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[42260] [完結]千雨が狼に犯されながら狼になった後、狼をぶち殺す話。(ネギま)
Name: みきまる◆464e5fbc ID:e75f306a
Date: 2017/10/24 21:19
原作前の長谷川千雨が狼に犯されながら狼になった後、数々の苦難の果てに二人の子供を授かるタイトル通りなお話です。

文章力を上げるためこちらの方でも投稿。渋とハーメルンのマルチ投稿です。また脱字誤字などが御座いましたらこちらの方では反映が遅くなりますのでご了承下さい。

批評、感想宜しくお願いします。

作者情報、更新状況などは下記アカウントからどうぞ。
Twitterアカウント @newmikimaru



[42260] 千雨が狼に犯されながら狼になった後、狼をぶち殺す話(改訂版)
Name: みきまる◆464e5fbc ID:e75f306a
Date: 2017/10/04 22:43
「あぁくそ!ムシャクシャする!!!」

 それはある日曜の午後の出来事。
 コスプレを趣味に持つ女学生、長谷川千雨は撮影用の新規衣装の材料を調達しにオタクの街、秋葉原へ向かいお買い物を楽しんだ後、ふと帰り道の電車の中でこれから戻らなくてはならない女子寮に住む自分のクラスメイト達の破天荒ぶりを思いだし、唐突な苛立ちを覚えてた。

「なんでクラスにロボットや金髪ロリ、明らかにモデルガンじゃないの持ってきてる奴、ましてや桜咲なんかあれ絶対ポン刀だろ! 茶々丸はオーバーテクノロジーだし…。あんなのはアニメとかのフィクションでいいんだよ!」

 電車の中でブツブツと独り言を呟く女子中学生。
 実際にコスプレをし、ネットアイドルとしても活動している千雨はマンガやアニメなど理解がある。しかしそれが現実に、誰もがおかしいと感じない麻帆良と言う街が頭痛の種であり大嫌いなのであった。
 麻帆良に戻らなくてはいけないという現実にグチグチと文句が漏れてしまう千雨。
 やがて座席に座って休んでいた彼女は愚痴を言うのに疲れきったのか急な眠気が襲う。ガタンゴトンと電車に揺られ進んでいく一定のリズムが心地よく感じ、彼女を夢の世界へ誘う。頭が前後に揺れ、口端の方から涎が見え隠れ。やがて夢の世界へ旅立つ千雨。
 そんな彼女を乗せた普通電車は彼女が気付かぬ間に降りるべき麻帆良学園都市中央駅を通りすぎ、終点である三峰口駅へ向かっていったのであった。



『次は~終点~三峰口~』

 電車のアナウンスが終点を伝えた頃、千雨は微睡みから目を覚ます。
 窓の外から見える太陽は傾き電車の中をオレンジ色に染め上げ、周りには千雨以外の乗客が誰一人いない状況。千雨はハンカチで涎を拭くと急いで電車を降りる。

「うわぁ! マジか、寝過ごした! こりゃ遅れるって寮に連絡しといた方がいいな…」

 千雨は常識を重んじているためこのような社会的マナーは中学一年生でありながらしっかりと身に付けてある。実際は他者との常識の違いを比べるためにも人一倍知識と呼ばれるモノを身に付けていたのが正しいのだが。

「次の電車まで2時間はあるのかよ。どうやって時間を潰そうか…」

 麻帆良へ戻る電車が2時間も先だとわかった千雨は頭を抱えながら駅の前をぶらぶらする。駅前には殆ど人通りがなく、タクシーが一台二台止まってる程度。周りを見回してもコンビニすら見当たらない田舎な駅である。そして暫くすると駅前の周辺地図の看板に一社の神社が記載されているのを見つけた。
 そこに載っていたのは秩父の山を代表する三峰神社までのルート。
『山々の強い気が流れ込む、関東屈指の龍穴パワースポット』との謳い文句でその看板は観光客を呼び寄せていた。

「…時間はあるんだし行ってみるか。最近はイライラしてばかりだし」

 リアリスト気味な千雨であるがまだまだ花の中学生、占いなど気にならないとは嘘になる。それはパワースポットみたいな話も変わらず興味津々なお年頃であった。
 しかしこの時はこれから訪れる神社で彼女、長谷川千雨の運命が大きく左右されるとは夢にも思わなかったのである。



 駅から神社までは徒歩15分。そして見えてくるのは珍しい三ツ鳥居。
 そしてその前には狛犬ではなく狼が向かい合っていた。

「へ~。この神社、狼が神様の遣いをやってんだ。信仰の対象が狼ね。もう日本には居ないんじゃないっけな」

 三峰神社は御眷属信仰として山犬、つまり狼を奉っているのだが日本に生息していたニホンオオカミは1905年には絶滅したと言われている。それではこの神社は何を祀っているのだろうか? そのような事を連々と考えながら進む千雨。
 ひんやりと澄んだ空気の中を歩いて更に奥へ。夕方の神社と言う事もあり周りに人影はない。周りには高い木が無数にそびえ立ち、参道を薄暗く照らしていた。
 そのまま現随身門を通り二股にわかれたところへ。そして左へ進む。
 途中で夫婦杉が顔を出しそれを目印にそのまま道なりに進んで行くと、やがて奥の方からこの神社の拝殿が見えてきた。
 バックを肩に掛けメガネを掛け直すと拝殿の前で手を合わせ、深々とお参りをする千雨。
 無病息災、交通安全と定番物から
『ストレスが軽減されますように』『ネットアイドルランキングで一位が取れますように』『とにかく願いが叶います様に』など世俗的かつ曖昧な願いも一緒に。
 彼女はまだまだ幼い中学生。神社特有の祀ってある神様によるご利益など知る筈もない。
 しかし三峰神社のご利益は明確な願望実現、金運、仕事運、浄化となっており、結果的に世俗的な願いは願望実現として叶えられるかも知れない。偶然とは言えこれが彼女の加護になり得た。
 そうして鳥居を抜けると深々とお辞儀をし、電車の時間もあるのでぐるっと神社を一回りして山を降りる千雨。周りは更に薄暗くなり自然と足先は早くなる。
 そんな時であった。縁結びの木からお犬様を奉ったお宮あったりの道を下る途中にポツンと寂れた社殿が見える。立ち止まる千雨。
 鳥居が薄汚れており、社殿の方も長年人の手が入ってないためか廃墟みたいに薄暗く、不気味な空気が漂っている。周りは漆喰で塗られた真っ白な壁に囲まれており、鳥居の方からしか入ることも、覗くことも出来ない。そして薄汚れた鳥居には沢山の札が括り付けられた縄がツタの様に柱を這っていた。
 千雨はふとこの場所だけ異様に寂れているのが気になり、中の様子を覗こうと鳥居をくぐった。それはただの興味本位であり何一つ他意はない。全くの偶然。

 しかし、この選択が「人生」の終わりであり、新しい人生の始まりであった。



『このような寂れた場所に来るとは小娘。なにもんだ…』

 なんだあれは。
 鳥居をくぐった途端、周りの空気が一変する。ひんやりと肌につく、ねっとりとした感覚。
 恐る恐る社殿の方を振り向くと、そこには一匹の銀色の毛をした大きな狼が屋根の上に佇んでいた。首元の長い銀毛が風に靡かれ、その冷たい風が千雨の耳元を通り過ぎる。

『ほう、結界を抜けて来たのか。小娘1人ということは人身供養の生け贄かの。実に一世紀ぶりのおなごじゃのう…』
『十分、楽しませておくれよ』

 こいつは何を言っている。
 人身供養、生け贄、楽しませてくれ。おいおい冗談じゃない。
 すぐに逃げ出そうと後ろを振り返る千雨。後ろから得体の知れない畏敬が肌を舐め回すように犇々と伝わってくる。
 ここは危ない、逃げなくては! それは本能からの警告。
 走り出す千雨。だが鳥居の前で目に見えない何かに遮られ、逃げ出すことが出来ず思いっきり転んでしまう。石畳に顔をぶつけ、額からは血が流れる。
 屋根から飛び降り、ゆっくりと彼女に近づくとまるで品定めをするような目を向ける銀狼。
 その銀狼の股間には皮鞘から伸び出た赤黒い獣器が禍々しく揺れていた。

「じょ、冗談じゃない。なんだよ生け贄って! それになんで私がお前みたいな奴の相手をしなくちゃならないんだ!!」

 震えた声で泣き叫ぶ千雨。額から流れた血が鼻先に流れる。
 彼女がネットのアングラな世界で身に付けた知識はこの銀狼が今何をしたいのか、これから何をするのか容易に想像する事が出来た。
 そして一歩、また一歩と千雨に近づいて行く銀狼。

『小娘は生け贄じゃない…ということは迷い込んだ訳か。なに、この周りは結界で覆われているから逃れる事など出来んぞ』
「だ、大体なんなんだよお前は! 狼が喋ってるし、結界ってファンタジーかよ!」
『ふぁんたじーとやらは知らんがこれは現実だぞ。残念だったな』

 そう言って銀狼は石畳にうつ伏せで倒れていた千雨を足の方から馬乗りになるとそのままスカートを噛みちぎる。必死に抵抗する千雨だが女子中学生1人の力が敵う筈がない。そのまま股間に顔を埋めるとさらに下着も噛みちぎった。
 途端に露わになる彼女の素股。恥丘の先に小さく生え揃った陰毛。

『小娘は処女か。これは楽しめそうだ…』
「ヒィ……」

 大声を出せず、微かに怯えた声を出すしかない千雨。必死に逃げ出そうと藻掻くが左足を大きな右前脚で押さえつけられ逃れられない。
 銀狼は千雨の背中にのし掛かると前足を胴体に回し前肢でがっしりと抱え込む。そして腰にあの禍々しい獣器がお尻に押し当てられた。

「や、止めろ。おっ、お、降りてくれよ……」

 恐怖で怯えながらも必死に懇願する千雨。
 露になったお尻に触れ、ドクンドクンと血の流れを感じる生暖かい獣器に恐怖と戦慄を感じる彼女。しかし現実は非情であり、彼女の必死な願いを聞き入れられる事はない。
 銀狼は挿入すべく固くなった生殖器を千雨の股間に押し付けていく。

「ひゃん!」

 千雨の大事な秘部に固く禍々しい獣の生殖器が当てられ思わずビクリと肩を震わせる。今まで感じたことのない未知の感覚。ただひたすら恐怖と気持ち悪いと言う2つの感情が支配する。

「や、やだ…」

 嫌悪感が溢れ絶望の底に陥りながらも微かな声で紡ぐ彼女の願い。しかしその声は銀狼を更に興奮させるには持って来いであり、生殖器が更に一回り二回りも大きくなる。
 そして銀狼の生殖器は千雨の秘門を捉え、まだ一度も使われていない、決して狼に差し出す物ではない未使用である処女口にズブリと音を立て突き付けられた。

「ひぎぃぃい!!!」
『ほう、これは良い』

 成人男性より一回り大きな肉棒は処女膜を突き破り中へ中へと進んで行く。純潔の花を散らし、その証である赤い血が太ももにツーと垂れる。
 千雨はカッと目を見開き、苦痛に顔を歪ませながら悲鳴を漏らした。

「ぎひぃ…あぁ…ぁ……」

 破瓜の激痛で腕に力が入らずお尻を突き上げた格好で倒れる千雨。力が入らず地面に頬が擦り付けられる。
 銀狼はなおも彼女の背中に馬乗りに、そのまま腰をゆっくり奥へと動かし、野太い陰茎を彼女の胎内にねじ込んだ。千雨の内股には処女の証である赤い鮮血で赤く染まる。

「あひぃ…ぐ…っ…」

 涙を浮かべ必死に激痛に耐える千雨。押し込まれた肉棒は膣内のひだを掻き分けながら突き進み、下腹部を傷付け、激痛が走り続ける。
 そこには快楽は存在せずただひたすら苦痛のみ。千雨の目には大粒の涙が貯まっていく。

「いっ、いや…。助けて……」
『なんだ、痛いのか。それはそれは可愛そう…にっと!』

 そうわざとらしく哀れみながらも膣から肉棒を抜くのを止めず奥へ奥へと進める銀狼。 100年分の性欲が貯まっていたのか止める気は更々ない。性欲に支配され、本能の赴くまま。
 ほどなく牡器の先端が千雨の最深部までたどり着き、子宮に突き上げた。
 頭に突き抜ける衝撃。
 口端から涎を垂らし悶絶する千雨。

「うぅ、あぁ…ぁ……」

 微かな呻き声をあげる。なんで私がこんな目に。
 理不尽と絶望、怒りが千雨を染め上がる。そうしている間にも銀狼は腰をゆっくりと動かし初め、太く固い肉棒は膣内を抉り、そのまま子宮を突き上げた。

「ひぃ…。う、動か…ない…で…い、嫌っ、うっ…ぃ……!」

 泣きながら止めるように訴える千雨。
 しかし銀狼はそんな願いなど聞き入れず本能に身を任せ腰を降り続ける。感じるものは痛みと吐き気。抗う気力が次第に衰え、肉便器のようになされるがまま性欲の捌け口へと。
 そして陰茎は次第に大きくなり、膣内から離れないように陰茎の根本が瘤状に膨れ上がり、子宮口を叩きつけ千雨のお腹に熱い精液が勢い良く流し込んだ。
 お腹の中で感じる生暖かい精液。千雨の目からハイライトが消える。
 しかし地獄はこれからである。
 イヌ科の生物は受精の可能性を高くするためにセックスの間、絶えず精液を流し込み続ける。陰茎は膨らみコブとなり離れないように締め上げ、精液を何十分も流し込む。それはこの狼にも言える事であり、千雨の扱いはメス犬同等。

「ふぐぅ…ぅ…ヒギィ…っ…!」

 千雨の口からは絶望と嫌悪にまみれた喘ぎ声が漏れ、彼女の秘部からは身体に収まることの出来ない精液が溢れ出し、ゴポゴポと小陰唇と陰茎の合間から溢れこぼれ落ちていた。




 陰茎を射し込み射精、精液を千雨に中に流し込んでいる間、銀狼は動かなくなる。これはイヌ科全体に言える習性であり、狼も例外ではない。ドクドクと波を打ちながら放心状態の彼女に確実に孕む様に注ぎ続ける。
 何も考えられない、考えたくない千雨はただひたすら無心でこの信じられない最悪な現状を耐えていた。しかしここで千雨の体に変化が表れ始める。
 身体中がまるで筋肉痛の様に痛みだす。まるで無理やり骨を動かし、骨格を組み換えてるような痛み、例えるなら成長痛であろうか。
 痛みに悶え涙を浮かべる。その時であった。
 ふと目についた千雨の右手。なんと千雨の右手首から銀狼と同じ銀色の毛が手先を覆い始め、そのまま腕に沿って全身へ広がって行くのである。
 彼女の両指は短くなり爪は尖り始め、小指が内側に引っ張られる。鼻は前に突き上げられ、両腕の間接の位置が前のめりになり、足の間接の位置も同様に変わり始めた。
 ただでさえ狼に犯されて満身創痍なこの現状。
 ここに来て彼女の身に一体何が起きているのか。
 呻き声の中、必死に、声を振り絞り聞き出す千雨。

「な、なにを…しっ、した……!」
『なに。人のままだと性交した意味がないからな。お前さんを私と同じ存在に変えさせてもらったよ』

 それは言葉を疑う、信じられない話。同じ存在、同族化。
 人間を…辞める…私が、狼に……!?

「つ、つま…り…」
『そう、お前は人間を止めてメスの狼になってもらおうかと。私のつがいに、な』

 言っている意味がわからなかった。わかりたくなかった。考えたくなかった。
 只でさえ喋る狼と獣姦という非現実を味わっているのにここで自分が狼になるんだって。

「ふぐっ…あぁ…いや…ぁグワァ…アゥ、ガッ!!!」

 この状態から必死に逃げようと這いつくばるが腰に力が入らず、身体中の痛みと膣中で感じる熱い精液が彼女を襲い続ける。跨る銀狼はピクリも動かず、ガッチリと千雨をホールドし続けた。
 そうしている間にも彼女の耳は上に延び縦長になると毛に覆われ獣耳となり、尾骶骨は長く太く延び尻尾となる。そして身体中の骨格や体つきが変わり銀色の毛に覆われてゆく。
 身体が膨れ上がるように大きくなり、制服であるブレザーがはち切れ散り散りに。掛けていた丸眼鏡のフレームも曲がり、そのまま黒く湿った鼻先からずり落ちた。
 か弱い少女の嘆きの声は獰猛かつ品のない、狼のメスとしての喘ぎ声に。口端から涎を垂らし目が虚ろになる。
 身体中が新しく作り代わっていく痛みと感覚、狼と交わっているという現実。
 何もかも考えられなくなった千雨はそのままこの信じられない、最悪と言って良い現実から微かに保っていた意識を完全に手放したのであった。




 千雨が目を覚ました時周りは夜の闇に包まれており、微かな月明かりが千雨とその周りを照らす。
 空に浮かぶ満月が廃れた神社を幻想的に作り変え、チラリと見える自分の肌、銀色の体毛に覆われてた身体が月明かりに反射し石畳を淡く染め上げる。
 力を入れて二足で立ち上がろうとも重心を一点に保つ事が出来ず地に前脚が付いてしまう千雨。四つん這いの状態で何とか立ち上がる。
 そうか、自分は今、人じゃなくて狼なんだ。
 石畳の参道に佇む一匹の銀狼。
 千雨は自分を犯した狼と同じ銀色の毛をした一匹のメスの狼に成り変わっていた。
 喋ろうとも口からはグルルッと唸る獣のような声しか出せない。
 今思えばあの狼は喋っているじゃなくてテレパシーみたいに伝えていたんだなと冷静に判断。妙に冴える頭はまるで今までの出来事が客観的にテレビの先の出来事の様に感じ、冷静に落ち着いた思考へと繋げていた。
 しかし千雨の股間の秘穴からは人のモノより水っぽい精液がごぽごぽと泡を吹きながら未だに糸を引き、地面に垂れ落ちている。それはあの出来事、狼との情事が現実であった証拠。変えられない真実。
 ゆっくりと一歩一歩、全ての元凶である銀狼の元へ向かう千雨。
 気絶から目を覚ました千雨がこんなにも冷静だったのは狼に向ける憎悪と憎しみが感情を支配する為。また生存本能での現実逃避。
 銀狼は社殿へと続く参道で脚を折って丸くなり泥の様に眠っている。約一世紀ぶりの性交は体力を使ったのだろう。彼は近づいて来る気配に気付かず眠り続ける。

 千雨は銀狼の所まで近づく。黄金色の縦に裂けた眼が絶えず狼を捉え続ける。それはまるで捕食者の眼。逆毛立つ身体。
 そして彼女は一変の迷いもなく一気に銀狼の首元に噛み付くとそのまま根本から思いっきり頭を引きちぎった。途端に空を舞う鮮血。銀色の体毛が赤く染まる。
 銀狼は何が起きたのかわからないまま命を経つ。銀狼自身、長年封印された状態で信仰が得られておらず力が衰えており、また千雨の特殊な体質も相まってこうも簡単に主人である筈の銀狼をぶち殺す事が出来たのだ。
 それにもしかしたらこの神様の救いもあったのかも知れない。乾いた笑いが漏れる。
 ギラギラと輝く縦に裂けた獣の目。
 憎悪と憎しみに溢れた瞳。
 復讐の目。
 そして千雨は狼の本能のまま、全ての元凶である忌々しい銀狼の亡骸に襲い掛かった。
 右足、左足、後右足、後左足。
 四股を引きちぎり腹わたをぶちまけ、自分に押し込んだ禍々しい陰茎は鋭く尖った爪でバラバラに切り裂く。散らばった肉を喰らう。
 自分の毛皮と爪は返り血で全身赤く染まり、銀狼はまるで毛皮の敷物みたいに赤い血溜まりの中に敷かれた状態に。そして前肢で頭部を踏み潰し、脳髄や脊髄が飛び散った。
 見るも無惨な惨憺たる現場。
 銀狼の屍の上に佇むのはまた一匹の銀狼。復讐の血で真っ赤に染まった元人間の女の子。
 そうして千雨の復讐は呆気なく終わる。

 幻想的な神社の一角、誰も居ない赤く染まった参道で一匹狼の哀しき遠吠えは静かに山の中へと響き渡ったのであった。



《後書き》
実在する三峯神社ではなくフィクションの三峰神社です。

(10月4日補足)
最終回前に第一話を修正、2000字程度書き足してボリュームアップしました。前のはちょっと少なかった……。
ストーリー自体は殆ど変わってないので読まなくても問題ないかと思います。



[42260] 千雨が狼になった後、今後の行動などを考える話
Name: みきまる◆464e5fbc ID:d4f7e0cd
Date: 2016/12/26 22:49

とある喫茶店。
男子大学生二人とフードを被った女性一人が客として喫茶店に訪れていた。
女性のお腹すこし膨らんでおり妊婦であろうか。そんな女性はルイボスティー。
大学生二人はアイスコーヒーを片手に学校生活の事で談笑している。そんな中、大学生の一人が話題を変えた。

「なあ、知ってるか?秩父山中の化け物の噂。」
「なんだそれ。ナデシコの事か?」
「懐かしいなおい。
そうじゃなくて秩父の山の中に化け物が現れるんだ。
登山に来ていたグループがそいつに襲われて一人残らず全滅。生存者なしってよ。それがまったくもって人間業じゃないから化け物ってわけ。
なんせ正体不明だからマジで化けもんかもな。 
お前も夜中出歩かない方がいいぞ。その化け物が山を降りて来て襲うかもしれないからな。」
「バッカ、こんな田舎町で出歩く先がないって。」
「それもそうか。」
「「ハッハハハ!!」」

その話に静かに聞き込む妊婦の女性。
彼女こそ秩父山中に現れた化け物こと銀狼の正体。長谷川千雨であった。



千雨があの忌々しい狼を噛み殺した後、彼女は体を丸めながら漠然と今後の行動について考えていた。
まず妊娠は確実であろう。
獣同士のセックスは確実に妊娠させるためにあのように長いのだ。それを踏まえて腹の子を堕ろすか。
どうやって?
今の自分は狼。まして妖怪、モンスターである。
中絶の仕方もわからないしこの状態でどのようにもとの生活へ戻れば良いのか。それが不可能なのはすぐに判断することができる。
幸い狼を殺したときに権限と言うか能力なのか、怪物としての力の使い方や知識が手に入った。
これによって狼としての本能以外にいろいろと行動することが出来る。
生き残るためにどのように行動すべきか。妖怪としての常識が14年間で習得した人としての知識と混ざり合う。
やがてそんな今の自分に笑いが込み上げてきた。
今の自分はファンタジーの代名詞である狼男、いや狼女である。あんなに毛嫌いしていた麻帆良の住民の誰よりもファンタジーだ。
いや、手に入れた知識に照らし合わせるならあいつらもファンタジーか。気、魔法。まさかのファンタジーがノンフィクション。
つまり魔法使いの奴等にとって私は敵でしかないのだ。人形(ヒトガタ)になっても妊婦姿だと中学生が妊娠ということで大問題になり家族にも迷惑をかける。
今の自分に取り残されている選択肢は魔法使いや術師に見つからず早く子を産み麻帆良に戻る事。行方不明の間は何とか誤魔化せば良い。子供は捨てておけ。
あの忌々しい狼との子供だ。ろくな子供ではないだろう。
出産までの間に自衛のため力を付ける事。この先、生きていくために大事なことだ。

そうして千雨の妖怪としての生活が始まった。



怪物。
今の千雨は銀狼。
種族的には妖怪上がりの神様である。
元々千雨を怪物にした銀狼は秩父御岳山を中心に狼のリーダー的存在であった妖怪であった。
そこに日本武尊が伊弉諾尊・伊弉册尊の国造りを偲んでこの地に神社を創建。それが三峯神社である。
山犬信仰自体は江戸時代に始まったがその前からその狼は三峯神社とは別にご神体として祭り上げられ神性を得た。
役割は三峯神社の守護と狼達の管理。
御岳山一帯にに生息する狼が無闇やたらに人里を襲わないように管理していた。そのぶん30年に一回、付近の村から娘を一人を生け贄を献上して貰いその彼女をつがいにしていたのである。
しかし時代は明治に入り日本狼は絶滅。他の妖怪達は隠れ里に向かう中、神様である銀狼は神社の管理を放棄する訳にはいかずだだ一匹その神社に残っていたのである。
そして太平洋戦争終戦後に西洋魔術師が麻帆良に流入。世界樹を中心に組織を構え、麻帆良に比較的近い三峯神社にいる銀狼をモンスターと判断し封印。
信仰を受け入れられず力が薄まっていたところ、結界などを無効とする千雨が偶然迷い混み襲いかかったわけである。
ある意味、時代に振り回された銀狼であったが今はその権限、能力は千雨に受け継がれている。しかしながら狼の管理はニホンオオカミが絶滅したため不可。神社の管理は銀狼に任されたものであり千雨が継ぐものではない。
おかげで千雨は自由に動く事が出来るわけである。
また神社に掛けられていた結界も解け、神性も取り戻したのであった。

そんな千雨であるが『妖』として人を襲い食らう事は当たり前である。



お昼時、山登り来ていた団体客を太陽を背に崖の上から観察する。
老若男女集まった5.6名の団体の中で真っ先にリーダー格である年配の男性をターゲットとする。船頭を失った組織は脆い。
千雨は男性めがけて崖から飛び降りると一気に胴体から頭を引きちぎった。
頭部を口に加え引きちぎったときに一緒に背骨が飛び出し、胴体は直立不動で首から噴水のように血が吹き出す。自分がどのようになったか認知せずに彼は絶命したであろう。
その光景を目の当たりにし、阿鼻叫喚する人たち。
そして逃げ出そうとするがそこで崖から転げ落ちる年配の女性に回りの人は目に入る。そこで回りの人は気がつく。
片方は高くそびえる崖。
もう片方は奈落の底に続く崖。
前方から来るのは大きな銀狼。
四方の三方を塞がれた今、逃げるには進んだ道を戻らなくてはならない。
急いで来た道を戻る人々。
しかしながらただでさえ狭い山道で一斉に人が動き出したため崖側の人間は奈落の底に落ちていった。
しかし千雨は待ってくれない。
口に加えていた背骨が繋がったままの年配男性の頭部を振り回す。
それは逃げ惑う人の背後から襲いかかる。
頭が飛び、腕が切り落とされる。男性の頭部を吐き捨てる。
手、足、頭など胴体から飛び出た箇所が強靭な顎によって引きちぎられ山道を真っ赤に染めて行く。
中には胴体の右半分が引きちぎられスッポリと空洞になったり、爪でキレイに真っ二つになった死体もある。高くそびえ立つ崖や山道は真っ赤に染まり至るところで人のパーツが散乱する。
例えるならば猟奇的殺人事件の現場。
一人一人と絶命していき、暫くして団体客は全滅した。
バラバラになった死体を腹に納める。
ただでさえ一般的な狼よりも大きいのである。腹に納めるのに二、三人分は大丈夫であろう。獲物を頬張る租借音が山の中を響かせる。
崖から落ちた人達は後で食料として保存しておく。
人間としての思考が食料としての死体の活用方法を見いだしていた。

