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[42250] もしサスケに幼馴染の女の子がいたら
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/21 21:18

うぅん…眩しい…。


ゆっくりと目を開けると、お日様がギラギラと私の目をめがけて照りつけていた。

あれ、もう朝か。んー………あと五分だけ………。



「サクヤーーーーーーーー!!ほら、早く起きなさい!!サスケくんが迎えに来たわよ!!」

お母さんの大きな声がドア越しに部屋の中へ響いた。とたんにぼんやりとしていた意識がパッと目覚める。

むむむ…と時計を見るともう10時をまわっている。あ、やっば。もうこんな時間。



「はーーい、いま行くよーーー!」


リビングへのドアを開けるとお母さんが朝食の準備を終えて椅子に座っていた。


「おはよ!お母さん!」

「おはよう、サクヤ。まったく…サスケくんと約束してるんだったらもう少し早く起きなさいよ」


ぶつくさとお小言を言いながらもしっかりと自分もあくびをしているこの人が私のお母さんの うちは サキ。

サラサラの長い黒髪をした、私に似てとっても美人で自慢のお母さんだ。あ、違うか。私がお母さんに似てるのか。

私が生まれる前までは忍者としてすごい強い人だったらしいけど、今はどうなのかさっぱりわかりません。怒らせるとすっごい怖いけど。

あ。自己紹介がまだでした。私の名前は うちは サクヤ。うちは一族の次期忍(予定)で、黒いショートカットの髪をした可愛い(?)少女です。

趣味はお花屋さんでお花を眺めることで、将来の夢はまだわかりません。



今日は隣の家の幼馴染であるサスケに誘われ、イタチ兄さんと手裏剣術の修行をつけてもらいに行きます。

ちなみに兄さん、と言ってもサスケの兄であるうちはイタチさんの事である。物静かな優しい人だが、忍者としてはと〜〜っても強い人らしい。

任務が忙しいらしく…最近は会う事があまり無くなってしまった。

私にとっては実の兄というわけではないが、サスケがいつも兄さん兄さんと呼ぶので物心ついた時から私も兄さんと呼んでいる。とっても優しいので大好きです。

おっと、それより早く行かなきゃ…サスケがまたふてくされちゃうよ。



手早く朝食を済ませると、自分の部屋へと戻る。

もう一度布団へとダイブしたい気持ちをぐっとこらえ、さっさと着替えて玄関のドアを開けると。

親の顔並みに見知った顔がムッスー、と不機嫌そうにしていた。

黒髪イケメンの彼がうちはサスケ。私の生まれた時からの幼馴染だ。


「いつも遅いんだよサクヤは…まったく。わざわざ迎えに来てやってるってのに」

「わざわざ、って…家すぐ隣でしょうが…。女の子にはいろいろ準備ってものがあるのよ。急かす男は嫌われちゃうわよ」

「準備、って…どうせオレが呼びに来てやっと起きたんだろ…」

「し、失敬な!今日はちゃんと起きてたよ!!って、あ…。………毎日サスケより早く起きてるよ!!」


図星です、サスケさん。すいません、完全に寝坊してました。許してください。

そんな考えが顔にしっかりと出ていたのか、サスケが私の顔を見て、ハァ、と深いため息をついた。

人の顔を見てため息をつくなんて、失礼な。大体、サスケも幼馴染とはいえ、もうちょっと私のことを女の子としてもうちょっと優しくだね…



「ほら、兄さんが待ってるだろうし、置いてくぞー」


「あっ!ちょっ!待ちなさいよ!」


そそくさと足を速めるサスケを追いかけて、燦々と太陽の照らす明るい外の世界へと飛び出した。

ううん…やっぱりもうちょっと寝ていたい…。








バッ、と自分の手から放たれた手裏剣が回転しながら目標へと飛び立つ。

それは、シュルシュルと風を斬る音と共に目標である丸い的へと……ではなく、その5メートルほど手前で失速し、落下した。

ぐぬぬ…と悔しい顔を隠せないまま横を見ると、同じくサスケの投げた手裏剣が、的の中央より少し右下へと命中し、タン、とちいさな音をたてた。

どや顔でこっちを見るサスケ。…腹たつなあ…。





「むむむ…なんでサスケと同じ投げ方で投げてるのに全然届かないのかなあ」


「それはサクヤがオレより下手だからだよ」


「何を!!失敬な!!!細かい動きなら私の方が上手いもん!」


「それにしては全然的に命中してないみたいだけど」



悔しい気持ちを抑えながらその後も何度も何度も繰り返し的へ向けて手裏剣を投げるが、やはり少し手前に落ちてしまう。

反対に、サスケは先ほどから10回中6回ほど的に命中させており、イェーイと飛び跳ねて喜んでいた。

そんなサスケを見ていると、少しやるせない気分になってしまう。


ぷい、とそっぽを向くと…さっきまで静かにこちらを見つめていたイタチ兄さんが、こちらへと近づいてきていた。




「どうしたの?イタチ兄さん」


「…サクヤ。ちょっと手を出してみろ」


うん?と言われるがままにイタチ兄さんへと手を出すと、イタチ兄さんは私の手の上にそっと自分の手を乗せた。

大人らしい、大きく力強い手に触れていると、なぜだか顔が熱くなっていくような気がする。

そのままの状態で、しばらくイタチ兄さんと手を触れ合わせていると、不思議なことに、全身に力が湧いてくるのを感じた。




「…!これって…」


「よし、これで一度投げてみろ」



言うが早いか、先ほどと同じようにシュッと手裏剣を投げると、先ほどより力強く回転を起こしながら、サスケの手裏剣の左上へと…つまり、的のちょうど中央へと見事に命中した。



「あ……やったあっ!!」


的に当たったことにより、先ほどのサスケと全く同じような動きでピョンピョンと跳ねて喜んだ。



「す、すごいや……兄さん、今サクヤに何をしたの?」


目をまん丸にして驚くサスケがイタチ兄さんへと問いかけると、彼はにこりと微笑みながら答えた。



「簡単なことさ。サクヤ、お前は狙いについては完璧なんだ。あとはお前に足らないもの。つまり筋力…ようは投げる力をオレのチャクラを流し込んで増幅させたのさ」




え、それって…イタチ兄さんの補助がないと的にまともに当てられないってことじゃ…と、不安そうな顔をすると、彼は私の頭の上に手を置いて続けた。



「そんな顔するな……サスケは男の子でサクヤは女の子なんだ。同い歳でも力に差があるのは仕方のない事さ。もう少し大きくなればちゃんと当たるようになる。なにせ」


と、そこで区切ると、私の頭をそっと撫でながらサスケと私を一瞥して言った。



「お前は狙いだけならサスケと同じくらい…いや、サスケよりも上手だからな」



ちぇー、とつまらなそうな顔をしたサスケとは対照的に、うん!と私は満面の笑みを浮かべていた。










しばらく手裏剣の練習(と言っても私はイタチさんからチャクラの補助をもらって、だが)をしているとふとサスケが、そういえばさ…と呟いた。


「どうしてアカデミーでも兄さんとの修行でも手裏剣の練習ばっかりなの?オレとしてはさ、もっとこう…火遁の術の練習とかもいろいろやってみたいんだけど」


確かに、と私もイタチ兄さんの方を見ると、兄さんは少しだけ考えるような素振りを見せ私たちを見た。



「手裏剣はな。手裏剣術、というように忍術の基本の技でもあるのさ。基本が出来ない忍者がその先を出来るとはオレには思えない。それにな」


すっ、と立ち上がると兄さんは懐から数枚の手裏剣を取り出した。



「手裏剣にはいろいろな使い方があるものだ」




手のひらの手裏剣数枚を一枚ずつ指に通すと、何故かその手裏剣が指の間で高速で回転を始めた。

そして、そのままの状態で目にも止まらないような速度で印を結ぶと…回転する手裏剣へと、火遁の術で火をつける。

燃える手裏剣へと変化したそれらを青い空へと目掛けて放出した。




「––––火遁・鳳仙花爪紅!」



赤い閃光となって投げられた手裏剣は、青い空の中へと消えていった。



一瞬の静寂の後、私とサスケはパチパチと手を叩きながら興奮して問いかけた。




「すごーい!!手裏剣に火をつけて投げるのね!!!」


「やっぱり兄さんはすごいや!でもさあ、兄さん」


不思議そうな顔でそう尋ねるサスケ。


「あれって、火遁・鳳仙花の術を手裏剣にくっつけた技でしょ?だったらさ、わざわざ手裏剣にくっつけないで鳳仙花をそのまま出した方が威力も高いしいいんじゃないの?」



確かにそうだ。鳳仙花の術は、複数の火の玉を吐き出しそれを自身のチャクラで操って敵へと飛ばす術(お母さんの持ってる本に書いてあった)。

ならば、チャクラもそれほど使わない(らしい)し、威力も高い(らしい)から、そのまま撃った方が手っ取り早いし効率もいい気がするけど…と納得していると、イタチ兄さんはフフッ、と少し笑みを浮かべるとその問いに答えた。


「よくそこに気づけたな、サスケ。確かに鳳仙花の術ならそのまま放ってもある程度は正確に当てることができる。だが、そのある程度ってところが弱点なんだ。正確に当てようとすると、火の玉を操るために無駄にチャクラを消費してしまう。だが、手裏剣に纏わせてその手裏剣を相手に投げるだけなら、大したチャクラは使わない。当てるには自分の技量頼みにはなるけどな」


視線を私たちから空へと移したイタチ兄さんにつられて、私とサスケも空へと目を向けると…先ほど放った炎の手裏剣がボォツという複数の音とともに爆発しそのまま赤い塵となって青い空へ溶けていった。


綺麗……。



「よく覚えておけ、サスケ、サクヤ。どんな術にも弱点となる穴は必ずあるもんさ。もちろん、今オレが使った手裏剣術にもな。…さて、母さんたちが心配するだろうし、そろそろ帰ろう」




はーい、と立ち上がり歩き出したイタチ兄さんの後を追うサスケと私。


空を見上げると、赤い塵はもう消えて見えなくなっていた。



[42250] お団子なんて嫌い!
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/07/31 22:27
「お?サクヤじゃないか。おーーい!」

「ふんふんふふふんふーんふん♪…ふん?」



アカデミーからの帰り道、甘いものでも食べていこうとご機嫌に鼻歌を歌いながら歩いていると、どこかから声をかけられた。振り返ると、そこには誰も居なかった。…あれ?


「こっちこっち」


後ろから肩をポン、と叩かれる。素早く振り返るとまたそこには誰も居ない。
…はぁ。



「からかうのはやめてよー…シスイさん」


「おっ。さすがはサクヤ。よく俺だとわかったな」


「いやこんなことする人他に知らないし…」


「はっはっは。そう言われると照れるなあ」


「いや褒めてないし!!!どこも褒めてないよ!!!!今の会話のどこをとって褒めてると思ったのよ!!」


「はっはっは、いやあスマンスマン。サクヤをからかうのはなかなか面白くてな」

と、その声とともに目の前に現れたのは、爽やか系お兄さんのうちは シスイ。瞬身の術という超高速で移動する忍術を得意とし、目にも止まらない速さで相手を圧倒し瞬身のシスイと呼ばれて恐れられている…らしい。
けど…この人は私をからかうために今無駄に瞬身を連発していたのを考えると、この術を最初に考えた人も報われないね。
こう見えてもイタチ兄さんと同じくらいか、もしくはそれ以上に強いらしい。サスケ曰く、「兄さんの方が強いに決まってる!」らしいけど。人は見かけによらないなぁ…。



「アカデミーの帰り道か。今日はサスケは一緒じゃないんだな?」


「サスケなら先に帰っちゃったよ」



お団子食べに行こうよ、って誘ったら「だ、団子は…団子はいいや…」って嫌な顔しながら帰っちゃった。
あいつは団子に何をされたんだろう…



「お前がサスケと一緒にいないのは珍しいな。サクヤはどこかに寄り道か?」


「うん。甘いものが食べたいから、お団子食べに行くの」


「ほう、団子か。俺も任務が終わって疲れたし、甘いものが食べたくなってきたな…一緒に行くとするかな」


「さっきの瞬身で疲れたんじゃないの……まあいいわ、早く行きましょ」


と、いう訳で…シスイさんが仲間に加わった!








「はむ、はむ、もごご…ごくっ。はー、ここのお団子は甘くておいしいー」


「うーむ、疲れた体に甘いものが身に染みるぜ」

「おばちゃん、もう一皿ちょうだーい」

目の前に置かれたお団子をひょいと掴むと、パクリと口に含む。
噛んでいるうちにタレの甘みと団子の感触が口いっぱいに広がっていき、自然と笑みがこぼれる。
シスイさんも甘いものが好きなのか、一皿、もう一皿…どんどん食べていく。
しばらく幸せなひと時を味わっていると、他のお客さんが入ってきたようだ。


「おばさーん、団子十二皿ちょうだーい……あれ?サクヤにシスイじゃない。珍しい組み合わせねー」



「あれ、アンコさん。アンコさんもお団子食べに来たのね」


「………げえっ」


ちょっと、シスイさん。何よ、その「げえっ」って……失礼じゃないの。
見ると、ものすごく顔が引き攣っている。こんな顔するシスイさん初めて見たんだけど…


「や、やあアンコさん。久しぶり…っと、そうだ!用事を思い出した!すまん、サクヤ!先帰るな!!じゃ、じゃあまた今度な!!」


そうこうしているうちに慌てて出て行ってしまった。また瞬身の術使ってるし……。そんなに急いでどうしたのかしら。



「相変わらず忙しそうなやつねぇ…ま、いいわ。せっかくだしサクヤ、一緒に食べましょ。…おばさん!サクヤに団子十皿あげて!私からのおごりよ」


「わあっ、ありがとうアンコさ……………。………え?十皿?」


ポカーーン、としているうちにおばさんが私の目の前に十皿持ってきてしまった。目の前に広がるのはお団子の山。
お腹ペコペコだったら最高の風景に見えただろう…が、今の私には悪魔の群れに見える。
っていうか、無駄に持ってくるスピード速いな!おばさん!
どうすんのこのお団子の山!もうお腹一杯なんだけど!!!


「あの、アンコさん……私ね、さっきシスイさんとたらふく食べたからもうお腹いっぱ……」

「なあに言ってるのよ!!育ち盛りの子供が、そんな程度でお腹いっぱいになってちゃダメよ!ほら、私のおごりなんだから、たらふく食べなさい!」


「はっ…はぁい………」


ニッ、と満面の笑みでそう言われてしまうと、ごめんなさい食べられません、なんて言えなくなってしまう。
シスイさんめ…これが怖くてさっさと逃げたのか。許さん。あとで足の小指蹴ってやる。5回くらい。


どうしたものか、と途方に暮れていると、すでに目の前に置かれた団子の山を平らげたアンコさんが、もう十二皿!と声を上げているのが聞こえる。え、何皿食べるつもりなのあの人…。


仕方がないので、しぶしぶ目の前に置かれた山の一角を手に取り食べ始める。
が…二つほど食べたところで、お腹からもう食べられないよ!!と文句を言っているのが感じられた。
あと八皿…………ひぇえ、助けてサスケェ………












く、くるしい……もう何も食べられない……。
とんでもなく重くなった体を引きずるようにして、ようやく家にたどり着いた頃にはすっかり暗くなってしまった。
いつもより重く感じる家のドアを頑張って開ける。



「あーーーー……ただいまぁ………けぷ」


「おかえり…ってどうしたの、そんなお腹抱えて」


「アカデミー終わった帰り道に、お腹減っちゃったからシスイさんとお団子食べてきて…」


「あら。シスイさんがいたのね。楽しそうじゃない。食べ過ぎたの?」


「いや、私とシスイさんはそんなに食べてなかったんだけど…」


「だけど?」


「……………途中でアンコさんが来た」



そう伝えた途端、あぁ……と、同情の目を向けられた。やめて!お母さん!
そんな目で私を見ないで!!



「そ、そう…それは大変だったわね…シスイさんもたらふく食べさせられたの?」


「あの人は瞬身で逃げた」


シスイさん、許すまじ。何が瞬身のシスイよ。瞬逃のシスイだったじゃない。
今度会った時は覚悟しなさい。



「さすがは瞬身のシスイね…サクヤもアンコさんには気をつけなさい。悪い人じゃないんだけど…こと甘いものに関してだけは例外よ……。じゃあ今日は夕飯いらない?」


「やめてお母さん!お夕飯って聞いただけでもう限界超えそう……うぷ、もうお風呂はいって寝るわ…」



それだけ伝えるとお風呂に向かった。うう…今日は散々だったわ…。





もうお団子なんてこりごりよ!



[42250] 忍者学校にて
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/07/31 22:29
こんにちは。うちはサクヤです。

今はアカデミーで授業の真っ最中。体術についてのお勉強をしています。
座学は苦手。それに授業内容のほとんどはイタチ兄さんから先に教わっちゃったし…。
ふぁ……眠くなってきた。周りを眺めると、他のみんなは真面目に授業を聞いている様子。
…の中、一人だけつまらなそうにあくびをしている生徒が目に入った。サスケだ。
まぁ、しょうがないよね。私たちには兄さんという理想の先生がいるんだし…。


カッ、カッ、カッ。黒板に先生が文字の列を並べる。


体術の基礎。

種類。

必要なこと。


全てイタチ兄さんがわかりやすく教えてくれたものだ。
黒板とチョークが擦れる音、外から聞こえて来るアカデミー生徒たちの声、野生の鳥たちなどの小さな鳴き声。
全てが私を眠りへと誘ってくる。


既に知っている知識を勉強するほど退屈なものはない。私は夢の世界へ旅立つことにした。










「忍組み手、開始!」



先生の合図と同時に、目の前の少女が飛び込んでくる。そして、飛んでくる右の拳。
私はそれをさらりとかわし後ろへ飛んで距離を取ると、少女が舌打ちをする。




「今日こそあんたを倒すわ、うちはサクヤ!!」



と、啖呵を切るとこちらを睨みつけてきた。

何故かはわからないけど、私はこのクラスの女子たちに目の敵にされている。
私が何かやったわけでもないのに…。どうやらそれにはサスケが関係しているらしいけど、
私にはよくわからない。


再び繰り出される力のない拳を右手で受け止めると、今度は左足による足払い。
それも軽くジャンプして避ける。
また襲い来る拳。体を横に逸らして避ける。上段の薙ぎ蹴り。軽くしゃがんで躱す。



「そうやっていつまでも逃げ続けるつもり!?」


ひらり、ひらりと最低限の動きだけで相手の連続攻撃から身を逸らすと、頭に血が上ったのか、ワンパターンに攻撃を繰り返してくる。それらも全てお見通し。


一連の動作が、まるで決められた作業のように感じてくる。
それもそうだ、私がいつも相手にしているのはイタチ兄さんや、彼によって鍛えられたサスケ。
イタチ兄さんは私に合わせてくれてはいるが、到底私の敵う相手ではないし、サスケも同年代ではダントツに強い
相手。純粋に力を試したいが為に、私が相手でも手加減は一切なし。基本的に組み手は男女が分かれて行うものだが、
男子の中ではサスケが最強。
それに比べて、相手はただの女の子。クラス最強と比べたら、天と地の差だ。


大げさすぎるほどオーバーアクションな蹴りを肘で受け止め、力を込めて弾き返す。


「踏み込みが甘いよ」



足を弾かれ無防備になった相手の肩のあたりを目掛けて回し蹴りを放つ。


「そんなの、当たると思って!」


得意げな顔をしながら、大きく胸を逸らして回避された。が、狙い通り。
そのまま体をぐるっとコマのように一回転させると、先ほどより少し低め、相手のお腹あたりを狙って2段目の回し蹴り。
本命はこっち。大きく万歳をする格好となってしまった彼女に、避ける術はない。




「しまっ………!」




ばしっ、と足に手応え。私も女の子だから力は無いけど、無いなら無いなりに確実にダメージを与えることのできる部位を狙うだけ。

そのまま素早く姿勢を低くして地面に手を添えると、少女の足を薙ぎ払う。






「これで終わりね。私の勝ち」



完全にバランスを崩してお尻から倒れこむ少女へ向けてトドメの一撃。







「そこまで!!」



…をしようとしたところでストップがかかった。まあ、最後の攻撃は当てるつもりはなかったんだけどね。



手や足についた砂を払い、あたりを見回すとクラスの皆がこちらを見ていた。


当然だな、という顔をしたサスケや数人の友人たち。

パチパチと拍手をする人たち。

悔しげにこちらを睨みつける女子たちと、目の前の少女。

様々な視線に当てられながら、少女へ近づき、右手の人差し指と中指を差し出した。
組み手が終わったら必ずこれをするルールになっている。和解の印だ。



「ありがとう。楽しかったわ」


「…ふん。いい気になっていられるのも今の内よ…いつか私があんたを倒すわ」


二本の指をお互いに交差させると、ぎゅっ、と結んだ。






皆の所へ戻ると、真っ先にサスケが近づいてきた。




「また少し腕を上げたみたいだな、サクヤ」


「おかげさまでね。アンタの修行に付き合わされてたら、嫌でも強くなるわ」


「いや、兄さんも言ってたろ。サクヤには戦闘の才能があるんだって」


「私これでも女の子なんだけど。戦闘の才能があるって言われても素直に喜べないわよ……」


「まあまあ、いいじゃないか。オレの修行相手がどんどん強くなると、退屈しなくていいよ」


「はいはーーい。どうせ私はアンタの修行の道具ですよーだ」



ぷい、とそっぽを向くと視界に映るのは女子たち。一同揃ってこちらを睨みつけている。
…何が気にくわないんだろう。何かあるのなら直接言ってくれればいいのに。
軽くため息がこぼれる。私は男子たちのところへ歩みを進めた。



「おい、待てよ。今日もオレんちで組み手しようぜ」


「もー、アンタは最近そればっかりね。わかってるわよー」




また女子たちからの視線が強まった気がした。



[42250] 写輪眼
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/07/31 22:29



視界に映るのは耳の下ほどまで伸びた黒い髪の少女。

目を瞑ると、それは見えなくなる。
まぶたの裏に映るのはひたすらの闇。

集中。
集中。



ひたすら閉じた両目に意識を集中させる。
真っ暗な視界の中、体内のチャクラをひたすら目だけに向けさせる。

脳裏に思い浮かぶはイタチ兄さん。
そしてシスイさん。





私は、静かにこう呟いた。




「…………写輪眼」

















「……鏡の前で何やってるの?サクヤ」



お母さんの声に目を開くと、目の前の少女…つまり私が鏡に映る。
その両目は、赤く光って……はいなかった。


「どうしたのそんなに自分を見つめちゃって。何か悩みでもあるの?」


心配そうに尋ねてくるお母さんに向かって、ずっと内緒にしていた行為を素直に話した。





「……写輪眼の練習」


「はい?」


「だから!写輪眼!練習してたのよ」


「写輪眼は練習で出来るものじゃないわよ?」


…………。






……。





えっ。


衝撃の事実。
今までの努力はなんだったのだ。


あまりの言葉に頭の中にお団子とアンコさんが浮かんできた。それと同時にシスイさんが浮かぶ。あ、何か腹が立ってきた。
いけないいけない、思考がどんどん現実から逃げていく。




「…じゃあどうやったらできるの?」


恐る恐る尋ねてみる。



「いつかその時が来れば、あなたにも出来るようになる…かもね。」


「なにそれ。よくわかんない」



「写輪眼は一族の中でも開眼する人としない人がいるのよ」



写輪眼。うちは一族だけが使うことのできる、目に宿る力。
開眼すると、相手の次の動きが読めたり、相手の術をコピーして使用することができるというとんでもない目だ。
サスケをあっと驚かせたくて毎日密かに練習していたのだが、どうやら無駄だったらしい。
がっかり。




「まあ、そんなに焦ることないじゃない。写輪眼が使えなくったって、あなたは私の娘だもの。きっと強くなれるわよ」



別に強くなりたいわけじゃないんだけどね…。ただ、サスケを驚かせてやりたかっただけだし。
しかし、知りたくなかった情報を知ってしまい、体から力が抜けていく。
まあ、びっくりさせたいがためにひたすら練習してた私も私だったけど…世の中そんなに甘くないらしい。



「……なーんだ。練習してもできないんだ…ねえ、お母さんは写輪眼使えるの?」



「もちろん、使えるわよ。ほら」




答えた時には、既にお母さんの目は変化していた。
赤い目に、三つの勾玉が黒目の周囲を覆うように点在する。写輪眼だ。



「使えるんだ……お母さんが使えるなら、私もいつか使えるようになるかな?」


「まあ、私も私のお母さん…つまり、あなたのおばあちゃんも使えたからね。きっと使えるようになるわ」



嬉しい返事が返ってきたので、ルンルン気分で意味もなく飛び回る。
早く使えるようになりたいな。写輪眼。それがあれば、サスケをあっと驚かせることができる。



「やったあ。早く使えるようにならないかな」



期待に胸を膨らませると、自分の部屋へと戻った。









「……本当は使えない方がいいんだけどね、こんなもの……。」






そう小さく呟いたお母さんの言葉の意味は、この時の私には理解できなかった。




[42250] 今日はいい朝
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/01 23:49




水のように澄んだ青い空。白い雲。元気な太陽。うー!!いい天気!
目が覚めたばかりでぼーっとなっていた体も、一気に覚醒する。

今日はアカデミーがお休みなので、里をぶらぶらしています。
毎日毎日やれ組み手だやれ忍術だなんて疲れちゃうもの。子供はもっとお外で遊ばなきゃね。



天からの白い光が優しく体を包み込む。ぽかぽか暖かく気持ちいい。
今日は最高のお出かけ日和だ。歩くペースも自然とゆっくりになる。
小鳥たちのか細い鳴き声も、まるで私に挨拶をしてくれているような。風が葉っぱを撫でるサラサラという音も、今の私にはとても気持ちのいい音楽のように感じられる。




「うーーーん!いい朝だ!!!!」







……ただいまの時刻、午後1時。


















誰か友達でもいないかなーと、ウロウロしていると、公園に着いた。
お。久しぶりにブランコでも乗ろうかしら、と公園へと足を踏み入れると、先客がいた。



目立つ金髪に大きなゴーグルを頭に被った少年。何か暗い顔をして俯いている。




「あら!ナルトじゃない!」



アカデミーの問題児がいた。
授業をサボればさあイタズラ、しょっちゅう歴代火影の顔岩に落書きしてはイルカ先生にこっぴどく叱られている。
友達は少ない(私が言えたことではないけど)みたいだが、同じクラスの奈良シカマルや犬塚キバとは仲がいいみたいで、しょっちゅう授業を抜け出してどこかに行っては先生に連れ戻されている。

ちなみにシカマルはめちゃくちゃ頭が良い。リーダーとかやったら良いんじゃないかな?
でもすごい面倒くさがりだから無理か。あ、キバは犬。


「こんなところで一人で何やってるのよ」


「別に…なんでもないってばよ」


「何かあったの?悩みがあるなら聞くわよ」


「何でもねーっての!」




いつもニコニコふざけているナルト。
どんな時でも笑顔を絶やさない、太陽みたいなこの少年に、私は少し憧れていたりする。
そんなこいつに、暗い顔は似合わない。


「…まあ、深くは聞かないでおくわ。それより、ほら。行くわよ」


「……は?」


「私は暇なの。わかるでしょ?」


「…いや。何を言いたいのかさっぱりわかんねーってばよ」


全く。これだから男子ってのは…。



「レディーがお誘いをしてるのにとぼけるなんて失礼な男ね。暇だから遊びましょって言ってるの」



「それならそうと言ってくれってばよ…」



じとーっ、と白い目で見られるが、それをさらりと受け流す。
慣れてるのよ、そんな目で見られるのは。悲しいけど。



「ま、いいや…しょうがねェから付き合ってやるってばよ!!」


ブランコから立ち上がって大きな声でそう言うと、太陽がこちらに顔を覗かせる。
眩しいほどのその笑顔を見て、改めて思った。



やっぱり、あんたはその顔が一番似合ってるわね。












「いい、ナルト。絶対見つかっちゃダメよ。わかってるでしょうね」



「ニシシ、あの怪しいマスクの下を暴いてやるってばよ」



ただいま絶賛尾行中。
公園を出て、何をしようかと二人でぶらぶらと歩いていた時、たまたま一人の忍者を発見した。


木の葉の上忍、はたけカカシ。
額あてをまるで眼帯のようにして左目を隠し、さらには鼻から口元にかけてをマスクで覆った、いかにも怪しげな男。
数回会話をしたことがあるが、マスクのせいで何を考えているのか、どんな人なのかさっぱり掴めなかった。
きっとあのマスクの下にはとんでもない秘密が隠されているに違いない。



例えば、タラコくちびるとか。出っ歯とか。



ちょっと頭の中でイメージしてみた。
頭に浮かんだのは、タラコくちびるで出っ歯のお化けが額当てを外してこちらを見る姿。


その左目には、写輪眼。











「ブーーーーーーーーーーーッ!!!!」



「ちょっ!サクヤちゃん!一人で何吹き出してんの!?バレるってばよ!!!!」



あまりのアンバランスなイメージについ吹き出してしまった。ダメだ、タラコくちびると写輪眼のコンボは凶悪すぎる。
そもそも何で写輪眼なのよ…あの人うちはじゃないから有りえないでしょうが、と自身にツッコミを入れる。
先日見たお母さんのそれがまだ頭に残っているからだろうか…



写輪眼、と思い浮かべて今度は頭にイタチ兄さんが浮かんできた。












…タラコくちびるのイタチ兄さんが。







「ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」



「いい加減にするってばよぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」




ああ、ごめんなさい。イタチ兄さん。












気をとりなおして、尾行を再開する。さっきの騒ぎで気づかないとは…あの男、上忍のくせに耳悪いのかしら。
まあ好都合だ、と考えると影に隠れながらこっそりと着いていく。
柱の影から路地の壁へ。
姿勢を低くしながら、人ごみをかき分けて。


そのまましばらく里を歩いて行くこと、5分。10分。
気がつくと来たこともない裏路地の奥まで来ていた。




「…こんなとこまで来て何をしたいんだってばよ?」



「さぁ……。」



人気のない路地を進むこと数分。マスクの男は急に立ち止まった。
目の前には……。




本屋?



こんな場所に本屋があったなんて。全く知らなかった。
後でお花の本でも探しに来てみよう、と心の中で地図登録を済ませていると、男は一冊の本を手に取った。
気づかれないように少し近づいて柱の後ろに隠れ、よく見てみる。同じ本が10冊ほどカウンターに並んでいる。

どうやら、新刊らしい。


男はパラパラ、と数ページめくると、店員さんの方へ向かう。…あ、買った。
そして店から出てきた男は、うっほほーーーい!と奇声を発しながらぴょんぴょんと跳び跳ねて去って行った。




……なんだ、アレ…………。




「えぇ……」


「………。何の本かしら。見てみるわよ」



店に入ると、先ほど男が買って行った本が目にとまった。
どれどれ…と手にとって表紙を見てみる。男の人と女の人が写っている。
タイトルは……。


「イチャイチャパラダイス?何かしら、これ」



ページをめくってみると、文字の山が。どうやら、小説らしい。
文字の列を見て、うへぇ、と小さく呻くナルト。あんた、文字読むの嫌いそうだもんね……。


興味を失ったナルトをよそにそのまま読み進める。

肉棒。合体。何だかよく意味のわからない単語に首を傾げるが、気にせず読み進める。
パラ…パラ。
どうやら、男の人と女の人がベッドの上で何かを行っているらしい。
意味がわからないままなのも悔しいので、次のページ、次のページとめくっていく。









しばらく読んでいくと、先ほどのわけのわからない単語の意味が何となく理解できた。
肉棒。これはつまり、男の人の………!!

顔がかぁっと火でもついたかのように熱くなる。体が燃えているかのように火照る。
この本って……!





「なななっ、ななななななな」






…………えっちな本じゃないの!!!!



