる少女。

「いんや?殺すと後々面倒だろ?」

ニヤリと笑いながら、そんなタバサに返答する大ばか者。
今も十分すぎるほど面倒である。

そうしてこうして、二人はイザベラ。
北花壇騎士団団長にして、ガリア王国第一王女の部屋の前に来ていた。

その時、歴史は動いた。

部屋の扉の前に居た衛兵を一瞬で黙らせドカン!っと勢い良く扉を蹴り飛ばす・・・
もう止められない・・・

「な!?誰だ!?七号!?」

い大いに驚くイザベラ姫の姿があった。
当然であろう。
本来ここにいるハズなのはタバサのみ。
それなのに、その隣には不適に笑う男が立っているのだ。
しかも、扉の片方を蹴り飛ばしての入出。
・・・・前代未聞であった・・・

彼女はタバサと同じ青い髪を長く伸ばし、整った顔つきである。
身長もタバサと同じくらいであろう。
目つきは少々キツイ。
だが、なんというか子悪党の様な笑いなど、高貴な者の持つ雰囲気という物が足りず、王女と見るにはその部分が大きなマイナスになってしまっている。

そんなイザベラ姫を一瞥し、タバサの方に顔を向け、タカシは問いかける。

「あ?何だこの小生意気そうな餓鬼は」

一国の、ハルケギニア一の大国ガリアの姫君を捕まえて、そんな事をほざき始めた。

「イザベラ。ガリア第一王女」

短く答えるタバサ。
何処か楽しそうなのは、あわてているイザベラを見たからだろうか。

「をいをい、タバサさん。こんな品の無さそうなクソ餓鬼が皇位継承者?冗談だろ?お前にしちゃ面白い冗談だが、幾らなんでもありえなさ過ぎて笑えねーって」

イザベラを指差しながら「ありえない」と言った風体で、鼻で笑いやがった。
そんな無礼者の言葉に、姫君が反応する。
普通ですね。そんな事言われても怒らない姫君は・・・・恐らくいないでしょうねぇ。

「な!?無礼者!この私をよくも・・・衛兵!この男を殺せ!」

怒りで顔を真っ赤にしながらも、そう叫ぶイザベラ。
しかし誰も来ない。

「何故だ!?」とか叫んでいるとタカシが「全員寝てるんじゃないか?」とかヘラヘラしながらほざいた。
そんな意味不明な事を言われ、困惑するイザベラを他所に

「んでタバサ。これ誰?」

イザベラを指差し、タバサの方を見て、改めて問いかける。

「・・・彼女がイザベラ。北花壇騎士団団長」

先ほどのは本気で冗談だと思っている様である・・・そんな彼に少し呆れながらタバサがもう一度。
今度は違う言い方で紹介する。

その言葉で、我に返ったのか、イザベラが胸をはって叫ぶ。

「そ、そうだ!この私が北花壇騎士団の団長だ!人形七号!団長命令だ!その男を殺せ!」

にやりと小悪党の様に笑い、そうタバサに命令するイザベラ。
その笑い方は誰かと似てますかね。

「をいをい・・・こんなのが団長?北花壇騎士団ってのも長くねーな」

「・・・かもしれない」

一方、殺せといわれたターゲットの男と、命令を受けた少女は、多少呆れ気味だが、のんきに会話をしていた。

「いい加減におし!さぁ!七号!はや」

「黙れ。俺の教え子を妙な名前で呼んだ挙句、俺を殺す?良い度胸だなぁ。クソ餓鬼」

タバサに男を殺させようと命令するが、途中で遮られ、凶悪に笑う男が言葉を発した。

「っな!だか「をい餓鬼。今コイツの事を何て言った?」ッヒ!」

彼女が何事か言おうとして、その言葉の途中で、強烈な殺気をぶつけられ、言葉を切る。
あらゆる意味で非常識な男に、イザベラは言い知れぬ恐怖を覚えたのであろうか。
はたまた生まれて初めて、正面から強烈な「殺す意思」を当てられ、恐怖したのか。
ブルブルと震えだした。

「あ・・・お、お前こ「ヒュン」ヒィ!?」

また何か言おうとしたところ、タカシが無言で、何処からか出した白銀の槍を投擲。
風を切る音と共に槍が投擲され、イザベラの言葉を遮る様にして、彼女の足元に突き刺さった。
震えながらも何事か言おうとしたイザベラであったが、何の前触れもなく、いきなりその様な事をされて、言葉を飲み込む。

「さて小娘。今こいつを何て言った?」

対照的に楽しそうに、しかし凶悪に笑う悪役が、イザベラを睨み付けながら問いかけた。
そんな彼を横で見ながら、何処か楽しそうに見えるタバサ嬢である。

「に・・・しゃ・・・しゃるろっと・・・」

イザベラ本人も、もうどうして良いのか分からないのか、脅えながらも訂正させられた。
ここまで来ると可愛そうです・・・そろそろ許して・・・無理?

「ほぉ、呼び捨てか?」

「ひぃ!?しゃ、シャルロット様!!」

さらに睨まれ、半泣きしながらタバサの本名を様付けで呼ぶ。
そしてそれを見てニヤリと笑い、殺気を引っ込める男。

「よし。んで?何の用だ?下らない用件で呼び出したってんなら・・・なぁ?」

最後の「なぁ?」の部分・・・もう・・・ねぇ?
笑いながら言ってるし・・・
そんな悪逆非道で非常識な男に、脅えながらも、近くにあった書類を持ち、自らタバサに手渡す。

「こ、これが任!に、任務です!」

ちなみにこの部屋にはメイドもいるが、彼女達は部屋の隅で縮こまって震えている。
その紙を受け取り、しばし眺めてタバサがタカシに渡してきた。


「ほぉ・・・おぉ!なかなか面白そうじゃないか。二つ目は・・・まぁ、ついでだ、別に良いか。よし、引き受けてやろう」

少し紙を眺め、偉そうにほざいた。

アーリャが居れば止められたかもしれないが彼女は今、門の外。
自らその希望の光を閉ざしてしまっているプチ・トロワ・・・そして

「さて、それじゃぁ行くか。あぁ、今後こいつを呼び出すなら俺も来るからな?勝手に人の弟子を呼び出すんだ。どんな内容の任務かしっかり確認しないとな。そこいらのバカでも出来るような簡単で下らない任務を押し付ける様なら・・・ここを廃墟に変えてやる。持ってくるならなるべく難しくて危険な物にしろ?いいな?」

そう脅しをかけた・・・
王宮を廃墟にしてやるとかもう、意味不明な事をほざく男・・・
しかも、さりげなく「危険な任務以外持って来るな」とかほざいたのだ・・・
そんないろんな意味でぶっ飛んだ大馬鹿に脅えながらも、コクコクと頷くイザベラ嬢。

そして、そんな男の横で終始無言のタバサだったが、何処か嬉しそうで、何処かイザベラに同情している様子である。

「あぁ、あと。俺の事を詮索するなよ?したら・・・・」

最後にニヤリと笑いイザベラを見る。
イザベラは先ほどよりさらに激しく首を上下している。
そしてそのままと男とタバサは悠然と退出・・・ってか、ドア片方無いからそこから歩いて出て行った・・・・
そんな二人を、ポカンとしながら見送るイザベラであった。

しばらくして、プチ・トロワの門が開かれ、そこからタバサのみが出て来た。

「タバサ!良かった!無事だったのね!」

彼女の姿が見えた瞬間、キュルケとアーリャが抱きついてきた。
そんないきなりの行動に、タバサが首をかしげ、どうしたのか不振そうに聞くと

「あの馬鹿がさっきから見えないのよ!もしかしたらそっちに行ってるんじゃないかって心配してたんだから!」

キュルケとアーリャ。二人揃って叫ぶようにそう答えだ・・・心配っつか、見事に的中。
んで手遅れ。

そんな彼女達の後ろから噂の馬鹿が登場。
「何をしていた!?」と聞いてくる少女達に「そのへんをブラブラしていた」と嘘をのたまった。

そしてそのまま森の中へ行き、そこで一回休憩をしてから目的地に行こうとしたところ

『実は―――っと言うワケだ』

タカシの肩にのり、悪逆非道の全てを見ていたリントが語った。

群雲は彼に「喋ったら愉快な事したやる」と脅されいたので何も言えずに黙っていた。

だが、この場で有一っというか、現状この世界で有一。
この男とまともに対峙できる力を持つ伝説の巨大韻竜、リンドヴルムが代わりに全てを語ったのだった・・・そんな事を聞いて

「・・・・・・」

Orzりながら目の幅涙を流し、「もうだめ・・・もうおわった・・・ガリアの王族にケンカをうっちゃった・・・」とかぶつぶつ呟いているアーリャ嬢。

「きゅいきゅい!お兄様!さすがなのね!あの小憎らしい小娘が泣いて怯える姿!シルフィも見たかったのね!今度はシルフィも連れてって!きゅいきゅい!」

こちらはアーリャと対照的に、大喜びのシルフィード。

「・・・・えっと・・・」

冷や汗を大量に流し、引きつりまくった笑みで、どちらの意見にも賛同できるが、どちらにも出来ない。どうしようかと困るキュルケ。

「・・・いやぁ・・・あの小娘があんな姿を見せるとは!さすが旦那!」

何やら多少自棄気味に喋りだすナイフ。
冷や汗をかいている様に見える。

「心配するな。何も問題は無い」

問題大アリなのは貴方ですよ。
そんな大馬鹿をアーリャがグーで殴りつけた。
タバサは何処か上機嫌、でも同情を禁じえないと言った微妙な表情をしていたが、とりあえず、一向は任務遂行のためベクトール街の賭博場と向い、出発した。


リンドヴルムでしばらく飛行し、一向はベクトールに到着。
地上に降りて、目的地に向かいながら歩いていると、アーリャがタバサに質問してきた。

「それで?賭博場なんかに行って何するのよ?」

そう聞いてくるアーリャに、タバサが今回の任務の内容を伝えた。

此処最近、賭博場が出来て、貴族から大金を巻き上げているらしい。
店を取り潰してもいいが、そうすると貴族連中が恥をかいてしまう。そこで、正面から賭けで勝ち、ついでにイカサマをしていたらその方法も見破れっとの事だ。

そして、予め知らされていた入場方法で、一向は賭博場へと向かって行っく。

賭博場は地下につくられていた

「何で地下なんかに作ったのかしら?」

首をかしげながら可愛らしく疑問を述べるアーリャ。

タカシがそれに楽しそうにしながら答えた。

「どうせマトモな商売じゃねーんだろ。上限を超えた掛け金とか。後は、簡単に逃げられない様にするためだな」

ニヤリと楽しそうに笑いながらも、そんな事を「どうでもいい」っといった感じで述べる。
そんな一同はカーテンを潜り、手前で杖を預け、賭博場へ入場した。

入場してすぐ、ギルモアと名乗る太った男が現れた。
どうやら此処の支配人らしい。

そして名前を聞いてきた。そこでキュルケが「ゲルマニアのフォン・ツェルプストー」と、事前に少し打ち合わせをした通りに言った。
本来、違う名前も用意されていたのだが、こちらの方がインパクトがあるとして、タカシが勝手に変更したらしい。

それを聞き、目を見開いて驚く支配人。

「これはこれは、遠路遥遥ようこそおいでくださいました。ツェルプストー様。どうか、当カジノで存分にお勝ちになって下さいませ」

キュルケも何だかんだ言って賭け事などが好きらしい。
支配人の挨拶に適当に返事をしながらも、先ほどから目を輝かせ、キョロキョロとしている。
一方、恭しく頭を下げるギルモアは「カモが来た」っと言った表情を一瞬した。
もちろん、それを見逃さない者が一名いたが、この者も何だかんだで楽しみたいらしい。
そんな支配人を見てニヤリと笑うだけだった。


そして一向は「大勝ちしてカジノを潰し、ついでに大金をせしめよう作戦」を実行に移す事にした。


この任務を皆に説明した際、タカシが詳細を決めた。
1、一人頭使用する金は100エキュー。
2、それぞれ別のゲームで賭けをする。
3、手持ちが0になった時点で大人しく退く。借金等は禁止。
そう告げ、皆それぞれ頷く。
タバサは元々任務の費用として100エキューを預かっていたので、他の者にはタカシが金を渡した。
そして「勝ったらその分から返せ。負けても返せとは言わんから安心しろ。その代わり、一つだけ条件がある」と言い、その条件も別段、どうでも良い事だったので皆、その旨了承した。

そうこうして彼らの作戦が始まった。


タバサはサイコロを使ったゲーム。
キュルケはブラックジャックの様な物。
アーリャはポーカーの様な物。
シルフィ(人)は一人にすると不安なので、例外で誰かと常に一緒に居る事になった。

皆それぞれの台に向かっていく。

何だかんだで楽しんでいる一同を、腕を組みながら楽しそうに眺める男と、その肩で何処と無く不安そうにしているリス。
群雲は本日、杖と共に預けられたのでこの場には居なかった。


『皆楽しそうだな。しかし崇殿?お主はやらなくて良いのか?』

「ん~、後でやるよ。とりあえず、こいつらを見て回ろうか」

実に楽しそうにしながら、まずはアーリャの元へと向かった。



アーリャは先ほどから必死に考えていた。
頭を抱えながらも、全身全霊をかけて、必死に考えている。

「・・・何故・・・何故勝てないの・・・」

先ほどからずっと。
っというか、最初から一度も彼女は勝てていない。
その疑問の答えが後ろから浴びせられた。

「お前、表情に出やすいんだよ。何でポーカーなんか選んだんだ?」

タカシが呆れながら、それでも楽しそうにそう言う。
アーリャは結局、開始数分で100エキュー分のチップを無くし、肩を落としながらトボトボと、タカシの共にキュルケの所に向かった。




「お~っほっほっほっほ」

キュルケの向かった方から、そんな高笑いが聞こえてきたので見てみると、キュルケは結構勝っていた。
100エキューのチップが今は300エキュー程になっている。
彼女は中々に賭け事の才能があるらしい。
しかし

「これは貰ったわ!全額ここで賭ける!」

っとか言い出した。
本来、上限やルール等でそんな事は出来ないのだがここに上限は無く、またディーラーも「さすがお嬢様」などと言って特に咎めようとせず、回りの客もはやし立てたので有限実行された。
そんなキュルケを不安そうに見つめるアーリャと、相変わらず楽しそうに見ているタカシ。

「・・・大丈夫かしら・・・」

「いや、ダメだろ?あぁいうタイプは賭け事に向かん」

そんな主従の言葉を他所に、いざオープン。

結果、キュルケのチップは0になった。

「・・・絶対勝てると思ったのに~」

などと、アーリャと同じように肩を落としながら、トボトボと三人でタバサの下へ向かった。



タバサは先ほどから勝っていた。
しかし、そんなに多く勝っているわけでは無い。
数回、シューターの様子を観察しながら数回だけ張り、しかしそのつど必ず勝つ。
しかも一回の掛け金が多いので大勝していた。

「タバサ!すごいじゃない!」

「本当よ!貴方にこんな才能があったなんて!」

そんな彼女を見て、大喜びのアーリャとキュルケ。
シルフィは早々にすって「きゅいきゅい!お姉さますごいすごい」っとか彼女の横で騒いでいた。

そんな小さな少女が大勝した事で、周りに人だかりが出来てきている。

そして、そんな中「トマ」と名乗る、どうやらここで人気の給仕が現れ、タバサに話しかけた。
シルフィードが何やら文句を言うが、それを無視し、タバサは彼にワインを注文。

そうこうしていると、後ろから貴族の叫び声。
どうやら支配人との勝負をして、負けて騒いでいる様だ。
そして、その貴族が何処からか杖を取り出し、魔法を使おうとした瞬間、トマと名乗った給仕がナイフ片手に一気に接近。
そのまま杖を切り落とした。

そんなこんながあって、タバサは勝ち続け、一万数千エキューほどのチップを稼ぎ出していた。
一同は「タバサ凄い!」っと騒ぎ、そんな一行を後ろで腕を組みながらニヤニヤと笑うタカシが居る。

そこへ、支配人のギルモアがもみ手をしながらやってきた。
どうやら、店の予想を超えて大勝してしまっている様である。
そうしてタバサとなにやら話し、支配人と一対一の勝負をするという。
そのままタバサは別室へと案内され、そこでトマと名乗る給仕の正体、オルレアン家でコック長を勤めていた男の息子、トーマスである事を知る。
そのまま会話をし、トマが止めるのを聞かず、タバサが再び支配人との勝負をするというところで





ついに「奴」が動き出した。









以上です。今回の賭博場の話は、原作(ゼロの使い間、タバサの冒険)に出てきた話です。それを少し、アレンジさせていただきました。
時期等が多少ずれているのですが、その辺りはご愛嬌と言う事でw

今回のお題(?)は「毒を似て毒を制す」っと言う事で、「毒」を投入してみました。
私個人として、イザベラとタバサには仲良くしてもらいたいのですが、普通に(原作)進めても少し難しいでしょう。そこで、「毒」を投入です。
ちょっと毒がキツかったかもしれませんが、まぁ、その辺りもご愛嬌w


では、引き続きご意見、ご感想、ご指摘等お待ちしております。







[4075] 第四部 第四章 賭博場×ルーレット×イカサマ!?
Name: 豊◆0ec87a18 ID:789b7561
Date: 2008/09/29 07:59






ここは平和なベクトールの町。

だが、さっきまでの平和な空気が何処かに消えた。

周囲の動物達が一斉に逃げ出す。

今まで晴れていた空が急に曇りだす。

全ては「奴」が動き出したからである・・・


かどうかは分からないが、ともかく、「奴」は行動を開始した。


「さて・・・そろそろ俺もやろうかな♪」

不適に、しかし上機嫌に笑いながら彼は自分のやるゲーム。
ルーレットへと向かって行った。

「・・・ねぇ?大丈夫なの?貴方の条件「自分にルーレットをやらせろ」なんて言ってたけど、そんなに自信があるの?」

心配そうにそう聞いてくるアーリャ。

「心配するなって♪」

上機嫌、ニコニコしながら答えるタカシ。

『・・・心配だ・・・』

そんな彼を見て一同は、不安を覚えずにはいられなかった。

ちなみにシルフィは、タバサに馬鹿にされたとか言って何処かに行ってしまっている。

そんな中、ついにルーレットが始まった。






そして数分後。




「~♪」

ニコニコ上機嫌のタカシ。

「「・・・・・・」」

口をポカンと開けて、放心状態のキュルケとアーリャ。

『・・・・』

ルーレットのチップを置く為の、数字の書いてあるマス目に立つリント。

そして、目の前にはありえないくらいの大量のチップが積んであった。

一体何があったのか。


さかのぼる事数分前。

タカシは鼻歌を歌いながら台に近寄る。
そしてそのまま席に着いた。

直後、いきなり「赤の7」に100エキュー全額を賭けたのだ。

当然、キュルケとアーリャは「いきなり何してるか!?」と騒いだが、そんな抗議を無視してカラカラとルーレットは回る。

皆が「あぁ、これでもう終った」と思った。
何やら自信がある様な事を言ってたのに、これではただの無謀ではないか。
そう思いながらも、奇跡を信じて祈りを捧げる少女達。

しばらくして、玉は「赤の7」のポケットへと落ちた。

一同が騒然となる中、一人上機嫌に、次は「黒の5」にまた今の掛け全額、35倍に増えた3500エキューを一点賭け。

アーリャとキュルケが「せっかく勝ったのに何をしている!?」と、更に喚き散らすが、そんな意見を全く聞こうとせず、タカシは鼻歌を歌うだけであった。
「今度こそだめだ。奇跡は二度も起こらない」そう思い、頭を抱える少女達。

だが、神の奇跡か悪魔の業か、玉は再び「黒の5」へと吸い込まれて行った。

そしてチップは12万2千5百エキューへと膨れ上がる。

その膨大なチップを見て、喜びながらも驚き、言葉が出ないアーリャとキュルケ。
だが、そんな二人を無視して、タカシは更なる暴挙に出た。

「んじゃ、次はこれ全額「赤の2」に・・・・動かすの面倒だな・・・よし、こいつが全額チップの代わりだ」

そう言い放ち、己の肩に乗っていたリスを「赤の2」の数字が書かれたマス目にチョンと置いた。

そんなあんまりな行動に、驚き、呆れ、どうしていいか分からなくなってしまう二人の少女。

こうなってくると、さすがにシューターも不審に思い一応、台を調べたり、玉を交換したりしている。

周囲にもいつの間にか人が集まりだしている。

その後再びルーレットは回り、玉は当然の様に「赤の2」へと落ちていった・・・。

そして現在に至り、タカシの儲けは428万7千5百エキューになっていた・・・。

周囲の客は最初は「イカサマではないか?」と疑う者も居たが、彼はチップを動かす時以外、一切台には触れておらず、イカサマのしようがない。
さらに、途中からリスを使い出し、可愛らしいが、常に全額一点がけという大胆さも話題を呼び、周囲の人々は、はやしたてていた。

「「・・・・うそ・・・・・」」

キュルケとアーリャの呟きがはもった。
というか、それ以外に言葉が出ないと言った感じである。
二人とも既に、やや放心状態であった。


そしていよいよ四回目の全額勝負。


そんな異常事態に、今更あわてて支配人を呼びに行く従業員。

その姿を、実に楽しそうにしながら見送るタカシ・・・


一方、ギルモアがタバサと勝負し、タバサの残金が底を付き、言いつけを破り、借金をしてまで勝負しようとしていたところ

「ギルモア様!た、大変です!」

そんな声と共に彼等がゲームをしていた場所へと駆け込んできた従業員。
その姿から、何かを感じたギルモアが、慌てて従業員に連れられて出て行く。
タバサも後を追って行った。


そして


「黒の13♪もちろん全額♪」

その声を聞きリスがそこへ移動。
そして玉は「黒の13」へと吸い込まれるように落ちていった・・・

結果、彼のチップは一億五千万エキューに増えた・・・。
何処かの借金執事の借金と同じくらいの額という、在りえなさ過ぎる額に・・・

「んな!?」

そんな光景を見せられ、思わずそう声を上げるギルモア。
しかし、何とかしようと必死に作り笑いを浮かべ、話しかけてくる。

「お・・・お客様・・・本日は・・・大勝・・・ですな」

大いに冷や汗をかきながらもみ手をし、少し震えながらそう言ってきた。

「おぉ。ちょっとだけ勝たせてもらってるよ♪」

一億五千万という数字を「ちょっとだけ」とか笑顔でほざく男。
実際、彼は4回しか勝っていないので「ちょっと」といえるだろう。
しかし、勝ち方がありえない・・・

「そ・・・そろそろお疲れなのでは?」

「いいや?まだ初めて10分もたってないし、全然♪」

そう、実際始めて10分も経過していない・・・

「も、もうしわけありませんがそのテーブルはシューターが体調を」

「じゃぁ違うの呼べ♪」

「そ、その・・・その者しかおらず・・・」

「そんな事俺が知るか♪」

「で、では私とサシでカードなどいかがでしょうか?」

「断る♪」

「な、何故でしょうか?同じものばかりではお飽きになるかと」

「まだ10分もやってない♪それにカードよりこっちのほうが楽しい♪サシの勝負ならこっちでやろう♪」

さきほどから終始ゴキゲンでニコニコしているタカシ・・・必死にどうにかしようとしている支配人だが、どうにもならない。
もっと額が小さければ、多少の損を覚悟で追い出す事もできるが、一億五千万とかぶっ飛びすぎている額なのでそれも出来ない・・・
どうにかしようと必死になっている支配人を、悪魔の笑顔でしばらく観察し、ワザとらしい演技でポンっと手を叩き、タカシが言葉を発した。

「おぉ、だけどこのままじゃアンタも可愛そうだな」

そう言い、なにやら考えるフリをしながら、ニヤリと笑った。

「よし、こうしよう。ルーレットで三回勝負。俺が一回でも負ければ全額あんたにやって俺は大人しく帰る。もし、俺が三回連続勝ったら・・・とりあえず、有り金全部とこのカジノ。ついでに上の店とかアンタの資産全部頂く。足りない分はアンタの借金。さらに、俺が勝っても負けても、ここにいるお客様全員にも見物料としていくらか進呈しよう」

そう言い放った。
それを聞き、その場が一気に盛り上がる。
三回勝負で一回でも負ければ全額返還と言うリスクを背負いながら、さらに、彼が勝っても負けても、自分達に金が回ってくる。
そんな状況。
しかも、彼は今までイカサマをしているようには見え無い。
これで盛り上がらないはずは無い。

こんな状況の中、支配人側としても断る事は出来なくなってしまったのだ。
ギルモアは引きつった顔で、少し考えながらも、仕方なく勝負を受ける事にした。

今、運命を決める勝負が開始される。

念のため玉を交換し、ギルモア自ら台を調べる。
そして、特に異常も仕掛けも無い事を改めて確認。

そんな様子をニコニコしながら眺めるタカシ。

『・・・・・』

皆はもう言葉が出なかった。
やがて支配人が台の点検を終了。

いざ、勝負開始。

結果、当然の様にギルモアの三連敗。

タカシは命令するだけでリスを動かし、その数字のポケットに吸い込まれるように玉が入っていく。

そのままがっくりとうな垂れるギルモア。
そんな男を、を上から見下ろしニコニコとゴキゲンなタカシ。

そこへ

「お客様!このお方はカジノの儲けを全て、貧しい者達のために寄付しているのです!どうか、どうか、その意をくんでいただけないでしょうか!?」

先ほどのトマと名乗る男が、必死の形相で言ってきた。
だが、「奴」にそんな言葉は届かない。

「俺には関係ない♪いいから出すもの出して、ここのお客様にもお金をお渡ししろ♪」

腕を組み、足を組みながら上機嫌でそうほざいた。

アーリャは後ろで頭を抱え「この悪魔が私の使い間」と何度もぶつぶつ呟くように繰り返している。
キュルケが「あははは」ともう笑うしかないから笑おうって感じで笑いまくる。
タバサが「・・・」と無言でタカシに非難とか、そういった意味合いを込めた視線を送るが、全く効果が無い。
リントはここで喋ると面倒なので喋らない。っつか、喋ってもどうせ聞いてもらえないとでも言うように溜息を吐いていた。

そんな中、トマと名乗る青年がナイフを出し、タカシに無言で切りかかった。

それをニコニコ顔のまま身動き一つしない男。


そこへ、タバサが割って入った。

周囲はそんな暴挙に騒然としているが、本人達はもう気にしていない。

「お嬢様!お退きください!」

トマは必死に叫ぶが、タバサは無言で首を横に振るだけである。


しかし、彼女は冷や汗をかいていた。
そう、彼女は「トマを助けた」のだ。


このまま彼が切りかかっていたら・・・恐らく、彼女達ならその結末が容易に想像できたであろう。
そう思ったからこそ、タバサは飛び出した。

そして同じく、飛び出して行ったアーリャが彼女の杖を掴み戻ってきて、それを投げてよこした。

杖を持ったタバサがトマと激突。

一瞬の攻防で、トマの腹に杖による打撃の一撃を入れ、トマは崩れ落ちた。

さらに、その隙に逃げようとしていたギルモアは思わぬ伏兵に出くわした。

「きゅいきゅい!お前!この子達使ってイカサマしてたのね!」

そう言い、イタチのような生き物を抱きかかえたシルフィードが戻って来た。
イタチは先住の魔法を使える「エコー」と呼ばれる生き物で、それの「変化」の魔法でカードに成りすまし、支配人がイカサマをさせていたとの事だ。
それを聞き、周囲の客達が一斉に支配人をつるし上げた。そこへ

「まぁまぁ皆さん、こいつは借金をしてでも皆さんにお金をお支払いしたいと言っているんで、その辺で。足りない分はコイツに体で稼いでもらわないといけない訳だし。ね?」

とかほざく悪魔の仲裁により、その場は収まった・・・しかし、彼の資産とカジノ。
そのた諸々全てむしりとられ、借金もさせられ、そのまま奴隷としてこき使われるギルモア氏であった・・・・彼の人生に幸あれ。

そんなドサクサに紛れて、タバサはトマを密かに脱出させていたとか。


そして一同は再びプチ・トロワに到着。

今度は門番に話が通っていた(無理やりそうさせられた)ので、タカシとタバサは普通に入って行き、それを心配そうに見送る三人が残された。

「おうイザベラ!任務完了だ!ほれ!」

上機嫌でそう言いながら、彼は店の権利書やら書類など、その他諸々を彼女に突きつけた。

「えぇ!?あ、アンタ達一体何やったん!?いや!何やったんですか!?」

それを見て驚愕するイザベラ。
当然、この様な結末は予想していなかったのであろう。

「ワザワザ言い直さなくていいぞ?普通に喋れ普通に」

先ほどから終始ご機嫌のタカシ。
本人が言うのだから・・・などと思い、イザベラが
「い、いいから!何やったんだい!教えな!」
とか聞いてきたので、タバサがありのままを話した。
ソレを聞き口をポカンと開け、放心するイザベラ。

「ま、なかなか楽しかったぞ?またこういう任務なら喜んで引き受けよう。それより、もっと難しくて危険なのとか、そういうの探せよ?んじゃ、俺達は帰る。もう一つの方もついでにやっとくから安心しろ」

そう言いながら、ヒラヒラと手を振り、タバサを連れて退出して行く男。
そんな彼らをポカンとしてただ見送るだけのイザベラであった。



その後、プチ・トロワから出てきた二人と共に、一同はタバサの実家へ向かうリンドヴルムの背中にいた。

「ねぇ・・・何であんなに勝てたの?何かコツでもあるの?」

ずっとそれを聞きたかったのであろう。
今まで何やら考えていたアーリャが、不思議そうに聞いてきた。

「コツ?無いよ?」

そんな彼女の問いかけに、平然と答えるタカシ。
皆に「じゃぁ何であんなに勝てたんだ?」と質問されたので、彼はニコニコしながら答えた。

「俺の念能力。マグネッションを使えば簡単だ。玉を「N」ポケットを「円」で「S」にして、あとはそのままタイミングを見て引っ張れば良い♪」

そう、彼は念能力でイカサマをしていたのだ。
それを聞き、皆は「イカサマじゃないか!」と叫ぶが

「イカサマ?ばれなきゃそれはイカサマとは言わないんだよ」

とか上機嫌にほざく男。
そんなイカサマ野郎をジト眼で睨む少女達。
そんな非難の視線を一切気にせず、ニコニコしながら、一枚の書類を眺めるタカシ。

それを見て、ふと疑問に思い、アーリャが質問してきた。

「それなに?」

そう聞くアーリャにその紙を見せてやると、ポテっという可愛らしい効果音がして彼女は倒れた。

なんでもそこには、ありえない金額が記されていたのであったとか・・・。










以上、賭博場での戦い(笑)でした。
ちなみに、イザベラ姫は、今後また出てきてもらう予定です。


それでは、引き続きご意見、ご感想、ご指摘等、お待ちしております。



[4075] 第四部 第五章 精霊×ほれ薬×ウェールズ?
Name: 豊◆0ec87a18 ID:4cddc065
Date: 2008/09/29 11:47




カジノで大金をせしめ、ついでに潰し、タカシ達は旧オルレアン公爵家に戻り、休憩を取ってもう一つの任務「ラグドリアン胡の水嵩増加を止めろ」を実行しようと現地に向かっていた。

「んで?そもそもなんで水嵩が増えてるんだ?雨か何かで増えたのか?」

ラグドリアン胡へ向かうリンドヴルムの上で、タカシが聞いてきた。

「恐らく、水の精霊の仕業」

水の精霊とは、そのまま水の精霊である。ラグドリアン胡に住み、はるか昔からそこに存在し続けているという。

「ほぉ、んじゃそれを始末すればいいのか?」

精霊を「始末する」とかほざく男に、一斉に待ったを掛ける少女達とナイフと竜。
なんでも敵対した場合、もし水の一部でも体に触れてしまったら心を操られるらしい。

「ちっ」

なんか舌打ちが聞こえたが、どうやら「始末する」という選択肢は彼の中では消えた様だ。

「でもどうするの?本当に倒す以外に無い気もするんだけど・・・」

アーリャが少し考え、そう質問を投げかける。
確かに、彼等にはそれ以外の手段が今のところ無く、また倒す方法も無くは無いので、皆もそう考え始めていた。

とりあえず、一同は「ついてから考えよう」という事でラグドリアン胡へと向かった。

そして一向が到着した頃、丁度そこでサイト、ルイズ、ギーシュ、モンモンを発見した。

「お?お前等こんな所でなにやってんだ?」

「あれ?タカシ?何でここに?」

そうしてお互いの事情を話す。
なんでもサイト達は水の精霊の体の一部が欲しいらしい。
どうやらルイズがモンモランシが調合したほれ薬を飲んでしまい、それを直すために必要な様だ。

それを聞き

「そのままでもいいんじゃないか?元々お前はルイズに惚れてる訳だし。そいつも満更じゃないだろ?」

とかニヤニヤしながら言う男。

「それは・・・いや・・・でもダメだ!」

サイトはそれを聞き、顔を赤くしながら一瞬躊躇し、何かを想像してから首を大きく横に振って否定した。そんなサイトの反応を見て、更に楽しそうに笑うタカシが何事か言おうとした時、今まで寝ていたルイズが起き、サイトにベタベタと甘え出した。

その光景は、見ているこちらが恥ずかしくなる様な光景であった。
ルイズはサイトにピッタリとくっつき、猫の様に甘えている。

そんな光景を見て、事情を聞いたキュルケ。最初から事情を知っているモンモン、ギーシュがニヤニヤしている。
タバサとアーリャは顔を見合わせ、タカシを見て、またルイズとサイトを見て、少し羨ましそうな、しかし恥ずかしそうと言うなんとも微妙な表情をしてため息を吐いた。

え?どこかの誰か?もちろん

「ッぷ・・・クックくくくぶあ~っはっはっはっはっはっはっは」

と言う感じで腹を抱えて大爆笑。近くにあった木をバンバン叩いている。
どうでもいいけど、それ以上叩くと木折れますよ?
ちなみに、しっかりとそんな二人の画像を携帯に保存していたとか・・・

そんな彼が落ち着くまでかなり時間を要し、サイトが不貞腐れながら照れるという器用な表情をし、モンモンが水の精霊を呼べるとの事で、呼ぶ事になった。
彼女の家系は代々、水の精霊と盟約があるのだそうだ。
彼女は己の使い魔であるカエルの頭に、自分の血を少し付け、そのままカエルを湖の中へと向かわせる。

そして少ししてから、ぶよぶよとしたモンモランシの姿の水の塊があらわれた。

「アレがそうか。・・・ダメだ・・・やっぱり凝ても解らない・・・」

そんな誰かの呟きを他所に、まずサイトが交渉を開始した。

「頼む!精霊さん!体の一部を分けてくれないか?こいつを治すのに必要なんだ!それと、何で水嵩を増やすんだ?」

未だに自分にひっついているルイズを指差しながら、精霊に頼み込むサイト。

「・・・単なる者よ。問いから答えよう。我は先に奪われた我が所有する秘宝「アンドバリの指輪」を探している。そのために水を増やしている」

何でも、水の精霊は水のある場所しか解らないそうで、二年ほど前に奪われた秘宝を取り戻すためだけに、気の遠くなるような年月を掛けてハルケギニアを水没させるつもりらしい。

それを聞き、皆は少し呆れていた。ハルケギニアを水で満たすまで、一体どれ程の年月が必要なのであろうか。また、秘宝を取り返す為だけに、そんな事をする精霊。そんな精霊に対し、何かを言おうとしている。

そんな中

「おい水。なら俺がその秘宝とやらを持ってきてやるから、水嵩を増やすのを止めろ。さもなくば強制的に止めさせてもいいぞ?」

とか精霊に対してほざいたタカシ。
そんな暴挙に慌てる一同を他所に、少し考える様にプルプルと体を震わせてから、水の精霊が返答してきた。

「・・・単成る者よ。その言葉を信じるにたる根拠はなんだ?」

「あ?ねーよんなもん。だが、お前どうせ死なないんだろ?なら俺達人の一生、百年程度時期をずらしてもいいだろ?」

平然と精霊にガンとばすのはお止めください。

「それで我に水を増やすのを止めろと?」

「少なくとも、俺達が死ぬまではな。俺達が死んで、それでも指輪が戻らなきゃ、後はお前の好きにすりゃいい」

それを聞き、精霊は先ほどと同じ様にプルプルと体を震わせ、思案している様だ。

「・・・いいだろう。お前達が死ぬまでは水を増やさぬ。それまでに指輪も戻ればよい」

「ついでに体の一部もよこせ。手付金としてな」

ニヤリと笑いながら精霊に対してあんまりにも図々しい態度ですね・・・。

それでも精霊は体の一部「水の精霊の涙」を進呈してくれた。実に出来た精霊様です。
そして水の精霊から秘宝を盗んだ者達の手がかり「固体の一つはクロムウェルと呼ばれている」「アンドバリの指輪は死者を操るっという情報を聞き出し、皆は精霊にお礼を言い、そのまま魔法学院に戻って来た。