妖には人を畏れさせることが本能として存在している。
それはいわば存在意義だ。
それに人を襲い食らうのは妖の本能である。
これが畏れを得るのに一番効率が良いのだ。
そこに人としての思考、つまり理性が混ざり合わさることによって『妖怪』になるのである。
『妖』と『妖怪』の違い。
それは理性、つまり人間的思考が働くかどうかだと考えられる。
『妖怪』は人を襲い食らう以外にも人を畏れさせる事を考えるのだ。ジャパニーズホラーがこれに分類するであろう。
その点で見てみると千雨を襲った狼は理性があったがその時は本能で動いていた。
ムリもない。100年以上閉じ込められていたのだ。種族保存の本能が働いたのであろう。一番タチが悪いのは理性をもって本能で動くことである。
今の千雨の場合は人間だったこともあり理性で動いている。よって普段は『妖怪』として千雨は行動しているのであった。
しかしながらまだ人から妖怪になって数日もたっていない。妖の本能が人の理性に勝ってしまのだ。それが今回の襲撃に繋がるのである。

妖としての千雨と人としての千雨。二つの狭間に漂う自意識。いくら混ざりあっていたとしてもつい最近まで人間として生活していた彼女。
不意に人間からしてのこの現状を認知する。
込み上げる吐き気。
目頭に浮かぶ涙。
千雨の姿は狼から狼耳に尻尾の全裸の女性になっていた。人間としての自意識が無意識に人の姿に変えたのであろう。
発育途中の未発達な胸や尻などの体はまだ人間の時のままであった。
人間として、今までの現状を認知し顔を押さえ、血だまりの中、ペタンと座り込む。
千雨自身の血に塗られた模様は一見、殺人現場で一人取り残され悲しみに更ける被害者の少女ように見える。まあ実際のところは全くの逆であるが。
吐き出される死体。
腹のなかでしっかりと混ざりあった人肉は肉細工となり原型をとどめていない。
いったい自分は何を考えていた。
人を襲い、食らうこと前提で思考を働かせていた。理性が人を食らうことに働いていたのである。これだとあの忌々しい狼と同じではないか。
妖怪として、狼としての自分は認知した。不本意ながら認知しなければならない。しかしながら自分から人を襲う怪物にならなくても良いだろう。
昼と夜との狭間で彼女は全裸のまま山林の中へ消えていった。



彼女は山を降りることにした。
今の山のは危険である。警察がはこびより猟友会が銃を片手に山を散策する。
ただでさえ身元不明になるぐらいの遺体が何人も発見されたのである。当たり前の事だ。もしかしたら魔法使いの連中も来ているかもしれない。
それからも逃れるために襲いかかった人たちから剥ぎ取った身ぐるみから血塗られていないサイズの合う服を拝借し、現金をもって町へ降りる。
ほとぼり覚めるまで人混みに紛れる。まさに灯台もと暮らしとはこの事を言うのであろう。
彼女は久方ぶりの人間生活を送ることにした。
そして冒頭の喫茶店の場面に戻るのである。

千雨が妖怪となってから一ヶ月経とうとしていた。
人としての妊娠期間は290日(WHO基準280±15)。つまり約十ヶ月である。しかしながら狼の妊娠期間は62~75日。約二ヶ月ちょっとである。
妊婦がお腹が膨らみ始めるのが四ヶ月。つまり狼である千雨は人で言う妊娠約四ヶ月なのである。
膨らみ始めたお腹をさすりながら午後の喫茶店で一服。
尻尾と耳は閉まってある。意識するとしまう事ができた。ここら辺は略奪した知識として持っている。
妊婦にとってカフェインは体に悪いためカフェインレスのルイボスティーで。
そんな中、バックにいる大学生が自分の事について話題にしていた。
このことはテレビにも取り上げられ大々的に報道されている。あのような惨事だ。当たり前の事である。
しかしながらもう一つ、自分が行方不明の事に関してはなにも報道されていないのだ。
女子中学生が一人行方不明になっていてら少しでも話題になるだろう。だがテレビ、新聞、ネットなど何処を探してを見つからない。いったいどういう事なのか?
麻帆良に魔法使いや気使いと言われる人たちが多く存在していることになにか関係しているのか。一度麻帆良の方へいってみるかなどとつらつら考える。
そして暫くの間、物思いにふける。
しかし考えていても仕方がないことであった。彼女は考えるのを止める。
そして首を後ろに回す。
そこにはさっきの大学生二人が今だに談笑していた。
そのうちの片方の男、世間一般でイケメンと言われる存在であろう。しかしながらまだ幼さも感じさせる。
そんな彼に目を向ける。

あぁ、今夜は彼とヤろう。

舌嘗めずりをしたその時の千雨の目は獲物を見つけた化け物の目と同じであった。



≪後書き≫
削除してしまった為再録。編集と削除の隣同士は止めて欲しい(泣)
2016年12月26日

レイプ被害者の性事情はいろいろあります。立ち直る人、男性恐怖症になる人、そして性に開放的になる人。中にはセックス依存症になる人もいます。人と繋がることで安心感をえるそうです。
そして千雨は後者の分類。次回はエロ回になると思う。

感想、評価よろしくお願いいたします。



[42260] タカミチは衝撃を受け、千雨は人と交わる話
Name: みきまる◆6808e8f3 ID:d4f7e0cd
Date: 2016/12/26 22:45
 
 寂れた社殿でタバコを吹かす白いスーツの男。年齢は30から40歳ぐらいだろうか。白髪を上げて、無精髭を生やしたこの男の名前はタカミチ。
 タカミチ・T・高畑。
 千雨が通う真帆良学園中等部2年A組の担任教師である。
 
 彼は今、三峰神社に訪れていた。
 正確に言うと三峰神社に兼用されていた一般人が立ち入ることが出来ない場所。魔法使いなど裏の事情を知るものしか知ることのない銀狼が封印されていた社殿である。
 管轄は関東魔法協会であるが昔から管理していたのは関西呪術協会である。日本に入植してきた魔法使いが身勝手に封印したこの土地神は代々関西が管理してきた存在であり、あくまで関東は自分達の尻拭いを維持してきたに過ぎない。
 しかしその結界が突然破られたのだ。それに気づいた神社の巫女はそのまま関東魔法協会に連絡。事前調査として実力者であるタカミチが派遣されたのである。
 檻の代わりになっている結界が破られたのは前日の夕方から夜にかけて。朝、巡回中の神社の巫女が結界を破られているのに気が付き、今は周りを多数の魔法使いの神社職員が囲って監視している状態である。

「この社殿の封印に関しては詳しい資料が現在、関西が保持しているため良く分かっていません。なので封印されている存在が未知数のため私たちも手が出せない状態でして」
「ということはまだ社殿内に入っていない訳なの?」
「はい。今は周りに被害がないか調査中です」
「成る程、つまり僕はいわば切り込み隊長ね。しかし狼か」

 そう言って彼は両手をポケットの中に入れる。決して余裕である訳ではない。これがタカミチの戦闘スタイル。
 ポケットを刀の鞘に見立て、常人には目視出来ないほどの速度で拳を抜き放つ、刀の居合い抜きならぬ拳の居合抜き。無音拳。別名居合い拳である。
 中で何が起こっても良いようにその構えをとりながら、鳥居をくぐる。空気が変わるのを身に感じゆっくりと拝殿の方に目を向けた。

 そこは一面真っ赤に染まっていた。参道に横わたっている肉塊を中心に血と肉片が四方八方に飛び散る。
 殺戮現場。地獄絵図。まさにピッタリな文字である。
 顔をしかめるタカミチ。
 戦争経験者として似たような現場に何度も遭遇してきた物としてもやはりこのような惨状は慣れる事はない。周りに注意しながらゆっくりと一歩一歩、血だるまになった肉塊へ向かう。
 肉塊は狼の死体だった。しかしながら頭を潰され、四股は飛び散り、真っ赤な毛皮のカーペットがこれまた真っ赤な参道に敷いてあるのである。到底息を吹き返す事はないだろう。

 タカミチはハンドサインで社殿外に待機してある魔法使い達に合図を送る。ハンドサインを読み取った神社職員達は結界内で各自調査を始めた。
 そうして各自が調査している間、手持ち無沙汰になったタカミチは社殿内を歩き始める。
 拝殿、本殿をグルっとまわり手水舎、神楽殿、摂末社など一つ一つを見て回るが学者でもないタカミチは専門外である。今日の僕の自分の仕事は終わりかな、と思いながら社殿を出ようと鳥居をくぐろうとしたその時である。
 鳥居の柱の側に紙袋が落ちていた。
 表面が少し汚れているが明らかにここ最近の物。職員が持ち込んだ調査器具かと思ったがこんなアパレルショップの紙袋には入れないだろう。良く見てみると周りには飛び散った布切れも確認できる。
 社殿内に突入した時は参道の現状に注意を向けておりまったく気がつかなかったが一体これは何だろうか、紙袋を手に取る。
 中には色とりどりの布生地や花柄のレース、カラフルなミシン糸などの洋服を作る為の材料が揃っている。そして紙袋の奥にはレシートが入っていた。
 レシートの日付はつい前日のお昼時。一体どういう事だろうか、ここは結界が張っており一般人が立ち入ることはまずない。という事はこのお買い物をした人物が結界を破った犯人だろう、おもわぬ証拠を手にいれたタカミチは周りの破れ散った布切れにも目を向ける。
 まるで引き裂かれたように飛び散った布切れ。
 イギリスにいるネギ君の風花・武装解除(フランス・エクセルマティオ)によって飛び散った服のようだと苦笑してしまう。チェック柄の生地やネクタイ、ナイロン生地の何かなどまるで全てを組み合わせると自分が担任をしている麻帆良学園本校女子中等部の制服ようだ。
 ここで気が付く。
 そうだこれは麻帆良学園本校女子中等部の制服だ。
 うちの学校のネクタイにブレザー、チェック柄のミニスカート。それらが破けて飛び散っているのだ。一気に血の気が引いたタカミチは至急学園長に連絡をとる。3コールもしない内に学園長は電話に出た。

「学園長、緊急事態です! どうやらうちの女子中の生徒が巻き込まれている可能性があります」
「ファ! 一体どういう事じゃ?」
「とにかく女子寮に連絡を取って昨日から連絡の取れない生徒がいないかチェックをお願いします!」
 
 そう言って一度、電話を切る。
 個人名が判断できる物、例えば学生手帳などが出てくるかもしれない。付近を丹念に調べ上げる。
 飛び散った制服に沿って周りを探索。そうして鳥居の柱の横に落ちているレディースバックを発見。急いでジッパーを開けバックをひっくり返し中身を取り出す。
 壊れた携帯やメモ帳、飲みかけのペットボトル、そして財布。
 恐る恐る財布を開くとそれは出てきた。
 麻帆良学園本校女子中等部の学生手帳である磁気カード。
 そこには丸眼鏡を掛け、不機嫌な顔でカメラを見つめる顔写真。新学期ということで新しい学年になったばかりの2年A組の文字。
 
 2年A組25番 長谷川 千雨

 自分が担任とする生徒の名前だった。 




「な、なんだよありゃ」
 
 住宅街の路地を一生懸命に走る大学生。彼は汗だくになり呼吸を乱しながらも脚を止めることなく走り続ける。

「ば、化け物ってあの大っきな犬のことかよ!」

 彼を後ろから追いかけるのは街灯の明かりに照らされるなんとも幻想的な雰囲気を醸し出している大体2m位の大きな犬。
 いや、どちらかと言うと狼だろう。その大きな狼はゆっくりとされど確実に青年との距離を詰めていた。
 グルルと唸り声をあげながら青年を追い詰める。青年は全速力で走り回っているが狼は仕留める事なく距離を積めるのみ。それはまるで何処かに誘導するかのようにも見える。しかしながら余裕のない青年は一心不乱に逃げ回っていた。

「くそ、ふざけんなよ!Twitterにでも上げさせるぐらいの余裕をくれよ!」

『町の中でおっきなワンちゃんに遭遇!モフモフ~(*´ω`*)』とでもツイートすればフォロワー急増待ったなしのこの現状。現代っ子らしく危機感を持ってそうで持っていない彼であった。
 そうこうしているうちに住宅街の一角にある児童公園が横目に入る。彼は曲がり角で急旋回をすると追われないように猛ダッシュ。咄嗟に児童公園のフェンスをドラマ『マイアミ・バイス』でオープンカーに飛び乗る主人公のように飛び越えるとそのまま雑木林に身を低くして息を潜めた。
 静かな時間が過ぎる。
 静観な住宅街では聞こえてくるのは電柱に付いている柱上変圧器のジリリリとした音と自分の荒い呼吸音のみ。そういえばこのような低周波は年をとるたびに聞こえなくなる事を思いだし、逃げ惑う体力といいまだまだ若いなと再確認。肩で息をしていたのだが次第に落ち着きひと安心つけるようになる。
 ホッと息をつく。良かった、何とか巻けたか。と緊張感が緩んだその時である。
 ガサガサと音を立てて近づいてくる足音。
 まさか見つかった!
 息を再度潜めて丸くなり見つからないようにと神様仏様に祈る。そうしている間にも一歩一歩確実に距離を詰められる。
 もうダメだ!おしまいだ。
 そう思ったとき彼の肩にポンと手が置かれた。

「えーと、大丈夫ですか?」



 夜の公園のベンチに座る男女一組。
 男の手にはブラックコーヒー。女の手にはミルクティーがが握られていた。

「奢って貰ってスミマセン。本当に大丈夫でしたか?」
「いえいえ、ご迷惑をお掛けしてこちらの方がすみませんでした。わざわざ声を掛けて貰って」
「そんな、追われるように公園の雑木林に飛び込んだと思ったらなかなか出てこなかったので大丈夫かなっと。なにかあったんですか?」
「あははは。まぁいろいろと」

 愛想笑いでこの場を濁す。
 さすがに大きな狼が自分を追いかけ回していたと言ってもこいつは何を言っているのかと変人に思われるだろう。
 そう誤魔化しながら隣に座る彼女に目を向ける。けっして胸は大きくないないが抜群のプロポーション、高校生から大学生だろう。ダークブラウンの髪を後ろで纏めミルクティーの缶で両手を暖めながら虚空の先を見つめる彼女はなんだか物寂しそうに見えた。

 それから彼は彼女と世間話を交わす。そうして彼女と会話するに連れて幾つか彼女の事を知れた。
 ネットに詳しくノートPCはVAIOを使っている事。
 サブカルチャーに精通しており彼女自身コスプレなどしていた事。
 そして彼女はまだ学生でありながら今は学校に通っておらず家に帰る事が出来ない事。
 俗に言う家出少女なのであろう。
 彼に話しかける彼女は寂しさを紛らす為であろうか。だからそんな目をしているのか。
 そんな彼女に彼は優しい言葉を掛ける。彼自身このような状況に慣れてるわけもなく話を聴いてあげるのみ。まだまだ大学生で女性経験が少ない彼はそれが精一杯であったが彼女は少しずつ笑みを漏らすようになってきた。
 そうしているうちに時間が過ぎ日を跨ごうとする。彼は彼女に聞いてみた。

「もうこんな時間だけど今日これからはどうするのかい?なんなら家に泊まってくる?」

 他意がないわけではないが半分は優しさである。何となくであるが放っておけない彼女であるため今日の寝床にへと自分の家に招きいれようとした。
 しかし彼女は首を横に降る。見知らぬ男の部屋に行くほどガードは低くないのだろう。そうか、と呟きベンチから立ち上がろうとする。
 その時である。
 彼女は立ち上がると彼の前に立ち向き合ってそのまま飛び付く。そして両手を首に回し彼女は耳元で囁いた。

「待ちきれないの。ここでシテ」



 彼女は囁いた後、彼の唇にそっと口づける。
 そのまま接吻すると真っ赤な舌で彼の口のなかを犯す。クチュリクチュリと互いの唇と唇が重なりあいながら舌が絡まりあう。
 深夜の住宅街の一角で官能的かつ卑猥な音が響き渡る。
 肩に回した両手がそのまま彼の首筋を通り耳の下に回り互いの唇の間には唾液で糸が引いている。
 そして彼女は彼の固くなった局部へ手を回す。固くなった局部ははち切れんばかりの自己主張をしており彼のジーンズを上へ上へと押し出している。それを彼女は優しく撫でたあとゆっくりとジーンズのフックを外し、ジッパーを下げた。
 ジーンズによって塞がれていた彼の局部はジッパーの間から顔をだす。前あき部から顔を出した彼の股間の印は海綿体が膨れ上がり今か今かとピクピク動いている。
 彼女は彼の太ももからゆっくり降りるとベンチに座っている彼の前にしゃがみこむ。そして彼の膨れ上がった海綿体に手をとるとそのまま口のなかへ頬張り始めた。
 クチュクチュと音をたてながら彼のペニスを頬張る。
 優しく筋を下から上へと舐めあげて亀頭を舌で転がす。そのままペニスを喉の奥へと持っていくと亀頭の裏までまるでピストン運動のように上下へ動かす。まるで口の中が女性器のように感じられる。
 片手はペニスの根本。上下小刻みに動かし攻める。もうひとつの手は彼の玉袋をやさしく揉みほぐす。ピクピクと痙攣する彼のペニス。やがてその快感は頂点に達する。

「あぁ…出るよ。出るよ!」

 そういって射精の瞬間を事前告知。もうだめだ。出てしまう。そう思いペニスに身を任せギリギリと歯を噛みならす。
 しかしながらその時は彼女の手によってお預けされた。

「まだダメ。出すときはこ・こ・に」 

 そう言って彼女は自分の腹部をなで回した。
 彼女が示す行動は只一つ。彼女の中に出す。つまりはそう言う事であろう。彼の中の男の性が溢れ出す。
 彼女はカウパーと唾液で艶やかになった指を一本一本舐め回すとスカートの中に手を入れ、そのまま腰周りの所まで手を回すと自分が穿いていたショーツに手を掛け足元まで下ろした。彼女のショーツは愛液で湿っておりまた艶々と輝いてる。
 彼女は彼と対面する形で彼の膝の上に乗る。
 そして彼のペニスを自分の秘部に合わせるとそのままゆっくりと彼のペニスを自分の膣内に納めていく。

「あああぁ」

 彼女の口から声が漏れる。誰の目にも触れることが出来る公園の一角で一組の男女が混じり合う。口から漏れる喘ぎ声を両手で抑えゆっくりと上下に腰を動かす。浮かしては落とし、浮かしては落とし、彼の肉茎と彼女の穴蔵が互いに擦れ合い、ぐちゅんぐちゅんと音を立てる。けっして大きな音ではないが誰もいない夜の公園では一層この音が卑猥に響き渡った。
 
 喘ぐ事を抑え、互いが欲望のまま混じり合う。

 いや、欲望は欲望でも彼女の場合、そう長谷川千雨の場合は今交わっている彼とは違いなかなか特殊であろう。
 この状況は彼女の作戦みたいなものである。
 彼をここまでおびき寄せこの場で混じり合う。彼女が今している行動は一種の栄養補給である。
 
 魔力、精力、気。
 このような現実では不可侵な力は直接相手を食らう以外に一番効率が良いのは互いの体液を交換することである。魔法使いの仮契約が唇と唇がふれあうキスなのがその代表だ。
 その力はそのままお腹の中のまだ見ぬ子供達に送られる。親が子に抱く気持ちは万国共通。それがこのような特殊な例だとしてもだ。今は化け物である千雨だがわざわざ本能で動く必要はない。理性が働くのなら『妖』ではなく『妖怪』に。この一ヶ月で心に誓った言葉である。またこのように混じり合う事によりまだ自分が人間社会で排他される存在ではないことを再確認する。

 最初の頃の本能に身を任せるのは得策ではない。現段階で数十人の命を奪っている。その度に理性を取り戻すと自分を攻めていた。理性が本能に負けぬよう彼女は今も抑えてる。
 身も心も一度は化け物に成り下がった自分のリハビリ。
 彼の家に招かれるのを断ったのは彼に依存する可能性を少しでも減らすため。今の彼女は本能と理性が混じあいながらも必死に抑え付けていた。
 
 喫茶店で彼を最初に見つめた目は捕食者の目。本能に従った目。
 今、彼の上で腰を降りながらみつめる目は理性を抑え、快楽に身を任せながら必死に本能を抑える悲しき瞳。
 
 やがて男の快楽が頂点に達する。
 彼の肉茎が溢れ出す精液を彼女の秘部は受け止める。ドクンドクンと波を打ちながら吐き出される肉茎。彼女の膣は一滴も残さず絞り出す。
 彼女自身はエクスタシーの頂点に達する事はなかった。
 
 しかしこれで良いのだ。
 
 彼女は息が上がっている彼にもう一度キスをすると立ち上がる。彼女の秘部からは彼の精液が太ももに流れ落ちていた。しかし彼女はそのまま振り替えることのなく公園を立ち去ろうとする。彼はそんな彼女を呼び止めるが腰に力が入らず立ち上がる事は出来ない。

 そうしている内に彼女は夜の住宅街に消えていった。



〈後書き〉

 ついに明かされる時系列!
 襲われたのは2年に進級する春休みの3月後半。前話とこの話の後半はその一ヶ月後ですね。

(注意!)
 妊婦の性行動は体に負荷が掛かるので安定期の間に慎重にお願いします。このSSはフィクションだからね。





[42260] ハカセは千雨を心配し、エヴァはペットが欲しい話
Name: みきまる◆6808e8f3 ID:6a96d8d9
Date: 2016/12/26 22:45
 
 真帆良大学工学部のキャンパス。その一つにロボット工学研究会の研究所がある。その一室に二人の女子中学生がパソコンの前で黙々と手を動かしていた。
 
 一人は葉加瀬 聡美。
 学年トップクラスの成績の持ち主で茶々丸のプロジェクトに加わっており、メンテナンスも担当している。通称『ハカセ』
 
 もう一人は超 鈴音。
 『麻帆良の最強頭脳』と呼ばれており勉強・スポーツ・お料理、何でもござれの無敵超人である。茶々丸のプロジェクトの中心にいる人物だ。

 この二人は今、茶々丸の新しい更新ソフトフェアをプログラミングをしている最中である。しかしながらハカセの顔色は良くなかった。

「超さん、千雨さんがいなくなったのは歴史の通りですか?」
「…」
「超さん!」
「…静かにするネ」

 そう言って立ち上がり、給湯室へ向かう超。そのまま二つのマグカップにインスタントコーヒーの粉を入れるとポットのお湯を注ぐ。そしてマドラーでかき混ぜながら超が口を開いた。

「私の知っている歴史ではこんな出来事はないヨ」
「つまり…」
「…タイムパラドックス、つまりはイレギュラーネ」

 そう言ってハカセにコーヒーを渡す。超は近くの椅子をハカセの向かい側に引っ張っていき、そこに腰掛けた。

「長谷川千雨。1989年2月2日生まれ。水瓶座。B型。コンピュータに精通しておりのちにそのスーパーハッカーの力と洞察力でネギ・スプリングフィールドを支える存在。その他色々、今までは私の知る千雨さんだったネ」

 そう言いながらコーヒーに角砂糖を入れていく。一個一個、次つぎにコーヒーの中に消えていく角砂糖。頭を効率良く使うためにはカロリーが必須である。それはハカセも同様で超と同じように角砂糖が消えていった。

「長谷川さんってハッカーの能力があるんですか?」
「一度長谷川さんのPCにアクセスしてみれば解るネ。あれは女子中学生が掛けるセキュリティじゃないヨ。どちらかって言うと個人職員レベルでのペンタゴンとかNSAのレベルネ」

 そう言いながら一度話を止め、コーヒーを含む。口の中に砂糖の甘味とコーヒーの苦味が広がり疲れた体に染み渡る。

「でも今はそれどころじゃない。今の千雨さんは行方不明、それも安否不明ヨ」
「一大事じゃないですか!なんで学園側はそう発表せずに家庭の事情と誤魔化しているんですか!」
「簡単な事ヨ。これが『裏』の出来事で、もしかしたら関東魔法協会の失態の可能性があるからネ」

 新学期が始まってすぐのHRで高畑先生は千雨が家庭の事情でしばらく学校をお休みするとクラスの生徒に説明した。クラスの生徒達は一体どうしたのかと騒いでいたが超も含めて『裏』の関係者のクラスメート達の顔は厳しく、疑問に思ったハカセは超に話題を振ったのである。

「どうやら千雨さんは結界で立ち入ることが出来ない場所に立ち入ってそのまま行方不明になったみたいヨ。その結界には封印されていたとされる狼の死体しかなかったらしいネ」
「それと関東の失態とは?」
「どうやら関東、正確には学園長が千雨さんの体質を把握しており、尚且つ関東が管理する霊地での事件だからヨ」
「関東が管理って点では解りましたが千雨さんの体質とは?」
「結界の無効化ネ」

 長谷川千雨は学園都市全域に張ってある学園結界の一つ、認識阻害の結界が働いていない。
 認識阻害の結界はその名の通り真帆良の非常識な出来事、270mもある世界樹、自立歩行型のガイノイド、そして気や魔法による異常な身体能力や異常現象などを認知させないための物である。
 魔法使いの都市である真帆良は世界樹を中心に多種多様な結界がはってあるが千雨の場合、自分に掛かる結界の効果をレジスト、もしくは無効化していたのである。

「つまり千雨さんは…」
「そう、私たちと違う世界が見えていた訳ネ。何時も一人でいる理由も察することができるヨ。まあ今はその話は置いておいて、その千雨さんの体質を把握しておきながら放置していた責任。それがもう一つの失態ヨ」

