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[42206] うちはサスケです。目標は兄を道連れに死ぬ事です。
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 01:27
軽い浮遊感。

海を漂う様なその感覚は決して悪くは無かったけれども、好きじゃなかった。

毎日毎日重力に従って地面と仲良くしていた俺にとって、この感覚は薄気味悪くも不気味である。
いや、正直に言おう。大分怖い。

けれど、こんな不思議空間でも息はできるらしく息苦しい思いはしていない。寒くもないし暑くもない。
どちらかと言えば暖かかった。

干したばかりの布団と同じくらい、というかそれよりも心地よかったので、怖かった事も忘れてついついその感覚に身を委ねてしまった。

その時。
体が引き裂かれるんじゃないかと思うくらいの激痛と何かに引っ張られる感覚が同時に俺を襲った。

自動車と接触事故したあの時より痛い。

血は流れていないようだけど、その内ぶちぶちと腕から順番に千切れていきそうで怖かった。
もう怖かった、全てが怖かった。早く出してほしかった。

出口みたいなのが見えて、暗かった此処とは段違いに明るいそこを見て、俺はただひたすら泣き声をあげた。
いい大人が、みっともなく。

「おぎゃああああああああああああああ!!!」

……いい大人のみっともない泣き声にしては、やけに声が高かった。
高いというよりまんまただの赤子…?

次いで女性と男性。
それと少年?の話し声の様なものが聞こえたが怖くて不安で意味が分からなくて疲れたので、倦怠感に身を任せて眠った。

ああ眠い。



[42206] 第二話-まな板の鯉
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 01:26
さてここで問題です。
俺は今何をしているでしょーか?

1.一族の長の次男坊?うるせーやってられっか。ぐっすり昼寝。

2.一族の長の次男坊?やっべー修行しねぇと。

3.一族の長の次男坊?そんな事より兄さんマジ聖人眩しい。

正解は4番のおむつ替えという名の赤ちゃんプレイタイムでした。
選択肢に無いとか言うな語るな察しろ。

唐突だが、俺が産まれてきてから気付いた可笑しい事が二つある。

一つは俺が赤子である事。もう一つは母さん(確定)が美人だって事。

確かに俺は二十代の新社会人で、上司にぺこぺこ頭下げながらミルクチョコレートに100%カカオ混ぜた感じの会社で働いてた筈だ。

もはやミルクじゃねぇけど。
ブラックだったわ。けどおかげでストレス耐性は付いた。

そんな俺が何でこんな別嬪さんにおむつ取り替えられてんだ?
見たところ俺は赤子だったし視点もかなり低い。

というか二足歩行もできねぇからマジで低い。

四ヶ月くらい悩んで出した答えが転生なんだが、そこでまた可笑しい事になってくる。

何で俺なんだ?そこら辺の凡人極めた凡凡人が転生__死んだ記憶すらねぇのに__なんて。

んなら芥川とかベートーベンとか転生させた方が世の為になるだろ、史上に名前遺すくれぇなんだから。

あと神に選ばれたとかいうのは限りなく低いと思ってる。
どこに選ばれる要素あんだよって話だかんな。

さて、ここで二つ目になるわけだが…

「母さん、サスケの奴随分と大人しいね」

考え込んでる内に赤ちゃんプレイタイムは終わったのか気色悪いあの感覚は無くなってた。

いやぁ知らない内に物事が進んで終わるって良いな。時と場合によるけど。

先程帰ってきたのであろう目の前の少年__俺の兄ことうちはイタチは大人しくしている俺を見て薄く笑いながら言った。

少しは騒いだ方が良いのかこれ?赤子って泣くのが仕事らしいが俺の場合デスクと向き合うのが仕事だったからな、よくわかんねぇ。

「ふふ、そうね…。サスケは大人しくて静かだわ、もう少し騒がしい方が男の子らしいんだけど…」
「あぅ?…あー」

母さんが静かにそう言えば、俺は声をあげるしかない訳で。

俺が女の子によく間違われるのも大人しいからかもしれんな、ただ単に母さん似なだけかもしれんが。
おっと、話が逸れたな。

とにもかくにも俺はもう少し騒いだ方が良いらしい。

まぁ気は進まないが母さんがそう言うならやるしかねぇわな。
そう思って俺は兄のほっぺたへと手を伸ばし__届かなかった。

当たり前だが届かなかった。

まぁガキんちょだもんな…しょうがねぇ。
とは言えやっぱり不服なもんは不服だ。

ムキになって手をじたばたさせる俺を見て笑ってやがる母さんと兄に苦い思いをしながらも俺は抵抗をやめない。

「あー、うー。んぅ!うー!」
「?…どうしたサスケ。俺の顔に何か付いてるか?」
「ふふ、サスケはお兄ちゃんと一緒に居たいのよねー?お母さん洗濯物取り込んでくるわ。サスケの事よろしくね?」
「うん」

ちょっと勘違いも混じってるけどあながち大外れって訳でもないから母さんは凄い。

流石母さん、母親の代表。

将来結婚するなら母さんみたいな人にしよ。これは決してマザコンじゃねぇ。

ここで俺の兄の紹介をしておこう。名前はうちはイタチ。
義理とか腹違いとかいう訳でもなく正真正銘血が繋がった俺の兄だ。

幼いながらに何か悟った様な目をしている事が多い、とてつもなく大人びた子供。

弟なんてできたらもう殆ど周りを頼らねぇんじゃねーの…とか思ってたらその弟が俺だった。
すまんイタチ、許せ。

あとうちは一族とかいう名門を取り仕切ってる父さんの長男で、重圧とかプレッシャーとかは全部そっちに行ってるみてぇだ。

今分かってんのはこんくらい。
あとアカデミーなんてのに通ってる、忍者育成学校…らしいが。

長々と考えてたら眠くなってきたな。
兄が色々と話してくれてたらしいが兄不孝者の俺は構わずぐっすり寝た。


一番はあながち正解みてぇな?



[42206] 第三話-目は心の鏡
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 01:22
さてさて、今は何時かな?
簡単だね、5時だね、朝のね。

…にしても変な時間に起きたな。泣いて母さんたち起こすのも気後れするし…。
今の内に状況整理でもするか。

ここは俺が生きていた世界とは違う世界。つまり異世界な訳なんだが…。

どことなく既視感を覚える。
例えるなら母さんが作ったレトルトカレーとおんなじ感じのが学校の給食で出されたみたいな…。

意味わかんねぇ?俺もわかんねぇ。
これは考えりゃ考える程分かんなくなるから後回しにしよ。

俺はうちは一族って名門…の頭みてぇな立ち位置である父さんの二人目の息子として産まれた。

やっぱりこういう名門だと跡継ぎは長男ってのがセオリーらしく、兄は次男坊の俺より期待されてる。
その分プレッシャーもかかってるけど。

母さんはすっげぇ美人で父さんは結構怖い。んでもって兄は優しい。
恵まれた家庭だと思う。一族云々でごたごたがあったとしても、だ。

折角の兄弟なんだから兄には重圧をかけさせない様にしてやりてぇけど…もう少し産まれるのが早かったらなぁ…。

兄不孝者とか言ってたけど兄には長生きしてほしいし幸せになってほしいし素敵な義理のお姉さんも作ってほしいと思う。素敵な義理のお姉さんも作ってほしいと思う。

「ん…なんだサスケ、もう起きてたのか」

俺の邪な心を感じとったのか兄が起きてきた。

眠そうに目を擦りながら俺に目を向けてくるその様子を見るからに、どうやら兄もいつもより早く起きたらしい。
やっぱり兄弟だから似るね、やったねたえちゃん。おいやめろ。

「うぅ…あ、あー、う、あぅー」
「サスケも起きちゃったのか?父さんと母さんはあと少しで起きてくるけど…」

俺を抱き上げて優しく言ってくれる兄。俺乳児から幼児になったら絶対兄貴の事自慢してやるんだ…。

実際兄は笑えるくらい優秀で美形で…才色兼備、容姿端麗…ダメだ泣きたくなってきた。

俺これで落ちこぼれブスだったらぜってぇ死にたくなるわ。頑張ろ。
兄に見劣りしねぇように文字通り死ぬ気で頑張ろ。

「…サスケは考え事してる時が多いな」
「うっ、うー…うぇ?」

うっおっあっえっいっ。
兄貴は俺の思考でも読めるのか?正直かなり動揺してる。心臓ヤバイ。

兄弟ってこんな事までわかんのか?双子じゃね、ここまでくると双子じゃね。
尊敬の念を込めた目で兄貴を見つめると、兄貴も見つめ返してくれる。

暫く見つめあったままだったけど、俺が手を伸ばしたのと同時に母さんが声を掛けてきて兄は俺から目を離した。

「今朝は早いのね、イタチ。あら…?サスケも起きてたの」

少々びっくりしたのか母さんが軽く目を見開きながら近寄る。
兄は気付く事無く、伸ばした腕は行き場が無くなって落ちる…









寸前に兄は俺を抱き上げてくれた。
腕に気付いてたかどうかはわかんねぇが、俺はそれが嬉しかった。

兄は俺の事を見てくれる。
兄貴は俺の事を気にかけてくれる。
兄さんは俺の事をちゃんと分かってくれてる。

刷り込みみてぇに兄さんを称賛し始めたけど俺は前から兄さんの事尊敬してたから、手のひら返しとかじゃねぇから。

「サスケ、朝ごはんだぞ。今日はサラダが出るらしい、楽しみだな」
「あぃ、うー!」

あー幸せ。やっぱサラダといったらゴマドレッシングだよな。

かけさせてもらえねぇだろうけど。ちくしょうめ。



[42206] 閑話
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 01:20
【うちは】

* うちはサスケ *

元は日本在住ブラック企業会社員。
いつの間にか転生していた。

死因は不明。
そもそも死んだのかどうかすら不明。

好物は梅おにぎりとさくらんぼ。

舌が子供に戻っているのでコーヒーはミルクと砂糖たっぷり。
最近はレモンティーがマイブーム。

猫派きのこの山派。
犬派たけのこの里派の兄とは対立関係にある。

夏が好き。
飛んで火に入る夏の虫って言葉も好き。

精神が体に影響を受けて若干子供化してるので子供っぽい。
甘いもの好き。

* うちはイタチ *

弟ができて嬉しい。
兄さん兄さんと呼んでくれるからもっと嬉しい。

けど対立関係にあるので論争する時は敵と見なす。

犬派たけのこの里派。
打倒猫派きのこの山派。

放っておくとしょんぼりする弟が可愛くて仕方がない。

時折心を読んだかと思うタイミングで弟に進言する。
無意識の内に刷り込みをしてしまったがそんな事は全く知らない。

一緒に甘いもの食べた時がここ最近の幸せな思い出。

* うちはミコト *

二児の母。大人びた息子と大人ぶった息子をもって毎日にこにこ。

夫とは半ば政略結婚だったが寄り添って歩いてきた内に相手に対する愛情が沸いてきた。

上忍。
けど、長期に渡る育児休暇を取っているので任務に出向く事は殆ど無い。
あと二年で休暇も終わる。

猫派たけのこの里派。
サスケ寄りの中立。

* うちはフガク *

一族の長。
会合の際自ら意見を言うことは少ない。

中立の立場を守っており争いが起きようものなら沈静化させる。
結局は里より一族の方に目を向けてしまった人。

犬派きのこの山派。
イタチ寄りの中立。

* うちはシスイ *

サスケの兄貴分。
気さくに話し掛け誰にでも笑顔を向ける好青年。

サスケに懐かれていると同時にイタチに負けず劣らずの力を持っている故か敵対視もされている。

犬派たけのこの里派。

対立しているのも敵対視される所以かもしれない。
けど結局懐かれてる。

【その他大勢】

* うずまきナルト *

サスケを一方的にライバル視。
大人ぶってるサスケが気に入らない。正に火と油の関係。

ほっぺたに猫ヒゲ。
だってばよ。

* 春野サクラ *

大人ぶったサスケに一目惚れ。
皆と一緒になって騒いでいるが班員だけで居るときは比較的大人しい。

二重人格。サスケにメルヘンを求める。

おでこが広い。
しゃーんなろー。

* はたけカカシ *

だらしない先生。四代目火影の弟子。木ノ葉の白い牙の息子。

エロ本片手に戦うその姿勢はだらしねぇ。けど強い。
ナルト、サスケ、サクラを育てた人。

重い過去背負ってんのに闇堕ちしなかった実はだらしなくない先生。

顔半分マスク。
だらしない先生ですまない…。

* 海野イルカ *

ナルトの恩師。よくラーメンを奢ってくれる気さくな先生。

火の意思をしっかりと受け継いだ人。
保護者(父親)に人気。

万年中忍のくせに器は既に火影級。数少ない里の良心。

* 空野ミズキ *

卑の意思をしっかりと受け継いだ人。
保護者(母親)に人気。

ナルトを騙して秘伝の書を盗ませたがイルカと一悶着し結局牢にぶちこまれる事になった。



[42206] 第四話-地獄の一丁目
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 01:16
今日は母さんと父さんが二人揃って居ない日。