学院に戻り、早速モンモンが解毒薬を調合し、それをサイトがルイズに飲ませる・・・

「・・・ねぇ、とりあえず逃げたほうがいいわよ?」

モンモランシがサイトの脇腹をチョンチョンとつつき、そう警告してくれた。
「何で?」と聞くサイト。モンモンが言うには、惚れ薬を飲んでいる間の記憶までは消えないのだそうだ。それを聞き、顔を青くしてその場から退避しようとするサイトであったが、その前に、ルイズが薬を飲み終え、しゃっくりをして、つき物が取れたようにいつもの表情に戻ってしまった・・・

サイトは逃げ出した。それはもう全速力で。手足に重りをつけたままだが、振り切れる自信があった。

ルイズはそれを追いかける。
普段運動していないはずの貴族の娘が、重りを付けてるとはいえ、普段過酷な修行をしているはずのサイトに易々と追いつく。

そしてサイトを引っつかむ。
その際、彼の体に自分がつけたキスマークを発見。更に、自分の体を見ると、そこに彼に付けられたキスマークも発見。
羞恥と怒りにより、ルイズの中で何かが音を立てて弾け、そのままサイトはボロクズになった。

その一部始終を見ながら、何処かの誰かは腹を抱えて大爆笑。
その後ろで二人の少女がなんともいえない微妙な表情をしていたとか。

その後、ルイズは「やりすぎた」とか思ったのか、サイトと共にアウストリの広場のベンチに座り、何事か話している。

そんな中、ベンチの後ろから

「そうよ!思い出した!ウェールズ皇太子よ!」

とか叫びながらキュルケが、いつかルイズがモグラに掘らせた穴から「えっへっへ」っといいながらニヤニヤして出て来た。

そして

「ほぉ?ウェールズがどうした?」

そんな声と同時に、二人の少女と共に木の上から飛び降りてくるタカシ。

後ろでアーリャがどこか申し訳無さそうに、しかしニヤニヤ顔。
タバサもどこかニヤニヤしている雰囲気です。

・・・皆さん覗いていた様ですね・・・

「な!?何だよ!」「何よあんた達!立ち聞きしてたの!?」

サイトとルイズが声をそろえて叫ぶ。恥ずかしいんでしょうね。二人とも顔真っ赤です。

「「「いやぁ、あんなに殴りつけたあとでメロドラマ。ウキウキするだろ?(でしょ?)(じゃ無い?)」」」

タカシ、アーリャ、キュルケが、見事にハモりながらそう答えてきたので、二人とも顔を赤らめ俯いてしまった。

そうこうして、キュルケがラグドリアン胡へ行く途中にウェールズを見たと報告。
しかし、彼が生きている事を知っている一行は別に驚かない。だが

「・・・王宮に行って来る」

タカシが一人難しい顔で何事か考え、そのままリンドヴルムに乗り、王宮へと向かおうとする。
急にそんな事を言い出し、何やら真剣な表情のタカシを見て、他の者も一緒に行くと言い出し、彼も急いでいるのであろうか。特に拒否もせず、そのまま皆で王宮へと向かい飛んで行った。


そしてしばらく飛行し、深夜一時ごろに王宮へ到着。
何やら慌しいので、マンティコア隊の体長を見つけ、問い詰めると「二時間ほど前に姫様が何者かにかどわかされ、護衛を蹴散らし馬でラ・ロシュールの方向へと去った」との事であった。
それを聞いた一同は、すぐさまリンドヴルムで後を追う。道すがら、魔法衛士隊の隊員たちの姿が見えたが、どれも死んでいるか負傷しているかという状態だった。

「・・・一体何が」

皆がそう不安に思う中、一人何やら考える男を乗せ、巨竜はアンリエッタの後を追う。


そのまましばらく飛行すると、前方に人影が見えた。そして更に接近すると、そこにアンリエッタを発見。そして彼女の前方に降りた時、皆は驚愕した。
そこに居たのは、まごう事無きウェールズ皇太子。何故彼がアンリエッタをかどわかし、連れ出したのであろうか。周囲に数人の人影もあったが、皆はそれよりもウェールズの事のほうが気になっていた。

「ウェールズ皇太子!何で!」誰かがそう叫ぶ。

そんな風に取り乱す一同を他所に、タカシは一人、普段どおりに笑いながら話しかけた。

「よぉ、ウェールズ。一体これはどういうつもりだ?」

「やぁ、どういうもこういうも。見たままさ」

こちらもいつもの様に片手を挙げ、気さくに答えるウェールズ。

その返答を聞き、ニヤリと笑いながら

「そうか。お前がそこに居るって事は、「例の件」は打ち切りで、あとはお前に任せていいんだな?」

そんな事を言い出した。
その言葉を聞き「何の事?」と困惑する一同を他所に、ウェールズは平然として

「・・・あぁ。そうだよ。ここからは僕に任せてくれ」

笑顔でそう言ってきた。
そんな問答を聞き、何が起こっているのか。皆理解できていない様だ。アンリエッタすら首をかしげている。。


次の瞬間。


タカシは無造作に投げナイフをウェールズの眉間に投擲した。


それがウェールズの額に突き刺さる。

その光景に悲鳴を上げるアンリエッタ。

一同も唖然としている。

しかし、ウェールズは死んでいない。

そのままゆっくりとナイフを引き抜いた。

「・・・どういうつもりだい?後は僕に任せるのでは?」

怪訝そうに聞いて来るウェールズ。

「お前、偽者だろ?」

だが、そんな彼を見てニヤリと笑いながらタカシが答えた。。
その台詞を聞き、「どういう事だ!?」と聞いてきた一同に

「例の件何て無い。こいつに任せる事も無い。こいつが此処に居るハズも無い。だから偽者だ。仮に本物でも、そんな馬鹿はいらん」

そう言い放ち、再びナイフを投擲。
それも当たるが、ダメージを受けた様子は無い。

「いいか?こいつらは敵だ。やれ!」

タカシが言いながら、飛び掛る。
サイトも咄嗟にデルフを抜き飛び掛った。

サイトが切りつけ、タカシが何処からか出した槍で突く。

しかし、ウェールズは平然としている。

「無駄だよ。君達では僕を倒す事は出来ない」

それに驚き、二人は一瞬で距離をとった。

「さて・・・どうするか」

「・・・何で血が出ないんだ?」

そんな困惑する二人を他所に、アンリエッタとルイズ、アーリャが言い合いをしている。アンリエッタは「命令だ。自分をこのまま彼と行かせろ」っと叫び、ルイズとアーリ

ャは「それはダメだ」っと言い返している。

アンリエッタは、ウェールズに会うことが出来ず、落ち込んでいる所、ここに居るウェールズが彼女の前に現れ、「待たせてすまなかった。僕には君が必要なんだ。僕と共にアルビオンに来てくれないか?」そう言われ、素直について来てしまったのであった。

そんな姫様がルイズ、アーリャと問答を繰り返している中、サイトが怒りの口調で口を開いた。

「・・・姫様、寝言は寝てからいいな。そんな切りつけても死なない様な、訳の解らない化け物をいつまでウェールズ皇太子だと思い込んでるんだ?」

そんなサイトを見て、タカシはニヤリと笑いながら

「まったくだ。お子様の我侭も大概にしろよ?」

そんな二人に「退きなさい!命令です!」と必死に叫ぶアンリエッタ。
しかし

「俺はあんたの部下じゃない」

サイトがデルフを握り締め、静かにそう言った。

「お前の様なガキの命令を聞く理由が無いな」

タカシも槍を構えて言い放つ。

次の瞬間、サイトがウェールズに切りかかる。
しかし、そんなサイトをアンリエッタが唱えた水の壁の魔法が弾き飛ばし、そのままサイトを押しつぶそうとする。

だが

「姫様といえど、私の使い魔に指一本触れさせません!」

そう叫び、ルイズが虚無魔法。エクスプロージョンで水の壁を吹き飛ばす。
そしてキュルケとタバサも魔法で攻撃を開始した。

そんな中、先ほど槍を構えた男は、一人ウェールズをじっと見つめていた。

「・・・どうしたの?」

そんな彼を不審に思い、怪訝そうに聞いてくるアーリャ。
そんな彼女を他所に、タカシは先ほどからずっと何かを考えていた。

(・・・さて・・・「凝」で見ても分からない・・・本物?違う。ここに居るハズもない・・・偽者だろうな・・・だが、何故攻撃が効かない?それに生気も感じられない・・・人形か何か?いや・・・分からない・・・まったく・・・どうするか。下手に手出しをしない方が良い・・・か。あいつ等に任せて、しばらく様子を見るかな)

そんな事を考えている男を他所に、敵の連携に少しづつ追い詰められる一同。
サイトはかなり善戦していたが、一人でいくら倒しても、次から次へと復活していく敵に手を焼いていた。
そこへキュルケの炎が敵の一人を焼き、有効であると気がつくが、それだけではどうしようもない。
敵はこちらの魔法が使えなくなるまで消耗させるつもりの様だ。
そこへ雨が降り出す。
これで炎も効果が無くなってしまうだろう。

「退きなさい!あなた達を殺したくない!」

雨が降り出し、こちらの優位を確信した上で、そう叫ぶアンリエッタ。
その頃、サイトに握られたデルフが「ウェールズは先住で動いてる!」と言い放つ。それを聞き「なるほど・・・だから」とか呟く声が聞こえたが、それが分かった所でどうしようもない。

しかし、ルイズの持つ始祖の祈祷書に、新たな魔法が現れた様だ。

「ディスペル・マジック?」

解除の虚無魔法。
それを見てデルフが使う様に指示を出す。

しかしウェールズとアンリエッタによるヘクサゴン・スペルの準備が出来てしまった様だ。
「風」「風」「風」と「水」「水」「水」による魔法。
王家の血が可能にさせ、王家のみに許される魔法。
二つのトライアングルが合わさり、巨大な竜巻が生まれる。
城さえ吹き飛ばすであろう威力だ。

そしてそれが発動される瞬間。

一本の槍が投げられた。

「グングニール!」

そんな声と共に、タカシが投擲した槍が、ウェールズの心臓の辺りを貫く。

一瞬。

それで魔法のタイミングが僅かにずれた。

それによりいくらか魔法の威力が減衰した様だ。
だが、それでも十分に巨大な竜巻は、ルイズ達を吹き飛ばそうとこちらに向かってきている。

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

そんな竜巻を、サイトがデルフで正面から受け止める。
「錬」による防御と、タカシの投擲により威力が鈍った竜巻。それをデルフで吸い込みながら、その場に押し留めようとするサイト。

そのまま二つの力は拮抗している。

そこへ

「さて、主の下へ戻って来い」

そう言いながら手を翳し、槍ごとウェールズを引き寄せる。

ウェールズの体が、イヤ、彼に刺さった槍が、タカシの方へ一方的に引き寄せらる。
しかし、両者の間には先ほどの魔法で出来た、巨大な竜巻がある。当然、ウェールズはその竜巻に激突。

彼の手足が吹き飛んだ。

アンリエッタが悲鳴を上げるがそんな物は無視。

しかし、それでも血が出ないウェールズ。

そんな中、ルイズの詠唱が終わり、虚無の解除が発動。

虚無魔法の光の前に、竜巻が消え、ウェールズの体も消え去った。
その場には木の人形が一つ、手足がもげている人形がコロンっと落ちた。ただそれだけであった。

辺りを静寂が支配している。

皆、それぞれ無言。そんな中

「なるほど・・・コレがアレの正体か・・・先住・・・ねぇ・・・他にも何か仕掛けがあるのかな・・・」

そう呟く声だけがその場に響いた。

「ウェールズ様!?」

そんな声により正気に戻ったのか、アンリエッタが叫びながら、人形に駆け寄る。
だが、彼女が人形にたどり着くより早く、、その人形を拾い上げる者がいた。

「こいつはちょいと預かるぞ。調べなきゃならないんでな」

そう言いながらタカシが人形を持ち、リンドヴルムに乗ろうとする。

「な、何をしているのですか!」

未だに状況が理解できていないのであろう。叫びながらタカシに杖を向けるアンリエッタ。

彼はそんな彼女を冷めた目で見ながら

「・・・小娘。お前、この状況を見てまだ解らんのか?」

「わ、解りません!一体貴方は何を!?ウェールズ様を何処へやったの!?」

「アレは偽者。本物はちゃんと生きてる。今からそれも確認しに行って来るがね。ともかく、お前等はこのまま帰れ」

そう言い放ち竜に乗る。

「あ、あなたウェールズ様の居場所を知っているのですね!?なら私もつれてい」

「いい加減にしろ小娘。それ以上騒ぐなら・・・いいか?時期が来れば会える。それまで大人しくしていろ。今はあいつにも事情がある。お前がそれをとやかく言う権利は無い」

本物のウェールズの居場所を知っていると言うタカシの言葉に、喜び、自分も連れて行くように言うアンリエッタだが、その言葉を遮り、、恫喝する様に言いうタカシ。
それだけを言い、彼は竜に乗り、夜空へと昇っていく。

そんな言葉を聞き、呆然としながらも、アンリエッタはその場に泣き崩れた。

「私は・・・ただ・・・あの方にお会いしたいだけなのに・・・何故ですか・・・神はそれすらも許さないと言うのですか・・・」

そんな彼女を哀れに思ったのか、アーリャが近づき

「姫様・・・彼は嘘は付いていません・・・少なくとも、こんな嘘は付きません」

そう言いアンリエッタを慰めるアーリャ。

「・・・本当に、本当に待っていればウェールズ様にお会いできるのですか?」

アンリエッタは泣きながら聞いてくる。本気でウェールズの事を愛し、彼に会いたがっているのであろう。

「姫様。もちろんです。アルビオンで皇太子様は最初「愛するが故に、ここで死ななければならない」と、姫様の事をそうおっしゃいました。今は彼は生きていますが、姫様の事を思っているはずです」

今度はルイズがアンリエッタに語りかける。

そんな二人に励まされ、皆に杖を向けた事を深く侘び、その場に残った者達は王宮へと引き返して行った。









以上です。ウェールズ皇太子のイベントは、ルイズのディスペル取得イベントだったので、ちょっとオリジナルを入れて起こさせて頂きました。
ちなみに、ウェールズ(偽)はただの「スキルニル」ではありません。これは後に出てきますので、それまでお待ちを。

次回から夏季休暇まで、また少しオリジナル展開です。

それでは、引き続きご意見、ご感想等お待ちしております。



[4075] 第四部 第六章 拷問!?×憂鬱×少女達の悩み
Name: 豊◆0ec87a18 ID:4cddc065
Date: 2008/09/30 06:42





ウェールズの偽者が現れ、アンリエッタを誘拐しようと行動し、失敗して少し時間が経過した。

そんな中、トリステイン魔法学院のとある部屋に、集まる者達が居た。

「・・・・・・はぁ・・・・・」

盛大にため息を吐くルイズ。

そしてそんな彼女に、なんと声をかければいいか、少し迷っているアーリャとタバサ。

ここはルイズの部屋。

本日は休日という事で、授業は休みなのであった。

何故彼女達三人が集まっているのか。


時間を少し戻す。


その日、ルイズは目を覚ました。

本日は休日のため、授業は無い。
普段ならもっと遅く起きるのだが、今日は朝早くに目が覚めてしまったのだ。

何故か。

原因は彼女の使い魔と、彼女の友人の使い魔である事は明白であった。

「・・・最近、サイトとあまり話しをしてないわね・・・・・」

アルビオンから帰ってきて以来、一緒に寝ている二人であったが、最近目を覚ますと、サイトが隣に居ないのだ。

「・・・・べ、別にあんなバカ犬居なくたってなんとも思わないわよ!」

等と勝手に自分で自分に突っ込みを入れてはいるが、彼女はぐっすり眠れないほど悩んでいた。

サイトが居ない理由は簡単。

彼はここ最近、タカシとの修行の為、朝早くに起き、夜遅くに寝るという生活をしているからである。
その為、ルイズは最近あまりサイトと会話をしていなかった。

「・・・・なんか・・・サイト一人だけ・・・どんどん遠くに行っちゃう気がするわ・・・」

先日の事件の事を思い出しているのであろうか。
念能力を覚えてからのサイトは、日に日に強くなっていた。
先の事件の際も、敵の半数以上を一人で相手にして、互角以上の戦いを繰り広げていた。
念だけではなく、身体能力もかなり向上しているためであろう。
更に、威力を減じたとはいえ、あの規模の魔法を正面から食い止めたのである。
自分は虚無に目覚めたが、自分の使い魔である少年が自分よりも遥かに成長してしまっていて、主人である自分と釣り合いが取れていないのではないか。
ルイズは最近、そんな事を考えていた。
それだけではなく、単純に彼とあまり話が出来ず、寂しいとか、そんな色々な事も思っていたりなかったり。
そんなこんなで、ルイズは色々と頭を悩ませていた。



一方、そんなサイトの成長をうれしく思うタカシもまた、彼の成長に合わせ、メニューを変更していた。

恒例行事となった「朝のタイヤ引き~あなたは何処まで走れますか?」を終えて、サイトが休憩を取っている間に、タカシはとある物を設置していた。

「ふ~・・・ん?なぁ、その鉄棒みたいなのなんだ?」

最近慣れてきたのか、重りもそんなに苦にしないサイトは、結構余裕が出来ていた。
そんな彼が水を飲みに行き、戻ってきたところ、いつの間にか出来上がっている大きな鉄棒の様な物を見つけ、質問してきた。

「ん?これはな・・・・・説明するより実践したほうがいいな」

ニヤリと笑いながらもタカシがそう言うと、サイトの足を鉄棒の棒の部分に縛りつけ、サイトは逆さまにぶら下がり、吊るされる形となった。
「いったい何をするのか?」っと不思議そうにするサイトを他所に、サイトの頭の下の部分で焚き火をはじめるタカシ。

「うおぉ!?何すんだ!あちぃよ!?」

そんな抗議をしながら、腹筋で体を起こし、頭を焼かれないようにするサイト。
しかし、腹筋で身を起こしたのはいいが、今度は背中が熱くなってきた。
そこで、今度は背筋を使い背を反らし、エビ反りの形になる。
だが、そうすると今度は腹が熱い。

「そうそう。それでいい。腹筋と背筋を両方鍛えられるだろ?」

熱いと叫びながら、プランプランと腹筋、背筋を繰り返すサイトを笑顔で見ながら、タカシは焚き火で魚を焼き始めた。

「ちょ!? おま! これ! あちぃ! これ! きつ! あっちぃ! てめ! 何! 魚を! 焼いて! んだよ!」

「どうだ?中々素晴らしい修行だろ?命を賭けて体を鍛えるから、その分必死になり、成長も早い。コレも漫画で見たんだが、これを考えた天才はこれの事を「スルメ踊り」と名づけていたよ。いやぁ、実際やってみると面白いなコレ」

ヘラヘラとそんな事を言いながら、タカシは「火加減が難しいね・・・」とか言いながらも焚き火で魚を焼く。

そんなタカシの肩に乗り『これも試練だ』とか偉そうにほざくリスが居たが、魚を見てジュルりとヨダレを垂れてますよ?

そんなタカシに、もう何度目か数えるのも忘れたくらいの殺意を覚え、しかし、現状どうすることも出来ずに泣きながらも焼かれまいと必死にがんばるサイトであった。



そして、そんな二人を少し離れた場所から見つめるタバサとアーリャが居た。

彼女達もまた、大きなため息を吐いている。

「・・・何か、私達の時よりも熱心で、楽しそうよね・・・」

「・・・男の友情・・・?」

彼女達は、一応やる事は言いつけられているが、彼がこちらに来て、直々に何か教えると言う事はされていない。
その為、何やら思うところがあるようであった。

そんな二人の下へ、ルイズがやってきた。

「・・・あんた達、二人してため息なんかついてどうしたの?何か元気無さそうに見えるけど・・・」

そう言うルイズも、あまり元気が無いように見える。

そんなルイズを見て、「あれ」っと言い、二人はタカシとサイトを指差す。

その拷問・・・・じゃなくて、修行の光景を見てルイズは一瞬顔を青くした。
だが、すぐにションボリとしてしまった。
確かに、アレは拷問であろう。
だが、サイトは何処か楽しそうに見えたのだ。
彼は本気で嫌ならやらない様な人間だと、ルイズは分かっている。
そんなサイトが文句を言いながら、喚きながらも何だかんだでタカシの修行を受けていると言う事は、少なくとも、彼自身は嫌がっていないと言う事だった。
そんな姿を見て、また何やら考えてからため息を吐くルイズ。

そしてルイズはそのままトボトボと自室へと戻っていく。

そんな彼女を心配したのか、それとも、単に自分達がこの場に居たくなくなったのか。
タバサとアーリャも、ルイズの後を追って、彼女の部屋へと向かって行った。



そしてルイズに「何か悩みがあるのなら相談に乗る」と言い、彼女の話を聞き終え、現在に至る。


「・・・・えっと・・・その・・・・ゴメンね・・・一応、私の使い魔であるタカシが・・・その・・・」

「いいのよ・・・・アナタのせいじゃないし・・・でも・・・・サイトは私の事どう思ってるのかな・・・足手まといとか・・・そう思われてるのかしら・・・別にあんな犬にそう思われても私は・・・・」

ルイズは最後の方は聞き取れないほど小さな声でブツブツ言っていたが、言い終わると二人の少女は、本日何度目かの大きなため息を吐いた。

「本人に直接聞けばいい」

「・・・・それが出来たら苦労しないわよ・・・でも・・・そんな事聞けないし・・・」

「その点は私達と同じよねぇ・・・・」

今度は提案したタバサも含め、三人で大きなため息を吐く。
そのまま三人で沈んでいると、突然、アーリャが顔をあげた。何事かいい考えが浮かんだのであろうか。

「・・・そうだ!ちょっと待ってて!」

そういい残し、彼女は部屋を飛び出していった。
そして数分後。
片手にナイフ。片手にリスを連れて部屋に戻ってきた。

「彼等に聞いてみましょう!」

アーリャがそう言った所で、ルイズも思い立った様にデルフを引っ張り出し、そのままデルフ、群雲、リントを机の上に置き、シルフィを椅子に座らせた。
一体何がどうなっているのか理解できていない一匹と二本。そんな者達の混乱を他所に、三人の少女達が一斉に質問を浴びせた。

「サイトは私の事どう思ってるの?」「タカシは私の事どう思ってるのよ?」「彼は私の事をどう思ってるの?」

何か三人とも少し聞き方を間違っている気がするのですが・・・まぁ、いいんですかね?
一方、いきなりそんな事を聞かれ、さらに困惑する三人。そのまま暫く三人娘がギャーギャーと問い詰め、何とか事情が理解できたらしいリントが口を開いた。

『・・はぁ・・・サイト少年の事は知らぬが、崇殿がお主等二人の事を気にかけていないと言う事について。それは誤解であろう。あの者はお主等の事をしかと気にかけているぞ』

何やらグッタリしながらも答えるリス。そして次はデルフと群雲話し出す。

「相棒はお嬢ちゃんの事、そんな風に言って無いよ。少なくとも、俺は聞いてない。タカシの兄ちゃんの事は知らんがね」

「旦那はお嬢ちゃん達の事、ちゃ~んと考えてくれてると思うんだがねぇ」

そんな三人の意見を聞き、「それでも・・・」とか「だったら・・・」とかブツブツ呟く三人娘。
少し顔を赤くし、喜んでいる様であるが、所詮他人の意見なので信用しきれないのであろうか。
そんな少女達をなんとかしようと、リスが必死に話し、デルフと群雲はそんな者達を面白そうにしながら眺めていた。

その後も、三人と一匹でアレコレと話してみたが、特にコレといった収穫も無く、ため息が漏れるばかりであった。



そんなこんなで午後になり、三人は再び、彼等が修行している場所へとやってきていた。

だがそこにサイトの姿は無く、代わりに二人のタカシが居た。

「え!?何!?」「どういう事?」「え?サイトは?」

そんな光景に驚く三人を他所に、片方が布で目隠しをし、二人は殴り合いを始めた。
目隠しをしていない方が一方的に攻撃をしている。
殴り、蹴り、突き、掴み、投げようとする。
しかし、目隠しをしている方は、それをかわし、捌き、防いでいる。
演舞のような組み手を繰り広げている二人のタカシ。

そんな光景を見て、何が起こっているか良く分かっていない三人の下に、丁度サイトがやってきた。

「ふ~・・・疲れた・・・・ん?お前等、なにやってるんだ?そんな所でボーっとして」

「サイト!ね、ねぇ、アレってどういう事?」

そんなサイトを見て、何処かうれしそうに話しかけるルイズ。

「あぁ。アレ、目隠ししてない方が「スキルニル」って奴なんだってよ。なんか、血を吸った者の姿形になる魔法の人形なんだと。んで、それが何処まで本物と同じになるかを調べるついでに、自分の鍛練をするんだとさ」

そう言いながらサイトも彼等の組み手を眺めている。
二人のタカシは一進一退の攻防を繰り広げていた。

「やっぱアイツ、つええなぁ・・・目隠ししてるのに互角以上じゃねぇかよ・・・」

その光景を見て、そんな事を何処か悔しそうに、しかし、嬉しそうに言うサイト。

そんなサイトを見ていたルイズ。何やら考えこんでから、思っていた事を聞いてみる事にした様だ。

「・・・・なんか、アンタ嬉しそうね・・・」

「ん?・・・ん~・・・まぁ、嬉しいのかもな。あんな奴に直々に鍛えてもらえるってのと、目標が出来たって事がな」

「「「目標?」」」

そんな単語を聞き、三人一緒に首をかしげる。

「そう。いつかアイツに一発ブチ込む!今まで散々な目に合わされてきたから、その恨みを込めてな」

拳を握り締めながらも、ニヤリと笑うサイト。
その光景を頭に思い浮かべているのであろうか。楽しそうに笑っている。
何だかんだで回りに流されやすいサイト君。最初と言ってること違いますよ?

そんなサイトに、今度はアーリャが、思っていた事を言ってしまった。

「・・・アナタはいいわね・・・タカシに直接いろいろ教えてもらって・・・」

「ん?お前等だってそうじゃん?」

「そうだけど・・・・アナタ達は直々に色々言われてるじゃない。私達は・・・やる事を言いつけられてるだけよ」

そう言うと、タバサと目を合わせて「はぁ」っとため息を吐く二人。

「そうなのか?でも、それって別におかしくないんじゃね?」

そんなサイトの言葉に、うなだれていた二人が顔をあげ、「何故?」っと問いかけると

「だってさ、俺の場合は基礎から・・・何にも無い状態から、それも念能力ってお前等とは違う物の修行だろ?だけど、お前等は魔法。似てるって言ってたけど、違う物なんだし、あいつも慎重にやってるんだろ?俺の場合は基礎からってのと、自分と同じ様にっつか、多少無茶させても平気だって事は分かってるから、その分いろいろやらせるんだと思うんだけどなぁ」

そんなサイトの意見を聞き、黙り込む二人。
そして、サイトが更に一言。

「それに、あいつ結構お前等の事見てるぞ?俺の側に居ながら「円」使ったり、直接見れる時は見てたりとかな。俺も最近気がついた事だけどね。何だかんだで心配なんだろ」

そんな事を言われ、驚きながらも何処か照れている様に見える二人。

そんな二人を他所に、二人のタカシの組み手は終了した様だ。

「ふ~・・・いやぁ、自分とやり合うってのは、中々面白いな」

目隠しを取りながらも、ヘラヘラとそんな事を言い、サイト達のほうへとタカシが歩いてきた。

「目隠しして勝っておきながら良くいうよな・・・」

「ん~、まぁ、そこはあのスキルニルってのの限界だな。身体能力や技術、記憶は本人と同じなんだろうが、応用力が無い。持っている知識や技術を引き出すだけで、自分で新しい事をしようとしないんだよ。それに、念も使えない様だしな。所詮人形って事だ」

非常識な事をやらかす男を、何処か不満げに見ながら言うサイト。そんなサイトにヘラヘラと何でもない事の様に返事をするタカシ。

そして「んじゃ、お前もやってみろよ」っとか言われ、今度はサイトが自身のスキルニルと組み手をやらされている。

組み手自体やるのが初めてのサイトは、大いに戸惑い、何やらギャーギャーと叫んでいる。
そんなサイトを、楽しそうに笑いながら見ているタカシ。

そんな男に、今度はルイズが溜め込んでいた事を聞いてしまう。

「・・・ねぇ、サイトは私の事、何か言ってなかった?・・・その・・・足手まといとか・・・」

「あぁ?んな事は聞いてないな。何だ?お前、サイトにそう思われてるんじゃないかって心配してるのか?」

ニヤリと笑いながら、意地の悪そうな顔でそうルイズに問いかける。
ルイズが顔を赤くし、「違う!何で私があんな犬なんかに!」とか抗議をするが、そんな行動を楽しそうに眺め

「心配するな。あいつはな、お前に迷惑を掛けたくないからあぁやってるんだよ。お前の虚無に、伝説に釣り合う様になる為にな。あいつの方こそ、自分が足手まといだとか思ってるかもしれんぞ?聞いてないから分からんけどね。だが、お前だって分かるだろ?あいつは強制されてやってる訳じゃなく、自分の意思でやっているんだって事くらいな。一応、お前あいつの主人だろうが。だったら、信じてやれよ」

まぁ、本当の理由は別だがね。それは俺が言っていい事じゃないし、いつかサイト自信が言う事だろう。っと内心で思い、笑いながらも、珍しく他人を励ますタカシ。

そんな彼の心の内を知らず、今言われた事にが嬉しかったのか、恥ずかしかったのか。ルイズは何やら顔を赤らめブツブツと呟いている。

丁度そんな時、サイトがボロボロになりながらも、自身のスキルニルに拳を入れ、勝利していた。

「お~、ま~た随分と苦戦してたじゃねーか」

「はぁ・・・はぁ・・・うるせぇ!お前みたいな非常識な奴と一緒にするな!」

「をいをい、俺は常識人だぞ?酷い奴だなぁ」

「何処がだよ!?火あぶりの拷問を修行とか言い張る奴のどこに常識があるっていうんだ!?」

「火あぶりじゃなく、スルメ踊りだ」

「名前つけりゃ良いって物じゃねーんだよ!」

「そう怒鳴るなよ。カルシウムが足りてないんじゃないのか?魚もっと食うか?」

「誰のせいだよ!・・・クソっ!魚は美味かったよチクショウ!」

「まったく・・・何がそんなに気に食わないんだ?」

「お前だよ!お前のその態度だ!」

「褒めるなよ」

「褒めてねーよ!?」

息を乱し、その場に座り込み、声を荒げるサイトに、ニヤニヤしながら楽しそうに、からかいながら話しかけるタカシ。

ギャーギャーと騒ぐ男二人を見て、思わず笑い出してしまったルイズ、アーリャ、タバサの三人。

今日一日散々悩んでいた事が、どうでもよく感じてしまっていた。








以上です。ルイズの出番が少ないな~と思ったので、ちょっと出してみたんですが・・・やっぱ少ないかなぁ・・w
まぁ、そんなこんなで平和な一日でした。

次回。サイトが活躍。あの人再登場です。お楽しみにw

では、ご意見、ご感想、ご指摘等お待ちしております。



[4075] 第四部 第七章 任務×鬼退治×好敵手!?
Name: 豊◆0ec87a18 ID:4cddc065
Date: 2008/10/01 08:47





トリステインのとある平和な日。
タカシの拷問まがいの修行により、サイトがヒーヒー言っている平和な昼下がり。

その場に一緒に居たタバサの下に、一羽のふくろうが手紙を渡してきた。

彼女はそれを少し眺め、タカシに手渡してきた。

「ん?・・・・ほぉ、任務の召集か。どれ、行くか?」

その手紙を少し眺めて、タバサに問いかける。
その言葉にアーリャが「私も行く!」と言い出し、さらに一緒に居たサイトが「何だそれ?」と聞いてきた。
そんな二人を見て何やら思案するタカシ。

「・・・・ふむ・・・丁度良い・・・か?・・・ん~・・・・よし、タバサ、アーリャ、サイト。俺は学院長のじじいの所に行って話しつけてくるから、お前ら準備して待ってろ」

それだけ言って学院長室に向うタカシ。

サイトは何が何やら理解出来て居なかったが、とりあえず言われた通りに準備―といっても、デルフを取ってきただけだが―をしてきた。
そしてタバサとアーリャもも準備を完了。

そんなこんなで教官と生徒達による、ガリア北花壇騎士団の任務遂行という課外授業に出発することになった。。

一同はリンドヴルムに乗り、ガリア王国の首都、リュティスに到着。
途中でサイトにも北花壇騎士団について少し説明をしてやった。

そのままアーリャとサイト。シルフィードを残し、タカシとタバサはプチ・トロワの中に入って行く。



「さ~って、今回はどうなるのかねぇ。あの男、随分と腕に自信があるみたいだけれど、さすがにコレはヤバイだろうねぇ~。あいつらがどんな顔をするか、楽しみじゃないか」

くっくっくと小悪党的に笑いをしながらも、ガリア王国第一王女であるイザベラは、楽しそうに彼等の到着を待っていた。
そんな小悪党を見て震えるメイドたち。
誰かと並べると良いコンビになります。


「に・・・シャルロット様!お連れ様!おなり!」

そんな中、兵士がそう叫んだ。
イザベラは咄嗟に「人形七号と呼べ!」と叫ぼうとしたが、あの男も一緒に居るし・・・とか少し躊躇している間に、タカシが勝手にドアを開けて部屋に入って来た。

「よぉ、ちゃんと危険で難しい任務を用意したのか?簡単で下らない内容なら覚悟してもらうからな?」

笑顔でそんな事を言ってくる男に、前回の恐怖と、目の前の得体の知れない迫力で、顔を引きつらせるイザベラ。
その後ろからトコトコとタバサも入室して来た。

それを見て部屋の中で震えていたメイドたちは、我先にと外へ逃げ出・・・退室して行った。

「んで?どんな任務なんだ?」

そんなメイドを一切気にしないで、イザベラに話しかけるタカシ。
その言葉を聞き、イザベラは待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑い、紙を渡しながらも内容を説明し始めた。

「いいかい?今回の任務は敵の排除だ。敵と言っても、はっきりいって普通じゃないんだよ。我が国内のクルセウスって山に住み着いた「鬼」を退治するってのが今回の任務だ」

「「鬼?」」

鬼と言う単語に、二人共首をかしげて質問する。
そんな二人を見て、さらにニヤリと笑いながらも、イザベラは続ける。

「そうさ!鬼さ!あんた達のほかにも、何人もの北花壇騎士団の者達を送ったんだが、見事に全滅したよ。他の騎士団からも、スクウェアクラスのメイジが何人か向ったんだが、返り討ちにあったそうだ。それだけの被害を出して、敵の正体は分からず終いさ。どうだい?こんな危険な任務を受けるのかい?どうしてもと言うな、断ってもかまわないんだよ~?」

得意気に言い放つイザベラ。
スクウェアクラスのメイジ。ハルケギニアでも最高の力を持つメイジ達が、倒される程の敵。そんな敵を倒せという今回の任務。
イザベラは、彼等が震え上がり、許しを請う姿を想像しながら、楽しそうに、意地の悪そうな顔で質問してきた。
無論、彼女としても断らせるつもりも無いのだろうが・・・
・・・マジ誰かに似てます。
しかし、彼女の期待とは真逆の返事が返ってきた。

「・・・なんだ。たかがスクウェアがやられた程度か・・・ま、その程度でもマシな方なのかな?仕方ない。贅沢言ってられないし。いいぞ。その鬼退治とやら、受けてやろう」

ハルケギニアで最高位のメイジを「たかが」とか「その程度」とかほざく男に、ポカンと口を開け、唖然とするイザベラ。

そんな彼女を見て、何所か楽しそうなタバサをつれて、タカシはプチ・トロワを出て行った。

そして外で待たせていた三人と合流し、リンドヴルムに乗り、目的の山に向って飛行している。

そんな中、任務の内容を皆に伝えた。

「ちょっと!?何よそれ!スクウェアでも勝てない様な奴を倒せだなんて!」

「きゅい~!怖いのね!危ないのね!お姉様達死んじゃうのね~!」

「・・・お前、相変わらず無茶苦茶するなぁ」

「それでこそ旦那!」

『まったく・・・』

スクウェアでも勝てなかったと聞き、驚き、焦るアーリャとシルフィ。
一方、サイトは余りにも無茶苦茶な男に呆れ気味である。君も随分誰かに似てきて、感覚が麻痺してきてませんかね?

