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[41025] とある幻想の弾幕遊戯Ⅱ(とある魔術の禁書目録×東方シリーズ)
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:307da9d2
Date: 2017/07/15 20:30
注意
このSSはとあるシリーズ(主に禁書、少し超電磁砲要素有り)と東方シリーズのクロスオーバーです
別記事に第一部があります、続編なので先にそっちをどうぞ
又とあるシリーズ側一部キャラに魔改造の可能性があります、ご了承下さい

最後に最大の注意点!……キャラ崩壊あり(流石に百話を超えると色々変わるので……)そういうのが苦手な人は注意してください



第二部 序章



「……不幸だ」

その少年は第一声でこんなことを言った。
だが、大袈裟ではない、何故なら同級生(全員男)に囲まれて詰問されていたからだ。

「……不幸だ」
「おい上条、夏休み無数の美少女と会っていたという情報があるんだが」
「許せないな、何か言い残すことは?」
「え、死ぬの、俺……」

少年、上条は自分の周りの者達、同級生の殺意に気づく。
思春期の男達にとってモテる同性は敵なのだ。
こうなったのも立派な理由がある、何故なら二人の美少女が彼に会いに来たからだ。
青い髪に氷の羽を持つ活発そうな少女と(羽は上条謀殺に夢中で誰も気にしてないが)白いシスター服で理知的な雰囲気の少女だ。
『夏休みのある事件』で仲良くなったチルノとインデックスである。
因みに購買で揃えたのか制服姿だ、尤もインデックスは心細いのか何時もの服を上に羽織っているが可憐さは損なわれていない。

「……ええと何かごめんね、かみじょー」
「ひ、暇だから学校に来たんだけど……不味かったかな、とーま?」
「ああ不味いかも、前以て言って欲しかった……」
「とりあえず逃げて、その人達殺気立ってる!」
「言われずとも!」
『待て、この野郎!』

上条は逃げ出し、当然同級生はそれを追う。
尚何故か先頭は事情を知っているはずの、魔術師兼学園都市暗部の土御門である。
数の差で直ぐに教室の隅に追い詰められた上条はせめて土御門と刺し違えようと殴りかかった。

「土御門、お前事情知ってるだろ!?」
「ははは、こっちの方が面白そうだにゃ」
「……良し、お前も死ね、俺と地獄に落ちやがれ!」
「はっ、しまった、追い詰めすぎたか、自棄になってるにゃ!?」

これにより一方的な狩りは決闘となった。
それまで殺気立っていた周りもドン引きする程の本気の殴り合いからクロスカウンターへ展開。
被害者と便乗犯の愉快犯のダブルKOでこの騒ぎは終わったのだった。

ケラケラケラ

この光景に本当の転校生である(どこか地味で陰のある)少女の肩に乗ったコウモリ(学校に興味が出て着いてきた)が爆笑した。

「おいそこのコウモリ、フランドールだろ、笑うな!?」

ケラケラケラ

上条は思わず苦情を述べるがコウモリ、に化けているある事件以来の付き合いの『問題児』は爆笑し続ける。
見かけ自分よりはるかに歳下(実際は逆だが)に笑われた上条は激しい屈辱感の中で肩を落とした。

「うう、本当に不幸だ……」
「どんまいだ、上やん」
「もうお前は黙ってろよ、土御門」
「ぎゃんだにゃ!」
「そうだぞ、あたいの友達に何すんだよ!」
「ぎゃんだにゃ!?」

とりあえず上条はこの騒ぎの原因の一人は踏み付けた。
更に、怒ったチルノにもう一度踏まれて彼は悶絶する。
だけど、誰も上条と違って心配しなかった。
多分人徳の差である。

「……相変わらずのようですね、上条ちゃん」
「小萌先生、止めてくださいよ」
「いやまあ面白かったので、後上条ちゃんにとっては何時ものことでしょう」
「畜生、何時ものこと扱いかよ、何でだ……」

上条に恩師、チルノと同程度の背丈の小萌が苦笑気味に笑い掛ける。
不思議なことに彼女は立派な大人である、酒も煙草もやる、七不思議の一つだ。

「……ああそうそう、上条ちゃんに言うことがありました」
「はい、何です?」

すると小萌は迷った様子で黙りこむ。
暫し悩んだ後上条に同情の視線と共に問い掛けた。

「風紀委員(ジャッジメント)が上条ちゃんを呼んでます、上条ちゃん個人を指名してます」
「え、風紀委員って、え、ええ?」
「……何かしたんですか、上条ちゃん?」

上条は凍りついた、小萌は悪いことしたなら楽になれと言いたげにポンポンと肩を叩く。
なお一層コウモリがケラケラと笑った。



「よっ上条、呼ンだの俺だ……学園都市のイメージアップに風紀委員に協力して街を回れって話が来てな。
所謂ボランティアっていうのか?……面倒なンで手前ェも手伝え、頭数が増えれば単純に仕事も半分だろ?」
「……紛らわしいことすんじゃねえ、先生や同級生に色々言われたぞ!」
「がはァ!?」

バキィ

呼び出された上条を迎えたのは学園都市において頂点に立つ白い少年だった。
とりあえず勝手言っているこの男、一方通行を上条は相手が超能力者であること等構わず殴った。

「何しやがる、殴ることは無ェだろ!?」
「お前さ、前から面倒事は俺に押し付けるよな!?止めろよそういうの!?」
「いや頼りになる知り合いは他に居るが……借り作りたくねェンだよ、高く付きそうだし」

バキィ

「ぐはァ!?」
「俺の事情を考えろ、一位で色々融通利くお前と違って大変なんだよ!」

もう一発殴っておいた、もんどり打って一方通行は倒れる。
が、脆そうな細身に似合わず彼は立ち上がる、『幼馴染筆頭』に『面倒な女』に振り回されてきただけのことはあるというべきか。

「手前ェ、流石に二度は許さねェ……這いつくばらせて謝ってもらうぜ!」
「おおやってみろ、出来るなら……だがそうなるのはそっちだ!」

最強の能力者と無敵の異能殺し、そんな二人が下らない理由で殴り合う。
事情を知る者も知らない者も呆然とするしかなかった。

「ええと、どうしよっか、インデックス?」
「巻き込まれたくないし応援でもしてよ、チルノ」
「そうだね、飽きたら終わるか」
「な、何ですの、この状況……何で協力頼んだ相手が乱闘起こしてるんですの!?」

何となく着いてきたチルノとインデックスは戸惑いつつも流した、この手の騒ぎは何時ものことなので落ち着いた物だ。
それに対して風紀委員の一員である白井黒子は何がなんだかわからず困惑する。
そんな彼女にもう一人の関係者、ゴーグルの代わりに頭に人形を乗っけた茶の髪の少女が宥めるように言う。

「酷いようならミサカが止めます、だから安心して、黒子さん」
「お姉様の妹様がそう言うなら!」

学園都市で最も有名かもしれない人物の妹の(正確には妹的存在の)言葉に黒子が落ち着く。
まあ落ち着いたというより、黒子の同室で先輩だった『姉』が大好きでその妹を無条件に受け入れただけだが。

「……あれ、ミサカも呼ばれたの?」
「いえ正確にはミサカ達が本命でそっちがついでというか……」
「どういう意味?」
「一方通行は最初協力を断るつもりだったようですが……皆の刺激になるかと協力を受け、それに誘ってくれたんです」

ああとチルノとインデックスが納得する。
『ある理由』で殺す実験から『演算を融通し合うという実験』に移行、それを一方通行とシスターズと呼ばれる者達は行っている。
今では計画の立派なスタッフであるシスターズを一方通行が世話をしていることを二人は知っていた。
今回のことも一方通行がシスターズの為に計画したようだ。

「とりあえずミサカと成長段階の進んだ者が参加し……他の姉妹達へリアルタイムで流す予定です」
「へえ……ああ本当だ、あっちに次女達が居る」
「……まあ事務方ですけどね、このミサカ程には外に慣れていないので」

『一方通行ともう一人の悪巧み』でミサカ10032号は他より遥かに多くの経験を積んでいる。
次いで00001号、それよりやや下に00002号と00003号が続く、その後者の二人、通称次女と三女が今回は裏方をやるようだ。

「……ねえ、あたいも参加したい!」
「私も何だよ、まあ荒事駄目だから裏方だけどね……次女達の方を手伝おうかな」
「おやこれは何とも賑やかになりそうな……」

ミサカにチルノとインデックスが自分達も参加することを告げる。
共に『恐るべき敵』から逃げ続けて、その結果友人と成った三人はにっこりと笑い合った。
やはり友人と一緒に居るのが良いのだ。

「それじゃ風紀委員らしい格好を用意しましょう……黒子さん、着替えたいんですがお願いできます?」
「はい、喜んでー、ですの!」
「手伝うよ、ミサカちゃん!」
「……小悪魔はGOホーム、関係者以外は出て行きなさい」
「そんなあ……」

尚勝手に着いてきた赤毛の司書、『ある事件でミサカにべた惚れした』小悪魔が追い出される、完全涙目だった。

「……ぷぷっ、小悪魔残念だったね」
「姫海棠さんも出て行きなさい、ツインテ同士で黒子さんとキャラ被るんですよ」
「ええ、折角の記事が……」

後一方通行をネタにしたりされたりする馴染みの烏天狗も追い払われた、外で小悪魔と並んで座り込んだ、他の者は皆無視したが。

「さあ準備したら学園都市を一周りしてみましょう……夏休み会った方々と会うかもしれませんね」
「ああそうだね……『一番厄介』なのが今はいないから気楽に回れるかな」
「……ところで、とうまとミサカお姉さんの保護者さんはどうするの?」
「戻ってきて暴れてるようならミサカが止めます」
『……そうなると年上の威厳消えるねえ』



「……はっ、『鈴科君』を笑い者に出来る気配が!」

ピキンと何かを感じて紅白の巫女服に黒髪の少女が叫んだ。
因みに口にしたのは彼女だけが呼べる名だ。

「良いからお守り作る、奢って貰ってばっかじゃ格好悪いよ」
「そうね、自分の食い扶持は自分で稼がないと……」
「そうそう、だから私も手伝ってるんだぞー、私だけに仕事させんなー」
「はいはい、わかってるわよ、ルーミア」

巫女服の少女の隣で金髪に赤いリボンの少女がからかう、二人は少し身につまされる理由でお守りを作っていった。
地味な手作業だが巫女服の少女には貴重な収入源で、もう一人も『少し前の事件で』迷惑をかけたので素直に手伝った。

「上海、蓬莱、大江戸その他全員整列……人形劇用衣装、製作開始!」

ドガガガガッ

でも、そんな地味な手作業を圧倒する人形マニアかつ親バカのせいで直ぐに二人は微妙な表情に成った。

「何かやってられないわね」
「あれ見ちゃうとねえ……」
「……貸さないわよ、この街で開く人形劇の為の物を作ってるんだから」
『ちぇー……』

そんな三者を横目で見ながら短く纏めた黒髪の少女、どこぞで外に追い出されたのと同族の少女が作業をしている。

「ふう、もうちょいで終わるかな、外とわからないように多少削った郷用の新聞が……」

この数ヶ月学園都市で『立て続けの派手な事件』は何だかんだ言って良いネタになる。
起きたのが外とわからなければ某妖怪の賢者もお目こぼししてくれるだろう、彼女はラストスパートとばかりに気合を入れた。

「ようし、頑張ろうっと……ああそっちのお三方、適当なとこでご飯食べに行きません?
ああ因みに私は烏で雑食なのでなんでもいいです、そっちに希望があれば合わせますが……」
「そうね、それも良いか……ルーミア、アリス、前の占いブームで稼いだ残りあるから奢るわ、何か食べたいのある?」
「うーんとねえ、お肉食べたい」
「ケーキかしら、郷と違って自分で作らなくていいし」
「……面倒だしファミレスね」
『このドケチ巫女ー!』

間を取ったら文句を言われた(安くしようとしたのも少しあるが)、ちょっとイラッとした巫女は針を取り出し向ける。

ジャキン

「……文句あるかしら、二人共?」
『無いです、ごめんなさい』

鬼のような形相の巫女の恫喝に大小金髪娘が真っ青な顔で黙り込んだ。

「はは、お強いですねえ、霊夢さんは……ていうか鬼巫女?(ボソッ)」

針を向けられてない天狗まで身震いする、それ程に恐ろしい姿だ。
幻想からの来訪者は何時もどおりだった。




第二部第一話 学園都市悲喜こもごも・一 へ続く


こんな感じで一方通行からの無茶ぶりにより、主要メンバーでの風紀委員体験が始まります。
まあ二部始まったばかりなので軽い話というか・・・色々おさらいやりたいのでイベントにかこつけてあちこち行く予定。
一部で書いた予告、特に不幸同盟は後になります、先に書くことが出来てしまって・・・
因みに乱闘の結果は多分ドロー(決着前にミサカが止める)。
・・・風紀委員体験と平行し、『アリスの人形劇』とか『天狗達の記事』みたい形で一部の纏めを書くかも。

ああ後一部最後の回の感想見たけど・・・どう返すか(今書くのも変だし)悩ましく返信は保留します、感想書いた方すみません。
でもちゃんと読んではいます、感想ありがとうございます・・・



[41025] 第一話 学園都市悲喜こもごも・一
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:307da9d2
Date: 2015/04/29 22:53
「レディース&ジェントル、ああガールズか……お待たせしたわね、人形劇の開始よ」
「ゴセイチョウ、オネガイシマース!」

金髪の少女とその幼年期を模した人形、人形遣いのアリスとその娘のような存在である小さなアリスが一礼する。
すると圧倒的な喝采が二人を迎えた。

ワアアアアッ

「ふふ、声援ありがとう」
「アリガトー!」

叫び拍手するのは無表情な少女達、全く同じ容姿をしていた。
軍用クローンの(色々在って怪しくなってきたが)シスターズである。
一見無表情だがある程度付き合いが有れば興奮していることがわかる、これから始まる劇を皆揃って心待ちにしているようだ。

「キョウノゲキハ……トクベツヘンダヨー!」
「夏休み最初の事件、三人の少女と一人の少年、それに一体の人形の物語の……始まり始まりー!」
『わくわくわくわく』

シスターズ、中でも幼くした感じの少女『打ち止め(ラストオーダー)』目を皿のようにして劇を見つめる。
姉であるミサカ10032号聞けば内容を知れるがそれでは味気ないとのことだ。

「わあ、楽しみ……10032号の原点はどんなんだろうって、ミサカはミサカはずっと思ってたもん」

この打ち止めの様子にアリス達が燃えに燃えた。

「……頑張りましょう、これは失敗できないわ」
「ソウダネ、アリス!」

アリスが人形を操作、それを小さな人形がサポートし人形劇が進行していく。
可憐な人形達が小さな劇場の上で演技を始める。
そこへアリスが筋書きを読んで小さなアリスが相槌を入れるという形だ。

「……あるところに白いシスター服の少女が居ました。
一年以上前の記憶が無く仲間も居ない、共にいるのは唯一体の人形だけ……
彼女はある理由で謎の二人組に狙われ、ずっと逃げてここに……学園都市に流れてきたのです」
「ダケド、アノヒトタチト……『三人』トアッテ、スクワレタンダヨ、ソノココロモネ」

劇場の上ではボロボロのシスターの格好をした人形が三体の仮装をした人形に拾われた様子が再現される。
人形はそれぞれ、氷の羽を持つ妖精、ゴーグルを被った少女、とんがった黒髪が特徴的な学生に扮していた。

「ミンナガ、タスケテクレタ……ソレゾレ、チガウリユウデダケド」
「一人目、『最強を目指す娘』は武者修行の旅の途中でした……白い少女を助けたのはそのヒントを持っていると思ったから。
……まあ困ってたから軽い気持ちで助けようかと考え、その時点で目的はどっか行ったらしいけど」
「チルノチャン、マジヨウセイ、ヨクモワルクモ……」
「……ええとそれはともかく二人目、『電気使いの少女』の方が行動を共にしたのは偶然からね。
当時は今程豊かな感情は無かったけど、そんな彼女が憐れむ程に白い少女は不幸な境遇だった。
その時は偶々目的無しに外に居て、いや『ある二人』に放り出されてすることが無かったから何となく助けることにしたようね」
「ミサカチャン、ジブントカサネタノカモ……」
「そして三人目、『不幸な少年』……彼は知り合いと『電気使いの少女』を間違えて追っていました。
別人だと直ぐにわかったけど似すぎた容姿が気になり行動を共にしました……助ける理由は無い筈だけど自分から」
「……オニイチャン、オヒトヨシ、ソコガイイトコロナンダケド」
「『最強を目指す娘』と『電気使いの少女』と『不幸な少年』、この三人と『白いシスター』の出会いで……事件は思わぬ方向へ」

主役が出揃ったところで劇の展開は次に進む。
四人を囲むように、個性的な関係者が現れる(勿論アリスが操る人形だが)

「『白いシスター』は十万の禁書目……げふん、今のはスラングというか専門用語よ、隠語的な物で貴重な知識を持っていました。
謎の二人組、炎を操る『赤い神父』と大太刀を振るう『女剣士』に追われていたのはそのせいです」
「……イチネンクライオワレテ、モウヘトヘトダッタヨ」
「それ以外にも彼女を狙って別口の襲撃者も現れます、三沢塾という場所を拠点としていた『陰気な研究者』。
最悪なことにそいつにはとても危険なのがお供に付いていたのです、炎の剣と真紅の矢を携えた『七色の翼の破壊者』という……
ちっちゃいけど凶暴、何より気紛れで何を考えてるかわからない危険な相手です」
「チナミニ、ブンシンシマス……コワカッタヨウ」
「……こんな酷過ぎる面々から三人をシスターを守ろうと頑張ります、会ったばかりだけど力を合わせて」

台上で追手達から三人(役の人形)がシスターの手を引いて逃げる光景が広がる。
彼等は協力し互いをカバーし合って殆ど乱戦状態の戦場を抜け出す。

「『最強を目指す娘』の氷の弾幕、『不幸な少年』の異能を消す奇妙な右腕、『七色の翼の破壊者』は分が悪いと見て撤退します。
……同時刻それの別個体というか、本体が二人組と戦ってる隙に彼等は無事逃げられました」

だが事態は更に悪化、シスターを捕まえられなかった二人組だったがそこへ強力な助っ人(?)が現れたのだ。

「逃げられたと思ったのも束の間、一日足らずで追っ手がかかります、それもとても強力な追手が……」
「イマオモイダシテモコワイ、モウホトンドホラー……」
「えー、超能力者、その第四位です……数ヶ月前どっかに『神隠し』に遇ったかのように消えたそうだけど……
学園都市に戻った彼女は『魔女が被るような黒い帽子』と『紳士淑女が手にするような日傘』を携えていました。
『砲撃狂いの超能力者』は以前以上の力を手に帰還後大いにそれを振るったのです」

日傘を振り回す『砲撃狂いの超能力者』が台上を所狭しと暴れ回る。
何故か巻き添えで『赤い神父』と『女剣士』が倒れるもシスターとそれを守る三人を追い詰めていった。

「ですが、そこで……」
「ワタシノデバン!」

アリスの肩で小さなアリスが胸を張る、台上でも同じ格好の人形がシスターを庇って立った。

「三人の他にも『白いシスター』には味方が居ました、記憶を失った直後から共に居てくれた生き人形が。
当時はやや不安定で活動時間が限られていたけど……『不幸な少年』の粘りでギリギリでその起動が間に合ったのです」
「オニイチャン、ナグリタオサレタケド……オカゲデマニアッタヨ」
「『小さなアリス』が『砲撃狂いの超能力者』の攻撃を迎撃……更に『最強を目指す娘』と『電気使いの少女』も助力します」
「ワタシダケジャキツカッタ……フタリノオカゲデ、ナントカカテタヨ!」

この意外な援軍の助けも有り、怪我した少年を連れて何とか彼女達は離脱することが出来た。
だが問題が一つ、退けることこそ出来たが超能力者を倒し切れなかったのだ。
そしてそれに加えて事件は新たなる段階を迎える、盤面に大きな変化が起きた。

「『不幸な少年』は怪我の手当の為に、また避難の為に『黄色い服にピアスが特徴的なシスター』を訪ねました。
彼女と少年と『電気使いの少女』に似た少女、後もう一人、その恩師の『赤い外套の研究者』で嘗て行動を共にしたとのことです。
そして……旧友であるシスターから、驚くべき情報が齎されます」
「『赤い神父』ト『女剣士』……オナジソシキノ、ナカマダッタンダヨ」
「そう追手だと思われた二人組が仲間だというのです……当然、この情報に皆困惑します。
ですがこれだけでは有りません、ここで謎の『紅白衣装の鬼のような女』と『夜行性肉食獣』が暗躍し始めたのです」
「アッ、ココオフレコ、ミコニシラレタラ……タブン、ピチュル」

ジイっと台上の端っこに二人の乱入者が現れる。
シスター及びそれを守る者達をジイっと観察していた、とても怪しい。

「この二人に関してはここで詳しくは説明しません、話が進めば少しはその背景が見えるでしょう。
唯その目的くらいは言っていいか……目的は二つ、その為に色々怪しいことをしています」
「……ヒトツメー、ヘイワニジケンカイケツ!」
「そう平穏に事件を集結させる、それが目的です……休暇途中でやる気に些か欠け、もう一人に押し付けていますが」
「ソシテ、フタツメ……ドウキョウシャノカンシ!」
「何と彼女は『最強を目指す娘』と『七色の翼の破壊者』と同じ地の出です、だからそれとなく気にしています。
さて気になるのが『最強を目指す娘』が修行目的なら同じように目的が有る筈ですが……何故来たかはまあ追々ということで……」

この二人の乱入者と新情報によって事件は奇妙な方向へ流れ出す、それに合わせ台上も忙しくなった。
シスターとそれを守る者達を追うように神父と超能力者が現れた。

「何てこと、怪我人なのに『赤い神父』は諦めてません、この執念、やはり情報……仲間だったからというのは本当のようです。
それと殆ど同時に『砲撃狂いの超能力者』も現れます、幸いこの二者が何故か衝突したので逃げることは出来ましたが……」
「チョウノウリョクシャ、ゴエイダッタハズダケド……ナゼ、タタカッタカハ……ナゾ」
「……更にここで『紅白衣装の鬼のような女』の指示で『夜行性肉食獣』まで乱入します……大惨事ね」
「アリス、スダヨ、ムリナイケド……」
「おっと、戻さないと……さて最終的に戦いの勝者は『砲撃狂いの超能力者』と成ります」

超能力者役の人形に殴り倒されて神父の人形が台上に沈む、それを見て肉食獣が逃げ出し、乱戦は一応の決着と成った。

「ですが、ここでで神父の必死な戦い振りから、目的が仲間を助けるということが超能力者にも伝わりました。
……これにより超能力者は少なからず負い目を持ち、それが後々響いて来ることに成ります」
「……コッチニトッテ、ウレシクナイカタチデ、ダケドネ」
「さて、シスターと護衛はどうなったかですが……最後の乱入者が襲い掛かったのです、しかも『不幸な少年』抜きの時に」
「ウンワルク、ジョウホウノ、ウラヅケニイッテタノ……」

台上の影から二体の人形、賢者と司書が覗き込んだ。
賢者がビッとシスターを指を指すとそれに従って司書が不意打ちを仕掛ける。

「逃げる途中だった『最強を目指す娘』と『電気使いの少女』ですが司書の奇襲を慌てて迎え撃ちます。
しかし……奇襲故の準備不足、『不幸な少年』の不在、人形の稼働限界、これ等の条件が合わさり苦戦を強いられることに……」
「ソコニ、タスケガ……イガイナタスケガキタ」

颯爽と台上に一体の人形、錬金術士が現れシスターを後ろに庇う。

「何と……敵である『陰気な研究者』が現れ援護したのです、彼も『白いシスター』の仲間だった、そういうことのようです。
この援軍で何とか『赤髪の司書』を追い詰めました……ですが相手もさる物で、大技で一網打尽にしようと反撃します」
「デモネ、ミサカチャン、スゴイガンバッタノ!」
「何故その時感情が未熟だった彼女がやれたのかはわからないけど、予想することくらいは出来るか……」
「……チルノチャント、レンキンジュツシ、フタリニヒキズラレタノカモ」
「シスターを守る二人の戦いをすぐ近くで見た……未成熟な心でも、いえだからこそ感じる物が有ったのでしょう」

結果追い詰められた司書の反撃は失敗、逆転は出来ずに終わりバタンと台の上にぶっ倒れた。
でも、何故か司書役の人形は自分を負かした相手へ熱い視線を送る。
この光景に観客のシスターズは揃って『あっ』と声を漏らした。

「ええとわかった子もいるようだけど……この一件で『赤髪の司書』が『電気使いの少女』にべた惚れしたわ。
最後まで諦めずに戦った彼女はまるで聖女、是非自分の物にしたいと……何というか不幸ね」

姉妹の受難にシスターズはブワと一斉に涙した。

「さて、この一方的宣言を最後に司書は撤退……その後『不幸な少年』が合流、そこで彼からは驚くべき真実が明かされます」
「……ウン、ダレニトッテモネ」
「……その前に何故『赤い神父』と『女剣士』は『白いシスター』を追うのか、その説明から先にすることにしましょう。
『白いシスター』は特別な知識を持っている、これは既に説明しましたが……膨大な知識が脳への負担となり命を脅かしています。
そう仲間は教えられているのです、一年毎に記憶を消し命だけでも救おうと……ですが何とこれは誤りでした」
「オニイチャン、タンドクコウドウデシラベタ……ヒトリデ、テキトハナシアイ、マッタクムチャシスギ」
「……まあその行動、敵との接触から記憶関係で疑問点が浮かんで、錬金術士に真実を伝えることが出来たのです」
「アノヒト、ガックリシテタ……デモ、ウレシソウデモアッタ」
「自分の行動は無駄で、だけど同時に『白いシスター』を助けられるという相反する二つの思いを胸に彼は一旦拠点に帰った……」

この辺りでシスターズに余裕が見え出す。
事件は終わりに向かっている、後は関係者に知らせれば戦う理由は消えると、そう思えただろう。
だが、そこへ現れた二体の人形にそれは崩れる、台上に超能力者と女剣士が並んで現れたのだ。

「何ということでしょう、この期に及んでこの二人は戦うことを選んだのです。
それも真実に気づいていない訳ではなく、一年のタイムリミットが嘘であることを知った上で……」
「……チョウノウリョクシャノセイ」

アリスと小さなアリスが呆れた表情に成る、シスターズも似たような物だった。

「そもそも一年の嘘をシスターの仲間に吹き込んだのは彼等の上司で……そいつはシスターを、その知識を警戒していました」
「チエガツイテ……ソノチシキ、アクヨウヲサレタクナイッテ」
「全てはその上司の仕掛けです、嘘を信じさせる為に少女の体には一年の期限合わせて彼女を苦しめる処置がしてあったのです。
……そしてそれ以外にも何かしらの罠が有る、あるいは命を脅かすかも、そう超能力者は女剣士に囁いたのです。
記憶を消せば現状維持であるからと……その手段の提供を代価に女剣士を味方につけました」
「テスタメント、ソレヲヨウイスルッテ……」
「彼女がこんな行動に出た理由……それは負い目と戦闘への欲求を両立しようとしたから」

結果顔を覆いたくなる大惨事と成った、台上で超能力者と女剣士に氷精達が蹴散らされていく。
だが、人形はデフォルメされているんので実際はこれ以上酷いだろう、シスターズは皆引き攣り顔になった

「まず『不幸な少年』が不意打ちで倒れ、他の二人も……助けようとした生き人形も追い詰められます。
ですが人形は次に賭けようと攻撃を自分一人で受け被害を最小限に……『電気使いの少女』もそれに続きます」
「ミサカチャン、スゴカッタ……ノウリョクデ、コウゲキハネカエシタノ!」
「彼女の反撃で相手はこれ以上の追撃が出来ず撤退……これにより『最強を目指す娘』と『不幸な少年』を残すことが出来ました。
……唯仲間を庇い直撃を受けた『小さなアリス』、生き残る為に無茶した『電気使いの少女』は戦闘不能です。
戦力は半減以下、果たしてこれでシスター奪還が成せるのか……そこへ『紅白衣装の鬼のような女』が現れたのです」

それまで舞台袖で暗躍する存在、仲間であるもう一人に命令していただけだったが遂に自ら動き出したのだ。

「彼女はまず『不幸な少年』の治療と、わた……『小さなアリス』の関係者を呼びました。
……更に先日以来沈黙する強敵、『七色の翼の破壊者』の説得及び無理な場合の無力化する為に三沢塾へ仕掛けます」
「……チナミニ、オニイチャンモダヨ、ムチャバッカリダネ」
「無茶は両方だけど、やはり鬼巫女……この辺から彼女の真意が徐々に出てきます、『電気使いの少女』を知ってるようですが?」

この言葉で段々と観客のシスターズにも理解の色が出てくる。
紅白の近くに白い影が出てきたような気がした。

「さて話がずれたか……『不幸な少年』は『紅白衣装の鬼のような女』と『夜行性肉食獣』と共に三沢塾へ……
最初は説得から、それは失敗したものの彼等は奮戦し……分身を全滅させ、『七色の翼の破壊者』を圧倒します」
「……ヤッパリ、ムチャヤッタラシイケド」
「捨て身で強引に押し切ったそうね……まあ無茶こそしたけど結果相手を追い詰めました。
それでも相手は諦めず……が、ここで『陰気な研究者』が現れ、少年達から事情を聞いた彼はある決意をしました。
……仲間である『七色の翼の破壊者』を射つことでその意思、シスターを救いたいと示しました、命懸けの訴えということです。
格上で自分を容易く殺せる者への攻撃、『七色の翼の破壊者』は無謀といえる勇気に心を動かされ……手を引くと約束したのです」

これによりややこしかった台上が幾らか整理されたようにシスターズには思えた。
記憶を消してもシスターを守る者、記憶を残した上で元凶を何とかすることを選んだ者、その二者の戦いだと。
が、そこへ現れた『紫』と『赤』の人形に思わず顔を顰め、そこへ現れた『白』の人形に顔を輝かせる。

「さて、翌日しっかり休んで体力を戻した上での決戦……戦場に向う『最強を目指す娘』と『不幸な少年』を影から伺う者が居た。
……赤髪の司書を遣わしたその主が漁夫の利狙いで来たのです、赤髪の司書も居る、でもそこへ……『彼』が現れました」
「ミンナガ、シッテル……シロイヤツ!」

ワアアアッ

遂に現れた白、つまり一方通行の存在に、シスターズが湧いて歓声を上げた。

「あら大人気、『最強の超能力者』登場よ……そもそも彼が『電気使いの少女』を外に出した、目的在ってだけど変化は期待通り。
だから、折角の成果に水を差されない為に邪魔者達の前に立ち塞がった。
……順番が前後するけど昨夜の戦いで満足した『七色の翼の破壊者』もその礼にと参戦し、二人の邪魔者を鎮圧したわ」
「……コレデ、ノコリフタリ!」
「ええ、友人の元を目指す二人……その前に立つ女剣士を少年が抑え、その間に氷精が超能力者を目指したのです」

台上で展開する物語がクライマックスに近づく。
超能力者が紫の魔女を、悪魔が使い魔を倒した、後はシスター奪還を阻む二人の敵だ。
だけど、良いところでアリスが勿体ぶったように手を止める、シスターズの期待を煽った上で大イベントを見せてやった。

「更にここで……『小さなアリス』が援軍に来た、直したのは私だけど間に合ったのは……『電気使いの少女』の手伝いのおかげ」
「ミサカチャン、マジセイジョ!」

ワアアアッ

ここでの姉妹の登場にシスターズが湧いた。

「……因みに自発的に友人の助けになろうとしたわ、この時点でもう立派な人間ね」

観客達の盛り上がりは最高潮に成った。
これを崩す等言語道断とアリスは人形を操作する手を再開する。

「『小さなアリス』が女剣士と一対一で戦う少年を助け……協力して彼女を打倒、更に次の戦場へ。
そのまま彼等は苦戦する『最強を目指す娘』と合流……二人と一体は一丸となって『砲撃狂いの超能力者』に挑みます」
「デモ、アイツ、ツヨカッタ、アトドーピング……」
「ええ、どこぞから持ち帰った茸でドーピング……電子の拳を振るい、砲撃をばら撒く、ほんと悪夢のような相手ね」
「……ケドカッタ、ギリギリダッタケド!」
「……『不幸な少年』の拳が砲撃を払い落とし……『小さなアリス』の弾幕が相手を強かに打って……
『砲撃狂いの超能力者』はそれでも立ち塞がり続け、だが『最強を目指す娘』の氷がついに!……無敵と思えた敵を打ち倒した!」

ワアアアアアッ

台上で超能力者役の人形が大の字に倒れる。
それを見たシスターズはそれまでで最大の歓声を上げた。

「シスターズを助けようとした『三人と人形の勝利』……これによって『白いシスター』は奪還された。
件の彼女に仕掛けられた組織の罠が悪足掻きに出たけど……『紅白衣装の鬼のような女』が読んで『七色の翼の破壊者』が潰した。
後は少年が元凶である仕掛けを砕いて決着……皆と共にシスターは心配して待っていた『電気使いの少女』の元へ戻ったのです!」「イッケンラクチャクダ!」
「そして今も……あの子達は友人として一緒に過ごしている、エンディングはこれで良いわよね?」
「……ダッテ、ゲンザイシンコウケイ、ダモンネ!」

アリスと小さなアリスの言葉に、シスターズはブンブンと首を上下に往復させる。
それは言う通り現在進行形であり態々劇で見せるまでもない。
何せ今も『電気使いの少女』、いやミサカは友人達と一緒にいる。
『最強を目指す娘』チルノ、『不幸な少年』上条、『白いシスター』インデックス達と。



第二部第一話 学園都市悲喜こもごも・一



支部でインデックスとシスターズ達が書類整理をする、この手の分野なら殆どインデックス無双だ。

バババッ

「らーらーたたえーたたえよー」
(あらまあ、インデックスさんは鼻歌交じりか……)
(今やってるのは面倒な仕事なのに、この手の仕事に慣れてるのかな)

インデックスがリズミカルに口ずさみながら書類を持ってあっちこっちに行ったり来たりする。
延々と沢山の書類を種類別に仕分けるという七面倒臭いな仕事だが、文字に関わる仕事には慣れているから余裕有りげだ。
尤も同じ作業の固法と初春はそんなこと知らないので少し首を傾げたが。

「……何の曲でしたっけ、先輩」
「うーん、どこかで聞いた覚えが……」
「おーはれるやー」
「ああ賛美歌か、聞いたのは教会かな」
「そ、何となく気分が乗ってつい口ずさんじゃった」
「楽しい仕事ではないと思うけど……」
「皆集まって何かするのは結構面白いよ、ちょっとした祭りっていうかね」
「……ああ成程」
「そういうことならわかるかも」

インデックスの言葉を聞いた固法達は納得する。
慣れ以外にもその余裕には理由が有ったらしい。
友人と共にこのイベントに参加すること自体が彼女にとって重要ということだ。

「……夏休みは色々忙しかったから」
「ああそういえば……謎の高位能力者同士の戦闘報告が相次いでたか、もしかして巻き込まれた?」
「ま、まあそんなところ……」
「あーそれはツイてないわね」
「先月は色々有りましたから……」

絶対能力進化計画絡みや二度のアステカの襲撃等の関係かなと二人は思い同情する。
尤もがっつり関わったインデックスは曖昧に誤魔化す、巻き込まれたでなく寧ろ関係者だ。

「そういえば次女達は……」

インデックスは共に仕事をする二人のシスターズの様子を見た。

「次女ちゃん、その棚はもう終わったから次へ、三女ちゃんの持ってるのは向こうで見たから私に頂戴」
『了解です、小悪魔』
「……手際いいなあ、急な飛び込みでどうしようかと思ったけど」

強引に仕事を手伝った小悪魔が他の二人の面倒を見ながら捌いていく。
司書だけにインデックス同様に書類仕事は慣れているようだ。

「お姉さん達を助けたとなればきっとポイント高し……ご飯誘ってミサカちゃんにあーんとか、いや寧ろ私にあーんさせたい!」
「……白くて細い人が貴女のご主人様にチクってたよ、またミサカお姉さんに付き纏ってたって」
「がーん、叱られる!?」

むふふと妄想し悦に浸る小悪魔にとりあえず釘を差しておいた。
彼女の主と一方通行は当初険悪だったが小悪魔関係は理解が有る、仕事が終わればその雷が落ちるだろう。
恐怖に小悪魔は震えた、まあその状態でも次女達をフォローする辺り有能だったが。

「うう、怖いよう、どんなお仕置きなんだろ……あ、次女ちゃんの書類は奥ね、三女ちゃん、その棚手付かずだから一緒にやろう」
「……ミサカお姉さんが関わらなければ有能なのに、勿体無い人だよね」

これで常識人なら完璧だったのに、インデックスはそう残念に思った。
そんな時お手伝いが『もう一体』来た。

フヨフヨ

「……インデックス、テツダウー」
「あ、劇はどうだったの、小さなアリス?」
「ダイセイコウ!」

劇を終えた生き人形がインデックス達の元に飛来する。
ビッと指立ての後仕事を手伝い始めた。

「……ええと喋る人形?」
「よ、良く出来たえーあいです!」
「エーアイデス!」
「そ、そう、AIね」
「そうなんですか、成程……」

固法達は人形に疑問を抱くも(ちょっと棒読みだが)強い口調で誤摩化された。

「まあ小さなアリスのことは気にしないで……さあ人数増えたし片付けちゃおう!」
「オー!」
『おー!』
「……いや頼りになるわね」
「少し変わっていますが」
「ううむ、否定出来ない……あっちはどうだろ、ミサカお姉さん達は?」



午後の学園都市、ちらほらと学生が街を屯し始める。
秋になり陽が赤ずむのも早まった、がまだ夏休み気分が抜けてないように見える、風紀委員(ジャッジメント)として少し問題だ。

「はーい、そこー、暗くなる前に帰るよーに、休みは終わったんだから注意ね……あああたい達は風紀委員、の見習い」
「ああ駄目、そっち裏路地に面してます、幾ら街中でも物騒なのでいけません……休暇明け、気が抜けてそうなので声掛け中です」

夏休み気分の抜けていない学生は風紀の意味で危うい、その対策がこの声掛けである。
街行く学生に風紀委員の腕章をつけた少女が注意の言葉を掛ける。
それぞれ着慣れない様子のダボダボの制服と、きっちりとした制服を着た二人の少女だ。
片や素直に心配する底抜けに明るい少女、片や無表情だが理路整然と注意してくる少女、この言葉に呑気な学生も注意を心掛けた。

「まあ流石にああいう子に言われたら素直に聞くよな」
「……風紀委員、後アンチスキルとかに女が多いのってもしかしてイメージ戦略か?」
「いや穿ち過ぎだろ、一方通行……単に能力や装備、パワードスーツとかで女性の人でも体力差を補えるってだけじゃないか?」
「まァそうか、こういうのに性別は関係無ェか……女でもやばいのはやばいし」

幼馴染を筆頭に、思い至るのが沢山居た一方通行は少し顔を引き攣らせる。
するとそれに気付いた茶髪のツインテールの少女、パシャパシャとミサカ達の仕事風景を撮影の中はたてがからかう。

「おやおやあ、あくせらさんは誰のことを考えたのかな?」
「五月蝿ェ、撮影に集中しやがれ、姫海棠……しくじったらツインテ、もぐぞ」
「止めて、チャームポイント!……わかってるよ、写真は共有する記憶とは別の趣がある、だからしっかり撮れって言うんでしょ」

一方通行に凄まれ彼女は仕事に集中した。
シスターズは同じ脳波であることを利用しMNW(ミサカネットワーク)で繋がってるが、その記録と別に写真を残すことにした。
そうすれば後でこのイベントを振り返る時に、第三者視点という新鮮味が感じられると思ったからだ。
この写真撮影で彼女は前回の仲間外れ状態から解放された。

「わかりゃ良いンだよ……俺達も声掛けするか」
「……男だとミサカやチルノちゃんと違って残念がられそうだがな、後その目付きの悪さじゃ尚更じゃないか?」
「五月蝿ェ、目付きは放っておけ、自分でも気にしてンだ……風紀委員の腕章有るから大丈夫だろ」
(いやそれでも怖いと思うが……)

上条と一方通行も声掛けをする、案の定一方通行はぎょっとされたりして不機嫌になったが。

「ぷぷっ、あくせらさんは期待を裏切らないね」
「うるせェ」

ビシィ

「きゃいん!?」

数十分後不機嫌な一方通行とそれを笑ってチョップされ頭を押さえるはたて、苦笑する他三人の姿があった。



「……こらそこの赤服、煙草は駄目ですの!」
「うわ、何だい!?」
「あれステイルか、何やってんだ……煙草か、そういや未成年だったな、背のせいでわかり難いけど」

近くでミサカやチルノと同じように声掛けをしていた黒子がある人物を呼び止めた。
煙草を咥え火を着けようとした赤い服の神父、インデックスの仲間であるステイルだ。
その後ろに見たことのない女性を連れている。

「ステイル、言われてしまったわね……案内を任せたのにこんなことで足止めとは、駄目駄目でありけることよ」

顰め面のステイル、いや彼だけではない、奇妙過ぎるイントネーションに思わず聞いていた者が脱力した。

「五月蝿い、最大教……ミス・スティアート、黙って……これはお忍びでしょうが(ぼそ)」
……先方との会合まで時間が有る、だから街に出ると貴女が言ったんですがね」
「だって待つのは暇で、それにここには滅多に来れないでありけるし」

どうやら訳ありというか、ステイルがもう一人に我儘を言われたらしい。
実は苦労人であるらしい彼に上条とミサカとチルノは同情した。

「こらっ、無視するなですの……風紀委員として喫煙は見過ごせません、厳重注意ですの!」
「……え、いや、今まで言われなかったんだが」
「夏休みでその辺甘かっただけですの、でも今は学校も始まっている……学生には悪影響だから表での喫煙は控えるように!」
「ああ確かにそういうことなら……わ、わかった、喫煙所で吸うよ」

渋々まがら納得しステイルが煙草を仕舞う、が次の黒子の言葉で動揺する、もう一人もだ。

「よろしい……ああ一応ID確認するですの、お連れの方も見せて下さい」
『……え?』

この言葉に二人が固まった。

「ま、不味いぞ、ミス・スティアート……会合前にこれは赤っ恥じゃないか!?」
「赤っ恥どころじゃないでありけるわ、このままでは学園都市中の笑い者になる……」

何故か焦った様子のステイル達は明らかに怪しい。
当然黒子が訝しんだ。

「貴方方は何なんですの……ID、見せてください、今直ぐに」
「う、それは……」
「……おおい待ってくれ、白井」
「何ですの、お姉様の妹のおまけの方?」
「そいつ等、いや正確には片方だけど、一応知り合いだ、見逃してやってくれ」
「……IDは身分照会が目的、知人だというなら行って良いですの」

黒子は本気で怪しむも、知り合いだけに不憫と思った上条が間に入ったことで手を引く。
やっと解放されたステイルは情けない表情で上条に頭を下げる。

「すまない、助かった……」
「しっかりしてくれよ、インデックスに飛び火しかねないんだから」
「……本当にすまない、次からは注意する」
「ああ頼むぞ……そっちの子は?」
「ああ同僚、学園都市は初めてで僕が案内してた……さっきので滅茶苦茶だが」
「ふーん、イギリスからか……また同じことになりそうだ、喫茶店で紅茶でも飲んで時間を潰せば?」
「イギリス人だから紅茶というのは少し安易な気もするが……そうする、流石に二度目はごめんだ」

流石に先程のことが堪えたのか、彼は上条の言うとおりにすることにした。
上条からお勧めの店を聞いた後、もう一人を連れてそこへ向かう。
この騒ぎで煤くれた様子の彼を上条達は同情した様子で見送った。



「……ふふっ、格好悪いところを見せてしまったな、ステイル?」
「半分くらいは貴女が無理を言って街に出たせいですが……」

ステイルがからかってきたもう一人をキッと睨み黙らせた。
そのもう一人だが妙なことをしている、指先を振るいそれで幾何学的な文様を描く。

「……って、何しているんです、大教主?」
「ちょっと監視を……禁書目録の連れでありけるのでしょう、目を離さないでおくのは当然だわ」

彼女が懐から取り出した紙切れ、護符が手で触れていないのに折りたたまれ何かの形を取った。

「さあ、お行きなさい」

ヒラリと紙で出来た一羽の小鳥が飛び立った。

「……ギャン!?」

が、数秒後彼女は行き成り悲鳴を上げる。
その頭に、くしゃくしゃに丸められた『護符の残骸』が飛んできてめりこんでいた。
彼女はバタリと倒れ、彼女とステイルだけに聞こえる声が警告する。
風がチンピラが可愛く思える程凄みのある声を届けた、一方通行だ。

『次は容赦しねェ、目障りだから小細工すンな』
「うっ、これは……」
『容赦するのは一度だ、今は連れがいるからこれで済ますが次は潰すからな』
「……ああ白い方か、あの三人以外にも怖いのが居るということか」
「か、感心しないで助けて欲しいのよ、ステイル」
「いやいや自業自得です、最大教主……」

蛙のようなひっくり返った上司に、ステイルは疲れた様子で嘆息した。



急にブンブンと手を振るって何か掴み取り、ぶん投げた後一方通行が何事か呟く(能力を使ったのか辺りの空気の流れが妙だった)
何をしているのだろうとミサカが問い掛けた。

「行き成りどうしたんですか、一方通行?」
「……何でもねェ、ちょっと拾ったもン返しただけだ」
「は、はあ……」

何てことのない調子で答える一方通行にミサカはそれ以上問い掛けることはしなかった。
素直とも言えるし、まだまだ未成熟とも言うことが出来る。

「あー、ですの!」
「今度はどうした?」

怪しい男への詰問を中途半端に終え、不完全燃焼気味の黒子が何かを指さす。
その先には奇妙な三人組、買い物中の吸血鬼と黒髪の無口な少女、それと荷物持ちの錬金術士の姿が有った。

「……陰気な研究者風味な男が『金髪幼女』と『黒髪の大和撫子』を連れてるですの、怪しいですの、多分事件ですの!」
「止めてやれ、あれは違うから!?」
「ていうかフランドールに手を出す馬鹿は居ないって……」

何故か一方的に怪しまれるアウレオルス(尚フランドールと姫神は被害者枠)思わず上条とチルノは同情した。
さっきのことがあり外国人である時点で既に警戒している黒子を二人が止める。

「やけに五月蝿いが一体?……上条か、どうした?」
「逃げるんだ、アウレオルスさん、前科一犯になるぞ!?」
「はあ?」

とりあえずID(偽造)を見せ、更に上条達の弁護で黒子は止まった。

「ちっ、怪しいことをしないで欲しいですの」
「無茶を言うな、私は唯買い物してただけだろうが……」
「あー一応学校始まったから風紀とか引き締めてる、だから夕方に出歩くのは止めた方がいいよ」
「そういうことか、理解した……夜型のフランドールが退屈がるだろうが何とかする」
「……ああそうか、あいつどう考えても夜型だよねえ」
「暇を潰せるものでも用意するかな……」

この言葉にフランドールがビシと手を上げた、皆嫌な予感した。
彼女は希望の『暇を潰せるもの』を言った。

「それなら、幻想殺しの坊やがいい、これなら暇を潰せるよ!」
「止めて、死にます……」
「安心しろ、私と姫神で止めるから」
「頼みます、アウレオルスさん」

インデックスを救った彼への恩を返すべくアウレオルスが同居人の暴挙を止める。
彼への尊敬度が鰻登りに上がっていく、それと同じくらい命の危険も増したが。

「危ないようなら霊夢辺りに言いなよ、もしくは姉のレミリア……」
「ああどうしようも無くなったらそうする……一応私の方であれの相手をしよう、そういう約束だからな」

命賭けでその退屈を紛らわせる、そういう約束で彼は以前の事件の折にフランドールを止めたのだ。

「……大変だが何とかやってみるさ、そちらには出来る限り行かせんよ」
「無茶な気もするけど……」
「まあ自分からした約束だしな……フランドールは兎も角、姫神とは仲良くしてやってくれ、同級生なのだろう?」
「ああ、あっちはフランドールと違って凶暴でもなし……仲良くやるさ、また学校に来るならチルノちゃん達達も話すだろうしね」

フランドールに関して一応結論が出て、もう一人話が着いた。
上条達と話を終えたアウレオルスがフランドールと姫神を連れて帰路に着く。

「フランドール、姫神、夕方の外出は駄目だそうだ……そろそろ買い物を終わりにして戻ろう」
「はーい、アイサの学校生活に必要な物も買ったし帰るかな」
「うん帰ろうか……帰ったらご飯作るけど何が良いかな二人共?」
「私は何でもいい……フランドールは?」
「カレー、人参抜きで!」
「子供か、ああ子供だったか……」

三人はわあわあ騒がしく去っていく、がふと何かを思い出してアウレオルスが上条へ声を掛けた。

「上条、これを……」
「え、何だ……紙袋、茶っ葉か?」
「インデックスが好きだった銘柄だ、近々渡しに行こそうと思ったがちょうど良いから頼む」
「ああ、わかった……袋はまだあるが?」
「……お前と他二名にやる、紅茶に慣れてない者でも飲み易い味だ」

彼が上条に押し付けたのは二つの紙袋、紅茶の葉の入った物だ。
アウレオルスにとってインデックスは命を賭けてでも助けようとした相手で、上条達はそれを代わりに成し遂げてくれた恩人だ。
これはその不器用な恩返し、少し顔を赤くし(すると不思議なことに陰が消え歳相応さの顔だった)アウレオルスは去っていった。

「……何ていうか真面目な人だ、不器用ともいうが」
「うん、全くだね(……かみじょうに言われたくないだろうけど)」
「先輩に言われたくないでしょうけれどね」
「あ、言っちゃうんだ、ミサカ……」

彼等はちょっと苦笑しながら(ある意味で)自分達の先駆者、インデックスを守ろうとした男を見送ったのだった。

「さてそろそろ日が暮れるなァ……声掛けもう良いンじゃねェか?」
「確かにそうですの……ボランティアの皆様にはせめてもの気持ちとして、支部でご飯用意するですの!」

大分日も暮れ、声掛けの成果が有ったようで学生達も皆寮に帰っていく、黒子は参加者に今日の仕事の終了を告げた。

「……御飯の用意、カツ丼とかかでしょうか、こういう組織はそれを出してくれるとミサカ漫画で見ました」
「ミサカ、それは警察だって……」
「まあそれより早く帰ろうよ……あたい達の分までインデックスに食べられちゃう!」
「チルノちゃん割りと酷いこと言ってる……」
「まァ足りなきゃ何か頼ンでやる……寿司かな、特上な」
「良いなあ、奨学金が羨ましい、流石超能力者……」
「ふふ、とりあえず写真現像するね、欲しい人は来てねー!」

終了宣言に彼女達は思い思いのことを口にしながら支部へと向かう。
思い出づくりのイベントはかなり充実し、皆文句ない形で一日目を終えた。



ガツガツ

そして彼等は予想通り、かつそれ以上の光景に肩を落とす。

ガツガツガツガツ

支部でインデックスが食い荒らしてたがそれ以外にも二人程多かった。

ガツガツガツガツガツガツガツガツ

「あ、先食ってるわよ、鈴科君」
「頂いてまーす、あそっちのお肉頂戴!」
「姉貴、それにルーミア……帰れよっ!お前ェ等は関係無ェだろ!?」
「ええと任せました、一方通行……あ、インデックス、ミサカは新鮮な体験をさせていただきました、そっちは?」
「うーんとねえ、悪くなかったよ!小悪魔が何時も通りだった以外は……」

何故か居る欠食児童二名に一方通行の突っ込んだ。
ミサカと上条とチルノは彼に二人の相手を任せ、インデックスとミサカ00002達に合流する。
クスクスと笑って互いの感想を言い、彼女達はそれぞれの一日を振り返るのだった。





とりあえず第二部本格的に開始です・・・悲喜こもごもとかいいつつ、悲は一方通行しかいませんね。
まあこんな感じで軽い話を何回か、後その間に時々伏線とかを・・・
暫くは人形劇の形で前の事件を振り返りつつ一部で会った面々に会ってきます。

・・・因みに省略したけど、某人物が末っ子から劇での悪役扱いを聞いてサケ弁自棄食いという一幕が外国であったり(でも劇で出張ったのでボツに)

以下コメント返信

九尾様
因みにセーラー服は大きくてちょっとダブついてます・・・マニアックだけど可愛いと思う。
はたてに関してはもっと前にやるネタでした、佐天と会ったのはその前振り・・・話の都合で先送りになり、二部でやっとという、いやある意味厚遇かも?

いいい様
同級生の嫉妬は大半が小萌先生に甘ったのが印象的だったからです、アニメだけだっけ?・・・まあ嫉妬される上条はお約束ってことで。
普通に黒子は真面目だと思いますよ、セクハラ好意からだし、多少過剰だけど・・・
この辺が理由で今回のようにリアクション担当となります、常識人が少ないから。



[41025] 第一話 学園都市悲喜こもごも・二及び二の裏
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:307da9d2
Date: 2015/04/29 22:55
「はーい、シスターズの皆さーん……」
「むぐむぐ、ごくん……人形使いさん、なあに?ってミサカはミサカは代表して聞いてみる」

食事中だったミサカ達にアリスが楽しそうな顔で話しかける。
口元に食べ滓を着けた打ち止めがアリスの方を向いた、隣のシスターズに口元を拭われながらだったが。
アリスはその光景に苦笑しつつ本題へ、ピョコと肩から小さなアリスも顔を出して創造主と並ぶと彼女達は宣言した。

「お食事中、失礼……この後時間有るなら、『人形劇・特別編第二部』やるっていうお知らせよ」
「ミニキテネー!」
「あ、あの続き?……残留組は大体参加かな、他のミサカも観たがってるし中継するよ」
「わかった、それなら準備しましょう……小さなアリス、手伝って」
「ハーイ、ガンバロー!」

シスターズが一斉に歓声を上げ、その反応にアリス達は笑みを浮かべた。
手早く人形劇を始めていく。
が、そこでふと何かに気づく。

「あ、そういえば……前回の劇でやれなかった関係者の背景が在ったんだったか」
「え、何かあるの?」
「そうなのよ、二三程劇だけど話せなかった部分ね……軽く纏めて、本格的な演技の前にやっちゃおうかしら」
「……オネエチャンヲナンタイカ、イカセルネー!」

具体的には過去話という奴だ、劇の前に関係者から話を聞いて許可を貰ってある。
中には飛ばせない部分も有ったのでアリス達は先にそれを劇にすることにした。
器用に劇の準備と並行し、数体の人形が過去を再現し始める。

「先に前振りだけやるわ、簡易版だから食べながら気楽に見ていいわよ……はい、開始!」
「カイシー!」

最初に出てきたのは『黒髪の紅白巫女』(当時は違う格好だがわかり易さ重視)がとある超能力者に話しかけてきたシーンから。

「まずはお気楽な少女と超能力者の話から」
「オキラクミコー!」

お気楽な少女が、今と違い真面目に研究者と能力研究をやっていた超能力者を外へと引っ張り出す。
彼は唖然とし、研究ボイコットされた研究者も唖然とする、が少女は全く気にせずお茶を飲んでいた。

「少女からすれば、一人で遊ぶのは詰まらないから遊び相手を欲しただけでしょう……ですが!」
「デスガ!」
「その影響を受けたとある超能力者の少年まで悪い遊びを覚えてしまったのです……本当に、何ということでしょう」
「ナントイウコトデショウ!」

人形演じる研究者が絶望に膝をつき、それを尻目に少女と少年役の人形が遊びまわる。
最初は流されるままだった少年も数度目辺りで自分の方から外に興味を持ってしまう。
こうしてサボり癖の着いた少年は正に駄目人間だった。

「……ええと、ある少女の影響で超能力者、学園都市で最も優秀かつ重要な少年は駄目人間に成ってしまいましたとさ」
「デモ、コレガ……ダイイチイ、デアル……イイノカ?」
「良くないと思うけど、でもこんな過去が在って少年……一方通行は学園都市に反抗しがちで、結果人の死なない新計画を進めた。
……何が幸いするかわからないものね、ある意味一人の少女の気紛れがこの大きな流れを作った」
「……ウーン、メデタシメデタシ、デイインダロウカ?」

アリス達は首を傾げ、シスターズまで釣られ首を傾げる。
何かと学園都市に反抗する彼の根がこんな過去だと、誰が知ろうか。
一方通行が学園都市上層部を舐め切ってる理由は結構酷い物だった。

「……まあ沢山の命が救われたんだから良しとしましょう……そして一方通行を変えた少女は他でもやらかしてる」

アリスはこれ以上考えるのを止めて次の話へ、再び巫女役の人形が出てきて勇ましくお祓い棒を構えた。

「さあ次……お気楽な少女がある神社で巫女となって色々やらかしたわ、普通の魔法使いと、現在進行形で」
「ソノイチ、キュウケツキ……ボウシマイヲノス!」
「巫女とは名ばかりに暴れてる連中をそれ以上の暴力で鎮圧するの……最初の事件の相手は皆も知ってる暴れん坊よ、あ妹の方ね」
「ソノニ……マジョトカ、ヒトキリ、トカ、シロイユウレイヲノス!」
「これは春が遅かった時の事件ね……最初のは私よ、霊夢と魔理沙の進路上にいただけで襲われたわ」
「ソノサン、ウチュウジンヲノス!」
「……因みにこの時は私と魔理沙が彼女と戦ったわ、無差別なのよ」
「ソノヨン、ハナミデハシャイデル、メイワクキャクヲノス」
「この時は沢山の花々が咲くという謎の天変地異が在って、調べるのを億劫がって適当に喧嘩ふっかけたんだったか」
「ソノゴ、ショウバイガタキヲノス!」
「青い巫女が神社と共に現れてね……一応勘違いで襲われたから珍しく被害者側、でも今では早苗も霊夢に変な影響を受け気味で」
「ソノロク、ツノノハエタヨッパライ……アンド、ワガママキゾクヲノス!」
「ああ、この二つも霊夢は被害者だったか、完全に巻き込まれだし……」
「ソノナナ……チカノ、アバレンボウタチヲノス!」
「地下の様子が変で調べに行ったの、道行く連中に喧嘩売りながら……まあ捻くれ者や酔っ払いで素直に話さなかっただろうけど。
因みにこの時に霊夢と魔理沙を、私やパチュリーとかで手伝ったか……この後二つ異変が在ったけどこれは早苗ね」

謎の船と漂流物及び聖人と天使の異変、更につい先日の霊廟絡みの異変は霊夢に関係ないので割愛する。
ざっと並べると巫女の恐ろしさがとても良くわかる。
シスターズ達は羅列された情報に顔を引き攣らせ、これなら一方通行も影響を受けるとも納得した。

「そういえば……これ等のずっと前にもやらかしたようね、確か……ああそうそう、ミサカさんも知ってる黒髪の子も被害者か」

アリスがふと思い出す、某吸血鬼の前の事件にもある子鬼を退治したという情報があった。

「確か、あれは……彼女が巫女に成った直後、子供相手なら神社を縄張りに出来ると思った黒髪が……
……返り討ちに遭ったわ、本当に才能だけは天才的ね、天災的でも良し」
「ムチャシヤガル……」

意気揚々と現れた黒髪の少女役の人形、が一撃で巫女に殴り飛ばされた。
余りの恐ろしさにシスターズはやはり顔を引き攣らせる、黒髪の少女も同じ気持ちのようで一目散に逃げ出した。

「さて最後の話は……貴女達のお姉さんと、さっきの悪戯娘が巻き込まれたある事件について」

さっきの黒髪ともう一人が台上に並ぶ、ここに来て関係者の登場にシスターズが食いついた。

「黒髪の少女は巫女から逃げてここに来た、そして友達が出来た……がその友達がある事件で怪我をし、その報復をしに行ったの。
異国で研究者をしていた某超能力者兼研究者も友人に会いに来ていた……さっきの黒髪の少女の友人と同一人物よ」
「……ソウシテ、フタリハキョウリョクスルノ!」
「彼女達の友達に怪我させたのはある違法薬物服用者、黒髪の少女はその人物を倒し……違法薬物をばら撒いた人物にも仕掛けた」

台上に二体の人形、黒髪の少女と白衣を着た研究者風の人物が相対する、が研究者はその背から真っ白い翼を展開した。

「奇妙なことにその研究者は複数の能力を操り、更に超能力者の能力すら使用した。
でも、遅れて到着した超能力者の少女が目的を同じくする黒髪の少女に助太刀し……二人は協力して研究者を追い詰めたわ」

更に人形が一体追加される、台上では黒髪の少女と超能力者が研究者を追い込んでいく。

「……さて話を変えるけど何故研究者は違法薬物を流したのか、気になるわよね?
それは理由があった、彼女には学園都市の無謀な研究で昏睡する教え子がいた……端折るけど薬物のばら撒きで教え子を救えるの」

正確には脳波統合の効力を持つ薬物で演算を稼ぎ教え子を治療というのが正解だが、にとりからの又聞きでアリスもよく知らない。

「そうなるとこのままでは後味が悪いわよね?……研究者は違法薬物の流出という悪事を働いたけどそれは教え子を救う為だもの」
「……ウーン、ジレンマダ!」

だが、そこに意外な救いの手が、尤も誰にとってもその気はないだろうが。

「この事件と同時期、ある山育ちの研究者が学園都市に来ていた……彼女はチンピラから不思議な機械を巻き上げたの」

水色の髪に同じ色の作業着の少女(役の人形)が謎の機械を手に台上で胸を張る、すると怪しい黒服が包囲した。

「すると……機械の元の持ち主で秘密裏にデータ取りをしていた研究者達が取り返しに来た、だけど山育ちの研究者は抵抗したの。
何故なら彼女もまた研究者の端くれ、見たこともない機械に興味を抱いたから……」

これにより事態は泥沼と成ってしまう、つまりマッドな研究者同士の争いだ。
逃げる山育ちの研究者、追うパワードスーツ装備の研究者とその部下達、何とも見難い。

「平行して起きた二つの事件、黒髪の少女と超能力者の少女の戦い、マッド同士の醜い戦い……これ等は本来交わらない筈だった」
「ダケド……イガイナ、セッテンガアッタ」
「山育ちの研究者が逃げる途中黒髪の少女の少女と会った……実は神社から追い出される前の彼女は山を拠点に生活していたの。
その結果二人は共に行動して、黒髪の方には不本意な形だけど二つの勢力を敵に回すことに成ってしまった……」
「……コノヒト、ツイテナイナア」

違法薬物をばら撒く研究者、非合法な機器で非合法な実験を目論むもう一方、二つに挟まれた黒髪の少女だが意外にも奮闘する。

「彼女は天神の加護……といってもシスターズにはわからないか、この時期には特に力を発揮しうる存在だった。
しかも『ある地で鬼と畏れられる存在(そのものだけど)』に師事し、大人しい見かけの割りに意外にやり手なの」
「ソレデ、ダイギャクテン……サラニ、アルジジツモハッカクー!」
「何と戦いの中である事実がわかったの、研究者の教え子を危険な実験で昏睡状態に追い込んだのが山育ちを追ってた女だと……」

この瞬間、黒髪の少女と超能力者が教え子の為に犯罪を犯した研究者を追い込む、という後味の悪さがすっぱり消えた。
全ての登場人物が出揃った時事態はわかり易く解決に向かい始めた(普通の魔法使いや無意識の少女も居たが表に出ないので省略)

「さて問題です、黒髪の少女と超能力者は研究者が許せません……が止むに止まれぬ事情があります。
……ですが元凶と言える人物が別に存在します、さて二人の拳を振り下ろす先はどこでしょう?」
「……セイカイハ、パワードスーツゴト……ソダイゴミニ!」
「二人掛かりのツープラトンが元凶を粛清……研究者には実験データ等を調べ治療の手筈を整えることを条件に自首したのです!」

右から黒髪の少女が、左から超能力者の少女が、この恐怖の連携が元凶の研究者を高々と吹っ飛ばして事件は解決と成った。

「因みにこの直後超能力者はある計画を調べて別の事件に巻き込まれた……案外この勢いもあってそっちでも大活躍したのかもね」

アリスが小さく笑い、釣られてシスターズも『別の事件』に思い至って吹き出した。
事件解決の勢いのまま乱入した事件こそがシスターズの転機となった事件なのだ。

「まあそれは……今準備している二部で、ってことで……」
「……モウスコシシタラ、カイシデース、キタイシテマテー」
『はーい!』



学園都市悲喜こもごも・二



「皆さん集合、今日の風紀委員の活動を発表するですの!」
「あん?……前みたいに声掛けじゃねェのか?」
「ブーですの、あれはあくまで休日明け直後だから意味があることで……今日は別の活動ですの!」
「……では何ですか、白井さん?」
「お姉様の妹様に聞かれたら答えるしか無いですの……それは『とある研究成果』の発表会、そのセレモニー会場の警護ですの!」

風紀委員見習い達に黒子が本日の活動内容を発表する。
が、一部の面々は一つ疑問を覚える、代表して上条と一方通行が挙手し問い掛けた。

「それって風紀委員の仕事か?会場の関係者とか業者がやるような……」
「後は大人であるアンチスキルの仕事だろ、風紀委員って言ってもやっぱり学生なンだし」

二人の問い掛けに黒子が何故か笑う、微妙に馬鹿にしていた。

「はっ、甘いですの……先月学園都市で起きたことを思い出せ、ですの!」
「先月って……ああ色々在ったな、滅茶苦茶な治安具合に警備側が不安になったか」
「そうですの、多発した能力者同士の戦闘に関係者が不安を覚え……アンチスキルは勿論私達にも泣きついたということです」
「……ムカつく物言いだが言いたいことは分かった」
「それに研究成果の内容を知れば……貴方達も喜んで参加するでしょう」

この言葉に一同は首を傾げる、が何かミサカだけは何かを感じ取った。
バッと黒子は一枚の書類を見せた。
そこに記された研究者の名簿に皆驚きあるいは納得する。

「今から向かう研究成果の発表会とは……それは筋ジストロフィーの治療薬についてですの」
「……ということは、まさかお姉様の!」
「正解ですの、さあ行きましょう……共にお姉様を応援するのです!」

書類の名簿には『御坂美琴』の名が記されていた。
この場の一同には、特にミサカには無視できない名だった。
能力と熱意で難病の治療法を研究する、若き研究者で超能力者第三位、そして彼女はミサカの姉であり原点といえる存在でもある。
全てのシスターズの大元である、彼女達を救おうと奔走した少女との再会が向かう先で待っていた。



「はーい、ご飯は終わった?……それなら第二部、劇を開始するわよ」
「ダイニブ、カイシー!」

ワアアアアアッ

歓声に迎えられたアリス達は手際よく人形を並べていく。
前回の劇に登場した馴染みの面々と、新たに二人の登場人物を模した人形が台上に立っていた。

「さて白い少女を巡る事件で四人と一体は仲良くなり友人と成りました。
四人……『一万と三十二番目の妹』と『不幸な少年』と『最強を目指す娘』と『白いシスター』、『小さなアリス』のことです」
「……コンカイハ、サラニフタリ!」
「ここに、『一番目の妹』と『上司が超怖い暗部少女』が加わります」

新参二人、一人はミサカと良く似た容姿の少女で、もう一人は半焦げの少女だ。

「『一万と三二番目の妹』は友人を作り……学園都市を楽しむようになりました、彼女は思ったのです、姉もこうなれないかと?」
「……ダカラ、チョウジョヲサソッタ!」
「とりあえず外に誘い友人達に会わせることにしました、何か切っ掛けくらいに成ると……そこへもう一人の参加者が登場します。
……ある計画に反目し、暗部でありながら敵対を選んだ、というか選ばさせられた『上司が超怖い暗部少女』です」

ザワザワ

アリスの言葉にシスターズが何となく察した。
選んだから選ばさせられたと言い変えた下りで、彼女達は『ある超能力者』の影を感じた。

「……続けましょう、『上司が超怖い暗部娘』からある事実が一同は知らされます。
『一万と三二番目の妹』とその姉妹達がある人物のクローンであること、その命を厭わぬ残酷な計画が進められていることを……」
「ミンナ、オドロイタヨ!……デモキメタ、トモダチダカラタスケルッテ」
「彼等は『一万と三十二番目の妹』と『一番目の妹』を連れて逃げることにしたのです、計画を実行させない為に……」

しかし、その行く手に様々な敵が立ちはだかった、暗部達である(勿論台上のはその役の人形だが)

「前には様々な敵……『不幸な少年』の友人でもあるスパイの少年、『未現物質』という不可思議な装備を与えられた暗部等です」
「……デモ、キョウリョクシテオイハラッタ!」
「『最強を目指す娘』が切り込み役に、『不幸な少年』が迎撃役に、『一万と三十二番目の妹』と『小さなアリス』が援護します。
暗部を裏切った少女もそれを手伝い、何とか暗部の襲撃を逃れました」

その後一同は暗部の少女が使っていた隠れ家へ逃げ込んだ。
更にここで『一万と三十二番目の妹』が動き出す。

「彼女は単身他の妹達に会いに行きます、着いて行くのは人形だけ……無茶な行動ですがこれは後に大きな意味を持ちます」
「ハラハラシッパナシ、ダケドネ……」

また妹達に持たせた発信機で辿り着いた比較的善良な研究者とも合流、残された者達とで話し合う。

「隠れ家で会った研究者、比較的常識のある人物からある唯一かもしれない良い知らせが入ります。
どうも計画を推進する側も一枚岩ではないようです、どうやら別の計画、命を奪わない計画もあるようで……」
「……ミンナ、ソクダンソッケツダッテ!」
「計画は超能力者が特定の能力者を殺害する過程で能力強化される……が姉妹の協力で強化を目指す、そんな計画が平行してます」
「トウゼン、ミンナハソッチ!」

後者を選ばせようと『一万と三十二番目の妹』とその仲間達、暗部の少女は気合を入れます。
古い方の計画を始めさせない為に『一番目の妹』を守り切ることを決意しました。

「ですが……ここで暗部達の襲撃です、隠れ家が爆破されます、『電子』の弾丸によって……」

ザワザワ

どこかで聞いたような話にシスターズがざわめく、皆嫌そうな顔だった。
これには隠れ家から出てくるしかなかった、一気に物語が動き出す。

「ここで彼女達は別方向に研究者を逃し……またここで『科学以外』の知識が役立つのではないかと白いシスターも同行します」

正確には研究者の護衛だった茶髪ツインテールの烏天狗が連れ出したが、記事にする側なので劇に出さないでと言われたので省略。

「……隠れ家から飛び出し、逃げるミサカの姉とその護衛を追うのは強大な火力を持つ暗部……たちです」
「カタホウハ、ミンナモシッテルノ……」
「鋼鉄の四足獣、大火力パワードスーツの暗部に……前回やらかしやがった第四位です。
彼女は懲りず、『不幸な少年』や『最強を目指す娘』へと襲いかかりました……」

パワードスーツの暗部の方も強力だったが、第四位はそれを凌駕する火力で暴れまわる。
凶悪としか言いようのない火力によって護衛達と激戦を繰り広げ、一時は圧倒までする。

「ですがそこに……計画のことを知った『超能力者の少女』が現れ、かつての友人だった『不幸な少年』と共に反撃しました。
……また第四位と知り合いらしき『白黒の少女』も参戦し、一同は危機を脱したのです」

先に倒れたパワードスーツの暗部(主犯は第四位)及び戦況の逆転により、第四位はやっと退いた。

「さてこの場は逃走に成功した一同、ですがおやと首を傾げます……何故かここで暗部の追求が緩まったからです」

ここでアリスは僅かに溜めを作る、そして理由を口にした。

「何故そんなことになったか、それは……影で動いた人達のお陰です。
例えば『超能力者の少女』に、前の時に友人と成った『黒髪の少女』……そして新計画の中心であった『最強の少年』によって!」

ワアアアアッ

アリスの言葉にシスターズが湧いた。

「それと影で色々やってた第四位と某巫女によって……」

シーン

が、直ぐに静まる、シスターズの興奮は断ち消え一瞬で引き攣り顔へ。
その様子に苦笑しながらアリスは裏の出来事を話し始める。

「ええと順番に説明しましょう……超能力者の少女は自分と良く似た少女達のことを耳に挟み、調べていました」
「……ソコデ、ヤツトアッタ」
「お馴染み第四位が登場、色々嗅ぎまわっていた超能力者の少女に色々仄めかします……まるで事件に引きこむように。
ええモロバレなので言うと、彼女は相変わらずの弾幕狂いで、少女と遊びたかったようです」
「タブン、シヌマデナオラナイ……」

シスターズの顔に姉への同情が浮かんだ。

「さて超能力者の少女が計画阻止に奔走している時黒髪の少女も動きます。
……彼女は友人である超能力者と同じ容姿の少女について独自に調べていました、そして偶々善良な研究者と会ったのです」

その時研究者は不幸な少年や最強志望の妖精に出会う前で、少女は暗部に追われる研究者を助けたのだった。

「暗部の存在を知った少女はその妨害に出ます、研究者と別れた後彼等の襲撃に……そこである人物に出会ったのです」
「……モウヒトリノ、チョウノウリョクシャ」
「最強の少年が新計画側なのは既に言いました、では古い計画は?……そちらに着いたのが第二位です。
旧計画側の研究者は最強の少年に見切りを付け、第二位も最強の少年超えという目的で研究者と組みました」

黒髪の少女と第二位には意外な接点が存在した、それは前回の事件からの因縁だ。

「前回の事件で研究者が第二位の能力を借りて暴れ回りました、つまりは……彼もまた拳の振り下ろし先なのです」
「……ツゴウサンカイ、シュウゲキシタッテ」
「自分にとっても友人にとっても敵であり……黒髪の少女は容赦なく第二位を狙い襲撃を繰り返します。
……最終的に決着はつかなかったもののそれなりの消耗と、時間を消費させたのです」

ここでアリスは一瞬言葉を切り悩む、本当はこの辺りの下りにもう少し登場人物が居たからだ。
しかし、サトリの妹と烏やそれに同行しているらしいもう一人(一方通行と霊夢しか知らない)は内緒なので口にはしなかった。

「さて黒髪の少女によって稼いだ時間の間に……ある出会いがあります。
自分のクローンを探していた超能力者、姉妹に見に来た一万と三十二番目の少女……それに新計画の為に動いていた白い少年です」

そこには二人の姉妹が居た、二番目と三番目の姉妹だ。

「超能力者の少女は優しい子です、筋ジストロフィーという難病に苦しむ子供の為に研究者の道を選ぶ程に……
当然彼女は事実を知って、シスターズを助けることを決意しました」
「……ミサカチャン、ウレシソウダッタナア」
「彼女は表で動けない最強の少年の代わりに表で暗部を阻止することにしました……少年らと合流したのがこの後です」

残された二人、一万と三十二番目の妹と最強の少年も新計画の為に行動する(この際同行していた小悪魔がセクハラしてたが割愛)

「二人は次女と三女、当時は意思なき妹達に旧計画を捨てるよう説得します。
……ですが研究所しか知らない二人は首を縦に振りません、また絶対に生きようという理由も妹と違ってありません」
「……ダカラ、ミサカチャンガイッタノ」
「彼女は先に外の世界を知った者として断言します、自分達にも居場所があって……受け入れてくれる人もいると」
「シロイノモ……マモルッテ、イッテクレタヨ、ブアイソウニダケド」

この下りにシスターズが熱くなる、何度もコクコクと頷いた。
その後の一方通行には苦笑もしていたが。

「ふふ、彼はツンデレなのかしら……さてこれで影で起きた出来事は終わり……と言いたいけれど」
「マダ、アルヨー……」
「えー第四位の出番です、こいつ前回以上にフリーダム……まず暗部の少女をミサカのとこに送ったのこいつです。
第二位とは反目してたから謀殺を企み……で自分以外の暗部の足を引っ張り、研究者側が集めたチンピラを密かに傘下に入れます」

これにより彼女は密かに包囲網を作り出し、第二位及びその所属組織の壊滅を図ったのである。
そこへ折良くと言うか巫女の行動が味方した。

「そしてこの事件において一日の空白が有る、この間に各勢力が準備を整えた……巫女の仕業です」
「……オニミコサン、ハンパネエ」
「こいつは午前の劇で言った通り第一位の幼馴染で……当時旧計画に懐疑的だった彼に協力を請われ共に新計画の礎を作りました。
自分達にとって邪魔な第二位を闇討ちしたり、自我形成の為にミサカを外に放り出してそれとなく監視や援護したり……」

その中でも特筆すべきが空白の時間を作ったある出来事だ。

「彼女は暇を明かしていた某破壊魔を焚付け……学園都市上層部を脅迫しました」

ザワザワ

余りの内容にシスターズが動揺する、その気持ちはアリスにも良くわかった。

「ええと当然上層部も恋査なるサイボーグを派遣し抵抗したけど……
破壊魔がそれを蹂躙、更に何らかの弱みにつけ込み暗部を引かせた……これに関しては聞かない方がいいわよね」

コクコクと青褪めた顔でシスターズが頷く、まあ当然である。
尤も窓の無いビル内に治められた科学とも魔術とも判断できぬ統括理事の収集物等手出しできる筈もないので無意味な情報だが。

「……さて上層部による暗部撤退、その翌日事態は急転します」
「カンケイシャ、ハッケンノホウコクダヨ……」
「でもこれは罠……外に注意が行った瞬間第四位とその友人だった白黒の少女、更に黒髪の少女が暗部に攻撃を仕掛けました。
……当然暗部は抵抗したけど前以て装備を壊されていて抵抗出来ず、第二位は他と分断されたのです」

この際アリスや小さなアリス、さとりの妹とその仲間が分断に協力したがシスターズとの関わりが薄いので省略し次へ。

「第四位と白黒、黒髪の少女、彼女達は偶然出会い共闘しただけですが……第二位という一人の敵を前に、意外にも協力します。
二人の火力馬……もとい火力特化の第四位と白黒の連携に黒焦げにされ、黒髪の少女に思い切り蹴飛ばされ第二位は吹っ飛びます」
「……ツイタノハ、ジゴクカナ?」
「落下した瞬間彼は今度はぶん殴られました、怒る超能力者の少女です」

最終局面であるとシスターズは悟った。
不幸な少年や最強の氷精がシスターズを守り、第四位や白黒や黒髪の少女が第二位を追い詰め、最強の少年や巫女が状況を作った。
後は超能力者の少女が決着を付けるだけである。

「序列では上である第二位を殴り倒すその勇ましい姿が、そしてシスターズの為に怒る彼女の姿……シスターズの心を動かします。
……数は力です、二万と一人の頭脳が一丸となって協力した時第三位は限界以上の能力を発揮しました」
「……チナミニ、コレガ『科学以外の知識』、インデックスノアイデアネ!」
「友人が齎した知識が必殺の攻撃に……第二位を確実に潰したい最強の少年のサポートを受け、雷光の十字架が炸裂し直撃します」
「アトハ……ドッカーン、ッテカンジダネ」
「そ、第二位は吹き飛び……一応生きてるけど黒焦げで、再起不能に成ったのでした」

この言葉と共に人形が一礼、シスターズがパチパチと手を叩く。
途中から知る内容ではあるがやはり感慨深く、また打ち止めにとっては生の情報としては初めてだ。
彼女達は自分達にとって転機である事件を聞き届け、関係者全てへの感謝を胸に抱いた(但し第四位は除く)

「はい、お粗末さまでした……とりあえず『幾つか』残ってるけど旧計画の終わりと新計画への以降はこれで全部のはずよ」
「はーい、ありがとうございます、アリスのお姉さん」
「ふふっ、残りの話『夏休み最後から二番目』はまた後でね……」

続きをやるにしても長時間はシスターズが辛い、一旦劇はここで中断する。
その時丁度折良くある知らせが入った。

「あ、10032号からネットワーク経由で連絡……て、テレビ、点けて!」

打ち止めが姉からの情報に慌ててテレビを点けさせる、すると学園都市の内輪向けローカル番組に良く知る人物が映った。

「お姉様だっ!……ネットワークにお姉様の姿を余さず記録、他所の研究所に居る子にも教えて!」
『イエッサー!』
「……愛されてるわねえ」
「ウン、アイサレテルネエ」



「……えー、数年前まで難病奇病と呼ばれた筋ジストロフィー、ですが今ではそれは変わりつつ有ります」

会場に代表の研究者が熱の篭った説明を響かせる。
その後ろで研究チームの一員である美琴は緊張した表情で会場を見渡す。
ガチガチの表情に、しっかりと整った、だけど着慣れない感じのスーツ、と少しらしくない弱々しさを見せる。
そんな大衆慣れ、もしくはテレビ慣れしていない美琴をハラハラしながら見守る三人が居た

「あいつ、大分緊張してるな」
「それはそうでしょう、こんな大舞台では……」
「あ、然りげ無く手元の汗を拭った、大丈夫かな?」

舞台袖から上条とミサカとチルノ、比較的美琴と関係の深い二人とその付き添いのチルノが発表を聞く。
本来は会場の外で客の出入りを見ていたのだが、黒子が急に交代で休憩しようと中に送り出したのだ。

(……気を使ってくれたんだろうな)

三人は黒子に感謝しつつ美琴へと視線を向ける。

「あんだけ緊張してたら不味そうだ……どこかで研究成果の発表が有るだろうし」
「そうですね、何かで紛らわせてあげたいのですが……」
「……うーん、難しいことはいらないんじゃない?」

考え込んだ上条とミサカに対しチルノがあっけらかんと言う。
こういう時思い切ったことを出来るのが彼女だ。
チルノは口元に手を当てると、フッと凍える程冷たい吐息を向こうの美琴へ放った。

ビクッ

冷気に一瞬身動ぎをするも美琴はポーカーフェイスで耐える、が冷気に気づいた彼女は周りを見渡し直ぐに三人に気づいた。

「ほら、何か言うなり手でも振れば?」
「もうチルノちゃん……」

驚いた表情で口をパクパクする美琴に苦笑しながら、上条とミサカは言う通りにした。
上条は一度手を振った後口元を差した後、数度動かす。
ミサカも同じように何かを呟いた。
二人の口の動きを見た美琴は一瞬驚いた後笑みを浮かべる。
その笑みには強張りはなく落ち着いた表情になっていた。

「……何て言ったの?」
「俺は唯……落ち着け、ってね」
「ミサカは頑張れお姉様、と……」

チルノが示し、二人に元気付けられた美琴は小さく深呼吸し、その後研究者らしい理知的な佇まいへと変わる。
発表が自分の番と成った時彼女は何の問題なく前へ出た。

「代りまして……」
「研究部門の御坂美琴です、まず手元の資料をお開き下さい」

仲間からマイクを受け取り研究成果の発表を完璧にこなしていく。

「現在数種類の治療法が完成し、これ等を慎重な実地試験を経て安定した供給体制へと……」

会場の客中に実験成果、美琴の今までの努力が響き渡った。



「……盛況みてェだな」
「ええ、そのようですの」

ミサカ達に気を利かし中へ行かせた黒子、それに一人じゃ仕事に成らないと残った一方通行はほっと安堵した。

「……一方通行さん、お姉様と妹……それに『他の』姉妹の方々も仲良くやっていますか」
「その言い分じゃ気付いてるみてェだな……」
「私は風紀委員です、他より色々な物を見てるですの……クローンなのでしょう、研究者は考え無しに最新技術へ手を出すから」
「ああそうだ……聞かないのか、理由とか?」
「風紀委員が長いから善人と悪人の区別は出来ます……それに今日の様子ではお姉様を慕っている、それで十分ですの」
「……第三位も公認だ、詳しく知りたいならそっちに聞け」
「いえ……お姉様が認めてるなら何も言わないですの、私は思う存分妹様を愛でるですの!」
「シリアス短かったなァ……」

さっきまでの思慮溢れる風紀委員は一瞬で消滅し、後には御坂マニアが残るのみ。
余りに激しい緩急に一方通行はガックリと肩を落とす。

「そういや……この手のセレモニーならチャリティーもやってるンだよな?」
「ええ、その筈ですが……」
「……後で行くか」
「あら剛気なことで、流石超能力者ですのね」
「……いや上が口封じ代わりに色々押し付けてくンだよ、汚い金で使う気に無らねェしパッと寄付でもすっかなと」
「……まあ病気の特効薬を作るなら何でもいいのでは?」

具体的には旧計画から新計画への以降、そして旧計画責任者の某借金研究者の破滅等、これ等の度一方通行に金が舞い込んでくる。
学園都市からすれば新計画の中心である一方通行を手放さない為であろうが彼としては大分煩わしい。
身を軽くするというかすっぱりする気分で彼は増えた分をここで使い切ることにした。

(ぶっちゃけ新計画には第三位も関わってるし、問題無ェだろ……)

そんなことを考えながら彼はチャリティ受付を探す、後で行こうかとそこを見るとどこかで見た二人組みがそこに居た。

「あァ何であいつ等が……」
「どうしたですの?」

茶髪と更に低い位置に茶髪、一方通行が訝しみ黒子がその反応に首を傾げる。
向こうも気付いたようでチャリティーの方を終えた後見に来た。
姉妹達の長女というべき存在、それに一緒に逃げて以来仲の良い暗部の少女だ。

「一方通行、風紀委員お疲れ様です」
「よう、01号、それに……絹旗だったか」
「ええ、超奇遇……01号の付き添いです、『仕事柄』色々な方面にコネが有るので」
「はァそうかい……発表始まってンぞ、早く行って来い」
「あ、本当だ、ミサカはこれで……」
「おや不味い、早く行かないと……それでは一方通行、また後で」

ミサカ00001と絹旗は美琴の頑張りを客席で聞こうと中へと向かった。
恐らくそれもネットワークに記録されるだろう、念の入ったことだと一方通行は苦笑する。

「全く良くやるぜ……そういや絹旗、チャリティの方には何しに?」
「……麦野の代わりに、『某金欠研究者』の依頼の時の前金積んできました、何時迄も口座にあると気が重いんですって」
「ああ考えることは一緒か……」

妙な所で律儀で汚い金を使いあぐねる不器用人間の図である。



おまけ



「鈴科君、やっほう」
「……何のようだ」
「今日も御飯食いに来たわよ、今日は何?」
「帰れやっ、姉貴!」
「いや普段から食事を頼るのは情けないけど……宴会で奢らせるのは別よね?」
「知るか!?」

研究発表を終えた美琴を誘い、研究所のシスターズ総出で打ち上げでもしようかという流れになった時余計なのが混じっていた。

「帰れ、空気読んで帰れ!」
「何よ、私を邪険にするの……怒るわよ」

ブウンッ

「うおっ、行き成りサマソかよ!?」

怒った霊夢の目が細まる、嫌な予感がし一方通行が引いた瞬間彼の頭のあった位置を爪先が通っていく。
一方通行もさる物で動揺しながらも反射的に動く。
ブワッと至近距離からの風が霊夢に放たれた。
が、それは霊夢が咄嗟に張った結界に弾かれた。

カキンッ

「ふふっ、当たらな……」

しかし風は囮だった、一方通行は能力で起こした振動である物を跳ね上げキャッチする。
研究所のテーブルに置いてあったクリーム満載のパイ(パーティーグッズ)を手に取ると結界を迂回しながら接近する。
そして、思い切りパイ生地を霊夢の顔面に叩きつけた。

ボフッ

「おうふっ……」

顔面を真っ白にした霊夢が呻く。
一瞬目を白黒させた後ギラリと釣り上げた、本気で切れたようだ。

「いい度胸ね、鈴科君……後悔させてやるわっ!」
「こっちの台詞だ、まだ生地は沢山有ンぞ、姉貴!」

ドゴオォ
ドガガガガガッ

針と風とパイ生地が高速で飛び交う、この何とも奇妙な幼馴染み達から打ち上げ参加者は目を逸らした。

『あれに巻き込まれたくない……』

彼等の思いは完全に一致していた。



「……霊夢もよくやるぜ、懲りないよなあ」

ゲラゲラと一足早く酒を啜りながら、霊夢に着いてきた魔理沙が向こうの二人を肴に笑う。
が、彼女にそんな余裕等無かった。

「あのー、そこの白黒さん少し時間良いかなって……ミサカはミサカは割りとマジギレでクレーム入れんぞ、こら!?」
「おうっ!?」

あっちの霊夢に負けず劣らず、目を釣り上げた打ち止めの言葉に魔理沙は動揺する。

「な、何だ、シスターズのとこのチビ……」
「シャラップ、まずはミサカの話を聞くの!」
「お、おう……」

何故かテンションが異様に高い、というかブチ切れてる彼女に思わず正座してしまう。
困惑する魔理沙にアリスが巻き込まれないよう少し離れた位置から話しかける。

「あー魔理沙……何かごめん、私のせいかも」
「な、何しやがった、アリス!?」
「いや劇の時にちょっとねえ……」



学園都市悲喜こもごも・二の裏



「間に他の事件が挟まってるけど……シスターズ関連を先にやっちゃいましょうか、夏休み最後から二番目の奴ね」
「わあっ、待ってたよってミサカはミサカは正座待機!」
「いや普通に座ってていいけど」

美琴の研究発表、テレビの方が一段落したので続きをすることにした。
自分のことだが劇で見るのは新鮮なのか打ち止めが目を輝かせた。
アリスが人形を再び並べていく。

「研究者が二人の……それぞれ『最後期の妹』と『個体二号』と呼ばれる少女を従え『最強の少年』に復讐を企みます。
彼、『復讐を目論む研究者』は潰された旧計画の責任者であり、新計画を潰して返り咲くことが狙いです」

台上には三体の人形、白衣の男に一際小さなシスターズ、それにスーツの女性だ。
が、ふらりと小さなシスターズが行き成り逸れる。

「ですが……危機感を抱いた『最後期の妹』は研究者の元を逃げ出し少年に助けを求めに行きました」
「……イキナリ、バレター!」
「そう、彼女には確固たる記憶こそないものの断片的な情報から少年は自分を狙う企みに気づきました。
……ですがそこに立ち塞がる最凶の敵、やっぱり第四位です」

うわあという表情を打ち止めとシスターズがした、最早お約束だった。

「激戦の末少年は相手を追い返し、第四位の裏に研究者の影を感じて巫女とともに追うことにします」
「サイキョウタッグ?……ムコウモヤバイケド」

台上には超能力者の少年と巫女役の人形、だがそれと相対する第四位に安心等全く出来なかった。

「追う二人第四位は奸計を巡らします……配下であるリリーグリーン、それに口車に乗せて小悪魔を向かわせたのです」
「コアクマ……ミサカチャン、ダイスキダカラ、ダマサレチャッタ」

ミサカに関する必死さを利用され小悪魔が打ち止めを守る上条やチルノが襲い掛かる。
そして、一方通行達はしつこく邪魔するリリーグリーンに足止めされていた。

「業を煮やした巫女は仲間である二人の『記者』の援護で超能力者の配下を逆に足止めし、超能力者の少年を行かせます。
これによりギリギリ間に合った少年は目的を同じくする者達と合流、小悪魔を倒しました」

この時敗北した小悪魔は少年と言葉を交わし、自分が嵌められたことに気付いた。
彼女は素早く第四位を追うが一緒に居た『個体二号』に敗北してしまう。

「……マア、ハイインハ……ワカレバ、ナットクダケド」
「それは後で追々……さてこの時の戦いに気づき、研究者に仕掛けた者達が居ます。
第四位の仲間だったアイテムの面々が研究者に着いたことに怒り襲撃、更に戦いに気付いた黒髪の少女も参戦します」

この時戦力差は歴然だった、だが研究者はここで切り札を切った。

「ですが研究者は第四位の『任意の物体を引き寄せる能力』を『外部からの干渉』で使用します」
「ヒトジチ、イヤ、ソレヨリワルイ……」
「『最後期の妹』は他の姉妹に干渉出来ます、奪われたら大変なことに成ります。
ですが……長距離から引き寄せという予想外の手段で研究者は彼女を手に入れました」

但し一緒に引き寄せてしまった者が居た、それだけは彼にとっても予想外だった。

「『最強を目指す娘』と『最強の少年』、前者は自分で空間の接続に反応し……後者は『他の力』で移動しました」

この時二つの空間の接触点に、彼を強引に放り込んだのが自分だとアリスは口にせず続ける。

「超能力者がその能力で姉妹への干渉を直前で阻止、『最強を目指す娘』と『黒髪の少女』は協力し邪魔をさせないようにします。
ですが研究者陣営も抵抗、『個体二号』を始め第四位にその配下、更に前回の事件でも戦ったパワードスーツの暗部までも……」
「……ダイランセンダ!」

やはり前回同様パワードスーツの暗部が第四位の手で落ちるというハプニングも在ったものの膠着状態に陥る。
だが、そこへ味方が、研究者にとっては敵が現れる。

「友人の暴挙を見かねた『白黒の少女』の箒で不幸な少年を運び……更に第四位の配下との戦いの後行方を眩ましていた巫女も来ます。
しかも後者は姉妹達の姉、『超能力者の少女』をエスコートしながら」

台上に「再現された戦場はここで三分する。
白黒の少女が人形遣いと共に第四位を、巫女がその配下を押え、超能力者の少女は研究者と個体二号と呼ばれた少女へ。

「白黒達が第四位を、巫女がその配下を……そして彼女達という唯一の味方を失った研究者達を少女が打ち倒しました」

が、ここで本来なら上がる歓声が無い、何故ならシスターズは第四位役の人形を引き攣った顔で見ていたからだ。

「ええ、そうね、やっぱりそういう反応よね……こいつ、今回もやらかしています、再現始めまーす」
「ハジメマース」

投げやりな表情でアリスは人形に影で起きた出来事を演じさせた。

「……えー第四位は弾幕ごっこ大好きの暴れん坊です、ですがミサカとは戦いで楽しませて貰ったので贔屓気味だったりします」

贔屓といいつつ目をつけられたともいう、シスターズの表情に姉妹への同情が浮かんだ。

「さて研究者と接触した彼女は悩みます……これで暴れられる、がミサカに迷惑をかけてしまうとも」
「……ココデ、ヤメリャアイイノニネ」

喜び勇み、同時にいや流石に不味いと思った彼女がしたのは打ち止めへの接触だ。

「彼女は雇われという立場を放り捨て……彼女を外へと出します、今回は初っ端から裏切りです。
……がそこでこちらに来ればいいのに、戦う為に研究者側に付きました」

アリスが人形を操りながらガックリする、シスターズも同じ反応だ。
自ら負け戦に向かう姿は最早狂人である。

「……ふう、続けよう、さてさっきも言ったけどこいつは裏切っておいて敵戦力として動きます。
一方通行との戦闘、配下を動かし妨害行動、更に小悪魔まで唆し……この辺りで気付きました」

正確には当事者であるもう一人、『末っ子』がこの辺で彼女の様子が可笑しくなったと言っていたのだ。

「研究者は超能力者の少年に痛い目に遭わされました……その彼が打ち止めという切り札だけで挑むのかと」
「……マダ、ナニカアルハズダッテ」

彼女はそれを調べる為に最後まで相手の側に残った、白黒達に叩きのめされてからも。

「最後の瞬間研究者はそれを出します……個体二号、『最後の個体の二号』です」
「……スエッコチャン、ダネ」
「もう一人の妹は囮、戦いの中で集めたデータを元に打倒超能力者の作戦を立て、個体二号にそれを実行させる。
そんな予定でしたが……が、瓦礫の中に埋まってまで粘った第四位がここでインターセプト……」

これにより研究者も瓦礫の中へ消え、残ったのは自由となった個体二号一人だった。
彼女を超能力者の少年達が研究所に連れ帰り説得したことで、本当に事件は終わった。
正確には自分はネットワークを揺るがすと、姉妹の為に死すら望む末っ子を宥めた一幕があるが相手は当事者なので演技はしない。

「自分の存在がシスターズを危険に晒す、そういって自暴自棄な彼女を姉である貴女達が止めた……これで解決と言いたいけど」
「ダイヨンイヘノ、カンジョウ、チュウブラリン……」
「うん、そうなの……ミサカ達は怒ればいいのか、最後に助けてくれたのを感謝すればいいのか、どうしようって……」

打ち止めが今は番外個体と名乗り、人知れず国外でネットワークを不安定化させないよう力の使い方を学んでいる妹を思い考えこむ。
ここでアリスは軽い気持ちであることを言ってしまった。

「本当迷惑よねえ、あの女も……その師の白黒も緑も」
「……アリスお姉さん、今のところ詳しく聞きたいんだけど」
「……あ、やば」



「……ていうことがあって、教え子の責任を取れと怒ってるの。
本人にはどう言うか後で考えるとして……とりあえず近くの関係者に鬱憤だけ先にぶつける気みたい」
「アリス、お前、何喋ってやがる!?」
「いやあ仕方ないんじゃない……姉妹愛には勝てんわ」
「……ああ確かに、姉妹愛じゃ分が悪いぜ」

例えば吸血鬼姉妹、例えばさとり姉妹、そういう連中を知るだけに魔理沙は抵抗を諦めた。
姉か妹か、どちらにしろ片方が片割れの為に怒った時抗える気等全くしない。
それを理解した魔理沙は素直に正座する。

「……うちの弟子がごめんなさい」
「よろしい……彼女が戻ったら厚生させなさい、ってミサカはミサカは妹の為に物申すよ!」
「おう、そうするぜ……」

コクコクと魔理沙は彼女らしくなく正直に頷き、相手の要求を受け入れる。

(畜生、せめて幽香もここにいたらなあ)
「……こらあ今考え事したでしょ、しっかり聞けとミサカはミサカはクレーム追加します!」
「勘弁して下さい、番外個体のお姉様……」

共犯が居ないことを道連れの意味で残念がり、そんな考えに気づかれ怒られた魔理沙はガックリと項垂れる。
愛が、姉妹愛が普通の魔法使いの傍若無人さを凌駕した瞬間である。
そして、それを見ていたシスターズはこの立派な妹に感動するのだった。

『ううっ、打ち止め何て立派になって……』
「……良い姉だなァ、あいつ」
「そうね、全く良いことよね」

パイ生地で顔面真っ白にした一方通行と霊夢が手を止め笑う、が速攻パイぶつけ合いを再開する、こっちの姉弟は残念極まりなかった。





悲喜こもごも二のおまけ、完です(空気が違い過ぎて分けた)
ちょっと出番が遅かった分影の薄かった打ち止めを全面に・・・特長有って書き易いと今更に気づいた。
とりあえずこれで一部一話から第三話まで、それから飛んで第六話に関しての説明終了。
・・・次は東方キャラか魔術側か、少し悩ましい。

以下コメント返信
ぱるぱる様
うーん、それ書くとと北欧という場外地点の第四位が出張る問題が・・・出すとしてもミサワのみ、第四位は今までが目立ち過ぎ。

トク様
あ、本当だ、何で同級生と書いたんだろ・・・直しました、ご指摘ありがとうございます。



[41025] 第一話 学園都市悲喜こもごも・三
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:307da9d2
Date: 2015/03/28 14:27
ギッバタン

(……ふう、全く会場出て急に打ち上げなんて、皆大袈裟よねえ……悪くはなかったけど)

研究発表とその後打ち上げに少し疲れた様子で美琴で家に、研究者用の宿泊施設に帰還する。
といっても疲れ等打ち上げで皆が祝いの言葉を掛けてくれたのに比べれば小さいことだが。

(感動しましただとか、頑張ったなとか、やるじゃないかとか……全く褒め殺しよ)

内心でちょっと愚痴り、だけど美琴はちょっとにへらと笑った。
その表情の崩れ方の時点で本心はバレバレだ。
打ち上げ参加者に認められ温かい言葉を言われ、彼女はそれを喜びながら自室のベッドに倒れ込む。

「まあでも凄くいい気分だわ……明日からの研究も頑張ろっと」

そんな風に気合の入った彼女は疲れと満足感の中体を横たわらせる。
その研究は明日も続く、この気分の中向うのも悪く無いだろうと。

シュルシュルシュウシュウ

(……まだ一組居たようね)

沈む意識の中で気配を感じ、フワと美琴は一つ欠伸をしてから起き上がって声を掛けた。

「佐天さんの蛇……入っていいわよ、まだ起きてる」

窓を開けるとベランダに水の蛇、友人である佐天の涙子の使いである蛇が居た。
それはタッパーらしき物を乗せたお盆を持っていた。

「何かしら……あら、差し入れ?」

お盆のタッパーから芳しい匂い、何となく美琴はわかってきた、疲れてる彼女を思い涙子が用意したのだろう。
美琴が受け取って中身を確認すると、そこには栄養の付きそうな雑炊とキノコと根菜の漬物が入っている。

「(……直接来ればいいのに、姉妹達に遠慮したのかな?)……まあありがとう、有り難く頂くって佐天さんへ」

伝言を受け取って蛇は主の元へ帰っていき、それを美琴は変な部分で奥ゆかしいなと思いながら見送った。



「……まあ何の事はない、直接行くのは私が今酒臭いをプンプンさせてるから、単にそんな理由でNGなんですがね」
「にゃはは、研究者やってても相手はガキなんだ、そりゃ不味いな」

涙子は真実、しかも結構情けない部類の真実を口にした、膝に寝転んだ自室で角の生えた金髪の少女と顔を合わせ苦笑する。
彼女は夏休み最終日の再会から事有る毎に酒を飲んで飲んで飲み倒していた。

「もう伊吹童子が再会以来転がり込んで……それだけなら別に良いけど酒の相手させるからです」
「おいおいあたしのせいかい……自分だってノリノリで付き合ってるじゃないか」
「いいえ、これは鬼の大将たる伊吹童子の面目を潰さない為……学校に行く時匂いとか気にしてるんですよ」
「……節姫、そんなこと言いながら大将の次に飲んでるじゃないか」
「ばれたか、にとちゃん……流石に言い訳に説得力無いか」
「にゃは、お前さんも何だかんだ言って呑んべだもんなあ」

言い訳失敗を誤魔化すように涙子は顔を逸し、その様子に鬼と河童が仕方ない奴だと笑った。

「……ううっ、楽しそうでずるいぜ……こっちは打ち上げで零歳児に説教されっぱなしだったのに」
「魔理沙さんはご愁傷さまです、でも……『以前世話してやった相手』が暴れ回ったんだから仕方ないでしょう」
「そうそう、関係者が悪さしたら頭を下げる、連帯責任って奴さ」
「二人は悪戯した天魔から謝らずに逃げ回ってたけど?」
「……私は被害者、主犯は伊吹童子です」
「あの時は私が上司だ、気にするな」
「わあ、ずっこいなあ……」

魔理沙がそっちだけ平和そうだと羨ましがる。
といっても過去偶然に『幻想郷に迷い込んだ超能力者』の世話をし、ついでに色々影響を与えたのは確かなので無実ではない。
すると、ふと思い出して河童のにとりが悪事をばらし、が二人は恐るべきの面の皮の厚さを発揮した。
それはそれでこれはこれと、小鬼と大鬼達(小さい方が大鬼だが)はにとりの突っ込みを軽く流したのだ。

「まあ細かいことは気にせず「天狗からすれば違うだろうけどね……」ここには彼等は居ないので良し、さあ気にせず飲もう!」
「本当に良く飲むよなあ、私も酒は嫌いじゃないが……流石に負けるぜ」
「……まあ修験者やってりゃご馳走とは縁が無くてね、鬼の酒に嵌ったのはその時の反動かも」

涙子が当時を思い出したのか苦々しい表情で言った。

「あそこには精々野草くらいだったしなあ……」
「ふうん、修験者生活か……山に篭ったんだろ、大変じゃなかったか?」
「そりゃもう!……当然ご飯は現地調達、凶暴な妖怪妖獣やらを神社や寺院で貰った守り刀や護符で追い払ったりしたんだから!」
「あ、食事事情と人喰い対策が同列なんだ……」
「……そういや私を食べようとした雪鬼さん、返り討ちにして逆に齧ったことも在ったなあ」
「あ、結構飢えてたのか、そりゃ妖怪の山ならそうだよな」
「いや今思えば、齧っちゃった雪鬼さんには悪いことをしました」

涙子が笑いながら当時の思い出、昔の武勇伝を口にした。

「……なあ聞いててあることに気付いたんだが」
「うん、なあに、ショチトル?」

するとここまで黙って酒をチビチビ飲んでいたアステカ魔術師、『とある事件』で涙子と縁を持ったショチトルが問い掛ける。

「涙子、お前……さっき食事は現地調達って言ったよな」
「ああ、言ったねえ」
「……襲ってくる妖怪や妖獣を返り討ちにしたとも」
「ああうん、そうだけど?」
「で、さっき雪鬼とやらを齧った……一つ聞くんだが食料が満足にない修行生活で、その立派な体を作った栄養って何だ?」

一同の視線は学生にしては立派すぎる、モデルと言っても通じる胸の大山に集中する。
栄養源イコール修行時代の食材、この符号に彼女達は少し青い顔をする。

「…………も、黙秘します」
「あー食いやがった、こいつ!?」
「え、お前、まさか……雪鬼食ったの?お前が雪鬼っぽい力を手に入れたのそれ!?」
「天狗や河童はそれぞれの里に居るから無いだろうけど……でも野良の小妖怪は沢山居たから減っても多分わからないか?」
「おいおい食い意地張り過ぎだぜ、こいつ……」

逆カニバリズムに温度が何度か下がった気がし、同時に一同は涙子から一歩離れた。

「……」

バタン

「……ああ酒が回ってきた、私寝るね」
『こいつ寝落ちで誤魔化す気だ!?』

涙子は誤魔化しに掛かり、他の四人はこいつ意外にイイ(良い、ではない)性格していると呆れを通り越して諦めの目で見た。

「……まあ良いや、そろそろ夜も更けたし私は帰るよ」
「おんやアステカの嬢ちゃん、もうちょい飲んどけばいいのに」
「いや学園都市じゃ仕事がある……産業スパイって奴だ、故郷の同胞の為に稼がないと」
「そうか、頑張れ……でも風紀委員辺りにはばれんなよ」
「はは、そんなヘマはしないさ」

涙子は寝込み、残る魔理沙と萃香とにとりに手を振ってショチトルは退散の準備を始めた。
すると、その背にへバレバレの芝居をしながら涙子が言葉を掛けた。

「……ぐー、独り言だけどまた遊びに来てね、ショチトル」
「狸寝入りのフリしろよ……ああそういえばあっちで『仲の良かった同性の友人』が来る予定だ、次は彼女と一緒に来るよ」
「そう、それじゃあ取って置きの料理を用意しとく……ぐーぐー」
「だから狸寝入りしとけって……またな、涙子、そっちの三人も」

マイペースな彼女にやれやれと肩を竦めた後ショチトルは一度皆に手を振ってから出て行った。
友人と一緒に、という誘いの言葉に少しだけ感謝しつつも呆れながら。



学園都市悲喜こもごも・三



「ミサカお姉さん、こっちは事務仕事を順調に片付け中だよ……そっちは今日は?」

風紀委員の支部の端末の前、インデックスは端末の向こうのミサカと話していた。

『ミサカ達は地下アーケードの巡回中です、インデックス』
「……あーあそこか、お店が沢山在ったところだね」
『ええ、夏休みが終わったばかりとはいえ、やはり人が多いところなので念入りに……』

学園都市の地下広範囲に広がるアーケード街はこの街でも特に人通りが多い。
夏休みの頃よりは減ったもののそれでも十分賑い騒がしい。
それだけに風紀委員は目を光らしている、やはり人の集まる所は犯罪の温床になり易いからである。

「うーん、あそこかなり広かったと思うけど……凄く大変そう」
『ええまあ……ミサカや先輩はその辺気にしてませんでしたが、風紀委員と成るとそういうことまで気にするのでしょうね』

今まで彼女は考えなかったが、確かによく考えてみると念入りに回る必要がある。
あの一角は人通りが多くしかも地下で犯罪や事故が起きた時に避難し難い環境なのだ。

『……それだけに、白井さんのお手伝いを頑張ってみるつもりです』
「うん、頑張ってね、ミサカお姉さん」
『はい、インデックス……ところでそっちの方は?』
「うーんとねえ……」

姉達が気になったミサカの問いかけに対しインデックスは少し間が開いた。
と言っても問題が起きたとかではない。
唯珍しい客が訪れ、それにより可笑しなことに成っていた。

「何か愉快なことに成ってるかな……」

支部に来た黒髪に梅の髮飾の少女、佐天涙子の差入れにシスターズ達が目を輝かせ、それを小悪魔が羨ましいという目で見ていた。

「ほうらシスターズの皆、これをお食べなさい……頭脳労働の疲れを癒やす、果物のシロップ漬けだよー。
隠し味、『友人から貰った酒』のおかげで芳醇で飽きが来ないよー……ああ調理過程でアルコールは抜けてるから」
『おお有り難や、とミサカは差し入れを堪能し……旨っ、これ滅茶苦茶旨い!?』
「ふふん、そりゃすいちゃんのお酒だから当然、下手すりゃ国宝物だもの!」
「さ、佐天さん、私達にもそれ頂戴、凄く美味しそう!」
「はいはい、まだまだ沢山有るから、初春……シスターズの二人もおかわりどうぞ」
『わーい、とミサカは味にガチで感動中』
「ううっ、飛び入り客が次女ちゃん達の心をしっかりキャッチしてる……羨ましい、妬ましい」

涙子がどこからか風紀委員見習いのことを聞きつけ、持ってきたご馳走で彼女は一気に支部の人気者だ。
ご馳走効果で左右にミサカ00002号と00003号を侍らせる涙子に、小悪魔がどんよりとした視線を送った。
一見微笑ましく、その実凄く物騒かもしれない光景だった。

「ミサカお姉さん、差し入れに次女達は大喜びで……小悪魔が嫉妬全開って感じ」
『……涙子には小悪魔に闇討ちされないよう気をつけてと、伝えといて下さい……』



ピッ

「……ふう、小悪魔はやはり良くわかりませんね」

インデックスとの通話を終えミサカは首を傾げ、そこへチルノが支部の様子を聞いてきた。

「ミサカー、あっちは何だって?」
「特に問題なし、後涙子が差し入れ持ってきたと……仕事終わったらミサカ達も頂きましょうか、チルノ」
「うん、後で食べに行こうね!」

仕事の終わった後のことを思いミサカとチルノはニコと笑い合う。
楽しみが出来たので、二人は早く自分達の仕事を終わらそうと気合を入れた。

「よし、頑張りましょう」
「うんっ、がんばろう!」

二人は顔を見合わせやる気に溢れた笑みを浮かべた。

「……おやチルノとその仲間じゃないか?」
『げえ、吸血鬼姉!?』

が、偶々通りかかったレミリアの登場でやる気は一瞬で恐怖へ、トラブルメーカーの彼女を見た瞬間反射的に逃げ出す。
二人は素早く近くに居た上条と一方通行の後ろへと隠れた。
麦野に次ぐ恐怖の対象であるフランドールの関係者だけに、激しく警戒していた。
盾にされた上条と一方通行が微妙な顔を、事情を知らない黒子が不思議そうな顔をした。

「俺達は盾か、いや気持ちはわかるけど」
「まァフランドールの姉じゃなァ……」
「……この娘がどうしたですの?」
『目を合わせるな、噛まれるぞ!』
「え、えっ?」
「……失礼な奴等だ」

この反応にレミリアが憮然とした表情に成った。
だけど、それに『二人分』の笑い声がミサカ達とは別の方から掛けられた。

「仕方ないんじゃないか、お嬢様は自由人過ぎだ」
「ふふっ、この機にその辺少し抑えてみては?」
「……黒夜うるさい、お説教は壇家相手にでもしておけ、聖」

共に買い物中だったらしき黒尽くめで目付き鋭い少女と法衣を来て紫金の髪の女性、黒夜と聖の言葉にレミリアがフンッと拗ねた。



「え、何?質問が……」

アリスがシスターズの一人に問い掛けられた。

「……そういえば一方通行が絶対能力者計画の後に何か騒ぎに巻き込まれたそうですが」
「あら00001号、どこでそのことを?」

長女である00001号がアリスに質問する。
彼女はこの日麦野所有の畑で取った野菜を姉妹に配っていて、それを終えた後行き成り聞いていたのだ。
どこで聞いたのだろうとアリスが訝しみ、それに一緒に野菜を配る暗部の少女、絹旗が答える。
絶対能力者進化計画で一緒に逃げて以来00001号と仲の良い人物だ、おかげで暗部に顔が利き00001号の交友が心配だったりする。

「ああ私が話しました……といっても関わったけど事件の全貌は知りませんが」
「いやああれの全てを知ってるのはいないと思う、皆好き勝手やったようだし」
「だから尚更気になって……」

半端な情報が逆に興味を引いたらしい。
00001号の言葉を聞いてアリスは少し考え込んだ後人形を見た。

「……劇にしてみるか」

確かに一方通行が関わり、自分や霊夢やチルノの住む場所で起きた事件でもある。
シスターズに見せるのも面白いとも思った。
まあ当然幻想郷や妖怪について曖昧にして、ではあるが。

「良し、一応証言を纏めた新聞は出ていたし……それを元に劇にするか」
「ヨウシ、ジュンビシマース!」

アリスは小さなアリスに手伝わせ、劇の準備を始めた。
これに気付いたシスターズが集まってくる、彼女達をゆっくり期待を煽るように見回した後アリスは話し始めた。
00001号を始めとしたシスターズと絹旗の前で幻想郷史上類を見ない『グダグダな異変』が再現される。

「……あるところに二人の迷子が居ました、とても難儀しています。
一人は僧職のお婆さん、仲間からはぐれてしまったのです……もう一人、清らかな気配の子供も元居た所がわからず困っています」

仲間から逸れた尼僧、故郷から落ちた少年、この二人役の人形の登場から物語は始まった。
前者に関わる異変でアリスの知り合いが暴れたとか、時期的に後者に関わってるようなお守りの話はややこしいので言わない。
唯でさえグダグダで進まないのでアリス達は焦点を絞り劇を進めていく。

「迷子の二人、そこがどこかもわからない……唯一の幸運は一人でなかったことでしょう」
「……モットモ、リョウホウ、マイゴダケドネ」
「ええ、迷子同士の二人は困り果てます、ですがそこへ手を差し伸べるものが居ました。
黒い翼の我儘貴族です、彼女は暇で暇で仕方なく、それを潰せるかと二人を拾います」

黒い翼の我儘貴族の下りで一部の客が気付いたようだ。
だが、アリスは話の進行を優先する。

「さてこの我儘貴族は二人の前にも迷子を拾っています……黒尽くめの少女です」
「あっ……」
「絹旗さん、喋っちゃ駄目よ……本来我儘貴族は宗教上の理由で迷子の二人とは些か相性が悪いです。
ですが先に拾い、拾った恩を着せて従者にした少女が間に居たからか、それなりに平和に接していました」

我儘貴族が一人目の迷子を弄って他の二人が宥めたり、我儘貴族が三人目の迷子を弄って他の二人が和んだりしていた。
振り返ってみると大体我儘貴族が弄ってばかりだった。
後二人目の迷子である尼僧がマイペースだ。

「さて平和な共同生活、また貴族が迷子の帰り道を探していると……邪魔者が入ります」
「……アルイミ、コンカイノ、ヒガイシャワク」
「迷子の一人、清らかな気配の少年を狙い、謎の少女達が暗躍します。
彼女達は少年を宗教上の理由で狙っています、これは自分達の組織の為に利用するということで……帰るという目的に合いません」
「マイゴノコガ、タイヘンダ!……スグニ、コイツラガ、タイヘンニナルケド」

沢山の人形が台上に、少女達(科学関係者が相手なので教会等は言わない)が迷子の少年を遠巻きに伺った。
が、そこへ更なる乱入者が二人、我儘貴族の平和な話と平行し修羅場が広がる。

「ここで説明、まあ前回少し話したけど……物語の舞台は『ある隠れ里』でそこは紅白の巫女と賢者と呼ばれるが管理しています。
特に思い出して欲しいのが何か起きたら巫女が解決すること、でもそれは彼女だけの仕事では無いのです」
「……ドウルイ、フタリ!」
「かつて巫女と同じ仕事をしていた銀髪の剣士、そして巫女の留守を守りやはり同じことをしていた青い巫女が現れました」

この時のこの二人の動機が新聞に書いてあったが、それは当り障りのない物だった、だけど証拠がないのでそのまま言った。

「二人は里の平和の為に、それを乱すかもしれない少女達を追います……義憤だそうです」
「ホントウ、カナア」
「……ええうんまあ義憤ということにしておくとして、この二人の存在により謎の少女達は足止めされます。
銀髪の剣士によって少女達のリーダー格が負傷し、何とか生き延びたものの彼女達を青い巫女が分断します」

こんなことが起きている間我儘貴族達は平和だった。

「我儘貴族と三人の迷子は里でそれぞれの帰る場所を調べつつ、話したり食べたりと平和です。
……丁度この時白い超能力者と、お人好しの暗部の少女と出会いました」
「ああ私はここかあ」
「そうよ、絹旗さん……白い少年は知り合いの巫女のお遣いで、もう一人はそれに着いてきました」

ここでアリスは少し口ごもる、実際一方通行からお遣いだと聞いたが理由が弱いと思っていた。
だが本来の目的である『分化し本体に抗った未現物質』については彼と霊夢、それに小悪魔経由でパチュリー以外は知らない。
当然ほとぼりが冷めるまで幻想郷に逃したのも知らないアリスは疑問に思いうも真実まで辿りつけなかった。
気になりはする、が言わない理由が有るのだろうとここでは気にしないことにした、彼女は劇に集中し再開する。

「さて何とここで一人目の迷子と暗部の少女が友人と発覚、彼女達は旧交を温めた後……別れます、我儘貴族と迷子達の調べ物の為に」
(……実際は超喧嘩しかかってた、というのは言わないでいいか)

絹旗が言わないでいいことだろうと口を噤んだ。
更に言えば迷子もまた麦野のある意味被害者であることも口にはしない、麦野はシスターズ共通の悪夢なので刺激したくないのだ。

「我儘貴族達を見送った後……白い超能力者達は里で休憩することにしました。
二人以外に案内役の緑の髪の自称淑女が居ます、暴れたり砲撃したりするけど淑女らしいです」

ここで一部のシスターズがうん?という顔をした、悪夢の影が見え隠れし出している。

「……ですが何とここで白い超能力者が謎の少女達に襲撃されました」
「リユウハ……ミマチガイ」
「遠目で見たら銀髪の剣士と髪の感じが似ていたようで、こうして彼は謎の少女達に報復すべく追ったのです。
そして……緑髪の自称淑女もこの騒動に気づき、少年にやや遅れて戦場に向かいました、彼女は少々戦闘狂の気があるようで」

やはりこの部分で一部のシスターズが反応する、誰か似た人物を思ったか顔を顰めた。

「ふう、続けるわよ……一気に敵が増えた謎の少女達、ですがここで彼女達にも援軍が来ました。
彼女達の組織の仲間、二人の幹部です……一人は水を操る大男、もう一人は赤い腕を持つ優男です」
「……コンカイノ、ヒガイシャ、ソノニ」

台上に乱入したこの二人によって、傾きかけていた盤面は硬直状態に陥った。
大男の方には青い巫女と超能力者、後から巫女と交代で銀髪の剣士が、優男の方には緑髪の自称淑女が相対する。
実は後者には『分化した未現物質』も来ていたが新聞から消されている、当然アリスの劇に登場しない。

「最初は巫女と超能力者、そこから巫女と交代で銀髪の剣士が大男と援護の少女達と戦い、優男とは緑髪の自称淑女が戦います。
……ですがこの時、幹部が動けない間に剣士と入れ替わる形で退いた青い巫女が我儘貴族と接触します」
「……コイツラ、チョウド、ニゲテタトコロ!」
「我儘貴族達は謎の少女達の一部隊に襲われ、ですが現地の知人の協力で逃げていました」

この時青い巫女と協力し、郷中を飛び回っていた尼僧の仲間である鼠色のダウザーと出会った。

「尼僧の仲間であるダウザーの少女から我儘貴族は現状を知り、迷子の少年を早く返さねばと考えます。
そこへ折良く青い巫女が我儘貴族の元へ到着、彼女達は協力し追手を倒した後帰り道を探します……この時尼僧が意外な活躍を」
「……オバアチャン、トッテモゲンキ!」

老いた尼僧は我儘貴族達に混じって、独鈷杵片手に敵を、追手のリーダー格の少女相手に大立ち回りをしたのだった。

「これにより一時は逆転かと思われた少年を狙う者達は再び窮地に陥ります。
仲間を庇い大男は超能力者達に敗北、一度は優男が自称淑女を退けたものの……超能力者達と戦ってる際に乱入、やり返されます」
「フッキン、ブレイク……モジドオリ」

シーン

シスターズはあれやはり某人物の関係者では、と疑った。
因みに片腹が痛いことに成ったらしい、抱腹絶倒とかそういう比喩ではなく根こそぎで。

「……さて自分達も追い込まれ、また仲間の少女達の安全と引き換えに彼等は一時撤退します」
「……ガ、コレガ、イノチトリ」
「何とこの間に我儘貴族と青い巫女は相手の目的だった少年の故郷への帰り道を用意したのです。
……故郷へ相性のいい力、尼僧と巫女の協力で道が開き、その精度を『我儘貴族のとても珍しい力』が補正します」

あっという間に整う少年の帰還への道筋、これには追手達は大いに慌てた。

「彼等は大慌てで再度襲撃します……今度はもう一人の幹部、原色ぶち撒けた悪趣味な衣装の男と共に」

今度は彼等は相手の意表を突いた、悪趣味な衣装の新幹部が帰還の準備を滅茶苦茶に妨害する。

「ああ何ていうことでしょう、これでは帰れない……そしてそこへ少女達の総攻撃、この隙に少年を奪おうとします」
「……サンニンノカンブガ、ミンナヲトメタノ」

白い超能力者(正確には自律した未現物質二体も)が風で少女達の足止めをしていたが、三人目の幹部の妨害で風は止められた。
更に彼は青い巫女と戦い彼の女を押さえ、大男と優男が銀髪の剣士と緑髪を押さえた。
目的の少年を守ろうと我儘貴族が立ち塞がるが、少女達が相手の苦手な攻撃で隙を作る。

「最後の最後で逆転されてしまうのか……その時一人の老婆が立ち塞がりました」

ここでシスターズが首を傾げた、台上には尼僧に似た、だけどずっと若い姿の人形だったからだ。

「おお何ということか、彼女は仲間との再会で真の力を発揮……魔じゅ、もとい超絶アンチエイジングによって若返ったのです!」
「……あ、信じられないけど本当ですよ、シスターズの皆さん」

魔術師のことを説明できず、このアリスの苦しい説明を絹旗が保証した。
これに感謝しながらアリスは劇を進行する、一気に大詰めへと。

「若返った尼僧は不思議なマントラを唱えると超人的動きで少女達を圧倒、瞬殺したのです。
……ここで再び形勢は逆転、ですがここで一つ問題が有ります」
「ソウ、カエリミチ……」
「三人目の幹部により道は壊されました、ああ駄目なのか、そう思った時……我儘貴族が友の為に動きます」

ザワザワ

次の光景、台上の貴族役の人形の動きにシスターズがどよめいた。
壊れた道の破片を担ぐと、投擲体勢に入ったからだ。

「さてさっき説明しましたが……道は少年の故郷と相性の良い力で出来ています、ならば破片でもそれなりに効果があるのでは?」
「……ワガママキゾク、オオキクフリカブッタ!」
「彼女は小さくても実は郷屈指の力持ち、全力でぶん投げたそれが届きます、あるいは向こうが気付いた可能性もありますが……
何と少年への故郷まで短時間ですが繋がったのです、これには幹部も部下の少女も驚きました」

悠々と故郷へ帰る少年、それを見送る我儘貴族と黒い少女と尼僧、そしてここで後半大人しかった人物が動き出す。

「当然幹部も少女達も困惑、ですが余力無く彼等は退くことにしました……が一人空気読めない奴が居ます。
最後に来た幹部は諦めず少年の奪取を仲間に命じます、組織にありがちな頑固者ですね……だからでしょうか、罰が当たりました」
「……ミドリ、ウシロカラザクウッ!」
「緑の自称淑女が後ろから串刺しに……何とそれまで優男達と戦っていた密かに入れ替わったダミーだったのです」

仲間の負傷に頭を抱える優男(何故かガッツポーズの大男)彼等はこれ以上の戦闘をしないという条件で逃げていった。
そうして我儘貴族達の友情と、暴れん坊達の満足と、結局巻き込まれただけの一方通行の嘆きで終わったのである。

「そしてここでネタばらし……緑髪は第四位の師の一人で、我儘貴族は某破壊魔の姉です」

劇に興奮するシスターズ、がこの言葉に一瞬で静まった。
そして同時に納得もした。
最後に一度自分を退けた優男に物騒な仕返しをした女性が麦野の関係者なら当然の帰結だ。
それに、遠くの修羅場に構わずマイペースに動いた貴族も妹を考えればこれも納得だった。

「……因みに我儘貴族、レミリア=スカーレットは学園都市に来てるから近づかないようにね」
『はいっ!』

アリスが最後に言った言葉に一同頷いたのだった。



「……お前等何してンだ?」
「聖婆ちゃんと折角再会したんで、買い物誘って色々回ってるとこ」

唯一全員と面識がある一方通行が代表して問い掛け、それに黒夜が答えた。

「どっかの寺の住職だろ、その仕事はどうした、こンなことしてて良いのか?」
「……というより寺の仕事が有るからですね、もう少し経てば秋の盆で嫌でも忙しくなりますから」
「盆に入って忙しくなるからその前に遊んで来いって、寺の仲間に送り出されたんだってさ」
「それで私達が聖を案内しているところだ」

年に二回の盆は寺院関係者にとって特に忙しい時期で、それが始まる前に仲間達が聖を彼女を友人の元に送り出したのだ。
この答えに一方通行は成程と思い、ふと会話を聞いていた上条達が聖の容姿であることを思い出し問いかけた。

「そういえば……夏休み最終日に援軍に来てくれましたよね」
「あ、本当だ、あの時の……」
「……あの時はありがとうございます」
「ありがとうね!」
「あらご丁寧に、でもこちらもご近所様に頼まれたからですのでお気になさらず……」

聖が柔和に笑った、この反応、フランドールを始め個性的な郷関係者と違う常識的反応に上条達は密かに感動した。

「それにしても……」
『何で……聖婆ちゃん?』
「……こう見えてそれなりに人生経験が豊富だから」
「気にするな、初めて会った時からの癖」

疑問への問いかけに対する聖達の答えに、上条達は首を傾げた。

「……ところで買い物とは?」
「ファンシーショップでイルカの縫いぐるみを」
「私も、ああ虎と鼠ですがね、仲間にやろうと……」

黒夜と聖がそれぞれ答える、特に聖のは自分の居ない間の代表者と頭脳担当へのお土産だ。
ここでチルノが首を傾げた、レミリアと縫いぐるみの組み合わせに違和感を覚えたからだ。
それでは何を買ったのかと問い掛ける。
すると、イタズラっぽい笑みが返ってきた。

「レミリアは?」
「猫耳と犬耳が有ったから両方買った……猫耳は気紛れな妹に、犬耳は忠実な従者に着けさせる予定だ」
「流石に嫌がるんじゃない?」
「ふっ、その時は弾幕ごっこだ!」
「……姉妹喧嘩や下克上されても知らないよ」

にやにや笑って妹と従者に邪悪な贈り物を企む彼女にチルノは呆れた。

「本当に唯の買い物みてェだな」
「失礼な奴だな……」
「前に何やらかしたか思い出せ……俺らは巡回を続けるが、大人しくしてろよ」
「安心しろ、聖が居るんだ、今日はこいつのエスコートに徹するさ」
(……そうでなかったら安心できないってことか)

そういうとレミリアは聖と黒夜を引き連れ次の店へ行く、買い物を続けるのだろう。
何とも言えない表情で一同(わかっていない黒子以外)レミリア一行を見送った。

「良かった、今日は何もやらかさなかった」
「こんな日もあるよ、あいつは良くも悪くも気紛れだから」
「その辺小悪魔の仲間なだけは有るというか……」
「黒夜はまだ常識有るしもう一人は真人間、一緒に居るのがマトモなのが救いか……ピン、または妹とだったらどうなってたか?」
『止めて、想像したくない……』

やはり黒子以外が口を揃えて言った。
フランドールの姉で負けず劣らず気まぐれな彼女への苦手意識は強かった(ある異国の兄妹を巡る戦いで戦ったせいでもある)
一同は今回のような平和が続くことを切に願ったのだった。




今回は御使落とし編について及びその後の話を。
ショチトルの口にした友人云々はまあ今後で、多分ちょい役ですが・・・
前回言った通り東方キャラが登場、残すはアステカ関係ですが夏休み最後の事件は・・・最近だし書かなくていいかな?
あるいは書いても前より少しぼやかしてか・・・まあ後二話、多くて三話くらいで長編を開始予定。

以下コメント返信

うっちー様
応援どうも、ええ本当に色々在った・・・賑やかなのは大事、この後また事件に巻き込まれるのでその前に日常回は必須ですし。
シスターズは皆協力し窮地を脱したので仲良しはある意味当然、そういう意味では唯一外に居る番外個体を早く戻したいですね。

九尾様
むぎのんはもうトラウマ製造機になってます、ていうか裏切りとフレンドリファイア100%・・・暴れ易すぎてついこんなことに。
魔理沙はまあ仕方ない、怒れる姉相手じゃね……やっぱ麦野がやらかしたことを考えると誰かが怒られるべきでしょうし。
最後に関しては殆ど勢い、でも結果オーライは流石の巫女か、まあ弟分の危機には本気出すのでその時は本当に頼れるんです・・・(ある意味ツンデレ?)

いいい様
爆発や音付きのパイか・・・それでも良かったかも、そして背景がそれだと説教される魔理沙の図が更にカオスなことに・・・
秋姉妹はその・・・やや不憫なのが持ち味というか、大体全力出せない時に出番来て負けるのがお約束、うん例外にさせて下さい。

猪吉様
夏休みにいろんな事件に巻き込まれた反動か、皆揃って緩くなってます・・・一方通行と霊夢はまあ遠慮のない仲ってことで。



[41025] 第一話 学園都市悲喜こもごも・四
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:307da9d2
Date: 2015/03/28 14:28
ジュワワアッ

涙子が音を立てる油にニヤと笑った。

「さあ召し上がれ……差し入れ第二弾を!」

ワアアアアッ

本日も支部にやたら豪勢な差し入れが届けられた。
というか宿直室の器具を借りて作った出来たてで、周りの反応は前回以上だ。

「今回は旨味と香り付けメインです……食材は秋刀魚とかの秋魚の適当チョイスですが」

出されたのは旬の魚の煮付けだった。
皮はパリッと、身はフワッと、そして香りはスウッと入ってきて空きっ腹を刺激する。
それを同じく出来立てのご飯の上へ放って、醤油を垂らす。
そして、涙子は自分だけ更に食中酒を気取って盃も付ける、学生だから駄目と初春達に取り上げられたが。

「ちぇ、勢いで飲めるかと思ったけど無理か……まあ仕方ない、皆食べるわよ!」

ワアアアアッ

「……で今回もこんなに人気者に成ると小悪魔に刺されるんじゃない?」
「ふっ、それは対策済みよ、インデックスちゃん……見るがいい、今回は共同調理者であるあの人を」
「ぐふふ、ミサカちゃんの姉妹が私の料理を目を輝かせて食べている……これはポイント高いよ!」
「あー嫉妬避けに手柄を分けたんだね……」
「……うん、怖かったんだもん、後今日のは所謂プレゼ(蒸し煮)で洋食の調理法だし」

満面の笑みでシスターズの食事風景を見守る小悪魔に、涙子とインデックスは苦笑する。
因みに話しながらもインデックスが他を圧倒する勢いで片付けている。
これは不味いと涙子は自分の分を確保、更に数人分確保すると小悪魔に声を掛けた。

「ほら小悪魔笑ってないで、ミサカちゃん達のお弁当を用意しましょ」
「……おっと、眼福だけど詰めないと、ミサカちゃん待ってなよう!」
「……言っとくけど、ミサカちゃん以外の分もだよ、持ってく頃には幾らか冷めてるからチルノちゃんも食べられるし」
「ふふ、ミサカちゃん喜んでくれるかなあ……」
「聞いちゃいねえや、他は私がやっとくか」

今回は前回の果物と違って熱物なので届けることにする。
といっても小悪魔はミサカの分だけやたら丁寧に弁当箱に詰めていく、涙子は一度大きく嘆息した他の者達の分を用意した。

「……届けに行く時私も行くか、小悪魔だけじゃ心配だ」

やれやれとゲンナリした顔で彼女は小悪魔を見た。
どうやら今日はまだやることが有ったようだ、色ボケ悪魔への突っ込みという役目が。
もう一度嘆息した彼女は煤けて見えた。



学園都市悲喜こもごも・四



グウウ

小さくお腹が鳴る、つい先程学園都市の空港に到着したばかりの少女は顔を赤くする。
黒い肌の少女だった。

「ううっ、上層部の馬鹿……」

その口から上への不満が漏れた。
武闘派の同僚が失敗したせいで彼女の仲間は学園都市への干渉に及び腰に成っていた。
結果この地での活動に様々な制限を上から言い渡されている。

「でもだからって……経費削ること無いじゃないか、しかも飛行機代で大半が消えるほど」

これが飢えてる理由だった。
少女は上への恨み言を呟きながら学園都市を歩いて行く。

「うふふ、ミサカちゃん、待っててねえ」
「私が突っ込みっておかしくね?」
「……畜生、泣きたい」

途中通りがかった二人組の持つ弁当箱がやたら良い匂いをさせてるのは拷問だった。
殆ど泣きながら彼女は目を逸らす。
殆ど走ってすれ違った後涎を拭き、もう一度組織を呪った。

「帰ったら経理担当に苦情入れてやる、いや顔ぶん殴ってやる」

もう涙目だった、ここに来るんじゃ無かったと思い始めていた。
だけど少女にはここに来る理由があった。

「ショチトル、エツァリ、無事かな……」

片方は年の近い友人で、もう片方はその兄貴分でありこちらもそれなりに親しい。
武闘派の失脚を報告した二人組、今も尚この地で任務中である二人が心配だった。
その様子を見ようとここに来たが少し後悔し始めている。

「貧乏って最悪、いや財布の固い上司が最悪なんだ……」

恨み、いや最早呪いを呟きながら彼女は学園都市を進む。
運悪くと言うか合流時間までまだ有る、その上近くである店が丁度開店準備したのが目に入った。

「はーい、出来たてだよー、美味しいよー」

ガララッ

屋台だ、下校時の学生狙いだろう。

「……」

少女は思わず止まった、航空機に使ったから無駄に使える金はない。
が代わりにこっちで活動する為の『東洋人用の変装セット』と『偽装の制服』はある。
躊躇ったのは一秒もなく、彼女は路地裏に飛び込んだ。
そして、一分後そこから別人が、女子学生が出てきて、屋台の方へと然りげ無く近づいていった。

「……くっ、私は悪くない、悪いのは世界だ」

飢えて追い詰められた獣の目をしていた。



風紀委員見習い四日目、ミサカや上条にチルノ達は町中で悲鳴を聞いた。

「食料泥棒だあー!」
「……は?」
「このご時世に食い逃げか、何つうか時代錯誤だなァ……」
「言ってる場合ですか、行きましょう!」

慌てて声の方へ向かう。
屋台の前で呆然とする店主、屋台に並べられた小売のパックが欠けている。

「店主、犯人はどんな奴ですの!?」
「学生だと思う、年齢は十代後半だ、でも少し片言だったような……」

慌てて一同は周りを見渡す。
氷のような翼を広げたチルノと同じく烏天狗自慢の羽で飛んだはたてはこの騒ぎにも頑なに目を向けず、立ち去る人影を見つけた。

『……あっち!』
「追うですの!」

一同は追いながら口々に推測する。

「片言、この国の奴じゃないのかな?……」
「外の奴で犯罪かあ、アステカの連中みたいにどこぞの非合法組織って線は?」
「いやそれにしちゃ食い逃げってのはケチだ、無ェだろ」
「……ですね、何かの事情で『金欠』な組織なら兎も角……」
「私は記事のネタになりそうだから何でもいいけどね」
「考え事はいいから、追うですの!」

話している一同へ黒子が言って集中させる。
彼女は人が多くて迂闊にテレポート出来ず、顔を顰めながら走っていた。
だが幸いこの辺りは一本道だ、それに人通りが少なくなって来てそれに紛れて逃げられる可能性は低い。
そして、行き止まり、開発途中で道の無い場所に来た。

「え、居ない?」

しかし、予想に反しそこには犯人らしき者は居なかった。
少なくとも店主から聞いた特徴の者、『十台後半の学生』は居ない、居るのは制服は着ているが十台前半の少女だ。

「あれ……見失ったのかな」
「……確かに見たよ、私!」
「うーん、どっかで曲がったとか?」
「一本道だった筈ですの、どこに……」
「……あっちのに聞くか、見てるかもしれないし」

唯一近くに居た少女に一同は話しかける。

「あーそこの通行人、風紀委員だ」
「……こっちの子だけど」
「ああこら、私が聞くですの……屋台で盗難が有ったですの、それらしき人物は?」

他の者を下がらせ黒子が問い掛ける、少しギョッとしながらその少女は答えた。

「……いや来てない」
「えっ、こっちに来た筈ですのに……」

この答えに一同は首を捻ってしまう。

「確かにあっちの角曲がったと思う、その後どこかで横道に行った?」
「いや横道なンて無かった気がするが……」
「ふーむ、可笑しいですね……」
「見間違いじゃ無かったと思う……考えられるのは?」
「あー、何かの能力で道以外のとこに行ったとかかな」
「もしくは透過とか幻覚とか……変装とか」

ああだこうだと一同は考える、変装の下りで一同は近くに居た少女を見た。
彼女はバッグを大事そうに、まるで命綱のように抱えていた。
また着ている制服も少しダブついている、例えるなら十台後半の学生なら標準サイズだ。
そして、更に観察すれば制服各所に痕跡が有った。

「あっ……服に油物の染み!」
「袖にも何か汚れ、調味料?」
「……確保するですの!」
「うわあ、しまった!?」

少女が慌てて逃げようとする、だが黒子が瞬間移動で素早く回りこんだ。
ならばと方向を変えればそっちにはチルノ、別を向けばはたてが待ち構えている。
逃げ道を無くしパニック状態に陥る、慌てて武器を取り出す。
それは『紐のような物』と『凹凸のある刃物』だ。
だが、左右から近づいた上条と一方通行がその手を抑える。
そこでうん?と二人は訝しんだ。

「……いやおい待て……この武器、人皮の加工品だ」
「こっちもどっかで見たような鋸だなァ、ならこいつは……ミサカ!」
「はい、その変装暴かせてもらいます!」
「……あ、ああっ!」

バリっとバックアップに待機していたミサカが少女の顔に手を触れる。
まず一枚目の皮膚である今の顔を、次に十台後半の女性の顔を剥いだ。
出てきたのは黒い肌の少女だった。
持っていたバッグを開けると盗んだ食料入りパックと魔術関係の道具が入っていた。

「やっぱアステカの……」
「う、ううっ、だって……組織が学園都市に関わると問題ばかりだって活動費ケチって……」
「……うわあ、大分落ちぶれてる」
「何、食べ物持ち逃げする程お金無いの?」
「だって、航空機代すら減らされて……こっちに来た時既に素寒貧で、そんな時あの店の前を通ったらいい匂いがして」
「ああ、それでやっちゃったと」
「うう、せめてショチトルと合流出来たら……」

少女の余りに悲惨な言葉に、事情を知る上条や一方通行、ミサカ達は呆れと哀れみの目で見た。
唯一それを知らない黒子は小首を傾げたが。

「何ですの、その子のことを知っているですの?」
「あー白井さん、彼女の関係者を知っています」
「……ふむ、それなら関係者を呼び出すですの」
「少しお待ちを……」

少女を哀れんだ一同は仲間を呼んでやることにした。

「向こうの番号は……涙子に聞けばいいか」
「ミサカ、海原は?」
「面倒なので番号交換してません、彼に教えると常に顔を突き合わせることになりそうなので……」
『ああうん』

それはそれとして、ミサカの言葉には上条達は納得したのだった。



「水蛇ちゃん、私とアステカ、それにもう一つの組織との因縁聞きたい?」
「シュウシュウ!」
「……何してるんです、佐天さん?」
「シスターズに見せようかなって、劇の練習を……」

アリスの劇のことを聞いて触発されたのか、涙子が路上で歩きながら練習し始める。
イメージは学習番組の司会とマスコットだ。
肩に乗っかった水の蛇が涙子の言葉にに合わせ首を動かしたりする。
少し呆れた様子の小悪魔に構わず、涙子は話を進めていった。

「貴女も見ててよ、そういうの練習に成るだろうし……本番は紙芝居風にする予定だけど、今日は語りだけで」
「はいはい、それじゃあどうぞ」
「じゃ前振りから……人の顔掴んで熱病起こした銀髪のチビ、でも薄幸黒髪少女はそれに負けず、相手の持つ宝刀を奪ったのです」
(……そういや『道教関係者』と初めに会ったのはこいつか、それにしても自分で薄幸言うかな?)

前振りの時点で別のクライマックスが起きていた。
銀髪の少女によって涙子がダウンされた下りを口にし、それに合わせ蛇が大袈裟に倒れる。
が、隙を突いて相手が持っていた宝刀を奪ったという、これに蛇が喜ぶように体を揺する。
行き成り話が飛んでるが、ミサカが直接関わったアステカの呪術師の起こした事件に合わせているからだろう。

「そしてこの数日後二つの事件が起きました」
「シャ?」

この言葉に蛇が首を傾げる、こちらはリアクション担当のようだ。

「二つの事件の一つ目、ある組織の構成員で、仲間に裏切られ逃げる兄妹を自我に芽生え始めてる妹ちゃんが助けます。
……二つ目、銀髪チビの仲間が薄幸黒髪少女を見つけて宝刀を取り返しに来ました」
「シャッ!?」

涙子の言葉に蛇が大袈裟なまでに驚いた。
勿論蛇を操ってるのは涙子でこれは自演だ、良くやる物だと小悪魔は苦笑した。

(私が居たのは某兄妹を拾って様子の可笑しいミサカちゃんを調べにだけど……言うの止めとこ、便利屋扱いされそうだし)

涙子は密かに事実を隠ぺいする、この時期の前後では暗部との戦いからそういう扱いをされがちだった。
その二の舞を避けるべく通りすがりの体で、及びそこで偶然会った道教の仲間に襲われたことにした。

「薄幸黒髪少女は宝刀を取り返そうとする緑髪の雷娘、そしてその仲間の腹ペコ詩人の弟子と戦います。
……ですが主力である電撃攻撃が封じられ大ピンチ、慌てて彼女は攻撃を手段を切り替え水を主力にして対抗!」
「シュウシュウ……」

心配気に蛇が鳴く、微妙に細かい動作は調教の賜物だろう。

「同時刻……組織に追われる兄妹からもう自我芽生えてる妹、それに助けを求められた不幸な少年と生き人形が事情を聞きます。
ですがその最中……組織の人間に襲われ、兄妹を仲間と思って『謎の花屋の店員』が襲いかかってきたのです」
「シャッ!?」
「電子の拳に電子の砲撃、怒り狂う彼女に一同逃げ惑い……」
「待て、待って、それどう考えても第四位じゃ……」
「……シスターズのトラウマ的意味で、曖昧な表現なの」
「ああ成程」

夏休みのある時期暗部から反逆され野生化した某超能力者が居たが、刺激的過ぎるので曖昧な表現に留めている。
小悪魔が微妙な表情で納得したのを確認し、涙子は語りを再開する。

「この二つの戦いは……」
「シャ?」

僅かに貯めてから涙子は前半戦の決着の様子を口にした。

「薄幸黒髪少女は倒し切ることは出来なかったものの……腹ペコ歌人に手傷を負わせ、更に相手の足を奪い、何とか退けました」
「シャ!」
「逃亡者の兄妹及び拾った者達……姉妹持ちの点で兄妹に肩入れした妹が殿に、サポート役の人形と怒り狂う謎の女と戦います。
この戦いは相手の攻撃を逆手に取った妹によって謎の女は追い詰められ、そこへ人形がチェックを掛けたことで決着と成りました」
「シャアッ!」

ブンブンブン

二つの戦場の勝利に、蛇がガッツポーズの代わりに尻尾を振った。
まあ正確に言えば以前の因縁という意味で喧嘩を吹っかけた謎の女が勝手に満足して退いたともいう。
事実彼女はピンピンして兄妹を狙う攻撃兵器と戦っている、まあそれ程凶暴な彼女を満足させた時点で凄いが。

「自分の敵を退けた薄幸黒髪少女は近くにいた妹ちゃんに人形と合流、三人は先に行かせた兄妹と不幸な少年を追います。
すると……兄妹の様子が変でした、前以て組織の裏切り者が仕掛けた魔術書の暴走です」
「……その辺シスターズは知らないわよ、ぼやかしておきな」
「はーい、了解です」

涙子は忠告を受けて確かにそうだと納得する、この辺は暗示を掛けられたとかに成るだろう。

「三人は不幸な少年、それに様子を見に来た氷の羽の少女と合流……協力して止めようとします。
ですが……兄の方は抵抗したものの妹は耐えられず暴れだし、更にこの戦いに興奮した某姉妹も乱入してきます」
「あー、そうでしたね……『月』の兎だったか、夜族に関わりの深い魔力に当てられたんですよね」
「……この姉妹は弱点の水で攻撃できる薄幸黒髪少女が向かいます、まあ実際は効かなかったんですが」
「ああうん、貴女は薄幸名乗っていい、十分資格が有ったわ」

小悪魔が当時を思い出し涙子に同情する、彼女も思い出したかドンヨリしながら語っていった。

「薄幸黒髪少女が必死に時間を稼ぐ間に……妹に不幸な少年、氷の少女が暴走し暴れる兄妹を止めようとします」
「シャ……」
「……この騒ぎを聞きつけ飛んできた白いシスターと賢者にその使い魔達の助言で一時は無力化し掛けた……その直前でした。
実は裏で組んでいた、兄妹の居た組織と道教が乱入してきたのです」
「シャッ!?」
「……私、この段階のかなり前から居たのに一緒くたなのね、ていうかあいつら組んでたって言うの?」
「いや小悪魔が目立つのはこの後だから……某組織と道教に関しては尻尾出したの最後の方だし」

組織、アステカ側を組んでた筈の道教側が裏で盛大に裏切っていたのは何とも説明し難い。
というか後で聞けばチルノとインデックスが来たのだって道教、というか『参謀格の女性』の仕業なのだから呆れるしか無い。
この時で捨て駒にこそすれど本当に組む気は無かったのだとわかる。

「暴走する兄妹、興奮のままに暴れまわる某姉妹……しかしこの危機を氷の羽の少女と薄幸黒髪少女は利用したのです」
「シャッ!」
「氷の羽の少女の広範囲弾幕が敵達を怯ませ……そこで薄幸黒髪少女が素早く某姉妹を誘導、乱入組の二組織連合軍を迎撃します。
これにより二大組織は壊滅、某姉妹も賢者と使い魔、黒髪少女の友人の山育ちの技術者……それに超能力者の手で沈黙したのです。
……そしてこれと間を置かず、兄妹を暴走させた原因を妹と不幸な少年達が止めました」
「シャアアッ」
「……まあこの時道教の連中に逃げられたのは一生の不覚だったけどね」
「それは貴女の問題でしょう、本番で言っちゃ駄目ですよ」
「うん、わかってる……」

涙子が最後ちょっと暗い空気を纏う。
この時アステカの援軍に来た道教の亡霊と僵屍には逃げられたからだ。
とはいえこの語りはシスターズの為の物、確かに自分の問題であるこれは言えないなと小悪魔の突っ込みは頷くしかなかった。
自分の不満を飲み干して涙子は最後のオチを口にする、どこかやる気なさげに言った。

「……オチ、妹ちゃんが兄の方に気に入られ、ストーカー二号が出来ました」
「何で最後投げやりなのよ?」
「察せ、ミサカちゃん人間関係に関しては不憫なんだよ」

涙子は一号こと小悪魔に呆れを込めた視線を送った。

「ブーブー、どういう意味よー」
「自分の胸に……あら?」

PRR

不満気な小悪魔をあしらっていた涙子の携帯が鳴った。
電源を入れ話を聞く、するとゲンナリ具合が悪化した。

「……はい、佐天です……は、はあ?……わかった、彼女に連絡するね」

頭を抱えながら涙子は小悪魔に寄り道することを告げる。

「少し寄り道するよ、あっちに連れてく子がいる」
「は?」
「……経費削減の原因の一端は私だろうし、流石に無視は出来ないわ」

アステカの残党を力の余っている一方通行と共に襲撃したのは他ならぬ彼女だった。



泥棒した黒い肌の少女を確保して凡そ十分後、涙子と小悪魔が二人組の男女を連れてきた。

「おいっす、ショチトル連れてきたよー」
「あ、涙子だ」
「ああ案内してくれたのですか」
「はーい、チルノちゃんにミサカちゃん、お久しぶり……お弁当持ってきたから休憩時間に食べちゃって」
『ありがとう!』

涙子はお弁当を渡した後ショチトルと泥棒の少女を引き合わせる。
ショチトルは友人、トチトリを見て驚き、何でこんなことに成ったと困惑する。

「……トチトリ、何でこんなことをしたんだ」
「だ、だって上が前の事件以来渋るんだもん」
「こら泣くな、はあ情けない……」

ショチトルは事情を聞いて呆れ、友人の頭を下げさせながら共に黒子に謝った。

「友人が済まなかった、商品は返すし迷惑料も払うから」
「ならばそれで手打ちに、そういう態度なら問題にしません」
「すまん、以後こんな事の無いようにする……行くぞ、トチトリ」
「うん、ごめんね、ショチトル」
「……上にもっと経費出すよう言っておくよ」
「そっちは金とか大丈夫なのか?」
「問題ない、暴走した連中を送り返した時に懐漁ったから」
「戦犯とはいえ素寒貧にされたのか……」

トチトリと違い余裕の有りそうな理由を聞けば、仲間からの分捕品と判明。
これには聞いていた方も苦笑してしまう。
二度の裏切りに彼女も大分頭に来たらしい。

「さて戻るか、涙子案内ありがとうな……エツァリ帰るぞ」
「……そのエツァリさんはミサカちゃんの手を握ってるけどね」

ふと見るとお約束な光景が有った、ミサカの片手を取った海原が居た、当然それに怒った小悪魔が睨んでいたが。

「ああこんなところで会えるとは……」
「……相変わらずですね、海原」
「風紀委員の腕章お似合いです、凛々しく見える!」
「あ、ありがとう?」

困惑するミサカを見かねて小悪魔が割り込む、書物による打撃が海原の後頭部を打った。

ドゴオォ

打たれた場所を押さえる海原を良い気味だと思いながら小悪魔がミサカを庇う。
それだけなら良いのだが然りげ無く手を握っていた。

「ぐわあ!?」
「……こらあミサカちゃんに気安く触れるな」
「小悪魔、そう言いつつ然りげ無くミサカの手を握らない」
「ちぇ、ドサクサ失敗か……」
「ああずるい、ならば僕は逆の手を!」
「ええい、二人共離れなさい、暑苦しい!?」
『そんな殺生な!?』

言い合う二人にミサカが苦言を呈し、それにミサカ大好きな二人はガーンと凍りついた。
彼女を見かねて、チルノと涙子が冷気を放ちながら周りに問いかけた。

「あー……やっちゃって良い?」
「とりあえず頭を冷やさせよう」
『どうぞ』

返ってきたのは快い返答、これには海原の妹分であるショチトルの言葉も混じっている。
チルノと涙子はニッコリ笑って追い掛け共の鎮圧に向かう。
チルノは氷の翼を大きく広げ、涙子は息を吸い込みそれに妖力を込める。

「それじゃ行くよ、涙子」
「うん、お言葉に甘えて、すう……」
『頭を冷やせっ!』

その瞬三月程早い大寒波が小悪魔と海原を襲った。

ビュオオオッ

「きゃんっ!?」
「ぐわあっ!?」

大寒波にゴロゴロに転がった二人を涙子とショチトルが確保する。
涙子は小悪魔を、ショチトルは兄貴分である海原をズルズルと引きずっていった。

「ふう、私は支部に小悪魔送ってくね」
「では私はエツァリを……では行こうか、トチトリ」
「う、うん」
「……ああそうだ、今日遊びにきなよ、ご馳走用意しとく」
「トチトリと共に行く、楽しみにしておこう」

二人はひらひら手を振って別れ、残されたミサカとそれを慰める一同は疲れた表情で見送ったのだった。

「ミサカ、何かああいうのばっかに縁有るなあ」
「言わないで、ミサカ泣きたい……本当に何でこんなことに」
「ごめん……」

ミサカは何故かあの手の人種に纏わり付かれることにガックリと肩を落とした。

「突っ込みが欲しいな」
「あくせらさん、突っ込み手当でも出せば?」
「……姫海棠、そしたら鬼巫女暴走で終わりだ、あいつの傍若無人さを甘く見るな」
「うん、ごめん、ありありと浮かんだ……」



「あ、今馬鹿にされた気がする!」
「わっ、行き成りどうしたの、巫女のお姉ちゃん?」
「……何かピーンと来ただけ、気にしないで、打ち止め」

外での占いやお守り販売が終わり今は休んでいた霊夢が何かを感じて叫んだ。
隣で同じように休んでいた打ち止めが驚き、慌てて何でもないと誤魔化す。

「……陰口でもされたんですかね、霊夢さんに言いたいこと有りそうな人は沢山居るでしょうし」
「うっさいわよ、文」
「おっと……」

下から、羽を枕にしていた文にからかうような言葉が掛けられ、霊夢は札を見せびらかし黙らせる。
その後うーんと唸った後彼女は勘で当たりを付けた。

「うーん、さっきのは……鈴科君ね、後で問い質さなきゃ」
「酷い勘だなあ、陰口も言えないか」
「……後で一方通行のお見舞いに行こうかな」

霊夢の言葉に、文達は彼女の勘(異変程に効かないがそれでも常人以上)に恐怖し、待ち伏せされる一方通行に同情するのだった。



悲喜こもごもの四終了、アステカ関係者(&同類の小悪魔)の話です。
そろそろこの話も終わりが見えてきました。
・・・次回は幻想郷側の話を少し書くかも、軽く流すだけかもしれませんが。

以下コメント返信

九尾様
あの話は何というか・・・留守番の面子から普通で穏便な展開が速攻で消え、もう開き直って狂信者さんをオチにすることで強引に話を収束しました。
中心だった天使とお嬢に聖に黒夜、周りを固める幽香早苗妖夢こいし、そこに交じる学園都市ゲスト・・・面子の時点で無理ゲー、今思うとあれしか無かったです。
佐天さんは知り合いに修験者やっててあの胸無いだろうと突っ込まれ・・・辻褄考えてたら何か筆が乗っちゃって。

いいい様
多分鹿猪に魚系の妖怪は一時期減ったと思われます・・・でも旨くなかったんじゃないかな、大半毒ありそう(妖怪化はこれかも)
柑橘類と合わせると旨いらしいです、でも日本酒が合うかは不明・・・まあ鬼の酒だからの絶賛ということで。

うっちー様
紅魔館の出番が多いのはまあ一部一話から出てますからね、でも後で出たお嬢様が目立つのは流石・・・小悪魔はもう特別枠です。



[41025] 第一話 学園都市悲喜こもごも・五
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/03/30 16:03
初日、10032番めの妹は学園都市の人間へ声掛けをした、そういった触れ合いは外に出ない姉妹達にとって新鮮なものだった。
二日目は間接的にだが姉である御坂美琴の研究発表を手伝った、その後の打ち上げを含め姉妹達は興奮しっぱなしだ。
三日目、妹が買い物途中の某トラウマの姉と会った、姉妹まで青くなったが友人と遊ぶ姿は何となく羨ましく思えた。
四日目、食い逃げを捕まえた、やっと風紀委員らしい仕事に姉妹はハラハラしながら見ていた。

そして五日目、ある姉妹が言い出した。
自分達も外に行って、研究所の外を世界に直に触れてみたいと。



「皆さん、風紀委員体験五日めですの……今日は学生への声掛けですの!」

白井黒子が高らかに宣言する。
その内容は初日に似ていて、だけど少し違うものだった。
彼女はミサカに、上条に、チルノに内容を告げる。

「そろそろ週末、学校が始まって一旦引き締められた緊張が途切れる頃……再度声掛けで気合を入れ治すですの!」
『はーい!』

号令の後一同は四方に散って声掛けを始めていく。

「あれ……」
「……あ、かみじょーも気づいた?」
「ああ、何か変なような……」

が、初めて少しして上条とチルノは首を傾げた。

「み、皆さん、夕方になる前の下校をお、お願いします!」

どうもミサカの様子がおかしい。
緊張でガチガチで、まるで初日のように、いやそれよりも顕著だ。

「どうしたんだ、別に初めての仕事ってわけじゃ……」
「うーん、何だろう?」

それに遅れて、別のことに気づく。

「あ、そういや一方通行も居ないな、何時もなら面倒臭げにしてるのに……」

よく考えたら今日は三人だけだった。

「……かみじょう、あのミサカやっぱりどこか変じゃない?」
「それはわかって……ああっ!」

暫く声掛けをしながら、見ていた上条とチルノは気づいた。

『……ミサカ以外のシスターズ!』

明らかに緊張している彼女はまだ機械的な動作の抜けていない、成長段階のシスターズであることを。

「おお、よく気が付きましたね、お二人共」
「あ、ミサカ、こっちは本物の……」

その後ろから研究者に借りたのかジャージ姿のミサカが現れる。
答えの代わりに、彼女は今ミサカの居た場所で風紀委員をやっているシスターズの紹介をする。

「彼女は9982号……学園都市残留組で近い数字の姉妹です」

次に彼女は別の方を指す、するといつの間にかもう一人のシスターズが混じって声掛けをしていた。

「……であっちが19090号、研究者の布束女史に懐いている子ですね」
「えーとどういうことなの?」

当然と言えるチルノの問いにミサカはニコと笑う。
彼女は姉妹の成長を喜びながら答えた。

「このミサカのように、外に出たくなったんですって」
「ああ成程!」
「だから目立たないようジャージ着て離れたところにいるのか」
「はい、白井さんには話してあります、まあシスターズのことは言わずに『外に慣れていない』姉妹を馴染ませたいと」
(……風紀委員だし気づいてると思うけどなあ、まあ御坂の後輩だしその辺気を使ってくれるのかな)

何となく察した上条だがそれは言わなかった、黒子が態々気を使ってくれたのだし。

「ふふ、これから少しずつシスターズは変わっていきますよ」
「……良かったな、ミサカ」
「これからが楽しみだね、ミサカ」
「はい!」

ミサカが満面の笑みで頷いた。
その視線の先ではぎこちないながらも彼女の姉と妹が学園都市の人間と少しずつ触れ合っている。
彼女が、いや上条やチルノ、美琴や一方通行や霊夢が望んだ光景が広がっていた。

「風紀委員です……み、皆さん、そろそろ下校を……」
「あ、危ないですから暗くなる前に寮へお帰りを!」
「……ああ本当に良かったです」

ミサカが目元を押える、その悲しみからではない涙はどこか輝いて見えた。



第一話 学園都市悲喜こもごも・五



一方で、風紀委員の支部では超能力者第一位が机に突っ伏していた。

「……だりィ」
「ええと、一方通行、風紀委員見習いに来たのでは?」
「ええ、だらけ過ぎではないかと……」
「悪ィな、次女に三女……ちょっと研究者から苦情が来て、それで朝までやり合ってな」

資料整理中のシスターズ00002号と00003号に見咎められた一方通行が欠伸しながら答えた。
これに二人は済まなそうな表情に変わる。
というのも苦情の内容が今外に行ってるシスターズのことだと気づいたからだ。

「……あァ気にすンな、自我の成長が進めば今の計画が盤石に成る、俺にも得が有ることだからよ」
「で、でも……」

一方通行は気にしないように言うが二人は尚も言い募る。
が、それを止める者が居た、二人を宥め、また一方通行をからかうような言葉が掛けられる。

「ふふっ、そこのモヤシの好きにさせなさい、次女達……多分年上の見栄、格好付けるくらいはさせてあげましょう」
「うるせェぞ、ノーレッジ……」
「……おっと失礼」

夏休み最初の事件で戦い、それ以来一方通行を敵視する少女、パチュリー=ノーレッジだった。

「……つうか何で居ンだよ?」
「小悪魔が面白い物を見れるって教えてくれてね、確かに見れたわ……ツンデレ超能力者、ぷぷっ」
「小悪魔、手前ェ暫く出禁だからな!」

保護者特権でのシスターズとの関係断絶に、向こうの方で悲鳴が上がった。
ガックリと崩れ落ちる小悪魔から一方通行はパチュリーに視線を移す。
ネタにされてるようでどこかにやりたいが、その理由が思いつかない。

「……あっちで一緒に資料整理やったらどうだ?前から知識を欲しがってた白いシスターも居るし……」
「はぁ?馬鹿でしょ、非常識ね……あれは友人と楽しくイベントやってるのよ、そこに部外者が首突っ込んじゃ顰蹙買うじゃない!」
「うぐっ、馬鹿に、非常識だと……な、ならチルノってガキに付いて声掛けでもやったらどうだ、知り合いなンだろ?」
「ああ無い無い、あの子とはあんまり接点ないし……」

パチュリーは半ば馬鹿にしながら首を横に振る。
紅魔館と湖と活動場所は近いが接点は殆ど無い。
例えば、これが弾幕ごっこ好きの主やその妹、外の仕事で湖の面々と面識のある門番とかなら別だが。

「プークスクス、言い負かされてやんの、鈴科君」
「……姉貴、何でここに」
「勘が私に告げたのよ、面白いことに成ってると……ぶっちゃけ最近生意気な貴方をからかえると!」
「どうなってンだよ、その直感力!?」
「……今更だよー、あくせらー……幻想郷の住人なら諦めてるのだー」

ここに更に霊夢が乱入、パチュリーと同じように一方通行『で』遊びに来たらしい。
着いてきたルーミアは同情の視線を送り、だが我関せずと離れて見ていた。

「……ていうかさ、密かに大笑いしたかったでしょうに……シスターズが外に興味示して嬉しかったんじゃない、鈴科君?」
「それなのに何か何でもないって風に仏頂面……モヤシ、あんた一人だったらニヤニヤしてたんじゃないの?」
「う、うるせェ、黙りやがれ……ああそうだったよ、だが今はそンな気分じゃねェよ、お前らのせいでな!?」
『こりゃ失敬……ぷっ』

ゲラゲラ

自白した一方通行に霊夢とパチュリーにが爆笑した。
普段の傍若無人ぶりと、ツンデレ具合のギャップが堪らなかったらしい。
一方通行はブチ切れかけ、だが支部に迷惑かける訳にも行かず自制する。
だが、そうだとしても睨んでくる彼を前に笑える者等学園都市には滅多に居ないだろう。
その居ない筈の例外の二人がこれ以上無く彼を苛立たせた。

「あははは、鈴科君ってばツンデレ過ぎよ!
「いやもう兄か親目線だって、霊夢……このモヤシ、保護者っぷりが大分板着いてきてる気がするわ」

ゲラゲラゲラゲラ

二人は爆笑し続ける、凶悪な外見に反した一方通行のシスターズへの態度がツボにはまったらしい。

「……」

ブチッ

一方通行がギュッと手を握る、そこの空気中の水分が集められ二つの水滴と成った。
そして、一瞬でジュワッと煮立った。

「もう黙れ、姉貴にノーレッジ」

ポイッ

軽く放ったそれは未だ爆笑する二人の額へ飛んだ。

「え?」
「あ……」

バシャッ

『あっちゃああ!?』

笑うのに夢中だった霊夢とノーレッジは反応できず、諸に熱湯を受ける。
二人はその熱さに耐え切れずゴロゴロと転がった。

「……ふう、最初からこうすればよかった」

心底そう思った一方通行は更に携帯である人物を呼び出す。

ガタガタ

数秒程でその反応があった、窓が揺れた。

「どうも、射命丸です……霊夢さんのネタ映像のチャンスと聞いて飛んできました!」
「おう、良く来た、思う存分撮っとけ」
「いよっしゃー、巫女とついでに七曜の賢者の醜態ゲット!だっせー下着がちょっと見えてるのもグッド!」

パシャパシャパシャ

偶にネタ目当てにうろつく記者の一人、はたての相方である文が窓から飛び込むなりカメラのシャッターを切りまくる。
そして、怒涛の連写の後(凡そ数十秒)やっと満足したのか手を止め、ビッと一方通行へ親指を立てた。

「一方通行さん、あざっす!」
「……ところで今丁度そこの二人が復活したンだが」
「え?」
『文あぁ!?』
「ひいっ、殺気……そ、それじゃおさらばです!」
『待てやこら……ネガ寄越せ!』

冷や汗をダラダラ流した文が窓から飛び出し、それを怒りと羞恥で顔を真赤にした霊夢とパチュリーが追う。
疾風の速度で飛ぶ文を、それぞれ空間跳躍と風の加速で追う霊夢達、三つの影が瞬く間に遠ざかる。
残された一同、特にからかいから解放された一方通行は安堵の溜息を吐いた。

「あァもう何か疲れた……」
「それなら……フルーツのシロップ漬けはどうです、隠し味はお馴染み鬼の酒でーす!」
「ああ超電磁砲の後輩の……貰う、一個くれ」

ガックリと机に突っ伏す一方通行に、3日続けて支部に来た涙子が差し入れを渡す。
ガツガツと一方通行は先程の苦しみを忘れたいとばかりに平らげる。
隣でちゃっかりルーミアも頂いていたが、霊夢達に比べれば図々しさは可愛いものだった。

「あァやっと落ち着けた……にしても旨ェなこれ」
「やっぱ鬼の酒はすごいなー、私も酒虫欲しいー!」
「あはは、お褒めの言葉どうも、でもやれませんよ、貴重品ですから……ところで三人程かっ飛んでったんですけど何なんですか?」

ゆっくりと味わい彼が人心地ついたのを見計らってから涙子が問い掛けた。

「……まあ馬鹿の馬鹿騒ぎかねェ」
「本当に何時ものことじゃないですか、一方通行さんがそこに居ないのは珍しいけど」
「何時もってェのはまァそうだな、だが後半は余計だ、放っとけ……」

問題児筆頭は霊夢だが、次点は一方通行だろう。
それを自覚しているので彼はそっぽを向いてしまった。

「あはは、程々にしといた方がいいですよ、一方通行さん……ところで今日は何か有りました?」
「あン?」
「……あっちの次女ちゃん達が笑ってたり、心配してたりって感じです」
「妹の成長が嬉しいンだろ……くくっ、良いことだ」
『っ!?』

この言葉と同時にニッと一方通行は彼にしては珍しい表情を見せた。
彼は邪悪さのない笑みを浮かべ、涙子とルーミアはぎょっとした。

「……うーん」
「インデックスさん、どうしました?」
「ああ小悪魔、ええとねえ……」

そんな超能力者達を見て、00002号達と一緒に仕事をしていたインデックスが少し難しい表情に成った。
先程の一方通行の出禁の言葉に沈んでいた小悪魔がその理由を問い掛ける。
彼女は憂鬱そうげに答えた。

「あの人、シスターズの保護者でしょ……あんなに不器用そうな人で大丈夫かなって?」
「まあ対人関係だけだから、問題有るのは……」

フォローのようでそうでない言葉だった、尚対人関係の問題の一つが自分の主であることを棚上げしていた。
というかそもそもシスターズ絡みでよく問題を起こす小悪魔の言葉でもなかった。

「小悪魔の台詞じゃないね・・・えいっ」

ベチン

「痛い!?」
「貴女は反省ね」

とりあえずインデックスは真っ当な関係者代表として小突いておいた。

「うー、痛いです……」
「この人にその主といい、あっちの超能力者さんといい……こういうのが類友っていうのかなあ?」

インデックスは濃すぎる面子を思い大きく溜息を吐く。
よくもまあそういうのばかりが集まったと小首を傾げ、本気で呆れてしまった。
何というか厄の気配しかしなかった。

「……一度皆でお祓い行った方がいいかも」
「霊夢さんに言う?」
「厄払いの代わりに、別の厄介事になりそうだから良い……」

インデックスは恐怖した表情でブンブンと首を横に振った、どう考えても巫女への反応ではなかった。

「それなら……ああそういえば宗教組織が二つ増えましたよ、そこでお守りでも貰ってきましょうか?」
「あー、良いかも、本物なら私の知識でわかるし……」

彼女は知らなかった、新たに出来たという二つの宗教組織の片方が先日やらかした連中であることを。
学園都市、今のこの地は例え善意すら厄介事に繋がりかねない程の、恐るべき混沌さだった。



『クシュン……』

窓のないビル、その中枢で溶液の中で男がくしゃみをした。

「風邪か、アレイスター?」
『いや……何か嫌な予感がした、だが気のせいだろう、まあ気にするな土御門』

後日この男が脇腹を押さえて呻く姿が在った、神経性胃炎である。
超越者に(体の内部への)危機が迫っていた。




今回は場所を変え、支部側をメインで、後偶には一方通行弄りでも・・・
・・・ああ前半がメインではという言葉は禁句です。
ところで書いてから気づいたけどこの人結構女難ですね、あんまり狙ってなかったけど。
何というか癖のある人ばかりと有ってるなあ、上条さんの苦労を肩代わりしてるのか?

以下コメント返信

いいい様
ええ貧乏が悪い、またはテクパトルがやり過ぎた(やられ過ぎた)とも言う。
・・・その不憫さはルーミアに始まり、間にレミリアとパチュリー、最後に布都にやられると見事に幻想郷のせいなので合ってます。

九尾様
お腹鳴らし顔赤くしたり、涙目の少女は可愛い・・・は置いといて、キャラの立ってるショチトルに合わせ少し強引にキャラ立てを。
そして貧乏くじ引き気味な佐天さんですが、まあ再生持ち故だから無茶しすぎるんだと思います。
後美琴を主人公から先輩的立場に変えたから危なっかしく見えるのかも、あっちが安定してるから比較すると・・・

うっちー様
いやその辺大丈夫でしょう、上条さんにチルノにインデックス、美琴が居るし・・・ストーカーsと某姉弟は期待しちゃ駄目ですね。



[41025] 第一話 学園都市悲喜こもごも・六(終)&六の裏
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/04/11 20:13
七星剣を携えた金髪の少女、豊聡耳神子がギロリと部下を睨んだ。

「……さて布都、申し開きは?」

部下である道服を着た白髪の少女、物部布都は地上からの、三メートル程下からの言葉に顔を青くする。
彼女は磐舟の帆に括りつけられていた。

「色々有りますが……とりあえず下ろして欲しいです、太子様」
「却下します」

どうやら本気で怒っている、先日の罰のようだ、慄いた布都は屠自古を見たが彼女は諦めの表情で首を横に振った。

「おう、詰みということか……」
「ええ、詰みです、さて……先日の事件から数日程ですが、私は貴女への追求をしませんでしたね。
……言っておきますが見逃した訳じゃない、今の幻想郷に馴染むまで参謀である貴女を『潰す』のを伸ばしただけです」
「……潰すとはその、物騒ではないかと」
「ふむ、では言い変えましょう……今から『叩き潰す』ので覚悟してください」
「ぎゃあっ、悪化した!?」

事件後各地への挨拶回りに人里への道教進出の準備等、それが終るまで神子はずっと怒りを押さえてきた。
残念ながらそういうのが一番出来るのは堅物の神子や思い込み易い屠自古では無く、最も機転が利く布都だ。
が、それは終わった、だからもう喜び勇んで部下の更生と励んでいた。

「さてとりあえずは……何故学園都市で悪行を働いたか、その説明から」
「は、はい、わかりました、太子様……」

恐る恐るといった感じで説明が始まった。

「我は太子様より幾らか早く目覚め……屠自古、それに青娥殿とこの後どうするかを話し合いました」
「ふむふむ、それで?」
「……ええと、お目覚めの前に外で一勢力を築いておいて太子様をお迎えする、自分の主張はこうです。
『巨大な船』だか『基督教の集団』だかを巡る異変で幻想郷がゴタゴタしていて、管理側の手が埋まってる間に外へ行きました」
「ほう、殊勝なことです、尤も……悪行と繋がりませんが?」
「それはその、学園都市で色々ありまして、生きのいい若者と会って引込みが付かなくなったというか……」

ここで言い難そうにする布都に神子の拳に僅かに力が入った。
慌てて屠自古が助け舟を出す。

「た、太子様、其奴の暴走は確かに問題です、ですが青娥殿にもそれは言えます。
……彼女は僵屍の素体である死体目当てで事件を欲していました、物部が動かなくても彼女が暴走したかと」
「青娥もですか?」
「はい、実際アステカと組んだのは彼女が大きかったのは事実です」
「……神霊、青娥を連れて来なさい」

彼女の言葉で霊廟の住人が飛んでいった。
これで多少怒りの矛先が分散したらしい、神子は多少落ち着いた様子で布都に問い掛ける。

「布都、さっき貴女は学園都市で色々あったと言っていましたが……それから聞きましょうか」
「は、はい!」

怒りが収まった神子に安堵した様子で布都が話し始めた。

「まず道教を広めることから始めました、学園都市は宗教的に見れば空白地帯……物好きを釣れば口コミでそれなりに集まるかと」
「何ともまあ身も蓋も無いことを……」
「最初に数を揃えるのが重要だと思ったのです、修行なり受けさせればわかる者は自ずと本気になってくれるでしょうし。
……その為のチラシ配りの時に巫女に見咎められました、どうやら辻占い中で宗教家が近けば独占状態が薄れるからと」

ここで布都は真っ青な顔になった、ガタガタと震え始める。

「因縁を付けられ……本気で死を覚悟しました、そりゃ兄者が神社燃やすなと思う程に」
「あれは唯の坊主嫌いでは?彼の一生を纏めれば三行に一回は坊主追い回してたでしょうし……ごほん、続きを」
「……巫女に脅されていた我がもう駄目だと思った時でした、助け舟を出してくれた者達が居たのです。
上条にチルノに佐天、それに西洋の妖怪であるレミリアです……レミリアを案内中のようでした」
「レミリア……確か紅魔館とやらの主でしたね、今あそこにいるのはメイドと門番だけのようですが」
「黒夜という友人を尋ね、そこで厄介に成ると言ってました、案内はその為……我は学園都市を回る一行に強引に着いてったのです」
「……学園都市を知る為にですか?」

この言葉にコクリと布都は頷いた、彼女は更に話を続ける。

「最初は興味本位でしたが……民の宗教意識の薄さ、学園都市側の規制の強さを情報ではなく実感し、強引な手段を検討しました」
「……貴女は何を考えたのです?」

次の布都の言葉に神子は頭が痛くなった。

「ああ燃やすかと……」
「それは物部の悪癖です……本気で?」
「ええ、とはいえ全てを焼き払う気は無く……街の一画程焼き我が力を知らしめ、学園都市を牽制と共に反学園都市を引きこもうと。
勿論避難させる時間は取るつもりでしたし、暗部等以外とも戦うつもりもありませんでしたが」
「……駆け引き、道教を広めるのを邪魔すれば同じことをする、そういう形での脅迫ですか」
「はい、儀式の方も学園都市に行く前に神宮から宝剣を借りて行ったので可能ですし……唯邪魔が入りました、佐天と上条です」

ここで彼女は少し悔しそうに、それでいて嬉しげな表情に成った。

「二人共中々に厄介で、特に上条は生きが良かったです……二人によって我は敗北しました、そりゃもう見事に」
「ほう、やりますね」
「幸いというか磐舟のおかげでぎりぎり逃げられましたが……その時は気づいていなかったのですが宝剣をスられていました」
「まあ……」
「佐天の仕業です、戦闘自体は奇襲で我が降したのですが……その時に盗まれたようです、見事に一矢報いられました。
……敗北と宝剣の喪失で大規模の術の行使は不可能となり、我の最初の予定は頓挫したのです」

ニコニコと敗北の記憶なのに布都は楽しそうにしている。
彼女はここで一旦言葉を止め、眼下の屠自古を見やる。
コクと頷き話の続きを、次の出来事を話した。

「太子様、ここからは私が……」
「屠自古?」
「大規模な術が使えねば学園都市攻撃は不可能、そう考えた布都と私達は当時学園都市に来ていたアステカの呪術師と組みました。
……次の戦いは彼らに協力し、仲違いして逃げたアステカの穏健派を探したところから始まります」

布都と違って複雑そうな表情で屠自古は話し始めた。

「……結論から言えば、得ること無き大敗でした」
「あらまあ……」
「その、折り悪く穏健派を探している時に佐天と、宝剣を奪った女に会い……私はアステカを無視して彼女と戦ったのです」
「まあ、貴女らしいというか」
「あれは私にとっても家宝です、それで……彼女に掛り切りに成ってる間に見事本来の目標の穏健派の逃亡を許してしまいました。
……しかも芳香の応援で有利に戦えこそ出来たものの、アシである船への集中攻撃と更に芳香も負傷して、これらに気を取られ……」
「佐天という娘にも逃げられた?」
「はい……この報告がアステカ陣営を焦らせてしまったのだと思います」

段々と彼女は不機嫌になっていく、負け戦を話すのが嫌なのだろう。
しかも、当時はアステカのフォローで大変だったし。

「……奴等が穏健派に仕掛けた魔導書の罠、またその魔力に当てられたレミリアとその妹の暴走、一時は有利だと思ったのですが」
「違ったの?」
「はい、佐天が暴走する吸血鬼を誘導して私と芳香、それに総攻撃に向かっていたアステカ陣営へぶつけたのです。
これによりアステカ陣営は全滅、私達も佐天に壊された船を必死に操って撤退しました……」
「それは……大変でしたね」
「ええ、本当に……遠目ですが援軍の魔女と超能力者が姉妹の制圧を確認、また佐天のお陰で上条等は魔導書に戦力集中出来ました」
「見事にアステカの罠は破られてしまったと……」

コクンと怒った表情で屠自古は頷いた、その後布都を見て睨む。

「そいつ、ここでも余計なことをしています……態々チルノに会いに行って、仲間の危機を教えたんです」
「そうなの、布都?」
「はっ、そのとおりです、太子様……ですがあれは好戦的なアステカ陣営に一度痛い目に遭って貰い、慎重に行動させる為の策です」
「ああ確かに奴等は痛い目見たな、無人兵器の全滅という……」
「ううっ、それはその……」
「ついでに……援軍だけで力の余ってた超能力者、それと吸血鬼姉妹との戦闘で鬱憤貯まってた佐天がアステカ残党を攻撃したがな。
……これでこの時学園都市に来ていたアステカ陣営はほぼ全滅しました」

痛い目どころかこれによりアステカ陣営は一度目の全滅を迎えた。
こいつが余計なことをしたせいで、そう言いたげに屠自古はジロリと布都を睨む。
彼女は焦った様子で、最後の出来事に話題を移した。

「あ、ええと……さ、最後の事件についてお話しましょう、太子様」
「……まあ色々突っ込みどころが有るけど、どうぞ」
「あれはあちらの日時で8月31日、上条や白い超能力者が研究者と其奴の連れの小娘と一騒動起こした後のことです!」

布都は勢いで誤魔化そうと強引に話を進める、彼女の口から最後の事件が明かされていく。

「アステカ陣営は若き野心家を派遣、学園都市に敵意を持ってるので我らにとっても組み易い相手です!」
「捨て駒でしょうに……で、その後は?」
「はっ、その後……何故か赤いリボンの小妖怪、ルーミアに制圧されて顎で使われてましたす、こう恐怖政治というか」
「はあ?」
「何でも妖怪の主食である恐怖を数日前に鱈腹食ったとかで半ば野生化していて、悪意だらけの野心家をご馳走だと思ったとのこと。
野心家等は代りの食い物で捕食を免れ、しかしそれで気に入った彼女の支配下に……こんな形で彼女と奇妙な共闘をしたのです」
「……本当に奇妙というしかありませんね」

流石に神子もこれは予想外だったらしい。
首を傾げる彼女に布都は更に意外なことを言っていく、というか余りに意味不明なことばかりだった。

「……ですが我らとアステカ陣営、それにルーミアの戦いは芳しく有りません」
「ほうほう?」
「まずアステカ陣営は学園都市の牽制に重要人物の元に人をやり……偶々街に出ていた超能力者と魔女に見つかりました。
こいつら見張ってた呪術師を潰したら、それで止まらず他の呪術師まで探して倒し出したのです」
「ああ見事に裏目に出てますね」
「しかもアステカは監視誘拐と平行し切り札を強化しようと合金を集めに行って……吸血鬼の姉と黒尽くめの少女に見つかりました」
「当然その二人も仕掛けるか……踏んだり蹴ったりですね」
「更に更に、彼らを救おうと踏み込む者に不運を齎す罠を我が教えれば……彼らも引掛る始末、これには慌てて野心家自ら出陣です」
「……踏んだり蹴ったりなんてもんじゃありませんね」

何もかもがアステカ陣営の敵だった。
恐らくはギリギリまで暗躍したかった幹部直々の参戦、不運(人災含む)が重なった末の大混乱だ。

「これは仕方ないと、我らも援軍を送ってやったのです……屠自古?」
「ああ、わかってる……ここからは私が説明します、太子様」

ここで屠自古にバトンタッチ、彼女は苦しい戦場を思い起こした。

「ルーミアを共に出撃した私が見たのは……超能力者、魔女に吸血鬼に黒い少女、更に例の少年に圧倒される呪術師でした」
「おやまあ……例の少年、上条だったか?」
「はい、超能力者が応援に呼んだのでしょう、それでも私とルーミアは必死に援護したのですが……」
「援護したけど?」
「焦ったアステカ側の幹部、野心家の青年が焦りから無茶な攻撃をして、連携は無茶苦茶に……でその、私切れちゃいまして。
彼を生贄に、その生命力で妖怪であるルーミアを強化、更に封印と思しきリボンを剥いで、超能力者達にけしかました……」
「……あー、貴女から切っちゃったと」

コクコクと屠自古は恥ずかしそうに頷いた。

「……まあそこまでしても超能力者や上条達に勝てなかったんだがのう」
「う、うるさい、佐天やその先輩とやらが来なければまだ粘れたさ!」

横から突っ込む布都を睨み黙らせると、屠自古は少しだけ言い訳がましく説明した。

「一応完全体と成ったルーミアを中心に頑張ったんですよ……でもそこに相手の援軍が来まして」
「ほう、それが佐天とやらにその先輩ですか?」
「はい、しかも前回の穏健派二名もあちらに、まあ元々過激派である野心家と敵対していて……兄の方に野心家が殴り倒されました」
「……いやはや野心家の男、狙われ過ぎでしょう」
「……本当に彼が酷いのはこの後です、まあそれは後で話すとして……まずアシに使っていた磐舟は佐天とその先輩に壊されました。
私自身も佐天一人の対応で精一杯です……一応ルーミアは頑張ったのですが……戦力差は如何ともしがたく最終的に倒されました」

そこまで言ったところで屠自古は訝しげな表情に成った、その戦いでの一方通行に疑問があったのだ。

「最後は超能力者との大技の打ち合いでしたが……恐らく『何らかの干渉』で互角だった所を捩じ伏せられました。
あれは確実に外からの援護だったと思います、何というかあそこにいた者以外による勝利というか……」

少なくとも互角だった戦いの天秤を一方通行側に傾けた何かが有ったと、屠自古は思っていた。
言うならば裏表のない善意から成る『何か』、その何かが『実験用風車』を動かし一方通行を後押ししたのだ。

「これ以上は私にはわかりませんが……唯確かなのは中心戦力だったルーミアが敗北したということです」
「その後は?」
「続けても勝てると思わず……一族の者、雷に縁有る二人を呼び出し、更に物部に長距離から援護させ退路を切り開きました。
……唯何とか逃げたところで、アステカの呪術師、ボロボロでもう動けない思われた野心家の男が思わぬ行動に出たのです」

屠自古は苦々しげな表情で戦いの直後の出来事、あの逆転劇について話した。

「アステカの術は人体改造が主流でした……それを利用し僵屍、つまり芳香を操って青娥殿を、更に布都を僵屍に変えたのです」
「何と!?」
「……我は意識こそありましたが操り人形にされました、不覚でした」

ここで再び屠自古から布都にバトンタッチ、当事者の口から説明が成された。

「野心家幹部は僵屍に変えた操り人形、つまり我と青娥殿、それに芳香と共に追ってきた二人組を迎え撃ったのです」
「二人とは?」
「佐天とその先輩だという少女です、丁度切り札である巨大攻撃兵器『太陽の蛇』を合金で強化したところでした。
蛇は特に帯電性、佐天達の主力の電撃に耐性を付加してあった……強力な異能者二人を僵屍にし戦力不足を補おうとしたのでしょう」
「ふむ、諦めの悪い……」
「ですがそこに巫女とチルノが現れたのです、どうやら先日の一件依頼アステカや我等に止めを刺す機会を伺っていたようで……」

流石の布都もゲンナリした表情だった。

「しかも仲間連れ……白黒の魔法使いに吸血鬼の妹河童と共に仕掛けてきたのです。
……白黒等により耐熱性はそこまでで無かった蛇は轟沈、操られた我等と野心家は巫女の鬼のような戦いぶりで叩きのめされました」
「巫女なのに、鬼のような戦いって……言いすぎでは?」
「いえ、あれは鬼です、見てないからそう言えるのです!」

疑ってる様子の神子に布都は言い返す、というか怒涛の勢位で捲し立てた。

「あの女は可笑しい、曲がりなりにもアステカ幹部だった男を手負いとはいえ一蹴ですよ!
幸い我等は戦い後のドサクサで自由に成りましたが……その時放った全力の術もしっかり防ぎ切られたし!」
「は、はあ……」
「……というか後で聞けば超能力者も弟分だというではないですか、そりゃ屠自古やルーミアを圧倒するってもんです!
しかもです、我が転がってた野心家に降霊術で、兄者降ろしてけしかければ……超能力者は黒い羽で薙ぎ払いやがったんです!」
「お、落ち着いて布都!?」
「いえ無理です、それに弟分だけでない、知り合いも厄介なのばかり……合流した吸血鬼姉妹には切り札の一つを潰されて!」
「へ、へえ、そんなことが……」
「一発逆転に、蛇を合金使って鋳直して青娥殿達を護衛に着けて……特効の銀器付きなのに、尼僧に合流されて陣形は滅茶苦茶で!」
「……ああ、聖殿か、ご近所の人だな」
「友情ぱわー抜かしてましたがそれで計画ボロボロ……しかもこれまた友人の貰い物という『青い羽』の新技で青娥殿は敗北したし」
「ああそうか、青娥もか……」
「しかも弟分の方とも知り合いだった『先輩とその姉妹』の援護射撃で磐舟は一向に進まないし……」
「……それは災難だったな」
「何か後から来た『花の弾幕を使う茶髪の女』の弾幕で磐舟に大ダメージ……その間に先輩とやらが上条等と合流して総攻撃まで……さっき言った通り兄者は超能力者に……我も先輩及び生き人形の援護射撃で追い詰められ、上条とチルノに落とされた始末です」
「…………説明ご苦労、布都」

ハアハアと一気に捲し立てた布都は荒く息を吐いた。
だけど、少しだけ嬉しそうに呟く。

「まあ上条に超能力者達……ああいった生きのいい若人と会えたのは良かったですが、ああいったのが居ればこの国もまだまだ……」
「……布都、満足しましたか」
「はい、納得出来ました、今のあの国に……」

敗北しても、いや敗北こそが途中から布都の目的に成っていたかもしれない。
かつて日本を統治したものとしてまだ日本は捨てたものではないと、若人達に会ってそう思えた。

「でも……それはそれとして罰を受けてもらいましょう」
「……ですよねー」
「ああ青娥も来たようです、貴女も罰を受けてもらいますよ」
「え、ちょ、私行き成り神霊に連れてこられたんですけど……どういうことです!?」
「問答無用……詔承けては必ず鎮め」
『ぎゃんっ!?』

神子が光を纏った七星剣で二人を吹き飛ばした。

「……そして布都、謝りに行きましょう、特に巻き込んだ上条殿とやらに」
「は、はひ、おっしゃるとおり、に……」

そして黒焦げの布都を引き摺ってマヨヒガに、そこに居る妖怪の賢者こと八雲紫の元に向かった。
生真面目な貴族と奔放な策士による謝罪行脚が始まった。



第一話 学園都市悲喜こもごも・六



支部で奇妙な光景があった、ミサカと彼女と同じ顔をした人物が話している。
しかも今日は前よりも人数が多かった。

「前回参加した19090号に、こっちは10777号と13577号です」
「み、ミサカ達にもお仕事手伝わさせて下さい!」
「ミサカ19090号達が羨ましくなって……」
『勿論!』

ペコリと頭を下げる二人にチルノと上条とインデックスは快く受け入れた。
今まで大人しかったシスターズが外に興味を示した、友人として三人はそれを大いに喜んだ。
彼らは和気藹々と、皆で協力して風紀委員の活動をしていった。

「……一方通行さん、この数はフォローが難しいですの、せめて三つ子までに」
「すまン、前行った連中が羨ましかったみてェでな……従兄弟とか再従姉妹ってことで」
「く、苦しいけど……それならギリギリ納得でしょうか?」

但し一部で悩まされた者が居たにはいたが。
とはいえ、彼らもミサカを疎ましく思っている訳ではない。

「……いい絵だね、永久保存物の」

恐らく撮影担当のはたてと皆同じ感想だろう。
こうして、今日の風紀委員活動も皆満足して終わった。

「いやあおかげでシスターズの雰囲気がいい……ミサカ感動です、皆さんもありがとう」
「そんなの良いって、あたいは隙にやってるんだし」
「そうだよ、ミサカお姉さん!」
「チルノ、インデックス、本当に貴女達は……やはり言わせて下さい、ありがとう!」
『ミサカ達からもありがとう』

10032号を先頭にシスターズが一斉に頭を下げた。
これにはチルノ達は苦笑し、だけど悪くはない気分だったので満面の笑みで返す。

「もうしかたないな、それじゃあこっちも」
「うん、お姉さんがそう言うなら……」
『どういたしまして!』

彼女達はニッコリ笑い合った。

「……姫海棠の言葉じゃねェが悪くない光景だな」
「ああ全くだ……ところで俺達に会いに来た客人から目を背けるのは止めような、一方通行」
「だってなァ……」

一方通行は呻く、意外過ぎる客が来たからだ。
現実逃避していた彼は上条に言われて、やっと客の方を向いた。
内心向こうを羨ましく思いながら、布都とその主に話しかける。

「……でええと豊聡耳だったか、俺等に話だって?」
「態々布都ちゃんとどうしたんですか?」

この二人の言葉に、バッと神子は行き成り頭を下げた。
当然隣の布都の頭も。

「な、何だ?」
「うちの天然が申し訳ない……この度は先日の件の謝罪に来たのです」
「そ、そうか」
「態々ご丁寧にどうも」
「た、太子様、自分でやりますから……」

頭を掴まれ強引に下げされられた布都はジタバタ藻掻く。

「太子様、その、手を離して……」
「黙らっしゃい、布都!」
「は、はひ!?」

が、ギロリと神子の言葉に抵抗を止めて口を噤んだ。

「……さて今日は貴方方に謝罪と、お詫びに来たのです」
「は、はあ……」
「ご希望が有ればおっしゃって下さい、私達で用意できる物なら必ず手配しましょう」
「……急に言われても困るというか」
「希望ねェ、そンなこと言われても別段不自由してないンだが」

生真面目に謝罪する神子に上条と一方通行は戸惑う。
詫びと言われても、直ぐに欲しい物は浮かばないし。

「む、むう、ですが……かつて官位を抱いたものとしては部下の不始末をそのままにはして置けぬのです」
「太子様、ご尤もですがそれなら我の方で何か用意して……」
「黙らっしゃい、こういう時にやらかすのが貴女でしょうが!」
「はっ、申し訳ありません!」

布都が生真面目さから熱くなる神子を止めようとしたが、一喝され黙り込む。
余りの剣幕に彼女はビシと直立体勢に成った。

「ああそうだ、これなら……建立した七大寺からの奉納物を道教風に再現したものですが」
「これは……お守りか?」
「内容は?」
「一通り用意してあります、金運に健康等、家内親族の幸運等、選んでいただければ……」

見本に持ってきたのだろう、神子はお守りを数点見せた。
実際目にすれば、神子の言った希望というのが浮かび易くはある。
唯超能力者で上から援助されている一方通行は物欲が余り無く、特別欲しいとは思わなかった。
だが、上条はハッとした表情でお守りを見て言った。

「さっきの漠然とした聞き方よりマシだが……」
「いや一方通行、さっき言った内容聞いたか?」
「何がだよ、上条」
「家内親族の幸運って……『姉妹』も含むよな」

この言葉に、一方通行が一瞬止まる、二人は顔を見合わせた後お守りを見た。

「……詫びってのは俺ら以外にも頼ンでも良いか?」
「別に良いが……」

この反応に戸惑う神子に一方通行と上条は熱心に頼み込む。

「あっちに良く似た連中が居ンだろ、あいつ等訳有りでなァ……」
「彼女達の為に、厄除け的なお守りを頼めますか、お詫びの品というのはそれでお願いします」
「……ふむ、わかった、用意しよう!布都もいいな?」
「はい、全身全霊で最上級のお守りを!」

やっと迷惑かけた分を返せると神子が喜び、布都もまたやる気満々で頷いた。
彼女としても何らかの形で詫びたかった(こんな形なのは予想外だが)

「むうう……」
「どうした、姉貴?」

すると、この日も遊びに来ていた巫女服の少女、霊夢が難しい表情で唸る。

「あーもしかして……自分がもう姉妹達にお守りをやっただろって、怒ってンのか?」
「いや別に拗ねてはいないわよ、子供じゃないんだし……」
「……じゃあ神教と道教、一緒に持つと不都合とか有るんですか?こう神様がへそ曲げるとか?」
「ああどっちも多神教、ああ道教は天帝に数柱の王を頂点にしてはいるけど……まあ競合しないと思う」
「ならば……何か問題が?」

まず一方通行が怒ってるのか聞けばそれに首を横に振り、ならばと上条が複数のお守りに問題あるかと聞けばやはり首を横に振る。
神子が不味いことをしてしまったかと心配そうに問いかけると、霊夢はやはり難しい表情に成った。

「あー、何というか……」

言葉を濁す霊夢、すると同じように今日も来ていた紫の魔女、パチュリーがくすくす笑いながら答えた。

「ああ霊夢は唯感服してるだけよ……そのお守りの出来にね、あっちでの布教が心配に成るくらい」
「しいっ、パチュリー」
「……も、もががっ!?」

複雑な心境をばらされた霊夢が慌てて口を押さえた。

「……素人目にはわからねェンだがそンなに?」
「え、ええ、かなりの物ね」

パチュリーが霊夢から逃げながら言う、魔女であるが七曜という東洋寄りの知識も有るのでわかるようだ。
彼女は大分感心した様子でお守りの出来について口にする。

「これ、売り物にはならないって、いい意味で……国宝級、いやそんなレベルじゃない。
まあ霊夢のお守りが劣るとは言わないわ、神教と道教では方向性が違うだけ……一緒に持てば並大抵の厄は寄り付かない筈よ」
「……ううっ、とんでもないライバルが出てきた」

感心するパチュリーに対し霊夢は肩を落とした。
シスターズに質の良いお守りが増えるのは嬉しいが、それはそれとして宗教家として危機感を抱いているようだ。

「まあ良い、人数分頼むな、豊聡耳」
「シスターズが喜ぶな、ああ今度は打ち止めと番外個体の分もだな」
「ああ、任せてくれ!」
「あっちに帰って用意せねば!」

神子と布都が気合に満ちた返事をした。
が、次の言葉に凍りつく。

「あァ忘れてた……全部で二万と二人分な」
『えっ?』

予想より二つか三つか程桁が大きかった。

「……一応言っとくと、鈴科君はお守りの作り方をわかってないんだと思うわ」
「大方手作業でなく、工業品的な大量生産をイメージしてるんじゃない?」
「違うのか?」
「え、俺もてっきりそうだと……」

そう思い込んでいた一方通行、それに同様らしい上条を見て、霊夢とパチュリーは呆れ顔をする。
横目で神子達を同情しながら二人は説明する。

「お守りは布と台紙と貴金属の装飾からなる……特に装飾、霊的な文様が曲者なの」
「しかも効能毎に別、質の良い物ならかなり微細で結構な手間に成るでしょうね」
「布と台紙も結構大変、何だかんだ言って精密作業しかも手作業だし。
……その二つはこっちの布教用に大量に持ち込んで、私の仕事は最終工程の刻印だけ、だから二万人分を何とか終わらせられたけど」

霊夢の言葉、特に後半に神子と布都はブンブンと首を横に振った。
以前霊夢がシスターズ(当時は二万まで)にお守りを作った時は途中まで完成済みだから何とか成ったが、神子達は違う。
彼女と違ってある程度まで完成させ持ち込んだという訳ではなく、一からお守りを作ることに成る。
当然二万と二人分全てを。

「……ほ、他の物にしますか?」
「ああ、無理にとは言わねェが……」

流石に今の話を聞いては不味いと思い、上条達は慌てて止めようかと問い掛ける。
が、神子と布都は覚悟を決めた表情に成っていた。
二人は互いの顔を見た後コクと頷き合う、そして力強く言い切った。

「貴族は、官位持ちは嘘は言いません!」
「そうだ、元々詫びのために我等は来た……必ず用意するとも!」

恐らくは見栄で(布都の方は迷惑かけた詫びに)二人は二万と二人分のお守り作製を決断した。

「……一応学園都市残留組は十ちょい、他の奴等も研究所毎に分かれてる、だから十セットずつで送ってくれ」
「あ、助かります、流石に万単位で纏めてというのはきついので……」
「うむ、ノルマを順番にこなすことにしよう、時間はかかってしまうが」

最後にせめてもと、一方通行が言った言葉に二人は本気で礼を言う。
引き攣り顔でしかもちょっと安心してたのはご愛嬌だろう。
こんな形で、何だかんだ言って段々とシスターズ周りは盤石になっていく。

「10777号と13577号、19090号、今日の感想は?」
「貴重な体験でした、10032号」
「ええ、今後は積極的に外にでるつもりです」
「全くです、まだまだ知らない物が有るでしょうし……」

そのメンタルは少しずつ成長し、周囲の者はハラハラしながらも笑みを浮かべて見守っている。

「神教に道教……今度聖って住職にもお守り頼もうかしら」
「あら仏教も追加か、完璧じゃない」
『二万と二、ああ神霊総動員をしないと……』

そして、一方でオカルト面でもやたら豪勢だった。
更に言えば魔女も悪魔もシスターも関わっている、その筋の者なら頭を抱える程カオス極まりない光景だった。



「……とのことだ、良かったな、アレイスター」
『ああ、今回は何も無かったか……』

暗部を通じて届けられた情報、道教組襲来の顛末に、アレイスターは心底安堵した。
彼としては敵でも厄介だが、味方にした場合も自由過ぎて読めない道教(正確には布都)に苦手意識が有ったからだ。
というか実際破滅したアステカ陣営、そしてボロ雑巾のように使い捨てにされた某幹部が居るので本気で嫌がっていた。

『うう、八雲と違う意味で厄介な……ごふっ』

幻想郷関係者が弾幕さながらの勢いで叩き付けるストレス、それで増える苦悩がその体を苛んでいた。

「あっ吐血した」
『馬鹿な、超人であるこの体が……うっ、脇腹が痛い、胃痛だと!?』
「いや超人でも……神経性、精神から来る問題は無理だろ」
『……冥土返しに会ってくるか』

赤く染まった溶液の中で、彼は疲れた様子で項垂れる。
それは学園都市の支配という肩書が信じられなくなる程情けない表情だった。
彼の計画(プラン)は胃との戦いかもしれない。



ガツガツ

「あーもう酷い目に遭いましたよ、ていうか太子様は生真面目過ぎる!」

邪仙が自棄食いしながら愚痴った。
茶をがぶ飲みし、団子数本纏めて食い荒らして主への不満をぶちまける。
これには同席していた客も店側も困り果てる。

「……黒焦げで放置してたから拾ったけど、同情したのは間違いでしたかね」
「そうだね、山の巫女様……あの人面倒臭そう」

同席者二名、邪仙を可哀想に思って拾った早苗と小傘はそのことを後悔した。
早苗にとっては宗教家として後輩だから爆発に気付き様子を見に行ったところで黒焦げの彼女を見つけた。
また先日の事件で神子を驚かすことが出来た小傘も二度目狙いで同行した、がそのせいで自棄食いに付き合うことになってしまった。
二人は見つけるんじゃなかった、拾うんじゃなかったと絶賛後悔中だった。

「少しうざいし釘刺しますか……」
「うん、やっちゃえ、巫女様」

小傘に見送られて早苗が邪仙に囁いた。

「いやあ仙人様も大変ですねえ……上司に、仲間達に捨てられたんだから」
「ぐふ……」
「その上部下の芳香ちゃんでしたか、彼女も外のご飯欲しさについてって……人望無いの?」
「ち、違う、芳香はちょっと欲に正直なだけなんだから……たぶん、そうだといいなあ……」

早苗の容赦ない言葉に現実に引き戻され、邪仙(ぼっち)はショックでその場に突っ伏した。
やっと大人しくなった彼女に、客も店員達も安堵し、沈めた早苗に尊敬(但し畏怖寄り)の視線を送るのだった。

(それにしても外か……少し気になりますね、今となっては山の神社が私の家で故郷ですがそれでも少し恋しくなる。
……そうだ、同じように外を気にしていた二人を、『幽香さん』『妖夢さん』を誘って……)

心中でとんでもないこと考える、学園都市を揺るがす大惨事の火種が人知れず育っていた。



学園都市悲喜こもごも・六の裏



学園都市の街の中、三人の少女が話していた、皆同じ顔だ。

「うー、悔しいです」
「ああもう、泣かないの、9982号」
「……どうしたの?」
「風紀委員体験、参加者希望のジャンケンに負けたそうです、お姉様」

01号が9932号を宥めている。
説明を聞いた姉、先日研究成果の発表会が済み纏まった時間が出来て街をぶらついていた美琴も撫でてやった。
白衣を着る彼女は二人よりも少し大人っぽいので多少同じ顔故の不自然さが薄れていた。

「何かごめんなさい、お姉様……休日でしたのに」
「ああ良いって、誰かと話たりするのものもこれはこれで楽しい物よ」

暫く撫でてやると泣き止んだ9982号がペコと頭を下げる。
だが、特に気にしていない美琴は笑みさえ浮かべていた。

「……良し、二人共、ちょっと来なさい」
「は、はあ……」

美琴は9982号、それに01号をどこかに引っ張っていく。
そして、立ち止まる、そこは携帯ショップだった。

「丁度帯電性機能のある携帯に変えるつもりだったの、で今丁度フェア中で」
「フェアですか……」
「友人や家族で一緒に買えばグッズもらえるんだってさ、貴方達持ってないでしょうし買いましょ?」
『え、は、はい、喜んで!』
(……先輩誘うつもりだったけど、これでもいいや)

家族の言葉に01号も9982号も感極まった様子で頷いた。
三人は仲の良い姉妹そのものといった様子で、店に入っていった。



そしてそれを偶然見ていた黒髪に梅の髪飾りの少女が笑みを浮かべる。

「ふふっ、御坂さん、仲良くやってるね……うん、善き哉善き哉」

そんな彼女を見て、緑の髪に強気そうな表情の少女が訝しげに問い掛けた。

「……ニヤニヤしてどうした、佐天?」
「ちょっと知り合いを見つけて……立ち止まってごめん、行こうか、屠自古ちゃん」
「ああ、後ろの『腹ペコ』が暴れる前に……」
「お肉、お肉、食べるぞー!」

黒髪の少女、涙子と緑の髪の少女、屠自古の後ろには飢え切っていた少女が奇妙な歌を歌っている。
何となく神子達に付いてきた僵屍、芳香である。

「やれやれ……」
「まあ太子様が居れば布都は馬鹿はやらん……我等であの腹ペコを押えるぞ」
「はいはい、別にいいけどね、どうせ差し入れ持ってた後は特に用は無かったし」

そういう理由でお目付け役として屠自古、案内役として涙子が来ているのだった。

「……でどこに行くんだ?」
「まず御飯だね、何か食わせないとそっちのが煩そう」
「金は?」

屠自古の当然と言える問いに、涙子がニヤリと笑った。
イタズラっぽい表情である看板を指指す、そこには『超激辛カレー超大盛り完食で賞金あり』と書いてあった。

「あそこ行けば纏まった金が入るよ、そこの腹ペコさんに稼いでもらいましょ」
「……店が潰れない範囲でな」
「わかってるって、適当なとこで止めるよ……まあ三人が遊んで足りる程度の金には成るでしょ」
「ああ……三人って?」

屠自古が首を傾げた、すると涙子は自分と芳香を指してから彼女を指さす。

「私達に当然貴女……もしかして敵だったから数に入れないって思った?」
「まあそうだけど……」
「……幻想郷は戦いが終われば一騒ぎして終わり、敵も味方もないの、あっちに居るなら覚えておいて」
「ああそうしよう……では今日は遊ぶか、お言葉に甘えてな」

涙子はニッコリ笑って今までの因縁を流した。
裏表のない彼女の気性は嫌いではない、それにまあ保険としても仲良くしたかった。
具体的には学園都市で今度うろつきそうな数名を考えれば遥かにマシな人格だし。

「まああれだね……布都ちゃんとか天神様のお弟子さんが遊びに来たら、一緒に突っ込みやってね?」
「奢りが高く付いたなあ……いや身内だしやるけどさ、片方は文字通りで」

今後の苦労を思い浮かべた屠自古はガックリ肩を落としたのだった。



そして彼女と同じくらい、不幸かもしれない少女達が学園都市に居た。



ザアザア

「うわ、ついてないなあ……」

通り雨、『彼女』はバス停に逃げ込む。
妙に存在感に欠ける少女だ。
『ずり落ち気味の眼鏡』、『長髪で一房だけ束ねて流し』、『スタイルの良い体を霧ヶ丘女学院の制服に包む』、そんな格好だった。
バス停の椅子に座り込んでがっくりと肩を落とす。

(……ああ何で……何で誰も私に気づいてくれないんだろう、まるで『誰もそこに居ないかのように』無視するんだろう)

少女は一人だった、気づいたらここに居てそれ以来ずっと一人だった。
雨で気が沈んでいるのもあり少女は蹲る、我慢できず泣きそうに成った。
そのメンタルは正に人間の少女そのものだった、例え『拡散力場』からなる存在だとしても。

タッタッ

(足音、誰か来る?)
「もう濡れちゃうわ、どこか雨宿りできるところを……」

そこへ、乱入者が一人現れる。
つぎはぎだらけの『赤いドレス』の女性だ、給料減らされたせいで衣食住が危ないので新調も出来ないのだ。

「最悪、速く雨止まないかな……」

ドレスの女性もバス停に逃げ込み、少女の隣りに座る。
他の者と同様気づいていないようだった。
そして、少し前の少女同様肩を落とし呟き始めた。

「うう、お腹へった、野宿もそろそろきつい、服も新しくしたい……でも口座凍結済み、上層部めえ!」

どこかで聞いたような、というか少女にとって身に覚えのある様子に思わず彼女は笑う。
悪いと思ったが少女はクスリと小さく笑う。
すると女性はその音に気づいた、慌てて周りを見て少女を見つける。
彼女が大能力者、それも精神系の能力者だから気づけたのだろう。

「だ、誰……あら先客が居たのね、気づかなかったわ」

少女は驚く、がそれよりももっと大きな共通点が有った、女性もそれに気づいた。
二人は同時に手を伸ばし、ガシリと相手の手を取った。

「あ、貴女、私が見え……いえそれよりも!」
「……見ればわかる、貴女もそうなのね……不幸なのね!?」
「はい、そうです!」
『別に幸運になったわけじゃないけど一人より余程良い!』

不幸な少女と不幸な女(自業自得)は同類を見つけて喜んだ。
そして、そこへ三人目までが集った。

「……雨なのかー」

雨に追われるように『赤いリボンを付けた金髪の少女』がバス停が逃げこむ。
彼女、ルーミアは愚痴りながら、この場に入ってくる。

「あー、運が無いなー、雨だし……霊夢に負けたしー、悔しいのかー」

ドンヨリした空気を纏いルーミアは悔しそうに言う、そして先客の二人に気づく。
ルーミアもまたすぐに気づいた、そして二人の方もまた気づく。

『こんな世の中間違ってる(のかー)!』

会った瞬間彼女達は意気投合した(尚女性は『心を護るためルーミアを忘れた』ので気づいていない)

「……心理定規が今どうなったかなと思えば、妙なことに成ってやがる」

そして、そんな様子を空から見ていたもう一人の垣根帝督は『何だこれ』と首を傾げた。



・・・これで一話は一段落です。
後何より一部で書き損ねた布都達の謝罪も、これで心置きなく次が書けます・・・一部で書いとけという話かもしれませんね。
まあ言い訳すると戦闘終了して直ぐには話の空気的に書けなかったんですよ、まあ時間掛かり過ぎたのは確かですが。
あ今回はもう一話あります、後次回からのさわりの部分も。

最後の最後でやっと悲喜こもごもっぽく、今まで一方通行ばっかでしたが・・・
不幸同盟を組んだ三人(突っ込みに悪い方の垣根)を中心に二話を書いてく予定です。

以下コメント返信

九尾様
何だかんだ皆手探りで世話してるでしょうしこんな物でしょう、それでも心配する友人がいるから大丈夫と思いますが……問題は保護者代表二人が問題児筆頭なこと。
そして確かに佐天さんが苦労するのはそれかも、一人だけ平均年齢上げてるし……

いいい様
霊夢がお払いしてもその払った厄自体が霊夢が元凶だと思う、そして直ぐに別の厄介ごとを引き寄せるイメージが……早苗か聖に頼むべきですね。
いやもう道教だけでぐっちゃぐちゃです、次に神社というか巫女……巫女は個人で影響力あるから逆にすごいや。

AISA様
アレイスターさんは設定がシリアス過ぎるんですよ、書いてて少し疲れるくらいに……でも開き直って弄ったらこの通り、今ではギャップが楽しいです。



[41025] 第二話 幻想の命・一
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/04/17 22:21
ワナワナ震えながら霊夢が手を出した。
そこには、幻想郷の通貨が握られている。

チャリチャリチャリ

霊夢の手より大分ちっちゃい手がそれを受け取る、お返しに薬箱が渡された。

「ウサウサ、永遠亭のお薬お買い上げありがとう、博麗の巫女!」
「……ちょっと高いけど効きは良いからねえ、高いけど」
「いや私に言われても困るって……お師匠に言いなよう」

霊夢は出費に少し泣きそうに成りながら支払いを終える。
何かと物騒な学園都市、何か在った時に手持ちの薬が尽きては不味いと、彼女は紫に頼んで薬屋の兎を連れてきて貰ったのだ。

「まあこれで何か在っても安心のはず、後で鈴科君と上条君にも渡してと……」

彼女がそんなことを考えてくる間にも、何匹ものの妖怪兎達が薬箱を運んでくる。
そして数を掛けただけに直ぐに終わる。
が、帰ると思ったら彼女達は集まり何かを話し出した。

「ウサウサ、てゐ様、キャロットケーキなる物が食べたいウサ!」
「ウサウサ、てゐ様、それもいいけどグラッセも良いと思うウサ!」
「よっしゃあ、任せろ、子分ども!……今日は私のヘソクリで両方おごっちゃる!」

ワアア

年長で世話役の兎少女、てゐの言葉により容姿の幼い兎達(変化可能な者で揃える常識はあるらしい)が歓声を上げた。

「てゐ、これは何の集まりなの?」
「折角外の世界だし贅沢したいなあと……」
「……外に迷惑掛けないこと、後正体隠すこと、この二つを守るならいいわ」
『了解ウサー!』

用意の良いことに全員が帽子を被りながら頷いた。
はあと霊夢は最初からこのつもりだったなと、てゐのほっぺたを抓っておいた。

「ガキ共はともかく、代表者には……えい!」
「い、痛っ!?」
「……絶対に騒ぎを起こないで、てゐ」
「はーい、任せな!」

抓ってちょっとだけ溜飲が下がった霊夢の言葉にてゐはドンと胸を叩いた。
小さく幼く見えて永遠亭屈指の年長者だ、まあ任せればいいかと霊夢は思った。

「はあ、行きなさい」
「うん、それじゃあね……ようし、行くぞ、子兎共!」
『了解ウサ!』

てゐの言葉に子兎は元気よく返事して、彼女達は文字通り脱兎の如く学園都市へと飛び出した。



(ようし、巫女は私の目的に気づいてないね、子兎の食欲をカバーにしたからか)

先頭の兎、てゐがふっと悪い笑みを浮かべた。
この数の兎は全て一つの意思を覆い隠す為の隠れ蓑に過ぎなかった。
それも全ては目的の為、てゐはある目的が在ってここに来たのだ。

(折角外に来れたんだ、今のうちに探さないと、姫様が求めていた宝物を……)

全ては悪戯好きの彼女が唯一忠誠心を抱く女性の為だ。
普段は来れないここで探す、ずっと機会を伺ってだけど幻想郷では出来なかったことをする。
てゐは『古の五人の王子』のようにとてつもない難題に挑もうとしていた。

「宝の大半は失われた……でも科学とは禁忌を侵し不可能に挑む業、あるいは失われた宝を作り出すことも出来るかもしれない」

主への忠誠を胸に秘めて、白い兎少女が学園都市を駆けていった。



第二話 幻想の命・一



彼女達は一瞬で友と成った、だって同類だから。

『こんな世の中間違ってる(のかー)!』

グワッ

「ルーミアだよー」
「心理定規よ」
「風斬氷華です」

ガシイッ

金髪にリボンの少女は先日鬼巫女にフルボッコにされた、自分が悪いとはわかっているが不満は当然有る。
赤いドレスの女は暗部としての失態で生活苦だ、自業自得だがそもそも命令した上を恨む気持ちは当然有る。
『ずり落ち気味の眼鏡』、『長髪で一房だけ束ねて流し』、『スタイルの良い体を霧ヶ丘女学院の制服に包む』少女は更に不幸だ。
気づいたら街に居た、それからずっと誰にも気付かれず一人ぼっちだ、寂しさで泣きたかった。
だから、不幸な三者は一瞬で友と成った。

「……ようし、同盟を組もう、不幸同盟だー!」
「ええ、それが良いわ、そして世の中の妬ましき連中への不満をぶち撒けましょう!」
「ああ、一人じゃないって何て素晴らしいの!」

彼女達は間違った方向で満ち足りていた。

「ようしファミレスにでも言ってやけ食いしながら愚痴り合いましょう!」
「あ、でも私実はお金持ってなーい」
「……同上、そういえば上層部に削られたわ」
「私もないです」

だけど世の中は世知辛かった。
一瞬で三人はクールダウン、不幸同盟は早速存続の危機に陥った。

コロン

が、もう哀れすぎて見てられなかった者が実は近くに居た、それは丸めた紙幣を三人の近くに落とした。

「……あら?」

フワと視界の端に黒い羽が落ちるのを見たような気がした。

「お金ですね……」
「誰かの忘れ物かな、貰っとこうよ」
「……まあファミレスでも行きましょうか」

三人は自分の運の良さ(不幸を自覚する辺りが悲しいが)を訝しみながら連れ立って近くに店に向う。
彼女達は少しだけ輝いて見えた、話す内容は余りに暗いけれども。



「……で、哀れな昔の仲間見つけた手前ェはこっちでの活動費を恵ンじまったと」
「貴方も存外不器用ですねえ、オリジナル……考え無し過ぎるでしょうに」

こいつ馬鹿だろ的な眼で一方通行と白い垣根、自立化した未現物質ははしょぼくれる烏、オリジナルに限りなく近い垣根を見ていた。
一方通行としてはシスターズを助けた一人である白い垣根に会いに来たのだが、そこで黒い方の醜態に立ち会うの予想外だった。

「馬鹿だろ、お前」
「五月蝿え、直に見りゃそっちも同じ行動をするだろうよ……哀れすぎたんだよ、奴等が」

ふんと彼は不機嫌げにそっぽを向いた。

「それにしてもルーミアが……ちょっと厄介かもな」
「一方通行?」
「いやあいつ一応前科者だからなァ……」

一方通行は大きく嘆息する、前回暴走しただけにルーミアが関わってるのが気になった。
少し考えた後あることを決意する。

(……少し気にしとくか、反省してるだろうがそれ抜きでも一皮剥けば本能の固まりだしな)

彼は自由人だがそれは姉貴分程では無く、こういう時は寧ろ苦労性ですら有るようだった。



そして件の三人組は今も尚はしゃいでいた。
ファミレスで店員が不機嫌に成るギリギリまで愚痴った後残りの金で酒と摘みを買った。

「いやっほー、久々にいい気分だー、飲もう飲もうー!」
「ええそうね、飲みましょう、ほら安いけどワインよ!」
「……え、いや、二人共未成年なんじゃ?」
『良いから良いから』

唯一まだ理性的だった影の薄い少女が流石に止めるが、既にそのつもりだった二人は一向に気にしない。
というか押しの強さに飲み込まれ少女もその気になっていく。

「うーん、まあ少しはいいかな……」
『ようし、決まりだー!』

そもそも止められる筈がなかったと言える、彼女達は自分達の不幸を忘れたかった。
そういう意味で酒というのは打ってつけだ。

『さあ飲むぞー!』

一瞬で少女は二人に染められて、見事に三人の意志が一致した。
まず彼女達は場所を探した、見咎められては面倒だからだ。

「あっち、行こー!」
「……区と区の間の方か、静かそうだしいいかな」

ルーミアは本能的に闇を好む、人気の無い方に行きたがった。
心理定規と氷華は特に断らなかった。
特に氷華はトラウマ、『会う人全てに無視された』ことで人混みを嫌ってもいたから。

「……あ、ここ良いんじゃない?」

着いたのは和風の建物に階段に鳥居、ボロボロの神社だった。
人や物の流通の問題で廃れ、だが無駄にでかい学園都市故の複雑な、複雑過ぎる開発計画で偶々取り壊されなかった場所だろう・

「……人も居ないしゆっくり飲めそうですね」
「ええ、それじゃ乾杯といきましょうか、お酒初めての子も居るし軽いのから……」
『乾杯!』

カツン

三人は少し前までの薄幸さの感じられない笑みで、コップを軽く打合せた。



「……いや、人居るんだけどなあ」

ボロ神社の屋根の上で、黒髪に白梅の髪飾りの少女が杯片手に困ったように呟いた。
邪魔するの悪いかなと出るに出られない涙子だ。
左右には屠自古と芳香も一緒に居て飲んでいる。
三人は神社に縁が有ったから(それぞれ加護有り、親族や師が関係者)ここに目をつけ飲んでいた、そこにあの奇妙な客である。

「何だ、どこかで見た顔じゃないか」
「あ、ルーミアだ!」
「こら芳香、邪魔するのも悪いから放っておいてやれ、彼女は気にしなくてもあっちの眼鏡は人馴れしてないようだし」
「はーい」

先日一緒に肉食ったり暴れたりした芳香がルーミアに声をかけようとし、屠自古が連れのことを考えて止めた。
が、それと違う理由で涙子は声を掛けようとしなかった。

(暗部の女が何故、何か企んでルーミアと?……でもそれにしちゃ楽しそうなんだよなあ、それにもう一人からは変な感じがする?)

ルーミアは見知った相手なので問題はない。
しかし、残り二人が良くわからなかった、かつて敵対した暗部の女性には警戒が浮かぶし困惑もする。
最後の一人は更に謎だ、異様に気配が薄くどうにも得体が知れなかった。
同じことを思ったらしい屠自古も眼鏡の少女を見て首を傾げている。

「な、なあ佐天……あの娘、人なのか?」
「わからない、気配が薄過ぎる……」
「ああ、私のように霊体なのではとか考えたが……あの儚さはそれでも及ばない」
「……注意はしよう、でもまだこちらから何かするのは早い、底が全く見えないんだもの」
「下手に触れれば……火傷では済まないかもしれない、か」

涙子と屠自古は緊張した表情で儚さと、それ以上の底知れなさを感じる少女を見、唯一芳香だけは良くわからず小首を傾げた。

「うーん、よくわかんないー」
「気にしないで、今はまだ……だけどね」
「ああ、だから……」
『飲もう、今は』
「おー、わかったー」

素直に喜ぶ彼女に、涙子達はこの気楽さは羨ましいかもと苦笑したのだった。



そして、神社の三人を見る者は他にもいた。
影から『狡猾そうな瞳』が見ていた。

「……ウサウサ、見つけたウサ」

黒髪に帽子、その下に白くて長い耳を生やした少女が小さく笑う。

「幻想の命、普段はそこに無いが時々現れる存在、姫が探す……『燕の子安貝』、いやあれそのものじゃないけど限りなく近い物!」

燕の子安貝、卵を抱えた燕の体内に現れる架空の貝である、当然伝説であり存在しない物だ。
だけど『存在しないがそこに居て』、『そこに居ないのに確かに存在する』という在り得る筈のない少女があそこで笑っている。
てゐは笑みを浮かべた、そして密かに気配を隠し慎重に機を伺う。
遥か昔に都で起きた『美女と宝探しの物語』が再び始まろうとしていた。




何か人口天使さんがヒロインっぽいです、この後妖怪兎達に姫へのプレゼントとして襲撃される予定。
まあ燕の子安貝は苦しいけど・・・初期の予定では上条さんの右手=中のものを五色の龍に関連付ける筈でした。
唯自分で対処できそうな人だと話を動かし難く、話の焦点を人口天使へ変更。
・・・結果不自然な流れになりましたが、ボツバージョンよりはマシなはず。

以下コメント返信

いいい様
ああそれも当然あります・・・直ぐに怒らなかったのは墓地に慣れるまで不安で余裕が無かったからでもいいかも。
つまりそのうちラスボスまで拾われる?・・・まあそれは無くても同盟関係者の大半がネタキャラ化しそう。

うっちー様
神子様は良くも悪くも生真面目な人だと思います、異変で変な形で出たりするが・・・それがマイペースな布都を押さえてると思う。
娘々はまあ某ピンク仙人に付き纏ったりとか結構社交的だから寂しくはないでしょう、部下がいない逃避かもしれないけど・・・
・・・心理定規はまだ常識有るけどルーミアが居ます、更に酔ってる佐天も来ます、どうなるかわかりますね?



[41025] 第二話 幻想の命・二
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/04/17 22:22
『同盟結成を祝って……乾杯!』

カツン

コップを軽く打合せた後不幸同盟は愚痴をぶち撒けていく。

「いやもう今日まで大変だったよー、鬼巫女がさー……」

最初に口火を切ったのはルーミアだ、彼女から霊夢への不満が語られる。
暴走時謝ったしそれは反省しているが『それ以前』のことはやっぱ少しだけ怒っていた。

「偶々その時私しか近くに居なくて、それだけの理由で滅茶苦茶こき使われて……
炎の剣を振り回す『爆弾娘』や電子の砲撃を当たり構わずぶっ放す『USC二号』と戦わされたんだよ!?」

今は同じような事はさせないと霊夢は約束してくれたが、それでも今でも震える程の地獄だった。

「私はねえ、暗……学園都市公認の治安維持中に酷い目に有ったわ、そりゃあっちに正当性有ったけどさあ」

次に心理定規が話し始める、行動自体は正当性が消えたので被害者ぶる気はないが一点だけ納得出来ないことがある。

「その時能力使った相手が居て……私に命令していいのは『イブキ様』とやらだけとか言ってブチ切れやがったのよ!?
そいつ怒ってさんざん抵抗されて、その後根に持ったのか何度も襲撃してきて……危うく死ぬかと思ったわ」

恩人との関係性に気づかず触れてしまった代価の集中攻撃を思い出し、心理定規は自分の体を抱きしめ青褪める。

「うう、私だって命令なのに……しかもその後何かに襲われ、うぐ!?」
「心理定規さん!?」
「う、頭が!?最後の襲撃を思い出そうとすると頭痛が……」
「おーい、大丈夫かー?」

それどころか『闇を纏った何か』に喰われかけたことを思い出しガタガタと震えた。
余りの恐怖に忘れようとした記憶を思い出しかけた彼女を風切とルーミアは宥める。
尚ルーミアは一々襲った相手など覚えてないので当然忘れているが。

「ふう、だ、大丈夫よ、落ち着いたわ……次は貴方ね」
「あ、はい、私は……」

そして氷華に順番が回ってきた。
だが、彼女はそこで口ごもる、記憶を遡って行くと突然途切れたからだ。

「皆に無視されて、いや街に気づいたら立ってて……あ、違う、その前は……あれ、あれ、何で……」
『氷か?』
「……何も思い出せない、その前の記憶が無い?」

今更ながらに記憶の空白に気づいた彼女は混乱する、あるいはそれが『最初から』だと気付きかけた。
違和感に気づいてしまった氷華、いや××ー×=××××、だがその時二方向から伸びた腕によって彼女を優しく抱き上げた。

「そう、貴女も大変だったのね、きっと忘れてしまいたい程酷いことが有ったのでしょう」
「お前も大変なんだなー……嫌なことは忘れちゃえって、その日その日を楽しみゃいいのさー」

益々同類だと思った二人が優しく抱きかかえる。
尤も記憶を忘れようとする心理定規とは最初から無いから違うし、ルーミアは単に刹那的だなだけだが。
だが、それで彼女は自分への疑いを一旦消す、例え単なる先延ばしだとしても心地よさに負けてしまった。

『嫌なら言わないでいい、それより飲もう』
「……はい!」

氷華は過去(自分を確かにすること)よりも今(同類とこの心地良さに浸ること)を選んだ。



第二話 幻想の命・二



泣き出した氷華は仲間に宥められ落ち着く、直ぐに三人は神社での馬鹿騒ぎを再開した。
眼下のそれに思わず突っ込んだ少女が居た。

「いやいやいや……そこは気にしようよ!?」
「……落ち着け、あっちにばれるぞ、佐天」
「おっと……」

露骨に怪しい少女の記憶喪失という怪しすぎる要素は気にしておけと、言おうとしたが隣の屠自古に静止された。
突っ込み掛けて屋根から乗り出そうとしていた彼女は慌てて引っ込む。

「ううむ、ますます怪しい……でも同時に悪人っぽさが皆無なのがやり難いなあ」
「悪人なら悩まず喧嘩を吹っかけられるか……過激だな」

ちょっとズレたことを言って、悩み中の涙子に屠自古は微妙な視線を送った。

「……どこぞの放火魔よりはマシだい」
「筋金入りの放火魔と比較される時点で十分過激だと思うが?」
「うぐっ!?」

言い返そうとしたら逆に自滅した涙子は呻いた(地味に屠自古が仲間を放火魔扱いしている、その世話に大分苦労してるようだ)

(……まああっちの暗部の方は問題はないか、あの分じゃ本気で愚痴りたいだけだろうし)

一応収穫は有った、涙子は僅かに心理定規から警戒を緩める。
だが、代わりにもう一人への疑いが強まっていた。

「過去のない女か……自分すらそれに気づいてないってのがやり難い」
「……もしかしたら『過去の記憶』が本当に無いのかもしれんな」
「……と、いうと?」
「本当に最近生まれたか……私や芳香のように違う存在と成ったか、そのどちらかということだ。
……尤もそのどちらにしろ、あれの正体が何かをわからねば動き様がないがな」
「結局そこに戻ったか……人かそうでないのか、それなら何なのか、わからないとどう話しかければいいかわからないや」

推測は殆ど進まず、結局はその少女の謎、『正体不明さ』により涙子は動くことが出来なかった。

「……楽しそうだからいいんじゃない?」
「そういう訳にはいかないんだよ、芳香ちゃん……今のあれは酔ってるだけ、素面でも無害とは限らないんだから」
「酔っぱらいなら安心ってこと?」
「違うよ、あれが酔ってるのは酒じゃなく空気、友とはしゃぐ心地良さ……それが抜けた時あの子がどう動くか、気をつけないと」

こうして監視中も得体のしれない少女は益々酷くなる。
あの少女がこのままずっと人畜無害でいてくれたら、そう自分の考えは杞憂であってくれと涙子は祈った。

(……嫌だな、夏休み色々あったからどうしても疑っちゃうよ)

涙子は大きく嘆息して正体不明の少女の監視を続けるのだった。



ギコンガコン

畑を鋼鉄の四足獣が駆けまわる。

「新入り、遅いぞー、超運ぶのです!」
『ま、待て、トン単位の土や岩を運ばせてまだ足りないか!?』

ちっちゃい方の茶髪の少女が巨人に命令する。
不満気に相手は言い返そうとしたが少女の言葉でクレームは止められた。

「え、じゃあ仕事辞めます?……暗部や某研究者のせいで路頭に迷っていた貴方を労働力として雇ったのはどこでしたっけ?」
『うぐ、やるよ』

装甲越しに操縦者の泣きそうな声が返ってきた。
操縦者、元暗部のシルバークロース・アルファはこんな経緯でアイテムの下僕に成っていた。
アイテムとしては火力担当の麦野(現在欧州食べ歩き中)不在の穴を埋める為、また何か仕出かされないよう監視の意味もある。

「……やり過ぎじゃありません?」

このやりとりを見ていた大きい方の茶髪の少女、ミサカ01号が小さい方こと絹旗に言った。

「ああ良いの良いの、あんだけデカイなら比例して仕事量も増えますって」
「そういう物ですか」
(……昔の禍根で虐めてるのも少し有りますがね)

絶対能力進化計画で敵対し、その時追い回されたことを結構根に持っているようだ(後半口に出さなかったが)

オオォン

その時排気音が聞こえた、ガレージの方だ。

「おや?」
「はて……」

絹旗と01号がそちらを見るとバイク、背にバイクスーツの男と金髪に改造制服の少女が乗っているのが見える。

「浜面、フレンダ?」
「ああ絹旗か、少し出てくる」
「畑の番、頑張るって訳よ」
「は、はあ、まあ行ってらっしゃい(……どういう組み合わせなんだろ)」

どうしたのだろうと思ったが絹旗はそこまで気にせず二人を見送った。



「ねえ、新入り、言わなくていいの?……元スクールの心理定規が未開発区に行ったことを」
「止めとこう、絹旗はシスターズを気にしてるからな……その関係で敵対してた心理定規と聞けば爆発しかねないし」
「……ああそうね」

運転中浜面は後ろのフレンダから問い掛けられ、一番シスターズと仲の良い仲間のことを含めて答えるとフレンダは納得する。

「今は心理定規が何をやってるのか調べるのが先って訳ね」
「ああ、それ次第だな、絹旗に言うかは……」

荒事に成れば呼べばいいと、その時シスターズの件の恨みを絹旗に返させればいいと考えていた。

ザザッ

二人が結論を出した時丁度通信、仲間からの連絡が入った。

『こちら滝壺……監視カメラをハッキングしたよ』
「了解、目的地までのナビ頼む」
「実際動くのは私と新入りがやるから、滝壺は後方指揮を頼むって訳よ」

こうしてアイテム(-2)もまた心理定規達を調べ始めていた。



そしてもう一人、三人組を独自に追い調べている者が居た。

(垣根の部下の心理定規……それに、よりによって前回暴れたルーミアか、もう一人ってのも少し気には成ンなァ)

白い超能力者、一方通行である。
彼は特に目立つルーミアの目撃情報を辿り、神社の近くまで来ていた。

「目撃情報は暗いことを愚痴り合うばかり、意味がわからねァな……」

そんな一方通行だが、目的の三人を探していたことで少しだけ前方への注意を忘れてしまう。
更にその前方、『帽子』を被り『沢山の布包み』を持つ少女もまた新鮮な学園都市ではしゃいでいた。
だから互いに気づかずぶつかってしまった。

ドン

帽子の少女は荷物をばら撒きながら弾かれた。

「きゃあウサ!?」
「おっと……悪ィ、大丈夫か」

一方通行は咄嗟に近くの自動販売機に手を当て倒れなかったが、帽子の少女は衝撃に耐え切れず転倒していた。
ドサッと背中からアスファルトに倒れた彼女はしばし悶絶した後涙目で立ち上がった。

「いたた……げっ、荷物がばらばらウサー!?」
「……手伝う、これか?」

ばらばらの荷物の一つ、『布に包まれた棒状の物体』を拾い少女に渡す。

「いや転ばせて悪かったな……これもだ」

更に詫びとして一方通行は近くの自動販売機でジュース、学園都市名物の珍妙なドリンクではなく普通の物を購入し渡した。
一瞬きょとんとした後少女は受け取ってニッコリ笑う、

「ありがとうウサ、目つきの悪いお兄さん!」
「いやぶつかったのはこっちだからな……」
「それでもありがとうウサ……あ、『てゐ』様へのお届け物遅れちゃう、もう行かないと……拾ってくれたの感謝するウサ!」

ダダッ

「……走るとまたぶつかンぞ、前に気をつけろよ」
「はーいウサ!」

余り変わらないペースで走り去る少女を見送った一方通行は大丈夫だろうかと思った。

「しかし、さっきの包みは……」

だけど見送りを終えた一方通行はふと懸念を覚えた。
先程少女に渡した布包みが気になったのだ。

(まるで姉貴やノーレッジ達が持つ札や本のような……行くか)

唯の勘だが同時期だけに三人組との関係を疑った、彼は少し考えた後間隔を開けて少女を追うことにした。



ダダダッ
グビグビゴクゴク

「ぷはあウサ、あいつ見掛けの割に良い奴ウサ」

走りながら、白い少年の詫びの品を飲みつつ少女は走って行く。

「ウサウサ、さて急ぐウサ……てゐ様に『これ』を渡さないと」

帽子を被った少女、その帽子の中に『白い兎の耳』を隠す少女が先を急ぐ。
その手の中には無数の布包みが有った。
タタッと走る振動で僅かに中身が見え、包みのうち一つが陽光でキラリと輝く、それは神秘的な輝きを放っていた。

「てゐ様、何に使うんだろう?……姫様が弾幕で使うこれ、行き成り持ってこいだなんて……」

それは『黄金の茎』に『白銀色の玉の実』が付いた『自ら光り輝く木の枝』だった。





我が道を行く不幸同盟とそれを気にするの3組程、うーん台風の目みたい。
あ最後のは蓬莱の玉(弾)の枝です、てゐが戦力として借りた奴ですね・・・ちょっと特徴描写が難しい、その辺手を加えるかも。

以下コメント返信

いいい様
ええ四コマレギュラーのウサギ達登場、今まで永遠亭関係者が登場させられなかったのでやっと出せて少し嬉しかったり・・・
確かに紫が元凶だ、東方キャラが今まで少なからず関るし・・・多分苦労するのアレイスターだしいいかなって感じなんでしょう。

うっちー様
いや本当は一部でこの話を書く予定でした、でも量的にあっちは終わらすしか無くて・・・仕込みが無意味に成って悲しい。
てゐは悪戯娘だけど忠誠心キャラで行きます、四コマのあれはあれで好きだけど。

九尾様
都市の外に居られないのは姫様の力で何とか・・・あれ時間経過を遅く出来るから消滅前に使って止めればいいかと。
・・・火鼠の衣は建築材のアスベスト説が有るので困る、直ぐ手に入ると話が進まないのでこのSSの日本でも使用禁止ってことで。
まあ燕の子安貝でないといけない理由は後々でっち上げる予定。



[41025] 第二話 幻想の命・三
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/05/09 19:47
第二話 幻想の命・三



『ウサウサ、配置につくウサ!』

子兎達が神社外周を包囲する。
動物上がりの妖怪だけに見事に気配を消している、だから気付けたのはごく一部だった。

「……風が乱される、何かが居るね」

そよ風程度でもそこに吹く風の乱れに涙子が気づく、何かが居ると彼女は気づいた。
そして、もう一人人外故に気づけた者が居た。
いや正確には人の感覚を、但し無数のそれの集合体だから気づけたのだ。

「……何だろう、辺りに何かが?」
「氷華、どうしたの?」
「いえ、何かが……」

涙子と同じよう氷華が兎の気配に気づく。
事ここに至って涙子は彼女への警戒を最大にした。

タンッ

だから、涙子はずっと隠れていた(隠蔽用の)結界から飛び出し彼女達の前へと降り立った。

「そう、貴女も気づくのね」
「誰!?」
「……げえっ、あの時の!?」
「そこの暗部、今は別口だよ……だから黙ってて」

心理定規に能力を使わせないよう威嚇すると、彼女から氷華へ涙子は視線を移す。
厳しい表情でじっと目を凝らす、だけどやはり何もわからない。

「本当に貴女、何者?」
「えっ……」
「……自覚していないか、だからやり難いんだけどね」

本当に何もわからない様子の氷華を見て、はあと涙子は溜め息を吐いた。

『ウサウサ、何か揉めてるウサ、チャンスだウサ!』
「……邪魔だね、追い出そうか…道真公よ、少しばかりお力をお貸しください!」

とりあえず話に成らないと兎の方への対処を先にすることにした。
バアッとその手から白梅の花びらが盛大に舞い散る。
神社中に飛んだと思うと、それが通り過ぎた時にはあたりの様子を一変させた。
一瞬前までボロボロだった境内がピカピカと輝き、そして薄い雷光の幕が中と外を隔てた。

「神社とは神域である、加護が最大に成る……が、ここの加護は失われていた、だから空位であるここを取らせて貰った」
「……何かが変わった?」
「そう作り替えた、今のここは特大の結界ってこと……出れないし、入るのも一苦労だよ」

外からの侵入と、もしもの場合の氷華達の逃走を阻止した上で涙子は苦無を突き付ける。

チャッ

「……で、もう一度聞くけど貴女は何なの?」
「わ、私は……」

氷華は戸惑った、先程捨てた悩みが再び喚起される。
だけど次の瞬間庇うように二人が、ルーミアと心理定規が涙子の前に立ち塞がった。

『駄目、離れて!』
「ルーミアは兎も角、暗部の貴女がそういう反応するの?」
「今はフリーだからね、別にいいでしょ」
(……これじゃこっちが悪者みたい、やり難いじゃないの、その辺わかれよ……)

まるで前回と、子供を追い回す暗部とそれを阻もうとするのが逆に成ったような状況に涙子が内心困惑する。

「……忙しそうな所で悪いが、話すより移動を優先した方がいいのでは?あのガキ共諦めてないぞ?」

やれやれと両方に助け舟を出すように、それまで離れて見ていた屠自古が割って入った。
彼女は結界をバンバンと弾幕で揺らす追跡者達を指で示す、ここで詰問していると襲われるぞと言外に教えていた。

「ちっ、移動しましょう、奥なら向こうの到着まで時間が稼げる……そこで話しましょう」
「わかったわ、但し……」
「私と心理定規も一緒だからなー!」
「心理定規さん、ルーミアちゃん、ありがとう……」
「……もう亡霊さんは、余計なことを」
「……そうは言うが、そっちも助かったと、考える時間が出来たと思っただろ」
「良くわからないけど……結界撃たれっぱなしだぞー、奥行こうよー!」

奇しくも氷華の異常さと、それを求める謎の少女達、その二つが同時に明らかになったことで戦闘は免れた。
氷華と氷華を守ろうとする二人、警戒する涙子(及びおまけの道教二名)は最も結界で頑強な奥に向かう。
呉越同舟としか言いようないの面子は緊張孕んだ空気の中に居た。



そして、外もまた張り詰めた緊張の奥底へと向かっていた。

ガンガンガン

「むう、中々破れないなあ」

結界に阻まれて、兎の中で年長の少女(あくまで兎の中でだが)てゐが苛立った様子で結界を睨む。

「結界邪魔だな、入れない……」
「てゐ様、どうするウサ?」
「……うー、せめて『枝』が有ればなあ」

流石にてゐが持ったまま来ると霊夢に気づかれるので、宝物は別の兎に持たせて一度別々に散った。
今その兎は向かってきている筈だ。
そして、てゐと兎達はピクと長い耳を引くつかせる。

「おっ……」
「てゐ様、来たウサ!」
「ごめんなさい、ちょっと人とぶつかって……『枝』だウサ!」

何故かジュースを啜りながら一羽の兎が持ってきた布包みをてゐに手渡す。

「ナイスタイミング……よし、これなら結界を破れる!」

ギュワンギュワンと『黄金の茎』に『白銀色の玉の実』が付いた『光り輝く木の枝』、蓬莱の玉(弾)の枝に妖力をチャージする。
そして、それをてゐがそれを翳し開放しようとした瞬間だった。
一陣の風が吹いた、それは先程走ってきた兎を追い抜いててゐへと吹いていった。
白い人影がてゐの背後に突如出現した。

(……あそこにルーミア達が居る筈だが、この連中もどうやらあいつら狙いみてェだし……先に潰すか)

白い影、一歩通行は短絡的に、だが同時に手っ取り早い方法を選んだ。
軽く体内電流を乱し、てゐを昏倒させようとする。
が、殆ど反射的に、一番近くにいたから、先程までてゐと話していた仔兎が反応できた。
彼女は持っていたジュースを思い切り一方通行にぶん投げる。

「さっきの、何で?……て、てゐ様から離れて!」

ブン
ゴウッ
カキン

が当然ながら一方通行が常に張る反射の壁、物質のベクトルを反転させる不可視の防御に跳ね返さえる。

ギュワンッ

反転したそれが向かうのは放った者自身だ。

「え?」

ゴンッ

「ぎゃん!?」

空のジュース缶が額にぶつかって彼女はぶっ倒れる。
奇しくも一方通行と衝突して転倒した時のように。
が、この一瞬の攻防(もしくは自滅劇)で一方通行の注意が一瞬逸れ、僅かに速度の鈍った手が空振りする。

ブンッ

「ちっ……」
「あ、あっぶねえウサ!?」

慌てて飛び退いたてゐが蓬莱の玉(弾)の枝から弾幕をばら撒く。
同じく腕が空振りした際の追撃用に風を放つ気だった一方通行もてゐではなく弾幕への迎撃として風を放った。

ドガアッ

弾幕と風が相殺する、余波に煽られながらも直立する一方通行と小さい体を更に縮めたてゐが睨み合う。

「さっきので倒れりゃ痛い目を見ずに済ンだのに……」
「ふ、ふん、そっちこそ行き成り攻撃してきて……その痛い目ってのに合わせてやるからね!」
「……中の連中に用があってな、手前ェ等に好き勝手やられちゃ迷惑なンだよ」

一方通行は言って拳を握り、それを見たてゐと兎達が慌てて身構える。
が、一方通行はいきなり一歩退いた。

タンッ

「行くぞ……何てな、正面注意だ」

彼が下がり、それと同時に彼がいた所にコツンと丸い物体が落ちた。
ボシュとそれは激しく煙を吹いた。

「……このやり方はアイテムか、今日はどうしたンだ?」
「心理定規が居るんだろ、それが気になってな……だがまずそこのチビ共を何とかしてからだ、煙幕張るから攻撃は任せた」
「ま、主に煙幕弾投げるのはこの、フレンダ様だけどね……」

煙越しに一方通行とアイテム、浜面とフレンダが言葉をかわし、素早く役割分担を決める。
これにより視界は滅茶苦茶だ。
だが、一方通行は振動等で感知できる。
彼は煙に紛れ連続して、かつ正確に風を打ち込んできた。

『うわわっ、てゐ様、何とかするウサ!』
「……ああもう、私が接近戦を仕掛けるからあんた等は結界を破って!」

タンタンとまるで飛び石の上を飛び回るようにてゐが駆けていく。
彼女は時風をかわし、時に蓬莱の玉の枝による弾幕で相殺しながら一方通行へと近づいていた。

「おっ突破してきたか?」
「一方通行!?」
「……そっちは煙幕維持してろ、ちょいと面倒だがあれの相手と周りへの攻撃同時にやってやる」
「ふん、でも仔兎への攻撃は減るはず……仔兎達よ、二手に別れて!半分は結界に半分は風の相殺だよ!」
『了解ウサ!』

缶でぶつかり痛む頭を振る兎を先頭に兎達は後方に行き、更に彼女達は二手に別れる。
そして一方通行の前にてゐが立ち塞がった。

「……器用な奴だな、煙幕の中の攻撃を良くかわして来れるもンだ」
「ふふん、鱶共の上を飛ぶより楽勝さ!」
「ああ身のこなしは中々だ……だが腕っ節はどうだろうな、まあ小さくてもやばいのがいるとは知ってるが」
「あーそっちはそこそこかな……でも、私は兎も角……姫の宝を舐めるなよ、白いの!」
「自慢することか、いや逆に奢るよりマシだがなァ」

謙遜か自虐か良くわからないことを叫んでてゐが突進し、やれやれと相手の言葉の内容に呆れながら一方通行は風を撃ち続けた。

(……思ったより手間取りそうだな、まァ……これ以上の応援が無ければ何れ倒せるだろうが)

ピコンと何かのフラグが立った気がした。



(てゐの連絡が途切れた……行こうかしら、『燕の子安貝』なら欲しいし)

帽子を被った『黒髪』の少女がどうするか考えた。
彼女は決断し帽子を取る、そしてその中に有った兎の耳も取った。
それが霊夢を誤魔化すダミーの耳だった。

「短時間なら月の連中は私に気づかない……急がないと」

ちらと彼女は背負う『布包み』薬師で自分の教師だった女性から借りた『弓』を見る。

「まだ大丈夫、永琳の弓を持っているから……これには思兼の加護がある、そして『あの姉妹』は師である永琳と誤認するはず」

これを持っている限り彼女は薬師の女性と思われる、故郷では同じ罪人だが向うは敵対を避けようと気付かないふりをするだろう。
勿論薬師の女性には確認するだろうが自分が戻るまで誤魔化すよう言い含めてある。
流石に長時間の誤摩化しは無理だろうが、その間に全てを済ませてしまえばいいのだ。
彼女にどうしてもそうする理由があった。

「『子安貝』を探して『あの人』は……谷の巣に行き、そこから落ちた……手に入ったのは汚れた藁一つ、余りにも哀れ過ぎる」

その失敗を世間から笑われて、『五人のうちの一人』は唯でさえ怪我した体を悪くし失意のうちに亡くなった。

「……『子安貝』そのものでなくてもそれに近い物を手に入れれば……そういう性質の存在があると証明できれば風評を変えれる」

近い性質の物があると確かに成れば、燕の子安貝もまた存在すると世間は思うだろう。
そうすれば『存在しない物』を取りに行った命を落とした間抜けから、『実在する伝説』を探して命を落とした勇気ある男と成る。
彼女にとって『自分のせい』でその男を死なせてしまったのはずっと刺さっていた棘だった。
彼女は死を知らない、だけどだからこそ結果的に自分のせいで死んだ男のことを悔いていた。

「それで私の罪が帳消しとは思わないけど……供養くらいには成るでしょう、待ってて下さい、真に勇気ある人よ」

墓前で謝る為にその少女、実在し長き時を生きていたかぐや姫、つまり蓬莱山輝夜は燕の子安貝と同じ少女を求め学園都市をひた走る。

「……あらここどこ、--区の---神社ってどこかしら」

が、世間知らずの貴族が初めて訪れた場所で迷わない訳が無い。
彼女の後悔と供養の旅は行き成りドデカイ暗礁に乗り上げてしまった。

「やべっ、迷った……」

呆然とした表情で彼女は辺りを見回す、その姿は結構怪しかった、そして目をつけた者が居た。

「おやどうしました……あ風紀委員です、見習いですがね、丁度見回りしているところで」
「あら丁度いい……--神社の場所はどこかしら?」

が折良く『茶の色の髪に人形を頭に載せた少女』が輝夜に話しかけてきた、これぞ救いだと彼女は問いかける。

「……ええと……先輩、お願いします」
(あ、わかんなかったんだ、見習いだったっけ)

どうやらわからなかったようで応援が来た、妙に尖った髪形の少年と青い髪に透明の羽の少女だ。

「どうした、ミサカ……ああ迷子か、地図出すから待って」
「ようし任せて……かみじょうに!あたいは多分わかんないから!……あれ、どっかで見たような?」

ブフッ

「おや迷子さん、行き成り咳き込んでどうしました」
「げほげほ、ああいえ……ば、場所を教えてくださる、急いで、そう急いで!(……あっちの氷精が気づく前に!)」

見つかれば怪しまれ確実に後々まで響く、戦場到着前なのに輝夜のギリギリの綱渡りをせねばならないようだ。
チルノの視線から然りげ無く逃げながら彼女の学園都市での戦いが始まった。

(何よ畜生、宝を探すと問題起きるの?そういう運命なの!?……そんなんさせてごめんね、五王子!?)

