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[41257] 【ネタ】モッピーENDストラトス(インフィニット・ストラトス)【完結】
Name: EN◆3fdefd77 ID:4c87eb1b
Date: 2015/06/04 00:08
気が付いたら黒髪ポニテ美少女だったでござる。

一体全体何が起こっているのか全く一欠片も分からない内に、周囲から促されるまま学校の入学式を終えて、割り振られた教室の座席に座っていた。
クラス内には女子、女子、女子。そら見た事かと女子の群れ。
オゥフ、此処は女子校だったのかいジョニー!などと考えていると、一人だけぽつんと男子が座っていた。傍から見ても一目で理解出来る程に迸る あのぼっち臭。くさい。

HEY! 提督ゥ!と思わずテンションの高い声掛けを行ってしまったが、話しかけられた男子生徒が地獄で仏を見つけたかのような顔でこちらを見上げてきたので「すみません、人違いでした」と唐突な真顔に冷静な声音で会話を打ち切って踵を返す。リアクション過剰過ぎじゃないですかねぇ……。
しかし自席に戻ろうとした所で片腕を掴まれ、更には何故か掃除用具の名称を連呼しながら強く縋り付いて来る提督、もとい男子生徒A。やだ、セクハラ……。

根負けして話を聞いてみると、周りが女子ばかりで居心地が悪いとか、周囲からの視線を感じて落ち着かないとか、知り合いが居てくれて良かったとか言われた。いえ、初対面ですよね?

男子生徒の明朗な一人語りに対し、適当に相槌を打つ。
何を話しているのかなど会話の内容は全く聞いていないのだが、「分かるよー、すごく分かるよー」とか適当に言っておけば大丈夫だろう。こういう時は単純に相手の同意が欲しいのであって、他者からの明確な意見を欲しているわけではない。というわけで、さっさと終われと念じながら一方的な会話を続ける。
我ながら惚れ惚れするほどの聞き上手っぷりに男子生徒からの好感度がギュンギュン上がっている気がしたが、所詮は単なるクラスメイトだ、男子の数が異様に少ない状況に首を傾げる部分もあるが、今後の交流を控えれば面倒事にもなるまい。

『モッピー知ってるよ、その考えがフラグだってこと』

――何奴!?


どうやらこの身体の持ち主は『篠ノ之箒』と言う名前らしい。
しののの、ほうき。

……きっと幼少の時分には名前が原因で大層からかわれた事だろう。若干の哀れみを覚えたが、今は我が身。苗字も『の』の字が三つも並んで、珍しいというか言い難い。持って生まれた容姿が胸の大きなポニテ美少女というハイスペックでなければ実り多き筈の彼女の人生には大きな傷が残っていたのでは無いだろうか。
おーい篠ノ之ー、今日の掃除当番代わってくれよー。おまえ箒なんだからいいだろー、っぎゃはははは! ――などという妄想を脳内で弄びつつ、本日の授業を受ける。

この学校はインフィニ……ホニャララという物に関する学習を行う場所らしい。
胸部に豊かな実りを二つほど備えた眼鏡っ子系女教師が一生懸命に授業を行っているが、授業の内容がさっぱり分からん。
微分積分なんか出来なくても生きていけますよね、という勉強嫌いと同様の理屈でもって授業をオール聞き流す。ただし逐一ノートに視線を落とし、表面上は勤勉に振舞う。いけるでぇ、これは!

『モッピー知ってるよ、この教室には人の心を読み取れる化け物が居るってこと』

――げえっ、関羽!


ちょっとした体罰問題も起こったが、美少女なので元気です。
途中『しののののたばね』とかいう人物に関してクラスメイト達が騒いでいたが、意見を求められた際に知らない人ですね、とかそんな感じの事を言ったら教室内がシンとした。何かいけない事を言ってしまったのだろうか。でも本当に知らないからね。仕方ないね!

他にも授業内容を全く理解していない事を見破られ、衆人環視の中で手を挙げさせられたりしたが、クラス内 唯一の男子生徒である提督殿もこちらと同程度の理解度らしく、クラス編成初日に教室のど真ん中で教師から吊るし上げを喰らうという羞恥プレイをギリギリ致命傷で乗り切る事に成功した。サンキューベジータ!
あと、「ですわ」口調の金髪お嬢様が実在した。感動した。

そんなわけで放課後である今現在、寮の自室に戻って来たのである。

美少女生活一日目、まったくもって危なげなくパーフェクトに乗り切ったが、やはり内心緊張していたのも事実。故に一日の汗を流すべく存分にシャワーを浴びようではないか。
べっ、別にこの魅惑の双子山脈を直に拝みたいだなんて思ってないんだからねっ! 勘違いしないでよね!
谷間に汗掻いて痒いんだよォ――ッ! 教室で胸元押っ広げて引っ掻くわけにもいかねェエ――しよォオオ――!! と全力の言い訳をしつつ浴室に駆け込む。

数分後、そこにはシャワーからの流水を全身に余す所無く浴びて寛ぐ美少女の姿が!

健全なバスタイムを健全に満喫しただけなので何も問題は無い。
ただ一つだけ悩みを吐露するなら、自分の身体だと認識すると途端にあの頃の情熱が色褪せる事かなー……。

はー、どっこいしょーっ、と若々しさ溢るる魂の雄叫びを供にシャワー室を後にする。
がに股になってから何も身に付けていない股座に高そうなバスタオルを両手でバチーンバチーンと叩きつけて気合を入れると、そこに立っているのはいつものクールな篠ノ之箒さんである。昨日までの箒さんを知らないので適当だが。
そして浴室のドアを開けた先にはっ、なんとクラスメイトである提督ゥ!が立っていたのです。

色を知る年齢か!

第一声で相手の威勢を挫き、その無防備な片腕を取り宙空を駆けた。
掴み取った腕を両脚で挟み、滑るように己の股座で拘束。その肩から背中に向け全体重をもって乗り上げると、人一人分の重みによって相手の体勢が否応無しに前屈みに落ちていく。更に片足の膝から脛を用いて相手の後頭部、首の後ろの部分へと荷重を加える。
そしてそのまま捕らえた片腕をしかと固めて、真っ直ぐに地へと敵手の顔面を叩き付ければ、虎王――完了。

『モッピー知ってるよ、ラッキースケベは主人公の基礎スキルだってこと』

――っまずい、何故か大量の鼻血で床が!





織斑一夏は愕然として呟いた。

「……きおく、そうしつ?」

唇から零れ落ちた声は酷く透き通っていて、微塵の震えも宿さぬ己の言葉が酷く薄情なものに思えた。
床に正座する一夏の目の前には白い寝巻きでその肢体を隠した少女。記憶にある姿とは異なり髪を下ろした彼女は、前髪に隠れたまま面を伏せておりその表情も窺い知れない。
だが、俯いたその顔はひょっとすると自分がかつて見た事も無い程に強い不安の色に染まっているのではないかと思えてならないのだ。

数年越しに再会し、美しく成長していた少女。
篠ノ之箒。
織斑一夏にとっては親しく接した幼馴染の一人であり、記憶にある限りの、最も幼い頃の思い出を共有している相手だった。

共有していた、相手だった。

――君の知ってる篠ノ之箒は、死んだ。
――知らない。
――私の中には、お前との思い出など存在しないのだ。
――果たして本当に、私は篠ノ之箒という名の人間なのか?
――ちくわ大明神。

では。
では、朝に教室で自分と話してくれた彼女は何だったのか。
かつて記憶に無い程に優しげな微笑みで、周囲の環境に辟易としていた一夏の話を聞いて、温かく包み込んでくれた、あの短くも楽しかった時間は。
まったく知りもしない相手に、なのにあんなにも優しく、こちらの言葉を受け止めてくれていたのか。
彼女の抱える事情など何も知らなかった織斑一夏に対して。