「な、な、な、な!!!」


「ど、どうしたんだってばよ!!サクヤちゃん!」


壊れたおもちゃのように同じ言葉が繰り返される。思考が正常に働かない。
ナルトが何か言っている、それすら脳が処理することができない。わけのわからないまま、自分が今何をしているのかもわからなくなり、ただひたすらにまくし立てた。





「なななっ!何でもないってばよ!!あは!あははははは!!!!!サスケェ!お前はオレのスペアだぁぁ!!!」




「サクヤちゃんが壊れた…」












しばらく経って、ようやく落ち着いてきた。…なんだかナルトが私から距離を置いている気がするんですが。


火照った体も、ようやく冷めて元に戻ってきた。


…元に戻ってきたことで、あのマスクの男に対して怒りがふつふつと燃え上がってくる。



何十分も追いかけさせられた挙句、こんなもの読ませて!



勝手に私たちが追いかけていただけなのだが、もちろんそんな事はこの時だけは頭にない。
イライライライラ、もー頭にきた!!




ばん!と本を棚に叩きつけるように置くと、大きな歩幅で店を出る。



「お、おい!サクヤちゃん!どうしたんだってばよ!」




そして、男が去って行った方向へ向かって力の限り叫んだ。









「エロおやじいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!死ねえええええええええ!!!!」



[42250] 二人のうちは
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/01 23:51




朝。サスケとアカデミーへ向かいます。
行ってきます、とお母さんとおばさんに挨拶すると、二人で歩き始めた。





なんだか最近、里の様子がおかしい気がする。


気のせいか、なんだかぴりぴりと気が立っているような。言葉には表せないけど、何か。
嫌な感じがする。


気にしすぎなだけかな、と楽天的に決め付けると、前を歩く人ごみの中に見知った後ろ姿が。






「あ!シスイさんだ。シスイさーーーーーん!!!」


声を大にして呼ぶと、その人物は後ろを振り返った。やっぱりシスイさんだ。


「よう、サクヤにサスケじゃないか。おはよう、どうした?」


「シスイさん!おはよう」


「おはよう!あのね、シスイさんに言っておかなきゃならない事があって…」


「どうした、サクヤ?急に改まって」


「あのね…」


静かにシスイさんに近づくと、真剣な顔で彼の顔を見上げる。
私の真剣な顔を見て、シスイさんも気を引き締めた様子。
そして私は……。










「–––––––––––くたばれぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええ!!!!」







草履を履いたシスイさんの左足の小指目掛けて足を勢い良く振り下ろした。



「痛ってええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」












ふふん。お団子事件の復讐成功!瞬身のシスイと呼ばれた彼も、まさか私にこんなことをされるとは思っていなかったのか、避けられなかったらしい。油断が死を招くのよ!



「痛っ…急に何するんだ、サクヤ」


「何するんだ、じゃないわよ!この間のお団子食べに行った時!アンコさんが来た途端に逃げて!おかげで私一人散々な目に遭ったわよ」


「あぁ、そういえばそんな事もあったなぁ…悪い悪い、実はアンコさんがいるとどうなるのか知っていてな」


「知ってたなら私も連れて逃げてよ…」


「いやあ、サクヤならなんか大丈夫な気がしてな」


「……無理よ、あれは」



だよなぁ…と、二人で遠い目をした。
何のことだかわからないサスケは頭にはてなを浮かべる。


「…なんの話?」


「この間あんたにも言ったでしょ、お団子屋さんの話」


「あぁ…」



三人で遠い目をした。
なんだこの光景…。



「それより、お前らはこれからアカデミーか?」


「そう!今から学校よ」


「そうか、俺はちょっと用事があってな。じゃあ、またな」


「うん。頑張ってね」



またねー!と、サスケと二人で手を振った。












その日の夕方、イタチ兄さんが夕食の時間なのに帰ってこないので探しに行こう、とサスケに誘われてうちはの村の森へ向かう。
どこにいるのかわからないので、怪しげな場所を探すこと20分ほど。
見つけた、イタチ兄さん…と、あれ。シスイさんだ。何か話している。



「……みろ。俺は別の方法で–––––」


「兄さーーーーーん!!」



サスケの呼ぶ声で、話を中断する二人。何を話していたんだろう。何か、忍術でも思いついたのかな。



「こんなとこにいたんだね、探したよ」


ニコニコとイタチ兄さんに駆け寄るサスケ。普段は大人ぶってるけど、イタチ兄さんの前だとサスケも普通の男の子になるね。


「ってあれ。シスイさん!!」

よう!とサスケと私に挨拶してくる。って、サスケ…あの距離でシスイさん見えてなかったの。
どんだけ兄さん好きなのよ…。






「サスケ、サクヤ。どうしてここに––––」


「ねえ、二人で何話してたの?オレにも教えてよ」


サスケの言葉を聞くと、言葉を詰まらせる兄さん。
…どうしたんだろう、何か私たちには聞かせられないことでも話していたのだろうか。


「私も気になるー。何話してたの?もしかして新術とか?」



「…お前たちにはまだ早い」



「ええーっ、何だよそれ。オレたちは除け者かよー」



「許せサスケ、また今度だ」


そう言うと、イタチさんはサスケの額にトン、と指を当てた。


「もー。イタチ兄さんは誤魔化すときはそればっかりね。まったく…」


ぶつくさと文句をたれながらイタチ兄さんに近づくと、額に軽い衝撃。びっくりして閉じた目を開くと、イタチ兄さんが私の額に指を添えていた。



「サクヤも、な。また今度だ」


「…兄さんはいつもそれだよー」


額を抑えたサスケがそう呟く。まったくよ、いつもイタチ兄さんは隠し事ばっかり。
そう思いながらも、私には滅多にしない謝りの額突きをされ、少し顔が熱くなるのを感じた。
きっとこれは、夕日に当たってる所為かな。



「…まったく、二人を除け者にするなんて、ひどい兄さんだ。いいよ、俺が教えてやる」


「本当!?さっすがシスイさん!」


「実は…」



サスケと私を見て、続ける。



「…俺とイタチのどっちが強いか、って話をしててな。俺の方が強いっつうのに、イタチが認めないんだよー」



「何よそれ。そんなのイタチ兄さんの方が強いに決まってるじゃない」


「即答かよ!ひどいな、サクヤは」


「だってシスイさんだし…頭のいいイタチ兄さんの方が強いに決まってるわよ」


「俺が頭悪いってことかよ!?」


「うん。だって無駄に瞬身するし」



がっくし、と肩を落とすシスイさんは、ターゲットをサスケに切り替えたらしい。



「サスケはわかってるんだろ?俺の方が上だって」


「違う!確かにシスイさんは強いけど、でも兄さんの方が上に決まってる!」



サスケも即答すると、ええっ、と驚いた顔をする。ふふん、どうやら私たちの意見は一致しているようね。



「そうかぁ?俺の方が年上だし、普通に考えたら俺の方が…」


「忍に歳は関係ないよ!」


「でもなあーー、俺は写輪眼持ってるし」


「兄さんだって写輪眼を持ってる!だからシスイさん相手にも負けない!そうだよね!兄さん!」


「それは……その…」



口ごもるイタチ兄さん。あれ、どうしたのかな。シスイさんの方が年上だから、遠慮してるのかな?イタチ兄さん。
少しの静寂の後、イタチ兄さんは沈みゆく太陽を見て、言った。


「シスイ。俺はそろそろ戻る。どうやら夕飯の時間らしい。それに、明日の準備もあるしな」


「おっ、そういえば、任務が入ってたっけ、お前」


「長くはならない任務だ。すぐに終わらせてくる」


「あぁ。頑張ってこいよ。こっちはこっちで色々やっておく」


そのシスイさんの言葉は、なぜだか少し私の中で引っかかったような気がして。
会話が終わると、イタチ兄さんは家へと戻って行った。



「サクヤ!お前はかえらないのか?」


「んー、私は夕飯まだだし、ちょっと景色眺めてから帰るわ」


「そっか。サクヤ、シスイさん!またね」


ニコニコしながら、サスケはイタチ兄さんの後を追っていった。



「おう!」


「また明日ねー、サスケ」


バイバーイ、と手を振ると二人の兄弟は森の中へと消えていった。


「……ねぇ、シスイさん」


「ん、どうした?」


「本当は何の話してたの?さっきのは嘘でしょ?」


「………まったく、どうして女の子ってやつはこう鋭いもんかね…」


やっぱり、図星だったらしい。何となく、イタチ兄さんの態度や、シスイさんの言葉に違和感を覚えたから、
嘘を言っている気がしたのだ。


「やれやれ、しょうがないなぁ…ちょっとこっち来てみ、サクヤ」


シスイさんの方へ近づくと、また額に指が当たった。


「許せサクヤ。また今度だ」


「……なにそれ。イタチ兄さんの真似のつもり?」


イタチ兄さんと同じポーズをとるシスイさんが、なんだかとっても似合わなくて、可笑しくて。
自然と、笑いがこみ上げてきた。


「ふふ、あはははははははは!!なによー、全然似合ってないよ!シスイさん!!あはは!」


「なっ、そんな笑うことないだろ!…はははは」


シスイさんも私の笑い声につられて笑い出す。
あっはっは、と大きな声が森の中へと反響する。そのまましばらく二人で笑い合った。















「なあ、サクヤ。お前は今、幸せか?」


家まであと少しというところで、ふとそんな事を聞いてきた。


「どうしたの、急に?」


「いや?何となく、聞きたくなっただけだ」


そう言いながらも、どこか真剣な表情のシスイさんを見て、ふざけようと思った私も真面目に答える。



「……幸せよ。毎日、サスケと修行して、アカデミーで勉強して。
イタチ兄さんに色々教わって、シスイさんとこうやって喋って。この日々が幸せじゃないなら、私に幸せは訪れないわね」





「…そうか、そうだよな。変な事聞いて悪かったな。さっさと帰ろう」


「まったくよ。今日のシスイさん、なんか変だわ。変なお団子でも食べたんじゃないの?さっさと帰って寝たほうがいいわよ」



「なんだよそれ。ひどいな」


あはは、とまた二人で笑い合うと、もう家の目の前。夕飯の支度ができたのか、中から美味しそうなお肉の匂い。その匂いを嗅いで、お腹がぐうと鳴る。私のお腹の音を聞いたシスイさんは、少し微笑むと、またな!とだけ言って帰って行った。



「またねー!シスイさん!」







その背中は、なんだかどこか寂しそうに見えた気がして。



[42250] 悪夢
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/02 22:53


「ふぁ……おはよ…って、どうしたのその左目!」



台所から漂ういい匂いにつられて目を覚まし、朝ごはんを食べに行くと、お母さんの左目に包帯が巻いてあった。

何かあったのか。まさか、失明とか。心配になり、机に身を乗り出して尋ねる。


「怪我でもしたの!大変だわ。すぐお医者さんのとこへ行かないと!」


「あぁ。これ?玉ねぎ切ってたら汁が目に入っちゃって。最悪よ、もう」



「は?」




ただのあほだった。



「なぁんだ…心配して損した。包帯なんて巻いてるから、大事だと思っちゃった」



「この包帯は医療忍者のお友達からもらったものでね、痛みを和らげる効果があるのよ」


「聞いてないわよ…」





まったく。気が抜けたらお腹が減ってきちゃった。朝からドタバタだわ。




席に着くと、いただきます!と元気よく言って、朝食をとる。



包帯事件の犯人を箸でつかむと、口へと運んだ。

…うん。甘くておいしい。




ごちそうさまをしてお皿を台所まで運んでいると、外からサスケの呼ぶ声が聞こえた。

いつもの時間だ。


「いいわねえ、サクヤは。あんなにイケメンの幼馴染がいて。将来はサスケくんのお嫁さんね」


「もー、お母さんったら。サスケはそんなのじゃないって。同い年の兄弟みたいなものじゃない」


「あら。わからないわよ?今はただの兄弟かもしれないけど、大人になったら異性として意識する時が来るわよ」


「ないなーい」


サスケと結婚をしている私の姿を想像してみる。花束を持ったサスケの姿。




…うん。ないな!あいつはただの幼馴染。


さっさと準備を済ますと、玄関口へ向かう。

靴を履いていると、珍しくお母さんが見送りに来た。どういう風の吹きまわしだろうか。



「…どうしたの?お母さん」



そのまま私の方へと近づくと、私の頬へチュッ、と優しくキスをした。

そして、まだ小さい私の体をぎゅっと抱き締める。まるで壊れたものを丁重に扱うように、そっと。


久しぶりに感じる母の温もり。あったかい。

生き物の子供にとっては、母親の近くが一番安心できる場所。

やはりこの人は私のお母さんなんだ。そう改めて感じられた。






そのまま少しの間母の腕へ包まれていたが、気恥ずかしくなって抜け出す。



「…もう、何よ急に。何だか今日のお母さんおかしいわ、どうしたのよ」


「ふふっ。何でもない。愛してるわ、サクヤ」


「変なの…」


急な愛情表現をされると、照れ隠しにぶっきらぼうになってしまった。

何だか負けた気がする。こっちも言い返しておこう。


「まったく。私もよ、お母さん。愛してるよ。じゃ、行ってきます!」



捨て台詞のような言い方になってしまった。感情表現って難しいね。

まぁいいか、帰ってきたらちゃんと伝えよう。






行ってらっしゃい、という声を聞くと、玄関のドアを開ける。

おなじみの不機嫌な顔が目に映った。





「おっそいよ……って、サクヤ。朝からなにニヤニヤしてるの」


「なんでもなーい!!」


足に力を込めると、勢いよく駆け出す。



「ほら、さっさと行こ!置いてくわよ、サスケーーー!」


「もー、なんなんだよ……」















アカデミーの帰り道。サスケと二人で歩いていると、うちはの村に近づくにつれてなんだか空気が重々しく感じる。


最近はずっとこうだ。気のせいだと思っていたが、明らかにみんなの様子がおかしい。

何か、嫌なことでも始まるのか。そんな前兆のような気がした。




「ねぇ、サスケ。ちょっと寄り道していかない?」


重い雰囲気に当てられたのか、俯いていたサスケにそう問いかける。


「別にいいけど…どこ行くんだよ」


「ちょっとそこまで。行きましょ」


そう言うと、あの場所へ向けて走り出した。少し遅れて、サスケも走り出す。


まるで、嫌なものから逃げ出すかのように。














「うん、やっぱりここの眺めは綺麗ね……」


「…そうだな」


場所は変わって、この前イタチ兄さんとシスイさんがいた滝の前の広場。

沈みかけた夕日が辺りを橙色に照らす。まるで、あの時見たイタチ兄さんの鳳仙花の術のように。

その夕日が滝に反射して宝石のように輝く。…絶景だ。

その場に座り込むと、しばらく辺りを眺めていた。



時間が経つごとに少しずつ変化していく景色。橙から赤へ、赤から紫へ。

風景が黒へと変化し始めた頃、何も言わずにただそれを見ていたサスケが口を開いた。






「なあ、サクヤ」


「なに?」


「最近、なんか里の様子がおかしくないか」


「………うん。私もそれを言おうと思ってた」


やはり、サスケも感じていたのか。あの暗く重苦しい雰囲気を。

ずっとそこにいたら押しつぶされてしまいそうな、そんな感覚を。



「何だか、兄さんの様子もおかしいんだ。変なことを言ったりしてさ。写輪眼の感じもなんか変だった」


「写輪眼が?」


「ああ。模様が何だか違ってた」



模様が違う写輪眼。…わからない。何だろう、ただのサスケの見間違いじゃないのか。

それにしても、イタチ兄さんまでおかしいだなんて…。





「何か、大変なことでも起きるのかしら…。」


「なんだよ、大変なことって」


「わからない。何か、私たちではどうにもならない何か」


「意味わかんないよ。縁起でもないこというなよな」




今まで里がこんな空気になったことなんて一度たりともなかった。

大人たちも子供たちも、火影様もみんな笑っている明るい火の国。

その里から、今は笑顔が消えている。

何かが起こるのだろうか…私には想像もつかないことが。


子供である私たちは完全に蚊帳の外。里で何があるかなんて、さっぱりわからない。

でも、それがいいことでは決してないということだけは、私たちにもはっきりとわかった。



「…ねぇ。サスケ」



「…ん?」


「もしも、もしもの話よ」



なぜか、これだけはサスケに伝えておかなければならない気がした。




「もしあんたに大変なことが起きたら。その時は、私がなんとしても助けるわ。だから」




すくっと立ち上がる。周りは、すっかり闇に閉ざされて、月だけが白く暗い輝きを放っていた。






「もし私に何かあったら––––––––––その時は」



月明かりが私とサスケの二人だけを照らす。私は今、どんな顔をしているんだろう。








「あんたが私を助けてね」





あぁ。そう短く答えたサスケの横顔は、何だかいつもより大人びている気がした。





















村に戻ると、すっかり遅い時間になってしまっていた。

やばいやばい、お母さんに叱られる。そう思うと、自然と足が速まる。


小走りで村を進んでいくと、誰かが道の真ん中に寝そべっている。

何やってるのかしら、こんな時間に…。



「おーい、おじさん。こんなとこで寝てたら風邪ひくわよ。おじさーん」


体を揺すったり、叩いたりしてみるが、起きる気配がない。

ペチペチと頬をはたいたりしても反応が返ってこない。随分深く眠りこけてるようだ。



もー、どうすんのよこの人…と途方に暮れてサスケの方へ振り返ると。

なんだかサスケの様子がおかしい。震えている…?




「サスケ……?どうしたの……?」



「…サ、サ、サク、ヤ………それ…」



震えながら男へ向けて指をさしている。

指す方向へ視線を辿ってみると……。



お腹に深い切り傷が。




「何よ、これ………!?」



「その人、寝てるんじゃない…死んでるんだよ……!!」



そう言われて体に触れてみれば、確かに生きている人間とは思えないほど冷たい。



頭がぐるぐるする。なぜ。こんなところで人が。

明らかに誰かにやられたものだろう。なら、誰が。

なぜ。何の目的で。

なぜ。うちはの村の中で。

なぜ。




思考がうまくまとまらないまま、それらを考えていると。





(–––玉ねぎ切ったら目に入っちゃって。最悪よ、もう)



目に包帯を巻いた女性が、頭に浮かんだ。







「お母さん!!!!!!」




「あっ、おい!サクヤ!!」











暗くて何も見えない。でもただひたすら走る。

家へ向かって。

頭をよぎるのは、最悪の光景。それを頭を振って無理やり掻き消す。

大丈夫、大丈夫。

家に帰れば、きっといつも通り。

あら、おかえりなさい。そう言って、お母さんが美味しいご飯を作って待っているのだ。

いつも美味しいご飯ありがとう、そうお礼を言って。

あったかいお風呂に入って、いつも通り寝るのだ。




そう、いつも通り。






身体中のエネルギーの総てを足に込めて、ひたすらに走る。

心臓がばくばくとしているのは、きっと走っているからではないだろう。


見えない何かにつまづいて、盛大に転んでしまう。

擦りむいたらしく、膝と手のひらがヒリヒリする。でも、今はそんなことどうでもいい。

こんな傷、家に帰ってお母さんに消毒でもして貰えばいい。

そう考えると、また走り出す。家へ向かって、ただ走る。





大丈夫。そう自分に言い聞かせていないと、不安でどうにかなってしまう気がした。




……大丈夫。












「ただいま!!!!!」



家についてドアをこじ開ける。

おかしい。おかえりの声が聞こえてこない。

部屋で寝てるだけだろう、起こしに行こう。













お母さんの寝室のドアを開ける。ベッドの上には…ああ、いた。お母さんだ。




「お母さん、ただいま。起きてよ」




そう言うと、私と比べて大きな体を揺らし動かす。

私にはない、大きな胸が揺れる。

私にはない、長い黒髪がサラサラとなびく。



起きない。


体に触れてみると………


冷たい。さっきの男の人みたい。これでは、まるで……。



嫌な想像を振り払う。そんなわけない。ありえない。



「ねえ!お母さん!いつまで寝てるの!……起きてよ!!」



ひたすら体を揺さぶる。力の限り揺さぶる。

さっき怪我した右の手のひらから出たであろう血が、お母さんについた。

いや違う。この血は、私の手から出ているものではない。これはお母さんの…。



「いや……いやよ……ねぇ!!起きて!!起きてってば…ねえ!!お…お母…さ……」



視界がグニャグニャと何かで歪んでよく見えない。泣いているのか。




誰が?私が。


私って?



考えがまとまらない。意識がだんだんと薄くなっていく。

なぜだか、離れたところから自分で自分を見ているような錯覚を覚える。



「いや!嘘よ!!ねぇ!お母さん!!嘘だと言ってよ!!!ねえ!!!!」




短髪の女の子がお母さんの体を揺らし続けている。

その目は真っ赤に染まっていた。



あれは誰…?あれは私……?


じゃあ、今私を見ている私は誰……?





「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」







その少女が悲痛な叫びをあげたところで、私の意識は暗い海の底へ沈んでいった。



[42250] 喪失
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/04 21:08








あの日から一ヶ月。

オレの兄、うちはイタチはオレから全てを奪っていった。

母さんを。父さんを。

そして、うちは一族を。

奴はオレとサクヤを除くうちは一族全員を殺した。




(このオレを殺したくば、恨め!憎め!そして、醜く生きのびるがいい…。
逃げて…逃げて…、生にしがみつくがいい。そして、いつかオレと同じ眼を持ってオレの前に来い)




何故、オレとサクヤだけを生かしたのか。







【万華鏡写輪眼】。





…あの日、オレに見せた写輪眼の本当の姿。

その開眼方法は、『最も親しい友を殺す事』。

つまり、オレにとって最も親しい友、サクヤを殺せという事だろう。

…ふざけるな。あいつを殺すなどありえない…考えただけでもおぞましい。

家族も失った今のオレにとってはあいつだけが全てだ。それを己の手で殺すなど…。



そんな呪われた力はいらない。そんなものを得なくとも、オレはオレなりのやり方で強くなる。

どんな辛い修行をしても、何があろうとも。


そして、いつか…あの男を殺す。














「そこまで!」



目の前で尻餅をついて倒れる男に近づいてぶっきらぼうに指を突き出す。

立ち上がった男は、クッソ、と悪態を吐くと尻についた砂埃を払って立ち上がると、オレの指と交差させた。


「やっぱり強いなサスケ…次はこうはいかねえぞ」


「…フン」







くだらない。一方的すぎる戦いに、ため息をついた。

動作にキレがない。スピードがない。

ただ考えなしに突っ込んできて殴りかかってくるだけ。

こんな組み手、あいつと毎日やっていたものに比べれば、ただのガキの喧嘩でしかない。

こんなことを繰り返していても、強くはなれない。



やはり、あいつがいなければ……。




「おい、サスケ」


呼ばれる声で我に返った。



「さすがはうちはのエリートだな…体術も忍術も俺たちとはレベルが違う」


「……そんな事を言うためにわざわざオレを呼び止めたのか」



ギロリ、と男を睨みつけると、そいつは肩を竦めて続けた。



「おー、怖い怖いねぇ。…それより、サクヤはどうなんだ」



黙って首を横に振る。

あいつは……まだ。




「……そうか」













アカデミーが終わり帰り道。

オレは今、サクヤのいる病院にいる。

5号室、と書かれたドアを横へスライドさせると、真っ白な空間が視界いっぱいに広がる。

真っ白なベッドの上に横たわるのは、物心ついた時からずっと見続けてきた少女。

ずっと寝ているせいで筋力が衰えたのか、その姿は今にも消えてしまいそうなほど弱々しい。



「よう、サクヤ。…また見舞いに来たぞ」

土産に持ってきた林檎をテーブルの上に置くと、一つ取り出して齧った。

味はわからなかった。




「短い髪が好きだって言ってたのに。すっかり伸びちまったじゃねーか」




オレはこの一ヶ月間毎日この病院に見舞いに来ている。


雨が降ろうが何があろうがずっと。もうすっかりこの病院の構造も覚えてしまった。





「今日も忍組み手をやってさ。一撃も食らわないまま倒しちまった。やっぱりお前がいないと皆弱くて張り合いがないよ」


訪れる静寂。

返事は返ってはこない。オレは独り言のように続けた。




「やっぱり同い年でオレと対等に戦える奴はお前しかいないよ」





目の前の少女が動くことはない。



「だからさ………早く………起きてくれよ………ッ」






イタチに殺された母親の遺体のそばで倒れていたところを発見されたサクヤは、すぐにこの病院に運び込まれた。

運び込まれた時にはすでに意識がなかったらしいが、医療忍者の診断では命に別条はないそうで、数日もすれば目を覚ますと言っていた。

だが、あれからもう一ヶ月。未だにサクヤは目を覚まさない。

このまま永遠に起きないのではないか……。

そんな事を考えると、心臓が握りつぶされるような気分になる。




イタチ………!


あの男の顔を思い出すと全身に力が入る。

奴はオレの両親だけでは飽き足らず、こんなに小さな幼馴染ですら奪うというのか。


手に握った林檎が力を込めたために指が食い込む。果汁が手を伝って床にポトリ、と落ちた。



今のオレには力が足りない。この手の林檎を潰すことができないほどに。

もっと強くならなければ………あのときのこいつとの約束を守るためにも。





「………また明日な、サクヤ」




そう伝えて立ち上がると、部屋のドアに手をかけた。

そのとき。

ササ…と布同士が擦れ合うような音が聞こえた。


まさか。







「……サクヤ!おい!サクヤ!!!!」




目を覚ましたのかもしれない。

そう考えると、心臓がばくばくと音を立てて震えているのがわかった。





「起きろ!!起きろッ!!!」



病人に刺激を与えてはいけない、そんなことも忘れてただサクヤの体を揺すって声をかけ続けた。




「サクヤ!起きろよ!!俺だ!サスケだよ!!!!」



「…………………………………ぅ」






重い瞼をゆっくりと開ける少女。

一ヶ月ぶりに見るその黒い瞳は、オレにはまるで宝石のように見えた。






「…………ここ、は」


「ここは病院だ。良かった………本当に、良かった」


目を見開いて辺りを見回す少女。

毎日通いつづけた苦労が、今やっと報われた。


あの日以来止まってしまったオレの中の時計が、やっと音を発てて刻み始めた気がした。





「………………………なたは」


「ん?どうした」




一ヶ月ぶりに声を発するからだろうか、その声はひどく弱々しい。

でも、大丈夫だろう。もう、起きたのだから。

これからは毎日美味しいものを持ってきてやろう、味の薄くてマズい病院食じゃなく。

そう考えていると、サクヤはオレの目をしっかりと見て言った。
















「………………………あなたは、誰、ですか………?」












[42250] 友達
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/06 00:00



「サスケだ。入るぞ」





コンコン、と部屋のドアを叩くと、中へと入る。

するとベッドの上で寝ていた少女が上半身を起こしてこちらを向いた。


「起こしちまったか。悪いな」


「いえ…こんにちは、サスケくん」



サスケくん、そう呼ばれると胸のあたりにチクリとした痛みが走る。

だが、生きているだけでいいんだ。いつか…いつか必ず、思い出す日が来るはず。

それが何年、何十年経とうとも。

オレは、サクヤのそばに居続ける。それが、あの時イタチを止められなかったオレの、せめてもの罪滅ぼし。





土産に持ってきた果物や菓子などの入った袋をテーブルの上へと置くと、サクヤの目はそちらへと移った。




「いつもすみません…毎日お見舞いに来てくださって。お土産まで」


「いいんだ。オレが好きでやってる事だからな。それより、何か思い出せたか?」


「……ごめんなさい。まだ、何も」


「…そうか」



持ってきた袋の中から蜜柑を一つ取り出すと、皮を剥いて手渡した。

ありがとうございます、と小さな声でそう言うと受け取った蜜柑を嬉しそうに頬張る。

記憶を失う前のサクヤが好きだったものだ。



「…美味しい」



パクパクとそれを食べる少女の姿を見ていると…以前の彼女を思い出す。

記憶を失う前の、活発だったサクヤを。

いつになればあの頃のように笑い合えるのか。オレは……。




「サクヤちゃん!!」


大きな声と共に、ドアが勢い良く開いた。


橙色の服に黄色い髪、そして大きなゴーグル。



「……ナルトか」


「イルカ先生から、ここにサクヤちゃんが入院してるって聞いてさ!オレってば、心配になっちまって」



不安そうな顔をしながらこちらを見るサクヤ。

…やはり、何も覚えていないのか。本当に、何も……。



「こいつはうずまきナルト。お前が通っていた、忍者学校で同じクラスのドベだ」



「ドベは余計だってばよ!……って、何だ?その、初対面の奴に紹介するみたいな言い方ってば…」


「…ごめんなさい、ナルトくん。私、何も思い出せないの」


「……………………は?」




状況が理解できないようで、固まるナルト。……無理はないか。




「おい、ドベ。……ちょっと来い」















「記憶喪失、だと……?」


「あぁ。あいつは何も覚えちゃいない。……オレのことも、何もかもな」


事のあらましを大体話すと、信じられない、といった顔をした。

もちろん、原因については一切話さずに。




「そんな……何だって、そんなことに……」


「お前には関係ない。わかったら、さっさと帰れ。今のお前がサクヤに近づいても、困らせるだけだ」



バッサリと切り捨てるように告げると、ナルトはショックを受けたようで俯いた。




「お前にできることは、もうサクヤに関わらないことだけだ」





これでいい。こんなバカなウスラトンカチは居ても邪魔になるだけだ。

もうこれで関わってくることはないはず。




「………………ェだと」


「あ?」



よく聞こえなかったが、何かを呟くと。






突然、首根っこを掴みかかってきた。

思い切り上着を引っ張られて、首が締まる。息が苦しい。



「……ッ!何しやがる、このウスラトンカチ…」



「関係ねェだと!!!ふざけんじゃねえ!!!!」


「……!」



突然大声でそう叫ばれて、驚愕した。

いつもヘラヘラ笑っていやがる問題児の、初めて見る怒りの表情を見た。

オレの首元を掴むその手が、力むあまりぶるぶると震えている。

…なんだ、コイツは。

なんだって、こんなにキレていやがる。



「サクヤちゃんはな……!嫌われ者だったオレにも、ちゃんと向き合って話してくれた大切な友達
だったんだぞ!!みんなオレのことを、バカだのどうしようもねェ問題児だの言って遠ざかって
行ったのを!サクヤちゃんは、オレをちゃんと仲間として見てくれた!友達だって言ってくれた
んだよ!その友達が苦しんでいるってのを、黙って見て帰れだと……!!」



「……うるせえんだよ」


「あ!?」


「うるせえって言ってんだよ、ウスラトンカチ!!てめェに何がわかる!!!親も兄弟もいねェてめえに!!!あぁ!?」


「オレに親がいない事は今関係ねェことだろ!!ふざけんなって…言ってんだろうが!!!」



「……ッ!!」


右頰を思い切りブン殴られ、鋭い痛みが走る。

初めてだ、こんな奴に殴られるなんて。頭にみるみる血が上っていくのが解ると、考えるまでもなく目の前の少年の腹を全力で蹴り上げていた。



「がっ………!」


急所を思い切り蹴られて苦しみもがくナルトだが、苦悶の表情を浮かべたまま、すぐにまた殴りかかって来た。

今度はこちらも腹を殴られる。行き場を無くした口の中の酸素が、悲鳴とともに外へと飛び出す。

また殴り返す。また殴られる。殴り返す。

蹴る。倒れる。踏みつける。




–––––組み手の時にバカにしたガキ同士の喧嘩を、この時だけは全力で行っていて。





「てめェにはわからねえだろうが!!親を失う悲しみは!!!!」



「…………!?」





気がつくと、そう叫んでいた。







「あいつもオレもな!!イタチに全て奪われたんだよ!!親を!!一族を!!あの日……全てをあの男に持って行かれたんだよ!!!そのせいで!サクヤはショックで記憶まで失っちまった!!!何一つ分からなくなっちまったんだよ!!!初めから親も兄弟もいねェてめえにはわからねぇだろうがな!!!!!」