輝夜は数百年越しの謝罪の言葉を(心中でだけだが)叫んだのだった。





科学天使の違和感に気づく者がちらほら、それと外で乱闘開始。
そして姫様登場、自分のせいで死んだ人(というか死なせてしまった人)のことを悔いてますが・・・供養のし方が大分はた迷惑。
でもセンチメンタルというかこういうのに拘るイメージ・・・姫様かなり本気です。
・・・まあでも姫様の到着は後二三話になりますが、姫様ちょっと空回ってます。

以下コメント返信

九尾様
急いだ先に居たのはやっぱり兎でした、手が早いから別の兎(マーチヘア)っぽいけど・・・しかも歴史的に超一級の礼装持ち。
でまあ妖怪暗部と科学天使、警戒し悪巧みするのも居るでしょう・・・追う者追わる者異変解決目指す者、集める都合も有るけど。

いいい様
そもそも彼自身の言葉使いが怪しいし、周囲の癖の強い女性達といい・・・完全に感覚麻痺してますねこれ。
一枚天井か・・・実は気に病んでる事情のある子安貝(つまり氷華)以外眼中にないんです、まあ勝ったら新たに欲しがるかな。



[41025] 第二話 幻想の命・四
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/05/11 20:10
「じー」
(あう、不味い不味い不味い……)

永遠亭の主にして月人の蓬莱山輝夜、彼女は今とても困っていた。
露骨に怪しんだチルノがずっと見ている。
幸い基本的には永遠亭から出ない輝夜は殆ど面識がないから気付かれていはいないが(精々新聞か宴会時に顔を見た程度だろう)

「ええと神社の名前は聞いたこと有るなあ、確か……」
「は、早く教えていただけるかしら?(……氷精が思い出す前に!)」

名前だけでは直ぐには出てこず記憶と悪戦苦闘中の上条を輝夜がそれとなく急かす。
割りと今てゐ達が戦ってるのもあるがチルノに怪しまれてることを考えればギリギリだった。

(お、落ち着くのよ、輝夜……今の私は唯の迷子、和服趣味の学生、ひたすらポーカーフェイスを通すのよ!)

何とか唯の迷子にしか過ぎないとチルノに思わせるべく、彼女は必死に鉄面皮を貫く。
このままこうしていれば大丈夫のはずだ。

「……ああ思い出した、この道を真っすぐ行ってから突き当りで右、で坂があるからそれを登った後は左、で鳥居が見えてきて……」
「きゃああっ!?」
「何だ!?」

が、わかっていながら彼女は貫けなかった。

「わあっ、ひったくりだ!」
「よっしゃ、頂きだ、ババア!」

よりによって老人絡みの犯罪が起きた。

「うぐ……」
「最中お婆ちゃん、しっかり!?」
「親船、くそっ、あの野郎……」

不良らしき男性が老人からバッグを引っ手繰る、その際老人は押され道路に倒された。
孫と思われる少女とどこかで見たような、友人らしい水色の髪の少女が老人を心配する。
チルノ達も輝夜もこの光景には黙っていられなかった。

「くっ、待て、そこの……」
「追うぞ!」
「風紀委員です、道を開けて下さい!」

当然チルノも上条もミサカも引っ手繰りを許せず追跡する、がそれ以上に輝夜は相手が許せなかった。
『お爺さん』と『お婆さん』に育てられた彼女は反射的に能力を発動する。

ダッ

「待ちなさい」
『え?』

走りだしたのはチルノ達が先だったのに、まるで『彼女だけ時間の流れが早まった』かのように加速する。
一瞬で三人を追い抜き、そのままひったくり犯へ並走する。

「な、何!?」
「……老人には優しくしなさい」

ヒュッ

冷たく言って布包み、従者の弓を一閃して相手の足を払った。
弓の先端に引っ掛けるようにして転倒させる。

「えっ、うあっ!?」

ドガッ

更に輝夜はもう一度弓を払う、今度は手を強く打った。

バシッ

「うおっ……」
「それ、返してもらうわ」

取り落としたバッグを拾った彼女は丁度追いついたチルノへ短く叫んだ。

「……チルノ、反省させない!」
「お、おう!」

有無を言わさぬ迫力に彼女は頷き、ひったくり犯へ冷気を打ち込んだ。

「あ、頭を冷やせ、お前!」
「うぎゃっ!?」

そして、直撃し悶絶するひったくり犯に少し遅れて到着した上条が捉えた。

「よし、大人しくしろ、支部で反省するんだ」

一件落着を確認し、直前で道を聞き終えてもいたのもあって輝夜は能力を使って走り出す。

「チルノ、バッグ返しておいて、それと案内ありがとう」
「あ、ちょっと!?」
「……じゃあね」

ダッ

「あ、行っちゃった」
「……行ってしまいましたね」

この時チルノが自分の名前を名乗ってもないのに知られていたこと、また老人と共にいた河童の言葉でやっと向こうの正体を思い出す。
が、それはこれから少し先、十分程は後の事だ。
僅かな時間差だが、状況を一変させるに十分だった。



第二話 幻想の命・四



「……こっちに」
「は、はい」

涙子の先導で氷華達は結界の奥に辿り着いた。
境内の中心まで来たが、それまで無かった壁や曲がり角等が沢山有った。
氷華はおっかなびっくりに、ルーミアと心理定規が警戒し、興味なさげな様子で屠自古と芳香がついて来た。

「一応結界を作る時に障害を上から置いておいた、簡単には来れないはず……で今のうちに話そうか」

チャキと蕾の成った梅の枝を涙子が突き付ける、首筋に突きつけられたそれに氷華は青褪める。
咄嗟にルーミアと心理定規が止めようとしたが目敏く涙子はクナイを投擲した。
足元にカッと突き立ったクナイに二人の動きが止まる、涙子は別のクナイを向けて二人を牽制しながら氷華に問いかけた。

「……貴方は何?」
「わ、私は……その、唯の学生、だと思います」
「まあそういうだろうね」

自分でも自信なさげに、だけどそう思っている、いや正確には思いたがっている相手の言葉に涙子は溜息をついた。
彼女はそっと手を伸ばし相手の頬をゆっくりと撫でる。

「ひゃっ!?」
「じっとする!……確かめてるだけ、直ぐ終わるから」

撫で付けるように触っていた涙子は暫くそうした後首を傾げた。

「……人の肌、そうキッチリとそれとしか思えない程の質感で……だけど何かが違う?」

人の特徴を記号的に完璧に再現し、しかし根本的に何かが足りていないと感じた。
彼女はどこかで似たような物を見た気がし、夏休みの記憶を思い出そうとする。

「これは……あの赤子?それにまるで天使もどきのような……」

暫く考え近い物に思い至る、だがそれがどういう意味か考えようとした所で結界中に響く轟音がそれを中断させた。

ズウンッ

「うあっ、外から?」
「きゃっ、何ですか!?」
「……貴女狙いの連中よ、本当に貴女は何なんだろうね」

はあと大きくため息を付いてから涙子は一旦氷華から目を逸し、梅の枝も音のした方へ向けた。
氷華への警戒と同じ程度に外に警戒する彼女へ、屠自古が外を見ながら話しかける。

「佐天、何か不味いぞ……あくまで勘だがこう、何というか布都の馬鹿がやらかした時と似ている?」
「……水蛇、それに毛玉達よ、行って!」

涙子も似たような嫌な予感を覚え、直ぐ様眷属である蛇達を外に向かわせた。
そして、氷華は完全に解放する。

「ああ、もう良いよ」
「えっ?」
「……私が怖いと思ったのは得体の知れなさ、似た物を思い出したから解放します……ルーミアに暗部、仲間だというなら守りなさい」
「……言われなくたってそのつもりだい」
「氷華、こっちに来て、側にいるのよ」
「は、はい!」

直ぐ様後ろに庇う二人を見て、涙子はさっきまでの自分が悪役そのものなことに大きく溜め息を吐いた。

(全くこんなの性じゃないってのに……それにしても外で何が?)



ブンブンブン

「むきー、当たってよ!」
「はっ、断る……にしても確かに宝はいいンだがなあ」

振り回される蓬莱の玉(弾)の枝、その先端から放たれる弾幕を一方通行は左右に動きながら巧みに回避する。
勢いはいいのだが子供、それも小学生くらいのてゐは見事に枝に振り回され、大振りだから避けられている。
そして、反撃に風を放つ、但しそれが飛ぶのは結界を壊そうとする兎達だが。

『ぎゃっウサ!?』
「ああ、子分達が……」

風を放つ度に少しずつ、だが確実に兎達は消耗させていく。
それを見たてゐは怒りのままに蓬莱の枝を振り回した。

ドゴンッ

が、一方通行が横に飛んだことで空振りし、地面を虚しく砕いただけだった。
しかし、この光景に一方通行は僅かに警戒する。

(弾幕はそれ程でもねェが……異様に打撃の筋がいいのは何でだ?)

寧ろこっちが怖いので、ラッキーヒットを避けるべく一方通行は一旦距離を取った。

「むう、当たれよ、このモヤシ!」
「お断りだ……戦い慣れてるがそこまで怖さは無ェ、直接やり合うのは苦手ってとこか、戦う前の反応から罠なり指揮なりが本業か?」
「……う、五月蝿い、もし竹林だったら百のトラップで追い詰めてやるのに!」
「は、そいつァ運が良かったか……それはそれとして鈍器慣れは何でだ?」
「あー真面目で口煩い同僚から逃げる時に後ろから殴るからかなあ」
「……同情するよ、そいつに」

本気でそう思った一方通行は更に後退し、一瞬遅れて枝が振り下ろされた。

ドゴンッ

「う、また外れた……空気呼んで当たれよう!」
「嫌だね、音の時点で痛そうだ……それを食らう同僚に本気で同乗するぜ」

目の前を通り過ぎた打撃にその気持ちを強くしながら、一方通行はてゐ越しに風を放つ。
連続して放った風が兎達を吹き飛ばしていった。

『ぎゃっウサ!?』
「さて時間はかかるがこれなら……」

一方通行は何時になく慎重に戦っていた、一息に倒そうとせず消耗を避けている。
これは奥にいるルーミアや心理定規ともし争うことに成ってもいいようにだが、これがある予想外の流れを作ってしまった。
彼の慎重さ故に兎達は崩すことが出来ず防戦し、がそれ故に同時に長期戦となるし一方通行は兎に集中してしまう。
特に後者は『彼女達』にとって狙い目と成ってしまった。

ピイィー

行き成り甲高い音が鳴った。
一方通行は訝しみ、てゐ達は表情を明るくする。

「あン、何だ?」
「これは姫様の……」
『鏑矢ウサ、合図だウサ!」

双方が音の方を見た瞬間光輝く矢が飛んでくる。
それを見た一方通行は顔を引き攣らせた、軌道は正確に彼を狙っている。

「くっ、新手だと……」

一方通行は数歩下がり安全圏に出ようとする、が空中で光の矢は枝分かれする。

「何!?」
「……姫の代わりに言うね、神代の系譜だよ!」

ガガガガッ

分裂した刃を前に一方通行は回避を諦め防御する、厚くした反射の壁が揺らぐ。
慌てて追加の演算で耐えた一方通行だがその顔が引きつる。
更に直ぐ様二射目が来た、だがそれは一度目と違う意味で彼を驚かせた、ボウっと赤く火を纏っていたからだ。
彼は風でそれを弾くと、煙幕を張っていた浜面達に逃げるよう叫んだ。

「これは道教の!?……アイテムの二人、煙幕ありったけ焚いたら下がれ!」

再び一射めと同じ矢、その次にはやはり燃える鏃の矢、二つの矢が交互に落ちる。
一方通行を牽制すると同時に半分程が結界を削っていく。
何が起ってるんだと一方通行は困惑した。



その日空を見た者は絶句しただろう、学園都市空中に巨大なUFOが浮かんでいた。
UFOの上には三人の少女が立っていた。
唯一素面の輝夜が弓を手にし、白髪に白い仮面の少女もやや簡素な弓を持つ、最後に黒い仮面の少女だけ三叉槍持ちで手持ち無沙汰だ。

「……ふっ、ノリで組んだ『古代の都』同盟、いい調子ね、二号!」
「おう、驚いているぞ、奴め……良い出だしだな、一号」
「……ぬえーん、折角組んだのに足場しか出してないよー」
『しょげるなって、三号』

それぞれ面白そうだから、薬売りと渡り付けたかった、種類は違うが同じ物語勢等で組んだ、面白ければよしのお気楽軍団である。
尤も何かするなら幻想郷のつもりで学園都市での活動は予想外だった(尚輝夜だけは元々宝探しに利用するつもりだったから確信犯だ)

「さあてゐ達を援護しましょう、じゃんじゃん撃つわよ」
「ふむ、少し予想外だが……兄者の借りを返すと思えばいいか」
「……私だけ暇だなー」
『だからしょげるな、三号』

しょんぼりする黒覆面の正体不明妖怪を宥めた後、輝夜と謎の銀髪導師は弓を打ち込んでいく。
理由だけは真面目なの一名、仕返し狙い一名、完全ノリで来たの一名による自由人集団が学園都市に混乱を齎そうとしていた。

(待っていなさい、『燕の子安貝』、それに限りなく近い娘よ、必ず手に入れて……『彼』の供養を果たす!)

輝夜は自分のせいで命を落とした人を思い誓った。
そして、絶対にやり遂げようと自分に言い聞かせ、全力で遥か遠くの戦場に矢を打ち込み続ける。
常に超然とした彼女らしくない執念が向こうの超能力者を、その先の正体不明を追い詰めていった。




姫様参戦(まだ到着はしてはいないが)そして都育ちの仲間が参上。
白仮面と黒仮面(バレバレ)果たして何者なのだろうか(棒)
・・・姫の戦う理由がシリアスすぎるのでネタキャラによる露骨なバランス取りと言ってはいけません。

以下コメント返信

九尾様
唯一真面目でそれ故に命を落とした人、怠惰な姫を自分から動かすなら彼以外思いつきませんでした。
後宝だからどれでもいいだとやる気になるとは思えず、切実な理由で関わらせたかったのもあります、某四コマから離れさせたいし。
・・・あの言葉を形を変えて使う予定です、というか逆説的というかひねた感じで使うかも。

うっちー様
ええはい混じってました、姫の身長低めなので混じっても不自然はないでしょう・・・医者は居ないが道士と正体不明がついてますが。
ここの姫様のコンセプトは目的は心情的に納得できる、但し行動が破滅的・・・行き当たりばったりの我儘貴族って感じです。



[41025] 第二話 幻想の命・五
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/05/11 20:11
ドンドンドンと神社の不可視の壁が揺れる。
援軍で士気の上がった兎の弾幕、それと二種類の矢によるものだ。

「……派手にやってくれるよなァ」
「いや全くですね……」

矢による嵐のような攻撃から間一髪、神社の閉鎖空間に逃げ込んだ一方通行が疲れた様子で嘆息する。
それに答えるのは涙子、一方通行に気づき咄嗟に遮断を解除して中に迎え入れたのだ。

「ま、まあ一方通行さんが来てくれたのは助かりました、兎だけならともかく姫君……それに布都ちゃんまでと成ると厄介ですし」

外の面子に涙子は頭を抱える、また布都に関しては彼女以上に参っている者がいた。
視界の端で自棄酒をかっ食らう屠自古の姿が在った。

「畜生、あの馬鹿仙人……前回太子に怒られたばかりなのに、懲りろよう……」
「どんまい、蘇我の!」
「……くっ、同情するな、逆に辛い」

慰めようと肩をポンポンと芳香が叩き、が逆効果だったようで更に沈んだ。

「畜生、もう奴なんか知るか、私は無関係だ!」
「え、あいつ、蘇我の一族だった気がするんだけど」
「……ははは、芳香は何を言ってるんだ、あれは物部の出だ、蘇我では無い!」
「え、あれ、嫁入りしたんじゃ……」
「そうしたのは父上だし、私には無関係だから」
「……血縁上で思い切り関係しているような?」
「……ははは、仮に関係しようが互いに千歳超えてるんだ、あれの責任等取れるか!」
「うわあ、ゴリ押しする気だあ……」

どうやら現実逃避してるらしい、一方通行と涙子は向こうから目を逸らす。
そしてこの後どうするかを考える。

「アイテムの連中は外に居る、矢は俺に集中してたから逃げれた筈だ。
……一旦離れて様子を窺ってると思うから、俺達が仕掛ければ合わせて動いてくれるだろう」
「援護は有ると……煙幕程度でしょうが十分ですね、数の差が幾らか誤魔化せますから」

二人の考えは籠城ではなく外で乱戦に持ち込むことで一致した。
というのも相手の狙いが神社の中に居るからだ。
チラと、一方通行はルーミアの隣の少女を見る、ずっと震えている、だが外だけではない。

「狙いはあいつだな、何故狙うかわからねェが……みすみす奪われるのも癪だしなァ」
「ええ、とんでも無い存在かも知れませんしね」
「……まァ怯えて警戒心露わで護衛するのはちょいと面倒だ、主に誰かのせいだが」
「うぐっ、いやあの、同種ぽいでかい赤子と天使もどきを両方知ってて……で、無意識に重ねて警戒しちゃったようで」
「…………はあ、償ってもらうぞ、これからの働きでな」

敵として出会った二者の存在で過剰に警戒し、それが向こうからの警戒に繋がってしまった。
事態をややこしくした涙子は小さく縮こまり、一方通行は嘆息しながらジト目で見やる。

「……ま、俺らのすることは外へ出て叩き潰す、それだけだ」

とはいえ涙子に言いたいことはあるもそうしている暇はない、一方通行は立て続けに轟音のする外を睨んだ。

「ええ、外で戦いましょう……早速行きますか?」
「いや、少し待つって手もあるか……」
「こちらの援軍が?……あ違うか、首を突っ込む物好きが居るかもしれないと?」
「ああ、これだけ派手にやってるンだ、誰かしら気づいてくれるだろう……善意か唯の暇つぶしか、それはわからねェが……」

一方通行の言葉の意味にその『同類』である涙子はすぐに気づく。
今の学園都市にはそういうのが居る、味方ではないかもしれないが敵の敵に成ってくれる連中がそれはもう沢山居るのだ。



第二話 幻想の命・五



封獣ぬえ、古代の都の関係者で組んだ面子の一人だが彼女が学園都市に来たのはそれだけではなかった。
正確には別口のようで来た所を輝夜に呼び出された。
彼女は元々『友人』と学園都市で待ち合わせていた、丁度ライバルの宗教家が増え寺が忙しくなるのでその『応援』として呼んだのだ。

「……だというのに奴は来ん、酷いと思わぬか、聖殿」

そして、呼んでおいてすっぽかされた狸耳の眼鏡の女性は目を吊り上げ愚痴った。

「あらまあ、ぬえったら何か気を取られることでも有ったのかしら、彼女移り気だから……」
「それは知っている、だが待ち合わせ場所の空港に一人というのは退屈で……だから前持って聞いていた聖殿の友人宅に来たのじゃ」

聖に土産の焼酎を注いで貰いながら狸妖怪は愚痴り、それを困ったように聞きながら聖も自分で入れた焼酎を飲む。
ぬえが居れば普通に自己紹介しただろう、が肝心のぬえの気紛れで怒る狸妖怪を宥める為に飲み会になっていた。

「……聖も大変だなあ」
「このおしゃけ上手いにゃあ、もう一杯……」
「黒夜、そこまでにしておけ、呂律回ってないから」

おこぼれ貰ったレミリアと黒夜も楽しんでいる、人外のペースに合わせたことで一人撃沈したが。

「それにしても……聖の仲間の、ぬえだったか、放っておいていいのか?」

べろべろに酔いながらまだ飲もうとする黒夜を寝かしつけ、それと並行しレミリアが狸妖怪に問いかける。
すると軽い調子で彼女は答える、がその内容には幾らか聞き逃せない部分があった。

「心配いらんだろう、西洋の鬼さんや……外であやつの妖気が元気にはしゃいでおる、大方暴れておるだろう」
「……ほう?その話少し詳しく!」

ガシと狸妖怪の肩を掴み、聖が真顔で聞いた。

「あ、しまった、生真面目なのに言うことじゃないか」
「……もう素直に話した方が良いと思うぞ」
「……ぬえ、すまん、だが儂を忘れたことを含めて反省しておくれ」

おずおずと彼女は話し出す、モフモフ言って尻尾に抱きつく黒夜(人形好きだからか抱き着き癖があるようだ)を張り付かせながら。
数分後、超人住職が身内を反省させるべく出陣し、また暇潰しになるかと気紛れ吸血鬼も共に出て行った。
残された狸妖怪は彼女を怒らせまいと固く決意した。



「……河童、もうっ、あいつの正体早く教えてよ!」
「そう言われても、気付かなかったあんたが抜けてただけだって……」
「良いから走る、チルノちゃんも川城さんも!」

ダダダッと夏から秋に変わりゆく学園都市を三人の男女が走って行く。
暫くずっとうんうん唸ったがチルノは輝夜を結局思い出せず、偶々ひったくり事件の被害者の老人と居たにとりに教えてもらった。
そこで正体を知り嫌な予感がし、チルノと上条は追ったのだ(にとりだけは何となくついてきただけだ)

「うう、あいつ、滅多に外行かないし、宴会にもあんまり顔出さないからわからなかったの!」
「まあ確かにそうだけどね、何でここに来たんだろ……」

元々外に出ないのでチルノが忘れたのも仕方ない、にとりも薬作りに長けた河童として天才薬師の関係者が印象に残っていただけだ。
だから、それ故に何故かその輝夜が外に居るのか気に成っていた。

「……ぶっちゃけるとチルノちゃんのとこ、その関係者は大体碌なことしないもんなあ」
「あ、あたいは違うよ、かみじょう!……あ、でも夏の時とか、否定できないや!?」
「吸血鬼筆頭に色々やったしねえ……」

そしてそれ抜きにしても無視はできない、幻想郷関係者は夏休み散々暴れたのだ。
そういう事情も在って三人は念の為に輝夜を追っていた。
が、それを許さない者達が居た。

ドガガッ

「止まるウサー!」
『うわっ!?』

三人の足元に弾幕が打ち込まれ、彼らは慌てて立ち止まる。
そして、うさぎ耳の少女達が現れた。

「……かみじょう、輝夜の仲間だ」
「こっちに来たのは確かか……」

小声で話す二人に気づかず、兎達は有無を言わさぬ強い語気で警告する。

「警告ウサ、それ以上先に行くなら鎮圧するウサ!」

言うと全員が大きな杵を掲げる。
普通の餅つきの道具だが、彼女達は明らかに鈍器として使うつもりのようで物騒極まりない。
これを見た三人はがっくりしたり頭を抱えたりする、案の定碌でもないことに成っていた。

「……当たり、みたいだね」
「ああもう、やっぱり厄介事かよ……」
「でどうするの、氷精に盟友?」

一人だけ呑気なにとりの問いかけに、チルノと上条は向こうに聞こえないよう小声で答える。

「それは……」
「とうぜん」
『……突破して先に行く!』
「そりゃそうか……援護射撃程度ならしてやるけど?」

輝夜へ行った方に来て早々の検問に二人は疑いを強くした。
強行突破を決意した彼らに、ならばとにとりは手元でころと手榴弾(火でなく水が出るが)を転がす。

「……頼む、それで混乱している間に彼女の下へ」
「おっけー、三つ数えてから投げるよ……一二の……」

にとりは数えながらそっと振り被った。

ドゴンッ

が、二の部分で大爆発が起き、にとりは慌てて体勢を崩しかけた。

「……ひゅい?まだ投げてないよ!?」
「違う、あっち……向こう、隣の区の方からだ!」
「何だウサ!?」
「別働隊が侵入者と戦ってるウサ!」

上条達三人、いや兎達までもが慌てた。
何が起きたのかは直ぐわかった、爆発の方から数人の影が現れる。
僧服で紫に金の髪の女性、それに青い髪に蝙蝠羽の少女が兎に追われて来た。

「あれはレミリアに……」
「……巡回の時に会った聖さんか?」

ブンブン振り回される杵をかわす二人もこちらに気づいたようだ。

「おや何時ぞやの……」
「チルノに上条だったか……よう、二人共、お前等はどっち側だ!?」
「どっちと言われても……輝夜って人と会って、気になって探してるところだ!」
「こっちは寺の仲間のぬえという子を探しています……気紛れな子で、少し嫌な予感がして……」

殆ど叫びながら上条達と聖達は事情を説明、この会話に兎達が動揺する。

「ぎくウサ!?」
「これはやばいウサ、総員奴等を倒して、姫を守るよ!」
「同盟員のぬえにも会わせる訳にはいかないウサ!」

慌てた兎達は殆ど答えを言っていて、これにより上条とチルノも聖も大筋を理解する。
彼らは苦笑しながら顔を見合わせた。

「ねえ、かみじょう、これって……」
「ああ、そうだね……提案が有ります、聖さん」
「……予想つきますが、どうぞ」
『……共闘できる?』
「ええ、喜んで」
『ぎゃああ、藪蛇ウサ!?』

向うに対し彼らも同盟を組んだ、自分達の反応がこれを招いたことに気づき兎達が悲鳴を上げる。

「……やっぱ何かするなら、身内だけで企むのが良いのかねえ?」
「それが出来るのは限られるって、吸血鬼……質ならあんたら、量でうちら山の妖怪くらいさ」

尚着いてきただけのレミリアとにとりは後ろで呑気にくっちゃべっていた。
兎達の唯一の救いはこれくらいだろう、尤もマイナスでこそ無いがプラスでも無かったが。

「とりあえず防御は俺だな、弾幕は全部落とそう」
「それじゃ援護はあたいだね、皆凍えさせてやる!」
「……即興の組み合わせですし、私は遊撃に回ります、前衛と後衛の必要な方に行きましょう」
『あばばば、あいつ等やる気ウサ!?』

後ろを他所に上条とチルノ、それに聖はやる気満々で構え、兎達は真っ青な顔で怯える。
この三人により、古代の日本の都トリオと取り巻きの兎達の思惑は崩されようとしていた。
そもそもそれぞれの因縁が原因なので正に因果応報だが。



そして、全ての中心である神社でも大きな動きがあった。

「あの、そこの白い……」
「……一方通行だ、何だ?」
「き、聞きたいことが有るんです、少しいいですか」

外を気にしていた一方通行はいきなり声を掛けられた、何かを決意した氷華だ。
これに一方通行は少し顔を顰める。
というのもその訳に予想が付くから、彼は氷華にある表情を見せていた。
彼は一目で氷華の正体に気づき、それを表に出してしまったのだ。

「……自分のことでも、聞きてェのか?」
「は、はい!」

こくんと頷く氷華に一方通行は嘆息する。
彼女がAIM拡散力場(不可視のエネルギー体で能力の源)だ、姿は幻覚等で、伴うべき実は空力操作や熱量操作で拵えたのだろう。
おそらく学園都市中の能力者のAIM力場でできている、それには一方通行の分もある筈だ。

(……と言っても受け入れられるか、混乱するだろうし)

が、その恐れがあって一方通行は言うか迷った、これ以上ややこしいのは御免だ。
だが、そうは言っても知らずにいるのにも限界がある。
外の目的である以上土壇場でそれがわかるのも色々面倒なのだ。

「正体に目星は付いてる、推測が混じっているが……話してもいいが『そっちの二人』も同席しろ」

だから、リスクと天秤に掛けて一方通行は条件付きで頷く。
氷華の左右で二人、ルーミアと心理定規が不思議そうな顔をする。

(最初に一緒にいたのはこの二人だ、そのことは……この先の展開によってはそれなりの意味があるかもしれねェ)

全て知って尚支えてくれるかもしれず、パニックになっても御し得る貴重な存在といえる。
それ故に一方通行は二人を指名する。
ルーミアは一度仲良くなれば見捨てない、そもそも保身と言った難しいことを考えないとも言うが。
心理定規の方はそれと少し違う理由だがやはり離れないだろう、彼女は似た存在を知っている。
『彼』は成り上がる為に人間性を捨てようとし、氷華は逆に人間でない者が人間性を手に入れた。
同じではないが似ているから、会ってから然程経ってないのに氷華を受け入れ、その気安さにより向こうからも懐かれているのだろう。

「余り長くは話せないと思うが……全く時間が無い訳でもねェ、推論でいいなら話すが聞くか?」
「……はい、お願いします!」

外からの音は続いている、まだ猶予があるうちに一方通行は彼女、いや彼女達に話す事にした。

「風切氷華、手前ェは人間じゃねェ」
「えっ……」
「……だが、これまでの記憶、体験は間違いなく自分の物だ、それを忘れるな……そっちの二人との時間もだ」

一方通行の言葉に氷華は呆然とし、だが、左右から手が伸ばされる。
ギュッと握られた手に氷華は力づけられ、その震えが収まった。

「……大丈夫です、続けてください」
「ああ、それでいい……(やれやれ今は何とかなってるが賭けだな、流れ次第ってのが厄介だが)」

氷華とそれを支える二人を確認し、一方通行は自分が気づいたことを話していく。
科学の天使を巡る戦いは新たな段階に入ろうとしていた。




少し唐突ですがここで一旦中断、量的に他に切りどころが無くて・・・
聖たちが参戦とこれで登場人物は出揃いました、そろそろ後半戦かな。

以下コメント返信
九尾様
弓持ちに囲まれて、ぬえ(矢で撃たれたし)は少し辛そうです・・・実は目立つUFOによる目印と言う役目が本命だったり。
・・・やっぱかぐや姫といえばお爺さんおばあさんとの関係を書くべきでしょう、特徴的にわかり易いし。

坊様
いやこれまででモブだったから出番やりたかったというちゃんとした理由も有りますよ、正体不明同士の出会いも当然狙ってますが。



[41025] 第二話 幻想の命・六
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:307da9d2
Date: 2015/05/30 20:33
ウサウサウサ

「メーデー、メーデー……周辺の部隊を集めるウサ!」
「足の速いのは後ろの本隊にも通達ウサ!」

兎達は半ばパニック状態に成りながらも立て直そうとする。
即席で三人による士気はズタボロだ、それでも戦えるのは元軍人の上司の教え、鬼教官のシゴキによる高い練度のおかげだ。
だが、それとて限度はある、瓦解しかける前線ではそれも風前の灯火だ。

「攻撃は俺が止める、唯数並べて撃っても……後ろには届かない!」

パキィン

「そ、そんなの有りかウサ!?」

上条の拳の一振りで、兎達の弾幕は瞬時に消え去る。
それで動揺し兎の動きが止まった瞬間上条が後方に飛び退き、それと入れ替わるようにチルノが前に出た。

「……ようし、今度はあたいの番だよ、パーフェクトフリーズ!」

ビュオオオッ

「ぎゃあああ、容赦ねえウサ!?」

突如吹き荒れた風、一季節程早い大寒波が兎達を吹き飛ばす。
凍えながらフラフラと立ち上がる彼女達だが、そこへ三人目の攻撃が来た。
尼僧が印を組みながら高く飛び、豪快な飛び蹴りを放つ。

「追撃と行きましょう……はああっ、ガルーダの爪!」

ドゴスッ

「……あ、これ駄目ウサ!?」

この一撃で数羽の兎が纏めて吹っ飛び、その兎に当たった者もまた吹き飛ばされる。
瞬く間にそれは連鎖し、兎達はバタバタと倒れていった。

「……ぐぐ、せめて時間を稼ぐよ、遅滞戦術へ以降ウサ!」
「ああもう、後はてゐ様に任せるウサ!」

目の前でバタバタと倒れていく仲間に、生き残りの兎達は勝利を諦める
彼女達は肉壁による時間稼ぎに移りせめて後方の本隊何とかすることを祈ったのだった。

「……やっぱあの兎共、妙に士気やら練度高いよな、月兎の教練の賜物かねえ?」

後方で呑気に観戦するレミリアはメイドと共に永遠亭に押し入った時を思い出し、関心したように呟いた。
実は部下(所謂道中の雑魚)まで含めると永遠亭は結構な危険スポットだったりする。
同時に部下でこれなら上司は当然更に強力ということでもある、上条達はチラと互いを見た。

「無視して突破できると思う、二人共?」
「うーん、流石に無理そう、抜けても皆やる気だから多分追いつく……でもっと強いボスと挟み撃ち?」
「同感です、ぬえに早く会いたいですが……やはり確実に無力化していくべきでしょう」
「……それしかないか、時間稼ぎに付き合うことになるが同じやり方で行こう」

はあと嘆息して三人は兎達の削り合いに近い戦いに挑むのだった。



第二話 幻想の命・六



「……私は人間ではないんですね」
「まァ、人かそうでないかで言えば……そうだとしか言い様がねェな」

困惑し氷華は己の手を見つめる、動揺が反映したかザザとブレるように映って彼女は傷ついた表情に成った。
一方通行はバツ悪そうに髪をガリガリかいた。
流石に不味いとチラとルーミアを見て、彼女を例にフォローする。

「……だが、人ではないって言うならそいつだってそうだ……お前とは違うがそいつも人間ではない」
「そ、そうだよ、友人同士お揃いってことで何か良いじゃん!」
「ルーミアちゃん……その、慰めが下手ですね」
「うっ、咄嗟なんだから突っ込まないでよ!」

フォローのようでそうでないような微妙な言葉に氷華は苦笑し、ルーミアは恥ずかしそうに赤くなる。

「まあ重要なのは……感情とか理性とか、そういうのは有るかじゃねェかと思うが」

(慰めは上手くはなかったが)上手く解してくれたルーミアに感謝しつつ、一方通行は話を戻す。

「……感情に理性、人ではない私にも有るんですか?」
「それをどう定義するか、だな」

そう前置きしてから一方通行は話を進めていく。

「まァわかり易く便宜上それを心と呼ぶとして……今まで、特に対人関係で判断すればあるし、科学的見地では無いな」
「……どっちなんです?」
「どの要素を重く見るかね、一方通行」
「ああ精神系の能力者なら話が早ェな、暗部の……」

ある味方では心が有り、別の見方では無いと一方通行は良い、首を傾げた氷華の横で心理定規が納得したようだ。
彼女は氷華の頭を撫でながら説明する。

「極端な話ね、一部の例外を除けば感情は脳内の電気情報よ……脳が有れば心は有るわ」
「身も蓋も無ェ話だがな……少なくとも首無し死体は愛も憎しみも語らない、そもそも死ンでるンだが」
「ならAIMである私に心は無い?でも一方通行さんはさっき有るとも……」

困惑する氷華に一方通行と心理定規は微妙な表情で続ける、共に例外を知ってるからだ。

「……能力で作られた某超能力者の分身は、まァ大分イカれてたらしいがな」
「本人から切り離された何かにも、元となる能力者の感情、そうね……残滓とでも言うべき物が残ってればそれにも心が有るかもね」
『影遊びみたいな物だが(だけどね)……』

離れたところから投影した物が生き物のように動くことは有る。
これは単なる操作だが、ある意味で氷華に当てはまり、同時に微妙に外れても居る。
AIM拡散力場である彼女に元はあるということに成る。

「もし私が嬉しいとか悲しいと思っても、それは私を構成するAIMの元の誰かの?」
「……誰かの記録を最稼働したとでも言うの、リアルタイムで私達の行動に一喜一憂したじゃない」

が、心理定規は否定する、会ってから彼女はどう見ても自律していて一概に元の影響とは言えない。

「……まァ決めるのは少し早ェな、まだ半分だ……生き物にしろ唯の物にしろ、外部刺激に反応するのが普通でこの辺は難しいンだよなァ」

それが人でも、人以外の生物でも、唯の物質でも周りに合わせることは有る。
ここで重要なのは身も蓋もないがそういう味方では全て同じということだ。

「例えば……憎しみを抱いた誰かが作った殺す機能を持った道具が有るとしよう、それは感情があるか?」
「……憎しみだけなら有ると、解釈次第だけど出来る、少なくとも暗部的には割りと有りそうだと思うけど」
「それなら……友情を発端に作られた、白いシスターを守り続ける半自動人形は?」
「あら素敵ね、随分具体的だけど……有るわ、その人形は心が有ると言ってもいいんじゃないかしら」
「……二人は私がそれだと?」
『……ああ近い、敢て言えばだが』

二人は例を上げながら元から離れた何かで元に準じているが、元と完全に別で心を持つ存在だと結論を出した。

「……人の一要素から成るンだし人に準じた存在で、その上で……それとは別だろう、そもそも数万のAIMじゃ相対的に一人分は薄くなってる筈だ」
「多少こじつけの気もするけど『DNA』の代わりに『AIM』を継いだクローンで良いんじゃない?それなら心が在っても可笑しくないし……」

ここまでの情報を氷華とルーミアは顔を見合わせながら噛み砕いていく。

「少なくとも私は人じゃない……でも心が無いとは限らない?」
「心は脳を持つ者だけ……だけど人の一要素を引き継げば、それに含まれた心の一部も引き継ぐかもしれない?だから脳が無くても例外はある?」
『はい、正解』

最度纏められたものに一方通行と心理定規はパチパチと拍手し、それを口にした二人は微妙な顔に成る。
氷華もルーミアもわかったような誤魔化されたような何とも言いがたい顔だ。
二人はそれを隠さず同時に同じ問いかけをした。

『……結局、どっちなの?』
「知らン、現状どっちも有り得るとしか言えねェし……」
「明確に答えが出る物じゃないのよ、人情と科学……ぶっちゃけ文系と理系で研究者が違うこと言うだろうし」

バツの悪そうな表情で、一方通行と心理定規はそっぽを向いて明言を避けた。

「……第三者に聞きましょうか、ええと佐天さん?」
「人間でなくても喜怒哀楽有るのは居るよ(妖怪全般)脳がなくても同様だし(筆頭吸血鬼)……心が有るって言えばあるよ、自他どっちでも」

それまで離れて聞いていた涙子に矛先をやれば、幻想郷らしい身も蓋もない言葉が飛んできた。
うーんとまだ氷華は迷い、だが少し考えた後ルーミアの方は彼女に抱きついて言い切った。

「なら心はある!私にも氷華にも!……人でなくても脳がなくても、有るって感じればきっとそうなんだって!」
「……え、え?」
「あ、私もそれに賛成……氷華は迷ってるから保留、でも賛成二票で決定ね」
「え、ええ!?」
『貴女には心がある、私達がそう決めた』
「……は、はあ、じゃあそれで」

ルーミアが心が有ると言い張って、それに心理定規が便乗する。
戸惑う氷華に二人はニコと笑い、反論させるかとばかりに強い口調で言ったのだった。
氷華はそれでも少し迷い、だけど何か言うのを諦めて、同時に少し嬉しそうに頷いた。

「お好きに……どっちとも取れるのなら言い切った者勝ちでしょう」
「正解不正解は微妙な線、なら既成事実つうか声の大きさで決めろ……それが一番後腐れが無ェ」

やはり身も蓋もない言葉を言いながら、一方通行と涙子は氷華をルーミア達に任せると外を見た。

「まァ俺の知ってること、言いたいことはもう無い……後はそっちの問題だ、勝手にやれ」
「私達は外に向かいます、安全に成るまでここに居てね、後中が危なければ合図を出すので裏から逃げるように」
「……そっちの緑と札付きはまだ自棄酒するンだろ?そいつ等を見とけ」
『りょーかーい』

身内に暴走に自棄酒中の屠自古とそれに付き合う芳香に言ってから、二人は外へと向かった。
その背に氷華は少し迷った後ペコと頭を下げた後叫んだ。

「……あの、そのありがとうございます、外から守ってくれたり、さっきの言葉とか!」
「あン?礼なら……」
「そっちの二人に……ていうか、私は寧ろ疑ってごめん」

一方通行は面倒そうに手を振り、涙子は逆に謝って、二人は神社から飛び出した。



チャキ

「そろそろあれを破るか……輝夜殿、兎達を下がらせてくれ」

ぬえのUFOの上で布都は視界を妨げる仮面を取る、そして弓矢を取った。

(……あの結界の霊気は佐天か、ならば兄の分も含めて雪辱と成るか?)

そう考えると成り行きで手伝っているこれも少しやる気が出てきた。
ボウっとつがえた鏃に炎が灯る。
兎達の奮闘で結界の薄くなった部分に狙いをつける。

ギリリッ

彼女は限界までつがえた矢を解き放った。

「それでは……行くぞ、前回の仕返しじゃ!」

ヒュッ

風を切って布都の矢が飛ぶ、真っすぐの結界へと落ちていった。
だが、その瞬間結界が自ら裂けてそこから涙子と一方通行が現れる、まず前に出た涙子がギュと掌を握った。

「……集まれ、水気よ……そして現れいでよ、水の蛇!」

加護受けし天神の代名詞、雷光と暴風雨、後者の力を彼女は操った。
掌の中に待機中の水分が恐るべき密度で凝縮され、限界までそうした後その場に垂らす。
水は長く伸びると鎌首をもたげた後大顎を開いた。
それは巨大な蛇だ、そしてグワと布都の矢を文字通り食い止める。

「くっ、あちらから来たか……火と水、ならこの後は勿論……皆気をつけろ、目眩ましが来るぞ!」
「……はい正解、水蛇ちゃん、散っちゃって!」

ブワと水の蛇が崩れた、いや咥え止めた矢の炎を利用し霧となったのだ。
それに合わせ、どこかから煙幕弾が投擲される。

「アイテム、やっぱ居たか」
「ふふ、当たり前って訳よ!」

煙の向こうからフレンダの元気の良い返事、霧に合わせて彼女達が煙幕弾を放ち兎達の連携を滅茶苦茶にする。

「一方通行、やっと戻ったか……今のうちに行け!」
「……おう、この隙は逃さねェ」

続いて浜面の言葉に言われるまもなく一方通行が駆け出す。
ダンと踏み切り、兎達を飛び越えて頭上の飛行物体へと跳んだ。
両手に風を纏い全力で放とうとする。

「くっ、落とされる訳にはいかない……永琳、技を借りるわ、神代の系譜!」

ガガガッ

輝夜が放った矢は光弾に変わり、何本も枝分かれしながら一方通行へと襲いかかる。
が、彼はこの迎撃を読んでいた。
無造作に右腕を一閃したのだ。

「邪魔だ!」

ゴウッ

激しい風が放たれ、光弾を吹き飛ばしていく。
そして、風で相殺してこじ開けた隙間へ降下、今度は左腕を振り被った。

「これで落ちやがれ!」
「おおっと、させないっての……私のもんだしね」

ガギィン

突き出された三叉槍が一方通行の拳を受け止めた。

「……ちっ、邪魔すンじゃねェよ、黒いチビ」
「お生憎様、私は誰かの邪魔が好きなのさ、白いガリ」

ギリギリと拳と槍が拮抗する、そしてここで既に攻撃した布都が体勢を立て直した。
彼女は矢を手放すと刀を、切っ先の欠けた刀を握った。
夏休み彼女の兄が使った物、それをその時彼と戦った一方通行に叩きつける。

「兄の仇!」

ギィン

咄嗟に右上で受け止めて、一方通行は相手の言葉に言い返す

「……いや、そりゃお前だろ」
「細かいことは気にするな、もう時効じゃ、それは兎も角……ぬえ、此奴を離す、同時に行くぞ」
「おう、任せな、同郷!」

ドガガガガッ

「くっ、間合いが……」

赤と黒、二人掛かりの弾幕を受けた一方通行が地上へと叩き落とされた。
が、入れ違いになるように影が跳んだ。
それに、一方通行は小さく風を合わせるように放つ。

「一方通行さん、大丈夫!?」
「……佐天、俺はいいから風だ、足場にして翔べ!」
「……はい!」

タンッと涙子は一方通行の風を蹴って跳んで、更に途中で自前の加護の風で更に高く飛ぶ。
そして一気にぬえの飛行物体の上を取ると、頭上から霊気を練り固めたクナイで狙う。

「ここは三人同時に……」
「……ちっ、ぬえ、すまん?」
「ほえ?」
「……とうっ、足場と成れえ!」
「へぶっ!?」

が、布都は隣のぬえの肩を蹴り、更に頭を踏んで高くジャンプすると涙子に並んだ。
慌てて涙子は持っていたクナイの一つを放った。

「くっ、邪魔するな!」

キィン

が、布都は切っ先の欠けた霊刀で払い、更にそれを涙子に突き付けた。

「……ふっ、兄よ、感謝します」
「おい、主犯……はあ、流石に大将狙いは行き成り過ぎたか、まずは布都ちゃんからだね」

本当は輝夜狙いだがこれでは仕方ない、涙子は布都へ集中することにしクナイを左右に握った。

「……上は布都が、下は……てゐ、やれる!?」
「任せて、姫様……あ、玉(弾)の枝、もう少し借りても?」
「ええ、どうぞ」

一方で、地上では白い超能力者と白い兎耳の少女(但し腹黒)が睨み合っている。
わらわらと霧と煙に苦心しながら他の兎もその周りに集まってくる。

「悪いね、今度は全員で掛かるよ……姫の為にも負けたくないんだ」
「好きにしな、それなら先にこっち片付けて……その後上に行くだけだ」
「……させないよ!」
『てゐ様に続くウサ、あいつを止めるウサ!』
「悪ィが退いて貰う、行くぜ」

ズガガガガガッ

てゐと兎達は姫への忠誠心でギラギラと赤い目を輝かせ、だが囲まれながらも一方通行は余裕を持って兎達に相対する。
全方位からの光弾と全方位『への』風、量と質という対極の戦いが始まった。

「……ここはてゐに任せるか、蓬莱人とて霊力切れはある、ところで……ぬえ、大丈夫?」
「頭が痛い、後舌切った」
「あらあら……」

足場にされたぬえが頭上で涙子と撃ち合う布都を恨めしげに見上げた。
輝夜は苦笑して彼女の頭を撫でてやる。

「いたいのいたいのとんでけー……ああ、普通に薬出せばいいか」
「……最初からそうしなよ、迷信なんかじゃなくて」

ある天才から貰ってあった、自分には必要ないが仲間用の薬である。

「……はい、永琳印、凄い苦いけど」
「後半余計……あ、本当に苦い……」

顔顰めながらぬえは頭と舌に塗っていく。
但し薬効は確かで直ぐに痛みが消える、これにはおおと感心した。

「あ、凄いじゃん……寺に置き薬頼める?」
「まいどー……布都もそうしたがってたし、こりゃ暫くいい物が喰えそうね」
「へえ、布都も?」
「ほら、聖徳太子って後年病気がちだったでしょ……仙人に成っても心配なんだって、私に近づいたのもそれ」
「ははあ、それでか……主思いねえ、多分今回の件で怒られるけど」

輝夜とぬえは布都の今後を思ってクスと笑った。

「ところで輝夜……」
「何?」
「結界内に『種』を送り込めた、目標の子を捕まえられるかも」
「あら、流石伝説の大妖怪……抜け目無いわねえ」

黒い『何か』が涙子達の出てきた結界の穴に進入する、当然向うも直ぐに閉じたがその前に飛び込んだ数㎝の小型物体に気づけというのは酷な話だ。
シュルとうねる矢印、あるいは目も口も無い蛇とでも言うべき物体だ。
正体不明の何かは『燕の子安貝』を目指し、結界内を突き進んでいた。





何かぬえの操る『種』が色々融通利くようなので滅茶苦茶やってます、(一部の)公式描写から拡大解釈って程ではないと思う。
まあそろそろ氷華達にも一波乱ないとね・・・

以下コメント返信
九尾様
案外ぬえもノリノリかも、異変の時連続で酷い目にあったからその分までって感じで・・・でそこを聖に怒られると、ええこれは南無ですね。
書いてて人間性を得た存在というのは東方と親和性高いなと思います、先のことですが九十九神の方々と会わせたいですね。
・・・凍えは誤字です、いや本当に・・・何でチルノ絡みでピンポイントに間違えたのか、とんでもないネタ失礼しました。

うっちー様
ええ、数少ない常識人が一緒で心強いでしょう、それ以上にレミリアが見てるだけなのも(・・・後者が特にそうかも)



[41025] 第二話 幻想の命・七
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/05/30 20:33
第二話 幻想の命・七



『総員、弾幕放てえウサ!』
「洒落臭ェ、真正面から……押し返す!」

バラバラと一方通行に向かって四方から弾幕が放たれた。
だが、一方通行が軽く手を払うと彼を中心に風が渦巻く、その能力で円状に歪み狂わされ大気が壁と成る。
弾幕は不可視の風の壁によってボシュという音だけ残して消し飛んだ。

「うっ、に、二撃目急い……」
「まだだ、押し返すって言っただろ……散れ」

攻撃を防がれた兎達が再度攻撃しようとしたが、今度は一方通行が先に動いた。
彼はもう一度手を払う、すると風の壁が崩れて数個に分裂し、球状に圧縮された空気塊と成った。

「ま、不味っ……子兎達、防御陣形だよ、急いで組み直して!」
『り、了解ウサ!』

てゐは慌てて部下に指示を出し、素早くそれに従って妖怪兎は数匹ずつに分かれ隊列を作った。
スクラムを組んだ兎達は同時に弾幕を放って風を迎撃した。

ドガンッ

圧縮空気の弾丸と光弾の水平射撃が相殺、余波によってバッと派手に土煙を巻き上げた。

「ちっ、不発か……で、ここで来るンだろうな」
「ウサウサ、当然だっての、今度は攻撃陣形だよ!」
『了解ウサ!』

スクラムはそのままそれを維持した状態で前進する。
全ての兎達が木の杵を振り被って、遮二無二突進を仕掛けた。

ズドドッ

『総員、構え……撲殺ウサ!』
「……物騒な絵面だ、ファンシーな外見な分尚更そう感じるな」

微妙に悪夢に見そうな光景に一方通行は思わず嘆息し、だがその演算能力は一瞬も止まらない。
まずは彼は三度風を放つ、左右と背後への風で兎を牽制した。
その後今度は足を一振り、ドンと思い切り地面を蹴りつけた。
ドンドンと地面が内から弾けて土塊と石を巻き上げた。

「三方向へは風で……残りの正面にはこれだ、ふっ飛べや!」

真正面から大量の土砂を浴びて兎達が押し返された、彼女達はゴロゴロと転がって悲鳴を上げた。

「うわわっ、子供相手に容赦無いウサ!?」
「……黙れ、姉貴のとこの連中は年で判断しねェ!」

それは教訓だ、紫やスカーレット姉妹で痛い目を見て嫌というほど知っている。
だから一方通行は相手が女子供の姿形をしていても油断しない。
そして、それを実証するように兎を指揮する兎耳の少女が仕掛ける。

「仔兎達の犠牲で霊力チャージ出来た……こいつを喰らいなあっ、白いの!!」

砂塗れで転がる兎の横をてゐが駆ける、その手に蓬莱の玉(弾)の枝がギラギラと輝く。
枝に実った実が輝く、それは膨れ上がり大弾と成った。

「行くよっ、蓬莱の弾の枝……虹色の弾幕!」
「……ほらな?だから油断ならねェンだ、こいつ等は」

バアッと色とりどりの弾幕が連続で撃たれ、やや大きめの弾がゆっくりとだが規則正しく広がっていく。
弾の大きさと精密な陣形のせいで避け難く、またゆっくりとした動きだからその場で残って却って軌道を読むのは難しい。
弾幕の距離が離れていたら対応できただろうが(実際距離を取るのがこの弾幕に対する定石だ)兎達の対処の間に近づかれた。
それにより最大限の霊力かつ至近距離からというてゐにとって最高の状況だ。

「ウサウサ、これなら……吹っ飛べ、邪魔者!」

てゐがニヤリと笑う、その視線の先では一方通行が先頭の大弾を受け止めたところだ。
だが、直ぐに後続が彼を襲うだろう。
瞬く間に打ちのめされる姿を想像し、てゐと兎達は勝利を確信した。

「……甘ェ、足元が空いてるぜ」

その瞬間ドンと、弾幕を押し留めていた一方通行が地を一蹴りした。

「へ?……うわっ!?」

一瞬辺りがグラと揺れた後てゐの足元が弾け、フワと一つの小石が浮かんで弾幕を発し続ける蓬莱の玉(弾)の枝へ吸い込まれるように浮かんだ。
衝撃が走り、その根本が強引にブレさせられ弾幕の軌道が乱れる。
更に一方通行は僅かに空いた弾幕の間隙へ突進し、その場に押さえ込んでいた大弾を叩きつける。

「おらっ、返すぜ!」

ドゴンッ

大弾による余波が更に弾幕に風穴を開け、一方通行はそれを悠々と抜ける。
彼は一気にてゐの前まで踏み込むと徒手と成った拳を振り被った。

「うげえ、来た!?」
「……まずは『この場』の頭からだ!」

が、カツンとその間に無数の杵が突き出され、てゐまでを完全に遮る厚い壁を作った。

『……させないウサ、インターセプトだ!』
「ちっ、他のが追いついたか……」

土砂で吹き飛んだ兎、それに四方に散っていた兎達が再集結し一方通行とてゐを分断する。
その上組まれた杵の隙間の向うからキラキラとした輝きが見えた。
てゐが弾幕の為に再度霊力を貯めているのだ。
彼女も兎達もまだ諦めていない、その上勝つのではなく時間稼ぎでも十分なのだ。

「これは少し不味ィな、有効打は来そうにねェが……」
「ああ、粘ってやるよ、能力者は能力を使うのに集中が必要だってね?……知恵熱が出る程粘ってやるぞ!」
「はァ、捨て身とはなァ……姫様だったか、部下に大した人気なこった、こっちにゃ迷惑なだけだが」

一方通行は相手の戦意溢れる様に思わず溜息をつく、覚悟出来過ぎていて厄介だ。
その上チラと頭上の涙子を見上げればそちらも思わしくない。
彼女は布都と刃越しに睨み合っていて、もう一度一方通行は嘆息した。

(……長引くと相手が何するかわからねェ、その辺突拍子のないことばっかするから郷の連中は怖ェンだが)



「布都ちゃん、覚悟っ……うりゃりゃ!」

涙子が両手に持つクナイで布都に斬りかかった。
手数重視で絶えず仕掛ける、だが布都は冷静に構えた太刀と更に引き抜いた鞘で捌いていく。
そして、数度目の攻撃を防いだ所で反撃に出る、ボッと刃の先に炎を灯して突き出した。

「はっ、そんな切れ端のような刃で……物部の宝刀を止められるか!」

ガギィン

咄嗟に涙子がクナイを交差させ、が一瞬で太刀が帯びる炎に溶解される。
無手と成った涙子へすかさず布都が追撃する。

「更にもう一発……喰らえいっ!」
「……させるか!」

素早く涙子は体を捻り、その長い髪をバアッと振り上げる。
するとそこから飛び出した数頭の水の蛇が刃を文字通り食い止めた。

「むう、邪魔をするでない……」

苛立しげに蛇を睨んで彼らを切り払おうとしたが、そこで涙子が体勢を立て直す。

「今度は……こっちの番だよ、おらっ!」

山での修行期前後に意気投合した鬼の鎖、服の内側で腰に巻いた物を素早く抜いて構える。
そのまま腕に絡みつけて即席グローブにすると殴りつけた。

「うわっと!?」

慌てて身を竦めて布都はかわす、が更にそこで鎖が伸びた。

「むむむ、なら……伊吹童子直伝の鎖捌きだ!」
「ちょ、物騒すぎるぞ、お主!?」
「布都ちゃんが言うな!?」

言い合いながら二人は再度離れ、その後涙子は残念そうに肩を落とす。
涙子は鎖を拳から解いて投げつけたのだがそれは豪奢に装飾された鞘、布都が咄嗟に盾にした鞘に絡まっていた。

「はあ、外れか……なら、次だよ!」
「ええい、まだ来るのか!?」

涙子が鎖を放した後グッと掌を握り締めた。
砕かれ散っていくクナイの残骸を掌中で再び練り固め、更に冷気を一吹きして強固なる刃に作り変えていった。
そうやって生み出した氷と霊力から成る刃を涙子は両手で構えて全力で突き出した。

「行くよ、布都ちゃん!」
「ちっ、刀より弓が得意なのだが、この間合いでは……」

ガギィン

澄んだ刃による刺突を布都は斜めに構えた宝刀で受け止めて、僅かに力負けしそれを補おうと持ったままの鞘を手放し両手持ちに変える。
横に逸らすようにして弾くと素早く反撃に移る、小柄な体を更に縮めて後斜め下から切り上げようとした。

「はあっ!」

ガギィン

「おっと、刃が欠けちゃいそう」
「ちっ……」

が、涙子は刃の根本で抑え込むようにして受け止めていた。

「残念、防御成功だ……布都ちゃん、ちっちゃいから打ち込みが軽いかな」
「そういうそっちは大きくて重そうだな、特に胸が」
「セクハラすんな……欲しいの?」
「ふん、要らんよ、見せてもいい唯一の相手とは死に別れたのでな……まあ神社に行けば会えるが神社の仕事で忙しそうだからやらんけど」

二人は下らないことを言い合った後一瞬互いを睨む。
そして、その後同時に離れ、直ぐ様間合いを詰め直した。

ガギィン

涙子は上段に振り被ると下方へ、布都は水平に構え右から左に、澄んだ刃と宝刀に十字型に交差する。
ギリギリと二振りの刃が拮抗する。
打ち込みは涙子の方が幾らか重い、だが攻撃の瞬間炎を推進力にした布都の一撃は速く鋭い。
結果互角の威力でそのまま押し合いの体勢となる。

「むうっ、粘るね!」
「おいおい我は物部だぞ、弓程ではないが剣も嗜んでおるさ!」
「……これだから刀剣の神とか、その辺の家の出は嫌なんだよ」
「ふっ、褒め言葉と思っておこうか」

涙子は愚痴り、それに対し布都はニヤリと笑う。
その間も二人は相手を睨みつけ、それだけでなく全力で両腕に力を込めて切り伏せようとしている。

(……うう、ちょっと不味いなあ、このままじゃ長引きそうだ)

そうしながら涙子は内心迷う、一方通行と同じように悩んでいた。
そして最悪なことに、そこで涙子は結界内の異変に気づいた。
彼女が予め配置した眷属の気配が消えていた。

(何?毛玉や水蛇……風切さんの周りに残した子達がやられた!?)

それは涙子が兎の出現時に結界内に配置し、彼女と一方通行が攻撃を仕掛ける時入れ替わるように下げて奥の者達の護衛に残した者達だ。
その意味することに気づいた彼女は半ば叫ぶように一方通行に言った。

「一方通行さん、中に侵入者です!」
「何だと!?……ちっ、こいつ等はいい、行くぞ!」
「はい!」

慌てて二人は結界を見て、がその前に布都とてゐと兎達が立ち塞がる。

「おおっと、そうは……」
「させないよ!」
『このまま相手してもらうウサ!』

一同ニヤリと笑い、結界に向かおうとする一方通行達を阻んだ。

「……あ、気づいたようよ、ぬえ」
「もう少しだと思うから、布都達に時間を稼がせて……あ、良し、『繋がった』よ!」

ぬえが送った種は彼女にとって分身のようなものだ、それとやり取りが出来て彼女は会心の笑みを浮かべる。
そして、それと同じくらいの笑みを輝夜も浮かべた。

「流石大妖怪ぬえ、都を震え上がらせただけのことはある……(やったわ、これで……あの人の無念が晴らせる!)」



結界内で突如異変が起きる。
最初に一頭の黒い蛇が中枢付近に現れ、直ぐ様それは膨れ上がる。
黒い墨汁が白い布へ広がるように、数え切れない程の群れへと変わったのだ。
そして、瞬く間に結界内部を巡回する警護の毛玉達を打ち倒し、その勢いのまま最奥部の者達への前へと現れた。

「ザ、ザザッ、見つ……見つけたわよ、幻想の命!」

最初にまずノイズ掛かった声、風切達が慌ててその方を見れば恐らくは最初の一頭を中心に蛇が人の形を取り、声はそこから響いていた。
黒髪に黒尽くめの少女、ぬえの分身が蛇の中から現れ、同じく蛇から形作られた三叉の槍を構える。

「不味い、下がって、氷華!」
「えっ、何?」

氷華達三人の中で唯一素早く反応できたルーミアがぬえの分身へ弾幕を打ち込もうとする。

「……ふふ、まずは邪魔者からね」
「うわっ!?」

が、彼女は悲鳴を上げて吹き飛ぶ。
結界内での戦いは予想外で妖力を殆ど込もっていない弾幕は切り払われ、更に返す刃でぬえは槍を一閃し彼女を打ち倒した。
更に分身を構成する蛇、正体不明の種を後方の屠自古と芳香達に向かわせる。

「待て!」
「るーみあのぶんだー!」
「……おおっと、まだ居たか……私の下僕共の相手をしてな」
『くっ、蛇が邪魔で……』

これでこの場の戦える者は倒れたか手が埋まった、ぬえは己の分身に命じ氷華を確保しようとする。

「さあ大人しくしな、あんたを連れ帰りゃ仕事は終わりだ」
「い、嫌!?」

分身がゆっくりと歩き出し手を伸ばす、氷華は逃げようとするが恐怖でそれはもどかしい程鈍い。
そこへこの場の最後の一人、赤いドレスの女性が同じく恐怖に震えながら阻もうとする。

「さ、させない、氷華に触らな……」
「動くんじゃない、怪我したくないならなっ!」
「ひっ……」

間に割り込もうとした心理定規をぬえは一喝、ギロと人外の輝きを持つで睨みつける。
フラと彼女は気圧されるように後ずさり掛け、何となく『聞き覚えのある』に押し止められた。

『……それで良いのか、ダチなんだろ、心理定規?』
「えっ、垣……」

それは彼女の耳にだけ響いた、同時にフワと一枚の黒い羽がその手に落ちる。

『暗部が、昔のお前が……上の言いなりで馬鹿ばっかやってたとして、ずっとそのまま外道だとは限らない、今から変わってもいい筈だ。
誰も非難しないし資格もある、俺のような後戻りできない不適合者以外……それを使え、スクール所属は持ってて可笑しくない』

まるで「悪党が誰かを助けて何が悪い」とばかりに目の前の人外の存在に抗う武器(能力進化計画で構成員に与えられたのと同じだ)が届けられる。叱咤の言葉に背を押されたような気がして、心理定規は反射的に手の中の羽根を握った。
硬質な音を立てバキバキと羽根が変形する。
一振りの女の手でも使える短剣に成り、どこかキラと非現実に輝いている。

「……離れなさい、そこの黒いの!」
「おわっと!?」

言葉か手の中の武器か、力づけられたように体から震えが消え、心理定規は短剣を思い切り振るった。
突如の反抗に虚を突かれたぬえは慌てて飛び退く。

「そこだ、お返しだー!」
「くっ、宵闇妖怪か!」

更に黒い弾幕がバッとばらまかれてぬえは更に数歩離れ、素早く少しふらついてるもののルーミアが心理定規に並んだ。

「ナイス、心理定規!……私もまだやれる、援護するよ!」
「ルーミア……ええ、お願い!」

二人は顔を合わせた後頷き合い氷華を庇い、その後未現物質の武器を構え、弾幕を展開する。
心理定規にもう恐怖は感じられず、ルーミアも負けじとダメージが感じられない程に強く、彼女達はぬえをキッと睨みつけた。

「ところで……ルーミアのさっきの攻撃、どこかで見たような?あら何故かさっきと別の震えが?」
『考えるな、終わったことだから忘れちまえ……手を貸すのはここまでだ、後は勝手にやれ』

捕食事件のトラウマに気付きかけた心理定規を声が制し、後は部下を信じその気配は去った。
堕ちた男の気紛れが堕ち切ってない女を立ち上がらせた。

「下がってて、私達であいつを何とかする……少しだけ待っててね、氷華」
「心理定規さん、ルーミアちゃん、え、ええと……」
「ごめんなさいとか逃げろとか言ったら怒るから」
「せめて応援してね」
「あう、先に言われ……が、頑張って!」
『ええ!』
「……やれやれまだ掛かりそうだ、悪いね、輝夜」

まだ月の姫の贖罪には届かない、友を守ろうとする二人がいる限りは。




外と中で共に一波乱、尚垣根(オリジナル)の出番は多分これだけ。
・・・次回ちょっと視点を変えるかも、同時進行でもいいけど紛らわしそうなので無いかな?

以下コメント返信
九尾様
割と人外が自我の有無に悩む末言いがちな内容でした、でもまあ一応とある東方共に考えると無難な着地場所なはず・・・輝針城的にNOは無いし。
で、ぬえはその・・・輝夜は大取りで布都が涙子と因縁ありと、比べるとちょっと貧乏籤な位置なんですよね、まあそれでも次回は活躍多めだから。

うっちー様
仰る通り一方通行はNOと言うと色々台無し、かつ更に身内からボコられるという・・・ええ、理性と感情担当が必要でこの二人の抜擢でした。



[41025] 第二話 幻想の命・八
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/05/30 20:34
「ちっ、離れたのが裏目に出たか……風よ、私を結界まで届けて!」

結界内部が危ないと見た涙子は風を吹かす、それを背に受け布都をかわそうとする。
が、そうはさせじと布都は仙術の媒介である皿を宝刀で叩き割った。

「させん、風には風を……風の凶穴!」

布都は風を利用することで追いすがる。
涙子と違い、熱で大気を歪ませ発生させた風で加速したのだ。
並走し真横から殆どぶつかるようにして突破を阻止した。

ドガッ

「きゃ、し、しつこい……」
「ふっ、行かせんぞ!」

横方向からの衝撃で涙子が弾き飛ばされ、更にそこに布都が宝刀を振るった。

ビュッ
ガギィン

「……調子に乗らないで!」

しかし、甲高い音と共にこれは弾かれる。
キッと布都を睨み返して、涙子は両手で持った氷の刃で弾いた。
そこから彼女はその場で大きく一呼吸、呼気に己の気を込めた、山で意気投合した酔っ払い鬼のやり方(火吹き)を真似て反撃する。
すると、涙子を中心にして身を切る程にその場の温度が下がっていく。
己の操る風(五行的に木)と水の気を混合し、増幅させることで爆発的に威力を跳ね上げる。

「すうっ……」
「むっ、来るか、ならばこちらも……」

布都は夏休みの戦いを思い出し、涙子が反撃しようとするのに気づいた。
彼女は素早く距離を取りながら数枚の皿を取り出し、放ると同時に宝刀を振り下ろす。
ガシャンと音がし、その後残骸を中心に激しい炎が燃え盛る。

「……凍てつけ!」
「さて……燃やすか、六壬神火!」

涙子の吐息は小規模の吹雪と成って布都へ吹き、布都の放った炎は辺りの皿の残骸に引火しながら涙子へ襲いかかる。
吹雪と炎は二人の間で衝突する。
ドガッと爆音、そして蒸気は立ち込めた。

「くっ、届かないか!?」
「ちっ、相殺か……次だ!」
「こっちも……」

双方蒸気の隙間から相手の無事な姿を視界に捉えていた。
だから、涙子も布都も急いで次への攻撃の準備に移る。
涙子は霊気を加護受けし天神と相性のいい形、白い白梅の花の形に収束するとスッとそれを翳す。
布都は数枚の皿を取り出した瞬間叩き割り、巨大な火球を同時に数個作り出す。

「天神の雷光よ、来たれ……貴人狂いて、鬼神となる!」
「我が炎を神獣に見立て放つ……熱龍、火炎龍脈!」

バアッと白梅が散り、ドンドンと火球が砕け真っ赤な散弾と成った。
白梅は輝く氷片と火花を立てる小規模の雷光に別れ布都へと、紅い散弾は龍の息吹の如き勢いで涙子へと放たれる。
再び二人の間で互いの攻撃が炸裂した。

ズガガガガッ

手数重視の広範囲攻撃同士が相殺し合い、涙子と布都は似たような表情で舌打ちした。

「ちいっ、押し切れない……ちっちゃい癖に生意気!」
「むう、粘る……ああもう皿を幾つ砕けばいいのじゃ!?」

酷い顰め面で二人は三度目の攻撃準備に入った。
が、その時地上でドゴンと大きな音がし、二人はぎょっとしてそちらを見た。
そこでは何と、一方通行がてゐの大弾を『素手』で焼かれながら止めていた。

『なっ……』
「一方通行さん!?」

その行動に上のてゐ達まで驚愕した、彼は弾くでも逸らすでもなく強引にそこに維持しているのだ。

「お、お前、何を……」
『正気ウサか!?』

すると一方通行はニッと笑った、どこか自嘲的なようにも映った。

「俺等の策、迎撃を選んだのが裏目に出たンでな……無理して帳尻を合わせるしか無ェンだよ!」

そう言うと彼は受け止めた大弾を両手でグッと抑え込む。
能力で強引に制御し解析すると二つに割った、その半分を片手で振り被って上へ、輝夜とぬえの飛行物体へと投擲しようとする。

「不味い、姫様!」
「遅ェ!」

ブンと彼の腕が振り抜かれて光球が飛んでいく、それを見た輝夜達はやや顔を顰め対策を話し合った。

「……無茶する子、こちらも賭けに出ましょうか、ぬえ?」
「了解、足場を散らすよ!」

バッと着弾前に未確認飛行物体が四散し、飛来した大弾をかわし、更に二人はここで別行動に出た。
ぬえは小さくなった飛行物体に残りこの場の始末を、輝夜は地上へ降下し結界へ向かう。
結界内部が黒い蛇、ぬえの能力の産物により割り裂かれたそこへ彼女は飛び込んだ。
そして、てゐと兎達の向うの一方通行へからかうように言った。

「残念だったわね、白い少年……厄介そうだから無視させてもらうわ」
「ちっ、逃げンのか!」
「……だって、貴方は私の目的じゃないし、それに残ったてゐやぬえ達も厄介よ!」
「……まァそうだろうなァ、だが保険は掛けさせて貰うぜ」

一見負け惜しみのような言い返されてキョトンと輝夜は不思議そうな顔をする。
すると彼は残った大弾、奪ったてゐの弾幕をブンと上へぶん投げた。
それが向かうのは涙子と布都の方だ、二人の中心を通るようにそれは飛んで行った。
涙子はハッとした表情で一方通行を見た。

「一方通行さん、まさか貴方は!?」
「……俺がこいつ等の相手をする、手前ェは中へ行け!」
「で、でも……」
「侵入者が既に居て、そこにあの姫とやらまで……中の奴等が保たねェ、早く援軍に行け!」
「……はい!」

僅かに考え込んだが一方通行の言葉は正しいように思えた、コクと頷いて彼女も降下する。
通って行った大弾で布都は来れない、その間に風を受けて地上へと加速する。
それを見た輝夜は慌てて結界に飛び込み、数秒遅れて涙子もそこに身を投げた。

「これで一応援軍は行った……後は俺がどこまで粘れるか、まァ中よりはマシだろ」

一方通行は強引な反撃で痛む頭を振りながら辺りを見回す。
敵の中に一人残り、だけど彼は戦意を湛えたまま風を纏って構えた。

「お前……見掛けの割にいい男だね、大国主様から三段下ってとこか」
『……あ、てゐ様的に最上級の褒め言葉ウサ!』
「褒めてたのか、わかり難い……」
「でも無茶だね、私達と客人の相手までする気?」
「ふっ、てゐ殿、自信があるのだろうさ……何でもこの地で最強らしいからな」
「ふうん、そうなのか、じゃあ手加減はしない方がいいね……道教の方、援護を!」
「おうっ、任せよ!」

相手していた涙子に逃げられた布都まで下に降り、彼女はてゐの隣に並んだ。
彼女はてゐ達を援護することにしたようだったが、だが念を入れるつもりかぬえの方は待機させる。

「ぬえ、そなたは上に残れ……斥候の兎が数隊戻らん、監視じゃ!」
「あいよ、余計なのが来る前に片付けちまいな!」
(……誰かしら暇人が来てるか、誰が来るかは運だな)

多勢に無勢の中で一方通行はせめて問題児でなければ良いなと、心の底から願った。



第二話 幻想の命・八



結界内部でぬえ(の分身)とルーミアに心理定規が睨み合う。
ダメ元でぬえの分身は問いかけた。

「最後にもう一度だけ聞くけど……そいつ、渡してくれない?」
『絶対にNO!』

わかっていたが速攻で断れ、やれやれと彼女は肩を竦め嘆息する。

「はあ、分身でどこまでやれるか、まあ今言っても仕方ないけど……」

今更言っても仕方ない、ぬえは諦めて三叉槍を構えた。
成り行きとはいえ何の収穫なしに引き下がるのも(しかもうち一人は人間相手で)何だか悔しいと、人外故の気紛れさと傲慢さがそこには有った。
そう結論し彼女はルーミア達に槍を突き付けた。

「……それなら実力行使だ、怪我しても文句言うんじゃないよ!」

言って踏み込み、まずは氷華奪取の邪魔と成る二人へ槍を振るう。
が、心理定規がぎこちない動作ながらも、未現物質の短剣で迎え撃った。

「さ、させない、非戦闘員の私でもこの得物なら……や、やあっ!」

ガギィン

振りは不格好で雑だ、なのに異常までの衝撃がぬえの手に走った。

「うおっ!?」
「……良しっ、や、やれるわ!」

拙い手付きから考えられない威力を奇妙な短剣は秘めていた、心理定規はその力に勢い付けられてもう一度振るう。
その攻撃は相手の剣に警戒したぬえにかわされたが、再び未現物質が不可解な現象を起こす。
刃の軌道に沿って空間が歪み、大気が滅茶苦茶に撹拌されて激しい衝撃波を発生させる。

ギュオッ

「わ、わっ……」

突如起こった衝撃波に翻弄され、ぬえが体勢を崩して後退る。
すかさずルーミアが弾幕を展開する。
両手に妖気を集め、連続して光線として放とうとした。

「行っくぞー、ムーンライト……」

二重のレーザーで二方向から攻めようとし、だがぬえがその出鼻を挫くように吹き飛ばされながら弾幕を撃った。
吹っ飛んで不安定な姿勢から槍を突き出す。
その先端がユラユラと揺れた後思うと、その動き同様に気紛れな弾幕が放たれる。

「……させるかっ、姿態不明の空魚!」

鋭い尖った弾幕が高速で撃ち出された。
それは空を自由自在に泳ぐようにして、小刻みに動きながらルーミアへ襲いかかる。
咄嗟にルーミアは下がろうとしたが動きに翻弄され回避はままならず、止むを得ず閃光の片方でそれを砕く。

「そうだ、そうするしかない……だが、それでそちらの火力は半減だ!」
「くっ、だけど、半減しても当てさせすれば……」
「……おっと、こっちももう一発あるよ?」
「う、不味い……む、ムーンライトレイ!」

ボンッという音を最後にぬえの弾幕は掻き消されたが、ぬえはその間に二射目に移っていた。
慌ててルーミアは残る片方の閃光だけで放つ。

「おっと……軌道不明の鬼火だ!」

だが、揺れる軌道の大弾がその軌道に置かれ、真正面から迎撃の形となる。
二つの弾幕は大きく弾け、辺りを激しく揺らした。
爆炎と閃光、その両方が双方の目を焼くが、特に夜行性のルーミアにはそれは厳しかった。

「うわ、チカチカする……」
「おや光は苦手かい?……うりゃ、隙有り!」

機と見てぬえが前に出た、槍の石突きを全力で突き出す。
しかし、そこへ心理定規が割り込む。
慌てた様子で駆けてきた彼女はまず抱きつくようにしてルーミアに地に押し付け、安全圏へ行かせた。

「ルーミア、伏せて!」
「へう……」
「……暫くそのままで、ここは私が!」

駆けてきた勢いのまま心理定規が全力で未現物質の刃を振るった。

ガギィン

「うっ、ああもう、また邪魔を……」

やはりそれは見かけ以上の威力で、ぬえは蹈鞴を踏んで距離を取った。
そこへ起き上がったルーミアが弾幕を放つ。

「もう、心理定規ってば行き成り……まあチャンスか、行け、ナイトバード!」
「くっ、状況が悪い、グレイズとは行かないか……」

バッと拡散弾が広がって、虚を突かれたぬえを回避のために更に下がるしか無かった。
これによりルーミア達に数秒の猶予が生まれた。
視線を二人は交わし、素早く策を組み立てる。

「ルーミア、何か思いついたかしら?」
「相手は分身だから脆いと思う、隙を見つけて当てさえすれば……」
「……わかった、私がその隙を作ってみせる、止めは任せたから!」

コクと頷いて心理定規が前に出た、後はルーミアに任せようと全力で走り出す。
それを見たぬえは慌てて槍を一振りする。

「くっ、近寄らせたら不味い、あの武器は厄介……軌道不明の鬼火!」

弧を描いた槍の軌道に沿い、ボボッと数個の大弾がその場に浮かんだ。
大弾は不規則に揺れながら心理定規の進路を阻むように集まっていく。
だが、心理定規は足を止めず、更にここで一つの賭けに出た。

「あら不味い、動きが読めないわ……所詮非戦闘員だし」
「何、諦めたの?」
「まさか、私は非戦闘員だから……『彼』の能力に任せることにするわ」
「何?」

彼女はブンと持っていた短剣を放り投げる。
クルクルと弧を描いて回転するそれは向うの弾幕の発する光でギラと輝く。
未現物質の刃はその身に受けた光を本来有り得ない『性質の変換』を行った。
カッと激しく輝くと、反射光が異常な熱量で大弾を焼き尽くし、それにより大弾で埋まった進路が一瞬で片付けられた。

「何!?」
「……未現物質、本当にとんでもない力ね」

呆れながら心理定規は空中で回転する短剣をキャッチ、そのまま一気に間合いを詰める。
一瞬ぬえは弾幕の消滅に呆然とし、それでも慌てて次の弾幕を展開する。

「大技が要る、それなら……原理不明の妖怪玉!」

ぬえはバラバラと無数の小型弾幕を展開し始めた。
だが、既に距離は大分近い、心理定規は相手の弾幕が広がり切る前に、避けきれなくなる前に短剣を振り回す。
遮二無二振り回すそれは連続で衝撃波を放つ。
衝撃波と弾幕が相殺し、少しずつ道が開いていく。

「このまま突破して……「甘い、上だよ」え?」

ズドン

「ぐあっ!?」
「……惜しい、二弾構えの弾幕でねえ」

が、頭上から降った大弾で彼女は体勢を崩す、拡散する小型弾幕を囮にぬえが誘導したものだ。
肩を打たれ彼女の動きが止まる。
そして、ぬえは槍をゆっくりと突き付け、心理定規へ勝利宣言をしようとした。

「さ、まずは一人片付いて……「雷光よ」「どくそー!」ぐあ!?」

だから彼女は背後から攻撃を受けた、勝利を確信したから完全に予想外だった。
まるで正体不明の種と自分との『距離』が空いたかのように連携が乱れ、正体不明の種が抑えていた筈の屠自古達に攻撃を受けた。
困惑するぬえを見て、目の前で荒く息を吐く心理定規がニヤリと笑う。

「馬鹿な、何故種たちが……」
「私の力よ、貴方と他の奴等の距離を遠ざけた、態々非戦闘員の私が本気で特攻とでも?……全部囮よ、さあ止めを刺しなさい、ルーミア!」
「おうっ、任せろ……ムーンライトレイ!」

そこへ心理定規に任せてずっと霊力チャージしていたルーミアが弾幕を放つ。
至近距離から放たれた、今度は半分の威力ではない砲撃がぬえを高々とふっ飛ばした。

「ぐうっ、形振り構わずか……な、成程、貴方達の執念を甘く見たようね。
……だけど、そういうのならこっちにだって要るわよ!」

だが、彼女は笑って言った、負け惜しみではなく自分の役目を終えたとでも言う風な笑みだ。
それを証明するように向こうでドンドンドンと爆音が何度も響く。
その度に毛玉や水の蛇、ルーミア達にとって味方となる涙子の残した防衛機構は弾幕で宙に舞った。
味方ならそんなことはしない、つまりルーミア達にとって敵ということだ。

「時間稼ぎ終了……でもこいつ等結構手強いよ、任せていいかしら、輝夜?」
「ええ、ご苦労様……後は私がやる!」

ダダっと異様に速い、まるで彼女の周囲の時間だけが遅くなったかのような不思議な動きで一人の少女が現れる。
白磁の如き肌に長く美しい黒髪、豪奢な和服を着込んだ長弓を担いだ少女だ。
彼女はチラと氷華を見て、どこか寂しげな笑みを浮かべた。

「初めまして、幻想の命、その身……貰い受ける!」

強い決意を込めて少女、月の姫君の輝夜が宣言した。

「……さて、次の私の相手は?」

更にその後ろにぬえが槍を構えて立つ、ルーミアの攻撃でボロボロだがまだ引く気はないようだ。
彼女は輝夜にやや遅れて走ってきた少女を睨んだ。

「くっ、微妙に遅れた……貴女が相手かな、蛇と猿と鶫の匂いのする妖獣さん」
「ぬえだって、そんな特徴は他に居ないだろ……そういうそっちは妙に酒臭い、年を誤魔化してないか?」
「へえ、ふうん、それを聞くのは自殺志望と判断する……良し、落とそう!」
「……しまった、見掛け以上の長生きさんだったか」

輝夜の背後を守るのはぬえ、彼女は心理定規から制御を取り戻した種と共に新手、涙子とその左右に並んだ屠自古に芳香を迎え撃つ。
結界の最奥で、天使を手に入れようとする者と守ろうとする者が二つに分かれ相対した。

「幻想の命よ、諦めて私の手の中に……大事にするからね?」
「い、嫌です、私は……物みたく扱われたくない!」
「……だってさ、だから邪魔してやるー!」
「ええ、やりましょう、ルーミア(……もう少し羽を借りるわ、リーダー)」
「……輝夜達は燃えてんねえ、まあ私もまだやる気だが」
「ふん、大妖怪の相手は慣れてるっての……簡単には負けない、それも分身なんかに!」
『援護する、佐天(さてん)!』

現状一応は佳境と言っていいだろう、戦場は一応の終息に向かおうとしていた。




・・・展開をちょっと変更しました(ぬえ戦意喪失の辺り・・・)

以下コメント返信

ふらんけん様
寧ろ他に使いどころが思いつかなかった、なので似てるシチュで強引に使いました・・・まあ殆ど感情論だけどだからこそ大事なんだと思う。

うっちー様
・・・前提の結界水際の迎撃がぬえの侵入で崩れたせいか、前のめりなのもあるけどぬえの融通の利く能力が大きく、だから中への急行を優先中。
でまあその為に殿残った一方通行は苦戦したものの・・・何とか上条さん達が間に合いました、特に聖さん怒ってます。

九尾様
トラウマは引っ張った方が面白そうで先送り・・・で部下に優しいていとくん、自分の行動の巻き添えで喰われかけたの悪く思ってるんでしょうね。
佐天さんのスタイルは・・・単に超電磁砲側のスタッフの趣味じゃないかと、絶対に美琴辺りと絵にして対になるようなデザインの気がします。



[41025] 第二話 幻想の命・九
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/06/01 00:59
注意・前回終盤のシーンを少し変更、今回の話の序盤がそれ・・・ぬえ辺りを大分変えました。



ドンドンドンと爆音が連続して響き、その度起こった炎が一方通行を襲った。

「はーはははは、物部の炎は効くだろう!?」
「ちっ、容赦無ェな、あの天然系悪女……」

不可視の壁で防いだ一方通行が顔を顰める。
ある理由で攻勢に出れず、後手に回るのが続いているからだ。
それはてゐと兎達の連携による物だ。

「因幡殿?」
「おうっ、皿を放て、兎達!」
『どんがらがっしゃーんウサ!』

布都が術の集中に入ると同時にてゐにそれを教え、頷いたてゐが兎に指示を出すと兎は分担して持っていた皿を地面に叩きつける。
ドガシャとばら撒かれた皿の残骸が一方通行を囲んで、そこから立ち昇った種火を布都が更に拡大する。
分厚い炎の壁が一方通行を包囲した後中心の彼へと押し寄せた。

『ふはは、逃げ場はないウサ!』
「ああもう面倒臭ェな、おい!?」
「お主を自由にするのは怖いのじゃ……燃えろ、六壬神火!」
「……ちっ、白いのに腹黒いのばかりだ」

一方通行は悪態を付きながら風を四方に放つ、強引に脱出口を作ろうとした。
が、炎は一瞬止まっただけで崩れなかった。

ビュオオオッ

「何だ?」

一方通行の能力とは別の風が吹く、それが炎を後押しする。
突然の風に煽られた炎が更に勢いを増した。
風の出処は後方で剣を高々と掲げた布都だった。

「また手前ェの仕業か!?」
「おう、風の凶穴じゃ……燃えるが良い!」

全方位からの炎が一方通行を襲う。
が一方通行はやや自棄っぽい表情で笑った、手の中で光球が輝く。

「物部……その風は悪手だ、圧縮!」
「ぬっ、その手が有ったか!?」
「演算使いたくないが贅沢言えねェ……圧縮圧縮、更に圧縮して吹っ飛べ!」

一方通行は布都の風を利用して小規模のプラズマを数個拵える、それを自分の周囲に落とすようにして放った。
次の瞬間太陽と見間違う閃光が生まれ、炎の壁を向かう先から消し飛ばす。
更に彼は諦め悪く揺れる炎の残骸を踏み越え、一個だけ残したプラズマを手に前へ出る。

「……もう一発だ、喰らっとけ!」

布都とてゐ達の数メートル手前で、彼女達全てを効果範囲に入れた所でプラズマを地面に叩きつけ炸裂させた。

ドゴンッ

「た、退避だ、兎達!」
『だ、駄目、間に合わないウサ!?』
「……下がれ、我が行く!」

てゐと兎が慌てる中布都が一人出た、剣を握るのと逆の手に持つ皿を叩き割った。
突如そこから真紅の火柱が出現する。

「火には火を……行けっ、大火の改新じゃ!」

ボウッ
ドガガガガガッ

炸裂したプラズマと炎上しながら拡大する火柱が相殺した。

「ちっ、倒れねェか……演算使ったってのに」
「ふん、悪いな、超能力者殿……成り行きだが兄者の借り、返させてもらうぞ」
「……そいつァ無理な気がするなァ」
「何じゃと?」

一方通行がある方向をチラと見た、安堵した様子だった。
何故なら彼は賭けに勝ったからだ。
ある可能性を信じてここまで粘って、それは望みに近い形で起きた。

「……考え得る限りベストだなァ、あいつ等が来たか」

近づく幾つかの気配、布都達は警戒し隊を分けるか話し出す。
が、その前に向こうの一人が『真紅の槍』を肩に担ぎ投擲体勢に入った。
更にその隣で、クラウチングスタートする『金と紫の髪の尼僧』も居た。

「私はあっちを崩したら見物に回るが……チャンスを上手く使えよ、聖」
「ええ、ありがとう、レミリアさん……では行きましょうか」
「おう、行くぞ……神槍グングニル!」
「超人……聖白蓮!」

ズドンとレミリアの槍が飛んで、続いてダッと聖が疾風の如き速度で駈け出した。

「……あれは吸血鬼の!?」
「槍が向かうのは……上、ぬえか!?」
「……えっ?」

ドゴンッ

「ぬえん!?」

一人だけ高みの見物中だった(&分身の遠隔操作)のぬえは反応できず、乗っていた飛行物体毎叩き落とされた。
彼女は衝撃に翻弄されクルクルと回転する。
慌てて左右非対称の翼で止まろうとしたが、その前に地上まで来ていた聖が跳んだ。

「お仕置きせねば……ガルーダの爪です、南無三!」
「ぬええんっ!?」

ドゴオォッ

やたらダイナミックな跳び蹴りがぬえを跳ね飛ばした。
その姿は修羅宛ら、『聖人』聖白蓮、仏徒とて怒る時は怒るということだろう。

「凄いな、聖さん…敵に回しちゃ駄目な人種か」
「うん、温厚な人程怒ると怖いってことなのかな」
「うむ、今後私も気をつけよう、後黒夜にも怒らすなと言っておくか」
「……ていうか私ご近所なんだけど、マジ注意しよう」

やや遅れてやっと着いた上条やチルノにレミリア、にとり等まで圧倒され青褪める。
当然近くのぬえが受けた衝撃はそれ以上である。

「な、何よ、新手!?ていうか聖じゃん!?……ええい、私は分身の操作がある、相手してられるかっての!」

ぬえは突然の襲撃、更にそれが見知った相手であることに目を白黒させながら、慌てて体勢を立て直そうとする。
翼を一打ちし飛んだ向かうのは結界の方だ。
彼女は文字通りの異世界に隠れ、時間を稼ごうとした。
が、聖もまた近くの飛行物体の残骸を蹴って加速した。

「逃がしません、超人化による身体強化はまだ……とりゃあ!」
「うわっ、しつこい!?」

ガシと組み付いて聖がぬえを羽交い締めにする、二人は揉み合ったまま結界へと落ちていった。

「チルノさんに上条君、私はこの子のお仕置きをします……他は任せました!」
『ええと……頑張って(ください)!』

ぬえを締めつつ結界に飛び込んだ聖にチルノと上条はそう言うのがやっとだった。
二人は周りを見渡し何とか状況を把握しようとする。

「ええと、兎耳の奴等は……あの和服の奴の手下だけど」
「……で、何でか居る布都ちゃんは……まあ敵でいいな、どうせまた変なこと考えてるだろうし」

何だかんだ波乱の夏休みでこういうのに慣れた二人は直ぐに判断し、それに一方通行も遠くから補足した。

「大体その通りだ、だが……ここは良い、手前ェ等は中に行け!」
「お、ミサカのところの白いの?」
「妙なガキが中にいる、霧ヶ丘女学院の生徒だ、姫様とやらに狙われてるらしい……俺と佐天はその邪魔をしてる、成り行きなンだが」
「佐天もか……」
「あァ、暇なら中の佐天を手伝ってやれ……俺はまァ何とか成るだろ」
「……わかった、でも無茶しないように」
「河童は……もう居ないや、中行ったかな」

一方通行の言葉に頷いてチルノと上条は結界に走り出す、またレミリアは高みの見物がにとりの姿が無い(涙子の話の時点で動いたようだ)
この状況に布都達が慌て、素早く過半数を中へと回した。

「うわ、援軍が……」
「因幡殿、兎を率いて中へ!」
「あんたは!?」
「……白いのと決着を付けたい、兄の分の借りがあるからな」
「……兎を何羽か残す、こっちも子安貝確保後の逃走ルートは確実にしておきたい」
「良かろう、佐天相手とさっきまでで皿を大分使ったからな……では行くのじゃ!」

脱出後の安全確保に布都(及び兎数羽)が残り一方通行を睨む、一人残った彼も睨み返す。
その横を駆け結界へてゐ率いる兎達が、次に上条とチルノが向かった。

「……良いのか、唯一有利な数を分けてよォ?」
「いや寧ろそうするしか無い、中に何人か向かわせんと輝夜がきついからな……ぬえは尼僧に潰されるだろうし」

布都は中へ援軍を送りぬえには同情した後宝刀を構え、同じように助けを行かせた一方通行も拳を握る。

「ま、ここで勝った方が有利には成るか……おまけみてェなもンだが」
「ああそうなるな、中に比べれば影響の小さい戦いか……が、成り行きとはいえ負けるのは悔しい、行くぞ!」
「……ああ確かになァ、だが返り討ちだ!」

やや仏頂面で一方通行と布都が前へ出た。
彼らは戦いを再開する、互いにここが事態の中心でないと気づきつつも。



第二話 幻想の命・九



ルーミアが、心理定規が友である少女を守る為に輝夜へと向かっていった。

「氷華は渡さないぞー、ナイトバード!」
「……リーダー、貴方の能力借りるわよ、おりゃっ!」

黒一色の弾幕が放たれ、未現物質歪められた陽光が異常な殺傷力で放たれる。
だが、二人掛かりの攻撃を前にしても輝夜は動じない。
向こう同様彼女にも勝たなければならない理由がある、だから臆せず動じず全力で迎え撃った。

「幻想の命を前に負けられるか、神代の……いや天神の系譜!」

放たれた光の弓が枝分かれしながら(今まで以上に)広範囲へと広がっていく、黒の弾幕と歪められた陽光を纏めて吹き飛ばした。

ズガガガガッ

「さて次は……」
「消された、でも……おりゃ!」

相殺しその余波を避けて心理定規が突っ込み、更に弾幕を射ちつつルーミアが続く。

「援護するぞー、大弾行けっ!」
「ふむ、ここは永琳のあの弾幕で……」

が、彼女は周囲に数個の光弾を放った、グルグルと衛生のように高速で旋回する。

「……天呪、アポロ13!」

ガガガッ

輝夜は弧を描く光球で近づく端から大弾を撃ち落とす。
更に彼女は自分の周囲に展開させた光球を解き放つと、接近してきた心理定規に向かって放った。

「次は……そっちよ!」

ガギィン

「ぐっ、近寄れない……」
「ふふっ、残念だったわね」

心理定規は咄嗟に短剣を翳して防ぐが、衝撃によって後退った。
慌てて下がる彼女にルーミアが寄り添い、牽制の弾幕でフォローする。

「心理定規!?」
「……大丈夫、まだやれるわ」

並んで構えた二人は緊張した表情で輝夜を見た。

「……ううっ、さっきの黒いのよりやばい気がする」
「ええ、何て気迫なの……だけど私達も……」
「うん、負けられない……行くぞー!」
「ええっ、行きましょう、ルーミア!」

ルーミアと心理定規は決意の表情で仕掛け、それと同じくらいの(あるいはそれ以上かもしれない)覚悟で輝夜が迎え撃つ。
後悔と友情、異なる二つの意思が激突する。

『……氷華は渡さない!』
「……いえ渡してもらうわ、幻想の命を我が手に!」



「あっちは熱くなっちゃってまあ……」

向うでの激戦に涙子は苦笑し嘆息した、その後援護しなくてはと自身に気合を入れる。
鎖を右手に巻きつけて目の前の大妖怪に叩き付けた。

ガギィン

「……おっと止めてよ、か弱い分身なんだ」

三叉槍の柄で防いだぬえの分身がからかうように言った。
が、それを無視して涙子は更に殴りつける。

「知るか、倒れろ!」
「おわっ、我儘な奴……ええい、正体の不明の種よ!」

ガギィン

やはり槍の柄で弾いてぬえが顔を顰め、飛び退ると同時に黒い蛇をけしかけた。
一斉に飛び掛かって涙子を質量で押し潰そうとする。

「……悪いけど触手プレイは断る、水よ集まれ!」

今度は涙子が顔を顰めて分厚い水の壁を張った、そして攻撃を防いだ後直ぐ様それを崩す。
その瞬間二つの影が動きの止まった蛇達へ向かう。

「援護お願い……屠自古さん、芳香ちゃん!」
「……まあ良かろう、うちの天然が迷惑かけたし」
「行くぞ、毒爪を喰らえー!」

バチィッ
ザシュッ

雷光の矢が乱射され、猛毒の爪が滅茶苦茶に振るわれる。
黒い蛇の群れが切り裂かれ、すかさず涙子がそこを抜ける。
彼女は風で加速し突っ込んでいった。

「……うりゃ、喰らえっ!」

ジャララッ

走っていく勢いを乗せて鎖が投擲され、ぬえの足元を払うように放たれた。
蛇達を立て直していたぬえはそれを中断し慌てて跳んだ。

「おわっと!?」
「……ちっ、不発か、なら次だ!」

空振りした鎖を引き寄せた涙子が更に走る、戻した鎖を素早く拳に巻きつけ殴りかかった。
回避直後でぬえは避けられず、咄嗟に槍を振るった。

ガギィン

突き出された槍に鎖を巻いた拳が弾かれ空を切って、が涙子はそのまま止まらず体からぶつかっていった。

「うっ、また外れて……だけど、このまま行く!」

ドンッ

「ぬわあっ!?」
「……この距離なら眷属は攻撃できない、巻き添えはそっちもいやでしょう」

二人はゴロゴロ転がった後同時に立ち上がる。
距離が近すぎてこれでは蛇の応援は難しい、分断に成功した涙子が水を片手に集めながらニヤリと笑った。
が、その笑みにいらっと来たぬえが開き直った行動に出た。
彼女は勢い良く地を蹴り、涙子の方へ突っ込んだ

ドンッ

「……舐めんな、小娘」
「へ、うわっ!?」

ぬえがやり返すように体からぶつかっていった。
押し倒されこそしなかったが涙子は体勢を崩し、そこへ更にぬえが追撃する。

「まだだ、串刺しだっ!」

ヒュッ

ぬえが体を捻り短く持った槍を振るった、真下から強引に涙子を狙う。

「……なっ、何!?」

涙子が顔を引き攣らせ、せめてもと水を集めていた左手で自分を庇おうとした。
だが、ぶつかった時に鎖は解かれていて、素手で防げる筈もない。
ぬえがニイっと笑みを浮かべた。

ガギィン

「え?」

が、甲高い音がしただけだった、ぬえがぎょっとし目を丸くする

「……何ちゃって、怨念返しの鏡」

槍は涙子の体数センチ手前で止まっていた。
彼女の手の中で水鏡が輝く、刃はその中に映るぬえの胸を貫いていた。

「ぐっ、分身の蛇が……」
「ま、因果応報って奴だね」

ハッとぬえが胸を押さえた。
その場所と同じ箇所に突如激しい衝撃が走ったのだ。
形代を壊し害を与えるというある意味古典的呪いだ、分身を形作る蛇が機能を停止し、そこから綻ぶように体が崩れていく。
すかさず涙子が追撃の弾幕を展開する。

「……今だ、落ちなさい、大妖怪!」

しかしぬえも意地を見せる、彼女もさる者で手近な蛇を掴んで強引に傷を埋めると弾幕を展開した。

「舐めるなよ、まだやれるっての、平安の……」
「くっ、まだ……ええい、そのまま打ち砕く、火雷天神の裁き!」
「……ダーククラウド、ふっ飛べ!」

バチバチと涙子の傍らに雷光が鳴り響きながら収束し、一方でぬえの周囲にブワリと黒雲が湧き出るように出現した。

「……切り裂け!」
「……蜂の巣だ!」

集まった雷は甲冑姿の武人を形作ると雷光の太刀を振り被る。
黒雲も負けじとばかりに見上げる程肥大化、内部に内包する無数の弾幕をばら撒いた。
涙子とぬえの弾幕が真正面からぶつかった。
ピシャンと雷鳴が轟きガガッと連続して弾幕が炸裂する、単発では涙子の弾幕が上だがぬえの弾幕は手数で埋めていく。

「これは……うわっ!?」
「ちっ、届かないか……」

結果ほぼ互角、最後にカッと輝いて双方の弾幕が消滅した。

(むう、分身相手で何とか互角か、やっぱ大妖怪相手は厳しい……でも一撃で劣っても攻撃の幅自体は広いから通じるのもある筈!)

涙子は悔しがりながら次の手を考える、何とか有効そうな手札を探ろうとした。

「ええと、雷獣と喚ばれた相手に電撃は無いね、なら効きそうなのは……」

ガタガタブルブル

「あばっ、ひっ、ひじ……」
「……え?」

が、それを発揮する前に異変が起きた、ぬえの様子がどうにもおかしい。

「あばばばばっ!?……何で聖が、いやそれよりお仕置き怖い!?」
「ええと、外で何かあった?……悪いけど大将の方に行かせてもらう!」
「……え、ちょっ、待てー!」

外の本体に問題が起きたようで分身が蹲り、今の内とばかりに涙子がぬえの横を駆け抜けた。
慌てて彼女は涙子を覆うとしたがそこへ雷光が飛んだ。

「おっとそうは行かんな、私と芳香の相手をして貰おう……やってやんよ!」
「大妖怪……いただきまーす、まずは毒爪で下拵えっ!」
「……くっ、しまった、蛇が突破されたか!?」

涙子とぬえが戦う間も蛇達を削っていたが、幾らか減って手の空いた二人が次にぬえを狙った。
左右から挟撃された彼女はその対処で手一杯だ。
二人に任せて涙子が輝夜の方へ向かった。

「……うっ、不味い!」

そこでは違和感のある光景があった、輝夜が少し前からルーミアと心理定規に打たれっ放しに成っていた。
だが、その間ずっと彼女は霊力を貯めている。
その上受けた傷も瞬く間に癒え塞がっていく、実質ダメージには成っていない。

「気をつけて……そいつ、何か企んで、いや誘ってます!」

恐らく来るだろう逆襲を止めようと涙子がクナイを手に走る、だがその瞬間それは起きてしまった。



「……不味いよ、心理定規」
「わかってる、何か来る……その前に!」

何かをしようとする輝夜、攻撃し続けるルーミアと心理定規もそれに気づいていた。
だから防ごうと全力で弾幕を放ち、未現物質の刃を振るう。
しかし、それは何の意味も成さなかった。

「……ふふふっ、その程度かしら?」

二人の攻撃は決め手が無く、妨害には至らない、ゆっくりと輝夜の体の傷は消え攻撃の準備が着々整っていく。

「う、うう、このままじゃ……む、ムーンライトレイ!」
「光に風、未現物質在りったけで……」

それでも諦めずルーミアと心理定規が攻撃を続けようとした。
が、その瞬間二人の執念を輝夜が上回る、ボウっとどこか神々しい燐光が辺りを照らした。

「夜よ……永き夜よ、来たれ」

ギシリ

その瞬間から世界が凍りついた、時間の流れが何十倍にも『引き伸ばされた』。

『……え?』

まるで重圧が掛かったかのように緩やかで、だというのにその中で輝夜だけが普段の通りに動く。
唯一人自由に動ける彼女は停止した二人を至近距離から光の矢を放った。

「行くわよ、永夜返し……初月!」

月光の如く輝く矢が激しい閃光と共に炸裂する。

ズドンッ

『……ぐっ!?』

ルーミアと心理定規は避けようとしたが『引き伸ばされた時間』はそれを許さない、輝夜同様に彼女の弾幕の普段通りの速度だった。
二人は弾幕の直撃で吹き飛ぶ、だがそこでやっと辿り着いた涙子が背後から仕掛けた。

「……水の、蛇よ!」

涙子は強引に風で加速し僅かでも速度を稼ぎ、相対的に差がある攻撃間隔もクナイ二刀と髪に仕込んだ水の蛇で補おうとした。
彼女は『引き伸ばされた時間』で辛うじて半分程度の速度で、かつ背後からの三連撃を輝夜へと放った。

「……はああっ!」

ガガガガッ
カッ

「……あ、え?」

だがもう一度燐光が瞬き、二つの刃と一つの牙は輝夜の首筋手前でピタと止まった。

「……永夜返し、三日月!」
「まだ、先が有……ぐあっ!?」

更に時間が引き伸ばされ、その中でやはり輝夜だけは普段通りに動く。
ルーミア達にしたように光の矢を叩き込み涙子を吹き飛ばした。
そして、そこで時間の流れが元に戻り、ルーミアと心理定規が、やや遅れて涙子が地に落ちた。

『ぐはっ!?』
「ルーミアちゃん、心理定規さん、佐天さん!?」
「……残念だったわね、私に当てたければ三倍の速さが居る」

勝ち誇ったように笑った後輝夜が氷華の元へ歩み寄る。
当然彼女は逃げようとしたが、再び世界がギシリと停止寸前にまで引き伸ばされた。
(輝夜にとって)一瞬で追いつき彼女は改めるように氷華の顔を撫でる。
その後満足そうに笑い、だが突如顔を顰め身を引く、ヒュッと黒い弾幕とクナイがそこを飛んでいく。

「へえ、まだ立つの」

輝夜が呆れたように見た先に二人の影、大弾を受けた胸を押えたルーミアと涙子が立っていった。

「……氷華に、触らないで」
「勝った気に、成るの少し……早いんじゃ、ないかな」
「へえ、タフ……いや無意識に体を逸らした、弾幕を避けるのに慣れてるようね」

幻想郷、正確には弾幕ごっこ、ある意味攻撃を避けること『だけ』に限れば実戦以上に慣れていたから、二人はギリギリで耐えることが出来た。
ルーミアは霊夢や魔理沙といった弾幕ごっこ最古参に次ぐキャリアで、それに劣るも涙子も弾幕ごっこの経験が当然ある。
二人は直撃ではないが『幾らかマシ』程度のダメージの体に鞭打って反撃に出る。

「ダークサイド……ザ、ムーン!」

ルーミアが巨大な黒い弾幕を放った。
当然『引き伸ばされた時間』の中絶望的なまでに減速したそれを輝夜は避けた。
が、その後ろから先ほどの攻撃を劣りに、無数の弾幕が無茶苦茶にばら撒かれた。

「ミッド、ナイト……バード!」

ドガガガッ

「ええい、悪足掻きを……永夜返し、上二月!」
「く、あっ!?」

ドゴンッ

輝夜は数段飛ばして一気に時間を引き伸ばす、自分の数センチ手前で停止した弾幕に目もくれずギリと豪奢な弓に矢を番える。
それまでで最大の輝きの矢が弾幕毎ルーミアを吹き飛ばした。

「うぐ、ぐ……で、でも本命は、あっちだよ!」

だが、彼女によって輝夜の手が埋まり、その間に涙子が風を操って幾つかの妨害を行っていた。

「……風よ、吹いて!」

ビュオオッ

引き伸ばされた時間の中で彼女が何時も以上に強く風を吹かした。
まずダメージの大きな心理定規を氷華の元へ、彼女は停止状態に苦戦しつつ何とか抱きとめる。
更に涙子は続けて風を噴射、二人纏めて後方の屠自古と芳香達の元へ飛ばした。
驚いた二人だったが素早く(あくまで引き伸ばした時間の中ではだが)左右から支えると踵を返し離脱する。

「任、せたよ……後は、時間を……稼ぐ!」

向うが逃げるのを確認した後涙子は輝夜へ最後に嫌がらせをしようとした。
スウと深呼吸した後目を瞑って意識を集中する、彼女は全身から霊気を放出し始めた。

「何をするかはわからないけど……させない!」

ズドンッ

慌てて輝夜が素早く矢を引き抜き放った、脇腹を貫かれた涙子の体がゆっくり傾ぐ。

「良し、これで……」
「ぐ、あっ……まだ、だ!」
「何?」

だが涙子は踏み留まった、彼女はバッと手を払う。

「ここで、倒れちゃ……囮の彼女に、顔向け、出来ないんだよ……行って、水よ!」

意地で立った彼女は空気中の水を集め、それをある形にした後数百に分けた。

「怨念返しの……鏡!」

輝夜を、更にぬえと蛇達を囲むように水鏡が浮かぶ、それは全方位から彼女達の姿を写し取った。

「何を……」
「輝夜、撃っちゃ、駄目……呪いだから、心に効くから、不死性は……関係ない!」
「……ちっ、そういうことか」

鏡を撃とうとした輝夜を緩やかな時間に苦心しながら(当然時間の変化は彼女にもある)ぬえが止める。
引き伸ばされた中での制止はギリギリだった、慌てて顔を引き攣らせ輝夜が手を引く。
だが、数百同時の精神攻撃という無茶な技が続く訳もなく、涙子は力尽き数秒程(通常の時間では数分程で)で倒れる。

「ふう、後は……他の人に、任せるしかないや、まあ十分でしょう」
「……ええ、十分やってくれたわ、おかげでこっちの予定は滅茶苦茶よ」

涙子が相手の目的である氷華の避難と時間稼ぎをし終えて、ゆっくりと地面に崩れ落ちる。
パリンパリンと最早維持できず割れていく鏡の中、彼女は輝夜を渋面で見つめた。
数度の攻防でその理不尽さを痛い程理解させられた。

(何て厄介な相手なんだ、能力も弾幕も凶悪過ぎる、これを崩すには……『超人的な勘の読み』か、『とことん理詰めの計算』か、どちらかでないと……)

一方で輝夜も涙子を苦々しい表情で見た、その後はあと溜息を付いて永夜返しを解除する。

「嫌な娘、予定が狂ったわ……ぬえ、正体の不明の種でも付けて見張らせなさい、私は追うから」
「おう……あ、本体の方の情報だが敵に援軍が来てるよ」
「そう、合流されたら不味いわね、急いで……」
「あ待って、本体が来たわ……おまけ付きで……先言っとくね、ごめん」
「え?」

逃げていった氷華を追おうとした輝夜だが、その方向から二つの輝きが飛んできた。
光を纏って大妖怪(本体)と肉体派僧侶が弾幕を交わし合う。
偶然にもその間に輝夜は入ってしまった、左右から閃光が放たれる。

「ふふっ、反省しながら落ちなさい、ぬえ……紫の雲路!」
「絶対ごめんだ、逃げ切ってやる……平安京のダーククラウド!」

ズドンッ

「へぶっ!?」

解除直後だったので咄嗟に永夜返し出来ず、直撃を受けた彼女は高々と吹き飛んだ。
そのまま二人は飛んでいき、完全に見えなくなった辺りでバタンと輝夜に地面に落ちる。
彼女は追撃戦は不慮の事故で早々に消耗を強いられた。

「ぬ、ぬえ、ちょっと?」
「……ツーツー、本体と連絡が取れません、御用の方は時間を置いてもう一度ご連絡下さい」
「おいこら、それってそう言うものじゃんじゃないでしょ!?」
「…………ええと何かごめん!」

バラバラバラと気不味そうな表情で分身は元の蛇に散っていき、残された輝夜は大きく嘆息した。

「うん、味方は選ぶべきだったわ……ていうかそれぞれの敵、因縁持ちが来る可能性を考えないとね」

数度溜息吐いた後捕虜と監視の蛇に見送られ、輝夜は痛む体を擦りながら歩いていく。
戦闘自体に勝ったのに目的を果たせず、その後も巻き添えと、輝夜はツイてるのかツイてないのか悩んだ。

「ううっ、でも……絶対負けないわ、何としても幻想の命を……あれ、寸前で手が届かずって、難題に失敗した五王子パターンじゃ、いやまさかね……」

何度も首を横に振って自分に言い聞かせて彼女は氷華を追い始めた。



心細そうに縮こまり、四人の少女が結界を逃げていく。

「ああ悔しいな、尻尾巻いて逃げるしかないとは……下がれ、あっちから何か来る」
「……は、はい、わかりました、屠自古さん」

先頭を行く屠自古が手振りで後続を下がらせ、それに心理定規を左右から支える氷華と芳香が従う。
敗北した以上結界内は危険であり、彼女達は外へと向かっていた。
だが進行方向、外との接点から時折妖怪兎の群れが現れ、その度に四人は身を潜め相手が通りすぎるのを待った。

「ううっ、早く行って」
「落ち着いて、氷華……隠れてればきっと大丈夫だから」

怯える氷華を支えられる心理定規が逆に支えていた。

「おや?……待て、この気配は……」

だが、何かに気づいた屠自古が自ら表に出ていき、そして近づく気配に手を振った。

「えっ、ちょっと!?
「な、何して!?」
「……安心しろ、味方だよ(……多分な)」

突然の行動にぎょっとする二人に屠自古が笑って宥める、彼女が指した方には二人の影が見える。
水色の髪に透明の羽の少女と黒い髪のお人好しそうな少年だ。

「ええと何?この組み合わせ……」
「……とりあえず説明してくれ、そっちの娘が狙われてるらしいが」
「ああ、そうしよう、ま二人も無関係ではないよ……チルノに上条殿」

かつて自分達を退けた二人に、屠自古は何ともいえない視線を送る。
敗北し追い詰められた所への援軍、どうやら希望と絶望はギリギリで競り合っているようだ。





所謂負けイベント的展開・・・本当は二三話引っ張る予定でしたが、負ける流れを引っ張るのはどうかと少し端折りました。
駆け足に成ったから後で少し文を弄るかも(まあ大まかな流れは変えませんが)
・・・で、逃げる氷華達を上条が拾った所で次回に続く。

以下コメント返信

雷天狗様
姫様タッグ相手に大立ち回りしましたからねえ・・・そういうインパクトを加味して初っ端から負けイベント、しかも大暴れが続く予定です。

九尾様
ああ烈火、確か仁王と形容されこっちは修羅と何だか似てる・・・肉体派で普段大人しいのも同様、うん想像すると雰囲気(絶望感)合ってるかな。
・・・で、ぬえの方は少し展開を変えました、必死で逃げてます、まあギリギリなのは大して変わりませんが。

うっちー様
やっぱ温厚な人が偶に怒るのが怖いと思います、ほぼ彼女の独壇場・・・まあ他の面子も追々出番があるかな?

spitfire様
あー大雑把に通常と大技は考えてたけど・・・確かにその上にスペカを用意するべきだったか、ちょっと各種大技を延長した感じで考えておきます。



[41025] 第二話 幻想の命・十
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:01d3bc3c
Date: 2015/07/11 19:32
涙子達の妨害で氷華を見失い、ちょっと自信を無くした輝夜が何度も首を振りながら出発しようとした。

「絶対に負けないわ、何としても幻想の命を……あれ、寸前で手が届かずって、難題に失敗した五王子パターンじゃ、いやまさかね……」

そんな輝夜の背を涙子が怒った表情で見詰めていた。
彼女は八つ当たりっぽく小石を蹴った。

コツン

「……あら?」

足元に跳ねた石に輝夜が眉を顰めた。
行く手を阻むように石が飛んで、折角の宝探しに高まった気分を害されてしまった。
少し怒った表情で彼女は振り向くと、それ以上の怒った様子の涙子がまた足元を蹴った。

「……えい、やあ、とうっ」

ぬえの蛇に拘束された彼女がせめてもの抵抗とばかりに、足元の石を蹴っては飛ばし蹴っては飛ばしを繰り返した。

「ちょっと気が散るから……」
「……ああごめん、もう直ぐ済むから」

クレームを入れようとした輝夜に先んじて涙子が言った、彼女はもう一度石を蹴る。
すると高く飛んだそれが行き成り膨らみ、ギロと眼光を輝かせた。
更にそれに合わせて、それまで蹴った石もまた何倍にも膨張する。

ボフンッ

それは丸まって小石に擬態した毛玉だった。

「……え?」
「毛玉ちゃん、やっちゃえ!」

ドガガッ

涙子の言葉に従って毛玉が辺りに弾幕をばら撒く。
手数重視の、その分殆ど狙いすら着けていない多いだけの弾幕が輝夜とぬえの蛇、それに涙子にすら襲い掛かる。

「きゃっ!?」
『うおっ……』

虚を突かれた輝夜達は怯んだが、最初から覚悟していた涙子は動じない。
自ら弾幕に身を晒し自分毎拘束する蛇にダメージを与える。
拘束が弾幕で緩んだ瞬間彼女は強引に抜け出し、弾幕を打ち終わった毛玉の一つを鷲掴みにした。

「負けっぱなしは悔しいからね、後少しだけ……付き合ってもらうよ!」

ズドンと地面に叩きつけた毛玉が派手に弾けて、更に霊気を滅茶苦茶にばら撒いた後消滅する。
それで輝夜達は後退したが、涙子は悪足掻きをまだ続ける。
向うが怯んだ瞬間すかさず手を忙しなく動かし、複雑に印を組んだ後力強く叫んだ。

「東風(こち)吹かば、匂い起こせ梅の花……主無しでも春を忘れるな……『天神の飛び梅』!」

そう言い切った瞬間バアッと白梅の花弁が一面に散る。
その中心で満身創痍だった筈の涙子はニヤリと笑った、彼女の悪足掻きはまだまだ続く。

「……さあ延長戦だよ、月のお姫様!」

真っ白な花吹雪の中で涙子が叫んだ。



幻想の命・十



(……とはいえダメージ、霊力残量共にキツイんだけどね)

叫んだ後涙子は内心でだけ苦笑した、指先や髪の端から少しずつ細かい粒となって消えていっている。
限界に達した妖精初め人外の末路(仮初めの)死ともいえる『一回休み』の前兆だ。
加護を最大にした強化技『零、天神の飛び梅』、その三度の強化のうち一つで消滅の進行を強引に押し止めているに過ぎない。

「(強化は残り二回、上手く使わないと)……月の姫様、大した腕ですねえ、いやあ不覚を取ってしまいましたよ」

涙子は一見素直に負けを認めた、だがその割に目はギラギラと輝き戦意を露わにしている。
彼女はトンと足元を軽く蹴る。
すると、結界が大きく揺らぎ、その構成を滅茶苦茶にした。

「な、何っ!?」
「結界を解除した、だから喜ぶといい……これで『私にとっての』地の利は失われたよ。
さっき負けたからね、弾幕ごっこの敗者として勝者である貴女に何かしないと……」

彼女は言葉の上では負けを認めて、その後彼女は鬼のような形相で輝夜を睨んだ。

「これで弾幕ごっこのルールは守った……それなら、ここから思う存分妨害してもルール違反じゃないですよねえ!?」
「……弾幕ごっこ、曲解してんじゃないわよ!?」
「ははっ、義理さえ果たせば後は自由時間さ……強化、二度目!」

輝夜の突っ込みを無視し、涙子がもう一度地を蹴った。
トンと軽く鳴った後更に結界の揺れが大きくなる。

「きゃっ、今度は何よ!?」
「新たに結界を作り替える……天然の迷宮、私の親しんだ妖怪の山を参考にしようかな!」
「……ええい、させるか!」

慌てて輝夜はその場に手を起き霊気を流し込む、思兼の系譜(関係者の弟子、もしくはそのものの弟子)であることを活かして結界改造に介入する。
二つの霊力が同時に浸透し、結界は混沌とした有り様と成った。
半分は広大な樹海じみた森に渓谷や川、半分は鬱蒼と茂る竹林、妖怪の山と迷いの竹林が出鱈目に混ざり合っていた。

「ふむ……まあ良いか、そっちの地の利は半分程度だし」
「ああもう軽いわね、その半分でもこっちには貴重なのよ!」

擬似的に再現された妖怪の山と迷いの竹林、その境界を挟んで涙子と輝夜が睨み合う。
負けた筈の涙子だったが嫌がらせで大満足の様子で、寧ろ悔しげな輝夜が不覚を取ったようにも見えた。
僅かに溜飲を下げた涙子は気を良くして次へ移った。

「……ふふっ、もう一個くらい保険を掛けとくかな」

そう言って涙子が手を広げ、それに合わせて吹いた風が近くに転がっていたルーミアを舞い上げる。
フワリと浮かんだ彼女を抱き止めた涙子はニヤリと笑った。

「さっきの結界改竄で疲れました、私はここいらで一回休み……それならこの体、この霊力、無駄にするのもどうかなって思いません?」
「小細工はさせないわ、ここで……落ちなさい!」

輝夜は一瞬呪いによる反撃を持つ相手に逡巡し、だが二人に逃げられるよりは行動に出た。
ヒュッと輝夜の放った矢が飛んだ、風を切って突き進む。
そして、ズブと肉を貫く音がした。

「……え?」
「ああ痛いなあ、まあ手間が省けたけど……加護の強化、最後の一回!」

ルーミアを背に庇った涙子が倒れた、彼女は自ら矢に体を晒したように見えた。
貫通し肩辺りまで抉られ片腕が落ちる、余りにも呆気なく彼女は地に伏して、矢を撃った輝夜すら一瞬呆気に取られる。
が、涙子が先程まで立っていた場所に見えた奇妙な物体に目を剥いた。

「ふふふ、作ったけど使う機会の無かった、外に行ってお蔵入りだった……私のスペルカード、その目に焼き付けなさい!」

彼女の立ってた場所に水鏡が浮かんでいた、ぬえに使ったよりも精密且つ構成する霊気も濃い物で、しかも涙子の体を貫通した矢が突き立っている。

「『真の三の怪』、1300万画素の……厄と呪い!」
「貴女、まだ……」
「因みに……1300万画素は『サーテ(ィ)ン』ズメガピクセルと訳す!」
「そんなの知るか、てかこじつけっぽい語呂合わせだし妙に現代かぶれ!?」

輝夜が突っ込んだ直後ビシリという音が響く。
その直後バクンと『内から爆ぜた』ように輝夜の体が引き裂かれた。

「ぐっ……」
「……虚像よ、実へと至れ」

ドサリ

「大方精神的ダメージ程度なら……とでも割り切ったのでしょう?だが甘い!」

水鏡が割れて砕け、同時に亀裂をそのまま移したように輝夜の体も割れて、彼女は倒れ込んだ。
ブシュリと流れる血でその身を染めて輝夜が苦しげに呻きながら地に伏す。
その顔は真っ青で死相すら浮かんでいた、いや事実彼女は一度死へ追い込まれたのだ。

「リアル過ぎる幻は実に至る、痛みによるショック死と出血死……リザレクション1,5回くらいには成るでしょう!」
「ぐうっ、飛んだ置き土産ね……」
「……ええ、でもここまでが限界かな」

呪いの発動と同時に涙子の体が光となって散っていく。
実体を失い、残った痕跡はボロボロの制服とルーミアに降り掛かったその血だけのように見えた。
だが、結界に浸透した霊気は消えず、妖怪の山の木々を更に拡大する。
それは最後まで抱えていたルーミアを包むと、輝夜達の視界から隠し切った。

「くっ、結界を奪うのは……うう駄目、私とあいつの霊気がややこしく混ざってる、書き換えるには時間が掛かりそう……」

ゆっくりと癒える体を擦りながら輝夜は周りを見渡し、さっきよりも強固に作り変えられた結界に顔を顰めた。
鬱蒼と生い茂る木々、それに妖怪の山の起伏に富んだ地形は探索を難しくするだろう。
幾ら半分が迷いの竹林といっても科学の天使の捜索は困難を極め、その上八つ当たりも出来ない。

「あいつ、確信犯ね……」

実体を失った涙子と山の奥に消えたルーミア、追う術は無いしそれに時間を掛けては本命が追えなくなる。
輝夜は悔しそうに涙子達の居た方を一瞥した後立ち上がる、ぬえの蛇を連れて別の方向へと歩き出した。

「あいつ等は無視するしかない……何か悔しいわね、でも本命へ行かないと……」

ちょっと涙目で彼女は風切氷華追跡に向う、涙子の抵抗による『数回分の弾幕』と『1,5回分の死からの復活』という消費を背負った状態で。



そして、単純に時間の面でも輝夜を止めたから、彼女達は『彼等』と合流し体勢を整えられた。

「……とんでもないことに成ってるな」

はあと黒髪の少年、上条は疲れた様子で嘆息した。
いつの間にか出来ていた川辺りで、逃走者達を休ませながら事情を聞き出したがそれは予想外だらけだった。

「姫様か、まさかそんな滅茶苦茶な相手だとは……それにルーミアちゃんと佐天さんが捕まったかもしれないと」
「ええ、私達はこの滅茶苦茶な地形のおかげで何とか逃げれたけど……」
「……ああ、追っ手を何とかしないとな、このままじゃ逃げ切れない」

上条と、それに主に説明した心理定規は共に疲れた様子で大きく溜め息を吐いた。
しつこく追ってくる兎をこれまで何度か隠れ、あるいは追い返している。
だが、相手は兎に角数が多くキリがないのだ。

「隠れるにも逃げるにも限度がある、何れ完全に包囲される……大将である姫様ってのを何とかしないと」
「だが下手に仕掛ければ数で押されるぞ、上条……そうなれば順当に潰されるだけだ」
「……そうだぞー、あの数じゃ兎の相手だけで喰い倒れちゃうって」
「食い倒れるのはお前だけだ、芳香……まあ倒れるのは合ってるが」

輝夜への集中攻撃を提案した上条に対し、空から周りを警戒する屠自古と芳香が口を挟んだ。
二人の言葉に上条はうっと口ごもった。

「うーん、そうなると……外に逃げて、ああいや向うも予想しているか」
「ああ、寧ろ外に近づく程巡回の兎が増えるだろう、それに外にはうちの天然も居るし……」
「……顔を出した瞬間火矢が来そうだ」

上条と屠自古は同じ人物を思い顔を顰めた。
外では布都が一方通行と小競り合い中なのだ、下手に向かえば敵が一人増えることに成る。
一方通行が援護するだろうが状況がどう転ぶかわからない、それは最後の手段だろう。

「……となると、何らかの方法で分断する?」
「それしかあるまい、連携を崩せば数は活かせん……突破し大将、姫とやらを潰す、そうすれば他も止まるだろう」

次に出た案は最初の物に近いがそれよりは無茶ではないものだ、だがそれにはいくつか問題が有る。

「囮にしろ、ニ手に別れるにしろ……味方が足りないか?」
「ああ……しかも風切さんに誰か付けないと不味い、尚更足りんぞ」
「……まあそうだな、俺にチルノちゃん、君と芳香ちゃん、それと怪我人の心理定規……4,5人ってとこか、ここから更に護衛で減るし」
「……兎どれだけ居たっけ?」
「まあ十倍?……それより姫が厄介だな」
「ああ、霊力切れまで一方的に打たれるだろうな……」

上条と屠自古は顔を見合わせた後項垂れた、双方の戦力を纏めただけで絶望的だった。
そんな時芳香が何かに気づいた様子で屠自古の腕を引っ張る。

「なあなあ屠自古!」
「何だよ、話中なんだが……」
「……あれ見て、数に入ってる?」

彼女が指差した方を見た屠自古、それに上条と心理定規が驚愕する。
チルノを引っ付けた氷華の体がバチバチと紫電が瞬いていた。

「……ち、チルノさん、何したんです?」
「お前、妖精と似てたから……ええと、えねるぎーだっけ?それが人型になったんだろ?
……流れてる力の使い方がわからないだけ、あたいが整えてやればこんなもんさ!」

チルノはニッと笑い、背中をペシペシと叩く。
すると更に紫電の輝きは増し、それが最高潮と成った辺りで背中から翼の形状と成って放出された。
これには心理定規達が、いや氷華自身すらびっくりする。

『うわっ……』
「うひゃっ!?」
「……おしっ、こんなんでどう?叩きつければ余波で兎は吹っ飛んで、直撃なら輝夜だって一撃さ!」

チルノが胸を張って自慢気に笑った。

「どうよ、あたい凄いだろ……これでも妖精の間じゃ古参も古参、大妖精と並んで古参の実力者で通ってるんだから!」
「……いや、うん、わかってたが何気にとんでも無いね、この娘」

彼女達はどちらもある意味実体化した力の結晶だ。
科学と自然という差はあれど同質の存在だからこそ出来たことだろう。
彼女の手により護衛対象だった氷華自身の自衛能力の確保、更には不足する戦力の充足が同時に成された。

「あれ、これさっきの……行ける?」
「……護衛に割く戦力が要らず、寧ろ彼女自身を前線に出せる……経験が足りないから流石に姫の相手は難しいだろうが」

幾つか在った問題が一気に片付いた、何となくそれまで悩んでいた二人はガックリ肩を落とす。
そこへ、更なる脱力を誘う言葉が飛んだ。

「まだ足りないな、見落としてるぞ」
「……おわっ!?」
「ひゅいっ、大声出すなって……私だよ、河童のにとり……お前ら、視野が狭いなあ、まだ見落としが有るぞ?」

驚く上条に、迷彩を解いたにとりが話しかけた、佐天の気配に気づき別行動で調べていたのだ。

「か、川城さん、何時の間に……ええと見落としって?」
「……見落としは二つ、それを計算に入れて襲撃計画を立てるべきだね」

彼女はビッと二本の指を建てた、順番にそれを口にしていく。

「一つ、辺りを見回ってたら向うの空で……『修羅』が一匹暴れてたよ、味方につけな」

そして、次にどこか呆れた様子である予想を告げる。

「うちの昔馴染みは鬼の一種、結構執念深いから脱落前に何かしら細工はした筈だ、勝ち逃げは許さないタチなんだよ……涙子の馬鹿は」



「……シャッ」

しゅるしゅると水の蛇が木々の間を這い進む、それは紅い『何か』を咥えていた。
暫く行くと木々に背を預ける少女を見つける。
怪我して眠る金髪の少女、ルーミアだ。

「……シャッ」

水の蛇は長い体を伸ばし、咥えていた紅い何かを少女の口元に近づける。
それは女の片腕、輝夜に撃たれて千切れ飛んだ涙子の右手だ。
ルーミアを揺すって起こした後その口元に『涙子の腕』を止せる、断面を傾け流れ出した血をルーミアに口に含ませた。
コクコクと半ば無意識にルーミアは血を啜った、それは元修験者の、神職や仙人に並ぶ霊力溢れる血だ。
暫く飲ませた所で蛇は更にルーミアの『リボン』を噛み千切った。

「シャアッ!」

全てを終えると彼はボフという音を残し形を変え、霊力で編まれた一枚の大きな白布に成った。
そして、『煌めく黄髪に白磁の如き肌の美しい女性』がそれを掴みとる。
『成長した体』ではもう使い物にならない、元着ていた服を剥いで『白布』を纏う。

「聖者は十字架に……おっと台詞間違った、そーなのかー」

ルーミア、但し霊力に満ちた血と封印の解除により大人の体格と成った彼女だ。
更に『人為的』な風が吹き、クルクル落ちた白梅の髪飾りと鎖がそれぞれ髪と服に刺さり絡まった。

「……どこまでもサービスがいいなあ、あの人」

髪を整えてギュッと白布も固定し、その後ルーミアは苦笑する。
彼女は一瞬考えた後木々の方に、気配から消滅まで涙子が居たであろう場所に頭をペコと下げた。

「うん、折角貰ったチャンス、無駄には出来ないよね……ありがとう、代わりにあの黒髪をやっつけてくる!」

感謝の言葉を口にして、その後決意の表情で彼女が浮かび上がる。
友を守る為に、自分にバトンを渡した少女の為にも負けられない、彼女はそう強く誓い飛び立った。

「……次は負けないんだから!」

闇の妖しと月の姫、二度目の戦いは近い。





前回投稿の際負けイベントを一纏めにしたんですが・・・間違ってルーミア復活イベントを一緒に削ってしまいました、お陰でぶつ切りっぽい。
後で少し弄るかも・・・後佐天さんのスペカも強引に挿入したんで流れがやや強引、こっちも変えるかもしれません。
・・・とりあえず逃げてる面子が反抗を決意し、ルーミアも復活し反撃開始・・・の前に一旦切ります。
一回外の話、で次に中の話・・・その後クライマックス開始に成ります。

以下コメント返信
九尾様
まず某メイドとの差別化があり、後ボスとして多数を圧倒する描写が欲しかったのであんなカウンターぽくなりました。
佐天さんはまあ過去的に鬼と天狗には勝てない位に・・・但しここの彼女は年長者なので機転利いて、後色々小技でカバーする感じです。

うっちー様
勘と計算は永夜の次期タッグ、全組がどちらか満たせてるって意味です・・・今回姫の相手は変則的タッグになる予定。

雷天狗様
いや最初はそのイメージでしたが、外からだと唯の超加速にしか映らず見栄えの関係で凝った物にしました。
・・・二部最初のボスだけに多少贔屓気味ですがチートな姫ならまあ仕方ないかなあと。

懐ゲーマー様
幻術はあんまり無関係、でも意見はご尤も・・・折角なので反撃何パターンかのうち幻術にしました、因みに心理定規はそこそこ出番あります。



[41025] 第二話 幻想の命・十一
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/06/06 19:52
『……このままじゃジリ貧です、いっそ仕掛けるというのはどうでしょう?』

結界内で上条達に『彼女』は行き成りこんな事を言った。

『ああその前に一度周りに敵が居ないか確認するべきですね……お願いして良いですか?私は目立つから難しいけど……』

それは一見自然な内容で必要性も感じられた、頷いて一同は四方に散って兎達が来ていないか確認しに行く。
一人残ってそれを見送った『彼女』はどこか覚悟を決めたような表情をしていた。



「……行った、よね?」

氷華は周りに人影がないのを確認した後そっと翼を広げる。
チルノに使い方を教わったばかりの翼を、具合を確かめるように数度動かした後ゆっくり飛び立とうとした。

(もう嫌だ、誰かを巻き添えにしたくない……だから、私一人で……)

覚悟を決めた表情で氷華はある方向を見た。
妖怪の山の木々と竹林の混ざるこの空間で、特に後者の多い箇所だ。
輝夜やその仲間の監視が厚い筈の場所で、そこに行けば直ぐに向うは氷華に気づくだろう。
氷華は彼女一人で全てが終わるように(勝敗がどう転ぼうが)決着を付けに向かった。

(姫という人を倒せば、それで終る……でも私が捕まってもそれで終り、もう誰も戦わずに済む)

当然彼女としては自由に生きたい、折角友達が出来たのだから彼女達ともっと一緒に居たかった。
だけど、自分のせいでもう戦って欲しくないから自分だけで行くことを決めた。
チルノに戦い方を教わったことで却って覚悟させてしまった、同時にもっと早く気付けたルーミア達に援護出来たという悔いでもある。
覚悟と後悔、二つの思いを胸に氷華が翼を羽ばたかせた。

「……だと思った、はいチルノちゃんGO!」
「おう、あたい行きまーす!」
「え?……きゃんっ!?」

が、そこへ男女二人組の声、気になって直ぐに戻ってきたチルノと上条である。
まずチルノがタックルをかまして氷華を地に押し倒す。
そこへ上条が右手を伸ばして軽く方に手を置くと、氷華は一気に脱力させられた。
力なく萎れた翼に彼女は目を白黒させた。

「あ、あれ、何で!?」
「……俺の右手は君みたいなのに殊更有効だ、俺を無視して敵の方に行けると思うなよ?
ああ『何で』は止めた理由?それとも気づいた理由?……前者は見殺しは後味悪いから、後者は似たように追い詰められた娘達を知ってるからかな」
「そうだよ、あの時のインデックス達に少し似てた……ていうかこんな無茶の為に色々教えた訳じゃないよ!」

彼等は元々こういう他人の無茶は無視できる人物ではない(その割に自分は無茶するが)加えて夏休みのインデックスやミサカに重ねてもいた。
だから放ってはおけず、直ぐに戻ってきたのだが案の定だった。

「……無謀過ぎる、考え直した方がいい」
「で、でも相手の目的は私ですよ、だから私が行くべきなんです!
それに……戦えたのにそうしなかった、気付けてなかったんだけど……力があったのに見ていただけだったことを償わないと!」

普段気弱な氷華が叫んだ、血を吐くような悲痛な叫びだった。
だけど、チルノと上条は首を横に振り手放さない。
二人は顔を見合わせた後同時に(上条は左手である)手を伸ばし、氷華の額にでこピンした。

『却下だ、この……考え無し』
「痛い!ていうか……この人達に言われるの、何か納得行かない!?」

自分のことを棚上げにした突っ込みが氷華を襲う。
額を押え蹲る彼女に左右から強い語気の、だけど心配混じりの言葉が掛けられる。

「そういうの、あたいも判らなくもないけど……もし自分が置いてからって、想像してみなよ?」
「風切さんだったね、とても気に病んでて何とかしたいようだけど……他の人も同じことを思うってわかってる?」
「……うっ、いや、ええと……」

氷華は痛いところを突かれて呻いた。
彼女はルーミアや心理定規の為に無茶しようとしているが、その二人も同じ状況では似たようなことをするだろう。
心配するだろうし、気付けなかったこと、いや行かせたことを激しく嘆く筈だ。
決心が揺らいで足が止まった彼女に、上条は止めを刺した。

「因みに……携帯のスピーカー付けたまま来てるから」
「え、えっ?」
「……ここからは本人に怒られなさい」

遠くを見れば心理定規が携帯片手に向かっていた、とても怒った表情だった。
ズンズンと歩いてくると、ムンズと氷華の頭に手を掴んだ。

「あ、ああ、心理定規さん……」
「氷華、この……このお馬鹿!」
「うひゃっ!?」

怒鳴られた氷華が身を竦めた、だけど心理定規は許さない。
彼女は氷華を自分のように引き寄せると、ドレス以上に真っ赤な顔で叫んだ。

「何なの、馬鹿なの、貴女!?、誰が……そんなことしろって言ったのよ!」
「あ、あう……」

氷華が青褪める、だけどそれは恐怖ではなく、心理定規の怒っているがそれ以上に心配そうな顔を見たせいだった。

「そんなことされて、勝手に無茶されて……私が、ううん、ルーミアも……何と思わない筈ないじゃないの!」
「そうだぞ、特にルーミアはあれで結構我儘なんだから……あたいもルーミアと付き合い長いからわかるもん!」
「あうう……」

心理定規と更に補足したチルノの言葉に、氷華はそれ以上意地を通せずへたり込んだ。
そんな彼女に心理定規はしっかりと、だけど優しく抱きしめ説得の言葉を掛ける。

「だから無茶だけは止めて、折角友達になったんだからね」
「……ごめんなさい、心理定規さん」

氷華は項垂れ為されるがままに、心理定規の手に身を任せた。
やっと止まってくれたのを見て彼女は優しく氷華を抱きしめ、何度もその頭を撫でる。

「……でまあ、それはそれとして……怒ってもいいわよね、さっきの無茶を」
「あ、あー……お手柔らかにお願いします」
「駄目!」

優しく撫でる手はそのままアイアンクローの形へ、氷華が許しを乞うも心理定規はきっぱりと首を横に振った。

「この……馬鹿氷華!」
「う、うひゃっ……」
「普段は気弱な癖に……変なとこで無茶するなっての!」
「きゃんっ!?」

もう我慢できるかとばかりに、心理定規の雷が落ちたのだった。

「決戦前に飛んだ寄り道イベントだな、チルノちゃん」
「全くだね、かみじょー……世話が焼けるよね、もう!」

尚我関せずという感じでチルノと上条は笑っていた。
因みに氷華の救援要請の視線を二人は完璧にスルー、基本どちらも無鉄砲だが今の心理定規を敵に回す程ではないようだ。



第二話 幻想の命・十一



ウサウサウサ

「ほら走れ走れー、お前ら根性出せよー!」
『はいウサ、てゐ様!』

無数の兎が結界を、妖怪の山と迷いの竹林が融合した異界を駆け巡る。
指揮するのは他の兎よりやや年長の少女である。
そこへ黒髪の少女、輝夜が厳しい表情で話しかけた。

「……因幡、兎達を集めてくれる?」
「姫様、どうして……わかった、皆を呼んでくるね!」
「ええ、お願いね……向うから来てくれたから」

主の言葉に一瞬首を傾げ、だがその真剣な声音に彼女はコクと頷く。
てゐは結界内、特に外と接する辺りへ回した戦力を集めに行き、それを見送った後輝夜は溜め息を吐いた。
その視線の先には『白』、妖怪の山を模した辺りの渓谷を中心に広がる『深い霧』が映っていた。

「どうやら仕掛けてきたようね、まあ……探す手間が省けたけど」

興奮と(望みを果たせるという)緊張でやや強張った表情で彼女は己の本当の武器を、てゐから返してもらった蓬莱の枝を握る。
彼女の千年越しの願い、その総決算が近づいていた。



「ひゅーいー、知り尽くした山ぽいしやれると思ったが……天候操作、この規模のはやっぱキツイや」

霧の中心でにとりが嘆息する、疲れた様子で川辺りにドカリと座った。
その後完全準備で戦意も満々の氷華とその護衛に声を掛ける(尚何故か氷華がタンコブ拵えて擦ってるが、興味ないので無視した)

「……ほら目晦ましならこれで十分だろ、晴れる前に行ってきな」
「ありがとう……後は任せて、川城さん!」
「ありがと、河童!」
「おう、頑張ってきな……あんた等が行って霧が必要なくなったら、そしたら涙子を見てくるかね」

にとりに見送られて、一同は霧に紛れて駈け出した。
目的は兎の群れの中心、そこに居るであろう輝夜一点狙いである。

「ようし、皆準備はいい?」
「俺達の目的は大将狙い、打倒……」
『輝夜姫……行こう!』
(……勝つんだ、私が人間でなくても……友達と共にある為に!)

一同はチルノと上条を先頭に、氷華を中心に守りながら前へ進んでいく。
輝夜達の意表を突いた総力戦の始まりである。



「ウサウサ、襲げ……ウサアー!?」

最初に異変が起きたのは急に立ち込めた霧付近からだった。
ドガンドガンと轟音が数回続けて響いのだ。
その度弾幕が飛び、吹雪と雷光、更に一つ目と『明らかに何かが違う雷光』が放たれ兎達を蹴散らしていく。

「……全隊集結、姫様を守って!」

弾幕の炸裂音が段々と近づいていて、それに気づいたてゐが部下達に指示を出す。
そして、目と鼻の先まで近寄った時霧の中から氷華と心理定規、それに四人の男女が飛び出した。
てゐは予想していたから慌てず大弾で迎撃する。

「行かせないよ、月まで……吹っ飛べえっ!」
「……断る、幻想殺しだ!」

パキィン

だが、同行者から一人飛び出した上条が拳を叩きつけ、大弾を粉砕する。
その光景にてゐはぎょっとし、だが直ぐに部下にも攻撃命令を出そうとした。

「むうっ、また妙な新手!?……ええい、子兎達も攻撃を……」
「おっと今度はこっちだ……『彼女』に合図を!」
「了解だ!」

四方から兎達が弾幕を撃とうとしたが、それより一瞬早く上条が飛び退く。
同時に何か後方に言って、頷いた屠自古が雷光を放った。
但し頭上へ、ピシャンと雷光が天へと登る。

「……何を?」
「直ぐにわかるさ……ほら来るぞ、『修羅』が!」

訝しんだ様子のてゐと兎達だが次の瞬間『何か』が落下してきた。
ズドンと土煙と共に『金と紫』の『何か』が地に降り立つ、それは柔和な笑みを浮かべる尼僧だった。
ボロボロで黒焦げのぬえ(先の電撃を食らったらしい)を引き摺って、女は拳をグッと握り締める。

「あらこれは……獲物が選り取り見取りですねえ、いや暴れ甲斐があるというものです!」

微笑んだ(だけど目だけは怒りでギラギラと輝く)尼僧、聖白蓮が拳を地面に叩きつける。
ズドンという音と共に薄紫色の弾幕が半円状に広がり、てゐと兎達へ放たれた。

「紫雲の……オーエン、南無三!」
「え、ちょ、待っ……」

慌てるてゐ達だが、聖は少しも手を抜かない。
今度は両腕で二度地面を叩き、先程の物より倍程厚い弾幕を発動する。

「いいえ、待ちません……紫の雲路、とりゃあ!」
『う、うわあああっ!?』

悲鳴を上げて飛び退き、あるいは直撃し吹っ飛ぶ兎達、どちらにしろこれで折角整えた彼女達の陣形は滅茶苦茶だ。
それを確認した後聖は後ろを振り向き、屠自古にペコリと頭を下げる。
その懐から『手紙』を携えた白い雲のような物体、神霊が出てきた屠自古の元へ舞い戻った。

「ふう、首尾はまずまずか……」
「ああ、良い奇襲だったぞ、聖住職」
「いえいえ、こちらこそ合図ありがとう、屠自古さん……それと奇襲のことをこの、神霊で知らせてくれたのも」
「……ふっ、このまま互いの身内の不始末、片付けようか」

何の因果か、そういう意味では全く同じ状況だった。
二人はコクと頷き合った後決めてあった手はず通りに動き出す。
屠自古は芳香を連れて背後へ、蹴散らし損ねた兎が追ってくるのを阻止しに行き、聖は手元の少女を見た。

「……私と芳香で後方を押さえる、そろそろ追い付いてくる頃合いだろうしな」
「よっしゃー、頑張るぞー!」
「それでは私は……ぬえのお仕置きをしましょうか」
「ひ、ひいっ!?」

屠自古達が後ろに行くのを見送って、その後聖は首根っこ掴んで持ったぬえを睨みつける。
当然生真面目な(融通がきかないともいう)彼女がその暴挙を許す筈は無い。
だが、それだけで終わらす気もなかった、具体的には誘った方へのケジメである。
聖は行き成りぬえを肩に担ぐと、そこからオーバースローでの投擲体勢に入った。

「ちょっ、何を!?」
「……反省して貰います、但しお仲間も一緒にね!」

ブウンと投げられたぬえが行くのは後方で警戒する一羽の兎、聖の弾幕で後方に飛び退いたてゐである。
彼女は一瞬手に持つ木の杵で迎撃を考え、一応味方だから止めて片腕で受け止める。
そして、次の瞬間てゐとぬえの眼前に、風の如き踏み込みで聖が現れた。

「超人、聖白蓮……」
『……え?』
「そして、このまま……吹っ飛びなさい、ガルーダの爪!」

ギュオ
ドガアアッ

『ぎゃん!?』

ぬえ達を高々と蹴り飛ばした聖はその後ふわと浮かび上がり、今しがた飛ばした二人を追う。

「それでは私は二人の相手をしましょう……片方は副将らしいので向うにはかなりの痛手で、もう片方は元々私の目標ですしね」
「あー……ありがとうございます!」
「いえいえ、そちらも頑張って」

思う存分場を荒らすだけ荒らして、彼女は飛び去った。
残された氷華、それに三人の護衛は真剣な表情で敵の残り、輝夜と兎達を見やる。
向うは片腕であるてゐの脱落に慌て、だが直ぐに姫を中心に体制を立て直した。

「残るは……あの人だけか」
「……まだ勝ったと思わないで欲しいわね……指揮は私が引き継ぐ、兎達は援護陣形を取りなさい!」
『了解ウサ、姫様!』
「うわ、まだやる気だよあいつ等……」
「……だよなあ、ここで退くなら最初からこんなことしないか」

主の一喝で一斉に整列する兎達、その無駄に良い連携と士気の高さに苦笑しながら氷華やチルノ達も戦闘準備を整える。
まずチルノと上条だけが前に出て氷華を敵から遮った。

「……あれ何のつもり、手数を分けて勝てるとでも?」
「ふんだ、勝つ気だから……あたい達はこうしてるのさ!」
「二人でも甘く見るなよ、これで何度も修羅場潜ってる……そして、直ぐにわかるさ、この組み合わせの意味が」

言い返した後チルノと上条は後ろをチラと見た。
それに氷華と心理定規が頷く、二人は唯下がったわけではなかった。
勝つ為の切り札が有った、それぞれ自分の掌と翼、未現物質の刃を見た。

「……心理定規さん?」
「ええ、準備は出来てるわ……そっちこそわかってるわね、切札の切り時を?」
「はい、私が『二』、貴女が『一』……」
『……合わせて三つの切札で、あの人を倒す!』

勝つ為の、そしてこれから友と生きる為の策が有り、それを万全に切れる状況に持っていくのが前に出た二人である。

「さあてまずはお膳立て……しっかり場を整えなきゃね、かみじょー!」
「ああ、何せ特攻未遂の無鉄砲な子と怪我人……こっちで援護しないと」
『……行くぞっ、あたい(俺達)が道を開く!』
「……ちっ、何を考えてるか知らないが……負ける訳にはいかない!」

ダッと上条が前へ、チルノが後ろに付き、それに向うも身構える。
ある意味何時もの組み合わせ、後衛前衛にチルノと上条が別れ、それを輝夜と兎達が迎え撃った。
輝夜の難題、幻想の命を巡る戦いは『ある一つの要素』を除いて最終段階へ入った。



「……こ、こち、吹き、ふかばー?」

風が吹く、それに煽られ樹の枝に掴まりながら、金髪の少女が詠唱する。
ぎこちなく、だけど慎重に準備を重ねていく。
仕返しと、受け取ったバトンに報いる為の戦いの準備だ。

「匂い、起こせよ?……う、梅の花!主なしとて春わするるな!」

最後の一節を言い終えると同時に大風が吹いて、分厚い雲が結界内をゆっくりと覆っていく。
彼女好みの暗い空、そして受け取った力を使う上で効率がいい状況だ。
血を介して取り込んだがあくまで他人の霊力であり、こうやって準備せねば再利用は出来ない。
自分の力と、受け取った力の両方を活かし切る為にもこの準備に手は抜けないのだ。

「ええと、天神の飛びうめっ……ふう、良しっ、これで全力で戦えるよ!」

そして、更にルーミアは両腕を合わせてから空に翳した。
するとバチリとその手に雷光が収束し、十字架の形の大剣が握られた。
自分なりに、涙子の力を使い易くした物である。

「うん、これなら……待っててね、氷華、心理定規!」

こ最後の参加者が戦場に向かい、こうして真の意味で風切氷華(ヒューズ・カザキリ)を巡る戦いは最終段階へ入ったのだった。





クライマックス開始・・・そして俗にいうEXルーミアの代名詞の剣を持たせてみた、他のパワーアップが思いつかない自分の想像力が悲しい・・・
戦場はvs姫、vsぬえ&てゐ、他兎達で三つ(あ外の一方通行達で4つ?)・・・本当は外の話を挟む筈が、一方通行と布都共に部外者に近く焦点ブレるかなと後回しに。
・・・一応勝敗が(後ですが)中に関わりますが、比べると優先順位は下がるかな?・・・大体結界内を前後編、途中で外を挟む感じになりそうですね。
とりあえずは輝夜との戦い、ルーミアの復活、発動する氷華の切り札(の片方)・・・の予定、変わったらごめん。

以下コメント返信

九尾様
あ、前回のはあの二人がそれぞれチルノと佐天さんっぽい技使いますってくらいです、そんなに強化ではなく・・・それぞれ終盤のハイライトかな?
佐天さんはそれも有るかもしれませんが、何より加護が某『元祟り神』・・・一見人当りいいけど、裏に執念深さがこれでもかと隠れてたりします。

うっちー様
ここの佐天さんは目的の為に手段選ばないタイプ、封印解除ルーミアの方が勝率高いかと己を犠牲に・・・邪魔の為なら形振り構わずです。
チルノだけでなく佐天に上条や一方通行含め、一部主要キャラで新キャラを導くのが今回の肝かも。

do-do-様
上条さんとチルノは援軍だけでなく頼れる先輩ポジションです、引っ張ってく二人をお楽しみに・・・チルノ、新鮮だから内心はしゃいでるかも。



[41025] 第二話 幻想の命・十二
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/06/20 16:56
幻想の命・十二



廃神社を覆う結界は大きく二種に別れ、それ等が複雑に絡み合う。
輝夜と涙子、それぞれの霊力が結界に反映されて『迷いの竹林』と『妖怪の山』の二つが混じっているのだ。
奇妙なことに時々『ある方向』から風が吹き、その度に妖怪の山を模した結界は何かに昂ぶるように揺れた。
妖精の鋭い感覚を持つチルノはそれに気づき、おやと小首を傾げた。

「(……誰かが来るのかな?)……ようし、なら『暫く』はあたいの出番だ!」

後ろの氷華達だけでなく、来るかもしれない何者かに対してもお膳立てをすることにした。
雄々しく宣言して弾幕を展開した。

「あたいの弾幕を受けろっ、パーフェクト……フリーズ!」

バッとチルノが翼を広げ、凍てつくような冷気を周囲へと放出する。
彼女を中心に巻き起こった大寒波が輝夜と兎達へ襲いかかった。

ビュオオッ

『白』が視界を埋め尽くす、輝夜は霊力チャージと同時に兎達に指示を出した。

「……派手にやるわねっ、相殺するから皆は援護を!」
『了解ウサ、姫様!』

輝夜の言葉に頷いて兎達が散った、幾つかに分かれると息を合わせ同時に大弾を放つ。
ドンドンとそれを四方からチルノの弾幕に打ち込んだ。
完全には止まらないが風の勢いが鈍り、そこへ輝夜が玉の枝を手に駆けた。

「行くわよ、龍の顎の玉……五色の弾丸!」

彼女は決着は近いと確信し、擬装用の師でもある薬師の物ではなく自分本来の弾幕を使った。
赤と青と黄、それに黒と白、五色の大弾を周囲に浮かべる。
手をばっと払い、周りの大弾を連続して迫る冷気に打ち込んだ。

「うりゃりゃりゃ!」

ドガガガッ

赤と青と黄の三つで風が止まり、すかさず輝夜は四つめの黒を放った。

「……おりゃあっ!」

ドゴンッ

「うおっ、あたいの弾幕が!?」
「ふっ、残念だったわね、妖精!」

炸裂した黒の大弾によってチルノの風が消滅し、輝夜がニッと笑う。
そのまま輝夜は動きを止めず、最後に残った白の弾幕を打とうとした。
が、その瞬間チルノが行き成り悪戯っぽく笑った。

「……なんちゃって、かみじょー!」
「チルノちゃん、交代だ!」
「おうっ!」
「うっ、兎が言っていた異能の右手持ち!?」

輝夜の笑みは直ぐに消える、逆にチルノが満面の笑みで横に飛んで、そこへ上条が走りこんで来た。
慌てて輝夜は残った白の弾幕に、更に霊力を込める。
生半可な弾幕は止められるから、大技で吹き飛ばそうと考えたのだ。

「ちっ、五色の弾丸は中止よ、次は……」

白の大弾が辺りを染める程激しく輝き、輝夜が玉の枝でコンと叩くと勢い良く打ち出された。

「二人纏めて落とす、仏の御石の鉢……砕けぬ意思!」

ギュオオッ

特大の弾幕が突き進み、二人纏めて吹き飛ばそうとする。
が上条は全く臆せず、走る速度を更に上げて輝夜の弾幕へ向かっていく。
彼は拳を大きく引いた後真直ぐに突き出した。

「……甘い、とりゃっ!」

力強い叫びと共に拳が放たれ、大弾のど真ん中をぶち抜く。

パキィンッ

「まだだ、このまま……道を開ける、どりゃああ!」

上条はその拳を開き、諸手の形にすると真上へ突き上げる。
輝夜の大弾が縦に両断され、二つに割れて左右へ、少しずつ消滅し尻すぼみに成りながら飛んでいく。
そして、開いた隙間をすかさずチルノが走り抜けた。
その手には渦巻く冷気、上条に防御を任せてしっかり攻撃準備を終えていた。

「続けて行くぞーっ……凍り付いちゃえ、パーフェクトフリーズ!」
「(永夜返しはまだ……)う、火鼠……いや、サラマンダーシールド!」

一瞬輝夜は逡巡する、時間操作は消費が激し過ぎるし普通の弾幕では心許ない。
彼女は防御の弾幕、但し普段使うより『一段上』の防御の弾幕である。
さっき撃ったばかりの白い弾幕の破片を素早く掻き集め、厚く壁状にして展開し直した。
真正面から冷気を受けて弾幕の壁がギシギシと歪む、だが何とか凌ぎ切れて輝夜は一瞬安堵の息を吐いた。

「良し、これで……」

が、弾幕越しにチルノの表情が変わるのが見えた。
彼女は舌を出し笑ったのだ、そして後方に叫んだ。

「そう思うのは……早いね、かみじょー!」
「ああ、代わって!」
「う、また貴方!?」

ダッと上条がチルノの横から飛び出し、彼の拳が輝夜の防御弾幕を打った。

パキィン

「うわわっ!?」

一撃で弾幕の壁の構成が歪み、輝夜は慌てて霊力を上乗せして安定化させる。
だが、上条は再度壁を殴りつけた。
霊力を追加したことで砕けないが、幾らか揺れて更に消耗させた。

「うっ、霊力が……」
「そういうことだ、削らせてもらうよ!」

顰め面の輝夜に上条が言った、彼は振るう腕は一瞬も止めない。
更に顔を顰めた輝夜に彼が懐かしそうに呟いた。

「ああもう、余計な手間を……」
「悪いな、姫様……少し、懐かしいシチュエーションだから嫌でもやる気になってね」

彼は苦笑気味にだが笑いながら言った。

「夏休みにこういうことが『二度』程在った、会ったばかりだが友人が困っていて何とかしようと走り回ったもんさ。
……どっちも『変な巫女さん』とかに助けられた、今回はその立場になって助けるって違いがあるか」
「……変な巫女、何か知り合いにいるような気がするわ」
「ふうん、後で聞くけど……それと自分達が失敗した場合のどうなったか、その『IF』を見るのも嫌だからな!」

友人達の別離という有ったかもしれない結末、そんなのは後味が悪くして仕方がない。
だから上条は全力で氷華達に助力することを選んだ。
最後に彼は全力で拳を突き出し、それで遂に弾幕は限界に達し砕けた。

「だりゃっ!」

パキィンッ

「サラマンダーシールドが!?」
「……そんで、次はあたいだー!」

弾幕が消えた瞬間チルノが前に出る、今度は彼女が上条の横を駆けていった。
そ手には先程から維持し続けてる冷気の弾幕がまだ残っている。
それを大きく振り被り、その後彼女は輝夜へ向かって叩き付けた。

ズドンッ

「うおわっ!?」

輝夜が悲鳴を上げて飛び退く、直ぐに後退したことで直撃はないが幾らか凍傷を負っている。
だが、チルノはそれで満足せず弾幕を放ち続ける。
更に左右方向に一度ずつ、狙いは輝夜を援護しようと来た兎達だ。

『へっ!?』
「次は……あんた達だ!」

主の危機に必死に集まった彼女達だがそれに必死過ぎた、前へ気を取られていた彼女達は冷気を諸に受け足止めされる。

『ぎゃあっウサ!?』
「そこで見てな、ああこれも……アイシクルフォール!」

ズドドドッ

更にチルノは氷塊を打ち込む、狙いを付けてなく殆ど命中弾もないが牽制に十分だ。
兎達を更に足止めした後チルノが輝夜を見た。

「さて、後は……あんただ!」
「来る?……いいわ、返り討ちにしてやる!」

手近に打った氷塊の一つを担ぎ、槌代わりに持つと輝夜に向かって走り出す。
輝夜も蓬莱の玉の枝を手に迎え撃つ。
が、チルノは打撃と見せかけ、一歩手前で止まって冷気を放出し出した。

「行っくよー、パーフェクト……」
「またそれ、何とやらの一つ覚え?」

放つのは先程の冷気による弾幕のように見えて、輝夜はワンパターンだと侮り苦笑する。
しかし、次の瞬間その笑みが凍りつく。
チルノの持つ氷塊が砕け、バラバラの弾幕に成ったからだ。

「……グレーシェリスト!」
「うっ、別の弾幕?防御のタイミングが……」

弾幕の種類を見誤ったことで、輝夜は意表を突かされた。
当然ながら『既に手元に用意されている』分『新たにチャージする』より遥かに弾幕の展開速度は速い。
一瞬で広がり、目の前を覆い尽くした『白』に輝夜は選択を迫られた。

「回避は……駄目ね、防御も……温存はここまで、使うしかないか」

彼女は温存を諦め、意を決して蓬莱の玉の枝を振り翳した。

「……永夜返し三日月!」

輝夜は一段目をすっ飛ばして『切り札』を発動する。
時間の流れを鈍化させ、人も弾幕もスロー映像染みた緩やかな動きと成った。
それは目の前の『白』も例外ではない、静止状態のそれに輝夜は弾幕を放つ。

「邪魔よ、うりゃっ!」

ドゴンッ

大弾を数個叩きつけて邪魔な氷を排除する。
更に奥のチルノにも狙いを付けた。

「……って、あら?」

すると、時間操作が完成する前にやったか、彼女は自分を羽で包んでいた。
ビキビキと氷を追加し肥大化させた二枚の翼を自分に巻きつけている。
時間操作の前では回避は粗不可能だからせめて、といった所だろうが輝夜は苦笑しながら大弾を作り出した。

「涙ぐましいわね……でも無駄よ!」

その言葉と同時に輝夜は弾幕を叩き付ける。

バキンッ

炸裂しその衝撃で肩羽が粉々に砕け散る、間髪入れず輝夜は大弾をもう一つ用意した。

「もういっちょ……ふっ飛べ!」

バキンッ

更に二発目の大弾が炸裂し、無防備なチルノの姿が露わと成る。
止めを刺そうと輝夜は三発目の弾幕を展開する。
そして叩きつけようとした瞬間、視界の端を『白』の何かが通り過ぎた。

パキィンッ

輝夜の肩に氷の粒が突き立っていた。

「……え?」

極小の氷がゆっくり広がり輝夜の体を凍りつかせる、それは二度の大弾の爆発力で変化した時間内でも通常速度を維持していた。
ダメージによって集中が乱れ、時間停止が不安定と成った。
慌てて輝夜は霊力を余分に使って安定化、いや流れをもっと緩めると同時に大弾を生成する。

「くっ、だけどこんな程度じゃ……永夜返し、待宵!……大弾、うりゃ!」

更に一弾飛ばしで時間を遅め、無防備なチルノを撃つ。
彼女は数メートル程吹っ飛び、だがそこでとうとう輝夜の集中が切れて時間の鈍化が中断された。
戻ったと気づいたチルノは痛みに耐えニカと笑った。

「痛たっ、でもどうだ!あたいの新弾幕……ああ、宣言が前後したね、フロストキングだよ!」
「ぐっ、私の攻撃が……逆手に取られた!?」

氷を兵士に見立てた遠隔操作、それまで彼女が得意としていた『バラ撒き』や『薙ぎ払い』とは違う新たな弾幕だ。
その弾幕は氷塊を砕いた時点で既に有った。
漂わせ宙空で停滞させてあり、彼女自身が攻撃を受けた瞬間それを解除した。
二度の大弾の炸裂で加速させ、その結果凍りついた時間の中の輝夜を撃ったのだ。

「あれだね、無敵の弾幕なんか無いってこと……あたいは最強だけど!」
「ああもうっ、生意気な……」

輝夜が悔しそうな表情で体中の氷を引き剥がす。
傷は癒えるが物理的な拘束は処理する必要がある、だがそれこそがチルノの目的だった、処理に使った数秒のうちに『本命』と交代する。
彼女は翼の断面を痛そうに擦りながら飛び退くと、後方へと叫んだ。

「まあ流石のあたいも疲れたかな……交代だ、後は任せた!」
「はい、決着は私が!」

チルノの言葉に氷華に力強く返事する。
それまでの戦いは『見本』であり、切り札たる彼女に戦いを見せるだけの物だったのだ。

「氷華、相手の弾幕は見れた?タイミング覚えた!?」
「はい!」
「そう、それなら……やっちゃえ!」
「はいっ!」

氷華が力強く頷く、彼女は意識を集中した後軽くトンと飛んだ。
そして、次の瞬間輝夜が驚愕する。

「はっ!」

ヒュンッ

行き成り氷華の姿が溶けるように消え、その一秒後彼女の目の目に現れる。

「……えっ?」
「ぶっつけだけど……良かった、やれたみたいだ、大妖精という方の真似」

瞬間移動、いや正確に言うならば辺りに漂う『AIM拡散力場』の流れに体を潜めたのだ。
これが例えば、湖に住む妖精ならば水や霧といった馴染み深い物を使っただろう、氷華の場合は体その物のAIM拡散力場を使った。

「うりゃあ!」
「……くっ、身体能力で押す気か!?」

バチバチと紫電を纏う拳が放たれ、輝夜は咄嗟に蓬莱の玉の枝で逸らす。
更に玉の枝を大振りし強引に氷華を押し返すと、至近距離からの大弾で彼女を撃った。

「離れなさい、やっ!」
「きゃあっ……」

氷華は反射的にに電光の翼で自分を抱くようにしたが、衝撃は消し切れず吹き飛ばされた。
だが、彼女は翼を解いて着地すると再び消える。

「……まだです、距離は取らせない!」
「うっ、また……」

先程の光景を再現するように、氷華が直ぐ様輝夜の眼前に現れる。
彼女は再度拳を突き出し、輝夜は慌てて玉の枝で受け止めた。
ギリギリと雷光を帯びた拳と蓬莱の玉の枝が押し合い、同時に交差する得物越しに氷華と輝夜が睨み合った。

「この距離ならば……えいっ!」

バチイッ

氷華が叫んで翼を開く、電光を纏った翼が開くと同時に青白い雷光を辺りにばら撒いた。

「うっ、これは……電撃の接触時間が伸ばされる!?」
「これで……時間操作はし難いはず!」

広範囲に広げた分電撃の威力は高くない、数秒ならば痺れる程度だろう。
だが、時間を引き伸ばせば電光に接れた時のダメージ、感覚的な痛覚への刺激という意味で遥かに悪化することに成る。

「これが貴方達の永夜返し対策ということ、かしら……」
「ええ、触れ合う程の白兵戦、チルノさん達が授けてくれた……『一つ目』の策です!」

その言葉と同時に氷華が踏み込み、両手で電光を束ねて自分の背程の刃で斬りかかった。

「貴方は不死身だそうですが……蘇生にはそれなりの力が要る、重傷ないし致命傷を与え続ければ何時かは倒れる!」
「くっ、最後の最後で……求めた宝自身が抵抗するなんて!?」

慌てて蓬莱の玉の枝で逸らしながら輝夜が呻く、もしかしたら涙子の時以上に焦っているかもしれない。
彼女にとって今日最大の予想外が起きたようだ。



「……でも、まだちょっと不安だね」

後方に下がり膝をついたチルノがちょっと顔を顰めた。
前には傷ついた彼女の護衛の上条、それに後ろには『もう一つの切り札』を担当する心理定規が居た。

「あっちの黒髪は最初から霊力を消費してる、だから消耗戦は不利のはずだけど……経験的な意味で怖いね」

涙子達を含めて三戦目である相手はハンデを背負っているようなもので、ダメージレースでは遥かに分が悪い。
だけど、やはり経験差は大きいようで真正面からの打ち合いでは氷華は輝夜に少し押されている。
一つ撃つ間に二か三撃たれる、時々避け損ねた氷華は体を削られている。
ポカリと体に『空洞』が出来て痛々しい、また人外であることを否応なく思い知らされる。

「……うう、自分が出るよりハラハラするわ」
(まあ……ドレスの人はこの調子なら、人間でなくても上手くやれるか)

ちょっと怖がらないか、溝が出ないか心配したが大丈夫らしい。
というか(これはチルノは知らないが)上司である第二位が人間離れしているのも有るかもしれない(最悪の敵だった彼の唯一の功績かもしれない)

「あっ、少し不味いかも」
「……不味いって何が?」
「兎が来てる……」

更に問題が起きた、氷で追い払った兎達がまた集まってきている。
姫の危機にかなり急いできたようで、予定より再集結が早かった。

「うっ、未現物質で追い払って……」
「駄目、あんたには役目有るでしょ!」

心理定規が氷華と輝夜の戦いを邪魔させないように向かおうとしたが、チルノがすぐに止める。
それも大事だがこれから彼女にはするべきことが有るからだ。

「……とはいえ無視できないし、あたいが行くよ」
「チルノちゃん、その怪我じゃ……」
「仕方ないって、人手が足りないし」

心理定規には大事な役目が有り、上条は彼女の護衛(流れ弾等の対処)に残したい。
だから、チルノは怪我を押して向かおうとした。
が、その瞬間風が吹いた、禍々しい妖気を帯びた、でもチルノにはよく知る妖気の風だ。

「あれ、この気配……ルーミア?」

チルノが小首を傾げた瞬間、ザアアッと大きく風が吹き荒ぶ。
それは戦場を駆け抜け、そこにいる者全ての目を一瞬晦ました。



「ふう、良かった……間に合ったー!」
『え?』

その瞬間戦場にいたほぼ全ての者が驚愕した。
そこには一瞬前まで居なかった者が現れたからだ。
氷華の隣、かつ輝夜の目の前に金髪の美しい女が立っている。

「やあっ、さっきぶりだね……リベンジだよ」

現れたのは佐天と共に行方の知れなかったルーミアだった。
だがその姿は大きく変貌し、それ以上にその力も増大している。

「とりあえず再会の挨拶代わりの……ナイトバード!」
『ぎゃあっウサ!?』

彼女は黒い弾幕をバラ撒き、兎達を怯ませ後退させた。
そして、部下を蹴散らし終えると主である輝夜に向き直った。

「なっ、何で、あなたが!?」
「る、ルーミアちゃん?……ていうか大きくなってる!?」

輝夜が、いや氷華が突然現れてルーミアに、またその変貌にぎょっとした声を出す。
だがルーミアは説明を面倒がり、両方の問いに共通の答えを言うことにした。
彼女は有無言わさぬ勢いで氷華へ叫んだ。

「何ていうか親切な人が居てね、そのおかげ……氷華、合わせて!」
「う、うん!」

ガギィンッ

「あうっ、再会早々行き成りね!?」

ルーミアが、彼女の言葉に押され氷華が二つの刃を叩き付け、咄嗟に玉の枝で防いだが輝夜は弾き飛ばされる。
奇襲に対処できず輝夜は地面に叩きつけられ、衝撃で咳き込んで苦悶の声を上げた。
それを見たルーミアはニッと笑みを浮かべた。
彼女は大剣を大きく翳す、すると昂ぶるように周りの木々達も喧しくその身を揺らした。

「さあ私と、白梅の髪飾りのお姉さんの……仕返しをしないとね!」
「くっ、あそこで逃したことがこうも響くなんて……」

本人は堕ちたはずの、奇しくも結界を作った者の代理としてルーミアはここに現れ輝夜と相対する。
顔を引き攣らせる彼女に対し氷華は心の底から笑みを浮かべ、唯でさえ高まっていた戦意は更に高まる。
彼女はルーミアに並び立つと電光の刃を構えた。

「ルーミアちゃん、私も……『今度』は私も戦うから!」
「おっけー、一緒に行こう、そして……あいつを倒すよ!」
「うんっ!」

隣の友人の存在が互いに力を与える、ルーミアと氷華は燃え上がる程の闘志共にその刃を輝夜に突きつけた。

「……心理定規、わかってる?」
「ええ……私の切り札、それと氷華の二つ目の切り札、確実に決めてみせる」

そして、その後ろでも『二人の友達』が未現物質を手に慎重に勝機を見計らう。
こうして全ての登場人物が出揃い、最終決戦の場は佳境を迎えた。




今回はもう一話、決着編です・・・



[41025] 第二話 幻想の命・十三
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/06/20 16:56
幻想の命・十三



「行くよ、ムーンライトレイ!」
「……援護します、やあっ!」

真正面からルーミアが輝夜に仕掛ける、数度放たれた斬撃に沿って閃光が続けて飛んだ。
氷華が友の攻撃間隔を埋めるようにする、彼女は小まめに出現と離脱を繰り返し牽制した。
輝夜は四方からの連続攻撃に顔を引き攣らせた。

「くうっ、次から次に、厄介ね……」

弾幕で相殺し、あるいは蓬莱の玉の枝で払い、それで間に合わなければ体を逸らす。
だが、全ては防ぎ切れず数発弾幕を受けた。
蓬莱の薬で手に入れた治癒力で再生するが、その度に霊力を消耗してしまう。

「ちっ、これじゃジリ貧か……ええいっ、反撃よ」

また弾幕が掠り、輝夜は慌てて後方に飛んで間合いを開け直した。
素早く霊力を玉の枝に纏わせると、大きくそれを振るう、その軌道に激しい光が残った。
光は勢いを増して、数個の大弾となって放たれる。

「蓬莱の弾の枝……虹色の弾!」
『うあっ!?』

ドンドンドンと連続して大弾が弾け、ルーミアと氷華をふっ飛ばした。

「……まだだよ!」
「うん、まだやれる!」

だが、二人は咄嗟に刃を翳して耐えていて、直ぐに立ち上がる。
まず氷華が反撃に出る、彼女の姿がいきなり掻き消えた。

ヒュンッ

現れたのは輝夜の頭上、しかも氷華は電光の刃を振り被っていた。

「やあっ!」
「……くっ、させるか!」
「きゃっ……」

反射的に輝夜は蓬莱の枝で薙ぐようにした。
それで氷華は弾かれるも得物は振り抜かれ足も止まる、それを見てルーミアが走り出した。
大弾を放つとその後ろに隠れ(氷華の周囲への電撃対策でも有る)距離を詰めると同時に自身も剣を手に隙を伺う。

「ダークサイド・ムーン……行けっ!」
「くっ、こんなもの!」

黒い大弾が直進してきて、慌てて輝夜は更に飛び退いた。
だが、その後ろからルーミアが飛び出し剣を振るう。

「次だよ、やあっ!」
「それも……当たるか!」

ガギィン

輝夜は素早く蓬莱の枝を構え直し、ルーミアの攻撃を弾く。
が、次の瞬間ルーミアが弾幕を展開し、更にここで体勢を立て直した氷華も隣に降り立ち翼を広げていた。
ルーミアは青み掛かって輝く砲撃を放ち、氷華は電光迸る翼を重ねてから振り被った。

『これで……倒れて(ください)!』
「くっ、迎え撃つ!蓬莱の玉の枝……夢色の郷!」

輝夜は玉の枝を両手で構えると、先程と同じように、だが更に力を込めて大出力の弾幕を放つ。
ズドンとルーミア達と輝夜のちょうど真ん中で互いの弾幕が弾けた。
しかし、その瞬間相殺しあう弾幕の破片を裂いて、『異様な輝き』の『矢』が飛んだ。

シュバッ

飛び退くも回避は間に合わず、輝夜の右足を掠めた。

「くっ!?」
「当たった?……これならばやれる!」

バランスを崩した輝夜が見たのは勇ましく構える心理定規だった。
切り札とはルーミア達に気を惹きつけた上での援護射撃、そしてそこからの連携である。

「ここで一気にペースを握る……未現物質よ、行って!」

矢の出処は心理定規の手の中だ、そこには変形した未現物質が有った。
それは緩く弧を描き半円状に変形し、大きな弓に変わっていた。
更に四つの矢(既に一つ射られたが)を束ねて番えられている。
彼女は続けて、残りの三つを放つ。

「適した形状への変化、それで精度は補えば……行けっ!」

ガガガッ

「ぐうっ!?」
「良し、これで……貴女は動けない!」

輝夜が苦悶の声を上げ枝を落とす。
まず残った左足を地に縫い付け、次に輝夜の両肩を貫いている。
更に心理定規は弓を削って五本目の矢を作り、応じるようにルーミアと氷華もそれぞれの得物を構えた。

「行くわよ、二人共!」
「おう、まかせろー」
「はい、任せて……」
『これで……終わり(です)!』

三人掛かりの同時攻撃が輝夜へと放たれようとした。
『怪しく笑う声』が無ければ、の話だったが。

『くひひ、まだじゃないか?……終わるのはあんた等だがなあっ、弾幕キメラ!』
「なっ、あれは……ぬえの!?」
「きゃ、きゃああっ!?」

頭上から黒雲が、それが弾けた生き物のように不規則に揺れる弾幕が降り注いだ。

「健闘してるとこで悪いが……私も参加させて貰うよ、大妖怪の恐ろしさを知りな!」

全身ボロボロの、だけどそれでもやる気満々のぬえが槍を構える。



「ふっ……はあっ、南無三!」

弟の形見の宝具で相手の武器を弾き、間髪入れず尼僧が拳を振り抜く。

ドゴンッ

「あうっ」
「むっ……この手応え、まさか……」

強化魔法で輝く拳を受け、大妖怪が沈む。
だが、立っている方、勝者である筈の聖は目の前で倒れるぬえに何故か訝しんだ表情だ。
彼女はゆっくりと振り抜いた拳を引くと、目の前にぬえを注意深く見つめた。

「もしや、貴女は……」

相手に触れるとボロボロと表面が崩れ、そこには一羽の妖怪兎が蹲っていた。
黒い蛇、正体不明の種がその表面を覆うようにしていたのだ。
妖怪兎、てゐが殴られた所を押えてニヤリと笑う。

「ウササ、気づくのが少し遅かったね……封獣さんの幻術だよ」
「……むう、入れ替わりか」

独鈷杵をてゐに突き付けるも、本命を逃した聖が悔しそうな表情になる。
そんな彼女に諸手を挙げたてゐが苦笑しながら『伝言』を口にした。

「『負け戦ぽいが輝夜の執念深さは気に入った、何より共闘者として義理は果たしたい』……これ封獣さんから」
「愉快犯気味かつ妙に頑固なのよねえ、あの子たら……」

主である輝夜の為に捨て駒となったてゐ、妙な頑固さを発露したぬえ、これ等によって見事に聖は時間を稼がれてしまったようだ。
更に残されたぬえの手の者達、眷属である黒蛇の群れが聖を包囲する。

(……これは少し不味いか、あっちはどうなってる!?)

蛇を蹴散らしながらそれで聖の手は埋まってしまう、彼女は心中で歯噛みしながら氷華達を心配した。



からかうように、ぬえが未だ煙る弾幕の跡に声を掛ける。

「ひひひ、輝夜、だらしないねえ」
「もう……痛いじゃないの、ぬえ」

リザレクションを終えた輝夜が起き上がって文句を言った。
だが、言葉の割に怒った様子は無い。

「でも……良くやったわ、少し危なかったから」
「ま、大将がやられたら異変に成らないもんね」

彼女は弾幕で一度落ち、その後再生し終えた手(当然足もである)でビッとグーサインを出した。

「痛かったけど、何せ……相手の方がダメージ大きいしね」
「くっ、やってくれるね……」

ルーミアと氷華が支え合い何とか立っている。
ルーミアは全身擦過傷だらけで、また弾幕を受けた時に盾にした大剣が折れて根本しか無い。
が、氷華はもっと酷い、弾幕への対処に慣れておらず直撃を受け、右腕右足に加え右の翼を失っている。
そして、心理定規達も避けられなかったらしく、土煙でよく見えないが悲鳴を上げてるのがわかった。

『ぐあっ……』
「……あっちもか、奇襲なんてズルいぞー!」
「回避できないのが悪い、負け惜しみ言うなって……輝夜、決めちまいな」
「……感謝するわ、ぬえ」

ぺたりと、やるだけやってぬえが座り込む。
彼女は聖との戦いでボロボロで、だけど大妖怪のプライド、というか負けず嫌いなだけで援護したのだ。
負けたら恨むとばかりに一瞥した後彼女は寝転び、それに頷いて輝夜が玉の枝を構える。

「これで終わらせる……永き夜よ、再びここに」

このチャンスを逃すものかと彼女は弾幕を展開する。
それも今まで使った最大規模の時間操作『永夜返し待宵』、それを超える切り札だ。
今まで散々抵抗されて、最後まで油断できないと考えた彼女は全力で霊力を練った。

「永夜返し……世、明っ」

ドゴンッ

「……っ、あの霊力はまさか!?」

が、その寸前『結界の入り口』で膨大な霊力が炸裂し、それに覚えの有った輝夜は驚きと『絶望感』で凍りついたように動けなくなった。



ピンとコイン数個を弾き、それで周りを威嚇しながら『師譲りの赤の外套』の少女が苦笑した。

「何だかお疲れね、一方通行……普段の時点でモヤシっぽいけどさ、今はそれその物に見えるわ」
「うっせェ、モヤシ言うな、第三位……つうか頭痛ェから喋らせるなよ」

ドカリと地べたに座り込んだ一方通行が赤の外套の少女、『超電磁砲』御坂美琴に言い返した。
彼女を呼んだ二人、ドサクサで兎達を無力化していた(耳が良い分爆発物や拳銃の至近弾で簡単に止められた)浜面達が偉そうに胸を張った。

「絹旗経由で呼んだが、何とか間に合ったみたいだな」
「そうみたいね……これは貸しね、一方通行」
「……手前ェらの大将に、滅茶苦茶迷惑かけられたンだがなァ?」
『ごめんなさい』

一方通行の反論に二人は直ぐに謝った、そうしながらもその手は(爆発物や拳銃の音で無力化した)兎をワイヤーで拘束し続けている。
兎達の大半は彼らによって捕らえられ、残りはもう一人の超能力者の援軍で戦意を喪失している。
実質壊滅と言って問題なく、また一人残って彼女達と連携していた女道士も同様である。

プカプカ
ピョンピョン

人為的に作られた磁場により宝刀と矢束が空中に浮かんでいて、布都は手を伸ばし取り返そうと何度も跳んだ。

「か、返して、我の武器……」
「駄目よ、超電磁砲喰らいたい?」

美琴にコインを目の前に突きつけられ、布都がビクリと縮こまった。

「……うう、降参じゃ、皿全部使っちゃったから武器なしでは戦えない」

一方通行を止めるのに術の触媒は使い切り、他の武器は美琴に奪われた。
凄い悔しげな表情で布都は降参するのだった。

「うう、援軍なんて聞いとらんぞ、こんなの予想外じゃ……」
「……本当に策士の割にツメが甘ェなこいつ」

両手を地面について布都は悲嘆に暮れて、一方通行は呆れたのだった。

『そ、そいつが大将ウサ、拷問とかはそいつにするウサ!』
「ちょっ、何言っとる、兎共!?」

兎達も抵抗を諦め、オデコに青アザのある兎を中心に責任転嫁し始めた。

「白い人、慈悲を……出来心だったウサ!」
『……ウサウサ、私達悪い妖怪兎じゃないウサ!』

ボフンと妖怪兎達は変化し、本性の仔兎の姿で無害さをアピールする。
布都へ色々押し付けにし、酷い内輪揉めに成った。

「あー、どうする……姉貴?」
「……そういうのは首謀者、輝夜に言うわ」

そして、美琴とともに来たもう一人の援軍、紅白衣装の巫女、博麗霊夢が結界の方を見て言った。
彼女は札を手に深く集中している。

「結界は二つの力が混ざってる、強引に入るのは無理ね……だけど、それなら!」
「……姉貴、一体何を?」
「もしかしたらだけど……中の人達の力に成れるかもしれない」

彼女は少し考えた後何かを決心した。
強く呼びかけある者を、見学に徹していた少女を呼んだ。

「……レミリア!」
「あら、何かしら、霊夢?」
「あんたの事だろうだから……使い魔の蝙蝠、中に出してるでしょ」
「まあ確かにそうだけど、リアルの方が楽しいし……」

空から隣に降り立った日傘を持つ少女、レミリアに霊夢が問いかけた。

「大雑把でいいから中の状況説明、お願い!」
「ふむ……構わんが、どうするんだ?」
「……相手の切り札を……永夜返しの展開を妨害する、上手く行くかは半々だけどね」

彼女はお札を手にし、一つの賭けに出た。
レミリアに幾つか確認した後、一度深呼吸してから霊力を札に込める。
そして、『ここだ』と思った瞬間に結界の入り口に弾幕を叩きつけた。

「……ここだ、夢想封印!」

完全なる『勘頼り』の、だからこそ恐ろしい精度で彼女の思惑は効果を発揮した。
その瞬間ドンピシャのタイミングで、霊夢の弾幕と永夜返しが『完全に重なった』。



「(霊夢が来た?なら霊力は残さないと……)永夜返し……夜明け!」

その時輝夜が思ったのは『この場を切り抜けた後』だった、かつて自分を退けた霊夢を警戒した。
だから発動したのは上から二番目、最大字より少し早い時間の中で大弾を作り出す。
だがそれは悪手だ、その瞬間天秤が、傾き掛かっていた流れが逆転する。

ビュオッ

「え?」

次の瞬間激しい吹雪が巻き上がる、そして『右手』を真直ぐ出した状態で打ち出された『少年』が輝夜の大弾を消し飛ばした。
ぬえの不意打ちのダメージと、後押しした吹雪によって傷ついているがそれでも右腕を構える彼は心強い。

「……は!?」
「どう、だ!」

少年、上条は氷を全身に張り付かせ真っ白で、だけど彼は真っ青な顔なのに笑みを浮かべている。
それはチルノの弾幕による後押しで妨害出来たからである。
もし最大規模の時間操作ならフォローが間に合わなかったかもしれない、また『次』も最大規模ならば間に合ったかはわからない。

ビュオッ

「……あたい、達、も!」

また止まった世界の中で吹雪が吹いた。
上条に僅かに遅れて、彼に庇われ彼程の傷を受けてない二人、チルノと片手で抱えた心理定規が吹雪に飛ばされて止まった世界を駆け抜ける。
二人が目指したのは氷華の隣だ、一人抱えてる分遅れたが二人は本来なら絶望的なまでに遠いそこに辿り着くことが出来た。

「くっ、だけどこのまま打てば……」

勿論輝夜が直ぐに次の弾幕を、相手を避けて撃てばそれで終わりだ。
が、攻撃は間に合わないが、『ある物』を氷華に押し付ける程度の時間は有ったようだ。
その手に未現物質を落とし、すると蠢きながらそれは変形する。
奇妙な光沢を持つ『右手』に、氷華の失った代わりの手に変わる。
ギシリと、それは引き伸ばされた時間の中で動いた。

「……なっ、腕が!?」

人差指と親指の間には小さな氷塊、楔型の欠片が挟まっていて、ググと弛められた二本の指の中で力が乗った。
そして解放、物質化したAIM拡散力場の身体能力と未現物質の腕、二つの相乗効果によって超高速で放たれる。
その速度は引き伸ばされた時間でも通常通り動ける輝夜の予想を遥かに超えていた。

ズドンッ

「……がっ!?」

鈍化した時間の中で尚それは輝夜の反応を超え、彼女の胴ど真ん中に突き刺さった。
この瞬間走った激痛が輝夜の集中を乱す。
早まる(元に戻る)時間の中で、己の策の成功に気づいたチルノが会心の笑みを浮かべる。

「当然だけど……『既に用意された弾幕』は他より速い、どうよ、中々でしょ?……あの変な腕は予想外だけどね」

彼女はニイっと笑って勝ち誇った。

「まず時間操作の使い難い接近戦、それで気を引いて援護射撃……これが切り札の一と二……そして、三つ目が圧縮した弾幕の打ち込みだい!」

すると、呆れた声で突っ込みが飛んだ。

「……考えたのは私と氷華、それに上条さんだけどね」
「……りろん、あたいが形にしたんだもん!」

勝ち誇る彼女に、さっきの吹雪で真っ青の心理定規が突っ込み、チルノはうっと目を逸らす。
大能力者で暗部で様々な知識を持つ彼女、経験は劣るがAIM集合体で破格の計算力の氷華、科学目線だがチルノ等に理解の有る上条、三人の合作だ。
(尤も最後にそれを実戦に則したものにしたのは一応チルノでは有るが)

「あー、ええと……今だよ!」
「……誤魔化したわね」
「……何のことかな、それより……あたいの魔力をありっ丈込めたから衝撃で弾ける!」
『任せて!』

氷の楔は半ばまで刺さり、ゆっくりと身を切る程の冷気が輝夜に浸透している。
だが、打ち込んだ氷の力はその程度ではない。
全てを発揮すべく、ルーミアが駆け出し、(こちらは片足で倒れこむようにだが)氷華も続く。

「……喰らえ、ムーンライト……」
「さ、させないわ!」

ガギィンッ

「うっ、まだ動く!?」

ルーミアが根本だけ残った刃を振り下ろし、しかし輝夜は蓬莱人の生命力で強引に体を動かした。
蓬莱の玉の枝でルーミアの武器を真上から押さえ込んだ。
だけど氷華がそこに仕掛け、未現物質と一体化した腕を真下から突き上げる。

「氷華!」
「うん、ルーミアちゃん、そのまま!……やあっ!」

ガギィン

「きゃっ!?」

跳ね上げられ蓬莱の玉の枝が手からもぎ取られ、無防備と成った彼女の前にルーミアと氷華が立った。
ルーミアは根本だけ残る刃を振り被り、氷華は未現物質の右腕をゆっくりと引いた。
そして、一瞬の静寂の後二人の気合の声が響く。

「今度こそ……」
「終わりです」
『……やああっ!』

ダンッ

「あ、ああっ……」

柄頭と掌に押されて氷の楔が輝夜の体にねじ込まれる。
その一秒後内側から爆発的な冷気を放出した。

ズドンッ

「がっ、ぐあああっ!?」

冷気による凍傷、更に氷に物理的に引き裂かれ裂傷を負う、この瞬間輝夜は二度同時にその生命を絶たれる。
そして、それで彼女は限界に達する、如何に不死身の体でもその再生力は無限ではない。
一度目の戦いで佐天が、この戦いでチルノと氷華とルーミアが、そして最後に与えた内部からのダメージがその再生力を超える。
輝夜は一度咳き込んだ後ゆっくりと膝をつき、その後バタリと地面に倒れ伏した。

「ああ負けたか、でも友情に負けたなら……『あの人』も勘弁してくれるかな、同じ情に……『愛情』という物に生きた人だし」

輝夜は悔しそうな、でも少しだけ清々しげな表情で寝転がった。

「……私は許さんからな、輝夜」
「あ、ごめん、ぬえ」
「……しかもこの後聖に怒られる」
「…………ごめん、本当にごめん、一緒に怒られてあげるからね」

言い合う不死人と大妖怪に対し、勝者であるルーミア達は皆笑みを浮かべている。
三人が、流石に力を使い切りちっちゃくなったルーミアと、ゆっくりと体を再生させる氷華、そして凍えた体を擦る心理定規が抱き合う。
互いを確かめるように揉みくちゃの三人を見て、上条と上条が笑った。

「……やっぱ友達同士はこうでなくちゃな」
「うん、別れるなんて駄目だね!」

二人は笑い合った後同時にルーミアと氷華と心理定規に問いかける。

『また会えた気分は?』
「最高です!」
「……同感かなー」
「全くね……本当よかったわ」

氷華とルーミアが嬉しそうに笑って、心理定規は一人だけ大人ぶって落ち着いたがも直ぐに崩れて泣き笑に顔になった。
そこだけ消え行く竹林と、そこに広がっていく山の木々、変容する結界中に三人の明るい声が響き渡った。



「……解決のようですね」

少し離れた大木の、枝の一つに座って見下ろして涙子が笑う。
ルーミアと同じ白布一枚で復活直後のようだ。

「全く世話欠けるよ、お前は……」
「はは、ありがとね、にとちゃん」

隣で旧友、にとりが呆れ顔をし、涙子がバツ悪そうにしている。

「……『貴方』も良かった?『部下』が無事で?」
「まあ、な……」

その後彼女は手の中を見た、復活の後自分と同じように氷華達、いや心理定規を見る影で気になって追った存在だ。
それは黒い、だけど明らかに普通の動物ではない知性を感じる『烏』だった。

「……で、俺をどうする気だ?先輩の超電磁砲の敵だ、それも最悪の……消すか?」
「……それも少し考えたけど……御坂さんはそこまで執念深くも陰湿でもない、そんなことしても私の気が晴れるだけだから」

嘆息した後彼女は『烏』、いや第二位『未現物質』垣根帝督(但し全体の一部分)をゆっくり空に放つ。
でも、少し気に入らないのか、アッカンベした後言い放った。

「誰かに見つかる前に行くんだね、また見つけたら追っ払うから……『あの三人』の側以外の場所では、だけど」
「……貸しにしとく、あるいは超電磁砲や姉妹達にかもしれないが」

今度は彼がバツ悪そうに顔を背け、その後以外に殊勝なことを言って飛び去っていった。

「良いのか、よく知らんが……敵だったんだろ?」
「……他の、彼ではない第二位の欠片を知ってるからねえ……短気なことはしないよ」

白い方を思い出し苦笑して、その後疲れた体をぎこちなく動かして立ち上がる。
直ぐににとりが無茶を戒めるように肩を貸し、二人はルーミア達の元へ向かった。

「ま、迎えに行こうか……三人に、チルノに上条さん、後道教の二人にお寺の住職か」
「ああ、そうだね……捕まってな、飛ぶのは私がやる」
「……任せるよ、にとちゃん……うん、外行ったら向うの面子を誘おう、また派手に宴会で開くかな?」
「良いんじゃないか、悪くない……人馴れしてない子を慣れさせるにも、馬鹿やった奴等の反省にも」

二人は色々計画し勝者の元へ向かう、まずは祝いの言葉を言わなくては、そう考えながら。





・・・というわけで第三話、一応の完結です(エピローグがあるけどそれは後で)
第一部一話のボスだったむぎのんがパワー型なら、輝夜はテクニック系のボス・・・盛り過ぎた気もするけど差別化に成ったとは思う。
でも決定打に成ったのは科学天使&未現物質による力押し・・・この組み合わせならやれるよね?どっちも設定的にかなりトンデモナイし。
もしそれでも納得行かない方は・・・あー、輝夜の温存策が裏目に出たってことで(外の霊夢に嵌められたともいう)・・・

以下コメント返信

九尾様
そもそもクライマックスだし派手なのがいい・・・そういう話の都合も合って総力戦です、あと追い詰められた状況で後手も可笑しいですよね。
自覚の有無が安定化に繋がってる節が有ります、小説の描写的に・・・なので氷華は結構頑丈に、特に今回はスーパー系ぽいくらいに書きました。
ルーミアはまあ・・・ぶっちゃけ盛りました、このエピソードの主役級だから、後聖者は磔に~みたいにああいう言葉を使えるキャラですし・・・

うっちー様
どちらかというとチルノが引っ張って、で後ろを上条がそれとなくフォロー・・・自然に役割分担して、それが板についている感じです。
・・・宴会は勿論やりますよ、色んなキャラを関わらせられるし何より東方っぽいから(話のご都合と自然さを両立できるという・・・)



[41025] 幻想の命・エピローグ&第三話序章
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/07/11 19:33
ぎゃーぎゃーわーわーと賑やかに宴会が始まって、豪勢な食事やら酒やらが振るわれる。
その一角で日本酒を楽しむ霊夢に『青い巫女服の少女』と『傘を持ったオッドアイの少女』が話しかけた。

「ちぇー、異変が有るなら参加したかったです」
「残念だったね、青い方の巫女さん……あ、本家の巫女様はお疲れ様でーす、お酒注ぎますね」
「……早苗も大事馴染んだわねえ、良くも悪くも……そっちの子はありがとうね」

霊夢は小傘が気を利かせて注いだ二杯目を口にし、その後早苗に注意の言葉を返した。

「……早苗、わかってるでしょうけどこっちで騒ぎ起こさないでよ」
「わかってます、ただ久々の現代社会を見に来ただけですって……」

その為に妖怪の賢者に頼んで学園都市に来た、前回道教絡みで神子と妖怪達の喧嘩の仲裁をしたことへの報奨代わりのようなものだ。

「……で、他のは何で?」
「あちきは……こう思ったんですよ、幻想郷の人は私等に慣れてるから驚いてくれないんだって!」
「いや、学園都市の連中は違う意味で擦れてるから無理じゃない?」
「がびーん、何ですって!?」

人を驚かすのが仕事の小傘だが、人里にはもう慣れ(あるいは飽き)が来ている節が有るので出稼ぎに来たらしい。
が、能力者やら異常な科学技術やらで難しいと指摘するとショックで崩れ落ちてしまった。
霊夢と早苗はその姿に苦笑し、その後どんよりした表情で話を続ける。

「……で、何であっちの『辻斬り』までここに?」
「みょ、みょん……何か問題が?」

余り酒に強くないのか顔を赤くする銀髪の少女、妖夢に対し霊夢が面倒そうな視線を送った。

「その、八雲様が護衛として付けて……」
「いや寧ろ……ガス抜き?異変直後でそこの辻斬りの鬱憤ぶつける場は無さそうだし……ここなら事件に事欠かないもの」
「……か、かもしれませんね」
「紫め、後で文句を言ってやらないと」

ハアと霊夢は大きく嘆息した、正直彼女達が異変に首を突っ込まなかったのは幸運だ。
幻想郷に馴染んだ、いや馴染み過ぎた早苗は何か仕出かしそうで、妖怪の小傘も心配だし、妖夢に関しては論外だ。

(……暫くは、気を抜けないかもしれないわね)

だから今だけはと彼女は杯を傾ける、英気を養わないとやってられない。
そんな珍しく苦労人の立場な霊夢の視線の先で、事件の主犯と被害者、敗者と勝者が騒いでいる。

「……羨ましいわね、こっちは少し頭が痛いわ」

霊夢は飛び切り大きな溜息を吐いたのだった。



第二話 幻想の命・十四(完)



「こっ……」

『白い塊』が不満そうに鳴いた、それを屠自古が見下ろす。

「……はは、無様だなあ、物部?」
「こけー!?」

大きな鶏、化け狸に変化させられた布都が喚く。
が、愉快そうに屠自古は笑うのみだった。

「くくっ、その姿で反省するがいい……当然太子様のお叱りも有る、覚悟していろ」
「こけっ!?」
「……鶏肉、ジュルリ、美味そうだー」
「ふむ、一口くらいは芳香に齧らせるか?」
「こけっ!?」

主の怒りに布都が怯え、僵屍の言葉に違う意味で怯える(屠自古は悪乗りだろうが)
彼女は小さく縮こまり、屠自古は自業自得だと言いたげな目で見た。

「まあこれに懲りたら……もう馬鹿はするな、お前は太子の右腕なのだからな」
「こっ、こけ……」

参謀の自覚を持てと、娘は母を叱りそれに母は恥ずかしそうに俯くのだった。



「……あらあら、あちらさんは複雑そうね」
「……のようじゃなあ、聖殿」

隣の席でで道教一同の一幕を見て、聖と化け狸のマミゾウが苦笑する。
こちらも身内がやらかしたので他人事ではなかった。
布都と同じように術で変化させられたぬえが小鳥、鶇(低い鳴き声が妖怪、特に鵺と関係づけられる)の姿で聖の肩に止まっている。

「勝手なことをしてくれましたね、ぬえ……」
「全くじゃ、見事に乗せられたようじゃな」
「ピッ!?」

ペチペチと左右から小突かれ、ぬえが悲鳴を上げた。

「全く愉快犯的な気質はどうかと思います」
「……妖怪とはそんなもんだ、今更じゃないか?」
「ひっく、お嬢様以外もこうなのか、恐ろしいな……」

レミリアが苦笑しながらフォローになっていないフォローをし、彼女より酒に弱い黒夜が(今度はレミリアの羽に抱き着き中)呆れる。
やや落ち着いて、聖は鶇の姿のぬえへ怒りを抑えて言い聞かせた。

「……まあ友人への筋を通したことは悪くはありません、それが悪友に近いのは少々問題ですが……
でも次は騒ぎを押さえる側に回ってくださいね、ぬえ」
「ピッ!」

言い聞かせるような言葉は語調の割に強く、ビシと慌ててぬえは羽で敬礼する。

「はあ、わかったのなら宜しい……マミゾウさんという人手を連れてきたことで相殺とします」
「ぴいっ!」
「……説教はしますよ、少し減らしますが」

見逃されたと思って喜んだが、続く言葉にぬえは肩を落とした。
元々生真面目な聖に(まあ他の寺の面子もだが)頭が当たらないが、この件でますますそう成りそうだ。
小さい体を更に小さくするぬえに一同、マミゾウやレミリアや黒夜までも苦笑したのだった。



「悪いことしたわね、ぬえと布都には」
「……そうだね、姫様」

輝夜とてゐが済まなそうな表情で道教と寺の面々を見た。
二人共おでこに御札をぺたと貼り付けられている、霊夢による戒めだ。
唯素直に負けを認めたのでそれだけだった、化け狸の術はそれぞれの関係者の怒りという意味が大きかった。

「……てゐ、兎達を見てて、羽目外させないように」
「了解……姫様は?」
「あの子に会ってくる、時間を置くのもどうかと思うし……」

バツ悪そうに、だが巻き込んだ相手がそれをしてるのに自分だけやらない訳にはいかない。
輝夜は被害者、つまりは氷華達の居る一角へ向かい、てゐと兎達は手を振って見送った。

「……ねえ、良いかしら」
「は、はいっ!?」

ルーミアや心理定規と居たが急に話しかけられて、更にその相手が輝夜であることにぎょっとする。
その拍子に料理を持った皿を取り零しそうに成り、隣のルーミアが素早く支える、反対の心理定規が食べ物のついた口元を拭った。

「むぐ、ぐぐ……な、何でしょうか」
「あらあら、緊張しないで……謝りに来たの」

友人に世話を焼かれる姿は微笑ましく、思わずクスと笑った後輝夜は真剣な表情に成る。
彼女はバッと項が見える程に大きく頭を下げた。

「ごめんなさい、貴女を狙って……そして友達を怪我させてしまったことも」

真摯な表情で輝夜は謝った、素直な言葉に氷華は少し動揺する。
そんな彼女に構わず更に謝った。

「二度と迷惑はかけないわ……墓前に捧げる物は違うのを探す、ま一旦帰るからそれはてゐ任せだけど」
「え、ええと……もう狙わないってことですか?」
「ええ、だって……」

一瞬言葉を切った後輝夜は敗北宣言をした。

「貴女達のような、友達同士の感情、友情には勝てないもの……愛と唯一並ぶ物でしょうからね」

諦めたような表情で輝夜は少し寂しそうに笑ったのだった。

「……それじゃまたね、手に入らなかったのは悔しいけど……有意義な時間だったわ。
友達を大事にするのよ、きっと退屈しないからね」

負けたのは悔しく、でも彼女達に負けたのはまあ納得も行く。
だから輝夜は素直に負けを認め、勝者である氷華、いや氷華達を祝福したのだった。
まあ後半は自分を付け狙う炎使いの悪友と比べた、自嘲も混じっていたが。

「……じゃ、さよなら、友達の方々も」
「ええ、さようなら……ま、またね、ええと喧嘩以外なら!」
「そうするわ、燕の……いえ、風切氷華さん」

ぎこちなくだが彼女達は手を振って、勝者と敗者にしては異様な程に爽やかに別れた。



「おーい、ルーミア……輝夜、何だったの?」
「ああ、チルノ……何か謝ったの、しかも思いの外丁寧に」
「……ふーん、まあ一度出た勝敗にケチは付けないか」

遠くで菓子類やらを食べ歩いていたチルノが声を掛けた。
ルーミアが答えると相手は納得したようだ。
チルノの隣で同じく宴会の食事を頂く上条、(恥ずかしいのか)それより少し離れた位置の美琴も話しかけてきた。

「大変だったみたいだね、お互い……」
「いや皆お疲れ様です……また女の子が増えた」
「……あー、ミサカのお姉ちゃん、安心しなって、あれ妹や後輩枠だから」
「チルノさん……そう、それなら問題は……いやそれ、私もじゃない!?」

美琴は氷華を警戒しその後チルノに慰められ(というか止めだった)顔色を赤くしたり青くしたりと一喜一憂していた。
そして、相変わらずそれがわかってない上条は不思議そうな顔をした。

「何だ、腹でも痛いのか?」
『……哀れな、一度後輩枠になってしまったばかりに』

チルノやルーミアは駄目だこりゃと同情し、その後互いの顔を見合わせて無事を祝い合う。

「……勝手よかったね、ルーミア」
「うん、本当に……そっちも助っ人ありがとうね、借りにしとくよ」
「良しなって、友達じゃん……まあ、新しい友達を大事にね」
「おう、当然だっての!」
「……ま、こっちの生活を楽しみなよ、ルーミア」
「先輩面しないでよ、まあ……そのつもりだけどね」

二人はくすりと笑った後乾杯した。

「……まァ、めでたしめでたしってとこか」
「……ですねえ、一方通行さん」

そして、その光景を、いやその前までも見守って、一方通行と涙子が疲れた様子で笑った。
ある意味被害担当だった二人は安堵の笑みを浮かべ、自分達も乾杯した。
肩の荷が下りたといったところだ。

「そっちは一回落ちたンだったか……お疲れ様、だ」
「一方通行さんもずっと相手したんでしょう……そっちもお疲れ様」

二人はカチンと杯を合わせ、一気に飲み干した。
当然ながら中身は酒だが、二人は今回は大変だったし大目で見やがれと言いたげにしていた。

「……一方通行、ありがとうね」
「佐天さんもありがとうございます」

一旦ルーミアと別れた心理定規と氷華が彼らに話しかけてきた。
態々礼を言いに来たようだが二人共面倒そうにしている。

「あァ良いって良いって……俺は自分で首を突っ込ンだみてェなもンだ」
「私もそう……そうだね、悪いと思うなら警戒したこと、許してくれる?」
「……そんな事でいいなら」
「じゃ、それでよし……これ以上は言いっこなしで」

結構気にしていた涙子は氷華に言い含め、納得したようなので話を打ち切りにした。
一方通行の方は別のことがあり、心理定規にある書類を手渡す。

「……ほれ、これに目を通しとけ」
「一方通行、これは?」
「アイテムからだ、あいつ等麦野の借りより貸しがちょっと多いとか言ってなァ……暗部が祝いの席に出る訳には行かねェて、俺を使いやがった」

フンと不満そうにした後一方通行は説明する。

「暗部の勢力図は大分変わっただろう、今はアイテムが上だが足を引っ張るのが居ないとは限らねェ……で、そこで手前ェだ」
「私を間諜にでも使うの?能力的には確かに向いてるけど……」
「多分目の付くとこに置きてェンだろ、かつ折角だし有効利用を……(まァ絹旗と同じ立場になったから排除を躊躇ったンだろうけどな……)
書類にサインすればアイテムの下部組織に入るが、どうする?」
「……何か有れば『彼女』を守る立場が要る、断る理由はないわね」

一瞬チラリと氷華を見てから心理定規はサインした、利用されるなら自分がそうするという所だろう。
そして、そういう友人が出来て、ならば守りたいだろうと予想したアイテム達の読み勝ちでもある(同時に絹旗の同類と判断したということだ)

(……暗部にしておくのは勿体無ェ、それくらいお目出度い連中だ)

一方通行はやれやれと苦笑する。
それは心理定規とアイテム両方への、甘いけれど覚悟が出来てる者達に対する物だった。

(……一方通行さんが言えることだろうか)
「鈴科君が笑えることかしらねえ?」
「五月蠅ェ、姉貴……後佐天もニヤニヤすンな」

何となく考えてることに気づいた涙子が内心で、更には遠くから態々来た霊夢が(こちらは隠さずに)呆れたのだった。

「……何か素直に感謝し難いです」
「全くねえ、大人なのか子供なのか……よくわかんない連中ね」

子供っぽく睨み合う一方通行達に氷華と心理定規は顔を引き攣らせた。
すると、チルノ達と話し終えたルーミアが戻ってくる。

「どうしたの、変な顔して……」
『礼や謝るのって難しい……かな?』

この言葉によくわからず、ルーミアは小首を傾げた。

「ふうん?……あ、謝るといえば……」
「ルーミア?」

だが、彼女はすぐに真剣な表情で心理定規を見る。
困惑した彼女だが、相手の口から飛び出したのは爆弾発言だった。

「うん、やっぱしっかり謝らないと……以前齧ってごめんね、心理定規!」
「へっ?……ひ、ひあ……」

最初は戸惑い、数秒後トラウマが蘇り彼女は真っ青な顔に成る。
更に数秒後、バタンと白目を剥いてぶっ倒れたのだった。

「きゃ、きゃいん……」
「心理定規さん!」
「ありゃ、しまった、ストレート過ぎたかな?」

小動物のように震え蹲る心理定規に慌てて氷華が寄って、悪かったかなと舌をぺろと出して頬を掻く。
慌てて彼女も近づいて介抱を手伝う、尤もそのせいで更に震えたが。

「おうい、大丈夫か、心理定規……大きい体の方が介抱は楽だなあ、あれ又頼める佐天?」
「嫌です、貧血に成っちゃます……それよりそっちの人、痙攣してますけど」
「アババッ」
「……あっやべっ、一旦間を置くべきだったか」
「もう、何してるんです、ルーミアちゃん!」
「おっと失敗失敗……」

氷華が怒り、ルーミアが目を反らし、心理定規が未だ振るえ続ける。
また会えた友人達だったがその前途は多難のようだった。

「ルーミアちゃん、もうひどいよ!」
「いやあごめんね、タイミング間違えたかも」
「うう、ルーミアがあの時の相手だったとは……」
『あ、立ち直った』
「そりゃあ友達を怖がるわけには……ゴフッ!?」
『ああ……多分心因性の血を吐いた!』
「……だ、大丈夫、胃が弱ってたのは(暗部失業の)貧乏生活も有るから」
『それなら大丈……って全然大丈夫じゃない!?』

ギャーギャーと彼女達は五月蝿く騒ぐ。
でも楽しそうだから多分大丈夫だろう、何だかんだ皆笑っているのだから(約一名、精神的に危ないのを除いて)

「……ねえ、輝夜」
「何よ、霊夢?」
「薬、そうね、胃薬でも送ってやりなさい……悪化する前に」
「ええ、そうするわ……うん、今回のお詫びってことで」

それ(最後の一人に関して)もフォローするのも居るから(少なくとも致命的な)問題はないだろう。





第二話 幻想の命・完



おまけ 三章・零



三沢塾にて、陰気な錬金術士が何か資料に目を通していた、すると同居人の少女が困った表情で話しかける。

「……アウレオルス『これ』わかる?」

姫神が宿題を見せ、アウレオルスに助けを乞う。
急な時期の転校だけに色々大変らしい。

「理数系ならば何とかなるが……いややはり自分でやれ、己が血肉とならない」
「ちぇー……」

がっくりと姫神が肩を落とす、するとその隣で『尖った黒髪の少年』と『アロハの少年』も同じようなポーズを取った。

「残念だな、楽できると思ったんだが……」
「そう上手くは行かないってことみたいだにゃー」
「……待て、何故上条と土御門が居る?」
「あっちも宿題苦戦してたから……一緒にやろうって私が誘った」
「そうか、上条は兎も角……あっちのスパイまでも同級生だったか」

一応前からの知り合いなので一緒にやろうかと姫神が誘ったようだ。
転校直後で知り合いのまだ少ない彼女を二人が気を使ったと言える、がどちらにも因縁の有るアウレオルスとしては少しやり難い。
彼ははあと嘆息し、上条達に胡乱げな目つきを送った。

「姫神に良くしてくれてるようだな、それは良いが……面倒を起こすなよ」
「わかってるって、アウレオルスさん」
「それと……学生なんだから宿題は自分でやれ、自分でこなさないと後で泣くことに成るぞ」
『ちぇー……』

アウレオルスは学者らしい真面目な言葉を返し、三人はまた肩を落とした。
やれやれとその姿に呆れた後、アウレオルスは資料を読むのに戻った。

「ふう、邪魔するなよ……」
「……そういえば、さっきから何を?」

すると彼は疲れた様子で『督促状』を手に答えた。

「学園都市からだ……以前フランドールが旧三沢塾の人間を追い出し、ここは今は管理者が居ない、なのに使っている者が居ると」
「……ああ、責任者に法的な請求が来たと」
「うむ、仕方ないので色々でっち上げ、私が正当な管理人だということにする……
今は以前の資料を調べ、ボロが出ないように帳尻を合わせているところだ」

ハアと大きく嘆息し、彼は面倒な調べ物に戻る、外者の身で新たな拠点を手に入れるのは大変なので死活問題なのだ。
その隣ではもう一人の当事者のフランドールも資料を漁っている。
が、精神年齢からこの手の単調な作業に向いてなく、既に飽きて遊び始めていた。

「わあ、アウレオルス、これ見て!」
「……おい、私は作業中なんだが」

呆れるアウレオルスに、フランドールは笑顔で一枚の写真を出した。
それは赤一色の床を写した写真だ。

「……それは?」
「ほら、ここって吸血鬼殺しとかオカルト一直線の人間を集めてたでしょ……こういう、曰くつきの情報がまだ有るみたい!」

彼女は趣味悪げな写真を興味深そうに笑っていた。
嘘でも話の種になるし、本当なら暇を潰せるとでも考えているのだろう。
唯、アウレオルスとしては面倒なのでお座なりな対応をしてしまった。

「そうか、それは凄いな、本当ならだが……」
「うん凄いね、『能力者に魔術を教えてた施設』だって、謎の集団……『騎士の格好した連中』が押し入ってその後放棄されたらしいの。
……こう、陰謀の匂いがしない?血湧き肉踊るって感じの!」
「本当なのかそれ?嘘臭いな……」
「ああ、流石に無いと思うにゃ」

アウレオルスだけでなく上条や土御門すら嘘臭いなという顔をした、『この時点』では誰も信じなかった。



ドンッ

『あう!?』

完全な不注意だった、久々の現世で浮かれ注意の散漫な早苗が通行人とぶつかり転倒する。
早苗もぶつかった方も悲鳴を上げて倒れた。

「大丈夫、早苗?」
「……そっちは大丈夫か、連れが済まないな」

やれやれといった様子で小傘が早苗を、妖夢がもう一人を助け起こす。
すると、早苗とぶつかった相手、『中性的で儚げな子供』の手を取って、妖夢が何か訝しんだ表情になった。

「君は……」
「……ェリー」

困惑する妖夢に対し、唯相手は寂しそうに誰かを呼んだ。

「ご、ごめんなさい、不注意でした!」
「もう、一緒に居たこっちまで恥ずかしいなあ……」

アタフタと慌てる早苗に、彼女に呆れる小傘は困惑する妖夢に気付かない。
早苗は申し訳無さそうな表情で謝り、せめて償わないとと考えた。

「え、ええと、ごめんなさい!……な、何か困ってることありません?お詫びがしたいなというか……」

その言葉を聞き、相手は少し考えた後こんな事を言った。

「……ェリー」
「え?」
「……私の友人、彫刻が得意な……ああそうだ、久しぶりに彼女の作品が見たい、どこに行けば?」
「ええと待って、専門の人に聞くべきかと、霊夢さんに貰った地図が……有りそうなのはこの辺かな」

慌てて地図を出して、彫刻専門店や美術館の場所を数個教える。
それを聞いた相手は早苗達から興味を失ったように別の方を向いて、直ぐに教えられた場所に向かった。

「それじゃ……」
「あ、はい……何だったんだろ」
「……唯の芸術好きじゃない?」

突然会って突然別れた相手に早苗と小傘は面食らった。
だが、唯一人妖夢だけは警戒した表情だ、彼女はまだ相手の感触の残る手を見ている。
そこには異様に『軽く』異様に『冷たい』感触が残っていた。

「ふむ、『迷った』か?……ま、だからといってこの場で『斬る』ことは出来ん、問答無用に『成仏』させる訳にも行かないし。
……質の悪い、生者を恨む者に成らなければいいが」



「あー、幽霊だあ?」

黒い帽子を被った小柄な金髪の少女が胡散臭そうな表情をした。

「うん、気味が悪いから調べてくれってアイテムに話が来て……」

その視線の先にはぼうっとした目つきの暗部の少女が居た。
彼女はややわかり難いが、本当に困った様子で黒帽子の少女に頼み込む。

「ラップ音だとか、電子機器の異常だとか……そういうのばかりなの」
「……で、私に着いてきてくれと?」
「オカルトとかが実際有ると夏休みで知ったから、念の為に本業の人に来て欲しい……お願い、麦野の友人さん」

少し考えた後黒帽子の少女は少し考えた後立ち上がり、ニッと勝ち気に笑い頷いた。

「ま、良いだろう、弟子の同僚だもんな」
「ありがとう、恩に着るよ……魔理沙さん」
『……麦野、今だけはこの人の友人でいてくれてありがとう!』

快く引き受けてくれた少女、魔理沙の言葉に暗部、『アイテム』の一同が心底喜んだのだった(心霊現象の捜査に実は不安だったらしい)

「……で、調べるのはどこだ?」
「ああ、待って……ええとね、『学園都市とイギリスの共同研究施設』だって……」



「わあ、暗い、怖い……雰囲気あるなあ」

涙子がボロボロの研究所を前に呑気に笑った。

「ねえ、子鬼……ここ何よ?」
「……この研究所に、『儚げな霊』と『時代錯誤な騎士』の霊が出るんだって……ネットのオカルト板の噂だけど」

不思議な組み合わせに興味を持ち、彼女は調べに来たのだ。
着いてきたのは丁度にとりに会いに来ていた文とはたて、ネタになるかと思った記者二人である(にとりはどうせ他愛の無い噂と来なかった)

「……怪しいなあ、本当なの?」
「不法住居者とか、記事に成らないんだけど……」
「まあ火のないとこに煙は立たないって……行ってみましょ」

胡散臭がる二人を連れて涙子が研究所へ足を踏み入れた。

ガシャリ

その時背後から金属が擦れる音がした。
直ぐに涙子達は振り向き、だが何も居らず歩みを再開する。

「……気のせいか、行こう」
『え、ええ……』

三人は首を傾げながら研究所の奥へと進んでいった。
それから少し経って、『無骨な甲冑』を着た数人の男達がそこに現れる。

ガシャリ
ジャキンッ

彼等に有るのは『科学と魔道の境界を破った者』の誅殺の意思のみだ。
それを果たすべく彼らは剣を取った、自分が既に死んでいるということにも気づかずに。





次回は『謎の幽霊編』です・・・あれ、漫画だとエリスが少年に見える?ね、念の為に中性的な容姿にしておきますが・・・
そういう訳で魔術を齧った幽霊エリス、シェリーエリス襲撃時に殉職した(設定の)騎士団の霊・・・それと序章(というか予告か?)に出たキャラがメインになりそうです。
彼等を軸にし、第三話は展開していく予定です。

以下コメント返信

九尾様
実は学園都市に潜在的な敵が集まってて、それで余計な消耗をしてしまった感じです・・・後最後辺りで氷華がフリーなのも痛かったかな。
ぬえとてゐか・・・一度組ませたのは今後もセットで出し易くまたコンビで書くかも、悪戯好きだが筋を通すと、言われてみれば似てるし。

うっちー様
氷華の右手ですが、黒い方の垣根は敢て回収してません・・・護身用というか元部下への餞別にと。
上条さん達もまあ結構な修羅場潜ってますし、寧ろそれだから頼れる助っ人として描写することが増えるかも・・・だから前と逆なのは敢てです。
・・・霊夢はまあ原作で見せた勘だけにやりたい放題で、出落ちっぽいけどわかり易い逆転フラグに成りました。

MEGU様
姫様ならこの負け方に潔くすると思い、また性格的に無粋な言動させたくなかったのも有り・・・原作の超然的な部分が書けてたらいいなあ。



6/21・誤字だけ修正(向いてるを無いてる等というトンチキ書いてた・・・)感想でご指摘してくれた方深く感謝します・・・



[41025] 第三話 無自覚な迷子達・一
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/07/16 00:54
『その奇妙な光景』は事件後の宴会、その一幕に端を発していた。

「ううっ、なんか妙な視線を感じる……」

どこからかジトリといった感じの視線、氷華が肩身狭そうに縮こまった。
辿ると『白衣姿』の勝ち気そうな少女が凹んでいた。

「また、か……また、先輩の周りに女の子が増えた……」

超能力者の御坂美琴が臍を噛む。
不器用で恥ずかしがり屋、兎に角デレの遠い少女は危機感を抱いた。
だが、霊夢の仲間であるルーミアの友人であり、大っぴらに敵意を向ける訳にはいかないから困っていた。

『どうしよう……』

嫉妬の視線を来る方も送られる方も、どちらも相手をどうするか悩んだ。
美琴も氷華もチラチラと互いを見る。

「……ありゃ何だか微妙な空気、仕方ないなあ」

その空気に居た堪れなくなった第三者が動く、美琴と氷華の両方に面識のある涙子だ。
彼女は間に入ると『白い毛の塊』を差し出す。
二人はそれを見た瞬間目尻を緩めた、毒気を抜かれた。

クウン

『それ』は『乱れ一つ無き白い体毛』を持った一頭の子犬だった。

「はい、どうぞ」
『……か、かわいい』

愛くるしい子犬に二人の視線が集中した、涙子はすかさず宥めに入る。

「まあまあお二人さん……可愛いワンちゃんでも見て、落ち着くのです」

その言葉を聞いてかいないか、キャアキャアと歓声が上がる。
涙子の機転によって、数秒前まで有ったぎこちない空気がさっぱり消え去ったのだ。

「……小鬼め、洒落臭いことを」

だが、そんな光景に呆れの視線を送る者達が居た。
それぞれショートの黒髪と茶のツインテール、どちらも学生服に見える衣装に、だがそれと合わない高下駄を履いている。
新聞記者の文とはたて、二人の烏天狗である。
その手には古めかしい『書状』が握られていた。

「……山からの定期報告を届けに来て、それでこんな事になるなんて」
「うん、ツイてないね、あの子……霊撃二発での出落ちといい、厄年かしら?」

そう口では言いながら写真を取る、ネタにする気のようだ。

『……頑張るのよ、椛』

そして二人は粗方そうした後、美琴達の手の中の子犬に同情の視線を送ったのだった。



それは別口で仲間に会っていた白い天狗が、思い出したように涙子に話しかけたことから始まった、

『ああそこ、天魔様より伝言が……山でお前が悪戯してた時に、盗んだ天狗の宝をとっと返せ、と……』
『……げ、幻術ドーン!』
『ちょ、おまっ、何を!?』

ヤベという表情で涙子が霊気を収束し、ボフンと『得体のしれない煙』を白狼天狗に吹きかける。
それを食らった次の瞬間『凛々しい武人のような少女』は『可愛らしい子犬』に変じていた。

『わふっ!?』
『……良しっ、私は誰とも会わなかったってことで!』
『ああ、妖怪の本性を引っ張り出したのか……』

誤魔化しか時間稼ぎかあるいは口封じか、涙子は開き直りと言って良い行動に出た。
一人の天狗は羞恥の極みの中に居た。

『わ、わう(も、戻して)……』
『……ごめん、暫くそうしてて』
『きゃあっ、可愛いー!』
『がうっ(苦しい)!?』

妖怪の山の斥候、白狼天狗『犬走椛』の苦難の日々が始まったのだった。



第三話 無自覚な迷子達・一



宴会から数日経った。
だが(椛にとっては)最悪なことに変化はまだ続いていた。

「……わふん(……戻らないんだが)」
『かわいー!』

涙子が戻し忘れ、そのままオカルト板の幽霊目撃現場に行って、まだ彼女は子犬のままだ。
そして、そんな彼女を美琴と氷華が全力で可愛がった。
もう嫉妬とか警戒とか、そういうのは愛らしい犬の前では完全に消えていた。

「ねえねえ、風切さん、そろそろ名前とか付けない?」
「……うーん、良いのかなあ、別の名前が有るかも」

美琴も氷華も完全に椛に魅了されていた。
もし、この様子を涙子が見れば、計算通りだと胸を張るだろう。

「……ぐるる(むう、納得がいかん……)」

でもこの状況は羞恥でしか無く、椛は二人の手の中で力無く鳴くのだった(今が犬の体でなく涙を流せれば『泣いた』だろう)
そして、そんな椛に構わず、美琴達は椛とどう遊ぼうかと躍起に成っていた。

「……名前は確かに不味いかも、保留にしましょう……良し、それより散歩の時間ね、街を一周りしましょうか」
「はい、行きましょう……こういうの新鮮、楽しみだなあ」

うんうんと頷き合って、二人は椛を連れて歩き出す。
まだこの状況は、恥ずかしさで悶える時間は続くようだった。
椛はテシテシと爪でアスファルトを叩きながら、心中で滂沱の涙を流した。

(うう、何でこんなことに……鬼の弟子め、覚えてろよ……)

身悶える程の羞恥の中で、彼女は報復を誓った。



そしてやや距離を開け、数人の少女が苦笑しながら続く、その一人である『ブカブカのワイシャツを羽織った幼い少女』が微笑む。

「あらまあ、お姉様ったら可愛い顔を……って、ミサカはミサカは吹き出すのを我慢してみる」

美琴の妹、姉妹の末っ子(の片割れ)である『打ち止め(ラストオーダー)』がニヤニヤする。
宴会後様子のおかしい姉、時々思い出し笑いしたりする美琴を不審に思って尾行しただ。
彼女は目の上に手を当て、美琴達を覗きこむ、そんな彼女を肩に載せ『赤い髪に司書服の娘』もまた笑った。
シスターズ共通のトラウマ兼何かと世話を焼く悪魔『小悪魔』だ、妹全員が大好きだからノリノリで付き合っている。

「ミサカちゃんのお姉さんと子犬の組み合わせ……ベネ!」
「10032号は猫派だし、何か新鮮……あの犬、電磁波に動じないね、だからお姉様はしゃいでるんだろうなあ」

二人と一匹は何とも微笑ましくて、打ち止めと小悪魔は顔を見合わせクスリと笑った。

「良し、このまま付いてこ……お姉様と子犬の休日を観察しましょ」
「良いですねえ、楽しそうだし何よりネタに成りそうだし……乗った!」

そう決めて、打ち止め達は尾行の続行を決意した。
さっきまでの微笑ましい物を見るような顔に、悪戯っぽい物が混じっていた。

「うーん、霊夢辺りの悪影響かしら……むきゅう、困ったわねえ(……適当なところで止めよう)」

最後に三人目、二人から少し離れて続く紫の髪の少女、パチュリー・ノーレッジが頭を抱えた。
打ち止めと小悪魔が気になって着いてきたのだが、思わぬ流れになったと呆れていた。

(……こういうの、私の仕事じゃないんだけどなあ……咲夜か門番、常識人が欲しいわ)

何故か突っ込みを一手に引き受け、彼女は大きく嘆息したのだった。



ガシャン

そして、美琴達も打ち止め達も、その両方の組は『ある者達』に付けられていた。
美琴達は犬に気を取られ、打ち止め達はそんな姉に気を取られて、だから気づけなかった。

『……神の敵、発見せり』

甲冑に身を包んだ不確かな影、『数人の幽霊』が各々の得物を取る。
彼らは自分達の死に気づかず、だが使命だけは忘れてなかった。

『科学に染まった身でありながら……魔の世界に近づきし者、汝等を排除する!』

『既にそれを果たしていた』ということすらも忘れ、騎士の霊は最早失われた使命を遂行しようとしていた。



同時刻、紅白衣装の黒髪の少女が一人の少女と会っていた。

「……人探し、友人とはぐれた?……その子の特徴をここに」

紅白の女、霊夢は頼み事を聞き入れ、探し人の特徴を纏めていく。
普段怠惰な彼女だが、妙に真剣な表情だった。

「ありゃ、霊夢が真面目そう……珍しい」
「同感(です、だよ)」
「……五月蝿い、撃つわよ」
『ひゃっ、ごめんなさい!?』

それを見た三人と一体、チルノにミサカにインデックス、それに『生き人形』のアリスがぎょっとする。
宿題とかで上条が忙しく、仕方ないので今居る面子だけで街に出て遊んでいるのだ。
霊夢の辻占いとお守り販売を冷やかし(別に温度的意味でなく)に来たともいう。

「まあ、そう思うのも道理じゃな」
「……つっても客とは違うようだけど」

すると、白尽くめの少女と黒尽くめの少女、正反対の格好の少女達、布都とぬえ(何故か反省中の襷つき)が口を挟んだ。
前回の事件の償いに霊夢の商売を手伝っているのだ(長居して月に見つかれば不味い輝夜だけは返したが)

「えーと、どういうこと?」
「……見ればわかる、少なくとも普通じゃないってね」

困惑するチルノ達に対し、霊夢は客の少女を観察するように言った。
するとその少女の姿が『ブレ』て見えた、実体が無いのだ。

「彼女は霊よ……但し、少し珍しいわね」

珍しい物を見たなと感心し、唸りながら説明する。

「霊は霊でも、生霊……強い『未練』によって、魂の切れ端をここに残したの」

その少女、『黒い肌に金髪の少女』はペコリと霊夢に頭を下げ、必死に頼み込む。

「エリスをお願いします、私が見える人……騎士達は使命は諦めていないかもしれない」
「ええ、お願いされたわ……学園都市で霊を見える者は少ない、流石に無視は出来ないもの。
……エリスという少年の保護、何とかやってみましょう」

霊夢の言葉に『褐色の少女』は感激した様子で、もう一度大きく頭を下げた。
その後ボウっと揺らめいた後消滅する。

「……行ったか、あっちでも探すのでしょうね……ま、だからって無視はできないけど」

少女を見送って、霊夢はやれやれと肩を竦めながら立ち上がる。
すると、そこで彼女は少し考え込んだ。
腕を組んでウンウン唸った後、チルノ達を見つめる。

「……貴方達、暇そうね?」
「い、嫌な予感がする……皆、イイね!?」
『……散開、逃げろ!』

巻き込まれてたかるかと三人と一体が逃げ出す。
が、振り向いた瞬間結界に阻まれる、既に囲まれていた。
但し霊夢としても無理強いはルーミアで懲りてるので、少しだけ譲歩する、自分の金ではないが(某超能力者の財布だ)

「……手伝ってくれないかしら、後で奢るから……まあ頷くまで結界から出さないけど」
『せめて……拒否権用意して!?』

霊夢がニコと笑って脅迫し、チルノ達が悲鳴を上げる、布都とぬえは仲間だと後ろ向きに笑っていた。
こうして、即席かつ凸凹チームに寄る『亡霊エリス』の探索行が始まった。




・・・えー、前回の予告でそこからキャラを出すと書きましたが・・・少し変更します。
プロット見直したら登場確定の人達と別視点が必要でした、なので追加します。
今回の二組と、予告メンバーで話を進める予定・・・まあ本格的に動くのは5~6くらいですが(顔合わせとか、幽霊の事情で少し書きたいし)

以下コメント返信
九尾様
終わったらノーサイド、それが幻想郷流だと思います、引っ張ったけどやっと書けて満足(・・・一部と二部、跨って書くなと自分でも思いますが)
やはり違う常識の持ち主の交流は書きたいです、話的にもその辺美味しい・・・ハマーの爺さん婆さん懐かしい、小型結界の援護とか良い役だった・・・ああいうマッド出したいなあ。
・・・無くは直しました、ご指摘に感謝を・・・うん、余りにもピンポイントな間違いで悶えましたよ、本当に教えてくれてありがとうございます。

うっちー様
あー幽香は麦野帰還まで温存したく、その為に留守番です・・・後付けですが枯れかけた向日葵を見てるとか、手放せない花があるとかで。
美琴さんは乙女だけど不器用な感じを重視して書いてます、普段はお姉さんぶらせつつ空回りみたいな?・・・霊夢と佐天の真似は不味い、自由人だから。



[41025] 第三話 無自覚な迷子達・二
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/07/27 19:51
がやがや

「わふん……」

学園都市は今日も賑い、山で暮らす彼女にとってその雑多な光景は珍しく映った。
雑多さが煩わしくもどこか惹かれる何かがあって、椛は複雑そうに唸る。
耳をピコピコと忙しなく動かして、初めてだらけの学園都市に感心する。

(これが人の世界か、何となく楽しそうだ……今がペット扱いでなければ、だが……)

ショボンと彼女は自分の体を、白い毛に包まれた白い体を見下ろし項垂れた。

(ぐぬぬ、幻術の暗示で獣の姿で固定か……何とか術を乱せれば……)

白狼天狗とはそもそも知恵を持った山犬や狼が変じた存在であり、ある意味常時人に変化しているとも言える。
だが涙子により変化を封じられ、今は完全に犬の姿となっていた。
しょぼんと椛は肩を落とした。

「がう……」
「……どうしたの、『シロちゃん(仮名)』?」
「……歩き疲れちゃった?」

傷心中の椛に気づいて、美琴と氷華が左右から訝しそうに見た。
力なく座り込む彼女を美琴がそっと抱きかかえる。
元気づけるように撫で回し、隣から氷華も手を伸ばした。

ワシャワシャ

「……わふっ!?」
「ほらほら、元気出しなさい……うりゃ、くすぐっちゃえ」
「あ、私も……こちょこちょー」
「わ、わふん……」

二人掛かりで撫で回されて、椛は嬌声染みた歓声を上げる。
すうっと気持ちよさそうにその目を細める。
天狗といえど犬科の本能には抗えないらしい。

(……って、違う!私は誇り有る白狼天狗なのに!?)