その影で何を思い悩み、どれほど苦しんで。その末にこうして真実を告げ、一夏の顔を真っ直ぐに見る事も出来なくなって。今も目の前で悲しみを耐えながら静かに俯いてしまっている、少女の姿。

「――大丈夫だ」

何を言うべきなのか。
それを考える前に彼の口は勝手に動いていた。

「思い出せない事が不安なら、俺が居る。一人じゃ無くて、二人なら。きっと、無くしたものもすぐに思い出せるさ」

その声に。
ずっと俯いていた顔を上げた少女が、何を言われているのか欠片も理解出来ないとでも言いたげな、余りにも無垢な表情を見せていた。
その瞳の色は、酷く幼い。まるで迷子の子供のようだ。或いは、何も知り得ぬ白痴に等しい。

守らなければ。

一夏の胸の内で沸々と静かに湧き上がるものが有った。
義務感ではない。同情も無かった。ただただ、目の前の女の子が悲しんでいる現実が、酷く『駄目』な事だと感じたのだ。頭ではなく、己の心が。

「思い出せない事じゃなく、何も持って無い事が不安なら、これから一緒に作っていけばいいさ。――簡単だろ?」

思い出せれば良い。しかし、思い出せなくても良い。
結果がどちらであろうとも、ただ行き着いた先で、彼女が笑っていられるのなら、それが一番良いと強く思う。
本当の本当に、この世で最も正しいと呼べる程に明確な回答など、ただの少年に過ぎない一夏の中から生まれ出てくる事はこれから先もきっと無いのだろうけれど。

この日この時、織斑一夏は誓ったのだ。
守りたいものがある。きっと、守ってみせる。
だから。まずは此処から始めよう。

「――『はじめまして』、篠ノ之箒さん」

差し出されたその掌を、少女は確かに手に取った。

「俺は織斑一夏っていうんだ。 ――よろしくな!」

輝くような笑顔で一人の少女を新しい世界へと迎え入れた少年のその姿は、まるで太陽のように眩かった。
きっと何もかもが上手くいく。誰も彼もがそう信じてしまいそうなほどに、真っ直ぐで。素直で。
だから誰も気付かない。


『モッピー知ってるよ、ハッピーエンドなんて最初から何処にも無いってこと』

――知ってるよ、モッピー。どう足掻いても無駄だって事くらい。

誰もが。何をも。どれほどまでに望んだとしても。
みんなが笑っていられる結末なんて、辿り着いた先には有り得ないのだと。
この世界に生きる誰も彼もがこの時はまだ、気付いていなかったのだ。





ISの篠ノ之箒ネタで勘違い系ヒロイン臭を醸し出すぜと書き始めた筈なのに、別視点を入れてみたら酷い事になったSS。
一夏サァン!のイケメン臭描写が凄く難しい事に気付く。

続かないです。



[41257] モッピーENDストラトス ~徒花の咲く頃に~
Name: EN◆3fdefd77 ID:4c87eb1b
Date: 2015/06/01 00:58
全裸虎王から始まった一連の事態、何が何だか未だに全く分っていないのだが、今日もまた黒髪美少女のまま目が覚める。

朝は同室の織斑何某によって起こされて、軽くシャワーで寝汗を流すと櫛とタオルとドライヤーを片手に万全待機の織斑によって丁寧に髪を梳かされる。
シャワーを浴びて尚寝ぼけ眼の美少女が制服に着替え終わると、「リボンが曲がっているぞ、箒」とか何とか言いながら逐一制服チェックされる。朝も早くから元気一杯な織斑に先導され、用意された朝食を食べる、或いは食堂まで出向いての食事。

教室に行く前に今日の授業の日程を確認する織斑を余所にこっそりと自室に備え付けられた冷蔵庫からアイスを取り出すが、二口目を口にする前に発見され、没収。敢えて歯を磨いた後に食べるという背徳と至福の朝アイスを取り上げられ落ち込む美少女の手を引いて、二人分の鞄を抱えた織斑は意気揚々と教室に向かうのだった。

お母さんかッッ!!!

バン!と両手を机に叩き付けて抗議する。
アイス食べるぐらい良いだろうがっ、こちとらあのワンカップのために生きてるんだぞ! ――と腹の底から一息に捲くし立てると、織斑が自席に座ったまま若干 青い顔でこちらの背後を指差してくる。アァン? 何びびってンですかァ? 志村うしろうしろー、ってかァ? オォォオン?
まったく、これだからぼっちは……。とか溜息混じりに呟きながら後ろを見遣れば、そこに立っていたのは戦国武将でした。

げえっ、関羽!

なんもかんも政治が悪い……と至極当然の言い訳を並べ立てたのだが、戦国の理に沿って生きる豪傑に聞き入れられる事は無く、鈍器と化した出席簿で頭を叩かれ涙を零す薄幸の美少女が此処に一人。クソッ、PTAは何をしてる!
暴力教師。体罰行為の実態。教育界の闇。などと陰鬱な気持ちで現代社会に対して警鐘を鳴らすインテリ系美少女の篠ノ之箒さんだが、整然とした論理は直接的な暴力に弱いのだとどこかの漫画で読んだ気がするので泣き寝入りする事にした。月夜ばかりと思うなよ……っ!

大丈夫か?とか心配そうにこちらを窺ってくる織斑だが、そもそもの原因はコイツである。
毎日毎日、妙に嬉しそうに「まるで千冬姉がもう一人増えたみたいだな」とか笑いながら甲斐甲斐しく世話を焼いてくる家政夫系男子。こいつひょっとしてマゾっ気でもあるのかな、と不安に感じるぐらいの世話焼きさんである。だからついつい怠けてしまったのもコイツが悪い。悪い。

だがだがしかし、このままではせっかくの黒髪美少女ボディなのに女子力が壊滅という大惨事である。こんな事では天国の篠ノ之箒さん(本物)にも申し訳が立たぬ。
これではいかんと一念発起、「一夏ァ! 今日からパンツは自分で洗うからァ――ッ!」と大宣言。

未だに授業中だったのでクラスメイト及び教師二人から凄い目で見られたが、渦中の人である織斑は「駄目だ。箒は女物の下着の洗い方知らないだろ」とクールに切り返してくる。ぐぬぬ……。
あれっ、どうかしましたか関羽先生。むぇ、ちょっ待っ――。

『モッピー知ってるよ、ラブコメで同居ネタは鉄板だってこと』

――もしかしてオラオラですかーッ!?


もうマヂ無理……。早弁しょ。
あの戦国武将系暴力教師め、人様の頭をドッカンドッカン叩きおってからに。美少女は人類の宝と言う格言を知らないのかよ。訴えるぞ。

やっぱ教師ってクソだな。と世の現役学生諸君との価値観の共有を成し遂げつつ、朝に織斑から渡された弁当箱を鞄から取り出す。フフーフ、昨日の内に「今日は唐揚げが食べたい!」と言っておいたからきっと肉々しいメニューが用意されている筈ゥ!
ほぅら、お弁当箱の中には緑、緑、オレンジ、赤、という色取り取りの野菜が居並ぶ、超絶ヘルシーメニューがっ!

織斑ァァッッ!!

何? ――「箒、逆に考えるんだ。今 野菜を沢山食べれば、昼飯の肉料理が更に美味しく感じられる筈さ」だと?
へー。そう、……なのか!?
織斑の齎した変則的ツンデレ理論に首を傾げつつ、野菜弁当をさくさくお腹に収めていく。
しかし先の物言いだとまるで早弁する事を予見した上でこのメニューを用意したかのようにも聞こえるのだが、まさか織斑如きにこの超絶美少女の挙動を予測出来るなんて、まさかまさか。ハハハ。
ハハハ。

『モッピー知ってるよ、イッピーが野菜類の摂取量が足りてない誰かさんを心配してたってこと』

――人参は入れるなって言っただろうが織斑ァァッッッ!!


