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[41100] 【H×H】雲外蒼天
Name: ネコま◆fa3bad90 ID:df3a7ba8
Date: 2015/04/05 03:15
予感めいたものなど、何ひとつなかったんだ。

かつての俺はまだ子供で、一人で電車にも乗れない様な気の弱い子供だった。
初めて一人での電車旅。おばあちゃんの家にまで一人だけで行くことが俺の任務だ。
人がわらわらと歩く駅のホーム。
俺は電車が来るまでずっと俯いてポケットに入った定期券をいじっていた。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。
子供の俺の耳に凄まじい音を立ててブレーキする電車。
ごくんと唾を飲み込んで人ごみに押されるまま電車に飛び乗った。
苦しい、それが第一印象だったな。
揺れる電車に身を任せ、時々バッグにぶつかる。

「……ふぅ」

あれから16年と3ヶ月。
俺は晴れて立派なサラリーマンとなった。
会社は結構大きなIT系の企業で、主にシステムの設計や開発などの仕事をしている。

「終わらないぃぃ! ノルマが終わらないよぉぉ!!」

発狂するしかないのかな、うん。
今月分のノルマが全然達成出来ていないのだ。
それどころか先月のノルマも半分出来ずに同僚が肩代わりしてくれたのだった。
山崎さん、感謝してます。今月分のノルマも達成できそうにないです。またお世話になります。
あーこれじゃあいつクビになるかも分かりゃしない。
こんな俺でも雇ってくれてるのは仕事は遅れているが、システムの提案が結構上手くいっているからである。
豊かな発想力を持っているのは子供の時から。
ちなみに将来の夢は漫画家だった。当然無理だけどさ。

「杉村さん! 杉村さん!!」

どんどんどん。
ヤバイ、こっちも地獄だった。
ヨレヨレのTシャツを引っ張りながら「はいはい」とドアを開ける。

「……どうも、大家さん」

ダルそうに返事をすると大家さんからやっぱり「どうもじゃないわよ!!」の台詞が帰ってきた。
家賃どうしよう、四日後に仕送りくるんだよな。
それまで待って下さい、ってダメもとで頼んだらOKしてくれたのにあれは嘘だったんですか大家さん。

「早く払って下さい、先月の分!」

「……あ、やべぇ」

「忘れてたの!? 信じられない!!」

プンプンと怒る大家さん。
仕事の先月の分だけでなく家賃の先月の分もためていたとは。
俺はなんてバカなんだろう。
ああ懐かしなーなんて思っただけでDRAGON BALL全巻集めなきゃ良かった……!
でも全部中古だったんだよ? 全巻セットで6200円でお得だったんだよ。
家賃ためてるのを忘れるとか本当に俺はバカだ。

一人暮らしはやっぱりキツイ。
3年前に大分から東京に上京して一人暮らしを始めた俺。
絶対に綺麗でオシャレに過ごして東京人になってやる! なんて思っていたが、一週間で綺麗でさっぱりとした部屋は汚部屋と化した。
三食コンビニ弁当、朝はコンビニのお惣菜パン一個か二個。
昼と夜はガッツリ丼もの。そろそろ料理できないとな。

「スミマセンでした、はいどうぞ!」

「はい、キッチリ五万円。じゃあね」

そう言って去っていった大家さん。
くそ、早く仕送り送ってくれ母ちゃん!
息子のピンチです、このままではあの脂身の乗った大家さんに料理された挙句干されちゃうよー。
……テレビでもつけるか。
録画したのは何があったっけな、確かバラエティー録っといた気がしたけど。

ポチッ。

〈この春一番の暑さです__次のニュースです。パドキア動物園にうさぎリスの赤ちゃんが__〉

「うさぎリスぅ!?」

ちょっと待って何これ?
うさぎリスなんて動物聞いたことも見たこともない。
あ、何この子めっちゃ可愛い。うさぎの顔にリスの体じゃん。
なんて俺得、いやなんて可愛い動物だ。
でもいつからこんな動物いるんだろ、こんな可愛いならもうとっくにニュースにでもなってるだろうし。

……って何この文字?
いつも字幕が表示される場所に出る謎の記号。
見覚えがあり過ぎるんだが、まさかハンター文字とか……ナイナイナイナイ!!
なんだそれそんな訳がないっつーの、俺どんだけ二次元好きなんだよ。
HUNTER×HUNTERは好きだけども、ね。うん。

「なんだよこの文字……訳わかんねー放送事故?」

だとしたらネットで騒がれてるはず。
パソコンをテーブルの上に置き、起動させる。
Googleを開いたら、さっきの意味不明な記号の羅列。
悪夢だ、時代は変わったのか? 俺違うフォントに変えたっけ?
でもよく見たらナメック語にも似てるような……。
勘違い、それか夢だったと言う事にしよう。
俺の頭の中だけで、Google先生は真面目に起動してくれたが俺には文字が分からなかったので使えなかった。

♪おはようって言ってー、また夢を__。

「はいもしもし、母ちゃん?」

「俊介のケータイだよね? 母ちゃんだよ元気しちょるー?
あ、じゃ~じゃ~用件じゃけんどもう仕送りやめにするんで~ね。
うちもお父さんがお仕事やめちゃって__」

今、悪夢の単語が聞こえた気がした。
仕送りをやめる? そんな、嘘だろ?
今仕送りを止められればこのアパート追い出される。確実に。
これ以上は大家さんは待ってくれない!