が、しばらくして正気を取り戻し、バタバタと足掻いて地面に降り立った。

「おっと、やり過ぎたか……ごめんね、シロちゃん(仮名)」

しまったという顔で美琴と氷華が肩を落とす、椛は二人に非難の視線を送る。
その視線に美琴達はバツ悪そうな顔をした。

「ぐるる……」

唸る彼女に恐る恐る美琴は『ポケットから棒状の物を引き抜く』そっと差し出した。

「うーん、こうなったら何とか機嫌を……ジャーキ食う?」
「わふん!」
「あ、機嫌戻した」

バクと椛は不機嫌そうな顔から一変、勢い良くジャーキーに齧り付く、もうペットから戻れないかもしれない。



ゴソゴソ

「宿題、溜め過ぎた、きついな……おや珍しい組み合わせ、どうしたんだ、御坂?」

更なるオヤツで手懐け中の美琴に声を掛ける者が居た。
美琴がそっちを見ると、コンビニからビニール袋を手に見知った相手が出てくるところだった。
宿題の気分転換兼摘みの買い物で、買ったばかりのアイスを齧って黒髪の少年が首を傾げる。

「あ、先輩……」
「……風切さんに、子犬?どういう組み合わせ?」

少年、上条に問われて美琴が僅かに詰まる、そもそもが氷華に嫉妬しそこを涙子に仲裁されたとは言い難い。
なので、そこはぼやかしつつ端的に説明した。

「宴会の時にこの子の世話で、何というか意気投合してね」
「ええ、可愛いなって……」
「へえ、ま友人が出来るのは良いんじゃないか」

特に疑わず、美琴達の言葉に上条は納得する。
その後子犬を『左手』で撫でた、氷華に気づいた時点で何かの拍子に触ってしないよう右腕を隠したのだ。
気づいていないが、椛にとって痛恨のミスだった。

わしゃわしゃ

「わふん……」
「人慣れしてるな、宴会で見つけたって言ったけどどういうこと?」
「佐天さんに預かった子よ、彼女の飼い犬じゃないかしら……後で返すけど、その前にもう少し遊んでから」
「……ふうん、佐天さんって犬飼ってたんだ、蛇操るからゲテモノ好きかと思ってた」
「あら私もカエルのキャラは好きだけど……犬は勿論猫だって好きよ、女心がわからないわねえ(……本当に)」

後半ちょっと本音が漏れかけて、美琴はそこで口を噤んだ。

「……それにしてはそのワンちゃん、土と木の臭いがする……山の子じゃない?」
「フランドール……」

チョコチョコと上条の隣へ金髪の幼い少女が駆けてきた、彼が手に持つビニール袋を勝手に漁る。
取り出したアイスを齧りながら、フランドールが椛を見て言った。

「ふうん、暗示の術かな……惜しかったね、千載一遇のチャンスだったのに」
「わ、わう?」

椛はフランドールの言葉に首を傾げた、だが椛にそれを説明する気はないようだ。
面白そうだから放っとくかという感じらしい。

「……そっちの茶髪の子、幻想殺しの坊やの後輩だっけ?」
「そうだけど……」
「貴女と似てる子を知ってる、姉妹らしいね……以前楽しませてもらったの、困ったことがあったら三沢塾を訪ねて」

それだけ言うとフランドールは帰路につく。
二人、上条達は手をひらひら振りながら美琴と評価に別れを告げた。

「それじゃ……またな、御坂に風切さん」
「またねー、後輩さん……そっちの妖精っぽい子もね」

美琴達も(今日は子犬優先だ、宿題の邪魔になるし)手を振り返し、一同は別れたのだった。

「ま、何時でも話す機会はあるし……今は散歩ね、行きましょう、氷華さん、シロちゃん」
「ええと……はい!」
「わふん!」



フランドールが微笑ましい物を見るような顔をした。

「右手に気づけば戻れたのにねえ、あの子……」
「どういう意味だ?」
「……気にしないで、まあこっちの方が楽しそうだから」

クスクスとフランドールは微笑んで、その後二本目のアイスに齧り付く。

「……風邪引くぞ」
「吸血鬼だからそこまで軟じゃないよ……こういうチープな味、偶に食いたくなる」
「チープね、俺には普通なんだが……そういや貴族だったか、確かに新鮮かも」
「そっ、爵位持ちだよ……尤も私も姉も貴族らしいといえるかは怪しいね、というか爵位が表社会で通じるか怪しいけどさ」
「……まあちっちゃい子が、しかも吸血鬼が伯爵だって名乗ってもなあ」

フランドールがぶっちゃけたことを言って、上条もその内容に呆れを抱いた。
少しばかり荒唐無稽に過ぎる(というかごっこ遊びか)

「お姉様、時々貴族っぽい発言するけど……もしかして凄い恥ずかしいことだった?」
「……ノーコメントで」

思わず溢れた疑問に対し、上条はそっと目を逸らした。

「ま、まあ……それより面白くなりそう」
「さっきからそれ言ってるけど……どういう意味だ、フランドール?」
「……ふふっ、秘密……まあ真実が明らかに成ればわかるって……からかいの種になるでしょ」

彼女は答えず、小さく含み笑いをした。
が、その後首を傾げる、不思議そうな表情で腕組みして唸った。

「……付いてった連中もそんな感じかな……あれ、三人だけじゃない?もっと居る?」

遠くを見つめて彼女は首を捻った。
しかし、直ぐに気のせいかと思った、美琴達に続く三人『以外』の気配が余りに『薄くはかない』からだ。

「いややっぱり三人だね、気のせいだったか」
「……どうしたんだ?」
「ううん、気にしないで、多分勘違い……三沢塾に戻ろう、アイサ達が待ってる」

その時は彼女は気のせいと思い、フランドールと上条は三沢塾への帰路についた。
騎士の存在はまだ出なかった。



第三話 無自覚な迷子達・二



「……ェリー」

トットットッと中性的な少年が駆ける、どこにでも居るようで異様に存在感が薄く儚い、必死な表情で何かを求めていた。。

「……あいつ、妙な気がするな」

一羽の烏、美しいがどこか底知れない女の方に乗っかていた烏が訝しそうに少年を見た。

「止めときなさい、垣根……幽霊は無視するのが一番よ」

だが、飛び立とうとした烏、超能力者の垣根(の一部)を女が止めた。
金髪に緑眼の少女で、どこか暗い不吉な雰囲気を纏っている。

「幽霊って……とうとう可笑しくなったか、水橋?」

先日仲間を手助けし、少し弱体化した垣根の世話に出てきたパルスィ(他二名は疫病広めた過去と現役人喰いで論外)に不審そうな視線が飛ぶ。
すると彼女は自分を不審げに見る垣根に呆れた顔をした。

「いや、今更オカルト否定するの?……あんたの現状、割りとそういうぶっ千切ってるでしょうに」
「……まあ確かに今更か」

殆ど死んでこうして生き返って(一部だけだが)、確かに霊の否定も無いかと垣根は黙りこむ。
そんな彼に苦笑ながらパルスィは説明する、

「……霊というのは移ろい易い、良くも悪くも……その結果を待っても遅くないわ」
「良くも悪くもねえ……お前等地下の連中はどっちだ?」
「さあ?私等は好き勝手やってるだけだし……昔も今も、妬ましい妬ましいと言い続けるの」
「ああそうかい……その開き直り具合はある意味妬ましいぜ」

開き直るパルスィに垣根は翼を広げると、呆れたように肩を竦めた、突っ込みを諦めたともいう。

「……幽霊なんて大抵は小心者で人を脅かす程度よ、例外なんて滅多に無いわ」



が、『滅多に無い』というのは『絶対に無い』という事ではなかった。
人を脅かす、その程度では済まない、そういう例外が有った。

ガシャガシャガシャ
ジャキンッ

騎士達が隊列を組んで、狂信者のような目つきで武器を取った。



カツン

「……うわ、荒れてるな」

数人が廃墟の階段を降りていく、周りを見渡して絶句する。
荒れ果て、設備の残骸や何か得体のしれない機器が転がっていた。
が何より、それだけでなく『赤錆びた』汚れが床や壁に有った。

「……射命丸、姫海棠さん、何枚か写真取っといて」
「ええ、これは……予想よりも凄いですねえ」
「何これ、変なのが写らないといいけど……」

ネタになるかと見に来た涙子、それに何となく着いてきた文とはたてが想像以上の『それらしい』雰囲気に困惑する。
天狗達はカシャカシャと少し引きながら写真を取っていく。

「……赤いシミとか尋常じゃないね、あるいは……風紀委員にでも見せるのも考えるか、それくらい怪しいや」
「ならば、資料になるようにしっかり撮影せねば……腕が鳴りますね、はたて」
「ま、確かに記者冥利に尽きるか……とりあえず機材と血の跡らしき物を中心に取りましょ」

様々な機器、研究用らしきそれ等を、次に床の壁の赤い汚れを記録する。
その後他に怪しい物がないかともう一度見回す。
設備の残骸や何か得体のしれない機器、床や壁の赤い汚、『無骨な甲冑』が廃墟に有った。

「……えっ?」
「はあっ!?」

ジャキンッ

『……妖魔か、目的とは違うが……捕らえろ!』

思わず呆けた三人をいつの間にか騎士が包囲し、一斉に武器を構えた。
三人は虚を突かれ、だが相手の尋常じゃない空気に慌てて臨戦態勢を取る。

「あやや、本物の幽霊っ?……お、扇とスペルカードを!?」
「うわっ、学園都市で幽霊!?……れ、霊力チャージ、間に合って!」

慌てて文とはたてはそれぞれの武器を取った、文は羽団扇と数枚のカードを、はたては携帯電話を向けながら霊力を急ぎ練った。
そして、涙子はその長い黒髪に手を突っ込んだ。

「……ええと、毛玉ドーン!」
『ちょ、躊躇ないわね!?』

涙子は掴み出した毛玉を地面に叩きつける、衝撃と閃光が走り騎士達の目を一瞬晦ました。
彼らを牽制後、直ぐ様文とはたてに声を掛ける。

「あっぶね、何時も入れっぱなしじゃなかったら危なかった……二人共、逃げるわよ!」
「了解です、さっさと逃げましょう……私が速度で撹乱します、貴女とはたては攻撃する相手中心に妨害を……」
「わかった、援護は私達で……姫海棠さん、チャージは?」
「……ギリギリ間に合った、攻撃の相殺は任せて!」

最速の文を中心に、三人は即興ながら隊列を作った。
ジリジリと詰めてくる騎士を警戒した表情で見る。

「……ううむ、相手の攻撃を止める『盾』が欲しいけど……贅沢は言えないか」
「流石にそれはこの状況では……今いる面子で何とかしましょう」

一行は諦めた様子で身構えた、自分達と幽霊以外の接近に気づかずに。





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九尾様
・・・椛を出すに辺り、犬っぽい(自分の個人的イメージ)二人と絡ませることにしました、偶然ですが美琴にとっても自分を避けないから良かったのかも。
で、騎士達ですが・・・そもそも魔術を学んだ科学側のエリス排除に『敵地である科学都市』に鉄砲玉した狂信者ですから・・・



[41025] 第三話 無自覚な迷子達・三
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/09/05 14:25
ビシリと眠たい目の女、アイテムのリーダー代理である滝壺が鉄巨人を指で差した。

「……雇用主として指令を与えます、シルバークロース・a……ちょっと幽霊屋敷に突っ込んでこい」
『待てい!特攻か、横暴だ!?』

上層部から調査依頼のあった廃研究所、得体のしれないそこへ彼は送り出されようとしていた。
彼は当然苦言を呈すも、滝壺だけでなく他のアイテムの面々まで彼を押す。

「行ってくれ、a……俺達はナビするから」
「いやー超しかたない、本当に……そっちも大事な仕事ですから」
「そうそう、後方支援も重要って訳よ……だから、行ってこい!」
「……結果は出たね、出撃だよ、シルバークロース・a……私達は応援してるから!」
『……覚えてろよ、クソ上司共め』

薄情な四人に見送られ彼はトボトボと(狭いので普段の多脚ではなく直接着るスーツだ)歩き出す。
唯一の救いは今回のために呼ばれた『顧問』の存在だ、『彼女』だけは中へ同行してくれる。

「良いじゃないか、都市在住の幽霊なんて珍しいのに会えるのに……いい経験だ、楽しくなると思うぜ」
『それは……協力者殿だけだと思うがな』

単発式ファイブオーバー(非力な装備と今から行くのが閉所だからだ)を弄る彼は顧問である少女、魔理沙に半ば疑った問いを掛ける。

『その、今更だが本当に幽霊が?』
「ああ、しかも複数の霊の気配を感じる……学園都市の幽霊か、話のネタにはなりそうだな」
『……笑い事ではないのだがな、いや黒髪に梅の髪飾り、風使い共を見た以上否定はできんか……』

涙子や文と小競り合いをした経験から否定しきれず、彼は伸長した表情で幽霊の目撃が有った廃研究所を見た。

『やれやれ、戦闘用スーツとはいえ……そんな相手との戦闘は想定外なのだがな』
「まあ頑張んなよ、あんちゃん……幽霊の外敵への攻撃は主に三つ、祟りに憑依に念力モドキ、所謂ポルターガイストって奴だ。
祟りは即効性がないから後で巫女に頼んで、憑依は心が弱ってなきゃ効かないからこれも問題ない……最後だけ気をつけな」
『……承知』

彼は覚悟を決めて廃墟へ踏み出し、それに(室内で箒で飛べず)歩いて協力者で顧問として魔理沙が向かう。
そして、その二人をアイテム一行が後方支援『という名目』で送り出した。

『頑張れ、骨は拾ってやる!』
「ひでえな、この上司共……『魔理沙さんは危なくなったらそいつを盾にでも』益々ひでえや……」

余りの言葉に思わず涙が出かけた、シルバークロースアルファはガクリと肩を落とし俯いた。
そんな彼の肩をポンポンと叩きながら魔理沙が先導し研究所を進む。
普通の魔法使いと、薄幸の新入り暗部が戦闘渦中の中へ踏み込んでいった。

ミシリ

「あん、何か聞こえたか?」
『嫌な予感が……』

首を傾げながら彼は進む、それは『致命的な一歩』だった。

ミシミシミシッ

『あっ……』
「……おおこれは、何かヤバイか?」



第三話 無自覚な迷子達・三



烏天狗が飛び、騎士の亡霊が武器を振るった。

ドゴッ

『……神の敵め、倒れよ!』

騎士が吠え、騎士剣やメイスを叩きつける。
それは(無意識的にだが)圧縮された霊体であり、振り抜かれた瞬間物質的な質量とともに、凶悪な殺傷力を発揮する。

ズドンッ

攻撃の軌跡に沿って衝撃が放たれ、壁や天井を割った。
だが、『黒い翼』はそれをギリギリでくぐり抜けた。

「あやややや、無茶しますね!?……でも、そんなトロイ攻撃なんて!」

ヒュッ

狭い廃屋でも巧みに翼を操り、文は騎士の攻撃の一つ一つを読んで躱す。
衝撃波群の僅かな隙間を駆け抜けて、彼女は反撃に出た。

ヒュッ

攻撃をかわしつつ、彼女は羽扇を振り被った。

「風よ!」

ザシュッ

『ぐあっ!?』
「……ようし、まずまず……か?」

振り抜いた瞬間騎士の一人の体が傾く、だが、直ぐに体は繋がり再生し始める。
しかもそれが終えるまでの陣形の乱れを埋めるように、後ろの騎士がカバーする。
直ぐに隊列は整えられ、直ぐ様文への反撃は行われた。

『誅伐を!』
「あややっ、結構判断早い!?」
「……ふむ、合理的だ、西ならではだね」

直ぐ様騎士は反撃した、慌てて文は下がり、後方の涙子も風を打ち込んで援護した。
援護しながら涙子は暫し考え、チラと隣りのはたてを見た。

「騎士なら吸血鬼姉妹が戦い慣れてるだろうけど……姫海棠さん、『暫く』文の援護!」
「ほえ?考えがある、のかな?……いえっさー!」

彼女は頷き、弾幕ごっこの重要ツールである携帯を手にやや前に出る。
パシャパシャパシャと、怒涛の連『写』で騎士の放つ衝撃波を打ち消していく。

『何!?』
「ふふっ、どう?私は飛ぶよりこっちが得意でね……で、鬼の姫、準備は!?」
「……ナイスだよ、十分だ!」

ニッと涙子が笑って頷いた、ポンポンと数匹の毛玉をジャクリングしながら進み出る。

「……行って来い、毛玉ちゃん!」

カッ

涙子が叫ぶ、毛玉が目を見開く。
彼女が一匹の毛玉を振り被る、豪快にオーバースローで投擲する。
高速でかっ飛んだそれは手前に居た騎士へ叩きつけられ、更に至近距離から弾幕を撃った。

ドゴンッ

『ぐっ……』

食らった騎士が仰け反る、その傷はやはり治るもその速度はやや鈍い。

「ようし、やっぱり霊体同士なら効く!」
「……霊使いの荒い人だねえ」
「良いの、私は彼らを使役し、彼らは死して出来なかった生の続きを……Win-Winね」

反論しながら涙子は二匹目の毛玉を構える、今度はずっと大きい、両手で抱える程のそれを放った。
山なりの軌道で浮かび上がって騎士達の頭上へ。

「射命丸、叩きつけて!」
「……任せて!」

翼を一打ちし加速、文が飛んだ。
彼女は空中でくるりと回転し、上下逆さになると蹴り足を真下へ、反転してのオーバーヘッドキックだ。

「あやや、こういうの霊夢さんが得意だけど……行っけえ!」

ドガッ

爆撃さながらに弾着、二撃目は騎士達の集団のど真ん中へ落ちる。
当然毛玉は弾幕を放つ、一方向ではなく全方位へと。

「やっちゃえ、毛玉ちゃん」

コクン
ドガガガッ

『がああっ!?』

全方位、至近距離からの弾幕が騎士達を襲った。
距離の近さ故に避けきれず、傷だらけで彼らは後退する。

ガシャッ
ジャキン

『まだだ……』
「……あの数じゃ被害がばらける、倒し切れないか」

が、騎士達の士気は異常と言ってよく、直ぐに構え直した彼らを見て涙子達は少し顔を引き攣らせる。

「ちょっと面倒ですね……うーん、壁が欲しい」
「うん、前衛がいれば射命丸は自由に動ける、私達も安心して援護できるんだけど……」

そう言いながらもそれは贅沢な言葉で、そのことをわかっている彼女達は諦め構え直した。

「ま、言っても仕方ない……地道にやろうか」
「ええ、このまま削って……」

ミシミシミシッ

その瞬間だった、廃屋が揺れた。
戦闘の余波だ、ここで問題なのは戦場の場所である。

「……地下で聞いちゃいけない音が!?」

思わず涙子は後方を、階段を見た、皆青ざめている、今いる場所は階段を幾つか降りた場所だったからだ。
まさか崩落か、と三人は身構えた。
そして次の瞬間『その二人』が落ちてきた。

バキンッ

『うおおおっ!?』

天井が砕ける、幸い一部で全てが崩壊する程ではない。
だが幸運とはそこから落ちた『彼』は言わないだろう、鉄巨人が天井の大穴から落下した。

ズズンッ

『ぐっ!?』

ストンッ

「……大丈夫かあ?」

巨人が落ち、その一秒後先に落ちた男を嘲笑うようにゆっくり『少女』が降り立つ。
落下の衝撃で悶絶するパワードスーツ、それを呑気そうに心配する黒帽子の少女が戦場に現れた。

『魔理沙さん!?』
「……あん、佐天に記者二人、何でここに?」

ユサユサと、気付けのつもりか巨人を揺する魔理沙は見回し首を傾げた。
が、呑気な彼女に答えられず、代わりに三人は容赦無い言葉を掛ける。

「これはチャンスか……魔理沙さん、そいつ貸して!」
「……ああ前衛か、良いぞ」
「よっしゃあ壁ゲット!」
『おい!?』

即答だった、文句をいう巨人に構わず涙子達は彼の後ろへと回りこむ。
そのままグイグイと押し出し、彼を盾にしながら騎士を迎え撃とうとした。
しかも、魔理沙までもそれに便乗する。

『……ちょ、顧問!?』
「悪いな、数が多い……頑張って耐えてくれ!」
『聞いてねえ!?』
「……言い争いはそこまで、来ます!」
「ああ構えろ、鎧共は聞く耳無いようだぜ!」

クレームを入れる巨人を黙らし、そこへ騎士達が駆けて来る。
唯でさえ先の見えぬ戦場は更に混沌とし、一行(特にシルバークロースアルファ)は困惑しながら戦うしか無かった。

『覚悟しろ、神の敵共』
「……クソッ、厄日だ!?」

轟音が殺伐として残響し、更に廃墟に悲痛な悲鳴が響いたのだった。



そして、戦場になったのはそこだけでは、廃墟だけではなかった。
亡霊はある意味『群体』、一部の活性化、憎悪の発露が全体へ広がっていた。



最初に気づいたのは真っ白な犬、椛だ。
彼女は牙を向き、赤い舌を時折見せて、唸った。

「グルルッ」
「シロさん、どうしたの?」
「これは……氷華さん、気をつけて、何かが……」

ガシャと鎧を揺らしながら、無数の騎士が美琴に氷華、椛を包囲した。

『目標とは違うか、だが禁忌に近い……排除する』
「禁忌?何を言ってるか知らないけどお断りよ……氷華さん、シロちゃんを」
「は、はい……援護しますね!」

砂鉄の剣を手に美琴が前に、椛を抱き上げて氷華が翼を広げる。
困惑しながらも、相手の雰囲気に冗談ではないと悟った。
そんな彼女達をジリジリと騎士達は詰めていく。

『神罰を!』
「……それを人の手でやろうって方が、どうかと思うけど」



別の場所でも戦端は開かれていた。

ガシャッ
ジャキン

『……人ならざる者?……敵か』
「うわっ!?」
「騎士……の、亡霊!?」
「……ヤルキッポイ、カマエテ!」

チルノとインデックス、それに人形のアリスが包囲する騎士に驚き、慌てて間合いを取った。
調べ物と霊夢から『何か頼み事』をされたのでミサカは居ない、今は研究所に行っていた。
ここに居るのはチルノ達、それに霊夢が着いて行かせた一人の少女だけだ。

「……興奮しとるな、荒御魂という奴か」
「ええと……布都、説明!」
「衝動のままに暴れる霊、人に害を為す霊は大体がそれ……つまり敵じゃ、構えよ」

注意しながら彼女自身も弓を構える。
一同は並んで弾幕を展開、包囲する騎士を睨みつけた。

「……ドウスルノ?」
「待て……インデックス、騎士の性質は?」

太都は専門家を見た、その問いかけにインデックスは僅かに考えこむと取るべき手段を模索する。

「……基本、集団で行動する……これで、全部とは限らないかな」
「ふむ、そうなると探し人が心配じゃ……適当にあしらい、突破を優先した方がいいかのう」
「おっけー、それじゃあ……皆、一気に抜けるよ!」
『おーっ!』

バララッと弾幕をばら撒き、ダッと一同は走り出す。
騎士という妨害を抜けながらの探索、言葉以上に厳しい時間が始まった。



最後に、彼女達の探し人の元へも刃は振り下ろされようとしていた。

「……ェリー」
『……発見』

中性的な少年が友の残り香を探し街を彷徨く、だが容赦なくそれを数人の騎士が襲った。
幸運にも、目標を正しく見つけた彼等は凶器を構えた。

『神の元へ行くがいい、さあ覚悟し……』

ガギィンッ

が、その攻撃はどれも届かず、弾かれる。
『半霊の弾幕』と『ギラギラ輝く翼』によって。

「やれやれ、気になって早苗達と離れたが……ふむ、どうなってるんだ?」
「水橋はああ言ったが……念の為に来てよかったか、流石に刃傷沙汰はなあ」

銀髪の少女、妖夢が、どこか好戦的に笑う超能力者、垣根が騎士の前に立った。

「……銀髪の女剣士、確か一方通行と居たような?」
「ええ、そういう貴方も異変の時に見たような……話はそこの騎士を何とかしてから」
「ああ……やるか、蹴散らすぞ!」
「……承知!」

二人はそれぞれの得物を騎士に向ける。
直接は知らずとも、一方通行を介して知っている、その実力も。
だから、どちらとも余裕の、楽しむように笑みを浮かべていた。

『……邪魔だ、退け!』
「断ります、首を突っ込んだのは気まぐれですが……」
「ただで退いてやるのは……少し癪だ、暇くらい潰させろよ!」

文字通りの即席コンビは少年を庇い、騎士を迎え撃った。




そんなわけで第三話、中盤へ・・・幽霊もそれ以外も行動開始、本格的に話が展開していきます。
ああ幽霊が群体と書きましたが、この辺は騎士がそういう性質なのも少し有るかも。

以下コメント返信
茂P様
今回は椛と二人が主役っぽいかな、可愛く書きたい・・・特に美琴ちゃん今までが頼れる先輩ですから女の子らしさも何とか・・・

九尾様
ええ、幻想殺しは不味い、ネタが潰れる・・・だから暫く三沢塾に缶詰、まあ序盤は他の面々で回し、それぞれの活躍を書いていく予定です。
佐天さんのあれは・・・黄昏の弾幕アクション、特に霊撃のイメージです、毛玉は要所で使っていくかな。



[41025] 第三話 無自覚な迷子達・四
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/09/05 14:26
「荒御魂、つまりは荒ぶる人の霊……まあ一番か二番めに厄介だな」

牽制しながら布都が顔を顰めた。

「……悪霊って奴?」
「ふむ、それは……悪霊だとか怨霊は人側の視点よ、被害量から推し量った……あー、れってるだったか、だから正しくはないな」

隣で同じように牽制の弾幕を撃つチルノの言葉に、一部修正しながら布都は答える。

「霊とはその場に漂う、人の残骸……唯性質が異なり、それで呼び名が違うだけじゃ」
「それが……荒御魂、だっけ?」
「うむ、それと奇御魂だとかじゃな……荒御魂は特に荒々しい、外部からの刺激で一気に昂ぶり、力を振るう。
……その力を兎に角『外部』へと向ける、まあそういう霊じゃな」

そう説明しながら騎士達へ指し示す。

「……で、まあ荒御魂と一口に言っても……力を振るう方向性は様々なのだが」
「……ああ、あいつ等が特に無差別ってこと?」
「うむ、只管彼等の法を守る、一応は善性だが……過激過ぎるな」

布都は武器を振るう騎士達を見て嘆息した。
その後それを向けられる少女、インデックスへ同情の視線を送る。

「……私も彼等にとってのルール違反者、なのかな」
「そのようじゃな……同胞とて、いや同胞だからこそ許さないのかもしれん」

この言葉に僅かにインデックスは考え込み、だけどすぐさま顔を上げ、騎士達を睨んだ。

「ふんっだ、友達と一緒で何が悪い……術式へ強制介入、スペル・インターセプト!」
『ガアアッ!?』

妨害で自爆へ追い込み、騎士を怯ませるとインデックスはチルノ達を促した。

「皆、早く行こ!……同郷者だけに、被害者が出されると気が引ける、エリス君を保護しないと!」
「……お、おー!」

騎士がインデックスを狙ったように、インデックスもまた彼等のやり方に怒っていた。
インデックスが走り出し、ちょっとびっくりしながら他の者達も続いた。

「……怒らさないようにしよう」
「ああ、だがまあ理由は……らしいというか、優しい子じゃな」
「……インデックス、カッコイー!」

奇妙な感情(畏怖とかその辺)を漂わせながら一同は走りだした、騎士に追われながらも少しも足を止めずに。



「……これは、騎士達の気配?……興奮している、一体に何が?」

褐色の肌の少女が首を傾げた。
生霊、友の死を見て、ショックで分たれた魂の切れ端は嫌な感覚を覚えた。
少し前からピリピリとした緊張感が学園都市中から漂っている。
ずっと敵対している騎士の物だ、どう考えてもいいことではない。

「……むう、あの巫女と別れたのは不味かったか」

魂が分たれ、二分された彼女に力は、有事の際それに抗う力はない。
戻るか進むか、暫し考え込む、後者は危険だが友達が騎士に襲われてないか心配だ。

「エリス……やはり、行かないと」
「おおっと、そいつは止めて貰えるかい?……ひひっ、少しややこしくてね」

ギュワッ

「おわっ!?」

唐突にどこからか突風が吹く、横からかっ飛んできた『発光する飛翔体』が生霊の少女を攫った。
それを操る少女、ぬえが生霊の少女を抱え、焦った表情で話しかける。

「……悪いが状況が動いた、一緒に来てくれ」
「何だと?」
「不味いことになったかもしれないって霊夢が……事件の今後を左右する要素、一箇所に集めたいんだとさ」

少し緊張した表情でぬえが(霊夢が一方通行が用意させた)携帯で霊夢に連絡した。



「……まず、これで生霊の方は手元に押さえた」

タッタッと街を駆けていきながら、霊夢は札をそれとなくばら撒く。
霊の敵意を削るもので騎士へ対するものだ。
既に戦場に出て、活性化したものには効果無いだろうが幾らか鈍るはずだ。

「狙われた少年、その友人、討とうとする騎士達……どれを逃しても、多分この状況は止まらない。
平行して何とかしないと……でも、間に合うかしら?」

幸いぬえと生霊の少女は合流出来た、その友人であるエリスの確保はチルノ達に任せている。
問題は騎士達だ、予想よりも活発なのだ。

「でも、情報が少なすぎる……ミサカ、上手く情報を持って来てくれるといいんだけど」



第三話 無自覚な迷子達・四



ミサカがある施設、その一室で仲間へ、研究所に居て手伝いを請うたシスターズへ叫んだ。
その部屋は資料室で、警備員の未解決事件についての情報が集まっている。

「……皆、騎士、数年前にこの地に降り立った集団の情報を……急いで!」
『了解です!』

バラバラと数人ずつで散って、ミサカとシスターズは資料を見始める。

「……時間は無さそうです、早く集めるといいのですが」
「まァ落ち着けって、焦ってもいいことは無ェぞ」

焦るミサカを、同じように近くで調べ物する少年が宥めた。
この場にいる唯一のシスターズ以外の存在、保護者である一方通行だ。

「焦ンな、いつも通りにやれ……姉貴が持ち込ンだ一件だから、大方厄介事だろうけどな」

変な形で霊夢を信じているようだ、というか厄介事と決めつけていた。

「割りと酷いですね、一方通行」
「……ありゃァ生粋のトラブルメーカーだ、何時になっても変わらねェぜ全くよ」

愚痴りながら彼はパラパラと資料を捲っていく、適当なようで調査は正確だ。
彼は関係ありそうな資料を二三集めてきた。

「……ほれ、多分これだ、暗部と小競り合いやった連中だとよ」
「早いですね、ええと拝見します……」

受け取ってミサカが見始める、がすぐに顔を顰めた。
その理由は二つ、暗部絡みでやや不鮮明なことと、、予想より死者が多かったことだ。
正確には研究所周辺で数人の死者、そしてそれを送り込むために『囮』として死した者達がもっと居たのだ。

「騎士だったか、死人の全部がそれとは限らないだろうな……従者、雑兵、兵卒、まあ正しい言い方は知らねェが」
「数は……二十から三十、予想よりも多い、劣る者も混じっているでしょうが……」
「……つっても、騎士とかそういうのは集団行動ってイメージが有る、集まれば厄介だろうな?」

ミサカは予想外の情報に顔を引き攣らせた、だが一方通行は軽く笑う。

「はっ、だが……そういうのは、得てしてイレギュラーに弱い、今の学園都市には……それが沢山居るだろ?」
「……こっちに被害が来なければ、ですがね」

でも、それは根本的な解決にならず、違う理由でミサカは肩を落とした。

「はっ、派手なことになりそうだ……楽しくなってきたな」
「……そんな余裕が有るのは貴方や霊夢さんくらいです」

笑う一方通行に、ミサカはがっくりともう一度肩を落としたのだった。

「……ま、それはそれとしてもう少し調べるか、気になることが有る」
「一方通行?」
「何となくだったが着いてきたのは良かったかもしれねェ……超能力者がいた方が公的機関には無理が効くからな。
……何せ、まだ調べることは沢山ありそうだ」

言葉の意味が掴めず、小首を傾げるミサカに一方通行は資料のある部分を示した。
そこにはオカルトめいた内容が書かれていた。

「……西洋の非科学的事象、それと能力の併用……被験者への『心身』両方への悪影響、ですって?」
「やれやれ、胡散臭くなってきたな……『敵』になり得るのは騎士だけじゃねェかもなァ」

ミサカはさあっと青ざめ、一方通行は疲れたように肩を竦め、二人は急いで調査を再開した。

ピピピッ

が、その矢先に一方通行の携帯がなり、彼は顔を顰めた。
そして、そこに表示された通話相手の名前を見て、更に顔を顰めた。

「これはまさか……早速『イレギュラー』か?」



『……邪魔だ、退け!』
「断ります、首を突っ込んだのは気まぐれですが……」
「退いてやるのは……少し癪だ、暇くらい潰させろよ!」

少年を庇い、いきなり現れた二人組みが騎士を迎え撃つ。
少年、エリスにとってはかなり新鮮だ。
今まで追われ、必死に追い返す、だが直ぐに追い詰められる、そういうギリギリの相手だった騎士から自分を守ってくれる存在など初めてかもしれない。
が、その思いは裏切られることとなった。

パキィン

「ああ、前回の異変で傷ついた我が二刀の修理、その間の代用……蔵にあった鈍らが!?」

『何の変哲もない、数打ちの太刀』が騎士の剣と打ち合った拍子に圧し折れた。

ボキィッ

「ああ、心理定規に貸し出したままで……半分の密度で上辺だけ作った未現物質が!?」

『中身は空洞、形だけ拵えた未現物質』が騎士達の攻撃を弾いたところで砕けた。
エリスは思わず半目で突っ込んだ。

「……何しに来たの?」
『い、いや勢いでつい……』

二人は根本だけの刀と翼で牽制しながら、何とか答えたのだった。
本当に勢いだけで首を突っ込んだらしい、エリスだけでなく騎士まで呆れた。

『……え、正気?』
「いやあ何か狙われてたし……出てから、あ不味いかなと」
「俺も……そういや補給まだだったと、さっき気づいたな」

二人の言葉に一同が呆れる、一瞬戦いにはあり得ない程生温い空気が漂ってしまった。
思わず妖夢達は顔を反らし、だが(半ば誤魔化すように)叫んだ。

「い、今のうちに体勢を整える……後退します!」
「……そ、そうだ、間合いを取るための……あー芝居みたいなもんだから」
『嘘つけ』

無理のある言い訳に再度エリスや騎士が突っ込んだ。
が、それを聞こえない振りしながら、妖夢は(こっちで不便が無いよう、早苗が準備した)携帯を取り出す。

「……お、応援呼びます!……ええと、羽根つきの人、使い方わからないんでパス!」
「……ほい、受け取った」

相手が総出で突っ込んでる間に垣根は携帯を受け取る、登録された番号を上から見て、知っている相手を見つけた。
直ぐ様その番号を、一方通行と表示された物を押した。

「よう、一方通行、今何時かの銀髪の剣士といてな……厄介事に巻き込まれたんで、助けを……」
「……知るか、お前等で何とかしろ」
「……え?」
「その組み合わせなら何とかなンだろ、ああタイミング的に騎士絡みか……余裕があったら助けをやる、まァそれまで自力でやれ」

ブツンッ

冷たい言葉とともに切られた。
垣根は力なく空を見上げ、その後妖夢を見て沈痛に首を振った

「……すまん、駄目だった」
「良し……あいつ、後で切ろう」
「手伝うぜ、ここを切り抜けられたらだが……」

二人は見捨てた一方通行への報復を決意した。

「……畜生、このまま更に未現物質が減る……干からびちまう!?」

バッ

叫びながら垣根は数本の凶器を作り出す、それは標準的サイズの二本刀を模している。
それで大分弱体化した彼は烏の形態へ、エリスの肩へ飛び移ると妖夢へ叫んだ。

「俺はこれで素寒貧だ……何とかしやがれ、銀髪!」
「了解、任されました!」

自棄っぱちで叫び、妖夢は騎士へと切り込んでいった。
彼女が自棄なのは単独で騎士に挑むのもあるが、一方通行に見捨てられたこともあるだろう。

「うおおおっ、絶対生き延びて……あの白モヤシ、叩き切ってやる!」
『……ぬう、何たる殺気か……八つ当たりでは?』
「五月蝿い、貴様ら全部……一刀両断だあっ!」

怒りの表情で吠えて(騎士にとって無関係な)妖夢による蹂躙劇が始まった。

「おう、スゲエ殺気……騎士が呆気にとられやがる……」
「……た、助かりそう?」
「……かもな、まあ包囲が緩んだ所で逃げるか」

妖夢の気迫あふれる戦い(八つ当たり)に安堵するエリスに垣根は頷いた。
そうしながら、彼は『ある少女』に残した未現物質のことを思った。

(……どっかで取りに行きてえな、流石に無補給は辛いし……それ無関係でもこういうのに巻き込まれそうだし)



「くちゅん!?」
「わふっ!?」

戦闘中行き成り氷華のくしゃみ、抱かれていた椛がびっくりした。
それを宥めながら氷華は風邪を引いたか首を傾げる。

「あら、何か急に……大丈夫かな、攻撃再開っと!」

自分の体を改め直ぐ様攻撃再開、美琴を援護する。

「……大丈夫、風切さん!?」
「大丈夫です、これで結構頑丈なんで……それに一人と一匹、新しい友達のためなら……風邪くらい、どってことない!」
「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるじゃない……私も気合入れるわ!」

氷華と美琴はにっと笑いあい、騎士へ猛攻する。
少し前までの嫉妬や警戒はもう消えて、すっかり仲良しだった

(……それがこの私の姿の、子犬のおかげでってのが納得行かないが……畜生、抱っこされてるのに馴染んでる自分が怖い!?)

でも、一人だけ泣いていた、白狼天狗の椛は馴染みかけてる自分に恐れを抱いた。

ドガガアッ

(遠いが爆発音、同じように騎士に襲われる者が?……合流できれば協力できる?今のこの街なら幻想郷出身者かも……あ、この姿を見られるのか!?)

そこまで考え彼女は肩を落とした、当たっていたらそれはそれで不味い。
どう転んでも彼女は前途多難だった。




次回へ続く、前回いい感じだった即席コンビ・・・実はピンチでした。
後何か、椛がオチ気味・・・戻すか、もう少し引っ張るか、悩ましい。

以下コメント返信
九尾様
いやアルファさんは元々こういう扱いにしたかったんですよ、前の部のむぎのんはその伏線・・・やっとやれて感無量です。
騎士とインデックスは寧ろ仲間だから許せないという感じ、インデックスの方もまあ同じように。
・・・妖夢は実は武器なしです、まあ無くても物騒さはかけてませんが。

AISA様
鉄壁ことアルファさん、次回辺りフラグ立てまくったりする予定・・・もう今回のMVPでいいかも。
即席コンビはその、弱体化してました・・・でもまあ無いなりに存在感が出てくると思います、特に後半。

うっちー様
はい、派手に行きたいですね・・・因みに確信は最後ですが、中心は御坂さん達です(まあ次回か)



[41025] 第三話 無自覚な迷子達・五
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/08/10 21:11
タンっと小柄な影が地を蹴り、短く揃えた銀の髪が小さく揺れる。

「はああっ!」
『ぐっ……』

銀髪の半霊剣士、妖夢が未元物質の刃を手近な亡霊をすれ違い様に切った。
実体化する力すら失い消える、だが直ぐ様後続がその穴を埋める、追加の亡霊が長剣を振りかぶった。

『……罰を受けろ!』
「断る……半霊、撃てっ!」

ガガガッ

『ぐおっ!?』

が、後方から飛び出した白い尾を持つ球体、半霊が円周上に弾幕を打ち亡霊を遠ざける。
そして、その間に妖夢は刃を構え直す。
上段に構え、霊気を纏わせると全力で叩きつける。

「……冥想斬、はああっ!」

ゴウッ

『がああっ!』
「次は……どいつだ!」

怯み動けない霊、更にその周囲の数体諸共切ると、妖夢は冥想斬で刃毀れした刃を放り捨て次を抜く。
二本目を抜きつつ周りを見回し新たな狙いを付けて、彼女は吠えた。

「ここで、倒れる訳にはいかない……あの『白いの』を切るまでは!」
『おい、これ……八つ当たりじゃないのか!?』

思わず突っ込んだ騎士に構わず、妖夢は抜いたばかりの太刀を手に突撃した。
怒りを込めて(対象は一方通行だが)力任せに刃を振り抜き、駄目になれば直ぐ様別のを抜いてそれを振るう。
まるで小規模の嵐が起きたかのように、亡霊は切り倒されていく(ついでに未元物質の刃がばら撒かれる)

「そんなこと……」
『ぐっ!?』
「知るかっ、もう……どうでもいい!」
『ぎゃっ……』
「良いから……暴れさせろ、とりあえずウサ晴らしだ!」
「うわあ、これは酷い……つうか気軽に使い捨ててくれるな」

妖夢の言葉に騎士が絶句し、後方で見守る烏、垣根までもが呆れた。
彼は使い捨てられる未元物質の刃を風で引き寄せつつ、エリスの肩から周囲の様子を慎重に探った。

「ちっ、文字通り身を削ったのに、勿体無いな回収回収……おい、ガキ、逃げる準備をしとけ」
「……わかった」
「あいつが派手にやったから……そろそろ陣形に乱れが出る頃合いだ」

荒っぽい妖夢の戦いに頭を抱えながらも、彼は戦況を見極めようとする。
彼は遠からず出るであろう隙を伺い、そうしながら彼は少し迷って首を捻った。

「……一方通行に切り捨てられたが、あの物言いからしてここだけじゃない?……気になるな、適当なとこで切り上げるか?」

唯でさえ弱体化してるのに変化に気づけず囲まれでもしたら堪らない、垣根はそう判断して妖夢に声を掛けた。

「魂魄、もう少しだけ暴れろ、だが深入りするなよ」
「ふむ……まあ良いでしょう、では撹乱します!」
「……それでいい、状況を考えれば正直言って……全力を出すのは不味い、どうせ二転三転すんだろうからな」

何せ今の学園都市なら何が起きても可笑しくない、というか彼はそれで一度体を無くしている。
ある意味で、今のこの地の混沌さ、それを一番知るのは彼かもしれない。



第三話 無自覚な迷子達・五



「姉貴、今シスターズと調べ物してる……騎士と、追われてる方もな」
『ああそうか……確かに必要ね、任せたわ、鈴科くん』

彼方の超能力者、彼と同じくらい異常さを知っている二人が電話越しに話し合う。
一方通行と霊夢、何かが起きると殆ど確信していた。
一方通行は資料をパラパラ捲りながら、端末の先の霊夢に言った。

「多分だが……騎士を止めて終わりじゃねェ、多分先がある」
『ええ、追いついて終わり、それはまあ無いかな……色々予想しておくべきね』
「あァ、絶対ややこしいことに成る……何せあんたが持ち込んだ一件だ、二転三転するだろうなァ」
『……最後のは余計よ、決めつけないで』
「……今までのこと考えろ、否定できねェだろ」

生粋のトラブルメーカーの少女がしょんぼり言い返し、だが否定しきれず沈黙した。
クッと愉快そうに笑いながら、一方通行は幼馴染に追い打ちを掛ける、

「ぶっちゃけると、姉貴……そうなった方が好都合だろ?穏便に済ませるなんて……お前にゃ出来ねェンだから」
『うん、正直言うと……殴って黙らせる方が楽、そして多分……今回の一件もそうなりそう』

一方通行の言葉に、霊夢が自嘲げに笑って答えた。
相手の言い分を認め、その上で今回も(彼女にとっての)いつも通りに成ると彼女は言う。

「それは……勘か?」
『ええ、多分だけど……何か有る、私達の知らない『何か』が……』
「……了解、準備しとくぜ、『何か』わかったら連絡する」

ピッ

霊夢の警告に近い言葉に頷き、一方通行は通話を切り調べ物に戻った。
バラバラと資料を捲る手を早める、成り行きで着いてきたが少し本気になった、霊夢の感じた脅威の正体に繋がる筈だ。
すると、そんな彼に近くで資料を見ていたミサカ(10032号)が話しかけてきた。

「……あのう、一方通行」
「どうした?」

一旦手を止め聞くと、ミサカは困惑しながらネットワークに上がった情報を口にした。

「……打ち止めもこの一件に巻き込まれたようです、その……何か、お姉様も」
「あァ、早速来たな……二転三転、その一度目か」
「正確にはお姉様ですね、襲われてるのを妹が目撃した形ですね」
「はァ、少し予想外だな……」

一方通行が大きく嘆息した、額に手を当てて力無く上を見上げる。
一瞬逃避しかかって、だがそれでは意味が無いと素早く計算する。

「例の幽霊、騎士か?」
「ええ、そのようですが……」
「……誰か、近くにいるか、戦力になりそうな奴は?」
「お姉様は『ずり落ち気味の眼鏡』の『霧ヶ丘女学院の制服』の女性、打ち止めの側には……ええと、何か賢者と司書が……」

ミサカの言葉に一方通行が数秒沈黙する。
彼はもう一度力無く天井を見上げた、何か一気に疲れた気がした。

「そうかァ、ああこれは……ああうン、放っておけ、大概の状況は切り抜けられるから」

ちょっと自棄っぽく一方通行が答えた、心配して損だと言いたげだった。

(……少しだけだが、騎士とやらに同情したくなった……)



ヒュッ

「行きます!」

大人しそうな眼鏡の少女が走る、長い黒髪を靡かせながら騎士の懐へ飛び込んだ。

「シロさん、捕まってて……やああっ!」

一旦腕から肩辺りへ椛を移らせ、それを確認してから氷華はバチバチと帯電する『右腕』を振りかぶった。
そこに一体化した『心理定規が持っていた謎の物質』のおかげか、能力行使の調子が妙にいい。

(心理定規さんから借りっぱなしだけど……もう少しだけ、使わせてもらいます!)

それで本来の持ち主が難儀してるとは知らず、彼女は紫電輝く拳を握った。

「えい!」

ズドンッ

可愛らしい掛け声とともに轟音が響く、直撃を食らった騎士が枯れ枝のように軽々と吹っ飛んだ。

『ぐあっ!?』
「もういっちょ……はっ!」

一人目を殴り倒し直ぐ次へ、がそこへ振るった拳は重ねられた『無数の武器』に止められる。

ガギィンッ

『甘いぞ、異教徒!』
「ああっ!?」

最初の騎士の犠牲による減衰と息のあった迎撃、それによって氷華の拳が受け止められる。
ぎりぎりと押し合い、少しも進まない右腕に氷華が顔を引き攣らせた。

「くうっ、ま、不味っ……」

拳を止めた騎士の向こう、肩越しに刃を振り被る騎士達が見えた、このままでは反撃が来る。
焦り彼女が動揺した瞬間だった、凛々しい声が響いた。

「氷華さん、そのまま!」
「え?は、はい!」
「合わせる、思い切り……振り抜いて!」

隣へ駆けてきた美琴がコインを抜く、それを握ったまま騎士の眼前へ突き付けた。
いきなりの声にぎょっとしつつ氷華はそれに従う。
帯電した拳を思い切り叩きつけ、それに合わせて数枚のコインが跳んだ。

バキン
ドゴオォッ

二種の雷光、似てるようで全く異なる力が騎士達へ襲いかかった。
防御を砕き、後続まで纏めて吹っ飛ばす。
バタバタと二人の周りに騎士が落下する。

「……良し、大分減った、これで楽になったわ!」

ニッと美琴が会心の笑みを浮かべた、それに僅かに騎士が怯み、包囲が遠巻きに成る。

「え、ええと……逃げましょう!」
「ええ、そうね……走って!」

氷華が椛を腕に抱え直して走り出し、後ろをフォローする位置を取りつつ美琴が続く。
一瞬それに呆気にとられ、減った戦力で追うか逡巡し、二三秒迷ってから騎士が追った。
だが、その僅かな迷いが遅れとなって一気に距離が空いた。

『ちいっ、待て!』
「断るわ、ああそういえば……犬の散歩だったわね、丁度いいのかな」
「もう、呑気なこと言って!?」

数メートル後方の声を無視し、美琴が笑いながら走る。
脳天気な言葉に苦笑しつつ氷華も走る、すると美琴の冗談めかした言葉を聞いたのか椛が動いた。

「……ワウ」
「えっ、きゃ!?」

モゾモゾ
ストンッ

腕から這い出した椛が着地する、そのまま二人の前を走った。

『え、ちょ、シロ(さん)!?』

思わず慌てる二人だったが、椛の次の行動には更に驚いた。

「ぐる……」

ピクンと耳を一度動かした後彼女が地を蹴った。

タッ

彼女は唐突に進路を横にずらす。
釣られて氷華と美琴がそれを追って横へ行くと、一瞬前までいた場所を騎士の攻撃が通った。

ブウンッ

『……え?』
「わふっ!」

驚く二人に笑ったかのように鳴いて、もう一度椛が地を蹴る。
耳をピクピクと動かしながら横へ跳んだ。

「これは、まさか……」
「……氷華さん、あっちへ!」
「は、はい!」

半信半疑で氷華と美琴がそれを追い、そして先程と同じように騎士の攻撃が空振りした。

ブウンッ

『馬鹿な、何故だ!?』
「……この子、読んだの?そういえば一番最初に気づいたのも……」
「彼女、でしたね……」

美琴達は信じられないような様子で顔を見合わせた。
そんな彼女達へ椛は一度鳴き、注意を促す。

「……グル!」
「え、ええと……彼女に続いて、よく考えたら……佐天さんと居た犬だもの、何しても可笑しくないわ!」
「それで納得するんですか!?いやその辺同感ですけど……」

色々とやらかした涙子を思い出し、二人は疑問を押し殺して椛に続いた。

(……あいつ、何やったんだか)

勝手に納得した二人に、走りながら椛が呆れた。
その後彼女は僅かに首を傾げる、妙な気配がした。

「わう?(……戦闘音が近い、さっきよりも)」

ピクンと耳を一度動かして椛は隣の区の方を見た、釣られて美琴達もそっちを見る。
すると数人の足音、紫と赤の髪の女性、それに赤髪の方に横抱きにされた茶髪の少女が走ってきた、更に美琴等と同じように騎士が追う。

「むきゅ、しつこい……牽制し続けなさい、小悪魔!」
「了解、クナイ連射です!」
「……頑張って、二人共!」

時折後ろを向いて紫、パチュリーが炎や金属片をばら撒き、並走する赤、小悪魔茶髪の少女、打ち止めを片手で抱え逆の手でクナイを矢継ぎ早に投げる。
そうして後ろを暫く牽制後、三人はやや離れた位置を走る二人と一匹に気づいた。

『……あっ』
「打ち止め、それに……シスターズにくっついてる二人も!」
「ええと……お姉様、奇遇だねー」
「……奇遇ですねー!」

打ち止めと小悪魔は疑問に思われる前に先手を取った。

「ええと、こっちは……そ、そう買い物でね」
「そうそう、ほら秋物いるかなと……いやそれでこんなことに巻き込まれるとは……」
(……小悪魔、本当にこいつはもう……)

パチュリーが従者に呆れた、下手すれば本業以上に必死に見えた。
(主として少し情けなく)後で軽くお仕置きすることを決意しながら、パチュリーは美琴達に問いかける。

「超能力者さん、そっちも追われてるの?」
「ええ、何か……禁忌だとか、許されざる交わりがどうだとか……」
「……はあ、魔女狩りから学習してない、無視していいわ」

パチュリーは溜め息の後冷たい目で騎士を睨む、その後小悪魔に一冊の魔導書を放った。

「……小悪魔、殿!」
「了解……ミサカさんのお姉さん、打ち止めちゃんをお願い」

小悪魔は主に頷くと美琴の方を向く、彼女に大切に抱えていた打ち止めを預けた。
少し困惑しながらも美琴は妹を受け取る。

「おっと……小悪魔?」
「私が奴等を止めます……うおおお、ダイアモンドハードネス、更にダイアモンドハードネス、もういっちょダイアモンドハードネス!」
「ええっ、そこで力押しなの!?」

強化術式(主に防御)を重ね掛けし小悪魔が騎士へ突っ込んでいった。
一見捨て駒、だが彼女の表情は滅茶苦茶輝いていた。

「ああ私輝いてる、ミサカちゃんの家族の盾になって……これ、得点高いんじゃね!?」
「……うわあ、10032お姉様、好かれ過ぎでしょ」
「……あの人、大丈夫なの、いや色々な意味で……」
「ああ、良いのいいの……あいつ、あれで幸せそうだから」

物凄いテンションで騎士へ向かっていく小悪魔に、打ち止めと美琴は顔を見合わせた。
尤も危険な殿で、それなのに残念過ぎる言動に引き攣った顔をしてしまった。
そして、その辺もう諦めているパチュリーは肩を竦めた。

「さ、今の内に……情報交換、それにこの後のこと……考えましょ」
『……はい』

パチュリーの現実逃避気味の言葉に、美琴達は力無く頷いた。
小悪魔が引きつけてる間にパチュリーを中心に対応を話し合う。
そんな一同の後方で、小悪魔がはしゃいでいた。

「ひゃっはあ、もっと打ってこいや……激戦であるほどミサカちゃんの好感度ゲットだもの」
『……な、何なのだ、こいつは!?』
「え、唯の愛の使徒よ?悪魔だけどね!」

後ろの方で騎士がドン引きしていた(美琴達も少し引いていたが)小悪魔は絶好調だった。

「うおお、全ては愛の為に……ダイアモンドハードネス、更にダイアモンドハードネス、もういっちょダイアモンドハードネス!」
「うん、長い付き合いだけどわかんないわあ、あいつの種族何だっけ……」
『し、しっかり、パチュリーさん!?』

最後にパチュリーがほろりと一筋の涙を流し、美琴と打ち止めがポンと肩をたたいた、小悪魔の方が騎士より危険な気すらしたのだった。




・・・小悪魔がはしゃいだ所で次回へ、やっぱミサカと関わらせると異様に輝くなこの人。
まあ話的には少しずつ関係者が集まり、情報が行き渡るのが重要なんですが・・・その辺が影響出てくるのが次回、次々回かな。

以下コメント返信
AISA様
とりあえず妖夢は未現物質製の刀で頑張ってます、そして片っ端から使い潰す姿に垣根が頭を抱えるという・・・
椛はまあ今の所は感覚の良さが際立ってる感じですが(ちょっと先だけど)活躍の機会が有るかも・・・同時に苦労人化しそうですが。

九尾様
ぶっちゃけ二人共も好戦的なイメージ、勢いで動いて後悔する図です・・・まあ妖夢は騎士との戦い楽しんでるじゃないですかね、垣根は胃がやばそうだけど。
・・・丁度霊夢と一方通行が俯瞰する立場なので変わった演出やってみました、普段はどっちか(も?)突っ込むからなんか新鮮ですね。

うっちー様
一方通行的には二人の人格が心配(主に巻き添えの意味で)見捨てました、後シスターズの保護者を今回は重点・・・一応実力は信用してると思いますがね。
椛は山育ちっぽい鋭さを出してみました、後は見回りとか剣士要素・・・そっちも書くけどは流石に戻さないと不味いか。



[41025] 第三話 無自覚な迷子達・六
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/09/05 20:51
『はあっ、処刑だ!』
「ぐああっ……」

ドガガガッ

騎士が滅茶苦茶に武器を振るい、立て続けに響く衝撃にシルバークロースアルファは呻いた(一人だけ前に突っ立てるので集中した)

「ちぇ、世話焼けるぜ……ドラゴンメテオだ、今の内に押し返せ!」

慌てて魔理沙が弾幕、彼の肩越しに無数の星を打ち込んだ。
それで騎士は後退し、素早くアルファは体勢を整え直す。

「ええい、勝手なことを、単独で前線にやっておいて……」

彼は半ば八つ当たり気味に手に持つ金属塊、ファイブオーバーを手近な騎士へと叩きつける。

「邪魔だっ!」
『ぐっ……』
「……まだだぞ、ファイブオーバー発射!」

ドゴンッ

『ぐお、異教徒なぞに!?』
「ふう、命中確認……」

先頭を殴り倒すと流れるように後続に照準、紫電を帯びた鉄塊を打ち込んでふっ飛ばす。
それで彼はやっと一息つけて、武器の冷却と装甲のダメージチェックをする。

「ファイブオーバー冷却……ダメージは表面装甲のみ、まだ戦えるか」
「……ふむ、それなら更に前進か?」
「おい止めろ、鬼か、顧問」
「そう言ってもなあ……やっぱ重装甲は壁役にするのが良いと思うんだぜ!」
「勘弁してくれ!?」

そんな風に彼が嘆き逃げようかと思った時だ、それは遅かった、『異変』が起きたのだ。
行き成り周囲に黒い影、騎士よりも虚ろな霊が湧き出る。

オォオオォ

「あん、新手か?」
「いや敵意はない、でも……怯えてる、混乱し切ってる?」
「……何かの兆しと見るべきでしょうか」

それが一体何を意味するのか、見極めようとしてすぐに答えは出た。
『一人の騎士』が新たに現れる、一気に周囲の温度が下がって、更に『見えない』何か達が動揺するように震えた。

『……これより攻勢に移る』

その瞬間当てられたかのように影達は絶叫し始めた。

オォオオォオォォ

「うっ、この声は……辺りの地縛霊、多分でここで死んだ人達の……何、まるで断末魔?」

それには異常な悲痛さが有った、霊達は騎士に様々な、例えば恐怖、あるいは憎悪、その他負の感情を騎士にぶつけていく。
だが、騎士はそれに構わず『無骨なメイス』を構える。
負の感情を込めた視線を受けて立つ騎士、まるで人だったと思えない程の『業』を感じた。

「これは……まさかこの場所に起きた惨劇、それを起こした……」

警戒する一同に騎士がギロリと睨めつけるような目を向けた。

『……先に言っておく、私は今までの相手と違う……沈むがいい、境界の者達よ』
「確かに、時代によっちゃ大悪霊だ(……人外故に業がそのまま力に、ってところか)」
「ちっ、皆気をつけろ……他のよりは歯ごたえが有りそうだぜ!」

それまでとは別格の騎士に一同が身構え、それに構わず騎士が駈け出した。
ダンダンッと廃墟の床を踏み壊しながら一瞬で最高速へ、そのまま大きく凶悪な鈍器を振りかぶった。

『……はああっ、砕けるがいい!』
「行き成りか……アルファ、止めろ!」
「了解だ、特別顧問!」

コクと頷いたシルバークロースアルファが前進し、彼はスーツをバーニアを数秒吹かし騎士の前に割って入った。
彼の槍のように振るったファイブオーバーと騎士の凶器が激しく音を立ててぶつかった。

ガギィン
ギギギッ

互いの武器が軋みを上げる、武器越しに二人は睨み合った。

『邪魔をするな、鉄屑が……』
「断る、仕事でな……ファイブオーバー緊急冷却、弾丸装填!」

シルバークロースアルファはそのまま武器を起動し、至近距離から砲撃を狙う。
騎士は舌打ちし下がろうとするもアルファは再度バーニアを点火、相手を射線に捉えた。

『ちいっ……』
「逃がさん、吹き飛べ!」

ドゴンッ

ブスブスと煙を立てながら騎士が空を舞う、が彼は目に見える程の異常な速度で再生、そのままダメージを感じさせない動きで着地した。

「馬鹿な、他よりも回復が……」
『……反撃だ、異教徒』

ストンと軽やかに着地した騎士は再び前へ、メイスと手甲に覆われた拳で連続して殴りつけた。

ガギィンッ

「ぐあっ……」
『……勝機か?』

二度の衝撃、それに耐え切れずアルファの手からファイブオーバーが弾き飛ばされた。
それで彼の体勢が崩れ、騎士はすかさず間合いを詰めた。

『……追撃』

慌ててアルファがスーツを立ち上がらせる、操縦席で彼が顔を引き攣らせた時(無茶ぶりのようにも思える)声が飛んだ。

「不味っ……」
「いや受けろ、少しでいいから押さえるんだ!」
「顧問?……承知、だが急げよ!」

彼は一瞬バーニアを吹かして体勢を戻し、出力を全開にして騎士に掴みかかる。
ガシと過剰供給で全身から煙を吹きながら騎士を押さえつけ、その足元に白と黒のモノクロの影が滑り込んだ。

『ぐっ、貴様……』
「今だ、顧問!」
「おうっ、スライディングから……急角度ブレイジングスター!」

ズドンッ

『があああっ!?』

後方の魔理沙が追い抜き仕掛ける、彼女は滑り込む体勢から飛び上がりそのまま突撃に繋げた。
全身に眩い光を纏い特攻突撃し、騎士は跳ね飛ばされ天井に激しく叩きつけられた。

ドゴンッ

『ぐっ、魔女め、絶対に許さぬ……』
「……おっとまだだぜっ、ドラゴンメテオ!」

ドガガガガッ

『があああっ!?』

恨めしげな言葉が終わる前に追撃、魔理沙はニッと笑って手数重視の弾幕を着地寸前に打ち込んだ。
降り立つ一瞬前の隙を突かれ騎士が弾幕に揉まれながら空を舞う。
今度は縦から横へ、勢い良く廃墟の壁へと吹っ飛んでいく。

ドゴンッ

壁に叩き付けられて彼は磔状態に、すかさず魔理沙が『彼女』に叫ぶと同時に飛び退る。

『ぐっ……』
「……でここ等で交代か、閉所で砲撃は不味いしな」
「はーい、毛玉ちゃんの準備は出来てます!」

涙子が魔理沙の横を走り抜ける、その両腕には十を超える毛玉が溢れている。
ギロと見開き眼光を輝かせる毛玉達、彼等を涙子は勢い良くばら撒いた。

バッ

「三の怪……怨念、佳く祟る!」

そして、涙子の叫びと同時に毛玉が爆ぜた。

カッ
ドゴオォ

爆炎に巻かれ騎士が廃墟の床に叩きつけられた、彼は白煙を体中から上げるもフラフラと立ち上がり涙子を睨んだ。

『ぬう、ちっぽけな島国の神の眷属なぞに!?』

その眼光は更なる怒りで染まっていて、却って刺激し危険度を上げているかのようだった。
狂気としか言いようがないそれに涙子は思わず呆れてしまう。

「(普通なら霊体による傷は効くのに……)まだ動くとはタフな奴、これだから狂信者は……」
『……貴様は唯では済まさぬ、はああっ!』

ズドンッ

「ちいっ、悪足掻きを……」

騎士は叫んで大振りの一撃を振り下ろした。
勿論目の前かつ、大振りの為の長い攻撃を涙子は回避する、が廃墟の床が砕け散り破片が飛んだ。
僅かに怯んだ涙子へ向かって騎士が突進を仕掛けた。

『……兵達よ、掛かれ!』

更に彼はチラと周りを一瞥、それに合わせ他の騎士達が涙子以外に突進する。
それへの対処で魔理沙にアルファ、二人の天狗の手が埋まった。

『何!?』
「分断、しまっ……」

ニイと騎士が笑い、彼はメイスを振り被った。
慌てて涙子も霊力を練りながら素早く思考する。

「(……加護、いや天と遠いから今一集まらない)なら、ここは……修験者仕込みの技で行く!」

涙子が風で加速し、敢て騎士の方へと突撃を掛けた。
そこで彼女は右腕で『印』を刻む、それも一つではなく順に『力の象徴である法印』を連続して描いた。

「……臨む兵、戦う者……皆、陣を列べて前を行く!」

九度目の印からそのまま指先の爪を向ける、涙子の横薙ぎの手刀と騎士の槌が交差した。

『貴様、何を……ええい、小細工毎砕く!』
「やれる物ならね……発(ハッ)!」

ガギィンッ

轟音がし、廃墟中にそれが残響する中更にボトボトと何かが落ちる音が二箇所でした。

『ぐっ……』
「痛っ!?」

騎士の、そして涙子の手首から先が削げ、血と肉片(あるいは霊体の破片)を落とす。
完全に互角で痛み分け、二人は互いを憎々しげに睨み合う。

『異教徒め、やってくれる……』

騎士が殺意すら込めて涙子を睨みつけ、だがそこで表情を変えた、今までと違って再生が進まないのだ。

「ああ良かった、効いてくれたか……うんうん、『山の女』ならそうなるよね」

相手の傷口を見て涙子がニヤリと笑った。
対照的に騎士は激しい怒りの形相になる。

『貴様、何をした』
「ふっ、言うと思うの……企業秘密ってことで」
『ちっ、貴様は危険だ、それに『本命』ではない……離脱する、兵共は押さえておけ!』
「……ちっ、損切りか、男らしくない……外へ行く気です、飛べる者は追って!」

相手の冗談めかした言葉に舌打ちし、騎士は落ちたメイスを蹴り上げ拾うと背後の壁を打つ。
そして作り出した壁の間へその身を滑り込ませる。
それを追う妨害かのように集まった他の霊を見て、涙子は文とはたて、二人の天狗に向かって叫んだ。

「天狗、行って……それと『オオヤマツミ』とその娘の故事に倣え!」
「そうか、『彼女』の爪牙……」
「……行こう、先導よろしく、文!」

文とはたてが頷き飛んだ、巧みに翼を数度羽ばたかせて残った騎士の間を抜ける。
それを見送った後涙子達は残された騎士へクナイや八卦炉、ファイブオーバーを向けた。

「……魔理沙さん、貴女も行って良かったのに」
「はああ、お前は手負いだろ……フォローする、それと残ったのと先行した霊が合流されるのも面倒だしな」
「そもそも顧問への依頼はここの掃除だからな……まず残った連中からか」
「……あ、アルファは盾な」
「畜生、わかってた……」

魔理沙は弾幕で牽制しつつ涙子の無事の方の手を引いて下がり、それをシルバークロースアルファが(少し恨めしげに一瞬見てから)背に庇った。



無自覚な迷子達・六



美琴やパチュリーの後方で叫び声、小悪魔の堂々とした声が響いた。

『ヒャッハ、来るがいい騎士達よ……我が想い、ミサカちゃんへの愛は無敵だあっ!』

聞こえてきた言葉にパチュリーが頭を抱え、美琴とその腕に抱かれた打ち止めは彼女と『愛の対象である姉妹』に同情した。

「……小悪魔、貴女はどんだけあの子が好きなのよ」
「ノーレッジさん大変ねえ、いや妹もだけどさ」
「ううん、10032お姉ちゃんの貞操が心配……」

とはいえ小悪魔のおかげで余裕が何とか出来た。
彼女達は呆れながらその場を離れ、事情を詰めて行く。

「超能力者さん、行き成り騎士に狙われたのね……私達もそうだけど、突発的過ぎるわ」
「……偶々遭遇して襲いかかったということ?」
「ええ、そう考えた方がいい、見つかったのは偶然から……本命は別と見た方がいい、勿論互いに狙われる理由はあるけど」

魔術に関わっていること、魔女であること、それぞれ敵対の理由はある。
だが、パチュリーは騎士の動きからこれが単なる遭遇戦、巻き添えであることに気づいた、それに加え『ネットワーク』から情報が入った。

「あ、ネットワークに情報が……巫女のお姉さんが動いているみたいだよ!」
「打ち止め?……霊夢か、何してるやら」
「エリスっていう人を探してるみたい、でその人が騎士に狙われてるんだって……うん、完全に巻き添えだね」
「……一応こっちの情報を届けて、霊夢なり他の暇なのが来るでしょ」

コクと頷き打ち止めが姉妹に情報を流した、それを見た姉妹は霊夢に知らせるだろう。
それを見て霊夢や一方通行、あるいは親交のあるチルノや上条辺りが来てくれるはず、そう考えて一行は幾らか余裕を取り戻した。

「さて……それまで隠れるか、それとも迎え撃つ?」
「難しいところね、ノーレッジさん……前者なら路地裏や適当な施設、後者なら広いところが良いけど」
「……わう!?」
「あ、待ってください、あっちの方で……」

するとそれまで話を黙って聞いていた氷華が話に加わった。
彼女は時折疼く『右手』を気にしながら、ある方向を見た。
その方向からなにか感じるのか、氷華の腕の中で椛も唸っていた。

「……ぐるる」
「うん、これは私もわかる、あっちで能力者……何だろ?武器を『作っては壊し』『作っては壊し』……ええと何かと戦ってるのかな?」
「良くわからないけど……騎士が私達を追ってた奴らだけとは限らない、別口と戦ってるのが居るということかしら」
「ふむ、情報なり何か持ってるかも、合流するかそれとも……」

氷華の言葉に他の三人が首を傾げた時だった、答えが出る前に向こうで爆音がした。
それも何度も、そしてその度に『高々と吹っ飛ぶ騎士』が目に映った。

『ぐはああっ!?』
「……とりあえず戦ってる相手は確定と、敵の敵は味方……はまだ早いか」

一同は警戒を絶やさず目を凝らす、ポンポンと吹っ飛んでく騎士、その下に居る何者かが少しずつ近づいてくる。
そしてボロボロの剣で騎士を蹴散らす銀髪の剣士、その半霊(人型)の肩に担がれた少年と小脇に抱えられた一羽の烏が現れた。

「うおお、退けい、冥想斬!冥想斬!……おや確か紅魔館の地下の……」
「……何してるのよ、冥界の庭師……そのまま真っすぐ来い、フロギスティックピラー!」

呆れつつパチュリーは魔導書を捲る、そこからボッと青色の炎が二つ平行して伸びる。
二条の炎が妖夢の左右を駆け抜けて、彼女を追ってきた騎士に襲いかかった。

「……とりあえずそっちは吹っ飛べ!」

ドガンッ

『ぐわあっ……』
「ふふっ、水と火の混合、延焼することのない炎……アンデッドの処理には最適でしょう?」
「おお、援護感謝します、パチュリーさん」

礼を言って妖夢は駆けてきて、パチュリーの目の前で留まって頭を下げ、今度はそこで急反転した。
背を向け元来た方向へ彼女は半霊と共に走り出す、但し担いでいた少年と烏を残して。

「……あの、庭師?」
「じゃあ私は騎士の相手に戻ります、彼は狙われてるらしいので逃しといてください」
「えっ、ちょっと何が何だか……」

ダダダッ

『……俺が説明する、まあ裏道に行きつつな』
「……お願いするわ、情報が少な過ぎるもの」

静止を聞かず妖夢は行ってしまい、呆気にとられるパチュリーに垣根が溜息混じりで(美琴との因縁から聞こえないよう小声で)話し始めた。
説明を受けつつパチュリーと美琴等は(段々と呆れ顔に変わっていった)一時避難の為に街の裏手へ向かった。



『---てな訳でそのガキが騎士共の目標くさいが、どうする?』
「……この馬鹿共、面倒持ち込みやがって……」
「うーん、幽霊か……学園都市でそういうのに会うとはね……」
「今更だよ、お姉様……夏休み散々妙なのに会ったじゃない」

路地裏に一時避難後、垣根の説明にパチュリー達は頭を抱える(美琴は違う理由だが)
パチュリーはジト目で少年の肩に乗る烏を睨みつけ、その後エリスと名乗った少年を見た。
そこで訝しそうな表情をする。

「あら、貴方?」
「……何?」
「いえ何となく、どこかで見知った気配のような……」

ボウっと彼の右の頬に『星のような痣』が見えた気がし、だがそれは一瞬のことで次の瞬間掻き消える。
気のせいだと思ってしまい、パチュリーはまさかと首を振った。

「(魔界の気配、いや……)ま、まあ相手の目標なら利用できるかもしれない、例えば一箇所に集めて迎撃とかね」
「ああこっちが戦力を集めた所で、おびき寄せると……」
「そ、とりあえず霊夢ね、知らせれば応援送るでしょ……打ち止め、お願いできる?」
「……オッケー、ネットワークに指示出したよ!」

パチュリーと美琴の言葉に頷いて打ち止めが姉妹に伝言を頼んだ、直ぐに気づいて応援が来てくれるだろう。
ホッと彼女達は安堵の溜息を吐く。
が、それはある意味油断であり隙で、兜の奥で男が笑みを浮かべた。
グルと氷華の側に着いていた椛が唸った。

「シロさん?……皆、気をつけて、敵です!」
『……遅い!』

狂気に満ちた叫び、路地の入り口から数人の騎士が現れる。
反射的に美琴がそちらへ、無力な妹やエリスを庇おうとする。

「……下がって」
「ここじゃ囲まれる、引くわよ!」

同時にパチュリーは魔導書を素早く開いて後方へ、路地の反対から抜けようとする。
が、そこにも幾つかの影、反対側からも騎士が現れた。

「先回りされた?……馬鹿な、動きが早過ぎる、どうやってこっちの動きを読んだの!?」

理解できず彼女が叫んだ瞬間、エリスが頭を押さえた。

「うあ……」

ポタタ

手で押さえたそこから血が流れ出る、まるで『最初から存在し、自ら開いたように』裂傷が出現する。
そこへ再び狂気に溢れた声が響いた。

『……無駄だ、互いの傷が、殺し合った『縁』が引き合うのだ!』
「不味い、既に囲まれてる、皆迎撃を……」

が、椛は包囲した者達ではなく、頭上へ向かって吠えた。

「ガルル……」
「違う、上です!」

氷華が走る、腕の中の声に導かれ彼女はエリスの頭上、そこから襲い来る騎士に向かって拳を振り上げた。

「やあっ!」

ガギィンッ

『ちいっ……』
「……やらせません!」

氷華の拳が振り下ろされたメイスを弾く、不発に終わった攻撃に『血塗れの騎士』が舌打ちした。
エリス同様彼は外傷でない血を流してる、同時に彼はそれを利用しここまで辿り着いたのだ。

「良くわからないけど、こいつとエリス君は反応し合ってる?……これじゃ逃げられない!」
『……そういうことだ、観念するがいい』

ニイっと騎士は邪悪に笑い、メイスを構えた。
まずは邪魔した氷華からと考え、彼女へ向かって走り出し振り被る。

「うっ、翼の展開が間に合わ……」

が、その瞬間背後から打ち止めが抱きつき、路地の入り口の方へ叫んだ。

「きゃっ!?」
「伏せて!……お姉様、今だよ!」
「……任せて、打ち止め達はそのまま!」

打ち止めが伏せさせるのとと殆ど同時に美琴がコインを弾いた、能力の感応による意思疎通だ。
彼女は砂鉄の剣で騎士を牽制しながら体を後方に捻って『代名詞』、超電磁砲を放った。

「超電磁砲を……喰らいなさい!」

ドゴンッ

意表を突かれ騎士はかわし切れず直撃する、ガランとメイスが地に落ちた。

『ぐっ、だが……ま、まだだ!』
「うっ、こいつ、まだ……」

が、騎士は狂気といえる信仰心で立ち続けていた。
彼は超電磁砲で吹き飛んだ片半身に構わず、手甲で殴りかかった。

『……させねえよ、時代錯誤が』

咄嗟に垣根が前に出て、半減以下の体で撹乱に出る、周囲を羽ばたきながら爪で数度騎士を引っ掻いた。

ギィンッ

『ええい、邪魔だ!』

未元物質性の鉤爪に甲冑を削られ、騎士は苛立たしげに振り払った。
だが、その瞬間彼の動きが止まり、そこへ氷華が前に出た。
垣根が時間を稼ぐ間に彼女は翼を開くと渾身の力で叩きつけた。

「……今だ、やああっ!」

慌てて騎士は手甲、無事な方と再生途中の腕を交差させ防ぐも、翼の勢いに押され後退った。

ガギィンッ

『ぐっ!?』
「……邪魔をしないで」

翼で押して騎士を睨んだ、普段温厚な彼女らしくない怒りの感情が有った。
氷華がそのままの感情のままに叫んだ。

「折角『友達』と遊ぶ時間を、邪魔なんかして、『皆』楽しんでたのに……そうだ、『私』が『私』に成ってから初めての……」

ある意味最初の友達であるルーミアや心理定規に、自覚してなかったその頃の出会いに重さでは並ぶかもしれない。
気づいて芽生えた意思、『二番目』であり『自覚以降最初の友人との時間』を邪魔されて怒っていた。
だから、彼女は全力で拳を振るった。

「……怒ってるんだから、やああっ!」

ドゴンッ

翼を受け止めていた騎士は避け切れない、胴を強かに打たれて大きく仰け反った。

『ぐあっ……』
「ふんっ、見たか!」
「……私やシロの為に怒ってくれてるのか、いい子ねえ」

氷華が吠えて、離れた所で騎士の相手をする美琴が(少し恥ずかしそうにだが)はにかんだのだった。
更に氷華は一旦抱いていた椛を降ろし、ゆっくりと後退した騎士を追う。

「動けなくさせてもらいます、喧嘩は嫌いだけど……正当防衛ってことで」

ぐっと彼女は拳を握り直し、翼の先端を尖らせた。

『……気が早いぞ、天使モドキめ』

が、騎士は抵抗を諦めていなかった、彼はガッと足元を、手放していたメイスを蹴りあげた。
勢い良く跳ね上げられたそれが氷華へと飛んだ。

ヒュッ

「くっ!?」
『……隙有りだ』

反射的に彼女はメイスを弾き、が騎士が踏み込む。
彼は空中のメイスを器用に掴むと、防御したことで動きの止まった氷華の隙を狙った。
大上段に振り被り、全力でメイスを振り下ろそうとした。
氷華の防御は間に合わず、路地の左右で美琴もパチュリーも騎士に止められている、氷華は顔を引き攣らせた。

「ま、不味っ……」
『……まず一人!』
「……ひひっ、それは駄目だよ!」
『何!?』

が、寸前で『黒い影』が割り込む、投擲された『三叉槍』が騎士を貫き地に縫い付けた。

『がっ!?』
「ひひっ、油断大敵だな、どっちも……」

ガランガランと再び落ちたメイスが鳴る、そこへからかうように場違いな笑い声が響いた。

「……少しツメが甘いぞ、『科学の正体不明』?」
「ぬえ、さんだったか、どうして……」
「霊夢に言われて先行中……あんたも正体不明なら根性出しな、それでも私や輝夜に勝った女か!」
「……一応応援と思っておきます、そっちの都合が主ですが」

苦笑気味に笑ってから氷華が前に出た、反撃に移った彼女はまず拳を振るう。
槍のせいで騎士は動くにも動けず、その胴に渾身の一撃が叩きこまれた。

ドガアァッ

『ぐっ、槍が邪魔で……』

くの字に成って騎士が吹き飛ぶ、それで串刺しだった体が千切れた。
しかし氷華は攻撃の手を緩めなかった。
素早くぬえの槍を地面から引き抜き、肩に担くと投擲体勢へ。

「……ぬえさん、借りるよ」
「おお、やれやれっ!」
「はい、やっちゃいます……やああっ!」

ズドンッ

風を切って槍が飛んで、騎士を路地の壁に縫いつけにした。

「……磔か、意味深だね、考えなしの行動にバチ当たったんじゃない?」
『ぐあ、不信心者共め……だがまだだ、直ぐに体勢を建て直して……』

だが騎士は諦めず、必死に抜けようと藻掻いた。
けれどそれに対して笑い声、ぬえが嘲笑した。

「……ひひっ、甘いな……ここに来る前に拾い物をしてねえ」

言って彼女は両手を開く、そこで黒い何かがモゾモゾと動いた。

「ほれ挨拶しな」

カー

ぴょんと飛び出した烏が嘴を開いた。

『やあやあ、いい感じだ……こっちの手間が省けます』

すると明らか人語、いや烏の口を借りて何者かが喋り出した。

『あやややっ、この状況……予想より遥かにいい、落とすなら今しかない。
……椛、何時までそうしてるの、早く起きなさい!』

ピクとその言葉に椛が起き上がる、彼女はフルフルと体を揺らした。

「グルル……好き勝手、言いやがって……目上の烏天狗、射命丸様といえどそれ以上は許しませんよ」
『ふっ、なら働きなさい、可愛い子犬の椛ちゃん?』
「……ガルル、後で覚えてろよ」

路地にカツンと高下駄の音が響いた、白い毛玉は一瞬光りに包まれその中から長身の女性が現れる。
山伏姿の凛々しい白髪の女、それを見た氷華と美琴が絶句する。

「やっと……戻れた、節姫の集中が途切れたというところか」
『え、え……』
「し、シロ、何か凛々しくなってる!?」
「そんなちっちゃくて可愛いあの子は!?」
「……どうも改めまして犬走椛です、そして忘れろ、私はシロじゃない」

絶句する二人に強く念入りに自己紹介、思い出して羞恥に赤くなった彼女は耳を伏せつつ項垂れる。
だがそれは一瞬、未だ戦場だと我に返り、彼女はガチガチ牙を鳴らして騎士へと走り出す。

「借りは返す……一宿一飯の恩義、それに守ってくれたし怒ってもくれたからな」

白い風となって駆けるその背に烏、いやそれを操る文が叫んだ。

『……山の神は『命』の神、女もまた古来より『命』の象徴……山に住まいし天狗の娘、その牙は……』
「そういうことか……良いでしょう、やってやるさ、我が牙は……」

文が詠うように伝言を伝えた、山の神である大山積神と天狗は猿田彦以来の盟友で関係が深い。
そして大山積の娘である木花之姫は火中で子を産み、母子ともに無傷だったとされる等生誕に関わる奇跡を起こした。
山は生命の源、天狗もまたその恩恵を受けている。

『我等の爪牙は……貴様等の天敵だ!』

グシャリという音がした、跳躍し椛の牙が騎士の首筋を捉えたのだ。
飛びかかった勢いのまま組付き、地面に押し込んで捻じ伏せると『白狼天狗の娘』はその牙に力を込める。
『死』の側である騎士と相反する『生』の側の天狗の牙、それはつまり対極の性質ということだ。
修験者の末路は天狗だがそれその物でない涙子でも引き裂いた、ならば完全なる天狗である椛の爪牙はそれで治まらない。
ぞぶりと牙が深く相手の顎を食い込んでいった。

『ぐっ、貴様、離……』
「……グルル、レイビーズ……バイトッ!」
『ぐああああっ!?』

ブツンッ

「ふんっ、霊体では少し歯応えがな……」

ガチンと開いた牙が再び合わさり、それに一瞬遅れて首が落ちた、対極の性質であるから再生せず傷がそのまま刻まれた。
椛はペロと舌舐めずりした後残念そうに呟いた。
その後彼女は周りを見渡す、すると騎士の排除を終えた美琴達がやや青ざめた顔で椛を見ていた。

「おや、どうしました?」
「え、ええと、いや……」
「その、シロさん、いえ椛さん凄いなあと」
(……引いてんだって、この野生児)

よくわからず椛が小首を傾げ、美琴と氷華が誤魔化し、文が呆れたのだった。





という訳で次回に続く、涙子たちの戦い、氷華とぬえの共闘や椛の復帰、少し詰め込みすぎたたかも。

以下コメント返信
九尾様
桑原か懐かしい、あの人只の人間なのに公式で妖怪よりタフだから・・・それを考えれば愛戦士小悪魔が無双しても大丈夫ですね、うん問題ない。
まあ騎士は狭量さがまず出てしまいますね設定的に、だからまあ集中攻撃・・・でも同情すべき点も少しあるかなと、少し先かもしれませんが。

うっちー様
愛はほら最強だから、このSS的には友情もか・・・で幼馴染二人組は今までやらかしたせいでしょうか、まあ実はまだまだなんですが・・・



[41025] 第三話 無自覚な迷子達・七
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/09/05 20:50
注意・・・前回投稿シーンを修正、後半直後からそのまま繋がります



ドサッ

「やれやれ……やっと一段落か」

騎士が倒れる、白狼天狗の牙に捻じ伏せられるそれを見て一同は溜息を付いた。

(騎士の動きは鈍くなるはず、今のうちに対応を……とりあえず霊夢に連絡かしら)

パチュリーは体制を整える機会と考え、どうするか考える。
まず連絡とぬえや文の操る烏にそれを伝えようとした。

「その辺は私達で……あっちは忙しそうだし」

チラと彼女は燥ぐ少女達に嘆息した。

『ええと、シロ……でなくて椛さん?』
「……何でしょう、御坂さんに風切さん?」

美琴と氷華がおずおずと、山伏姿の白い少女に話しかける。
少女、椛は久々の体を動かし具合を確かめつつ先を促した。

「ううーん、何から聞くべきか……」
「ええと、そう……何故あんな可愛い姿に?」
「節姫……佐天のせい」
『ああ……』

変貌の理由を聞けばその答えに二人は納得、彼女のせいかと苦笑したのだった。
何だかんだいって涙子のマイペースさ、トラブルメーカーな部分を知っているので受け止められた。
そうなると次に罪悪感が湧いてきた。

「ええと……何かごめんなさい、そうとは知らずにペット扱いしちゃって」
「そりゃあ嫌がりますよね、素振りで気付くべきでした……」
「いえ気にしないで、悪いのは解呪を忘れた『あの女』……貴女達は私を世話しただけなのだから、ほぼ無力化された身としては助かったし」

済まなそうに頭を下げた二人に椛は手を振って、慌てて挙げさせると気にしないように言った。
だが、それでも向こうは戸惑っていて、椛はどうしようか困惑してした。

「……えい、ってミサカはミサカは横槍入れてみるよ!」

そんな微妙な状況だったので姉思いの少女が動いた。

ムギュッ

行き成り打ち止めが後ろから近づき、椛の山伏装束から伸びる尻尾を軽く引っ掴んだのだ。
そして、態とらしいくらい子供っぽく言った。

「わう!?や、止め……」
「お姉様お姉様、こんな可愛い友達とどこで会ったの!?」
「えっと宴会で……ああそんな風に握っちゃ駄目だって!」
「そ、そうですよ、ほら椛さん悶えてるから!?」

慌てて美琴と氷華が注意し、その間に打ち止めの手から抜けた椛が二人の後ろに隠れた。
が、そこで忙しなく耳をパタパタさせる彼女の姿に美琴達が凍りつく。

『か、可愛い……』

ニヤリと打ち止めが、ぎこちない姉達の為に道化役を請け負った妹が笑った。

「……これは独り言だけど……尻尾の感触、凄く良かったよ!」
「へ、へえ……」
「そ、そうなんだ……」

ジリッ

「わふっ、何故寄るんです!?」

ビクと椛が身を竦めた、その姿は余りに儚くまた可愛らしく映った。
『あ駄目』と美琴は思った。
『可愛い』と氷華は思った。
『……最早耐えられない愛でよう』と二人は決意した。

「ちょ、何です、何か不埒な気配が!?」
『……ごめん椛さん、モフモフさせて!』
「わ、わふっ!?」

バッと美琴と氷華が椛に飛びかかった、そして只管体を撫で始めた。
ワシャワシャと頭や首筋、尻尾を撫でまくられて、椛は顔を真赤にする。
だが、その目はどこか蕩けているようにも見える。
何だかんだ楽しんでいる、犬科の性には抵抗できないらしい。

「うんうん、友達同士はこうでなきゃね!」
「ま犬科だし……別にいいんじゃない?恥ずかしくは思っても嫌がってはいないでしょ」

パチュリーは苦笑し、姉達の狂態に笑う打ち止めに適当に答えるのだった。
些かスキンシップにしては過剰だが、白狼天狗のモフモフ具合からして仕方なくも思える。

「……後で触らせてもらおうかしら、ウチには尾のない悪魔の犬……それにチュパカブラとかのUMAとかしか居ないし」
『それはそれで割りとおかしいな、あの館……』

彼女の呟きに、それもどうかと(黒い方の)垣根が首を傾げた。

「うるさいわよ、放っとけ……さあ今のうちに体勢を立て直すわよ。
……アンタには、それに他の奴らも……色々と飛び回ってもらうわよ、戦力を集めないとね」
「……まあ良いだろう、魂魄の奴を拾いに行くか」
『あやや、そうなると私は……まあ烏で援軍呼びつつ合流しますか』
「私はこのまま残るよ、科学側の正体不明も気になるし……」

そうと決まれば彼女達の動きは早かった。
垣根と文の烏が飛び立ち、ぬえがパチュリーと共に護衛に残った。

「おっとそうだ、一応尋問でも……」

そこでパチュリーが思い立ち、瀕死の『騎士』、消えかかる彼をジロと見た。

『ぐっ……』
「無視して悪かったわね、さあ話し合いよ」

だが、そこで耳にしたのは予想だにしない言葉だった。
騎士が必死の、絶望的とも言える形相で言い放った。

『……堕天……リエルと並ぶ魔神エリ……転生体、何時か禍根に……』
「待って、今何て……」
『何故何年も、『奴』が沈黙を保ったと……我等と削り合っていたから、それが無くなれば……奴が動き出す!』

その言葉と同時に彼は目を見開く、その絶望の視線の先は一同の後方。
パチュリーが慌てて振り抜いたそこにはエリスと喚ばれた少年、だがどうにも様子がおかしい。
その頬にはボウっと『星形の痣』が淡く輝いていた。

「ああそうだった、私は……」
「(この魔力、魔界の……)皆、離れて!」
「……私は『エリス』だ」

ズドンッ

『ぐがあ!?』

まず閃光、騎士を貫くと同時にバラバラに分解してその身に取り込む。
そして、更に『エリス』は騎士から奪った力で周囲に魔力弾を放った。

「知られたからには……口封じ、しないと……」
「不味い、そいつ……人と悪魔が混じってる、暴走してるわ!」

パチュリーの警告と殆ど同時に四方への弾幕、耳を劈く程の轟音がゴング代わりかのように響いた。



第三話 無自覚な迷子達・七



(……ここは嫌だ、あそこに戻るんだ)

『彼女』はかつて悪魔、それも魔王魔神と呼称される魔界に存在する数柱の実力者の一人だった。
『万魔殿(パンデモニウム)の支配者』や『魔眼の堕天使』と何度も争い、魔界の派遣を覇を競ってきた。
だが人界から迷い込んできた『紅白衣装の少女』に敗北した。
それでケチが付いて勢力は衰退、同じ理由で追い詰められた堕天使と共に魔界から逃げ去るしか無かった。

(そうだ、サリエル……ああわかる、この世界にも彼女が居ると)

長年の宿敵、また穏健派の『万魔殿の支配者』相手に轡を並べたことも有る堕天使のことを思った。

「ならば、私がすることは一つ……備えねば……」

だから彼女は人の中に紛れた、密かに力を蓄えることにしたのだ。
堕天使サリエルは貶められたことへの復讐や復権を諦めていない、それが動き出した時に抵抗できるようにする為に。

「……騎士達には手古摺らされた、だが今ならば……やれる」

エリスを狙う騎士との戦い、その中で素性がバレて更にしつこく狙われて、その上互いが死して尚その戦いは続いた。
騎士がエリスを襲いその力を削ぐ、エリスが人と魔の混じった不完全な状態で必死に抵抗し追い払う、ずっとその繰り返しだった。
それが続く限り彼女あ消耗し続け復活には至らない(まあそもそも人の『エリス』の人格を不安定にさせたのが騎士なのだが)
だが、その永遠と思えた輪が崩れた、彼女にも騎士にも予想外の要素によって。

「さあ……復活の時、遅れを取り戻させてもらう……」

ギロリと彼女は睥睨する、椛や美琴達を、仲間の敗北に気づき集まってくる騎士を睨みつけたのだった。



「……これは少し洒落にならないわね」

弾幕を最も頑強な土と金の混合、宝石の壁で凌ぎながらパチュリーが愚痴った。
そこかしこで悲鳴や断末魔、ここに気づいて集まってきた騎士達が倒されその残滓、霊力がエリスに取り込まれるのが見えた。
そこへ咄嗟に駆けてきた二人組が『砂鉄で組んだ鎖』で壁を補強しつつ問いかけてきた。

「いや全くね、大変なことに成ったわ」
「どうしよっか、ノーレッジさん?」
「……私に言われても困るって、超電磁砲さんに打ち止め」

近くに逃げ込んできた美琴と打ち止めに問いかけにパチュリーは沈黙する。
正直騎士を何とかすればいいと考えていたのでかなり参っていた、エリスの方に問題が有るなど予想外だ。

「でも戸惑ってばかりは居られない、騎士が全滅すればこっちか……目眩ましを掛けるわよ!」
「了解、壁を崩すわ!」
「オッケー、やろう、お姉様!」

パチュリーの言葉に姉妹達が頷く、三人は息を合わせて壁を自ら崩した。
それは崩れながら更に拡散し、散弾と成ってエリスに襲いかかる。

『……行けっ!』

ズドンッ

その光景にエリスは慌てて攻撃の手を止め、一旦引くのと平行して魔力を練り始める。

「そ、そんな物……食らってたまるか!」

ガッ
ズドン

エリスは魔力を広範囲にばら撒き相殺した。
だが、宝石の破片の中を『黒』が飛んだ。

ヒュバッ

「くっ……」

風を切って飛んだ『漆黒の三叉槍』をエリスは慌てて躱した。
それを投げたぬえが笑った、彼女はエリスを、槍の回避で体勢が崩れた彼女を指差して言った。

「ひひっ、惜しい……だがまあ今だ、そら仕掛けな、科学の正体不明!」
「言われずとも……やあっ!」
「私も行きます、ガルル!」

ぬえが言うのと同時に二人、氷華と椛が走り出す。
慌ててエリスは指先で幾何学的文様を描いた。
すると周囲に影が集まった。

「ちっ、でも……こっちは魔力弾だけじゃない、私にもエリスの記憶がある……傀儡よ、行け!」

それは騎士達、弾幕に手足を、あるいは胴体を抉られた騎士が魔力の糸によって操作される。
だが、それに対してニッと椛が笑った。

「甘い、騎士……死者ならば私だけで十分!」

椛は、命に関係深い山の天狗の娘は両手を開き、鉤爪の形で思い切り振るった。

「はああっ!」

ヒュバッ
ヒュバッ
ドザ

左右で一度ずつ、それで騎士が二人両断される。
そして、そこへ氷華が翼を一打ちして飛び込み、大きく拳を振りかぶった。

「風切さん、今!」
「はい……ええいっ!」

ズドンッ

轟音が響き、腕を交差させて防いだエリスが数メートルばかし後方に飛んだ。

「ぐっ、腕が痺れ……ぐっ、まだ来る!?」

彼女h顔を顰めて下がった時頭上に影、翼を広げた氷華は追い討ちしようとしていた。

「……もう一撃です!」
「……舐めるな、行け、騎士達よ!」

彼女は咄嗟に魔力の糸を振るい、頭上から仕掛けようとした氷華を追い払う。

ガガガガッ

「きゃっ!?」

すると慌てた様子で白い影が飛び込んだ。

「……そいつ等は私がやる、下がって!」
「ごめん、椛さん任せた!」

椛は鉤爪を振るって騎士を打ち倒す、その間に氷華が下がる。
それを見送って椛も引き、後方と一時合流する。

「……賢者殿、すまない、仕留め損ねたよ」
「まあ十分、相手の手もわかった……さて、どう仕掛けようかしら、やっぱり手数で削って……」
「あ、待って、電磁波が!」

一同は合流すると弾幕ごっこ経験者を軸に対応を決める。
椛が爪を開き、パチュリーが魔導書を開いた時だ、美琴と打ち止めがある方向を見て叫んだ。
そして、『白』と『赤』の弾幕が飛んだ。

「あれが敵かな?……行っけえ、アイシクルフォール!」
「ふむ、騎士ではないようだが……まあ構わん、六壬神火!」

ヒュゴッ
ドゴオオォ

「ぐあっ、新手だと!?」

氷の散弾に炎の矢、二つを横合いから受けてエリスが吹き飛んだ。
数度跳ね飛んだ彼女はギリと歯噛みしながら騎士を操ろうとする。
だが、彼等は動かない、いや糸自体の動きが止まった。

「騎士よ、フォローを……何!?」
「『スペルインターセプト』、私の知る魔術ならば……止められない道理はないよ。
……悪魔憑き、いや深く混じってる?……ああ生まれつきか、つまり騎士が余計なものを起こしたってとこかな」

はあと彼女は嘆息した、そして騎士に再度怒りを抱く。

「あの人達は悪魔の気配を追っていた……でも混じってるなら人の人格も有る筈で、そして人として生きていたならそっちが主人格のはず。
悪魔の側の押え、『蓋』と成っていたのを騎士が不安定にさせてしまった?」
「……というより死んだ時点で人側の自我が弱ったんじゃない?」
「ノーレッジさん?ああそうか魂魄、魂は半分に別れる……肉体の死で人側の人格が半分失われたのか」
「アレ、シッテルヨ……『お祖母様』ノライバル、ダネ」

すると白いシスター服の少女、インデックスの腕に抱かれた人形もまたエリスを睨んだ。
ギロと睨むガラス球の瞳、だがその輝きは異様に禍々しくエリスの目に映った。
彼女はどこか似たようなものを知っている気がした。

「……ナラ『娘』ノ『娘』トシテ、ナントカシナキャ!」
「くっ、この気配、この魔力……あの女の縁者か!」

類似する相手を思い出したエリスは顔を引き攣らせた、慌てて弾幕をぶち撒け土煙を舞い上げて煙幕にする。

「……仕切り直す、覚えていろ」

折角絡めとった騎士を捨て、ダッと彼女は背を向け走りだした。

「オッ、ニゲタ?」
「……臆病なのかな、いや……君のお祖母様が怖いのかな」
「……ソウカモ、オコルト……スゴイコワイッンダッテ」

その思い切りの言い逃げっぷりにインデックス達は呆れ、その後慌てて美琴達へ走り寄る。

「ミサカお姉さんのお姉さん、無事!?」
「え、ええ、おかげでね……はあ、助かったけど……とんでもないことに成ったわね」
「うん、そうだね、お姉様……あ、そっちも助かったよ、チルノさんにええとお寺の人!」
「気にすんな、困ったときはお互い様だろ!」
「うむ、お互いさま……皆の衆、今のうちに休んでおけ、差はあれど戦いの消耗が有るはずだからな」

後から来たチルノやインデックスが警戒し、その間に美琴達が体を休める。
こうして一同は何とか一息付くのだった。



そして、一人逃げ去ったエリスは執念深く計画を立てる。

「……まだだ、この街の各地に散った騎士の霊を取り込む……そうすれば幾らでも挽回できる!」

まだ霊達は残っている、それに関係ない霊もいるだろう。
彼女自身霊体なので取り込めばそれはそのまま力と成る。あるいは操って壁にしてもいい。
エリスはまだやれると自分に言い聞かせた。

『……はっ』

それを空から『赤白』と『青』が見下ろし嘲笑った。
赤白の方が抱えていた褐色の少女、生霊の少女を(青い方の連れの)『オッドアイの少女』に一旦預けた。
人の方のエリスに関係が深い、鍵と成り得る少女だけに慎重に扱いたい。
だから、この場はエリスに会いたがる彼女を説き伏せ、まずは自分達に任せるように言った。

『……行きましょう』

そして二人の少女、『赤白』と『青』の少女が降下する。
スタンっと軽やかに、二人の巫女がエリスの前に降り立った。

「え……」
『やあ』

ニコリと巫女、霊夢と早苗が笑って、反応できていないエリスの懐に一気に飛び込んだ。

「さて嫌な予感はこれか……大人しくさせるわよ、早苗」
「はい、丁度時間が空いていた所……やりましょう、霊夢さん!」
「ええ、合わせて……陰陽玉将!」
「九字刺し、やああっ!」
「ぐはああっ?!」

ダブル巫女の奇襲でエリスが吹き飛んだ。
それにニヤリと笑い霊夢達は調子に乗って次の弾幕を展開、それを見た空中の小傘は一瞬黙祷した。

「な、なな、何だ!?」
「ようし、いい感じ……このまま押してくわよ、早苗!」
「ひゃっはー、了解ですっ、霊夢さん!」
(ひええ、あの悪魔には同情するよ……)




ダブル巫女登場(暇そうな早苗を霊夢が呼んだ)・・・少しぶつ切りですがここで一旦切ります、他にキリの良いとこがないので。

以下コメント返信
エビフリャー様
いや美琴は先生の関係でオカルトに理解有るので・・・驚かないと思います、なので省略(でも他の能力者で書くはず、誰で何時とは明言できないが・・・)

九尾様
まあ一部程度騎士も間違ってないって思ってくだされば・・・まあそもそもエリス少年の死因である騎士が悪いんですがね。
因みに生前は正気(魂魄揃いエリスの自我が勝ってた)でも死んだことで魂魄の傍らが抜けて、そのせいで前世がでてるって形です。
だから禍根が騎士なのも大正解、自業自得で起こした問題を何とかしてるだけ・・・

うっちー様
ただ小動物っぽいだけで組ませましたが作者的にもお気に入り、多分今後も偶に一緒に居ると思います。
確かに風切さんが逞しくなりましたね、マイペースなルーミアと仲良くなったのが聞いてるのかな?
・・・あ資料にしたのが偶々その九字だったのですが・・・そうか古いものでしたか、うーん突っ込まれて焦る姿が浮かぶ・・・かわいいのでこのままで。

重度けもなー様
椛良いですよね、中ボスでは一番好きかも・・・まあ天狗で狼なら肉弾戦かなと、エグくても相手が相手だからってことで。



[41025] 第三話 無自覚な迷子達・八
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/10/02 20:55
ドサドサ

「はああ、とりあえず騎士の方は何とか……」

疲れた様子の小悪魔が嘆息、その傍らには打ち倒された騎士が小山となって積まれている。
バタンと魔道書を畳んだ後小悪魔は『金髪緑眼の少女』に頭をペコリと下げた。

「……お手伝いありがとうございます、パルスィさん」

何のつもりか乱戦に飛び込んできた嫉妬妖怪に、小悪魔は少し警戒しつつも礼を言った。

「ああ良いから、こっちの連れも関わってるし……どっかで会った?」
「地下の異変の折、パチュリー様のサポートを……ああそういえば人形越しだった、直接会うのは初めてか。
……小悪魔です、さっきはご協力ありがとう」

初対面だと(サポートのサポートだった)思い出し、改めて挨拶を交わした後話し合う。

「黒いの、厄介なことに首を突っ込んで……霊は性質が偏り易いって教えたのに」
「いやここでそれを言っても……それにしてもエリスか、不味いなあ」
「……知ってるの?」

パルスィの問いに、小悪魔は何とも言えない微妙な表情で答えた。

「一応同郷というか……魔女や悪魔、それに様々な魔物の住まう魔界の実力者の一人『でした』」
「……ふーん、魔界ねえ」
「まあ物騒な響きですが結構平和なとこですよ、支配するのも大らかな方ですし。
そう、大らかで……自分の城である万魔殿に勝手に悪魔とか、『人界から追い出された神』や『封印され流れてきた魔性』が来ようが受け入れてくれる方です」
「へえ、妬ましい……もとい、器が広いのね」
「……といっても受け入れるにも『限度』が有る、『余程の馬鹿』やらなければ面倒見てくれますが……」
「……ああ、エリスってのはその、余程をやったと」

話し合い二人は頭を抱えた、神ですら手に余る存在が学園都市に来ているのだ。
神、魔界神は基本的には温厚(身内贔屓なところもあるが)魔界に何が来てそれが何しようが基本的には気にしない。
が、エリスと『もう一柱』は数少ない例外だった。

「エリスに堕天使、前者は確か旧ヘブライの神……外で権力を持ってたせいかな、平和過ぎる魔界を退屈に思ったか窮屈と感じたか征服を開始しました」
「……で、激突したと」
「はい、派手にやり合ってました……実力自体は魔界神様が頭一つ上でしたけど、『眷属』が付いてたから中々押し切れなくて……
唯、結構前に『紅白衣装』の女が二者を襲撃し……それで一気にエリス等の勢力は衰退し、万魔殿側が優勢と成ったんです」

ひょんな事で戦況が傾いたのを思い出し小悪魔は苦笑する、偶々『紅白の女』の進行方向に居らず魔界神の一人勝ちだったのだ。
尤もそれで運が切れたか、『二度目』の巫女(同一人物かは不明)による魔界襲撃は諸に被害を受けたが。

「(あの方、ツイてるのかツイてないのか)……ま、まあ兎も角、そんな経緯で魔界から追い出されたんですよ」
「……それが現世に来てて、今回暴走したか」
「ええ、厄介ですね……かなり好戦的ですから」

そう言った小悪魔の表情は憂鬱そうだ、ガクリと肩を落とした。

「魔界神さま達がハト派ならエリスはタカ派、それも生半じゃない……そう簡単に大人しくするとは思えません」

神が、それも一度堕落した神が(特に他国の)人間に遠慮するとは思えない、学園都市を構うことなど在り得ないだろう。
しかも別の問題がある、エリスを取り巻く背景である。

「エリスと堕天使は同時期に魔界から消えた、共に現世に来たとして……あれ等は本来味方ではないんです。
……魔界神様という共通の敵が居たから二人は手を組めた、それが居ない現世なら……積極的に出し抜こうとするかな」
「……つまり霊体達を襲ったのはその為の準備ってこと?」
「恐らくは……エリスにとって人も死者達も、かつて味方だった堕天使も敵……当然これからの行動も過激かつ自己中心的な物になる筈です」

エリスは多分タカ派のまま、ならばこの騒ぎを穏便に済まそうとする可能性は低い。
それこそ全てを糧とし一人勝ちを狙っても可笑しくはない。

「……パルスィさん、私は少し抜けますね」

ならばと小悪魔は賭けに出ることにした。

「どうするの?」
「……ちょっと『暇人』に会ってきます、お手伝いして貰いましょう」
「まあ頑張って、良くわからないけど……私は騎士の相手でもしてるわ」
「ふむ、未だ人にとって危険だし……エリスに食われるのを避けられる、成る程お願いします」

二人は頷き合い別行動に、小悪魔は飛び立って、パルスィは分身と共に騎士を探しに行った。



第三話 無自覚な迷子達・八



ズドン
ドガガガッ

弾幕に押され、エリスが顰め面で後退った。

「おのれ、巫女だと……寄りによって天敵の同類など予想外過ぎるだろ!?」

かつて自分達の魔界敗走の原因を思い出し、彼女は涙目になりかけた。
だが執念で、あるいは恨みの感情で彼女は立ち直り、反撃に大弾を叩きつける。

ズドンッ

「ええい……ここまで我慢したんだ、負けてたまるか!」

大弾が勢い良く飛んで赤と緑、霊夢と早苗へと目掛け突き進む。

「恨まれてる?どっかで会ったかしら……まあいいわ、片付けるわよ」
「はーい、思い切り……やっちゃいましょう!」

二人はニヤリと笑い、同時に封魔針と鉄の輪を投擲する。
それでボンッと大弾が消し飛び、そのままエリスへと向かっていった。

「何!?」
「……さあそれを食らって落ちるか……」
「消耗覚悟で本気を出すか……」
『……選んで!』
「ちいっ、人間なぞに!?」

この言葉に渋面でエリスが舌打ちし、彼女は空間から何かを引き攣り出した。

カッ
ズドン

それは一等星のように眩く輝いていた、エリスは引き抜いた勢いのまま振り下ろす。
唯それだけで爆発的な魔力が放出され、封魔針と鉄輪は粉々に砕けた。

ヒュッ

「くっ、余計な魔力を使った……」

エリスは悔しそうな表情で杖を、星を模した装飾品が先端に嵌められた大ぶりのロッドを振るった。
一方でそれを抜かせた霊夢達はニコニコと笑みを浮かべる。

「ふふっ、まだまだよ……もっと力を使いなさい!」
「ええ、干からびるくらいに……さあ次ですよ!」
「本当に厄介だな、魔界で会った女を思い出す……だが、そうは行くか!」

ズドンと顰め面でエリスは足元にロッドを叩きつけ、その次の瞬間彼女の姿がブレた。

「……貴様らは後だ」
「紫と同じような真似を……早苗、捕まってて、亜空穴!」
「はいっ、追ってください!」

一瞬で跡形もなく彼女が消えて、反射的に早苗を引き寄せて霊夢も転移する。
再び彼女達が現れたのは先程までの場所の隣の区、一瞬早く現れたエリスがそこに集まっていた騎士の霊を見てニヤと邪悪に笑う。

『総員急げ、体勢を立て直し奴の捜索を……』
「ふっ、手間を省いてやろう……但し操り人形としてな!」
『何っ!?』
「……さああの女共を潰せ!」

魔力で作られた糸が放たれ、騎士の霊を人形に変える。
それから一秒後霊夢と早苗が現れる、ガシャリと甲冑を鳴らして人形と成った騎士達が包囲した。

「……遅かったか、小細工するわね」
「さあ……掛かれ、騎士共よ!」

ガシャガシャとその鎧鳴らしながら騎士達が駈け出し、皆一様に長剣や鈍器を振り被る。

「早苗、援護を、騎士の相手をお願い……後で美味しいとこ上げるわ」
「了解、では美味しい場面を期待しますか」

ダッと二人も地を蹴った、霊夢が先を行ってやや後ろを早苗が追う。
だが、騎士の眼前で霊夢は横に跳んだ。

「早苗!」
「はい、八坂の大風!」

ビュオオッ

すかさず早苗が風を放つ、それで騎士の大勢が崩れ、僅かな隙間を縫うように霊夢が突破する。

「ちっ、急いで塞……」
「遅い、グレイズってね……早苗、後続止めて!」
「りょーかいっ、邪魔だ、人形!」

早苗が数個の鉄の輪を手に騎士に襲いかかり、その爆発音を背に霊夢が前へと駆けていく。
そのまま騎士を抜けて、エリスの懐へと一気に飛び込んだ。

「ええい、魔力を使いたくないのに……」
「だから、タイマンに持ち込むのよ……陰陽玉将!」
「くっ、離れろ!」

ドゴォンッ

掌中で収束させた霊気とロッドから放たれる魔力が激突する。
ブワと余波で土煙が巻き上がった。
霊夢はそこで一瞬考え込んだ。

(さて、強行か安全策か……まあやってみますか)

彼女は再び掌に霊力を集中、それを翳して土煙の中に突っ込んだ。

「……陰陽玉将、うりゃ!」

ブウンッ

が、それは空振りに終わる、エリスはそこに無く、そして霊夢の背後に行き成り現れた。
肩越しにロッドを振り被ったエリスの姿が見えた。

「貰ったぞ、落ちろ!」

が、霊夢は読んでいた、体を捻り腕に括りつけた『梓弓』を後方に向ける。

「何!?」
「……甘いわ、衝打の弦!」

ドンッ

霊夢は勘頼りで衝撃波を放った。
慌ててエリスはロッドを振る手をを止め、その体を再びブレさせる。

「……ちっ、再転移!」
「またそれか……少し、面倒ね」

エリスが消え、霊夢も顰め面で身構える。
数秒の警戒、読み合いの後霊夢を囲うように数箇所で光が瞬いた。

バババッ

「……喰らえっ!」

連続して転移と大弾の展開、エリスはそれを繰り返し個人に寄る挟撃を行った。
霊夢は眉を顰め、掌中に霊力を束ねて横薙ぎにした。

「ああもう、本当に面倒……陰陽玉将!」

バキンッ
バキンッ
バキンッ

半円状に振るったそれは時間差で飛んできた大弾を消し飛ばしていく。
しかし霊夢は警戒を解かず、直ぐに霊力を集中する。
その視線の先にはエリス、ロッドを大きく振り被り、より巨大な大弾を作っていた。

「……吹っ飛べ、紅白女!」

ズドンッ

怒りの叫びとともに最大規模の大弾が飛ぶ。
が、霊夢もそれに対し慌てず対処する。

「……断る、亜空穴」

ブウンッ

彼女の姿が掻き消え、大弾は虚しく何もない空間を飛んでいった。

「ちっ、同系統の技か……」

エリスは警戒の表情で周りを見渡す。
迎撃か転移による回避か、だが魔力が心許なく少し考えた後、まだ幾らか残っている土煙に身を投げだした。
その一秒後、頭上から不可視の衝撃波が連射された。

ドガガガッ

「衝打の弦……ちっ、隠れたか」

空中に再出現した霊夢が舌打ちし、弓を打つ手を止める。
彼女は続けるか暫し悩み、だがその答えが出る前にエリスが動く。
ハッと霊夢が頭上を見上げた。

「……残念だったな」
「エリス!」

そこにはロッドを構えたエリスの姿、霊夢は反射的に『空を飛ぶ程度の能力』で跳んだ。

「反撃なんて……させない、昇天脚!」

ブウンッ

が、彼女の振り抜いた脚は虚空を裂くに留まる、エリスが再び消えたのだ。
そして、エリスは更に上空、凡そ一メートル程真上に現れ、魔力を乗せたロッドを振り下ろした。

「……砕け散れ、紅白女!」

エリスは勝機を確信した、が霊夢がニッと笑った。

「……甘い!」

彼女は空中でもう一度回転、勢いを更に強めて右足を振り上げた。
霊力を纏わせた爪先がボっと神々しく輝く。

ゴウッ

「天覇風神脚、やああっ!」
「くっ、させるかあ!」

ガギィンッ

振り上げる右足、振り下ろすロッド、それ等は交差し轟音を響かせ、そこで止まった。
ギリギリと押し合いながら霊夢とエリスが相手を睨んだ。

「ふう、今のは少し焦った……でも結構削れたはず、違う?」
「貴様、どこまで邪魔してくれる……」
「……ねえ、『何か』忘れてるんじゃない?」
「何?」

霊夢がそんなことを行き成り言って、エリスが訝しそうにする。
その一秒後、清廉な叫び声が響いた。

「開海……モーゼの奇跡!」

ザシュッ

風切って、霊気の刃が飛んだ。

「え……がっ!?」
「私に目が行き過ぎ、彼女を忘れたわね……衝打の弦、外れてなかったということ」

振り抜かれた霊力の刃がエリスのロッドを砕き、更には彼女の体を深く切り裂く。
痛みに悶えるエリスの目に、『不可視の衝撃波』に打ち倒された騎士の中心で構える早苗が映った。
霊夢がエリス狙いも見せかけて梓弓で騎士を蹴散らし、自由になった早苗がエリスに一撃したのだ。

「……どうせ成仏待ち、それが早まるだけだし別にいいでしょ」
「成程、確かにこれは美味しい……霊夢さん、決めましょう!」
「ええ、落ちなさい!」

会心の笑みを浮かべる早苗が鉄の輪を、サマーソルトの体勢から戻った霊夢が封魔針を投擲した。

ヒュ
ドスッ

「ぐあああっ!?」

二つの凶器はダメージで身動きできないエリスに直撃した。
だが、落下する彼女はその直前でギロと目を見開き、悲痛なまでに力強く叫んだ。

「がああ、ま、負けてたまるか……折角貯めた魔力だがこのまま落ちるよりは……」

彼女はブンっと折れたロッドを振るう、それに合わせて魔力が辺りに滅茶苦茶に放たれる。
霊夢と早苗には躱されるも、エリスの攻撃は騎士の生き残りを打ち倒していった。

「……はあっ!」
『ぐわあああっ!?』
「騎士を狙った、何を?」
「……こうするんだ、霊力よ、集まれ」

バラバラと彼等の体が細かく崩れ、エリスを中心に集まっていく。
集まった霊体の破片は五つに別れ、巨大な眼球へと変わる、そしてエリスを中心にして陣形を組んだ。

「サリエルとその眷属……真似をさせて貰うぞ、そしてこのまま……火力で押し切る!」

ドガガガガガッ

手数はそのまま五倍に、圧倒的な弾幕が辺りに放たれる。
霊夢と早苗は慌てて合流し、同時に結界を張りながら後退した。

「うわわっ、霊夢さん、どうします!?」
「……ちぇ、もう少し削りたかったけど潮時ね……チルノ達が段取りを付けたはず、彼女達のところまで誘き寄せるわよ!」
「……は、はいっ!」

霊夢と早苗は結界で耐えながら下がり、エリスは作り出した巨眼と共にそれを追う。
霊夢達が追い詰め、それでもエリスは足掻き、だが確実に決着は近づいていた。



ガシャガシャッ

十数人の騎士が学園都市を駆けていく、皆必死そうだ。
妖夢や垣根、美琴達に戦力を削られ、その上エリスが動き出し焦っていた。

『何としても、奴を排除せねば……』

最後の力でそれを為そうと、彼等は残存勢力を結集しエリスの元へ向かっていた。
だが、『深緑の嫉妬深い瞳』がその動きを見詰める。
嫉妬の化身とその分身がギロリと死者達を睨む。

「妬ましい妬ましい、その諦めの深さが……」
「妬ましい妬ましい、死して尚抱える信仰心が……」

ドガガッ

『誰だ!?』

あれらの行く手に大弾が二つ打ち込まれ、足を止めた彼等は二つの影を見た。
そこに金髪の女が二人立ち、嫉妬に染まった目を向けている。
大陸風の衣装を着た女が邪悪に笑って弾幕を展開した。

「まったく、妬ましくてしょうがないわ……ジェラシーボンバー!」

ズドンッ

パルスィと分身はブンと腕を振るって弾幕を放ち、巨大なハート型の弾が頭上に飛ぶと爆炎と共に爆ぜた。
バラバラと小型のハート(但し不吉に罅割れている)弾幕が勢い良く落ちてきた。

「あはははっ、皆爆発しろ!」
『くっ、防御陣形を取れ!』

ズドドドドッ

慌てて騎士達は隊列を組み直し、剣やモールで弾幕を払った。

「ちっ、潔く吹っ飛べばいいのに……妬ましい妬ましい」

この光景にパルスィは舌打ちし爪を噛む、だが寧ろ騎士の方がそうしたかっただろう、おかげで前進を中断したのだから。

『おのれ、どいつもこいつも我らの邪魔を……』
「知らないわ、そんなこと言われても……妬ましいのが悪いのよ」

騎士が悲痛に叫び、しかしパルスィは興味なさそうにマイペースに嫉妬する。
嫉妬の顕現である彼女が我慢する筈もなく、直ぐ次の弾幕を展開し始めた。

「さて妬ましいから追加しよっと……どの弾幕が良いかしら、手数か破壊力か」

まだ割れたハートが落ちる間に彼女は次弾準備に移り、そこへ呆れた様子で黒い男が声を掛けた。

「……水橋、やるなら手数重視で頼む」
「あら、黒いの……全く何してるのよ、変なことの首突っ込んで」
「生き生きと嫉妬しておいて言うなあ、いやマジで……」

バサバサと肩に降り立った烏、黒い方の垣根が突っ込む、二人は自分を棚に上げてジト目をぶつけ合った。

「ま、良いわ……やるか、手数ならグリーンアイド、いやその一つ上ね」

暫しそうした後頷いて、パルスィと分身は同時に緑の大弾を放った。

『行くわよう、嫉妬……緑色の目をした見えない怪物!』

ゆらゆらと揺れる二つの鬼火が空で燃え、かと思えば勢い良く騎士達に降下する。
ボウッと怪しく瞬くそれは異様な禍々しさで、騎士達は顔を引き攣らせた。

『何と面妖な……散開しろ!』

場と慌てて騎士が散って、一瞬遅れて二つの鬼火が騎士達のいた空間を通った。
が、回避されたというのにパルスィがニヤリと笑った。

「……あら残念、本命はそれじゃないのよ」

彼女がそういった瞬間鬼火が不審な挙動を取る。
それはブルリと体を震わし、『無数の小型の弾幕』で出来た尾を何もない空間から生やした。

『何!?』
「怪物よ、嫉妬のままに……荒れ狂え!」

そして、最早魔獣じみた存在と成った弾幕が尾を振り回し、その体を構成する弾幕を滅茶苦茶にばら撒く。

ドガガガガッ

慌てて逃げる騎士に、パルスィは嫌味に笑ってみせた。

「あははっ、逃げ惑いなさい!」
「物騒なやつ……だが十分陣形を崩せたな」

愉悦に浸る彼女の肩で呆れながら、垣根は翼の一部を崩すと二振りの刃に変える。
それぞれ『日本刀』と『刃の広い曲刀』、そして彼は作り出した刃をバッと放り投げた。

「……使え、だが折るなよ」
『承知!』

『銀』と『白』、やや異なる二色の影が刃を掴み取った、妖夢と椛が並んで剣を構えた。

「ふっ、本来の二刀程ではないが……幾らか慣れました、纏めて切って捨ててみせましょう」
「騎士まで来てはややこしくなる、この場は私達が……向うは友人が何とかしてくれる筈だから」

ジャキッと刃を雄々しく構え、二人は弾幕に右往する騎士へと走り出す。

「ふっ、せめてもの情け、騎士の面目を潰さないでやる……同じ剣士に打ち倒され、冥府で沙汰を待つがいい!」
「……美琴さん達は既に動いている、邪魔はさせない!」



バサバサ

「そろそろでしょうか」

雷光の翼で氷華がその身を空に浮かべる、真下にやや小さく学園都市が見える。
彼女の役割は霊夢達が誘き寄せてるエリスへの奇襲、正確に言えばそのサポートだ。

「……ええ、もうそろそろね」
「わー、高ーい!」

彼女の右手には美琴が抱えられている、友人に体を任せて能力に集中していた。
逆側には打ち止め、新鮮な光景に目を輝かせつつ姉と同じようにしていた。

「……やっぱり高所は風が強い、寒くありませんか?」
「大丈夫、外套が有るから……打ち止め、白衣使いなさい」
「ありがと、お姉様」

美琴が外套の襟を立て、打ち止めは借りた白衣に包まる、氷華は気を利かせ体の方向をずらし風を遮るようにした。

「もう少しの筈ですから我慢して……あっと、見えてきましたよ」
「ええ、派手に射ち合ってる……打ち止め、状況は?」
「……チャージ完了、問題無し!」

眼下で閃光と爆発、地上で霊夢達とエリスが撃ち合い移動している。
もうすぐ真下に来る、その時が三人の出番だ。

「確認しますよ、誘き寄せたらチルノさん達が四方から遠距離攻撃……」
「そこで私達の出番、温存の為に氷華さんに送ってもらって……そこで私と打ち止めね」
「お姉様が演算して、ミサカ達がそれを底上げ……で、ドカン!」
『……良く出来ました』

三人はニコリと笑い合い、そして美琴と打ち止めは手を合わせバチバチと輝く『十字架』を作り出す。

「一撃必殺よ……打ち止めはサポート、氷華さんはそこまでのエスコートをお願いね」
『はいっ!』

美琴の言葉に、氷華と打ち止めは元気良く頷く。
そして、三人は雷光の十字架を掲げ、それを解放する瞬間をゆっくり待つのだった。




・・・大分騒ぎは終息に近づいて、やっとこさクライマックスです。
とりあえず霊夢達が一当てして逃走、誘き寄せた所で次回に続きます。

九尾様
ぶっちゃけ騎士もエリス(旧作)も悪かった、人のエリスだけですね被害者・・・その辺それぞれが相応しい終わり方にはなるとは思います。
・・・あの館、最古参だけあって色々追加されて・・・正に幻想郷らしい場所だと思います、色んなメディアで出る度見てて楽しくなります。
にしてもUMAとか紅魔館何でもありですよね、何か短編書きたい・・・聖や黒夜辺りとか入れてそのうち書くかも。

うっちー様
ええ、割りと追い詰められてます、エリスさん・・・逆転なるかそれとも?・・・波乱含みのクライマックスをお待ちください。



[41025] 無自覚な迷子達・九(終)
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/10/02 20:55
ズドンドォンと遠来のように轟音が学園都市に響いていた。
ずっと向こうで弾幕戦が行われている、パチュリーは今いる建物の欄干から乗り出し時間を待った。

「……派手にやってるようね」
「うん、そうだね……あたい、熱くなってきたよ」
「それって、氷精が言うことかしら?」

その隣でチルノが相槌を打つ、彼女は何かを思い出しながら同行するもう一人に話しかけた。

「ねえねえ、布都……あれも荒御魂ってやつ?」
「まあ、そうじゃな……尤も異国の古い魔性を敢て東洋の言い方に当て嵌めれば、だが」

チルノの言葉に銀髪の少女、布都が頷く。
だが、その後少し考え首を横に振り、一部を訂正した。

「……我は荒御魂が『一番か二番』に質が悪いと行ったが」
「うん、そうだけど……一番か二番、って他にもっと不味いのが居るの?」
「ああ、目的意識を持った『理性的な荒御魂』、これが一番やもしれんのう……」

その厄介さを思ったか、酷い顰めっ面で布都はチルノに説明し始めた。

「定義としての荒御魂、それは積極的にその力を振るう霊じゃ……特に闘争心や破壊衝動が他の例よりも極端でな。
……が、理性的な荒御魂は少し違う、目的に添ってそれを振るうから無駄がなく、また目的がある分それに拘る性質がある……」
「……ええと、色々小細工するし、目的の為に手段も選ばない?」
「そういうことじゃ、目的次第では他より遥かに危険と成る……ま、それ以外なら無差別な普通の荒御魂が怖いのだが」

この説明にチルノとパチュリーが嫌そうに顔を顰めた、言った布都も似たような表情だ。

「うむ、厄介じゃ復讐の為に都で暴れた菅原殿しかり……こっちは征服と支配だが危険性は大差有るまい」
「……と、荒御魂すれすれの人が言うのでした、てか?」
「うっさいぞ、ぬえ……いや割と否定できんけども、実際身内にそれらしいの居るし」

同族嫌悪ではとその場に居た四人目、ぬえに突っ込まれ、布都はやや力無く言い返した。
といっても否定はできない、実際一族に二代後に荒御魂そのものになった男、更には最も近しい存在である屠自古もまた悪霊寄りの霊である。
だから、渋々そのことを認め、近い存在として荒御魂への危険性を説いた。

「まあ我の極端さは認める、一度死を知った以上人の感性がブレるというか……故に騎士も暴れた、そして……」
「あのエリスってのはそれ以上に不味いってこと?」
「うむ、一度人に混じったことで安定しただろうが……それが分離し元に戻ったことで今の暴走に繋がっている、そしてその目的は復権と支配じゃ。
……この目的の為ならあれは妥協せん、ならば……周りで止めるしかあるまい」
「つまり力づくと……何だいつも通りじゃん」
「おおっ、確かにその通りじゃのう……」

わかり易い結論に、嫌そうな表情から一転してチルノがやる気満々に笑った。
その割り切りに布都、そしてパチュリーとぬえも苦笑の笑みを浮かべる。

「ふふっ、相変わらずね、氷精は……そろそろよ、準備を」
「面白いね、こいつ……じゃ、持ち場に着こうか」
「チルノ、それでは……先の言葉、期待しておるぞ」
「おうよ、あたいに任せな!」

近づく音と気配、一同はバッと飛び立ち四方に散っていく。
チルノが冷気を集め、パチュリーが魔導書を開き、布都とぬえが強弓を構える。
そして、四人の視線の先に、ついに弾幕を打ち合う霊夢達とエリスが見えた。



「行けっ、魔眼よ!」

ドガガガガガッ

エリスが指揮者や上等軍人のように腕を振るい、それに合わせて五つの魔眼が弾幕をばら撒く。
二重の結界が防ぐも押され、ガリガリと削られていく。
霊夢と早苗は互いを見て頷くと、結界を放棄し後退した。

「早苗!」
「はい、ここは……」
『……逃げるが勝ち!』
「ちっ、待て、ここまでやっておいて……唯で済ますか!」

タッタっと二人の巫女が下がり、それをエリスが怒りに任せて追った。
チラと肩越しにそのことを確認すると、霊夢と早苗は時折牽制しながら只管『目的地』まで走っていった。

「(良し、このまま引きつけて……)でそれはそれとして……」
『牽制……とりゃああっ!』

ヒュッ
ヒュッ

霊夢と早苗は封魔針と鉄の輪を投擲し、巨眼にはダメージにこそ成らないが相手との距離を維持した。

「とう、やあっ……ちぇ、ああもデカイとキリがないかしら?」
「そうですねえ、でも少しでもダメージを重ねて……うりゃりゃ!」

大量の霊体を掻き集めて作った巨眼はびくともせず、だがせめてもと二人は牽制し続けた。
それにより距離が中々詰められず、エリスが苛立たしげに叫んだ。

「貴様ら、どこまでも邪魔を……霊共がどうなろうと関係あるまい!?」
「はっ、残念だけど、巫女としては……あんた等オカルトが我が物顔で振る舞うのが問題なの!」
「現代社会、都会のど真ん中でこんな事件なんて……人心を静めるのも私達の仕事ですから!」

ドガッ

「ぐおっ、巫女共め……」

霊夢と早苗は責任感露わに言い返し、それまでで最も強く牽制弾を放った。
それでやっと相手が怯む、それを見て二人は直ぐ様大技の為に霊力を溜め始めた。
慌ててエリスは怯んだ巨眼を叱り、攻撃させる。

「ちっ……何をしている、止めろ!」

ドガガガガガッ

彼女の叱責で巨眼が弾幕をばら撒く、視界の大半を埋め尽くすそれに霊夢は一瞬考え込んだ。

「避けるか防ぐか、いやあの量は……早苗、『散る』わよ!」
「散る、って……はい!」

同時に掌に小規模の弾幕を浮かべ、タイミング合わせて互いへと打ち出す、弾幕は相殺しそれなりの衝撃と成った。

ドゴッ

『で、同時に……仕掛ける!』

霊夢と早苗は弾かれたように左右に跳んで、二方向からエリスへ反撃する。
二人は貯めた霊力を開放、大規模の弾幕を展開する。
霊夢は無数の霊力弾を、早苗は霊力を乗せた風を放った。

『神崩れ……覚悟!』
「ちっ、集まれ、魔眼!」

予想外の挟撃にエリスは咄嗟に攻撃の手を止め、五つの巨眼を自分の周囲に集結させた。

「……行くわよ、夢想封印!」
「反撃です、八坂の大風!」

ズガンッ

「ぐっ!?……ま、魔眼よ、凌げ!」

ギシギシと異形の瞳の防御が歪み軋んで、エリスは引き攣った表情で下僕達を叱り守らせる。
その壁が揺れに揺れ、辛うじて形を保ったところでやっと弾幕が途切れる。
が、異形の眼達の隙間から外を見たエリスが絶句した。

ヒュッ
ガガガッ

「何っ!?」

四方から色取り取りの弾幕が放たれたのだ。
こうして、決戦は始まった。



第三話 無自覚な迷子達・九



ドガガガガガッ

弾幕が落ちた、絶句したエリスはそれでも対応しようとする。

「うおおっ、ま、魔眼よ!」

彼女は慌てて異形の目達に防御させようとする。
まず、落ちたのは二条の矢、それぞれ違う力、霊力と妖気を帯びていた。

ザシュッ

「ぐあ……」

一撃目が彼女を守る巨眼の壁の一つを傷つけ綻びを作り、続けて襲いかかった二撃目がその隙間を正確に抜いた。
それに深々と肩を貫かれて彼女は大きく体勢を崩した。

バアッ

そこへ続けてパチュリーの魔法、豪雨がエリスに襲いかかる。

「ま、魔眼よ、私を守れ!」

エリスは無傷の目達に迎撃させる。
ばら撒かれた弾幕が水の天井を砕き、唯の飛沫として散らせた。
が、次の瞬間エリスの顔が凍りつく、最後に来たのは季節に合わない大寒波だった。

ビュオオッ

それにより飛沫は無数の氷の刃に変わり、更に寒波によって勢い良く押し流された。

「しまった、これは……」
「あら、二段構え……チルノはやる気のようね」
「……くっ、こんな事で……負けてたまるかあっ!?」

離れた所からの霊夢の呑気な言葉に、それに顔を顰めながらもエリスが自ら弾幕を放ち目達にも援護させた。

ドガガガガガッ

降り注ぐ氷の刃をエリス達の弾幕が撃ち落としていく。
十、二十と撃ち落とし、幾らか撃ち漏らしは巨眼を壁にする。

「数が多っ、ぐあっ!?」

数発掠りエリスの顔が引き攣る、だが彼女は悲鳴を上げる霊体の体に叱咤し迎撃を続ける。
直ぐに数は数十を増し、百を超え、そこでやっと勢いが衰える。
氷の破片が足元に積もる程に成り、エリスは最後の刃を魔眼共に吹き飛ばした。

「うおおっ、まだだ……はあ!」

ドガアッ

最後の弾幕を落としたエリスは周囲を素早く見回す。
傷ついた眼を再生し、それと共に遠距離からの攻撃を警戒しつつ霊夢達を睨んだ。

「まず二人を片付けて……」
「……そう上手くいくかしら?」
「何?」

すると霊夢がニヤリと笑い、気弾を足元に叩きつけた。

「陰陽玉将!」

次の瞬間ブワッと氷の粒が巻き上げられた。
周囲が真っ白に染まり、そこへ彼女達の声だけが響く。

「目晦まし?……貴様、何のつもりだ!?」
「ふふっ、直ぐに……わかるわよ」

奇襲を警戒しエリスは顔を顰め、少し考えた後魔眼を周囲にやや離して配置した。

「ちっ……魔眼よ、警戒態勢だ!」

それは霊夢達に対応し迎撃する為の動き、消去的だが堅実だった。
だが、彼女はあることを見落としていた。

「これであいつ等がどう来ても……」

ザシュッ

そう思った瞬間だった、虚空が裂けそこから突き出された『二振りの刃』がエリスを貫いた。

「えっ……がは!?」

ゆらりと目の前の空間が揺れた、大小2つの歪みがあった。
それは自分の直ぐ眼前、本来なら気づけたかもしれない。
だが、霊夢達を警戒しすぎていたからそこへの注意が疎かに成っていた。
そして、歪みから二人の少女が現れた、どちらもメイド服を着ている、但し片方は人より更に小さい人形だった。

「テゴタエ、アリ、カナ?……ツイゲキ」
「ええ、そうね、『姪っ子』……エリス様、お覚悟を」

生き人形のアリスと魔界人『夢子』(小悪魔に喚ばれ慌ててとんできた)が隠形を解除し、更に短剣を振るった。
交差した白刃がエリスの体を深く切り裂いた。

ザシュッ

「があっ!?」

霊体を削られて慌ててエリスは下がる、同時に魔眼で目の前の二人を撃とうとした。

ギギッ

「何だ、動きが……」

が、突如魔眼は凍りついたようにその動きを止めた。

「う、撃て……何故動かない!?」
「……そうはさせないよ」

そこへ白い影の限りなく冷たい声、物陰から現れたインデックスがエリスを睨んで言った。

「……甘い、スペルインターセプトだよ」
「あの時のシスター、また貴様か……」
「騎士の魔力はよく知ってる、その霊で作ったのなら……私が止める!」

この言葉には強い怒りが有った、騎士への怒りもあるが同時にそれ等死者を利用するエリスへの怒りだ。
彼女は敬虔なシスターらしい感情のままにエリスを妨害する。
そして、すかさず生き人形のアリスと夢子が三度その刃を振るった。

「ヤアッ!」
「せいっ!」

ザシュッ

「ぐあ、おのれっ、魔界人等に……」

体を切り裂かれながら彼女は魔眼を、インデックスにより反応の鈍い魔眼を強引にアリス達に向かせる。
だが、弾幕の寸前、彼女達はニヤリと意味深に笑った。

『……こっちだけ見てていいの?』
「何?」

すると彼女達は突いた刃を残して後方へ、インデックスも素早く踵を返し物陰に隠れる。
そして、エリスを挟んで二箇所で膨大な霊力が輝いた。
エリスと魔界人にインデックス等の攻防の間、ずっと霊力を貯めた霊夢と早苗が弾幕を展開した。

「し、しまっ……」
「三人が引き付けたから、溜めは十分……夢想封印!」
「隙だらけです、貰いました……八坂の大風!」

ズドンッ

「ぐっ……」

エリスと魔眼の迎撃は間に合わない、三人に気を取られて反応が遅れ直撃する。
彼女達は纏めて高々と吹っ飛ばされる。
そして、霊夢達も後方に跳んで、それと同時に四方に散っていたチルノ達がすかさず追撃の弾幕を放った。

「サイレントセレナ!」
「大火の……改新!」
「弾幕キメラ!」
「……パーフェクトフリーズ!」

バアアッ
ドゴン

「ぐあああ!?」

エリスと魔眼でも撃ち落とせない程の、量を重視した弾幕が襲いかかり、空中の彼女を揉みくちゃにする。
風の中の木の葉のように翻弄し、彼女と魔眼はベチャと地面に叩きつけられる。

「馬鹿な、私がここまで……えっ?」

そして、彼女は最後にその光を見た、天上でビカビカと輝く紫電の光を。

「な、何だあれは……」
「……終わりよ、良くわからないけど奇妙な幽霊さん?」
『……覚悟は良い!?』

十メートル程か、三人の少女がエリスを見下ろし宣言する。
雷の羽の天使に導かれ、超能力者とその妹が眩く輝く十字架を突き付ける。
人と落ちた神のエリス、それを巡る戦いは遂に終局を迎えた。



「……勝ったわね」

ボソと戦いの余波から逃れる位置で霊夢が呟いた。
その言葉には確信があった。

「ふふ、ここまで予定通り……ま、そう凝った段取りでもないけど」
「……みたいですねえ、私達が誘き寄せてから布都ちゃん達に不意打ちさせると」
「で、そこで第三位にバトンタッチ……相手を削りつつ注意を向けさせ、そこへ最大戦力を投入、耐えられるものではないわ」

物騒な巫女二人はニヤリと不吉に笑った。

『もう、戦いの趨勢は決まりね……』

クスクスと笑い、その後霊夢は空のある方を見た。

(それに……保険もある、『あいつ等』が来ればチェックメイトよ)



どこかで遠雷が鳴った、それは鋭い聴覚を持つ山育ちの耳にも当然届いていた。

「……グルル、あっちも始まったか」

耳をピクピク揺らして椛は友人達の勝利を祈った。

「ま、あちらを信じましょう、犬走さん……はっ!」

ズバアッ

『ぐわあっ……』

その隣では妖夢が騎士を、最後に残った騎士を切り倒したところだった。
傷口から血の代わりに霊体を零し、透けかかった騎士が悔しそうに呻いた。
彼は嘆きの表情で妖夢達を恨めしそうに言った。

『何故だ、何故我等の邪魔を……』
「何、必要が無いということ……現世は生者に任せなさい、半人半霊の身で言うことではないかもしれないが……いや冥界縁の者だからか」

冥界の一員として妖夢は周囲に倒れる騎士達に告げた。

「死者達よ、貴方達は役目を終えている、恐らくずっと前に……後は貴方達の神がその元に迎え入れるの待つのです!」
「エリスとやらは私の友達が、そしてその仲間が止める……だから安らかに眠っていなさい!」
『……良いだろう、エリスを止めるのは誰でもいい、しくじれば我らが動くだけ……』

バアっと彼等は散っていく、どの道相手の方が強い、言う通りにエリスを任せることにした。
この後何もなければ成仏(西洋風に言うなら浄化)を待つことになる。

「行ったか……エリスを止めれば、それで奴らの未練も薄まるでしょう」
「なら、自然に無害化するということですね」
「ええ、だからこの場はこれでいい……後はあっちか」

妖夢は戦場の方を見て、ううむと難しそうに唸った。

「向こうは……戦力を集めたから勝てると思いますが」
「……少し心配です、美琴さん達は大丈夫でしょうか」
「ふん、心配するだけ無駄だ、あれは……厄介な連中だからな」
「あら、実体験のような言葉……ま、結果を待ちましょう」

釣られ椛、それに後方で援護していた垣根にパルスィもそっちを見て各々心配やらをする。
戦いを終えた四人は向こうの決着を信じ待った。

ビュウッ

丁度その時だった、風が吹いた。

『……さあ急げ、クライマックスに遅れちゃう!』

彼女達の上を『虹』と『黒』の翼が過ぎていった。



『覚悟は良い!?』

ピシャンッ

美琴と打ち止めは軽く十字架を振った、それだけ爆音が鳴り響く。
慌ててエリスは陣形の乱れに乱れた魔眼を立て直そうとした。

「ま、魔眼よ、戻っ「遅いっ」……何!?」

が、氷華が翼を羽ばたかせ、それにより魔眼の準備が整う前に開戦となった。
エリスと美琴達との距離が一瞬でゼロと成る。
辛うじて魔眼が間に合うも弾幕を放つ時間はない、五つの魔眼が壁となり振り下ろされた十字架を受け止めるのが精一杯だった。

「くっ、魔眼よ!」

ガギィンッ

咄嗟に壁として組ませたことでギリギリ間に合う、だがギシギシと異形の眼による壁は十字架により軋んだ。

「……とりゃああっ!」
「合わせるよ、お姉様……やあっ!」
「頑張って、二人共!」

美琴と打ち止めが息を合わせて十字架を振るい、その二人を氷華がしっかりと支える。

ギギギッ

「う、うあ……」

更に強まった十字架の圧力に魔眼の防御が歪んだ。
慌ててエリスは魔眼に手を当て、自らの身体を崩し防御の綻びを埋めようとする。

「ま、まだだ、私の霊力を使って、ここを凌げば……私はまだやれる!」

自分自身を削り、魔眼はその威力を増す、再び押し返し均衡となる。

「へえ、やるわね、でも……」
「うん、押すよ、お姉様!」
『やああっ!』

ギギッ

だが、再び十字架が押した。
原因は向こう見ずな程の感情、彼女達にとっては姉妹の絆であり負けられないという気持ちの強さはそのまま重さに変わる。
ぐぐっと魔眼はゆっくりと押し込まれていく。

「くっ、ならばギリギリまで……」

再び押される魔眼にエリスは再びその体を削る。
半分程その体が透けて、それと引き換えに魔眼が互角まで持っていった。

「まだだ、これなら……」
「……『彼女』の読み通りね」

その瞬間美琴がニッと笑い、それにエリスはぞっとする気配を覚えた。
行き成り美琴達が下がった。

「それも……霊夢のお姉さんが読んでた!」
「自身を削って強化、ええ予想通り、なら一撃必殺を狙うのは……『その後』よね?」
「下がります、捕まってて!」

バッと十字架引いて三人が後退、氷華が姉妹を抱えて翼を一打ちする。
瞬時に数メートル程距離を取り、その行動の意味が読めずエリスは訝しんだ。
だが、そこで美琴がとある絶望的な事柄を言った。

「ここに来る前にね……『烏を連れた女性』がとある『建物』に行ったそうよ」

美琴が天を指す、キラと七色の輝きが見えた。

「……その建物、『三沢塾』って言うんだって」
「ひゃっほー、美味しいとこ貰い!」

エリスは数人の影を見た、『七色に輝く翼の少女』と『漆黒の翼の少女』が『黒髪の少年』を左右から抱えて飛んでいた。

「ふふ、男の人は重いけど……二人がかりなら軽いもんだね!」
「ええ、烏天狗と吸血鬼、最速を競う二大種族の……奇襲を喰らえ!」
「……風が諸に来るんで、さっさと頼む」

ヒュバッ

二人の少女は息を合わせて急降下、落下寸前に減速する。
そして少年が、上条がそこから飛び降りて、魔眼の壁に拳を叩きつけた。

ドゴン
バギンッ

「ば、馬鹿な、魔眼が……」
「……ふう、後は任せた」
「先輩!?」
「俺は今回はアシストってことで……三人は本体をやれ、他は一緒に来た奴らが何とかする!」

十字架で軋んでいたそれは耐え切れず、バラバラと陣形が崩れていく。
そして、すかさず少年の輸送を終えた二人、フランドールと文が追い打ちに向かう。

「フォーオブ・ア・カインド……天狗さん、一体任せた」
「……了解、幻想風靡!」

まずフランドールを追い抜いて文が魔眼の一体に蹴りつけ、思い切り高下駄を叩き込んだ。
ベコンとその形に凹ませた状態で沈ませ、残りの四体はフランドールが杖を手に襲いかかる。

「フランドールさん!」
『おう……うりゃあ!』

ザシュッ

連携の取れない魔眼を深々と杖が貫き、彼等はフランドールと分身によってアスファルトへと貼り付けにされた。

「魔眼はこれで動けない、後は……」

上条とフランドール達が後方、二度目の能力行使に集中する美琴達に叫んだ。

『よし、今だ!』
「ええ、任せて!」
「行こう、お姉様!」
「……送ります!」

再び氷華が雷光の翼を一打ち、一瞬でエリスとの間合いを詰め直す。
氷華はエリスの眼前で急停止、そこで左右の手に抱えた二人を見た。
コクと頷いて美琴と打ち止めが手を掲げる、その掌中で雷光がバチリと鳴った。

『……吹っ飛べ、やあっ!』

ズドンッ

「がああああっ!?」

そして、轟音、それに遅れて悲痛な悲鳴。
振り下ろされた十字架がただ一人と鳴ったエリスを高々と吹き飛ばした。



「……お見事、御坂さん」
「霊夢さんこそ……」

バシンと霊夢と美琴が手を打合せた。
もう戦闘には成らない、後は仕上げだけだ。

「人形、手伝って」
「ハーイ!」

ヒュッ

生き人形のアリスが創造主仕込みの糸捌きを見せた、グルグルとエリスを捕らえる。
相手は藻掻くが美琴達にやられ殆ど力はない。
更に人形は霊夢に糸を投げ、彼女は素早く退魔の霊力を込めた。

「はい、動くな」
「ぐあ……」

これに苦しそうにエリスは藻掻き、がそれ以上せず霊夢は少し考え込む。
この魔物とも悪霊とも言えない存在を『消す』ことは出来る、がそれは人の方のエリスを巻き込むことになってしまう。
だから、少しだけ待った、直ぐに『けたたましいエグゾースト音』が聞こえてくる。

「巫女の姉さん、アイテムだ……必要そうなの、送ってきたぞ、ほれ」

大型バイクが突っ走ってきて搭乗者がメットを開ける、その逞しい長身の少年は同行者を促す。
同行者、美琴と同じ顔の少女がバイクから降りて書類を見せた。

「霊夢さん、これを……ぎりぎり調べ終わりました!」
「……ふう、良かったわ、それが必要そうでね」
「一方通行に応援頼みに行ったら、逆にその子のエスコート頼まれてな……間に合って良かったぜ」

アイテム構成員、浜面に霊夢達は手を振りつつ書類を慌ただしく捲る。
そして、目的のページを見つけ、素早く目を通すとエリスの方を見た。

「……少し話をしましょう、『シェリー』さんの友人の『エリス』君?」

ビクリと霊夢の言葉にエリスの体が揺れた。

「シェリーさんは君のことを心配していたわ、魔神なんかに憑かれてていいの?」

その言葉は魔のエリスを無視し人のエリスに直に掛けた物だ。
まるでそれは染みこむように、魔神の押さえ込むエリスに耳に入っていく。
動揺に気づいたか霊夢は更に語気を強めて言った。

「騎士による襲撃事件、沢山の被害者が出た……そんな中最も凄惨な現場で生き延びた少女がいる。
その少女は騎士に包囲され、だけど無傷で助かった……貴方が助けたの、覚えているでしょう」

ピラと書類のあるページを見せた、褐色の少女の写真がエリスに見せつけるように広げれる。
唯それだけで人と魔のエリスのバランスは不安定となっていった。

「あらそうなると問題、その魔物に憑かれていては何時人を害さないとも限らない、その中に……折角生き延びたシェリーさんが入らないといいけど」

ブルリとエリスの体が揺れる、それは魔神の意思ではない、少しずつ人のエリスが目覚めているのだ。

「更に……傷心の少女が今どうしているか、人のままの貴方と会えば幾らか心の傷を癒せるかもね」

そう言って霊夢がシェリーの写真を指し示す。

「かなり傷ついていたみたいよ、それに……彫刻家の卵だったらしいけど不思議なことがあってね。
……幼馴染が調べたんだけど、今はその道に居ないってさ、もし辞めたなら切欠は貴方かもね」

一方通行が気を回し調べた情報を伝え、霊夢は最後に止めとなる言葉を言い放った。

「優しいシェリー、あなたの友達のシェリー、彫刻家の卵のシェリー、でも今は違うかも……さあ何時までそうしてるの、人に戻らねば会うことすら出来ないわよ?」

刃のような言葉が刺さった、傷心なのは間違いなくまた彫刻を止めた理由は無関係ではないだろう。
魔神の手の中では会うことすらままならず理由も聞けない、それどころか魔神に操られ害する中に友が居る可能性もある。

「よ、止せ、我が器が……」

魔神は必死に言うが、人のエリスの抵抗はどんどん強くなっていく。
それを見て霊夢は後方に手招きする、直ぐに早苗とオッドアイの少女が飛んできた。
二人は褐色の肌の少女を抱えていた。

「ほら、エリス君、本人ではないけど……貴方を心配し、その身を分けて生霊となる程に想っている子よ」
「そこまで想っている子が居るのに……たかが落ちた神程度、好きにさせていいんですか?」

その瞬間ひときわ大きく彼の体が揺れて、すかさず霊夢と早苗は捉えていたワイヤーを引いた。
それは体を摺り抜け、少年の体から一人の少女を一本釣りにした。

「はい、分離成功」
『ば、馬鹿な!?』
「……そこまで否定されて一体化の維持なんて出来るわけないじゃない」
「残念でした、魔界へお帰り……人形さん、出番ですよー」

霊夢と早苗が力任せにエリスを高く上げて、着地点に回り込んだ人形とメイドが羽交い締めにする。

ガシイッ

『は、離せ!?』

が、生き人形のアリス、真紅の魔界神を模した格好の彼女はしっかりエリスを保持した。
嘗てエリスが勝てなかった存在、それとほぼ同質の魔力はエリスを完全に抑え込んでいた。

「ダメデース……モードチェンジ『魔界神』!」
「『姪っ子』、そのまま捕まえてて、送還用魔法陣を用意するから。
……博麗様、魔界の者が失礼しました、今度こそ更生させます……何千年掛けようと母と私達とで」

そのままズリズリと、エリスは二人に引き摺られていった。
そして、それを見送った霊夢達はエリスとシェリーを促す。
二人は頷き合い、どちらも涙を浮かべて抱きついた。

「ほら、再会でしょ……もう離しちゃダメよ」
『……うん』

ひしっと抱き合う二人を霊夢は撫でて、その後大きく手を叩いてから周りの一同に言った。

バンバンッ

「さあ一件落着、戻るわよ皆……軽く宴会でもやるから楽しみにしてなさい!(ボソッ)鈴科君の奢りだけど……」

この戦いは、異変は終わったと彼女は宣言した。
こうして自覚なき(その生死すら)迷子達は『あるべき所』に行くのだった。



そしてその裏で、人知れず『あること』が起きていた。



ドガシャアアッ

廃墟じみた研究所、その地下で騎士が二人の少女に打ち倒された。

「ようし、スコア追加!」
「さて次は……あん、雰囲気が変だぜ?」

二人の少女、涙子と魔理沙が周りを見て首を傾げた。
騎士の生き残り、それに倒れた者達から殺気が薄れている。

『奴が消えた……我らの負けだ、潔く引こう』
「ふむ、外で何か起きたと……行って、静まったままなら荒ぶる情念もいずれ消えるでしょう」

涙子は頷いて行かせ、騎士達は神妙に頷いてスウッと姿を消す。
それ等を見送った涙子はほうっと安堵の息を吐いた。
断面を氷で塞いだだけの腕を庇いながら、そっと伸びをし体の緊張を解した。

「……ふう、終わったようですね」
「……みたいだな」
「はあ、やっとか」

魔理沙と前衛で傷だらけのアルファも同じように楽になる。
特にアルファは強制的に敵の目の前に行かされ、ボロボロの装甲かつギシギシ動く度軋むスーツに顔を引き攣らせている。

「ああもう、整備が大変だ、ボーナスでも貰わんと割に合わんぞ」
「ま、確かに頑張ったもんなあ……口添え程度はしてやるぜ」
「助かるよ、特別顧問殿……」

嘆くアルファは労ってくれた魔理沙に感謝するのだった(そもそも前衛やらせたのも彼女だが)

「……そろそろ出ようぜ、疲れた」
「あ、少し待って、魔理沙さん……毛玉ちゃんに水蛇ちゃん、散って!」

こんな寂れたところでは満足に休めないという魔理沙の言葉に待ったが掛かった、涙子が少し待たせて眷属を辺りに放つ。
そして、蛇の一体が何かを咥え持ってきた。
魔理沙は不思議そうにどうしたのかと問うた。

「……どうした?」
「所謂霊場ですから、供養でもと……ほら、これです、誰かの『忘れ物』を」

彼女は『小さな白い破片』と『赤錆びた物の付いた髪の毛』を大事に持って見せた。

「小さいね、『子供』で、この傷は『鈍器』かな……忘れられたままっていうのは可哀想ですからね」
「……そうだな、弔ってやらないとな」

涙子は犠牲者、『ある少年』の体の一部を大事に懐に仕舞った。
せめてこの場にいるものくらいは安らかに手を合わせよう、そう考えてのことだ。



彼女の情け、それは本来個人的なものだった。
だが、それは遠くない日に、復讐者となった女性に関わる事件で再び世に出ることに成るのだった。



・・・という訳でエリス編とりあえず完。
今まで上条やチルノ達、後霊夢一方通行周り以外の幻想郷と科学都市の関係が薄いので(前回と今回で)多少それぞれの親交を深めてみました。
これで今までより双方のクロスオーバーがし易くなる筈、多分・・・

以下コメント返信
うっちー様
ええはい、巫女は容赦ありません、だって幻想郷の巫女は(殴って)人外とめるので・・・ダブル巫女書いてて楽しいのでまた組むかも。
終盤はエリス側と騎士側、別々の戦場での決着が必要で・・・そこで剣士二人に決着をつけてもらいました、騎士もただ暴れるよりはマシな終わり方でしょう。

九尾様
魔界神様は何故か優しげで器の広いイメージ、娘的存在のアリスが幻想郷で屈指の女性的キャラだから?・・・なのでこのSSでも人格者、聖は大人な女性仲間かも?
・・・エリスに限らず靈異伝は(描写少ないし)問答無用な人揃いに感じます、作中ではそれが諸に出てます・・・新作位まで行けば合わせつつ、逆に振り回せるか。



[41025] 3話エピローグ&3.5話『再会』
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/10/02 20:56
無自覚な迷子達・エピローグ



ガヤガヤ

その日とあるファミレスは喧騒に包まれていた、超能力者やら人外やらが騒ぎまくっている。

「……殆ど貸し切りだし、店の奴らには後で礼を言っとくかねェ」

時期が時期なので何時もの向日葵畑は使えず(後アイテムは事後処理で忙しかった)この場での打ち上げとなったのだ。
とはいえ、金は多めに渡してあるし、また何故かとある少女が店にコネを持っていたので話はスムーズにすんだが。

『ここは本格アンティーク志向、だからこの私……アリス・マーガトロイドがデザイナーとして噛んでるので大丈夫よ!』
『あァそうですか、副業ってとこか……これ、文化侵略?』

娘とその友達への見栄か、某人形使いの親馬鹿がそんなことを言っていたが面倒なので誰も突っ込まなかった。

「……終わってみればだが、今回の事件は……まァ、そこまで派手でも無かったな」
「そうですねえ、一方通行さん……あ、ミサカちゃん、ケーキ来たみたい、一緒に食べよ!」
「……仕方ない、小悪魔は今回頑張りましたから」
「ごめんなさいね、ミサカ……今日は相手してあげて」

この会のスポンサーである一方通行が呑気に言って、それに小悪魔が相鎚しつつミサカとの食事を楽しんでいる。
仕方なさそうに付き合う彼女に小さくパチュリーが頭を下げたのだった。

「ま、今回は大目に見てやるか……あァ八雲さン、人斬りと烏はそのまま送還してくれ」
「仕方ないわねえ、まあせっかくのパーティーを滅茶苦茶にするのもあれだし……」

それに一方通行は苦笑した、尚彼を狙って妖夢と黒い方の垣根が襲いかかってきたが突如開いた『隙間』に飲まれ藻掻いていた。

『おのれえ、見捨てた借りも返してないのにい!?』
「……ふう、助かったぜ」
「ふふっ、これは貸しだからね、少年」
「むっ、早まったか……そのうち返すぜ」

復讐者二人を幻想郷に放り捨て、八雲紫は妖艶に笑って一方通行はやや顔を引き攣らせた。

「一方通行の方は何か大変みたいだな」
「そうだね、かみじょー」
「イマサラジャナイカナ、オニイチャン」

向うの様子に引き気味に笑い、その後上条にチルノ、その頭に乗っかってた人形は別の一角に視線を移した。
そこでは美琴と氷華、それに椛が仲良く食事を楽しんでいた。

「お疲れ様、二人共」
『そちらこそ、美琴さん』
「ええ……じゃ食べましょうか、二人は苦手なものある?」
「私は特に……」
「敢えて言えば葱類、それとチョコレートが……」
『……ああ、犬科だからね』

そんな風に和やかに三人は互いを労い、また楽しそうにしていた。

「ふふっ、今回は色々あったけど……ま、終わってみれば新しい友達二人、そう考えれば良かったのかしらね」
「そうですね、ルーミアちゃん達以外にもそういうのが出来て……私も嬉しいです」
「はい、こちらも……山の仕事、文様達への届け物が有ればまたここに来ることもあるでしょう。
……ええと、その時お会いしてもよろしいでしょうか」
『ええ、当然!』

オズオズと椛がまた会えるかと聞けば、美琴と氷華は頷き即答する。
一度友達になれば出会い方も時間も関係ない、三人は明るい笑顔で笑い合った。

「ありがとう、その時はお願いしますね」
「ええ……で、その時は人型と子犬型、どっちで?」
「あ、それは悩ましい……今は格好良くて、前は可愛い、これは難しいですねえ」
「……わふっ、忘れてくださいよう」
『あはは、ごめんね』

ヘニョンと耳を萎ませて椛は力無く鳴いて、ごめんとばかりに二人は頭を撫でたのだった。

「わふん……そういえば節姫は?」
「あン?……そういや姉貴も居ねェなァ」
「あ、魔理沙とかもいないよ!」

暫くそうしてから、顔を赤くした椛がふと面子に欠けがあることに気づいた。
他にも数名居らず、一方通行他何人かは首を傾げた。

「ああ、その方々なら何人か連れて出ていきましたよ」
『……何だ、急な用事でもあったか?』



3.5話 再会



それは巫女の言葉から始まった。

『生霊の娘、貴女にも帰る場所が有るんじゃないかしら?』

少年に憑いた魔性は消えた、騎士も沈黙した。
だが、一つだけ残っていた。
本当の意味で全てを終わらす為に、だから分たれた少女は一つとなった。



「エリスの夢、いやそれだけじゃないような……」

それは何の変哲もない一時の仮眠の筈だった、だけど褐色の肌の女性がベッドから起き上がって、突如起きた変化に首を傾げる。
複雑な感情、『憎悪』と言っていい程の学園都市へのそれが何故か薄れていた。

「……馬鹿な、私は戦争しに行くんだろうが」

自分の奇妙な感覚に訝しみ、首を傾げながら鞄を寄せる。
そこには彼女得意の操霊による傀儡、所謂ゴーレムを操り戦わせる為の触媒がある。
それを使い、彼女は学園都市に戦争を仕掛けるという使命があった。

「……なのに、何で今更迷ってるんだよ」

何故か使命感、その大元である憎悪が薄れていた。
そのことに女性、ゴーレム使いのシェリーは困惑する。

「エリス、私は……ちっ、後戻りなんて出来るか」

シェリーは迷う自分に言い聞かせて歩き出した、学園都市と戦争をする為に。



「来たわね……生霊との統合も無事完了、後は恨みに一区切り付けさせるだけ」

霊夢が見下ろして言った。
まだ事件終わっていないという勘は大当たりだった。
エリスに魔術を教えていた少女のことが気になって、インデックス及びその友人の赤い牧師に照会を頼んだことも。

「やれる?今回の事件、消化不良で力の余った……暇人二人?」
「はっ、当然だぜ!」
「ええ、任せて下さい……天神の加護ぞ在れ!」

霊夢が問いかけ、それに金髪と黒髪、魔理沙と涙子は力強く頷いた。

「よろしい、じゃ……段取りはこっちでやるから準備してて」
『おうともよっ!』



ザッ

「お前は……」

赤髪の男がシェリーの前に立ち塞がった。

「やあ、シェリー……止まれ、君の目的を遂げさせる訳にはいかない」
「……ネセサリウスのルーン使い、何故ここに」

二人は睨み合う、同じ教会に所属し、だが二人は仲間とは到底言えない関係だ。
シェリーは学園都市を危険視し、強引に先制してでも制圧したいと考えている勢力に居る。
一方で赤髪の男、ステイルは(現時点では)学園都市とは中立を保ちたい勢力の一員だ。

「あんた、上の命令で邪魔しに来たの」
「そのつもりだが……もしかしたら必要ないかもね」
「……何ですって?」

相手の言葉にシェリーが訝しんだ瞬間だった。
ポンとその肩を誰かが叩いた。

「……え?」
「こういうことよ、亜空穴!」
「え?……うおおっ!?

何時の間にか現れた紅白衣装の少女がドンッと突き飛ばし、シェリーを空間の裂け目へと落とした。
そして、少女はフウと一仕事終えた感じで一息吐いた。

「よし、今日のお仕事終了……後は暇人に任せればいいわ」
「……だと良いんだがね、巫女殿……ま、任せるしかない、結果待ちだな」



金と黒髪、二人の少女がじっと待つ。
そして、それは来た、空間が裂けて褐色の肌の女が現れた。

「……来た」
「ああ……先手は任せるぜ、佐天」
「ええ、では……行きます」

段取りは決まっている、だからまず黒髪、涙子が前に出た。

「東風吹かば……」

褐色の女性、シェリーは戸惑いながら鞄を開く。
彼女が触媒を使い、辺りの大地がせり上がり土塊が人型となった。
だが、涙子はそれに構わず詠唱を続ける。

「匂い起こせよ梅の花……」

これにシェリーは不吉さを感じ、巨人の肩に飛び乗って友と同じ名を持つそいつを突撃させる。
だが、その攻撃が当たる寸前涙子が軽く地を蹴る。
風に乗って頭上に飛び上がった彼女が詠唱を完了させた。

「主無しでも……春を忘れるな、『零の奇跡』天神の飛梅!」

唐突に彼女を中心に白梅の花吹雪、数秒後それが治まると大樹が出現する。
その頂点に降り立った涙子はニヤリと手を振り下ろした。
するとバアッと大樹の無数の枝が再び白梅の花吹雪を吹かせた。
それ等の半分はバチバチと紫電を瞬かせ、残りの半分はピシピシと冷気を発している。

「ちっ……防御だ、エリス!」

小回りの効かない巨人では躱せない、シェリーは巨人に防御態勢を取らせる。
が、その瞬間花吹雪を囮に使い、花弁の影から涙子が飛び出した。

「真の一の怪……怪奇、今の世に蘇る鬼の影!」

ズガンッ

巨人の胴を雷光を纏った蹴りが打ち、それで防御態勢が崩れ花吹雪が直撃した。

「ぐうっ!?」
「まだです!」

シェリー達が怯んだ瞬間涙子はすかさず追撃しようとした。
『天神の飛梅』による強化を更に重ねて次の弾幕を放とうとする。

「……エリス、近よらせるな!」

倒れかかった巨人を維持していたシェリーは咄嗟に拳を震わせる、倒れながらの打撃が涙子へ放たれた。
ズズンッと振り下ろし土煙が上がる。
だが、そこへ涙子の叫びが響いた。

「真の二の怪……夢か現か、不吉なるドッゲルゲンガー!」

次の瞬間人影が土煙を裂く、それも二箇所同時にだ。
左右から二人の涙子、全く同じ姿の少女が飛び出した。

『さあ、どっちが夢か現か……当てられるか!?』
「くっ、右か、いや……」

シェリーが目を見開き必死に生後を見極めようとした。
が、それは同時に『左右だけ』を見ているということだ。
一瞬遅れて、頭上に『影』が跳んだ。

「……残念、どっちも外れだ!」

ズドンッ

「何!?」
「……正解が左右といったか?後世間に似た人は三人と言うでしょ?」

雷光を纏わせた拳を打ち込んで『本物』の涙子がニヤリと笑い、その後左右の分身に合図を出す。

「やれ、ドッペル共!」

ズドンッ
ズドンッ

更に続いて分身による挟撃、雷光の拳が巨人の胴の三箇所に傷を穿った。
そして、一撃目に与えた傷と合わせて四つの傷が突然ボンと弾ける。

「雷光よ、縛れ!」
「くっ、待ってて、今直して……」
「……おおっと、それを待つ気はないぜ」

四つの傷から雷光が吹き出し、巨人の内部を焼いて更にはその動きを封じる。
慌ててシェリーが修復しようとしたが、それよりも早く次が来た。
それまで下がっていた魔理沙が前に出て、涙子と手を打ち合わせた。

「魔理沙さん、バトンタッチです!」
「おう、任せな……行くぜ!」

魔理沙が箒を振り被り、それに魔力を纏わせて叩きつける。

ドガアアッ

「ぐわあっ!?」
「……おいおいリアクションが少し早いぜ!」

巨人とその肩のシェリーが高々と舞う、だが魔理沙の攻撃は終わりではない。
彼女は箒に飛び乗り、ミニ八卦炉に力を込める。
そして、魔力を噴射力に変えて、突撃した。
その様を巨人より上に飛ばされたシェリーは唯見送るしかなかった。

「や、止め……」
「断るぜ、サアンッ……グレイザアアアァ!」

ギュオオ
バキンッ

一条の彗星が空へと駆け抜けていく。
幾ら巨人が頑丈だとしてもそれは十全での話、四つの傷を刻まれては強度は半分もないだろう。
ビキビキと瞬く間に亀裂が全身に入り、巨人を粉々に吹き飛ばされた。

「エリス!?」
「……おっとお前さんにはもうひとつ用事がある」
「ぐっ……」
「残念だが諦めな、だが多分……あんたの本業は芸術家だ、戦闘には向いてないってこと」

悲鳴を上げるシェリーだったが、魔理沙は箒を突き出し先端に彼女を引っ掛ける。
服に絡ませキャッチすると、涙子の前に落とした。
そこでシェリーは見た、いや見てしまった、触媒による巨人の復活を止めてしまう程の驚くべき光景を。

「ほい、バトンタッチだぜ」
「ありがとう、後は私が……『君』もいいよね?」

魔理沙の言葉に頷いて、涙子はヒラと手を掲げ開く。
彼女は『飛び梅』の強化で霊力を高め、それを『掌の中の物』に吹き込んだ。
そこには白い何かの破片が一つ、それは涙子の霊力を受けてボウっと輝いた。

「……霊夢さんに聞いて驚きました、まさか……貴方が『そう』で、彼女もそう……ならば、これを拾ったことは運命だったのかも」
「……そうかもしれない、後は自分が……」

そして、何時の間にかそこに一人の少年が立っていた。
体は透き通っていて、その雰囲気はそれ以上に儚くて、だけど強い意志がその顔に有る。
彼は涙子の持つ破片を受け取るとシェリーの前に立った。

「自分の体の一部、持てば幾らか力と成る、実体にも干渉できる……さあ目的を遂げなさい」
「うん……シェリー、久しぶりだね」

少年がシェリーを見つめる、その瞳を見てしまったシェリーは動けない。
まだ二人の敵が居るのに触媒を構える手から力が抜ける。
凍りついた彼女に少年が、エリスが手を伸ばす、そっと触媒を持つシェリーの手を押さえた。

「エリス、何で……」
「もう止めて、シェリー……復讐なんて君には似合わないよ、『優しいシェリー』、『器用なシェリー』、『芸術家の卵のシェリー』?」

その優しい言葉が止めだった、シェリーはガクリと膝をついて涙を流すしか無かった。

「私は、私は……」
「もう、もういいから」

泣きじゃくる彼女をそっとエリスが抱きしめる、力無く手から触媒がこぼれ落ちた。



「……これで戦争は起こらないわ、復讐の動機そのものに止められてはね」
「ご協力に感謝するよ、巫女殿」

亜空欠で到着しその光景を見た霊夢とステイルはフウと安堵の息を吐く。
特にステイルの表情は明るい、シェリーという強力な人材の敗北はタカ派を慎重にさせるには十分だ。

「……可哀想に、敗北した彼女が助かる筈もないわ」
「ああ、そうだね……死体が残るかすら怪しいなあ」

二人は態とらしい内容の言葉を言い合った。

「独り言だけど、どっかに芸術家の卵が急に現れても……まあ、大したことじゃないわよね」
「ああその通りだ、ところで僕も独り言を言うが……天草、ああ何だったか知り合いの知り合いが裏社会に通じてる、『戸籍』の捏造とか得意そうでね」

霊夢とステイルはニヤリと互いを見て笑った。
霊夢は抱き合うシェリーとエリスを指し示して言った。

「二人を任せるわ、適当に学園都市から遠ざけておいて……何時か憎悪も薄れるでしょ、何せ大事な友人が自分の元に返ったのだから」
「了解だ、巫女殿……こちらこそ感謝する、学園都市では沢山痛い目を見たのでね、戦争なんてゴメンだよ」

頷きヒラヒラ手を振ってステイルは二人に関する細工に向かって、それを霊夢は頑張ってと気楽に手を振って見送る。
その日戦争なんて起こらなかった、学園都市は今日も平和だった。





・・・ええと謝罪します、全五~七話程予定していたシェリー編を短縮し3.5話として投稿となりました。
何というか、前回投稿後に気づいたんです・・・あ、エリスはシェリーの元に帰ったけどシェリーも『あるべき所』にないと意味が無いと。
なので・・・ええはい、本来起きる襲撃事件を前倒し及び簡略化し、そのまま再会部分を重点的に書くことにしました。
・・・短すぎとか思った方ごめんなさい、でもこっちの方が展開的に綺麗なんですよ。

・・・次は多分第四話(やや短めかな?)、幻想郷での話になると思います。
もしくは日常的な番外編を挟んでからかも。

以下コメント返信
中落ち様
いやシェリー本人と生霊は別ですから起こします・・・と行きたかったが変更し一話で終わらせてしまいました、エリスの説得で未遂だから感想はドンピシャかな。

YAMAZAKI様
騎士が悪霊さながらなのは魔界のエリスが未練になってたから・・・消えれば大人しくしてるでしょう、あくまで魔物への執着で戦っていたということで。
あ、本人の方も再会シーンを書いてみました、そっちもどうぞ。

うっちー様
エリスは逆戻り、あ意識してないが確かにサリエルの前振りにしか・・・フルボッコに関しては味方側の見せ場を優先したから、まあこれもボスキャラの宿命でしょう。
・・・アルファと魔理沙の経験の対比は狙ってたので感想にニヤリ、そして佐天さんは手が早いのを除けば常識人で書いてるつもり(前回のは再会のお膳立てでした)



[41025] 第四話 希望を求めて・一
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:ce9d8c12
Date: 2015/10/16 00:09
ある所に一人の男がいた。
彼はレベル七、超能力者であり七人しかいない学園都市の頂点に立つ者の一人だ。

『……うおおおおっ!』

が、ともすれば畏怖やら嫉妬やらされる立場だが、『彼』はそういうのとは無縁の存在だった。

『うおおおお……根性だ、根性あるのみだ!』

その男、削板軍覇は所謂科学の通用しない『精神論』の世界に生きていた。
古臭い学ランに身を包み、それと同じくらい昔気質で、ある意味硬派とも言える向上心の塊のような男だった。
具体的には夏休みの殆どを修行に費やしても構わない程に。

「あれ、ここどこだ……山か、だがここまで大きいのは?」

そして、彼は『その場所』に迷い込んだ。
修行、山籠りに熱中しすぎて(というか秋まで長引かせていた)『学園都市の者達』に存在を『忘れられてしまった』せいだ。

「……まあいいか、この方が修行になるしな」

こうして、その男は幻想郷に流れ着いたのだ。



『……希望、それが今の幻想郷には足りていない』

ある所に一人の少女がいた。
彼女は人間ではなく、だがそれに関係深い物が人の形を取った者だ。

『そうよ、希望の欠けしこの地に……私が取り戻してみせる!』

だから彼女は『半ば本能のまま』に動き出した。
その舞いで、幻想郷の人間達に希望を齎す為に。

「すう、はあ……」

タッ

求める物は大きく多い、彼女は慎重だった。
まずは人に見せる前に舞いの調子を確認だ、一旦人里から離れ『妖怪の山』近くで新たな体を確かめるようにステップを踏んだ。
出だしは彼女も少し緊張気味、その顔は無表情だが『辺りを飛び回る仮面』はまるでその心を代わりに語るかのようだ。

タン
タン

妖怪の山に流れる川べりで、彼女は大石の上で演舞を舞う。

「……一、二、三……とう、やあ」

軽やかに数度の跳躍、『創造主』の元に在った頃の記憶を思い出し細かに再現していった。
直ぐに感覚は幾らか戻って足を踏むペースは早くなる。
ヒュンヒュンと彼女は演舞用の薙刀も振り回し、二つの音が即興の演奏となる。

トッ
タン
トッ
タン

「えい、えい……はああ」

リズムを刻み、自分が乗った所でそれまでで最大の跳躍を行った。
そして、着地と同時に体を捻る、何れ見せる観客を想像しそれに見せつける動きだ。

ビュウ
ブンッ

「……やあっ!」

振り翳した薙刀を手に彼女は大見得を切り、そしてその動きが止まる。

スッ

「一応……お粗末、かな」

ゆっくりと薙刀を降ろし、彼女は一礼する。
舞いは締めまで優雅であるべきだと、伝説的な舞手である『創造主』の思いはしっかり受け継がれていた。

パチパチ

だがそこへ拍手が鳴った、一人だと思っていた少女はびっくりする(顔には出さないが)
そこには(修行の食料調達であろう)釣り竿を手にした学ラン男が居た。

「おおブラボー、ああブラボー!」
「……だ、誰?」

素直な賞賛に少女はびっくりしながらも照れて嬉しがる。
その感情を隠すように仮面を被り、その後男に問いかけた。

「……貴方は?」
「おおっと驚かせたか、でもいい舞でな……修行中の通りすがりだ、驚かせたら悪かった」
「いや褒められるのは悪くない、舞いは私の全てだから」

男と少女は向かい合い、互いの『目』を見て有ることに気付く。

『おお、まさか……』

二人の目にはそれぞれ『向上心』と『使命感』が浮かんでいる、ギラギラとしたそれに互いに気付く。
全く同じではないが、それでも共通する、熱狂じみた物が有る。

『同志よ!』

ガシイッ

「俺は削板軍覇、よろしくな」
「私は……『こころ』、こっちこそ」

熱血男と(隠れ)熱血少女は思わず握手。
会ったばかりなのに二人はシンパシーを感じて解り合ったのだ。

「こころの嬢ちゃん、修行……しないか?」
「ふむ、人に見せる前に芸を磨くか……素晴らしい考えだな、同志軍覇よ!」
「なら俺が辺りを案内しよう、山籠りの間に幾らか把握できたし……」

削板に連れられて少女、こころは山に入っていった。



そして、それを『千里眼』で見ていた少女は小首を傾げた。

「……ワフ、キャラが濃いんだけど……山に帰って早々、変なのが迷い込んだなあ」

一瞬放っておこうかと思い掛け、でも得体の知れない二人が気になって、目的を探る為に彼女も二人に続く。
白い修験者装束に白髪の犬耳少女は嫌そうな顔で後を追った。



四章 希望を求めて



「……足りないんです」

白梅の髪飾の少女、涙子が妙なことを言い出した。
学園都市の平和なカフェ、だが奇天烈な言動で生温い空気が漂う。
同じ席でコーヒーや紅茶を飲んでいた少女達が小首を傾げる。

「……行き成りどうしたの、佐天さん?」
「だから、足りないって……そう思うんです、御坂さん」

隣でキョトンと、淡い茶髪の白衣の少女が不思議そうな顔に成った。
この場は所謂女子会で、それぞれ学校が終わり、研究の時間が空いたので集まった。
その途中行き成りの涙子の言葉、唐突なそれに女子会の参加メンツが首を捻る。

「ええと学校の単位とか……ああでも佐天さんの通う柳ヶ川はその辺きつかったかしら?」
「なら物か金銭……あ、いや彼女はそういうの執着無さそうだし」

美琴が首を捻り、その隣で『ずり落ち気味の眼鏡』に『長髪を一房だけ束ねた』少女も同じようにする。
最近友人と成った氷華だ、その膝では茶会より寧ろ食事会な感じでルーミアがケーキを食う、というか飲み込んでいる。
因みに対する美琴も膝に打ち止めを乗せている。
二人とも涙子に苦笑しつつも、打ち止めやルーミアの口を拭ったりしていた。

「仲良いなあ、いいことだ……で、足りてないんですよ」
『だから何が?』

四人の様子を微笑ましげに見てから、涙子は繰り返し同じことを言った。
やはり意味が掴めず、美琴達はキョトンとする。

「むう、佐天に足りてない物か」
「ふむ、そうだなあ……」

すると最後のメンツ、共通点の余り無い二人がそこで口を開いた。
それぞれ緑髪の少女と褐色の肌の少女、屠自古とショチトルである(芳香はルーミアが居るので留守、大食い二人は店がヤバイし)

「こいつ、やたら荒っぽいし……」
「それに大酒飲みだから」

涙子に誘われた二人は異口同音に、同時に涙子を指してキッパリと言った。

『足りないのは……女子力だな』
「そこ、黙って」

二人の容赦無い言葉に涙子は肩を落とす。

「……で、ええと、何が足りないの?」
「ああ御坂さんはいい人だなあ、突っ込みはきつくないし」

そんな彼女を見かねた美琴が問いかけ、涙子は態とらしく嘆きつつ答えた。

「……『力』です」
「は?」

元修験者はそんなことを言った。
美琴達はぽかんとし、屠自古達はやっぱりなという顔をした。

「だから力、英語で言うならパワー……ほら最近二度の事件で色々有ったから」

輝夜の事件では『一回休み』に追い込まれ、エリスと騎士の事件では殿として泥仕合と、多少なりとも思うところがあるらしい。
彼女はグッと手を握りしめるとその意気込みを語った。

「……という訳で修行がしたいです、気を引き締める意味でも」
「は、はあ、そう……」

熱苦しい言葉に呆然としながら、美琴は何とかそう返すのが精一杯だった。

「ほら『秋の祭り』があるでしょ、その振り替えやらで休日が重なって……近々纏まった休みが取れるので『郷のお山』で修行しようかと」

だが構わず、涙子は雄々しく宣言するのだった。

「……という訳で、休み明けのニュー佐天涙子をご期待ください!」
「……ならサークルや買い物とか青春ぽく……こいつには無理か、やはり女子力が足りんな」

その姿は何というか、異様に男らしかった。
彼女は相変わらずのようで、それに屠自古とショチトルは呆れた様子で肩を竦めた。



「……何、これ?」
「さあな……」

そして、帰った涙子と着いてきた(というか戻った)屠自古は幻想郷にて驚愕する。
そこら中で大騒ぎ、『謎の熱狂』が人々を浮き立たせている。
異様な程の熱を人々が見せ、だがそれを疑問に思っていない、傍目から不気味にしか映らなかった。

「……異変かな」
「そのようだが……どうする?」
「さて、私の目的は修行だけど……向うから来るなら参加してもいいかな」

涙子は少し考え、その後肩を竦めてマイペースに言った。
目的は変わらない、だが状況次第ではその成果を見せてもいいと。

「……ま、色々と楽しくなりそうだね」
「やれやれ、この女は相変わらずだな……」

呑気かつ物騒な言葉に、屠自古は何度目かになる肩を竦める仕草でやれやれと呆れたのだった。



「……異変ね」
「どうするんです、霊夢さん?」

そして『その報』を受けた巫女、博麗霊夢もまた立ち上がった。
彼女は神社、そこで土産を広める早苗達に言った。

「勿論行くわ、それが仕事だもの……留守、任せるわ」
「はーい、分社も有りますしね」
「頑張ってー、巫女様」
「構わないわ、花の世話のついでだけど」

呑気そうに早苗と小傘、それに二人から貰った学園都市の珍しい種を吟味する幽香が手を振って見送る。

「……早苗は兎も角として、本格的に妖怪神社ね」
「ははは、ここは気楽に寄れますから」

面子の後半に項垂れて、彼女は少ししょんぼりしながら出発する。
が、その寸前に、出鼻を挫くように来客が来た。

「博麗の巫女殿、居るか?……探しものがあるのだが」
「あら、霊廟の……」

そこに、七星剣を携えた金髪の少女、豊聡耳神子が少し焦った表情で現れたのだ。

「むっ、どこか出るのか、不味かったかな……」
「……どうしたの?」

霊夢の用事を邪魔するのは不味いかと神子は下がりかけ、だが霊夢は気にせず話させた。

「いや、大事な『面』を紛失してなあ、しかも……付喪神になる予兆が有るから気になって」
「……付喪神の『面』、それって面霊気?」

オズオズと気不味そうに話し始めた神子の言葉に、ピクと霊夢が反応する。
彼女の巫女の知識が正しいなら紛失ではなく『失踪』であり、また面霊気ならば見過ごせない点も有る。
少し考えた後霊夢はグイと神子の腕を引いた。

「……一緒に来て、道中で話を聞くわ」
「博霊殿?」

驚く神子を強引に続かせながら霊夢は説明する。

「新しい妖怪に同時期の異変、何か気にならない?」
「むっ、あの面が関わってると言うのか」
「さあ、それはまだ……でも色々考えられるわ、首謀者かもしれないし巻き込まれてるかもしれない、全くの無関係かもしれない。
……どちらにしろ人に深く関わる面霊気なら、騒ぎに惹かれる可能性はあると思うわ」

それが面霊気、人の持ち物だったからこそ、人郷を中心に起きた事件は繋がり得るのだ。
霊夢のこの言葉に神子はふむと考え込んだ。

「ううむ、そういえば、最近どうも人郷の様子が変だと聞くが……」
「ええ、それに……やはり探しものは人が多いところがいいでしょ、人も噂も集まるから」
「……確かにな、ならば同行しよう、博霊殿」

暫しして神子は頷き霊夢を追い、二人は並んで人郷へと飛び立った。

「ところで、博麗殿は人郷の異変のことをどう思っている?」
「……あれは多分『人の心』が不安定になった事に依る物ね」

隣を飛ぶ神子の言葉に霊夢は(多少予測混じりでだが)説明していく。
その性質はどうにも妙で、霊夢でも判断の難しい物だった。 

「熱狂、人々の感情の発露が異様に活性化し、また『流れ』を作っている……視覚化したそれは弾幕ごっことかで分散したり収束したりするの。
……そうね、もし収束を続けて一つになったら……何かとんでもない事になるかもしれない」

そんな風に説明しながら、霊夢は同時に内心でだけある可能性を思い浮かべた。

(面霊気が来るなら、その時か……ならば、私自身がその局面に居る必要があるのかも)

戦いに勝ち続けことが異変の最終局面であり、ならば実際にそこに居た方が都合がいいかもしれない。
少なくともある程度収束していく感情の流れの近く、つまり核心に居た方が動きようの幅は大きい。
そうなると今隣に神子が居るのは大きい、本人も実力者で一勢力の長なのだから。

(……私と彼女で勝利し続け、感情の流れをこっちで誘導する、あら案外悪くないか)

過剰な熱狂とその収束に意味があるなら操作出来る位置につければと、霊夢は異変への(やや強引だが)効率的な対処法を見出した。
これならばどう事態が動いても対応できるし、把握は遅れて乗り遅れることも無いだろう。

「……にしても人の感情かあ、今までとは違う趣の異変になりそうね」
「全くだ、力づくは通じなさそう……そういえば熱狂は所謂欲望だろう?ならば人々は何を求めているのかな?」

すると、ふと気になった様子で神子が首を傾げる。
本来それ等を見分けるのは治世に関わった彼女の得意分野だが、大規模だからか異変に歪められたからか判断付かないらしい。
少し考えた後それに霊夢は口を開き、『宗教者の先輩』として問いに答えた。

「あれは……何かを信じ仰ぐ心の大元、その人が満たされたいとでも言うべき『望み』であり『希み』……
所謂、人のポジティブな感情の代表……『希望』よ」

ある意味人間の根源たる感情で、今人郷で起きてるのはそういう物を巡る一風変わった異変だ。
そんな風変わりな場となった人郷に、様々な宗教者(その他飛び入り)が集まっている。

「……はあ、荒れそうね」
「心中察するよ、博麗殿」

神子が霊夢に同情した、どうやら今回の一件は歴戦の異変解決者である彼女でも一筋縄ではいかぬ物らしかった。





・・・えー、第四話『希望と根性』開始、まあ出会いの話か。
そういう訳で、今回は幻想郷に場を移しての話となります・・・中心はとある及び東方の二大熱血キャラ。
それに加え霊夢に佐天さん、前回前々回ではサポート役だった二人を前に出していく感じで。

以下コメント返信
うっちー様
ええ、可愛いですよね、後・・・真面目そうな性格と能力で事件に関わらせ易いのも良し。
エリスの再会は最初から書こうと思ってました(省略で早まったけど)・・・何か肩の荷が下りた気分。

九尾様
原作でも最後らへんのシェリーは痛々しくて可哀想で・・・だから戦い以外での形で終わらせるの確定でした。
多少どうエリスと会わせるかは悩んだけど・・・その辺は勢いで、あそこまで書いて力づくでってのも仰るとおり無理がありますしね。

バクスタッ様
個人的にここから襲撃事件はくどいかなと・・・それが魂としての再会でも希望がある感じで終われたと思います。



[41025] 第四話 希望を求めて・二
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f1df67ac
Date: 2015/10/22 00:04
「ぐぬう……」

ショボン

神子が力無く人里を見回し、そして項垂れる。

「……手掛かりなしか、面霊気は今何処に」

暫く聴きこみをしたのだが、祭りの如き熱気に包まれた人里でそれはさっぱり進まなかった。
その耳のようにも角のようにも見える金髪も心なしか垂れている。
が、その疲れ果てた声も人里に満ちる熱狂に掻き消される。

「むう、何か気味が悪い……『見た』でも『見てない』でもなく『わからない』とは」

神子の表情は暗い、疑問ばかりが増えていく。
仮面のことを聞けば、どうにも理解できない情報が出てきて戸惑っていた。

「どこかで見かけた気がする、多分祭りの中で、か……」

適当な通りすがりに聞けば数人に一人がそんなことを言っていて、面霊気の存在は確かなのだがそこ止まりなのだ。

「人の心に関わる異変、熱狂がそこまで広がって……その影響で何もかもが『曖昧』に成っているのか、それとも他に原因が?」

寧ろ目撃情報はぬか喜びとなり、彼女はガクと肩を落とす。
霊夢の言った通り一筋縄ではいかないようだ。

「……とはいえメゲテはいられん、更なる聴きこみをせねば」

一度大きく嘆息した後気を引き締め、次へ向かおうとした。

「むっ、何か……これは布都の気配?」

が、そこで彼女はよく知る気配を感じ取った。
もしかしたら、彼女が何か見たのではと向かうことにした。

「……布都、居ますか?」

そして、そこで神子はぎょっとし、その光景に凍りついた。

「ほうら集まれ集まれ……幻想郷が者共よ、我とともに修行をせんか!?」

そこでは彼女の腹心が人里に負けないほどの勢いで、自分達の宣伝をやっていた。

「仙術を極めれば人生に張りが出る!今直ぐに里の人気者となれよう!
……実際我もそれで『連れ合い』を捕まえたからな」
「……嘘つけ、馬子とは見合い(政略結婚)からじゃないか!」

過去を捏造する部下に、思わず我慢できず神子が突っ込んだ。
彼女に気づいてなかった布都が哀れな程に慌てた。

「げげえ、太子様、神社に行ったのでは!?」
「……その関係で来ている、いやそれよりも……修行を勧めるのは兎も角、効果を捏造するのは駄目でしょう」

多分里の熱に乗った可能性もあるが無責任な煽り方であり、神子はベチンと布都の額を鞘で突く。
神子は布都の首根っこ掴んでどやしつけた。

「全く、無責任なことを言わないの!」
「きゃいん!?」
「良いですか、仮に人気者と成れる程の魅力が得たとして……それは修行をやり切ったことによる心身の充実から。
……あくまで努力の結果であって、それを全面に押し出すのは止めなさい!」
「は、はひ……」

涙目の彼女を引きずって、神子は人里の者達から慌ただしく逃げるように離れる。

「……人里の方々、彼女の言葉は忘れて欲しい、そして……先程の言葉を理解した上で来るのなら歓迎しますよ。
ただ道教が糧と成るとしても、それはあくまで厳しい修行の結果……それだけは忘れずに」

去り際ペコと頭を下げて、神子は布都のせいで勘違いされそうな自勢力の認識の修正をした。
そして、ポカンとする人里の者が何か言う前に部下を引っぱっていった。

「……布都のせいで目立ってしまった、恥ずかしい」
「でも、格好良かったです、流石は太子様……我の宣伝より効果がありそうですな」
「黙らっしゃい、こっちは泣きたいんだ……くそ、無駄な時間を取らせおって」

神子はもう一度布都を小突き、マイペースな部下はきゃいんと悲鳴を上げたのだった。



そして、そんな二人を『獣の目』が興味深そうに見ていた。

「……ふっ、極端じゃな、道教の主従は」

『永き時を生きた獣』が面白そうに笑い、その後難しそうに唸った。

「ちっ、彼女の追っ手がもう来たとはな……こころ、急いでくれよ、用事が終わるまで何とか誤魔化してやるから」

その存在はこの異変に、いやそれに深く関わる仮面の少女に既に会っていた、彼女が最初に見つけた。
そして生来の面倒見の良さから協力することにしたが、一時離れるといった少女が一向に戻らない。
だが、今更術を止められる訳もなく、彼女は妖力を振り絞って『幻術』、人々の認識を曖昧にさせ続けていた。

「……やれやれ怖いのう、巫女にバレたら鍋にされかねん」

ゾッとする悪寒に震えて老狸、マミゾウが青ざめた。



希望を求めて・二



トットン
バンバン

「……よ、ほ、はっ!」
「おう、いいぞいいぞ、こころの嬢ちゃん」

赤く染まり始めた木々、その真下で少女が舞い、全身に重りを括った少年が手拍子を打つ。
山の闖入者、修行者のこころと軍覇である。
こころはその足捌きの確認のように跳んで、軍覇は自分を痛めつけ汗だくになりながら同志の少女に喧しい程に手を叩いていた。

「ふっ、重りとは古典的な……熱血というやつか、ならばこっちも更に激しく舞おう!」
「なら俺も負けてられないな、ちょっと重り増やしてくる!」

ウオオオッ
ドガガガガ

一言で言えば暑苦しかった。
片方に火が付けば、負けじともう片方も燃え上がる。
互いに張りあうように二人の修行は熱を増していった。

(わふん、秋なのに何か汗が出てきた……)

それを千里眼で見ていた椛は嫌そうな顔だった、思わず額の汗を拭った。
そんな時だった、最初に椛がそれに気づいた。

(……グル?水の匂い……丁度いいというべきかな)

ポツポツポツ

俄に雲が光を遮り、小粒ながら雫がこころ達の熱気を冷ます、山の天気は特に変わり易かった。

「うおわ、雨か!?」
「むう、修行がいい感じなのに……タイミングが悪いな」

二人は顔を顰め、天を恨めしげに見上げた。
そうする間も雨は勢いを少しずつ増していく、軍覇がふとあることを思い出して言った。

「確か……近くに建物を見たような気がする、そこで雨宿りするか?」
「そうするか、このままじゃ衣装が駄目になる……」
「おう、じゃあ行くか……多分俺達みたいな『修行者の持ち物』、少し使わせてもらおうぜ、閉まってたが……軒先で休むくらいは出来る」

こころと軍覇は一旦修行を中断して雨宿りに向かい、それを見送った椛は木陰でふむと考え込んだ。

(……行ったか、こちらも丁度いい……今のうちに上に報告しないと)

既に相手の匂いは覚えたと、椛は一旦報告を優先しその場を離れた。
だが、その選択を彼女は多いに後悔することに成る。
具体的には『軍覇の見た建物』、それが『とある小鬼』の所有物だと気づけなかったのだ。



テクテク
フワフワフワ

黄と赤の木々を黒と緑が並んで進んでいった。

テクテク

「……何で、着いてくるの、屠自古ちゃん?」

フワフワフワ

「それはだな、佐天……道教以外の、修験者の修行方法が気になるからだ」
「興味本位かい、やり難いんだけどねえ……」

後学のためにという屠自古の言葉に涙子がむうと眉を顰める。
駄目とはまで言わないがやり難い。
しかも、問題は他にも在った。
チラと後ろを見る、すると幾つかの影が有った。

「……で、あんた等は?」

影の中に翼を持つ者があった、『嘗て三度程殺し合った』そいつに涙子は嫌そうな顔を向ける。

「……ねえ、何の用よ、超能力者」
「修行なんだってな、ヤジでも飛ばし……もとい応援でもしてやろうと」
「隠せよ、遅いよ……」

黒い垣根が嫌がらせに着いてきて、涙子は顔を顰めた。
更にその表情を維持したまま他へ視線を送る。
垣根と一緒に見たことのある影もまた地下から来ていた、緑の髪のちっこい少女を見下ろし問いかける。

「……そっちの黄緑の子、こいしちゃんだったか、そっちは?」
「暇潰し」
「わあ、簡潔だ、逆にやり難い……」

黒い垣根の嫌がらせとは別の意味で微妙で、涙子はガクと肩を落とした。
チラとその左右、垣根に似ているが温和そうな少年と脳天気に笑う地獄烏を見る。

「……白い方に地獄烏さん、止めてよ」
『こいし(様)が楽しそうだから』
「露骨に甘いなあ、おい……」

ダダ甘な言葉に涙子はもう一度肩を落とした。
そして、視線を本命というか明らかな問題児へ、そこには彼女と違う『二柱の神』の気配が有った。

「妬ましい……」
「……ええと、そっちの金髪さんは一体?」

何故か居る金髪緑眼の女性が物騒なことを言って、引き気味になりながら涙子が問いかけた。

「……安心して、単なる黒いのお目付け役よ、こっちは勝手に妬ましがってるから」
「ごめん、後半が全然安心できないんだけど……」

安心しろというが全然出来なかった、涙子は思わず現実逃避しかけた。

「……で、最後の一人は?」

そして、涙子は最後の一人を見た、そこには『目玉が二つ付いた帽子の少女』が居た。

「その気配……名のある神と見ますが」
「ケロ?山の神社の御神体だが……ああ私と天神と私は同じ厄神寄りでね、だから加護の持ち主が見たくなったの」
「……わあ、こっちは他よりは理解出来る理由、でもさらっととんでも無いこと言ったね!?」

最後の少女が言った理由は一見真面目だった。
が、その内容は割りと問題である。
天神、鬼と恐れられた存在と同類を自称する少女に涙子は頭を抱えたのだった。

「ははは、安心して、やんちゃしてた頃の話……こっちじゃ滅多に祟らんさ」
「し、信じますよ、やめてよね!?」

涙子は涙目で叫ぶ、いきなりその修業に暗雲が漂い始めていた。

「……で、どこに行くんだよ、黒髪?」

崖っぷち宛らな涙子にニヤニヤしながら黒い垣根が問いかけた。
一度ギロと睨んでから彼女は答える。

「ああ、隠れ家……私が山に隠し持ってた拠点だね、修行の道具とか昔集めた『古書』とか有るの」
「ふうん、古書ねえ……」
「そっ、術に武具の仕立て……ああ、『舞い』に関する資料も有ったね」
「舞い?……そういや歴史の授業で聞いたな、元々神に奉ずるもんだったか」

ああ成程と聞いていた垣根達は納得した、言うなれば加護を得る為の手段が集められているのだ。
そこまで聞いて、気になった様子で黒い垣根が懸念を言う。

「……値打ちモンが有りそうだな、放っておいたら不用心じゃないか?」
「大丈夫、人も妖怪も入れないように……加護の力で『神』に通じる者しか入れないようにしてるから」

ふふんと胸を張った彼女は自信満々に言った、それで山で入れる者は限られる。
当時は秋の双子神しかいないので殆ど涙子専用なのだ。
が、それは『一昔前』の話、今は違うのだ。

「……あ、あそこだね、ちょっと開けてくる、よ……あら、何で開いて?」

歩いてきたらその建物が見えて、涙子は扉に向かった。
そして、そこで『開けっ放しの扉』に気付く。
『舞い』は元々神に奉ずる物、一流の演武者はある意味加護を受けているとも言えて、そんな舞い手の持ち物だった存在により封印を無意識に突破された。

「おおっ……見るのだ、舞いの資料が大量だぞ、同志よ!」
「うお、スゲエな、棚中古めかしい本ばっか……」
「……えっ、誰?」

何故か居る侵入者二人に涙子はぽかんとする。
が、その瞬間更なる問題、異常が起きた。

バチンッ

異なる二種類の加護が反発しスパークする、神社より遥かに小ぢんまりとした山小屋、『霊的にキャパシティの少ない場所』には負荷がかかり過ぎるのだ。

『……え?』
「おうい、つっ立ってどうしたー?」

そして、そうしてる間にも後続が到着する。
つまり『布都御魂』の系譜の屠自古に『八咫烏(神使)』を宿したお空、『水神』でもあるパルスィ、そして『祟り神』の諏訪子だ。
そう、更に一箇所に『四柱もの』神の力が追加された。

バチバチバチィ

神の力が更に激しくスパークした。

「ふう、成る程、これは……爆発オチかあ」
「よくわからんが大変なことになったなあ」
「……ええと総員対ショック防御!
後余裕ある人は……棚のコレクション、持っていってくれると助かります!」

涙子が何とかそう言って、次の瞬間カッと光が爆ぜた。
ズドンと爆炎、そして巨大なるキノコ雲がが立ち上ったのだった。



「わふん、なんか大変なことに成ってる……」

そして、山の頂上、天狗の集落でそれを見た椛がうわあと青ざめた。
その向かいでは(御座の奥で姿は見えないが)天狗の頭領、天魔がはあと深く嘆息した。

「あの気配、色々混じっているが……節姫だな、相変わらず派手なことだ」
「も、申し訳ありません……監視を中断した私の判断は間違いでした!」
「……良い、犬走……これを想像しろというのも無理な話だ、それで叱る程短気でもないし狭量でもない」

真っ青な顔で平伏しようとしたする椛を天魔が止める、彼(あるいは彼女)は優しく目の前の部下を宥める。

「大方、節姫の奴が隠していた拠点なりで……何かが暴走したのだろう、ただの事故に目くじら立てることもない」

が、そこまで言ったところで天魔がニヤリと人の悪い笑い方をしたのに椛は気づいた。

「……が、秩序有る妖怪の山、それにこのような喧騒を持ち込んだことには……何も無しでは示しが付かんなあ。
ふうむ、それに関して節姫を許す代わりに……二人の侵入者の世話をさせるか」

いきなり天魔が妙なことを言い出した、何というか涙子への良からぬ感情が有る。
具体的には過去のいろいろなことへの私怨である。

「ああそうだな、奴と伊吹殿に飲み干された酒の数々……その借りをここらで精算するとしよう」
「……わ、わうっ、もしかして根に持ってらっしゃるのでしょうか」
「ふん、偶には仕返しもいいだろう、それに侵入者という面倒事も任せられる……いいこと付くめではないか、なあ?」
「は、はあ、まあ酒に関しては彼女の自業自得だし……い、良いのかな?」

椛は首を傾げ、でも確かに一理あると上司の指示に従い爆発現場に向かう。
そこで真っ黒に煤け呆けていた涙子に天魔の言葉が伝えられ、彼女は色々有った夏休みでもない程に深い絶望の表情をする。

「……とのことです、任せましたよ、節姫」
「マ、マジでか……」

椛の言葉に涙子が脱力する、ベチャと煤けた顔で地面に沈んだ。
幸い古書やその他等は手分けして大半運べたが(特に舞い関連は元凶二人が運んで、今はペラペラ呑気に捲ってた)これでは全然喜べない。

「て、天魔のばかあ、スイちゃんに言いつけてやるう……」
「祭好きで派手好きな鬼なら多分笑うでしょう、無理では?」
「……八方塞がりか、ああ畜生、ツイてないなあ」
『……何かすまん、そこのお姉さん』
「うう、マジ反省しとけ、トラブルメーカーめ」

がっくりと肩を落とした涙子にこころと軍覇がそう言って、全然慰めに成らず彼女は深く肩を落とす。
ただ嫌な予感だけが、このトビっきりのトラブルメーカー二人から猛烈にしていた。

「カムバック!私の……素敵な素敵な修行生活!?」
「……始まる前に終わったなあ」

彼女の絶叫が山に虚しく響いて、ただ彼女にとって悲惨な現実だけが残った。

「……希望は何処、何処なの」
「私だが?」
「だそうだが?」
「ごめん、ちょっと黙って」

泣こうが現実は変わらない、涙子の前には変なの二人。
こうして彼女の郷での修行は已む無く一時中断となり、同時に問題児二名の世話をする日々が始まったのだった。




爆発オチからの出会い、そこから始まる物語・・・うん、どう取り繕っても飾っても綺麗に言うのは無理か。
まあある意味予定調和というか佐天さんが大変なことに・・・この後は主に山で話を展開していって、人里の異変を同時進行という感じですかね。

以下コメント返信
AISA様
ええ、濃いのを組ませてみました、両クロスにおいて屈指の熱血同士なので直ぐに思いついた組み合わせだったりします。
で、佐天さんは暫くおさんどん、霊夢達が異変担当なのでこっちがこころ達担当(貧乏くじともいう)これで無事に修行やれるかは・・・最早祈るしかない。

九尾様
・・・ああ確かに萃香の時に似てるかも、こういう展開ですから全体的に幻想郷の面子がノリが良さもあり書き易い。
そして萃香とこころ・・・ある意味イレギュラーな立場同士(格ゲーボスの意味で)、実は設定的にも対な気がする、色々考えられそうです。



[41025] 希望を求めて・三
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f1df67ac
Date: 2015/11/08 18:43
「すう……」

朝霧が山を、特に川辺りを覆っている。
中心では涙子が修験の衣装を身に纏い、小岩の上で胡座姿勢を取っていた。
その近くには簡易テント数個、そこで別れて泊まった修行者とおまけ共を起こさないよう静かに始める。

「……すう、はあっ」

彼女はゆっくり息を整える、ボウっとその周囲で火が灯る。
毛玉が管理させた即席松明とそこに燈された炎、所謂護摩供である。
火中で彼女は汗の一筋も流さず、涼しげとすら言える顔で集中する。
護摩供の熱にも慣れているし、そこで唱える文言すらも慣れたものだった。

「……臨兵、闘者……」

修験者の呪言を唱え、指先で九つの印を続けて刻む。
するとヒュウヒュウと風が吹く。
護摩供の火は少しも揺らさずに、だが周囲の朝霧だけを押し流していく。

「臨兵、闘者……風よ、風よ」

更に集中しながら正確に制御し、吹かせた風で白い霧を空へと流す。
そして、それで明確に文字を描く。
具体的には山の主へのメッセージ、それをそのまま口に出して(風でテントの方には届けさせず)彼女は全力で叫んだ。

「……ばーか、ばーか、天魔のばーか、報復が根暗なムッツリ野郎!」
「ガルルっ、そこはまじめに修行しようよ!?」

ドゲシッ

「ぎゃん!?」

態々精神集中してまでそんなことを書いた彼女に、悪口見つけて跳んできた椛が突っ込む。
走ってきた勢いのまま跳躍し、高下駄で蹴りを叩き込んだ。

ボチャン

蹴り飛ばされて涙子は川に落ち、半身を浸した状態で恨めしげに椛を見た。

「おおう、痛い……何するのよ、白狼天狗?」
「仕える方の悪口を言われれば誰だって怒るでしょうが!?」
「……だって、何とか持ち出したお酒取られたんだもん」

小岩に這い上がった涙子がショボンとする、拠点爆破の際に他にも手伝ってもらい所有物を持ち出すことが出来た。
大半は持ちだされ、重要なものは無事だった、特に舞い関係の古書はこころ達が全力で運び、その修行にも役立つだろう。
が、その中に有った酒(元は天魔のもの)は目敏く見つけた椛にそのまま奪い返されたのだ。

「ううっ、しくじった、爆破直後で弱ってなきゃ……」
「ま、だからこそというべきか、奪い返す絶好の機だと……『お使い』果たせて万々歳です」
「……あのお酒、ゆっくり熟成させて、味わおうと思ってたんだけどなあ」
「天魔様に直接言いなさい、天狗らしく蟒蛇だから酒宴に招いてくれるかも……もっとも説教付きかもしれませんが」

白い体毛から見える肌を火の熱気で赤くして(毛皮だから当然だが)椛がそんなことを言った。
酒を飲むだけなら天魔も涙子を拒絶しないだろうと。
が、当然説教も付いてくるので、涙子は大いに悩んだ顔に成る。

「ぐ、むむっ……す、捨てがたい、でも説教もなあ」
「あ、そこで悩むんだ、そんなに飲みたいんだ……」
「だって天狗の総大将の酒、それも秘蔵の……旨くない訳が無いじゃない!?」
「……鬼といた理由が良くわかった」

全力で悩み力説する彼女に椛はハアと嘆息する、その後汗を拭って周りに嫌そうな顔をする。

「……で、護摩供の火、そろそろ消してくれませんか」
「ああ熱い?ごめんね、慣れてたから忘れてた……」

分厚い毛皮持ちの彼女の言葉に、涙子はやっと付けっぱなしの火のことを思い出す。
ふうっと数度吐息を吹きかけ、風を起こして火種を吹き消した。

「はい、これで良い?」
「ええ、大丈夫……ああそうだ、そろそろ例の二人が戻ります、食事の用意を」
「……はいはい、何でおさんどんやることに成ってるんだろ」

千里眼による情報(火の始末は熱への弱音だけではなかった)を聞いて、涙子は渋々修行を中断し食事の用意に向かう。
涙子と椛はチラとそこに向かい来る足音の方へ視線を送る。

「ようし、一走りして目も覚めた、今日も頑張るぞー!」
「おーっ……でも、その前にお腹すいたー、ご飯はー?」
「……あの姉ちゃんに何か頼もう、俺も減ったし」

向うから小さい影、だが大きくなって近づく二人、軍覇たちが早朝ランニングから帰ってくるのが見えた。

「ま、あの熱血共をしっかり見ててくださいね、前のように五月蝿くしないように」
「わかってる……加護の暴発はこっちで注意する、自分だけに押し留め『外』に出さなきゃ良い、『生まれたばかりのあの子』以外は問題無いから。
……今更だが何故、迷子の保護者なんてやってんだろ、私?」

遠くから監視に戻る椛が去り際にそう言い残し、それに頷きつつ涙子が食事の準備に向かう。
何でこんなことに成ったんだろと、首傾げながら。



第三話 希望を求めて・三



ジュウウ

「ほい出来上がり……さめないうちに食べちゃって」

涙子が火にかけた鍋から魚と山菜を取り出す。
簡素な、だが摘み立て取り立てのそれは食欲を刺激する匂いを発する、
ガヤガヤと、出来たて料理特有のいい匂いが辺りに満ちてそれで一気に騒がしくなった。

「……おおっ、これは中々、っと熱!?」
「ああもう気をつけて、こころちゃん……ほら水」
「ども、です……」
「……旨いぜ、根性入ってるな」
「料理に根性がどう繋がるの?」

思わず齧り付いたこころが悲鳴を上げたり、軍覇は妙な風に関心したり。
修行というにはほんわかな空気に涙子と相伴に預かる屠自古が苦笑する。

「……もう修行は関係ないね、これじゃ集中出来んわ」
「ご愁傷様、佐天……まあ頑張れとしかいえんが」

彼女に同情するように他の、黒白の烏、二人の垣根や地下の者達も生暖かい視線を送った。

「ま、山の一角をふっ飛ばしたんだ、仕方ないだろ」
「……ですね、あちらが一段落するまで付き合うしか無いのでは?」
『あははっ(うにゅ)、大変だねえ』
「……美味しい、妬ましい」

やはり同席した黒白の垣根は普通に宥め、こいしとお空は呑気に笑う。
後最後の方で全く気にせず嫉妬する嫉妬妖怪に関しては誰もが無視した。

「ええと、カエルの神様……山に馴染んでるんでしょ、何とかなりませんか?」

疫神繋がりで諏訪子に天魔の説得を頼んでみるが、彼女は魚に舌鼓打ちつつ首を横に振る。

「ああ無理無理、私も爆発に関わったから天魔には強く言えんさ」
「むうう、真面目にあっちの世話するしか無いか」
「……そういうことだね、で早速だが……」

済まなそうに言う諏訪子に肩を落とす涙子、そしてそこで諏訪子は向うを指さした。

「……ほう、ふうむ、この古書、為になるなあ」
「……むんっ、修行しないと、食事の時間も惜しい」
「あれ、何とかしな、マナーが悪い」

こころは食事しながら古書を見て、軍覇も片手で山菜齧りつつダンベルを上下させていた。
こいつらはこいつらで、どこまでもマイペースだった。

「この、修行馬鹿共……おりゃ」
『おうわっ!?』

ゴチンと素手の右手がこころの頭を叩き、ゴスと鎖を蒔いた左が軍覇をど突く。
びっくりした表情で顔を上げた二人に涙子はギロと睨みつける。

「それは後にしよう、今は食事の時間でしょ……それとも二度目、要る?」
『すいません!』
「……ほらまずは食べちゃいな、修行はその後ね」

凄まれ慌てて食事に戻る二人に溜息ついて、涙子は空を力無く見上げた。

「ああもう……こっち戻っても面倒事ばかりだ」
『何か大変そうだなー』
「こころちゃんに削板さん、大半はあんた等のせいなんだけど……」

呑気に言う二人に涙子はもう一度睨みつけ、二人は慌てて目を逸らす。
それで涙子はもう一度嘆息した。

「はあ、舞いの書物、見せるんじゃなかった……」
「ええー、これ凄いのに……じゃあ、『外』……もとい都会の流行りの踊り、教えてよ」
「……そう言われてもあっちの、かあ」

チラと(外の人間で何も知らない、そのまま八雲を呼ぶ手筈だ)軍覇に怪しまれないよう少し言葉を濁し、こころはどういうのが流行ってるかについて問いかける。
が、行き成り言われても答えられず、涙子はこいし達を見た。

「行き成り言われても、流行りのヒップホップくらいしか……そっち、何かある?」
「うーん、私はゲーセンのダンスゲーだっけ、それの知識くらい……」
「うにゅ、あれ楽しいですよね……でごめん、私も思いつかないや」
「……黒いのは?」

こいし等もそれくらいしか思いつかず、その後黒い垣根に視線が集まる。
彼は暫し考えこみ、おおと思いついて『その踊り』を口にした。

「ふむ、なら……あれはどうだ、ポールダン「……橋姫さん、黙らせて」「そうね、子供にそれはダメ」……ごふっ!?」

黒い垣根はパルスィに踏みつけられ、同時に軍覇がこころの耳を塞ぐ、他の者達も一様にそれがいいと頷く。

「……何で、耳を塞ぐの?」
『知らないままで、綺麗なままでいよう……』

こうして、彼女の純粋さは守られたのだった。

「……さ、さあ、そろそろ修行にお行きなさい」
「あうん、何か誤魔化された気もするが……行ってくる、ご馳走様でした」
「俺も行くな、ご馳走様」
「はいはい、お粗末様……昼までは座禅位は出来るかな」

首を傾げながらこころは走って行き、軍覇もやれやれといった顔で追い、そんな二人を涙子は苦笑し見送った。



「……さて、今日こそは面霊気を」

ふんっと神子は自身に気合を入れて、熱狂の中にある人里を見た。
先日は布都の説教で潰れ、その遅れを取り戻そうとやる気だった。
更に今回は前とは違う、暇そうだった布都を手伝わせることに成っていた。

「さあ行きましょう、面の行方を……」

シーン

が、返事はない、一緒に来たはずの部下の反応が無かった。

「……布都?」

思わず顰めっ面でもう一度呼ぶ、するとそれでやっと答えた。
離れの方から何かを見つけたらしき彼女が神子を呼ぶ。

「……おお太子様、こちらです!」
「布都?」

彼女は訝しむ、何故なら布都はある建物の前にいたからだ。
そこはモダンな雰囲気で酒の匂いが漂う、所謂酒屋だった。

「……布都、探しもので何故酒を」
「違うのです、この中にですね……『あの女』が入っていくのを見たのです、これはチャンスなのです」

何かを訴える彼女に腕を引かれ、神子は中を見た。
するとそこには金と紫の混じった、特徴的な髪色の女性が店員を話していた。

「ほうれ、見るのです、僧侶が酒を買っているでしょう。
外の言葉で言うならスキャンダ「店主さん贈呈用を頼みたいのですが……」……えっ、贈呈?」

先輩宗教者にしてライバルの弱みを掴もうとした彼女は思惑が外れて呆然とする。

「これはこれは命蓮寺の……どのような?」
「強い酒がいいですね、彼女……『マミゾウ』さんは濃い口が好みだったから……あっ、その棚のをくださいな」
「へい、毎度……贈呈用でしたか、なら上等な包みを用意しましょう」
「……お願いします、何でも困っている『若い妖怪の子』を保護したと、それを労わねばと」

布都は固まっている間にも、中では話が進んでいく。
店主と話す金と紫の髪の女、命蓮寺の住職である聖は同居人の行動を褒めたのだった。

「マミゾウさんったら早々働いてくれて……我が寺は人に慣れぬ妖かしの受け皿、何時かそう言ったのを覚えていてくれたのですよ」
「それはそれは、でこの酒をってことですか、ご住職」
「ええ、是非とも、その徳には彼女の好物を……」
「成程納得だ、実はご住職が自ら飲むかとびっくりしましたよ」
「あはは、まさか……全く飲まない訳ではありませんが、修行する信徒に悪いし、壇家の目もありますから」

そう聖と店主は談笑しつつ買い物を進めていく、つまりは布都の早とちりだ。
少なくとも聖が幻想郷で酒を飲む可能性は低い、学園都市でこそレミリア達との付き合いで飲んだりしたがそれは幻想郷の外だからだ。
それを知らない布都は勝手に勘違いし、その結果ぬか喜びしてガックリと肩を落した。

「あらまあ……何というか残念でしたね、布都」
「ぬう、好敵手を落とす絶好の機だと……」
「……何時か痛い目を見ますよ、余りそういう悪巧みをしないようにね」

酒屋の壁にへたり込み尚企む彼女を見て、太子はやれやれといった表情で警告する。
が、彼女の部下はまだ諦めない、その忠誠だけは異様に深いのだ。

「ふっ、何の……仏教が怖くて、物部やれるかってもんですよ!」
「……ああ、仏嫌いの物部か、一族揃ってそうでしたね」

宣言する布都に呆れる神子、がそんなところへからかい気味の警告が掛けられる。

「……余り目に余るようなら、太子様には悪いですがこちらで処理しますが」
「えっ?」
「おや聖住職、聞いてたと……」
「ええ、外で大声出されてはね」

びっくり顔の布都に、にっこり笑って聖は『ある仏』の名を口にする。

「私達が信仰するは毘沙門天様、彼の方はとても顔がお広くて……その伝手で、『弁財天』様をご紹介しましょうか」
「……弁財天、其奴が一体?」
「この方……隠れ『縁切り』でして」

訝しむ布都に聖はその司る加護(といってもある意味呪いだが)を説明する。
それにビシと布都が凍りついた。

「縁切り?、縁、切り!?……離縁、三行半、この歳で独身女……失墜する家の中の立場、さん付けする屠自古……
……ぐはああああああああっ!?」
「……ああ布都(の精神)が逝った!?まあ長年一緒にいればそりゃ情も湧くか……」

バタンと地面に彼女は真っ青な顔で突っ伏して、神子はあーあとその姿に頭を抱える。
元は政略結婚だったが、一族と別れてまで彼女は太子と蘇我の一族に仕えている。
つまり、歴史書を開けば弱味がまるわかりなのだ。

「弱味を探るのは結構ですが、その分野では大分不利かと思われます……それでも続けますか?」
「……や、止めてたも、これ以上は心が保ちそうに無い」

布都はブンと90度、折り目正しく愛想笑いで謝った、全面降伏だった。

「ふふっ、仕方ありません、今回だけですよ……太子様、それでは私は寺に戻りますが、その癖の強そうな人から目を離さないようにね」
「……いや本当に癖強くてなあ、うんもう何かすまんな、住職」

ヒラヒラ手を振って去っていく聖を、神子はすまなそうにし、布都は真っ青な顔で見送る。
現時点で、ご近所さんとの関係はボロボロである。

「……とりあえずこの異変は信仰心に関わるらしいし……五分くらいに持ってきたいなあ」

神子は微妙に情けないことを言いながら、未だ伏せる部下を引きずっていったのだった。



ズドンッ

人里上空で轟音が鳴った、それに僅かに遅れて二つの影が降りてくる。

「……ふっ」
「……くっ」

黒髪の少女、紅白衣装の巫女が笑みを浮かべた。
金髪の少女、白黒衣装の魔女が悔しそうに膝をつく。

「あっちで手札を見せ過ぎたわね、魔理沙……切り札、『サングレイザー』だっけ、それは既に読み切ってるわ」
「それ、カンニングじゃないか……ちぇ、私の負けだ、情報でも何でもやるよ」

弾幕ごっこ最古参である霊夢と魔理沙、彼女達の数えられない程重ねた勝負、今回は霊夢の勝ちに終わった。
学園都市での幾つかの戦いで切り札を使っていて、完全に読まれていたことがその戦いの勝敗に直結したのだ。
魔理沙は不貞腐れた表情で負けを認め、最初に取り決めた条件を口にする。

「……里で起きてることの説明、私の知ってる限りで、だったな」
「ええ、貴女なら首突っ込んでるだろうし……調べてるんでしょ」
「まあな、つってもあっちで使った触媒の補充のついで、その片手間程度だが……」

悔しさから顰めっ面で、魔理沙はそれまで調べたことを話し始めた。

「複数の術者が何かやってる……行き当たりばったりな子供に、他に老獪というか慎重な奴が居る」
「へえ、複数の術者……」
「ああ、片方がこの熱狂、異変に関わってるが……それを別の奴が幻術で隠してる、まずそいつを見つけるんだな。
……魔法使いは実験だなんだと薬物を使うことが多いから幻術が効き難い、だからそこまでは気づけたんだぜ」
「……成程、参考になるわ……うん、良いペースね」

魔理沙の言葉に霊夢がうむと満足そうにする、予想以上の情報だった。
そして、その間にも勝者である霊夢に人々から熱狂が向けられる。
それは戦う前は魔理沙に向けられていたものも混じっている、彼女は何となく悔しげにそれを見送る。

「ちぇ、私のまで……あーあ持ってかれたか、恨むぜ、霊夢」
「はあ、こんなよくわからない物、集めないの……まあ異変を解決する上では必要かもしれないけど」

残念そうな魔理沙の言葉に霊夢は呆れるのだった。
すると、その時相手が漏らした言葉を聞きつけて、魔理沙はニヤリと笑う。

「……何だ、そうなのか、なら集め直してみるか」
「止めてよ、リベンジ?……面倒臭いでしょうが、もう一度来たら太子さんに相手させるわ」
「ちぇ、冷たいなあ(……へえ、仙人と組んだか、ならこっちは僧侶を誘ってみるか?)」

素気ない言葉に魔理沙はショックを受けたような顔をし、が耳聡く聞きつけて内心悪巧みした。

「……今日は流れが悪い、私は帰るぜ」
「そう、私は聴きこみを続けるわ、じゃあ……」

ポーカフェイスで魔理沙は飛び立ち、その企みに気づけずに霊夢は見送る。
人々の熱は依然燃え上がったまま、異変の解決は『まだ』遠い。



ザアアッ

「……すう、はあ」

怒涛のように降る滝、大瀑布の底で少女が霊気を集中する。
打たれ座禅する涙子である。

「……ふうう」

目を閉じ一定の間で呼吸を繰返す、そうして座禅の体勢を維持し続ける。
慣れてない者には耳障りな滝の音でも彼女の集中は乱れない。
それを切るとすれば誰かの呼びかけ、もしくは『自分』からだ。

「……気配くらい、気を使って消してくれてもいいんじゃない?」
「おっとすまん、だが……」

彼女が自ら目を開き、近づく人物に呼びかける、二人の男女だ。
一人は黒い方の垣根、久方ぶりの人型で釣り竿とクーラーボックスを担ぎ、もう一人は屠自古、取ってきたらしき山菜を纏めて抱えている。

「自分の足で歩くのは久々で、しかも慣れない山道……気配を消すどころじゃなかった、悪いな」
「まあ、気にしてないけど……釣果は?」
「そこそこだ、人が来ないからか擦れてねえ……そろそろ昼だって言いに来た」
「こっちは旬の山菜が幾つか……修行は一旦中断、準備を始めておけ」
「……もうそんな時間か、うん取り掛かる」

滝から上がった涙子は魚と山菜を受け取り、具合を確かめつつこころ達の居る方に向かった。
垣根と屠自古もそれに続く、(軍覇達の目があるので)カラスに変わった垣根が涙子の肩に乗った。

「ねえ、超能力者」
「……何だ?」
「あの人、本当に同じ超能力者なの?……違う気がするんだけど」
「ああ、ありゃ天然もの異能持ち、所謂原石って奴だ……だからそう感じるんだろ」

向かう途中涙子が気になって聞いて、垣根は暗部の知識を思い出して答える。
が、それは涙子の求めた答えではなく、彼女は一度首を振ってからもう一度問いかける。

「ああ、そうじゃなくて……あれ、本当に『学園都市の頂点である超能力者』なの?」

彼女が指す先では真っ白い巨大な影一つ、正確には幾つもの集合体である。
ごちゃごちゃと混ざったそれは大半は守谷の神使の蛇に蛙、組体操さながらに集まっていて、がその底は一人の男だった。
腕立て伏せ体勢の軍覇に神使達が伸し掛かっていた。

「うおおおおっ、根性!」

物凄い勢いで彼は腕立て伏せを繰り返す、背に神使達を乗せても無関係だ。
そして、その様子を神使達を統べる立場の諏訪子が無責任に喝采を送る。
更に無闇矢鱈にノリが良い地下の三人組、こいしにお空にパルスィまでもが喝采する。

「スゴイスゴイ、やるなあ兄ちゃん、」
『良いぞー!』
「……はあ」

辛うじて白い方の垣根はそこまでノリが良くないようで、こいしの肩で黙っている。
とはいえそれでもその光景は正しく馬鹿騒ぎだ、がまだ一人いる、そういうのはまだ早い。

「……よ、ほっ、とおー!」

上下に揺れる神使達の頂上で、こころが見栄を取る。
多分真下の軍覇には筋力を、頂点のこころにはバランス感覚を鍛える的なトレーニングなのだろう。
が、見てる分には唯の大道芸、(呆れとかの意味で)笑うしか無かった。

「……もう一度聞くけど、あの一番下の色物が『学園都市の頂点である超能力者』なの?」
「言い難いが……そうだ」
「まあ着いていくあの娘も濃いが」
「……そんなの両方を任されて、私は泣いてもいいと思うんだ」
『我慢しないでいい、誰も責めないから……』

何かする度一々濃さを思い知らされて、ガックリと肩を落とし涙子は調理に向かう。
その様には流石に垣根も屠自古も同情の視線を送る。
彼女は最早ちょっと涙目、これでは違う意味で精神修行だと嘆いていた。





・・・てな具合で真面目なようでそうでない山の話と、不真面目なようで実は真面目な里の話でした。
山の面子がはしゃいでる間にも、人里では少しずつ情報が集まってきています。
但し異変の中心はあくまでこころな訳で・・・そう考えると山側も結構大事だったり。

以下コメント返信

AISA様
拠点の自爆と言っても修行の監督という罰を与える理由付けの方が大きいですが。
多分諏訪子達が居なくても自爆はしたでしょう、違いはキノコ雲の有無くらいか?・・・まあ精神年齢の近そうな面子を集めたというのもあるし。

九尾様
ああ希望繋がりか、まあ仮面ではなくて『お面』ですが・・・尚踊るので後年のフルーツの方が近い。
で、ごちゃごちゃしてるのの原因であるマミゾウさん、徐々に近づかれてます・・・本当にギリギリな立場に居ます。

中性石鹸~体に優しい様
ええ、布都と神子は書く方楽しいです、キャラの配置時点でボケツッコミが自然に別れました。



[41025] 希望を求めて・四
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f22dae1
Date: 2015/11/08 18:48
薄闇の中、夜の川を三人の少女が見詰めていた。
その一人、涙子が一瞬眉根を寄せた後立ち上がる。

バシャっ

「……当たりっと」

涙子が竿をググと引く、川魚が水面を突き破り(護摩供の時より減らした)松明の光で照らされる。
手元に引き寄せた後、涙子は傍らの葛籠に放り込んだ。

「釣れたけど小振り、天ぷらかな……ま、後二三匹釣っとこ」
「……何だ、今日は護摩供、やらないのか?」
「……やらないのかー!?」

すると緑の桃色、屠自古とこころが夜釣りを楽しみ中の涙子に問いかけた。
二人は川辺からやや離れた松明の下、そこで何かそれぞれ別の作業している。

「気を張りっぱなしってのもね、それにあっち、学園都市じゃ出来ない……つか山でしか出来ないことだから折角だし」
『ふうん……』
「……ま、渓流で夜釣りってのも雅でいいでしょ」

ユラユラ揺れる火の中の渓流で釣りをする、学園都市ではどうやっても出来ないことだと涙子は普通に楽しんでいた。
それに、風雅さという意味では『この状況』だからともいえる。
涙子は再度川に模擬餌を放り、チラとこころ達の方を見やる。

ポロンポロロ

屠自古の指が琴の上を跳ね、こころが舞の古書を読みながら即興でメロディーを口遊む。

「ふーふーん~♪」
「むっ、ちと指使いがうろ覚え……」
「夜の渓流に、琴の音と童女の歌……中々に雅だねえ」

ふっと涙子が二つの音を微笑みながら竿を揺らした。
それは唐突な行動だったが、でも面白いとも思ったので涙子はそのままにさせた。
こころに触発されたか(当時の貴人の嗜み)屠自古が琴を持ってきて弾き始めたのだ。
気になるのか、読書しながらだがこころが引っ付いてジッと見ている。

「……少し、意外だね」
「うん?……ああ私と楽器の組み合わせか。
まあ確かに術や武芸の方が好きだな、自分で言うのも何だけど……まあでも、昔のように偶にはな」

屠自古はそう言い笑うと心持ち隣、こころに音階を合わせながら演奏を続けた。
こころはといえば歌に気を取られ、時折手を止めてはそれに気づき古書を捲り出したりしている。
その微笑ましい光景に涙子は更に笑みを深めた。

「……そっちの子のこと、だけどね」
「ふむ?……何故だろうか、この『小娘』どうにも放っておけん」

涙子は苦笑しながら『意外』という言葉の意味を補足する(今もそうだが)こころの面倒を見ていることについてだ。
というのも屠自古は修行時直接に話したりないが、食事の準備を手伝ったり、振り回され怒る涙子を宥めたりしている。
そういった、こころへのある種過保護な気の使い方が少し気になっていた。

「……多分、『座長』殿に似ているからか、太子が出資とかしていた舞い手でなあ」

そう問われて、初めて自分の対応に気づいた屠自古は少し考え、ふと思い当たったことを口にした。

「見事な舞い手で、貴族にも大人気……太子とも親しく、時折当時は珍しい甘味を私や若い衆に振る舞ってくれたのだ。
……そんな気風のいい大人という印象が先行し、姓名でなく座長で覚えてしまったが」
「……ああ、土産物とか持ってくる親戚を『何時もの親切なオジさんオバさん』で覚える奴ね」
「うむ、身も蓋もないが……その方とこの娘がどうにも重なってな、つい世話を焼いてしまう」

それが恩返しとも代替行動ともいえる行動の理由のようで、屠自古は隣の少女を苦笑気味の顔で見た。

「る、うー……むにゃ」
「ああ眠いか、ほら寝床行くぞ……こういう風に、『ついつい』な」
「……ま、好きにしなよ、仲いい分には問題ない」

そんな話の間に少女の様子が怪しくなって、屠自古は優しく手を引いた。
昼が主な活動時間だからか夜釣りも十分夜更かしのようだ、涙子と屠自古の視線の先でこころが屠自古に体を傾ける。
屠自古は苦笑すると、彼女を小脇に抱え上げ、幽霊の尾の先に琴を引っ掛けてからテントに向かった。

「私はこいつを送っていく、涙子は?」
「……もう少し釣りやって、その後軽く座禅してく……お休み、二人共」

さっきまでの雅な空気の礼も込め、涙子は二人に手を振って見送った。

「ま、口煩くいうのは……今日は止めておこ、偶にはああいうのも良い」

涙子はふふと笑い、釣り竿を勢い付けて投げた。



ワーワー

が、翌日の朝『それ』を見た涙子は昨夜の寛容な思いを改めかけた。
人の群れがこころを中心に、テンション高く騒いでいた。

「……いや、流石に限度がある」
「……申し訳ありません、非番の天狗が面白がって」
「俗物共め……」

(最低限の偽装か)修験者姿の男達が踊るこころに喝采する。
その光景はそれまで以上に修行と程遠く、涙子は頭を抱えた。

「天魔め、そっちで煩くしてどうするのさ」
「ほんとごめん、天狗も鬼に負けず祭り好きだから……」

涙子も、隣の椛も騒がしさの中嘆いた。



第三話 希望を求めて・四



小岩の上、簡易ステージとなったそれの真ん中陣取ってこころが跳ねる。

「……うおおおっ、見るがいい、この……あの古書の内容を再現した足捌きを!」
『おう良いぞ、嬢ちゃん!』

屠自古の演奏(突っ込み諦めて流された)に合わせ少女が跳躍する。
その元気のいい姿に天狗達は無責任に喝采、それで更にこころは熱くなった。
そして、黙って見てられないのはもう一人の修行者。

「くうう、やるねえ……なら、俺も参加するぞ、演出でドーン!」

負けじと軍覇が後方で爆発、能力で起こした火とスモークが踊りに彩りを加える。

「あら、飛び入りいいの?……ならダンスゲーで鍛えたノリ見せてやる!」
「うにゅにゅ、私もやるー!」
「……遊女時代を思い出すわね」

これに、この手の騒ぎが大好きな地底の三人も当然参加する。
こいしとお空とパルスィが即席バックダンサーとなって、舞いに参加した(垣根達は無関係という顔で近くの樹の枝に避難)

「おおっ、今の踊りは激しいな、舞いとは趣が違うがこれはこれで……」
「……緩急利かせるそっちと違って、上げてく感じだからねー」
「……ケロ、その分単調だから飽きられ易いんだがね」

複雑な舞いと違うアップテンポな踊りにこころが面白がり、客席で早苗(当然だが現代人)の影響で詳しい諏訪子が零す。
とはいえ、それ等の欠点に後格式から外れている奇妙な踊りも天狗は気にしない。
何よりそれぞれ種類は違うが、綺麗どころの追加に天狗は更にノリを良くした。

ウオオオッ

「おおうっ……良い反応、感謝するぞ、三人共」
「……ふふっ、そんな呑気に言って良いの?」

笑みを浮かべるこころに対して人悪く笑い、こいしがその隣へと出た。
そして、見せつけるように更に派手な、天狗達の好むノリの良い踊り方をし始める。

「……このままじゃ食っちゃうよう?」
「何と、獅子糞中の虫か!?な、ならば……」

むむとこいしの造反に顔を顰め、その後こころもまた踊り方を変える。
タンタンと小気味良くステップし、ブンブンと足の動きにに合わせて腕を振り回す。
それその物ではないが、現代風、ノリの良い踊りのエッセンスを取り入れたのだ。

「今の踊り方、真似させてもらうとする……」
「あっ、そんな……本格的な舞い手がそれやったら、こっち勝ち目無いじゃん!?」
「ふっ、残念だったな、我が糧となるがいい……好敵手よ!」
「……むむむ、こうなれば、地下の連中を集めるか?」

何故か時代がかったノリで二人は睨み合い、そういう舞台の上の戦いを天狗は踊りと別に面白がった。

「おー頑張れ、そっちの桃色!」
「そっちの緑の子も負けるな!」
「……おい、犬走、お前も参加したらどうだ?」
「勘弁して下さい、武骨者ですので」

とりあえず先輩天狗の言葉は無視し、椛は申し訳無さそうな顔で涙子を見た。

「本当にすみません、節姫……その、天魔様との話、漏れていたようです」
「ああうん、そりゃこうなるか、天狗だもんなあ」

彼女は諦めの入った顔で頬を掻いた、あれよあれよと天狗が踊りを囃し立てる物だから口を挟む間がなかった。
というか、妖怪ならこんなもんともう突っ込みは放棄していた。

「ま、流石に天魔は居ないか」
「あっいえ、あの方なら……踊りが素晴らしければ直に誘うと」
「……天狗ってのはどいつもこいつも」

涙子はその享楽さ(元が犬科で真面目な白狼天狗以外)とかに悪態付く。

ドカーン

そんな間に舞いは進み、軍覇の能力による爆発と同時に、ノリが上がりに上がった所でこころ達がが見栄を切った。

「はあっ、これで締め!」
『……くっ、見栄の完成度が遠いか!?』

隣のこいしが、そして後ろのお空達が(後者は多分空気を読んで)悔しがり、一方で客席側、神も天狗も割れる程手を打った。

ウオオオッ

「……お粗末様、ありがとう」

その反応に(顔は無表情だが)嬉しそうに答え、こころはペコリと一礼する。
そしてそこで、彼女は息を整えた後『爆弾発言』をした。

「次は……人里で踊るから、皆も見に来てね!」
『ウオオオッ』
「……待って、色々待って!?」

妖怪による人里での第二ステージ発言に観客が湧いて、一瞬凍りついた後涙子が口を挟んだ。
水を刺されたと思ったか、天狗が涙子を睨んでくる。

『……何だ、節姫』
「いやいや唯でさえややこしい所に、そんなややこしそうな子が行くの!?」
「えっ、駄目……なの?そんな!?」
『むう、我らがアイドルを泣かすのか、節姫!?』
「……ちょっと黙って、『鬼』呼ぶぞ、暇人共」

とりあえず考えなしに言う天狗は『友人』をチラつかせて黙らせ、その後涙子はこころを説得し始める。

「いや里で妖か……余所者が彷徨くのは問題が有るというかね?」
「ううっ、でも……」

軍覇が居るのでやや曖昧に、だが里と妖怪の相性の悪さを説かれ、これに彼女は黙り込んだ。
例えば、命蓮寺や霊廟の住人が啓蒙活動で人と慣れた後何かするのとは違う、こころはそういう積み重ねの無い新顔なのだ。
それ抜きで向かうのは問題に成るかもしれず、しかも異変の只中と在っては涙子はきつく考えを改めさるしかない。

「悪いことは言わない、しっかり段取り踏んでから……」

そう済まなそうに涙子が説得していた時、聴衆の中で天狗の一人がふとした感じで言った。

「……天魔様が世話頼んだんだし、その辺も節姫が考えてやるべきじゃ?」
『あっ……』
「おい止めろ、流れ変わったんだけど!?」

その一言で空気が変わった。
これには涙子は慌て、が既に遅く、こころがキラキラした目で見てきた。

「……お願い、私は……踊りたいの、人々に希望を挙げたいの!」
「……いやそんな目で見ても困るって」
『でも、何か協力する流れになってるが』
「そ、そう言われても、そりゃ天魔に頼まれたのはそういうことだけど……」

涙子が慌てて首を横に振る、するとこころが泣きそうに成る。
周囲から冷たい視線が飛び、何だか空気的に断れなくなったことに気付き涙子は汗だくになった。
暫しの葛藤、主にリスクと失敗時の恐怖、それに震えながら彼女は涙目で頷いた。

「……鋭意努力します」
「……あ、ありがとう!」

こころと聴衆、その期待の視線に涙子は屈した。
ピョンと感激で赤い顔でこころが抱きつき、それにされるままで涙子が天を力無く見上げた。

「と、とりあえず、里の様子見てくるから……段取りつうか作戦とか、考えさせて下さい……」
『……頑張れ、ヘマして退治されるなよー』

他人顔の神や天狗に見送られる中彼女の、『こころプロデュース作戦』が始まった。



が、同時刻、巫女が動き始めていた。

「幽香、早苗、手伝ってー……怪しい顔、人里で見たことの無いのを見たら、サーチアンドデストロイよ!」
『まあ、暇だし……りょーかーい』

とりあえず幻術の元を潰しにかかろうと彼女が応援を呼んで、とりあえず神社に居た人妖がそれに選ばれる。
緑髪に青の巫女服の少女、東風谷早苗と同じく緑髪に(予備の)赤の巫女服の女性、風見幽香の参戦である。

「ついでに信仰稼ぎましょ、とりあえず巫女服着てれば里は身内って考えるでしょ」
「……分社有るとはいえ別なんですけどねえ」
「……ええと、妖怪だけどいいのかしら」
「細かいことは良いの、さあ……出陣よ!」

えいえいおーと霊夢を中心に、三人の巫女(一人なんちゃって)が里へと向かう。
二人の少女達、『子鬼』と『狸』、その受難が同時に始まった。




・・・という訳でそろそろ折り返し、山での因縁(というかしがらみ)で死地に向かう少女の図。
多分彼女自身の性質は自由人でも、そういう昔のしがらみで素面に戻ったり・・・元々その節はあったが、それが諸に出てしまった感じか。
後、緑髪コンビは単純に仏教道教との戦力のバランス取り・・・出番はそこそこかも。

以下コメント返信

九尾様
そもそもこの人は能力者じゃないし、というか考察次第で魔神説あるし・・・何かこのSSでも『何か凄い人』扱いでしょうね。
布都ちゃんはもうドヤ顔仙人のイメージが強すぎて・・・多分SS内でシリアスとネタのブレ幅が最も大きい人だと思う(尚、既に一部でシリアスやり切ったかも・・・)

がんじぃ様
いや元人間なのでそこまで露骨な弱点はないです・・・というか氷は風と水のサブですから、火や暑さは好きじゃない程度かな?
・・・何より佐天さんは豊か(主に体型、胸とかの意味で)であるべきでしょう。



[41025] 第四話 希望を求めて・五
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f22dae1
Date: 2016/12/23 19:09
情報交換の為に二人の少女が落ち合う、角にも耳にも見える特徴的な髪型の少女が首を傾げた。

「なあ、巫女殿……何か増えてね?」
「唯の応援、気にしないで、太子さん」

首を傾げた神子の視線の先には緑髪の少女達、それぞれ風と閃光をばら撒いて暴れていた。
霊夢によって連れだされた早苗と幽香である。

「まずは準備体操……えい、九字刺し!」

ズドンッ
ギャアアア

「……祭だし派手に行きましょ、幻想郷の開花!」

ドガガガッ
ウワアアアア

轟音が鳴って悲鳴も響く、二人は目に付く端から怪しそうなのに仕掛けていた。
判断基準はこの手の異変が起こせそうなそこそこ以上の者、それで外れでもその暴れっぷりで信仰の熱が集まるという寸法だ。

「まあ、当たればそれで異変解決、駄目でも人気者……うん、どっちに転んでも良しね」
「……い、良いのかなあ、少し乱暴な気がするけど」
「良いのいいの、何だかんだ観客も楽しんでるしね」

ワアアアアアアアアッッ

「はあい、応援ども!」
「……一応ありがと」

弾幕の度それに負けない程に湧いて、それに早苗は愛想よく、幽香は程々に淑女っぽく手を振ったりしている。
ある意味異変の中でそういう騒ぎに慣れたからこその光景だ。

「里の人達にもちょうどいい、最近異変続きだし気分転換に成る……案外今回の狙いは『それ』かしら?」
「巫女殿、狙いとは?」
「……異変で人の心が荒んでる、それを『憂いた』のかも」

それは半ば勘で、だが口にすると何となくだが間違っていないような気がした。
加えて、同時期に姿が見え隠れする面霊気の存在とも重なる気がした。

「もし、そうなら……珍しく善意の異変ね」
「……とはいえこの状態が続くのも少し不味いだろう、早く見つけねばな」

相手の目的が僅かに理解でき、だがそれはそれと止めねばと二人は解決に向い動き出す。
その為にまず、互いの情報を詰めて行く。
チラホラ上がった目撃情報と幻術のこと、合わせると見えてくる物がある。

「……行動範囲が人里中心にそこそこ広め、というか何かフラフラと?」
「この異変の鍵が希望なら……それを見つけ次第って所か、今は見に徹していて、異変の進行を待ってるのだろう」
「その辺でしょうね……で、幻術使いの方がそれをフォローしてる、なら狙うならそっちね」

とりあえず話し合って行動方針が決まった。
まぐれ狙いで早苗達は今のやり方を続け、それと平行して幻術使いを探すことにする。

「幻術使いの先に主犯が居るはず、見つければ芋づる先……出来れば『切欠け』が有ればなあ」

どちらかが『尻尾』を出せば、それが一気に近づけるチャンスと成るだろうと霊夢はそう口にした。



第四話 希望を求めて・五



「むう、聞き込み飽きた……何か燃やしたい」

ボソと物騒に、銀髪の古風な格好の娘が呟いた。
勝手な宣伝や寺の粗探しで叱られた布都である、彼女は億劫そうに人里を見渡した。

「……と、何じゃ、妙に騒がしいが」

が、そこで奇妙な集まりに気づいた。
『希望』『変幻自在』といった大仰な旗が振られ、見たことのある少女達が何か宣伝していた。
というか、琴を抱えた身内の姿が混じっている。

「屠自古、何やっとるんじゃあいつ……妙なことして、太子様に怒られても知らんぞ」

自分のことを棚上げにして布都が呆れ顔に成った。
どうやら踊り子のお披露目のようだ、皆それを里の者に知らせているらしい。
で、肝心の踊り子は、と見ればお立ち台の側で『眼鏡』を掛けた女性と話していた。

コソコソ

「……何やってる、こころ」
「いや、異変の最後で踊りますって意味で言ったのに……何か皆に後押しされて、今から踊ることになっちゃった」
「この阿呆、計画滅茶苦茶じゃろ!?」

何かグダグダだった、踊り子の知り合いらしき『眼鏡』の女性が怒っていた。
面倒見のいいお姉さんが妹分を叱るような、ちょっと微笑ましい光景だった。
が、その光景に違う物を感じ、ううむと布都は首を捻る。

「……『座長』殿?」

何故か、在りし日の誰かと重なった。



ガヤガヤ

「よし、人も集まってきた、屠自古ちゃんを仲介に許可も、なら後は……」

涙子は屠自古達(それと天狗の有志)と共に宣伝し、程良いかなと思った所でこころを呼んだ。

「おうい始めるよ、やれるかな、こころちゃん?」
「あ、うん!」
「……誰かと話してた?」
「うん、でも大丈夫……後で話すから」

誰かと話していたらしきこころが慌てた様子で来る(相手はもう離れたか見つけられなかったが)
ピョンと元気よく、即席のお立ち台に飛び乗った。

「はあい、皆さん、おまたせー……こちらが古代の踊りをマスターした超新星(自己申告)でーす、はい拍手ー!」

パチパチパチ

涙子の言葉に反射的に里の者達が手を打ち鳴らす、ノリの良さに苦笑しつつ涙子はこころ達を促した。
彼女は深呼吸の後踊りの体勢に(今回は彼女の舞台なので『ピン』)また軍覇が能力で煙幕を焚いて、屠自古が琴に指を添える。

「……準備は?」
「問題ない、何時でもいいぜ、嬢ちゃん!」
「ま、合わせるから好きにやるといい」
「うん、じゃあ……全力で行くよ!」

ダンッ

そして彼女が跳んだ、爆発を背に、グルグルと回る仮面の中心で高く高く。
その躍動感のある動きに里の者達は思わず目を引く。

トットン

更に着地後左右に軽やかにステップ、それを繰り返してから演舞用の薙刀を構える。

ビュッ

「はあっ!」

幾らか温まりそこで、こころが大きく見栄を切る。
小さな体なのに異様な存在感を発していて一瞬里の者達は『飲まれた』。
すかさず、台の横に下がっていた涙子と、観衆に紛れていた諏訪子が同時に叫ぶ。

『……はい、皆、歓声忘れんなよー!』

それで思い出したように彼等はハッとどよめき始め、堰を切ったように喝采する。

ワアアアアアアアアァアアッッ

「……小さな神様、ナイス」
「良い踊りには歓声、当然だ」

そんな小声の会話を他所に、里の反応にこころはグッと小さくガッツポーズ。
彼女は昂ぶりでクルクル仮面を回しながら舞いを再開する。

「良し、この調子で……続けていく!」
「……私の技術が間に合う範囲で頼むな」

ダンダンっと気を良くし、お立ち台でこころが軽やかに舞った。
それで更に観衆がわく、離れで見ていた地下の三人や垣根(達)、それに勝手についてきた天狗はうんうんと満足そうにする。

「うん、いい感じだね……今回は乱入なしか、何か残念」
「楽しそうですね、こいし様!」
「……妬ましい妬ましい、ああ妬ましい」
「やっぱポールダンスの方が……むぎゅ」
「黙れ、本当に黙れ、黒いの……」
『こころちゃん、ファイトー!』

(途中から碌でもないが)それぞれ里の者達を先導するように応援に参加、こころの舞いも合わせて一気に熱狂が渦巻いた。

「やっ、はっ、とー!」

ダンダンダンッ

最高潮に合わせてこころの舞も加速、連続跳躍からブンと薙刀を回転させた。
そして、頭上でピタと止めて見栄を切る。

「やあっ!」

ワアアアアアアアアァアアッッ
バチバチバチバチバチッ

その瞬間人里の者達は揃って、大きな歓声と割れるような拍手を彼女に送った。
それにこころは満面の笑み(顔は無表情で仮面でだが)、その後更なる舞の準備に移る。

「お粗末様でした、歓声ありがとうね、さあ次は……」

が、そこへ待ったが掛けられる、銀髪の少女が皿を手に駆けてきたのだ。

「おうおう、ちょっと待って貰おうか、そこのピンク……新顔が派手にやってくれるのう!」
『げえっ、ポンコツ悪女!?』

布都の登場である、それに涙子と屠自古が絶句する。

「新顔がこうも派手に……我等先達の面子が丸潰れではないか、どうケジメをつけてくれる?」
「カチン、折角いい気分なのに……」
「……ほうやるか、もしこちらが勝てばそこを譲れ、寺院撲滅運動の広聴席とする!」
「むうう、何て勝手な……返り討ちだあっ!」
『ちょ、ちょっと待て、物部(布都ちゃん)!?』

ダンと二人は睨み合いから同時に駈け出し、屠自古達の静止も無視し台上で激突する。
優美な舞いは一転して荒々しい闘争の場となった。

「ふっ……」

ニヤリ

だがその戦いの最中に、布都が何かを企んだように笑ったことに誰も気づけなかった。

「河勝殿に似ている、やはり例の面(ボソ)……ああこれは、面白いことになりそうだなあ!?」

この瞬間(本来は)『待ち』だったこころの異変の参戦が決定的となった。
主からの探し物という頼みを達成しつつ、同時に楽しそうなことに自ら突っ込んだ古代日本有数の悪女、というか愉快犯がケラケラと笑う。

「どうせ太子に怒られるが、せめて楽しませてもらうぞ!」
「よ、良くわからんが……ならば我が舞い、存分に堪能しろー!」

こうして、人里を巻き込んだ異変は一気に加速し始めた、悪女(ポンコツ系)の行動によって。

「ひゃっはああ、良い感じである、里よ……湧きに湧けい!」

ワアアアアアアアアッッ

「……どうすんのこれ、監督責任はこっちなんだけど」
「身内(母親)がすまん……」

但し影では、涙子と屠自古が力無く項垂れていたが。



そんな中、最後の宗教勢力にも動きがあった。

「たのもー……だぜ」
「あらあら、魔法使いさん……」

黒い帽子の金髪少女が寺を訪れて、同業者にちょっと親しみ覚えた様子で紫と金の住職が迎えいれる。
そしてそこで金髪、魔理沙は目の前の住職、白蓮に唐突に誘いの言葉を掛けた。

「なあ、里で異変が起きてるだろ……同じ魔法使いの誼で組んで突っ込んでみないか?」
「……ふむ、確かにあの騒ぎようは少し目に余りますが」

とはいえいきなり過ぎて反応は思わしくはなかった。
但し、その時は、あくまで最初はだったが。

「おうい、聖……アイツにやる酒、氷室に置いてきたよー」
「ありがとうね、ぬえ……助けた子の用事を終えたら、寺に来る筈だからその時に渡しましょう」
「オッケー……にしてもこれで私も先輩か、一時預かりかもしれないけど」
「まあその辺は当事者次第ですしね、最低限常識を教えてからの話ですが……とはいえ一時でも寝食を共にする、いい経験でしょう」

ふっと微笑んだり少し緊張したりといった感じで言い合って、そこでぬえが魔理沙に気付く。

「……おっと客か、身内話してごめんね」
「いや気にしてないぜ……そうか、『ぬえ』か」

気にすんなと言って、その後魔理沙はふと思いついた様子でぬえを見た。
彼女の素性を思い出し、これはという感じでそちらにも誘いをかける。

「ぬえと言えば大妖怪、幻術もお手のもんだろ?……里で大規模の幻術使ってるのが居るんだ、探すの手伝ってくれないか?」
「……うーん、そう言われてもねえ」
「待って、ちょっと今気になる言葉が……」

ぬえが断ろうとして、がそこで白蓮がある言葉に食いついた。
彼女は何故か微妙な表情になり、里の術者と今寺に居ない女性を並べた。

「ねえ、ぬえ……大規模の幻術に、今は外にいる大狸、これってまさか……」
「えっ、いや流石にそれは……あっいや、マミゾウって結構気紛れだもんなあ」

二人は恐る恐るという感じで顔を見合わせ、その後弱々しい顔で魔理沙を見た。

『……ねえ、魔法使いさん』
「あん、何だ?」
『身内が異変起こした場合……そいつボコって止めたら罰避けられる?』
「まあ心象的にはマシか、ていうか結構容赦無いなあお前ら……」

その答えを聞いて、二人はガシと魔理沙の手を取る。
彼女が引く程の勢いで異変の参加の旨を告げた。

「き、協力します、流石に新興勢力が異変の片棒を担ぐのはどうかと……」
「……というか、寺に誘った私の立場もそれはちょっとねえ」
「お、おう、わかったぜ……」

ちょっと引きながらだが、魔理沙が二人の言葉を受け入れた。

「……ま、まあこれで幻術の方は何とかなる、後は……」
「ふむ、そこそこ以上の妖怪は『ある種の異界』に逃げ込んだりします、それについて……というより『そういう場所』で幻術を掛けてるのかもしれません」
「ああ、確かマミゾウはそういうの得意だった、今頃は眷属狸と篭ってるんじゃない?」

参加は決まり話し合いは次の段階に、そうすると次の懸念が浮かんでくる。
幻術だけでなく、隠れ家のことも考えねばならない。
そして、それについては運よくというべきか、白蓮があることを思いついた。
彼女はポンと手を叩き、懐から『真っ赤な包み』を取り出した。

「そうだ、レミリアさんが困ったことがあったらと……ええとこれです」

中身は細い管、一見犬笛のように見えるそれを白蓮は手を添え吹いた。
それらしい音はせず(ただ一人可聴外の音に気づいた正体不明が顔顰め)が聞こえない筈の音を『ある者』が聞きつけてきた。

ヒュンッ

『銀のメイド』が突如出現する。

「……お呼びでしょうか、聖様」

清潔そうなメイド服に身を包み、懐中時計を片手に、瀟洒という言葉そのままで十六夜咲夜が三人の前に立っていた。
あらまあと、一時共に暮らした白蓮は微笑んだ。

「お久しぶりです、咲夜さん……ああ、貴女への合図でしたか」
「お嬢様のご友人ですもの、直ぐ飛んできますわ」
「犬笛なのに……流石『悪魔の犬』」
「いやこの為にお嬢様が眷属残してて、その伝言できただけだからね

人外を見るような魔理沙をギロリと睨み、その後咲夜は嘗ての同居者であり主の友人に一礼する。

「さて私の手がお入用ですか、ハウスキーピングに子供の子守……時間と空間にも一家言ありますが」
「ええ、最後のをお願いします、少し隠れんぼの旨い悪戯者が居りまして……」
「……成程、ある程度の場所を割り出してくれればそこにお連れ出来るでしょう、それに関しては……」
「ああその辺は私かな、友人としてマミゾウに灸を据えなくちゃ」
「へえ、これなら……話は決まりだぜ、行こうか」

トントン拍子に話が決まり、魔理沙はニヤリと笑い皆を促す。
こうして、普通の魔法使いの誘いで最後の勢力も里へ、異変の渦中の人里へ向かうのだった。





さてさて三話も後半戦、三者三様に全勢力がこうして集まりました。
こういう展開なので『本来隠れていた』こころが行き成り人里に出てます、ああ今更だけど多分『希望の面』失くしてないや(経年劣化ととかで力を失ってる感じ)
布都ちゃん、太子の叱責不可避な大チョンボ(異変解決的にはクリティカル)一部の時以上に場を引っ掻き回してます。
・・・次回はその影響に関して、後三勢力の小競り合いかな?