怒りに任せて、すべてを話してしまった。あの日感じた全ての負の感情を目の前の少年へとぶつける。




なぜ–––––––オレはこんなにもイライラしている。




























「…………悪ィ。まさか、そんなことがあったなんて……」


そう言うと、顔から怒りの表情が消えていった。

それに合わせるように、オレの中のドス黒い感情も収まっていく。

初めてだった。同い年の少年と、こんなに本気で喧嘩をしたのは。

……こんなに本気でぶつかり合ったのは。






「嫌な事思い出させちまったんだな、オレってば…悪かったってばよ。––––じゃあな」





そう言ってこちらへ背を向けて去っていくナルト。

その背中はひどく物哀しく見えた。まるで、あの時の…イタチに全てを奪われ何も出来なかった惨めなオレを見ているような気がした。

なぜだか…その背中へ向かって、オレは声をかけていた。




「………おい、ナルト」



「…………なんだってばよ」




背を向けたままのナルト。




「その……なんだ」



初めて、お互いの気持ちを全力でぶつけ合った相手。



「オレも…………その………酷い事を言っちまった。悪かった」



正直に謝ると、こちらを向いて驚きに目を見開く。

その間抜け面へ向かって、指を二本差し出した。組み手で使う、戦い終わった後の和解の印。


その意味を理解したのか、少し恥ずかしそうにしながらも…ナルトは指を交差させた。



「……へっ、オレさまの寛大な心に免じて許してやるってばよ」


「言ってろ、ウスラトンカチ」



お互いにそう言い合うと、ぎゅっと手を結び合い、互いに笑い合った。



ただのウザい問題児だと思っていた少年だが…。

……本当の意味で、友達になれそうだと思った。























「………ところで全然話は変わるんだけどよ」


「なんだよ」


「お前の目、何か赤くね?」


「……………………………………は?」




ナルトに言われた途端、全身から力が抜ける。

その場にばたりと倒れこんでしまった。


「…へ?あ、オイ!サスケ!!どうしたんだってばよ!?」







無意識のうちに開眼していたらしい。

写輪眼。


いつから使っていたのかさっぱり判らないが、どうやらチャクラを使い果たしたようだ。






……駄目だ、一歩も動けない。















「おい、ナルト。…………………助けてくれ」


「えぇ…………」




[42250] 復帰したい
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/06 23:02




目が覚めてから1週間。



無事に病院を退院することが出来た私は、サスケくんと同じアパートの同じ部屋で暮らすことになりました。

どうやら、私もサスケくんも両親がいないらしく、この里で一番偉い火影様という方に相談し部屋を貸してもらったようです。






–––––私は一体誰なのか。


何故、記憶を無くしてしまったのか。




その事ばかりをずっと考え、夜に不安で泣き出してしまう事も。


そんな時、サスケくんは私の体を強く抱き締め、大丈夫だ、オレがついている、と優しく励ましてくれました。




…本当にサスケくんには助けられてばかり。

何故そこまで私の事を気にかけてくれるのか、そう聞いた時。

私の頬をゆっくりと撫でながら、彼はこう答えました。



「お前はオレにとって、生まれた時からずっとそばに居た妹であり姉のような存在なんだ。

そんなお前が苦しんでいるのに、何もせずにいられるか」



本当に彼は優しい人です。



また、ナルトくんも私の事をよく気にかけてくれます。

最初に会った時は派手な格好に不思議な語尾で話すおかしな人だな、という認識でしたが、彼もまた記憶のない私に対しても明るい太陽のような笑顔で話しかけてくれます。


彼曰く「サクヤちゃんはオレの大事な友達。記憶がなくてもそれは変わらないってばよ」とのこと。




…私は最高にいいお友達に巡り会っていたようです。


ありがとう、うちはサクヤさん。そして、早く戻ってきてください。

彼らが本当に必要としてくれているのは『今の私』じゃない。『記憶を無くす前の私』です。





鍋がコポコポと泡立ってきているのに気がつき、我にかえった。

いけないいけない、火を弱くしなければ。

小さなレバーを横に少し捻ると、泡立つ音は少しずつ小さくなっていった。

それにしても。



「…少し、作りすぎてしまいましたね」


二人だけで食べきれるだろうか。まぁ、余ったら冷やして明日のお昼にでも食べればいいか。

そんなことを考えていると、玄関のドアがカチャリと音を発てる。


ちょうどよく帰ってきたみたいだ。

お出迎えのために、私は玄関へと向かった。






「ただいま」



「お帰りなさい、サスケくん。……あ、いらっしゃい、ナルトくん」


「オッス!お邪魔するってばよ」



ドアが開くと、サスケくんとナルトくんが入ってきました。

この二人はとっても仲がいいみたい。最近はよく一緒に家に帰ってきます。




「…ん?なんかおいしそうな匂いがするってばよ」


「悪い、サクヤ。ナルトの分も作ってやってくれないか」


「あ、それならちょうど良かったです。少し作りすぎてしまったので」


よかった。せっかく作る料理なら、自分で食べるより誰かが食べてくれた方が嬉しい。

ナルトくんは台所へ向かうと、うぉー!スパゲティだってばよー!と飛び跳ねている。


…ふふ。本当に一緒にいて楽しい人だ。













「…本気なのか?サクヤ」


「はい。以前と同じことをすれば、もしかしたら何か思い出せるかもしれませんし」


夕飯を三人で食べている最中、私はサスケくんに相談をした。




アカデミーへの復帰。



もちろん、忍者がどういうものか、忍術などの知識については覚えていないので本の中の事しか知らない。

でも、何かを思い出すきっかけになるかもしれない。サスケくんやナルトくんだけではなく、他の人とも会って、話せば何かを思い出すかも。

 そう考えていた。



「それは、そうかもしれないが……」


「何にも覚えてないのに学校は途中からだなんて、スッゲェ大変だってばよ?」


「それはドベのお前が言えた義理じゃねぇだろ」


「正論すぎて、何も言い返せねえってばよ……」



くすっ。

二人のそんなやり取りを見ていると、自然と笑みが零れた。


「大変なのはわかっています。でも、このまま何もせずに過ごすよりはずっといいはずです。それに」



「それに?」



「––––––家でひとりきりなのは、寂しいですし」



そう、それが一番の理由。

サスケくんが朝出て行ってから帰ってくるまでの長い時間、ずっと家で一人ぼっちで本を読んだりする毎日が、少し寂しく感じていたから。

学校に行けば、サスケくんやナルトくん、他の人たちとも会える。

だから、アカデミーへ復帰したかった。




私がそう言ってから、少し場が静かになった。

私の我儘で二人を困らせてしまっているのだろうか。なら、ちゃんと謝らなければ。

ごめんなさい。そう言おうとするより先に、サスケくんが口を開いた。





「………わかった。そういうことなら協力しよう。一週間だ」


「…?」


「一週間、オレは学校を休む。その間にオレが学校で学んだ知識を可能な限りお前に教える。そのあと復帰しよう」


「えっ…でも、それじゃサスケくんが」


「大丈夫だ。もともと、学校で教わってる内容なんて全て知っているからな。正直…行く理由もそんなにない」



そういえば、ナルトくんから聞かされたことがある。サスケくんは学校一番のエリートだと。

それならば、少し。その言葉に甘えよう。



「…ありがとう、サスケくん。私の我儘に付き合ってもらうことになってしまって」


「いいさ、オレもお前が学校にいないと退屈だからな」



そうサスケくんに感謝の気持ちを伝えると、静かにしていたナルトくんがくっくっく、と静かに笑い出した。




「…どうしたんですか、ナルトくん……?」


「そーいうことなら!オレも協力するってばよ!!オレも一週間休む!」


「いやお前は学校行け。ただでさえ成績最下位だってのに、落第するぞ。ウスラトンカチ」


「………ぐっ、またお得意の正論の術だってばよ………」


「お前はもう少し授業を真面目に聞け。イタズラしか頭にないから万年最下位なんだよ」


「…クッソ。成績トップに言われるとすごい心に突き刺さるってばよ…なら言い方を変える」




正論の術ってなんだろう。本には書いていなかった術だ。

サスケくんのオリジナル忍術だろうか…。


後で詳しくサスケくんに聞いてみよう、そう心の中で決めた時。





ゴンッ!!!と大きな音が響いた。

ナルトくんが頭を勢い良く地にぶつけている。……土下座?



「頼むッ!!サクヤちゃんのついででもいいから、オレにも色々教えてくれってばよ、サスケェ!!」


「……ぷふっ」


その必死な姿を見て、失礼だとは思いながらも我慢できずに吹き出してしまった。

それを止めることができずに笑い出す。私の笑い声につられてサスケも少しずつ笑い始め。

そのまま二人で大きな声を上げて笑いあった。なぜだろう、おかしくて笑いが止まらない。

お腹が痛い。




「……そんなに笑うことねェってばよ…二人とも……」



その日、記憶を無くしてから初めて心の底から笑った気がした。




[42250] 修行
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/07 19:32


目を瞑って意識を集中する。



体の中に流れるエネルギー。

それを意識して足へと向けるよう集中する、そしてそこへ留める。

足に力を込めてジャンプする瞬間、そこへ貯めておいたエネルギーの塊を解放した。




すると、通常では手が届くことすらない高い岩の壁の上へと容易に到達する。

足に集中させていたエネルギーが無くなり少しバランスが崩れるが、両手を使って上手く壁の上へ留まった。

ふう、と一息つくと少し体が怠く感じる。エネルギーを少し使い過ぎてしまったらしい。



「……これがチャクラの力、ですか」


「あぁ。今は無駄に多くのチャクラを使ってしまっているが、そのうち慣れてくれば最小限でのコントロールが出来るようになるはずさ」



最小限のコントロール。



確かに、今のジャンプするだけでもかなりチャクラを無駄使いしたのを感じる。

さっきの3割…いや4割ほどでもこの岩の壁の上へと到達できるはず。

この壁の高さでのチャクラ使用量を基準にして、これより低ければ少なく、これより多ければ多く。

本に書いてあったことだ。『まずは、基準となる高さを決める』と。

……なるほど、これは練習して覚えていくしかないですね。体で覚えて、ゆくゆくは無意識に出来るようにしなくては。



「それにしても、サクヤはやっぱり飲み込みが早いな」


「そう…でしょうか」


「ああ。記憶を失くしても、体は覚えているのかもしれないな」


「…。」



記憶、か…。

私の記憶はいつ戻るのだろう。元のうちはサクヤはいつ帰ってくるのだろう。


…早く戻ってきてほしい。

早く、目の前で懐かしむような表情をする彼に「ただいま」を言ってあげてほしい。

それが出来るのは貴方だけ。私じゃない。私は、元の貴方が戻ってくるまでのただの『器』でしかないのだから…。


そう深く考えていると、ぽん、と頭に手を置かれた。


「ほら、何ボーッとしてやがる。アカデミーに戻りたいんなら、もっと練習するぞ」


「…はい」



ふと後ろを見ると、ナルトくんが指を二本両手で交差させて印を結んでいた。

ボン!という音とともにナルトくんが白い煙に覆われて見えなくなる。

その煙が風に乗って少しずつ晴れていくと……そこにナルトくんの姿はなく、彼の体のサイズほどの丸太が横たわっていた。



「あれは…」


「変わり身の術だ。敵から攻撃された時、あれを囮にして相手の注意を惹く。中間試験であいつは失敗していたんだが、ようやく出来るようになったみたいだな」



忍術。チャクラをエネルギー源として、印を結ぶことにより様々な技を発動することができる。


火遁。水遁。風遁。雷遁。土遁。そしてどれにも属さない先ほどの変わり身の術など。


5つの属性の中に、数え切れないほど多種多様な忍術がある。

『影分身の術』という、自分と同じ姿の分身を作る忍術でも、雷遁・影分身や水遁・水分身など…さまざまで、属性によってその使い方も全く違ってくるらしい。



手から発動させる術、口から出す術。

足で発動させる術に、果ては目を使った術など。


…まだまだ、覚えることはたくさんありますね。




「チャクラコントロールの練習をしたら次は体術と手裏剣術だ。一週間でマスターするのは到底無理だが、少しでも授業に追いつけるようにしないとな」


「……はい!」



頑張らなくては。失ったものを取り戻すためにも…。
















「頑張っておるようじゃな」



手裏剣を投げる練習を行っていると、老人の声がした。

振り返ると、赤い傘を被ったお爺さんがゆっくりとこちらへ向かって歩いてきている。

よく見ると、傘には『火』の文字が。誰だろう。


「爺っちゃん!」

「……三代目か」


そのお爺さんに駆け寄って行くナルト。三代目?何の三代目なのだろうか…。

お爺さんは近づいてきたナルトの頭を撫でた。


「元気しとるかのう、ナルトよ?最近はイタズラが減ったとイルカのやつが喜んでおったぞ」


「オッス!!オレってば忙しいからイタズラなんかしてる暇ねーんだってばよ」


「よく言うぜ、ウスラトンカチ。一昨日黒板に落書きしてたじゃねェか」


「それを爺っちゃんの前でバラすなってばよぉ…サスケェ……」


「ほっほっほ。何があったやら、すっかり仲良くなったようじゃな。ナルトに、サスケ」


「……あぁ。いろいろあってな…まぁ、アンタには感謝してる。住むところをくれたしな」


「良いのじゃ。ワシにはあの事件を止められなかった、そのせめてもの罪滅ぼし…。お主らには何と言って詫びれば良いのか、ワシには言葉が見つからん」


「––––別に良い。オレはアンタを恨んじゃいない…。恨むべきは全てあの男だ。それに」


「何じゃ?」


「…………オレにはまだ、こいつがいる」



そう言って私の方へ視線を移すサスケくん。

お爺さんもそれにつられるように、こちらを向いた。





「久しぶりじゃの。具合はどうじゃ、サクヤよ」


「……はい、この通り元気です。ところで、あなたは……?」


「––––記憶が無いのはどうやら本当のようじゃの…。本当に、悲しいことよ……。

ワシは三代目火影。この里の長じゃ」


そうか。この人が、サスケの言っていた火影。この里の全ての人間を束ねる、火の国最強の忍者。

パッと見ただけでは優しいお爺さんという印象で、強そうにはとても見えないけど…。

この忍者の里をまとめることができる唯一の人だ。とっても強いのだろう。



「初めまして、火影さま。私はうちはサクヤです……って、知っているのでしたね」


「うむ。お主はサスケと並ぶ優秀な生徒じゃったからの。よーく、知っておる」


「…火影さま。一つ、聞きたいことがあります」


「何じゃ?」


「私は…」


サスケくんとナルトくん、それに火影さまの視線が全て私に注がれる。

今までずっと気になってはいたが、聞けなかったこと。

それを、この人に詳しく教えて欲しい。里の長であるこの人なら、きっと知っているだろう。



「………私は、なぜ記憶を失ったのですか?」


うっ…というサスケくんと、目を背けるナルトくん。

そして、考え込む火影さま。

この反応…やはり、皆知っているのだろう。

何かがあったのだ。記憶がなくなるほどの何かが…。



「サクヤ、それは……」


「…サクヤちゃん」


言い淀むサスケくんとナルトくん。火影さまは意を決したような表情をした。


「……それはの、お主の一族、うちはの–––」


「––––待てッ!!!三代目!!!!」



突然、大きな声で火影さまの言葉を遮るサスケくん。

その顔は…とても辛そうな歪んだ表情で。


「それはこいつには教えたくない。きっと……またショックを受ける。それでこいつがおかしくなってしまったら、オレは…」


「そうか…まだこの子には早いか。じゃが、遅かれ早かれ…いつか知ることになるのじゃぞ。誰かが言いふらしてしまうともわからぬ」


「そうならないようにオレがいる。こいつには…もう辛い顔をさせたくない」


「お主がそう言うなら、ワシは何も言わぬ。里の者たちにもそうするよう伝えておこう」


「…感謝する。三代目」


「良い良い。ワシにはこんなことしかお主たちにしてやれんからのう」


何か、聞いてはいけないことだったみたいだ。

記憶がなくなるほどだから、余程のことだとは予想していたが、そんなに…。





「あの、サスケくん……」


「すまない、サクヤ。お前にはそれは教えられない」


「そう、ですか…」


「納得できないだろう。でも、ダメだ。お前のためなんだ……分かってくれ」


「……………わかりました。サスケくんがそう言うなら、私は何も聞きません」


「––––すまん」


「いえ、いいんです。サスケくんにはいつも助けられてばかりですから」





「…本当に助けられてるのは、オレの方なんだがな」



最後に小さく言ったひとことは、風に紛れてよく聞こえなかった。





「………さ!それより修行を続けるってばよ!ちょうどいいや、爺っちゃん暇なんだろ?」


「暇とは何じゃ、暇とは。ワシにだって仕事があるんじゃ」


「毎日机に座ってるだけじゃねーかよぉ…オレたちに修行つけてくれってばよ」


「何のためにアカデミーに通っておるのじゃ。学校へ行け、学校へ」


「三代目。オレたちはサクヤに学校へ戻れるように修行をしてるんだ。一週間、学校を休んでな」


「……そういえばそんなことをイルカが言っておった気がするのォ。仕方ない、少しだけじゃぞ」




オッス!という元気な声が風に乗って辺りに響く。

どうやら、この里最強の忍者である火影様が修行を見てくれるらしい。






あと5日間。…頑張って、学校へ戻れるようにしなきゃ。



[42250] 学校
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/07 22:03





「––––––変化の術!!」



ボン!と周囲を覆う煙……。

自分の体を見ると、いつも着ている青い服とは違う、黒の上着。

煙が晴れると、サスケくんとナルトくんがこちらを見ていた。



「……合格、だな」


「よっしゃあ!やったってばよ」



最終日。

アカデミー入学前に、無事にサスケくんの姿へと変化することに成功した。


あれから二日ほど、火影さまは私に色々と教えてくれた。

どうすれば効率良くチャクラのコントロールが行えるのか、手裏剣の扱い方。

体術や幻術など。

やっぱり火影というだけあり、質問をすれば何でも答えてくれた。

…本当に強いんだろうな、あのお爺さんは。



「これなら授業に出ても問題ないだろうな。明日からは一緒に学校へ行くか」


「…はい!やっと、サスケくんやナルトくんと一緒に勉強することができますね」


「オウ!俺もサスケに教えてもらってちょっと強くなっただろうし楽しみだってばよ!」


「お前はいくら何でも知識不足過ぎだ。明日からは真面目に勉強しろ」


「…オッス、わかったってばよ………」



……ふう。長い一週間が終わった。

明日からは新しい生活が始まる。





「よし…さっさと帰って休むとするか」


「おう!」


「…はい!」






帰り道。ナルトくんイチオシのラーメン屋さんで夕飯を済ませ、家に帰ってお風呂へ入った。



シャワーから出る暖かいお湯が頭や胸、肩やお腹へと降り注ぐ。

右足がズキッと少し痛む。連日の修行で、あちこちに傷が出来てしまった。

長い黒髪が湿って体に張り付く。少しくすぐったい。






–––––––学校、か。



どんなところなんだろう。

どんな人がいるんだろう、どんな先生なんだろう。

今の記憶のない私が受け入れてもらえるのだろうか…。

不安は尽きない。でも、ここで逃げていたら…ずっと何も思い出せないままだろう。

大丈夫。私は一人じゃない。

ナルトくんと、サスケくんがいる。




ノブを回すと、暖かいシャワーが止まる。

ポタポタ、ポタポタと髪の毛から水滴が滴り落ちる。

…体が冷える前に早く乾かして、明日に備えて寝よう。

そう考え、風呂場のドアを開くと……。








…サスケくんが箪笥に服を入れていた。






「なぁっ!?す、すまん!!サクヤ!まだ出てこないだろうと思って…」


「いえ、大丈夫です。…なんでそんなに慌てているんですか?」


「い、いや…それより、早く隠せ!」



バッ、とタオルを勢い良く渡された。なぜこちらを見ないのだろう。

どうしたんだろうか……。



「じゃ、じゃあ着替えここ置いとくな!!…殴られるかと思ったぜ」


そのまま逃げてしまった。最後に何か言っていた気がするが…。


私の体、何か変かな。




鏡を見るが、特におかしなところはない。長い黒髪の幼い少女の裸が映っているだけだ。

小さな傷跡がちょっと目立つが、肌も白い綺麗な体。


サスケくんの慌て様が気になるが、明日のために早く寝よう。


鏡の中の自分から視線を逸らすと、着替えに手を伸ばした。









「おっ、やっと戻ってきやがったな」


「ったく、めんどくせー連中が戻ってきたもんだな…。ま、賑やかになっていいけどよ」



教室のドアをガラガラと開くと、二人に続いて中に入る。

すると、二人の少年がこちらに声をかけてきた。それにつられて、周りの皆の視線が一斉にこちらへと集まる。


「おう、久しぶりだってばよ。シカマル、キバ」


髪を後ろに束ねた少年と、頭に白い子犬を乗せた目の下に赤い隈取りのある少年にそう声をかけると自分の席へと行くナルトくん。

サスケくんは既に大勢の女の子に囲まれている。…すごい嫌そうな顔。

やっぱりサスケくんはカッコイイから、女の子にモテるのだろう。

………なんだろ、このモヤモヤとした感じ。

そんなことを考えていると、先ほどナルトくんが挨拶した二人が私の目の前にいた。


「久しぶりだな、サクヤ」


「………こ、こんにちは」


少し緊張してどもってしまうが、しっかりとそう答える。

二人は少しだけ悲しそうな顔をするが、すぐに元に戻った。


「……ホントに何にも覚えてねぇんだな。ちっとばかし寂しいけど、まぁすぐに思い出すだろ。俺は犬塚キバ。そんでこのちっこいのは赤丸。ま、よろしくな」


「またお前に自己紹介すんのも変な感じだな…俺は奈良シカマル。めんどくせぇから、とっとと記憶取り戻してくれよ」


「…はい。これからよろしくお願いします、キバくん、シカマルくん」


「…お前にくん付けされっと、なんだか気持ち悪ぃな…ま、いいわ。それより、お前の席はあっちだぜ」



指を指すシカマルさん。窓際の奥から二番目か。

ありがとうございます、と言ってそこへ向かうと、自分の席に座る。


………なんだか、少しだけ…懐かしいような気がする。

持ってきたカバンを机の横のフックにぶら下げると、男の子たちが私の席に集まってきた。




「久しぶりだな!サクヤちゃん!髪の毛伸びてなんか雰囲気変わったな!」


「よう!サクヤ。何にも覚えてないって本当なのか?」


「記憶喪失ってどんな感じなんだ?」


「あ、あの…」


「うぉぉッ、なんだか前のサバサバした感じと違って…これはこれで可愛いな!」


「な!前のサクヤちゃんもいいけど、今のも最高だぜ」


色んな人達に一気に捲し立てられて、目が回るような気分だ。

初めて人に囲まれて、なんだか不思議な感じ。

今まで、こんなに多くの人達に話しかけられたことなどなかったから。

それに……向こうは自分のことを知っていて、こっちは何も覚えていない。

ガヤガヤと騒ぐ少年たちに困り果てていると、教卓側のドアが開いた。



「騒がしいぞお前らーーー!授業の時間だ、席につけ!」





先生の大きな言葉を聞いて、渋々戻っていく皆。


全員が席に着くと、先生は周りを見渡し……私と目が合った。






「サクヤ……やっと、戻ってきたな」


「はい。…あの、先生」


「事情はサスケたちから聞いてるさ。とにかく、おかえり」


「……はい!」


「俺はこのクラスの教師、うみのイルカだ。何か困ったことがあったら何でも相談してくれ。

記憶がなくなっても、お前は俺の教え子であることは変わらないからな」



…よかった。優しそうな先生だ。

学校に来るまでは本当にやっていけるのか不安でしょうがなかったが、これなら大丈夫そうだ。



「お前たち!サクヤは記憶を失くしてしまってはいるが、お前たちの仲間であることは今まで通り同じだ。困っていたら、皆で助けてやってくれ」



はーい、と一斉に答える皆。




視界の隅にこちらを振り返って見ている少年が映った。サスケくんだ。

にこっ、と彼に微笑むと、安心したような表情で前を向いた。


「じゃあ早速授業を始めるぞ。まずは教科書の54ページから……」






––––––私の忍者への道のりは、やっとこれから。





[42250] 組み手
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/08 22:24





「…本当にやるつもりなのか?お前はまだ…」


「いえ、先生。私もこの学校の生徒です。普通に授業に参加させてください」


「そうか、…わかった」



言い終えると、白いチョークで円形に描かれたフィールドへと立つ。

サスケくんたちの心配そうな顔が視界の隅に映るが、今はそれを見なかったことにした。

目の前には私の初めての対戦相手となる少女。



「……本気なのね、アンタ。手加減は出来ないわよ」


「はい。よろしくお願いします」


手加減は出来ない。その言葉を聞き、改めて気を引き締める。

記憶が無いからと特別扱いはして欲しくない。

それだけではなく、自分の力がどこまでこの人に通用するのか知りたい、そんな気持ちもあった。

この人と戦って、それを試してみたい。



「–––それじゃ、忍組み手……」



左足を前に出し、姿勢を低くする。いつでも相手の懐へ飛び込むことが出来るように。

相手も両手を前に構え、戦闘態勢へ。お互いに顔が険しくなり、ピリピリとした空気が漂った。

……ほんの少しだけ、この光景に既視感を覚えたような気がした。








「………開始!」


合図が始まるが早いか、相手の懐目掛けて一気に近づく。


ダッシュしてついた勢いをそのまま殺さぬまま、足に力を込めて宙を舞う。

そしてそのまま、空中で体を斜めに捻り両足を相手へと目掛けて思い切り突き出す。

サスケくんの持っていた漫画で主人公が使った技、ドロップキック……の真似事だ。



「……なっ!によそれッ」




あと少しで届く…というところで、体を反らして躱されてしまった。

外れたことにより勢いのついた体を止めることが出来ずにそのまま地面へと体を叩きつけられる。

衝撃と痛みが走るがすぐに体勢を立て直して振り向くと、既に相手は右腕をこちらへ向けて振り下ろしていた。

前転し、相手の股の間をくぐり抜けるようにして攻撃を避けると、チッ、と舌打ちが聞こえる。



「戦い方がまるで変わって…やり辛いわねっ!」



悪態をつきながら拳を叩き込んでくるその手を右足で弾き返すと、後ろへと体を回転させて再び相手と向き合う形を取る。

砂埃が手足や体にまとわり付く。それを気にせずに再び相手へ飛び込む。

右手でパンチを繰り出すが、相手の左手に掴まれて阻まれてしまう。

左手でも同じように攻撃するが、それも掴まれる。ニヤッ、と私を見て笑う少女。

両手が塞がれてしまった。だが、それは相手も同じ。……なら。





ドゴン!という衝撃が頭へ思い切り響く。それと共に両手の拘束が解ける。


痛みで頭が少しくらくらするが、頭を大きく左右に振ってすぐにそれを止めた。

少女を見ると、額を抑えてこちらを睨みつけている。予想していなかったであろう攻撃は、ちゃんと効いたみたいだ。


「痛ったぁっ………やったわね」




そのしかめ面もすぐに戻ると、先ほどより険しく変わった表情で私の懐目掛けて飛び込んでくる。

すぐに飛んでくる飛び膝蹴り。それを後ろへ少しステップして避けると、数歩踏み込んで体を少し回転させると、中段蹴りを放った。

その足をまた掴まれて阻まれてしまうと、今度は思い切り弾き返されてしまった。





「踏み込みが甘いわ」



途端に体勢が崩れ、隙が生まれてしまう。……まずい。


そこを見逃さなかった少女は、私の顔目掛けて足を大きく振り回してきた。

ギリギリ掠めるかのところで上体を大きく後ろへ反らして躱すが、相手はそのまま体を回転させて2段目の準備を終えていた。




「………しまっ」



そのまま回し蹴りをモロに受けてしまった。

お腹に走る鋭い痛み。


かはっ、と声にならない声が口から飛び出すと、大きく吹き飛ぶ私の体。






「そこまで!」





…私は負けたみたいだ。






勝負がつくと、こちらへゆっくり近づいてくる少女。

その表情は先ほどとは全く違って、勝ったのになぜか悲しげな顔だった。




「……アンタ、弱くなったわね。攻撃も大振りだし、スピードも大違い」


「そう、ですか…」


「前のアンタは本当に強かったわ。私じゃ一撃も与えられないくらい」



…前の私ってそんなに強かったのか。サスケくんと毎日のように修行してたらしいから、強いのはなんとなく想像はしていたけど。


突然、目の前の少女は指を二本こちらへ差し出してきた。ナルトくんに教えてもらった、和解の印、というものだろう。

その指に私の指を重ねると、そのまま力をつけて立ち上がらせてくれた。



「早く元のアンタに戻れ、とは言わないわ。でも、もっと強くなりなさい。アンタは私の目標だったのよ?アンタがそんなんじゃ、私は誰を目指せばいいのよ」


「…はい、頑張ります。もっと強くなります」


「うん、その意気。約束よ」



改めてギュッ、と和解の印を結ぶと、お互いに微笑みあった。

…うん、負けたけど……強くならなくちゃならない理由が出来た。

やっぱり、この組み手に参加してよかったと、そう思えた。



「あの、そういえば…お名前は?」



「今更?って、そういえば覚えてないんだったわね…山中いの。覚えておきなさい」


「はい。改めて、よろしくお願いします。いのさん」






















ふふっ。一時はどうなることかと思ったけど……。

やっていけそうね、あの子。

私は少し遠くから二人の少女を見下ろすと、微笑んだ。


…これなら、私が戻れなくても大丈夫そうね。今のあの子には、しっかりとした意志が感じられる。

安心すると、強烈な眠気が襲ってくる。それに抗わず…再び深い眠りへと身を委ねた。











–––––––サスケ、それに皆。『あの子』を、頼んだわよ–––––






[42250] 二年後
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/10 21:53




「火遁・豪火球の術!」




飛来する巨大な赤い火の玉。視界を覆う紅蓮の炎。

それを大きく上へ飛んで回避する。数十センチほど余裕を持って避けられたが、炎から発する熱は私の体力を確実に奪った。

火の玉が私の体付近を通るその一瞬だけで汗をかきそうな、火傷しそうな。凄まじい熱。直撃することを考えたくはない。




避けられた事により少しほっとして彼を見ると、先ほどと表情が違う。

何かを確信しているような、そんな笑みを浮かべている。…まずい!



そう思った時には、既に複数の手裏剣がこちらへ目掛けて飛来して来ていた。

ハッとして先ほど私の立っていた地面を見ると、そこだけ不自然に陥没している。

…そうか、まんまと誘き寄せられた。あらかじめ地面に力が加わると発動するトラップを仕掛けていたんだ。

私が豪火球を回避するために上へとジャンプすることを踏んでいて…。やっぱりサスケくんは恐ろしく頭がいい。


シュルシュルシュルシュル!!と風を斬る音と共に私を目標として飛んでくる七、八つほどの金属。

この数ではクナイで叩き落とすのも無理、手裏剣で迎撃するには間に合わない。

かといって、この滞空している状況では、一つ避けるのもおそらく無理だろう。





仕方ない、まだあまり使い慣れてはいないけど…この手裏剣の群れを空中でやり過ごすにはアレしかない。



パッパッ、と決して速いとはお世辞にも言えない不慣れな手際で印を結ぶと、口元に手を近づけてチャクラを手から口へと移す。

高速で飛んでくる手裏剣に当てられるか……いや、当てるしかない。




「–––––––火遁・鳳仙花の術っ!」








口から放たれた複数の小さな火の玉たちを、チャクラで操ることにより手裏剣目掛けて放つ。

狙い通り飛んでいくそれらは飛来する凶器へとぶつかると、まるで鳳仙花の種のように勢い良く弾ける。その衝撃により、軌道が大きく逸れる手裏剣。

しかし、全てに命中させることはやはり叶わなかったようで、3つ程まだこちらへと向かってくる。

これくらいの数なら…そう考え腰のポーチから素早くクナイを取り出すと、時間差でやってくるそれらを全て弾き返す。

カキッ、という乾いた金属音と共に、手に少し衝撃が走る。…なんとかトラップはやり過ごせた。






重力によりまっすぐ地面へと降り立つと、少し思案する。

まず、体術では勝ち目がない。近づけば体力や技量の差であっという間におしまいだ。

幻術はそもそも私は使えない。だが、それはサスケくんも同じはず。…使ってるところを見たことがないから、というだけの話だけど。

忍術ならどうか。サスケくんの豪火球は、火力・スピード・サイズ共に申し分ない強さだけど、使用するチャクラの量もそれに比例して大きい。

もう一発放つことはおそらく難しい…はず。きっと。

豪火球を使えないことを仮定して、もう一度鳳仙花の術で行くことに決める。

私が先ほど手裏剣に苦労したように、サスケくんも複数の物体が飛んできたら避けるのは簡単ではないはず。

ならば、数で攻めればもしかしたら当たるかもしれない。そもそも私には持っている手札がそう多いわけではないから、これに賭けるしかないけど。




残りそう多くはないチャクラの量だけど、やれるだけやってみよう。当たれば万歳、外れれば敗北。ただそれだけ。






先ほどと同じく鳳仙花の印を結ぶと、サスケくんがフッ、と笑った。





「………火遁・鳳仙花の術!!」


先ほど手裏剣を撃ち落とした時よりも三倍ほどの数の火球を吐き出すと、サスケくんへ目掛けて放出する。

もちろん、単純に全部いっぺんには飛ばさない。鳳仙花は小さく威力も高くはないぶん、自身のチャクラを利用してコントロールすることが出来るというメリットが存在する。

一時的に空中で停止、つまり滞空させておくことも出来る。




第一波。四つのそれらを、それぞれ上下左右別々の方向から飛ばす。…が、ギリギリ当たるかというところでひらりと身をかわして避けられる。



第二波。三つをわざと同じ方向で対象目掛けて横方向から飛ばす。素早く右へダッシュすることで回避するサスケくん。…かかった!