 そして一息つく。ハカセは口を開かず、研究室にはHDDの回転音しか聞こえない。

「そして今の千雨さんの現状について幾つかの仮説が残されているネ」

 超はテーブルの上にコーヒーカップを置き立ち上がるとバックからノートPCを取り出し椅子をハカセの横に引いて座る。そしてPCを立ち上げ操作すると、とあるPDFファイルが表示された。
 それが写し出された液晶ディスプレイをハカセに向ける。
 そのPDFファイルには簡潔に説明するとこのように書かれていた。
 
 長谷川千雨の現状。
 推測される仮説として大きく二つに分けられる。
 
 一つは死亡説。
 社殿内で死亡していた狼が補食した可能性があるため。
 遺留品や血痕も残っており可能性としては一番高い。しかしながら死亡した狼の腹の中からは遺体は発見されなかった。消化しきっている可能性はあるが真偽不明。
 
 二つは生存説。
 上記の通り遺体が発見されなかったため。
 社殿内での狼の死体は撃退に成功した可能性が示されてある。だが長谷川千雨は一般人のため可能性としては第三者の介入、そのままその第三者と一緒に消息をたった可能性があり。
 しかし長谷川千雨が社殿内に入り込んだ時も結界自体は働いていたので第三者が入り込むには一度結界を解除。もしくはレジストする必要がある。よってこちらも確信するには証拠不十分である。


「つまり長谷川さんは?」
「わからないネ…。二つの説はどちらとも確信できる部分が少ないヨ。本当に消息不明ネ」

 そう言ってため息を吐く超。このPDFファイルは魔法先生の間で渡されていたファイルを超が不正に所得したファイルである。超自身千雨の事で分かるのはこのファイルの事だけである。

「もともとその神社に封印されていた狼についても関東は把握していないネ。関西に文献などは残っていると思うけどデジタル化していないし、アクセスは難しいヨ」

 超やハカセの科学技術は未来の知識もありこの世界の誰よりも進んでいる。しかしアナログの文献や資料は把握するには直接出向かなくてはならなかった。

「超さんでも分からないんですか…。大丈夫なんでしょうか…」
「無事を祈るのみネ…。ただ一つ私は気になっている事件があるヨ」
「事件…ですか?」

 そう言って再びPCを弄る超。インターネットブラウザを開きブックマークしているニュースサイトを開くと液晶画面をハカセの方に向けた。

「これは…」
「秩父山中で起きた事件、登山に来ていた老若男女6人のグループが全員惨殺されたと言う事件ヨ。犯人は不明。また遺体には大型の生物に襲われた可能性あり。警察は野生の熊を犯人として捜査を継続中である。って事らしいネ」

 そして超はハカセの前に手を出すとタッチパットを操作、カーソルを動かしタブを切り替える。

「そしてこれが埼玉県の先月の行方不明者の数ネ。他の月に比べて少し多いヨ」
「これが何を示すのかは私にはまだ推測もできないけれどこの二つは千雨さんの事と関係がないとは言い切れないと思うネ」

 そう言ってテーブルに肘を置き、顎に手を添える。
 窓の外では午後の放課後で部活に打ち込む生徒たちが夕日を浴びてオレンジ色に染まっていた。そして研究室の中にもその光は降り注ぐ。
 夕日で反射したコーヒーを持ちながら下を向くハカセは口を開く。

「超さん、私たちで何かできませんかね? クラスメートは放っておけませんよ」
「分かっているサはかせ。私にとってもこの中学生活は夢のような生活ネ。だけど私たちの計画もある。スキマ時間だが情報収集など出来ることは徹底するヨ」

 超はわざわざ未来から来てやらなければならない計画がまだ残っている。戦乱の世から訪れた超であるがその計画の合間にもこの儚い夢を守る為に何かしらの力になろうと決めていた。
 超の言葉を聞いて何処か安心したハカセであったがハッと何か気が付いたのだろうかもう一度超に質問する。

「そう言えば真帆良の魔法使いさんたちは?」
「魔法使いの連中も必死に捜索中ヨ。
 死亡している可能性が否めないがやはり自分達の学校の生徒であるからネ。教育者として責任があるし自分達の管轄の事故だし責任は取るみたいヨ。
 大体学園長が千雨さんの結界レジストの事を事前に知っていたとしても一般人に魔法の事をばらすことは最適でない事を知っているからこそ対策しようもなかった事だしネ」

 成る程、良かったと一安心するハカセ。
 ホッと一息ついたのか暫く二人でお茶をし、プログラミングの作業に戻る。その時、PCに戻るハカセを横目で見ながら超はぽつり何かと呟くがその声が聞こえている者は誰一人居なかった。




「邪魔するぞ」
「お邪魔します」

 そう言って開かれる研究室の扉。
 ハカセと超によって作られた魔法と科学の融合ロボット、絡繰茶々丸とその主人推定600歳前後の吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが扉の先から現れる。
 茶々丸は何時ものメイド服、エヴァは黒のゴシックで右手にはカタログサイズの雑誌を所持していた。

「今晩はネ、エヴァンジェリンさん、茶々丸さん。わざわざこんな時間に」
「今日は茶々丸のあれだろ、パワーアップするんだろ」
「プログラムのバージョンアップネ。排熱部の効率化だからあんまりパワーアップしないヨ」
「そんな事を言われても私は解らん。今から夜の警備だからその前には終わらせておこうと思って来ただけだ」

 そう言ってエヴァは研究室備え付けのソファに寝転ぶと持ってきた雑誌をパラパラと捲り、茶々丸のインストールしている間の手持ちの時間を潰す。
 茶々丸はハカセの前に座り、パソコンに繋がったケーブルをハカセが茶々丸の後頭部に接続していた。そんな中、エヴァに超は質問する。

「エヴァンジェリンさんは何を読んでいるネ」
「ん? これか」

 そう言って起き上がると背表紙を見せる。そこには『Komatsuna 4月号 ~ペットと過ごす私生活~』と書かれていた。

「なに、ペットとか茶々丸の情操教育に最適かと思ってな。こう調べているんだよ」
「…ペットネ。確かに子供の教育には最適だと思うけど茶々丸はエヴァンジェリンさんのお世話で大変じゃないかネ?」
「ほう、茶々丸に家事一式覚えさせたの私だぞ。それに従者に主人の世話は当たり前だろ」

 そう言ってスッと目を細める。周りの温度が下がっていくのが感じられると超は慌てて弁護。

「アハハハ、ジョーク、ジョークネ。火星人嘘つかないアルヨ」
「ふん、」

 まるでもう一人の中国人留学生、古菲の口調になる超。エヴァは不機嫌になりながら雑誌に目線を戻すと何事もなかったように雑誌のページを進めていった。
 
「故にエヴァンジェリンさん。ペットは何が欲しいかネ」
「そうだな…」

そう言って雑誌をソファの背もたれにかけ、あぐらをかくと顎に手を当てながら悩み始めるエヴァ。外見は10歳児の為、大きなソファで胡坐をかくその姿は何故だか保護欲注がれる景色である。

「そうだな、無難に犬とか鳥じゃないか? ドラゴンやグリフォンなどでも良いが真帆良では難しいだろうし」
「なんでそんな伝説の生物が出てくるネ」
「それは私が最強だからだろ」

 そう言うエヴァはニタァと当たり前のように答える。
 確かにエヴァは闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)と呼ばれる吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)である。あながち間違いではない。
 …なにやら続編のUQでは本物やら偽物、本来の真租、狭間の魔女などよく分からない事になってるがネギまの世界ではそんな事を突っ込むのは野暮であろう。

「そんな物ネ?」
「そんなものだよ」

 そんな中、PCの前で二人の会話を聞いていた茶々丸が口を開く。

「マスター、私は猫が良いです」
「なに、猫だと。それはダメだ! 私が許さん」
「何故ですマスター? 可愛いじゃないですか」
「何が可愛いだ! 駄目なものはダメ。わかったか」

 はい…と答え、肩を落とす茶々丸と励ますハカセ。主人の言うことは絶対なので言う事を聞くしかない。
 しかし何故エヴァが猫を嫌っていたのかはあの陰湿古本がエヴァのミドルネームで弄っていたのが原因だったりするがそれが知られるのは随分先であろう。

「ふーむ。私は狼とか良いと思うネ」
「ほう、何故だ?」
「吸血鬼に狼は付き物ヨ。どちらも夜に生きる物同士、古代ヨーロッパでは同一視されてたらしいじゃないか。それに良く創作物では一緒に居るネ」
「それは創作物でしかない。私の知ってるヨーロッパの人狼どもは今は異界に引きこもっている根暗どもで優雅さを一片も持ち合わせていない野蛮な奴ばかりだ」

そう言われムスッっとする超。それを感じ取ったのかエヴァは意外だと驚き、顔に出す。

「お前が狼にどんな感情を抱いているか知らないが一応候補に入れておこう。近接戦では茶々丸一人ではまだ心元ないからな」

 そうして時間を潰している間に太陽は沈み、外は夜の闇に包まれる。
 茶々丸はインストールが終わるとさっさと研究室を出ていく。猫の件で不機嫌になった茶々丸は主人を置いて行こうとする所をエヴァは驚きせっせと追いかける。
 ハカセはもしや茶々丸が自我に目覚めた!と興奮し、超がそうかもしれないネと参同する。
 
 

 そんな真帆良の一幕。
 
 空には月は出ておらず星空が広がるのみ。
 
 そんな景色を見つめる一匹の銀狼。

 そして物語は進んで行く。



《後書き》
学園side、超一味とエヴァの話。千雨の出番は次回に持ち越し。

UQの方はちょっと訳が解らない(詳しく読んでいない)ので吸血鬼の真祖が何とかはスルーで。

あれってネギまの伏線含めて簡潔出来るんですかね…



[42260] 千雨は追いかけ回された後、エヴァに勧誘される話
Name: みきまる◆6808e8f3 ID:d4f7e0cd
Date: 2016/12/26 22:45
 
 闇夜の月が明るく線路を照らす。

 そんな一直線に延びたレールの上に一匹の狼。

 一般的な狼より一回り大きい銀狼、そう長谷川千雨は一歩一歩麻帆良に向かって歩き進めていた。
 
 失踪してからはや一ヶ月。

 もう元の生活に戻ることはないし、あの街にも居られないだろう。しかしながら最後に一度は自分が過ごしていた街を見ておきたい。その気持ちで胸がいっぱいであった。
 
 寮生活で離れ離れになっていた両親。
 こんなひねくれものでも暖かく見守り、育ててくれた存在。
 
非日常が這い寄る街。
 自分のストレスの元であるが今になったら懐かしく感じる麻帆良。

 1-A組のクラスメイト。
 友達と言える存在はいなかったが今ほど非現実的ではない賑やかなクラス。

 正直良い思い出は殆どない。
 しかしながら愛着があったかと言えばないとは言いきれず、クラスメイトも自分が壁を作るだけで人柄として良い人物は沢山いたのだろう。だが今はもう過去の出来事である。

 千雨は一通り街を見て回るとそのまま何処か遠くへ行方を眩ませるつもりであった。
 
 子連れで日本中、いや世界中を回ってみるのも面白いかもしれない。“人”としてシングルマザーで暮らしていくのは大変厳しいが狼として暮らしてゆくのなら問題ない。

 普段は山の中で身を潜め、時々街へ“遊び”に行く自由気ままな狼としての生活。どうせもう“人”として生きてはいけないのだ。
 好きなように生き、好きなように死ぬ。何処かの傭兵の台詞が思い浮かぶ。

 しかし子供達はどうしようか。

 “狼”としての育て方は本能として持ち合わせているが“人”としての育て方は人の本能だけでは簡単に育てられる物ではない大変複雑なものである。

 今度個室ビデオ店でおおかみこどもでも見て参考にしよう。そう思いながら自分のお腹を覗き込む。

 まだ狼の姿では膨らんでいないお腹だが確実にこの中にはもう一つ、いや複数人の命が宿っていた。
 
 最初は堕ろすつもりであった。

 あの忌々しい狼との子供である。惨劇の張本人との子供に愛し、育てることが出来るだろうか? いや出来るはずがない。
 しかしこの状態、畜生であり化け物である存在で病院に行くこと出来ない、話せない。

 ならばと自分自身が出来る様々な方法で試した。
 
 激しい運動でお腹の子供へダメージが行くように無理をした。勿論雨の中縄跳びもした。
 
 しかしダメだった。

 化け物である今の体に生半可なダメージは意味をなさない。あやしい薬も試したがそれも同様である。

 夜な夜な一人山の中で、泣きじゃくりながら何回自分のお腹を殴った事か。お腹のは赤くアザが沢山出来た。
 
それでもダメだった。
 
 そうして暫くすると次第にお腹の子達は私に会いたくてひたすら耐えているのではないか。そのように思うようになった。
 
 まだ見ぬ母親に出会う為、ひたすら耐えて耐えて。
 
 お腹の子供らに罪などないのは分かりきってる。
 そんな子供達に私は一体何を。
 罪の意識の中で次第に子供達の嫌悪感から愛情へと変わって行った。

 今の私に社会的立場などない。産む、産まないは自分の意思しかないのだ。
 
 それから私はこの子達を産み、育てる決心をしたのである。

 線路を辿って麻帆良に向かう千雨。やがて線路の先に大きな大きな大木が見えくる。
 
 神木・蟠桃。
 
 麻帆良の中心に存在する巨大な大樹。目的地はすぐそこであった。



 麻帆良学園の夜は人通りが殆どないので有名である。
 学園都市と言う性質であるため住民の大半は学生でありその殆どが寮、または実家で暮らしているからである。名目上は学生の夜遊び禁止などごく普通の理由であるが実際の所はまた別の、『裏』の理由があるのだ。
 それは侵入者対策である。
 麻帆良の中心に鎮座する世界に類を見ない巨大な世界樹や世界中から様々な貴重書が蔵書されている図書館島など『魔法使い』にとって貴重な存在が数多くこの地に保存されている。それを狙った盗難者や関東魔法協会を心良く思っていない者など『裏』の人間がこの地に現れるのだ。
 『裏』の人間にとって『表』の人々、俗に言うカタギを巻き込みたくない。なので日中は大っぴらに活動出来ない。なのでわざわざ夜に侵入するわけである。
 それを向かい撃つのは関東魔法協会の魔法使い、麻帆良の魔法先生、生徒達。彼らは麻帆良の町をひっそりと守っているのであった。

 そんな夜の麻帆良を歩く二人組。
 一髪を頭の右で縛ったサイドテールの小柄な色白の少女とストレートロングの黒髪と三白眼を持つ背が高い褐色肌の少女。そんな二人は中学生でありながらカタギ、一般人とは見えない近よりがたい雰囲気を醸し出していた。
 小柄な方は桜咲刹那。長身の方は龍宮真名と言う。
 二人は麻帆良の治安を守る魔法生徒と呼ばれる存在でパートナーとして夜の警備に着いていたのである。

「…なぁ龍宮。吸血鬼のペットってコウモリじゃないのか?」
「藪から棒にどうした? 話が点で分からんぞ」
「いや、“あの人”が教室でペット特集の雑誌を読みながら『猫の恩返しを見たら猫も良いかもしれない…』と呟いていたもんから不意に考えてしまった」
「…つまり闇の福音はペットが欲しいって訳か。…コウモリはどちらかと言うと自分自身ではないか? 体を蝙蝠に変えるのが吸血鬼だろ」
「それもそうか…」
「そうだろ」
「「・・・」」

 この二人、決して仲が悪い訳ではないがどちらもあまり喋るタイプでないため気まずくなるとこのようにどうでも良いことを呟いては空気を白けさせていた。
 
「でも…『猫の恩返し』に猫の良いところってあったか?」
「金曜ロードショーでやってたがないはず…。あれは身勝手なだけだったな」
「その代わりバロンがかっこよかった」
「確かに」

 下らない会話を交える二人であったがその実力は他の魔法生徒と一線を越す。刹那は京都神鳴流の剣士として、真名はフリーランスの傭兵として。
 技量も実戦経験も持ち合わせている二人にとって今夜の警備も何時もと変わらないルーチンワークの一つ。しかし暫く巡回していると唐突に真名のポケットの携帯電話が震え始めた。

「はい、龍宮ですが。はい……分かりました。此方も警戒します」
「どうした龍宮。何があった?」
「瀬流彦さんからの連絡だ。侵入者が此方に向かってるらしい」
「了解」

 侵入者の情報を聞き、二人は気を引き締める。
 空に上がっている月は満月であった。




『ちょ、ちょっと待て! 麻帆良ってこんな危なかっしい町だったのかよっと!』
『クソ、着いてくるな金髪野郎! なんじゃあのデカブツは!』

 千雨の後ろを追いかける真っ黒な影の巨人。巨人は両手の触手を鞭のようにしならせて襲い掛かりながら千雨を追いかける。そして一緒に金髪の、聖ウルスラ女子高等学校の制服を身に纏った少女と箒を持った幼い顔立ちの少女が後ろから追いかけていた。

「待ちなさいそこのケダモノ! ここ麻帆良に侵入するとは良い度胸。この私、高音・D・グッドマンが成敗してあげますわ!」
「ま、待ってくださいお姉さま~」
「遅いわよ愛衣。あなたは箒を使いなさい箒を」
「はい! さすがお姉さま」
「全く愛衣は。そのままでは立派な魔法使いになれませんわよ」

 彼女達は龍宮達と同様で麻帆良の町を守る魔法生徒である。
 “立派な魔法使い”を目指す彼女達、高音・D・グッドマンと佐倉愛衣はペアで警備の巡回中、不振な影を確認。確認してみるとそこには一匹の大きな狼が石畳の上をノコノコ歩いていたのである。
 キョロキョロと回りを見渡せばひっそりと進む姿は侵入者そのもの。明らかに外敵である。しかしながら立派な魔法使いを目指す彼女達は後ろから不意打ちするなどの卑怯な事はしない。高音は愛衣を連れてわざわざ目の前に飛び出すと自分達の名前を名乗りあげ、堂々と千雨を撃退すると宣告したのだ。
 
 この時千雨の額には冷たい汗が流れていた。
 麻帆良に侵入してからやけに体が重いのである。まるで何かに抑えて付けられてるようなそんな感覚。麻帆良に魔法使いと分類される人々がいる事はまだ人間だった時の記憶と照らし合わせ、存在すると察していたがまさか町全体に不可侵な力が働いているとは。
 そんな時に魔法使いと名乗る二人組である。ヤバいと言ったらありゃしない。
 万全の状態なら戦闘も難なくこなせるだろう。しかしながら今は力が押さえ付けられてありながら尚且つ妊婦である。状況は最悪だった。

 スタンドの如く巨大な巨人は影を伸ばしうねりを挙げながら嫉妬深く攻め立てる。決して局部が攻められているなどのエロティカルな事ではなく純粋に襲われていると言う意味だ。それを右に左と避ける。横殴りの攻撃はジャンプをしながら木々を飛び移る。
 すると今度は火の玉が何個も飛んで来る。それも同様に上へ下へ、右へ左へ避け、くるりと身を空中で身を翻す。
 あまり派手な事はしたくないのが千雨の考え。ここで応戦しても良いが町全体が魔法使いの町だと考えると仲間は他にもいるだろう。もしかしたら自分以外全員魔法使いだった可能性だって否定できない。応戦してしまうと技量で上回っていたとしても物量で負けてしまう。
 ここは逃げるのが一番の得策。
 お腹の我が子を思いやりながら早々と駆けて行く。しかしながら今度は左前方から右頬の毛を掠りながら一発の銃弾が後ろの街路樹に打ち込まれた。打ち込まれた街路樹は衝撃の威力で大きな穴が開く。そして遅れて届く発砲音。

「…ち、はずしたか。すばしっこい奴め」
 
 人間の時よりも格段に感度の良い聴力が数百メートル先のビルから漏れた独り言を捉えた。咄嗟に狙撃ポイントを目視するとそこには1メートルぐらいの巨大な銃のスコープを覗く同級生、龍宮真名が次弾装填の為素早くボルトに手を掛ける。
 装填された.338 ラプアマグナム弾(対魔仕様)はPGM .338 LMの銃身から音を起て射出される。そのまま一直線に千雨の額を狙った銃弾。それを千雨は火花を立てながら前歯で止めてみせた。途端に口の中に広がる不快感。直ぐに吐き出すが口の中はまるで妊娠初期の不快感の様である。咄嗟に唾を吐き捨て、そのまま狙撃の邪魔になるように雑木林に飛び込んだ。

「アイツ…歯で止めた挙げ句、対魔が効いてないのか?」
『どうした龍宮?』
「あぁ、どうやら侵入した妖怪は対魔があまり効かないみたいだ。銃弾を前歯で止めた後、そのまま吐き捨てた」
「効果がないって事か?」
「不快な表情をしていたがダメージにはなってない所を見るとそうだろう。桜咲、お前の神鳴流はアドバンテージにならないぞ。気を付けろ、ターゲットは今そっちに向かってる」
『了解』

 そういって桜咲への連絡を切る。桜咲と龍宮は別のポイントで待機しており狙撃で撃退、不可だった場合は雑木林の方へ誘導するように作戦を立てていた。

「しかし私の銃弾が目視されていたとしても止められるとは…。面白くなってきた」

 そう言いながらまるで曲芸の様に胸の間の亜空間に収納されるPGM .338 LM。そしてギターケースを開くとFN P90TRとIMI デザートイーグル MK.XIXを取り出す。二挺拳銃になると龍宮はグットマン達に続いて雑木林に飛び込んだ。



『ふざけんな! やっぱりあれってモデルガンじゃねーじゃねーか!』

 今度は同じクラスメートが巨大な銃を持って狙撃してきたのである。しかしながら突っ込む所は少しズレていた。元々教室でモデルガンと自称する物を整備しているような奴である。スナイパーでも全くって良いほど驚かなかった。

『龍宮がスナイパーって事は…桜咲が剣士、長瀬が忍者、絡繰がロボットで…あぁもうなんなんだこの街は! ただ最後に町を見て回りたいだけだって言うのに』

 とっととこの物騒な街を出ていきたい。でも魔法使い達が邪魔をする。なるようにならないかと半場諦めながらも逃げ切るために必死に足を動かす千雨。自分は化け物であるからこの対応は当たり前であろう。
 風に乗った様に疾走する千雨。
 桜通りの石畳を横切りまた森の中に入り込む。すると今度は前方真正面に長大な野太刀を構える同級生、桜咲刹那が。彼女は千雨を見つけると抜刀する。
 「斬空閃‼」との掛け声と共に降り下ろされる刀。すると刀身から飛ばされた気が千雨を襲いかかる。刀でまさかの遠距離攻撃である。避けきれず右前足から少量ながらも血が流れた。
 後退するにも後ろからはグットマン達が追いかけており前方には桜咲が待ち構えている。
 千雨は一旦桜咲と距離を取ると鋭い目付きでグルルと喉を鳴らして威嚇。そして彼女の一瞬の怯みを感じると咄嗟に桜咲の横を駆け上がった。しかしながら彼女も咄嗟に体制を整え横を通りすぎる千雨に対応する。

「神鳴流奥義…斬魔剣‼」

 降り下ろされるのは古くより、日本にはびこる「魔」を剣で封じ込めてきた神鳴流の対魔の技。彼女の剣技は千雨の首元の毛を掻き進めながらを薄皮一枚に傷つける。ここでごく普通の魔物ならば刀傷の他にある程度の術祖的なダメージが入るのだがやはり龍宮の連絡通り、狼には大きなダメージとなり得ていないように見えた。
 と言っても千雨自身にとってダメージになっている事には変わらず、妙に傷口がヒリヒリしていた。千雨は山犬信仰としての神性が魔としてのダメージを抑えていたのである。神様と化け物は信仰ひとつで成り代わるものであり、諏訪湖の祟り神などが代表的な一例であろう。
 なんとか身を翻しながら躱した千雨はそのまま後ろ足で桜咲を蹴飛ばす。蹴飛ばされた桜咲は木々を巻き込みながら数メートル先に飛ばされる。
 『スマンな…大丈夫かあれ?』と千雨は心のなかで桜咲に軽く謝罪をし、そのまま更に森の中へ進んで行った。

「おい桜咲! 大丈夫か?」「大丈夫ですか桜咲さん?」
「あぁ…大丈夫。蹴飛ばされただけでダメージは殆どない」
「それで侵入者は何処に…?」
「…私を躱けて先に進んで行ってしまった。すまない私が不甲斐ないばかりに」
「お姉さま。確かこの先って…」
「えぇ…“あの人”のお住まいですわ…」

 後ろを追いかけていた高音達と龍宮が木々と共に倒れていた桜咲と合流。桜咲に事情を聞き取る。そして桜咲を撃退し、侵入者が進んで行った先に在るものに4人全員に心当たりがあった。
 「闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)」「人形使い(ドール・マスター)」「不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)」など数々の異名をもつ吸血鬼の真祖。今はこの麻帆良の地に封印されている彼女。
 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの住まいであるログハウスである。




「茶々丸、侵入者か?」
「はい、南西の方から時速40キロで此方へ向かってます。先程龍宮さんから桜咲さんへの通話を傍聴した限り、エヴァンジェリン様を標的にした侵入者ではないようです」
「それならアイツらに任せておこう。今日は非番だしな」

 そう言ってワイングラスを傾ける金髪碧眼の幼い少女。しかしながら彼女こそ魔法使いに伝説として語り継がれる吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルである。普段は女子中学生として日々を過ごしながら夜は麻帆良の警備員として過ごす彼女はせっかくの休日と言う事で優雅に休暇を満喫してる最中であった。
 そうしている間にも近付いて来る侵入者の影。そんな時、不意に掛かってくる電話。学園が支給しているエヴァ宛の携帯電話が細かく震えていた。

「ん…、もしもし私だ。どうした? あぁそれならいいぞ。私は気にしないからな」



 
 何とか桜咲達を巻き上げ、森の中をさ迷っていた千雨であるがふと何時の間にか森が開かれた一面見張らしの良い場所にたどり着く。そこにはポツンと二階建てのログハウスが立っていた。

『疲れた…今日はもう休ませてもらうか…。軒下に隠れさせて貰いますよっと』

 そう心のなかで承諾を得てひっそりと隠れ込もうとした時である。
 不意に感じる殺気。咄嗟にその場を後ろへバックステップ。するとその場所に一発の銃弾が打ち込まれた。先程の銃撃よりも更に威力が高いのか土ぼこりが高く舞う。目眩ましかと判断し迎撃の為、見晴らしの良い拓かれたログハウスの前まで飛んでいく。
 先程まで立っていた土ぼこりが舞う場所が徐々に鮮明になって行くとそこには桜咲が凛とした表情で右手を柄に握っていた。
 咄嗟に左右どちらかに逃げようとするが今度は両側からでてくる高音と愛衣。高音には真っ黒で大きな巨人。愛衣には大きな箒を構えており此方側も準備完了である。
 すると再度目の前に打ち込まれる銃弾。狙撃ポイントを辿るとそこはログハウスの屋根。そこには龍宮が先の銃撃時よりもさらに大きな身の丈ぐらいの巨大な銃PGM Hecate II を片手に持ち構えていた。