以下コメント返信
九尾様
まあ流石にこの異変限定でしょう、目立った者勝ちのようだし・・・でも布都が絡んできたのでアイドルとシューターの二足草鞋になりました。
それと寧ろ霊夢はこういうのが有利な気がします、博麗神社の歴史はとにかく圧倒的だし・・・それが偶に逆に出て、畏れ多さとかで閑古鳥だけど。

AISA様
寧ろ周りが騒いで、責任だけ佐天さんが取る感じ・・・こいしのモーションがピョンピョン跳んだりで何となくダンスゲーに繋げました、後お金は多分垣根さん。



[41025] 第四話 希望を求めて・六
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f22dae1
Date: 2015/11/19 00:15
第四話 希望を求めて・六



チュドンッ

「ぐはあ、やーられーたあ……」

薙刀と、『面』を媒介にした弾幕の連打が銀髪の少女をふっ飛ばした。
どかんどかんと爆炎が立て続けに鳴る派手な打ち合いを制したのはこころだった。
どこか態とらしく、布都は仰々しいと感じるまでの言葉と共にドサリと地に伏せた。

「ふっ、物部の炎を突破するとは……きっとお主は歴史に残る踊り手になるだろう!
いや、成ると……我は確信する、邪魔して悪かったな、後は……好きに舞うが良い!」
「……おおっ、わかったなら良いぞ、後もっと褒めて!」
「よっ、天下一、いや……(芸能の)『神の中の神』!」
「おっ、それ良い、その言い方いいかも!」
(ま、そりゃあ座長の……河勝殿の字の一つじゃもん)

まるで人里を、更には『こころまでも』煽るように布都が絶賛する。
最後にちょっと『面の持ち主』に重ねてべた褒めした。
微妙にしんみりしてる布都の内心に気づかず、こころはピョンピョン跳んで舞い上がって、面をクルクルさせるという彼女流の喜び方をした。

「おう、ナイスファイトだったぞ、こころの嬢ちゃん!」
「同志よ、応援ありがと!」
「……明らかな異能者を疑問に思えよ、超能力者……いやこいつに常識を期待するのは無駄か」

勝敗が突いたのを見計らい、軍覇は勝者であるこころを持て囃した。
少しも疑わない呑気さ(というか脳筋さ)に垣根に呆れられつつ、彼はこころを人里の者達に見えるように抱え上げた。

「それ、皆に見えるように……胴上げだ!」
「わっ、もう、行き成り……でも、ありがと!」

マイペースに彼はこころを高々と抱え、ビックリしつつ彼女はその状態でブンブン手を振る、それにノリの良い人里の者達は大興奮となった。

ワアアアッ

『良いぞ、もっとやれー』
『あの新顔やるなあ……』
『スゲエもん、見せて貰った気がするな!』

里の者達が戦いの勝者を口々に褒め称え、それにこころは気を良くして更に腕を振り回した。

「拍手喝采、大感謝!……あれ?」

そして、一通り反応し終えた所で、彼女は何故か沈んでいる二人組を見つけた。

「……あの子、何かかなりやるんだけど」
「……というか、唯一穴になりそうな『僅かなぎこちなさ』が布都との戦いで大分是正されたんだが」

涙子と屠自古がどんよりした空気の中で愚痴っていた。
涙子は異変に関わったことに加え、その中で十分戦えそうなこころの実力に(巻き込まれとかの意味で)嫌な予感を覚えていた。
それに対して、屠自古は戦いの中で布都が相手の経験となったことにそれ以上の物を覚えていた。
まるで『餞別』のように、布都は『自らを糧にさせた』ように見えた。

「物部、戦いながらまるで教本のように……何のつも、り?」

シイン

が、文句を言おうにもそこに既に居らず、何か落書きっぽい顔付きの手紙が有るだけだった。

「……『諸用を思い出したので帰る』か、逃げやがったな、あの阿呆」
「ははは、嵌められたね……異変に参加したようなもんだ、面倒事は避けられないね」
「どうしたー、折角の祭りなのに暗いぞー!?」
『……聞くな、ガチ泣きしそうだから』

逃げ足の早い悪女に、屠自古達はガクと肩を落とすしかなかった。
その様子にこころは不思議そうに首を傾げ、それに答えられず二人は更に沈む。
そして、その間にも二人の被害者を無視して人里の者達がこころに喝采する。

ワアアッ

「……あ、どうもどうも……皆、ありがとっ!」

こうして、こころという少女は人里で一躍アイドルと成った。
『よりにもよって』『異変のど真ん中』の人里で。

ザッ

『たのもー!』

だから、その後直ぐに現れた三人の挑戦者は必然だったのだろう。

『そこの桃色……挑戦希望だ!』
「ふっ、どんな挑戦も受けよう、私は……希望なのだから!」
「はい、悪化した!完璧に巻き込まれた!?」
「もう完璧に異変に巻き込まれてるなあ……」

調子に乗ったこころが受けて立ち、傍らの涙子と屠自古が諦めたように両手を上げる(所謂お手上げのポーズ)
そして、挑戦者達は意気揚々と弾幕を展開する。

「……新興勢力だし此処らで目立っときましょ、準備よ雲山!」
「ひゅい?最近里に来てなかったが……面白そうじゃん、私も参加してやろ!」
「踊りの時のリベンジだ、勝ったらうちのペットになってね!」

最近来た入道使いが、『河童』が、『さとり』が身構えた。

「……後半待て、ちょっと待て」
『何?佐天(さん)?』

頭を抱えて嫌そうな顔で、涙子が水色と緑の髪の少女を問いかけた。

「にとちゃん、然りげ無く混じるな……というか獅子身中の虫か、こいしちゃん!?」
「悪いね、祭り好きは妖怪の性分……我慢出来なかった!」
「えー、良いじゃん、折角だしリベンジさせてよ……弾幕ごっこなら前回のようには行かないぞ!」

どっちも顔見知り、というか片方は応援のはずだった、が構わず二人はファイティングポーズ。
それに合わせて人里は更に活性化、三人の挑戦者とこころ、そして『涙子』をも加えて、彼女達を見守るように円陣を組んだ。

ワアアアッ

『良くわからんが頑張れよ……『五人』とも!』
「えっ、あれ、私も数に入って……巻き込まれた!?」

何故か涙子も入っていた、突っ込みを入れていたから参加者扱いされたようだ。
慌てて彼女は助けを請うように周りを見たが、どいつもこいつも遠巻きにしていた。

『……カー』
「おい白黒、他人顔いや……野生の烏顔すんな!」
「……あ、私は後ろで琴引いてるから」
「あ、ずるい、逃げたな、屠自古ちゃん!?」
「うにゅ、軍覇のお兄さん、背後の爆発は私もいい?」「おう、やれやれ、派手なのはいいことだ」
「……うん、最初から期待してない」
「ああ妬ましい、妬ましい」
「……暇だし、適当に祟りたいなあ」
「……うん、そっちにも期待してないです」
『こころちゃん、ファイト!』
「天狗はいい加減にしろよ!煩悩だらけだぞ修験者の癖に!」

ゼエハアと一息に突っ込んで、その後クナイを手に(なし崩しに味方扱いの)こころの隣に立った。
彼女はどこか自棄っぽく、引き攣り気味に笑っていたが。

「ええい、こうなったら……八つ当たり出来りゃ誰でもいい、来いや!、」
「ようし、即興だが……舞うぞ、恩人よ!」
『……行くぞ、勝って目立ってやる!』

ワアアアアアアッッ

ズドンズドンと轟音が響き渡る、二対三の変則的弾幕ごっこが始まって、人里はそれを無責任に喝采し捲って。
そんな、ある意味何時もの光景が広がってた。



ズズッ

程良く冷めた茶を、霊夢が啜った、一見呑気に、でも何故か冷や汗だらけで。

「……お茶うんまあい」
『霊夢(さん)、逃避ストップ』

すかさず緑髪の二人、幽香と早苗が突っ込む。
そんな三人の視線の先には神子と、先程合流したその部下である布都、道教の凸凹主従が有った。

「……という訳で面霊気が居りました、異変に関わってればそのうち会えると思います!」
「ふむ、良い報告である、が……弾幕ごっこをやる必要は全く有りませんでしたよね!?」
「てへ、勢いで……」
「布都、この天然!?」

ゴツンと報告し終えた布都に拳骨落ちて、キャインと鳴いた彼女を神子が笏でベチベチ叩く。
その後霊夢の方を向いて、神子は深々と頭を下げた。

「……うちのが『また』やらかしました、本当にすまない」
「いや、異変だから、無礼講だから細かくは言わないけど……まあその辺にしておいて、忙しくなるわよ」

霊夢は程々で止めて、落ち着くように言う。
突っ込みどころは多いけれど、とりあえず有用な情報だ。
さてどうするかと彼女は考え、そこでううむと唸った。

「ま、懸念だった面霊気が見つかった、早速会って……あら、『術』が乱れた?」

その時一瞬人里を薄く覆っていた妖力がぶれた気がして、彼女は難しい表情で腕を組んだ。
動いたのは面霊気だけではないかもしれない。
『よく知る魔力』、普通の魔法使いの魔力を感じた。

(……あいつ、また何かやってるようね、でも……『チャンス』かしら?)

思わず呆れて、同時に丁度いいとも思った、同じく気づいた緑髪の二人もコクコク頷いている。

「博麗殿?」
「……太子様、二手に別れましょう、早苗はそっちにつけるわ」
「協力者の方を攻めるということか……承知した、そちらも気をつけて」

四人は一気に決めようと別れることにした、霊夢は幽香を連れ魔力を感じた方へ、神子は早苗と共に里の方へ。



紫と金の髪の僧侶がどこか困ったように笑う。

「……あらあらあら」
「あ、あわわ……」

僧侶、白蓮が頬に手を当て上品に微笑む、が何故か『眼鏡』に『獣耳』の女性が青くなる。
そこは人の寄り付かぬ妖かしの領域で、老狸と眷属のみが存在するはずだった。
だが、妖獣とメイドに連れられて、突如白蓮が現れたのだ。

「あら、奇遇ですね……『マミゾウ』さん?」
「ひいっ?!」

そう言って聖はマミゾウに上品に微笑みかけ、だが眷属諸共に凍りつく程の殺気を感じて彼女は絶句する。
何故なら、不穏なオーラを聖から感じたのだ。

「ひ、聖殿、一応聞くが……もしかして怒って?」
「私が貴女に期待してたのは経験者、長老というか……そういう形での幼い妖怪のブレーキ役だったのですが」
「あ、うん、そういう意味じゃ確かに不味かったか」

ブルブルと彼女は震え、その後ソッと後退ろうとした。
が、足元にナイフが刺さり、行く手には魔法使いの箒と妖獣の三叉槍が交差し、退路を断った。

「おおう、先回りされた!?」
「……残念、でもお嬢様の友人で、私としても知らない方でないので」
「悪いが素直に怒られな……僧侶の姉さんがちと怖い、ここはガス抜きが必要だぜ」
「勘弁してよ、マミゾウ……勝手したせいでこっちの肩身が狭くなるじゃん」

三人はそれぞれ、それなりの情に人身御供、自己保身で老狸を逃さなかった。

「ではマミゾウさん……反省しましょうか」

慌てるマミゾウにニッコリと白蓮が笑いかけ、その後顔を引き締める。
笑みの代わりに怒りの感情が浮かんで、マミゾウは咄嗟に術の媒介である『葉』を抜いた。

「うひい、まだ捕まる訳には!?」

ボンと白煙が一瞬上がり、その後そこから鏡写しのように『紫と金の髪の僧侶』が飛び出す。

「幾ら超人とて化ければ互角……一撃入れて、その間に逃げさせてもらう!」

彼女は変化状態で一気に相手の前に踏み込むと、超人の拳を振り被った。

「お叱りは後で、悪いが……サヨナラじゃ!」
「……そうですか、じゃあこっちは『宝物』追加で」

ガギィンッ

「えっ?」

重ねて構えられた『独鈷杵』が拳を弾き、マミゾウは僧侶の顔でキョトンとした顔になった。

「法力による強化、私のと……弟の法力を込めた独鈷杵、幾らなんでも変化では真似られないでしょう?」

自分と、それ以上に弟のことを誇るように言って、その後白蓮は自分と同じ顔に独鈷杵を突きつける。
ヒッと首竦め、マミゾウは恐る恐る問いかけた。

「あの……降参、今でも受け付けてる?」
「駄目です」
「……じゃよね?」

諦めた様子で彼女は一歩下がり、白蓮が逃すかとばかりに一歩詰める。
ジリジリと二人は静かに互いの隙を伺う。

「ええと、あの……戦略的撤退じゃ!」
「逃がしません、よく出来た弟の次は……『素敵な友達からの贈り物』です、『アーンギラサ・ヴェーダ』!」

チュドンッ

幾筋もの光の柱、嘗て奇妙な出会いから友達となった『天使のアドバイス』で完成した大技が放たれる。
膨大な魔力が炸裂し、老狸は己が支配する筈の空間でクルクルと吹っ飛んだ。

「どうやら誰かに頼まれたようですが……せめて静かにやりなさい、南無三!」
「ぬわああっ、巻き込まれに無茶言うなあっ!?」
『……あの人、怒らさないようにしよう』

白蓮が怒りながら戒めの言葉を掛けて、マミゾウが己の境遇を嘆つつ吹っ飛んで、それを見ていた三人は合掌した。





・・・ええとごめんなさい、予定では三勢力がかち合うのですがそこまでやれませんでした。
とりあえず、こころが本格的に異変参加となった前半、霊夢達が事態の変化に気づいた中盤、マミゾウが鎮圧された後半となります。
何か原作よりマミゾウ脱落が早い・・・道教と組んだ霊夢の対抗で寺側な魔理沙、聖さんとお嬢様の関係から応援に来たメイド、その二つが重なった感じですね。

以下コメント返信

九尾様
実はこころを軽く揉んでやろうとか布都は考えてました・・・古代日本関係者同士の一種の親近感で、本人は親切のつもり(但しこの後怒られるけど)
でその一方で、常識人である聖さんもついにブチ切れて、狸のお婆ちゃんこれで脱落となります。
・・・佐天さんはまあ大丈夫、一度楽しもうと思えば後は開き直るから、てな訳でこころに続いて彼女も異変参加です。

タロ様
一応魔理沙はこのSSでは結構常識寄り・・・というか自由人だけど、霊夢のように怠け者ではないので何だかんだ異変の解決にプラスになるのかな。



[41025] 第四話 希望を求めて・七
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f22dae1
Date: 2015/11/28 20:29
ギロと『金と紫の僧侶』が睨み、ビクと老狸が震える。

「……面霊気ですか」
「そ、そうじゃ、其奴が今回の元凶じゃ」

ボロボロで毛並みも乱れた眼鏡の女妖獣は『修羅』、怒りを堪えている白蓮に怯えながら自白した。

「ほ、ほれ、慣れない連中が異変を起こすと手加減出来んだろ……だから、儂がちと動くことにしたのだ」
「……ふむ、その理屈はわかりますが」

決して自分も悪さしたかったわけではない、悪乗りではなく誘導の為だと彼女は説明する。
それで白蓮は幾らか怒りを治めるが、それでも全面的には認められず釘を差した。

「……せめて、私達に話して欲しかったですね」
「むう、だがのう……あれじゃ、こころは人馴れしておらんし」
「ならば、尚更誰かが着くべきでしょう……物見高さから独占したとも取れますが」
「そうそう、マミゾウってば明らかに横で事態を楽しむ立ち位置じゃん」
「……おうふっ、手痛いところを突くのう」

が、(長く生きた妖獣にありがちだが)好奇心を指摘され、マミゾウはギクと目を逸らした。
それを見た白蓮とぬえはムンズと頭を掴む。

「……マミゾウさん、やはり反省しましょうか」
「そうそう、新入りが勝手するもんじゃないよ」
「む、むうっ、手加減してくれい……」
『駄目!』
「うひい……」

白蓮達が睨んで、マミゾウがその身を強ばらせ、そんな一行の様子に部外者の魔理沙と咲夜が苦笑した。

「……やれやれ、要は暇人の余計なお世話焼いたってことか」
「……そのようね、全く大事にしてくれたわ」

二人はハアと嘆息し、説教が終わるのを待つ。
が、その最中、ブンと『マミゾウの頭上』がブレた。

「あれは!」
『えっ?』
「亜空穴……」
「……下がって、三人共!」

突如針を手に『紅白衣装の女』が出現し、眼下のマミゾウに襲いかかる。
その勢いのまま降下し封魔針を振り下ろそうとした。

「させるか!」
「止まりなさい!」

ガギィンッ

が、寸前で魔理沙と咲夜が割り込んで、『紅白衣装の女』、霊夢の攻撃を弾いた。

『博霊の巫女!?』
「……ちっ、とりあえず元凶を仕留められると思ったのに」
「三人共、説教は後……注意しな、鬼巫女のご登場だぜ!」
「異変解決の手柄を独り占めってとこかしら……気をつけて、こういう時の霊夢は容赦無いわよ!」
『り、了解!』

二人に続いて白蓮達も慌てて構え、霊夢にそれぞれの武器を向ける。

「よくも、異変解決の邪魔してくれたわね……そこの狸さんには、少しお灸を据えようかしら?」

同じ異変解決が目的でも、そこまでの過程は人によって異なる、というかそのついでに『八つ当たり』がしたいようで霊夢はマミゾウを睨んだ。
霊夢は幻術を解くのが最優先、対して寺側は穏便に説得し解除させる気だ、つまり異変解決という目的こそ同じでも敵対することと成る。
慌てて、四人はマミゾウを守るような位置に立った。

「すみませんがこちらで反省させます、渡しませんよ」
「そうそう、だから諦めな、流石に四対一じゃ巫女でも……」
「……あら、何時一人だと言った?」
『えっ?』

その言葉に一瞬唖然とした瞬間、緑の髪の女性が『二人』、霊夢の隣に現れた。

「はあい、応援の風見幽香よ……しかも、分身付きのね」
『げえっ、危険度最大!?』
「あら傷付くわ、でもまあ……」
「ええ、これで……こっちは一応三人、そっちは四人だけど護衛対象付き、そこそこいい条件でしょ」

ボッボボッ

「ちょ、待っ!?」
「み、皆、避け……」

ヒュドッ
ドガガガガ

『う、うわああっ!?』

霊夢も『幽香達』もニッコリ笑って弾幕を展開し、その場は一転地獄絵図となった。



第四話 希望を求めて・七



ドカッーン

突発的に起きた戦い、それを煽るように軍覇とお空が派手に爆発を起こした。

「皆、頑張れ……根性だ!」
「うにゅ、一生懸命……爆発させるぞー!」
「……ノリいい曲でも引いときゃいいか」

それで途切れがちになりながらも琴の音が響き、その中で少女達の戦いが始まった。

「はああ、てやああっ!」
「うりゃ、うりゃりゃっ!」

ズドンッズドンッ

まず動いたのはこころとこいし、二人は張り合うように弾幕を展開した。
こころは周囲の面を移動砲台のようにして、こいしは鮮やかな新緑の花弁をバッとばら撒く。

ドガガガッ

互いの丁度真ん中あたりで、派手に弾幕が相殺し弾けた。

「むうっ!?」
「ちいっ……」
『……なら!』

すると、やはり二人は張り合うように、同時に前へ駆け出す。
双方共に手で小粒の弾幕を打ちながら、間合いを詰めていった。

ドンッ

牽制の弾幕同士が真正面から当たって砕け、そこへ二人の少女が同時に接近戦を仕掛けた。

「……行っくぞー、覚悟!」
「そっちこそね、仏頂面!」

こころは薙刀を斜めに袈裟懸けにし、こいしは『瞳』に繋がる管を横に払った。

ブウン
チチッ

『ちいっ!?』

が、双方の攻撃は不発に終わる。
こころの斬撃をこいしはスウェー気味になって躱し、逆にこころの横薙ぎもこいしは咄嗟に槍の柄で受けていた。
二人は舌打ちすると、弾幕を準備しながら同時に後方へ跳んだ。

「互角か、ならば……」
「おう、次だよ!」

トンッ

着地と同時に、こころはバッと扇を広げ霊気を纏わせ、こいしは妖気で作ったハート型の大弾を構えた。

「とあーっ!」
「えいっ!」

ズドンッ

今度も互角、二人は中心で再び弾幕が弾け、轟音を立てて散った。
それを見て二人共残念そうにして、その後気を取り直して睨み合った。

「……もう当たってよ、客が飽きちゃうじゃん」
「ふふっ、残念……こっちは勝つ気だもんね、当たるとしたらそっちだよ!」
「むう……黄緑め、空気の読めない奴」
「敢て、読まないのさ……さあ続けようか」

睨み合いに終わらず言い合って、直ぐ様こころもこいしも構え直す。
バッと束ねた扇をこころが引き抜いて、こいしも極彩色の薔薇の花びらを掻き抱くようにした。

「まあいい、抵抗するならすれば……派手な負け方の方が客が喜ぶもの!」
「おやおや言うねえ、でも……落ちるのはそっち、その時も言えるかな!?」
『……落ちろ、とりゃああ!』

ズドンッズドンッ

「……ある意味仲良いなあ、精神年齢が近いのかな」

向うでの挑発合戦と弾幕の打ち合いを、涙子は苦笑しながらそう評した。
その後済し崩しに相手することになった二人組を見た(こころとこいしが張り合ったせいだ)

「……はあ、二対一かあ」
「くくっ、運が無いねえ、節姫……入道使いさん、合わせてくれる?」
「ええ、こっちも山の一員のつもりよ、仲良くやりましょ、河童さん」

不利な状況に肩を落とす涙子に対し、河童と入道使い、にとりと一輪はフッと顔を見合わせ笑った。
そして、その後それぞれ二人は発明品と法輪を構えた。
慌てて、涙子が先手を、クナイを投擲するがにとりがニヤと笑う。

ヒュンヒュン

「さ、させるか……」
「おっと、痛そうだが……お前さんは水が好きだったね、なら……くれてやるよ!」
「……雲山、さあ出番よ、暴れなさい!」

飛んできたクナイの束に、にとりが発明品の(危険マーク付き)ボールをポイと投げた。
ボンボンと高圧水流が弾け、クナイがバラと吹き飛んで、更に直ぐ様続いてゴウっと『雲の巨人』が突進する。

「ちょ、寧ろ三対一?ま、まずは風で……」

ポポイッ

慌てて涙子が手挟んだクナイを手放す。
身軽に成った彼女は素早く霊気を集中、まず勢い良く風を吹かせる、それも横合いから。

「うりゃ!」

ビュオオッ

「あっ、あんにゃろ、水流の軌道が……」
「ふんだ、水は相性いいけど……痛いのはゴメンだい!」

風で水流を散らし、すかさず涙子は次への対処に移る。
再び風を操る、但し今度は自分を中心に。

「……で、ここは距離を取る!」
「ちっ、捕らえろ、雲山!」
「遅いっ、やっ!」

ダッ
ヒュン

「ここは、仕切り直しからの……」

風で加速しての跳躍、涙子はバックフリップのような体勢で後ろに跳んで巨人の手から逃れた。
当然にとり達も追うが、その前に涙子が空中で手を翳す。

『ちっ、待て』
「嫌です、風の次は……水よ!」

キランッ

水の膜が広がって、陽光を反射し『人型』を作り上げた。

『くっ、これは!?』
「撹乱する……見破れるか、二人共!?」

彼女の周囲に水鏡が浮かび、それは精密な涙子の虚像を浮かび上がらせた。
空中に、何十もの黒髪の少女が現れて、にとりと一輪を困惑させる。

「くっ、どれだ!?」
「こうなったら、雲山に片っ端から打たせて……」
「……遅い、反撃行くぞ!」
『何っ……』

水で時間を稼ぎ、涙子は次の『天災』を起こす。

バチバチィッ

「……唸れ、轟け、荒れ狂え天空よ!」

(幻影を囮に)二人の頭上を陣取って、涙子が加護による雷光を発生させた。

『し、しまっ……』
「天神よ、都を脅かした力を今一度……行っけええ!」

ピシャンッ

青白い雷が一条落ちて、ズドンと直撃し人一人を焼いた。
だが涙子は顔を顰めた、打たれた影は妙に大きい、ブワッと『雲』の体が散った。

「むっ、あれはにとちゃんでも尼僧でも……」
「……雲山、よくやったわ」
「……ちっ、入道の方か!?」

雷光に割って入った巨人の体が崩れ、だがそれにより二人まで届かなかった。
小さく舌打ちし、直ぐ様涙子は二撃目を放とうとした。

バチバチィッ

「なら……もう一度!」
「……おっと、そうはさせないよ、節姫?」

が、にとりがそれより先に発明品の手榴弾(爆炎でなく水が出るが)をポイと巨人に放った。

「使いな、それでそいつを戻して!」
「ありがとっ……もう一頑張りよ、雲山!」

弾けた水流で巨人が再生、いや最初の時以上に巨大化し咆哮した。
彼は張り裂けんばかりに膨れ上がった拳を雷光に突き上げる。

ガオオオォン
バギィッ

咆哮と共に特大の拳打が放たれ、追撃の雷光を引き裂いた。

「うおっ、雷光が!?」
「よくやったわ、雲山……で、追撃!」
「おう、行くよ、入道使い!」

すかさず巨人の肩を足場に二人が跳んだ。
距離を詰めつつ、にとりと一輪が大弾を拵えて振り被り、ブンと涙子に放った。

『行っけええっ!』
「うわわっ!?」

慌てて涙子は水鏡を展開、再びそれに紛れその場を離脱する。

パリンパリンッ

「あ、危ね、ギリギリか!?」
『ちっ、惜しい……』

水鏡の撹乱で凌いだ涙子が安堵し、逆ににとり達は残念そうに舌打ちした。
にとりと一輪は攻撃の不発にめげず弾幕を準備し、涙子は風で牽制しつつ愚痴った。

「……くうっ、やっぱ手数がなあ」
「何だい、弱音かい?……降参するなら今だよ」
「そうだというなら受け付けるが……」
「…………まだだよ、手数の差を埋めればいいだけ!」

二人からの降伏宣告を、しかし涙子は跳ね除けた、何だかんだ結構負けず嫌いなのだ。

「……来いっ、眷属達!」

彼女はその黒髪に手を添えて、ゆっくりと跳ね上げる。
ボフンと、真っ白い毛玉が現れた。

「まずは……行きな、雑霊」

髪の中から手品のように、ゾロゾロと毛玉の群れが湧き出るように現れた。
そして、更に涙子はそっと髪を触った。

「……で追加だ、吠えなさい、水の蛇」

シャアアッ

そこから透き通った体躯が伸びた、胴の幅だけで人程もあろうかという、水の体を持つ大蛇が毛玉に続いて現れる。
涙子はそれの頭に飛び乗って、更に周囲に毛玉の群れを配置させる。

「雲のオジさんが有りならこれも有りでしょ……さあ行くぞ、総員奮起せよ!」

キシャアアアアッ

「……ちっ、そういや加護の主は『亡霊の親玉』だったか」
「やれやれ意外に曲者のようね……雲山、頼らせてもらうわよ」

ガオオオォン

対抗するように入道が咆哮する、最早戦いは怪獣戦争の様相だった。

「何だかんだ、あの女もノリノリだな……古傷が痛むぜ」
「それは黒いのが悪いが……確かに、かなりやる気ですね」
「山の子でしょ、あんなもんよ……チビ共は今のとこ互角かな?」
「……目立って妬ましい」

ワアアアアッ

そんな呑気な感想や歓声の中、弾幕ごっこはドンドン熱を上げていった。

『……うわっ、何これ!?』

その時だった、金髪の貴人に風祝、更に二人に引きずられ放火魔が到着した。

「な、何が起きてる?」
「……あら、諏訪子様」
「お、早苗じゃん、それに確か霊廟の……」

神子と早苗(ついでに布都)が里の戦いに唖然とする。
が、その中で舞うように戦う少女、こころを見て神子が叫んだ。

「あの娘、どこか『彼女』の面影が……面霊気か!」
「……おや、知り合いかい」
「あ、ああ……まあ義理の娘になるのかな、多分私の霊力を受けてるだろうし」

諏訪子に答え、神子がやっとの再会に戸惑いながら答える。

「……どうやら、この異変に関わっているようだ、いや『便乗』かもしれんが」
「ふうん?」
「と、とりあえず、彼女を確保して……」

慌てた様子で弾幕ごっこを止めようと、神子はこいしと戦うこころに声をかけようとした。

ガシッ

が、そんな彼女の手を諏訪子が掴んだ。

「……まあ、待ちなよ」
「守谷殿?」
「諏訪子様?」

何故止めるのかと首を傾げる神子と早苗だが、それに対し諏訪子はニヤリと何かを企むように笑った。

「いや、何というか……あの子の舞は中々でね」
「はあ、それが一体……」
「つまりファンになったってこと、だから……確保とやらは延期だよ、ミシャグジ様!」
『何を!?』

ズドンッ

いきなり諏訪子が蛇の形の弾幕をばら撒いて、慌てて神子達は飛び退りそれを躱す。
しかし、その間に諏訪子がピョンと跳んで、こころへの道を塞ぐような位置で更なる弾幕を展開した。

「諏訪子様、何で!?」
「あの子を手元に置けば異変は終わりに近づく……が、そしたらあの子のやる気に水差すようなもんだ。
それは……少しどうかと思う、踊りが一段落するまで待って貰おうかなと」

ニッと笑って彼女は妨害をすると言い放ち、その後見物客の中に居た『(ある意味で)同類』に声を掛けた。

「……おい、手伝いな、『橋姫』」
「……何でよ?」
「私は嵐の神であんたは水神、私は祟り神であんたは嫉妬の魔物、『似たもの同士』の縁と……あの子を最後まで踊らせた方が妬ましいよ」
「ふむ、確かに人気者の方が……妬み甲斐が有るわね」

何とも後ろ向きな誘惑だった。
だが、それが琴線に触れたか、パルスィも神子達の前に立ち塞がる。

『……という訳で、ここは通さん!』
「……滅茶苦茶だ、碌な神が居ないな、幻想郷」
「太子様、うちの悪戯っ子がごめんなさい……」

そんな二柱(八百万では何か駄目な方)に絡まれ、神子と早苗は肩を落とした。





・・・クライマックスはいきなり大乱戦、まあこの異変なら寧ろこのくらいが自然な気もするけど。
後最後について、今回の話の初めからこの『神様(但し、はた迷惑)コンビ』が書きたかった、程良く物騒で字面の時点で面白いかなと。

以下コメント返信

AISA様
まあ本人も普通の修行は期待してないでしょう(幻想郷で誰かしらチョッカイ出すし)・・・そういう意味では彼女にも得かな、軽い強化要素も用意してるし。
で、後半は同感・・・普段温和な人が怒ると怖いと思います。
実際彼女があそこで爆発するのは直ぐ思いつきました、というかマミゾウを倒すのは彼女以外は居ませんでしたね。

九尾様
誤認、おー上手い・・・まあそれは兎も角、佐天さんもとうとう異変に強制参加です、但しいやいや言いつつ動き出せば楽しむのが彼女ですが。
この話ではマミゾウの存在はかなり大きいです・・・結果、最初に捕まえた寺組が鬼巫女から守る羽目に、前進してるのか後退してるのか難しいところです。

MII様
こころのモーションは至高、文章で素晴らしさが書け切れないのが悲しい・・・は置いといて、二人共互いにライバル視してるので止まりそうにないかな。



[41025] 第四話 希望を求めて・八
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f22dae1
Date: 2015/11/29 01:29
『紅白』に『白と黒』、二人の少女が空を飛び、弾幕を交わし合う。

ドガガガガッ

「落ちなさい、魔理沙!」
「つれないなあ、断る……リベンジだぜ、霊夢!」
「悪いけど……今は異変、なら負けないわ!」

少女二人、どちらも人間、だが生半可な妖怪よりも質が悪い存在だ。
博霊の巫女である霊夢と、普通の魔法使いこと霧雨魔理沙は激しく弾幕を撃ち続ける。
ぶっ放し、躱して、時に白兵戦で、好敵手を落とそうとする。

「喰らえっ、ブレイジングスター!」
「甘い、陰陽玉将!」

魔力を纏って魔理沙が突進し、霊夢も掌に収束させた気弾で弾く。
が、それは囮、魔理沙は横へ回りこんでミニ八卦炉を突きつける。
一方霊夢も素早く向うに反応し、数枚の札を翳した。

「やるな、そんじゃあこれはどうだ……マスタースパーク!」
「来なさい……二重結界、からの……博麗弾幕結界!」

星の如き砲撃が放たれ、その前に二重の光の壁が立ち塞がる。
魔法使いの砲撃が壁をガリガリ削って、が二枚目の破壊寸前巫女は更に巨大な壁を展開する。
一枚二枚で足りないなら三枚目を、霊夢は二つのスペルカードを連続して放つ。

ドガアア
バギンッ

『ちいっ!?』

数秒程競り合って、収束した魔力も霊力の壁も同時に消え去った。
霊夢も魔理沙も舌打ちし、同時に後方に跳んで間合いを取り直す。

「あら残念……サングレイザーだっけ、使わないの?」
「ふん、それは読まれてるからな……今回は地道に行くぜ!」
「……カウンター成らず、流石に学習してるか」

慎重な魔理沙に霊夢は残念そうにして、だがそこでニヤと笑った。

「でも……さっきの落とせなかったのは不味かったわね」
「……何だって?」

ズボッ
ガシ

その足元から『女の腕』が伸びた。

「え?」

足を掴んだのは妖怪の腕、肘辺りにチェックの柄が少しだけ見えた。
それを魔理沙は知っていた、チェックを愛用する凶悪妖怪の名を叫ぶ。

「幽香……の分身!?」
「そ、タイマンと思い込んだのは……間違いだったわね?」

チラと向うを見ると、いつの間にか幽香『一人』が老狸を庇う白蓮やぬえ、咲夜と射ち合っている。
撃ち合いで引きつけて、その間に分身をこちらに送り込んだのだ。
妨害成功にニッと笑い、霊夢が魔理沙の懐へ飛び込んだ。

「さあ終わりよ、はあっ!」
「くっ、ま、まだだ……」

まず霊夢が放ったのは掌打、魔理沙は咄嗟に体を捻りそれを躱す。
が、すぐさま次が来た、霊夢が目の前で地を蹴った。

「じゃ次……蹴り砕く!」
「うお、か、回避いっ!?」

ガギィンッ

意表をついたサマーソルト、反射的に魔理沙が翳した箒がぎりぎり防ぐ。
だが、霊夢は着地と同時に、針を引き抜き逆手に構えた。

「……ならば、点穴を!」
「暗器!?」

スッ
ドズッ

針はトレードマークの黒帽子『だけ』を貫き、霊夢は『足元の白黒の影』(咄嗟にしゃがんだ)魔理沙に舌打ちする。

「あ、危ね……」
「ちっ、やるわね……というと思った?最後は『これ』よ!」
「げっ、まだ何か!?」

ニイと霊夢が笑って袖を引く、そこにはある一件で手に入れた『梓弓』が輝いていた。

「……衝打の弦!」

ドゴスッ

「ぐはああっ!?」
「ようし、二連勝よ!」

流石にこれは予想できず、魔理沙は直にぶつけられた霊力で蛙のような形で地に沈んだ。
が、その体勢のまま魔理沙が顔を上げる。
彼女は霊夢に対向するように、ニッと笑った。

「ああ、確かに負けだぜ……私個人に関してはな!」
「何?」

魔理沙が思わせぶりに後ろを、幽香と白蓮達を見て、釣られて霊夢もそちらを見る。
そこは丁度決着のようで、『無数の短剣を突き立てたまま』幽香が咲夜の頭を鷲掴みにしたところだった。
ギリギリと軽く(妖怪基準だが)アイアンクローで締め上げつつ彼女が言った。

「あだだっ!?」
「残念、時間を止められる貴女に追いつけるものは限られる、つまり個人戦重視……
向うの妖獣は他者を惑わすのが専門だし……自分で言うのも何だけど、戦闘特化のこっちには分が悪いわ」

その後幽香は残りの面子を見る、ぬえと白蓮が動けないマミゾウを庇っている。
だが、次の瞬間幽香が、いや霊夢までもが驚愕する。

「あだっ、で、でも……もういいですよ、封獣様!」
「そっ、なら……種よ、散りな!」

バラッ

『なっ、しまっ……』
「……そっちが言ったんだろ、私は他者を惑わすのが専門ってさ」

白蓮とマミゾウ、いやそう見せていたものが崩れ、正体不明の種となって散った。
あちらが分身で魔理沙の妨害を企んだように、彼女達も予想外の手を取ったのだ。

「そうか、四対三じゃなかったということ……実質私と魔理沙、幽香と咲夜、それと……」
「残りを逃がす為に術に専念してた妖獣か……」

二人は悔しそうに、そしてどこか感心した様子で顔を見合わせた。

「霊夢、ここは私で十分よ……相手は多分里、貴女も!」
「……わかった、任せたわ」
「へっへえ、間に合うかな!?」
「うっさい、間に合わせるのよ!」

倒れたままでからかう魔理沙に、霊夢は小突く仕草の後急いで飛んでいった。



第四話 希望を求めて・八



シャアアッ

水の蛇と雲の巨人が睨み合う、蛇は一吠えし体を揺らした

「逸っちゃ駄目だよ、君……私が攻撃する、そっちは雲のオジさんを牽制ね」

頭に乗っていた涙子は蛇に声を掛け、暴走しないよう制御しつつ手挟んだクナイを投擲する。
それは水の壁に払われるが、向うからの弾幕も風が逸しあるいは受けていた。
また涙子と蛇以外でも、クルクルと毛玉が周りを回っている、攻撃はしていないが怠けてるわけではなくそれなりの理由がある。

「ひゅい、迷彩対策か」
「そっ、迂闊に近づけばドカン……気をつけなよ、にとちゃん?」
「むう、流石に対策取られるか……」

ふっと笑って、涙子は周囲のブービートラップでにとりを牽制した。
顔を顰める彼女と一輪、そんな二人と涙子は睨み合った。

「さて状況は硬直……どうします、お二人さん?」
「……ううむ、自分から動いたら負けって感じだが」
「……とはいえ、こうしてても客受けしないだろうし」

そんな風に言い合い、隙を探りあい、その最中ふと涙子は頭上に差した影に気づく。
ひょいと一歩横にずれて、影に声を掛けた。

「……調子はどう、こころさん!?」
「いい感じに、楽しんでるよ!」

ピョコンと答えながら、こころが着地して隣に、蛇の頭の上に立った。

「……綺麗な弾幕だね、一つ一つの所作が洗練されてる」
「ありがとっ」

警戒しながら二人は言葉を交わし、そこで涙子は奇妙なことに気づく。
こころの弾幕で、面を媒介にする際『一つだけ』使われてない物が有った。
だが、不良品というわけではなく少しずつ力を高めていた、まるで『里の応援の声』を吸い込み力に変えるように。
何故か『その面』はこころ『そのもの』のように感じられた。

(活性化してる?人々の熱狂を浴びたから?……そうか、希望を求めるのはそれが理由か)

涙子は今までの相手の言動を思い返し得心する、それにこころが首を傾げ涙子は誤魔化した。

「……どうかした?」
「ううん、楽しんでるようだね、なら良かった、それと……」
「それと?」
「幻想郷の住人は弾幕ごっこが強い人が好きなの……頑張って勝ってきな」
「うん、勝ってくる!」

涙子の言葉に頷いて、こころは元気よくババッと扇を広げた。
その様子に微笑して、涙子は高く手を掲げた。

「一発ドカンと行くよ、それを合図に……勝ってきなさい」
『来るか!?』

その動きに警戒する一同、それに涙子はニッと笑いつつ大声を上げる。
にとり達ではなく、ギャラリーへ、そこに混じる男共へ叫んだ。

「おいっ、よくも好き勝手に煽って……戦えとは言わないけど手伝うくらいしな、色呆けども!」
「……良いだろう、『道具』くらいは貸してやる」

その瞬間『羽扇』が風に乗って飛んで、涙子の手の中に吸い込まれるように治まる。
それを、『同じ修験者上がりの妖かし』の得物を振り被り、彼女は気迫の叫びと共に振り下ろす。

「感謝するよ、元先輩方……荒れ狂え、風よ!」

ビュオオオッ

普段より少しだけ強く、少しだけ精密に、操り起こした風が限定的な嵐を巻き起こす。
風の中心にある僅かな隙間の涙子達を除き、にとり達も、少し離れた位置のこいしも構わず襲い掛かる。

ビュオオッ

『くっ!?』
「……で次だよ、邪魔者を退かして!」

風でフラつき怯んだ瞬間、涙子が素早く追撃に出る。
足元を蹴りつけ、それを合図に水蛇がにとり達へ牙を向く。
一輪が慌てて法輪を翳した。

「う、うあっ……と、止めて、雲山!」

ガオオオォン

風に翻弄されながらも何とか指示が下り、それに従い巨人が拳を振り上げる。
風で体が幾らか崩れ、それでも巨人は鉄拳を叩き落とした。

「やっちゃえ、雲山!」

ズドンッ

特大サイズの拳が蛇を頭を叩き潰す、が次の瞬間飛び散った水が相手の腕に纏わりついた。
粉々に散った蛇の体、それを構成していた水が直ぐに小型の蛇に変わり歯を立てたのだ。

「ちいっ!?」
「そらっ、仕返ししてやりな、蛇達!」

これには流石に動揺し、一輪は巨人の体から蛇を剥がそうとする。
だが、それは涙子にとって千載一遇の隙だった。

「……私から目が離れた、今かな?」

ヒュンッ

風を足場に彼女は跳んで、雲山の眼前に現れ羽扇を突きつける。

「……雲は風で散る、弱点を突かせてもらうよ!」
「し、しまっ……」

ビュオオッ

至近距離風が放たれ、巨人は散り散りになる、慌てて一輪が再集結させようとするが涙子がそこへ仕掛ける。

「雲山!?」
「させない、はあっ!」
「くっ……」

ガギィンッ

突き出されたクナイを一輪は咄嗟に法輪で弾く、だがこれでは指示は不可能だ。

「ちいっ、今フォローを……」
「甘いぞ、にとちゃん!」

ジャララッ

「くっ、鎖が……」

慌てた様子でにとりが向かうが、涙子が見もせず放った鎖に阻まれた。
手を打ち据え発明品を落とし、次に足に伸びて絡みつく。

「ひゅいっ、は、離せ!?」
「駄目っ!、で、ここで……『ドカンと行く』って言ったよね!?」

更に涙子はそこで合図、視線を周囲の毛玉へ、すると彼等は同時に『白梅の花』を高く翳す。
それはバチと鳴って青白い雷光を迸らせる。
そして、涙子がトンと上に跳ぶのと同時に、一斉に弾けた。

バアアッ
バチバチバチィ

『ぎゃいんっ!?』
「怪奇、今の世に蘇る鬼の影……こんだけやれば十分でしょ!?」

そして、電撃で悶える二人を尻目に、涙子は悠々と風に乗る。

『さて、こころちゃん?』
「なあに、恩人さん……」

ばら撒かれた花吹雪に一瞬で紛れ、微かな影となって子鬼が叫ぶ。

『大分場が煮詰まってきたか……私は一旦ここを離れるけど、こころちゃんは存分に楽しんでって!』
「おうっ、言われるまでもないぞ!」

それだけ言い残して涙子はさっさと消えて、その最後の言葉にこころは元気よく頷く。
ピョンと小動物か何かのように、彼女は薙刀と扇を手に跳躍する。

「終わりだよ……私の勝ちでね」
「むむう、まだだぞ!」

こころが跳んで、風に煽られつつもこいしもそれに向かっていく。
二人は弾幕を展開しながら一気に空を駆ける。
そして、同時に弾幕を放った。

「やああっ!」
「うりゃ!」

ドゴンッ

すれ違うと同時に爆炎が弾け、一瞬後に二人はそれを突き破って現れる。
そして、背中を向け合った状態で一瞬ピタと止まった。

『……ど、どっちだ!?』

人里中が期待の中ざわめいて、その後片方がゆっくりと傾く。

「……悔しいなあ、新顔に負けるとは」
「びぎなーずらっく、だったか……外にはそういう言葉があるらしいぞ、我がライバルよ」
「ふんだっ、じゃ次は勝つからね、この踊り馬鹿」

ふらりとこいしが揺れて落ちて、可愛らしい罵倒を背にこころが薙刀を降ろす。
彼女はバッと扇を広げて掲げると、地上にアピールした。

「私の勝ちだぞ、皆の衆!」

ワアアアアッ

「……ああ、良いな」

喝采が空へと放たれ、こころは満足そうにうむと頷いた。
その懐で、一枚の仮面が更に輝きを増していた。

『……やはりか、あれが彼女の本体、そして完全に近づいているか』

当然それを、花吹雪の向うに影と消えた女はしっかりと見ていた。



「くっ、あちらは終わったか、だが……」

こころとこいしの決着を遠くに見て、神子が少し焦る。
だが、早く向こうに行こうにも『二柱の神(但し邪神寄り)』がそうさせてくれない。

「うりゃあ、ミシャグジさまだあっ!」
「嫉妬よ、嫉妬あるのみ……グリーンアイドモンスター!」

やけに濃い黒と緑、どう考えても体にいいとは思えない弾幕が壁と成る。

「うわあ、汚染済み霊力が盛大にばら撒かれてるんだが……」
「……祟と嫉妬の相乗効果か、受けたくないなあ」

それから逃げながら、神子と早苗は顔を青くしていた。
喰らえば霊障確定、そんなのが滅茶苦茶に飛んできて、時々掠るから始末に悪い。

「……しまったなあ、布都が居れば盾にしたんだが」
「地味に容赦無いですね、太子さま」
「いや、あいつの図太さなら少々の毒は効かんだろ……ええい、何故こういう時に居ないんだ!?」

因みに、そんなことを言われてる布都はさっさと向こうに行っていたりする。
恐ろしい程にマイペースに笑って、こころに話しかけていた。

「おうい!」
「あ、さっきの……」
「お主は秦殿の縁者だよな、ならば……一応お主は我等の身内になるのだが」
「おお、そういやそうか……あのね、実は狸のお姉さんにお寺に誘われてるの」
「……ふむ、先に声を掛けていたか、さてどうするか」

既に顔見知りで、何か勝手に話が進んでいく。

「あ、そうだ……こころとやら、あちらの四人に手でも振ってやれ、お主を巡って争っておる」
「おおっ?良くわからんが……がんばれー」

布都の思いついたような言葉に、こころは特に考えずその通りにする。
ひらひらと軽く神子達に手を振るう。
それだけなら可愛らしい物だったが、約一名には致命的な結果と成ってしまった。

ゴバッ

「ぐは、妬ましい、目が焼かれる……嫉妬道に生きてきた私にはあの子は眩し過ぎる!?」
「ちょ、何してんの、パルパル!?」

行き成り喀血して、パルスィが墜落した。

「ああ精神が逝ったか、妖怪だもんなあ……」
「ええと、今です!」
「お、おう!」

この隙(?)に神子達は前進し、半分と成った弾幕に宝剣と玉串を構えた。
息を合わせ、同時に霊力を開放する。

「詔承けては必ず……鎮め!」
「開海……モーゼの奇跡!」

ザシュッ

「うおわっ!?」

連続して放たれた霊気の刃が祟りの弾幕を切り裂いて、一気にそこに道を開く。
慌てて、諏訪子が新たな祟りでそれを埋めようとするがそれよりも向うが早い。
早苗が風を吹かし、それを背に神子が駆ける。

「太子様、行って!」
「任せよ、はああっ!」

加速した彼女は一瞬で懐に飛び込み、その刃の切っ先で諏訪子の目前で軽く弧を描かせる。

チチッ

「うひゃっ!?」

何かが掠める音がして、諏訪子の目付き帽子が跳ね上がった。
こわごわと諏訪子が首を竦め、がそこへ引き戻した宝剣が添えられる。

「……降参を進めます、でないと次は貴女自身がああなる」
「む、むう、流石に二対一は無理か」

彼女は悔しそうに唸って、ペタンと元気なく座り込んで両手を掲げる。

「ふん、年上に花を持たせてもいいだろうに……わかった、降参降参、一応時間は稼いだしもう良いや」
「なら年長者らしくするべきでしょうに……」
「そもそも、その容姿ではねえ」

はあと早苗達は呆れ嘆息し、その後やっと道の空いたこころの方を見た。
すると向うも手を振る。
布都に説明を受けたか、こころは神子にペコと頭を下げた。

「面霊気、いや……」
「ええと初めまして、関白様……秦こころ、秦河勝の娘、のようなものかな?」
「神子でいい、こころ……一つ聞きたいがこの異変と君の関係は?」

友人の娘(太子の霊力も影響有るので義理の娘かも知れないが)初めて挨拶を交わし、その後神子はずっと気になっていたことについて問いかける。
それに対し、神子は一瞬悩んでから答えた。

「ある意味関係ある、でも元凶というかは……」
「ふむ、妙に曖昧だが?」

こころは時折考えながら答え始めた。

「幻想郷には今『希望』が足りていない、最近『異変』が続いて心が荒んでしまった……
だから、遅かれ早かれ何かしらの異変が起きたと思う……でも、それがこういう形になったのは私のせいかも」
「……制御できていない?」
「ああ、そうなるかな……付喪神、面霊気に成ったばかりの私が『熱』を刺激してしまった、それで何時もお祭りみたいに成ってしまったの」

つまり異変が起きる下地は既に有って、それ自体はこころと無関係だが、『そこから』は彼女の影響ということになる。
そして、意思が芽生えた彼女はその責任を取り、また本能的にも今の状態を放っておけなかったのだ。

「私が勝てば『希望』が集まる、またそれで私の『面』も活性化するはず。
……そこで一舞いすれば失われし希望、荒んだ心は何とか成るんだけど」
「……ふむ、話はわかったが異変を長引かせる訳にも……」

集めた希望で面霊気の彼女の力が増し、その状態で舞えば人心が明るくなる、それで更にこころの力が増す、そういう風に延々と循環するとこころが言う。
だが、それでもこの無秩序さを、正確には悪化した場合を懸念し神子は困ったように唸った。

「……すまんが私個人では何とも言えん、人里……それと博麗殿や賢者に話を持って行って」
「た、大変です、皆臨戦態勢をっ!!」
『うわっ!?』

が、そこへ焦った様子で白蓮とそれに背負われたマミゾウが現れた。

「あっ、狸のおばあちゃん」
「よう、少し大変なことに成ってな……」
「貴女がこころさんですね、お会いできて嬉しいですが少し問題が……ふむ?太子様と、何故似たような感じが彼女から?」
「……似てるね、一応私の身内だからな、そっちと仲良さそうだが……それより大変とは?」
「み、巫女が……博麗の巫女が!」

神子が答えつつ問い返し(後向うと親しいこころにちょっと複雑そうにし)それでハッとした表情で白蓮が叫んだ。
溢れんばかりにやる気の彼女が来れば大変なことになると、白蓮はこころ達に警告する。

「い、今はまだ遠く、幸い向うは然程速くない、今の内に準備を……」

が、そこへ黒髪の少女二人が現れた。

「……あ、ごめん、もう着いてる」
「ごめんなさいね、その……風ですっ飛んで迎えに行っちゃいました」
『えっ?』

ギギと固まった一同に霊夢、そして涙子が苦笑しながら言った。

「いやあ、一気に面子が集まったものね……異変も大詰めかしら」
「……何かすみませんね、でも散々巻き込まれて……あのペースじゃ体が保たないんでこちらに着かせて貰います」

二人はギラギラとした異様な目を向けて、その後邪悪に笑った。

「手伝ってあげる、但し……」
「大分ハードですがね!」

その言葉と同時に、霊夢は転移で、涙子は風で、一瞬で二人の姿が掻き消えた。

ヒュンッ

『うぐっ!?』
「神子様、住職さん!?」

神子と白蓮が呻き声を挙げる、霊夢達は二人の目の前に現れて鳩尾を強打したのだ。
そうやって彼女達を遠ざけ、素早くこころを抱えて舞台へ。
そして、彼女を降ろし、二人は『態とらしいまでの悪役ムーブ』で言い放った。

『さあ……希望を寄越せ!』
「強盗!?」

無表情ながらぎょっとする彼女に霊夢達は周りに聞こえないよう小声で言う。

「……いや、悪者になった方が形的に綺麗でしょ、それにあっちの二人を倒したことで私達に希望が集中したし」
「こころちゃんは……唯戦って、私達から希望を奪い取ればいいの、それで粗方希望が集まるでしょ」

つまりは諸々すっ飛ばして異変を収束させる気なのだ。
それに気づいたか、そこそこ霊夢と付き合いの長い早苗、それと悪知恵の効く布都が大仰に(周りに聞かせるつもり)で叫んだ。

「嗚呼なんてこと、希望を求める純真な少女の願いは……絶対的権力に踏み潰されてしまうの!?」
「ああ、そして何と悲しいことじゃ……しかも向うには嘗ての仲間、こんな悲劇が有って良いのか!?」

チラチラッ

態とらしく視線をやって、その後二人は声を合わせる。

『世界はなんて残酷か……希望はどこなんだ!?』
「……ねえ、逃げ道潰すの止めて、あれ言えってか」

布都達のせいで人里中は驚いたり固まったり、その後悲劇の少女と成ったこころに熱い視線が集中する。
具体的には同情とそれ以上の期待、熱いそれにこころが一瞬硬直する。

「わ、私……ぐうう、嵌められた気がするが」

だが、止まったのは一瞬で、人の心を受けたこころは本能のままに薙刀と扇を構えた。

「私が……私が希望だ、全力で掛かって来い!」

ワアアアアッ

彼女の宣言に、人里が燃え上がった。

「良し、後は適当なタイミングで倒れて終り……振り回された仕返しに小突くけど」
「ふふふっ、良くも修行を邪魔したね……少しくらい泣いて貰っても罰は当たらないでしょ」
「……あ、すいません、全力は嘘です、手加減お願い……」

尚ちっちゃく敵役二名が言って、それに怯えたがご愛嬌だろう。




心綺楼のこころルート思い出し中・・・よし、一応原作再現ですね、うん多分きっと。
・・・そういう訳で、敵に回った霊夢と佐天vsこころとなります。
その連戦を次回から・・・多分二~三話くらい書いて、完結かな。
尚霊夢達と戦う理由はないように思えますが・・・最後のが大体本音(一部別のまで)こころに返ってしまいました。

以下コメント返信

ジャンボーク様
ええ、カオスでこその幻想郷でしょう・・・なので最後もカオスに。

九尾様
穏便と言いますが問題はその場合早期解決が難しい・・・という訳で、霊夢はそれを望む連中を黙らせ強行手段にでました。
でも異返時の巫女は大体こんなんだし、後佐天さんもこころのプロデュース役からやってることは離れていないという・・・
タッグは相性や背景設定で色々組んでますが、最後は・・・ある意味このSSの学園都市に関わり深い組で。



[41025] 幕間&希望を求めて・九
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f22dae1
Date: 2015/12/05 13:59
幕間&希望を求めて・九



ワアアアッ

「……そろそろ決まるわね」

祭りは最高潮で、それを『隙間』で覗き見て、紫の装束の女が微笑んだ。

「……ふふっ、あのタイミングで『雨』を降らせた甲斐が有ったわ」

式の猫に酌してもらって、妖怪の賢者『八雲紫』が優雅に杯を傾け悦に浸る。
すると、ふと気になった様子で同席者、式の狐のご馳走に舌鼓を打っていた『亡霊』と『鬼』が問いかける。

「あらあら、紫ってば……今回も悪巧み?」
「お前さん、まあた変なちょっかいやったのかい」

庭師が『紫のインタセプト』で報復失敗し、次こそと修行に出たからご飯を頂いてる白玉楼の幽々子、後何時もの如く飲み相手を探してた萃香が首を傾げた。

「ちょっかいって程じゃないわ、ただ単に……『霊夢と繋がり得る人物』が会うように仕向けただけ。
私の『気質』……何か知ってるでしょ、二人共?」
『……天気雨か』
「そっ、まあ……霊夢を知ってるなら誰でもといえばそうね、その時彼女が山に偶々居たから」
「くくっ、涙子も運が無いねえ……で、狙い通りに霊夢と異変の元凶が揃ったってことかい」

涙子とこころ達が出会う原因である『偶々降った天気雨』の元凶の女が笑って、鬼達も(こっちは呆れたように)笑った。

「まあ、彼女には何か補填するとして……これで保険は成ったわ」
『保険?』
「異変の終息と同時に『希望』を、その光景は……幻想郷の者にとって『芯』と成るわ。
……直に見た者は当然、あそこに居なくても噂や天狗の新聞で遠からず知るでしょう」

ちょっと邪悪な微笑みから真剣な顔になって、紫は異変の狙いを話し始めた。

「その『芯』は何時か確固たる物になる……それは『曖昧なものを曖昧のままにさせてくれない』、そんな無慈悲な力から守ってくれる」
「ああん、力だあ?」

萃香と幽々子が小首を傾げ、すると紫は困ったような顔になる。
微妙に他人事の顔で彼女はそれについて口にした。

「魔神と言われる者の天敵、強いだけでは……力が有っても『何も責を負わない』者では絶対勝てない存在がいる。
確か人界では……『希望送り』と言われていたかしら」

微妙に他人ごと、どちらかというと『魔神』への同情を口にしながら(自分が会う可能性は殆ど無いからだ)紫は懸念について説明する。

「今直ぐにではないけど……『一年以内』に学園都市に現れる条件が整いそうだから。
……だから今のうち念の為に、幻想郷の住人に芯になる何かを見せたかったのよ」
「……よくわからんがあの娘の舞いがそれだと」
「正確には既に下地が出来てて、あの娘が切欠で完成する……自分達は素敵な世界の住人ですって、まあ自慢というか誇りが生まれれば『隙』が幾らか消える」

芯とは共通認識、それで幻想郷の住人から天敵が突く『曖昧さ』が取り除かれるのだ。

「異変が起きて、その度に異変解決者……霊夢や魔理沙達が飛び回り暴れ回った。
結果幻想郷はある種混沌とし、だけど……人も妖怪も飽くことがない、そんな煩く賑やかな世界と成っている。
そう、そういう……『素敵な楽園』に成っていって……今回で更に『希望の有る、素敵な楽園』に変わるの」

紫はフッと笑って隙間を通して、自分達の『集大成』の完成を見守った。

「頑張りなさい、秦の娘……文字通り、希望が掛ってるのだから」
「まあ、あの娘もそれが目的だろうしね……じゃ、見守りましょうか」
「……だな、それに中々な舞いだし良い酒の肴だ」



「うおお……私は負けない、勝ってみせる!」

人里の空で、無表情な熱血娘が叫んだ。
彼女はビシと霊夢達を指さして、そうして然りげ無く『保険』を掛けた。

「……で、最終決戦ならば『正々堂々』戦うべきだと思うのだ」
「ほうほう、具体的には?」
「い、一対一を順番に……」
「……まあ良いわ、ならば先に行きなさい、信者一号!」
「イエス、マム……つう訳で行くよ、こころちゃん!?」

ちょっと引き気味の言葉に苦笑しながら頷いて、外向けの設定を言いつつ涙子が前に出た。

「よ、良し、そっちからだな」
「……まあ待って、一対一を順番でだっけ?」

が、そこで涙子は人悪い笑みで髪を触る。
ワラワラと毛玉が飛び出して、その後空中で一箇所に集まった。
すると、それ等は一体の特大毛玉に変化しギロと目を剥いた。

ズズズッ
ドン

「……え、え?」
「私と行き成りなんて甘いさ、修行の邪魔は高くつく……さあボスラッシュだ!」
「うわあ、予想以上に怒ってた!?」

思ったより相手は大人げなくて、こころは慌てて飛び退って構えた。
が、直ぐ様毛玉が彼女を追って、空中戦が始まった。

「くっ、追ってくるか……」

ドドドッ

特大毛玉が飛び退るこころを追いながら、小粒の弾幕を遮二無二撃ってくる。
こころは素早く薙刀で素早く切り払った。

ヒュババッ

「……撃ち合いにも慣れてきた、簡単には落ちないぞ」

彼女は一つ二つ三つと払い、最後の一発を落とすとすかさず体を捻る。
グッと体を弛めて、同時に薙刀と逆に手に持つ扇に霊力を注ぎ込む。
そして、勢い良く扇を投擲する。

「反撃だ、やあっ!」

可愛らしい掛け声とともに扇が放たれ、グルグルと回転しながら毛玉の顔面に飛ぶ。
ズドンと鳴って、彼の鼻先で霊力が炸裂した。

グラア

衝撃でその巨躯が揺れて、その瞬間こころが相手に向かって飛翔する。

「……とあーっ!」

彼女は気合を込めて得物、薙刀の石突きを突き出す。
ドゴスと痛々しい音がして、ぐらりと更に毛玉が揺れた。

ギイッ

彼は悲鳴上げて悶えて、それを見たこころは間合いを詰めて相手の下方へ、そこから見上げながら一つの面を引き寄せる。

「今だっ、大技行くぞ!」

手には派手な装飾の『獅子面』、それを被り頭を後ろにやや引く。
その後勢い良く霊力の火柱を吹き出した。

「歓喜の……獅子面、燃えろ!」

シュボ
ズドンッ

勢い良く天まで真紅の輝きが伸びる。
毛玉は炙りながら吹き飛され、そこに更に獅子面の少女が次へ。
今度は祭りに相応しい面、『ひょっとこの面』を彼女は被った。

「行くぞ、私の扇捌きを見るがいい……」

バチンバチン

こころは一旦薙刀を高く放って、扇を二つ引き抜くと左右に開いた。
そこからクルクル弧を描かせて、それに沿って無数の火を灯す。

「狂喜の……火男面、弾けろ!」

ズドドドッ

展開した火が弾けて飛んで、地上から走った幾つもの火線が空中の毛玉に襲いかかる。
それは表面を一層ずつ削っていく。
ガリガリ削って、ジュッと焼いて、それを繰り返し数秒で毛玉を消し飛ばした。
そして、投げた薙刀をキャッチしたこころがそれでビッと涙子を指した。

「……どうだっ!」
「ああ毛玉が……ええい、代わり用意するからそっちに移れ雑霊!」

態とらしい程顰め面になった涙子が同じく態とらしい程嘆いて(観客が聞ける大声で)その後ヒュウと口笛を吹く。
すると次の瞬間地上で、ピチャンと鳴った。
水が集まり、巨大な蛇を形作った。

「行け、水の蛇……いっちょ新入りを揉んであげな!」
「まだ有るの!?」
「ははは、ボスラッシュと言っただろう!」

驚くこころを笑ったように、水の蛇がその大顎を開かせる。
グワと開いたそこから真っ白な霧が吹き出した。

シュウウッ

周囲一体が白で埋め尽くされ、こころは薙刀を両手で構え警戒した。

「くっ、目眩ましか、どこから……」

集中しながら彼女は警戒し耳を済ます。
すると、背後から僅かな音、咄嗟に薙刀を背後に振るう。

「そっちか、やっ!」

予想通り薙刀に手応えが返り、『尾』が跳ね上がった。

「防いだ、いやこれは……尾、ならば逆か!?」

嫌な予感がし、こころは慌てて薙刀を引き戻す。
反射的に逆側、自分から見て真正面へと突いた。

キシャアアッ

「ぬおっ!?」

ガギィと何かがぶつかって、ギギと凶悪な牙と軋みながら押し合いになる。
数秒で諦めたか、それは霧の中に引いた。

「おおっと……ええい、小癪な真似を!?」

思わず何度か振るうも全て空振りし、こころは一瞬悔しげに成る。

「むうう、良いようにやられてるみたいだ……」

だが、直ぐに止めた、まだ先が長く、力の小出しは却って消耗すると考え直したのだ。
だから、こころは素早く泣き女の面を被った。

「ならば……連続で行くぞ、とうっ!」

バババッと被っているのと同じ面が周囲にいくつも浮かんだ。
弾幕による壁だ、キラと眩い輝きが周囲に張り巡らされる。

「憂嘆の……長壁面、打ち砕け!」

ズドドドッ

展開した弾幕をまず真正面へ、次に後方へ、その後左右へと順番に放つ。
それで僅かに霧が切れ目が出来て、一瞬その隙間に青い巨体が見えた。

「……見つけたぞ!」

すかさず『狐の面』に付け変えて、こころが僅かな助走の後飛び掛かった。

「吼怒の……妖狐面、切り裂け!」

ドスッ

蛇に対抗するように、獣の大顎状の霊力を纏ってこころが突進し『霊力の牙』を突き立てた。
最初は一点に力を集中、そこから牙で割り開くようにする。

ブツン
ギイイイッ

蛇が千切れて苦しそうに悶え、それを見たこころはその頭部部分へ視線を移した。

「まずは半分!……更に、残りもだ!」

彼女は空中で急停止、年経た妖かしを意味する『翁の面』を被る。
すると、面を中心に四方に霊力の糸が広がった。

「怒声の……土蜘面、締め上げろ!」

糸状の霊力がキツく絡みついて、頭と胴だけの蛇が抜けだそうと足掻く。
だが、それで却って絡まってしまう。

「……止めだ」

ザシュッ

こころは薙刀を上下に回し、勢い付けた一撃を身動きできない蛇に見舞う。

ギアアアッ

「……さあ、次だ!」

今度は頭まで割かれた蛇がの飛沫となって散る、こころは油断せず薙刀を構え直す。
そんな彼女をパチパチ拍手して、涙子が嘆くように言った。

「ああ流石だ、強いね、こころちゃん……出来るなら降参したい、でもそれは出来ないか。
……私と霊夢さんは異変の元凶たる貴女を倒さねばならないんだ」

涙子が嘆く、そしてこの辺りで勘のいい者は気づいた。
ぶっちゃけ『予防線』である。

「だが、貴女といた時間は悪くなかった、舞いへの熱意も本物だった……弾幕ごっこは心の表現だ、だからそれで語り合おう!」
「……語って、その後貴女達はどうするの?」
「……貴女が勝てば、そしてそれが純粋であるとわかれば貴女に道を譲ってもいい」

あくまで仕事であると、人里を考えての行動だと後に引かないように持っていく。
その上でこころを試し、その結果次第では折れると彼女は(外向けに)言う。
後ろで霊夢も『止むを得ず戦わねばならない、実は辛いです』という感じでウンウンと頷いていた。

「あー辛いわあ、こうしてるの嫌だわあ……」
「あー辛いわあ、正直戦いたくないわあ……」
「……大人ってズルい」
『黙らっしゃい、ガキ』

そんな小狡い二人にこころが呆れ、一通りそうした後涙子は演技を止める。
彼女は空を、急に渦巻いた暗雲を見上げる。
遂に来るかとこころは構えるも、だけど涙子がにっと笑った。

「じゃ行こうか……ああ加護の方は準備程度だよ、霊力……フルチャージ!」

ピシャンと一条の雷光が瞬いて、『涙子自身』に落ちた。
それにこころはギョッとし、が次の瞬間雷光の中から『白い人影』が現れる。
一瞬で制服から修験者の白装束へと涙子は変わって、更に借りっぱなしの天狗の羽扇を掲げた。

「……修行者同士ってことで、今回はこっちだ!」
「むう、戦い方がコロコロと……」
「面を付け替える君が言えることかい……更に、山の邪念をここに!」

が、まだ終わりではない、涙子はまず白梅を束ねてその手に持った。

「山の色ボケども、さぞや羨やましかろう……貴様等のアイドルとサシで相手する私がな!」

『とある妖怪達』の負の思念で、邪悪な『妖花』に変貌した。
ブワと瞬く間に禍々しい赤に染まり、それを花の王冠に変えて涙子は頭に被る。
赤い花は邪悪な気を放ち、だが人上がりの鬼である涙子はそれを力に変えていく。

「ふっ、先輩方の嫉妬でパワーアップした……天候操作特化ver佐天涙子が相手だ!」
「……山のオジさんたち、何してくれてんの」

こころが恨めしげに山の連中を見て、すると心当たりのある数人が目を逸らす。
それに涙子はケラケラと邪悪に笑う。

「ざまあ、嫌われたね……ま、それは兎も角やろうか」
「……おうっ、負けんぞ!」

涙子が話を戻し、こころも慌てて緊張した様子になる。
互いに薙刀と羽扇を突き出して、こころと涙子は己の敵へと構えた。

「……私が勝つ、勝って皆の前で踊ってみせる」
「それは……私を倒してからだよ、こころちゃん?」
「ならば……」
「……いざ尋常に」

二人は同時に前へ、弾幕を展開しながら駆ける。

『勝負!』

こころが突進から薙刀を払い、涙子が圧縮した風を叩き込む。

ブウンッ
ガギィン

「……ちい、手が痺れる!?」
「……それでも止めるか」

短い破砕音、こころも涙子も顔を顰める。
薙刀が弾かれ上へと跳ねて、だが風も割かれ四散する、初手は互角だった。
が、一撃で落とせないと予想してた涙子は既に二撃目の体勢に移っていた。

「だが、連続でならどう?……はあっ!」
「……くっ、また!?」

ビュオオオッ

風が吹いて、ドゴンと鈍い音を立てる。
クルクルと何かが跳ね上がる、薙刀『だけ』が高く跳ね跳んだ。

「何っ、武器だけ!?」
「……私はここだ!」

一瞬チラと涙子の視界の端に『桃色』が走った、薙刀を囮にこころが横へ回りこんでいた。
彼女は自分の周囲に、目まぐるしく幾つもの面を回転させる。

「……反撃だ、こころのルーレット!」

まず手に取るは泣き女の面、それを被った彼女は『全く同じ面』を周囲に浮かべた。

「まずは憂の面……憂嘆の長壁面!」

まずは広範囲攻撃、回避し難さをこころは重視し弾幕を放つ。
涙子は慌てて扇を翳し、薄く衣のようにして風を纏わせた。

「……ええい、吹き荒べ!」

ビュオオオッ

正面に受けるのではなく、風に曲面を描かせて涙子は受け流す。
だが、それを見たこころは素早く次へ、先程の涙子と同じようにこれだけでは無理だと予想していた。

「うん、そうだろうね、貴女はしつこそうだから……憂心の鬼婆面!」

今度は霊力を一点へ、被っていた仮面に集中させるとこころが勢い良くそれを前に放つ。
ゴウっと泣き女の面が霊力を纏い、弾丸のごとく空を駆ける。

「うおっと、強烈な光景だ……追加だっ!」

涙子は舌打ちし霊力を練る、先の弾幕で防御に回っていたから回避に移れず、止む無く防御の追加を行った。
ヒュンヒュンと何度も羽扇を振るい、何重もの風で自身を包む。
衣どころか甲冑といえる程で、その中で涙子は身構えた。

ギュオッ

そこへ泣き女の面、涙子は風越しにそれを睨み返す。

「……弾け、風よ!」

ガギィンッ

一瞬ギシリと防御が軋んで、だが風が飛んできた面を弾き飛ばす。
しかし、着弾時の衝撃でやや綻んだ風の中で、ある光景を見て涙子がギョッとする。
既に次へと、こころが弾幕を展開していたのだ。

「……戻れ、面よ、そして陣を為せ!」

こころは飛ばした面を即行で戻させ、そのついでに手放した薙刀を回収させる。
面を被り直すと薙刀をブンと振るって、それが合図に成ったか周囲の泣き女の面が一斉に集結する。

「同期し、即席の軍とする……憂き世は憂しの小車!」

ドガガガガガッ

カッと光って、雨霰れと霊気を纏った面が間断なく飛ぶ。
最初に使ったのと似た性質の弾幕、だが込められた霊力は遥かに多かった。

「うおっ、か、風よ!」

慌てて涙子が羽扇を振り回し、更に風を追加する。

「まだまだ、はああっ!」

ビュオオオッ
ガギィン

二重三重と一気に層を重ね、風の甲冑が膨れ上がり強度を上げていく。
ガンガンと面を蹴散らすように、風の壁が片っ端から攻撃を弾き飛ばす。
が、数発目を受けた瞬間『一部』に僅かな綻びが出来た。

ビキビキビキ

それは一つ前の時に、軋み綻んだ箇所で気づいた涙子が顔を引き攣らせる。

「うっ、不味っ!?」
「良し、貰ったぞ……行け、泣き女!」

最後は有りっ丈で、こころが被る面と周囲に浮かべていた僅かな残りを纏めて打ち出す。

「とりゃあ、吹っ飛べ!」
「うあああっ!?」

ズドンズドンズドンッ

連続攻撃を諸に受けて、風の守りも散り散りになって、涙子が赤梅の花弁を散らしながら吹き飛ばされる。
が、こころは油断せず薙刀を構える。
散り散りの風が直ぐに整い、涙子をふわと受け止めたからだ。

「痛たっ、容赦無いなあ……」
「……微妙に手応えがなかった、咄嗟に飛んだ?」
「そういうこと……ちょっと焦ったけど、まだまだあ!」

風で素早く立て直し、まだやれると涙子が羽扇を突きつける。
こころは弾幕の不発に悔しそうにし、だが直ぐに集中し直す、試練なら強敵望む所だと言い聞かせた。

「こころのルーレット、次は……」

再び彼女は面を周囲に展開、クルクル回る中から一つを手に取る。
今度はド派手な獅子面、カツカツその歯を打合せながら彼女は霊力を一箇所に集中する。

「喜の面……歓喜の獅子面!」

シュボッ

そして、一気に面から火柱のようにして吹き出す。
それは勢い良く空を横断し、涙子へと真っ直ぐに伸びていった。

「ならば、こちらはこう……えいっと」

が、彼女は避けも防ぎもせず、代わりに空中の赤梅の花びらを手に取った。
その後霊力を吹き込み、バッと自分の前にばら撒く。

ズドンッ

赤梅が火柱にぶつかって、その瞬間派手に焔が拭き上がった。

「火には火を、そして木生火……爆炎で吹き飛ばす!」
「うあっ!?」

一気に膨張した火が相手の弾幕を飲み込み、火柱の後続までも相殺する。
驚くこころに、ニッと涙子がは笑いかけながら更なる花を握った。

「……どうする、これはまだまだ有るよ?」
「むう、そんなもので私が……臆すると思ったか!」
「ふふっ、強い子だね……ならば、続けようか!」

が、驚きこそすれど退きはせず、こころが獅子面に再び霊力を集中する。
その強気な姿に感心しながらも、涙子も握る花々に霊力を吹き込んでいく。
どちらも前より多く込め、二人は同時に弾幕を完成させた。

「昂揚の……神楽獅子、とあーっ!」
「怪奇……今の世に蘇る鬼の影!」

ドガンッ

火柱と爆砕する花びら、今度は互いに互角で、二人の真ん中の位置で勢い良く弾けた。
が、次の瞬間こころが(無表情ではあるが)驚き仰天する。

「ふっ、行くよ……続け、ドッペル共!」

ボッと相殺時の煙を突き破って、三箇所から同時に涙子が飛び出したのだ。

「何とおっ!?」
「真、二の怪……夢か現か、不吉なるドッゲルゲンガー!」

羽扇を持った涙子が、一振りずつ雷光の太刀を持った涙子達がビッと同時にこころを指した。
そうしてから太刀持ちの二人が前に、本体である涙子が風を吹かせながらその後ろに陣取る。

「ま、客受けしないから騙しは無しだが……さあ、この連携を受けれるか!?」
「試練なのだろう、受けてみせるさ……こころのルーレット、怒の面!」

涙子自身は風の操作を維持し、分身達は刃を突き出し風を背に待つ。
風で加速し、分身による完全に同じタイミングでの突進だ。
一方で、こころは『鼻の高い天狗面』を被り、霊力で獣の牙を形作った。

「本来使うは獅子の面……だが今回だけは敢て天狗面で放とう!」

応援する『色ボケ妖怪達』に少しばかりの感謝を込めて、今回だけの特別版だ。
そしてググと体を一瞬弛めると、反動付けて空を駆ける。
それを見て、涙子も風を強めて分身を打ち出した。

「……ドッペルゲンガー、射出!」
「勝負だ、怒れる……忌狼の面!」

ドゴンッ

霊気の牙が牙を剥き、雷光の太刀が突き出され、人里の空で激突した。

『落ちろおっ!』

ギャリギャリギャリィ

牙と二振りの刃が押し合い、互いを削っていく。
が、その硬直状態が唐突に崩れる、こころが天狗面の上に『新たな面』を被ったからだ。
それは女の顔を模した面で涙子も見知った顔、『貴人』の似姿、つまり神子の顔だった。
天狗面から、神子の顔に変えた瞬間、霊力の牙が更に増幅される。

ザシュッ

巨大化した牙が分身を引き裂いた。

「何いっ!?」
「あの時代の太陽、そんな顔……これが希望の面だ!」

彼女は分身を引き裂き、次に涙子を睨む。
そして、こころはそのまま涙子に向かって勢い良く飛んだ。
まず牙を解除、その分の霊力を薙刀に纏わせて振り被った。

「来るか、こころちゃん!?」
「おうっ、仮面喪心……いや違う、既に喪心には非ず、だからここは……」

その技の名は本来なら仮面『喪心舞』暗黒能楽、だが彼女は人里の者達に希望であれと求められた。
対してこころもまたそれに応えたいと『心の底』から想い、それ故にそのままでは似つかわしいとは言えない。
だから途中まで言い、少しだけ変えて宣言した。

「……仮面『想』心舞・『真』暗黒能楽!」

音は変わらない、だが意味は大きく異る、こころは宣言とともに薙刀を振り上げた。
ブワッと膨大な霊力がそれを包み、光の柱を形作る。
呆然とそれを涙子は見上げ、その後慌てて羽扇を構える。

「さ、させるか、吹き荒べ嵐よ!」

大技には溜めがいる、その前に止めようと彼女は風を放つ。

ボンッ

が、こころの手前で風は散った、防いだ訳ではなく唯余波だけでそれを為したのだ。

「そんな!?」
「……行くぞ、はああっ!」

そして、刃が振り下ろされ、光の柱が叩きこまれる。
ドゴンという音がし、涙子が高々と舞った。

「ぐはああっ!?」
「……これで、この勝負は私の……」
「……まだだっ!」
「えっ!?」

しかし、涙子は吹き飛びながら水鏡を展開した。

「ちいっ、だが一人では……1300万画素の厄と呪い!」

キラと輝き、水鏡がこころの姿を写し取る。
それと傷ついた涙子が重なり、不気味に点滅する。

「何をっ!?」
「虚像を映し、それを傷つけ害を齎す……せめて刺し違える!」

ビキビキビキ

独りでに罅が入り、虚像による呪いが完成しようとする。

「……と思ったんだけど、駄目のようだ」
「え?」

完成直前カッと希望の面が輝き、水鏡を白一色で染め上げなければだったが。
そんな役立たずになった鏡を放って、涙子はよくわかってない様子のこころに言った。

「希望の光か、姿を奪い呪うことすら敵わないとは……お見事、貴女の勝ちだよ。
修行の果てに、それが見事結実する……良い物を見させてもらった、例え自分のことじゃなくてもね」
「……勝った、のか?」
「そっ、さあ……次へ行きな」

涙子はそっと横へズレ、こころに『道』を空ける。
その先には、待ってましたとばかりに構える霊夢の姿があった。

「霊夢さん、後は……」
「ええ、十分よ……後は私がやる、来なさい!」
「……最後か、行くぞ」

こころが真っ直ぐに飛んで、霊夢が迎え撃ち、そうして涙子が一人だけ残される。
彼女は悔しそうな顔で、段々離れてく二人を見送った。

(ううむ、遠いなあ、でも……修行に身が入りそうだ、尤も次の休みになるけどさ)

こうして彼女の役目は終わり、後は面霊気と巫女の戦いだけ、異変は最後の局面を迎えた。




・・・佐天さんから鬼巫女にバトンタッチ。
あっ、もう一話あります、そちらで一応決着。



[41025] 希望を求めて・十(終)
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f22dae1
Date: 2015/12/05 14:00
希望を求めて・十(終)



二人は向き合い同時に動く、今更探りはいらないと最初から切り札を切った。

「手加減なしよ、夢想天生!」
「……仮面『想』心舞・『真』暗黒能楽!」

こころも霊夢も一気に踏み込んで、最大出力で弾幕を放つ。
無数の光弾と斬撃に乗せた霊力の刃、それ等が真正面からぶつかりカッと輝く。
一秒後ズドンと弾け、幻想郷の空に爆炎が上がった。

「くっ、行き成り強烈だな!」
「そっちこそやるわね、おチビ……」

フラフラと、こころも霊夢も相殺の余波に翻弄されながら高度を落とす。
折しも最初の位置に戻り、こころが踊った即席劇場ヘ二人は着地する。
どちらも弾幕を準備していたが、先にそれを終えたのは単純に慣れている霊夢だった。

「でも、ちと霊力の練りが……甘い!」
「ぬうっ!?」

ズドンッ
ガギィン

至近距離からの弾幕、こころは咄嗟に薙刀で弾くもその体が数メートル程ふっ飛ばされる。
大凡十歩程か、慌てて間を開けた観客の輪の中でこころが立ち上がる。
ビキリと欠けた薙刀を支えに立つ彼女に、台上の霊夢がからかうように言う。

「あらあら、このままじゃ……貴女の陣地取るよ?速く上がっておいで!」
「むうう、言われずとも!」

悔しそうな顔、もとい声音でいうと彼女は自分の場所を奪い返しに走り出す。
その様子に霊夢は感心するように笑い、が勝負は別だと光弾をばら撒き始めた。

ドガガガガガッ

「ふふっ、元気のいい子、さあ辿り着いてみて……但し、弾幕飛び交うそこを抜けれるなら!」
「負けるかあ、やああっ!」

バキンと先頭の光弾を折れた薙刀で切り裂き、がすぐに次が来て一瞬ぎょっとする。
が、大を取られたまま引けるかと意地に成って、こころは素早く振るった薙刀を引き戻す。

「既に序幕は超えただろう、ならば今より放つは……」

彼女は薙刀に霊力を纏わせる。
欠けた部分を補い、それを車輪のようにクルクルと回転させるとゆっくり前進し始めた。

「……破の舞い、とあーっっ!」

光を切り払い駆け出し、慌てて客が遠巻きにし出来た道を彼女は遮二無二進む。
光弾を切り裂き、払い落として、受け流し逸し、自分の道を切り開いていく。

ヒュバババッ

薙刀を振り回し、一歩二歩と少しずつこころが近づく。

「今行く、待ってろよ!」
「そう、本当に元気ね、でも……直ぐ着いちゃ客が飽きる、更に追加よ!」

が、三歩目を踏み出したところで、霊夢が袖を引き弓を構えた。

「弾幕にプラスして……衝打の弦!」
「うおっ!?」

ズガンッ

貰い物の梓弓が唸り、霊夢は霊力を直に叩き付けた。
慌ててこころは柄で受けるも、ヨロとふらめいた。
ニッと笑い、霊夢は七歩先で止まったこころに問い掛ける。

「さあこれで弾幕は二重、どうする?」
「……関係ない、進むのみだ!」

ダッ

「……いい子だ、それでこそよ」

しかし彼女はめげない、叫んで素早く立ち直り四歩目を踏む。
それに霊夢はうむと満足気に頷いて、更に光弾と梓弓による追加攻撃を放った。
そこからは先程の繰り返し、霊夢が只管攻撃を打ち込んで、それをこころが切り払いながら少しずつ前に進む。

ドガガガ
ガギィンッ
ガギィンッ

「負けるかあっ!」

こころが吠えて、唯前を見て武器を振り回す。
度々衝撃で蹌踉めいて、だけど倒れず進み続ける姿に自然と里の者達も熱くなる。

ワアアアアッ

『……頑張れ、お嬢ちゃん!』
『巫女に負けるな!』

当然、最初から応援する者の熱はその比ではない。

『山の一同も応援する……頑張れ、こころちゃん!』
「……巫女に、痛い目見せてやれえ!」
「黒いの黒いの、私怨が出てます……それはともかく、頑張って!」

手近な枝の烏達も(片方は少し不純に)声援を送る。
そして、他の者達も例外ではない。
一生懸命戦うこころの背に、神や妖怪が叫んだ。

「ひゅい、事情は知らんが……佐天も霊夢も凹ましてやんな!」
「ケロケロ、地味に酷いね河童……まあ頑張んな、神の中の神なんだろ!」
「妬ましいわ、でも……私も応援するわ、さあもう少しよ!」

河童が、祟り神が、嫉妬の橋姫が、思惑はともあれこころを応援する。

「ううむ、秦の娘め……やるではないか!」
「そうか、座長の娘だったか、道理で……ええい、ここまで来て負けるなよ!」
『……ぐああ、ぽんぽんイタイ』
「太子に住職、しっかり!?」
『お、応援しなくては……が、頑張れ、巫女を倒すのです!』
「お見事です、お二人共……」

道教の白と緑も応援し、希望(里の感情)の帳尻合わせに殴られ沈んだ神子と白蓮も空気を読んで(霊夢への恨みもあるが)何とか声援を送った。
そして、最後に最も熱くなっていたのはある意味関係深い二人だ。

「負けるな、踊り馬鹿……私に勝ったんだ、最後までやり通せえ!」
「……後は根性あるのみだっ、こころの嬢ちゃん!」

踊りに弾幕ごっこ、二度やり合い不可思議な縁で結ばれたこいしがちょっと不器用に叫んだ。
その隣で、最初から一緒に居た軍覇も派手に爆発しながら叫び続けた。
ある意味当然のように、好敵手と最初の友の言葉はこころの耳によく届いた。

『そのまま……行けええっ!』
「……おうっ!」

ダンッ

里中から何重にも重なって声が届き、まるで物質化したかのように確かにこころの背を押した。
それが支えになったように、もうこころはふらつかなかった。
ビュンビュンと、残像が見えるほどに勢い良く、彼女は薙刀を振り回し続ける。

「負けるか、やあああっ!」

ガギィンッ
ガギィンッ
ガギィンッ

熱い声援に応えるように彼女は力強く刃を振るう、こころを中心に嵐のように、弾幕が粉々になって切り払われていった。
ばらばらとそれ等が散って、それを蹴散らしながらこころは前へ。

ダンッ

「……行くぞ、これで……最後だ!」

そのまま彼女は一気に踏み込み、五歩目を、折り返し地点を超えたところで体を一瞬縮める。
そこから彼女は勢い付けて跳躍、薙刀を大上段から霊夢目掛けて振り下ろす。

「はあああ、序から破へ……そして終の、急の舞い!」
「さっきより鋭い!?」

ブウン
ズバアアッ

勢い良く刃が振り下ろされ、阻止しようとした霊夢の弾幕を切り散らしていく。
ばらばらばらと弾幕が散って、細かな粒子となったその中をこころが降りる。
彼女はゆっくり降下し、そして霊夢の目の前へ立った。

トンッ

「辿り着いたぞ、巫女!」

彼女はそこにしっかり両足で立って、力強く構えた薙刀を霊夢の首筋に掠めるように寄せた。

ジャキッ

「どうだ、私が……希望だ!」
「……お見事」

霊夢が手を下ろし降参する、敗北の悔しさも有る、こんな形で異変を終える悔しさもある。
だが、それ以上に見事な戦いだと素直に思え、彼女はニコリと微笑んでこころの手を取った。
バッと観客に見えるように手を掲げさせ、自ら相手の勝利を、自分の敗北を叫んだ。

「負けよ負け、あんたの勝ちで……さあ、思う存分踊りなさい!」
「……うんっ!」
「……このまま、彼女の舞の披露会、いいわね里の皆!」

ワアアアアッ

こうして異変は終わった、珍しく人間側の敗北で、ドンチャンと延々と飽きるまで妖怪の少女が踊り続けるという世にも稀有な形で。
最早生後数日と思えぬ程に馴染んだ少女を中心に、人里は異変以上の熱気に包まれる。

「里の皆、応援有りがとう……さあ舞いの続きだ、私が希望だあっ!」

ワアアアアアアアアッッ

「ふう、巫女としちゃ悔しいけど……悪くない光景ね」
「……ですねえ、霊夢さん……一心に何かを目指す姿はやはりいい、私も鍛え直すかな」

悪役二人も少し居心地悪そうに混じって拍手と声援送って、そうやって最後まで派手にその異変は終わったのだった。




第四話・完






&次回予告(のようなもの)
第五章・零



『ああ違うって、そっちの商品じゃなくて……』

外国の某所、学園都市から来た二人の美少女(片方はやや怪しい年頃だが)が困惑していた。

『……お嬢ちゃんなあ、ちと言葉遣いが怪しいんだよ、すまんがようわからん』
『……そっちの、訛りが強いんだっての』

一人はウェーブ掛かった茶の髪、もう一人はそれより濃い茶にセミロング、また顔立ちは日系だった。
付け加えれば一人目は『日傘』を大事に持っていた。
買い物中だったが言語の壁は厚かったようで、欲しいのと違う物を並べられ困惑していた。

「むうう、どう言えばわかってくれんだよ」
「ちょっと列になってるんだけど……どうするの、第四位?」
「……いやあ、発音や文法はあってる筈なんだがなあ」
「細かい訛りまでは……てことか」

使用言語はマスターしても土地の差異は真似られず、学園都市の問題児こと麦野は困り果てていた。
しかもこのトラブルで店先が混雑し、周囲からきつい視線が来始めている。
ビキと不可抗力なのにと彼女が青筋立て、一緒にいた番外個体は慌てて肩を押さえる。

「……お、おい、短気起こしちゃ駄目だからね」
「ちっ、わかってるよ……ああもう、だから私が欲しいのは……」

年下(実年来なら尚そうだ)に宥められ、ちょっと膨れながら麦野は実力行使を止める。
何とか我慢し勘違いだと教えようとし、がやはり言語の壁は厚いようで中々進まない。

『ああもう、なんて言えば……』

そんな時だった、横から口を挟む者が居た。

「……失礼」
「あん?」

同じく買い物中だろうか、後ろにいた『シスター』が訂正してくれた。

『……店主様、そちらの方が欲しいのは反対側の商品のようですが』

そのどこか『ぽわわん』としたシスターはしっかりと、麦野と違い土地の者に通じるように間違いを指摘した。

『シスター?』
『……ええとありがとな、尼さん』
『いえいえ、困ったときはお互い様で……』

助かったと麦野が言えば、相手は偉ぶるでもなく軽く返事をする。
そんな『自然体』そのものなシスターに、麦野は珍しく素直に感謝できた。

『ちょい待ち……本当に助かったよ、ありがとうね……ここのシスター?』

礼をし、更に何となく問いかけると、ペコと折り目正しく頭を下げてそのシスターが名乗った。

『若輩者ですがこの街の教会を預かる……オルソラ・アクィナスでございます。
お困りのことが有れば教会に……尤も『後数日程で』任期切れで極東行きの予定ですが』
『……覚えとく、縁があれば』

ペコリ

ふにゃりとした感じに柔らかに微笑んで、そう名乗ったシスターに麦野と番外個体も軽く会釈する。
そして、『その場』は二人と一人は別れた。

「……何か新鮮だな、私の知るシスターはガキっぽいし」
「そうだね、まあ助かった、教会さま様だ……あんたが暴れ出さなくてホッとしたよ」
「番外個体がどんな目で見てるかわかった……」

二人は知らない、この一ヶ月後、ほとぼりが冷めた頃合いと帰国した二人は再び『シスター・オルソラ』を再会することとなる。
些細な出来事とはいえ恩人だと、幾つかの勢力に狙われる彼女を助けることになるとこの時予想だにもしていい。
帰国早々の大立ち回りをするのだが、それはまだ少し先だ。





ふうこれでこころ編は終了、延々こころが踊るだろうから今回は宴会シーンは無し・・・軍覇は応援しかしてないけどどうも所謂バンカラに見えてね・・・
まあ、今後学園都市で出番有りそうなこころ登場回であり・・・レギュラーである霊夢と佐天さんにシリアス前に気を引き締めてもらうというのもある。
とりあえず後者は早速・・・シスター大増産の回で意味が出てくるかな、ああ最後の二人の帰国もそれに合わせる感じで。

以下コメント返信
九尾様
原作に近づけつつ、レギュラー陣にも出番をと思うとこういった展開に・・・割りと過程を除けば綺麗な着地点のはず。
人心が乱れては・・・実は大元がそれ、とはいえ言葉だけ借りてオリ展開ですが。
佐天さんは(スカート捲りなどのセクハラで)脱がす方だから・・・そして残念なことに幻想郷キャラに手頃なスカートが居ないという・・・



[41025] 第五話 狂信と敬心・零
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1f22dae1
Date: 2016/11/06 23:47
グビグビ

「……地ビール美味え」

ウェーブ掛った茶の髪の美女が酒精をかっ食らう。
ドンと教会の机に杯(当然持ち込みだ、また中身も)を叩きつけ、満面の笑みを浮かべた。

「生きてるって感じね!」
「四位、堕落してるなあ……」
「……せめて、主の血に……ワインにして欲しかったです」
『あ、ごめん、シスター』

せめてワインならと、戸惑う先日のシスター、オルソラの零した控えめな愚痴におっとと麦野達が謝る。
何でも直ぐにでも『ある特別な任』と共に極東に行くようだが、前回の礼及び何となく興味を抱いて短時間でもと訪れたのだ。

「い、いや教会を訪れたなら歓迎しますけれど」
「……悪い悪い、礼を言いにきたのにな」
「何か困ってることとか無い?引越の手伝いとか、いや数日ってなら終えてるか……」

麦野と番外個体にそう言われ、オルソラは少し考えた後ああそうだと手を打ってこれから向かう地のことについて問うた。

「日本という国、暫く厄介になるのですが……何か注意点等はございますか?」
「……和風の建物では土足厳禁?」
「風呂の中にタオルを入れない?」
「いや、そういうんじゃなくて……宗教上のタブーとかです」

ガイドブックに有るような基本的過ぎる言葉に、いやそうでなくてと少し呆れた様子で彼女は慣れない突っ込みを入れた。
それに二人はちょっと真剣な顔になって、その後同じく悪戯っぽい顔で同時に答えた。

『タブーなんて無し、あの国ごった煮だし』
「うわあ、聞きしに勝るというか……何というか凄い宗教観ですのね」
「……学園都市の出ってのもあるけどね」

今後の布教活動に問題無いが内容だが同時に心配にも成り、オルソラの表情は何ともいえない物をした。
それにククと人悪く笑って、麦野は少し付け加えてやった。

「新し物好きが多いからまずはわかり易い……ミサでもやって有り難い話でもしてやんな、気に入った奴はまた来るさ」
「ま、まあ、参考になりました……リピーターを作れということでしょうか?」

一応は為になる部分も有るので有り難く受け取って、オルソラは日本の布教に期待半分不安半分だった。

「ははっ、あっちに戻ったら見に行ってやるよ、大人気なら軽く宴会し……閑古鳥鳴いてたら、自棄酒付き合ってやる」
「……後半は余計ですが、でも有難うございます、麦野様」

最後の余計な部分に少し眉を顰め、だけど彼女は麦野の邪笑に(こちらは普通の)笑みを返した。

「少し楽しみになりました、『別口の任務』が有りますが布教頑張りますわ」
「……何だ、二足草鞋なのか、若いのに大変ねえ」

大変そうだなとどこか呆れた様子になって、そこで麦野があっと言って思いつきをする。
その後彼女は彼女以外には突拍子もないことを言い出した。

「……予習程度はしてるだろうし、日本語も覚えたかもしれないが……それでも細かいことに戸惑うかも、その辺を手伝う人材はいるかい?」
「ええと、通訳ということでしょうか?」
「そっ、それと神事以外の手伝い……番外個体、ほとぼり冷めてるだろうし手伝ってやれ」
「はあ、ミサカが?」

勝手に通訳に押す麦野に、番外個体が正気を疑うような目を向ける。

「あー、第四位?」
「……お前さんも普通の生活をするべきだ、大分落ち着いたしいい頃合いだろ」
「そりゃ、確かに要るけど……どうしてオルソラさんに着いてくのがそうなるの?」
「…………私だと『毒』強すぎ、カタギって意味で参考に成らないし」
『ああっ!』

『毒』の部分で納得した、番外個体は当然として、会ったばかりのオルソラですらそういうのの参考にはならないと理解した。
そんな反応に少し傷つきつつも、彼女はオルソラと番外個体に二人での極東生活を薦めてみる。

「ちっ、納得すんな……まあ、オルソラも助かるし番外個体にも損じゃ無いだろ。
……二人であっち行ってきな、私は……適当に各国の地酒でも飲んで、後オーロラとかテレビに出るような大聖堂とか見て回るから」
『ええと……向うが良ければ』

二人は同時に相手を見やる、オルソラは慣れない土地での生活だから大いに助かるし、番外個体としてこの柔和なシスターなら確かに良い参考と思い始めていた。
彼女達は暫く見合ってから、殆ど同時にペコと頭を下げた。

「……ええと、番外個体様、日本でのご指導お願いします」
「ああいや、こっちこそ……ミサカみたいな捻くれもんの手で良ければ貸すよ、オルソラさん」

ふっと笑い握手し、こうして彼女達の極東の布教活動(&番外個体帰国)が決まったのだった。



ガヤガヤ

「はあい、人里の方々ご清聴ー!」

異変の熱がやや尾を引く人里で、涙子が『希望』の目立つノボリを振りながら叫んだ。

「知っての通り、前回の異変は希望の娘『秦こころ』の勝利で終わりましたが……
今日はその……こころちゃんが里で舞う為に来てまーす!」

ワアアアッ

涙子の叫びに人里が湧い上がった。
(自分の敗北を広めるようで)涙子にも少し気恥ずかしさはあるが、そもそも天魔の仕事なので手を抜くつもりはなかった。
彼女は人里を煽るように仰々しく司会をやって、温まったなと思ったところで横に退く。
すると、そこからピョンとこころが飛び出した。

「……十分だね、行って来い、こころちゃん!」
「おー!」

ワアアアアアアッッ

一気に人里が燃え上がり、それに気を良くしたこころが二三軽く踏んで調子を確かめる。
更に周囲、それを彩る者達もすぐさま準備する。

「……何時でも行けるぜ、根性だ!」
「……ふんだっ、何時か主役取ってやるもん」
「うにゅにゅ、こいし様何だかんだ楽しんで?」

いつもの根性男こと軍覇が拳をギュッと握る、何かもう馴染んでて、学園都市には秋の大祭(大覇星祭)辺りに返せばいいかとか紫が思う程だった。
隣にはライバル視するこいしがお空を連れてやはり背後に回る、前のようにバックダンサーとしてこころの手伝いに来ていた。
それ等をやれやれという顔で屠自古が笑い、それと自分も首を突っ込むのか布都まで琴を手に並ぶ。

「ま、ここまでやって……さよならというのも味気ない、手伝ってやるか」
「うむ、神子様のご養子ならば我にとって……まあ、孫のような物だ、ちと手を貸してやろう」
「……そういや甥っ子にも優しかったか、術の手解きして後々の大暴走の下地に成って……ま、まあ合わせろよ、物部!」

そして、二大幹部に囲まれるこころに、神子が応援の言葉を掛けた(男の時が長かったので琴は得意じゃなかった)

「……布都、屠自古……こころ、頑張りなさい!ここで見てますよ!」
「おうっ、見ててね、神子様!」
「ええ、しっかりとな!」

そんな何とも不可思議な親子は微笑ましくて、少し離れて白蓮(やはり伴奏役だ)が龍笛(寺院に関係の深い笛の一種)を手にクスと笑う。

「ふふっ、仲の宜しいことで……少し妬けますね、こころさんの寺での預りが流れたし」

最初に声を掛けたのは寺の勢力で、だが実家といえるのは霊廟だ、加えて博麗の巫女が認めたことから神社に住むべきという話もある。
こころの今後に関してはこれから色々話し合い、恐らくは三箇所を数日ごとに住まわせて、それぞれ幻想郷の常識を教えることに成るだろう。
そういう意味では白蓮の伴奏参加もこころ周りの状況の一環といえる。

「(さてどうなるか、いや……)今はそれよりも……全力でお手伝いしますよ、こころさん」
「お願いっ、住職様!」

頷いて白蓮が龍笛を鳴らし始め、その音に乗っかるようにこころが跳ね始める。
直ぐに二重の琴の音と、背後の爆発音が続き、彼女の舞が本格的に始まった。

「行くぞ、皆……私が希望だ!」

ワアアアアアアッッ

再び人里が熱く燃えて、その中心でこころが高く高く跳んだ。

「……ふふふっ、全く楽しそうにしちゃって……」

そして、『役割』を終えた女は台上に背を向け、その後空へと一気に飛翔する。
高度を上げる程に風が強くなる、その先に一塊の渦を巻く『雲』が有った。

ヒュウウッ

涙子は風で揺れる髪を押さえ、複雑そうな顔で一瞬で荒れた空を見上げる。

「……流石は幻想郷屈指の風使い、でも……これくらいでないと意味が無いしね」

緊張した様子で飛ぶ涙子はある程度まで高みに行って少し待つ、すると『雲』の元に白い影が見えた。
それは狼の特徴を持つ天狗、白狼天狗の椛だ、彼女は『雲』を指し示す。

「『あの方』の準備は整っています……覚悟ができたら何時でもどうぞ」
「ふん、覚悟ね……望むところだ、行ってくる!」

タンと風で作った足場を蹴って彼女は跳躍し、更に上を目指す。
先に待つは渦巻く雲、いやその奥に一人の天狗が笑う。
その名は『天魔』、今から涙子が臨む高い高い壁だ。

「貴方がやらせた、こころちゃんの世話……それはそっちの思うよりずっと大変だった、その分返してもらうよ。
そう……私の修行相手になってもらうことで!」
『……良かろう、来るがいい、若き修験者よ!』

彼女の叫びに風の影響下くぐもった(男か女かすら定かで無い)声が答え、雲の奥から天狗の影が手招く。
それにニッと笑い、涙子は風と雷光灯して『天魔』へと一直線に向かって行く。

「明らかに格上、流石に勝てるとは……流石に思えないけど、『技』を学ばせてもらう!」
『……ふっ、一つ揉んでやるか』

ガギィンッ

空で轟音がけたたましく響いた。



「……という事情で少し長引き、佐天の奴は休日ギリギリまで修行するとのことです」
「あらまあ、彼女ってば意外に熱血ね……ありがと、椛さん」
「いえ、腐れ縁ですからね、御坂さん」

美琴と椛が共通の友人(あるいは悪友)に困ったように笑った。
途中まで事態を見守って、それから友人に伝えるべきだろうと学園都市に来たのだ。

「……相変わらず元気ですね、あの人」
「昔からああなんだよ、氷華……おかげで我等見回り組がどれ程苦労したか」
「でも、そのヤンチャのおかげで……月の姫の時は助かったけどねー」
「まあそうだけどね、ルーミアちゃん」

二人の会話に、氷華とルーミアも横から口を挟んだ。
前者はやはり共通の友で、後者は氷華の友達だ、美琴に伝言を伝えるために研究所まで案内してもらったのだ。

「……結構知り合いが増えたな、御坂」
「先輩程じゃないけどね……今日は?」

そんな会話と後輩の交友関係に感心しながら、『別口の要件』で来た上条が数枚の紙片を見せた。
どうやら『下町の祭り』のチラシのようで、彼はそれを見せて問いかける。

「ああ、明日辺り遠出する予定で……何かお土産居るか?」
「そこの特産の食べ物とか……」
「お酒とか、っと未成年は駄目か」

後ろからやはり付いてきたインデックスやチルノも口を挟む。
見慣れた組み合わせで、ああと美琴は最も人間らしい妹(何時の間にか混じってチラシを見ていた)の関係かと気づいた。

「……10032号?」
「ええ、皆で行こうって計画してたんです、お姉さま」
「ああ、ほら少し前の……海に行っただろ、その時『うちの親父』のオカルト狂いで予定が狂ってさあ」
「掃除?で半日潰れて……夏祭り行けなかったの」
「その分を取り返そうって思って……」

そういう挽回のために今日集まり、日程の最終的な摺り合わせや関係者へのお土産を聞きに来たらしい。
くすと笑って、美琴は適当に土産を頼み、楽しむように言った。

「お土産は普通に食べ物、ここに残ってる妹も欲しがるだろうし多めで……楽しんできてね、皆」
「ああ、わかった、後写真とかも取ってくる」

リクエストし上条達も了解し、その後美琴は少し残念そうにする。

「……『彼女』の帰国が重ならなければ私も行ったんだけど」
「御坂?」

ちぇと子供っぽく口を尖らす後輩に、上条達は首を傾げる。
すると背後、『真っ白い影』が研究所の私用スペースから現れ答えた。

「……これは秘密だったンだが、急遽『末っ子』が帰ってくるンだとさ……その準備で忙しンだよ」
「ちょっと驚かせたかったのに、言わないでよ……一方通行」

美琴をからかいつつ現れたのは白い影、最強の張力者である一方通行だ。
だが、どうも普段と違う箇所があり、上条は首を傾げた。
何時も白いが、普段以上に白さが目立ってた、寧ろ『煤けて枯れ果てた』かのように。

「……徹夜か、顔が青白いぞ?」
「あァ、ちと急ぎ仕事でな、さっきまで奥で仕上げてた……」
『あ、何時も白いけど、でもずっと白い!』
「うっせェ……」

白い白い連呼され一方通行がジト目になる、が言葉だけで限界なのかドカと乱暴に椅子に座り込んだ。
明らかに参っていて、本当に疲れ果ててるようだ。

「末っ子、番外個体か……でも、何でそうなったんだ?」
「ほれ、あいつが気にしてたネットワークの隙消し……能力行使に関わる演算に色々微調整やって、頭を使い過ぎた……」
「第一位は伊達じゃないわね……普通は馬鹿高い機材でやる計算を人力、かつそれ以上の精度でやったの、信じられる?」

何の心配もなく帰れるように、一方通行が一肌脱いだらしい。
尤もその結果が今の彼のようだが。

「……やる気出し過ぎた、頭痛ェ」
「名誉の負傷かしら」
「とんでもないな……演算能力と物理的耐久力がアンバランスだが」

上条や美琴始め、皆に尊敬の目で見られながら、彼はグタリと椅子に体を預け沈める。

「……俺は寝る、土産は何でもいィ」
「ああ、わかった……しっかり休んどけよ」
「おゥ……」

辛そうに言葉を交わし、言い終えて彼は目を瞑る。
が、その寸前何となく周りを、チラシを見て『あること』を美琴に告げてからそうした。

「第三位……そこ、末っ子の言ってたのと近ェぞ」
「え?……あっ!」
「そこそこ近いし、待ち合わせるのはそう無理じゃねェ。
……俺は『学園都市残留組』とこっちでの歓迎会……宴会か、まァその用意しとくからそっちで迎え行けば?」
「……貸しにしとく、ありがとね!」

チラシの一枚を取って美琴が声を上げた、それは番外個体が来ているという街に近い。
彼女は慌てて地理条件を計算し、暫くして上条達を見た。

「……先輩、私も着いてっていいかな、そして……現地で妹も一緒にって出来る?」
『おうっ、勿論!』

当然彼等は拒まず(已む無く別れたと知ってるし、賑やかな方が楽しいとも思い)、彼女の提案を僅かも逡巡せずに受け入れた。

「ありがと、先輩……ありがとう、10032号、チルノちゃん、インデックスさん」
「そうと決まれば計画立て直しだな、俺等だけならバスで行くつもりだったんだが」
「あ、そっか、人数増えるもんね」
「研究者に車出して貰いますか?芳川……一人暇そうなが遊びに行きたがってたし」
「おっ、それ助かる……デカイ車があるなら土産も買い込めるしな」

ワイワイと、彼等は楽しそうに計画を立て始めた。
秋の祭り兼末っ子である番外個体の歓迎会、色々な物を兼ねたイベントである。
ついでに、美琴はこの場にいる友人二人、更にその友人にも声を掛けた。

「貴方達もどうかしら、椛さん、氷華さん、それにルーミアちゃんだっけ?」
『……め、迷惑でなければ』
「まさか!?妹だって賑やかな方が喜ぶわよ!」

こうして、更に三人追加されて、大人数での日帰りの旅となった。

「……騒がしい奴らだ」
「あら、ジジ臭いわね、鈴科君」
「うーん、でも……ミサカはミサカは悪く無いと思うけど!」
「……まァ、文句は無ェさ」
「ふふっ、でしょ……ツボ押しの本発見、ミサカがやってあげる!」
「ついでに……針もやろうか、鈴科君?」
「……打ち止め頼む、姉貴はどっか行って酒飲んでろ」
「ひどーい」「残当、お姉ちゃん」

少し離れて一方通行とその看護に残った打ち止めや霊夢も笑い、祭り組の騒ぎを見守る。
(比較的)学園都市には珍しく、その日は平穏だった。
但し『その日』は、だが。



第五話 狂信と敬心・零



人里で、舞が終わりそれへの興奮に騒ぐ(二次会ともいう)二人の少女が並んで歩く。
小さな方が好奇心旺盛にそこ等の光景を見ている。

「ねえ、あれなあに、神子様?」
「ああ、あれは……」

問うたのはこころ、付喪神になったばかりの彼女にとって初めてばかりで何もかもが新鮮だ。
それに苦笑しながらもう一人、神子が答えていく。
彼女にとっては親友の娘で、保護者という観点ではある種義理の親子とも取れる。
又そういう関係に加え、こころの幼いながらも何事も一生懸命な性格は嫌いでなく、立て続けの問いにも笑いながら答えていく。

「……じゃあ、あっちは?」
「あれは……」

そんな風に神子が子供の世話をしていると、微かに『音』が聞こえた。

ヒュウ

「……おっ?」
「笛の音、か」

最初は(慣れてないのか)ちょっとぎこちなく、だけど少しすると雅に音を響かせる。
柔らかなその音に、ふっと二人は微笑み耳を澄ませた。

ヒュルルゥ

「風流だな」
「……うん、少し荒削りだけど、素朴で自然な音」

神子とこころは頷き合うと、周りを見渡す。
そして、直ぐに『怪しい影』を見つける、『黒髪』だけ露わに『包帯で木乃伊になった女』が笛を吹いていた。

ビクッ

『うわっ、怪しい!?』
「……放っとけ、天魔にボロ負けしたの」
「あ、天敵二号……涙子だ!」

二人の正直な言葉に、怪しい奴こと涙子が答えた(天敵一号は言わずもがな霊夢だ)
彼女は黒髪(というか包帯でそれしか見えないが)をガリガリと掻くと、近くの街路樹に手を振る。
行き成りポイと笛を投げて、それを木々の枝の上で寛ぐ『影』がキャッチした。

「上手く吹けない……高音出るようにして、『天魔』」
「下手っぴ、笛のせいにするか」

くくっと聞こえみがしに笑ってから、影は笛を短刀で削って調整する。
それから直ぐに涙子に投げ返されて、彼女は樹上のからかうような笑みに顔を顰めながら再び演奏準備に入った。

「涙子、せっかくの酒宴……派手で賑やかな曲を頼む」
「はいはい……」
「……天魔直々とは贅沢な、仲がいいの?」
「……弾幕ごっこの勝者命令、酒の肴みたいなもん」

ボロ負けついで、弄られている真っ最中のようで、涙子は情けない顔で笛を吹き始めた。

ヒュウ
ヒュルルゥ

「……意地悪だね、山の大将さん」
「からかいか、風流だが」
「そいつは図太いからな、普通にやるよりこういうのが効くのさ」

感心しつつ呆れる二人に、樹上の天魔(木々で姿は見えないが笑ってるようだ)は時折涙子にヤジを入れる。
彼女は時々顔を赤くしつつ、一曲吹き終えて肩を落とした。

「ううむ、恥ずかしい姿を見られた……」
「良いじゃないか、そのくらいが付き合い易い……それに既に親しいのだろ、こころと」
「うん、彼女には良くしてもらったよ、神子様……最後、意地悪されたけど」
「……良いじゃん、人里に馴染む切っ掛けに成ったし」

目地らしくジト目に成ったこころから逃げるように、涙子はそっぽを向いた。
はあとそれに嘆息し、その後こころは今更ながらに首を傾げる。

「……で、何で笛なの?」

すると、ちょっと真面目な顔で涙子が口を開き答える。

「一応、修行でもある……奏上、音楽は神に訴える手段でしょ」
「ああ、加護……雷光でも強化する気か」
「そっ、休日は無駄にしたくない……風とかは天魔の修行で伸ばせばいいしね」

前半で空(あるいはその先)を見上げ、後半部分で彼女は樹上の影をちらと見る。
つまり涙子は基礎能力の底上げ(しかも攻防を並行して)が目的らしい。
何だかんだその辺は地道かつ真面目な涙子に、神子達は感心し意外にも思う。

「真面目だ……布都の同類でなかったか」
「うん、てっきり……類友かと」
「……あ、そういう扱いか、凄い泣きてえ」

不本意なことに、どこぞの悪女と一緒にいるからかそんな印象が強いらしい。
あまりの言葉に涙子は目を伏せ、その後現実逃避のように彼女は演奏を再開する。

「違うもん、私はまともだもん……屠自古ちゃんに相談しよ、じゃ又ね」

ヒュルルゥ

半ば逃避で笛に集中する彼女に、神子は気まずそうにする。

「ううむ、悪いことを言ったか、後で謝ろう……にしても修行か、私も見習うべきかな」
「おお、神子様もやるのかー?」
「ああ、『新興』の分努力しないとな」

今日会った涙子、先輩である霊夢や白蓮、そして娘(のような存在の)こころに負けないようにと、神子はにっと笑って拳を握った。

(剣も術も自信はあるが……それ以外、例えば『外套捌き』等を磨いておくべきか?)

愛用の『紫のマント』を使った技でも鍛えようかと、そう考えて。



ジトオッ

そして数時間後(隙間経由の)神子は白い超能力者のジト目に迎えられた。
超能力者、『一方通行(アクセラレーター)』は微妙な顔だった。

「……で、修行とやらで外に……『学園都市』に来たと?」
「うむ、まずは新技の為に閃きが欲しい……霊廟は何もないからな、思い切って市井に出てみたのだよ」
「あァ、万有引力と林檎の落下ってとこか……ま、別にいいが問題は起こすなよ」

行き成り新技を作ろうにも何かしら切っ掛けが要る、日常生活でそういうのを探せないかと、外に出てきた神子に一方通行は釘を差した。
が、彼女はともかく問題が有る、彼は重い体をソファーから起こして『もう一人』を見た。
『銀髪の剣士』が顰め面で立っていた。

「久しいですね、超能力者」
「……魂魄か」
「八雲殿を訪れたら、彼女も外に行きたがってたのだが何か問題が?」
「いや、前の時に少しな……」

警戒する一方通行に戸惑う神子、が心配に対し妖夢は動かない。
彼女は『普段より白い一方通行』、そしてソファーに寝そべる姿に舌打ちする。

「ちっ、不調のようですね」
「それが?」
「……ええい、それでは切り甲斐が無いじゃないか!?」
「知るか!?」

何か理不尽な理由で妖夢は怒り出した。
前回の報復が目的のようだが、手負いを狙うのは剣士として気乗りしないらしい。
良くわからない理由で今回は諦めた彼女は、偉そうに向かいに座って口を開く。

「ちっ、仕方ない、仕返しは延期としましょう……代わりにさあ持て成せ、客だぞ」
「……本当に目出度い頭してンなァ」

でも、切り替えたら切り替えたらで迷惑で、一方通行は頭を抱えた。
彼は嘆息し、その後ニヤリと笑って手を叩く。

「おうィ、『あれ』人数分持ってこい」
「……はーい!」

パンと彼が手を打ち、それを聞いた『打ち止め(ラストオーダー)』が数個の茶碗を持ってきた。
出来たてなのか湯気を立てるそれは出汁汁と白米、更に幾つか食材が乗っかっている。

「ほれ、『茶漬け』、これでいいなら食え」
「……帰れ、とそういうことか、超能力者」
「さてなァ……」

目の前に置かれた茶漬けに顔を顰める妖夢(平安に当然そういうのが無く、神子は首を傾げている)対して一方通行は人悪く笑った。

「……一応言っとくがこれは俺用だ、体がダルいからな」
「む、そういうことなら仕方がないが」
「嫌がらせも本当だが」
「おい、この野郎……」

からかうような言葉に妖夢が立ちかけ、そこで一方通行の背後に立つ少女を見て凍りつく。
作成者である打ち止めが『食べないの?』と悲しそうに両手で顔を覆っていた。

グスグスッ

「あーあァ、折角打ち止めが作ってくれたのに」
「うっ、それは」
「……おいおい、ガキを泣かすのか、魂魄?」
「……今はやめてやる、運が良かったな」

ガタンと苛立たしげに妖夢が座って、それを見て彼女の死角で一方通行と打ち止めがニッと笑う。
尚、押さえてた手を退けたその目は全く濡れてなかったりした。

「……ちょろいな、魂魄(ボソッ)」
(……良い連携だなあ)

即興劇で妖夢を牽制した二人に、離れていたから唯一気づけた神子は苦笑気味に笑った。

「……で、話を戻すとして」

モグモグ
ガツガツッ

(打ち止めも席につき)四人は茶漬けと一分普通の食事に手を付け話し始める(妖夢は八つ当たり気味に食い漁っていたが)

「魂魄は別にどうでもいいとして……豊聡耳は新技作りだったか?」
「ああ、適当に街でもぶらつこうかなと」
「まァ確かに、目的がそれなら良いやり方かも知れねェな」
「うん、この国は割りと何でも有るし……」

適当にぶらつくだけでも色々見れるだろう、技のヒントという意味では悪くはない。
が、そこまで考えたところで、一方通行と打ち止めは同時にあることを思いつく。
二人はハッと顔を見合わせて、その後悪戯っぽく笑った。
つまり『妹を迎えるなら賑やか方が良い』と。

「……上条が連れと一緒に『祭り』に行くンだが」
「貴女もどうかな?」
「ほう、面白そうだな……」

その思いつきに心を引かれたのか、神子は思案げに腕を組んで考え出す。
それに布都達の件でお守りを送ったことも有る。
全く無関係でないと話は直ぐに決まって、日帰りの団体に追加一名が決まった。

ウズウズ

「……魂魄、お前も行く気か」
「ああ、復讐は延期だし暇ですから!」
「ま、良いンじゃねえの、俺は行かないし」

後もう一人も乗り気だった、一方通行達は(面倒だし)殆ど諦め気味に好きにさせた。

(流石に無闇矢鱈に喧嘩売る程馬鹿じゃねェし、もしそうなったら相手の問題だろ多分……人斬りに襲われる奴には同情してやるが)



ギイッ

その日の朝、『番外個体(ミサカワースト)』は輝く笑みで教会の扉を開けた(同居人が『暗号』とやらの解読で寝坊しがちで彼女が率先してやっている)

(さあて、今日はお姉様達と待ち合わせの日だ……教会の手伝いを早く終わらせてと)

久々の再会(MNWはあるがやはり直に会いたいし)に期待し笑う彼女だが、扉を開けて早々そこに敷かれた『包囲網』に固まった。
ズラッとシスターの集団が教会の表に陣取っていた。

「……は?」
「失礼、オルソラ・アクィナスに伝言を……背信の疑いで、本国まで連行すると」
「えっ?」
「暫し待ちます、尤も余り長くは……」

一方的にシスターに言われ、番外個体は凍りつく。
だが、相手の言葉を反芻し、それを理解すると慌てて教会内へ走っていった。

「お、オルソラ、外の連中があんたを連行するって!」
「あらまあ……」

外に気づいた仮眠室から出てきたオルソラが困ったような顔をする。
暫し寝ぼけ眼を擦り、その後『覚悟』したような顔で外に行こうとした。

カツカツ

少し顔を顰め、だけど諦めたように彼女は困った笑みを浮かべた。

「やはり、こうなりましたか……『暗号』の真実、教会幹部は耐えられなかったようですね」
「ちょ、ちょっと、どこ行くの!?」
「……少しドジ踏みました、どうやら上は口を封じたいようで」

出てくのを止めようとした番外個体に、少し嬉しそうに、だけど困ったように笑って彼女は伸びた手を抑える。
巻き込む訳にはいかないと、彼女は番外個体に珍しく強い語調で言い含めた。

「駄目、離れて、番外個体さん……貴女を巻き込む訳にはいきません、裏口から逃げて」

どこまでも彼女は優しく、これから危機に陥る自分ではなく他人を思いやって、そっと番外個体を裏口の方へ行かせようとする。
が、『だからこそ』番外個体は再度その手をオルソラへと伸ばした。
当然払われようとして、だけど構わず更に伸ばし彼女を自分の方に引き寄せた。

「ちょ、ちょっと、何を!?」

今度は彼女が慌て、先程の番外個体のように慌てるが力で敵わず引きずられる。
番外個体はニッと笑ってオルソラを小脇に抱えた。

「悪いけど……アンタみたいな善人は見捨てられない、それじゃ姉様達に顔向け出来ないんだ」

番外個体は苦笑してそう言って、それからオルソラを抱えるのと逆の手に金属片を集め始めた。



ゴゴゴ
ズンッ

『……は?』

数分後シスター達は唖然とした顔になり、目の前の『変貌した教会』を大口開いて見上げる。
内部から金属片が飛び出して、山嵐か何かのように教会全体を覆い、更に続いて湧いて出た『砂鉄性の鎖』がその強度を更に補強し始めた。
唯の教会が突然要塞のように成り、外と内部を隔てたのだ。

「これは……籠城?」
「……のようだけど」

困惑するシスター達に、少し離れた位置に居た『ローブをすっぽり被った女』が面倒くさそうな声音で指示を出す。
ジャラリと、口を開いた瞬間そこから『十字架型の舌ピアス』が僅かに見えた。

「……はあ、相手は抵抗する気のようだね……人数を集めな、包囲するよ」
「はっ!前方の――――様!」

その指示に従い、バラバラとシスター達が配置につく。
それを確認し、ローブの女性はやはり面倒くさそうに『鉄条巻きつけた大槌』を構えた。

「……何で上のゴタゴタで、私が出ることに成ったんだか……ま、こういうのに出たがる『爬虫類』は病院だから仕方ないかもしれないが」

やる気無さそうに、『黄色い装束の武装シスター』は天を呪った。

(もういっそ『上』の責任問題……てか、損切り狙えるような『面白おかしい状況』にならねえかなあ……)





・・・次回『狂信と敬心』に続く・・・



・・・えー、てな訳で次から五話、オルソラ嬢&シスター軍団登場編です。
まあ、原作の上条インデックスのコンビに・・・チルノに御坂s、それと氷華達が着いてく感じです。
ここまでは決定で問題は・・・東方側から数人(2~3人?)増やすかもってのと、それと敵側のテコ入れか。
・・・それぞれ選考に難儀中、真面目に行くかネタで行くか・・・まあ次までに(・・・ごめん無理でした)

以下コメント返信

九尾様
こころは独特な立ち位置で、扱いには気を使いましたが書いてて楽しかった・・・まだまだ書き足りてないので再登場も確定だったり。
そういやオルソラは珍しい正統派シスターですね、というか創作のシスターが自由過ぎる・・・あれ、何かレアキャラの気がする(・・・逆に美味しい立ち位置か)

ドードー鳥様
例の希望送は・・・正直そこを書けるのは何時かわかりませんが一応話に出してみました、関係としてはこういう感じですね。
・・・ゲストとレギュラー二名、誰も大人しくしてる姿が到底思いつかず、何とか全員を目立たせられ作者的にも満足です。

ジャワ・カレー。様
ああちょっと安心、雰囲気出てたか・・・萃夢想や緋想天とか(あ、心綺楼も当然)好きなので祭りっぽい感じが出せて本当に良かった・・・

・・・コメント返信追加分
AISA様
(素の気もするけど)まあ多分暗部で擦れちゃったからでしょうかね、幻想郷のせいにするには本人が似合い過ぎかなあ・・・

九尾様
とりあえず麦野と離しました、だって要るだけでシリアスになり切れないし・・・後『自分から』誰かを助ける番外個体を書きたかったのもある(麦野だと似合わない)
・・・小萌先生は明らかに魔神以上の人外枠ですから、というかもうチルノ側の妖精亜種でいいや。



[41025] 第五話 狂信と敬心・一
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:bcfd7106
Date: 2016/10/29 16:04
注意・猫達の名前は原作準拠です、10032号とインデックスの・・・


ドンドンと攻撃が教会を揺らし、中の二人が顔を見合わせる、きっちりと修道服を着込んだ少女と対して慣れないのか修道服着崩した少女だ。
前者、顔を顰めながらもオルソラが後者に、同じく顰め面の番外個体に話し始めた。

「……『法の書』と呼ばれる、ある種特別な書が存在します……」

ゆっくりと辛そうに、彼女は自分が狙われる理由を明かす。
自信が所属する『ローマ正教』への疑いと共に。

「それは複雑な暗号が仕掛けられ……私は専門の魔じゅ、ゲフンゲフン専門知識を持っておりますが」
「は、はあ、そうなの……(まあ魔術のこと知ってるのは言わなくていいか……)」
「私は法の書を解読する為に日本を訪れました、教会の啓蒙活動はどちらかというとついでですね。
……書はこの地に潜伏する『小規模の宗教組織』の手に有り、私は接触し譲渡を頼むつもりでした……尤も今は『上』の良からぬ企みを感じますが」

本来彼女の目的は現在『法の書』を所有する天草教会との交渉だった。
元々暗号解読を得意とする彼女は書の解読に期待されていて、それに応えるべく自ら書の所有者を尋ねたのだ。
だが、今となっては『弱小組織が書を所有するという情報』自体が疑わしくなってくる、恣意的な何かを感じた。

「あるいは……抗争の発端としたかったのかもしれません(……ならば私だけが狙われるのは案外悪いことじゃなかったかも)」

予定が変わったとしたら、オルソラが日本での活動中『書』の僅かに現存する写本等を調べた事だろう。
番外個体という当初存在しない助手が居て、おかげで多少その手が空いた、その時間を使って一部だけでも彼女は書を解読することにした。
その結果、部分的にだが暗号は読み解かれ、定期報告でそれを上に知らせた直後に『これ』だ。

「私の動きが予定より早く、上は焦って……まあ、現地組織への罠を断念し、せめてと私の口封じに出たのでしょう」
「……そもそも書とやらの解読、何の問題が?」
「解読されれば『我等の教えが終わる』……そう、伝わっております」

オルソラは自分がやらずとも何時か暴かれる時が来ると、ならばと対策の為に暗号解読を急いだ。
だが上層部はそもそも読もうとしなければいい、読んだ者の口を封じればいいと短絡的な行動に出た。
つまりはローマ正教は同胞である彼女の命を奪うことで無かったことにする気なのだ。
それを聞いた番外個体は外を見て、苛立たしげに舌打ちした。

「ちっ、臭いものには蓋ってことか……反吐が出るね」

乱暴極まりないローマ正教のやり方に、彼女は反感を抱きまたオルソラへの同情を強めた。
もう絶対離すかとばかりに、グッと隣りのオルソラを、そのの手を握る。

「……番外個体様、危ないです、本格的に巻き込まれますよ」
「はっ、悪いが……『命知らず』で『甘ちゃん』で『命を何より愛する』なお姉様達が居てねえ、そんな人達の妹としちゃ見過ごせない」

覚悟した表情でこっちを心配するオルソラに対し、番外個体は寧ろ『こんな状況でもそういう言葉を口にするから』尚更離す気はなかった。
御坂美琴やシスターズの妹に相応しく有りたい、そう考えた彼女はオルソラの手を強く握った。

「悪いが私と逃げてもらうよ、オルソラ……他人に優しくしろって、隣人愛だったかをアンタ達の神様も推奨してるだろ?」
「……自殺行為です、それはいけないことと主は言っていますが」
「ならば問題無い、自殺行為と私は思っていないし……それと自殺が駄目なら諦めることも駄目でしょ」
「うっ、むむう、ここで自首するのは確かにそうか……手厳しい人ですね、番外個体さん」

自分の言った言葉の繰り返し、言葉尻を捉えられての反撃にオルソラは悔しそうに口を噤み、それに対し番外個体は悪戯ぽくだけど優しく笑った。

「くく、持ち味ってことで……」

そう言って彼女は視線を外に向ける、続く攻撃が教会を揺らすが補強した装甲はまだ耐えている。
後何か『切欠』で仕切り直すなり出来るのだがと、彼女は伺うようにチラと外を見た。

(……まあ、諦めずに頑張りましょ、お姉様達もそうするだろうし)



狂信と敬心・二



「……後十分程で到着ね、お祭り楽しそう」
「ああ本当ですね……しかも予定より人が増えてる、こりゃ騒がしくなるかな、良いことだけど」

チラと備え付けの時計を見た運転手、研究者の芳川がそろそろ到着だと口にし、助手席の上条が相槌を打った。
逆紅一点で、後ろの女性陣に混じるのはどうかと前に出た彼はパラパラと目的地のチラシを開く。
『薄明座』という文字が一瞬地図に見えた。

「祭りは夜から、店は出てるだろうけど……それまで娯楽施設なり時間潰せる所なりで、適当に回るかな」
「ええ、そうしましょう……車は駐車場に止めて、そこから各自自由行動か」
「……『大きなホール』が近くに有るし、合流場所はそこで」

そう決めた二人は車内ミラーで、後方の女性陣を見やる。
ガヤガヤと賑やしいそれに、二人はフッと苦笑気味に笑った。

「ふう、良く見とかないとな……」
「先輩役、又はお兄さん役は大変ねえ」

既にノリの良い連中に、上条は大変そうだと嘆息し、芳川は他人事のように呑気に言った。



例えば車の端っこ、酔い難い壁際で白髪の少女と金髪の少女が話している。

「ほう、神子殿は良い剣をお持ちだ、『七星剣』……丙市椒林剣だったか、カノ名刀ではないので?」
「ああ、あれは『人として』の墓に残した……体は無し、佩刀も無しでは一族が弔うに難儀すると思ってな」
「……ふむ、一度拝見したかったのだが」

妖夢が七星剣のみを持つ神子(拵えは目立たぬよう、飾り無しの仕込み杖だが)を見て残念そうにし、困った様子で神子は頬を掻いてから慰めるように言う。

「スマヌな……代わりと言ってはなんだが、布都が何本か業物を持っていたから話しておこうか」
「ほう、物部といえば刀剣の神に仕えたとか……期待できそうですね」
「……あちらに戻ったら来るといい、私も幻想郷の先輩と話したいしな」

そんな物騒な話題、刀剣の話題で二人は盛り上がっていた。
それに引いたのか、他の面子は敢えて見ないようにしていて、唯一人興味を持ってそうな犬耳の少女も今日は別の相手に付いている。

(わふ、楽しそうだけど……まあ、今は御坂さんと氷華さんの方かな)

友人を優先した椛は御坂達を見た、リボンやら小物やらを弄る二人にふふと笑う。

「椛さんに似合いそうなのは……」
「綺麗な白髪ですし、赤辺りかな?」
「……お手柔らかにお願いしますね」

折角の祭だからオシャレしようと、椛を飾り立てる二人に彼女は半分諦めた様子で好きにさせることにした。
基本山の仕事を真面目にこなす武骨者だが、女性として華美な装飾品を身につけることに恥ずかしがりながらも楽しみにも思う。
殆ど玩具扱いで、でも楽しそうに笑って、白の浴衣と赤の簪を見せる友人に椛は降参ポーズを取った。

「……あたいもリボン変えてみようかなあ」
「寒色系から変える、チルノ?良いんじゃない?……私も霊夢辺りに言ってみようかな」
「ああ、ルーミアは何時も封印付きだもんねえ……」

そんなオシャレに熱を上げる三人に苦笑し、少し離れてチラシを見るチルノがふとリボンを触って、それにルーミアが少し羨ましそうにした。
封印だから余り変えられないルーミアは不満そうで(なので氷華に気を使ってこっちに居た)チルノはああと宥めるように頭を撫でる。

「……あっちみたいに浴衣にする?」
「洋服の方が好きなんだよね、和服は気を使うもん……」
「確かにね、あたいも動き難くないのがいいかな」

結局現状維持に終わって二人が嘆息していると、一緒にチラシを見ていた少女達がコラと集中しろと催促した。

「ちょっとお……お土産選びをしっかりやってよ、二人共」
「ええ、インデックスの言うとおりです……シスターズ、学園都市残留組だけで数十人、さあ選んだ選んだ」
『……はあい』

片や食欲で、片や姉妹への情で、熱心に予定を立てるインデックスとミサカに促された二人は慌てて作業に戻る。
そんな風に賑やかに、『まだ』彼等は平和だった。

「……そろそろ付くわよ、子供連中?」
「まあ準備しておけよ、後迷わないようにな……」

そうして到着し、前の二人が少女達に声をかけた、そして一瞬窓に大きなホールがチラと過ぎた。

(……休日くらいは何も無いといいんだが)

そう思う上条だが、現実は甘くなかった、ここに無くとも火種は近くに有ったのだ。



「はああ、私は諜報なのになあ……」

ズドンズドンとシスター達、アニェーゼ部隊が目標に仕掛ける。
その度に揺れて、だが中々崩れない教会に『鉄槌を担ぐシスター』は嘆息した。

「……ありゃ魔術じゃないな、能力……御坂と同じか、少しやり難いなあ」

鉄の要塞は諜報任務の際に偶然あった少女を彷彿とし、シスターはやり難そうにしていた。
超能力者の癖に普通の子供らしい少女、それにシスターは失った家族を思い出してしまう。
それと同類らしき相手に、彼女は攻撃を躊躇った。

(全力で風を叩き込めば壊れるだろうが……出来れば無傷で無力化してえな)

防御を破ることはそう難しくはない、だが怪我させずにとなると一気に困難となる。
加えて、本来諜報であることが『風以外』の仕様を躊躇わせた。

ジャラ

舌のピアス、十字架に繋がったそれを見て彼女ははあと溜め息を吐く。

(無力化するならこれで済むんだが……立場が許さない、『四人』のうち一人が来てると知らせることになるし)

無傷で相手を倒す方法はある、がそれは目立ちすぎる。
今後の諜報に支障を来すので出来れば使いたくなかった。

「ご報告、ヴェン「名は呼ぶな」……失礼、では……司教さまと!」

そんな時上空から名を呼ぶ声が飛び、咄嗟にシスターは被せるように止める。
少し考えて、役職を口にしながら部隊の中では年長者のシスターが仲間、幼い容姿の上司を連れて降りてくる。
飛行に使った自転する巨大車輪(幻想郷では有利とは限らないので温存した)から降りたシスター達が報告した。

「……装甲を強化した教会ですがムラがあるようです」
「それを集中的に狙えば……」
「破れると、ふむ……アニェーゼ、私と一緒に来な」
「はっ!」

アンジェレネのサポートで状況を把握したアニェーゼが進言し、『司教』は少し考えた後頷き鉄槌を振り被る。
隣で並んで追って、アニェーゼも身長程ある装飾された杖を手に、教会の方に歩いて行く。

「一点突破だ、良いね?」
「はい、司教さま!」

本命の陽動に仲間に攻撃させながら、二人は脆弱と思しき部分に狙いをつける。
そしていざと、それぞれの得物を振り被った。

「人払いはやってあるが……余り長時間やると面倒だ、さっさと終わらすよ!」
「了解です……合わせます、何時でもどうぞ!」

嫌な仕事はさっさと手仕舞いに、そう考えた彼女達は攻撃態勢に移った。
だがその瞬間『見過ごせなかった』者達が動いた。

『救われぬ者の為に……』

ビュオッ

が、その瞬間どこからか投槍が飛んで、『司教』は咄嗟に隣のアニェーゼを蹴飛ばす。

ドガッ

「危ねえ」
「うひゃっ!?」

ズザアとアニェーゼが顔から地面に滑り、反動で司教が横に呼ぶ。
一瞬遅れて槍が二人の居た場所に刺さった。

「……攻撃だと、誰だ!?」
「何、唯の……天草式十字凄教よな……シスター・オルソラを渡して貰う」

様々な刀剣類を持った者達を率いて、自らも『炎を思わせる波状両手剣』を振り翳した男が言った。
ブカブカの安っぽいシャツを着崩し、何かの拘りか扇風機の羽を数個首から下げた奇抜な格好の青年だ。
その後彼は協会の方に叫ぶ。

「……シスター・オルソラ、私達は貴女を救いに来た、一緒に来てほしい!」
「ちっ、信じるな、オルソラ……所詮異教徒、騙さないという保証がどこにあるかしらね!?」

数で不利でありながらオルソラの味方となると宣言した男に、慌てて『司教』が割り込むように言う。
ギロと二人は睨み合い、すると教会の扉が迷うようにゆっくり開いた。

「……切欠かもしれないわね、オルソラ……どっちを信じる?」
「ええと……」

中から出てきたシスター、外の者達の目的であるオルソラは悩んだ様子で双方を見た。

「ごめんなさい、その……全員怪しくて……」

オルソラは外の面々をを見て、戸惑ったような顔になった。
まず『無数のピアス』を身につけた司祭を、次に『修道服なのにミニスカ』であるアニェーゼを、最後に『兎に角奇抜な格好』の乱入者を順番に見た。

「無数のピアスをジャラジャラと、シスターにしては少し俗だと思うのですが」
「む、否定できん、いや勝負服みたいなものなんだが……」
「隊長格の方は服の丈が短すぎます、下着見えてるし……シスターは貞淑であるべきかと」
「通常サイズだと余るんです!チビで悪かったですね!?」
「……最後に乱入者の方、その……服をしっかり着ましょう、まるで不良です、信じろというのは少し難しいというか」
「天草式の都合だが、確かに勘違いさせ易いよなあ……」

三人に順番に言った後オルソラは番外個体の裏に隠れた。
そして、残念そうに首を振ってから済まなそうに言った。

ギイイ
バタン

「ああ駄目、誰もが怪しすぎて……ごめんなさい!」
「……ってことだ、一般人の格好で出直しな!」

直後番外個体の操作で扉は再び締まって、その後中から番外個体の声が響いた。

「……もう少し外で遊んでて、いっそ相打ちに終わってもいいけど!?」
『……うわ、地味に酷い!?』

(本人にとっては遺憾だろうが)某第四位の影響であるエゴ全開の言葉に、外は混乱の中大乱戦と成ったのだった。



ガシャンと少女の手が止まる、何かを感じた赤髪の司書が『何らかの作業』を止めた。

「……はっ、末っ子ちゃんのピンチの予感!?」
「むきゅ、まあた妙なことを……」

連れの言葉にパチュリーが嘆息し、そんな呆れの視線を無視して赤髪の司書、小悪魔が立ち上がる。
彼女は作業、留守中の猫二匹の世話を(上司であることお構いなしに)パチュリーに押し付けると外へ行こうとした。

「パチュリー様、とシュレちゃんスーちゃんをお願いします……私は彼女の元へ!」
「……落ち着け、色情魔」

ゴス

とりあえずパチュリーは司書の後頭部に分厚い魔導書を叩きつけた。

「ぐああああっ!?」
「落ち着きなさい、本当にあの子達のこととなると、ああいや……こいつの、特にシスターズ関連の勘は無視できないか?」

ゴロゴロ転がる部下に嘆息し、その後パチュリーは僅かに考えこむ。
足元の部下に猫二匹を乗っけると、パチュリーはいやまさかと思いながらも電話を手に取る。
そして、『もやし(何時かシメル)』という登録名に掛けた。

(ううむ、十中八九無駄だろうけど……注意しとこうかしら、そんで迎えの長女に伝言して貰ってと……)




・・・というわけで、こんな感じでまだ緩くも物語が動いていきます。
次回はローマ正教vs天草式に・・・小悪魔(実は今回これだけ)の超絶的勘(シスターズ限定)で姉達が乱入する予定。

返信・・・九尾様・末っ子は周りが緩い分かなり真面目に動く予定、因みに神子様は妖夢とかのストッパーかも(突っ込みは少ないから目立つのは確定だけど)



[41025] 第五話 狂信と敬心・二
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:bcfd7106
Date: 2016/02/05 20:59
小悪魔が番外個体の名を叫び、パチュリーが頭を抱えた。

「……ワーストちゃんが危ない、助けねば!」
「わかった、わかった……助け呼ぶからアンタは留守してなさい」

こいつが出しゃばればややこしくなると、身に沁みて知ってるパチュリーは部下を二三小突いて地面に転がす。
それからその頭に猫二匹、ミサカとインデックスの愛猫である『シュレディンガー』『スフィンクス』を乗っけた。

「はい、そいつ等の世話しててね」

ニャーニャーニャー

「うひゃっ、退いてー、シュレちゃん、スーちゃん!?」
「はいはい、アンタは留守番だっての……」

わかってるとばかりにシュレディンガーたちが小悪魔の上を陣取って、二頭分の重さに小悪魔が悲鳴を上げる。
そんな部下に苦笑しながら、パチュリーはミサカ達の保護者である男に電話をかけた。



PRR

「ああン?」

ダルそうに寝転がる一方通行が着信を知らせる携帯に顔を顰める。
面倒くさそうにそれを開き、耳に当てると馴染みの魔女の言葉が届く。

『はあい、元気かしら、もやし野郎……問題が起きたかもしれない、よく聞くことね』
「……はあァ?」

訳が分からず顰め面の彼に、構わずパチュリーが一方的に情報を伝える。
最初は訝しげに、だけどそれから少しだけ真面目な顔で彼は考え出す。

『……てことで、注意しといたら?』
「……一応聞いておく、手前ェのとこの赤毛はこういう時やたら輝くからな」
『ふふっ、当たってたら貸し一ね』
「ちっ、部下のだろうが……」

ちょっと嫌そうな顔で彼は端末を切って、それからむうと考え込む。
そして、少し考え込んでから『ある女』に繋がる番号を押した。

「……ここは姉に任すか、上手くやるだろ多分」

黙ってたら後で五月蝿そうだとも思って、彼は知人(友人というのは複雑過ぎた)へ伝言をやった。



狂信と敬心・二



ワアアアッ

「へえ……」
「まあ悪く無いか」
「……私は好きだけど」

祭りに向かう一行が(少し時間が早いし)場末のイベント会場を冷やかしている。
今見ているのは謂わばご当地のB級ヒーロー、特撮というには陳腐なそれのショーを地元の家族連れに混じって見学していた。

「……派手に煙とか炊いてるけど、学園都市在住じゃ凄く見えないなあ」
「ああ、確かにその辺麻痺しちゃうわね……」

チルノやミサカ達はそれなりに楽しんでいるようだが、流石に上条や美琴はどうにも乗り切れていない。
そんな風に苦笑する二人と同様、あるいは少し違う意味でショーの集中していない者も入る。

「わふ、原色の装束が目に痛いし動き難そう……」
「全くですね、何より武器の装飾が過剰だ……あれで台上で立ち回るのはそれはそれで大した物だが」
「……いや、そこを突っ込むのは止めてやれ」

ご当地ヒーローの大仰な装備に、椛や妖夢といった純粋剣士が思わず突っ込んだ。
唯一人、同じ剣士でありながら神子だけは少し違う事を考えていた。

「幹部の、無駄に外套バサバサやる所作……」
「太子さん?」
「……ちょっと面白いかもな、後で試してみるか」
「……偉い人同士、何か通じる物があるのか?」
「さあ?」

気に入ったのか自分の外套を数度揺らしたりして、そんな神子に上条達は首を傾げたのだった。

PRR

「……あら?」

そんな時美琴の携帯が鳴って、彼女は周りに気を使って慌ててイベント会場の端へ向かう。
そして、それに出て、一瞬ギクと動揺した。

「……先輩、少し出るわ、氷華さんと椛さんをお願いね」
「うん?……ああ、わかった、合流場所のホールはわかるな?」
「ええ、それじゃ……」

いざという時の合流場所を確認し、少し訝しそうな上条を誤魔化しながら美琴は外に出ていった。
どこか慌ただしく、足早に外へ向かう姿に数人が首を傾げていた。



「番外個体に何か有った……て言われてもねえ、いきなり過ぎるでしょもう」

一方的に告げてきた一方通行に口では愚痴り、だけど気になった様子で彼女は外へ出て意識を集中する。
チョーカー型の調整器を撫でる、本来自分は含まれないミサカネットワークに干渉した。

(……ふむ、確かに『今日』に限れば、彼女はネットワークとの接続や情報を上げていない?)

嫌な予感が当たった、番外個体は迷惑を掛けないように接続を避ける節があるがそれでも露骨に回数が減っている。
まるで自分の状況が伝われば動揺するとか、あるいは巻き込むたくない事態だとか、そんな風に感じられた。

「……行くか」

心配になって迎えに行こうとして、そこで彼女は隣に立つ影に気づいた。

「何だ、野暮用かい」
「おわっ、太子さん!?」
「……姉妹愛、それへの真摯な叫びが耳に響くのでな」

困った風に笑って、彼女は走る美琴に並んで言った。

「ええと、わかるの?精神干渉系?」
「……まあ、私の耳は少し特別でね、『欲望』が一番わかるがそれ以外も少々は」

それで気づいて追ってきたというと、それから彼女は今度は美琴の背を指した。
ピョコンと小さな手が、人形の手が白衣の肩から伸びた。

「私の場合は能力だが……『彼女』はミサカ殿達の観察力からかな」
「ワタシモ、イルヨー!」
「……『アリス』まで、ああ気づかれてたか」

姉の異変にミサカが気づき、友人のそれにインデックスが気づいて、ならと頼んで着いて行かせた人形のアリスが肩に乗っかる。
護衛は任せろとばかりに胸張る生き人形に、美琴は少し気まずそうに苦笑する。

「どうするかい、超能力者さん?」
「……ここで追い返す時間の方が惜しい、勝手に付いてきて」
「うむ、そうしよう、荒事なら思い付きを試したいしな」
「ワカッター、カッテニツイテクー!」

美琴は少し悩んでから首を振るう、説得は今更で、そちらの方が返って時間がかかると好きにさせた。
それに神子は鷹揚に、小さなアリスは元気頷いた。
そうして三人は足を早め、番外個体が居るという教会の方へと駈けていった。



ドンドンドン

奇抜な格好の男と、小さなシスターが要塞化した強化の扉を叩く。

「て、訂正するよな、こんな怪しいシスターと同列は納得行かん!」
「はああっ?こっちこそ!……私は怪しくないんだからね」

奇抜な男、天草式の魔術師とシスター隊の隊長であるアニェーゼが時折睨み合う。
尤もそうしてる間にも互いを警戒し、何時でも武器を向けられるようにもしてはいるが。

「……いや無理だって、あんた等さあ」

唯一人、外から見た印象を自覚している『司教』が冷静に言った。

「片や安っぽい服に訳わからん装飾でどう見てもチーマー、片や足の見えてる僧服でどう見ても逆セクハラ……
常識的にも、魔術師的にも満場一致で怪しいって」
『ぐはああっ!?』

冷静なツッコミに、天草式とシスターは勢力問わずショックを受けた。
二人はフラとよろめき、言い訳するように情けなく呟く。

「こ、これは術式の都合もある、実用性の問題だから仕方ないんだ!」
「……いや、それでも不良っぽく見えるのは駄目でしょ」
「……司教さま、私の方も……ええと、私の幼女体型で女らしさを出すにはこれくらい思い切るしか、それに実戦部隊故の動き易さの兼ね合いでして」
「でも、そこまでぎりぎりのミニスカはどうよ?」

更に突っ込まれ、二人は自分の体を見下ろし格好を改める。

「……」
「……」
『くっ、否定出来ない!?』
「……だろ?」

天草式の男は自分の格好を冷静に見て、あ完全に裏路地とかを屯するチンピラだと思った。
小さなシスターは自分の格好を冷静に見て、あ確かにミニスカは貞操敵にどうよと思った。
二人は呆然としながら非を認め、司教はやる気なさげに正解だと手を打った。

「……ところで、気が合ったところであれだが敵だよな、私等?」
『はっ!?』

それから拍手をやめて唐突に彼女が言えば、慌てて天草式の男とシスターが飛び退り距離を取る。
それぞれ波状の剣と錫杖をビシリと突きつけた。

「……シスター・オルソラは渡さない、引いてくれるよな?」
「まさか……あんた等を片付けて、教会内部への侵入を再開します!」

さっきまで情けない合いようから一点し、敵に戻った二人がジリジリと間合いを測り隙を伺う。
中世の決闘のように、仕掛ける瞬間を狙って二人は睨み合った。

「……司教様、長引きそうですが宜しいので?」
「ある程度はね、アンジェレネ……こうややこしいと強行突破は無理、長期戦に切り替えないとね」

司祭が向かい合う二人を見守っていると、アニェーゼ隊の副官であり最年長のシスターが話しかけた。
『車輪』の魔法具で空から観察する彼女は事細かに報告する。

「……敵は地の利を知り尽くしていて、『あの男以外』は攻勢と撤退を巧みに分けて奮戦しています」
「ふむ、あれは……天草式だろ、何時もの『救われぬ者の為に』ってのを今回もやりに来たんだろうが」
「ええ、上から見た限り相手も戸惑っているようです、シスター・オルソラの言葉かな?」

どうやら救助の誘いを拒まれたのは向こうにも予想外だったようだ。
相手はオルソラを連れて、即時撤退が目的だったのだろう。
そう考えると、司教から見て状況は悪くないように思えた、微妙な硬直状態になっているがある意味好都合だ。

「教会内の連中からすれば状況が混乱する程良いんだろうが……天草式のやり方は無駄が少ない、その分こっちも読めるしじっくり相手できるとも言える。
……だから、この隙にとは考えない、そして長引けばボロが出るか」

(魔術師には珍しく)能力とその脳への負担を知っている、だから長期戦を寧ろ歓迎した。
要塞化を維持できず出てくれば捕える手段は幾らでもある。
それまで待てば、面倒事はやっと終ると彼女は思った。

(……あるいは長引いた戦いの中でアニェーゼ隊が潰れてもいい、流石に討死しろとはいわんが退く『言い訳』になる)

それはアンジェレネには言わず、彼女は内心でだけ物騒なことを考えた。

「何だ、同じ『右方』の魔力が……」

が、その時司教は予想外の力を感じた。
よく知る物と似た、だけど大きく異る部分もある魔力だ。

「これは地の属性、テッラ……いや、大元である『ウリエル』その物だと……」

彼女はバッと教会から続く外、ある方向を、少しずつ近づく何かを睨んだ。



街の空、屋根や柱を蹴って二人の少女と一体の人形が突き進む。
しかし、その時神子とアリスは何かを感じ取った。

「教会はもう少しで……」
「……待て、御坂殿!?」
「コレ……マズイ、ヨ!」

美琴を二人が制止し、訝しみながら彼女達が辺りを見れば怪しい影を見つける。
待ちの中をゆっくりと歩む、深いローブを被った女性が一人、チラと時折、深い青い髪が溢れる。

「太子さん?」
「何だ、一体……強い欲望、それを感じる……」

神子は耳を傾け、そこであらゆる欲を聞き分ける力で強い欲を感じた。

「『誰かに自分を認めさせたい』『貶めた奴らを許せない』……厄介な気がするな」

続いて、生き人形のアリスは僅かにだが知る気配を感じ取った。
それは彼女の母である『アリス』やその姉妹、そして前の事件であった邪神にも感じたものだった。

「アイツ……『魔界』ノニオイ、ガスル」
「……よくわからないけど、『エリス』とか言う奴の仲間?」
「……ワカラナイ」

自身なさそうに言う人形に、少し困ったように美琴は女と教会の方を見比べる。
妹が気になり、だが二人が警戒する女も無視できない。
どうするかと悩んだところで、神子がゆっくりと降下する。

「……御坂殿は人形と共に先へ」
「太子さん?」
「ここで時間をかける訳にはいくまい?……それに直に話せば、目的が『聞ける』かもしれん、それ次第で対応すればいい」
「……お願い、任せました!」

一瞬迷い、だけど先を行くことを優先した美琴達が前進を再会し、それを見送って神子が一人残った。
彼女はゆっくりローブの女の前に降り立つと、剣こそ鞘に入れつつも前に立ち塞がるようにする。

ジャリ

「……何だ、貴様は」
「やあ、そこの方……この先に言ってもらうと少し困る、話をしないか」

できるだけ穏便に、だが無視して行かせることはさせないと立ち位置で言外に神子は示す。
すると予想以上に、あるいはある意味予想通りに、相手は激昂と共に魔力を立ち昇らせる。

「極東の術者か、話すこと等……無い!」

女は強い渇望とも取れる叫びを上げた。
金切り声を上げて、『月』の紋章の刻まれた錫杖と古代語で『エノク』と銘打たれた書を手に構えた。

「退け、『あの書』が有れば……我が堕天の過去は覆るのだ!」
「……ああしまった、地雷を踏んだ気がする」

はあと溜息ついて神子も構え、『敢て七星剣を抜かず』『ブワリと外套を一払い』した。
教会ではなくその手前で『聖人同士』の前哨戦が始まったのだった。




・・・合流まで書くつもりでしたが各キャラの会話が長引いたので分けます。
あ、最後のキャラ、ウリエルと同属性で魔界人の関係者、月でエノクで聖人・・・誰かはわかっても言わないように(実は同僚と同一存在説半々ですがまあ曖昧に)

以下コメント返信

黒丸様
ああ、多分あんな感じのはちょこちょこ書くと思います、そういう掛け合いと戦闘とかが半々くらいかなあ?

九尾様
ええ、怪しいから仕方ない・・・ああ後は原作でオルソラが最初天草式を信じられなかったシーン再現だったり、まあ姉の到着まで長引かせるのもあるけど。
ジョジョは奇抜さがシルエットでわかるほどですしねえ、それでいて格好いいから凄い・・・紅魔館絡みでパロなりジョジョ風のネタやらせようかなあ?
あ、10032号の飼い猫のシュレディンガーですね、原作で野良猫を手懐けて名付けるシーンが有るので・・・小説漫画はそれですが他媒体はどうだったか・・・

AISA様
第四位さんはキャラが強烈で正直劇薬ですから・・・本人はあ、これは不味いなと、オルソラに付けたんだったり。
格好を怪しむ一見ネタなシーンですが、更に言うならオルソラがローマ側をそう思うのも結構大きいです・・・まあその辺の影響は後程で。



[41025] 第五話 狂信と敬心・三
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:03f00cfb
Date: 2016/10/29 16:06
閑話・物語が始まる前に



教会の聖堂、『その男』は大いに苛立っていた。

「……ええい、上層部は何を考えているのだ!」

温厚そうな容姿、だが油断できない眼光の狂信者が珍しく怒りを露わにする。
何故なら『法の書』の案件で、彼等の部隊が派遣されなかったからである。

「せめて『右方』の方々が無傷ならば……」

が、口では不平不満を叫びつつも、冷静な部分ではアニェーゼ隊のみを動くことを仕方ないとも思っていた。
アニェーゼ隊は前線に出突っ張りで、それが理由である種、教会内の派閥争いから外れた部隊だ。
だから、法の書及びオルソラという『身内殺し』も有り得るシビアな事件への派遣もまあ納得出来た。

「我等と思考の近い『テッラ様』は倒れ、次に似た考えの『ヴェント様』は……彼女の学園都市派遣で暫く会えていない。
……ちっ、何時の間にやら、我が隊も動き難くなったものだ」

彼ははあと嘆息し、政治的に動けない自分達の状況を嘆いた。
後ろ盾に成り得た、排他的かつ好戦的な男は現在病院でそれは不可能、『氷塊をそのまま削り出したような船』を授けてくれたた『もう一人』は単純に疎遠だ。
その結果彼等は(政治的に)厳しい立場で、中々任務も来ないという閑職に近い状況にある。

「……十字教の終焉、それを間近に動けずとは悔しいな」

彼ははあともう一度嘆息し、駄目元ながらも上層部に出動要請をしようとした。

バタンッ

「宜しいでしょうか、Mr――」
「……何です?」

そんな時だった、聖堂に何者かが乱入する、彼の麾下のシスター達が総出で現れたのだ。
どこか殺気立った彼女たちに、隊長である男は訝しそうに首を傾げる。
部下には動かないよう注意してある、なのに彼女達は彼の下に来た、どこか妙なものを感じて詰問の言葉をかけようとした。

「シスター達よ、どうしたのです?私は待機命令を解除しては……」
「……ああ、もういいのです、『元』隊長」

ザシュッ

その瞬間無数の白刃が煌き、男の体を切り裂く。

「えっ……があっ!?」

言い切る前にシスターの凶刃が突き立てられ、絶句する彼を『ローブに青髪の女』に率いられたシスター達が睨みつける。
シスター達は嘗て上司だった彼を憎々しげに、またどこか熱に浮かされた様子で言い放った。

「……『元』隊長、我等は『新たなる導き手』を得たのです、これより独自行動を取らせてもらいます」
「な、何を!?」
「十字教の終焉……その後を生き延びようということです」

彼には理解できないことを言って、『ローブの女』とシスター達は外へ向かう。
戸惑い激痛に苛まれ、だがそれでも彼は制止しようとした。

「ええい、血迷ったか……さ、させん!」

彼はシスター変貌の元凶らしき女に手を伸ばす。
静止のために纏うローブを掴んで引いて、するとそこで驚くべき物を目にした。
ブワと『青い髪』、そして『白い翼』が露わとなったのだ。

「なっ、何!?」
「……『天界』への帰還の為だ、貴様の隊は貰っていくぞ」

天使の証である翼、信じられない光景に彼が絶句した瞬間『天使』は後ろ手に弾幕を広げる。
外へ行く足を止めず、相手を見もせず、しかし無慈悲に『天使』は数個の大弾をばら撒く。

「……ではさらばだ、法の書の解放を待つがいい」
「ひっ、うあああ!?」

ドゴンッ

「隊を鍛えた貴方に感謝を……古き秩序に従う、『ビアージオ司祭』殿」

立て続けに飛ぶ大弾で聖堂に叩き付けられ、磔となった彼は何も出来ず去っていく天使とシスターを見送るしか無かった。
その日『嘗て』『天使』だった女の復讐劇が始まったのだ。



第五話 狂信と敬心・三



「落ちるがいい、異教徒よ!」
「……ええい、『欲』の叫びが耳に響く、何なのだ貴様は!?」

無数の閃光が弾け、神子とローブの女が弾幕を交わし合う。

「落ちろ!」
「……貴様がな!」

ドガガガガッ

『日出る国』の統治者だった神子はそれに相応しい光の弾幕を、ローブの女はただ倒すだけの荒々しい、戦場で鍛えられた弾幕で迎え撃つ。
そんな正反対な、二人の弾幕がその間で立て続けに交差する。
神子は巧みに飛び回りあるいは外套で払うようにして防ぎ、ローブの女は短距離の転移を繰り返して回避した。

「……その物言いは一神教、大陸の先かあるいはその先か……ええい後だ、黄金剣のジパング!」

神子は相手の正体が気にかかるも、慌てて気を引き締め戦闘に集中する。
相手の眼前から突如数本の刃が発生し、挟み込むように襲いかかった。

「貫け!」
「……断る、転送」

ヒュンッ

「……で、反撃……はああっ!」

が、寸前で女の体が透き通り、掻き消えた一瞬後に刃は交差、それから刃の軌道の一歩隣に再び現れた。
そして、女はニイっと好戦的に笑い、バッと広げた掌から数個の大弾を展開した。

「吹き飛べ、異教徒!」
「……くっ、十七条のレーザー!」

バアッと魔力の塊がぶち撒けられ、慌てて神子も収束させた閃光を連続して放つ。
ズガンズガンと、向かい合う二人の間で互いの攻撃が相殺した。
爆炎が迸り、視界が赤で染まった。

「……ちいっ、力はあるか」

バッと神子は外套払い、余波を払いながら舌打ちする。
攻撃の不発を惜しく思い、だけど次こそはと彼女は素早く霊力を貯めていった。
その為に目を見開き、一瞬爆炎の隙間に影を見つけると、すかさず二度目の閃光を放った。

「先手を取る、十七条のレーザー!」

バアアッ

余波の火を裂いて、閃光が影へと飛ぶ。
だが、その寸前で影がニイと口の端を歪めた。

「……迂闊だな、異教徒」
「何いっ!?」

ヒュッ

女が突如消えて、神子の放った光が誰もいない空間を虚しく裂く。
再びの転移、慌てた神子が周囲を見渡し、数秒後その表情が引き攣る。
前触れもなく、行き成り女が神子の眼前に現れたのだ。

「どうだ、仇敵の……『エリス』の十八番、これならば避けられまい!」

唐突に現れ、同時にその状態で既に構えていた大弾が禍々しく輝く。
当然既に用意された弾幕は迎撃より速い、神子が身構えるよりも早くそれは放たれた。

「ぬうっ!?」
「……吹き飛べ!」

バアアア
ズドン

放出された膨大な力が大気を揺らし、神子の眼前で魔力が弾ける。
再び炸裂した、だが今度は近距離の爆炎が神子の姿を完全に飲み込んでいく。

シュボッ

炎の中に消えた神子に、ローブの女が会心の笑みを浮かべた。

「……やったか!?」

彼女は勝利を確信して叫び、その瞬間『紫』が視界を過ぎた。
渦巻くように、紫の上等な布地が螺旋を描き、燃え上がる炎を突破する。

「……縮地の外套(マント)、ってな」

一瞬で紫、その色の外套で全身包んだ神子が真横を駆け抜けて、瞬時に女の背後を取った。

「しまっ、撹乱か!?」
「すまんな、後の先という奴だ……私は術者であり、剣士でも有るのでね!」

ニイっと思い付きの新技の成功に笑い、彼女はその戦いで初めて七星剣を抜き放つ。
白刃が弧を描き、ヒュッと女の背を斜めにすり抜けた。

「がああっ!?」
「……まず一撃か」

唸り背を抑えながら女は慌てて飛び退き、それに対し余裕に神子は微笑したまま剣を構え直す。

「……む?」

が、そこで神子は小首を傾げた、その手に妙な手応えを感じた。
どこか『軽く』『薄く』、虚ろな手応えだった。

「……貴様、実体ではないのか?」

訝しそうにする神子に、女は答えず更に一歩退く。
だが、手で押さえた背からは血は一滴も流れず、パアアと淡い光が漏れでている。
血ではなく、魔力が、霊体の欠片がそこからは溢れているのだ。

「霊、いや……仮初めの器、その力で拵えた、分霊とでもいうべきか?」
「慧眼だ、確かにそう……何せ天界から落ち、魔界からも追い出され……辺土から動けぬ身でね」

ある程度性質を読まれて女は嘆息し、諦めた様子で明かした。
彼女は自嘲したような、意味深な笑みと共に口を開いた。

「このような無様な、人型、いや影で失礼した……名乗ろうか、異教徒」

ニイイッ

まるで悪魔のように邪悪に笑って、彼女は何かに合図するように腕をバッと振り下ろした。
同時に笑みは深まり、更にブワリと『青く染められた翼』が背から広がった。

「……貴様、使徒か!?」
「然り、嘗ての四大にして、天より堕天せし……サリエルなり!」

そう叫び、次の瞬間『巨大な氷塊』が天から二箇所へ、この場と、教会へと降り注いだ。



『それ』に最初に気づいたのは黄の装束のシスター、『司教』だった。

「……うん?」

彼女は警戒していた魔力、それの動きに気づいて訝しそうにする。
そのことに他は気づいていない。
アニェーゼ隊と天草式は戦っている、というより小競り合いで互いに目の前の相手に手一杯だ。
前者は二ヶ月程前に全滅しかけたからその反省で防御を優先し、後者は救助対象であるオルソラを連れ出す為に温存と、どちらも慎重だった故に結果均衡した。

「ええい、落ちるよな、おチビ!」
「そっちが落ちろ、チンピラ!」

またそれぞれの指揮官である、アニェーゼと天草式の指導者も斬り合いそれに手一杯だ。
こちらも口では大人気なく罵りしつつも、その実戦いの中では温存しそれにより長引いている。
同時にそれは目の前の相手に集中するということでもあった。

「……ちいっ、今度は『水』だと!?」

だから『司教』だけは気づき、彼女は『降ってくる青』に驚愕しながら跳んだ。
ダンっと地を蹴って跳躍し、同時にアニェーゼ隊の比較的冷静そうなシスターに叫びながら大槌をしっかりと握る。

「アンジェレネ、車輪を寄越せ……足場だ!」
「は、はい、司教様!」

巨大な車輪が、高速で自転し空中に浮かぶ拷問器具が教会の真上を陣取る。
司教はその中心に足をかけ、それから振り被った大槌に風を纏わせた。
その先には青、重力に引かれて落ちる『巨大な氷塊』が有った。

「あれは、私がビアージオにやった……ちいっ、今は止めねえと!」

司教は大槌を振り抜くと、その動作に乗せて圧縮した風を叩きつけた。

ヒュバア
ドゴンッ

バリバリと風の砲弾が氷を穿ち、だがその先に二つめ三つ目の氷を見つけ司教達は絶句する。
彼女は二撃めの準備をしながら下に叫んだ。

「アニェーゼ隊、それと……天草式、教会を守れ!」

咄嗟のそれに従うか(しかも片方が敵)自分でも疑いつつそれでも彼女は迎撃に向かう。
二個目の氷塊に向かって、収束させた風を叩き付けた。

「(間に合うか、いや……)ええい、砕けろ!」

ドゴンッ

焦る心中を一喝し、彼女は再度風を放つ。
が、瞬時の抜き打ちで威力が足らず、半分程残った氷塊が教会へと落下する。
それを司教は引き攣り顔で見送り、が寸前で二つの影が氷の前に割り込んだ。

「……命令故仕方ない、合わせなっ、異教徒!」
「救われぬ者の為に……言われるまでもないよな!」

一瞬睨み合い、だけどアニェーゼと天草式の首魁は長杖とフランベルジュを交差させ氷塊を受け止める。
ギシギシと得物が軋むも何とか受け止めて、それから二人は同時に魔力を放つ。

「まずは散らして!」
「おう、砕き損ねは他の連中が!」

バギンッ

至近距離から炸裂させた魔力が半分の氷塊を砕いて、更に数十の細かい氷に分けた。
幾らかはそれでも残り破壊力を保有するも、小競り合いを止めた両勢力が迎え撃つ。

「アニェーゼ隊の底力を見せろ!」
「天草式も遅れるんじゃねえぞ!」
『はいっ!』

ついさっきまで争い、だが彼等は乱入者、第三勢力を前にこの時だけ協力した。
それぞれの得物を手に、シスターも天草式も教会の防衛に回る。

バキンバキンバキン

残る氷も二勢力によって細かい物まで砕け、上の司教が引き攣り気味の笑みを浮かべる。

「……良しっ、よくやっ……不味い、次が!?」

が、その瞬間司教の顔が凍りつく、三つ目の氷、いやそれに続く『四つ目』に。
彼女は慌てて地上に、教会に叫んだ。

「……中の能力者、オルソラを連れて逃げろ!」
「ああもう、何これ……言われなくても!?」

この叫びを聞くまでもなく、慌てた様子で番外個体がオルソラを小脇に抱えて飛び出す。
彼女とオルソラは引き攣り顔で離れようとし、シスターや天草式がフォローに付く。

「そいつを死なせるな……アニェーゼ隊も天草式も、今は小競り合いは無し、上の対処に集中!」
「……了解です、結界を張れる者は集まって!」
「……ちっ、天草式は前に出ろ、時間を稼ぐ!」

司教の指示に二勢力はやむを得ず協力し、落下する氷を迎え撃つ。

「第二波が来る前にオルソラを逃がす、取り合いは後!……上は出来るだけ砕くが……」
「……破片はこっちで何とかします、司教様!」

下のアニェーゼの叫びにこくと頷いて、司教はブンと大槌を勢い良く振り抜く。
ズドンと三度目の風が叩きつけられた。

バギンッ

だが、焦ったか数個残る、特に二つの大きな破片が下へと落ちていく。

「不味っ……天草式、遅れないで!」
「わかってる……俺等で落とす、残りは後ろに任せりゃいいよな!」

二人は競うように走り出し、それぞれの得物を振り被った。

「はあああっ!」
「砕けちまいな!」

ドゴッ
バギィィ

アニェーゼが長杖の一撃で破片の一つを、天草式の首魁もフランベルジュで叩き切る。
僅かに残る小さな破片も天草式の刀剣が、それでも取り零した物はシスター達の結界が防ぐ。
が、二度の迎撃の負荷か、アニェーゼの杖が真ん中からへし折れ、天草式の首魁も剣の切っ先を欠けさせてしまった。

バギンッ

「うっ、不味!?」
「……ちっ、次はかなり厳しいよな」
「でも、だからって……」

が、そこへ最後の氷が降る、下の状況に司教は顔をこれ以上引き攣らせながらも槌を構える。
だが、ついさっき風を放った直後、圧縮というか収束が明らかに足ず苛立たしげに舌打ちする。

「ちいっ、間に合うか!?」

引き攣り顔で舌打ちし、それでも彼女は槌を振り抜こうとした。

「……お姉さま?」

そしてその寸前、地上の番外個体が空を見上げ、刹那後に空が雄々しく揺れた。

ピシャンッ

雷光が氷を貫いて、そう見えたと思ったら『紫電の十字架』を掲げた『白衣の女』がいつの間にか司教の横に浮かんでいた。

「あれ、邪魔ね……久々の姉妹の再会だってのにさ」
「は、ミサ……」
「どりゃああ!」

ドガアアアッ

司教が呆然と口を開き(何故か慌てて途中で閉じて)、それに構わず白衣の少女が十字架を氷に叩きつける。
雷光で溶かし刻んだ傷を穿ち、そこを中心に氷塊はぴしぴしと砕けていく。
それからバラバラと氷は木っ端微塵に砕けた。

タンッ

最後にそれをやった少女、超能力者の御坂美琴は教会の屋根へ、そこで手を振って番外個体に叫んだ。

「はあい、末っ子……どうも妙なことに巻き込まれてるようね、怪我はない!?」
「だ、大丈夫だよ、お姉さま!」
「そっ、じゃあ……確保よ、小さなアリス!」
「ワーストチャン、コッチ!」

美琴が言った瞬間、行き成り背後に(メイド姿の)生き人形のアリスが現れ番外個体とオルソラを抱きしめる。
するとスウッと一体と二人の姿が掻き消えるように霞んでいった。

『ああっ!?』
「ちっ、美味しいとこを……」

その光景にシスター達が、天草式が混乱し叫んで、だが唯一司教だけが諦めた様子で呟く。

「私の家族と……その友達かしら、良くわからないけど貰ってくわ」
「……ちっ、行けよ、乱入してきたのに取られるよりはマシだ」

この勝手な言葉に何故か司教は止めず、下からシスター天草問わず訝しそうな視線をスルーし手で振って行くように促す。
これにあらと美琴自身首を傾げ、でも好都合なので屋根の縁に足をかけ跳躍体勢へ。

「あら、物分りの良い……まあいいわ、縁が有ればまた会いましょう!」

ダンッ

自身の放つ磁性と教会に埋め込まれた金属片を反発、彼女は一気に飛び立った。

「……全く、本当に美味しいとこを持ってくよ」

見送って司教が愚痴って、それに困惑した様子で仲間が問いかけた。

「司教様、行かせてよろしいのですか?」
「私等の知らない勢力がいる、そこで小競り合いを?阿呆らし、漁夫の利だろ?……ここはお開き、天草式も行きな!」
「……良いだろう、『救われぬ者の為に』……我等はその為に動くだけよな!」

少し迷った様子ながら彼等も(警戒こそするも)立ち去って、完全に消えるのを確認してから司教がシスター達に声をかける。
はあと深く嘆息し、億劫そうに大槌担いで再攻撃が来る前に指示を出す。

「行くよ、無事な者は怪我人に手貸してやれ……二手に分かれ、目標の追跡と乱入者の調査だ!」
『はっ、司教様』
「……まあ気楽にやれ、全部私が責任取るさ(……ウリエル、それに氷の船、碌なもんじゃなさそうだが……)」



「……貴様は何者だ、羽根付き」
「天界から落ちた罪人さ、異教徒」

ズドンズドンッと落ちる氷、それが壁になってどちらも仕掛けられない。
氷を避けあるいは切り払いながら、神子がせめてもと問えば自嘲のような言葉が来た。
堕天使サリエルと名乗った女はクスと底知れない笑みを浮かべた。

「後一撃、入れれば落とせたのに残念だったな……教会の方、手応えがないな、あっちも逃げたようだ」
「そうか、残念だが……あちらが無事ならいいさ(……姉は強いということか)」

どうやら教会の方は美琴は上手くいったようで、神子はふうと安堵の息をつく。
サリエルを倒せなかったことは残念だが、降り注ぐ氷という相手の有利な状況で続ける訳にはいかない。
ブワリと再び外套を纏うと、彼女は離脱の体勢に移った。

「サリエルと言ったか……次は斬る、待っていろ」
「ほう、言うなあ、異教徒……次は『目』が間に合う、そう上手く行くかな」
「……まあ結果は直ぐ出よう、縮地の外套(マント)!」

互いに睨み言い合って、それから神子が外套を羽ばたかせながら一気に氷を抜けた。

「……こんな島国にも、元気のいい輩がいる者だ……」

どこか呆れたような様子で見送って、それからどこかへ合図するように手を振る。
それで氷は収まって、それからサリエルは『従者達』の元へ向かう。
堕天で失いかけ、だけど僅かに残った威光で傘下に入れた『元ビアージオ隊』の元へと。

「書を手に入れれば堕天使の認定も解ける、何せ……我は天使ではなく一介の聖職者まで落ちた、この屈辱から逃れられるかもしれぬのなら、だがもし駄目でも……」

彼女はそこで一瞬黙って、それから自棄っぱちのように笑って続けた。

「……書による、十字教の終焉……最悪、実行しても構わぬ、堕ちっぱなしよりはマシだ!」

堕天使サリエルの復讐劇はこうして表舞台へと、白日の下露わに動き出したのだった。





・・・て訳で、エリスに続く、旧作からの刺客・・・堕天使サリエル(・・・の化身というか影)の登場となります。
因みに彼女(元ウリエル)はテッラ脱落→フリーの部下(加護元の自分の)戦力に→法の書で脅迫、堕天使認定解除(最悪十字教終らせ有耶無耶)・・・て企みです。

コメント返信・九尾様・・・三竦みというより教会対天草式、全部敵な堕天使、逃げればよしで他に興味ない美琴&番外個体と考えると多少分り易いかと・・・



[41025] 狂信と敬心・四
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:03f00cfb
Date: 2016/02/25 21:37
タッタッタッ

「法の書は、どこに……」

二対の翼を持つ女、堕天使サリエルは合流したシスターを連れオルソラ達を追っていた。
が、ふと彼女は訝しげな顔をし足を止める。

「……むっ、これは」
「サリエルさま?」

彼女は難しい表情で唸り、困惑した様子で見てくる従者達に答える。

「この先に結界、それも……天使、いや天界に関係する者に特に効果のあるな」

じっと先を見つめ、彼女ははあと大きく嘆息する。

「……どうやら、小細工する輩がいるようだ、道を変えるぞ」
「は、はい、サリエル様!」
「ちっ、幸先が悪いなあ……」

彼女は顔を顰めると進行方向を大きく変える、思わぬ時間の浪費にちっと小さく舌打ちした。



「……ふう、良かった」

そして、それを遠くで確認し、数人の男女が安堵の息を吐く。

「……行ったな」
「成功です、『対聖人』用術式、それを応用した結界は幾らか効果がありそうです」
「ああ、よくやった、五和……あの時、黄色い奴が漏らした言葉は正しかったか」

手分けし四方に散っての探索と妨害、その後者、罠を仕掛けた『天草式のリーダー』と『槍使いの少女』は罠の成果に笑みを浮かべる。
彼等は僅かな手掛かりを元に時間稼ぎを成功させたのだ。

「完全な足止めは無理でしょうが、それでも同じ物を他にも仕掛ければ……」
「ああ、次へ行こう、我等はただ……『救われぬ者の為に』!」

彼等は元から高い士気を更に高め、乱入者の牽制に向かった。



第五話 狂信と敬心・四



トンッと、輝く金髪に、紫の外套の女が地を蹴って高く飛んだ。

「……ここまで、来れば」

さり気なく周囲を、特に尾行者を警戒しながら適当な家屋の屋上に女、神子は降り立つ。
それから彼女はバッと外套を広げ更に上、自分より高い位置を飛んでいた『三人と一体』に手で合図する。

「……御坂殿!」

彼女が上に叫び、次の瞬間展開された外套目掛けて影が降る。

ブワリ
ボフンッ

「ありがとっ、太子さん!」
「うむ、どういたしまして」

広がった神子の外套に、妹達を抱えた美琴がゆっくりと降下した。
そして、美琴達は外套に身を預けたまま、久々の姉妹の再会をしたのだった。

「……やっ、久しぶりね、番外個体」
「巻き込んでごめん、お姉さま、アリス……」

すると、その意外に殊勝な言葉に美琴、そして小さなアリスまでが態とらしく首を傾げる。

「『聞き違い』かしら、姉妹なのに……謝ったりとか水臭ーい言葉があったような?」
「ソーダネー、キキチガイジャナイカナー」
「……え、ええと、助けてくれて有難う、それと再会出来て嬉しいです」
「うん、宜しい!」

二人の言葉に番外個体は慌てて言い直し、それを聞いた美琴はやっと頷いて受け取ってくれた。
そんな光景に、更にその腕に抱えられていたオルソラがふふと微笑む。

「仲がよろしいのですね、良いことです……外目には姉妹の順が逆のような」
「はは、最高の姉だよ……ああそれと、間違いなくこっちが妹、訳有りなんで突っ込まないで」

少し戸惑ったようなオルソラに言い含め、それから番外個体は彼女を立たせて他に紹介する。

「……お姉様、外国回ってる時に世話になったの、何か狙われてるみたいで一緒に逃げてきたんだけど……」
「そうなの、なら助けてあげないとね」
「即答!?でも、あ、ありがと……事情説明は……」
「後でいいわ、まずは離れるわよ!」

番外個体が少し気まずそうに言えば、美琴は僅かの逡巡もせずに頷く微笑みかける。
彼女は番外個体と、オルソラの手を引いて前へ向いて、そしてピョンと肩に立った生き人形も胸を張った。

「それなら、逃げましょう……出来る限り助けるから」
「ワタシモ、ダヨッ!」
「有りがとっ、お姉様、アリス!」
「……ええと、宜しいのでしょうか、完璧に巻き込まれるのですが」
「好きにさせてやれ、基督教の……欲を聞くまでもなく本気だからな」

二人と一体は明るく笑って走り出し、理解及ばず戸惑うシスターは流され、そんな一行に一人だけ冷静な神子がやれやれと苦笑した。



『薄明座』、そう書かれた看板の近くで数人の男女が心配そうにしていた。
集団の中心、大きく撥ねた黒髪の少年、それと隣の無表情な茶髪の少女が時折周りを見ていた。

「……御坂の奴、妙なことに首突っ込んでなきゃいいけど」
「巻き込まれるにしろ、それは無理というものでは?」

そう口では心配し、でも(負の方向)で上条、それにミサカ(10032号)は確信していた。
まあどうせ無理だなと苦笑する彼等に近くに居た少女、やはり美琴の友人である氷華が口を挟む。

「まあ、何か有れば私が抱えて飛びますから」
「あ、そっちも、巻き込まれるのは確定と思ってるか……」

会って早々幽霊から共に逃げた彼女の理解力は中々だった、氷華もうんうんと上条に同意する。
そうして共通の、ちょっと心配な友人に、二人ははあと溜息を吐く。

「大変だなあ」
「……ですねえ」
「いや本当に……」

が、そんな上条達に対して他の連れ、インデックスやルーミア達は割とマイペースだ。
つまり、いつも通り暴食している。

『……ガツガツガツ』

焼き鳥や綿飴等、気の早い祭りの屋台で購入した食べ物を彼女達は高速で食べ、いや飲み込む勢いで消費していく。

「……何かあったら走るかもしれないから、食い過ぎんなよ皆?」
『大丈夫、はら『三分目』!』
「八分ですら無いか、本当に底なしだなあ」

底なし振りに、逆の意味で戦々恐々とする上条に、彼女達ほどではないが大食いかつ季節外れのカキ氷をかっ食らうチルノが逆に問いかける。

「……かみじょう、食わないの?」
「……だって、祭りの屋台は『割高』だし、貧乏学生には少しね……じゃなくて後輩が心配でそんな気じゃないって」
「は、はは、何かあれば私もお手伝いしますよ、祭のお誘いの礼ってことで」

すると、近くで焼き鳥中心に舌鼓打っていた椛が慰めようとしてくれた。
肉の味にギラギラ野性味の有る眼光させつつも、でも非常識な程食べる訳でないし何より真面目だ、他に比べれば遥かにマシな彼女は正直癒しだった。

「良かった、君はこっち側か……」
「流石に、烏程には傍若無人になれません……御坂さんに何かあれば戦います、私だって友達ですから」
『……うわあ、眩しいくらいにいい子だ!』

大袈裟に上条達三人は喜び、その反応に椛は首を傾げた。

「……良くわからんが、暴れる機会ということか?」
「……あっ程々でお願いね、妖夢ちゃん」

で、最後の一人、街路樹に背を預けチビチビ酒飲む銀髪剣士は違う意味でマイペースだ。
そんな物騒な、でも頼りになりそうではある妖夢に、上条は恐る恐る注意した。
が、彼女はわかったのかわかってないのか、ケラケラと笑いつつ傍らの半霊とその手に握る仕込み杖を撫でた。

「ああ、程々か、うむ……とりあえず斬ればいいんだろ?」
「……せめて、峰打ちで頼むな」

もしかしたら酒を飲んだからこその発言かも知れないが(酒を嫌ってないが強くもないようだ、ある意味最悪な気だが)それでも心配になる。
少し顔を青くした上条は(一瞬無駄の気がしたが)重ねて注意した。

「いや、無駄のような、と……わふ?」

そんなイマイチ微妙な光景に、退避していた椛が別のことに気がつき警告の言葉を掛ける。

「……上条殿、気配が」
「えっ?」

彼女が注意し、上条達が慌てて警戒する。
すっと椛が指した、街角の影の僅かな死角に一同の視線が集中する。

『誰だっ!?』
「ま、待って、僕は敵じゃない!」

椛や上条達が睨んで、それに気づいたか向こうから出てくる。
それは目立つ赤い装束の神父、咥え煙草を動揺で取り落とした『必要悪の教会(ネセサリウス)』ステイルだった。

「……や、やあ、久し振りだね、インデックス」
「ガツガツ、モグ……いいから、本題早く!」
「あ、ああ……」

友人との再会を嬉しがる彼に、だがインデックスは(食事の邪魔に少し怒ってるようにも見えた)素気無く流し冷たく先を促す。
軽くあしらわれ、少し残念そうにしながら彼は口を開いた。

「僕は今日は注意しに来たんだ、ここ等で揉め事があって……」

彼は微妙に寂しそうな顔で、周りの同情の視線を羞恥で耐えつつインデックスとついでに上条達に事情を説明した。

「どうやら偶然ここにいるようだが、君達は巻き込まれない内に早く離れて……」
「……あっすまん、多分もう遅いと思う」
「はっ?」

彼が首を傾げたちょうどその時、フッとすぐ近くで『影』が落ちる。
そして、タンと上から美琴に神子にアリス、それに番外個体と見知らぬシスターが降ってきた。

「はあい、先輩……うちの末っ子が何か変なのに追われてるの、少し手伝ってよ!」
「はあ、やっぱりなあ……て訳だ、多分お前の言う揉め事とやらにしっかり関わってるから」
「はっ?」

彼女は一人フリーズしてるのに構わず呑気に笑って助けを頼い、そんな後輩に先輩も嘆息しつつも快く引き受ける。
そして、事情が理解できない、忠告が無駄にされた少年はもう一度首を傾げた。

「わふっ、予想通りですね……あ、少し良いですか、チルノに白玉楼の?」
「なあに?」
「まあ、構いませんよ、天狗殿」

後違う意味で順応の速い(流石幻想郷育ちというべきか)椛達は美琴達が来た方にタッと駆けて行った。



クルクルと車輪が回転し、街の空を舞う、その上には三人の女が。

「……アニェーゼ、アンジェレネ、飛ばせ飛ばせ!」
『了解です、司教様!』
「頼むぞ、情報が手に入れば選択肢が増える……他より早く辿り着けばイニシアティブが……」

そう意気込んで、黄色い装束のシスター、『司教』が部下二名を連れて偵察に向かう。
オルソラの動向、身柄を持っていった連中について、それを知れば幾らか有利の筈だと。

「出来るだけ近づいて様子を見よう、見聞きした情報を元に対策を立てる」
『はっ!』

彼女が指示し、それにシスター達の代表であるアニェーゼと、足である車輪を操作するアンジェレネが頷く。
が、その後司教を名乗る女は『内心でだけ』その先を考えていた。

(……まあ、もし見つかって、こいつ等がやられた場合は……指揮権諸々を強奪するけど)

密かに邪悪なことを考えて(損切りという名の責任逃れだ)彼女は怪しい笑みを浮かべる。

(被害が大きければ上も焦る……それに乗じて、上層部諸共問題にして計画を潰しちまえば良い)

オルソラの口封じ、及びそれに巻き込んでの極東の魔術組織攻撃を元々面倒臭がっていた。
その上イレギュラー、天使らしき乱入者のことも有って彼女の思考は本気で『逃げ』に傾いている。

「うん、それが良いよな……」
「……司教様、どうされて?」
「ああ、いやこっちの話……おっと早速か!」

うんうんと怪しく笑って頷く上司に、流石に怪しんだアニェーゼ達だったが誤魔化される。
そして、その瞬間折よくと言うか、『それ』が来た。

ヒュン
ガツンッ

勢い良く飛んだ『氷塊』が車輪の軸にに当たり、グラと斜めに傾けた。

「え?」
「やはりか……」

それをやったのは氷精で、指示したのは白狼天狗だ、二人による牽制攻撃が追っ手である司教たちを止めたのだ。

「……私はここで降りる、あんた等は自力で頑張れ」
「……え、あの?」

ニイと司教が笑う、彼女はこの攻撃を好機と思い、トンと車輪から飛び降りた。
当然、アニェーゼ達を残して。

「頑張れよー」
「ちょ、司教様!?」
「た、隊長、次が!」

慌てて止めようとするアニェーゼだが、そこへ二投目の氷が飛ぶ。

ヒュン
ガツンッ

「あっ……」
「……あ、落ちますね、これ」

一投目で揺れていた車輪はそれで更に傾き、そうしてバランスを崩しながらクルクル回転して地に引かれていく。
そして、アニェーゼとアンジェレネはその落下先に回りこむ『銀髪の少女』を見た。

『……あっ』
「おっ見た顔だな、でも折角だし……いざ勝負!」

凄く嫌そうな顔の二人に構わず、妖夢が斬りかかった。

ガギィンッ

「そりゃ大将首!」
「ひいっ!?」
「に、逃げ……」

半霊従えて、仕込み杖片手に突っ込む妖夢にアニェーゼ達が悲鳴を上げた。
が、それを尻目に黄の影が、注意が逸れてフリーとなった司教が悠々と進む。

(……さ、あいつ等が頑張ってる間に情報収集だ、最悪……超能力者を焚き付ければ良い、競合相手が消えれば最悪は避けられるし)

どこまでも腹黒く自己中に、仲間である筈のシスター達を見捨てた女が悪巧みをし始めるのだった。




とりあえず次回は説明回かな。
それと並行し、裏の人斬り暗躍です・・・それにしても、シスター(黄)が凄く悪人ぽくなってしまった・・・

以下コメント返信

AISA様
あ、教授襲来とヴェント関連は『シスター(黄)と戦う』又は『仕事時の彼女とニアミス』の後のイベント・・・それで疑い、例の予告の出来事で確信してって感じ。

九尾様
日本というか、学園都市に幻想郷周辺が濃すぎるというか・・・不運というか、この国に馴染めない人外の苦労話になるかも。



[41025] 狂信と敬心・五
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:03f00cfb
Date: 2016/02/25 21:57
ガバッとオルソラへ迫って、話が始まる前にまず上条と美琴がある心配をした(あるいは恐怖か)

『最初に聞きたいことが有るんだけど……』
「えっ、なあに、先輩さんにお姉様?」

二人は少し青い表情で恐る恐る口を開く。
それを周りで見ているインデックスにミサカ、更にはステイルも同じことを考えているようでゴクと息を呑んで回答を待った。

「……第四位はどうした?」
「一緒に行ったわよね、だけどその割に騒ぎになってないし」
「ああ、彼女なら……もう少し旅を楽しむって、残ったけど……」

この妹の言葉に、一同は一瞬何かを噛みしめるように沈黙し、それから希望の表情で吠えた。

『よっしゃあああああっ!』
「……ホント、トラウマなんだねえ、あの人」

この時点で(彼等にとっては)事態の大半が無事に解決したような気分だろう(まあ当然だがまだスタートなのだが)



狂信と敬心・五



(相手の喜びようが理解できず)ポツポツと戸惑いながらオルソラが説明する。

「――という訳で、法の書と呼ばれる『暗号』が原因で追われているのです」
「まあ、要するに、後ろ暗い事情を持ってるお偉いさんの暴走かなあ……」

教会で起きた出来事、更に乱入してきた者たち、端折りつつも説明を受けた一同は呆れたような顔になった。
同じ宗教ということで、インデックスが代表して纏める。

「ええと、つまり……法の書を解読したい派閥と、それを止めたい派閥が有る。
『法の書は十字教を終わらせる』、だから解読して『対策』を取りたい前者と……そもそも解読自体をしなければいいという後者だね?」
「ええ、そうです」
「今回の騒ぎは後者、反対派の暴走で……貴女自身を排除し、解読を未然に防ぎたいと?」
「……恐らくそうです」
「……更に言えば、襲撃諸々の罪を『天草式』に擦り付け、現地のライバル組織の排除も狙っていると……」

情況証拠による予想混じりだが教会、ローマ正教の所業を順番に纏めたインデックスはふっとどこか大人びた笑みを浮かべた。

「これ、別に十字教、滅んでいいんじゃない?……イギリスに大打撃だけど、あそこ御飯美味しくないし……」
「うん、待とうか、幾らなんでもそれは……」

利用されたり追われたり、色々思うところのある彼女の、意外なドライな発言に上条が流石に静止した。
日本との食事事情の格差とか、本気な気がするも彼は思い直させようとする。

「いや、流石に一宗教が消えるのは不味いって……俺んち、仏教だけど」
「そこ、フォローするならちゃんとしてくれ!」

所詮無神論者の彼の言葉は全然フォローでなく、今度はステイルが突っ込みを入れたのだった。

「い、一応言っておくが、欧州の大半勿論としてこの国にも食い込んでいる宗教だから……
それが消えれば……パニックじゃ済まないよ、だからまじめに考えてくれ!」
「……ふむ、確かにそうね」
「おっ、意外なことに……お姉様が賛同した?」

慌てて彼が警告し、それに美琴が口を挟み同意した。
彼女は何故か頬を赤くしながら、自分の考えを口にした。

「ウェディングドレスは女の子の浪漫!だから……教会は要るわ!」
『えっ、そこなの!?』

この、妙に乙女な言葉に、一同がズレてるのでは絶句した。

「結婚式だけ評価してるってことじゃん、寧ろ酷いと思う」
「御坂も女の子だなあ、相手とかいるか知らないけど……」
「……くっ、わかってたわよ、先輩の反応」
(……こいつ、何時か刺されるんじゃね?)

ゴホンッ

「は、話を戻しましょう……一応十字教は残った方が良いとして、ならどうするかよ」

(約一名、死亡フラグ立てつつ)十字教終焉から話題を移し、事態をどう収集するか考えていく。

「……とりあえず、番外個体はオルソラさんを逃したいんでしょ?」
「まあ、ね……折角仲良くったし助けたいかな」
「良いことです、ならばミサカ達も手伝いましょう」
「……10032号のお姉様」
「なら、それが最優先ね、そうすると……」
「一番目のお姉様も……」

妹の、恐らく一番最初の我儘に、美琴もミサカも当然のように頷いた。
この姉達の言葉に、彼女は僅かに涙ぐみ、それからしっかりとオルソラの手を握る。

「……お願い、彼女を助けるのを手伝って、お姉様!」
『当然!』

これに二人の姉、そして上条やインデックス達までも即答したのだった。

「……で、具体的にどうするかだが……」
「まあ、追手は追い払って……ああでも、上層部の考えが変わらないと次が来る、余り意味が無い?」
「あっそうなるか、この際現場の意思は問題じゃない……書の解読、それが出来ることを恐れてるのが問題か」

彼等は事態の収拾を考え始め、まずシスターの部隊を倒すことを考えたがここでううむと首を捻る。
書の解読を止めたいと上層部が考える限り意味が無いからだ。

「いや、だが……出来るだけ戦力を削る、それしか無いかな」
「……うん、可能なら追い払っておくべき、オルソラの安全は確保したい、でそれから……」
「上層部が及び腰になるとか、現場の方の心変りとか、そういうのを期待するしか無いかなあ」

暫く悩んで、出た答えはいまいち不確実なものだった。
が、問題はこれだけではない、加えて(オルソラを害す意思は無さそうだが)天草式や乱入者のこともある。

「ええと、天草式ってのは、どんなのだ?」
「……そうね、敵じゃ無さそうだけど」
「ボランティアかなあ、とうまにお姉さん……元々土着の宗教組織で、この国を拠点に飛び回って紛争とかを止めてるの」
「……そう聞く分には善良と思うだろうが、余り信じ過ぎないようにね」
「……ステイル?」

インデックスの記憶を遡っての言葉に、上条達が良い印象を抱き、だがそこでステイルは待ったをかけた。
彼はどこか微妙な表情で、彼等の過去を明かした。

「その情報は『数年前』のものだ……果たして今もそうだろうかな?
『預かった色黒女』の件では世話になったが……『今』の彼等をそのまま信じるべきじゃないと思う」
「……というと?」
「さっきのは彼女が、神裂が居た頃の情報なんだよ……天草式は神裂が嘗て率いていた連中だ、だが離れた今も同じとは限らない……」
「ふむ、あの人か……ええと、彼女から天草式ってのに話を通してもらうってのは?」
「……天草式が関わった時点で上は彼女を遠ざけるだろう、各組織との折衝が精々だね」

共通の知人(またインデックスの『前』の世話役)は動かせないらしい、はあとステイルと上条は嘆息する。

「……で、天草式はどうする?」
「関係者で、その上味方になるかもしれない、会わない訳にはいかないだろ……心変りが怖いから、会うならオルソラ抜きだが」
「ま、それが無難だろう……目的は確かめる必要がある、けどその時はぐれぐれも気をつけてくれ」

結局は注意しつつ会うという無難な(なあなあとも言える)意見に決まって、一応これでローマ正教と天草式の対処は決まった。
が、前の二勢力以上に理解できず、難しいのは最後の勢力だ。

「……乱入者か」
「翼を持つ、サリエルと名乗った魔性だ」

自分の戦った相手の話題に神子が口を挟んだ、これにインデックスが一瞬ぽかんと大口開く。

「……伝説級の堕天使じゃん」
「ええと、説明!」
「元は天使を率いる天使、その後天から落ちた……『ある天使』が変化した存在とも、『ある天使』の前任とも、あるいはそれ等の概念の融合体とも言われてるの」

伝承故に曖昧だが、概ね偉大な天使にして反逆者であると彼女は言った。

「ある天使?」
「科学側でも、知ってると思う……大天使ウリエルが堕天した存在だよ」
「……聞いたことはあるかな」

科学側の、宗教の素人である上条達でもわかるビッグネームに一同が流石に驚愕した。
はあとインデックスも同じ気分になりつつ、その天使について話を続ける、内心過去の仲間を愚痴りながら。

「あの方は地の属性の天使で、まあ天界屈指の武闘派かな……尤も、語るべきことが他にあるけど」
「……他に、語ること?」

すると、インデックスは僅かに悲しそうに、その凋落について語った。

「……不当に、ある司祭に貶められたの」
「ザカリアスか……」
「正解、ステイル……聖書そのものでなく、それから派生した書がその発端だというだけで」
「だから、堕天使なのか」

彼等の教えの原点である聖書ではなく、それの派生物から世に出て広まったことがウリエルの不幸だった。
結果ウリエルは公式には天使と認められず、その座から降ろされてしまった。

「今はね、あの方は聖人……一聖職者に過ぎないの、だからきっと教会を恨んでる、首を突っ込む理由も十分で本物じゃないかな」
「……『復権』か、法の書を説得材料に使うと」
「あるいは『復讐』かも、自分を追い落とした教会に大打撃なのは間違いないから」
「ふう、何か頭が痛い……」
「……まあ、今は逃げよう、落ち着いて考える状況が要るよ」

割と正統な理由を持つ復讐者に一同が頭を抱え、でもインデックスは妙案がある要素で先を促した。
だけど、内心でだけ困っても居た。

(私が法の書を解読する手もある、情報をいっそ分けて教会を牽制……でも、狙われるって、危険だろうって止められるだろうなあ)

事態を打開する理由は既に思い付き、だけど心配させるから選びたくなかった。
そして、何だかんだこういう時だけ鋭いのが一人と一体程居た。

「インデックス?」
「ム、アヤシイ……」
『……無茶なこと考えてないよね?』
「ま、まさか……」

こんな時だけ鋭く察した、上条と生き人形のアリスの問いをインデックスは慌てて誤魔化した。

「むうう、怪しいな……まあいい、行こうか」
「ウン……」

上条とアリスは顔を見合わせて怪しがりつつも今は流し、それから後方を意味ありげに見た。

「……俺はこっちに付いてくか」
「……ナラ、ワタシハアッチ!」

上条はオルソラと番外個体の方に言って、ならばとアリスはフワと浮かび上がる。
そして後方の、そこで一仕事終えた青い影に合流する。

「チルノチャン、マダイケル!?」
「おっ、良いぞ、あたいと一緒に行くか」
「……ふむ、ならば私はあちらに、前衛を増やすべきだ」

青い影、チルノはアリスの小さな体を抱えてUターンし、共に走ってきた椛はそのまま上条達に合流する。

「上条さん、私も行きます……チルノさん、気をつけて」
「ああ、頼む」
「おうっ、直ぐ追うから先行ってて!」

こうして一度は別れ、方方に走っていった。
但し、一人を除いて。

「……ふむ、そこの赤いの」
「何だい、ええと剣士?か……」

オルソラを護衛し先を急ぐ御坂姉妹や上条達、足止めの為に妖夢の元へ向かうチルノとアリス、それ等を神子は何故か見送った。
彼女は同じく残った(というか仕事でどちらにも行けないのだ)ステイルに話しかけた。

「……サリエル、気になるだろう?」
「ああ、そうだが……」
「そして……同じ宗教なら追える、幾らか探し易い筈だ」
「……まあ、そうなるね」
「……私も連れてけ、『決着を着ける』と言ってしまったのでね」
「ふむ、行き成りだが……一人で会うよりは安全か、ならば付いてきてくれ」

そんな唐突な言葉に、彼は少し考え込んでそれから好都合かと頷く。
どの道、ローマ正教とも天草式とも違う乱入者は気になっていたし、彼は神子の好きにさせた。
二人は僅かな天使の気配を頼りに、堕天使の元に向かった。

(……さて、私はどうするか)

そして、盗み聞きしていた、『唯一の部外者』は鋲付きハンマーをブラブラさせつつううむと考え込んだ。

(よく考えたら、もし『直上馬鹿』と『ツンデレ』に見つかれば言い訳できねえし……堕天使の方に向かうか)

乱入者を警戒し彼女はイレギュラーの存在の方へ行った、保身を継続するようだ。



バチッ

「むう、また結界が……」

目の前で火花が散って、サリエルが顔をしかめた。
数個目の結界、数度目の方向転換を強いられ、彼女はこのままではキリがないと小さく唸る。

「サリエル様、どうされます?」
「ふうむ……」

連れのシスター、教会を離反した元ビアージオ隊隊員がサリエルに問いかけた。
あるいは自分達を先行させてくれと、そういう意味の言葉かも知れないが、一度全てを失ったサリエルとしては信奉者を潰したくはない。
彼女は腕を組んで考え込んで、数秒そうした後バッと魔法陣を展開する、

「……ここは僕を、眷属を使おう、我程の影響は受けんはず」

『既に一体欠け』温存したかった存在を、だが足踏みするよりはマシだと向かわせることにした。
カッと陣が輝き、そこから巨大な『眼球』が四つ連なって湧き出るように現れた。

「行け、幽幻魔眼……結界の主を潰してこい」

この主の言葉に、眼球たちはコクンと頷くと勢い良く飛び出していった。



「そりゃそりゃ、そりゃあっ……冥想斬だ!」
「うひゃあっ!?」

ガンガンと立て続けに放たれる、気の刃を慌ててアニェーゼ達は受け流していた。
必死な顔で、二人は前回の戦いで折れた杖、それと巨大な車輪で防御する。

「ま、またアンタにやられる訳には!」
「そうです、司教に見捨てられた今……我等は自力で生き延びるしか!」

が、そこで二人はちょっと慢心した、妖夢が(幻想郷で振るった妖刀ではなく)数打ちのただの刀を使うそれが一瞬希望に見えたのだ。

『こ、今回だけは負けない!』
「ふむ、健闘は認めるが……安く見られるのは少し不愉快だ、ならば追加だ!」

すると彼女はスカートを軽く払い、そこに並んで仕込んだ無数の脇差しや小太刀を見せつけるようにした。

「……良し、わかった、なら手数重視だ!」
『ひいっ、しまった裏目か!?』

ポイとその場で仕込み杖を高く放り、それから妖夢は自由になった両手で小振りな刀を引き抜く。
そして、両手に握った二刀で嵐のような連撃を繰り出した。

ドガガガッ

「一撃で無理なら……倒れるまで切るっ、はああっっ!」
『うひゃああああっ!?』

二人は思わず甲高い悲鳴を上げた、ガリガリと防御に掲げた武器が上から削られていくのだ。
これに圧倒されてアニェーゼ達は下がり、それに妖夢はニッと会心の笑みを浮かべる。
すかさず彼女はさっき放した仕込み杖をキャッチし、改めて引いたシスターを追う。

「ふっ、前回の幽霊騒ぎで懲りた……対策はするさ」
「このままじゃ本気で、私の首が、冗談じゃ……」

アニェーゼは怒涛の反抗に絶句し、折れた杖で何とか牽制しながら慌てて周りを見渡す。

(な、何か無いか、何とか逃げて、せめて時間を稼いで……)

その為の、利用できる何かを探し彼女は視線を四方に飛ばす。
この期に及んで運頼みの、半ば縋るような行為は意外にも功を奏した『ように見えた』

ダダダッ

「は、走れ、五和……このままじゃ巻き込まれて……」
「ま、待って、息が……」
「ようし、押し付ける相手、見っけ……え、あれ?」

フランベルジュを担いだ青年と槍使いの少女が走ってきたのだ。
これにアニェーゼは笑みを浮かび『かけ』、が二人の向こうにある物を見つけそれが凍りつく。
ギロリと巨大な眼球が、動くもの全てを憎々しげに睨んで、辺りに滅茶苦茶に弾幕を打っていた。

「クソッ、堕天使の眷属め……おうい、前退けえっ!?」
「……え、あの、私等の後ろには人斬り、このままじゃ挟み撃ちに……」
「……あ、間に合わないな、これ」

それは妖夢をライバルに押し付けようとした天罰か、幻想郷からの不運がまだ続いていたのか、それは兎も角四つの魔眼が反対側から突進する。

「お、何だか面白そうな気配が……ようし、あれ『も』切るぞうっ!」
「……ぎゃあっ、益々やる気になってる!しかも狙いが外れてない!?」

アニェーゼ達が絶句した瞬間、背後から天草式と魔眼が突っ込み、そこへ喜色満面で妖夢が飛び込む。
地獄の如き三つ巴、プラス妖夢(全員に襲い掛るから別枠)という地獄以上の何かが始まった。




ううむ、妖夢が凄い動く……まあ、鉢合わせしたところで次回へ。
・・・にしてもステイルが苦労人一直線だ、何か驚いたり突っ込んでばかりの気がする・・・
後、インデックスや10032号が微妙に大雑把、気づいてないけど大体チルノ辺りのせい。

以下コメント返信
九尾様
ええ、完全無駄足です・・・そもそも目的からして真っ向衝突するしか無く、一同は彼をも巻き込んで抵抗を決めました。
・・・で、妖夢はその、初期の問答無用なキャラが印象に残ってるも有りかなり状況を引っ掻き回し中・・・うん、やりたい放題というか、もうSS屈指の問題児かも。



[41025] 第五話 狂信と敬心・六
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/03/11 18:54
狂信と敬心・六



タッタッタッ

「……お姉さま、どこへ向かう?」
「そうね、基本は……街の雑踏、一度紛れてしまえば追い難いでしょ」
「あ、賛成なんだよ、人払いは移動しながらだと難しいし」

走りながらの妹の問いに美琴が答える、自慢ではないが(主に夏休みの事件で)逃げる経験は豊富だ。
まずは撹乱をと決め、行儀悪く立ち喰いすりインデックスが賛成した(人払い系の術は『特定の場所』に張るから動いてればば機能しないのだ)

「……となると、そこに行く前に……」
「お姉さま?」
「『大事なこと』が有ったわ」

そこまで言って、美琴はぽんと手を叩いて何かを思いつく。
彼女は訝しむ番外個体とオルソラの手を取り、一旦近くの路地の影へ引いた。
暫し見ていた氷華がやや遅れて意味に気づき、隣の少女を促す。
少女、ルーミアだ、インデックスと同じように焼き鳥立ち食いし、集中そぞろに氷華に引っ張られたままの彼女が小首を傾げた。

「なあにー?」
「……『壁』、お願い!」
「おう?……ほーい、そりゃあ!」

ボフンッ

『闇』が即席の帳を作り、その奥で美琴が『祭り用の着付けグッズ』を開いた。

「さ、変装……お着替えよ!」
「……まあ念を入れましょう、和服は慣れてるし手伝います」
「……あ、私も!折角だし可愛くしましょう!」
「お願いね、椛さんに氷華さん!」

茶目っけたっぷりにウインク一つ、応援の椛に氷華と共に二人を剥き始める。

「もうっ、お姉様てば楽しんでない?」
「ええと、目立つのはわかりますが……サイズ、合います?」
「……その胸、妬ましい」
『怖っ!?』

余計な言葉だった、まるで地獄から響く呪いだった。
自分からやったことなのに、勝手に妬んで怒り出して、僧服から浴衣に着替え中の番外個体(標準より上)とオルソラ(更に上)が身を竦ませた。

「……まだ成長期だろうに」
「いやあ、女の子にとっては大事なことだよ、とうま」
「ええ、全く……それと、お姉様には言わないように」

ぽつんと、闇を隔てて上条が所在無げにして、ついでに(念のためというか空気呼んで)目隠ししたインデックスとミサカが相槌打った。

ゴソゴソゴソッ

「ようし、こんな感じで……」

そんなことを後等辺で言う間に、美琴達は手際よく作業を終える。
着せたのは元は椛の、体を鍛えてるからか美琴より頭半分高い彼女用の物で、それに合わせたか白地に赤い模様を染め付けてある(因みに紅葉柄は椛がキープ済み)
番外個体は『尖った小振りな花』、オルソラは『大きく開いた桃色の花』の模様である。

「完成よ……可愛く出来たわあ、順にね……」
「番外個体さんは……電気使いだし、花がギザギザしてる撫子を!」
「シスターさんは……確かその名の薔薇が有った筈、ならバラ科の桜で!」

バアンッ

『わあ、意外に少女趣……ごほん、素敵!』

二人はちょっと口籠って、その後慌てて言い直した。
その咄嗟の判断に、離れで待つ上条が(心当たり有るのか)ウンウンと頷いた。

「うん、懸命だ、アイツはむくれると長いから」
「……経験有るんだ、とうま」
「……実感篭ってますねえ」

寧ろ彼の鈍感さのせいではないかと思ったが、それは二人は言わないでおく。
そうして、周りにそんなことを思われてるとは気づかずに、美琴がさあと移動再開する。

「さ、これで準備万端、さあ行きましょう……何で、ニヤニヤしてるの?」
「……い、いや何でもない、ああ行こうか(……末っ子相手にお姉さんブッてるとは言わないでおこう)」

ちょっと微笑ましい目で見られつつ、姉らしく頑張る彼女を中心に、オルソラ護衛班は再び走り出した。



トンと仕込み杖を肩に置き、ふむと妖夢が考え込む。

「……さて、どこまで向うは行ったか……時間稼ぎだけというのも詰まらないなあ」

逃せば一応目的は達成する、それで十分といえば十分だが、彼女は更に欲張った。
そっと周りを見れば三つの勢力、二人のシスターと二人の天草式、それに四つの巨眼。

「……派手に行こうか!」

ダッ

選んだのは彼女らしい、つまりは無鉄砲なものだった。

「まずは幽明の苦輪、更に……咲夜さん、技を借ります!」

半霊が天草式の方へ、自分は刃を手挟み残りを狙える位置へ。

ガガガッ

『ちょっ、無差別!?』
「当然です!」

まず半霊を人化させて天草式へ、自身は片手間に小太刀を投擲し、そして空いた手で握った仕込み杖で巨眼に斬りかかる。
ニッと笑って、彼女はその『全て』に仕掛けたのだ。

「……訳がわからん、何なのよな!」

ガギィン

天草式の剣士は仲間を堕天使への警戒に温存、その前に出て、もう一人の妖夢の剣を受けた。

「ちっ、五和は結界が……良いか、お前は消耗するなよ!」
「は、はいっ!」
「……奴は俺が!」

ガギィン
ギギギッ

彼はもう一人を庇いつつ、フランベルジュの凹凸状の刃を活かし仕込み杖を挟み込むように止める。
半霊と力比べの体勢に、先手を取られやや後ろで受け(不自然で不利な体勢なのに)強引に押さえ込む。

「おお、中々の膂力……逆にすべきだったか?まあ後でもいいかな!」

向うの様子に少し惜しみつつ、妖夢が絶えず小太刀を投擲する。
ヒュンヒュンとアニェーゼ達に飛び来て、彼女は慌ててそれまでの戦いで傷ついた杖を懸命に振り回す。

ギィンッ

「うわわっ、容赦無いなあ!?」
「た、隊長、しっかり!」

彼女に守られながら年長のシスター、アンジェレネが必死に応援の言葉を掛けていた。
何故なら今の装備は小回りの効かない車輪だからだ、とはいえ何もしないわけではなく脱出の機を狙って何とか上に飛ぼうとする。
が、その度に妖夢が『反射』した『大弾』が押さえるように飛ぶ。

カキンカキンッ

「うひゃあっ!?」

掠めるように頭上を通り、彼女は涙目になった。

「あうあう、銀髪貴様あ!?」
「ふふ、逃しませんよ……そら、目玉野郎、もっと撃ってこい!」

敵の敵の利用、そうやって牽制しつつ妖夢が巨眼達を挑発する。
弾幕を反射の為に敢て逸らす程度に弾いて、そうしながら前へと吹み込む。

チチチッ

「おっと……」

とはいえ、完封とは行かず幾らか掠めて顔を顰める。
当然だが、近づく程に着弾までの時間は縮まり、拡散弾の空隙もまた減っていく。
バアッとまるで季節初めの大雨のように、分厚く何重にも妖夢へと降り注いだ。

「ふむ、これは……」

ギュルと仕込み杖の先端で弧を描かせて、第一波を切り払った彼女はそこでフと笑う。

「敢て言えば、獣……弾幕ごっこのように優雅さはない、実利重視の弾幕というところか」

単純極まりないが強力で、どこか新鮮な感じがした彼女は『楽しもう』と思った。
ドガガッと更なる光弾が打ち込まれ、それを笑って妖夢が突き進む。

「こう云うのも偶には良いな、もっと撃ってこい!」
『……っっ!?』

この、無鉄砲を通り越した言動に、人外そのものの巨眼がブルリと揺れる、人間臭く人にも理解できる対応だった。
一体が狙われて、慌てて残りが横から打ち込んで追い払う。

チチッ

「……熱ちっ、だが……まだまだあっ!」

が、一旦逃げた妖夢が再度突っ込み、この反応に絶句したような様子で巨眼達が更に厚く弾幕を展開する。

『っ……』
「おいこら、逃げるな待てえっ!」
「……眷属とやらには少し同情します、『天使の事件』の私達のようだ」
「……いやあ全くですね、隊長……」

明らかにドン引きしている、向うの気持ちが良くわかってアニェーゼとアンジェレネは憐れむように見た。
が、所詮敵なので助けようとは思わず高みの見物という風だった。

ブウンッ
ジャキン

その罰か、アニェーゼ達の背後の空間が揺れて『ランス』が構えられた。

『スキアリ、カナ』
「隊長、危なっ……」

ザシュ

「アンジェレネ!?」

隠形を解除したアリス(メイド・コスプレ)が不意打ち、上司を咄嗟に庇ったアンジェレネがが槍を受ける。
慌てて割って入ったアニェーゼが先端の欠けた杖で生き人形を追い払う。

ブンブンッ

「あ、あっち、行けっての!」
「……チェ、ハズレター」
「ぐっ、隊長、申し訳……」
「黙ってて、傷に響く!……ここで新手なんて!?」

この物騒な生き人形はちょっと残念そうにし、それからちっちゃな手を妖夢に振る。
今も続く片手間の攻撃を止めさせると、彼女は倒し損ねたアニェーゼに槍を突きつけた。

「『幽玄魔眼』ハマカセタ、ケンシ!……コッチハワタシガ!」
「まあ、別に構いませんけど……」
「……コイツラ、ワタシノ『主』ノ『対立組織』……ネンノタメ、『壊滅』サセトコット」
『モンペか、この人形!?』

『もしかしたら敵対する『かもしれない』から』程度の気持ちで狙われて、アニェーゼ達が(割と正当な理由の)悲鳴を上げた。

「……何だ、銀髪の仲間か?」
「そのようですが……」

そんな向うの修羅場に天草式の二人は困惑する。
が、彼等にも苦難が、頭上にキラキラと輝く氷塊が出現する。

『……パーフェクトフリーズ』
「ちっ、下がれ、五和!」

剣士の男は仲間を押し飛ばし、自身も氷塊の落下を飛んで躱す。
が、落ちたそれで半霊と間合いが合いた瞬間、見計らったように『青い髪に透き通った羽の少女』が降り立つ。
半霊を自由にする、それこそが理由だったかのように。

「あたい参上!……人斬りー、こっちはあたいに任せな!」
「チルノ?」
「……話したいことが、確かめたいことが有るからさ」
「……いや確かに、半霊が空くなら好都合ですが」

あっちの物騒な生き人形に続いて、乱入したチルノが半霊を妖夢の方へ向かわせる。
彼女は勝手に進む話にちょっと困惑し、でも好都合だと半霊を侍らせる。
ニイととても悪く、好戦的に笑って彼女はダンと四つの目玉に突っ込んだ。

「まあ、有り難い……では、総力で行くぞ、そこの目玉の化け物!」
『っっっ!!?』

それはもう楽しそうに笑ってて、これに堕天使の眷属は勘弁してくれと言いたげに体を揺らした。

「……さて、天草式だっけ」
「何だ、氷使いの女」

妖夢の半霊を追い払い、ある意味話し合いに最も邪魔な存在を退けたチルノが天草式に話しかける。
警戒しつつ、リーダーと槍使いの少女が武器を向け、だがその状態で続きを待つ。

「又聞きだけど、アンタ等は悪いやつじゃないんだってね。
……オルソラっての、あたい達も助けたいんだ、協力できないかな?」
「……ふうん、会ったばかりだってのに」

この何とも甘い言葉に、相手は僅かに興味を引かれたようだが『自嘲気味』に首を振った。

「……だが、それを鵜呑みにするわけには行かねえよな」
「ええ、何で?」

彼はどこか呆れたような、やはり自嘲気味な感じに笑って答えた。

「ローマ正教、世界屈指の宗教を敵に回す……そんな『物好き』が俺達以外に要るとは思えないからな」
「あーっ、そう言われたら……うーん、こりゃ無理かあ」

双方ともにも正直損得抜きの、感情論でしかないのだ。
それだけに、自分達くらいだろうと、それ以外が同じだとは言われても信じるのは難しい。
ちょっと困ったように、天草式の剣士はチルノの強力を断るのだった。

「うーん、困った……その言い分でより『イイもん』だって思えたのに」
「悪いな、俺も似たようなもんだ、信じても良いかもって思えるが……何時か本性出して裏切るかもしれない。
……可能性が零で無い限り手は取れない、それで全滅したら……それこそ彼女は、オルソラは終わりなのよ」
「……困ったなあ、それ聞いて……もっと仲良くしたくなったよ、どうしよっかなあ」

あくまでオルソラの命が大事で、だからこそ双方ともに中々手を伸ばせなかった。
チルノも天草式もこれには困り、そこでチルノが『ある人の名』を呼んだ。

「じゃ、仲良くなれる『話の種』でも」
「何?」
「……神裂、火織」
『……何故、その名を!?』

ボソリと呟いて、これに天草式の二人が食いつく。
この反応にチルノはちょっと人悪い、悪戯っぽく笑ってから更に畳み掛ける。

「あたいと……火織は前は敵、でも今はそうじゃない……友達の友達かなあ。
他にも色いろあるよ、それ聞いてからでも遅くないと思うんだ」

ニッと微笑み、その後真剣な顔になって、彼女はペコと頭を下げる。

「……お願い、少しだけ話を聞いてよ、それでさ……もし、信じられるって思ったら、オルソラのことも一緒に考えよう!」
「少しだけだ……なあ五和、こいつは何というか……」
「ええ、その、あれです……掛値無しのお人好しかも」
「……だよな、俺もそうとしか思えんよなあ」

天草式の二人は顔を見合わせて苦笑し、それからチルノに先を促す。
内心で、何と人がいいのだろうと、自分達のことを棚に挙げて。

『……変な子だなあ』
「そういう、アンタ等も!」

正直どっちもどっちで、戦場なのに在り得ない程に生温い空気がそこだけ漂っていた。




今回はここで一区切り・・・ちょっと短めですが・・・
いや、チルノとの会話シーンがあるので一旦空気を変えたくて、ほら妖夢が暴れた直後じゃそういう感じじゃないし。
・・・でまあ、そろそろ中盤です、これから情報交換やったりで少しずつ話が動いていきます。

以下コメント返信
九尾様
いや全くで、なので妖夢とチルノを純真さで混ぜて中和させてみた・・・最初に押してから引くという、ヤクザの手口を分担してるみたいですがきっと気のせい。
・・・十字教崩壊の場合、信者と使徒が纏めて幻想郷に降ってくる地獄絵図でしょう・・・多分忙しさに巫女がキレる、あっこっちの方が地獄絵図か。

ちゃう。ちゃう。様
あー確かにそうかもしれませんが・・・ただ魔力や格だけでなく、剣術や格闘を修めてると明確に伝説にあるのでああ書きました、この辺この方だけだと思う。

海竜○様
ええ、ある意味今回は問題児とブレーキ、前半が妖夢回で後半がチルノ回といえるかも・・・今回着替えさせただけの椛に関しては後々ってことで。



[41025] 第五話 狂信と敬心・七
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/03/11 18:55
ヒュウゥ
ビュオオッ

「……むっ?」

風が吹いた、堕天使とその信奉者の目の前で激しく大仰に。
サリエルが顔を顰め、後に続く信徒に警戒を促す。
と殆ど同時に、黄の装束のシスターが降り立った。

タンッ

「よう、氷の弾くれやがったのは手前等か?」
「ふむ、どう答えても打たれそうだな、その剣幕では……」

不機嫌げな『司教』の詰問の言葉に、サリエルがどう答えるか僅かに考えこむ。
暫し腕組みし唸って、それから彼女は『懐柔』に出た。

「……あれの範囲に居たのか、済まないが『気付かなかった』……謝ろう、済まなかったな」

狙った訳ではないと、不可抗力だと強調し、彼女は殊更柔らかい口調で言った。

「だが……異教徒に我等の宝である『法の書』を奪われたくなかったが故……無責任に聞こえるかもしれないが許して欲しい」
「……ふうん、あくまで善意だと、他意は無いと言い張る気かい?」

これに司教は更に視線を鋭くし、だがサリエルはそれを受け流して続けた。
滔々と耳障りのいい言葉をサリエルは捲し立てるようにして言い放った。

「私は堕天使だ、だが……同じ教えを抱く者として、『書』を放っておけなかったのだ。
……堕天の過去だけで否定しないで貰いたい、私も私を信じる者達も……」
「……ふうん、随分と都合のいいことを言うね」

サリエルは情に訴えるように説いていく、現時点で彼女の明確な問題行動は教会への『氷の砲弾』による攻撃のみ。
それ以外は堕天使が法の書を追うという『情況証拠』だけ、だから突かれる前に『それらしい』建前を言ったのだ。
これでは追求し難い、教会の意に反する行動も『他に渡したくなくて必死だった』でゴリ押しできる、辻褄を合っているこの言い分に司教は忌々しげに舌を打った。

「ちっ、あんな乱暴なやり方でよく言う、だが……『確かめる方法』は持っているんだよね」

が、一度舌打ちしてから司教がニヤと笑い、睨め付けるようにして『口を開き』言い放った。

「……舐めてんじゃねえぞ、反逆者」

ジャラリ

罵倒と同時に、『鎖に繋がったロザリオ』が口の中から溢れ金属音を立てる。
その瞬間だった。
ガクンと、使徒達の体から力が抜けた。

『えっ……きゃっ!?』
「……貴様!?」
「おやあ可笑しいなあ、この術は……『敵意』を持つ者にしか効かないのになあ!?」

脱力した使徒達と、それに動揺する一人無事なサリエルに、司教がからかうように言う。
彼女はたった一度の術の行使で嘘を暴いた。
『敵意』をトリガーにした強烈な麻痺、対人特化のそれに引っ掛かった時点で司教だけでなくそれ以外への悪意が透けて見えた。

「例えば疑ってる私を嫌うのは無い事じゃねえ、が……全員『そう』ってのは無理がある!大規模の反逆と見るのが無難だよなあ!?」
「……ちっ、今代のラファエルの眷属は強引だな!」
「……氷を打ってきた、お前さんに言われたくはないな!」

これで司教は疑いを確信し、流石にこれにはサリエルは誤魔化しを諦め腕をバッと翳し、司教に突きつけ魔力を纏わせた。
何せ元ビアージオ隊は今では貴重な信徒、それを開放すべく弾幕を立て続けに打ち放つ。
敵意は有るも感情的なそれではなく、『ただ機械のよう』に『作業的に排除しようとする』彼女は麻痺を受けずに攻撃してきた。
ドガガッと薙ぎ払うように閃光が飛んで、慌てて司教が飛び退る。

「ふんっ、とりあえず敵は確定と、なら……場所変えだ、着いてきなあ、堕天使!」
「……待てっ、ここまでやって唯で済むと思うな!」

風を吹かせてそれに乗って司教が跳躍し、弾幕を打ち込みつつ青色の翼を羽撃かせたサリエルが追った。
命がけの追いかけっこが始まったのだった。



第五話 狂信と敬心・七



「ようし、半霊も来たし……覚悟だ、目玉の化け物!」
『っっっ!?』

妖夢が自由になった半霊と共に突撃し、巨眼達は慌てた様子で弾幕をばら撒く。
光が壁となって妖夢を阻み、先程と似たような光景が広がる。

ガギィンッ

「……甘い、手数は倍だ!」

が、妖夢の突破力は『半霊分』上がっていた。

「はあああっ!」

ガギィンッ
ガギィンッ

妖夢が連続で斬撃し、弾幕の中を突き進む。
小太刀の二刀、本体と半霊の分身で更に倍、四振りの刃が弾幕を尽く切っていく。
縦に横に斜めに、斬撃は小規模の嵐のように弾幕を光の粒へと変えて散らしていく。

「……っ!」
「ちっ、引くか、ならこの後は……」

ドガガガッ

慌てて狙われた一体が後退し、それをカバーするように残りの三体が横から打ち込む。
これも先程と似たような光景、が妖夢の側もまた半霊で自身をカバーさせた。

「……防げっ!」

咄嗟に仕込み杖を放り、それを受け取ったもう一人の妖夢が弾幕の前へ。

ブウン
ガギィンッ

撃ち込まれた弾幕を半霊が払い、これより妖夢は下がらずその位置を維持する。
彼女はそのまま更に踏み込んで、妖夢と半霊は空いた間合いを埋めに行った。

「……逃しません、はあっ!」
『っっ!!』

妖夢と半霊が追い、巨眼達が追い払う、その形はそのままに、だけどずっと近い位置で繰り返されていた。



他方でも戦いが進んでいる。
ギィンと傷だらけの錫とランスが弾かれ、少女と人形が睨み合う。

「仲間はやらせない……隊を預かる者として役目を果たします!」
「チェー、ネバラレテル……」

アニェーゼが自分の分も負傷したアンジェレネを庇い戦っている、それで生き人形のアリスは奇襲以上の成果を挙げられなかった。
彼女が槍をブウンと振り回すも、人形の非力さかやはり弾かれた。

ガギィンッ

「……ムウッ」

武器を弾かれ、メイド衣装の人形が残念そうにする。
体勢が崩れた彼女は『アリス謹製装束』で付加された『隠形』で一旦下がり、それから透明なまま体勢を立て直す。
逃がすかとばかりに、再度出現しランスを突きつけられ、むっとアニェーゼが顰め面になった。

「うー、邪魔だなあ……アンジェレネ、傷は!?」
「重傷ではありません、十分治せ戦えます!」

後方で壁、『地に立てた車輪』の裏に隠れたアンジェレネが息を整えつつ体を確認した。
彼女の言葉に、杖で牽制し続けているアニェーゼがホッと安堵の息を吐く。
とはいえ戦いながら治すのは難しい、彼女はアリスの攻撃を防ぎつつ『機』を伺う。

「アンジェレネ、優先順位を再確認します……最悪なのは全滅、そして情報を仲間に届けられないこと」
「は、はい!」
「つまり……『どちらか』でも逃げれれば『上』、わかりますね?」
「……了解です、隙があれば『何時でも』飛べるようにします……」

それはアニェーゼを犠牲にするということで、思わず反論しようとするも隊長である彼女の言葉にアンジェレネが悲しそうにそれ以上を止める。
辛そうに俯く彼女に少し済まなそうに、だけどアニェーゼは杖で振り回しながら命令した。

「……頼みましたよ、囮に使いやがった司教への恨み言も」
「……はいっ、隊長!」

アニェーゼは覚悟したように笑って、それにアンジェレネは力無くも確かに頷いた。



「(……向うは派手だね)……で『かおり』は超能力者に騙されて、私等と戦うことになったんだ」
「ああ、何というからしいというか目に浮かぶよなあ……あの人、あれで結構単純だから」

離れた二箇所での戦いと違い、チルノと天草式は辛うじて話し合いのままだった。
チルノが思い出しながら神裂のことを話し、天草式の剣士が懐かしそうに頷く。

「……ああ、そういやステイルとアウレオルスってのが……」
「……ふむふむ」
「嫉妬からか、かみじょうを追い回して……後で『かおり』が二人の分もペコペコ謝ったりとか」
「ははっ、それも大いに目に浮かぶなあ、結構苦労性なとこが有るんだよあの人」

そのどれも『ある程度』仲良くなければ『他人には見せない部分』だった。

「ふうむ、存外……嘘じゃねえみたいだ、確かにあの人を知ってるようだな」
「……でしょ!」
「ああ、それは認めるが……」

少なくとも『神裂の友人の友人』というのは嘘ではなく、天草式の剣士はチルノの話に興味を抱く。
それに気づいたか、チルノはニッと微笑んで言った。

「……で、これであたい等が……かおりの『素』を見せれる程度に仲良いってわかったでしょ」
「ああ、確かにな……」
「でもって、つまりそれは……『かおりが敵と認識しない』ってことだよね」
「まあ、そういうことになるな……」
「じゃあさ……」

そこで悪戯っぽく笑って、それからチルノは天草式の二人に問いかける。

「あたい達が……『嘘吐かない』って、『悪人じゃない』って証明に成らないかな?」
「成程、そういう方向に持ってったか……」

つまりは『共通の知人』を担保に信用を、それは単純だがこの場では十分効を成した。
彼はニヒリと存外人好きのする笑みを浮かべた。

「倫理的ではないが……悪くはねえ、ちびっ子」

全てではないが警戒を解いて、その分その胸襟を開く。
彼はまずチルノの性質を認め、ならばその仲間もと認め、最後にオルソラを守っていることを本当だと判断した。

「なら、あたい等と?」
「……まあ待ちな、ただ『一つ』なあ……」

が、その前に一つ問題が残っている。
彼は離れた戦場、激戦区である妖夢たちの方を苦笑しながら指した。
槍使いの少女に合図し、十字槍を手渡せさせるとチルノにある誘いを掛ける。

「話を続けるのは、あれが邪魔だと思うんだが……」
「ふうむ、確かにねえ……」

チルノも苦笑気味に笑って、それから腕を翳す。
氷を一個だけ作ると、巨眼のうち一体に狙いをつけた。

「じゃあ……」
「あの怖い姉ちゃんを援護しないとな」

天草式も隣に立って体を大きく捻る、ギリと全身のバネを撓めながら十字槍を振り被る。
そして、チルノも『一個の氷』に力を集中的に注いでいく。

「行くぞおっ、単発の……アイシクルフォール!」
「まず邪魔者から……排除しねえとなあ!」

ギュオォ
ガギィンッ

(普段以上の速度の)氷と投擲された槍が『幽幻魔眼』のうち二体を襲った。
咄嗟にその身を動かすも、全力で放たれた攻撃は避けれず体を引き裂きながら掠め飛んでいく。
ブツリと巨眼の一部が弾け、ドス黒い人外の体液を流しながらヨロリと体勢を崩す。

グラッ

「むっ、手伝え等とは!?」
「え、じゃあ……残りもあたい達が……」
「……さ、させない、そこで見てて!」

妖夢が不満を言えば、なら他のも狙うとチルノが言って、慌ててその不満を押し殺す。
人斬り娘は一体でも多くと欲張って、それ以上のクレームを諦める。

(……チョロいなあ)
「うう、上手く利用されてる気がするが……獲物は渡さん、はっ!」

まず彼女はは薄くなった弾幕を突破し、手近な一体に掌打を放つ。
パンッと軽い音がし、巨大な目の化け物が跳ね跳んだ。

ドガアッ

「折伏無限、そして……」

弾いたその身は別の一体へ、ぶつかって二体ともバランスを大きく崩す。
すかさず妖夢は半霊を変身解除させてその分の霊力を当然攻撃へ、彼女はその手に取り戻した仕込み杖に霊力を集中する。
そして、霊力を開放すると、一気に踏み込みそれと同時に振り抜く。

「はあああっ、桜花閃閃!」

ズバアアッ

神速の抜刀が二体の巨眼を纏めて引き裂いた。
ツウと一筋の線が走り、それからブワと人外の黒い血が吹き出す。

「ふうう、一本というところか……と、この武器ではここまでか」

とほぼ同時に、バキンと仕込み杖の白刃が『散る華』のように風に流れていった。
彼女は使い潰した武器を済まさそうに見てから、血を流し地に沈んだ目玉達を冷たく見下した。
ビクビクと振るえ、完全には絶たれてはいないもののまだ潔悪く蠢く異形が動揺したようだった。

「……すまんな、数打ちの刃では両断と行かなかった、苦しいだろうから……楽にしてやろう!」

楽しそうな声、スウと口元が邪悪に歪む。
妖夢の顔に笑みというには『凶悪過ぎる表情』で彼女は小太刀を引き抜き上段に構える。
そして、霊力を纏わせて振り下ろそうとした。

「はあ、瞑想……」

だがその時、焦った様子で幽幻魔眼がその身を震わせる。
ブルと体を震わせて、飛び散った血が自ら蠢き『幾何学模様』を描いた。

ギイッ

堕天使の眷属が鳴いて、その瞬間彼は存在しなかったかのようにその場から書き消えていく。

ヒュンッ

「ちいっ、逃した……」
「そうか、召喚されたものということか……危なくなれば異界に引っ込むと……」

小太刀の一閃は刹那届かず、振り下ろされた刃は消えた後の地面を削るに終わる。
妖夢の前から二体が消え、やや遅れ氷と槍で傷ついた二体の姿も透き通っていく。

「な、なら残りの……あーっ!?」

ヒュンッ

「……ぬがあああ、逃げやがったあ!?」
『……ええと、ドンマイ』

仕留め損ねた妖夢が叫び、思わずチルノと天草式が慰める。
これにより『この場』は妖夢の勝利、が眷属全てが未だ生存という結果に終わった。

「……うう、悔しいです」
「ああうん、ドンマイ……あー、どうする、天草式?」
「ううむ、ますます、オルソラの守りが重要だな」

チルノは沈む妖夢を慰めてから天草式の二人を見て、それにリーダー格の青年が答える。
彼も彼も困惑しながらポリと頬を描いてから、やはり最重要目的のオルソラを案じた。

「さて、俺達は協力できるかもしれない、そうなったんだったか?」
「うん、そうだと思うけど」
「だが、『疑う気持ち』もほんのチョビっと有る……」

彼は一旦前置きし、それから『隣の少女』を押し出した。

「だから……こいつを渡そう、監視だ」
「ちょっ、何勝手に!?」

勝手に決められた彼女が戸惑って、だが上司の男はそれに構わず話を続けた。

「……後ろ暗いもんが無いなら、受け入れるよなあ?」
「……うん、そうだね、それと監視を見逃す『代わり』に護衛をさせていい?」
「おう、どうぞ……俺達にとって『好都合』だ」
「あたい達にもね!」

『万が一の最悪』を考えつつ、それ以外は協力出来る、(部下の意思を除けば)どちらにも『益』は有る。
そう、オルソラの護衛はもとより、そこから『先』に置いても。

「考えたくないがもし、彼女が奪われて……その時は『繋ぎ』とすればいい」
「あっ、手伝おうってこと……そうだ、『預け場所』としてそっちに行くかも」
「ああ、『それ』も有るか……なら、状況次第だが隠れ家の提供をしよう、場所はそいつに聞け」
「オッケー、じゃあ『それまで預かる』から」
「……おうい、私の意思はー、ああ無視ですか……」

本人無視して話が進んでいった。
チルノ達が抜かれた場合、そこから立て直すなら一緒に動くだろう。
状況が変わって、逃げることから隠れるのが最善になった場合も手伝える。
単純な戦力だけでなく、その為の案内役として少女は引き渡されたのだった。

「……じゃ、しっかりやれよ」
「うん、変なカッコの……」
「変って、ああ……名乗ってなかったな、俺は建宮でそいつは五和、まあヨロシクな嬢ちゃん?」
「あたいはチルノ……たてみや、まあヨロシクな!」

二人は今更ながらに挨拶し、上司の横暴に涙目の少女を他所に笑い合った。

「……デ、コッチハドウシヨッカ」

そんな一行を楽しそうに見て、生き人形のアリスが赤斑点のついたメイド服を揺らす。
彼女に槍を突きつけられたアニェーゼが引き攣り顔で叫んだ。

「に、逃げますとも、眷属のことも仲間に伝えたいのでね!」

必死な形相で彼女が叫ぶ、何せ堕天使側の戦力が増えたのだ。
それを仲間に伝えねばと、弱気に成りかけた自身に活を入れるようにギュッと杖を握った。

「……頑張り過ぎですよ、隊長」

が、その瞬間『後ろから手が伸びる』、血だらけの手が彼女の首根っこ掴んだ。

「え?」
「隊長、たしかあ……『どちらか』でも逃げれれば『上』でしたね?」

ポイとアニェーゼに放って、それから回転した車輪が彼女を受け止める。
グルグルと車輪は回ってそのまま空へと飛んでって、彼女を仲間の元へと飛ばす。
それは速度重視の弾幕でも簡単には追いつけない勢いだった。

「休みながら魔力を溜めました、何とか逃げれるはず……けほっ」

傷だらけなのに無理に体を動かし、その上車輪を操る彼女は倒れながら『盾』になる位置に出て人形の前へ。
車輪から身を乗り出したアニェーゼにアンジェレネが叫ぶ。

「アンジェレネ!?」
「……隊長、ここまで状況が錯綜するなら貴女が残って!」

言うだけ言って見送って、アニェーゼは泣きそうな顔になるもその責任感から手を引いた。
あっという間に彼女が消えて、最後に残ったアンジェレネは人形に首を差し出した。

「はい、降参します、止めを刺しますか?」
「エート……『捕虜』ニスルカラ」

ちょっと困って、それからアリスはワイヤーを巻きつけ拘束した。

「ふむ、天草式が組むから同類と見たが……正解だったようですね、はあ良かったあ……」
「ふん、よく見てることで……俺は仲間のとこに行く、五和は任せるぜ、それと捕虜逃がすなよ」

賭けに勝ったとでも言いたげにアンジェレネが微笑み、それに苦笑し建宮は警告と共に走り去る。
それから、残ったチルノと妖夢、生き人形のアリスは二人の宗教家を連れて歩き出した。

「はあ、まあやっと一段落かなあ」
「……直ぐ次が始まりそうですが」
「……アンマリ、ヤスメナイカモ」
『……もう知らん……』



確かに、『地上は』一段落した。
が、空の追いかけっこは続いている。

ドガガッ

「逃がすかあっ!」
「……おっと、派手に撃ってくるね」

顔を引き攣らせて空を駆ける司教とそれを追うサリエル、が牽制弾を相手が回避した瞬間サリエルが加速する。
弾幕を横風で避けて、がそれで向うの速度が僅かに鈍った瞬間サリエルが背後から組み付く。
ガシリと司教の黄色の僧服に掴んだ。

「……捉えた!」
「おわっ!?」

サリエルが確保に笑い、司教が慌てたような声を上げる。
が、その時司教は見てしまった。

ニヤリッ

「っ!?」

引っ掛けを成功させたような、悪戯っぽい笑みが司教の口元に浮かんでいた。

「……なんてな、捉えたのはこっちさ!」

ブウンッ

司教はその手に握った鋲付きの大槌を『真横』に放つ。
それは一旦回転しつつ水平に飛んで、その後『気流の歪み』で強引に軌道を変える。

「ぬうっ!?」
「……『風』には一家言有るんでな!」

ギュオッ
ドゴン

「ぐあ、しま……」

大きく弧を描き、反転し戻ってきた大槌が揉み合う二人の方へ。
司教には当たらず、サリエルの背を打つ、そんな絶妙なコントロールだった。
着弾した大槌による衝撃でサリエルが再び離れた。

「はっ、場所を変えるといったが……逃げるといった覚えはないよ、堕天使!」

ブウンッ

すかさず司教が追い打ちを仕掛け、再び回転する大槌がサリエルの元へ投擲される。
慌てて彼女はロッドを横に構える。

「くっ、食らってたまるか……」

ギィンッ

月の装飾されたロッドが大槌を弾く。
だが、やはり先程と同じように、槌は気流で流されその方向を急転換した。

「なら……もういっちょ!」
「むうう、しつこい奴……」

さっきの光景をくり返すように、大槌が反転しサリエルに襲いかかった。
慌てて彼女はバッと翼を広げ、羽を一打ちして高度を下げ躱す。

「ふん、そう何度も……」
「……ちっ、二度は無理か、だが……」

だがその瞬間、ニヤリと司教が笑って『地上の方向』を見やった。

「十分だ、防御と回避で足が止まった……『下』の連中にはそれで十分さ!」
「何……」

ズドン

「えっ……ぐ、ああっ!?」

次の瞬間下から上へ、眩く光が瞬いて、『黄金の剣』がサリエルを襲う。
グラと大勢を崩し、きりもみ状態で彼女は落下していく。
ギリギリ地上寸前で羽撃き減速するも、そこで彼女は見たのはそれぞれ堕天使を追っていた二人の男女だった。

「……見つけた、また会えたな」
「……あの羽根、インデックスの予想通りか」

一人は以前やり合った仙人、もう一人は同宗教ながら別派閥の真っ赤な神父だ。

「なっ、何でここに……」
「おいおい、また会おうと言っただろ……黄金剣ジパング!」

この思わぬ乱入者に動揺するサリエルだが、それに構わず神子が先ほど叩き込んだのと同じ一撃を放つ。

「くっ、こんなところで足止めだと……け、結界を!」

ガギィン

「ちっ、だが……何だか知らんが、チャンスかな?」
「……話を聞いたいが、その前に無力化しておくか」
「ああもう、あの女の狙いはこれかっ!?」

慌て障壁で防ぐも、その間に神子とステイルがサリエルを包囲する。

「さあ……刃か」
「火か……」
『選べっ!』
「くうっ、絶対生き延びて……あの女を殴ってっやるうっ!」

堕天使が憎々しげに叫び司教を恨んだ、これだけならどっちが人でどっちが魔だかわからないだろう。
こうして全ては司教の計算(嫌がらせ)、『お前も苦労しろ』と言うように、見事に堕天使の足を引っ張ったのだった。





一応チルノと妖夢側は戦闘終了、敢て引いたのも居るが・・・
ある意味それぞれの立場が出てますね、各勢力はこれにて一旦手仕舞いと(まあ妖夢とか不満そうだけど)
次回は多少強引に話進めるかも・・・何というか『お約束イベント』というか・・・

以下コメント返信

九尾様
何だかチルノが聖女化してます、ああ不思議・・・遡ればマイペースな霊夢や魔理沙、最近は妖夢と同郷者が暴れる分綺麗に見えるのかも?
着替えシーンは、闇の有効活用ってことで・・・尚、衣擦れの音とか隠せてなかったりするので結構際どい、あっルーミアとインデックスがバクバ食って隠れるか。

ジグ蔵様
いえ、バレバレなのにツンなのが良いんですと力説を・・・乙女で且つ意地っ張り、割と本気でそれがチャームポイントと思ってます。



[41025] 第五話 狂信と敬心・八
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/03/14 21:08
ガヤガヤと段々と賑わう道々を、上条に番外個体に美琴、オルソラ達が間を縫うようにして駆けて行く。
先頭を上条、それから正確に一メートル置いて姉妹が続く。

「……ハグレるなよ」
「うん……人が多くなってきた、ああ祭りか」
「逃げるには好都合なんだけどね」

番外個体と美琴はそれぞれ浴衣と外套(教会で見られてるのと戦闘に備え着替えた)歩幅に合わせ揺らしつつ能力で警戒する。
そうしながら、二人は後ろに同じように駆け足で続くオルソラにも気を使っている。
だからオルソラ(純粋な研究職、体力は勿論並)の呼気の乱れを見逃さなかった。

「……お姉様、そろそろ一息付こう」
「そうね、ええと……前方三メートル、右側の建物の影ね」
「……じゃ、俺と御坂で先に見るから」
「お願いね、お姉様、先輩さん」

夏休みで(というか主に麦野のせいで)追手から逃げ『続ける』ことの難しさを彼等はよく知っている。
数で、あるいは様々な道具を使って本気で追う相手を(その場を逃れるのはともかく)完全に撒くことは難しい。
ある程度追いつかれた場合も覚悟し、その上でその時完全に対処できることが重要なのだ。

「良し、来てくれ、でゆっくり呼吸を整えて」
「……は、はい、そうします」
「あ、私もだけど……番外個体は『頭』休ませて、能力行使を一回でも多く出来るように」
「はーい、お姉様!」

逃げ続けで消耗するオルソラを(心身共に)休ませ、また能力の脳及び神経への負担を美琴達はこの間に軽くしようとする。
更に、上条達は三人の休憩を邪魔されないように、さり気なく警戒する。

「……表を見てくる」
「なら私も……『鼻』には自信があります、武器を持つ者は逃しません」
「助かる……ミサカと氷華さんは三人に付いてて」
『はいっ!』

とりあえず前衛ということで上条、それに人外の感知力を持つ椛が周囲の見張りに出た。
それと入れ替わるように10032号と氷華が三人の方へ、後衛なのと美琴の姉妹に友人だからだ。

「……とーま、私達はー」

そして、残る二人、暴食する『白』と『黒』の少女達(後者は容姿や服装でなくモヤで物理的に黒いが)が問いかけた。

「どーすれば良いかな?」
「ハグハグ、何すれば良いのかー?」
「追手が来たら嫌でも頼る、だから……食ってていいよ」
『はあい』

『白』い方、インデックスは魔術師に襲われれば知識を、『黒』ルーミアは戦力として頼ることになる。
が、追って追われての現時点では特に仕事は無いので好きにさせた。

「……あ、オルソラさーん、リンゴ飴要るー?」
「甘いし、喉も潤うよー」
「え、ええと、頂きます……」
「マイペースだなあ、いや緊張解してる?」
「天然か道化か、どっちも有りそうですね」

呑気に笑って二人がまだ手を付けてない食料笑って、困惑しながらオルソラが受け取る。
それでちょっと余裕が出たように彼女が笑ったのに、肩越しにその様子を見た上条と椛はううむと首を傾げた。

「……おっと、今のうちに、カラスでも躾けておこう」
「へえ、そんなことが出来るんだ?」
「ええ、使い魔無しでは広い山で難儀しますから……おや、妙に少ないですね、まるで『何か』を怖がって?」

何かの時に役立つかと椛が烏を集めようとし、そこで予想より数が少なく困惑する。
まるで『天災』やそれに類するから逃げたかのようで、『縁起でもないな』とその時は深く考えなかった。

「まさか、ね……」



第五話 狂信と敬心・八



睨み合う二人と一柱、先手を取ったのは堕天使だった。

「……邪魔だ、退けえっ!」

ここまでの邪魔立て、堕天の過去を覆す計画が滅茶苦茶で、彼女は怒りを込めて弾幕を放つ。
ズドンと大弾が二人目掛けて飛んだ。

「ふっ、それは……悪手じゃないかい?」

相手が選んだのは魔力頼みの攻め、激情も合わさり中々の勢いだ。
が、神子は冷静に、かつ逆利用する形で対処する。
バンと大弾に外套の裾を叩きつけ、更に外部から魔力を送り込み過剰に活性化させる。

ギュオオ
カッ

大弾は唸りを上げ暴走し、大弾が眩い程に輝き揺れる。

「そら、ド派手に……爆ぜろ、我等を隠す程になっ」
「むう、しまっ……」

ドガンッ

サリエルの弾幕が彼女の制御にない形で炸裂し、辺りに無差別に爆炎が広がる。
慌ててサリエルは三日月の紋章を刻んだロッドで払う。
が、そこで彼女は安堵する間も無く戦いの流れ、攻防が入れ替わる。
ブワと神子が外套を振るい、サリエルと同じように火を払ったのだ、それから一歩横に跳んで『赤い神父』が現れる。

「マグヌス殿、道は開いた、さあ……」
「了解、では……僕が更に焼いてやろう」

彼女に任せ、炸裂する炎に対処したステイルがルーン片手に入れ違いに前に出る。
古代ルーン、力有るそれが輝いて炎を吹き上がらせた。

ボッ

「まずは牽制……火よ、走れ!」

そのまま勢い良く、炎が生き物のように波打ってサリエルへと放たれる。
慌ててサリエルはロッドを突きつけ、その先端が輝く。
前方広範囲を薙ぐように、拡散弾幕で対抗する。

「炎か、口煩いミカエルを思い出す……相殺する、爆ぜろ!」

ドガガガッ

「ふん、これで反げ……」
「……反撃とでも思ったか、気が早いぞ!」

火の赤の次は、刃の白銀の輝き。
炎を防いだサリエルが行き着く暇もなく、炎と弾幕の余波を外套で払って、神子が一気に前へと踏み込む。
彼女は七星剣を肩に担ぎ、走る勢いも乗せて上段から叩きつける。

「距離は取らせん、はあっ!」
「ちいっ!?」

ガギィンッ

堕天使は舌打ちしつつ反射的にロッドを上へ、目の前で構えたそれと振り下ろされる白刃が十字に交差する。
が、神子の一撃は力の乗る上段と駆けた勢い相乗、グラとサリエルが押されて後退った。

「ぐっ……」
「さあ次だよ?」

すかさず神子がその体を捻る、構え直す時間も惜しいとばかりに今度は外套を大きく振り被る。
それから、その裾を広げて渾身の力で薙ぐように払った。

「そらあ!」
「ぐおっ!?」

サリエルが思わず呻く、これが構え直した武器の一撃なら彼女も体勢を立て直せた。
が、その前に不自然なところへの打ち込みで、半端な姿勢でロッドを構えるしかなかった。

ギィンッ

「弾いて、だが……」

その結果、サリエルが防御に翳したロッドが腕ごと明後日の方向に流れた。
彼女にとっては最低の状況、弾幕も撃てず、防御も出来ない、そういう体勢だ。

「う、不味……」
「ここだな、マグヌス殿!」
「わかっている、炎剣を……」

神子に大分遅れ、後方で魔力をルーンに集中していたステイルが前に出る。
彼の掌中で炎が燃え上がり、二三メートル程の火柱を形成する。
同時に、神子が素早く身を伏せ、サリエルまでの射線を確保する。

「……ふっ、『剣士』に『炎使い』、互いに組み易くて楽でいい……」

来る前に情報交換し、余りに出来過ぎた組み合わせに微笑んで、その横をステイルが駆け抜けた。

「行くぞ……氷の砲弾落とすなんて蛮行、『彼女のいる街』でこれ以上はさせない!」

敵である前にそういう『大事な人』を巻き込みかねない(まあ『歩く教会』があるので滅多な事はないだろうが)厄介な相手を逃す気等無かった。
至極個人的な事情から、彼は全力を叩き込んだ。

「このまま薙ぎ払う、喰らえっ!」

ボウ
ギュオオオッ

じゅうじゅうと大気を軌道上の水分を蒸発し不穏な音を立てながら、長大な火柱が真横に薙ぎ払われる。
サリエルが咄嗟にロッドを翳し、更に魔力で障壁を張るも咄嗟で魔力が集まり切らない。

「それでは溜めが足りない、無駄だ!」
「ぐ、おっ!?」

炎剣は触れた瞬間ゴオンッと莫大な熱量叩き込み、障壁毎サリエルを吹き飛ばす。
グルグルと翻弄されながら彼女がふっ飛んで、すかさずステイルが、更に神子が追った。

「……追撃する、遅れるな!」
「ああ、十七条のレーザー!」

ズドンッ

「ぐあっ!?」

咄嗟に翼を一打ちし躱そうとするも僅かに間に合わず。
ステイルが炎剣を崩し矢として放ち、並んで神子が閃光ばら撒き、赤と白の追撃がサリエルに直撃する。
ゴロゴロと今度は横方向に転がって、それから彼女は苦悶の表情で地に伏せた。

「ぐああ、貴様等……」
「さて、確保させてもらう、あるいは……ローマ側の弱みになるかもしれないし」
「ふっ、前回そちらが援護を受けたのだ、なら逆になっても文句は有るまい?」

方々勝手なことを言って、ステイルと神子が倒れ伏すサリエルを見下ろす。
ルーンから吹き出す炎を、輝く七星剣を突きつけられてサリエルが悔しそうな顔になった。

「くっ、ここまで……ここまでか、『あれ』を温存するのは!」

ギリと彼女は歯噛みする、まるで何かを覚悟したように。
それから彼女が両手を、先程の攻撃で朱に染まった両手を地に叩きつけた。
人とは違う色彩の血がブワと流れだし、『幾何学的な模様』を作り出す。

「何を……」
「不味っ、あれは……召喚の!?」
「来いっ、眷属よ……我が僕、幽幻魔眼!」

次の瞬間、空間から湧き出るように数体の巨眼が出現し、更に辺りに滅茶苦茶に弾幕を展開する。
全方位への攻撃に、慌てて神子たちが攻撃を刃や炎で払う。
だが、それは確かな隙となり、また反撃の機となった。

ダンッ

そしてサリエルが跳んだ、痛みを堪え跳躍した彼女は体を捻る。

「行くぞっ、合わせろ魔眼よ!」

ズドンッ

空中で体を回転させた彼女は水平に、ブーツに包まれた右足を魔眼の一体に叩きつける。
接触と同時に魔力を送り込み、更にそのまま蹴り抜いてそいつを神子達の方に蹴り飛ばす。

「術師としては攻略されたが……『拳闘士』としてはまだ、負けてはいないぞ!」

その四肢から振るわれる一撃は天界中に響く、伝説に歌われたそれを彼女は開放する。

「……邪魔だああっ!」

ドゴオオォッ

膨大な魔力を纏い、唯でさえ巨大な魔眼だったがそれは輝きを合わせて十メートル程に膨れ上がる。
分厚い壁が突き進んだかのように、回避を『物理的』に許さず、彼はそのまま神子とステイルを吹き飛ばす。

ガオオオッ

「うあっ!?」
「ぐっ……」

ザザアッと地面を滑って二人が倒れ、そこへサリエルが二度目の回転を始める。

「次だ、行けえっ!」

ギュオッ

再び体を捻った彼女が二体目の魔眼を蹴りつける。
ゴウっと加速し、彼は肩から落ちたステイルへ。

「くっ、ルーンが間に合わ……」

前以て仕掛ける性質のそれが手間取り、彼の反応が僅かに遅れる。

「下がれ、私が……詔承けて、必ず鎮め!」

咄嗟に、神子が横から割り込んだ、七星剣に霊力を纏わせて振り被った。
仙人の霊力で拵えた閃光と、堕天使の邪悪な魔力を纏う魔眼が衝突する。

ギリリッ
ガギィンッ

二つは一瞬競り合い、それから相殺した、七星剣の閃光が消え魔眼が明後日に跳ねる。

「くっ、どうだ……」
「いや……」

だが、その瞬間サリエルが三度加速する。

「まだだぞ、異教徒……最後の一発、喰らえええっ!」

彼女が空中で体を捻り、蹴り足を大きく振り被る。
間で待機する三体目の幽幻魔眼がユラユラと傍らで揺れる。
最後の一撃が防御直後で動けない二人に放たれようとした。

「これで……終わりだあっ!」

全身から魔力がゴウっと放出されて、その右足が振り抜かれた。

ジャラリッ

「っ!?」

その瞬間、サリエルは『不吉な音』を聞いた、視界の端に『黄色い何か』を見た気がした。

「……おおっと、そいつは勘弁してくれよ」
「ぐおっ……」

サリエルの体が攻撃態勢の途中で『停止』した。
必ず仕留めるという気持ちが裏目に出た、前のように『機械のように作業的に排除しようとする』ことが出来なかった。
だから、サリエルと『力の源を同じくする力』がその身を縛った。

「これは、ローマ正教の……」

サリエルが絶句の表情で、後方で手を振るう黄色いシスターを見た。
それは逆転しかけた状況がまた覆るということ、しかも幽幻魔眼をも窮地の中に有る。

「じ、冗談では……幽幻魔眼、退くぞっ!」

コクと頷き、彼等が召喚時と同じよう辺りに弾幕をばら撒く。

ドガガガッ

「……仕切り直す」

そうと決めれば欲張ることはしない、司教に加え神子達も直ぐに体制を立て直すだろう。
彼女は動けない自分を一体に運ばせて、一目散に逃げていった。

「……ま、こんなとこだな、捨て身で来られちゃ後に響く」

そうして、それを見送って黄のシスターが肩を竦める。
複数勢力をあわよくば衝突させる、その為に神子達が脱落しては困るのだ(兎に角やる気が無い、自分以外だけで片付けたいのだ)
貸し一つと、言いたげに茶目っ気たっぷりに笑ってから彼女もまた風を纏う。

「ローマ正教、君は?」
「……こっちも訳有りでね、まあ互いに上手くやろうや」

勝手なことを言い捨てて、神子達を残して司教も飛び立った。
その際に一瞬サリエルと『三体』の魔眼の後ろ姿を見てから。



カアッ

手懐けたカラスが椛に伝えた。

「一応戦闘が一段落したようです、どちらも無事です」
「ありがとう、椛さん」
「距離と移動速度から……チルノさん達は合流に十分程、太子の方は少し掛かりそうです」

友人の通訳、戦闘結果の報告を聞き、色々計算しつつ美琴が立ち上がる。

「……休憩は終わりね、そろそろ行くわよ」

美琴が自分の体を、そして妹とオルソラの様子を確認し十分だと立ち上がる。
それはやはりどこかお姉さんぶるような、上条が感じた通りのちょっとばかりの背伸びが感じられた。

「……御坂、頑張り過ぎじゃないか?」
「……いいえ、まだまだよ、こういうのに慣れてる私が引っ張らなきゃ」

上条が思わず心配し、が波乱万丈な経験と何かから逃げることの両方の意味で先輩だからと彼女が意気込む。
妹を、その友人を助ける為に彼女はやる気満々のようだ。

「……わかった、だが無理だけはするなよ」

彼女の意気込みを知って、これ以上は野暮だと上条はそれ以上の追求を辞めた。

「その、心配ありがとね、先輩」
「何だよ、水臭いな……うーん、それにしても……」

長い付き合いの二人が苦笑しあって、それから上条の方が関心した様子になる。

「ちょっと前までは正直……小生意気な妹って感じなのに、立派になったなあ」
「もう止めてよ、先輩……」

まるで兄か父のように、美琴の立派な姿に上条が微笑んだ。
それに恥ずかしがって、それから彼女はちょっとだけ不満を抱く。

「それより、私は……」
「御坂?」
「後輩や妹、とかじゃなくて……一人の女の子として……」

彼女がどこか顔を赤くして訴えて。
そんな会話を交わす二人を先頭に、一行は『小さな橋』を通った。

ドゴオンッ

その瞬間橋を破って『氷の船』が現れる。
水中から現れた(当然『匂い』が外に行かない、また仮に千里眼があろうが補足もされない)船からバラバラと血走った目のシスター達が現れた。

「女の子として扱って……おい、お約束過ぎない!?」
「……我等が天使が望んでいる、オルソラを寄越せえ!」

前を塞ぐように現れたシスターの一団がオルソラを見た。
が、彼女達の顔が一瞬で凍りつく。

「……良し、殺そ、もとい焦がそう!」

その前に、鬼のような形相で、全身から火花を放つ少女が立ち塞がった。
後ろで上条が後輩の怒りに『あちゃあ』という顔をした。

「おお、この怒りよう……以前好きなカエルグッズを先輩に壊された時以来、こうなると無差別だから皆逃げろおっ!」
『は、はいっ!』

ゴッゴゴゴッ

「邪魔してくれた報いは高いわよ、狂信者!」

咆哮し超能力者がダンと跳躍する、怒り狂った少女の一撃がサリエルの信奉者に襲いかかった。

「許さない、絶対に……許さないわよ、コンチクショウ!」
『ひいいっ!?』

ピシャンッ
ピシャンッ
ピシャアアンッッ



・・・て訳で超能力者がデレでなくてキレたところで次回へ。
堕天使編もそろそろ折り返しでしょうか。
『ツンからやっとデレる』・・・からの『邪魔物』とこの手のお約束でした、彼女が素直に成れるのはいつのことやら?
・・・因みに眷属と組んで露骨に強化されてますが、幻月夢月しかりユキマイしかり、コンビネーションが旧作ボスの本領としてます。

九尾様
最早妖夢は完璧不発弾、まあ原作初期の『斬れば解るからさあ切ろう』そのままなので当然か・・・うん、これはチルノとかでも中和できませんね。
敵同士の戦いは主人公側のとは幾らか毛色が違うと思うんです、性悪さ競り合いというか・・・但し、足止めと引き換えに堕天使が本気に成りましたが。
・・・因みに幽幻魔眼蹴っ飛ばしはサリエルのトラウマ、『旧靈夢』の陰陽玉への対抗策という設定。

AISA様
ええ、妖夢が幽幻魔眼及びその主をロックオンしました・・・が、堕天使も本気に、剣士と武闘家のルール無用のバーリトゥードが近いです。
で、チルノですが・・・もう前記事になりますが、同じインデックスの友達として魔術師達を結構受け入れてます、その身内だとあけすけな対応が良かったようです。



[41025] 第五話 狂信と敬心・九
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/03/26 18:52
グイッ

「ア、アニェーゼ……」
「司教、言い訳は?」

細ちっこい手が黄の装束を掴み、それに『司教』が苦笑した。

(……ううむ、困った困った、何か悪い事やったっけ主よ?)