多忙な父さんの事を考えりゃそれもしょうがねぇんだけど、やっぱり家に居てもらいたい気持ちが勝る。
まぁ兄さんが居るから別に良いけど…。

兄さんは満月の夜縁側に出るのが好きらしい。

今夜も俺を抱いて月明かりをぼんやり眺めてる。
俺も嫌いじゃねぇから文句は言わない。
時々こっち見て構ってくれる兄さんはマジ聖人。

そんな穏やかな夜を壊すかの様に、ちらほら灯りが見える里の方から不穏な空気が流れてきた。

赤子だからか知らねぇが、俺は気配とか見えないものの類に敏感になってた。
白い影が部屋の隅に居たのはマジで怖くて泣いた。早く歳取りてぇ。

「なんだ…?この感じ」

兄さんも何かの気配を察したのか不安そうに里の方向を見つめて呟いた。
子供が空気に敏感なのはどうやら嘘じゃなかったらしい。

母さんと父さんは大丈夫だろうか。
強い二人の事だから死んじゃいないと思うけど心配だ。

「あぅ…うえぇ、うー」
「よしよし、泣くなサスケ。何があっても、お兄ちゃんが絶っっ対守ってあげるからな」

里からの空気が気持ち悪くてむずがっていたら、優しげな瞳を向けられながら言われた。
世界一頼りになる兄さんほんと好き。

そんな兄さんがハッとして立ち上がると同時に俺は何故か急に襲ってきた眠気に負けた。

タイミングを見計らったかの様な眠気に気味悪く感じながら眠りに就く。兄さんに抱かれたまま揺さぶられる感じを最後に俺は寝た。

* * *

紅く染まった尾が家屋を叩き潰す。
轟音と衝撃と恐怖に顔を歪めながらも、イタチは弟を守ろうと必死になって指定避難所の方へ向かっていた。

人の流れに従う形で走りながら、すやすやと眠っている腕の中の小さな命を抱え直す。

父と母は居ない。おそらく人々の誘導に手一杯なのだろう。
ならばサスケを守るのは自分しか居ない、何が何でも守らねば。

人波の隙間から父らしき姿とうちはの忍らしき男が見えた。様な気がした。

父らしき男は腕を組んだまま前方を睨み付けている。
それは逃げ惑う人々に対してではなく、抗えない上からの圧力に対しての様だった。

それをきっかけにイタチは速度を速める。

両親が居ない事を再認識した頭は、どこか冷静な部分が早く逃げろと囁いている気がした。

再びの轟音と衝撃にイタチと周囲の人間はは身構える。

そうして目を開けてみれば、先程まで原型を留めていた一軒家達が崩れている事に目を見張った。

どうやら先程の衝撃で目を覚ましたらしく、サスケが不安そうに泣き始めた。

周りが自分の事で手一杯だからか、泣き声なんて何処からでも聞こえてくるからか、はたまたその両方か…幸いにも迷惑そうにする人間は誰一人として居なかった。

「おぎゃぁぁぁ、うぁああぁぁ」
「よしよし、びっくりしちゃったな。今の内だ、避難所に急ぐよ」

安心させる様に言ってもサスケは泣き止まない。
頭を撫でたり強く抱き締めたりと、泣く弟を宥めながら避難所に急ぐイタチ。

突如として化け狐に襲われた里を満月と一人の男だけが眺めていた。

* * *

赤子の泣き声が響く院内。
九尾襲撃から一日経った今、イタチは母ミコトと弟サスケと共に赤子が眠る一室を見つめていた。

父は職務に追われ居ない。
何はともあれ家族が無事で良かった、とイタチは母の手を握り締める。

母の腕の中で眠るサスケは穏やかな寝顔を晒していた。

「……クシナ」

一人の赤子を見つめ呟いた母は、悲痛な面持ちであった。



[42206] 第五話-三年飛ばず鳴かず
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 01:14
兄さんが帰ってくるまであと20分。

俺は時計を見て溜め息をついた。
最高に憂鬱だわ。

アカデミーもとい忍者育成学校のせいで兄さんは日中家に居ない。

あの満月の夜__九尾襲来事件から一族の人達は何だかぴりぴりしてる。

と言ってもほんの一部の人達だけだし、どうせただの勘違いだろうけど。
いっつもにこにこ笑ってる人達の方は何も変わった様子ねぇし。

父さんは忙しくて修行に付き合ってくれねぇし母さんも家事で忙しい。
必然的に俺は家で遊ぶか一人で修行するかしかできねぇ訳だ。

まだ幼いからって保護者同伴じゃねぇとうちはの領地内から出してもらえねぇし…。

「暇ー…はぁ。」

自室の中央でごろごろ寝転がって言ってみても気休めにすらならない。
泣けてくるぜ…。

うつ伏せになって組んだ腕に顎を埋める。
やる事がねぇとどうしても考えちまうのは転生の事についてだ。

ここ俺がは間接的に知っている世界だ、ってのに気付いたのが一昨日。
まだ俺がうちはサスケじゃなかった時、友達に教えられた漫画の中身に似ていたのに気付いたのがきっかけだった。

教えてもらったっつってもそれは所謂コラ画像とやらで、「サスケェ!お前の前のたなのオレオとってオレオ!」とか「日向は囮にて最適」とかそんな感じのもん。
知ってんのはサスケェとイタチと卑劣様とクレイジーサイコホモくらい。
正直俺が気付いたのは奇跡に近かった。
卑劣様なんか顔岩になっててビビった。あの人お偉いさんかよ。

んまぁこんな感じで「漫画の世界に転生したのかー」って納得…できるわけもなく、脳の許容量がオーバーしたのか昨日まで熱出してうんうん唸ってた。子供って大変。

転生云々の話は遠回しに避けてたんだけどやる事なくて結局考えちまってる、っていうね。

そんで次に、うちはサスケって脇役なのかね、って俺が考えるのもしょうがねぇわな。
こんな事になるんなら読んどきゃ良かったな、後悔先に立たずか…。

つーか主人公が誰かも分かってねぇのに。
いや、そもそも俺の年代に主人公居んのか?主人公の親世代の人間かもしんねぇし…。

こればっかりはお手上げだな、とりあえず兄さんとおんなじ忍になって可愛い彼女作るか。兄さんは素敵な義理のお姉さん作ってくれ。

幸い鏡を見たら俺は中々に整ってる顔だった。

けど子供の内は可愛くても大人になるにつれて不細工になるのはよくある事だし…おぉこわ。

でもまぁ俺が産まれた一族は全員顔面偏差値高い方だし大丈夫だろ。

そういえば顔付きがアジア系だったから俺が初めて顔を認識した時も違和感無かったな。

うちはって東洋人か?早いとこ領地から出て確認してぇわ。
もしかすると里の区域ごとに人種別の人間が住んでるかもしんねぇし。

そういえば産まれてこの方まともに里を見た事が無いかもしれない。いっつも母さんの腕の中で寝てるからな。

寝転んだ状態から起き上がった瞬間、玄関が開く音が聞こえてきた。
大方兄さんが帰ってきたんだろうな、早く行こ。

「ただいま」
「あら、おかえりイタチ」
「サスケは、っとと…」
「おかえり兄さん!」

どたどたと長い廊下を走れば間髪入れずすぐ兄さんに抱きつく。
俺が何処に居るか聞こうとしてたみたいだけど俺の方が早かった。

急に飛び付いたのにしっかり受け止めた兄さんはやっぱり凄い。尊敬する。

「こら、サスケ。廊下は走っちゃダメでしょ」
「はーい…」

母さんに怒られる事になったけど、俺としては結果オーライだ。

修行に付き合ってもらおうとしたけどいつになく多いアカデミーの宿題のせいで駄目だった。

木の葉アカデミーを許すな。



[42206] 第六話-喉元過ぎれば熱さ忘れる
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 01:11
父さんに呼び出された今朝。

何かしただろうかとひやひやして話を聞いてたけど、漸く俺も一人で領地外へ出る事が許された。一人で、だ。

母さんは渋い顔をしてたけど、俺は嬉しくて堪らなかった。
何せやっと父さんと母さん、兄さんから離れて行動できるんだからしょうがねぇ。

別に嫌って訳じゃなかったけど周りの子達は同年代で集まって動いてるから、いつも兄さん達と一緒に居る俺は結構恥ずかしかった。
それも今日限りで卒業だ。

「やっぱり此処だな…」

ゆるゆるの頬っぺたを晒しながら、俺は里外れの方にある甘味処へ来ていた。
甘栗甘も良いけど断然俺はこっち派だ。兄さんと初めて来た時から忘れられん。

幸い誰も居なかったので、遠慮無く店の外に用意してある長椅子に腰掛ける。

作り物の花(季節によって変わるらしい)が店の外観を彩っており、長椅子に敷かれた赤い敷物は絹の様な手触りがした。

何度来ても飽きない。
子供ができたら教えてやろう。
何てったってここから見える景色も最高だからな。

店は道を挟んでちょうど森の一部に面している訳だが、その一部が花を咲かすのだ。色とりどりの。
時折桜の花弁なんかが散ってきて緑茶に落ちる事がある。実に風流である。

「あらサスケくん。今日は一人?」
「うん!今日やっと一人で遊びに行っても良いって言われてさ!」
「そうかいそうかい、そりゃあ良かったねぇ。あ、そういえば来年からアカデミーなんじゃない?」
「そうだよ、ちょうど一年後!」
「そりゃめでたい!よっし、んじゃ注文どうする?」
「それじゃあ…みたらし三本!」
「よしきた!ちょっと待ってな」

竹を割った様な性格の持ち主である此処の店主、茜さん。

近所のおばちゃんみたいに気さくな話し方から実年齢より上に見られる事が多いけど、まだぴっちぴちの24歳。彼氏は居ないらしい。

姉御肌で頼まれ事は大抵引き受ける。俺が懐くのも時間の問題だったって訳だ。

そんな姉さんの初恋相手はイタチ兄さん。
叶ってもないけど破れてもないから頑張ってほしいと思う。

将来は俺の義理の素敵なお姉さんになるから呼び方も姉さんだ。
本人も満足そうだし別に大丈夫だろ、たぶん。

里の中央に構えてる甘栗甘の方が客足も多いけど、ここは知る人ぞ知るって店なので不評な訳じゃない。
茜姉さんの名誉にかけて言っとくけど。

ぼんやりしてると俺が腰掛けてるのとは別に用意してあるもう一つの長椅子の方に誰か座った。

横目で見ると黒髪と茶髪デブの男子二人組。俺と同年代っぽい。

つーかデブの方は甘味食べに来たんならポテチ食うのやめろよ、俺のりしお派な。

「へいお待ち。みたらし三本ね!」
「ありがと姉さん」
「ゆっくりしていきな!」

お礼を言うとにっこり笑って隣の二人組へ注文取りに行く姉さん。

う~む、やっぱり素敵な義理のお姉さんになってほしい。
兄さんにそれとなく伝えるか。
あ、でも長男だから政略とかあんのか?それは嫌だわ。

「………」

団子を食いながら兄の結婚についてあれこれ考える弟ってどうなんだ。

自分で思ってて複雑な気分になったわ、兄さんの人生は兄さんのだし俺がここまで考えるのもお門違いか。

それにしても……この二人組さっきから人様の事ちらちら見てきて気になるな。

二人組っつってもあからさまなのはデブの方だけどよ。

あっちも団子が届いたのをきっかけに俺は二人組の方へ顔を向ける。
黒髪が面倒臭そうな顔しててちょっとムカつく。

「何だよ、さっきから人の顔見てきやがって。顔に何か付いてんのか?」
「えっ、べ、別に付いてないと思うけど…」
「見ねぇ顔だと思ったから気になっただけだよ。気に障ったんならワリィ」

デブはともかく黒髪が大人な対応してきて正直驚いた。

大人びてんな、親の教育の賜物か?ま、兄さんの方が大人だけど。……当たり前か。

「そーかい…。あんま領地内から出てねぇからな。見覚えねぇのも当たり前だ」
「領地…?お前もしかしてうちはか?」
「だったら何だ?」

緑茶を一気に飲み干すと熱さが喉を通りすぎてくのが分かった。
舌がひりひりして痛い。冷ましゃ良かった。

うちはって聞いて黒髪の方は納得いった顔してるけどデブの方は不思議そうに目を瞬かせていた。
あいや、黒髪の反応が可笑しいのか。

「姉さん、お勘定此処に置いとく。釣銭は要らねぇから」
「あ、ちょっと!?サスケくん待って今行くから!」

店の奥に向かって言うと慌てた声をあげて姉さんが此方に向かってくるのが分かった。
いつものお礼だし気にしなくて良いんだけどな。

姉さんが来る寸前に俺は瞬身で店からある程度離れた場所へ移動する。

シスイさんに教えてもらったんだけどこれ便利だな。
今の体じゃチャクラ結構使ってアレだけど。



[42206] 第七話-累卵の危うき
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 01:08
ぴりぴり、ぴりぴり。

俺が朝起きてから夜眠るまでに感じた空気を言葉にするならこうだ。

例えるなら静電気の様なソレは、俺のストレスを溜める分には充分だった。

「はぁ…」

ぴりぴり、いらいら。

肌がぴりぴりを受ける度いらいらが増えていく。

領地内の空気はいつになく殺気立っていて、普通の一般人が入ってきたら失禁するくらいのもの。

まぁ一族の殆どは忍だし子供も恐れをなして俺以外出歩いてないからその心配はねぇけどよ。

にしてもこんなにぴりぴりしてどうしたんだ一体。
九尾襲来事件の翌日よりひでぇ事になってんぞ。

そういった大人が流す空気に敏感な俺含めた子供達は朝から居心地悪そうだった。可哀想に。

また何かに襲われた、っていうのは無い。もしそうなら今頃こんな場所に居ねぇだろうし。

族長の父さんの身に何かあった…?それも無い。

今朝は美味しそうに(表情筋動いてなかったけど)サラダを食べていた。
それに今日は休暇を取っていた筈だし、護衛紛いの人達だって居る。

一族の誰かが殺された…もしくは目を抉られた?にしては動揺の欠片も見せない。
子供に悟らせないよう隠してるなら大したものだ。

どれもこれも根拠と信憑性が無くて頭を抱える。
何でこんなに気を立たせているのかわけが分からない。
また里との衝突があったのか?なら族長の父さんは家に居ないっつーの…。