「チェックメイトだよ侵入者。大人しくここで終わりにさせてもらう」

 龍宮の冷たく威圧的な台詞が耳に入る。対物ライフルを片手に彼女は宣告した。
 正直千雨は戦闘になったら逃げ切れる自身はある。しかしながらお腹の事もあり、また顔見知りを傷つけるのは抵抗があった。もしこの場にウルスラの女とそのコンビしかいなかったら殺しても多少罪悪感を感じるだけであろうが『顔見知りはちょっと…』と言う感情である。それに何かしらの組織に属してあろう人間を傷つけるのは今後追われる立場になる可能性を考えると得策と言えない。
 何処かのサラリーマンと同様に長谷川千雨は静かに暮らしたいのだ。

『あかん…どうしろっていうんだよ…詰んだじゃねーか…』

 逃げるならこの中で一番弱いピンク髪の少女の方からだろう。それともログハウスの住民を人質に取って逃げるか。頭の中でPCの技術で培われたシュミレーション技術が灰色の脳細胞を活性化させる。そうしている間にも彼女達は徐々に距離を詰める。ここはピンク髪を殺るか。そう決めかかった時であった。

「ほう、お前がその侵入者か…」

 ログハウスと扉が開かれ其処から真っ黒で禍々しいオーラが流れ込む。咄嗟に振り替えるとそこには同じクラスで千雨同等に喋っている姿を見たことがない儚げな少女であった彼女、エヴァンジェリンが今は全く逆の生存本能に警鐘を鳴らすぐらいの威圧感を発する怪物となり、仁王立ちで立っていた。千雨に冷たい汗が流れる。
 
『まさかこいつもビックリ人間、いや多分私と一緒だと…。勘弁してくれよ』

 まさかのイレギュラーに困惑する千雨。まさか自分と同じような存在が身近な存在にいたとは。しかしながら自分が長谷川千雨と告白する気はない。何をされるか解ったものではないしなにより妊娠しているのだ。それを伝える勇気は無かった。

「わざわざ私の家を迎撃ポイントとして使わせて欲しいと電話があった時は驚いたがまさか狼、それも神狼とはな」

 その台詞に回りに困惑が生まれる。魔法生徒である彼女達はてっきり術者が呼び寄せた魔物であると思っていたが実際はまさかの神様である。咄嗟に龍宮は右目の魔眼を使い確認する。するとやはり神性を帯びた実体を持つ狼であった。

「このご時世に現世に残る奴も珍しい。言葉は解るか?」

 言葉が解るかと聞かれ首を縦に降る千雨。喋ったり念話すると声でバレてしまう可能性がある。「そうか…」と呟くと次に千雨へとある提案を訊ねる。
 その提案はここに居る人全員が驚く驚愕の提案であった。回りはさらに困惑が生まれ、千雨自身も驚きと困惑で頭が真っ白になる。それは…

「じゃあ提案だ。私のペットにならないか?」



《後書き》
大体2ヶ月ぶりの更新です。エロじゃなくてごめんなさい。
どうしてもこの話を入れておかないと学園を舞台に出来ないからね。仕方ないね。
と言う事でエヴァ様のペットコースです。これで百合と主従要素が追加出来るぜ。

この話ではじめての戦闘シーンを書いたのですがこのような感じで大丈夫ですかね…。
感想、評価宜しくお願いします。

なお次回の更新も遅くなります。はぁ…


≪追記≫
いいか! 絶対、UQホルダー12巻の『限定版』を買うんだぞ!
なんとなく予想は付いていたけど衝撃の事実が発覚するぞ!



[42260] 千雨は新しい生活を楽しみながらも、性欲に屈する話
Name: みきまる◆6808e8f3 ID:d4f7e0cd
Date: 2016/12/26 22:45
 
 朝の目覚ましの音が家中に響き渡る。
 時刻は朝の7時。ダイニングにはこれから現れる寝起きのご主人、エヴァンジェリンの為に茶々丸が朝食の準備に精を出していた。
 目玉焼きにこんがり焼きめの付いた分厚いトースト。こんもりお皿に盛りつけたサラダにはシーザードレッシングが掛かっておりその上にクルトンとガーリックチップが散りばめられる。色とりどりのジャムが机に並び、コーヒーの良い香りが二階のエヴァの部屋まで漂い始めた。

「ん…朝か…」

 そしてこの家の主人であるエヴァはカーテンの合間から指す朝の木漏れ日と目覚まし時計、そしてコーヒーの香りで目を覚ました。
 ずり落ちていた年にそぐわない黒のネグリジェの肩紐を正し、あくびをかきながら階段を下る主人。茶々丸は階段の軋む音で主人の起床を知る。

「おはようございますマスター。今日は目玉焼きにトースト、シーザーサラダとなっております」
「ふぁ~、おはよう茶々丸。今日の授業は?」
「3時間目に英語がございます」
「そうか…タカミチだとばっくれるのは難しそうだな」

 眠たそうな眼を擦りボサボサになった金髪を荒々しく掻く。ハイ・デイライトウォーカーと言う存在でありながらもやはり吸血鬼の本能なのか朝は苦手なものであり、力を抑えられた今でも慣れる物ではない。
 エヴァは引かれた椅子にふらふらとたどり着き、座るとふとダイニングに我が家の新しい住民の一匹であるペットを見かけない事に気がついた。

「おい、アイツはどうした?」
「ちうさんならまだ眠っていますよ。ほら彼処」

 キッチンで洗い物をしていた茶々丸はリビングの方に指を差す。そこにはソファの前で丸くなった一匹の銀狼が丸くなって眠っていた。狼は鼻提灯を出しながらスヤスヤと眠っている。

「…なぜ主人は起きているのにアイツはまだ眠っているんだ…」

 心地良さそうに眠っている狼に対して眉間にシワが寄るエヴァ。彼女は立ち上がるとズカズカとリビングに向かう。そして狼の背に立つとその背中を思いっきり蹴りあげた。

「キャイン!(痛ったい!)」
「何時まで寝ているんだこの駄狼。とっとと起きんか!」

 咄嗟にに起き上がった狼はエヴァを睨む。しかしエヴァは顔色を変えずに腕を組んで仁王立ちしていた。

「どこに主人より遅く起きる従者がいる。とっとと目を覚ませ」
「クーン(うっせ、コッチは眠いんだよ)」
「ほーう、我が家の主人に口答えするつもりか」
「ガウ(はいはい、スミマセンでしたエヴァンジェリン大明神様)」
「全く、口だけは達者だな」

 そう言われてのっそりと動き始める狼。ダイニングの床には大きめの銀色のボウルが置かれておりそこの前まで向かうとお座りの体勢で待つ。

「おはようございますちうさん。今日はお野菜が多めになってます」
「クゥン(ありがとうよ、茶々丸さん。でもそのちうって呼び方は止めてくれないか)」

 そのボウルの上には沢山のお肉と野菜がラーメン二郎の様に盛りつけられていた。
 ちうと呼ばれた狼は一瞬いやな顔をしながらも茶々丸に向かってペコリとお礼しながら念話で伝える。

「主人は決まりごとには厳しいので明日は夜更かししないようにしてください。それとその名前はそんなにいやでしょうか。ネットで一番人気のアイドルから取ったのですが」
「クンゥン(いや、駄目って言うかちょっと…)」
「まぁその話は置いといて朝食に致しましょう」

 そういって茶々丸はエヴァの向かい側の席に座る。そして二人は頂きますと手を合わせると朝食を食べ始めた。それにつられて狼も食べ始める。
 そんなエヴァンジェリン家の新しく始まったばかりの朝であった。

「じゃあ学校に行ってくるからな。留守番しっかりしておけよ」
「ガウァ(わかってるよ)」
「じゃあ行ってきますね」

 そう言って学校に向かう二人の背中を送り届ける銀狼。そして二人がしっかりと学校に向かったのを見届けると玄関を潜って家の中に入る。しかしそこには先程までの銀狼は見る影もなく一人の少女がつっ立っていた。

「ふぁぁ~昨日はテレビを見すぎたな」

 両手を組み腕を上にあげ背筋を伸ばす少女。身体中の間接を動かしながら凝った体を解してゆく。そんな彼女だが獣耳と尻尾が一緒にピンと伸ばされる所を見ると一般的な女の子ではないことが一発で解る。
 彼女、長谷川千雨がエヴァの家に住み込んで一週間が経とうとしていた。




「じゃあ提案だ。私のペットにならないか?」

 それは千雨にとってここ麻帆良に訪れて一番に衝撃的な発言であり、予想外な出来事であった。
 只でさえ魔法使いと呼ばれる人の身からかけ離れた技術を持った人がわんさかと存在し、その者から討伐対象として追いかけ回され身である。
 ここに来てまさかクラスで全くしゃべる事のない例えるのならばフランス人形見たいな一歩別の存在であった彼女が明らかに別ベクトル、人外の禍々しい空気を醸し出しながら迫って来たのである。
 もう頭が一杯一杯である千雨。
 狼となった千雨は人を殺してきた事もありメンタリティが強くなっているのは確かであるがこうも予想外な事があると頭が上手く働かない所はやはり女子中学生。
 麻帆良の地が元々おかしいと認知していた身であっても今日一夜で情報量がパンパンとなり、
 もう何も考えたくない。休みたい、おうちかえる状態となっていた。

「グルルー(話がしたいのならばとっとと回りの奴らを下がらせろ。話はそれからだ)」
「ほう、念話が出来るのか。ほらそこのウルスラの生徒達、自分の配置に戻るんだ。龍宮達も」

 成る可く尊大で大きく見せるため普段とは全く違う、威厳に満ちた声でエヴァに念話で伝える。なお喋る事も可能であるが身バレを防ぐためエヴァへのみの念話である。
 エヴァは良く授業をサボっており千雨自身口数は友達が居ないこともあり大変少ない。龍宮達には気付かれるかもしれないがエヴァには念話の声だけでバレる可能性は低いと見ていた。
 ウルスラ生徒は不満があるのかブツブツと「覚えておきなさい!」と呟きながらこの場を後にする。
 龍宮達は最初、刹那がエヴァに噛み付いてきたが龍宮が引きずりながら元の配置へ戻っていった。そして千雨とエヴァの2人きりとなる。

 そこからは淡々と話が進む。
 エヴァには前衛としてミニステル・マギ(魔法使いの従者)の絡繰茶々丸という従者が存在する。
 しかしながら彼女は完成してまだ一年。戦闘力は問題ないのだが如何せん、人間味が薄い。なので茶々丸の情操教育の為ペットという形で千雨を誘ったのである。
 また封印されているこの身では戦闘力が低く、前衛が茶々丸のみだと不安であるため新しく茶々丸とは別に従者を作るという名目も存在した。
 
 逆に千雨にとって此の誘いはメリットが多い。
 生活の安定や立場の確保、今後の出産のための身の安全などなど。また独り身での子育てはシングルマザーの問題があるように身元のない千雨にとって新しく“人”としての生き方を示す手段であった。
 しかしながらその生き方は自分の正体を明かさなくてはならない。
 この現状を隠している自分にとってどうしても通らなくてはならない道であるが何時か明かせる決心が来るのであろうか。まだ決心が付いていない。しかしながらこのような道を別に確保出来るのは彼女にとって多大なるメリットであった。

「グルァアー(つまりペットという名目の従者契約か)」
「あぁ、と言っても私はお前の事など知らん。なのでミニステル・マギや仮契約とは別に自己強制証明(セルフギアス・スクロール)でさせてもらう。そちらの方が直ぐに切っても問題ないからな」
「…(セルフギアス・スクロールと言うとあれか、fateの奴か。まじでファンタジーだな…)」

 それから千雨とエヴァの間で契約が結ばれる。
 簡略に説明すると千雨はエヴァらに危害を加えない。千雨はエヴァの意見を遵守すること。逆にエヴァは千雨の身と生活の保証。自分の身元に付いて深く散策しないと約束する。
 このような契約で千雨はエヴァのペットとなったのであった。

 さて、このようにしてエヴァのペットとなった千雨であるが彼女はこのペット(?)生活を十分に堪能していた。
 学校に行く2人を見送ると千雨は人形に戻る。誰も居ないエヴァ家では人前では隠していた耳と尻尾を隠す必要がない。その為彼女は耳と尻尾を出しっぱなしで生活していた。
 備え置きされてあるデスクトップPCでネットサーフィン。一月の間更新していなかった「ちうのホームページ」で生存報告し、コメントを返す。

・ちゃちゃ
「ワンちゃんの名前に尊敬するちう様から頂いてちうと名付けさせて貰いました」

・ちう♡
「わー私のおんなじ名前を付けてもらったんだー☆ そのワンちゃん幸せ者だね٩(♡ε♡ )۶」

 顔を引きつらせながら心底思ってもいない事を書き込む千雨。彼女の頬はピクピクと震えていた。

「なんで茶々丸が私のサイトを覗いているんだよ。てっきりバレたかとおもったじゃねーか」

 エヴァに何と読んだら良いかと聞かれた時に自由に呼んで構わないと返した結果がこれである。まさか茶々丸が自分のサイトのアクティブユーザーでありエヴァと一緒に私のコスプレについて話をしていたとは全くの予想外であった。
 エヴァは趣味の一つに裁縫がありその情報収集の一環で茶々丸はこのサイトにたどり着いたらしい。ここ最近更新が途絶えていると言う事で不安だと彼女は呟いていた。
 喜んで良いのか、同級生に見られていたという恥ずかしさか良くわからない心境。赤面しながらも一つ一つコメント返しをしていった。

 それからリビングでソファに寝転びながらテレビを見たり、エヴァの作品である人形やお洋服を見て回ったり、裁縫の作業部屋に入り込んでエヴァの技術に喉を鳴らしたり自由気ままに暮らす。
 流石に外に出ることは叶わないが元々が引きこもり体質の自分である。全く持って問題ない。この自由な時間は夕方、2人が家に帰ってくるまで続く。

 2人が帰ってくる時間になるとまた狼の姿に戻り生活をする。
 茶々丸と夕方の麻帆良の街を散歩。時にはエヴァが茶々丸に変わって千雨の背中に乗り、夕焼けに染まったレンガ道を掛ける。一般的な狼より一回り二回り大きな身体はその上に人が乗っていても何ら問題ないサイズである。
 千雨自身大変恥ずかしいので辞めてほしいのだが彼女は大変気に入っている様子でまさに気分はもののけ姫のサンであった。

 そして全員で夕食を取ると夜の警備である。
 最初顔を出したときは周りの警備員達に驚かせたがエヴァに質問する勇気もなく触らぬ神に祟りなしという事で扱いに関し、有象無象としていた。
 千雨もエヴァとの契約で自分の身元に付いて深く言及しないと話していたので第三者である彼らに質問されない事は喜ばしい事である。
 そして夜になると千雨に与えられたリビングのスペース、体がすっぽり入る大きなクッションで丸くなりそのまま眠ったりテレビを見て過ごす。そうして一日が過ぎていった。



 さて今の千雨の現状、エヴァの保護下に付いた彼女であるが彼女は妊婦である。
 狼の時は目立たなかったお腹は人形になると緩やかであるが大きくなっており妊娠中期である事を示していた。
 狼基準だと後少しで出産なのだがどうやらもう少し掛かるかもしれない。大体人形になれるのである。出産時の子どもたちが人形か、もしくは獣姿なのか想像することも出来ないしどちら寄りなのか、正に神のみぞ知るである。
 千雨自身、自分は人形になれる狼であると自負しているのだが、もしかしたらこの獣耳尻尾姿が標準、言わばスタンダードな姿なのかも知れない。そういえば創作物のキャラは人の姿をしたキャラが多かったなと考え、抑えきれないこの感情を押し殺していた。

 そう、彼女は妊娠中期である。
 最初の頃は力がなく、捕食と性交でエネルギーを所得していたが今は大分安定し両方共現段階で行う必要がない。
 しかしながら彼女は妊娠中期の妊婦が抱える性欲に襲われていた。
 個人差はあるが一般的に妊娠初期と後期は性欲が落ちる。それは初期の場合、妊娠性ホルモンやつわり、流産への不安などの要因。後期はお腹の膨らみも大きくなり頻繁にお腹が張ったり、出産への意識が高くなることなどによる。
 しかしながら妊娠中期になると妊娠初期の体調不良もおさまり、性器や乳房へ循環する血液量が増えるなどの生理的な変化がある影響で性欲が増すのである。
 それが今の彼女の状態、増して行く性欲に耐えている現状であった。

 ホームページの更新を終え、一段落した千雨。
 2人は学校に出払っており家の中には誰もいない。居るとするならばエヴァの良くわからない人形達ぐらいである。不意に手持ち無沙汰なった左手が太ももを沿って局部に触れる。

「んんっ…」

 微かに漏れる声。右手に握られているマウスはカーソルがIEの検索バーまで動かされていた。
 軽いクリック音の後にキーボードに打ち込まれる猥語。検索結果に表示される数々のサイトを片っ端から開いてゆく。
 男と女が愛し合い、そのまま性交渉に持ってゆく純愛系。好きな男の前で他の男に寄って快楽に溺れる寝取られ系。無理やり車の中に引きずり込まれて犯せれるレイプ物。様々なジャンルやシチュエーションに沿ったエロ画像や漫画、AVなどなど。

 彼女の左手はそのまま花弁を開き、中指が深くその奥へと突き進める。そしてたどり着く一つの場所。女性の快楽の最頂点。俗に言うGスポット。

「あぁあぁぁぁ…」

 触れる事により体全体に震え伝わる快感。中を触れた時よりも更に深く、大きく根付く様に響く。そのまま親指はぷっくりと大きくなった薄いピンクの蕾を弾いた。伝わる快感は更に増大しそのまま彼女を支配する。

「はぁああぁぁ…あ…ああ…」
 
 漏れる声は次第に大きく部屋の中を響かせる。膣の中に入った中指は次第に早く小刻みに動き、親指がグリグリと陰核をこねくり回す。右手は乳房を掴み攻める。擦れる乳首が充血し大きくなっていた。
 そして攻め続けられる彼女の身体。次第に貯まっていく快感。

「んぁ…イク…イクぅ…あ…あぁあああ!!」

 そして快感は頂点に達し絶頂を向かえる。
 大きく仰け反る身体。真っ白になった視界。抑えきれない喘ぎ声と一緒に口から漏れるヨダレが艷やかに色っぽさを醸し出す。局部の愛液は座っていた椅子を濡らし、こぼれ落ちた愛液はそのまま床にピチャピチャと水たまりを作り上げていた。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 乱れた呼吸、定まらない焦点。ダラリと力が抜けた身体がそのまま椅子の背もたれにより掛かる。
 気持ちが良い。
 その感情だけが今の彼女を支配する。抜けきった身体ははたから見ると見るに耐えない姿であろう。しかしながら今の彼女は一人。まだ性欲は抜けきっていない状況。
 エヴァ達が帰ってくるにはまだ時間がある。ならばもう一、二回弄る事が出来るだろう。PCに履歴を残すなどの痕跡を残すようなヘマはしない。これでもPCの技術は頭一つ抜き出ていると自負している。今こうして自分が長谷川千雨だとバレるような事はないであろう。

 こうして彼女は誰も居ないこの場所で何度も何度もPCの前でオーガズムの頂点に達し、絶頂で身体を震わせるのであった。




「ケッ…、見セラレル側ニトッチャ溜マッタモンジャネーヨ」

 彼女はまだ知らない。エヴァの家にいる一体の人形の事を。



≪後書き≫
エヴァの家でのペット生活&一人エッチ回。

皆さんはきっとクリスマスで性夜を楽しんでいると考え、次の日の夜に上げる配慮に溢れた仕様。
ちなみに作者はボッチ。これを書いてる最中、カフェの店内はカップルで溢れかえっていました…。

久々のエロ描写だが1000字程度しかないバグ。上記の現場で執筆していたら自分自身の哀れみで筆が進まなかった。ツラい…

Q.千雨って服はどうしているの?
A.ご想像にお任せします。ジブリのハクみたいに服着てるかもしれないし、リアルに考えて着ていないかも知れない。正に神の味噌汁。
実際、どちらでも問題ないように描写は配慮していたりする。

感想、評価宜しくお願い致します。
次回は何時になろうか…



[42260] 千雨と人形と出会い、エヴァは忘れ物をする話
Name: みきまる◆6808e8f3 ID:d4f7e0cd
Date: 2017/03/06 12:49
 それは千雨がエヴァの家に従者と言う名の居候を初めてから1週間が経った時の事である。
 安定期に入っている彼女は元の引きこもり性格と身バレ防止と言う名目で普段テレビを見ながらゴロゴロと時間を潰していた。
 エヴァと茶々丸は学校に向かい、千雨以外誰も居なくなったエヴァンジェリン家。ワイドショーではレポーターが麻帆良お勧めのスイーツショップを紹介しており女性キャスターの甲高い声がリビングに響き渡る。そしてその音をを書き消すかの様にバリバリと骨をかじる彼女。
 言わば煎餅感覚なのであろう。茶々丸から今日のおやつとして渡された骨をソファに寝転びながらかじるその姿は怠慢した主婦の様であった。

「あぁ~暇だ…暇すぎる…」

 人形となっている千雨のだらけきった愚痴が空しく消え去る。エヴァの加護に入る前の一ヶ月が騒がしい毎日であっただけの事であるがこうも刺激がないとつまらないものであった。自分が長谷川千雨であり、人であった事を隠しているこの身では出来ることが限られているのだ。
 今なら何故、野良猫やペットの犬が寝てばかりなのかが何となくわかる気がする。それぐらいやることがない。そんな千雨は今日もぐた~と眠って時間を潰そうとしていたのであった。
 
 そんな時である。ふとダイニングに置いてある電話のベルが鳴り響いた。
 エヴァは交流関係が狭いため、滅多に家の固定電話が掛かってくることなどまずない。あったとしても茶々丸が普段所持している携帯電話からである。千雨が居候を初めて一週間が経とうとしているが初めてエヴァ家の電話機の着信ベルを聞いたレベルであった。
 「よっこらせっ」と足を降り下ろし、その反動でそのまま跳ねるように起き上がる。手首を振り、首をグルグルと動かしながら固まった体をほぐすとそのままトントンと軽快に向かう。
 そして電話機のディスプレイを覗き込むとそこには『絡繰茶々丸』と表記されていた。
 
 ほいほいと受話器を手に取る。
 この時千雨は失念していた。ほぼ無意識である。
 彼女は隠していた“長谷川千雨”として受け答えしようとしたのだ。普段は狼の姿であり、喋らない自分が人形の状態で受話器を取って受け答えする。それはつまり自分の隠し事がバレてしまう可能性が格段に上がってしまう一因であり、相手になにかしらの疑いが持たれるトリガーであった。
 そんな事も考えず着信を取るため受話器を本機から外そうとする彼女。

『オイオイ、電話二出テ大丈夫ナノカヨ』

 不意にリビングから聞こえる声。
 咄嗟に声の聞こえる場所に身を振り替え警戒する千雨。狼の本能による警戒心が格段に引き上がり、尻尾と耳がピンと立ち上がる。
 一体何事であろうか。今だ鳴り響く電話機を背にゆっくりとリビングへ向かう。
 今は茶々丸の電話より侵入者であろうこの声だ。一体何者であろうか。
 一歩一歩慎重に歩む。襲いかかれても大丈夫な様に警戒心も忘れない。

「おい! 誰か居るのか」
『ココダゼココ。収納ノ上ダ、ホラココ』

 そう受け答えられその方に目を向ける。
 目を向けた先、そこにはDVDやビデオなどが収納されている収納が置いてありその上にはエヴァが製作したであろう数々の人形が置いてあった。

『ソノ前ノ人形ヲドカシテクレ、オレハ動ケナインダヨ』

 言われるがまま手前の人形を退かして行く。そして切り拓かれた先。そこにはゴスロリ風の服に身を包んだ一体の人形が。そしてその人形が喋りだす。

「ヨウ、オレハチャチャゼロ。オマエト同ジエヴァノ従者ダ。ヨロシクナ後輩」

 呆気とられる千雨の後ろで電話の着信音は止まり、ピーと言う音が鳴った後に茶々丸の声で伝言が吹き込まれる。その声が静かになったリビングの一人と一体の間を流れていったのであった。




「つまりお前はエヴァの従者であり、茶々丸の姉でもあるのか」
「ソウダゼ、妹ハロボットデモ分類上ハ人形ダカラナ。俺ト妹ハドール契約ヲ結ンデイルンダゼ」

 机の上で酒瓶片手に喋る人形とソファで胡座をかくケモ耳尻尾の少女。
 そんな彼女の右手にはお猪口が備わっており二人は真っ昼間から酒を嗜みながら交流を深めていた。
 出会って当初、エヴァの魔力不足で動くことの出来ないチャチャゼロは部屋の魔力濃度を上げるように頼む。
 いわれるがままあの忌々しき狼から略奪した知識を用いてこの部屋一体の魔力濃度を上げて行くと喋るだけであったチャチャゼロと言う名の人形は立ち上がり一体の人形の背中に手を突っ込んだ。
 そして引っ張り出したその手には隠されていた酒瓶が握られており、せっかくなので二人で親睦を深めようと与太話しながら飲む事になったのだ。

「そう言えばエヴァって何者なんだ? 人外ってのは何となくわかるんだが力も弱いし」
「オマエ知ラナイデココ二来タノカ。ソリャ傑作ダ、ハッハハハ。
 吸血鬼ダヨ、ソレモ真祖ダ。封印サレテイルケド」

 千雨はチャチャゼロを通して様々な事を知る。
 エヴァの正体から関係性、関東魔法協会、そしてこの街、麻帆良についてなどなど。
 それは今まで千雨が予想や推測で考えていた物の答え合わせであり、彼女は真剣に耳を傾け食い入るように話を聞いていた。