見捨てたり囮にしたり、過去の所業を都合良く忘れていた。
そんな彼女を、何とか帰還したアニェーゼが恨めしそうに睨め付けた。
ジトリとした目に司教が一歩後退る。
車輪を背に立つ彼女はどこか圧倒的な何かが有る。

「ええと、運が無かったというか……」
「……見捨てておいて良く言いますね、司教様」
「ほ、ほら、何というか……あれだよ、私とアンタだけでしょ、立場上『現場』を仕切れるのって」
「だから、その二人が共倒れにならないように逃げたと……」

どう見てもキレ掛かってる、流石にこれは不味いと、司教は言い訳と共に煙に巻こうとする。
がそれは逆効果、アニェーゼの目付きが更に鋭くなる。

「だからって……『土壇場』でやりますか!ていうか囮でしたよねあれ!?」
「すまん……ぶっちゃけその通りだ、悪かったって……」

慌てて司教は平謝りし、それで相手がちょっと落ち着いたので更に言い含める。

「ほ、ほら、逃げれたんだから良いじゃんか……」
「良くないです、アンジェレネが捕虜に成りました!それに……あの女剣士の性格的に、見つかれば又斬りかかられますよ!?」
「い、いや、でもね……私たちは任務中だろう、愚痴よりどう遂行するか考えようよ」
「た、確かにそうですが……せめて『償い』をしてもらいます、司教?」

司教が今は任務中だと強調すれば、それで向うの詰問の勢いが鈍くなる。
だがその代わりに、司教にとって宜しくない方向に話が進む。

「償い?」
「……堕天使だ何だとややこしい状況、これではオルソラは追えない、だから……」
「だから?」
「『上』に『話』を通し、多少任務内容を弄る必要が有りますから……」

この言葉に、『利権等に煩い老人』説得(または脅迫)をという言葉に、司教がピシと固まった。
どう考えても面倒なことにしかならない、彼女の表情が青ざめる。

「堕天使を排除した上で目標確保は正直厳しいですが……最悪『比較的』マシな天草式に渡るのは覚悟し、堕天使勢力の牽制に集中する方向でしょうかね?」

謂わば保険、そちらで手一杯ならオルソラに届かずとも仕方ないと言いたげだ。

「え、ええと、それはお偉方がいい顔しないというか……」
「……『明らかな悪意』を持つ堕天使勢力、そこに暗号解読要員が流れるよりはマシだと説得してください」
「あー、私はしがない諜報員で……」
「その前に四人しか存在しない大幹部、上にもかなりの顔が利く筈ですが?」
「だ、だが、無理を言って睨まれて、今後の立場に影響する可能性が……」
「この件が解決しないとどの道問題になります、今動けば出血は少なく済むし、あるいは……
……『他のお二方』に話通せば結構何とかなると思いますが?」
「……それが一番嫌なんだよ、何考えてるかわかんないもん……」

一人では老人共の相手はキツく、確実に説得するには同僚の協力が要るだろう。
但しその場合、寧ろ借りを作るのが後々怖い(特に『赤』い方)
が、既に幾つかの被害、トラウマ(半霊とか)再発に部下の捕縛と踏んだり蹴ったりなアニェーゼは全く退かない。
『自分達』よりそっちは『まだマシだ』と言いたげに早急な行動を迫った。

「さあさあ……ご決断を、司教様」
「……了解した、上を何とかしてみる……」

ゲッソリした顔で彼女が頷く、大分悩んだが負い目も合って押し負けた。
そしてこの言葉に気を良くし、それからアニェーゼはもう話はここまでと車輪引き摺って走り出した。

「では、部下と合流し『他勢力の牽制』に行ってきます」
「あ、ああ……」
「上との交渉は任せました、それまで何とか現場は頑張るので!」

ダッと目を振らず駆けてって、(どこか大きく逞しく見える)その背を司教が微妙な顔で見送る。

(どっちが上かわからん、現場は現場で修羅場潜ってる、ってことかねえ……)



狂信と敬心・九



「許さない、絶対に……許さないわよ、コンチクショウ!」

ガア
ゴゴゴッ

少女が吠える、(滅多にない)デレを邪魔された怒りのままに能力を行使する。

「ひ、ひいいっ!?」
「不味っ、退避を……」
「駄目です、間に合わ……」

ピシャンッ
ピシャンッ
ピシャアアンッッ

『きゃ、きゃいんっ!?』

叫びと共に放たれた雷の連打がシスターに落ち、ある者は地に倒れある者は出てきたばかりの船の甲鈑に沈む。
広範囲への電撃で大半がブスブスと傷を負った。

「今のうちよ、皆!」
「はいっ!」

美琴が前で打ち続け、その間に番外個体がオルソラの手を引いて後方へ。
更に数人が周りに付く。

「……氷の船、属性が近い分水辺の移動は完璧か」
「インデックス、何かわかりますか?」
「うーんと、もう少し観察すれば……ああでも水辺はあっちが有利かな、『感知力』って意味でも」
「ふむ、川の上はそういう場所で、それとそこを『同じ宗教』の気配を持つ者が渡った……気づかれたのはそれだと?」
「多分ね、逃げる時は水辺に注意かな……まあ、まずはここを抜けるのが先だけど」

そう話す上条やインデックスの視線の先でシスターが立ち上がる。
彼女達は体を武器で、あるいは仲間同士で支え合っていた。

『ま、まだだっ!』
「……ちっ、しぶとい、いえ信仰心で立ってるというか」

ギラギラと妄執に輝く眼光に、美琴が面倒そうに舌打ちした。

「ええい、ならば倒れるまで……どれだけ意地を張ろうと限度は……」
「……させない、次はこちらだ!」

狙いを変えようかと美琴が考え、その前にシスター達が傷を押して反撃に出る。
それを見た美琴は咄嗟に電撃を『目の前を払うように』放った。

「大技には溜めが要るはず……」
「……おっと、それはどうかしら?威力を絞れば違うわよ!」

バチィッ

『うあっ!?』

紫電が瞬き、突進してきたシスターを阻んだ。

「……今のうちに下がって、っと」
「ま、待てえっ!」

トンと美琴が後方に跳んで、慌ててシスター達が武器を手に追う。
だが次の瞬間、美琴でもなく、シスター達でもなく、『どちらとも違う人物』が動いた。
青白く放電する羽をバサリと広げて少女が割って入った。

「おおっと、こっちを忘れて貰って困ります!」
「氷華さん?」
「……『地慣らし』します、使って!」

彼女は拳を振り被り、ブウンと足元に叩きつけた。

ズドンッ

「……っ、ありがと、使うわ!」

アスファルトが砕け、砂礫や建築材の破片が舞う、一瞬戸惑ってから美琴がハッと磁力を操る。
そして、視界を奪われたシスターに『即席の砲弾』を放った。

「痛みは耐えられても衝撃波ならどう?……うりゃああっ!」

ズドンッ

『ぐあっ!?』
「弾はまだまだ幾らでも有るわよ!」
「足りなければ適宜追加します、材料も……煙幕も!」

寄せ集めの金属塊が叩きつけられ、シスターが数人纏めて跳ね飛ばされる。
他のシスター達は立ち昇る土煙に苛立ちながら改めて美琴を包囲しようとする。
しかし、美琴はまるで『見えてるかのよう』に二撃目を放った。

「波長丸見え……次よ、とりゃあっ!」
『ぐ、ああっ……』

周囲の人間の生体電流を元に照準、それで追撃した美琴がニッと強気な笑みを浮かべた。

「このまま行くわよ!」
「ちいっ、ならば……」

その言葉に動揺し、それからシスター達が慌ただしく動き始める。

「仕方ない、散れ……半分残って他は回り込め!」
「……ああ、そう来るの、でも……」

これに美琴は少し顔を顰め、だがそれから同情する。
ザッと土煙裂いて、迂回しようとしたシスター達の前に『二人の少女』が立ち塞がった。
一人は『白』、全身白の装束のシスターで、もう一人は『黒』、全身モヤを纏いこちらは物理的にその色だ。

「ご愁傷様、こっちだって……仲間は居るのよ?」
「しつこいよ、術式介入!」
「氷華も頑張ってるし、いっちょやるかな」
『なっ、まだ敵が……』

ボンッ
ドゴオオ

インデックスが短く詠唱、それでシスター達の武器が数秒誤作動を起こす。
すかさずそこへ、ルーミアが弾幕をばら撒く。
広範囲に大雑把に、弾幕が降り注ぎシスター達が逃げ惑った。

「ぐっ、ま、まだだ、急いで体勢を……」
「……ガルルッ、させるか!」

撃たれ怯んだそこへ、『もう一人』の氷華の友達が鉤爪を振るった。

ザシュッ

鮮血が散って、シスター達の手が足が赤く染まった。

「ぐ、あっ……」
「ただの痛みなら耐えるようだが……四肢を裂かれて、それでも動けるか!?」
「こういう時は……物理的に動けなくさせちゃえば良いんだよ!」

そうやって近づいたのを片付け椛がニコと笑い、更に倒した相手から武器である片手剣を奪って構えた。

「……という訳で回り込むなら私が相手します……西洋の刃物は刀身が厚いし普段のにまあまあ近いか」
「天狗さんは頼もしいねえ……じゃ、私は下がって撃ってるからねー」

ヒュンッと(職場で扱う物に似た)分厚く重い刃を椛が威嚇するように振るう。
それに微笑みながらルーミアが次の弾幕を展開する。
二人が美琴達を無理に突破した場合の妨害する、そしてその様子を確認したところでインデックスが下がった。

「さあて、それじゃあ……次の割り込みは『船』ね」

バチバチバチイィ

「ああっ、何てことを!?」
「どう、これで援護射撃は出来ないよ……ホント迷惑、別派閥とはいえ教会がやらかすと肩身狭いんだからね!」

ニッコリ笑って氷の船を指差し、すると船が激しくスパークし始めた。
ギギッと戦場に向けようとした砲台が異様な音と共に軋んで、ビクともせず止まったそれに操作中のシスターが悲鳴を上げた。
インデックスは睨んでくるシスターに『あっかんべ』して言う。

「止めたいなら力づくで来るんだね、尤も……乱戦を抜けれるならだけど!」
「ぐっ、むむむ……」

戦場隔てて、奥からインデックスが悪戯っぽく笑う
何せ乱戦は二箇所、美琴と足止めのシスター、更に椛達と迂回組みの二つを超えねばならないのだ。
向うが凍りついたように固まって、その間にインデックスが更に下がった。

「……て訳で、迷ってる間にとうまとミサカお姉さんに合流!」
『はい、お疲れ様』

悠々と彼女が後退し、それを『最初の奇襲』からオルソラ達の護衛に回っていた上条とミサカが迎えた。
それぞれ一か八かに総攻撃に備えて幻想殺しを構え、あるいは最悪時の逃走用に煙幕を用意していた。

「……三人で直掩か、状況変わるまで……」
「ええ、それが宜しいかと」
「わかったー、次の術式介入の準備しとくね!」

ある意味夏休み最初の事件以来の面子(まあ迎撃に出たチルノと人形は居ないが)、慣れ親しんだ間柄だけに判断は早かった。

「ま、今回は御坂に譲ってやろう……正直、俺の右手は隠しておいた方が良い」
「……だね、追手がまだ居るなら見せるのは早いかな」

そんなことを言い合う更に向こうで、最後の護衛として番外個体が立っている。

「皆、慣れ過ぎでしょ……オルソラ、大丈夫?」
「え、ええ……え、あれ、あの方々は学生ですよね、何なんですかこの国!?」
「……いや、学園都市だからとしか……」

余りに戦い慣れてる美琴達にオルソラが首傾げ、苦笑しながら番外個体が答える。
彼女は呆れたように笑いつつ、シュルシュルと組紐を浴衣に固定するよう引っ掛ける。
動き易いよう浴衣の上を襷掛けにしついでに裾も捲った。

「これで走り回れるかな、少しはしたないけど……オルソラ、そっちもやってやろうか?」
「え、ええと、じゃ、じゃあ頼みます……」

今のうちにと彼女はさっさと準備を整え、その後オルソラの分も軽く調整してやる。
ミニスカっぽくお揃いにしたところで、番外個体は戦場を見渡し首を傾げた。

「見た感じサリエルってのは居ないが……隙を伺ってるのかな?」
「うーんと、天使の魔力は感じないけど」

この問いに、前で構えるインデックスが小さく首を横に振った。
警戒しながら答えた彼女に、戦場からも声が飛ぶ。
金属塊でシスターを吹き飛ばしていた美琴が、奪った剣で各個撃破する椛がそれぞれの方法で索敵結果を口にする。

「……それらしい電磁波も無いわね」
「匂いもです、水周りならわかりませんが」
「ふうん、足止めが上手く行ってるのかな……」

チルノ達に神子が上手くやったかと、インデックスがふうと安堵の息を吐いた。
だがその後暫ししインデックスが、それに続いてオルソラが、教会に所属する二人がある知識を思い出す。

「……いや待って、元とはいえ天使なら……」
「え、ええ、眷属を従えてる筈ですが」

ゾクという悪寒を思考に応じ抱ていく。

「本来なら、獅子といった権威的な象徴性を持つ鳥獣を……」
「ですが、堕天した今なら……」
『……魔性を従えてるのでは!?』

二人は気づき、可能性を思わず叫ぶ。
そして、それと殆ど同時に様子見から帰還した『カラス』が椛に叫んだ。

ガアッ

「……戦闘中に眷属を召喚した、ですって!?」
「不味い……新手が来るよ、皆!」

召喚の意味、戦場に突然現れる眷属ということの意味に気づいたインデックスがハッとする。
それに気づいて彼女が叫んで、と同時に電撃でフラつきながら回り込んできたシスターがニッと笑った。

「ふん、もう遅い……お手を煩わせることは避けたかったが」

ガリと火傷の痕に爪を立て、それから自らの血を塗りたくった手を地に押し付ける。
すうと指先を滑らせ、幾何学的模様をそこに描いた。
そして、それがカッと輝いた。

「我等信徒の血を、それを呼び水に……来たれ!」

空間がまず揺れ、それからゆっくりと割れる、突如そこに虚空の穴が開き何かが迫り出してきた。
ギロと『巨大な眼』が世界を、人を睨んだ。

「さあ、我等が向うを押さえるから……行って!」

空間が引き裂かれて(しかもそこは美琴を抜けいて)更に近くの椛達には召喚で勢いを取り戻した信徒が向かっているから誰も止められない。
そいつは透き通り、が段々と確固たる姿を取って、オルソラを手に入れるべく再び動き出す。

「不味い、完全に……召喚される!?」

ギロと巨大な瞳でオルソラとそれを守る者を睨んで、『後詰め』の幽幻魔眼が現れようとしていた。

「ふ、ふふ、オルソラを奪え、堕天使の眷属よ!」
「あ、ああ……」
「くっ、下がって!」

シスター達が勝利を確信し笑い、オルソラが後退り番外個体が慌てて前に出る。
そして、インデックスがビッと『召喚陣を指差し』、上条とミサカが左右に付いた。

「とうまにお姉さん、暫く護衛を」
『了解!』
「……その術式に、召喚に介入します!」

ピシィッ

その瞬間召喚が突如乱れ、陣が揺れて召喚速度が行き成り鈍くなった。

「そうか、貴様は……イギリス清教の禁書目録!?」
「もう遅い、それに『あの二人』を抜くことも……『スペルインターセプト』!」

上条とミサカ、二人の護衛でシスター止められずに妨害を完成させ、召喚陣が行き成り『狭まる』。
閉じようとするそれに眼球が慌てて飛び出す。
だが、必死に跳んで無防備となった彼に『三条の鎖』が飛んだ。

「むっ、送還は無理か、でも……足は止まったよ、押さえて!」
『任せて!』

ジャララッ

『三人の能力者』が金属を練り集めて鎖の形で放ったのだ。
鎖の一つは前に出ていた美琴が肩越しに、別の一つはインデックスの隣のミサカが銃と逆の手から投擲した。
そして、最後の一つは『着慣れてない浴衣の少女』がその手に握っている。

「オルソラのとこには行かせない、だって……ミサカが『ミサカになって』初めての友達だもの」
「そういうこと、私達が相手するわよ」
「無視していけると思わない事です」

末っ子とその姉達がふっと一見ニコヤカに微笑み、ゆっくり腕を翳してバチと紫電を瞬かせた。
心優しいシスターを堕天使の魔手から救う為に。

「堕天使とかその復権とかどうでもいい、でも友達を狙うなら……」
『そして、妹を悲しませるのなら……』

バチイィッ

『……黒焦げになってしまえ』

ピシャアアンッッ

三人が叫び、その日最大の轟音が鳴った。




「おっ……あの音、派手にやってるみたいだね」

額に手をやってチルノが遠くを伺うようにする、派手にやってるようで楽しそうに笑った。
が、その後ろで捕虜にランス突き付け歩かせていた人形が頬を膨らませる。

「チルノチャン、テツダッテヨウ……」
「おっと、悪い悪い」

捕虜のアンジェレネを人形とチルノ(と天草式の少女)がワイヤーで一生懸命引っ張った。
それで一人が悲鳴を上げ、二人と一体は苦心しながら前進を再開した。
尚、妖夢だけは一人武器の点検をしている、借りを作りたくないので誰も手伝えとは言わないが。

「……エッホエッホ」
「そいやそいや、てか?」
「むうう、ワイヤー食い込んでキツイのだけど」
「ふうう、協力者だからって扱き使うなあ……」
「ほうれ、頑張れー、頑張れー」
『いや半霊、あんたは手伝……あ、やっぱ良いです』

(元々ボロボロなので支えの意味もあるが)アンジェレネを強引に歩かせて一行は戦場に少しずつ近づいていく。
激しい戦場を乗り越えて、友人達を助けるべく彼女達は新たな戦場に向かうのだった。




・・・この回の主役といえる『姉妹』のシーンを描いて今回はここまで。
ある意味本題といえる部分ですね、末っ子である番外個体の変化がわかり易いし。

以下コメント返信
九尾様
いや頑張ってデレる美琴とそんな所への邪魔者、所謂『お約束』が書きたくなって・・・尚多少キレようがお姉ちゃんらしくフォローする気は残ってるようです。
で、突っ込まれたインデックスですが・・・何だかんだ魔術師相手なら働きますよ、だからというかやはり後で又暴食するんですがね・・・

TEN川様
ええ、当然というか幾つもの障害が入ります、多分この話の後も・・・でもジリジリしつつも今の気楽な(友情寄りの)関係を楽しんでるところも有るかも・・・

あおとまと様
正直力関係の都合が大きいです(未プレイで動画見た程度ですが)サリエルより設定も実際の弾幕も大分格下のようで『素』の魔眼は余り強く書かないと思う。
あ、足りない一体はシスター付きでした、単独ですが話的には中ボスですね。



[41025] 第五話 狂信と敬心・十
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/04/04 20:43
狂信と敬心・十



『……っ!』
「来るか!」

三方向からの鎖が『フワフワと浮かぶ目玉』、幽幻魔眼に絡みついて、だが彼も黙ってる筈もなかった。

ジャララッ
ギロリ

数秒鎖を引き合い、それからまず『幽幻魔眼』が、続いて一瞬後に美琴が動いた。

「っ!」
「……甘いわ!」

ガギィンッ

魔眼が大弾で一番近くに居た美琴を狙うも、咄嗟に振るった『砂鉄を練り固めた刃』が払い落とした。
ばあと弾幕が両断されその断面から光となって散った。
すかさず、美琴が姉妹達と連携し反撃に出た。

「合わせて、二人共!」
『はい、お姉様!』

美琴にミサカ(10032号)、そして番外個体が相手を捉える『砂鉄性の鎖』に直に電撃を放った。

『行けっ!』

バチィッ

紫電が伝播し魔眼の体を焼いた。
それで倒れるまでは行かないが、人外の二三メートル程の巨躯が僅かに揺れる。
堕天使の眷属が悲鳴を上げ、シスター達が動揺する。

「ギッッ!?!?」
「不味いっ、眷属の援護を……」
『……させない!』

だが、そこへ上空から『三人の少女』が割って入った。
さっきまで美琴を援護していた氷華が、その左右に付いた椛とルーミアが広範囲に弾幕をばら撒いた。

「駄目です、御坂さんのところには……行かせませんよ!」
「ええっ、足止めならば手数重視で……ルーミアさんも良いですね?」
「まっ、腹ごなしには丁度いいかな」

氷華がバサリと雷光の翼を薙ぎ払い、椛がクルクルと渦巻き状に弾を降らし、ルーミアが黒い大小の弾幕を挟み込むように飛ばす。
ドンドンと三人掛かりの弾幕が放たれ壁になった。
魔眼の援護に向かおうとしたシスター達がその前に足踏みする。

「ぐっ……」
『……更に、前進!』

ゴウと『光の壁』が容赦なく押し潰さんと迫った。

『ひっ……うわああっ!?』

ズズッと壁がシスター達に襲いかかる。
逃げ遅れた者は跳ね飛ばされ、武器で防御した者は一気に押され、それを見て回避した者も大きく距離を取らねばならなかった。
そして、それは魔眼の援護が失敗し、彼が孤立したということでもある。

『ふっ、勝機!』
「……っ!?」

氷華達の奮闘に美琴と姉妹が戦意を燃やし、更に強力な電撃を叩きこもうとする。
その様子に気づいた魔眼が慌てて魔力を放出する。

「っ!」

ガギィンッ
ガギィンッ

彼は力任せに魔力を叩きつけ、自身を拘束する鎖を砕いていく。
だが、最後に残った番外個体の鎖はそれが間に合わない。
何故なら、彼女はニッと笑い『敢て』鎖を自壊、衝撃と飛散した破片が至近距離から魔眼を襲ったのだ。

「ミサカ、結構やれるのよ……お姉様の次位に、ね?」

バンッ

「っ!?」
「ふふ、牽制には丁度いい……今だよ、お姉様!」

衝撃で魔眼が揺らぎ、金属片が僅かに食い込む。
すかさず『姉達』が、砂鉄の刃を持った美琴が、専用仕様の小銃を構えたミサカが仕掛けた。

「更に牽制を……掃射!」

バララッ

まず動いたのはミサカ、フルオートでばら撒かれた弾丸が魔眼を襲う。
慌てて彼は高度を下げ、がそこへポンと『黒光りする球体』が『二つ』時間差で放られる。

「甘い、二段構えです!」
「……っ!?」

ドゴンッ

まずは通常の手榴弾、ギリギリで魔眼は気づいて魔力の壁で防御する。
だが、本命は(ある意味で)次だった。
ブワと真っ白い煙が辺りを埋め尽くす、煙幕用のグレネードだ。

「有効ダメージは無しか、あわよくば程度でしたが……ですが視界を封じれば?」
「っっ!?!?」

魔眼が一瞬動揺し、そこへ『真紅』の外套が翻る、妹の援護を受けて美琴が相手の懐に飛び込んだのだ。

「……良くやったわ、後は私が!」

妹達にコクと頷きかけて、それから美琴は『銃撃で地に降ろされた魔物』を睨む。
ここぞとばかりに、彼女は砂鉄の刃で斬りかかった。

「(どう見ても、小回り無さそうだし……)なら、接近戦で仕留める!」

ジャキンッ

四肢もなく浮かぶだけの(しかも今は目の前だ)、機と見た彼女が砂鉄の刃を振り被る。
それに慌てて魔眼が魔力を放ち、迎撃の弾幕を展開した。

「……っ!」

ドガガガッ

勢い良く辺りに放ち、美琴を追い払おうとする。

ダッ

が、美琴が更に加速する。

「……甘い、『見えてる』わよ!」

ギロと彼女と、彼女の妹達と、合わせて『六つの目』が弾幕を鋭く睨んだ。
キラと首に巻いた黒いチョーカーが輝く。

「(脳波同調、演算……)はあっ!」

ガギィンッ

大振りの、だけど計算『し尽くされた』斬撃が数度閃き、その度光がバッと散る。
規模の差こそ有れその能力は同一で、『一瞬だけ繋がった』彼女達は精密な計算の元『弾幕の全て』を切り払った。
更に、彼女はそのまま一歩踏み込んだ。

『っっ!?』
「……で、お返しよ、はああっ!」

ヒュン
チチッ

刃が風を切って、『眼球の下部』を掠め僅かに赤く染める。
今度は魔眼が間に合った、再び高度を上げ回避したのだ。

二イッ

「成程ね……」

だが、攻撃が不発なのに美琴が笑った。

「っ!?」
「そこで回避を選んだ、つまりは……接近戦が不得手ということ!」

主は武闘派でも眷属は違う、それに気づいた彼女は笑って『刃を後ろに回す』。
そして、そこへ短く折った浴衣を揺らした番外個体が跳んだ。

「『跳ぶ』よ、お姉様!」
「ええ、行きなさい、番外個体!」

ダンッ

砂鉄の剣を足場に一気に跳躍し、空中で彼女はダイナミックな飛び蹴りの体勢へ。
そして、バチバチと鳴る足先を突き出し突っ込んだ。

「うりゃあ、喰らいなっ!」
『っっ!?!?』

ドゴオ
バチィッ

靴の先端が相手にめり込み、更にそこから直に雷光が伸びる。
幽幻魔眼の巨躯が揺れ、彼はジュと傷跡から煙を吹きつつ勢い良く吹っ飛んだ。
そのまま横方向に飛んで、彼は弾幕戦で罅だらけのアスファルトに叩き付けられた。

ズダンッ

「っ!?」

魔眼が一瞬目を白黒させて、それから慌てて逃げようとする。
辺りに弱々しく弾幕を放ち、巻き上げた土煙に紛れこもうとした。

「……」
『逃がすか!』

悪足掻きめいた魔眼の行動、すかさず美琴と番外個体は追撃に出る。
煙幕の分遠距離は無駄だろうと二人は砂鉄の剣を手に、止めを刺そうとした。

「逃がさない……」
「これで……」

一度左右に散って、それから互いにフォローできる位置取りをしつつ二人は煙幕の中へ。
直ぐに影を、そこに潜む魔眼らしき影を見つけて斬りかかった。

ジャキンッ

『止めをっ……』

そこで、二人は『重なるように』四体の魔眼が隊列を組んでいるのを見た。

「……」

ギロ

『……』

ギロッ

赤黒い人外の血が魔眼の周りに飛び散って、幾何学的な召喚陣を描いていた。
そこから現れた三体が傷ついた魔眼を囲み、また斬りかかろうとした美琴達を迎撃体勢で待ち構えていた。
彼等が同時に弾幕を放った。

ヒュッ
ブウン

『……なんてね、回避!』
「っ!?」

しかし弾幕は空振りした、『10032号の砂鉄製ワイヤー』が美琴達を引き寄せたことで。

「……残念、インターセプト……と、よく出来た妹であり姉であるミサカがアピールです」
「夏休みの事件と完全に逆だな、あん時は横から乱入してくる連中に振り回されたけど」
「いやあ慣れたもんだねえ……」

後方でミサカと上条とインデックス、何時もの面子が慣れた様子で言った。
そして、それを背の方で聞きつつ空中で美琴と番外個体が改めて攻撃準備を済ませる。
美琴が首のチョーカーを撫で、番外個体も米上に手を当て意識を集中する。
バチバチと二人の周囲で紫電が瞬く。

「先輩達、慣れ過ぎでしょ……ま、まあ、それは兎も角行くわよ!」
「はい、お姉様……全力で行っきまーす!」

二人が手を合わせると、その中に雷光が収束する。
ピシャンと一度鳴って、それから巨大な雷の十字架が美琴達の掌中で輝いた。
ビシと突きつけられたそれが向かうのはまるで先程の仕返しのように、『弾幕直後で硬直する魔眼達』である。

『お返し、纏めて……吹っ飛べえっ!』

ドゴオオォォッッ

手加減無しの反撃の雷光が飛んで、四体の魔眼を纏めて吹き飛ばした。
ギッと短く悲鳴を上げて、彼等が地面に横倒しになる。

「止めよ……番外個体?」
「うん……次、行くよ!」

諦め悪く相手が身じろぎし、だがそこに二人の姉妹達は容赦無く追い打ちする。
再度十字架を作り出し、振り被った。

「これで……」
『最後おッ!』

バチィ
ドガンッ

最初に轟音と衝撃、それから派手に粉塵が舞った。

「……」
「や、やったの、お姉様?」

ブワと巻き上がる土とアスファルトの破片が魔眼達を覆い隠す。
戦闘経験の少ない番外個体が自信無さそうにし、そして美琴が鋭く粉塵の奥を睨む。

「……ちぇ、『まだ』か」

彼女はその目に、『深い青』を、フワリとした質感の夜空に似た色彩の『青い翼』を見た。
まるで優しく労るように、魔眼達を覆うようにしていた。

「召喚で割り込んだ……もう少し演算援護、頼むわね」

ダッと顔を顰めた美琴が走り出す、その手にバチと小振りの十字架が輝く。
同時に向うにも動きが在った、翼を閉じて『月型の装飾品でその身を飾った女』が拳を握る。

「サリエル、だったかしら……やああっ!」
「正解だ、異教徒……はあっ!」

ガギィンッ

美琴の十字架と、翼の女、『堕天使サリエル』の拳が衝突した。
互いにギリギリと押し合って、それから互いに弾かれ後退する。

『ちいっ!?』

ダンッ

二人が同時に退る、美琴は妹達とオルソラを庇う位置に、サリエルもまた魔眼と信徒の前に立ち塞がるように。
そして、間合いを取り直した二人がそれぞれの得物を再び突き付ける。

「……続けるかしら、堕天使さん?」
「言ってくれる、だが……」

彼女は美琴を睨み、そこでバキという音がした、十字架が砕ける。
だが、同時にサリエルの腕が、十字架を受けた右腕が崩れる。
『即席の信仰』で設えた器が限界を迎えたのだ。

「ちっ、まだ戦える、戦えはするが……」

そして、そこで『白』が間に入った。
それを見たサリエルが複雑そうな顔になる。
何故なら『天使だった頃の彼女』ならば敵に成る筈がない相手だったから。

「……そういうの、良くないと思うんだ……ねえ、『ウリエル様』?」
「……イギリス清教か」

白いシスター、インデックスがサリエルの前に立つ。
戸惑いと呆れ、そして僅かに混じる敵意、インデックスに睨まれたサリエルは一瞬動揺する。

「そのような目で見るな……ど、退け、シスターよ」
「お断りします、貴女が追う人は友達の友達だから……そちらこそ御下りください、『ウリエル様』」

堕天使が僅かに俯く、あくまで天使だった頃の名で呼ばれその度に胸が引き裂かれるようだった。

「……その名で呼ぶな、私は天使ではないと……堕天使のサリエルであると、貴様達が決めたのだろうが!」
「それに関しては申し訳ありません、でも……その行動は目に余る物が有る、これ以上はお止めください……」

理不尽な堕天、教会の罪についてサリエルが非難する。
だが、それを認めつつも、インデックスは毅然と前に立ち塞がり何とか思い直させようとする。
一人のシスターとして、彼女はサリエルの行動の是非を問うた。

「シスター・オルソラ、ただ教会の弱みになり得る暗号が読めるだけで……追い回し、手中に収めようとする、それの何処に義が有るのです!?」
「……それに関する策謀は元々教会側だ、我は便乗しただけだ……」
「ならば、後で教会に同じ言葉を掛けましょう、ですが……先の問い、まずはお答えを……」

サリエルが睨み、だがインデックスは一歩も引かず問を繰り返す。
非力な、知識が有るだけの『ただの人』に、だがサリエルが射竦められたように凍りつく。
彼女はグッと睨み返し、あくまで己の望みを口にした。

「私は……この機会を逃すつもりはない、退いてもらう!」
「ならば……私は貴女の前に立ちます、術式介入!」

サリエルが叫んで弾幕を構え、が一瞬も遅れずインデックスがビッと指差す。
その知識、そこに記された天使の『業』を解析し、自然に魔力の流れに割り込むことで妨害する。
ボロボロと弾幕が崩れる。

「ちっ、なら、魔眼よ、囲んで……「もういっちょ、介入!」ぬうっ!?」

魔眼を向かわせようとしたところで、インデックスが再度指差す。
但し今度はサリエルでなくその奥、既に妨害で沈黙し切っていた氷の船だ。

「まだだよ、『元』大天使……船よ『自壊』せよ!」

ボンッ

船が崩れ、砕けた氷が破片と鳴って辺りに舞う。
キラキラと輝くダイヤモンドダストが、サリエルと魔眼達に、そしてその信徒に襲い掛かった。

「さあ『選択』を……このまま戦いますか、それとも……」
「……ちいっ、信徒は見捨てられんか……」

オルソラを追うか信徒を庇うか、この二択に彼女は数秒悩んでから後者を選んだ。
神子との二度の戦いで消耗し、先程の攻防で片手も失ってもいる。
力の源である信徒は失えないと、悔しそうな顔で魔眼と共に信徒達を庇う。

「信徒よ、我と我の眷属の後ろに……」
『は、はいっ!』

彼女はシスターを後ろに、眷属と共に魔力障壁で吹き荒れる吹雪を払った。

「……ええ、今の貴女ならそうするしか無いですよね、でも……」

すると、それを見たインデックスが少しだけシスターらしくない、人の悪い笑みを浮かべる。

「念には念を入れ、『削る』ことにします……貴方に信徒がいるように、私にも仲間がいるんですよ」

ヒュッ
ドガガガッ

その直後『青』が上を過ぎた。
そして、空から『氷塊』が落ちた。

「くっ、これは……」
「うん、ナイスタイミングだよ……ね、チルノ!」
「おう、パーフェクトフリーズ!」

弾幕が追加され、更に勢いを増した氷の嵐にサリエルが顔を引き攣らせる。
フフとそれにインデックスが笑って、それからプイとサリエルから『反対』の方を見た。

「さ、行こうか、皆……これ以上は『捨て身』で来るから引き時だよ」
「ふうむ、必死で来ると、まあ仕切り直すには丁度いいが……『納得出来た』?」
「……うん、残念だけどあの方は止められない、言葉で説得するのは無理かな」

本来ならば信じるべき人への宣戦布告である。
そのことに心配する仲間達にペコと頭を下げ、上条達も俯くインデックスにそれ以上言わなかった。
何だかんだ最大火力の美琴達が消耗してるし、あくまで『オルソラの護衛』が最優先なのだ。
それに『不当に堕ちた存在』と殺し合うことへの『迷い』も有った。

(ちょっとキツイかな、そんな相手とやるかやられるかなんて……)
(後味悪すぎ……インデックスの判断に従っておくのが良いか)

一行は少なからずそう思った。
まず番外個体がオルソラの手を引き、その左右に美琴と氷華が、そして上条にミサカに椛といった消耗の少ない組が『殿』に立つ。

「……倒して、終わりじゃないか、仕方ないな」
「ええ、そうねえ、これ以上は……」
「では……離脱します、走って!」

ダッとこの場はお開きと決めて、一同は走っていった。
そして、最後にインデックスが最後尾から叫んだ。

「堕天使よ、あくまで続けるのなら相手します、但し……『腹背』に同時に『敵』を抱える、そういう不利な戦いをする覚悟があるなら……」
「……その時は『最強のあたい』も相手してやるから……」
『覚悟が有るなら……来い!』

走り去るインデックス、頭上から飛び去るチルノが同時に叫んだ。
腹背には敵勢力、それに『追いながら追われる』、そういうある意味『危険な賭け』を望むなら返り討ちにしてやると。
そう一方的に向うは叫んで、それから弾幕を必死に防ぐサリエル達を残して去っていった。

「ちっ、これ以上続ける余力はないか……皆の衆、まず態勢を立て直すぞ……」
『は、はい!』

悔しそうに辺りを見渡し、それからサリエルは眷属と信徒達へと声を掛ける。
その怒りに怯える信徒を連れ、サリエル達は前へ、だが慎重に進んでいく。

「ちっ、もう止めろだと……今更だ、今更……今更過去を諦められるものか……」

深く突き刺さるインデックスの言葉を持て余しながら。



パタパタと氷の羽が揺れて、撃つだけ撃ったチルノが友人(プラスアルファ)に合流した。

「おうい……帰ったぞー、かみじょうやインデックス達を逃してきたよ」
「オカエリッ、チルノチャン!」
「ふう、何とか一段落か……」

彼女の言葉に人形のアリス、それに道すがら合流したステイルが安堵する。
その後ろでも、オルソラ逃走に捕虜組、五和とアンジェレネもほっとした顔だ。

「ふうう、良かった、ならこれからですね」
「……ま、堕天使の手に渡るよりマシか」

そして、最後の二人、ある意味で問題児が笑った。

「ふふっ、つまりまだ終わってはいないということ……」
「切り損ねた目玉共、まだ挑むチャンスは有るか……」

神子が(堕天使と一勝一敗)そして妖夢(言うまでもなく逃げられたのを根に持ってる)、二人の剣士が勢い良く手を突き上げた。

『雪辱するぞ、おー!』
(着いてけねえ……)



・・・てな訳で後半戦、再び追いかけっこ(但し二重構造の)開始です。

以下コメント返信

九尾様
実はインデックスが居るだけで魔術戦は有利から微有利、悪くても互角ですから・・・しかもここなら歩く教会付き、加えて天使相手の舌戦担当と今回の主役の一人ですね。
で、御坂達ですが・・・遠距離限定なら『魔眼付き』サリエルでも圧倒し兼ねません、流石に近距離じゃ分が悪いけど・・・戦意全開な分今までで最も凶悪火力かも。

黒々様
いやあ自分でもそういうのに頼り過ぎとは思うのですが・・・げ、原作再現だし、後『メリハリ』は必要ですから・・・



[41025] 第五話 狂信と敬心・十一
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/04/24 16:45
ザッと、紅い神父が『妙に閑散とした街』を油断なく見回し進んでいく。

(……ローマ正教に堕天使、さてどうなるかな)

神子と共に一時共闘し、その後一度合流したチルノ等と離れた彼は『不自然なまで静かな街』の特に『静かな一角』に向かう。
つまりは『戦場と成り得る地』に広く掛けられた『隠密用の魔術』の中心地だ。
所謂『人払い』と言われるそれは暗示や意識誘導の合わせ技で、人々を自然に仕掛けた陣の外へ行かせるという物だ。

「……こちらだな、が剣戟の音は無し、となれば終わったか?」

既に人気の街を彼は進む、その間『無人』の屋台を幾つか見つけ少しだけ済まなそうな顔をした。

「そういや祭りだっけ、中止じゃ大損害だな……ああ、インデックス達が来たのはそれかな」

それ目当てに来た友人達を思い少し同情し、その後そう思うのは早いと思い直す。
堕天使を止めて、オルソラが収まるべき所に収まれば人払いは解かれるのだから(多少時間的に慌しくなるだろうが)

「うん、そこに僕が行けないのは癪だが……まあ頑張ってみるかな……」

後処理で共に祭りを楽しむことは難しいだろうが、それでもインデックスが喜ぶならと彼は気合を入れ直した。

「……で、それそれとして……『酷い』なあ」

そんな風にやる気入ったところで人払いの中心、人の目が会ってはならない、つまり魔術師の睨み合いの中心地に着いて『鬼』を見た。

ドゴッドゴッ

「ぐぎゃあだニャ!?」
「退けえっ、土御門!」

(多分止めようとした)土御門が(マウントを取った)神裂から一方的に殴られていた。
普段は冷静な神裂だが嘗ての仲間達の状況、加えてそこに乱入した堕天使の情報にはそうで居られなかったらしい。
その結果が仲裁役からサンドバッグに成っているもう一人の仲間の姿である。

「ま、待って、止めるニャ、姉やん!?」
「ええい、邪魔です、土御門……天草式の援護に行かねば!」
「い、いや、駄目だって……実働戦力のトップのアンタが動くのは不味いから!」

ドゴッドゴッ

説得に構わず土御門がボコられて、その様子にステイルは嘆息する。

「これは酷い……え、ええと……」

正直もう放って置きたくなったが、そうは行かないと彼は事態を把握しようとする。
まず(巻き込まれるのは嫌で、土御門には悪いが)一旦修羅場から視線を逸し、周りを見渡す。
すると全身甲冑の男達が『ワイヤー』に絡み取られていることに遅まきながら気づく。
恐らく十字教を終わらす暗号に危機感を持つ強硬派、オルソラ捕縛に出たらしき騎士団、神裂にやられたと思われる彼等に話し掛ける。

「……大方神裂だろうけど、短絡的な行動は避けて欲しかったよ……『互い』に」
「だが、暗号解読を可能とするオルソラ・アクィナスは無視できん……少なくとも外部組織には渡せない、そう判断した」
「確かにそうだけど……なら、尚更堕天使には渡せないだろ、『その線』『だけ』なら妥協出来ると思うが?」
「まあ、な……」

同一組織内なら談合、というか『妥協点』を探れないこともない、だが教会に恨みを持つ堕天使はそうも行かない。
身内で取り合って、その隙を堕天使に突かれる訳にはいかないと。
そう最悪の可能性を上げれば(不承不承だが)脈ありの返事が返った。

「堕天使を何とかする、それまでは……まあ、不本意だろうが組めるだろう、違うかい?」
「ふむ……我等はどうすれ良い?」
「……騎士団の真骨頂は連携による『広域への魔術運用』……街一帯から人を遠ざけて欲しい、出来るなら護衛も込みで」
「……了解した、人払い及びその護衛、確かに承った」

暫し悩んでから、堕天使が居る状況で仲間割れは出来ないと、そう判断した騎士が迷いながらだが頷いた。
意固地なところのある騎士とはいえ、それでも騎士として巻き込まれるだけの弱者に思う所があるようで、ステイルの手で開放された彼は仲間を説得しに行く。
そして、ステイルはそれを見送り、それから神裂達に改めて話しかける。

ドゴッドゴッ

「いい加減に倒れろ、土御門おっ!」
「ぐはああっ、は、早く説得するニャ、ステイル!」
「……ああ、そうするよ、正直巻き込まれたくないが」

まだまだ彼女は怒りが収まらず(一瞬殴り飽きるまで待とうと思ったが)流石にどうかとステイルは神裂を止めようとする。
彼女の肩を掴み、怒りでブルブル震える彼女に出来る限り優しい口調で話しかけた。

「落ち着け、神裂」
「何を落ち着けと!?」
「き、君が動けなかったのは……イギリス清教の実働戦力トップの君が、『同じ宗教』と戦う可能性があったのが問題だからだ。
『暴走する騎士を止める体』なら言い訳出来るが、『同じ宗教』に仕掛けるのは論外……内外共に『刺激』するという意味で!」
「……続けなさい、ステイル」
「実働戦力トップの君が『同じ宗教』に殴りかかる……それは『唯でさえややこしい状況』を刺激するんだよ」

十字教終焉とされる暗号と実際に解読し得るシスター、それに魔術師達は理由こそ様々だろうが注目しているだろう。
そこで更にイギリスで有数の実力者である神裂が動いたとして、それはその事実だけで火種になりかねない。
もしそうして、その中で殴られたローマ側が切れれば問題だし、イギリス清教とローマ正教の勢力争いを別派閥や他の組織が介入の機会を見なす可能性もある。
唯魔術師同士が戦うというだけでなく、『同一組織の別派閥』が戦う『心理的な影響』こそが問題だ。

「なら、どうしろと!?」
「……なあに、『堕天使に限れば』別なんだ、『ローマ正教』にも話を通す必要があるがね」
「何?」
「……土御門、よく抑えてくれた、おかげでやっと彼女を動かせる……」

ステイルの言葉に訝しそうにし、そこへステイルがすかさず畳みかける。
問題なのはイギリス清教とローマ正教なのだと。
聞く気に成った神裂が拳をやっと止めて(顔面腫らした土御門がガクと崩れ落ちて)、ふうとステイルが安堵する。

「……ステイル、どうすれば良いのです?」
「ああ、要は『向う』も『手』が欲しいはず……違うかい?」

チラと『街』を見て、それから彼は『自分達以外』へと問うた。
空でヒュッと風が吹いて、『黄色い女』がステイルを見下ろしていた。

「どうやら、僕等と堕天使を削り合わせる算段らしいが……それは戦力温存の為だろう、一時的にぶつからない保証が有れば……」
「……後でぶつかるにしても、それなら吝かでないねえ」
「ああ、天使の利用にしても『最後』に残るのは困る筈……そもそもイギリス清教とローマ正教と天草式の問題で、『堕天使』の存在は余分だろ?」
「確かにな……良いだろう、『細かい条件』を詰めていこうか」
「そうだね……神裂に関しても条件次第ってことで(……最悪十字架授与で、天草式は下部組織の『体』で庇うか……)」

その行程で互いの有利不利はあるだろうが(実際、条件決めはその押し付け合いで)ステイルの言葉に黄のシスターも乗り気だ。
まず堕天使を何とかしようと、それだけは考えが一致して一同は静かなペースの握り合いを始めた。

(ま、後は互いに納得したら総力戦で……それまでは今回の『主役達』に頑張って粘って貰うかな……)



第五話 狂信と敬心・十一



ワラワラとシスターが集う、堕天使の信奉者たちに『三人の少女』が嘆息した。

「……わあ、沢山来るね」
『笑い事じゃないよう……』

浴衣を来た茶のセミロングくらいの少女、番外個体(ミサカワースト)が感心と呆れの混じった感想言って、それに『引きつり顔な二人』が答える。
それぞれやや色彩の異なる『白』、番外個体の『上』の姉と下それぞれの友人達である。

「わう、体力有り余ってますから……私達で時間を稼ぎましょう」
「……同じ宗教者のことを考えて欲しい、凄く肩身が狭いんだけど」

グッと拳握って温存した分やる気な椛が、身内の不始末にちょっと怒ってるインデックスが番外個体の隣で身構える。

「……とりあえず先制攻撃ね」
「ええ、後は流れで」
「大雑把だなあ……あ、『足』を用意しないと」

三人は大まかに仕掛け方を決めて、ふとインデックスがそこで一つ思いつく。
にこにこと悪戯ぽく笑って、それから椛の頭を撫でた。

グリグリ

「インデックスさん?」
「……えーと、こうして……こうか、さあ変身だ!」

ボフンッ

「わふっ!?」
『わあ、カワイイ!』

次の瞬間『二メートル程の毛玉』が出現し、その背にピョンとインデックスと番外個体が乗っかる。
その後ビッと敵、集まる信奉者を示し、『強制で変身解除された』椛がまたかという顔になった。

(な、何でまたこんな!?……そういや佐天が元凶か、後で文句行ってやる……)

ガクと力無く項垂れ、一秒後一転して半ば自棄で椛が走り出す。
タンと近くの壁を駆け上がり、ダッと更に屋根の縁を足場に跳躍する、まるで一陣の矢のように落ちゆく陽へと。



濃い青の翼、夜空の色に似た羽の天使が信奉者に指示を出す。

「……隊を再編しろ、各個撃破を避けるべく広げ過ぎないように!」
『はっ、承知しました、サリエル様』

彼女の半ば怒鳴るような言葉が傷ついたシスター達を動かす、傷を押し動き回る彼女等の顔は皆必死だ。
堕天使に見捨てられないように、誰もが心細そうにしている。
が、チラと『それと同じ』感情を堕天使の顔が掠めたのをシスターは気づかなかった。

「戦意は高い、だが……何時まで持つ、いや何時まで『着いてきてくれる』か」

一瞬だけ、天から理不尽に落ちて傷ついた『不運なる使徒』がそこに居た。
だけど、それは一瞬のことで、再び天に昇るべく策謀を巡らせる堕天使の顔に変わる。

「……ちっ、弱気になるな、あんな悪法等に負ける訳には……そろそろ日が沈む、少し不味いかもしれんな」

弱気に成りかけた心を『嘗ての為政者への怒り』で覆い隠し、それから落ち行く日を見て顰め面になる。
夜になれば夜目の効かないシスターは動かし難く、また人外とはいえサリエル自身もそれが飛び抜けている訳ではない。
だが、そこでサリエルは『先への懸念』に心を奪われてしまった。
キラと、陽の赤に一筋の白が煌めいた。

「……何だ?」

オオオォォンッ

咆吼が響いた、味方を鼓舞し、そして敵を威嚇するかのような圧倒的な迫力の一声である。
ヒュンヒュンと『旋回する誘導弾』を引き連れ、巨大な『白狼』が沈む陽を背に落ちる。
ズンッと勢い良く、サリエルと信奉者の中心に降下した。

オオオォォンッ

「ふふっ、別に逃げ続けるとは言ってない……さあ削ろうか」
「夜戦を意識した……寧ろ狙い目かなって、思うんだよね?」
「ちいっ、シスター達よ、回避しろおっ!」

狼の背で番外個体達がニコニコ笑い、サリエルは激昂し叫びそうになりながら仲間達を案じて叫ぶ。
彼女達は慌てて魔法具の武器を構え、直後旋回する誘導弾が解放される。
『シスターの防御』が一瞬遅れ、やむを得ず天使は前へ踏み出した。

「彼女等はやらせん、はあっ!」
「へえ……」

ブンとまだ無事な(右腕は美琴との攻防で失われ)左腕と翼を振るい、弾幕を防げるだけ防ぐ。

(……やはり、貴女も天使なんですね、ウリエル様)

インデックスがどこか憐れむような目で見て、その先でサリエルが仲間を庇う。
その拳で砕き、広げた翼で払い、幾らかを体で受け止め、半数程を彼女は食い止めていた。

「……とはいえ感心してる場合じゃないか、先行して、椛さん」
「ミサカ達で援護する……後で拾ってね」
「フウウ、ガルルルッ!」

一瞬だけ感心し、それからインデックスと番外個体が椛から飛び降りる。
それぞれ敵の魔術を妨害し、また銃器(姉の貸し出し品)牽制し、それを背に受けながら椛が四肢を活かし一気に加速する。

ダンッ

「来るか……容易くやれると思うな!」

踏み込み牙を剥く椛に、サリエルは握り拳を向ける。

「シャアアッ!」
「……当たるか、そんなもの!」

サリエルが身を屈め、更に翼を閉じて敢て動かず迎え撃つ。
ガチンと喉元で咬み合う牙をスウェーで躱し、それからまず踏み込みからの拳打を、続いて薙ぐように回し蹴りを放つ。

「はああっ、だりゃああ!」
「ギャウッ!?」

拳が相手の額を打って、更に突き出した爪先によって胴の毛が弾けた。
フラと椛の体が揺れる、がそこで今度は椛が反撃に出る。
一瞬沈んだと思えば、次の瞬間地を這うような動きから『サリエルの右』に回り込む。

「がうっ!」
「ちいっ!?」

ガギィンッ

失われた腕の方から振るわれる鉤爪、慌てて体を捻って膝で防ぐ。
が、弾き飛ばした椛の口元が笑みの形に歪む、僅かに天使の血で濡れていた。

「……死角狙いか」
「わふっ」
「前に後ろに『敵』……のんびりとしてられない、狙うのは当然ですよね、ウリエル様!」

腕の無い側への攻撃に歯噛みし、それに勝ち誇るように獣が小さく吠える、後方でシスターを妨害するインデックスがするように代りに叫ぶ。
更に、彼女達はもう一つ、『サリエル対策』を考えていた。

「……末っ子ちゃん、お願い!」
「……見かけは逆だと思うけどね、うりゃ!」

バチィ

番外個体が手の中で雷光を弄ぶように輝かせ、それからそこに圧縮収束させた光球を浮かべる。
その先には銃撃と白の少女の妨害で足止めされるシスター、更に続いて椛も弾幕を展開する。

「フウウッ!」
「なっ、まだ……」

白い鼻先をすうと一払い、軌道に沿い弾幕の帯が敵の数だけ浮かんで、それと鉄のムチにサリエルが顔を引き攣らせた。
そして、そんな彼女を哀れみつつ、インデックスが術式介入で『召喚陣にのみ』絞って妨害する。

「これは……貴様等、まさか……」
「もう一度選んで、ウリエル様……仲間か、自分の身か!」
「むうう、消耗は……有るが、見捨てる訳には行かぬ……」

ダッと、サリエルが椛への攻撃を諦め、更には温存をも諦めて仲間を庇う位置へ。
神子との二連戦、そして前回美琴との撃ち合い、消耗した身を押して彼女は『自分の最期の信徒』を選んだ。

「やらせん、はああっ!」

拳と両翼、ドンドンドンと三度続けて振るって光弾と電撃を払い落とす。
バラバラと二つが砕けて散って、それを為したサリエルが『透ける拳』を引きつり気味の表情で引いた。

「ちっ、これは……」
「貴女は堕天使、その身を構成する信仰が他に劣る、だから消耗し易い……それで何時まで保つんです?」
「……まだ信仰は有る、信徒達がそれを捧げてくれる……ならばそれに応えるのみだ!」

遂に限界が、四度目と成る戦いでその底が見え始めた、同情するような言葉にサリエルがまだやれると言い返す。
が、そこでインデックスはある意味で『止め』となる言葉を掛けた。

「ですが、その最後の信仰……健全な『信じ方』、『仰ぎ方』ですか」
「何を、言って……そんなこと……」

ギシと『狂信者』を連れた堕天使の動きが止まった、言葉が重りのようにその身に伸し掛かる。

「信仰とは信じること……ですがこのやり方にはメリットとデメリットが存在します」
「……何が言いたい、イギリス清教のシスター?」
「……メリットは例えば『上位存在の知覚』、あるいは『価値観の共有』……前者は辛い日々の支えとなり、後者は信徒同士での連帯感に繋がります」

インデックスはそこで一瞬言葉を切って、それから痛ましい顔で堕天使と、次にその後方に庇われる『狂信者の群れ』を順に見る。

「デメリットの方は……先のメリットの混合であり、歪んだ形……『優越感から成る排他的思想』、俗に狂信者が自身の無条件の肯定に使います。
……ウリエル様、貴女の信徒は『それ』に当て嵌まっていませんか?」
「……馬鹿な、そんなこと有る訳が……」

最後の言葉に、サリエルはその身をギクと体を強張らせる。
彼女は何とか言い返そうとし、がインデックスはその前にプイと後ろを向いた。

「……よく考えてくださいね、ウリエル様……末っ子ちゃん、合図!」
「はあい、信号弾はどこだっけと……」

最後に警告のように言い、その後番外個体に発光する弾丸を頭上に撃たせる。
するとそれを合図に『青』、そして『金』が空に浮かんだ。

「チルノ、人形さん!」
「オッケー……何か今回コレばっかな気がするけど、パーフェクトフリーズ!」
「ワタシモー……トリャアッ、『書』50パーセントでイケエッ!」

ドガガガガッ

「くっ、また逃げる……それより剣士達が居ない?まさか出待ちとでも言うのか!?」
「さあね?……狂信と、その人の在り方を良しとし『信じ』『敬う』のは違うから……」

再びチルノの、更に今回は生き人形の援護射撃が降り注ぐ。
その間に椛は拳打の位置から跳んで、更にはインデックスと番外個体を背に乗せて走り出す。
一瞬サリエルは追うか迷い、だが結局信徒は見捨てられず残ることを選ぶ。
インデックスの妨害が消えて、自由になった眷属とともに氷と光の雨をサリエル達は不正だ。

「シスター達よ、魔眼と共に守る、下がれ!」
「は、はい、サリエル様!」
「……お前達、変なことを聞くが……私を信じてくれるか?」
「勿論です、サリエル様……十字教無き世界、そこに『変わらぬ地位』を作ってくれるという……『選ばれた』ことを誇りに思います」

それは一見全面的に認める言葉、だがサリエルは一瞬だけ辛そうな顔をする。
何故なら、それは実質『利』で繋がっていたから、加えて『他者』を軽んじる歪んだ価値観だったから。

(そうか、お前達は嬉しいと……私に選ばれたこと、自分だけ利益を得ることを……『慈悲の心の対極』を嬉しいというか)

それは正しく狂信者が狂信者である理由、『行き過ぎた』一つの教えへの盲信だ。
社会的な生物である人の本質、協調性を捨てた上で逆に寧ろ誇ってるようだった。
だから容易く傷つけられる、容易く相手の命を奪う、容易く踏み台に出来る、『そんな者達』ばかりが周りに集まっていることに今更ながらサリエルは気づいた。

「ああ、不当に落とした者等を節穴と恨んだが……私もまた『そう』だったのか」

彼女は力なく天を見上げた、奪い合いを制する為に信徒の操り易さにのみ注視し、それが如何なる理由だからか気付けなかった。
利用しているつもりで、寧ろ彼女達はサリエルを利用している。
慕って信仰してるのではなく、利益から信仰を『恵み』、その力を自分達の都合のいいように『貢がせている』のだ。

「一方的な思いだったか、だが今更……今更止められぬ……」

そんな者ばかりなことを悔んで、が彼女は『天』を諦められなかった。
ここで下がれば、法の書から手を引けば、天使への道が遠ざかってしまう。
自身の手段を選ばなさに自嘲しながら、彼女は辺りの気配を探る。

「……魔力、それも二種の魔力?」
「これは……片方はローマ正教、それと……」
「天草式とやらか……」

何時の間にやら、『近からず』『遠からず』そういう位置に付かれていた。
まるで『組んだ』かのようで、だが敵だった彼等が『直接』そうなる訳はない。

「……誰かが仲介したのか、そんなまさか、だがそれしか考えられぬが……」

それは『捕虜』と『強制出向者』、それが『一箇所』に集まった故のある意味奇跡だった。
ローマ正教は『捕虜が(偶然に)聞いた情報が流れた』という体で。
天草式は『派遣した部下から情報提供された』という体で。
立場から公然とは組まないが、その実綿密なタイミング合わせで仕掛けの機を伺う。

「……奴等、まずこちらを狙う気か」

サリエルが唸り、信徒達が震え、それに構わず二つの勢力が一定距離を保ちつつ包囲する。
『切欠』と共に彼等は動き、『決戦』と成るだろう。

「……何時、いや動くのは……『どこ』だ?」



その頃、オルソラとその護衛達はスポーツドリンクや炭酸飲料で軽く一息ついた。
そして、まず一番慣れてる様子の上条、次にやや遅れて美琴が口を開いた。

「ようし、反省会するぞー」
「そうね、敵が居ない内にやっとこうか」

休憩後唐突に、彼等は日常並に軽い口調で話し始めた。

「ぶっちゃけると、俺が前に出れば『目玉』は潰せた気がする……オルソラの護衛はインデックスだけで十分だったし」
「それを言うなら……私の方でももっとやれたわ、シスターの方を減らすのに気を取られすぎたと思う。
無視して目玉を、あるいは本体を狙うべきだった……狙いが散漫で、『場当たり』的な攻撃に成ってたわ」

反省会、そう言って言い訳を彼等は口にする。
が、内容はどこか『結論有りき』のように第三者に聞こえた。
というのも、『保護者』としての彼等は割りと『切れていた』。
先程の反省は『名目』であり、それを理由にし『敵に標準済み』、つまりは非保護者である番外個体の敵に狙いをつけたのだ。

『だから次は……サリエルを積極的にボコりに行きます!』
「切り替え早っ!後何気に怖いこと言ってる?」
「き、気持ちはミサカもわかりますが……お、落ち着くべきだと思います!」

友達を守る番外個体に感動し(ヘタすれば彼女以上に)燃えてる二人に比較的冷静な氷華とミサカが震えた。
当然彼女等も助けたいと思っているが、それ以上に目上として妹分の為に頑張ろうという気持ちが足されていた。

「ようし、俺の右手の温存も十分だろうし……次は俺が突っ込むぞ!」
「なら、先輩が崩したところで私が撃つわ……今度は片手では済まさないわよ!」
『おおうっ、凄いやる気だ……』

オルソラを守る為に、その為に頑張る番外個体を助けるべく、二人は尋常でない戦意を燃やした。
宣言と共に、無能力者と超能力者が揃って拳を突き上げた。

「準備だ、御坂!」
「ええっ、先輩!」
『……打倒堕天使、オルソラを守るぞっ!』

尚その肝心のオルソラは管巻いていた、鬱憤晴らしのつもりで缶チューハイ(低アルコール)片手に愚痴っている。

「わ、私、未来に遺恨を残したくなかっただけなのに……」
「大変だねー」
「暗号だって今なら『解く方法』も何か在った時備える『十分な戦力』も有るから、だから他が動いてないうちにって……」
「うんうん、大変だねー」
「……なのに、上は臭いものに蓋的な発想だし手段とか選ばないし、酷いと思いませんか!?」
「うんうん、そうだね、大変だねー」

幻想郷育ちだけに、この手の相手に慣れてるルーミアが作業的に付き合っている。
一頻り言い切れば本人は収まるだろうが、ルーミア程慣れてない氷華達は聞いてるだけで気が滅入ってくる。

「……どっちが『闇』か、わかりませんね」
「ま、まあ、少量ならストレスとか紛れますから……皆さん、番外個体たちが戻ります!」

氷華のつぶやきに苦笑気味にミサカが答え、その後接近する電磁波で妹の帰還を確認した。
静まった町並みを番外個体とインデックスを背にした椛が駆けてくる。
そのことに一同安堵し、それから『決着』の気配に緊張した表情になる。

「大分削れたし……そろそろ底が見えるはず、『仕掛け時』だな」
「ええ、行きましょう」

前回はサリエルの乱入に面食らったが、もう種は暴かれ通じない。
上条等を中心に、一行は錯綜した局面を『詰ませ』に向かった。

「それじゃ、堕天使に引導を渡すか……ま、可哀想だが向うの未練を『失くさせる』べきだな」
「番外個体、10032号、オルソラさんを守りなさい……その間に問題は全部『失くさせる』から」
『は、はいっ、お姉様!』

上条と美琴の宣言に、番外個体とミサカ10032号が真っ青な顔で敬礼した。



・・・『法の書』編・十二に続く・・・



番外・・・第五話・裏『ある女の不幸な日』



上条と美琴が吠えたのと同時刻、『風紀委員(ジャッジメント)』が『違法能力者』を追っていた。

「絶対、逃さない……ですの!」

風紀委員の白井黒子が自慢の転移能力(テレポーテーション)を大いに発揮する。
向うの手には学園都市にのみ存在する『超高性能演算装置』、その破片入りケースが握られている、外や管理外の研究者に渡れば致命的だと風紀委員が派遣されたのだ。

ガギンガギンガギンッ

「神妙にする、ですのっ、そこの……サラシ女、ていうか痴女!」
「うっさい、誰が……捕まるかっての!」

黒子が転移能力で追いかけ、同じ能力の違法能力者は拵いながら逃げる。
その違法能力者は『色気のある肢体にサラシ巻いて』『上に制服をジャケットのように羽織る』という奇妙な格好をしている。
能力のレベル自体は同じようだが、精度やその効果範囲は相手が上らしく、黒子は苦心しながらも根性で食い下がる。

ガギンガギンガギンッ

「逃さないっ、ですの!」
「ええいっ、しつこいわねえ……」

互いに転移能力で、相手に『直』にダーツや刃物、更には周囲の瓦礫片等を送り込む。
急所こそ双方躱すも、二人の四肢は穿たれ血で朱に染る。

『……いい加減倒れろ!』

黒子は相手が格上であることに、違法能力者は格下を中々な倒せないことに、苛立ったように叫んだ。
特に『サラシの女』は能力差が有りながらも、食い下がる黒子に理不尽な怒りを覚える。

(暗部は上の都合で勢力図が切り替わる、『夏休みのように』……そんな不安定な地位から抜けるのに『手段』を選んでいられないってのに!?)

彼女は学園都市でも希少なテレポーターとして(裏に近い位置ではあるが)重宝されている、しかし夏休みの上層部の『切り捨てっぷり』に恐怖もしている。
『演算装置』は上の都合で左右されるような生き方から抜ける為のものだ。
まず資金を荒稼ぎし、また演算装置紛失の混乱に紛れ学園都市を出るのだ。
だからサラシの女、結標淡希は痛みを闘志に変えて能力行使をした。

「……私の、邪魔しないでっ!」
「くっ、何て気迫……」

ザシュッ

上への恐怖と、自由への渇望と、二つから成る激昂が黒子の反応と防御を超える。
結標が自身の腕に刺さったダーツを抜いて、黒子に肩に打ち返した。
ブワと流れる血が常盤台の制服を赤く侵し、痛みに黒子が倒れ掛かった。

「……あうっ、やるですの……」
「ふふっ、どう……決まりでしょ、もう諦めなさい」

結標は幾らか余裕のある笑みを浮かべて相手を指す、投降を促そうとした。

「……それは、少し早いと思うですの」

が、それに対し黒子が笑みを返した。
まるで、もうその任務を終えたように。

「確かに押されましたが、十分『粘った』筈ですの……」
「……はあ、何を言って?」
「そろそろ来る、ですの……覚悟しなさい」

その言葉に結標が訝しみ、慌てて周りを見渡す。

「援軍?時間稼ぎ!?……いや、私を捕まえるならそれこそ『超能力者(レベル5)』でもないと……」

警戒しながら、だが結標は自分の能力から(ある種過信し)悪足掻きと思おうとした。

(『彼』も『彼女』も、『あの得体のしれない連中』も来ない筈だけど……)

未だ彼女は疑いと過信の中、何故なら自分を脅かす相手の不在を狙っての行動だからだ。
現在学園都市に居る超能力者は一位三位五位六位で、そのうち性格的に敵になり得るのが一位三位だ。
だが、『三位が友人と学園都市を出た』ことを結標は知っているし、同じく『第一位が何らかの持病か寝たきり』であることも調べてある。
そしてそれ以外、夏休みから学園都市に出没する『異能の持ち主たち』は自分から学園都市の問題に踏み込まないというのも確認済みだ。

「そ、そうよ、『彼』も『彼女』も、『あの得体のしれない連中』も……誰も来る筈が……」

カツンカツンカツン

絶対来ないと、大丈夫だと思うとした瞬間だ、ゆっくり近づいてくる足音が響いた。
ボウと白い影、まるで幽鬼のように一人の男が現れる。
『最強』が不機嫌そうに口を開く。

「あァ見つけたぜ……」
「えっ?」
「手前だなァ、俺の眠りを妨げるのは……一回死ンどくか?」

ゴウッと、怒りの形相の一方通行がその手にプラズマを作り出した。
ジッと余熱ですら目を背ける熱量に結標が目を見開く。
そして気づく、今なら弱体化したから来ないだろうと、来ても十分勝ち目が有るから大丈夫という考えが甘かったことを。

「これはあれか、弱体化としても……『元』が桁違いすぎるから無意味ってことかあ……」
「そうだな、今更だけどなァ……」
「……ですわね、例えばエベレストと富士山の高さ、例えばバイカル湖と支笏湖の深さ、差はあれど『普通の人』からすれば無意味かと」

がたがたと信じられない光景に結標が震え、それを睨みつつ一方通行が黒子を立たせてやる。

「手酷くやられたようだな、風紀委員」
「正直キツイですの……駄目元の電話、『前回の風紀委員体験』で聞いといた研究所への『メッセージ』間に合いましたか」
「おう、正直助かったぜ……演算装置を持ってかれるとこっちの研究に支障が出そうでなァ」

一緒に仕事をした縁と利益の一致、それがこの理不尽な大逆転劇に繋がっていた、勿論黒子の粘りも大きいが。

「さあて……潰すか、早く眠りてェし」
「ひ、ひいっ、理由が酷すぎる……」
「知るか、ミディアムレアだ!」

ズドンッ

「ぐはああっ!?」
「少し焦げとけ……貴重な能力だしキープしといてやる、悪いようにはしねェよ」

こうして、自由を目指した女の企みは『理不尽なる八つ当たり』で呆気無く崩れたのだった。
ブスブスと焦げて倒れて、それをゲシと踏んだ一方通行が面倒臭げに知り合いに連絡する。
結標程の高能力者は表の手には余ると『アイテム』を呼び出す。

「きゃいん……」
「……おう、ちょっと来てくれ、高能力者を一人預かってほしい」
「……何から何まで、ありがとうですの」
「次はこっちの手を煩わせンじゃねェぞ?」

厄介事は纏めて裏にと、暗部送りが速やかに決定される(風紀委員的に口出ししたいが減罪の奉仕活動と考えた)
報告に支部に戻る黒子を見送って、そこで一方通行だが待ち時間中に『一通のメール』を受けた。

PiPiPi

「……あァ、シスターの軍団に堕天使だと?」

直ぐ様読んで、その後訝しそうに唸った。
研究所から、シスターズの『SOS』に、彼はまだ本調子でない頭脳を可能な限り回転させる。

「……サラシ女送って、その後アイテムに足を借りるか……テレポーターなら早速『一仕事』か?
それと……『暇そうなの』何人か見繕えば良いだろ多分」

体調的に自ら出る気には成らないが、代りに一人か二人『学園都市と無関係の連中』を送ることを彼は決めた。




・・・追いつ追われつをもう少し続けるつもりでしたが、流れとしてはこのまま締めても自然でしょう・・・
後何だか不憫なサリエルですが・・・シスターに幽幻魔眼(所詮悪魔だし)『一度』も主を守ってません、後者は一応連携はしてますが。
で、次回からクライマックス開始、ただ一応話自体は決着はつきますが・・・一人か二人、今後の為に多少尻切れ蜻蛉な終わりになるかも(伏線の関係で色々と・・・)
あ最後の某テレポーターですが・・・考えたら御坂さんと学校関連のエピが遠いのでいっそ飛ばす事になって、煽りで強引な消化になったというか正直悪かた・・・

以下コメント返信
九尾様
但し挟まれるべき『吸血鬼』は学園都市でだらけてます・・・悪ノリは兎も角として、英気養ってる剣士共が地味にオッカナイことに成るかも。
それとサリエル、というかウリエルは良心が捨て切れてないというか『寧ろ彼女から』『貢ぐ』側という・・・ええはい、ある意味『不本意に祭り上げられた』神輿。

Doo様
いや聖女と貪欲娘、それが両立するのが彼女ですから・・・並べると割りと魔性のヒロインな気がしてきた・・・



[41025] 狂信と敬心・十二(完結編・上)
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/04/24 16:46
『堕天使』とその信徒が眼下に、敵対者への警戒か緊張の表情で隊列を組む。

ギロリ

『……諸共に、切って捨てよう』

狂信者達を『金髪』と『銀髪』の剣士が冷たい目で見下ろす。

「……行きますか」
「ええ、我等で……道を切り開く」

チャキッ

鯉口が切られ、刃が陽光で輝いた。
神子と妖夢、二人の剣士が動き出した。



「……決戦、て感じだニャア」

同じく集合する堕天使等を、路地の影から土御門が伺う。
彼は太刀とルーンを入念に準備する仲間に問いかける。

「……準備はいいかい、お二人さん?」
「問題有りません」
「ああ、何時でもやれる」

この問いに、神裂とステイルが戦意万全といった感じで頷く。
そして次に土御門は後方『別勢力』を見やる。
その先頭で真新しいフランベルジュを、更に十字槍やその他武器を『針鼠』のように武装した男が居た。

「そっちは……聞くまでもないみたいだな、天草式」
「おうよっ……何の因果かこうして共闘なんて不思議な気分ですよ、『教皇』」
「……神裂でいい、今はただの戦闘要員ですので……期待してますから、建宮」

嘗ての師弟がニッと笑い合い、それから得物を構えた。
太刀とフランベルジュが堕天使とその信徒に突きつけられた。



「……ふん、どいつもこいつも『やる気』だね」

そして、三つ目の勢力も堕天使達を遠巻きに伺っていた。
黄色い装束『司教』が呆れる横で、武装シスター軍団もまたやる気だ。
中心で小柄なシスター、隊長であるアニェーゼが拳を突き上げる。

「皆行きますよ、どの道オルソラ確保は難しい……せめて堕天使を妨害して最悪を防ぐのです!」
『はいっ、アニェーゼ隊長!』

もう半分諦めて微妙に自棄に成っていた。
それでも堕天使相手に戦って、(その功績で)粛清だけは免れるようにしようと彼女達は後ろ向きに戦意を燃やす。
そんな貧乏くじなシスターに、司教は同情したように慰めを口にした。

「ああ、まあ……私から上に言っといてやるよ、だから諦めるなって」
「信じますからね、司教!」

ガシイっとアニェーゼ初めシスター達が抱きつく。
少し前まで裏切りに怒っていたのに、そう司教は苦笑した。

「はいはい、出来るだけ何とかするから……てか暑苦しい、離れてくれ。
……私はもう少し『上』を説得してみる、『後処理』も考えないといけないだろうし」
「……はい、お願いします」

『オルソラ関係』も含む処理、可能な限り寛大な処置を、上層部に通すと司教は別行動に出る。
ふとそこで考え、彼女はその間際に、ポイと大槌をアニェーゼに放った。

「……アニェーゼ、貸してやるよ、一般構成員の支給品よりは上等だろ」
「か、感謝します、司教!」
「私が居ない間に全滅すんじゃねえぞ」

一度アニェーゼの頭を撫でてから、彼女はタンと跳躍し風に乗った。

「アニェーゼ、戦闘開始は向うで『合図』するはず……見逃すなよ?」
「はい、お戻りまで全力で戦います……そちらも上の説得を頑張って!」

二人は手を振り合い、それからそれぞれの戦いに向かった。



そして、『白』が堕天使の前に立つ。

「この戦いは要は歪んだ信仰、『狂信』と……誰かの『心の在り方』を良しとし『敬い尊重する』、信仰ではないけどそれに近い物のぶつかり合いだと思うんです……」

滔々とインデックスが歌うように言い、それにサリエルが顰め面になる。

「ちっ、また……イギリス清教のシスターか」
「まだやる気みたいですね、ウリエル様……結局、言葉は届かなかったかあ」
「……インデックス、お前は必要なことはやったよ」

インデックスが悲しそうに睨み、護衛の上条がその肩を左手で慰めるように叩く。
自分の前に立ち塞がる二人に、サリエルはバツ悪そうな顔をした。

「ウリエル様、やはり引いてはくれないのですね」
「……ああ、我は天界に帰ると決めたのだ、今更止まれないよ」
「……そうですか、本当に残念です」

インデックスは結局敵対することに悲しそうに俯き、それからゆっくりと顔を上げる。
彼女は決意の表情で、両腕を掲げるようにする。
その掌中がカッと輝き、『金髪の生き人形』が現れる。

「ああ残念……ならばお覚悟を、ウリエル様」

隠蔽効果のある装束を解除した人形が『書』を展開し、余波に備える上条の後ろでインデックスがビッと『敵』を指差す。

「やっちゃって、人形さん!」
「……オッケー、『リクエスト』ハ!?
「……『皆』に届くように目一杯で!」

ズドンッ

炸裂音を合図に戦いは始まった、まずは閃光が弾けて『それ』に皆が乗じる。
その輝きを裂くように二つの勢力が、そして『二人の剣士』がサリエル達に襲い掛かった。

「ウリエル様、少しだけ同情します……片や手傷を負わされた報復で、片やただ前回切り損ねた相手を切る為だけに、そんな面倒な人達に『絡まれる』ことを」
「ええいっ、碌でもないな特に後者!?」
『うおおっ、今度こそ……貴様達を斬る!』



狂信と敬心・十二(完結編・上)



ガギィンッ

『はあああっ!』
「ぬうっ、力ばかり使わされる……だが、人斬り二人は信徒には相手させられんか」

サリエルの魔力を込めた拳と、神子達の振るう刃がギリギリと競り合っていた。
その横で彼女の信者とそれを認めない者達も衝突する。
右翼側は『天草式の今と嘗ての指導者』を先頭にした天草式と、左翼側は『大槌を振るう小柄なシスター』を先頭にしたローマ正教に抑えられている。
何とか援護したいところだが、そうしたくてもサリエルの前に立つ二人が許さない。

「またかよ、道教の……そして冥府の剣士よ」
「面子が有るんですよ……顔に泥を塗られて、そのままにする等と」
「ええ、そうですとも……ま、私は斬ることが目的ですが」
「……どうしようもない、片方は判らなくもないが」

前者は矜持の問題でまだ理解できなくもない、だが後者は完全に戦闘狂の台詞だった。
サリエルは思わず頭を抱えたくなった。

「……これだから俗世はわからんのだ」
「はは、確かに理屈ではないかもしれない、ですが……それを楽しんでこその人でしょう?」
「人の信仰を欲するならば……受け止めてみなさい、この想い!」
「絶対に断る……そう言って、斬るつもりだろうっ!?」

ガギィンッ

「信者は欲しいけど、人斬りは要らん……」

殺気に目を爛々と輝かせての発言、受け止めろと言われてもサリエルは悪寒が止まらない。
慌てて掌中から魔力を放ち、押し込もうとしてくる刃を遠ざける。
すかさず後方に跳んで、大弾をその手に拵えた。

「ちっ、間合いを抉じ開けて……」

仕切り直すべく弾幕を展開したサリエルだが、そこへ剣士二人の横を『白』が走る。

「……ウリエル様、私が居る限り自由には……」
「……ああ、君ならそうするだろう、だが……その厄介さは既に骨身にしみている!」
「あっ、術式が二つ!?」

がそこでグシャと弾幕を自ら握り潰した。
介入先を失い妨害が不発して、すかさずサリエルは潰した分の魔力で魔法陣を描く。
今度はサリエルが読み勝って、召喚は無事終了する。

「ダミーに掛かったな……魔眼よ、放て」

現れた目玉の悪魔達が四方に弾幕をばら撒いた。

ズドンッ

「うっ、不味……きゃっ!?」
「……応援を呼ばれたな、インデックスさんは下がって!」

歩く教会で防ぎながらインデックスが後退し、それと入れ替わるように妖夢達が前へ。
二人が刃を突きつける先で、サリエルと四体の幽幻魔眼が隊列を組んだ。

「……結局こうなるようですね、堕天使」
「そういうことだ……数を集めた分信徒はまだ崩れぬ、ここを片付けて援護させてもらう」

チラとサリエルはローマ正教や天草式と戦う信徒を視界端に見、『質』では劣るも数で、何より遅滞戦術に徹して粘っているのを確認する。
今から彼女が向こうに行けば突破できる、そう思った彼女の言葉に剣士達が不満そうにした。

「突破前提か、それは……」
「少し気が早い……なあっ!」
「……かもしれんが、我が身も信仰も共に必要……妥協は出来んのだよ!」

まず自分達を見ろと、二人は堕天使に切り込み、彼女はそれを迎え撃つ。

「例え二人がかりだろうが……はああっ!」

ボウッとサリエルは魔力を放ちながら、ブンと拳を大振りで横薙ぎにする。
その軌道に沿い大弾が一列に並び、更に周囲の魔眼達も連携し射撃する。
一瞬で光弾が壁を作り、そして崩れて一気に開放された。

「……薙ぎ払え!」
「ちっ、まだ抵抗するか」
「ま、簡単には切れませんよ」

ヒュバ
ガガガッ

目の前の弾幕に僅かに二人の足が鈍る、神子は七星剣を抜き放ち、妖夢は小太刀二刀で迎撃する。
三振りの刃が目まぐるしく振るわれ、弾幕を払い落とす。
が、それを見たサリエルは素早く次の行動に移った。

「ちっ、ならば……魔眼よ、行くぞ!」

彼女はもう一度拳を構えた、先の一撃の勢いのまま回転し拳を薙いだ。
ブンと腕を振るい、叩きつけるような一撃を魔眼の一体に向けた。

「弾幕は払えても、これならば……喰らえっ!」

ズドンッ

『うおっ!?』

打ち出された魔眼が物凄い勢いで飛んで、弾幕乱射して飛ぶそれに神子達が慌てて回避する。
同時に左右に跳んで躱し、がその瞬間サリエルが魔力を纏う。

「まだだっ!」
『ちいっ!?』

堕天使の追撃、二人は息吐く暇も無なかった。
神子達が目を見開き、その視線の先でサリエルが青い翼を一打ちする。
ダンッと跳躍したサリエルが体を捻り、空中で右足を撓ませた後大きく振り被る。
追随するように二体の魔眼がそこへ飛んだ。

「『弾』はまだ有る……回避で散った、ならば各個に!」
「……不味っ、防御くぉ、妖夢殿!」
「ええ、そちらも、太子さん!」

神子達が身構えるのとほぼ同時に、サリエルが二体の魔眼を蹴りつけた。

「同時に行く、はああっ!」

ズドンッ

今度は魔眼二体、同時に弾幕を連射しながら飛んだ。
神子は七星剣を正眼に構え、妖夢は逆手に握った小太刀二刀を構える。

ビュウ
ガギィンッ

刃で弾幕を払い、が続いて降った魔眼は刃の峰で何とか押さえた。

ギリリッ

「ぐっ……」
「むう!?」

二人は軋む刃で辛うじて堪え、が衝撃までは完全には殺せず踏み止まれない。
凡そ一メートルばかし後方に飛ばされ、頭上で蹴りから復帰したサリエルが笑みを浮かべる。

「ようやく怯んだな……次こそ!」
「じ、冗談じゃ……」

慌てて三度目が来る前に、そう考えた神子と妖夢は同じく不自然な体勢のまま刃を振り被った。
空中を跳ねながら、二人は気の刃を作り堕天使を睨む。

「そう、好きには……叩き落とす!」
「同感です、やああっ!」

ザンっと気の刃が三つ続けて風を切り、空中のサリエルへと飛んだ。

「……甘いぞ、そのような手打ち等が!」

が、次の瞬間サリエルが翼を一打ちした。
強引に体を持ち上げ、気の刃を飛び越す、そして攻撃を飛び越え躱した彼女を最後の魔眼が追う。
ギュルと『縦』に回転した彼女が足先に全体重を込める。

「……あの『巫女』の技、貴様達も味わうが良い……」
「ええい、どこかで聞いたような話を!?」

逆さの見下ろすサリエルがまだ体勢の不自由な二人を睨んだ。
それに神子は睨み返しながら、咄嗟に『威力のない弾幕』を妖夢に放つ。

「妖夢殿、強引にだが離れさせる……」
「太子さん!?」
「舌噛むなよ、やっ!」

バンッ

「……ちっ、仲間を庇ったか」

最小限の衝撃、妖夢が『直接狙えない』程度に横に飛んだ。
それにサリエルは舌打ちし、その後渾身の力を込めた右足を振り下ろす。
高高度のオーバーヘッドキックが魔眼に叩き込まれる。

「なら、貴様からだ、道教の……はああっ!」

ドゴオォォッッ

それまでで最も勢い良く魔眼が落ちて、轟音と衝撃が辺りにまで広がる。
間違いなく神子を直撃し、ブワと舞った土煙が彼女の姿を飲み込む。

「どうだっ!」
「太子さん!?」

サリエルが勝利の確信から、妖夢が自分をかばった彼女の心配で、それぞれ土煙の方に叫んだ。
ブワと舞った砂塵が風で幾らか流れ、その隙間に金髪が一瞬見えた。
小さくだが、サリエルが残念そうに舌打ちする。

「……ちいい、耐えたか、戻れ魔眼!」

舌打ちした彼女は素早く四体の魔眼を呼び寄せ、彼等が障壁を張った瞬間『土煙から飛び出した足刀』が弾かれる。
不発した上段蹴りに、ボロボロの外套を棚引かせた神子が顔を顰める。

「奇襲為らずか、残念です……」
「それはこちらもだ、ああいや……『宝刀』は奪えたか」

堕天使が言った瞬間、ダンと七星剣が二人から数メートル離れた地面に突き立った。
魔眼の突進を防いだものの弾かれたのだ。
ギョロリと魔眼の一体が落ちた剣を睨んだ。

「どうする、道教の……拾い直すか?」
「……そうすれば魔眼が狙うのだろう?」

はあと神子が面倒そうに嘆息し『拳』を構え、それにサリエルが少し苛立ったような顔になる。

「ならば、こちらだ……妖夢殿、時間を稼ぐから大技を頼む」
「……剣士が格闘家に無手で挑むか、舐めてくれるな」

敢えて敵の得意分野で、挑もうとする神子にサリエルが青筋立てた。
インデックスに信仰の矛盾を突かれて以来の素の顔、それを曝け出した神子が更に挑発する。

「私は負けず嫌いでね、ところで……それとは別に一つ言わせてもらおう」
「……ほう、それは?」
「……信徒は妥協するべからず」
「何?」
「この言葉を宗教家として送らせてもらおう……『求める質』を落とせば君自身の『格』まで落ちるぞ?」

『難しい』『厳しい』宗教は信徒を遠ざける、がかといって緩めすぎれば堕落を招いてしまう。
腐敗からの既存利益の取り合い、そういったものの温床と成り得ると政治家であり宗教家でも有る彼女は知っていた。
その視点から見ると『信徒を甘えさせる』サリエルのやり方は正に『それ』だった。

「……余計なお世話だ、痛い目を見たいか」
「おや失敬、自覚が有るのか……」

ガギィンッ

痛いところを突かれたサリエルが拳打を放ち、神子が両手を重ねてそれを受ける。
が、直ぐ様次が来た、翼を一打ちして舞ったサリエルが捻りながら足を振り被った。

「続けて行くぞ、はああっ!」
「ぐっ、言い過ぎたかな……」

ズドンと音がし撓るような強烈な一撃が放たれ、咄嗟に神子は体を伏せる。
頭上スレスレを足先が掠め、がそこから拳打を放った神子が目を見開く。

ガギィンッ

魔眼が割って入った、拳を止めた魔眼がギロと睨む。

「ぬうっ、悪魔か……」
「今は従者付きだ、その程度届かんぞ」

跳躍の隙を埋めるように魔眼がカバーし、更に残りの三体が包囲からの弾幕を展開する。
ドンドンドンッと同時に光弾が目の前の神子に放たられる。

「くっ、不味い、外套で……」

チチチッ

ギリギリを掠めた、咄嗟に振るった外套で狙いを幻惑しつつ、神子がギリギリで間を抜けたのだ。
が、弾幕で外套焦がした彼女の体勢が崩れた。
ニヤリと、サリエルが邪悪に笑って前傾姿勢を取った。

「やはり、この間合ならば……負けない!」
「っ、不味……」
「太子さん!?」

彼女が走り出し、神子が顔を引き攣らせ、霊力を貯めてる最中の妖夢が叫んだ。
が、対処は間に合わず、助走からの拳打が放たれた。

「まず、一人……やああっ!」

ドンッと豪拳が振るわれ、『赤』が吹き出すように現れる。
そして、ピタと拳が止まる、意思有るかのように波打つ『赤いマント』に絡まれた状態で。

「……こいつの名はな、『赤マント』……そういう器物の魔性らしい」

ズドン

「な、何……ぐあっ!?」
「反則気味かもしれないが……おまけはそっちも居る、お相子ということで」

『先日調伏したばかりの下級妖怪』が呆然とするサリエルの側頭部を殴りつけ、一瞬眩んだ瞬間今度は神子が拳を振り被る。
今度は頬、フック気味の拳がサリエルの横っ面を張った。

「ぐあっ、仙人崩れ等に!?」
(……意表を突くには良いな、問題は強化の細かい部分はこいつの気分な点だが)

愚痴りながら神子は拳を振り抜く、着用者を強化するのだが『打撃強化の赤』と『射撃強化の青』のどちらかは彼の気紛れだった(今回は撃たれて堕天使に怒っただけだ)
そんな神子の心中等知らず、頬を打たれたサリエルがフラつきながら神子を睨んだ。

「貴様、やってくれたな……」
「いや、それは……『彼女』に言うべきだ、私に気を取られたな?」

が、神子は睨む視線を介さず笑みを返し、そこでサリエルはハッと『神子により一瞬意識から外れた少女』を見た。
ダンッと彼女が丁度一歩目を踏み込んだ、二刀を手に駆ける姿に堕天使が目を見開く。

「っ、しまっ……」
「遅いっ、桜花閃閃!」
「くっ、まだあっ!」

魔眼を追い詰めたのと同じ技、迎撃しようとした魔眼の下を一気に抜けた。
が、咄嗟にサリエルも腕を横に振るい、肘打ちに寄る反撃に出た。
そして、銀と青が交差した。

ギィンッ

「ぐっ!?」
「うあ……」

『朱に染まった銀髪』が、そして『青い羽根』が宙に舞う。
妖夢は無手で蹈鞴踏む、その額が強かに打たれ割れている。
しかしサリエルも追撃せず下がる。
その体が浅く斬られ、また反射的に盾にした翼に『深々と短刀が突き刺さっていた』。

「くう、羽のせいで急所がズレて……小器用な人だ、吸血鬼を思い出すな!」

悔しそうな顔で妖夢は下がり、が『ただ一人の彼女』は『自分の代わりに』『待機させていた半霊』に指示を出す。
攻撃には加わらせなかった、密かにある場所に向かわせていたそれに叫んだ。

「……半霊、七星剣を!」

ヒュッ
バシイ

半霊が放った七星剣を、丁度息を整え終えた神子がキャッチした。

「マークは外れたのでね……任せた、太子さん!」
「おうっ、任されたあ!」

ブンと神子が大きく七星剣を振り被って、慌ててサリエルは飛んで躱そうとする。
がその時、体の左右『二箇所』に違和感を感じた。
ガクンと、飛翔した彼女の体が止まった。

「なっ、何……」

右半身に『二重に巻き付く鋼線』が、左半身に『ピンポイントに展開した結界』が、正確に捉えていた。
視界の先で、サリエルの信徒を片手間に処理しながらこちらを睨む『天草式の今と前の指導者』と『大槌をその手に持つシスター』が。

『……好きにさせない、罰を受けろ、堕天使!』
「ま、まさか……この乱戦でこれを狙って!?」
「いいや即興だ、だがやれる実力と賭けに出る度胸が有った……理解したなら覚悟っ、詔承けては必ず鎮め!」

ギュオ
ズドンッ

その言葉と共に、彼女の握る七星剣が輝く。
霊力が束ねられて天を衝く程の柱となって、それから光刃が振り下ろされる。
そして『ブツンッ』という音がした。

「……まず一太刀」
「が、があああ!?」

ゆっくりと堕天使の、その右半身から翼が『ずり落ちる』。
彼女はギリギリでそれを盾にしたのだが、その代償は大きく、脱落した翼が地に横たわる。

「あ、ああ……貴様等あっ、どこまで私の邪魔を!?」

怒りの形相で彼女が叫び、僅かに神子達は顔を顰めながら数歩間合いを取り直す。

「ふむ、何て殺気……手傷負わせても油断するなよ、魂魄殿」
「わかっています、手負いの獣は手強いといいますし……」

警戒の視線の先で、サリエルがバッと腕を高く突き上げる。
ドンと『合図の大弾』を打ち上げた。

「この所業、後悔するなよ……船を、氷の矢を!」
「ちっ、あれか……『砲撃』が来る、注意をして!」

サリエルが仲間に叫び、神子が妖夢に警戒を促す。
すると彼方から、河川部から『特大の氷』が上がり放物線を描く。
そして『白光りする雷光』も。

ピシャンッ

「……っ、何!?」

彼女達は突如現れた『巨人』を見た。



オルソラや御坂姉妹達もその光景を、『大太刀を振り上げた巨人』が氷を砕くのを見ていた。
その中の数人が何が起きたかを理解した。

「わうっ、『奴』か……手駒にする動物の少なさは堕天使への恐怖と思ったのですが」
「……彼女だったのかも」
「……いいタイミングねえ」

椛にチルノに美琴は感心やら呆れるやら、複雑な顔で巨人を見上げた。

『……やるじゃない、涙子(佐天さん)』



『痴女』がボックスカーの座席で荒い息を吐いていた。
乗り物酔いと超能力者にやられた傷のぶり返し、そして長距離で『ある少女』を飛ばした負荷だ。

「ぜえはあ、吐きそう、もう無理……」
「……洗面所にでも連れてってやれ、女性陣」

アイテム車両、それを運転する浜面が『痴女』(強制労働で償い中の)結標を流石に心配した。
そしてそれから『もう一人』、一方通行に頼まれ送った少女のことも。

「あっちは……本人次第か、『最強に次ぐ超能力者』を追い詰めたらしいし大丈夫と思うが」
「友達思いな人ですね、『修行帰り』のところに第一位に押し付けられたらしいのに……」

こうして、場違いに乱入した堕天使にやり返すように、やたら回りくどく間接的に『別の神の眷属』が乱入したのだった。





今回はもう一話あり、そちらで完結です・・・



[41025] 狂信と敬心・十三(完結編・下)
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/10/29 16:07
狂信と敬心・十三(完結編・下)



ゴウと『雷光の刃』が勢い良く砲弾に振り下ろされた。
バキンと真横から刃がめり込んで、そして一瞬にして砕けた。
その光景にシスター達が絶句し狼狽する。

「どうして砲弾が落ちて……」
「何が起きたというの!?」

水路に鎮座する『船』の上で彼女達が慌てふためく。
堕天使を援護すべく放った一撃の不発に半ばパニックに陥り、そこで『奇妙な音』を聞いた。

ヒュウ
ヒュルルゥ

『誰だ!?』

それは『風』にしては作為的な音で、シスター達が慌ててあたりを見渡す。
音の出処、『船の近く』から聞こえたそれに耳を澄ます

ヒュウ
ヒュルルゥ

「また……」

音は止まず響き続けた。
単調な旋律、荒いが何所か味のある『自然崇拝者』がやるような演奏。
訝しんだシスターの一人がハッと船の穂先を指した。
『女』が一人、背まで伸ばした黒髪の女がそこに立っていた。

「誰!?」

シスターは警戒の表情で詰問し、が『女』は答えない。
無視し笛を鳴らしながら、ただ答えの代わりに右手を掲げる。
『バチと稲光が走る右手』を。

「まさか……さっきのは貴様かあ!」

自白の如きそれに、シスター達の頭にカッと血が上る。
遠距離用の魔術や投擲武器を構え、が女は挑発するように動かず笛の音を響かせた。
それは更にシスター達を刺激し、怒りのままにその攻撃が放たれた。

「構わない、やれえっ!」
『おうっ!』

ズドンと火や閃光が、様々な凶器が笛を奏でる少女に飛ぶ。
ズブとその体に突き刺さり、『一滴の血も流れず』唯ゆっくりと『水飛沫となって』散った。

『な、何がっ!?』

それにシスター達が唖然とし喚くように叫ぶ。

ヒュウ
ヒュルルゥ

「ま、またっ……」

単なる人型が消え行く様にシスター達が戸惑い、そこへ再び笛の音が鳴る。
慌てて辺りを見回し、そこで『船の甲板のど真ん中に佇む女』に目を見開いた。

ヒュウ
ヒュルルゥ

「馬鹿な、いつの間に!?」
「あー、つい今しがた……『自分の都合』しか見えない狂信者じゃ気づかないかなあ?」

驚きの声に対し皮肉の言葉、初めて演奏を止めた女の、『別の神の眷属』は辛辣だった。
それを口にした少女、佐天涙子はニシシと笛を懐に仕舞って笑った。
が、その笑みも一瞬、すうとその目が鋭く細まる。

「いやあ戻れば行き成りの『SOS』、取るものも取りあえず直行で……手間掛けた分償うべきだと思うんだけど?」
「そちらこそ、このような邪魔立て……許さん!」

宣戦布告のように涙子が言い放ち、それに狂信者達が自分達を鼓舞するように言い返す。
ダッとシスターの一人が抜刀し、内心また幻ではと半信半疑ながらも斬りかかる。

スッ
ブウン

が結果は先と違い、涙子が僅かに身を引くようにして躱した。

「おっと……」
「避けた、なら……こいつは実体だ、総員仕掛けろ!」
『了解っ!』

これにニヤリと笑って彼女達は武器を構え、四方から突進を掛ける。
狭い甲板、後ろにも横にも躱せない。
涙子はハアと嘆息し、トンと軽く跳んだ。

「……やれやれ、元気にさせちゃったかあ」
「ちっ、身は軽いな……だが、離れれば『撃てる』!」

彼女達は空振りした刃を残念そうにし、直後手で合図した。
風に乗った涙子が船の真上に出て、それを見上げた女達が嗤う。
ギギと船側面の砲が動き、氷の弾丸が装填される。

「自分から上に行くか、愚か者め……砲撃用意!」
「了解、仰角合わせえっ……狙い、良し!」
『放てえっ!』

嘲笑を顔に浮かべたシスターが慌ただしく動き、皆が狂信を抱く目がギラと輝せる。
そして叫んで、ズドンと氷の砲弾が飛んだ。

(……やれやれ何と余裕が無い、これだから西洋の連中は嫌なんだ)

がこの攻撃に対し、涙子はもう一度嘆息するのみだった。

「……なら、この言葉を返そう、『愚か者』め!」

彼女は嘲笑と共にシスター達を見下ろし、スッと軽く手を払う。
すると、目に見える程に『大気』が歪む。
風が吹き、そこに壁として『留まる』、そして砲弾をその場に縫い止めた。
カンという音が虚しく響き、その傍らで『子鬼』が笑う。

『ば、馬鹿な……』
「我が風は一味違う……これは天魔に捧ごう、そして……」

更に彼女は手を払うように振るう、今度は砲弾が百八十度回転し船の方を向いた。
一気に『留めていた風』を開放、そして叫んだ。

「次は……この技を伊吹童子に捧ぐとしよう、井灘返しスーパーセル!」
『あ、ああっ!?』

ズドンッ

引っくり返った砲弾が船の甲板をぶち抜き、そこからビキビキと亀裂が広がる。
バキンと数秒持たず船が木っ端微塵になって、すかさず『すう』と涙子が息を吸い込んだ。
その呼気の音を、何故か空中に跳ね飛んだシスター達はどこまでも不吉に感じみっともなく震える。

「面倒だし一網打尽と行こう……後で『解凍』してあげるよ、すうーっ……」
「ひっ、や、止め……」

ビュオオオッ

『きゃああっ!?』

身を切るような冷気に、寒さより痛さを感じたのを最後とし狂信者の意識は途切れた。



堕天使が呆然と船の方を見た、とんと二射目の来ない様子に呆然としていた。

「……砲撃が止まった?」
「あー、御坂さんの姉妹越しに話が行ったか」

対しては神子等は『最初の雷光』に理解と共に納得し、彼女達は安堵した様子で空を見上げる。
敵に援軍はない、氷の破片が舞う空はこれ以上なくわかり易く示していた。
それで戦意が崩れたか、両翼のシスター達が天草式やローマ正教に押され、周りから助けを求める声と視線がサリエルに集まる。
だけど彼女は動かない、いや動けなかった。

「……結局、誰も……」

サリエルが力無く俯き、暫しの沈黙の後肩を震わせ始める。
その口から『無感情な笑い声』が溢れ落ちていく。

「は、はは、自分以外は信じられないか、そうだな……堕天使の身で他者を信じる等甘かったよ」

ゆっくりと彼女が顔を上げればその目は『孤独感と不信』の色で暗く染まっていた。

「間違いを認めよう、このやり方は敵を作る、そして味方すら欲で繋がる脆さだ……もう私だけで結構だ!」
「……あ、ヤバっ、そういう方向ですか、ウリエル様!?」

彼女は開き直ったように引き攣った笑みを浮かべ、それから泣けなしの信仰で拵えた体に喝を入れる。
その体自体を燃料にして、自壊させていきながらその力を全開にする。
ドンと彼女を中心に魔力が吹き上がり、助けを乞う声を無視して神子や妖夢の方を向いた。

「手持ちで十分、一戦持てばいい……突破する!」
「……キレたな、これはこれで厄介だが」
「攻めは厳しそうですね……来ます!」

ダンと魔眼を伴って堕天使が地を蹴る、助けを呼ぶ声を背にしたままで。
その罪悪感を感じないかのように、開き直った彼女が駆ける。

「……最早信じるは我が身、我が拳のみだ!」
『くっ、自棄になったか!?』

ガギィンッ

踏み込みからの拳打が神子達を跳ね飛ばした、咄嗟に刃で受けたが蹈鞴を踏んだ。
武器を構えながらも二人は体勢を崩す。
その上妖夢はビキという不吉な音を『手元』から聞く。

「不味っ……」
「数打ちの刃、そんな防御なんて!」

神子と違い特に謂れのない短刀、それは一度の接触で限界を迎え亀裂が走る。
咄嗟に予備を抜こうとした妖夢だが、それより早くサリエルが体を捻る。
ゴウと青い翼、無事な方の片翼を振り被った。

「まずは貴様だ!」
「ぐあっ……」

翼の一振りに弾き飛ばされ、妖夢が近くの壁に叩きつけられた。
衝撃に咳き込む彼女に魔眼を二体送り、それからサリエル自身は残りの魔眼二体を引き連れて神子へと走る。

「ぐっ、やってくれる……」
「二体掛かりで抑えろ……そして次は貴様だ、仙人崩れ!」
「……ちっ、来い!」

ガギィンッ

神子が反射的に正眼に構えたところに、再度堕天使の拳が叩き込まれる。
咄嗟に彼女は七星剣で攻撃を逸し、がサリエルはそこから拳打の反動で体を回転させる。
ギュオと勢い良く、逆の拳が振り抜かれた。

「もう一発、はあっ!」
「う、ぐ……」

ドゴンッ

素早く神子は刃を構え直すも、体勢悪く武器が弾かれる。
拳は止めたが刃は彼女の腕から零れ落ちた。
すかさずサリエルは体を捻る、妖夢にやったように翼を大きく振り被った。

「はあああ、沈めっ!」
「ぐあっ!?」

翼により打撃が神子の小さな体を吹き飛ばした。
ダンダンと数度地面に叩きつけられ、それから止まった彼女の体から『赤い外套が力無く滑り落ちる』。

「くっ、すまない、赤マント……」
「……器物の妖かしで受けたか、だが『まだ』だ、やれ魔眼!」

ドガガガッ

「くっ、手数が違うか」

サリエルは容赦無く追撃し、彼女の指示に従い左右の幽幻魔眼が弾幕を乱射する。
バラバラと小粒の弾幕が放たれ、神子は引き攣り顔で鞘とボロボロの外套でそれを払う。
が、そこへサリエルが拳を構え、眷属を囮に魔力を全開にした。

「……粘るな、だが足は止めたぞ!」
「大技、不味っ……」

サリエルの前にフワと魔眼が浮かぶ、彼女はそれ目掛けて拳を振り被った。

「くっ、豊聡耳さん……させるかっ!」

遠目にそれを見た妖夢が、魔眼二体に付き纏われていた彼女が反射的に小太刀を三本同時に抜く。
左右の手で一本ずつ投擲し魔眼を牽制すると、残る一本を両手で構えた。

「そこから下がれっ、断迷剣……迷津慈航斬!」

彼女は素早く霊力を練り上げて切っ先に束ね、一気に開放した。
巨大な月輪の形で霊力の刃が飛ぶ。
がそれに対し、サリエルはただ拳を横殴りにした。

ガギィンッ

「……迷いを斬るか、だがな」

血飛沫が散った、妖夢と神子が目を見開く。
腕の半ばまで三日月は食い込んで、が同時に止まっていた。

「私に、迷い等無い……いや、迷う余裕すら持てないのだよ」

ギロと睨んで、それから彼女は再び拳を構えた。

「ならばこちらだ、神光……」

今度は神子の掌中が輝く、彼女は妖夢の攻撃で結果稼げた時間で素早く迎撃に出た。

「……逆らう事なきを宗とせよ!」

カッ
ズドン

『えっ?』

針のように収束された閃光が『一歩も動かない堕天使』を貫いた。
ボロと腹が溢れ、だが彼女はそのまま拳打の体勢に移る。

「今更気にするか、どうせ長く維持出来ない故に……はああっ!」

ズドン
ズドンッ

自嘲の笑みを浮かべた彼女が二度拳を突き出す。
一体目の魔眼を神子に、そこから素早く拳を引き戻し二体目を妖夢へと撃ち出す。
轟音と共に魔眼が飛んで、神子と妖夢を鞘と小太刀の防御ごと跳ね飛ばした。

『ぐあっ!?』
「ふっ、止めを……」

二人は衝撃で高々と空を舞い、それを見たサリエルはニヤリと笑い地を蹴った。
彼女は空中で大きく体を捻り、バサリと翼を広げたそこへ四体の魔眼が飛翔した。

「……これで倒れろお、異教徒っ!」
『っ、間に合わ……』

ドゴオオッ

青い翼が魔眼達を包み、それから勢い良く遠心力を込めてぶん投げた。
一纏めになった魔眼の群れが空中の神子と妖夢に飛ぶ。

「回避は間に合わない……このタイミング、取ったあ!」
『……まだっ!』

カッと邪悪な魔力が輝き、二人の姿を飲み込もうとし、そこへ『赤』が割って入る。
『赤い衣姿の生き人形』が障壁を張る。

ガギィンッ

「サセナイ、ヨ!」
「ちっ、そういえば居たな……」

サリエルが勝利の笑みを消して一歩下がる、『仇敵の気配』に警戒の表情で彼女と幽幻魔眼が構えた。
嘗ての敵、魔界神の魔力を帯びた人形を睨む。

「神綺の手の者か?」
「『孫』カナ、アエテイウナラ……」
「……次は貴様か」
「……ウウン、『モウイイ丿』」

フルフルと小さなアリスが首を横に振り、訝しんだ堕天使の真横をチラと見る。

「……ミギ」

ボソと言ったそれに、サリエルが反射的にそちらに視線をやる。
視界の端に『人影』を見て、咄嗟に彼女は拳を振り抜く。

「ぬうっ、まだ!?」

バギンッ

彼女の拳が影を、『鋼線で編んだ形だけの人型』を砕いた。

『気が逸れた、今っ!』

二人掛かりでそれを作った神裂と建宮が誰かに叫んだ。
そして、逆側からギュオッと『拳』が風を切る音がした。

パキィンッ

「……諦めさせてやるよ、堕天使」

『黒髪に学生服の少年』が右腕を突き出し、サリエルの脇腹を、そして背の翼まで貫いていた。

「えっ……」
「……アッ、『右』ハ『私側』カラダッタ」

サリエルが崩れる体に目を見開き、それに人形がすっとぼけるような言葉を口にした。
が黒髪の少年、上条はそれに構わずゆっくりと拳を引き抜く。

「これは友人の妹の分……その子は難儀な生まれなんだが、『友達を助けたい』多分初めての我儘なんで力にやりたくてね」

訳有り少女の初めての友達、それを助けたいという初めての我儘、保護者枠を自認する彼としては本気に為らざるを得ない。

「そっちの二人はある意味囮……『追い詰めた上で』『そこからの捨て身』、その後は『一番』気が抜けるだろ?」
「……まあ、倒せるなら倒す気でしたが、片羽を落として雪辱としましょう」

ここまでの一連の連携を成功させた上条がふうと息を吐き、それに少し残念そうにしながら二人の剣士がパチと手を打った。

『……で、これで詰みだ』

そう言って、上条と神子達はトンと『横』に跳ぶ。
『最も頑張ってる姉妹』、戦いの間に静かに近づく番外個体とその姉達の射線確保の為に。

「くっ、あれはあの時の……」
「そっ、友人思い、妹思いの姉妹達……覚悟しろ、ありゃキツイぞ」

サリエルが逃げようとするも、両翼が削げ落ちた体は言うことを聞かず、またならば信徒が妨害しようとすれば他が許さない。
それまで温存していたチルノやに椛に氷華、そして天草式にローマ正教が堕天使の信奉者達を押さえ込む。
そして、ゆっくりと番外個体達が特大の砲弾に雷光を流した。

『これで……終りだっ!』

ズドンッ

打ち出された金属の礫がサリエルの胴を穿ち、更にそこからバチバチと広がる雷光がその身を焼いた。

「……馬鹿騒ぎは終いだ、堕天使」
「ば、馬鹿なああっ!?」

バチィッ

「あ、ああっ……また、駄目なのか」

最後に一度大きく火花が散って、苦悶の表情でサリエルは倒れた。



インデックスが辛そうな顔で、全身を焼かれたサリエルの元に跪く。
ダメージでもう維持出来ず、ゆっくりと消えてく彼女に言葉を掛ける

「終りです、ウリエル様」
「……そのようだな、拳を握るのも億劫だ、もう戦えぬ」

彼女は自分の体を見て顔を顰めた、その体は末端から光となって散っていっている。

「信仰による急拵えの体、あのような無茶では崩れるが道理……勿論ウリエル様の本体は残りますが」
「……現世への干渉、確かに難しくなるな」

堕天使の行動は無茶が有った、少なからず消耗していて反動が今後の活動に響くだろう。
天界への復帰は更に遠ざかる事になる、彼女は悔しそうに顔を伏せた。

「ウリエル様、『堕天使』認定こそ有れど、大天使であった貴女を信仰する者はそれなりに居るはず……」

そんな彼女に、インデックスは慰めるように、また諦めを説くように言った。

「……まだ残る信徒、それで良しとは出来ませんか?彼等と共に有る平穏を享受できないのですか?」
「……すまない、それでも私は……諦められないんだ」

気まずそうに顔を背け、だけど彼女はまだ意地を張る。
罪悪感を湛えながら、ウリエルだった存在は首を横に振るう。

「私はまた天を目指す、それが……まだ有る信徒に出来る、そして嘗て天使だった誇りでも……」

そう辛そうに言葉を零し、そこで限界に達した体が崩れ始める。
言葉は途切れ途切れで、最後に一言残した。

「既に、俗世に、毒されたらしい……やはり、諦め切れんな」
「……ウリエル様、貴女はそこまで……」

パアと彼女は光となって散って、それをにインデックスは悲しそうに手を伸ばす。
だけど掴めず手から溢れ、どうしようもない気持ちでインデックスは消える天使を見送った。

「……天使をああまでにする、我が宗教は何と罪深いのか」
「……インデックス、いやお前は良くやったよ」

空を見上げて彼女は肩を落とし、上条は慰めるように頭を左手で撫でる。
こうして堕天使は去る、その心を変えないままに。



堕天使編・エピローグ



ヒュルルゥ

「秋の夜長に響くは祭り囃子ってか……」

笛を始めとした和楽器の音が響いて、戦場の空気が晴れた街は活気に満ちた。
教会側が避難の為に流した誤情報(ガス漏れ等)の撤回と同時に、中断状態だった祭が慌ただしく再開されていく。

「臨む兵、闘う者……」

そんな賑やかな街の一角で、滔々と古の詩が諳んじられる。
それは単体ならば唯の古めかしい言葉、だけど『彼女』は修行時よりそれを口にし続けた修験者だから少しだけ極端に効果を発揮する。
心の中に深く響き、その果てに『トランス』とも言える超集中力を引き出す。

「皆、陣を列べて、前を行く……可愛がってやろう『白狼天狗』、再び覚悟!」
「わふっ、また『例の呪い』かっ!?」

涙子はボフッと極彩色の煙、妖力を加工した超密度の『呪』、『本性』を暴く超自然の霧を椛に吹きかけた。
前回同様に、子犬の姿で弄る気満々だった。
が、前回で懲りた椛も黙っては見ていない。
二度目のこの事態に素早く反応し高く跳躍する。

ダンッ

「がううっ、二度も食らうか!」
「むうっ、飛び越えただと!?」

彼女は地を蹴り、円形に広がった煙を抜ける。
そのまま涙子の目の前で着地して、低空を鉤爪を払った。

「仕返し、やあっ!」
「ええい、何のっ!?」

ガギィンッ

この反撃に涙子が呻く、咄嗟にクナイで受けたが弾けず押し合いになる。
虚しく漂う幻惑の煙を背に、加害者と被害者が睨み合う。

「受けたか、だが……『狂信者』相手では大して恐怖は食えてないだろう?」
「……読まれてるか」
「力の差は無いと見た……前回の報復をさせて貰うぞ!」
「ふふ、悪いんだけど……踏み倒すよ、そいつは!」

絶好の機会だと椛が燃えて、涙子はやや圧倒されながらも抵抗しようとする。
ギリギリと二人がクナイと鉤爪が押し込んで、そしてその背後で『イタズラ好きの妖精』が微笑んだ。

「面白そう、あたいも混ぜろおっ!」
『えっ?』

青い髪に透明な羽、チルノの乱入に涙子達がぽかんとする。
が、制止は届かず、その前にチルノが一個の氷を『二人の隣で漂う煙』に放り込んだ。

「うりゃっ!」
『あっ……』

ボフンッ

不発だったはずのそれが弾幕で爆ぜて、勢い良く広がる。
バッと四方に散って、睨み合う涙子と椛を飲み込んだ。

「きゃっ!?」
「わふ!?」
「……ようし、成功成功」

自分だけ逃げたチルノの視線の先で、二人は怪しい煙に飲まれ、その後変貌した体で現れる。

モフモフ

「わうっ!?」

再び椛は子犬の姿で(背後で美琴や氷華が目を輝かせた)、そしてもう一人も。

コトン

「あれ?」

『一本の酒瓶』がそこには有った。

『……どんだけ酒好きなの!?』
「……鬼抜きで良かった、飲まれたら一回休みだろうし」

四方からの突っ込みが『愉快犯の末路』に飛んだ。



「……何やってんだろうね、向うは」

喧騒を離れ、番外個体は苦笑気味に向うを見た。
変貌した涙子はチルノの手に握られ(流石に悪戯が過ぎると判断されたようだ)その一方椛は友人一同に可愛がられている。
弄ばれる真っ白い毛玉に番外個体の手がウズウズと疼く。

「後でミサカも触らせてもらお……でも、今は」

羨ましそうに椛(と弄り回す少女達)を見て、それから彼女は隣に立つ『友達』を見た。

「今は……アンタと話そうかな、オルソラ」
「……私も同じ気持ちです、番外個体さん」

二人は微笑み合い、同時に『今を噛み占める』ようにもする。
この後『暫く会えなくなる』から。

「……大事に成ったものね」

番外個体はリンゴ飴を、オルソラは綿飴を、並んで舐めながら二人は複雑な表情で話し始めた。

「はあ、結局……アンタは教会に戻るのか」
「仕方ないことです……堕天使が嗅ぎつけた、ならば他の魔性も来かねないし」

その事実を前に、教会の未来を左右する暗号解読の鍵であるオルソラの重要性が増してしまった。
結果各勢力が注目する中で、オルソラやそれを守る者達は決断を余儀なくされた。

「悔しいな、結局教会に任すしか無いか」
「でもある程度優遇してくれると約束してくれました……多分、貴女達に痛い目を合わされたから」

手荒に扱えば友人は黙ってない、それを教会側は理解させられて、彼女は前よりはマシな扱いになった。
だが、それは保護と同時に『軟禁』とも言える。
だけど、番外個体は止めない(止められない)、何故なら『本人』が望んだから。

「……アンタが嫌といえば攫うのに」
「ありがとう、でも……『暗号』はやはり気になりますから」

決意の表情でオルソラが首を横に振るう、ある意味彼女が望んだことが決定打だった。
例え監視の中の一生でも、オルソラは協会に戻ることを選んだ。
そして『野心的な魔術師』が残した『罠』に挑もうと決意したのだ。

「あの後、インデックスさんと少し話したのですが……」
「ああ、あの白い子ね?」
「ええ、魔術全般の知識なら彼女以上は……暗号はある種罠だと推測をお聞きしました」

今に残された意味深な暗号、だがそれは過剰なまでに『引っ掛け』のような解釈が混じる。
まるで後ろめたい者を刺激するように、俗世を騒がすような記述ばかりが書かれてるのだ。

「書の著者はある日を境に『消えました』……残されたそれの悪質さ、撹乱ではないかとインデックスさんは推測されたのです」

書の紛らわしさは全て計算の上、残された暗号で教会を動揺させる。
自分への追手を排除し、あるいは撒いた後の立て直しを妨害させない。
その為の置き土産が『書』なのだとオルソラは判断した。

「……そういう意味では見事踊らされたのでしょうね、教会も堕天使も」

だが、だからこそ彼女は協会に戻ることを選んだ。
そこに戻って危険性を訴え、安全に処理する為に。
未来に遺恨を残さない為に。

「幸い、貴女達のおかげというか、私は無碍には扱われないから……まあ丁度いいというべきでしょう」
「……でも、貧乏クジじゃないか、オルソラ」
「……必要なこと、それに後ろ暗い所が有っても教会は嫌いじゃないから」

だから戻ると、上層部に暗号解読は必要だと訴えると、オルソラは言い切った。
そんな決意の彼女に、番外個体は渋々黙りこむ。

「……ごめんなさいね、番外個体さん」
「……自分で決めたんだろ、そんな顔すんな」

済まなそうにするオルソラが頭を下げて、が番外個体は一度頭をポンと手をやってから顔を上げさせる。

「なあ、オルソラ……」
「番外個体さん?」
「戻って辛くなったら……そうだね、ネットにでもSOS書きな、最悪『暇人の四位』連れて助けに行くからさ」
「……ええ、その時はお願いします、電子機器は苦手ですが……」

番外個体と最初の友達は互いに微笑み、それからコクと頷き合う。
何か有れば助けに行く(助けを呼ぶ)とそう誓った。

「さて、今はせめて再会までの分……」
「はい、楽しみましょう、番外個体さん!」

二人は互いに手を取って、祭に湧く市街に、人と人外が騒ぐ喧騒の中に駆けていった。
再会までの支えとなる思い出にしようと。



そんなふうに別れた、そのはずだったのだが。

「お、お久しぶりです……」
「……あ、あれ?」

そんな風に散々騒いで数日後、番外個体は『下手すれば当分会えないと覚悟した友達』を前に呆然とする。

「はいご清聴……ローマ清教『学園都市支部』に『新入り』が入りましたー」
「ええと……オルソラ・アクィナスです、宜しくでしょうか?」
『待って、色々待って!?』

友人がいると聞いたらしいヴェントが気を利かせ、それによる再会に関係者一同が目を剥く。
困惑する彼等に、オルソラ自身も戸惑いながら説明する。

「え、ええと、何というか……暗号の著者、失踪した魔術師の情報が学園都市にあるらしいそうです。
……で、近くに暗号及び解読者を送って『反応』見ようと、まあ嫌がらせ半分というか……」

どうやら教会の都合、政治的事情で彼女は送られたらしい。

「それと……」
「それと?」
「今回の件で迷惑かけたから『お詫び』だそうで、友人と会える状況を作るから出奔は止めて欲しいと。
……幹部の方直々に話が来て、とりあえず学園都市の教会預かりと相成りました」
「……ふうん、教会も良いとこ有るじゃんか」
「……良かったですね、末っ子」

苦笑気味にそう説明し、番外個体等は素直に喜んだのだった。
要は裏で動いた(自棄とも言うが)黄色いシスターの奮闘の結果である。

『何でも『某暗号』……アレイスター何某が自分が居なくなった後に追手である教会その他を翻弄するブービートラップらしいじゃないか、それに乗るのも癪だろう?』

彼女は上層部にこう掛け合った、いや挑発したと言っても良い。
そうやって因縁の相手、『悪質な性悪魔術師』の好きにさせていいかという風に皆の反骨心を煽りに煽ったのだ。
無責任にそれをやって、それからヴェントは『一つの嫌がらせ』をぶち上げたのだ。

『……そして奴の死体は見つかってない、もしかしたら生きてるかもしれないから……』

ニヤリと笑って、彼女は某理事への嫌がらせ発言を口にした。

『その男が技術の粋を打ち込んだ暗号を解読してみよう、パターン為りを解読できれば……もし生きてて、且つ悪巧みしてたら『やり返せる』と思うんだけど?』

それに上層部はまず戸惑い、が男への嫌悪と恐怖から何だか魅力的にも感じた。
そして、黄のシスターの仲間である『赤』と『青』の賛同を切っ掛けに、一気にそれに乗り気に成る。
後はシンプルな流れ、イギリス側とローマ側の目が届き、且つ『例の男疑惑の有る人物』の足元に嫌がらせに送るのみ(旧悪を暴かれるのを見せつけるのだ)

『まあつまりは……ご友人と自由に会わせるので『出奔』とか止めて下さい、幹部の首が纏めて飛ぶので!』
『あらまあ、それは大変……』

土下座する勢いで、『黄のシスター』と幹部二名が頼み込んだ姿後で目撃された。
そんな経緯で学園都市に彼女はいて、そのまま『某末っ子の帰還歓迎会』に連れ出されたのだった。

『お帰り、番外個体……そして宜しく、シスター・オルソラ!』
「うん、ありがとう、皆……」
「……あ、はい、宜しくお願いします」

歓迎の言葉にそれぞれ半泣きと困惑顔で、二人は喝采を受けた。
嵐の如き戦いから数日『凪』のように学園都市は平和だった。

「……で、ヴェントさんが監視ということですか」
「……一構成員に大げさだ、私は単なる世話役、上にそう命じられたね」

が例えば美琴、『黄色いシスター』を戦場でチラと見た彼女や話を聞いた上条は微妙に疑っていた。
探るように見てくる昔馴染み達に、だがヴェントはポーカーフェイスで流す。

(まだ確信じゃない、あの時は碌に話しちゃいないし……でもやり難くなった、『切っ掛け』次第で敵に成り得るか)

芽生えた疑惑の種に、彼女は内心で嘆息したのだった。



「はああ……」

その後の歓迎会、白い超能力者は苦笑し又感心していた。

「……珍しいくらいの真人間だな、学園都市には中々居ねェ」

その視線にはどこか呆れたような物が混じる。
彼女は番外個体と楽しそうに話し、あるいはその姉妹達に話しかけられ柔和そうな笑みで挨拶する、この場で初めて会った者とも物怖じせず相手していた。

「シスター・オルソラ、番外個体が世話になったようで……感謝します」
「いえ、正直最初だけ、こちらこそですよ」
「シスター・オルソラ、末っ子と仲良くやって下さり感謝しています」
「いえいえ、寧ろ私の方が助けられて……」
「……奥ゆかしいというか、弁えてるというか」

宴の中心だった彼女は嫌でも目立ち、だけどそれに気を悪くせず会話し返杯をする。
言動の節々から善人さが漂い、番外個体を知る者は助けるのも道理だと納得した。

「宗教家も捨てたもンじゃねェな……少なくとも『どっかの巫女』よりは真人間だ」
「聞き捨てならないわね、ぶっ刺すわよ、鈴科君!?」
「……そういうとこだよ、姉貴」

奥ゆかしくない宗教家の攻撃をバックステップで躱しながら、一方通行が嘆息した。
そんな何時もの二人に、オルソラと共にいた番外個体は呆れたようにする。

「……何やってんの、一方通行?」
「世を儚んでるだけだ、気にすンな……今日び珍しい真人間、その縁は大事にしろよ」
「いや、大げさ……とは言えないか、そっちに比べたらなあ」
「扱き使われてないだけ十分マシだろ……」

何故なら一方通行は割烹姿で、紅白色の問題児(及び辺りを歩きまわるシスターズの上位存在)のオサンドンをやらされている。
今は持ち込みらしき鉄板を相手にずっと料理させられていた。

「……超能力者も形無しだね」
「宴会とはいえ、無礼講にも程がある……祭が羨ましかったみたいでな」

ジュウジュウと熱気立つ鉄板を前に、彼は半分で焼きそばを、半分で焼き鳥などの串物を仕上げている。
そして大部分は意外に健啖家な霊夢が片付けていく(時々インデックスやルーミアが混じったりもする)

「何かこういう安っぽいのが偶には食いてェと言い出してなァ」
「ああ、それで一方通行が作ってると……」

幼馴染の行き成りのリクエストに嫌々ながら(他に聞くのも居らず)彼がこうして実行する羽目になっていた。

「面倒臭ェ……ああ何本かやる、出来立てならまあまあイケる」
「ああ、ありがと……」

彼は嘆息しながら料理の工程をこなし、とりあえず串モノを数本番外個体とオルソラを手渡した。
ペコと頭を下げる二人に、彼は誰かにもそういう律儀さを見習って欲しい風な顔をした。

「……気にすンな、いや別のには気にして欲しいが」
「何か大変だねえ、一方通行……オルソラ、顔怖いけど保護者ね」
「ええと、お疲れ様でしょうか……番外個体さんのお身内の方?」
「うん、恩人かな」

番外個体に紹介され、目つきの鋭さを特に気にせずオルソラが微笑のまま一礼する。
肝が太いのか天然か、そんな彼女に一方通行も僅かに柔らかい口調で言葉を返した。

「学園都市に派遣されたオルソラと申します、宜しく」
「……おう、番外個体と仲良くしてやってくれ、それと困ったことが有れば言えよ」
「……あら、保護者らしいですわね、確かに」
「あれだなァ、『怖くない女』はマジで貴重だ」
「口に出すから巫女のお姉さんに怒られるのに……」

共通の友人を持つ二人はそうやってあっさりと(寧ろ番外個体が緊張する程で)挨拶を終えた。
見かけの割に常識的な言動だと思うオルソラの横で、一方通行も相手の常識的な言動に露骨に感動する。
そんな彼に、隣でヤキソバをふうふうと冷ます打ち止めが注意の言葉を掛ける。
が、それは少し遅くて、無数の針が白い超能力者に飛んで必死に躱した。

「一々余計よ、鈴科君!」「はっ、本音言って何が悪ィ!」
「保護者が漫才コンビじみてる件……あ、お帰りなさい、番外個体」
「うん、お姉……打ち止め、ただいま」

(流石に事情を知らない者が前で)言い直しつつ末の姉妹は挨拶を交わした。
もしかしたら難しいかもと考えていた再会に、二人は涙ぐみながら微笑み合った。

「また会えて嬉しいよ、番外個体」
「うん、ミサカも……」
「……良かったな」
『……うん』
「とりあえず、ネットワークは調整済み……特に『精査能力』上げといた、問題は姉妹で上手く片付けろ」
『うんっ!』

超能力者が見守る元で久々の再会を終え、それから打ち止めはどこかお姉さんぶった顔をオルソラに向ける。

「……彼女が世話になったんだってね、ありがとうね」
「いえ、私は別に大したことは……他の方にも言ったのですがね」
「ううん、それでも……番外個体は何というか『箱入り』でね、そっちには小さい親切でも本人には大きかったんだよ多分」

何もかもが初めての彼女にはそれは新鮮の筈で、だから友達の危機にジッとしていられなかった。
オルソラからしたら恩人でも、そもそも『先』は寧ろ向こう側だと事情を知る者は理解していた。
だから、打ち止めは姉妹を代表しオルソラに微笑みかける。

「だからミサカの家族と仲良くしてくれて有難う、それと良ければだけど……これからもお願い」
「……はいっ、こちらこそお願いします!」

オルソラは一瞬戸惑ってから微笑んで、事情の全てはわからないまでもシッカリと頷いた。
ただ特別なことはないけれど、友人とそのままに接することを静かに誓う。

「……そこで躊躇いなく言う、やっぱりお人好しだな」
「……確かに良い人ね、人徳というか」
「宗教家なら必要じゃねェのか、姉貴?」
「うっさい、徳なら有るわよ……人外にしか効果ないけど」
「いや意味有るのか、それ?」
『空気読め、そこの漫才姉弟』

マイペースに(風と針と共に)じゃれ合う白と紅白に、シリアスを維持できなかった番外個体と打ち止めが突っ込んだのだった。
何だかんだ末の姉妹は世間に揉まれ、結構成長しているらしい。
二人は意外に逞しくなって(本人達は望んでいないだろうが)前途は明るいかもしれない。



・・・狂信と敬心・完



とりあえず第五話完(飛んだ祭りシーンは番外予定)
堕天使の敗北にオルソラの扱いも決まった所で次は後処理とか・・・原作とオルソラの扱いは変わりますが交友関係とか考えればまあ無難なとこでしょう。
・・・実はクライマックスは三話有りました、が『0.5』話位書く予定の・・・『妖夢サリエルが無差別攻撃を撃ち合い周りが慌てふためく』下り抜いたらこんな感じに。
ネタ的には勿体無いけど、全体の流れはこちらが綺麗なので・・・サリエルとは大覇星祭で一区切りになるかなあ・・・

以下コメント返信

九尾様
ぶっちゃけ上司のビアージオも性格悪いけど部下達も碌でもない描写揃いで・・・結果サリエル様が矢鱈不憫です、いや理不尽な堕天の過去と合い過ぎたのもあるけど。
・・・神二柱なら言いそう、ただ代りというか同教(インデックス)と異教徒(神子様)が突っ込んで・・・最後の捨て身は寧ろこのせいかもしれません。

毛様
ええ、もみじカワイイ・・・今回は友人のサポートに終止してましたが、まあ今後もコンスタントに出る予定です。

スキマ帰り様
サリエル様は何か貧乏クジ引くというか、本人以外で細かいミス重ねてく感じがするんです、でこの有様に(割りを食うにしてもやり過ぎかと少し後悔してる)
結標は良いキャラなんですが・・・立ち位置が少し不味かった、でも暗部に置いとけば今度は出し易いので挽回できるはず・・・

バケバケ様
だ、大丈夫、彼女も空気を読むというか・・・姉妹愛に気を使って止めは譲ってくれました、口では不満言いつつも暴れたので満足したと思う。


・・・返信追加分
九尾様
いやサリエル(ウリエル)は伝説でも貧乏クジ過ぎて・・・見事に引き摺られました、でも堕天使の悲哀とか書けたかなあと。
ただ悲惨過ぎるしこれだけで終わらすつもりは流石にないです、何らかの『決着』は考えてあります・・・信徒運の無さはある意味それに繋がってるかも。

三眼様
御坂さんは自分の問題が片付いた分長女キャラを完遂、それに対し・・・佐天さんは暴れただけ、いや義憤も有りますがね、まあどっちもらしいと思う。

群青濃い目様
いや肘というより・・・観客ノリで離れた所に暴投気味に豪速球が飛んだ感じ?彼のプランには影響しないでしょうが居心地の悪さは覚えるでしょうね・・・



[41025] 閑話 不和と不安と一
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/06/04 18:20
・・・えー、勝手な話ですが『展開変更』になりました、『天使関係』の設定が書き変わってしまって・・・



閑話 不和と不安と



スウと『二つの星』が夜空を駆けた。
それに学園都市の者達は一瞬見惚れ、だが数日後の祭の準備に慌てて戻る。

「ふうむ、あれはまさか……」

が『一人の少女』は違った。

「どうした、お嬢様?」
「あー、ちょっと……出てくるわ、黒夜」

『青い髪に水色の髪飾りの少女』は同居人に告げて家を出た。



『はああっ!』

ガギィンッ
ガギィンッ

空を『二つの星』が駆ける、絶え間なく拳打と弾幕が行き交う。
それは光を纏って落ちる二人の人影。
片方は『金と紫が混じった髪に貫頭衣の少年』、もう片方は『青い髪と翼に月の文様の服の女性』だ。

「ちいっ、しつこい……諦めたらどうだ、ガブリエル!?」
「久々に会ったと思えば……『天界』の宝物庫を襲撃してよく言うね、ウリエル!」
「……悪いとは思っている、だが……まさか地上まで追うとはな」

追い払うように翼を振るう女性を少年が必死に追い縋る。
彼の視線、拳や弾幕の先は女性が担ぐ『二つの布包み』が有った。

「……まだ『ただのウリエル』だった頃の剣と鎧、何に使う気!?」
「……全ては大願の為だ、不足分を補う必要が有ってな」
「だからって……神罰の為に使うべきそれを狙うなんて!?」
「文句は……ラファエルの眷属や異教徒共に言え!」

スウと透ける自分の体、前回のダメージで時折明滅する四肢を見せて女性、サリエルが愚痴るように叫ぶ。
地上で偶々会った同僚の力を持つ黄のシスターを始め、様々な敵から受けた傷はまだ癒えていないのだ。

(ええい、それを何とかする為なのに……ガブリエルに見つかるとは裏目にでたか)

本来なら『まだ』戻る気のなかった天界に忍び込んだのはそれを補うため、が見つかってこの有様だ。
持ち逃げした宝物毎地上に(撒く意味も含め)降りたが『慣れてる』ミーシャは普通に追ってきた。

「……それを返して!」
「断る、この先『必要』なのでな……」

断固拒否し、また妨害を防ぎながらサリエルは少しずつ降下していく。
そうして『目的地』、逃げながら向かっていた『科学の街並み』を見下ろしにやりと笑った。
あそこには彼女の求める、『幾つかの要素』が集まっていた。

「もう直ぐだ、もう直ぐで……ザカリアスの残した呪いは晴れるのだ!」
「同情はするが……現世への干渉なんてさせるかあっ!」

だが、先を思った彼女の意識が一瞬だけ緩んで、すかさずミーシャが加速し相手の懐に飛び込む。
彼は体を縮こませ肩から、渾身のタックルを掛けた。

「友よ、借りるぞ……セラフィムズ・クレイドル!」
「ぐあっ!?」

ドゴオッ

不意を突いた一撃が命中、サリエルはバランスを崩し、二人は揉み合いながら学園都市の郊外に落ちていった。



『二つの光』が一瞬接近し、かと思えば離れる。
空を見上げた『青い髪の少女』は呆れた顔で嘆息する。

「……ふう、久々の再会なのに……慌ただしいことね、ミーシャ」

はあと溜め息ついて、それから少女、吸血鬼のレミリアはバッと翼を広げた。
高く飛び上がり地上に落ちていく星の片方の進路へ。
そこで大きく手を広げ、『友』を待ち構える。

ボフッ

「よっと……無事かしら」
「……あ、ども」

その手の中に、目を回して地上に落ちていく『布包み付きの』ミーシャが納まった。
彼は頭を振ってから立ち上がり、自分とは違う郊外に消えた光の跡を数秒見送る。
が、それは直ぐ止める、『協力者』か『準備が有った』かすぐに向うの魔力、気配が追えなくなったのだ。
残念そうに俯いて、その手の中にある布包みをギュッと握る。

「むうう、『鎧』しか取り返せなかった……あれ、ここ現世だよね、何でレミリアが?」
「遅いって……久しぶり、動けるかしら?」
「……無理かも、最後強引に突っ込んだから」
「仕方ないわね、もう……黒夜のところに運ぶわ」

リアクションの遅い彼の、どこか天然気味な答えに苦笑しながらレミリアが友人を抱えた。

「訳有りみたいだけど……今は休むことね、ミーシャ」
「そうする、体力は武闘派のあっちのが有るし……(学園都市か、休憩がてら身内の謝罪でもしようかな)」



早朝の珍しく静かな学園都市、それに浸りながら少年は寝ぼけ眼を擦る。

「先輩、寝不足?」
「土御門の愚痴がなあ、堕天使の件で後始末大変だったらしくて……」

カチャカチャと食器を抱えた上条が問いの相手、同じく食器を持つ美琴に答えた。
二人は並んで歩き、朝食が乗せられた皿やお椀を机に置いていく。
それから待っていた一同に、特に『白い少女』声を掛けた。

「はい、召し上がれ……全部食うなよ、インデックス」
「出来立てで熱いから気をつけて」
『頂きまーす!』

インデックスにチルノ、ミサカがパンと手を合わせた。
そして、それにやや遅れて上条達も朝食の前へ。

「……量が量だけに疲れた」
「インデックスさん、食べるものね……お疲れ様、先輩」
「ああ、御坂も……後手伝ってくれてありがとな」

二人は苦笑しながら座り、がそこであれと首を傾げる。
机の数カ所に不自然な空白、メニューの一部が消えている。
それに加えて、存在する筈のない『六人目』が。

「……くううっ、久々の和食、堪らないぜ!」

モシャモシャと朝食を平らげる『水兵服を来た金髪の少女』の姿が有る。
その姿に、『赤い天才と消えた旧友』に、上条達は思わず目を見開く。

「……えっ、岡崎さんとこの」
「ちゆり先輩!?」
「よっ、『教授の使い』でこっちに来てて……あー、ヴェントのことで少し聞きたくてな」
『はっ?』

昔馴染みの言葉に、上条と美琴は困惑したように首を傾げた。



「……」
「……」
「……」

そうして『一見無関係な出来事』は重なって教会は酷いことになった。
向うでは新入りのオルソラ、暇なのか手伝いの番外個体ががミサをやっている、が後ろの平和そうな光景に反し『彼女』を取り巻く状況は違う。
ヴェントは頭を抱え、上条と美琴とちゆりは疑うように見、レミリアと共に来たミーシャは首を傾げている。

「よう、今日はどうした、上条に御坂……それと久しぶりだね、教授のとこの……」
「少し話が有って……」
「そうか(……前回の件か)」

探りを入れようとする旧知の相手に、困ったことに成ったと内心ではあと溜め息を付いた。
そして、もう一方の客達にも。

「……あれ、『私以外の三人の誰か』の匂いがするような……」

フンフンと数度鼻を鳴らし、実体化した天使が小首を傾げた。
つまりそれと確信なった瞬間『上条達の疑い』は確定になるのだ。

(主よ、これはどんな試練だ、タイミングが悪すぎる……)

ヴェントは力無く天を見上げて恨めしげな顔をした。



そして『要素の一つ』である少女にも転機があった。

「ひぐ、えぐ……ぐすん、『お姉ちゃん』の馬鹿……」

年齢は十を少し過ぎた頃だろうか、『白い帽子』『金髪の少女』が泣き喚く。
彼女は偶に行く教会(昼は大体開いている)のテーブルに突っ伏し愚痴った。
その手には一枚のプリント用紙が握られている。

「来てくれるって……約束したのに、運動会に」

用紙には『保護者の参加要項』という一蘭があり、そこに自棄っぽく『×』が書かれている。

「お姉ちゃんの嘘つき、急に職場でって……アイテムでの仕事って何よ、私より大事なの……」

金髪の少女は姉を恨んだ、大好きな姉が来てくれると楽しみにしていたのにそれは中止と成ったのだ。
彼女は孤児院に住み、唯一の家族である姉と一緒に騒げることをずっと楽しみにしていた。
普段は『孤児院の近くで行動するチームのリーダー』やその仲間が会いに来るから寂しくないが、それでも偶に一緒にいたい時も有る、そして今回で不満が吹き出した。

「お姉ちゃんの馬鹿、もう嫌い……」

だけどそれは裏切られ、少女は悲しみの底に沈んだ。

「馬鹿、馬鹿……フレンダお姉ちゃんの馬鹿あっ!」
「……うんうんわかる」
「にゃ?」

が、一人ごとのつもりだったそれに答えがあった、びっくりして周りを見渡せば同じくらいの年の『淡い茶の髪の少女』がウンウンと頷く
その頭の上には『真っ白な子犬』、更にその上には『お洒落な人形』、どこかの童話みたいな少女がにっこり笑う。

「わかるよ……ミサカも『兄貴分』『姉貴分』には物申したい時が有るし」

『ただ一人の妹』に何となく着いてきた少女、『打ち止め』は共感する(駄目人間な超能力者や巫女へ)思いをぶち撒けた。
すらすらと、家族といえる者達への不満を垂れ流す。

「一方通行は普段は素っ気ない癖に時々悪乗りするし、巫女のお姉さんは自由人で何か有ればいっつもはしゃいでさあ……
ほら、貴女もどんどん語ったら?」
「え?」
「……家族への不満、溜め込むのって結構キツイよ」

妹同士の共感か、それが当然の権利とばかりに誘いを掛けてきた。

「家族だからこそ怒っていいし……でも実際に怒らない為にも」
「え、あ……フレンダ、お姉ちゃんの……」
「うんうん」
「……お姉ちゃんの馬鹿、嘘つき、運動会一緒にって……」

彼女は泣きながら悪口言って、それから顔を伏せた。

「寂しいよう……」
「そうだろうね、で……嫌い?」
「……ううん、それに来ないのは仕事だもん」

涙を拭って、それから彼女は嫌いでないと首を振る。
そんな彼女の頭を打ち止めはポンポンと軽く触る。

「……ホント、妹って損だよね」
「うん……ありがと」
「ああいいって、で落ち着いたら……ミサが始まるよ、行こうか」
「うんっ」

さっきまで流れた涙は自然に止まって、『フレメア・セイヴェルン』はぎこちなく微笑する。
打ち止めに手を引かれるままに、二人は温和そうなシスターとそのお付きの不器用な少女の元に向かう。
『堕天使を切っ掛けとする事件』で、『ある重要な役割』を果たす少女は二人はこうして出会った。



幕間一・完・・・&おまけ



カタカタ

一本の酒瓶は『独りでに揺れた』、まるでそれは恐怖に震えるように。
その前には『角を生やした金髪の小柄な少女』が目を輝かせる。

「……ジュルリ、上等な酒の匂い」

カタカタカタッ

鬼の言葉に酒瓶が、『変貌した佐天涙子』が動揺するように揺れた。

「節姫、早く戻らないと一回休みだよ」
「……理由が情けなさ過ぎるなあ」

その光景を見ていた同居人(勝手に居着いている)にとりに魔理沙が呑気に言う間に鬼が一歩近づく。
ジャリという音と共に前に立って、それでガタと涙子が震えた。

「一口くらい……」

ガタタッ

相手の言葉に一際揺れる。
それのせいか、それとも火事場の馬鹿力か、バアと一瞬白い花びらが舞った。
それ等は酒瓶を覆い隠し、そしてパアと白い輝く。

カッ

「おわっ!」
『おっ?』

萃香達が目を背け、それに一瞬遅れて『トン』と白い足先が床に揺れる。
酒瓶が消え、そしてバッと長い黒髪が広がった。

「……危ね、解除がぎりぎり間に合った」
「本当に危なかったなあ」

自業自得の呪いを(戦闘直後で消耗していたし)必死に解除した涙子がほうと息を吐く。
が、安堵するのはまだ早かった、萃香がスンスンと鼻を鳴らす。

「まだ……」
「え?」
「名残りか酒の臭いがする、梅酒っぽいかな」
「……さらばっ!」
「……待てい、『一飲み』にしてくれる!」

ガシャアアンッ

『体に気をつけてなー』

その目は笑ってなくて、慌てて涙子が窓を蹴破り外に飛び出す。
そして、萃香もその体を透かせてからそれを追う。
彼女の長い、休暇というには過酷な一日が始まった。





・・・五話の前に閑話です、これは『三つ』の流れで進めていきます(教授は話の都合でまだ出せず、代理人を・・・)
教会での上条さん等によるヴェントへの探り、それと平行してのミーシャ関連のイベント、そして前二つと少し離れて少女達の御話ですね。
あるいは教会側は一纏め、それと妹キャラの日常話、三つでなく二視点になるか?・・・正直佐天さんはどっちにも顔出せそう、謂ば賑やかし。

以下コメント返信
九尾様
まあ来てしまったら謝罪は必須でしょう、穏健派だしその性格的にもね・・・多少展開変更し『来た理由』を変えました、自分で挽回するチャンスではあるかな。
佐天さんのあれ、実は獣系には余り効きません(素で爪とか有るので然程弱体化せず)本当に嫌がらせだけ・・・つまり自爆時のリスクが大きいネタ技。



[41025] 不和と不安と・二
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/06/10 17:24
閑話 不和と不安と・二



タンタンッと、学園都市の建物の間を黒髪の女が跳ぶ。

「伊吹童子の馬鹿あっ……ええい、匂いが消えるまで動き続けないと」

そう愚痴って、彼女は吹かせた風で加速しながら逃走する。
そして、涙子は後ろを確認し、誰も居ないのを見て僅かに速度を緩めた。

「ふうう、居ないね、少し休憩でも……」

一息つこうと彼女は風を弱め、適当な建物の屋上に降下する。
そして『ギュム』と何か柔らかいものを踏んだ。

「……は?」

首を傾げてそこを見てると『真っ赤な丸みを帯びた何か』が広がっていた。
しかも、その直後前後から壁がそそり立つ。
それは肌色をしていて、更に白い『歯』が並んでいる。

「『口』か!?」
「掛かったな、もう遅い!」

バクン

それは巨大化した鬼の顎、先回りした彼女が開いた口に涙子は降りてしまった。
慌てて逃げようとするも、それよりも一瞬早く閉じた。
萃香の口元に勝ちを確信した邪悪な笑みが浮かぶ。

「頂きまーす!」
「こ、こうなれば……」

が、口の中で、涙子もまた笑う。
但し、自棄っぱち気味の笑みを。

「唯でやられてたまるか……死なば諸共!」

ボフとその掌に毛玉が出現し、大きく振り被る。
カッと毛玉が眼光を輝かせた。

「え?」
「……爆ぜろっ!」

ズドンッ

爆音が鳴って、そして一秒後グラと鬼の巨躯が揺れる。
口中が焼かれたか口元を押さえ悶えて、その後集中化が乱れたか収縮と同時に建物から滑り落ちる。
まず萃香が、そして口から這い出た涙子が路地の裏に並んで転がった。

バタンッ

「ぐぎゃ、熱ちっ!?」
「し、至近距離は流石に堪える、でも……一矢報いたよ!」

無防備の舌を真っ赤に腫らした鬼が転がり回り、それに涙子が叫んでからフラつく。
彼女はまだ転がる萃香を恨めしげに睨み、その後壁を支えに歩き出す。

「ぐうう、待、て……(くっ、流石に体内はキツイ、少し休まないと無理……)」
「……い、今のうちに逃げさせてもらいます、さらば!」

ヨロヨロと動かない体を叱咤しし、彼女は一度アッカンベしてからぎこちなく駆けていった。

「うおおお、丸飲みなんてゴメンだっ……てか、休日くらいノンびりさせてよ!?」

切実な叫びを響かせながら。



「……何か鳴った?」
「花火だろ、祭(大覇星祭)はまだなのに気が早いな」

教会で、ミーシャと彼が心配で着いてきたレミリアが顔を見合わせる。
大きな音がした方を一瞬見て、それから気のせいかと思う。
そうしてから、ミーシャは真剣な表情で数人の少女達を見た。

「ええと、ウリエル……ううん、サリエルがご迷惑おかけしました、本当にごめんなさい」
「いえいえ、既に済んだことですので……」

少女達の中心、前回の件の被害者であるオルソラが気にしないようにと答えた。

「何となく、素性というか正体は予想できるのですが……考えないことにしましょう」
「そうだね、どう考えても残りの御三方だけど……出来ればもっとマシな会い方が良かったなあ」
「……本当にごめん、いやあそこまで拗らせてるとは」

ある意味教会の者全てにとって憧れる相手との会合、だけどそえが謝罪という場にオルソラとミサに来ていたインデックスが苦笑する。
そんな反応に更にミーシャはバツが悪そうな顔にする。

「ま、まあ『暫く』は大人しくしてると思うから……その間に何とかしておく、貴女達は数日後にあるという祭りを楽しむと良い」
『し、承知しました、天使さま』

ペコとミーシャが頭を下げて、天使に頭を下げられた二人も反射的に頭を下げる。
ペコペコと頭を振り合う三人にレミリア、チルノにミサカは何とも言えない顔をする。

「……同僚によるイメージダウンで謝罪して回って、宮仕えは大変だなあ」
「うーん、天使も大変だなー」
「でも、一応安心でしょうかね」

苦笑するやら安堵するやら、そんな風に呑気に話し、それからレミリアはさり気なくミーシャに話しかける。

ボソリッ

「……サリエルとやらが学園都市に落ちた、それは言わないで良いのか?」
「……最後に思い切り『イイの』くれたからあっちも暫く休むと思う、だから直ぐ言う必要は……」

これ以上余計な不安を抱かせたくないと、ミーシャは一部だけ曖昧にしたのだ。
可能ならば動く前に、あるいは動いたところで素早く確保すればいい、もし相手に明かすならばそれが出来なかった時だけにしたかった。
話さないことをすまなそうにするミーシャの頭をレミリアはポンと触った。

「……と、ところで、サリエルのこと驚いたでしょう?」
「まあ、流石にね……」
「何より追いつめられてる感じが……」

葛藤を誤魔化すように何とはなし問いかけ、インデックス達は前回を思い出しちょっと引き攣った様子で頷いた。

「……それと女性なのも」
「天使は男性の筈ですからね」
「ああ、ウリエルからサリエルに変わって……『夜』や『月』とか、魔女っぽい要素を押し付けられたからねえ」

二人と一柱は何とも言いがたい微妙な表情で顔を見合わせた。
特にミーシャは酷く同情したような顔だった。

「堕天使というだけじゃなく変わりようにも驚いたよ、前は見上げる程だったのに頭一つ分くらいの差で……
……私は天使でも小柄だから尚更そう、マリアの時以来少年ないし中性的な人型のイメージ着いてるし」
(あ、誰かわかった気がする)
(き、聞かない振りを……)

話の途中で相手の正体のヒントがポロと飛び出て、インデックスとオルソラはそっと目を逸らす。
そんな二人に気付かず、ミーシャは言葉を続けた。

「本当に変わったよ、アイツ……何でこうなったのかな」
「……余り考え過ぎるなよ、ミーシャ」
「レミリア?」
「時を経ての変化ならば、逆に……時が解決することが有るさ、相手の考えが変わる時も来るかもしれない」
「……そうだと良いな」

相手の変貌にミーシャは俯いて、レミリアは微笑んでやりながら頭を撫でる。
その慰めるような言葉に少しだけミーシャは顔を綻ばせた。

「そういえば……ミーシャも違う姿が有るのかしら?」
「うーん、真の姿というか、これより人間ぽくない大きな形態が有るけど……」
「有るけど?」

ふと別の姿、正確には本性のことになって、そこでミーシャは少し口篭ってからポツポツと答えた。

「上手く喋れないし、小回り良くないし……それに『友人』に似た姿で気に入ってるからこっちが良いかな」
「……そうね、私も見上げて話す気には為らないしね」

肩で切り揃えた金と紫にああと、レミリアは納得し頷く。
ミーシャは白蓮から魔力を借りて、それだけでなく容姿も多少影響を受けている。
だから彼女を、更に言えば『少年』の姿を取るからその弟をも髣髴とさせる姿で、同時に最初の友達の繋がりで暫く元の姿に戻るつもりはなかった。

「……聖は今は郷だが、祭辺りを口実に呼べばいい、天界に戻る前に会っておけよ」
「うん、そうするよ……四人でまた遊びたいし」

ふっとミーシャが、そしてレミリアも珍しく柔和な笑みを浮かべた。

「おっと、謝罪だったのに話が逸れてた。
……オルソラさん、インデックスさん、私は暫くこっちに居るつもりだから『何か』有れば言って」
『……は、はい!』

暫く笑って、それからミーシャが慌てて話を戻す。
元同僚のこととは言わず、だけど少しだけ強調するような言葉にオルソラ達は慌てて頷いた。

「ま、まあ、了解しました、ガブ……天使様」
「うむ、これで良いかな……」
「……おーい、もう良い?」

コクコクと天使の恐縮な言葉に緊張顔で首振って、そこへ話の間仕事を受け持っていた番外個体が顔を出す。

「オルソラー、そろそろミサの演奏戻ってー……ミサカの下手っぴなピアノじゃ場が保たないよ」
「あ、はい、それでは信徒を待たせてるのでこれで失礼します」
「ああ、時間取らせてすまない……教会の仕事頑張ってね」

慌てて教会に戻るオルソラにミーシャは手を振って送り出した。
それで必要な話も終わって、ミーシャ達は立ち上がる。

「ふう、これで……半分は終わったか」
「なら、街を回るか?運が良く近づければ『気配』もわかるでしょう」
「……そうするか、折角だし案内してよ、レミリア」

そしてそこで、それまで見守る体勢だったチルノにミサカがふと首を傾げた。

「あれ、教会だけど……何人か居ないや」
「先輩やお姉様、それにゼミの仲間という方も……」
「ああ、それなら……ヴェントさんと何か真剣な顔で話をして、それからみんな出て行ったよ」
『……何だか慌ただしい、何だろう?』

チルノにミサカは不思議そうに小首を傾げた。



カツカツカツ

「……困ったわね」

学園都市、その一角をヴェントが仏頂面で歩く。
数日後の祭に気が早くも湧く学園都市、その賑やかさに恨めしげにする。

(ああ、呑気でいいわね、こっちは……はああ、大ピンチなのに)

彼女は数分前の詰問を思い出し嘆息する。
といっても、疑いから逃れられた訳でなかった。

(その日は出張した、口裏合わせしただけのそれじゃ……まあ、納得はしないか)

一応権力で彼女は『外』に、前回事件のあった場所以外に言っていることになってるがそれでは納得しないだろう。
正直『誤魔化した』だけ、それもその場しのぎである。
それでも辛うじて先の言い訳で詰問は緩み、そこで用を思い出したと外に逃げたが何の解決でもない。

「……はあ、先延ばしか、だがあそこで粘られると不味いし」

ボロが出るよりマシと飛び出したのだが、相手が疑ってる状況では然程意味は無い。
そこで『風』をさり気なく起こした。



「……何だか悪いことしてる気がする」
「……けど言い訳臭いじゃない、先輩」
(尾を出してくれればいいが……)

少年は特徴的な跳ねた黒髪を帽子で隠し、茶髪の少女と金髪の少女はそれぞれ白衣と水兵服からジャージに着替えている。
そうして特徴を消し、友人同士世間話する振りをしながら『唯一人』を観察していた。



「ちっ……」

風が人にぶつかり、時間差で戻るそれを受けて、ヴェントは『三人の尾行者』が少し後を歩いていることを確信する。

(上条に御坂、それに……ちゆりか)

用があると外に出たヴェントはまだ疑われ、しっかりツケられていた。
恐らく目的は探りだろう尾行者に、ヴェントは面倒くさそうに嘆息する。
それから、周囲を一度見回し、『ある方向』に歩いて行った。

「……ヴェントさん、どこに?」
「あー、何か祭に出す屋台の方だな」

後ろで気配も続き、気づきながらもポーカーフェイスでヴェントは『真新しい洋風の出店』へ。
軽食を扱っているらしい、そこで屯する数人、やはり『真新しい制服』の『女性店員』にさり気なく話しかけた。

「……良いかい」
「ええ、ご注文を……」

ヴェントが呼びかけ、店員の一人が直ぐに寄ってくる。
『三つ編み』で、『小柄』な、勝ち気そうな少女がメニューを手渡しながらヴェントにだけ聞こえる声で問いかけた。
一瞬後方を、尾行者を仕草で示し、それからヴェントは『数日前に会った時以来の顔馴染み』に話しかける。

「(はあ、綱渡りだな……)困ったことになったわ」
「ふむ……どうされました、『司教』」
「厄介事だよ、相談に乗ってくれるか……『アニェーゼ』?」
「……結局楽な仕事はない、ということですかね」

堕天使の件で警戒、及びヴェントのサポートに選ばれた、小さな武闘派シスターは小さく嘆息する。
それにすまなそうにしながら、ヴェントは内心どこか諦めたような思いを抱く。

(……この生活は嫌いじゃなかった、ぬるま湯みたいで気楽で……けど終りが来たのかもね)

これから一芝居打つ必要があった、そして同時に『一区切り』の予感がした。



そうして火種の撒かれた学園都市で、その二人は呑気に楽しんでいた。
二人の妹が呑気に愚痴を言い合う。

「……でね、一方通行がね……巫女のお姉さんも……」
「うん、わかるわかる……うちのお姉ちゃんも酷くてさあ!」

叫びの度に淡い茶と金の髪を揺らし、打ち止めとフレメアが可愛らしい罵倒を続ける。
オープンテラスで自棄食いのようにパンケーキを食べ散らかしていた。

「マ、カワイイモンダネ」
「わふっ」

そんな妹二人に、テーブルの下で小さなアリスと子犬形態の椛が苦笑する。
会ってから二人は勢いで(打ち止めはミサを頑張る番外個体に手を振って)外に出て行って茶菓子を楽しみつつストレスを思う存分解消していた。
何となくアリス達は心配で着いてきたが、要らぬ心配だったかと思い、また少し後悔していた。

「一方通行が……巫女のお姉さんが……」
「うちのお姉ちゃんが……」
「……デモ、ナガイナア」
「……わふん」

気が滅入ってくる会話に少しだけ着いてきたのを後悔し、そんな二人と一体と一匹の元へ『三人目』が混じる。

『わかるよー、スイちゃんも酷くてさあ』
「うひゃっ!?」
「にゃあっ!?」

妹達がびっくりした所に『三人目』、ボロボロの格好の黒髪の少女が空いてた席に座る。
唐突な登場に、だけど打ち止めの方は見覚えが有った。

「あ、お姉様の友達の……佐天お姉ちゃん?」
「うん、こんにちわ、打ち止めちゃん……身内だからこそ『積もる』ものがある、いやあ共感の余り乱入しちゃった」

ふっと楽しそうに、だけどこか疲れたように彼女は笑う。
手を掲げ、するとそれが薄っすらと透けているのを見せる。

「ありゃ、お疲れって感じだね」
「……身内の、酔っぱらいに絡まれてこの様でねえ」

疲れた様子で涙子は説明し、それから見覚えのないもう一人の少女を見る。

「その子は?」
「フレメア、教会で会ったの……『上』への悪口で意気投合しました」
「……ああ、何となくわかった」

相手の言葉に納得し、少し体を縮こませて目線を合わせる。
行き成り話してきたからか、ちょっと警戒するフレメアに『手を沸き沸きしながら』話しかける。

「私は佐天涙子、フレメアちゃんか……まずは『お花』のプレゼント」

ポンッ

右には白い梅の花。

「わあっ!」
「……更に、モフモフな毛玉だ!」

ポンッ

左には少し大振りの毛玉。
二つを差し出されて、フレメアは目を丸くしながらも引かれるように手を伸ばす。

「真っ白、綺麗……それにモフモフ」
「梅の花はあげる、毛玉は……ま、貸してあげる」

経過が幾らか失せて、代わりに目を輝かせて、それを確認して涙子が一歩近づいた。
白い帽子を被るフレメアを一度撫で、帽子を少しずらして梅の花を簪のように刺す。
更に動かないように言い聞かせた毛玉を相手の胸元に放る。

「さあ、思う存分……モフっちゃえ!」
「わあいっ!」

モフモフボンボンと、すごい勢いでフレメアは毛玉を弄り始めた。
そんなフレメアと、面倒臭げな目の毛玉に手を合わせる涙子に、打ち止めが苦笑する。

「……物で釣ったか、ずるいなー」
「良いじゃん、楽しんでるし……打ち止めちゃんはこの後は?」
「うーん、適当に身内を罵りつつ出店にゲーセン巡りかなあ」
「(……『まだ』来ないだろうし)……着いてっていいかな、愚痴のネタは有るし」
『うん、イイよー』

気紛れで涙子が動向を提案し、妹達は深く考えず許可を出す。




おまけ

「……ところで」
「うん、なあに?」
「ここには……貴女に嵌められた子がいるんだけど」

許可を出して、直後打ち止めはテーブルの下を示す。
首を傾げてそこを見た涙子は『白い小動物』を見つけた。

「あら、結局……上条さんに戻してもらえなかった天狗じゃない」
「がううう、ふうっ!」
「いや文句は……撫でるのに夢中だった御坂さんに言いな」
「……お姉様達がこのままにしたがったからねえ、まだまだ可愛がるのを優先してて」

椛は怨敵である涙子に牙を向く。
彼女はグワッと小さな口を開き、相手に飛びつこうとした。

ガシ

「キャッチ!」
「わう!?」

が、首根っこ捕まれ釣らされる。

「……残念、こっちの腕が長い、リーチが違うよ」
「がうううっ!」

ブラブラ目の前で揺らされ悔しそうに唸る。
そんな彼女にふっと笑い、涙子は掴んでるのと逆の手を出した。

「はい、お手」
「……わう?」
「ほら、お手……忠実な飼い犬のように!」
「がううっ!?」

弄るために、からかうように命じる涙子に椛が更に唸る。
が、そこで椛が『変貌の身』でもわかるようにはっきり笑みを笑った。
すっと背を伸ばし、勢い良く『前足』を突き出す。
真っ直ぐ肉球が『すぐ目の前』、そこで悪戯の為に顔を寄せた涙子の顔面へと放たれる。

ドゴスッ

「え?……ぎゃんっ!?」
「フンッ!」
「……自業自得だよ、お姉ちゃん」

顔面強打で涙子が突っ伏し、いい気味だと言いたげに椛が鼻を鳴らした。



おまけ2



「ところでさあ……」

鼻を押さえる涙子に、一頻り苦笑した後打ち止めが苦言を呈す。

「……『透けてる』の何とかしようよ、悪目立ちするし」
「ふむ、確かに……」

萃香のせいで消耗した体、その深さを意味する体の異常のこともある。
少し考え、それから涙子は一旦『影』に行った。
そして、そこで『ボン』と小気味いい音がした。

「……変身!」

ノリノリで彼女は叫び、それから影から『打ち止め達と同じくらい小さな少女』が現れる
黒髪のボリュームはそのままに、だけどそれ以外をそのまま縮めた少女が一人。
ズルズルと羽織るだけの制服とスカートを引きずる少女が大分縮まった(でもその年頃より心持ち大きな)胸を張る。

「どうだ、減らして消耗を補ってみたよ!」
「わあ、何でもありだね」
「体を構成する霊気を弄って、維持分と帳尻合わせて……佐天涙子、小学生バージョン!」
「……うん、凄いけどさあ、下見て」

が、胸を張った涙子は言われるまま下を見て、そこで顔を歪ませる。
引きずるスカートを、ニヤリと笑う椛が『踏んだ』、そして更に『引いた』。

「ちょっ、待っ……」

が遅い、椛の二度目の反撃が行われる。
ズルと、涙子の体が真横に滑る。

「わふっ!」

ドゴス

「あ、ああ……ぎゃんっ!?」
「フンッ!」
「……せめて捲くれば?」
「……そうする」

地面に突っ伏して、涙子が悶絶し、椛と打ち止めが(後者は同情混じりに)笑った。





・・・とりあえず佐天さんは打ち止めたちの方へ、適当に騒いでもらいましょう。
で、ミーシャ、ヴェント共にある意味学園都市漫遊みたいな感じで進めていきます・・・青春劇か人情話か、それともB級アクション風味か、少し悩んでますが。

以下コメント返信
九尾様
前の時は(偶然の儀式で)『落ちた』が今回は自分で『降りた』という違いが有ります、後展開的な都合・・・自分で動く姿を書きたいなと(元凶同僚だけに挽回もね)
ふむ、こいしにフランか・・・そういや一方通行の姉である霊夢、レミリア&聖といい『姉(長女)』に比べれば地味というか、まだ書いてませんでしたね。
・・・少し考えてみます、幸い大覇星祭という関わりやすいイベントも有るし(まあ、本編でなく番外かもしれませんが)

黒すけ様
というか、片方だけだと気を張りっぱなしなのでシリアスとほのぼのを交互にやりたい・・・鬼達はまあ兎に角呑気な東方成分?



[41025] 不和と不安と・三
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/06/19 19:08
「はあ、甘いってのはわかっちゃいるんだが……」

ヴェントが俯く、お冷を手に自嘲気味に零す。
メニューを持って来たアニェーゼが給仕するように見せかけながら話を聞いていく。

「……はあ、最初は単なる付き合い、声を掛けられてってだけなのになあ」

昔を思い出し、その苦労をも思い出したか、彼女は少し顔を顰める。
最初は岡崎とちゆり、そこから始まって『三種類の人材』が集められた。
まず科学代表として超能力者昇格直後の美琴、次いで科学から見ても異常な異能である上条、そして前者二つのどちらとも違う『別系統の技術』の持ち主のヴェント。
その時は単に研究者に近づけば諜報が楽だろう、その程度の軽い気持ちで受け入れた。

「でも……何ていうか、『もう居ない』あの子に重ねてるっていうか……
ガキの相手してるうちに『敵である科学側』を受け入れてる自分がいる、我ながら度し難いね」

本来は敵ではあるが、嘗て姉『だった』彼女は年下の連中には多少甘さがある(放置しても自力で何とかするしぶとい『某少年』除く)
それが諜報という立場上離れるべき科学との接触に繋がり、また今彼女を悩ませてもいた。

「スパイとしちゃ失格だが……今更冷たくは出来そうにないわ」
「……ヴェント様」

正体発覚を防ぐ為に遠ざけるのも権力を利用し誤魔化すのも、それこそ問答無用に口を封じることも、そのどれもが今の彼女が出来るとは思えなかった。
ガクと自分の情けなさから彼女は肩を落とした。

「……情けないなあ、本当に」
「……そうは思いません、そういった悩みは主とてお咎めしないはず」

だけど、そんなヴェントをアニェーゼやその部下のアンジェレネはどこか好意的な目で見た。

「仕方有りません、我等は人なのですから……そうである以上道理だけで生きる等無理というもの」
「人間性を捨てれば『堕天使に組した連中』と同じ……そのような方に仕えるのはごめんですし」
「……まあ、確かに『ああ』は成りたくないわね」

力付けるようとする言葉に、僅かにヴェントから自嘲の色が失せる。
それから『違う』意味でもああなりたくないとも。

「……ていうか、物理的にもあれは……事件後堕天使の信者が『氷漬け』で教会に届いたし」
「手紙付きで『頭冷やしといたので、解凍ヨロ』ですものねえ、あれは酷かったです……」
「何かここ最近の学園都市……どうも変なのばっか増えて、正直やんなるわ」

はあと暴走した身内の末路、そして容赦無い第三者に二人は嘆息した。

「……と話がずれた、何かしら対処しないとね」
「どうされます、司教?」
「現状維持も不義理だしなあ……」

部下の問いかけに少し黙りこみ、それから彼女は諦めたように力無く笑う。
自棄のような、開き直ったような、そんな複雑げな顔で答えた。

「何もかも終わりにする、私はこのまま……『消える』よ、それで互いに『忘れられる』から……」



閑話 不和と不安と・三



「……祭かあ」

上品な洋装に『青髪の少女』と簡素な貫頭衣に『金と紫髪の少年』が祭前の『はしゃぎ気味』の学園都市を物珍しそうに見ながら歩いている。
二人は気の早い出店で頼んだかき氷を手に、シャクシャクと氷山を崩しながら呑気に言葉を交わし合う。

「かき氷の一気食いで頭痛って、どういう感覚なのかしらねえ」
「……さあ?吸血鬼も天使もそういうのは多分しないし、というか人間より体が『雑』だから……」
「雑言うな、雑って……ううん、頭痛は嫌だが季節の代名詞らしいし少し気になるわね」

和食好きか小豆乗せをレミリアが首を傾げ、対し渋く砂糖がけのミーシャがズレ気味の相槌を打つ。
ミーシャは人なら偏頭痛で苦しむようなハイペースでカキ氷を片付け、それから満足そうに笑う。

「うん、ご馳走様……次は何を頼もうかな」
「あら意外に健啖ねえ」
「……だって、楽しいから……天界で『こういうの』に付き合ってくれるの居ないもん」
「あ、うん、ごめん……」

が、レミリアの言葉は地雷だった、身内のゴタゴタが兎に角多いと定評のある天界出身の少年が崩れ落ちた。

「私は個人での地上派遣が主任務で部下居ないし、他は別派閥だから話せないし……他の三天使は論外だし」
「まあ、堕天使だしなあ……」
「それ以外の二柱も……ミカエルは頭ガチガチで誘い難いし、ならラファエルはといえばあっちは『大量の事務仕事による過労死担当』で違う意味で誘えないし。
……私はこっちでしか遊べないの、仕事忘れさせろー」

対人(天使)関係で悩む少年が痛切な叫びを上げた。

「ああうん、悪かった……つ、次に行こう、今は楽しもうじゃないか」
「ぐすん、そうする……」

流石のレミリアも顔を覆い、滅多に出さない同情心が湧く、彼女は幽鬼の如き顔の友の手を引いた。
トボトボと歩き出す彼を引いて、適当な喫茶店に向かった。

「(ひ、一息ついて落ち着かせないと……)って、あら?」

そして、自分と変わらない位の少女達を見つけた。



「せえのっ……」

カツンッ

ジュース入りカップを打ち合わされる。
ニヒルに笑みを交わし、それから三人の幼い少女達(うち一人年齢詐称)が叫んだ。

「……一方通行と巫女のお姉さんは常識人になれ、でFA!」
「……フレンダお姉ちゃんはドタキャン詫びろで、でFA!」
「……スイちゃんはいっそ禁酒して、でFA!」

それぞれの保護者への愚痴を盛大に叫び、それからニヤリと笑った。

「ようし、これからミサカも皆も……妹の権利向上を目指して頑張ろう!」
『おーっ、子供だからって舐めるなー!』

聞く分には可愛らしい、だけど彼女達にとっては本気の宣言が喫茶店のテラスに(迷惑でない程度に)響いたのだった。

「……まあ、佐天お姉ちゃんは『なんちゃって妹』だけど」
「……にゃー、大人が子供ぶるのはずるいって思うなあ」
「ふっ、(相対的に)鬼よりはまだまだ子供さ!」

が、一転意地悪な顔で子供等に攻められ、涙子は都合のいいことを言って誤魔化そうとする。
が、そんな彼女の頭上で白いフワフワ(打ち止めが重そうと移った)椛がペチと小突いた。

「わうっ!」
「きゃん!?」
「……ほら、勝手なことを言うなって怒った」
「だって、せっかくの後輩キャラだしそれを活かそうかなって……」
『はあ……』

その『小狡い』言いように、向かい席の打ち止めと頭上の椛が揃って溜息を付いた。

「お姉様の知り合い、何か『濃いの』ばかりだなあ」

思わず打ち止めの口から呆れるような言葉が漏れた。
すると、コテンと(椛が移って)頭に直乗りの生き人形が小首を傾げる。

「……ハテ、『ソウ』デナイノイタッケ、『超能力者』『巫女』ガ『保護者』ノジテンデ?」
「……人形さん、目を背けてるのに言わないでよお」

痛い所を突かれた打ち止めが目を逸らしたのだった。

「……にゃあ、そっかあっ、皆も大変なんだねえ」

一件悩みのなさそうな涙子も打ち止めも、色々有るのだとフレメアは目をパチクリする。
その膝下で毛玉がわかっているのかいないのか目をパチクリ、そんな彼をフレメアは物憂げに見下ろす。
彼女はちょっと複雑そうな笑みを浮かべて言った。

「ううん、もしかしたら……仕事が忙しい、それだけのお姉ちゃんでこっちはマシなのかも」

苦笑気味にだけど微笑む。

「なあんか……怒る気分じゃなくなっちゃった、うん」

さっきまで怒ってたのにと不思議そうな毛玉に、フレメアは悪戯ぽく口の端を傾ける。

「……まだ許してない、一度思い切り怒ってさ……謝ってくれたらそれで良いかな、もう」

そう思う自分に苦笑する、教会ではあんなに荒れてたのに不思議なもので、だけど打ち止め達に愚痴っていくらか気分が良くなった。
気が晴れれば残るのは姉への素直な思い、約束を破られて怒ったのは嫌いではなく『好き』だから。
不満は有るけどそれに気づいて、ならば怒るだけ損だと(楽観的な少女達の影響もあるだろうが)『一区切りとなるケジメ』さえあればもう良いかなと今は思っていた。

「ようし、そうと決まれば……沢山遊んで食べて、英気養わないと!」
『おーっ、応援するよ、フレメア!』

だからその時の為に、彼女ははしゃげるだけはしゃぐことに決めた。
この隣の奇妙な、茶髪にアホ毛の御人好しと共に。

「にゃあ、このまま自棄食いするぞおっ……当然付き合うよね?」
「もっちろんそのまま鬱憤出し切っちゃえ……店員さん、紅茶のおかわりとケーキセット二人分お願いしまーす!」
「……ま、元気なのは良いことだ」

そんなフレメアに、気持ちが少しだけわかる打ち止めが乗り、向かいの席で涙子と椛が微笑ましそうにする。

「全く、いい子だねえ……私等はどうする?」
「わふわふっ」
「……はいはい、食べるのね、適当にジャーキーで良いかな」

友人の妹に末恐ろしいなと笑いながら、一人と一頭も合わせるように注文した。

ガタッ

『おっ?』

そして話が一段落したのを見計らったように、二人の少年少女が隣に来た。

「……楽しそうね」
「ありゃ、確か……吸血鬼の?」

上品な洋装に『青髪の少女』と簡素な貫頭衣に『金と紫髪の少年』。
片方は見覚えがある組み合わせに打ち止めが首を傾げる。

「三沢塾の乱暴者の……お姉さん、だっけ?」
「そっ、フランの姉……学園都市だとそっちが通りが良いのね。
……ま、お邪魔するわ、白いのと霊夢のところのお嬢さん?」
「……んー、今は騒ぎたい気分だからどうぞー!」

いきなりの乱入者に僅かに首を傾げ、それから丁度はしゃぐと決めたのだしと軽い気持ちで迎える。
チラとフレメアに一瞬視線をやってから言った。

「彼女はフレメア……完全一般人で、今日の主役だから、引かない範囲で楽しませてあげて」
「はいはい、了解したわ」

打ち止めの念の為の言葉に頷き、レミリアは恭しく一礼する。

「レミリア・スカーレット……そっちの子の保護者の友人、まあ宜しく」

まず当たり障りのない挨拶、それから後ろ手で出した魔力塊を『人外鋭い爪』で素早く削って形を整える。

「で、これは……」

ポイッ

荒く削り出したような『偽りの赤バラ』がフレメアの目の前に放られる。
歓声を上げる彼女に、レミリアはどやあと笑う。

「二三日は保つわ、髪にでも差しときなさいっ」
「わあっ、ありがと!」

既に有る白梅と、その対の位置に赤バラを、二つを飾ったフレメアがにっこりと笑った。

「……やるな、レミリア……ならば、私も」

ゴソゴソッ

そして、自分だってと負けじとミーシャが飾り気のない白衣の袖を探る。
適当に話のネタになる何か、それを探った彼は少ししてから引き抜いた。

「ええと……これならどう!?」

ドンと『巨大な能面』が机の上に出され、フレメアと打ち止めがびくと目を見開く。

『うわっ!?』
「……あ、ごめん、今回使う気のなかった『本体』だ……忘れてくれ」
「……無理に合わせないでいいから、なっ?」

インパクトはあったが話のネタというのに無理がある。
慌てて面を仕舞う彼に、その恥ずかしそうに縮こまった肩に、レミリアは苦笑しながらポンと叩いたのだった。



少女達がはしゃいでいるその頃、ローマ正教本部に電話が入った。

『……駄目かもしれねえ』
「……そうか、まあ仕方ないか」

電話の向こうで、普段は恐ろしく勝ち気な女が弱音を吐く。
それに電話を受けた『赤い魔術師』が責めるでもなく嘆息する。

「俺と同じ視点からの情報、『末端』を介さない『弄られてない』の情報は貴重なんだが……はあ、残念だ」
『悪いな、流石に今の状態じゃ諜報は無理……こっちの息が掛かったのを代りに送るんだね』

複雑そうに彼女、ヴェントは仲間に自嘲気味に告げる。

『戦場で昔馴染みと会った、加えて……そいつは科学と魔術、その両方の知識が有る……もう何時バレても可笑しくないと思う』

すると、そこで彼女は一瞬黙りこみ、それに対し『赤の魔術師』は半ば呆れて続きを予想する。

「それだけじゃねえだろ……これ以上騙すのは気が引けるか?」
『……まあな、一度受け入れちまった以上無理かもしれねえ』

やや間が空いた、少し答え難そうにしながら、それでも否定せず認める。
情を覚えていると、ヴェントは認めた上で再開する。

『科学を許す気はない、だが……今直ぐ前のように憎めるかといえば正直キツイ、だからあるいは……』
「……ちょうどいい頃合いってことか、二つの意味で」

そして、ヴェントは殊更強く、どこか『自分を追い込む』ように言った。

『……数日以内に、事故か何かで死人が出る、そっちで……まあ疑われないように細工して欲しい』
「……そうか」
『そいつは学園都市に送られたシスターだ……御坂辺りはショックを受けるかもしれんがまあ『バレる』より『マシ』だろう』

魔術師は最後に問う、後悔しないかと、そして直ぐに答えは返る。

「……それで良いんだな、ヴェント?」
『ああ、それしかねえ……諜報だとバレる前に私は消える、加えて……
今は距離を起きたい、科学に対する魔術の刺客を責務を果たす為に』

結局彼女はその道を取る、迷いながらも嘗て通りの憎悪に生きることを。
そうして彼女は友人も同僚も自分自身も、『全て』を騙すことを選んだ。




・・・四に続く、割と短編の予定でもう半分か。
因みに、苦労人風なミーシャですが・・・聖書の記述をそのまま取ると二回程『眷属全滅』、しかも大体神様の無理難題・・・下手すればウリエルより貧乏籤キャラかも。
そして・・・ヴェントさんが何か原作と違う意味で追い込まれてます、割りとその去就が今後に影響しそう。

以下コメント返信
九尾様
ジョジョというより気分は何となくハリウッド乗り、無駄に爆発するイメージ・・・ああ、東方及び関係者だし(江戸っ子的意味で)祭りにはしゃいでるでも良いか。

面白いは面白いが……様
ふうむ、描写不足ですか・・・確かに少ないかもしれません、今後その辺に気をつけてみます(今までの分は量が量なので逐次改訂で、何とかお許しを・・・)
ご注意は確かに受け取りました、キャラの掛け合い共々頑張ってみます。



[41025] 不和と不安と・四
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/07/17 15:54
注意・設定弄ってたら文字化け表記ブレが出てしまいました、あげ直したので戻ったはず・・・戸惑った方はごめんなさい・・・



不和と不安と・四



ドンッ

「姉の横暴を許すな―」
「にゃー、許すなー!」
『……』

三者三様に、『保身に傾いた者達』がいろんな意味で目を逸らす。

チョコン
ヒュルル
ガジガジ

生き人形は『唯の人形のように座り込み』、修験者崩れは『マイペースに笛を奏で』、休暇中の哨戒天狗は『一心不乱にジャーキーを齧る』。
我関せずな彼女達に対し、『唯一人の姉』は黙っていられなかった。
青髪の吸血鬼、レミリアは『妹』、兄姉への文句を言う少女達を前に肩身狭そうにする。

「うー、仲間はずれの気分……」

彼女は酷く心細い、あるい魔女狩り時代ですら感じたことのない孤独感を感じた。
まるで全てが敵のような窮屈さの中で、何とか自身の思いを口に出す。

「な、なあ……」
『うん?(にゃ?)、なあに?』
「あー、その……『姉』だって色々大変なんだからな、妹の世話に外面良くしたりとか!」
「……残念、今は『妹』立場向上の会、その言葉には正当性は無しでーす!」
「……うー、少しは労れよう、上の立場だからこその苦労も有るんだぞ!」

姉である彼女の言葉は呆気無く排斥され、それに対し『妹』打ち止めとフレメアは民主制(という名の数の暴力)をバックに更に気を大きくする。
彼女達はジト目を異端者であるレミリアに向けた。

「フレメア、やっぱり……」
「うん、姉は敵だね!」
「そうだね、立場が上だからって我儘だよもう!」
「そうそう、偶には反撃したって良いじゃないの!」
「……駄目ね、多勢に無勢か」

今までの諸々の不満が溢れでて、それにレミリアが圧倒される。
ある意味吸血鬼の少女を知らないからこその蛮行だが、それ故の遠慮の無さが相手を動揺させ反撃を封じていた。
珍しく押されて困ったレミリアが助けを求める。

『……』

が、巻き込まれたくなかったので皆が無視した。

チョコン

生き人形のアリスは『ただの人形ですので』という顔で黙ったままで。

ヒュルル

制服から『切り詰めた』修験者装束に着替えた涙子は『あ、私は一パフォーマーだから』と演奏に徹し。

ガジガジ

未だ子犬形態から戻っていない椛は『今野生に帰ってます』(という体で)暴食に逃げていた。
彼女達は三者三様に、だが皆が巻き込まれてたまるかと言いたげだった。

「お、お前等も何か言えよ!?」
『……』

チョコン
ヒュルル
ガジガジ

やはりこれもスルー、保身を選んだ三者をレミリアが恨めしげに睨む。
だけど今は詰問は後と、彼女は姉故の苦労をぶち撒ける。

「上だって、大変なんだからなっ……何せ妹にとっての最後の砦、社会的経済的にも『そのままの意味』でも守ってやらねばならん!
何より幼い分隙の多い妹のフォロー、それが口煩く見えるだろうが……」
『……でも約束破りは駄目、それとこれとは話が別だもん!』

二人掛の責めに流石の吸血鬼も怯み、困ったようにそれまで黙っていたミーシャを見る。

「あー、何か無いかしら?」
「ふむ、母と子なら一家言あるが……」

ミーシャは少し考えて、それからはっとした顔で「レミリア」を睨んだ。
友であるはずの彼、天界の勢力争い(教会成立時期で今ほど主が成熟してなかった)最大の被害者が吠えた。

「姉と妹、上の立場……いや上が悪い、『上』は目下のものに優しくすべきだ!
そう、具体的に……眷属粛清とか絶対にノウ!」
「裏切ったわね!ていうか、私怨じゃない!?」

二人の友情に僅かに亀裂が入ったのだった。



『女』が喧噪を見下ろす。
『空』から様子をうかがうその女は『見えない何者か』を搔き抱くようにしていた。

「『魂魄』、命有る者が死した時に残すそれは……前者は天に上り、後者は地に残る。
概ね後者が幾らか残り易く、前者が形を維持することは殆どあり得ない……」

が、そこで女が笑う、『一つ例外』が存在した。

「そう、人はそれから逃れられないが……『魔界の者』ならどうかな?」

彼女は手を翳し、残滓といえる程に劣化した『魂』に力を吹き入れる。
『消えかけていたそいつ』は、天に上るのをしつこく抗った魂魄の片割れが『形』を為す。
星を模した杖を握る『零落した神』がうっすらとだが出現した。

「やあ、旧友……このまま消えるよりはマシだ、一つ賭けに出ないか、『エリス』?」

そう言うと女は眼下の少女を、『姉に怒る金髪の家出娘』を指した。



ギャアギャアと妹二人と人形が可愛らしく騒ぎ、それをちょっと離れて山育ち一人と一匹に吸血鬼に天使が苦笑しながら続く。

『……あ』
「お、御坂のとこの……」

そこに黄色のシスター、近くの役所で『どこかへの電話』を終えたらしきヴェントと鉢合った。
友人と似た少女、また出際に教会に来ていた少女を思い出し、一見愛想よく話し掛けた。

「あー、御坂の妹だっけ、それと……そっちの子は教会に来てたわね」
『はい、こんにちは、シスターさま!』
「……おう、こんにちは」

手をひらと振り合って、それからヴェントは面子に小首を傾げる(一瞬ミーシャに動揺したが上手く隠した)

「大所帯だね……祭、てか観光かな」
「まあそんな感じ、愚痴は大体言い切ったと思うし……街を一巡りって感じで」
「ふーん……まあ大覇星祭が始まれば一気に混んでくる、今のうちに目ぼしいとこ回って目星付けるのも良いんじゃないか?」

途中気になる部分もあるも僅かに考えた後、ヴェントは軽くアドバイスを残す。
今の境遇の複雑さはあれど知人の妹を素気無くするのもどうかと、学園都市の先輩として振る舞うことにした。

「大覇星祭は運動会に文化祭、各種イベントに最後の花火……割とスケジュールが詰め込んでるからねえ。
……本気で楽しむなら一足早く始めるのも悪くない、精一杯楽しんどきな」
「……うん、そうする、『皆』で一杯一杯思い出を作りたいしね!」
「皆ねえ、姉妹仲が良いようで何よりかしらね……」

ちょっとだけ『自分の事情』で僅かに寂しそうにし、それでも友人の家族関係に一応微笑んでおく。
それ以上言わず(寧ろ話し過ぎれば無意識に)ボロが出かねないと、そこで話を打ち切ることにした。
友人の関係者、且つその仲の良い家族という無視し難い相手、加えて『ラファエルと関係深き天使』、色々な意味でやり難い相手だと遅まきながら距離を取り直す。

「……こっちに来てる同僚思い出した、私はここで……じゃ、またね」
『はい、シスターさま!』

もう一度手を振り合って、彼女達はそこで別れる。
極力疑われないようポーカーフェイスで、ヴェントは打ち止め等を見送り擦れ違う。

(やれやれ、姉に妹か……我ながら感傷的だね)

半ば自重するよう思い、そして彼女はふと空を見上げる。
そこで、ぎょっと目を見開く。

「……どんなタイミングだよ、恨むよ主よ」

幾つかの光条、落ちるそれが向かうのは別れた少女達の方、チャラとポケットで『十字架』が揺れた。



堕天使が笑った、魔神が目を細めた。

「エリス、あの少女の力、如何程か判るだろう……少し手伝ってはくれないか?」

コクン

「……了解した」
「では頼む、連れて来てほしい」

魔神エリス、少年の姿ではなくその前の女性体を取るその片割れが頷いた。
彼女は星型のロッドを握りしめ、ゆっくりと降下する。

「しくじらないようにな、エリス……一応援護はする、『少し前に手酷くやられて』最小限だが」

女は『ボロボロの巨眼』、魔界神の『孫』との攻防以降『壊れかけ』の悪魔を向かわせた。
フワフワと浮かんだそいつ等がエリスの周囲で隊列を組む。
そして女は協力者であるエリスにこの場を任せ、次の準備にと『翼』を広げた。

「では後は任せた……上手くやれよ、共に魔界神に楯突いた旧友よ……」

彼女は翼を一打ちし飛び去る、『一ひらの青い羽を残して』。



それは突然だった、打ち止め達の眼前に異形が出現する。
空間を割り裂いて『幽鬼の如き形相の女』、そして『手負いの獣じみた雰囲気の魔眼』がその場に現れたのだ。

『え?』
「……貰ったぞ、娘」

ギラギラと眼光を輝かせながら女が言い、反射的に打ち止めとフレメアが身を竦める。
そこに、咄嗟に左右の少女達が反射的に割り込んだ。

「……近寄るな!」
「がるるるっ!」
「誰か知らんが……離れろ!」

反射的に涙子が右手で、また左手に抱かれる椛も弾幕を、それと同時にレミリアがその鋭い爪を閃かせる。
援護射撃とともにレミリアが飛び込んだ。

「行って、レミリアさん……すううう、凍れっ!」
「……言われなくても!」

クナイと大弾、更に牽制の冷気、それ等との時間差でレミリアが突っ込む。
咄嗟に出現した女、『もう一人のエリス』は星のロッドを構えた。

「ちいいっ……」

ギュオッ

打ち止めとフレメアに伸ばした手を止め、ロッドを体の前で回す。
高速回転するロッドが弾幕と冷気を弾き、がそこへ吸血鬼の爪が振るわれる。

「そこだ、はああっ!」
「う、間に合わ……」

ガギィンッ

鉤爪による一閃がロッドを弾き、くるくると弧を描いて上に跳ね上がる。
すかさず、レミリアが逆の腕を握り振り被った。

「ちいっ、邪魔をするな、吸血鬼!」
「ふん、話は後で聞いてやる……そりゃあっ!」

ズドンッ

「むっ、手応えが!?」

一直線に拳打が放たれ、がそれは『軌道に滑り込んだ魔眼』にめり込んでいた。

「ちいいっ、小癪な……」
「魔眼よ、押さえておけ……転移、同時に行く!」

逆に今度はエリスが動く、防がせたのと別の三体と共にレミリアに反撃する。
まず頭上に転移、虚を突くと同時に弾かれたロッドを素早く回収し構え直す。
そして、そのままレミリアに向かってロッドを叩きつけた。

『させない!』

咄嗟に椛を抱いたままの涙子が、動揺から立ち直ったミーシャが割って入った。
二人が反射的に張った水の壁、二重の防壁がロッドを受け止める。

「これで仕切り直して……」
「……甘い、行けっ、魔眼よ!」

だが、そこで三体の魔眼が追いついた、彼等は手負いの獣さながらに弾幕を連射する。

ドガガガガッ

『くっ!?』

咄嗟に涙子(と椛)、そして大勢を立て直し終えたレミリアとミーシャが打ち止め達の前に飛び出す。
無抵抗の彼女達の元には行かせないと、相殺すべく弾幕を展開しようとした。

ドガガガガッ
ゴウッ

「……突撃せよ」
『う、しまっ!?』

が、そこでエリスが短く指示し、それに従い魔眼達は自らが起こした爆炎に突っ込んだ。
自らの魔力に焼かれながら三体が突撃、いや特攻を敢行した。

『ぐあっ!?』

涙子とその腕の椛、ミーシャが弾き飛ばされる。
辛うじて人外の体力を持つレミリアが一瞬踏み留まるも、そこに最初の攻防でエリスを庇った魔眼が追撃を掛けた。
ズドンと、二度目の突進を受けたレミリアが涙子達の方まで飛ばされた

「ぐっ、四体目、まだ動くか!?」
「……そのまま押さえておけ」

吹き飛ばした三人を更に魔眼が追う、弾幕で追撃しながら只管接近を阻むように撃ち続けさせる。
そしてそうして時間を稼いだエリスは打ち止めとフレメアを見やった。

「さあ、あっちが相手している間に……来て貰おうかしら?」
「……サセナイッ、フットベ!」

慌てた様子で生き人形のアリスが飛び出し、エリスに弾幕を放つ。
が、彼女は先程と同じように掻き消え、再び気配は頭上へ。

「……ふむ、まずは邪魔者からか」
「……イヤダイッ!」

ズドンッ

素早くアリスは更なる弾幕、頭上に出現した影を追って光弾を叩きつける。
ガンという音が響き、『星の装飾がされたロッド』が真上に跳ねた。

『あっ!?』
「……流石に二度同じことはやらんさ」

エリスが出たのは一歩程横、先にロッドだけ転移させたのだ、更にクルクルと舞うロッドの石突きに拳を叩きつけそのまま弾幕を爆ぜさせる。
ゴウッと加速したロッドが人形の肩にめり込んだ。

「アウッ!?」
「……貰った、覚悟しろ、娘!」

右腕が脱落して人形がバランスを崩す、衝撃で動きの止まった彼女の横をエリスが抜けた。
そのまま眼前にまで駆け抜けて、その手を伸ばそうとした。

『ひっ!?』

二人が身を竦め、エリスがニヤリと笑う。
そして、『黄色い風』と『赤の雷光』がそれ等全てを追い越した。

『……離れろ』

『黄色いシスター』が徒手から放った風が、『赤い外套を纏った超能力者』の投擲した砂鉄の刃がエリスを弾き飛ばした。

ガギィンッ

「ぬうっ!?」
「……させねえよ(……ああくそ、馬鹿だな私は!?)」
「退きなさい、亡霊女(……尾行、どうしよう!?)」

情を捨てられなかったヴェントが、家族の危機を黙ってられなかった美琴が、互いの状況をすっかり忘れた女達が立ち塞がった。
そして、そこで二人はそのことにやっと気づく。
諜報だとバレたくないから地味でいたかったのに、同じく尾行の身で大人しくしたかったのにと。

『……あ、やっちゃった』

二人は思わず固まって、それから情けなさそうに顔を見合わせる。

「……あー、御坂、互いに見なかったことにしないか」
「……難しいと思う、いや後回しにはするけどさ」

顔を青くし、一転赤くし、それからまた青くし、その後二人は同時に肩を竦める。
一瞬でだけ『先延ばし』にしよう、そう決めると立ち上がった人形に打ち止め達を任せ、エリスの前に立った。

「……うん、考え無しだなあ、私もあんたも」
「いや全くで……行きますよ、ヴェントさん!」

それが『この瞬間だけの妥協』と知りながらも。



そして、そんな勇ましいゼミ仲間、さっさと行ってしまった少女にちゆりは思わずジト目になった。

「……尾行なのに出てどうするよ、後輩」
「ま、仕方ないでしょ、御坂だし」

一方で自分も向かおうとし、速度の差で出遅れた上条がやれやれと肩を竦める。
既に美琴が行ったなら、自分は他に回ると彼は自制し足を止めた。

「この状況でスパイ探しは無理、となると……俺は暗部の友人に連絡します、ちゆりさんはアンチスキル辺りに知らせて下さい、さあ学生や通行人を避難させましょ」
「え、あの、寧ろヴェントが一般人かどうか調べるチャンスなんだけど……」
「……良いから早く、無関係な人間を巻き込む訳にはいかないでしょうが!」

これをチャンスだと考える先輩を僅かに睨み、彼は強く言い含めた。

「あの様子だと直ぐに撃ち合いになる、大人達を動かして通行者の退去を……名目は能力者同士の戦闘とかで」
「むうう、わかったぜ……」
「……避難させるけどそれ以上は困る、高位の能力者と強調して警戒を」

避難活動やそれ以上の行動、例えば無理にエリスを拘束しようとして被害が出ては堪らない。
多少大げさに伝えるように言い、上条は携帯を開いた。

「じゃ、頼みましたよ、ちゆりさん……後であっちで合流を、俺も土御門に伝えたら援護に行きます」
「お、おう……(ううむ、妙なことに成ったぜ、スパイ探しが流れたらゴメンな教授)」



巨眼の悪魔が飛び回り、それに囲まれた少女達が忌々しそうに叫ぶ。

「ちょ、ちょっと何なの、退いてよ!?」
「がるるっ!」
「……わかってる、直ぐに抜けるから捕まってなさい!」

打ち止め達が気に掛かり、焦ってしまうのを堪えて涙子は椛と共に向うに行こうとする。
が、魔眼が執拗に追い縋る。
グルグルと目障りなまでに円周上に飛んで、その上大弾を乱射し捲くった。

ドガガガガ
チチッ

「くっ、しつこい……レミリアさんは!?」
「……難しいな、私だけ複数でね」

グレイズしながらの言葉に一番素早いレミリアが向かおうとし、が彼女には二体掛かり。
子供の姿の涙子、降下直後の戦いで消耗するミーシャより脅威と、そう警戒された彼女は左右からしつこい挟撃をその度爪で払った。
その背後でミーシャも敵と撃ち合い、単独の分レミリアよりは余裕があるがそれでも足を止められていた。

「こいつ、一体何が目的で……(このタイミング、まさか『奴』か……)」

内心馴染み深い相手を疑いつつ、彼女は翼を振るい魔眼を追い払った。

「……ミーシャ、単独の分そっちの方が抜け易いかもしれない、なら……」

ポイ

「持っときなさい」
「爪の欠片、ああ魔力の残り香……了解した」

弾幕を払った際にレミリアの爪が割れ、それを受け取ったミーシャはその破片を目を細め見詰める。
これで一応『目処』は立ち、後は『主への忠誠』かそれとも『主への恐怖』か、捨て身で襲いかかる魔眼を抜けるだけとなる。

「……にしても、死に損ない故の無鉄砲さ、計算してなら性格が悪いねもう!?」
「あるいは……最後まで使い捨てようと言う腹かしら?どちらにしろ向うが気になるが?」
「でも目的がわからないね、あの少女等を何故狙うのか……」

涙子に椛、レミリアミーシャは魔眼の相手しながら打ち止め達を心配する。
『何か』が着実に進行している、そんな気がした。





甘いのは変わらないという、で急展開って所で次回へ・・・打ち止めは兎も角何でフレメアが狙われてるんでしょうね?と新約片手にすっとぼけてみる・・・
まあそんな訳で短編でも問題は起こります、ボスはエリス(二度目)(いや前は魂で、今回は魄だけど、あ逆だっけ?)
再生怪人と言ってはいけません・・・にしてもすっごい前の気がする、エリス編の『魂魄』云々は伏線のつもりだったけど、正直時間が経ちすぎたかもしれない・・・
・・・うん、長編でこういうネタ振りは正直無理が有った、多分これきり。

以下コメント返信
九尾様
寧ろ大変じゃない宗教の方が少ないと思う、まあそれでも・・・中国やインドの伝説や神話よりはまだマシかと、何かある度万単位億単位で犠牲者出るから。
バラはまあ予想のとおりというか・・・まあ別行動なので展開させ易いようにと、無意識に運命を感じたのかもしれません。



[41025] 不和と不安と・五
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/07/17 15:55
「……むにゅ、あふ、ふふふ」
「……お楽しみだったようですな、夢の中でも」

クウクウと研究所の仮眠室のベッドに突っ伏して、『金髪に耳当てをした聖人』が寝こけていた。
初めての市井に、そこでの異教絡みの事件、加えて祭と(遊び)疲れて寝倒れていた。
そんな一見気が抜けたマヌケな姿に、だけど(帰りが遅いからと)迎えに来た二人組は慈しむように微笑んだ。

「まあ、祭が有ったというなら仕方ないか……」
「初体験だったのかな……むうう、私も行けば良かったか」

銀髪と薄桃色の髪の少女達、布都とこころは少し呆れつつも眠る神子の頬を撫でたのだった。

「霊廟の主だというのに羽目を外して……今回だけですぞ、太子様」
「……布都、案外甘いの」

二人はくすと笑みを浮かべ、主であり親といえる人を優しく見た。

「やれやれ、もう少し寝かせておくか」
「……うん、そうだね、布都」
「……止めよ、年上を呼び捨てるでない」

暫し笑い合って、その後布都が少し不満気にこころからの呼ばれ方に文句を言う。
すると、こころは困ったように仮面を付けたり外したり、そうしてからポンと手を打った。

「……じゃあ、布都『お婆ちゃん』で」
「うむ、宜しい」
「あれ、良いんだ」
「そもそも太子様より一世代上じゃし、何より孫持ちじゃし……」

からかいの為のお婆ちゃん呼びなのに許し(当時を思い出したか柔らかく笑って)こころは拍子抜けしたようにする。

「……もしかして霊廟最年長?」
「いや、青娥殿は更に上だが……うむ、曾婆ちゃんと読んでやれ、こころよ」
「わかったー」

ニッと邪悪に笑った布都が余計なことを吹き込んで、それに気づかずこころは素直に乗ってしまう。
それに布都は更にクスクスと笑い、その時どういうリアクションをするか予想するのだった。

「さて、泣くかな、楽しみじゃのう……と、そういえばここの『家主』、真っ白いのは?」
「あー、何か街に出てったよー」
「……ふむ、何か有ったか?」

研究所にいる筈の少年の不在に、布都はおやと訝しんだ。



市街での戦闘、それを聞いて飛び出した『真っ白い少年』が『視線』に舌打ちした。

(……ちっ、妙なのが着いてきてンな、気に入らねェ)

シスターズの上位存在が巻き込まれた事件、それに首を突っ込もうとしたのだがどうにも様子がおかしい。
まるでこれからの行動を観察するように彼を、一方通行を見詰める無数の目が有った。

(これは実験か……俺と打ち止めを狙ってる誰かの戦いを望ンでるのか?)

まるでそれが期待されてるようで、天邪鬼な彼は先に行きかけた足を止めた。
散々学園都市に振り回された身でそういうのは面白く無い、加えて彼はシスターズ始め背負うものが多い、『上』の妙な実験に巻き込まれるのも馬鹿らしいと思った。

(ここは第三位に花を持たせるか……それに俺に『眼』が集まるならそれは『偏り』に繋がる、『代り』を見繕えばいい)

不満はあれど代案は浮かび、彼は鼻を鳴らしながら進みかけていた歩みを別方向へ。
そして、自分に期待する連中を笑うように、適当にうろつき始める。
気紛れにパニック起こした人々を睨み黙らせ、彷徨く片手間に避難路の瓦礫を蹴飛ばし退かし、そんな風に上の期待外れの行動を狙ってしていった。

「ふン、ボランティアか……全く我ながら優等生だなァ」

冗談めかして呟いて、そこで彼は奇妙な光景を見つけた、何所かで見たような暗部の少女達だ。

「ああもうっ、突発仕事なんて巫山戯んなっての……こっちは『妹と喧嘩別れ』したってのに!?」
「はいはい、大変ですねフレンダ……超貧乏クジです、このシスコンめ」
「……うう、早く終わらせて会いに行きたいってわけよ」

何だか家族関係で悩んでいるらしい金髪の少女が居た。
暗部として治安維持の一環のようだが、片方はそれに集中できておらず、もう片方はその愚痴に辟易した様子だ。

「……畜生、何所の馬鹿がこんな時に暴れやがった!?」
「はいはい、良いから……監視のカメラを再生させて……」

隣の叫びを受け流し、暗部の少女が路上に設置されたカメラを弄る。
が、戦闘時の衝撃の影響か、ザザとノイズ掛かった映像ばかりだった。

「むうう、これでは……」
「……何してンだ、第四位のとこの?」

二人は不明瞭な映像に顔を顰め、そこに暇を持て余していた一方通行が特に何も考えず声をかける。
ヒョイとカメラを奪い、まあ『知らない仲ではないし』と能力を使ってやった。

ジジジッ

一瞬ノイズが走り、それからクリアな映像が再生される。

「……ほれ、映ったぞ」
『おお、凄え!?』

慌てて二人はカメラを奪い、がそこで浮かびかけた喜びの表情が凍りつく。
映像の一角、見知る相手に片方が目を見開いた。

「フレメア!?」
『どうした(んです)?』

思わずといった様子で金髪が叫び、一方通行ともう一人の暗部が首を傾げる。
が、それに構わず走り出し、現場まで乗ってきたボックスカーに向かった。

「悪いわね、絹旗……す、少し用事を思い出したってわけ!」
「はあ?」

何を言ってるんだこいつと相手の正気を疑い、だけど必死な少女はそれに気づかず車の後部座席からある物を引き釣り出す。
車の主が適当に集めたうちの一つ、小型バイクを。
彼女はそれに飛び乗り、エンジンを全開に噴かせた。

「えっ、あの?」
「ここ任せた、少し出るから!」

戸惑いながら静止しようとし、がそれを口にするより早く相手は飛び出す。
あっという間にその背は見えなくなって、絹旗は手を伸ばしかけた状態のまま呆然とする。

「いやいや、どこに……って、仕事は!?私が二人分するんですか、フレンダアッ!?」
「……大変だなァ、まあ頑張れ」

裏切られ残った少女は絶句し、一方通行は他人事という顔で同情した。



不和と不安と・五



ヒュウッ

(このままじゃ不味い、なら……)

涙子が戦場を見渡し、激しく風を吹かせた。
味方がハッとしたように間合いを取り、対して魔眼が怪訝そうに彼女を見詰める。

(ここは大技で……前回『恐怖』を食えなかったから『新技』で!)

敵味方入り混じる乱戦、長引けば不覚を取りかねないと賭けに出る。

「撹乱する、隙を逃さないでね……吹けよ風、巻き起これ嵐!」

彼女は一気に大気を歪ませ始める。
ギロと周囲の魔眼が睨み、弾幕を集中させるも構わず『詠唱』する。
当然『魔眼』は妨害に出るも、『小型化した体』を涙子は逆利用し弾幕を潜りながら素早く準備を終えていく。

「臨む兵、闘う者……」

ビュオオオッ

彼女を中心に歪な気流が生み出され、それは四方からの弾幕をピタと『止める』。
更に涙子が印を切り、合わせて九つの印を続け、それからその力を一気に開放した。

「皆、陣を列べて……前を行くっ、彼と彼女の弟子を舐めんなっ!」

攻防一体の鬼の弾幕を鬼の弟子が発動した。
ゴゴゴッと大気が軋みながら転回していく。
生み出された嵐が外周に弾幕を貼り付けたまま加速し、被害規模は一瞬で戦場大半に。

「……井灘返し、スーパーセル!」

ズドンと受け止めた弾幕が魔眼を急襲し、更に風の流れが彼等を絡み取った。

『ギイッ!?』
「今っ、行ってえ!」

ダンと『影』が動けない魔眼の横を駆けていった。



『……何で、こんなことに』

『超能力者』は電撃で堕ちた神を追い払いながら愚痴った。
『黄のシスター』もまた風で援護しながら頭を抱えた。

(あっちゃあ、尾行者なのに前に出てって……馬鹿だなあ私、でも打ち止めを見てつい……)

昔馴染みと日帰り旅行で出会った司教、似た特徴の二人が同一人物かを調べてに来たはずなのにと、美琴は考え無しな自分に呆れる。

(はああ、我ながら馬鹿、諜報役が……それも今現在疑われてるのが暴れてどうするよ)

同じくもう一人、そういう疑いをかけられしばらく大人しくしようと決めていた女は自信の行動の矛盾に呆れてしまう。
寧ろこんなに目立ってしまい、彼女は自身の堪え性の無さ(特に家族関係が入った時)に嘆息する。

「とことん馬鹿だ、いやガキなのかねえ……私もあんたも、なあ御坂」
「……全くで、お互い治りませんねえこういうの」

背後の打ち止めともう一人(加えて抱かれた人形と毛玉)を守りながら、二人は力無く笑った。

「……やっぱり魔術師だったんですね、先輩」
「敵地に来るならそんなもんだ(……ちっ、ここまでは認めるしか無い、まだ司教とイコールではねえが)」

真実に一気に近づかれ、ヴェントは曖昧に言いつつ顔を顰める。
それでも前回とは別、あくまで一魔術師で一構成員で有ると言い張れなくもないがそれも状況次第で変わりかねない。
こちらに来ている『仲間』に頼んだ細工が間に合うか、彼女は考え頭を抱えた。

「(そもそも私が動いた時点で詰みの気が……)え、ええい、まずは敵を潰すよ御坂!」
「はいっ、話は後で!」

半ば誤魔化すように敵を示し、それに気づきつつも美琴も妹を狙う敵を優先する。
二人の視線に晒された敵、エリスがギクと身を竦ませた。

「険悪だったに何故?ていうか八つ当たりだろ、理不尽では!?」
『煩い、吹っ飛べ!』

ドゴンと、電撃と風が叩き込まれギャと悲鳴が響く。
直後ボワと土煙が立ち上り、だけど攻撃を当てた美琴達は油断なく間合いを取り直す。

「……先輩?」
「おうっ、こっちで防御に着いとく」

美琴が前に出てバチバチと放電を維持し、後方で何時でもフォローできるようにしながらヴェントが『妹達』を大事に抱える。
震える二人をギュッと抱き、安心させるように言葉を掛けてやる。

「安心しな、私が……おっかない超能力者が追い払ってやるよ、だから待ってて」
『う、うんっ』

自分のことを棚上げした言葉に、打ち止めとフレメアはぎこちなく笑った。

(……にしても何で狙われた?御坂の妹ならわからなくもないが……もう一人、巻き込まれただけかそれとも?)

そう彼女が訝しみ、がそれに答えが出る前に敵が動く。
土煙を裂いて、星形のロッドを構えた女が高く跳躍する。

ダンッ

「……そいつ等を寄越せえっ!」
『断る!』

二人が叫び返し、まず美琴が電撃を収束させ、空中から飛びかかるエリスに照準する。

「妹の敵、黒焦げになりなさい!」

ピシャンッ

矢のごとく一直線に紫電が飛んで、が次の瞬間相手が『ブレた』。
その姿が掻き消え、気配が別の場所に。

「ちいっ、転移か!?」

反射的にヴェントが打ち止め達の前へ、そしてそれと同時にエリスが頭上に再出現する。

「後一人、それさせ抜ければ……」
「させんっ!」

ブンと腕を薙ぎ払うように、ヴェントが風を放つ。
(槌という道具無しで)威力に欠けるも広範囲を狙った攻撃が相手を押し流す。
掲げたロッドで幾らか威力を削ぐも、空中のエリスが不自然な体勢で仰け反った。

「ぐっ!?」
「体勢を崩す、それで十分……御坂!」

自身は妨害に徹し、それに合わせ後輩が追撃に。
バチィッと不吉な音が鳴った。

「ちいいっ、人間なんかに!?」

舌打ちしてエリスがもう一度消える。
慌てて美琴が攻撃を止めて警戒へ、同じくヴェントも油断せず辺りを見渡す。

「……逃げた、それとも?」
「油断するなよ、ああいうのは諦めが悪い」

言いながら警戒、二人は周囲に鋭く視線を送る。
暫しそうして、それからヴェントが地を蹴った。

「ガキンチョ、後ろだ!」
『えっ?』

急なこの言葉に打ち止めとフレメアが反応できず、がそこで『空間』が揺れたと思うとエリスが腕を伸ばした状態で出現する。

「遅い、これで私は……」
「……私は、どうなるってんだよ!?」

ビュオオッ

「くうっ!?」

が、そこに走る風が先に届く、今度は引き寄せる風が二人を攫った。
エリスの手が空振りし、そして打ち止め等をキャッチしたヴェントが横に跳んだ。

「御坂!」
「任せてっ!」
「……う、不味っ!?」
「喰らいなさいっ……うりゃ!」

それは護衛対象の二人を遠ざける動作であり、同時に斜線の確保でもある、バチンと美琴がその手を輝かせる。

ピシャンッ

「ぐあっ!?」
「……怯んだ、今度はこっち!」

電撃に焼かれ、苦悶の表情を浮かべたエリスが倒れかかる。
すかさずヴェントが打ち止め等を美琴の方にやりつつ、風に乗って間合いを詰める。
ブンと腕を振り被り、その手に風を纏わせた。

「まあやるか、得物が無いがね……」
「くっ、来るなっ!」

近づくヴェントに、反射的にエリスが反撃した。
電撃のダメージで危なっかしい手付きでロッドを突き出し、そこで顔が引き攣る。

ブウンッ

シスターは僅かに体を逸し、それで空振りする。

「……甘いな、零落した神よ」
「うあ……」

ヴェントが最小限の動きで攻撃を躱し、目の前を通り過ぎるロッドにニッと笑う。
更にジャラと『鈍く輝く何か』がヴェントから伸び、振り抜かれたロッドに巻き付いた。

「貰うよ……どりゃ!」
「ぐっ!?」

未だ電撃で動きの鈍いエリスから武器を奪い、そのままヴェントが瞬時に反撃に移る。
ドスと付き出したロッドの先端がエリスの胴を強打した。

「ぐ、あ……」
「ふん、今か?……御坂!」
「はいっ!」

ジャララと砂鉄の鎖がくの字で倒れかかるエリスに飛んだ。

「う、不味っ……」

慌てて彼女は再転移、数歩隣に回避する。
が、そこで彼女は一瞬『迷った』。

(敵は依然二人、抜けられるか?)

無手となった手に弾幕を維持し、が戦意が僅かに揺れる、目的は戦闘でなく奪取だが不利は否めない。
引くかどうか彼女が逡巡し、そしてそれが『最悪』の形で出る。

ダンッ

影が、白い獣が死角から飛んだ。

「何!?」
『椛ちゃん!?』

涙子の送った援軍、子犬形態の椛が美琴達に気を取られていたエリスの不意を突いた。

「ガルルッ!」
「うっ、あの時の……ぎゃっ!?」

咄嗟にエリスが弾幕で迎撃しようとし、がそれより早く椛が懐に飛び込んだ。
弾幕を掲げ持つ手の手首に牙を突き立て、そこから一気に全身を振り抜く、ブツンと痛ましい音が響いた。

「ぎゃっ!?」
「……ふん、どこかの神か、妙な味ですね」

片手が千切れ飛んで、慌ててエリスが後方に引く、それにぺろと舌なめずりした椛が鼻を鳴らす。
血肉で強引に腹を満たし、増強した妖力で『変化封じ』を解除した彼女が鉤爪を広げた。

「手出しはさせません、友人の妹さんですので……はああっ!」
「あうっ!?」

鋭い爪の一閃がエリスの胴を払った。
バキンと肉と骨を割った手応えが帰り、腹の傷を押さえながらエリスが飛び退く。

「これ以上は無理か……すまない、サリ……」

旧友の名を呼びながら、彼女は恥も外聞もなく最後の転移を行った。

「……退いたか、まだ来るかな」
「どこまで時間が稼げるかしら」

一同は暫し当たりを見回し、それから構えを解く、それぞれ妹達を抱えた。
美琴が打ち止めを、椛が人型の彼女に目を丸くするフレメアを。
そして手隙のヴェントが先導しようとしてハットした表情に変わる。

「まあ、今は移動して……おい、注意しろ」

同じ『天界』、その気配に彼女は美琴達に注意勧告をして。
そこでその場に居た全員が『異様な光景』に目を見開く。

『なあっ!?』

バキバキと『街』が、『世界』が、古めかしい城塞に変わっていった。

(不味い、これは……ウリエルの加護の錬金か!?)



チッチチチッ

「……おっと、流石に四対一はキツイか」

魔眼が四方から飛び回り、涙子は子供の体で何とか躱していく。
が、大技直後で集中が切れかかり、数度弾幕が掠って顔を顰める。

(……援軍は送ったけどやっぱり私も行きたいね、それなら……)

弾幕を何とか避け、あるいはクナイで弾くと、彼女はさり気なく辺りを、地上を見渡す。
そうして『あるもの』を見つけて一気に降下した。

「……こっち来なさい」

ヒュウッ

風の向きを変えて下へ、それに魔眼も付いて行く。
一気に地上が、そして『黒髪の少年』が見えた。

「……上条さん、少しでいいから引きつけて!」
「……っ、行き成りか、だが了解した!」

落下寸前で涙子は横に飛び、そこへ声を聞きつけた上条が飛び込む。
拳を振り被り、追撃してきた魔眼に見せつけるように突き出す。
ビクと異能殺しの腕に魔眼達が怯み止まった。

『ぎいっ!?』
「……今だ、佐天さん!」
「はいっ!」

すかさず涙子が急反転、短く詠唱しながら魔眼に飛びかかる。

「臨む兵、闘う者、皆陣を列べて前を行く……喰らええっ!」

二度目の妖力開放、ゴウと吹き荒ぶ風とバチンと鳴る雷光が彼女を中心に広がる。
慌てた様子で上条が横に跳んで、直後風と電撃が魔眼達の目の前で爆ぜた。

「貰ったあ!」

ドゴオッ

彼女の弾幕が至近距離で炸裂し、まず最前列の魔眼が吹き飛び、更に後続を飲み込んだ。
ギャッと異形が悲鳴を上げ、続いてドサと地面に叩きつけられる。

「……まず一撃!」

涙子はグッと拳を握って喝采を叫ぶ。
その視線の先では一体が全身を焼かれ裂傷を追って倒れ伏し、残り三体も浅くない傷を負っている。
最も傷の深い一匹は動けず、残り三体がフラフラと浮かび上がってエリスの方へ向かっていく。

「……ふっ、これで一匹……残りは任せるかな」

小さく笑い、それから涙子はバタとその場で大の字で倒れる。
それに心配そうにする上条に、涙子は倒れたまま先を促す。

「ふうう、後は任せたよ、犬走……あ、上条さんも頼めますか」
「まあ、そりゃやるが……」
「……ではお願いします、ちと休むので」
「わかった、後で追いついてくれ」

手を振って促し、それに心配そうにしながら上条は押され駆け出す。
ダッと全力で駆けていって、そうして彼の背が見えなくなった所で涙子が嘆息する。

「ま、これで援軍は良いかな……後は休んで、それからあっちに行けば……」

そう涙子が呟き計画し、ゆっくり立とうとしたところで『銀』の光が走った。

ドスッ

「え?」

鋭い白刃が涙子の腹から『生えた』。

「ぐ、あ……」
「……悪いがこれ以上のイレギュラーは許容できん、前回の祭で懲りたのでな」

涙子は肩越しに、青い髪の堕天使の姿を見た。

「くっ、天神の……う、ぐっ」
「……止めておけ、無理だ」

反射的に『白梅』を生み出し振りかぶり、がそれは手から零れ落ちる。
涙子の四肢が末端から光となっていた、肉体の限界だった。
ブワと散る白い花びらの中で、虚しく散っていく香気の中で、涙子は堕天使を忌々しそうに見上げた。

「うっ、一回休み……やってくれるね、羽根付き」
「……ちょうど手負いだったのでな、取らせてもらったよ、異教徒」

睨み交差する視線、が涙子はそれ以上できず四散していく、屈辱の中で相手を睨め付けるしかなかった。

(……不味いな、復帰が間に合うか?)

絶望的な敵の援軍、それを警戒する中堕天使、サリエルが涙子から引き抜いた天界の宝剣を構える。

「……錬金は我が加護である……これより一帯を封鎖する、狩りの時間だ」

ズンと刃を地に突き立て、するとそこを中心に周囲に異変が広がる。
バキバキと道路が、街が堅固な城塞に変化していく。
それで逃げ道を奪い、それからサリエルは『目的の少女』を目指し翼を広げた。

「……ではな、我の知らぬ神の僕よ……また会おう、その時は既に手遅れかもしれんが」

堕天使は悠々と飛び去り、それを涙子は悔しげに見送るしかなかった。

(くうう、私としたことがしくじった……御坂さん、何とか無事で!?)

彼女は友を心配し、がそれを最後に完全に消える。
致命的な『一回休み』、『新たな敵』を知らせられないままに涙子は動けず、堕天使がエリスの元へ飛び立った。




・・・てとこで次回へ続く。
閉鎖空間での戦い、共に援軍有り・・・サリエル&エリスの旧作コンビとの最終決戦開始です。

以下コメント返信
九尾様
ええ、余りのしつこさに姉達が切れました・・・何か原作よりヴェントさんが不器用になってます、いや人間臭いのか?(何か姉を強調したら自然とこうに・・・)

合コナー様
打ち止めというより御坂&シスターズ回かも、主役格沢山というか今回は割りと偶像劇に近いかも。



[41025] 不和と不安と・六
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/12/23 19:10
ズドンッ

「ひゃうっ!?」

可愛らしい悲鳴、白いベレー帽に金髪の少女が身を竦ませる。
変貌した街中にけたたましい轟音が鳴って、それに怯えたのだ。

ズドンズドンッ

「さっきからずっと……」

更に『音』が続く、明らかな戦闘の兆し、それがいたずらに少女を怯えさせる。
『胸に抱く物体』、毛玉が心配した様子で寄るも少女の不安を消すまでには至らない。
彼女は慌てて変貌した街に、まるで『古代の神殿』のような荘厳な風景の外れに隠れ縮こまった。
震えながら身を竦める彼女、そこへ近くについていた『姉妹らしき二人組』がスッと手を差し伸べた。

「大丈夫だよ、フレメア」
「だ、だってえ……」
「……ミサカが居るし、それにお姉様もいるから……お姉様はとっても強おい超能力者なんだから」
(……『怪獣』扱いみたいで微妙な感じなんだけどなあ)

妹にその実力を強調されて、美琴が少し複雑そうにする。
が、空気を読んでそれ以上突っ込まず、その間に打ち止めは友人であるフレメアを元気づけようとする。

「ふふ、お姉様は頼りになるの、例えば前に……ぶっといレーザーを撃ちまくる恐あい女の人から助けてくれたりとか」
「へ、へえ、そうなんだ……」
「うんそう、だから……今回もお姉様の暴れっぷりに期待しよっ!」
「う、うん!」
(……力付けるためとはいえ『第四位』と比較されるとは……)

安堵した様子で少女がにっこり笑って、もう一人もホッとした様子で微笑み合う。
尚その後ろで、美琴は一人ショックを受けていた。
が、妹は敢て無視し(その友人は気づく余裕がなく)二人はそのまま話をどんどん進めていく。

「……ありがとう、打ち止め」
「ううん、良いの……友達でしょ、水臭いこと言いっこ無し!」

気に病むようなフレメアの言葉に、打ち止めは怒ったように(あるいは言い聞かせるように)言葉を返した。

「それでも納得行かないなら……次はミサカを助けてね」
「え?」
「……順番こ、ね?」
「う、うん!」

スッと打ち止めが指を、約束だと小指を伸ばせばフレメアも同じように指を交差させる。

「じゃあ、その時を楽しみに待ってるからね、フレメア」
「うん、頑張る……」
「……ま、『次』の前に今か、そっちのお姉さんが心配してるだろうからね」
「……にゃあ、そういえばそうだ……どうしよう」
『…………頑張って帰ろう(送ろう)!』

助け合いを約束し、それからフレメアは姉と合うべく自身に気合を入れた。

(……はあ、それ聞いちゃったら……うん、私も頑張らないとなあ)

後ろの美琴も身につまされたようだった。



黄色いシスターが辺りを見て、苛立たしげに舌打ちした。

(……ちっ、元ウリエルめ、過去を忘れられないってか)

敵が帰りたいであろう、そんな昔を髣髴とさせる神殿を模した地は『堕天使の未練』のように感じられる。
それがどこまでも広がっていて、堕天使のせいで予定が滅茶苦茶なヴェントの気分を只管億劫にさせた。

(四大天使ともあろうが度し難い……いや、私が言えたことじゃねえ、スパイの癖して甘いよなあ)

が直後言えたことかと肩を落とす。
何せ、これから逃げるために、追求を誤魔化すために『細工』して、だけどそれを放って後輩の家族を助けているのだ。
馬鹿らしさという意味で、到底堕天使の行動を笑えなかった。

「はああ、他人事じゃねえわな」
「……よくわかりませんが、友人思いで良いのでは?」
「……放っといて、白いの」

隣で辺りを警戒する白い少女、犬耳に尻尾に行者装束を纏う椛が耳聡くフォローのような言葉を掛ける。
が、自虐のつもりだったヴェントには逆効果のようで更に肩を落とした。

「……はああ、私もヤキが回ったよ、『赤い方の馬鹿』に何て言えばいいんだか」
「ゲンキダセヨー……『人間』ラシクテ、イイトオモウ」
(いや、私は四大天使の眷属なんだが……)

それもやはりフォローになっていなくて(少なくともヴェントにはそうで)彼女は力なく天を見上げた。

『……ふうむ』

が、そんな彼女に、白狼天狗と生き人形はちょっと真剣な様子で言葉を掛ける。
友の妹を助けてくれた彼女への感謝と共に

「どうやら自分の行動を悔いているようですが……そういった物は貴女の宗教に欠かせないのでは?」
「『慈悲』ト『寛容』、イワバ『隣人愛』……オコルホド『神様』ハ『狭量』ジャナイッテ」
「ええ……それは愚かさではなく人らしさ、宗教者の前に人間なのですから」
『……不利を承知での人助け、貴女を尊敬します』

一人と一体は優しげな声音でヴェントに言った。

「……勘弁してくれよ、真っ直ぐ過ぎて受け止められねえ」

プイと赤い顔でヴェントは何とか言葉を返し、がそこでつい『ある二人組』を見てしまう。
彼女が助けようとした、つい動いてしまった原因であるフレメアと打ち止めを見て、カアと彼女の顔が更に赤くなった。

「……ちっ、ホント勘弁してくれよ」
(不器用な人だ、まあ悪人ではないか……)

結局ヴェントは俯き、か細く弱音を吐く彼女に椛達は苦笑した。



ズドンズドンッ

そんな時再び音が鳴った。

「……うっ、また」
「……離れましょう、椛さんはそのまま警戒を」

一同は顔を見合わせ、それから立ち上がり緊張した様子で歩みを進める。
少しずつ、だが確かに近づく堕天使の気配に(差はあれど)顔が引き攣る。

「地の利は向こう側……ちょっと厄介ですね、先輩」
「ああ、だが……相手の目的らしき二人はまだ手の中、やりようは有るさ」
「はい、それに……」

美琴とヴェントは顔を見合わせ、その後敵と、『敵の敵』のことを思った。

『それに……堕天使も盤石じゃない』

その時ドンドンと、『赤』と『青』の光が空で爆ぜた。



不和と不安と・六



フッと、二人の人外が笑う。



『……ま、一緒に遊んだ仲だし』

そう嘯き、悪魔が笑みと共に飛ぶ。



『……身内だから、尚更何とかしないとね』

一方で天使は自棄っぱち気味に笑っていた。



「急ごう、エリスは既に……」

ギュオンッ

青い翼がはためいて、それを『三体』の魔眼が追従する。
先行する仲間を追うサリエルと生き残りの幽幻魔眼である。

(もう少しだ、『人の意思』『感情の波』を……いやそれを含む『集団的無意識』すらも『彼女』ならば……)

半ば概念的ですら有るそれを操れる力、それを求めて彼女は飛ぶ。
が、だから『前しか』見れなかった、その瞬間『横』に反応が遅れた。

ドゴオッ

「……ぬうっ、追手か!?」

『真紅の弾幕』が弾け、衝撃でバランスをし思わず睨んだ。
すると、青い髪の吸血鬼が手を、魔力の名残りで輝く手を振った。

「はあい、邪魔するわよ……爪と槍、それと鎖、どの弾幕が良いかしら?」
「どれも断らせてもらう!」

そんな半ば挑発の言葉に叫び返し、一度睨んでからサリエルは進行方向だった下方を見る。
一瞬悩んで魔眼全てをレミリアに。

「ちっ、ここは任せた、幽幻魔眼……私は先に行く!」
「……あら失礼ね、無視するか」

自身は天使の剣で弾幕余波を切り払い、レミリアへの当て付けのように前進を再開した。
殿軍に魔眼が残って、レミリアはフンと鼻を鳴らす。
『偶には』だが空気を読む程度のことはするのだ。

「……でも、それならそれで……『あいつ』に譲るわ、そもそもあちらの因縁だし」

囲む魔眼を睨めつけて、だがレミリアは敢て堕天使を行かせた。
そうしてニイッと、凶悪な笑みと共に彼女は腕を払った。

ガギィンッ

『っ!?』

唯の一振い、だがそれでザシュと魔眼達の体が『同時』に弾けた。

「味わいなさい、デモンズ・ディナー・フォーク……吹っ飛べ、目玉共!」

『三叉の刃』を手に、レミリアが一気に飛んだ。



堕天使が必死で飛ぶ、青い翼を何度も動かした。
その口から思わず愚痴が、そして自分に言い聞かせるような言葉が漏れた。

「……ちっ、時間を取られた、だがエリスと合流すれば……」

まだまだ大丈夫とそう自分に言って、彼女は先を目指す。

ピキピキピキッ

その瞬間だった、『天使の力』が溢れた。

『それはどうだろう……というかやり過ぎ』

空間から突如湧くように流水が集まって、それがエリスを囲む。
まず数十の水球、周囲に浮かぶそれが回避の動きを牽制し、その後半分が一つの特大サイズの水球を形作った。

「……喰らえ」
「ちいっ、ガブリエルか!?」

ズドンと大質量が炸裂し、その衝撃に堕天使が後退する。

「待ち構えていた?」
「……上と下に『レミリアの魔力』、片方は本人、なら下で待てばいい」
「……あの赤薔薇か!?」
「正解……じゃ、覚悟して」

蹌踉めきながら下がった彼女は『最早怒りを越し呆れ顔の天使』を見た。
大天使ガブリエル、あるいはミーシャが諦めの悪い同胞を睨み追撃の一手を放った。
再度その掌中に水が集まった。

「……まだだ、潰れろ」
「うお!?」

ズドンッ

二度目の衝撃、体勢を崩していたサリエルは受け切れなかった。
フラとその体が揺れ、きりもみ状態で地に引かれていった。

「くっ……」
「最後……これでぺちゃんこ、行け」

すかさず三度目、ミーシャは辺りに散らしていた水を集めそれまで以上の巨大水球を作り出す。
ゴウとそれが勢い良く飛んで、サリエルは顔を引き攣らせながら魔法陣を展開する。

「……ぐっ、ま、まだだっ!」

ガギィンッ

突如『鉄塊』がそこに現れた。
サリエルの前には巨大な盾、罅割れるも水を受け切って虚しく飛散させた。

「……錬金術、加護か」
「然り……次はこうだ」

ジャラララっ

サリエルは素早く別の方陣を展開、『辺りの神殿』の建造物が一度粉々になってから作り変えられていく。
堕天使が天使だった頃の加護『錬金術』、支配し作り変えた空間が更に変化する。
数状の鎖が結ばれ、その一つが堕天使の落下と止めると同時に残りがミーシャへ伸びた。

「……捕らえろ」
「むうう、小癪な……」

慌ててミーシャは高度を上げ、同時に反撃のための水球を用意する。
が、その間に向うも準備を終えた、ビキビキと鎖から再度作り変えられた『武器達』が天を向いた。
剣に槍、あるいは長柄の斧から打撃武器まで、フワリと浮かんだ凶器が堕天使の周りで輝いた。

「ウリエル、まだ……」
「ああ、手加減はせん……そこを退けえっ、ガブリエル!」
「……くっ、行かせる訳には」

ドガアアッ

二人が同時に腕を払い、直後水と刃の群れが激突した。



「……また揺れた、近いか」
「うう、しつこい……」

少女達が見上げて顔を顰める、揺れる度不安が擡げていく。
特にフレメアが心細そうに身体を縮こませ、打ち止めがそっと手を握る。
それに続いて人形が応急修理した右手を、フレメアの隣の毛玉もスリスリと抱きつく。

「にゃ?」
「一緒だから大丈夫……さ先を急ごう」
「……うん、ありがと」

二人(と二体)は体を寄せ合い歩き出し、その左右に美琴とヴェントが着く。
更に椛がそれを先導、時折その鼻を鳴らした。

「……近いです、気をつけて」
「わかったわ、椛さん」

彼女はそう警告し、直後前方の空間が揺れる。
歪な人影が反り立ち、予備らしきロッドを構えた魔神の女の影が現れる。

「……来るか」
「打ち止め、下がって……先輩?」
「ああ、何時でもやれる」

美琴とヴェントがフレメア達の左右でそれぞれ構え、バチバチゴウゴウと雷光と風を纏う。
また椛も肩越しにそれを見ながらやや前のめりで身構える。

「ぐる、しつこい……スクープに飢える烏でも有るまいし」

そう愚痴りながら構えを、飛び掛かる獣を髣髴とさせる前傾姿勢を取る。
スッと後ろ手でさり気なく(普段使いの刀の代りの)短刀を抜いた。

ジャキッ

彼女は構え、それから目の前の影を睨んだ。

「一か八かの突破……と、『そう』見せたいのだろ?」

クンと鼻を鳴らし嘲笑、天狗らしい笑みと共に素早く振り向く。
その勢いで短刀を、『突如現れた』フレメアの背後に立つ影に投擲した。

「本命は裏、違いますか!?」
「ちっ、読まれ……」

ガギィンッ

「……唯の千里眼なら騙されたかもしれんが『狼の嗅覚』付きですからな」

短刀とロッドがぶつかって火花が散った、慌てて『奇襲』の失敗したエリスが飛び退った。

「……ちいっ、最悪だ、しくじったか」
「無粋なやり方、まあ西洋者らしいですが」

陽動、転移先の魔法陣で釣ろうとした策は外れ、彼女は悔しげな顔で構える。
それに対し不発させた当人である椛は嘲笑のまま、鉤爪を大きく開いた。

「残念でしたね……はああっ!」
「ぐ、あっ!?」

ガギィンッ

再び火花、ロッドで弾くもエリスは更に後退する。
慌てて反撃しようとし、だがその瞬間『小さな影』が走った。

「……オイウチ、イクヨ……『毛玉』モネッ」

打ち止めの腕から飛び出す影、生き人形のアリスが応急修理した右腕を振り被って、それにフレメア側の毛玉も体当たりの体勢で続いた。

「ぐ、ああっ……」

ロッドの下、鉤爪を押さえていたその下を走り抜けて、そのまま人形と毛玉がエリスに打撃を加える。
ガツと胴を打たれ、エリスが苦悶の表情で蹈鞴を踏んだ。
そしてすかさずアリスが『究極の魔導書』を展開した。

「……トドメ」
「その魔力はまさか魔界の……」

目の前の光景にエリスの表情が歪む、魔界神関係の苦渋の過去にトラウマを刺激され全力で障壁を展開しようとする。

「ちいっ、あの女の関係者にまた……ここで倒れる訳には」

ほぼ全力で、魔力の大半を費やし前方に光の壁を張って、直後その向うで魔導書が輝いた。

「……ナンチャッテ」
「え?」

が、輝いただけ、カッと一度光って、それから人形は魔導書を閉じる。
その後椛達と共に、フレメアを連れて後方に飛んだ。

「……カカッタナッ!」

次の瞬間風と雷光が唸った。

「オシゴト……『囮』オワリー、アトマカセター」
「……二人共、止めを!」
『おうっ!』

赤い外套に黄の装束、保護者の二人が一気に飛び込み、障壁の横を駆け抜ける。
ビシッとエリスの眼前で腕が掲げられ、紫電と局所的暴風が荒れ狂った。

「不味っ、障壁再展か……」
『遅い!』

ドガアッ

雷光と嵐が爆ぜ、障壁張り直しの一瞬前にエリスを吹き飛ばした、クルクルと回って彼女が空を舞った。
が、美琴とヴェントの攻撃はまだ続く。
美琴がピンとコインを弾き、ヴェントがエリスの取り落としたロッドを手に振り被る。

「合わせて、ヴェントさん!」
「ああ、このまま……叩き落とす!」
『……吹っ飛べ!』

ドゴオオッ

直後に轟音、空中で揉みくちゃのエリスは録に動けず更に高々と吹っ飛んだ。
更に一秒後ベチャと地面に落ちた。

「ぐはあ……ま、不味い、転移で逃げ……」

ゴロゴロと数度転がって、エリスは荒く息を吐きながら転移用の魔法陣を描こうと手を伸ばした。

「……あ、向こうから電磁波」

ブオオオ

が、その時美琴がふとそっちを見て、すると耳をつんざく程のエキゾースト音が鳴る。
それから焦ったような声も。

「……メアアアアア、どこだああああ!」

ドゴオオッ

そして悲劇、金髪の暗部少女がかっ飛んできて、そのままバイクでエリスを跳ね飛ばしたのだ。

「ぐはあああ」
「ん、何か当った?……まあいい、フレメア、無事!?怪我はない!?」
「にゃっ、お姉ちゃん!?」

呼びかける言葉にフレメアが目を見開き、それに構わず彼女を見つけ姉が走り寄る。
ヒシと殆ど泣き顔で抱きついて、フレメアの姉であるフレンダが泣き叫んだ。

「ああもう、何でこんなところに居るの……無認可能力者の通り魔事件の現場じゃない!?」
「え、あ、いや、そんなこと言われても……」

ものすごい勢いで質問されて、立て続けのそれにフレメアは答えられずシドロモドロに。
フレンダはその反応にちょっと困りつつ、それでもフレメアをギュッと抱きしめた。

ポイポイポイ

但し片手で抱きながら、片方の手で手榴弾を(バイクに押し潰された)エリスに放る。

「え、ちょ……」
「見た感じ敵、なら処理するって訳よ……ああ安心して、経費で落とすから」

ズドンッ

「ぎゃあああ!?」
「……ま、何で妹がここに居るかはいい、無事でよかったー」
「……うん、心配させてゴメンね、お姉ちゃん」

敗北者の悲鳴を背後に、心配症な姉と何だかんだお姉ちゃんが大好きな妹が抱き合ったのだった。

「……なあんだ、喧嘩してた癖に仲いいじゃん」
「ふふ、なら……それで後で弄ってやれば?」

そんな微笑ましい光景を見て、打ち止めや美琴達が小さく笑い合った。
が、それは数秒、その後彼女達はエリスを見下ろす。
ギクと焦げて倒れていた彼女が震える。

『さて……』
「ひっ!?」

最早抗う気力すら無く、彼女は殆ど這いながら下がろうとした。

ドン

そこで何かが背に当たった。

「え?」
「……悪い、遅れたみたいだ、御坂」

ドゴンッ

「ぎゃんっ!?」

『幻想殺し』が後頭部を強打し、エリスは白目を剥いて倒れた。
それをやった、遅れた男はふうと周りを見て安堵の顔で腕を下ろす。

「全員無事だな、良かった……」
「あ、先輩……」
「ごめん、遅れた……というか、途中でフレンダちゃんのバイクに同乗して『振り落とされた』んだが」
「ああ、妹を前にアクセル全開にしたかあ」

ぜえはあと凄く疲れた様子で上条が謝って、後輩はいや仕方ないと頭を上げさせたのだった。



その瞬間、一つの決着となった。
だがそれは『一瞬の隙』『一瞬の思考の空白』に繋がってしまった。

『……ご苦労、エリス……お陰で油断してくれたのだから』

バサリと堕天使が青い翼を翻し飛び上がり、天使の少年が『刃で地と貼り付けにされた右肩』に苦心し止めようとするも僅かに届かず。

『ま、待て、ウリ……』
『すまない、ガブリエル……だが、行かせてもらうぞ!』



ギュオオッ

『何っ!?』

ズドンと『天界の剣』が空から降った、そしてそれは『エリスの胸』を貫いた。
バチイッと、その身を構成する魔力で外から外部からの干渉で増幅し始める。

「不味いっ、外から強制的に……」
「自爆、皆避けて!?」

ドガアアアッ

『うあああっ!?』

が、反応は間に合わず炸裂した魔力が広がる。
それは三人を、エリスを押さえていた上条、それに尋問しようと近づいていた美琴とヴェントを巻き込んだ。

「ぐあ、しまっ……」
「打ち止め、に、逃げ……」
「不味、堕天使が来るぞ」

火に飲まれ、それぞれ幻想殺しや雷光、風で防ぐも衝撃に足を止められる。
彼等の動きが封じられ、すかさず堕天使が、サリエルが飛来する。

「貰ったあっ!」
「……させるか、止めます!」
「ウンッ!」

そこに咄嗟に一人と一匹、椛と生き人形のアリスが立ち塞がろうとする。
加えて背後、空で戦っていたミーシャも追い縋る。

「止める……はあっ!」

まずはミーシャ、がサリエルは後ろ手に放った拳打で弾く。

ガギィンッ

「甘いぞ、そして……反撃だ!」

彼女は素早く拳を引き戻し、印を刻みながら地上神殿の建築物を指す。
グラと揺れ、崩れたと思うと長槍の形に変わって打ち上げられる。
空中でそれを受け取ったサリエルが体を捻った。

「……はあっ!」

ズドンッ

大振りの一撃をミーシャへ、咄嗟に水の壁が阻むも刃を砕きつつ突破し、そのまま柄で彼を殴りつけた。

「ぐ、あっ……」
「暫く、瓦礫に埋もれていろ!」

ドゴオオッ

そのままサリエルが振り抜いて、ミーシャは遥か彼方の地面へと叩き込まれる。
ドンとずっと向うで土煙が舞った。

「……妖獣に人形、残るは貴様らだ!」
「くっ、だが……」
「ヤラセナイヨッ!」

一人と一匹は一瞬押されつつも飛ぶ、どちらかが当たればいいとばかりに勢い良く突撃を仕掛けた。
反射的にサリエルは壊れた槍で反撃し、が人形がその身で押さえつける。

「……テング、マカセタ!」
「はいっ!」

打たれた人形が落下して、その隣を椛が飛んだ。
グワと牙を剥いて、堕天使の首を取る。

「レイビーズ……何!?」
「……少々の肉等、くれてやる!」

だが、その瞬間彼女は牙を立てられたまま更に体を捻った。
ブツブツとその動きで自身の体を傷つけながら、サリエルは勢い良く振り上げたつま先を叩きつける。
堕天使の渾身のサマーソルトが椛を蹴り上げた。

ズドンッ

「ぐああっ!?」
「……後は、最後の大仕事だ!」

椛を蹴り飛ばし、その反動でサリエルが地上に飛ぶ。
素早く木っ端微塵になったエリスが居た場所、そこに刺さる天界の剣を握る。
再び加護、錬成が高速で為され、刃の群れが彼女を中心に形成される。
フワと浮かんだそれが向くのは先程の自爆から立ち直った美琴達だ。

「……邪魔者の排除、これで……完了だ」
『ぐっ、不味っ!?』

ドガガと高速でそれが打ち出され、フレメアや打ち止めのフォローに向かおうとした三人の足を止める。
彼等は必死にそれを払うも、だが稼がれたいくらかの時間をサリエルは無駄にはしない。
彼女はフレメア達を見た。

「これで……私の願いは叶う、さあ来い」
「ひっ……」
『させない!』

ダンッ

「……もう遅い」

その前に立ち塞がった打ち止めが電撃を、フレンダが拳銃で阻止しようとし、がそれ等を堕天使が一気に駆け抜ける。
彼女の伸ばした手がフレメアへと伸びた。

(これで……私の勝ちだ、主よ!)