全く分からん。理解できん。
近頃の若者の思考は読めねぇな…。

老人になった気分で領地内をとてとて歩き回るも謎は一向に解決の兆しを見せない。

兄さんに聞けばわかんのかな。
なんて考えてみたりもするけど、生憎兄さんは多忙の身。
話に寄れば出世したらしく時間が取れないんだとか。

あー、そういえば兄さんと修行全然できてねぇや。
それにしてもこの前の凄かったなぁ。
死角の的にまでクナイ当ててさ、鳥肌もんだったわ。

俺も真似しようとして結果足首捻挫したんだけどな。

兄さんと修行したいなぁ。

どっか遊びに行こっかな、此処に居てもやる事ないし退屈だし。
あーでも行き先も特に無いし…。姉さんとこは金ないから行けねぇし。

「……ちぇっ」

小石を蹴りあげて門の方へ向かう。
いいや、ぴりぴりしてるとこより外のがマシ。

そう思って領地を出たけどその瞬間感じた咎めるような視線に思わず振り向いてしまった。

振り向いた先に居たのは__家から持ち出してきたのか__椅子に腰掛けた一人のお爺さん。

穏やかな顔をして空を見つめている。その姿からは俺に向けられたあの視線を感じられなかった。

気のせい、か?ただの気のせいか?
唖然として辺りを見渡しても、お爺さん以外の人影は感じない。

俺は怖くなって逃げ出すように門を潜り抜けた。












背中に誰かの視線を受けながら。



[42206] 第八話-喪家の犬
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 01:06
いつの間にか俺が立っていたのはうちはの領地内だった。

おかしい。俺はさっきまで家に帰ろうと走ってた筈だ。
最近暗くなるのが早いからか、既に月が浮かんでいる空を見て焦りながら。

だから今頃俺は家に帰って父さんと母さんに遅くなった事を叱られた後兄さんに慰めてもらってなきゃおかしいんだ。

こんな場所に立ち尽くして雨に当たられてるなら尚更おかしい。

「…?」

おかしいおかしいと家に向かって歩いても周りは人っ子一人居なかった。
それどころか人の気配すらしない。

静まり返った領地内は俺の居場所は此処じゃないと言っている様な気がして堪らず駆け出す。

怖かった。
いつもサスケちゃんサスケちゃんとにこにこしているお爺さんお婆さんも、優しくしてくれるお姉さんお兄さんも、全員全員居なかった。

世界が崩れ始めている気がした。

いや、きっとそうだ。世界が崩れ始めているんだ。

きっと今にでも兄さんが現れて俺を皆が居る所に連れていってくれる筈。


結局家に着いても兄さんは迎えに来な
かった。


族長である父さんの家は四人で住むには少し大きすぎて、小さい頃はよく迷子になったりした。
そんな思い出たっぷりの家も、今は他と同様水を打った様に静かだった。

玄関を開けても誰も居ない。
誰の気配もしなかった。
思わず不安に顔を歪めてしまう。何で急に皆居なくなったんだ?

「父さん、母さん…兄さん?」

台所、居間、和室、何処を見ても誰も居ない。
異常だ。呼んでも探しても誰も現れないなんて異常だ。

長い廊下を渡る。次で最後の部屋だった。

此処に居なければ俺は恐怖で叫び出すだろう。
何かの間違い、ただのドッキリ、質の悪い夢であれば良いのに。

憂鬱な気分で扉を開ける。両開きのそれは、子供である俺が開けるには少し大変で両腕を使う程だった。

現に今も、扉に手をかけて押している。手は汗に濡れていた。

「…ッ!」

どくり。心臓が跳ねる音がする。

其処には誰も居なかった。部屋の中央には何かを型どったテープ。
べったりとした血の跡もあった。
何で俺の家にこんなのが…?

まさか父さんと母さんは”これ“を追求されて説明しに里へ行ったのだろうか。
けれどもそれは俺があそこに立っていた理由にならない。

恐る恐る近寄る。
血の臭いはしなかったけど、赤黒いそれは充分気持ち悪かった。

よく見てみると、テープは人の形を模している様だった。
しかも人が折り重なって倒れてるみたいに。

「っう…!」

瞬間に頭痛。
ずきずきと頭を痛めつけるそれはいつまで立っても治まってくれない。

何なんだこの頭痛。
その痛みはまるで大切な事を思い出せと言っているようだ。

『兄さん!一族の人達が…!』

『愚かなる弟よ…』

『嘘、だ…兄さんが、そんな事…』

『南賀ノ神社本堂…その右奥七枚目の畳の下に一族秘密の集会場がある…』

『うちはサスケはあの夜の事を全て忘れる。記憶は両親の殺害現場に行く事を解く条件として忘却する。加え、  の記憶は生命の危機に思い出すものとする。うちはイタチへの恨みは          会う事を条件として倍増させる』

流れ込んでくる映像。
血塗れで倒れている人達、折り重なって死んでいる両親、刀を手に持ち此方を見つめる兄。

「ああぁぁあぁああっ!!!!」

膝から崩れ落ちる。
あり得ない程目が熱い。
頭痛は無くなったが、その代わりに心痛が襲いかかってきた。

記憶の中の俺は俺に幻術をかけていた。

記憶の中の兄は一族を殺していた。

記憶の中の両親は二人重なって死んでいた。

昔兄が教えてくれた事がある。

うちは一族は三大瞳術の内の一つ、写輪眼を有していると。

眼を合わせる事を条件に相手を深い幻の世界へ堕とすその眼は、各国の忍、果てにはそういう筋のマニアにまで欲されたという。

戦争中のうちはの死体は、回収班が来る前よりも早くに目を抉られていたそうだ。

抉られた眼達がどこの国の誰の手の中にあるかは全く分からないが、兄は抉ったのは自国の者ではないかという憶測を呟いていた。

それ以来兄は眼についてあまり話してくれなくなったけど、今思えばもっと聞いておいた方が良かった。

そんな呪いの眼を俺は持っているのだろう。目が熱いのもそれの影響なのかもしれない。

二つ折りになった体は自分でもゾッとするくらい冷めていた。

血が通っていないみたいで、けれども今はそう感じれる事が何より嬉しかった。

あんな兄と分けた血がこの体に流れているのは堪えられなかった。

心に受けたダメージが体にも反映されたのか、立ち上がる為床につけた指先は震えていた。

ふらふらの状態でも視界は良好だった。眼と体が相反を起こしていて思わず薄く笑う。
笑うしかないだろう、こんなの。

あんなに愛した父も、母も、一族さえも、何より誰より好きだった兄に奪われた。

兄と共に食べた甘味も、兄と共に過ごした家も、兄と共に送った日々も、今では虚しく寂しく捨て去りたい記憶の一部となった。

けれど、実際に捨て去る気にはならなかった。なれなかった。

今はまだ、忘れたくないと思える余裕があった。
今はまだ、悲観に暮れていたかった。

覚束ない足取りで扉を開ける。
振り返ると、両親を型どったテープと血痕が俺の記憶が正しい事を証明していた。

ゆっくりと扉が閉まる。

響いた音は、あまりにも虚しかった。


* * *


病院を抜け出していた俺は、うちはの領地を出るなり直ぐ様捕まった。

シスイさんの家にお邪魔して鏡を借りると、写輪眼はやっぱり発動していた。

どうすれば解除できるのかと鏡相手に四苦八苦し眼に力を込めたら解除された。
原因は分からないが。

そうして元に戻った真っ黒な目は、真っ白な部屋を映した後、何の面白味もない手元を狂った様にじっと眺めていた。
かれこれ数時間は経っている気がする。

ああ、ずっとあそこに居れば良かった。
こんな部屋に閉じ込められるくらいならあそこに居た方がずっとマシだ。

その時、静寂に満ちていた病室が扉を開ける音で壊された。

怪訝に思い扉の方を見ると、一人の老人と二人の屈強な男がずかずかと遠慮なく入ってきた。

それに続く様に俺付きの看護婦と院長らしき男も入ってくる。

老人の方は知っている。
決して遠くはない距離で見るその目は、本来持ち合わせているであろう優しげな眼差しとは打って変わって申し訳無さそうに細められていた。

いくら病院だからってこうも自分のテリトリーを荒らされると苛々する。

火影は椅子に座り此方を見つめるが俺は顔を逸らし窓の外を眺めていた。
男二人は俺の態度に殺気立つ。看護婦と院長はひっ、と小さく息を飲んだ。

火影は手で二人を制すると、俺に向かって喋り始めた。

「うちはサスケ…お主の一族は先日お主とお主の兄を除いて滅ぼされた」

お主の兄、というワードにぴくりと指が震える。
爺のくだらない話に一族の名を出すなら容赦はしないと俺は火影に顔を向けた。

火影は何故か満足そうだった。

「お主の苦しみと怒りは最もじゃろうが、今はわしの話を聞いてほしい。
お主は今や天涯孤独同然の身となってしまった。家も家族も失ったお主じゃが、わしはお主に家を与えたいと思って」
「その必要はねぇよ」

火影の言葉を遮り一言。
困惑を含んだ眼差しは俺に理由を説明しろと訴えていた。

「俺はこれまでもこれからもうちはサスケだ。うちはの領地を出る気は無い。赤の他人が用意した家ごときに住む価値があるとも思えない。悪いがこの話は蹴らせてもらう」

里のトップ相手に言い放った俺は、世間一般的に【不躾】 【無礼“】【礼儀知らず】 【恩知らず】等と称されるのだろう。
別にそれでも構わなかった。

言った通り俺はあの家に以前と同じく住む気だった。

それは先程まで幻術にかかっていた俺への戒めにもあるし、無力な自分へ孤独を思い知らしめれるし、何よりイタチへの憎しみを嫌でも忘れられない。

そんな決意に塗れた俺の目は、酷く汚かったと思う。

そんな俺を見て火影は何か考えを数巡させていたが、口から出た言葉は俺の望み通りのものだった。

「良かろう、お主がそこまで言うならわしはこれ以上何も言えまい…。じゃが、困った時はいつでもわしを頼るんじゃぞ」

困った時も頼んねぇよ無能爺。

火影であるにも関わらず、イタチ一人なんかにうちはを呆気なく滅ぼさせた目の前の爺を俺は心底軽蔑した。

嫌いだお前なんか、お前らなんか。
俺は一人で生きてやる。誰の力も借りねぇ、全員利用してやる。
全てはイタチの復讐の為に。

病室を出ていった火影を見送り俺は脱力する。

【アカデミーは落ち着いてから通い始めても構わない】

【生活費は此方から出させてもらう】

【一人暮らしで困った時はいつでも頼ってくれて良い】

一人の孤児にやり過ぎじゃないかと思ったが、如何せん俺はうちは一族。

大事な大事な写輪眼を手放したくないだけだろう。
もう一人の生き残りは既に居ない様だし。

また静かになった病室で、俺は遅い来る睡魔に身を任せる。

退院は一週間後になるらしいが、俺は今夜にでも抜け出すつもりだった。
そんなに傷も負っていないし、何より早く家に帰りたかったから。

体を横にして目を閉じる。
腕に受けた傷が痛みを訴えるが、胸の内に巣食う憎しみに比べれば何の事も無かった。





今はとにかく眠りたいんだ、静かにしてくれ。





そう呟いて意識を落とした。



[42206] 第九話-後は野となれ山となれ
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 00:58
泣き叫ぶ人達、残虐な笑みを浮かべる兄、俺に向かって助けを乞う両親。

『サ、スケ…たすけ』
『ひゃははははははァ!!見てろサスケェ!お前が無力なばっかりに大好きな両親が死ぬザマをよォ!』

首が二つ、跳ねた。

「っはぁ、はぁ…はぁ……夢か」

やめてよ、と叫ぼうとしたところで目が覚めた。
身体中嫌な汗に濡れ、目から涙が流れている。
おまけにさっきから寒気が治まらない、困ったものだ。

見渡すと病室は俺一人だけで、月明かりがベッドの傍に置かれたテーブルを照らしていた。

テーブルの上には胡蝶蘭の花が生けてあり、月光のせいか白いそれは神秘的に見えた。

夢の中の兄は微かな俺の幻想をいつだって徹底的にぶち壊す。
今夜もそうだ。
優しく強い自慢だった兄は、両親を殺す事さえ躊躇わない残忍な男に成り下がっていた。

こういった悪夢を見る度、俺は夢を覚える様になった。いや、なってしまった。

満足に寝れた気がしないのはいつもいつも飛び起きるからだろう、きっと。

ああ、嫌だ嫌だ。
じっとりと汗ばんだ額を机の引き出しに用意されてある清潔なタオルで拭う。

体は未だ小刻みに震えている。
まだ汗ばんでいる様な気がする額に手を当てると、驚く程冷たかった。

デジタル時計の表記を見ると、今はどうやら真夜中らしかった。
死んだ様に黙している街を見ると不安な気持ちになってくるのは俺だけじゃないだろう。

2:36。
今の時刻は一般人なら誰でも寝ている頃だ。

夜勤の看護婦達さえ出し抜けば、実質俺は家に帰り布団の中で眠れる。

そうと決まれば話は早い。
こちとら昼から脱走しようと考えていたのだ、ある程度の策は考えてある。

そっとベッドから降り立つと薄気味悪い程明るい月の光を灯り代わりに作戦を決行する。

見回りに来た奴等に気づかれないよう枕を布団の中に入れ膨らんだ状態で置いておく。

分身の術を使っても良いがチャクラがじわじわと無くなっていくのは不愉快なので却下だ。
それに何日術が保っていられるか俺にも分からないからな。

これだけじゃ心許ない。
もし不審に思われ布団を剥がされたりすれば一貫の終わりだ。

だから決めの一手として書き置きを残す。
勿論『家に帰ります』とか何とか馬鹿正直に書くつもりは全くない。

幸いにも俺は心も体も傷を負っていると医師に判断されている。
そう判断されるのは好都合だ、利用させてもらおう。

引き出しには大抵の物が用意されている。
タオルが入っていた段の下からメモ用紙と万年筆を取り出した。

早速仕上げた書き置きには『食も喉を通りません。食欲も失せました。暫く起こさないでください』と一言。

起こしに来た奴の【暫く】がどれ程かは運次第だが、少なくとも俺が家でゆっくり眠れる時間くらい稼げる筈だ。
上手くいけば…そう思って口許を歪める。

上手くいけば俺はもう此処に戻らなくて良いかもしれない。

楽観視しながら書き置きを枕元に設置した。


* * *


三階にある病室から飛び降りる為窓を開ける。夜風が頬に当たり気持ち良かった。

下を見ると植え込みが並んでいるのが目に入った。
昔から良好だった視力は夜でさえも俺に貢献してくれている。今のように。

まぁ夜に慣れた目に加え明るい月夜となれば大抵の忍は見えるんだろうけどな。

植え込みがあるんなら飛び降りても多少の怪我で済む。

チャクラ吸着ができれば話は早いんだろうが、生憎習得できていない。不完全のまま壁に垂直になる…結果は目に見えて分かった。

多少遠回りでも悲惨な末路を辿るよりマシだ。急がば回れとも言うし。

窓枠に足をかけると、タイミングを見計らったかの様に先程よりも強い風が吹く。

臆病風に吹かれるなんてあり得ねぇ。
怖じ気づきそうになる心を奮い起たせて一思いに飛び降りる。

その時瞬間的に思った。物音がすれば誰か気づくのでは、と。

だがもう遅い。
目の前には植え込みが迫っている。
勢い付けすぎたせいか植え込みを囲うレンガにも当たりそうだ。

せめてもの抵抗として受け身を取ると肺から酸素が一気に吐き出された。

「かッ、はっ…!」

視界がちかちかした。息が止まり脳は停止した様に思えた。

物音がしたかどうかは分からない。
バレているにしてもいないにしても、この場から一刻も早く立ち去らなければならない事は火を見るより明らかだった。

ずきずきと背骨が痛む。
この体は耐えきれなかったのだろうか、必死に息を整えながら物思いに耽る。

まぁいい。とりあえずは病室から脱け出せた。
後は夜の街を横切ってうちはの領地に出向くだけだ。

気ばかり焦っていて後の事を考えていなかったな。物音も体もよく考えればすぐ予測できた筈なのに。
背中は痛みを訴えているが、折れている訳ではなさそうだ。頑丈な体だな。