「…トマァ、ソンナ所ダナ。ソレデ次ハオマエノ番ダゼ。
 オマエハ人ノ姿ニナレル事ヲ隠シテイル事ナド、ウシロメタイ事ガ多ソウダカラナ。場合ニヨッテハオレハエヴァ二伝エナケレバ、ケッケケケ」
「それは…」

 そして次は千雨の番となる。
 彼はこの一週間私の事を人形の隙間から観察していた。ここで変に嘘を付いたり誤魔化したりするのは現状、得策ではないだろう。
 墓穴を掘ってしまう可能性が大である。ここは素直に述べるべきであった。
 そして千雨はこれまでの経緯を掻い摘んで説明する事となったのであった。

「ハッハハハ。オマエッテ人間、ソレモゴ主人ノ同級生ダッテ。驚イタワ」
「何だ悪いか。こっちだって色々大変だったんだぞ。笑われたくない」
「スマンスマン、デモ良カッタジャネーカ。元人間同士、ゴ主人トハ仲良ク出来ルンジャネーカ」
「んな簡単な事じゃねーよ全く。人形は気楽で良いな」
「人形ダシナ、ハハハ」

 軽口を叩く人形とため息を付く彼女。彼女はこれから先、どの様に立ち回れば良いか悩み頭に手をやっていた。
正直、バレるとしてももう少し時間が欲しい、せめてお腹の子を産んでからだ。
 もしその前にバレてしまうと堕ろされる可能性がなくもない。人間の倫理的観点からしてそちらの方が正しいだろう。まぁ人ではないのだが。

「それで…エヴァに私の事を伝えるのか」
「オマエハドウシテ欲シインダ?」
「今はちょっと。せめてこの子達を産んでからにして欲しい」
「ソウカ、イイゾ。元々話スツモリハ無カッタシナ」
「ほ、本当か…?」
「コンナ面白クナリソウナ事ヲ自ラ潰シタリシネーヨ」
「…」

 性格や言葉遣いがかなり乱暴で残忍であるチャチャゼロ。そんな彼にとってこのような面白い話は類になく、退屈な日々に刺激を与える良い塩梅となると言う考えであった。

「正確悪いなお前」
「イイジャネーカ、オマエト俺トノ秘密ダゾ」
「そう言うと更に気持ち悪い」
「ハッハハハ、イイネイイネ。ホラモウ一度乾杯ダ」
「はいはい、わかったよ。ほら従者同士…」

 「「乾杯」」



「…ソー言エバ伝言メッセージ、ドウナッテンダ?」
「あ、忘れてた」



 場面は変わってここ、2−Aの教室。
 休み時間となりわいわいと騒がしくなる同級生達を前にエヴァは机をトントンと人差し指で叩いていた。組んだ足は貧乏ゆすりしており、彼女が如何にイライラしているのが解る。

「おい茶々丸、アイツには連絡ついたのか」
「いえ、留守電でした。おそらく眠っているのではないだろうかと」
「えぇえいクソ。こんな時こそでペットであり、従者であるアイツの役目だろう!」
「…その前に狼のちうさんは電話がとれないのでは?」

 ハッとその事に気が付くエヴァ。
 授業をサボる事が多いエヴァであるがその事を良く思わないタカミチが今日一日エヴァを監視するため、クラス見学と称して教室の後ろに待機している。
 普段NGOの活動として教室に顔を出すのが少ない彼である。周りのクラスメイトにとって納得のいく理由であり、オレンジ髪のツインテールの子なんかは顔を赤くし恥ずかしさで教室の後ろを振り向けないでいた。
 そしてお昼休み明けの5時間目は体育である。サボる事前提で登校していたエヴァが体操服など持ってきてる訳がなく、仕方がないのでうちにいるあの狼に持って越させようと言う算段であった。

「…だ、だが何とか出来ない事はないだろ?」
「取り敢えず伝言メッセージに要件は吹き込んでおこましたので気が付いたら持ってきてくれると思いますよ」
「クソ…あの駄犬め」

 自業自得である。

 そうして昼休みとなる。
 作ってきたお弁当でワイワイと盛り上がるグループや売店のパンやゲテモノジュースを片手に飲み食いしながら図書館島について語り合うグループ。食堂に食べに行くグループもあれば中華料理を食べにいったりする人などなど。
 学生一人ひとりが自由にお昼休みを過ごす中、エヴァと茶々丸はタカミチと一緒に超が経営する中華料理屋台「超包子」で昼食を頂いていた。

「それで、何か聞きたいことがあるんだろタカミチ。普段、私を監視なんかするような事しないからな」
「わかっていたのかエヴァ。でも授業に出て欲しいってのは本心なんだけどなあ」
「言ってろ、それでお前が聞きたいのはあの狼か」
「そうだよ。エヴァ、あれは何者だい?」
「ただの神狼だよ」

 それからエヴァはタカミチにあの狼に出会ってから解かっている事を話す。
 しかしながらエヴァ自身、未だにあの狼について分からない所が多く、そして知ろうともしていなかった。元々互いに散策しないと言う契約であり、知る気もないのだ。
 彼女にとってその様な事どうでもよかった。

「しかしどうしたタカミチ。あいつについて何かあったのか?」
「そりゃあるさ。只でさえ魔法先生、生徒から警戒されてるエヴァが新しい戦力を手に入れたんだ。先生たちの反発もあるし自分たちの身の安全を考えると意見する事も止む得ない事さ」

 そう言いながら小籠包を摘むタカミチ。
 蒸し器でホカホカに蒸らされた小籠包の先端を摘むとそのまま生姜が千切りされた酢醤油に着ける。そして千切り生姜と一緒に口の中に運ぶと熱々の肉汁と酢醤油の酸味、生姜のさっぱりさが合わさって素敵なハーモニーを生み出していた。

「それに彼女の件もあるしね…」
「彼女と言うと…」
「そう、千雨君の事だよ」

 美味しそうに食べる彼を横目にゴマ団子を頬張るエヴァ。しかしこの時、彼女の箸が止まっていた。

「一月前から行方不明。手がかりは当時の所持物とバラバラになった洋服。現場に飛び散っていた血痕からは長谷川千雨とみられるDNAも発見される、ね…」
「あの後、学園長がなんとか関西に連絡を取り付ける事が出来たんだ。神社職員も把握していなかった社殿だから元々の管轄である関西に聞いてみたんだけど…」

 彼は箸を醤油皿の上に置き、遠くを見つめる。
 そこには他学年の生徒達がキャピキャピと騒ぎたっており、如何にも学園生活を楽しんでいるのか伝わってきた。

「けど、なんだ?」
「資料提供は断られた、だけど大まかな概要は発覚したよ」

 そしてかれの口から紡がれる。

「彼処に祀られていたのは狼だ。
 それも眷属信仰の大口真神とは別に神格化したのもの、周囲一体の土地神などと同じ側面を持っている」
「でも彼処の主神は伊邪那岐と伊邪那美だろ? どう言う事だ」
「元々土着信仰として狼を祀られていた場所に建てた神社が三峰神社らしい。なので元は別系統だ。諏訪神社と同じだよ。
 関東が当時、そこを封印した原因は神仏分離と似たような理由じゃないかと思ってる」
「つまり…」
「あぁ、あの神狼はそこの神様の可能性、またその関係者であり千雨君についての最重要人物、いや最重要神様なんだ。僕と学園長はそれを懸念してる」

 そう言って一度コップに注がれていたプーアール茶を手に取る。ゆっくりと口に持ってゆき、軽く一服。そうしてタカミチは自分を落ち着かせていた。

「学園の対応は?」
「知ってると思うけどクラスの子達には短期留学、親御さんには記憶操作を掛けてるよ。
 そして魔法協会で必死に捜索中。死体が発見されていないのが唯一の救いだよ」
「そうか…」

 そういってエヴァは茶々丸からタカミチと同じくお茶を注いで貰う。2人の間には重苦しい空気が漂っておりそんな中茶々丸は居心地悪そうにそわそわしていた。
 そんな時茶々丸に一匹の救世主が現れた。彼女はエヴァに耳打ちする。

「マスター。ちうさんがやって来ましたよ」




 チャチャゼロとの一杯楽しんでいる最中、伝言の存在を思い出した千雨。
 恐る恐る再度、音声メッセージを再生してみるとそこには茶々丸からエヴァと自分の分の体操服を持って来てくれと言う頼みであった。
 持って来ることなどなんら問題はない。茶々丸はメイドとして普段から体操服一式など揃えてラックに掛けているので後は学校まで運ぶだけである。

「という事で行ってくるわ」
「オウ、気ヲ付ケロヨナ。ボロヲ出スンジャネーゾ」
「分かってるって」

 そう言って千雨は前足を床に置くと手先と足先から毛深い獣毛に覆われる。
 爪は太く長く曲がり、手の甲と足の甲には衝撃を抑えるための柔らかな肉球が浮かび上がる。尾てい骨から伸びたフサフサの尻尾がさらに大きく、太くなり手足の骨格が急速に作り変えられ、配置が中心線に寄るように内側に持っていかれる。
 鼻は前に前に伸び、それに釣られて唇や歯の配置など口全体が前に持っていかれマウスを形成。鼻は黒く湿り、獣毛に覆われそのまま首を辿って身体全体に広がって行く。
 そうして身体中の骨格と体格が一回り、二周り移り変わるとそこには一匹の銀狼が姿を表したのであった。

「ソレッテ質量保存ノ法則ハ何処イッタンダ」
『うっさい、十分ファンタジーのお前には言われたくない』
「ソリャソウダナ」

 一瞬で獣化する姿を観察しながら茶化す腹黒人形とリアリストだった銀狼。
 千雨はラックに掛かった体操服入れの紐を口に加えると顎でハンドルを下げ玄関扉を開く。

『行ってくるからな。片付け頼んだぞ』
「オーケーオーケー、行ッテコイ」

 そうして千雨は2ヶ月振りの学校へ足を向けたのであった。



≪後書き≫
 書いていると長くなりそうだったのでキリの良い所まで。なのでエロはなし。そして次回もエロはない予定。
 チャチャゼロとタカミチ回です。

 一月おきの更新となってる今作。次回も2月になる予定です。リアルが落ち着くまで変わりにTwitterでも覗いておいて下さい。





[42260] 千雨は同級生に出会い、超は要らぬ勘違いを受ける話
Name: みきまる◆6808e8f3 ID:39be24fd
Date: 2017/03/06 12:52

 長谷川千雨は女子中学生である。
 つい最近2年生に進級したナウでヤングなピチピチのJCである。
 何処か新宿の復讐者みたいな風貌の大きな大きな狼の姿をしていても今年で齢14である。
 そんなか弱いはずの少女でありながら妊婦な彼女。同年代の女の子と比べて十分、身も心も成長してあるだろう。しかしながら経験が少なかった。耐性が無かった。
 彼女は妊娠中であり今この時の姿は狼である。
 イヌ科の動物はアルコールを分解出来ない。生き物のカテゴリーに外れる彼女であってもその名残としてだろうか。はたまた年相当なのか。

 彼女はお酒に弱かった。



 桜並木の大通りを歩く一匹の銀狼。その場に居るだけで周りの人々を恐れ、畏敬させる威圧感を放つはずの彼女。しかしながら今の彼女には其の様なプレッシャーは何処とやら。お散歩と言う名目で保育士に連れられた園児達にもみくちゃにされていた。

「おっきーい!」
「なんかチクチクするーっ」
「ここはふわふわしてるよ!」
(おいバカ止めろ…うっ…キモチワルイ…)

 チャチャゼロの誘いでついつい気を許したのが運の尽き。彼女は今、壮大な酔いと戦っていた。
 何故こんなに早く回ってきたのだろうか。夜の町を徘徊していた時、お酒を嗜む事があったが此の様に体調を崩す事がなかった。
 何故かと答えるのならばお酒を飲んで直ぐに変身したから、お腹に子を宿して暫く経ったからなどなど様々な要因があるのだが彼女の知るよしもない。
 その前に妊娠期間中に飲むのが論外であるが彼女は人のカテゴリーに外れるので問題無いであろう。名残としてイヌ科の特性と同様、体調不良は避けられないが。

 尻尾に飛びつきぶら下がる子も居れば下に潜り込んでお腹を軽く叩く子。
 背中によじ上り、お尻をぺしぺしと競馬の様に叩く子や、耳を引っぱったり手に持ったタマゴボーロを体操着入れを咥えた口にねじ込もうとする子まで。園児の行動は千差万別。
 ここがもし麻帆良外であったら大騒動になっていただろう。しかしながらここは非常識の街。止めるはずの保育士や通りすがりの主婦達もニコニコと笑みを浮かべながら一連の行動を見守っていた。

(くそぅ…分かっていてもこの街は非常識だぜ…今の私にとっては生きやすいけど)

 非常識を嫌っていた彼女が非常識の存在となりながら、彼女の居場所として非常識なこの街が受け入れる。魔法使い達はいけ好かないがそんな彼らに救われているとは何と皮肉が効いた事か。
 そうこう考えているうちに園児達はこの場を離れる。保育士に連れられた子供達は賑やかにそして無邪気に騒がしく先へ進んでいった。

 そうして入れ替わるように前の方から現れる三つの影。
 小学生、いやまたもや幼稚園児であろうか。やっとのこさ離れていった園児達とは別のグループであろう。付き添いとして背の高い保護者が付いて歩いていた。
 千雨は絡まれないように道の端に寄る。
 正直そのまま路地に入り込んで吐いてしまいたいのだが昼休みが終わる前には届けなくてはならないし、みっともない姿を見せたくなかった。
 項垂れながら進む千雨。そして前の方にいた三人組の会話が聞こえる。

「わっあ! 大っきなワンちゃんがいるよーっ!!」
「かえで姉、あれって何て種類のイヌなの?」
「うーむ、なんでござるかな? 拙者も分からないでござる」
(うげぇ! 双子と長瀬じゃねーか!)

 前の方から見えた三人の影。それはまさかの同級生である2−Aのクラスメートであった。




「うわぁ〜もふもふっ~」
「もーお姉ちゃんばっかりずるーい! 早く代わってよーっ!」
「ほれほれ、落ち着くでござる。なんなら二人で乗ればよいでは? どうでござるかお犬殿?」
(お犬殿ってなんだよ…)

 渋々と長瀬の提案を飲み込んだ千雨は軽く頷く。
 2−Aでも騒がしい分類に入る双子、鳴滝姉妹とあからさまに忍者であるが必死に否定する長瀬楓。
 彼女らは女子寮で同室であり「さんぽ部」の部員でもある。今の時間は昼休み。彼女らはさんぽ部の部活動中であった。

「うわぁ~うなずいたのです。 それじゃーんぷ!」
「おっ前にサ~ンが救えるか~♪」
「お姉ちゃん、名セリフを変な歌にしないでよ」
「それ進めー! ごーごーっと!」
「はっはは。しかし頭がよいお犬殿でござるな。ほれ、お手」
(こいつら食ってやろうか…)

 先程の幼稚園児同様にはしゃぐ彼女らにイライラが募る。
 こいつらの頭をもいでスリーピー・ホロウの伝説に出てくるヘッセンどもの首なし騎士と同じ姿にしてやろうかと物騒な考えが千雨と頭を横切った。なんだかそのまま背中に乗せたくなったりしたのだが一体何故だろうか。
 詰まるところ、千雨にとって彼女ら知人に狼の姿でまとわりつかれるのには園児達に比べ、羞恥心が段違いであった。
 ある程度割り切ったとは言え本当は色々と感情が込み上げ泣き出しても可笑しくない状況。しかしながら今の体調不良が幸い、彼女の精神安定に繋がっていた。

 双子は背中に乗りながら某ジブリ映画のキャラに成りきる。長瀬はその横を連れ添うように歩いていた。
 普段の千雨だったなら威嚇するなり、その場から逃げたり、色々と対処方法があったりするのだが今の千雨にはその気力もなく流されるまま。彼女らは千雨と進む方向が同じなのかそのまま付いていく。
 ワイワイと背中で騒ぐ二人。その時千雨は隣を歩く長瀬の鋭い目付きに気づく事はなかった。




「マスター。ちうさんがやって来ましたよ」

 居心地悪そうにそわそわしていた茶々丸に現れた一匹の救世主。しかしその彼女をよく見てみるとどうやら一匹だけではない、見知った顔も付いて来た。

「あれーどうしたですーっ?」
「止まったよー?」
「んっ? これは高畑殿にエヴァンジェリン殿、そして茶々丸殿。こんにちはでござる」
 
 クラスメート二人を乗せ、隣に長瀬を連れた千雨は茶々丸の前までたどり着くとそのまま座り込む。双子はどうしたかと千雨の背中をパシパシと叩き、隣の長瀬はその前にいた三人に気が付いた。
 千雨は茶々丸に体操服入れを差し出す。

「わざわざありがとうございますちうさん。所でお三方は?」
「部活動してたら大きなワンちゃんに会ったから背中に乗せて貰ったの!」
「乗り心地最高だったよ!」
「拙者は二人の付き添いでござる。しっかしこのイヌは茶々丸殿の飼い犬、いや飼い狼でござるか?」
「「え、狼だったの‼」」

 咄嗟に飛び降りそそくさと長瀬の裏に隠れる二人。そのまま二人は互いに抱き付くと
「わ、私達って食べられる…!?」
と震え上がる。
 その二人をじっと見る千雨。彼女の心境としては好き勝手にされた分、何かしら彼女にやり返したい魂胆であった。

(コイツらまったく、しっかし…)
「…」
(長瀬の奴めっちゃ睨んでるじゃねーか!)

 双子を庇いながら千雨の事を警戒する長瀬。直ぐに茶々丸がフォローを入れる。

「大丈夫です。ちうさんはエヴァンジェリン様のもので御座います。狼ですが襲ったりしませんよ」
「ほう、このぐらいの狼を飼っておられるとはエヴァンジェリン殿も凄いであるな」

 そう言ってエヴァの方に目を向ける長瀬。そんな彼女にエヴァは不機嫌そうに答える。

「そうかそうか、それでお前らはうちのペットで何勝手に遊んでいたのかな?」
「ひゃー飼い主が怒ってるーっ」
「それ、お姉ちゃん逃げよーっ」

 不機嫌そうながら口角を上げて質問するエヴァ。しかし目は全く笑っておらず双子はピャーっと一目散にその場を離れていった。

「ハッハハ、やっぱり元気な二人であるな」
「長瀬さんは二人を追いかけなくて良いのですか?」
「彼女ら今日は食堂に行くって言っていたので大丈夫でござろう。拙者は今日、中華を食べたいのでござる。ここよろしいかな?」

 そう言ってエヴァとタカミチが座るテーブルに一声書かけて座ると彼女はエヴァらと同じ小籠包セットを注文した。
 そして千雨は茶々丸の横に座り込む。

「彼がエヴァの新しいペットかい?」
「雌だから彼じゃなくて彼女だな。ほれお辞儀しろ」
(あークソ。やっぱりコイツ、ステレオタイプな吸血鬼だよな)

 心のなかで毒を吐きながらも仕方なくペコりと頭を下げる千雨。その様子をハハハと乾いた笑みを浮かべるタカミチ。

「えーと、はじめましてだよね。エヴァと茶々丸君の担任をしているタカミチです。よろしく」
(うっせー知ってるよ。ってか何で居るんだよ…)

 ヒラヒラと手を降りながら挨拶するタカミチに軽く会釈して返す千雨。
 担任でありながらなかなか教室に顔を出さない彼は孤立ぎみだった千雨にとって関わりが薄く、そこまで気にする相手ではなかった為なんら思う相手ではない。
 しいて言うのであればこの担任は魔法使いの中でも上から数えた方が早い実力の持ち主とチャチャゼロに聞いており、この身になった今見てみると彼の実力が分かる気がしていた。

「ふーむ、エヴァのペットと言うからどんな者か身構えていたけど大人しくて良い子じゃないか」
「タカミチ殿はどんな者を想像していたでござるか?」
「そうだな…」
「…お前ら私にどんなイメージを持っているんだ。大体長瀬と私は殆ど関わりないじゃないか」

 そう言って手に持っていた湯飲みを不機嫌そうに机の上に置くエヴァ。そして後ろに座っていた千雨を呼ぶ。

「なあちうよ…。コイツら喰ろうても良いぞ…」
(食うかボケ)

 そう言ってドヤ顔で頭を撫でるエヴァの手に無表情で噛みつく。流石に甘噛み程度であるが痛いとエヴァはおもいっきり手を引っ込めた。

「エヴァンジェリン様、ちうさんに変な事を囁かないで下さい。怒ってるじゃありませんか」
「うっさいこのバカ犬! 冗談に決まってるだわ」
(知ってるわ。鬱憤晴らしに決まってるだろ)

 笑いが溢れるタカミチと長瀬に涙目のエヴァ、そして茶々丸と千雨。そんな4人と一匹のテーブルにお団子頭の少女が蒸し器片手で現れる。

「楽しんでる所に失礼するネ。小籠包定食お待ちヨ」
「おぉ、超殿であるか」
「何時もご贔屓にありがとうネ。タカミチ先生もこんにちはヨ」
「やぁこんにちは。今日もおいしくかったよ」

 現れたのは超鈴音。この中華料理屋台「超包子」のオーナーであり、2-Aのメンバーである。

「それはそれは、ありがとネ。はいこれサービスヨ」

 そう言って食後の二人に温かいスープのサービス。鶏ガラから取った毛湯、別名鳥湯に溶き卵そして刻みネギと生姜のスタンダードな中華スープ。
 感謝の言葉を返し受け取る二人。その様子を千雨は後ろから羨ましそうに眺めていた。
 
「クゥーン」(あぁいいな…酔い覚ましにくれ…)
「ちうさん、瞑らな瞳でおねだりしても駄目ですよ」

 ネギが入ってる食べ物はイヌ科の天敵。ましてや人の食べる食べ物など塩分過多なので言語道断。飼い主として茶々丸は目を光らせる。そんな様子を察したのか超は控えていた茶々丸と千雨の所に歩み寄る。

「やぁこんにちは茶々丸さん、そしてエヴァの飼い犬さんヨ。そっちは初めましてが正しいカナ?」
(この姿だと初めてだな、お久しぶりが正しいけど。しかし…)

 そう思いながらタカミチの時と同様に軽くお辞儀をする千雨。クラスにいる時からなんやら胡散臭い空気を醸し出していた彼女だがこう間近で見てみるとあの殺戮人形の言っていた事が良くわかる。
 彼女はどうやらある計画を実行するためこの麻帆良に来たと聞いているがそう言う隠し事や後ろめたい事を秘めている人の臭いがぷんぷん漂ってくるのだ。
 そしてその隠し事の矛先が千雨の方にも向いているのが分かる。エヴァや麻帆良の魔法使い達と別ベクトルの隠し事である。何となくそんな気がするのだ。野生の勘である。
 彼女の秘密。
 超が茶々丸制作時にエヴァと交わした契約では互いに不干渉とすると聞いているがその類ではない? では一体何なんだ? 思考の海に投げ込まれる千雨。

「はいこれ! ワンチャンでも飲めるスープヨ。彼女は狼だけど大丈夫ネ」
「ありがとうございます超さん。はいちうさん、超さんの頂き物ですよ」

 そう言って大きな中華食器を目の前に置かれる千雨。考え事中の彼女は二人の会話を話半分で聞きながらもありがたく酔い覚ましとして頂く。立ち上がり食器に寄ると舌をスプーンの様に駆使してスープを掬い始めた。

「しかしホント大きな狼ヨ。エヴァさんは登校の際に毎朝送って貰ったら良いのにネ」
「確かにそれは良いな。考えておこう」
「いや校内にペットを連れてこないでね。大体そんな話は先生がいない時にしようか」
「拙者にも山ごもりの際には貸して欲しいでござる」
「やっぱり長瀬さんは忍者では…?」
「いやいや、忍者じゃないでござるよ。ニンニン」
(う、うるせー…)

 笑いが起きるテーブル。そんな時、ふと超の目線が千雨のお腹に向けられた。彼女は「ん?」と眉間に皺が寄ると千雨に近づく。そして横に座り込むと下から千雨のお腹を観察し始めた。

「乳腺が張っているネ…これは…」
(な、なんだこの羞恥プレイ…んっ、ちょ…乳首に触れんな…おぃ…んっ…)

 食事中で無抵抗なのを良い事にお腹を触診する超。その際千雨の発達した乳房に触れ、不意に乳首を弾かれいやらしくも感じてしまう。
 お腹をさすられるのは服従の証。エヴァのペットになった今でも誰にもさすられた事の無かったお腹であるがこんなにも感じる体になっていたとは思いもしなかった。

『まさかこんな所で…コイツまさかズーフィリア…』

 彼女の隠し事が動物性愛の事!? そう想像し戦慄を受ける千雨。彼女のアソコからは半透明の粘液が微量ながらも分泌される。

「エヴァさん、話があるネ…」
(なに…私に惚れたからお持ち帰りしたいとか…イヤァ、ダメよ…)

 顔を赤く染めながら目線を合わせないようそっぽ向く千雨。何だか乙女チックな彼女になっているがきっとホルモンバランスによる変調であろう。
 だってほら、彼女は…

「ちうさん、おめでたネ。妊娠してるヨ」
「はぁ?」
「へっ?」
「おぉ?」
「え?」
(そ、そんなオチ? ってか気づいてなかったの…)

 乳腺が張ってるのも、おりものの分泌が多いのも、ただの妊婦と言うだけなのだから。
 


 この後エヴァが千雨に詰め寄って修羅場になったり、茶々丸がお赤飯を炊いてご懐妊おめでとパーティーをしたり、超らが千雨の主治医として出産に立ち会う事になったりするのはまた別のお話。


《後書き》
 双子&楓の交流回と前回の続き。超も出てきます。最後にエロがほんの少し。

 プライベートが忙しく遅くなりました。すみません。
 代わりになんですがなるべく今月中にもう1話更新できたら良いなと思っています。

 スリーピー・ホロウや復讐者の話などは察して下さい。
 作者のには来てくれないんです、おじさんも。何故だ…書いたら出るって嘘だったのか…

 質問なんですがキャラ紹介みたいなのあった方が良いですかね?
 キャラ設定を把握できているのか不安だったので聞いてみました。空白の一ヶ月を書いていないので分かりづらいかなーと。そのうちその空白の一ヶ月は書くつもりではあります。

 感想、評価よろしくお願い致します。次回はエロ回です。



[42260] エヴァは快楽に身を置き、千雨はこの先を考える話
Name: みきまる◆6808e8f3 ID:d4f7e0cd
Date: 2017/03/31 23:41