サリエルが心の底で叫んだ。




・・・今回はもう一話、次で閑話完結です



[41025] 不和と不安と・六の下
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/10/29 16:06
不和と不安と・六の下(完結)



「ひっ……」

彼女は泣いていた。
彼女は震えていた。
彼女は怯えていた。

「い、いや……」

だけど『ある理由』で目を逸らさなかった、反骨とも言える何かで堕天使を睨んだ。
何故自分を追うかはわからない、でも攫おうとする女にせめてと反抗の意思を示す。
それは前に立つ淡い茶の髪を持つ友人と、ただ一人の肉親である姉が居たから。

『友達でしょ、水臭いこと言いっこ無し!』
『それでも納得行かないなら……次はミサカを助けてね」

今日初めて会ったのに助けてくれた少女、彼女の言った『次』はまだだ。
だから、その為に恐怖を我慢する。

『……メアアアアア、どこだああああ!』
『フレメア、無事!?怪我はない!?』

心配して駆けてきた家族、心配ばかりで、その上このまま攫われようものなら泣くだろう。
それだけは避けねばと、フレメアが必死の形相で抗う。

「いや、アンタなんか……アンタなんかあああっ……」

滅茶苦茶に、型もなく子供らしい非力さのまま彼女は腕を振り回す。
ポカポカと、そんな擬音が相応しい駄々っ子の如き拳。

「ちっ、無駄な抵抗を……何?」

だけど、それが確かに効を為した。
エリスが伸ばした手にぶつかって、その瞬間その体の構成が崩れる。
バチと堕天使の体の魔力が数度スパークし、そして渦を巻く。

「馬鹿な、我が体が……魔力が、信仰心が離れて!?」
「……どっか行っちゃえええっ!」
(……不味っ、これは彼女の潜在能力の……)

その瞬間フレメア=セイヴェルンの能力が初めて発動した。
『人の意思』『感情の波』、それを含む『人の心の範疇なら概念的な物』ですら『彼女』の意思で滅茶苦茶に捻じ曲げられる。
魔力の元を失った堕天使が体が透けて、その分が離れてフリーに成った。

ギロリ

「……毛玉さん?」

ダンッ

「あ、何を……」
「っ、しま……」

その瞬間フレメアに抱かれていた毛玉が飛んだ、浮かぶ魔力の渦に飛び込む。
開いた大口でそれを吸い込んで、その後毛玉の体が膨れ上がる。

ボワンッ

巨大化しデップリと丸まった彼が体を揺らす、すると細長く伸びて『獣の形』に。

キシャアアッ

雄々しく『白蛇』が吠えた。

「くっ、魔性め、我が望みを果たす力をよくも……」

分厚い体毛を破り牙が、大首を擡げた大蛇の頭が飛び出して、サリエルを飲み込まんと襲いかかる。
咄嗟に堕天使は剣を振るって間合いを取って、だが白蛇と成った毛玉は止まらない。
今までのフレメアの世話、撫でてくれたこと、優しく抱いてくれたことへの恩を返すとばかりに唸りながら体を撓ませた。

ダンッ

「ちいいっ!?」

反動でその巨躯が飛び上がる。
そのまま体からぶつかっていって、剣で防ぐもサリエルの体勢が崩れる。
だが、蛇にとってはそれも囮、尾を伸ばしそこに掴んだ『輝き』を押し付ける。
そう『フレメアの頭髪』から引き抜いた『白梅の髪飾り』を。

「な、何!?」
「いつの間に……」

ズドンッ

「ぐああ!?」

勢いよく冷気が弾け、至近距離からのそれにサリエルは苦悶の声と共に吹き飛ばされた。
その体が大風に翻弄される木の葉のように振り回されて、そんな彼女に更なる危難が訪れる。

ヒュウ
ヒュルル

「新手、これはまさか……」

甲高くその音が響く、ゆっくり横笛を下ろして『女』が嘯いた。

「……バチ当たったんじゃない、堕天使さん?」

いつの間にか白蛇の頭の上、億劫そうに片膝を着いた姿勢で、黒髪の少女が何所か底冷えのする表情で微笑んだ。

「あ、佐天さん!」
「ども、思ったより早く『一回休み』が終わったみたいで……」

最初は十程の年頃の、鬼から逃げていた弱体化状態の姿、でも次には何時もの学生服姿の彼女に変わる。
ふむと訝しみつつ、余りにも早い復活に彼女は首を傾げながらクナイを両手に構えた。

「さっき急に力が、いや……信仰心が流れ込んだ、精神操作というには大掛かりで……狙いはそれ?」
「……答える義理はないな、異邦の神の僕よ」
「そっ、まあ私も……興味はないよ、『本人』もわかってないみたいだし」

チラとぽかんとした顔のフレメアを一瞬見て、それから興味ないとばかりに跳躍する。

「それよりも……報復が先!」
「それはそれで厄介なんだがな……」

ガギィッ

クナイが突き出され、咄嗟にサリエルは剣で押さえ込む。
『手を下した仲間の魔力』を纏った剣とクナイが噛み合い、それを見た涙子は素早くもう片方のクナイで逆から押し付け拮抗させる。

「ふむ、中々にしぶとい……仲間の魔力を、それも火種にした相手まで最後まで使うか」
「……所詮利用し合うだけの関係、そもそも奴は邪神の類だしな」
「……そっ、でもね……だからこそ、私が相手する意味がある」

そういうと涙子がニッと笑った、クナイで押さえたまま古き詠唱を行い始めた。
ボウっとその体が淡い光を帯びた。
ガチガチと天界の剣が突然震える、いやその刀身の『エリスの魔力』が慄くかのように。

「臨む兵、闘う者……」

詠唱が進む、更に剣の異変は加速する。

「な、何が……」
「皆、陣を列べて前を行く……やああっ!」

バギィンッ

「何い!?」

破砕音が鳴った、驚愕の表情で堕天使が固まった。

「……さっきのは『修験者』の『魔除け』なんだよ」

涙子は両手を振り抜いた体勢でにやりと笑った。
『霊的存在』への特効となる一撃が『魔神』エリスの魔力を、それを取り込んだ剣を砕いたのだ。
サラサラと、刃の破片が飛沫のように空に散っていった。

「馬鹿な……」
「……仲間使いの粗さ、それが裏目に出たってことだよ!」

呆然とした様子でサリエルが叫び、すかさずその隙を逃さず涙子が前に出る。
背後に回り込んで組み付くと、それから勢い良く自分諸共二度三度と回転させる。

「ぬ、何を……」
「鬼直伝……飛んでけ!」

ドゴンッ

「ぐあっ!?」

翼で止めるより早く地面に叩きつけられ、彼女が苦悶の声を上げる。
苦しみながら彼女は立とうとし、がそこで『不吉な音』を聞いた。

「くっ、不味い、ここは何とか……」

バチイィッ
ビキビキビキ

「……え?」
『これで……止め!』

そっちを見て彼女が凍った、目に入ったのは真っ直ぐ伸びる『道』だった。

「……やっちまえ、二人共」
『ええっ!』

展開していた刃の群れが『幻想殺し』で粗方砕かれて、その残骸の中を『二つの影』が進む。
赤い外套の少女が『雷光の十字架』を、黄のシスターが『氷で出来た錨』を振り被ったまま駆けた。
そして、並んで同時に振り下ろした。

『……潰れろ』
「ひっ!?」

ドゴンッ

防御に掲げた(半分の)刃と共にサリエルが弾かれ、いや(物理的に)凹まされた。



「ぐああ……」
「……で、まだやる?」

地面の上でサリエルがのたうち、最早柄だけの剣の残骸手にゴロゴロと転がり回っていた。
美琴が代表して続けるか、というか降伏勧告を掛ける。
が、それに対しサリエルは自棄気味の笑みを浮かべ立ち上がる。

「まだだ、まだ……」
「……本気」
「私は天界に帰る、その為に……その少女がいる」

彼女はふらつきながらフレメアを示し、ヒッと後ずさった彼女をフレンダがそっと抱きしめる。

「……この子はレベル0よ、どうして?」
「『出力』はそうでも……多分珍しい能力なんじゃないかな、そっちが目の色変えて求める程に」
「然り、それさえ有れば……」

まだ諦めきれず、だからサリエルは飛びかかろうとする。
最早動きに精細無く、ただ我武者羅なそれがどれほど求めているかを如実に語る。
だが、『そんなこと』はこの場の者にはどうでも良かった、大体が怒り切っていた。

『……もう良い、思う存分痛い目見とけ』

降伏勧告が聞かれないなら容赦はしない、そう言いたげに彼等は冷たい目で堕天使を見る。
が、美琴や上条が手を下す気はない。

「……射線空けてあげる、よく狙いなさい」

スッと美琴が横に退いて狙い易くする、『殴る理由』のある相手に譲るのだ。
そう、フレメアの『友達』に。
バチンと火花が散った。
既に『演算』と『チャージ』は終わっていた。

「……怒ってるんだからね」

ビッと小さな影が、打ち止めがサリエルを指差した。

「ミサカの、ミサカの……友達を怖がらせた分だあっ!」
「ご、ふっ!?」

バチンと火花が散って、打ち止めの目の前で煙立てながらサリエルが地に沈んだ。
ニコリと、妹の勇姿に美琴が笑った。

「……で、次ね」

が、まだ半分、彼女はもう一人の被害者を見た。

「佐天さん」
「はあい?」
「仕返し、したいでしょ……思い切りやっちゃえ」
「……ども、じゃ貰います」

言われて彼女もニコと、微笑みながら『白梅の花びら』を掲げた。

「……いっちょ飛んどけ、遥か天まで!」
「ぐ、あ……」

ズドンと冷気が爆ぜて、ピシピシと堕天使が体を凍てつかせながら空へと舞い上がっていった。
そして、直後『追いかける』形で『赤』と『青』の弾幕が瞬いた。

ドゴオオッ

「おわっ……ああ、もう片方の因縁か……」
『あー成る程……』

涙子達は同情したように、弾幕を見上げた。



ガシッ

『小さな手』が堕天使を止めた。

「え?」
「ふふん、まだ終わりじゃ無いわよ」
「……止めは私達が」

堕天使の肩を左右から、天使と吸血鬼が掴んでいる。
完全に動きの止まったサリエルを左右からのどこか寒々とした視線が睨め付ける。

「……ま、今回はアシストね」

赤い槍を担いだ吸血鬼、レミリアが笑う。
担ぐ槍は三叉、その先には三体の幽幻魔眼が串刺し状態でぶら下がっていた。
それをブンと振り回し、魔眼で殴るような形でサリエルを高く高く跳ね上げる。

「ミーシャ、今よ!」
「……確実に仕留めたい、手伝って」
「……良いだろう、『羽』に手を!」

ミーシャの誘いに頷いて、レミリアが髪に差していた天使の羽を引き抜く。
それを握り、隣のミーシャも手を添える。
ボッと羽が淡く輝いて、段々と増していく光が刃を形作った。
ゴウッと天を衝く程に、深い海の如き『蒼』が広がり神殿を照らす。

「天剣……ソード・オブ・セラフ!」
「……ウリエル、これで終わりだよ!」

そう最後に叫んだ直後青く輝く刃が貫き、更にそこから注ぎ込まれた『水の魔力』が涙子の吹きかけた『冷気』に反応し一気にそれを増強する。

「……畜生、畜生、次はルシフェル辺り呼んでやるうっ!?」
「勘弁してよ……その封印はかなり頑丈だ、そこで反省してて!」

ピシピシと一瞬で全体まで拡大し、一個の氷塊となった堕天使を包み込む。
最後に残るは悲嘆の表情で凍りつく哀れな女、それを見下ろしミーシャは疲れたように嘆息したのだった。

「……次は暇そうな他二人にやらせるか」
「うん、まあ休め……帰る前に大覇星祭とやらを回るくらい良いんじゃないか?」

俯く彼に隣で飛ぶレミリアが珍しく優しく言った。



トボトボと水兵服の少女が愚痴りながら歩く。

「……最悪だぜ、何か全部終わってた」

岡崎夢美の助手、ちゆりが嘆いた。
事件現場に行けば全て終わっていて、その上『目的だったシスター』の姿がなかった。
それを聞けば上条や美琴は抜け抜けとこう言うのだ。

『……行方不明、探してるけど見つからない、巻き込まれたのでは?』

これは向うにとって都合の良すぎる答だった、何せ『居ない』なら敵かどうかの問いに答えを出さないで言いのだから。
恐らく二人は『保留』を選んだのだろう。
少なくとも、美琴の妹達を助けた彼女との敵対を選ばない為に。

「はああ……先送りなんだがなあ」

後輩たちのこの選択にちゆりはもう一度嘆息する、それは呆れてるようにも心配してるようにも見えた。
そういう甘さを、寧ろ嫌ってはいないようだった。

「……ま、ヴェントの奴も何かしら答えを出す、見逃してくれた以上馬鹿はやらねえだろ」

『少なくとも今は』、あくまでその程度だが『上条達』に関しては最悪ではないだろう。
正直共闘に関してはちゆりとしては馬鹿げていると良いたいが、三人の今後を考えれば悪くはないのだ。
それを考える程度の後輩への思いはちゆりにも有る。

(それに……『街中』に散らばった魔力のこともある)

加えて、戦闘で学園都市の散らばった魔力反応、堕天使と天使の剣、その破片もまた面白い。
戦いで激しく散って、それに気付いているのは第三者であるちゆりくらいだ。

(……ヴェント確保は失敗したが、せめて今回の副産物が齎すデータは取らせてもらうぜ、ガキ共……)



「……ちっ」

そしてもう一方で、少女とは別の形で『先』を見ていた者が居た。
『彼』は不機嫌そうに舌打ちし、『敵』を見下ろす。

「……また面倒事かよ」
「大変だねえ、保護者さんは……にゃはははは」
「五月蝿ェよ、酔っぱらい」

隣で同じく敵を(文字通り)お手玉する萃香(暇なのだと首を突っ込んできたのだ)その言葉、そして呑気さに真っ白な少年が毒づく。
どこまでも白い、幽鬼染みた少年ははあと億劫そうに嘆息したのだった。

「やれやれ……祭に乗じて妙なのが来たみてェだな」

彼、一方通行が敵である武装した外国人を睨む、行き成り斬りかかってきて反射で返り討ちとなった者達だ。

「こいつ等……事件現場を中心に配置、偵察、いや『覗いていた』?」

不可解な視線に気付いた一方通行が探った結果がこれで、疑問ばかりが浮かんだ。

「……容姿は欧州系、だが……」

まずこの国のものではなく、また一方通行に向かってきた時点で学園都市の関係者ではない。
というか、武装を見ればある人種と丸分かりだった。
短剣を爪先で転がせば『古めかしい紋章』が目に入った。

「ちっ、魔術師か」
「大変だねえ、でかい祭に『外』もハシャイデんのかね?」
「……空気読ンで欲しいがな」

(彼は知らないが)北欧神話のある『女神』のシンボルにどこか不吉な予感がした。



遠き異国の地、深き闇の中で数人の男女が向かい合っている。
『五人』、一人は美しい女、『神秘的な何かを感じさせる美しい』女が口を開く。
彼女は周りの四人、『異なる意匠』の法服の者達を見渡し言った。

「……サリエルは落ちたようですね」
「はっ、その通りです、女神よ」

同情するように女、だがそれに周りの四人はどこか嘲笑うような口調で答えた。

「愚かなことを……」
「仕方ありません、数百年の悲願……『少女』を手に入れれば復権とあらば焦るのも判る」
「ですが、その結果……『新たなる主神』の挿げ替えが遠のいたのは間違いありません」

フォローしようとした女が俯く、確かに同情する余裕はない。
『今回の件がなく』サリエルが生き残れれば大覇星祭に合わせた『ある計画』で共に戦えた筈なのだ。

(あるいは……一度戦った経験があるから、慣れてる自分で手口を暴こうとしたのかもしれませんが)

そこまで考えた所でやめる、大事なのは今だと思っていると周りの者達が続けた。

「生き残れれば新しき世界で『神使』となれた物を……女神よ、わかっているでしょうが」
「……ええ、同情は後で……暴走とはいえ齎したデータは貴重、向こうで言う……大覇星祭に合わせた計画の調整を急いで」

促され女神と呼ばれた女が立ち上がる、彼女は『五つの魔術組織』を束ねる統率者として甘えを捨てる。
(例えそれが『誰かが仕組み』、『押し付けられた物でも』)何より彼女自身の目的の為にもしくじる訳にはいかない。

「……私は呪いに倒れた友を助ける、その為に……新たな『主神』となる、その時相応の地位を望むなら着いて来い!」
『はっ、我等が……ブリュンヒルドよ!』

新たな火種は北欧、戦女神の名で呼ばれる女の元で燃え上がった。



・・・六章に続く・・・





・・・という訳で実はブリュンヒルド編の序章でした(彼女を知らない方は『とある魔術の禁書目録SS』を)
・・・ブリュンヒルドと欧州五派閥は敵対関係ですが(あくまでこのSS内では)上手くやったて事で。
後関係ないけど、実はこういう薄幸系の人って割と好き、実力に反して所々で見える女性的な脆さが何ともね・・・
何より原作で『主神の力』を求めた女性であり、零落した神達の物語の最後に出すなら他には居ないでしょう・・・チョイ役ですが『西方シリーズ』から誰か出すかも。

以下コメント返信
九尾様・ま今回に関してはサリエルの油断が有ります、フレメアに届けばそれで勝ちと・・・その反抗が致命的でしたが(後『戦乙女』の捨て石覚悟てのも少し有るし)



[41025] 閑話乃二・ご無体な無頼たち
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/08/31 17:04
・・・第六話を書く予定でしたが『閑話』になりました、ご了承を
・・・加えて『ある東方キャラ』に関するオリジナル設定に注意
・・・・・・ああ、それと今回の話は書籍『とある禁書目録SS』及びSTG『西方プロジェクト』のキャラ及び設定が出ます(後者は多分余り目立ちませんが・・・)




閑話乃二・ご無体な無頼たち序(『女神編』序章)



嘗て錬金術士達は『ある理論』を求めた。
『黄金錬成(アルスマグナ)』、それは物質の『質』を望むままどこまでも高めて、最終的に望む物質を(それこそ『無』から)生み出すことすら可能と『仮定』される。

だが結局は机上の空論に終わった、それを為すには途方も無く大掛かり且つ精密な『演算』が必要だったから。
だけど、先達たちが黄金錬成を諦める中『ある一族』はせめてもと悪足掻きをすることにした。
必要な演算力、それを可能とする能力が無いならまず『そこ』に力を入れてみようと考えた。

諦めの悪かったその一族は何よりも『質』を求めた、只管に自分達の質を上げようとし続けた。
まるで唯の物質を黄金に、卑金属を貴金属に変えるという錬金術のある種大元の形を追うように。
『力を高める』為の鍛錬と『知識を深める』為の研究を重ねた上で次に引き継がせ、幾つもの世代を跨いだ結果にそれなりの成功例『たち』へと。

その内の一つ、『銀の髪』に『青い瞳』の少女は『世界の摂理』をも限定的に歪めたという。

黄金錬成には遠く、が不可能を可能としたことは自信に繋がる。
一つの通過点と言えるそれに一族はそれこそ狂喜乱舞したのだった。

但しその少女が『ある人外の存在』に『魅せられる』という事件が起きるまでは。
そして彼女は飛び出した、『一振りの銀の短剣』と『懐中時計型の魔法具』だけを手に。



『……り者め』

『銀』の少女は夢を見ていた。
懐かしい夢、今の主に傅く前の夢だった。

『裏切り者め、一族を捨てるか!?』
『その才能を無駄にするの!?』
『……貴女なら、どこまでも己が力を高められただろうに』

口々に過去の同胞たちが言って、だがそれに少女は素気無く答えを返す。

『己を高めるか、だから離れるのよ、比べて馬鹿馬鹿しくなるような……何にも縛られない美しい生き方を目にしたから』

浮かぶのは人伝で知って、気紛れで会った『真紅の館に住まうある貴族』、その自由闊達な在り方に魅せられてしまった。
だから『全て』を捨てることにした。

『悪いけど行くわ……少し残念ね、因縁も纏めていた時間操作に関する研究データも……流石に全ては消せないから』

(別れることは少しも惜しまず)至極勝手なことを少女は残念そうに言う。

『……じゃ、さようなら……父に母に、そして従兄妹達よ』

余りに短い別れの言葉と共に、少女は『銀のナイフ』を振り被った。
次の瞬間ブワと鮮血が散って、その更に次の瞬間『淡い陽光』に刺激されて『閉じていた目』を開けた。
パチクリと、二十手前位の年頃の少女が目をこする。

「ふわあ……何だか『懐かしい』夢を見た気がするわ」

備え付けの時計が早朝を告げ、彼女は大きく一度欠伸し、それから借り宿のベッドから体を解しつつ立ち上がった。
最初はモソモソと着替え出し、直ぐにシャキッとした動きで寝間着から外着に。
『常のメイド服』でなく、店売りのシャツにスーツを身に纏い、『銀の少女』が動き出す。
『主にも秘密の行動』、それをさっさと終える為に。

「……早く片付けないとね」

呟きつつ表に出て、そこで目についた服飾店で何となく安物の帽子を取る、隠密行動だけに少し気を引かれる。

(……にしても、外に出るのにスキマに借りが出来てしまった、その辺は次の『異変』辺りで変えした方がいいかしら)

ふと帽子を手にしながら内心で愚痴、その時懐の『昔のツテからの一枚の書状』がカサと揺れた。
『銀の少女』、十六夜咲夜は自身の運命を嘆いたのだった。

(今更『捨てた一族』の都合なんかに悩まされるとはね、本当に困ったものだわ……)



「あー、飛び込みの情報?……念の為に帰還を延期に、だと!?」

『黄色』のシスターが訝しそうな顔で唸った。

「……『戦女神』ブリュンヒルド・エイクベル、結構な名前だね」
「はっ、最近妙な動きをしていると……」

上条達の『不手際』で学園都市から逃れた彼女は一時郊外に逃れ、そこで奇妙な話を聞いた。
これから自分無き後の教会を任せる予定のシスター達(流石に変装した)アニェーゼ隊の面々が報告する。

「ブリュンヒルド……英国系の魔術師の家と、それと北欧の『古い血族』の混血児だったか」
「はい、二つの伝来の魔術を受け継ぐ女……数年前その力を恐れた『北欧五派閥』に幽閉されていたのですが……」

女の背景を並べて、その後シスターはヴェントに『ある異変』を告げた。

「……『幽閉されていた』、過去形ということは」
「ええ、最近向うの勢力図に大きな変化が起きたのです……ブリュンヒルドを手中にしていた派閥が『消えました』」
「ほう?」
「五派閥、いえ今は四派閥……全てがブリュンヒルドに跪き、何らかの目的で動いています」

それを聞いたヴェントはまず女神の復讐を疑い、それから違和感に小首を傾げる。

「確認するが、ブリュンヒルドは残りの四派閥を滅ぼさずそれ等はまだ無事なんだな?」
「はい、直に幽閉したのは消えた一つとは言え……共犯であることは間違いありませんのに」
「……生け贄にされた、か?」
「……それと恐らくは、『人質』の可能性も」

彼女達の表情に、僅かに同情の色が浮かんだ。

「……ならばブリュンヒルドは神輿かもな、主導してる可能性があるのは?」
「四派閥の一つ、確か『錬金術士』の一族だとか……」

調査内容を思い出しながら告げて、それからあっと一つ思い出し更に加えた。
その派閥の長、それに関する情報を。

「何でも年若い女……そう確か、『懐中時計型』の礼装を持つ『銀髪』の少女だったと……」



深お闇の中で数人の男女が向かい合う。
特に目立つ容姿は二つ、『金』と『銀』。

『むうう……』

『金髪の女』ブリュンヒルドが学園都市に関するレポートを手に忌々しそうにし、『銀髪の少女』錬金術士に相応しい装飾具を纏う女が主に答える。

「……少し、情報が足らないか」
「ふむ、ならば追加調査……多少の無理をする必要があるようですね」

大覇星祭に合わせた『計画』、が調整の結果問題が見えた。
学園都市『だけ』なら読み易いが、『それ以外』に関しては無軌道過ぎて手持ちの情報では動きが読めないのだ。
だから更なる情報の為に、先日のサリエルのように動く必要が出てきてしまった。

「どうする、下部組織から何人か派遣するか?」
「いえ、ここは……四派閥直々に出るべきでしょう」

銀の女は僅かに沈黙し、渋々の様子でだが次の一手を計画した。

「戦女神は計画まで動かせない、だが……もう一人の『女神』なら問題無いでしょう」

暫し考えて後少女は決意した。

『錬金術士殿、まさか……』
「外向けの書状と、航空機の席の用意を……ここは『ミューズ』が先陣を切る!」

錬金術士を率いる『銀の女』が驚愕する同志たちに打つべき手を告げた。

(尤もそれだけではリスクが大きい……『何らかの囮』が必要でしょうけど)



そして事件は起こる、半ば全くの遭遇戦の形で。
ふらりと真っ昼間の学園都市、その何でもない日常にも異常は紛れていた。
日常そのものの街で『二人の女』がすれ違い、その際片方が情念に満ちた言葉を口にした。

「……お久し振りです、―――師姉」
「ちいっ、早速のようね……」

一人がもう一人に呼びかけ、その瞬間声を掛けられた方が『銀のナイフ』を抜き放った。

ガギィンッ

そして、それを『十字架を模した剣』が弾き逸らした。

『きゃあああ!?』

行き成りの剣戟、祭に浮かれる街を嘲笑うようなそれに悲鳴が上がる。
余りに突然のことで、祭に浮かれていた通行人達が突然の刃傷沙汰に呆然とするしかない。
『銀のナイフ』と『十字架を模した剣』が打ち合い、それに人々はただ狼狽え慌てふためいた。

「ひっ、嫌あ!?」
「さ、下がれ、巻き込まれ……」

ガギィンッ

『うわああっ!?』

辺りが恐怖し動揺する中白刃が交差し、数度二つの影が散っては近づく。
一人は着慣れてない感じのスーツ姿の『女』、安物のベレー帽を深く被り東洋人らしからぬ容姿ということしかわからない。
それに対し、もう一人はローブを纏っていてその容姿どころか性別すら判然としなかった。

「……しつこい娘ね」
「貴様が言うか、裏切り者め……」

二人は斬り合いながら相手を罵った。
スーツの女はベレー帽を手で抑えるような仕草で(然りげ無くだが)顔を隠しつつ嘆息し、そこで周囲の同様に一瞬武器を引く。

「だ、誰か、風紀委員(ジャッジメント)か警備員(アンチスキル)を……」
『……ちっ、ここまでか』

治安維持組織を請う声に双方攻撃の手を止め、直後大きく飛び退く。
どちらもが刃を持つのと逆の手で『手のひら大の何か』を握り、一度『カチという音』がした瞬間に二人とも一瞬で消える。

「……え?」
「な、何なんだ一体……」

けたたましく今更な警備班のサイレンの中、一同は呆然と剣戟の交わされていた場所を、『僅かに輝く銀髪の切れ端』が残るそこを見るしかなかった。



トンッ

「……ここまで離れればいいかしら(それにしても『時計』、設計図を始末し損ねたか、単体でも多少『使える』でしょうし)」

空中から女が現れ、路地と路地の間に密かに降下する。
街で乱闘を起こした銀髪の女、十六夜咲夜はナイフ片手に暫し警戒の視線を巡らす。

(追手はまだ来てない、尤も『今は』だけど……)

青く美しい瞳をすうと周囲にやって、彼女は素早く安全を確認する。
そうして武器を納め、次に新品同然のスーツの『真新しい小さな傷』を撫でた。

(うん、大丈夫……体まで届いてない、それにこのくらいなら目立たないわよね)

被害は皆無であることを確認してからトッと地を蹴る、ダンダンッと幾つかの建物を経由、さっきの現場から更に距離を取る。

「……さて、『一応』例の場所を確認しておくべきか」

呟いて暫し跳躍を繰り返し、そうして目的の場所につく。
彼女は賑やかな教会を見下ろした。
そして、そっと耳を澄まし、苦笑気味に微笑む。

「さあて、ふむふむ……」
『……ねえ、フレメア』
『なあに、お姉ちゃん?』
『散々悪口言ったそうね……すこうし、怒ってるって訳よ!』
『ひい、ばれてた……打ち止めか、もうお喋りさんめ!?』
『……フレンダさん、打ち止め達が腹ペコみたいだからまずファミレス行きましょうよ』
『……悪いけどもう少し、流石に陰口は駄目』

前回の堕天使が起こした事件、怪我と重要情報の報告で『一時休暇』を勝ち取った姉の妹弄りの一幕だ。

「……ミューズの目的は妹の方だったか、まあ『今は』確認だけで十分でしょう」

くくと喧騒を聞いて笑って、その後改めて彼女は跳躍体勢に移る、今は向うが依然『フリー』であることだけで十分な収穫とここは判断したのだ。
タンッと咲夜は再跳躍、遠く響く(警備員だろうか)サイレンにちょっと悩ましげな顔付きへと変わった。

(暫く影で動いて『機を待つ』か、敢て姿を晒し『反応を見る』か、思案の為所ね……)



「……チヤホヤされるべき」
「はあ?」

それは余りに唐突だった。
アジトに呼び出されて早々に。
『電波な少女』がいきなり妙なことを言い出し、『スキルアウト上がりの男』は呆れるしかなかった。

「何だって、滝壺?」
「だから……早急に『ヒロインっぽく』色々と『チヤホヤ』されるべき」
「……また始まった、電波も大概にしとけよ」

意味不明な言動に浜面は頭を抱え、それを口にした滝壺の正気、そして真意を伺った。

「……で、何でそんなこと言い出したんだ」
「だってそろそろ麦野が帰ってきそうだし……代理リーダー返上前に、立場のテコ入れ掛けようかと、また麦野の暴走で被害が出る前にって」
「前から割と安全圏だろ、贅沢者め!?」

眠そうな目を見て問いかけて、すると暗部らしい中々に『自己中心的な答え』が返ってきた。
あんまりなそれに浜面は思わずクレームをぶつけ、が滝壺はそれに膨れっ面に成った。

「ぶー、意地悪……こんなに気立ての良い上司、特別扱いすべき」
「……それで良い上司は無えよ、さっきまでの言動的に!」

嘗ての麦野程ではないが自由な言動に、浜面はガクリとしながら何とか突っ込んだのだった。

「……そうだ、ここは誰かに助けられるよう『薄幸キャラ』で行こうかな」
「無理に決まってんだろ、鏡見たこと無えのかよ!?」

思わず浜面は叫び、それから助けを乞うように仲間を、怪力自慢の暗部少女を見た。

「……あー、絹旗も何か言ってくれ、フレンダは家族サービスで留守だし」
「……超興味なし、リーダー代理のご機嫌取っとけ下っ端」

が、その視線は素気無く却下された。
絹旗は面倒事は放ってミルクと砂糖たっぷりのティーカップを傾ける。

「ふう、紅茶が超美味しい……汗を流した後のこれは超絶品です、働き者は得ですね」
「よく言うよ、最近はシルバークロス・アルファをこき使ってるのに」

呑気に彼女は舌鼓を打って、がそれに『イルカの人形抱いた黒髪の少女』が呆れ顔で見た。
そいつはガサゴソと、勝手に棚のお茶請けを漁りながら我が物顔で絹旗の隣に座った。

「おっ、暗部だけに高そうなの見っけ、菓子貰うなー」
「こんにゃろう、せめて許可取るべきでしょ、超馬鹿黒夜!?」
「……良いじゃんよう、幼馴染だし」
「……黒夜、紅茶入れてきたよー……主よ、今日の糧を感謝します」
「おっ、ありがとな、ミーシャ」
「しかも『連れ』付き、勝手に茶も入れてるし……」

更には『中性的な容姿の少年』、ミーシャまで加わったのを見て絹旗が先程の浜面同様ガクと肩落とす。

「……何なんです、アンタ等」
「お嬢様が聖婆ちゃん呼びに『郷』行ってさ、それまで二人ってのも微妙だし」
「うん、飽きが来ちゃう前に暇を潰しに来たの」
「それで来られても超腹が立つんですが……」

滝壺や絹旗に負けず劣らずの言動に、流石の絹旗もジト目に成った。

「……そっちのガキンチョ、迷子になる前に『帰ったら』どうです?よく知らないんですが『故郷』は遠いんでしょ?」
「……行くのも戻るのも結構疲れる、道を開くに最適な『星辰が整う日』を待つつもり」

不満顔の絹旗が変化球気味に説得し、が来たのは何故か大覇星祭最終日について。
絹旗は飛ぶ話題に訝しみ、戸惑いつつ視線を移す。

「ええと……説明ください黒夜」
「ほら、『大覇星祭最終日』は何時も星が出るだろ……その時のが『力』が使い易いんだと」
「……限られた力で帰るのは疲れる、それと無理にして途中で落ちたくないから」
「……つまりその日を待った方で安全な上に確実で、ソレわかってて今直ぐ帰る気はないってさ」

一見理路整然な、だけど建前も入った答えなのは明らかだ。
そして、それをミーシャ達自身素直に明かしたのだった。

『何よりレミリアと聖(婆ちゃん)と祭りに行きたいし』
「……相変わらず仲良いですねえ」
「……そういう訳で大覇星祭は思う存分楽しむよ、『四人』で」
「うん、ウリ……『問題児入りの氷』は貸し倉庫に置いて来たし」

笑って言う二人に、絹旗はちょっと呆れたように、だけど微笑ましそうに相好を崩した。
ただミーシャから後半聞き捨ての成らない言葉を聞いたような気がしたが、でも絹旗は聞かないことにした。

(ま、私が言う義理もないか……自称吸血鬼とあのパワフルな僧侶がいれば大概何とかなるでしょうし)

彼女は苦笑し、向うの関係者達に丸投げしたのだった。

ジリリッ

「……あら、出動要請ですかね」

そんな折、暗部直通の呼び出し、絹旗は少し嫌そうな顔で取った。

「はい、アイテム……真っ昼間に刃傷沙汰ですか、どっちも学園都市のデータ無しと……超面倒そう」

彼女は不可解な案件、『スーツのナイフ使いとローブ姿の不審者の斬り合い』について聞いた。
何だか面倒そうで、不機嫌げにしながら先を促す。

「……で、その後の行方は……はあ?撒かれた、追ったのは皆のされただあ!?」

が、その答えは全滅という物で、絹旗は思わず目を吊り上げて詳しく聞こうとする。

「特徴は……『行き成り消える』?、でもって『行き成り別の所に現れる』……遺留物に純銀製のナイフ?」
『……ちょっと待って』

ポツポツと報告を並べ、それに他人顔だった二人、離れで茶を飲んでいた思わず黒夜とミーシャが反応した。
曖昧過ぎる断片的情報、がその断片的な情報を黒夜達は無視できなかった。
何故なら『一時期世話になった屋敷』のその『奉公人』と共通点が在ったから。

「な、何ですか、二人共」
「……き、絹旗ちゃん、そいつの容姿、後髪の色とかは!?」
「顔立ち整ってる?ちょっと吊り目で青い瞳?」
「え、いや、変装か布切れで隠してて定かでなくて……」

行き成り食いついてきて、立て続けに問う二人の剣幕に絹旗は一瞬押される。
が、それは明らかに相手を見知っていて、絹旗は希望混じりに逆に問いかけた。

「寧ろ聞きたいです……神出鬼没のナイフ使い、心当たりは?」
「……有るな」
「寧ろ友人」

コクと二人は確かに頷いた。

「その人の特徴は?追々入るだろう情報と照会するから」
「……銀髪の女で何時もメイド服着てるな、まあ今は私服かもしれんが」
「……さっきも言ったけど顔立は整ってる、肌も綺麗で体型はスレンダー気味」
『ああ後……目の色、凄い綺麗な青だ』

順に並べていって、絹旗はそれを慌ててメモすると、その後電話の向うに直ぐ様伝えた。

「これで良し、もし同一人物なら幾らか手間が省けるか……後はうーん、そうですねえ……よし、決めた!」

うんうんと頷き、それからガシと黒夜達の肩を取った。

『はっ?』
「……超来やがれ、外回りでその女探すから」

有無を言わさず治安維持の協力という建前、実は殆ど先ほど生意気行った二人への仕返しで。
ダッと、絹旗は能力の齎す膂力任せに担いで駈け出した。

「えっ、えええ!?」
「ちょ、降ろし……」
「ははは、煩いです……超手伝いやがれ、バカ黒夜プラスワン!」

後ろからのクレームに聞く耳持たず、絹旗は突っ走っていった。

ドンッ

「きゃっ!?」
「む、『通行人』?」

が、その時アジト入り口付近で誰かを『轢いた』。

「危ないですよ、そこの……まあ今言っても遅いけど」
「あ、あう、疲れたから軒先借りたいってだけなのに!?」

『布を体に巻きつけた少女』がフラつき倒れ、だけど絹旗は面倒なので足は止めずに残っていた仲間に『丸投げ』した。

「……滝壺さん、浜面、その子任せました!」
『おー、行ってらっしゃい』

彼女はそのまま突っ走って、残された少女に滝壺がトットッと近づく、
滝壺が荒く息を吐いて蹲る『銀髪の少女』、日本人離れした容姿で同年代くらいの娘にそっと手を差し伸べた。

「大丈夫?」
「……駄目かも、軒先少し借りたかったけど今本気で『横になりたい』くらい」
『……あー、そうだろうなあ』

少女の言葉に苦笑し、そこで相手の髪の色に、『輝くような銀の髪』に一瞬ハッとし警戒する。

『……いや、違うか』

がそれは一瞬のこと、さり気なく顔を見て警戒を解く。
『真紅の輝き』を見たからだ。

「お目々、真っ赤……違うね」
「ああ、そうみたいだ……大丈夫か、お嬢ちゃん?」
「……す、少し横にさせて貰っていいですか」
「……うん、こっちのソファー使って」

警戒を止めた絹旗は快く相手を迎い入れて、がそこで違う意味でハッとした顔付きになった。
布切れの下の服、その脇腹には『一条の傷』、それで『真っ赤に染まっていた』からだ。

「……動かないで」
「え?」
「浜面、中に運んであげて、私は救急箱持ってくるから」
「了解だ、リーダー代理」
「え、えっ、あの……」
『怪我人は動くな、銀色!』

戸惑う相手に有無言わさず、滝壺と浜面は強引に彼女を中に連れ込む。
暗部らしからぬ情、それが事態を急加速且つ『錯綜』させると知らずに。

(あ、あれ、何でこんなことに……)

『懐中時計』をその手に握った少女が途方に暮れた。



・・・ご無体な無頼たち・一に続く・・・





・・・本編進める前に短編開始です、まあ東方シリーズ『第三の主人公』をここ等で出しとくべきだなと(正直捏造やり過ぎた・・・)
因みに題名に無頼とか着けたけど、寧ろ唯の『ロクデナシ』だったりする・・・いや登場人物の大半がそうといえばそうだけど。
とりあえず今回はシティアドベンチャー的なのを、多分こぢんまりした話になるか?
・・・今気づいたけど、懸念上げると『禁書目録SSシリーズ』そこまで部数が発行してないかも、少し反応が怖い・・・

以下コメント返信
九尾様
いや、実は噛ませっぽいのはある程度織り込み済み・・・五大派閥は禁書原作でも『登場時点で半壊してた』実績持ちですから(寧ろ出落ち芸を頑張りたい・・・)
ただ一人か二人、魔改造済みの面子が居るのでそれなりの波乱は起こせるはず。

細かいが……様
おおっと名前間違いとは初歩的過ぎるミスを・・・訂正しました、ありがとうございます。



[41025] ご無体な無頼たち・二
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/09/10 17:41
ポカンと、『赤の瞳』に困惑の色が浮かぶ。

「……大丈夫、君?」
「え、ええ、はい……」

少女は呆然としながら世話を焼かれていた、よりによって暗部に。

「貴女、名前は?」
「ええと、その訳有りで……ごめんなさい」
「そう、じゃあ……ギン子ちゃんで」
「うわ、そのまま!?」

相手は同じくらいの年の少女、さっきまで『ぼうとした目』が少し真面目だ。
暗部と言うには邪気のないそれに見据えられ、『銀髪に赤い目の少女』はされるがままになっていた。
チャリと懐で鳴った『時計』、『一族の者が残した設計図から作り上げた一品物』、それ単体でもある程度使える魔法具で脱出できようが悪意の無さが躊躇わせる。

(……ここは任せるか、奴のナイフを幾つか避け損ねたし)
「……はい、包帯の固定完了、もう動いてもいいよ」

コンコン

「終わったんなら入るぞ、滝壺……女性陣に頼んで『服』を持ってきてもらった」

手当が終わって服を着直したのを見計らい、明らかに新品で意外と『カジュアルな服』が少女に手渡される。
白のシャツに青の上着、胸元には赤のタイ、直ぐに再び外に出た浜面の代わりに滝壺が着せてやる。

「……うん、似合ってるよ、ギン子ちゃん」
「……ええと、ありがとうございます」
「別にいいって……ぶっちゃけると暇だったし、任務は絹旗が行っちゃってるから」
「はあ、そうですか……」

戸惑いつつ感謝の言葉をかけて、すると余りにも適当過ぎる言葉に困惑してしまう。

「……直ぐ出ますね、手当有難う」
「別にいいって、さっきも言ったけど暇だっただけ……」

彼女が困惑しつつ礼を言えば、軽い感じで流して滝壺は室外に出て浜面と合流する。
報告らしきレポート受け取った彼女はそれに目を通しながら、最後に少女に行った。

「絹旗とぶつかった時さ、一時場所を借りたいって行ってたね」
「え、ええ、そうですが……」
「……部屋余ってるから困ったら来てもいいよ」
「は?」

予想外の言葉に思わず凍りつき、それに滝壺は言うだけ言って送り出した。

「ギン子ちゃんを見た時……面白くなりそうって、何となくピンときたの!」

そう言い捨てて、滝壺は浜面を連れて暗部の仕事に出て行った。
残された少女は困惑したように服やタイを弄るしかなかった。

「ピンときた、か、もしかしたら……(不可視の……力にして『流れ』が『見えてる』のか?)」

あるいは『ある少女』のスペアになるかもとは考え、がそこで体の包帯に手を当てて一時保留にする。

「借りができた、いやそれ以外でも……一応調べるけど『使う』には問題かなあ、あ、暗部だしね」

ちょっと言い訳のように少女は自分自身に言った。

「それに……何よりマイペースそうで『誰か』を思い出す、やはり最後の手段ね」

加えて、過去を思い出したかのように少しの戦慄も。
そう、とある親戚、幾らか年上の『従姉妹』だとか。

「……な、何の、今回は負けないわよ」

弱音を吐きかけた自分を一喝し、それから滝壺のいた方に一度頭を下げた後『外』へ向かった。

(……さて手元にはまだ武器がある……『私のもの』と『奴のもの』、上手く使えば撹乱位には成るか)



「……ふむ、『彼女』はこれからどう動くかしら」

暮れる空、上り行く月を見上げた『銀髪の女』、十六夜咲夜が警戒後立ち止まる。
学園都市の街角、その外れで壁に体を預けた彼女は難しい表情だった。
それで僅かに『スーツ』に皺が寄り、神経質な顔でそれを引っ張り直しながら考え始めた。

(……まあ正直出たとこ勝負かなあ、ぶっちゃけ考えるのも億劫だし)

が、気難しい主が居るならともかく、個人なら大分マイペースのようであっさり思考を放棄したのだった。

(相手が動いたらそれに合わせて動くくらいでいいか……)

さっさと答えを決めて、そしたら切り替えて自身の調子を探る。
昼間の交戦で傷ついたスーツはまだ大丈夫、その下の体も『今は』問題ない。
加えて主戦力であるナイフもまだ有るが。

「……ひいふうみ、と幾つか足らないわね、流石に昼間のアレでは『取り零し』もあるか」

よく数えれば回収しこそねた物が有って、彼女ははあと嘆息する。
あるいは武器の都合も考えねばならないかと。

「……どこかで補給を考えないといけないかもしれないか」

壁に背を着いて嘆息し、がそこで足元を、散乱するガラス片を見て渋面を作る。
曇ったそれに映る『赤色の目』を見てしまったから。
それは時間制御能力を使った直後『魔力の操作』に集中し過ぎた時に出てしまうもので、この場で(日本という場所という意味で)少し問題がある。

「……ちっ、時間制御を使いすぎたか、押さえないと『目立つ』わね」

辺りの目を心配し『血の濃さを証明するような瞳』を抑えていく(あるいは『恒常的に魔力を使う仕事』なら染まり続けたかもしれず『今の仕事』でほっともするが)

「……何にしても長期戦に成りそう、さて今は『個人』であることがどう影響するか」

そう呟いてから、彼女はトンと地を蹴って跳んだ。



ご無体な無頼たち・二



とあるところに少女が居た。
時を止めるという能力を絶大な力を持ち、だが一族の期待に反し『それを伸ばそうとする』確固たる理由を持っていなかった。
自身の力は持て余す少女だったが偶然の末に、何の因果かそれを『人外の存在』に見出して『しまった』。

『面白い力を持っているわね、小娘……我が物と為らないか、サクヤ?』

その出会いは偶然で、だけど忠誠を誓ったことは必然だっただろう。
その結果錬金術士の『人の域を超えて欲しい』という願いで神の名、木花『咲耶』姫命の名を貰った少女は悪魔に傅いた。

『ならば……何もかも邪魔ね、退いてよ古ぼけた一族が』

そして一度全て捨てた、止める者を文字通り切り捨てて。



『……敗北者のままで終われるものか』

とあるところに『錬金術士』と『天使』が居た。
一人は黄金錬成を目指す一族の末裔、もう一人は『天から落ちた堕天使』、だがどちらも余りいい歩みとはいえなかった。
錬金術士の一族は時代の進みや『研究に愛想尽かした一族の出奔』等で斜陽を迎え、堕天使もまた汚名を晴らせずにいた。

『ここから復権となれば、全くの……新たなる世界が必要です、そしてそこには……』
『新しい神が必要だな、そして都合のいい誰かを主神する……』

悩んだ末に彼女達は結託し、そして『主神の力』を求めるある少女を共に立てることにした。
『北欧五派閥』、その筆頭に友を奪われ、延々と眠るその人を救う為に奮闘する『戦女神』を。

『主治医でも申し出ますか、錬金術士なら医者の真似事も……加えて生け贄もやりましょう』
『戦女神を唆し、筆頭派閥を落とす……怒りと不信を一時でも押さえる生け贄、同じ五大派閥だろうに』

抜け抜けと厚顔で戦女神に接触、今後のイニシアチブを得る為にライバルを追い落とすと、『彼女たち』はその筆頭の地位を奪った。
そうして表向きは戦女神を上に立てて、日本で活動する堕天使と共に新たなる主神と新たなる世界を目指し行動してきた。
だけど、その片割れは既に無い、学園都市で同じ天使の手によって。

『……既に天使は落ちた、ここは私自身が動かなければならないか』

『銀髪』に『真紅の瞳』、『女神の名を持つ少女』がギュと刃を握った。



「……何だか外が煩いわねえ」
「まあ、学園都市ですし」

呑気そうに『巫女』と『子鬼』が言う。
カアと外で惚けたようなカラスの声がして、それを聞いた少女たちが悪戯ぽく笑う。
クイと、鬼のような巫女が『手を傾ける仕草』をした。

「お夕飯時ね……ちょっと『キンキンに冷やしたの』行っとく?」
「あ、良いですねえ」

霊夢が『酌』をする仕草をし、それに涙子が乗った。

「……いや何してンだよ飲兵衛共、こっちは肉体労働してンのに」

そして『大荷物』を持った一方通行が突っ込んだ。
どでかい氷柱、中では苦悶の表情の天使という異様な光景があった。

「あのなァ、こっちは……『堕天使入りの氷』を上から聞き出した『メンバー』アジトに運んでるってのに」
「いや俺の台詞にゃ!?つか勝手に言うなよ『上』!?」

そうして疲れたように言う一方通行に、更に土御門が突っ込みを入れる。
勝手にアジトをバラした上に文句言いつつ、その後自由な少女たちや超能力者にジト目を送る。
天使を押し付けに来た一方通行と、それを手渡すまでの様子を念の為見に来たおまけである。

「……暗部のアジトをウロつかんでくれ、集中できんにゃ」
「荷物持ってきただけだから直ぐ出る……これの扱い、打ち止めや超電磁砲経由で頼まれてなァ」
「ま、研究所や黒夜さんのアパートに置いとく訳にもね……大覇星祭までお願いします」
(畜生お、断りたいけど……下手なところに置かれて脱出される訳にも行かねえか)

正直怒鳴り返したかった土御門だが(本当に不承不承に)『氷』の扱いを受け入れる。
部下に倉庫を案内させ、それからクイと三人を外に示す。

「俺は仕事がある、飛び入りのようでにゃ……さっさと行け、邪魔だから」
『はいはい、付き合い悪いなあ……』

『真っ昼間の斬り合いの件』で暗部の顔に戻った彼に追い出され、自由人三人は外に向かうのだった。

「さっさと行くにゃ、でもう来るなよ!」
「……ちっ、心の狭いやつ、で俺の仕事は終わったがどうする?」
「お酒飲みましょ、旬の魚や野菜と合わせてさ」
「良いですね、料理は私が作りますよ、で……」
『荷物運びお願い、超能力者さん』
「……わかってたよ、ああもう」

彼のその日はとことん疲れることばかりだった。



サイレンが遠くで鳴り響き、思わず『犬耳』の少女が唸る。

「……むうー」
「椛さん?」
「ああ、少し耳に来て……」

自身の獣の感覚を少し億劫そうにし、そんな椛の犬耳を向かいの美琴がそっと撫でた。

「大丈夫?……ああ、警備委員か、祭りが近いから色々あるようね」
「そういうことなら仕方ないか……警備とか人が多いと大変なんですよねえ」
「……何だか身にしみたような台詞ね」
「……いや、『山』で紅いのとか黒白とかに」

『霊撃二連発』で速攻落とされた時を思い出し、椛が暗い顔をした。

「……本格的な休暇、取ろうかなあ」
「いや、本当に何が有ったのよ……」

どんよりした彼女に困惑しつつ、そっと耳を撫でてやる。
更に、それに左右から小さな手が伸びた。

『元気出してー(にゃあ)』
「……有難う、美琴さん……それに打ち止めにフレメアも」

こそばゆそうにしながら椛がハニカムように笑った。
それからお返しに、『左右からの手』の主である打ち止めとフレメアを撫で返す。

「あっ、私は良いわよ」
「美琴さん、わかってますって、その歳で流石に……二人共、お返しは手で撫でるより尻尾?」
『……どっちも!』

贅沢な答えにクスと笑い、椛は撫でながら左右の二人をふわふわの尻尾で包んだ。
ニコリと二人はご満悦といった表情になって、全身から椛の体に抱きついた。
その勢いで白い毛の塊がわさわさと揺れる。

「あら、人気者ねえ」
「……陽が出てるうちは熱いですがね、この時期は」

夕日を見て微笑み、それから二人を楽な姿勢にさせる、食後の(というかおやつ後の)少し遅いがお昼寝時といった感じだった。

「ううっ」
「フレンダさん?」
「……妹が取られたー、正直ショックって訳よ」
「……お姉ちゃん、泣かないでよう」

そこに更に涙目のフレンダが(椛に抱かれてる)フレメアへと横から飛びついたのだった。
ガシと姉妹がくっつき、姉妹(と打ち止め)を抱えた形の椛が少し困ったような顔になる。

「……少し重いです、夕時で熱くはありませんが」
「ホントご愁傷様ねえ……」

彼女と美琴は苦笑しながら、でも楽しそうに笑う。
それからパチパチと、話で中断していた『将棋の駒』を打つ手を再開する。

「手強いですね、美琴さん……不慣れでしょうに、単純な読みでは敵いませんか」

数秒考えてから守りを固めた椛の言葉に、向かい席の美琴も陣形を纏めていく。

「まあ、これでも優等生で通ってたから……でも、そっちも中々崩れないわね」
「ははっ、何時もこれをやってますしね……本当は『大将棋』の方が好きなんですけどね」
「……うーん、そっちはルールわからないからなあ」

倍以上の駒を使う遊戯を思い(というか疲れそうだと)美琴が少し顔を顰めた。

「残念です……にとりなら付き合ってくれるのですが」
「ああ、あのツナギ服の……同じ山住まいなんだっけ?」
「ええ、といっても……最近人里で商売し始めてご無沙汰ではあるか」
「なら、記者の二人……姫海棠さんに射命丸さんと『打つ』ってのは?」

同族二人について問われ、僅かに椛が憂鬱そうな顔になる。
彼女は周囲を見渡し、聞かれてないか確認してから答える。

「はたてさんはあれで結構社交的で、仕事が無い時は同僚と遊びに行くし。
で、射命丸様はその、色々論外というか……」
「……というと?」
「あの人、あれで結構年長者……ぶっちゃけ世代的に娘扱いで、猫可愛がりしてくるんですよ」

彼女はヘニャと犬耳を伏せて、恥ずかしそうに俯く。

「仕事ならともかく……外で会えば『ちゃんと食べてる?』とか『家の掃除は?』とか『悪い虫ついてないか?』とか……」
「……まるで親戚のオバさんねえ」
「……マスコミさんってある意味縦社会の体育会系、多分目下にはそうするものと思ってるのだと。
後半分は親切として……残りの半分はそうしながらイジってるんだと思います」

だから(心底嫌ってはいないが)苦手なのだと椛は恥ずかしそうに答えた。

「私、というか白狼天狗は『全力で仕事し』、でも『遊ぶ』時も全力なんです……何といいますか犬科の性というか」
「まあ、血統のいい番犬や猟犬ってそんな感じね……仕事はきちっとして、主が許せば走り回って」
「……一方的に『構われ』、一方的に『遊ばれる』のはちょっと……」

クウンと力なく鳴いて、椛は恥ずかしそうに大先輩への不満を口にしたのだった。
そして、その後直ぐ様顔を上げて、別の山の仲間への愚痴も。

「ええ、それと……同じ理由で、最近子犬扱いしてくる節姫の奴は許さん!」

二人を共に友人と思ってる美琴は困ったような顔で答えた。

「……天魔って人に追い回されたの、根に持ってるんじゃない?」
「……だからって、部下の私にし返されても困るんですよう」

因果というしかない巡り合わせに、再びヘニャと犬耳が垂れた。

「ううう……と、また『音』が……」
「サイレン、何だか続くわね……どうしたのかしら、まだ祭が始まってもいないのに」

が、再びのサイレンの音に椛の顔が顰み、思うより長引いてるそれに美琴は懸念を抱いた。
大覇星祭、本格的なそれの前に『別の祭』が始まってるようだった。



カチカチ

「……ちっ」

アイテム所有のボックスカーに苛立たしげな舌打ち。

「……超畜生、『直ぐに姿が消える』から情報少過ぎ」

備え付けの設備の画面に幾つかの映像『コマ送り』で進み、それを見た絹旗が面倒そうにする。
暗部の所持していカメラ、だが偶々写ったそれは隠蔽のつもりかローブを隠った人物がナイフを投擲した瞬間途切れる。
その後残ったのが気絶した暗部とナイフに貫かれたカメラの残骸だった。

「どうにも行けません、これは……」

始まって早々暗礁というか、学園都市で斬り合いをした二人、スーツのナイフ使いとローブを着た怪人物達はどうに情報の集まりが宜しくない。
一旦『二人とも』その場から撒かれ、辛うじて『片方だけ』は経験が浅いのか捕捉できてるがやはり捕まらない。

「うーん、十六夜の姉ちゃんかこれ?」
「……一瞬の映像だしどうとも言えない」
「……しかも、日が落ちれば更に判別は厳しくなるなあ」

車の後部座席、強引に連れてこられた黒夜とミーシャも困惑している。
どちらも服装が違い、加えて僅かに姿を見せた時も容姿を出来る限り隠しているようで合否を言い切れないのだ。

「……とりあえず最初の斬り合い、片方は十六夜の姉ちゃんだとは思う」
「こっちのスーツ、ナイフ使いかな……」

二人は別の画像、昼の街中での斬り合いの瞬間にはそう判断する。
が、その映像自体、『軽く手で帽子を押さえるような仕草』でほぼ完璧に顔や髪を隠していて、確実にとはやはり言い切れない。
そうっと上品に帽子に手をやる仕草は様になっていて、が判別する側となればどうも小憎たらしくもある。

「……どこか茶目っ気有って、十六夜の姉ちゃんっぽくはあるけど」

ううむと唸り、それから次に二人は絹旗の見ているものを見て首を傾げる。

「……こっちはわからねえな」
「うん、暗部って人達を最小限で捌いて……映像も一瞬一瞬だから」

二人が唸る、そちらは更に難しい。
この方は最初の映像より短く、また執拗なまでに布切れを体に巻き付けていて不明確、それこそ咲夜らしき相手かもう一人かすらも。
関係者というのは残された遺留物であるナイフで辛うじてわかるが。

「昼間に見られて、それで十六夜の姉ちゃんが変装した?」
「……いや、せめて顔や髪、それに『眼の色』を見ないと」

最低限そうしないと答えられないと、二人はこの場での明言を止めた。
ぐっと当てが外れた様子で絹旗が唸った。

「これは……長引きますか」
『ご愁傷様』

呑気に同情して、黒夜とミーシャは備え付けらしき缶詰を勝手に開けていく。

「絹旗ちゃん、貰うよ……乾パンにコンビーフ、ミーシャの方の缶は?」
「シロップ漬けフルーツ……どっちも少し重いかな、飲み物買ってくる」
「……遠足気分か、こいつら」
「……いや、私の仕事じゃないし」

所詮他人事と(咲夜に関しては保留とぶん投げて)二人は勝手に食料を開けて騒ぎ始める。
そんな薄情者に仕事中の絹旗がジト目になって、それから躍起になって画面の映像を注視していく。

「……む、これは?」

暫しそうして、直後引っ掛かるものが。

「……どうした、絹旗ちゃん」
「一瞬だけではない映像が……」

ナイフを受けて血だらけの暗部と、それを前に立つ『スーツの女』の映像
突き立てられたナイフで画面こそ罅割れてるものの(偶然にだろうが)完全には壊れていないもののようだ。
それを補正をかけて再生し、すると少し予想外のものが映る。

『……はあ』

画面の中の女が嘆息する、顔や髪は帽子で隠すも呆れやら自嘲やらが感じられる。
目の前の暗部は完全に気絶している、どうやらナイフが深く刺さっているのか血が流れ続けている、素早く彼に『女』は近寄って傷跡に手を当てた。

『……手間を掛ける、面倒な子』

ナイフを引き抜き、それが新たな出血を招く前に手早く手当をしていく。
それからナイフを懐に仕舞い、タンと地を蹴って飛び上がって数秒後画面から消えた。

「ま、待って、今巻き戻して……」

今までとは少し違う映像に、絹旗が慌てて機材を操作する。
再び繰り返され、その時手当ての作業の際に一瞬だけ隠蔽が乱れたか『銀の髪』が、そして『青い瞳』が露となる。
それに、黒夜達が驚いた顔で顔を見合わせる。

「今の声、十六夜の姉ちゃんだな」
「……間違いないね、でもここで暴れてどうする気なんだろ?」
「……お嬢様の許しがあるとも思えん、だから尚更わからないな」

二人は言いつつも首を傾げて、でもそれから『ズレた太鼓判』を押す。

「だが、こいつは……」
「うん、彼女だ……」
『カメラの目を忘れるドジっ子ぶり、間違いない!』
「……いや何なんです、その理由!?超意味わからないんですけど!?」

意味不明な断定の仕方に、絹旗が思わず突っ込んだのだった。

「ま、まあそれがわかったなら良し……もう夜、調査は一時切り上げでしょうか(本格的な祭り前に何とかしたいけど……)」



トンと女が街の裏手に降り、そして舌打ちし愚痴る。

「……ちっ、詰めが甘い、いや手の抜き方を知らないか」

大分上がり切った月の下、女が手間を掛けさせた誰かへ不満を言う。
そして戦いの中で一度失われ、その後回収したナイフから僅かにこびり付く血を拭うと改めて仕舞った。

「まず一振り……さて、何とか武器を温存しつつ、敵の動きに備えたいが」

僅かに考えこんで、その後表情が変わる。
フッと余裕のある笑み、後手である筈なのに咲夜は微笑んだ。

「ですが、悪くはないか……こちらには大きなアドバンテージが有るのだから」

その芸術品のような顔に、美しい青い瞳に、余裕の色がその時一瞬過ぎる。

「何故なら私は……」

そして、彼女は花咲くような笑みで『どこまでも碌でもないこと』を言った。

「既に斜陽の中、引けばこのまま沈む一族と違って……ぶっちゃけ『今は何も背負ってない』個人なのだから。
この行動の自由度の差……きっと後で、響いてくるはず!」

今はただ一人の十六夜咲夜、『主のレミリア』も『守るべき紅魔館』も背負ってない女が邪悪に笑った。



彼女は苦情の顔で『少女』に会いに行った、だって『ID』無いから。

「……滝壺さん、ご厄介になっていいですか」
「歓迎するよ、ギン子ちゃん!」

銀の少女は『野暮用』を済まし、がその後所在に困って昼の場所を訪れていた。
あるいは借家でもいいが、ID無しで借りれるのは少なくまた目立つ容姿がそれに二の足を踏ませたのだ。

「……調度良かった、思いついたことが有ってね」
「は、はあ……」
「あー、覚悟しとけよ、こいつ唐突だから」

が、そこには何故か待ってましたとばかりの顔で滝壺が笑っていた。
ニコニコ顔で仮眠所に誘導、そんな彼女の行動に銀の少女は首を傾げてしまう。
戸惑う彼女に、被害歴の多い浜面が思わず警告の言葉を送る。

「私ね、最近地味な気がするの、だから目立つ為に……この街の実力者達を参考にしようかなって」
「へ、へえ、それで?」

困惑しながら先を促し、すると滝壺は偉そうに胸を張って答える。

「それは『姉』!」
「は?」
「第三位さんはシスターズのお姉さん、巫女さんも第一位のお姉さん……つまり今のトレンドはお姉ちゃん的なサムシング!」
『ごめん、意味がわからない……』

余りに電波な発言に、当事者である銀の少女と聞いていた浜面が突っ込む。
が、滝壺は二人の突っ込みを一蹴、恐るべき面の厚さで更に畳み掛けていく。

「……という訳で、『初対面で窒素娘に轢かれる』ようなそんな『薄幸系』の貴女に白羽の矢が立ちましたー」
「は、はい?(……駄目、全然意味がわからない!?)」

少女は戸惑いっ放しのまま相槌し、が最初の『はい』の部分だけ効いたか滝壺はうんうんと勝手にわかった様子で頷いた。

「良し、許可が出たね、ならこれからお姉さんと呼んでね!」
「え、いや、今のは違います……というか『姉』には『良い思い出』がないんですが!?」

この瞬間(少女には勝手に)(滝壺の中で)姉妹となることが決まった。
滝壺はニコニコ笑って銀の少女の『赤いタイ』に手を伸ばす。

「あらあらタイが曲がっていてよ……よし、これで私達は姉妹(スール)よ!」
『何で少女漫画ちっく!?』

やはり突っ込みが飛ぶ、が滝壺はこれもスルー、そしてその後一方的な握手を求める。

「……という訳で宜しくね、マイシスター」
「……何よこれ、ホント意味わからないんだけど!?」

彼女は当然クレームし、が構わず滝壺が抱きつく、次に助けの視線を送るも上司が怖い浜面は渾身のスルー。
こうして『女』は何故か奇妙な連中を背負い込むのだった。






・・・という訳で電波から始まる特大茶番劇開始、というか浜面(前記事からそうだが)突込み及び苦労人に完璧なってますねこれ。
・・・何人か前回の関係者が出てますが(一人か二人か顔を突っ込むけど)基本的には背景、『二人』とアイテムで進めていく予定。
あ、このSSでのメイド長は『苗字だけ』お嬢様につけられたようです・・・産みの神だからある意味創造神、錬金術士的にも悪く無いかなと。

そういえばメイド長って幾つナイフ持ってるんだろ?公式だと適宜時間止めて回収してるって解答だっけ?・・・まあ展開上必要になれば弾切れたり切れなかったりで。

以下コメント返信
隆々様
しいっ、とりあえず中盤まで『それ』を言ってはいけません・・・暫く登場人物のズレっぷりでもどうぞ。

九尾様
いやあ2Pキャラが居るので親戚ということで、でこの後勘違いが起こす波乱の一幕(あるいはコント)をお待ち下さい。
・・・滝壺は目をつけられてる程度です、まあ今回のことで心情的には多少手を出し難くなりますが。



[41025] ご無体な無頼たち・三
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/11/17 17:06
注意。・今更ですが『とある東方キャラ』と『西方のキャラ』に関してオリ設定捏造中(従姉妹とか再従姉妹辺りで)




『な、何故……従姉……』

銀の少女は『夢』を見た。
そこで彼女は地に伏し倒れている、体中裂傷だらけで止めどなく血を流している。
その痛みで顔を歪めながら彼女は『それをやった同じ顔の女』を悔しげに睨む。

『どうして、こんな……』

視線の先には『銀髪の女』、そいつは倒れる少女やその仲間を、一族からの追手達をつまらなそうに見下ろす。

『どうして、私達を裏切ったの……』
『……貴女達と居るより、ずっと楽しそうな場所を見つけたから』

フッと笑って、そしてそいつは言った。

『……お嬢様がとても可愛らしく魅力的だからよ!』
『そんな理由で一族を裏切るなっ、バカ義姉!?』



「……はっ、『夢』か……最悪ね」

ガリガリと銀の少女が髪を掻き毟る、余りの夢見の悪さに起きてからも幾らかの怒りが残っていた。
彼女は最悪の気分を頭を振って追い出すと起き上がろうとする。

ギュッ

「……おっと」

そして寝巻き代りの服に一人分の重み、誰かがしがみついている。

「……滝壺お姉さん?」
「む、にゃ……」

(半ば強制的に押し切られた)呼び名、呼びかけにしがみつく少女が寝ぼけ眼を擦る。
浜面に(夜間の)暗部組織の纏めを任せてさっさと床についた滝壺である。
行き成り銀の少女を押しかけ、ガールズトーク(という名の愚痴)をぶち撒けた少女でもある。

(……大半麦野って人への恨み言だった気がするけど)

苦笑しながら少女の手を解き、それから銀の少女は未だ寝ぼけ眼な女の肩を揺すった。
それで幾らかシャキッとして、けどそれでもボウとした顔の彼女が自分の服に手をかける。

「ふ、にゅ……おはよ、マイシスター」
「……ええ、おはよ……って、ここで着替えないで!?」
「うー、起きるの面倒」
「だからって行き成り脱ぎ出さないで、ほら手を離して……」

バタバタバタ

「おい、朝っぱら何の騒ぎだ、近所迷惑……」

いきなり脱ぎ始める滝壺とそれを止めようとする銀の少女、そしてその掴み合いが『乱入者』を呼んだ。
そして彼等は見た、『やや服が肌蹴た滝壺』に『覆い被さって抑え込もうとする銀の少女』を。

『……ごゆっくり』
「ち、違います!?」
「ええと、こういう時は……きゃー?」
「棒読みで悲鳴止めて、お姉さん!?」

朝番らしき浜面と室内でもパワードスーツの男がそっと扉を閉じようとし、銀の少女が慌てて引き止めた。
『従姉妹にして姉弟子に裏切られた少女』は『姉と呼ぶ女に襲いかかる好色な女』という不名誉なレッテルを張られかけていた。

『……外人さんって進んでるなあ』
「違う、誤解だああ!?」
「きゃー?」
「お姉さんも小芝居(悲鳴)止めて説明を!?」

早朝の学園都市に、絶望の叫びが響いた。



「……ふわあ、今日はどうしようかしら」

朝起きて先ず欠伸を一つ、寝起きだからか怜悧さが薄れた銀髪、咲夜がノソノソと借りている部屋のベッドから起き出す。
陽の光をぼんやり見ながら更に欠伸し、そうしてから手早く寝間着を脱ぎ始める。

「……ううむ、どうにも眠りが浅いわね(夜更かしのせいかしら)」

どうにも馴染めないスーツ、こちらに来てから纏う擬装用の服に着替えた咲夜が愚痴りつつ伸びをする。

(うーん、朝は……面倒だし、そのへんで外食でいいか)

主が居るならともかく、一人の彼女は面倒そうに妥協した。
先日の突発的な戦い、その後学園都市を飛び回った疲れが引いているらしい。
彼女は帽子片手に仮宿を出て、適当な場所で済ませるかと市街を見渡す。

「どこか、喫茶店でも空いていれば……」

探るように当たりを見回し、そしてそこで『驚くべきもの』を見た。

「……は、『似顔絵』?」

街頭に一枚の似顔絵、『銀髪に青い瞳の少女』と『WANTED』の一文、咲夜はピシと凍りついた。



「……メイド長、怒ってるかな」
「暗部に頼まれたら仕方ないし……」

暗部の車内で『情報提供者』の二人が心細そうにする。
メイド捜索に勤しむ暗部尻目に(暗部に付きっきりもどうかと)一旦帰ってから改めて合流した黒夜とミーシャだ。
二人は提供した似顔絵で怒り買わなければいいなあと、そう切実に祈っていた。

「安心しなさい、あくまで『事件に何らかの関りを持つ人物』としての公開……容疑者として扱ってる訳ではないから大丈夫ですって」

犯人としてでなくある種証人として探していると、絹旗が宥めるように言うが。

「……だといいんだけどなあ」
「……メイド長、怒るとお嬢様しか止められないから」

震えながら二人は答えた、だけど似顔絵書いた時点で手遅れとも諦める。

「ま、まあ、暗部に被害が出たってんならこっちも断れないから……うん、この言い訳なら何とか」
「……このメイド、怖い人なんですか?」
『割りとまあ……』

そっと目逸し、急所を狙う刃は正に恐怖の象徴、第三の異変解決者は伊達ではないのだ。



閑話乃二 ご無体な無頼たち・三



『……警戒が厚い、暫く手は出せないか』

眼下の教会で数人の少女が話している、そのうちの一人が密かに覗く『女』の目的である。
十程の幼い金髪の少女、白い帽子を揺らしながら一生懸命教会の仕事を手伝い中だ。

「よいしょよいしょ……椅子運び終わったよ、お姉さん」
「はい、ありがとう、フレメアちゃん……打ち止め、そっちは?」
「……机拭き終わったー、何時でもミサ始められるよー」
「うん、よろしい……一旦休憩、飲み物とお茶菓子用意してくるから」
『わーい!』

見下ろす先で少女たち、フレメアや打ち止めが番外個体達と一緒にミサの準備をしている。
恐らく打ち止めが姉妹を手伝い、フレメアが前回の礼にとついてきてるのだろう。
小さな手足を懸命に動かす少女の姿は微笑ましく、が同時に気にする事もある。

「フレメアちゃん、ああしてれば普通の子なんだけど……」
「前回のことがあるし……ま、誰か警戒の為に着いておくのが良い」
「……ふうむ、無能力者と思えば何らかの『希少能力持ち』、少し気にするべきか」
「…………あくまで『強度』はそうでも『質』、希少性はそうでない、てとこかな」

保護者側の美琴やフレンダ等が離れで今後のことについて話し合っている。
警戒する彼女達に、上の『女』ははあと嘆息する。
これでは下手には近づけないと、彼女はこれ以上の探りは止めて屋根をトンと蹴った。

(これ以上は不味いか、行きましょう……あら?)

彼女は監視を切り上げ、がそこで『自分と同じように』教会から離れていく気配を感じ取った。
恐らく向こうも監視し、やはり警戒の厚さにそれを止めたのだろう。

「……ふん、やはり血か、考えることは同じのようね」

彼女は跳躍の向きを変えて相手の方に、すると計ったように相手も近づいてくる。
『二人』は同時に市街から目に付き難い路地裏に降下していった。



トンと、二人の少女達が路地の裏手に静かに降り立った。

「はあい、一日ぶり……気分は?」
「余り良くないわ、バカ姉」

ベレー帽にスーツの女、咲夜の馴れ馴れしい言葉に布切れでその身を隠す錬金術士はそっけなく返した。
錬金術士は忌々しそうにしながら相手に問いかける。

「……駄目元で聞くけど『戻る』気は?」
「無いわ、お嬢様に仕えるのは楽しいんだもの」
「そう、それなら……」

わかりきった答えに嘆息し、それから錬金術士は裏切り者に武器を向ける。
片手に十字架を模した長剣を、もう片手に咲夜が持つのと酷似した銀のナイフを構えた。
ピクと眉を潜めながら咲夜もナイフを抜いた。

「あら、それは……」
「昨日の斬り合い、そこで拾ったわ……自分の武器で倒れる、裏切り者に相応しい末路だと思うけど」
「……断らせてもらおうかしら、まだまだお嬢様に仕えるつもりだから」

二人は敵意を隠さず言葉を掛け合い、それから同時に駆ける。
ダンと地を蹴って勢い良く飛び出し、渾身の力で相手に刃を叩きつけた。

『はああっ』

ガギィンッ

銀のナイフと十字架の剣、あるいは銀のナイフ同士が弾かれ合う。
その間で火花が散り、だが二人はそれに構わず相手を睨む。
それぞれある意味正統で、だけど完全にはそうでない怒りを込めて。

「……この錬金バカ一族が、大方暗部を刺激したのはアンタでしょう!」

咲夜が怒りとともにナイフを振るう。
浮かぶのはデカデカと張り出された似姿と好奇の視線、今まで以上に姿を隠さなければならなくなった。
その怒りを、咲夜は叫ぶ。

「これじゃオチオチ食事もできないじゃない……何してくれてんのもうっ!?」
「はっ、元々そっちに目を向けさせる策、知ったことじゃないわよ!」

ガギィンッ

が、相手もまた切り返す、やはり怒りの叫びと共に。

「……そもそもアンタが裏切ったのが悪いんでしょうが!」
「仕方ないじゃない、メイド生活が楽しくて……何よりお嬢様が可愛いんだもの!」
「せめて悪びれなさいよそこは!?」

吸血鬼少女への愛を叫ぶ咲夜に、錬金術士は怒りと呆れ半分で突っ込んだ。
それから更に力を込めて、長剣とナイフを叩きつける。

「……ていうか、足抜けしたなら幻想郷に引っ込んでてよ、何で学園都市に来てんのよ!?」
「五月蝿い、昔のコネからアンタ達のこと聞いて……流石に無視できないでしょうが!?」

咲夜が叫びながらナイフで交差させ防御し、それから相手を睨む。
彼女が持つ外界とのコネ、本来なら精々調度品等(幻想郷では洋物は手に入れられないし)紅魔館を維持する為の繋がりから得た情報で動かざるを得なかった。
ただの北欧での派閥争いならともかく、主がいる学園都市でひと騒ぎとなると流石に無視できない。
だから学園都市に現れ、そこで再会した『彼女』と戦うことになったのだ。

「一族抜けたなら関係ないでしょ、引き篭もってろ、バカ姉!」
「放っとけば何やらかすかわかったものじゃない……私の肩身が狭くなるでしょ!」

ガギィンッ

「くっ、自分勝手過ぎる……」

自分本位な言葉とともに咲夜がナイフを叩きつけ、その反撃に錬金術士はたたらを踏んで後退る。
が、彼女とて簡単には引く気はない、意地で踏み留まると素早く切り返した。

「だけど……こっちもアンタのせいで段取り滅茶苦茶なんだっての!」

ガギィンッ

「くうっ、言うじゃないの」
「前のことが有るから目も離せず……お陰で『少女』は後回し、計画変更の責任取ってよ!」

咲夜への警戒でフレメアは一旦保留で、目的を前に手を拱く状況に彼女は怒っていた。
(本当は無視したいが)裏切り者を前に無視できない彼女は咲夜に八つ当たり気味の連撃を叩き込んだ。

「今代の一族の長としては……アンタは無視できない、だってのに出てくるんじゃ無いわよ!」
「はっ、そんなの……知らないわよ!」

ガギィンッ

だから彼女は先ず暗部を誘導した包囲網を作ろうとし、がそれに怒る咲夜も黙っては居ない。
咲夜が相手と同等以上の怒りを込めて刃を振るい、二人の眼前で四振りの刃が競り合った。

ギリリッ

「一発位喰らいなさいよ、バカ姉……」
「ちいっ、年下のくせに生意気な……」

二人はそのまま睨み合い、だけど最後に一つ錬金術士の娘が叫ぶ。

「何よりねえ、バカ姉……アンタのせいで長期戦になって、でもそのせいでこっちは困ってるのよ!」
「はあ、何がよ?」
「本当は探り程度で数日で戻るつもりだったのに……アンタ相手で腰据えて動く必要が出て『一時の住居』探す羽目になって……
……で『潜り込んだお屋敷』でこっちは『セクハラ冤罪』受けたのよ!どうするのよ!?」
「……そんなの、知るかああ!?」

錬金術士の言葉(完全に八つ当たり)に咲夜は本気で叫び返した。
咲夜は(謎の責任を負わせようとする)従姉妹を怒りの形相で押し返す。

「どう考えても……私のせいじゃないでしょうが!」
「ええい、知るか……そもそも今大変なのは『アンタの失踪』、それで一族傾いてったのが原因でしょ!」

咲夜が錬金術士を睨み、錬金術士も咲夜を睨みつけ、双方譲らず武器を押し合う。
ギリギリと刃が軋み、殆ど同時に双方の刃から異音が響く。

ビキビキビキィ
バギィンッ

『ちいっ……』

それまでの打ち合いで限界を迎え、四振りの刃が砕ける。
慌てて二人は飛び退り、予備の武器を素早く引き抜く。

ジャキンッ

「……ちっ、銀器の刃の補給は難しいのに」

咲夜が新たなナイフを手に、再度向こうに飛びかかろうとした。

ジャキンッ

「……やる気ならどこまでも付き合ってやるわよ!」

錬金術士もまた十字の剣とナイフを構え、前傾姿勢を取った。
そして、一気に踏み込み斬りつけるべく二人は利き足に力を込める。

ダダッ

その時複数の足音。

「……暗部だ、動くな!」
『ちいっ、こんな時に……』

学園都市側の乱入者、路地の騒ぎからの通報を聞きつけた暗部の参戦に二人の動きが一瞬止まる。
咲夜と錬金術士は次の行動を考え、同時に『全く別の行動』を取った。
錬金術士が『時計型の魔法具』を構えた。

「ここは引く……次を覚悟なさい、裏切り者」

彼女が選んだのは逃走、仕切り直しの為の行動。
だけど、咲夜が取ったのは別の行動だった。

「……悪いけどこっちは『乱戦』は苦手じゃない!」

咲夜はナイフを構えたまま『前』に、錬金術士の懐へ飛び込んだ。
相手が魔法具を起動させる前に、意表を突いた隙から立ち直る前に、彼女は両手のナイフを突き出す。

ガギィンッ

「あうっ……」
「……ふんっ、予想外ってとこかしら」

一撃目が相手の防御を弾き、二撃目が『外套を掠める』ような軌道で放たれた。
ハラリと布切れが風に流れ、その『銀髪』と『真紅の瞳』が暗部の前で露となる。

『同じ顔!?』
「しまっ……」
「素顔、丸見えね……魔術も科学も、いやあらゆる学問を己が技術に求めし者の末よ。
そして我が従姉妹、いや今は違うか……兎も角目論見は外れたようね、ミューズ?」

暗部達が、その先頭の絹旗や黒夜が驚く前で『同じ顔の女』が睨み合う。
ニイと、咲夜が殆ど同じ顔の(ただ幾らか幼気な)ミューズにどこかからかうような笑みを向けた。

「大方私のふりをして暗部を誘導し……私とぶつけ合わせ、隙を見て背中を狙うってとこかしら?」
「くっ……」
「でも、これで……貴女という、私のそっくりさんの存在がバレた。
……私とぶつけ合わせるのはもう無理、残念だったわね、ミューズ」
「……むうう、昨日の襲撃が無意味となったか」

ニイと楽しそうに咲夜の青い瞳が細まり、対してグッとミューズが悔しそうに顔を顰める。
そして、暗部達は二人を見比べ事情をやっと把握する。

「……十六夜の姉ちゃんが二人?親戚かなんか?」
「……暗部と戦っていたのは偽物?遺留物とかは撹乱?」
「言っとくけど私なら『証拠』……ナイフはその場に残しません、そもそも『投げたら直ぐ回収する』から」
『ああっ、あれ偽装工作か!?』

ハッとした黒夜達が手を打ち、そしてミューズが舌打ちし用済みのナイフをその場に放った。

「……ふん、小細工が無駄になったわね」
「そのようね、ミューズ……覚悟しなさい、従姉妹の縁で手加減してあげる」
「ちっ、こっちの策が消えたからとイイ気になって……」

暗部とぶつかり合う線は消え、咲夜は勝ち誇ったように笑い、だがミューズは自棄気味の顔でそれでも構える。
彼女は諦め悪く裏切り者への報復をしようとする。

「……あれ?」
「どうしました」
「魔力が……」

だが、そんな時だった、暗部に混じっていたミーシャが遠くを見て首を傾げた。
それからハッとした表情で周りに叫んだ。

「これは怒り、そして恥ずかしがって……伏せて皆!」
『はっ?』

行き成りのそれに困惑し、だがその剣幕に反射的に従い伏せる。
そしてその直後ズドンと『影二つ』、何かが路地を破り突っ込んできた。



パリン

「あ、お客様用の……ギン子ちゃん用にと思ってたティーカップが割れた!」
「何だ、縁起悪いなあ……いや、まさかな」

悪寒を感じ、帰りを待つ滝壺達が心配した。



ゴウゴウと着弾時の衝撃で煙が舞う、暫し視界が埋まりそれから『二人の少女』が現れる。
一人は貴族らしい格好の『青い髪の少女』、そしてもう一人は『紅白衣装の黒髪』。
どちらも咲夜がよく知る人物だった。

「あ、ああ、何で……」
「紅魔館に苦情来たんだけど……学園都市指名手配とか、何してんのよ咲夜ああああ!?」
「郷の関係者が勝手するなって……鈴科くんに怒られたわよ、大人しくしろよ天然メイドっ!?」
『うわああっ、お嬢様に鬼巫女!?』

彼女達がそこで見たのは『二人の鬼(東西)』だった、どっちも祭やら楽しむ気持ちに水を差されてぶち切れていた。

「あら、咲夜が二人?」
「こ、こいつは偽物です、それにクレームに関してもこいつのせい……お、お許しを!」
「……ああ、別に『イイの』よ、ねえ霊夢」
「ええ、そういうのは『イイの』」

咲夜が慌ててミューズを指して、がその言い訳に鬼達はニコリと笑う。

「何時ものメイド服じゃなく、判別面倒だし……」
「違いは眼の色くらい……戦闘時、一々確認するのもねえ」
「え、あの……まさか?」
『……殲滅よ!』

ズドンッ

『きゃあああ!?』

容赦無い弾幕が『二人』に飛んで、咲夜とミューズ)は並んで背を向ける。
そしてダッと、今だけ因縁捨てて共通の敵より逃れるべく走り出した。

「お許し下さいお嬢様!?後霊夢の鬼巫女おっ!?」
「おい姉、何よあれ……主従なのに容赦なさすぎでしょ!?」
「……ああなったら何言っても無駄よ!」
「……もうヤダ、やっぱアンタと関わるんじゃなかった!」

咲夜は諦めの境地とともに走る。
しかも弾幕を躱すのに時間停止使わざるを得なくて『赤の瞳』、これでは尚更向こうは容赦しないと逃げるしか無い。
そしてミューズもまた走る、隣を走る不倶戴天では一族の裏切り者、だけど後ろから来る追手が恐ろしくて一時隣を無視し足を進めるしかない。
二人の銀の少女は今だけは仲良く弾幕の中を逃げ惑った。

「畜生、どんな罰ゲームよこれは……」
「全く今日は厄日よ、冤罪といい……」
『あはははっ、よくも手を煩わせて……精々派手に吹っ飛びなさい、二人共!』

ズドンッ

『ひいっ、至近弾……手加減無しか!?』

絶え間ない衝撃に震えながら二人は、咲夜とミューズは只管走る。
こうして学園都市の影で、惨劇に慄く少女達の悲鳴が響ぎ渡る。

『待ちなさああい、咲夜にモドキ!』
「あ、ああ、何でこんなことに……」
「ひいいっ、最悪だああ」
「……こりゃ酷え、お嬢様ももう一人も切れてるよ……」

咲夜もミューズも因縁忘れる程に、『鬼』が起こした地獄が学園都市を震撼させたのだった。




四に続く・・・つまり赤鬼(×二)参戦である、寧ろ題の無頼はこいつらでイイかもしれない。
・・・因みに咲夜さんの眼の色は普段『青』能力使用時『赤』、つまり今はミューズとの差は殆ど無かったり(つまり合掌と・・・)

以下コメント返信
九尾様
いや今回は相手が悪すぎるというか、滝壺さんのフリーダムさが群を抜いているかなと・・・まあむぎのん不在でその分はっちゃけてるってことで。



[41025] ご無体な無頼たち・四
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/11/17 17:06
目のベッドには眠りにつく少年が一人、やせ細った痛々しい姿を心配そうに『戦女神』が見ている。
そして、それを見る『銀の少女』は思案する。

(これ、チャンスかしら?)

少年は『戦女神』の世話役だった、更にいうなら同時に監視役でもあった。
嘗て欧州の五勢力に捕獲された『戦女神』、尊くも希少なその血を惜しんだ幾つかの派閥に軟禁される彼女を世話し(可能ならば)取り込むための人材。
温厚なその為人で親しくなり懐柔する、下世話な話だが『番わせる』目論見もあるいは有ったかもしれない。
だが、それは少年の突然な昏倒により先行きが怪しくなった。

『この症状は毒か(但し、検出されたのは二種の……)』

銀の少女は錬金術、原点の練丹術が医学と深く関わるからとここに派遣を要請された。
そして、そこで知った『事実』に深く考えこむ。

『……女神と会うのが辛くなったのね、だから自ら消えようと』
『そ、そんな……』

即ち消極的反抗であり、ある種の自殺行為。
それに女神、ブリュンヒルドと呼ばれる女は激しく動揺し青褪める。
調べれば直ぐ比較的出回る薬物の症状とわかる毒に『理由』も想像でき、だからこそ彼女は震える。

(……優しい子だったのね、きっと)

恐らく善良な少年はブリュンヒルド利用のため接する状況に病んだのだ、体ではなく心を。

『……さあて、これは困ったわねえ(……だけどチャンスでもある、か)』

だがもう一つ有る。
少年から別の反応、魔術師が敵対者に用いる希少な毒の反応だ。
直ぐにある種の罰、所属組織からの少年への措置だと直ぐにはわかった。
消極的な反抗を選んだ少年への罰であり、彼に絆され始めている女神の弱みとする意味も込めた悪質な企みだと。
そして、仲間である組織への関係的に彼女はこのまま口を噤んで、自殺未遂とだけ告げるべきだろう。

(……さて立場上、同じ五派閥としてはそうするべきなのでしょうが……)

が、少女はそこで開きかけた口を閉ざす、別の道を選べるかと考え込んだ。
これは少年の側の勢力を引き釣り落とす、弱味でありまた『懐柔』の切っ掛けになると。

『……ブリュンヒルド『様』、少し奇妙な事……『複数』の毒の反応があるのです……』
『えっ?』

それまで軟禁していた相手に丁寧に、様付けし呼びかけられ戦女神が困惑する。
が、そのことを怪しむ気持ちは続く言葉で消えてしまう。
畏まり困った顔で語られる『真実』に、戦女神の表情が凍りついていく。

『これは……あの勢力による報復措置かと』
『……何を、何ですって?』
『……度し難いことです、全く以て』

まず一旦怒りを刺激し、そして後々の信頼を勝ち取るための論調へ。
戦女神の顔を染める悲しみは怒りに変わった。
直後銀の少女、『人の域を超える』という願いで女神、『学術と芸の神』の名を持つ少女が同じく女神と呼ばれる女に手を差し伸べる。

『……その少年を救いたいですか、ならば……起つのです、刃を手に!』

革命の誘い、そして粛清の始まり、少年の治療と引き換えに旗頭として。



『過去』を思い出し彼女は頭を抱える。
辺りは激しく弾幕が飛び交い、ミューズは首竦め躱しつつこの惨状に嘆く。

「……傷心只中の娘を利用した、その罰かしら」

はあと深く嘆息、思わず戦女神を取り込むまでの思い出が走馬灯のように過ぎった。
後ろを飛び交う無数の光に幾らか弱気になったのかもしれない。

「走馬灯でないと思いたい、それにしても……やはり悪いことしたかも」
「……全く、日頃の行いが知れるわね」

思わずミューズが零し、すると隣で瓜二つの(歳は幾らか上だが)女が呆れるように肩を竦めた。

「やれやれ……巻き込まないで欲しいわね、ミューズ」
「……そもそもアンタの関係者でしょうが、説得してよバカ義姉!」

二人は各々責任転嫁し、その後ギロと睨み合う。
が、直ぐにハッとした顔で頭上を、そこに現れた空間の『揺らぎ』に慌てて構える。
ダンっとそこを勢い良く、針の束を手挟んだ紅白衣装の少女が飛び出した。

「亜空穴……口喧嘩とは余裕ね、天然メイド+一!」

からかうように叫ぶ紅白の少女、霊夢が体を捻り投擲体勢に移る。

「ああもう、霊夢ってば相変わらず容赦無い(……うーん、ミューズは『まだ』倒れたら困る、その後集中攻撃されそうだし)」

そんな風に自己中心的に、咲夜は素早く計算すると隣の旧敵に警告の言葉を掛ける。

「……ミューズ、迎撃よ、けど魔力は温存!」
「むう、まだ吸血鬼が……仕方ないか」

迎撃に集中し過ぎれば『もう一人』が怖い(特に時間停止は更に魔力を使う)二人は咄嗟に左右に跳んだ。
それに一瞬遅れ、霊夢の放った封魔針が壁に虚しく突き刺さる。

ガガガッ

「散って……で、反撃!」
「わかってる、裏切り者!」

飛び退いた二人はその不自然な体勢のまま武器を引き抜き、それぞれ白刃を振り被った。

『貫く……やああっ!』
「……ちっ、結界展開!」

ガギィンッ

迫り来る二条の白刃に霊夢は数枚の札を抜き放ち、一枚の光の壁で弾いた。
ジッと火花が空中で散り、すると攻撃を防いだ巫女は不敵に笑った。

「今度はこっちの番……」

刃を受けて僅かに割れた壁を撫で、そこを狙われる前に霊力で補填し増強した。
素早く彼女は目の前の結界に力を注いでいく。
ボウと倍程に厚くなった光の壁が輝き、そして勢い良く突き進む。

「二重結界!」
『うあっ!?』

ズドンッ

今度は躱せず二人が弾かれ、咄嗟に跳んで直撃を逃れたものの二人の足が止まる。
そこへすかさず『青い影』が飛び掛かる。

「……面白くなってきた、次は私よ!」
「……亜空穴を使う、『裂け目』に飛び込んで、レミリア!」

レミリアが弾幕の余波で立ち上る煙を裂いて飛んで、それに合わせるように霊夢が数度空間を歪める。
ゆらゆらと不規則に、咲夜達の周囲が『揺れた』。

『……っ!?』
「……ナイス援護、霊夢!」
「ま、私じゃ足並合わせれないし……適当に『仕掛け』だけするから使いなさい!」

背に掛けられた言葉にコクと頷いて、吸血鬼が『裂け目』に飛び込む。
その時だけ彼女は世界から消えて、次の瞬間咲夜達の背後に出現する。
レミリアが鋭い鉤爪を振り被った。

「良い位置……お仕置きよ、咲夜にもう一人!」
『くっ!?』

ガギィンッ

慌てて二人は気配を頼りに刃を振るい、何とか爪を逸らすもその衝撃で体勢を崩す。
蹈鞴を踏む少女達を尻目に、悠々と近くの亜空穴に退る吸血鬼が笑う。

「さあ、連続で……行くわよ!」
「ちいっ、避けて、ミューズ!」

彼女が再び消えて、今度は横からの一閃、咲夜が咄嗟に従妹を蹴りつける。

「きゃっ!?」
「おっと……」
「……そう、好きにはさせませんよ、お嬢様!」

ヒュンッ

ミューズを攻撃の軌道から退かし、すかさず咲夜は空振りに戸惑う相手に刃を振るう。
反射的に翳した逆の腕、左の爪と銀のナイフが絡み合った。

ガギィンッ

「へえ、庇うの、咲夜?」
「……あれを庇うのは癪だけど、今倒れられると困るので」

可能なら自身の手での因縁の精算、また今落ちては集中攻撃の危険性が有る、そんなことを思いながら咲夜は更に二振り目の刃を抜き放った。

「お叱りは後で受けますが……今は退いてもらいます、お嬢様!」
「……さあて、どうしようかしらねえ」

ヒュンッ

クスクス笑いながらレミリアは反転、弧を描くような独特の飛び方で間合いを取ると同時に鉤爪で足元を払った。
ブワと土煙が舞って、それに紛れて彼女は別の亜空穴に飛んだ。

「お仕置きが後か今か、それは……貴女達次第よ!」
「まだ来るか……構えて、ミューズ!」
「ああもうっ、予定が滅茶苦茶よ!?」

再び辺りの空間が揺らめき、咲夜とミューズは並んで刃を構えた。

「うりゃああ!」
「……くっ、耐えて!」
「ま、まだまだあ!」

ガギィンッ

一撃は頭上から、咄嗟に咲夜達は刃を交差させ防ぐ。
がそれで終わらず、レミリアは翼を一打ちし急角度で横に飛んだ。

「もういっちょ!」
「ぐっ……」
「あうっ!?」

ガギィンッ

今度は鋭く円の軌道で、咲夜は何とか防いだがミューズは一瞬反応が遅れ後退る。

「崩れたか、なら……どりゃっ!」
「……させません!」
「す、すまん、従姉」

ガギィンッ

そこを狙ってレミリアが翼を一打ちし跳びかかり、咄嗟に咲夜がカバーに入る。
ナイフを爪の軌道に割り込ませ、火花を立てて弾かれ合う光景にレミリアが僅かに眉を顰める。

「……ちぇ、流石に咲夜は隙がないわね」

残念そうにしながら彼女は下がり、その直後慌てて身を竦めると更に一瞬後ナイフが彼女の頭の位置をぎりぎり抜けた。

チチッ

「おっとグレイズ、切り替えないとね」

恐々とレミリアが肩を竦め、咲夜が舌打ちした。

「ちいっ、相変わらず的が小さい……失礼、お嬢様」
「……背のことは言うな、後で覚えておきなさい」
「……い、言ったのはミューズかもしれませんし」
「そこで押し付ける、十六夜!?」

慌てて咲夜を失言を似通った容姿を理由に誤魔化し、スッと一瞬だけ魔力行使で赤く染まった目を逸らす、がそれから素早く銀のナイフを手に駆け出す。
同時にレミリアも従者を睨みつつ近場の亜空穴に向かい飛ぶ。
そして咲夜は責任転嫁に睨むミューズの方へ、頭上の空間の揺らぎの位置へ跳んだ。

「十六夜?」
「……反撃、それと舌を噛まないで」
「ちょ、きゃっ……」

ガッ

一気に駆け込み止まらず蹴りつける、擦れ違い様に真横に蹴飛ばすと同時に反動で逆へ跳ぶ。
その直後頭上からレミリアが降下、彼女は空振りした鉤爪を悔しげに見た。

ブウンッ

「……っと、外したか」
「……ええ、では反撃です、お嬢様!」
「痛い……後で覚えてろよ、馬鹿姉め」

ニコと微笑んで咲夜が、そしてミューズが刃を振り被った。

ガギィンッ

『何?』

が、ナイフは空中で止まった、『鈍く輝く何か』がレミリアの手に絡みついていた。

ジャララ

「……少し焦ったわ、だから……少し本気出すわね」

赤く輝く『鎖』が巻き付いていて、更にそれは背後の亜空穴まで伸びていた。
悪戯っぽく笑ってレミリアはそれを弄び、咲夜はハッとした表情で辺りを見回す。
周囲の亜空穴を介し無数の鎖、先程までのヒットアンドウェイでいつの間にか鎖が張り巡らされていた。
ニヤリと笑いながらレミリアが鎖を引いた。

「ミューズ、不味っ、逃げ……」
「遅いわ……あれね、追い込み漁、さあ逃げ惑え『ミゼラブルフェイト』!」

ジャラララッ

四方は元より空中を何重にも鎖が走り、加えてレミリアに任せて霊力チャージをしていた霊夢がそれを終えた。

バアアアッ

「……念のため二弾構えで行きましょう、『夢想封印』」

鎖の包囲網に四方からの誘導弾、その光景に思わず咲夜達が顔を引き攣らせる。

「二人共、容赦なしか……」
「十六夜、最早温存と言ってられないわよ!?」

咲夜が肩を落とし、ミューズが絶句する。
二人は慌てて懐中時計に手を伸ばそうとした。
が、その瞬間何故か咲夜の口元に歪な、悪戯っぽい笑みが浮かんだ。

「仕方ない、流石にここで温存とは言わない、でも……」
「十六夜?」
「……ミューズ、幾らかそちらに攻撃を『回す』、頑張ってね」
「え?」

ガッ

素早く身を伏せた彼女の爪先が薙ぎ、スパンとミューズの足元を払った。
愕然とするミューズに対し薄笑いする咲夜、彼女は片手四振りずつ銀のナイフを放ち、空中で滞空させると跳躍体勢に移った。

「……はっ?」
「さっきは簡単に落ちて欲しくないから助けたけど……向うが本気になったら話は別、頑張って引きつけてね」

ここで最後まで庇って消耗しては本末転倒と、咲夜は余りにも呆気なく従妹の少女を見捨てた。
加えてこの先のことも、彼女はニコと微笑んでミューズに言い放った。

「それに……そろそろ切札の尻尾くらい掴みたいし」
「こ、この……バカ姉ええ!?」
「……じゃ、頑張ってね、ああお嬢様はこっちに!」
「……構わないけど酷い姉ねえ、咲夜ったら」

トンと彼女が跳躍し、それに尻もち突いたままミューズが叫んだ。
が構わず咲夜が飛ぶ、彼女はその際敢て鎖を引っ掛けていき、それに引かれつつレミリアが苦笑した顔で追う。
それで鎖は退かされるも残ったままの弾幕を構える霊夢は同情したように見た。

「せめて自分の主は持ってったか……それを義理というには酷すぎるけど」
「う、うう……最悪だ、あいつ」

見捨てられた怒りやら、あんなのが同族の羞恥やら、ミューズはそういったもので顔を赤くする。

「ま、同情はするけど……手加減はしないわ、覚悟しなさい」
「じ、冗談じゃないわよ!」

慌てて彼女は身構え、だけど一瞬逡巡する。
咲夜の言った切札の尻尾を掴む、その言葉に悩み、それから意を決した様子で咲夜が残していったナイフに手を伸ばした。
カッと彼女の瞳と同じ真紅の閃光が走り、配置してあったナイフがビキビキと変形する。
離脱は裏切り者の従姉にで足を止められ難しい、突破すべく彼女は切札の一つを明かす。

「我が一族の奥義を受けよ……『黄金』には届かずとも銀や真鍮程度には」

バッと手を払い、同時に刃の変質が加速する。

「ここで落ちる訳にはいかない……1841年製フリントロック、構え!」

一秒も掛からずで変形し終え、古めかしいデザインの猟銃がその周囲に浮かび上がる。
更にミューズは片手四振りずつ、八本の短剣を追加するとそれも銃に変えていく。

「へええ、錬金術?」
「唯の錬金術ではないぞ……1841年製フリントロック、雷管式、十六丁。
……フルファイア!」
「……へえ、ならば弾幕追加『二重結界』……『夢想封印、瞬』!」

ドガガガッ

ミューズは周囲の銃から無数の鉛球を放ち、霊夢は展開していた弾幕に霊力を注ぎこむ。
そして直後弾幕が交差し、巫女の奥義と究極を目指す学徒の技が激突した。





・・・てな訳でタッグマッチは一旦終了、従姉妹タッグ短かったなあ。
えー今回は時間かかってしまいました、ごめんなさい・・・ミューズの資料とか調べてたら不足がちでして・・・
とりあえず、調べてて気になったのは二つ・・・この子地味に口悪いなあと、後立ち絵からして『左利き』?
・・・まあ話の今後に関わるものではなさそう、で次回は軽い伏線回かなあ。
・・・あ、因みに今回のは『黄金錬成』そのものじゃないです、変化材料が必要以外にも弱点有り。

以下コメント返信

AISA様
とりあえずお嬢様たちが怖いので必死、因縁後回しだけどまあ仕方ないというか・・・正しく呉越同舟。
・・・ええ、滝壺さんは相変わらず自由、でもあそこで振り回したのは(話の展開的にも)結構大きかったり。

九尾様
敵対する姉妹が共通の敵により今だけ仲間に、まあお約束で(棒読み)・・・実は正直多少不憫にしてキャラ立てさせたのも少しありますが。



[41025] ご無体な無頼たち・五
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:0d504e23
Date: 2016/11/17 17:07
「らーらーらー……」
「……暗部ってなんだっけか」

ニコニコ笑いながらジャージ服の少女が箒を手に隠れ家を掃除していた。
ジャージ服、滝壺は『妹』を思い楽しそうに微笑む。

「ふふ、仮眠室綺麗にして、飾りもつけて……私のベッドも移して、ギン子ちゃんの反応が楽しみだね!」
『……未だによくわからんな、こいつ』

呆れたように掃除を手伝う強面の少年と室内でもパワードスーツの男、浜面とシルバークロースが溜息をつく。

「……だが、どう考えても敵だろ、絹旗の上げた情報からして」
「だから、かなあ……『泳がせた』方が安全で『美味しい』し」

ニコニコ顔から一転、滝壺は鋭くその目を細める。

「それに……」
「それに?」

加えて、彼女は底知れない雰囲気を湛えながら答える。
超能力者の腹心、それに相応しい冷たく暗い目で。

「敵だというなら……個人での目溢しも流石にねえ」
「……というと?」
「……本気で悪巧みするなら『祭り』に合わせる、だって学園都市の手が埋まるから。
でも始まる前に来たってことは……その前、本気の悪巧みの為の準備なんだと思う」
「まあ、そうだろうなあ」
「なら……多分情報目当て、自分の敵の排除もあわよくば位は有るだろうけど」

すると彼女はそこで一旦言葉を切って、その後ニコと笑って言い放った。

「でも、それって不公平だから……こっちで隣で『洗い浚い調べる』の、公平に!」
「……何だかんだ暗部だよお前」
「これがアイテム、敵にしたくないな」

はああと二人は目の前の少女に(ドン引きしつつ)嘆息したのだった。



『……うわ、もう始まってる』

そしてそれを、巫女と錬金術師、更にはその頭上での真紅の主従の戦いを困った様子で観察する二人組が居た。

「……あれ、見張れって」
「流れ弾、怖いんだけど……滝壺って子も無茶言うわ」
『はああ』

赤いドレスの少女とラフな上着にサラシの女が引き攣り顔で唸る。
心理定規とテレポーターの結標、それぞれの事情でアイテムに従う女達は『天然』な上司の無茶振りに頭を抱える。

「……確か、相手がピンチの方がイニシアティブを取り易いだったか」
「交渉の時期を図ってるのはわかるけど……無茶ぶりよねえ、それを断れない自身の身の上が悲しい」
「言わないで、結標さん……もう少し近づきましょう、しくじったら後が怖いわ」
「……そうね、流れ弾来たらその時か、負傷手当くらい有ればいいけど」
『……はああ』

二人は深く嘆息し、恐る恐る戦場に向かった。



無体な無頼たち・五



空中で『二つの影』が交差する。

『覚悟、お嬢様あッ(この天然娘)!』

ガギィンッ

銀の刃と鉤爪がぶつかり合う。
沈み行く夕日を背に、咲夜とレミリアが激しく剣戟を交わす。
それぞれの得物が弾かれ合い、ただ虚しく火花が散る。
攻撃の不発に、双方悔しげな表情で舌打ちしつつ飛び退った。

「……くっ、そう簡単には行かないか」
「互いに知り尽くしているか、厄介ね……ならっ」

互いに仕切り直し、そこから先に動いたのはレミリアだった。

「強引に行くわよ!」

ジャララッ

彼女は無造作に置かれた『鎖』、ミューズへのせめてもの義理で引っ張っていった後放置されていたそれを一気に『引く』。
人外の力で引き絞られた赤い鎖が咲夜目掛けて収束していった。

「ちいいっ、動きを封じる気ですか……なら」

カチンッ

ギチギチと唸りながら迫るそれに、咲夜は顔を顰めながら素早く霊力を練り上げる。
グッと拳を掲げ、その中に存在する『銀時計』に力を込めた。
その水のように澄んだ青い瞳が一瞬で真紅に染まる。

ヒュンッ

「……流石に回避は貴女が上ね、咲夜」

直後咲夜の姿が掻き消え、それを感心したように見た後レミリアはハッとした顔で頭上を見上げる。
素早く体を捻り、その両翼を真上で交差させた。

「……っと、そんな呑気に言ってられないか」

バサア
チチチッ

レミリアの両翼が重なり合い、それに僅かに遅れて銀のナイフが頭上から落ちる。
何本もの刃が黒い翼、滑らかな皮膜に逸らされ勢いを減じつつ明後日の方向に流れていった。

「……酷いじゃないか、少し血が出てしまったわよ、咲夜」
「ええいっ、奇襲を防いどいて嫌味ですか、お嬢様!?」

僅かに傷ついた翼を撫でながらの言葉に、頭上に陣取る咲夜が悔しそうにその端正な顔を歪めた。

「な、ならば……今度は出し惜しみ無しです!」

カチッ

少しだけ悔しそうに唸り、それから彼女は再度懐中時計の機能を解き放つ。
先ほどと同じようにその姿が掻き消え、瞬時にレミリアの眼前へと再出現する。
ギラと既に構えられた白銀のナイフが輝いた。

「はああっ!」
「ふっ、そんなのがっ!」

ガギィンッ

最短距離の刺突、がレミリアは掌中で素早く練り上げた魔力で弾く。
が、直後その表情から笑みが消えた、キランと無数の輝きが周囲で瞬く。

「『銀』……不味っ、配置済み!?」
「……もう遅いですわ、全方位からっ!」

咲夜とレミリアを中心にして、数十の刃が円陣を組んで包囲していた。
自身を囮にしてそれを配置した咲夜が指示を待つ刃に叫んだ。

「……行けっ!」
「ちいいっ、後手か……」

ドガガガッ

命令の直後三度その姿が掻き消え、ただ一人残ったレミリアに一斉に刃が襲いかかる。
慌ててレミリアは後方に飛び退り、が刃の群れも追うように軌道を変えて追った。

ドガガガッ

「くっ、爪が欠けそう、このままじゃ切りが……」

レミリアは鉤爪を周囲滅茶苦茶振るって弾いて、そうしながら必死に刃の軌道から逃れようと急角度でジグザグに飛ぶ。
が、それを見計らったように、軌道変更後直後のその眼前に刃が『現れた』。

「っ、待ち伏……」

咄嗟のそれに攻撃を切り払っていた鉤爪は震えず、彼女は反射的に体を捻る。
素早く反転し、その小さな足を反射的に振り抜いた。

ガギィンッ

「ちっ、どこかのサボり魔じゃあるまいし……」
「……あらあら、端たないですわよ、お嬢様?」
「……っ、囮かっ!?」

ヒュッと前兆もなしに、咲夜が刃を手にレミリアの背後へ現れる。
彼女は責めの言葉とともに白銀の刃を振り被る。
そして、攻撃直後の主の背に刺突を放とうとした。

(隙あり……)
「……と思ったか、トリックスターデビル!」
「はっ?」

ポカンと呆然とする声、直後ドゴオッと重い音が響く
吸血鬼の小さな体が急加速、『攻撃の反動』で跳んで後頭部を相手の胸元に叩きつけたのだ。
衝撃であおの呼吸が一瞬止まる、くの字で上品でない呻き声が漏れた。

「ご、ふっ……」
「そっちこそ隙ありね、咲夜!」
「ですが、負けた訳では!」
「……っと、まだ粘るか」

勝ち誇る主を悔しげに見上げ、だが咲夜はめげずに抵抗を選ぶ。
不自然な体勢のまま懐中時計を握ると、一瞬でレミリアを囲むように刃の群れを配置した。

「ま、まだまだあっ……」
「ふん、甘いわ……先程の巧みさは無い、そんなヘロヘロではなあ、スティグマナイザー!」

が、レミリアも瞬時に合わせた、ダメージで精細を欠いた咲夜を嘲笑うように悠々と完成させたのだ。
無数の輝く十字架を手挟むようにし、レミリアは周囲へ同時に投げ放った。

ドゴオッ

そして双方の弾幕が激突、派手な音を立てて相殺に終わる。

「はい、残念でした、と……あら?」

しかし、そこでレミリアが首を傾げる、一瞬煙が視界を遮ったと思うと咲夜の姿が消えていた。

「まだです……最後までお堪能あれ、お嬢様!」
「ふっ、それでこそ、ね……」

そこへ頭上からの呼びかけ、どこか楽しげな表情でレミリアもそちらを見る。
再出現した咲夜が有り丈の刃を構え、それを見たレミリアも受けて立つとばかりに再び十字架の弾幕を展開する。

「行けっ、エターナルミーク!」
「受けて立つ、スティグマナイザー!」

ドガガガガ
ドゴオッ

上下から降り注ぎ、そして打ち上げるように放たれた弾幕が相殺し合う。
が、その瞬間レミリアの注意が僅かに逸れる、余波と爆炎に気を取られたその瞬間を着くように『影』が一気に降下した。
周囲の火で赤く照る刃を手に、咲夜が頭上から斬りかかった。

「連続で行きます……インクライブ・レッドソウル!」
「不味、スティグマ、いや間に合わっ……」

ガギィンッ

勢い良く刃が振り抜かれ、半端な弾幕を引き裂くとそのまま吸血鬼の体を浅く凪いだ。

「痛っ、やる……」

ポタタと、肩口から少なくない血が零れ落ちる。
彼女は傷に手をやりながら相手を睨み、咲夜もその前の打撃で乱れた息を整えつつ睨み返す。

「やはりやるわね、咲夜……互いに一発ずつ有効打ってところね」
「ええ、ですが……お互い知り尽くしてる、少しやり難いですか」

二人は相手の隙を伺い合い、がその後何か気付いて『下』を見た。

『……あら?』

ゴウゴウとそこで派手に燃える炎、その中でギラギラと何かが瞬いて、その度弾ける魔力が否応なく二人の気を引いた。

「……ほう?」
(切札、出したのね……)



東西の術師、立場も正確も正反対の少女達は同時に動いた。

「1841年製フリントロック、雷管式、十六丁……フルファイア!」
「へえ、ならば弾幕追加、二重結界……夢想封印・瞬!」

ドゴオオッ

錬成した無数の鉛球と光弾が激突し、相殺の後派手に爆炎を上げた。
が、霊夢の弾幕は二段構えのもの、後続が煙を突き破りミューズを押し潰そうとする。

「……ちっ、魔力は使いたくないのだけど」

小さく舌打ちしつつ女神が手を開く、その中の懐中時計型礼装が輝き彼女を消失させた。

「ちっ、どっかで見た技……ああ、親戚なんだっけか」
「そういうことっ……次弾装填、喰らえ!」

頭上に現れたミューズが装飾銃を、転移時一つだけ持ったものを掲げ、更に残りの十五丁を滞空させ包囲させた。
そして上から、そして周囲から霊夢に鉛球を叩き込ませる。
が、霊夢も素早く霊力を練ると一本の『針』と八枚の『札』を引き抜いた。

「……なら、こっちも手数で!」

彼女は体を捻りつつ真上に針を、更にそこから周囲に札を投擲する。

「当たるか……封魔針、からの御札八枚乱れ打ち!」

ドガガガガッ

真上からの弾丸を針で弾き、十五の内八つを札で相殺する。
そして残り七つを一睨み、彼女は体を小刻みに揺らした。

チチチッ

「……甘いわね、錬金術士」
「何っ……」

女神が絶句する、赤の衣装やスカート、精々裾を掠める程度の最小限の動きで弾丸が捌かれたのだ。

「ちいっ、今のを読み切るか……」
「ふっ、グレイズ……で、反撃!」

トンと軽く笑って霊夢が跳んだ、加速しながら上へ向かって飛翔しつつ体を捻る。
ギュオと勢いよく彼女の右足が振り抜かれる。
霊力を帯びた爪先が大きく弧を描いた。

「やばっ、銃でこの間合いは……」
「だからよっ……天覇、封神脚!」

ドゴオッ

下がるより一瞬早く破砕音、咄嗟にミューズが掲げた装飾銃を芸術的に整ったサマーソルトが砕いた。
が、その犠牲で無傷で済んだミューズ、が霊夢は追撃の二撃目を叩きこもうと再度回転する。

「まだ、もういっちょ!」
「くうっ、礼装を……」

ヒュッ

「……ちいいっ、外した!?」

慌てて時計型礼装を引き抜き、直後ミューズが消えた刹那ブウンと追撃のサマーがそこを通り過ぎる。

「……っと、回避されたなら後は?」
「当然反撃よ、紅白の!」

ヒュッとミューズが背後に再転移し、破壊され握り手だけの銃を放って十字型の剣を抜刀した。

「はあっ!」
「……そんなの、気弾で!」

ガギィンッ

一気に踏み込んで刺突し、が素早く構え直した霊夢が掌中に集めた霊力を爆ぜさせた。
衝撃が双方を襲い、気弾は壊れながらも十字の剣をミューズの手から奪い取った。

「くっ、上手いだけじゃく霊力量も……」
「そ、自信ありってこと……次はこっち!」

にやりと笑いつつ霊夢が気弾と逆の手を、そこに仕込んだ『梓弓』を引き絞った。

ズドンッ

「衝打の弦、てね?」
「くっ、だが……まだ、こんなところでっ!」

慌てて飛び退るも回避しきれず、『余波』に体勢を崩したミューズが焦った表情で『何もない空間』に手を翳す。
ビキビキと音を立てて『周りの金属』を取り込んで古めいたデザインの銃を再度形作る。

「(科学の街なら素材は幾らでも……)そう、空気中にも……武装再形成、更に追加よ!」

構えた彼女の上下左右、同じように空中の塵等から錬成した銃が浮かび上がり、そして霊夢を微妙にずらしカバーしながら照準した。

ジャキンッ

「……十字砲火、照準良し!」
「ええい、ならこっつも……夢想封印・散!」

同時の銃撃、咄嗟に霊夢も誘導性を削って広範囲向けの弾幕を展開する。
ミューズは数方向から一点へと、逆に霊夢はそれを迎えるように広域へ、二人は殆ど同時に攻撃を叩き込んだ。

『行けえっ!』

ドゴオオッ

二人の丁度中間でそれぞれの弾幕が爆ぜ、先程より大きな爆炎が立ち昇っる。

「相殺、か……結構やるじゃない、錬金術士」
「……厄介だな、十六夜以外にも敵が居るか」

二人は爆炎の向こうを敵を睨み、火の残りが流れる中を同時に突っ切っていく、銃から持ち替えたミューズの剣を霊夢の気弾が迎え撃つ。

「敵というなら退いてもらうしかない」
「ふんっ、同感ねえ、それなら……」
『落ちろ……はああっ!』

ガギィンッ

同時に打ち込み、互いに弾かれ合う、そしてそこからすぐさま同じように相手を追う。
真っ直ぐ突っ込んで、それから離れて、二人はそれを繰り返しながら空を駆ける。

「……頭を押さえれば!」
「それをやれるかしら!?」

ガギィンッ
ガギィンッ

二人は剣戟を躱しながら隙を窺う。
数度打ち合い、そして直後片方が動きを変えた、反転したミューズが突如後方へ。

「……1841年製フリントロック、一丁!」
「お、おっと……」

チチッ

武器を振るっていたのと逆の手で銃を構え、そして銃撃が放たれる。
反射的に体を反らし半身で躱すが一瞬霊夢の体勢が崩れる。

「隙という程じゃない……錬金、拡大化、次弾装填!」

ビキビキと音を立てながら銃が変形する、周囲の塵などを取り込んで一気に膨れ上がった。
更にそこに『素材の大部分』を割くと弾丸の形に『焼成』する。

「うおっ、それは……」
「……熱された鉄に硫黄、喰らいなさい!」

そして振り被り、『霊夢ではなくその前の空間』目掛けて引鉄を絞る。

「狙いが違う!?」
「ふん、あんたでなく……『面』を撃つ!」

ドゴオッ

眼前で回避方向毎飲み込むように熱が広がり、霊夢は慌てて結界で防ぐ。
ジリジリと熱が伝わる霊夢が眉を顰め、がその直後『背後の気配』に更に動揺する。

「……レミリア、咲夜!?」
『あ、しまっ……』

飛びながら誘導し、結果切札を見ようと近付き過ぎた二人まで一箇所に集まった、ミューズはニヤリと笑って二発目の弾丸を装填し照準した。

「ふっ、次弾装填……行けえっ!」
『不味っ……』

ドゴオッ

ニッと薄笑いの顔でミューズは爆炎を見詰め、油断なく再装填しながら様子を伺う。

「倒せずとも手負いくらいには……いや、これは」

が、そこで僅かに顔を顰めた。
二つの影が反対の一から同時に炎を破り飛び出したのだ。
一人は銀の髪を火で照らし、もう一人は黒一色の翼でその身を包んでいた。

『あ、危なかった(ですわ)』

咲夜とレミリア、二人は『小規模の弾幕を放った体勢』で呟いたのだった。

「いやあ、ギリギリでしたねえ、お嬢様」
「ええ、咄嗟だけどよくやったわ、咲夜」
「相殺の衝撃か、無駄に仲良いわね、コンチクショウ!?
……だが、あいつは……え?」

出来れば倒したかった二人の無事に落胆し、がせめて一人はと着弾箇所の周囲を見回す。
が、その時『艷やかな黒髪』が視界を過ぎる。
それはかなり近く、触れる程の位置で真横で。

「……少し焦ったわ、咲夜の親戚だけに油断できないわね」

にっこり笑って巫女が言う、指先で眩い程に弾幕を維持して。

「な、何っ……」
「三人纏めて、なんて……むし良すぎ、『点』狙いなら兎も角威力が足りない!
だからこうして止められる、夢想封印・円!」

凝縮した霊力で炎の何割かを受け止めたまま、ミューズの目の前に飛び込んだ霊夢は輝く腕を突き出す。
そこに霊力を注ぎこんで『炎の塊ごと』開放する。

「このまま一気に……爆ぜさせる、夢想封印・瞬!」

ゴウと掴んだ炎毎唸りを上げる弾幕に慌てて装飾銃を向け、がそこでミューズが凍りつく。

「次弾装て、いや魔力が足りな……」
「……遅いわ、喰らいなさい!」

ドゴオッ

礼装による時間停止と錬金、二つで消耗した彼女の反応が遅れ、そこに霊夢の弾幕が派手に炸裂する。

ズドンッッ

「……あら?」

そして、利き腕を振り抜いたまま霊夢が怪訝そうに首を傾げた。
困惑したように手を数度握る、手応えがまるで無かった、行き成り向うが消えたように。

「ふむ、これは……『何のつもり』!?」

霊夢は首を捻り、それから誰何の声を上げた。
『どこか』、『誰か』に、魅せつけるように気弾をその手に浮かべる、すると反応があった。
すると慌てたような気配の後まるで『空間から湧く』かのように『何か』が現れた。

パシッ

それは携帯端末、特に暗部で使われるような多機能のもの、それを受け取った霊夢は表示された『幾つかのメッセージ』に興味を持ったように目を細める。

「ふん、この状況で首を突っ込むか……『電子女』の仲間だけのことは有るか」

それはどこか呆れたように言いながら、霊夢は気弾を納める。
それは介入者を許し、それどころか受け入れたということ、加えて頭上の咲夜達に関しても。

「お嬢様、落ちてください!」
「はっ、来なさい、この天然がっ!」

ドガガガガッ

「あらま、しっかり……敵意の『向き』を弄られてるか、怖いもの知らずねえ」

何者かの意志による戦闘の中断(但し咲夜らは放置)、そういう流れを作った誰かに霊夢は半ば感心しつつ苦笑した。



ズルズル

『……帰ったわよー、滝壺さん』

疲れた様子で女性二人、目を回した銀髪の少女を連れて帰ってきた。

「あ、お帰り、心理定規に結標……休んでいいよ」
『りょーかーい、言われずとも……』

迎えた暗部リーダー、滝壺の労いに流れ弾の中ミューズを助けた二人、心理定規と結標が力なく頷く。
死地から帰ったかのように余裕無く歩み去る二人を見送り、それから滝壺は満身創痍で困惑した様子のミューズに話しかける。

「大丈夫かな、ギン子ちゃん」
「え、ええと……どうして、私を助けて?」

戸惑いながらの問いかけに、彼女は一瞬悩んでから畏まった顔で答えた。

「私は暗部だから、それが外の人でも……ただ『普通』にここで過ごすというなら助けるよ」

普通で居るなら治安維持の一環で守る、どこか意味深に、一見親切な言葉を送る。
が、その真意を問う前に、滝壺は抱えたミューズを同僚に任せ部屋の外を示す。

「もう休んで、ギン子ちゃん……浜面、彼女手当と、それと仮眠室に運んで」
「は、はあ……」
「了解、リーダー代理」

マイペースにヒラヒラと、彼女は何か聞かれる前に送り出したのだった。



そして、二人が完全に見えなくなって、それから滝壺は聞こえ味がしに呟いた。

「……普通で居るなら助ける、つまりは……そうでないなら『弄る』し、『後ろ刺し(バックスタブ)』も有り得るってこと」
「酷い人ねえ、貴女……流石、『電子女』の右腕」

クスクスと、黒髪と赤い衣装を揺らして女が笑う。
ポンと外から窓から顔付き出して、『携帯で呼び出された』霊夢が呆れたような視線を向けた。

「ありがとね、こっちの指示に従ってくれて……」
「まあ、レミリア達が興奮してて切り上げたかったし……いや、そっちがそうさせたんだけど」
「あ、あはは、ごめん……まあ、絹旗達で監視させるからそれで勘弁」
「……なら良いか、勝手にやらせときましょ」

面倒そうに肩を竦めると、その後霊夢は真剣な表情で滝壺を見やる、彼女は鋭く目を細め探りを入れる。

「……で、何であそこで中断させたの、暗部さん?」

そう問うた霊夢に、滝壺は悪戯っぽく笑って答える。

「うーん、似たようなこと言ったけど……本気で悪巧みするなら『祭り』に合わせる、学園都市中の暗部の手が埋まるし」
「まあ、そうでしょうね、時期が少し悪いもの」
「うん、始まる前に来たってことはきっと悪巧みの、本気の悪巧みの準備だと思う。
そして状況的に多分情報目当て……でも不公平じゃない?だからこっちからも調べるの、これで公平!」
「……その為に一旦受け入れたか、『いい性格』してるねえ」

霊夢は恐ろしいやら呆れるやらで複雑な色を浮かべて嘆息する。
敵対をわかっていての一時的な協力、ある意味決別を確信したそれは最初から敵になるよりある意味悪質だった。

「……で、状況が動けば改めて敵対……酷い梯子外しね」
「……ま、まあ、反省してもらいたいし、それにきっと……」

忌憚ない意見に困ったように詰まり、それから滝壺は綺麗な笑みで付け加えた。
花咲くような、それでいて底冷えのする内容を。

「きっと、あんなリアクションのいい子……泣き顔も可愛いと思うの!」
「まあ、良いんじゃない、別に……」

はあと付いてけないという風に、霊夢が肩を竦めた。




・・・以上マイペース同士の会話でした、霊夢も滝壺さんも自分に被害なきゃ笑ってるだろうなあ。
というか多分この後霊夢が(酒強請りつつ)愚痴ると思う、そして滝壺さんそれを受け流して・・・哀れミューズ、そんなの同じ屋敷でやってるとは正に知らぬが仏か。
因みに滝壺さん、暗部の仕事は真面目にやるつもり、但し抵触しない範囲で巫山戯るが。

以下コメント返信
a~様
ええそうです、庇いきれないんで見捨てました・・・メイド長、そういう情はお嬢様及び紅魔館限定ですので(原作でも異変解決時とか地味に好戦的だし・・・)



[41025] ご無体な無頼たち・六
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2016/12/23 19:07
注意・旧作キャラが数人出ます、一分捏造設定つきで(チョイ役ではありますが・・・)



ドガガガガッ

「落ちて貰いますわ、お嬢様!」
「はっ、来なさい、この天然娘っ!」

紅の主従が剣戟を交わす、『第三者の誘導』に乗せられるまま二人は全力で打ち合った。
速度に勝るレミリアが先制し、対する咲夜は要所要所での時間操作で隙を狙う。
数度目の交差後に、咲夜が鉤爪を抜けて相手の懐へ飛び込む。

「……全力で行きます、お許しを」
「ちいっ、抜かれる!?」

苛立たしげに舌打つ視線の先で、銀のメイドが純銀の刃を二刀で構える。

「天敵である銀器ならば……」

ズガッ

「ソウルスカルプチュア、はああっ!」
「ぐ、あっ!?」

レミリアが呻きつつ下がる、剣閃が掠めてその首元が僅かに赤黒く染まる。
反射的にそこを手で押さえるレミリアの表情が引き攣り、それを見た咲夜はどこか済まなそうにしながらも追撃に移った。

「くっ……」
「……お嬢様、ご容赦を」

スカルプチュアの体勢のまま彼女が間合いを詰めに行く。
が、その瞬間レミリアの瞳がスウと細まる、ニイと口元が僅かに歪む。

「……なんてなっ、神槍!」

右手を掲げ、左の手を添える、カッと掌中が輝いて禍々しい刃を形作った。

「スピア・ザ……グングニル!」

ガギィンッ

閃光と共に二刀の上の衝撃、今度は咲夜の体が押され後退する。

「なっ、弾かれ……」
「……咲夜、行くわよ?真正面から相手してあげる!」
「……良いでしょう、ならばこちらも!」

すかさずレミリアが反撃のため前に出て、が咲夜も負けじと後退分を取り戻さんと反転し迎え撃つ。
二人は一気に加速し、少しの減速もせずに真正面から激突する。

『はあああっ!』

ガギィンッ

真紅の槍と白銀の二刀、ぶつかり合った両者の攻撃が二人の間で噛み合う。
ピタと一瞬程停止し、それからギシリとそれぞれの得物が軋みを上げる。

「くっ……」
「……ふん」

硬直状態はほんの僅かな時間、二人は同時に後方、いや斜め上方へ飛び上がった。

『……まだ(です)!』

二人は素早く体勢を整え、弧を描く軌道で飛びながら、空中戦の優位となる上を取り合い始める。
鳥獣同士の争いのように空を舞う二人の表情に『戦場に合わない色』が浮かぶ。
それは親しいもの同士の睦み合いのような明るい笑顔で。

「……ふっ」
「く、くく!」
『あははははっ!』

もっともっとと、まだ足りないと、互いに力の底を求めるように二人が笑いながら刃を振り回す。

ガギィンッ
ガギィンッ

『それでこそ、お嬢様(咲夜)!』

がむしゃらに剣戟が繰り返される、二人は急所を狙うと同時に常に相手の上を取ろうとする。
クルクルと競いながら螺旋を描くように、銀と黒が学園都市の空を翔けていく。

「やあああっ、せえいっ!」
「うりゃ、うりゃ、どうりゃあああ!」

ガギィンッ

白銀の二刀が交差し、レミリアの頬と胸元を切りつけ幾らかの裂傷を負わせる。
が、反撃に紅い槍が突き出され、咲夜の脇腹をチッと脇腹が掠めて血が吹き出す。

『……ちっ、かすり傷か!?』

剣戟が交差し、直後二人は舌打ちし同時に刃を引いて飛び退る。
手数は二刀の咲夜が、一撃の重さは身体能力が上のレミリアが勝り、結果戦況は激しさの裏で互角に近い硬直状態となった。
両者は仕切り直すために間合いを離す。
『近くのビル』を足場に駆け上がり、屋上の対極で睨み合う。

「ふふっ、まだよね、楽しませなさい、咲夜!」
「……ええ、そんなの当然で……」

今度はレミリアが跳んで上、身体能力を活かし重力を味方につけ、対し咲夜は不利な体勢ながら微笑を浮かべ迎え撃とうとする。
が、そこで下の位置の咲夜だけが『それ』に気付いた、頭上に二つ目の『真紅の月』、に見える存在が浮かんでいた。
ボウボウと音を立てる三日月の輝く何かが。

「……で、えっ?」
「……禁忌」

長大な火柱、炎の大剣が輝く、『三沢塾』の看板を背にした金髪の吸血鬼が大上段に構えていた。

「レーヴァテイン……ご飯時にどかどか五月蝿ああいっ!」
「妹様!?」
「しまっ、ここフランの……」

ドゴオオッ

『うわああああ!?』

真紅の一閃にふっ飛ばされて、主従の戦いは『戦場近くに住む少女』の怒りによる『無効試合(ノーゲーム)』に終わった。



ご無体な無頼たち・六



「……ふわあ(……夜更かし、健康に悪そう)」

『少女趣味の格好』の滝壺が欠伸一つ、それを押し殺しつつ外の仲間の報告を待った。

『……という訳で、吸血鬼主従は三沢塾の金髪による乱入でダウンしたようです、滝壺さん』
「そっか、監視お疲れ様、絹旗」

寝巻き姿に着替えた滝壺は携帯端末の向うから呆れ気味の報告を受けた。
懸念であった二人、咲夜とレミリアが『事故的』に落ちた知らせに思わず苦笑した。
同じ気持ちらしい絹旗も複雑そうな声音で続ける。

『とりあえずぶっ飛ばして満足したか……妹の方は止まってくれました、黒夜達を行かせて吸血鬼主従を引き取らせに行ってます』
「わかった、じゃあその後『監視及び貸し作り』の意味で適当な拠点へ……」

彼女は今後の対処を一通り頼み、それが一段落したところで仲間との会話を終える。
端末を仕舞い、それから真面目になっていた顔を崩し、ある部屋の扉を数度叩く。

「……ギン子ちゃん?」
「あ、大丈夫です、お姉さん」

許しを得て訳有り客の元へ、ぎこちなさそうな表情に敢て気づかない振りしながら歩み寄った。

「ねえ、気分転換にでも『色々』話さない?」
「は、はあ、別に構わないけど……」

一瞬首を傾げてから銀の少女は頷いて、それに気を良くしたようにしベッドに並んで座る。
どこか探るような暗い目を隠しながら。

(……少し反応を見てみようか、それと……釘くらい刺しとこっと)



ニシシと『鬼』、紅白衣装の女が邪悪に笑い、男達は少し嫌そうに眉を顰める。

「……『ペース』遅いわよう、暗部さあん?」
『くっ……』

からかうように言う女の手には杯、暗部の伝手やらで入手した高級酒が並々と注がれている。
それを彼女、霊夢は躊躇うこと無く一気し、空いたのにお代わりを要求する。

「こく、うん、次……そっちに花持たせたのよ、これくらい安い物でしょ」
「むう、ほんとうに自由だな、この人……」

呆れながらも浜面はそれに従い、その後自身の分の杯もゆっくり傾ける。

(……やべ、ちと頭が揺れてきたな、恨むぜサブリーダー)

美女と飲むのに当初は心躍るも、今は相手の蟒蛇振りに圧倒されてしまう。
ミューズの手当を終えたら速攻これで、彼は内心巫女の相手を押し付けた上司を恨んだのだった。

「あら、手止まってるわよ」
「……うす、まだ行けます」

促され内心の愚痴を一旦止め、限界悟られないよう仏頂面に為った浜面は次の酒瓶へ。
既に他の暗部、手隙の者達はシルバークロースアルファを始め大半が飲み潰され、残った浜面が相手している状態だ。
それでもここで機嫌を曲げられては不味いと、浜面は何とか付いてこうとする。

「え、ええと……巫女の姉さんも大変だな、元々学園都市には休暇で来たんだろ?」
「そうなのよ、それなのに問題ばかり……全く困ったもんだわ、どいつもこいつも」

時間稼ぎに世間話を仕掛け、すると向うも思うところがあるのか乗ってきた。
すると出るわ出るわ、聞いてる浜面が圧倒される程に、愚痴と恨み言が怒涛の勢いで流れ出した。

「そもそもさあ、まずチルノとフランドールでしょ……その後ルーミアやら輝夜やらが『外』で暴れるのよ、溜まったもんじゃないわ。
現地の知り合い、上条君やインデックスちゃんは矢鱈事件巻き込まれ……そういや、鈴科君からして首突っ込んでは引っ掻き回してたか」
「……は、はあ、巫女の姉さんとしちゃ気が気じゃないと(……その割にこの人も暴れてたような気もするが)」

何だかんだ乗りがの良さで騒動中は自分から楽しみ始める霊夢とて不満はあるようで、彼女は酔いに任せぶち撒けていく。
自分『が』振り回すのは気にしないが、振り回『される』のは余り宜しくないらしい。
すると、愚痴に圧倒される浜面の代わりに『第三者』の合いの手が。

「いや、本当ですよねえ、霊夢さん……年中酔っぱらいの鬼じゃないんだから落ち着けっての」
「そうそう、全くよねえ、でも……言える立場かしら、その弟子である子鬼の佐天ちゃん?」
「……あはは、いやあ、私はまだマシだと思いますよ?」
「……それが本当だから厄介なのよねえ」

思わず首を傾げた浜面、視界の端に開きっぱなしの窓が映った、堂々の暗部拠点への不法侵入である。
そんな長髪黒髪の少女、涙子がうんうんと頷きながら霊夢に乾杯する。

「……増えたよ」
「いや、霊夢さんにお呼ばれして……」
「後で『頼みたいこと』が有ってね」
「は、はあ……」

その言葉に再度浜面は首を傾げ、嫌な予感を覚え先を促す。
それに対し霊夢がニヤリとどこか悪い笑みを浮かべ、追随するように涙子も似たような笑い方をする。

「明日は大仕事になりそうだから……『お手伝い』かな」
「……派手にはしないでくれよ」
「ええ、大丈夫……彼女『は』戦わないわ、謂わば準備部分だけだから」
「そんな訳で安心してくださいねー……上手いお酒分、働くようにしますから」

この恐る恐るの頼みに心よい返事、がそれに対し浜面は全然安堵できなかった。

(……こりゃ始末書かねえ、二日酔いでそれは勘弁したいが)

薄々無駄かもしれないと思いながら彼は心底祈ったのだった。



「ふうん、ギン子ちゃんはお姉さんが……」

そんな風に嘆く部下に対し、滝壺は勝手に妹分にした少女と呑気に話していた。

「正確には親戚、従姉妹程度の繋がりですが……あれが実の姉とか泣きますよ」
「……仲悪いの?」
「……正直苦手です、以前叩きのめされたし」

一緒にベッドに座る少女は溜息一つ、嘗ての仲間への恨みを込めて答える。

「はあ、あいつ、何を間違ったか……『少(幼)女趣味』こじらせたんですよ、そのまま飛び出して身内中もう大混乱で」
「はああ、大変だねえ(……『方向性』は違えど麦野に振り回される私達みたい)」

銀の少女が肩を落とす、その端正な表情を歪めての言葉に滝壺は(多少重ねてしまい)神妙に頷く。
思わず少女の頭を撫で、彼女は顔を赤くし慌てて逃げようとする。

「ふふ、元気出して、ギン子ちゃん……ほら、ナデナデー」
「ちょっ、子供扱い止めっ、滝壺さん!?」

悪意なく元気づけようとしたら本気で避けられ、滝壺はぶうと口を尖らした。

「……ひどい、甘えさせようって妹への気遣いなのに」
「だから、何時姉妹に妹に……」

姉と妹を強調し聞こえ見がしに不満だと訴えれば、銀の少女は呆れたように肩を落とす。
その隙にと滝壺は撫でる手を再開し、今度は諦めたか受け入れるままとなった。

「もう、好きにして」
「ふふ、宜しい……はい良い子いい子」
「……はあ」

自棄ぽい顔で、自称姉の手にされるがままで項垂れてしまう。

「……ねえ、ギン子ちゃん」
「はい?」

暫しそうしてると、妙に真剣な声音で滝壺が声を掛けてきた。
まだ少し赤い顔の少女がそちらを見れば、思わぬ問いが。

「何を望んでるかわからないけど……もう『止めない』?」
「……はっ?」
「……態々外国から学園都市に来たんだもの、きっとそれなりの目的が有るんでしょ。
けど見た限り上手くないようだし……ここで手を引くのも『アリ』だと思うの」
「それは……」

珍しく真摯な、幾らか情を感じさせる言葉、少女は言葉に詰まる。

「私達の仕事、ここの治安維持……それは人命を、他所の人達を軽んじるわけじゃない、だから注意くらいするよ」
「……注意、ですか」
「……ここ何日か楽しませてもらったしお節介でもと」

要らぬ親切かもしれないと前置きした上で、彼女は妹と一方的に読んだ少女に警告を送る。

「戻ってきた時言ったけど……貴女が異国の子でも『普通で居るなら助ける』、損切りは悪いことじゃないよ。
……特別なことは考えず、祭でも楽しんでから帰っても良いんじゃない?」
「……でも私は、私『達』は」
「……ま、これ以上はそっち次第」

戸惑い気味に数秒詰まってから『責任を負う少女』は警告を受け入れられず、それには滝壺はあと嘆息する。
相手も何かを背負っていると流石にわかり、彼女はそれ以上の追求を断念する。
きょとんとするミューズに、滝壺は気にしないでと撫でて『話はもう終わり』とベッドに倒れこむ。

(私が暗部であるように……彼女もまた、ってとこかな)

どうやら互いに背負っているものが有るようで、それではこれ以上無理だと滝壺は話を切り上げる。

「(これ以上踏み込めないか、少なくとも『今』は)もう寝よ、ギン子ちゃん……どうしたの、不思議そうな顔して」
「……ええと、何なんですか、お姉さんは?」
「……学園都市の『影の支配者(代理で下請け)』……ああ後君のお姉さんかな?」

心底理解出来ないものに対するが如き問いに、滝壺は曖昧に笑ってそれ以上に曖昧に答える。
だがその実その言葉は結構本気だった。

(嘘ではないんだけどね……現時点で暗部全体でも幹部格だし、この『色々』反応のいい子欲しいなとも思うから)

内心の企み、欲望を隠し彼女はただ一言だけ最後にミューズに言った。

「ま、余り気にしないで……でも覚えて、私の権限内で目溢しするのも限界有るから」
「……わ、わかりました、お姉さん」

最後の言葉には思いの外重みがあり、ミューズは困惑しながらも頷いた。
彼女は『企みに気付いた上での牽制』か『今までどおりの気紛れ』か、暫し悩むも判断できないまま頷き床につく滝壺を何とも言えずそうに見た。

「……でも、私は、私『達』は」

だけど結局受け入れられず静かに床を出、こちらで入手したらしき『端末片手』に部屋を出る。
ベランダからボソボソと、彼女が仲間らしき相手に呼びかける声がした。
咲夜に場を荒らされ、補強に応援を呼ぶようで、それに対し『ベッドで横になる少女』の口元が歪む。

(警告はした、でも……受け入れられないと、少し痛い目見るしかないか……)



「……おい、揃っている?」

翌朝、まだ早朝といっていい時間ミューズはある者達と待ち合わせていた。
『滝壺の目を盗んで確認した暗部情報』、各所配置ルートから割り出した暗部側にとっての死角の位置に仲間を呼び出したのだ。
そうして反科学側勢力の協力で呼び出した仲間たちを迎える。

「準備は?」
『問題ありません、『当主』ミューズ様!』

仲間の錬金術士、ミューズや咲夜程ではないが艶やかに輝く『銀髪』の男達が集まってくる。
彼等は一斉に跪き、主の命を待った。
『死角』だけに静寂に包まれる場所で暗躍劇が始まろうとしていた。

『ご指示を、ミューズ様!』
「ああ、合流後は……」

が、ふとそこで一つの違和感、静か『過ぎる』と。

(何?『祭』を数日後に控えるにしては……)

暗部が居ないと入ってもこれは奇妙だ、通行人や祭を前に働く者の気配まで無い。
そこで、ミューズはゾッとするような内容に思いつく。
『暗部情報を自分達が予め知っている前提』なら話は別だと。

(……私は暗部を避けた、だが逆に言えば……それを『前提』とするなら読める?)

余りにも静かすぎる場所と、自分がここにいる理由、それに何者かの悪意を仮定とし条件に付け加えたなら見えてくるものが有る。
ハッとした表情でミューズは辺りに見やった、その頬につうと汗が落ちた。

「ミューズ様?」
「これはまさか……」

そして異変、その最初の前兆は『違和感の兆し』と同じ『音』だった。

ヒュウウッ

『っ、何奴!?』

その瞬間どこからか甲高い音が響いた。
警戒の表情でミューズたちは周りを見渡し、一人の人影を見つけた。
『横笛』を奏でながらそいつは落ち着いた足取りで歩み寄ってくる。

ヒュウ
ヒュルル

「誰です!?」

その問いに相手は困ったように小首傾げ、少し考えてから笛を下ろし答える。

「敵、かな……いや前座だけど」

ビュオオッ

怒声に対しまるで気負いのない言葉、直後唐突に局所的な吹雪が巻き起こった。
反射的にミューズ達は目を背け、はっと慌てて視線戻せばそこに巨大な影が聳え立っていた。
見上げる程の『白梅の樹』、そしてその頂、『白い行者装束の少女』が黒髪棚びかせ微笑する。

「東風吹かば、匂い起こせよ、梅の花……」

詠唱しながら樹の頂きで軽やかにステップし、タンタンと足踏み繰り返しつつ句の締めを口にする。
底知れない物を感じたミューズは思わず守りを固め、結果相手の『準備の完了』を許してしまう。

「な、何を……みんな、油断しないで!」
「(……慎重だね、好都合だけど)主なしとて春を忘るな……まだまだあっ!」

言って彼女は柏手一つ、その手がパアンッと大きく音を立て打たれた。
すると、それに誘われたかのように火花が天頂で弾け、それから燃え上がり何かの生き物の形を取った。

「一つの伝説では鬼の祖は『ある妖蛇』だという……因果の繋がり結びて『真なる四(死)の怪』!」

炎が集まり生まれたのは『八首の大蛇』、桁違いの体躯を見せびらかすように旋回し始める。

「……かつて地の果て、世を騒がす邪悪なる妖蛇在り!
八つの頭(こうべ)、その身は山河の端まで掛かる程!蛇は思うまま荒れ狂い、地は乱れに乱れる!」

彼は我が物顔でぐるぐる回り、が涙子がそれをビシと指した瞬間動きが止まる。
プツと長大な胴に切れ目が入り、瞬く間に全身に傷が広がっていく。

「……長く民は嘆くも、ある日それを聞きつけ一人の勇者立たん……伝説に曰く、その名は素盞嗚(すさのお)!
彼の者、策にて妖蛇を縛り、天より授かりし宝剣で八つ裂きにせん!」

最後の祝詞の直後、ブツンと八首の大蛇が一瞬にしてばらばらに千切れ飛ぶ。
同時に彼女はその手を天に掲げ、するとまるで吸い込まれるようにそこに『八岐大蛇』の残骸が集まる。
赤く燃える炎は一箇所に収束、そして乱れのない一振りの刃の形状に。

「勇気ある男、揺るぎなき勲しと、美しき姫に豊かな国得たり。
……ここにその偉業を讃えよう……」

そして、彼女は宣言と同時に跳び上がり、宙空でくるりと身を翻す。
反転し逆さの体勢で、彼女は真下の神木を『見上げ』ながら叫ぶ。

「正しく万夫不当、名は三千世界に轟く、その国もまた……八重垣よ、おお八重垣よ!」

叫びに合わせて掌中の『宝剣』が激しく瞬き始める。

「『詠(うた)』に『なぞり』、伝説の再現にて荒ぶる神の力よ降りよ!」

グッと涙子はその腕を、『素盞鳴』の刃を掲げた腕を突き出し、更にそこに逆の手を沿うようにし力を注ぎ込む。
ボウボウと、限界まで膨れ上がった刀身が妖しく揺らめき輝く。
そして、燃える刃が地に、そこに立つ神木に落ちる。

「……剣の神の加護ぞあれ、やあっ!」

ズドォ
ボウッ

火が頂きから根本まで一瞬で広がり、真紅に染まるそれを背に彼女はゆっくりと地に降り立つ。

「これで二つの力、道真公という賢神と最古の戦神、出雲に縁深き二柱の力が合わさる……
さあ完成せよ……――』式、重ね『禍』楽(かぐら)舞い!」

タンッと両足で降り立ち、それからパアンッと涙子の手が再び打ち合わされた。
その瞬間背後の火が弾けて、それは天を衝く程の火柱となり、同時にニイと涙子の口の端が釣り上がった。
激しく燃え上がる火柱、『ある者』への目印を指し歌うように諳んじる。

「二柱の神の加護、その力を束ねる……ま、本当は『別の使い道』が有るんだけど……
今回のは『場』の調整だ……これを目印に『常世』開け!『人為らざる者達』来たれ!」

この瞬間この場はある種『異界』に変わる、ゴゴと鳴動繰り返し『現世』が有り得ないほど歪む。
すかさずそれを見計らったように『紅白衣装』の女が空間の裂け目から現れ隣へ。

「……霊夢さん、場は温まったでしょ、後は任せたから!」
「ええ、十分……ここからは私の仕事よ」
「ご武運を……じゃ、見学してますので」

言葉を交わして入れ違いに霊夢が進み出る、奇妙なことに彼女に重なるように『三つの影』がうっすらと見えた。
影、人型のそれは『女』のようだった。
何者かを従えた霊夢が親しげに呼びかけた。

「さあ出番よ、『三人とも』……参りませ、博麗が巫女の好敵手にして盟友たち……
まずは……大陸より渡りし『生きた鉄器』、付喪の里香!」

一人の女が前に出る、純朴そうな少女が『巨大な乗り物』から身を乗り出しヒラと手を振る。

「続いて……剣の道に全てを捧げた『剣鬼』、雷切りの明羅!」

更に一人の女が前へ、鋭い目つきの少女が『身長程の大太刀』を構え小さく頷く。

「そして、大取り……数代に渡って博麗神社と張り合った『大怨霊』、祟り神の魅魔!」

最後に妖しくも美しい女、どこか母性的な女性が『天冠』と『白装束』を揺らし微笑む。
三人の人外を伴わせた巫女がニヤリと笑う。

「な、何、一人じゃない?」
「アンタが思ったより手強そうだったから……応援を呼んだの、『道』は他人任せだけど」

そう言い霊夢が駈け出す、呪符を目一杯手挟んで、加えて三人の人外と共に。

「ふ、ふふ、あはははっ……さあ逃げ惑いなさい、偽メイド!」
「……何よこれっ、予想外過ぎるでしょ!?」

鬼のような巫女が哄笑と共に襲いかかり、ミューズは素で悲鳴を上げる。
そんな風に錬金術士の受難が始まり、大覇星祭『前哨戦』の最終幕が始まったのだった。





・・・て訳で鬼巫女が応援を呼びました、話的に出せそうで出せない旧作面子の救済策の意味もあり。
で佐天さんの出番は今回はお終い、キャンプファイヤーやっただけ・・・真四~は彼女のスペカ、それも切札枠(今回のはその準備段階、本命部分は何時書けるか・・・)
次回クライマックス、メイド長は当然として暗部も出ます・・・もしかしたらキャラブレイクも・・・

以下コメント返信
九尾様
まあアイテムで(当然リーダー麦野は確定で)誰が参謀かと考えれば・・・やはり滝壺さんでしょう、となれば多少腹黒くても寧ろそれらしいかなと。
因みに滝壺さんですが・・・今後の展開的にまだまだ大人しいというか、自粛してると言っていいかも・・・



[41025] ご無体な無頼たち・七(完)
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2016/12/30 00:01
閑話二・ご無体な無頼たち(完結)



巫女に人外、斜陽に在る錬金術士が睨み合う。
どことなく『場違い』に流麗な笛の音が響く戦場、動いたのは両陣営ともほぼ同時だった。

「……行くわよ、魅魔に明羅に里香!」
『了解!』
「ちいっ、散りなさい、同志たち!」
『はっ、ミューズ様!』

タッと双方駆ける、霊夢もミューズも動きながら素早くそれぞれの仲間に指示を出す。
それに瞬時に従い、一瞬の読み合いとともに互いの陣形が整えられる。

ヒュウヒュルルゥ

(まずは……牽制と様子見、か)

祟り神達への目印とした『燃える大木』、そこに立つ涙子の視線の先でまず放たれたのは大将格同士の弾幕だった。

「行くわよ、博麗弾幕結界!」
「……させない、フリントロック十六丁!」

まずは挨拶代わりとばかりに霊夢とミューズが掃射、無数の閃光と銃弾がばら撒かれる。

ドガガガガッ

『ちいいっ……』

結果はどちらにも不本意なもの、両陣営の丁度中間辺りで相殺し合った。

「……追撃して、同士たち!」
『はっ!』

それを見たミューズが弾切れの銃を放り捨てる、悔しげに顔を顰めたミューズが手を掲げ合図を出した。
バッと数人ずつ錬金術士達が別れ、幾つかの方向から『銀の刃』を投擲に掛かった。

「……皆、攻撃開「させない、行って『里香』!」ちっ!?」

が、すかさず相手も動く、霊夢の隣から『金属塊』が飛び出したのだ。
ゴウッと『エンジン』を吹かし妖物化した戦車が突進を掛けた。

「……行っくよー、ティーガーGO!」
「不味っ、散って!?」

ズドンッ

超重量級の突進、そしてそこからの砲弾に慌てて錬金術士が回避行動を取る。
流石に迫る鉄塊に顔を引き攣らせた錬金術士たちは慌てて散開、がその瞬間残る三人が反撃に出る。

「魅魔は大技の準備……明羅さん、続いて」
『了解っ!』

『天冠を被った緑髪の女』は大掛かりの弾幕を展開、そしてそれを背に巫女と剣鬼が駆けた。

「……迎撃しなさい!」
『はっ!』

飛び退ったミューズが単発の銃を、それに合わせ戦車から離れていた位置に居た錬金術士もまた投擲体勢に。
彼等は素早く狙いを定め、ミューズの指示に続くように刃を振り被る。

「放て!」
『了解……はあっ!』

ドガガガガッ

まずはミューズの銃口が瞬き、それに続くようにゴウと風を切って投剣投槍が放たれる。
四方からの敵意、それに霊夢は僅かに顔を顰め、が彼女はそのまま足を止めず唯霊力を前面に集める。

「数で押すか、でも……このまま行くわよ!」
「……良かろう、突き進む」

カッと光の壁が展開し、直後その内側に明羅が飛び込んだ。
結界はガギィンと軋みながら攻撃を受け止め、直後拮抗するそれに明羅が鞘に収めたままの大太刀を振り被る。

「良し、受けたら……砕いて、明羅さん!」

その言葉に頷き、明羅が渾身の力で太刀を振り抜く。

「……承知した、任せろ」

ドゴオオッ

「やああっ!」
『何っ!?』

ゴウっと勢い良く白鞘の先端が突き出され、結界毎弾丸を弾き飛ばす。
慌ててミューズと錬金術士は更に散開から回避し、がそこに霊夢達が結界残骸を踏み散らしながら追撃を仕掛ける。

「どうする、博麗の?」
「当然……蹴散らすわよ!」
「ふっ、そうか……行くぞ!」
『……は、反撃しろ!』

慌ててミューズ等は妨害、がその瞬間一瞬視線を交わした霊夢達が予想外の行動を取る。
タンっと軽やかに跳んで、『錬金術士達の右翼と左翼』、まだ余裕のある戦力に突進したのだ。
それは同時に、意表を突いたということでもあった。

『しまっ……』

僅かに反応が遅れ、がそれは致命的なものとなる。

「……数の利なんて活かさせん、切り込む!」
「そういうこと!」

二人は剣と徒手、それぞれ構え敵陣に飛び込んだ。

「数は多いが……巫女ほどの怖さは感じんな、はああっ!」
『うあっ!?』

何所か拍子抜けした様子で明羅が武器を振るう、飛び込みからの鞘での突きがまず手近な数人を吹き飛ばす。
更にそこから抜刀、身の丈程の大太刀を危なげなく振るい錬金術士達の四肢を正確に斬りつけていく。

「失礼ね、一人以外それ程でないのは同感だけど……霊撃アンド陰陽玉将!」
『ぐ、ああっ!?』

微妙に物言いたげな顔になりながらも霊夢もまた突撃、その類稀な霊力を全開にする。
まず周囲に放射、そしてすかさずその掌中に集めると増幅後弾けさせた。
ズドンとなって防御に構えた刀剣毎錬金術士を高々と吹き飛ばした。

「ちっ、不味い、立て直さないと……」
『……そうはさせない!』

乱戦の状況にミューズは僅かに迷い(照準に時折入る味方が銃撃を止めさせる)、一瞬悩んでから仲間をカバーに向かわせようとする。
が、その瞬間霊夢と明羅が『反転』、動揺する周囲を無視し敵陣中央で指揮するミューズへと突如進路を変えた。

「な、何っ……」
「さあどうする、『二択』よ?」
「選ぶが良い、西の術者」

それは個を選ぶか全体か、意地悪な問いだった。
自分の危険を承知で残り指揮するかそれをせず味方を捨てるか、考える時間を録に与えずのそれにミューズの表情が凍りつく。
状況とそれぞれの被害を予想し、彼女は一瞬目を伏せてから震えた声で命令を下す。

「くっ、ここは……仕切り直します、無事なものだけ続いて!」
『は、はいっ!』

出した指示は冷酷だがある意味当然のもの、倒れたものは見捨て、負傷者を殿に、そして自分と無傷な者達数人を連れて交代しようとする。
小より大を、全滅を避けようとする党首としての言葉、それに錬金術士達も覚悟の表情で頷く。

「まずはここを抜けます、何より情報を持ち帰るのです!」
「ま、そうするでしょうね、でも……」

そんな彼等に、だが霊夢は氷のように冷たい目を向けた。

「……予想済みよ、『そうする』のは」
「え?」

その瞬間トンと後方から軽やかに、『緑髪の怨霊』が戦車の上部装甲を蹴って跳んだ。
その両手に魔力が収束し、『星の魔術』の元祖が輝き唸った。

「……魅魔、ブチかませ!」
「おうよっ!」

ゴウと両掌が激しく輝いて、そのゾッとするほど美しく恐ろしい光にミューズは一瞬飲まれた。

「……い、嫌あ、『世界』よ!」

殆ど反射的にその手を、その中に存在する『懐中時計』を彼女は縋るように握った。
直後ガチリと鳴って、世界から『色』が消える。
何も機能しない世界でミューズだけが動ける、『筈』だった。

「やああっ!」

ここが勝機と、彼女は渾身の力で十字剣を突き出す。

ガギィンッ

「……え?」

だが、そこに在ったのはミューズにとって予想外の光景。
動けない筈の空間で魅魔は腕を掲げ受けたのだ。

「……甘い、甘すぎるね、お嬢ちゃん」

そして続け様のこの嘲笑、やはり彼女は動けない世界にも構わず動き出す。

「私の世界で、何故動く!?」
「『一つ』ミスしたね、でも……まずは反撃だ」

タンと魅魔が地を蹴って跳ぶ、時間の止まった世界だろうと無関係に大怨霊が突き進む。

「星の魔法を見せてやる、はああっ!」

魅魔が突き出した掌中がボウっと輝き、そして膨れ上がる光が大爆発を起こす。

ドガアアッ

「くっ……」

反射的にミューズは手持ちのもの、加えてその場で錬成した金属器で壁を作り爆炎を防ぐ。

ニイイッ

「……やはり、甘いな」

が、それは魅魔にとっては無駄な抵抗と言えた、ブンと片手を横に払い続けざまに『自分と弟子だけの魔法』を紡ぐ。
ギュオと散った焔が渦を巻き、それから天を目指し集まっていく。
『戦闘で散った魔力』をも巻き込みながら。

「まだ終わってないよ、二段構え……元祖ドラゴンメテオ!」

カッと空一面に禍々しい『星』が輝いた。

「ば、馬鹿な、私の世界でこんな……」
「……じゃ、『種明かし』、霊夢の紹介、忘れた?
私は怨霊の中の怨霊『祟り神』、半ば幽玄の淵に居るから……物理法則にゃ囚われんさ!」

彼女は呆然とするミューズに見せびらかすように『印を刻んだ指先』を払い、直後頭上の魔力が開放される。
カッと星の如き輝きが最高潮に達すると同時に地上へと落ちていく。

「時を止めるとは大した礼装だが……『普通の理』からちょいと『外れてる』私には効かないね。
だから最初から無意味で、そして……」

ドゴオオッ

「きゃああっ!?」
「ふっ、真の……『星の魔法』はどうだい!?」

高速で落ちた星が眼前で勢い良く弾け、その爆炎に炙られミューズが吹き飛ばされる。
彼女は苦悶の表情で後退り、それから悔しげに顔を顰め恥も外聞もなく背を向けた。

「ま、まだだ、私はこんなところで……」
「……ふん、諦めの悪いこと」

当主の責務を果たそうとする少女を哀れんだように見て、魅魔はゆっくりと追撃の弾幕を構える。
ギュオオと光が集まり、が放つ直前それを止めた。

「む、あれは……ま、これ以上は私の仕事じゃないか」

『銀』が視界の端を一瞬過ぎて、魅魔は苦笑しながら弾幕の狙いを変更、時間停止に取り残された生き残りの錬金術士に叩き込んだ。

ドゴオオッ

『ぐわああっ!?』
「……はっ、年長者として後始末はしておいてやるよ!」

嘆息しながら残党たちを見回し、加えて直後その隣に『真紅の輝き』が勢い良く降下する。
血の色の魔力、真紅の槍を肩に構えた『幼気な少女』が祟り神に並んだ。

「私も参加させてもらおう、そこの緑髪……その髪色、フラワーマスターの身内?」
「ちょいと短絡的だと思うが?いやまあ知らない相手じゃないけど……」

レミリアの直接的な言葉に苦笑し、その後魅魔は相手を見て首を傾げた。
何らかの文章刻まれた紙片一枚、何故か吸血鬼の額にペタリと張られていた。
『人生の敗北者、反省及び奉仕活動として霊夢に協力中』と。

「……うん、それは?」
「勝ち誇った顔の妹にやられてな……」

力のない自棄っぽい笑みが浮かんだ。



(い、嫌だ、私はまだ……)

ミューズが駆ける、タンタンと学園都市の家々の壁や屋根を蹴り必死に距離を稼ぐ。
不思議と来ない追撃に困惑しつつ、それに安堵もしながらある程度離れた一角へ。

「追ってはない、なら今のうちに……」

ゼエゼエと乱れる息を整えながら、人気のない区画の間に降下した彼女は今後のことを考える。
どこかで体勢を整え、最低限情報を送りつつ彼女だけで学園都市の撹乱を目指そうと。
そんな風に悩んでいた時だった、グッと『細い腕』がミューズを引いた。

「えっ……」
「……大丈夫、ギン子ちゃん?」

強引に路地裏まで引っ張っていかれ、そこでミューズはここ最近何かと縁のある(電波気味の)少女と再会した。

「滝壺のお姉さん……」
「うん、そうだよ……怪我は?」
「……大丈夫、痛いけど動ける」

体の各所の火傷や裂傷に苦しみながらも彼女が立ち上がり、それに頷き滝壺がその手を引く。
引かれるまま路地裏を暫し進み、そこで滝壺が足を止めた。

「……ねえ、ギン子ちゃん」
「お姉さん?」

行き成り足を止めて、どこか困ったような声音の言葉にミューズは首を傾げる。
すると、相手は幾拍か悩んでから口を開いた。

「もう終わりにしない?」
「え?」

その唐突な言葉にミューズが固まり、そこへ更に滝壺が言葉を重ねる。

「第一位から話は上がってる、最近ここを騒がす異国の者達……貴女もその一人、でしょ?」
「……っ、私は」

振り返った滝壺の目に、氷のように冷たい瞳にミューズは竦められたように口籠る。
すると暗部の少女はこれが最後通牒とばかりに言い放った。

「他の人は長期勾留は免れないけど……貴女だけなら個人の裁量で『保護』扱いにしてあげる、勿論情報は吐いて貰うけど。
……もう終わりにしないかな、ギン子ちゃん?」
「……私は、私はそれでも……」

先の言葉を再び繰り返し、がミューズは当主である自負に縛られ答えられない。
そんな彼女に、滝壺は一つ溜息を付いてから歩み寄った。

カツンッ

「ああもう、貴女も不器用だね……」

困ったように笑うと彼女が一歩進む。
咄嗟にミューズが身構え、だが『敵意』は全く感じず武器を抜こうとしなかった。

カツンッ

「助けたいのは本当なんだけどね、ギン子ちゃんは結構気に入ってるし……」

更に一歩、滝壺がミューズの目の前に立った。
やはり敵意は全く感じず、ミューズは相手の反応を待った。

「だけど、こうなっちゃたら……」

が、その瞬間滝壺が目を細めた、まるでスイッチのオン・オフが切り替わるように何かが変わった。

「……こうなれば、力づくかな」

ドンッ

彼女が手を掲げ、するといつの間にか握られていたレディース用の小型拳銃の引鉄が引かれたのだ。
袖に仕込んだらしきスライド式デリンジャー、その銃口から放たれた小口径の弾丸が肩を穿った。

(馬鹿な、さっきまで敵意は全く……)

ミューズがもんどり打って倒れ、その手から懐中時計型の礼装が路地の地面へと滑り落ちる。
彼女は慌ててそれを追おうとし、が直後その手前で更なる銃弾が弾けた。

ダンッ

「きゃっ!?」

悲鳴を上げた彼女は反射的に手を引き、そこへ遅れて銃声二つ。

ダンッ

三度目のそれで地に落ちた懐中時計が跳ね上がり。

ダンッ
バギンッ

そして最後の一発で、空中を舞う礼装が粉々に砕け散った。

「あ、ああ……」
「……ご苦労様、浜面にシルバークロスアルファ、それに01号のミサカちゃん」

ミューズは目の前の残骸に呆然とし、そして滝壺は『狙撃手達(一名応援)』を褒めたのだった。

「残念だったね、それがないと消えたり出来ないんでしょ?」
「……何で、敵意は感じなかったのに」

からかうような言葉、けどミューズは答えられず呆然と繰り返しそこで答えを見つける。
さっきまで感じなかった敵意、だが今は確かに在った。
正確に言うなら、発砲前後から『突然』感じられたのだ。

「どうして、私は気づけなかった……」
「……さっきまでプライベートのつもりだったから、でも『今』は違う」

一応姉としての説得は本気で、が『それはそれ』と暗部として相対したと彼女は答えた。
本人曰くの姉の在り方、それが先程まで敵意を覆い隠していたのだ。
たったそれだけの、個人の意思と立場の使い分け、それはミューズには全く理解できないものだった。

「そんな理由で、こうまで……」
「……それは外を知らない『箱入り娘』だからよ、我が従妹よ」
「十六夜……」

理解できないと戸惑う彼女に、どこか憐れむように現れた咲夜が言葉をかけたのだった。

「あらあら、酷いざまねえ……本来の貴女なら負けるはずのない相手、なのに今地に臥すのは貴女。
……意表の外から襲いかかってきた霊夢達に負けるより『致命的』、その意味を噛みしめるべきではないかしら」

(『人生の敗北者』の紙片を頭から剥がしつつ)彼女はナイフを弄びながら倒れた従妹の元へ歩み寄る。

「さて他の一族の連中は捕獲済み、後はアンタだけ……一族もそれで暫く大人しくするでしょ、生き残りだけで地道に研究でもしてろっての。
……でまあ、最後にその前にアンタの敗因でも上げてきましょうか」
「私の、敗因?」
「ミューズ、アンタは外を……『世界』を知らな過ぎる」

裏切りの果てにそれを知った少女はまだそれ知らない少女に答えをやった。

「『錬金術士』で『それを研究する一族の長』のミューズ、それで生きるに十分とでも思ったのでしょうね、でも……」
「……それが何よ?」
「足りないわ、人が生きるには立場だけで無し……個の意志や欲望、そして自分以外のそれが世界には有る。
立場に左右されない個という物が有る、人はそれだけ複雑怪奇。
それを理解せねばその者は小さいまま……そんな『器』じゃこの混沌とした世は生きられないのよ」

まるで昔の自分と重ねるように見詰め、それから咲夜はその手に握っていたナイフを軽く振り被る。
ニッと笑ってそれをミューズの足元に放り、そして軽く手招くようにチョイチョイと指を揺らす。

「一族と別れて色々体験した、色んな人に会った、ああ楽しかった……それでどのくらい変われたか、そこの暗部の方と『別の形』で見せてあげる。
だから……構えなさい、『差』を今から教えてあげるわ、ミューズ」
「何よ、裏切りの癖に、そんな偉そうに……」
「ふん、だから『箱入り』なのよ……悪い遊びを、血という生まれ以外の考え方を知るべきなの」
「そうだよ、ギン子ちゃん……それを知って尚使命だ何だ言うのは勝手だけどね」

挑発じみた言葉、反発と『認め難い何か』を感じながらノロノロと足元のナイフを引き抜く。
彼女は腰溜めに構え、そして全力で走り出した。

「十六夜、アンタなんかに……はああ」
「……来なさい」

ミューズは複雑に絡む意思を抱えたまま駆け、迎え撃つ咲夜は徒手のまま待つ。

「やああっ!」
「……甘い、発(はっ)!」

踏み込みと共にミューズは刃を突き出し、直後咲夜の指先が曲線を描く。
それをやや離れて見ていた滝壺は得心と共に呟いた。

「ああ、差ってのは……人生経験とそれで形成された個性か」

ギュオと咲夜の掌が素早く不規則に揺れる、門番を務める『同僚』の技だ。
彼女は巧みにナイフの切っ先を受け流し、横に反らした後すかさず踏み込む。

「なっ……」
「……まだよ、行くわよっ」

今度は咲夜は反撃に出る、殆どぶつかるような勢いで肩口から、続くそれは今度は『主』の技。
ドンと跳ねるように弾かれ、がそれでもフラつきながらミューズが立ち上がろうとする。

「くっ、ま、まだ……」
「……でしょうね、だからこれで終わり!」

彼女はそれでも抵抗しようとし、がそこへ踏み込みと同時に咲夜の爪先が『三日月の軌跡』で振り上げられる。

ギュオンッ

「見よう見真似の……サマーソルト、はああっ!」
「ご、ふっ!?」

締めのそれは『悪友』の技、ズドンと鳴ってミューズが仰け反ったまま吹き飛んだ。
ミューズは一度フラつきそれから沈む。
天を見上げたまま力なく跪き、そしてゆっくり地へと傾く。

ドシャ

「ま、これが『経験の差』……私にはいい出会いが在った、アンタもそれを大事にすること……何か姉が出来てるのは釈然としないが」
「……だってさ、まあ私がそれに成ってあげてもいいよ、ギン子ちゃん?」

敗北者と成った少女にかけられた二人の言葉に、ミューズは押されたように黙りこむ。
そこへ滝壺と咲夜は偶然にも異口同音に言い放った。
(裏社会に生きるという意味で)ここでいっそ止めを刺し、諦めないなら何度でも相手するとばかりに。

『……外も知らない箱入りが世界に出るな、悪い遊び程度知って『個』を得て挑め(みなさい)!』

どの道それくらいでないと何も得られないと、それが無理なら最初から手間を掛けさせるなと(加えて荒らしに来るなら最低限の意思を持つのが礼儀でもあると)
それは本来なら錬金一族の当主として反論すべきもの、だけどここまで負ければ人並みの羞恥心を持つ彼女は何も言えない。
だから彼女は代わりにただ一言だけ。

「……やっぱ馬鹿姉は嫌い、けど滝壺のお姉さんの言葉は『考えとく』かな……」

ミューズの胸で渦巻く呆れと感服、ここまで翻弄されれば器云々(少なくとも個を持たない自身に関しては反論できず)認めるしか無い。
だからやっぱり姉には舌を出しつつ、だけどもう一人の姉には今は答えが出ないまま保留する。

『やれやれ、この……意地っ張り!』

咲夜と滝壺は異口同音にミューズに言ったのだった。



そうして戦いは終わって、だけどこの時複雑な思いの中にあるミューズは気づけなかった、忘れていた。
自分が『彼女』をどこまで追い詰めていたのかを。
敗北を認めた筈の彼女を新たな戦場に誘う『一因』を。



次章・第零部



『かんぱーい!』

カンっと杯が打ち合わされた。
(主に超能力者の伝手)貸し切りの部屋で勝利者と為った少女たちが互いを労った。

「……いやあ今回は疲れました、特にお嬢様に追い回された下りとか」
「ごめんごめん、悪かったって、咲夜」

銀のメイド、十六夜咲夜が恨めしげにワインをチビチビやって、その言葉にレミリアが多少居心地悪そうにする。
乱入時散々激昂していたが、流石に終わってから引き摺る気は無いらしく五百年超えの人外はペコと頭下げた。
それに咲夜は少し勿体振ったように腕与し『悩んだふり』してからゆっくり口を開く。

「……まあ特に怒ってる訳じゃないです、というかここを騒がさせたのも事実ですから」

はじめにちょっと勿体振ってから、それから咲夜も自身の否を認める。
が、そんなことを言いつつ、さり気なくも甘えるようにレミリアの背後に移ると、主である彼女をそっと腰の上に抱え込んだ。

「咲夜?」

ギュッ

優しく膝上の主を両手で抱いて、咲夜は少し寂しそうに笑った。

「身内の不始末で結構ストレス溜まってるというか……その、甘えさせてください」
「……全く面倒くさい子ねえ、結構従姉妹のことで気を揉んでいたかしら?」

照れたように咲夜は顔を赤くし、レミリアはクッと笑ってから体を従者に預ける。
ヤレヤレといった感じに笑う彼女に、咲夜は更に顔を赤くしたのだった。

「くく、可愛いやつ」
「……からかわないでくださいよう」

見上げるようにし笑う主に、咲夜はぷいと目を逸らした。

『……変な奴等、あんだけ喧嘩してたのに』
「うっさいわよ、霊夢にその他……紅魔館の流儀に口出すなっての」

その一連の会話に霊夢や涙子が苦笑し、対し恥ずかしがる咲夜の分もレミリアが払うように言う。
威嚇するように牙を剥く彼女に二人は慌てて別の方を向いた。

「……流石五百歳児、子供の姿なのに変なとこで迫力あるわ」
「あれは少し勝てそうにないですねえ……飲みましょ、大人しく」

引き攣った顔で主従から目を逸らし、今回の事件解決に走り回った巫女とその協力者は軽く乾杯する。

「ま、あれは放っとくとして……協力ありがとうね、涙子ちゃん」
「いえいえ私は少し手伝っただけ……お見事でした、霊夢さん」

カチンとこちらも杯を交わし、が褒め合う言葉もそこそこに顔を疲れたように嘆息する。
それは二人に問題が合ったわけでなく、背へと瘴気一杯の視線があったから。
視界の端で、『黒い帽子』が揺れた。

「何だよう、私も誘えよう……魅魔様居たなら尚更暴れかったぜ」
『おおっと……』

ドロドロとした何かを秘めた恨めしげな目に、霊夢達は顔を引き攣らせた。

「……いや、祭前で準備してるだろうし邪魔しちゃ悪いかなと」
「え、ええ、時期が悪かったというか……」

事後報告で師匠のことを軽い気持ちで言ったらこの有様だった。
勝機を纏った黒帽子、魔理沙の暗い目に二人は慌てて言い訳を重ねる。

「それでも酷いぜ……魅魔様ってば私が一人前になったからってどっかいっちゃたからさあ。
……時々しか会えないんだぜ、どこほっつき歩いてんだか探しても見つからないし」
「いや、流石にあれ程の実力者は人の世に長く留められないって」
「……というか、長居させるだけで私の霊力が飛んでくんで無理ですって」
「ぐ、ぬぬ、それでも会いたかったぜ……恨むぜ、二人共!」
『おおう……』

この言葉にそれでも魔理沙は文句言い(自分から会えず、祟り神の彼女を『氏神』に見立て『喚ぶ』のは数少ない機会だった)二人は困ったように笑うしか無かった。
チラと涙子は何とかしてと言いたげな視線を霊夢へとやった。

「……霊夢さん」
「む、むう……ええと、祭の時に一回呼ぶからそれで何とか……」
「ようし、約束だぜ、破ったら怒るからな!」

困ったように巫女が約束し、対し黒い魔法使いは何時もより子供らしく喜んだのだった。

「……は、はは、霊夢さんも大変だなあ」

苦笑気味に涙子がそっと離れ(見捨てられたとあっちで霊夢が固まった)やや風のあるテラスに出て洋酒の入った杯を傾ける。
向こうからの恨めしげな目を気にしないようにしつつ、彼女は飲み慣れない酒を新鮮な気持ちで吟味した。

「問題は有るけど……手伝ったんだし役得ってことで」

飲んべの彼女はそうやって一人酒を始め、心持ち冷たくなってきた夜風に体を晒す。

「うん、楽しませてもらいましょ、祭当日に響かない程度に。
……火種はまだまだありそうだし」

チビチビやりながら、そこで彼女は少し思案気な表情に成る。

「……流石に無関係じゃないよなあ、『前』と『その前』と」

どうも嫌な予感がする、消そうとしても懸念が浮かぶ。
今回学園都市に現れた錬金術士、それが少し前の天使絡みの事件から地続きではないかと。

ビュオオッ

その時『風』が吹いた、身を切るような物理的ではない不吉な風が。

「……ま、そうなるよねえ……祭は荒れそうだね、こりゃ」

ちらと涙子の目に時計が映る、丁度深夜十二時を周り、『9月19日』大覇星祭一日目を意味する表示に変わった。



「始まる、か」

『女』が槍をギュッと握った、『長い金髪に白磁の如き肌』『頭には古風な羽根帽子』『どことなく中世の歩兵的なシルエット』そんな奇妙な少女だった。
彼女は軽やかに地を蹴ると、夜めく科学の町並みを一瞬で抜け、そして高速道路脇の看板の上へ着地する。
直後彼女の視界の端に『偽装された護送車』が遠目にだが見えた。

「終わったと思ったかしら、ミューズ……楽にはさせない、私と貴女が始めたのだから」

ゾットするほど冷たい声音で言って、それから彼女はトンと偽装車の上部へ飛び乗る。
自分達の戦いを再開するために。

「……まだ終われない、最後まで付き合ってもらうわよ」

(ミューズにとっては自業自得だが)戦乙女ともう一人の最後の戦いが始まった。




・・・第六章『間違えた娘と場違いな人外共』(多分)来年開始・・・






ミューズさん負けて心折れかけてるのに『戦乙女道連れ中』、でこれで二個目の閑話も終了と(色々ぶっ込んだので長かった・・・)
あ、魅魔が時間停止の中動いてるのは『神』だからで、あれが効かないらしい輝夜とか永琳が殆ど神霊枠なのから繋げてます。
次からはやっと大覇星祭編、今までの集大成になります。
・・・学園都市に『十字架』持ち込もうとする『尼さん』はどうするかちょい悩み、三つ巴か呉越道中か・・・
・・・次の投稿は多分来年?あるいは年末にギリ一話かな。

以下コメント返信
AISA様
ミューズさんは正直相手が悪かった、だって滝壺さんは(作中屈指の)問題児の相棒だし・・・電波キャラだけに何しでかしても問題ないキャラとも言えるのもある。
・・・多分火というか松明消せば帰るので何か言わないと思う、尤もそれが理由で魔理沙がむくれてましたが。

九尾様
ええ、警告って見方では仰る通りかなり真面目です、同時に・・・その上で暗部として一線守るという部分は割りと一貫してます(当然滝壺以外のアイテムも・・・)
その上で微妙に見える甘さがアイテムの特徴と思うので結末はこんな感じ、順当といえば順当かな?

L様
いや本気ver四符はもうちょい派手、一応借りた神に負けない程度は・・・やはり旧作陣筆頭の魅魔様は出したかった、なので暴れてもらいました。



[41025] 第六話 祭りの夜に星は散る・一
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/09/10 11:30
『祭り』の始まりは盛大なものだった。

「……宣誓、スポーツマンシップに則り……」

ドオォォンッ

突如の爆音にポカン顔の金髪美女、『某常盤台二年生』がええっと固まる。
『暑苦しい鉢巻き男』の全校生徒代表と共に行う宣言、これだけなら何の問題もなかった。
が、『修行帰り』で早速宣誓役に選ばれた男は『修行時のテンション』を引きずったままだったのだ。
彼は文字通り大爆発、そのまま呆然と目の前で整列する各校生徒や大会スタッフたちを置き去りに。

「では、各校の健闘を祈って……フレッフレ『常盤台』、フレッフレ『長点上機』!」
『フレッフレ常盤台、フレッフレ長点上機!』

段取り放っぽって暴走し出した『暑苦しい鉢巻き男』に『桃色髪』『緑髪』、超能力者はどこからとも無く現れた体育帽にチア服の少女たちと共に大合唱。
即興で始まるたった三人の応援団に、宣誓役の片割れの金髪美女も大会スタッフも慌てふためく。
こんなの予定にないと、宣誓に戻れと必死で止めさせようとする。

「フレッフレ――高校、フレッフレ――高校!」
『フレッフレ――高校、フレッフレ――高校!』

が、鉢巻き男達は応援に必死でそれに気づかない、視線やハンドサインで合図するもそんなの見すらされない。
ならばと服を引いて気を引こうとするが、ブンブン三三七拍子する三人には振り払われる。
こうなれば実力行使、叫んででも中断しようとするも。

「―――っ!」
『フレッフレ――校!』

三人の叫びに虚しく掻き消された、寧ろこれは相手(修行テンションそのまま&目立ちたがり&それに対抗心持ち)が悪すぎたといえるが。

「……ひぐ、ぐすっ」
「うわあ……」

最早ガチの放送事故だった。
金髪の少女、超能力者が微妙に涙目になり始め、すると肩を慰めるように肩にポンと『二つの手』が。

「アードンマイ、相手が悪かった……体育祭なら熱血馬鹿にやらせようって『上』の考えが短絡的過ぎたなァ」
「ま、貴女は何も悪く無いわ、さっさと忘れなさい……行くわよ、鈴科君」

ダッと少女の横を『白』と『赤』、共にジャージ服の少年少女(後者の頭で『大きなリボン』が揺れた)が駆け出し暴走する超能力者に突撃を掛けた。

『いい加減にしろォ、馬鹿共!』
「ぐはああっ!?」

ドゴオオォッ

素手とお祓い棒の大振りアッパーが先頭で叫び踊る『脳筋(超能力者七位)』を十メートルばかし殴り飛ばす。

「……姉貴、残りは任せた、で……(面倒だから参加はしないが)代って宣誓!」

素早く流れを元通りに、ジャージの少年が応援団に牛耳られていたマイクを引っ掴む。
後ろで片割れ、同じくジャージの少女が超能力者の横で舞っていた二人の少女を追い払う間とばかり強引に話を進めていく。

「スポーツマンシップに則り、正々堂々勝負することを各校には……ああもう面倒、又その健闘を祈る、では解散ンッ!」

ポカンとする生徒一同(そして歓喜の表情になる少女やスタッフ)それ等の前で大分端折った宣誓が為されたのだった。
こうしてグダグダに祭が、『大覇星祭』が始まった。

『……超能力者も色々大変だなあ』と同情されながら。



(……ま、『茶番』で場は温まったかな?)

バンバンと鳴り響く花火、それに合わせ俄に活気だつ競技場に『声』が機械で拡大し広がっていく。

『あー、テステス……放送開始、司会は清く正しい射命ま、もとい押しかけ広報の『AS』でーす』
『同じく臨時アシ、謎の巫女『R』よ』
『……解説の一方通行(アクセラレータ)超能力者の参加も大人げねェから俺はこっちだ。
あァ後……さっき馬鹿やった第七位はスタッフに説教中、暫く平和だから安心しとけ』

三人は楽しそうだったり面倒そうにしながら好き勝手に発言していく。
尤も内容、特に七位には生徒は気になっていたようで皆注目だ、端っこで説教される姿にああと納得する(尚隣で『貴族風の少女』や『尼僧』が桃色髪達を説教中だった)

『さてさて、学園都市秋の祭典『大覇星祭』、遂に始まりましたね、お二方!』
『ええ、派手になりそうね、学生の能力行使はほぼ自由だもの』
『……最初の方の競技は徒競走辺り、能力の使い難いのからだがなァ』

ノリよく捲し立てる天狗と巫女に、少し面倒そうにしながら超能力者が相槌を打つ。
まあそれでも役目は熟すようで解説らしく説明していく。

『まァ、この場は各校能力を競わせ……全体の水準を上げてく狙いが有る、だから妨害とかの能力使用は寧ろ推奨。
……で、特に綱引きやら騎馬戦やらの団体戦、つまり乱戦になり易い競技は能力の妨害の効果も大きくなるンだが』
『……そういう競技の前に能力者の少ない、本来不利な普通の学校は前半競技でどれだけ稼げるか、ね』

意外にも真面目な解説の中、すると丁度それは起きて競技場がわあと湧いた
最初に始まった競技『徒競走』第一走で無名校が番狂わせを起こしたのだ。
『水色髪』の元気娘と『茶の短髪』無表情そうな少女が手を掲げゴールへ、堂々のワンツーフィニッシュである。
それはチームの要の(現在暗部活動中)アロハの少年不在を埋めるべく呼ばれた少女たち。

「……日々の悪戯で鍛えた逃げ足、見たかあっ!」
「こちらも軍事訓、専門的トレーニング済みですから……勝ちましたよ、上条先輩」
「よくやった、チルノちゃんにミサ、げふんっ後輩!」
『……てな具合に、どれだけ稼げるだな』

暗部仕事で抜けた土御門の穴埋めとして、(小萌の許可を得て)臨時参加組の活躍に第二走者の上条が喝采を送った。

「いいぞー、チルノにお姉さん……とうまも頑張れー!」

そして応援席、(本来の予定では三人揃って応援する予定だった)一人こちらに来たインデックスが二人分もと気合入れてチア服で跳ねる。

「よーし、このまま応援するぞ―……そっちも手伝ってね、暇そうなお二人さん?」
『……はーい(だぜ)』

加えて更に二人、同じくチア服の(魔道書情報で釣られた)金髪少女達が返事する。
頭に生き人形(凝り性なのかチア服)を乗せたアリスと、チア服こそ着てるが普段どおり黒帽子の魔理沙がボンボンをクルクル回しながら困ったような笑みを浮かべる。

「迂闊だったわ、ミニスカ慣れてないから結構恥ずかしい」
「見事に釣られちまったぜ……写真取られてないといいが」

最後に観客席で呑気に見る一人、ただ一人難を逃れた(魔道書には大分心惹かれたが)紫の髪の魔女が第三者顔で茶々を入れる。

「……ふふ、喘息理由に逃げてよかった……ほうら、もっとテンション上げなさいよー!」
『ずるっ、鬼と天人の時の暴れっぷりはどこに!?』

そんなパチュリーを恨めしげに見、だが既に逃げ時を失った二人は諦めたようでインデックスの左右でチアやるするしかない。
そして、インデックスはインデックスで(まあ友人の見せ場であるし)構わず応援を続けるのだった。

「……て訳で応援期待しててねー、みんなー」
『おーっ!』

綺麗どころ三人に応援されて、上条及び他の男性陣までも気合の叫びを上げた。

『……応援も見所かねェ?』
『そうね、各校も頑張って』

解説の三人は少しだけ外向きの顔を崩し笑った。

「……ぶー、応援ならこっちも負けないのに」
『こころ?』
「あ、はい、聞いてます、神子様、住職代理の一輪さんも」
「ぷー、言われてやんの……」
『こいしもな?』
「はい……」
「ま、反省することだ……屠自古、何じゃその目」
(……あっちは任せるか、解説に専念したいし)



「……スタートダッシュは良さそうね、あっち」
「……ですね、にしても第一位も付き合いの良い」

徒競走の行方や解説に何人かが面白そうに笑う、こちらは中等部の席で普段着の『茶の短髪』『黒の長髪』二人が笑い合う。
どちらも競技に不参加、籍こそ残っているが一足早く社会勉強名目で研究者やってる美琴、それと何かの拍子に異能を使うと問題だと見学する涙子だ。
二人は見学者ならではに呑気に歓談する。

「まあ、第七位が拘束されてライバルが減り……常盤台や長点の有名校、後能力者無しでも運動出来るのが揃ってる何校かが上に行くかしら」
「……粒揃いの常盤台辺りがまず行くとしても、暫くは団子状態でしょう」

そう呑気に予想しつつに観戦二人、因みに先程上げた常盤台は大覇星祭上位に常に来る大本命である。
中等部ながら文武両道の校風、能力者も多いので学園都市有数の優良校といえる。

「……中等部なのに期待し過ぎだと思うけど、実際長点上機には負けがちだし」
「御坂さんが参加すればいい勝負でしょうけど……」
「それは……黒子が『お姉様の分も』って頑張ってるから」

穴を埋めてやると気合入ってる後輩に遠慮しているらしく、また事実別会場で徒競走先頭を走る黒子に思わず美琴が笑う。

「やりましたわお姉様、ゴールですのー!」
「……てな感じで、私の出る幕は無いみたい」
「……はは、黒子さん凄い気合だ」

ガッツポーズのままゴールを駆け抜けた後輩に、美琴は健闘喜びつつ肩を竦めたのだった。
それに涙子も思わず楽しそうに笑い、が続く第二走者、そこの『ツインテールのどこかで見た顔』に笑みが引っ込む。

「うおお、山育ち舐めんなあ!」
「その意気ですの、(前の職業見学の縁で呼んだ)応援のはたてさん!」
「……おうい、何をしてんのさ同郷!?」

飛ぶように軽やかに走る『昔馴染み』(天狗としては運動は苦手な方だが)ジャージ姿のはたてが続いてトップを奪う様子に涙子の顔が引き攣った。
先輩の分も頑張ると言いつつも自身は割と手段選ばず、自分の伝手をフル活用なようらしかった。

「……え、ええと、参加者目線での取材ってことじゃない?」
「いや、そういうのも有るかもしれませんけど……ううむ、楽しんでるのが比重多そうなのがなあ」

後輩贔屓か美琴が何とかフォローしようとし、涙子は微妙に納得しかねたようにガクリとする。

「超能力者じゃないけど悪乗りな……」
「……まあ、『山』のものですから、節姫」
「……あー、それ納得しちゃうわ」

すると更にフォローしようと(寧ろなっていないが)白装束の少女の言葉、それに更に涙子は肩を落とした。
そんな様に苦笑し、その後白装束の長身の、白狼天狗の椛が少女二人の手を引いて寄ってきた。

「連れて来ましたよ、打ち止めちゃんにフレメアちゃん」
『わーい!』
「あ、迎えありがとね、椛さん、それと……」

更に椛の後ろに数人、それに妹とその友達を迎えた美琴が笑い掛ける。
まずは霧が丘制服の少女、椛と同じく友人である人工天使の少女だ。

「はあい、氷華さん……一緒に来たんだ?」
「ええ、着いてきちゃいました……友達も一緒に」

続いて金髪にリボンの少女、屋台ものらしき串を齧るルーミアがペコと頭を下げる。

「……やっほ、氷華と仲良くしてくれてありがとねー」
「いえいえ、こちらも助けられて……」
「くす、御坂さんも大分馴染んでまあ」

そんな風に和気藹々と話す一同に、涙子が微笑ましそうにし、すると『ツナギ服の女』が声を掛けてきた。
『何か』を指折り数えつつ河童の少女がからかうように言う。

「大人びた、てか年寄りめいたことを……『幾つ』だっけか、なあ節姫」
「……おおっと、それ以上言えば戦争だかんな、にとちゃん!」
「ちょ、暴れると目立つから止めよう!?」

ケラケラ笑うにとりに、静かに怒る涙子、そして二人の共通の友人である椛は慌てながら止めようとする。

「……おー、誰が勝つか賭けるかー?」
『いや止めましょうよ』
「じゃ、超電磁砲の余波当てて『止めて!?』、あ止まった」
「流石我等がお姉さま、つよーい!」
「にゃー、みんな濃いなあ」

こちらもまた競技会場や解説席に負けず劣らず、中々混沌とした光景だった。



そういった光景を、苦々しい表情で見ていた者が居た。

『……あれが、この街の……』

帽子を目深に、また学園都市で目立たない程度の格好をした二人が観客席を言葉少なに歩く。
一見ただの客、だが違うのは暫し見学後直ぐに外を目指したこと。

「あれが……これから私が壊す光景なのね、ミューズ」
「……ブリュンヒルド様」
「……はは、我が野望のなんと醜きことか、女神等とよく言える……」

自嘲したように笑い、だけど彼女はそれでも野望でギラギラと燃える目で煩く騒ぐ学園都市を見渡す。

「すまない、人々よ……貴方達には罪はない、だがそれでも私は……」

罪悪感をその旨に抱き、だが彼女はそれでも歩みを止めようとしない。
態々今から攻める街を見たのは自分を追い込むため、彼女には自分のこと以上に優先する相手がいた。

「私は……ここを奪うわ、ここにある者全てで神の道へと、そして『彼』を……さあ待たせている各組織と合流しましょう、ミューズ」
「……はっ、ブリュンヒルド様」

戦女神は止まらないと宣言し、それにもう一人の女神の名を持つ少女も頷く。
様々な葛藤を内心しでながら。

(共に行くしかない、派閥の長という立場がこの身を縛って……『姉』達の忠告を聞くべきだった、いや手遅れか)



『……アレイスターの好きにはさせない……』

科学の都『学園都市』、その技術力影響力から最早大国すらも無視できない極東の都市、がその分『影』も濃い。

『……魔道を捨て、科学に諂う者等断じて認めない』

例えば裏の世界、所謂魔術師と言われる者の中で特に過激な者達、彼等は学園都市の頂点に立つ『男』を敵視していた。
更に言えば(悪質なことに)一定以上に評価した上で価値を見出す者等も居た。

『だが、認めはしないが貴重では有る……我等の前から消えた男、その財貨を再利用して何の問題が有ろうか』

世界中の魔術師から恨まれる男の、その様々な過去の収集物に研究成果(あるいは現在進行形かもしれないが)それ等を求める強欲な者達もまた存在する。
例えば『北欧五大勢力を統合した主神を目指す女性』。

『……私は絶対にあの子を救うんだ、踏み台になって貰うわ、学園都市』

あるいは『昔の姉と今の姉に負けて心折れてる少女』。

『あ、これ逃げらんない、お姉さん達手加減してくれないかなー』

思いも様々に物語は動き出した。

『毛色の違う乱入者』もそこに含めた上で。

『……ま、私は他に負けないよう……派手にやる、それだけだぜっ!』



第六話 祭りの夜に星は散る・一



『大覇星祭』、それは学園都市において内外ある意味最も注目される計七日間の祭りである。
本来は全校規模の大運動会、特に各校の能力者を競い合わせる催しであるがそれは『表の話』。
生徒関係者やスポンサー、一般客までも自由に受け入れることから運動会と一言で言うには(参加者の財布を緩ませに掛る涙ぐましい努力も有り)大規模すぎる祭となる。
が、学園都市という特異な場ならではの『裏の事情』も在った。



遠くでバンバンと花火が響き、黒髪ポニーテールの少女が小さく笑った。

「……ふふっ、全く賑やかなこと」
「ええ、確かに」

隣を歩くショートカットの少女も頷く、『魔術師達』は道沿いで商品を並べ出した露天を冷やかしつつ学園都市を進んでいく。
立場が上らしいポニーテールの方が少し気の早いことを言う。

「一段落したら……インデックスを誘って回ってみたいですね」
「お熱いことですね、神裂様(……今のリーダーは外でバックアップ、で前線の私で緊張するなあ)」

そんな神裂の、嘗ての指導者の言葉にもう一人の短髪、天草式の五和が苦笑した。

「……まあ、普段会えないので勘弁を……祭が滅茶苦茶になる前に解決したいところですが」
「……ですね、とはいえ『彼女』とて本気でしょうが」
「ええ、北欧五派閥とて三大宗教を脅かす程ではない、その勢力差を『ここ』に求めてる以上簡単には諦めないでしょうね」

精々地方で目立つ程度の一組織、本来なら無視して構わない筈のそれが放っとけない理由だった。
もし学園都市の研究成果を奪われれば一気に勢力図が書き換わるだろう。
それは何としてでも阻止する必要がある、『他の勢力』と組んででも。

「……着きましたよ、五和、現地の……ローマ正教の教会」

暫くして祭で賑わう人通りを超えて目的地に、本来なら敵地と言えるそこに辿り着く。
彼女達は僅かに緊張した表情で見た後、同時に扉を開いた。

「ようこそ、イギリス清教のお二方……歓迎しますわ」
『……宜しく、シスター・オルソラ』

柔和そうなシスター、(前回の件で面識があると仲介役に選ばれた)オルソラが神裂と五和を迎えた。
彼女は奥を、そこに集まる男女をチラと見てから中を示す。

「学園都市から『グループ』の土御門様、『アイテム』の滝壺様……そしてローマから『ヴェント様の名代という方々』が既においでです」
「……総力戦になりそうですね、これは」
「……はい、全力を尽くしましょう、神裂様」

既に話し合いを始めている面子に、二人も頷きそこに向かう。
この地で暗躍する北欧の刺客に対処するために。

「私も一応立会いましょう、ここは……あー、一般の来客等は任せて宜しいですか、番外個体様、小悪魔様?」
「……任せな、手伝うのも居るし」
「はーい、(ミサカちゃんへの好感度稼ぎで)頑張りまーす」

そしてオルソラ自身もそこに向かい、その後を茶髪の某末っ子(と手伝いに押しかけた『赤髪』)が手を振った。
暫し苦笑しながら手を振り、その後教会内で寛ぐ『青』と『金』と『銀』の髪、それに『金と紫の髪が入り交じった二人』をチラと見る。

「……で、良いよね、客人方も?」
「ふむ、まあ……まあ了解した、悪魔といえど大人しくするさ、ただ……」
『ただ?』
「……祭の屋台を冷やかすついでに、こちらから『鼠』を探すのも面白いか?」
「だね、こっちで調べて……よし、一緒に行きましょ、お姉様!」
「私は前回の二の舞いは怖いので残りましょう……ミューズは居場所が知れないし、暫くは現地人に期待ということで」
「あ、咲夜残りか、ならここはフランとだけで……聖は念の為にミーシャについてて、じゃ行ってくるから!」
『……ここだけ呑気だなあ(ですねえ)』

好き勝手言う悪魔たち、教会を一足先に出る姉妹と代りに残るその従者、そんなマイペースな連中に古の尼僧と天使が笑った。



『あーテステス、徒競走の次のプログラムは……』

幾つかの競技が終わり、学生たちが喜んだり悔しがったり様々な中再びの放送が流れた。

『……えーと、パン食い競走、とのことですが』
『あ、これも定番ね……少し『動き』が出てくるかしら?』
『そうなるなァ、そろそろ足以外の要素が必要に成るがさて?』

スタッフが程よく高く紐に袋色の菓子パンを括りつけ、わかり易くもただ走るだけじゃない競技が準備されていく。
するど、観客席で数人がガタリと突如立ち上がった。

ガタッ

「……はっ、パンが私を呼んでるんだよ!」
『大人しくしてなさい、インデックス』

チア服から体操着に着替えようとした腹ペコシスターを魔女たちが素早く引き止める。

ガタッ

「祭なんだしー、ここは飛び入り参加でも……」
『ルーミア、ステイ!』

客席から競技会場に乱入しようとした暴食妖怪を人口天使と超能力者が左右から押さえる。
食欲に釣られかけた部外者二人に、競技席の上条やチルノ等達が苦笑する。

「……止める人がいて助かったな」
「そだね、他の走者の分まで食われかねないし」
「彼女達の場合、それも冗談じゃないですから……」
「ふふっ、おかしな方たち……ギャグじゃありませんよ、はっでも皆食べてしまえばもしやトップ確実ですの!?
よし、ここはお姉様に確実な勝利を捧ぐべく……」
『正気に戻れ、白井(さん)!?』

尚血迷いかけたのがいて、上条にチルノにミサカ、そしてはたてが慌てて押さえ込んだのだった。

「あの子、一体どこまで行くのかな」
「……御坂さん関連の病気、相変わらずですねえ」
「……言わないで、後輩の将来とか心配になるから」

そして客席からその様子を見ていた美琴が肩を落とし、周囲の友人たちがポンと肩に手をやって慰めた。
青春何だかそうでないのだか、微妙な一幕だった。



『さあ各者一斉にスタート……おおっと、徒競走トップ通過の『青髪』の少女ですが』
『……あっ見上げたまま止まった、身長微妙に足りてねェぞあれ』

ラジオから盛大な活気、そしてテンション正反対な放送が流れ、微妙に微笑ましそうな光景が伝えられてくる。

『ピョンと一跳びが駄目、ならばもう一度、が駄目っ!これはまさか……
涙目美少女を見ようとするスタッフの悪辣な罠か!?』
『……いや風評被害も甚だしい、台用意した連中が事故だとブンブン首振ってるが』

が、それで湧いてるだけじゃ退屈とばかり謎の飛び火、マスコミの偏向報道がスタッフを襲った。
微笑ましそうな空気に加え生ぬるいものも混じり、一部を除き競技の反応は盛況のようだ。

『……おっと、都合四回目の必死のジャンプでキャッチ、先行を追います!』
『これはキツイかしら、足は上でも……あータッチの差ね、で今ゴールと』
『判定はァ、と……微妙に届かず、二位、健闘賞だな』

向うでパチパチと、身長差に悔しがる少女に拍手が送られた。
フッとラジオを聞いていた土御門や神裂、オルソラ等の『青髪の少女』を知る者達が微笑んだ。

「あー、惜しかったニャ……悪いな、再開するぞ」
「ええ、頑張ったけど……さて、仕事に集中せねば」
「……ふふ楽しそう、っとどこまで話しましたか」

彼等は慌ててハッと仕事に戻り、少し笑った後然程関係の深くない者達が話題を戻す。

「昨夜のミューズ奪還の報告まで……彼女とそれを助けた人の足取りはまだ、相手の動き待ちかな」
「……正直人が多すぎます、無難にローラー掛けてくしか無いと」

残念そうな暗部少女、折角捉えたのに行方知れずな妹に頬膨らます滝壺と、祭で湧く学園都市に戸惑うシスターが言った。
後半答えた大人っぽい顔立ちのシスター、名代を任されたアニェーゼ部隊副官のアンジェレネが困り顔になる。

「……隊長等は既に外で見張ってますが、それもどこまでやれるか」
「もし見つかっても『紛れられたら』厳しいからなあ……つっても、まだ序盤だし疲れない程度にニャ」

賑わう外に辟易した彼女の愚痴に、ここも長い土御門が正直同感とばかり面倒くさそうに頷いた。
そこでふと真面目な顔になって、彼は探るような目つきで問いかける。

「……一応確認するが連携する気は有るんだよな?」
「まあ、前回迷惑かけた以上はある程度『譲る』つもりです、隊長やヴェント様からもそう……」
「ならばいい、こちらも何か情報が来れば渡す、その共有だけでも幾らか楽にはなるニャ」
「うん、情報が来たらここで一旦纏めよう……浜面や絹旗、フレンダも走り回ってるからね」

土御門や滝壺は相手の答えの満足気にし、するとその後アニェーゼが更に付け加える。

「ああ、そうそう、ヴェント様ですが……何でも追加要員と合流するとか」
「ふうん、追加要員か……」

上司の動向を思い出したように言った。

「ブリュンヒルド対策に……何でも『対聖人』、そういう礼装に通じた方を迎えに行くとか」
「……ほお、それは頼りになりそうですね」

彼等はこの時それが意味することに気づかなかった。
そんな『都合のいい礼装』等存在しないと、『他組織への牽制に半ばヤケで見せつけていて』がそこに他組織から期待を向けられ後戻りできなくなってるのが真実だと。
それ等が隠し通せなくなるのは(そして無駄足にヴェントが切れるのは)そう遠くない瞬間だった。



「……さて、シスター・リヴィ、何だったか、まあ礼装はまだかねえ?」

空港で黄のシスター、ヴェントが待ち合わせを、敵対勢力の大将格へのメタ礼装を持ってくる仲間をまだかまだかと探す。
それが手中に有ればこの後大分楽になると。

(……どうしよう、今更言い出せないんですが)

その頃真っ青な顔で、『自勢力を大きく見せようとした上層部の不始末』に少女がロビー影で体育座りで泣いていた。



「うおおおっ!」
「行きます!」
「頑張れー、とうま、ミサカお姉さん!」

そんな頃会場、競技の方も進み、今は氷精の分の点を取り返すべく上条等が全力で走っていた。
やる気に加え身長のハンデはない、(主に夏休み等)色々な経験し場馴れした二人は危なげなく勝利し、それにさっきまで悔しそうな顔だったチルノが笑い走ってきた。

「ナイス、二人共……ありがとね、ちょっと凹みそうだった」
「切り替え切り替え、次だよ」
「ええ、取り返しましょう、チルノ」

そして二人分の視線が、年上の少年たちを羨ましそうに見ていた。
客席で特にちっこい二人組がどこか目を輝かせる。

「青春、っていうのかな、あれも……」
「にゃあ、何か良いよねああいいの」

打ち止めとフレメア、まだまだ子供の二人は(大人程ではないが)ずっと先にいる者達を見て話していた。
ああいう風にするの良いなと思いながら、二人は振り付け表、小等部の共同お遊戯(流石にその歳で競わせるのは躊躇わせるのだ)の段取りを確認していく。
この辺なら大人の確認も甘く紛れられると、折角のチャンスだと誘われたのだ。

「最初のステップこうで……」「にゃあ、違うって、それ二番目……」「おっと……」
(あらあら、可愛い子たち……)

一生懸命予習する二人に、見ていた美琴や涙子、氷華が楽しげに微笑んだ。

「……頑張ってるわね、写真の用意しなきゃ」
「そうですねえ、あんなにはしゃいで……射命丸に借りてこようかな」
「ふふっ、本当に楽しそう……私も自由参加の競技、出ようかなあ」
「あ、それ良い、点数に関わらないのなら……」

微笑ましい光景に彼女らもニコニコ笑い、先のことをいろいろ考えるのだった。

「ひゅい、祭かあ……椛も何か出たらどうだい」
「ふうむ、偶には良いか……組んで出るのに、氷華さん誘ってみますかね」
「……ルーミアは?」
「むー、アンパン、美味しそう……」
『まだ言うか、宵闇の……』

そして三人を見ていた妖怪達(一人を除き)は微笑み、残る一人は口淋しげにガチガチと歯を鳴らした。

「……ははっ、ちょっとルーミアさん見てきます」
「氷華さんも大変ねえ……この後の競技はなんだっけ」
「確か……障害物競走、ですね」

慌てて腹ペコ少女の世話をしに氷華が飛んでって、それ見送って二人がペラペラ栞をめくり出す。
すると、丁度解説席がその説明に入った。

『さあて、パン食い競走も終わりに差し掛かり……次は障害物競走!』
『ネットにハードル、平均台と……地味ね、『火薬』無いかしら(ボソ)』
「……おい、止めろ」

ここで、物言いが無難な競技内容に入った。

『良いですえ、爆破……素晴らしいっ、沢山罠を仕掛けましょう!』
『ついでに左右に電流でも流すのもいいわ、逃げられないように』
「……待って、流石に待とうこれ唯の運動会だから!?」

どうしようもない発言が向うで飛び出し、競技参加予定の者達の表情がドンドン青くなる。
危ないことを言い出した二人は諦め、残る一方通行に縋るような希望の視線が集まった。

『……おいおい止めとけよ、怪我人出す訳にも行かねェし』
「良いぞっ」「よく言った、超能力者!」
『第一そういうのは……後半の大規模競技にやるもンだろ、そンでその分徹底的にだ、後ろから説教部屋の第七位をその時だけ出して追わせるとか……』
「止めろオッ!?」

止めたが理由が違った、再び参加者の悲鳴が上がった、というか華といえる大規模競技の分悲鳴は大きかった。

「解説席が一番の敵ね」
「……巫女に天狗、それに超能力者ですから」
「……同じ超能力者が並んでるのが悲しいわ」

思わずジト目で美琴が、第三位の超能力者が何か企んでいる第一位に頭を抱えた。

「ま、まあ、あれも多分……楽しんでるでしょう、何せ『ただで終わる』筈もないんだし」
「……そうね、妙な連中まだ捕まってないんでしょ」
「……らしいですね、流石に中止はせずでも日程変更は有り得そうだし」

大覇星祭程の祭を中止とするのは難しだろうが、緊急避難や日程繰り上げは充分考えられる。
今巫山戯ている一方通行達も『耳の届きやすい解説席』に居る理由はそれであり、何か有れば直ぐ動けるよう耳を広げているのだ。

「……あっちが外を気にしてくれてるなら」
「ええ、前回狙われた『あの子』に着いていましょう」
「うん、フレンダさんも心配だろうから……」

少しだけ解説共を諦めつつ認めた後、美琴と涙子と氷華は向うで燥ぐフレメアと打ち止めを優しく見た。
涙子はフッと笑い、その後手をぐっと握り合わせてから開いた。

「なら付き人を……来い、毛玉」

ポンッ

「フレメアちゃん、あの時の子貸してあげる」
「にゃっ、ありがとー」

煙が吹いたと思うと、そこから真っ白いフサフサの球体が飛び出し、フレメアの頭に乗っかる。
そうやって念の為のお守りをやって、その後涙子は腕を回し体をほぐしていく。

「さあて、眷属を残しとくので……私も『青春』してきます」
「……というと?」
「……同じ中等部の星『常盤台』の応援でも!」

バッと彼女はその身に『派手な色のハッピ』、いつの間にか侍るよう寄り添う水の蛇に用意させていたそれを纏い立ち上がった。

「……応援合戦、でも男もの?」
「いや、私の体型じゃチア服きつくて」
「ギリイッ」
「は、はは、じゃあ後で……」

(跳ねると色々危うい)体型を覆い隠すようにし、その後歯噛みする美琴から離れつつ応援合戦に飛び込んでいく。

「……ついでに来い、白狼天狗!」
「わふっ!?」
「あーんど……説教も十分でしょう、トリオで行こうか、こころ!」
「はあいっ、行く行くう!」

白い尻尾を撫でて身を竦めた瞬間その手を引いて、更に向うで半ば涙目のこころを誘う。
強引に二人連れて応援席へ、そして特に目立つ『銀』と『金』を指差した。

「ふっ、視線独占めはさせん……勝負!」
「しょーぶっ!」
「し、勝負(ここまで来れば逃げれんか……)」
「……来るなら来おい、私達が相手するんだよ!」
(何をどうすれば決着か、全然わからないんだけど……)

巻き込まれ逃げれない魔法使いを他所に、中等部高等部の代表かのように少女等は軽やかに跳ねるのだった。

「……ちっ、逃げたか、こころ」
「まあまあ、この辺にしておきましょう、太子様」

これにより説教相手を失った神子が微妙に不満気にし、宥めるように布都と屠自古が止める。
クスリと意外と要領いい(今は向うで舞う少女に)同席してたこいしと一輪が口の端を緩める。

「相変わらず楽しそうに踊ってら、あいつ……そもそもそれが存在理由だったっけ」
「ま、これもいい経験か、姐さんにも頼まれてるし……今回は見逃してあげるわ」

そう言い呆れつつも踊り狂うこころに、こいし達は苦笑とともに手を振ってやるのだった。

「……ひゅい、でどうする、盟友?」
「……今回ばかりは逃げるぜ、今のうちに」

そして今回の涙子らの乱入の隙に、さっさと離れた魔理沙(フットワークの差でアリスは逃げ遅れた)がにとりと合流し話し合う。
呑気に他人事に、二人は外を意味深に見やった。

「……にとり、最近の騒ぎをどう思う?」
「目立ちたがり屋は疎まれる、ってことだろ……この街も、『利用しようとする誰か』も」

二人はニッと笑い、その後頷き合うと会場外へ。

『……派手にやろう、祭なんだし』

ニッと攻撃的な笑みで歩き出す。



そして『最後の祭の参加者』もまた。
ニヤリと金髪の少女が邪悪に笑った。

「はっ、楽しそうなもんだ、けどなあ派手に荒れる方が……最高に面白い、そう思うぜ!」

そう言うと何かに見せつけるように、少女は手を掲げ合図を出す。
すると突然その背後に人影、『学生服のオカッパ少女』が現れ腕を突き出す。

「……やれ、『花子』」

コクと頷き、直後ズドンと爆音が鳴った。
パリンパリンと一帯の監視カメラ等の防犯機器が『何の脈絡もなく突然に』破壊される。
目に見える弾幕も何かしらの兆候も全く無しに。

「ご苦労、にしてもいいなその……謎判定弾幕、次も頑張ってくれよ」

何かも撃ってないのに起きた破壊に、それを命じた少女は大いに満足気だ。
その後それをした少女以外、残りの『異形』に声をかける。

「……花子以外の、お前らにも期待しているぜ、前回の天使騒ぎで散った『力』……それに刺激され目覚めた怪異共。
『恐怖』『太古』『極速』『番町』『驚愕』『本怖』『戦慄』……古きオカルト共!」

勢揃いした『六つの影』に満足そうに笑い、そこでふと首を傾げた。

「……太古、ネッシーが居ないぜ?どうした?」

予め下見に、地下を通る水道に向かわせたオカルト中最大存在の不在に彼女はおやと首を傾げる。

ズドンッ
ドゴオオッ

直後向うずっと先、『太古』を『先に派遣した方向』から、轟音と共に地下から『水柱』『閃光』が勢い良く立ち昇る。
それ等に揉みくちゃにされながら舞い上がる巨大な異形もまた。

「……はっ?」

僅かに見えた件のオカルトに、少女がポカンとした顔をした。



発明品(爆発物)と八卦炉を手に二人は笑っていた。

「甘いよ、そんなデカイなりで水辺通るなんて……私が見逃すと思ったかい?水妖はその辺鋭いんだよ?」
「はは、ドンピシャだぜ……祭の人に紛れるのにも限度がある、『上』か『下』、どちらかに反応が有るってな」

そう思って網を張っていれば狙い通りで、彼女たちは早速ちょっかいを掛けに来たのだ。
一足先に暴れて、自分達だけで無理なら初めて情報手土産に佐天等を頼る、その程度には学生の彼女たちを思う『気を使う』気はあるようだ。

「にとり、そんじゃまあ……」
「ああ、祭なんだし派手に……」
『行くぜ(行こうか)!』

ズドンッ

まず祭は地下で、科学の街の地の底で始まった。




花子といえばやはりこれ、謎弾幕謎判定・・・えー申し訳ございません、展開が一部というか大分変わりました・・・
並べると『スカーレット姉妹が先行で探索へ』『某礼装に関して云々』『寺から一輪さん参戦』『オカルト連中の面子が一部変更』等です。
特に後半のオカルト関係、正直某妖怪の賢者を横に当初予定してた『隙間女』は無理あったというか・・・
とりあえず『神秘録で組む者』同士合わせたいので一輪追加、VS花子さん(別ゲームのバグ仕様)率いる七不思議みたいな?