第三波。残る全ての火の玉を、走るサスケくんへ目掛けてランダムでメチャクチャに放出する。もちろん、そのうちの複数はしっかりとサスケくんが向かう方向へと飛ばして。

四方八方様々な角度から飛んでいく鳳仙花の火種。それらは赤い閃光となり、まっすぐと彼を目標とし突き進むのみ。

これならそう簡単には避けられない。そう思い彼の動きを見る。





だが、彼はすぐさまその場で立ち止まり、飛んでくる火の群れを最小限の動きだけで鮮やかに回避していく。全ての軌道があらかじめわかっているかのような動き。

ひらり、ひらり。

赤い炎の中揺れ動くその姿はまるで、花火と共に踊っているかのようで、とても綺麗で。

しかし、見とれている場合ではない。鳳仙花だけではダメなら。



ポーチから手裏剣を取り出すと、彼へ向かってまっすぐに投げる。投げ終わると、すぐまた取り出し。

花火の赤い光景に、新たに灰色が複数加わる。

そうやって手持ちの手裏剣も全て投げるが、いつの間にか取り出していたクナイでそれらも全て打ち落される。

ただでさえ難しいであろう炎の舞の回避に加えて、手裏剣まで見えているというのか。

少し体を右にずらしてはクナイを振り、少し姿勢を低くしてはまた同じことをして。

鳳仙花の中であんな動きが出来るなんて…!その動きに驚愕を超えて感動すら感じるが、炎の中そのままクナイを構えてこちらへ飛び込んでくる彼が見えた。

あまりに想定外の行動に、慌ててこちらも応戦しようとする。

が、チャクラを使いすぎて鈍った体では彼のスピードに追いつくことは叶わず。



目にも止まらないスピードで首元にクナイを突きつけられてしまった。





「……ふう、オレの勝ちだな」


「もう。ずるいですよサスケくん。それは」




そう言って彼と視線を交わす。赤色に黒い勾玉模様が浮かんでいるその眼を見て、はあ…とため息がこぼれる。





「写輪眼を使うだなんて。それじゃあアレを避けられて当然じゃないですか…私の感動を返してください」


「使わないと避けられそうになかったから使ったんだよ。まったく、こっちこそなんだアレ。鳳仙花をコントロールしながら手裏剣投げてくるとは思わなかったぞ。

戦闘中に記憶でも取り戻したのかと思ったぜ」


「そんなわけないでしょう……」



その場に座り込むと、サスケくんも同じく私の横へと座り込んだ。足元に生えている草たちが体に触れて少しくすぐったい。

なあ、と言われて再び彼へと視線を向ける。



「……あれから、何も思い出さないか?」


「…………はい、残念ながら…。ごめんなさい」


「そうか…。謝ることはないさ。ゆっくり気長に行けばいい」


「そう、ですね。それより、明日はやっと卒業試験です。ナルトくんは?」


「あいつなら、『オレってば余裕だから一楽でラーメン食ってくるってばよ!』って言って行きやがった。アイツ…あんな余裕綽々で、苦手な分身の術が試験だったらどうするつもりなんだ」


「あはは…まぁ、大丈夫でしょう。最近はナルトくんも分身うまくなってきましたし。緊張しないでいつもの実力が出せれば、きっと余裕だと思いますよ」


「…だといいんだがな。まぁ、分身なんて今更試験にしないだろうし、大丈夫か」






あれから二年。私はサスケくんの力を借りて、毎日必死に強くなるために修行した。

イノさんと再び戦う時、失望されないように。結局、この二年間でその機会は訪れなかったが…。

まあ、そのおかげで私もここまで力をつけられたんだし、よしとしよう。サスケくんには到底及ばないけど。




明日はいよいよ卒業試験。あれから、私の記憶が戻る気配はまったくない。

戻ってこないもう一人の私に少し怒りを覚えるが、きっといつか必ずその時は来るはず。

その時、今の私はどうなるんだろう。今のうちはサクヤは、以前のうちはサクヤが戻れば消えてしまうのだろうか。

そんな不安が頭をよぎるが、その時はその時。彼らがずっと待ち続けているのは、以前の彼女。

私は彼女を待つ間、この体を大事にするだけ。彼女が強さを求めて毎日修行していたのなら、私もそうしよう。




「……どうした?」



「いえ、なんでも。それより、そろそろ帰りましょう。チャクラも切れて疲れちゃいました」


「そうだな。明日の試験に支障が出てもまずいしな」



すくっ、と体を起こす。先ほどの戦闘で学んだことを思い返してみた。






……写輪眼が卑怯、という感想しか出てこなかった。
















あとがき


だいぶ早足でアカデミー編終わらせちゃうことになってしまいました。
さっさと次行きたいから許せサスケ。



[42250] 卒業試験
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/14 20:27




「お前たち、今日までよく頑張ってきたな。今日の卒業試験に合格することが出来れば、お前たちも明日から立派な忍者だ」






最終日。

中間試験や期末試験とは違う、何とも言えない緊張感が漂う教室内。

これが無事に終われば忍の証である木の葉の額当てが貰え、下忍として活動する事が出来るようになる。

もっとも、初めの任務は迷子の捜索や道案内などの簡単な事で、命を懸けて戦闘するような事は無いらしいけど…。

でも、すべてはここから始まるんだ。まずは頑張って試験を突破しなきゃ。

そう決意を新たにすると、前の席にいるサスケくんとナルトくんの方を見る。

背中しか見えないので表情は分からないが、なんとなくナルトくんは緊張しているように見える。

サスケくんなら何にも心配は要らないだろうけど、ナルトくんは大丈夫だろうか。

彼はどうにもある術が苦手みたいだから、心配だ。でも、今は自分の心配をしなきゃ。落ちてしまったら元も子もない…。




「卒業試験は分身の術にする。呼ばれた者は一人ずつ隣の教室に来るように。名前の順で、まずは犬塚キバ」


「うぃーっす。ま、楽勝だぜ!な、赤丸」


「ワンッ!!」



元気よく教室を出て行く一人と一匹。

…まずい、分身の術はナルトくんのもっとも苦手とする術。

私やサスケくんは大丈夫だけど、彼は…。




「おいウスラトンカチ。どうするんだよ、お前。大好きな分身の術じゃねーか」


「サ、サスケェ……オレに変化して代わりに試験受けてくれってばよぉ…」


「アホか。バレたらオレまで失格になるだろうが…ま、落ちたら落ちただろ。来年も頑張れよ」


「うぅ……緊張したらお腹痛くなってきたってばよ…」


「フン。そんなんじゃ下忍にもなれねーよ、ドベ」


「うるせー!今はドベじゃねーってばよ!下から二番目か三番目くらいだっつの!」


「五十歩百歩って言葉知ってるか?」


「…正論の術はやめろってばよ」



隣り合う席でそう悪態を付き合う二人。

ああは言っているが、多分サスケくんはサスケくんなりにナルトくんを元気付けているんだろう。

何時ものようにやれば出来るはずだ、と言葉の裏でそう言っているような気がした。




「…ったく、めんどくせーな。卒業するにも試験かよ…。試験試験多すぎだっつの」


「相変わらず面倒くさがりですねシカマルくんは。…なんで忍者を目指そうと思ったのですか?」


「俺の意思じゃねぇ。親の意思だ」


「あはは……」


「お前はなんで忍者目指そうと思ったんだ?記憶がねーんじゃ、イチから全部やり直しだったんだろ。俺だったら絶対やらねーな」


「前の私が忍者を目指していたなら、私もそれを受け継ぐ。それだけですよ…。それに、知り合いといれば、何か思い出すかもしれませんし」


「前のお前、ねぇ。そんなに過去の自分に縛られる事ねーんじゃねぇのか。今のお前は、今のお前だろ」


「そう言ってくれるのは嬉しいです。でも、今の私はただの器ですから」


「器、ねぇ………」




そんな話をしていると、ガラガラと教室のドアが開いてイルカ先生がやってきた。




「次。うずまきナルト!」






「オッス…いっちょ、行ってくるってばよ」


「頑張れよナルト」


「そっちこそな、サスケ」



席を立つと重い足取りで教室を出て行くナルトくん。

…大丈夫かな。私も初めての試験では緊張して実力が出せなかったけど。

いつもニコニコしているナルトくんとは全く違うその姿を見てますます心配になる。




「ナルトくん!頑張ってください」



「おう!ありがとな、サクヤちゃん」



それだけ言うと、こちらに手を振って教室を出て行った。





















しばらくして、シカマルくんと雑談を楽しんでいると再び先生が教室に入ってきた。



「次!うちはサクヤ」



いよいよ私の番か。



「おっ、お前の番か。ま、気負いせずにちょろっとやってこい。お前なら大丈夫だろ」


「そうですね。サクッと終わらせてきます。シカマルさんも頑張ってください」



おう、と相槌を打ってくる彼へ少し微笑むと、教室の扉を目指して席を立った。

頑張りなさいよ、と言ってくれるいのさんや他の皆たち。

最初の頃はなんだか少し敵意を見せていた他の女の子たちも、今ではちゃんと話せることができるようになった。

合格するにしろしないにしろ、このクラスで居られるのもこれが最後となると、少し寂しく感じる。

でも、ここから私の忍としてのスタートが始まるのだ。難しい試験じゃないし、いつも通りやって合格させてもらおう。

扉に手をかけようとしたところで、いつもの彼の声が聞こえた。




「サクヤ!……頑張れよ」


「………はい!サスケくんも」



振り向いて彼へニコリと笑顔を見せると、少し安心したような表情でこちらへ手を振ってくれた。

それに私も手を振り返すと、少し重い教室のドアを開いた。















「試験は先ほど言った通り分身の術だ。なーに、緊張せずにやればいい」





目の前で座っている二人の忍は、イルカ先生と、肩まで伸びた白い髪の毛が特徴のミズキ先生。

彼らの目の前、つまり机の上にズラリと並んでいるのが、木の葉の忍の証である『額当て』。

この試験に合格することが出来ればそれが貰え、出来なければもう一度アカデミーを一年やり直す事になる。

二人の試験官の手前少し緊張するが、いつも通り。いつも通りやろう、そう考えて術の印を結ぶ。




忍にとっての全ての活力源となるエネルギー、チャクラ。

体を流れ続けるそれを、昔よりもはっきりとその存在を感じ取れるようになった。学校で毎日頑張って勉強し、辛い修行を繰り返してきた成果であろうか。

『分身の術』。触れることの出来ない、実体のない自分の分身体を作り出す下忍難易度の術。

昔の私なら必要以上にチャクラを消費して、実体のある分身体の『失敗作』を作り出すことを繰り返していたが、今はもう大丈夫。

先ほどイルカ先生が言ってくれた通り、緊張せずに普段通りやれば出来るはずだ。




チャクラを両手に集まるように集中すると、静かに印を結んでそれらを解き放つ。







「––––分身の術!」







術の発動に伴い周囲に煙幕が現れる。それに伴って、二人の姿も見えなくなる。

うん、大丈夫だ。いつもの様にやれた。まあ、これくらいの術なら、必死に練習した火遁の術に比べれば簡単な方だ。

煙が晴れたことにより現れた私と全く同じ姿をした4人の分身たち。

成功だ。



ふう、と安心してため息がこぼれると、イルカ先生は微笑みを浮かべた。



「合格、だな。卒業おめでとう。サクヤ」


「おめでとうございます。サクヤさん。流石ですね」


「ありがとうございます。先生」


「記憶がなくなったって聞いて、一時はどうなることかと思ったが…本当に良かった。これからは忍者として、いろいろ大変だろうけど頑張ってくれよ」


「はい。イルカ先生もミズキ先生もお世話になりました」



ミズキ先生から卒業の証を手渡される。

銀色に輝く木の葉の証が、太陽に反射して少し眩しい。

少し重く感じられるその額当てを受け取ると、額に当ててしっかりと巻き付けた。





「明日からはお前も忍だ。辛いこともあるだろうが、しっかりな」



「はい!それでは、次の人を待たせても悪いのでこれで失礼します」




それだけ伝えると、そそくさと教室を後にした。


















「サクヤ!その額当て、合格したんだな」


「あ、サスケくん。サスケくんも…って、当然ですよね」


「ああ。ま、当然だな」




ふう、と安心して周囲を見る。

ガヤガヤとしたそこには沢山の人だかり。

無事に卒業試験を突破することができた下忍たちのお祝いに、お父さんやお母さんが集まって喜び合っている。

その光景を見て少し寂しさを覚えるが、私には同じ喜びを分かち合える人がいる。それはきっと、幸せなことだろう。

ふとそう考えたところで、彼の顔が頭に浮かんだ。



「そういえば、ナルトくんは?」


「ああ…あいつなら、ほら。ブランコのところだ」




私と同じく少し寂しそうな顔でブランコにまたがる彼を見て、嫌な考えが頭をよぎる。

–––––額当てが無い。


当たって欲しくない予感が、脳裏に貼りついて離れなかった。








「まさか、ナルトくん……」


「………あぁ。多分な…。チッ、あのウスラトンカチ」


「行ってみましょう」



まさか、試験に落ちてしまったのか。

あの時からずっと救われてきた彼の悲しい顔を見て、胸の辺りがズキズキと痛み続ける。

いてもたってもいられなくなり、彼の元へと走り出した。













「ナルトくん!!」


「………サクヤちゃん、それにサスケ。二人ともちゃんと受かったんだな」


「おいウスラトンカチ。お前まさか」


「………あぁ」



そんな……。



苦しそうな彼の表情を見て、どうにもならない怒りのような悲しみのような感情が心の中で渦巻いていた。

…なんで。

なんで、よりにもよって試験が分身の術なんだろうか。

他の…変化や変わり身の術だったら、彼は普通に出来るのに。変化の術なんかは、彼の得意分野だというのに。

何故、よりにもよって分身の術なんだろうか……。



どこにもぶつけられない、やりきれない思いで足元にある小さな石を蹴り飛ばすと、それは勢いよく壁にぶつかって音をたてた。





「…ナルトくん、その………。次がありますよ」


「…あぁ、そうだな。ありがとな、サクヤちゃん」


「ま、たまたま今回は運が悪かっただけだ。次はいけるだろ」


「そうだな、もうそろそろ空くはずだってばよ」


「そうですね。……へ?」


「…は?」



微妙に会話が噛み合わなくて、思わず変な声が出てしまった。

空く?何が?試験はまた次回まで受けられないはずだ。どういうことだろうか……。











「ついてねーってばよ……。トイレが空いてないだなんて」


「……はぃ??」


「………………おいドベ。お前…まさか」


「ああ。さっき察してくれたんじゃねーのかってばよ。下痢だ、下痢!運悪くすぐそこのトイレがいっぱいなんだってばよ」





あまりの返答に思考が一旦全て停止した。

は?は?……は?

ポヘーと呆れる私の顔を見て怪訝な表情でこちらを見るナルトくん。



「どうしたんだってばよ、サクヤちゃん」


「……………。こほん、あの。ナルトくん、試験は……?」


「へ?あぁ。それなら、ほら」




ポケットからゴソゴソと何かを取り出すと私たちに見えるように掲げる。

それは、見間違いもなく木の葉のマークが象られた、忍の証である額当て。

その額当てを見た途端にヘナヘナと体から力が抜けていくのがはっきりとわかった。

そのまま力なく地面に座り込むと、ナルトくんはさらに怪訝な顔を強めてこちらを見る。




「……どうしたんだってばよ、サクヤちゃん」


「いや…その…。辛そうな顔をしていたので、試験に落ちてしまったのかと思って」


「なーんだ…。それなら心配ご無用だってばよ。……ちょっと危なかったけど」


「チッ、てめェ……紛らわしいんだよ」


「うるせーってばよ、受かったんだからいいだろ」


「まぁ……これで、全員無事に受かりましたね。本当に、本当に…よかった」


「ま、伊達に爺っちゃんから教わってねーからな。落っこちたら何言われるかわからねーってばよ」


「フン、こんなところで躓いていられねェからな。当然だ…それより」


「ん?」


「ドベ、トイレ空いたぞ」


「……あーーーーーーー!!!!行ってくるってばよ!!!」




ドドドドド!!と今まで見たこともないような速度で少し離れた場所にあるトイレへと走っていくナルトくん。

それを見てため息をつく私たち二人。何だかおかしくて、少し二人で笑い合った。




「……ふふ。一時はどうなるかと思いましたけど、これで3人揃って合格ですね」


「まぁな。あれだけ頑張って修行してきたんだ、当然だろ」


「そうですね。ナルトくんが戻ってきたら、どこかで甘いものでも食べに行きませんか」


「甘いものか……団子だけは勘弁だがな」


「団子…?嫌いなんですか、サスケくん」


「いや……嫌いってわけじゃないんだが、ちょっとな……なんでもねェ。まあ、行くか」


「やった。久しぶりなので楽しみです」






サスケくんの額当ての銀色が、太陽に反射して明るく輝きを放っていた。














[42250] 行方不明
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/15 22:11





その日の夜。

いつもの様にベッドに横になって寝ようとしていると、突然玄関からドアを強く叩く音が聞こえてきた。

何事かと同じく部屋を飛び出したサスケくんと首を傾げるが、急いでドアを開けると…そこには見慣れない顔の男の人が。

額当てをしているのでどうやらこの里の忍者のようだ。




「…おい!うちはサスケにうちはサクヤだな!!」


「あぁ。そうだが、なんだ。こんな時間に」


「はい。えっと……どなたでしょうか」


「俺のことはいい!それよりも、うずまきナルトを知らないか!」


「ナルトくん?夕方別れてから見ていませんが……」


「ナルトのやつがどうかしたのか」


「どうしたもこうしたもない!!あのガキ、火影様の家から大事な巻物を盗んでいなくなったんだ!!」


「………えっ!?ナルトくんが、ですか!!?」


「あのウスラトンカチ…!」


「そういう訳で奴と仲のいいと噂のお前たちなら何か知らないかと思ってな」


「…いえ。先ほど言った通り、私たちは夕方以降彼と会っていません。彼の家には?」


「家にもいない。おそらく盗んだ巻物で何かを企んでいるんだろう。あの化け狐め…あれは危険な物だ」


「化け狐?」


「…っと、何でもねえ。もしあのガキを見つけたら捕まえてくれ。…ただでは済まさん」



男は吐き捨てるように言うと勢いよくドアを閉めて立ち去っていった。

…あの男の目。殺気立っているような、血走った目をしていた。

ただ事ではなさそうだ。





「あのナルトくんが…?そんな、どうして…」


「わからねえ。奴は三代目火影に甘くされているからな。もしかしたら…誰かに利用されたってのも考えられる」


「一体誰に…何の目的で」


「それは分からない。が、さっきあの男は『危険な物』と言っていた。つまり…その巻物に記されている術か何かが相当ヤバイ代物なんだろう。…例えば、禁術とかな」


「禁術?」


「使用そのものが禁じられている術だ。もし使えば命を落としかねない危険な術もある」


「…それじゃ!」


「ああ。アイツが危ない」


「探しに行きましょう!今すぐ!!」


テーブル横の椅子にかかっていた上着だけを引っ手繰るようにして羽織ると外へ出る。

彼がいそうな場所といえば……。



「サクヤ!オレは火影の家周辺を探す!…もしかしたらまだ近くにいるかもしれん。お前はあの演習場を探してくれ!」


「わかりました!ではまた後で!」


「ああ!!奴のチャクラを感知出来るかやってみるか……写輪眼!」









こうしてナルトくんの捜索が始まった。


















「…おーい!ナルトくん!いませんか!!」







私の大きな声が誰もいない演習場へ木霊する。

何度も何度も繰り返し彼の名を呼ぶが返事が返ってくる様子はない。

何処に行ってしまったんだろうか…。



「いない……ナルトくーーん!!」





返ってくるのは、風に揺られてザワザワと揺れ動く木の葉と草の群れ達のたてるその音のみ。

薄暗い月明かりに照らされるその木々のシルエットが昼間見る時よりも幾分大きく見え、不気味に映る。

何故だか…彼等に睨みつけられているような。そんな錯覚さえ覚え少し恐ろしく感じる。

それを掻き消すように何度も彼の名を呼び続ける。




「ナルトくん!!いたら返事してください!」




広い演習場の中を大声で叫びながら走り続ける。

数多くの手裏剣の跡が刻まれた木々の間を縫うように駆け抜け、彼の姿を探す。

視界に広がるのは完全なる闇。月明かりだけを頼りに、足元に注意しながら駆け抜ける。



こういう時、日向一族の持つ血継限界…『白眼』があれば便利なのだろうか…と無い物ねだりな事まで考えてしまう。

360°ほぼ全てを見渡すことができ、さらに遠くも見ることができる。果てには相手のチャクラの経絡系まで見通す。

こと捜索関連に関しては写輪眼以上に便利な瞳術だ…。それがあれば彼を探すのは簡単だろう。

そんな事を考えながら脳裏に浮かびあがるのはサスケくんの血のように真っ赤に染まったその眼。

日向がサーチに特化しているのなら、写輪眼は戦闘特化。私は持っていないが…。

うちは一族の私が日向の眼を欲しがるのは贅沢と言うものだろう。

くだらない事を考えながらもあの橙色のシルエットを目当てに足にひたすらチャクラを込めて走り続ける。





そうして三十分ほど。あるいはもっと経っているのだろうか。彼を求めてくまなく演習場を探し続けるが、その姿は見当たらない。


やはり此処にはいないようだ。やはり里の何処かだろうか。もし里の外へ出てしまったら、捜索は絶望的…!

そこまで考え、頭を大きく振り払う。

ナルトくんのことだ。いくら誰かに利用されたとしても里の外へ無断で出て行くような事はしないはず。

彼はイタズラ大好きな少年だが、そこまではしない。やって良いことと悪いことの限度はしっかりと分かっている人だ。

里から出るのは有り得ない。

だとすると何処にいるのだろうか。

あてもなく探し続けるには木の葉の里はあまりにも広い。




「仕方ない……一度戻りながら考えましょうか」



孤独を紛らわせるようにぽつりとそう呟くと、再び里の中心へ足を速める。
















里に戻るにつれ街灯が夜中の道を照らしてくれる。

その光を見て少し安心感を覚えた。しかし、戻る道中も違う道を通って帰ってきたがやはり彼の姿は見つからない。

どうしたものか…と思案していると前方に見覚えのある背中が見えた。

彼もまた立ち止まって考え込むように唸っている。サスケくんだ。

おそらく彼もナルトくんを発見することは出来なかったのだろう。

やっと人に出会えた事により先ほど覚えた孤独感も吹き飛ぶと、その背中へ向かって声をかけた。






「サスケくん!」


「…!サクヤか。どうだ?アイツは居たか?」




その問いへ頭を左右に振る事で答える。私の様子を見て、彼は深くため息をついた。




「…そうか。オレもアイツのチャクラは見つけられなかった。もう写輪眼は使えない…チャクラがもう無ェ」


「そうですか…一体何処に行ってしまったんでしょうか」


「わからん。…こんな時、日向の眼があれば便利なんだがな」


「…ふふ。私もさっき、同じことを考えていました」


「ま、オレたちはうちは一族だ。無いもんはしょうがねぇ。それより商店街の方で聞き込みでもしてみるか」


「そうですね。ナルトくんの好きなラーメン屋さんならこの時間でもやってるでしょうし。あの人なら何か知ってるかもしれません」


「のんびりラーメンでも食っててくれると助かるんだがな。ナルトの奴」


「まったくです」













しばらく歩いていくと、明るい暖簾が見えてきた。

『一楽』と書かれた赤いそれを見るとすぐその下に見覚えのある橙色が視界に映る。

あれは…まさか!



「サスケくん!あれ!」


「…ああ!間違いない!あのウスラトンカチ!!本当にラーメン食ってやがんのか!」





その姿を捉えた私たちは即座に屋台へと足を運ぶ。

垂れ幕を捲ると明るい店内にラーメンの良い匂いが漂ってきた。





「へい!いらっしゃい!!」


「……あれ。サスケにサクヤちゃんじゃねーか。どうしたんだってばよ、こんな時間に」


「どうしたじゃねェだろ!!今までどこに行ってやがったんだ、このドベが!!」


「まぁまぁ…サスケくん、見つかったんだから良いじゃないですか…。私たちずっとナルトくんのことを探していたんですよ」


「オレのことを?…そっか。悪かったってばよ」


「サスケとサクヤ。あまりナルトを責めないでやってくれ。こいつはミズキのやつに利用されていただけなんだよ」



突然ナルトくんの横から聞こえてきたその声に驚いてそちらを見ると、イルカ先生が箸を片手にそう言っていた。

全く気づかなかったが、どうやら彼もナルトくんと同じくラーメンを食べていたようだ。




「ミズキ先生、ですか…?」


「チッ。あのいけ好かねー教師か」


「あいつはナルトを利用して巻物を奪う気だったんだ」


「オレってば、すごい忍術を教えてもらえるつってアイツに爺っちゃんの家から巻物を盗んでくるように言われたんだ。でももう大丈夫。アイツならオレがボコボコにしてやったってばよ」


「ボコボコ、って…ミズキ先生は教師であり、忍者ですよ?一体どうやって…」


「へへ。オレってば爺っちゃんの巻物からすげー忍術覚えたんだってばよ。な、イルカ先生」


「…ああ、そうだな。お前は立派な忍だよ」


そう言って笑いあう二人。よくよく見ると二人ともボロボロだ。






「…ヘッ。サクヤ。どうやらオレたちの頑張りは無駄だったみたいだな」


「ふふふ、そんな事言っちゃって。顔が笑ってますよ、サスケくん」


「…お?もしかしてオレの事心配してくれたのかぁ?サスケちゃんよお」


「…うるせえ、ドベ。半殺しにしてその辺の池に沈めるぞ」


「勘弁してくれってばよ…オレってばもうヘトヘトだっつの」


「あはは……でも、本当に良かったです。ナルトくんが無事で」


「……ありがとな。サクヤちゃんも」


「おいナルト。そういえば『すげー忍術』って何だ」


「お、気になるのか?後で見せてやるってばよ。本当にすげー術なんだからな」


「……フン。その言葉、忘れんなよ」


「ふふ。私も興味がありますね。その『すげー忍術』ってのが」









一体彼らにボロボロになるほどの何があったのか気にはなるが、重なる疲労とラーメンの良い匂いでお腹が減ってきてしまった。

家に帰って何か食べようかと考えていると大きな音で私のお腹がなってしまう。

顔がかあっと熱くなるのを感じると、一楽の店長さんがガハハ、と大きな笑い声をあげた。






「ハッハッハ!!!よかったじゃねえか!ナルト!お前を心配して探してくれる良い友達が出来て!今日は俺からの奢りだ!お前さんたちも食っていけ!」


「…え、でも…」


「良いってことよ!俺はな、ナルトの奴のことは昔から知っていてな。こいつがずっとひとりぼっちだったことも知ってる。そんなこいつに、良い友人が出来たんだ。俺もちょっとばかし嬉しくてよ…。俺の為だと思って、ここはパーッと食って行ってくれ」



少し目に涙を浮かべながら、そう言って二つの座席の前にラーメンを置く店長さん。

湯気の立つそれはとても美味しそうな匂いを放って、さらに私の食欲を誘っていく。





「しかし…」


「サクヤ。ここは素直に食っていこうぜ。……正直、チャクラ切れでオレも腹が減った」


「…わかりました。すみませんが、頂きます」


「オウ!もりもり食って大きくなるんだぞ!明日からはお前さんたちも忍者なんだからな!俺たちの事、頑張って守ってくれよ!!」



イルカ先生の右隣へと座り込むと、サスケくんもその横へ着席する。

店長さんの言葉をしっかりと胸に刻み込んで、目の前の箸へと手を伸ばすと、ラーメンを食べ始める。

疲れた体に熱いそれが体に染み渡る。うん、やっぱりここのラーメンは美味しい。



そのままずるずると麺を啜り続けると、あっという間に器の中が空になった。

程よい満腹感と満足感で自然と顔に笑顔が浮かんでくる。

そうだ、というイルカ先生の声で横へ向くと、ポン、と頭の上へと手を乗せられた。




「お前たち二人にも改めて言っておこう。……卒業おめでとう。サスケ、サクヤ」


「……はい!」


「……世話になった」








夜はまだまだ。そして、私の忍者としての道もこれからだ。












[42250] 第七班、結成
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/16 19:03



あの事件から二日。




昨日は『忍者登録書』という、自分のプロフィールや目標、得意な術など簡単な自己紹介を書き留める証明書のようなものを作成するため

自分の今の姿を撮影した。

ナルトくんが随分と可笑しな隈取りを顔に書いて撮影していたので、サスケくんと二人で大笑いしてしまった。

もちろん撮り直しを言い渡されていたが。

その後どこかに行ってしまったナルトくんを置いて二人でまた演習場で修行をした。

サスケくんが言うには、どうやら私は鳳仙花の術の扱いに長けているらしい。自分ではあまり実感が湧かないが…。

そういうわけで昨日はひたすら鳳仙花のコントロール練習をしていた。おかげでチャクラを大量に使ったため、夕飯がとても美味しかったです。

サスケくんも昨日は豪火球の練習。日に日にサイズが巨大化しているような気がする。

二人とも火遁を好んで使うのは何故なのかと彼に問いかけてみたところ、うちはの一族はもともと火遁に長けているらしい。

豪火球を撃てるようになって初めて一人前のうちはの忍だと認められるらしい。つまり私はまだ半人前というわけだ。








そんなこんなで今日。

今は下忍の説明会の為、アカデミー卒業者全員で集まりです。







「各自好きな席に座ってくれ。全員集まり次第、グループを発表する」







イルカ先生のその言葉を受けて、中央左側の席に着席するとサスケくんもその横へと座る。

皆試験に合格した者たちが集まるだけあって、それぞれ様々なところに額当てをしている。

普通に額に巻いている人、膝に巻いている人。肩にかけている人もいれば、首にぶら下げているだけの人も。

十人十色、個性が出ていて眺めているのも少し面白い。



少しそうやって周りをキョロキョロと見回していると、何人かの男子生徒達がこちらへ向かって手を振っている。

後ろを向くが誰もいないことを見て、どうやら私へと手を振っているようだ。

そちらへ向かって私も笑顔で手を振り返すと何故かその内の何人かは顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。

こちらをチラチラと見ながらひそひそ何かを話している。





…なんだろう。私、何か恥ずかしがられるような事したかな…?