できるだけ負担をかけさせないようゆっくりと体を起こし、一歩ずつその場から歩き出す。

五歩も歩けばぎこちなくも普段と変わらぬペースで歩けた。
その倍歩けばぎこちなさは無くなった。その倍歩けば走れる程になった。

背中が痛みを訴えても俺は無視し続けた。
痛覚なんて要らないとこれ程思ったのは久しぶりだった。

ただ、ただ今は痛みにうずくまり周りに助けを求めるより大切な事があった。だから走った。それだけだ。


* * *


領地に着いた頃には既にふらふらの状態だった。
乱れた息を戻す暇も無く俺は敷地内をさ迷う。

否、さ迷うって言葉はおかしいな。ちゃんと行き先は分かってるんだから。

シスイさんの家と母さんの実家を横切って、おばちゃんや俺より年下の奴等の家を何度も通り過ぎて、そうして俺の家が見えてくる。

他の家より何倍も立派な門構えは、俺が帰ってきた事を喜んでいる様に見えた。

思わず脱力しそうになる。やっと帰ってきた、帰ってこれた。

「…ただいま」

誰の返事も無い事くらい分かっている、知っている。
けれどもそう言わずにはいられなかった。

返事が無くても、そう言う事自体が俺が此処に住んでいる事の証になっていると思った。



[42206] 第十話-臍を噛む
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 00:54
「ん…」

心地好い快眠から少しずつ意識が浮上していく。
今日は珍しく悪夢を見なかった、おかげでぐっすり眠れた気がする。

しかし良い夢を見れたかと言われればそうでもなく、俺が悪夢以外の夢の内容を覚える事は一度も無かった。

悪夢以外覚えるなとでも言わんばかりの仕打ちに、信じもしない神を呪ったのは今に始まった事じゃなかった。

起きる気にもなれず、大して用事も無かった俺は目を閉じたまま二度目の眠りに就こうと枕に顔を埋めた。

そうした微睡みの中眠気に身を任せていると、台所の方から料理をする音が聞こえてきた。

俺は反射的に体を起こし、ぐしゃぐしゃの寝癖も皺になっている入院服もそのままに、廊下を走り襖を開け、台所へ一直線に向かった。

台所の扉を開けると、母さんが包丁でネギを刻んでいるのが分かった。

居間の方には朝食を待っている父さんが新聞を読んでいる。
兄さんは朝から任務なのか忍服に身を包んでいた。

全部全部、今まで通りだ。兄さんも母さんも父さんも、皆居る。

歓喜の歩みを進めると、兄さんが真っ先に俺に向かって「おはよう」と言ってくれた。
入院服だと思って着ていたのはただ色が白いだけの俺の普段着だった。

そうだ、今までのは全部悪い夢だったんだ。
それにしてもリアルで悲しい夢だった。兄さんに話して慰めてもらおう。

そう思って兄さんの方へ数歩近付くと兄さんと母さんと父さんは音も無く消え去り、ついでに先程まで聞こえていた料理の音もしなくなった。

俺は一人で誰も居ない部屋に立っていた。


* * *


ぼんやりと時計の針を見つめる。朝だと言うのにもうこんなに疲れてしまった。

まさか自分が幻聴幻覚を味わう事になるとは思っていなかったので、その分ダメージが増幅したのかもしれない。

本来ならば自分が幻を味わわせる立場だというのに、先程の自分は夢と現の区別もできず幻を見て魅せられていたただの子供だった。

その事実に何とも言えぬ歯痒さを感じ、

机に乗せられた白い腕を赤くなるまで握り締める。爪を立てて、肌に食い込み、跡が残っても、尚強く力を込めた。
それが今の自分にできる精一杯の事だと思った。

世間は仕方無いというのかもしれないが、そんなの俺のプライドが許さなかった。
うちはである以上いくら子供でも【仕方無い】という言葉は通用しない。

並より出来て【当たり前】なのだ。
エリート一族に産まれた以上それは既に頭に叩き込んでいる事だった。

頭に叩き込んでいる以上、泣き言も弱音も言えない。
ましてや己のくだらない妄想で足止めを食らう等もっての他だ。

本当はくだらないなんて思いたくないが、兄への復讐にその妄想が必要かと問われれば自身は黙ってしまう。
黙ってしまうなら不必要なのだ。妄想なんてしている暇はない。

組まれた腕に顔を埋めると、胸中に後悔の念が押し寄せてきた。
帰ってくるんじゃなかった、と滲む視界で一人思う。

こんな妄想を毎日魅せられて辛い思いをするくらいなら、とっとと違う家に移住して有意義に時間を使うべきなのだ。
それが赤の他人が用意したものだとしても。

しかし後悔と同時に晴々しさも胸の内を満たした。この家に居る限り、住んでいる限り自分はうちはサスケなのだ。

少なくとも一族も家族も失った自分が自分であると証明するには、この家が必要だった。
証明する相手は、勿論自分なのだけれど。

泣いている暇も妄想している暇も無い。
立ち止まっている暇などないのだ。今の自分にとって一秒一分が惜しい。
一日でも早くイタチに復讐する為には机から立ち上がって兄とよく行った森に向かい修行をしなければ。

体はやけにのろのろとした動きで立ち上がった。

ふと目に入った白い入院服。修行をするには大分邪魔だ。
即座にそう判断すると自室に戻り直ぐ様普段着に着替える。

部屋を出ようとすると乱れた布団が目に入った。暫く考えた後押入れに手早く仕舞った。

普段着は皮肉にも妄想の中のものと同じだった。


* * *


「うちはサスケ」

家から出るなり背後から呼び止められた。
邪魔をされた事よりうちはの領地に勝手に入ってこられた事に苛立ったので、舌打ち混じりに振り向く。

「んだよ…ここは立入禁止の筈だ。とっとと失せろ」

自分が言った通り、うちはの領地である此処は立入禁止である筈だ。

その上知らない人間がうちはの地を踏みしめていると考えると怒りで気が違いそうだった。

それでも目の前の男は怯んだ様子も見せず淡々とした態度を貫いていた。

先程自身を呼び止めた声も感情なんてまるで無かったし、動物を模した仮面は相手の表情を窺えなかった。
が、目の部分は空いていたので相手の目は確認できた。酷く冷たかった。

銀の色をした髪である事と、ガタイの良さから男である事くらいしか分からない。背筋を冷たい汗が流れた。

そんな自分を知ってか知らずか、男は淡々と言葉を紡ぐ。
どこまでも無機質なそれは、自分の意思で喋っている様には思えなかった。

「病室から無断で脱け出していた事が先刻判明した。子供の悪戯にしては度が過ぎている。さっさと戻るぞ」
「悪戯?悪戯ごときで一族の死に場所に来るかよ。戻んのはてめぇの方だ、ここはうちはの地だぞ。余所者は消えろ」

いけ好かない相手だと思った。
戻るも何も自分はあの病室から”戻って“来たのだ。

まるで病室こそが帰る場所とでも言われている様で気分は一気に急降下した。

苛立ちをぶつけ相手を睨み付けながら言い切ると、男は仮面から覗く冷たい瞳を細めた。
まるで融通の効かない面倒な相手を見るように。

その瞬間感じた寒気に気を取られた一瞬の隙に男は消えていた。

帰ったか?と思ったのも一瞬で、背後から気配を感じ振り向こうとした瞬間意識は強制的に落とされた。



[42206] 第十一話-刀折れ矢尽きる
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 00:51
軽い倦怠感。まるで体を覆っているかの様なそれは、自分が起き上がる事を阻止している様だった。

意識はとっくに浮上しているというのに、体は未だ眠ったまま。

そんな体験をしたのは決して一度や二度じゃない。最早慣れていた。
ああ、またか。と思える程には。

しかしこの状態になると五感と第六感が一般人並に鈍ってしまい、人の話し声や気配を感じ取れなくなったりしてしまう。
実質寝ているも同然なこの状態は、時間が経つ事によって徐々に確実に薄れていくのだ。

だから今回も待っていれば自然と体も起きる筈なのだ。
そうでなければおかしい。

だというのに…だというのに、自分の体はいつまで経っても起きなかった。

何分何秒経ったかは分からないが、感覚的に言えばそろそろ起き上がっても良い筈だ。

いつもとは違う体の異変に恐怖が胸の内を埋めていった。一体自分の体に何が起きたのか。
目も開けられない今の状況じゃそれすら確認できない。

思い出せ、考えろ。

俺はこうして呑気に寝てる前は何をしてた?どこに居た?うちはの集落に三度目の脱走を図って、その後…その後?集落に居た事は覚えている。

それだけは分かる。が、そこで何をしようとしていた?そこで何があった?自分が何故集落に居たのかが分からない。

それに加え、自分が今どこで眠っているかも分からない。

鈍い触覚はシーツの感触を訴えてくるがそれだけの情報では何も掴めない。
仮に今眠っている場所が布団もしくはベッドだとしよう。
次に浮かんでくる可能性は病室、自室、もしくは誘拐の三つ。

うちはの生き残りは各国の忍、マニアにとって喉から手が出る程欲しい筈。こんなに眠っていられるのも嵐の前の静けさだからなのかもしれない。

いや、そもそも眠っているのだろうか?自覚が無いだけで既に死に絶えている可能性も無いとは言い切れない。
だとすれば自分は幽体なのか。死因は一体…?

そこで不意に上体が起こされた。
どうやら何者かが自分の体を起こしているらしい。

死んだという説は無くなった。それにしても自分を起こしているのは一体誰なんだろうか。

男?女?知り合い?他人?敵?味方?全く分からん。

あ、いや待て。段々目が開いてる気がする。漸く体が起きたのか。

今回は一段と遅くて不安を感じたが杞憂の様だな。


世界を目にする前に深い水底へ叩き落とされた。


* * *


『サスケ。おいでサスケ』

母さんが俺を呼ぶ。

嬉しくて俺は近付く。

『なあに?母さん』

母さんはにっこり笑った。

『今日は皆でお出掛けよ』

俺の頭を撫でて母さんは言う。

『ほんと?兄さんも父さんも?』

また約束が破られるかもしれない。不安。

『父さんもよ。今日は皆一緒』

母さんはにっこり笑う。

『兄さんは?』

母さんはにっこり笑う。

『ねえ、イタチ兄さんは?』

母さんはにっこり笑う。

『兄さんは一緒じゃないの?』

母さんはにっこり笑う。

『まだ兄さんと呼ぶの?』

母さんはにっこり笑う。

母さんはにっこり笑う。

母さんはにっこり笑う。

母さんはにっこり笑う。

母さんはにっこり笑う。

母さんはにっこり笑う。










母さんはにっこり笑う。



[42206] 第十二話-開いた口が塞がらない
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 00:50
「…お前どしたの。この子うちはじゃない」

家に帰ると寝室のベッドには素性が分かっている少年が寝ていました。
そんなカオスな状況、いくら長年忍を務めていても狼狽えてしまう。

現に自分の口からは呆れと困惑と戸惑いが混じった声が漏れ出ている。
任務に追われひいひい汗水血流し帰ってきたらこれだ。

やはりコイツに合鍵を渡すべきではなかったのかもしれない__後悔が胸を襲ってきたところ、台所から騒ぎの中心(本人自覚済み)が顔を出した。手にコーヒーを持って。

「んん~?ちょっと拾ってきたァ。嫌なら捨ててもいーぞ」

お前はバカかと頭を叩きたくなった。
犬猫じゃあるまいしそんな軽い言葉で済ませられる程目の前の少年は安くない。

故意なのだろうがこうしてわざわざ何でもない様な言い回しをするから嫌われるのではないか…と常々思ってしまう。

コイツ__舌切スズメの評判は己が知る今のところ最悪で、それは彼自身の性格と人間性からきているものだと思っている。

人として越えてはいけない、或いは越えたくない一線を易々と越え、人の悩み苦痛を軽々と扱う__そんな人間だ。

血塗れの母親が必死に助けを求めてきてもケラケラと指差し笑ってトドメを刺してしまう__そんな人間だ。

けれど神は慈悲深くもこんな人間を見放さなかったようで、いくつか救いようがある点もある。

一つは忠誠心の強さ。それは背筋に寒気が走る程だ。忠犬なんて生温い。

スズメの忠誠心の高さは天井知らずで、お前は里の為に死ぬのかと問われれば一も二も無く頷くだろう。

顔は良い為彼女も居るのだが、彼女との休日より里からの任務を選ぶ男なので悉くフラれている。

コイツに「私と仕事、どっちが大切なのよ!」は通用しない。
ちなみに本気で好きになった女は後にも先にも一人だけだそう。

残念ながら九尾襲来事件時に亡くなってしまったらしい。
名はどうしても教えてくれない。

もう一つは性格に吊り合わない力量だ。
その性根の腐り具合から先輩にさえ邪険に扱われていたにも関わらず、任務時での自分の役割はきっちり果たし、敵の追撃及び逃走を許さない。