そんな一同の反応を全く気に止めないタカシは

「んで、今回の敵はお前ら三人だけで倒せ。俺は後ろで見てるから。安心しろ。危なくなったら助けてやる」

そんな事を言われ、先ほどより更に大きな声で驚き、抗議のするが、相手にしてもらえなかった。
その後しばらく飛行し、目的地が見えてきた。

クルセウス山。
木々に覆われ、自然豊かな山である。
普段は人が登る事は無いか、極まれに薬草などを採取するために山に入る人が居る。
麓には小さな集落があり、そこの人々が鬼に襲われたらしい。

そして一同は、クルセウス山の頂上付近に着陸した。

「さて、鬼さんこちら、手の鳴る方へ~っと。とっとと出てきてくれんかねぇ」

呑気なことを言うタカシを他所に、不安そうな表情の三人。
シルフィードなんかもう、ガタガタと震えて出している。

鳥の鳴き声が聞こえ、それに怯える者が居る中、頂上付近を散策しているとタカシが足を止めた。

「ん?・・・・来たぞ」

「え!?」「どこ?」「マジかよ!?」「きゅい~~!?」

そんな驚きの声を上げる一同を他所に、タカシは彼等の後ろに下がり、笑顔で一言。

「さて、んじゃ、がんばれよ」

そんな声と共に、風を切り、林の中から何かが飛んできた。

咄嗟にそれをデルフで弾くサイト。

「なんじゃこりゃ・・・石?」

叩き落した物を見てみると、それは何の変哲も無い小石だった。

『でてけ!ここはオレの土地だ!』

その石を眺めていると、いきなりそんな声が響いてきた。

男の。いや、声変わりしてない少年の様な高い声である。

「誰!出てきなさい!」

叫びながら杖を構えるアーリャ。
同じく、杖を構え、無言で周囲を警戒するタバサ。
そして、デルフを構え、同じ様に周囲を警戒するサイト。

そんな三人の後ろで、ガタガタ震えているヘタレ竜人型と、腕を組み、ニヤニヤしながら見ているタカシ。

『早くでてけ!』

そんな声と共に、今度は太い木の枝が飛んで来た。

それを回避する三人。

「もう!何所にいるのよ!」

「分からない」

「くっそ!・・・なぁ!タカシ!敵が何所にいるか、お前なら分かるだろ!?」

困惑する三人。サイトはタカシに助けを求めるが

「分かるけど、それ言ったらお前らの実戦訓練にならんだろ?頑張って自分達で探せ」

とかそんな事を言われ、三人はこの男に何度目か数えるのも忘れるくらいの殺意を覚えた。

そしてサイトが、どうやってタカシを殺そうか・・・じゃなく、敵を倒そうかを考えていると、意外にも敵は向こうから姿を現した。

「どうしてもでて行かないつもりだな?」

10歳前後であろうか。
短くツンツンしている茶色の髪の毛。
つり上がった悪戯小僧の様な目。
野生児の様な、布を体に巻いただけの様な服を着て、身長120サント程の少年が出て来た。

「な!?お前が!お前が今まで俺達に攻撃してたのかよ!?」

そんな少年の姿を見て驚くサイト。
自分が想像していた敵の姿とは全く違う目の前の少年に、驚きを隠せないようであった。
だが、少年はそんなサイトを鼻で笑う。

「はん。あんなの攻撃じゃねーやい。警告だよばーか!」

その言葉に、サイト君の中で何かがパリーンっと弾けた。

「アーリャ。タバサ。手出すな。このクソガキに目上の者に対する礼儀ってもんを叩きこんでやる!」

簡単に挑発に乗り、デルフを構えるサイト。
そんなサイトの妙な迫力に負け、二人は素直に杖を下げた。それを見ていたタカシが盛大な溜息を吐く。

「はぁ・・・・バカが・・・簡単に挑発に乗りやがって・・・その部分は今後の課題か・・・・いや、コレは治らんかもな・・・」

自分の下に歩いてくる二人の少女を見ながら、そんな事を呟き、何事か思案するタカシ。
そんな彼を無視し、サイトは少年に跳びかかった。

「だりゃああぁぁ!」

「へっ!そんなショボい攻撃なんかあたらねーよーだ!ばーか」

デルフを持ち、かなりのスピードで跳びかかったサイトの攻撃を、少年は容易く回避する。
それを見て、攻撃を仕掛けたサイト本人は勿論、タカシも目を見開き驚いている。

「な!?こんのガキ!まて!」

そう言い、先ほどより更に早いスピードでデルフを振るうが、全てヒョイヒョイと回避されている。

「・・・あのガキ・・・やはり・・・」

そんな事を呟きながら、タカシが険しい顔で何事か考えている。
すると終に、サイトが本気を出した。「錬」でオーラを増強し、改めてデルフを構え直す。目がマジです。

「はぁ・・・はぁ・・・これが最後のチャンスだ・・・俺は本気だからな・・・謝るなら今のうちだぞ」

息を切らせながらも、本気で切りかかろうとするサイト。そんなサイトを見た少年は、ケラケラとからかうように笑い

「あはははは!な~んだ。お前、もしかしてそれで強くなったつもりか?やっぱりバカじゃないのか?」

そう言うと、少年のオーラが爆発的に増加した。

「な!?」

それを見て驚くサイト。
対照的に、冷静にそんな光景を見るタカシがポツリと呟く。

「・・・「錬」・・・か・・・」

そんな声がした時、少年が攻勢に出た。

「ほら!今度はこっちの番だ!うりゃぁ!」

そのままサイトに殴りかかる少年。
サイトはそれを人間離れした速さで避けるが、周囲の木々が邪魔をして、思うように動きが取れない。
対照的に、少年は木々をピョンピョンと、木から木へ跳び移るようにして移動しながら、四方八方からサイトに襲い掛かる。
軽業師と言うか、サルみたいな動きだ。
そんな動きに翻弄され、余計に思うように動けないサイト。

そんな二人をポカンとしながら見ているタバサとアーリャ。
二人共サイトの人間離れした速度は知っていた。だが、目の前の少年がそんなサイトを一方的に圧している光景に言葉が出ない様だ。
自分達があの少年と戦っていたらどうなっていたか。恐らく、二人の魔法を回避され、そのまま反撃されて負けていたかもしれない。そんな事を二人は考えている。

一方タカシは、そんな少年の分析をしていた。

(筋力は恐らくサイトが上。速さもサイトが上だが、場所が悪いな。「錬」で増強されているオーラの量も、ややサイトが上。だが、あのガキは、戦い慣れてる・・・いや、違うな。アレは遊びだ。・・・今までは戦いにすらならなかったのか?・・・そもそも、あのガキが何で念能力を・・・今の所「纏」と「錬」・・・それと最初の「絶」に今使ってる「凝」・・・っか。・・・他もできるのか?・・・出来ないのか・・・さて、どうするかね・・・こいつらの練習台には丁度良いかもしれんが・・・)

タカシがそんな事を考えている内に、サイトはかなり消耗していた。
全身はボロボロ。肩で息をしている。
大きなダメージは無いが、あちこちから攻撃された為、相当消耗してる様だ。
このままでは勝てないと、彼にも分かっているのだろう。先ほどから必死に、何か考えている。
そんなサイトを見て、何事か思案するタカシ。

「・・・(・・・どうするか・・・このまま放って置いたら・・・多分サイトは負けるな。それもそれで良いんだが・・・出来れば、サイトにはアイツの性能を、何所まで念が使えるかをギリギリまで調べてもらいたいな・・・仕方ない。少しアドバイスするか)をいサイト!いいか?俺が以前教えた事を思い出せ。敵に攻撃を当てるにはどうすれば良いか。俺はお前に教えたはずだ」

そんな声を聞きながらも、サイトは必死に考えていた。

(うるせぇな・・・さっきから考えてるんだよ!・・・どうする・・・アイツに教えられた事?・・・クソ!この木が無けりゃ簡単に勝てるのに・・・・・ん?)

何か思いついた様に、顔を輝かせ、ニヤリと笑うサイト。そんなサイトを見て、少年が再びからかってきた。

「どーしたー!ヘッポコー!おとなしく帰れば良かったのに!アンタやっぱりバカだなー!」

木の上に乗りながら、サイトを見下ろし、馬鹿にする少年。サイトはそんな挑発に乗り、少年の乗っていた木を切り倒した。

「うるせぇ!ちょこまかと動きやがって!サルかてめぇは!」

「へへーんだ。なんとでも言えー!そんなサルに手も足も出ないお前なんかサル以下じゃねーかバーカ!」

そんな言い合いをして、少年はピョンピョンと、木から木へと飛び移る。
サイトはそんな少年に怒り、その少年が乗る木を次から次へと切り倒していく。

「あ~ぁ・・・挑発に乗っちゃって・・・」

「・・・単細胞」

「きゅい~、お兄様怖いのね!足りてないけど怖いのね!」

何気に酷い事を言う三人を他所に、タカシは何やら楽しそうに笑っている。

そのまま暫くサイトが暴れていると、やがて周囲の木が全て切り倒されてしまっていた。

「うげ・・・なんじゃこりゃ!」

そんな状況に、やや慌て、キョロキョロと周囲を見渡す少年。

「ふっふっふっふ・・・追い詰めたぞ・・・覚悟は良いな?」

デルフを構え、ニヤリと笑うサイト。
そんなサイトに「意外と考えてるんだ」と言った感じに、少し見直したという表情のアーリャとタバサ。

「・・・あのバカが・・・普通、場所を移動するとか、足場を崩すとか、そんなんだろ?何でワザワザ周辺全部の木切り倒すんだよ・・・偶然か?本当に狙ってこうなったんだろうなぁ?」

そんな事を言いながらも、何だかんだで楽しそうに笑うタカシ。

そんな一同を気にも留めずに、サイトがデルフを地面に突き立て

「さぁて、最後くらいはハンデだガキンチョ。素手でやってやろう」

不適に笑いながら拳を構えるサイト。

「この・・・バカのクセに調子にのりやがって!」

今度は逆に少年が挑発された。
二人共、中身は似たような物なんでしょうかね?

「おらぁ!」「だりゃぁ!」

そんな二人の掛け声と共に、双方殴り合いを開始した。

「はぁ・・・似た者同士だなありゃ」

そんなタカシの呟きに、その場に居た者たちが皆コクコクと頷く。


そのまま暫く二人の壮絶な殴り合いは続き、少しして、終に決着が着いた。

「おらぁ!」

「ぎゃ!」

サイトの右ストレートが少年の頬にヒット。
少年はそのまま吹き飛ばされ、その場に倒れた。

「おーっし!勝った!」

「バカたれ。ガキ相手に勝って喜ぶな」

ボロボロになりながらも、ケンカに勝って喜ぶサイトの頭を叩きながら、タカシが一言。

今まで後ろで見てただけのクセに偉そうな事言うな!とか言うサイトの内心を知ってか知らずか、そのまま少年の方へと歩み寄って行った。





以上です。サイトが少し子供っぽくなってしまった気が・・・平気ですよね?w
ちなみに、少年のイメージとしては小さくて悪戯好きなゴンと言った感じです。

では、引き続きご意見、ご感想、ご指摘等お待ちしております。



[4075] 第四部 第八章 鬼×合成獣×化け物!
Name: 豊◆0ec87a18 ID:4cddc065
Date: 2008/10/02 06:21



サイトに倒された少年の下へとタカシが歩み寄り、その少年を見て何事か思案している。
どうやら少年は頭を打ち、気を失っている様だった。
そして、少ししてタカシはニヤリと笑ってから、少年に話しかけた。

「さて、覚悟は良いか?ガキ」

冷ややかにそう言うと、槍を具現化して少年の方へと刃先を向けた。
そんな暴挙に驚き、駆け寄るアーリャ。
そして少年と槍の間に体を入れて叫ぶ

「ちょっと!?何やってるのよ!」

そんなアーリャを冷ややかな目で見つめ

「をい、いい加減にしろ?以前の竜の時はまぁ、まだ良いとしよう。お前もいろいろ考えてる途中だったかもしれんからな。だが、今回は別だ。俺達は今回、そいつを始末するために此処に来た。それなのに庇うのか?そいつは今まで他の人間を殺めてるんだ。お前はあの時、盗賊の時、答えを出したんじゃなかったのか?」

「っ・・・でも!相手は子供じゃないの!」

「・・・お前、子供だったら何をしても許されるとでも言うつもりか?それにお前は理解しているハズだろ?今のお前には何も出来ないと。いい加減甘えるのは止めろ」

その言葉を聞き、何か言おうと必死に考えるアーリャ。そんな時、少年の目が覚めた。

「・・・っ・・・いつつつ・・・いってぇ・・・ん?何だ?」

目が覚めたら、目の前に少女が立ちはだかり、その少女に向け槍を突きつける男が居る。
二人は仲間では無かったのか?と混乱する少年。
タカシはそんな少年をチラリと見て、槍を更に近づける。

「さて、いい加減退け。とっととそのガキを始末して、学院に戻らないとな」

「止めて!・・・・お願い・・・」

少年を抱き寄せ、懇願するアーリャ。

「ぇ?何?どうなってんの??」

未だに状況が理解できていない少年。
サイトとタバサもタカシを止めるために動こうとするが、タカシに睨まれ、その場に踏みとどまる。
二人を睨んでから、彼は再びアーリャと少年に目を向ける。

「アーリャ。何でそのガキを庇う?」

「・・・わからない・・・でも・・・」

「その行動がただの自己満足だと言う事が分かっているのか?」

「・・・・わかってる・・・けど」

「いつまでもそんな考えが通用しない事も分かるな?」

そう言われ、黙り込むアーリャ。そしてアーリャを見て、何かを考えているタカシ。そんな二人を見て、少年が何事か言おうとした時、タカシが二人に跳びかかった。
少年を殺すつもりだと思い、アーリャが思わず少年を強く抱きしめる。

しかし、彼は二人を抱えてその場から飛び退いただけであった。

何が起きたのか分からない二人。
だが次の瞬間。
彼らが今まで居た場所に、ズシンという効果音と共に、巨大な岩が落ちてきた。

何所からとも無くいきなり飛んできた大岩に驚く一同。
そんな者達を他所に、タカシが小さく舌打ちし、忌々しそうに呟いた。

「ちっ。まったく、良い所で邪魔が・・・何所のバカだ・・・」

そう言いながら、周囲を見渡す。
すると、木々の間に下の方からこちらへ向い登って来る牛の顔の様な物を発見した。

「・・・何だ?あれ」

少年も同じものを発見した様だ。そんな呟きが聞こえてきた。
次の瞬間、その牛の顔の辺りから、先ほどと同じ様な大岩がこちらに向かい飛んで来た。
岩は再び、タカシ目掛けて飛んでくる。
タカシは二人を両手に抱えたまま、その岩を回避。

『崇殿。我の背に皆を乗せ、距離を取るか?』

「いや、お前が飛翔する時に狙い撃ちにされる」

肩に乗るリスとそんな会話をしている最中も、次々に岩が飛んできている。

「・・・まったく・・・サイト!タバサ!木がある場所まで少し下がれ!」

その声を聞き、二人とシルフィードは、サイトが木を切り倒していない位置まで移動。
タカシも一度そこへ移動し、両手に抱えていた二人を下ろす。

「・・・さて、ガキ。あの妙な生き物の事、お前は知らないんだな?」

「ガキじゃねぇ!オレはレインだ!」

ポイっと乱暴に下ろされ怒りを露にし、抗議する少年、レイン。

「あ~、はいはい。どっちでもいい。アレの事、お前は知らないんだな?」

「・・・あぁ。しらねぇ」

「・・・となると・・・アレが鬼って奴か」

そんな呟きを聞き、一同が驚いている。
鬼はこの少年の事ではないのか?そう言った疑問等をタカシにぶつけようとしたが、どうやらそれを聞く時間も無くなった様だ、
何故なら、先ほどの牛の頭がここまで登ってきてしまったからである。

「何・・・あれ」「ミノタウロス・・・でも違う?」「なんじゃありゃ・・・」「化け物!」「きゅい~!怖いのね!」『面妖な・・・』

アーリャ、タバサ、サイト、レイン、シルフィ、リントがそれぞれが驚き、恐怖する中、タカシだけは舌打ちをし忌々しそうにその化け物を眺めていた。

「・・・お前ら、此処にいろ。アレはお前達じゃ無理だ」

先ほどから気配を殆ど感じず、「円」でも何かあるっと言う事しか分からない。
その現象に覚えがあり、彼等では無理だと判断したタカシが前に出る。


目の前にある物は、全長3メイル程の大きさの化け物。
頭は牛の様な物。体は人であろうか。下半身は恐らく馬。腕が四本。ゴリラか何かの物であろう。胸らしき場所付近に、赤い玉が付いている。

「・・・合成獣・・・キメラって奴か?しっかし・・・これはまた・・・ケンタウロスって所か?随分と無茶な物を・・・しかも先住の反射まで・・・一体どこのバカがこんな化け物作りやがったんだ・・・」

合成獣。複数の獣や幻獣等を合わせ、人工的に作り出された生命体だ。
だが、合成獣を作るにはそれなりの知識、技術、資金が必要になるため、滅多にお目にかかれない代物であった。

「おい!アンタ!そんな化け物相手にどうする気だよ!?」

レインと名乗った少年が叫ぶ。彼は今までこの様な物を見たことが無く、少し震えていた。そんな少年にタカシは振り返り、不適に笑い

「ガキ。念能力の使い方っての、見せてやるよ」

そう言うと、今まで抑えていたオーラを開放。化け物と正面から対峙した。


「さぁて・・・まずは反射から破らんとな・・・」

そう言いながら、グングニールの刃先に「硬」でオーラを集める。
そして化け物が行動を起こすより早く、一気に間合いを詰め、槍を振り下ろす。

そのスピードと、槍の刃先に集まっている膨大なオーラに驚くレイン。あそこにある「力」は自分が出していた物の何倍、何十倍であろうかと少し考えている間に、槍が何かにぶつかった。

「!?」

槍と反射の障壁がぶつかった瞬間、タカシが驚く。
以前、リンドヴルムと戦ったときは「硬」による一撃で反射の障壁を突破できた。なのに今それが出来ず、槍は障壁にぶつかったままなのである。
そんな時、化け物がゴリラの腕で殴りつけてきた為、彼は後ろに飛び退き回避した。

「・・・リントより強力な反射か・・・どれだけの精霊と契約していやがるんだ?・・・あれじゃスクウェアが勝てないのも道理だな」

リントに、先住魔法の力は契約する精霊の多さに比例すると聞かされていたが、目の前の化け物はどれ程の物か。手ごたえはあった。先ほどの一撃も、全く聞いていない訳ではないだろう。どうしようかと考えながら後ろに飛び退いている途中、化け物が凄まじい速度で接近してきた。

何事か行動しようとしたが、化け物は途中で更に加速し、体当たりをしてきた。
正面から大質量の衝突を受け、そのまま木々をなぎ倒しながら、後方へと吹き飛ぶタカシ。
そんな光景を見せられ、驚愕とするほかの一同。

そして化け物は近くにあった、先ほどサイトが切り倒した木を二本の腕で掴むと、タカシが吹き飛ばされた辺りに向け、投げつけた。

「タカシ!」

そんな誰かの叫び声と共に、木が何かに衝突する。
だが、化け物は更にもう一本掴むと、今度は空中目掛けて投げた。

投げられた木が飛んで行く。
その先には、先ほどの木による攻撃を飛びあがって回避していたタカシの姿があった。

「・・・あいつ、オーラを感知してるのか?最初に攻撃して来た時はあのガキを・・・その後はずっと俺だ・・・今も・・・目が良くて、俺が跳んだのが見えただけか?それとも他に何か・・・」

地上から悲鳴の様な叫び声が聞こえる中、自分に向って木が飛んできているにも関わらず、彼は思案し続けている。
そして木が命中すると思われた瞬間、タカシは槍で木を叩き落し、そのまま空中から槍を化け物に向かい投擲した。
そしてその槍に吸い寄せられるように自らも化け物に向かい突っ込んで行く。

槍を追い越し、一瞬で化け物に接近し、何かしようとしたタカシであったが

「をいをい・・・この速度で反応できるのかよ・・・それとも未来予知でもしたか?」

一瞬で、さながら瞬間移動したような速度で接近したにも関わらず、化け物はしっかり反応して見せたのである。彼が驚くのも当然だろう。
そんな事を呟いていた瞬間、化け物の二本の腕と、二本の前足がタカシを襲う。
辛うじて二本の前足を回避。
だが、二本の腕の打撃を食らってしまった。
そのまま数メイル吹き飛ばされる。
ガードはした様だが、それなにりダメージを受けた様だ。

「くっ・・・ゴリラの腕かと思ったが、ゴリラ以上の力だなこりゃ・・・念の防御の上からこの威力かよ・・・!」

吹き飛ばされながら少し苦しそうに呟くが、先ほど化け物が居た位置にソレが居ない事に気がつき、驚き、敵の姿を探そうとすると

「上だ!」

サイトのそんな声と共に上を見る。
するとそこには、跳躍し、自身の真上にまで移動していた化け物の姿があった。

「ちぃ!」

タカシは吹き飛ばされながらも舌打ちし、空中に居る今、回避する手段を。
先ほど投擲していたグングニールに自分を引き寄せる事で、何とか化け物の攻撃を回避した。

次の瞬間、彼が吹き飛ばされ、着地しようとしていた場所は、化け物の落下によりクレーターが出来ていた。
そんな光景を見せられ、息を呑む一同。

「・・・馬の足にゴリラの腕か・・・ソレより、先住の反射が問題だな・・・アレさえなけりゃ、ただの動物なんだが・・・「硬」による一撃でも無理となると・・・」

「タカシ!俺も手伝う!」

自問するように呟くタカシに、サイトが手伝うと叫ぶが

「いらん!お前じゃまだ無理だ!いいからそこに居ろ。・・・そうだな。面白い物を見せてやるよ」

ニヤリと笑い、再び槍を構えて化け物と対峙した。

皆が不安そうに見つめる中、タカシは正面から化け物に突っ込んでいく。

そして一言

「紫電連突」

そう言いながら化け物に突きを入れる。
しかし、先ほどと同じ様に反射の障壁に当たり弾かれる―――と思いきや、槍が反射の障壁を打ち破り、化け物の胸を貫いた。

化け物が壮絶な悲鳴の様な声をあげる中、皆は今、何が起きたのか理解できていない。先ほどと同じ様に槍が障壁に当たっただけではないのか。
そんな一同を他所に、タカシは胸に刺さった槍を引き抜き、そのまま化け物の首を撥ねた。

「ふー。これで・・・!?」

胸を突き、首を撥ねて仕留めたと思った化け物が、再びゴリラの腕でタカシに殴りかかって来た。
そんなありえない光景に一瞬驚くが

「ち・・・核が・・・指示を出している部分が他にあるのか?・・・あの赤い玉か?」

咄嗟に腕を避けながらもそう判断し、今度はその玉を突いてみた。
パリンと言うガラスを割ったような音が響く。
すると、化け物は今まで暴れていたのが嘘だったかの様にピタリと動きを止め、ゆっくりとその場に崩れ落ちた。

そのまま数秒、油断無く化け物を眺めてから、タカシは肩の力を抜いた。

「・・・ふー・・・やっぱアレが核みたいな物だったのか・・・それとも最後の足掻きだったのか・・・しかし・・・一体何所のバカだ?あんな化け物作りやがったのは・・・」

そう言いながら化け物の死骸に近づき、先ほど突いて砕いた赤い玉の欠片を拾い上げる。
するとソレは、砂になったようにサラサラと崩れてしまった。
彼はそれを眺め、見て一瞬険しい顔で何事か考えた後、皆が居る場所に戻って来た。

「さて、これで任務完了だな」

笑いながらそう話しかけてくる男に、皆言葉を失っている。先ほどまで化け物と死闘を繰り広げていた者と、今目の前でヘラヘラと笑っている男が同一人物かどうか、皆少し疑いたくなっている様であった。
アーリャは以前、彼の戦いを見ていたので、そこまで驚いていない。むしろ、それ以上に他に何事か言いたい様だ。
一方、タバサとサイトは彼がマトモに戦う所を初めて見て、ポカンとして驚いている。
そんな中、少年。レインが口を開いた。

「をい!今の一体何なんだよ!?っつか、あんた達何だ!?さっきのあれは何だ!」

ぎゃーぎゃー捲くし立ててくる少年に、鬱陶しそうな顔をしながらも説明してやるタカシ。

「今のが俺たちが始末するよう言われた鬼って奴だ。俺たちはメイジとその使い魔。さっきのアレってーと・・・念能力の事か?お前のそれと同じだよ」

そんな言葉に、今度はアーリャが口を開いた。

「ねぇ・・・ならその子は?アレが鬼って・・・」

「あぁ。こいつはただのガキだ。なぁ、お前ここ最近人を襲ったことあるか?」

アーリャの質問に答えながら、少年の方を向き質問する。

「・・・無いよ。だって、最近ここに来る奴なんて居なかったからな。ってか!念能力ってのは何だよ!」

そんな少年の叫びが聞こえる中、今度はサイトが質問してきた

「・・・なぁ、お前、いつから気がついてた?こいつが鬼じゃないって事に・・・それから、さっき何したんだよ?最初はアイツに攻撃を当てられなかったのに、最後のアレだけは当てられてたじゃんか」

「ん?お前とコイツがやり合ってた時から。確証は無かったけどこいつ、人を襲い慣れてる感じじゃなかったしな。恐らく、今まで襲われた連中は下から登ってきたんだろう。それで、その途中でアレに襲われた。頂上から来たのは俺たちが始めてだったんだろうな。最後のアレは紫電連突。俺の槍術と念能力を最大限に活用して、瞬時にN.Sを入れ替える事により、ほぼ同時に三発連続して敵を突く技だよ。本来は場所をずらして打ち込むんだけど、アレには三発を一点にぶち込んだだけだ」

平然とそんな事を言われ、呆然とするサイト。そして今度はタバサが口を開く。

「・・・なら、さっきアーリャとその子に槍を向けたのは何故?」

「演技。いやぁ、丁度良い教材だし、折角だからここいらでまた一つ教えようかな~っと思ったんだよ。まったく・・・良い所で邪魔が入ってくれたがね」

ヘラヘラとそんな事を言われ、ポカンとする一同。
リントだけは薄々感づいていたのか、ヤレヤレと言った感じで首を横に振っている。
そんな中、アーリャが何事か抗議をしようと口を開きかけた時、別の人物がそれより早く声を上げた。

「おい!お前!人の事教材とかワケのわからねー事いいやがって!何なんだ!念能力ってのもなんだ!バカにするのもいい加減にしろ!」

そう叫びながらタカシに跳びかかる少年。だが、アッサリとその場に組み伏せられてしまった。

放せと叫び、足掻く少年を抑えながらタカシは、真剣な表情と声で質問した。

「をいガキ「ガキじゃねぇ!レインだ!」・・・レイン。お前、念を・・・その力、誰かに教わったのか?」

「・・・じいちゃんに・・・」

そんな妙な迫力に只ならぬ物を感じたのか。
レインは暴れるのを止め、ポツリと呟いた。

「じいさん?お前の家族か?」

「・・・違う。オレは昔、赤ん坊の頃にこの山に捨てられてたそうなんだ・・・それをここに住んでたじいちゃんが拾って育ててくれたんだ。この力も、じいちゃんに教わった」

そう言いながらもレインが暴れるのを止め、大人しくなった事を確認し、タカシは彼を解放。

「そいつは今何所に居る?」

そう聞かれ、僅かに俯きながらレインは答えた。

「・・・居ない。今年の春先に死んじゃったよ・・・」

それを聞き、他の者達が少し気まずそうな顔をする中、タカシが真顔で質問を続ける。

「そいつの名前は?他に誰か居ないのか?」

「・・・分からない・・・オレはずっとじいちゃんって呼んでたから・・・オレ達は二人だけだったよ」

その人物の素性が分からない事に、さして気落ちした様子も無く、タカシは質問を続けた。

「そうか。所でお前、これからも此処に居るのか?」

「あぁ・・・他に居場所も無いし・・・」

「麓の村に行って誰かに養ってもらったらどうだ?」

「・・・そうすると他人に迷惑がかかるだろ・・・オレは此処で一人で暮らせるし、別に平気だ」

顔を背けながらもそう言ってくるレインを見て、タカシは少しだけ思案し、ニヤリと笑った。

「そうか。なら俺達と一緒に来い」

いきなりそんな事を言い出した事に驚く一同。
そんな中、一番驚いているレインが声を荒げる。

「何言ってるんだ!いきなり!だいたいオレは一人で平気だし!他人の世話にならねーよ!」

「そうもいかん。お前が此処に居て違う奴等と遭遇した時、鬼と勘違いする輩も出てくるかもしれん。そうすると俺達の任務が達成されてない事になる。それに、俺達の住んでる魔法学院は貴族の、金持ちの学校だ。学院長のじじいにコネもあるし、ガキ一匹くらいどうとでもなる」

そう言いながら、レインの襟首を引っつかみ、ズルズルと引きずって行く。

「何だそれ!無茶苦茶じゃねーか!放せ!はーなーせーよー!」

ジタバタと暴れる少年を、ニコニコしながら引きずるタカシ。

「細かい事気にするな。それに、念もちゃんと教えてやるぞ?」

「細かくねーよ!・・・念ってさっきのか・・・でも・・・」

「ほら、ゴチャゴチャ言ってないで行くぞ。荷物があるなら持って来い」

「荷物なんかねーけど・・・だけどなぁ!」

「あー煩い。リント。さっさと竜になれ。帰るぞ」

レインの抗議を全て無視し、人攫いの様に少年をリントの背中にポイっと投げて乗せ、そのまま他の者も急かし、彼等はクルセウスの山を後にした。

そして現在。リンドヴルムは任務完了の報告を告げるために、リュティスへと向かい飛行している。
そんな中、少年。レインがまだ文句を言ってくるが、それを遮り、アーリャが質問をしてきた。

「ねぇ、何でこの子を連れてきたの?さっき理由を言ってたけど・・・本当にそれだけ?」

訝しげな目で睨み、質問してくるアーリャに、少し笑いながらタカシは答えた。

「おぉ。勿論あんなのは建前だ。一応理由にも入るがね」

「じゃぁ本当の理由は何よ?」

「サイトの成長促進剤」

『ハァ!?』

平然とわけの分からない事を言い出したタカシに、その場に居た一同が一斉素っ頓狂な声を上げた。

「いやぁ、お前ら似てるし、二人を競わせながら教えたほうが、お互い切磋琢磨して伸びも速くなるだろうと思ってな」

「「俺(オレ)がこんなガキ(バカ)と似てるって!?」」

「「誰がバカ(ガキ)だ!」」

「ほらな?」

ヘラヘラと言うタカシの言葉に、サイトとレインが声を揃えて抗議。
そんな抗議の言葉も見事に一致し、二人はその場で取っ組み合いのケンカを始めた。

そんな二人を見て、確かに似ていると頷く面々。

そんな一同は暫く飛行し、再びリュティスに到着。
任務の内容を聞くために訪れた時は朝であったが、今は日が傾いていた。
そして他の者を待たせ、タカシとタバサはプチ・トロワの中へと入って行った。

「ようイザベラ。元気か?」

入室早々そんな事を言ってきた男に、驚きながらも

「あ、あんた達!何で此処に?今朝出て行ったばっかりじゃないかい!・・・あぁ、なるほど。やっぱり怖くなって止めたいって言いに来たのかい?」

そう言い、途中からニヤリと嫌らしく笑うイザベラ。ここいらで色々と言ってやろうかと考えている様であったが

「いんや?ホレ。コレ土産だ。任務は完了。鬼は両方ともきちんと始末したよ。中々良い任務だったな。またこんなのを頼むぞ?」

そう言いながら布で包まれた何かをポイっと頬リ投げ、タバサと共に部屋を後にするタカシ。
そんな男の背中を見ながら、彼の発言の意味が未だに理解できていないイザベラは、しばらくポカンとしていた。
やがて彼女は再起動し、目の前に頬られた包みに目を向けた。

「・・・何がどうなってるんだい・・・?そういえばコレ、土産って・・・」

そう言いながらその包みを開く。
するとそこには巨大な牛の様な物の生首があった。
それを見て、イザベラは声にならない悲鳴をあげ、気絶し、その場にポテンと倒れこんだ。

そんな可愛そうなイザベラを他所に、二人が王宮へ行っている間にレインの服を買っていたアーリャ達と合流し、彼等は魔法学院へと引き返して行く。

「ふ~、コレにて一件落着っと。お前ら、どうだった?」

竜の首の付近に寝転がりながらもそう聞いてくるタカシ。

「・・・今回、私達何もしてないわよね・・・」

「でも私達では彼にも、そしてあの鬼にも勝てなかったと思う」

少しションボリとしながらもそう言い、アーリャとタバサはレインを見る。
レインとサイトは疲れたのであろう。後ろの方で寝息を立てている。

「きゅい。今回のは怖かったのね。でもお兄様すごかったのね~!」

「旦那は相変わらず無茶しますよね」

そんな事を言ってくるシルフィとナイフに苦笑しながら、二人の少女に話しかける。

「まぁ、先住の反射相手じゃなぁ。あのガキ、レイン相手にしたって、相性が悪いよ。そんなに気にする事じゃない。それが分かっただけも、良い勉強になったって事だ」

タカシは起き上がりながらそう言い、笑顔で二人の頭にポンっと手を置いた。
そんな事をされ、少し顔を赤くする二人。

竜はそのまま飛び続け、やがて夜になり、二人とシルフィードも、一緒になって眠りについた。



そして、皆が寝静まった頃、群雲が口を開く

「で?旦那。本当は何であのガキを連れてきたんですかい?」

「・・・さっきも言ったと思うが?」

『崇殿。皆は寝ているぞ。我等には話してくれても良いのではないかな?』

今まで黙っていたリントも、何所かニヤケた口調でそう聞いてきた。
そんな二人(?)を見て、少し考え、苦笑しながらも答える事にしたようだ。

「さっき言った理由は本当さ・・・だけど、他にあるとしたら・・・あいつが昔の俺に少しだけ・・・似てた気がするから・・・かな?・・・何か放っておけなくてね・・・」

「へぇ、そいつは驚きだ」

『ほほぉ、崇殿も昔はあの様に元気の良い時期があったのだなぁ』

二人がからかう様な口調で言ってきたので、何かしらしてやろうかと少し考えていると、後ろから声がかけられた。

「・・・それだけ?」

「・・・起きてたのか」

今まで寝ていたと思っていたアーリャがゆっくりと身を起こし、少しだけ申し訳なさそうに聞いてきた。
そしてゆっくりとこちらに近寄り

「気になってた事があってね」

「ほぉ、何だ?」

「・・・左腕見せて見なさい」

そう言われた時、タカシは僅かに険しい表情をするが、アーリャに睨まれ、観念したのか。左腕をアーリャの方へと差し出した。
すると、彼女は徐に袖を捲り上げる。
そして彼の腕を見たとき、彼女は息を呑むんだ。彼の腕は、紫色に変色し、腫れ上がっていたのだ。

「・・・やっぱり・・・怪我してるじゃないの」

「まぁな。これでも結構治ったんだぞ?」

心配そうなアーリャを他所に、ヘラヘラと笑いながら答えるタカシ。そして、アーリャが杖を出し、余り得意では無いが、水の治療の魔法を使い始めた。

「・・・これ、折れてるの?」

「折れてたって言ったほうがいいな。一応繋げてある。二、三日くらいである程度治るとは思うんだがね」

「やっぱり・・・さっき頭叩かれた時、何か変だと思ったけど・・・まったく・・・隠さずに言ってくれればいいのに・・・意地張っちゃって・・・」

そうブツブツと言いながらも、しっかりと治療の魔法を使うアーリャ。
先ほど頭を叩かれた時に違和感を覚え、ずっとソレが気になっていたのであろうか。

「・・・これって・・・あの化け物に殴られた時?」

「あぁ。大したパンチ力だったよ・・・俺の念の防御の上からコレだ・・・普通の人間なら、体が吹き飛んでただろうな・・・まったく」

苦笑しながら己の腕を見ているタカシ。
そして治療が終了。
それでも完治はしていない様で、僅かに腫れている。そんな彼の腕を見ながら、アーリャは申し訳なさそうに謝ってきた。

「・・・ごめん。水の治療は得意じゃなくて・・・コレが限界だわ」

「いや、十分助かったよ。これなら、明日には治ってるかな」

笑顔を見せながら、たった今治療した腕でアーリャの頭を叩くタカシ。そんな非常識な行動に怒るとか焦るとかする前に、思わず彼女は笑ってしまった。

「まったく・・・それで?あの子を連れてきた理由。本当にアレだけなの?」

クスクスと笑った後、少し睨みながらそう聞いてくるアーリャ。

「そーだよ。さっき言った事で全部だ」

「嘘ね」

「嘘じゃねーよ。大体、何を根拠に嘘だって言うんだ?」

「女のカンよ」

「んなもん当てになるかよ」

こいつも結構無茶苦茶言う様になってきたなぁ、とか思いながら、思わず笑ってしまうタカシ。そんな彼を他所に、先ほどまで少し笑っていたアーリャが、急に真面目な顔で話しだした。
ここからは私の想像の話しだけどっと前置きしてから。