ううん…と唸ると、隣のサスケくんがコホン、と小さく咳払いをした。








「どうしたんですか?サスケくん」


「…………お前はもう少し自分の容姿を自覚した方がいいな」


「容姿?何か変でしょうか」


「その逆だ………いや、何でも無い。それよりもグループ分けはどうなるんだろうな」


「サスケくんはクラス一番ですから一番成績の悪い子と組むことになりそうですね。何人グループなのかわかりませんが…」


「…チッ。三人一組でナルトとサクヤが一緒なのが一番理想的なんだがな」


「バランスを考えるとその確率はかなり低いでしょうね……」







そのままガヤガヤと騒がしい教室内で少し彼と喋っていると、ナルトくんの姿が見えた。

彼へ向かって手を振ると嬉しそうに笑って手を振り返しこちらへとやってくる。

そしてサスケくんの横へと座り込んだ。





「おはようだってばよ!二人とも」


「…オウ」


「おはようございます、ナルトくん」




にこり、と彼に優しく微笑むと彼も先ほどの男子と同様に少し頰が赤らむ。

何なんだろうか、皆して…。少しムッとしていると、他の男の子がこちらへと近寄ってきた。






「アレ?ナルト!何でお前がここにいんだよ!今日は合格者だけの説明会だぜ」


「お前さ!この額当てが目に入んねーのかよ」


「ナルトくんもしっかり合格したんですよ」


「ふーん…まあいいや。それよりさサクヤ!今日の夜どっか飯行かねー?」


「…うーん、ごめんなさい。夕飯はもう作っちゃってあるので」


「そういうことだ。さっさと失せやがれ」


「…チッ。邪魔くせえ奴だぜ」



吐き捨てるようにそう言うと少年はさっさと戻ってしまった。

席に戻った少年は周りの生徒とこちらを睨みつけている。




「…もう。サスケくん、あの言い方はないですよ」


「あんな奴どうでもいい。目障りなだけだ」


ぷいとそっぽを向いてしまうサスケくん。

何故だか機嫌が悪い。いつもこうだ、私が誰かに誘われると…。

何が気に食わないんだろうか。





「…サクヤちゃん、サスケ!オレも今日夕飯食いに行っていいか?オレってば、家に帰ってもどうせ一人だからよ」




顔に影を落としながら少し寂し気な表情を浮かべてそう言う彼。

家に帰っても誰もいないのは想像もつかないほどの孤独だろう。

私はいつもサスケくんと一緒に暮らしているから分からないが、もし彼が家にいないのを考えると。

ご飯を作っても自分で食べておしまい。いただきますもごちそうさまも一人。咳をしても一人。

うぅ………悲しい。




はぁ、と小さく溜息を漏らすとサスケくんは険しい顔を解いて私に視線を向ける。

それに頭を縦に振って応えると、彼の顔にも少し笑顔が宿る。





「フン。別にオレは構わねェよ……夕飯作ってるのはサクヤだしな。決めるのはオレじゃねえ」


「私も大丈夫ですよ。人数は多いほうがご飯も美味しく食べられますし」


「やったってばよ!!」


「言っとくが、ラーメンじゃねェからな?」


「人をラーメンだけで生きてるみたいな言い方するなってばよ………あんまり間違ってねぇけど」






そうこう三人で話していると、教卓側の扉がガラガラと大きな音を発てる。

教室に入ってきたのは…イルカ先生だ。





「全員!席に着けーー!!」




















「今日から君達はめでたく一人前の忍者になったわけだが…しかしまだまだ新米の下忍。本当に大変なのはこれからだ!」



先ほどの喧騒はどこへやら。すっかり静かになった広い教室内へイルカ先生の爽やかな高い声が響き渡る。

先生も言った通り、私たちは忍者になったばかり。

忍者とは下忍・中忍・特別上忍・上忍、そして火影とクラス分けされていて、それぞれのクラスによって受けることが出来る任務の難易度が違う。

勿論、火影様は任務ではなく里をまとめる仕事になるけど…。

下忍から中忍にランクアップするためには、中忍試験という厳しい試験を突破しなければならないらしい。

中忍から先もまた同じ。

本当に大変なのはこれからというのは、疑いようもない真実だろう。イルカ先生も同じくそうやってのし上がってきたのだから、経験者は語る…というものだろう。





「これからの君達には里から任務が与えられるわけだが、今後は三人一組の班を作り…各班ごとに一人ずつ上忍の先生が付き、その先生のもと任務をこなしていくことになる」




三人一組か…。

自分たちで班を結成してもいいのか、それとも先生があちらであらかじめ班を決めているのか。

成績の良いチームと悪いチームで偏ってしまうといろいろと問題が起こるだろうから、おそらく後者だろうか。

…出来ればいつもの三人一緒が良いな。でも、誰と一緒になっても関係ない。頑張ろう。







「班は力のバランスが均等になるようにこっちで決めた。1班から順番に発表していくぞ」




えー!!という生徒達のブーイングが静寂を切り裂いて生まれる。

やっぱりそうか。予想していたので、特に文句はない。

チラリと横を見るが、サスケくんは興味なさそうに腕を後ろに組んでいるしナルトくんに至っては机に落書きをしている。

やめなよー…という視線を込めて彼を見るが夢中になっているのか特に反応は無い。

何を書いているのか少し気になる……。

まあ、いいか…それよりも、班員は誰になるんだろうか。







一班、二班、三班………と順番に発表していく先生。

やったー、とか。ええええ!とか。

いろいろな反応が起こる。まあ当然だろう。

誰にでも好き嫌いはあるのだから。それがこれから一緒に行動する班員ならなおさらだろう。

私は別に嫌いな人がいるわけではないが…出来れば、私の事を記憶が無いからと特別扱いするような人は嫌だなあ……と。

少し上の空でぼーっとしながら、そんな事を考えていた。
























「次!7班……うちはサクヤ」




うとうとして朦朧としていた意識が名前を呼ばれた事により覚醒する。

どうにも椅子に座ると眠くなってしまってダメだ…。

私の他は誰になるんだろうか。





「うずまきナルト!それに…うちはサスケ!」




驚いた。

バランスを明らかに考慮していないようなその編成を聞いて、教室内が再びざわつく。

右を見ると彼らも驚愕に目を丸くさせていたが、少ししてその顔に笑みが浮かんできた。

やったな、というサスケくんの小さな声を聞き私も段々と嬉しくなってくる。







「ストーーーップ!!先生!7班のバランスだけおかしくねえか!?」


「そうだそうだ!せめてサクヤちゃんはうちの班に入れるべきだろ!」


「いやこっちの班だろ!!」


「何言ってるのよ!サスケくんを私たちの班に入れればそれで解決じゃないの!」


「うるせえぞ女子ども!」


「何よやる気なの!?」


「ああ!?」


「静かーーーーーーーーーーーに!!!!!!!」






喧騒をも掻き消すような先生の大声によって騒がしい生徒たちがピタリと黙り込んだ。

まあ、彼らの言い分もわからなくもない。成績トップのサスケくんとそこそこ優秀な私、それに最近は少し順位が上がってきていたナルトくんでは他の班と比べて明らかに不公平だろう。

どういうことなのだろうか。気になってイルカ先生の顔を伺うと彼と一瞬目が合ったような気がした。





「お前達の言い分もわからんでもない!確かに第七班だけ少し不公平だと思う者もいるだろう。しかし、この三人は三代目火影様からの指定でな……

文句があるなら三代目に言ってくれ」




えー…とか、なんだよそれ…だの、言えるわけないじゃない…といった、いまいち納得の出来ていない声が挙がるが…それ以上食ってかかる生徒は居ないようだった。

火影さまからからの指定…?

一体どういうことなのだろう。後で火影さまに聞いてみよう。




「爺っちゃんに感謝だってばよ!」


「ま、そうだな。どういう事なのかは知らないが…オレも後で礼を言っておくか。くれぐれも足手まといにだけはなるなよ、ドベ」


「だーかーらしつこいっつの、サスケ!オレはもうドベじゃねーってばよ」


「オレの中ではドベはドベだ」


「ドベドベうるせぇってばよ……今に見てろよ、すぐに強くなってお前なんかぶっ倒してやっからよ」


「ヘッ。オレが天寿を全うしないうちに頼むぜ。いつになるかわかったもんじゃねえからな」


「んとーにムカつく奴だってばよ……」


「あはははは…でも、どういう事なんでしょうかね。まあ、三人揃ったんですし良しとしましょうか」

















班が決まって安心したからなのか、続いて八班…九班……というイルカ先生の声を子守唄に、再びゆっくりと襲ってきた眠気へと身を委ねる。


どうやらチームは問題無さそうです……おやすみなさい………。













あとがき



サクラちゃん?

ん?知らないです。



[42250] はたけカカシ
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/17 20:47


「遅えなあ……」




教室のドアから顔を出してそう言うナルトくん。キョロキョロと辺りを見回してはムーーーー、と唸り続けている。

黒板には彼の書いた数々の落書き。手裏剣やラーメン、何を書いたのか解らない謎の作品の数々など。

夢中になっていたそれも先ほど飽きてしまったのだろう。先ほどからしきりに先生の到着を待ちわびている。

それにしても遅い。もう予定の時間から一時間半は経っている…。

サスケくんも表情には出さないが組んだ手の指をしきりに動かせてイライラを露わにしている…。

まあ気持ちはわかる。他の班の皆はそれぞれ担当の先生と既に何処かへ行ってしまって、イルカ先生もとっくにいなくなってしまった。

残るのは私達七班の三人だけだ。先生が来ないとどうにもならない。

暇ですね…。







はあ…と深く溜息をついていると何やらナルトくんが怪しげな動きを。

机を動かしてその上に乗り始めた。その手には黒板消しが。

…イタズラするつもりだろうか。




「……ナルトくん?」


「ニシシシ…遅刻してくる奴が悪いんだってばよ!!」


「上忍がそんなベタなブービートラップに引っかかるかよ…」


「そりゃそうだけどさ。なんかムカつくじゃん!こんだけ待たされんの!だから避ける手間をかけさせてやるってばよ」


「…正直、その気持ちはわからんでもない」


「もし怖い人だったらどうするんですか。怒られちゃいますよ」


「こんだけオレらの事待たせといて怒られる筋合いはねーってばよ!むしろ説教したいのはこっちだっつの」


「…………確かに」





予想通りドアの開いた隙間へと黒板消しを挟んで固定する彼。

開ければ固定が解けて落下したそれが頭にヒットするという、簡易的なイタズラトラップ。

……あれ、外から見たら黒板消しが出っ張って見えててバレバレじゃないでしょうか。

サスケくんの言う通り先生があんなものに引っかかるとは思えない。むしろ引っかかったら色々と心配である。

トラップを設置して満足したのか、彼はまた近くの椅子に座るとワクワクした顔でドアを見張り続ける。

それにしても遅いですね。そろそろ来て欲しいんですが…。










それから十分ほど経っただろうか。

教室のドアがガラガラと音を発てて開いた。私達の班の先生がやっと来た。

扉を開くと入ってきたのはマスクで顔を覆い額当てで左目を隠した怪しげな銀髪の先生。

いかにも忍者、というその風貌の彼の上には……先ほどナルトくんの設置した黒板消しが。

あっ、という間も無くそれは先生の頭の上へと落下すると、ポスン…と小さく虚しい音を発てる。

黒板消しに付いていたであろうチョークの粕が粉となって先生の頭周辺を舞い始める。




…。




………。









「えぇ……当たるの、それ…」



呆れて思わず声に出してしまうと、そのトラップを設置した犯人がここぞとばかりに大笑いし始める。




「きゃははははははははは!!!引っかかった引っかかった!!!!」




目に涙を浮かべて笑い続けるナルトくん。ニコニコと満面の笑みを浮かべる彼とは対照的に、ジロリと先生を睨みつけるサスケくん。

何も言わないが…目を見ればわかる。

あれは、『こいつ本当に上忍かよ…大丈夫か?オレ達』とかそんな感じの事を考えている目だ。

失礼極まり無いが正直私もそう思う。……本当に大丈夫かな、私たち。






ポカーンとしていた先生だったが、少し経つと突然ニコニコして笑い始める。

ハハハ…とあまり楽しくなさそうな声を出すと、私たちを一瞥して言った。





「んー…なんて言うのかな。お前らの第一印象は………嫌いだ!!」


「いやそれはオレたちのセリフだってばよ……」














場所を移してアカデミーの屋上。

開けた広いスペースで手すりに腰掛けた先生から少し離れて三人で座り込んでいる。

太陽の眩しい光が降り注いで暖かい。んだけど何だろうか…空気が冷たいのですが…。







「まずは自己紹介してもらおう」


「どんな事を言えばいいのですか?」


「そりゃあ好きなもの嫌いなもの…将来の夢とか趣味とか…。ま!そんなのだ」


「どっかで見たことがある気がするんだよなー先生の事…。あのさ!それより先に自分の事紹介してくれってばよ。先生」


「あ…オレか?オレは『はたけ カカシ』って名前だ。好き嫌いをお前らに教える気はない!将来の夢って言われてもなあ…ま!趣味は色々だ」





何もわからない。解ったのは名前だけである。

謎多き人だ。流石は顔を隠しまくっているだけはあるのだろう。

それにしても…ナルトくんと同じく、私もカカシ先生を何処かで見たような気がする。絶対に会った事は無い筈だが…。

何故だろうか。

–––––何故彼を見ていると鳥肌が立ってくるのだろうか……。

嫌悪を催すような性格で容姿でも全く無いのだが、何でだろうか。さっぱりわからない。






「じゃ、次はお前らだ。右から順に」



右から、つまり彼から見て右ということは…ナルトくんからか。

額当てをしっかりと掴んで少し笑顔を浮かべた彼は、自己紹介を始めた。




「オレの名前は『うずまき ナルト』!好きなものはカップラーメンでもっと好きなのはイルカ先生に奢ってもらった一楽のラーメン!

嫌いなものはお湯を入れてからの三分間」





彼、『人をラーメンだけで生きてるみたいな言い方するな』って言ってませんでしたかね…。

どれだけ好きなんでしょうか。





「将来の夢は…火影を超す!!んでもって里の奴ら全員にオレの存在を認めさせてやるんだ!!」





感心したのだろうか、少し声を出してじーっと彼を見つめるカカシ先生。

…火影を超える。すごい夢です。

無茶苦茶な夢マボロシを語っているようではあるが、彼のまっすぐな瞳を見つめていると何故だかその夢を応援したくなるような気がする。

彼ならその夢を実現出来るかもしれない。そう思わせる何かが彼にはあるのだろう。

やっぱりナルトくんは私たちを照らしているあの太陽のような人だ。


……私の密かな憧れ。










「趣味は…イタズラかな」


「……次!」









いまいち締まらない彼の自己紹介を聞き終えると、次はサスケくんへと視線を移す。




「名は『うちは サスケ』。嫌いなものはたくさんあるが好きなものは特にない。それから…夢なんて言葉で終わらす気はないが、野望はある。

一族の復興と、ある男を必ず……殺すことだ。それともう一つ」




そこで区切ると、突然私の頭の上へ手を置いて続けた。




「オレはこいつを死んでも守る。……何があろうとな」








ずっと考えている事がある。

何故…彼は、サスケくんはこんなにも私の事を必要としてくれるのだろうか。

何故、こんなにも一生懸命なのか…。私にはそんな価値なんてない。




…いや、それは解らないか。彼が欲しているのは私ではない。

『器』の方じゃなく、本当の私なのだろう。

前の私とサスケくんとの間に何があったのだろうか。

何が、彼をここまで必死にさせているのだろうか。これでは私の存在が呪縛のようなものでしかないだろう。

過去に何があったというのか。それは今の私では解らない。





「ほう。お前みたいなヤツ、しょーじき嫌いじゃないよ。守りたい物があるヤツは強い」


「………フン」


「ま。言うからにはそれ相応の強さを身につけないとな。それじゃ、最後。女の子」





あれこれ考えている内にいつの間にか私の番か。

…夢。

それは一体何なのだろうか。かつての私は、どんな夢を持って忍者を目指したのだろうか。

何も解らないままに自己紹介を始める。……これは、器である私の紹介だ。





「…私は 『うちは サクヤ』。好きな物は甘いもので、嫌いなものは特にはありません。将来の夢…は…わかりません。が、目標ならあります。

一刻も早く全てを思い出したい。そして…皆に、ただいま。と…一言伝えたいです」





























「……そうか。お前が噂の記憶喪失のうちはサクヤか」





心なしか先生が苦々しい顔をしているような気がする。

無論、顔がほとんどすべて覆われ隠されているのでその表情までは読み取れないが。きっと気のせいだろう。


少し苦しい自己紹介になってしまっただろうか。

でも、私の今の目指すものはそれだ。聞いてくれていましたか?もう一人の私。

早く戻ってきてください。そろそろいい加減待ちくたびれてしまいました。




「ま!自己紹介はそこまでだ。明日から任務やるぞ」


「はっ!どんな任務でありますか!!」



おちゃらけた風にビシッと敬礼して反応するナルトくん。

その明るい姿を見ていると、先ほどまでの重い雰囲気も一気に吹き飛ぶようだ。

やはり…彼は太陽なのだ。




「まずこの四人だけであることをやる…サバイバル演習だ」


「サバイバル演習?」


「任務で演習…って。演習なら忍者学校で行ってきましたが…」


「ま、ただの演習じゃない」




そこで話を区切り、ククク…と不気味に笑い出す先生。

三人一同揃って頭の上にはてなマークを浮かべる。何がおかしいのだろうか。




「どうしたんだってばよ…カカシ先生」


「いや…ま!ただな…オレがこれ言ったらお前ら全員引くから」


「は…?」




不気味な笑いをマスクの下に隠すようにして止めると、彼は私たちを睨みつけながら続けた。










「…卒業生27名中下忍と認められる者はわずか9名!残り18名は再び学校へ戻される。この演習は脱落率66%以上の超難関試験だ!」











[42250] 第一任務
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/18 22:02









「忍たる者……基本は気配を消し、隠れるべし」







その言葉通り、草藪の中へと身を潜めてじっと彼の出方を伺う。

私が隠れている所から右手に20メートルほどの場所にサスケくんも身を隠す。丁度先生の裏を取る形となる場所だ。やはり彼は頭がいい。

…あれ?ナルトくんはどこに?





「行くってばよぉ!!」


「あのさァ…お前ちっとズレとるのォ…」





あぁ…やっぱり……。

案の定真正面から突っ込んでしまうナルトくん。

まぁ彼の性格上、こそこそ隠れて様子を伺うのは苦手そうですからね…。

しかしこれならこれで都合がいい。

カカシ先生の動きをこの距離であれば安全に、手に取るようにわかる筈だ。まずは相手の事をよく知らなければ。

意図的に私たちに見えるように戦いを挑んでいるようにも思えるナルトくんの行動だが、あれで何も考えてないんでしょうね…。




さて。どう攻めるのか。危なくなったらすぐに手を出せる様、チャクラを常に腕へと集中させておく。

彼の指示はたった一つ。

腰に付けてある二つの鈴を昼までに一人につき一つ奪い取れ。

昼までに鈴を奪えなかった者は昼食抜き。鈴は二つしかないので必然的に一人はそうなる。

さらに…鈴を奪えなかった者は失格、学校へ戻ることになる。

これは多分、意図的に二つしか鈴を用意しなかったのだろう。

早いもの勝ちと考えて協力せずにさっさと鈴を取るのか、チームを組んで二つを確実に取るのか。その場合は仲間割れの可能性もあるだろう。

きっと、先生は試しているんだ。私たちを。





懐からクナイを一本取り出すとしっかりと前へ構えるナルトくん。

その横顔からは何か得意げな表情が読み取れる。考え無しに前に出た、というわけでは無さそうだ。何か策でもあるのだろうか。

対するカカシ先生もポケットへと手を突っ込みゴソゴソとすると、何か少し大きな板状の物を取り出した。

あれは……。

…本?

『イチャイチャパラダイス中巻』と、表紙にデカデカと描かれている。

何でしょう、急に寒気が襲ってきました…。





「…は?おい、何やってるんだってばよ…先生」


「本の続きが気になってたからだよ…ま。気にすんな。お前らとじゃ本読んでても関係ないから」





ペラリとページをめくってその本を読み始める先生。

これは挑発だ。わざと相手を怒らせて冷静さを欠けさせるためだろう。

まずいです…と思っていると、早速ナルトくんの体がブルブルと震えだす。

やはり怒ってしまったか。彼のようなタイプは挑発には滅法弱いだろう。




「……。」


「ん?どうした。さっさとかかってこい」


「あーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


「!?」


「…えっ?」




突然叫び声をあげるナルトくん。思わず声を出してしまったがバレていないだろうか。

…一体どうしたのだろう。怒っていたのではなかったのか。




「思い出したってばよ!その本!!あん時の怪しいオッサンじゃねーーーか!!」


「オッサン……傷つくなあ」


「やっと思い出したってばよ。あん時の」


「……どの時のかは知らないけどね。で、どうするんだ?かかってくるのかこないのか」


「まあそう焦るなってばよ。先生––––」



手に持っていたクナイを先生へ向けて真っ直ぐと投げるナルトくん。

しかし、それを一切見る事もないまま二本の指だけでひょいとキャッチされてしまった。

本を片手に持ち少し笑い声をあげながら掴んだクナイを地面に投げ捨てる先生。まるで相手になっていないようだ。

あまりにも自然なその動作に見とれてしまう。流石は上忍といったところだろうか。

その様子を見たナルトくんは小さく舌打ちをすると、再びクナイを取り出し彼へと突っ込んでいった。

腰についている小さな鈴を目掛けて斬りつける。

やっぱり手に持った本をめくりながら妙な笑い声を上げる先生。

また避けないのか?と思いながらその様子を見守ると。





走りながら勢いをつけた彼のクナイが鈴の小さな紐を切ろうとするその時。スローモーションのように彼の腕が横へ薙ぎ払われるのを見ていたその時。





「………あれっ?」




ぶおん、と風を斬る音と共にその腕が宙を斬る。予想外な事象に体勢を崩して前のめりに転ぶナルトくん。

ズザサー!と大きな音を立てて地面を体に引きずってしまう。勢いをつけた分その反動も大きい。





………消えた。

先生の姿が一瞬でどこかに消えてしまった。最初からそこには居なかったかの如く。

辺りを見回すがその姿は見当たらない。直ぐに起き上がった彼は体に着いた砂を払うと、同じくキョロキョロと周囲を探す。

いない…?そんな、あんな一瞬で遠くへ行ける筈が……。

視界に入るサスケくんも消えた先生を探しているようだが、やはり見つからない。

三人の視界から消える事が出来る方法といったら…。

…まさか!

嫌な予感により、手早く術の印を結ぶ。私の予想が正しければ…彼はきっと!






「––––––木の葉隠れ秘伝」





ナルトくんの下の地面が盛り上がり、先生の体が現れる。やっぱり下か…!!

まだ気づいていないナルトくんをよそに、その手に構えるのは虎の印。

そんな…あの距離から彼に向かって火遁を撃つというのか。





演習前に先生の言った『殺す気で来い』という言葉が脳裏にちらつく。

私たちが先生を殺す気で行くのはわかるが、まさか先生も私たちを殺す気で…!?

大急ぎで術の印を結び終えると先生へ向けて鳳仙花の術を放とうとする。

視界の隅ではサスケくんも何かをしようとしているが…ダメだ。

…どう考えても間に合わない!!




「火遁!鳳仙花の––」


「火遁・豪火球の––」



「体術奥義!千年殺しィィィィィィィィィィィィイイイイイ!!!!」





ブスリ!!!と。

その虎の印を構えた二本の手は真っ直ぐと。



……ナルトくんのお尻へ目掛けて突き刺さった。





「痛ッてえええええええええええええええええええええええ!!」






びよーーーん、と凄い高さで飛び上がる彼。

その下では指を真っ直ぐ天へと掲げた怪しいマスクの上忍。心なしか誇らしげに見えるその姿だが、やっていることは全く誇らしくない。

…なんだこれ。

なんだこれ。




先ほどまで焦っていたのが急に馬鹿らしく感じてきてしまう。…でも、考えてみれば当然か。

先生が下忍の、しかも自分の担当の生徒を殺す筈が無いか…。




そのまま雲へと届きそうな高い跳躍を見せるナルトくん。

お尻を押さえたまま宙を舞うと……白い煙に包まれる。






「…何!?」




驚きに大きく声を上げるカカシ先生。

すると突然。

先生へ向けて四方八方から手裏剣の群れが襲いかかる。風切り音を周囲に響かせながら飛来するそれらはまるで雨の如く。



そんな。サスケくんもカカシ先生も私の視界の範囲内にいる。

こんな事できる人はいないはず。一体誰が…!?





「–––––残念でした!先生。今のはオレの影分身だってばよ」


「…なるほどな。分身じゃなく『影分身』か…。残像ではなく実体を複数作り出す術」



その声と共に現れる大勢のナルトくん。その顔には満面の笑みが。

実体を作る影分身…!?

分身の術が苦手な彼が、一体どうやって…。それにこの数は一体…!

これが前に彼が言っていた『スゲー術』というものか。確かに…凄い術だ。いつの間にこんな…。






「さっきの分身でオレの気を取らせてこっそりと何処かに潜んでいたって訳か。…全く、ドベじゃなかったの。お前」


「オレはドベじゃねーってばよ!下から二番目くらいだっつの!」


「…やれやれ。これで下から二番目だなんて恐ろしいね。どうも」




彼へ向かって襲い掛かる手裏剣の数々。さらにナルトくんの分身の一人ひとりもクナイを彼に向かって投げる。

それら全てを躱すには…また地面へ潜るのだろうか。ならば、出てくるところを上手く狙えれば。

そう思いクナイをポーチから取り出し投げられるように準備しておくと…。








––––全ての武器が、彼の体へと突き刺さった。


腕へ、足へ、お腹へ。体中にそれらが突き刺さると、嫌な音と共に体が赤い血で染まる。

ええっ、と驚きに声を上げるナルトくん。流石に想定していなかったのだろう。

まさか。当たるなんて…。

ポカーンと口を開けて呆然としていると。

先生もまたボン、という音と共に白い煙に包まれた。









「…ま!オレもそんなに甘くはないよ」




上から聞こえてくるその声。その方向を見上げると、木の上には彼の姿。

すたっ、とすぐに木の上から飛び降りてくるカカシ先生。その左手には…やっぱりイチャイチャパラダイスが。




「……へッ。そういうことかよ」


「忍者は裏の裏をかくべし。ま、ナルトの戦略も悪くは無かったけどね」





始まった時、ナルトくんと相対した最初からずっと影分身だったのか…。ならば、アレは本物のはず。

もう少し動きを見ておきたいところだが、タイムリミットはお昼12時まで。

先生が寝坊してきた所為でスタートしたのが10時半過ぎだから、もうあまり猶予は無いだろう。


…ずっと隠れてばかりいてもいられない。時間は限られているんだ、私もそろそろ戦おう。







「火遁・鳳仙花の術!」



手裏剣を四枚、彼へ向けて投擲すると共に火の玉の群れを打ち出す。

それと同時に草藪の中から姿を表すと、先生はまるでこちらの隠れていた場所を知っていたかのように私を見る。

よっと、と軽い足取りで全てかわされてしまうが予想通り。当たるとは思っていない。





「お。やっと出てきたな、サクヤ。時間がないから焦ってるのかな?」


「時間が無いのは先生が遅れて来るからでしょう…。一人でダメなら、三人で!」


「三人…?」


「––––火遁・豪火球の術!」



先生の背後へ巨大な火の玉が襲い掛かる。その大きさは人間のサイズを上回る。

飛び出す瞬間にサスケくんへ目でサインを送っていたのだ。伝わっていてよかった。

さらに先ほど躱された鳳仙花をUターンさせる形で先生へ全て向けさせる。無理なコントロールでチャクラを消耗してしまうが仕方ない。

それと同時にナルトくんの分身達も手裏剣を投擲する。もちろんその内の数人は辺りを警戒する事に徹底して。






「なにっ…!」




慌てて前後から来る炎の集団を見渡す先生だが、これなら回避するのは難しいはず。

前方からは鳳仙花。後方からは豪火球。左右からは手裏剣。

また地面に潜っても今度はナルトくんの分身たちがそれを発見するだろう。

初めての協力だが上手い事チームとなっている事に少し嬉しさを覚える。







「おっしゃ!これならどうだってばよ!」


「…フン!即席にしちゃ上手く行くもんだな」


「彼はきっと分身じゃない。これで勝ちです!」


「……やれやれ。チームワークは完璧ってことね」





ぱたん、と本を閉じるカカシ先生。

そのまま本を懐へ仕舞うと、目には笑顔を浮かべた。





「本読んでても余裕かと思ってたけどやるね、お前たち。ならオレもちょっとだけ頑張っちゃおうかな」




ふー、と少し息を吐き出すと、目にも止まらぬ速度で印を結び始めた。

あまりの速さに手が残像を残しているかのように見える。一体何を…?

何の印なのか全く判らない状態のまま手早く印を結び終えると、しゃがみ込み地面へ両手をつける。





「–––土遁・土流壁!」












あとがき



戦闘シーン書く才能ないですわ…難しい。



[42250] 鈴取り演習
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/21 15:49





左右から二人同時に飛び出す。

懐から数枚手裏剣を取り出すとそれらを奴へ向けて投げるサクヤ。

一瞬時間を置いてオレも同じ動作を行う。狙いはただ一つ。





「バカ正直に攻撃してもダメだよ」




シュルルル!と放射状に激しく回転しながら襲いかかる手裏剣を左へ大きく跳躍する事により躱すカカシ。

ニヤニヤと笑っているその目が癪に障るが……甘い。



「バカ正直じゃ無けりゃいいんだろ?」


「…!」




サクヤの投げた手裏剣の一つとオレのそれが空中で衝突し、軌道が大きく逸れる。

高い金属音と風切り音を鳴らすその二つは草藪の方へと飛んで行き、そこに隠してある二本のロープをプツリと切った。






「…トラップか!」



地面へ手を着き跳躍の勢いを殺すカカシ。再び飛ぶ事により、オレの千本のトラップを回避する。

無数の千本が木へと突き刺さるのを横目に、宙へ浮いたカカシへと第二のトラップが襲いかかる。

木の上からひらひらと舞い降りてくるのは……花?





「何だ?これは…」


「サスケくん。少し離れてください…危険です」





言われるがままサクヤと共にその場から身を引く。

カカシの様子を見るが、周囲を覆う真っ白な花びらの数々を見て疑問の表情を浮かべているように見える。

…何をする気だ?そう考えていると、印を結び始めるサクヤ。



「火遁・鳳仙花の術!」




少女特有の透き通る高い声と共に繰り出される術。

一つだけ火の玉を飛ばすと、まっすぐその花びらへと向かっていく。

何かに気づいたのか…慌てて腕でマスクの下の口もとを覆って隠すカカシ。滞空しているあの状況では避けられないと判断したのか。

小さな火炎弾は高速で飛んでいくとすぐに花びらへと到達し、それに接触。






「名付けて……火遁・落花塵の術!」





カカシの周囲を舞う花びらの数々が、小さな破裂音と共に爆発し周囲を真っ白の煙が覆う。

モクモクと辺り一面を覆うそれらはまるで火薬でも使ったのかのようだ。

煙幕からすぐに飛び出すと地面へ着地するカカシ。鮮やかな着地の仕方に正直惚れ惚れとするが、苦しそうな声を上げると地面へ膝を着く。

激しく咳き込み始めた。あの煙幕は毒か何かなのだろうか。






「コホッ、ゴホ…油断したよ。花弁で気を取らせる作戦かと思っていたんだがな…少し吸っちまったか」


「あの白い花は火に近づくと爆散し、麻痺性の毒煙を撒き散らす。強い毒ではありませんが…これで少し体が鈍くなるでしょう?」






ニコニコとした表情でカカシに視線を送りながらそう言うサクヤ。

やはり毒煙だったのか。離れていなければ風に流れてオレたちも危なかったな。

以前のサクヤが花を好んでいた事を少し思い出す。記憶が無くなっても根底は変わらないという事実に何故だか心が高揚した。






(…ねえ、サスケ。このお花…綺麗じゃない?)