以下コメント返信
アカマ様
いやあ本当にその通りで、まあ先に負けて反省中の部分がブリュンヒルド関係のイベントで生きてくるから悪いことだけじゃない筈。

九尾様
正直相手が悪いに尽きる、何せこのSS最大の問題児の相棒・・・そりゃ腹黒くもなります、最初に会って即逃げるのが正解という(又設定的この位しないと更生しないと)


返信その二(改訂版の方です)
AISA様
こんな面子の運動会が普通に終わるわけないです、そして勿論解説席の連中も許す筈もなく・・・悪夢の始まりです、まだ準備中ですけど。

九尾様
というより『何か有ればアレイスターが悪い』という黒幕脳?ゴルゴムの仕業的な?・・・単にアレイスターの今までの行動がどれだけ魔術師に嫌がられていたかという。
でそこに追い詰められていた女神が食いついたと・・・この辺感想で言われた世間知れず部分、軟禁生活が長かったらしいので十分あり得るかなと。



[41025] 第六話 祭りの夜に星は散る・二
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/01/22 16:02
ガバアと、『それ』は見事な『土下座』だった。
ヴェントは行き成りのその光景にポカンとする。

「あー、シスター・リドヴィア、どういうつもり?」

聖人殺し、そんな物騒な霊装を運んできた女の謎の行動に、彼女はおもわず首を傾げる。
が、次の言葉に彼女は固まった。

「……いんです」
「はあ?」
「……聖人殺しの霊装なんて無いんです!」
「……はああ!?」

思わず叫ぶ、どういうことだと相手に詰め寄れば、帰ってきたのは胡散臭い計画だった。

「……私の持ってきた礼装、刺突杭剣ですが……これ、実は『十字架』を剣に見立て偽装した代物なんです」
「……すまん、意味分かんない」
「ええと、そういう武器が有るからローマ正教に敵対するな、外部にそう見せつけてるだけでして……
つまり要は敵対組織に居るだろう聖人を牽制するそういう情報工作というか」

この言葉に、ピシとヴェントが固まった、そしてフルと震え顔を激情で真赤にする。

「巫山戯んなよ、上層部!」
「……さ、更に言えば『傭兵』である聖人アックア様への裏切り対策もあるかと」
「……もう死ねよ、上層部っ!?」

がああと叫んだ、叫びつつローマの方角に有りったけ呪いの意思を向ける。
怒り狂ったヴェントはそちらに中指立てた後、自棄気味に霊装を抱えるリドヴィアを首根っこ持って引いた。

「ああもう、知るか、このまま学園都市行くぞ……実際効果無かろうが『ハッタリ』にはなんだろ!」
「ひいっ、それバレたら首飛びません!?ヤケになってませんか!?」
「……五月蝿え、無いよりマシ、せめてブリュンヒルデを牽制してやる……バレたら上層部も道連れだ、だから諦めて一緒に来やがれ!」

ズルズルと喚くシスター引き摺って、全部終わったらクーデター起こしてやろうかと思いながら学園都市へと歩き出した。



祭りの夜に星は散る・二



ズドンズドンズドン

「うーん、こりゃあ少し不味いぜ」

遠くで何度も爆音が鳴って、それに『水兵服』の少女が望遠鏡覗き込みつつ眉根を寄せる。
小山ほども有る巨大水棲爬虫類が『黒と水色の二人組』に追い回されているのだ。

「……派手にやってくれるぜ、ここで削られるとちと不味いんだがなあ」

ヒットアンドアウェイで着実にダメージを受ける水棲爬虫類に、水兵服の少女はうーむと腕を組みし唸る。

「……太古、ネッシーの奴はオカルト中でも最重量級、温存したいとこなんだが」

七つのオカルト、その中でも『八尺様』と並ぶ肉弾戦要員の双璧で、それが削られるのは彼女からすればかなり宜しくない事態である。

「しかたないか、オカルトのどれかを応援に……他はこの街の牽制として、『誰』が良いかねえ?」

ちゆりは素早く戦力を計算、出た結論は少数を先行させること。
まずは選んだオカルト一名を向うに、それを除いて散開し街中を混乱させることにした。

「さて、そうとなれば……『こいつ』だな」

チラと、オカルトの先頭『学生服のオカッパ少女』を見た。



眼下には巨大な獣、全身頑強そうな鱗に包まれたそれに対し二人の少女は物怖じせず笑った。

「そんじゃまあ……」
「ああ、祭なんだし派手に……」
『行くぜ(行こうか)!』

ズドンッ

まずは爆撃、着弾と同時に弾ける光弾と高圧縮水流が下水道に伏せる『太古』の体を強かに打った。
グラグラと芯まで響く衝撃に一瞬反射的に身を屈めて耐え、が防御態勢こそが向うの狙いだった。

「ま、耐えるだろうね、だけど……」
「そうさせてからが……本番だぜ!」

二人は素早く急降下、太古が防御に気を取られた瞬間追撃に出る。
直前の爆破で押し退けられた水、その空白地帯に一瞬で飛び込みミニ八卦炉とお手製バズーカ(水流)を突き付ける。

ジャキンッ

「……っ!?」
「遅いよ、河童の科学力を見ろ!」
「喰らえっ、マスタースパーク!」

カッと八卦炉が唸り、そしてボンッと圧縮水流が弾け、『上向き』に太古の巨躯を押し上げる。

ドゴオオッ

「っっ!!?」
「……そんでもって追撃だぜ!」

地下水道を、そして天井を打ち抜いて太古が空を舞い、すかさず魔理沙が箒に飛び乗り追いかける。
一瞬で横並びになり、ホームグラウンドから追い出された太古へと再度砲撃体勢に。

「もういっちょ行くぜ、さあ覚悟……」

ジャキンッ

ゼロ距離で押し付けられたミニ八卦炉が古代恐竜(ネッシー)の胴部に、血の代わりに『光の溢れ出す傷』に押し付けられる。

「ナリは妙だが『霊』か……なら、手加減は要らねえな」
「……っ!」

ボワと八卦炉を中心に光が膨れ上がり、だがその瞬間太古が体を揺らす。
シュルリと細長い、靭やかな尾が魔理沙の利き腕に巻き付く。

「おわ、っと!?」

絡まった尾が力づくで射線をずらし、直後砲火が頭上へと空打ちさせられる。

「生意気な、チャージが無駄に……いやそれより、来るか!」
「……っっ!」

尾の次は鎌首が、大口開けたそれが魔理沙を狙って放たれる。
彼女は反射的に、砲の為に構えていたのとは逆の手を翳す。

グワアアアッ

「……させるかよ、マジックミサイル!」

自身を噛み砕こうとする大顎に、魔理沙はカウンターの弾幕を打ち込んだ。

ガンッ

「ッ!?」
「まだ、次っ……にとり、合わせろよ」
「……あいよっ、盟友」

口中を焼かれて竜の頭が仰け反って、その瞬間魔理沙が二度目の弾幕を、そして隣でステルス解除したにとりが発明品を握る。

「ふふっ、囮ご苦労……菊一文字コンプレッサー!」
「……次はそっちが行けよ、ドラゴンメテオ!」

ドゴオオッ

鋭く収束させた水の刃を竜の頭部が、続いて光の雨が竜の胴を強かに撃った。
ブワと激しく煙が舞って、その中でズズンと巨躯が傾いたのがわかった。

ギィアアアアッッ

「さて、ダメージは……っと」

煙の中を伺うように魔理沙が覗き込み、その後ハッとした顔で慌てて体を引く。
するとブウンと鉄塊、『尾』で跳ね上げられたらしきそれが一瞬前まで居たところを抜けていった。

「おおっと、荒っぽい……」
「……ひゅい、メンドイ、向うはまだやる気っぽい」
「……にとり、行くぜ、準備しとけ」

真下を見れば再び竜が水の中に、砲撃で空いたそれに飛び込み建築物の破片を掴んだところで。
それを見た魔理沙とにとりは一瞬顔を見合わせた後ニヤと笑う。

「……真正面から行くぜ!」
「ゴーゴー、盟友!」

ゴウッ

太古のオカルトの巨躯に、無鉄砲に見えるほどの突進、魔理沙は箒に捕まったにとりと共に急降下をしかける。
ブンと放たれた二度目の投射をヨーヨー(小さく弧を描く軌道)で躱し、直後激突寸前で彼女は反転した。

「行け、にとり!」

ダンッ

その箒から、反転間際にバール片手に飛び降りたにとりを残して。

「ガッ!?」
「ようしっ、河童の膂力を見せてやる!」

ガギィンッ

ニヤリと笑って、河童少女が巨大な怪異に殴り掛かった。



ワアアッ

「……中等部の意地を見よ!」

湧き上がる競技場で、学ランに着替えた涙子とチア服の椛が跳んだ。
先に土台、そこで組体操構築済みの常盤台学生の肩を足場とする、少しルール違反の気もするが常盤台は中等部のアイドルでも有るのでその辺無視し一気に駆ける。
真下から順に駆け上がり、最上段へと出たところで高々と一回転。

ジャララッ

高く飛んで、その後彼女は真下に鎖を伸ばす、そこへ走ってくる『桃色髪の無表情少女』に呼びかけながら。

『こころっ!』
「うんっ!」

後転の体勢のまま涙子と椛が鎖を同時に引いて、すると空中のこころが勢い良く真上へ打ち上げられる。
彼女は一気に最上段の更に上へ、そして涙子と椛はそれまで最上段の位置で腕を組み、そこへこころが足から降りる。

バッ

「やあっ!」

涙子達の保持した腕の上で片足立ちに、ビシと絶妙なバランス感覚を客に魅せつけた。

『決まった、どうだあ!』

ワアアアアアッ

(応援限定だが)無名高校の独走態勢、それに待ったをかけた涙子たちに競技会場が沸いた。
動から静に、抜群の跳躍力を見せた涙子とそこで決めポーズを取るこころに客たちは大喝采だ。

「……ふっ、中等部の意地を見たか!」
「うう、ずるいよー、それもう曲芸だよね!てか上の子プロじゃん!?」
「ジャッジー、ジャッジー!?」
「ふっ、応援ダンスに規定ルールなんて無いのさ!」

突如現れたライバルにインデックスとアリス(生き人形)がぶーぶークレーム入れるも、それが掻き消される程オーディエンスが拍手が繰り返される。

『ふむ、どっちが目立った?巫女Rさんに第一位さん?』
『常盤台、というか中学生連合』
『同じく、いや相手が悪ィだけか』

更にこんな言葉が解説席から飛んで、インデックス達は悔しそうに口を尖らす。

「ぐぬぬ、こうなったら……」
『アリス(さん)!』

が、諦めるつもりは到底無いらしく、隣のお姉さん兼お母さんポジの魔女に呼びかける。
一人と一体は彼女の手を握り、勢い良く頼み込む。

「ええと、なあに?」
「……曲芸には曲芸を、貴女の糸で四肢巻きつけて『ぶん回す』んだよ!」
「『人形遣い』ノ『業』、キタイスルヨ!」

すると彼女はふむと暫し考え、その後言うとおり『糸』を伸ばす。
但しインデックスでも、自分でも娘の人形でもなく、隅っこでマイペースに読書中の紫の魔女(一応周りに合わせジャージ服)へと。
そう、自分達が応援を、そこで踊って恥ずかしがってる間も何時も通りな薄情な奴に。

シュルシュルリ

「だってさ、パチュリー?」
「……え、えっ?」
「あんたチッチャイし軽そうだし……繰るなら丁度いいかなと」
「しまっ、まさか、自分だけ逃げたの根に持って!?」
「はい、地獄の一丁目へご案内ー!」
「むきゅああああ!?」

意思を無視し彼女の体はチア達のど真ん中へ、そして普段はノソノソ動く魔女が矢鱈キビキビ踊り始めたのだった。

『……人形遣いさん、中々強引ですねえ』
『まあ、祭らしくていいと思うけど……』



貴族風の少女が踊る娘らを見上げ、ふうむと小首を傾げる。
隣の銀髪の元気娘に『酌』されながら(学生に見えないよう静かさり気なくだが)芳醇なそれを啜りつつ思いつきを口にする。

「ふむ、運動の秋というが……郷でもこういう催し在っても良さそうか」
「いや、あっちは子供の数が……」

貴族、神子の言葉に、腹心である布都が人工的にきついのではと控えめに答えた。

「……別に少人数でも構わんだろう、あるいは各勢力で競争というのも?」
「ああ、それは面白そうですが……」

では数を絞って対抗戦をと、そう言えば少し布都が興味を惹かれたようにする。
が、そこへ、三人目の同席者、宗教仲間である雲居一輪が何か言いたげに手を掲げる。

「うーん、それはちょっと」
「……というと?」
「体力自慢とそうでないの、組織毎の『差』が有り過ぎるし」
『あー……』

一言で言えば偏ってたり両極端だったり、そういう連中が思い浮かぶ。
何とも言えない表情で、神子と布都が僅かに口籠る。

「……ていうか、組織内に限っても一部に負担集中するわよ、例えばうちの寺だと姐さんワントップだし」
「……よう考えれば、霊廟にはそういうのも居らんかったですな」
「ふむ、少し短絡的だったか」

僅かに残念そうに肩を落とし、神子は布都に入れてもらった二杯目を静かに傾け、その様子に布都達はそれぞれ手酌しつつ困ったように笑う。

「まあ、今回はこころの舞いを大人しく見るとするか」
「……ですなあ、それが良いかと」
「……子供連中元気良すぎ、ちょっと付き合い切れないかも」

そういう風に笑いながら、大人達は今日の主役である競技者(応援席込み)を見守るのだった。

「神子様、この後どうされます?」
「もう少し飲むかな……雲居殿は?」
「……前回の事件で知り合った子を冷やかしてきます、あっ日除け作って雲山」

まだ飲むらしい神子と布都に手を振って、一輪は相棒の入道に影を作ってもらいつつ応援席に向かう。
まず『前回戦った相手』、意地悪く笑う超能力者に写真取られ今更赤くなる涙子弄りでもと、そう思いながら。



ブウンッ

地下で鉄塊が放り投げられ、河童少女は反射的に横に飛んだ。

「ひゅいいっ、怖え当たるかあっ、グレイズグレイズってね!」

水道の壁や地面、突き出たパイプ等を飛び石のように、ピョンピョン飛んで質量攻撃を躱す。
二度三度そうやって躱した所で太古のオカルトは業を煮やしそれまでより大きな鉄塊を尾で掴んだ。

「……させねえよ、マジックミサイル連打だぜ!」

ズドンズドンズドンッ

が、そうはさせじ魔理沙が牽制の弾幕を放つ、立て続けの衝撃に龍の体がグラと揺れる。
そこへすかさずにとりが駆ける、両手に発明品目一杯手挟んで、一気に相手に跳びかかった。

「……っ!」

反射的に竜が尾をなぎ払い、がその瞬間にとりの姿が突如掻き消える。

「……甘い、読んでるよ!」

再出現した位置は竜の頭上、そこでバッと思い切り両手の発明品を放る。
ズドンと水流が爆ぜて、強かに竜の頭を傷めつける。

ガアアアッ

「……よしっ、追撃!」

苦悶の絶叫が上がり、ここが勝機だとにとりはバールを振り回し勢いつけて回転させる。

「……うりゃあ!」

ガウンッ

にとりは得物を大上段に叩きつけ、バキと頭部を守る鱗が弾けた。

ギァアアアアッッ

「ようしようし、有効打二ってとこか、なら……もういっちょ!」

彼女は素早くバールをその場に放り、代わりにお手製バズーカを肩に構える。
ジャコンと圧縮水球入りの弾丸を装填、未だ絶叫する竜の口中に突っ込む。

「成仏しな、お化けトカゲ……ロックオン、行くよ」

減衰無しの最大火力、にとりがにやりと笑って引鉄に指をかけた。

「ファイ「……駄目、やらせない」っ!?」

ドゴオッ

だが止めの刹那前に、『学生服のオカッパ少女』が妨害の一撃を叩き込む。
横合いからポンとにとりの肩に手を当て、直後『何の兆候もなく』彼女が弾き飛ばされる。
壁へと勢い良く飛んで、咄嗟に頭上で様子見していた魔理沙が横から掻っ攫い激突寸前でにとりを助ける。

「ちいっ、こっちはわかり易い霊だけど……にとり、無事か!?」
「だ、大丈夫っ……新手?、けど何も見えなかった!?」
「……油断するな、少し毛色が違うようだぜ」
「……ナイスフォロー、でも邪魔だな、早く合流しろって言われてるのに」

魔理沙が後ろ、箒の背に押しやったにとりを庇い、それに『学生服のオカッパ少女』がフンと不機嫌げに鼻を鳴らした。

「……適当に捌いて逃げるよ、『太古』の」
「おおっと、そうは行かねえな……折角の祭なんだ、思い切りやり合おうぜ!」
「しつこい人、面倒……」

突如の乱入にだが寧ろ望む所だとばかりに魔理沙の目がギラつく。
『恐怖』の思惑等知るかとばかりのそれに『恐怖』は一度肩竦め、それから隣の太古とともに身構える。

「二対二、派手にやろうぜ?」
「ひゅい、今度は連携勝負だ!」
「……ちっ、ならば退いてもらう、行くよ『太古』の……」

ガアアアッ

二人、それと一人と一頭、学園都市地下の戦いが架橋に入ろうとしていた。




・・・てとこで一区切り、とりあえずローマ正教あれこれ、&体育祭進めつつ戦闘激化って感じです。
次回は視点変え、二話振りに女神sと紅魔組が前に出てくる予定です・・・あるいは解説席の姉弟ども、どちらかそろそろ動かすか・・・

以下コメント返信
勇者***様
いや東方的に花子といえばやっぱ『例のバグ』、間違いなくファンのトラウマだし・・・なのでその分を加味しオカルト軍団のリーダー格ですね。

九尾様
ええはい例の古典オカルトさん達ですね、元ネタが資料豊富なので書いててイメージ固められ、その癖神秘録では自己主張無いと・・・二次的にとても有り難い方々。
何より纏まった数が居るのがグッド、物語の隙間を埋めるのにかなり助かってます。



[41025] 祭りの夜に星は散る・三
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2017/03/06 00:05
微かにサイレンが聞こえ、それに輝く金糸の髪を持つ『戦乙女』が眉を顰める。

ウーウー

「……あれは私達では有りませんね」
「はっ、あの方角には斥候程度、仰るとおりかと……幾つかの妖気、人ではないようですが?」

後ろに跪く銀髪の少女、ミューズが同意の言葉を口にした。
それに頷き、『戦乙女』ブリュンヒルドが忌々しげな表情で拳を握る。

ギリイッ

「誰かは知らんが余計なことを、これで学園都市の警戒レベルが上がるぞ」
「お、お静まりを、異郷の我等ではどの道完全な隠密行動は不可能、ここは敵戦力の分担と考えれば……」
「だからといって、得体のしれない妖異を利用するなんて……」

未だ潔癖さを捨てれない彼女は不満を口に仕掛け、そこで一瞬口籠る。
所詮『同類』だと怒りを口にしてから気付いたのだ。

「いや我等も大して変わらんか……『無辜の人々の生活を脅かす外道』と『あちこちで暴れまわる妖異』の差等どこにある?」
「ブリュンヒルド様……」

自嘲するように自分の掌中、そこに握られた『神の槍』を、罪深き行為に利用する武器を彼女は複雑そうに見下ろした。
それがその神秘を伝えてきた先人をどれほど泣かせるか、それを思い、だけど答えは変わらない、いや『止められない』。
一度決意を固めるように槍をギュッと握る(その顔から仮面もかくや表情が抜ける)

「今更止まれない、私は『彼』を救う……ミューズ、策を言え」
「(……今更、確かに全くね)はっ、最終目標『アレイスターの研究成果』、それを再優先に侵攻を掛けます!」

戦乙女は諦観を、そしてもう一人の女神は遅すぎた悔恨と共に動き出す。

「我等の目的はブリュンヒルド様を主神とする……その身に秘める神性、その純度を押し上げると共に宗教界におけるイニシアチブを握ること。
……それには『アレイスターの研究成果』はまず必須です」
「……『神の領域』を目指した男、その方法は隠しているだろうな」
「はっ、間違いなく……あるいは神性増強だけではなく、『法則を書き換えるような何か』かもしれませんが」
「ミューズ、貴女の手に入れた情報を元に予測を……」

幾らか学園都市に滞在していたミューズの情報を元に手を思案する。
方法は浮かぶ次は入手手段、主の問いにミューズは少し考えた後二つ上げる。

「現在のアレイスターの拠点である『窓のないビル』、そして……『表』の研究成果である学生に紛れさせている通称『原石』がそれかと」
「……前者はガードが固すぎる、後者については?」
「……それらしい研究所が幾つか、そしてサリエルが目をつけていた『少女』と最近帰還したという『第七位』が確定かと」

そこで僅かにその顔が顰まる、候補の研究所はダミーも有るだろうし虱潰しにするしか無く、また少女ともう一人はガードが硬いか地力が高く抵抗するだろう。
ブリュンヒルドは両方を比べ、それからまだ序盤と安全策として片方を選んだ。

「……研究所狙い、その方針で計画を立てなさい!だが完全に原石の可能性を捨てる訳でもないと心得よ!」
「はっ、ミューズ様!」

その指令を受けて、ミューズは一礼後眷属の錬金術士と共に踵を返す。

(相手が怪異と戯れている今動くか、あるいは賭けに出るのもいい、『私自身』を囮として……)

そうしながら前回の敗北が効いたか捨て鉢に、最大戦力のブリュンヒルドを活かすことを思いながら。



ケラケラ

「……へへ、やあっと動くかあ、どうなるか楽しみだぜっ」

海兵服の少女が無邪気に笑い、その後方で『恐怖』『太古』を除いた五体も追随するように体を揺らす。
ブリュンヒルデ等と違い戦いの過程自体が目的だ、それを見て得られるデータが肝心なのだ。
だから何も背負っておらず、彼女たちは修羅場の中で気楽に笑っていられた。

「そっちも上手くやってくれよ?……荒れれば荒れるほど、教授には好都合なんだからな!」

マッドサイエンティスト、ある意味生半可なそこらの悪人よりも邪悪な人種が騒がしき学園都市の様相を笑っていた。



チア服のアリスがマイク片手に(もう片方の手で糸を繰りながら)観客席に叫んだ。

「ダンスジャンルは数あれど……その中で一際難易度の高いものが有る、その名はブレイキン!」

彼女に叫びに応えるように、パチュリーが(自分の意志関係なく)跳ぶ。
跳んで伏せて捻ってまた跳んで、激しく体を振り回していく。
異様に四肢が細く、そして普段から動きが大人しいだけにそれは新鮮かつ異様な光景だった。

「ブレイキン、それがこれよっ!」
「むきゅきゅううっっ!?」
「立脚状態でのやや緩やかで正確な『エントリー』、逆に低い姿勢で速さを重視した『フットワーク』。
そして、今までの二つ以上に強く激しくアクロバティックな『パワームーブ』!」

特に三つ目の動きは特に激しく、一瞬も四肢を止めずに舞い続ける。
ついでに、比例するようにパチュリーの顔色が段々と悪くなる。

『いやあの方多芸ですねえ』
『まあジャンル違いでもパフォーマーやってるし』
『……てか、踊る側の方が不味いンじゃねェかあれ?』

そうその激しい舞い、それのツケがどこに来るかといえば一つだった。

「そして、締めとなる緩急差の大きなフリー……」

ゴキンッ

「むきゅあっ、腰が!?」
「あっ……」
『あっ……』

突然の急停止、その負荷に貧弱な少女は耐えられず、歪つな音を最後に沈黙した。
暫しの間痛い程の沈黙が競技会場に降りた。

「……え、ええと、こ、これは……」

ツウと一筋の冷や汗頬に、アリスがそっと目を逸らした後何とか一言絞りだす。

「これは……締めとなる緩急差の大きなフリーズ、です?はい拍手!」
『待て、誤魔化すな!?』

全方向から突っ込みが飛んだ。

「あー、高等部?……争いは何も生まないと思わない?」
「うん、そうだね……応援合戦、このままじゃキリ無いし」
「合同で何かやろうか……」
『賛成』

尚惨劇を横に、応援席の少女達は反省し、仲良く共同演技することを決めた。
一方で『元凶』は常識人に詰め寄られ、流石にバツ悪げだった。

『……そこの人形遣い、何か有る?』
「ふっ、争いはよくない、私はそれを言いたくて……ごめん、この言い訳無理有ったわ、正直調子乗ってたというか本当にごめん」
「宜しい、負傷者運んだ後説教部屋行きましょうか」
「はい……」



ハッとした表情で青髪の少女が叫んだ。

「パチェが面白いことになってる気がする!?」
「……奇声あげて、てか変なこと言ってどうしたの、お姉様?」
「いや、そんな運命が見えてね……」
「ふうん、後で聞いてみようか」

突如うーっと青髪の吸血鬼の姉が可愛らしく奇声を上げ、それに対し隣の金髪の妹が呆れ顔になる。
クスクスと二三話すと可笑しそうに笑い合い、それから出来立てクレープを食べる手を再開する。

「はぐはぐ、惜しいなあ、何か良い絵を見損なった気がするわ」
「もぎゅ、まだ言ってる……」

そして、そんな無邪気な姉妹を、『外向けの変装済みのシスター軍団』が青い顔で見守っていた。

(うわあ、カバーのバイトしてたらヴェントさんが言う警戒対象が……行き成り幸先悪いなあ)

人混みを移動しても問題ないよう偽装用バン内部のアニェーゼとその部下達(見慣れない異人が彷徨くと目立つし)彼女たちは頭を抱えた。
自分たちが祭の中動いても自然なよう下地作り(兼余り期待してないが学生の噂目当て)していたところへの珍客に戸惑うばかりだ。
そんな恐々とする一向に気づかず、騒ぎの種を探すのに飽きたらしき吸血鬼姉妹がクレープに舌鼓を打つ。

「何か出遅れた感じ……おっ、チョコ味中々」
「ストロベリーも美味しいよ、お姉様……も一個頼もう、次はそっちのチョコ」
「ふむ、ならば私はストロベリー追加ね」
『ま、まいどあり!』

さっさと出て行ってほしいところに追加注文で、シスター達はギリギリ必死の営業スマイルで何とか返事した。

「……で、どうしようか、フラン?」
「さっきから妙な妖力を感じるけど……既に戦ってるところに押っ取り刀ってのも何かズルい気がするかな」
「まあ、な……良し、『出遅れ分』はスルーしましょう、次のに気付いたら参戦ってことで」
「うん、私もそれで良いと思う」

貴族としての決闘への拘りか、既に戦い始めている組へ遠慮し二人は『この場』は不動を選んだ。
だが同時に、次の機会を逃す気はないともいうことでもある。

(……ああもう、仕事増えたあ、念の為こいつ等見とかないと……)

尚後ろでシスター達が頭を抱えたのだった。



『……てことですが例の姉妹はどうします、イギリス清教の?』
「とりあえず監視だにゃ、だがそれ以上は……止めるのは無理だし弱味もないしな、暗部への説明は俺がしとくから」

臨時拠点の教会に街からシスターから通報が入り、それを受けた土御門は引き釣り顔で対応を言う。
一応敵ではない監視に止め、念の為刺激しないよう暗部側にも現時点での接触を禁止する。
素早くイレギュラーである姉妹への対応を終えた彼は次にある電話番号に掛ける。

「……次は、と」

(機密も入るし)他組織との合流場所から足早に出ながら、彼はこの地の最高戦力に接触する。

Prr

電子音の後暫し間が空き、それから苛立たしげな少年の声。

『……ンだよ、派手アロハ』
「急に悪いな、第一位……最近騒ぎが続いてるだろ、その関係で力を借りるかもしれん、外に出れるか?」

手早く説明し、それに向うは幾らか考え込んだ後答えた。

『何だよ、また天使でも出たか……暗部だけじゃ無理か?』
「天使かどうかはわからんが……人外なのは間違いねェ、その辺未経験者じゃチト危うい」
『……まァ確かに科学一辺倒じゃ厳しいなそれじゃ』
「……頼めるか、正直外様にだけ動かれても立場的に不味いし」

どうせ彼には夏休み初め今までの弱味が有り、強く出れない土御門は正直に諸々明かす。
すると相手が冗談ではないと悟ったか、今度は一方通行から問いが来た。

『緊急か?正直……超能力者やらその他異能やらが居るここを空けたくねェンだが』
「むっ、だが……なら、巫女の姉ちゃんでも良い、彼女かお前さんのどちらかが来てくれれば何とか……」
『……少し待て、話してみる』

が、競技場の方とて外から狙われそうなのは沢山居るのだが、それを放っておけないと気不味げな空気に成る。
状況的にどちらかも無視できないと、二人は妥協点を探り合った。
端末の向こうで一方通行とその幼馴染が話し合うのが聞こえた。

『待たせた、多分行ける、外が気になるしな……念の為解説席に一人残す、今どっちがか決めてるとこだ』
「そうか、悪いな……向かいの車を寄越す、決まったら来てくれ」
『……あァ、後一人か二人暇人が行くはず、解説の方は……第三位でも巻き込むか』

一応の了解が取れ、向うで話し合いが再開するのが聞こえた直後ブツと途切れた。
超能力者か巫女か、どちらかは兎も角希望が出て気を良くした土御門は軽い足取りで外に、折衝やら迎えの車の用意に外に向かった。



(……暗部さんたち忙しそう、祭って大変なんだなあ)

20002人めの妹が、必死な顔で外に向かう暗部幹部に他人事のように同情した。
そう考えればこの場(教会)のシスター代理はまだ楽かと、少しやる気に為った顔つきで教会内の掃除を始める。
(慣れてないからか)少しダラシない尼僧姿の彼女はエプロン付けてから『二人の暇人』を見やる。

「敬虔な教徒やら暇人やら、来る前に綺麗にするか……準備は、小悪魔?十六夜さん?」
『はーい、準備良しでーす』

どうせ暇だからと、好感度上げを狙う小悪魔が、情報が来るまでなら良いかと咲夜が愛想よく答える。
三人はテキパキと教会内の清掃を開始する。

「さ、外向けの休憩所……人混みの分そういうの要るだろうしさっさと掃除やっちゃうよ」
「はいはーい、ピカピカにしてー……昼休みにミサカちゃん達を迎えましょう!」
「……ご姉妹でしたか、一緒に『お昼』をということですか、なら端からテーブル磨いてきまーす」
『……手際いい、さすが本職』

(二人が特に下手な訳ではないが)咲夜が流石というべきか明らかな手際の良さで進めていく、完璧で瀟洒なメイドの面目躍如だ。

「……ふふっ、若い子は元気ねえ」
「聖お婆ちゃん、見かけは若いのに」

そして客だからと(志願した小悪魔とその身内は別扱いだった)掃除を免除された聖人と天使が隅っこでクスクスと笑った。

「……お茶いれましょう「あっ、給湯所使ってイイよ」ありがとう番外個体さん、ああミーシャは緑茶は飲めましたっけ?」
「あ、初めてかも、折角だしチャレンジしてみたい」
「あら、ならば出来る限り美味しいものを……ふふっ、頑張りますから」
「うん、聖お婆ちゃん……楽しみだな」

クスクスと微笑みながら、親子にも祖母と孫にも見える二人は掃除の邪魔にならないようこぢんまりとした茶会の準備に向かう。
そしてその間にも(主に咲夜を中心に)シスターと他二名、正確には本職無しの三人が教会内を片付けていく。
そんな風に奥で格勢力代表が悩むのを他所に、妙に微笑ましい空気がそこには漂っていた。

「あ、茶柱」
「……外は兎も角『ここ』は暫く平和そうだね」
「……ですねえ」
「小悪魔、末っ子さん、ここらでスパートを……各員隅々までゴミを逃すな、散開っ!」
『り、了解っ!』
(咲夜さん張り切ってるなあ)

幾つかの思惑絡み危うさの中にある表側に対し、元気よく少女達の笑い声が教会に響いた。
『今だけ』かもしれないが、暫くは笑い声が絶えることは無いだろう。



祭りの夜に星は散る・三



ワアアアッ

盛り上がる競技場、バラバラとチア服の少女達が一度散って、それから計算し切った正確な動きで再び集まった。
そして一つの形を、中等部高等部総掛かりでピラミッドを作った。
ちょっとした建物程になったそれの上で『少女達』が快活に笑う。

「……さあて、何故か応援(魔女組)が全滅してるけど頑張ろう!」
「ふふっ、ここは先輩に譲りますか」
「結構目立てたし、まあ良いか」

その時点での最上段、インデックスと涙子とこころが肩を組合い足場を作る。
それを確認後、最後の一人、急遽『観客席から駆り出された少女』が駈け出した。
茶髪で勝ち気そうな少女が地を蹴って跳んだ。
小脇に旗、常盤台やダークホース(某無名校)の校旗抱えながら。

「……よしっ、行くわよ、皆」

真紅の外套がヒラと舞い、タンタンッと足場となった少女達の肩を順繰りに登っていく。
そのまま一気に最頂点まで駆け上がって、彼女はバッと担いでた各校の『校旗』を大きく広げた。

「どの学校が勝つかはわからないけど……皆、七日目まで頑張って!」

ワアアアアアッッ

超能力者第三位、同世代の有名人の応援メッセージに競技場がノリよく熱狂した。
それぞれテンションが上がる、上位陣はこのまま勝つと、劣勢なものも逆転を目指すと。

「ふふっ、私は見学組だから参加しないけど……しっかり見てるから、ああ今度は客席でなく解説席で!」
『……ここで速報、解説ASと巫女が諸事情で抜けるらしい、友人共々その代役なンだと』

解説席が言うように、頂きから降り立った超能力者は解説席へ、新しくそこに用意された席の『修験者装束の白い少女』『霧ヶ丘女学院の眼鏡少女』に合流した。
そのまま苛烈な応援合戦で放っとかれた競技側、そこも丁度次の準備が整い、改めて祭りが再開する。

『……で次は障害物競走に騎馬戦に棒倒し等の大型競技、各校の奮闘を期待します』
『……っと、そうだ……『保安部の情報』何やら暴動の兆候が有るらしい、あるいは『日程繰り上げ』も有るかもしれねェし注意な』

その際ポツリと不機嫌げな超能力者、その『不穏さ』に事情を知る者達が一瞬顔を顰めたが。



祭りの夜に星は散る・四



ドンドンと爆音が響き、頭上からのそれに水棲恐竜が顔を顰める。

「グルルッ……」
「降りて来いってか、だが断るぜ!」

箒を操り飛ぶ魔理沙が答える、不意打ちを受けたにとりを背に乗せた彼女は『マジックミサイル』ばら撒きながら飛び続ける。
一時も一箇所に留まらず動き回り、それにより巨獣の牙と尾、そして不可視の攻撃を何とか避けていく。

「……いい動き、見えないのによく避ける」
「速さには自信が有るってこと、怪談女!」

見えない弾幕を大きく動き『大凡の効果範囲自体』から逃げることで躱した二人に、花子は呆れ気味に感心する。
敵ながら苦笑気味に褒める彼女に、魔理沙は答えながら更に速度を上げる。
どこかで仕切り直せないか、総チャンスを見計らっていると後ろから『弱音』が聞こえた。

「ちっ、とはいえやり難い、何とか分断するなり出来れば……」
「ねえ……もういいよう、盟友ー」
「にとり?」
「片っぽそこそこ傷めつけたし帰ろ?これ以上は危ないし情報だけ持ち帰ろうよ?」
「……ああ、結構保身的だったなそういや」

ここで露骨に河童らしさ、分が悪いと見れば逃げを考えるにとりの小悪党さの発露だ。
元々種族柄戦闘を好む性質ではなく、また迷彩等の特技持ちに有りがちな保身的部分、いざという時にそれが出てしまったのだ。

「……煙幕炊いていい?そんで逃げよ?」
「駄目だぜ、逃げるにしてもせめて一発……」

相方がここからという所でヘタレて、魔理沙は嘆息し止めつつ収束具であるミニ八卦炉を構える。

「……限界までチャージしてぶっ放す、それまで時間を稼いでくれ」
「えー!?」
「良いから、行けっ!」

せめて最後に一撃を、そう考えた魔理沙は弱気のにとりに行かせようとする。
が、彼女は中々箒から降りず、口を尖らせ諦め悪く反論する。

「えー、やだよう、もう帰りたいー」
「……これだから河童は」

グチグチと喚くにとりに、いっそこのまま落とそうかと魔理沙は思わず考えてしまう。

ヒュウウッ

「……っと、これは」

がそこへ高い笛の音、雅なそれに魔理沙の顔が怒りから笑みに変わる。

「おっ、助かったか……頼めるか、援軍さんよ!?」
『……任せて!』

タンっと『二つの影』が巨獣の背に降り、『風の砲弾』と『雲で出来た鉄拳』を叩き込んだ。

ドゴオオッ

『うりゃああ!』
「何!?」

突如衝撃に悶絶する太古、そしてその光景に身構える花子、それ等を見て『黒髪長髪の制服の少女』と『雲の如き淡い髪色の尼僧』がニッと笑う。
応援が終わって暇になった涙子と、彼女に街の案内を頼んだ一輪が勇ましく腕を掲げた。

「援護します、魔理沙さん!」
「時間を稼げばいいのね?」
「頼む、涙子に新顔の姉ちゃん!」
「……数はこっちが上、これなら勝てるやってやるっ!!」
『……これだから河童は』

八卦炉を持つのと逆の手で魔理沙が笑い手を振る、遅れて調子良いことを言うにとりを一度睨んでからだが。



「……ちっ、暇ね、決闘の作法等無視すべきだったか」
「……お姉様、今更言うかなそれ」

うーっと吸血鬼の姉が可愛らしく奇声を上げ、妹が呆れるように嘆息する。
散々貴族的な立派なことを言っておいて余りに身勝手な言葉だった。

「仕方ない、紅茶でも飲んで時間潰しましょ……店主ー、お代わりー」
「は、はーい、今お持ちします!」

考え直した彼女はクレープを食べ終え食後の一服、尚その相手をする変装シスター軍団は引き攣り顔だ。

「……紅茶、『長靴の半島』辺りの入れ方ね、店の人はそっちの?」
「あ、はい、そうですが……」

その際中世間話のように話し掛けられ、アニェーゼは特に考えず頷く。
が、するとニヤとレミリアが人悪く笑った。

「やっぱりかあ……そういえばあそこ等辺は『教会』の教えが盛んだったわね」
『ギクッ!?』

悪戯ぽく笑い、探るように見る吸血鬼にシスター達が凍りつく。

「ふうん……もしかしてロザリオとか持ってる?」
「あ、あわわ……」
(……お姉様ったら)

悪魔を彷彿とする嗜虐的なレミリアの言葉、それに動揺するシスター、はあと嘆息するフランドール、何とも言えない光景だった。
が、その殺伐なのかそうでないのか微妙な時間は『二振り』の『白刃』によって破られる。

ドガガッ

どこから投剣がアニェーゼへと放たれ、同時にレミリアが手を伸ばす。

「え?」
「……下がれ、店員!」

ドンと横からアニェーゼが押し出され『顔ギリギリ』を掠め、更に続く二度目の投剣をレミリアの振り上げた足刀が弾く。
『テラテラと酷く濡れた刀身』の刃どちらともがレミリアによって躱されあるいは防がれる。

「……なっ、何が」
「ふむ、毒……臭い的に致死性のものじゃないけど」
「量的に数日は寝込みそう、つまり祭の間は動けないと」

スンと吸血鬼姉妹が鼻を鳴らす、人外の嗅覚が読み取ったそれは動きを止める用途のもの。
それから視線を辺りに巡らし、『どこかで見たような』銀の輝きを見つける。

「……ふんっ、ミューズとやらか」

群衆の中に何時ぞやの錬金術士、気付かれたからかバッと踵を返した彼女を吸血鬼姉妹が当然の如く追おうとする。

「店主、ご馳走様……私等は追うからそっちは勝手にしなさい」
「美味しい料理で貸し借り無しね、面倒だし」
「……ちょ、待っ」
『行くぞおっ、狩りの時間だ!』

ドンッと聞く耳持たず地を蹴って、レミリアとフランドールは風の如く勢いで飛び出す。
群衆の間を縫うように抜けて、僅かな気配を頼りに一気に市街を駆ける。
当然向うも逃走を続け、市街を離れ大分荒れた未開発地区へ。

「……近い、まあ追えるわね、時間停止の霊装は壊れたままか」
「そうなると迎え撃つかな、あるいは……」

そんな風に話しながら追う二人、だがこの瞬間追う側だから、有利な側だから僅かに『油断』してしまった。
人が居ない場所を、態々そこを狙って逃げた理由に。

「……ふっ、今です!」

やや開いた所で携帯片手に何か叫ぶミューズ、直後『影』が射した。

『え?』
「ブリュンヒルド様、槍の開放を!」

直後ブワと『局所的な大嵐』が吹き荒れ、追うことに気を取られ過ぎ隙を晒した二人を揉みくちゃにしながらふっ飛ばした。
高々と空へ、最中苦手な水流に全身打たれ、更に風に翻弄されながらシェイクされた後勢い良く地面に叩きつけられる。

ドゴンッ

『うぎゃ!?』
「……ふむ、まあ効いたか……教会どっちかか暗部に打ちたかったのですがね、組織の動きを動揺させられれば大きいし」

追われて目標を変え、だけどちょっと(宗教組織二つか暗部どれかに先制したかった)愚痴りつつ、が一度敗北を経験しているミューズは油断も手加減もしない。
フラつきながら互いを支え合うように立つ吸血鬼達に、止めを刺すべく携帯先の主に二度目の指示を出す。

『ま、まだ……』
「……でしょうね、だから……ブリュンヒルド様、もう一度お願いします、念の為二三発纏めて」

確実に倒すべきだと主に言い、それに一瞬迷った後向うも従う、三つ続いて小規模の嵐が発生する。
それは頭上で連続して出現し、その後一気に地に落ちようとした。

「さあ、これで二人脱落で……」

がミューズが直撃を確信した瞬間、ボウっと空間が揺らいだ。

「これは……」
「させないわよ、博麗大結界!」
「あーんど、風神少女!」

ガギィンッ

空間の裂け目から現れたのは黒髪二人、巫女と天狗が嵐を前に不敵に笑う。
まず光の壁が続けて降る嵐を受け止め、周囲から風が勢いを削ぎに掛かる。
それで一瞬拮抗し、それを見た霊夢はニコリと笑って簡略的な『神降ろし』の儀を素早く行う。

「博麗に関わるものよ、嘗て競い合った好敵手よ……その繋がりを遡って、来たれ!」
「……魔界の騒ぎ以来暇らしいし手伝わせましょ、節姫が一度やったから穴も開け易い」

前の事件よりは小規模の揺らぎが生まれ、そこから今回は複数でなく一人の影が現れる。
古めかしい服に天冠の緑髪の女性、『祟り神』魅魔が魔力を収束し照準しながら空へ。

「ちっ、あれは何時かの……」
「三つか、まあ一つずつ……どりゃああ!」

ズドンッ

弟子とよく似た輝きが空を穿ち、まず最初の嵐を吹き飛ばす。
更に彼女は続けて再チャージ、二度目の砲撃体勢に。

「さて、残りも……『美味しいとこばっかやらせるかあ!』おわっ!?」

が、そうはさせじと影二つ、地上から魅魔の横を抜ける、フラフラだったレミリアとフランドールが人外の体力ゴリ押しで乱入したのだ。
黒い皮膜の羽と虹色の宝石のような羽、それぞれ根性で動かし二人が飛び上がる。
レミリアは髪飾りの羽を引き抜き『水刃』を、フランドールは煌々と燃え上がる『炎』を振り被った。

「天剣、うりゃああ!」
「禁忌レーヴァテイン、せいっ!」

ブンッ
ドゴオオォ

残り二つの嵐が続けて両断され、荒れ狂っていた空が静まる、ミューズはその様を最早呆れ果てた様子で見るしか無かった。

「最悪、タフ過ぎでしょ、吸血鬼」
「……良くもやったわね、咲夜2Pめ!」
「怒ったよ、許さないんだからね!」
「やばっ、ここは退くか……」
『待あてええっ!』

今度は一切芝居無しに、彼女は踵を返し跳んで、が未だ怒り心頭な二人は当然抜刀したままそれを追う。
ミューズの危機に空からの援護が来るも、散発的な風や雨の中をミューズと吸血鬼姉妹が駆けていく。

『……あ、行っちゃったけど』
「……どいつもこいつも勝手ね、もう」

そして残された三人が、特に霊夢が面倒臭そうな顔で見送る。

「どうします、霊夢さん?」
「後チャージした魔力どうする?消すの勿体無いけど?」
「正直一日目から戦い通しってのも大変だし、銀髪の方は向うに任せましょう、勝手に動くならそれで良し。
……文、適当にカラス飛ばしてといて、後魅魔は別に一仕事ね」
『……はーい』

頷いてそれぞれ準備、そして霊夢は『撃ち損ねた魔力』を持ったままの魅魔に『勘頼り』で『ある方向』を指した。

「魅魔、あっちよ……弟子を手伝ってやりなさい」
「ああ、そういうこと……じゃ、本家ドラゴンメテオ!」

カッと星の如き閃光がどこかへと、尾を引きながら落ちていく。



「……当たれ」
「……くうっ、本当に見えないか」

ドンッと不可視の攻撃を受け、花子の妨害を請け負った涙子が引き攣り顔で後退する。
彼女は魔理沙程の機動力はない、このまま落とせるかと花子が二発目を構える。

「これで……」
「おっと……避けられないなら、『壁』を作ればいい」

が、追撃が当たる寸前、野太い棒状の物体が遮るように出現する。
それは加護で作られた白梅の大樹の幹、ズズと揺れながらも耐えたそれの裏で縮こまった体勢の涙子が鎖を伸ばす。
バチンッとそれから火花を吹いて、嫌な予感がした花子は咄嗟に三度目を撃ち込んだ。

「っ、させない」

ドゴオッ

大樹の上から着弾、バラバラと木片が辺りに散って、がその瞬間巻き上がった木片を突っ切って鎖が飛んだ。

バチィッ

「きゃっ!?」
「目眩まし有難うってね!」

反撃の鎖と電撃に花子が悲鳴を上げ、それに大樹を盾にした涙子が会心の笑みを浮かべる。
更に彼女は鎖を絡めさせたまま、自分と共に戦場に来た尼僧に呼びかける。

「入道使いさん、何時ぞやの怪力期待してます!」
「ふっ、任せなさいっ!」

頷いて一輪が飛び込み、鎖で拘束された花子へと拳を振り被った。

ヒュッ

「行くわよ、雲山!」

彼女が拳を振り抜き、それに合わせて巨大な雲の巨人が全く同じ動きで拳打を叩き込む。
それは動けない花子の胴にめり込み、更にそのまま勢い良く振り抜く。

ゴウッズドンッ

「慈悲の北颪、どりゃあっ!」
「くっ……」

高々と少女霊が吹っ飛んで、がピタと突如空中で止まった、絡まったままの鎖が軋みながらも『丁度いい距離』を維持したのだ。

ジャララッ

「くっ、しまっ……」
「まだまだあ、私が抑えてる間に!」
「ええ、もう一発よ!」

咄嗟に花子が体を捻った状態で鎖を殴り砕き、がそこから安全圏に逃れる前に二度目の拳打が振り被られる。

「もういっちょ、どりゃあっ!」
「ぐあっ……」

ズドンッ

体の自由は取り戻せたものの回避を封じられ、彼女は再びリプレイのように高々と吹き飛ばされた。
すかさず、涙子は風に乗って、一輪もまた雲山を足場に飛び掛かる。

「……追撃、行きますよ」
「ええ、合わせるわ!」

幻想郷にて一度戦った二人は互いの呼吸を知る、タイミングを合わせ左右から挟撃を仕掛けた。

「くっ、だけど……」

ドンドンドンッ

慌てて花子は左右に手を伸ばし、手数を重視し不可視の弾幕を叩き込む。
が、読んでいた涙子等は足を止めないままそれぞれ腕を翳した。

「……加護よ!」

ガギィンッ

涙子が再び作り出した白梅の大樹を犠牲に前進する。

「雲山、お願い!」

ボワッ

主の指示に従い雲が掌を広げ、それが散る横を一輪が抜ける。
躱すのではなく敢て攻撃を受けて、そうやって突破した二人がクナイと鉄輪を手に花子に襲いかかった。

「不味っ……」
『遅い、このまま挟撃で!』

一気に二人は相手の懐に飛び込んで、直後ドンという鈍い音がした。

「ぐ、まだ……」
『っ!?』

そしてブンとクナイと鉄輪が『自身を吹き飛ばした花子の影』を虚しく裂く。
『自分目掛け』正体不明の攻撃を放った花子が頭上、全身ボロボロになりながらそれでも嫌味たっぷりに笑いかけ二人へと指先を突きつけた。

「……お返し、喰らえ」
『しまっ、きゃああ!?』

ズドンッ

今度は回避の為ではなく攻撃の為の一撃、腕を振り抜き隙だらけの涙子たちを真下へと叩き落とした。

「くうう、攻撃範囲滅茶苦茶だよ……」
「ええ、やり難い、何時まで防御できるか」
「……ふんっ、邪魔しないで」
「なら、暴れないでよ!」
「悪いね、目覚めさせてくれたマッドな『恩人』の頼みだから……」

頭を振りながら叫んだ涙子に、花子が思わずそれを口にし、がそれを聞き返す前に地上で変化が起きる。
ズドンズドンと、立て続けに爆音が鳴り、直後獣の悲鳴も。

「ふはははっ、一対一なら負けん……バズーカ、ゼロ距離連打あっ!」
「……ちょっ、太古おっ!?」

援軍で調子に乗った河童がバズーカ片手に、竜の頭の上陣取って狂ったように引鉄を叩きまくっていた。
これには花子も絶句し、慌てて助けに向う。

ジャララッ

『……させない』
「む、邪魔な」

が、涙子が鎖を放ち、更に端を受け取った巨人が包囲網を築く。
この妨害に花子は怒りながら攻撃準備し、しかしそこへ『膨大な光』が戦場のさらなる変化を告げる。

「待たせたな、チャージ完了だぜ!」
「……ちっ、時間を取られたか」

特大のチャージ光を掲げた魔理沙が砲撃体勢を取って、慌てて花子が鎖に気をつけながら距離を開けようとする。

「……おっと、更にここは『師弟コンビ』と行こうか」
「何?」

パアアッ

回避を選んだ花子を嘲笑うように、空から流星が降り注ぐ。
空の星と魔理沙の砲撃、両方の危機に花子は思わず意識を向ける。

ジャララッ

『……今!』
「ああっ!?」

そしてその心の隙を涙子達は逃さなかった、攻撃に巻き込まれないよう後退する直前鎖を思い切り『引く』。
音を立てながら張り巡らせて鎖が狭まり、花子の四肢に絡みつく。
直後無数の流星が空から落ちて、動けない花子と地上の太古を滅多打ちにする。

『っ、ぎゃっ!?』
「……あ、やば、ひゅいいいっ!?」

バズーカ連打に夢中だったにとり諸共に。

「……にとちゃん!?」
「調子に乗るからあ!」
「え、ええい、尊い犠牲だ、このまま行く……フルチャージ、恋符!」

ジャラジャラと伸ばした涙子の鎖が哀れな河童を引き寄せ、それと入れ違いの形で魔理沙が突撃しミニ八卦炉を翳す。
バチバチと激しくスパークした後、カッと中心部から光が奔った。

「ファイナル、マスター……スパアアァアアアクッ!」
『ぎあ、ああっ!?』

ドゴオオォオオッ

星が弾けたと思う程の閃光が二大オカルト、少女の霊と太古の動物霊を飲み込む。
花子がバタと倒れ、またそれまででダメージの重なっていた竜の体が少しずつ光になって消えていく。

「……決着か、少なくともデカ物は終わりだろうし」

まだ動き藻掻く花子の前に、しかし魔理沙が再チャージと共に八卦炉を突き付ける。
更に左右、再合流した涙子と一輪がクナイと鉄輪を構え逃げ場を潰していく。

『……逃がさない』
「……ってことだ、成仏するんだな」
「くっ……」

ジャキと三方から得物を突き付けられ、悔しそうに花子が俯き諦め『かけた』、決着が『着こうとした』。

「キシャアアッ!」
「太古!?」
『なっ、まだ……』

但し『首だけ』でのたうち飛び上がったネッシーの邪魔が無ければ。

「ガアアッ」
「……太古、私を『呑め』!」
「っ、止め……」
『駄目、間に合わ……』

バクンッ

辛うじて動く大顎が花子を飲み込み、そのまま這うような動きで幾分水位の減った地下に飛び込もうとする。
当然三人も追うも、逃げ際に振るった首先、血のように霊体の破片が吹き出されている『千切れた根本側』が遮二無二振るわれる。

ヒュッドガッ

『ぐっ、しまっ……』

三人がバランスを崩し、その間に必死に向うは水中へ。
これでは追えない、いや追える面子は居るにはいるが。

「ああもう、水の中は追えん、いやそれなら……にとりは!?」

慌てて唯一追えそうな相手を見て、が黒焦げのそいつはピクピクと情けなく悶えていた。

「ひゅいい、無理、ごめーん」
『……この馬鹿ああっ!』

調子に乗って流れ弾でダウンした少女に、魔理沙達からの総突っ込みが飛んだ。
こうしてマッドとオカルトとの攻防、所詮のそれは『太古』ネッシー打倒という成果のみで終わったのだった。

『にとり(にとちゃん)、後で反省回!』
「……ひゅいい、ごめんって言ってるじゃん」

尚約一名暫く肩身が狭くなりそうだった。





花子&ネッシー逃走で今回は終わり、あっネッシーはどうしよ・・・(このまま脱落かしぶとく復帰か・・・)
敵対勢力のそれぞれのスタンス(目立つ面子を消耗させるor考え無しに暴れる)が出た所で次回に続く。

コメ返信・九尾様・・・ああそれ(具現化現象)良いなあ、もしく超能力者でも噂作れそう、しかも噂の偽物と本物がかち合って騒ぎに・・・ネタ出来たら何か書くかも。

アカマ様
とりあえず悪いことすると誰かが殴ってくる地獄、尚女神sはそうせざるを得ないから・・・うん、不幸すぎ。

九尾様
いや運動系でパチュリー自爆(他爆?)はお約束かなと、後アリスの凝り性が悲劇の引き金になった感じ。
・・・確かにブリュンヒルドだけ悲惨さが群を抜いてますね、一応の落とし所は考えてあありますが・・・或いは展開的に唆したミューズの良心が問われるかも。

ギー様
だ、大丈夫、残念なのはドMシスターだけだから、他の面々はまだ挽回できるはず・・・



[41025] 祭りの夜に星は散る・四
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:cc0b4777
Date: 2017/03/06 00:05
「……はああ」

黄のシスターが遠目に街を見やり、サイレンや僅かな黒煙、そして魔力の残り香に深く溜息を吐いた。

「はあ、どっかの馬鹿のせいで遅ちまったか、やってられんよなあ全く」
「……申し訳ございません、司教」
「……お前じゃなく『上』だ、シスター・リドヴィア」

ズルズルズルッ

頭痛そう悩ましそうにするヴェントは『引き摺る』リドヴィアが暗い顔をしたのに気付きフォローの言葉を掛ける。
霊装関係では言いたいことは有るが寧ろ犠牲者といえる。
だから放っといたら『最悪自分の命で全て責任取りかねない』彼女を(監視の意味でも)こうやって隣の手に届く位置に居させているのだ。

「言っとくが時代錯誤に腹切ろうなんて考えんじゃねえぞ?」
「……はい、先程錯乱して申し訳ございません」
「別に良い……仕事だ仕事、状況はどうなってる?」

『偽装』報告時の醜態を思い出しショボンとするシスターを宥めつつ、彼女は学園都市で先に動いてもらっている連中の元へ。
祭りで段々と賑わっていく人混みを億劫げに抜け、何故か疲れてるシスター集う偽装バンにそっと顔を出した。

『し、司教、よくお戻りで!』
「……アニェーゼ隊、何か有ったか」
「そのう、祭り初日から問題が幾つか……」

疲れ切った様子のシスター達の喝采に迎えられ、また報告の言葉にヴェントもゲンナリした。

「とりあえず逃げ出した錬金術士、それとどうも第三勢力として人外が……あっ、吸血鬼とか、報告に有った自由人共も!」
「ふうう、また休めねえな……知ってた、うん知ってたよもう……」
『あ、慣れ切ってる、ドンマイ司教様……』



祭りの夜に星は散る・四



ワアアアッ

『日程進んで、今回の競技は障害物競走……妨害もまァやり易いし精々頑張りな』

歓声が競技場に響く、ある意味大覇星祭らしくなってきた。
解説席の一歩通行が妨害を受け入れ、というか寧ろ荒れた方が面白いと言いたげに推奨し、言われるまでもなく学生等はその通りにするのだ。
特に一部の面子はある理由で必死だ。

『おう、序盤スタートに失敗した強豪校、さっさと本気で行け……特に『長点上機』、一応同級生の俺の面子潰すンじゃねえぞ?』
「い、イエッサー、第一位!」

ザッ
ドゴオオォ

尚よりによって中立である筈の解説側の発言で、そりゃもう必死に名門長点上機の能力者(特に優秀とされるレベル四前後)が妨害し回っていた。

「……ちいぃっ、『テコ入れ』のつもりか、一方通行!」

運悪く(あるいは何時も通りに)同じ回に当たった上条が肩を落としつつ右手を振るう。
後で一位殴ると決意しつつ、彼は妨害者を右手で押さえ込んで同級生を先行させた。

「青ピその他、今のうちに上位取ってポイント稼いどけ!」
『すまん、上条!』

殿の上条を残し同級生が駆けていって、超能力者のせいで微妙に戦場に成りかけていた戦場に同じ超能力者が頭を抱える。

(……うーん、これもう運動会じゃないわね今更だけど)

同じ超能力者として恥ずかしそうに、微妙に縮こまった美琴が先輩である上条を心配しつつ広報の仕事は一応する。

『あー、ここで大会本部から緊急情報……前言った暴動対策で日程繰り上げになりました、注意してね』
『今日の競技は昼休み分までとのことです、細かいことはスタッフに』
『……なので、その分競技を頑張ってください皆さん!』
(……どいつもこいつも真面目でこっちやること無ェな、俺は楽だけど)

残念そうに残り後日に回すと美琴が告げ、それに少し緊張気味に氷華と椛がフォローの言葉を付け加える。
おっかなびっくりに恐る恐るといった感じにだが突然代理を任された後輩小動物チームは上手くやれてるようだ。
一方で既に自分の仕事は無いなと、第一位が頬突いてだらけていたが。

「やっぱ霊夢の弟分だね、イイ性格してるよ」
「……まあ一応楽しんでるようだから、お姉様達も」
「……ちっ、競技置いといて聞き惚れてたいですの、お姉様の解説……」
「あっ、黒子さんはノーコメントで……」

そんな解説席を第二走者、チルノにミサカが呆れあるいは微笑ましそうにし、何時も通り後輩がテンション上げて天狗が流した。

ドンッ

「……でそれはそれとして、今です、チルノ!」
「おうっ、妨害タックル!」
『きゃあ!?』

が、そんなこんなで始まった二走目も早速波乱、最初に切り替えたミサカ(人生初の運動会に実は本気だった)の指示でチルノが特攻したのだ。
彼女は数個目の障害物、『ネットを潜ってる』最中の黒子とはたてに飛びつき、自分毎ネットに絡め取らせる。
更に悠々とミサカが横を普通に追い抜いていって、足止めされた黒子達が唖然とし叫んだ。

「ここは先手必勝、最高ポイントの一位貰います!」
「ふふっ、今日はあたいもチームプレーに徹するよ!」
『ずっこ、ってああ抜けないー……』

上条ばりに捨て石になったチルノがニンヤリ笑い、それに見事に嵌って悔しがる二人にこれ見よがしに手を振った。
そのままゴールテープを切り、それからミサカは勝者の証のメダルを会場端、そこで『準備中の二人』へ掲げた。

「打ち止め、勝ちましたよー……そっちもダンス頑張って!」
「うん、見ててね!」

既に混じってる妹、予備のフリル一杯ダンス用衣装の打ち止めとブンブン手を振り合った。
今日の残りは日程繰り上げで小学部のダンスのみが残る。
二人の少女、打ち止めとフレメアは後半戦終え障害物を片付けた競技場をゴクと緊張気味に見詰める。
そして序奏部分の音楽、行進が開始され家族の視線、縁ある者達のカメラが集中する中歩いて行く。

「妹たちの大一番……はたてさん、準備は!?」
「……ふふっ、競技で不覚は取ったけど本業の技を見せてやる!」
「……むきゅ、まだ腰痛いし素人だけどこっちも良いわ、小悪魔に頼まれてるしね」
『他も配置良しでーす!』
「よしっ、じゃあ記録は任せたわ!」

パシャパシャパシャッ

『頑張る……行くぞおっ!』

二人の少女達がタッタと手を繋ぎ駆けていった。



『ふふっ、騒がしい街……』

二人の男女、聖人と天使が呆れつつも微笑ましく騒ぎを見守る。
白蓮とミーシャ、それぞれ宗教は違えど生粋の穏健派だ、人の営みがそのまま進む様を笑いながら教会の給仕(二人共真面目なので自分から言い出した)して回った。
競技が終わって来た普通の客達、そして『関係者』一同に程々に冷まし飲み易くしたお茶を入れていく。

「はい、喉乾いたでしょう、どうぞ」
「……明日も頑張ってね」
『あ、ありがとう』

心遣いに礼言われ、気にしないでと二人は微笑みと共に手を振り返す。
だって本当にこの時間を良いものと思ってるから。

「……て訳でこれ『見事にズッコけた打止め』、珍百景確定ね!」
「ダンス最後にスカートの裾踏んで見事にコケちゃって……」
「わあ、止めてえ、お姉様!?それと後生だから見ないでえ番外個体!」
「ほうほう、上位存在も型無しだ」
『ふふっ、本当に騒がしく……微笑ましいなあ』

あるいは『こういう』家族の弄り合いも含めて。

「ぷぷ、いい思い出じゃない」
「そのうち笑い話に成るって」
「……うう、意地悪ぅってミサカはミサカはあ……うう覚えてろようお姉様め」
「にゃあ、ドンマイ」

『ズッコけた打ち止めとそれに吹き出すフレメア』、確かに貴重はである写真に美琴やシスターズ、それにその友人等が大笑いする。
加えて今回は仕事で来れず(相手所有ボックスカーの)テレビ電話先から見る姉も。

「永久保存ね……フレメアちゃんの分も焼き増しする?」
『……ありがと第三位、マジ感謝ってね』
「……大げさねえ」
「フレンダお姉ちゃんたら……」

画面の先で暗部少女が一頻り妹の晴れ姿に目尻を緩まし、それから満足気な顔でペコと頭を下げる。
姉同士の共感か、美琴とフレンダは同時にフッと笑った。

『……やっぱ妹って良いわね(ってわけよ)!』
「シスコン……」

何かを分かり合い、それに周りが呆れた。

「……まあ、愉快な姉妹事情はさて置き……10032お姉様は好調みたいかな」
「楽しかったですよ、番外個体……ええ、貴重な体験でした、成程普通の学生らしいなと」
「ふふっ、良かったね」

一番上と一つ上の姉は置いておいて、番外個体は競技で暴れたらしきミサカに話しかける。
何となく賞賛しつつその後ろに、お疲れと肩を優しく揉むようにする。

「お疲れー、明日も頑張ってね」
「ええ、勿論沢山思い出を作って……ああ自由参加競技、せっかくだから来たらどうです?」
「……む、良いかも、時間作っとく」

末っ子の思いやりに感謝し身を預け、その後ミサカは妹に誘いをかける、二人は楽しくなりそうと肩越しに笑い合った。

『……その思いやり、俺(私)に分けて欲しいな』
「モヤシ共は自業自得でしょ」

が口挟んだ細いの二人、テコ入れの返しであるボディブローで脇腹押さえる一方通行、自分だけ安全圏だったツケに蹲るパチュリーが素気無く手を払われる。
実際自業自得なので対応が冷たい、パチュリーの従者の小悪魔ですらも。

「パチュリー様、自分で治癒魔法掛けれるでしょう……ミサカちゃんの写真、見せてー」
「あ、私も見たーい」
「待って、今出すー」

ガヤガヤとカメラと写真を出し、同時にそれぞれが前日に作ったお弁当を広げる。
大覇星祭一日目の収穫を、各自疲れを癒しながら振り返る。
和気藹々とした空気の中で少年少女が笑い合う(一部残念なのを除いて)

「あ、卵焼き美味しい……最初のあたいのレースは、勝利シーンは無い?」
「作った時甘い気したが丁度良さ気か……これかな、良く映ってるよチルノちゃん」
「お握り、唐揚げ、佃煮、うん美味しい……応援席の写真は無いのかな?」
「インデックス、他の人のも有りますから……はいこれ、チア服似会ってる」
「アッ、オチャ、イレテクルネ……シャシン、アトデチョーダイ、『説教部屋』モッテクー」
『……ちくしょ、体が痛くて動けない』
「……はいはい、湿布持ってきてあげる」

割と何時もの面々、四人と一体が笑い合い、その背後で負傷者二人が弱音を吐いて、嘆息した番外個体が手当に向かった。
平和なのかそうでないのか微妙な光景だ、尤も普段からこうといえばこうだが。

「……と、あァそうだった、少し良いか上条?」
「あん、何だよ、今度はどんな厄介事だ」
「失礼な、決めつけンなよ」

(湿布貰いながら)一方通行が写真を見る上条に何か思い出して話しかける、面倒そうにする彼に一つ誘いを掛けた。

「……また『これ』やろうぜ、どうせ暇だろ」
「はあ?」

ポイと放られたのは『風紀委員の腕章』(何時かのを返さなかったらしい)だった。

「どういう風の吹き回しだよ、今度は……」
「ボランティア、日程繰り上げで空いた時間潰しのついでにどうだ?」
「……ボランティア、さっきまで畜生野郎だった一方通行が?」
「おっと、これは手厳しい……」

競技場でのテコ入れを根に持つ上条等に、一方通行は少し考えた後説得の言葉を掛ける。
持っていた懸念、というか本音を。

「早期に火種潰せれば万々歳だろ……最低でも最終日くらい、祭りを平和に楽しみてェし」
「……ああ思ったよりヤバイと、お前の目から見てそんなレベルなのか」
「……姉貴が動いてる自分で察せ」

寧ろ一番の問題は相方が先行している状況かもしれない(そういう一方通行はやたら遠い目していた)



「……ふう、にとちゃんは暫くダウンか」
「ごめんよう……」

ちょっと焦げた河童を涙子と魔理沙が支え、一輪が手習い程度の法術で癒やす、三人に負傷者運ばれながら彼女たちは『ある店』を見つけた。
そう『店員が外国人だけ』で且つ『黄色い服装のシスター』が同席するそこへ。

「……っと、少し休憩しましょう……すみませーん、オススメ一つずつ」
(げっ、またかよ……)

カバーとして店員やってたシスター軍団が、客のフリしてたヴェントが一瞬顔を顰めた。
向うは慌てて商売用の顔で頼まれた品を配り、ヴェントは端で目立たないよう縮こまる、一瞬見たような顔の気がしたものの涙子等はクレープに手を付けた。

「あら?……ま良いや、頂こうか」
『頂きまーす!』

彼女たちは深く考えずそれぞれ手に取り、涙子と魔理沙ががっついてにとりは億劫げに、それをゆっくり食べ進めている一輪が微笑ましく見守る。

「ふむ、中々、また来ようかな」
「……紅茶が欲しくなる味だぜ」
「口ん中痛い、地味に染みる……」
「にとりさん、大変ねえ……お洒落なお菓子、今時の女の子らしいというか」

それぞれのペースで片付けながら、涙子たちは僅かに声音を落とし今後について話し合う。

「……で、これからどうします?」
「とりあえずにとりは帰して……ああ後は援軍呼ぶか、また探索行きたいが人足りなくなるし」
「じゃあ情報はこっちで伝えるよ、盟友」
「この地の者も動くだろうし、それを待つ手もあるけど……」
「あー、それも有りか、でも受け身過ぎるのもなあ……」

概ね怪我人のにとりは一旦戻すに直ぐに決まり、ただ積極的に探すか暗部等の動きに便乗するかで少し別れる。
さてどうしようかと考えこんで、そこでピピと電子音が響いた。

『おっ?』
「あ、私の携帯です、ちょっと離れますね」

一つ断りいれて、携帯を取り出した涙子が掛けてきた相手と暫し話し合う。

「……はいはい、成る程、構いませんというか願ったりですが」

向うからの何かしらの提案、それを受け入れたようで小さく頷く。
それから、彼女は最後の一口を放り込んだ魔理沙を見た。

「魔理沙さん、ちょっと良いですか?」
「ああ?」
「霊夢さんが……」

ビクッ

(……司教様?)

その瞬間ヴェントが動揺した、まず学園都市でそれなりに暴れた魔理沙に、次に何度か騒ぎを起こしたのを知る霊夢の名が出て悪寒を覚えたのだ。
慌ててポーカーフェイスを保とうとする彼女の視線先で、涙子は巫女の伝言を伝えた。

「……直々に報告欲しいと、まあ今後を考えて一番馴れた相手と組むのも有るでしょうが」
「ふうむ、確かに大事だな、情報は共有すべきで……にとり連れてった後その足で向かうか」

が不幸中の幸いか、内容はこの場を離れてくれるというもの、ホッと心の底からヴェントは安堵する。

「代わりに……」
「……え?」

だがしかし、それは少し早かった、はかった訳ではないだろうが涙子が希望を根こそぎにする。

「別の応援が来るそうです、なので安心して向かってください」
「おっ、わかった……こっちは任せるぜ、涙子」
「はいっ、『彼等』が来てくれるので!」
「……え、彼等?」
(あ、司教すごい顔してる……)

『代わり』そして『別の応援』に固まるのを他所に、涙子と一輪は別行動を取る魔理沙達を手を振って見送る。
そして二人が消えた後、入れ替わるように数人の男女がバラバラと現れる。

「合流場所の屋台は、と……」
「あ、あそこじゃない、かみじょー!」
「……魔力、感じるんだけど」

まず異能の右手を持つ少年と最強の氷精と白いシスターが。

「……お姉様、クレープですって?」
「太らないかしら、いや別腹という言葉が……」

人になった軍用クローンとその姉の超能力者が続いて。

「……甘そうだな、コーヒー無ェのか」
「残念、紅茶みたいね……まだ腰痛むわ」
「パチュリー様、背負いましょうか?」

言い出しっぺの最強と格好悪いところ見せたのを取り戻したいのか図書館主従が横を固めて。

「洋菓子か、熱血じゃないからな……ちょっと苦手だ」
「相変わらず判断基準わからんな、友よ」
「不満なら説教部屋戻ってもいいけど?」
「……いや、何でもねえ」
「……こいし、軍覇を虐めないであげて」
「ふふっ……」

原石の熱血少年と奇妙な関係のライバル達が最後に姿を見せた。
割と碌でもないのが上位陣揃っていた、一部知らない面子あるもののヴェントとシスター達の顔が一瞬で顰め面に変わる。

『……うわあ』

思わず呻き声が出た、そしてそれで『後輩』も気付く。

『……ヴェントさん、何してんの?』
「……見なかったことにしてくれると助かる、いや本当に」

それが無理なのは重々承知だが切実に言った、手遅れなのはわかり切っていたが。
最早火種だらけの学園都市、普通の街中ですらその例外でないと悟った、というか既に経験から身に染みてるので再確認というのが正しいか。

「今までと、状況的にも一筋縄でいかないって、わかってたけどさあ……行き成りかあ」
(司教が何か、もう悟り開きかねない諦観の笑みを……どんだけよこの街!?)

何かやつれ切って見える上司にシスター軍団が同情し又ドン引きもした。




・・・ヴェントを襲う地獄のフェイント、霊夢魔理沙に焦った所でもっと酷いのが来ました(まあ東方主人公sは前回出たので留守なだけだが)
・・・あっ初のトリオか男性陣合流、後レギュラー面子に前回までの続投組・・・&乗りの良さそうなの何人か、一部生け贄っぽいのは秘密です。
そんな面子で(いや時間は夕方だけど)夜回り開始、多分二三話で中盤・・・何か花子以外のオカルトはサクサク脱落するかも。

以下コメント返信
九尾様
河童だから仕方ないですね(書籍とかでのトラブルメーカーぶり思い出しつつ)、さて戦犯返上とリベンジ成るか、地味に進退掛かってるかもしれません。
・・・その漫画未読でググると『超耐久&怪力』『百超えの分身』とか有るような?どう考えても鬼の四天王か天魔レベルですその雲・・・そうだよなあ入道って大物か。
割と有りそうですが雲山が若い個体か、大部分の雲を寺に残してて程々の強さな感じでバランス的にも(ゲーム含めて)

花男様
師弟は旧作なので東方原作でやれないことと、対し最近のフリーダム河童で思いついたシーン、ある意味新旧東方ネタでした・・・ああ確かに地霊殿版ぽいこの河童。



[41025] 祭りの夜に星は散る・五
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:5047b03b
Date: 2017/03/06 00:06
ダンダンッ

「気配が、まだ……」

学園都市の一角『銀髪の少女』が寂れた方にと、暗雲渦巻く下の大地を必死に跳躍繰り返し駆けていく。

「……くっ、しつこいわね」
『待てええっ、咲夜モドキっ!』

そしてそれを追うのは『青髪に黒い皮膜の羽』と『金髪に七色宝玉の羽』、二人の幼い容姿の吸血鬼。
レミリアとフランドールの姉妹が妨害する風や水流の中を追ってくる。
鉤爪振り回して風や水流を切り払う姉妹は正に悪鬼というべきか、捕まれば最悪とミューズは一瞬通信用の霊装を見た。

『あーははは、覚悟しなさい!』
「(これは撒けそうにないわね……)ブリュンヒルデ様、援護射撃の密度を」

ミューズは主に更なる攻撃を頼み、、天候操作による攻撃、広範囲過ぎるそれに向うが僅かに躊躇う。

『……これ以上は巻き込むかもしれないわ』
「ですが、ここで私が落ちる訳にも生きません、それと……お客様のようで」

決心し切れない向うに、ふと何かを、『探るような第三者の視線』を感じたミューズが引き攣り気味に笑った。
『死衣に身を包んだ老婆』と『白いワンピースの等身が崩れた女』、戦闘を嗅ぎつけた二大オカルトだ。

ダダダッ

『ぽぽ、ぽっ!』

妙に身軽な『老婆』が地平線の先から一気に駆け抜け、それに背負われた『八尺程(一尺約31cm)の女』がバチバチと怪しくスパークする腕を掲げた。

「霊、悪霊の類か……ここは乗じるべきです」
『……承知した、少し荒っぽく行くから』

明らかにやる気な相手、それを見たミューズは咄嗟に利用することを進言する。
直後巨大な女が拳で薙ぎ払って紫電を周囲に無差別に流し、同時に頭上から小規模の嵐が落ちる。

「……吸血鬼共、チキンレースと行きましょうか」
「ちいいっ、面倒なことを!?」
「お姉様、ここは散開して!」

二方向からの攻勢、咄嗟に姉妹は瞬時に判断し別方向に飛ぶ。
レミリアは頭上の嵐を『天使の羽』で散らしつつミューズの方に、対しフランドールは炎を灯した錫杖を地に突き立て襲い来る紫電を相殺する。

「よくやったわ、フラン……そんでもって逃がさん、偽物!」

ジャララッ

同じ『水』の力で上を捌きながら、レミリアがミューズに間合いを詰めつつ牽制の鎖を放った。

「ふん、しつこい……でも深追いよそれはね」

がミューズは避ける余裕があったにも関わらず自分から右手を鎖へと掲げた。

ジャララッ

「捕らえた?いやこれは……」
「『敢て』当たってやる……さあこれでそっちも動けないわよ!」
「……捨て身か!?」

ニヤリと笑ってミューズが逆にレミリアを抑えた、例えば共倒れなら『次善』もしくは周り毎倒壊させ『朝まで止めても十分』、そんな判断だ。
だから躱す分の余力を鎖を掴むのに回し、更に逆の手による投剣で皮膜の羽を貫く。

ブツッ

「痛っ、銀か、直るけど……」
「こっちがそれを待つと思う!?」

ビュオオオッ

頭上から更なる嵐の追撃、ミーシャの羽で散らせるのはそのうち一部。
慌ててフランドールが『魔力球』による射撃で援護するも、そうはさせじとスパークする長い腕が掴みかかる。
それは当然ここを絶好の機会と奇怪に鳴くオカルトのものだ。

「ぽっ!」
「ああもう、しつこい!」

右の杖を風車のように回して雷光を払い、左手を広げ頭上に魔力球『クランベリートラップ』を浮かべていく。
これで一瞬場は歪な三竦み、動けない姉と庇う妹、別方向から足止めする錬金術士とオカルトという局面に。

「向うも同じ気持ちか……さあチキンレースよ、吸血鬼!」
「ぽぽっ!」
『ええいっ、性悪め!?』

思わず毒づく二人、それに笑う二つの勢力、そして直後『柔和そうな声』が響いた。

「ふむ、では数の差を埋めましょう……南無三っ!」
『えっ?』

ヒュッと『法具』が放たれ、『紫と金の魔女』が頭上から飛び掛かる。
空の暗雲を独鈷杵が削り、姉妹の安全を確保したところで肉体派僧侶『聖白蓮』がオカルトに跳躍からの跳び蹴りする。

「せやああっ!」
「ぽおおっ!?」

ズドンッ

奇襲躱せず女が、その隣の老婆までも巻き込み弾き飛ばし、素早く彼女は追撃へと。
同時に彼女の参戦で余裕を取り戻した姉妹もまた反撃に。

「ナイスタイミング、いい屋台見つけたし奢るわ!」
「反撃行くよー!」

元気よく鬱憤返してやると姉妹が突っ込み、それに一度手を振ってから白蓮もブンと独鈷杵を振りかぶる。
慌てて敵対者それぞれ、ミューズが巨大な火打ち銃と更に減りこそしたものの暗雲から援護させ、オカルト達も支え合いながら対応しようとする。

『はあああああっ!』

そして先行に轟音、直後ズドンと戦いの影響に耐え切れず『辺り』が崩れた。



「……やり過ぎましたわ」

白蓮が困った様子で頬を掻く、右手に『人型』を掴み、逆の手に握った独鈷杵で瓦礫を崩しながら這い出てきた。

「……同感ね」
「いや派手だねえ」

同じく『真っ赤な肉片』を片手にレミリアとフランドール、二人は小柄な体を活かし隙間から這い出てくる。
それから三人は『成果』を見せ合い、どこか呆れ気味に肩を竦め合った。

「いやあこっちは……『元気なお婆さん』でした」

白蓮は片手で頭鷲掴みにした『杵』を突き立てた老婆、ボロボロのターボ婆『だけ』を見せて苦笑する。
彼女は何故かボロボロなのに勝ち誇ったように笑っていた。
ここに居ない誰かに笑うように。

「もう一体の霊は?」
「激突の寸前で、結構遠くまで蹴り飛ばし逃がしたのです……まあ走るのは得意そうですからそりゃ飛びますよね」
『それは又……』

ニヤリと笑うターボ婆に、白蓮達は残念そうにだけどどこか感心したような顔を擦る。

『肉体派老人か』
「はは、でも少し共感かも、まあ兎も角……貴女はここで脱落です、もしそれでも成仏しきれず暴れ足りないのなら……」

一瞬言葉を切って、それから白蓮は段々と消えていくターボ婆にある言葉を掛ける。
彼女らしい優しい誘いの言葉を。

「生者を厭うのは霊の本能であるが……ならば我が寺に来なさい、性を抑え迎え入れる程度の器は有ると思うから」
「……オボエテ、オク、奇妙ナ尼僧ヨ」

自身を制した女のそれに、力の差を見せつけられたターボ婆は一瞬考えてから頷いた。
縁が有れば又会おうと、尼僧と老婆はそれぞれ会釈し別れる。

「ふう、さて……レミリアさん、そちらは?」
「……最後に『千切って』いったのよ」

オカルトに関しては一段落、それから聞いた白蓮に『血塗られた右腕』を手に所在無げにレミリアが答えた。
交差の瞬間ミューズは『鎖』によって有るから逃げられない。
が、逆に彼女は『主の援護射撃』に乗じてそれを引き千切り、レミリアとフランドールが火打ち銃の弾と風、更に瓦礫に対処している間に離脱したのだ。

「向うもギリギリだっただろうに……本当にチキンレースだったとは」
「多分最初から勝つ気はなかった、そういう考えの差かなあ」
「……しかも嵐の霊装のせいか、魔力が乱れて追えないわ」
「……まあ、どの敵も面倒な相手ですのね」

呆れたように三人が苦笑し肩を竦める。
こうして無傷ではないが全滅でも無く、尻切れトンボな結果で乱入者盛り沢山の追撃戦は終わった。



祭りの夜に星は散る・五



『その情報』を聞いた瞬間『柔和そうなシスター』、オルソラが力なく空を見上げ、それから爆弾発言をした。

「……正教止めて、出家しましょうかしら」
『シスター・オルソラが乱心したああ!?』

同じ組織の仲間、『聖人対策の霊装』を持ってきたというシスター(何でも手の埋まったヴェントに先に行かされたらしい)と何か話したらこうなったのだ。
何故か凄いショックを受けた様子でブツブツ何か言っていた。

「おっ、道教入るか?」
「ドジっ子ロリ経産婦は黙ってて……オルソラしっかり、正気に戻って!」

向うで茶々入れてくる客人黙らしつつ、番外個体は正気を失ってる様子の友人を止める。

「お、オルソラ?」
「ふふっ、上司があれ過ぎて……何かもうそれがどこでも今よりマシかなあと」
「……おおう、既に悟ってるが……あ、アンタは骨の髄までシスターだ、そういうアンタだからこそ友人になれた。
それにお前さんが止めたらこの教会どうすんの?地味にお姉様方や友人の氷精sの憩いの場なんだけど?」
「……も、もう少し頑張ってみましょう、ええお偉方はもうどうでも……」

番外個体の友としての必死の説得、責任感を煽り又友人の身内への見栄を引き出そうとする。
彼女は青い顔で、だけど何とか撤回させた。

「……で、リドヴィア様はどうしましょう」
「……もう終わりだあ、私のせいで正教が揺らいで……ああ、適当な『縄』無い?」
『命祖末にすんな、止めろおっ!』

が、もう一人の当事者、何らかのミスの責任を取るしかないらしきシスター・リドヴィアは相変わらず酷かった。

「……良し、ここは」

番外個体はとりあえず暴走しないようにとっ捕まえると、教会中を見回す。
そしてカオスにはカオスと、とりあえず同じくらい酷いテンションの持ち主を見つける。
その体包帯だらけで、自棄酒中の『水色髪に繋ぎの少女』を。

「……ふ、ふふ、所詮私なんて一河童で一技術者、水底でじっとしてるのがお似合いさ」
「うん、あれが良いか、お酒借りるねー」

前回の失敗の逃避中らしき彼女の元へ、そして手元の酒瓶を貰うとリドヴィアの口元へ『突っ込んだ』。

「ごぼぼっ?!!?」
「えい、飲んで忘れちゃえ……あっそこの酔いどれお姉さん、飲み相手置いておくからどうぞご自由に」
「……ふむ、一人より良いか、ありがとっ!」

ニコッと笑ってにとりが番外個体から酒瓶を戻してもらい、リドヴィアへの強制アルコール投与を引き継いだ。

「ふふふ、異人さんや、もっと飲みんしゃい」
「ごぼぼっ?!!?」
『……良し、少なくともさっきより酷くならないはず』

グッと後はもう成るように成れと番外個体とオルソラが拳を握った、只の野放図の気はするが敢て気にしない。
一部教会で惨事は続きつつ、友人達は教会の仕事を熟すのだった。



クレープを齧る少年少女、そこは何故か異様な緊張感に包まれていた。

ジイイ

「……」
「……」
「……」
『ど、どうしよう』

上条と美琴、そして二人と腐れ縁のヴェントが何とも言いたげな顔で睨み合う。
嫌ってる訳ではないが合わせる顔がない、なのにここで勢揃いと困惑しっぱなしだ。

「……今、オカルト関係の真っ只中って知ってるな」
「え、ええ、一方通行と土御門、暗部の情報で……」

どこか冷めた痛々しい空気の中で最初に口を開いたのは黄の尼僧、ヴェントから。
彼女は『比較的軽い話題』から話し始める。

「『臭い』と、私は思ってる」
「え?」
「ちゆりが来たばっかでこれだろ、タイミングが出来過ぎというか……こういう現象に詳しいマッドの弟子の関係を疑うべきだと思う」
「……ああ確かに、ちゆりさん否繋がってるだろう『教授』には垂涎の情報か」

同感だとマッド研究者を知る上条達は憎々しそうに頷く、が同時に既に遠くに逃げ去ってるだろうと捕獲の可能性への諦めも。

「ま、荒らすように指示して……もう街には居ないかも知れんが、一応警戒しとけよ」
『……はい、そうします』 

ヴェントの警告に後輩二人はコクと頷き、ふとそこでヴェントはハッとした様子で自分の行動に苦笑する。
これでは結局前と変わらないと、科学側に施す自分を嘲った。

「いや、余計なことを言ったな、本当にらしくねえ……本題に入るか」

羞恥を誤魔化すように顔を背け頬を掻き、それから彼女は本命の話へ。
ゴクと上条達も何かを察しその先を待つ。

「私は科学側の敵だ、だが……」

彼女は自分を敵と言い、だけど弱々しい口調で付け加える。

「だが……そこに住む者までも、科学の街に住んでるってだけで傷つけるつもりはない、いや多分そもそも『出来ねえ』の方が正しいか」
「……ヴェントさん」
「大分『重ねちまった』、多分それは抜けない……『もし』ここを攻めるとしても人は巻き込まないようにする。
この街の上の方は流石にムカつくし無理だが、でも犠牲者は可能な限り失くすように……」
「そもそも攻めないのは……なんて無理なんでしょうね、ヴェントさんにもきっと理由が有って」

狙いは絞るという言葉に安堵し、だけどその先にはそれ以上何も言えず上条達は沈黙する。
そもそもこれはわかり切った決裂で、彼女は科学を好いていないのは長い付き合いだからとっくに知っている。
それでも最低限保証は得られたが、同時にそれ以上の情けは得られないだろう。
そしてそれが『騒ぎに巻き込まれ』『自分の前に立たざるを得なかった友人達』であっても。

(まあそもそも、仮に逃げろつってその時間やろうが絶対そうしない、それはわかり切ってんだよなあこいつ等は)

既に諦めというかもう読めていて、ヴェントも上条達もその時が来て相対する可能性をひしひしと感じていた。

「……ま、『その時』について今言うことじゃねえか、で……今回の事件での取り決めかね」

先延ばしだとわかりながらそうすると、彼女は今の騒ぎのことに話題を変える。

「……さっき言った通り科学は嫌いだが関わる者まではそうじゃない……だから、今回はそういうのを守る為に動くだろう、信じるかは任せるが」
「信じます、何だかんだヴェントさんは情が深いから」
「知ったようなこと言うな、で一応は被害を抑え、癪だが共闘相手の上も守ることに繋がるがそれも我慢してやる。
……まあ、互いの面子も有るし『別行動』で動くべき、下手に組んで足を引っ張り合うよりは余程マシだ」
「……わかりました、互いに無事で済むことを祈ります、無神論者の祈りなんて要らないかもしれませんが」

ヴェントと上条は互いに信じ言い合い、がそこで上条は困ったように力なく笑う。

「但し……」
「ああ?」

悪戯っぽく笑いながら一歩横へ、すると『イイ笑顔』で美琴が笑った。

「……あっちがどうするかはわかりませんが」
「ヴェント先輩、話すが終わった所で私から一つ……」

ギュッと逃さないと言いたげに、超能力者中で『比較的常識的』且つ『最も情の深い女』が友の手を取った。

「おい、御坂?」
「細かいこと知りません、絶対能力進化計画みたいに……私は好きにします、一緒に行きましょう」
「おいおい、何を言って……」
「ヴェントさん、私はね……妹を貴女に助けられたんです『堕天使騒ぎ』で、だから何と言おうと助力します、そう貴女が何を言おうと」

この言葉にヴェントが一瞬ポカンとし、それから理解しガクと顎が落ちて言葉にならない言葉が出た。

「……は?」
「そいつの情深さは知っているでしょう、考えを変えるのはたぶん無理ですよ」
「ふふっ、組織の面子、互いの事情……知りませんね、先輩を心配し又恩を返す、それより優先するものがどこに?」
「……えっ、え?」

固まったヴェントに美琴が横から抱きついて腕を強引に組み、それに苦笑しつつ上条は見守っていた面子の方へ。

「……て訳で御坂はあっちに出張だって、念の為他にも何人か行ってくれないか」
「構わねェだろ、そもそも『オカルト系知識』持ちを平等に分けるべきで……あの黄色いのに、白い大食漢、紫もやし他で三組にするか」
「後の面子を戦闘力で分けてと、おーい初対面組も遠慮無く言いなよー」



そして、分けたのは三つ。

「はーい、風紀委員(ジャッジメント)でーす、検問中につきご協力を」
「そこ並べー、ミサカちゃんのいうこと聞かないと逮捕だぞー」

一組目『以前の経験』が有るので風紀委員の真似ができるミサカとその助手の小悪魔(事情が事情なので許され矢鱈いい笑顔である)
更にその護衛と参謀担当として、白い超能力者と紫の魔女がやや離れて見守っている。

「まァ、これで後ろ暗いのに牽制になるし……あるいは炙り出しにも」
「当然ここを離れる、そう動けば見えるもの有るか……」

ニヤリと二人は『人の流れの乱れ』を早速見つけ邪悪に笑った。



囮の一組目に対し二組目はわかり易い。

「えーい、弱魔力で……スペルインターセプトだあ、霊装持ち出てこーい!」
「デテコーイ!」

バチンッ

『ぐっ……』

人混みに逆らう数人、風紀委員腕章の少女達から逃げる動きを見つけて護衛人形を頭に載せたインデックスが即座に行動する。
逆流する魔力に彼らが、一般人に扮した魔術師達が悲鳴を上げる。
すかさず風紀委員姿の上条が周りを避難させ、『手加減の出来ない面子』が仕掛けるのだ。

「皆、避難を……風紀委員の協力者です、暴動を企む者が居ると情報が入りました、そこの外国人客から直ぐに離れて!」

彼が言った瞬間波退くように人が下り、そこに『原石の熱血少年』と『仮面の桃色髪の少女』と『無意識の緑髪少女』が突撃した。

『よっしゃあ退いたら全力攻撃だああ!』
「……うん、本当に早く避難ね、流れ弾止めるので精一杯なんで」

元気よく衝撃波と弾幕をばら撒く三人に(ある意味一番被害の出る立ち位置で)上条が疲れ切った顔で右腕を振るったのだった。



『さて……』

そして最後の三組目、この組の役目は不確実だが最も重要といえる。

「……居たわ、怪我してるのかしら……『右腕』を押さえた『銀髪の娘』」
「ふん、幹部なら殊更安全なルートを取る、当たったか」

二組目が対処しているより念入りに『人を避ける相手』それを見つけた美琴とヴェントがそれぞれ紫電と風を纏う。
その背後で少し困った様子で続く三人も又攻撃準備を。

「……あたい、居る?」
「居るって、チルノちゃん……もしもの場合は仲裁とか」
「その時用に、雲山集めとこっと」

姉が心配だとミサカに頼まれたチルノが、先輩の美琴が気になった涙子が、唯一の知り合いでそれに付いてきた一輪が苦笑しながら構えた。

「ちっ、美琴のわからず屋め……自分から着いてきたんだから足手纏いになんなよ」
「はっ、そっちこそ……意地張るのは良いけど連携忘れないようにね、先輩?」
「……ちっ、わかってるての、行くぞお節介焼き」

二人は言い合いながら目標を追い、それに呆れつつ残り三人も続く。
戦場を離れる銀髪の少女、そして先に居る筈の戦女神、女神の軍団の首領が『学園都市を守る者達』の前に出るのは瞬間は近い。




・・・て訳でオカルト脱落一人目、因みに聖んは霊夢が気を聞かせて呼びました、タイミングが矢鱈良いのは霊夢の感と真面目ですぐ来たから。
・・・あとミューズはゲーム内の構え方から左利きらしい、けどそれが何かの理由で右が使えないとしたら・・・いや単に辻褄合わせですが(前にも咲夜に切られてるし)
で後半、ギスギス空気で女性陣による戦闘回、巻き込まれた何人かの胃の方がキツイかも。

以下コメント
アカマ様
・・・居ないなあ非シスコン姉妹、敢て言えば姉貴分にガチ対応な一方通行?でも半分くらい尻に敷かれてる気がするし例外といえるかは・・・

九尾様
教会の責任を一身に背負うヴェントさんの明日はどこか?寧ろ彼女の方がキレるのではないか?・・・主人公力高めた代償は大きかったようです。
まあまだ上条さんは割と考えてくれるけど、後輩の方はわだかまりがねえ・・・



[41025] 祭りの夜に星は散る・六
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/03/06 00:07
沈み行く日、赤と黒が混じり始めた頃教会に無駄に元気な喝采が響く。

『かんぱーい!』

カンッ

高らかに『杯』が打ち合わされ、『真っ赤な顔のシスター』が杯を傾ける、一秒も掛けず片付ける姿ににとりが一歩退いた。

「ぷはああ」
「ありゃあ、飲ませ過ぎたか……」
「……ふ、ふふ、何か溶けるう……このままどこかに消えたい、でもヴェント様に申し訳が……」
「おっと愚痴に泣き上戸……まあいいや、愚痴の間は一応安牌さ、私は私の雪辱でも考えとくか」

勢いで酒会に巻き込んで、思ったよりも向うも乗り気で正直やり過ぎてしまった。
今は組織への鬱憤と自分の至らなさに任せた苦労性のシスターがワインを片っぱしから消費していく。
真面目の反動かと、にとりは一瞬戸惑った後所詮他人だし良いかと思い直す。
にとりはそのまま自分のペースで、自暴自棄の女を酒の肴にすらしチビチビ杯を傾ける。

『……地味に酷い、山も山で魔境か』

向うの外道な所業に、そこそこ自分のペースを保って飲んでいた『三人』が少し引く。
金髪の貴族風少女を中心に、シスターに同情するようにしていた。

「やはりどこの宗教も大変か……」
「……全くで、太子様、我等も気をつけねば」
「……気を抜かないようにしような、屠自古」
「あれは政治的な問題の混じった悩みのようですがな、二人共……何故西の者は困った時の『焼き討ち(実力行使)』をしないのだろう?
手っ取り早く敵に対処しつつ、自分のミスの証拠も消せるのに」
『それ、お前んちだけだって……』

主に金髪の貴族風の少女、神子が同じ宗教者として同情し、腹心である屠自古は同意しつつ真面目に教材にも見立て考える。
そしてそんな二人に、見かけ最年少で実は最年長である『放火魔』が物騒なことを言った。
後に響く教会(構成員のオルソラが現地と友好関係だし)と違い、特にそういうのがない彼女は無駄に思いきりが良い、赤ら顔の彼女に左右から呆れの視線が行く。
嘆息した屠自古が横から母の酒盃を奪い、同時に長老役の少女の肩を掴んだ神子が強引に正座の形に。

「ほえ、どうしたのです、屠自古に太子様?」
『おう、そこに座れ、放火魔……』

ガミガミとステレオで、放火魔更生の為の(多分無駄な)説教が始まった。

「……おー、何か惨事になってるなあ」
『……みんな、大人なのに駄目駄目』

一部では自棄酒で一部では説教会、そんな酒会に健全な少女達、『よく似た顔の大小茶髪娘』と『白帽子の金髪少女』が嘆息する。
一同駄目な大人達を呆れて見てから、机の片隅でマイペースに茶を飲んでるオルソラを見つける。
悩んでいたがその後どうなったか、打ち止めとフレメアは普段世話になってる彼女を気にかけ話しかけた。

『シスターのお姉さん、お悩み事は解決した?』
「緑茶も美味しいですわね、あっ打ち止めさんフレメアさん何か?」
「(あ、聞いてなかったのかな)あ、あの……」
「全然ですわ、『上』も困ったものです……」
「あ、聞いて……」
「玉露って美味しいですわね、ところでお茶請けはどれに?」
「あ、うん、少し苦いけど、お茶請けはお饅頭……あ、あれ?」
「……ここ等で唐突に右席方が大改革してくれないかしら」
「にゃっ、そこで戻るの……あれ、ええっと」
「ああ、情報の受け取りと会話が時々順番ズレんのさ、打ち止めお姉ちゃんにフレメア」

進んでは戻り、また進むという独自の会話ペースに二人が固まった。
困惑する二人に番外個体が自分たち用の茶を用意しながら説明する。

「……ええと、番外個体?」
「いや、何ていうか、あれが『素』……何ぞ自分んとこの勢力がまた馬鹿やって、外行きの顔する余裕が無いみたいだね。
今まではまあ……友人の私の家族ってんで『見栄』張って『出来る女』頑張ってたんだが」
「ショックでそれを維持する気力もないと……」
「まあ、そのうち戻るって……情けだからさっきのは忘れてくれ」
『うん……大人って大変だなあ』

子供二人は大人も大人で苦労するのかと、同情するように二人が爪先立ちでオルソラを撫でる、普段お世話好きお姉さんポジの彼女には呆れよりも同情勝るらしい。
そんな風に子供が子供で微妙に悟ってる頃、それを見ていた白と黒、山の二人組が苦笑し合う。

「……子供の教育に悪いなあ、いや今更か」
「……全くですね、椛……そもそも同種族、『人』に限っても常識が足りてないのばかりか」

思い浮かぶは保護者である白い超能力者にその相方の巫女、離れた位置ではよく知る元修験者の自由人。
辛うじて超電磁少女や一部研究者、そして今は駄目気味だが真面目なオルソラという例外はいるがそういうのは正直少数派といえる。
思わず引き攣った顔をした椛は真横、既に酒に沈んだはたて(普段インドアなので昼間の運動のバテも有る)を膝に寝かせて嘆息した。

「むうう、この枕何か硬い……」
「剣士の膝に期待するなと……っと、妙な気配が?」

が同僚の言葉に呆れた所で、椛がピクとその耳を反応させ教会の向こうを睨み「、同時に文が窓から身を乗り出すようにする。

「椛?」
「……ええ、道路の向こう、お願いします、文様」
「ほい、了解っと……えい、物言えば唇寒し、秋の風!」

ビュオオッ

『ぐあああっ』
「お、当たった、錬金術士の監視かな?」

唐突に風が吹いて『古めかしい西洋風ローブの数人』が高々と空を舞った。
はあと二人の天狗は嘆息し撃墜したのを、倒れる魔術師達を面倒そうに見た。

「……見たとこ三下、教会の奥で話してる方々に片付けさせましょう、椛」
「はい、とりあえず武装解除と引き渡しを……」

ちょっと億劫げに椛が当事者に押し付けに向かう、未だ裏の戦いは小競り合い、但しこの場はだが。



祭りの夜に星は散る・六



だが『最前線』といえるそこは違う。

ズドンッ

『行っけええ!』
「ちいっ、私を守れ、『四派閥』!」

合流場所に急ぐミューズを雷光と風、人気の無くなったところを見計らった睨み合う先輩後輩タッグの攻撃が降り注いだ。
反射的に彼女についていた護衛の仲間、というか同じ頭を抱き利用し合う勢力の手のものが間に割って入る。
ミューズが錬成した盾と剣が雷光と風を阻む。

「これも呉越同舟というのかしら……守って頂戴ね?」
『……良いだろう、下がれ!』

肘までしか無い右の傷口を押さえ下がるミューズと、その前に立つ数人の魔術師が言い合う。

「防御態勢!」
『はっ!』

ガギィンッ

ブリュンヒルドとの繋がりの分ミューズは無碍には出来ないと、欧州の頃からのライバル達が不承不承ながらに庇う。
分厚い盾で雷光を払い落とし、続く風を銀の刃で引き裂く。

(……戦女神様々か、ブリュンヒルド様に感謝しなくちゃね)

自嘲気味にそんなことをミューズが考えた時、突然寒気を覚えた。
辺りが急激に冷え込み、ピシピシと薄く氷や霜が張り始める。

「不味っ、これは……」
「逃しません、足を止めます!」
「あたい、遅れて参上おっ!」

ビュオオオッ

『厳冬の花の装飾具』を着けた黒髪の少女と、『極北の風』を纏う水色の髪の少女が続けて現れ吹雪を起こしたのだ。
黒髪、涙子が霊力を呼気に乗せ、水色髪ことチルノが氷の羽を大きく広げる。
それぞれ霊力と妖力を限界までチャージ後、一気に開放した。

ピキキッ

『ぐっ……』

顔を庇った腕が、体の表面から段々と凍りついていく、当然『足元』も張り付くように。

「しまっ、これでは離脱が……」
「そっ、足を止めるって言ったでしょ……さあどうする!?」
「……すまん、荒っぽく行くぞ、四派閥!」

文字通り物理的に足を止める、二人掛かりの大寒波の効果に涙子達がニヤリと悪戯っぽく笑った。
ギリとミューズが歯噛みし、咄嗟に唯一残る左手で『燃え滾る弾丸』装填後地に向ける。

『おい、ミューズ!?』
「このままよりはマシ……ダメージは覚悟よ、行けっ」

ズドンッ

「ぐっ、だがこれで……」

ミューズが着弾の余波で強引に拘束を解く、同時に巻き起こった爆炎が派手に土煙を巻き上げた。

ブワッ

「……おっと視界が良くない、体勢立て直しかな、チルノちゃん?」
「うん、先行した二人のカバー……あたいは黄色いの、そっちはミサカのおねーちゃんの方!」
「ようし、了解了解!」

チルノ達は素早く二手に分かれ、チルノはヴェントの、涙子は美琴の横につく。
そして直後土煙を割いて、魔術師達が武器を手に飛び出した。

「ちっ、一箇所なら……ええい、乱戦に巻き込むのよ!」
『おおっ!』

魔術師達は向う同様二つに、ミューズが半分を率いて、残り半分を別派閥の者に任せ駆けさせる。
が、それを阻むように『大地』が脈打つように動いた。

「ふっ……カモン、水蛇ちゃん!」

涙子がニヤリと笑い、そこに伏せさせていた無数の『水の蛇』を嗾かけたのだ。

グワッ

大顎開けて水の蛇達が魔術師に飛び掛かった。

『ちいい、邪魔を……』
「足を止めちゃ駄目、切り払い進んで!」

ミューズの指示で抜刀し、魔術師達は最小限で捌いて前へと行こうとする。
が、その瞬間水蛇がバシャと自ら弾けた。

「……相手してくれないと拗ねるのよ、で次はチルノちゃん!」
「おうっ……凍り付けえっ!」

チルノが素早く氷の翼を広げ、空中で弾けた水の塊に冷気を叩きつける。
一瞬でそれは氷塊に変わり、更に空気中の水分を巻き込みながら更に歪に『肥大化』していく。

ビキビキビキイッ

「不味っ、散って……」

自分達の目の前で氷塊が膨れ上がって、ミューズが散開を指示しようとしたが僅かに間に合わない。
空を地を、僅かな水分を伝って伸びる『氷の蔦』が魔術師達を捕ようと広がった。

「ふふ、あたい特製即席トラップ……固まっちゃえ」
「……ちいぃっ、フリントロック一ぃ!」

目の前の光景に舌打ちしたミューズが剣を手放し、代わりに錬成した火打ち式拳銃で氷を迎撃する。
ドンと蔦を数本纏めて吹き飛ばし、それで空いた安全な空間にその身を滑り込ませる。
が、続くことが出来たのは後続数人、後のものは蔦に捕まり、もう一組も又同様だった。

『ちっ、片方だけ、なら……雲居(さん)!』
「ええ、任せて!」

ドンと落ちたのは雲のように自由な僧侶、一輪が着地と同時に拳を振り被った。

「行くようっ……慈悲の北颪、どりゃあっ!」
『ぐあっ……』

まずは巨人が拳撃を一打、蔦に捕らえられたミューズ後続を纏めて薙ぎ払う。
更に一輪は拳を横振りへ、一瞬の溜めの後一気に振り抜くと巨人も又同じ動作を取った。

「はああ……積乱、見越し入道雲!」

ブウン
ドゴオオッ

『ぐあああっ!?』
「……ふうう、手応えあり、後は任せるわ!」

今度は横殴りの一撃がミューズと別行動の組を薙いだ、蔦に捕らえられた彼らは動けず直撃を受けた。
悲鳴を上げて吹き飛んだ彼等に一輪と雲山が満足そうに胸を張り、それに手を振りつつ黒髪の少女が前へと出た。
彼女はクナイを手にミューズに斬りかかる。

「……じゃ、今度は私だよ」
「くっ、相手してる暇は、突破しないと……」

ガギィンッ

慌ててミューズがクナイを銃身で逸し、肩越しに視線で指示を受けた後続が刃を突き立てる。
ブツと妙に軽い手応えと共に『水で拵えた体』を貫いた。

「なっ……」
「擬態、解除……水蛇ちゃんGO!」

刺された涙子が一度体を揺らし、それから数十に別れたれたと思うと蛇の群れに変わった。
後方『美琴の後ろ』で屈んで隠れていた涙子が嘲笑と共に手を振った。

「……しまっ、これは!?」
「ふふ、霊は寂しんぼうだから遊んであげてね……彼を足場に、御坂さん!」
「ありがと、隙有りかな」

分裂した水の蛇の半分がミューズ付きの魔術師に襲い掛かり、残りは一塊になったと思うと一体の大蛇となってミューズへと牙を剥く。
同時に紅い外套を風に流した美琴が地を蹴り、水蛇の頭の上で最大チャージを終えた雷光を輝かせる。

「……くっ、フリントロック一ぃ!」
「遅い!」

ガギィッ

ミューズが新たに作り出した火打ち式銃を向けたが、その引鉄より早く水蛇の顎が挟み込み牙を食い込ませる。
反射的にそれを手放したミューズが銀の刃を抜くも、今度は蛇の頭上から身を乗り出した美琴が砂鉄の剣を叩きつける。

ガギィンッ

「せいっ!」
「う、あっ……」

大上段からの体重の乗った一撃に剣が軋み、何とか防ぐもミューズの方も動きが止まる。
がそこから更に、彼女は意識を集中し能力行使をする。

「歯を食いしばりなさい、直に……『流す』から!」
「な、待っ……」

バチィン

「ぐ、あっ!?」

刀身越しの電撃にミューズの体がビクと跳ねる、真っ赤になった手からブスブスと煙る剣が零れ落ちる。
そのまま彼女は背から地面に落ち、すかさず蛇から降りた美琴が上に乗りマウントを取る。

ジャキッ

「……動くな」

砂鉄の剣を突き付け、更にもう片手でミューズの残る手首も美琴は抜け目なく掴む、更に水蛇までも尾を伸ばしミューズの両足を絡ませた。

ガシッ

「うっ、しま……」
「うん、ありがと、蛇さんも……これで抵抗出来ないでしょ?」
「……ぐっ、他のものは……ちっ、無理か」

不自由な体勢でミューズが戦場を見渡し、が大半は一輪と雲山に、僅かに立つ者もチルノとヴェントが手分けし無力化していく。

「片っぱしから殴り飛ばせ、ちっこいの!」
「おう、グレートクラッシャー!」
『ぐはっ!?』

鉄槌と氷の槌が魔術師を殴り飛ばし、その光景にグッと悔しそうにミューズが歯噛みする。
自分も味方も動けない、そんな状況の最悪さに思わず愚痴が出掛かる。

「くっ、そんな、吸血鬼をやっと撒いたのに……」
「良くわからないけど、既に一戦やったようね……そのダメージが致命的だったわね」

ミューズの表情で苦悶に歪む、右手を吸血鬼との戦いで失い、左手は美琴に押さえられている。
既に彼女は無力化されたに等しく、また残りの魔術師も遠からず倒されるだろう。
そう、両者が思った時だった、ザザとミューズの懐の端末が鳴った。

『ミューズ?』
「ブリュンヒルド様……」

乱戦故下手に動けなかった主のメッセージ、それは誰にとっても予想外の内容だった。

『ミューズ、よくやった……よく粘ったわね、お陰で間に合ったわ』
「え?」

ドンと次の瞬間空から『金』の女が降った、、『長い金髪に白磁の如き肌』『頭には古風な羽根帽子』『どことなく中世の歩兵的なシルエットな服装』の女性が。
そいつは身長をも超える長槍を手に勇ましく吠えた。

「『彼』の主治医は貴女だ、落とされる訳には行かない……はああっ!」

得意の天候操作は乱戦では使えない、ならばと白兵戦の距離に自ら飛び込んだブリュンヒルドが槍を振り被られた。

ブウンッ

「くっ、新手……水蛇ちゃん、庇え!」
「ごめんね、下がるわ……」

槍の一閃で美琴の前に立ち塞がった蛇を『蒸発』させ、がそれによって稼がれた時間で美琴が飛び退く。
更にそこから二人、美琴と入れ替わるように涙子と雲山付きの一輪が挟撃しようとする。
ビッと涙子が天を指し、暗雲を集めバチバチと帯電させる。

「雷撃で薙ぎ払うっ、雲よ渦巻け!」
「……甘い、雲よ散れ」

が一瞬でそれは散る、ブワと槍を翳しただけで雲が掻き消える。
ほんの僅かに涙子が呆け、すかさずブリュンヒルドは槍を持ってない方の拳を握った。

「……邪魔よ、はあっ」
「ぐ、あ……」

『希少な血』が齎す膂力で涙子の胴を打つとそのまま殴り飛ばし、更にその勢いで槍をスッと素早く横に払う。
それが指したのは反対側から仕掛けようとした一輪と雲山、それだけでブツと雲山の体が『ズレた』。

「不味っ、相性最悪……な、なら、ええい!」

咄嗟に一輪は雲山を下がらせ、自身も大弾を打ってから後ろに飛ぶ。
が、悪あがきめいたそれをブリュンヒルドは僅かに体をズラシ躱した。

「その程度?なら帰らないと……」
「……くっ、優先順位がしっかりしてる、大将だけに冷静ね」
「……だね、嵩にかかって突撃しても良いだろうに」

最小限で動きながらも油断の見られない敵に、美琴や涙子等のカバーに前に出たチルノが僅かに顔を引き攣らせる。
強力な霊装持ちでも油断の無さに大将らしい凄みを感じ、だが同時に美琴とチルノは『何か』を感じた。
油断の無さは余裕の無さのようで嘗て『どこかで見たような覚え』が有った。

「いや冷静ってだけじゃない、妙に必死な?」
「何か大きな物を背負ってる?自分……ううん、それだけにしては余裕が無い」
『……こういうの、確か夏休みにっ……』

二人はそこでハッとしたように相手を見る、『姉妹の為に走り回った10032の妹』と『例え恨まれようと聖女の為に戦う聖人』の面影を何故か戦女神に見たのだ。

『……貴女は何なの?』
「さて、関係ないでしょう……引くわよ、ミューズ」
「は、はい、ブリュンヒルド様」

思わずという視線、探るようなそれにブリュンヒルドは居心地悪そうにしながらミューズを担ぐ。

「……今回はこの子優先、それではまた会いましょう」
『ま、待って……』

飛び上がろうとした彼女を制止しようとし、が出足を鈍らせるように戦女神は槍を払う。
ブワと勢い良く土煙が舞い、ブリュンヒルド達の姿を覆い隠す。

「くっ……」
「では、次の機会……」
『……させねェよ』

その瞬間戦先程の乱入の光景をリプレイするように、だけど今度は『白』の少年が落ちる。

「大将を落としちまえば……プラズマの雨、喰らいやがれ!」

ボウっと彼の掌中で幾つものプラズマが蠢き、そのまま出力を上げつつ一気に爆ぜる。
それに対し、ブリュンヒルドはクルと刃先で弧を描かせ、小規模の嵐を巻き起こす。

「そちらも援軍……良いわ、来なさい」
「そうかィ、なら……遠慮無く!」

ズドンッ

互いの間で炎が弾けて風が吹き遊び、直後僅かな余波を残しつつそれは晴れる、威力は互いに届かず相殺に終わった。

『ちいっ……』

双方思わず舌打ち、一方通行は攻撃の不発に、ブリュンヒルドは逃走の為の目眩ましに為らないと顔を顰める。
が結果は相殺にこそ終わったが、状況的に後者の方が悪い、一方通行を追うように更にもう一つの影。

「行くぜ……根性っ、どりゃああ!」
「ちっ、原石の方か……」

プラズマと嵐による余波の煙を裂いて軍覇が落ち、そのまま真上から両腕を合わせ振り降ろした。

「させないわよっ!」

ガギィンッ

咄嗟に槍を掲げ、すると漆黒の柄が軋みすらせず軍覇の一撃を受け止めていた。
一瞬巨木を打ったかのような手応えに軍覇が瞠目し、彼は悔しそうにしながらも躊躇なく飛び退く。

「へえ、何かあの槍トンデモネエっぽいな……一方通行、どうする?」

ただの槍ではないと、知識ではなく手応えという感覚で感じた彼は警戒の表情で隣に並んだ一方通行に聞いた。

「……倒せりゃ万々歳だが、最悪削っただけでも十分だろ」
「……性に合わんが、何とかやってみるか」
「いや、一方通行に削板さん、自分の持ち場は?」
『紫もやし(黒トンガリ頭)に押し付けといた』
「……あ、そう」

それぞれパチュリーと上条に任せたと抜け抜けという二人に呆れながら、美琴は苦笑の表情で横に並んだ。
どこか奇妙な相手、必死さが誰かに重なるブリュンヒルドを訝しみながらも彼女も攻撃態勢に入る。

「……私もやるわ、三人掛かりで行きましょう」
『おうっ(おゥ)!』

言いながら美琴がコインを浮かべ、頷いた二人の超能力者もそれぞれ拳を振り被る。
するとそれと同時に、ブリュンヒルドは槍の刃先で一度ずつ空と地を指した。

「成る程、ならば迎え撃とう……吹けよ嵐、そして煮え滾れ『大地』よ」

まず大気が荒れ狂い風が渦を巻いて、続いて『マグマ』が足元から吹き出し巨大な砲弾を作り出す。
ブリュンヒルドは二つ、空と地の『災い』を目の前に並べた。

「……霊装『グングニル』、伊達ではないわよ」
『……来るか』

戦女神と超能力者達は睨み合い、それから最大火力を叩きつけようとした。

チラ

「……っ」

その寸前、美琴は後方に視線を一瞬やった。
まず魔術師の生き残りを無力化していたヴェントが短く叫んだ。

「……ちゆりを忘れんなよ、美琴!」
(……ええ、本気は出せない、か)

『本当の最大火力』をマッドの助手、その先にいるマッドには見せられないと、美琴は首のチョーカーに一瞬手をやるもそれだけに留める。
更に美琴の迷いを感じ取り、ヴェント程ではないが後ろに居た『二人組』も動く。
氷の翼を広げたチルノが美琴達三人の前に出る。

「あたいが防御する、攻撃に集中して!」
「助かる、私達が撃ったら氷を!」

彼女が素早く守りを請け負い、それと同時に回りこむような軌道で涙子が風を背に飛び掛かる。

「最悪、纏めて撃っちゃって……妨害します!」
「……っ、なんて無茶を」

一回休みすら視野に入れて彼女は特攻、クナイを手に飛び込んだ姿に美琴達もブリュンヒルドも顔を引き攣らせる。
が、ブリュンヒルドは一瞬足元をチラと見てから言った。

「特攻か、ならば……こちらも賭けに出よう」

トンと彼女は足踏み、するとビキビキと地面が割れる。
そしてそこからドンと、『傷だらけの巨竜』が燻り出し、引き釣り出された。

「なっ、そいつは……」
「斥候でしょうね、第三勢力の……でも、『恨み』の先はどちらかしら?」

グワと巨竜が牙を、そして無理やり組み直したらしきボロボロの体を揺らし、涙子が反射的にクナイと風を撃ちこむもボロボロになりながらも相手に組み付かれる。

「ぐあっ、離れ、力の差が有り過ぎて……」

バラバラと胴が崩れ霊体の破片を零す竜が涙子を捕らえた、彼女は竜の首に巻き付かれ締めあげられる。
すかさずブリュンヒルドは再度足踏みし、今度は涙子と竜の足元に亀裂を入れる。

「お嬢さん、只の人では無さそうね、なら……構わないでしょう」
「不味っ、しくじった……み、御坂さん、小細工失敗みたいなんで後任せましたあああ!」

ガララッズドンッ

そのまま一人と一体は崩れた瓦礫に巻き込まれ、一瞬で地上から姿を消した。
そしてそれをやったブリュンヒルドは悠々と大槍、グングニルを構え直す。

「さて、では改めて……行くわよ、超能力者!」
「ちいっ、構えて、二人共」
『わかっる!』

涙子の妨害は防がれ、小細工無しで互いに仕掛ける。
ズドンと嵐とマグマの砲弾が、超電磁砲とベクトル操作に寄る風と拳撃の衝撃波が全く同じタイミングで放たれる。

ドゴオオッ

『くっ……』

直後真正面からぶつかり合い、耳をつんざく程の轟音を響かせる。
ドンと余波で激しい衝撃波が巻き起こり、グラと辺りが揺れる、そして一瞬土煙が舞った。

パリンッ

「……うひゃ」

目の前で『溶解しかかった氷壁』が砕け、それを維持していたチルノが周りに叫ぶ。

「……みんな、無事!?」
『な、何とか……』

煙に咳き込みつつ美琴が、一方通行や軍覇が相殺の余波で眩む頭を押さえながら立ち上がる。
目の前には大きなクレーター、そこには誰も居らず、だけど一片の『小さな金属』がキラと輝く。
遥か彼方、追いつけるとは到底思えない程遠くに影が二つ。

「逃げられた、でも……」
「……ああ、無駄じゃねェ」

一方通行が足元の『それ』を拾う、明らかに尋常ではない金属の欠片、『鋭い槍の刃先の欠片』を。

「向うも無傷ではない、いやあるいは……只のダメージよりは大きい成果かもなァ」
「ええ……『欠け』させたわ、あのヤバそうな槍を」
「……キツイが壊せる、か」

嵐を起こしマグマを引き釣り出す、そんな理不尽な武器も無敵ではないと目の前の光景は証明していた。
三人の超能力者はこの成果に満足気にコクと頷き合う。

「次はぶっ壊すわよ、あれ」
「……ついでに、援軍付きなら今回より良い条件かもなァ?」
「……仮に単独でも根性次第だろ、罅入ってる可能性もある」
「さて、そうなると……今日はこれで終りね、一旦他の面子と情報交換よ」
「あァ、教会に戻るぞ、深追いから返り討ちで情報伝え忘れは笑えねェし」

が、そんな風に結論を出した三人に対し、チルノが『足元』を見ながら首を傾げた。

「……で、落っこちたさてんは?」
『……あれなら平気だって多分』

すると少し考えてから三人は異口同音で答えた、頼りになる自由人というイメージからである。



が、信頼(見捨てられたともいう)に対し涙子は割と余裕がなかった。

「……ごぼぼっ、ちょっ、水妖と水中戦とかゴメンなんだけど!?」

水道というホームグラウンドで巨竜、ネッシーが無事な首と崩れかかった胴で必死に巻きつき彼女を押し潰そうとする。
涙子は何とか体を捻り抜けだそうとしながら、クナイを突き立て体を削る。
が、突き立てる度に向うの体は崩れるも、水辺というホーム故か竜はそれ以上の速度で体を直してた。

「や、やべ……回復し切ると詰みっぽいんだけど!?」

息継ぎしながら涙子が顔を引き攣らせる、完全な状態では膂力の差で押し切られるだろう。
極端な話しだが体の一部が向うに捕まればそのまま『沈まされ』、窒息まで持ってかれるのだ。

「は、離れて、もう……」

祭り初日で一回休みは嫌過ぎると彼女は身を捻り、がその瞬間服の端をネッシーの牙が引き止めた。

「あ、ちょ、それは……」

ガシリと掴まれたその光景に涙子の顔が青ざめ、直後ブンと向うの首が振られる。
ゴウと涙子の体が水中を跳ね、瞬く間に壁が近づいた。

「ひゃっ、それは不味っ……」

反射的に彼女が身を竦め、直後『軽い衝撃』を受ける、『鋼鉄の巨大な手』が壁の直前で受け止めていた。

「……え?」
「ひゅいっ、ぎりセーフ……大丈夫かあ、節姫」

頭上に大穴、そこからドリル背負ったにとりが呑気に声をかける。
涙子もネッシーも呆然と頭上の河童を見上げた。

「にとちゃん!?」
「ふふっ、水妖だからねえ、派手にやりあえば気づくさ……前回の雪辱といこうか」

ニッコリ笑ったにとりが涙子を引き寄せ、それから屈辱の思い出の相手(前回痛い目合わされた片割れ)である竜を睨む。
殺気混じりの視線に一度ビクと身を竦め、がそれでも彼はにとりに襲いかかろうとした。

シュルリ

撓り絡みつく『水の蛇』さえ無ければだったが。

「……遅い、後はどうぞ、にとちゃん」
「ほい、どうも……行くよ」

竜を援軍で余裕を取り戻した涙子が拘束し、すかさず彼女は友人にバトンタッチ。
水流の操作を引き継いで、にとりがその水の妖術を最大限に発揮する。

「デカブツ、あんた大した力だが……水妖としちゃ負けられないんでね」

彼女は竜へと腕を翳し、すると絡みついていた水の蛇が、更には辺りを流れる水道中の水が一箇所に集まり渦を巻く。

「ま、同じ水妖でも……こっちは力より妖術の方に割いてるけどね、まあそれを見せてやるよ」

突如そこに現れた大渦巻は中の竜を揉みくちゃにし、そのままサイズを狭め密度を高めていく。
そして両手で抱える程に凝縮し、一際力強く水流の勢いを強める。

「行くよっ、河童の……幻想大瀑布!」

ボンッ

加速後圧力の余りそれは一気に爆ぜ、大量の飛沫がボワと弾けて散った。

「……おお、お見事」
「初めて見る竜だったが……まあまあだったかな、縁がありゃペットにしてやっても良い」

呑気にそう評してから、彼女は漲らせていた妖気を解除し、そうしかけたところでハッと遠くを見る。
そして同じく涙子も何かを感じ、クナイを構え水蛇を腕に引き寄せる。

カツンカツン

二人は同じ方向を睨み、そこから数人分の足音が。

「節姫、これは……」
「うん、多分……」

まず現れたのは『学生服のオカッパ少女』。

「……ちぇ、太古迎えに来たけど遅かった」
「げっ……」
「ふむ、改めて名乗るよ、『恐怖』花子……そして蘇ったオカルト軍団参上よ」

ボワと空間が揺らぎ、花子の周りに『四体』の歪な人型が現れる。
それ等は戦意ギラつく眼光輝かせて涙子達を囲んだ。

「紹介するわ、『番町』『驚愕』『本怖』『戦慄』……」
「不味っ、囲まれた……」
「我等七大、もとい五大オカルト……生者を羨み恨むこの情念、受け止められるかしら!?」
『くう、最悪……』

涙子とにとりは顔を引き攣らせ構える、真夜中の延長戦が地下深くで静かに始まったのだった。





・・・で悪友タッグボッシュート&第三勢力エンカウントになった所で次回に続く、尚どうせ戻ると誰も心配してくれなかったり・・・
どっかで超能力者=天使の力関係って見たのでグングニル(マジの神様の霊装だし多めに見積もり)大体三人分にしてみたが後で変えるかも。
因みに今回一番大きかったのはチルノと美琴がブリュンヒルドと会ったことかも、どこかで見たような境遇的に思うところはあるでしょうがさてこれが先に繋がるか?
次は一気に二日目行くか、夜とかに総括的なの挟んでから二日目のどちらかかな?

コメント返信
九尾様
オルソラにヴェントにと教会に常識人偏るのは何故なのか?と思った所で非常識人も大概で両極端だった・・・公式善性キャラはやはり苦労人になるんでしょうね。
情の深さは原作と変わらないでしょうがそれを素直に出せるのが原作と異なる差かなあ、影響元の上条は当然だし多分教授辺りもマッド気質抜けば直情タイプだし・・・

〇〇弐号
良くも悪くも感情的なのが御坂美琴というキャラだと思ってます、それが頼れたり心配だったり又はああやはり子供なんだと人それぞれ感じるんでしょうけど。



[41025] 祭りの夜に星は散る・七
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/03/15 17:29
「……恐怖『花子』、行くよ」
「跳んで、にとちゃん!」
「おうっ」

ドンと水浸しの地下道に不可視の攻撃が炸裂、咄嗟に涙子とにとりは後方に飛び退く。

「まだっ、行って、八尺様」
「……ぽぽっ!」
『ちぃっ!?』

が、すかさずオカルト軍団は追撃、花子の隣から飛び出した二メートルを超える巨女が両腕を突き出す。
身長同様長く伸びた腕はバチバチと妖しくスパークする。
反射的に空中の涙子たちが迎撃の弾幕を放つ。

「させない、水蛇ちゃん!」
「菊一文字コンプレッサー!」

バンとそれぞれの攻撃が相殺し、その間に涙子とにとりは十分距離をとって降下する。

トンッ

『え?』

だが着地した瞬間背後で何かが軽くぶつかった、壁際という訳でもないのに。

「ねえ……」

訝しげにそちらを見て涙子達は絶句する、そこには背を向けた『女』、それがゆっくり振り向いて『口元を隠したマスク』を見せつけるように降ろした。
グワと開いて耳まで裂けた『唇』が呪いじみた言葉を口にする。
半妖怪と妖怪の身すらも竦ませる響きのする言葉を。

「……『私、綺麗?』」
「幽霊にしては、いややっぱノーコメントで!」

ゾワとする悪寒に涙子は身を竦めかけ反射的に自分への『精神操作』で強引に束縛を解除し距離を取る。
ガチガチと歯を鳴らし震えるにとりを小脇に抱え、この後の追い打ちを避けるべく真横に跳ぶ。

ジリリッ

「……っ、またっ」

しかしそれを追うように、涙子の直ぐ後ろで『古めかしいコール音』、キラと視界端で『白刃の凶器の輝き』も。

「……『今貴方の後ろにいるの』」
「ちいっ、これまた古典的な……」

現れた少女は片手にコードの切れた黒電話を、もう片方の手にギラつく輝くナイフを手に涙子達に斬りかかる。
咄嗟に剣戟の間よりマシだとにとりを放って、代わりに引き抜いた鎖を巻きつけ受け止める。

「背後、でも……今日は月のない夜じゃないでしょ!」

ガギィンッ

「……ちぇ、不意打ち失敗」
「物騒だな、これだから人間霊は……」

ギギと目の前で押し合う凶器に涙子は思わず愚痴り、がそこへ逃避する暇はないとばかりに背後で仲間の悲鳴。

「ひゅいいいっ!」
「にとちゃん!?」

咄嗟に目の前の少女を蹴りつけ怯ませ、がその余裕で悲鳴の方を見た涙子が一瞬ポカンとする。
二人の女達がゴロゴロと揉みくちゃでキャットファイト中だった。

「『お皿が一枚二枚』……数が合わないから、貴様の頭の『皿』を寄越せえええっ!」
「ちょっ、河童の頭にあるのはそういうそれじゃないからあ!?」
「おうい、もうちょっと緊張感をさあ……」

白い着物の少女がにとりに抱きつき、頭の帽子を、その中の物を奪おうとしていた。

「……あー順に驚愕『八尺様』、戦慄『口裂け女』、本怖『メリーさん』、そして……『番町皿屋敷』よ」
「……大概寄せ集めだね、郷と学園ごった煮な私等が言えることじゃないけど」

呆れた様子で紹介する花子に、同じく呆れたように涙子が言う。
が、囲まれたのは確か、彼女ははあと嘆息すると『真っ白い特大毛玉』をオーバースローの体勢で構えた。

「悪いけどこの数は……やり合うのはゴメン、目眩ましGO!」
「……させないわ、八尺様!」

ブンと飛んだ一メートルを有ろうかという毛玉が眼光輝かせ、慌てて花子の指示で巨女が紫電帯びる両腕を広げる。
ガッと左右から毛玉を鷲掴みにし、直後完全に覆い隠した掌の中でボンと弾ける。

「ぽおっ?!!?」
「……よくやったわ、休んでて、後は私達で!」

ブスブスと音を立てる腕に涙目になる彼女の横から花子が、更に再び涙子の背後に回り込んだメリーがナイフを振りかぶる。

「合わせて、メリー……やああ!」
「……えい」

ドンッと涙子の脇腹を不可視の攻撃が貫き、更に背中をメリーのナイフが深々と切り裂く。
涙子は一瞬衝撃に体を揺らし、が苦悶の声を一つ漏らさず邪悪な笑みを浮かべた。

ニヤリ

『え?』

そして次の瞬間バラと『水の雫』となって散った。

「……甘いよ、貰った!」

頭上で『囮の毛玉で一足先に上に逃れていた』涙子が二振りのクナイを両手で振り被り、水の似姿で引きつけている間に『二箇所同時』に狙って放った。

「ここは……デカ女と皿の幽霊、同時に!」
「ぽっ!?」
「貴様の皿を……あ、きゃ!?」

腕を負傷した八尺様と、にとりに集中中だった皿屋敷の霊が悲鳴を上げ飛び退こうとする。
が、殆ど無傷(精々にとりに引っ掻かれた程度)の皿屋敷の霊は身を引いて距離を取るも、ダメージに加え生来の小回りの低さで八尺様は間に合わない。

「けど……予想済み、口裂け!」

花子の指示で、『念の為に残っていたオカルト』が軌道に割って入る。

ガチン

「ぽ、ぽお……」
「……ふぁあい、だいひょうぶ?」

安堵する八尺様の隣でその特徴的な部位、人外の大口で文字通りクナイを『食い止めた』異形の女が手を振った。

「……ちっ、時間稼ぎが精一杯か、なら……にとちゃん!」
「ひ、ひゅい、あいよお……」

髪は解れ服は乱れで息も絶え絶えに、にとりが倒れたままポケットの中身、有り丈の爆発物を放った。
更に涙子は『爆風が消えない程度の風』を起こし、同時ににとりの首根っこ掴みつつ後方に跳んだ。

「……じゃ、引くよ、さよなら!」
『させない、追え!』

炎が広がる飛び退く二人、そしてそれを爆煙を割いて通りながら五人のオカルトが追った。



グスと冠(山伏の頭襟)を被った山の記者達が別に濡れてもない目元を拭う。
教会にどこか態とらしい嘆きの声が響く。

「……良い子でしたね、節姫も合流したらしきにとりも」
「そうね、文……お葬、もとい告別式の言葉を天魔様あたりに頼まなきゃ」
「いやいや、地下なら水妖のにとりは大丈夫だろうし……節姫の方はしくじっても一回休みですからね、二人共?」

思わず態とらしく泣く二人に白髪の少女、椛が生真面目に突っ込みを入れる。

「……突っ込みは椛さんに任せましょう、今は情報優先で」
「同感、正直ややこしくなってきたし」

容赦なくボケ倒す山のノリは相変わらずで、他の面子は付き合い切れないと恐らく山唯一の常識人に任せ真面目な話に集中する。
軍覇及び他二名とかの制止とかで疲れた上条(一方通行等被害の少ないのを恨めしげに見ていた)が指を三つ順に立てる。

「文句は後で言うが……とりあえず纏めよう、今学園都市には三つの勢力が有る」
「ええ、一つ目は守る側……私達自主参加組と学園の暗部に宗教勢力のごった煮の組……それと敵である二勢力ね、先輩?」
「まあごった煮過ぎて味方と言い切れるか置いといて……問題は敵、戦女神と銀髪の錬金術師が頭のとこ、それにオカルトの第三勢力だな」
「……後者はマッドの関係者っぽいのが問題か」

味方が地味に呉越同舟どころではない問題はあるが、一応は暗部、というか他に通じる土御門を中心に最低限連携は可能である。
が、それでも学園都市に跳梁する二勢力は厄介といえた。
明確に敵意を示す戦女神たちは積極的に動くことに加え、トップの少女が振るう『槍』は多少欠けて尚危険だ。
更にそこに学園都市の守りを妨害するように動くオカルトも『背景の不透明さ』含め注意が要る。

「……つっても守る側だと受け身の選択肢しか無ェンだが」
「そうねえ、鈴科君のいう通り『待ち』一択というか……」
「一方通行に霊夢さん?」
「……そのこころは?」
「学園都市の研究所はじめ各重要地点、それと希少能力狙いで学生も……適当に散って守るしかねェだろ?」
「加えて未だ二勢力とも情報不足、別行動ついでに情報が入る可能性もあるからある意味では望ましいといえるし」
「面倒だが地道に守って、地道に情報を足で稼いでくしかねェだろ」
『……はあ、結局今までどおり、と』

後数日続く体育祭参加者の安全の為そこに付く必要が有り、それ以外にも学園都市の各地に分散もまた必要な行動である。
そうして目についた相手を無力化しながら、見聞きした情報を細かに共有し分析する。
それが防衛側という都合上選べるほぼ唯一の手と超能力と巫女が言う。

「……なら明日も今日同様?」
「まあ、そうなるか……運動場の本部に誰かついてて欲しいけど」
「うーん、今日最後の面子で良いと思うけど」

霊夢はニヤと笑い、一方通行と美琴に面倒事を任せ、それから隣りに座る『やる気満々な白黒少女』とグッと同時に拳を突き出す。

「今日は後半休めたし……」
「明日は暴れさせて貰うぜ、その分な!」
『……ご勝手に』

元気のいい幻想郷最凶コンビ達、一方通行や上条、チルノ郷の面々が呆れたように肩を竦めた。
恐ろしい会話の中、学園都市の夜は過ぎていった。



祭りの夜に星は散る・七



翌朝早朝に、競技場本部で上条等より一足早くスタッフと日程確認中の一方通行に『名古屋訛り』で挨拶された。
アロハの少年が一方通行に馴れ馴れしく声をかける。

「よう……今日は真面目みたいだニャ、一方通行」
「司会席に居座る以上はスタッフだしなァ……」

億劫げで僅かに眠そうな彼に、暗部の仕事を抜って現れた土御門が苦笑した。

「正直今後も日程繰り上げは有り得るが……小さな競技は兎も角、大物といえる団体競技と『自由参加競技』は何とか無事にさせてェし」
「……幾つか省略するにしても、『客』も参加できる競技はそれから外すと」
「……ま、思い出作りはな」

世話している世間知らずの少女達、ついでに姉貴分を始める享楽主義者共、そういった連中の為にと少しだけ真面目に言う。

「……そういや聞いたかにゃ、一方通行?」
「何がだよ、阿呆アロハ」

一方通行の答えに感心した後、暫し考えてから土御門が一つの情報を与える。
意味深な笑みと共に、彼は地面を指した。

「ここ何時間か、揺れつうか音が『下』から聞こえるんだと……」
「下から……あ、あー、佐天か」

情報から一人の友人を思い出し、一方通行が少し微妙な表情になる。

「……まだやってたのか」
「ああ、そうみたいだにゃ、でそれで……動きが有ったようだぜ?」

その答えに首を傾げた一方通行に、土御門は何ともいえない微妙な表情で数枚の資料を手渡す。
どこか引き攣った呆れの混じりの苦笑を浮かべながら。

「……中々派手だぜこれ、祭りらしいとは言えるけどにゃあ……」



暗闇の中で涙子とにとりが辺りを油断せずみやって、それから同時に目を見開き走り出す。

ダンダンッ

直後妖力弾が飛んで、二人のいた場所を一瞬遅れで着弾した。

「……ちぇっ、見つかったか」
「ひゅい、あんま休めないね」

涙子達は愚痴りつつ後ろから飛び来る弾幕を出来るだけ足を止めずに躱す。
どちらも辟易とした表情、ずっと続く追撃で二人の体は擦過傷だらけだ。

「……にとちゃん、目眩まし」
「ほいよっ!」

にとりが後ろ手に数度手製バズーカを撃った後、更にそれをそのまま投げつけ同時に涙子がクナイと弾くように飛ばす。
残弾の残っていた砲が弾けて追っていたオカルトを怯ませた。

ズドンッ

『くっ……』
「にとちゃん、このまま撒くよ!」
「おうっ、少しでも地上へ!」

半分勘頼りに地下道の分かれ道を選びながら、涙子とにとりは逃げ続ける。
何度か追いつかれ、そこから大技で怯ませ、それを既に何度も繰り返していた。
巻いた後数分か数十分は一息着けて、が暫くすれば散ったオカルトのどれかが見つけ他も集まると、そういう工程を既に十以上はやっていた。

ジリリッ

「……げっ」

中でも特に呼び出し音、ストーカー妖怪の出現の前兆は聞き飽きたものと言えた。

「私、今貴方の後ろ「それはもういい!」あうっ!?」
『……無視無視!』

反射的に繰り出した涙子の裏拳を額に受け、更ににとりが水球を数個投擲、苦悶の声を上げて蹲るメリーから涙子とにとりは慌てて逃げ出す。

ダンダンダンッ

「……ぽおおっ!」
「皿寄越せえええっ!」
「ええい、しつこい!」

が、今度は八尺様と更屋敷の霊、八尺様が巨大な腕を低く払い、皿屋敷の霊が高く飛び上がりにとりに向かってダイブする。
素早くそれを見た涙子達は一瞬視線を交わし、向うと同じように二手に散る。

「……それに、付き合う道理はないよ!」
「ここは相手せずに捌く!」

タンと跳び上がった涙子が皿屋敷の霊へとサマーソルトで迎撃、更に水の蛇を受けた瞬間足を伝わらせて相手に絡ませる。
同時ににとりが作業アームを展開、足元を払おうとした八尺の両腕を真上から押さえ込んだ。

「ぽおっ!?」
「……そのまま遊んでな、パージ!」

バキンと分離したアーム部が地下水道横の足場に相手を釘付けにし、更に霊の相手を水蛇に任せて着地した涙子が隣に降りる。

「行くよ、節姫!」
「おうさっ!」

そのまま駈け出し、が直後『不可視の弾幕』が真横から襲いかかった。

「……させないわ」

ズドンッ

「きゃあっ……」
「節姫!?」

肩口を打たれた涙子が体勢を崩し、咄嗟にその肩を支えながらにとりが周囲に散乱する水溜まりに意識を集中する。
辺りの水という水が浮かび上がり、渦を巻いて攻撃の来た方に飛んだ。
その先に立つ制服におかっぱ少女、花子がピクと眉根を寄せる。

「ちいぃ、河童の……フラッシュフラッド!」
「……順番を間違えたかしら、まあまずは相殺!」

ドンと不可視の攻撃が爆ぜて水流を吹き飛ばした。

「ちっ、厄介な」
「……まだだよ、今度は私が!」

しかし一瞬余裕が出来た、倒れかかった体勢のまま涙子がクナイを抜き放つ。
ならばと投擲された一振りのクナイが、弾け散った水の隙間を縫うように涙子の放った刃が勢い良く放たれる。

ヒュンッ

が、そこへ『大口』を開いた女が割って入る。

ガチンッ

「……だぁめ!」
「口裂け女か!」

ニッと彼女は笑ってから横に一歩ずれ、すかさずそこに立つ花子が涙子達を視界に捉えて口裂け女と同じように笑う。

「貰った、照準良し……吹き飛べ!」
「食らうもんか、幻想……大瀑布!」

再び水流と派手に不可視の攻撃が相殺、派手に土煙を巻き上げる。
グッと二度の大技で妖力を使ったにとりが歯軋りする。

「不味いね、このままじゃ逃げられても消耗し過ぎる……」
「ふうむ、どうしようか?」
「遠慮なく言えば『私だけ』なら何とでもなる、それこそ辺りの水で『全部』沈めてしまえばいい。
……でもそうしても幽霊共は溺死する筈ないし、アンタも……」
「……そっかあ、私も早々の一回休みは避けたいかな」

力を使い切る覚悟なら現地の水という助けも有り一帯を沈めることは出来る、そうしてしまえば戦闘は終了する。
が、それではにとりは暫く消耗で動けず、また生者でないオカルト達は水没程度では時間稼ぎにしか為らない。
何より涙子は確実に一回休みに終わる、そう嘆くようににとりはこの判断を破却する。

「なら……」
「節姫?」
「私が何とかしよう、にとちゃんの行動不能と一回休みよりはマシだからね」

最悪よりは幾分マシと涙子は苦笑しながら、ボウっと『怪しく燃える真紅の炎』を全身に纏った。

「……切り札、見せてあげるよ」
「……させん、行くぞ四大オカルト!」
『了解!』

軽く笑って涙子が前に踏み出し、それに警戒を感じた花子が仲間と共に攻撃を仕掛ける。
ズドンと四方からオカルト達の弾幕が襲いかかり、がその瞬間涙子の体に纏わりついていた炎が『巨大な蛇』の形で動き出しその前に仁王立ちする。

「総攻撃、でも……それを待っていた!」

ボンッと妖蛇がオカルトの集中攻撃で飛び散り、そしてその破片が生み出した炎へ躊躇なく涙子が足を踏み出す。

「妖蛇の死という『なぞり』で儀式は完成する、八重垣よおお八重垣よ、てね……――』式、重ね『禍』楽(かぐら)舞い!」

爆炎の中に滑り込ませた右半身を焼け爛れさせて、だが彼女はその痛ましい姿に関わらず攻撃的な笑みを浮かべる。
ボウっと集まった炎が、向うの火力をも巻き込んで作り出した炎の大剣がギラギラと怪しく輝いた。

「行くよ、強引にでも……突破する!」

大剣の発する熱で半身焼かれながらも彼女は真下に向けた刃で切り上げる構えに。

「自爆か、迎え撃て!」
『了解!』

尋常でない様子に顔を引き攣らせた花子と他四人が一斉に弾幕を構える。
そして、息を合わせそれを解き放とうとした。

「……甘いよ、確かにこれは自爆技で……でも、それ『だけ』じゃない」

ブツンッ

軽く上へ一振り、だがそうした瞬間何の脈絡もなくオカルト達の体が『燃え上がる』。
五人の右半身が一瞬で黒焦げになる、まるで涙子の体と『鏡写し』になったかのように。

「え……あ、ぎゃっ!?」
「……流石に現状ここまで、さよなら!」

オカルト達が苦悶の声を上げその場に倒れ或いは蹲り、それを見た涙子は直ぐ様『先の剣撃で切った頭上の道』へ飛ぶ。
にとりに肩を借り、彼女は通り過ぎた部分の建築物切り崩し地下を一気に抜けた。

(今回は癪だが……情報で勘弁してやる、後で覚えてろよ第三勢力め……)



翌日競技場で、開始前の待ち時間の中流石にバツ悪そうな美琴が即席資料を見せた。

「……えー、という訳で第三勢力の大凡のメンツと能力が判明しました」
「代わりに、今日は佐天さんは教会でお留守番だと」
「帰ってレポート書いて、その後バタンキューかあ」
「いや、悪いことしちゃったわ、反省してます……」

バッと勢い良く美琴が協会の方に頭を下げた、予想以上の貧乏くじ振りに罪悪感一杯のようだ。

「……で、どうしようか?」
「ええと、既に決定済みが……こっちは解説席の四人、外が霊夢さん達と吸血鬼姉妹か」
「ああ後、先輩達競技参加組と、アリスさんとパチュリーさんもルーミアちゃんもこっちね」

チラと行き先のまだ決まってないメンツが視線を交わし合い、それから考えなしの者から口を開く。

「ま、昨日十分踊ったから……今日は外でオカルト探し、涙子は恩人だしね」
「……私も行こっと、どっちが先に倒すか競争ね、こころ」
「……ふむ、我も外だな、燃やし甲斐がありそうだ」

こころにこいし、更に布都と(精神年齢的意味で)年少組が立候補した。
はあとそれを見ていた神子と屠自古と一輪、謂わば大人組が嘆息しそれぞれに着く。

「はあ、なら私がこころ……あー屠自古は布都に、一輪殿はこいしに着いて貰えるか」
「承知しました、太子様」
「……わかった、いざという時は私達で止めましょう」

深々と溜息着いてから三人が手を上げ、問題児一人一人につく。

「……組み分けは一応こんなもんか、暗部やら宗教組織も動いてるだろうしそっちも期待したいとこだが」
「……でも一日であんなに荒れて、どうなることかしら」

癖のある仲間と癖のある敵、先が思いやられるなと一同は項垂れたのだった。




・・・てな感じでそろそろ中盤戦、オカルト勢揃いしたところで2日目開始です。
尚やはり霊夢等は前同様に別行動中、ストーリ的な火種の点火役がしっくり来過ぎ。

コメント返信
九尾様
いややはりブリュンヒルドは薄幸過ぎるので良識枠に反応させてみました、今直ぐ救われる訳ではないけどとりあえず軽く匂わせる程度で。
で、佐天さんは何というか、特攻からの直撃被弾パターンが持ち芸レベルで板についちゃってこんなことに・・・



[41025] 祭りの夜に星が散る・八
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:1765966e
Date: 2017/03/15 17:30
まだ人気のない教会、そこで最後の妹達、番外個体が眠たげにぐっと伸びをする。

「……ふわ、今日はどうなるかなと」

今日も今日もとて学園都市は祭りの渦中で、個人的な関係者含め色々と迎えなくてはならない。
幸い動かせる人手は増え(前日見事に酔いどれてたシスターとか)上手くやれば個人的な時間を作れなくもない。
番外個体としては身内も居る競技場に是非とも行きたい所だった。

「ふふっ、お姉様達を冷やかしたいな、それにミサカも一緒に遊んで……良し、早く仕事を片付けよっと」

やりたいことが幾つか浮かんで、なら何としても実行せねばと彼女はむんと気合を入れる。
昨日の『宴会』からそのまま座椅子にへたり込むシスターの尻を蹴りつけ、更に掃除道具を押し付け自らもそれを開始する。

ドゲシッ

「あうっ!?」
「そら、散々喚いて気分も晴れたでしょ……仕事して貰うよ、シスターのお姉さん?」
「……ひゃい、頑張ります」
「そうそう頼むね、昨日手伝った『住職』は今日外だし」
『……口悪いけど良い子だなあ』

酔いが残るのか少し言動怪しく又ふらふら揺れるリドヴィアを見送り、番外個体はその日のお勤めを開始する。
それを真面目だなと、壁際で寛ぐミーシャとそれに酌する咲夜が感心気味に笑った。
但しそうする彼女たちは『ある方向』を殊更目を背けていたが。

ドンヨリ

『ぐああ(ひゅいー)……』

視界の端の淀んだ空気、『床で寝込み悶絶する二人組』(巻き込まれたくないので)を皆見て見ぬ振りする。

「うー、あーっ」
「ひゅいい……」
(あらら、あっち、今日はお休みかな?)

先日(というより早朝)オカルトとの戦いから無事戻った二人、涙子とにとりが自棄酒用の酒瓶を抱いて唸っている。
這々の体で逃げ延び、その後情報を纏めた後ああやって管を巻いていた。

(……暴れて、酒飲んで、グースカ寝て、ある意味メリハリ効いてるなあ)

呆れ顔で番外個体がそう思った所で、丁度二人がノソノソと起き出す。

「うああ、頭痛い……お、お水有る?」
「ペットボトルの奴なら」
「うん、ありがと」

普段なら何てこと無い酒量だが消耗した今は別か、涙子達は頭を抱えて億劫そうに起き上がる。
真っ青な二人を流石に同情し、番外個体は給湯室からペットボトル二つ持ってきて放ってやる。

『うー……ぷはあ、生き返ったあ』

半分程一気に飲み干し、大げさに一息着く二人に思わず苦笑してしまう。

「キツイなら飲まなきゃ良いのに、全く酒飲みってのは……っと、そろそろ競技始まるね」

おっさん臭い二人を笑いつつ彼女はをラジオ弄り、一瞬のラグ後向うの喧騒が流れ始める。

『……さァ大覇星祭二日目開始だ』
『今日も頑張っていきましょう、最初は……』

先ず聞こえたのは二人の超能力者の声、番外個体もよく知る一方通行と美琴が昨日同様司会をこなしていた。
掃除しながらそれとなく耳を澄ます番外個体、すると楽しげに物騒な言葉が流れてきた。

『あァ、まず綱引き……妨害チャンスだな、派手にや(殺)っちまえ、我が母校(長点上機)!』
「ああうん、そう来たかあ、確かにアンタはそういう人だったね……」



祭りの夜に星が散る・八



「……後でぶん殴ってやる、一方通行」
「……止めませんよ、先輩」

上条とミサカが顔を見合わせ同時に超能力者を恨む、二人の視線の先には綱引きの対戦相手である強豪校。
怯えた様子で綱を握る半分とそれとは別に組まれたスクラム、『妙に殺気立った目つきの男衆』が一方通行の激で息巻いていた。

『……妨害チャンスだな、派手にや(殺)っちまえ、我が母校(長点上機)!』
「聞いたな、皆……ここで出遅れれば一方通行の怒りは避けられん!」
「ああ、他校を蹂躙しポイントを荒稼ぎせねば!」

最早暴君といって良い同級生のせいで、強豪校の余裕をかなぐり捨てた(ある意味で)今回の犠牲者たちだった。

『……可哀想に』
「ええいっ、そんな同情なんて……皆、行くぞ!」

一方通行の無茶振りに怯えた彼等は叫んで、特攻染みた突撃を敢行したのだった。

「……まあ、俺達もそれに付き合う義理はないんだがな」
「……ですねえ、チルノ!」

ビュオオッ

『え?』

が、特攻の瞬間凍てつく風が吹いてピシリと『足元』が凍りつく、その源は応援席から。
チア服に着替えた水色髪の少女がニンヤリと笑い、頭の上の人形と共に決めポーズ。

ピシッ

「ふふっ、今日はこっちからだよ……あたいの氷ですっ転びな!」
「ドリフッテノダネ、チルノチャン!」

一方通行の暗躍に備えた彼女の横槍の弾幕が長点上機に襲い掛かり、彼等はバランスを崩し派手に転がる。

ドシャッ

『ぐわ!?』
「よっしゃあ、大成功……じゃ、かみじょーにミサカ、頑張れ!」
「ああっ」「ええ!」

彼女の援護と応援の元、上条達は新たな妨害が来る前に競技の決着を着けに行くのだった。



「ちっ、長点上機共、油断しやがって……」

不満気な表情で白い少年、司会席で頬杖着く一方通行が派手に転倒した同級生を睨む。
折角の祭りと小細工したのに成果はなく、彼はつまらなそうに唸るのだった。

「ふうむ、こうなりゃ俺直々に……」
「……流石にそうなったら止めるわよ、一方通行」

隣で司会する(こちらは真面目に)もう一人の司会、美琴が惡匠する一方通行に警告の言葉を掛ける。
が、彼はそれに動じず、呑気に邪悪な笑みを浮かべる。

「へェ、手前ェが俺を止めるってか?」
「……ええ、『チョーカー』抜きじゃ厳しいけど」

美琴は現在進行形で苦労する先輩や妹を思い、睨め付けるようにする彼に睨み返し、がそこでフッと笑う。
自分が出るまでもなく、動いたものが居たから。
スウと影が頭上を覆った。

「あン?」
「……はあい、白モヤシ野郎」

紫衣装の(腰を固定するコルセット付きの)魔女が、『家程も有る巨大人形』を連れたパチュリーが一方通行にニヤニヤ笑いで声を掛けた。
彼女が一方通行を指し、それに従い巨大人形が一方通行の頭をムンズと掴む。

「うおっ、紫モヤシ、そっちに着く気か!?」
「別に味方じゃないし……ゴリアテ、説教部屋のアンタのご主人様に『お仲間』よ、運んで上げなさい」

巨体に相応しい膂力で一方通行を締めつつ、巨大人形は『いい笑顔で待ち構える説教担当スタッフ』の元へズシンと音立てながら駆けていった。

「ぬわああっ!?」
「……これで暫く平和ね」

道連れ欲しさに知人だろうとお構いなしに襲撃する自由人共に、離れから見送る美琴はその後呆れ顔で肩を竦めた、付き合いきれないが被害が来なければ笑ってられた。
これで懲りてくれればと思いながら、消えた一方通行をもう完全に放って日程表を捲り始める。

『……さてトラブルが有りましたが競技は続きます、このまま各校での綱引きで……』
『更にその後は観客参加競技だねー、皆頑張れー』

司会に戻った美琴の隣で『金髪リボン』、今は観客参加競技の準備中の氷華と椛の代わりに来たルーミアが愛想よく解説していた。
夜型の彼女は日の本で運動はゴメンで、ならばついでにと友人の氷華を送り出したのだ。

「……食べ物が関わらなければ真面目なのねえ」
「これでも大妖精共々チルノの世話担当だしー」

意外そうに言われてクスと笑って言って、ルーミアはマイクを握るのだった。



『……おおもう、何というか』

司会席は今は美琴にルーミア、更に空き席に座ったパチュリーに陣取られ、そこから巨大人形に吊るされ一方通行が運ばれていく。
クスと黒髪と白、氷華と椛が司会席の一幕に苦笑した。

「……何だか残念な保護者だなあ」
「所詮紅白の弟ということでしょう」

呆れる氷華にさもありなんと言いたげな椛、二人は一度司会席の美琴に手を振った後競技場のピット脇に向かった。

「ま、まあ、一方通行さんは兎も角……頑張りましょうね、椛さん」
「ええ、目標は当然一位……二人三脚に騎馬のフラッグ戦、ああ短距離リレーもか、さてどれに出ます?」
「ふうむ、出来るなら目一杯やりたいけど……」
「ははっ、お手柔らかにお願いしますね」

思い出作りにと日程表を見比べ、熱心さに呆れつつ椛も付き合おうと気合を入れる。
その様子をツインテールの烏天狗、今回は観客席のはたて(腕力に自身がないので綱引き不参加だ)が微笑ましい物を見るような表情で見守った。

「……椛、頑張りなー、しっかり撮ってるからねー」
「ええ、頼みましたよ、はたてさん!」
「あっ後で写真下さーい!」
「ふふ、了解」

記者と被写体が手をひらひら振り合い、それぞれの戦いの開始を待った。
人の祭りを人外も大手に参加し楽しみ『二日目』は進むのだった。



「……さあてミューズはどう出るかね?」
「少なくとも、何もなしは……まあ在り得ないでしょうけど」

アイテムのボックスカーが祭りで賑わう学園都市をゆっくり進み、その風景を楽しみつつ運転席の少年と助手席の少女が微妙な顔で言い合う。
運転席の浜面がどこか億劫そうに誰かを心配し、絹旗は然程興味無さげに答える。

「……あの嬢ちゃん、さっさととっ捕まった方が楽だろ」
「滝壺さんに散々イジられて嫌になったんじゃないですかね?」
「いや、なら尚更投降した方が良いと思うが……逃げ回ってそれで滝壺が根に持ったらセクハラじゃすまんだろうに」
「乙女ってのはその辺複雑なんでしょう多分」

今は行方知れずの滝壺の『妹』に関してああだこうだと二人は話し、直ぐにその興味を失くす。
所詮ぶつかるしか無く、その後どうなるかは当事者同士の問題だと。

「……その場合は玩具だろうなあ」
「……でしょうね、滝壺さんに気に入られたなら」

多分思う存分愛でられると、その際被害を受けないよう離れようと浜面と絹旗は心に決めた。

『ま、(超)自業自得だし……』

暗部らしい薄情さでそう決めた所で、『後ろの席』で喝采と悔しがる声が聞こえた。
バサと青髪の吸血鬼がカード束を放って、黒尽くめの元暗部と温厚そうな尼僧が悔し気に顔を歪める。

「……ほい、上がり」
「む、また敗けました……」
「お嬢様、イカサマしてない?」
「いや、多分運命……じゃないかしら?」
『あっずるーい!?』

聖と黒夜がカードを使った遊戯の大負けに悲鳴を上げ、それにレミリアが勝ち誇ったように平たい胸を張る。

「ふふっ、連勝連勝、いい気分……っとガイドさーん、おすすめの店はー?」
「……いや、ガイドじゃないし、てか勝手に乗り込んだ気がするけど」
「良いでしょ、そっちには戦力提供、こっちは道案内及び足の確保が目的よ」
「はあ、確かに悪くはないが……まあ良いや、軽食からでいいな」

絹旗と黒夜の繋がりという然程厚くない繋がりを強引に頼って、が確かに同じ因縁の相手を探すので強ち一方的とはいえない。
嘆息した浜面と絹旗はバンを出し、目ぼしい店を辿りながら軽く流し始めた。

「折角の祭りなのよ、買い食いくらいしましょ?」
「……はあ、目的がミューズってこと忘れないように」

前席から聞こえる溜息に対し、くっと呑気に笑ってレミリアはガイドブックを広げた。

「……呑気な奴らだな、こっちは仕事なんだが」
「なあに、向うは多分……昨日のようにあっちから仕掛けてくる、その時まで待ちながら楽しめばいいのよ」
「そりゃそうかもしれないけど……」
「止めとけ止めとけ、お嬢はマイペース過ぎて口喧嘩の相手にゃならん」

余裕たっぷりに笑う彼女に浜面達は呆れ、それより少女の面の厚さを知る黒夜と白蓮は苦笑し肩を竦めたのだった。

「……まあでも言う通りかも、向うが仕掛けるのを待つか」
「そうそう、それに向うは組織だって動いてる……ミューズが慎重になったとも何かしら動きは有るさ」
「そういう意味じゃ囮だな、暗部のバンは外からしたら優先順位は高かろうし」

襲ってくれば万々歳で、仮に遠巻きに様子を伺うに留まられた場合でも問題はない、完全に無視することは出来ないから十分なのだ。
そしてそうなれば前以てレミリア達が付いているのはそれなりに意味が出てくる。
浜面の安全という意味でも、いざという時に迎え撃つ戦力という意味でも。

「……複雑な気分だがガイドはしてやる、その分働いてくれよ?」
「ああ、任せていいわよ」
「私達で精一杯戦いましょう」
「それに……」

レミリア達は頷き、それから一旦言葉を切った後レミリアが悪戯ぽくここにいない身内を思う。

「それに私達以外も動いてるからな……」

ニヤと悪魔の如く邪悪に笑った。



ニヤリ

『……うふっ、ふふふ』

『上空200メートル』、遥か高くで人外が笑った。



「……ぽぽっ」
「あのバン……どうする、仕掛ける?」

『八尺(一尺=約31センチ)程の巨躯の女』と『ナイフと黒電話を左右に持った陰気な女』が車道を走る車を睨んでいた。
先遣隊として来た二人、いや二体のオカルトは慎重に今後の行動を考える。

「敵戦力は削りたいけど……消耗してるからなあ」
「ぽお……」

地下の戦いで半身を焼かれ、それから然程時間は経っていない。
このまま戦うのはリスクが大きく、がかと言って暗部達を見逃すのも惜しいとも思う。

「ぽ、ぽぽぽっ……」
「……うん、貴女がニアミスした魔術師も居るし」

加えて自分達と同様学園都市と敵対する勢力、戦女神率いる欧州五大派閥のこともある。
それを無視して無茶はできないと、二体のオカルトは目的の車の方を慎重に伺う。

「……居るね、魔術師の斥候」
「ぽ、ぽ?」
「ああいや、例の銀髪のは居ないみたい」

程無く暗部の車を追って移動する一団を確認、どうやら向うも暗部を無視できないらしい。

「……悩みどころだね、八尺様」
「ぽおっ」

二人は顔を見合わせそこで悩む、学園都市側は当然敵だが敵の敵である魔術師の集団も敵でないと言い切れない。
状況次第でぶつかる可能性もあり、居合わせたそこの斥候の扱いは些か判断に悩む。

「考えられるのは三つだね……魔術師が仕掛けた所に便乗し学園側を消耗させる、逆に一時放置し戦わせ弱ってもらう。
それと……情報を優先するなら『三つ巴』で戦いを長引かせる」

幾つか選択肢が浮かぶ、まず魔術師達が仕掛けた所で助太刀し学園都市の勢力を削るというもの。
逆に高みの見物に周りそれぞれ弱った所で動く、そしていっその事裏を取られる面倒を嫌い両方同時に敵に回し派手に戦うというものだ。
一つ目と二つ目に対し三つめは一見利がないがオカルトの背景からすれば悪くはない。
何せどの道学園都市は最初から敵で、魔術師もまた生者であるのは変わりなく組む気にならず、その上自分達を集めた水兵服の少女の望みにも合致するのだ。

「……どうしようか、八尺様?」
「ぽう……」

どれもがそれぞれ利があり、二人のオカルトはどうすべきかそこで悩み、その瞬間『思考と警戒』に『隙』が生まれる。

ゴウッ

直後風が吹く、空から地上へと。

『ひゃっはあっ、獲物見っけ!』

彼女達は未来の暴虐に思い馳せて、その結果今すべき注意を怠り、そしてそれを『人外達』は逃さなかった。
『緑髪に閉じた目の悟り妖怪』古明地こいしが、『姉に遠慮し知人に着いてきた吸血鬼』フランドールが、そして否応なくお目付け役の僧侶が勢いよく降下する。

「あんた等が噂のオカルトね、日本の古典ホラーの先輩として勝負だ!」
「ふふっ、二人発見と、じゃ早い者勝ちね!」
『うおわっ(ぽおおっっ)!?』
「……はあ、この面子暴走したらどうしろと、ああ私が止めるんだよねこれ……」

快活に笑い妖力全開にするこいしとフランドール、そして今にも泣き出しそうな顔で一輪がオカルト目掛けて襲いかかった。
人外達の本能のままの襲撃(一部やや置いてけぼりだが)、それを切っ掛けに二日目の祭りは始まったのだった。





・・・前回決まった外出組(+1)とオカルトが接敵した所で次回に続く、他にも外出組はいるけどそれは後々に・・・

以下コメント返信
アカマ様
東方キャラでも特に選別した問題児三少女、今回早速オカルト×2と衝突しと次回から物語を派手に荒らし回って貰う予定です。

九尾様
とりあえず特攻して痛い目見て涙目で帰るまでがうちの佐天さんです、但し鬼らしく恨み引きずって報復を企むまでがセットですが。
尚恨みは忘れないけど自爆の原因が『特攻癖』のせいなの酒飲んで直ぐ忘れる『困ったちゃん』だったり。

鉄様
何せ山は東方二次のネタの双璧ですから(もう片方は紅魔館)そりゃもう二人以上集まれば即漫才です。



[41025] 祭りの夜の星が散る・九
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/04/23 20:35
白い少年がカツ丼前にし頬杖着いて愚痴った。

「ちっ、小煩え大人共……」
「……超能力者でも、あんなおフザケはどうかと思うけど」

競技場の即席の説教部屋、という名スタッフの詰め所で緑ジャージの女教師が腕を組んだ姿勢で嘆息する。
司会の立場を悪用した一方通行に一通りの説教をしたのだが大して効かなかったのだ。
女教師、黄泉川は助けを求めるように『顔馴染み』で『急遽雇った医療班担当』を見た。

「……あっコイツ聞いてないじゃん、何とか為らない『桔梗』?」
「無理無理、前からそうだけど最近特に図太くなってるから」

臨時医療班の白衣の女、芳川桔梗がお手上げとばかりに両手を上げた。
がっくりと黄泉川が肩を落とし芳川が同情したように見て、対して原因の一方通行は面倒臭そうな顔で欠伸する。

「……あァ、もう帰っていい?」
「駄目だっての……反省文用意するから、待つじゃん」
「へいへい……」
「ふふ、好き勝手煽ったし仕方ないわね」
(あー後でネタにされるか、コイツ来てたの知ってたら少しは真面目にやったンだが……)

祭りを盛り上げる為なので後悔してはいないが一応の保護者といえる芳川に苦笑気味に見られ、少しだけ一方通行は後々を心配してしまう。

「……そもそも、不味いなって顔するならやんなきゃ良いじゃんか」
「いや、折角の祭だし思って盛り上げなきゃって『つい』なァ……」
『はあ……』

呆れ嘆息する二人から顔を背け、一歩通行は正座で凝った体解しつつ説教部屋の外を見やる。
一足先にここを抜けた前科者、同じ超能力者と見知った人形遣いがそれぞれ問題行動の罰でスタッフの手伝いしてるのが見えた。

ガシャガシャ

「……おうい、競技用の機材、持ってきたぞー」

『超能力者第七位』『根性馬鹿』軍覇が障害物等に使用する機材山積みで持ってきたり。

グツグツ

「……ふう、炊き出し分はこれで良いかしら」

魔女が来客用の軽食等を人形とともに手慣れた様子で作ったりしていた。

「……ここの面子、後々無駄に増えそうだな」
「止めてよ、その度説教するのこっちなんだから……」
「しかも、確かにまだだって予想できちゃうのがなあ」

まだ来そうな面々を思ったかスタッフ側深々と嘆息し、それを気にせず一方通行は自分と違い普通に楽しそうな競技場を恨めしげに見たのだった。



(……ふむ、説教部屋を撮っとくべきだったか、いやそうしたら超能力者に追われそうだけど)

惜しかったかなと黒髪の烏天狗、射命丸文が今日は競技席で少し残念そうにする。
今回は霊夢とのコンビを魔理沙と交代、もしここが狙われた時の為に残ることにしたのだ。

「……っと集中集中、歩幅合わないなあ」

それはそれとして観客参加競技の二人三脚、ネタになるかと参加した文は自分の健脚を活かせず困っていた。

「しかも相方が……よりによって引き篭もりだし」
「……むきゅう、足進まない」

ボテンと鈍い足取りの後紫衣装の魔女、パチュリーが転倒しそれに釣られて文も又バランスを崩した。
暇してた者同士で組んだのだがある意味最悪の組み合わせだった。

ガッ
バタン

『あ、あやややあああ(むきゅううう)!?』

郷屈指の速度自慢と隠すことなき運動音痴、息の合わない二人は見事にゴロゴロ地面を転がったのだった。

「……何してるんですかあの二人」
「……明らかに余り物同士組みましたって感じですもんね」

その隣を軽やかな足取りで、椛と氷華が呆れながら駆けていく。
不自由な二人三脚、だけど友人同士だけに息は中々合っていて、こういうイベントに燥ぎ前に出がちな氷華を椛が剣士らしく鍛えた体でそれとなくリードしていた。

「一二、一二……一気に行きますよ、椛さん!」
「はいっ、合わせます!」

スパートをかけようとする氷華に椛が頷き足を合わせ、二人は他の参加者を引き離し一気にゴールに向かうのだった。
共に花咲くように無邪気に微笑み、思い出作りを満喫していた。

『ようしっ、一等賞!』
「ふふ、楽しそうにしちゃってまあ……」
「ま、これはこれで平和で良いのかなー」

笑う二人に司会席、知らない仲ではない美琴にルーミアも釣られたように微笑む。
一方通行達無き競技場、今は珍しく平和だった。



祭りの夜の星が散る・九



車窓の向うで爆炎が上がるのが見えた、『三つの影』が落ちた直後だ。
それをチラと見て運転する暗部達が呆れる。

「……派手に暴れてんな、相手はオカルトってのかな」
「錬金術士とやらと同時に相手するのも超面倒ですし……好都合と思いましょうここは」

浜面と絹旗がそう言い合い、それに後部座席でクッキー(メイドお手製)を齧っていた吸血鬼が頷く。
彼女は魔法瓶入りの熱々の紅茶を啜りつつ付け加える。

「その方がいいわね、巻き込まれるわよ、うちの妹は……まあ周り頓着しないから」
「……おお怖え怖え、素直に従っておくよ」

恐る恐るという風に炎の方を見て肩を竦め、それから浜面は苦笑の表情を浮かべた。

「ま、絹旗のいうとおり好都合といえば好都合……今回は暗部は錬金術士への対処に専念するさ。
……『オカルトへの準備策』こっちにも無いわけじゃないし」

そういい彼はチラリと『視界端の路肩に止められた大型トラック』を一瞬だけ見た。
それは祭りでも悪目立ちする大型且つ実用的で頑丈なもので、また余程重量物を積んでるのかタイヤが沈んでいるのがわかる。

「あれは……」
「……へえ?」
「……ちっ、私と違って残れたか、運の良いやつ」

レミリアの向かいで同じく茶を傾けていた黒夜が懐かしい物を見たと言いたげな顔になる。

「あら、黒夜……『知り合い』でも見えましたか?」
「うん、そうだね……『パワードスーツに凝ってる奴』とか」
「……何だ、そっちも伏せていたか」
「……念の為に程度だがな」

クスと後部座席から聞こえ、それに肩を竦めつつ浜面はとある少女のことを思う。

(滝壺とギン子、『姉妹喧嘩』への手出しは無粋だがまだ大将は出したくない、俺や他の面子を着けたいが……なら、ここで動かすなら『下っ端』が妥当か……)



『ひゃっはあっ、獲物見っけ!』
「あんた等が噂のオカルトね、日本の古参ホラーの先輩として勝負だ!」
「ふふっ、二人発見と、じゃ早い者勝ちね!」
「……はあ、この面子暴走したらどうしろ、ああ私が止めるんだよねこれ」

ドゴオオオオッ

三つの影、悟りと吸血鬼と入道使いが降下、というより『着弾』といって良い勢いで二つのオカルトへと落ちていった。
勢い緩めず落ちるその直後ド派手に土煙が舞い上がり、直後慌てた様子で大小二つそこから飛び出る。
余裕の感じない勢いで大小の影、少女の霊『メリーさん』と二m超えの巨女『八尺様』が別方向に飛び出す。

『うおわっ(ぽおおっっ)!?』

叫び慌てふためきながら逃げようとし、が当然妖怪少女達も追撃する、まずメリーより一回り小さな影が翼を広げて追う。

「逃さないよ、禁忌……レーヴァテイン!」

ヒュボッ

錫杖に炎の剣と灯し、フランドールが薙ぎ払いに掛かる。
その光景にメリーさんは絶句し、慌てて手に持っていた黒電話を掲げる、直後その姿がスウと透けていく。

「わ、私、貴女の後ろに……居るのおっ!?」

顔を引き攣らせながらその異能を発揮、再出現し一瞬でフランドールの背後を取った。

「……か、カウンター行きます!」

顔面汗だくの必死な形相で彼女はナイフ片手に斬りかかった。

ガギィンッ

「……え?」

が、刃は1センチ手前で届かず、フランの背後に展開された『円陣』に弾かれたのだ。

「残念、カゴメカゴメてね!」
「うわわっ!?」

ズドンッ

本来『敵を背後から奇襲する弾幕』を自身の後ろで展開、そのまま爆散させ反撃失敗に固まったメリーを吹き飛ばす。
全身煤けさせゴロゴロ転がった彼女を肩越しに笑い、それからフランドールは改めて炎の剣を向けようとした。

「……私も混ざる、スーパーエゴ!」
「ちょっ、近っ!?」

が、その寸前で花弁型の弾幕が飛んできて、慌てて彼女は身を伏せてギリギリで弾幕を潜り抜ける。

チチッ

「うひゃっ……」
「おおっと……そこにいると危ないよ、吸血鬼の妹さん?」
「なら、撃つなあっ!?」
「……だって、私も参加したかったし」

誤射未遂を起こしかけたこいしが目を逸らし、フランドールがクレームでも気が収まらず目を吊り上げる。
学園の事件でニアミス以来地味に言い合いが多いこの二人、立場の近さからの同族嫌悪か時々互いを弄りからかい合うという相性が良いのか悪いのか微妙な間柄だった。
積極的に絡んで喧嘩する訳ではないが、性格的に行動自体似ているので衝突も目立つ二人は前のように睨み合う。

「何時かの続きする、地下の引きこもり?」
「おっ、祭りらしくて良いねえ、じゃ早速」
「……む、無視しないで、わ、私、貴女の後ろに……」
『五月蝿い、霊撃!』

ズドンッ

「きゃんっ!?」

放っとかれて怒ったメリーが飛びかかろうとし、が同時の妖力放射で吹き飛ばされる。
外から見てる分には仲が悪いが、息が合ってるようにも見える当たり逆に性質が悪かった。

「……こらこら、敵も残ってるんだし喧嘩しちゃ駄目よ」
「あ、はい、尼のお姉さん」
「むう、一輪が言うなら」

そんな様子を見ていた一輪が流石に不味いと宥め、姉の友人の弟子と最近入り浸る寺の人、そういう知らない仲ではない相手の言葉に二人は素直に頷いた。

「雲山、牽制……二人共、オカルト倒すまで仲良くね」
『はあい』
「宜しい……こっちはこっちでやる、そっちは子供同士遊んでなさい」
「わかった、この……メリーさんっての『で』遊ぶね!」
「うん、こいつ『で』楽しんでくる」
「……え?」

不穏なニュアンスに転倒したままのメリーが固まり、がすぐにその意味を理解する。
小競り合いの手を止めた二人が仲良く大弾を構え、弾けたそれでメリーが再度空に舞った。

「うりゃあ!」
「えいっ!」
「うひゃああ!?」

ズドンッ

「……な、仲がいい事は宜しきかな」

向うの惨劇から目を逸らし、一輪は宝具である腕輪を翳し『雲の巨人』に腕を伸ばさせ『先程から押さえ込んでいた二m超えの巨女』に仕掛けさせた。

「……まああっちは任せるとして、私達も始めましょうか?」
「ぽ、ぽぽっ!?」

仲間のオカルトへの援軍を妨害された八尺様が慌て、がさせじとばかりに雲の巨人が眼光を(物理的に)輝かせる。
メリーの方へ行きかけた足を止めた八尺が慌てて紫電を纏う腕を掲げ、直後巨人の目から放たれた閃光と女の腕から広がる雷光がぶつかり合う。

「瑞雲のご来光!」
「ぽ、ぽおうっ!」

ズドンッ

双方の攻撃が弾け、が激しい衝撃の後相殺し合う。
巨人の放ったレーザーがスパークの後掻き消え、が八尺の雷光も又散り散りになるという結果に終わった。

「……まだよ!」
「ぽ、ぽぽ?」

が、その瞬間一輪が前に出る、走りながら散る雲を集めその右腕に纏わせる。

「雲山の弾幕をよく止めたわ、でも……次は私よ?」
「ぽっ?」
「ふっ、天空鉄槌落とし!」

彼女は掲げた拳に雲を手甲のように纏わせ、押し潰すように真上から振り下ろした。

「ぽおっ!?」

ガギィン

虚を付かれた八尺様が慌てて防御する、反射的に両腕をクロスさせて何とか受け止めた。
がそれで完全に彼女の足が止められ仲間への援護を封じられてしまう。

「ぽ、ぽぽ……ぽおっ!」
「……八尺、撤退するよ!」

彼女は慌てた様子で奇声、仲間にのみ理解できる言葉で窮地を伝え、それにこいしとフランドールに追われていたメリーが少し考えた後撤退を決める。
二人はチラと視線を躱した後地面、地下道の方を見やった。

『……番町(ぽう)!』

二人が同時に(八尺様のは奇声でだが)仲間に叫び、すると一瞬辺りが揺れた後異変が起きる。
パカと地面が裂けた、いや正確には『巨大な大井戸』が現れたのだ。

「皿屋敷様々だね……引くよ!」
「ぽうっ!」

牽制の散弾弾幕でこいし等を追い払い、それからまずメリーが大井戸に飛び込む。
そしてそれを見送ってから殿についていた八尺もそこを降りようとした。

ヒュゴッ

『……させんぞ、給料が掛かってるからな』

そうしようとした所でバーニア全開でパワードスーツが突っ込んできた。

「ぽ?」
『……悪いが満員だ!』

そう叫んで乱入してきたシルバークロースアルファが八尺様を思い切り蹴りつけた。

ドゴオッ

「ぽう!?」

横合いからのパワードスーツで強化された奇襲が巨女を吹き飛ばし、その反動でシルバークロースアルファが更に飛ぶ。
彼はそのまま大井戸の縁に手をかける。

『……危険覚悟で探るか、何時かの雨女と戦った後陣地を変えたらしいからな』
「……おう、頼むぜ、『箒での飛行』じゃ狭そうだからな」

ピョコとパワードスーツの肩から『黒帽子と金髪』が飛び出した、ニヤリと魔法使いの少女が笑った。
幽霊騒ぎでの縁でくっついてきた魔理沙だ、彼女はこいしとフランドールを見て問いかける。

「フラン、こいし、来るか?」
『……行くっ!』

この言葉に二人は一瞬の逡巡もなく頷き、魔理沙の逆側に飛びつきパワードスーツに捕まる。

「……って訳で戦力確保成功だ、出発だぜ、アルファ?」
『了解した、給料上げるよう上に言ってくれよ、顧問?』

増えて三人抱えて、シルバークロースアルファは大井戸を駆け下りていく。

「……ぽぽおおっ!?」

慌てて立ち上がった八尺様が慌ててそちらにより、が間に合わず三人と一機の姿は完全に消える。
それに唖然とし、更に折り悪く彼女にとって予想外のことが起きる。

スウウッ

「ぽっ!?」

『井戸』の維持が唐突に不安定になったのだ、まるで『井戸の管理者』に何か有ったかのように。

「ぽおおっ!?」
「あらまあ……」
「……何が有ったかわからないけど悲惨ね」

雲の手甲を着けたままの一輪が同情したような視線を送り、更に魔理沙に一足遅れて現れた巫女も困ったような顔で八尺様を見る。
ビクと二人に挟まれた八尺様が涙目で震えた。

「私の役目は先行した魔理沙達の離脱路確保……でも、孤立したオカルトを見逃すのもあれね」
「ぽ、ぽ……」
「……ええと、ご愁傷様?」

敵である二人にまで言われて彼女はガクと項垂れた。



「ふうむ、さて……」

魔女が二人の少女と突貫し、巫女が続いて現れたのにやや遡った頃。

「……で、既に始まってるようだがこっちはどうする?」
「うむ、当然参加するに決まってるさ」

遥か彼方の喧騒、『着弾した三つの影と直後の爆音』に苦笑しながら、道士服の銀と緑髪がそんなことを言い合う。
無邪気に笑う銀のポニテ少女が『数枚の皿』を取り出した。
それにもう一人、緑髪の少女が微妙に疑った様子で問いかけた。

「それは?」
「ま、簡易の儀式のようなものだ……探すのも面倒故に誘い出すことにする」

ふんすと余り無い胸を張って銀髪、布都が皿を頭上に掲げる。
それから霊力を幾らか込めて、その後ブンと地面に叩きつけた。

「慣れ親しんだ触媒の皿、軽く霊力を込めるだけで……」

ガシャンッ

「ちょっとした霊的な儀式と成り得る、佐天の報告に合ったオカルトの一体は釣れるだろう」
「……そう上手く行くかなあ?」

ガシャンッ
ガシャンッ

自信ありげに言う身内に、ううむと屠自古は渋い表情をして首を傾げる。
今までその詰めの甘さに振り回されてきただけに疑って、それに居心地悪そうにしながらも布都は陶器破壊を続けていく。

「だ、大丈夫じゃ、今回は自信有るから!」

ガシャンッ
ガシャンッ
ガシャンッ

今まで失敗したのと違うとアピールして、それから疑う愛娘の前で今度は二枚重ねで皿を掲げる。

「ようし、体温まったし……今度は二枚同時に行くぞ!」
「そういう問題かあ?」
「ふはは、霊廟の長老たる我を信じるのじゃ!」

自信満々にノリノリで哄笑する布都、それに屠自古が思わず嘆息し掛けるも、その次の瞬間突如後方から悲鳴が上がる。

「ああああああっ、勿体無い!壊すなら一枚くらい寄越してよ!?」

叫びと同時に霊の気配、思わず振り向いた布都と屠自古は『着物姿の少女』が物陰にさっと隠れたのを見た。
その少女は身を縮こませて隠れ、がそれでもチラチラと顔出して伺っていた。

ジイイッ

「……うう、お皿があ」

そして二人と目が合った。

『あっ』
「あっ、しまった」
「……本当に釣れたよ」
「ふははっ、どうじゃ屠自古……『悪霊と為った原因』を霊力ばら撒きつつ割られれば無視できんということ」

思わず嘘だろおいという顔をした屠自古に対し、ドヤ顔の布都が大笑いする。
それから『着物姿の少女』を見やり掲げた二枚重ねの皿を振り被る。

「……おう、出てこんのか?」
「わ、罠でしょ、この『番町』がそんなのに引っ掛かる訳が……」

ギリと歯噛みしつつ番町、オカルト『皿屋敷』の霊が言い返し、するとニヤリと布都が邪悪に口の端を吊り上げる。
彼女は見せつけるように皿を、皿屋敷の霊にとって心残りと成り得る存在を地面に向けた。

「そうれっ、がしゃあん!」
「駄目えええ!」

勢い良く叩きつけようとし、が寸前で皿屋敷の霊が割って入った。
反射的に飛び込んだ彼女はスライディングしながら皿をキャッチし、がその瞬間布都と屠自古は前以て準備していた弾幕を展開する。
『起爆剤』である『皿の破片が散乱するど真ん中』に立つ皿屋敷の霊があっという顔になる。

「おおっ、ないすきゃっち、が……」
「見逃す道理はないし」
「あっ……」

ズドンッ

「ぎゃいんっ!?」

連鎖的に発生した爆炎で皿屋敷の霊が高々と空を舞い、が彼女は尚も皿を手放さずそのまま地面にドシャと落ちた。

「ぐ、ああ、皿を囮にするとは外道め」
『いや、ホントに釣れると思わなくて……』

恨めしげに倒れたまま見上げる彼女に、布都達は捕縛用の札を広げつつそっと目を逸らしたのだった。




・・・って訳で次回に続く、そういえばそれで久々の十超えですね。
まあ最後のコントは兎も角、対オカルト側をドンドン進めていきましょう・・・主人公+幼女s大暴れの予定(何時も通りといえばそうだけど)
因みにシルバークロスαが今まで何度か絡んだのは次でのリアクション担当の為、まあ正確には学園都市で組んだ誰かがそうなる予定でした。

コメント返信
九尾様
こいしに関しては種族と全く違う能力ですが、対するのも何故かナイフで斬りかかるメリーなので邪道枠でバランス取れてるんじゃないかなあと。
そういえば和洋折衷且つ古典と現代妖怪の無差別デスマッチって感じですね今回は・・・尚その横で漫才始める布都ちゃん、空気違い過ぎるけど布都だから仕方ない。

すくりーむ様
ま、まあ霊夢に引き摺られ一方通行は(自分に飛び火すれば素に戻るけど)ボケ街道突走ってるから仕方無いですね、後真面目な部分を任せられるのが居ればボケ出すし。

朝太郎様
割と番外個体は周りの影響で丸くなってます、ツンデレお姉様からツン部分引いた感じですね。



[41025] 祭りの夜に星が散る・十
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/05/13 11:32

トトトッ

「ふうう、危なかった……」

少女が『井戸』を軽やかに駆け下りる、黒電話とナイフを手にした少女、オカルトの一人であるメリーだ。
彼女は仲間である番町の井戸で戦場を逃れ、ホッと一息着いたところであれと首を傾げた。

「……八尺の気配が?」

仲間であり後続に来ている筈の相手が感じられない、思わず井戸を見上げたところで『音』に目を見開く。
それは全く予想外の音、ギャリギャリと何かを削りながら金属質な物体が建てる音。
明らかに仲間ではない、彼女は反射的に大弾を振り被る。

「不味い、これは……八尺じゃない!?」
『……今更気づいても遅い、はああ!』

バギィン

が、その判断は遅きに徹していて、大井戸から飛び出してきた『巨大な鉄塊』が迎撃を踏み潰しながらゆっくりと降り立った。
それは戦闘用パワードスーツ、脚部のホイールとウィンチで速度を調整しながら下りてきたシルバークロースアルファだ。
彼は鉄の腕で弾幕の余波を煩わしげに払い除け、それから背負っていた『影』を促す。

『ふう、到着だが……そちらはどうする?』
「ふふ、それは当然……」
「突撃だよ!」

そこからピョンと影二つ、こいしとフランドールが元気よく飛び降りメリー目掛け特攻をかける。

『目標発見……早い者勝ちィだァ!』

ドガアア

「じ、冗談じゃ……」
「待てええ!」
「良うし、鬼ごっこね!」

メリーは慌てて背を向け走り出し、が当然こいしもフランもそんなこと許すはずがない。
バラの花弁と炎の弾幕を盛大にばら撒いて、妖怪少女たちが逃げ出したオカルトを追った。

「くく、子供は元気が良いのが一番だぜ」
『明らかにそういうレベルじゃないが……』

呑気に笑う魔理沙と引いてるアルファが見送って、それから残された形となった二人も慎重に歩き出した。

『……顧問、敵はどう来ると思う?』
「まあ迎撃かな、流石に陣地は失いたくないだろうし……尤も問題は自由に動かせる戦力が有るか?」

そう良いながら彼女は機雷型の弾幕を握り、壁側の手近な柱、『死角になり得る位置』を見やる。
それにアルファもそういうことかと得心しつつ『得物』のエネルギーを半分程チャージする。

「涙子の情報じゃ相手は五大オカルトと名乗ったが……上に一人、妹コンビにまた一人、他にも出てる相手がいるかもしれない」
『そうなると迎撃に出せる戦力は少ない、少なくとも真正面からは来ない、と?』

ニヤリ

「そんなとこ、て訳で……陣地を潰す意味でも『荒らしながら』進もうぜ、生き埋めにならない程度に?」

魔女は邪悪に笑ってそう言って、直後爆音が立て続けに鳴ったのだった。



ズズッ

「……派手にやってるわねえ、派手好き共」

地から響く音にクッと笑う霊夢、当座の仕事はまだ先と壁際に体を預けた彼女は時折来る弾幕らしき振動に苦笑していた。
敵地だけに少々心配だがこの振動が続く限り、つまり今の状況が続く限りはまあ問題は無いだろう。
そして向うから必要な時、『地霊殿の異変で使った特性陰陽玉』の連絡が来た時が仕事となる。

「それまでノンビリ出来そう……私はだけど」
「そうねえ、霊夢さん……なら『あれ』はこっちに『譲って貰う』わ」

そう言って隣に立つ僧服の女、入道使いの一輪が再び雲を手甲状にし立ち上がる。
視線鋭いその先はドンドンと『閉じた大井戸』を叩く二メートル越えの巨女。オカルトの一体である八尺様だ。

「ぽおお、ぽお、ぽおおおおっ!?」
「帰還できずか、何というか……ご愁傷様?」
「ま、逃がさないけどね」

閉じ切った帰り道にパニック状態に八尺に、が同情しつつも手加減する気は一輪には毛頭無い。
彼女は井戸の後を叩く八尺へ『鉄拳』をゆっくりと振り被った。

「はあい、一発行くわよ……避けるか防ぐかしたら?」
「ぽおおおおっ!?」

ブンと振るわれたそれに、直前でやっと気づき八尺が飛び退く。
が、その瞬間彼女は『背』にドンと軽い衝撃、いつの間にか貼られていた結界が逃げ道を塞いでいた。
霊夢が軽く手を振り、それに手を振り返しつつ一輪が八尺に叫んだ。

「ありがと、霊夢さん……これで逃げ場はないわ、私の相手をして貰おうかしら?」
「ぽ、ぽ、ぽおおっ!?」
「……僧侶なのに荒っぽいのね、師弟揃って」
「……ま、私は軍神縁の僧で、それに姐さんに不意打ちした怒りも有る!」

ちょっと呆れた様子の霊夢に言い訳し、それから一輪は雲を掻き集め八尺へと駆け出した。

「迷いし霊に、仏に代わりて……介錯の拳を!」
「ぽっ!?」

僧らしい言葉に、それにしてはアグレッシブなテンションで一輪は霊を(物理的に)鎮めるべく向かっていく。
呆れる程師の白蓮の影響が見えて、見送る霊夢は思わずクスと笑ってしまう。

「前から思ってたけど元気のいいお寺、ノリのいい郷の連中が気に入るわけね……ちょっと悔しいけど……」



祭りの夜に星が散る・十



ワアアアッ

『さあ今回の競技は自由参加の……借り物競争っ、どう課題を熟すか見物ね!』

歓声の中、数人の少女が競技場を駆け回っていた。
それを司会席の超能力者や人外娘が煽るようにしていると、早速目的のものを見つけたらしき『黒髪に高下駄の山の少女』がゴール地点に駆けていった。

『おおっと、まず……初日解説者だったA嬢がゴールに!』
『課題クリアならゴールだねー』
「あやや、一番乗りは気持ちいいですねえ」

前と違い『重り』の無い彼女はニコニコ笑いでゴールの係員の前へ、がその手に何もなく係員は首を傾げる。

「む、これは」
「どうしました、係員さん?」
「いや、だが手ぶらで……」
「ふっ、ご安心を……まあ、私の『お題』を見ればわかることかと」

ピラと紙片、借り物競争の肝であるお題の書かれた紙を見せ、すると係員がピシと固まった。
おやと司会側や客席のものも困惑し、それを見てカメラ班が気を利かせて文の手物にカメラを向ける。
するとそこには『才色兼備な女性』と書かれていた。

「ほら、どうです!見ての通りの器量良し……最速の弾幕撃ちで郷の名物記者な私なら才の部分も完璧でしょ!」
『……えーと』

むんと自信満々に文が胸張って、が美琴やルーミア他も係員と同じように固まってしまう。

『第三位さん、判定はー?』
『……うーん、自己申告だからなあ、まあアウトで』
「あややっ、そんなあ!?」

判定し切れない係員に代わり司会側からの不合格判定、文が愕然とした表情で悲鳴を上げる。
肩を落とす彼女に、司会の二人が同情したように見ながらあくまでノーを突きつけた。

『そういうの自分で言うのは違うと思う、横着せず条件に合う人探さないと』
『それに、他からしたら解説やった時ので……精々ノリのいいお姉さんくらいだしー?』
「あややっ、しまった、確かにここじゃそうか……」

これにはぐうの音も出ず、ガクと項垂れた後彼女は慌てた様子で踵を返した。
そして直後、入れ替わるように『三人の少女』がゴールへ。

「ふう、先取られなくてよかったあ……」
「わふ、とりあえず判定を」
「……むきゅ、通ると良いけど」

氷華と椛とパチュリー、前の競技の勢いのまま行きたい二人と雪辱したい最後の少女は『一人の少年』を連れていた。
が、お題らしきの少年を見て係員が再び固まる。
『真っ白い超能力者』が所在無げに立っていたからだ。

『えーと、代わりに聞くけど……一方通行、何でここに?』
「何かスタッフといたところにあの三人が来て……」

一方通行もよくわかってない様で、このままでは切りが無いとカメラ班が再びお題を映しに行く。
すると三者三様、異なる内容が競技場に知らされた。

『はい……』
「え?」

直後揃って沈黙、紙片には順に『保護者』『ツンデレ』『駄目人間』と書かれていた。

「おい、全然合ってねェンだが……『クリアね、ええ』待てや、超電磁砲!?」
『じゃ同着一位だね、おめでとー』

納得行かず吠える一方通行に構わず司会二人がコールし、それに氷華等三人は腕を掲げタッチしながら喜んだ。

「やったあ……お兄さんお姉さんキャラ誰が居たかな、ってとこで彼と御坂さんが思い浮かんだんですよ」
「ああそれで暇なそう方をと……こっちは天狗二人の情報でそういえばって」
「……えっ、第三位さん以外の超能力者は駄目人間の隠語でしょ?」
「ふざけンなっ、異議有っ特に最後の!」

喜んでるそれぞれの題を、『保護者』クリアの氷華、そして『ツンデレ』と『駄目人間』をクリアした椛とパチュリーに一方通行が異議を叫ぶ。
が、(特に最後で)初日からの言動で観客からもそういうイメージの付いた彼の言は聞き届けられずただ一人唸るのみだった。

「……これに懲りたら普段から真面目にやると良いですの」
「ドンマイ、一位さん……あやや、一位取られましたかあ」
「ぐっ、写真撮ったらカメラ叩き割る……」

ポンと文と(はたての仲介で)黒子が横を抜け際に一方通行の肩を叩き、すると止めになったか彼は力無く項垂れたのだった。

『……なんて酷い絵柄』

そんなどこか生温い空気の競技側に対し、司会や観客席は呆れに呆れる。
するとそんなところに、スタッフからの一報が入った。

「……おーい、第三位さん?」
『あら……』

伝言の金髪の少女、何時かの一方通行と同じくスタッフに排除されたアリスが美琴等に何事か伝える。
その内容に彼女がむっと少し考えたように腕を組み、そしてそれと入れ替わるようにアリスが美琴の席に代わりに入った。
更に学生側にも知らせるのか鉢巻の少年、『第七位』が学生側の席に入っていくのも見えた。

『代わるわね、ええと……初日と同じ理由で繰り上げよ、観客参加と学生の競技一回ずつやってそれで今日はお終いとのこと』
『ああ、治安維持の為にお昼までと……まあ、最近物騒だからねー』
「……あァそういうことか」

外の状況からスムーズな大会進行の為に繰り上げを決め、が参加者の感情を考え『目立つ大型競技』はやることにしたようだ。
更に状況の変化に気づいた一方通行はゴールから戻り、美琴を『ある方向』に押しやりつつ司会に入った。

『それじゃあ俺はこっちで……観客参加と通常の競技、それぞれ看板競技の筈だから気合入れるンだな?』
「……一方通行め、気を使ったつもりかしら」

司会席から追い出された美琴が競技場を、そこに近づく数人に納得したように苦笑した。
見えたのは天狗等に案内されるよく似た少女、僧服からジャージに着替えた番外個体。

「(借りが出来たか……)よく来たわね、番外個体」
「……お姉さま、時間空いたんで来たけどこれは?」
「思い出作り、ってことでしょうね多分」

少し困ったようにする番外個体に微笑んでやりながら、彼女は手招きする氷華や椛の方に駆けて行く。

『ふふ、イイ話だなー』
『ま、向うが集中できるようしっかり司会やりましょう』
『……へいへィ、じゃ準備の後競技開始だな』

ルーミアとアリスは楽しそうに微笑み、一方通行も呆れつつも静かに笑い大会進行へ、微笑ましい空気の中で二日目の大覇星祭は進むのだった。



ガヤガヤ

「えいっ、行くよ!」

学生の為の大覇星祭、それ等の競技に賑わう学園都市だが何も人が集まるのはそういった競技場だけではない。
例えば何の変哲もない路上、目立ちたがりやプロを目指すアマチュアといったパフォーマーが熱く叫んでステップする。
そしてそこに、特に目立つ『桃色髪の無表情な少女』が『金髪の少女』の応援の元に軽快に舞っていた。

タンタンダダンッ

「……よっ、とう、えいやあ!」
「頑張れ、こころ!」
『うおお、いいぞ『飛び入り』の子!』

他を圧倒する派手にして計算され尽くした足取り、それが飛び入りながらノリノリで踊る少女を否応無く目立たせる。
通りすがっただけの者も直ぐ引き付けられ、ライバルである先に踊っていたパフォーマーも魅了され芸の肥やしと見に回りあるいはバックダンサーを引き受ける。
そういった自分を中心とした集団を作った少女、秦野こころはこれ以上ない高いテンション(顔は無表情だが)で己の舞いを周囲に見せつけていく。

「うりゃあああ、はああっ!」

ステップから高く跳躍、取ってから着地し天高く指を指し、そして決め顔でアピール。

ビシイッ

「ふぃにっしゅ!」
『わあああああ!』

保護者の神子も観客も周囲のパフォーマーもこれには大興奮、一斉に叫んで耳が痛くなる程手を叩きまくるのだった。

パチパチパチッ

「ふうう、大満足!」
「うん、見事だったぞ、こころ!」

舞いを終えたこころは会心の笑み(と一見わからないが口角がピクと揺れていた)そしてそれを微笑ましく思いながら神子も彼女を褒め称える。
そして一頻りそうしたところで、ふと二人は我に返った。

「……あれ、オカルト誘き出しに目立とうって……それで始めたけどこれ何時もと同じじゃ?」
「はっ、そういえば本当だ!?」

あれと二人は顔を見合わせハッとした顔になった、目的自体はずれてはいないが割と唯の日常風景だった。
そもそも目立ちたがりとその保護者、前者が人の多さにはしゃいで、後者がそれを見守る体勢だった時点で予想できたことだが。
目的はある意味果たして、が実はそれを忘れて踊りと応援に夢中な二人は少し罰悪そうにする。

「……ええと、どうしよう、太子様?」
「い、いや、一応私たちの目的としては間違っては……」

困ったようなこころの言葉に、神子は微妙に言い訳めいて返す、というのも自分達を見やる『視線』が有るからだ。
それらしく客に扮した、だが共通して外国客である複数の視線。
そして『帽子とマスクで顔を隠した長身の女性』、そういった面々が二人を見ていた。

「け、結果的には良し、だから問題ない!」
「……じゃ、じゃあ、折角だしもう少し踊っていい?」
「……少しだけだからな、こころ」

仙人と九十九の組み合わせに気づいたか錬金術師とオカルト(涙子の情報から口裂け女とわかる)、見張っている両勢力の前で悪乗りしたこころが踊りを再開する。
見張られるということ、つまり衆目を向けられる行為に気を良くした目立ちたがりに、神子は困ったように笑うもあっさりと許可。
娘に甘い彼女は再び群衆に混じって、どっちが見張っているのか一見わからない奇妙な空間が出来上がってしまった。

(う、うむ、何かよくわからんことになったが……この地に害を成す勢力の構成員を止めたのならサボりとは言われまい……多分、そうだと良いなあ)

少し自分に言い聞かせるようにしながら現状維持を決め、するとそれに生温い物を見るような『三人』の目。

「いや、何やってるの……流石にこれは応援できない」
「あうっ……」
「結局同郷者の自由人と同じくって訳ね」
「……どいつもこいつも、こっちは身内の不始末に頭が痛いのに」

暗部『アイテム』の暫定リーダーの滝壺と部下のフレンダ、そして向う側の知識を持つと駆り出されたらしきヴェントが呆れたような視線を送っていた。

「何ていうか趣味人ねえ」
「行動としては間違っていないけど」
「す、すまん!?」
「……まあ、こっちとしては好都合といえば好都合だけどね」

思わず平謝りする神子に苦笑しつつ、三人は『探るような視線』を無視し客の間を抜けてこちらに来る。
その最中に、滝壺が『明らかに堅気でない雰囲気の外国人客』に何事か囁いていて、それを受けてそいつはギョッとしたように顔を顰め直ぐに『どこか』に向かう。
そんな様子に訝しむ神子に、滝壺はニヤリと悪い笑みを浮かべた。

「これで良し、後は待ちだね」
「今のは?」
「……仕込み、それまで踊りでも見よう、保護者さん」

それだけ滝壺等は言ってこころの方を見、思わせぶりな言葉に問い返したくなったがそれより早く答えは出る。
踊りが熱を上げ渦中に入る中、近づく気配が一つ。

「ほら、来たよ?」

『銀髪に赤の瞳』、やりずらそうな曇り顔の一人の少女。

「やあ、数日ぶりだね、マイシスター?」
「ええ、そうですわね、滝壺お姉さん……態々部下に話したいことがあると言付けされたらね」
「ふふ、色々話しましょう……無駄だろうけど最後の降伏勧告と、それにオカルトのせいでややこしい状況の纏めでもさ」
「……まあローマ側である私と、そっちの保護者の金髪は立会人みたいなもんだね」
「……良いでしょう、私としても完全に敵対する前に言いたいこともあるので」

そう言いながら滝壺とミューズは敵意とそれ以外の混じった視線を交わし、ヴェントやフレンダ、神子にミューズの部下が見守る中二人は数日ぶりに相対する。
この先の戦いに大きな影響を与え得る対話と、その裏で読みと策を差し合う為に。



(……今頃みんな頑張ってるんだろうな、なのに『こんなこと』で少し悪いかな)

ポカポカとした陽気の中の教会、すると『呻き声』と共に座椅子に少女二人だらしなく体預けられた。
『呻き声』の主は黒髪と水色髪の少女、涙子とにとりだ。

「……ぐにゅう」
「ひゅいい」
「あらあら、お昼寝にはお早いでしょうに」
『いや、二日酔いぃー』
「……ここ、教会なのですが」

残念な連中にオルソラが困ったような顔をする、(二人と違い)普通の客に飲み物を配るその顔は珍しく苦笑気味に引き攣る。
前からといえば前からだが、どうにも教会を教会として扱う者が少な過ぎる気がするのだ。
厳しさ、厳粛さに拘る性質ではないオルソラとて困ってしまう程に。

「ヴェント様と何か対策立てるべきでしょうか……」
「ごめんねー、でもここ空気がいいというかさあ」
「何か楽なんだよね、リラックスできて……前と今の管理者さんの人柄?」
「……お褒めの言葉は嬉しいのですが、出来れば多少自制して欲しいというか」

思わずのオルソラの愚痴気味の言葉に、酔っ払い二人は言い訳のように返し、それにオルソラは僅かに顔を赤くし黙り込んだ。
言いたいことはあれど教会と、そこを管理する自分達を褒められたのは宗教者として悪くはなかった。

「ご、ごほん、今回は祭りということもありここまでに……余りこういうことはないように」
『はーい、シスターのお姉さん』

調子よく二人は返事した、その言葉だけは。

「教会目当てのお客様いるし……ちょっと外出ようか、にとちゃん」
「そうだねえ、あんまり勝手やって第三位さんと第一位さん……その先の鬼巫女に話行ったら怖いし」
「……あー、前半の時点で困る、御坂さんに怒られたくないし」

涙子的には特に見栄の意味でもそれは避けたくて、二人は支え合いながら一旦外のテラス部分に回る。
それから椅子と壁に思い思いに別れ、丁度いい塩梅の外気を浴びつつ雑談へ。

「うー、風が気持ちい……酔い覚めたら私達も外行こうか?」
「……だねえ、祭りなのに寝っ放しは勿体ない」

そうテラスで言い合い、二人は教会内から聞こえるラジオ(教会にはあまり合っていないがオルソラの友好関係的には納得だ)それに耳を傾け笑い合う。
折よく広報スタッフが競技待ちの少女たち、美琴等にコメントを求めた所だった。

『ま、半分スタッフみたいなもんで競技は無理でも……見るだけってのは少し勿体ないし頑張るかな』
『お姉、でなくて親戚との思い出作りに頑張りまーす……教会の皆ー、頑張るからねー』
「あらあら、元気にやってるようで……」

年齢逆転姉妹がそれぞれの意気込みを語り、それに教会内でテンション上る気配が伝わってくる。
思わず涙子とにとりは微笑ましそうに顔を見合わせ笑った。

「ふふっ、はしゃいじゃって……」
「そう言いながら笑ってるよ、節姫?」
「……ま、全く知らない間柄じゃないし」

ちょっと大人っぽく笑って涙子は肩を竦め、そこでふとテラスに近づく『気配』に僅かに眉根を寄せた。

「皿一枚二枚、ほら良いのか、『割る』ぞお?」
「駄目えええ!?」
「……酷い懐柔の仕方だ」

人目を避けるよう教会の中ではなくその外、涙子達がいるテラス側に近づく霊の気配、それとそれなりに知る仙人の霊力に涙子の表情がゲッと歪む。
嫌な予感がして逃げるより早く、皿を見せびらかしながら布都と屠自古が見たことのある例を連れてきた。

「ほうれ、貴様の仲間の情報を吐けい、代わりに皿をやる……仙人手製、珍しいぞホレホレ?」
「うっ、欲しい、でも仲間を裏切る訳には……」
「そう言いつつ……ここまで大人しく来てる時点で欲望負けてるって」
「……敵同士で何やってんのさ、シリアスにやろうよ少しは」
『え、だって裏切らせれば敵は減るし』
「ああ、そう……」

自分達の時と違い余りに生温い空気、前の苦労はなんだったのかと涙子とにとりはガクと肩を落としたのだった。




・・・てとこで次回に続きます、戦闘挟みつつ道教組はそれぞれオカルトに接触、謎の関係性を気づいた姉妹もまた・・・
ううむ、にしても展開上どうしても視点がばらけてしまう・・・二日目は二つか三つくらい変えつつ平行進行していきます悪しからず。
あっ一部コントやってますが追々そちらもシリアスやる予定・・・

アカマ様
布都ちゃんがいる時点でお菊さんの霊はオチ担当です、原作でもオカルト攻撃時共に元気よく皿割ってましたしこうなるかなと。

九尾様
似たような妹コンビですが本当にそっくりなんですよね、敢えて言えばフランは基本アッパー系でこいしがアッパーダウナー行ったり来たりな差というくらい?
尚一見ネタ分多めな皿コンビですがお皿、つまり怨念に関わる物で調伏するのはこの手のでは割と正当なはず・・・外見で面白くなってますが。

利三様
いや愉快犯気質で揃えたら火力が高くなってしまって・・・一応威力偵察なので間違ってはないと思う多分。



[41025] 祭りの夜の星が散る・十一
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/05/31 18:35
ヒュオオオッ

「……ふっ、大覇星祭もたけなわですね」

『猛り立つ風』その中心で女が吠える、風に煽られ黒髪棚引かせながら『高下駄六角巾の少女』がニイと邪悪な笑みを浮かべる。
競技用トラックに立つ少女、射命丸文がノリノリで言った。

「速度なら負けん……郷最速、この射命丸文の足を見せてあげましょう!」
「いや、これ……ただのリレーなんだけど」
「後さ、これから姉妹、友人対決な空気ってなの読んで欲しい」
「……ふっ、聞こえませんね、これから打ち倒すものの言葉等!」
『大人げない……』

呆れるように見る美琴達、だけどその生暖かい視線(特に同郷の椛は心なしか強い)をスルーし文はどこぞの悪役のように高笑い。
そして他の言葉を自信を目立たせる添え物とばかりに自信満々で叫んだ。

「さあ、恐れ慄き、そして目に焼けつけなさい……この射命丸の走『えい、伝家の宝刀のロー!』ごふ!?」

スパアアァンンッ

が、その途中で魔女と人形、後ろからこっそり近づいたアリス母娘が文の腿辺りを鋭く蹴り抜く。
グラと衝撃でその体が傾ぎ、それから鋭く走った痛みに文は地面にごろごろ悶絶する。

「あやややや!?」
「『姉妹の思い出作り』ノジャマハ……メッ!」
「悪いわね、文……今回は娘につくわ」
「そんなあ!?」
「……まあそうなるよな普通は」

母娘の叫びに白い超能力者は頷きつつ、地面を転がる文の元へ。
そのまま拾って首引っ掴んで立たせてやる。

「あ、どうも、助け……あやや!?」

ガシイィ

但しその腕は文の首で合わさり、しっかりと確保した状態で。

「あやや、あくせらさん、何を!?」
「いや、一応スタッフ側だし……何よりあの母娘敵に回したくないし『鎮圧』させてもらう!」

ゴキィ

「が、ふっ!?」

そう言うとその足で逃げられる前に、彼は先手必勝で文を沈めるのだった。

「……て訳で競技準備再開な、ああ観客参加のラストはリレーだから」
『は、はい、了解でーす』

ちょっと引きながら美琴や番外個体等は頷き、それを確認し彼は準備のスタッフを促す。
鎮圧を終えた彼に軽く手を振って別れ、美琴と番外個体、それに椛と氷華とパチュリーが思い思いに散る。

「ま、まあ、これで競技再開……競争する?」
「ようし、負けないよ、お姉様!」
「……ふふ、なら私は御坂さんの方に」
「なら妹ちゃんにつこうかな」
「折角だし他のも呼びましょ、一応事情知ってるので……」

最後に締めたパチュリーがチラと応援席やスタッフの方を見て、それに気づいた幾人かが立ち上がり歩き出す。
まずは水色の髪の元気娘と白尽くめのシスター、顔を見合わせてから駆けていく。

「折角だしこっちも出ようか」
「……じゃ、私達も競争する?」
『……負けないよ!』

チルノとインデックス、共にシスターズの『姉』と深く関わる少女二人。

「ふうむ、なら……数合わせと、魔女対決と行きましょうか」

そして続いて、文を鎮圧したばかりのアリスもまた、スタッフ側から『二人』程連れて出た。

「まあ、偶にはこういうのも良いか……私はパチュリーの相手を」
「……リレーなら後何人か居るわね、一緒に来てもらえるかしら、黄泉川先生?」
「はいはい、ぼっちの桔梗に付き合ってやるじゃんよ」

人形に手を振ってからアリスが、そして保護者として気になるのか芳川とその付添いに友人の女教師がまた競技場へ。
皆揃って姉妹対決、友人対決を盛り上げるという共通の目的の為に。

「あらあら、皆物好きですねえ、あくせらさん」
「……まァ良いンじゃねえの平和で」
「……喜んでるくせにー」

一頻り残念な同僚(文)の写真を収め笑うはたてが言って、適当に頷きつつも一方通行も特に否定せず同意し文の運送を手伝うルーミアがからかう。
そんな三人や応援席、上条やミサカ等に見守れながら御坂姉妹を初めとする少女達は競技場に向かうのだった。

「精々楽しみな、お調子者は排除したンだし」
『頑張れー、御坂(美琴お姉様)も末っ子も!』
「ええ、行ってくるわ、先輩達!」
「うんっ、頑張るよ!」

バッと応援に手を振って、少女らとその付き合い達は明るく笑った。
そんな風に和やかに、慌ただしい戦場の合間にも笑い声が響いたのだった。

パシャリ

「……青春ですねえ、あっまずは一枚っと」「しっかり記録しとけよ姫海棠」
『頑張れー、皆(お姉様達)!』

『夏休み』奔走した者達に笑って見守られながら。



「えーと、はいチーズ……」

どこかで誰か笑ってる遠くの教会で、掛け声と共に小さくシャッター音が鳴った。

カシャカシャッ

「……うーん、ちょっと恥ずかしいわね」

そう言って銀髪のメイド、咲夜が緊急時の連絡用携帯端末(一方通行と霊夢が用意したものだ)を使い自分の姿を撮った。

カシャカシャッ

「ふんふーん……こんな感じかしら」
「……何してるんです、メイドのお姉さん?」
「……頑固な従妹への罰ゲーム用資料?」

窓から覗き込んで問う涙子に答えつつ、彼女は撮り終えたそれをすぐさま『前回の事件で知り合った相手』へ。
邪笑と共に『嘗ての妹分』に対し姉気取りで接する『暗部少女』へ送られた。

「良しっ、滝壺様の依頼終了、私の代わりに……ミューズを弄って貰わなきゃね!」
『……イイ趣味してるなあ』

この言葉に涙子と布都達は軽く引いたのだった。



そしてそれを送られた二人は笑い、あるいは絶句する。

「……て訳で次捕まえたら『ミニスカメイド服』だから覚悟してね、マイシスター!」
「何で協力してんのよ、十六夜い!?」

交渉初めの牽制、軽いジョブと言いたげにコスプレ衣装(まあ本職だが)見せつける滝壺に、ミューズは悲痛な悲鳴を上げた。

「やっぱここの連中は変なのばかりね、表も裏も」
「いや、滝壺はその中でも特にひどいから……」
「……まあ、いい感じにペース乱されてるから良いのでは?」

そんな姉妹(言い張ってるだけだが)の会話に、見守る(というか立会いの立場の)ヴェントにフレンダに神子等は苦笑気味に笑っていた。
敵対勢力の交渉というには余りに生暖かい空気だった。

「ふっ、まあ現地人にお手並み拝見か……こちらも見張る相手がいるしな」

そんな微妙な空気の中で、立会人である神子は役目を果たしつつ静かに『部外者』を見張る。
今も踊るこころを囲う民衆の中で、容姿端麗でありながらマスクで顔を隠す一人の霊に敢えて隠さず睨みつける。
仕込み杖に偽装した七星剣を『わかるように』僅かに抜いて白刃を露わにする。

カチャリ

(……くっ、警告のつもり?)
「ふむ、暫く足止めしておくか」

両者は油断なく互いの隙を伺い合う、尤もその硬直状態こそが神子の目的なのだが。



祭りの夜に星が散る・十一



ズドドッ

「ふっ、さあ覚悟なさい……」
「ぽおおおおお!」

彼女は立て続けの拳、『やたら武闘派尼僧』の攻撃を悲鳴あげながら必死に躱す。
それから慌てて向き直り、このままでは不味いと、オカルトの少女は奇怪な叫びと共に両腕に紫電を纏わせる。
生者への反感、それを込めて拳を突き出した。

「ぽおお!」

ズドッ

妬み嫉みといった怨念、命を持たぬ霊がそれを持つ者に抱く共通のそれを込めた拳打を叩きつける。
が、尼僧はそれに立ち向かうことこそが仕事とばかりに無抵抗で受けた。

「……温いわ」
「ぽ!?」

紫電纏う拳は確かに相手の頬を打って、だけど青地に白という空を彷彿する僧服の少女はビクともせず立ち続ける。
そして僧服の少女、雲居一輪は落ち着いた表情で睨む八尺を見返した。

「……その程度?」
「ぽぽっ!?」
「姐さんの拳、寺の日課の組手で受ける拳に比べれば……軽い、全然足りないわ!」

ギロリ

「それじゃあ……反撃、行くわよ」

その冷たく見据える瞳に八尺が一瞬飲まれ、そこへすかさず一輪が飛び込む。
肩口からぶつかる程の勢いで相手の懐へ、そこから伸び上がり雲の手甲に包まれた拳を突き上げる。

「お返しよ、まず一つ!」

ドゴオオ

「ぽおお!?」
「更に……撹乱、崩す!」

ゲシィッ

八尺が怯んだ瞬間一輪は低く伏せ、右足を鞭のように撓らせながら地面すれすれを払う。
上から下、虚を突かれた八尺は足元を掬われ、一瞬その体が浮んだ直後『巨大な腕』が『その場』に捕らえる。

ガシッ

「……ぽっ!?」
「雲山、ぶん投げなさい!」

コクと無口な巨人は頷いて、引っ掴んだオカルトを天高く放り投げた。

ブウンッ

「ぽおおおおお!?!?」
「……貰った、これで仕留める!」

悲鳴を上げて吹っ飛ぶ八尺、彼女はくるくると舞い上がり、それを会心の笑みを浮かべたまま一輪が追撃の体勢へ。
タンと地を蹴り飛んで、更にその途中で『両の拳を合わせた巨人』を足場に続けて跳躍する。
そしてそのまま、一気に最高速に達したままその右足を振り上げた。

「さあ、姐さん直伝の技を……受けなさい、とりゃあああ!」

ドゴオオォオオ

「ぽおおおおお!?」
「はっ、その程度の怨念等……何度でも挑んできなっ、返り討ちにしてあげるから!」

渾身の飛び蹴りが八尺の胴を穿って、それで消え行く彼女に一輪は武神(毘沙門)の系譜らしく雄々しく再度の挑戦を受けると叫んだ。

「……うん、流石あの超人さんのお弟子さん、最後の啖呵なんて彼女を彷彿とさせる」
「いやあ、姐さんにそっくりなんて……照れるわね」
(別に褒めてるわけじゃないんだけどなあ……)

師が師なら弟子も弟子、霊夢が思わず毀した苦笑気味の言葉に、一輪が僅かに顔を赤くし頬に手を当てはにかむ様にする。
微妙に届いてない言葉に霊夢は呆れたように嘆息し、それからグッと交信用の陰陽玉を握った。

「ま、おかげで敵が一人減ったし……安心して下に注意できる、更に撃墜数を追加と行きたいわね」

そう言って彼女は集中しつつ霊力チャージし、『下』に干渉する為の術の準備に移った。



ドンドンドンと地下に爆音が鳴る、その源であり無秩序に放火をばら撒くのは『黒帽子に金髪の少女』と『パワードスーツの暗部』である。

「……さあ、派手にいくぜ!」
「了解だ、顧問!」

両者とも火力重視の戦い方、競うように二人は火力を全開にしていく。
二人が魔法の媒介を放り、あるいは引き鉄を引く度にオカルトが住まう地下道は激しく揺れる。
何せ完全な敵地で壊して損するのは向う側、加えて荒らすついでに『死角』潰しの意味もある、だからノリに任せて二人は無茶苦茶するのだった。

ズドンズドン
ドゴオォ

「……そうらっ、さっさと出てこーい、オカルト共!」
「ま、隠れるなら撃ち続けるだけだが」

呑気に呟きながら二人は更に火力追加、魔理沙は彼女らしく自由気ままに、シルバークロースαは最近こき使われるストレス発散に。
それぞれ違う理由でノリノリに撃ち捲る。
更に加えて言えば、この地に仕掛ける場合の障害であるオカルト、そのうち『一人』は変なの二人に絡まれていた。

「うふふ、何時まで逃げられるかな、オカルト『メリー』!?」
「あら得意の『あなたの後ろにいるの』やらないの?まあそっちにも弾幕用意してるけど……」
「……鬼か、こいつら!?」
『片方はそうかな?』

そんな風に時々爆音に混じり、遠くの方でオカルトの悲鳴が時折聞こえた。
メリーの十八番である奇襲は対策済みで、彼女は逃げ回るしかないのだった。

「はは、あっちは順調みたいだぜ……っと、少し止まりな、アルファ」
「む、どうした、顧問?」

笑いながら地下道を進んで、がある程度のところではっとした表情で魔理沙がシルバークロスアルファを制止する。
奥まで来たか暗がりに幾つかの資格、彼女は警戒した様子でアルファを見やる。
前へと促すようにしながら、同時に榴弾タイプの媒介を見せて言った。

「アルファ、警戒しつつ前進、それと……合図したら『撃って』から『打て』」
「……ふむ、やってみよう」

コクと頷いてアルファは歩き出す、そして魔理沙が直感から選んだ『影』に行かせる。
ゆっくりと鉄巨人は影に近づいたところで魔理沙がその背に叫ぶ。

「……今!」
「おうっ!」

ズドッ
ドゴオォオオッ

すぐさま彼は携行レールガンを振り上げ射撃、次の瞬間『不可視の弾幕』と相殺し合い衝撃を撒き散らかす。

「へっ、やっぱり来たな、だけど面白いのは……ここからだぜ!」

が、前以て準備していた魔理沙は衝撃に揺らされながらも瞬時に次の動きに出た。
彼女はすかさず魔術の媒介であるアミュレットをアルファのスーツの胸辺り、『打ち易い高さ』に榴弾型の星を放ったのだ。

「(『不可視の弾幕』、暴かせてもらう)……叩きつけろ、アルファ」
「おうっ!」

直後シルバークロースアルファは巨大な砲身をブンと振るい、星を勢いよく陰に潜む少女のオカルト目掛け叩きつけた。
するとそこで動揺した気配、僅かに慌てながらもそいつは二度目の弾幕で星を打ち落とす。

「ちっ、ああもう!?」

ズドンッ

「危なっ、でもこれで」
「……おっと、まだだぜ!」

安堵した様子で一息つく人外の少女、がその瞬間を狙って魔理沙が仕掛ける。
バチバチとこれ見よがしにミニ八卦炉を向け、会心の笑みで影へと問いかける。

「マスタースパーク……さあ、『どうする』?」
「くっ、まだ来る!?」

ズドンッ
ドゴオオ

魔理沙の砲撃と同時に向うも迎撃、八卦炉から放たれた輝きと不可視の弾幕が真正面からぶつかり合う。
が、その直後魔理沙は一歩横にずれ、確保した射線を示しながらアルファに言った。

「アルファ」
「チャージは完了済みだがこれも防がれるのでは……」
「試すのはたださ……さて、この場合は『どうする』、花子?」

意味深に問いかけ、すると直後ダンッとそこから学生服の少女が飛び出した。
どこか焦った表情で、花子は並び立つ魔理沙を睨んでいた。

「む、これは……」
「へっ、出てきたな……『三発』まで防ぐ、だが……」

そこで言葉を切って、それから指折り折りつつ魔理沙は焦った様子の花子に勝気な笑みを向ける。

「『四発目』は無理、さてこれはどういうことかな?」
「……顧問、一体?」
「……トイレの花子、出るのは『右から三番目のトイレ』、『三度のノック』で答える」
「つまり?」
「『法則性』『縛り』、そういうのが有るってこと」

探るように推論を口にし、すると花子は沈黙するも歯噛みし構える。
すると相手の感情に反応したようにその周囲の空間がゆらゆらと揺れる、が魔理沙の眼はある物を確かに見た。
時折花子の周りで発する『細く伸びる三条の光』、確固とした形で蠢く何か。

「……動揺したな、『種』がちらほら見えてるぜ?」
「くっ……」

からかうように言うと魔理沙は駆け出し、まずミニ八卦炉を軽く放る。
それで両手を開けて、すかさずポッケから榴弾型の媒介を引き抜き、それで続けて投擲した後丁度落ちてきた八卦炉をキャッチし瞬時に魔力を放つ。

「さあ、答え合わせだぜ!」
「ちいいっ!?」

ズドンズドンズドン
ドゴオオッ

轟音が続けて三つ、瞬く間に爆炎が広がって、直後それを『大きな掌のようなもの』『三つ同時』がグワと掴み覆い隠し防いだのだった。

「……種が大分見えてきたな、ボロが出たっていうか」
「むう、しまった……」

花子の背から一瞬だけ延びた『歪な人外の腕』が弾幕を握り潰しのが爆炎の中にしっかりと見え、それに魔理沙はニヤリと笑う。

「ふーん、でかい腕が三つ……まあつまりオカルト『トイレの花子』、何から何まで『三』に拘る妖怪。
……でその攻防、不可視の奴もそれ関係ってとこだろ?」
「ぐっ、目敏い……」

魔理沙は相手に会心といった表情で笑いかけ、それからその表情に幾分皮肉気な色が混じる。
彼女は宣言と共に、魔力をチャージしたミニ八卦炉を突きつけた。

「大分手品のタネも見えてきた……そろそろ積みかい?」
「ちいい、まだ……生者なんかに負けない、ああ妬ましや!」
「……へっ、なら怨念の程を図ってやる、妖夢や幽々子とどっちが上か……見せてみな、花子!」

さあ追いつめたとばかりに魔理沙は飛びかかり、が生者への羨みと共に花子も諦めず迎え撃った。
二人は笑みと怒り、それぞれ対極の表情で向かい合い激突するのだった。

(……やれやれ『そっくりさん』め、暴れてくれるぜ……子分どもの手に余るかねこれは?)

最奥で嘆息する『水兵服の少女』に見守られながら。



二人の少女が並んで『舞い狂う無表情少女の舞い』を見て、いや正確には見ているように振る舞いながら牽制し合う。

「ふふ、ああ楽しみ……ねえ、ギン子ちゃん?」
「くっ……」

クスと滝壺が微笑む、その手には携帯端末、『メイド服の美少女』の自撮り写真を見せつけるようにしていた。
それに銀髪の少女、ミューズが小さく震える。
それまでの戦いで片腕を使えず、中を通さず片袖を流すようにする彼女は、だけどその頼りない姿に合わない力強さで叫ぶ。

「ま、まず言っておくわ」
「うん、なあに?」
「……コスプレなんてしないからね、滝壺お姉さん!」
「あら残念……」

瀟洒なメイドのそれにミューズが吠えた、真っ赤な顔で怒鳴るように全身全霊で拒絶の意を露わす。
が、必死なそれは滝壺にとっては『後々のからかいの種』に過ぎず軽く流すのだった。

「……で、それは兎も角さ、今すぐ降参するなら罰ゲームは軽めにしてあげるけど?」

半分冗談めかし、だけど一部本心で彼女はミューズに最後となる投降を呼びかける。
何だかんだ気に入ってる彼女への私人としての感情と、暗部としての見逃せないという義務感、二つの妥協ぎりぎりからの言葉。
だけどそんな言葉にミューズは僅かに済まなそうな表情で首を横に振った。

「ううん、それは無理だよ、お姉さん……もう動き出してるし『彼女』への『責任』もあるから」
「そう……」

ミューズは一瞬目を伏せ、その後僅かに憂うような表情で滝壺に答える。

「私達、魔術師は……科学側に、この街とそれを管理する者に複雑な思いがある」
「それは?」
「私達はね、科学を恨んでる、いや『羨んでる』、多分心のどこかだけど嫉妬してるの」
「嫉妬?」
「うん、魔術はどうしたって古き伝統から逃れられない、技術の革新なんて夢物語。
でも……科学は違う、自由にそれを伸ばし急激な成長を続けていく」

どこか寂しそうに彼女は広がる街並みを見た、自分達とは違う発展を続ける地を。

「長くなるから端折るけど、ここのトップは嘗て魔術勢力で権力を振るって……でも突如姿を消し、その後科学勢力に移ったんだって」
「……上層部、もしかして理事?」
「うん、だから一層妬ましく感じるんだと思う、前は一緒で……なのに今は全然違う、自分達と違って自由に振る舞い知識を蓄える裏切り者。
そして嫉妬の余りこう考える……裏切り者で目の上の瘤、いっそ全て奪って利用したら良いんじゃないかってね?」

それは完全な開き直りで、だけど嫉妬に捉えられた者達にとっては身勝手ながらも復讐のような考え。
斜陽にある自分達を尻目に伸びる学園都市、ある種(当て付けともいえる)意趣返しでもある。

「まあ『口実』に過ぎないのは私達だってわかってる、だけど……まあ、何もしないと落ちるだけだから。
だから……だからね、奪わせてもらうから、この街の知識と技術の全てを」
「……そっか、必死なんだね、貴方達も」

済まなそうにしながらも開き直ったような表情で宣言し、がそれに対し滝壺は困ったように笑った。
だが反応はそれだけ、彼女は鋭く睨めつけるミューズに視線をしっかり合わせると静かに返した。

「でも……こっちもそうされると困るんだよね、学園都市は一部の人には必要不可欠なんだ」

どこか自嘲したように笑って、滝壺は必死に学園都市を欲する少女に告げる。
自分達も必死だと、この箱庭のような地で独自のルールの中で生きている者の権利を彼女は叫ぶ。

「学園都市という『特殊な場所』だから許される生き方が有る、私や暗部もそう……学生達や研究者だってそう。
外から見れば慌ただしくて強欲で無秩序で……けど止まらずに騒がしいこの街だからこそ許される生き方が……」
「……お姉さん」
「……異常性を寧ろ有難がって許容する街、他じゃ生き難い人にとって理想……絶対に渡さない!」
「なら……恨んで、こっちも引けないの、そんな人達を踏み躙ってでも奪わせてもらう!」

滝壺がここに生きる数万の人々の代わりに『権利』を叫び、それに対し理不尽を自覚しながらミューズも動いた。
二人はほぼ同時に懐から得物を引き抜き、そして仕掛ける。

『……覚悟!』

バンッ

直後小さく炸裂音が鳴った。



「……ミューズ、焦らないでよ」

はっとした表情で『戦女神』が空を、遥か彼方を見上げた。
彼女だけでは学園都市とは戦えない、共犯者を心配した。



『ちいいっ!?』

まずバンと炸裂音、直後周囲が気づきザワめく。
客等の視線の中心で滝壺とミューズ、銃を明後日に向けた滝壺と片手で強引に銃口を逸らしたミューズが睨み合う。
そして一瞬遅れ、カランカランと『予め着込んだ防刃スーツ』で勢い失った短剣が地に落ちた。

『き、きゃあああ!?』
「(……ちっ、奇襲はもう無理か)皆さん、こちらは暗、でなく理事直轄部隊……現在治安維持の為の行動中です、離れて!」
「……避難なんて待つと思う!?」

客等は当然のごとく悲鳴を上げ、その中で両者が再度動いた。
表向きの立場を口にしながら滝壺が周りを逃がそうとし、がミューズはそうはさせじと追撃に出る。

ジャキンッ

「前のようにはいかないよ、お姉さん!」
「……こっちもね、フレンダ!」
「あいよ!」

新たな短剣を抜刀したミューズが切りかかろうとし、がそこに呼びかけだけでフレンダの妨害が入った。
ポイと無造作に、お手玉程の大きさの金属の球体、何らかの爆発物と思われる何かが放られた。

「私は防御スーツがあるけど……どうする?」
「ちっ、余計な邪魔を……」

ガギィンッ

呑気な言葉に忌々しそうに顔を歪め、ミューズはとっさに剣を振るう軌道を変える。
クルと弧を描いてから下から上へ、小さく巧みに振り抜かれた刃が爆弾らしき物体を弾いた。

ポスン

「……何?」

が、直後一瞬煙を吹いただけで沈黙、その後ミューズの視線の先でコロンとアスファルトの上で転がる。

「ダミーか!?」
「正解、流石に避難前に爆弾はね……シスター!」
「……時間稼ぎ感謝!」

ミューズの動きが思わず止まった瞬間、横合いから滝壺等に僅かに遅れてヴェントが仕掛ける。
避難する者達を避けるように回り込み、視界から逃れた彼女がハンマーを振り抜く。

「おらああ!」
「くっ!?」

ガギィンッ

咄嗟に短剣を翳し、が受け止めきれずミューズが一メートル程蹈鞴を踏み後退する。

「ちいいっ、馬鹿力め!?」
「……こっちとしても『避難完了』まで風使えんのが難だがね」

注意を引いた暗部の少女達に一度手を振って、その後残念そうにヴェントが呟く。
対してミューズはふらつきながらも立ち上がると周りに、客等に紛れる仲間の錬金術師に叫んだ、

「何してる、このまま乱戦へ!」
『は、はい!』

それで突然の開戦に固まっていた一同が動き始め、がしかしヴェントもまた『伏兵』に指示を出す。
ギュルルと『上から』、何かが勢いよく回転する音が響いた。

「……アニェーゼ、アンジェレネ!」
『イエスマム!』

軽く手を掲げ、それに従い『空を舞う車輪』とそれに捕まる『二人』が急降下を掛けた。
ミューズと暗部の会話前から照準済みの魔力射撃が撃ち込まれ、ある者は倒れてあるいは必死に攻撃を中断し飛び退く。
数秒後トンと杖を手にしたアニェーゼがヴェントの隣に降り立った。

『援護します、ヴェント様!』
「おう、頼むな、二人とも」

仲間らにヴェントはそう答え、それから部下の統率を乱され苦々しそうにするミューズにハンマーを向ける。

「ま、そんな訳で私等の相手もしてもらう……学園都市に味方するのは癪だが『そこに住むだけで巻き込まれる誰か』、後味が悪くて仕方ないしな」
「……ええ、主も隣人への愛を望でるでしょうし」
「……ああそう、私にとっては面倒なだけだけど!」

嫌そうに答えると彼女は更に数歩分飛び退き、それから着地と同時にハンマーとの打ち合いで刃毀れた短剣の投擲体勢に。
ヒュンと風切るような音を立て、が刃物は暗部でもなくシスターでもない方へ回転し飛ぶ。
『オカルトと睨み合う貴族の少女』へと。

「……っと!?」

ガギィンッ

虚を突かれた神子が動揺しつつ鞘のままの七星剣で弾き、がそれで一瞬動きが止まる。
すかさずミューズはオカルト、横合いからの刃に神子程ではないが目を見開いている口裂け女に叫んだ。

「そこの死霊、今です……後々ぶつかるにしても学園都市側を削るのはお互い好都合のはず!」
「……いいだろう、この場はその通りに」

コクと頷き数発周囲に弾幕を放った後口裂け女が、それに合わせるようにしながら短剣をミューズも放ちつつ駆け出す。
精度を捨て手数重視の攻撃で周りを怯ませると、向うの連携が整わない内に並んで突撃を仕掛ける。

『集中攻撃、一人でも落とせば……』

即席で組んだ一人と一体はそう考えて、が直後即席らしきその対応が分かれてしまう。

「うーん、困った……じゃあ『追加』ね?」

滝壺は自分が狙われる可能性が高いのに呑気に言って、ピョンと一歩真横に飛ぶ。
すると一両のバン、速度を緩め逃げる人々を抜けてきた暗部の車両がゆっくりと近づいてくるのが見えた。

「はい、援軍ね……立場的に応援できないけど?」
「ああもう、避難中途半端で運転に気使う……まあ行け、嬢ちゃん達!」
『おうっ!』
「……あ、帰ろっと、じゃあねオカルト」

この援軍にミューズはさっさと見切りをつけ、それに対して口裂け女は止まり切れず孤立する。

「え、ちょ……」
「ガルーダの爪を……受けなさい、やああ!」
「ふっ、合わせるわ、白蓮……はあっ!」

ズドオォ

「あうっ!?」

貴族と尼僧、肩書に似合わぬ武闘派二名の豪快な飛び蹴りが口裂け女を高々と吹き飛ばす。
更にその二人、レミリアと白蓮は蹴りつけた衝撃で飛び上がると体勢を立て直し、空中でゆっくりと逃げようとするミューズへと視線を向ける。

「……あれ、貰っていいかしら、暗部の御お嬢さん?」
「うん、言いたいこと言ったし良いよ……向うの援軍に気を付けてね、ブリュンヒルドだっけ」
「だから今回は白蓮を呼んだのさ、念の為にね」
「合流されても何とかなるでしょう……そちらも気を付けて」

滝壺に許可を取ると二人は飛翔し飛びかかり、それに慌ててミューズは踵を返す。
先日のように逃げを打つ彼女に滝壺は呑気に手を振り、ヴェント等は苦笑しつつ更に数名つけ追わせる。

「ひゃ、また吸血鬼!?」
「捕まったらコスプレね、頑張ってねギン子ちゃん」
「一応付いとけ、アンジェレネも……暗部側は?」
「……暗部じゃないけど私とミーシャも行く、車輪相乗り頼む」
「……は、はい、どうぞ、天使様!」

一瞬の逡巡もせず逃げ出すミューズとやや遅れ飛んでいくレミリアと白蓮、そして更に遅れて黒夜とミーシャを乗せた車輪が空を駆けた。
それを見送った後滝壺とヴェントは取り残される形となったオカルトと下部組織の魔術師に視線をやる。
特に上司であるミューズに見捨てられた魔術師たちはギクと射竦められたようになる。

「……さて、後はこの場の始末ね」
「私とアニェーゼが居りゃまあ何とかなる……煙幕でも焚いてな」
「はーい、わかったー……フレンダは撹乱、絹旗と浜面は私護衛ね」
『了解!』
「……じゃ、こっちも仕事だ、アニェーゼ」
「はい、ヴェント様!」

ヴェントと滝壺に言葉に頷いて(今度こそ本物の)各種爆弾を手にしたフレンダと車から出てきた絹旗と浜面がそれぞれ位置につく。
滝壺の安全を確保し、それからフレンダの煙幕弾という援護を受けてヴェントとアニェーゼはそれぞれの得物を手に魔術師たちに仕掛ける。
そして、困惑顔でフリーの口裂け女、真の意味で孤立した彼女にもまた受難の時が訪れる。

ジャリ

「見てみて……踊りの中断で怒ってますって顔だよ」
「……何というか君もツイテいないな」
「……っ、全くね」

半ば八つ当たりでこころが怒りを意味する鬼面を被り、そんな彼女を抑える神子が同情を口にする。
当然口裂け女は後方、分が悪いと見てミューズのように逃げようとする。

ヒラリヒラリ

「……囲め、赤マント」
「う、しまっ……」

が一瞬早く神子の『外套』が生き物のように怪しく蠢きながら広がり、伸ばされた裾で描かれた即席の円陣が口裂け女を包囲する。
ダンと直後円陣を飛び越えた仮面の少女、こころが口裂け女の目の前に長刀を手に着地する。

「……逃がさないよ、叩きのめしてぶっ倒れるまで踊り見せてやる!」
「下手な調服より酷くない!?」
「まあ、踊り中断したからなあ」

八つ当たりに叫ぶこころの宣言に、口裂け女は攻撃を躱しながら全力でクレームを口にしたのだった。



ドガガガッ

「おりゃおりゃあ、派手にやろうぜ!」
「……ああもう、厄介な魔女め!」

そして地下でも別のオカルト、花子が苛立たしげに叫んでいた。
矢継ぎ早に打ち込まれる特大レーザーを不可視の弾幕で受け止め、そこから反撃にやはり不可視の弾幕を放つ。

「……っと、盾になってくれ、アルファ」
「使われ方に文句を言いたくなってきた……」

すると反撃体勢に移った時点で攻撃を止めた魔理沙が飛び退り、同時に後方から飛び出したシルバークロスアルファの背に逃げ込む。
ドンと不可視の攻撃の衝撃で彼の巨躯が揺れ、が十分覚悟し彼が食い縛って耐えた所で再び魔理沙が前に出る。
逃げてる間に再チャージした弾幕を、花子は都合三度目の不可視の弾幕で迎撃する。

「喰らいな、マスタースパーク」
「くう、相殺する……」

ドガアアッ

八卦炉から放たれた閃光が不可視の何かに衝突し弾け、が弾幕同士の激突で激しい衝撃が巻き起こる。
離れた位置にまで届くそれに双方押され、魔理沙も花子も身を低くし激しい風に耐える。

ブワッ

「お、っとと、だが……更にマジックミサイルだ!」
「くっ、四発目、ここぞとばかりに……」

黒帽子を押さえた魔理沙が逆の手で接触炸裂型の弾幕を放り、慌ててミューズが更に後方に跳ぶ。
が、爆炎が広がった瞬間『照り返しでギラつく鉄巨人』が炎を突っ切てきた。

「不味っ、デカ物の方が……」
「……三撃毎のインターバル、やはり有るようだな」

ブンと勢いよく巨大な銃身が振り抜かれ、慌てて花子は身を翻して横に跳ぶ。
チッと馬上槍の如き砲の先端が彼女の髪を掠め、がギリギリで躱した彼女は髪数本を散らした程度で安全圏へ。

「ちっ、躱すか、だが……顧問!」

ダンッ

「おう、交代だぜ!」
「ちいっ、さっきのは囮!?」

巨人の横を駆け抜けてきた魔理沙がチャージを終えた八卦炉を眼前で突きつけ、慌てて花子も精神を集中し力を練る。
カッと八卦炉が輝いて、が発する寸前花子の背後の空間が揺らめく、ギリギリで三発目の後の硬直が解けたのだ。

「貰った、ゼロ距離……マスタースパーク!」
「そんなの、喰らうかあ!」

ドゴオッ

砲撃の閃光と『一瞬だけ反射光で露わとなった異形の腕』、互いにぶつかり合い直後相殺した。
爆炎に煽られながら双方飛び退り、特に三発目と四発目の隙を着き切れなかった魔理沙は残念そうに愚痴る。

「……ちぇ、即席連携じゃワンテンポずれるか」

復帰から不可視の弾幕の再開一発目、それで弾幕を防いだ花子を魔理沙は残念そうに見やる。
が、花子の方は余り余裕はなく、二発め三発目を何時でも打てるようにしつつ息を整える。

「はあはあ、面倒な子……」
「いや私は至って普通だぜ、郷水準では……やっぱ三発目で一旦間が空くか、尤も小回り効かない今の連れじゃ詰め切れんが」

信じる者のイメージに囚われる故の縛り、その弾幕のクールタイムに気づいた魔理沙はどうそれを狙おうか思案する。
そして暫し悩んだ後決断し、彼女らしく真正面から仕掛ける。

「……ま、やっぱ力押しだな、順当に」
「それが一番嫌なんだけどね!?」

まずポイと中型弾幕、マジックミサイルが放たれ、当然それを花子は撃ち落とす。

「……まだだあ!」
「くっ……」

だがそこへすかさず、八卦炉を翳した魔理沙は再び至近距離の砲撃を、対し花子も顔を顰めながらも迎撃に出る。
再び両者の間で爆炎が弾け、二人とも数歩ふらつきながら後ずさった。

ドゴオオッォオォ

『うあっ……』

爆炎に炙られながら二人は距離を開け、がそこで花子にとって予想外の状況に。

トン

その背に軽い手応えが。

「え?」
「……あれ、花子?」

至近弾か顔を黒くしたメリーがポカン顔、肩越しに二人のオカルトが困惑した様子で視線を合わせる。
花子とメリー、そしてそれを挟んで魔理沙と、それにフランドールとこいし(連係ミスか互いの攻撃で少し焦げていた)が挟むような位置にいた。

「しまっ、追い込まれた!?」
「そういうこと、そいつ等とは異変で打ち合った仲だからな……遠くの音でも距離と大まかな状況は分かる」
『……え?』
「え?……あー、うん、私だけかい」

まるで悪戯成功を自慢するように彼女は笑い(尚反対側の少女達は小首傾げ中、こちらは天然のようだ)、その後勿体ぶって対極の少女に言った。
敢えて三発目の硬直に仕掛けるではなく、その間に魔理沙は最後の下準備、敵の弾幕の正体暴きに入る。

「そんじゃ最後の答え合わせ……躱すでなく『全力』で防ぐしかない攻撃を、フラン!」
「……うん、なあに?」
「久ランベリー、いや……迷路の方を」
「おっけー、禁忌『恋の迷路』!」

ダンダンと連続してフランの手から光の帯が伸び、それは複雑に広がった後複雑でそして不規則な文様となって二人のオカルトの周囲を覆う。
まるで逃げ道塞ぐようはゆっくりと旋回しながら縮まり、更に逃げ場を塞ぐように魔理沙とこいしが低速の弾幕を設置する。

「さあ……どうする!?」
「くっ、そういうことか……最早温存とは言ってられないか」

このままでは耐えられない、が唯打つだけでは到底足りない、そんな弾幕に花子は一瞬歯噛みする。
が無抵抗に受ける訳には行かず、彼女は悔しそうな表情でその霊力を全開にする。
その周囲が揺らめき、『赤』と『青』と『緑』、『俗にいう三原色』、それぞれ淡く輝く異形の腕がバッと広がる。

「おのれ……おのれ、魔女め!」

恨めしげに叫びながら彼女は身を捻り、それに合わせ異形の三つの腕が勢いよく振るわれる。
そして撓るそれ等が一瞬触れ合い、そしてスウと『三色混じり合ってから』掻き消えた後まず前方の弾幕を消し飛ばした。

ズドンッ

「まだだ……ここから、散らす」

ドゴオオッ

次に左右と、そして後方から襲いくる弾幕を準備に払い落す

「……へえ、成程、要は特定を反応させ合い『不可視域の光』に変えるか」
「……ちっ、ここまでか」

全てを明かしてしまった花子は同様の表情を浮かべ、反対に魔理沙は勝ち誇るように笑う。
不可視自体は変わらずとも三発毎の間隔と『大体の攻撃範囲や形状』を知ることができた、後はこのまま仕留めるだけだとミニ八卦炉を握る手に力が籠る。

「さあて、後は詰将棋みたいなもんだ、このまま撃墜数二を……『待った!』っ、おっと!?」

が、仲間と共に止めを刺そうとした魔理沙だが、そこへ若い女の声が掛けられる。
狭い地下に反響するそれは場所がわかり難く、警戒し辺りを見回した後魔理沙は咄嗟に後ろに飛ぶ。
直後ダンダンと、直前までいた場所に弾丸が撃ち込まれた。

『おっと、そこまで……そこを動かないで!』

鋭い言葉、それと弾丸を頼りに視線をやれば瓦礫の影に人影が僅かに見えた。

「……誰だ?」
『……黒幕、かな、一応は?』

魔理沙の問いに相手が答える、一瞬サラと流れる金髪が見えた、そして手元と思しき方で輝く銃火器らしき何かも。

「……見たところそちらの代表は君かい、黒帽子」
「まあ、一応はそうなるか……お前さんも花子の仲間か?」
「ふっ、私個人としては戦う気はないぜ、オカルトの戦闘データは欲しいけど……そのまま帰ってくれたらお互い平和に住むんだけど」
「嫌だと言ったら?」
「……私の手にあるのは強力な武器だ、そっちのデカ物に比べれば玩具に見えるかもしれないが。
逆らわないほうが身の為だと思うぜ、黒帽子?」

少女らしからぬ様子で相手は凄んでみせ、するとそれを受けた魔理沙は左右の少女達を視線を合わせた後口を開く。

「ふむ、答えは……」

一瞬貯めて、それからニヤリと笑って前へ踏み出す、同時に飛び出したフランドールとこいしと共に。
三人は弾幕を展開しながら言い放った。

『……いやだね、どりゃああ!』
「ちっ、やっぱ無理か……構えな、花子、メリー」
「ああもう、期待させて……」

大弾三連発が瓦礫を砕き、が寸前でそこから飛び出した『金髪に水兵服の少女』が銃を構える。
二人のオカルトも左右に並び、彼女達三人と魔理沙にフランドールにこいし、更にやや離れてシルバークロス、敵対者同士が睨み合う。
そして、両者は同時に駆け出すと火力を全開にする。

「……交渉決裂、じゃあ……」
「ああ……」
『どっちが上か、勝負と行こうぜ!』

ズドッ
ドゴオオォオオッ

巻き上がる爆炎を縫うようにし、どこか似た者達は弾幕を交わすのだった。



その同時刻少女ははっとした表情で地下を見た。

「……掛かったわね、大物、いや黒幕が」

地上で『通信能力を付加した陰陽玉』を握った巫女がボソと呟く。
博麗の巫女と、嘗て戦った『科学の異端児の相棒』、その再会は直ぐ近くまで来ていた。





てな感じで中盤戦三に続く(うーむ一日目より地味というか無難というか・・・・)
前回から地上と下でのオカルト戦、そしてその他・・・からの各勢力の開戦及び地下の花子ピンチと『そっくりさん』乱入でした。
因みに三原色は本当は『白』になるんですが・・・白は各色の光では目立ち難いってことで納得してください(バグの謎判定の理屈これしか思い浮かず・・・
後最後のそっくりさんの登場セリフが原作準拠ですが微妙にうろ覚え・・・間違いあったらあとで直します。

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九尾様
割と神子様はすんなり保護者キャラやれるイメージがあります、他にも布都がやらかした後始末といい・・・まあ彼女自身は常識人なので時々頭抱えてるけど。
因みに各保護者ですが根っからそれがやれるのと、苦心しつつ保護者やって段々と成長したりする一方通行型に別れます・・・精神年齢というか落着きの差かな?