「今思えば、あの時あの子を助けようとしたのって、弟の面影をあの子に重ねてたから・・・かもしれないって思うの」

「ほぉ、そうだったのか」

「・・・あなたは・・・そんな私の思いに気がついていたんじゃないの?」

少し不安そうに、僅かな期待を込めて、上目遣いでそう聞いてくるアーリャ。
そんな彼女を見て、少し笑いながら適当に答えるタカシ。

「そいつは知らなかったな」

そんな返事を聞き、何か言おうとしたアーリャだが、その前に

「んじゃ、俺もそろそろ寝るぞ。いい加減今日は疲れた」

そう言いながら、彼はゴロンと寝転がり、目を閉じて動かなくなった。

そんな男をしばらく睨んだが、効果があるはずも無く、仕方なくアーリャは諦め、少し笑いながら溜息を吐き、竜の背中で眠りについていった。


「・・・・・・・女のカンねぇ・・・・・・・それよりも・・・・・・」


暫くして、誰かのそんな呟きが聞こえる中、巨竜は魔法学院へと向かい、夜空をゆっくりと飛んで行く。



そんな頃
ハルケギニアのとある場所。
とある部屋に、人影が一つ。
その部屋に、別の人影が現れ、会話を始めた。

「アレが活動を停止しました」

そんな声が部屋に響くと、もう一人の人影が何事か聞き返す。

「その部分は分かりません。時間的に見れば、活動時間の限界による機能停止と判断しても問題ないのですが・・・直前にガリア北花壇騎士団が動いたとの情報も・・・」

その報告を聞き、もう一人は更に何事か言う。

「はい。早急にアレを回収させます。はい。既に手配済みです」

そのまま二人は少し会話をし、一人が一礼すると部屋を出て行く。

その部屋に居たものと、竜の上に乗るタカシは、その時偶然にも同じ言葉を呟いた。



「一体誰が」





以上です。合成獣とか勝手に出してみましたが、ファンタジーの世界だからそんなに不自然でも無いかな~っとか思ったんですが如何でしたでしょうか?
ここで少し、以前にも何人かの方が意見を下さった話が前フリとして出てきます。以前同じ様な行動をさせたからこそ、今回は~っと言う感じに話を持っていきたかった訳ですが・・・やはり三部七章は見直したほうが良いでしょうかねぇ・・・その辺りのご意見等頂ければ幸いです。
二話構成にしようと思ってたのを一つにしたので、長くなってしまいました。

それでは、引き続きご意見、ご感想、ご指摘等お待ちしております。




[4075] 第五部 第一章 夏休み×任務×魅惑の妖精亭
Name: 豊◆0ec87a18 ID:4cddc065
Date: 2008/10/08 15:49




△月×日 はれ

オレはレイン。
なんか、いきなり妙な奴等に連れられて、トリステインって国の魔法学院って場所まで拉致されてきた。
ワケわかんねーよ!?何で!?どうしてこうなってるワケ!?
あの野郎・・・今に見てろよ・・・。

・・・ここだと一応、オレはあの野郎・・・タカシの弟って事になってる・・・・だから他の連中の前ではアイツの事を「タカシ兄ちゃん」って呼ばなきゃいけないんだ・・・チクショウ!
ていうか!あいつ!オレが字書けるって事知ったらこの日記を書けって命令しやがった!当然抵抗したさ!・・・だけど、無駄だった・・・。
口でいくら言ってもまるで効果が無いし、力ずくでどうにかしようにもアイツに全然及ばないし・・・くっそ・・・今に見てろよ・・・。

でも、それ以上にあいつの拷問!いや、一応修行だとか言っていやがるけど、アレ拷問だって!特にアレ!あの火あぶり!何かいきなり、サイト兄ちゃんと一緒に鉄の棒に足を縛られてさ、何だと思ってたら、サイト兄ちゃんが何所か遠い目で「よぉ、兄弟」って言ってきたんだ。
そんで次の瞬間、あの野郎はオレ達の頭の下で焚き火を始めやがった!しかも魚まで焼いていやがる!俺は熱くて慌てて体を起こしたんだけど、今度は背中が・・・って感じでサイト兄ちゃんと一緒になってブランブランやってた・・・・その時、オレとサイト兄ちゃんの中で何か絆みたいな物が生まれた気がしたんだ・・・・
そしてオレ達は誓ったよ。

いつかあの男をぶっ殺すって・・・。




△月○日 はれ


今日の修行もきつかった・・・。
でも、何だかんだでしっかりと、色々と教えてもらってる。
サイト兄ちゃんと一緒になってやってるんだけど、手足に重りを付けられて、タイヤってのにタカシ・・・兄ちゃんを乗せて、それをそのまま引いて走らされた・・・サイト兄ちゃんと一緒になって引っ張るんだけど、重りを持ってワザワザ重くしてやがるんだよ!
そんで、槍出して「ナメクジのほうが早いぞ♪」って言ってオレ達を叩くんだ・・・クソ!でも、ちゃんと念能力ってのの説明はしてくれたよ。

サイト兄ちゃんってルイズって人の使い魔ってのなんだってな。そのルイズって人が一回「それ以上走ったらサイトが死んじゃうじゃない!」って怒ってたんだ。
優しい人だなぁ~っと思ったんだ・・・その時までは・・・・ありのままに起こったことを話すよ。
サイト兄ちゃんが燃え尽きてた。タカシ・・・兄ちゃんも冷や汗をかいて引きつった笑みだった・・・。
何でこうなったかって言うと、「んじゃお前がタイヤにのってやれ」とかいう言葉で強引にルイズって人をタイヤに乗せて、そのまま走らせたんだ・・・・
それだけだよ?・・・でもアノ人、容赦とか無くて何かメチャクチャ上機嫌で、何かを発散するようにしながら「このバカ犬!ちゃっちゃと走りなさい!」って言ってただけなんだ・・・。
オレ、この人に逆らわない事に決めた。

それから、タカシ・・・兄ちゃんとサイト兄ちゃん、この世界じゃない異世界から来たって事も聞いた。驚いたけど、本当っぽい。
でも、そんな事とは関係なく、オレはいつかアイツをぶち殺す!・・・・
そう思って拷問に耐えてるんだけど・・・・終わるたびに体中ボロボロになるんだ・・・。
そんな時、アーリャ姉ちゃんとタバサ姉ちゃんがそんなオレを介抱してくれるんだ・・・二人共優しくて良い人だよ。
特にアーリャ姉ちゃん。あの人は何か、オレの事をすごく可愛がってくれるんだ。少し嬉しいけど・・・恥ずかしい・・・。
でも、そのアーリャ姉ちゃんの使い魔。よくわかんねーけど、パートナーって奴?ともかく、それがあの悪魔・・・どういう組み合わせなんだ?

んで、オレ達はそのまま三人で寝るんだ。タカシ・・・兄ちゃんを真ん中にして、オレとアーリャ姉ちゃんが両脇に。
・・・正直、少し嬉しいかもしれない。
オレ、今までこういうの無かったからさ・・・家族って言うのかな・・・何か、そこだけはタカシ兄ちゃんに感謝したくなった。




そんなこんなで時が過ぎ、トリステイン魔法学院は、夏季休暇に入った。

そんな中、サイトがルイズに一週間ほど暇をよこせと言い、それをルイズが却下するなどしていた。
どうやらシエスタがサイトを誘い、それもあってかルイズ嬢はゴキゲン斜めな様だ。

そしてそんな二人が言い合いをしていると、タバサとアーリャ、レインを連れたタカシが現れた。

「ん?サイト。もしかしてお前、夏季休暇中の修行サボるつもりだったのか?」

・・・いい笑顔です。もうニッコリとしています。

ちなみに、タバサは帰郷の予定は無いとして修行する事を了承。
アーリャも、ヴァリエール領に行っても良いが、タバサが残ると聞き、帰郷を中止。
レインも帰れない。っつか、帰ってもしょうがないって言うか、既にここが家みたいな物。
こうなってくるとサイト君の休暇はますます認められないでしょう・・・せめて二人とも帰郷するって言うならまだ可能性もあったでしょうけどね・・・。

そして怖い怖いご主人様と、怖い怖い教官殿による恫喝・・・じゃなく、説得により、サイトの休暇は取りやめになり、シエスタが何処か寂しそうにしてタルブの村へと帰って行った。

そして

「さて、お前等。夏季休暇だし、一日中鍛えられるぞ?今日から二ヵ月半。みっちり仕込んでやるから感謝しろ?♪」

そうすばらしい笑顔で仰る鬼軍曹。
不気味な迫力で青ざめる一同。ルイズも思わず顔を青くしている。
タバサが冷や汗を流しながらも小さく「帰れば良かった」と呟いた声は誰にも聞こえなかった。

そして地獄の特訓が始まった。



しかし、始まろうとしていた時、空から救いがやってきた。

「ん?何これ?・・・王宮からの手紙!?」

ふくろうが持ってきた手紙を受け取り、驚くルイズ。

そこには要訳すると「アルビオンは艦隊の再編まで攻めてこないと予想。正し、先日の様な不正規な戦闘を仕掛けてくる可能性が高い。そこで治安の強化の為、身分を隠し、情報収集をしろ」との事が書いてあった。

「うわ、スパイかよ」

それを聞きサイトが呟く。いつの間にかルイズから手紙を取り上げ読んでいたタカシも、ソレを見て何事か考えている。

「ともかく、いわゆる間諜って奴ね・・・」

そう言いながらも何処か元気が無いルイズ。地味な任務に不満がある様である。

「いや、悪くない・・・そうだな。丁度いいし、俺達も行くぞ」

そうタカシが言い、タバサとアーリャ、レインを引き連れて王宮からの任務をこなす事になった一同。
最初ルイズが「何でアンタが来るのよ!」っと騒いだが「いやならいいぞ?正し、サイトは置いていけ。行くならお前一人で行け。サイトは此処に残って修行だ」そう言い放つタカシ。
それを聞き、プルプル震えながらぶつぶつ呟くルイズをアーリャの「私達にもお手伝いさせてもらえない?」っという冷や汗をかきながらの説得により、了承された様だ。

そして手紙に指示してあった「トリスタニアで宿を取り、平民に成りすまし情報収集」の任務の為、一行はリンドヴルムでトリスタニア周辺まで飛び、その後着陸。
リスに化けさせ、財務庁で同封されていた手形を金貨に変えた。
4百エキュー程である。

皆はまず、仕立て屋に行った。
サイトがルイズを説得し、地味な服を着させる。
地味な服を着せられ不機嫌なルイズ。

一方

「「・・・・・・」」

「・・・・」

タバサとアーリャの無言の視線に、珍しく冷や汗をかきながら目線を逸らすタカシ。

以前、トリスタニアで服を買ってあげた時とは違い、今度は彼に服を選んで欲しいと二人が口をそろえて言ったのだ。
そしてその答えをまだ言っておらず、現在視線で威圧されている。

「「・・・・・・・・・」」

「・・・・・分かった・・・選ぶよ」

ついに根負けしたのか、別に服を選ぶくらいはどうでもいいかと思ったのか。
ともかく、そんなこんなでタカシが二人の服を選び、それを買い与えた。
地味な服だったが、二人とも顔を僅かに赤らめ俯き小さく「ありがと」っと呟いたとかどうとか。
そんな二人を見て、溜息を吐くリスとナイフがあったそうな。

そんな彼等を他所に、シルフィードがレインの服を楽しそうに選んでいた。

「きゅい!レイン君!コレ可愛いのね!」

「ちょ!シルフィ姉ちゃん!服無理やり脱がさないでよ!」

何やら彼女は、弟の様な者が出来た事が嬉しいようで、レインに構いまくっている。



そうこうして一同は仕立て屋を後にした。

まずどうしようかと相談していると、なんとルイズが「活動費が足りない!たった400エキューぽっちじゃ満足なご奉仕が出来ない!」っとか仰るのである。
それを聞き

「をいをい・・・これだから世間知らずの馬鹿娘は・・・」

とか言いかけた誰かは、ルイズのものすごい迫力と、虚無の魔法により黙らされた。
最初抵抗しようとしたタカシであったが、ルイズに手を上げるとサイトが煩そうだし、どうしようかなかなぁ・・・とか考えている内にルイズの虚無魔法が炸裂。
その時初めて、虚無の爆発をマトモに喰らった彼は、サイトがいつも吹き飛ばされているのを笑っていた事に少しだけ罪悪感を覚え、同時にいつもあんな物を喰らって生きてるサイトは人間か?と疑問を抱いていた。

そして、結局お金を増やす事にした。
ちなみに、タバサとアーリャが「貴方お金持ってるわよね?」とタカシに聞いてきたが「持ってるが、何で俺のを使わにゃならん?」とか真顔で聞き返され、返答に困っていた。

意外とケチ・・・じゃなく、計画的なんです。そうなんです。

そんな会話をしながらも、一同は町を歩いていると、サイトが賭博場を見つけた。

「これで増やすってのはどう?」

「博打じゃないの!呆れた!」

そんなルイズの抗議もあったが、もう一つ、別の不安があった。
そう「奴」である。

「ほぉ・・・」

そう呟き、ニヤリと笑う男。

そんな男を後ろで見ていた二人の少女。
以前ガリアの賭博上での悪夢が彼女達の脳裏に焼きついているのであろうか。
顔を見合わせ「何とか途中で止めよう」としっかり頷きあっていた。

そして一同はそのまま中へ。

サイトは20エキューほどチップに変え、ルーレットへと向かった。
そうこうしてちまちま勝ち、30エキューほど増やしたが、それを見たルイズが「私がやる」っと言い全て外し、再び0へ。
負けた事が悔しかったのであろう。
ルイズはそのまま残ったお金も全てチップに変えて、当然のように全て掏った。
そして終に、サイトが以前姫様に貰った金にまで手をつけ、結局負けるという事をして、活動資金が底をついた。
そんなむちゃくちゃなご主人様をどう非難してやろうかとサイトが何事か考えている。
だがその時

「仕方ない。俺が手本を見せてやる」

そう言い、笑顔で席に着く男がいた。



数分後



やはりと言うか当然のようにと言うか、目の前にはあの時の、ガリアの時と同じような光景が繰り広げられていた。

タカシは自らの財布から1エキューだけチップにかえると、4回連続の一点全額勝負で百五十万エキューにまで増やすという馬鹿げた行動をし、周囲の者たちを呆然とさせている。

サイトとルイズはこの光景を初めて見るので、その驚きは計り知れないだろう。
レインとシルフィードは何で周りがこんなに驚いているのか理解できておらず、キョトンとしている。
アーリャとタバサは、やぱりこうなったか・・・と言いたげな表情でお互いの顔を見合わせ、そのまま大きくため息を吐いた。

そんな中、復活したルイズが

「退きなさい!あんたにやれて私に出来ないはずは無いわ!」

とか喚き、タカシからチップを奪おうとするが、当然阻止される。
その後彼は上機嫌に

「俺は今日、ここを潰すまで勝つぞ♪」

とかほざいた。
しかし、同じ失敗を繰り返さないと誓った二人の少女が

「いい加減にしろ!」「いい加減にして」

そう言いながらタカシの襟首を掴み、引きずり、強制的にゲームを中断させる。
何やら不満そうな顔で「何をする」と本人にとって見れば当然の抗議をするタカシであったが、二人はそんなバカを睨み付けながら「うるさい!どうしていつもいつもいつもいっつも!人様の事を考えないの!?」とか怒鳴り散らされたり「周りに配慮しなさい」と鋭く冷ややかな口調で説教をされている。
ちなみにこの時、レイン少年の中で二人の評価が「優しい人」から「怒ると怖い。逆らっちゃダメな人」へと変更されていたとか。

ともかく、その隙にルイズが先ほどのチップを全て一点がけ。
いや、まさかこうなるとは思っていないでしょう・・・。
しかし、その暴挙を止められるものはそこにおらず、サイトが必死に止めるがそれも空しく、ルーレットが回り、音を立てて転がる玉は「00」のポケットへ・・・。

親の総取りであった・・・





現在、彼らは暮れ行く町の片隅。
中央広場でぼんやりとしていた。
どこからかご~んご~んっと鐘の音が聞こえてくる。
そんな場所に居る一同。

「「・・・・・・」」

タカシとサイトが腕を組み、ルイズに上からから冷ややかな視線を送っている。

「・・・・・」

ルイズはしょんぼりと俯き、座り込んでしまっている。

「「・・・・・・」」

そんなルイズの両脇で、彼女を慰めようとしているが、かける言葉が出てこないタバサとアーリャ。

そんな重苦しい空気を他所に、シルフィ、リント、レインの三人は、後ろの方でなにやらワイワイと騒いでいた。

「ど・・・どうしよう・・・」

ルイズが搾り出すようにそう呟いた。
その声に男二人が真っ先に反応。

「もうお前には金輪際、金持たせないからな」

冷めた目で座っているルイズを見下ろすサイト。

「まったく。世間知らずの馬鹿娘が。足りないのは胸だけにしておけよ?」

タカシもサイトの横で腕を組みながらルイズを見下ろし、そう言い放つ。
二人してブツブツと「どうしようもないバカ娘だな」とか「親の顔が見てみたい」とか呟いている。
普段はルイズが切れるのだが、彼女にはもう、そんな事をする元気も無い。

そしてそんな馬鹿男を睨みつけるタバサとアーリャ。ありったけの非難の気持ちを込めてみるが、不機嫌な男二人には効果はあまり無さそうだ。
そこで二人は、彼等を非難する事から、ルイズを励ます事に切り替えたらしい。

「る、ルイズ?元気だして?ね?」

冷や汗を流しながらも、彼女の肩を叩き、必死に励まそうとしているアーリャ嬢。ありきたりな言葉しか出てきていません。

「・・・明日がある」

こちらも冷や汗を流しつつ、励ましの言葉を捜すが良いものが見つからず、適当な事をおっしゃるタバサ嬢。
しかし、そんな二人の激動を受け、単純・・・じゃなく、純粋なルイズは、少し元気を取り戻したようである。

「・・・ありがとう二人とも・・・私・・・がんばるわ!」

顔を上げ、拳を握り締めてそう力強く言うが

「でも金が無いけどな」

「いろいろ足りてないのに、その根拠の無い自信は何処からくるのかね」

そんな彼女を相変わらず冷ややかに見下ろす男二人。
そんな野郎共に、いい加減制裁を加えようと杖を取り出し、構えようとする三人の少女達。
もし次に二人が何事か言うなら即座に、この平和な広場は、爆発やら雷やら氷やらで地獄になるであろう。
そんな一触即発の状況。

そこへ

「はぁ~い。あなた達、うちの店で働いてみない~?」

体をくねらせ、オカマ口調全快でそう言い、こちらに寄ってくるマッチョな男が現れた。

その瞬間、空気が凍った。皆がその不思議生物を見て誰だ?とか何だとか店?とかそれぞれ当然の疑問を抱いている。
この場合は「固まった」の方が適切であろう。
では何故凍ったのか。

そう。凍ったのはタカシの周りの空気だけ。
正確には、タカシが硬直したと表現したほうがいいかもしれない。
不思議生物を目視し、目を僅かに見開き、そのまま無言、無表情で硬直している。

「・・・・・・」

そして誰かが不思議生物に返答しようとした時、タカシは無言で群雲を取り出し、さらに無言でグングニールを具現化。
二つを両手で構え「錬」を使い出した。

「旦那!?」

群雲もこんなの相手に抜かれて驚く。そりゃそうでしょうね。

「タカシ!?どうした!?」

サイトも大いに驚く。
目の前の生き物は敵なのか!っとか思い、サイトも背負っていたデルフを握り、同じ様に「錬」を使おうかとしている。
そんな状況を見て、真っ先に現状が認識できた二人が反応。

「ちょ、やめなさい」「だめ」

そう言いながらアーリャとタバサは必死に彼の両手にしがみつき、何とか動きを封じようとした。
あの時は相手がワルドだから良かった。良くないけど、ともかく良かったが、目の前の生物はとりあえず、敵でもメイジでもなくただの一般人だ。このまま彼を放置すれば、そんな物がどうなるのか・・・、そう思いつつも必死に腕にしがみつく二人。

「・・・くっくっくっくっく・・・変態は発見次第即時駆逐だ・・・安心しろ。チリ一つ、証拠一つ残さずに始末してやる」

そんな二人を他所に、肩を震わせながら呟くように言うタカシ。
こいつの系統は何だ?この不気味なオーラ。変化系か?オーラを不快物質に変化させる能力か?嫌だ。アレと同じ系統だと思いたくない。よし、アレは特質系だ。
間違いない。だが、そんな事は問題じゃないな。如何にしてアレを始末するかだ。

そんなテンパっているタカシを無視するかの様に、マッチョオカマがルイズを店へと案内していく。
サイトはそんな呟きを聞き、そういえばこいつはああいうのダメだったなぁ・・・と呑気な事を思いつつ、とりあえずルイズとオカマの後を追っていく。

そして

「ふっふふふふ。逃げられると思っているのか?俺のグングニールを甘く見るなよ?」

少し逝ってる笑いをしながら、平気で街中で、しかも自分の念能力まで使うつもりの様だ。

「ちょっと!?こんな場所で?」「だめ。お願いだから落ち着いて」

必死に腕にしがみつき、暴走するタカシをどうにかして止めようとする少女達。
そんな二人をずるずると引きずりながら彼らの後を追うタカシであった・・・。

一方、彼等の姿を見て、何が起きているのか理解できずにポカンとしているリント、レイン、シルフィの三人。
だが、ここに居ても仕方ないので、慌てて彼等の後を追うことにした。


そしてタカシは、先に店に入った者達に追いつき

「さぁて・・・覚悟は・・・・・・・・」

店に入った瞬間、ポカンとした。

「さぁ、あなた達も早く着替えて!ようこそ!魅惑の妖精亭へ!」

そう言い、腰をくねらせながら寄ってくるオカマ。こいつ、結構大物なのかもしれない。

タバサとアーリャは「もうだめだ」っと思い、せめて最後の抵抗でタカシの腕をさらに強く抱き、抑えようとするが

「・・・・なるほど」

タカシはそう呟くと、グングニールを仕舞い、群雲も収めた。
いきなりそんな行動をとったので、思わず手を離し、顔を見合わせて首を傾げるタバサとアーリャ。

「おっさん・・・中々分かってるじゃないか」

そんな二人を無視し、タカシは笑顔になり、おっさんの肩に手を置く。いつの間にかサイトもやってきてうんうんと頷いていた。

「そう?でしょう?あなた達もよ~っく分かってるじゃな~い。私は店長のスカロンよ!よろしくね~」

腰をくねらせ挨拶してくるスカロン店長。先ほどまで最悪の敵に命を狙われていたのだが・・・本人は気にしていない所か気がついていない様だ。

「あぁ。こちらこそ。それより、あそこの部分なんだが・・・」

そんな奇妙な生き物に対して、特に追求もせずに、何やら指差し、まじめな顔で意見を述べ始めたタカシ。
それに習い

「いや、でもそれなら・・・」

などとサイトも意見を言い始めた。

「あら?なるほど~。でもそれなら~」

など、男三人で何やら意見交換を始めた。
そんな状況が理解できず、首をかしげているルイズ、アーリャ、タバサ。
後から追いついたレイン、リント、シルフィも、何が起きているのか理解できず、首を傾げるばかりである。

そんな中、先ほどから指を指されたり、じっくり見られたりと話題にされている店の女の子達が、そんな事を歯牙にもかけずにアーリャ達を店の奥に連れて行き、衣装に着替えさせている。



そして少しして、彼女達が戻ってきた。
そこで店長、スカロンが彼女達を紹介する。

「は~いみんな~?この子達が新入りよ~。彼女達はお父さんの博打の借金のかたに売り飛ばされそうになって、間一髪お兄さん達と一緒に、必死に逃げてきたのよ~!右からルイズちゃん。アーリャちゃん。タバサちゃんシルフィードちゃんよ~!みんな!仲良くしてあげてね~!」

どうやらタカシとサイトが口裏を合わせ、そういう設定にしたらしい。スカロン店長も別段追及をしてこない。やはり大物かもしれない。
そして店の女の子達もそれぞれ「は~い。ミ・マドモワゼル!」とか元気良く返事をする。彼女達もこういった事には慣れているのであろうか。
そんな元気のいい返事をのを聞いて、スカロン店長はやや上機嫌になりつつもルイズ達の方を向いた。

「は~い。それじゃぁあなた達!お仲間になる妖精さんたちにご挨拶して~」

そう言われ、プライドが高い貴族の娘であるルイズが、怒りでプルプルと振るえながら、今にも魔法で全て吹き飛ばすんじゃないか?って感じで震えながらも

「る、るるるルイズです。よよよ宜しくなのです」

とか必死に挨拶。一応、何が起こっているから理解している様である。理解しているが納得出来ていないようです。
次に、同じくぷるぷると振るえながら、しかし、プライド云々より「妹」と言う言葉に反応して怒っているように見えなくも無いアーリャが

「あ、あアーリャです・・・よ、よろしくです」

とか引きつった笑みで言っている。どうにも誰かに「妹」として扱われるのは、演技であろうが何であろうが嫌らしい。
タバサも何処か不機嫌になりながらも呟く様に

「タバサ・・・です・・・よろしく」

しっかりと挨拶。

「きゅい?何?シルフィはどうすればいいの?お姉様?」

相変わらず状況の理解できていないシルフィード。
彼女達はきわどい衣装に身を包んでいる。その姿は、この店の名前の通り、妖精と表現しても良い様な姿であった。

タカシとサイトにしてみれば、まさに渡りに船だった。
情報収集のできそうな酒場だし、働き口も見つかったし、店の女の子達の素敵な姿も堪能できるしと、文句を言う所か率先してここで働けるように口裏を合わせ、またスカロン店長も可愛い女の子達が働いてくれればその分店に来る客も増えるであろうと、そんな思惑があり、彼等の利害は見事に一致したのだ。

ともかく、そんな事情は置いといて、スカロンが「はい!拍手~」と言い、皆が拍手を送り、晴れて彼女達はこの店、魅惑の妖精亭で働く事になった。

ちなみに、その時レインの肩に乗っていたリスを見つけた女の子達が
「キャ~カワイイ~!」
とか言いながらも、レイン共々リスをみくちゃにしたそうだ。
リントが『えぇい!何故こうなる!?』
レインも「ちょっと!?何!?何で!?」
等と必死に抗議していたが、そんな声が聞こえようが何だろうがもみくちゃにされたとか・・・。
その光景は、腹を空かせた肉食獣達が居るの折の中に、餌となる小動物を入れた時のようであったとか・・・。


余談だが、たくさんの女の子に囲まれて、弄ばれているレインを見たサイトが、何所か羨ましそうにしているすがたが目撃されたらしい。





以上です。いよいよ夏季休暇突入です。
ここに来る前に少しオリジナルを入れようと思っていたのですが、色々と思いついた・・・じゃなくて、様々な事情により少し予定を変更です。








[4075] 第五部 第二章 お仕事×友情×修行!
Name: 豊◆0ec87a18 ID:4cddc065
Date: 2008/10/10 23:03




ここはトリステイン王国の首都、トリスタニア。その一角にある店魅惑の妖精亭。
彼らがやってきた魅惑の妖精亭は、一見ただの居酒屋だが、その実、可愛い女の子達がきわどい格好で給仕をしているという、人気のお店だった。

サイト達は本来、情報収集の任務でトリスタニアに来ていたのだが、とある事情から活動資金が無くなり、丁度そんな時にこの店の店長であるスカロンに声をかけられ、丁度良いので此処で働きながら任務を遂行する事にしたのだ。

そして現在。タカシとサイト、レインは皿洗いを命じられ、素直にやっている。
彼等は店長スカロンの好意により此処の部屋を提供されている。その為、働かないで惰眠を貪っている訳にもいかない。尤も

「いいか?さっき説明したとおりだ。この皿を体の一部の様にオーラで纏え。それが「周」と呼ばれる技術だ。これにより「周」で覆った物を強化できる。一枚一枚、しっかりと「周」を使った状態にしてから洗え。ゆっくりでもいい」

など、しっかり修行をしながら皿洗いをしているので、別段無駄な時間と言うワケでもなく、タカシも心良くやっているのだ。
サイトとレインも、何だかんだいいながら、こういった違う環境での修行に結構乗り気なようで「おう!」「あいよ!」とか元気良く返事をし、二人共どちらが上手くできるか競い合いながらやっている様だ。
そんな二人を満足気に眺めながら、男三人は適当に会話をしながら仕事をしていた。

ちなみに、ここで筋トレは難しいとの事で、サイトの足の重りだけ60kgに。
腕は20kgへと増やされた。
レインはまだ子供だし、軽くという事で、全身10kgにしている・・・・軽く?
当然、二人は抗議をしたが、まったく聞き入れてもらえ無かったとか・・・。

そんな三人の下へ一人の少女がやってきた。

「あったしージェシカ。あんた達、新入りの子達のお兄さんなんでしょ?名前は?あぁ、レイン君は弟だったよね~」

「平賀才人」「龍宮崇」『リントと言う』

二人とも素直に答える。
だからオマエはイインダヨリント。
しかし、「喋るリス!可愛い!」とか言い、再び彼に災難が降りかかったそうな。
そんなリスと少女を眺めながら皿を洗う三人。レインの事はすっかり知れ渡っているようで、紹介は不要っぽい。

そしてリスがグッタリした所で

「ねぇねぇ、あんた達、あの子達のお兄さんって嘘でしょ?」

ターゲットを変更したジェシカに、そう聞かれた。なんとも元気な娘である。
タカシ達は兄弟と言う設定にしていたが、聊かムリがある。
彼等は髪の色も目の色も、顔もまったく似てないので、疑われても仕方ない。
っつか、信じる人はいないだろう。
しかし、ジェシカは「ここにいる子はみんな訳ありだから構わない」と笑顔で言うのだ。
だが

「でも~、あたしにだけは教えて~」

とかいいサイトの方へと擦り寄ってきた。好奇心旺盛というかなんというか。
そんな事に免疫が無いサイトは、少し嬉しそうにしながらも焦っている。
そして、タカシはそんなサイトをニヤニヤと笑いながら眺め、そのまましばらく放置しても面白いとか考えながらも

「おい、こんな所で油売ってるとあのおやじに怒られるぞ?」

一応助け舟をだしてやる。このまま放って置くと埒が明かないと見たのか、それともサイトが吐露してしまうと思ったのか。
だが、ジェシカの次の一言で、彼のそんな思考もニヤニヤ嫌らしい笑みも強制的に中断させられた。

「平気よ。だってあたし、スカロンの娘だもん」

それを聞いた瞬間、三人揃って手に持っていた皿を落とし、砕き、真っ二つに割るなどしてしまった。

「あ!何割ってるの!お給料からさっ引くからね!」

「「「・・・・娘?」」」

皿を割った三人を見ながら、腰に手を当て説教するジェシカ。
しかし、そんな彼女を他所に、三人とも信じられないと言った様子でポカンとしている。
反省の色が見られない三人に、さらに何やら文句を言うジェシカだったが、そんな彼女を他所に、三人と、いつの間にか復活したリスは顔を寄せ合いコソコソと
「あのオカマからこんな子が生まれるなんて、遺伝子何やってるんだ?」
とか心底不思議そうに言うサイト。
『生命の神秘と言う物だな』
腕を組み、ウンウン頷きながら偉そうに言うリス。
「なぁ、あの変なのがこのねーちゃんを生んだのか?どうやって?」
レイン君はもう少しお勉強が必要の様です。
「いや、それ以前にあのオカマ、ちゃんと人間だったんだな。ピーーだけじゃなくピーーも普通にピーーだった様だ。ピーーのピーーがピーーーーー」
とか真顔でこそこそ言ってるタカシさん?お願いですから放送禁止用語を言うのはやめてください。

そして結局、三人はジェシカにどやされ、遺伝子の働きと人類の神秘についての議題で会話を弾ませながらも、皿洗いを再開した。


一方、そんな三人を他所に客席では、少女達がそれぞれ奮闘していた。

「ご、ごごごご注文の品お持ちしました」

引きつった笑みを浮かべ、ワインのビンとグラスをテーブルに置くルイズ。
そんな彼女は下卑た笑いで「つげ」とか言われ、「平民に?平民にこの私がお酌を?」っとかぶつぶつ言うルイズ嬢。
そして彼女はさらに何やら挑発され、爆発した。
が、そこへスカロンが登場。
なんとか治まり、ルイズは厨房へすっ飛んでいった。

シルフィードは、最初に転んで料理を落とし、次に客に出す料理を自ら食べ、テーブルに料理を運んでも、その客の食い物を自ら食べると言った行動をした為、現在ルイズと共に厨房付近で反省中である。


一方、アーリャは別にお酌くらいは平気と言った風体で、しっかりと営業スマイル・・・はできていなかった。
お酌はしているのだが、何処か不機嫌な様子だ。
先ほど「妹」と扱われた事をまだ根に持っているのか・・・それは本人のみが知ること。
何やらブツブツ呟きながらも、一応仕事はちゃんとやっている。

タバサも相変わらず無表情ながら、アーリャと同じく不機嫌オーラを垂れ流している。


しかし、酔った男にそんな雰囲気を感じることはできず、彼女達に手を伸ばし体に触れるなど、狼藉を働く。

が、触ろうとした瞬間、手に何かが当たって弾かれた様な感じがして、その後キョロキョロと周囲を見回すが、何も無い。
何か飛んできたにしても、飛んできた物も見当たらないという不可思議な現象に襲われる。二人には何かの加護でもあるのであろうか。
もっとも、触れていたら触れていたで、どうなるか予想が付かない為、一応助かったと言えるのかもしれないが、客は何処か悔しそうにしながら、しかし何がどうなっているのか理解できずに困惑していた。


ちなみに、タバサとアーリャに触れようとした客の手に謎の現象が起きている時、厨房でサイトが、片手で皿を洗いながら、もう片方の手の親指で何かパチンコ玉の様な小さな銀色の物を弾き、射出した物がまた手に戻ってくるという行動をしているタカシを目撃したとかしないとか。
そんな行動を不思議に思い、サイトが一体何をやっているのかと問いかけると

「魚釣り。利益はないんだがね」

平然とそう言われ、サイトは首をかしげながらも、さっさと皿洗えと言われ、とりあえず気にしない事にしたらしい。
その時、タカシの肩に乗りヤレヤレと言った仕草で苦笑するリスと溜息をつくナイフがいたとか居ないとか。



そして初日が終了。

ルイズが請求書を突きつけられ、サイトとレインも修行中に何枚か割ってしまったので、同じく請求書を渡された。
慣れない事をして、かなり疲れた様子の一同。彼等はそのまま店の奥。二階に用意された部屋の前に来た。
ここで問題。用意された部屋の数は二つ。人数は六人と二匹。
タカシとサイトが男女別でいいかなとか、そんな会話をしながら、部屋に入ろうとした時。

まず最初に動いたのはアーリャだった。

「ルイズはサイトと同じでいいわよね。いつも同じ部屋なんだし」

と笑顔でそう言い、ぐいぐいと彼女の背中を押す。
ルイズに気を使った・・・訳ではない様で、ここいらで何かしら行動をしようと思ったのか、それとも何か他の理由があったのか。ともかく、笑顔だが、逆らってはいけないオーラを出しまくっているアーリャ嬢。
いきなりそんな事をされ、「ちょ!なんで」とか抗議するルイズだが、すぐにタバサがそれに加わり、無言でぐいぐいとルイズを部屋に押し込んで行った。
結局、ルイズの抵抗もむなしく、っというかそんなに抵抗していた様にも見えないが、兎に角、ルイズは片方の部屋に押し込まれていった。

「さて・・・んじゃ・・・また明日な」

「・・・サイト兄ちゃん、また明日」

そんな少女達を見ながら、僅かに引きつった笑みでタカシとレインははもう一つの部屋へ入っていく。
逆らったらどうなるのか。そもそも逆らうことが出来るのか。別にいつもとあまり変わらないから下手に逆らわない方が良いかな。と判断したタカシとレインは、素直にもう一つの部屋に入って行った。
そんな二人に、サイトが何事か抗議をしていたが、ルイズを押し込んだタバサとアーリャにより、そのまま同じ様に押し込まれて行ったとか。

そしてルイズとサイトを部屋に押し込んだアーリャとタバサ、その後ろからシルフィが部屋に入って来て、さてどうしようかと考えていると

「きゅいきゅい!レイン君!シルフィと一緒に寝るのね!」

とか良いながらシルフィードがレインを抱きかかえ、そのまま二つあったベットの内一つへと潜り込んだ。
「ちょっと!シルフィ姉ちゃん!」
とか言う抗議の声が聞こえた気がしたが、そんな抗議を聞いてくれる者は此処には居ない。
タカシは一回だけ「椅子で良い」と言ったが、無言で却下され、そのまま腕を引かれてベットに入り、その腕を枕にされた。
そして何やら顔を赤く染めている少女達を見て、まぁ別にいいかと思い、結局、タカシ、タバサ、アーリャは、以前の様に川の字になって三人でもう一つのベットで眠りについた。