青いチューリップのような花を見て笑顔を見せていた少女と、目の前で花の毒について語る少女の笑顔が重なる。

性格は全く変わってしまったが、その顔に浮かべる明るい笑みは何一つ変わりはしない。

やはり……お前はお前なんだな。








「…なるほどな。離れろと言ったのはこの為か」


「ええ。時間がもうないですから…動きを鈍らせて鈴を取ります。一気に行きますよ!」


「あぁ!」







合図と共に多量のチャクラを眼に送り込む。それに応じて自分の両目が真っ赤に変化していくのを感じる。

あの日、全てを失った事と引き換えに両目に宿った新たな力。

うちは一族の血継限界であり…呪われた瞳術。





「––––写輪眼!」


「何…!?」




オレの目を見て驚きの声を上げるカカシ。


この眼は動体視力、反射神経、そして視力を飛躍的に向上させるリスクとして多量のチャクラを消費する。

今の残りチャクラ量から計算して…使っていられる時間はそう多くは無い。

昼を知らせるアラームももうすぐ鳴るだろうし、これが最後のチャンス。

鈴を奪えればオレたちの勝ち。奪えなければ負けだ。





「うちはの力…思い知るがいい」





















「んー、こりゃーちょっとマズいね…どーも」



減らず口を叩きながら千本と手裏剣を回避するカカシ。

先ほどの毒が回っている所為か動きが鈍い。鈍いとは言えその速度は凄まじいが、捉えきれないスピードでは無い。



足へと力を込めるとカカシへ向けて一気に接近する。

そのままの勢いで顔へ向けて跳び蹴りを浴びせるが、腕を横に構えることで防御される。

そしてもう片方の腕で足を掴まれた。

間髪入れずに右腕を奴へ向けて思い切り振り下ろす。

しかし先ほど防御された左腕で再び阻まれ、掴まれる。

ならば、と体を思い切りひねり反転させる。無理な動きで体に痛みが走るが今はどうでもいい。

そのまま頭が下になるように体を上下逆にすると、残っていた左足を奴の脳天目掛けて叩き込む。

だが左腕を大きく掲げることでその足も阻まれてしまった。全力で放った蹴りが防がれたことにより足に激しい振動が走る。

逆さまになった視界の中央にマスクを被ったマヌケ面が映る。

奴へ目を合わせると、抑えきれず笑みを浮かべてしまう。ニヤッと笑うオレの顔を見て何を感じたかは知らないが、もう遅い。

右手、右脚、左脚の三つは奴によって封じられた。

…が、後一本足らなかった様だな。




残っていた左手をぐいっと思い切り伸ばす。

目標はもちろん奴の腰に付けた二つの鈴。はっとなって思い切り腰を後ろに逃すカカシ。

後少し…!指が銀色に光る冷たいそれらに触れる。

チャリン、と小さく音を鳴らす二つの鈴。







……伸ばした手は、ギリギリのところで届かなかった。

すぐにオレの手足を離して距離を大きく取るカカシ。ふー、と小さく溜息をつき安心しているようだ。






「今のは危なかったな…流石はうちは一族で里のエリート。ま、ちょっと足りなかったかな」


「…チッ」


「毒が効いてるとはいえ、下忍のひよっこにそう簡単に取られちゃたまらないからね」


「後少しでオレが取れたんだがな…」


「さて、サスケ。次はどうする?もう時間もチャクラも無いんじゃないの?」




スカしたように聞いてくるその姿が可笑しく感じ。

ククク…と笑いが抑えきれない。最高に滑稽だな。



「…何がおかしい?」


「ククク…アッハッハッハ!!!」


「オイオイ…壊れちゃったのか?」


「これが笑わずにいられるかよ。オイ、カカシ。アンタ、自分の腰を見てみろよ」


疑問の目を向けながらも、言われた通りに視線を下の方へ移していくカカシ。

ああ…最高だ。…笑えるぜ。






「……………なっ!?無い……!バカな!そんな筈は…!!」


「クッ、ハハハハハハハ!!!!!」



慌てて周囲を見回すカカシ。そりゃあ驚くだろうな……。




–––腰に付けた二つの鈴が無くなっていたら…。




「さっき避けたと思ったんだが…まさか取られちゃうとはね」


「オレは持ってねえぞ。カカシ」


「…へ?じゃあ何処に…」



チャリン、と小さな鈴の音が静かな演習場へ響く。

音の方向へ慌てて視線を移すカカシ。




「カカシ先生…サスケくんに気を取られすぎです」



すたっ、と木の上から降りると華麗に着地する少女。

その手には二つの鈴。





「サクヤ…!?いや、そんな筈は…。一体、どうやって」


「ふふ…カカシ先生。一つ言い忘れていました」



手に持っていた二つの鈴のうちの一つをオレに渡すサクヤ。

その表情はやり遂げた達成感の笑みで一杯だった。









「………さっきの毒煙。麻痺性の毒だけではなく、幻覚作用があるのですよ」





にっこりと笑ってそう言うサクヤの顔は、昔のままの姿だった。








[42250] 任務完了
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/21 22:39





「……おい、ウスラトンカチ」


「なんだってばよ」


「しばらく見ねえと思ったら…何してんだよ」


「…いやあ、アハハハハハ…」


無事にカカシから鈴を奪った後。

タイマーが鳴りスタート地点である丸太の所まで戻ると、丸太にナルトが縛り付けられていた。

奴の目の前には昼食である弁当。コイツ…腹が減ったから食おうとしたところを罠か何かで捕まったのか。




「…さっきまで一緒に戦ってたはずなのに、いつの間に戻ったんです?」


「実はさ、あの時一緒に戦ってたら影分身の一人が弁当発見してさ。オレってば腹が減って思うように動けねェからこっそり弁当食っちゃおうとしたところを…」


「ところを?」


「…カカシ先生の影分身に捕まった」


「どうりでお前の動きが鈍かったわけだ…このドベ」


「そもそも、なんでそんなにお腹減ってるんです?」


「ん?だって…カカシ先生、朝飯食ってくるなって言ってたってばよ」


「えっ?本当に朝食抜いてきたんですか?」


「…へ?」


「…忍は裏の裏をかくべし。ナルト…お前、ちっと正直者すぎるのォ」



はぁ…と深く溜息をつくオレとカカシ。サクヤは少し苦笑い。

…ま、コイツが最初に動いてくれたおかげで色々と見物出来た訳だからあんまり強くは言えねェか。

それにしても、影分身の術は確か…本体のチャクラを分割して分身に与える術。

二体に分身すればオリジナルのチャクラは二分の一。二十体になれば二十分の一だ。

…どうなってやがる?コイツのチャクラの上限は…。




「鈴も取られちゃったし…ま!お前らは忍者学校に戻る必要はないな」


「え!?鈴取ったのかってばよ!」


「ええ!」


「…フン」



縛り付けられているナルトに見えるように鈴を掲げるオレとサクヤ。

チャリン…と静かに鳴るそれを手に持ち少し誇らしく感じる。




「ハーーーー…じゃあさ!じゃあさ!ってことは三人とも…」


「…ま!ナルトはまだ鈴取れてないからね…。お前は午後からもう一回やるぞ」


「えー!!そりゃあないってばよ!!」


「サスケとサクヤの二人は弁当食べたら帰っていいぞ。ただし…ナルトには食わせるなよ。もし食わせたら即失格…忍者学校行きだ。わかったな」


それだけ言うと、じゃあねー…と手を振り去っていった。


















「…そりゃあ、ないってばよォ……」



ぎゅるるるる…と腹の虫を鳴らせて空腹を訴えるナルト。

丸太に縛り付けられしょんぼりしているそいつに向かって、無言で手付かずの弁当を差し出す。

横を見ると同じようにサクヤも弁当を差し出していた。




「ほらよ…ウスラトンカチ」


「私のもどうぞ。ナルトくん」


「…へ?いいのかよ。見つかったら二人とも失格にされちまうってばよ」


「大丈夫だ。今はアイツの気配はない…午後からも三人で鈴を取りに行くぞ」


「でも、さっきカカシ先生はオレだけでやるって…」


「確かにナルトくんは午後から鈴取りって言われました。…でも、私たちが参加するなとは言われていないでしょう?」


「そういうことだ。……足手まといになられちゃ、こっちが困るからな」


「二人とも……!へへへ…ありがと」



そうしてナルトの奴へ弁当を渡そうとしたその時。





ボン!!!!という凄まじい音と衝撃と共に前方へ巨大な煙が上がる。




「何だァ!!」


煙の中から現れたのは、今まで見たこともない鬼気迫る恐ろしい表情でこちらへ突き進んでくるカカシ。

奴の体から感じる悍ましいほどのチャクラと殺気に威圧される。

コイツ…どっか行ったフリしやがって、どこかで監視してやがったのか!




「––––お前らああああああああああああ!!!」


「……ッ!」


「うわああああ!!」


「きゃっ……!!」





クッソ…!コイツ、どこにこんなチャクラを隠していやがった!

瞬時に二人を見るが、サクヤは尻餅をついて動けない様子。ナルトは丸太に縛られ身動きが取れない。

チィ…今、二人を護れるのはオレだけか…!

瞬時に写輪眼を発動させるが、あまりのスピードにあっという間に目の前へ到達されてしまう。

目の前には殺気を放ち続ける恐ろしい上忍。さっきまでこんな奴を相手にしていたのかと考え恐ろしく感じる。

そのままオレたち三人を睨み続けるカカシ。

何をする気だ…と警戒していると、そいつは両腕を腰に当て…。









「ごーかっく」



マスクの上からでもはっきりと判る満面の笑みで、オレ達三人へ向けて言った。






「…へ?合格?」


「お前らが初めてだ。今までの奴らは素直にオレの言うことをきくだけのボンクラどもばかりだったからな」




…なるほどな。

そういうことか。




「…忍者は裏の裏を読むべし。忍者の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる。…けどな」


真剣な表情となりオレたち三人を見回すと、カカシははっきりとした口調で続ける。



「仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだ」




間抜け面でポカンとした表情を浮かべるナルト。

その横で少し笑い声をあげながら柔らかな笑みを浮かべるサクヤ。

…こんな奴に言われるまでもねェ。

オレはオレの大切な仲間を…サクヤと、ついでにナルトを守る。

この目、写輪眼は……そのための術だ。

全てを失くしたオレの、最後に残ったものを守るための力だ。









「これにて演習終わり。全員合格!!よォーしィ!第七班は明日より任務開始だァ!!」


シュビ!!と親指を立てて強くポーズをとるカカシ。





「やったってばよォ!!オレ、忍者!!忍者!!忍者!!!」


縛られた体を大きく揺らして全身で喜びを表現するナルト。





「無事、全員合格。ですね。まぁ…当然でしょう!」


口ではそんなことを言いながらも少し隠した右手で強くガッツポーズを作るサクヤ。






…オレは強くなる。

こいつらを守れるように。あの時感じた孤独、憎悪。虚無を二度と感じることのない様に。

いつか窮地に陥った時に、こいつらだけは守れる様に。

オレは、強くなる。

いつか、あの男を超える。

イタチを、あの男をこの手で殺すために。

見ていろ、イタチ。オレは…万華鏡写輪眼など無くとも、アンタなんか殺せる程に強くなってみせる。

これはその為のスタート。オレの道はここから始まる。





…第七班。結成だ。














あとがき


サスケくん聖人になりすぎた




[42250] 最悪の一日
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/27 00:00





次の日。

相変わらずぐっすりと眠りこけているサクヤを起こす為に部屋へと向かう。

全く…記憶が無くなろうが生活習慣は変わらねえんだな。

集合時間まではあと40分程余裕はあるし、第一あのカカシが時間通りに来るとも思えない。

さほど焦ることもないのでのんびりとサクヤを起こす事にするか。



「サクヤ。入るぞ」




青いドアを人差し指をくの字に曲げてコンコンと叩きそう呼びかける。

案の定、返事が返ってくることはない。まぁ何時もの事だが。

部屋のドアをカチャリと開けると、無機質な空間から女の子特有のいい香りが漂ってくる。

洗濯もオレと同時に洗っているのに何がそこまで違うのか、と少し疑問に思いながら部屋へと入った。



ベッドの上には安らかな顔をして眠る長い黒髪の少女。

くー、くー、と静かに寝息をたてているその顔を見ているとあの時の嫌な記憶が浄化されていくような気分だ。





「ほら、サクヤ。朝だぞ…起きろ」




少し体を揺らすも、返ってくるのは変わらず規則正しい寝息のみ。

それにしても…サクヤはオレが起こさなきゃそれこそカカシより遅刻魔なんじゃないのか。

昔もよくサキおばさんに叩き起こされてたっけな、と今となっては懐かしい光景を思い出してしまう。

まあこの程度で起きるようならオレは今まで苦労していない。それは百も承知だ。

揺らして起こすことを諦めると、彼女の柔らかな白い頬を少し強めにペチペチと叩く。





「起きろ。サクヤ。おい」


「…んむぅ………」





無意識にだろうが、寝返りを打つことによりその攻撃を回避する少女。

サラサラの髪の毛が布団に張り付いて非常にだらしない。

…ったく、これがオレじゃなくておばさんだったら今頃ど突かれてるぜお前…。

右頬が隠されてしまったので今度は左頬を同じようにはたく。






「起きろっての。いつまでも寝てるとそのうち牛になるぞ」


「…ん…るっさいわね……サスケ…あと五分待ちなさい……っての……」


「––––––––ッ!!」







一瞬。

時間が停止した気がした。

本来ならば有り得ないその口調に心臓の鼓動が一気に加速する。

ドクッ。ドクッと。

自分の心音がはっきりと聞こえて来るようだ。

まさか…!



「おい!サクヤ!!起きろ!起きてくれ!!」



激しく彼女の体を揺らす。

心の何処かでいつの日か諦めてしまっていた、少女の少し生意気で明るいその姿。

あの日失った彼女の中の太陽。

それが戻ってきたのかもしれない。オレは一心不乱にサクヤの体を揺らしていた。




「サクヤ!オレだ!––––起きろッ!!!!」


「んぁ………?なに……」


「サクヤッ!!」


「ふぇ……?サスケくん……?」




瞼を開くと何が何だかわからない、といった顔でこちらを見るサクヤ。

寝ぼけているのだろう、半分しか開いていないその目は何時もの彼女だった。

…記憶が戻っているようではなさそうだな。





不思議と落胆は感じなかった。むしろその逆で…。



すぐそばにアイツがいる。本当の彼女は消えてなどいない。

しっかりとこの少女の中にいる。寝ぼけ眼でぼーっとしているこいつの中にサクヤは居る。

そう確信して、自然に顔に笑みが浮かんできた。意識することもなく口から笑い声が出てくる。







「…フフッ。ハハハハ」


「ど、……どうしたんですか。サスケくん。朝からちょっと気持ち悪いです」


「ハハハッ…いや、ちょっとな…あっはっはっは!!」


「もう…何なんですか、一体」


「くくく…なんでもねェよ。ほら、朝だ。起きろ」


「なんですかその満面の笑みは……。どん引きです」





じとーっと少し冷やかな視線を送ってくるサクヤ。

その目から逃げるように部屋を後にした。





…今日は、いい一日になりそうだな。

窓から降り注ぐ光の柱が、いつもよりも明るく暖かく感じた。






















「おい…集合時間からもうどの位経った」


「……三時間だってばよ」


「まあまあ…二人とも、そんなに焦らないでも…………………はぁ」






前言撤回。

ちくしょう、最悪の一日だ。





あの野郎…どこほっつき歩いてやがる。

朝から良い事が有ったってのに台無しだ。ふざけやがって…。

あの気の長いサクヤですら深い溜息をついている始末。顳顬に手を当てて頭を振るという珍しい光景が見える。

全く…ついてねぇぜ。オレ達第七班は…。



あまりにも暇すぎて周囲を見渡していると、見覚えのある顔ぶれが。

任務を終えたのだろう。ベラベラと喋り合いながら真っ直ぐ忍者学校へと向かっていく。

その表情は達成感か何かで満ち溢れているようにも見える。

…かたやオレたちはなんだ?

来る様子もねぇ上忍を三時間待ちかよ…惨めで情けねえ状況だな。







「あー…オレ、明日から予定時間より二時間遅く来るってばよ。あほくせー…」


「フン……二時間ズラしても一時間は待たされそうだけどな……」


「それもそうだってばよ……どうすりゃいいんだ……」


「先生もきっと何か事情があるんでしょう…仕方ないですよ。……仕方ない、ですよね…?」


「仕方あると思うぞ…これは」


「仕方あるってばよ…」





はぁー…、と三人の溜息だけが虚しくシンクロした。















それから約三十分後。

ようやく姿を現したくそ担当上忍。

ヘラヘラと笑いながらこちらへ手を振っているその姿が最高に腹が立つ。




「やー諸君!おはよう!」


「おっそいってばよぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!」


「…遅すぎです」


「ウスラトンカチが……」


「いやーあははは…ちょっと用事があってね。ところでサスケ、そのウスラトンカチって…」


「ナルトは一番乗りで来てんだよ。アンタ以外に誰がいる」


「まったくだってばよ……明日からはちゃんとハンセーして早く来てくれよ…」


「本当ですよ。でも…ナルトくんがお説教って、なんだか変な感じですね!」


「サクヤちゃんも大概失礼なやつだってばよ……」


「うんうん、仲が良いようでよろしい!よし、じゃあ任務と行きますか」


「やっとだな。で、正式な初任務は何なんだ」


「ま、とりあえず皆。これをつけてくれ」





そう言ってカカシから手渡されたのは、小さな耳当て。

何だこれは?何をするつもりなんだ…?






「何ですか?これ…」


「小型の無線機だよ。これで離れていても連絡を取り合う事が出来る。…『こんな風にな』」


『わっ、すごい。先生の声が片耳に大きく聞こえる。気持ち悪いですね!』


『お前、結構酷い事言うね……オレの声の事を言ってるんじゃないと祈っとくよ…』


『うぉーっ!すげェー!!こんなの初めて付けるってばよ!!』


『うるせえぞナルト。耳に響く』


『サスケのムカつく声も良く聞こえるってばよ……』


『皆付けたみたいだな。それじゃ…行くぞ』


『何処へ?…何をしに?』


『迷子の捜索と捕獲だよ』


















『目標との距離は?』


『5メートル!いつでもいけるってばよ!』


『オレもいいぜ』


『私もオーケーです』




大木の影に隠れてじっと待つ。

対象はすぐ目の前。足にチャクラを込めていつでも飛び出せるように用意しておく。

あとはカカシ先生の合図を待つだけだ。他の二人も同じく用意は済んでるんだろう。

任務内容はただ一つ。目の前のターゲットを捕獲するだけ。

目標はオレたちに気づきもせずに呑気に茂みをガサゴソと漁っている。

これなら簡単だ。逃げられる前に捕まえて任務完了だ。




『よし!–––––やれ』





カカシの合図と共に足に込めたチャクラを開放し、一気に加速する。

三人同時に飛び出すが、目標との距離が一番近いのはナルト。

これならあいつに任せればいいか。そう思い直ぐに減速体制へと入った。



間髪入れずにターゲットを強く抱き締めるナルト。

ニャー!!と大きな悲鳴が聞こえるがもう逃げられはしない。


「つっかまえたぁーーーーーーーーっ!!!」





…任務完了か。くっだらねェ……。


『右耳にリボン…目標のトラに間違いないか?』


『ターゲットに間違いない』


『イデデデデデ!!!引っ掻くなってばよぉ!!』


『シャーー!!!』


『あはは。ナルトくんの無線に猫が入っちゃってますね』


『よし!確かに猫だな。迷子ペット“トラ“捕獲任務、終了!』



ガリガリと顔を引っ掻かれ続けるナルトを尻目に空を見上げる。

そこには眩しいだけの鬱陶しい太陽の姿。




こうして、初めての任務はあっけなく幕を閉じた。

待たされた時間は約四時間。

任務時間は二十分。











……ちくしょう、今日は最悪の一日だ。





[42250] また捜索任務
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/23 22:05








『見つかったか?』


『何処にもいねェってばよ……』


『こっちもいねえな』


『うーん…見当たらないですね』


『やれやれ…こりゃ夕方になっちまうね』


『どこかの遅刻魔上忍さんがもっと早く来てくれれば結果は違ったでしょうね』


『そうだな』


『その通りだってばよ』


『大人しい子だと思ってたんだけど…結構ズバズバ言ってくるね、サクヤ……』


『風が強くてよく聞こえません』


『ハハハ』






今日の任務もまた迷子の捜索。今回のターゲットは白い子犬のペロちゃんです。

これで何度目のペット捜索なんだろうか…この里の人たちはペットを逃しすぎですね…。

周囲をくまなく探していくが特に何も見つからない。

かれこれ二時間以上は探している。一体何処に行ってしまったんでしょう…。

夕方までそう時間がないから早く見付けなきゃ。夜になってしまえば探すのは困難になってしまう。

おーい。ペロちゃーん……。呼び掛けるその声は風に流され掻き消された。ここに来てからやけに風が強い。

犬は耳が良いらしいからこの声もきっと聞こえるだろう。もしここに居れば何かしらのアクションが有る筈。

時間の無駄だ、別の場所に行こう。そう思った時。







『……あれか?見つけたッ!!』


『何処だってば!!』


『第四演習場!水遁訓練場の広場近くだ!…あっ!テメェ!!逃げんじゃねぇ!!』


『あっちかよ…今から行くってばよ!』


『すぐ近くですね!私もそちらへ向かいます!!』


『キャンッ!!キャイン!!!』


『おー、その鳴き声。犬に間違いないね』


『待ちやがれ!!クソッ!!チィッ……見失った。足の速ぇ犬だな』


『居る場所がわかっただけでもお手柄ですよ。そう遠くへは行かない筈です』


『まぁな…付近を捜索してみる。早めに来てくれ。それにしてもあの犬、やけにビビってたな』


『大方すごい形相で追いかけてたんじゃないですか…?サスケくんの顔は結構怖いんですから、そりゃあワンちゃんも逃げますよ』


『オイオイ。昔のお前と同じ事言うなよ…勘弁してくれ』


『ま!!動物の事ならこのナルト様に任せとけ!!』


『猫に引っ掻き回されてた奴が良く言うぜ』


『あのトラとかいう猫。今度会ったら覚えとけってばよ……』


『……あの飼い主なら逃げるのもわかりますけどね』


『まあな…』


『…お前達。あれでも一応依頼人なんだけどねぇ…そこんとこちゃんと理解してる?』


『すいません、カカシ先生。ノイズが酷くてよく聞こえないです』


『もしかしてオレのこと嫌いなの?サクヤ。ねぇ』


『はい!』


『それは聞こえるんだ……流石のオレもちょっとショックだなあ』


『……プッ』


『ふふっ。冗談ですよ』


『あっははは!サクヤちゃんもいいキャラしてるってばよ』









くだらない会話をしているうちに第三演習場が見えてきた。

大きな広場の周囲の木々には鋭利な刃物で斬られたような傷跡がいくつも。

初めて来たが、ここが風遁の訓練場か。風遁は切れ味抜群なのですね…。

少し歩いて行くと、前方に人影が見えた。誰かが練習をしているのだろうか。

危ないし、あまり近づかないように–––––。





「風遁・風塵の術!」


「……きゃあっ!?」


『サクヤ?どうした!!』




突然起きた巨大な嵐によって体を吹き飛ばされる。

あまりに突拍子な出来事に、受身も取れずに体を大きく地面に叩きつけてしまった。




「あっ、痛たたた…」




凄まじい風の衝撃波と砂埃に圧倒される。さっきまで風が強かったのはこれが原因か…。

それにしても、これが風遁。遠くから見ていただけで凄い威力だ。まともに正面から喰らってしまったら…。

先ほど見た木々の傷跡を思い出して背筋がゾッと寒くなる。あまり考えたくない。






「ん?……あっ!オイ!大丈夫か!!」






こちらに気づき慌てて駆け寄ってくる大人の男。

髭もじゃもじゃでワイルドな見た目の人だ。雰囲気からして強そうな……上忍でしょうか?




「は、はい!大丈夫です」


「フー、焦ったぜ。此処は危ねえから近寄らない方がいいぞ」


「すみません…任務中だったもので」


「おっ、そりゃあ悪かったな…って、あ?お前、カカシんとこの下忍か?」


「はい。第七班のうちはサクヤです」


「やっぱりか。俺は猿飛アスマ、第十班の担当上忍だ」


「十班っていうと…シカマルくんやいのさんの班ですね」


「そうだ。それにしてもまだ任務中なのか?俺たちは午前中で終わっちまったんだが…随分と長い任務だな」


「いえ、任務自体はまだ三時間も経っていないんですけど、カカシ先生が…」


「あー、もういい。それ以上言わないでもよーく分かるから。大方遅刻してきたってトコだろ」


「有名なんですね…」


「そりゃあな。あいつは昔から遅刻魔だからな」





やれやれ、といった表情で頭を掻きながらそう言うアスマさん。

昔から、ということは…改善される見込みは薄そうですね。……そんなぁ……。







『ねーアスマ。そっちの会話まる聞こえなんだけど』


『聞こえているなら反省してくださいよカカシ先生。アスマさんも頭抱えてますよ』


『やースマンスマン。アッハッハ』


「ん…?なんだ。無線でもつけてんのか?」


「そうです。カカシ先生が今ヘラヘラと笑ってます」


『表現の仕方に悪意を感じるんだが……』


「カカシの奴……。無線をつけてるってことは迷子探しってトコか」


「はい。…そうだ、アスマさん。これくらいの大きさの白い子犬を見ませんでしたか?」




手で三十センチほどの幅を作り大きさを説明する。

それを見て少し考え込むような仕草をすると、彼は首を横にゆっくりと振った。




「んー…。いや、見てねえな」


「そうですか…だとするとやっぱり第四演習場の方にまだいるんでしょうかね。ありがとうございます。任務中なので、それでは」


「おう。任務頑張れよ。カカシには俺がよーく言っといてやるから」


「よろしくお願いしますね。……本当に」





バイバイ、と手を振ると向こうも笑って手を振ってくれた。

優しい先生だったな。…変わってくれないかな。





さて、思わぬところで新しい術を見れてしまった、というか体感してしまったが任務に戻らなければ。

第四演習場まではここから歩いても四、五分といったところか。

ここから先は何処にペロちゃんが隠れていてもおかしくはない。ゆっくりと神経を研ぎ澄ませて進もう。

















しばらく歩いていくと、何処かから悲しげな犬の鳴き声が聞こえる。

ペロちゃんだろうか?キョロキョロと辺りを見回して音の出所を探る。

うーん?見当たらないな…。

声のする方へ歩いて行くとだんだんとその鳴き声は大きくなってゆく。





「クゥーン…クン…」


「むむむ…?何処でしょうか……」


「キャンキャン!キャーン!!」



突然鳴き声が大きくなって少しびっくりした。

声のする場所は……上か!