ストップをかけられなければ敵地にまで追い込んでいきそうなその勢いは周囲の人間を引かせるには充分だった。

付いた二つ名は木の葉の番犬。

犬どころか狼にも匹敵しそうなのだが、その忠誠心たるや歴代の凄腕忍者にも劣らぬという。

志村ダンゾウに気に入られ目を掛けられているそうだが生憎スズメは里を愛しているのでどちらの勢力(火影ことヒルゼン、根のトップことダンゾウの二大勢力)にもつかない。
彼にアプローチと媚と旨味は無効だ。

自分も邪険に扱い、好く思っていなかった者の一人だったのだが…どういうわけか、数年前のある事件から部屋の合鍵を渡す程親しくなっていた。

少なくとも、これ見よがしにコーヒーを飲みまくり我が物顔で本を物色し始めても溜め息で済ませる程度には。

一体何があったのだ、とはよく周りに聞かれるのだがそれは此方のセリフだ。

まぁ今の関係も悪くはない。
人間性と性格さえ目を瞑れば後は割と良い奴なのだ。
目を瞑れない部分が大きすぎるだけで。

そんな彼がうちはの生き残りを拾ってきたとなれば此方も心中穏やかではない。

何せここは自分の部屋である。
もっと言えば来月の頭に家賃を払わなければいけない自分の家である。

そんな家にうちはのガキが居るなんて知れたらどうなるか分かったもんじゃない。

拷問班のイビキが嬉々として鞭を握り締めているのが目に浮かんだ。

ああ、頭が痛い。先程治まった筈の後頭部の痛みがまた主張を始める。

とりあえず靴を脱いで部屋に足を踏み入れるが、途端に頭痛が酷くなる。

これじゃまるで帰りたくないと言っているみたいだ。実際そうなのだが。

「おー?どしたのカカシィ、頭痛そうじゃん。だいじょぶ?」
「あーうん、まぁね。ところでこの子どっから拾って来たの」
「うちはの領地」
「死ねよお前もう」

思わず本音が出てしまった。

罵詈雑言なんて親の声より聞いてきたコイツにとって己の本音など痛くも痒くもないのだろう。ちょっぴり恨めしい。

にしてもうちはの領地とは恐れ入った。

病室でぐっすり寝ている筈なのに、目の前ですやすや寝ている良いトコロのお坊っちゃまはうちはの敷地内に居たというのだ。

よくもまぁ三回も脱け出せる。病院の警備も何やってんだか。
呆れを含んだ溜め息を吐いても何の慰めにもなりゃしない。

というか連れて来んな病院に返してこい。それか元の場所。
どうせ火影様の事だ。この一件も水晶でご覧になられているのだろう。

言い逃れ…はできないにしても言い訳なら何とかなるかもしれない。
頑張ろう。明日の俺の為に。

とりあえず外傷は無いか体のチェックだけでも済ませておく。

これで全治四ヶ月の複雑骨折なんてされてた日には首を吊らねばならない。

上半身を起こして注意深く観察する。見たところ怪我は無いようだけど、一応きちんと検査するべきか?考えどころだな。

病院に返すのが一番手っ取り早いがまさか見つけて拉致って帰しましたなんて口が裂けても言えない。

どうにか事を穏便に済ませられないだろうか…。

「あ、起きそう」
「え?」
ドゴッ

この間約二秒。(性根が)腐っても忍なだけあって早業だ。

やはり人間というのは内面がダメでも実力さえあれば生きていける仕組みになっているらしい。

そういう前例はいくつも見てきたから今更過ぎるが。

ドゴッ、という不穏な音はどうやらうちは少年の首に狙いを定めて手刀を入れた時の音らしい。

起きそう、と言われてもしっくりこない。
ずっと眠っていたのに突然起きるのだろうか。

というよりさっきのはヤバかったかもしれない。ああどうしよう。

後ろ盾も女も子供も妻も両親も居ない俺にとってこの里での立場を失えば一気に生活が苦しくなる。
溜め込んだ金もいつかは消える。

二つ目の生き方など用意していない俺にとって忍を奪われれば後は転落するだけの人生なのだ。

「ちょっとちょっとどうすんのコレ。バレたらヤバいよというか起きてようちはくん、ねえ」
「起きてほしいんなら気長に待つっきゃねーんじゃね?つーか揺らすのはナシだろォ」

真っ青な俺とは対称的にスズメは笑いすぎで顔を赤くしている。
お前のせいだというのに能天気な奴だ。

いっそ首でも絞めて殺してやりたい。しないけど。できないけど。

それがまた腹立たしさを誘ってゲラゲラ笑っているスズメを睨み付ける。また笑いやがった。

「あーもう…というかさ、何で拾ってきたの?お前そんな好きだったっけ、うちは」

変な収集癖持ちのコイツは実用性のある消費物ばかり集めたがる。クナイしかり手裏剣しかり。

人間も言っちゃ消費物なので、いろいろとイッちゃってるコイツならうちはの生き残りもコレクションと称して連れ帰ってきそうなものだが…。

もしそうなら意地でも本気で引き止めなきゃ俺に明日は無いだろう。

「いんやァ?いるかなーと思って」
「いらねぇよ!!」

バカかコイツは。殴られたいのかそんなに。

いっそ雷切使って腹に風穴空けてやろうか?
うちは少年が先程よりぐったりしている様に見えるのは恐らく気のせいではないだろう。

この歳でコイツにちょっかいかけられるとか可哀想にも程がある。
ずっとコイツにちょっかいかけられてる俺はもっと可哀想だ。

「あ、そうそう。暗部の仮面借りたぞォ。返したがな」

もう言葉も出ない。絶句とやらだ。お前そこまでするか。

スズメのハチャメチャぶりには舌を巻かされる。

思い立ったら即実行はコイツの為にある言葉に違いない。頭の痛みも大分マシになった。諦めたからかな。

「お前…これ職務問われるレベルだよ?火影様になんて言うつもりなの」
「んー?んー…まァ…あのじいさん結構甘いしへーきへーき」

コイツ火影様の温情に擦り寄る気だ。だから嫌われるんだよお前は、バカ。

確かに今回のもお情けで罪にはならなさそうだけど、それを期待するのはあまりにも無礼すぎる。

実際厳しい判断を下しているのはいつも相談役とダンゾウなのだけど。

ああ…困った事になった。
この子が目を覚ましたらなんて説明すれば良いんだ。

俺の友達が俺へのプレゼントに君を拉致って来たけど俺は要らないから帰って良いよ?礼儀知らずにも程があるわ。

起きて自分の足で帰ってもらうのが一番なんだけどなぁ。

一人で帰らせたら火影様以外に俺らを見てるどっかの誰かに足元掬われそうだし。根の奴らとか根の奴らとか根の奴らとかさ。

弱味を作るのはバカがする事だから一人で帰すのはナシだけど。

重く長く溜め息を吐きながらリビングの椅子に座る。

どうする気だよほんと。

後始末の事も頭に入れて拉致ったのかコイツ?向かいで優雅にコーヒーを飲み新聞を読む銀髪頭の外見詐欺な友に射殺しそうな視線を送り続ける。

こんなバカな事する様な奴には見えなかったんだけどなぁ。見誤ったかも。

気が付いたのか此方を見ると「もう読んだからいーぞ、ほら」と新聞を丸めて投げ付けてきた。

ちげーよお前だよバカ。
ムカついたから握り締めて小さく丸めた後ゴミ箱に捨ててやった。

そこで漸く俺が怒っている事に気づいたらしくスズメは冷や汗をかきながら目線を泳がせている。

「うちは少年、どうすんの」
「僕が何とかしますカカシさんは寝ててください」

早々に言って素早く立ち上がったスズメは寝室にダッシュするとうちは少年をソファーにぽんと寝かせた。

もう少し気遣えよと思ったがこちとら寝る為に帰ってきた様なもんなので迷わずベッドに潜り込む。

うちは少年のおかげで暖かい。
要る?というのはカイロ代わりとしてだったのだろうか。

まぁどうでもいい。さっさと寝よう。今日は0時ぴったりに集合だったな…。



[42206] 第十三話-若気の至り
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 00:43
自分でした事とはいえ拾った猫が厄介すぎた。

野良かと思って拾うと実は血統書付きの飼い猫でしたってくらいだ。

その血統書付き子猫ちゃんは顔を歪めて魘されながらもソファーでぐっすり眠っている。

寝る子は育つよね。何か息荒げて眉寄せて唇キツく噛み締めてるけどぐっすり寝てる事には違いない。

それにしても悪い夢見てそ…おっと話が逸れた。

厄介な血統書猫をどうやって家に__もしくは病院に送り届けるかの名案がどうしても浮かばない。

先程から悩んではガキを観察して悩んではを繰り返している。

その間にも時間は刻一刻と過ぎていき、気付けば一時間が経過していた。

カカシの寝不足苛々オーラに気圧されて思わず口走ってしまったのが『任せてください』だ。情けねぇ。

けれど言った手前どうにかこうにか落とし前つけなくてはならない。
その落とし前が血統書付き雄猫を帰す事なんだが、それができないから今こうなっているという無限ループだ。

ふむぅ、と胡座を掻いて頭を捻る。

ソファーに肘をついてしまえば考える気も失せてしまった。

良いトコロのお坊っちゃまをただひたすらぼんやりと見つめる。

睫毛長い、肌白い、髪サラサラ、目大きい、唇赤い…女が聞けば羨みそうな程には顔のパーツが整っている。

生意気なガキも寝ればただのガキだ。汗と寝息と顔色さえ悪くなければ、な。

暇だし何も考え浮かばないしでぷにぷに頬っぺたいじくってたらうちはのガキが起きそうになった。

やべー、殴るか?
いやでも傷物にしたら怒られるよなぁ…罰が謹慎とかになったら俺死ねる。

「…ぅ…ぁ?」
「よォうちはくん」
「……ッ!!てめっ、」
「おっと。お口はチャックな」

暫く焦点の合わない濡れた目で此方を見つめてきたかと思うと突然飛び上がって殴りかかってきた。
から口封じ(物理)をして黙らせてやった。

寝ても覚めても眉間の皺は取れないらしい。

兄みたく線みたいなのできたらどうするつもりだコイツ?
あーあー、生意気なガキの相手はほんと困る。

カカシが起きたら全部俺のせいにされて、んでもって苛立ちに任せてフルボッコにされるんだから理不尽な話だ。

さて、と…

それにしても、目の前の血統書付き雄猫生意気良いトコ坊っちゃんをどうしてやるかね。



[42206] 第十四話-預言者郷里に容れられず
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 00:42
殺してやる。

ソファーに座らせられながらぎりぎりと目の前のクソ野郎を睨み付けながらただ一心に思う。


隠す気もない殺気が先程からスズメに向けられているが当の本人はけろりとしている。

子供の殺気なんて経験豊富の彼からすれば蚊に刺されたから痒いなー程度のものなのだろう。
その証拠にへらへらと呑気に笑っている。怯んだ様子は全く見せない。

否が応にも伝わってくる余裕そう__実際余裕なのだが__な態度がサスケの神経を逆撫でる。

完全に嘗められている、とサスケが直感的に感じ取った瞬間殺気が倍増した。

けれどスズメを怯えさせるにはまだ足りない。
野良猫が威嚇している様なそれでは余裕の笑みを崩せない。

別室で寝ているカカシが問題無しと判断し睡眠を続行するレベルの微弱な殺気は上忍を怯ませられない。

圧倒的な力の差に寝起きの頭は爆発しそうだった。

威嚇をやめない【猫】に【雀】は愉しげに笑う。しかし、貼り付けていた笑みもだんだん消え去っていく。

人間が笑顔から無表情に変わっていく様を見せ付けられたサスケはびくりと肩を揺らし怯えを含んだ目でスズメを見やる。

そこで漸く口から手を離したスズメは掌に付着した唾液を見て顔をしかめる。

そんな彼を見てなら初めからやるなと怒鳴りたくなるが、先程の事が尾を引き言いたくも言えなくなってしまい結局そっぽを向いて屈辱感を紛らわす。

「なァんだ。結構元気そーじゃん?」
「…質問がある」
「ん?よしよォし。お兄さんに何でも聞いてみな」

何故か自信あり気なスズメにサスケは呆れた目を向けるも、相手は上忍だと緩みそうになる気を引き締める。

相手の挙動にうっかり油断してしまえば己の愚かさをひけらかしている様なものだ。

サスケのプライドは自身の弱い部分を見せるのを酷く嫌っていた。
何しろ犬死にする方がマシだと断言している程だ。
その嫌い方は尋常ではない。

人一倍プライドが高い彼はそれ相応に苦労もしたし敵も作ったがいつだってそのプライドが自分自身の敵になる事だけはなかった。

『高すぎて天辺が見えない』『高飛車な奴』と中傷されてきたプライドは自身を奮い立たせる時に絶大な効果を発揮してきた。

現に今もいつ涙腺が決壊してもおかしくない状況だというのにサスケは微塵もそんな様子を見せない。

怯えている姿は見せたくないのだろう。

気丈にも唇を噛み締めるとソファーの上に座るのをやめ足を降ろす。
まだ高いのか見事床に足は着かなかった。

「ここはどこだ?」
「俺の同僚の家ェ」
「お前は?」
「舌切スズメ」
「俺は何故ここにいる?」
「俺が拉致…連れてきたからかなァ」
「……」

サスケは暫し瞑目し熟考する。


うちはの領地から拉致られたのか。なら帰らなければ。


意外と思考が斜め上のサスケはこういう場においては突拍子もない答えを出す。

周りが「えっ?」と思う事でも平気でやってしまうから良い意味でも悪い意味でもサスケは目立っていた。

そして本人は周りの反応などどうでも良さげだった。

批評も中傷も悪評もましてや褒め言葉さえもサスケにとってどうでもよかった。

サスケが求めているのは周囲の評価ではなくイタチとの道連れ死だ。

死ぬ為に生きる人生は本当に生きる意味があるのだろうかと議題に持ち込めばそれなりに盛り上がりそうである。

閉じていた目を開けるとスズメは全く読めない顔でにへにへ笑っていた。

笑顔なのには変わらないのだろうが笑顔にしては不自然というか違和感というか。
愛想笑いの様な見飽きた笑い方につい苛立ちが漏れる。
うちはだからってビクビクしやがって。