「母ちゃん今月分のだけでもお願い!」

「しょうがないな、今月分のだけね。
多分3日後には届くよ、じゃーあねお仕事頑張って」

プツン。切れてしまった。
でも予定より1日早く仕送りが届きそうだ。
良かった良かった、あ……あの変な文字の事聞くの忘れた。
まぁいいか、害はないだろうし。
何かのバグだろ、そう信じるしかない。

「っとー、何見よっかなー」




3日後に無事に届けられた仕送りを大家さんに渡して追い出される危険は去った。
だがあれから3日も経っていると言うのに文字が変わらない。
トリップしたのはあり得ない、んな非現実な。
まぁもしも本当にHUNTER×HUNTERの世界にトリップしてしまったのなら嬉しくないと言えば嘘になる。
だが世界観がヤバイ。死亡フラグ真っ逆さま。
せめて学園モノが良かった、涼宮ハルヒとかさ。
もっとあったよね? まぁ24のオッサン(高校生から見れば)がどうやって絡めばいいって話だけどね。
それだと法律的にヤバくなっちゃうけど、合法だし。

後ノルマは当然の様に山崎様に肩代わりしてもらった。
いつも感謝してます、今度奢るって約束したし。
でもアイツ大食いだから金食われるな、まぁクビにされるよりはマシだけど。
そしてあの文字記号の謎、同僚の林さんから聞いたところハンター文字でしょ寝ぼけてんの? とお説教をくらってしまった。
ハンター文字だなんて、本当に俺は夢を見ているんじゃないかと思ってしまう。
これは集団ドッキリかもしれないなんて周りを警戒していたが、周りはあくまでも普通にいつも通り。
警戒していたこっちがバカだった様に。

「っと、遅刻遅刻ー」

時計がさす9の針。
ネクタイを改めてキュッと締め、カバンを持って戸締りをする。
徒歩で駅まで10分程度、駅から近い物件を選んだのは正解だったと今でも思っている。
あ、犬散歩してる。かんわいー。癒しだよね。
俺も犬とか飼いたいけどスペースもないしお金もないし第一にペット禁止だし。
ダメだよなー、なんて思いながらまた俯く。

「っと、乗ります。スミマセン、スミマセン……」

人混みをかき分けて満員電車に乗り込む。
こう言うのは女子高生が怖い、なんて普通のサラリーマンは思うと思うが出勤時刻が9時45分である俺に死角はない!
まぁ念のため両手でいつも2つのつり革に捕まっているが。



「おはようございまーす!」

「あ、オハヨウ杉村さん……」

あれ?

「おはようございます、西田さん」

「おはよう……」

んん?

「おっはようー! 山崎」

「あー、うん、おはよう杉村」

おかしい、皆が皆しらじらしい。
俺なんかしたっけ? あ、山崎にはいつも迷惑かけてたな。
でも西田さんと林さんにはなんの迷惑もかけてな……。
あ、2人で抜いてるのがばれた?
んな訳ないよな、うん。ばれてたら俺自殺するレベルだしな。

「あ、課長! おはようございます」

「……おはよう杉村くん、話があるんだが、ちょっといいかな?」

「あ、はい」

まさかクビ、だなんてないよな?
冷や汗が止まらない。脇汗がびしょ濡れだ。
スーツの裾で額に浮かぶ汗をバッと拭う。

「異動になった」

「い、異動……!?」

良かったクビじゃない! って異動かい。
この部署にも慣れてたし、皆結構いい人だったのに異動か。
美人多かったし課長や部長は優しいし、なんだかんだでいいところだったのに。残念。
それで皆の態度よそよそしかったのかぁ。

「そうですか、どこに異動ですか?」

「……さっぱりしてるな、君らしいが。君の異動場所は『ハンター系列広報部』だ」

パードゥン?
え、何その部署。ハンターって単語混じってますが?
おっかしいなー課長ってば冗談嫌いな人なのに。
……あれ、マジ?