今日は『アイエス』の試合があるらしい。
アイエスってなーに?と聞いてみたら、偶然近くに居た関羽先生が真顔でこちらへと手を伸ばしてきて、おやおやこの美少女に何用ですかな……アバーッ!

聞くは一時の恥という言葉があるが、あれは嘘だ。
素直に聞いてみたせいで死ぬかと思った。頭蓋骨が歪んでこの美少女フェイスに陰りが出たらどうするつもりなのだろうか。どう考えても人類にとっての多大なる損失だぞ。

さて、試合をするのは織斑と金髪お嬢様だそうだ。きっと痴情の縺れか何かだろう。
パーツを減らして軽量化すれば戦姫絶唱できそうな形をした謎物体、件のアイエスとやらを身に纏い、キリッ!と擬音が鳴り響きそうな顔で「行って来る、箒」とかほざく織斑。
おう、逝って来い。――と男らしく送り出そうと思ったが、今日の晩御飯は鍋料理の予定なので、名誉鍋奉行の織斑に何かあってはいけない。いけない。コイツが試合で派手に負けたり うっかり事故ったりした場合、美味しい鍋にありつけるかどうかが分からなくってしまうではないか。
握り拳から親指だけを立てるグッドサインで見送ろうと思ったのだが、海外では余り良くない意味だったような……、と無駄な雑学を思い出して踏みとどまる。

うむ、こういうのは捻っても良くないな。
イッテラッシャーイ!と片言で叫びながら適当に掌をパタパタ振ると、傍から見て分かるほど気合の入っていた織斑の顔が緩み出し、ついには笑いながら軽く吐息を噴き出した。なんでや。
片手を上げて「行って来る」と笑顔で背中を向ける織斑だが、それはさっき聞いたぞ。その年齢で健忘症とは……、不憫な奴よ。

織斑を見送って背後に振り返れば、にこにこ笑っている眼鏡先生と、相変わらずの不機嫌な顔の関羽。
ところでアイエスの試合って、どういう事をするんだろうか。レースか何か?

『モッピー知ってるよ、この日のためにイッピーが頑張ってたってこと』

――あっ、織斑負けた。





織斑一夏は落ち込んでいた。

セシリア・オルコットとの試合に、負けた。
毎日毎日、同室で寝泊りする箒が目を覚ますより早く起床して走り込みを行い。予習を欠かさず真面目に授業を受けて、放課後は理解度の足りない箒と一緒にクラスの副担任である山田先生に頼んで補習を受けて。夜の八時頃にはぐっすり寝付いてしまう超健康優良児の箒を起こさぬようにその日一日の復習を行う。
学園の訓練機を借りる事は出来なかったため、せめて知識と体力だけでもと素人考えで頑張ってはみた。

それに加えて箒の世話だ。
傍に居よう。一緒に過ごそう。そう考え、自分から言い出した日常生活を厭う事は無かった。負担は有ったが、昔から共に暮らしてきた生活能力皆無の姉の存在もあり、他者の世話とは織斑一夏にとってはある意味やって当然の事で。加えて、姉に守られ続けてきた彼にとっては誰かの世話をする事、転じて日常生活において自分よりも劣っている『誰か』を守り慈しむという行為全てに対して当人さえ自覚せぬ強い喜びがあった。

つまり篠ノ之箒の自堕落極まった日々の情けない有り様は、結果として織斑一夏という少年の心を満たしていたのだ。

努力はした。勝利するに当たって足りていないものは一夏の視界内外問わず多数隠れ潜んではいたが、それでも彼は彼なりに、自身の望み得る最高の状態を作り上げて試合に臨んだ。
そして負けた。

守ると誓ったのに。そのために強くなろうと思ったのに。そう考えて、視線を落とす。

間違いなく善戦したと言える試合内容だったが、結果は結果。この一戦の勝敗が己の誓いに直接的な傷を刻むものではないという事実も理解出来るが、だからといって少年の幼い感情が納得しない。
もっと頑張れたのではないか。声を掛けてきた上級生に助力を乞うべきだったのかもしれない。一夏の専用ISである白式が一次移行(ファースト・シフト)した際の高揚感に気を取られ、直前まであった絶妙の緊張感が削がれた事が原因だろうか。――考えれば考えるだけ、気が沈んでいく。

結局、一夏は負けたのだ。
自分が何もかもを成し遂げられるとは考えていない。それでも強く心を決めた矢先、一歩目から派手に躓いてしまったような、強烈な失速感。
試合中に自分が口にした「守る」という言葉が、掌から零れ落ちたように感じられる。

「俺は……」

こんな事ではいけない。ISに関して素人に過ぎない自分が順当な敗北を味わっただけだ、だからすぐに立ち上がって、もう一度努力を重ねていく所から始めよう。
当人の主観においては長大な時間、しかし現実にはほんの一、二分ほど。

顔を上げた一夏を迎えたのは、一枚の板ガムだった。

はて、これは何だろうか。
予想外の存在から視線を上げれば、一夏が守りたいと思った少女がそこに居た。
負けてしまった自分に対して、ひょっとすると失望されたのではないか、などと。
そんな事を無意識の底で考えていた一夏の感情など一切窺う事なく、いたずらっ子のように無邪気な笑みで、篠ノ之箒が口を開く。

「食うかい?」

ただそれだけで、思い悩んでいた事全てを呑み込めるような、そんな錯覚を確かに覚えた。
試合に向かう直前にもおどけた所作で己の中にあった無自覚の緊張をほぐし、今もまた思い悩む一夏に対して構える事無く接してくれる。
記憶にあるかつての幼馴染とは掛け離れた、自然体の優しい気遣い。

「……ああ、もらうよ」

全部、自分の考え過ぎだったのかもしれない。
一夏は先日固めたばかりの己の誓いに捕らわれて、ついさっきまで歩き出す事にさえ気後れしていた。
だけど一度の敗北で全てが終わったりはしない。もしかすると、いつかそんな、絶対に負けられない戦いに臨む時が来るのかもしれないけれど――。

ふと、ああ言い忘れていたな、とでも言いたげに。
己の掌に握り拳をぽとりと落とした箒が一夏を振り向いた。

「――おかえりなさい」

出掛けて、見送って。帰って、迎え入れる。そんな当たり前の日常の一コマ。

たったそれだけの言葉を、有り触れた情景を、どれほど嬉しく感じたか。
小さく微笑む少女を前に、顔を真っ赤に染め上げた今の一夏には決して言えない事ではあるが。
一つだけ、言っておかなければなるまい。

「――ただいま、箒」

これが織斑一夏の初陣で、初めての敗北で。
或いは初恋の瞬間であったのかもしれないと。
そんな無価値で無意味な事実だけは、間違いなく記しておかなければならないだろう。


『モッピー知ってるよ、花は散る為に咲くものだってこと』

――知ってるよ、モッピー。実を結ばない花があるって事くらい。





TUDUITA!!
頑張って書いたけれど流石にこれ以上は無理ですよ、という突発第二話。
ハイテンション系のSSは一晩経って冷静になるとどういうキャラだったのかを忘れますよね。

続かないです。



[41257] モッピーENDストラトス ~紅の酢豚~
Name: EN◆3fdefd77 ID:4c87eb1b
Date: 2015/06/02 00:10
気分転換に髪型を変えて黒髪ツインテール美少女になってみたが、高校生にもなってツインテールはないよなハハハ!と思ったのでいつものポニテに戻す。

隣のクラスに転校生が来たらしい。
時期外れというか、今 転入してくるくらいなら最初から入学しておけよと思わなくもない。転入するために幾ら使った! 言え!