実際スズメが考えている事といえば、報告めんどくさいなーやうちはのガキ生意気すぎて殴りてぇなど物騒な事から先を見据えた事まで様々だ。

そんな事露程も知らないサスケが今までの経験に則り誤判断をしてしまうのも仕方無いと言える。

うちはといってもアカデミー生。

まだまだ未熟な彼はもっと人生経験を積まねば成長できないだろう。

スズメの愛想笑い(仮)にうんざりしながらもサスケは自分の意思を伝える。

起きた直後濡れていた筈の目はいつの間にか冷たいものに変わっていた。

サスケが熟考している間スズメは欠伸を何度も溢していたがサスケの様子に気付くと目線で相手に何だ?と問い掛ける。

「帰る。世話になったな」

ただ一言。ただ一言そう言ってソファーから飛び降りたサスケ。

スズメはポカーン状態だ。動けない。
病室に帰る気がない病人とは如何程なんだろうか。

働かなくなった脳でくだらない事を考えるも玄関が開く音を聞き付け全速力でサスケを連れ戻す。

立ち上がり、床を蹴り、風を切り、サスケを捉え、反転し、脚で駆け、戻る。この間約2秒。

連れ戻らされたサスケはポカーン状態である。
動けない。そんなサスケにスズメは文句を浴びせかける。

元はといえば拉致ってきたスズメが悪いのだろうが、スズメにも考えがあっての事だった。

うちはサスケは必ず里にとって脅威となる。

それは彼を遠目で見た時から感じていた事だった。

今のうちに手を打っておかなければ、後々木ノ葉は後悔する事になるだろう。

先読みはあまり得意でない本能で生きるタイプ寄りのスズメをそこまで考えさせるのだからそれほどヤバい事になる。

先輩同僚後輩にどうかと聞いてみるも、誰も彼もが要領を得ない答えだった。

決めかねているのだろう。殺すか生かすか、と。

イタチも面倒な事をしてくれたものだ。
一人だけ生き残らせる__しかも自分の弟だ__なんて残酷にも程がある。

幸い今のサスケは復讐に取り憑かれているが、早く死にたいと自殺行為に及んでいたって不思議ではないのだ。家族の元に逝きたいと願うのなら尚更。

それをしないという事はサスケの眼中には面白いくらい復讐でいっぱいいっぱいだという事。

イタチの計算の内なら今だけ拍手と称賛の言葉を吐いても良い。

引き金であるイタチもここらは賭けだったのだが、サスケは思惑通りに動いてくれた。

しかし消化されなかった後ろ暗い気持ちが【兄を道連れに死ぬ】という目標に出ているのだからイタチもびっくりだ。

兄は一人で死ぬ気だというのに、弟は道連れにして死ぬ気だ。

一度すれ違えばずっとすれ違ったままなのだろうか。
そう思ってしまう程この二人のすれ違いは激しかった。

しかしそんな事今はどうでもいい。
スズメは目の前の相手に何か一言言ってやらねば気が済まなかった。

それがサスケを怒らせようと怒らせまいと今はそんな事関係無しに叫びたかった。

息を小さく吸って、吐く。もう一度吸えば、一瞬の沈黙の後怒鳴り声が響いた。

「お前バカだろォ!!!!」

あーうるさい、とカカシは素顔を枕に押し付けながら一人眉を寄せるのであった。



[42206] 第十五話-狡兎死して走狗に烹らる
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 00:37
声を荒げるスズメ。何だコイツという目でそんなスズメで見つめるサスケ。二人に阻まれ安眠できないカカシ。

スズメは焦っていた。目の前に居る良家出身の坊っちゃん__うちはサスケは、突拍子も無い事を平気で行動に移すだからそれも当然と言えば当然だ。
何を言い出すんだコイツは、とスズメは混乱に満ちた頭で一人思う。
エリート一族の御子息の頭はどうなってるんだといっそ解剖してみたいと思ってみたりもするが、最もそんな立場も技量も持ち合わせていないスズメには無理な話だ。

それ以前に、スズメでなくともうちはの生き残りは重宝されるべき存在なのだから彼を解剖する事は半永久的に叶わないだろう。

くだらない事から自分自身の保身の事まで悶々と悩み考え続けるスズメを傍らに、サスケはハッと我に返る。あまりに突然の事にまだまだ幼い脳が追い付かなかった。

実戦や忍としての経験を積んでいればもっと早くに動けただろう。実際忍なんて全てが突然に起きる事だらけだ。戦況を見失わない様に動き続け、死角からの攻撃に備えた上で敵を撃破しなければならない。血を浴びなければ積めない経験だ。と言ってもサスケはまだ下忍にもなっていない。しかもそんな経験を積める様になるのも恐らくずっと先の話だろう。他里に比べ治安が良すぎる木ノ葉ではこの年代で実践経験は積めない。勿論戦時中なら話は違ってくるが。

ともかく、今のサスケはまだまだ未熟な青二才だ。先天性な才能と血筋のおかげで将来は化けるだろうが、子供の内は誰でも弱い。師を持たず独学での修行を続けるサスケなら尚更だ。
大海を知らぬ事さえ知らないが、井の中で満足できる程小さな度量でもない。環境が違えば今頃めきめきと力を伸ばしていたに違いない。血で血を洗う戦いを続けてきたうちは一族の末裔である彼はきっと血生臭い戦場が似合うのだろう。

そんな彼は今とてつもなく怒っている。それもその筈、帰ろうとしたところを捉えられ再び連れ戻されたのだから。怒りの沸点が低いやら何やら言われてきたサスケでなくとも気弱な者以外怒ってしまうだろう。スズメが起こした一連の行動はサスケの眉間に皺を作らせ機嫌を急降下させる分には充分だった。

一体全体何を考えているのか。未知の領域に好き好んで足を入れる程好奇心旺盛な訳ではない。好奇心は猫をも殺す事をサスケはよく知っている。下手に動けば何をされるか分からない。

しかし動けない理由はそれだけではなかった。
無表情__これでも色々と考え事をしている__のスズメは今のサスケにとってはただただ恐ろしい。
領地から拉致られ帰ろうとすれば引き戻され、何もできない状況下に置かれる。
普通の子ならとっくに泣き叫んでいるが生憎サスケは普通の子ではない。絶望的な状況に変わりは無いがまだ涙腺の決壊は防げる。
今この瞬間殺されかけても助けは呼べないな、という冷静な部分と共にうちはにそう易々と手を出すバカは居ない、と高を括っている部分もある。

そもそも、サスケが認知していないだけであって彼の後ろ盾は充分過ぎる程心強い。
現火影、木ノ葉を脅した兄イタチ、うちはを手元に置きたい上層部。ざっと挙げればこんなところだが、一つ一つの力が強すぎる為誰も手を出そうとしない。

しかしそれとこれとは話が違う。イタチは現在里外、木ノ葉勢はスズメの忠誠心の高さと賢さを買って未だに何もしていない。

そんな後ろ盾が生んだ脱け出そうにも脱け出せない状況に、段々と、確実に苛立ちが募っていく。そんなサスケに目も向けずスズメはうんうん唸っている。
一体何を悩んでいるというのか。
サスケは一層眉の皺を深く刻ませる。一族が受け継いできた才色兼備な遺伝子は、不機嫌な顔さえも美しく仕上げてしまうのだから血筋とは恐ろしいものだ。

面倒な事になった、とサスケが重く溜め息を吐いた瞬間スズメはがばっと顔を上げた。思わず身を引くサスケ。そんなサスケに目もくれずスズメは首根っこをひっ掴む。誰の?サスケの。

予想外の事態にサスケはじたばたと抵抗する__声を上げても無駄なのは本能的に分かっていた__しかしそんな細やかな抵抗も上忍には通用しなかった。スズメは軽やかに玄関へ一直線に進むと部屋の主であるカカシには何も告げず玄関の戸を閉めた。

対して部屋の主はそんな態度も気に留めない。
心が広いといえば聞こえは良いが、本音を言うと馬鹿な同僚にこれ以上振り回されたくないからだ。
付き合ってられるか、と顔を歪めた後棚に置いてある恩師と今は亡き友と撮った写真を見つめる。

写真の中の彼女は笑っていて、写真の中の恩師も笑っていた。

汚い大人になってしまった。どんな顔で会えば良いのか分からない程汚い大人になってしまったのだ。昔は良かった__と幼少時代を思い起こすもそれも一瞬の事。自己嫌悪に陥るのは止めようといそいそ布団を被り直す。



再び布団からひょっこり顔だけ出し暫くの間静止すると、何をやってるんだと今度こそ目を閉じた。


部屋はようやっと本来の静けさを取り戻した様であった。


* * *


一方その頃、スズメに無理矢理連れ出されたサスケは俵持ちされた状態で預けられた猫の様に大人しくしていた。
あんなに暴れていたのに何故今は大人しくしているかといえば、スズメが屋根から屋根へ飛び移り何処かへと向かっているからだ。

今ここで暴れれば落ちてしまうかもしれない。そんなくだらない理由で怪我など負いたくなかったサスケは、甘んじてこの状況を受け入れていた。

しかしサスケはスズメが何処へ向かっているか分からない。びゅんびゅんと風が頬に当たるのが痛い。
高速で横切る里の風景を見続けていれば酔ってしまいそうで目はずっと前から閉じている。目的地も教えられず先程から怪しい人物に連れ回されていると思うと情けなさと不甲斐なさで涙が出そうだった。
だらしない。それでもうちはか。と叱咤する己の声にしょうがねぇだろと反論が飛んでいく光景が見えた。

不意に足が地に着き風が当たらなくなる。不審に思い目を開ければ目の前には立派な門構えをした威厳のある建物がそびえ立っていた。
暫しの思考停止の後ああ火影邸かとハイライトの無くなった目で結論付ける。
何故自分が此処に来たのか分からないサスケは、無数の疑問符を頭上に飛ばす。困惑している彼の疑問に答える気もないのか、スズメはサスケの手を握るとさっさと中へ入ってしまう。

周囲の忍がぎょっとした顔で二人を二度見三度見する中、自分の手を引くスズメの姿がサスケにはほんの一瞬だけかつてのイタチと被って見えた。

背姿が兄に重なり呆けていたのも束の間。握られていた手を強く引っ張られ間抜けな声を出しながらもスズメよりも前へ出る。
不満に思いつつ顔を上げるとそこには四人の老人が椅子に座り此方を見つめていた。サスケは老体ながらも威圧感をかもしだす目の前の爺婆にぎくり、と体を固まらせる。
スズメの背ばかり見つめていて気付かなかった様で、いつの間にかサスケは木ノ葉のトップ陣が集っている一室に放り出されていた。と言っても背後にはスズメ、扉付近には動物の面を被った二人の男が待機しているが。

ヒルゼンは同情する様な目で此方を見つめていたが、その隣に座っている老婆の更に隣の男の視線にサスケは嫌悪感を隠しきれなかった。片目に包帯を巻き片腕を衣服に包み隠す老人。

品定めする様なその目は、サスケとイタチの父であるフガクが二人の息子を比べる時に見せたものと酷似しているが、父は比べている目の中にいつだって長所を探ろうとする探究心の様なものを浮かべていた。イタチと比べられあまりの差に落ち込むサスケを慰めたのは決まってフガクの一言だった。厳格で硬派な父も、その時ばかりは僅かながら笑みを浮かべていたのを微かに覚えている。

傷跡が深すぎる過去の遺産は、思い出という形でサスケを縛り付ける。
父の一言も、母の抱擁も、兄の笑顔も思い出したくない当人にとっては思い出とは最早過去の遺産であった。決して逃げられはしないが、決して追い付かれもしない。そんな関係。
だから、過去を関連付ける物は例外を除き何だって避けてきた。逃げてきた。

だが今はどうだ。逃げられも避けられもしない状況に投げ出され父と酷似した目線を一身に浴びせかけられている。サスケの幼く繊細な心と体は着実にストレスを貯めていった。


そんなサスケに構わず、スズメは内心ひやひやしていた。自分の処遇が今ここで決められてしまうかもしれないのだから当然だろう。

サスケからすれば突然の行動だっただろうが、スズメが此処に来たのにはちゃんとした立派な理由があった。

スズメの絶対的な里への忠誠心は、何も本人だけの意思ではない。そこには純粋な混じり気の無い恐怖心も織り込まれている。
舌切スズメには呪印が植え付けられている。雛鳥が初めに見たものを親と思い込む“刷り込み”の様にスズメの頭も呪印によって刷り込まれたのだ。【一生を持ってして里に尽くす】と。
呪印を植え付けたのは他の誰でもない忍の闇という代名詞でお馴染みの我らが志村ダンゾウである。ちなみに考え出したのは大蛇丸だ。

ただ、完璧な人間が居ないのと同じ様に完全な術も存在しない。刷り込み呪印は正にその代表だった。
里に尽くす事にほんの少しでも…一抹の疑問でも覚えればその瞬間呪印は“反抗した”と見なし植え付けられた者の体を内部から破壊し文字通り体を消滅させる。スズメと同じ呪印を植え付けられ命を散らせていった者は決して少なくない。

100%の効果を発揮しない洗脳や暗示では駄目だった。いくらでも仕入れてこれるとは言え、消えていく数の方が圧倒的に多かったのだ。大蛇丸はこの時点で普通に洗脳した方が早いと判断し刷り込み呪印を使う事は無くなった。

しかし唯一消えなかった者が居る。それがスズメだった。彼の忠誠心は本物だという事を身を以て証明したのだ。

当然そんな都合の良い駒を放っておく筈も無く、ダンゾウはスズメに幾度かのアプローチを試みた。しかしスズメは里に尽くしているのであって個人に尽くしているわけではない。ダンゾウの思惑は見事外れスズメを手駒に加える事は叶わなかった。