「課長、冗談キツイっすよ」

「俺は冗談嫌いなの知ってるよな?」

「……はい」

マジらしい、真顔で怒られた。
だがそこが怖い、真顔の奥底の怒りが滲み出ちゃってます課長!
それにしてもハンターってサラリーマンもやるのか?
ハンター系列、という事はもうここがHUNTER×HUNTERの世界であると認識しなきゃな。
でも住んでる所も人の関係もそのままそっくり持ってかれてる感じ。

「ハンター系列広報部のリセさんだ、お前の同僚な」

「あ、よろしくお願いいたします。杉村 俊介です」

「よろしく、リセ=ブランケットです」

リセさん、そう名乗った彼女。
凄い美人だ。いかにも外国! な金髪の髪に青い目。
背も高いな、俺が178cmだから160後半はいってるかもしれない。
なんというか大人しそうな外人美女だ。
この人とこれから仕事するってなるとドキドキするな、俺だって男だし。
いつもの机に置いたカバンを持ち、リセさんについていく。

「あ、ちょっと杉村!」

「ん? 何」

「今日の8時半からお前のお別れパーティーするからさ、8時にこの部署に集合な」

俺は山崎からその事を聞くとオッケーと軽く言った。
お別れの挨拶とかは、そのパーティーで言えばいいか。

エレベーターに乗る。
二人だけ、他に人は乗ってこない。
ここが四階でリセさんが押した階は八階、ここは無駄に高いんだよな。

「…………」

無言が続く。
リセさん何か話題振って!
俺辛くて死にそう、彼女いない歴=年齢舐めんな!
こんな美人と密室で二人きりとか本当にヤバイ。
願っても無いシチュエーション。へへ、にやけそう。

チーン。
エレベーターの8の数字が黄色く光る。
着いたか。

「杉村さん、ここが我々ハンター系列広報部の仕事場です」

「わ、でっか……」

ウィーーン。
しかも自動ドアかよ。
前の部署は普通に開け閉めするやつだったのにな。
部長、怖くないといいな。
俺すぐクビにされそうでめっちゃ震えてる、身体には出てないけど。

「皆さん、杉村さん連れてきました!」

一斉に俺たちの方に振り向く皆。
わぉ、スッゲーカラフルな髪色、さすがHUNTER×HUNTERの世界だな。
俺はリセさんに肘でちょいちょいと突かれ、ハッとして自己紹介をする。

「開発部から来ました、杉村 俊介です。よろしくお願いします」

パチパチパチパチ。
細やかな拍手がおこる。
ニッコリした笑顔で受け入れてくれる。
なんかここでならやってけそうな気がします。

頑張るぜ母ちゃん!



[41100] 1話
Name: ネコま◆fa3bad90 ID:df3a7ba8
Date: 2015/04/05 06:11
「先輩、何食べます?」

「んーカツ丼食うわ、お前は?」

「んじゃ俺は鉄火丼で」

社員食堂の列に並ぶ俺と先輩。
この部署に入ってきてちょうど1ヶ月は経っただろう。
皆良い人で安心した、ハンターと聞いて危ない事があるかもなんて思っていたが思い違いだったらしい。
普通の広報部となんら変わりはなかった。
ちなみにこの先輩は俺が最初に指導してもらったマウロ先輩。
マウロ=モルフェオさん、銀髪に赤い目というなんとも厨二心をくすぐる様な容姿をしたおじさんだ。
年齢は多分30後半だと思う。

「おばちゃん、カツ丼」

「俺は鉄火丼」

「あいよー」

450円、中々安いと思う。
茶色の革の財布から五百円玉を出し、ワンコインで支払いお釣りの50円をおばちゃんから貰った。
先輩のカツ丼は五百円だ。
黄色の小さいコイン程のプレートを渡されて、受け取り口に行く。

「そう言えばお前って結婚しないのか? 結婚はいいぞー」

「あーしたいんスけど、相手がいないんですよ」

「お前さ、幼なじみとかいねぇーの?」

「いませんが、後いても恋愛には発展しないんで」

前に教えてもらったが先輩は娘さんの読む少女漫画にハマり、先輩の中でプチブームになっているらしい。
だからか、発想が子供っつーか乙女っつーか、なんというか。
お見合いしようにも、話が来ないし。何でだよ。俺結構イケメンじゃね?
はい強がりですフツメンですスミマセン。

「カツ丼と鉄火丼の方ー」

「あ、はい」

「はーい」

席について談笑しながら昼飯を食べた。



次の日、出勤したら予想外の出来事が起こった。

「ハンター試験に行ってこい」

「……はい?」

出勤して早々、部長から声をかけられた朝の出来事。
部長はイカれてしまったんだろうか。
可哀想に顔や髪の毛、しまいには正確までイカれてしまうなんて可哀想な部長だ。

「なんか変なこと考えたか?」

俺は必死にブンブン頭を振った。
それにしてもハンター試験? 俺死ぬかもしんない。
ごめんなさい母ちゃん、旅立つ不幸をお許し下さい……。

「いいか、よく聞け。ここに居る奴らは皆プロのハンターだ」

「……マジですか」

ごくりと唾を飲み込む。

「大マジな、そんで1ヶ月経った新入りはハンター試験受けてもらうことに決まってんだ」

「……もしも落っこちたり、死んだら?」

「死んだらドンマイ、落ちたら来年もGO!」

ニッコリ笑顔でバッサリ切らないで下さい。
やはり俺は社畜なんだな、上司には逆らえないよ。

せめてハンター試験受けるんだったらゴンたちと一緒の時期に受けたいなーなんてそんなテンプレは発動しないかさすがに。
確かゴンたちの受ける試験は287期だっけか。

「部長、今ってハンター試験何期ですか?」

「んー確か今年が287期だな」

おぅえまじ!?
嬉しいとかそんな感情より死にそうという恐怖感が勝ってしまう。
あのヒソカも出るんだ、ギタラクルもといイルミもいるし。
というかフルマラソン乗り切れないよ?
俺は5キロ走るだけでバテる人だから。
でもハンター試験の開催日は年末だった、多分。