知らない内にクラス代表だか学級委員長だかよく分からない役職に就いていた織斑が、今度のクラス対抗戦に出るんだと言っていた。なので適当に「頑張れ」と応援しておいたのだが、異様に気合が入っていたのが逆に不安である。もっと肩の力を抜いてもいいんじゃよ?
何? 優勝したら半年分のデザートフリーパス券が貰えるだと? ……死力を尽くせよ、織斑。

負けたら虎王だからな! こおー! と目一杯 脅しつけたら荒ぶる黒髪美少女の脅威に怯えたのか、顔を赤く染めて身を捩る織斑。きもい。

盛り上がるクラスメイト、ですわですわと騒ぐ金髪お嬢様、顔を手で覆い隠して黙ってしまう織斑。
……勝てる気がしねぇな、コレ!

『モッピー知ってるよ、全裸虎王からまだそんなに経ってないってこと』

――あ! やせいの ツインテールが とびだしてきた!


担当クラスの生徒でなくとも容赦なく体罰を下す戦国系女教師、関羽。
あれが教育者とか世も末ですよ……、とか考えていると出席簿が振り下ろされるので即座に思考を打ち切る。ふふふ、この篠ノ之箒、いつまでも原始的な開心術に後れを取る生半な美少女ではないですぞ!

関羽からの胡乱な視線を感じながらも無事に授業を終えれば、念願のお昼ご飯である。
今日は天気が良いから青空の下で食べるのだ。
最近 織斑と仲良くなったらしい金髪お嬢様も連れ立って、見晴らしの良い芝生にピクニックシートを敷いて三人で寛ぐ。

まるでピクニックに来てる気分だね……、とかまるで殺人鬼みたいな台詞を呟きつつ寝転がってサンドイッチを貪っていたら、織斑が怒った。寝たままの姿勢で食べるのは行儀が悪いし、身体にも悪い。口元がソースで汚れているからこっちに顔を向けろ、まったく箒は本当に常時休日の千冬姉みたいだな……。――って、お母さんか!!

口煩い小言を聞きながらではせっかくの青空ランチが台無しである。
仕方が無いから座って食べる。途中で金髪さんが取り出したサンドイッチも美味しそうだったので、織斑に先んじて手を伸ばす。わーい。
なに、行儀が悪い? これは一夏サァン!のために用意したのです? ……えー、こんなに美味しそうなんだからケチ臭い事を言うなよもうー。こういうのはさっ、みんなで食べた方が絶対美味いってばよ!

『モッピー知ってるよ、ラブコメにメシ不味キャラは必須だってこと』

――ぬわーーっっ!!


だだっ広い剣道場で道着姿の黒髪ポニテ美幼女と邂逅する夢を見たが、美少女指数では間違いなくこちらの方が勝っていたので無事生還の運びとなった。ツヨイ!

あと何故か目が覚めてから口内と喉奥が めっさピリピリするんですけど、何でか知ってるか織斑?
ううん、そういえば今日は何月何日だったかな。おかしいなあ……、毎朝毎日 ウサギ印の日めくりカレンダーを一枚ずつ破くのが日課なのに日にちが曖昧だなんて。あれれー、たしか昨日は入学式だったっけ?
どうした織斑、何故 抱き締める。セクシャルハラスメンッ! 金髪さんはどうして謝るのだ。こわい。えっ、拾い食いは駄目? 当たり前だろう、何を言っているんだ、まったく。まったく。

ちょっとした謎現象もあったが美少女なので総スルー。
理由は不明だが何時の間にか放課後になっていたので医務室から寮の自室まで移動すると、ドアの前に怪獣ツインテールが立っていた。ここはお前の場所だ、しかし今は私の場所だ……。とか言い出しそうな雰囲気で。みなぎるパワー!
織斑の知り合いらしいので押し付けて放置。

ういー、あいすー。と謎の呪文を唱えながら備え付けの冷蔵庫を漁り、自分用を取り出すついでに お客様である金髪さんの分のアイスも取り出す。見た目お嬢様臭いので庶民の持て成しが口に合うかは分からないが、1コインでは買えない お値段の品なのできっと大丈夫だろう。
あら美味しいですわね、とか言ってくれたので、嬉しくなってアイスをもりもり食べる。ヒャア! 我慢できねえ! 3カップ目だ!

その間にもツインテールと織斑が騒ぐ騒ぐ。やれ昼は何故食堂に来なかっただとか、お陰でラーメンがのびのびだったとか、クラス代表がどうとか、千冬さんが相変わらず恐かったとか。姦しいのう。若いってステーキ。
そしてこの新世紀ポニテ美少女たる篠ノ之箒さんと織斑が同室で寝泊りしているという事実に言及した所で、何故かツインテールが爆発した。

部屋を換われと言われたので頷く。……えっ? 交換した先の部屋には織斑も一緒に付いて来るんじゃないの? いやいや、コイツ居なかったら朝起きれないし、ご飯は食堂でも食べれるけど、誰がシャツにアイロン掛けてくれるのさ。意味不。風呂上りに髪を梳かすのも、繊細な下着の揉み洗いも、完璧なベッドメイキングも、織斑が居なくなったら誰がしてくれるんですかーやだー!

介護老人かッ!! と一喝されたので思わず布団に潜って逃げる。
だって自分でやるより全然上手いし……、と布団の中から もごもごと抗議すれば、女のプライドは無いのか!とか、一夏も甘やかし過ぎ!とか言い返される。やだ、正論……。

『モッピー知ってるよ、二組は意外と面倒見が良いってこと』

――わぁい、お母さんが増えたみたーい……。


さてクラス対抗戦 当日。
一試合目で織斑とツインテールがぶつかり合うという、最初からクライマックスな予定表。謎の黒いアイエスが乱入してきた事によって正に大混乱である。
パニックに陥る観客。乱入者と戦う二人。救援に行くべきだと言い募って関羽に論破される金髪さん。

その願いは私の力を超えている……。台詞とは裏腹に謎の全能感に包まれるよね、と一人シェンロンごっこをしていると、さっきまで騒いでいた金髪さんがこちらを見て「一夏さんの事が心配ではないのですか!」とヒスってきたので「ただ此処で、アイツを信じて――待つ。それが今の私のやるべき事だ」と格好付ける。ヒューッ!
あまりの美少女っぷりに気圧されたか、息を呑んで言葉に詰まる金髪さんに対する内心、「でえじょうぶだ、絶対防御がある」だ。眼鏡女教師による放課後のいけない補習授業の結果、絶対防御という格好良い単語だけはしっかり憶えていた。
信じて送り出したクラス代表が謎の乱入アイエスに負けて云々、などという事態も、周囲の慌て具合から考えれば有り得ないことではないのだろうが――。

……にんじん臭い。

何をもってそんな事を口にするのか。だから何なのだ、と聞かれれば対応に困るけれど。アレを放っておいたとしても「絶対に大変な事にはならない」と、そう感じる。ゴーストが囁くのよ。
だからその塩入りコーヒーをこっちに近付けるのはやめてくれませんかねぇ……。

『モッピー知ってるよ、問題が起きたら とりあえずウサギのせいにすれば良いってこと』

――塩辛ァい! これすっごく塩っ辛ーい!