 満ちた月が次第に欠け初め、空に弧を描き始めた頃。
 その日、エヴァは薄暗い月明かりの下で一人お酒を嗜んでいた。
 茶々丸に用意させたつまみを摘みながらワイングラス片手で椅子に座り込むエヴァ。片足を立て、膝に手を置く。
 目線の先は何もない真っ暗な空。僅な星明かりと欠けた月明かりが彼女の横顔を薄く照らす。
 従者である茶々丸は先に下がらせ一人、物思いに耽る姿は例えるなら一つの絵画のようであり、長い金色の髪の毛がキラキラと輝いているようであった。

 そんな彼女が一人お酒を嗜んでる理由。
 それはつい最近エヴァの従者として契約したあの狼の事であった。
 超から彼女の妊娠を聞いたエヴァはその日から彼女の扱いについてが悩みの種なのである。
 まさかの子持ち。
 それもまだ妊娠中の、まかり間違っても神様の類いだ。そこらへんの犬と勝手が違う。
 経済状況からしてみると養う事が出来るが、子育てと言う観点からすると未知の領域。彼女に任せればよいのだろうか心の奥底の良心が自分も子育てに構うよう、訴えかけて来る。

 もしトラブルの元になるようであれば強引にでも契約破棄して良いが、こうして一緒に暮らして来たことにより少しずつであるが情が湧いているのも事実。600年生きてきて他の人々よりも人生経験豊富だと自負しているエヴァであるがさすがにこの様な事は初めてだった。
 
 過去を振り返り、少し後悔する。ちょっとした好奇心で契約したのが仇となるとは。

「まったく、とんとん拍子に私の下に入って…神様としての誇りはないのか…」

 グチグチと不満を漏らすエヴァ。
 テーブルの上のチーズやドライフルーツがどんどん減ってゆき、空になったワイン瓶が机の上に並び始める。
 だんだんとペースが早くなるエヴァ。
 そんな中、リビングで丸くなっていた千雨が起き上がる。大きくあくびを一回。そしてのっそりと起き上がった千雨はゆっくりとエヴァの元に向かっていく。

「んっ? どうしたちう。陣痛か?」
「グルルル… (早えーよバカ。腹減ったんだよ)」
「何言ってるか分からん。コイツ人の言葉を理解してるなら喋れる気がするんだがな…」
「クゥーン… (ご名答、喋れますよーだ。絶対喋らんけど) 」

 エヴァが摘まむチーズやオイルサーディンの香りに釣られてふらっとリビングの方から現れた千雨はお溢れを貰うためにエヴァの横に座り込む。
 話す事が出来る千雨であるが、自分が『長谷川千雨』とバレるのを防ぐために喋らないと誓っている彼女。
 普段から鳴き声やジェスチャーで受け答える彼女であるが何となく喋れる事をエヴァに看破されている所を見るに伊達に600年生きていないと実感させられる。 
 純粋無垢のペットが主人にねだるよう、可愛らしく鳴く千雨。それを察したエヴァは干しぶどうを房ごと千雨の上に高く持ち上げる。

「そうか、そうか…コレが欲しいだな。おっと待て! そんな目で見ても駄目だぞ」
「 ……(じれってーな、とっととしろよコイツ) 」
「そ〜れ…よし!」

 掛け声と共に干しぶどうが真上に投げられる。それを千雨は上手く後ろ脚を使ってジャンプすると口でキャッチ。そのまま器用に実の部分だけを頂く。
 その様子を見ながらエヴァはちょっとした支配欲を満たし楽しんでいた。

「ほれ、次は一粒ずつだ。取ってこーい!」
「 (ちょ! おっと、おおっとと、コイツ楽しんでやがる…!) 」
「ははは!! そ〜れそれ!」

 そんな、なんだかんだで主人生活を楽しむエヴァ。彼女は千雨の頭をくりくりと撫で回す。

「よーし全部取れたな~上手いぞ、よしよ〜し」
「 (なんだろう…悪い気がしない…) 」

 そして付き合されながらも十分ペット生活を楽しんでいる千雨であった。



 それは些細な思いつきである。

 テーブルの上に置かれたバターケース。エヴァは千雨の頭を撫でながらふと、朝食時などに使う木目調の木箱に入ったバターに目が入った。
 何か閃めいたのか身を乗り出してそのケースを手に取る。
 蓋を開けると半分のサイズになったバター。彼女は暫く頭に手を当て考える。その間、千雨はエヴァの隣でうとうとと瞼を閉じかけていた。
 そして彼女は一度ケースをテーブルの上に置くと椅子の上で立ち上がり、真っ黒なワンピースの中に手を入れる。
 そして中に履いていた同じく真っ黒なショーツの両脇に親指を通すとおもむろに下げ始めた。
 彼女の片手にはつい先程まで履いていた暖かなショーツ。それを椅子の背もたれの端に引っ掛けると再度座り込み足を組む。
 幼い彼女の小さな割れ目。そして生え揃うことのない金髪の陰毛がうっすらと目に入る。
 そして彼女は机の上に置いたバターを指で掬うと自分の局部に塗り始めた。

 割れ目を沿って弧を描く。
 上へ下へと動く小さな人差し指。その指先は小さな赤い突起にもふんわりと乗せるよう優しく塗っていった。
 やがて全体にくまなく塗り終えた彼女は瞼が閉じかかっている千雨の方に体を向けると股を広げて足を投げ出し、片方の足で千雨の背中を蹴り起こす。
 ふと目を覚ます千雨。
 眠たげな顔をエヴァに向ける。

 そこには薄暗い窓の光をバックに両手を前に組ながら股を開き、局部を千雨に晒け出すエヴァの姿が。
 彼女は指についたバターを舐めると太ももに指を当て、そのまま局部の方にツーと指を動かす。そして中指をトントンと当てながらこう言った。

「なぁちう…ここ、舐めな」




「んっ……」

 クチャリクチャリと舌の音が一人と一匹の暗く静かな空間に響き渡る。

「……ぁ」

 彼女の局部はピチャリピチャリと音をたて、彼女の内情を示す。

「……ぁあ」

 思わぬ快感に顔をしかめるエヴァ。最初はちょっとした出来心。

「……んっぁああ!」

 まさかこんなに感じる事になるとは!
 エヴァとして予想外かつ、衝撃的の出来事。

 唐突に思い付いた『バター犬』
 局部にバターを塗る事で犬が匂いに釣られて嘗め始め、擬似的なクンニリングスが体験できると言う代物。
 長年の知識でそのような物があると知ってはいたが生憎今まで人形は持っていてもペットは飼ったことがない。
 ここ麻帆良の地に来てから早14年。
 子供の姿という事もあり色欲に駆られる事はなかったが欲求不満が積もる事には変わりない。
 ここに来る前なら幻術で大人の姿になった後、情事を営むことが出来たのだが今は慢性的な魔力不足。性的なものに無縁の生活を送っていた。
 そんな時にふとバター犬を思い出したエヴァは興味本位でバターを女性器に塗り始めたのだ。
 もしここでごく普通の犬や猫ならばくすぐったいだけで感じることが無かったかもしれない。
 犬は規則正しくベロベロと舐めるだけで相手の事を性的に考える訳ではない。猫の場合だとザラザラとした舌が逆に局部を痛める可能性だってある。
 
 しかしながら彼女は違った。
 彼女は元“人間”だ。
 そして人間を止めた後も道教で言う陽の気を取り込む為に数々の人々と交わった経験がある。
 つまりテクニックという観点で千雨は多大な知識と経験を持っていたのだ。

 唾液と愛液が混じり合い潤滑剤として滑らかにかつ不規則に攻め上げる。
 陰部を沿うように舌を動かしていたかと思うと陰唇に触れるよう、割れ目の中心を下から上へと滑らす。
 そのたびに背中を通って頭に流れる快感。
 女性器全体を優しく分散するように刺激する彼女の舌使いと合わせて、犬の舌特有のザラザラが更に彼女へ刺激を与える。
 柔らかくほぐれた彼女の陰部は更に愛液の分泌を早め、滝の様に流れだし、やがて快感は全身へと響き渡る。
 
「んっ……はぁ、はぁ……っ」

 涙目になりながら口から漏れる甘美の声を最小限に抑えるエヴァ。
 彼女は誇り高き吸血鬼。例え交わることがあっても主導権は渡さない。
 そんな普段から支配する立場であり、サディスト的な思考である彼女がペットのオオカミにはなされるがまま攻め上げられ、気持ちよさに全身を震わされる。

(鳴かされるがまま鳴かされてたまるか!)

 エヴァの今取り残されている最後の意地。
 彼女はワンピースの裾を掴むと声を抑える為口に咥える。その時だった。

「んんっ〜ーー!!!」

 頭の先へと突き抜ける衝撃。
 ホワイトアウトした視界。
 口に咥えたワンピースの裾をおもいっきり噛むが口端の方から涎が垂れる。
 頭の中も真っ白になり、何も考えることの出来ないただひたすら快感に身を委ねる身体。やがてゆっくりと視界が晴れる。
 股間に目をやるエヴァ。その先には股に顔を埋めた千雨の湿った黒い鼻が。
 先程まで舐めていた筈の仄かに赤みの掛かったピンク色の舌が見えない。
 
「なっ!……んっ…ぁあ、ぁああ、ぁぁあああ!!!」

 湿った鼻は彼女の小さな花弁に触れると押し付け、擦り上げ、攻め上げる。
 長い舌は陰唇を割って中に入り込み、ひだを分けながら膣の先に進めていく。
 彼女は今、クリトリスと膣内を一緒に責められているのだ。
 2つの快感を同時に襲ったエヴァは突き抜けた快楽に身体全体をくの字に反らす。
 彼女はなんとか千雨を引き離そうと身体に力を入れる。しかしその間にも容赦なく千雨は攻め続けた。
 只でさえ人一倍大きなオオカミである千雨。
 そんな千雨の舌は大きさで言うと男性の陰茎にも引けを取らない。ましてやザラザラとした舌がイボのように彼女の中全体を攻め上げる。
 エヴァは両手を千雨の頭に置いてなんとか引き離そうと肩に力をいれる。
 しかしながら口の端から糸を引き、涙目になりながら快感に身を委ねてしまっている今の彼女にそんな力など残されているはずがなかった。
 じゅぽじゅぽと音を立て前後に動く舌。やがて千雨の舌は彼女の秘部へと達する。

「_____!!!」

 声にならない快感。思わず気が飛びそうになる。
 千雨は彼女の秘部であり、恥骨の下にある膣壁の前にあるGスポットへと探り当てたのだ。
 
「あっ、あぁっ、ああ」

 声が止まらない。

「あああ、あっ、ぁあああ!」

 快楽に身を委ねてしまう。
 人ではない、畜生の分際に。

「あ、あっぁあああ!!」
 
 しかしもう彼女に考える余裕も思考も力も何も残されていなかった。
 気持ちいい。
 きもちいい。
 キモチイイ。
 やがて快感は絶頂へ達する。

「ひゃっぁぁぁあああああぁぁぁ___!!!!」

 快楽の頂点に達した彼女。
 彼女は千雨に覆いかぶさり、抱き抱えるように前かがみになると身体を大きく震わせ、そのまま潮を吹き上げる。
 そして彼女は意識を手放し、千雨に身体を預けたのであった。

(…しょっぺー…ってかやり過ぎた…)




 気を失っているエヴァの隣で後処理に励む千雨。愛液で糸を引く椅子やベチャベチャになった床を雑巾で拭き取る。
 今の千雨の姿は自分以外誰も見ていないと言う事もあり久々の人形であった。
 きつく絞った雑巾で床を丁寧に拭きあげる千雨。
 ついノリノリでエヴァを襲った彼女だが少々熱が入りすぎたと反省の意を込めて入念に掃除に徹する。

 最初、エヴァが自分の局部を晒け出した時は遂にトチ狂ったかと肝を冷やした彼女であるがやがてエヴァの意図が見えてくるとこれまでの高圧的な態度や扱い、ペット生活の不満が漏れ出し、仕返しと鬱憤晴らしから彼女をイカせる為に局部を舐め始めた千雨。
 それがまさかイッた後に失神まで追い込むとは千雨の大きな誤算である。
 しかも今の彼女はなんだか幸せそうな笑みを浮かべており、この後ややこしい事になってしまうのではないかと不安で一杯になっていた。

「よっと、お掃除終わり。 後はコイツをどうするかなんだか…」

 あたり一面をゆっくりと見回す。
 茶々丸とチャチャゼロはエヴァの言いつけで地下室へ用事があるらしく今日の朝まで帰ってこない。
 つまりエヴァと千雨の2人。
 彼女はエヴァの飲みかけのワイングラスとチーズの入った皿を手に取るとリビングまで運ぶ。そのまま皿を机の上に置くとソファで横になっているエヴァの隣に座り込んだ。
 そのままエヴァの頭を撫でる千雨。おでこに手を当てそのまま髪を掻き上げるとエヴァの綺麗な金髪が指と指の隙間を通って流れてゆく。

 片手に持ったワイングラスを口に当て傾ける。味の変わったワイン、いや自分の舌が違う味に感じるのだろう。
 膨らんだお腹に手を当てるとそこには未だ見ぬ我が子が宿っている。
 あの時の二の舞いにならないよう半分しかない飲みかけのワインをちびちびと口に含みながら千雨もエヴァと同様に今後に付いて考えていた。
 流石に出産が近いのだ。そろそろ決めなくてはならない。
 
 エヴァの下で今後もオオカミとして、ペットとして生活。
 これなら身の安全も保証も守られ、子どもたちも安心して育てられるだろう。

「でもずっと未練に悩まされるだろうな…」

 外に出れば和気藹々と同じ年の子どもたちが学び、遊び、笑いあい、時には好きな人と恋をする。
 そんな当たり前の学生生活。自分には出来ない夢のような日常、平穏。
 そして子供達は“オオカミ”とだけでしか育てることが出来ないだろう。それはそれで可哀想なのかもしれない。

「…それとも離れて一人暮らし、いや子どもたちと暮らすか」

 エヴァとの契約はいつでも破棄できる内容だ。吸血鬼の眷属みたいな絶対的な契約とはまた別である。
 どこか遠くで暮らし、シングルマザーとして生活するのも悪くない。
 千雨にはもう一つ『ちう』としての顔があるのだからやろうと思えば幾らでも活用できる。
 
 しかし一人で子を産み、育て上げる。
 “人”として育てる事が出来るが彼女一人では多大な負担であろう。

「それとも…山に戻る…」

 思い浮かべるのは山を駆け、谷を超え、オオカミの我が子に指南しながら暮らす野生に溢れた生活。
 時には人形とになって山を降り娯楽を楽しみ、普段のテリトリーは山の中。
 神様として千雨は我が子の顔を撫でながらただ一心に愛情を注ぐ。
{IMG28390}
 自覚していないが彼女は三峰神社の神様でもあるのでそのイメージは間違っていない。
 おそらく神様として無意識にその様なイメージを作り出したのであろう。
 出産まであと数日。それまでに彼女は決めなくてはならない。
 
 空になったワイングラスやダイニングに置きっぱなしになった食器類を台所に下げる。
 そしてリビングに戻りながら彼女の身体が銀色の毛に包まれ、両手が地に付いた。
 そこにはオオカミの姿になった千雨の姿が。
 彼女はソファに飛び乗ると風邪を引かないようエヴァを包み込み、温め、そのまま丸くなる。

「…おやすみ」

 未だ見ぬ我が子に重ね合わせながら紡ぐ言葉。
 そして彼女も深い眠りについたのであった。



≪後書き≫
久し振りのエロ回。
獣姦、百合(?)描写あり。

季節は春を迎え、桜の花びらが咲き誇る今日この頃。なんとか3月中に更新出来ました。

今回は久々のエロ回と言う事でバター犬です。
幼女×オオカミ(中身は女の子)と言う獣姦と百合の組み合わせ。中身は女の子なんだからきっと百合の筈…。
バター犬や幼女×獣♀の話って案外少ないものですね。ググってもあまりヒットしません。と言う事でこの珍しい組み合わせを楽しんでくれたら幸いです。エロく出来てますように!

感想、評価宜しくお願いします。
次回は最大の山場になる予定。ちゃんと更新出来るかな…

…ハーメルンとpixivの方で挿絵があるよ。



[42260] 千雨は幽霊と出会い、さよはオオカミと出会う話
Name: みきまる◆6808e8f3 ID:4aece7fb
Date: 2017/05/27 15:32

 学校というものは不思議なもので、昼と夜とでその姿を大きく変える。
 昼は和気藹々と生徒の活気ある声がそこら中で響き合い、咎める教師が彼らを叱咤する。そこに暗い影は見えない。
 しかし夜になるとその顔は一変、人一人居ない静寂した空間に成り果てる。
 昼と夜とのギャップがより一層この空間を恐ろしく不気味な空間を生み出しているのかも知れない。理科室や準備室、日の当たらないリノリウムの踊り場など、思えばお昼の学校というものもその兆しか見え隠れていた。

 そんな夜の学校に蠢く一つの影。
 誰も居ないはずの学校でその影が誰の目にも触れることなくどんどん奥へと進んでゆく。
 玄関、廊下、階段、そして2階へ。その影はそのまま長い廊下を歩み進んで行った。
 街灯の灯りがほんの僅かであるが廊下の窓から差し込み、そのまま影を作る。その影は2本足、そしてその後ろにはもう1本別の影が写り込む。
 歩くのに合わせてゆさゆさと揺れるもう1本の影。そして影か止まるのと同じくして、その1本の影は下向きにだらりと下がってしまった。

「もう二月になるのか…」

 ゆっくりと取っ手に手を掛ける影の正体、ヒトの姿に形を変えた長谷川千雨は遂二月程前まで通っていた学び舎の新しい教室の扉の前に、尻尾と耳を垂らしながら、一人漠然とただ突っ立っていた。



 麻帆良学園のみならず、学校と言うモノでは摩訶不思議な怪奇現象など不思議なお話が絶える事ない。
 夜中こっそりと動き出す二宮金次郎像、個室トイレの三番目に生息する花子さんなどスタンダードなタイプからその学校特有の怖い話まで。それらを7つ集め、子供たちは七不思議と呼ぶ。
 そしてここ麻帆良学園にもその様な類の話がある。
 それは「座らずの席」
 曰くA組の出席番号一番は何故か常に空席であり、そこに座ると寒気に襲われると言うシロモノ。なので誰もがこの席を使わずA組の出席番号は2番から始まるのである。

 さて唐突であるが何故この様な話を始めたのか。それはこの七不思議の正体に関係した。
 その正体はここ麻帆良の地に縛られる地縛霊「相坂さよ」
 地縛霊としてこの地に居座り続け60年の歳月が経とうとするが昼は真面目に授業を聞き、夜はコンビニで客が立ち読みする雑誌を後ろから盗み見する幽霊らしくない彼女。
 コンビニに居るのも夜の学校が怖いからと言う幽霊として失格な理由である。
 幽霊の才能がないのかただ影が薄いのか、誰にも気付かれず今までの幽霊人生を歩んでいた彼女。
 そんな彼女であるが今日は普段のコンビニにおらず真っ暗な教室にぽつんとただ一人。そんな彼女の右手には一本のボールペン。そして彼女はそのペンを落とす。

『あぁ〜また失敗…あと少しなのに』

 ぽろりと落ちたペンが静寂の学校に響いた。そう、彼女は趣味のペン回し。

『あと少しでディカプルアクセルが成功します…!』

 ディカプルアクセル
 それは親指の周りを1回転させる、最も基本的なペン回しの秒速10.5回転版と言う超高速且つ最高難易度の技。彼女はペン回しの最高難易度に挑戦しているのである。
 幽霊人生苦節60年。
 誰も居ない学校の教室でただ一人黙々とひたすら挑戦し続けた。そして遂にここまでたどり着くと思うと涙が溢れてくる。
 弾く勢いといかに安定させるかがポイントであるこの技。彼女の集中力が極限まで高められる。

『いきます…!』

 そして彼女は指をかける。その時であった。
 廊下側からヒタ…ヒタ…。湿った裸足の裏がリノリウムの床に引っ付く足音がどんどん大きくなってゆき、一歩、また一歩とこの教室に近づいて来るのが解る。

『ひぃ! ゆ、幽霊…!』

 とっさに自分の机の下に隠れるさよ。足音はどんどん近く、大きくなってやがて足音は教室の前で止まった。そして教室のドアの向こうには一人の影が。
 右手でペンを力強く持ち、恐怖で机の下に身を屈め、そのまま丸く縮こまったさよ。その瞬間、扉はガラガラと音をたて、横に開かれたのであった。



 扉を開けた先は真っ暗な教室。しかし夜の住民である千雨の縦に裂けた瞳は夜目が利く為、教室の隅々まで目が届く。
 彼女はそっと机に手を置いた。ひんやりとした長机の冷たさが左手を伝って感じる。そのまま人差し指を這わせ、目で追いながら教卓のある方へ一歩二歩。
 久し振りの学校、そして2年生の新しい教室。
 誰も居ない真っ暗な教室でただ一人。教壇に上るとそのまま教卓に手を置き教室全体をを見回す。
 つい数ヶ月前は嫌で嫌でしょうがなかった学校であるが今思えばこの教室も麻帆良の街同様に酷く懐かく感じた。
 クラスメートは何をしているのだろう。今頃女子寮の方で何時ものテンションでワイワイと賑やかにすごしているのだろうか。夜は明け、ここに来て、授業を受け、部活動。そんな当たり前の生活。
 麻帆良に来た際の憂鬱な思いがまたこみ上げて来る。
 エヴァのペットとして生活していたここ最近は気が紛れていたのが、この様な人間だった時の馴染みの場所は今だに慣れない。もしここが実家だったりしたら声を漏らしながらワンワン泣き喚いたかも知れない。それぐらい今の精神状態は不安定である気がしていた。
 しかしながらこれは二度目の決別である。
 一度目は麻帆良の地から離れるつもりでエヴァと出会ったあの満月の夜。
 その時は人間としての決別を付けに来たのだがあのような出来事事に遭遇し、なあなあと決意が流れてしまっていた。なので今夜こそ最後に一目見る覚悟で、この新しい教室に訪れたのである。
 
 千雨は教卓の上によじ登るとそのまま胡座をかく。
 尻尾を足に寄せるように丸めるとそのまま両手を両足のつま先に持って肩を上げる。身体をゆっくりと前後に揺らしながら今までの学校生活を振り返る千雨であるが彼女の思い出なんて片手で数えるぐらいしかなく、もっと自分に正直になって色んな人らと関わりを持っておけば良かったと後悔の念が浮かび上がった。
 しかしながらそれはもう過去の事。
 クラスメートに千雨の事は海外留学と伝えているらしい。エヴァと茶々丸の会話を盗み聞きしてたがその様な事をぼやいてた。
 もう戻ってるつもりはないのにそう言って誤魔化してると聞くと何だか私が後ろめたい気持ちになるが問題は学園だと思ってる。しかし学園側も千雨の事を諦めてないのだろう。僅かな望みに掛けて千雨の事を未だに捜索してると思うとやっぱり後ろめたさは払拭されない。

 (長谷川千雨はあなた方の目と鼻の先に居ます。だけど正体は表す予定がないからな!)