なんとか鍛えれば10キロは行くとして、あのニコルでさえもあんなに走ったんだ。
第一の脱落者は俺だろうな。

「ということで、仕事始め!」

皆がわらわらと席に戻る。
え、え? 皆なんで平然としてるんだ?
修行とかしなくていいの?
俺すぐ脱落しちゃいますよ、部長。

「あの、修行とか良いんですか?」

「修行? ンなもん要らん、さっさと席に戻れ」

切られてしまった。
どうしよう、俺一次試験で絶対に脱落する。
まさにオワタ(^O^)/



あれから部長の言う通り修行らしい修行はしなかった。
まぁ早朝マラソンとかで1キロくらいは毎朝走ったが、それだけでも大分違うだろう。
そして今日は出発の日、ナビゲータなんかいなくても原作知識のある俺は勝ち組だ。
インターネットで住所検索すれば位置情報が分かる。
Google先生さすがっス!
ちなみに1日でハンター文字は読み書き出来るようになった。
大人舐めんな、って感じだ。

とりあえずペットボトルのお茶とコンビニのおにぎり二つ(しゃけとおかか)、そして一応財布、ケータイetc。
それらをシンプルな黒のレザー素材の肩掛けバックに入れ、肩にさげた。
脱落してもせめて、ゴンたち主人公組にに会えるといいな。
なんて願うしかないんだ。
それがせめてもの希望だから。

「いってきます」

しばらく留守にする部屋を見渡して、鍵を閉めた。
帰ったら、片付けよう。汚すぎる。
さすがに自粛した、こればかりは。



「あ〜〜、乗ります!」

船に飛び乗る。
これはゴンたちの乗っている船なのだろうか。
でもあの赤っ鼻の船長さんがいないところを見ると別ルートかな。
あー、せめて船で一緒なら仲良くなれたのに。
……お茶飲も。

「ようニイちゃん、お前も試験受けるのか?」

「……そうっスけど」

サングラスを掛けた大柄の筋肉ムキムキの男は意地悪そうな顔で言う。
ムカつくな、こういう人を見下してる奴って。
俺のこと絶対に舐めてる、まぁあんたには勝てないけど。

「ギャハハハハ! そのヒョロい体で試験受けんのかよ!!」

俺の腕をひょいと掴んで、座っていた俺を腕だけで宙にぶらさげた。
わーやっぱ筋肉は嘘をつかない程の力持ち。
俺って体重67kgなんだけどな。

「離して下さい」

「……ちっ、腰抜けが」

どさっ。
思いっきり床に叩きつけられた。
別に腰抜け発言した覚えはないけど、俺って無駄にメンタル強いからこう言う事には慣れてるんだよね。

「向こう行ったか」

はぁ、船酔いしないか心配だ。
だと普通の人は思うだろう。
だがしかし! 俺は生まれてこの方一度も乗り物酔いをした事がない!
そして酒でも酔わない、あんまり強いとさすがに酔うけど。
ふふふ、さっきのサングラスの奴もうゲロッちまってるぜ。
さっきまでの威勢はどうしたんだか、皆笑ってる。

そこからの航海は不安な程に順調だった。
不運な嵐に巻き込まれる事もなく、乗り物酔いすることもなく淡々と時間が過ぎていった。
んーそろそろ嵐が来ても良いんだけどね。
そういうスリルも欲しいよね、人間やっぱ死なない程度のスリルは楽しいものだ。


「さーて残ったのは2人だけか、他の奴はだらしないな」

俺の予想通りあの二時間後くらいに嵐が来て、俺と残ったもう一人の奴以外は全員降りてしまった。
彼奴らの方が腰抜けじゃないか。
しかも最初に喧嘩売ってきたあのサングラスだって最初の方で脱落。
精神鍛えてこい、バーカ。

「名前を教えてもらおうか」

「杉山 俊介です」

「ポンズよ」

なんとあのポンズちゃんだったのだ!
うわーもう本物ポンズちゃんマジ美少女だ。
今までの三次元の女なんてこの世界の人見ればもう浮かばなくなっちゃうレベルだよな。
しかしポンズちゃんには是非とも女王蜂コスをして欲しかった。
この服も似合ってるけど、なんとなく地味なんだよなー。
俺は密かに地団駄を踏んだ。