織斑一夏は幸福だった。

「まるでピクニックに来てる気分だね……」

草花のそよぎにも似た穏やかな声音で篠ノ之箒が呟いた。
ピクニックシートにその身を寝かせ、目を細めて空を見上げる姿は客観的に見ると臨終間近のアザラシのようでもあったが、自分は心底リラックスしていますよ、と全身で主張するかのように見事な寛ぎ具合。少々笑いを誘い気味の様相ではあったが、見ていて気が楽になるのも事実。

箒の傍だと身体から無駄な力が抜けて、自然体で居られる。
不必要に構える必要が無い。強くなる為の努力を怠るつもりは無いが、彼女と共に在る事でのんびりと過ごせる時間の全ては、今の一夏にとって掛け替えの無い日常となっていた。
自堕落すぎる箒の振る舞いには苦言を呈する事が多いけれど、ついつい世話を焼いてしまうのも決して嫌ではない。

当人達に自覚は無かったが、まるで駄目男に貢ぎ続ける駄目女のような、完璧な負のサイクルが築かれつつある。
強いて良い点を上げるなら、割れ鍋に綴じ蓋と言うように、彼と彼女にとって一切の不満が生まれ得ない絶妙なバランスを形成している所だろうか。

ああ、この瞬間を守りたい。

今はまだ姉と比べるまでもなく全然 弱い自分だけれど、決して争いが好きだというわけではないけれど。
戦わなければいけない『その時』が来てしまったのなら、何が相手であろうとも。

「絶対に、――退かないッ!!」

クラス対抗戦における第一試合。

かつて親しくあった少女、凰鈴音との一戦。そこに乱入してきた黒いIS。
彼の敵性存在の進入経路であるアリーナ天上部、そのシールドを貫通してきた一撃。あれがもしも観客席に向けられれば大量の死人が出る。それは、駄目だ。
姉である織斑千冬からの通信においては撤退指示を受けたが、他に黒いISを抑えられる人員が存在しない此処で、自分が退くわけにはいかない。男の矜持ではなく、個人の執着でもなく。ただ身の内にて吼え猛る本能によって、戦わなければいけない現実を認識した。
守るべき対象が多過ぎる。己の不利は揺るがない。だが退く気も無い。

――ただ此処で、アイツを信じて待つ。それが今の私のやるべき事だ。

通信状態は未だ良好だった。
耳朶に染み渡るその、一切の不安を宿さぬ物言いを聞いていた。自分を信じる少女の声を心でもって受け止める。
守るべき相手は彼女一人では無い。ならばこの場の、彼女を含めた一人残らず全て、この手で守り抜けばそれで良い。
未だ未熟な己一人では届かないというのなら――。

「鈴、力を貸してくれるか」
「はっ、――当ったり前じゃないの!!」

意気軒昂と戦場に歩を進める若き戦士達の決意を余所に。
万事余さず、この場の一切が茶番である事を知る者は少ない。
未だ波間に揺れる一枚の木の葉に過ぎない一人の少年の、その奮闘を目にして笑う誰かを知らぬまま。それでも時は過ぎていく。


『モッピー知ってるよ、この世界に奇跡も魔法も無いんだってこと』

――知ってるよ、モッピー。この世界に本当の意味での偶然なんて有り得ないって事くらい。





別に、何時エタってしまっても構わんのだろう?(挨拶)
最後のオチ以外には何一つ決めていなかった上に、そもそも原作の設定が殆ど不明の現状ですが、第三話です。
原作のしののの博士は何がしたいのでしょうか。人類補完計画?

続、……くかもしれません。



[41257] モッピーENDストラトス ~モッピー・オブ・ジ・アビス~
Name: EN◆3fdefd77 ID:4c87eb1b
Date: 2015/06/03 00:03
クラス対抗戦の中止によってデザートフリーパスが貰えなくなったけど、金髪さんが食堂のデザートを奢ってくれたので今日も元気に黒髪美少女です。

寮の部屋が用意できたからお引越しです、と眼鏡女教師が言い出した。
寝耳に水である。寮の部屋割りというのは中途変更されるものだったのか。話を聞いてみると、年頃の男女がいつまでも同室で寝泊りするなんてハレンチだわっ!!という事らしい。今更ァ!

大丈夫です! 私達の間に間違いなんて起こり得りません! と己が名誉にかけて宣言するも、渦中の一人である織斑が何故か両手で顔を覆ったまま俯いて動かなくなり、こちらへの援護射撃を怠ったためにゴリ押しされて部屋を追い出された。なっ! 何をするだァ――ッ!

こういうのは普通、男の側が移動するものではないだろうか。しょんぼりしながら新しい部屋に向かう。
知らない人と一緒の部屋で寝泊りだなんて、アテクシの余りの美少女っぷりに血迷って襲われたらどうしましょっ。と百合の花咲き誇る美という名の罪悪を持て余しつつ、これからよろしくね、という気持ちを篭めて今日のオヤツ用にと織斑が用意していた お手製カップケーキを手渡した。へへっ、奴の分は無ぇ!
こちらこそよろしくね、と笑顔で差し出された飴ちゃんを舐める。おいちい!

意外と上手くやっていけそうだなーと上機嫌で荷解きをしていると、ツインテールが訪ねてきて「あんた大丈夫なの? 主に日常生活とか」などと失礼千万な物言い。心配してくれてるのは分かるけど、言い方が酷くないですかね。誰が一人じゃ歯磨きも出来ない生活不能者だ!と憤慨しつつ、ダンボール箱から大量の菓子類を取り出す。

新しいルームメイトである鷹月さんも一緒に、三人でお菓子を食べる事に。――何? 「一夏が妙に落ち込んでたみたいだけど理由を知らない?」だって? うーん、お腹が空いて拾い食いでもしたんじゃないかなあ……。あとで注意しておかないと。

『モッピー知ってるよ、ラブコメものだと鈍感キャラの方が強いってこと』

――引越しの荷物? お菓子しか持ってきてなアッ―!


うちのクラスに転入生がやって来た。二人も。
銀色の方に織斑がバチコーンってされたりもしたけど、多分いつもの修羅場だろう。ちょっと前にツインテールともやってたからね、よくあるよくある。
金色の方は男子生徒らしい。こんな可愛い子が女の子のはずがない! という奴だな。わかるよー。

ちょっとしたトラブルもあったけれど、その日の放課後は織斑達の実機訓練を見学する事になった。
金髪さんの口頭指導が難解過ぎて意味不明だったり、ツインテールが何故これだけ丁寧に説明しても分からないのかと怒ったり、まったくもってタメにならない訓練だった。

あそこはクイッとしてズバーン!で良いのになあフフーン、と したり顔で解説したら、「何を言っているのか分からない」「子供か!」と不評の嵐。選手交代とばかりに転入生の金色の方がちょろっと説明したら、凄く分かり易いと織斑からは大絶賛だ。ただし他二人が般若になる。
フッ、真の天才とは孤高なものよ。物分りの悪いオールドタイプ共を放置して流離う美少女が此処に一人。べ、別に寂しくなんてないのぜ……っ!

暮れなずむ空を眺めながら廊下を歩いていたら、目の前から戦国武将。お、関羽ゥー!
襲い来る出席簿を怒涛のクロスオーバーステップによって神回避。また世界を縮めてしまった……ァ、と渾身の決め台詞を口にする直前、気が付けば頭の上に出席簿が乗せられていた。バン…ザド……。哀れ薄幸の黒髪ポニテ美少女たる篠ノ之箒は「青いな、小娘」と到底 未婚の乙女が口にするべきではないクッソ渋い台詞と共に意識を失うのであった――。

『モッピー知ってるよ、代表候補生の操縦するISよりチッピーの方が強いってこと』

――これが、上級アンデッドの、力なのか……。


学年別タッグトーナメントがあるらしい。

織斑ェ!! と声を掛けたが、既に転入生の金色の方と組んでるからと謝罪された。黒髪美少女よりも金髪美少年を選ぶとは、お前ホモかよぉ!
次に金髪さんに声を掛けたのだが、専用機がオシャカになったっ!!と口惜しそうに断られた。訓練機じゃ駄目なのかい?
鷹月ェ!! と呼び掛ければ、こちらも既にペアが決まっていた。つまりどういう事だってばよ?
二組まで出向いてツインテールに泣きつけば、こっちもTo LOVEるで専用機がオシャカになったとか。……こんなの絶対おかしいよ!