素早くその方向へ目を向けると、真っ白な子犬が耳を垂らせてとても悲しそうな表情でこちらをじっと見つめていた。

逃げていたところで木に登ったら降りられなくなってしまったのだろう。

足へチャクラを込めて高く跳躍すると、なるべく刺激しないようにそっと彼のいる木の上へ着地する。

そのまま姿勢を低くしてしゃがみ込むと両手を彼の方へと差し出す。




「ペロちゃん…ほら。怖くないよ…おいで」


「くぅん……」


「大丈夫。私は何にもしないよ……」



できるだけ優しい声で、優しい表情でそう語りかける。

ここで無理に捕まえようとして逃げてしまえば、木から落下して怪我をしてしまう恐れがある。

追いかけて逃げるならこちらから待つだけのこと。

少しの間そうしてゆっくりと語りかけていると…。



「くぅーーん」


「…ふふ、くすぐったい」



こちらにそーっと近づいてくると、私の手をぺろぺろと舐め始めた。

暖かい子犬の舌が手のひらをなぞるその感触がくすぐったくも少し心地よい。

そのままゆっくりと両手で彼を抱えあげるようにすると、大人しく私の胸の中へ抱かれてくれた。

ふう……。任務完了ですね。





『カカシ先生。ペロちゃんの捕獲に成功しました』


『おっ!さっすがサクヤちゃん!サスケとは違うってばよ!』


『やかましいぞウスラトンカチ。あれはあの野郎が臆病だっただけだ』


『よし。じゃあ忍者学校前に集合だ。くれぐれも逃すことのないようにな』


『大丈夫です。…この子、私の手の中で眠っちゃいました』


『なら心配は要らないか。じゃ、集合!』





スースー、と安らかな寝息を立てて眠る小さな命。

見ているととても可愛くて癒されるようだ。

起こさぬように彼の頭をそーっと撫でるとサラサラとした白い毛の肌触りが気持ちいい。





「………行こっか」



衝撃で起こしてしまわぬようにそっと地面に着地すると、アカデミーへ向けて歩き出した。
















「あぁ…ペロ!どこ行ってたんだ!!心配したんだからな…!」


「ワンッ!」



無事に飼い主と再会出来たペロちゃんは尻尾を元気に振りながら大きく吠えた。

窓から照らす夕日で白い体が少し橙色に染まる。すっかり遅い時間になってしまった。

飼い主の男の人は目に少し涙を浮かべながら私たちへ向けて大きく頭を下げた。本気で心配していたようだ…見つかってよかった。




「本当にありがとうございます!!もしこの子に何かあったらと思ったら心配で心配で…」


「礼には及びません。私たちの仕事ですから」


「いやあ…本当に助かりました。ありがとう、小さな忍者さん」


「いえ。見つかって本当によかったです。…じゃあね。ペロちゃん。もうどっか行っちゃダメだよ」


「わんっ!!」




尻尾を振りながらこちらをじっと見つめる小さな姿を見送っていると、最後に飼い主はもう一度深く頭を下げて去って行った。












「無事に任務完了だな。…お疲れさん」


「オッス!ああやって感謝されっと、悪い気はしねーってばよ」


「そうですね…良かったです。本当に」


「まあな。さーて、さっさと帰ろうぜ…腹減った」


「すっかり遅くなっちゃいましたね。どこかで夕食食べていきませんか、サスケくん。ナルトくん」


「お、いいねー。行くってばよ」


「ま、今日はお前たちも頑張ったしな。特別にオレが奢ってやるよ」


「やったーーーー!!オレってばとんこつラーメンが食いたいってばよ!!」


「お前…またラーメンかよ…。たまには違うもんにしようぜ…」


「あはははは!」








窓から差し込む夕日が、明るく私たちを照らしてくれていた。












[42250] 波の国編1 出発
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/30 22:17




現在時刻は午後の二時。



今日の任務が思ったよりも早く終わってしまったので火影さまが次の依頼のリストをペラペラとめくっている。

忍者とは言っても下忍の新米だとまるでなんでも屋さんの様な感じなのですね…。

まあどの忍もこうやって任務を積み重ねて成長してきたのだろうから文句は言えない。

キセルから煙をもくもくと登らせながら何枚もの紙を眺める火影さま。

ううむ…と唸りながら行うその姿を見ているだけでも大変そうな仕事だというのがわかる。

何十何百という任務の中から新人の私たちでも出来る仕事を割り当てなければいけないのだから。

もし間違って危険な任務を与えてしまって忍者が怪我をしたり亡くなってしまったりすれば火影さまの責任となってしまうのだろう。

…里のトップというのは色々と苦労がありそうですね。

しばらくそうして依頼書を眺めていると、彼は一枚の紙を掲げた。



「…さて!カカシ隊、第七班の次の任務はと……んーーーーーー、老中様の坊ちゃんの子守りに隣町までのおつかい、イモほりの手伝いか……」


「ダメーーーーーッ!!そんなのノーサンキュー!!オレってばもっとこうスゲェー任務がやりてーの!他のにしてェ!!!」



任務のリストを聞くなり突然叫び声をあげるナルトくん。

手で大きくバツ印を掲げて激しい拒否の意思を表している。

……ああ、やっぱり……彼のことだからそろそろ我慢出来なくなるんじゃないかと思っていました…。

まあ、でも彼の言い分も正直なところ良くわかる。

これではアカデミーに通っていた頃の修行の方が辛い日々だったから。任務の方が楽なのでは拍子抜けしてしまうというものだろう。

下忍の私たちが文句を言える筋合いは無いのだが……ナルトくんにはそんなことはお構い無しだ。

やれやれ…と溜息をつく火影さまの横に座っていたイルカ先生が、ナルトくんの言葉を聞くなり立ち上がって怒り出した。




「バカヤローーーーーー!!お前はまだペーペーの新米だろうが!誰でも初めは簡単な任務から場数を踏んでくり上がってくんだ!」


「だってだって!この前からずっとショボい任務ばっかじゃん!」


「いいかげんにしとけ、こら!」



ゴチン!とカカシ先生に頭を叩かれるナルトくん。

イッテェー、と叩かれたところを押さえてうずくまっている。けっこう痛そう…。




「ナルト!お前には任務がどういうものか説明しておく必要があるな……。いいか!里には毎日多くの依頼が舞い込んでくる。子守りから暗殺まで。

依頼リストには多種多様な依頼が記されておって……難易度の高い順にA・B・C・Dとランク付けされておる。

里では大まかにワシから順に…上・中・下忍と能力的に分けてあって、依頼はワシ達上層部がその能力にあった忍者として振り分ける。

で……任務を成功させれば依頼主から報酬金が入ってくるというわけじゃ」




…流石は火影さま、というだけあって…説明が非常にわかりやすい。

要点を掻い摘んで簡潔に、尚且つ重要なことを省かないように…私たちでもわかりやすく説明してくれた。

…と、言ってもコレは全てアカデミーの座学で全て学ぶ内容なのだけど。



「とは言ってもお前らはまだ下忍になったばかり。Dランクがせいぜいいいとこじゃ」


「……きのうの昼はとんこつだったから今日はミソだな」


「聞けェェェェェイ!!!」




あぐらをかいてそっぽを向きながらそんなことを呟くナルトくん。

彼には火影さま直々のお勉強よりも今日の夕飯のことの方が重要性が高かったらしい。

流石は座学ダントツドベのナルトくんである。ちゃんと勉強すれば普通に上位にいけたと思うんですが…。

彼のそんな様子を見てカカシ先生が頭を掻きながら火影さまに謝っている。

先生も苦労人ですね……。

初めて彼に同情してしまった。あ。遅刻の件があるのでやっぱり同情しない。




「あーあ!そうやって爺ちゃんはいつも説教ばっかりだ…けどオレってばもう…!いつまでも爺ちゃんが思ってるようなイタズラこぞうじゃねェんだぞ!」




受付に座る二人へと、力強い言葉を投げかけるナルトくん。




彼は変わった。

……らしい。サスケくん曰く。

ナルトくんの変化のそれには私が関係してると彼が言っていたが、正直以前のナルトくんを知らない私にはよくわからない。

私の知る限りの彼は大きな夢を持った明るい少年。その前の彼を知っているのは、たぶんその前の私だ。

それに…私に彼を変えるだけの何かがあったのだろうか。その疑問は今の私ではきっと…永遠にわからないだろう。



ナルトくんの主張を聞くと、先ほどまで険しい表情だった火影さまとイルカ先生の顔が少しずつ綻んでいく。

優しい親のような表情で彼を見る二人。

彼らの顔を見ればわかる。きっと二人にとってはナルトくんは自分の子供のような感じなのだろう。

愛情というものを知らない私にはよくわからないが…。私は両親の顔も知らないから。




「三代目。こう見えてもこいつらは鈴取り演習でオレから鈴を奪い取った唯一の新人。チームワークはなかなかのもんです。

…ここはひとつ、オレに免じて少しランクの高い任務を受けさせてやってくれませんか」


「なっ…カカシさんから、ナルトたちが!?」


「こやつらが、か…?」


「ええ。ナルトの陽動にサスケの攻撃。最後はサクヤの幻術でやられました。チームワークはなかなかのもんです」


「ほう……ワシが修行に付き合ってやった甲斐があったというものじゃ」


「へへ…オレたちってば、意外とカカシ先生から評価たけえんだな」


「当然だろ。新人のオレたちが上忍に一発かましてやったんだからな…。もっとも、お前は最後の方は縛られてただけだったけどな」


「うるせー。体調が万全だったらオレの影分身でラクショーだったんだってばよ」


「フン、どうだか」





正直意外だった。カカシ先生は私たちのことをそんなに認めてくれていたのか。

手を抜いた先生から鈴を奪っただけなのだが。もし先生が本気を出せば、私たちは数秒と持たないだろう。

それでも高い評価を下してくれるということは、やはり大事なのは個々の能力よりもチームワークというわけか。

私たちは三人で一つなのだから。






「ふむ………よかろう。お前がそこまで言うのなら…Cランクの任務をやってもらう。ある人物の護衛だ」


「だれ?だれ?大名様!?それともお姫様!?」



高ランクの任務にワクワクを隠し切れない表情で騒ぎ出すナルトくん。

…大名様やお姫様の護衛任務がCランクっておかしいでしょ………ふふ。

ツッコミどころが満載の彼の言葉に思わず笑ってしまう。相変わらず面白い人だ。





「そう慌てるな。今から紹介する!……入って来てもらえますかな」


ガラガラと鈍い音を発てて入り口のドアが開いた。

入って来たのは額にタオルを巻いて大きな荷物を背負った、いかにも職人さんという風貌の老人。

手に持ったお酒をぐいっと勢いよく飲み下すと怪訝な顔で私たちを見回す。



「なんだァ?超ガキばっかじゃねーかよ!特にそこの一番ちっこい超アホ面…お前それ本当に忍者かぁ!?お前!」


「アハハ…誰だ一番ちっこいアホ面って……」



キョロキョロと隣に立つ私とサスケくんを交互に見回すナルトくん。

この中で一番背が高いのはサスケくんだ。次いで私……つまり。



「……ぶっ殺す!!!」


「これから護衛するじいさん殺してどーする、アホ」



暴れ始める彼の首根っこを掴んでそう窘めるカカシ先生。

最初からこんな調子で大丈夫だろうか…不安が尽きない。

老人は暴れるナルトくんを冷ややかな目で見つめると、メガネをクイッとずらして言った。



「わしは橋作りの超名人、タズナというもんじゃわい!わしが国に帰って橋を完成させるまでの間、命をかけて超護衛してもらう!」













「護衛任務、ですか……。長い旅になりそうですね」


「まぁな。ま!Cランクの任務で忍者対決なんてしやしないから心配すんな」


「オレってば里から出たことねーからワクワクするってばよ!!」


「相変わらず騒がしい奴だな…ウスラトンカチ」


「おい!本当にこんなガキで大丈夫なのかよォ!」


「ハハ…上忍の私がついてます。そう心配いりませんよ…」






先ほどからやけに不安そうにしているタズナさんになんだか違和感を感じた。

何故この人はこんなにも心配しているのか。まるで、誰かに命でも狙われているかのような…?

それに今さっきカカシ先生が言った『忍者対決なんてしやしない』と言う言葉に、一瞬ピクリと反応したような気が…。

いや。考え過ぎか。

新米の私たちに任せるような護衛対象がそんな人なわけないか…。ただの気のせいだろう。

少しそんなことを考えるが、また騒がしくなったナルトくんに意識を戻された。





「コラ!じじい!あんまり忍者をなめんじゃねェーぜ!オレってばスゲーんだからなぁ!」



ビシッ!とタズナさんを指さして強気の物腰で伝えるナルトくん。

どう考えても依頼人に対する態度ではない。まぁ…でも、ナルトくんですからね………。




「いずれ火影の名を語る超エリート忍者!…名をうずまきナルトという!覚えとけ!!!」


「…火影の名を騙る、にならねェといいけどな……」




ぼそりと小さく呟くサスケくん。すぐ隣を歩いているのでしっかりと聞こえてしまった。

サスケくんには珍しく微妙に面白いことを言うので、思わず少し笑ってしまう。




「火影っていやぁ里一番の超忍者だろ。お前みたいなのがなれるとは思えんが」


「だー!!うっさい!!火影になるためにオレってばどんな努力もする覚悟だってーの!!

オレが火影になったらオッサンだってオレの事認めざるをえねェーんだぞ!!」


「認めやしねーよガキ……火影になれたとしてもな」


タズナさんは彼の方を見ずに、吐き捨てるようにそう言った。

ぶっきらぼうなその老人の態度にナルトくんの眉間にどんどんと皺が寄っていく。


あぁ……出番です。カカシ先生…。




「ぶっ殺ーーーーーーーーーす!!」


「だからやめろ、バカ。コイツ」







この依頼人とナルトくんはまるで水と油。

……カカシ先生の苦労は耐えることがなさそうだ。










[42250] 波の国編2 写輪眼のカカシ
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/30 22:18


「カカシ先生。先生の得意な術って何なのですか?」


「ん。どうした、急に」


「いえ…ただちょっと気になっただけです」


「オレもそれは気になるな」


「ニシシシシ。何言ってんだってばよーサクヤちゃん。先生の得意技はカンチョーだろ。あん時奥義だ何だ言ってたし」


「えっ!本当にそうなんですか先生。………最低です、見損ないました」


「……あのさァ…アレはちょっとふざけただけだっての…」


「まああんなのぜってェ食らいたくはねえけどな……思い出したら怖くなってきた。影分身で良かったってばよぉ…」







しばらく皆でくだらない会話を続けながら歩くこと一時間。

目的地である波の国まではまだしばらくかかるらしい。

タズナさんが先ほどからやけに静かなのが気がかりだが、まあ特に気にする事も無いだろう。





「で、質問に答えろカカシ。お前の得意な術は何だ?」


「んー……得意な術、ねえ……ま!色々だ」


「色々と言われても……せめて何か一つくらいあるでしょう。私たちは班員なのですから、せめて少しでも教えて頂かないと…。知っていればもし先生がそれを使った時、私たちも気をつける事が出来ますし」



先日少し食らってしまった風遁の事について思い出す。

上忍ともなればあれくらいの規模の技を出す事が出来るだろうから、もしもの時に知っているのと知らないのとでは違いが有り過ぎる。

あの時風遁で思い切り吹き飛ばされたのも、何も知らなかったからだ。

もしあの術の範囲と威力を知っていれば受け身やらその場から離れるなどの対策も取りやすい。




「うーん、それを言われると弱いな」


少し考え込むような仕草を取る先生。

そこまで悩む事なのだろうか…?

暫く歩きながらそうしていると、突然先生は左目を隠していた額当てをクイッと上に持ち上げる。

額当ての裏に隠されていたのは、閉じられた瞼とそれに付随する縦一直線の大きな傷跡。

痛々しくも見えるその傷をまじまじと眺めてしまう。…もしかして、見えないのだろうか…?





「…カカシ先生」


「その目ってば…」


「…フン。その傷跡と術に何の関係がある?」


「ま、そう焦るなよサスケ。きっとお前ら驚くから」


「おっ!おっ!?何だってばよ!?なんかスゲーの!?」







一文字に閉じられていた瞼をゆっくりと開いていくカカシ先生。

あまりにもゆっくりなその動作に少しもどかしく感じる。

ドキドキと緊張と期待で先生をじっと見つめる私たち。今だけは護衛任務の事も忘れてしまっていた。

その奥には一体何が隠されているんだろう。私たちの驚くほどの何が。



…まさか、特注の爆発する義眼とか?



そんなわけないですよね…と、あほな考えを捨て去る。目が爆発しても被害が有るのは自分だけじゃないか…。

いや、もしかしたら……チャクラで飛ぶのかも?もしそうだとしたら。





カカシ先生の左目が飛び出して相手にぶつかると大爆発するイメージが浮かんだ。




(食らえ!!義眼爆発!!ドーーーーーーーン!!!)


(ぬわーっ!死んだァァァァアアアアア)





爆発に巻き込まれて死んでしまう妄想の中の敵。

……いや、ないな。格好悪過ぎるでしょう…。ぬわーって何だ、死んだーって何だ。どんな断末魔なんですかね…。

第一、一回使ったらおしまいではないか。不意打ちの一撃にしても効率が悪過ぎるだろう。

何ヘンな想像してるんだ?私……。っていうか私の中のカカシ先生のイメージはどうなっているんですか。



妙な妄想を膨らませてワクワクしていると。

完全に開かれたその瞼の奥には––––––。











「––––––!?」


「なっ…!バカな………!」


「なんで先生がそれを持ってるんだってばよ…!?!」





––––––下らない妄想よりもずっと衝撃的な現実が有って。







「写輪眼!?」



























「何故だ…何故お前がその目を持っている」


「ハハハ。ほら、驚いた」


「え?え?オレってば初めて知ったってばよ…カカシ先生ってうちは一族だったのか」


「んや。オレはうちはじゃあなーいよ」


「じゃあ…一体どうして」


「ま!それを教える気はないな」



ハハハ、と乾いた笑い声をあげて額当てを下げるカカシ先生。

…びっくりしたな。まさか写輪眼だなんて、想像すらしていなかった。

でも、どうやって…?写輪眼はうちは一族だけの固有の血継限界のはず。

どうして一族では無いカカシ先生が…?




「………テメェ」



ゾッとするほど冷たいその声に驚愕する。

声の主であるサスケくんの方を向くと、手をブルブルと大きく振動させている。両手に思い切り力がこもっているのがハッキリと判った。

その目に映るのは、紛れもない怒りの感情。初めて見るサスケくんのそんな顔を見て、初めて彼に純粋な恐怖を覚えてしまった。

両目に宿る真っ赤な写輪眼が、彼の怒りの気持ちを表しているかの様だった。







「–––––その眼を何処で手に入れたァァァァァァァアアアアア!!」


「オイ!サスケェ!!」


「………!やめてっ!!」



今にも先生へと飛びかかりそうな彼の前に立ち、宥める。

必死に手で彼を制止する。その目には私が写っていないみたいだ。

はぁはぁと荒い息をたてて先生の方を睨み続ける彼とは対照的に、カカシ先生は深い溜息をついた。






「…こうなるかも、と思ってあんまり見せたくなかったんだよなァ……。サスケ。お前は…この写輪眼を、オレが他のうちは一族から奪ったと思ってるんだろ」


「それ以外に何が有るってんだ!!!あぁ!?」


「やめて!サスケくん!先生がそんな事するわけないでしょう!」




全く耳に届いていない私のその声。

こんな…仲間割れだなんて、私は………嫌だ。

バラバラなんて…嫌!!




「その眼を誰から手に入れた!誰を殺したんだァ!!」


「落ち着け!サスケ!!」


「やめろってば!!!」



必死に彼を宥めようとするカカシ先生とナルトくんの声も彼には届かず。

サスケくんは本気で怒っている。何故…?なんで…?




聞いて、という願いだけを込めて大きく息を吸い込む。下腹部へと全ての力を注ぐ。

……………やめて。


お願い…。



やめて!!





「…………サスケッ!!!!」


「!?」





私の今出せる最大限の音量で彼の名を叫んだ。

焦りのあまり『くん』を付ける事も忘れて、喉がヒリヒリと痛むほどの大声を出した。







「サクヤ………?」









目を大きく見開いてすぐそばの私をじっと見つめるサスケくん。

どうやら私の声は彼に届いたみたいだ。

何故だかとても驚いた顔をしているが…。そんなにびっくりする事だろうか?

でも、良かった。何だか分からないけど、落ち着いてくれたみたいだ。






「やめて下さい、サスケくん。カカシ先生がそんな事をするような人じゃないって事くらいは分かっているんでしょう?」


「…………。」




黙ってカカシ先生の方を向くサスケくん。その視線には先ほどの怒りの表情は消えていた。

疑念のような表情はまだ残っているが、ひとまずは大丈夫そうだ。




「落ち着いたか、サスケ」


「…あぁ」


「突然怒り出すからびっくりしたってばよぉ……」


「…私も。あんなサスケくんは、嫌。嫌いです」


「……っ。すまなかった、サクヤ」



私の方へ素直に頭を下げるサスケくん。




「謝るのは私じゃ無いです。そうでしょう?」


「あぁ。そうだな…悪かった、カカシ」


「ま、いいって事よ。それより……気になるんだろ?」



カカシ先生のその問いに、私たち三人揃って深く頷いた。




















ふー、と少し息を吐き出すと決意した様子で語り始める先生。

その視線はどこか物悲しい。






「オレにとっても忘れられない過去でな。あんまり人には話したくは無いんだが。…この眼は、戦争の時にオレの班の仲間から託された物なんだ」


「託された…?」


「そうだ。細かい説明は省くが、オレは敵の攻撃で左目をその少し前にやられてしまってな。あいつは敵にやられて死ぬ寸前だった。オレの、唯一無二の親友だった男だ」


「…っ」


「最期の最期。逝く寸前に、写輪眼をこの左目に移植してくれたんだ。『お前の眼になって、これから先を見てやるよ』ってな。そう言って。あいつは死んだ」


「…そんな、事が」


「戦争、ってのはそういうものだ。人が傷つき、大勢が死ぬ。もうオレは……あんな思いをするのは、たくさんだ」






そう言って遠くを見るカカシ先生。

目の前で親友が死ぬのを見るだなんて……辛すぎる。もし私の目の前でサスケくんやナルトくんが死んでしまったら…。

きっと正常ではいられないだろう。







「それからオレはあいつから貰ったこの眼を使いこなして強くなってきた。『写輪眼のカカシ』なんて通り名で呼ばれる様になってな。全てあいつのおかげだ」


「カカシせんせェ………」


「ま!そういうわけで、オレの得意な術はこの写輪眼かな」




暗くなってしまった雰囲気を明るく戻そうとしたのだろう、努めて明るい表情に変えると穏やかな優しい声でそう言った。

隣を見ると、サスケくんが暗い顔をして俯いている。先ほどの怒りが見当違いだった事に気付いたのだろうか。



「……カカシ」


「ん!どうした」


「あんな事言って………すまなかった」


「…ま!さっきも言ったでしょ、いいっての!さ、先を急ごう。ちょっと時間食っちまったからな…すいませんね!タズナさん」


「……別に、いいさ。アンタなら…この任務、任せられそうだ」





少し遠くで話を聞いていたであろう老人は、やはり悲しい表情でそう言った。

私も同じことを考えていたところだ。





……この先生なら、命を預けられそうだ。







[42250] 波の国編3 初戦闘
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/30 22:18







周囲をキョロキョロ見回していると、視界の隅に白い何かが動いているのが映った。

なんだろうと少し気になって薄眼になりそちらの方を向く。

目をよーく凝らして見てみると。

バサバサと両方の翼を上下に動かして一所懸命に宙を舞うその姿。

……鳥、かな。


真っ白な鳥が見えた。

大空を大きく横切る様に、翼をはばたかせ飛び去っていく。

大きさはわからないが、永遠にも見える空と比較してしまうとその姿はあまりにもちっぽけに見える。

形からして鷲か何かだろうか。白い鷲なんているんでしょうか…?

汚れ無き純白の翼は、私の好きな白い椿の花の様だ。飛翔と共に落ちていく羽がまるで花びらの舞いの様でとても美しい。

そのまますっと視界から消えていくその瞬間。一瞬こちらの方を向いた様な気がした。







「…綺麗」


「ん?どうした」




思わず声に出てしまったらしく、カカシ先生の問いが飛んでくる。

皆にも教えようと思い指をさそうとした時にはもうその姿は見えなくなっていた。




「……いえ。何でもな––––––––––––––」





振り向いて先生の方を向いた時。








視界に映るのはいたって普通の表情をしたカカシ先生の姿。

何だ?と聞いてきそうなその目をした先生。

その体には鎖の様な何かがぐるぐると巻き付けられており…。






…首が、胴体から離れていた。






ブシャアアア、とまるで噴水の様に多量に吹き出す真っ赤な血。

肉が裂ける嫌な音と共に先生の手が、足が、胴体がバラバラに崩れ落ちる。

ボトボトやベチャベチャといった粘着質な音を発てて地面に付着する肉片の数々。




「……へ………?」


「カ……カカシ先生ェ!!」


「チィッ!」


何が起きているのかさっぱりわからない。

これは何?この肉塊は一体?カカシ先生はどこに行っちゃったの?

頭の中に疑問の数々が湧いては消えていく。ぐるぐると思考が混乱して目が回るようだ。

あまりに現実感の無いその光景をただ呆然と眺めていると、両手を口に当てて声を出した時のような、籠もった男の声が聞こえた。





「………一匹目」





ハッとなり瞬時に意識を現実へ戻される。

声のする方へ目を向けると、ガスマスクのようなものを口に当てた二人の男。

その二人の額には、忍の証である額当てが。木の葉の文様では無い。つまり…。

これは、戦闘。アカデミーや鈴取り演習とは違う…本当の殺し合い。

何故私たちが狙われるのか。何故今このタイミングなのか。

疑念は尽きないが、やるしかない。

…これは、護衛任務。タズナさんを命を賭してでも守らねば。




「二匹目」



まるで幽霊か何かのようにスーッと消えたと思えば、次に現れたのは橙色のすぐ後ろ。

…ナルトくんが危ない!

瞬時にクナイを懐から取り出そうとするが、焦りのあまり僅かにもたつく。

後ろの敵達に気づいたナルトくんも何かの印を結び始めるが、敵は既に彼を囲むように鎖を引き込んでいた。

彼と鎖の距離はわずか数メートル。これじゃ間に合わない!!



そう思った瞬間、彼へと襲い掛かっていた二本の鎖の動作がピタリと止まった。

驚きに目を見開く二人の忍。



鎖を目で追っていくと、一本の木で留まっている。

よく見てみると鎖が手裏剣で押さえ込んであり、その手裏剣の穴にストッパーとなる形でクナイが刺さっている。

大きく手を引いて鎖を外そうとする彼らだが、しっかりと木に食い込んでしまったそれは容易には外れない。

ナルトくんへの攻撃を完全に封印したサスケくんは、ストッと軽やかな動きで鎖に繋がれた二人の腕の上へと着地すると、そのまま彼らの腕へ自分の腕を付ける。

その両腕で自分の体重を支えると、二本の足で二人の顔面を強く蹴り飛ばした。

ドカッ!と鈍い打撃音が周囲に響く。それと同時に二人の忍の苦しそうな呻き声が聞こえた。

すごい…。あの一瞬で状況判断に加えて的確な防御と攻撃を両立させるなんて。やはり彼は天才…。




見惚れている場合では無い。やるなら今だ…。

口から幾多の火の玉を吹き出すと、チャクラを練り上げ薄い手裏剣状に変化させる。

赤い手裏剣状の炎が回転と共に薄い円板状へと変化すると、それらを自分の周囲に滞空させておく。

鳳仙花の術の弱点であるスピードを補うために編み出した術だ。その分もとから決して高くはない威力が更に下がってしまうのが問題だけど…。

すぐにナルトくんに目を合わせると、お互いに頷き合った。





「多重・影分身の術ッ!!!」




シュボボボボボボ!!と連続したその音と共に無数のナルトくんの分身が現れる。

彼の得意の技、影分身。実体を持つそれらはどれが本物かなんて見分けはつかない。

驚いて周囲を見回す敵二人。既に彼らは幾多ものナルトくんの分身に囲まれて身動きが取れない。


そのまま大勢の分身達は二人に向かっていくと、ガチャガチャと騒がしく格闘を始めた。

何人ものナルトくんの分身が吹きとばされては煙と共に消えていくが、膨大な数の分身に次第に敵達が圧されていく。

しばらく人混みが入り乱れる様子を見ていると、蹴り飛ばされたであろう男二人が苦しげな表情で宙を舞った。




「今だ!サクヤちゃん!!」




ナルトくんの分身による人海戦術…流石です。分身で取り囲み確実に相手の体力とスタミナを奪っていく。

これなら、しっかりと的を狙って当てられる!




「火遁・睡蓮火の術!」



真っ直ぐに二人へと衝突した円板状の炎は、煙幕と共に小さな爆発を起こすと火柱を上げて儚く消えていった。





「フン…この程度か」



男の余裕そうな声が煙の中から響いてくる。そのまま男は腕を大きく振りかぶって煙幕をかき消した。

両腕で爆炎をガードしていたらしく腕部に火傷が出来ている。…やっぱり、大したダメージは与えられないか。

ガスマスクの男たちは腕に繋がれていた鎖を外すとこちらを睨みつけた。








「チィッ……ただのガキ共だと思って油断したな」


「まあいい。貴様らに出来るのはこの程度…ここで死ね」



シュバババ!!と素早い動きで印を結ぶ二人組。

何をするつもりだろうか…と警戒を強めると、サスケくんが叫び声を上げた。





「…マズイ!サクヤ!!奴の狙いは……」


「もう遅い…!水遁・水砲弾の術!」


「水遁・水塵壁!!」



多量の水が大きな壁となりサスケくんとナルトくんへと押し寄せていく。

素早く左右に飛ぶ事によりそれを回避する彼ら。変だ…まるで攻撃として使っていない様な、そんな気が…。

こちらを目掛けて真っ直ぐ飛んでくる水の弾丸を見て意識がそちらに向く。私狙いか…。




…いや、違う!水は私より少し右寄りに飛んでくる。狙いは私の後方にいる……タズナさんか!!

水塵壁で二人を邪魔出来ない様に妨害しておきながら、初めから彼をターゲットにしていたのか。

マズい。なんとしても止めなきゃ…。




「火遁・鳳仙花の術!」




複数の火炎弾を生成すると丸い水の玉へ向けて飛ばす。

火の玉は水砲弾へと衝突すると…破裂せずに、シューと音を発てて鎮火してしまった。

水砲弾の威力は全く弱まりはしない。やはり駄目か!水と火では相性が悪すぎる…。

このままじゃタズナさんに術が当たってしまう。そうなれば護衛任務は失敗。

こうなったら…!




意を決してタズナさんの正面に立つと、両腕を大きく広げて庇う態勢をとる。

術で相殺出来ないのならば、今の私に出来る事はこれしかない。





「なっ…!」


「おじさん。–––––下がっていてください」


老人の驚く声が後ろから聞こえてきた。

襲い来る水の砲弾を真っ直ぐに見据える。水遁忍術だろうから、ただの水では無い筈…直撃すれば無事では済まないだろう。

でも、ここでタズナさんを死なせる訳にはいかない。せっかく火影様が任せてくれた任務を失敗する訳には…。







「サクヤァッ!!やめろォ!!」


「サクヤちゃん!!」



二人の悲痛な叫び声が耳に響く。

大丈夫…この程度で死にはしない。…はず。

心の中で後のことを二人に任せると、ぎゅっと瞼を閉じて衝撃に備えた。




「水遁・水砲弾の術!」







聞き慣れた声と共に全身に水飛沫を浴びた。

冷たい水が服を濡らし、肌に張り付く。これって…。

ゆっくりと閉じた目を開いていくと、まず視界に入ったのは緑色の鎖帷子。

見間違えるはずも無いその衣装は紛れもない私たちの担当上忍。







「……カカシ先生!!」


「よ。お前ら、すぐに助けてやらなくて悪かったな」






こちらを見てにっこりと笑う先生を見て強張っていた体から力が抜けていく。

水遁を水遁で相殺して私の事を守ってくれたのだ。

なんだろう、この安心感は…。初めて先生を見て心強いと思った。

先生のそんな姿を見て、はっとなって左を向く。

そこには先生の無残な姿は何処にも無く、残っていたのはバラバラに切り刻まれた丸太のみ。

…そうか。最初から先生は変わり身の術を使っていて…ということは、彼らが襲いかかってくることまで読んでいたのか。流石は上忍…。




「良く頑張ったな、お前たち。まさかここまで動けるとは思ってなかったよ…おかげでターゲットが絞れた」





ターゲットが絞れた…?何の話をしているんだろう。

そんなことを考えると、敵の二人が勢いよくカカシ先生目掛けて飛びかかって来た。




「仕留め損ねたか…まあいい。もう一度切り刻んでやる…!」


「あーもういいよ君たちは。もう詰んでるから」






走り行く彼らだったが、突然何かに躓いたかのように勢いよく転倒した。

顔を地面に叩きつけてしまい、呻き声が漏れる。

何があったのかと彼らの足を見てみると、そこには腕が一本ずつ、地面から生えるようにして彼らを足をしっかりと掴んでいる。

あの手袋は間違いない、カカシ先生だ。あらかじめ地面に分身を潜らせていたのか…。

二人はそのままその腕に地面へと引き摺り込まれると、頭だけを残して全身が埋まってしまった。




凄い…私たちが三人がかりで戦った奴らを一瞬で無力化してしまった。私の中のカカシ先生の評価が大きく上がった気がした。

ふー、と小さく息を吐いた先生は振り返ると老人の方へ視線を移した。





「………タズナさん。お話があります」






[42250] 波の国編4 偽りの任務
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/08/31 22:28






「…なぜ我々の動きを見切れた」



頭以外の全身が埋まった状態でカカシに問いかけてくる二人の忍。

じっとこちらを睨みつけてはいるが、この無様な状態では何も出来はしないだろう。

腐っても上忍というわけか。カカシを少し見直す。





「数日雨も降っていない今日みたいな晴れの日に水たまりなんてないでしょ」



どうやらカカシも道路に出来ていた水たまりの違和感に気付いていたようだ。

サクヤは空を見ていて気付かなかった様だが。…ナルトはそもそも疑問にすら思わねェだろうな。

安全を確認してこちらに近づいてきた爺さんがカカシに問いかける。





「…あんたそれ知ってて何でガキにやらせた?」


「私がその気になればこいつくらい瞬殺出来ます……が」




当たり前の様にそう言うカカシ。先ほどの動きを見る限りおそらく事実だろう。

ほんの数秒で無力化したコイツならば殺すことは容易い筈。




「私には知る必要があったのですよ……この敵のターゲットが誰であるのかを」


「…どういうことだ?」


「つまり…狙われているのはあなたなのか、それとも我々忍のうちの誰かなのか…ということです」




カカシのその言葉にハッとなって目を見開く依頼人。

そういう事か…。もしも護衛対象が忍者に狙われているとなれば、依頼の内容はウソだったという事になる。

それを知るためにワザと自分はやられたフリをして何処からか様子を伺っていたわけだ。

…まぁ、初めての実戦経験を積ませるという目的も少しはあったのかも知れないな。

少し怒ったような鋭い眼光で爺さんを見つめるカカシ。





「我々はアナタが忍に狙われているなんて話は聞いていない。依頼内容はギャングや盗賊などただの武装集団からの護衛だったはず…」


「……。」


「これだとBランク以上の任務だ…依頼は橋を作るまでの支援護衛という名目だったはずです」




黙ったまま下を向き俯く依頼人。コイツ…何らかの理由で任務内容を偽っていたって訳か。

CランクとBランクの任務では報奨金がえらく違った筈。おそらく金が無いとかそんな理由だろうか。下らねえ…。




「敵が忍者であるならば…迷わず高額なBランク任務に設定されていた筈…。何か訳ありみたいですが依頼でウソをつかれると困ります。これだと我々の任務外ってことになりますね」


「へ?へ?どういう事だってばよ」


「…話ちゃんと聞いてたのかよドベ。要するにオレ達はこの爺さんにウソの依頼をされてたんだよ」


「どうするんですか?カカシ先生…まさか、中止なんて」


「んーーーーーーー…」




彼女のその問いに空を見上げ考え込むカカシ。

…正直、他里の忍者と戦えるのならば任務を続けたいという気持ちはある。

が、そのためにサクヤを危険に晒す訳にはいかない。現に先ほどの戦闘でもカカシが助けなければサクヤは怪我をしていたかもしれない。

中止、だろうな。







「ちょっと話したいことがある。…依頼の内容についてじゃ」





ぼそりと呟き始めた依頼人。

何かワケあり、というわけか。





「あんたの言う通り、おそらくこの仕事はあんたらの任務外じゃろう…。実は、わしは超恐ろしい男に命を狙われている」


「…誰です?」


「…あんたらも名前ぐらい聞いたことがあるじゃろう。海運会社の大富豪、ガトーという男だ」


「え…!ガトーって……あのガトーカンパニーの?世界有数の大金持ちと言われる……!!?」






突然驚きの声を上げるカカシ。……ガトー?ガトーカンパニー?