「なぜ試験を受ける?」

「なんでそんなことあんたに__っ」

「待って」

俺の言葉に驚くポンズちゃん。
かっこいい気がする、今の俺はかっこいい気がするぞ!
なんてこんな事を思ってしまえばかっこよさなんて吹き飛ぶのだが。
俺は船長さんとポンズちゃんの間に入り、ポンズちゃんに向かって片手をビシッと突きつけた。
待て、のポーズといえば分かりやすいだろうか。

「俺は言うよ、減るもんじゃないし」

「ほう、では言え」

「俺が試験を受ける理由は仕事のためにハンター証を取らなくちゃいけない、そのためだけだ」

包み隠すことはなく、キッパリと言った。
嘘ついてもメリットは何もない。
嘘じゃないし、嘘言ってないし俺。

「なんの仕事だ?」

そこまで聞くんかい。
俺は腕を組みながら答える。

「ハンター系列広報部、多分知らないだろうけど」

「! ハンター系列、大企業じゃないか、なるほどね」

「ハンター系列にいんのアンタ……」

あれー皆さん驚き?
つっても2人だけか。
ハンター系列ってそんなに凄いことなんだね。
しかも大企業? 何かの間違いじゃ……、まあまあでかい会社ではあるけどさ。

「次はアンタだ、お嬢さん」

よっしポンズちゃんの試験志望理由が聞ける!

「私はただハンターになりたいだけ、志望理由なんてものはないわ。あったとしてもそれを有効に使うのは娯楽のみよ」

わーお、こんな理由だったのか。
志望理由がなし、とは。
確かにハンター証は持っているだけで特別扱いされる。
殆どの公共施設はフリーパス、遊園地とか乗り放題だしな。
まぁそれでお金を消費しないのも良いなぁ。

「……なるほど、じゃああと数時間で着く。待ってな」

「はい」

「分かったわ」

船長さんは船室に戻ったみたいだ。
俺はタルに寄っ掛かり、目を閉じた。
チラリと薄眼を開けてポンズちゃんを見た。
パチリ、うわヤバ目ェあった。
目が合ってしまった、でも目が合ったと言うことはあっちも俺の事を見てたって言う事だよな。

当然の無言の空間。
30分我慢をしたが、もう限界だ。
俺は外の空気を吸いに外へ逃げた。
快晴だ、良い空模様。

それにしてもポンズちゃんはどうやってナビゲーターを見つけるんだろう。
原作ではポンズちゃんの出番はあんまり無かったしな。
俺が連れてってやるか、住所も場所もバッチリだし。
もしかしたら惚れてくれるかも……なんて、うへへ。


「ついたぞー」

がこん、船長さんの言葉と同時に船に衝撃が走る。
陸にぶつかったのか、着陸だ。
早くハンター試験に行っても数時間待ちそうだけど締め切られるとやばいから良いや。

「っと、ついたー」

「ふぅ」

「お疲れさん。二人とも」

いい笑顔で船から降りてくる船長さん。
なんでこうもこの世界の人たちは心優しいんだろうか。
俺泣きそうだわ、でもこれから辛〜い試験が待ってるんだよな。
こなきゃ良かったって後悔してますよ。

「じゃあな」

あれ、アドバイスとか言わないんだ。
じゃあちょうどいい、ポンズちゃんさーそおっと。

「ポンズちゃん」

「……何よ」

「俺場所知ってるんだけど、一緒に来る?」

ポンズちゃんの顔色が変わる。
イェーイ! 美少女とお近づきになれるぞ!
ポンズちゃんは黙って俺の後ろに立った。

「じゃあ住所なんだけど、ザバン市ツバシ町2-5-10ね。じゃあ行こっか」

「えぇ」

ここからだと10分程度でつけるな。
うーんそれにしても何を話そうかなー。
このままだとさっきみたいに無言タイムになっちゃうし。
無言のポンズちゃんも可愛いけど、喋ってる方が可愛いよな!

「君っていくつ? 結構若いよね」

「18歳よ、あなたは……24くらいかしら」

「おー正解! なんで分かったの?」

「見た目よ」

何気ない会話だけど会話が続いたぞ。
このままなんか違和感の無いように次に持っていかなきゃな。
つーか18歳か、青春できるいい時だな。
俺はもう成人して春ももうこないから死にたいよ。
この歳にして童貞っていうね!!
つか6歳差だったのか。

「ポンズちゃんって可愛いよね! 彼氏いたりするでしょ? あ、こっち右ね」

「いないわよ、嫌味のつもり?」

「え? マジで? じゃあ俺狙っちゃおーかなー!」

ギロリ、軽蔑の目で見られた。
酷くね? 軽いジョークだって、半分本気だったけどさ。
それにしても彼氏いないのか、へぇー。
こんな可憐な女の子でもあのマラソンを走れたんだ。
俺もきっと行けるはず!