せんせー、篠ノ之さんだけペアが決まってないみたいでーす! 仕方ないな、じゃあ先生と組むか! ははは! ハハハ! ――という謎の幻聴が総身を包み込み、ホウキは めのまえが まっくらに なった!

キノコーキノコーぼっちのこー。
今更ながらに己の交友関係の狭さを痛感する世界的超絶美少女。
思い返せば学園生活、織斑に世話を焼かれてグータラ過ごした記憶しかない。お腹に無駄肉が付いてないのが不思議なくらいである。胸は1センチほど大きくなったが。

仕方ない、トーナメント当日は謎の腹痛で倒れる事にしよう……。
脳内の未来日記に数日後の予定を書き込んで、一組の教室へ足を向ける。その途中で転入生の銀色の方を見掛けたので声を掛ける。
うちの担任が結婚するらしいぜ、私は詳しいんだ。とか適当フカシてみたら、異様に食い付いて来た。おっ、ノリ良ぃーねー君ィー!
相手の好反応に上機嫌になって結婚相手は織斑だとか、実はバツイチだとか吹き込んでいたら、未だかつて見た事のないオリジナル笑顔の関羽先生が何時の間にやら談笑の輪に加わっていた。それを見て銀色が「きょ、教官!?」とか慌てている。フフフ、怖いか。

嘘八百の報いとして出席簿を五回くらい頭頂部に叩き込まれ、ついでに銀色の方にも「篠ノ之の言葉は九割方が只の妄言なので聞き流せ」とコツンと注意。ひっ、贔屓じゃよコレはーっ!
可愛い生徒を差別するのは良くないと思います! ぷんぷん! という至極当然の抗議を行なったのだが、堂の入った教師失格者たる関羽はこちらと銀色をチラチラ見比べて「ふむ、意外と悪くない組み合わせかもしれんな」とか何とか。ぜんぜん聞いてないよ この人ぉ! そんなんだから独身なんだよこの――ぐわああああ――ッ!!

『モッピー知ってるよ、こうしてる間にもイッピーは男装女子相手にフラグを積み立ててるってこと』

――ペアは決まっているかだとっ? あっ、アンタには人の心が無いのかあ――!





織斑一夏の眼前に、二人の少女が立っていた。

「ほうき……?」

学年別タッグトーナメントにおける第一試合。
シャルル・デュノアとペアを組んだ一夏の前に立ち塞がったのは、自分を嫌っているらしいラウラ・ボーデヴィッヒ、そしてそのパートナーたる篠ノ之箒だった。

予想外のペアだが、あからさまにやる気の無い箒とそんな彼女を酷く苦々しい表情で叱咤するラウラの姿は、意外と悪くないペアなのではないか、と少しばかり血迷った判断を下してしまいそうな和やかな雰囲気を醸し出していた。

相手がどうあろうと、戦う限りは勝利を目指すのみ。
戦い、追い詰め、謎の変容を遂げたラウラ・ボーデヴィッヒとその専用機を前に、己が得物である『雪片弐型』を振り下ろした所で――。

「何だ、……此処」

先程まで、ラウラと語り合っていたような気がする。
己の過去に目を晦まされ、自分自身を見失っていた彼女に、一夏の抱く想いを真っ直ぐに打ち明けた。それで何が変わるのかは分からない、ただ一夏もまた弱い自分に向き合おうと心に決めて。――そこから先が思い出せない。

ラウラとの対話のすぐ後か。それともあれから長い時間が過ぎたのか。それさえ分からないままで、ただ目の前で向かい合う『二人の箒』を見下ろしている。

小さな、一夏の記憶にもある幼い少女。――ファースト幼馴染である篠ノ之箒。
美しい、気だるげに虚空を眺める少女。――学園で出会い共に在った篠ノ之箒。

かつて通い慣れた篠ノ之神社の剣道場と全く同じ間取りの、四方を包み込む薄靄の中でも異彩を放つ、強い現実感を伴ったその空間の中央。
向かい合う二人の少女は何事かを言い合っているようだった。
正確には、幼い箒が竹刀片手に一方的に捲くし立て、言葉を向けられた大きな箒が唇を尖らせて小さく反論する。状況を遠目に俯瞰している一夏からすれば互いの意思が全く噛み合っていないだろうと容易く察せられる、声の聞こえぬ両者の会話。

何が何だか分からない。この状況がどういったものなのか、どうして箒が二人居るのか。
分からないからとりあえず、目の前に居る知り合いに声を掛けてみよう。
特に深い考えもなく、己の中にある常識的な思考の元、一夏は見知った相手に声を掛けた。

「箒」

さて、その呼び掛けが果たしてどちらの箒に対するものだったのか。彼自身が特別 意識して行なったわけではないのだが。
呼び掛けに気付いて振り向いた少女を迎える彼の笑顔が、――深い精神の共振の中にあったからこそ、本来は未だ彼自身さえ気付かぬ秘めた本心(こいごころ)を隠す事無く表していたが故に。

『モッピー知ってるよ、初恋は叶わないってこと』

――知ってるよ、モッピー。イッピーが本当に大事に想っているのが誰なのかって事くらい。

頬を膨らませて涙を流す幼い少女を前に、何故そうなったのかを理解出来ない一夏の狼狽とは裏腹に。
傍らに立ち尽くす美しい少女、篠ノ之箒は相も変わらず何も存在しない虚空を見上げていた。
その姿は何も知り得ぬ白痴のようで。或いは道に迷って途方に暮れた、一人ぼっちの幼子のようで。

力尽くで引き剥がされた、薄っぺらい仮面の一枚のようにも見えた。





物の例えですが、たまに筆が滑る事がありますよね、第四話です。
三人称で書いていると ついつい指がバッドエンドに行きたがるのですが、このSSはあんまり長くない予定なのでもうしばらくお付き合い下さい。

続きます。



[41257] モッピーENDストラトス ~モッピー・トリガー~
Name: EN◆3fdefd77 ID:4c87eb1b
Date: 2015/06/04 13:51
学年別タッグトーナメントでは真っ先に脱落したけど、美少女なので大丈夫。篠ノ之箒です。

殺伐とした学園に本日もまた転校生が!
転入生の金色の方が、実は美少年ではなく美少女だったらしい。織斑、お前ホモじゃなかったのか……。
阿鼻叫喚となった一組教室にツインテールが乱入し、金髪さんもまた猛然と立ち上がる。昨夜は金色美少女と一緒に風呂に入っただの入ってないだのと指摘され慌てる織斑を中心として、クラス内の熱気が最高潮に達したその瞬間!

割って入った銀色の方の美少女がなんやかんやとその場の熱気を冷まし、唐突に織斑へ熱いベーゼを、――おおっと、インターセプト!?