……フン。全然知らねェな………。

チラリとサクヤとナルトの顔を伺うと二人とも疑問の表情を浮かべている。どうやら知らねえのはオレだけじゃねえみたいだな…。






「そう…表向きは海運会社として活動しとるが…裏ではギャングや忍を使い、麻薬や禁製品の密売…果ては企業や国の乗っ取りといった悪どい商売を生業としている男じゃ…」





大企業が裏で悪事を働いているなんてのはよくある話だ。

そのガトーとあの忍者に何の関係が…。





「一年ほど前じゃ…そんな奴が波の国に目をつけたのは。財力と暴力をタテに入り込んできた奴はあっという間に島の全ての海上交通、運搬を牛耳ってしまった。島国国家の要である交通を独占し今や富の全てを独占するガトー…そんな奴が唯一恐れているのが兼ねてから建設中の…あの橋の完成なのじゃ」






「…なるほど。それでタズナさんが邪魔だから…」


「あの忍者たちはガトーの手の者って訳か…」






考え込むオレたちを尻目に疑問の表情を浮かべたまま固まり続けるナルト。

…お前、やっぱりバカだろ……。






「しかし分かりませんね…相手は忍すら使う危険な相手…なぜそれを隠して依頼されたのですか?」


「確かに…初めからしっかりそれを伝えておけば、私たちのような新米ではなく優秀な木の葉の忍の方が来てくれたのに…」


「…波の国は超貧しい国で、大名すら金を持ってない。勿論ワシらにもそんな金はない!高額なBランク以上の依頼をするような、な…」







苦々しい顔をして吐き捨てるようにそう言った。

…木の葉の里しか知らなかったが、他国にはそんな里もあるのか……。

まあ確かに、自国で忍者が沢山居ればわざわざ木の葉に依頼には来ないだろう。

この爺さんの言っていることはまぎれもない事実だろうな…。







「こりゃ荷が重いな…。お前らにはまだ早過ぎる。里に戻るか」







それだけ言うとスタスタと元来た道を戻っていくカカシ。この依頼人には可哀想だが、安全を考えればそれが最善だろう。

他国の為に自分の班の生徒たちを犠牲にするわけにはいかない、担当上忍としての正しい判断だろう。

納得出来ないといった顔でその後ろ姿を見るナルト。根は優しい奴だからな、コイツは…。

ナルトが抗議のために口を開いて何かを言おうとしたその時、高い声が周囲に響き渡った。









「…待ってください!カカシ先生!」


「ん。どうした?サクヤ」


「ここで…此処で見捨ててしまったら、タズナさんは…」


「…気持ちはわかるがな。また忍が襲ってくるかもしれないんだぞ。お前たちはまだ若い青葉…こんなとこで死なせるわけにはいかないんだよ」


「そうならないようにカカシ先生がいる。違いますか」


「さっきみたいにお前を守れるとは限らないんだぞ」


「…っ」




暗い顔をして言葉を詰まらせるサクヤ。

カカシの言った事は正しい。もし次に出てくるのがカカシよりも強い忍者だとしたらオレ達を守っている余裕などないだろう。

もしそんなのが複数出てくれば、待っているのは死…。広い世界だ。イタチの様な奴が居ないとは限らない。







「……それならせめて、波の国までは護衛したいです」


「嬢ちゃん。ワシの事はもういい…先生の言う通りだ。あんたら若い忍が犠牲になる事はない」


「本気で言っているんですか…タズナさん。私たちがいなくなれば、あなたは」


「なーに、ワシがただの爺さんだと思ったら大間違いじゃ。こう見えても腕っ節が効いてな。その辺の忍には負けはせんよ」






強がる爺さんだがただの虚勢にしか見えない。忍者とは言わば殺しに特化した軍隊の様なモノ。爺さんが勝てるとは思えない。

というか…解っているんだろう。此処でオレたちが里に戻れば自分はどうなるのか。

忍者に命を狙われる一般人がどうなるのかなど。

タズナの言葉を聞き、ますます顔に影を落とすサクヤ。両手の拳に力が入っている様で、ブルブルと震えている。








「………ッ。私にもっと、力があれば……」







小さくそう呟く彼女。困った人を放っておけない性分なのは記憶が無くなっても変わらないらしいな。

こいつにこんな顔はさせたくない。もう二度と彼女に悲しい思いをさせたくない。

ふと横を見るとナルトと目が合う。ナルトはこちらと目を合わせるとゆっくりと頷いた。

…お前もオレと同じ事を考えているみたいだな。










「カカシ…任務は続けるぞ。せめて波の国まではな」


「…!サスケ、くん……」


「爺ちゃんが折角任せてくれた任務だしな!こんなとこでおしまいって訳にはいかねーってばよ」


「お前ら…いいのか?下手すりゃ死ぬかもしれないんだ…此処からはBランクの任務なんだぞ」


「ヘッ…こんなとこでくたばりはしねェよ」


「オレたち第七班のチームワークをなめるなってばよ!!」


「サスケくん…それに、ナルトくん」


「護衛を続けよう、サクヤ。お前はそうしたいんだろ?」


「はい…でも、いいんですか?私のわがままで危険な任務を続けても」


「へへ…水臭いってばよ、サクヤちゃん。オレ達は三人で一つのチームだろ」


「お前達…オレの事忘れてないですかね…。ま、いいや…タズナさん。今回だけはこいつらに免じて任務を続行します。いいですね」


「………ありがとう。それと、ガキなんて言って悪かったな。お前さん達は立派な木の葉の忍だ」



深く頭を下げてそう伝えてきた依頼人。

その姿を見てパアッと明るい笑顔を取り戻すサクヤ。

これでいい…こいつにはこの表情が一番似合う。今も昔もそれは変わらないな。








「…じゃ、波の国目指して行きますか!」


「オッス!!」












あとがき:原作なぞるのは書いていて楽でいいけど楽しくない…。



[42250] 波の国編5 再不斬
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/09/04 20:59







「もうすぐ国に着くぞ」




静かな波の音を掻き消す様に船のエンジン音がブォォーン…と鳴り響く。

目の前に現れたのは橋の下の巨大なトンネル。此処を潜っていくのだろうか。




「タズナ…どうやら此処までは気付かれていない様だが…念のためマングローブのある街水道を隠れながら陸に上がるルートを通る」


「ああ…すまん」




運転手である男は船の方向転換をさせながら爺さんにそう伝えた。

狙われているのが暴漢などではなく忍者なのだから、なるべく危険なルートを避けているのだろう。

こんな水の上で襲われるのは考えにくいが……一応周囲を警戒しておく事は忘れない。

サクヤも同じく険しい目付きで辺りをキョロキョロと見回している。

ウスラトンカチは初めて見る風景に先ほどからニコニコと満面の笑みだ。…お前、今オレたちが置かれてる状況わかってんだろうな……?




しばらく船を進めて行くと、やはりトンネルを通って行った。

エンジンの音が壁に反響し少し煩く感じる。

薄暗いトンネルの中を小さな電球の明かりだけが照らしている。

それにしても巨大な橋だ…。

トンネルの外から全体を見ていて思ったが、実際に内部へと入ると視界を覆い尽くす圧倒的な大きさに畏怖を覚えた。

こんなモノを作っているのか…この酒臭い爺さんは。





「フフ…どうじゃ。超凄い橋じゃろ?この橋もワシらが作ったんじゃ」



オレが橋に驚いているのがバレたのだろう、爺さんは得意気な顔でオレを見る。

確かにこれは超凄いな…。こんなもの、オレだったら作ろうとすら思わん。




「この橋で大体どのくらいの期間で作れるのですか?」


「うーむ…随分昔に作ったからいまいち覚えとらんのぉ…確か……二、三年くらいじゃったかのォ」


「うげー…オレだったら二、三日で嫌になるってばよ」


「大丈夫ですよナルトくん。心配しなくても、あなたに職人仕事を依頼する人は誰もいないですよ」


「まー確かに!!……って、それどういう意味だってばよ…」


「お前には無理だって事だよ、ウスラトンカチ。…ま、オレだったらそもそも作ろうとすら思わねェな」


「うーん…確かに、こんな大きなもの作ろうとは思えませんね…」


「オレ達忍者には任務って仕事がある様に、タズナさんの様な職人はこういうのが仕事ってわけだ」


「そういう事じゃ。ワシらは橋を作る事は出来ても忍術を使う事は出来んからの。超頼りにしてるぞ」


「頼りにしてるってばよ。カカシ先生」


「頼りにしてますよ。カカシ先生」


「頼りにしてるぞ。カカシ」


「……あのさぁ……お前らなァ………」


「はっはっはっは!!先生も苦労人じゃのぉ」





しばらく少し大きな声で会話を続けていると、トンネルの終わりが見えてきた。

半月状に広がるトンネルの外の風景は、先ほどの波と橋だけが見える風景と違い、木々が見える。




「アハーーーーーー……ヘーーーー……すっげェ…」



ナルトの感嘆の呟きが聞こえてくる。

驚いた事に、木々が水の中から生えてきている。

陸上の木々と比べると随分と細くて情けない姿だが、こんな湖の中でも木は生えてくるのか……。

里の外に出た事の無いオレには馴染みの無い風景ばかりが続き、不本意ながらも少し楽しくなってきてしまう。

…ダメだな。これじゃオレもナルトの事は言えねェな……。


















歪な形の木々を上手く避けながら船を進めていく。

そうしてまた同じ様な風景を見続ける事、一時間くらいだろうか。

小さな港の様な物が視界に写った。

船はその港目指して進んで行く。水の上を移動するのはここまでって事か。

エンジンを止めてゆっくりと船を漕いで行くと、橋に船を横付けする。

船を降り、今にも崩れそうな橋へと上がると、ギギギ…と嫌な音を発てる。

久しぶりの陸上だ。

何だかまだ足元が波に揺れているような、そんな錯覚に陥り少し気分が悪い。




「オレはここまでだ。それじゃあな…気ィつけろ」


「ああ…超悪かったな」



短い挨拶を済ませると、船はまた元来た道を引き返して行く。

ブーン…と遠くなっていくエンジン音に少し遅れる様にして、船の起こした波が小さな音を響かせた。





「よーしィ!ワシを家まで無事送りつけてくれよ」


「はいはい…」





此処からは陸地…。

何処に忍者が潜んでいるかも判らない。警戒して行かなければ。




















木々に囲まれた平坦な道を歩き続けること数分。






…なんだ。さっきから…誰かに見られているような気が…。

周囲を見渡すが特に目立ったものは見当たらない。ただ林が延々と続いているだけだ。

気のせいか…?なんだか嫌な感じだな…。






「…サスケくん」



小さく耳打ちしてくるサクヤ。どうやらこいつも何かを感じているようだ。

辺りを更に警戒していると、突然ナルトがホルスターから手裏剣を取り出す。

そして、近くの草藪へ向けて勢い良く投げつけた。






「そこかぁーーーーーーーーっ!!」





ヤツも何かの気配を感じていたらしい…何だか意外だ。

カカシが確認の為に草藪を掻き分けて進んで行った。

手裏剣が刺さっていたのは…。





「あ!」






頭のすぐ真上に手裏剣が刺さり、気絶してピクピクしている動物。

…なんだ…ウサギじゃねェか……。






「ひどい!ナルトくん…ひどい!!」


「そ…そんなつもりじゃ…ゴメンよウサこう!」


「なんだ…ウサギか!」




張り詰めていた空気が少し和らぐ。

ウサギの視線なんか感じるか…?違和感が強くなりカカシの方に視線を向けたその時。

突然ヤツは何かに気づいたようにこちらを振り向いた。





「–––––––全員伏せろ!!」




反射的に体を地面に付ける。

背後から、うごぉ!とナルトの鈍い声が聞こえてきたその一瞬後、巨大な何かが風を斬る音と共に頭上を通り過ぎてゆく。




それは、剣だった。

巨大な剣…それも、オレの体より遥かに大きな…。

回転しながら前にいるカカシの頭上を通り過ぎていった剣は、木へと深く突き刺さると大きな音を発てる。

物体をよく見てみると、とてもオレたちでは振ることが出来ない様な巨大な包丁の様な剣だった。

刺さった木が半分ほど抉れているのを見て、先ほどあんなのがオレ達目掛けて飛んできていたのかと思うと背筋が凍る。

あれは……ヤベェな……。

もしカカシの合図が無ければ全員お陀仏、今頃オレ達は空の上だろう。










木に深く刺さった剣の柄の部分へと降り立つ男。

カカシと同じ様に、鼻から下までを包帯を覆う事で隠している。

…こいつか、こんなデケェもん飛ばして来やがったのは……。

見ると、やはり頭に付けているのは霧隠れの文様が付いた額当て。前回襲ってきた奴らと同じものだ。

コイツも爺さんを付け狙って来やがったのか…。




「ヘーーーーーー、こりゃこりゃ…霧隠れの抜け忍、桃地再不斬君じゃないですか」




ふざけた調子でそう言うカカシだが、その背中から伝わってくる雰囲気だけでわかる。

かなり警戒している様だ…コイツがここまでなるとは、あの忍者はヤバそうだな…。




「お前ら……下がってろ。こいつはさっきの奴らとはケタが違う」



刺さった剣の上に立ったままのその男はカカシの声を聞くとゆっくりとこちらを向く。

男には眉毛が無い。そのおかげでより一層恐ろしい顔に見える。…まるで、鬼か悪魔の様な。






「このままじゃ…ちとキツイか……」






カカシは小さくそう呟くと、額当てへ手を伸ばした。

そのままゆっくりと隠されていた左目を露わにしていく。

……マジかよ。上忍のコイツが本気にならなきゃヤベェ相手、って事か…。







「写輪眼のカカシと見受ける。…悪いが、じじいを渡して貰おうか」


「……卍の陣だ。タズナさんを守れ…お前たちは戦いに加わるな。それがここでのチームワークだ」



額当てを上げ終えたカカシは、大きな傷の入った左目を開きそう言った。

ヤバそうな状況だが…カカシの奴の本気が見れる、って訳か。

さて、見せてもらおう………『写輪眼のカカシ』の、本気の戦い方を。








「再不斬。まずは––––––––––––––オレと戦え」







[42250] 波の国編6 無音
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2016/09/05 23:09






バッ、と素早く大刀を引き抜く再不斬。

そのまま足で木を蹴り空中を舞ったと思えば、一瞬にしてその姿が消える。

…速い!目で全く捉えきれない。

男は透明にでもなったかのように掻き消えたかと思えば、今度は少し離れた水面へ姿を現した。

大刀を肩に担ぎ、左手を高く掲げて印を結んでいる。






「あそこだ!」




少し遅れて気づいたナルトが大声をあげた。

あの男……何をする気だ。あんな形の印は今まで見た事が無い。






「忍法…霧隠れの術」





ボソリと呟いた男の声と同時に奴の体を濃霧が覆っていく。

男の姿が真っ白になって見えなくなったと思えば、再び水の上から姿を消した。

何処からともなく舞い落ちて来た木の葉が水面に波紋を象っていく。ゆらゆらと揺れ動くその波はまるで男が最初から其処に存在しなかったかの様だ。

……霧に紛れて奇襲するつもりか。






「消えた!?」


「…まずはオレを消しに来るだろうが…、桃地再不斬……こいつは霧隠れの暗部で、無音殺人術の達人として知られた男だ。気が付いたらあの世だったなんてことになりかねない。オレも写輪眼を全てうまく使いこなせるわけじゃない……お前たちも気を抜くな!」




カカシのその声に全員に緊張が走った。




音の無い世界に一人だけ取り残された様な錯覚に陥る。

ドクン…ドクン。心臓の鼓動だけが耳に入ってくる。

どんどんと濃くなっていく霧に周囲は全く見えなくなっていく。

真っ白な視界。すぐ近くにいるであろうサクヤとナルト、カカシの姿すらも白く映り込む。

一滴の汗が鼻から口にかけてゆっくりと滴り落ちていく感覚がハッキリと判った。




『––––––––––––––八か所』


「なっ……何!?」






少女の高い声がすぐ隣から聞こえて来た事に心の底から安堵した。

この濃い霧の中で奇襲をかけられたら悲鳴すら出す暇も無く死んでしまうかもしれない。

冗談じゃねえ…無音殺人術、だと…?

サクヤは絶対に殺させはしない。勿論ナルトもだ。

絶対に殺させはしねェ………!




決意を固め瞼をゆっくりと閉じると、チャクラを両目に集め写輪眼を形成する。

こんなもの…この霧の中じゃ全く役には立たないが、目に見えなくとも反射神経の向上には使える。

奴が奇襲をかけるにしろ、絶対に音は発てる筈。全て無音で完結させる事など出来はしないだろう。



やってやる。

…音だけを頼りに反撃してやる。

出来る出来ないではない。やらなければまた大切なものを失うだけだ。





『咽頭・脊柱・肺・肝臓・頸静脈に鎖骨下動脈……腎臓、心臓……さて、どの急所がいい?クク………』






何処からともなく響いてくる再不斬の低い声と共に、体を圧し潰すかのような殺気が漂う。

全身から汗が吹き出て体温が急激に冷えていくのが感じ取れる。

スゲェ殺気だ…眼球の動き一つでさえ気取られ殺される、そんな空気だ。

小一時間もこんなとこにいたら気がどうにかなっちまう…。

自分の命を握られているかのような感覚にいっそ死んで楽になりたいと現実逃避気味な考えが頭に浮かぶが、首を大きく振り無理やり掻き消す。

…ダメだ。オレがこんな事じゃ、また掛け替えの無いモノを失う。

あの日誓った筈だ…何があろうと彼女を護ると。此処でオレが死ねばそれも不可能になる。




「………ヘッ。まるで臓器博士だな」



体の震えを無理矢理押さえつけると、強がりにしか聞こえないだろう声を絞り出す。






「サスケ…安心しろ。お前たちはオレが死んでも守ってやる」


「…!」



カカシの声に少し驚き体がビクッと跳ねる。

この霧の中で臆病になってしまっているのだろうか、その後ろ姿が何時もよりも数段逞しく見えた。

カカシはゆっくりとこちらを振り向くと、こんな状況下にも関わらずニコッと笑って見せる。






「オレの仲間は絶対、殺させやしなーいよ!」




何時もと変わらずふざけた口調だが、この時だけはカカシのその姿にとてつもない安心感と信頼を覚えた。

こいつなら本当にオレたちを守ってくれる、そう確信出来る表情だった。

フン…。カカシ…こいつらを護るのはこのオレだ。アンタだけに良い格好はさせねェよ…!






『それはどうかな…?』




刹那、男の声が背後から聞こえて来る。

音が出るだろうと決めてかかっていたが、まさか本当に全ての動作が無音なのか…!?





後ろか…!と、そう考えた時には既に片手に持ったクナイを背後に向けて振りかざしていた。

自分でも意識していない反射的なその動きに、自分で驚いてしまう。

これも写輪眼の、うちはの血継限界の力なのか…?








左手から伝わってくるのは肉を貫く確かな手応え。

直ぐ真横で同じ様にクナイで再不斬を突き刺していたカカシも、オレのその姿を見て驚愕に目を大きく開いた。

オレのクナイは右肩を、カカシのクナイは肩から心臓部にかけてを深く突き刺している。

…流石は上忍。先ほど言った言葉は嘘じゃ無かったんだな…。

再不斬から大きく離れて尻餅をついているサクヤ達を見て安堵する。




恐らくコイツを突き刺す寸前、一瞬の刹那に二人を安全な所まで吹き飛ばしたのだろう。

無意識に攻撃を行っただけのオレとは違う、明確な目的を持った動き。流石と言わざるを得ないな…。










「…驚いたな。三人纏めて避難させるつもりだったんだが。まさかお前が此処まで動けるとはな……」


「………うちはを舐めるなよ、カカシ」


「サスケェ!!先生!後ろッ!!!」





背後から響くナルトの金切り声と共に、突き刺した男の体が突然に水へと変化する。

パシャ…と地面へと落下していく透明な水を見て、想定していなかった出来事に頭が混乱する。

…分身?変化?後ろ…?何なんだ……!


ナルトの発言すらも理解することが出来ずにただ立ち尽くす。

完全に停止して動かないオレの体。

マズイ…と頭が理解した瞬間…突然、大きく体が後ろへと吹き飛ばされた。

衝撃と痛みが右肩付近を襲う。

その痛みで完全に我に帰ると、空中で体を反らし原因であろうカカシの方へ視線を送る。

その背後には既に大刀を大きく振りかざしている再不斬の姿があった。

あまりにも大きな得物は、聞いたことの無い音量の風切り音を響かせながらカカシへと真っ直ぐに向かっていく。



オレとしたことが、情けねえ…!完全に殺ったと思って油断していた!

ホルスターから手裏剣を取り出すが、もう間に合わない。ポーチから数枚の手裏剣が金属音を響かせながら重力に従い落下していった。

避けろ…避けてくれ、カカシ!





















「きゃあぁぁぁっ!!」





無情にも、再不斬の一閃はカカシの胴体を真っ二つに切り裂いた。

再び無残な姿へとなってしまったカカシ。サクヤの悲鳴だけが静かな霧の中へ虚しく反響する。




だが、二つに分かれた胴体と下半身から吹き出したのは真っ赤な血では無かった。

ブシャアアア!!と音が聞こえてくるかの様に勢いよく噴き出す液体。

その色は赤ではなく、透き通った透明。さっきの再不斬と同じだ…。







「水……!」







コピー忍者の異名は伊達では無い様だ。

あの一瞬で、しかもこの真っ白な視界の中で男の術をコピーしたってのか…?

なんて洞察力と判断力だ。

もし敵があの男では無くカカシだったらと無意味にも考えてしまい、ゾッと背筋が凍った。

こいつ…化け物か。









「動くな……」


「……ッ!!」





驚愕に目を見開く再不斬。首に突き付けられたクナイが鈍く黒い光を放つ。

男の背後に立つカカシは、左目を真っ赤に光らせながら再不斬の後ろ姿を睨みつけていた。









「–––––––––––––––––終わりだ」






裏の裏、さらにその裏を掻いていく死闘に目を見張る。

…これが、忍者同士の戦い。当たり前の様に繰り広げられる音も無き戦闘。

こんな奴が…あのクソッタレ遅刻魔だってのか…?

能ある鷹は爪を隠す。まさにその言葉を地で行っている様な忍者だ。









「ス……スッゲーーーーーー!!」


「これが……これが本当にあのカカシ先生…?偽物…?」






いつの間にやら薄くなっていた霧の中で、サクヤとナルトの姿が見えた。

驚嘆とともに満面の笑みを浮かべるナルトと、笑みを浮かべながらも微妙に失礼な事を呟くサクヤ。

だがその気持ちは痛いほど良く判った。オレの目にも正直偽物に見えてきてしまう。

カカシが首に向けたクナイを男の脊髄目掛けて振り下ろそうと、トドメを刺そうとしたその時。

クク………と、小さく笑い声をあげ始める男。

…コイツ、自分の置かれた状況が判ってねぇのか…?それとも、土壇場で頭が可笑しくなっちまったのか?











「ククク……終わりだと…分かってねェーな。…サルマネごときじゃあ…このオレ様は倒せない…絶対にな」





[42250] 波の国編7 再不斬vs第七班
Name: やめろめろめろイタチめろ◆8ac501a9 ID:efa5df1b
Date: 2017/01/06 00:06







「水遁・大水弾の術!」



「風遁・大突破の術!」




カカシ先生から放たれた風の砲弾と再不斬からの水の塊が空中で衝突し爆散する。

目にも見える程の風の刃とぶつかり拡散した水の大玉は飛沫となり、空中から私たちへと降り注いでくる。

目視しているのが辛くなるほどの冷たい大雨が、ざあざあと周囲の音たちを全て奪っていくこと数秒。

全身が水に塗れて衣服がべったりと体に張り付く不快感を気にしている暇もない程の、金属と金属の衝突し合う甲高い音が耳へと入ってきた。

すぐ音の方向へ視線を巡らせれば、再不斬の振りかざした大刀を先生がギリギリの処でクナイで受け流しをしているのが見えた。

息をつく暇もない、静かな戦い。

身の丈より更に大きな巨大な包丁を軽々と振り回す再不斬もそうだが、それを十数センチ程しかないクナイの刃先で対処しているカカシ先生も人間業ではない。





「そんな小っせえ代物で…何処までオレの首斬り包丁から逃れられるかな?クククッ」


「流石に単純な力比べだけじゃあお前には勝てないね…分が悪すぎる」







そんな軽口を叩き合いながらも、淡々と命の奪い合いをしていく二人の姿を見ている事しか出来ないでいた。

拳にグッと力が入る。

今にも先生の体があの恐ろしい肉斬り包丁で名前通り真っ二つに引き裂かれてしまいそうで。

カカシ先生なら心配は無い、と自分に言い聞かせてもその不安は消えてはくれない。

だからと言って、今私が出来ることは何も無い。先生に言われた通り…タズナさんを守る。

戦いに加わらない事がチームワーク…。

もし私にもっと力があれば。

こんな風にただ見ているだけじゃなかったかもしれない…とそこまで考えてハッと直ぐ側にいる二人を見渡した。






サスケくんもナルトくんも、私と同じく…グッと何かを堪えているような、そんな辛い表情を浮かべていた。

当然だろう…。何だかんだと文句を垂れてはいても、カカシ先生はもう私たちの中には無くてはならない『仲間』なのだから。

その先生が独り危険な目に遭っているのを黙って見ている事しか出来ないこの状況が悔しくない筈は無い。






「……今は堪えろ」





サスケくんが、誰に向かってとも…まるで自分に言い聞かせているかのように、真っ直ぐ前だけを睨みつけて呟いた。

その両目に宿る写輪眼は、何時もよりも更に紅く輝いているように見えた。






すぅ…と深く息を吸い込むと再び彼らを見据える。

再不斬という男がどれ程強いのかは判らない。でも、先生は片目だけとはいえ写輪眼だ。

あの目の強さは散々やられてきた私も良く知っている。きっと大丈夫だ。







「近接戦だと厄介極まりないな、その目…オレの行動を先読みしやがる。その目ん玉ぶった斬ってやろうか」


「やれるもんならやってみなよ。…ま、させる訳ないけどね」


「言ってろ、サル真似忍者が」






そんな会話を続けながら先生は再不斬の太い腕から振り下ろされる大刀を、まるで最初から来るのが判っていたかのように最小限の動きだけでひらりと身を躱すと何時の間にか握っていた手裏剣を数枚ほど彼に向けて素早く投擲する。

対する再不斬もそれを読んでいたかの如く、振り下ろした刀をもう一方の手に持ち替えすと盾のように自らの目の前に翳す。

風を斬り回転しながら高速で飛来する手裏剣はその盾へと全弾命中すると、カキィッ!と甲高い音を発てた。

手を出す出さないの次元では無い。あんな相手に一瞬でも立ち向かえば数秒で命を絶たれてしまうだろう。

普段はボヘっとしていて頼りない銀髪の背中が今日は何時もより数段大きく頼もしく見えた。





無駄だと判断したのか、カカシ先生は再び残像の残るような速度で印を結ぶ。




「土遁・土流連弾!!」



印を結び終え、先生が素早く地面に両手の掌を貼り付けると、大地が微かに揺れを起こした。

かと思えば、地面から人間の頭ほどのサイズの土の大きな塊が勢いよく再不斬へと飛んでいく。








「ほう…流石は千の術をコピーしたと言われるはたけカカシ。芸が豊富だな」



再不斬は少し驚いたように目を開いたが、すぐにそれを首斬り包丁で真っ二つに引き裂いた。

しかしすぐに二つ目、三つ目、四つ目といくつもの黒い塊が再不斬へと飛来していく。

二つ目を再び切り崩して対処する再不斬だが、三つ目は流石に無理だと判断したのか大きく姿勢を下げて躱す。

まるでその動きを読んでいたかのように四つ目の弾丸が彼の脚部へと直撃した。

一瞬マスクの上からでも判る苦悶の表情を浮かべ怯むが、直ぐに残りを対処する体制に入る。

地面から飛び出てくるそれらをギリギリで回避していくと、フン…と、微かに鼻で笑った。

かと思えば、それから飛来してくる塊全てを…なんと足で蹴り飛ばす。

流石にこれは予想していなかったのだろう、カカシ先生も驚きに声を出した。






大きな足によって蹴り飛ばされた複数の塊は真っ直ぐと勢いをつけてカカシ先生の方へと…ではなく、その後方の私たちへと向かってくる。

狙いは…まずい!タズナさんだ!






「しまっ…!!」


「死ね…ジジイ!」





あんなもの、喰らえば私たちでも無事では済まない。

ましてや、タズナさんは忍者でも何でもない一般人だ。当てさせるわけにはいかない。

幸い、再不斬からこちらまではかなり距離がある。あれを破壊しなければ…!






「オレが勢いを弱めるから、二人ともぶっ壊してくれってばよ!!」




ナルトくんは大声を上げると、塊へ向かって駆け出していく。

それを見て、サスケくんも声を荒げた。



「ナルト!お前…何を!」


「影分身の術!!」



両手の指二本を交差させると、ナルトくんの周囲に煙が舞い、何十人もの彼が現れる。

大勢の彼らは一列に並ぶと土塊へと背を向ける。分身体とはいえ、実体を持つ影分身。それらを壁として威力を弱めるつもりだろう。

そうと判れば私は私に出来ることをしなければ。

素早く使い慣れた術の印を結ぶ。何度も何度も同じ印を使い続けた結果、以前よりも遥かに術を発動するまでのスピードは上がっていた。











塊はナルトくんの分身を掻き消しながらこちらへと向かってくる。

彼のお陰で、三つは完全に減速し勢いを無くしている。残りは四つ…!

外せば終わり。絶対に外さない。







「サクヤ!」


「わかってます!…………火遁!!」





口元へ指を当てると、火炎弾を発射する準備が整う。

視界の隅に映る黒髪の彼もまた、全く同じ動作を行っていた。

目標は前方の土塊四つ。真っ直ぐ飛んでくるそれらを外しはしない。







「「–––––––––––––––––鳳仙花の術!!」」








二人で放った火の玉は寸分の狂いもなく飛来する塊へと向かうと、接触と同時に赤い閃光と共に爆散、少し遅れて大きな破裂音を発てた。

そして衝撃により土塊はごくごく小さな破片と化し、辺り一面へ散らばっていく。

爆発によって発生した黒煙によってその周囲の視界が遮られた。

煙幕により見えなくなってしまったが、黒い煙の中から何かが飛び出してくる様子は無い。

…良かった。無事に破壊出来たみたいだ。

カカシ先生はその間も手を緩める事なく、再不斬へと体術を繰り出しながらも安心した様子でホッと息を吐いた。










「ふー。ナイスチームワークだ、お前ら」


「ほう…金髪のガキ、影分身を使えるのか。ピーピー喚くだけのただのクソガキだと思っていたが、思ったよりやるな。……だが」








意味深に言葉を切った再不斬の様子に嫌な予感がする。

徐々に晴れていく煙の中に、何か小さな影のような物が浮かび上がり、じっと目を凝らして見つめる。

…何………?あれ…?








「…!?」


「なっ…!」


「まだまだ甘ェんだよ、ガキ共」





消えていく煙幕の中には、なんと四つもの水の槍のような物がまるで最初からそこに在ったかのようにこちらへ刃先を向けて滞空していた。

そんな…いつの間にあんなものを?一体何時、どうやって…?








「蹴る瞬間、ちょいと細工させてもらったのさ…さあ。次はどうする」


「あれはマズイね、どうも……土遁!」





先生が再び術を発動する瞬間を狙ったかのように、再不斬は大刀を頭上で回転させると、そのまま大きく放り投げた。

胴体を真っ二つにしようと迫り来るそれを大きく上へと跳ねて回避した先生は、小さく舌打ちをする。







「お前の相手はこのオレ様だ…カカシ!」


「く………!サスケ!」


「判ってる!!」





そう叫んだサスケくんは、馬の印、虎の印と続けると口元へ指を当てた。





「火遁・豪火球の術!!」




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