 そんなセンチメンタル且つ挑発的な感情の中に学園側への些細な抵抗感、正直に言うとこの姿になった羞恥心やらなんやら色んな感情が折り重なってるがこの時は年相応に小さな反骨精神を抱き呟く。
 そんな時である。
 誰も居ないはずの教室。そんな空間にカツーンものが落ちた音が響いた。
 突然の事で驚き、両耳と尻尾がピンと伸びる千雨。
 多分ペンか何かが誰かの引き出しから落ちたのだろう。突然の事で驚いた千雨であるがゆっくりと立ち上がると音の発生源である教室の一番前の机にジャンプし飛び乗った。

『ひぃ!』
「ん?」

 その途端である。机の下から微かに聞こえるか弱い女の子の怯える声が。
 咄嗟に千雨は思い出す。今自分が飛び乗った机は麻帆良の七不思議である「座らずの席」である事を。その席から漏れる女の子の声。
 背中を冷たい汗が流れる。まさかそれはつまり…
 意を決し、ゆっくりと慎重にながら机の下を覗き込む千雨。そしてそこの彼女がいた。

『き、きゃぁああああああああぁぁぁ!!! 妖怪だぁぁぁ!』
「ゆ、幽霊だぁああああああああぁぁぁ!!!」
『……ウーン…』バタン
「あぁ! この幽霊倒れやがった!!」




 気絶した幽霊を机の下から引っ張りだそうと彼女の両脇を持つが霊体であるが為に掴む事が出来ず、両手がむなしく空を切きった千雨。
 はて、どうしようか?
 千雨は倒れた彼女の横の席に腰掛け、机の上に肘掛け手を顎に当てながら、混乱し目を回しているセーラー服の少女に目をやる。咄嗟の出来事で声を上げてしまったが彼女は一体何者だろうか。座らずの席の幽霊とは彼女の事? それとも学園の侵入者?
 闇夜に光る千雨の瞳がジロジロとまるで品定めをする様な目つきで彼女を見つめる。そしてしばらくすると彼女の瞼が開かれた。

『…!? ひぃ…たっ…た…』
「んっ?」
『食べないで下さい!!』
「食べないよ! ってかなんでそんなセリフが出てくるんだ!?」
『だって…そのお腹…赤ずきんみたいに…あっ…グスッ』
「ちげーよ子供だよ! あぁもう泣くな、泣くな」

 起き上がって直ぐに千雨の姿を見て怯えたさよは、ずるずると教室の壁まで下がると声を上げる。千雨の耳と尻尾、そして大きく膨らんだお腹を見て彼女はかの有名な童話を思い出したようであり、必死に食べられないように声を出す。
 しかしながらそれはお門違い。咄嗟に否定する千雨であるが次第にさよは泣き出してしまう。

「んっ…あっ…あぁあ…ズビ…」
「ほ、ほら落ち着けよ、なんで幽霊が泣いているんだよ」
「違うんです…初めてなんです…」
「初めてって何が?」
「苦節60年、初めて私を認知してくれた人なんです…!」
「はぁ!?」

 さよは千雨に説明する。
 自分が座らずの席の幽霊だと言うこと。この学園の生徒あったが地縛霊となり60年間も彷徨ってる事。怖いもの嫌いで臆病だという事など。
 積もり積もった思いや鬱憤が滝のように流れ、彼女の口から一斉に吐き出される。千雨はをそれを背もたれに寄りかかり、適度の相槌を打ちながら自分と照らし合わせ、ちゃんと真面目に聞いていた。

『うぅ…この日をどれだけ待ったことか…感無量です…。しかし驚きました』
「…ん? なにが…?」
『確か千雨さんですよね? 千雨さんってオオカミさんだっ…あぁ、泣かないで下さい!』
「…ひぐ、ひぐぅ…」

 まさか彼女が私の事を知っていたなんて。
 見られてしまった。こんな姿になった私を見られてしまった。
 涙腺が緩くなると同時に目頭が熱くなる。咄嗟に顔を隠すが耐えきれず声を漏らしヒクヒクと咽び泣く声が響き、頬には一筋の涙が流れる。
 どうするべきか分からないさよはオロオロと軽くパニックとなり困惑するがやがて彼女は背中を擦りながら千雨に何があったのか訪ねた。

 千雨はさよと同じようにポツリポツリと話し始める。
 電車で寝過ごしてしまい見知らぬ駅にたどり着いた事。
 ふと近くの神社に訪れた事。
 そこであの忌々しい狼に犯された事。
 そしてその狼を殺し、一般人を殺し、犯し、身も心も怪物に慣れ果てた事。
 あの時から今日この日のまでの出来事を一つ、また一つ、子供が親に聞かせる様に泣きじゃくりながらもさよ同様に懸命に話伝える。さよの右手は幽霊であるが為に千雨の背中を空に切っていたが慰めようと真剣に話を聞いていた。そして彼女は話し終え、2人の間に少しの静寂が訪れる。

『…千雨さん、私は幽霊になってとても長い間一人でしたがそれ以上の事は体験した事がありません。なので私からはどうしたらやこうしたらなどのアドバイスは出来ません…』
『ですが私の千雨さんには他の人のはない大きな共通点があります!』
「…共通点?」

 泣きじゃくり、真っ赤に腫れた顔を上げる千雨。目の前にはさよが両手を広げている。

『同じ2-Aのクラスメイトでなんだって人ならざる者に“なった”もの同士。人外のセンパイとして今みたいに話を聞くぐらいは出来ます! だから千雨さん、もっと泣いていいんですよ。子供みたいに泣いて下さいな』
「……!!」

 こみ上げた思いが爆発し、わんわんと声を抑える事なく学校中に響き渡る声で泣き叫ぶ千雨。本能と偽りに見繕っていた彼女はこの姿になって初めて、彼女の前で年相応の女の子としての姿を曝け出したのであった。




『泣き止みましたか…?』
「…うん」
『大丈夫です?』
「うん…」
『ティッシュ持ってきましょうか?』
「ありがと…」

 そう言って不慣れなポルターガイストを駆使し教室の隅のティッシュ箱を浮かばせながら千雨の前へ持ってくるさよ。ちなみに女性の霊だとポルターガイストではなくクイックシルバーと呼ぶらしい。
 お礼を言いティッシュを数枚引き抜くと鼻を噛む千雨。泣き腫らし、クシャクシャとなっていた顔は幾分生気を取り戻していた。

「ほんとありがとな。今思えばこの姿になって初めて“長谷川千雨”として扱って貰ったよ」
『いいんですよ! 何があっても私は千雨さんの味方です。それに初めてのお友達ですから』
「友達…そうか、言われてみたら私も初めだな…」

 思えば同年代?の女の子とこんなに会話したのは初めてかも知れない。
 しかしお友達、友人、長年自分には無縁のものであった物がこの姿になって初めて手に入るとは何と皮肉な事だろうか。しかし自分が人間の時のままだったら彼女は誰にも気付かれずまたずっと一人で孤独に過ごしていただろう。
 出会う事のなかった二人。そう考えるとなんとも言えない千雨。
 そんな彼女の向かい側をふわふわと浮いているさよだが彼女の目線は先は千雨のまん丸に膨らんだお腹に向けられていた。

「どうしたそんなにお腹を見て?」
『いや、お腹の子について考えてたんですけど…名前とか決まってるんですか?』
「あ〜…考えた事はあるけどまだ決めてなかったな。何人居るか分からないし、性別も分からないし…」
『それなら見てきましょうか?』
「は?」
『ちょっと待ってて下さいね…』
「!?」

 途端、さよは千雨に飛びかかる。
 咄嗟の出来事で何が起こったのか分からず目を点にする千雨。幽霊であるさよが飛びかかってもお腹をすり抜けるだけである筈。

(ん? すり抜ける…?)

 ゆっくりと顔をお腹の方に向ける千雨。そこには顔をお腹に突っ込んださよの間抜けな姿が目に留まる。

「…なにやってるんだ…?」
『ひー、ふー…2人…かな?』

 そう言うと顔を引き抜くさよ。彼女は先程の立ち位置である机の方まで下がると千雨と向かい合う形になる。

『千雨さん、千雨さん。2人でした! 男の子と女の子の2人です!!』
「えっ、お前まさか…」
『はい! 覗いちゃいました!』

 指を2本立てピースするさよと呆気取られる千雨。
 ナルホド、幽霊ダカラスリ抜ケラレルモンナー。とあまりの衝撃的な行動で驚きぽかんと間抜け顔の千雨。途端にさよは心配そうに顔を覗き込む。

『もしかして私、余計な事しちゃいました…?』
「あ、イヤ。驚いただけ…。そうか幽霊だもんな」

 この姿になって千雨の常識と言う名のキャパシティは大きく広がったが、まさか幽霊にお腹を覗き込まれ、エコー検査みたいな事をされるとは誰が想像出来るだろうか。

(でもそうか…男の子と女の子の双子か…)

 今まで漠然と母親になるビジョンを描いてきた千雨だが、お腹の子の事が詳しく分かると途端にそれがとても身近で現実的に感じ始める。
 目線を下にやり、お腹に手をやると優しくなでる千雨。我が子がぐっと身近に感じた千雨の顔には笑みが生まれる。

「そうか…双子か…ははっ、そうかそうか…男の子と女の子…。それじゃ名前決めないとな…」
『私も一緒に考えますよ!』
「よし、折角だから図書室に行こう。いや、図書館島まで行っちゃおう!」

 そして彼女ら2人は図書室に向かう。その時の千雨の後ろ姿は教室に訪れた際の暗い影が払拭され、和気藹々と楽しげで明るい雰囲気が漂っていた。




『ナァ、アノ狼何処行ッタンダ?』
「ちうの奴なら夜の散歩に行ったぞ。どうかしたか?」
『イヤァ、チョット聞キタクッテナ。…アノ夜ノ出来事ニツイテ』
「…あの夜ってなんの事だ?」
『誤摩化サナクテモ分カッテルゼ、ケッケッケ』
「おいその笑いやめろ。なんだその人形の癖に生温かい目は」
『アイツヲ見ル目ガアレダモンナ。恋ス…』
「んな訳あるかぁー! その口利かせないようにしてやる…」
『チョット待テ御主人。俺ハ動ケナイッテ、チョッ…アアアァァ!!』

 一方その頃のエヴァ宅では、一つの人形がエヴァの手に寄って血祭りにされたのであった。



《後書き》
 初めて千雨に今の秘密が共有出来る仲間が出来ました。また初めての友人でもある。
 さよは分類上ロリババアの系譜(JCババア?)なのでお婆ちゃんみたいに慰める事も出来るのです。エヴァにゃんと(多分)一緒!

 と言うことでお待たせしました、活動報告に書いた通り2ヶ月振りの更新です。なかなか更新出来ずスミマセン。色々忙しい…
 前回の予告で今回はこの物語の山場と話してましたがその前に補完しなくてはいけない話を忘れてました。拍子抜けされた方スミマセン。
 また次回も補完話になると思うのでご了承下さい。

 あと…今まで2回程挿絵を描いて頂いたのですがチキンな作者は肝心の濡れ場を頼む勇気が御座いません。特殊性癖は頼みづらいのです(泣)
 なので私描くよ!描いたよ!って人が御座いましたらお気軽にお声かけ下さい。お待ちしています。

感想、評価宜しくお願いします。
次回はちゃんと更新出来るよう頑張ります!



[42260] エヴァと千雨は羞恥を覚え、さよは無意識に犯す話
Name: みきまる◆6808e8f3 ID:4aece7fb
Date: 2017/06/28 12:06
 綾瀬夕映はこの2−Aのクラスで比較的常識人の分類に含まれる。
 それは彼女の一歩下がったスタンスが起因となっており、図書館探索部という麻帆良特有の常識外な部活動に所属する身でありながら哲学者と言う祖父の影響で鋭い洞察力を持ち合わせいるのが大きな要因となっているのだろう。
 しかしながら千雨みたいに認知阻害をレジストする能力を持ち合わせてる訳ではない。あくまで2−A、いや麻帆良の中でという制限は付く。
 そんな彼女であるがこの日は教室の一番後ろの席で、一人机の上に突っ伏してグッタリとしていた。

「うぅぅ…昨日は遅くまで起きてたのが仇となったのです…。本を読むのが止まらないでオール、キツいです…」
「ユエ、大丈夫…?」
「授業中に眠れば問題ない…はず…」
「ほら、まだHRも始まってないんだから起きて」

 そう言いながらうつらうつらと船を漕ぐ夕映の肩を揺らし、必死に起こそうとする宮崎のどか。その2人の様子を隣で早乙女ハルナが苦笑いで見ていた。

「大分参ってる様子だね。そんなに面白かった?」
「それはもう…ハイデガーの『存在と時間』で存在しゃg…」
「もう、眠っちゃだめですって!」
「あははは…」

 クラスメイトが各自で輪となり和気藹々と話に花を咲かせる。
 他のクラスと比べ比較的テンションの高い2-AはHRそして授業にと、このテンションが意地されながら学校生活が続いて行くのだがそれは何時もの日常であり、他のクラスでも悪い意味で噂になる程であった。
 そうして暫くすると教室の前方の扉が開き、このクラスの担任であるタカミチが出席簿片手に現れる。彼は教卓に立つとパンパンと出席簿を叩きながら生徒達に声を掛けた。

「はい、静かに。出席を取るから皆席に付いてね、HRを始めるよ」
「ほら、高畑先生来たよ。ちゃんと起きて」
「シャキッとしないと!」
「わ、わかってるのです…」

 片目を開け教卓に目を向ける夕映。そんな彼女を心配しながらのどかとハルナは自分たちの席に戻る。なんとか必死に眼を開く彼女。しかしながら彼女は眠気に勝つことが出来ず、自分の番が過ぎると意識半分と離してしまった。
 なんとか自分の番で返事が出来たので十分であろう。一安心と安堵を感じながら眠る姿勢になる為、机の上で腕を組んだ。

「んっ? エヴァは来てないのかな?」
「スミマセン。マスターは寝坊で遅れてやって来ます」
「あっ、茶々丸君ありがとう。そうか、学校に来てくれるだけでも良かった」

 そう言いながら出席欄に遅刻というキーワードを書き込もうとした矢先、教室が妙に騒がしくなってるのにタカミチは気付く。
 教室の窓際の席の子らが外を覗き込んでいるのだ。
 一体どうしたものか?
 出席簿を閉じ窓際に向かうタカミチは窓越しから外を覗き見る。
 
 学校の正門口に繋がる大きな石畳に両脇の等間隔に並んだ葉桜。
 そして奥の方から全速疾走で石畳を駆け抜けるオオカミに乗ったエヴァが振り落とされないよう必死にしがみ付いてるのが目に入る。
 オオカミは徐々にスピードを上げ、校舎前の階段に差し掛かると更に加速し、まるで階段をスキーのジャンプ台の様に使いおっきり飛び跳ねた。

「ま、まさか…」

 タカミチの背中は冷たい汗が。
 空を滑空するエヴァらはそのまま教室の一番後ろの開かれた窓から教室に飛び入る。途端、部屋中に駆け巡る突風。
 教室に入って直ぐ急ブレーキを掛けたオオカミはバランスを崩さない様に姿勢を低くし、安定した型で爪を床に掛け、火花を散らしながら向かい側の教室の後ろの扉前で止まる。
 そして背中に乗ったエヴァが一言。

「どうだタカミチ! 間に合っただろ!」
「「「……」」」
「…一体どう言う状況ですか?」

 静かになった教室で目を点にし、先程まで夢の世界に旅立だとうとした夕映の呟きが、一人虚しく流れていったのであった。



 それは今日の朝、エヴァ宅での出来事であった。

「マスター、時間です。起きて下さい。今日は高畑先生がおらっしゃいます。このままだと間に合いません」
「んっ…あと五分…なんなら先に行ってていいぞ…。猫の餌やりもあるだろ…っ…」
「そんな事言われましても。ホント、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ…いざとなったら最終手段を使う…」
「それでは私は先に行きます。ちゃんと来て下さい」

 前日の夜更かしが集って寝不足のエヴァは登校時間になってもベットに丸まり、そこからじっと動けずにいた。
 何とかマスターを学校に連れ出そうとする茶々丸であったが彼女は何時もの日課である猫の餌やりをしなくてはならず、人より先に早く学校に向かわなくてはならない。
 マスターであるエヴァの言うことに逆らえない彼女は最終手段という言葉に疑問を持ちながら、彼女を置いて先に学校へ向かったのであった。
 
 そして部屋には二度寝するエヴァとベットの横で丸くなる千雨。
 普段はリビングに居るはずの千雨であるが今日この日は二階のエヴァの部屋おり、2人の会話を耳をピクピク立てながら盗み聞きする。
 そしてしばらく時が経つが一向に目が覚める気配のないエヴァ。
 2人の会話で半分目を覚ましてた千雨はのっそり起き上がると湿ってる鼻をエヴァの頬に付けた。ひんやりとした感覚がエヴァの顔全体に回る。なんとか目が覚める彼女。
 うつらうつらと頭を揺らしながら時計を覗く、時間はHRの10分前。

「うぉお! ヤバい!! 二度寝した! 茶々ぅ…って先に行ったんだった!」

 時間がなくパニックになるエヴァを片目に背中を伸ばす千雨。前脚を伸ばし弧を描く形で起きたての凝った身体をほぐしてゆく。
 ブルブルと首を振って完全に目を覚ますとその視線の先には制服に着替えるエヴァが必死にリボンタイを結んでいた。

 千雨は一匹ゆっくり茶々丸の用意した朝食を食べようと階段を降りる。
 その時である、エヴァが大声で千雨にこう言った。

「おいちう! 学校まで乗せろ!」
「…ガウッ?」(…はぁ?)
「その背中に私を乗せて麻帆良学園中等部まで送ってくれ。これは主従契約だいいな」
「ハウーッ…」(はぁー、分かったよ…)

 呆れながら千雨は先に玄関先へ向かい、エヴァが来るのを待つ。
 そして暫くすると廊下の先から道具を無造作にカバンへ詰め、もう片手に手綱を持ったエヴァがバタバタとパンを口に加えながらやって来る。
 生憎、口轡を付けてない千雨にはエヴァ自身が落ちない為のリードにしかならず、千雨の首輪に付けるしかない。
 と言っても元人間なので当たり前であるが千雨は人並みの知能を持ち合わせており、エヴァの口先一つで指示出来るので必要なかったりする。命令を守るかは千雨次第であるが。

「準備よし。学校の場所分かるか?」

 当たり前だと言わんばかりに頷く千雨。エヴァを乗せた千雨は小川に沿って徐々にスピードを速める。
 すると学校のある方角から始業のチャイムが微かに聞こえて来た。

「よしちう。全速力で向かえ! お前の本気わぉぉぉおおおお!!!」

 千雨はエヴァが言い終わる前にギアを最大に回す。瞬時に掛かるGに押し潰されるエヴァは必死に手綱を腰に回し、千雨の首の毛を掴んだ。

「あっばばばば」 
(…吸血鬼だから大丈夫だよな)
 
 今の千雨の速度は地力で瞬動レベルの速度である。おそらく彼女のフルスペック、気など超常的な力を駆使するととんでもない速度になるが彼女と彼女のお腹の子に掛かる負荷を考えるとセーブするしかない。しかしながら今の速度でも十分スポーツカーとタメを張れる速度であった。
 そうしてるうちに麻帆良学園中等部の正門が見える。目的地に近づいた千雨は徐々にスピードを緩めるがなんとここでエヴァが無茶な要求を仕出かした。

「そ、そのまま教室に飛び乗れ!」
「はぁあ!?」
「いいからこの先真っ直ぐの建物の二階、窓が開いてるあそこに突っ込め! ってかお前今喋っただろ!」
「ガゥ」(き、気のせいだし…)

 そう言いながら千雨とエヴァは正面玄関前の階段に差し掛かる。千雨は意を決し再度スピードを上げ加速、階段を登りきるとそのまま後脚に屈折させ、思いっきり地面を蹴って2人は空を掛けたのであった。

 こうしてエヴァはHRが終了する前のギリギリの時間に登校する事が出来たのである。しかしこの後2人はクラス中の視線の的になる失態を犯すのだが、遅刻し慌ててたエヴァはそこまで頭が回らなかったのであった。




(なんですかこの居心地の悪さ…なんでまだ後ろにオオカミが居るんですか…。そして斜め右隣から禍々しいオーラが!?)

 一限目は英語、このクラスの担任であるタカミチの授業である。
 エヴァが大きなオオカミに乗って颯爽と現れた時、クラス中は大騒ぎになったのだがHRの途中だとタカミチと委員長が何とか騒ぎを鎮めその時は事なきを得た。
 しかしながらそれはつかの間の瞬間。
 HRが終わった途端にクラスメイトはエヴァに茶々丸、そして教室の後ろで顔を伏せて丸くなってるオオカミの3つの集団に別れる。
 エヴァは普段から醸し出される雰囲気とのギャップが災いとなり多数のクラスメイトに押し寄せれれるが

「あれは私の順従なるペットだ」

と言うと机に突っ伏して周りの話を拒否する。
 そんな中委員長が一人エヴァに注意するのだが聞く耳を持たないエヴァには馬の耳に念仏。しばらくするとタカミチに廊下へ呼び出され、トボトボと連行されて行った。
 そこで他のクラスメイトらは仕方なく茶々丸がエヴァの代わりに質疑応答に答える形になる。

 そして大きなオオカミ、千雨に近づくのは超と葉加瀬。
 2人は千雨に何か話しかけながら彼女の至る所を触り、診察。ボードに挟まれたカルテにチェックを入れる。2人はこの間に妊婦の千雨に身体検査をしており、少し遠くから桜坂と龍宮また別に一人席に座ったままのザジがその様子を静かに観察していた。
 その様子をエヴァ同等に机に突っ伏しながら眺めていた夕映。そんな彼女に付いてたのどかはフラっと超と葉加瀬の居る千雨の所に向かう。

「うわ〜おおきいです〜」
「のどか、気をつけるのですよ。もしかしたらパクっと…」
「ヒィ!」
「ハハハ、大丈夫ネ。ちうサンは大人しいから何もしないヨ」

 そういいながら千雨の背中をバシバシ叩く超。ちうと呼ばれた千雨は顰めっ面になりながら知らんぷりをするが垂れた耳が立ち、ピクピクと動いているのが分かる。

「2人はエヴァンジェリンさんのペットと知っていたのですか?」
「前に私とかえでサン、鳴滝姉妹は超包子で会ってるネ。それでその時彼女が妊娠してると分かって私達が定期的に見てるヨ」
「私はロボット工学一筋ですが超さんは何でも出来ますからね。専門外とあって私も楽しみながら学ばせて貰ってます」
「へー、赤ちゃんが居るんですね」

 そう言いながら好奇心旺盛な夕映も千雨の事が気になり席を立つ。そのまま彼女も顔を伏せてる千雨の前に座り込むと、頭を撫でながら超に質問を投げかけた。

「この犬はなんて品種ですか? 犬にしては幾分大き過ぎると思うのですが」
「あー、ちうサンは多分オオカミネ。品種までは分からないヨ」

 咄嗟に後ろに下がる夕映とのどか。犬と思った先がまさかのオオカミである。
 一般的に馴染みなく、人類の敵と見なされ、創作界限っての嫌われ者。
 本をよく読む2人にとって、そのステレオイメージが強く咄嗟に拒絶してしまう。その2人の対応をよく思わなかったのかオオカミは静かに眼を開けると睨みを効かせ「グルル…」と威嚇する。2人は互いに身を寄せ合った。

「あらら、ちうサンを怒らせてしまったネ。目の前で態度を変えられるとそりゃ怒るヨ」
「ナナナ…なんてモノをペットにしてるんですか! 大人しいとかそう言う問題じゃないですよ。常識ですよ常識!」

 途端、先程まで睨みを効かせていた千雨の目が点になる。そう、まるで信じられない言葉を聴いたようなそんな阿呆な顔である。

「常識と言われても…ほら、鳴滝姉妹は背中で遊んでるヨ」
「あはは、やっぱりゴワゴワ!」「チクチクです〜」
「二人共あまりはしゃいでは駄目でござるよ。負荷を掛けたら大変でござる」
「「はーい!!」」
「いや、それは多分麻帆良だからだと…」

 颯爽と現れた忍者トリオを傍目に見ながらため息を吐く夕映。
 すると先程まで威嚇していたオオカミの顔が横目で見える。そのオオカミはまるで夕映に同情し、全力で肯定するような温かい目。実際千雨は全力で夕映の発言に頷いていた。

「…なんか頷いてるんですけど」
「ちうサンは頭が良いからネ。多分言ってる内容理解しているヨ」
「えぇ…マジですか…」

 そうしてるうちに一限の時間が迫る。
 廊下でエヴァと話していたタカミチが教室に戻ると後ろのドアからトボトボとエヴァも戻り、その途端に授業開始のチャイム。
 エヴァは千雨の所に向かいこの教室で暫く待つように耳打ちすると自分の席へ戻る。千雨はそのまま教室の後ろで再度丸くなるとそのままクラスメイトと同様に授業を聞き始めたのであった。




『やべぇ…恥ずかしかった…』
『あはは、ドンマイです。私も窓から現れた時はびっくりしましたよ』
『バレてないから問題ないけど…やっぱりこの姿は見られたくないな…』

 教室の後ろで念話を駆使し会話する千雨。
 話し相手はつい最近出会ったばかりのクラスメイト、相坂さよ。幽霊である彼女は千雨と一緒に教室の後ろで授業を聞きながらお喋りしていた。
 さよは念話を使うことが出来ないが、喋った所で誰もさよを見る事が出来ない為に声が千雨以外に聞こえる事がない。なので二人は教室の後ろと言う人の目に付く所であるが、安心してお喋りする事が出来る訳である。

『しかしどうですか久しぶりの授業は。理解できます? 私はもうバッチリです!』
『そりゃ60年も授業を受けてるのだから当たり前だろ…。ってか私はもう学校生活送ることはないから関係ないし…』
『ご、ごめんなさい千雨さん! 配慮のない会話を…』
『あぁ、大丈夫だよ。ある程度吹っ切れたし。しかし綾瀬の発言には驚いた…』

 途端、教室に誰かが落としたペンの音が響く。しかしながら授業中も騒がしいこのクラスでは直ぐにかき消され誰も気にする事はない。

『そう言えば千雨さんの隣の席が綾瀬さんでしたね。2人はお友達なのですか?』
『綾瀬とは隣同士だったけど殆ど喋らなかったな。私も綾瀬もそこまで喋るタイプじゃないし。でも…もしかしたら仲良くなれたのかも』
『なんて言ったんです?』

 今度は机におもいっきり頭をぶつける音。しかしこの音も直ぐにかき消された。

『いや…私はこの麻帆良の非常識が嫌いだったんだよ。周りはそれを自覚してないのが一番苦痛でさ、それで人付き合いも少なかったんだ』
『そんな事が…』
『だけどさ、綾瀬の奴はこれを「麻帆良」だからと割り切ってたんだ。非常識と認知しておきながら麻帆良だから常識。つまり常識と非常識という区別自体は付いてた訳だ。それに感激を受けてな、こんな身近に似たような考えを持った奴が居るって』
『なるほど。そう言う事でしたか』
『と言っても自分がこの非常識に割り切れるかは別だったけどな。それに今じゃこんな非常識の代名詞な姿になっちゃった訳だし』

 そう言って千雨は目の前の、自分の座る場所であった一つの席をじっと見つめる。誰も座らない、千雨が座るはずだった席。その様子をさよは気の毒そうに見ていた。

『せっかく割り切ったのだから、もう一度チャンスは欲しいな…』
『千雨さん…』

 教室の窓から流れる風が一人と一匹の間を吹き抜ける。後悔と叶わぬ願いに千雨は一人思い耽るのであった。



 ここで相坂さよの話をしよう。
 彼女は何十年も話せる人が居なかった。それは自分が幽霊であり、認知する人が居なかったから。なので初めて自分が見える人である千雨と出会った時は喜びで胸が一杯であったのである。
 しかしここで着眼点を変えてみよう。

「彼女が見えていても関わるのが面倒くさい」

 そんな理由で何年も見えないフリを貫いた人が居る。同じ人外であるからだろう。彼女は何年も前からさよが見えていたのである。

 話を戻すが教室の後ろでさよと千雨は二人で喋っていた。
 千雨は念話。さよは千雨以外聞こえないと思い、そのまま千雨に話す。しかしさよの話した内容だけは、その彼女も聞き取れるのである。

  2人の会話の度にペンを落とし、机に頭をぶつける彼女。会話の一つ一つが彼女にとって衝撃の真実であり、複雑な感情を生み出し、顔を真っ赤にさせる。

 千雨の飼い主であり、主人でもある真祖の吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
 彼女はさよの発言を盗み聞き、一人ワナワナと震えながら禍々しいオーラを放つのであった。

 エヴァンジェリン家の、修羅場は近い。



《後書き》
 第1話に挿絵がつきました。是非ハメか渋でもう一度読み返してみてください!