本当に仲の良い兄弟で・・・・・ゴホン。

そんな者達を見ながら、リスが何やら微笑ましそうな顔をし、いつもと変わりなく(?)その日の夜は更けていった。



そんなこんなでタカシ、アーリャ、レイン、タバサ、サイト、ルイズによる姫様からの情報収集の任務が始まって数日が経過した。

魅惑の妖精亭は連日の大賑わいで大変繁盛している。
何やら可愛い新人が数人入ったと、巷で噂になっている様である。

しかし、それに比例するようにルイズはゲンナリしていた。
何故ならルイズを見た酔っ払いの反応が二種類に分かれているから。
一つはこの店は餓鬼をつかってるんかとはやし立てる。
彼女はこういうお客様にはワインを瓶毎サービスすることにしている。
もう一つは特殊な趣味のお客様。
そういう方々は、黙っていれば大人しく、可愛らしいルイズに手を触れたりなどしようとする。そういうお客様に彼女は平手をプレゼントしている。
そんな調子でお愛想一つ言えず、チップ一枚満足にもらえない彼女は、スカロンに「ここで他の子のやり方を見てろ」と言われて、店の隅に立たされている。

シルフィードも、最初はは楽しそうにニコニコしながら接客をしている。
彼女は結構美人でスタイルも良く、人当たりもなかなか良いので、かなりの人気だ。
だが、しばらく時間が経過すると、客の料理や運んでいる物をつまみ食いする等の行動をしてしまう。
そんな欠点があっても、人気はあるのだが、店としては許容できず、現在ルイズと一緒に反省中。


一方、アーリャは結構うまくやっていた。
任務と割り切っているのか、元々こういう事が嫌いでは無いのか。
ともかく、ニコニコと営業スマイルをしながら、いろいろな話をしている。かなり博識な彼女は、なかなかレベルの高い会話をしている。
そして子供みた・・・・じゃなくて、小柄な彼女は、そんな姿が微笑ましく、また物珍しい為か、幅広い層から人気が出ている様である。


タバサの方は終始無言無表情。
そして、彼女は肩にリスを乗せている。
コレが代わりに話すのだ。
注文等も全てリスが会話する。
一応本人も客の話は聞いているようで、時折コクンと頷いたり、フルフルと首を横に振ったりしている。
そんな小動物の様な愛らしい姿等が、これまた人気を得ている様だ。


しかし、そうなるとますます狼藉を働こうとする者も増えてくる。
彼女達はかなり無防備。
っというか、そういう警戒をしていない。

だが、そんな彼女達に触れようとすると、何処かから飛んでくる何かに阻まれ、決して触れることが出来ない。
肩に手を置こうとしたり、手に触れようとしたりするだけでも弾かれてしまう。
ある客がいっそ抱きつこうとした所、ドゴンという効果音がして壁に吹き飛んで行ったとか・・・。
当然、何も見えず、何があったのか理解できる者は、この場に一人、無いし二人と一匹と一本しか居なかった。

そんな神秘の守り(?)もあってか、彼女達の人気は急上昇しているらしい。


一方サイトとレインは、皿洗いの時は常に「周」。それ以外の雑用のときは「錬」を維持するように。最初は長く維持はできないだうが、ともかくやるように言われ、更に手足の重りもあり、ひぃひぃ言いながらもきちんと仕事と修行を両立させていた。
お互い競い合い、「こいつには負けない」と言う感じで切磋琢磨している。

そして、サイトは皿洗いに慣れてくると、店の女の子の腹部を観察。そんな行動がルイズにバレ、ワインのビンを投げつけられるなどして、そんなこんなでさらに数日が経過したある日、店に思わぬ客が現れた。


「え~っと・・・確かここよね」

そう言いながら店に入って行くキュルケ。
その後ろにギーシュとモンモランシも連れている。

そして彼女達は席付き、注文をとろうとした所で、桃色の髪の少女がお盆で顔を隠して現れた。
それを見て、キュルケがニヤリと笑い

「あ、使い魔さんが女の子くどいてる」

そう言い放つと、お盆で顔を隠していたルイズがバっと顔を出し、キョロキョロと辺りを見回した。
それを見て驚くギーシュとモンモランシ。何故彼女がここに居るのか。そもそも何でキュルケは一発で分かったのか。など色々と疑問に思っている。
そんな三人の反応を見て、自分の失態に気が付き、慌てて顔を隠すルイズだが、そんな彼女を見て、キュルケは嫌らしい笑みでニヤニヤしながら

「手遅れよ。ラ・ヴァリエール」

だが、ルイズはそう言われても、直も往生際が悪く「私ルイズじゃない」とか言い、抵抗していると、トコトコっと言う足音と共に、タバサが現れた。

それを見た瞬間、一瞬キュルケが固まった。
そして直ぐに再起動。見たものは皆思わず振り返るような万遍の笑みを浮かべ、タバサに抱きついた。

「・・・まぁ!タバサ!あなた!何て可愛らしいんでしょう!!すばらしいわ!」

大喜びでタバサに抱きつき、頬ずりしたりして弄繰り回すキュルケさん。
タバサも何処か優しい雰囲気で、特に抵抗せず、黙ってされるがままにしていた。

そんな騒ぎを聞きつけ

「あら、キュルケじゃない。どうしたの?」

といいながらアーリャが登場。
その後ろから、ニヤニヤと楽しそうに笑いながらタカシも来た。

「まぁ!貴方も似合ってるわよアーリャ!」

そう言いこちらにも飛びついてくるキュルケ。
タバサとアーリャを二人まとめて抱きしめ、弄り倒している。そんな光景を見て、ポカンとしているギーシュとモンモン、ルイズ。そしてその場に居るもの全ての反応を見て、楽しそうにしているタカシ。
暫くして、キュルケが落ち着きを取り戻し、二人とタカシも一緒にテーブルに座らせた。

「この子が此処で働いてるって聞いて、学院に残っていたギーシュたちを引っ張ってきてみたんだけど、ホント可愛いわねぇ~!」

彼女は先ほどから頬を緩ませタバサの頭を撫でっぱなしである。
そんなキュルケに

「・・・聞いたって・・・誰に?」

観念してお盆で顔を隠すことをやめたルイズが、不機嫌と不思議を混ぜ合わせた声と表情で問いかけた。

「タカシによ。詳しい事情は教えてもらえなかったけど、場所だけ教えてくれたから来てみたのよ~。でも事情なんてどうでも良いわ!だってこんなに可愛いんですもの~」

そう言いながら再びタバサを弄るキュルケ。
そんな彼女を見て、楽しそうにニヤニヤしているタカシ・・・そんな男をものすごい形相で睨むルイズ・・・そして

「それじゃヴァリエール?これ。メニューに載ってる料理全部持ってきて。あ、全員分の飲み物もね」

徐にメニューを手に取り、それを指差しながらキュルケがそう言い放った。
それを聞き「金持ちで羨ましい」と呟くルイズだが、「何言ってるの?貴方のツケに決まってるでしょ?ここで働いてること学院のみんなにバラすわよ?」っとか笑顔で言われて、ルイズはトボトボと厨房へと向かって行った。

そんなキュルケを見て「さすがだな」とかニヤニヤしながら賞賛するタカシ。

「でも、タバサもアーリャも。こんなに可愛いなら悪戯しようとするお客がいるんじゃないの?」

「え?別に居ないわよ?そんな人。ねぇタバサ?」

アーリャはそう答え、タバサに顔を向けて問いかけると、タバサもコクンと頷き、肯定した。
そんなはずは無いのではないか?と思ったキュルケが「どういう事?」と言う顔をして、タカシに目線を移す。
するとそこには、相変わらず嫌らしい笑みで、腕を組んでいる男が居た。
それを見て、彼女は何かを悟ったのか。

「ふ~ん・・・で?実際どれくらい?」

目を細めて聞いてきた。

「大漁。そりゃもう入れ食い状態だな」

ニヤニヤしながらそう答えるタカシ。
その答えを聞き、キュルケは顔を綻ばせて

「当然よね~。こ~んなに可愛らしいんだもの・・・でも、大変じゃない?」

どこか自分が褒められているかのように喜んでいる。

「ま、大した手間でもない」

腕を組んでいるタカシが少し肩を竦めて答えた。その答えに満足し、何やら機嫌をよくしたキュルケが

「ヴァリエール!タカシにこのお店で一番高いお酒を持ってきて!もちろん、貴方のツケでね!」

素敵な笑顔でそう言い放った。
「お、いいのか?」と聞く彼に「いいのよ~。当然の報酬よ。まっ、ルイズのツケだけどね」とニヤニヤと嫌らしい笑みで笑い会う二人。
そのまま二人して何やら会話を弾ませている。

この二人・・・混ぜるな危険!!


そんな二人を「?」という感じに首をかしげてみているタバサとアーリャ。
一方、何かを悟ってしまったのか、それとも単純に恐ろしいのか。少し震えながら見ているギーシュとモンモランシが居た。

そんな上機嫌なキュルケがナンパされ、断り、逆に挑発されて戦おうとしたところ、タバサが出て行き相手を倒しに行った。

そんな中で、二人がどうやってであったのか等をキュルケに聞く一同。まったく接点が無さそうな二人の関係に、皆興味があるのだろう。
いつの間にかサイトとルイズもその場に居て、彼女達の全員で聞いていた。
そんな話が終わった所で「眠くなった」と言い、キュルケはタバサを連れて二階の部屋へと上がっていく。
ちなみに、レインとシルフィードは既に二階に上がり、二人そろってお休み中。二人とも中身は子供の上、慣れない事をした疲れもあるのだろう。
仕事が終ると真っ先にベットにもぐりこみ、スヤスヤと寝息を立てている。


そんな時、タカシは丁度今、何処からか届けられた紙を、何やら難しい顔で眺め、そのまましばし思案してから口を開いた。

「ちょっと出てくる。いくぞ?アーリャ」

そう言うと、抗議をするアーリャを引っつかんで、そのまま何処かに出ていってしまった。


そんな彼らが出て行った後。
先ほどタバサが倒したナンパ男、正確には王軍の士官なのだが、それが一個中隊を引っ張ってきて、残った面子をボロボロにしていった。
そしてそれから二時間程経過した時。
キュルケが降りてきて、ボロボロになった面子を見て、不思議そうな顔をしていると、四人口をそろえて「一個貸し」っと言っていた。

そんな頃、何処かに向かってリンドヴルムで飛んでいたタカシとアーリャも、目的地に到着した。






以上です。シルフィードに接客やらせたらこうなると思うんですよ・・・多分w







[4075] 第五部 第三章 試練×系統×チップレース
Name: 豊◆0ec87a18 ID:4cddc065
Date: 2008/10/10 23:28



目的地に到着したタカシとアーリャ。
着陸し、リントをリスにさせた。

そこは土砂降りの雨が降っている開けた土地。時折、雷が落ちている。

「・・・・ここで・・・どうするの?」

土砂降りの雨が苦手なアーリャが、震えるからだを押さえながらも、不安そうに聞いてきた。
そんなアーリャを見ないで、タカシは空を見上げたまま、ポツリと小さな声で話しだした。

「お前の修行だ。前、準備が出来たらちゃんとしてやると言ったな?」

「・・・修行?」

「あぁ。お前には、雷に打たれてもらう」

平然と、ちょっと出かけてくるという感じで、何でもない事の様にそう言い放つタカシ。

「雷に!?あんなのに当たったら死んじゃうわよ!」

当然の抗議だろう。普通雷に打たれれば死は確実。先ほどまでは雨音にかきけされてしまいそうな小声で話していたアーリャも、思わず声を荒げている。しかし、彼は冗談を言っている様には見えなかった。

「大丈夫。これをつければ死なないですむ」

そう言うと、持ってきていた荷物から金属のアクセサリー、イヤリング、ネックレス、腕輪、ベルト、足につけるリングの様な物等を取り出した。

「ただ、これはかなり危険だ。一応死ぬことは無いが、死ぬ可能性も0ではない。お前が決めろ。やるか、やらないか。俺は強制しない。ただ、今の所これ以外でお前の修行の方法が思いつかない」

真面目な顔で、アーリャの目を見ながらそう言った。
その表情に嘘や冗談と言った雰囲気は全く感じられない。
そんな事を言われ、戸惑うアーリャ。そこへ

「ちなみに、お前が打たれる場合、俺も一緒に打たれよう。お前一人にやらせるほど薄情な人間じゃないつもりだからな」

それを聞き、目を見開き驚くアーリャ。
彼が自ら死ぬ可能性のある事をさせ、さらに自分も一緒にそれをやると言った。
他に方法が思いつかないというのも恐らく本当であろう。
そう思いながらも、しばし逡巡し、搾り出す様に問いかけるアーリャ。

「・・・一応、何でこんな事するか、理由を教えてくれない?前にタバサにも氷で遊べとか言ってたわよね?」

「あぁ。明確な「物」のイメージを掴むために必要なんだ。タバサは「氷」だったから自分でそれを作り、そのまま詳細を理解し、さらに強いイメージを持つことができる。だが、お前の「雷」はこれしか方法が無いんだ。魔法じゃ意味無いしな。氷と違い、あの雷の魔法は本物と比べる事が出来ない。それくらい粗雑だ。設備があれば人工的にでもできるんだが、こっちの世界じゃそれは無理。だから、自然の力に頼るしかない。雷に直接打たれる事により、お前の中の「ライトニング・クラウド」。「雷」の魔法がより、本物に近いイメージを持てる・・・と思う。確証は無い。俺の推論だ・・・だから、強制もさせない。嫌なら嫌で断ってくれ。その場合は何とか別の方法を考えてみる。そもそも、俺のこの方法で正しいのかも解らない・・・」

そう言い、タカシは少し目を伏せた。
そしてそのままアーリャの方を向き、動かなくなった。
普段の軽薄な雰囲気は欠片も無く、真剣そのものであった。

周囲では相変わらず、ザーザーと土砂降りの雨が降り、所々で雷も落ちている。
そんな中、アーリャはしっかり考えていた。
俯いているが、しっかりと考えている。
いつのまにか雨も気にしていない。
二人共、池に落ちた直後の様にずぶぬれ状態。そんな事も気にせず、彼女は黙り込み、そのまま考え込んでいる。
タカシの肩に乗ったリントも、彼の持つナイフも、予め聞かされていたのか、終始無言で何も言わない。

そしてどれだけの時間考えていたであろうか。
彼女は顔をあげ、答えを出した。


「やるわ」

そう一言だけ、タカシの目を見て言った。
その表情には先ほどまであった怯え等は無く、強い意志が感じられる。

「・・・本当にいいんだな?」

そんなアーリャをしばらく見て、慎重に言葉を選ぶように確認する。

「えぇ。私は今、自分で考え、自分で決めた。たとえ結果がどうなろうと後悔はしない」

しっかりと頷き、了承の意を告げるアーリャ。そんな少女を見て、彼は微かに微笑んだ様に見えた。

その後、彼もアーリャと同じ様な装備をつけ、周囲に木が無い平地に立つ。

「リント、説明したとおりだ。離れていろ」

『承知した。十分に注意しろ』

「無茶はしないでくださいよ」

そう言い残し、ナイフを抱えたリスはその場から離れた位置へと走って行く。それを見送り、もう一度アーリャの方を見る。そして彼女の目を見ながら、最後の確認として問う。

「最後の確認だ。いいんだな?」

「えぇ。迷いは無い。それに、貴方もいるでしょ?」

まっすぐに此方を見据え、笑顔で返してきたアーリャ。そんな少女を見て、少し笑いながら、一旦目を閉じ、再び開いて

「よし・・・グングニール!」

槍を具現化。そのまま槍を天高く掲げた。そしてアーリャを抱き寄せる。

「さて、あとは落ちてくるのを待つだけだ」

いきなり抱き寄せられて、驚いていたアーリャだったが、直ぐに平静を取り戻し、しっかりと頷く。
やはり不安なのだろうか。小刻みに震えているが、その瞳に迷いの色は無かった。
そのまま少しして

轟音と共に、一瞬空が光った。

空から一本の稲妻が降り、天に掲げられた槍に直撃。
そのまま二人にも通電する。
普通、こんな物がマトモに当たって死なない人間は居ない。数億ボルトの電流が、一瞬で二人の体を駆け巡る。
しかし、彼らの体に付けられた金属の物体が、それぞれ電気の通り道を作り、そのまま電流を地面へと受け流した。

「・・・っ!」

それでも衝撃はあったのだろう。思わずアーリャが息を呑んだ。

一瞬の閃光の後、二人はその場に立っていた。無論、生きたままで。

「・・・・今のが・・・雷?」

タカシを見上げ、戸惑いながらも聞いてくるアーリャ。

「あぁ。どうだった?」

そんな反応が面白かったのか、それとも無事に終了した事に安堵したのか。ニヤリといつもの様に笑いながら聞き返す。

「・・・ん・・・思ってたのと全然違うけど・・・なんとなく・・・解った気がする」

少し考え、何かを思い出すようにしながらも、笑いながら答えるアーリャ。

「そうか」

そんな彼女を見て、笑顔を返す。なにはともあれ、これで無事に終了である。
二人はそのまま、竜で帰る。





と思ったら

「んじゃ、もう一発いくぞ」

タカシが笑顔で言い放ち、またグングニールを天高く掲げた。

「ちょっと!?一回だけじゃないの!?」

「そんな事言ってないだろ?それに、こんな機会もそうそう無いんだ。一回でも多く受けておかないとな」

一回だけだと思っていたアーリャは、慌てて声を荒げて抗議するが、笑顔で返され、そのまま有無を言わさずに再び雷に打たれてしまう。

雨がと雷が止むまでの間、周囲にアーリャの悲鳴が辺りに響いていた。

その後彼女はグッタリと疲弊し、タカシの腕に抱かれ、店に戻る巨竜の背中に乗っていた。
いつの間にか、土砂降りが怖くなくなっていたと気がついたのは、一夜明けてからであった、




紆余曲折があり、タカシとアーリャが修行から帰ってきて、サイトたちがボロボロになった次の日。

その日の朝。
まだ店が営業していないこの時間に、店内に四つの人影があった。

「よし、んじゃ始めるぞ」

そう言い、机の前に立つタカシ。

「おう!」

「いつでも来い!」

サイトとレインは元気よく返事をした。
そして、机に置かれたグラス。これには水が一杯まで入り、その上に木の葉が浮かんでいる。そのグラスに両手を添える。

そんな彼等を少し不安そうに見つめているアーリャ。彼女は本来、ここに居なくてもいいのだが、何故か一緒にいる。

そして

「よし。やれ」

タカシに言われ、まずサイトが、グラスに手を翳したまま「錬」を行う。

すると、グラスの水がチョロチョロと溢れ出した。

「ふむ、お前は「強化系」の念能力者だな」

「へ~。って、具体的にどういうのなんだ?」

そう言われ、サイトは不思議そうに質問した。
今彼らは、念能力の系統を判別するため、水見式(みずびしき)と呼ばれる方法による判別をしているのだ。
タカシはサイトに強化系の具体的な内容を話してやる。物体や自信をオーラで強化するのが得意な系統。戦闘においては最もバランスが良い系統であると。
そんな説明を受け、理解したのかしてないのか。恐らくしてないであろうサイトが生返事をしていた。
そんなサイトに説明するのを後回しにし、というか一旦諦め、レインの方を向く。

「よし。次、レイン」

そう言われ、彼も同じ様にグラスに手を翳し「錬」を行う。
すると、グラスに浮かぶ葉っぱが、ゆっくりと回転し始めた。

「ほぉ・・・・「操作系」だな。お前は」

「操作系?」

「あぁ操作系は―――」

サイトと同じ様に、首をかしげて不思議そうに聞いてくるレイン。
彼にも操作系の系統について色々と話してやった。
そして一通り話しが終わると、首をかしげながらも、アーリャが素朴な疑問を投げかけてきた。

「タカシは変化系って言ってたわよね?それだとこの水はどうなるの?」

「ん?んじゃ、ちょいとやってみるか」

そう言い彼もグラスに手を翳す。
そして「錬」を使い少しすると手を戻した。

「何も変化してないんじゃない?」

少し不安そうにアーリャが聞いてきたので、タカシが「水を飲んでみろ」と言い、彼女がグラスを手に取り、言われたとおりに一口飲んでみる。

「うぇ!何これ!ものすごく甘いんだけど!どれだけお砂糖入ってるのよ!」

顔を顰めながらそう叫んだ。蜂蜜よりもずっと甘いであろう水を普通の水と思って飲んでしまったのだから仕方ない。
そして、そんな反応を予想していたかのように、タカシはニヤニヤしながらアーリャを眺めている。

「それが変化系の証拠だ。変化系だと水の味が変わるんだ」

そんな答えを聞き、目を見開き驚くが、同時に遊ばれている事も理解し、一瞬ものすごい迫力でこちらを睨みつけるアーリャ。しかし、ふと何かを思いついた様に態度を改めた。

「へ~・・・でもこれ便利ね。甘いものが欲しくなったら貴方に頼めばいいのね」

そんな事を言い出し、ちょっとずつその水を飲みだしたのだった。
そんな彼女に少し呆れ気味のタカシ。
そして、気を取り直し、ゴホンとせきをした後、サイトとレインの二人に
「今の「錬」で起こった変化が、より強力になるよう、自分で試行錯誤してみろ。一ヶ月後、その成果を確認する」
そんな課題を与え、二人の元気の良い返事を確認した後、アーリャからグラスを取り上げ、そのまま朝の仕込みの為に厨房へと向って行った。
ちなみに、甘い水を取り上げられた少女がかなりご不満な様子であったそうな。



そしてその日の仕事の始めに、スカロンによるイベントの発表があった。

なんでも、この店の家宝とも呼べる「魅惑の妖精ピチュ」を一日着用できる権利を、今週から一週間行われるチップレースの優勝者に与えるという事らしい。

このピチュには「魅了」の魔法がかかっており、これを着ると普通の女の子でも絶世の美女に見えるらしい。

それを聞き、ルイズ、タバサ、アーリャが何故か頑張ろうとか思っていたとかいないとか。



こうしてチップレースの幕が開けた。


ルイズは、色々と努力をしてみたが、結局挑発され爆発し、サイトに相談するも、過酷な修行と店の労働で疲れている様で、適当な返事しか返ってこず、そのままサイトを殴るという事を五日間繰り返していた・・・。

六日目の朝、そんなルイズは落ち込み、ベットから出ようとしなかったが、サイトの激動により復活。
ラストスパートを掛けたそうだ。


アーリャは何だかんだでお世辞は余り言わないが、聞き上手なのか上手い具合に相槌を打ち、客の機嫌を取り、かなりの額のチップを貰っていた。
接客商売には向いているのかもしれない。
それとも、単純にどうしても勝ちたかったのか。




タバサは・・・彼女が一番すごい。
彼女は口を開かないし、終始無表情である。
しかし、話を聞いてない訳ではなく、時折コクンと頷く。
そして肩に乗せたリスに注文等の会話を任せているので、彼女の声を聞いたことがある客は居ない。
そのため、「この子に喋ってもらいたい」「笑ってもらいたい」等と思い、必死にチップを貢ぐ馬鹿が多いのである。


結果。

彼女は最終日までに155エキューという、ジェシカに継いでこの店二番目のチップを稼ぎ出していた・・・一言も喋らずに・・・。

ちなみに、そんな二人の神秘の守りも完璧で、指一本触れさせなかったそうな。



だが、後日誰かが半ば自棄気味に

「・・・もういやだ・・・いい加減疲れる・・・何なんだあの馬鹿共・・・次から次へと・・・」

とか漏らしたのをサイトが聞いていたとか。


そして最終日に途中経過の発表。

一位、ジェシカ 160エキュー。
二位、タバサ  155エキュー。
三位、ジャンヌ 98エキュー。

・・・一位と二位が僅差だが、その後ろの差が圧倒的であった・・・。
しかし、本日はお客がたくさん来る日だそうで、まだまだ挽回が可能らしい。
それをスカロンが発表し、大いに盛り上がる女の子達。

そうこうして少女達が頑張っていると、チュレンヌと呼ばれた太った貴族が店に入ってきた。
真っ先にスカロンが「生憎満席で・・・」と言い、何とか追い返そうとするが、取り巻きの貴族であろう者達が杖を抜く。それを見た客達が一斉に帰って行った。

そんな男を厨房から見ていたサイトとタカシがジェシカに「アレ誰?」と聞くと

「この辺りの徴税官。あぁやって管轄区の店にやってきて集るいやな奴」

だそうである。かなり険の篭った口調だ。あの貴族は、店の子達には相当嫌われているらしい。
それを聞き、サイトがタカシに目配せをして来た。
それを受け、タカシは答える様にニヤリと笑う。そんな反応を確認したサイトは一人、店の奥へと入って行った。


そんな中、チュレンヌには誰も酌をしようとせず、彼が何かしら難癖をつけようとした所、チップ0で頑張ろうとしているルイズと、何やら張り切っているアーリャ、タバサの三人が、お酌をしに近づいて来た。
そんな三人を見たチュレンヌが

「何だ?この店は子供を使っているのか?」

わははと小馬鹿にしたように笑い出した。
三人に青筋が浮かび、一瞬、何やらヤバイ雰囲気になるが、チップの為にと三人とも怒りを抑え、少し引きつった笑みでお酌をしようとしていると

「ん?子供ではなく、胸の無い娘か。どれ、このチュレンヌ様が大きさを確かめてやろう」

そう言い、下卑た笑いを浮かべながら、近くに居たルイズに手を伸ばすが、その手が触れる前に、チュレンヌの視界は真っ暗になり、同時に衝撃を受け吹き飛ばされた。

宙を舞うチュレンヌを呆気に取られて眺める取り巻きの貴族達。

しかし、すぐに正気に戻り、皆杖を引き抜き、「貴様!」とか叫んでいる。
そんな者達を無視するかの様に、一旦奥に下がって重りを外し、手にデルフを持ち、たった今チュレンヌを蹴る飛ばしたサイトが、唸るような声で呟いた。

「おっさん。いい加減にしておけよ?」

結構怒っている様です。
そんなサイトの迫力に一瞬気圧されながら、未だ何かをしようとする貴族達だったが

「暴れるならオレも混ぜてよ!」

そんな元気な声と共に、レインが飛び込み、楽しそうに貴族達を吹っ飛ばしていく。
色々と鬱憤が溜まっていた様で、そんな鬱憤を発散するべく、精力的に活動するレイン少年。
小さな子供が大の大人、しかもメイジ達を、次々と倒していく。
そんな光景に呆気に取られながら、何とか立ち直った一人が、アーリャとタバサに向けて魔法を放とうとした。
二人はそんな敵に気がついたが、如何せん仕事中は杖を携帯しておらず、対処出来ないでいると

「をいをい、店の中でぶっ放すつもりか?周りの迷惑考えろよ豚共」

「だからってあっしを投げないで~~~~!」

そんな声と共に、一本のナイフが投擲され、魔法を放とうとしていた貴族の、杖を持っていた手に突き刺さった。

そんな事をしている内に、レインは周囲の貴族をみな叩き伏せ、良い笑顔でピースサインをしてきた。

「どーだぁ!あー、スッキリした」

平民が貴族に手を挙げるという暴挙。
しかもその平民が自分達を倒してしまった。死者は出ていないようだが、皆腹や頭を抑え、苦しそうにしている。
そんな光景を見て、怯えながらも

「き、貴様ら!貴族であるこの私に何て事を!か、覚悟はできているんだろうな!?」

そう必死に叫ぶチュレンヌであったが

「だから?死んだ後でもそう言うのか?」

タカシは笑顔で、貴族の一人に刺さっていたナイフをグリグリと動かした後に(ワザと)引き抜き・・・何か悲鳴が聞こえたが無視し、そのままナイフをチュレンヌに突きつけた。

「貴族がどうした!ルイズに触っていいのは俺だけだ!」

堂々と、何やら色々問題のある発言をしたサイトが叫びながらもデルフを突きつけた。
そんな叫びを聞き、サイトの後ろで顔を真っ赤にするルイズ。

「なぁ、こいつ頭悪いんじゃないの?」

失礼な事を不思議そうに聞いてくるレイン。
彼は特に邪気が無く、思った事をそのまま質問している様であった・・・一番酷い気がします。

だが、それでも直、権威を傘にしようとするチュレンヌ。
それをを見て

「ちっ・・・本当に殺してやろうか?」

いい加減鬱陶しくなったのか。
舌打ちをし、嫌そうな顔をしながらも、本気で殺そうかと考えるタカシだったが、その両手をアーリャとタバサがホールドして「だめ」っと口を揃えて止めた。

そんな中

「私は女王陛下の女官よ!とある事情でここに居るけど、木っ端役人に名乗る名は無い!今日見たこと、聞いたことを忘れなさい!さもないと・・・」

と言いながらルイズは、女王陛下の許可証を付きつけた。
それを見たチュレンヌ達は我先に「これで許してくれ」と財布ごと置いて、そのまま逃げるようにして店を出て行った。


その後、冷静になったサイトが、己の正体をアッサリばらしたルイズを怒るが、スカロンや店の皆はそんな事は分かっている。
関係ないと言い、そのまま彼らは受け入れられる事になったそうな。


そして、チップレースの優勝は、財布ごと巻き上げたルイズに決定。



するかに思えたが、待ったがかかった。

「待って。私達も一緒にやった。公平に三等分するべき」

淡々と、しかし何やら逆らいがたい迫力でタバサが呟く様に発言した。
大声ではないが、その声はしっかりと周りの者達の耳に届いた。

「ちょ!ちょっと!?何でよ!良いじゃない!私の優勝で!」

「だめ。不公平」

ルイズは優勝し、ピチュを着てサイトを誘惑してみようとか考えていた為、この発言に大いに焦り、声を荒げて抗議をするがタバサは首を横にふるばかり。
しかも、あながち間違った事は言っていない。そこへアーリャも加わり

「えぇ。やはりここは公平に三等分するべきね」

良い笑顔で微笑みながらルイズに語りかける。こちらも不気味な迫力だ。
ルイズは、そんな二人にたじろぎながらも、何とかしようと考え、

「そ、そうだわ!サイト達にも聞いてみましょう!ねぇ、あんた達。このチップは私一人の物よね?」

いきなり話しをふられ、焦る三人。ここで下手な事を言えばこっちに火の粉が飛ぶ事は確実であろう。
どう対応しようかと迷っていると

「どうなの?」「あなた達はどう思う?」

タバサとアーリャも、同じ様にこちらに意見を求めてきた。無表情のタバサと笑顔のアーリャ。そして怒鳴り散らすルイズ。
かなり怖い三人娘に、どう対応しようかと悩む男三人。
そしてタカシが

「・・・・む・・・さっきのやつらがもどってきたかもしれないきがした。ちょっとわるものたいじにいってくる」

冷や汗をかき、引きつった笑みでそう言うと、返事を聞かずに店を飛び出していく。

「お、おい!俺もいくぞ!」

「え?えぇ?あ、あぁ!待ってよ!オレも!」

サイトとレインも慌てて後を追って行った。
待てとか待ちなさいとか待ちやがれとか言う罵声を無視し、そのまま三人は無事脱出。
結局、そのまま残った三人で議論が続き、多数決とスカロンの仲裁により、ルイズのチップはキッチリ三等分されたとか。

ちなみに、他の女の子達達は、遠くから微笑ましそうにそんなやり取りを眺めていたらしい。

そうこうして、不毛な争いが収まったと見て取り、”わるものたいじ”から戻った三人は、そのまま店の片付けをし、本日の仕事が終了と言う所で、レインがタカシを呼び止めた。
そしてその場に、タカシとレイン。着替えてきたアーリャとタバサが留まっている。

「んで?水見式の用意なんてしてどうするんだ?まだ一週間しか経ってないぞ?」

「へへ、いいから見てみろよ!」

不思議そうに質問するタカシに、レインが得意気に笑いながらもグラスに手を翳し、「錬」を使う。

次の瞬間、浮かんでいた葉っぱが凄まじい勢いでグルグルと回転し始めた。
葉っぱどころか水までグルグルと渦をまいている。

「どーだ!」

誇らしげに叫ぶレイン。
少女二人は「おー」っと言った感じで、多少驚くやら関心するやらしている。
そんな中、一人だけ目を見開き、ポカンとしながらも二人より遥かに驚く男が居た。

タカシは珍しく本気で驚き、言葉が出ない様である。
そんなタカシを見て、バカにされたとでも思ったのか、レインが怒り出す。

「何だよ!これじゃ足りないってのかよ!」

彼は、そんなレインの反応を見て、我に返り、その後直ぐに笑顔になりながら、レインの頭をグシグシと乱暴に撫でた。

「あぁ。合格だよ。まさか一週間で・・・しかもコレとは・・・よくやったな。偉いぞ」

素直にレインを褒めちぎる。
この男がそんな行動をするとは誰にも予想できなかった為、皆信じられない物を見るような目をしながら硬直している。
そして真っ先に回復したレインが叫ぶ

「だ、だろ?どうだ!参ったか!ってか手どけろよ!痛いんだよ!」

そんなレインの頭を更に強く撫でるタカシ。乱暴に撫でられ、嫌そうにしながらも、褒められた事は嬉しいのだろう。なにやら複雑な表情をし、テレながら怒ると言う器用な真似をするレイン。
そのまま少しして、タカシはレインにいくつか別の課題を与えた。

ちなみに、その後タバサとアーリャが
「甘い水を出して」
とか上目遣いで言ってきた。
それに苦笑しながら「錬」で水を甘くしてやるタカシ。念の使い方間違ってませんかね。




そんなこんなで翌日。

タカシは自分達に用意された部屋の前に来て、ノックをし、許可が出たので中へと入って行った。

そこには、魅惑の妖精ピチュを着たタバサが、チョコンと椅子に座っていた。
その姿は妖精と形容するに相応しい姿であろう。

結局、チップを三等分した結果、元々稼いでいた155エキュー分多かったタバサが優勝。
残りの二人がその事に気がついたのは、三等分が決定した後で、二人共悔しそうに、本当に悔しそうにしていたとか。

そして現在、部屋には二人しか居らず、テーブルの上には料理が並んでいた。

「おー。どうしたんだ?お前が作ったのか?」

タバサには目もくれず、料理を見て関心したような声をあげるタカシ。
そんな反応に少し不機嫌そうにしながらも、コクンと頷き肯定するタバサ。

ちなみに、アーリャとレインはシルフィードにより強制的に何所かへと放逐・・・ではなく、自主的に席を外してもらっているらしい。

後にシルフィードが

「ごめんなのね。でもあの時のお姉様に逆らっちゃいけない気がしたのね。大いなる意思にもそういわれたのね気がするのね。シルフィ悪く無いのね」

とか二人に言ったらしい。
それは兎も角。

「うん。結構美味そうじゃないか・・・どれ」

タバサに何やらご馳走してくれると言われ、部屋に呼ばれたタカシは、そのまま用意されていた椅子に座り、現在料理を口に運ぼうとしていた。

用意された料理は、見た目はかなり出来が良い物だ。
タバサは何やら期待するような眼差しで正面
から睨むようにして見てくる。

そんな視線を受けながらも、彼はスプーンを手に取り、スープを一口食べてみた。

「・・・・・・ほぉ」

一瞬険しい表情をし、すぐにその表情を隠し、驚きの声を上げるタカシ。
だが、内心かなり焦っていた。

「・・・(これは・・・何でだ?何で見た目は普通なのにこんなに苦いんだ?・・・おかしい・・・っつか、この場合美味いと言わなきゃ後が怖そうだな・・・それ以前に、コイツ自分でコレ食ってみたのか?)・・・美味いな」

少しだけ引きつった笑みでそう答えてやった。
その答えを聞き、ホっと胸を撫で下ろすタバサ。
そんな少女に、タカシは疑問に思っていた事を聞いてみた。

「なぁ、お前コレ試食したのか?」

頷き、肯定するタバサ。

「・・・そか(だったら何で!?苦いだろこれ?っつか、何入れたんだ?)・・・なぁ、これ、何か隠し味でもあるのか?」

「ハシバミ草」

隠し味にハシバミ草を入れたと、少し自慢気に仰るタバサ嬢。
ハシバミ草は彼女の大好物で、かなり苦い野菜である。
実際、隠し味と言うほど少量ではなく、粉末にしたり磨り潰したりと、ありとあらゆる方法で、かなり大量に入っている事は彼女しか知らない。

「そ、そうか(・・・そういや、こいつはアレが好物だったな・・・でも、何で色とか匂いは変化してないんだ?見た目と匂いだけなら完全に普通の料理だぞ?・・・考えるだけ無駄だな・・・今はそれよりも、現状をどう乗り切るかだ・・・)そ、そういえば、お前は食わなくていいのか?」

別に不味いワケではないのだが、この苦さは簡便願いたい。
そんな思いで、とりあえず彼女にも量を減らす手伝いをしてもらおうと結構必死なタカシ君。
そしてタバサもコクンと頷き、スプーンを手に取り、スープを食べようとするが、そのスプーンを落としてしまった。

「ん?どうし・・・って、お前、手傷だらけじゃないか」

その手には、痛々しそうに包帯が巻いてあったり、また無数の傷があった。
なれない料理をした代償だろう。
傷だらけの手を見られ、少し恥ずかしそうにしながら手を引っ込めるタバサ。
そんな少女を見つめ、タカシは軽く息を吐き、苦笑しながら