「あ、ここだよ。ここ」

「……ここが、試験会場。大きいわね」

ごくりと息を飲むポンズちゃん。
勘違いしてるな、隣の定食屋なんだけど。

「ポンズちゃん、こっち」

「……こっち?」

「そう」

「この定食屋?」

「うん」

嘘つかないで! そう言って彼女は怒った。
でも本当なんだよな、俺ってそんなに信用ないか。
俺は半ば無理やりポンズちゃんを定食屋に引きずりこんだ。

「いらっしゃいませー」

「ご注文は?」

「ステーキ定食弱火でじっくり」

「お客さん奥の部屋へどうぞ」

そう言って奥の部屋に通された。
良かったー、もしも別の暗号だったり違う場所だったら俺すっげー赤っ恥かいてたから良かったわ。本当に。
コンクリートに一面覆われた部屋。
その中にジュージューと焼かれるステーキとホカホカのご飯。
タダ飯ぃ! 全部食っとかないとな……。

「あなた食い意地はってるわね」

「うちビンボーだからさ、タダ飯は食っとかなきゃ」

「タダ飯……、これタダなの?」

「多分」

お金を払っている描写はされてないしね。
サービスみたいなものんだろ。
少なくとも俺はそうだと信じたい。



[41100] 2話
Name: ネコま◆fa3bad90 ID:df3a7ba8
Date: 2015/04/07 14:23
「ひゃー人でいっぱい」

「さすがハンター試験だわ」

タダ飯を食らいたい俺は大人気なくもポンズちゃんのステーキ定食の半分を貰いました。
ありがとうポンズちゃん!
いい子だわー、こんな彼女ほすぃー。
絶対出来ないけど。
俺のコミュ力舐めんな(悪い意味で)。
男の前では話せても女の前では話せないって奴?
まぁここに来てからはコミュ力上がったと思う、自分でも。
その証拠にポンズちゃんと普通に話せてるしな、後リセさんとも。

エレベーターが開いた瞬間皆が一斉にこちらに振り向く。
だがその瞬間舐めきった様な態度をとり、すぐ様目線を離された。
まぁポンズちゃんはこんな可愛い女の子だし、俺はヒョロいサラリーマンだしね。
まぁ当たり前の行動か、なんて思いながらそろそろ動き出そうとした瞬間下から声がした。

「プレートです、服にお付け下さい」

「どうも」

「サンキュー」

ワーオ、マーメンだ。可愛い。
意外とマーメン好きなんだよね俺ってば。
そして俺は295番、ポンズちゃんが294番だから一個下か。
さーてとそろそろトンパ来るかな、俺たちルーキーだし一応。
俺は目をつぶりながらパーカーの胸元のポケットにプレートをつけた。

「やぁ、君たち新人だろ?」

「……そーですが」

おいでなすった、新人潰しのトンパ。
コイツ相変わらず鼻が四角いな、絶対結婚出来ないタイプだわ。

大きく四角い特徴的な鼻を擦りながら俺たちに話しかけてくる。
片手には缶ジュース3つが入った袋が握られていた。
そしてポンズちゃんってルーキーだったんですね、初耳。

「何で分かったのかしら」

「さぁね」

ヒソヒソ声で話すポンズちゃん。
まぁ必然的に顔が近くなる訳で、俺得な状況ですよ。へへ。
赤くなった俺の顔を見て、ポンズちゃんは俺の腹に思いっきり鉄拳をくらわした。
酷いポンズちゃん! これ結構痛いわあぁぁ!!

「俺は何せ35回も試験を受けてるからな、まぁベテランってとこだ」

「35回受けてて落ちてるのね……」

「それ言っちゃダメ」

ぼそり、俺にしか聞こえない声で話したポンズちゃん。
それは言っちゃ可哀想だって。
でも35回受けてて死んでないってのが俺的には凄いと思うけどね。
悔しいけどこんなオッサンでもあのフルマラソン乗り切れるんだ。
俺はこのオッサンに負けたんだよな、はー。

「まぁ良いよ、お近づきの印だ! ほらやるよ」

トンパは若干引きつった笑顔で、ジュースを差し出す。
下剤入ってるんだろうな。
貰ったは良いが、後で捨てて置こう。
ってうぇ!? ポンズちゃんが飲もうとしている!
現在進行形で。

「ポンズぅ、ストップ!」

「っえぁ!?」

口に運ぼうとしていたジュースを床に弾き飛ばした。
呆然とするポンズちゃんとトンパ、何だ何だと出てくる外野の野次。

「ちょっとあんた何してんのよ! 私喉渇いてたのに!」

「ちょーっとポンズちゃんストップな。トンパさんすいませんねぇー。また今度」

そう言ってポンズちゃんの腕を掴んで人混みをかき分け壁にヘタリと座り込む。
これで確実に狙われた、疑われた。
アイツ卑怯だから何して来るか溜まったもんじゃない。

「っもう、なんなのよアンタは……」

「アイツさ、新人潰しのトンパって言われてんの。さっきのジュースも下剤入りだよ多分」

まぁこれも原作知識だけどな、なんて心の奥底で感謝した。
もしこれで歴史が変わってたりして本当にトンパが善人だったら俺はサイテーじゃないか。
まぁ怪しまれる様な事したアイツが悪いからな!
自業自得だ、うん。