近付き過ぎた互いの唇を遮るように己の左手を差し込んで、織斑の繰り出した黄金の左が銀色のキスを間一髪で防いでいた。
やはりホモだったのか……。美少女からの口付けをあそこまで必死になって防ぐとは、織斑め、侮れぬ男よ。

親しい男性の秘められた性癖を再確認しつつ、騒いでいたクラスメイト達一人一人の頭にガツガツ出席簿を落としていく関羽に向けて私は関係ありませんよ、とにっこりアピール。もののついでだ、とまるで当然のように降って来る体罰行為に猛然と抗議する所存です。「何故こういう話題に限って騒がんのだ馬鹿者」とかなんとか苦々しく呟く今時の武将系女子には心底戦慄する。ふぇぇ……、理不尽だよぉ……。
イミワカンナイ! と憤慨するが、周囲のクラスメイトは皆「よし、いつものオチがついたから次の授業の準備しよっか!」と謎の連帯感で纏まっている。

何このアウェー感……。ハッ、まさか余りにも美少女過ぎて遂に箒ちゃんイジメが始まったのか?
あたしって世界一不幸な美少女……、と落ち込んだりもしたけれど、見かねた織斑がこっそり一口サイズの苺マシュマロをシュートしてくれたので立ち直る。ウェヒヒ。もう一個ちょーだい!

『モッピー知ってるよ、チッピーはイッピーが大好きだってこと』

――違うんです先生。このマシュマロは私のじゃないんです。織斑が、織斑があッ!


夏だ! 水着だ! 臨海学校だ!
休日に出くわしたクラスメイトAの奨めに従い、着ぐるみ型の水着を装着。キツネを選んだ彼女に対抗したタヌキ型である。うっうー、ちょっと大胆過ぎたかなーって!
更衣室から外に出てみれば、見渡す限りの浜辺には水着女子の群れ。流れに乗り遅れてはいかんと思い、全力で海に向かって走り出す。

何ぃ、まずは準備体操をしろだとう? ヴァカめ! 日本の誇る健康優良系美少女筆頭たる この箒さんが溺れるわけがなかろう! まったく織斑は心配性だなあハハハハハ足つったあああああああ!!! あーっ! あああーっ! 織斑ー! 織斑ーっ!

超速で追い付いた織斑によって波間から引き上げられ、「だから準備体操をしろって言ったじゃないか」と叱られながら砂浜まで辿りつく。人間はやはり大地の上で生きるべきなのだ。視界を横切る小蟹に対し命の真理を説きながら ぐでーっと寝そべっていると、通り掛かるクラスメイト達の手で、お前ら何らかのノルマでも課せられているのか、とでもいうように首から下にチョコチョコ砂を盛られて埋め立てられる。あついー。

騒ぎ遊ぶ女子生徒達の歓声を聞きながら、空を見上げてのんびりと寛ぐ。今あたい地球と一体化してる……。
女子の輪から抜け出してきたらしい織斑が「泳がないのか」と聞いてきたので、引っ張ってー、と甘えてみれば、沢山盛った砂の山からずるりと引きずり出された。よし、泳ぐか!

うおおおーっ!

『モッピー知ってるよ、イッピーが密かに水着姿を期待して夢破れてしまったってこと』

――海水飲んだーっ! うあ゛ーっ! あーっ!


旅館のお刺身が美味しかったり、織斑のマッサージが良い塩梅だったり、臨海学校初日は実に充実していた。

だというのに二日目になって「箒ちゃーん! ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」などと奇声を上げるウサ耳に絡まれる破目に。先生っ、不審者ですよ! 不審者!
教師陣に対し即座の捕縛を訴え出るが、このウサ耳が誉れ高きG級美少女である篠ノ之箒の実姉だと関羽が言う。……え? なんだって?

アイエスの開発者だとか、誕生日プレゼントに専用機を持ってきただとか、ちょっと意味が分からないですね……。誕生日プレゼントならプレステ4でも買って来いよ。「この紅椿は最新の第四世代機で――」とか自慢げに言ってるけど、アイエスだと皆でゲーム出来ないだろーが常考。ケチ付けられても めげずにアピール、「白と並び立つ、『紅』!」と渾身のキメ顔を見せたが、それって結局ポケモンで例えるとどれくらい強いの?
「箒ちゃんは相変わらずだね……」とウサ耳を垂らしてしょんぼりする不審者。あらやだ、相変わらず美少女ですってよ、ふへへ。

とりあえずソレは要らないです。と両手で押しやれば、ウサ耳は関羽に頭を掴まれそのままフェードアウトして行った。
謎の珍騒動が過ぎ去り、場が静まった所で織斑が「良かったのか?」とか聞いて来たけど、アイエスとか貰ってもその、困る。
タッグトーナメントも試合開始十秒くらいで落ちたし。というかアレが実姉ってマジ話なのか。美少女度は箒さんの方が上ですけどね! と胸を張るが、銀色が「いや、外から中までそっくりだぞ貴様ら」とか超絶失礼な事を口走る。トーナメントで文字通り足引っ張ったの根に持ってるんですかー! いんけーん!

――などと騒いでいる所に眼鏡女教師が慌てた様子で駆けつけ、何やら解散の運びとなった。意味不。

一般生徒は部屋から出ないように、と言いつけられた夜間。
なんだか異様に不機嫌そうな顔の見知らぬ女子生徒複数に囲まれたので「やめて! 私に乱暴する気でしょ!」とか「一揉み千円だからねっ!」とか適当ぶっこいたら四方八方から執拗に胸を揉みしだかれて大変な事になった。

らっ、らめぇえ……っ、と息も絶え絶えな有様で外気に救いを求めて彷徨えば、なんと中庭に仁王立ちする織斑が。
無駄にシリアスな空気で「止めないでくれ、箒」とか言われたので素直に手を振って見送る。夜間の無断外出とは、織斑もヤンチャしたい年頃なのかもしれない。いってらっしゃい、お土産よろしくね!

浴衣の帯に挟まれた複数枚の千円札を一枚一枚数えながら月を見上げていると、今度は昼間のウサ耳が昼間の誕生日プレゼントとやらを携えやって来た。
ニコニコ笑いながら「分かってるよ、いっくんが心配なんだね!」とか「今こそ! 全知を掴む時!」とか凄くテンション高い。やべえよ…やべえよ……。もう夜も遅くていい加減ローテンションな箒さんでは相手をしていられないウサギの熱気に思わずドン引きする。

「先っちょ! 先っちょだけだから!」とグイグイ押してくるので遂に根負けして、赤いアイエスに手を伸ばす。
指先が紅色の表面装甲に触れた瞬間、頭の中に無数の数列と津波の如き画像の群れがアババババー!

『モッピー知ってるよ、ウサ耳はこれ全部善意でやってるってこと』

――わたしは しょうきに もどった!





全身が緊張に強張り、織斑一夏は呼吸を止めた。

アメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。
暴走し、近海を飛行しているソレを止める為に出向いた先で。
一夏はまたも敗北を味わった。

高速機動型パッケージに換装したISを駆るセシリア・オルコットと共に、白式の雪片弐型による一撃必殺をもって力尽くで銀の福音を機能停止に追い込む事を目論み。しかし数少ない接敵の機会に いざ挑もうとした所で、作戦領域に侵入していた密漁船の存在を切っ掛けに全ては瓦解した。
例え密漁と言う犯罪行為に手を染めていようとも、人間の死を看過して作戦を遂行する事など出来ない。
だがどれだけ必死に庇おうと、密漁船が銀の福音の攻撃可能範囲から逃れる時間稼ぎには僅かに足りなかった。あわや撃墜、共倒れかと思われたところで、咄嗟にセシリアを庇った一夏一人の犠牲と引き換えに、死傷者0のままで作戦は失敗した。

一夏の駆る白式が撃墜されたが、その代わりに長距離高速機動を可能とするセシリアのブルー・ティアーズが健在であったからこそ、旅館までの帰還を無事に成し、即座の治療に取り掛かれた。庇った側の一夏にそこまでの判断能力があったわけでもなく、兵装の豊富さと技術的に一夏を上回るが故に銀の福音との戦闘においての負担を大幅に担っていたセシリアよりも、能力的に劣るが故 比較的 余力が残されており咄嗟の判断速度と瞬発力にて先んじた一夏のファインプレー。偶然と言えば偶然の結果だ。

怪我をした彼を想い、慕う男の仇討ちとばかりに銀の福音を目指し旅館を発った専用機組。
撃墜による怪我はあったが動けぬ程の重傷というわけでもなく、先に出た彼女らから僅かに遅れて、中庭にて空を見上げる織斑一夏。

――いってらっしゃい。

何時かとは違い、どこか儚げな顔で自分を見送ってくれた少女の姿。
危険な場所に赴く事で彼女に心配を掛けているのかもしれない。姉であり教師でもある織斑千冬の言い付けを破って出撃するのも、悪い事だとは思う。
だけど先に向かった友人達を放っておくわけにはいかない。
いってきます、と背を向ける自分を見送ってくれた彼女が、篠ノ之箒が、帰ってきた自分をきっと笑顔で迎えてくれるのだろうと思い描けば、今まで以上の力が湧いてくる。

そして挑んだ決戦、二次移行(セカンドシフト)を果たした銀の福音を前に、無数の光弾に呑まれながら再びの敗北かと歯噛みする一夏の耳朶を叩く声を聞いた。

――私は行きません。
――いっくんが心配じゃないの?