改善点と生き残りを見つけた大蛇丸もスズメに目を付けていたが、忠誠心も戦闘力も高い都合の良いスズメはヒルゼンもダンゾウも失いたくない事だろう。下手に手を出せば手痛いしっぺ返しをされるに違いないので、仕方無く諦めたフリをして手駒に加える機会を窺っている状態なのだ。

そんなスズメは呪印の事を知らない。

だからこそ忠誠心という諸刃の剣が砕ける事も無かったのだろう。里への絶対的な信頼が実は紛い物だったなんて死んでも認めたくない筈だ。正に知らぬが仏。言わぬが花。お人好しで名の知れたヒルゼンもこの件に関しては目を瞑っている。

しかし人間というのは大人しく騙される様にはできていない。スズメの深層心理は自分が騙されている事を何となく察していた。日常から必死にかき集めた違和感がパズルピースの様に繋がっていったからだ。しかしそれを確信してしまえば壊れてしまう、若しくは消えてしまうのは火を見るより明らかだった。
スズメは知らない。気づかない。気づけない。気づきたくない。心の奥底では何となく察していても、それを口に出すのは言葉の通り口が裂けても嫌だった。

深層心理では呪印について察している為、スズメは火影の元へ行けば良いという己の本能に従いやって来たのだった。本人も知らず知らずの内に恐怖している呪印の存在は大きく、里の意向に背きたくない一心で生活している。その為今回の本能から伝わった言葉も素直に従ったのだった。

スズメにとって里は絶対だ。
呪印の存在を察していても、里に尽くす事に疑問を覚えていなければ消える事も無い。
だからスズメは今日の今日まで生きてこれたのだ。自身の忠誠心と里によって生かされている日々はいつか崩れるだろうが。


しかしそんな事情をサスケに話す訳にもいかない。否、それ以前に話せない。

面倒事が重なり絡まってサスケのスズメへの好感度は下がっていくのだった。



[42206] 第十六話-連木で腹を切る
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 00:36
四人の老人から向けられる視線にサスケは子供らしく身を縮める。

居心地の悪さだけで言うなら過去最強のものだろう。
肩身の狭い思いをしているサスケを余所にヒルゼンは口を開く。

話の内容はサスケが大方予想していたものと同じだったし説教にしては甘いヒルゼンの態度も何となく分かっていた。

しかしここで予想外の事が起きサスケは暫し呆ける。

「して、サスケや…お主は病院に帰ってもらわねばな」
「……は?」

病院に帰る、という言葉にサスケは首を捻る。

こう何度も脱走したのだから、てっきり見張りを付けられ何処かに軟禁されるとばかり思っていたのだ。

しかし彼の読みは甘かった。ヒルゼンの甘さとうちはの血はサスケを以前と変わらない環境に置く事を善しとしたのだ。勿論監視は付くが。

若さ故にそんな事微塵も予想できないサスケの困惑の眼差しを受けても、ヒルゼンは動じる事無くサスケを見つめ返す。

眉を潜めながらもヒルゼンの命によって参上したのだろう面を被った忍と連れ立ってサスケは部屋を出た。

最後まで不審に思っていたサスケの目はヒルゼンと合わさる事は無かった。

扉の閉まる音が聞こえる頃にはスズメの体は途端にガタガタ震え出し、病院へ向かった二人の気配が感じられなくなるとスズメの頭は床に張り付いていた。

意思とは関係あるなしに震える体と恐怖で見開かれた目は何も写していない。
ただ、自分の生を確保する為だけにスズメは口を開く。

余裕に満ち溢れていた姿からは似ても似つかぬ今の彼は、無様という言葉がよく似合っていた。

「こっ、この度は誠に申し訳ありません…うちはサスケが領地を徘徊しておりましたのでっ、病院に送り帰す為身柄を確保したのですが…!」

そこまで喋りスズメは全身を硬直させる。
目の前に居る要人達は誰一人として自分の話を聞いていない事に気付いたのだ。

スズメの話が終わるのを待ち終わった途端言の葉を紡ぐ。その言の葉はスズメが今最も恐れているものだ。

少しでもその言の葉が耳に入るのを遅らせる為スズメは心の内をひけらかす。

そんなもの、何の慰めにもならないのは百も承知の上で。

額を床に擦り付けたまま“言い訳”を並べ立てる青年。
気難しそうな表情を浮かべたまま言い訳を聞き流す老人。
何とも面白おかしい絵面が完成していた。

「う…うちはは…うちはサスケはいずれ必ず里の脅威となります!まだ弱く幼い今の内に何か手を打っておかねば木ノ葉は後々苦い思いをするやもしれません!第二のうちはマダラを生まれさせてはなりませんっ…!!」

冷たい汗を頬に伝わせたまま、スズメは自分の憶測を必死に叫ぶ。
しかし悲しいかな、スズメの話は何の役にも立っていない。

それこそ処罰を易しくする事にも。

本人も痛い程分かっているだろうに、それでも話を止めないのはヒルゼンの言葉を聞きたくないが為だった。

髪の毛が貼り付いた様に不快感を訴える喉に、砂漠の真ん中に立っている様に乾いた喉に構わず尚も言い繕うとするスズメをある男が黙させた。

__志村ダンゾウ__

暗い噂が絶えないその男はスズメを殺気で黙らせる。

心臓を鷲掴みにされた様な感覚にスズメの体はびくりと跳ねる。

恐怖と焦燥で歯はかちかち音を立て、寒気が背筋を襲った。

完全に口を閉じたスズメを見て、ヒルゼンは哀れに思いながらも非情な言葉を口にする。

「スズメ…今回の件は大目に見てやりたいが、生憎火影としてそういう訳にもいかん。よって、お主には処罰を下す」

慈愛に満ちた声色と似つかわしくない内容をヒルゼンは話し続ける。
アンバランスなそれにスズメは尚一層身を固める。

頭を上げる許可は出されていないので目線は変わらず汚れた床だが、その表情は世界の終わりを見たかの様なものだった。

「お主には今日から六年間SSランクの任務を遂行してもらう。その間、里に居る事は許さん。生存確認と任務報告として週に一度は里に連絡を寄越す様にするんじゃ。任務内容はその連絡の際伝える様にする。単独任務となるから心しておく様に。支度ができ次第再び此処に来るんじゃぞ。…何か質問はあるか?」

それは死刑判決と変わらなかった。

首を跳ねられるか心臓を刺されるかの些細な違い。

けれども、スズメは逆らえない。逆らえる訳が無い。
絶望を顔に貼り付けたスズメは震える唇で小さく「…いいえ、ありません」と返す。

それが精一杯だった。

自害の二文字が頭をよぎるが、それと同時に母の顔もよぎる。

死ねる訳が無い。死ぬ訳にはいかないのだ。

強く拳を握り締めると、手が白くなるまで力を込める。

そんなスズメを見てヒルゼンは悲痛な顔を浮かべるが直ぐ様スズメに支度の命を出す。

一瞬にして消え去ったスズメを思いヒルゼンは溜め息を溢した。

SSランクを六年間。
下手をすれば国一つ壊滅させるより難しいかもしれない。

いつ死んでもおかしくないのだ。その上背中を預けられる仲間も居ない。

ダンゾウ御墨付きの実力者だとしてももって四年。

痛みを訴える頭に手を添え、ヒルゼンは罪悪感からくる心痛に眉を寄せたのだった。
そして小さく呟いた。

「安心せよスズメ…お主の母は悪い様にはせん」

* * *


白いベッドに戻されたサスケは退屈そうな顔を隠す事無く窓に向ける。

ガラス越しに見える里は以前と変わらず平和そのもので、それが彼の機嫌を急降下させていた。

しかめっ面で一人溜め息を吐くと、タイミング良くサスケ付きの看護婦が一声かけながら扉を開ける。

熱を測る為体温計を差し出されたサスケは、大人しく脇に体温計を挟む。
いつまで経っても慣れない金属の冷たい感触に顔を歪ませた。

そこそこ年を熟している看護婦は年相応の反応にくすくす笑みを溢しながらサスケに何気無い話題を振る。

心を痛ませ多かれ少なかれ病んでいるだろうサスケを任された彼女は、看護婦歴45年のベテランだった。

一族を兄に皆殺しにされた幼い少年は流石に初めてだが、家族を皆殺しにされた子等似た様な境遇の子供の相手なら小慣れていた。

その長年の経験からサスケの様な子が気分を落とさず不機嫌にならず過去を思い出す事が無い話題は何であるかをしっかりと把握しているのだった。

辛い過去を思い出させる話は厳禁だ。

楽しく明るい過去を思い出させても悲しい過去に繋がってしまうので、何れにしても昔に関する話題は一切口にしない。

当たり障りの無い世間話__それこそ、顔見知り程度の相手と話す様な内容で良いのだ。
しかしそれだけなら誰にでもできる。

しかしそれだけで彼女が選ばれる訳がない。が、説明しているときりが無いので割愛させていただこう。

サスケが体温を測っている間ベテラン看護婦は花瓶に生けてある花の取り替えや乱れたシーツの整え等をテキパキこなしていく。

風が強くなってきたので窓を半分程閉めるとちょうど体温計が鳴った。

「あら、測れた?ちょっと見せてね」
「ん…」

サスケは体温計を差し出すとシーツを顔までたぐり寄せ目を閉じた。

そんなサスケを傍らにベテラン看護婦は体温を確認する。

表示された数字は至って普通で、平熱である事を教えていた。

「サスケくん、熱も無いしもうすぐ退院できるかもね」
「…退院はいつ頃になりそうだ?」
「そうねぇ…このまま熱も何も無くて良い子にしてたら早くて三日後くらいじゃないかしら?」

ベテラン看護婦が頬に手を当てながら答えるとサスケは小さく返事し口を閉じてしまった。

興味が無い事にはとことん興味が無く、どうでも良くなれば気にも留めない。
こんな子供らしい子供を大人は大人びていると言うのだからおかしな話だ、と彼女はすっかり黙り込んだサスケに笑みを向ける。

浮かべた笑みは看護婦特有の患者を安心させる様なものだったが、サスケがそれを見る事は叶わなかった。

「それじゃあ、また来るからね」

返事が無い事を知っていてそう言い残すと彼女は病室から出ていき、次の仕事に向かうべく足を進めた。

そんな彼女に慌てた様子で声を掛ける看護婦が一人。

優し気だった顔も話を聞き終わる頃には驚愕に目を見開かれ信じられないといった顔をしていた。

院内は走らないというルールを守るべく焦る気持ちを抑え彼女達は小走りでとある一室に向かう。

周りに居る人達はただ事ではないその様子に自然と道を空けている。
鬼気迫るその表情は周りを気迫するのには充分だった。

サスケの担当看護婦である彼女__冬谷スイレンは話を持ち込んできた同僚にもう一度聞き返す。

内容が内容なだけに冗談では済まされないのだ。

しかし目の前の同僚が嘘など吐かないのはスイレンが一番分かっていた。

嘘が嫌いな彼女がこんな嘘を吐く訳が無いと分かっていながらも再三確認しなければ気が済まなかったのだ。

「それで…舌切さんが目覚めて暴れてるって本当なの!?」



[42206] 第十七話-痩せ馬に鞭
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:60a12910
Date: 2016/07/31 00:30
早くて三日、か…。

目を瞑ったまま残りの入院生活をどう過ごすか考えを巡らせる。

『良い子にしてたら』というのはこれ以上脱走やら何やらせず大人しくしていろと遠回しに言われたのだろう。

仏の顔も三度までだ。流石にこれ以上暴れる訳にはいかないな。

そう結論付けると掛け布団に潜り込んだまま溜め息を吐く。

三日間我慢すれば戻れるのだから安いと言えば安いのかもしれないが、72時間も病院に縛り付けられるのは大分堪える。

これからの事を考えるとどうしても眉間に皺が寄ってしまう。

そういえば最近は顔を歪めるか無表情かで殆ど笑ってない気がする。
まぁ当然か。笑える理由が無くなったからな。

不意に、今頃イタチは何を思い何を感じ何をしているのだろうという疑問が頭を掠めた。

また何処か別の場所で大量虐殺でもしているんだろうか。
それとも木ノ葉の追忍に追われているんだろうか。
呑気に酸素でも吸っているんだろうか。
団子を食べているんだろうか。
僕と一族を殺した事なんてとっくに忘れているんだろうか。

自身の吐息と体温で暑くなった掛け布団の中で手を握り締める。

涙が出そうになるのを必死の思いで堪えて、あの夜泣いていたイタチに憎しみをぶつける。

絶対に殺してやる。この世に産まれてきた事を後悔するくらいに惨い殺し方で、楽に死なせてやらない。苦しみながら助けを乞いながらぎりぎりの状態で限界まで生かしてやる。両目をくり貫いて人間としての尊厳を一つ残らず奪ってやる。謝ったって助けを乞ったって絶対許してやらないんだ。幻術で地獄に叩き落としてやって、それで…それで、殺す。

恨み辛みが募ってそれを口にする度に…する度に、胸に穴が空いた様な気分になる。

これが虚しさというものなら俺は憎しみを吐き出す都度虚しさを吸い込んでいる訳だ。

虚しさは眠って起きれば消えるけど完全には無くなってくれない。

それが億劫で、今日もまた眉を寄せ溜め息を吐く。


* * *


目を開けると周りは真っ暗闇だった。
どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
眠気の残る目を擦って起き上がり、辺りを見回す。