「ほれ、口開けろ」

そう言い、スープを掬い、タバサに差し出す。
それを見て目を見開き、顔を赤らめ、硬直するタバサ。

「ほれ。折角の料理が冷めちまうぞ?その前に食わんとな」

タバサが何故赤くなったのか。こんな行為は子供がされることで、恥ずかしいと思ったのだろうと結論付け、多少強引に口を開かせようとするタカシ。
しかし、彼女の赤くなった理由はそこではなく、彼が今差し出しているスプーンにあった。それは先ほど、彼が自分が食べる時に使った物であって・・・つまり・・・まぁ、間接キスになる訳で。
そんな少女の思いを知ってか知らずか、タカシはそのまま料理を彼女の口に押し込んだ。

「どうだ?美味いか?」

笑顔でそう問われた。
その顔を直視できず、多少俯きながらもタバサは小さく

「・・・美味しい」

そう呟いた。
そして、一回やって慣れたのか、それとも開き直ったのか。
タバサは自分から口を開けて食べさせてと言い出した。
そんなタバサに料理を食べさせてやるタカシ。

(ひな鳥に餌やってるみたいだなぁ。ま、本人が美味いっつってるしいいか。あ~・・・でも、流石に俺も少し食うかな・・・不味い訳じゃないんだ・・・ただ、多量に摂取するのが困難なだけで・・・手怪我してまで作ってもらった物だしなぁ・・・よし)

タバサの表情や態度を見て、最初の思惑とは別に、そう決意し、自分でも料理を食べるタカシ。
苦かったが、不味いという訳でも無いので、我慢して食べる。
そしてそのまま美味いと言ってやり、同じものをタバサにも食べさせる。
彼女は終始顔を赤くしながらも、素直に料理を食べさせてもらい、やがて二人は料理を平らげた。

「ふー・・・ごちそーさん。ま~、美味かったよ。うん」

褒められて嬉しそうにするタバサだったが、一つ。足りない物があった。
無言でタカシを睨むタバサ。
その視線による圧力は中々な物で、彼は冷や汗をかきながら考えた。
考えた結果、何を言って欲しいのか理解はした。理解したがどうするか。
そんな事を悩んでいる内に、何やら不機嫌なオーラまで出て来た。このままでは宜しくないと判断したのか。観念した様に溜息を吐き、一言。

「あ~、その服。似合ってるな。可愛いよ」

そう言いながらタバサの頭を撫でてやった。すると先ほどまでの危険な気配が嘘の様に消え去り、彼女は再び顔を赤くし、暫く頭を撫でられて居たとか。






以上です。二話にする予定だったのですが、つなげてみました。長いでしょうかね?それとも、今までが短かったのか・・・。








[4075] 第五部 第四章 美人?×デート!?×お仕事
Name: 豊◆0ec87a18 ID:c8652f5c
Date: 2008/10/12 01:32




サイト達が魅惑の妖精亭で情報収集の任務を開始してからしばらく時が過ぎた頃。
サイトが一人店の裏で洗物をしていると、フードを被った女性に声をかけられた。
なんとその女性はアンリエッタ姫で、何やら込み入った事情があるように見て取れた。
その為サイトは、姫殿下の要望どおり、誰にも話さずに姫様の護衛をする為、こっそりと魅惑の妖精亭を後にした。

その後、これはアンリエッタ自らを囮とし、反乱分子を炙り出す為の作戦である事を聞きいたサイト。姫様は悪戯をしている子供の様に、何所か楽しそうにしながらもサイトと会話をし、そのまま紆余曲折があり、アニエスや銃士隊などを使い裏切りの可能性のあるリッシュモン伯爵を罠にかけ、アニエスが復讐を果すなどをしていたらしい。

それは置いといて。

サイトがこっそり抜け出した丁度その頃。
店の中でも異変が起きていた。
本日は休んで良いと、店長であるスカロンに言われたアーリャとタバサは、シルフィードを部屋に引っ張り込み、何やら以前の様な会議を開いていた。
ちなみに、議題は「妹扱いされないためにはどうするべきか」であって、「気になる相手に云々」では無いらしい。

そしてそんな会議がしばらく続き、何やら作戦をたて、雑用をしているであろうターゲットに接近しようとした二人だったが、ターゲットであるタカシは居らず、レイン一人が雑用をしていた。
そんなレインに「タカシは何所?」と聞く二人。レインは素直に「あそこだよ」と言い、指を指した。

そこには、席に座り、楽し気に会話をするタカシと、ブロンドの長い髪の美しい女性が居た。
傍から見たら恋人同士に見えなくも無い絵だ。

その光景を見た瞬間、少女二人の周囲の空気がギシっと言う妙な音を醸し出した様な雰囲気がしたと、後にレインは語った。

「どういう事?」「あの人はだ~れ?」

タバサはうっすらと微笑み、アーリャは素敵な笑顔でレインに質問した。
でも二人共目が笑ってませんがね。
そんな脅迫じみた質問に、何でオレがこんな目に・・・とか思いながらも、少年は少し涙目になりながら必死に事情を話す。

「し、知らないよ!ちょっと前にあの女の人が来て、それを見たタカシ兄ちゃんが店の女の人より早くあの席に行って、いろいろ話し始めたんだよ!」

それを聞き、何やら先ほどより更にヤバそうな雰囲気になる二人の少女。
彼女達は「ほぉ」っと言う感じで話題の主に視線を向ける。

「・・・ほぉ・・・なるほどねぇ・・・」

「・・・へぇ・・・」

口に出してますね。アーリャさん、タバサさん共に泣く子も黙る雰囲気です。ってか、子供が見たら泣くかも。

そんな二人を見て、ガタガタと震えだすレイン少年。
ちなみに、普段ならこんな時何かしら言ってくれるであろうリントは、タカシの肩にチョンと乗っている。

そして二人の少女は、気づかれない様に注意しながら厨房の影から聞き耳を立て、目標を観察し始めた。


「えぇ。本当に――――」

「あぁ、――――だな」

「でも――――でしょ?」

「あ~、そりゃ―――」

「もう、そんなだから―――」

「あー、ハイハイ。悪かったよ」

「まったく。だから――――」

「あ~、そーですね」

「ふ~、もう・・・フフ」

「ハハハ」


距離があったため、完全に聞き取る事は出来なかったが、二人は終始笑顔で、楽し気にストロベリートークを繰り広げている。
そんな光景を見せられ、状況は悪化の一途を辿る。一歩間違えれば終わるだろう。
この店が。
そして、店を終わらせる可能性のある爆弾娘達が「注文をとるフリをして様子を見てきなさい」と笑顔でレインにお願いを・・・命令ではなく”お願”いをした。
お願いされたレインは激しく首を上下に振り肯定すると、目標地点に向けてすっ飛んで行く。


「え、えっと、兄ちゃん。何か注文はある?」

必死に笑顔を作り、なるべく愛想良く語りかけるレイン。
一方、そんな不自然な少年の態度を全く気にしない二人は

「いんや。特に無いな」

「あら、この子タカシの弟?」

「ま、そんな物だな。名前はレインだ」

「まぁ、可愛いわね。私はディアナって言うの。宜しくね。レイン君」

女性は優しい笑顔でレインに名乗った。
整った顔立ちで、ブロンドの腰まである長い髪の毛。
ピッチリとしたスーツの様な服装で、体のラインがはっきり分かる。
スタイルはシエスタほどではないが、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。ナイスバディーと言うやつだ。
年は二十代前半~であろうか。大人の雰囲気を醸し出している。

そんな女性に、レインも思わず顔を綻ばせ、思っていた事を素直に口に出した。

「ほえ~、キレイな人だね」

「あら、ありがとう。弟君は良い子ねぇ。お兄さんはそんな事言ってくれないわよ?」

「言うまでも無いと思って言わなかったんだよ」

「はいはい。どうもありがとう」

白々しいセリフを吐く男を軽くあしらいながら、ディアナは笑顔でレインにも会話を持ちかけた。
少年はこの様な女性に接する機会が今まで無かった為か、少し照れながらも、楽しそうに会話に加わる。
そのままレインを加えた三人で、楽しく会話をしている。

が、レインは突如何かを思い出した様にハっとし、厨房へと全速力で走リ出した。
そんなレインの不審な行動に二人は首をかしげながらも、直ぐに気を取り直し、楽しそうに会話を再開した。

そしてレインは厨房へと戻り・・・二人の少女に見られて、断じて睨みつけられている訳では無い。ともかく、見られている。
そこで彼は、脱水症状を起こすのではないかと思う程大量の冷や汗を流しまくっていた。

「あ、あの「それで?何か分かった?」え、えっとね「早く言って」えっと・・・だから「「早く言え」」ヒィ!ご、ごめんなさい!分からないです!で、でも!二人共すごく仲良さそうで恋うわぁ!オレが何したって言うんだよーーーー!わーーーー!ごめんなさいごめんなさい!」

少年はかなり悲惨な事になっていた・・・。
後半は本気で泣きが入っています・・・。
色々な人の名誉とかそんなのの為に、何があったかは記述できませんが・・・。

一方、哀れな子羊の悲劇とは全く関係なく、タカシとディアナは良い雰囲気で会話を続けていた。
そのまま暫く時が経過すると、タカシが厨房に戻って来た。

「・・・レイン?どうした?」

「・・・・なんでもないです・・・・」

物凄く消耗し、グッタリしている義弟を訝しげに眺めるタカシ。レインとしてはお前の所為でオレがこんな目にとか言いたいであろうが、そんな気力も無かった。

「そうか・・・ま、いいや。ちょいと出かけてくる。今日は帰らないと思うから、スカロンには適当に言っといてくれ」

そんなセリフを吐くと、彼はそのまま踵を返して何処かへ出て行こうとする。
その発言で、何かがブチンと千切れる音が聞こえた気がするが、とりあえず、色々と我慢していそうなアーリャが、ピクピク震えながら冷静に質問をした。

「で、出かけるって、ど、どど何所に?」

「ん・・・ま、その辺りをブラブラとな」

次にタバサが、いつも通り無表情で、しかし、拳を握り締めながら質問。

「一人で?」

「いんや。ま、兎も角、ちょっち行って来るわ。んじゃ」

サっと片手を上げて軽く挨拶をすると、タカシはそのまま店の外へ――出る前に、待たせていたディアナと合流し、二人はそのまま自然な動作で腕を組み、店を後にした。

その瞬間、実際にギリと言う、何かを噛み締めたような不吉な音が聞こえた気がしたレインは、こっそりと脱出しようとした。
だが、神はそんな少年に慈悲を与えて下さるような優しさを持ち合わせていない。

「レイン?少しお願いがあるんだけれど、いいかしら?」

「貴方にしか出来ない仕事」

アーリャとタバサに笑顔で”お願い”をされ、断れるハズも無く、レインは”快く”お願いを聞き入れることにした。断じて強制的にとか、そんな物ではない。


「それでね?―――」

「ほー、そりゃまた――――」

「でも――――」

「あ~、そりゃ災難だったな」

「でしょ?まったく・・・」

「まーまー。でも―――」

「あら、ありがとう」

「いえいえ。どーいたしまして」


二人して腕を組み、中睦まじく寄り添いながら町を歩いている。
そんな二人を「絶」で追跡するレイン。
彼に与えられた仕事は、尾行である。
「絶」で完璧に気配を絶ち、なるべく二人の近くで、可能なら会話も聞けとの事だ。
レインは現在、必死でその任務に従事していた。
少しでも手を抜こう物なら、自分の更に後方で、追跡している二人の少女に何をされるか・・・。
普段はとても優しい二人だが、怒っている時には絶対に逆らってはいけない存在。
少年は幼いながらもその事を理解しているのであろう。
ともかく、タカシとディアナを、レイン、アーリャ、タバサが尾行しているのだった。


「ねぇ、――――」

「あぁ。――――」

「あら、そうなの?」

「ん。そーなの」

「それなら―――」 

「そうだな―――――」

後方で必死に頑張る少年や、恐ろしい・・・ではなく、笑顔の少女二人に追跡されている事に、全く気づかない様子のタカシとディアナ。
二人はそのままトリスタニアの町を歩いている。
暫くして何所かの店に入り、少しすると二人で出て来た。
そんな行動を暫く繰り返し、やがて仕立て屋へと入る二人。
また暫くすると、ディアナの服が変わっていた。仕立て屋で購入したのだろう。
先ほどまでディアナは、ピッチリと体に張り付くような、スーツの様な服装だったのだが、今はゆったりとしたワンピースを着ている。

二人はそのまま料理屋へと足を運んだ。
彼等は料理屋のオープンテラスに座り、談笑しながら昼食をとっている。
そんな光景を、少し離れた路地裏から監視するタバサとアーリャ。
そこへ、一旦レインが戻って来た。

「えっと・・・会話はやっぱ聞き取れなかったんだけど、相変わらず仲良さそうだったよ・・・」

慎重に、言葉を選びながら報告をするレイン。時限爆弾を解体する人の心境だろうか。だが、そんな少年の言葉は、恐らく二人には届いていない。

「ねぇ、アレって・・・デートよね」

「そう。アレはデート」

「・・・タカシ、何か楽しそうよね・・・」

「・・・・・そう・・・・」

「服も買ってたし・・・あんな表情、私達には見せないわよね・・・」

「・・・・大人の女性?・・・・・」

「「・・・・・・・はぁぁぁ~・・・・・・」」

二人してボソボソと話し合い、最後に何かを吐き出すように息を吐く。
恐らく、怒りとか何かそういった物を少しでも発散する為であろう。
その後アーリャは何事かブツブツ呟きながらタカシを睨み、タバサは無表情だが、その目には明らかに普段とは違う、強い感情を込めながらタカシを睨みつけている。

そんな二人の傍にいるのは、精神的にかなり宜しくない。
小動物とかなら彼女達の気迫で気を失いそうであった。
その為レインは再び「偵察にいってきます!」と元気良く言い放ち、その場から退避した。
そして少し離れた建物の屋根の上に座り込み

「・・・はぁ~~~~・・・タカシ兄ちゃん・・・恨むよ・・・」

そう言いながら空を見上げ、ホロリと涙を流していたとか。


そのまま少しして、二人は食事を終え、先ほどと同じ様に町を散策。
日が傾いてきた頃、一件の宿屋に入って行った。

心なしか、その宿屋に入る者は、若い男女の客が多い気がしたが、そんな些細な事は怒れる少女達には関係ない。

二人が宿屋に入った事を確認し、彼女達は何やら目で会話をする。

――――どうする?――――
――――ある程度時間が経過したら乗り込む――――

そんな会話を成立させ、二人は力強く頷いた。

十分が経過。

二人は何かを堪える様に、少し震えながら宿屋の入り口を見張る。

二十分が経過。
手近に何か殴れる物でもあったら殴ってそうな感じで、何やら堪えている二人。何処かから警戒警報とか流したほうがいいかと・・・。

三十分経過。
限界が来たらしい。
二人は顔を見合わせ、しっかりと頷くと、杖を出し、突撃準備をする。

「ちょ、ちょっと!?二人とも!落ち着いて!」

二人の後ろに控えていたレインが慌てて止めようとするが、そんなレインにゆっくりと振り返るアーリャとタバサ。

その日、一人の少年は心に傷を負ったらしいが、詳細は不明。

ともかく、レインが止めるのを無視し、二人は宿屋へと突入して行った。






以上です。ちょっとオリキャラ一人追加です。
ディアナのイメージとしては、仕事ができてピシっとしているカトレアって感じですかね?ん~、それよりもミスロングビルに似てるかな・・・ともかく、そんな感じです。
ちなみに、アンリエッタ姫ですが、皇太子さん生きてるのでサイトとのフラグは無しです。



[4075] 第五部 第五章 突撃×襲撃×衝撃
Name: 豊◆0ec87a18 ID:c8652f5c
Date: 2008/10/12 12:25


宿屋らしき建物に突撃した二人の少女。
ドバンと言う、ちょっとドア開ける音では無い音を立てて店のドアを開け、周囲を見渡す。
すると、一階にロビーの様な場所で椅子に座り、一人紅茶を飲んでいるディアナを発見した。

「あら、早かったわね」

二人の少女が何かしら行動する前に、ディアナが笑顔でそう言い放った。
その言葉の意味が分からず、怒りを横に置いといて、キョトンとする二人。
そんな二人の態度を全く気にする様子も無いディアナは、相変わらず素敵な笑顔で

「ま、とりあえず少し場所を移しましょう。良いお店があるのよ。いらっしゃい」

そう言い、そのまま有無を言わさず二人を引っ張っていく。
途中で疲れ果てているレインも拾って、四人は先ほど二人が昼食を取っていた店に入り、そのまま席に着いた。
その瞬間、今までされるがままにしていた二人の少女が口を開く。

「ねぇ、どういう事?」「どういうつもり?」

何やら少し恐ろしい気を放つ二人にレインが震えているが、ディアナは全く動ず、少し微笑みながら話しかけた。

「まぁまぁ、まずは改めて自己紹介しましょう。私の名前はディアナ。あなた達は?」

笑顔でそう問われ、今まで散々怒気を撒き散らしていた二人だったが、毒気を抜かれたように一つ瞬きをし、溜息を吐き、自己紹介を開始。
二人が名乗った所で、ディアナが再び話し始めた。

「それで?何を聞きたいのかしら?」

「えっと・・・そうだ!タカシは何所よ!?あなた達一緒にあの宿に入ったわよね!?」

「あぁ、彼なら途中から。そうね、私達がお昼ご飯を食べた後から出かけてるわよ」

「「は?」」

平然とそんな事を言われ、ポカンと口を開ける二人。
さっきまで一緒に居たじゃないかとか、そういう事を言いたそうだが、そんな二人が口を開くより早く、二人の反応を楽しそうに見ていたディアナが口を開いた。

「さっきまで一緒に居たのはコレ。スキルニルって言うの。知ってる?」

クスクス笑いながら、小さな木の人形をコロンと机の上に置く。
いきなりそんな事を言われ、現状がよく理解できずに呆けながらも、二人共素直にコクンと頷いた。
そんな可愛らしい二人を楽しそうに眺めるディアナ。
そして、今度はレインが戸惑いながらも質問してきた。

「えっと、兄ちゃんは何でワザワザそんな事を?」

「それはね、あなた達がついて来ない様にする為よ」

それを聞き、驚きの声を上げる三人。
自分達の尾行がバレていたのかと、それぞれそんな事をに口にするが、そんな反応すら彼女の予想通りだったのか、相変わらずクスクスと笑いながらも、三人の疑問に答えるディアナ。

「えぇ。タカシは勿論、私もね。でも、私は最初タバサちゃんとアーリャちゃんしか分からなかったわよ?レイン君が居る事は、タカシが教えてくれたの。彼褒めてたわよ?レインも随分上達したなって」

そう言い、レインの頭を優しく撫でてやるディアナ。
美人のお姉さんにそんな事をされ、顔を真っ赤にして硬直してしまうレインだが、それよりタバサとアーリャは、何故自分達はバレたのだろう?っと小首をかしげている。
そんな二人の疑問にも、ディアナは直ぐに答えてやる。

「あのねぇ・・・あなた達?尾行するのにあんなに殺気紛いの気迫を撒き散らしておいて、気づかれないと思って?」

少し呆れながらそう言われ、二人はハっとしてから顔を赤くし、目をそらした。
それを見て、ディアナは再び笑顔になりながらも、優雅に飲み物を飲んでいる。

「ね、ねぇ!尾行がバレてたのは、まぁ良いよ。タカシ兄ちゃんに何所まで通用するか、そもそも怪しかったし・・・それより!何でそんな人形まで使って、兄ちゃんは何所かに行ったの?ってか、何所行ったの?」

「そうよ!それと、あなたとタカシの関係は!?」

「貴方は何者?」

三人は捲くし立てる様に、知りたい事をまとめて聞いてきた。
そんな三人に少し苦笑しながらも、ディアナは順番に質問に答える。

「そうね。順を追って話しましょう。まずは私の事から。私はね、”ミーミルの泉”って言う、まぁ簡単に言っちゃえば、情報屋の集まった組織のリーダーみたいな物なのよ」

彼女はそのまま、組織の事を少し話してくれた。

何でも、数ヶ月前。
元々情報屋をやっていた彼女の前に、突然タカシが現れた。
そしてそこで
「組織を作る気は無いか?金銭やその他の援助も可能な限りしよう」
と持ちかけられたのだそうな。
彼女の下に彼が現れた事はそんなに不思議では無い。彼女はそれなりに優秀な情報屋で、調べようと思えば彼女の事を調べる事は出来る。しかし、ハルケギニアではそう言った人種。しかも彼女は平民なので、特に優遇はされず、まず表には出てこない。
だが、タカシはそんな彼女の下にやってきて、話しを持ちかけた。
何故自分にと問うディアナ。タカシはそんな問いに、笑顔で
「アンタが優秀だって聞いてな。それに、顔が利くって事も聞いた。何より、信頼できるともね。俺に従えってんじゃなく、あくまでも対等な関係で、アンタは組織のリーダーとして。俺はただ協力者として。お互いの為に相互扶助の関係を築きたい。どうだい?」
そう言われ、彼女は正直、かなり喜んでいた。
対等な関係で。ハルケギニアで情報屋がそんな事を言われる事は滅多に無い。相手は報酬を払い、その要求された情報をこちらが与える。どちらかといえば相手が上で、金を払ってやっているのだから、それなにの代価を遣せと言った態度だ。
だが、この男にはそれが無く、しかも彼の提案した組織とやらを作る事にも、無償で協力するとの事だ。
それに何のメリットがあるのか聞くと
「情報ってのは一番大事だ。コレを軽視は出来ん。そして多くの情報を個人で集めるのには限度がある。だから人手が、組織が必要なのさ。この世界でそういうのは無いだろ?あっても国が運営してる物とかだな。兎も角、情報を集めるには人手が要る。その為の先行投資ならいくらでも惜しまん。情報にはそれくらいの価値がある」
と。そう言われ、彼の言動に関心しつつも”この世界で”という言葉が気になり、質問してみる。
すると彼は、自分は異世界から来た事等を色々話してくれた。
とても信じられない話だったが、確かに彼の証言や考えはこの世界ではまず無い物で、しかも何やらケイタイという物まで見せられたのだ。
そこには、以前貴族の学生に撃退されたと言う情報を掴んだ、土くれのフーケの面白い顔が映った写真まで入っている。
彼女はそれを見て思わず笑ってしまい、同時にその事を聞くと、なんとフーケを倒したのは彼等だったのだそうだ。
そんな感じで暫く話しを聞き、彼女は組織を作る事を承諾。
その後彼女の人脈や、タカシからの援助もあり、今ではかなり大きな情報組織が出来上がっているらしい。
ちなみに、先日彼の下に落雷がある場所の情報を届けたのも彼女の組織だったそうな。


「と言う訳よ。私と彼の関係は・・・そうね、パートナーって所ね」

そんな話を聞き、ポカンとしていた一同だが、最後の「パートナー」と言う言葉で、アーリャとタバサがホっと胸を撫で下ろしていた。
だが

「まぁ、恋人って言っても良いわね」

笑顔でそう言われ、ブチンと言う音が鳴った。
が、すぐにディアナは可笑しそうに笑い

「もう、冗談よ冗談。あなた達、本当に面白いわねぇ」

等とクスクス笑いながら二人をからかっている。そんな女性を見たレインは、
(なるほど。確かに兄ちゃんと性格は似てるかも・・・何か・・・こう、雰囲気とか・・・二人共気が合いそう・・・)
とか、考えていたりしていた。
そしてからかわれた二人の少女は、殺気を込めて目の前の女性を睨みつける。だが、大人の余裕と言うか、そんな物ですべて受け流されてしまっていた。その為、まったく効果が無く、やがて疲れたのか。二人共がっくりと肩を落とした。
そんな中、レインが何かを思い出したように問いかける。

「あ、そうだ!そういえば、何で兄ちゃんはオレ達に何も言わないでどっか行ったの?ってか、何所行ったのさ?」

「あら・・・誤魔化されてくれなかったのねぇ・・・さすがタカシの弟って所かしら?」

などと笑いながらレインの頭を撫で始めるディアナ。
そんな事をされ、また顔を赤くして口ごもってしまうレイン。
だが、その言葉に肩を落としていた二人も反応。
どういう事かと詰め寄ってきた。
しばらく話しをはぐらかしていたディアナだったが、二人の余りの迫力に観念したのか、大きく溜息を吐いてから語り出した。

「ふぅ・・・全く・・・タカシも大変ねぇ・・・ま、良いでしょう。と言っても、私はあの人が何考えてるかまでは分からないから、私が彼に話したことだけを伝えるわよ?いいわね?」

二人が頷き、了承したのを確認してから、彼女は先ほどの事を語り出した。



タカシとディアナが昼食をとっていた時。
そこで彼女は、今回の本題について話し始めた。

「それでね、実は今回、貴方に盗賊退治をお願いしたいのよ」

「ほぉ、盗賊ねぇ・・・なるほど。ま、いいよ」

少し神妙な顔で言うディアナに対し、軽く了承するタカシ。
呆気なく了承されたので、理由を聞かないのかと問うと

「ん。別にいいさ。お前が無意味な事を言ってくるって事も無いだろう?大方、その盗賊とやらがそっちの仕事の邪魔になるとか、そんなのだろ?」

平然とそう言われ、素直に肯定した。同時に信頼されているのだなと思い、彼女は少し喜んだが、そんな感情は一切出さずに話しを続ける。

「ま、そう言うことね。それで、コレが資料よ」

そう言い、持っていたバッグから何枚かの紙取り出し、彼に手渡す。
タカシはその紙をしばらく眺めている。
すると、その資料の一部に反応した。

「・・・・なぁ、この盗賊の頭って・・・ヴァンって名前の・・・こいつの事、ここに書いてある事しか分かってないのか?」

何やら先ほどまでの軽薄な感じではなく、やけに真面目な態度で聞かれた。
その為彼女も真剣になり、そうだと答える。
彼女の組織が集めた情報でも、容姿とヴァンと言う名前。そして恐らく「風」系統のメイジであろう事しか分からなかった。
彼女達が本気になれば、対象の生まれや経歴なども調べられるのだが、盗賊の頭についてはその程度の事しか分からなかったのだ。
そしてタカシはしばし思案し

「・・・よし、今から行って来る・・・それで、お前に頼みたい事があるんだが・・・少し良いか?」

少し言い難そうに問いかけてきた。
彼女はとりあえず了承する。
すると、何やらスキルニルを取り出し、自分と一緒に居るように振舞い、三人を足止めしといてくれと。
そう頼まれた。

「どうして?あの子達も連れて行くとか、そう言うことしないの?相手は盗賊な訳だし、貴方前からそう言う練習相手を探すように私に言ってなかったっけ?だから今回のは丁度良いと思ったんだけど・・・」

「・・・あぁ、悪いね。今回は少し気になる事があるから・・・あいつ等は置いていく。悪いが、あいつらの面倒を見といてくれると助かる」

いつに無く真面目な様子でそんな事を言われた為、彼女は何事かと思いつつも了承した。



「と、まぁそう言う訳。何か事情があったんでしょうが、私には分からないわ」

そう言い終わると、彼女は紅茶を啜った。
その話を聞き、何やら考え込む三人。
そして、アーリャが口を開いた。

「・・・ねぇ、その盗賊の居場所、何所?」

その言葉を、ある程度予想していたのであろう。ディアナは苦笑しながらも

「はぁ・・・あのね?確かに私は場所を知ってる。でもね?彼があなた達を置いていくと判断したのよ?私が知る限り、スクウェア相手でもあなた達に相手をさせようとした彼がね。それはスクウェアメイジであろうと、万一の時は彼がどうにかできると判断したからこその行動。それはあなた達にも分かるわね?」

諭す様に言われ、頷く三人。
彼女は更に続ける。

「つまり、今回の相手は、”彼でも万が一の場合はあなた達を守れない可能性がある”相手だと、タカシが判断したのよ。理由は私には分からないけどね。それも理解してるわよね?」

そう言われ、再び頷く三人。
そして今度はタバサが口を開いた。

「つまり、彼でも危険が有るかもしれない相手だという事。だったら・・・彼が私達を危険な目に合わせたくないと思ってくれているのと同じ様に、私達も彼を危険に晒したくないと言う事は理解して欲しい」

珍しく長く話すタバサ。
そんなタバサを少し意外そうに見るアーリャとレイン。だが直ぐに、二人も話しだした。

「そうよ。貴方が言った事も分かるけど・・・でも、私達の気持ちも分かってよ!」

「そーだよ!オレだってちゃんと約にたつんだぜ!?足手まといと思われてばっかリ何てゴメンだ!」

そんな三人の言葉を聞き、彼女は溜息を吐きながらも目を瞑り、何やら思案する。
三人はそんなディアナを、じっと、睨むようにして見つめていた。

そのまま暫く時が過ぎ、彼女はゆっくりと目を開けた。
そこには、相変わらず彼女を睨む三人の姿。
それを見て、何やら覚悟を決めたように、一回息を吐いてから

「はぁ・・・・分かった。あなた達の気持ちも分かる・・・だから、良いでしょう。ただし、一つ条件があります。本当に危険だと判断した場合、あなた達は絶対に私の言う事を聞いてもらいます。その場合反論は無し。良いわね?」

その言葉を聞き、しっかりと頷く三人。
だが、ふと疑問に思った事をアーリャが口に出す。

「って、え?貴方も行くの?」

「えぇ。あなた達だけで行かせたら、どんな無茶するか分からないしね・・・そんな事になったら、後で私が怒られるわよ・・・まったく・・・」

彼女は苦笑しながらもそう言うと、三人を促し、店を後にした。


「さて、それじゃタバサちゃん?シルフィードを呼んでもらえる?場所は此処から少し遠いのよ。彼もリントに乗って行ったからね」

そう言われ、何故彼女が自分の使い魔の事を知っているのかと、一瞬驚くタバサだが、直ぐにディアナが
「あぁ、タカシからあなた達の事は聞いてるわよ。シルフィードが韻竜だって事もね。大丈夫。あなた達の事と彼の事は絶対に漏らさないわ。始祖にでも何にでも誓って約束できるわよ」
と、疑問に先に答えられた。
そしてタバサがシルフィードを呼び、彼女達は目的地に向って飛行する。

その途中、喋っても大丈夫だといわれたシルフィードが、楽しそうにお喋りを開始。

「ねぇねぇ、貴方はお兄様の恋人なの?」

などといきなり色々な意味で危ない事を言い出した。

「えぇ。そうよ。ディアナって言います。よろしくね」

彼女も笑顔でそんな事を言い出す。

「きゅい~!そんな~~・・・お兄様にはお姉様がお似合いだと思ってたのに~~~・・・でも、ディアナさんは美人だし、チビ助のお姉様が負けても仕方ないかもしれないのね。きゅい」

そんなセリフを吐いたシルフィードの頭を、タバサが杖でバコンバコンと殴り始めた。ポカポカとかボカボカじゃなくてね・・・・。

「きゅい!?ごめん、ごめんなのねお姉様!シルフィうっかり口が滑ったのね!でもお姉様がチビなのは事実で、いたいいたい!ごめんなさいなの~~~許してなのね~~~!」

目に涙を貯めながら必死に謝るシルフィード。そんな足りてない己の使い魔を、無表情で、しかし明らかに怒りながら殴り続けるタバサ。
ディアナはそんな光景を楽しそうに笑いながら見ていた。
アーリャは、彼女が自分達をからかって楽しんでいる事は理解している心算なので、何とか堪えて・・・青筋浮かべてピクピクしてますが、ともかく堪えて、だが隣のレインを怯えさせていた。

そんな愉快な会話をしながらも、一行は目的地に到着。
そこは深い森の奥。山の麓にある小さな集落で、その集落に住む者は全員盗賊と言う、まぁ盗賊村と言う感じの場所だった。

皆は道中で予めその事を聞いていたので、どんな場所だろうと、不安に思っていたのだが、直ぐにその不安は別のものへと変わった。


そんな村の中心だったであろう場所に、人に化けたシルフィを含めた五人は立っている。

「・・・・・何よこれ・・・・」

皆の代表として、アーリャがポツリと呟いた。

周囲に動く物は何一つ無い。
小屋は吹き飛び、瓦礫の山と化し、そこいらに盗賊だった者が倒れている。
死体は切り傷があったり、真っ二つに切り裂かれたりしている。
まるで村の中心で竜巻か何かでも起こった様な被害状況だ。だが、竜巻だけではなく、明らかに別の力が働いてこうなっているのであろう。

そんな光景を暫く呆然と眺めていると、少し離れた辺りで突如、轟音が鳴り響いた。
慌ててそっちを見る一行。
だが、ここからは遠すぎて見えない。
そこで、皆はディアナに視線を向けた。
彼女はその視線の意味を理解し、暫く逡巡した後に

「・・・・まぁ・・・これは・・・少しだけよ。見に行ってみましょう」

そう言うと、彼女達はその場所に向かい、道なりに真っ直ぐ歩きだした。

「・・・でも、これ・・・どうなってるのよ・・・」

アーリャのそんな呟きは、その場に居る者達全員の心境と同じだった。
彼女達は今。目標地点に向かい、木々がなぎ倒され、地面がえぐれるなどして出来ていた道を歩いている。

「兄ちゃん・・・大丈夫なのかな?」

レインの言葉も、皆が考えている事だろう。
そのまま一同は暫く進むと

『待て』

そんな声に呼び止められた。




以上です。何やらハプニングの予感って事で。



[4075] 第五部 第六章 風?×本気×知り合い?
Name: 豊◆0ec87a18 ID:63086bbe
Date: 2008/10/15 08:41





タカシを追って此処まで来た一行。
そんな一行が何者かに呼び止められた。

皆が慌てて声のするほうを見ると、そこには竜の姿をしたリントが居た。

そんなリントに何か言おうとした瞬間、突如何かが激突した様な感じの、凄まじい轟音が鳴り響いた。

そんな音に驚き、皆が唖然とする。ここからは音源付近を目視することは出来なかった。そして、少しして、アーリャが慌てて竜に問いかけた。

「ねぇ!タカシは?これはどうなってるのよ!?」

そんな言葉を予想していたのか、なにやら竜は溜息を吐きアーリャの問いに答えず、ディアナを見た。

『はぁ・・・ディアナ殿?』

「えぇ。分かってるわ・・・ごめんなさいね」

彼女も神妙な面持ちで答える。
そんな二人を見て、声を荒げるアーリャ。

「ちょっと!無視しないでよ!リント!?」

リントは平然としながらも、今度はアーリャに視線を移し、しばし思案した後に話しだした。

『・・・全く・・・まぁ良い。問いに答えよう。崇殿は現在、盗賊の頭と戦闘中だ。あの村やこの道。そして先の音等も全て、二人の戦闘により生じた物だ』

そんな言葉を聞き、言葉が出ない一行。
そして一人、冷静なディアナが質問し返す。

「一体何があったの?良ければ話してくれないかしら?」

それを聞き、竜は逡巡した後に、何があったかを語り始める。




時は少し戻り、目的地に向かい飛行する巨竜リンドヴルムの上。

『しかし崇殿?あの子達に何も言わずに出てきて良かったのか?しっかり説明してやれば良かったのでは?』

「ん~、今回の事は確証は無いんだよ・・・ただ、万が一俺の予想が当たっていた場合の事を考えてな・・・可能性は限りなくゼロに近いんだが・・・・どうにも気になってね・・・あいつ等、そんな理由では退いちゃくれんだろ」

腕を枕にして寝転がり、苦笑しながら答えるタカシ。

「嬢ちゃん達もレインの小僧も、頑固ってか、強情ですからねぇ」

楽しそうに笑いながら相槌を打つ群雲に、そうだなと肯定しながら笑うタカシとリント。
そのまま暫くして、三人は目的地付近に到着。

「・・・あの村か・・・さて、リント。一つ言っておく。俺の予想が当たっていた場合、お前は直ぐに退避しろ。距離を取り、竜の姿に戻って、全力で反射を張れ。そして、万が一あいつらが追ってきた場合は、お前が足止めするなり説得するなりして追い返してくれ。もし俺が戻らなかったら直ぐに引き返せ。その後は・・・出来れば、あいつらの事を任せたいんだがね」

今までに無いくらい真面目な態度でそう言われ、リントはかなり驚いた。この男がそんな事を言うとは。そして彼は、少し思案してから頷いた。

『・・・お主がそこまで言うのであれば・・・引き受けよう』

その返事を聞き、タカシも頷き返す。
そして彼等は少し離れた位置に着陸し、リスに化けたリントを肩に乗せ、そのまま真っ直ぐ村へと入って行く。

「!てめぇ!誰だ!何しに来た!」

村人A・・・じゃなく、盗賊Aがそう怒鳴りつけてきたが、彼は全く動じずに一言

「頭を・・・ヴァンって男に話しがあって来た。何所に居る?」

そう言い放つ。その態度は、いつもの人を食ったような態度ではなく、真面目な態度であった。
そんな男の言い知れぬ迫力に、盗賊Aは気圧される。
そして盗賊Aはしばし逡巡してから「ここで待て。頭に話してやろう」と、意外な事を言い、村の奥へと消えて行った。
そんな盗賊の態度を見て、リントと群雲が感嘆の声をあげる。