「新人潰し、ねぇ。あの笑顔胡散臭いと思ったのよー」

「騙されて飲もうとした癖に?」

俺は少し意地悪そうに笑いかけた。
ポンズちゃんは美少女しか許されない仕草「ほっぺたプクー」をやってのけた。
ツンデレ最高、美少女最高。

「後さ、そのポンズちゃんってやめてくれないかしら。ポンズで良いわ」

「えー嘘マジ? んじゃ俺は俊介だからシュンな!」

「はいはい」

名前呼びです、女の子を名前呼びするなんていつぶりだろう。
小学校かな、幼稚園ではちゃん付けで中高大学時代は苗字呼びだったし殆どが。
そしてこのシュンと言うあだ名を呼んでくれる友達がいるのもいい気分だなー。
あ、友達って年齢差じゃないか。

それからケータイを取り出し、部長に無事に着きましたの報告メール。
これは試験をクリアした度に送る報告メールだ、もし困ったことがあれば電話してもいい。なんて言った癖に電話繋がらないぞあのハゲ!
おっとゲフンゲフン。

〔試験会場に着きました〕

ピロリロリーン。
よーし送信完了、そして暇だ。
ちらりと周りを見ると、寝ているポンズに視線が突き刺さっていた。
うわーポンズ無防備すぎだっつの、男の目がギーラギラだよ。
でも遅いかかったら蜂にさされて死ぬよ。

「後何時間だよ全く……」

俺は持ってきたアイマスクをつけ、しばらくの間眠りに浸かった。



「シュン、シュン!」

「んん!?」

「あ、やっと起きた」

重いまぶたを開ける。
目の前にはポンズの顔、そうか寝てたんだっけ。
黒色のアイマスクはポンズがズラしてしまったのだろう、頭の上に乗っかっている。
俺を起こしたという事は試験開始か、サトツさんどこかな。

「アンタやっと起きた、もう三時間経ってるわよ」

「ほぉーもうそんな時間か」

まだぼやけている視界を擦るようにゴシゴシ目をこする。
それにしても何だか蒸し暑い、厚着して来たからかな。
俺は黒い無地のパーカーを脱ぎ、中に来ていた長袖の青と白と黒のチェックのシャツを露出させた。
パーカーは腰に巻いて、カバンはサンタがプレゼントを持つようなカッコをしてサトツさんを探す。

「ジリリリリリリリリリ」

うるさ、上か。
突如鳴り響くけたたましいキーの高い音。
暫くしてそれは誰かの手によって止められた。
バッと上を見ると、髭を生やしたスーツの男性が不安定な足場のパイプの上に立っている。
バランス感覚良いな。

けたたましく鳴り響く舌がべろんと垂れ目玉がギョロギョロとした変な目覚まし時計の様な物を持ったまま、サトツさんは白い髭をくるりと指に巻き付けながら喋り始める。
この地下のトンネルの奥からぶおおと不気味な音が鳴り響き、余計に受験者を怖がらせる。






「__承知しました。第一次試験、405名全員参加ですね」

サトツさんがひょいと身軽そうに飛び降りる。
ついに試験開始。
俺の胸はドクンドクンと鳴り止まない。
走り、きれるだろうか。
その事しか心配じゃない、もしかしたら俺はハンター試験受験者で最下位クラスの力かもしれないのだ。
いや、絶対にそうだと思う。トリップなんて次元を超えた事を経験してしまったが仮にも一般人だしな、俺。
こんなトンデモな奴らと一緒にされてたまるか。
そもそも俺は別次元の人間だ、念が使えるかも分からない。

そんな事を考えているうちに前のヤツが動き始める。
ポンズと目を合わせ、頷く。
こうなったらもうヤケだ。
俺は最初に体力を使ってしまわない様に早歩きの様なペースで小走りをする。



試験が始まってからもう三時間が経った。
多分40kmは走った、前の世界での俺なら多分5kmでギブアップだが今は何故か平気だ。
この空間で走り続けて分かった、あっちの世界より重力が軽いのだ。
おおよそだが10倍程、軽い。
だからかな、もし本当に10倍軽かったら50kmは走れるはずだ。頑張れ俺!

そして三時間ぶっ続けで走り続けている、周囲には汗ひとつかいてない者がたくさん。
くそ、バレない様にしなきゃな。
そう思いながら俺は必死で汗を止める様に、バレない程度に袖で汗を拭った。
ポンズは、チラリと隣に並走する彼女を見る。
汗ひとつかいてやしない、さすがこの世界の住人。別世界だぜ。

あれからペースもどんどん上がってきていやがる。
やっぱりこの世界は重力が軽い、決定だな。

「うおおおおおおお」

この声は……レオリオ?
そうか、あのぶっ走るシーンか。
ここからでも聞こえるということは結構近い?
そしてもう60kmは走った、俺もう限界死んじゃいます(^o^)/