青大根様
だ、大丈夫、崩れたら崩れたでそれで避難の言い訳になるから・・・祭りの後苦労するのは変わりないけど。

返信追加・・・

九尾様
肉体派な一輪ですが相棒及び師弟関係的にこうとしか思えず・・・巨人を従えるのが絵的にもインパクト有りすぎ、何かそれだけでキャラ濃くなるし。
花子に関しては完全こじ付け、原作ゲームの巨大腕×3や『ぬえ使役時代のバグ』から能力考えたら・・・割と穴のある設定ですが中ボス故盛ったということで。

ゆうじろー様
プライヴェーとの咲夜さんキャラ付けに少し悩みましたが・・・まあ従妹絡みなのもあるし無難に茶目なお姉さんキャラで。

マルルン様
競技に応援にコントにと、客からしたら視点的に慌ただしくなりそうですね・・・巻き込まれるのは絶対ごめんですが。



[41025] 祭りの夜に星が散る・十二
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/06/25 21:49
注意・旧作キャラ(某教授に並ぶ最速キャラ)に捏造設定、というか水兵服が何らかの特殊装備と仮定・・・




白髪に犬耳少女(それと借り物の小豆色ジャージ)が小さく毒づいた。

「ふぅぅ、どいつもこいつもっ」
「まさか、こんなことになるとは……」

項垂れながらも椛が牙剥いて荒く唸り、その隣で準備していた氷華も何とも言えない微妙な表情をしていた。
二人の視線の先、そこには大きく離された二人のランナー。

『さあさあ、観客参加型競技……最後はリレーだよー!』

司会席の宵闇妖怪の掛け声で始まったそれ、友人達の思い出作りと偶には良いかという競争の始まりは『一部にとって不本意』なものだった。

『全力で行くわよ、愛穂?』
『……研究者生活でインドアの癖によく言うジャン』

紅の第一走者として芳川が、白の第一走者として黄泉川愛穂がまず並んだ。

『ふっ、引き籠りの名は今日で返上よ!』
『あら大きく出たわね、パチュリー』

紅の第二走者としてパチュリーが、白の第二走者としてアリスが次に待つ。

『ふふっ、負けないんだよ、チルノ!』
『おっ、じゃあ競争だな!』

紅の第三走者としてインデックス、白の第三走者としてチルノが準備場所で睨み合う。

「……なんて言ってたのに……」

そんな始まりだったのに、第四走者の二人が見るのは『先行するチルノ』と『大きく距離を離されたインデックス』という正反対な光景だった。
椛も氷華も、そして競技場の最終レーンで待つ美琴と番外個体達も呆れていた。

「まさか大差とは……」
「ある意味『お約束』でしたね」

まずスタート早々ある女性が悲鳴を上げた。

『きゃっ、足が吊って……』
『桔梗、早速!?そこまで引き籠ってんの!?』

それで大分差がついたところで、バトンを受けた第二走者の片割れによるリプレイ。

『むきゅん、足元に石が……』
『そこで天丼!?』

コロンと転がってまた差がついて、更に第三走者の段となって三度目が起きる。

『あ、ジャージの裾が絡んで……』
『ちょっ、インデックス!?』

何故か片方の組だけ三連続、開始早々からの転倒で一気に引き離されたのだった。
氷華は困った様子で先行するチルノからバトンを貰い、それからゲンナリとした顔の椛が数秒遅れでやっとバトンを手にする。

「ええと……先行きますね、椛さん!」
「……ま、負けませんよ、天狗の誇りに掛けて!」

前三人のツケを払わされ、余りに大きな差の中で椛は必死に氷華を追うのだった。

「……ドンマイ」「生真面目な分大変だなー」

呑気そうに言う司会たちに同情されながら。



「ほれほれ……」」

ユラユラと目の前で『皿』が揺れ、つられたようにオカルトの視線も揺れた。

「さあ、死霊の娘よ……皿は、皿は要らんのかあ?」
「あうあう、御皿あ……」

見せびらかすようにする布都の手とその中の皿が右左に行ったり来たり、するとそれに合わせオカルト、皿屋敷の女中の霊もあちらこちらに視線を巡らす。
そんな動作を二人は繰り返し、十度程やった辺りでオカルトの弱みを把握した布都が問いかける。

「……で、そろそろ情報吐く気になったか?」
「ぐぬぬ、それは……」

すると、主や仲間への義理立てか皿屋敷の女中は途端に黙り込んでしまった。

「ほう、そうか……じゃ、屠自古」
「……おう」

が、その沈黙は続かない、その気はないと見た布都が手を掲げれば屠自古がある者を手に現れる。
そしてブンとその場で一振るいすればオカルトの表情が歪んだ。
それは恐らく教会の大工道具、何の変哲もない金槌だった。

「……割るぞ?」
「ほれ、情報は?」
「全部吐きます、なのでご慈悲を!」

何より欲しいもの(皿)の危機に、彼女は意地を捨てたのだった。
はあと背後で見ていた屠自古が皿を前にきゃっきゃと騒ぐ二人に頭を抱える。
特に片方は血縁的に近い存在で猶更頭が痛くなってくる。

(……これ、私いる意味有ったか?)
「……よろしい、代りにこれ(皿)譲ってやろう」
「忠誠を誓います、ご主人様!」
「ふむ、良かろう、生前通り女中な……ああ、余りもやるから『形ある物』を壊す背徳感をお主も知るがいい」
「わああいっ、光栄であります!」
(ううむ、また霊廟に変なの増えた、邪仙共でも大変なのに……)

はあと自勢力の濃さとそれに掛けられるだろう苦労に、屠自古は思わず嘆息したのだった。

「……哀れな」
「……といいつつ他人事ね、山の人」
「付き合ってられないよ、メイドさん」

まだ酔いが引かない涙子が机に突っ伏しながら答え、それに苦笑しつつ咲夜が程よく冷ましたお茶を手に(仕事人間だからか自発的に持ってきた)
それを有難く受け取った涙子(とにとり)はチビチビやりつつ『中継』の映る携帯端末を見やる。

「……にしても運悪くない?」
「組偏り過ぎだもんね……どんまい、椛」

そこでは必死に、白髪風に流し鍛え抜いた体を生かし疾走する少女が映っていた。

「……まあ、楽しそうだし宜しいのでは?」

それに対しシスター、咲夜についてきた(まあテレビ中継に気を引かれたのが本音だろうが)オルソラが微笑みながらフォローした。

「ほら、笑っていますよ、皆」
「……ご友人との競争ですもの、普段遊ぶのとは違う趣もありますわ」
「……差がある分必死というか、微妙に顔引き攣ってるけどね」

そう彼女達は言い合う、尚そんな間も真面目なのもあり画面の向こう椛は溢れんばかりの闘志で駆けて、氷華はそれから逃げている。
二人は友と競う時間を楽しみつつも追い上げあるいは逃げて、そしてそれを維持したまま次の、最後の走者の元へたどり着く。

『ギリギリ先行……後お願いします、御坂さん!』
『……任せて!』
『むう、追いつけずか……頑張ってください、ワーストさん!』
『あいよ!』

数十センチの距離、差はあれどずっと縮んだ中で交代の瞬間を迎え、その際姉妹の二人は一瞬肩越しを視線を交わした。

「……さて、メインイベントね」
「まあどっちが勝ってもいい思い出、楽しんだもん勝ちでしょ」

一同が微笑ましく視線をやる先で、姉妹の二人は追いつ追われつゴールに向かう。
その表情は勝ちたいという思いと、それ以上にこの時間を楽しもうとする純粋な物に溢れていた。

『負けないわよ、番外個体!』
『こっちこそだよ、追いついてやる!』
「……ふふ、良いことだ」
「ええ、全くで」

何だか自分達も嬉しくなって、涙子達はもう一度顔を見合わせ何となく微笑んだ。



祭りの夜に星が散る・十二



深い地下で、鏡合わせのように『金髪の少女たち』が睨み合う。
魔女の如き黒帽子、魔理沙がフラン達と共に飛び出し、対する水兵服の少女、マッドサイエンティストの片腕は二体のオカルトに指示しつつ迎え撃つ。

「覚悟はいいか、水兵服の!」
「それが要るのはそっちじゃないのか、黒帽子!?」
『……全力で行け!』

二人はそれぞれ仲間に叫び、それに従いそれぞれシルバークロスアルファと花子が広範囲攻撃を仕掛ける。
ズドンと特大の弾丸と不可視の弾幕が正面からぶつかり合い、その衝撃で派手に粉塵を巻き上げる。

ドガアアッ

「ちっ、なら……次が来る前に突撃だ、フランにこいし!」
『おーっ!』
「おおっと、近寄らせるな、花子にメリー!」
『了解!』

直後殆ど同時に互いの仲間が動いた、フランドールとこいしが、花子とメリーが相手に飛びかかった。

「……うりゃ、燃えちゃえ!」
「断らせてもらうわ!」

ガギィンッ

まずフランドールが翳した炎の剣と花子の異形の腕が鍔迫り合いの形へ。
更に隣でもこいしとメリーが花弁の弾幕とナイフで牽制しつつ、互いの背後を奪い合う。

「私、メリー、今貴方の後ろに……「させるかあ!」ちいいっ!?」

片や強引な力押し、片や速度と小回り、正反対の形となった二つの戦場。
が、それでも魔理沙の表情に焦りはない、『彼女にとっての最短距離』、その邪魔となるオカルトの動きが止まった時点で十分だった。

「へっ、止めたか、だが……空いたな、ブレイジングスターー!」
「ちっ、ここで特攻かよ!?」

ズドンッ

光となって魔理沙が箒に乗って突撃し、ちゆりは反射的に身を伏せ躱す。
が、閃光が抜けた直後一瞬遅れてきた衝撃波が彼女の身を襲った。

ブワッ

「うおっ!?」
「……体勢が崩れた、なら追撃い!」

後ろに押し流され僅かにちゆりの体が浮かび、すかさず魔理沙は小さく弧を描いて反転し二度目の突撃へ。

ダンッ

「……なんてな、まだだっ!」

が、次の瞬間ちゆりが『空中に跳ね上がった破片の一つ』を不自然な体勢で蹴りつけ回避行動へ。
彼女は真横に跳んで、地下道の壁に飛びつくと更にそこを足場に再度跳ぶ。
ダンダンと二度の跳躍から、彼女は突撃の勢い減速しきれない魔理沙の横を取った。

「……そりゃ、反撃!」
「(動きを読れた!?)出待ちは伊達じゃないか!?」

ガギィンッ

回避からのちゆりの一射、近未来的デザインの銃から弾丸が放たれ、魔理沙はミニ八卦炉を持たない方の手による障壁で防ぐ。
だが、受けた衝撃で彼女の動きが止まった。
これを機と見たちゆりは弾倉を交換しつつ、一気に相手の懐へ飛び込もうとする。

「火力はそっちが上でも、足を止めれば……」

ダッと回り込むような動きで障壁を抜けて、ちゆりは両手で保持した銃の連続で引き金を引いた。

「……このまま武器を奪う!」

ダンダンダンッ

八卦炉を握る腕へと連続で射撃が行われ。

ガギィンッ

「……あん?」

ヌッと伸ばされた『金属の掌』が弾いた。
これみよがしに魔理沙がニヤリと笑い、一瞬ちらと砲撃後進ませ今やっと合流した『鉄巨人』に肩越しから笑いかける。

「ま、弟子の部下の舎弟、当然使う……なあ、シルバークロスアルファ?」
「……それで盾にする辺り人使いが荒過ぎると思うがな」

一瞬愚痴るアルファに今度は苦笑し、それから拳銃を向けたままのちゆりに警戒の視線。

「……にしても結構速いな、どう思うよ」
「生身とは思えん、何らかの装備によるアシストか?もしくは薬物やインプラントの可能性も?」
「少なくとも魔力は感じないぜ、そういう強化の類ではないだろうが……」

チラと向うの服、『(魔理沙は知らないが『主』と対極の)白の水兵服』に鋭く視線を送る。
そんな探るようなそれに居心地悪さを抱え、ちゆりは睨み返しながらまず牽制へ。

ダンッ

「おっと……」
「……観察されんのはいい気分じゃないね」

僅かに身を引き、隣の巨人を盾に魔理沙は躱し、がその間にちゆりは再び瓦礫の影へ跳んだ。

「……繰り返しの言葉になるが黒幕だ、それらしくやらせて貰うぜ」

派手ない撃ち合いを避けられた魔理沙は僅かに顔を顰め、その様子をちゆりは影から覗いて隙を伺う。
困ったような表情で魔理沙は挑発の言葉をかけた。

「……ちっ、逃げたか、意外に慎重だな?」
「悪いな、簡単に倒れる訳には行かないんだ(……データ取りの意味でも)」

が、その言葉は軽く受け流され、魔理沙の表情は更に渋面となる。
ちゆりの行動で場は持久戦の形になりかけ、しかしそれが却って『捻くれ者の琴線』に触れた。
思惑を外された魔理沙が唐突に笑い、そして背後の鉄巨人を促すように手を掲げる。

「そうか、あくまで消極的に、か……なら、その逆だ」
「顧問?」
「……アルファ、『後ろ』だ!」

チラと彼女は後方を、フランドール達に相対するオカルトを見た。
その動作に一瞬訝しそうにした後巨人は頷き、ゆっくりと砲口を向ける。

「ああ成程……まあ、暗部らしいか」
「……お前等、何を!?」
「……援護さ、仲間思いだろ?」

悪戯っ子のような笑みで魔理沙が答え、慌ててちゆりが阻止すべく籠城策を中断し攻勢に出る。
だが今度は魔理沙がやり返すように、触媒をポイと見せつけるかのように放る。
そして巨大な魔法障壁がちゆりの前方に展開される。

「おっと、それと遊んでてもらおうか?」
「くっ、仕返し、性格の悪い……」

ガンガンと連続で弾丸を叩きこみ、がその度軋むも障壁はその場でちゆりの前進を阻んだ。

「……アルファ、照準は?」
「問題ない……ファイア!」

ズドンッ

『え、きゃああ!?』

そして電磁加速された砲弾が放たれ、気づいていたフランドール達が飛び退いた直後着弾。
目の前の相手に気を取られていたオカルト達は閃光と爆音の直後跳ね跳んで、衝撃に揉みくちゃにされながら高々と吹き飛んだ。

「きゃっ!」
「あうっ……」
「花子、メリー!?」

仲間の危機に反射的にちゆりは前へ、残りの残弾全てを障壁に叩き込んだ。
ダンダンッと一転に弾丸が撃ち込まれ、ビシと全体に罅が走った瞬間ちゆりは握り手、銃床を力任せに叩きつける。

バリンッ

「良し、これで……」
「……仲間思いだな、だがそれは……『逆効果』だぜ!」

がその行動は魔理沙に読まれていた、彼女は全開までチャージしたミニ八卦炉をちゆりへと突きつける。

「うっ、回避が間に合わ……」
「幾ら速くても、それが前へ直進なら……マスタースパーク!」

ズドンッ

「ぐあっ!?」

今度は躱せなかった、咄嗟に銃を着弾箇所に掲げ幾らか威力を削るも直撃は避けられない。
そのまま壁に叩きつけられ、ちゆりはケホと急き込んでから倒れ込む。

「くっ、私としたことが……」
「……甘いな、全然連係出来てない、察するに即席チームだろうがそれじゃ無理だぜ」

魔理沙は再チャージしたミニ八卦炉を構えて相手を見下ろし、それをちゆりは倒れたまま見上げる。
一瞬顔を顰め睨んで、そしてそれからどこかさっぱりとした表情へ。

「ああ、困ったな……認めるしかないな、『私の負け』ってのはなあ」

フッと力なく、どこか諦めたように笑った。

「だが……私『達』の負けじゃない」
「何?」

その言葉に魔理沙が訝しんだ瞬間、ちゆりが『何かを』握った手を掲げる。
そこには銃の残骸の代わりに、『円形のスイッチ』が中心に輝く機器が握られ、それに指が添えられた瞬間周囲に異変が起きた。
ゴゴッと数度辺りが揺れ、それからカッと小規模の爆炎が立て続けに燃え上がる。

「な、何しやがった!?」
「本当は後処理、証拠抹消の為なんだが……これを使わせたこと、悔しいが褒めてやるよ!」

ズドンッと言葉の間も何度も爆ぜ、魔理沙や彼女だけでなくアルファ等の怯んでその動きが止まる。
そしてそれを最後のチャンスと、必死の形相で二体のオカルトがちゆりの元へ走った。

「さあ、合流っと」
「しまっ、直ぐに追って……」
「まあ待て、ここは当然逃げる、逃げるんだけど但し……」

慌てて追おうとする魔理沙達、がそれを見たちゆりは困ったような表情を仲間に向ける。
彼女は花子を、花子『だけ』を見て、その視線の意味に花子はどこか苦そうに嘆息する。

「……但し、全員逃げるのは無理だな」
「ああ、そうなるのか……悪いな、メリー?」
「え?」

ガシと異形の腕がメリーの首根っこを掴み、それからブンと勢いよく放られる。
まるで砲弾のように、追おうとする魔理沙達の出足を鈍らせるような形で。

「私を裏切っ……きゃあ!?」
『うお!?』

予想外の妨害に魔理沙が吹き飛ばされ、更にそのまま後続のフランドールとこいしを巻き込んでゴロゴロと地面に跳ねながら叩きつけられる。
更にそこへ追い打ち、ちゆりは再度の手元のスイッチを押し込んだ。

「足止めよ、もういっちょ!」

ズドンッ

再び爆炎が爆ぜ、今度は辺りの築材も限界に来たか派手に崩れ瓦礫までもが魔理沙達に降りかかった。

「うおっ、これじゃ追えない……いや、このままだと」
「そういうこと、生き埋めになってな!」

魔理沙にやられたことをやり返すように、ちゆりは勝ち誇ったように言うと更にスイッチを押し込む。
それで炎と瓦礫の崩壊が進み、それを他人事のような顔で見つつ彼女は最後のオカルトを連れて離脱に向かう。

「さあ引くぜ、花子」
「了解」
『……後は自力で頑張って、メリー』

地上のオカルトのように軽く見捨てると、二人はさっさと踵を返し赤く染まった戦場跡に背を向ける。
そして、ダッと全滅だけは避けようと駆け出す。

「助手殿、逃げるとしてこの後は?」
「……一旦上に行くぜ、ついてこい、メリー!」

そのまま緊急用の通路、上への脱出口へ。

「了か、っ!?」
「え?」

ドゴッ

が、その直前で『光の壁』に鼻っ柱をぶつけて二人は足を止められた。

「あだだっ、な、何だ……」
「これは……『結界』!?」

二人は焦った様子で壁を見て、そしてその先に立つ一人の少女を呆然と見る。
超然とした表情で、片手に札を手挟んだ巫女を。

「ふう、何とか間に合った……わふぇ、ごくん、けぷ」

但し屋台で買ったらしきクレープ片手の。

「……え、何、こいつ?」
「巫女ひょ(よ)、見ればわは(か)るでしょ?」
「いや、それにしたって俗というか……」

困ったように言う二人に答え(クレープ齧りながらだが)それから巫女、霊夢はちゆり等の背後を指し示す。
するとズドンと一度轟音が鳴って、瓦礫が上に吹き飛んだ瞬間それで空いた空間から影が飛び出す。
箒に乗って流星のように、魔理沙が飛び出した。

「アルファ、道の確保ご苦労……ボーナス、期待しとけ!後そっちのオカルトの処理も頼むな!」

舎弟の鉄巨人のレールガンで瓦礫から逃れ、自由となった彼女はちゆりと花子の背後に。
そして霊夢もまた結界を維持しつつ、そこを離れ魔理沙と二人の敵を挟むようにする。

「……て訳で戦闘続行だぜ!」
「そういうこと、もう少し相手してもらうわ」
「くっ、最悪、逃げられない、か……」

慌てた様子でちゆりと花子は背中合わせで、挟撃の体勢を取る霊夢と魔理沙へとそれぞれ弾幕を構えた。
ニッとその諦めてない様子に霊夢達は感心した様に笑い(尚巫女が菓子の残りを口に放ったりしたりし)やはり同時に弾幕展開する。

「まだやる気か、いいね……行くぜ、霊夢!」
「ええ、合わせなさい、魔理沙!」
「……まだっ、迎撃準備だ、花子!」
「了解、背は任せます!」

二人と一人と一体は地下最後の戦いへ、一瞬睨み合いそれから弾幕。

『落ちろおおっ!』

ズドンッ

彼女達は霊力と火力を全開にし、目の前の敵に叩きつけた。

(……オカルトと行動する科学の女、オカルトと科学の両立、か)

その中で、霊夢はふと何かが胸中を掠める。
『赤い外套の女』、一人前になる前に戦った敵と似た何かを感じたような気がしたのだ。

(まさかとは思うけど、気にするべきか……)



競技場は熱気に包まれていた、それが最高潮に達する中一人の少年にメッセージ。

『ギリギリ先行……後お願いします、御坂さん!』
『……任せて!』
『むう、追いつけずか……頑張ってください、ワーストさん!』
『あいよ!』

pipi

「ン?」

姉妹の真剣勝負、あるいは思い出作り、その最中白い少年が電子音に小さく唸る、そっと懐の携帯端末を開く。

「どしたのー?」
「メール、姉貴から……」

小首を傾げるルーミアに答えつつ内容を確認。
書かれた幾つかの分を読んだ。

「クレープ美味しい、敵アジト発見、クレープ美味しい、オカルト接敵、今回は魔理沙とチーム……」
「ふむふむ、それでー?」
「それと……修業時代のトラウマ思い出し中(全然弾幕当たらずガクブル)、後クレープ美味しい……だとよ?」
「……巫女の癖に、業(食欲)深過ぎない?」
「……今更だな、いやトラウマに関しては怖くて聞けねェが」

二人はちょっと困ったように顔を見合わせ苦笑したのだった。




・・・ここで一区切りで十三へ、前記事でちらと語った『某教授』とのスペルカードルール制定前の戦い、もしかしたらそのうち書くかも。
でそれはさておき、競技場の様子を描きつつ地下の戦い後半戦、様子見も終わり互いに手札が揃いました。
そして巫女も参戦と、次で一区切りになるかな?・・・次回は少し空きそう・・・

以下コメント返信
九尾様
魔術組織は仰る通り情報秘匿にトップの高寿命もあり若い層は大分肩身狭いと思う、それこそイギリスにローマ正教は兎も角零細はこうだろうなってイメージ・・・
・・・何か纏めると原作でもアレイスターが周りに嫌われるのも結構納得、最近駄目親疑惑まで上がってるし。

碧様
まあ前章に続き1P2P対決ということで・・・あっ霊夢は弟分やシスターズ絡みでなければ最小限労力で動くので大体こんなもんです。



[41025] 祭りの夜に星が散る・十三
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/08/24 23:54
バアアッ

「……行け、『般若』に『泣き女』!」

『仮面』が輝く、そこから広がる爆炎が口裂け女に襲いかかった。

ズドンッ

「ちいい、魔術師のように逃げればよかったか……」

彼女はこころの弾幕を必死に下がり逃れようとし。
直後前方を覆う爆炎を割いた『一つの影』にオカルトは驚愕する、勢いよく飛び掛かるこころが勇ましく長刀を構えた。

「弾幕で怯ませ、近接か……だけど!」

長刀による白兵戦、持ち込まれれば不味いと口裂け女が慌てて対処しようとする。
口裂け女は口元を隠す布に手をやり、バッと勢いよく引き下げる。
大きく裂けた口、生者に本能的に驚かせ怖気を覚えさせる異形、呪いと言っていいそれを見せつけた。

(一瞬でも動きが止まれば……)

その思惑通りこころの体がグラと傾むいて、が次の瞬間オカルトにとって予想外のことが起きる。

「む、体が重い、けど……なら別の手だ!」

フワリ

『面』が浮いて散開した、一瞬で口裂け女を囲むように陣形を組んだ。

「……確かに動かないがそれは『本体』だけ、半身たる仮面には関係ない!」
「馬鹿な、面のみが!?」

ズドンッ

四方から仮面が弾幕を放ち、予想外だったそれに反応できず口裂け女が苦悶の声を上げる。
グラと体勢を崩して跪き、すかさず自由となったこころが反撃の長刀を構える。

「……お返し、行くよ!」
「くっ……」

呻くも相手は待ってくれず、踏み込みと共に長刀の一閃が放たれる。

ヒュンッ

「ま、まだ……」

慌てて体を捻って口裂け女はそれをギリギリ躱し、そして焦った様子で弾幕を構え、その瞬間長刀の穂先がクルと返される。
こころの手の中で滑らかに反転し、その勢いのまま石突き部分が突き出される。

「甘いよ!」
「しまっ!?」

バギッ

「う、あっ……」

今度は意表を突かれ躱せない、口裂け女の手を石突きが強かに打ち反撃を中断させ、更に長刀は再び返され通常の構えへ。

「……これで」

ヒュ
バギィンッ

「終わりだ!」
「ぐあっ!?」

『刀の峰』が側頭部を打ち据え、口裂け女が力なく沈んだ。

「こころ?」
「……生け捕りにします、神子様」
「そうか、それで良いのか?」
「少し、他人の気がしないから……自分の顔に自信がないとことか」

仮面の少女は笑い(といっても僅かに口の端を引くつかせる程度だが)、ある意味同族と言える顔のないオカルトを見下ろす。
何となくの共感と、顔を曝け出されたままは恥ずかしいだろうと『隠すよう』に般若面を被せその後言った。

「あっちに連れて帰って怨念を『鎮めてみる』、踊り手として……」
「……鎮めるか、根を上げるまで踊りに付き合わせるの間違いでは?」
「そうとも言う……問題は『下』だね、無事だと良いけど」

強引にこの後のことを決めて、その後彼女はチラと地下の方を見やる。
何だかんだ世話になった巫女やライバル視する悟り妖怪を心配した。



祭りの夜に星が散る・十三



そして更に地下深くの戦場、ちゆりは油断なく敵達を睨む。

「巫女に魔女か、データを取らせてもらうぜ!」
「……援護するわ、助手殿!」

ギュッと彼女は銃を握り直し、その背の花子も頷きつつ構える。
そして対峙する二人、霊夢は真っ直ぐ駆け出し、更にそれに合わせるように魔理沙が飛んで頭上から仕掛ける。

「タイミング合わせなさい、魔理沙!」
「おうっ、行くぜ……ドラゴンメテオ!」
「同時に……陰陽玉将!」

ズドドッ

上からは星形の弾幕が降り注ぎ、更に正面から圧縮した霊力が壁のようになって叩きつけられた。
ちゆりは刹那の逡巡の後自身は前を睨み、そして肩越しに視線やって花子に上の対処をさせる。
それから彼女自身は未来的デザインの拳銃を腰貯めに構えた。

「はっ、そう簡単には……」

ドガガッ

素早く『照準と並行しトリガーを叩くように打ち』連続で射撃する。

ドガガガガッッ

「……やれると思うなよ、紅白女!」
「ちいっ!?」

彼女は全弾有るだけぶつけて霊夢の『霊力塊』を押し留め、霊夢が舌打ちして下がったところで次に花子が動く。
ヒュバッと弾幕、見えざる異形の腕で大きく頭上を薙ぎ払う。

「ええいっ!」

ドガアア

「こっちもやらせないよ!」
「……っと、量重視の弾幕じゃ駄目か」

愚痴る魔理沙の視線の先、埃を払うように無造作に振るわれる不可視の触腕が弾幕を叩き落としていく。
そこから更に花子は腕を上へ、迎撃の動きから一転させて狙いを頭上の箒で飛ぶ魔理沙へ。
クルと軌道を変えて触腕が魔理沙に振るわれた。

「……反撃!」
「おおっと!?」

ガギィンッ

咄嗟に展開される魔力の障壁、が花子は構わず上から握りつぶそうとした。

ギギッ

「盾か、でも……このまま!」

彼女はそのまま妖気で構成された大腕に力を籠めようとした。

ダンッ

「……掛かった!」

が、その瞬間魔理沙が跳んだ、乗っていた箒を、更に壊れかけの魔力の足場を蹴って跳ぶ。
不可視の腕を迂回、空中で体勢を整えながらミニ八卦炉を眼下の敵にグッと突きつける。

「囮か!?」
「……貰いだぜっ!」

頭上から鋭く絞った光条、チャージを省略し収束させた弾幕が真っ直ぐ伸びる。
障壁への攻撃に集中していた花子は動けず、がその寸前別の影が割って入る。

「ちっ、させねえ!」
「助手殿!?」

パチパチと全身に紫電、何らかの加速機能かスパークする水兵服の裾を靡かせたちゆりが花子を横から蹴りつけた。

ガッ

「退け!」

部下である花子を安全圏へ、同時に新たにカートリッジを装填した銃を真上に。
ダンダンダンッと素早く数度、光線の軌道を読んで迎撃の射撃を行う。

「二発めは温存しとけ……私が抑える!」

ズドッ
ドゴオォオ

「はっ、どうだ!」
「へっ、やるな!?」

光と弾丸は相殺、魔理沙はどこか面白がるような表情で見下ろし、それに対しちゆりも不敵に睨み返す。

「さあて悪いけど……」

がそれは一瞬だけ、ちゆりはバッと背後、『もう一人』を振り向いた。
土産とばかりに頭上に一度引き鉄を引いてから。

バンッ

「おわっ!?」
「……アンタは後回し!」

慌てて魔理沙は身を竦め弾丸を躱し、がそれで稼いだ時間で霊力チャージ途中の霊夢の方へ駆ける。
彼女は走りながらカートリッジの残弾を一気に放った。

「喰らいなっ!」

ドガガッ

二度目の掃射、霊夢は微妙に顔を顰め霊力チャージを中断し結界を展開。
だが、次の瞬間表情を更に深く顰める、隣に並んだ花子が全身から妖力を放出したのだ。

「……やっちまいな!」
「了解、はあっ!」

花子は先の温存分も解放、床を余波で割りつつ二方向から不可視の大腕を伸ばす。
一旦左右に分かれ、弾丸を受けていた結界を迂回し霊夢を挟撃する。

「うひゃ、不味……でも、ある意味好都合!」

それを見た霊夢は焦った様子で、結界を維持するのと逆の手で『札』を掲げた。

「……亜空穴っ!」

ドガンッ

轟音と共に二つの腕が打ち合わされ、が寸前で掻き消えた影を掠めるに留まった。
結局攻撃は不発、ちゆりは不満そうに嘆息し、それから銃床(ストック)部分を上に掲げた。

ガギィンッ

直後『一閃された針』が弾かれ、スウと宙から現れた霊夢が出現後舌打ちする。

「……ちぇ」
「物騒な女だな全く……」

霊夢は不満そうに、ちゆりは恐々とした顔で視線を交わし、その後同時に飛び退く。
二人は後退し間合いを取り直し、そこから瞬時に再度仕掛ける。
掌中に霊力を集めた状態で霊夢が踏み込み、対し『輩出したカートリッジ』を勢いよくちゆりが放った。

「ほれ」
「え?」

カキンと霊夢は投擲物を反射的に弾き、が直後その表情が驚愕に歪んだ。

「弾切れのそれで……隙なら上出来だろう!?」

投擲でその気を引いて、すかさず距離を詰めたちゆりが銃を持つのと逆の手でポケットに収められたカートリッジを引き抜く。
カシャッと新しいカートリッジをねじ込んでそのまま突きつけた。

「げっ、結界を……」

これには意表を突かれ霊夢は貯めていた霊力で防御、が結界が張られた瞬間ちゆりはニヤリと笑った。

「……待ちな、先に牽制さ」

彼女は徐に振り向いて上へ射撃、ダンダンと続けて放たれた弾丸が霊夢の援護に行こうとした魔理沙を追い払う。
そしてそれから素早く霊夢に向き直った。

「うお、悪いっ、霊夢!」
「……妨害の後は当然反撃!」

ダンッ

「あうっ!?」

ギシと一瞬軋むも防ぎ、だが攻撃はそれで終わらない、ちゆりがトンと横に飛び振り被った状態で花子が滑り込む。
ゴウッと不可視の大腕、再チャージ後の一発目が放たれた。

「はああっ!」
「くっ……」

ドゴオッ

結界で受けるも吹き飛ばされる、余波の衝撃に怯みながら霊夢は蹈鞴を踏んで後ろ退った。
すかさずちゆりと花子が後退した霊夢に追撃に向かった。
ダンダンと拳銃で上の魔理沙をけん制後、ちゆりは花子を見た。

「霊夢!?」
「……このまま追うぞ、花子!」
「了解!」

銃弾を躱し、それで距離の空いた魔理沙は妨害できず、それを尻目に二人は霊夢に追撃を仕掛ける。
霊夢が眉根を寄せる、結界の展開直後でチャージ時間がないのだ。

「っと、霊力が間に合わ……」
「さあ、これで……」

止めとばかりにちゆりと花子が飛び掛かり、霊夢は近づく二人に顔を顰め。

カッ

「まだだ!」

そして魔理沙が頭上で、輝く八卦炉を掲げた状態で叫ぶ。

「……霊夢、空間操作!」
「っ、ええ!」

瞬時に霊夢は呼びかけに頷き、防御にはいくらか足りない霊力を束ねる。
ユラユラとその手元で空間が、『恒星の如く発光する八卦炉』直通の空間が開いた。

「亜空穴……魔理沙!」
「おうっ、私を忘れんな!」

ドガアッ

「うお、不味!?」

空間の裂け目からぶち撒けられた閃光がちゆり達を襲った。
司会が白く染まり慌てて花子が前に出た、焦りの表情で触腕を伸ばそうとした。

「さ、させない!」
「馬鹿、それは……」

彼女残り『二回分』で防御しようとし、それを見たちゆりが目を見開く。
閃光を弾くそれは軋みながらも伸びていて、だけど同時に二人の周囲、引く先を塞ぐような位置でもあった。
それ以上腕を動かせない、前に出せず下げられず、『絶妙な』出力で砲撃した魔理沙が頭上で笑った。

「駄目、迂闊に動かせば……」
「そういうこと、それに攻撃ならともかく……防御に使うなら不可視は関係ない!」

確実に物理的に目の前にある、それがわかり切ってるなら触腕への警戒は必要ない、そう叫んだ魔理沙は更に出力を上げる。
今必要なのは目の前に掲げられた触腕を破る出力なのだから。

「マスタースパーク!」
「援護するわ、夢想封印!」

ドガアアッ

『ぐあああっ……』

ミニ八卦炉から放たれた閃光と、ついでとばかりに霊夢ががばら撒いたお札の光、それ等が合わさって派手に爆炎を迸らせた。
ジュと不可視の腕が嫌な音を立て、直後跡形もなく消し飛ぶ。
そのまま相殺し切れなかった破壊力がちゆりと花子に襲い掛かり、二人をクルクルと宙に舞いあげる。

「ぐあっ!?」
「助手殿、あうっ!?」

炎に揉まれながらちゆり達は壁に叩きつけられ、すかさず霊夢が封魔針二つ構える。

「……止めよ」

ヒュッ

冷たく見据え彼女は勢いよく腕を振り抜く。

ズドッ

『ぐあっ!?』

風を切って二本の針が飛んで、直後重なった痛々しい音。
ちゆりと花子の肩を深々と貫き地下道の壁に磔にした。

「……もういっちょ!」

ヒュッ
ズド

更に霊夢は念を入れて針を投擲、今度は銃を握るちゆりの手を貫き封じた。
鋭い痛みに彼女の表情が歪んだ。

「……くっ」
「覚悟するのね、お二人さん?……さあ、これで……」

動けない二人に霊夢がゆっくり近づく、これみよがしに弾幕用の霊符を手挟み、止めの一撃の為に霊力を集中していく。

「……終わりよ」
「……っ、まだだぜっ」

霊夢がその手に気弾を拵え、がその瞬間ちゆりが叫んで針を受けていない腕を掲げる。
カシャンという音がし、『服の裾から飛び出した小型拳銃(デリンジャー)』が構えられる。

「仕込みか!?」
「喰らえ!」

ドンッ

引鉄と共に弾丸が飛び出す、それは真っ直ぐに攻撃に集中している霊夢の方へ。

(これでっ……)
「……甘いわ!」

だが直後霊夢は『斜め下方』に貯めていた霊力を解放した。
ドンと衝撃が弾け、霊夢の体がフワと浮いて、一瞬遅れ弾丸が霊夢の先までいた場所を素通りした。

「……読まれた!?」
「はっ、『赤ドレスのマッド』の関係者なら……そりゃ奥の手くらい持ってるわよね!」

霊夢は警戒していた、同類と思しき女性を霊夢は知っていた、だから一筋縄でいかないと心の準備もしていた。
その警戒で反撃を躱した彼女は空中で素早く次の弾幕を展開する。

「ふん、あのマッドの関係者相手に深追いはごめんね、ここで『お開き』……魔理沙!」
「はいよっ」

霊夢は仕込拳銃以外の暗器、あるいは切り札を警戒しこの場での決着を諦めた。
宙空で弾幕を用意し、それに心得たりといった様子で箒に乗った魔理沙が並んでミニ八卦炉を構える。

「ここで倒すまでやるのはリスクが大きい、だから……『埋まっときなさい』」
「なっ、しま……」

ドガアアッ

ちゆりが止めよう銃を構えるより一瞬早く弾幕が放たれ、ちゆり等の『周囲』を特に狙って光弾の雨が降り注ぐ。
着弾後壁が、足場が、そして余波に引き摺られて天井部までもがゆっくりと崩れていく。

「あんた等、まさか……」
「……『三日目か四日目』に会いましょう、だからこの場はさよなら!」
「ま、お前等この程度じゃ終わらんだろ、頑張って這い上がってきな!」
「そんじゃガキンチョ達に合流、拾ったら即亜空穴で」

無責任な期待の言葉を好き勝手に残し、霊夢は魔理沙の後ろに飛び乗って出発の合図を出す。
二人はフワと浮かび上がり、そして落下し続ける崩落物を抜けていく。
落ち行く瓦礫の僅かな間でちゆりが屈辱に叫んだ。

「畜生、性悪どもが……覚えてやがれ!」
『はっ、何時でも来なさい!』

負け惜しみめいた言葉に二人は意地悪く返し、そして悠々と飛び去る。
結果この場は決着つかず、だけど片方の心に屈辱を刻んで終わりとなった。



「ちっ、以前と違うな……」

レミリアが不満そうに舌打ちする、目の前の光景は聊か予想外だった。
それは死屍累々というべき有様で、沢山の人々が倒れ伏し呻き声をあげていた。
『その身を文字通り盾に』、犠牲としてレミリア達の行動を妨害した魔術師達だ。

「ぐ、うう」
「うああ」
「……すまない、だが感謝する、同志よ」

彼等という犠牲に無表情で銀の少女、ミューズが言葉少なに謝辞を示す、レミリア等の追撃を逃れたのが仲間のお蔭だと理解している。
が、それと同時に今倒れている彼等が『羨ましい』とも思ってもいた。

(いっそここで倒れていられれば……楽なんだけどね)

そう弱音を吐きかけ、が流石に口には出せないと、『戦女神を唆した少女』が嘗ての行動を内心でだけ後悔する。
ある意味でこの騒ぎの元凶である少女は責任感と罪悪感混じった思いの中で嘆息した。

「(ま、今更なんだけどね……)はあ、もう少し頑張りましょうか」
「……嫌々なら止めてしまったら?」
「……そういう訳には行かないのよ、人に任える側としては」

『上司』への一応の忠誠、それとその人物を巻き込んだ責任から彼女は追ってきたレミリアと白蓮を睨む、まだまだ追われないと。
二人に追われたまま何とか仲間『で』凌ぎつつ、市街から郊外部付近、暗部の影響の低い場所まで逃げられた。
が、ここまで逃げ込み、がそこで流石に追いつかれてしまったのだ。

「……これ以上は少し不味いですね」
「ふふん、部下を盾にするのも限界でしょう?」
「そろそろ諦めになられては?」

倒れ伏す仲間、弾幕の盾とした者達の奥でミューズがその端正な顔を顰める。
勝ち誇ったような向うの警告、だが悔しいがそれは間違ってもいない、連日の消耗重なるミューズではこれ以上の抵抗は不可能だ。

「ええ、確かに辛いわ、でも……」

但しそれはミューズ個人の話だ、迫りくるレミリアと白蓮の弾幕の前で彼女は微笑む。

ダンッ

影が一つ、ミューズの前方に庇うように落ちた。

「……行きなさい、罪深き者達……『セートルア』の眷属よ」

コクと頷き、二つの影は『刃物の破片』を埋め込んだ拳を振り被る。
そいつは『人形のように意思も生気も感じない目』で睨めつけると即席の白兵器具(セスタス)で弾幕を『握り潰し』消滅させた。

グシャッ

『何ですって!?』
「……ええ、私一人じゃ無理、だから応援よ」

あくまでミューズ『だけ』では限界と、『部分的』に彼女は認めニヤリと笑う。
そして『戦女神を唆した少女』は『その怒りの矛先とした相手の残党』を指し示す。

「……一応切り札よ」
「何、そいつ?」
「五大派閥『セートルア派』の者よ、ガワは……でもこういうべきか、その身に『戦神の槍の破片』を移植してあるわ」

先日損傷した切り札の一部、せめてとその有効活用し、更にいえば使い潰しても惜しくない戦力でもある。
何せ『嘗てブリュンヒルドを意のままにしようとした結社』なのだから。

「……て訳で行きなさい、潰れても誰も嘆かない鉄砲玉」
「ちいっ、ここに来て面倒なことを……」

殴り掛かるグングニル移植者、その攻撃をレミリアと白蓮は鉤爪と独鈷杵で弾き、がその瞬間ミューズは殿にした魔術師を微塵も気にせず飛ぶ。

「どうやらブリュンヒルドは私をこき使うらしい、なので……今日はこのまま逃げさせてもらうわ!」
「ちいっ、ここまで来て逃がすか……」
「……ですが新手は無視できません、レミリアさん!」

ミューズは言い捨てて飛び去り、それを一瞬追いかけるもレミリア等は目の前の敵に向き直る。
一瞬のアイコンタクトの後二人は左右に散り、迎え撃つ魔術師は順に見た後破片を埋め込んだ拳を振り被る。

「……ッアァ!」

奇声から横薙ぎに腕を一閃、ブワと突如吹き出した灼熱の塊が彼を中心に広がる。

「……甘い、眷属よ!」

が、レミリアは向うが広範囲攻撃に出た瞬間対処する、手を掲げ魔力で作り上げた蝙蝠の群れを放つ。
それ等は陽光に億劫気にしつつ飛び立ち、バアと白蓮の周囲で壁となって炎を受け止める。

「っ!」
「……一網打尽なんて欲張りなのよ!」

彼女は友人への攻撃と防ぎ、更に自身を狙う炎は慌てず鉤爪を一閃。
吸血鬼の膂力で炎を引き裂くと一瞬で散り散りにさせる。

ガギィンッ

「そら、次は……お前自身よ!」
「っっ!?」

炎を力付くで四散させ、それからレミリアは魔術師を指し示す、ニイと凶悪に口の端を釣り上げる。

「……さああ、どうする?」
「ッアアアァ!」

ゾッとする笑みに、正気でない魔術師は一瞬後退りかけ、それからそれを隠すように再び腕を大きく振るう。
ドンと今度は火ではなく水流、地下から強引に呼び出した水塊を砲弾のようにしレミリアに叩きつける。

「……ま、吸血鬼にはそうするでしょうね」

が、彼女は微塵も動揺せず、ただ軽く『引き抜いた髪飾り』をその手に指揮杖のように。

「……ホントあの子には感謝ね、とりゃあ!」

ブンと大上段から下に振り抜かれ、直後水塊はボンッと内から散華する。

「っ!?」
「ふふっ、残念……白蓮、チャージは?」
「……完了です、任せて!」

魔術師の二度目の攻撃も不発し、それにニヤリと笑うとレミリアはフリーである白蓮に攻撃を指示。
そしてそれにコクと頷き、彼女は『円形に像った右手』を顔の前に掲げる。

「折角ですので私も新技を……ブラフマーの瞳!」

ヒュバッ

直後光が走った、指で作った円形を瞳の前に重ねた瞬間数条の光が収束し放たれる。
それ等はまず一射目が魔術師の手に埋め込まれた『破片』の縁を、次にそこから僅かにズレて命中、そのまま破片の周囲を丸るく囲むように。
そして、コツッと赤く染まった破片が『穴の開いた掌』から落ちた。

「ほう、ピンポイント射撃か!」
「……雨垂れ石を穿つ、ですね……何か妙に肉体派に見られるので『技巧寄り』のを新しく作ってみました」

イメージ改変を試みての技と言いつつ落ちた破片を蹴り転がし、彼女は破片の喪失に呆ける魔術師に間合いを一気に詰める。
それから相手の首筋に法具の独鈷杵を突きつけ問う、無駄かもしれないとわかりつつも。

「見た感じ洗脳、まあ一応問いますけど……まだやりますか?」
「……っ!」

がやはりそれは跳ね除けられ、傷ついたままの拳で魔術師は殴り掛かろうとする。

「……でしょうねえ、やっぱり」
「ま、そうだろうなあ」

そしてそれも二人はわかっていて、だから軽くトンと後ろに飛ぶ。
何故なら『後ろの方からの喧噪』が聞こえたから。

『……ぉいてええぇ!?』

それは『巨大な車輪』、加えて『羽ばたく水の翼』と『放射される窒素』、友人を追おうと後さき考えない天使と大能力者により激しく加速を続けている。

「……お、ミーシャか、やっと来たな」
「あら、魔術師さんに直撃コース……」
「ごめーん、遅れたって、ああああ!?」
「窒素で加速加速、どりゃあ……あ、ブレーキ間に合わねェや」
「ちょ、無責任なって……きゃああああ!?」
「っっ!!?」

ズドンンッ

『ひゃあああ!?』

慌てて飛び退ったレミリアと白蓮の視線の先で、高速で激突事故を起こした車輪がドグシャと魔術師を跳ね伸ばしたのだった。

「む、撃墜数取られたか」
「まあまあ、手間が省けていいのでは?」
『……頭がくらくらするう』
「……三半規管に来ます、天使様ひどいです」

苦笑した様子の二人に笑われながらミーシャ達は起き上がり(その際気づかず車輪+三人分の体重に踏み躙られ)残った魔術師は車輪の下で沈黙した。
うーんと乗り物酔いで真っ青な三人を開放しつつレミリア等は困ったように顔を見合わせた。

「……帰るか、向うの切り札っぽいの見たし」
「……ですねえ、今日はここまでで」

互いに一度肩を竦めて、それから二人はその日のミューズ追走を切り上げたのだった。



「……はあはあ、流石馬鹿従姉の主か」

トンと離れの一角、目立たない町の陰に降りたミューズが荒く息を吐く。
逃げることはできたがあまり余裕はない、ほっと安堵の息をついた。

「……」
「ああ来ましたね、迎えご苦労」

そこへ数人の影、どれも等しく無表情で意思が感じられない。
ミューズはその群れ、先頭の一人に皮肉っぽい笑みを向ける。

「次からはあなた方も動いてもらいましょう、ねえ……『セートルア』?」

手だけでなく体、そして四肢にすら「グングニルの破片」を埋め込まれた魔術師がコクと頷いた。



そして同時刻『血生臭くない戦場』もまた佳境に入っていた。

「ぜえぜえ……」
「……椛さん、ナイスファイト」

前三人のツケ、多大な差を埋めるはめになった彼女は自他認める貧乏籤だった。
運動嫌いでもないし幾らか見栄もある、少し本気を出した彼女は中々見事な走りを見せた。
が代償に荒く息を吐いてへたり込んだ、ハッハッと疾走直後(種族的にはそのままだが)犬科のように舌を出したまま息を吸い込んでいる。

「……ふ、はあ、辛いけどノルマは何とか」
「お、お疲れ様です」
「いや、頑張ったわねえ、椛」

息も絶え絶えで彼女は座り込み、それを競争相手だった氷華、そして一旦カメラを代わって貰った天狗等が労う。
ある意味貧乏籤の被害者、がその代償の分大健闘といってよかった。

「……感謝するわ、椛さん!」
「ふふっ、やるねあの人……でも、負けないよ、お姉さま!」

彼女の頑張りの成果は競技場の二人、十メートル近い差はほぼ同列、不利だった赤のラストランナーである美琴が椛に手を振る。
対し白の側、ほぼ同じ速度を維持する番外個体も椛を褒め、また互角の勝負にやる気を見せる。

「……はあはあ、姉妹対決楽しみにしてたんだし……こっちで帳尻合わせないと」
「椛さん、貴女って人はどこまでも健気な……」

ヒラと美琴の方に椛は手を振り替えし、そんな椛に思わず氷華達が愛しくなって撫で回す。
友人の為に一人体を張って、それを知る美琴と番外個体は元々あった以上のやる気を見せる。

「番外個体、わかってると思うけど……」
「うん、全力で……」
『……勝負よ!』

だからこそ二人は全力でただ走った、誰かさんへの感謝の意味でも。

「……ふうう、頑張って、そして楽しんで、美琴さんもその妹さんも……」
「大丈夫、どっちが勝っても……」
「椛が頑張ったおかげね、きっと」

そんな様を遠くで見守って、互角の勝負の場を整えたある意味MVPの少女とその友人は優しき微笑んだのだった。

(本当に感謝ね、ここまでお膳立てされちゃあ……私だって!)

美琴は一度視線をちらと座り込む友人にやってフッと笑い、それから腕を大きく振ってそれ以上の歩幅のストライドで只管前へ。
対し隣をひた走る番外個体も負けじと体を動かす、追い抜かせてたまるかそれどころか先を行かんと。

「おっと、お姉様……ミサカだって負けないんだから!」
「ふふっ、ならもっと頑張るだけ!」

ダンッ

二人は更に足を速め、そんな激しい攻防にワッと湧く観客、更にはシスターズからのネットワーク越しの視線も集まるのがわかる。

「(ああ見ているか、自分もと思うかな?)……全く、いい思い出になると思わない、番外個体!?」
「うん、お姉さま……でも、これ競争なんだし……」
「ええ……」
『……勝てばもっと良し!』

二人は笑いながら全力で駆けた、奇妙な成り行きで結ばれた姉妹であっても関係なく思い出にする為に。
更に競り合いは激しく、それにワアッと段々と競技場の熱気も高まっていく。

『……名残惜しいが決着は近い』
『残り十メートルー!』

司会席が煽るように言葉を挟む、呑気にルーミアがカウントし、美琴と番外個体は最後に一瞬視線を交わす。

((……負けないわよ!))

意地の張り合い、言葉にしなくても互いにそれがわかった。
だから肩をぶつけ合う勢いで並びながら二人は先を急ぐ。

『残り五メートルー!』

隣の顔に負けたくないと、だけどそれ以上にこうして競い合うことを嬉しくも思い。
二人とも闘志に視線を鋭くしつつもどこか幸せそうな笑みが浮かんだ。

『残り一メートルー!』
『……決着だ』
「……どっちが!?」
「先に来た!?」

ダンと微笑んだまま二人はゴールに縺れ合うように飛び込んで、そして慌てて振り向きゴール横のスタッフを見る。

「……判定は!?」
「勝ったのは!?」

美琴と番外個体は半ば叫ぶように問いかけ、それにスタッフ陣が一瞬悩んだように黙り込む。
そして勿体着けるように視線を周囲にやった後『離れ』に待機させていた『小さな影』に合図を出す。

「判定は……」

スタッフの視線に釣られて美琴達もその方を見て、直後視界が『様々な色』に染まる。
ニカと『小さな少女』が笑う、色取り取りの花を『二つ同時に掲げて』。

ポス

「……おめでとう、お姉様に番外個体」

それは第一位の便宜で来た打ち止め、彼女は『右手の花束』を美琴に、『左の花束』を番外個体に手渡す。
彼女は勝者『達』に優しく微笑みかけた。

「コンマの差もなし……同着一位、おめでとう」
「……へっ?」
「引分け?」

予想外の言葉にポカンとする二人、苦笑しつつ打ち止めは姉妹等を引き寄せギュッと抱きつく。
そしてやっと理解し始めた姉と妹へと祝福の言葉。

「惜しかったね、でもいい勝負だったよ」

すると二人は打ち止めの腕の中で困ったように顔を見合わせ、それから何となく可笑しくなって吹き出す。

「……そっかあ、同着一位か、勝ち切れなかったのは残念だけど」
「ま、再戦は何時でもできるし……」

決着着かずな結果に少し残念そうにし、その後自分と互いの健闘に感心もし。
二人はどちらともなく手を繋いで立ち上がる。
そして同時に花束を持つ手を頭上に掲げ、それを見た客達は一斉にワッと湧く、姉妹の複雑な関係やその背景は知らずとも全力で競ったことに心動かされて。

ワアアアアアッ

「……おわっと、応援ありがとうございます!」
「う、ひゃあ、すごい声……」

熱気に少し目を白黒させつつ二人は手を振り替えし、歓声の中で最後まで見てくれた人達に一礼する。
姉妹はペコと頭を下げ、それから気恥ずかしくなって足早に仲間との合流を急ぐ。

「いい勝負でした、二人とも」
「うーん、惜しかった……でも頑張りましたね」
『転倒、面目ない……』
「まあまあ」

そちらでも花束、やはり一方通行の気を利かせたかフレメアや他のシスターズからの花束を手にした仲間達と手を振り合う。

「……打ち止め、お姉さん達カッコいいね」
「当然、自慢の家族だから!」
「にゃ、自分のことみたいに喜んで……」
『……何かネットワークが怖いくらいに湧いてますが』

そんな風にどこもかしこも笑い合い、正に一年に一回の祭りに相応しい光景が広がる。
ある意味『本日最後から二番目』に相応しい空気の中、司会席がある意味『煽り』の言葉をなげかける。

『……さて、観客参加競技でここまで燃え上がったなら……』
『学生の方々も負けてはいられない、違うかしら?』
『ラスト競技、行くよー!』

この言葉に客等は更に期待し、その熱い視線の先では学生達が勢揃いしている。
観客参加のリレーに負けないように、強豪校も無名校も皆等しく闘志を燃やして集まっていた。

「あっ、黒子、それに先輩に10032号も!」
「……おっと、かみじょー達に合流してくる!」
『……て訳で棒倒し、開始ー!』

美琴達は見知った顔にあっと笑い(それどころか参加予定の氷精が慌て)すぐさま応援席に移ればそれに合わせるように競技が始まる。
各校が整列しコール後行進が始まる。
大型競技『棒倒し』、黒子とその補佐のはたて率いる常盤台が、上条とミサカとチルノを中心にした特に特徴のない無名校が。
そして『お邪魔キャラのタスキ』、何故か『巨大毛玉』の群れ、その『先頭で腕組みする削板軍覇』が。

『……ちょっと待て』

一斉に突込みが入った、参加者も客も関係なくマジな突込みだった。

「ふはは、燃える、こいつぁ根性だぜ!」
「……司会席、あれは?」
『見ての通りお邪魔キャラ、目につく端に無差別に突撃の予定……まァ全滅はそのチーム得点ガン減りな上に相手しても加点も無しなマジのお邪魔キャラ』

それは先のリレーが名勝負の弊害、ただ普通にやるのでは見劣りするだろうというスタッフ(及び意見を聞かれた一方通行)の悪乗りの産物である。
誰が見ても血迷った新レギュレーション、満場一致のお邪魔キャラ(新型ペットロボット名義の涙子謹製毛玉付き)が悪意無しの笑みで現れる。

「さあ全力で行くぜ……根性だ、根性あるのみっ!」
『い、いい加減にしろ、この根性バカ!?』

悲鳴と絶叫と罵倒の中で、その日最後の騎馬戦が始まった。





はい、もみじ頑張りました・・・少し短いけど、まあ折角の姉妹対決なんだし勿体ぶってみました。
・・・ごめんなさい、後篇書いたら微妙に納得いかず一部前の展開まで変わりました、大きいのは地下で逃走せずそのまま終わったことでしょうか。
でまあとりあえず二日目の戦いは一旦終了です、競技場の方もクライマックスだし次辺りで一段落でしょうか。
・・・まあ一人暴走してますが、七位さんの性格的にここで耐えられなくなるのは十分あるかなあとこんな展開。
・・・あっミューズの下りで名出てないが最後のは大戦犯こと『大幹部セートルア(毒盛ったのね)』、ただ洗脳されてるんで台詞は無し。

以下コメント返信
小雀様
いや神秘禄でこの幽霊さん矢鱈元気にアッパー(皿割りつつ)してたのであんな感じに、あのノリの良さならありそうな会話かなと。

九尾様
まあインデックスは別に運動苦手でないんですが、組考えたら天丼でコケテ貰たく・・・敢て理由付ければ上条さんのジャージ(借り物でブカブカ)だからとかか。
でも彼女の不幸のおかげで(天丼の意味でも)コント的な事故映像になったと思います、運動会らしいネタな一場面としても・・・常識人の反応含めて。

返信追加分
九尾様・椛は何となく健気キャラのイメージ、ですので誰が貧乏籤引きつつ友情に奮起するか?で彼女がここで抜擢になりました・・・何か完璧に犬科ですが。



[41025] 祭りの夜に星が散る・十四
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/07/30 23:29
ボワッ

『うりゃあ!』
「きゃああっ!?」

地下道で弾幕が弾け、広がる爆炎にオカルトが絶句する。

ズドンッ

「ちょっ、待っ!?」
『あははっ、逃げろ逃げろ!』

必死に逃げ惑うメリー、が攻撃の手は止まらない。
こいしとフランは競うように前に出て、逃げ場を抑えるように弾幕を展開するのだ。

「スパーエゴ!」
「クランベリートラップ!」

ドゴオオッ

「ぐあああっ!?」

クルクルと空中に跳ね上がり、それからベチャと地面に落ちた、こいし等は勝ち誇り後方のアルファだけが同情した。

「ふふっ、そろそろ止めね」
「どれで決めようかな?」
「……哀れな」

そんな様々な視線の先でメリーが震え、恐る恐るこいし達を見上げる。
すると既に二人は攻撃準備、油断なく構えていた。

「う、うう、このままじゃ……」
『さあて決着ね』

二人はそこで互いに顔を見合わせ、その後離れで見ていたアルファを肩越しに見る。

「……甲冑のお兄さん」
「うん?」
「コイン投げて……どっちがあいつを倒すか、早撃ち勝負って奴だね」
「ま、シメで味方で喧嘩するのもねえ……何か合図を」
「……イイだろう」

少し考えた後彼は頷いて懐を探り、硬貨を一枚マニュピレーターで器用に取り出し放った。
そしてピンと真上に弾かれて、そして落下。
チャリンという場に不似合いな軽やかな音と同時に、二人が飛び出す。
こいしは腕を横薙ぎにし、フランは黒い錫杖を突き出した。

「……やあっ!」
「うりゃあ!
「ひっ!?」

ガギィンッ

何かがぶつかる音がし、直後メリーが後方に吹き飛ぶ、そしてこいしとフランが互いの顔を見た。

「……ふ、ふふ、あは!」
「ちぇ、微妙に遅かったか」

片方が笑い片方が悔しそうにする、そして敗者が一歩引く。
微笑むのはこいし、『閉じられた心眼に繋がる紐状の器官』を鞭のようにし振り抜いた体勢でニッと笑った。

「……リーチ差だね、じゃ貰うよ」
「むう、どうぞ……」

残念そうにするフランに送り出され、苦笑しつつこいしが前に出る。

「じゃ行くよ、幽霊さん」
「くっ、貴女の後ろに……」
「……ふっ、遅い」

慌てた様子でメリーが敵の背後に飛ぼうとし、が次の瞬間彼女の顔が凍りつく。
ユラと一度その姿が揺れて、それからこいしの姿が透き通るようになっていく。

「ふふ、既にその無意識の淵に……そして!」

彼女は完全に消えて、直後『背後』で衝撃。

ズドンッ

「ぐあっ!?」
「……私はこいし、今貴女の後ろにいるの、てね!」
「……ちょっ、それずっこい!?」

オカルトのお株を奪うような奇襲が完遂され、メリーは薄れ行く意識の中で叫んだ。
何故なら倒れつつ苦心し肩越しに見れば笑顔、腹立つ程明るく笑うこいしの姿が。

「こ、この、性悪う!」
「いえーい、大勝利ーっ」

そう可愛くも小憎たらしく勝ち誇ると無意識少女は元気よくガッツポーズしてみせた。

ズズンッ

「……っと、向うじゃ大暴れか、喜んでる場合じゃないね」
「脱出しよう、霊夢達と合流するよ!」
「ああ、崩れる前に」

折しも決着を見計らったように地下道が揺れ、こいし達は引き攣った顔を見合わせる。
こいしとフランドールが凪ぐように大弾で落下物を払い、その間に倒れたオカルトを背負ったアルファが内蔵センサーを起動する。
コクと彼が指した方に三人は頷いて走り出す。

「……向うだ、あちらも来ている」
『霊夢ー、魔理沙ー、こっちこっちー!』

ダダッと走る三人にあちらからも影二つ向かってきて、ブンブン手を振り合い一同合流。
そして降り立った霊夢が宙空に大穴こじ開ける。

「……うりゃ、亜空穴!」
「よし、脱出するぜ!」
『おうっ!』

一同さっさとそこにピョンと飛び込んで、地下の戦いは『勝ち逃げ』で終わった。



「……ちぇ、悔しいな」

揺れる地下、遠ざかる気配に水兵服の少女、マッドの助手でもある女が愚痴る。
『主から預かった十字架』で落ちてくる天井の破片を払い、彼女は微妙な表情で消え行く気配の方を見送った。
『力の温存』も含め、読まれた上でそれを出させない形で引いたことが悔しいのだ。

「流石にやってくれるぜ、巫女に魔女め……次は何とかリベンジしたいな」

圧されたことを認めつつも次への思いをめげずに口にし、そこで僅かに笑みを浮かべる。

「でも……まだだ、まだだぜ、なあ……『最後のオカルト』?」

チラと見るのは隣で倒れ伏す花子、だが視線の向きは彼女だがどこかズレテいるように見える。
花子に語りかけてるようで、だけど違う何かにちゆりは言う。

「七つのオカルト、謂わば七怪談……だが、『その先』『最後の一つ』、残ってるってのがお約束だよなあ?」

ニヤリと怪異を恐れぬ人が笑う、意趣返しの次に思いを馳せて。



祭りの夜に星が散る・十四



「さあ全力で行くぜ……根性だ、根性あるのみっ!」
『い、いい加減にしろ、この根性バカ!?』

本日最後となる棒倒し、だが始まった瞬間から阿鼻叫喚だった。
リレー(観客参加)が名勝負の弊害、ただ普通にやるのでは見劣りするだろうという運営側(一方通行が口出ししたり)の悪乗りがこれだ。
超能力者の妨害という血迷ったとしか表現できない新レギュレーション、更にそれにおまけ(新型ペットロボット名義の涙子謹製毛玉)付きで。

「おりゃあ、まずは挨拶代わり……根性っ!」

ズドンッ

競技開始早々に『超能力者第七位』削板軍覇が拳を一気に振り抜いた。
するとドンという音と共に衝撃波、(公式の記録上)念動力というには剣呑過ぎる攻撃が放たれる。
一秒後着弾、そして爆炎が広がって避け損ねた参加者の群れを薙ぎ倒していく。

ドガアアッ

『うわああ!?』
「ようし、次っ!」
「に、逃げろ!」

慌てて無事な参加者は散開、がその動きを軍覇は読んでいた。
素早く拳を構え直し、更に周囲に集まる『毛玉』をチラと見やる。

「へ、逃がさないぜ……まずはパンチ連打あ!」

ズドンッ

「……からの毛玉、投擲&爆破あっ!」
『うわああっ!?』

ドゴオォッ

彼はまずはジャブの形で衝撃波をばら撒き、更に学生等が怯んだ所で両腕で毛玉をムンズと掴む。
そのまま同年代を大幅に上回る身体能力で振り被ると、ゴウッとオーバースローでぶん投げる。
ぎょっとし足を止めた数人を纏めて薙ぎ倒し、それでやっと毛玉が止まったと思えば着弾の衝撃でそこから更に爆ぜて犠牲者を増やすのだ。
バタバタと一度吹き飛んだ後学生等が落下し積み重なり、それをやった軍覇が勝ち誇り笑った。

「ははは、どうした、根性足りてないぞ!」
『少しは自重しろおっ、それでいいのか、超能力者!?』

思わず一同が叫ぶ、あれが学園都市最高峰(能力のレベル的に優等生なのだ)と認めたくなかった。
が、そんな突込みを意に介さず、彼は再度毛玉を肩に担ぐ。

「さて、大分空いたし……仕事の時間だ!」
「しまっ、こっちを無視して……」

ここで彼が狙ったのは学生ではなく競技場各所に設置された『柱』、棒倒しの得点となるそれだ。
ニヤリと笑って彼は毛玉を思い切り振り被る。

「うりゃああ!」

グオッ

『おおと、妨害者ここで行ったー!』
『当然あれが倒れればそのチームは得点無し、まァ気ィ付けるンだな』
『しかも、大型競技な上に一部の日程省略、相対的に点の面で大打撃ね』
(……そういう勝敗に直結するのに第七位出す辺りタチ悪いなあ)

呑気なアナウンスを余所に二度目の毛玉投擲、風を切って飛ぶそれが開始直後で守りの薄い柱とそれに着く何人かの所に突っ込んだ。

ズドンッ

『うわああああ!?』
「ようし、命中!」
「ーー校失格、退去してください」

着弾の威力とその後の自爆、それで柱と護衛を纏めて吹き飛ばした軍覇がぐっとガッツポーズ。
がそれで満足する彼ではなく、すぐさま次の柱に狙いを移す。
適当に辺りを見回し、それから適当に目についた方を向いた。

「さあて、次は……あそこだ」
『げっ、こっち見た!?』

次に彼が目を付けたのは『とある目立つ能力者のいない無名校』。
そこが前半戦でそれなりに点を稼いだのを思いだし、少し考えた後軍覇は妨害者の役割を果たすことにした。
まず利き腕を引き更に逆の腕で毛玉を掴む、拳打から衝撃波で柱までの道を開いて毛玉で追撃するのだ。

「頑張ってるとこ悪いが……柱貰ったぜ!」
『……ひいっ!?』

グオと彼は拳を振り被り、しかしその瞬間『黒髪の少年』が『右腕』を突き出した状態で前に立ち塞がった。

「……そこまでだ、超能力者!?」
「何っ!?」

パキィンッ

硬質なものが割れるような音と共に学生、上条の拳が軍覇の衝撃波を消滅させる。
驚いた軍覇は一瞬目を見開き、それと同時に闘志に燃えた様子で追撃用の毛玉を振り被った。
が、上条『たち』はそれも読んでいた。

「やるなっ、なら……行っとけ、毛玉!」
「……それもさせないよ、あたいの番っ!」

ビュオオッ

上条に続くように水色髪の少女、チルノが飛び出し瞬時に展開した弾幕で毛玉を迎撃する。
激しい冷気が吹き荒れて、空気中の水分を元に分厚い氷の壁を固め作り上げていく。

「行くよっ、パーフェクトオ……フリーズッ!」

ガギィン

「何と!?」
「ナイス、チルノちゃん!」

彼女の氷壁がぶん投げられた毛玉を、そして着弾による自爆の威力をその強度で見事弾く。
広がる噴煙にもビクともせず、ずんと威圧たっぷりに立つ氷壁に軍覇が呆然とした表情で見上げる。

「あの子も氷使い、しかも山の姉ちゃん以上の……やるなあっ、燃えてきた!」

涙子を思い出しつつも彼は更に燃え上がり、再度衝撃波を叩きこむべく拳を握り締める。

パキィンッ

その瞬間氷を『内から』破ってチルノが飛び出す。

「おっと、今度はこっちからっ……かみじょー、柱の防御は任せた!」
「わかった、そっちも気を付けて!」

砕き散らした氷で相手の目を逸らし、そのまま一気に相手の懐へ飛び込む。
それから彼女は巨大な氷塊を肩に担いでフルスイング、咄嗟に軍覇も対処しようとするも避けれず両腕を掲げ防御するのが精いっぱいだった。

「っと、しまっ……」

ダンッ

「行くよ、氷の槌……グレートクラッシャー!」
「うあっっ!?」

ドガアアッ

強烈な一閃が放たれ、交差させた両腕に激しい衝撃、受け切れず彼は後方に吹き飛ぶ。
ゴロゴロと勢いよく超能力者が転がって、周囲で見ていた学生巻き込んでからやっと止まる。

『うわああ!?』
「……ありゃ、ごめんね?」

悲鳴を上げる犠牲者に苦笑し、だけどチルノは油断せず氷塊を構える。
彼女は警戒の表情でそれを軍覇の方に突きつけ、すると彼は倒れる学生を乱暴に退かし立ち上がる。
先ほどの衝撃に痺れる腕を擦りながら彼は周囲に『警告』する。

「アタタッ……周りの、巻き込んで悪いな、いやそれにしてもチッコイのにやるぜ」
「見た通りタフなやつ……」
「……おい、退いた方がいいぞ、痛い目見たくないなら」

感心したように笑うと、彼は構え全身から閃光と衝撃を放ち始める。

『うわっ!?』
「そら、退いた退いた……反撃、行くぜ……っ!?」

慌てて逃げる周りの連中に言いながら彼は立ち上がって。
それから拳を振り被り『かけ』、そこへはっとした顔で『上』を見上げる、バサリという鳥が羽ばたくような音の後何かが光った。

「……邪魔するわよ、超能力者!」
「何?」

パシャリッ

シャッター音の瞬間超能力者は振るう拳に違和感、帯びていた力が消え失せ『何も発せず』空振りする。
思わず目を見開き、それから一瞬遅れて再度光を帯びた拳に眉根を寄せる。

「……能力を妨害した?」
「そういうこと」

バサリ

タンとはたてが黒い翼を広げてチルノの隣に危なげなく降り立った。

「天狗!?」
「ふふ、弾幕の消去なら任せて……黒子さんの方に来られても厄介なので手伝うよ、氷精さん?」
「おう、頼むな、真面目な方の天狗!」
「……へえ、二対一、だけどなあ」

ニヤリと笑ってチルノとはたてが構え、がそんな二人に軍覇は何を思ったか構えていた腕を解く。
彼は逆にニヤリと笑い返すと空に手を広げ掲げる。
すると『無数の影』が地に刺す。

「だけど……俺一人じゃないぜ!」

ズウンッ

降下したのは『追加分』の毛玉、特に大きな一体を軍覇は引っ掴み担ぐと視線巡らし毛玉に合図を出す。
次の瞬間彼等はバラバラと慌ただしく陣形を作った。
そしてグワと目を見開いた異形の群れはバチバチ全身から放電、殺気立った様子で軍覇とチルノ達二人を円状に包囲網を形成する。

「……さあ電流爆破デスマッチだ!後こいつ等ランダムに自爆するけどその辺俺にもよくわからん!!」
『こいつ、馬鹿だあっ!?』

自分も無差別に危ないのに大笑い、そんな彼にチルノ達はドン引きした様子で叫んだのだった。



中継の映像はまるで地獄、シンとした寒々とした空気が広がった。

「ええと、放送事故?」
『……ノーコメントで』

教会でそれを目にした者達は備え付けのテレビに、そこから流れる映像に呆れるしかなかった。
そして又巻き込まれなくて良かったとも心底思った。

『こりゃあ酷い……』

画面の先では抵抗する少女等が必死な形相で競技場を、薙ぎ倒される参加者の間を走り回る。
その様子に今更悪いと思ったか軍覇がやや罰悪そうにし、がそれでも妨害の役目を果たす気か両腕を振り回し、また毛玉の群れが突進と自爆を仕掛ける。
そんな画面の向こうの地獄の如き有様に、教会の各所から惨劇の立役者の一人、つまり涙子にじと目が送られる。

「……うーむ、軽い気持ちで毛玉送ったけど悪いことした気になってきた」
「……涙子、後で刺されても知らんぞ?」
「だって一方通行さんが軽い波乱が欲しいって……」

教会のテレビを覗き込む涙子が今更ながら後悔の気持ちを抱く。
悪ノリした超能力者の誘いに同じくノったせいでこの有様、予想以上の結果に流石に悪いと思ってしまう。
そんな彼女は教会の者達の視線、特に裏のない善人であるオルソラの責める視線からそうと目を逸らす。

「さ、流石にやり過ぎなのでは?」
「……だねえ、いやリレー見てて不参加なのが悔しくなって……第七位が参加してるのを忘れてた」
「……でも妨害は兎も角、自爆機能は要りませんでしたよね?」
「そもそもあれの暴走は予想できたことだろうに」

ぽりと引き攣り顔で頬を掻きつつ涙子が答え、はあとオルソラや他の真面目な者達は呆れたように溜息を着いた。
(自業自得だが)先までの競技場と違い何とも冷めた空気になっていた。

「まあ、祭りならばこういうことも有ろう、上条やチルノ等も目立ったしな」
「……布都、活躍した彼等を贔屓してるだけだろう」

そこにフォローするように布都が微妙な空気に割り込んだ、結局皿への欲に負けたオカルトを拘束していた彼女はニヤリと楽しそうに笑い口を挟んだ。
どこか底の見えない(年長者らしくもある)笑みを浮かべ、微妙に話題をずらしつつ言葉を重ねる。

「『大覇星祭』、年に一度の大祭……馬鹿と言われようと踊らなければ損、実際第七位の暴走とそれに対する奮闘は記憶に残る、学生なら悪くはあるまい?」
「……ふむ、確かに度が過ぎるのを除けばまあ青春の思い出と言えるかもしれませんが」
「そうそう、祭りなら楽しんでこそ勝ちというもの、命短し楽しめ学生よ……一月もすれば思い返しこれも笑えるさ」

言い含めるようにする彼女に、涙子を責めていたオルソラ等は僅かに勢いを弱め、すかさずそのまま結論につなげていく。
が、そこで僅かに悪戯っぽく笑い、彼女は一息つく涙子に含みのある視線を送る。

「まあ、尤も……喉元過ぎるまでの何日何週かは別か、涙子への『弄り』の種になるかものう?」
「ぐっ、仕方ないけど嫌だなあ」

フォローから一転のからかいの言葉に、涙子がぐっと小さく呻いたのだった。

「ま、然様に悪いことばかりでなし、それ故責めるのはここまでにしよう……あれだけ暴れたのだから学生等は疲れてる筈、歓待の準備をしては?」
「……はあ、仕方ありませんね」
「運が良かった、だが反省しな、涙子」
「は、はは、次から気を付けます……」

納得してくれたかオルソラ達はやっと手を止め、解放後壁に倒れた涙子を放って競技後戻る学生達を迎える準備に移る。
未だ競技は続き阿鼻叫喚で、きっと疲れてるだろうと試合をチラ見しつつオルソラ初め常識人が手早く準備をしていく。
そしてそんな微笑ましい様子に軽く笑い、それから布都や屠自古はグタリとする涙子の肩を軽く叩く。

「何というか災難じゃったな」
「自業自得だが……悪ノリが過ぎたな」
「……ふうう、面目丸潰れだよ、猫被りが下手になったかなあ」

少なくとも暫く色々言われるだろうと涙子は肩を落とし、布都達はノーコメントと肩を竦める。

「ま、悪戯という意味では失敗だが……おかげで、学生等がああもはしゃぎ回っていたではないか」
「そうそう、何年か先の思い出の礎と思えば……」
「……それでも横から笑う側でいたかったなあ」
『……はあ、贅沢者め』

微妙にふくれっ面で言う涙子に二人は困った奴だと言いたげに笑う。

「ふっ、それにしても……」

暫し布都達は笑い、それから涙子にどこか呆れたような視線を送った。
布都は未だ項垂れてる涙子に面白がるように言う。

「……若いなあ、そなたは」
「……実際に若いし、心が若ければ永遠の美少女だし……」
『いや、それはどうだろう、『天狗と同年代』』

痛い突込みに目を逸らした涙子が無茶苦茶言い、この発言に布都と屠自古は顔を見合わせ苦笑し合う。

「……けど実際の話し、人外に転化して結構経つのだろ?そろそろ落着いてもいいだろうに……」
「うむ、自分の歳を考えろということだ流石に」
「さ、さあて、私もお迎えの準備してこようっと」
「あ、逃げた……」

分が悪いと見たか彼女は誤魔化すように背を向け逃げていった。

カランカラン

「……戻ったわよー」
「……はあ、疲れたぜ」
「あ、巫女に魔法使い……お疲れ様でーす、何か必要なことは!?」

そこへ競技場の面々より一足早く霊夢等が帰り、逃げる口実に丁度いいと涙子が満面の笑みで迎える。
霊夢は快活に笑う彼女に一瞬面喰らうも引き摺っていた『戦利品』を押し付ける。

「そうね、お茶と……とりあえずオカルト二人、口裂け女とメリー生け捕ったわ、運ぶの手伝って?」
「はあい、わかりましたー、鎖巻いて奥置いてきますねー」
「……妙に素直ね、どうしたの?」
「何か怪しいぜ、今度はどんな悪戯だ?」
「そんなことないですよー、普通普通」

勢いに圧されるままな霊夢たちからオカルトを引き取って涙子は向うへ。
くくっと思わず布都と屠自古は同時に苦笑の表情を浮かべる。

「あんなに慌てて誤魔化して、わかり易いことだ……あれが若く見えるのはその辺か?」
「……あれでは到底大妖怪とは言えんな、お調子者というか隙が多過ぎる」
「……親しみ易いとも言えるがな」

足早に離れる背を見送り、二人は呆れたように笑うのだった。



ギリッ

「……向こうは戦勝気分でしょうね」

ブリュンヒルドは報告を受けて不満げに歯噛みする。

「状況は良くないわ、どうしようかしら」
「申し訳ございません……」

苛立つように顔を伏せる主に、背後で傅く『何もない片袖を垂らす少女』、部下にして主治医であるミューズが悔しそうに俯く。
その背後では他の部下、ミューズ以外の五大勢力が同じく顔を伏せている、『人形のように無表情な魔術師』も混じっている(一瞬女神が『仇』かのように睨んだ)
皆表情は暗い、今日を有利な形に終えた学園都市側に対し戦女神の軍勢は不利と言っていい。
それに初日の撤退からブリュンヒルドは今回動けず、ミューズの方もオカルトの乱入に救われた形だ。

「はああ、悔しいです……吸血鬼と相性良くないのかな」
「……まあ、よく逃げたとは言っておくわ、ミューズ」
「……何かそういうのだけ上手くなってる気がします」

俯いて暗い顔の少女にブリュンヒルドが慰めるように声を掛け、ミューズはそれに困ったような表情で首を振るう。
自慢にはならないと自嘲気味に笑い、だけどそれから少し真剣な表情で主の前に立つ。

「ブリュンヒルド様、こうなれば……決断の時かと」
「……そうね、そうなるのかしら」

切っ掛けであるだと二人は言った、それもいい意味だけではない意味で。
保身や戦力の温存、そういった安全マージンを捨てて思い切る状況であると。

「学園都市への侵攻、眷属の皆は浮ついていたけど……ここまで来ればそうは言ってられないでしょう」
「……背水の陣というべきか、尤も私も義姉への敗北でやっと気づきましたが」

そう言うと二人はコクと頷き合い、それからブリュンヒルドが重々しく口を開く。

「斥候各員の活動を停止、拠点でしっかり休ませ……明日から本格的な侵攻を開始、アレイスターの収集物の奪取を!」
「はっ、直ぐに通達します、我が女神よ!」

頷いたミューズが踵を返し、するとそれに一瞬迷ってからブリュンヒルドが声を掛ける。
先の指示とは逆にどこかオズオズといった感じで彼女は部下に問いかける。

「……ミューズ?」
「はい、何でしょうか」
「もう、いいのね?……貴女が会ったという奇妙な暗部のこと、次は戦場で敵同士なのよ?」
「いえ、何の問題も……ええ、何の問題もありません」

迷いながらブリュンヒルドが問いかけ、がそれに対しミューズが苦笑しながら答える。

「そう、問題はない、私も色々話して覚悟し向うは相変わらず頭が『暗部(アイテム)』だし……まあ仕事上の衝突と姉妹喧嘩が両立する関係ということで」
「……よくわからないわ、貴方達」

困惑したように相手は黙り込み、それにミューズはただ軽く肩を竦めた。
本人も諦めたというかちょっと理解し切れてないのだ。

「……女神よ、では私はこれで」
「え、ええ、明日は頼むわね」

どこかズレた二人は話し終え(主の方は深く考えるのをやめただけだが)、がそこで指導者である二人はあることを見落としていた。
先の指示で撤退する五大勢力の眷属、だがそこに混じる『変装し紛れた東洋人』二人が居た。

「……ふふっ、探るのは人も物も問わず得意です、だって『マスコミ』だから」
「大人数に溶け込む等容易いこと……『土着宗教』、舐めてもらっては困ります」

眷属から奪った服を来た『黒髪』に『高下駄』の少女と、同じく変装し『短槍』と『鋼糸』を懐に隠したショートヘアーの娘。
烏天狗と天草式の槍使いが静かに敵地の奥に消えていった。





・・・二日目最終競技(後第七位の暴走)途中まで、及び前回までの戦闘その後の合流その他で今回はここでお終い。
この後競技後半とッ霊夢側の総括やって各面子振り返り、三日目に移るって予定です。

以下コメント返信
らいみー様
そもそも第七位が今まで大人しかったのが奇跡なのかも・・・一方通行はただの悪ノリですが、霊夢というブレーキ役いなきゃこうなります。

ken様
だって超能力者って三六除いて実力はあるけどそれ以上のネタキャラですもの公式見るに、なので出落ちにならざるを得ないというか・・・

アカマ様
・・・ま、まあ大丈夫でしょう理事の権限あるし、後今回のことがなくとも騒がしい学園都市ならある程度被害が折り込み済みなはず。
まあそういっても仕事は当然増えるし表に出せない理由の倒壊事故なので頭抱えるでしょうが。



[41025] 祭りの夜に星が散る・十五
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/07/30 23:30
ドゴオオォオオ

「やあああ、凍れえ!」
「どりゃああ、根性!」

逃げ惑う学生、そして無秩序に走り回り時には爆ぜる毛玉の群れの中心で少女と少年が殴り合う。
氷の槌と拳が衝撃立て続けに響かせて激突し、それをはたてがハラハラしながら(毛玉を払うので中々手を出せず)見守る。

「うりゃあ、妖力相殺っ……長引くとこっちがガス欠よ、急いで!」
「わかってる、あたいに任せな!」

ズドンッ

「……ちぇ、これじゃお邪魔キャラ完遂は厳しいな」

何を切っ掛けが理解不能の自爆、攻撃の着弾は当然、至近弾や余波、いやそれこそ『すれ違った』『目が有った』程度で爆ぜる毛玉達をはたてが必死に対処。
そして彼女のおかげで集中できるチルノは渾身の強打で軍覇を高々と吹き飛ばす。

ドンッ

「……だが、まだだぜ!」

が彼は吹き飛んだ拍子に後ろの学生毎押し倒し、だけどちゃっかり自分だけ起き上がって戦い出す。
敵味方なく(そもそもお邪魔キャラである)全て攻撃対象の彼は巻き添えの学生に全く頓着せずチルノ目掛け拳を振り被る。

「まだまだあ、根性の……連続パアンチッ!」
「うひゃ、連打!?」

ズドドドッ

一気に間合いを詰めて左右のラッシュ、それに合わせて飛んでくる衝撃がチルノと逃げ遅れた学生や毛玉を襲う。
それに対し(上条等への援護と誘導もあるが)チルノは学生達の方へ翼を一打ちし逃げ込み、彼らを目晦ましに時に盾にし攻撃を凌ぐ。

『うわあああ、来るなあああ!?』
「悪いけど……かみじょーの援護ついでに脱落して貰う、そのまま落ちてて!」

地味に酷いこと言いつつ彼女は多少の犠牲で攻撃を躱し、そのまま犠牲者で気を引いてグルと迂回するように回る。
それからダンッと大きく地を蹴って、攻撃直後の軍覇に氷鎚と、更に新しく作った氷の長剣を叩きつける。

「行くよ、グレートクラッシャー……&アイスソード!」
「ぬうっ!?」

ガギィンッ

『ちいっ……』

この不意打ちに軍覇が、そして『手に来る衝撃』にチルノが、二人がほぼ同時に舌打ちした。
チルノが少しげんなりした様子で後飛し間合いを取り直す。
突撃の瞬間オーラを纏った両腕が振るわれ、氷の槌は真正面で受けて、氷の長剣は真横から剣の腹を打ち逸らしたのだ。

「……人間なのに頑丈、休日アニメってので出た改造人間?」
「いや生身だ、悪いが……中々勝てないな、まあだ根性足りてねえかこりゃあ」
「へえ、残念……悪いけど友達にカッコいい姿見せたい、あたい負けないから」
「……俺もスタッフからの依頼だ、まだ暴れさせてもらう」
『……じゃ、やろうか』

ニヤリと二人は笑いながら言葉交わし、そして同時に突撃を仕掛ける。

ダッッ

「うりゃああ!」
「せいっ、根性!」

一瞬で間合いが狭まる、チルノが氷の鎚を、軍覇が衝撃波を伴う拳を振り被った。

ドガアアッ

直後轟音に一瞬遅れ氷が粉砕し。

「しっ、これで……」

ギュオッ

「っ!?」
「まだだぞ!」

『氷の破片』、その隙間を抜くように鋭い切っ先が風を切った。

「やあああ!」
「しまっ……」

ヂッ

「ぐあ!?」

咄嗟に飛び退こうとするも僅かに遅く、氷の長剣が浅くだが軍覇の足を掠める。
すかさず剣はクルと弧を描いて、再度のチルノの突撃と共に『峰』を向けての横薙ぎが振るわれた。

「やあっ!」
「う、おあああ!?」

ドガアッ

氷の長剣が一閃、峰による強打が軍覇を殴り倒す、警戒の表情で剣を構えたままチルノがゆっくり地に傾く軍覇を睨み言う。

「……どうだあっ!?」
「あづっ、お見事!」

喝采と称賛の言葉、そこでふとチルノはふうむと小さく納得いかなそうに唸る。

「痛っ、山ん時のロングの姉ちゃんと言い……女って怖いなあ」
「むう、ねえ……あんた、まだやれるんじゃない?」
「……お邪魔キャラだぞ俺は、それが『イイの』決まっても尚暴れるのは無粋ってもんだろ」
(……あ、以外に空気読めるんだ)

殊勝な言葉にチルノは思わずそんなことを思ってしまい、がそこにオズオズと第三者からの声。
ダクダク冷や汗流してツインテールの天狗、はたてが携帯片手に引き攣った顔で声を掛ける。

「あのう……」
『うん?』

チルノと軍覇がどうしたのだろうと聞き返そうとし、次の瞬間ギョッとした顔になる。

「……その、なんというか」

ギロリ

「そっちの戦闘中に辺りから集まったのか……」

ギロリ

「数えるのが阿呆らしくなる数のに……」

ギロリ

「……私達、毛玉に囲まれてるんですが」

ギロリ

『……あの、結構消耗してるんだけど』
「いや奇遇、私も妖力切れ……はは、三人なら怖くありませんね!」
「やせ我慢……」

ギロロッッ

四方を毛玉に囲まれていた、皆バチバチと放電し起爆準備も完璧で。
ピシと刺すような無数の視線にチルノと軍覇が固まった。

『……爆発オチかあ?』
「これはひどい……ああうん学生は逃げたか、スタッフが連れ出したのは救いか、いやそれでここに集まったのでしょうけど」

はあと一人冷静に(諦めもあるが)はたての嘆息直後、カッと全ての毛玉が爆ぜ戦闘直後で動けないチルノ等を吹き飛ばした。

ズドッ

「……こ、こんじょ、あっ駄目かも」
「うわああああっ!?」
「きゃああああ!?」

ドゴオオオォオッ

『チルノ(ちゃん)!?』
『はたてさん!?』

クルクルと三人は高々と空を舞う、ゴールである柱を守る上条やミサカ、黒子に客席の椛等の心配そうな悲鳴。
ビイイと終了ブザーが響き渡る中、もうもうと煙る競技場に被害者二名と加害者一名が痛ましい格好でバタリと倒れる。
その悲劇を最後に、大覇星祭二日目は混沌としたまま終わりを告げた。



祭りの夜に星が散る・十五



『……はああ、ひどかった』

ぐたりと二人、チルノとはたてが教会の椅子の背に靠れ倒れ込んだ。
お茶をチビチビ飲む二人は互い肩を叩く、暗い表情だが関係者集めての祝賀会参加者はそれに何も言わない(というか同情しかない)

「お疲れ、天狗……夏過ぎたのに溶けるかと思った」
「次は逃げよう……はあ、節姫の馬鹿ぁ」
「ごめんごめん、起爆条件を縛っとくべきだった」
『そもそも毛玉貸すなよう……』

超能力者暴走の被害者たちに(間接的ではあるが)加害者、つまり涙子が余り悪びれてない様子で苦笑顔で答えた。
チルノ等の恨めしげな眼が向き、そうっと顔を逸らした彼女だがそこへと別方向からの追い打ち。
近寄った白い影、椛が同郷者であるはたての頭を撫でて労わると涙子にじと目を送る。

「全く、面白そうだと思えば顔突っ込んで……そんなだから山の方々に睨まれるんですよ?」
「そうだそうだっ、悪戯にしても性質が悪いよ!」
「……で、でも、享楽主義なら他も、それこそ天狗も変りないかなあと」
「そうだとしても身内内で片づける分マシだって」
「ぐっ……」

反省を促す椛と彼女の手に少し元気を取り戻したはたての追撃、二者に責められ涙子は慌てて話を逸らそうとはする。
が、そこに更にもう一人山の仲間、にとりが口を挟んで涙子を黙らせた。
言葉詰まった彼女は四方からの目に縮こまり居心地悪そうにする。

「ぐ、ええと……いや常盤台も上条さん所もいい調子、こりゃ明日以降楽しみですね!」
『あ、ずっこ、誤魔化した!』

暫し視線を彷徨わせ、それから彼女は話を変えようとするも、思い思いの食べ物を手にチルノ達を元気づけようとする者たちから突込みが同時に飛んだ。
競技後の軽い昼食会は被害者の慰めとやり過ぎた者への吊るし上げの場になっていた。

「ほら、元気出して、チルノ……佐天、やり過ぎです」
「うん、食べ足りないけど分けてあげる……貴女の方は反省ね」
「……ミサカ、インデックス」
「お疲れ様でした、まあ今は何も考えず」
「ひゅい、お疲れ……節姫、今回は助けられん」
「……ぐす、椛ぃにとりぃ」
「……ぐぬぬ、これは分が悪いか」

集中攻撃に涙子は後退り、するとそこへ気配『二つ』。

「まあ、そう苛めないで……荒れてこそ祭りっていうものでしょう」
「そうそ、未参加側としちゃある程度アクシデントも欲しいよな」
「げ、余計なことを……」

が、そこへ気楽な調子で紅白、けらけら笑って霊夢と一方通行が口を挟む。
他人事な調子で涙子の肩を持つ二人にチルノ等の既に被害を受けた面々の視線が刺さる。

「二人とも、何を言って!?」
『だって、その方が……』

だがしかしこの突込みに、博麗の巫女と学園都市最強、神秘と科学それぞれの象徴は無責任に続けた。

『きっと楽しいから(なァ)』
「こいつ等、最悪だ!?」
「ええ、そりゃあ、見てる側は気楽でいいでしょうね!」
「……節姫、この人達と同類ですがいいんですか、場合によっちゃ『アクシデント』に貴女も巻き込まれるけど?」
「……ううむ、あれ程図太く離れそうにないなあ」

二人は邪悪に笑って、それにチルノ達は戦慄した様子で後退り、更には流石の涙子(これでも学生なので参加資格あり)も引いたようだった。
先に涙子に向けられた以上のじと目が送られ、霊夢と一方通行は微妙にバツ悪そうにする。

「何よう、楽しい映像を期待していいじゃない!」
「姉貴に同意、観客としての当然の権利だろ?」
「いやいや、火種の『仕込み』しといて観客面!?」
「まず第三者ではないね、どう考えても諸々の主犯だしその言いぐさはどうかと……毛玉渡した私が言うことじゃないけど」
『……ちっ、エンターテイメントがわからん奴等め』
「まだいうか、この自由人共……」

でも口開けば全然反省してなかった、バツ悪そうにしたのは数の差で詰められたかららしい、それでも二人は口にするのはあくまでアクシデント。
これにはチルノ達もついには呆れてしまい、明日有るだろう騒ぎにハアと嘆息したのだった。

「……これは分が悪いわね」
「……だな、そうなると、だ」

微妙な視線に二人は居心地悪そうにし、それから彼女等は隣の幼馴染を全く同じタイミングで見た。

『鈴科君(姉貴)、後任せた』

同時に隣を生贄に押し出そうとし、奇しくも全く同じ行動に二人の体がグッとつっかえる。
肩に腕を伸ばし交差という間抜けな格好の霊夢と一方通行があれと首を傾げる。

「……いや、ここは姉に譲りなさいよ、もやし超能力者!」
「自分だけ逃げる気か、させねェぞ、破天荒巫女!」
「何、やるの!?」
「やるかおィ!?」

相手の自分本位の逃走に(自分棚上げで)二人は怒り、そして同じように舌打ちした後動いた。

ダンッ

『……ちっ、落ちろ』

二人が地を蹴る、同じタイミングで拳を握って飛び出した

「せりゃああ!」
「おらァっ!」

ガギィッ
ドガンン

『……責任転嫁、何と醜い』

呆れ果てたチルノ等の視線の中で拳が交差し、そして轟音の直後小さく呻き声。

「うぐっ……」
「ぐはァ……」

霊夢と一方通行は同時に苦悶の声を上げて後退った。
ギロと下がりながら相手を忌々しそうに睨み、それから片方がフラと体勢を崩す。

「……ぐあ、畜生、この暴力巫女め」
「……ふ、ふん、あ、姉に逆らうから、そうなるのよ!」
「見た感じギリギリなんですけど」

ばたと地面に突っ伏す超能力者、プルプルと震えてお腹押さえながら霊夢が見下し言った。
ボロボロ服の下に仕込んだ破れた札及び(以前解呪で貰った梓弓用)矢束の残骸を(衝撃吸収と引き換えに)辺りに散らしての発言で全く恰好着いていなかったが。

「あ、何か割と紙一重ですね」
「……そ、それでも勝ちは勝ち、私へのクレームはそこに伸びてるのへ!」
『……酷え姉だ』

呆れるような視線から逃げるよう言い捨て、彼女は足早に祭りの別の一角に去って行った。

「ぐ、アダダ……姉貴め、やりやがる」
「……ねえ、貴方方の姉弟関係、それでいいのホントに?」
「……突っ込むな、借りがある分大きく出られねェンだ」

今度は同情からの視線も幾らか混ざり、それにバツ悪い顔した彼はそうっと『あるチラシ』を取り出した。
するとチルノやインデックス等の表情が喜色一面に、ニヤリと笑う彼の手には高級寿司初め様々な食事処の案内が。

「……これで勘弁を、ここから謝罪行脚とか流石にカッコ付かねェし」
「そこで金かいっ!」
「それでいいのか、超能力者!?」
「見栄張るとこずれてない!?」

年少組買収に各方向から突込みが飛んだ。

「……すまない、後任せたわ、鈴科君」
「酷い姉もいたものねえ……」

そして逃げた霊夢は祭りの別区画、『数体のオカルト』を鎖雁字搦めで正座させる前へと位置を移す。
嫌がらせか率先しその処置をしていたレミリアが弟分見捨てた霊夢を微妙に責めるようにチラリ。
気を利かせた咲夜が持ってきた座椅子にドカと座ってオカルト達を軽く睨めつける、更に一方通行に後を任せた涙子も追ってきて共にオカルトの尋問に移る。

「……姉らしいこともしてやりなさいよ」
「いいのよ、あれで図太いから大概なら自分で……何か吐いた?」
「ある意味信頼関係か、ああ尋問ならそろそろ……」
「ふむ、代わって」
「さあ吐かせましょう、いや別に一日目の仕返しじゃないし」

小言受けながら霊夢とおまけに涙子がオカルト達、まず『皿を抱えご満悦の皿屋敷の霊』に問いかけた。

「そちらに切り札の有無は?まだ有るならどういう?」
「……うふふ綺麗なお皿、あっ何か言いました下賤な人間風情が?」

ドスドスッ

「はあ、次!」「三人居るし次」「ぐああああ……」

話にならないので即針とクナイで黙らせ、それを見た『黒電話を大事に持つ少女の霊』『マスクを深く被った女の霊』、メリーと口裂け女がビクと身を竦ませる。

「そっちの二人は?」
「早く言わないと被害者二人目ですよう?」
『ひいっ、言います!』
「……手間が省けたわね、プレッシャー掛けて素直に吐く気にさせたかったがこれが切っ掛けになったか」
「流石は郷が誇る鬼巫女、大妖怪もかくやの傍若無人ぶりです全く」

ヤクザも逃げ出すような横暴な巫女に、少し離れてレミリアと咲夜はヒソヒソと軽く引きつつ囁き合う。

「そこ煩いっ……で、あの黒魔女2Pは何を考えてるの?」
「それは……」

凄む霊夢の問いかけ、メリー達はブルと身を竦ませた後意を決して口を開く。

「あれの目的は奇襲による学園都市勢力の調査、謂わば威力偵察」
「その為に私達、七のオカルト……あの少女曰く七怪談を利用しました、こちらも生者への恨みもありそれに気づきつつ乗ったけど」
「……当初の計画では祭りに乗じての絶え間なく連続で攻めること、それで敵戦力の重要者を炙り出すことで」
「……でも、それが上手く行かなかった時、私達が全滅した場合一つ『保険』を掛けたとあの娘は言っていた」

二人はそこまで言って僅かに黙り込み、先を促すような霊夢の視線に押されゆっくりと口を開く。

「我等七怪談、その先にあるもの……『オカルトの本質』、『真価』を最後の最後に見せてやると」
「……へえ、まだ何か手が有ったか」

ニイと警戒しながらも戦意満ちた様子で笑い、未だ見ぬ切り札に望むところと静かに燃える。
地下ではまだ敵に余力が有ったので引いたが、それで足止めは十分となり若干の猶予時間が得られた。
それを持って完全に状況を整えて敵の出す切り札に対処するだけ、だから霊夢と涙子は各々飲食物手に楽しむ教会中の者達に大きな声で最後に言い放った。

「……みんな、明日から忙しくなるはずです、ご注意を!」
「地下を出る時間考えてマッド娘が動くのは明後日以降……それに戦乙女とやらもそろそろ動く、そちらも忘れないように!」
『了解!』
「ふふっ、それじゃあ英気を養う意味でも……飲み食いしましょう、あっ追加は鈴科君のお財布で!」
「待てやっ、まだ出させる気で『ゴチになりまーす』おいィ待て!?」

情け容赦ない宣言(とことん弟分を苛め抜くらしい)、それを受けて教会中から(一名除いて)歓声が上がった。
巫女と小鬼の音頭で湧き上がって、騒ぐだけ騒ぐまま二日目は過ぎて行った。

「……ふうむ」
「どうしたの、涙子?」
「ああ、霊夢さん……」

そんな中騒ぎの中心、(一方通行の奢りの)二次会を始めた二人は少し悩んだように話し合っていた。

「明日、どうしようかなと……折角回復したけど、考えなしで初日の二の舞はごめんだから」
「ああ、そうね……小回りいいしある程度自由でいいけど」
「……そう言われると猶更迷うなあ、あっ霊夢さんは?」
「こっちは結界を二三張るつもり……まずやっぱ目立つ競技場、それと大きな研究所とか敵が来そうな場所にね」
「ふむ、成程……」

待ち構えるという霊夢の言葉に暫し考え、それから涙子は何となく思いついた。
少し意地悪な笑みで彼女は霊夢に一つ許可を請う。

「霊夢さん、良ければですがそこに……数頭の蛇妖を置くことは可能ですか?」
「蛇、の妖怪ねえ」
「……ブービートラップでも仕掛けようかと、西洋の術者なら意表をつけるかもしれませんし」
「……いいわね、向うに文を潜ませてあるし嵌められるかも……あちらとも確認してもう少し詰めてみましょう」
「はい、お願いしますっ、わあ山で悪戯したときみたいで腕が鳴りますよ!」

ニイと二人が邪悪に笑う、そんなそこだけどこか寒気のする空気の中で二日目は過ぎて行ったのだった。




・・・てな訳で超能力者暴れて言い合って姉弟喧嘩して、最後に伏線ぽもの出して二日目編完結。
一日目と違い夜は何もなく、次回は大分話が動く予定の後半戦開始となります。

以下コメント返信
九尾様
何となくこいしとメリーの戦いの展開を考え、ああ張り合いそうだなと・・・結果こんな決着に。
尚この後幻想郷に流れ着きオカルトボールの事件なので・・・メリーはこいしに頭上がらないかも、いや子供人格の妖怪なら一緒にはしゃぐ可能性もあるかな

アカマ様
あ、あくまで動物霊とか妖力で実体化させてるだけなので自爆もそんなこたえてないですし・・・見てて酷いのは否定できないけど。

N様
安全圏から観客気分な超能力者、当然根に持たれ・・・今回こんな感じに、でも結局買収したりと逃げ切りと、多分余り反省してません。



[41025] 祭りの夜に星が散る・十六
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/09/01 19:22
祭りの夜に星が散る・十六



「……行きましょう」
『はっ!』

競技場に続く道を『外国人観光客』らしき集団がじっと見つめ、それから各々覚悟を決めて一人が頷くと先導する。

「こちらです、ミューズ様」
「ああ」

『何か気になるのか頻りに金髪を弄る女』の案内でミューズが目的地を目指す、その後ろには緊張した様子のブリュンヒルドも。
一同は『誰にも会わずに』会場に、その入り口に辿り着いてそこでフワと『芳しい香気』がした。

「これは……」

ブワッ

その瞬間視界が白で染まる、目的とする科学都市の研究の根幹、超能力者(原石含む)集まる地を前にしたところで明らかな異変。
突如辺りを『白梅の花弁』混じりの風が激しく吹いて数秒視界埋め尽くし、それが収まったと思った瞬間辺りの風景が一変する。
『石塔と石畳から成る社の境内』へと。

「なっ、これは……」

ヒュウヒュルルッ

雅な笛の音がどこか響く中変貌に困惑し、更に奇怪にも先導の『頻りに金髪を弄っていた女』も見えない、ただカツカツと『高下駄の鳴る音』が足早に去っていく。

『魔術師達、魔を認識する眼を持つのが裏目に出たわね……そんな奴等だけがここに導かれる!』

が彼女等にに訝しむ間はなく声と、そして『三つの影』が頭上に刺した。

「……っ、下がって!」
「……挨拶代りよ、せりゃああ!」

頭上に影、『黒髪に紅白衣装の少女』と『水色髪に水晶の羽の少女』、妖怪も恐れる博麗の巫女と最強の妖精が急降下と同時に攻撃を叩きこむ。
ズドンと気弾は弾け、ギュオッと氷の槌が振り下ろされる。
咄嗟にミューズは主を背に押し除けるとコートに手を伸ばし、咲夜との戦いで傷ついていない左手で抜剣し振り上げた。

『はああっ!』

ガギィンッ

甲高い衝突音の直後、隻腕の剣士が一閃した刃に弾かれ、巫女と妖精が飛び退く。

「……いきなりね、人外と人間の癖に人外以上!」
「ちぇー、外したね、霊夢」
「ふん、生意気……仮にも『ホーム』、気合入れようって思ったのに」

敵を迎え撃つのに気合入る場所を、そうして用意した空間の真ん中で霊夢とチルノが攻撃の不発に肩を竦めた。
が、罠の仕掛け手は霊夢達ばかりではない、二人はそこで話すのを止め(まるで譲るように)後方に一歩跳んだ。
次の瞬間、足元から異音がし、突如石畳に亀裂が走った。

ビキビキビキッ

「ふふっ、今日は私達だけじゃないの……交代よ!」

ルォオオオオォッッ

「妖蛇の御持て成しだってさ!」
「どいつもこいつも……」

地を割って現われたは巨大な白い妖蛇、鎌首擡げたそいつが人を丸呑みできそうな大口を開く。
グワと広がったそれは血生臭い臭気漂わせながらミューズの方へ。

シャアアッ

「ちっ、そんな雑な攻撃なんて!」

素早くミューズは横にガチンと閉じる大顎を躱す。
すると今度は妖蛇は体を狭め、ギュルとその身をくねった後反転し尾を撓らせ薙いだ。

キシャアアアァァ

「ああもう、しつこい!?」

追撃は広範囲への尾による薙ぎ払い、ミューズは咄嗟に刃を返し、逆手にし地に突き立て固定し防御体勢へ。
ズドンッという鈍い音の直後激しい衝撃、刃がビキビキと軋みながら地を支えに鱗に包まれた尾を受け止め切った。

「これで動きは封じた、なら……」
「……下がれ、ミューズ!」
「……承知!」

背後からの声にミューズが後退、そして入れ替わるように金の髪を風に流して女神が動く。
『古風な羽根帽子』に『アウトドア用保護器具を重ね甲冑に似たシルエット』という歪な姿の魔女がその得物を振り上げる。
小さくだが先端の欠けた大矛、不完全ながらもそれでも未だ威容を感じさせる刃が真っ直ぐに蛇の胴に突き立てられる。

「せいっ!」

ガギィッ

歪な切っ先が頑強な鱗を割り割き、更にそれが十分突き刺さった瞬間彼女が手首にグッと力込めて捻った。

「追撃する、はあああっ!」

ギイイッッ

ブリュンヒルドの気迫の声、それに一瞬遅れて妖蛇の苦悶の叫びが響く。
そしてブツンッと鈍い音を立てて蛇の胴が肉毎爆ぜる。

「……念には念を、赤土よ!」

更に彼女はダメ押しに溶岩塊を叩き込み、弱った蛇の胴部を完膚なくまで焼く、ドサと妖蛇が頭と首の根元を残し地に沈む。

「……これで終わりかしら?」
『はっ、真逆!』

その瞬間霊夢にチルノ、更にトンとその隣に降り立った涙子が同時に言い放つ。
まず霊夢とチルノが呪符と氷の弾丸を手に前に跳び、そしてトントンと数度小さく跳躍する。

「……じゃ、段取り通りに」
「時間は稼ぐよ!」
「了解です!」

そう言葉を交わすと涙子が修験道の印を指先で組み、その動きに何かブリュンヒルドやミューズ等は不吉な予感を覚えた。

「何か、不味い、か?……ミューズ!」
「はっ、総員攻撃を……」

魔術師達は行動を阻むべく仕掛けようとし、がその先手を打つようにチルノと霊夢が動く。

「……パーフェクト、フリィーーーズ!」
「……からの召喚陣、来たれぃ!」

まずはチルノが広範囲への吹雪、そしてそれが敵の動きを止めた瞬間霊夢が呪符を地面に叩きつける。
バッと吹雪の奥で光が瞬いたと思うと、次の瞬間少女二人が吹き荒れる粉雪の中を突撃、一人は『巨大な鉄塊』に乗り、もう一人は『鋭い大太刀』を携えていた。

「……行きなさい、里香、明羅!」
『承知!』

召喚されるのは里香に明羅、まず里香が主砲を敵の行く手に放ち、すかさず明羅が弾丸を追うように駆ける。

ガギィンッ

「行かせん!」
「くっ……」

主砲が接近を阻み、野太刀の一閃がならと回り込もうとしたミューズ等を牽制する。
そしてその瞬間涙子の準備が終わる。

「さあて、行きますよう……天神の加護ぞ在れえっ!」

パアンッ

彼女の両手が打ち合わさる、大きく柏わ掌一つ偽りの境内に響き渡る。
すると倒れ伏していた妖蛇の躯がブルと震え、それから均等八つ分断し八方に散った。

「……霊夢さんの結界に、鬼と神の気をぶち込んで……不安定なまま安定させ、更なる異界とする!」

変異した蛇は地を伝って八方向に分かれ、結界外周、境内の縁でその身を更に変える、数度その身を揺らすと天を衝くように『立ち上がる』。
その胴は太い枝に、白い鱗は花弁となって白梅の大樹が八つ屹立した。

「……現世との完全な分断を、やああっ!」

この瞬間結界は待ち構える網から、四方を隔てた牢となった。

「……じゃ、後はよろしく、一旦奥に引っ込んでますから!」

場を整えたらすかさず涙子が後方に跳ぶ、完全に変え切る前に一旦下がる、次なる登場人物と交代する為(及び巻き込まれない為)に。
ピョンと一瞬不安定な結界の境に彼女が飛び込み、それと入れ替わるようにそこから数人が飛び出す。
まずは『黒い翼の青髪の少女』と『七色の翼の金髪の少女』、やや遅れて『金と紫の髪の尼僧』が飛んだ。

「ふふっ、派手にいきましょう、スカーレットデビル!」
「援護するよ、お姉様……レーヴァテイン!」
「……ふむ、ならばこちらも面への攻撃を、アーンギラサラヴェーダ!」

ドガアアッ

『ぐ、ああっ……』

深紅の十字架が輝き、炎の剣が薙ぎ払い、そして無数の光の柱が魔術師達を吹き飛ばした。

「ブリュンヒルド様、ここは下がって……」
「私のことはいい……落着きなさい、体勢を立て直すのよ!」

バアと振る光弾の雨の中魔術師たちが右往する、慌てて庇うミューズを押さえながらブリュンヒルドが仲間を落ち着かせようとする。
が、それを見逃さない者が居た、ヒュッと二か所、外と『内』両方から『鋼糸』が振るわれ魔術師たちを切り裂く。

『陣形の乱れは……逃さない!』

ザシュッ

「ぐあっ!?」
「……っ、これは」
「ふふ、仕込は十分ってこと」

先導後直ぐに消えた天狗と別口、土着魔術師の魔術強化されたワイヤーが魔術師たちを引き裂きうちのめした。
内部からの攻撃で一団が動揺し、その怯みを隙と見て『銀』が人の間を縫うように駆けながら『銀のナイフ』を振り被った。

「……ミューズ、覚悟しなさい!」
「ぐっ、十六夜!?」

ギィンッと矢のように放たれた投擲がミューズを襲い、咄嗟に彼女は『峰』で受けるも衝撃は受け止めきれず数歩程蹈鞴を踏んで後退させられる。

「さ、今日こそ終わりにさせてもらうわ、妹?」
「もう、従姉じゃないでしょうが……」
「……ああそうね、今のお姉さんは別にいたか、じゃあ絞めてからその人の所に連れてってあげる!」
「……余計なお世話よ、ド畜生!?」

互いを睨み言い合うよく似た二人、こうして更に魔術師たちは乱され、戦女神の孤立が更に進む。

「……分断する気、かしら」
「そういうこと……まあ、まずは『因縁持ち』から、郷の関係者はなまじ火力自慢が多いから『暫く小出しで』戦力の逐次投入だけど同士討ちよりはマシ」

ブリュンヒルドが嘆息しながら槍を構え、破片を手にした『セートルア』、それに『数人のフード』が周りを固める。
敵の首魁である彼女とその『特別な護衛』、それに霊夢は警戒苦笑しながら手をひらひら合図を出す。

「ふん、まだ戦力はあるようだけど、準備は?」
『……何の問題も』

すると後方に一人と二人、合図を受けて現れブリュンヒルドを密かに見つめる。

ザッ

「やれるんでしょうね?」
「ああ、ここは譲って貰うよ、巫女のお嬢ちゃん」
「どうぞ、有志代表……黄色いシスターさん、それに第三位さんと白い方の天狗も」
「……ああ」『了解、援護します!』

同じ魔術側としてヴェントが、そんな先輩を心配した美琴が、更にその友として椛が、一人と二人が打ち合いの中女神を睨む。
じっと息を潜めて敵の首魁である女神の隙を伺う。
槌と砂鉄の剣と天狗の曲刀、それぞれの得物を手に。

「……ふん、『おまけつき』だけど、私の仕事をしないとね」
「おまけとは酷いわね、先輩思いの後輩だと思うのにもうっ!」
「まあまあ……こちらで合わせましょう、美琴さん!」
「煩せえ、足手纏いになるなよたく……」

一瞬やり難そうに後輩とその友人を見て、それからヴェントが全身に風を纏う、別の神とその神を超えようとする者達が激突しようとしていた。



祭りの夜に星が散る・十六



「はああ……」
「……ミサカ、心配か?」
「ええ、まあ……上手くやってるでしょうか、お姉様やチルノ達は」
「でも……こっちもこっちで色々任されてるからなあ」
「……まあ、そうなんですが」

姉と友を思い心配するミサカ、だが上条と言葉を交わし頷くと『司会席』をチラと見やる。
元々彼の右手のせいで結界内に入れないが、それ以上に残る理由が視線の先にある。
そちらには一方通行の傍で、マイクの前で緊張でガチガチの少女たち。

『よ、よおし頑張るぞー!』『にゃあ、が、頑張るぞお!』

司会席でガチガチな二人の少女、氷華や小悪魔等に付き添われている。

「……打ち止めとその友達のフレメア、あの二人のことが有るからな」
「……先日狙われましたからね、フレメアの方が狙われた理由は結局謎ですが」
「そうでなくても心配だ、学園都市の敵が競技場だからと避ける理由はない……その時誰かが見てないとって理屈も」
「まあ、理解はします、色々心配ですし……」

例えば最悪の場合、それこそ迷いの結界を抜かれた場合水際で止める、それがここにいるミサカや上条たちの役割だ。

「……だな、頑張らないと……『あの子たち』も同じかな」
「……ええ、恐らくは」

上条達は大事な役割だと真剣な表情で頷き合い、その後順にある方に視線を移した。
まず片方、恐らく同じ考えなのだろう、一度結界に籠ってから出てきた少女が応援席で騒いでいた。

「皆さーん、大覇星祭も中盤超え……佳境ですっ、みんな頑張って!」
「いいぞー、もっとやれー!」「……ホント凝りないな、節姫」

初日ぶりに姿を見せた涙子がドデカイ蛇上(美琴関係で贔屓の)常盤台初め幾つかの校旗をブンブン振り回し、それをにとりとはたてが煽りあるいは呆れていた。

「……ゴリアテ人形ゴー!」
「その上に、とうっ!「待って、高い高い!?」んー、聞こえないぜ!」
「ワア、タカーイ!」

別方向ではアリスが巨大人形を操り(それに合わせた)特性ボンボンが揺れ、その肩に魔理沙、それに肩車されたパチュリー、更に頭上に生き人形のアリス。
シュールな前衛美術、あるいはスケールが色々可笑しいブレーメン楽隊が応援席で辺りの視線を独占している。

「はしゃいでますね、涙子に魔女ども」
「……ああ」
「でも、あくまで応援で……参加はしないみたいと」
「……ああ」
「あの、何か酷いことになる予感が……」
「……同じく」

前回の超能力者騒動、その苦い記憶は未だ新しい、二人ははしゃぐ涙子や同じく応援席の面々に嫌な予感を覚えた。
というか『兆し』が視界の端に映っていた。

「……今日もやるぞっ、根性だ!」
「私も行くぞ、同志よ!」
「おいっ、まだ早ェ……サプライズ兼お邪魔キャラ枠は直前に明かすつったろ、さっさと待機所に戻れ!」
『おっと、悪い悪い……』
「……うん、わかってた、わかってたよ」

待ち切れなかった一足早く影二つ、軍覇とこころが競技場で叫んでいて、段取りのズレに慌てた様子の一方通行が端に引き摺って行く。
案の定乱入者は計画されていたようで、二人は今から疲れた様子でガクと肩を落とす。

『……あーテステス、運営より……本日最初の競技は定番の騎馬戦、豪華ゲストもあるので期待ください』
「白々しいぞスタッフ!?」
「豪華って弾幕か爆発がですよね!?」

余りに白々しい放送に聞いていた者たちが一斉に突っ込んだ、最早前回以上の惨劇が既に目に見えていた。
こっちもこっちで色々危険な要素盛り沢山だった。

「ちょ、ちょっと、これ流石にやばくないか!?」
「……多分いざという時すぐに動けるよう、体を温めとく意味もあるのでは?」
「……それにしたってやり過ぎじゃ」

上条にミサカは思わず推定元凶、搬送終えて司会席で寛ぐ一方通行を睨み、が彼は苦笑と共に肩竦めてここにいない人物について口にする。

『いや祭り盛り上げるアイデアをくれた某人物……『自称美人巫女』とやらに感謝しないとなァ』
「やっぱりあの人か!?」
「でもそれ採用したのお前だろ、覚えてろよ!」

(割と予想していたことだが)怨嗟の叫びが競技前から響い渡った。
大覇星祭三日目、競技場は今日もやはりカオスだった。
早くも漂う暗雲、原因は具体的に熱血男と無表情少女。

「うおおお、根性っ!」
「神の舞いを見ろお!」
『はああ……』

競技場にスタンバッテル二人組、最早見ただけで先が予想できるそれ等に上条たちは嘆息してしまう。
超能力者の一人である軍覇が腕組みし叫んで、その隣では『赤マント』を羽織りその裾から『無数の陶器皿』を覗かせたこころが燥いでいる。

「片方はもう諦めてるけど、布都ちゃんに太子さん……」
「何か手厚いサポートが見えてるのですが」
『……て、てへ?』
「いや、誤魔化せないから」

おまけ付きこころに思わず上条たちは突っ込んだ、すると応援席の神子達が目を逸らす。

「いやあ、見学で良かったあ……」
「……佐天さん」
「さあて……毛玉出しとくか、お邪魔枠数合わせ用に」
「うん、そうするよね、そっちの性格上……」
「後で何か奢らせてやりましょう……」

加えてゾロゾロと巨大毛玉の群れが湧き出て、軍覇とこころの周りで円陣を形作る。
昨日同様お邪魔キャラの準備は万全のようだ。

「はああ、酷いことになるな」
「な、なあ、棄権していいか、上条?
「あ、ああ、自分達もそうしたいんだけど」
『……却下、逃がさんぞ、委員長その他』

上条等に比べこういう事態に耐性の無い面々、委員長の吹寄や最近転向してきた姫神が逃げようとし、が上条とミサカに捕まった。
そのままずるずると引き摺られ競技場に連行される。

「まあ大丈夫だろ、騎馬戦なら乱戦になるだろうし……」
「ええ。お邪魔枠といえど集中攻撃はないでしょう多分」
『あ、安心できない』
「……ま、生き延びたら狙われるけどね」
『やっぱ帰りたい!?』

同級生の悲鳴を聞き流し、上条とミサカはフォローになってないフォローで覚悟を決めさせる(というか諦めさせる)

「とうまにミサカお姉さん、頑張れー!」
『おうっ!』

応援席のインデックスに腕を掲げ答えると上条は尤も危険な前方の位置へ、その後ろ左右に吹寄等を配置し、三人が合わせた腕の上にミサカを乗せさせる。
本来ならチルノが上だったのだがこれに関しては今は別の用で変更になった。

(……チルノちゃんは今回あっちの手伝い、『珍しく鬼巫女が真面目だから手伝ってくる』か、大丈夫だと良いけど)

上条とミサカはちらとある方向を、『霊夢と一部有志が協力し張った結界』、決戦場である閉鎖空間を心配げに見たのだった。



『進行ルートを知ったかのように張られた結界』を前に、だが彼女は諦めず抗戦に打って出た。

「……総員、戦闘準備!」

部隊の先陣を切るブリュンヒルドが後続、欧州の魔術師勢力に怒鳴りつけるように叫んだ。
『原石』の超能力者を始めとする目標等が居る競技場を攻め込む為の戦力、だが待ち構えるように辺りに異変が始まり明らかな変化が起きる。
一瞬嫌に冷えた風が吹いた後時代錯誤な酷く古ぼけた、『石塔と石畳から成る社の境内』に移り変わる。
そして、巫女に妖精、更に吸血鬼に魔女、果ては教会勢力の魔術師と、人も人外もごった煮で包囲し攻撃し始めたのだ。

「……一網打尽よ、夢想封印!」
「行っくよー、パーフェクトフリーズ!」
「来るわ、各派閥構えて!」
「はっ、結界術持ちは防御、他は反撃を!」
『り、了解!』

何重もの弾幕にブリュンヒルドと数秒遅れて身構えたミューズが仲間に指示を出す。
複数の光の壁が軋みながら攻撃を受け止め、それから一瞬解除後やや散発的ながらも反撃の魔力攻撃が霊夢やチルノ等に向かう。

「ふむ、防いで……里香」
「はーい」

霊夢がぱちんと指を鳴らすと『巨大な鉄塊』、横から割って入った霊力で動く重戦車が霊夢とその隣のチルノを庇う。

「……さて、反撃は各々の推量で、有志諸君?」
『言われずとも!』

装甲の裏で霊夢達が逃げつつ言って、それに同じように反撃を回避しあるいは防御した者が頷き飛び出す。
まずそうしたのは三つの影、青と金の髪の吸血鬼姉妹、そしてメイド服着こなす銀の少女だ。
ガギンと後方から白蓮の法具が迎撃する中競うように駆けていった。

「今です、レミリアさん!」
「感謝する、聖……ふっ、遅れないでよ、フラン、咲夜!」
「そっちこそね、お姉様!」
「……ミューズ、今日こそ決着を」

弾幕の中で笑う姉妹と幾らか真剣な表情の咲夜が飛び出すと錬金術師、ブリュンヒルドを庇う位置についていたミューズとその眷属へと狙いをつける。
互いを庇い息を合わせて結界を張っていった彼等を(やや色合いは違えど)深紅の瞳六つがスウと細まる。

『……幹部、貰うわ』
「ちいっ、皆結界を維持!」
「はっ、ミューズ様!」

ガギィンッ

主従の三連撃に結界が軋み、慌てて魔術師たちは更なる魔力で強化する。
が、三つのうち二つを弾いたところで綻びが出き、すかさずその僅かな隙間へと咲夜が跳んだ。

「……ミューズ!」
「来るか、十六夜!」

ガギィンッ

突き出された銀のナイフと防御に錬成された長剣が交差する、二つの刃越しに赤の瞳同士が睨み合う。

「……ここで落とすわ、我が妹よ」
「放蕩者がよく言う……」
「っ、ミューズさ『私達を無視するなあ!』くっ、吸血鬼……」

咲夜に抜かれた錬金術師が慌てて主を援護しようとし、がそうはさせじとレミリア等が仕掛ける。
ニッと笑ってレミリアがその鉤爪を壊れかけの結界に叩きつける。

「今回は咲夜に手柄譲ってやろう……下っ端、お前らの相手は私とフランよ!」
「……だってさ、相手してもらうよ!」
「……くっ、ご武運を、ミューズ様」

慌てて彼等は防御を固め、レミリアとフランドールはそれを壊すべく、また足止めの為に鉤爪と杖を何度も打ち込むのだった。

「ミューズ、これで貴女は一人……覚悟はいいかしら」
「ああもう、しつこいったら、女神が心配なのに……」
「……私が居る限りそれは余計な考えで、それにそっちも『他』が何とかするようよ?」

後方と切り離された咲夜とミューズが鍔迫り合い、その最中咲夜がチラと別の方に視線、それに釣られたミューズはハッとする。
自分達を迂回するように真っ直ぐ三つの影が、共通点の感じられない者達が首魁たる女神に向かっていた。

「……ブリュンヒルド様!?」
「……来るわ、負傷者は下がれ、それ以外は迎撃を!」
『は、はい!』

『黄の装束を纏う釣り目のシスター』『赤い外套を羽織った茶髪の少女』『白装束に白髪の山の妖怪』、三者が敵の動揺をついて一気に飛び込む。

「科学嫌いは気が合いそうだが、止めさせてもらうぞ!」
「……やらせないわよ、妹の思い出作りの為にも!」
「……援護します、ご自由に」

ヴェントと美琴、そして椛が敵前衛を突破しブリュンヒルドの前に立つ。
ブリュンヒルドはぎりっと腹立たしげに歯噛みし相手を睨む。

「教会の魔術師、それに超能力者と日本の怪異、か……どういう組み合わせかしら?」
「私に関しちゃ単なる仕事、他は……単なるおまけだから気にしないこったな」
「……あら酷い、手伝いに来た後輩に向かって」
「……はは押し売りだし仕方ないかと」

苦笑する二人を引き連れて、勝手に来た二人を連れたヴェントが一瞬背後の二人を苦々しげに見、それから鉄槌を構える。

「悪いが潰させてもらうよ、ブリュンヒルド」
「……まだよ、私は負けられない、『あの子』の為にも!」
「……あの子?」
「あれは訳ありさ、人質というか、何ともやり難いが……」

思わず漏れたらしき言葉に美琴が疑問を抱き、隣のヴェントの答えにああと『以前見せた必死さ』に納得もする。
夏休みに似たような相手を見たからこその既視感。
その捨て鉢さとどこか感じるバツの悪さ、後の無いような前者は全てを失いかけ起死回生に出た垣根に、後者は勝手を自覚しながら戦う麦野に似ているのだ。

「誰かを救う、その為に手段を選ばず……でも後味の悪さを抱いたまま救った誰かに会えるの?」
「……善性ながら修羅道を進む、哀れな」
「……それでもこうするしかない、貴方達無関係な者までも……踏み躙らせてもらうわ」
「ま、そうだろうね、あんたの場合……他者への失望か、それが有る限り極端に走るか」

美琴と椛の敵でありながら労わるような視線と言葉、それにブリュンヒルドは敢えて無視し武器を構える。
自分に言い聞かせるように敵対を宣言する彼女に、ヴェントは同情するように言葉を掛ける。

「欧州五派閥、歴史こそあるが……それ以上に閉鎖的な分独善的だ、散々振り回されちゃ他人なんぞ信じられんだろ」
「……わかったようなことを」
「……ま、私も大きな組織の一員だからね、そういう面倒臭さは色々覚えがある。
誰かを助けたい、但し他人への不信感から出来れば自分の手で……自分の血の希少さに可能性を見出したってとこか?」

探るようにヴェントが言い、それに一瞬目を逸らし沈黙する。
世界の何もかも、自分のいる組織すらも信じられず、ただ唯一確かな自分の血に縋る女は罪悪感に蓋をし無表情で武器を構える。

「……何を言われても関係ない、始めましょう」
「……ま、確かに今更だね、やろうか」

言って二人は睨み合い、そして同時にダンと勢いよく踏み込む。

『はああ!』

ガギィンッ

鉄槌と神代の矛を修復した霊装、二つの真正面からぶつかり競り合う。
が停滞は一瞬、ブリュンヒルドの槍がゆっくりと押し込まれヴェントの槌を軋ませた。

「……っ、女神の名は伊達じゃない、か!」

ギギッ

「不味っ、椛さん!」
「承知っ……援護します、槌はそのまま!」
「……余計なお世話、とは流石にいえんか」

美琴の言葉に頷いて椛が駆ける、その援護に少し複雑そうにしながらヴェントも受け入れ、曲刀が押される槌を後押しするように添えられる。
が二人掛かりの防御、それを前にブリュンヒルドが余裕ある笑みを浮かべた。

「ふっ、だけどそれでも……はああっ!」
『な、まだっ!?』

ガギィンッ

「はあああ!」
「ぐおっ……」
「ヴェントさん、椛さん!?」

気迫の叫びと共に大矛が更に進む、切っ先の欠けた歪ながらもそれでも異様な威圧感を感じされるその切っ先が止まらず振り抜かれた。
矛の一閃に鉄槌と曲刀が大きく弾かれ、ヴェントと椛は数歩蹈鞴を踏んで後ずさる。

「くっ……」
「重い、不味いな……」
「……貴女達に恨みはない、退きなさい!」

すかさずブリュンヒルドは大矛を引き戻し、体勢を崩したヴェント達に追撃しようとする。

「殺しはしない、でも利き手か足を奪えば……」
「……させない!」

ギュルッ

「っ、邪魔を!?」

その瞬間カバーしようと美琴が砂鉄で組んだワイヤーを放ち、振り被りかけていた矛に絡みつく。
鎖に何重にも纏わりつかれた槍が一瞬止まり、そこへヴェント達が体勢を立て直すと同時にそれぞれ魔力と妖力を練りあげる。

「……まずは武器、だな」
「ええ、あれが向うの手に有る限り止まりません!」

ドガガッ

収束させた風の塊と弧を描いて放たれた妖力の弾丸、二人掛かりの同時攻撃が女神の槍、いや『その刃の僅かな傷』へと放たれる。

「行けえっ!」
「捻じ込む!」
「ちっ、面倒な、そこを狙うか……」

これには彼女も舌打ちし、守りに入ると同時に武器を握る手をグルと捻る。
その僅かな手の動きによる武器の回転で鎖を砕き散らし、それから素早く槍の魔力で風を渦巻かせて一気に振り抜く。

ギュオッ

「……やらせない、はああっ!」
『ぐっ……』

武器破壊を狙った攻撃を迎撃の衝撃波で防ぎ、更に余波のそれにヴェントと椛が慌てて飛び退いた。
が、同時にブリュンヒルドの方も幾らか肝も冷え、ふうと安堵の息を着いた後ギリと歯噛みしヴェント達を睨んだ。

「……厄介なことを、油断ならない人ね」
「ま、武器の破損、狙わない手は無いしな……初日に迂闊に出たツケだ、狙わせてもらうぞ」
「攻撃を集中させます、美琴さんは捕縛を!」
「ええ、任せて!」
「……そんな小細工、我が槍の力で払うまで!」

そう言葉を交わすと両者は再び得物を構え直し睨み合う。
ヴェント等は武器の破壊を、ブリュンヒルドはそれを念頭に防ぎながらの突破をそれぞれ狙って。

ビュオオオッ

『うおっ!?』
「……あやや、皆忙しそう、では他のはこっちで」

そして最後は声と共に大風、弾幕の中を運良く生き延びた者達が女神と合流しようとするのをその風が阻んだ。
偽装用の魔術師の装束を脱ぎ捨てて、六角巾を被り直した文が羽扇を掲げて鋭く魔術師を睨む。。

「……さあて、お相手してもらいましょうか」
「……突破する」

対するは人形じみた無表情な魔術師、意思を剥奪された『セートルア』が『槍の破片』を振り被ろうとし。

「あ、貴方のお相手は別ですよー」
「……っ!?」

すると文が呑気そうに微笑み、直後ドゲシと『真横から延びた靴の爪先』がセートルアを蹴りつける。
知覚外からのそれに彼女は吹き飛ばされ、フッと邪悪に笑いながら『空間の裂け目』から巫女服の少女、霊夢が一人ほど現れる。

「ふふ、見た感じ特別な相手そうだし……」

チャギッ

「叩きのめして……情報洗いざらい吐かせてあげる、行くわよ、明羅さん!」
「……承知」

霊夢は封魔針を、そして呼ばれ答えた明羅は大太刀を構え、意思なく唯無言で構えるセートルアを睨んだ。

「ああ、洗脳したせいで逃走も選べず、可哀想に……ま、どの道逃がさないでしょうけど」

そう哀れむ様に言いながら、渦巻く風の中心の文もまたセートルアの抜けた魔術師達にビシと羽扇を突きつけた。
人と人外、魔術師勢力とそれ以外、様々にごった煮にこうして三日目の戦いは始まったのだった。



「やれやれ……」

ボッ

派手に煙りあげて燃え上がる建物、ボロボロで倒れる魔術師達、そして『赤い髪の少年』が資料らしきものを片手に一服する。

フウウ

「……全くストレス多い仕事だ、煙草が手放せない」
「……言い訳臭いわよ、マグヌス」

するとケラケラと笑って『ウェーブ掛かった茶髪の少女』が一服中の少年にからかう様に言う。
科学の街から飛び出した(体よく追い払われた)超能力者にして暗部の少女の言葉に少年、ステイルが面倒そうに眉根を寄せる。

「いや、そりゃあ……時代錯誤に打倒『科学』を目論んだ魔術師達の後始末、呆れるというか疲れるというか」
「……ま、日本に戦力送り過ぎてこれだがね」
「楽でいいだろ、おかげで殲滅完了……これで援軍も途中撤退の立て直しも無理さ」

倒れ伏した『五大派閥の居残り組』にステイルと、偶々欧州にいて以前の面識から応援に来た麦野がニヤリと笑った。

「……で、その資料、何か分かった?」
「いや、どうも何か妙な……」

予備選力の排除は終了し、後は確保したものの確認、が読んでくうちにステイルは難しい表情で唸った。

「……どうした、マグヌス?」
「いや、計画書……いや開戦時の景気付けか、『血判所』らしき物を見つけたんだが……」

そこで彼はむと訝しげになる、そこに並べられた戦女神とその補佐の少女と幹部の名。
が、事前の調査で見た名に混じる中に馴染みのない名前が『三つ』。

「僕等の、いや教会の知らない戦力だと?」
「……おやまあ、中々一筋縄ではいかないようね」

二人は困った様子で顔を見合わせる、火種は未だ全て暴かれず燻っているようだ。




・・・さて三日目開始、うーん導入で戦闘開始まで行きませんでした・・・
後半一部面子がふざけてますが応援席に着いてるのは護衛の意味が大きく、周りの緊張を紛らわす意味もあります・・・悪乗りも有るしそれが通じてるか兎も角。
とりあえず結界内まずは紅魔主従(+1)それと風と電撃の先輩後輩コンビ(やはり+1)から、まあ追加面子も当然いますが彼女達にスポット入れてく予定。
因みに・・・戦場外の茶番も今後も時々導入します、伏線というか別視点も書きたいし(リアクション役が足りてないのも少しあるけど・・・)

・・・さて段々慌ただしくなってきた三日目、競技場で一部面子が自由にやりつつ結界内は割と真面目か?とりあえず霊夢側も女神sも互いにまだ様子見かな?

以下コメント返信

九尾様
割と巫女の自由人度が笑って許される範囲でしょうね、これ以上は締められても仕方なくなる・・・尚佐天さんに関しては巻き込まれない位置だと余裕顔だったり。

ぽぽゐ様
その上そこを吸血鬼とかが跳梁します、うん罰当たりだ・・・尚幻想郷の面子からすれば何時ものこと、別の意味でアレですが。

まいなあスキー様
未登場面子はまあ出待ちと競技場の護衛組、これから増える予定の面子はそれ程でもないので・・・もっとも次登場組は酷いというか収集着くかは自信無いけど。

アカマ様
佐天さんは今回場を荒らすだけ(それもひどいが)・・・今回出しゃばりそうな各方面の面子集めたら中々派手な組み合わせになりました、ミューズ等に合掌。
確かに豪華面子ですが実は二三人追加考えてます、本格的なクライマックスはそれが来てからかなあ?



[41025] 祭りの夜に星が散る・十七
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/09/28 21:49
注意・(ミューズ等以外の)東方旧作キャラが数人出ます、どれもメジャーな種族だし『このSS』では外の世界で生きた原作とは違う背景のキャラとしてですが。
注意二・前回投稿文を改訂しました、なので見覚え有るかもしれませんが後篇は殆ど別物ですので最後でお読みを・・・



『……あの子のいない世界なんて』

『金の少女』は一人だった、彼女には自分以外何もなかった、ただ『戦女神(ブリュンヒルド)』と無機質に呼ばれてきた。
その魔力と神代の系譜である貴重な血、それを求めた五つの魔術結社にずっとずっと囚われ籠の鳥。
普段はその力を恐れて幽閉、が同時に魔術結社の外敵有れば利用しようと殺さず生かされるだけの日々。

それでも『ただ一人』、彼女に虜囚や道具としてでなく人として触れ合おうとしてくれた人はいた。
世話役として魔術結社の一員ながら少女に笑いかけた心優しい少年、だけどその少年は今は『何も言わない』『笑いも話すことすらもない』のだ。

だから大事な人とまた会うため、嘗てのように笑い合う為に、嫌っていた女神の名を持って全てを敵に回すことを彼女は決意した。

『どうすれば、一族の悲願を……』

『銀の少女』は一人ではないが狭い世界に生きていた、自身が育った古い一族の中しか知らずその価値観にどっぷりと。
そんな一族も長い歴史のうちにゆっくりと衰え、従姉と嘗て慕っていた人は『愛』なる曖昧な物を求めてその姿を消した。
残ったのは彼女と衰え斜陽の中にある僅かな同族、彼女はその流れを挽回すべく策謀を巡らすしかなかった。

そしてその足掻きの第一歩で敗北した、一方的に自分を妹と呼ぶ『変わり者の自称姉』と『元姉貴分』に自勢力どころかその価値観含めボロボロにされてしまった。
残ったのは敗北への屈辱と、それをどこか当然と思う冷めた思い、そしてそれまで抱いたことのない『迷い』。
だけど彼女はまだ足掻いている、本来天敵である科学を手にし禁忌と言われようと魔術師の世界で成り上がる為に。

金と銀の少女、女神の名を持つ二人の少女達は未だ諦めず、科学の街に挑もうことを葛藤の果てに決意した。



だから彼女は強敵たち、教会の切り札に超能力者に人外という奇妙な且つ厄介な敵を前に諦めていなかった。

「……私は負けないわ」
「めげない人ね、女神さん」

ガギンとブリュンヒルドとヴェントと得物打ち合い、が力任せに押されヴェントが慌てて下がる。
そこに椛が追撃を防ぐように立ち塞がり、割り込ませた曲刀で僅かに押し留めた瞬間無事立て直したヴェントが風を撃ち込む。

ビュオオッ

「犬耳の、下がんな!」

警告と同時に強風、更にその寸前で椛も飛び退きながら拡散する弾幕を放つ。

「はああ!」
「……当たって!」

ドゴオオッ

「ちっ……」

風が爆ぜ、妖力の弾丸がばあと広がる、素早くブリュンヒルドも槍を振るって衝撃で相殺するも舞い上がった土煙が視界を隠す。
このまま追うかそれとも、彼女は一瞬逡巡するも警戒から足を止め、直後耳障りな音が聞いて反射的に槍を掲げる。

バチイッ

「ええい、寧ろ厄介なのは後衛か」
「……ごめん、外したみたい」

紫電を纏う鎖を神の槍が弾いて、躱した側のブリュンヒルドと外してしまった美琴が双方厄介なと顔を顰める。

「拘束狙い、どこまで捌けるか……」
「……奇襲ならず、と」
「ドンマイ、しつこく仕掛けてけ」
「ええ、次は捕まえるわ」

再び間合いが空く、どちらも次の準備に移り、そうしながらブリュンヒルドは言葉の割に呼吸の合う先輩後輩達を忌々しそうに睨んでいた。

ガギィンッ

『落ちろ、放蕩馬鹿姉っ(石頭の阿呆妹)!』

そして戦場の別の一角、そこでも嘗ての同族達がブリュンヒルド等に負けじと激しく刃を打ち合ってた。
片手は剣をだらしなく流れるコートの片腕を垂らすミューズが怒りの表情で剣を振るい、対し戦場に似つかわしくないメイド服の咲夜が対照的に余裕顔で相対する。

「ここは手数で、傷符……」
「くっ、させん!」

ドガッ

咲夜が手数で仕掛けようとし、それを見たミューズが素早く蹴り上げるようにし牽制する。
僅かに意表を突いたが咲夜は一歩下がって躱し、がそれで仕掛けようとした技は中断となる、そしてそのままミューズは遠距離に次の動きを切り替える。

「ちっ、この間合いは不利……なら、フリントロック、錬成放て!」
「……っと、」

ダンッ

素早く剣から持ち替えての射撃、咲夜は更に後方に飛び退きこれを躱す。

「……諦めの悪い子、投降はまだ遅くないわよ?」
「黙れ、貴様とは違う、一族は捨てることなんて……滝壺お姉さんには悪いがまだやらせてもらうわ!」

回避しながらの投降を勧める彼女に言い返し、彼女は更なる装填済みの銃を手に気炎を吐き続ける。
そしてその叫びに、槍を振るいながらもう一人の女神も力強く頷いて同意を示す。

「……ええそうね、ミューズ……まだよ、教会の犬め」
「へっ、大した戦意だ、いや犬はおまけの方だがな……」
「椛さんは狼だけどね……これじゃ説得は無理か、、どれだけ人間不信なんだか」
「ふん、幽閉生活……それも信頼できる者ただ一人なんて続けばだれでもこうなる……」

片割れと同じくミューズも叫ぶように言い切り、それからニヤリと『何か覚悟したような笑み』をその顔に浮かべる。

「本来なら『人だけの手』で片づけたかったが、こうも敵が多いとね……ミューズ、『奴等』を出しなさい!」
「……あの者達の力を借りる、そのお覚悟が出来たと?」
「……ま、到底信頼できる相手じゃないが負けるよりマシよ!」

そう二人の女神の名を持つ少女、ブリュンヒルドはミューズとどこか複雑そうに言い合ってから同時に誰かへと叫んだ。
するとそれを聞いたか、飛び交う弾幕を抜けて、ダッと彼女の眷属から外套を深く被った三人の少女が飛び出した。

(出来れば切らずに済ませたかった切り札だが……『魔女』に『吸血鬼』に『家憑き妖精(シルキー)』、最早温存はこれまで……)



祭りの夜に星が散る・十七



「あら、何か動きが……本気出すべきかしら」
「……でしょうね、ならばどうします、霊夢さん?」

敵の動きに霊夢は困ったように、それに魔術師側の一般構成員を風で止めていた文がからかう様に問いかける。
洗脳され捨て駒にされてるらしい魔槍の破片を扱う魔術師の相手しているが、それだけでこのまま追えるかと怠け者を見るかのような目で巫女を見やる。

「むっ、いやあな目つき……わかったわかった、少し本気出すわ」
「あら、珍しい」
「……今回は流石にね」

霊夢は言うと目の前の相手、封魔針で打ち合う魔槍の破片の主を、余程許せない何か有るのか全身傷だらけ包帯を巻いただけの男女すら判断できない魔術師を睨む。
こいつもまた女神の方に行こうとしている、放っておけば三人に次ぐ援軍となり乱戦になりかねない。

「(……それに戦闘の負傷ならもう少しましに治す、なのに治療しないのは)……何かある、戦女神の私情が見えるわ、情報源としては中々かしら」

加えて適当に選んだ相手だが思ったよりも得るものが多そうだ、そう考えた霊夢が針で敵を抑えたまま逆の手で掌打を構えた。
グッと力を込めると霊力を収束し、更にそれに合わせて明羅が回り込むように動く。

「行くわよ、明羅さん……陰陽玉将!」
「……合わせる、はっ!」
「……っ!?」

真正面から特大の黄弾が、横からは剣閃による衝撃波が、二方向からの攻撃に意思なき魔術師、セートルアが硬直する。
洗脳じみた暗示で戦闘のみを許された彼女は無理な姿勢で体を捻り、槍の破片の魔力を二度行使する。

「っ!」

ズドンズドンッ

前方に散弾状の魔力を、そこから強引に力の向きを変えて衝撃波に変えて明羅の一撃を防ぐ。

「まだまだあ……霊力チャージ、時間を稼いで、明羅さん!」
「……承知!」

が追撃は続く、先の攻防で上がった土煙に霊夢が隠れるようにし、その間の相手を負かされた明羅が大太刀で切りかかる。
渾身の踏込と共に彼女は大上段から得物を振り被った。

「……どうする、傀儡?」
「っ!?」

それに対し相手は一瞬の逡巡、が躊躇いはそれだけでそこから瞬時に反撃に出る。
ダンと踏み込んで、自身の安全度外視の突進と共に短剣の形に拵えた『グングニルの破片』で刺突を試みる。

「ァアアッ!」
「……まあ、そうするだろうな」

ヒュッ

そして『寸前で止まる』、太刀を放って『徒手』となった明羅の手に挟み止められて。

「っっ!!?」
「ああ、そう来ると思った……人形なら、な」

ドゴオッ

「……ふん、剣士ではない、つまらん」

予想外のそれに人形の動きが一瞬固まり、すかさず明羅が胴を強かに蹴りつけた。
衝撃に苦悶の表情で向うが後退ると同時に、明羅は興味を失った様子で後方に飛び退く。

「……ふっ、時間稼ぎありがとう、後は私が!」

そして霊力の再収束を追えた霊夢が止めを刺すべく突進、セートルアは慌てて身構える。
が、霊夢は何故か悪戯っぽく笑い『どこか大ぶりに見える動作』で針を投擲する。

「ふむ……えいや!」
「……っ」

それに反射的にセートルアは飛び退いて、それで『詰み』の準備は整ってしまった。

「っ!」
「……あ、そこ……足元、荒れてるわよ」

ズルッ

が回避後迎撃の為に重心低くした瞬間その体が傾く、まるで雨上がりの地面のように着地した場所が覚束なくなったのだ。

「神社を元にしたって言ったでしょ、大体再現してる……老朽化し面倒だから応急処置したままの場所とか」
「……そこは直しておけ、常識というか信仰心的に」

霊夢の横着(新顔用に回す未整備の一角(公式))に足を取られ、その瞬間セートルアの胴目掛け気弾が叩きつけられる。

「……それじゃ改めて、落ちろお!」
「っっ!!?」

ドゴオオッ

隙だらけの所に渾身の一撃が叩きつけられ、グルとセートルアは一回転した後地面にベシャと沈んだ。

「ぐ、あ、私は……」
「お、正気に戻った?」
「ブリュンヒルド……あの裏切り者、折角今まで飼ってやって」
「……えい、掌打」

ドグシャ

「ごふ!?」
「あっしまった、生理的に合わなさそうでつい……」

が起き抜け早々妙なことを言ったから更に追い打ち、セートルアは顔面に掌打喰らって完全に沈黙してしまった。
しまったと霊夢は頬を掻き、それからまあいいかなと軽い気持ちで流して改めてセートルアの肩を揺すった。

「ああもう、勝手に寝ないでよ面倒ね、捕虜の癖に……ほらさっさと起きなさい、点穴打つわよ!」
『……やはり鬼巫女か』

尚それに彼方の二人、武器を納刀した明羅と一般構成員の相手していた文がドン引きした。



「(セートルアは無理か、だが……)よく来たみんな」

タンと軽やかに着地し『三つの影』がブリュンヒルドの傍らに降り立つ。

「さあ出番、行きなさい、魔女に吸血鬼に家憑き妖精(シルキー)……『エレン』、『クルミ』、『カナ』!」
『……承知した、契約に従い全力で戦おう』

現われたのは三人の『人外』、この世界(外)で人に混じって生きていた人とは異なる者達。
彼女たちはセートルア等とは違いその意思、それぞれの欲望から女神に肩入れする。

「ふふ、貴女を新しい主神にし……分け前を貰いましょう、そしたら神代の材料でお菓子の家でも作ろうかしら」
「……好きにしなさい、魔女のエレン」

肩に白猫を乗せた金髪ロングヘアーの幼げな魔女が杖を掲げてみせた。

「じゃ、私はでっかい豪邸……前は変な緑ののに門番雇われたけど自分のが欲しい」
「なら勝って手に入れなさい、吸血鬼のクルミ」

黄金の瞳をギラギラ輝かせた人外の少女がバサリと黒い翼を力強く広げた。

「……私は小さい家でいい、連れの鳥さんと住めればそれで十分」
「了解したわ、家憑き妖精……カナ・アナベラル」

赤リボンで飾った白帽子の少女が透き通った体で、同じく零体化した鳥の群れと共に恭しく一礼した。
そして現れた彼女たちに、ミューズが銃撃で牽制しながら叫び指示を出す。

「三人とも、散会後ブリュンヒルドの元へ!誰か一人でも辿り着いて……最大戦力である彼女を援護を最優先とするのです!」
「ちいいっ、まだ戦力が、いや……察するに人外と信用し切れなかった予備選力、結果的な温存の形になって」

それを見た咲夜は弾丸を躱し、あるいは魔力障壁で防ぎながら周りに呼びかける。
向うにとって優先度の低い戦力が結果的にこちらの予想外となった、少し焦った様子で彼女は余裕のありそうな戦力を探した。

「好きにさせては不味い……誰でも、誰でも良いから暇人達は!?」
『ここに居るぞっ(いますよ)!』

そしてそれに答えたのは三人の少女、黒翼の貴族令嬢に紫と金の髪の尼僧、青い髪の妖精だった。

「一人目、あたいが貰いっ……人外同士、どっちが強いか比べるかい?」
「氷の妖精、でも普通のより強そうかな」

妖精と家憑きの霊が睨み合う、チチと囀る小鳥幽霊に囲まれながらチルノが強気な表情で氷の槌を両手で強く構え直す。

「それじゃあ……こっちは吸血鬼対決ね、雑兵はフラン一人で十分でしょうし」
「む、年下っぽいけど……魔力はあっちが上か、でもこっちは馬火力主に鍛えられたタフネス(リザレクション)が有る!」

チルノに続くはレミリア、二人の吸血鬼が互いの鉤爪を交わし競り合うような形で相対する。

「……ならば最後の一人は私がお相手を、聖白蓮参ります!」
「どこか妙ね、魔力の強化を肉体に当ててる?少し魔女らしくないかな?」

最後の組み合わせは魔女同士ながら正反対、肉体派の白蓮に杖持ちに猫を連れた正統派魔女が首を傾げたまま迎え撃とうとする。

「……ちっ、抑えられた、錬金術師中心だけに構成員の力量の水準が問題か」
「でも、これで……私や先輩達がやられても、あっちの三人が抜かれても不味いと」
「手が空いたのが他の援護に回れば一気に崩される……どれ一つ取り溢せないか」

ブリュンヒルドが止められた援軍に顔を顰めるも、それは美琴等も似たような面持ちだった。
向うには向うで頑張ってもらうにしても、彼女達もまた万に一つも不覚は取れなくなった。

「……場を整えろ、馬鹿後輩!」
「美琴さん、せめて向うの足を……」
「ええ、ついでに……武器を用意するわ!」

ジャラララッ

負けられないと決意を固めた三人がすぐさま次の手に打って出た。
まず美琴が砂鉄から練り上げた多量の鎖を作り出し、それまでも戦いで砕けた分も上乗せし四方八方に放つ。

「ちっ、手の多い相手ね……」
「いえ、これは……只の準備よ!」

トンとブリュンヒルドがステップするように間を抜け躱して、が美琴は更に能力を行使する。

「……うりゃ、再形成!」

ビキビキビキッ

音を立てて鎖が細かく等間隔で分離し、それから凶器の形で変形していく。
バラバラと完成と同時に地に引かれて突き刺さり、鋭い刃と打撃用の長杖が戦場そこかしこに突き立てられる。

「……現地調達よ、その場で作る手間を省く……椛さんにヴェントさん!」
「はい、全力で行きますよ、二刀は不得手ですが……」
「ふん、貸しにしとく……得物の負荷は大分減る、これで長期戦もやれんだろ」

場が一瞬にして一変した、これにより長物持ちのブリュンヒルドの動きをいくらか阻害し、更に前衛組の継戦力も一気に向上した。
美琴が作ったばかりの剣を引き抜き、右隣に自身の曲刀と同じく砂鉄の剣を握った椛が、左隣に大槌と砂鉄の杖を握ったヴェントが並んでそれぞれの得物を構えた。
ギリと歯噛みした女神のの前で三人がニヤリと笑った。

「……ああもう面倒な、何でもアリね全く」
「電気操作は汎用性が売りだからね……行くわよ、二人とも!」
『おうっ、切り込む(わ)!』

向うの思わぬ援軍に負けじといいたげに、三人は女神に対し力強く叫ぶと同時に飛び掛かる。



「……ブリュンヒルド、このままじゃ不味いか」
「言ってる暇が有るのか、ご同類!?」

ガギィンッ

「ちっ、一回の門番には荷が重いよ」

レミリアの一閃をクルミが鉤爪を振るい逸らす、が膂力の差か圧され下がる。
彼女は無理に踏み止まらず飛び退き、それから空中で身を翻し横方向へ急反転、急角度の動きで撹乱しながら弾幕で反撃する。

「……魔力は向うが上、なら手数で!」

ドガガガッ

鋭く収束させた数条のレーザーを放ち、がそれを見たレミリアはにやりと笑った。

「……甘いわ、ハートブレイク」

ガギィンッ

血の如き赤染めの槍を構えた彼女が槍の切っ先をクルと揺らし、その僅かな動作でクルミの弾幕を受け流し防御する。
更にそこから槍を肩に担ぐようにすると、思い切り身を逸らせてから振り被った。

「行くわよ、そりゃああ!」
「……ちっ」

ゴウッとオーバースローの体勢から赤い槍が投擲される。
着弾までの僅かな時間に碌な弾幕は無理、クルミは両の鉤爪を開くと渾身の力でそれ等を振り抜いた。

「……まだよ、はあっ!」

ガギィンッ

叫びと共に鉤爪が振るわれその軌跡が交差する、バチンという音と共に槍が砕け散る。

「……ふっ」
「っ!?」

が、攻撃はそれで終わりではなかった、心底楽しんだ様子で笑ってレミリアが肩から前のめりの体勢で飛び込む。

「こっちもまだよ、レッドデーモン……クレイドル!」
「うわっ!?」

ドガアア

高速タックルが直撃し、吹っ飛ばされたクルミは石畳の上を二三メートル滑った後止まって崩れ落ちる。
ガクと俯いた体勢で彼女は沈黙し、がレミリアは警戒の表情でじっと相手を見下ろす。

「……ふむ、下手な芝居ね」
「ちっ……」

レミリアが見下ろしたままからかう様に言い、それに舌打ちした後バッと起き上がった弾幕を、不意打ちに使おうと準備していた弾幕を解放する。
バアと速射を優先した単発の閃光が放たれ、がレミリアは余裕のある表情で両の掌を掲げると赤い鎖が飛び出す。
回転させながら広った鎖がレーザーを包み込むと握り潰す。

バギィンッ

「……ミゼラブルフェイト、惜しかったわね」
「油断位してよ、可愛げのない」
「はは、まさか、油断なんてしたら一瞬でお陀仏な環境だから」

どこか考え無しな身内だったり物騒な現住所だったりに自嘲気味に笑い、それからレミリアは今度は向うを感心したような表情に。

「貴女、タフね……吸血鬼なのを加味しても大分」
「前の職場に火力特化が多くてね……エレン、カナ、こっちは無理そうだから頑張って!」

中々遠ざけられない目の前の相手にクルミが済まなそうに叫び、残り二人は嘆息しつつ頷く。
まず動いたのはチルノと弾幕を打ち合っていたカナ。
十数話の小鳥の霊と連携し、単独での包囲戦をチルノに仕掛けていた彼女はバッと手を振り眷属の鳥たちを大雑把に三つに分ける。

「……仕方ない、ここは」
「む、お前何を?」

困惑するチルノの目の前で鳥たちの三分の一がカナの元へ、するとその形が崩れて長い棒状の何かへと変形する。
カッとその手から光が溢れた後『鳥害注意』の立て看板が握られた。

「行くよ、妖精さん」
「……っと、近接戦か」

ダッと彼女は勢いよく地を蹴ってチルノへと突撃し、そして小鳥の霊、その残り二つの群れは二手に分かれた。
一つは近接戦を仕掛けたカナを追い、更に残りの一つはカナの主であるブリュンヒルドの元へと。

「お前、まさか!?」
「……今は部下、だからね」

自身の守りを薄くしてまでの援護(ある意味格闘戦もまた不完全な包囲網を補うためだ)、カナは驚いた様子で氷鎚を構えるチルノに看板手に殴り掛かった。

「……カナ、思い切ったわね」
「何故そこまで?」
「まあ同類相憐れむ?現世は外れ者に厳しいから……」

それを離れた場所で戦う白蓮とエレンも見ていた、戦いながら訝しむ白蓮に誘導弾を嗾けるエレンが言う。
彼女は『杖』を振るい矢継ぎ早に誘導弾を叩きつけつつ、チラと主であるブリュンヒルドを見やる。

「それに……あそこまで哀れな生、そして傷ついた心の持ち主滅多に居ない、人ならざる者と言えど同情したくなるのよ」
「……その為に、街一つを敵とするのですか?」
「……私達がそんな物好きだった、まあそれだけね」

法具の独鈷杵で弾丸を切り払う白蓮に答え返し、褒められたことではないと自覚しながらも苦笑気味に彼女は笑った。

「……じゃ、そういうことで私も一働きしようかな」
「むっ、何を?」

ダンッと(本来遠距離戦専門の)魔法使いである彼女が前へ出る。
右手の杖を翳し、光の障壁を張ったまま白蓮に突撃を仕掛け、一瞬目を見開いた白蓮は反射的に法具を構える。

「っ、『自身の間合い』でないでしょうに何を……」

ガギィンッ

両手に握った法具を重ね、白蓮が力付くで迫る障壁を押し留める。
が、次の瞬間エレンの動きに白蓮が驚き眉根を寄せた、エレンが右で障壁を張ったまま空の左手に光弾を作り出したのだ。

「……なら、追加」
「貴女、まさか……」

ブワと光弾に過剰な魔力が送り込まれ、バチッと激しくスパークしながら膨れ上がった。

「ま、軽く爆破してみよう……援軍のカナの鳥、妨害する余裕なんてないように」
「両手で別の術式か、器用ですが無茶なことを……」

呆れる白蓮は後方に飛び退いて自身も障壁を張り、その直後ドンとエレンの弾幕が大きく爆ぜて辺りに爆炎をばら撒く、それで一気に土煙が舞った。

「……感謝する、カナ、エレン」
『ちっ、諦めの悪い!』

そして煙幕に乗じ辿り着いた霊体の鳥の群れが美琴達に囲まれるブリュンヒルドを庇うように周りを囲む。
それに勢い着いた彼女がブンと大きく矛を振るい、三人は慌てて散って辺りに立つ武器に紛れる。

「……っと、集団戦かあ」
「ええ、勝負はこれからということ」

武器越しに嘆息する美琴達に言い返し、ブリュンヒルドは自信を力付けるようにやや強く槍を握った。
ギロと周囲に睨むような視線、その目に未だ戦意の衰えは見えなかった。

「援軍は間に合ったか……ご無事で、ブリュンヒルド様」
「……人の心配してていいのかしら、ミューズ?」
「……アンタ程自由じゃないのよ、十六夜」

そして主が仲間の眷属と合流したのに安堵するミューズ、それに対し咲夜が言えば彼女が皮肉げに答えつつ睨み返す。

「あの方が居れば計画は続けられる、あちらを優先するのは当然……私は自力で何とかするだけよ」
「……まだまだやる気ね、でも出来るかしら、私は愚か暗部の非戦闘員に敗北した貴女が?」

向うと違い彼女に助けはない、そう言いながらも彼女は闘志を露わに錬成した拳銃を構える。
それに咲夜はどこか呆れたようにも感心した様にも見える表情で聞いた。

「ふん、確かに時間停止の魔法具は前回で失ったが……アンタだって気軽に使えないでしょ、『主』が危機に陥った時用に温存したいから」
「そうね、安全マージンという意味で正しい、でも……それ以前の問題が一つ!」

時間操作は互いに使えない、ミューズの手にその為の魔法具はなく、咲夜はレミリアやフランドールが何在った時の為に温存の必要がある。
が、その指摘に対し咲夜はフッと笑った。

「それでも……彼我の力量差は未だ歴然、違うかしら!?」
「その為の私の……一族の錬金術よ!」

ダンと勢いよく咲夜が踏み込み、対するミューズは一射後長剣を作り出し振り抜く。
牽制の弾丸で咲夜の足が一瞬止まり、それでほんの僅かに打ち込みが鈍くなった銀のナイフと迎撃の長剣が軋み合いながら交差する。

ガギィンッ

「……ふん、生意気ね、妹!」
「ちっ、一族捨てて姉面か……今までの借りを返す!」

そう叫んでミューズが一瞬半身の体勢に、僅かな捻りから力を乗せて強引に咲夜を蹴りつける。

ドゴッ

「……っと、喧嘩のやり方わかってきたじゃない!」
「その、余裕気に入らない!」

蹴られ後退さりながらも未だ笑う余地のある咲夜に、ミューズは苛立ちを覚えつつ素早く錬金を行う。
蹴りで空いた距離で時間を稼いだ彼女は瞬時に剣から拳銃に持ち替えると咲夜に照準する。

「……いい加減、倒れろ!」
「はっ、断るわ!」

ズダンッと銃声と同時に弾丸が放たれ、が咲夜は瞬時に狙いを読み切り体を伏せる。
弾丸は空しく空を切り、ニヤリと地で笑う咲夜にミューズが歯噛みしつつ次の錬成し構える。

「ええい、なら……錬成、二射行けっ」
「……それも甘い」

ダンッ

が二射目よりも一瞬早く咲夜が跳躍した、飛び上がったその爪先を掠めるようにギリギリで外させると彼女は空中でナイフを振り被る。

「……で反撃、せいっ!」
「くっ、錬成が間に合わ……」

ガギィンッ

咄嗟にミューズが体を捻ろうとするも回避には至らず、拳銃銃口をナイフが穿ち使用不能にさせる。
すかさず咲夜は飛び込んだ勢いのままミューズへと空中から切りかかる。
新たに引き抜いた白銀のナイフが不気味にギラつきながらミューズに迫る。

「錬金に頼り過ぎ、はああっ!」
「ちいっ、性格の悪い……」

舌打ちしつつミューズは使い物にならない銃を手放し、新たに作り出した剣でナイフを抑える。
ギギと得物が軋みながら再びの鍔迫り合いの体勢に。

「……ふふっ、このまま止めを刺してあげる」
「調子に乗って……」

余裕たっぷりに宣言する咲夜に悔しそうにし、が同時にミューズは頭の冷静な部分で不利を認めていた。

(技量の差以上に一つ大きな問題が有る、こちらの近接と遠近の切り替え……『武器の持ち替えの間』、奴が狙わない筈が無い!)

連日の戦いの負傷、それでミューズの片手は使えず、その状態で近接用の剣と遠距離用のフリントロック銃を使い分ける必要がある。
結果距離が変わる度に、相手に近づかれる度にミューズは一瞬の隙を見せてしまう。
このままではそこを突かれるのは時間の問題だと。

「(だけど、その窮地にこそ……)勝機が有る、行くわよ十六夜!」
「貴女、この状況で今更何を」

だけど不利の中で尚彼女の闘志に陰りはなく、咲夜が訝しんだ瞬間その意味を理解する。

「……この間合い、拘ったことを後悔しなさい!」

ガッ

その瞬間ミューズが足元の『銃』、先程手放したフリントロック銃を蹴り上げ、鍔迫り合いの体勢で抑えた咲夜の眼前に飛ばす。
そして強引に体を捻るとその体勢から振り上げた爪先を銃へ、更にその体勢のまま剣を握る手に力を込める。

「貴女、まさか……」
「暴発か斬撃か……選べ、十六夜!」

どちらかを止めようとすれば片方が通る、暴発の場合は運次第だが相打ちの可能性が高く、そして迷えば両方当たる。
主の為に時間停止を封じた相手の弱味を突くミューズの賭けじみた二択。
それに対し咲夜は瞠目に目を見開き、そしてポツと呟く。

「……認めるわ、貴女の執念」

彼女はミューズを見た、『深紅の瞳』で初めて敵として。

「でも、それでも……まだ届かない、ソウルスカルプチュア」

バギィンッ

彼女の体が掠んだと思うと両手でナイフを振り抜いた体勢で、そして直後ミューズの握る剣と空中の拳銃がバラバラになった。

「……え?」
「私がナイフを使うのは……小回り効いて『最速』だからよ」

人外の主、『人を超える速さを持つ吸血鬼』に忠誠を誓い、時には共闘する必要のある彼女がそう言うとユックリとナイフを構え直す。
そのまま踏み込みんで、剣の間合いから『更に一歩分』踏み込みながら彼女はミューズにからかうように問いかけた。

「ところで……近接戦(ショートレンジ)の更に内、超近接線(クロスレンジ)、普通の剣でこなせるかしら?」
「この間合いは!?」
「……ふふっ、ナイフ使いの私は出来る、それに『赤毛の大陸妖怪』も身内にいるからね」

動揺するミューズに対し咲夜は気にせず間合いを詰める、『体術使いの門番』という専門は違えど近接戦の目標というか分野の基準が居るから欠点にはならない。
慌ててミューズは新たに抜いたがで切りかかり、がそれは明らかに力が乗り切らず速度も遅い。

「ま、惜しかったわ……ソウルスカルプチュア」
「ぐあああっ!?」

ドガアアッ

だから再び一方的に咲夜の刃が届く、そのまま先程の光景を再現するようにミューズの剣をバラバラにし更にその胴を斜めに払った。
スッと彼女の体に赤い線が走った、グラとその体がゆっくりと傾いだ。
そしてヒュッと咲夜がナイフを一振りし血を払うのとミューズの胴が赤く染まるのはほぼ同時。

「そんな、また裏切り者に……」
「やはり経験ね……文字通り十年は早いってとこね、理解したかしら、ミューズ?」

苦悶の表情で彼女の体が地に崩れ落ち、見下ろしながら咲夜が今回ばかりは真面目に指摘したのだった、言葉の端に妹分への労わりを滲ませながら。





・・・旧作面子大幅追加&まず一名脱落で次回へ、被害者だけど加害者(セートルア)がヒドイことになってますが次からもっとか?
ところでカナアナベラルは色々資料探したんですが『豪邸に住んでる少女の幽霊』または『騒音霊(ポルターガイスト)』と大きく二通りに書かれてて迷いました。
どっちにするか悩んだけど前者は外国の妖精(家に憑くというシルキー)に似てるかなとそれにしました、ちょっと対戦相手であるチルノに近づける感じで。

・・・前回分を読み直したら何かとっ散らかってたんで修正しました、またその煽りでミューズとの決着があっさり気味に(後でまた弄るかも・・・

以下コメント返信
九尾様
尚有利にと選んだ場所ですがその部分大きく出るのは今回のようにダーティーな戦い方・・・主人公に似つかわしくない戦い方してますがあっやりそうかと思って。
女神様は原作も可哀想で何か救いをやりたいが・・・同時に彼女の描写から人間不信入ってるなと思えて、割と彼女周りだけで二転三転するかも。

アカマ様
いや霊夢等は横やり妨害、又は隙有りそうなの片付けて他の援軍に行きたいだったりと・・・一応真面目な筈、確かにその中で楽そう相手選んだのは否定できないが

彗星ゴラス様
旧作勢は外にいそうな面子からチョイス、割と趣味で選びましたが・・・一名真面目というかシリアスになるかもしれません。

P8様
霊夢に関しては少し真面目な以外はいつも通り・・・これで大体原作通りになってるはず、いや恐ろしい。



[41025] 祭りの夜に星が散る・十八
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/09/28 21:49
『レディース&ジェントルメン……競技開始(にゃあ)!』

競技会場にて『少女』二人、三日目の始まりを宣言する。

『さあ大覇星祭三日目……後半戦だよー!』
『にゃあ、行われる競技は騎馬戦でーす!』
『……楽でいいなあ』

『司会L』と『司会F』の名札を付けた打止め(ラストオーダー)とフレメアがちょっとぎこちなくも元気よく司会席で叫んだ。
その横では手持無沙汰に頬杖ついた一方通行が完全に見守りの体勢でいる。

カキカキ

(……楽にやれ、司会なんて見たまま言えばいい、もしくは煽れ派手に無責任に)

でも二人がちょっと緊張気味なようなのでカンペで二三の助言、(最後はともかく)少し落ち着いた様子で打止め等は頷いた。

コクコク

『……じゃあ開始準備、スタッフさーん!』
『ホイッスルの用意……三カウントで行くよー!』

二人の呼びかけに競技場付きのスタッフが頷き、参加者に見えるようにホイッスルを何時でも吹けるようにする。

『……いーち!』

打ち止めフレメアによる最初の声、フィールドに配置する学生達がゴクと息を飲む、とある無銘校の騎馬に混じるミサカも額の汗を拭っっている。

『にいっ!』

続く次の声、それにニヤリと好戦的に笑う二人、毛玉に囲まれた軍覇とこころがワクワクした表情で聞く。
そして『応援席』、そこでも一人邪悪に笑う者がいた。

「ふふっ、折角のお祭りだし……私も『おまけ』してあげる!」
「ちょっ、節姫!?」

全然懲りてない涙子がそこから毛玉を投擲体勢に、グワッとオーバースローで振り被ろうとし。

バチンッ

『させません』

『一桁台』、二番目と三番目の妹(変装に大きめの帽子付き)奇襲の電撃。

バチバチィッ

『えい、鎮圧』
「あふん」
「ナイス、お姉様方!」
「……ぐふ、不覚」
「……まあ、流石に対策されるって」

けぷと黒い煙を吐いて倒れる涙子ににとりが呆れ、それを視界端に納めたミサカが喝采しつつ、そこに三度目が競技場中に響く。

『さあんっ!』

ビイイイッ

最後の掛け声と共に笛の根が響き、それと同時に参加者と妨害者が駆けだそうとする。

「……ぐ、ぐぐ、甘いよ、妹ちゃん達」
「節姫?」

が、それより一瞬早く涙子が叫んだ、同じ応援席に潜む者の声を。

「い、今です……魔理沙さん!」
「おう!」
「ちょっ」
『あっ……』

両手に溢れんばかり『星形の弾幕』を抱えた魔理沙が近くにいた魔女を足場に高く跳んだ。
その腕がバッと大きく振るわれ、バラバラと起爆準備の済んだ弾幕が学生等の真上一杯に広がった。

「そ、そいつを止めろお!」
「はっ、もう遅いぜ……うりゃああ、開始の花火だ!」

パアンッ
ズドドドッドゴオオオォ

『うお、おおおおっ!?』

真上で起きた爆炎が参加者が絶叫する、辛うじて自制したか音のみの派手さ重視の弾幕らしいがそれでも溜まったものではない。
ある者はそれだけで倒れ、踏み止まった者もへたり込むか経ったまま呆然としてしまう。

「……チャンスだ、行くぜ!」
「了解だ、同志よ!」

そして図太い二人だけがそこで普通に動いた、二人は辺りの毛玉に頷きかけ、すると彼らが一斉に集まる。

『……さあ合体だっ!』

ボフンッ

見上げる程に巨大化した一体の毛玉がジロリと足元(体の下)の学生達を睥睨する。

「うわああ!?」
「で、でかい!」
「……で特攻だ、行っけえ!」
「GOGO!」
『ぎゃああああ!?』

こころと軍覇の突撃命令で毛玉が吶喊(とっかん)、当るを幸いに爆発に怯んだ学生たちを跳ね飛ばしに掛かった。
ハッとした表情で彼等は逃げ遅れの悲鳴を背に慌てて逃げ始め、幾らか余裕のあるミサカに上条に黒子等を中心に競技場の方々に必死に散っていく。

『おォ、地獄絵図だな』
『や、やり過ぎじゃないかなこれ!?』
『……ええと、みんな逃げてえ!』

司会席で(一方通行だけ呑気に)半ば悲鳴交じりに避難を呼び掛け、それに言われるまでもなく学生たちは必死に走り回った。
運動会の花形である騎馬戦、粛々と行われる筈だったそれは一部の暴走で阿鼻叫喚の有様となった。



祭りの夜に星が散る・十八



チャキッ

目の前で輝く白刃、睨み合う銀の少女達、倒れたまま片方を見上げあるいは見下ろす。

「……終わりよ、ミューズ」
「十六夜、私は……」

咲夜が嘗ての妹分のミューズに投降を促し、がそれに彼女は答えずただ俯く。
じっと黙り込むミューズを訝しみ、また警戒を覚えた咲夜はクルと刃を返し峰を向けて振るおうとした。

「ミューズ、嫌なら気絶させ「……私は、まだ終わっていない!」っ!?」

峰打ちし生け捕りにしようとした瞬間ミューズが叫び、その気迫に咲夜が一瞬息を飲んでしまった。

ガギンッ

「……最後の切り札よ」
「何?」

そして気圧され速度の鈍った刃を『虚空から出現した刃』が弾く、その一本に終わらず何本もの刃が無数に。

「……祖が見出した偽・黄金錬成、『真鍮の秘伝』が私には残っている!」
「なっ、何ですって!?」

彼女を中心に浮かび上がった刃がクルクルと暫し回転し、それから切っ先を一方向に、異変の瞬間飛び退く咲夜に向ける。
ダンと最初に出現した刃が打ち出され、更に続いて他の刃も機関銃の如き勢いで放たれる。

ドガガガガッ

「ちいっ、これは……」
「貴様も落ちろおっ、十六夜!」

咲夜は慌てて短剣を抜いて防ごうとし、が一本目を弾いた瞬間二本目三本目の着弾で手持ちの刃が砕け散る。
が幾らか相殺したところで数は向うが上、徒手となった彼女を嘲笑うように追加の刃が降り注いでいく。

「くっ、見誤ったか……」

彼女は防御を諦め横に跳んで、がその瞬間刃の雨は咲夜の影を追う様に軌道を変えて薙ぐように水平方向に。
慌てて咲夜は駆けながら加速と急角度の転回を繰り返す。
小刻みにジグザグに回避行動を取って、だが終りの見えない刃は時折チチッと擦過傷を負わせていく。

「……っ、キリが無い!?」
「何時まで避けれる……集中が切れれば、そこで!」

圧倒された状況から盛り返したミューズが強気に言い、くいと指先を楽隊の指揮者のように数度振るう。
その動きに合わせ刃は陣形を変えつつ咲夜を追っていく。

「……ああ、そういう理屈か」
「え?」

そして『得心したような声音』と共に咲夜がナイフを放った。

ザシュッ

『がああ!?』
「……師兄!?」
「……同族、それが貴女の技のタネ」

直後『銀髪の魔術師』、遠巻きに文と戦っていたうちの一人が赤く染まった胸を抱えて倒れた。
するとそれと同時に空中に浮かんでいた刃の一つがサアッと砂塵となって散る。

「黄金錬成、理屈としては単純……空気中から微量金属を『抽出』、それを固体として『圧縮』し、『増殖』後目的の形状に『再構成』する。
ええ、言葉にすれば簡単だけど……ざっと纏めただけでも幾つもの工程がいる、一々それを人の頭でやるというのがそもそも無茶というもの。
……それを貴女達は『同調』で補った、違う?」
「……ぐっ、腐っても錬金術師の系譜か」

指摘しながら彼女はナイフを放ち、直後銀髪の、つまりミューズの同族が倒れる度に振る刃は減っていく。
ニヤリと咲夜は笑うとナイフを両手一杯に手挟む。

「成程、リソースが足りないなら単一より並列で……でも『合わせる』のにハンドサインってのはわかり易かったわよ」

ミューズ等の失敗の原因を指摘し、それから彼女はバッと掌中の凶器を放つ。
無数の刃が四方に跳んでいき、幾つも重なった絶叫の直後刃の雨は完全に途絶えた。

『ぐわあああ!?』
「同志達が……」
「タネがわかればこんなもの、思い返せば『前回』も『仲間の全滅』で貴女は失速していったわね。
……さ、今度こそ終わりよ、ミューズ!」

ドガアッ

「ぐ、があ!?」

別の手を思いつくより速く咲夜が踏み込み、ナイフの『柄側』が呆然とするミューズの胴を強かに打ち据えた。



「はああっ!」
「弾け、神の槍よ!」

ガギィンッ

超能力者の振るう刃と女神の槍が真正面からぶつかり、直後一瞬の硬直の後超能力者の側が後方に弾かれる。
バキバキと歪な音と共に砕けた刃に舌打ちした美琴が慌てて下がった。

「もう、馬鹿力ね!」
「聖人ってのは大体そんなもんだ!」

入れ違う様にヴェントが飛出し槌を振るい、がこれもまた槍の一閃で簡単に受け止められる。

ガギィンッ

「……無駄よ」
「そうかよ、なら……」

落ち着いて受け止めた女神に、ヴェントは一瞬眉根を寄せた後戦場の障害物、美琴に用意させた打撃用の長杖を引き抜くとその勢いのまま振り抜く。

ギュオッ

「なら……喰らいな!」

片手の槌で槍を抑えた状態での追撃、がそれに対しブリュンヒルドは僅かに体を逸らす。

ピュイッ

「……行って」

その背から飛び出した『小鳥』が甲高い声で鳴いて爪を閃かせ、そして直後バギッと鈍い音がし杖が真ん中からへし折れる。

「ああもう、邪魔だなホント!?」
「……感謝、そして反撃よ!」

思わずヴェントが鳥に毒づいた瞬間ブリュンヒルドが槍にギュと力を込める。
それを思い切り振り抜いてヴェントを後退させると、槍を手に女神はそのまま刺突の構えで前へ。

「……おわっと、重!?」
「……神の槍を受けろ!」

がその瞬間『白』が割り込む。

ダンッ

「ガルル、下がって!」

蹈鞴を踏んだ彼女にすぐさま追撃しようとし、だが同時に美琴の隣についていた椛もまた動いていた。
『反撃の主軸』『亀裂の入った槍』をこの状況なら使うと読んだ彼女が自前の曲刀、それと美琴が用意した砂鉄の剣を交差させ構える。

「……武器に、撃ち込みを集中すれば!」
「ちいっ、小癪な……」

ガギィンッ

ヴェントのフォローと同時に『武器の刀身に狙いを絞ったカウンター』、『山の守役』らしい迎撃の剣が槍を挟み込む様に止める。
一瞬ギギッと軋み、がそこで椛は困ったように小さく唸った後後方に跳ぶ。

ブジュッ

「……むう、これは」

直後その場に残した砂鉄の剣が『蕩ける』、槍の刀身に赤土(マグマ)が纏わり付きグツグツと煮え、幾らか熱くなるもこちらは無事な曲刀片手に椛が目を見開く。

「おや厄介な、山製の妖怪製の逸品でも少々危うそうだ……武器破壊狙いで逆にこれとは」
「……簡単に折れると思ないで、これは主神が持つに相応しき神槍よ」

少し肝が冷えたのか意趣返しにそう言うと、ブリュンヒルドはバッと合図するように手を掲げる。
するとバサバサと羽音の後、無数の小鳥たちが嘴と爪を輝かせ頭上で群れを成した。

「仕掛けろ!」
「それは……断じて断る、天狗が鳥葬なんて!」

思わず天狗の矜持、翼とセットで書かれるその種としてのプライドに触ったか椛が牙を剥きながら弾幕を展開する。
次の瞬間、複雑に何重にも弧を描くような光弾と霊体の鳥の群れが真正面から激突した。

ドゴオオォ

「……美琴さん!」
「ええ、交代……ヴェントさん、合わせて!」
「わかってるっての!」

相殺とその余波による衝撃、白髪を暫し揺らした椛はピクと鼻を鳴らした後横に跳ぶ。
すると同時にそこに美琴とヴェントが飛び出、だが同じタイミングでバッと鳥の群れが散って『槍を振り被る女神』の姿が露わとなる。

「行きます、やあっ!」
「風よ、吹きな!」
「……赤土よ、荒れ狂え!」

ズドッドガアアアアァァッ

雷光と風の弾丸、それと燃え滾るマグマの塊が真正面からぶつかり弾け散った。

『……ちっ』
「長引きそうねこれは」
「はあ、全くですね」

双方不発に終わり、ヴェントとブリュンヒルドが同時に苦々しげに舌打ちし、美琴と椛が困ったように顔を見合わせた。

「はあ、それなら……美琴」
「……はい、先輩」

攻撃の失敗にヴェントが嘆息し、それから渋々といった感じで本来敵側である美琴に視線を送る。
その動作にブリュンヒルドが警戒し槍を構え、が次の瞬間その目を驚愕に見開く。

ギュオッ

「……行って」
「何?」

辺りの砂鉄の剣や槌が一旦崩れてワイヤーとなり、それから多頭の蛇のように全てが同時にのたうち暴れまわって槍に切り払われる。
だが一つ二つと鎌首上げ、数を増すそれは段々と辺りに広がっていく。
数秒足らずで百を超え、それに留まらず更に増殖する、そしてその中に『砂鉄と違う色』のワイヤーも。

ザシュッ

『……聖人崩しの儀』
「……え?」

そして『他に紛れる軌道』でそのうち一つがチッと手を掠め、その瞬間『脱力感』が体に伸し掛かった。
カツカツと辺りに散乱する小粒の砂鉄、ワイヤーの残骸を踏み除けながら新たに人影が『二つ』。

「……上手く行った、か」
「は、はあ、プレッシャー半端なかったです……」
「へっ、感謝するよ……天草式の」
「同族、この国の土着か!?」

麻痺したように動かない手首を押さえたブリュンヒルドが憎しみの目で二人を睨んだ。

「……てな訳だ、聖人の血であること突かせて貰った……本来ならリドヴィアにやらせてうちの功績にしたかったんだが(ボソ)」
「……くっ、我ながら忌々しい体だ!」

片手封じられた彼女は毒づきつつ小鳥と共にジリジリと下がる。
だが、彼女は未だ戦意と憎悪にを燃える瞳で辺りを睨んでいて、ヴェント等は新たに加わった神裂と共にそれぞれの得物を手に警戒し包囲する。
らかに諦めてないその様子にどれ程の執念かと戦慄を覚えながら

「だけど、まだ……まだ私は倒れられないのよっ、あの子の為にも!」
(ちっ、こっちが悪者みたい、いや裏稼業だけど……呪殺未遂とその煽りの今回の一件、馬鹿の尻拭いも大変だよ全く……)

明らかに諦めてないその様子にどれ程の執念かと戦慄を覚えながら。



「……やああ!」
「はあっ!」

ガギィンッ

氷の槌と『鳥害注意』の標識が真正面からぶつかり合う。
一瞬競り合い、僅かに顔を顰めてチルノの方が引く、『割れ欠けた槌』をポイと放りつつ飛び退いた。

「……力じゃ分が悪いねやっぱ、なら大弾連打あ!」
「ええい、そんなもの!」

ガギィンッ

ならばとチルノが氷の塊を二つ叩き付け、するとカナは片方を標識で砕き、更に続く二発目を取り巻きの鳥の群れに削り砕かせた。

ガリガリガリィバギンッ

「Thanks、みんな」
「……ちぇー、本人はパワー寄りでも『おまけ』がカバーと」

周りで羽ばたく鳥たちにカナが笑いかけ、その様子にチルノが少し困ったような顔をした。
思ったより周りが面倒で、かといって意外に本人の力が有るので無視もできないのだ。

「……じゃあ、それなら」
「む?」

僅かに悩んだ後チルノはチラと足元を見やる、そっと開いた指先でビシと指した。

バアアアッ

「……舞え」

その瞬間辺りで砕けた氷が舞い上がった。

「……っと!?」
「ここは小技、かな?」

ビュオオオッ

氷混じりの風が吹いたと思えば渦を巻いて、次の瞬間空気中の水分巻き込んでそこに巨大な氷柱を打ち立てた。

「……ふうむ、これでも、か」

がチルノは自分の起こした現象を見て難しそうに眉根寄せる。
不機嫌気に上へと視線をやると、バサバサという音が聞こえた、何重にも聞こえるそれは上から。

「……ちょっと危なかった、結構ギリギリ」
「ちぇ、失敗かあ」

バサバサと羽ばたく鳥達に運ばれたカナがほっと息を吐き、それから『標識だけ中に浮かべた氷柱』の横に降り立つ。
チルノは残念そうに、同時に少し感心もして小鳥から離れた家憑き妖精に言う。

「イイ仲間つれてんじゃん、息も合ってるし」
「どうも……ま、確かに仲間には恵まれてるかな」

言いながらカナは連れの鳥達に微笑み掛け、また氷柱内の標識を再度小鳥の群れに分解し回収すると、そこで一転困った様子でぽつと口を開く。
自分に小鳥達がいて、チルノに上条やミサカやインデックスがいて、だけどそれすらない者も居るのだと。

「私は仲間がいて……でもそれが無い人をどう思う?可哀想と思わないかしら妖精さん?」
「……急に何の話?」
「……可哀想な人の話、ずっと一人ぼっちの……いいえ、一人に『なってしまった』人の話かしら」

そう言った彼女はチラと視線をチルノから別に、遠くで戦う戦女神の方に一瞬だけ移し言った。

「……あの人?」
「ええ、死者の私でもわかる程の……ううん、魂だけの死者だからわかるの、傷だらけの心が」

どこか母性的な穏やかな笑みの後、彼女は武器である標識を構えた。

「ま、同情ね……少し助けてあげたくなったの、はぐれ者同士でもあるし」
「だから、敵地のここにもついてきた?」
「……変わり者一人はせめて殉じてって感じかな」

安い判官びいきと自覚し自嘲気味に笑うカナに、チルノは少し驚いた様子で目を見開いた後拳を開く。
片手に先程のように槌を持ち、もう片方の手に不足分を補うように更に氷の剣を握ると苦笑を浮かべながらカナに答えた。

「アンタ、敵だけどイイ奴だね、手加減はしないけど……アンタともう一人、余裕が有ったら目立たない隠れ場所教えるよ」
「ふふっ、ありがとう、でも……私も手加減はしないわ、女神の伴侶まではそれじゃ助けられないもの」

二人は戦場に場違いな笑みと優しげな視線をそれぞれ交わし、それから一転し弾幕掲げて睨み合った。

ズドンッ

『うひゃ、弾幕はまだ!?』

が睨み合いは轟音と悲鳴で中断される、爆炎に揉まれながら少女が高々と吹っ飛んでいく。
期せず同時に身を竦めたチルノとカナの間に『黒翼の女性吸血鬼』がドサと落ちた。

「……クルミ!?」
「ぐ、うう、やっぱ魔力差が……」
「り、リザレクションしなさい、早く戦線に復帰を!」
「あ、ああ、もうやって……」

半焦げの彼女は魔力で強引に治しながら立ち上がり、がその瞬間すっと上から刺した『影』にその顔がこれ以上なく引き攣る。

「はっはあっ、まだ動けるのか!……息の良い獲物ね、楽しくなってきたわ!」
『げえ、赤い悪魔!?』

カアッと空が深紅に染まる、全力チャージした弾幕両手にレミリアがケラケラと笑った。
慌ててチルノとカナが正反対の方向に距離を取り、そしてその間に取り残されたクルミが半泣きで反撃に出た。

「う、うおお、せめて一太刀……」
「おう、来なさい、同族!」

クルミは上昇しながら鉤爪を振り被り、対するレミリアは弾幕を維持しながら急降下。
そして両者の距離が縮まった次の瞬間、ガチンという音が『一度だけ』鳴った。

「ふっ……」
「……え?」

ニヤリと『歪な姿のレミリア』が、『その胴を巨大蝙蝠に変えた吸血鬼』が『獣の牙で鉤爪を挟み止めた』まま邪悪に笑った。
そしてその体勢からブンと腕を振るい、全開にさせた魔力を乗せた弾幕を解放する。

「捕まえたわよ、同族」
「しまっ、これは……」
「……ええ、チェックってやつね、スカーレットデビル!」

ズドンッ

深紅の弾幕が空中で弾け、そして広がった爆炎が動けないクルミを飲み込んだのだった。

「クルミ!?」
「……おお、流石紅魔館の主」

仲間の危機にカナが叫び、チルノが普段は恐ろしい相手の心強さにほっと安堵する。
が、それに対しトンと空から降り立ったレミリアは僅かに顔を顰めると小さく舌を打った。

「……ちっ」
「レミリア?」
「悪い、まだみたいよ……チェックメイトって言わなくてよかったわ、格好がつかない」
「何を呑気な……」

訝しむチルノにレミリアは未だ煙立ち上る空を示し、するとそこから『大きな影』が一つに『小さな影』無数が順に飛び出す。
バサバサと羽を打つ黒焦げ巨大蝙蝠と、その周りに集まる分身の蝙蝠たちがキイキイと鳴いた。

「個人戦は私の勝ち、でも……これからは団体戦ってとこかしらね、チルノ」
「むうう、やっぱ吸血鬼って厄介……合わせてよね?」
「……クルミ、怪我してて悪いけど小鳥達の反対へ!」

カナを中心に小鳥と蝙蝠、右手側に直属の鳥の霊達が浮かび、逆側に蝙蝠に化けたクルミとその分身が援護すべく素早く位置取りをする。
対するチルノ等はじっと互いを見つめた後、チルノは恐々とした様子で、レミリアは面白がるように笑って並び立った。

「……負けませんよ、可哀想なブリュンヒルド様の邪魔は絶対にさせない!」
「義理堅い人だね、でも……」
「ああ、こちらも負けるか!」

ズドッドガアアア

変則的ながらも二対二、やや変わった戦況の中人外達は己が敵達を睨んだ後展開した弾幕を撃ち合うのだった。





・・・今度こそミューズはノックアウト、また追い詰めつつもある意味他の面々も(外含めて)本気になったところで次回に続く。

以下コメント返信

アカマ様
助っ人達は物欲有り、同情有り・・・ただ元人間なエレンとカナが同情強めな感じですかね。
・・・咲夜さんは普通に力量も経験も上を行きました、引っ張った分ちょっと呆気ないけれどある意味前章の時点で決着ついてたしこんなもんでしょう。

九尾様
そういえば旧作に合わせたような丁度いい面子がと思い至り・・・まあ前の地下決戦同様の2P対決再びみたいな感じで進めてみました。
まあ最後に仰られた通り片方は法力を使う僧侶ですが、一応は捨虫使った(肉体派でも)魔女ということで・・・

パヤ夫様
割とどこかで情が抜け切れない感じですね、彼女の若さもあるけど・・・ああそれに利用している負い目もあるのかも。



[41025] 祭りの夜に星が散る・十九
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/12/03 21:35
「……曲者だあ、ひっとらえろっ」
『おおーっ!』

競技場横で数人のシスターズ(私服で変装済み)が問題児二人、涙子と魔理沙をロープ手に追い回していた。

グルグルギチギチギチッ

「捕縛!」
『……ぐああ』

きつく専門的な、それこそ軍隊がやるようなやり方で拘束された涙子達が苦悶の声を上げる。
自分達の姉妹であり恩人であるミサカの思い出作り、その邪魔させない為に手加減無しだ。

「捕獲完了!」
「ふう、これで……」
『……いやお見事』

パンパンと邪魔者の鎮圧に妹達がほっと息を吐き、それに『応援席の別の席』に感心した様子で座る涙子『達』がパチパチ拍手する。

『いや本気ですねえ妹ちゃん達は』
『ホントホント』『後でお菓子でも送るか』
「……佐天が沢山居る!?」

直後パシャリと捕まえた筈の涙子が、水で精巧に作った人形が崩れシスターズが唖然とする。
それにヒラヒラと四方から涙子『達』が悪戯っぽく笑いながら手を振った。

『ふ、甘い、こっちは電撃耐性持ちよ!』
『痺れが抜けた瞬間入れ替わったのさ!』
「……無駄に凝ったことを」

自慢げな様子でピースする涙子と捕獲回避のダミー達にシスターズが呆れ顔で肩を落としたのだった。

『ま、程よく一波乱起こせたしこれ以上はやらないって』
「一応は信じます、嘘ならお姉様に言いつけてやる……」
「……おおい、私も助けて欲しいぜ」
「……ごめん、忘れてたよ、魔理沙さん」
「……あっ自分だけ逃げたんだ」

困ったように言い合う最中、一人だけ取り残された魔理沙がションボリ顔で愚痴る、簀巻きで器用にぴょんぴょん跳ぶと周りに助けを求める。

「……私も解けよう!」
「いやあ妹ちゃん達の目が怖いので」
「ええとアリスにパチュリー、ヘルプミー!」
「うーん、娘の友達の家族の邪魔は……パチュリーは?」
「悪いわね、小悪魔絡みであっち寄りの立場だから」
「……あー、それならしゃあねえな」

が涙子はシスターズに視線に降参し、アリスとパチュリーはそれぞれの関係者に気を遣いすまなそうに断りの言葉を返した。
ガクと魔理沙は肩を落とすと手が使えないまま器用に体育座りに。

「まあ、もう十分場を荒らしたし野z……応援だな」
「野次って言いかけた今っ!?」

思わず零れたらしき言葉を聞きとがめた妹達が睨み、が魔理沙は彼女らしい面の皮の厚さのままに下手くそな口笛吹いてそっぽを向いた。
そして、そんな外野が言い合う間も競技場内の騎馬戦(超能力者&おまけ付き)は更に混乱を深めていく。

「喰らえ、念動フルパワー……すごパ連打だああ!」
「自重しないな、超能力者……ならこっちは幻想殺しだ!」
「弾幕消しのプロを舐めるなよ!」

元々勢いで生きてる超能力者第七位、削板軍覇が祭りの熱に浮かされるように只管衝撃波をまき散らす。
ズドンズドンと轟音が立て続けに響くとその度参加者達が吹き飛ぶ、僅かに逃れられるのは何らかの防御手段を持つ者達だけだ。

「……キリが無い、離れましょう、先輩」
「……だな、煙幕頼んだミサカ、それと走るぞ、転校生に委員長!」
『わ、わかった!』

頭上で周りを確認したミサカが眼下の上条に逃走の指示を出し、頷いた彼が背で腕を組む二人を促し人の波に紛れるように走る。
隣でも似たような結論に至ったか、はたてと黒子も必死な形相の同級生を走らせる。

「まずは妖力チャージ、それに……こっちも下がろう、黒子さん」
「了解ですの……紛れますわよ、婚后先輩、帆風先輩!」
「……あらあら頼もしい後輩ね」
「……まあ了解、七位から『逃げた』女王の代理に発言権無いし」

彼女に続く一人は典型的なお嬢様、対してもう一人はどこか気落ちした表情で頷いて黒子の言葉に従う。
二人とも上から数えた方が早い『大能力者(レベル4)』、騎馬戦の為に常盤台各学年から集めた主力である彼女たちはその責任を果たすべく走り出す。

「第七位が妨害してくるのは予想のうち……他校の全滅が有り得る以上一騎でも残れば、順位面では有利の筈!」
「その為に高位の能力者で組んだんだけど……」
「……六位が逃げたのは正直予想外、まあ破天荒な七位は苦手でしょうが」
「……いや開会式の時点でトラウマぽかったししゃあない」

半泣きの第六位に代理に送り込まれた帆風(六位の腹心)を慰めつつあるいはそんな六位を心配しつつ駆けていく。
そのまま人の波に紛れ、言い方は悪いがそれ等を盾にする為に。

「……ごめん、せめて全体が減るまでは」
「巻き込みます、すみません!」
「待てええ、すごパ連打!」
『ひいっ、来た!?』

二つの組が目についてまとまったところに飛び込んで、直後追ってきた超能力者と無表情少女(と二人を乗せた巨大毛玉)が集団に突っ込む。
衝撃波をばら撒きながら突進してくる妨害者に集団から悲鳴が飛んだ。

『うわあああ、第七位!?』
「ふっ、悪いが全力だ……俺だけじゃないぜ!」
「おうっ、私もだ……とあああああ!!」

そう言って軍覇が徐に真上に腕を組み、するとすかさず跳びあがったこころが軍覇を足場に更に高く跳躍する。
ダンッと勢いよく高みに上がった彼女は服の袖に手を突込み、それからから引き抜いた無数の槍を纏めて肩に担ぐようにする。

「まずは準備から……うりゃあ!」

ズドズドズドッ

彼女は全身を捻ると槍を真下に叩きつけ、集団の間を縫うように競技場の数か所に『設置』する。

「……何だ、外れた、いや外した?」
「そう、それは……足場だ、更に行くぞっ!」

トンと軽やかに槍の一つの上に降り立った彼女が獅子面を手に、ニヤリと(といっても親しい者しかわからないくらいに)邪悪な笑みを浮かべた。
そして直後カッと赤の色が輝く、ボワと仮面から(ほんの僅か出力を下げた)火柱が噴き上がった。

「先ずは祭りだし……花火変わりにこれ、ふぁいあ!」
『うわあああ、容赦無い!?』

流石は同類か、軍覇に続いてこころも容赦なく参加者への攻撃を開始した。
数度の火炎放射、更にそこから別の足場へ跳躍と撹乱かけつつやはり再度の火炎放射で参加者を狙う。

「ふぁいあ、ふぁいあ、ふぁぁいあああぁあ!」
『こっちもこっちでヒドイ!?』
「こころ、いいぞ、頑張れー!」
「た、太子様、おちついて……」
「……ようし、見ててね、もっと頑張るから!」
『止めて!?』

尚祭りというだけでなく身内の応援もあり、更にはしゃぐこころに四方から悲鳴(もしくは無責任な応援への恨み言)が上がった。
腹心の屠自古に肩車して貰い高い位置から声を掛ける神子にこころはグッとガッツポーズ。
そのまま更に調子に乗った彼女は猶も激しく火を噴いて、それで唯でさえ軍覇の衝撃波で乱れていた人の群れは更に散り散りになっていく。

『うひゃ、第七位が崩したとこにあれはきつい……』
『にゃ、あの子凄い、身が軽いし火まで吹いて……あれ、ルール的に良いの?騎馬から離れてるけど?』
『……面白ェから良し、地面に足も着いてねェし』
「……くそ、面白がってるな、第一位め」
「後で覚えてなさいよ!」

呑気に司会席が言う中(一部一位恨みつつ)競技場は更に混沌としていくのだった。



祭りの夜に星が散る・十九



女神が吠えた、痛々しい程の悲哀と情熱と共に。

「まだ私は倒れられないのよっ、あの子の為にも!」
「っ、止まらないか……」

片手を封じられた彼女だが尚も戦意は衰えず、残った片手で強引に神具である槍を振るう。
ズンと石突きを地に叩きつけて衝撃波を周囲に放ち、それでヴェントや椛の近接組を押し退けるとそのまま更に前に踏み込む。

「せいっ!」
「不味っ、カバーを……」

後ろに下がった二人を狙っての刺突、慌てて美琴が電撃を収束させる。
当然カナの送った小鳥が庇い、がそれでも何条か女神の元へ。
がブリュンヒルドはそれを無抵抗に受けた、咄嗟に『盾』とした腕、自由の利かず感覚の覚束ない利き手を焦がしながら刃を振り抜く。

バチイィッ

「こんなもの、気付けに丁度いい……やああああ!」
「……させない、唯閃!」

苦悶の表情で彼女が改めて刃を突き出し、そこに奥から割り込ませた即席のワイヤーの檻が数方向から包囲し取り込もうとする。
だが、苛立たしげな表情でブリュンヒルドが腕を『捻った』瞬間ギュルと切っ先の周囲の大気が『歪んだ』。
『バンという音と共に無差別放射された突風』がワイヤーを四散、更に前を塞ぐように立つ神裂と美琴に襲い掛かった。

「邪魔よ、退けええっ!」
「くっ、一撃一撃が重い……」
「この風、婚后さん以上か」

慌てて神裂と美琴と飛び退る、素早く二人が稼いだ時間で体勢を立て直していたヴェント達も合流。
四人はやや顔を引きつらせながら一瞬顔を見合わせた。

「美琴さん、ご無事で!?」
「な、何とか、でも弱体化してこれ!?」
「諦めろ、文字通り必死なんだろ」
「気迫、精神力か……ですが、相性差ならば」

心配する椛に頷きながらも美琴が愚痴り、幾らか諦観を滲ませるヴェントが宥める横で再度神裂がワイヤーを構える。
ブリュンヒルドの攻撃で舞った土煙に紛れさせたワイヤーを四方から撃ち込む。

ギャリリィッ

「動きを止める、はあっ!」
「……ちっ、しつこい!」

反射的に彼女は槍を一閃し迎撃、更に取り零しを鳥が爪で弾き、がその瞬間視界端から僅かにタイミングずらしたもう一本が。

「今です、五和!」
「……はい、聖人崩し!」

連続だけで少し疲れた様子で、だがそれでも土着魔術師の特効となる一撃。
ヒュッと攻撃直後の敵、その意思の視覚を縫うように魔力を帯びたワイヤーが戦女神の二の腕辺りに何重にも巻きつく。
まずジクジクとした鈍痛、直後全身に脱力感と女神の体を縛った。

「このまま封じて……」
「……ま、だっ、舐めるなああ」
「……何!?」

ブチブチイィッ

が戦女神は尚も前へ、その膂力で拘束を引き千切り前に、それで拘束部の皮膚をズタズタにしながらの更に前へ前へ。

「……っ、聖人対策の術式が!?」
「まだっ、続けろ!」
「ああ、効かない筈が無い!」
「なら、こっちも援護を……」

ガギィンッ

今度はやり返すようにヴェントと椛、それに神裂、即席で組んだ三人がそれぞれの得物を叩きつけ『振り抜く直前の槍』を止めた。

「重いが大振りの攻撃なら……」
「……ちっ、ならばカナの眷属よ!」

攻撃の不発に彼女は舌打ちし、刃を引き戻しながら部下の眷属に隙を埋めさせるように指示を出す。
彼等は空中からスコールのように突撃を敢行、それを見たヴェント等は寸前散開し躱す。

「ちっ、本人もやばいがおまけも邪魔か……だけど」
「……こっちの準備は十分、聖人崩しとやらをもう一度!」
「……は、はい!」

先制した三人が稼いでみせた幾らかの時間、それで神裂の代わりに牽制を請け負った美琴が動く。
彼女は神裂がやったようにワイヤーを浮かばせると、隣で構える五和に頷いた後用意した攻撃を解放し放つ。

「うりゃああ!」
「……や、やああ!」
「……っ、しつこい」

ガギィンッ

四方から撃ち込まれるワイヤー、だが今度は予想していたブリュンヒルドは落ち着いて切り払う。
が更に攻撃は続く、美琴が辺りに散った残骸を磁力で強引に集め直しワイヤーに作り変える。

ギャリリィッ

「まだまだあ!」
「ええい、そう何度も」

しつこく仕掛ける拘束にブリュンヒルドも顔を顰めつつ刃を振るう、二度三度と刃を振り回し迫りくる砂鉄製の『檻』を片っ端から叩き壊し。

バギィッ

そして『ポイと放られた紫電帯びるコイン』までも槍が両断した。

バチバチバチィッ

「……っ!?」
「掛かった、今よ!」

限界まで能力を使った一枚のコイン、その物理的強度の崩壊ギリギリまで電流を流し込んだコインが接触の瞬間内包していた火力を解放した。
それは直にブリュンヒルドの体を焼き、彼女の意識を一瞬飛ばす。

「聖人崩し……今度こそ!」

ヒュバッ

すかさず五和がワイヤーを放った、槍を握る手首に、更に念を入れて四肢全てに何重にも絡みつかせた。
動きを物理的に封じ、その上で儀式じみた術式が聖人特有の魔力を蝕む。
物理と魔術面両方からの二重の封印、拘束成功を確信した五和にしかし相手は睨み返す。

「捉えたっ、その血が有る限り……」
「……ならば、『血』を捨てよう」
「……え?」

ブツンッ

女神の目には未だ戦意は輝いていて、それを証明するように彼女は不自然な体なのに未だ前進する。
その動きで体を引き裂かれつつ強引な前進、ワイヤーを千切り同時にその身を裂きながら女神が更に進む。

ブツンッ

「確かに私は聖人だけど……」

血煙追わせつつ彼女は前へ、最早悪鬼の如き形相でその足を進める、正気を疑う自傷行為じみた進軍を繰り返す。

ブツンッ

「……それは『半分』だけよ」

女神ではなく鬼に相応しい様相となった彼女が槍を振り被る。
その迫力に相対する者達が一瞬固まる、特に反応が鈍ったのは集中直後なのもあり美琴、そして聖人をよく知る故に驚きの大きい神裂と五和だ。
それに対し女神は『聖人とは別の魔力』を込めて槍を大上段に構え、その瞬間ゴウッと勢いよく槍を中心に風が渦巻いた。

「この身は『神代の女神』の系譜……」
「離れろ、そいつ……物理的に『聖人の血』を排除しやがった!?」
「遅い、神槍よ!」

ゴウォォッ

自傷によりその体質に依存する聖人の血(弱点)を強引に克服し、それと同時に『聖人崩し』の効能が薄まり自由となった両手で強引にワイヤーを払い除ける。
そして彼女は血だらけのまま『そのまま残った戦女神由来の魔力』を全開にした。
ブワッと激しく風が巻き起こり、更にそれに乗せ加速させるように圧縮した水と赤土を散弾の如く乱射した。

ドガアアアアッ

「喰らえ、はああああ!」
『ぐ、しまっ!?』

全開の『槍』が美琴達三人と、そのフォローに向かいかけ自身の防御が疎かになったヴェントと椛に襲い掛かった。

カッ

「……させない、二重結界」

が、寸前で重なった光が止めた。

ガギィンッ

「博麗の!?」
「……捕虜の尋問が終わってね、ギリギリかしら」

水の塊と赤土を一枚めの結界が受け止める、ギシギシと軋むそれを支えた霊夢が引き攣り顔で説明する。

「……事情は大体聞き出した、一応聞くけど説得は無理かしらやっぱり」
「愚問、私の邪魔する以上全て敵……力付くで退いてもらうわ」
「そう、力付くか、ならこちらも……『そう』するわね」

結界越しに睨み合う二人、念の為に送った勧告を跳ね除けられた霊夢は嘆息後追加で弾幕に霊力を送る。
更に『二枚』、前で軋む一枚目とそれを支える二枚目に追加される。

「もういっちょ二重結界、いやこれも四重結界になるのかしら……ま、兎も角戦闘再開ね」
「ふん、神職なのに好戦的ね……この国の者がみんなそうか個人特有かしらないけど?」
「……多分うちの神社だけね、さて『前のめりの大将首』貰いましょう」
(……理由聞いたら仕方ないけど)

そう内心で同情しながらも彼女は『敵の弱点』、戦女神の存在に組織が依存しながらもその彼女が前線要因であることを容赦なく突こうとする。
力任せに『四枚の結界』を押し出し、反射的にブリュンヒルドが受けた瞬間後方のヴェントや美琴等に叫ぶ。

「結界の自壊による相殺を……仕切り直しよ、疲れてるなら下がって!」

その言葉に一瞬考えこんで、それから一部は不承不承だが隊列を組み直す。

「一応まだやれると思うが……」
「でも黄色いシスターさんは『切り札』持て余してるでしょ、なのにこの状況でも使わない……時間が掛かるのか周りを巻き込むのか知らないけど」
「ちっ、詮索すんな……すまんが私と美琴は下がる、消耗してるしな」
「ごめん、一休みしたら戻るから!」
「……残ります、山育ちの体力を舐めて貰っては困る」
「……ならば私も、でも聖人崩しが聞かないなら五和は下がらせます」

幾らか悩んだ後ヴェントと美琴と五和が離脱し、残った椛と神裂が霊夢の前に立つ。
そして更に霊夢は封魔針を構えつつ、前衛に召喚を維持していた明羅を加える。

「さあて、戦女神さん……東西の術師による術比べと行きましょう」
「その割に面子が多いけど?」
「そっちは凶器持ち、公平にね……ほら私は僧侶タイプだから前衛は必要だもの」
「……来い、私は、私達はまだやれる!」

笑って戯言を口にする霊夢をギロと睨んでブリュンヒルドが身構えた、鬼気は更に増し狂的なまでと言っていいほどに戦意を高まらせていた。



チャッ

ギラとナイフが輝く、突きつけられた刃にミューズの顔が引き攣る。

「さてミューズ、楽しい拷も……げふんげふん、質疑の時間ね」
「今拷問って言わなかった!?」

物騒なことをいいかけた咲夜にミューズが慌てる、バタバタとボロボロの体を揺するも傷の痛みのせいで自由にならない。
逃げようにも逃げられない彼女に咲夜がナイフを手にジリジリと近づく。
そのやけにゆっくりとした、見せつけるような足取りがミューズを動揺させる。

「ふ、ふふ、お楽しみのお時間ね」
「や、止めろおお!?」
「まあ、敵の主力の情報、それに弱点でも吐けば悪い様には……」

恐怖心を煽ったところで交換条件を口にすれば、ぐっと歯噛みした後ミューズが俯く。

「ぐむ、あの方を裏切る訳には……」

保身を考えないでもないが圧し留まる、そもそも彼女が戦女神を焚きつけた部分もある。
そのことへの責任感から彼女は沈黙し、咲夜は困ったように手持無沙汰にナイフを揺らす。

(……ふむ、主への義理立てか、あるいは『普通でない』手段もいるかしら?)

このままではらちが明かないと、咲夜は魔術的あるいは薬物等の方法を視野に入れつつ方法を変えようか思案する。

ザッ

『っ!?』

そこに『振動』が、小さな足音が誰かが近づくことを知らせる。
援軍かと咲夜は身構え、仲間にきてくれたかと希望の笑みのミューズを押し退けて手挟んだナイフを振り被る。

「ちっ、何や……っ!?」

がそこにいたのは『半透明の魔女』、反射的に放ったナイフが空しく不確かなその影をただ通り過ぎる。
そしてそれは数度揺らめいた後掻き消え、それがいた足元で『ちょこんと座る猫』がにいと小さく鳴く。

「……欺瞞!?」
「正解」

ドガッ

「ぐっ!?」

ビュンと『魔女が持つような捩じれ杖』が振るわれ、『敢えて音を立てさせた使い魔』に気を取られた咲夜を殴りつける。
強かにその肩口を打たれて咲夜が蹈鞴を踏んで怯んで、すかさずその腕からミューズが奪還された。
そのまま彼女を自分の方に引き寄せて『魔法使いの杖を握る金髪の魔女』がにこと笑った。

「……っ、貴女は」
「返してもらうわ、一応仲間だし、治癒の魔術でまだ戦える……簡単に休めるとお思い?せめてその体が擦り切れるまではね?」
「ヒドイこと言うわね、エレン……まあやるけどね、それが責任でしょうし」

二人はそう言い合いながら並び立ち、従妹の復活と白蓮と戦って居た筈の魔女の参戦に咲夜も流石に動揺する。
警戒の表情で間合いを取り直した彼女はその視界の端に近づく影を見た。
必死に走るそれはどこか『左右の動き』がぎこちない。

「咲夜さん、ごめん抜かれた……仕切り直されましたか」
「……聖様!?」

『鈍い灰色に染まった衣装と右半身』という惨状の白蓮に咲夜が心配しつつ安堵し又驚く。
彼女の体はどこか不規則にムラが有るも『無機物』に代わっていた。

「しくじりました……」
「……体が石に、呪い!?」
「……動けるけど体が重い、気を付けて!」

驚愕し目を見開く咲夜、それに対しどこか自慢げにエレンが『片眼瞑って』その口の端を釣り上げた。

「魔女ですから『魔眼』の一つは嗜んでいますわ」
「ああ、魔女ってそういうんだったわね……『引き籠り錬金術師』に『火力馬鹿』に『少女趣味爆弾魔』、追加で『肉体派僧侶』しか周りにいないから」
「……随分偏ったお知り合いですこと」

思わず零れた(魔法使いへの個人的な)偏見に相手に呆れられ、慌てて咲夜がワザとらしく一つ咳し真剣な表情に。
上手く動けないだろうに追いついてきた白蓮をカバーできる位置に着きつつも思わずという風に愚痴った。

「確かに、そういう搦め手は予想外でしたが……勝負を決める詰めのタイミングでなく、今回のような場当たり的な形で使ったのは」
「……ま、こっちにも予想外だったのは認める、全派閥が統率し切れてないから主力の損失は不味いからね」

動揺を堪えつつ咲夜が相手に言葉による牽制、間違いなく切り札である魔眼を今回のような使い方は不本意だというそれに向うも素直に頷く。
が、彼女はそれでも後悔していない表情でミューズに肩を貸して治癒を掛けつつ続けて言った。

「でも、これは理屈じゃないの……可哀想な少女が最後の最後に世界に仕掛けた大喧嘩、付き合い短くとも仲間としては最後までってね」
「……その為なら勝機が細かろうと粘ると」
「……ええ、特にこの錬金術師はブリュンヒルドを嗾けた張本人、『責任』は尚重いから『潰れる』まで戦わないと」
「ちっ、そんなこと言われなくても……エレン、感謝する、私はまだやれるわ」

エレンのどこか棘のある言葉に不承不承頷いてミューズも剣を構え、勢い戻った彼女に咲夜は深々と息を吐いた。

「はああ、ホント面倒な子、悪い遊びを知れと言ったけど悪い仲間をとは言ってないわよ?」
「……いや悪いとしたら私の過去の行動、私の性根だろう……もう少し付き合えよ、十六夜」
「……良いわ、そっちが折れるまで相手してあげる」

咲夜は嘆息の後武器を構えた、この力量で圧倒し一族総掛かりの切り札を破り、だけどその二つで折れかけたミューズは魔女の援軍で立ち直った。
三度目となる完全なる勝利、それでこそ相手を『その心まで折るべく』その両手に刃を握る。
そしてその隣に並んで白蓮も辛うじて無事な左手に独鈷杵を構える。

「今度こそ仕留める……聖様、戦うなとは言いませんが無理はしないように」
「わかってます、流石に魔眼を受けてはね……援護に専念します、主攻は任せました」
「……ええ、では行きますよ!」

一対一から一個人対一族を経て、二対二となった戦場で咲夜と白蓮が錬金術師と魔女に挑む。
ナイフに長剣に独鈷杵、三つの刃物と杖と魔法、混沌とした線上に相応しい混沌とした攻撃が無数に飛び交っていく。

「落ちなさい、頑固者にお人好し魔女め!」
「……魔眼の礼、返します!」
『……勝てないまでも食い下がってやる、女神の為に!』

ガギィィンッッ

雑多に混じり合う弾幕の中、少女達は得物を手にその意地のままに激突する。





前回前々回からフリーだった霊夢&咲夜にカメラが当たったところで続く・・・
あっ今更ですが戦女神様が原作より『拗れて』ますがほぼ単独犯の原作と違い共犯者の存在が悪い方に出てます、少なくとも彼女に関しては現時点悪い面ばかりか。

以下コメント返信
九尾様
いやまあどこかしら非常識というか、悪戯心が有るのが大体の東方キャラですから・・・チルノや善人設定のカナとか書いててオアシスだなと自分でも思う・・・

アカマ様
この主従チョイ役でも主役格でも美味しい場面持っていきがちなんですよね、というか原作からしてこの人達は何時も楽しそうで・・・
・・・因みに士気はそのまま女神の忠誠もしくは同情心に直結してます、その意味では原作ゲームの描写が少なく曲者部分の無い旧作組がこうのは自然なのかな?



[41025] 祭りの夜に星が散る・二十
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/12/03 21:35
「敵はひい、ふみの……ようし、連続火炎放射だ!」

ズドンッ

『させるかあっ!』
「ちいっ、天狗に異能持ちか!」

トントンと左右飛び回り撹乱しながらのこころの弾幕、がそれをミサカに上条、はたての組が必死にそれぞれ凌ぐ。
上条は後ろ二人に一時上を支えさせると右腕で火を防ぎ、常盤台助っ人のはたては騎馬の頂点で弾幕消しの連射を行う。。
それで一瞬妨害の炎が掻き消え、すかさずそこからミサカと黒子が反撃に移る。

「……反撃です、やあ!」
「なら、合わせるですの!」

相手の着地に合わせるようにミサカの電撃、更に黒子が僅かに残る炎を相手の背後に『移動』させる。
即席の逃げ場を封じたうえでの同時攻撃、こころの顔が一瞬ピクと揺れた。

『当たって!』

ピシャンッ

空気を切り裂いて電光が瞬いて、が次の瞬間ミサカの表情が訝しげに歪む。

「……っ、手ごたえが?」
「……少し怖かった」

怪訝そうに呟いた瞬間『頭上からの声』、電撃の先には『焦げた翁の面』と『僅かに焼け残った糸屑』だけが。

「怒声の土雲、今回は防御と回避用だけどね」
「……糸を壁にしつつ足場に!?」
「……正解、じゃ今度は私だ!」

素顔の彼女は笑ったつもりか頬をぴくつかせ、それから『ひょっとこ面』、再度火炎放射用の面を被る。

「不味い、次が来る!?」
「……下がって、火炎放射は防ぐ、でもそこでチャージに入るよ!?」
「……ならその間俺が防ぐ、大会的にライバルだが今は呉越同舟だ!」

ボウッガギィンッ

咄嗟に媒介の携帯真上に掲げたはたての術、そしてその隣カバー役の上条の右腕がこころの弾幕を協力して弾いた。
元からなかったように掻き消され、あるいはグシャと握り潰された炎に手近な足場に移ったこころが唸った。

『ぬうっ手ごわい……だが燃える、もっと行くぞオッ!!』

即席で組んだ二組の健闘にこころが悔しがりつつも更に興奮し、がそこに別集団に特攻中の軍覇が笑いながら問いかけた。

「おお、中々粘るなあ……手伝いは要るかあ?」
「ま、まだ大丈夫……だからこっちの得物取らないでね、同士よ!」
「へいへい了解、こっちが『片付く』まではな」

まだやれるとアピールする彼女に苦笑しながら、軍覇は手近な騎馬を幾らか手加減した力で殴り倒した。
友人の援護と、自身も手強そうなあっちで暴れたいなという少しの欲でその目はギラついていた。

「うわあ、後半戦あれも来るのか」
「あちらの騎馬には災難ですが、何とか時間稼ぎを」
「……向うの『肉盾』、もう少し頑張るですの!」
「……黒子さん、それはそれで結構酷いよ」
「言ってる場合かあ、神の舞いを見ろっ!」
『弾幕無しならな!』

そんな会話にミサカに上条、中等部の組が恐れ戦いて、そしてそれに構わずこころが長刀を手に飛び掛かる。
軍覇の言葉に更に燃えた彼女に一同は心底から突っ込むしかなかった。



(……災難だなあ、あの人達)

激戦続く競技場、それに司会席側も慌ただしく無事なもの落ちたもの厳しくチェックしていく。
小悪魔の肩車で視界を確保した打ち止め(片手に望遠鏡)がカウントする。

「よっほっと、打ち止めちゃん、見えるー?」
「うん、大丈夫……―――高、二組脱落で残り一組、―――校中等部、全滅!」
「りょーかい、今聞こえたところは場外に出てねー!」

素早くフレメアが手元の残存リスト表と確認しアナウンス、競技場の状況の推移を告げるのだった。
そのペースは軍覇等のテンションに比例し更に加速し続けるので単純作業でも中々忙しい。

「……あらまあ、リスト表の面々大分減ってますね」
「あンだけ暴れればそりゃなァ……」

カウントとアナウンス役の三人の隣、こちらも作業中の氷華と一方通行は呆れたような顔だ。
既に出た脱落者を書き留め纏める氷華、それに流石に競技進行で忙しくなったので真面目に手伝う一方通行がリスト見つつ嘆息する。
但し一方通行の方は幾らか不埒なものだったが。

「無駄に派手だが……ストレス解消には良さそうだ、俺も参加するべきだったか」
「……流石に勘弁してくださいよ、学園最強」

明らかに運動会の趣旨に外れた言葉に苦笑気味の指摘、シスターズから無事逃げてきた涙子がカートをカラカラ押しつつ突っ込みを入れた。

「霊夢さんはいないけど、他の郷の子に言っちゃいますよ?……炊き出しでーす、水分取ったら?」
「冗談だよ冗談……」
「あっ、差し入れありがとー」
「手軽に食えるサンドウィッチもどうぞ」

超能力者の牽制と同時に飲食物を配っていって、(一方通行以外の)一同が作業しながら小さく頭を下げる。
そして人数分手早く配った彼女は『背中に張り付いていた金髪の少女』を最後に氷華に手渡した。

「……それと、配布用カート数台食い潰した宵闇妖怪も」
「……ルーミアちゃん、何してるの」
「ご飯食べてたら捕まったー」
「因みに今配った食料、私とボランティアで必死に守った物です」
「本当に底なしだな、こいつ」
「ええとご苦労様」
『有難く頂きます……』

どうやら腹ペコ妖怪の対処に走り回っていたらしい(向うでは疲れた様子で屠自古や布都等がボランティアと共にへばっていた)
それに呆れ労いながら一同は感謝と共に差し入れの品に手を付けたのだった。

「……で、外はどうなってる?」
「割と硬直中かな、槍使いの女と他の分断はうまくできたと思うけど」

そしてそれに周りが気を取られている間に、一方通行と涙子は『結界内の戦い』について密かに話し始めた。
彼女はシュルシュルと呼び寄せた偵察の蛇の『鳴き声』通訳からの説明。

「主要な戦場は既に何箇所化に分かれてます、状況が変わるとしたら……」
「そこの決着如何か」
「ええ、恐らくは」

一方通行に頷きつつチラと結界の方を見やった。

「……そろそろ準備しましょう、勝敗が決まる所も出る頃合いでしょうから」

ひそひそと言葉を交わし、二人は油断のない表情で戦場に思い馳せるのだった。



祭りの夜に星が散る・二十



「やああっ!」
「どりゃあああ!」
「……ちいいっ、二人掛かり、だけど!」

ガギィンッ

氷で作り出した槍と吸血鬼の鉤爪、左右から振るわれたそれを家憑き妖精(シルキー)のカナが必死に防ぐ。
咄嗟に掲げた鈍器代わりの道路標識で受け止め、が二人掛かりの攻撃にギシと嫌な音を立てる。

「……きついか、け、眷属にクルミ!」

キイッッ

軋む獲物と腕への重みに顔を顰め、カナは蹈鞴を踏みつつ間合いを取ると眷属等に呼びかける。
するとバッと鳥の群れ、それに蝙蝠が四方から同時に跳びかかった。

「ちぇ、囲んでくるか」
「ま、質より量、仕方ない……散るぞ」

トンと残念そうな顔でチルノとレミリアが左右に跳んで、それを見たカナの眷属とクルミの分身も追うように散開する。

「おわっと、来るなっての!?」

ブンブンと氷の羽を振り回してチルノが嘴で突いてくる鳥を払う。

「……ふむ、少し癪ね」

が、逆に飛んだレミリアは違った、彼女は仲間の援護で余裕を取り戻し安堵するカナに邪悪な笑みを向ける。
ニヤリと笑った彼女は『弾幕を維持した状態のまま』その身をクルミ(分身)の騎馬に晒した。

「……こういうのはどう?」
「……なっ、無防備で受けた!?」
「ふふ、嫌がらせしてみましょう……最悪笑って誤魔化すということで」

がっしりと牙を喰いこませたままレミリアは両手を掲げて真っ赤に輝かせ、それをチルノと彼女を追う鳥たちの方に向ける。

「ふっ、スカーレットデビル……避けなさい、チルノ!」
「おわああっ!?」

ズドンと深紅の閃光が放たれて、慌ててそこに跳んだチルノの服の端と、後ろからの弾幕に気づけなかった鳥を飲み込んだ。
真っ青な顔でチルノが無茶苦茶やった吸血鬼を睨む。

「な、何考えてるのちょっと!?」
「はは、援護だって……ほら、本命に行きなさい」
「……後で覚えてろよ!?」
「……無茶するわねアンタ等」

怒りながらも仲間割れする気になれずチルノは一瞬睨んだ後弾幕を、その光景に呆れつつカナも道路標識を改めて構えた。

「……でも、そうするなら……それでそれでこっちにも好都合なんだけど」
「何だって?」

が相対したところでカナがそう呟き、チルノが訝しんだ所で後ろの異変に気付く。
そこではレミリアが力任せに蝙蝠を剥がしていて、がその半数程が突然散ったのだ、そしてキイキイと笑うように鳴いた。

ブワッ

散開したそれ等はレミリアの背後で再度終結する。

ガシッ

「……む?」
「こっちも嫌がらせしてやるよ、お嬢さん?」

分裂状態から再度戻ったボロボロの吸血鬼、クルミはそのまま翼を広げると魔力を全開にしながら飛び上がる。
当然レミリアを、一度自分に地につけた相手を捉えたまま。

「さっきのは負けを認める、でも……一矢くらいは報いないとね」
「……ちっ、吸血鬼の癖に堅実じゃないか!?」

その表情には皮肉げなな笑みが浮かんでいた、空中のレミリアの顔が得心と同時に驚愕で歪んだ。

「捨て身か」
「……全開で行くよ、そりゃああ!」
「……くっ!?」

ズドンッ

「レミリア!?」
「ふっ、意地を見せますね、クルミ」

近距離、いや接触状態での炸裂した大弾がレミリア、そして黒焦げの彼女自身を高々と吹き飛ばした。
ブスブスとその身を焦がし爆風に揉まれる彼女にチルノが心配げに叫び、それに対し彼女と打ち合いつつカナが仲間の特攻に感嘆する。

「……成程、やる、けど……」

だがその瞬間、弾幕の余波の爆風に、目の前で広がろうとする炎に飲まれようとするレミリアが痛みに耐えつつ笑った。

「(……なら、私の意地も見て貰う!)……咲夜あっ、貴女は『まだ』出るな、ここは私が最後まで!」

そう叫んだ彼女はそこでこの後の対処、そして被害を抑える行動、それ等の後先全く考えずに動く。

ギュオオオォッ

(そちらがそう来るなら……受け身、それと余波分の防御、全て攻撃へと!!)

炸裂した一撃の余波に揉みくちゃの状態で、だが彼女はその対処よりも『槍』の形成へと全力を回した。
そして『やや離れた結界の一角』、『魔術師を蹴散らす同族の気配』をチラと見つつ槍を振り被った。

「気づくかしら、でもまあ……合わせなさい、フラン!」

ドンと勢いよく彼女は『深紅に輝く槍』を投擲、直後頭から地面に落ちて『ぶぎゅ』と泣(鳴)いた。



「うりゃああ!」
『ぐわああ!?』

ブンと有翼に金髪の少女が杖を振るい、ゴキンという音と共に魔術師が天を舞う。
それから少女は集中切れたのか伸びするように体を揺する。

「……ううん、雑魚相手も飽きてきたかな」

そう困ったように言う金髪の少女、フランドールはどうしようかなと小首を傾げたところで『赤い光』に気が付く。
それに馴染んだ気配を感じ、そちらを視線を送ればああと得心する。

「ふん、相変わらずの恰好付けたがり……」

呆れた様子で苦笑し、それから深紅の魔力をその両手に集め『矢』を番えた。

「はいはい、合わせてあげる……貸しよ、格好つけのお姉様?」

ズドンッ

そして吸血鬼の一撃が放たれる。



レミリアとクルミの脱落、驚愕と動揺から抜けたのはほぼ同時だった。

「一対一……でも負けない、やああっ!」
「こちらの台詞よ、妖精!」

ギィンッ

まず放たれたのはチルノの槍、右手に構えたそれが突き出されるもカナは慌てず道路標識の柄部分で逸らす。
が、その瞬間受け止めた手に脱力感、ミューズが訝しんだ先で、チルノは素早く今しがた突いた方を手離し残る一つを構え直していた。

「何?」
「まだまだ行くよ!」

ビュオオッ

冷気が渦巻く、追加されたそれは残る槍を核に巨大な鉄槌を形作った。

「全力の、グレート……クラッシャー!」
「ちいいっ!?」

ゴウッッ

先程の数倍の質量が振り抜かれた、慌ててカナが両手で構えた標識で受けるもギシリと激しい重みが伸し掛かる。
よく見れば道路標識に『小さな傷』、『一撃めで穿った亀裂』を氷鎚の軌道が正確に重ねられていた。

「ああ、しまっ……」

ドゴオオッ

「どりゃあああ!」
「ぐ、ああ……」

衝撃にカナが苦悶の声を上げる、防御の道路標識を砕かれ槌で肩を強かに撃たれ、慌てて下がるもそこで彼女の表情が『最悪の光景』に驚愕に歪む。
槌を振り抜いたチルノの肩越し、そこに迫る『深紅の光』がギラリと怪しく輝く。

「ふふっ、あたい『達』連係、凌げる?」
「何を!?」

巻き込み上等かと慌てた瞬間、フッとチルノの姿が視界から消えた。

「とりゃ!」
「っ!?」

声は足元から、素早く屈んだチルノが地面すれすれの体勢から足を払う。
意表を突かれたカナは反応できず、その体が一瞬空を舞った。

「あう、しまっ……」
「先行っとくけど……吸血鬼の弾幕、痛いよ?」

そしてそれをやったチルノは悠々と下がり、それと代りに『深紅の槍』が着弾しようとする。

「か、躱せない……冗談じゃないわよう!?」

バアアッ

慌てて防御を諦めたカナが空中で弾幕を展開、扇状に放射された閃光が弧を描いて何重にも槍を抑え込もうとする。

「くっ、何とかこれで……」
「……あたいさ、『あたい達』って言ったよね、『あたいと吸血鬼』じゃなくて」
「……え?」

ギュオオッ

その瞬間踏ん張っていたカナの顔が固まった、槍を追うように『深紅に燃える矢』が飛んできたのだ。
そして続いてそれも着弾、深紅の槍と矢、二つの魔力が反発し大きく膨れ上がる。

「……多分滅茶苦茶痛いよ、気を付けてね」
「ちょっ……」

チュドンッ

「たまや、かな?」

トントンと慌てて飛び退ったチルノが屈んだ瞬間、臨界状態の赤の光球が大きく爆ぜて犠牲者を吹き飛ばした。
それはダメージだけでなく致命的な隙、被った土煙を払いながらチルノが立ち上がり弾幕を練りあげる。

「……さあて」
「ぐっ、不味、体が……」
「止めだよ、パーフェクトフリーズ!」

タンっと飛び上がったチルノは空中で体を回転、それで広がった氷の羽が舞い上がった氷混りの土や砂を練り固め『鋭い氷の弾丸』に変わる。
それからグルと『弾丸』は一斉にカナの方に向いた後射出されたのだった。

ドガアアッ

(ぐあっ、見誤った、即席で合わせる程度に相手を知ってて、そう出来るほど本人も機転が効く……だけど『最低限のこと』はやらせて貰うわ!)

だがそこで取ったカナの行動にチルノ達は気づけなかった。
吹き飛ばされながら彼女は密かに自信を構成する霊力、小鳥の群れを自分の魔力込みで四方に散開させたのだ。
散り散りに『彼等』は結界の空を飛翔、そして『主が殉じようとした人』の元へゆっくり集まっていく。

(私はここまで、後は『彼女』の武運を祈るのみ……)



ダンッ

「はああっ」

朽ち掛けた石畳をブリュンヒルドが駆ける。
彼女は飛び交う弾幕が目に入っていないかのように真っ直ぐと、光弾に撃たれだがその処理に手間取るのも面倒とばかりに突き進んでいく。
それこそ防御すら、その僅かな消耗をも惜しんで攻勢に全力を込めて。

キイイッ

「……ちっ、これだから脳筋は、それにおまけまで」

針を投擲しながら霊夢が毒づく、弾幕の中を進む女神、そしてそれに追随する動物霊、群れを成す鳥達に顔を顰める。
体を撃ち据える弾幕構わず前進する彼女達を睨みつつ前衛に指示を出す。

「前衛……天狗に明羅さん、足を止めなさい!」
『了解!』
「……神裂さんはカバー、私の直援よ」
「……承知」

僅かに彼女は弾幕を緩め、すかさずそこに椛と明羅が飛び出す。
念の為に神裂を残したまま前衛が迎撃に走り、がブリュンヒルドは一瞬苛立たしげに目を細めた後動物霊達を見た。

「……邪魔ね、適当に相手してなさい、カナの眷属たち」

キイイッ

その指示に甲高く鳴いて鳥の群れが前に出た。
彼等はバッと一斉に羽ばたき加速したと思うと、半分は椛たちの目の前で壁を形造る。

ガギィンッ

『……何っ!?』

次の瞬間二人が目を剥く、振り下ろされる刃に合わせて鳥の群れは霊体を一瞬崩した後『二羽の巨大な猛禽』に変わったのだ。
『その巨躯』で挟み込む様に白刃を受けた二羽の巨鳥が笑うように鳴く。

ギイッ

「……感謝する、行くぞっ!」

今だと言いたげな鳴き声に頷き女神は加速、武器を止められ動けない椛と明羅の横を一気に抜けた。

「後衛、貰うぞ!」
「……その為の直援、神裂さん!」
「……わかっている、はああ!」

ガギィンッ

女神が飛び掛かり、聖人がそれを阻む、突き出された神槍と鞘から高速で振り抜かれた大太刀が双方の中間で衝突する。
僅かにギギッと噛み合った後二つの刃が弾かれ、それ等はお互いをセンチほど『外れた軌道』で過ぎた。

「ちっ、でも……」

ボウッ

ブリュンヒルドは外した一撃に舌打ちし、がそれでもすぐさま追撃にと(右に槍を保持したまま)逆の手で幾らか熱量落とした『赤土』を掲げた。
そしてその手が焼けるのも構わず、ブンと左手を振り被った。

「巫女に聖人、纏めて……落ちろっ!」
「はっ、それはごめんね……こっちもチャージ済みよ!」

がその程度の無茶やると読んでいた霊夢も気弾を掲げる。

「はあああっ!」
「陰陽玉掌、やあ!」

ドゴオッ

直後二つ重なって轟音、激しい衝撃が走りだけど『それだけ』で終わった。

「……これも駄目か、ならば」
「ああもう、手間取らせる、ここは……」

衝撃に押されながら後方に飛び退いた戦女神が槍を構え直し、それと同時に神裂に支えて貰いながら霊夢も迎撃態勢を素早く整えた。
ブンと神槍の一振りで三つの灼熱の塊が形成され、対する霊夢も両掌に光を収束、更にそれに合わせ神裂もワイヤーを振り被った。

「……吹き飛べっ!」
「はっ、断る……一つは任せた、二重結界!」
「了解、七閃!」

バギィンッ

飛び来る三つの灼熱、うち二つを霊夢が作り出した折り重なった結界が相殺。
そしてそれを抜けた最後の一つを聖人の膂力で放たれたワイヤーが受け止め、それから四方から押し潰した。
ブワと霊気の破片と熱を帯びた土煙が舞うに終わり、ブリュンヒルドと霊夢は同時に舌打ちする。

「……ちっ、わかっていたが厄介ね」
「ふん、それに関しては同感……仕切り直すわよ、三人とも」

霊夢は顔を顰めたまま再度の霊力チャージ、そうしながらその時間を稼ぐべく呼び掛けつつバッと後方に飛び退く。
再び間合いを話して霊夢等とブリュンヒルドは睨み合い、がその次の瞬間状況の方が変わった。

ギイッ

「……動物霊がまだ、いや新手!?」

女神を守るのと別の、それまでの戦いで数を減らしたのとは別の群れが霊夢等に襲い掛かった。
慌てて彼女達は散って躱し、弾幕やそれぞれの得物で対処しながら状況を把握しようとする。

「これは……家憑き(シルキー)の魔力、まさかその身を割いて!?」
「……感謝する、カナ」

気弾で群れを追い払う霊夢が目を剥き、それに対しこの援軍に余裕を取り戻したブリュンヒルドが仲間の一人がやったと気づき目を伏せた。
それから新手の側の群れを既にいる群れに合流させつつ得物を構え直す。

「カナがここまで頑張ったのなら……私も負けられない、行くわよ」
「ああもうっ、粘ってくれちゃって!?」

勢いを取り戻した相手に霊夢が毒づく、一つの戦場は終わり、だがそれは戦女神の反撃の始まりでもあった。




・・・て訳で待たせましたが二十話(久々の大台です)まずは中ボスその一その二との決着です(ホントはミューズ側も終えるつもりでしたが増えに増えて・・・)
とりあえず切り良い所で次回に続く、視点多くてややこしいですが段々と整理されるはず・・・

以下コメント返信
九尾様
いやあ出番がまだ先の三魔法使いのその間について書いてみましたが、まだ暇な分非常識さ(禄でもなさ?)際立つことに、でもそろそろ真面目になるかな?
聖人の血云々に関してはブリュンヒルドの背景的にまあ・・・明確に血を疎んでる原作描写のある人物であんな感じ、一人だけシリアスというか空気が違いますね。

アカマ様
このSSの巫女は割と効率主義、というか作者も忘れかけてるが巫女業でなく休暇での戦いなので・・・そりゃもう正々堂々とか最低限の作法とかうっちゃってます。

チャーチルン様
何だかんだ魔理沙と佐天さんはSS初期の第二章から(もう前スレですが)付き合い長い分悪乗りもします、まあ性格的に会うのも有るのでしょうけど。



[41025] 祭りの夜に星が散る・二十一
Name: ベリーイージー◆16a93b51 ID:f172d5c7
Date: 2017/12/03 21:31
祭りの夜に星が散る・二十一



幾つかに分かれた戦線、その一つである錬金術師と魔法使いの戦いに決着が着こうとしていた。

「勝負よ、ミューズ!」
「来い、はああっ!」

まず動いたのは同じルーツを持つ者達、咲夜とミューズが殆ど同時に武器を投擲する。
ガンガンとそれぞれの刃が真正面から衝突し甲高い音を共に地面に落ちていく。

「……エレン!」
「十分、行きます!」

相殺に終わった投擲攻撃、それに続くのは白装束の魔女であるエレン、彼女はミューズが稼いだ僅かな時間で特大の火球を作り上げる。
ボウッと彼女が両手で掲げ持った炎が勢いよく打ち出された。

「……えい、喰らいなさい!」
「させない……咲夜さん、あれは私が」

だが備えていたのは白蓮も同じ、彼女は魔眼により不自由な半身を押して前に出た。

ガギィンッ

独鈷杵を四方に打ち込み、それが形成する光の壁が炎を止める。

「障壁維持、これなら……」
「……そうはさせない」

がその瞬間相手の意識が防御に向いた瞬間ミューズが動いた。
ダンと勢いよく駆け出すと、一度背後にヒラと手を振った後新たな片手剣を抜刀する。

「……エレン、今!」
「……っ、了解!」

そしてここに来て予想外の錬金術師と魔女の連携、走り出したミューズの、『その背』に向かってエレンが火球を放ったのだ。

「何を!?」
「……こうするのよ、はあっ!」

余りに唐突な行動に思わず咲夜達が叫び、だがそれにミューズは刃を『肩越しに突き出すこと』で答えた。
バキィという音と共に火球が砕け、散乱した炎の破片が咲夜たちに白蓮に襲い掛かる。

「……障壁、防ぎます!」
「手伝います、手習い程度だけど……」

ガギィンッ

ギョッとしながらも白蓮が手元の障壁を素早く拡大し、更に素早くその横についた咲夜がややぎこちなく同じく障壁を作り広がる炎を押し留める。
が、それで二人の手が、そして視界までもが不自由となった。
すかさずミューズが赤熱した刃を振り被る、狙いは火球を受けて綻んだ防御結界。

「貰った、はああっ!」
『っ!?』

バギイィッッ

慌てて二人が防御を固めるも強度限界で砕ける結界、そしてそれを見てミューズとエレンがチャンスと言いたげに口の端を釣り上げる。

「エレン、とりあえず三射……速射で!」
「了解よ!」

その呼びかけから撃たれたのは針のように収束させた閃光、ダンダンダンッと速度を重視し連続で放たれる。

「やああっ!」
「……さ、させません!」

咄嗟に咲夜がナイフを振り被る、威力重視から速度、その変化に戸惑いつつ迎撃しようとする。
ヒュッと投擲したナイフが一つ目の光を相殺。

バチチッ

「……私を忘れるな」

が二射目三射目は『横からの白刃』により急に軌道が変化し、投擲したナイフは迎撃できず空振りに終わった。
ニヤリとミューズが『焦げ目の付いた』片手剣を振り抜いたまま邪悪な笑みを浮かべる。

「……そら、どうする!?」
「っ!?」

その言葉に苛立たしげに咲夜が舌打ちしかけ、だがその眼前には既にエレンの放った光が。
思わず反射的に腕で急所を庇おうとし、直後『影』が射した。

「……伏せて!」
「白れ、ええっ!?」

ドンと白蓮が強引に伏せさせつつ飛び出す、まず法具を振り上げる。

ガギィンッ

「切り払う、はああ!」

渾身の力で法具の刃を叩きつけ閃光を真上に逸らし、更にそこから得物を振った反動で全身を回転させる。

「続いて……せやああああ!」
「……ちっ」

ドゴンッ

続いて勢いよく爪先を突出し、魔力を帯びた蹴りの一撃で最後のレーザーを砕いた。

「……ふう、でもさっきまでと違い過ぎる、まさか手動による弾幕の変化なんて……」

がそれを成した白蓮に防いだ安堵や喜びは感じられず、顔を顰めたまま緊張の表情で構える。
今まで幾らか慣れた攻撃が強引に変化でペースを崩され、白蓮が警戒し息を飲む。

「どうします、これは読み切れない……咲夜さん?」
「……うーん、どこか妙な?」

しかしその時咲夜は白蓮と違う感想を抱いた、ふむと新たなナイフを手にしつつ小首を傾げる。

「……何故切り込んでこないのかしら、自分を壁とし誘導性の弾幕を活かすのは良い。
けど、自分が前に出ながらやれなくもない……前に出ない理由がある?」

両手のナイフで弾幕を払いながら彼女は訝しげにミューズを見つめる。
僅かに考え、それから探りを入れるようにヒュッと利き手の方のナイフを投擲する。

チチッ

僅かに下がり躱す、回避したミューズと咲夜の眼が一瞬交差する。

「っ」
「……ふむ?」

だけど相手の眼に迷いを、いや『焦燥』を確かに見て、咲夜は感じた疑問のとっかかりを掴んだ気がした。

(前に出ない、いや……前に出れない、『自分からは動けない』、もしその場で立つ『しか』出来ないとしたら)

長期戦はお互い様だが堕胎のダメージは明らかにこちらに分がある、下手な動きすればボロが出る、そこまで考え咲夜が腑に落ちるような気がした。
回避という尤も消耗の出ない対応を取った、その対応事態に何らかの意味が有ると。

「……一つ試してみましょう」
「咲夜さん?」

抱いた違和感に暫し考えた後咲夜が動いた、唐突に目の前を乱舞する弾幕の中へと踏み込む。
暴挙のようなその行為に白蓮が慌てて止めるも構わず足を進めていく。

ヂッヂヂッ

光がその身を掠め、あるいは走る炎の間を一歩また一歩。

「……っ、流石に痛いわ熱いわ、でも……」
「ちょっと何を、無茶です!?」

思わず白蓮が悲鳴を上げて、だけどそれでも止まらず咲夜は更に進む。
頭上から落ちる光弾をナイフの投擲で相殺し、左右からの誘導弾を動きの緩急で躱す。
そこへ追撃の火球、だが彼女は足を止めず銀の刃を振り抜く。

ガイィンッ

「止まりません、よ……やああっ!」

エレンの弾幕を切り払い、それで空いた空間に身を躍らすと彼女は大きくナイフを振り被った。
その視線の先にはエレンの弾幕を誘導していたミューズ、咲夜が仇敵を睨み叫ぶ。

「行くわよ、ミューズ!」
「……っ、十六夜!?」

咲夜は一本のナイフを振り被り、『一瞬だけの時間停止』でミューズの眼前にそれを飛ばす、躱せないタイミングでだけど防ぐなり弾くなりは出来るような距離。

ズドッ

「……ぐっ」

だけど『無抵抗で』ミューズは喰らった。

「……ああ、やっぱ駄目ね」
『……え?』

わかっていたと言いたげにミューズが呟き、思わず呆然とするエレンと白蓮の前でその身がゆっくりと倒れる。
『治癒で癒し切れないボロボロの少女』に嘆息と、どこか呆れたような視線送りつつ咲夜が横を抜ける。
『そもそも祭りが始まる前からの敗北者』が今更自覚した様に自嘲気味に笑った。

「はは、結局こうなるか……まあ既に負けた身でここまで食いつければ十分ね」
「既に死に体でやせ我慢で立ってたでしょ、しぶと過ぎ」
「……放っとけ、又はどこかの裏切り者の影響かも」
「……無茶をしたものね」
「…………私があの方を巻き込んだから、でもごめんなさい『女神』よ」

そう言って元姉と自称姉に敗北し、本来戦場に立つ資格すら無かった少女がそれでも戦った理由である主に詫びつつ崩れ落ちる。

「ミューズ!?」
「……次は貴女よ、魔女?」
「……くっ!?」

そのまま咲夜は奥のミューズに一瞬冷たい目で睨み、素早く狙いを移して再度ナイフの投擲体勢へ。
慌ててエレンが結界で受け止め、だがそこで結界の上から更なる圧力を受け目を見開く。

「援護します、やああ!」
「感謝を、聖様」
「うあ、重っ……」

ビキキッ

理由は動かない半身を押し咲夜に並んだ白蓮の弾幕、ナイフに続けてのそれが光の壁に亀裂を入れていく。

「ちいいっ、なら……魔眼よ!」
「……させません!」

失われる防御に顔を顰めたエレンは魔力を新たに集め、敵である二人を視界に納めつつ呪いを込めた魔眼の準備に入る。
視界内の生物を石に変える搦め手、それを見た白蓮が慌てて咲夜を背に負うようにする。

「聖様!?」
「下がって!」
「……庇うならまずは貴女、はあああっ!」

既知である故の反応に舌打ちしたくなるのを堪えつつも、エレンはここで一対一に持ち込むべく魔眼の最終工程へ。

カッ

その両眼が怪しく瞬き、そして『ブワリと広がった経典』を灰色の無機物へと変えていた、だけどそれだけで魔眼の効果は消えた。

「……え?」
「……エア巻物、二度目ならね?」

ニッと呪いの視線を巻物で、攻防一体の弾幕で凌いだ白蓮が石となった弾幕の奥で笑う。

「……魔人経典、驚いたかしら」
「嘘、読まれた!?」
「次はこちらから……」
「くっ、させるか!?」

石となった弾幕の奥で白蓮が反撃に移ろうとし、そうはさせじとエレンが咄嗟に小振りの火球を打ち出す。
ボンと火が弾け、唯の物となった経典の破壊により白蓮の姿が露わとなった、その瞬間素早くエレンが二度目の魔眼の術を行使する。

「む、これは……超人……」
「遅いっ……今度こそ封じる、魔眼よ!」

カッと怪しく光が瞬き、三度目となる魔眼が今度こそ『二枚目のスペルカードを手にしていた尼僧』を物言わぬ石像へと変える。

「良し、これで……」

ピシッ

だが安堵した瞬間何かが砕ける音がした、訝しむ彼女は思わず周りを見渡す。
そしてその音は目の前の石像から。

「……何?」
「それは……既に見た、魔力を体に通せばその呪力は!」

ピシピシシッ

石像が『中』から一気に砕け、全身を覆い尽くす石を強引に振り払った生身の白蓮が高々と跳躍する。
クルと石化した等思わせない程軽やかに宙で回転した彼女が右足を一気に振り抜く。

「行きます、超人聖白蓮……からのガルーダの爪、はあっ!」
「嘘、突破され、うあっ!?」

ドガアアアアッッ

力任せの呪いの突破更にそこからの力任せの反撃、完全に虚を突かれたエレンが強烈な蹴りに吹き飛ばされた。
ガッともんどり打って倒れた彼女は慌てて起き上がろうとし、だがそれが完了する前に着地した白蓮が隣へ呼びかける。
エレンが体勢を立て直すよりより早く武器を構え直した咲夜が白蓮の隣を飛び出す。

「咲夜さん!」
「ええ、お覚悟を!」
「うっ、不味……」

ニイッ

「……なんてね」

だがその瞬間引き攣った物ながらもエレンが笑った、『後ろ手に背中側で用意していた火球』をその場で放って自分と咲夜の真ん前で開放する。

「……爆ぜろ!」

ズドンッ

「無茶苦茶な、きゃっ……」
「咲夜さん!?」

咄嗟に刃を交差させて防ぐも咲夜の体勢が崩れる、ニヤリとそれに笑ったエレンが痛みを堪え魔力を練り上げる。

「……痛っ、でも隙あり、今度こそ……行け、大弾!」

ヒュボッ

すかさずエレンが巨大な火球をその手に灯した、再び至近距離で爆ぜさせるつもりだ。
この距離なら十分当てられるし、防がれるなりしてもそれで相手の足が止まる、どちらにしろ不利な近接戦の間合いから逃げる隙が出来る。
魔力を放出しながらエレンの口元に笑みが浮かぶ、命中如何に関わらず距離さえ取れれば彼女の間合いなのだと。

「咲夜さん!?」
「これで……」

反撃による仕切り直し狙い、それが放たれた瞬間咲夜の顔が引き攣り白蓮が思わず叫び、逆にエレンは会心の笑みを浮かべる。

「……このまま爆ぜさせて……」

バチンッ

そして『巨大な水泡』が炎を飲んだ後弾けた。

『……え?』
「水符……ジェリーフィッシュプリンセス」

ニヤリと小柄な影が微笑する、結界の境から現れた紫の魔女がスペルカードを手に勝ち誇るように笑っていた。
退屈さと幾らか真面目な理由で珍しく自分から動いたパチュリーが苦笑し言う。

「ふふ、来ちゃった、魔理沙辺りだとしっちゃかめっちゃかに成るし一足先に……魔女か、話合いそうだけど容赦はしないわ」
「パチュリー様、何というか珍しい……」
「……自分でもそう思う、でも偶には頑張ってる同居人の手伝いにってね?」

ここにいる事と積極な行動にも驚いた咲夜に肩を竦め、それから促すように彼女の背をそっと押した。

「はい、後はあんたの仕事、悪名高き紅魔館代表として……ブチかましてきなさい!」
「ふふ、了解です!」

ダンッ

その言葉に頷いて咲夜が地を蹴って駆け出し、銀のナイフを一気に振り抜く。

「これで終わりよ、やああっ!」
「……障へ、うあっ!?」

スウと瞬時に防御結界が張られるも斜めにズレて、直後ブツとエレンの肩口から胴まで赤い線が刻まれた。
苦悶に表情歪めながら彼女は咲夜を睨むもそこで限界に達する。

「ぐっ、まだ女神が戦ってるのに……」
「……忠義は感心するけど」

それでも彼女は諦めず小振りの火球をその手に掲げ、だがそれを放つより一瞬早く咲夜が踏み込んだ。
ガツッとナイフの柄がエレンの米神を打ち据え、直後エレンが小さく呻いてその身が傾く。
一瞬後彼女の掌中の炎がボンと空しく爆ぜる。
『執念じみた一瞬の発火』に目を瞬かせながら咲夜が昏倒した魔女を地面に下す。

「……ここまでよ、魔女さん……あら何か違和感が?」

悪足掻きで眩む目が『消えていた従妹』と『何かが引き摺った跡』を見逃したことにその時彼女は気づけなかった。



「結界、はああっ!」
「神槍よ!」

ガギィンッ

これでその日数十を超えただろう応酬、弾幕と神代の礼装が弾かれ合う。
霊夢等は追加された霊の爪や嘴を避けながら女神に攻撃し、ブリュンヒルドは身体能力を頼りにその身で攻撃を受けつつ槍を振るい続ける。

ガギィンッ

「……っとと、符が擦り切れそうね」
「くっ、直撃できれば……」

再び互いの攻撃が弾かれ合い、両者同時に毒づく。
霊夢は槍の刺突を弾いた代りにバラバラになった符を放り捨て、戦女神の少女は弾幕による裂傷を押さえ荒く息を吐く。
ずっと続くこの戦いは長期戦となり削り合いのようになっていた。

「いい加減諦めなさいっての!」
「……そういう訳には行かないの、助けたい子が居るから」
「ああもう、訳在りの相手ってのはホントやり難い……」

『誰か』を思いブリュンヒルドは更なる闘志を燃やし、霊夢は微妙な表情になりつつ迎撃の弾幕を構える。
そこから双方暫し睨み合い、相手の隙を伺い仕掛けようとする。

ジャリ
チィリン

『……何?』

その寸前で、場違いな『鈴の音』。

チリィンッ

『白猫』が女神の背後に現れ、その首輪に揺れる鈴が発てた音が睨み合いを中断させた。

「……っと、あれは」
「……エレンの?」

主の元から抜け出した使い魔がその身を揺らし、その口元に咥えられていた『黒い毛玉』が苦しそうに身じろぎした。
それは数度苦悶の声を上げた後弱々しく羽を伸ばす蝙蝠だった。
エレンの使い魔である使い魔の猫が『僅かな主の魔力』、『別れ際に託された』魔女の魔力を蝙蝠に注いだ。

「それは……クルミ!?」
「……応援ですよ、余計なお世話かもしれないけど」

エレンの使い魔に続いてそう言うミューズ、彼女は荒い息を吐きつつ剣を支えに立つとブリュンヒルドにバツ悪そうに言葉を掛ける。

「申し訳ございません、不覚を取りました……こちらは戦力外、後はブリュンヒルド様と……」

まず主である戦女神を、その次に頭上に小鳥達、そして今しがた女神の元に言った蝙蝠を見やる。
すると人外の眷属に変化が起きる、鳥の群れは一か所に集まると一塊になって『巨大な大烏』へ、更に蝙蝠は体を数度揺すったと思うと突如その身が膨れ上がる。
ブワとそのシルエットは膨張し『鋭い牙をもった巨大な狼』へと。

「そして残る戦力はその人外達……ああ一応『神槍(グングニル)の担い手』に相応しい形か、まあ後は一人と二頭で……」
「ミューズ、貴女がそういうと言う事は他の五派閥は……」
「……まあ散々東の妖かしに撃たれ蹴散らされましたし、もうそちらで頑張って頂ければとしか」

実質自分達は戦力外と苦々しげに答え、それからミューズは静かに女神の背に語りかける。

「私が来たのは責任の為、貴女を巻き込んだ以上立ち会うべきだと……故に既に『詰んだ』我等に構う必要はありません、ブリュンヒルド様」
「……ミューズ?」
「……一人と二体、それを以て敵陣を突破するのです、そして学園都市の研究成果を奪ってしまえばいい。
それで『神の権現』の拡大、可能なら目的の『蘇生』……それでなくとも再起の際に有利と成れるように」

既に自製力を学園都市以上にと望む五派閥の目的は叶えることは不可能で、だがそれと女神自身の目的は必ずも同じではない。
自身だけ五派閥を捨ててこのまま友の蘇生を、あるいはそこまで届かずとも強化した力で一旦引いてから改めて好条件で挑めばいいと女神に言う。

「……ということで、後は我等に構わず自分だけの目的の為に戦ってください」
「……ごめんなさい、折角支えてくれたのに」
「私の台詞ですよ、貴女をこの道に引き込んでしまい……ご武運を」

この言葉にブリュンヒルドは悔しそうに一度頭を下げ、最後に残った大鴉と狼を共に霊夢達の前に立った。
彼女はどこか痛々しくも精々しい、開き直ったような表情で槍を構える。

「……どうやら学園都市打倒は叶わないらしい、でもせめて目的だけは果たさせてもらうわ」
「……ふん、それなら諦めちゃいなさいよ、面倒ね……主が負けるのをそこで見てなさい、咲夜もどき」

それに対し霊夢は覚悟を決た様子のブリュンヒルドに嘆息し、それからミューズの方を見て余計なこと言いやがってとジト目になる。

「お好きに、私は結果を受け入れるだけ……既に十六夜に敗けた、いやそもそも祭り前日に『姉』に敗けたし『義理』で戦っただけだもの」
(ちっ、それでも迷惑なのは変わらないっての、後でその姉とやらに絞ってもらわないと……)

こうして残る戦場は一つ、が増えた敵に更なる戦意、流れが変わったかと霊夢が小さく舌打ちした。



『……さあ騎馬戦もそろそろ後半戦かあ!?』
「ふっ、なら……もっと激しく行くぞ!」

タンタンタンと桃色の髪の少女と左右小刻みに、撹乱するように動き回って空中で傍らの仮面を被った。

「……弾幕、来ます!」
「……まずは炎、とりゃあああ!」
『さ、散開!』

こころが大きく跳んでミサカ達の組とはたて等を一直線に並べて照準、それを見た二組は左右に分かれ炎を躱す。

「ちいいっ、ならば……」

弾幕の不発にこころは残念そうに舌打ちするとひょっとこ面を被った。
小振りの火球を五つつ、うち三つをミサカ達に、残りをはたて等常盤台組へ振り分け放った。

「狂気の火男面、いっけえええ!」
『くっ……』

ドゴオオオッ

慌てて二組はそれぞれの能力や術で対処する、上条が火球二つを右で握り潰し、残りはミサカに黒子、それに黒子の同級生等それぞれの能力で軌道を逸らす。
だがそれでそれなりに妨害者、こころの相手が出来ていた二組が幾らか足止めされる。
この光景にニヤリと笑ったこころが視線を巡らしひょっとこ面のまま火球を四方に。

「次そっち、そしてこれで……その他大勢一気に削る!」
『うわあああっ!?』

ドガガガガッ

精度考え無しの乱射、というより(当たれば怪我確実なので)余波の転倒狙いの弾幕が辺りの生き残りを徹底的に撃ち据える。

「これで……手ごわいのに集中できる、行くよ!」
「ああもう、あの人面倒ですの!?」

辺りを走る炎や煙の中でこころが邪悪に笑い、黒子等が慌てて身構える。

チラ

「……先輩方、前へ」
『わ、わかった!』

だが同時に煙が黒子がしたある仕草を隠した。
彼女は騎馬の仲間に言って前進させつつ、隣で炎を避けていたミサカに上条の組に一瞬視線をやって目配せしてた。

「……ミサカは援護します、気を付けて」
「ええ、任せたですの」

その動作にミサカはこころに気づかれないよう小さく頷き、僅かに距離を取って黒子等の後方に移った。
それを肩越しに確認してから黒子の組がこころへと走る。

「根競べ、行くですの!」
「おお、来い!」

そして『二つの組のやり取り』に気づかずこころはテンションの上がったまま腕を広げ迎え撃つ。

「まずは狂気の火男面、うりゃあ!」
「……容赦ない、けどこっちは温存を考えながら!」

バッと彼女は楽しそうに笑って腕を払いつつ火球を乱射する。
それに対し、黒子は頭上のはたてを静止しつつ視線を後方に、それに頷きミサカがビッと指差し紫電を放つ。

バチイィ

「……やらせません!」
「おっと、真正面からは無理か……」

黒子等の組の頭上を抜けた電撃が火を包む、消すには至らずとも軌道をずらし外させる。
すかさず黒子が横へ抜けていった火球に意識を集中しそれをこころの前方に送り込む。

ボワッ

「うおっ、あツツ!?」
「瞬間移動にはこういう使い方もありますの!」
「……やったな、ならお返し!」

こころは突然の熱気に顔を顰め、それからひょっとこ面から獅子面に素早く取り替え次となる弾幕を。
ブワと火が迸り、目の前の火球を飲み込みつつ黒子等へと勢い良く迫った。

「来る、霊力チャージを……」
「はたてさん、それはまだ……右に跳んで!」
『了解!』

温存を選んだまま黒子達は火線をギリギリで躱し、更にそのまま踏み込むと黒子は駆けつつ右手を突き出す。

「えい、ですの!」
「おおっと!?」

ギィン

慌ててこころが振るわれた拳を長刀の柄で払う、ホッと安堵の息を吐きかけた。
が、直後黒子の後方から風に電撃、黒子の後ろから支える婚后と彼女等のすぐ後ろについていたミサカが援護射撃を行ったのだ。
慌ててこころは真横に跳ぶ、別の槍を足場に着地しふとそこで疑問を覚える。

「あれ、攻撃打と防御を分けるのはいいけど……防御専門の筈のカラス天狗は……」

そう訝しんだ瞬間、ダンッと黒子達の組がさらに加速する、そしてそれに後方ミサカ達も。

「……これは」
「……今です、の!」
『おうっ!』

攻撃を捌いた黒子が叫び、それに複数の声が同時に応える。
声は彼女の上と背後から、黒子達に背負われたはたてがチャージ完了済の携帯を構え、更に黒子組に続く様にミサカに上条達の組が『温存した体力』を前進の為に。
黒子達は後続(本命)の壁となりながら着地したばかりのこころに勢いよく駆けていく。

ダッ

「さあ……退場しなさい、ですの!」
「ええい、我ながら迂闊……」
『おおっと、お邪魔キャラ一号ここで退場かあ!?』

司会の打ち止めの声、それに押されるように二つの騎馬がこころに迫る。
彼女は慌てて弾幕の準備へ、手にしたのは『ひょっとこ面』。

「ちい、下がるか、狂気の火男面……」
「……おっと駄目だよ」

カシャンッ

牽制と足止めの為の弾幕、だが放たれる寸前シャッター音がした。
動揺するこころ、フッと騎馬の頂上で携帯を手にしたはたてが笑った。

「わわっ、歓喜の獅子面!」
「……させない、霊力はまだある!」

カシャンッ

続けて取り出した『獅子面』、だがそれを使おうとした弾幕もはたての十八番である対弾幕妖術が掻き消した。

「くっ、でも……」

が、獅子面を囮にし、こころはその裏から『翁の面』を素早く取り出した。

「……まずっ、フェイント、来るですの!」
「三度目の、正直!」

揚々とこころが構え、が次の瞬間その表情が凍りつく。

ピピッ

「……読んでるっての!」

落ち着き払った表情で油断なく携帯を構える少女、一人前の新聞記者が確かにそこに居た。
単純な経験量こそ文には劣るも短期間ながら劣らぬ質の経験(修羅場)を潜った少女はこの程度で動じない、最早体に染みついたようにスムーズにその術が完了する。

「それも……させないよ!」
「怒声の、くっ!?」

カシャンッ

「……ま、これで私のノルマは終わった感じかな?」

三度目のシャッター音、同じように弾幕が消去された、そして反撃の手は全て失われ数秒こころが無防備になる。

「よくやった、後は……ミサカ!」
「はい!」

そこをミサカに上条等の組が突く、頂きのミサカの手には先の攻防の間に集めた砂鉄の鎖。
鈍く輝く鎖、一塊に纏められたそれは時折バチと鳴りつつ振り被られる。

「っ、まず!?」
「行って!」

ジャララッ

勢い良く放られた砂鉄の鎖は大きく広がりつつこころの頭上を覆いつくし、彼女は咄嗟に手にしていた長刀を横薙ぎにしようとする。

グイッ

「っ!?」
「……おっと、大人しくしてもらおうか」

が構えた槍が止まった、同時に切っ先に纏わせようとした霊力が呆気なく掻き消える。
手元を見れば鎖の間から延びた『手』が柄をしっかりと掴み止めていた。
驚愕しながら視線を辿れると向うの土台の少年の方から。

「……幻想殺し、ま今回はサポートだけど……ミサカ!」
「はいっ、最大電圧!」

バチイッ
「きゃあ!?」

そして直後彼女を鎖が捉え、両腕に絡みついた鎖から伝播した熱がその身に確かなダメージを撃ち込んだ。
ドサと電撃で弛緩した彼女は地に落ち、歓声と共に司会が叫ぶ。

『決まったあああ!』
「……くっ、やるね、貴方……いや貴方『達』、今回は負けを認めてあげる!」
「……それはどうも」
「これで後は……」

悔しそうにしながらの称賛の言葉を受けたミサカ等は安堵しつつも警戒の視線を別の箇所に。

ドサリッ

『……ぐはあ』
「おっと、嬢ちゃんを落としたか、こいつは燃えるな」

そこの持ち受け分を片付けた軍覇がニヤリと笑い、その後毛玉の頭の上で仁王立ちでファイティングポーズを取った。
最終戦といいたげな彼に吊られて競技場の熱は高まり、それを面白がるように見ながら司会席から別の超能力者が立ち上がる。

「……ちょっと行ってくる、そのまま司会やってろ」
「いいけど、サボりはもう終わり?」
「派手そうだしスタッフ共じゃ荷が重いだろうし審判やってくる……この後の準備ついでにな」

ニッとそう笑い言った彼は一瞬視線を別の方、『結界のある方向』を見て言い、それに気づいた応援席の数人も競技場に向かった。

「……折角の大イベント、立会人でもどうでしょう、魔理沙さん?」
「良いぜ、見てても十分楽しいしな」

更に二人、涙子と魔理沙も同じ方向に視線を送りつつ競技場へ、審判を受けた三人が位置に着いたところで軍覇が全身から暑苦しくオーラを放出する。

「……周りの準備もいいみたいだし次鋒戦、行くぜ?」
「しかたない、わかってたがまだまだやる気と……皆さん、準備は?」
「目ぼしい学校は大体落ちた、というかあいつ等が落として……お邪魔キャラ倒して点数総取りでOK?」
『おおっ、問題なし(ですの)!』
「はっはあ、掛かってきな……嬢ちゃんの敵討ちだ!」

軍覇(毛玉)、それにミサカの組と黒子の組が同時に地を蹴った、この大イベントに決着をつけるべく自身の敵へ向かって飛び出す。
大覇星祭後半戦、騎馬戦の最終局面は立ち塞がる超能力者に挑む少年少女という形でついに始まった。




・・・て訳で中ボスが片付いて戦女神戦(あくまで戦女神で大覇聖祭がではない)最後の一戦に、あっついでに競技場の方もクライマックスです。
ちなみに戦女神チームの面子のうち各々のキャラは・・・実は女神と組ませる前提の選出でした。
それぞれ動機が合いそうなミューズに同じ魔術師のエレン・・・実は本命の『カラスと狼』こじつけられそうな残り二人、今考えるとカオスな組み合わせですね・・・
それではまた次回(多分ギリギリ年末か来月上旬で・・・)

以下コメント返信
バグーと様
飼い主というか上司であるブリュンヒルドの熱気につられてる感じ、尤も一部は駄目かもと気づきつつ道ずれ付き合いますと前抜きなのか後ろ向きなのか。

九尾様
・・・いや長期戦だとどうしてもどこかしつこく描写なっちゃいますね、ワンパターンにはしたくないのですが同時に各キャラの違いも描けるので悩みどころ。
情報量に関しては公式(東方は特に黄昏系)参照してくれればと、結構動きとか印象に残ってる絵をそのままの描写にしてるし(霊夢チルノレミリア辺りは特に・・・


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