『ほぉ・・・意外だな。てっきり、問答無用で襲ってくると思ったのだが・・・』

「だねぇ・・・旦那?」

一方、タカシは相変わらず笑みを消し、真剣な表情で周囲を観察している。

「・・・無駄な争いはせず、情報は確実に上に届ける・・・俺の力量が分かったのか・・・どっちにしろ・・・」

そんな事を呟いていると、先ほどの男が戻って来て、一言「来い」と言い、村の中へと入っていく。
タカシは素直に従い、そのまま中へ。やがて彼等は、村の中心辺りまで来た。

周囲の小屋からは、盗賊達が続々と集まり、タカシを完全に包囲している。その数優に50以上だろうか。

そして、そこに一人の男が現れた。
金髪碧眼。短く切りそろえられた髪。見た目は二十代後半だろうか。
身長180cm以上で、細身だがしっかりと筋肉がついている。
ただ歩いてきただけだが、隙が見当たらなかった。
彼は別段変わった服装をしているわけではなく、そこいらに居る平民と同じ様な服だが、明らかに周囲の者と、一線を画している事が分かるような雰囲気だった。

そんな男をしばし眺め、タカシが口を開く。

「・・・アンタがヴァンか?」

「そうだ。私に何か用らしいが、何だね?」

ヴァンと呼ばれた男は、大塚○夫の様な良い声で、直ぐに肯定。
眉一つ動かさず、表情の変化は微塵も感じられない。
しかし、タカシの次の一言で、男の表情が変化した。

「・・・ヴァン。ヴァン・シュヴァイン・シュナイザーか?」

その言葉を聞いた瞬間、ヴァンと呼ばれた男の目が見開かれた。

「・・・ほぉ、”こっち”ではその名は出していないのだが・・・もしやお前も」

「あぁ。俺も”向こう”から来たんだよ。始めましてかな?元二つ星ハンターの賞金首さん。俺の名前は龍宮崇。ハンターだよ」

そう言いながら、此処に来て、初めてニヤリと笑うタカシ。
そして、その言葉を聞き、ヴァンの顔にも笑みが浮かんだ。

「ほぉ、お前、龍宮の子倅か。お前の祖父の弾正(だんじょう)となら会った事があるな」

「あぁ。俺も昔、じいちゃんからアンタの話しを聞いた覚えがあるよ。少しだけどな」

「そうかそうか。それで?ワザワザこんな場所まで何の用だ?」

フフフと楽しそうに笑いながらも会話をするヴァンと、ニヤニヤと笑いながら答えるタカシ。

「あぁ。最初に言ったろ?話しがしたいんだ。まず、アンタどうやってこっちに?」

「をいをい、人に聞くんだ。自分から言うのが礼儀じゃないかな?」

少しおどけてそう言うヴァン。タカシはそんな態度を見て、僅かに眉を動かすが、そのまま会話を続ける。

「そうだな。俺は召喚されたんだよ。メイジの使い魔としてな。何でかは知らんがね」

「ほぉ、そんな方法もあるのだなぁ・・・あぁ、私は知人に頼んで送ってもらったんだよ」

「・・・なるほど。んで?何しに此処まで?」

どうやってとかは聞かずに、そのまま次の質問をぶつけるタカシ。ある程度予想がついているのか、それともそんな事聞いても無駄だと思ったのか。

「・・・ふむ。なかなか・・・いや失礼。それは一つ目の質問の答えにも入るのだが、探し物があってね。偶然こっちに来てしまったんだよ。残念ながら未だに発見できていないがね」

そんなタカシを何やら関心したように見ながらも素直に問いに答えているヴァン。
何故素直に話しているのか。嘘が織り交ぜてあるのだろうか。その胸の内を理解できる者は、この場には居ないだろう。

「・・・なるほど。そう言う事か・・・んで?探し物ってのは?」

タカシも何やら納得した様子で質問を続ける。
彼はこの男がどうやって来たのか、大方予想がついていた。
念能力。恐らく、特質系か具現化系であろうか。他人の物か、自身の物か。あるいは自身と他人で協力して行った物か。
その人物が捜し求めている物が有る場所に、対象を移動させると、そう言う感じの能力であろうと。ただ、異世界に来る事は想定できておらず、探し物の正確な位置にたどり着けず、現在も探しているのか。はたまた別の理由か。どちらにせよ今は余り関係ない話だった。

「ふむ・・・とある事情で名称しか分かってないのだが・・・”虚ろなる雫”知っているか?」

「いいや・・・悪いが心当たりは無いな」

「そうか。それで?話しはそれだけかな?」

探し物の事を知らないといわれても、さして落胆した様子も無いヴァン。
相変わらず、フレンドリーとまでは行かないが、敵対するわけでもなく、普通に会話を続ける二人。
先ほどから周囲に居る盗賊達は、一体何が起こっているのか理解できていなかったが、二人にはそんな事全く関係ない。

「ん。もう一つ。一応、これが本題だ」

「ほぉ、何かな?」

「あんた達の活動場所を移してもらえんか?あんた等が此処に居ると、知り合いが困るんだよ。更に言えば間接的に俺も困る」

「ほぉ、私達を捕まえるとか、そういう手段は取らないのかな?」

「別に?ただ場所を移してもらえれば、あんた達が何しようが俺は知らんね。確かに、頼まれたことは盗賊退治だが、様はこっちの邪魔にならなきゃどうでも良い訳だしな」

「なるほどなるほど。さすがは龍宮の倅と言うべきかな?中々・・・」

「アンタ、随分龍宮を・・・いや、じいちゃんか?知ってるみたいだな?」

「まぁ、昔一悶着あったものでね」

「アンタ、実際何歳だよ?」

「フフフ。何歳だと思う?」

「120くらいか?」

「・・・私はそこまで老けて見えるのかね?」

自分達を退治する為に来たという男と、談笑するヴァン。
タカシも別段、敵対する気は無いと言い、二人はそのまま笑いながら会話をしていた。
そんな中、一人の盗賊が声を荒げる。

「頭!何笑ってるんですかい!?コイツ、たった一人でノコノコ現れて、俺達を倒すとか言ってるんですよ!?」

「落ち着け。彼は私達に場所を移して欲しいと言ってるだけだ」

「そうだぞ?言ったろ?依頼内容は退治だが、こっちとしては場所を移してもらえれば問題ないと」

そんな盗賊に対し、二人して少し小バカにした様な口調で、哀れみの様な視線を向けながら語りかける。
しかし、今度は他の者が我慢できなくなったように叫び出した。

「頭!いい加減にしてください!そんな訳の分からないガキと、何でそんな風に会話してるんですか!?」

「訳が分からないとは失礼な。俺は名乗ったぞ?それに、こいつは少なからず俺の事・・・っというか、俺の爺ちゃんの事は知ってるみたいだしな」

「そうだ。彼の事も噂だけなら知っているよ。その若さで三つ星とか?」

「ほぉ、アンタに知ってもらってるとは、光栄だね。ま、実質一つ星みたいなもんだよ」

「謙遜は良くないな。誇って良い事だと思うが?」

「ま、色々事情があるのさ」

声を荒げた盗賊を無視し、再び二人して何やら楽し気に会話を再開した。
そして、今度は他の者が何か叫ぼうとした時。

「まぁ、君の事情も理解できる。だが、悪いが私も今ここを離れる気は無い。諦めて帰ってくれんか?」

本当に申し訳なさそうにそう言ってくるヴァン。
タカシも、薄々そんな答えを予想していたのだろうか。さして落胆した様子も無い。

「そーか。ま、そんな所だろうなぁ・・・嫌だねぇ・・・俺、アンタと戦りたく無いんだけど・・・」

「全く持って同感だな。異世界まで来て、折角出会った仲だ。ワザワザ争いたくは無い物だね」

「は、そんな理由じゃないだろうに。よく言う」

「フフフ。まぁ、その辺りは想像に任せよう。さて・・・・・・・・・戦るか?」

ヘラヘラと笑いながら言うタカシと、此方も少し愉快そうに言うヴァンだったが、彼の最後の言葉と共に、二人の雰囲気は一変した。

「・・・・全く・・・・冗談じゃねぇ・・・簡便してくれよ」

「・・・・コレも運命と言うやつかな?」

口調は余り変わらず、お互い呑気な事を言っているが、二人共同時に「錬」を使い、凄まじい殺気をぶつけ合い、真っ向から対峙している。
周囲の動物達が一斉に逃げ出した。
何かを悟ったのであろうか。
一方、周りと取り囲む盗賊達は、そんな事にも気がつかず、待ってましたとばかりに笑い、夫々武器を構え、ジリジリと距離を詰めてきた。
そんな中、周囲に居る者を一切気にせず、タカシは目の前の男に全神経を集中させていた。

「・・・・・リント。行け」

『・・・承知した・・・群雲』

「あぁ。あっしに何か出来るとも思えねぇが、旦那は任せてくれ」

タカシとそれなりに付き合いの長い二人も、今まで彼がこんな態度を取った場面を見た事が無く、異常事態であると察知したのか。一切反論せずに、素直に従う。
そして肩に乗っていたリスが走り出し、何処かへ消えて行く。

「ほぉ、喋るリスに・・・それはナイフかな?面白い物を連れてるじゃないか」

「だろ?中々愉快な連中だぞ?」

口調は相変わらずだが、お互いに相手の出方を伺い、微動だにしないでいる。
そして、ヴァンが先に仕掛けた。

「・・・こうして睨めっこをしていても埒が開かないな・・・さて・・・先手必勝と言う事で、こちらから」

そう言うと、彼は「円」を発動。
周囲100メートル程であろうか。
それくらいの空間を「円」で包んだ。
何故「円」なのか。タカシが一瞬疑問に思うが、次の瞬間、何かがこちらに向けて飛来してきた。

「!?(何だ・・・風の刃・・・か?だが)・・・へぇ」

自分に向かい飛んできている風の刃を、避けるそぶりも見せず、少しだけ笑うタカシ。
そして次の瞬間、その刃が当たると思われたが、刃は急に方向を変え、周囲に居た数人の胴体を切断した。

「・・・・ほぉ?」

それを見たヴァンは僅かに眉を動かし、驚きの混じった呟きを漏らす。だが、そんな事をしながらも、既に次の手を打っていた。
今度は一発ではなく、全方位から数十発。いや、百発近くになるであろうか。
先ほどと同じ様に、風の刃をタカシに向け放った。
普通の人間がこれを食らえば、抵抗すら出来ずにスライスされるだろう。
だが、タカシはやはり動かず、先ほどと同じ様に、当たると思われた刃は全てあらぬ方向へと飛び去り、ある物は小屋に直撃し破壊。ある物は周囲に居た盗賊達に当たり、その体を切断するなどしていた。

周囲に居た盗賊達は、その一撃でほぼ全滅。
二人共一歩も動いていない。一番可愛そうなのは彼等かもしれなかった・・・。
しかし、二人はそんな者達を一切気にした様子も無い。
そしてヴァンは少し面白そうに笑う。

「ほほぉ・・・面白い能力だな・・・反射・・・かな?それとも・・・・」

タカシもニヤリと笑いながら答える。

「アンタもな・・・風か・・・じいちゃんに少し聞いたけど・・・しかし・・・」

そんな返答をしながらも、両者共に何事か思案している。
そして、再びヴァンが動いた。

「・・・さて、これならどうかな」

そう言うと同時に、タカシの周囲数メートル程の風が動き始め、あっという間にタカシをその内部に入れ、一本の巨大な竜巻が出来上がった。
そして、数秒でその竜巻の規模は更に大きくなる。魔法学院の五本の塔の内、一本と同くらいの太さか、あるいはそれ以上か。
やがて、その巨大な竜巻は、中心に居るタカシを、全方位から押しつぶすようにして収縮し始めた。
内部に居る彼が、竜巻に押しつぶされると思ったが、突如として、竜巻が内部から弾ける様にして周囲に向かい四散した。
竜巻を構成していた風が、周囲の小屋や木等を薙ぎ倒す。だが、ヴァンに向う風は全て彼を避けるようにしているため、彼は無傷。
そしてそれを見て、僅かに硬直するヴァン。次の瞬間。白銀の槍を持った男が、凄まじい速度で接近。
そのままヴァンの心臓目掛け、槍を一閃。
だが、彼は動じず、自身の周囲の風を操り、槍を受け流す。
タカシはそのままオーラを込めた蹴りをヴァンに叩き込もうとするが、それも風によりいなされた。
次の瞬間、風を纏ったヴァンの拳が振り下ろされる。
だが、タカシはソレを、弾かれる様な勢いでヴァンから離れる事で回避。距離を取った。
目標を失ったヴァンの拳が地面を穿ち、その際周囲に風が吹き荒れる。

一瞬で起きた一連の行動を見たヴァン。
彼の顔には、笑みが浮かんでいた。

「・・・吸引・・・反発・・・磁力かな?その槍も・・・面白い」

そんな事を呟き、タカシを見つめる。
彼はあまり動じた様子は無い。

「・・・さぁ?どうかね」

お互い笑いあいながらそんな事を呟いている。

「さて・・・(・・・円の内部の風を操作する能力・・・かな。恐らく操作系か・・・特質系。具現化?オーラを風に変える?変化系?・・・そこいらはどうでもいいかな。・・・どうする・・・あいつの操る風にはオーラが込められてるから、反発でも吸引でもさせられるが・・・さて)・・・」

そんな事を考えていると、ヴァンは徐に一発の風の刃を放ってきた。
だが、今度はタカシがソレを槍で叩き落す。
それを確認したヴァンはニヤリと笑った。

「なるほど。そういう事かな?」

そんなヴァンに対し、タカシは小さく舌打ちをした。

「チッ・・・(をいをい・・・今のにオーラ籠もってなかったぞ?・・・風ではなく、大気の流れ事態を操作してるのか?だとしたら俺にとっては相性悪すぎだな・・・オーラを籠めていたのは俺の念の防御を突破する為で、純粋な風として、大気の流れを操作して風を起こす事ができるのか?・・・うわぁ・・・だとしたら最悪)」

そんな事を考えていると、先ほどと同じ様に全方位から、百近い風の刃がタカシを襲った。
しかも、今度の風にはオーラが籠められていない。
その為、彼は避けれる物は避け、また避けられない物は槍で弾く等して、その攻勢を凌ぎきった。

それを眺めていたヴァンは可笑しそうに笑う。

「いやはや、演技が上手だね」

「・・・何の事だ?人が折角必死で避けたってのによぉ」

「いやいや、謙遜は良くないよ。オーラの籠もっていないただの風の刃だ。君に直撃した所で、大したダメージは無いだろう?」

「さぁね」

そんな言い会いをする二人を、離れた場所で見るリント。
言われたとおり、周囲には全力で反射の魔法を張っている。
コレが無ければ、彼でも本当に危険であろう。あっても安全とは言いがたい。

『・・・化け物だな。どちらも』

端から見たら貴方も十分化け物ですと突っ込む人間はこの場に居なかった。

そんな一匹を他所に、ヴァンは次の行動を起こす。

「それでは、コレならどうかな?」

そう言うと、周囲の大気の流れを操作し、自身の周りに風を集めていく。
タカシは咄嗟に妨げようとするが、風で上手くあしらわれてしまい、足止めを食っていると。

「これくらいかな?」

そんな声と共に、竜巻が、正し、普通の竜巻ではなく、先端が此方に向いた横向きの竜巻がタカシを襲った。

「げ!冗談じゃねぇぞ!?」

回避しようとしたが、周囲の風に一瞬動きを止められてしまう。
しかし、その一瞬で十分だった。
オーラが籠もっていない、純粋な風としての竜巻がタカシに直撃。
だが、辛うじて「堅」と槍で防いでいる。
彼は地面に吸い付くようにして堪えていたが、小さく舌打ちをした後、足が地面から離れ、そのまま後方へと。途中にある木々を薙ぎ倒しながら、タカシは吹き飛ばされて行った。

「ふむ」

ヴァンはそう呟くと、竜巻の通過で出来た道を通り、タカシを追って行った。




『と言う訳だ。お前達は此処で引き返せ。あの男はお前達の手に負える相手では無い。崇殿でも、正直どうなるか・・・』

とてもではないが信じられない話だった。
だが、あの村の惨状やこの道。全てが証言と一致している。
みなが唖然とする中、アーリャが口を開く。

「・・・・それで、タカシは平気なの?」

『少なくとも。我が見た時点では平気そうであった』

その言葉を聞いた瞬間、レインが走り出した。

「ちょっとレイン!?」「待ちなさい!」

「レイン君!」『レイン!』

同時にアーリャ、タバサ、ディアナ、リントの制止の声が掛かるが、一切を無視して少年は走る。

彼は内心焦っていた。
自分に念を教えてくれると言った男。
実際彼に教えられていく中、自分が成長している事も良く分かった。
そして、自身が成長するにつれ、タカシとの力の差が少しづつ分かってきていた。自分が成長すればするほど、遠くに居る事が分かる男。
少年の中で、憧れだった。
そこに居るだけで安心できるような、そんな存在で、自分を義弟としてくれた人。
そんな人物が苦戦する様子など、想像した事すら無かった。
もし本当に彼が苦戦しているとして、自分に何が出来るとも思っていない。
それは理解しているが、少年はひたすら走り続けた。


そして少年は、その光景を目撃する。





以上です。バランス云々を以前からちょくちょく言っていましたが、この人はそれとはあまり関係ないのです。
ヴァンの詳しい能力は次回と言う事で。








[4075] 第五部 第七章 死闘×闘争×少年の思い
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b5af5a8c
Date: 2008/10/15 08:52




レインがその場にたどり着いたとき、彼は信じられない物を目撃した。

そこには、悠然と佇む男と、全身ボロボロで、肩で息をしている男が居た。
周囲の地形は変わり果てている。
木々は薙ぎ倒され、地面は風により裂かれ、またヒビ割れを起こすなど、局地災害にでもあったような状態だった。

そして、悠然と佇んでいた男が口を開いた。

「ほぉ、観客かな?それとも増援かな?」

面白そうな声で。
しかし、タカシから目を離そうともせずに、背中越しにそう問いかけてきた。

「・・・・・・・・レイン・・・何しに来た・・・さっさと帰れ!」

服がボロボロになり、体中傷だらけのタカシが、肩で息をしながらも、いつもの余裕のある態度ではなく、かなり真剣な声でレインに命令した。一応五体満足な様だ。

少年はそんな光景に言葉が出なかった。ありえない光景に呆然と立ち尽くすレイン。
そんなレインを無視し、二人は会話を始めた。

「全く・・・しかし、すごいな君は。ここまで手間取ったのはいつ以来だろう・・・さすが、龍宮の末裔とでも言うべきかな?」

「はっ!龍宮は関係ねーだろ。俺は俺だ。それに、その言葉そっくりそのまま返すぜ?クルタ族の生き残り」

その言葉を聞き、ヴァンは愉快だと言わんばかりに声をあげ笑い出した。

「はははははは。いやぁ・・・本当に君は博識だ。実力もある。失礼した。さすがは崇と、こう言うべきだったかな?」

最初は青色だった彼の目は、現在緋色に染まっている。
ヴァンは緋の目でタカシを見据え、芝居がかった態度でそう答えた。

クルタ族。
数年前に一族全てが幻影旅団により殺されたとされている。
彼等は”緋の目”と呼ばれる特殊な目を持ち、感情が高ぶると目の色が赤く変わる。
そしてその赤い目は、世界七大美食とも言われるが、それ以上に美しく、美術的価値が非常に高いらしい。
その為、旅団に狙われたのだろう。

「どうでもいいがね。どーせなら復讐でも何でも、旅団退治の方にその力を向けてくれんかね?」

投げやりな態度でそう言い放つタカシ。

「ふ。復讐などしてどうなる?それに、元々私はクルタの血が入ってるだけで、一族とは関係ない。彼らが皆殺しにされようがどうなろうが、私の知った事ではないね」

「薄情者め」

「何とでも言え」

お互い鼻で笑うようにそう言った所で、レインの後方から少女達が駆け寄ってきた。

「レイン!え・・・・タカシ!?」

アーリャも現状を見て驚きの声を上げるが

「バカ野郎!さっさと帰れ!リント!ディアナ!何してたんだ!」

珍しく焦りを帯びた声で叫びながらも、彼はヴァンと距離を詰め、戦闘を再開。
ヴァンは最初とは違い、「円」ではなく、緋色に変わった目で「錬」を使い、自身の周りの大気を操りながらも、タカシの攻撃を凌ぐ。
いや、逆に圧しているであろう。
彼の体に、纏わり付く様に吹く風は強力。
槍で突いても、肉弾戦を挑んでも、ある時は受け流され、ある時はこちらの力以上で迎撃される。

駆け寄ってきたアーリャ達にも、タカシが圧されている事がはっきりと分かった。

「うそ・・・・」

そんな呟きが聞こえる中、ディアナとリントが

「さぁ、あなた達?もう良いわね。退くわよ。ここに居れば邪魔になるわ」

『その通り。我等に出来る事は無い。さぁ、退くぞ』

そう言いながら、三人を多少強引にでも連れ出そうとする二人だったが

「まぁまぁ、そう言わずに。折角の見世物だ。ゆっくり見物していくと良い」

タカシを相手にしながらも、呑気な声と共に、指一本動かさずに、彼女達が下がろうとした道に風の刃を放つヴァン。
巨大な風の刃により、行く手の道を切り裂かれ、一本の境界線が出来上がった。

それを見たディアナが足を止める。
境界線を超え、そのまま来た道を走って戻る事は簡単だろう。
ただ、もし背中を向けて逃走しようとした場合、無事にそれが出来るかといわれれば、答えが出ない。
現に今も、恐らくその為にタカシは距離を詰め、相手の注意を引いていたのだ。
だが、そんな彼も長くは持たず、彼女達の脱出が阻まれてしまった。

「チッ・・・・人質か?良い性格してるな」

「まさか。そんな無粋な真似はしないさ。神に誓って、彼女達には手を出さないよ」

「はっ。それを信じろと?」

「それこそまさかだな。そんな言葉、君が鵜呑みにするとは端から思っていない」

そんな言い合いをしながらも、彼は攻め続けている。
だが、その攻めもあまり効果があるようには見えない。

「”ブラスト”突風」

ヴァンがそう呟くと同時に、タカシが強烈な風に煽られ、数十メートル吹き飛ばされる。
が、彼は途中で槍を投擲。
それに吸い寄せされる様にしてなんとか踏みとどまっていた。
それを見たヴァンは、呆れたような口調で呟いた。

「全く・・・君の能力とは相性が悪いな」

「いや全く。その通りだな」

お互い苦笑しながらも、本心から出た言葉だった。

タカシの”マグネッション”磁力制御は、対オーラ戦闘にならかなり有効だろう。その代わり、先住魔法や亜人など、人間以外で、オーラを使用しない相手に対してはあまり効果が発揮できない。
そして、彼の主な攻撃方法は槍による一撃。
槍は”突く”という攻撃手段がメインなのだが、その突きの際、槍という武器は横からの力に非常に弱い。
普通は彼の突きの最中に横から力を加え、軌道を逸らされると言う事はまず無い。それだけの速度での攻撃なのだが、この相手はそれにも反応し、風で、ほんの僅かな力で攻撃を逸らしてしまう。

一方、ヴァンの能力は、正面からぶつかれば厄介極まりないものだ。
「円」の内部。現在は300メートルの空間の大気の流れを操作し、風の刃等を作る等して、全方位から相手を攻撃できる。
その際、オーラを籠めて攻撃を放てば、それなりの実力者でも対処が困難な程だろう。
だが、タカシの能力が相手だと、オーラを籠めて攻撃しても跳ね返されてしまうため、オーラを籠めないで、なるべく多くの風を束ね、純粋な攻撃力で挑まなければならない。
要するに力押しである。これは正直、ヴァン自身得意ではなかった。
タカシにしても、この相手には力押しで攻めると言う手段以外に方法が無く、また彼もそれは不得手である。
この二人の能力、本当にお互い相性が悪い。

「さて・・・・リント!お前の反射で何としてもそいつ等を守れよ!?出来れば逃がせ!群雲。お前もあっちに行け。俺がお前を持ってても使わんから意味無い」

そう叫び、リントに命令し、群雲ほ彼等の方へ放り投げた。

『承知した』「任せてください!」

巨竜はその巨体で一行を覆う様に移動し、反射の障壁の内部に彼等を入れる。
そしてディアナに受け取られたナイフもしっかりと返事をする。

「やれやれ、神に誓って手を出さんと言ったのに・・・信用がないなぁ」

苦笑しながらそう言ってくるヴァンに、タカシは鼻で笑いながら答える。

「はん。何所の神だよ?そもそも、俺は神信じてないんだがね」

「奇遇だな。私もだ」

そんなやり取りをして、二人共わははと声をあげて笑い出した。
そんな者達を見て、本当にこいつ等がそんなにすごい奴なのか?と、アーリャとタバサは思わず疑問に思ってしまいそうになるが、彼女達がそう思うより早く、突如タカシがヴァンに接近して

「紫電連突」

そう呟きながら槍を振るう。
本来、じっくり様子を見ながらの戦いのほうが、彼のスタイルに合っている。
もしくは、一瞬の隙を突いての必殺の一撃。だが、アーリャ達が来た為、前の選択肢は排除。後にしてもこの男には隙が無い為、結局攻め続けるしか無くなったのだろう。
超高速の三連撃。だが、二発を風でいなされ、一発は本人が体を移動させる事で回避された。

「恐ろしいな。普通は対処に困るだろうね」

「ちっ、化け物が」

平然と言うヴァンに対し、タカシは吐き捨てる様に言った。
彼は以前にも何度か”化け物”と言う言葉を吐いた事があった。だが、それは嫌悪を籠めての言葉であり、今の”化け物”には畏怖が籠もっていた。

そして、タカシは次の手を打つ。

「なら・・・これでどうだ!」

そう叫びながら、大地に槍を突き刺す。
そして能力を発動。
地中の砂鉄と槍を吸着させる。

「おらぁ!」

気合を入れ、そのまま槍を大地から―――いや、大地ごと槍を引き抜いた。槍を引き抜かれた大地には、巨大なクレーターが出来ており、槍の先には、巨大な地面の塊がついている。
その姿は、まるでハンマーの様だった。
そしてハンマーになった槍をヴァンに向けて振り下ろす。
ヴァンはその攻撃を、上空に飛ぶ事で回避。文字通り彼は、風を使って飛翔している。
そこへ、地上から土の固まりつき槍が投擲された。
土と言うより、岩と形容してもいいかもしれない。
土の重さがあって直、ヴァンに吸い寄せられるようにして飛ぶ槍。

ヴァンは、小さく舌打ちしながら、風を束ね、土の塊を破砕した。
さすがにあの質量だと、風で防御する事は厳しいと判断したのか。
土の塊を構成していた土砂が宙を舞う。

だが、彼が何かしら次の行動を起こすより早く、タカシは既に動いていた。
槍を投擲と同時に自身も跳躍。
土砂と共にヴァンに接近していた。
そのままヴァンの上空を占有し、踵落としを叩き込む。
だが、ヴァンはその一撃を腕で受け防御する。
その瞬間、背後から槍が迫ってきた。
ヴァンは咄嗟に、槍の軌道を風でそらす。
軌道をそらされた槍は彼方へ飛んでいく――と思われたが、タカシの手に吸い寄せられた。

「落ちろ!」

タカシはそう叫びながら、槍を振り下ろした。
その一撃を風でいなし、防御しようとしたヴァンだが、次の瞬間。彼の背後から、先ほど彼が破砕した大量の土砂が、ヴァン目掛けて。正確には、ヴァンを通り越して延長線上にいるタカシ目掛け、押し寄せてきた。
そのまま土砂でヴァンの体を埋め、能力を封じた所を、叩き切る。
そんなタカシの思惑が込められ、背後から押し寄せる土砂。
だが、ヴァンはそれを直ぐに読み取り、風で防いだ。
しかし、正面から、頭上から振り下ろされる槍。背後の土砂。そして宙に浮く為の風。
いくら彼でも、さすがに全てに対処するには、無理があった様だ。ヴァンは槍を、多少強引にだが、腕で防いでいる。

「落陽!」

そんなタカシの叫びと共に、槍は地上に吸い寄せられる様な勢いで、ヴァン諸共凄まじい勢いで、地上へと落下。

そのままズドンと言う衝突音と共に、地上へ激突。土煙が上がる。
他の一同はその戦いを、ただ眺めている事しか出来なかった。

そして、直ぐに土煙が風で吹き飛ばされる。
そこには、そのまま近接戦闘を行っている二人の姿があった。

槍が閃き、薙ぎ、風を切る。
風が吹き荒れ、大地を削る。
方や風に乗り、変則的に移動しながらの攻撃。
方や、何かに吸引されたり、反発されたりするような勢いで不規則に移動しながらの攻撃。
最後にお互い大振りの一撃を。
タカシは槍に凝でオーラを集め、ヴァンは腕の周りに大量の風を纏い、お互いそれをぶつけあった。

凄まじい衝突音がして、二人共後方へと吹き飛ばされる。
そして、タカシが方膝を地に付けた。

そんな光景に思わず息を呑む他の面々。
そんな者達を全く気にせず、ヴァンは呆れたといわんばかりの声で、心からの賞賛を送る。

「いやぁ、これ程とは・・・全く・・・緋の目まで使わされてコレか・・・君の祖父と言い君と言い、化け物だな」

「はぁ・・・・そりゃこっちのセリフだよ。アレを凌いでおいて・・・ったく。化け物に化け物呼ばわりされる筋合いねーぞ」

相変わらず口は減らないが、いつもの様な余裕の態度では無かった。
そんなタカシに苦笑しながらも、ヴァンはニヤリと笑い

「では、化け物らしく、大技でも使うかな?」

そう言うと、ヴァンは片手をを空に掲げた。
「円」を使い、内部の大気を操作。ただし、今度の「円」は、周囲300mを包む巨大な「円」。そして、300m圏内の大気全てを操作し、掲げた掌に風を集める。
周囲の風が、渦を巻いて中心地点へと、彼の掌へと集まり出した。
上空から見れば、台風の渦の様に見えるかもしれない光景だ。
そして、膨大な量の風が彼の掌に集まり、更にそれが凝縮され、小さな玉になって行く。

それを見た瞬間、タカシは全力で距離を詰め、阻止しようとするが、吹き荒れる風に妨害され、思った様に距離を接近する事が出来ないでいる。

「クソ!リント!そいつ等連れて直ぐに此処から逃げろ!死ぬぞ!」

マグネッションで地面の中の砂鉄と、自分とを吸引し、やっとの事でその場に留まっているタカシが叫び声をあげる。

周囲には、台風の様な風が吹き荒れ、目を開けることさえ困難な状況になっていた。
リントの方は、彼の巨体が風除けになり、更にある程度距離があった為、そこまで酷くは無いが、かなりの強風が吹き荒れている。

『了解した!崇殿は!?』

「バカか!?俺が離れても意味ねーだろ!良いから!俺の事は気にせず全力で逃げろ!トリスタニアまでは追ってこないだろう!後は任せた!」

今彼が離れても、追跡されてこの「風」を当てられるか、もしくは、この場で集まっている「風」を開放されるか。
ヴァンの掌に集まっている「風」は、開放されれば周囲一帯を根こそぎ吹き飛ばせる程の威力だろうと、タカシは見て取った。

「ふ・・・・さすがに此処までの規模で能力を使うのは初めてだよ・・・だが、念を籠められない以上、純粋な力で圧倒しなければならんからね・・・」

若干苦しそうにしながらも、笑いながらそう呟くヴァン。だがその呟きは、吹き荒れる風の音にかき消され、この場に居る誰の耳にも届いていないだろう。

そして、タカシの本気の焦りを感じた二人の少女が声を荒げた。

「ちょっと!?いいからタカシも逃げてよ!」

「危険!」

「煩い!ゴチャゴチャ抜かさずとっとと行け!リント!ディアナ!無理やり引っ張ってでもそいつら連れ出せ!」

アーリャとタバサのそんな言葉も届かず、逆に怒鳴られる二人。
そんな二人の肩に、ディアナが手を置き

「さ、行きましょう。ああ言ってるけど、貴方達の事を思って言ってるのよ?分かるでしょ?あの焦り方。多分彼でも命が危ないわよ」

『お前達は先に行け!最悪我が盾になる!』

リントも声を荒げてそう言い放つ。
タカシとリントは、共通の認識を持っていた。「これが炸裂すれば、自分達以外は恐らく死ぬ」二人でもどうなるか分からない。先住の反射は、魔法や念能力。銃弾など、自然で無い物なら防ぐ事が出来るであろうが、あそこに集まっている「風」は、純粋な風だ。恐らく、先住のそれに近いだろう。反射での防御は役に立つかどうか。二人はそう考えていた。

この二人がここまで動じる場面など、ここに居る者達は全く想像していなかったであろう。彼女達は改めて、現状を認識した。
そして

「・・・・タバサ」

アーリャが呟き、タバサが頷いた。
二人の意思は同じの様だ。
ディアナは、彼女達が納得してくれた物だと思い、肩に乗せた手を離すが、その瞬間、彼女が持っていた群雲が、アーリャに奪われた。

「行くわよ!群雲!力を貸して!」

「・・・・まったく・・・いいぜ!旦那の為だ!」

「ちょっと!?貴方達何を!?」

焦るディアナを他所に、魔法の詠唱を開始するアーリャとタバサ。
そして

「ウィンディ・アイシクル」「ライトニング・クラウド!」

二人同時に、現在持ちうる最大の攻撃力の魔法を、ヴァンに向けて放った。

雪風と雷がヴァンを襲う。
スクウェア相手でも、この二人の攻撃をマトモに食らえば負けるだろう。
しかし、その程度でどうにかなる相手なら、タカシも此処まで苦戦しない。

「無粋だな」

ヴァンはやや不機嫌そうにそう呟くと、掲げている方とは反対の手を、軽く振るった。
すると、そこから先ほどタカシを吹き飛ばし、森に道を作った物と同じ竜巻が放たれた。
威力は先の物の半分以下だろうが、彼女達の魔法を消し飛ばし、そのまま一行を吹き飛ばすには十分すぎる威力だ。

二人の放った魔法は一瞬の抵抗も出来ずに、竜巻に掻き消され、そのまま彼女達のを竜巻が襲おうとしたが、その時。
巨竜がその体を盾にして、少女達を守った。

『ぐぅ!』

リントの口から、苦しそうな声が漏れる。
彼が自らの巨体を盾にし、どうにかその竜巻を防ぐ事が出来た。
やはり、反射の障壁は意味が無かった様だ。
それを見て、僅かに驚いている様子のヴァンだったが、そんな彼を更に驚かせる。いや、彼だけではなく、その場に居る者全てを驚かせる事態が起きた。

「うわあああぁぁぁぁ!」

此処に来てからずっと、黙って様子を見ていたレインが、叫びながらも「錬」を使い、ヴァンに跳びかかって行った。

「ほぉ。少年。良い度胸だが、勇気と無謀は違うぞ?」

そう言いながらヴァンは再び竜巻を放つ。

そのまま少年の小さな体と、竜巻が激突。
少女達の悲鳴の様な声や、タカシの罵声などが聞こえた気がしたが、レインの耳には届かなかった。


―――あの人を助けたい―――

ただそれだけが、少年の心の中にあった。
身寄りの無かった自分に、やや強引にだが、居場所をくれた男。彼のおかげで、友達と呼べるような者が出来た。自分に優しく接してくれる人たちも出来た。
自分の事を義弟と言ってくれたが、時折本物の弟の様に接してくれた人。
少年のただ一人の憧れ。
育ててくれた「じいちゃん」には感謝はしていた。
だが、憧れは抱かなかった。
少年の憧れであり、彼自身も、時偶本当の兄の様に思ってしまう様な存在を。
今、彼は自身の命を危険に晒してまで、自分達を助けようとしてくれている。

なら、自分に出来る事は―――――。

そんな事を考えていると、レインの頭の中に、何かが過ぎる。
以前、タカシにも言われた事だった。

「お前は―――――が―――も―――――自信を持て。――――――だ」

そんな記憶が過ぎり、ふと頭に浮かんだ事を、全力で、本能のままに行動に移してみた。

「うああああああ!」

そんな叫びと共に、少年は行動を起こす。
すると、少年と激突し、少年をその腹の内に治めていた竜巻が吹き飛んだ。

「何!?」

それに一番驚いたのが、竜巻を作り出したヴァン本人だった。
あの一撃は確実に少年を仕留める威力があった。
タカシとは違い、ただの念能力者であろう少年に対して、十分にオーラを籠め、威力のある竜巻をお見舞いしてやったハズだった。
だが、実際目の前で起きた現象は彼の思惑とは全く別のものだったのだ。

しかし、レインも無事とは言えず、反動だろうか、後方へと吹き飛ばされてしまっている。だが、その体は五体満足。外傷も特に見られなかった。
それを見ながら、ヴァンが一言呟く。