「アンタ、大丈夫? 汗ヤバいけど」

「だい、じょ、ぶっな、はっ、もんかっっ!」

ポンズの心優しい心配も今では辛く感じる。
はっ、息切れヤベェ。今年はもうリタイアか。
でも確か来年はキルアが一人で合格するんだったな、キルアが相手なんて勝ち目なし。
俺は本格的に終わったー。
そこまでしてプロハンターにならなくちゃいけないんだったら会社やめよっかなぁ。
嫌でも今はただせさえ就職難だ、やっぱ辞めるのは無理があるか……。

うーん……。
つーかもうそろそろ限界だ。

「っはぁ、ダメだ、ぁ!!」

「アンタもう!? 早すぎよ!」

「うっせ、っはぁ、俺は一、般人だっ!」

あーこれで俺の不合格は決定か。
もうどうしようもない、奇跡が起きない限り。

「っえ?」

突然身体が宙に浮いた。
なんだ、これ?
と思ったら何か柔らかいところになったぞ、地面じゃないな。
ピンクの……服? にこのでっかい黄色の帽子、まさか……!

「ポンズ!?」

「感謝しなさいよ、まぁ私がここに簡単にこれたのも貴方のおかげだしね」

「ポンズ!! サンキュー!」

ポンズに感謝だ、恩を売っておいて良かった。
でも絵面が悪いな、普通男と女が逆だろうに。
みんなが注目してやがる……くそったれ!
恥ずかしいぜ。

「アンタって重いのね」

「男は誰でも重いっつの」

「まー背負ってあげてるのにその態度、振り落とすわよ」

ポンズの悪意のこもった冗談に思わず「ごめんなさい!」と叫んでしまった。
コイツ意外とSだったりして、なんてね。
なんて場違いな事を考えてしまう、バカだな。うん。




「結構走ったわよね、もう80kmかしら」

「だな」

80kmって言うとちょうどニコルがやられるところか。
御愁傷様でーす、俺には関係ないし。
つかポンズも力持ちだな、俺の事おんぶするなんて。




「……嘘でしょ」

俺は言葉が詰まった。
階段……! そうだ階段の事を忘れていた。
どうしようポンズも俺を背負って走るのは限界だろう。
俺ももう終わりだな。

「ポンズ、おろしていいぜ」

「え? でも……」

「良いよ、俺はもう終わりだ」

背中越しだけど、なんとなく悲しむ様子のポンズの顔が予想できた。
一般人の俺がこんな場違いな場所に来るのがそもそもの間違いだったんだ。
鍛えてもないし、ここまで来れたのが奇跡だろ。
そうとしか、考えることができない。

ポンズは躊躇いながらも俺をおろした。
ポンズは「ごめん!」と言って階段をかけていく。
ルーキーの合格する確率は3年に1人。
先輩たちだって一回で合格出来たわけじゃないんだよな、俺は端のほうに座り込んだ。
手と手の指を合わせ、はぁとため息をつく。

「……来年はキルアと戦うのか」

「やぁ♥︎」

「うあお!?」

こ、この髪にこの星と雫のメイクはヒソカじゃないか!
なんで俺に? あ、落ちこぼれは殺す、みたいな?
俺はどうやら本格的に終わってしまう様です。
ごめん、母ちゃん。
一足先にあの世に行ってるぜ、天国か地獄かは分かんないけどな!

乾いた笑いしか出てこなかった。
あーもう死ぬぅ!!!




僕が気になっている奴が一人いる。
イルミ(もとい今はギタラクルだが)を除いてだ。
名前は分からないが壁に寄りかかって寝ている黒いパーカーを着た295番の男。
隣には黄色い大きな帽子を被った女がいる。
あの295番、纏っている念が異様だ。
強そうには見えないが、一応纏は出来るらしい。
イルミもあいつをチラチラと見ている、やはり気にしているようだね。

あの男の年はこの世の物ではない、そんな気がする。
不気味でもない、不思議なオーラ。
あの男に少し近寄ろうと思い、寄りかかっていた壁から背中を離した。

どん。

真正面からぶつかった奴がいた。
そいつは僕の事を知らないのだろうか、「気をつけろバカ!」なんて怒鳴っている。
バカはお前だ、なんて思いながら僕はそいつの腕を切った。
周りがざわざわと煩くてしょうがない、あぁ。あの男が起きちゃったじゃないか。

まぁいい、いつでも時間はたっぷりとある。
試験中に話しかけて探ってみよう。
アイツも念を使えるのだ、僕が絶をしているとは言え念能力者という事はバレているかもしれない。




試験は階段に差し掛かった。
僕はあの男の前を走っている。
あの男、男のくせに女の子におんぶしてもらっちゃって。
本当は弱いんじゃないかい?
なんて思うがやはり念が異質な事は気になる。
あの男と女が離れたところを突こう。

「ごめん!」

女が僕の前を走っていった。
よし、行ったか。
僕はチラリと後ろを見た、ん? いない……。
あ、壁に寄りかかっているね。もしやもう疲れたのかい?
なんて弱っちいんだ。

だがここでくたばられては困る。

僕はそいつにようやく話しかけた。

「やぁ♥︎」


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