何者によって繋がれたかも分からぬ、ISの個人間秘匿通信(プライベート・チャンネル)。
箒の声。
その姉である篠ノ之束の声。

――私は「いってらっしゃい」と言いました。だから「おかえりなさい」と言ってアイツを迎えなければいけません。

ああ、そうだ。そうなのだ。
だから自分は帰らなければ。彼女に「いってきます」と言って出掛けたのなら、必ず「ただいま」と言いに帰らなければいけない。それは明確に言葉にするような類のものではないが、変わらぬ日々を生きる人達にとっては果たして当然の『約束』だ。

こんな自分にも。今までただ守られ、見送るばかりだった織斑一夏にも、その言葉を告げるべき相手が出来たのだ。

――いやいやいやっ、ひょっとすると一人じゃ帰って来れないかもしれないじゃない!?
――帰ってきますよ。帰ってこなければ、追っかけるまでです。

まるで何処かの歌劇の台詞だ。笑みを含んだ箒の言葉に、ならば絶対に帰らなければいけないと決意を新たにする。
あの危なっかしい彼女が自分を探し回るような事になれば、一体どんな大惨事が起こるかと心配でたまらない。
あいつには俺が居ないと駄目なんだ、なんて。――そんな言葉は余りにも自惚れが過ぎるかもしれないけれど。

何処か酷く遠い場所、白雲棚引く一面の青空を見上げながら。
微笑みを浮かべこちらへと手を伸ばす真っ白な誰かに対して一つだけ、たった今見つけたばかりの答えを告げる。

「あいつが笑っていられる世界ってのはさ、きっと、皆が笑ってる、難しい事なんか何にも無い場所だから」

好きな女の子が、いつも笑ってくれるように――。
輝きを増す視界全てを斬り裂いて、織斑一夏は彼女に捧げるための新たな『剣』を天へと掲げた。


断崖に打ち当たった波飛沫の音が耳に届く。

月明かりの下にその細い背中を晒す少女は、先日見たものとは違って大きく肌を見せる、白色の水着で肌を覆っていた。
近付く足音に振り向いた少女を前にして、思わず息を呑む。
その姿はとても可憐で、月光に照らされる様は酷く美しい。
少女が肩を竦めて小さく口にした出迎えの言葉に、少年もまた小さく応えた。

意識したわけではなく、かつて思い出を持たないと告げた彼女に対した時と同様に、心で思うよりもずっと早く、意思より言葉が先んじた。

「箒。俺は、箒の事が――」





バスに揺られながら、学園までの帰路に就く。
暇潰しにクラスメイトとババ抜きをしているのだが、クラスメイトの布仏がポーカーフェイス過ぎて困る。
このババ抜きには各員お菓子を一箱ずつ賭けているので絶対に負けるわけにはいかない。そこの季節限定ポッキーは私のだァ!

いやー、愚姉が久しぶりに顔を出したかと思ったら人の脳味噌クチュクチュするだけで逃げ出しやがって、本当にいい加減 獄に繋がれるべきですよ、あのウサビッチ。
姉が置いていった第四世代型IS『紅椿』は、とりあえず千冬さんという名の関羽に預けた。だって要らないし。アレを受け取ったせいで小五の頃から続いた七面倒臭くてついつい鬱病発症 連発しちゃうような暗闇生活に逆戻りとか、絶対イヤだ。
転校ばかりだから剣道もすぐやめちゃったし。メンタル捻じ曲がる切っ掛けになったISも嫌ーい。

とかなんとか考えていたら、金髪さんが心配そうな顔で裾を引いてきた。何? 「一夏さん、今朝から元気が無いようですけど何か知りませんか?」だって?
うーん、昨夜の無断外出がバレて関羽に怒られたとかじゃないかなあ。昔からシスコンだったからね、アイツ。え、無断外出はもう皆揃って怒られた? 集団脱走とか、青春してるな お前ら……。

他に何かあったか、って言われてもなあ。いくら私が美少女だといっても、困っちゃうぞ。
何でもいいの? そっかー。

「昨夜 一夏に告白されたから振っておいたが、これは関係無いだろうな」

ははは。いやー、四、五年ほど前なら喜んだんだけどナー。感情には鮮度があるからね。仕方ないね。
えっ、その話 詳しく? 詳しく話しても五秒くらいだよ? え? え? みんな、何でそんなに怖い顔して――。さ、先っちょはらめぇえ!!


『モッピー知ってるよ、メインヒロインだからって毎回 攻略難度 低いわけじゃないってこと』

――知ってるよ、モッピー。イッピーは一回振られたくらいじゃ諦めない強い子だって事くらい。





ノリ良く書いていたら最後までいけたのでこれで完結、第五話です。
箒の設定が後々の気紛れでどう変化しても良いように色々伏線を撒いてみたのですが、一番最初に考え付いた『原作キャラの性格改変&記憶喪失でした』ルートにしました。一夏視点がアレだったので、あるいは別のものを望まれていたかもしれませんが。
一話で終わる筈のネタだったので、一夏が振られるオチ以外は大体その場のノリです。


 箒
主人公。性格がアホになった。
姉=ウサギを髣髴とさせる人参が嫌いだったり、日めくりカレンダーの更新にかこつけて毎日ウサギ退治したり、IS操縦がズババーンと擬音混じりの感覚派だったりという名残は残した。
割と鬱々しい過去を設定してみたけれど、軽いノリが壊れるので描写皆無。
精神世界的なモッピー道場で出会った小さな箒が「なぜ私がこんな駄目人間になったのだ」とか「一夏もこんな奴のどこが良いのだ!」みたいな台詞も機会が無かったので削除。
一夏の事は好きだけど、どっちかと言うと思春期頃に不足していた父性や母性を求めている。
原作と違って家事が全く出来ない。

 一夏
もっとイケメンにしたかったけれど、二話目を書き出した時には振られるイメージしかなかったので失恋した。
どこかで「千冬か箒しか恋愛対象にならない」とか見た気がしたけど、巷ではホモネタが多いので「箒の見た目で中身男なら惚れるんじゃね?」という邪念もあった。当初の箒が女性っぽくなかったのはそのせいである。
この後 頑張って箒を口説き始めるが、これから先も別の人にフラグを建て続ける男。
白式の第二形態は攻撃一辺倒の斬艦剣。

 モッピー
モッピー。


以上、おわりです。


※2015/06/04投稿
※2015/06/04修正
※箒が紅椿に触れた直後の【――大きな星が点いたり消えたりしている。アハハ、大きい……彗星かな?】という一文を【――わたしは しょうきに もどった!】に差し替え


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