「何だ?あの小僧」

誰かに問うた訳ではなかったが、そんな呟きに答える声があった。

「俺の弟だよ」

一瞬。本当に一瞬だが、レインの行動により、そちらに意識を奪われたヴァン。
だが、タカシはその一瞬の隙を見逃さず、一気に距離を積め、槍の刃を突き出した。

「チッ!」

自分の失態に思わず舌打ちしながらも、ヴァンは翳した手を、未だ十分な威力では無いと思っていたが、仕方なくその掌にある圧縮した「風」を、タカシにぶつけようとする。

次の瞬間、槍の、グングニールの刃先と、圧縮された「風」の塊が激突。

この時、ヴァンはこの状態でも自身の優位を確信していた。
仮にタカシが「硬」で刃先にオーラを集めても、この密度の「風」は受けきれないだろうと。そう予想していたのだが、結果は違っていた。

風の塊と槍の刃先は、接触した後、双方が弾け飛んだのだ。
衝突の衝撃で制御を失った風が、周囲に吹き荒れる。
タカシも反動で後方へと吹き飛ばされた。

「な!?」

思わず驚きの声をあげるヴァン。
そんな彼に対し、タカシは直ぐに体勢を立て直し、ニヤリと不適に笑った。









以上です。
ヴァン(年齢不詳。無職)の能力は以下の通りです。
操作系能力者。

タイフーン「風の支配者」

「円」の内部の大気の流れを操作し、「風」を操る能力。(錬では不可)
大気に直接オーラを纏わせて操ったり(風の刃を作るなど)、オーラを消費して大気の流れを調整し、それにより純粋な「風」を作り出す事も可能。
ただし、自分の「円」以外の他人のオーラがある空間には干渉できない。
例、自分の「円」の内部で「錬」や「纏」を使っている対象等のオーラの内部では無理。または自分の円に被せる形で、他人に「円」を使われた場合使用不可能。
一度能力を発動した場合「円」以外は使えなくなる。
一旦「円」を解除すると、「円」を使っていた時間だけ強制的に「絶」になる。

リミットブレイク「制約一部解除」
特質系

緋の眼の時のみ発動可能。
自信の「錬」内部の大気にも干渉可能になり、同時に「能力を一度使うと、円を一度解除しなければ円意外使えなくなる」という制約が、緋の目の時のみ外れる。
相手が「円」を使っていても、自身の円内部の大気を操作可能。
緋の目で居た時間の分、絶になる時間が加算される。


こんな感じですかね。「円しか使えなくなるリスクと制約」って事で、それなりに威力が出るかな~と思ったんですが、いかがでしょうか。



[4075] 第五部 第八章 決着×傷心×山篭り?
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b5af5a8c
Date: 2008/10/16 09:17




タカシとヴァンの一撃が相殺し、不適に笑うタカシと、驚きの表情を浮かべるヴァンがその場に立っている。
その後直ぐに、ヴァンは気を取り直して、眉間に皺を寄せて何事か思案し始める。
今の現象は何か。先ほどの少年に起こった現象は何か。どう対処していくか等。
彼の頭の中で、様々な考えが巡っているのだろう。
だが、ヴァンが何か考えている内に、タカシが口を開いた。

「・・・なぁ、取引しないか?」

「・・・取引?」

怪訝そうな表情を浮かべるヴァンに対し、相変わらず不適な笑みで会話を続けるタカシ。

「そうだ。どうだい?不幸にも、盗賊団は壊滅しちまったんだし、退いちゃくれんか?」

不幸というか・・・この二人の所為なのだが、二人共そんな事気にしてないようです。

「それで?私が得るものは何かな?」

「アンタの探し物を俺の方でも探そう。そこに居る女、ディアナってんだが、結構大きな諜報機関のリーダーだ。俺の協力者だがね。今回のことも彼女の頼みだ。アンタが素直に退いてくれるなら、彼女達の活動も阻害されずに、アンタの探し物の事も調べられる。アンタ、ここいらで探し物をするための拠点として、そして手足としてあの盗賊団を作ったか、乗っ取ったかしたんじゃないか?あいつ等より彼女達の方が優秀だと思うぞ?」

そう言われ、ヴァンはディアナに視線を移す。
するとディアナはゆっくりと此方に歩いてきて、タカシの隣に立ち、少し微笑みながら、丁寧にお辞儀をした。

「始めまして。ディアナと申します。彼の言うとおり、諜報機関”ミーミルの泉”のリーダーですわ。貴方の探し物とやらも、我々が全力で探索する事をお約束します」

そして、ヴァンは再びタカシに視線を移し、その目を凝視する。
そのまま暫く二人はお互いの目をじっと見つめ合う。互いの腹の内を探るように。
やがて、ヴァンの口に笑みが浮かんだ。

「・・・・ふ。いいだろう。その条件を呑もう。私は此処から退き、彼女達の活動を阻害しない。君達は私の探し物の探索に協力する。それでいいんだな?」

「あぁ。あんたが聡明な人間で助かるよ」

「いや何。こちらにも十分なメリットがある話しだったしな。それでは、早速私は退かせてもらうが、構わんかね?」

「あぁ。手間取らせて悪かったな」

「ふ。全くだ。お互いにな」

最後に二人して皮肉を言い合うと、ヴァンはそのまま風に乗り、彼方へと飛び去って行った。呆気ないくらいであった。

タカシは、彼が飛び去った方を暫く見つめている。
辺りを静寂が支配し、風の吹く音だけが響いていた。
やがて、完全に何所かへ行ったと判断したのか。

「・・・・・・・はぁ~~~~~~~~。助かった・・・・」

静寂を破り、大きく息を吐き、全身の力を抜き、タカシはその場に座り込んだ。
それを見て、隣に居たディアナも苦笑しながら息を吐く。

「・・・はぁ・・・まったく・・・もう、こんな事やらされるのはゴメンよ?」

「あぁ。悪かったよ。でも、おかげで助かったわ。さすが、肝が据わってるなぁ。また違う機会にでも頼むかな?」

笑顔でそんな事を言う男に、彼女は心底嫌そうな顔をしながら答える。

「絶対嫌よ。もう・・・寿命が縮んだわ・・・貴方、よくあんなのと対峙できたわねぇ・・・」

「いやいやいやいや、もう二度と戦りたくない。誰が好き好んであんな化け物と・・・冗談じゃねぇ」

軽い調子で言っているが、本気でそう思っている様だった。それを見て、ディアナは少し意外そうにしながらも問いかける。

「あなたにそこまで言わせるなんてねぇ・・・最初から何か気になってたみたいだけど、知り合いだったの?」

「知り合いって訳じゃないさ。ただ、俺達の世界での賞金首さ。歴代TOP10に入るほどの高額。超大物だがね。あいつに挑んで生きてる人間は、そう多くないって聞いたっけな」

それを聞き、目を見開き驚くディアナ。そして呆れた口調で言ってきた。

「・・・貴方、よく生きてたわね。化け物よ。どっちも」

「ひでーなぁ。だけど、相性が良かった。いや、悪かったんだよ。お互いな。それと、運だな」

そんな会話をしていると、群雲を口に銜えた巨竜がやってきて、ナイフを彼に渡しながら話しかけて来た。

『無事で何よりだ』

「旦那!」

「お互いにな。リント。体は平気か?一発受けたみたいだったが」

『うむ。水の精霊達に、現在癒してもらっている。暫くすれば回復するだろう』

それを聞き、少し笑いながら群雲に目をむけ。

「お前は・・・後で厳罰だからな?」

ナイフは、何やらガタガタ震えている様な雰囲気だった。
そんな事をしていると、リントの後ろから二人の少女がゆっくりと顔を出した。
だが、二人共俯き、目を合わせようとしない。怒られるだろうと思っているのか。そこへディアナが歩み寄り、二人の耳元で小さく囁く。

「大丈夫よ。ほら、行きなさい」

笑顔でそう言われ、そのまま彼女に背中を押され、タカシの前に移動した二人。
そんな二人を見て、タカシは立ち上がる。
二人共言葉を発しようせず、ちらちらと目だけで彼の顔色を伺っていた。

そして、タカシが笑みを浮かべた。
それを見た二人は、良かった。怒って無いのかな?と思い、ホっとして、胸を撫で下ろす。

だが、次の瞬間。
ゴンっと言う音が二度響き、二人の脳天に拳骨が打ち込まれた。
あまりの痛さに、二人は目に涙を貯め、頭を抱えていると

「こんのバカ娘共!逃げろと言ったろ!?何考えてたんだ!」

凄まじい剣幕でそう怒鳴られ、二人共身を強張らせた。
だが、タカシは更に、容赦無く二人に怒鳴る。

「いいか?敵の力量くらい理解しろ!出来なくても、俺が死に掛けてたんだ!それくらい察しろ!大体、俺は最初に教えたな?犬死するなと。人が命掛けでお前らを逃がそうとしてるのに、お前らはそんな俺の行為を無駄にする所だったんだぞ!仮にあの後、俺が殺されたら?お前らどうなってた?奴の気まぐれで逃がしてくれたかもしれんが、そうなる保証もないんだぞ!?俺が殺され、そのままお前らまでやられたら、俺が犬死だろうが!もっと良く考えて行動しろ!分かったか!?」

今まで彼がこんなに怒鳴った事は無く、また彼女達も人に怒鳴られた経験など無かったため、二人共泣きそうになりながら、小さく

「「・・・ごめんなさい」」

震える声でそう呟いた。二人共ディアナに対し「全然大丈夫じゃないじゃないか」とか言いたかったかもしれないが、もうそんな事を言う事も忘れるくらい、目の前の男は怖かったのだろう。二人とも涙目で、小動物の様に小刻みに震えていた。
そんな二人の態度を見て、言葉を聞いたタカシは、大きく息を吐き、彼女達の愛らしい悲哀な姿に、少し苦笑しながら、二人の頭を優しく撫でた。

「・・・・はぁ~~~~。全く・・・だけど、まぁ。心配かけて悪かったな」

そんな事をされ、二人は今まで堪えていた物が堪え切れなくなり、グスグスと泣き出してしまう。
そんな二人を見て、また苦笑しながらも、二人を優しく抱きしめてやるタカシ。
すると二人は、更に激しく泣き出した。
泣くほど心配で、泣くほど恐ろしい出来事が何度もあったからか。泣きじゃくる二人を抱きながら、文句一つ言わず、彼は二人が落ち着くまでそのままで居た。
そして、二人共泣きはらし、落ち着き。恥ずかしさから顔を赤くしている所、計ったようなタイミングで、ディアナが口を開いた。

「全く。ダメじゃないの。女の子泣かせちゃ。二人共、本当に貴方の事心配してたのよ?」

「分かってるさ。心配させた事については、悪かったと思ってるよ」

ディアナにお説教をされ、苦笑しながらも、本当に分かっているのか怪しい態度で答える。
そんな男に呆れながらも、ディアナは、少しでも罪悪感を引き出してやろうと思い、更に攻める。

「反省の色が無いわね・・・というか、女の子殴るなんて、最低ね」

「何言ってるんだ?男女平等。老若男女関係ないね」

「・・・・あらそう。でも、だったら私は殴らなくていいのかしら?」

「最初は殴ってやろうかとも思ったんだが、最後に助けられたからチャラだな」

一矢報いようとするディアナだったが、平然と返され、溜息を吐いた。
そして

「はぁ・・・ま、それは良いいわよ・・・もう・・・それより、ほら」

彼女はそう言うと、自分の後ろに隠れるようにして立っていたレインを引っ張り出し、タカシの前に立たせた。
レインは、先ほどのアーリャ達と同じ様に、チラチラとタカシの顔色を伺っている。
そんなレインを、無表情で見下ろすタカシ。
そして、腕を振り上げた。
殴られると思ったレインは、目を瞑り、歯を噛み締め、覚悟を決めた。
だが、やってきた衝撃は小さく、ポンっと言う音で、彼の頭に手が置かれた。
不思議に思い、少年はゆっくりと目を開けると、その目には、笑顔のタカシが映っていた。

「よくやったな。お前のおかげで、本当に助かったよ。ありがとな」

そう言いながら、優しくその頭を撫でるタカシ。
最初何が起こっているのか理解できていないような顔で、キョトンとしていたレインだったが、やがて現状が認識できたのだろう。顔を赤くし、恥ずかしのか、タカシから目を逸らして、ポリポリと鼻の頭をかいている。だが、手を払い除けようとはしなかった。
そして少しして、はにかんだ笑顔で

「・・・・・べ、別に。大した事じゃねぇよ・・・・」

そう言いながら、改めて彼の顔を見た。
少年はこの時、彼に褒められ、礼を言われた事を、心の底から喜んでいた。
周囲の者も、皆その微笑ましい光景に、頬を緩ませている。
やがて、タカシは頭を撫でていた手をゆっくりと上げた。

そして、上げた100倍の速度で振り下ろす。

風を切る音と共に、ズドン!っと。
先ほど二人を殴った時より、遥かにヤバそうな音が辺りに響く。
皆がそんな行動に唖然としている。
レインは、衝撃と痛みで涙を流しながら、頭を抑えている。
彼が、何するんだとか言いた気な視線をタカシに向けるが、そこには相変わらず笑顔のタカシ。
しかし、それは先ほどまでの優しい笑顔では無い。そして、それは直ぐに笑顔ですら無くなった。

「この阿呆!死にたいのか!?お前みたいな糞餓鬼が、あんな化け物の相手になる訳ないだろうが!今回はたまたま助かったから良い物の、普通は絶対に死んでたぞ!調子に乗るのもいい加減にしろ!未熟者が!」

鬼の形相で、ガミガミと、凄まじい剣幕でレインを怒鳴りつけるタカシ。

「な、何すんだよ!さっき助かったって」

「それはそれだ大馬鹿者!事態を楽観視しすぎなんだよ!この単細胞が!」

ゴン。更に一発殴りながら、タカシは怒鳴る。

「で、でも!」

「デモもストもあるかバカ野郎!テメーみたいなバカなガキが、デカイ口聞くなんて10年はええんだよ!潰すぞ糞餓鬼!?」

ズバン。更にもう一発。
とうとうレインは頭を抱え、その場にしゃがみ込み、終に泣き出してしまった。
そして少年は、もう泣きながらごめんなさいと連呼するしか無かった。
先ほどの二人の涙には、喜びとか、そんな感情もあっただろうが、レインの涙は単純に恐怖からだろう。
泣いている少年に対しても、先ほどと同じ様に。っというか、更に凄まじい形相で、ガミガミと説教をするタカシ。
・・・持ち上げてから落とす。落としてから持ち上げる・・・・落差と言う奴ですね・・・。

兎も角。そんな光景を見て、アーリャとタバサは、自分達の時は、アレでも十分加減してくれていたのだなと。
冷や汗を流しながらもそう思いながら、心配そうにレインを見つめていた。

しばらくそんな説教が続き、一通り怒鳴り散らすと、タカシはフンっと鼻を鳴らし、レインから離れる。
同時に、アーリャとタバサがレインに駆け寄り、未だに泣いている少年を慰めてやっていた。

「・・・・ふん。全く・・・・人の気も知らないで・・・心臓が止まるかと思ったぞ・・・・・」

少し離れた位置に移動し、タカシがそんな事を呟いた。
その言葉を、いつの間にかリスに変化したリントと、共に歩み寄ってきていたディアナが聞き、彼女達は微笑みながらも話しかけて来た。

「ふふ。よっぽど心配したみたいね。あの子の、あの子達の事。貴方も良いお兄さんねぇ」

『それだけ心配だったのなら、もう少し優しい言葉を掛けてやっても良かったのでは無いか?』

「無理だよリント。旦那照れ屋だから」

「そうよ?それが出来るような人じゃないわ」

『フッ・・・それもそうだな』

「・・・・・・お前ら、後で覚えとけよ?」

ディアナとリスとナイフにからかわれ、憮然とするタカシ。
そんな四人は、涙を流す少年を必死に宥める二人の少女達の事を、少し離れた位置から、微笑ましそうに笑いながら見ていた。

少し時が経過し、レインが泣き止み、皆が先ほどの男の事を、タカシにいろいろ聞いている。

「あいつはブラックリストハンター。まぁ、簡単に言うと、元賞金稼ぎ。俺みたいな旅費の足しの為じゃなく、本物の、プロの賞金稼ぎだったのさ。だが、とある事件であいつ自身に賞金が掛かった。そのまま色々あって、どんどん賞金が高額になってな。そして一年くらい前。突如消息不明になった。死んだんじゃないかとか、色々噂されてたけど、どうやらこっちに来てたんだな・・・」

そんな話しを聞き、皆呆然としていた。
そして、アーリャがふと疑問に思った事を口にする。

「・・・・そういえば、最後に取引って言って、あっさり退いてくれたけど・・・最初からあぁ言ってれば良かったんじゃないの?」

それを聞き、少し思案してからタカシが答えた。

「ん・・・・丁度良いし、少し教えとくか。いいか?まず一つ。交渉ってのは、お互い対等な立場で行うからこそ、意味がある。更にお互いにメリットがあってこそだ。どちらかが一方的に有利な立場、メリットがある状態だと、あまり意味を成さない。良い例が、レコンキスタが攻めてきた時だな。不可侵条約?向こうの方が圧倒的に有利なのに?向こうに大したメリットも無いのに?こんな物破られて当然だ。守られると信じてるほうがどうかしてるね」

その言葉を聞き、当時の事を思い出すアーリャ。タカシは続ける。

「そして、もう一つ。戦争。戦いってのは、いわば交渉の延長だ。交渉を有利に進めるために。もしくは、お互いが譲らない為、言葉以外で決着を着けるための手段としてな。土地や金を寄越せって言われて、素直に差し出す奴は少ないだろ?ま、兎も角そんな感じだ。戦い自体が好きだって戦闘狂の変態もいるがな。ただ、俺と奴の場合は、交渉の手段でしかなかった。己の意思を通すという、目的を達成する為のな。お互い口で言っても退かないんだ。実力行使しか無くなったのさ」

それを聞き、何か言いたそうにする一同だったが、タカシは更に続ける。

「んで、お前らが疑問に思っている事。何故最初から言わなかったか。最初に言っても意味が無いからさ。最初の時点で、俺達はお互いの力量を測りかねていた。俺の実力が、確実に奴より上なら、最初に切り出しても奴は聞いてくれただろうな。だが、そうじゃない。少なくとも、俺は最初の時点でやつの方が上だと判断した。奴が俺をどう評価したかは知らんがね。ともかくそんな状況で、俺がディアナ達の事を話し、交渉しようとした場合。最悪俺がそのまま殺され、彼女達がヴァンに力ずくでも利用され、それで終わり。見た感じだと、最初から交渉しても聞いてくれてたかもしれないが、確証は無い。分が悪い賭けは嫌いなんだ。更に言えば、俺が約束通り情報を渡す保証は無い。渡しても、その情報が正しいと言う保証も無い。これは奴にとって不要なリスクでしかない」

「では何故あの時に切り出したの?」

小首をかしげながら聞いてくるタバサ。
タカシは一回頷き、質問に答える。

「交渉や戦いってのはな。カードゲームみたいな物なんだ」

一同がそれを聞き、思わず首をかしげながら「カードゲーム?」と、一斉に問い返す。

「そう。より強いカードを多く揃え、上手く使用した方が有利。だが、弱いカードしかなくても、戦略次第では有利に事を運べる。たとえば、自分の手札は2が三枚。13が一枚だとする。んで、相手は2が一枚で、13が十枚。普通にやったら相手が勝つ。だが、相手が2の札しか出していない時、こっちが13を出せばこちらの勝ちだ。戦闘で言えば、この時点で相手の命を奪えばって事だな。如何に相手に2を出させるか。そういうやり方もある。ここまでは良いか?」

一同がそれを聞き、頷くのを見てから、タカシは続ける。

「んで、さっきの場合。アイツは・・・あの最後の一撃。確証は無いが、奴の持つ切り札の一枚だ。少なくとも、絵札だな。それを切ってきた。だから、俺もあの札に対抗するために、切り札を一枚切らざるを得なかった。だが、それだけじゃ足りないと思った。それに正直、俺は切り札を切りたくなかったしな」

「切り札?兄ちゃん最後に何かしたの?ってか、何で使いたくなかったの?」

「あぁ。相手の実力が測りきれない内は、極力使いたく無いんだよ。対策を立てられりゃ終わりだしな。だが、切らざるを得なかった。ギリギリまで粘って考えてたんだが、予想外のカードが出て来た。だからこのチャンスで俺も切る事にしたのさ」

皆は声をそろえ、「それは何?」と聞いてきたので、タカシは笑いながら、レインの頭に手を置き、そのまま少し乱暴に撫でる。

「こいつだよ。レインがあの時、奴の攻撃を凌いだ。奴にとっては予想外だったろうな。絵札と思ってなかったカードが、絵札と同等か、何なのか分からない、謎の札が現れたんだ。そこで俺は、切り札を切る事を決めた。札同士をぶつけ、その場を一旦流す。その後、たたみ掛ける為に、もう一枚。ディアナってカードを、もう一枚の切り札を切った。俺は札を一枚は切ったが、詳細は不明。レインって謎の札が一枚。そしてディアナの情報と言うメリット。これだけの札を出す事で、やっと対等になった。信用できないが一応情報が入ると言うメリットと、不確定要素が多数ある中で俺と戦うリスク。どちらが良いかってな。奴が何を考えてたかまでは知らんがね。ま、結果退いてくれたって訳だな」

それを聞き、皆が唖然としていたが、タバサは何か関心したように頷き、質問してきた。

「仮定の話しで。貴方の持つ切り札を全て使っていたら。彼に勝てた?」

それを聞き、目を瞑って考え込むタカシ。
一同は肯定の意を示してくれるだろうと期待していたが

「・・・・無理だろうな。あの段階でも、どちらかというち”俺が退かせた”んじゃなく、”奴が退いてくれた”と表現した方が正しい。あの状況でも未だ奴の方が優勢だった」

そんな返答をされ、驚きながらも皆疑問に思っていた。
最後はあんなに余裕だったじゃないかと。

「ん?余裕に見えた?そーかそーか。ま、お前ら騙せなきゃあいつも騙せんだろ」

彼は苦笑しながらもそう答えた。あの時、余裕など欠片も無かったと。ハッタリやブラフ等。使える手段は何でも使い、如何に自分を上に、相手を下に見せるか。または、如何に相手を油断させ、その隙を突くか。それが俺のやり方だと。全く恥じることなく言い切った。
皆がその言葉を聞き、呆れながら口を揃えて一言。

『卑怯』

ジト眼で言ってきたが

「褒めるなよ。それにな、戦ってのは勝ってナンボだ。勝てば官軍負ければ賊軍ってな。勝ちゃいいんだよ。勝ちゃ。理想は戦わないで勝つ事だがね。毒殺とか暗殺とかも良いな。相手が油断している所をプスっと一刺し。素晴らしい殺りかただね。正々堂々?知るか。馬鹿がやる事だ」

等と、わははと笑いながらも、まったく恥じることなく、逆に自慢げに、次々と外道戦法を口に出す男。
正面から戦っても大抵の相手には勝てそうな実力がありながら、卑怯で姑息な手段が大好きだと、そう豪語する。
少なくとも、騎士道精神とかそんな物とは正反対な考えですね。

そんな会話をしばらく続けた時、ふと思い出したように、タカシが呟いた。

「・・・あ~・・・最近鈍ってるなぁ・・・一度本格的に鍛えなおす・・・か・・・・・・・・よし。ちょっと山篭りしてくるわ」

行き成りそんな事を言い出した。何が鈍ってるんでしょうかね?卑怯な考えとか?まぁ、そんな事は置いといて。
彼が何を言っているのか良く分からないと言った表情の一同を無視し、リスを竜に化けさせるタカシ。

「お前らどうする?一緒に来るなら連れてくが?」

竜に乗り、未だ唖然としている一同に呑気な声で問いかけるタカシ。その言葉を聞き、アーリャとタバサ。レインは、我に返ったようにハっとし、行くとそれぞれ口にし、竜の背に乗り込む。
ちなみに、ディアナも「暇だろ?ついでだ。来い」と言われ、そのまま強制的に竜に乗せられ、一同はその場を後にした。




以上です。ちょっと呆気無い幕切れだったかもしれませんが、一応決着ですね。
次回、山篭り?




[4075] 第五部 第九章 爺さん×山×発明品?
Name: 豊◆0ec87a18 ID:b5af5a8c
Date: 2008/10/18 10:40




山篭りの修行?に行くと言うタカシにくっついて来たアーリャ、レイン、タバサ。そして半ば強制的に拉致されたディアナ。
そんな者達を乗せた竜は、一夜明け、現在目的地に向け飛行中だった。

「・・・ねぇ?結局何所に向ってるの?」

怪訝そうな顔で尋ねてくるアーリャに、タカシは竜の背中に寝転がり、腕を枕にして日の光を浴び、気持ちよさそうにしながら答えた。

「ん~、アトゥレスって村の近くの山だな」

二人の少女は首を傾げていた。二人共知らない様だ。
レインも、タカシの隣に横になり、同じ様に気持ち良さそうに眼を細めている。

「あぁ、もしかして」

「そう。丁度良いだろ?」

何か知っている様子のディアナ。皆は彼女に視線を向け問いかけるが、タカシの「いいから。着いてからのお楽しみってな」と、笑顔で言われ、そのまま黙り込んだ。

「いやぁ、旦那!いい天気ですねぇ」

『全くだ。あの山に居たときはこうして飛び回る機会も無かったが、良い物だな』

「だな~。あ~、眠くなってきた」

「ん~・・・もうたべられない・・・」

とかナイフと竜と暢気に喋るタカシと、ムニャムニャと既に眠りこけているレイン。
そんな男達を訝しげに見ながら「?」っと首を傾げる少女達。
クスクスと楽しそうに笑うディアナ。
そんな一行はしばらく飛び続け、アトゥレス村とやらに到着。

そのまま村を超え、山へと入っていく。
ここはいくつもの山が連なり、山脈と言えるだろう。
木々が生い茂り、川が流れている。
そんな大自然を見下ろしながらも竜は飛行し、かなり奥の方まで来た。普通は人が来ないような山奥だ。
そして、一つの小さな山小屋が見えた。
竜はその小屋の近くに着陸。
竜から降り、一同はその小屋の入り口の前に来た。
そこで、タカシは行き成り扉をドンドンと叩き始める。

「お~い、じいさ~ん。いるか~?」

乱暴な挨拶を嗜めようとするアーリャだったが、その前に、小屋の中から返事がきた。

「誰じゃ~!ワシは今忙しい!今度にしろ!」

老人の声だ。しかし、この男相手に老若男女関係無い。
ある意味平等。ある意味最低。

「俺だよじいさん。とっとと開けないと扉ぶち破るぞ」

笑顔でそんな脅しをかける。
後ろでアーリャがなにやら言おうとしたがそれより早く。

「おぉ、お前さんか。今行くぞ」

そんな返事が来て、扉が開いた。
そして小屋の奥から、老人が一人現れた。
歳の頃は60過ぎであろうか。
細身で骨と皮しかない。キラリと光るハゲ頭。
風が吹けば飛んで行きそうである。
コルベール×オールドオスマンと言った所か。

「おぅじいさん。ちょいと用事があったんでついでに寄ってみたんだが、どうだ?出来たか?」

「おぅおぅ。勿論じゃ。ただ、まだ試作段階なので数が揃えられん事が問題じゃな」

「いやいや、十分だ。今すぐ入用でもないしな。数は、まぁじっくり作ってくれ。急かすわけじゃない」

ヘラヘラとそう言いながら笑顔で話すタカシ。

「そーかそーか。所で、そちらのお嬢さんたちは?」

「ん?あぁ。俺の教え子みたいなもんだ。アーリャとタバサ。そんで義弟のレインと、彼女がディアナ。ミーミルの泉のな」

彼の後ろを覗き込みように見てきたじいさんに振り返り、指差し、てそれぞれ紹介した。

「ほほぉ、あのお嬢ちゃん達が・・・まぁそれはいい。とりあえず、コレを渡しておくぞ?お前さんの注文の内一つじゃ。例の物は図面は完成しておる。他にも理論が出来たものもいくつかあるぞ」

そう言い何やらリングの様な物を手渡すじいさん。

「おぉ、流石だ。んじゃ、コレが今回の資金だな。必要になったらまた言ってくれ」

それを受け取りながら、大きめの袋を取り出し、それごとじいさんに渡した。

「おぉおぉ。いつもすまんの。これだけあればまた製作も研究もできると言う物じゃ」

カーッカッカッカと笑いながらそう返礼。

「気にするな。爺さんの価値を考えれば当然の報酬だ」

うっしっしと笑いながら、爺さんの肩を叩いた。
二人は「それを解ってくれる奴がおらんでのぉ」とか「そんな馬鹿共は死んだほうがいいな」とか笑顔でいろいろ話している。

そこへ、いい加減我慢できなくなったのか。アーリャ、タバサ、レインが口を揃えてが質問してきた。

「ねぇ、その人誰?」「その人は?」「そのじいちゃん誰?」

「おぉ、こいつはディーグランツヘルバルトって爺さんだ。魔法と科学の融合を研究している。天才だぞこいつ」

人の事を始めて「天才」と褒め称えるタカシに驚いている三人。
ディアナも、爺さんの事は知っていた様だが、彼が人を天才と言う場面を想像していなかったのか。ポカンと口を開け、やや放心状態だった。

「カーッカッカッカッカ。それほどでもあるわい!ワシがディーグランツヘルバルトじゃ。長ったらしいから「D」で良いぞ」

甲高い声で、上機嫌に笑うD爺さん。
少々耳障りな笑い声で、現実に引き戻されたアーリャが、いつの間に知り合ったのかと問うと

「あぁ、以前ディアナ達に探してもらってな。んで、研究資金、俺の持つ知識等の提供を条件に協力を取り付けた。いろいろ便利な道具を作ってくれているんだ。なぁ?じいさん」

「おうとも。いやぁ、しかし異世界と言うのは実に面白い。そこにワシの知識が加われば不可能と言う文字もいずれ辞書から消えるじゃろうて!カーッカッカッカッカッカ」

そう言い、笑いあうDじいさんとタカシ。
そんな二人に付いて行けず、ポカンと見つめるタバサとアーリャであった。

皆がどう反応すれば良いか困り果てていると、タカシは先ほど渡されたリングをリスに手渡す。

『これは何だ?』

リングを両手で持ち、首を傾げるリント。

「それ付けてみ。首輪みたいになるんだが、伸縮自在だから竜でもリスでも大丈夫。俺の念能力と呼応して、お互いの居る方向が解るって代物だ。コンパスみたいなもんだがな。何となくこっちの方角に居るってのが分かる」

そう言いリスにリングを付けさせると、そのリングがリスの首のサイズにまで縮小した。

『ふむ。これで良いか?』

不思議そうに、首をかしげて聞いてくるリス。
タカシが頷いたところで、D爺さんが

「まぁ、とりあえずお前さん達、一旦中に入れ。見せたい物もあるしのぉ」

そう言い、皆の背中を押し、小屋の中へと入って行った。

小屋の内部は酷い状況だった。
棚に置かれた大量のビーカーやらフラスコに入った怪しい液体。
そこいらに散らばっている用途不明のガラクタ。
中央に大きな机と椅子。
その上には、図面やら羽ペンやらが散乱している。
そんな内部の惨状を見て、顔を顰める女性陣。
一方、タカシは別段気にした様子も無い。
レインも、目を輝かせて周囲ろキョロキョロと見回していた。

そんな一同に、爺さんが何やら、大きさ20サント程の人形の様な物を手に持ち、話しかけて来た。

「所でコイツを見てくれ。コイツをどう思う?」

「すごく・・・じゃねぇ。何だ?このガ○プラみたいなの。ゴーレム?」

人形を受け取り、訝しげに眺めるタカシ。
20サント程白い色の人形を色々な角度から眺めている。
そんな彼に、爺さんは、良くぞ聞いてくれましたと言わんばかりの態度で、自慢気に、人形について説明を開始。

「それはワシの研究している物の模型じゃ。名付けて!”機動兵器ゴーダム”!じゃ!」

ドーンと言うBGMと共に、両手を広げ、そのまま高笑いを開始する爺さん。
一同少し引き気味。そんな爺さんを半眼で眺めながらも、タカシが少し嫌そうに突っ込みを入れた。

「・・・・何だそのパクリ臭のしまくる名前は・・・色々な意味でヤバイだろ・・・っつか、俺が渡してる金でんなもん研究してんのかよ・・・」

「何を言う!ちゃんと言われたとおりの物も研究しておるわい!それにな?そいつは素晴らしい物なんじゃぞ?聞いて驚け?全長20メイルの巨体!体中に取り付けた装甲板で、ありとあらゆる攻撃を防御し、風石により空も飛ぶ!どうじゃ!すごいじゃろ!?」

再びBGMが鳴り響き、また声高らかに笑い始める爺さん。
完全に自分の世界に入り込み、何やらブツブツと呟き始めた。
だが、一応周りの話は聞いている様だ。こちらの質問には応答する。

「・・・・・装甲っつったってたかが知れてるだろうが・・・完全防御なんて不可能だぞ?」

「いいや、敵の攻撃なんぞ、当たらなければ何と言う事は無い。その辺りは操縦者の腕次第じゃな」

相変わらず少し嫌そうに突っ込むタカシに対し、自分で発言しながらも、何やら顎に手を当て思案し始める爺さん。

「ほぉ、操縦者がいるのか?」

「うむ。内部に入り、こう、操縦桿でこうやってじゃな。まぁ最も、その辺りの詳しい設計は出来ておらんのでな。現在は外部のみの設計図じゃ。内部やその他については今後の」

身振り手振りで説明する爺さん。
しかし、その爺さんの話しの途中で、バキンと言う音が鳴り響いた。
見ると、タカシが手に持った人形を粉々に砕いていた。
それを見て頭を抱え、悲鳴の様な声を上げる爺さん。
何やら「何をするんじゃ!」とか「お前さんにはゴーダムの素晴らしさが分からんのか!?」とか「漢のロマンが!?」とかほざいていたが、タカシは冷ややかに対応する。

「却下だ。んなもんただの的にしかならん。空飛んでどうする。打ち落とされて終わりだ。いくら装甲を施しても、集中砲火を浴びれば意味無い。大体、全長20メイルの人型兵器なんて使いどころがねーよ。開発しようとするだけ、時間と金の無駄だ」

それを聞き、怒りながら抗議をする爺さんだが、タカシに適当にあしらわれ、何やらガックリと肩を落とした。
と思ったら。
次の瞬間、新しい設計図を引っ張り出してきて、「コレならどうじゃ!」とか言って見せてきた。
そんな感じで、設計図を見て却下されたり、中々面白いとのお言葉を頂いたりして、途中からレインも加わり、というか、興味津々で近寄り、目を輝かせながら意見を述べたりしている。
そんな三人の会話の所々には「漢のロマン」という単語が混じっていた。

「ではコレはどうじゃ?」

「却下」

「えぇい!頑固者め!ならコレは!?」

「おぉ、コレは中々・・・・」

「すげぇ!爺さん!アンタすげぇよ!」

「そーじゃろそーじゃろ?小僧。お前さんも中々、漢のロマンが分かる奴じゃのぉ」

子供のようにはしゃぐ男共を見ていた女性陣は、コソコソと

「ねぇ、ロマンって何?」

「わからない」

「男って馬鹿なのよ。気にしたら負けよ?」

とか話していた。
そのまま暫く時が経過し、爺さんの発明自慢が終わった頃。

「んで?お前さん方は此処に何しに来たんじゃ?ワシの発明を見に来ただけか?用事があるとか言っていたが」

「あぁ。ちょっとした用事だよ。爺さんはついでだ。悪いが、少しの間泊めてくれんか?」

その言葉を聞き、特に追求もしないで了承する爺さん。
その後、他の者を小屋の外に出し、タカシは爺さんと二人で少し会話。
少しして外に出て来た。

「んじゃ、俺はちょっと出かけてくる。お前ら、水汲みと巻き割りと洗濯しとけ。そんじゃ」

それだけ言い残すと、反論する間も与えずに、リントに乗り山奥へと飛び去って行く。
残された者達は、呆気に取られて眺めていたが、直ぐにハっと気がつき、抗議の声をあげる。
が、時既に遅し。タカシを乗せた巨竜は、既に目視出来る範囲には居なかった。

「もう!何なのよアイツは!帰ってきたら一発殴ってやる!」

怒りを露にするアーリャ。しかし、律儀にも言われたとおり、水を汲むために木で出来た入れの物を持ち、川に向かい歩いていった。
レインは何やら諦めたような溜息を吐き、薪を割りに小屋の裏へ。
タバサも、諦めた様な顔で、洗濯物を取りに小屋の中へと入って行った。
そんな一同を、切り株に座りながら、微笑ましそうに眺めるディアナ。
周囲には鳥や動物の鳴き声や、風で木の葉が揺れる音。
平和な時間が暫し流れていた。







以上です。
爺さんのモデルはZOIDSというアニメに出てくるドクターDと言うキャラです。
コルベール先生の様に真面目な人じゃなく、ハッチャケてる感じの愉快な爺さんです。


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