俺は個室だから周りにはサイドテーブルやカレンダーやテレビやリモコンやくらいしか無い。

花瓶を見ると花が変わっていた。
看護婦が変えたのか?別にそれは構わないが、黒ユリなんて不吉な花生けるなとは思う。

何もするなと暗に言われていたが、横になっても寝れる気がしなかったので病室を出て廊下を歩く。

ひんやりと冷たい廊下は物音一つせず、夜という事も相まって不気味な空間が出来上がっていた。

柄にも無く体が震えた。寒さと恐怖には嘘を付けないらしい。

微かに震え続ける体に鞭を打って一歩一歩歩みを進める。

生き物の気配が無くなった病室は何処もかしこも死体安置室とそう変わらない様に思えた。

次の瞬間ドアが開いて生ける死体が俺を追い掛けてくるんじゃないかと気が気じゃなくなって意識せずとも歩みは速まった。



一体俺は何処に向かっているのだろうか。

そう思った瞬間長い長い廊下の突き当たりに終わりを告げるかの様に上へと続く階段が見えた。

駆け寄って注意深く見つめるも、下への階段は見当たらなかった。
俺の病室は三階の筈なんだが、と頭を捻る。

俺が寝ている間に病室を移動したのだとしても不自然だ。

仮にもし此処が一階なら出入り口やナースステーションくらい無いとダメだろう。
それがどうだ。そんなもの全く目に入ってこない。

ただ単に俺が見落としたというだけなら良いが、疑わしきは罰せよだ。
警戒するに越した事は無いだろう。

考え込んでいると突然頭上から視線を感じた。

反射的に視線の先を見ると、其処には里を抜けた筈のうちはイタチが佇んでいた。

一瞬息をする事も忘れた。

イタチの両目は紅く染まっていて、俺をじっと見つめて微動だにしない。

時間が止まったかの様に感じる一瞬は、イタチが階上への階段を駆け上る事で壊された。

「っ、待て!!」

逃がしてなるものか。俺もイタチの後を追って階段を駆け上っていく。

今が何階かなんて全く気にならなかった。
どれだけ走ってもイタチの後ろ姿は一定の距離を保ったままで、俺に追い付かれる事は無かった。
それに歯痒さを覚えながら足を酷使して二段三段飛び越え追い掛ける。

感覚だけで言うなら十階くらいは上った気がする。

けどイタチが扉を開けて俺を待っている様に立ち止まったのを見て何となく横に目を逸らすと、逸らした目の先にある壁には4と書かれていた。

ハッとして目線を戻すとイタチは変わらず俺を見て立ち止まっていたが、扉の向こう側へ体を滑り込ませて俺の目の前から消えた。

ここで逃げられてたまるか、と俺も扉を開け向こう側に進むと、真っ暗闇の中風が吹いている空間が目に飛び込んできた。

光を失った様な暗闇でも、イタチの姿だけは鮮明に映る。
辺りに目を向けるとすぐにイタチは見つかって、俺に背を向けて暗闇を見つめていた。

俺は走って詰め寄りイタチの背中に殺気をぶつける。

あと少しで届くのに、体が重りに繋がっている様に動けない。
精一杯の抵抗として憎しみを目に乗せて睨み付けると、イタチは顔だけで此方を振り返り俺と目を合わせる。

俺を見つめる紅い目からは涙が流れていて、その表情は俺が今まで見てきたどの顔より哀しげだった。

驚きに体が硬直するのと同時にイタチはその場から消える。
否、下へと落ちる。

「待っ…!」

四階だとしても屋上から飛び降りるなんて正気の沙汰じゃない。
固まった体を無理に動かしてイタチの姿を確認する為下を見る。

暗闇が広がっている其処はやっぱりイタチの姿だけ鮮明に見えた。
血溜まりこそできていなかったけど、俺は直感的に死んだんだなと思った。

有り得ない状況に頭は軽くショートしていた。
イタチが自殺した?俺の目の前で?何故?

足から力が抜けてその場に座り込む。わざわざ里に戻ってきて俺の目の前に現れて自殺?訳が分からない。

唖然としていると腹に酷い痛みを感じて顔を歪めながら痛みを感じる箇所を見る。
そこにはクナイが生えていて、血ではなく黒い液体が俺から出ていた。

意味が分からないが痛みを感じる。

どうにかこの苦しみから逃げようともがくがクナイは抜けずにどんどん俺の傷口を広げる。

黒い液体はだくだくと俺から出ていって、常軌を逸した自分の体に喉からひきつった息が漏れた。

突然体を抱えられると後ろに居た何者かに真っ暗闇に落とされる。
底が見えない恐怖に恥も外聞も無くただ泣き叫ぶ。
イタチと同じになるのは嫌だった。

「あああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

がばっと起き上がるとそこはいつもと変わらない病室で、真っ黒闇の代わりにオレンジ色が空を染め上げていた。

頬が濡れる感触がして手を当てると、涙が出ていた。



[42206] 第十八話-冬来たりなば春遠からじ
Name: お前の前の棚のオレオ◆21c54889 ID:7ff6bccb
Date: 2016/07/31 01:32
結論から言うと、アレはただの夢だった。

絶叫して目覚めると空は茜に染まっていて今は夕方である事を俺に教えてくれた。

どうやら眠りながら泣いていた様で、頬には涙が幾筋も流れていた。
あと病院服が汗で濡れていて気持ち悪かった。

俺の声に慌てて駆け付けた看護婦と医者は酷い有り様の俺を見て同情した様な目を向けてきた。俺の一番嫌いな目だ。

その後は普段より早く風呂に入ったり退院するまで露骨に腫れ物扱いされたりして散々だったが、我慢した甲斐もあって俺は今アカデミーの席に座れている。

入院生活は三日間の筈なのに、一ヶ月程入院した様に感じた。

あの薬の臭いと目に毒なくらい白い壁やら床やらからおさらばできた時は何とも言えない感動が胸を襲った。
よく耐えた三日前の俺。

段階を踏んで戻ってきたアカデミーだが、やはりと言うかなんと言うか、大多数の生徒は三週間近く休んでいた俺の噂話に花を咲かせている。

此方をチラチラ見ながら行われるそれは決して気分が良いものじゃないし、今だって我慢してなければ行儀悪く足が揺れそうだ。
第一貧乏揺すりなんてみっともないから絶対しないが。

大多数と言ったが、勿論変わらず我を貫き通している奴も居る。

例えば、奈良シカマル。例えば、日向ヒナタ。例えば、油女シノ。例えば、犬塚キバ。

まぁそれ以外にも居るのだが、噂話をする奴等とは違うジャンルでうざい奴だ。
うざい事に変わりは無いから少しマシなくらいで大差は無い。

「サスケェ!!!今度こそボッコボコのギッタギッタのケッチョンケッチョンにしてやるってばよ!!」

ああ、来た。うぜぇ。

窓の外に遣っていた視線を音源の方へ向けると、案の定仁王立ちの状態で俺を指差すバカ面が居た。

名はうずまきナルト。
何度もこう騒ぎ立てられると流石に覚えてしまう。

忌々しい。ドベの落ちこぼれのくせして俺に難癖つけてくるのが気に食わない。
俺に喧嘩を売るなら実力を付けてからにしろってんだ。

眉間に寄った皺を揉み解す。正直コイツが傍に居ると面倒だ。
一度絡んできたら女子にボコられるか教師に注意されるかしないと離れない。

確か次は座学、居眠りしていても分かる授業だ。何の価値も感じない。
張り合える相手が居ない実技も俺にとっては時間潰しにしかならない。

ちょうどいい。
気晴らしに何処か別の場所で時間を潰すか。

席を立つと教室の奴等の視線が俺に集まる。うざったい事この上無い。

「あ!?おい!どこ行くんだってばよ!まだ勝負は始まってねぇぞ!」
「うっせぇドベ。俺に勝てる様になってから喧嘩売れアホ」
「んだと~!?」

ぎゃんぎゃん騒ぎ立てるドベには心底うんざりする。

ったく、その口癖と気性の荒さは一体誰譲りなんだ。
親の顔が見てみたいと俺がここまで思うのも珍しい。
まぁそれは叶わないが。

まだ吠えたてるドベを後にして俺は教室を出た。

教師とはちあわせたら面倒だ。幸い廊下には人一人居ないし窓から出るか。
窓枠に足を掛けて一気に飛び降りる。

病み上がりのまま三階からのダイブより楽だ。
着地も難なく成功したし、教師にも見つからなかった。中忍ってのも大した事無いらしい。

自然と口許に笑みが広がってしまう。ある種の力試しになった。
結果は上々。

ほら、な。
椅子に座って教師の話聞きながら眠気と闘うよりずっと有意義だ。

授業の始まりを告げる鐘の音を背に、アカデミーの門を潜る。
そういやサボるのは初めてかもしれない。

柄にも無く浮き足立ってしまう。
こういうまだまだ子供な部分にはつくづく嫌気が差すが、高揚する気分を感じて悪くないと思うのも事実。つくづく相反している。



しまった、行き先決めてなかった。


* * *


暫く考えた結果、俺は木ノ葉西図書館に来ていた。

最近は体ばかり動かしていたから休息ついでに自習だ。

と言っても気になった本を選んで読み漁ってるだけなんだが。

けど此処ならアカデミーで充分に説明されなかった忍の歴史や各里の因縁が記された本も見つかる事だろう。

うちはについても少し気になる点がある。

思い出したくもないあの満月の夜、イタチは本当に一人で一族を虐殺したのか、だ。

イタチは強い。
それは弟である俺が一番分かっているつもりだし覆しようの無い事実でもある。

だが、イタチとまではいかなくても手練の忍は一族の七割を占める程居た。

それをたった一夜にして全滅させたと言うのだから冷静に考えてみれば違和感を感じるのも当然だ。

木ノ葉の上忍に匹敵するうちはの忍が決して少なくないのを俺は知っているし、第二のイタチと呼ばれていた忍が居たのも知っている。

そんな一族達をイタチは本当に一人で殺したのか?その上たった一晩で。

それに…里は何故全員殺されるまで気付かなかった?強大な戦力である筈のうちはが隅に追いやられているのも解せないが、そのうちはを全滅させたのはもっと解せない。

まさかとは思うが、一族殺しを許す程この里は落ちぶれているのだろうか。


三大瞳術について記述された本とうちはについて記されている本、それと、うちは一族虐殺事件が取り上げられている新聞記事。

俺が何往復かして移動させてきたそれらは、俺が座った机の両脇を占領している。
新聞以外の物が物なだけに一冊一冊が分厚いからおかげで両脇の視界は悪い。

分厚い本を選んでいる俺が珍しいのか、アカデミーの時間帯に此処に来ている俺に違和感を感じるのか周りの視線が突き刺さる。
背中の家紋を見たら大半の人間は納得したらしく視線を逸らしていった。

まぁ見られていようが見られていまいが俺には関係無い。
久しく切っていない伸びた爪をいじりながら三大瞳術について記されている本を捲る。

写輪眼を開眼していた者は俺が確認した中でもイタチとシスイさん含め13人は居た筈だ。
俺が確認していないだけで実際はもっと居るだろうし。

何か特別な眼、もしくはうちはを余裕で負かす程の力を持っていないと写輪眼持ちを殺すのは難しい。
イタチに余裕で負かす力があったとは考えにくい。

うちはの忍だって楽々とイタチに殺されるほど安い人生を送ってきていない。
なら、イタチが違う眼を持っていた可能性が出てくる。

違う眼、という事で引っ掛かる言葉が一つ。

__万華鏡写輪眼__

イタチが別れ際に言った言葉だ。
あの時の事は思い出したくないから遠ざけていたが、そう言って駄々を捏ねてる訳にもいかなくなってきた。

うちはの瞳術が何の為に存在しているのか記されているという南賀ノ神社本堂にある集会場に行くよりも先に本で確認するのも可笑しな話だが、出来る事ならワンクッション置いてから行きたい。

今更過ぎるだろ、と笑われてしまいそうだが、実家以外にはあまり近寄りたくないのも事実。
一旦図書館で落ち着いてから行っても遅くないだろう。

目次から万華鏡の三文字を見つけると、454ページと書かれていた。
記されているページを読む為パラパラと捲っていく。447…449…452…454……あった。


万華鏡写輪眼…写輪眼の上位種。うちは一族の長い歴史の中でも開眼した者は僅か数名しか存在しない瞳術。
写輪眼が変異した形であり、発動の際は瞳の文様が変形する。形状は個人によって異なり、彼のうちはマダラも開眼していた。
全ての面で写輪眼を凌駕する瞳術を誇り、その瞳力は最強の尾獣である九尾さえも制御する。強力すぎるその力の代償として、一度の発動に膨大なチャクラを必要とする。
使用すればする程視力が失われる恐れがあるが、他人の万華鏡写輪眼を自分に移植する事で完全にリスクの無くなった【永遠の万華鏡写輪眼】となる。


……なんだ、これくらいしか書かれてないのか?

あまりに薄い内容に眉を潜める。知れた事はあったにはあったが、イタチが口にしていた開眼条件が載っていない。

イタチの言葉を一概に信用する事はできない。
人を思い込みや見た目で判断すると痛い目に合うのは経験済みだ。

写輪眼について記されていそうな他三冊を読み漁ったが似た様な事しか書かれていない。

仕方無い、集会場に行けば分かるかもしれないしな。

期待を大幅に裏切られ落胆した為、自然と溜め息が出る。

でもまぁよくよく考えると、こんな図書館にうちはの上位瞳術が詳しく書かれているのも不自然だ。
あまり期待しない方が良かったのだろう。

若干気落ちしながら新聞記事を手元に手繰り寄せる。

見出しには【うちはイタチの乱心から起こった悲劇】やら【一夜にして滅んだ悲劇の一族】やら好き勝手書かれている。

当然記事には生き残りである俺の事も載っているが、その内容が駄目だった。

顔が歪んだのが自分でも分かる。

吐き気を催すのにそう時間はかからなかった。
我慢しきれず速攻で記事を畳んだ。

イタチへの疑惑を解消させる記事ではない事がパッと流し読んだだけで分かった。

大した発見も無く、足取りも気分も重いまま各々を元の場所へ戻していく。

最後に新聞記事を元の通り鉄の細棒に掛けると意識せずとも溜め息が出た。

イタチについても分からない。万華鏡も肝心の開眼条件が分からない。

少しでも疑惑や不確かな部分があるなら知りたい、分かりたい。

三代目なら何か知っているんだろうか。
火影の名を信じて、イタチについて話してくれるのを期待するべきか?



数秒考えた後、俺は図書館を出た。

向かう先は火影邸。


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