 今回はオオカミ状態での千雨とクラスメイトの顔合わせ回。「犯す」はミスを犯すの事でした。
 TFの醍醐味はこの後の身バレだよね…。シーケンスも良いけど身バレも好きな作者です。
 エヴァにゃん可哀想…まさかクラスメイトとあんな事やこんな事。つまりエヴァのベットの横で目を覚ました千雨って…あっ(察し)

 今月のUQのラストに千雨が登場し、どうやら次回は千雨回になりそうな別マガ。内容次第では作者に多大なるダメージが降り掛かるのでモチベに影響しないか不安…どうなる事やらです。

 感想宜しくお願いします。



[42260] 千雨とエヴァは交わり、エヴァは千雨を染め上げる話
Name: みきまる◆6808e8f3 ID:4aece7fb
Date: 2017/07/30 14:23

 真っ暗な地下室で両手首を鎖に繋がれ、拘束される少女。
 ここから抜け出そうと必死に抗う彼女であるが、華奢な少女の身ではうんともすんとも言わずジャラジャラと鎖が擦れる音が鳴り響いた。

 大声を出して助けを呼ぼうとも彼女の口に付けられた猿轡が彼女の叫びを遮ってしまう。硬い木製の棒を口に噛ませ、紐で固定された彼女の口端からは涎れが垂れ、床に小さな水溜りを作り出す。荒い呼吸が拘束具である轡を通して息が抜ける音となり部屋中に響く。

 そんな彼女であるがその目には未だこの現状を打破する為の必死の気力と想いが真っ赤に充血した眼から滲み出てる。血走ったその瞳は一学生にはない、必死な思いが滲み出ていた。

 やがて地上に繋がる石造り階段からカツンカツンと足音が。
 ヒールの音が次第に大きくなり少女が閉じ込められている地下室の前で音が止まる。
 鉄格子先に立つのは妙齢の外国人。長い金髪を後ろに流し、真っ暗なスレンダードレスに身を包んだ女性は鉄格子の鍵を差し込むと鍵を開けるとギィと音を立てながらゆっくり開く。

 途端に喚く少女。
 しかしながらか弱な少女の必死の抵抗は実る事ない。やがて無駄だと分かると静かになる彼女。その様子を終始一貫して女性はニヤニヤと目の前で観察していた。

 金髪の女性は右指を鳴らす。
 途端に猿轡のベルト止めが外れ、小さな水溜りの中に落ちていく。ゼイゼイと下を向きながら呼吸を整える少女。やがて呼吸が整い始めるとその顔を上げた。

「まさかお前だったとはな…」
「その傲慢でわがままな態度はお前か、エヴァ…」
「それはこっちのセリフだ、長谷川千雨」

 妙齢な女性、エヴァンジェリンは地下室の端の木製の椅子を引っ張ると拘束されている千雨の目の前へ背もたれを前にして座り込む。そのまま両肘を背もたれに乗せ体重を掛けるとエヴァと千雨は対面した。

「なんだよ、そっちが本当の姿なのかよ」
「んっ? あぁ違うぞ。私は吸血鬼だから普段の姿がデフォさ」
「そうか、それでこの状況はなんなんだよ」
「なんだって…おしおき、だな」

 そしてエヴァが語りだす。
 教室でさよと狼の姿をした千雨との会話がダダ漏れだった為に長谷川千雨の正体を看破したエヴァ。先に千雨を帰らせると授業終了後にログハウスに戻り、オオカミ姿の千雨と一緒に魔力の充実している地下室のダイオラマ魔法球に入る。
 そこで2人が対峙すると千雨に向かって幻想世界(φαυτασμαγορια)を掛け、このエヴァが作り出した精神世界の地下室に閉じ込めたのであった。
 朝の出来事から今までの経緯を淡々と説明するエヴァに血の気が引いてゆく千雨。

「まさか長谷川千雨が春休みに人狼の、それも神狼の類になってそれに気付かなかった私はクラスメイトに夜な夜ないいようにされていた訳だ」
「それはお前が言ったからだろ、私はエヴァの命令を従っただけだ。ってかもっと狼になった所に突っ込めよ」
「私も生まれつき吸血鬼だった訳ではない。お前と同じ元人間だ。10歳までだけどな」
「なっ!?」
「お前に何があったのか知らんが状況だけ見るととてもシンパシーを感じる訳だ」

 そう言って千雨の顎に手を回すとクイッと上げる。そのまま互いに顔を合わせると首の後ろに手を回した。

「今は夢の中だからお前の中の子は心配しなくて大丈夫だぞ。お腹が膨らんでなくて焦っただろ。あの必死な形相は母性本能か」

 拘束されてる千雨は中学校に通っていた時の姿のままであり、お腹も膨らんでおらず獣耳も尻尾もない。身に纏っている服も麻帆良学園中等部のブレザー、首元には律儀に普段通学時に使用していたネクタイが結んであった。

「そ、そうだろ当たり前だ。目を覚ましたら閉じ込められてるし、獣化出来ないし、お腹の子が感じられねーし。ったく、何がしたいんだよ!」

 事の事態が把握できない千雨は声を荒げるがエヴァは何処と吹く風である。
 彼女の雪のように白い手を千雨のデコルテを滑らしながら胸元へ。そのまま千雨のネクタイを引っ張っぱると彼女と千雨の顔が重なる。

「なに、意趣返しのワガママさ」

 そう言って耳元に囁くエヴァ。千雨の背中に冷たい汗が震える。

「私はお前の事は知らなかったし、自分から望んだとは言え散々クラスメイトに啼かされたんだ。主従関係が逆になったら意味がない」

 エヴァは引っ張ったネクタイを緩めると途端に千雨の眼を覗き込む。
 
「これでおあいこさ。啼かしても、問題ないよな」 

 瞳孔が収束し、瞳の色が反転する。

「良い声で啼け」





ぺちゃ…ぺちゃ…じゅるっ…

「そうだ…いいぞっ…そこだ…」

じゅ、じゅるる…じゅぶ、じゅばぁ…

「やはりお前は舐めるのは得意だな、さながら獣だ」

ぢゅるちゅる、じゅうぅぅぅっ…

「んっ…うっせ、お前に散々やらされてたら上手くなるわ」
「うるさい、喋ってないで口を動かせ」
「はいはい」

 大人姿のエヴァ。
 金髪碧眼で長髪長身である今の彼女であるがそんな彼女のドレスのスリットからは女性にはある筈のない陰茎、それも外国人特有の大きくて太ましい膨張した肉塊がそそり立つ。

  エヴァは千雨を覗き込むとそのまま立ち上がり椅子を蹴飛ばす。
 そして千雨に繋がった拘束具を外していくエヴァ。手錠が外れ鎖が靡く。途端に膝を着く千雨。長い間拘束されていた為に体力が消耗しており、年相応の身体では無理もない。
 荒れる呼吸を整え、なんとか顔を上げる。すると何ということなのか。
 そこにはつい先程まで付いていなかった異物がエヴァの股間から覗き見えていた。

「おい、なんだよコレ…」
「見ての通り男根だよ。ほれ舐めろ」

 途端千雨は無抵抗に竿を撫で始める。
 亀頭を優しく握りそのまま根本まで滑らすとそのまま前後上下に。また傘の裏を通る際はわざと引っ掛けるように責める。
 またもう片方の手は彼女の玉袋を優しく包み込み、ゆっくり揉み解す。
 2つの玉が袋の中でコリコリと動き、交わり、擦れ、刺激を与える。そして次第に彼女の肉塊は上に上にと立ち上がるのである。

 エヴァのファンタズマゴリアに囚われている今の千雨は精神干渉系への抵抗力が強いと言う一点を覗いて一般的な女子中学生でしかない。
 ダイオラマ魔法球に入ったのは人外の類になった千雨が幻術をレジストするのを防ぐため。エヴァの魔力が十分に使える場所を選んだ結果である。
 どんなに抵抗力が強くても自分のキャパを超える上の存在にはどうする事も出来ない。
 全盛期の吸血鬼の力が使えるエヴァの術にまんまと引っかかった千雨は幻想世界に引きずり込まれた結果、地下室に囚われたのである。
 そしてエヴァは再び幻術を掛ける。
 それは麻帆良全体を包み込む結界と同じ。今回の件に合わせるのなら「エヴァの指示に違和感を感じない」精神干渉。彼女の言葉を受け入れる言葉。
 その結果千雨は何の違和感も感じずに情事を営み始めるのであった。

 大きくなったエヴァの陰茎。
 ファンタズマゴリアの中ではエヴァの望むままに世界が書き換えられる。それが彼女の陰茎。
 大きくなった肉塊に優しく口に含む千雨。
 最初は亀頭全体を口に含み、そのまま円を描くように舐める。唾液が亀頭を包み込むと今度は舌先で尿道を責め始めた。
 開いた両手で茎の部分を握ると皮が波を描き始める。寄っては伸びて、寄っては伸びて。やがて先の方から唾液が伝って降りてくるとそれがローションの代わりとなる。滑らかになった陰茎を今度は右手で手を滑らし初めた。
 そして口全体で加えフェラチオに徹する千雨。しかしながらエヴァの表情は優れない。

じゅるっ…ぬぽぉ、ぐちゅっぐちゅっ 

「んっ…うむっ…」

 声を漏らすが物足りなさを感じるエヴァ。
 彼女の性格は短気でせっかちである。そんな彼女がチマチマと責められるのには向いていない。彼女は血管が隆起した肉棒を口に加えてる千雨の頭に両手を置くと、そのまま自分の方に局部に思いっきり押し込んだ。

「ウグゥ!ウグゥ!オエーッ!ウグゥ!ウグゥ!」
「どうした千雨。折角だからもっと激しくしてみろ」
「ウエーッ!ゴホン!ゴホン!ハー!」
 
 途端に吐き気がこみ上げる千雨。イマラチオである。
 喉の奥まで咥え込んだ陰茎に咽頭反射が。しかしながら千雨は涙目になりながら必死に堪える。

じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ

 口全体がまるで性器であり膣内である。
 頭を固定し前後に腰を振るエヴァ。頭を押さえつけられ口を尖らせながら吸い付く千雨。陰湿な地下室で生々しい音が響き渡る。
 やがて体の奥底からビクビクと感じる射精の前兆の高揚感。はち切れんばかりに膨れ上がった肉棒。

「千雨、出すぞ!だすぞ!!」
「っんんんんんんっ!!!!」

 途端に吐き出される白濁液。バキューム車の様に吸い込もうとするが千雨の小さな口ではキャパシティが耐えきれない。口端かたにダム決壊の様に吐き出される精液。
 千雨は顔を離すと両手を合わせ皿を作り、そこへゲホゲホと吐き出すが明らかに常人よりも多い量に器から漏れてしまう。履いている制服のミニスカートにこぼれ落ちる精液。
 満身創痍な彼女は地面に手を付けながら肩で息をした。

「どうした千雨、もう終わりか? 私との夜はもっとハードだったよな。お前のお陰で良い声で啼かされてたよな」
「ハッ、ハッ、ハッ…。いや、フェラだと普段と、同じ、じゃ、ねーか…」
「なに、前座だよ前座。いきなり本番だと味気ないだろ、お前にはやり返さないとフェアじゃないからな。だからな千雨、どっちが良い?」
「どっちって、なんだよ…」

 エヴァは部屋の隅に設置してあったボロボロのベットに座り込むと足を組む。そして千雨の方に向かって指を2本立てた。

「狼の姿と人の姿、どっちで犯されたいんだ?」




 ベットの縁に手を置き、お尻を上げる千雨。
 湿ったショーツは床に投げ捨てられスカートが捲れる。スカートの覗く先は顕になった彼女の陰部。愛液でグチョグチョに濡れた彼女の秘部は年相応の仄かなピンク色をしており、小さな花の花弁がヒクヒクと自己主張していた。
 愛液はそのまま太ももを辿って靴下に染み込んでいく。生え揃っていない陰毛が肌にくっ付いてまるで海蘊のようだ。
 そんな野暮な事を考えながら彼女の腰に手を置くエヴァ。くびれからお尻の骨、換骨をへその方からゆっくりと指を這わせそのまま腰を掴んだ。
 彼女は局部を股の下に通す。そのまま大陰唇に肉棒の背を合わせるとそのまま中に入れずゆっくりと擦り合わせた。

「っ、んっ…」
「ん? まだ挿れてないぞ。感じるのは早いんじゃないか?」
「ったく、クリに当たってるんだよ。わざとだろ」
「あぁ、わざとだ」

 擦れる度に肥大化したクリトリスが亀頭の傘に引っかかる。
 その度その度にジンジンと体の奥にまで快感が走る。分泌される愛液が潤滑油となり、滑りを良くする。
 少しずつ声が漏れ始める千雨。その様子にエヴァは興が乗り始めた。

 腰に当てていた両手を片手ずつそのまま滑らせ右腕を前に入れる。
 そのまま千雨を持ち上げると立ちバックの形に。右手で千雨の左胸を揉みほぐし、服の合間に左手を挿れてブラの下から手を入れる。そのままエヴァの指先は右胸の乳首を弾いた。
 腰を振りながらクリを攻め、右手で左胸を覆うように揉み、左手で右胸の乳頭を摘みコリコリと刺激を与える。顔は千雨と隣合わせとなり、首筋から左耳の裏に掛けて舌を這わせそのまま耳にかぶり付いた。
 耳元でクチャリクチャリと舐め回す音が響く。エヴァはそのまま舌を耳の中まで突っ込む。それはまるで耳の中まで犯されている気分。千雨の表情は次第に快感に支配され、トロリと目が溶け頬を赤くし、口端からよ涎が垂れ始めていた。

「あっ…んっ、んんん!」
「っ、気持ちよくなった来たみたいだな」

 されるがまま快感に身を委ねる女子中学生。身体を小刻みに震わせ快感に貪欲となる。
 また背中に押し付けられたエヴァの豊満な胸の先、その先の乳首は固く立っておりエヴァもまた感じてるのが伝わって来た。
 エヴァは胸に置いてた両手を千雨の内股に持っていくとそのまま持ち上げる。そして千雨の秘部にエヴァの亀頭が口合わせした。

「千雨、挿れるぞいいか?」
「…うん、お願い…」
「分かった」

 そのまま腕の力を緩める。ゆっくりと中に入ってゆくエヴァの陰茎。固く艶やかな肉棒は何の抵抗感もなく受け入れられ、そのまま膣内にストンと収まった。

「んっ…あっ…ぁ…」
「よし、動かすぞ」  
「…うん」

千雨はゆっくりとベットに手を置き、最初のお尻を上げた体型に戻る。
そしてエヴァはゆっくりと中を突き始めた。

くちゅ、くちゅ、じゅびっ、ぐちゅ…

「ぁ…ぁああ…っ…」
「気持ちいいか?」
「うんっ…」

じゅば、じゅぶ、じゅぼっ、じゅぱ…

「肉欲に溺れた生活は辛かったか?」
「っ!? …っなに?」
「いや、何でもない」

 少しづつ、少しづつ。段々と1回1回のストロークが早くなり早くなり始める。ドレススカートが腰を動かすたびに波を描き、たわわに実った大きな胸が大きく揺れた。
 エヴァのスカートの丈は愛液で固まり汚れる。そして黒地の生地が所々が血で赤く染まっていた。しかしながらエヴァは気にせずに、腰を振り続けながらながら千雨に声を掛ける。

ぶちゅ、ぐちゅ、じゅばぁ、じゅぴ…

「あっ、ぁぁ、ああああああぁぁぁ!!!」
「イクか? イキそうか!?」
「うんっ、クる、キちゃうぅぅ…!」
「イクぞ、一緒にイクぞ!」

 ぐちょぐちょと音を立てながら徐々に間隔が狭くなり、腰も更に早く動き出す。快感に耐えきれず、肘をベッドに落とす。そのま肘立ちの姿で快感を全身に震わせる。
 緩みきった表情は快楽の証。やがてこの情事も終わりを迎える。

「出るぞ、出るぞ、出るぞぉ!!!」
「イグ、イグッ、あぁ、ぁぁっっっっぁあ!!!!!」

じゅぴ、んぐぴゅっぎゅぴゅっ、びゅるるぅ…

 そして訪れる絶頂。
 地下全体が響き渡る甘美な声。快感が脳天を突きやぶりそのまま体全体にまるで電気ショックで跳ね上がる感覚。エヴァの荒い呼吸がバックヤードに流れる。
 ゆっくりと膣から陰茎を抜くエヴァ。そして膣から溢れる精液がごぽごぽと音を立て糸を引く。力が抜けきった千雨はそのままベットに身を投げた。

「はっ、はっ、はっ…なぁ、エヴァ…」
「…なんだ?」
「…いや、なんでもない」
「そうか…」

 エヴァはベットに座ると横になる千雨の頭を撫でる。後ろに束ねた髪留めにそってゆっくりと。やがて彼女は頭を撫でられる気持ちよさとセックスの疲れで次第に瞼が重くなる。
 そして瞳が閉じ、眠りに入ったのを確認してからエヴァはこの精神世界、ファンタズマゴリアを解除したのであった。




「オゥ戻ッテキタ、オ疲レ」
「チャチャゼロ居たのか。何やってたんだ?」

 狼の姿で丸くなる千雨を横に振り返るエヴァ。彼女の姿は精神世界と違い何時もながらの幼い姿をしている。勿論股間には仰々しい男性のセックスシンボルは見当たらない。

「地下室ニ向カウ後ロ姿ガ見エタカラナ。妹ニ頼ンデ魔法球ニ入レテ貰ッタゼ」
「茶々丸…。なにやってんだあのポンコツは…」
「妹ハ姉ノ言ウ事聞カナイトナ」

 頭に手を起き首を振るエヴァとケタケタ笑うチャチャゼロ。

「そう言えばチャチャゼロ、お前コイツの正体知ってたんだな」
「ゲッ、ナンデ知ッテルンダヨ。バレタノカコイツメ」
「偶然だがな。後、記憶も見た」
「…ヘェ…」

 ふわふわと千雨の背中に飛んでいき、股乗りになると小さな手でビシビシと暑い毛皮を叩くチャチャゼロ。しかしエヴァの予想外の発言でチャチャゼロは顔をあげる。

「ソレデ、ドウダッタ?」
「それは本人に聞け。私の口から話すのはフェアじゃない」

 エヴァは魔法球に入ると直ぐに千雨へファンタズマゴリアを掛けた。
 しかしながらエヴァと千雨ではタイムラグが生じている。エヴァが表れるまでの間、千雨は地下室で囚われていたのであった。
 ではエヴァは一体その間何をしていたのか。そう、彼女は夢見の魔法で千雨の記憶を盗み見していたのである。

 それはまさに千雨が狼に犯されながら狼になった後、狼をぶち殺す話とでも言うべきだろうか。
 あの時の惨事から千雨は生きていく為に本能として貪欲となり、精神が安定するまでの間「妖」と生き、人殺しを。「妖怪」として生き、色欲に溺れる。
 長谷川千雨の人生で波瀾万丈な一月も一緒に見えた。
 エヴァが思うに、彼女の精神は根本的な所で解決していない。
 記憶の奥底に押し込み忘れ、そこを埋める様に子への期待や夢で代用する。そんな危なっかしい心情。

 結局のところ、彼女は「長谷川千雨」として認めてほしいのだ。
 それはオオカミでも女子中学生も問題ではない。自分を周りに理解してほしいのだ。その承認要求がネットでの「ちう」であり、エヴァ家での「ちう」である。
 眼鏡を通した先の姿ではない、そのままの姿。

 そしてエヴァがこの記憶を見て抱いた感情は多岐にわたっている。
 しかしここで一つに絞るなら「嫉妬」
 自分のモノである筈のこの従者は見知らぬオオカミに犯され子を宿し、沢山の人と交わっている。自分も千雨にとってその中の一人である事が耐え切れないのだ。
 
 なので彼女は千雨を犯した。それもややこしく、回りくどい形で。
 「女子中学生で処女の長谷川千雨」を犯したのである。

 あの時の黒いロングスカートに染み付いた赤い血、それは彼女の破瓜の証。
 彼女の手によって二度目の初体験。と言ってもただの自己満でしかない筈。
 実際、最初はただの意図返しだ。しかしながらこうして彼女と繋がる事によって自分色に染め上げた。男性と言う立場で彼女の中を精液で真っ白に染めるマーキング。
 まさに「独占欲」
 長谷川千雨と認知してからの情事。それは彼女にとっての初めてのセックス。オオカミ、獣の姿ではなく人の姿を選択し、エヴァの導く様に千雨は女子中学生として交わったのであった。

 これからこの先、彼女が一人で生きて行くのは難しいだろう。
 吸血鬼になりたての自分の過去と重ね合わせるエヴァ。私の従者である限り、千雨は私のモノ。600歳のおせっかいだ。中学生一人ぐらい私が守ってやろう。そんな「同情心」
 隣でスヤスヤと眠りこける千雨に決意を込めながらも優しい表情で撫で続けるエヴァ。やがて撫でられているのに気がつき目を覚ます千雨。
 エヴァは起きた千雨に何も言わず一緒にダイオラマ魔法球から連れ出す。これから先の「長谷川千雨」として生きていく為の話をする為に。



 突然千雨が痛みを堪え、床に蹲まったのは魔法球から出た途端の出来事であった。



《後書き》
後半の心情が分かりづらい? 感情や思いは沢山あるんだよって事で。

(以下UQのネタバレ注意)
遂に千雨が登場しましたね。そしてインタビュー記事通りネギは告白! それをフッた千雨は千雨らしくてホッとしました。
でもこの展開だと創造主編の後に付き合いそうな気が…。ともかく来月号が待ち遠しい。

…うちはメインヒロインになんて事を…

感想、評価宜しくお願いします。
次回は最大の山場になる予定。ちゃんと更新出来るかな…(二度目)



[42260] 千雨は陣痛の痛みに悶え、超は千雨に提案する話
Name: みきまる◆6808e8f3 ID:4aece7fb
Date: 2017/09/01 01:20

 大きな身体を丸め込み呻き声が薄暗い地下室で微かに漏れる。息が荒く全身から汗が吹き出し、苦しそうに顔を顰める千雨は痛みに悶え倒れ込んだ。

「だ、大丈夫か! どうした、何があった!?」
「うぐううぅ…痛い…生まれる…」
「オオカミ姿なのに痛みに悶えるって大丈夫なのか? 」
「し、知らねえよそんな事…うっ…」

 咄嗟に駆けつけたエヴァは千雨に声を掛けた。
ちうが千雨と発覚した今、身を隠す必要が無くなった千雨はオオカミ姿で痛みに悶えながらも受け答えるがそんな彼女に困惑するエヴァ。まさかこのタイミングで陣痛が始まるとは思いもよらず慌てふためく。
 身体自体は狼であるがなにぶん元人間であり、神様の類である妖怪。特殊な環境である千雨は普通の狼や人間と違う。
 それは出産も同じ。
 狼は過酷な自然界を生き残る為にここまで痛みに悶え、時間を奪われる事はないのだ。今の千雨は何故か人間と同じ、長く苦しい陣痛の痛みを味わっていた。
 規則的に襲いかかる痛みが短い周期を迎えながら次第に強くなり、その痛みを紛らわす千雨はお腹を見せながら身体をくねらせて背中を地面に擦り紛らわす。
 そんな千雨のお腹を摩るエヴァは大声で一階に居る筈である茶々丸を呼び出した。
 
「ど、どうかしましたか!?」
「茶々丸、お湯を湧かせ! 沢山湧かしとけ!!」
「っ!? ちうさんの御産ですか!」 
「そうだタオルや敷もの持ってこい。ちうは動けないからここで産むぞ! どれくらい掛かるか分からないから長丁場になるかも知れん」
「分かりました、準備致します!」

 そう言って台所に戻る茶々丸の背を眺める千雨。そうしてる間にエヴァは地下室に重ねていた段ボールを引っ張りだして組み立てる。

「…イヌ科は遮った空間を好むと聞いたんだが段ボールに入るか…?」
「…絶対入らないだろそれ。地下室だし狭いから大丈夫、落ち着いてる」

 そういいながら折り畳まれた段ボールの山に埋もれ丸くなる千雨。するとエヴァとある事に気付く。

「おい、その右手…」
「右手ってなんだ…ってえぇ!? 人に戻ってる…?」
「人の姿の方が出産はキツいだろ、なにやってるんだ?」
「知らねーよ、制御が聞かないんだよ!」
「はぁ!?」

 千雨の右手は狼のではなく人の手。
 狼の姿で人の右手はアンバランスで滑稽であるがどうにも元の姿に戻せず困惑する千雨。今まで千雨はonとoffの関係と同じで人の姿と狼の姿を自由に切り替え出来ていたが此の様な中途半端な姿は初めてであった。
 陣痛の痛みが襲いかかるたび段々と右手先から右腕とまるで浸食する様に人の右腕に変わりゆく。すると今度は更に大きな痛みが襲いかかった。
 途端に全身の体毛が消え去り、骨はゴキゴキと悲鳴を上げながら四足歩行から二足歩行に適した骨格に、マズルは引っ込み身体の節ふしが痛み悶ながら人の姿に。
 そうして千雨の身体が人の姿に変化するが今度は逆に人の右手が毛深い毛に覆われ肉球が浮き出て狼の手に形作った。

「うぐぅ…痛っ…なにが…」
「な…今度は人の姿に…千雨、何が起きてるんだ!?」
「わ、私にも分からねーよ! さっきも言ったけど訳が分からない」
「と、ともかくこれでも羽織っとけ!」

 そう言って学校帰りに直接ダイオラマ魔法球に入っていたエヴァは制服の上着のブレザーを脱ぐと身体を冷さないように千雨に掛ける。魔法を使う事が出来れば千雨の為にエヴァ一人であらゆる事が出来るが今は年相応の小さな女の子でしかない。真っ裸な千雨の身体を気遣い肩に掛ける。
 そうして暫くすると玄関先の扉が開く音が二人の耳に届いた。
 なんと間が悪いことであろうか。エヴァは千雨の介護に徹しており離れるわけにはいかない。茶々丸が受け答えるしかないが彼女も千雨の事で追われてるのだ。
 なんでこんな時に来客が!
 歯がゆく爪を噛むエヴァ。千雨の事は彼女の意思や魔法協会での今後の扱いなどを考えるとあまり表沙汰にしたくない。
 もし出産前に魔法協会の方で千雨にバレる事があれば学園長達、魔法使いたちは善意で千雨を保護するだろう。彼女のことを考えるのならばその道も悪くはないだろう。しかしそれじゃ意味がない。
 千雨は私のモノ。魔法球で彼女を手篭めた意味がなくなってしまう。
 茶々丸は両手でタオルの山を掴んだまま足先で玄関を開くと尋ね人と言葉を交わす。すると彼女は客人を追い出すのではなくなんとそのまま客人に着いてくるように促すと一緒に早足で地下室に向かい始めた。
 段々と二人の足音が近くなり、エヴァと千雨の顔が険しくなる。今の千雨は人の姿。彼女を知る人だと一発で誰か分かる。今の彼女に誤魔化は効かない。
 そうして地下室の扉が開き階段を降る音が。
 次第に顔色が青くなる千雨。やがてパタパタとスリッパの音を立てながら尋ね人と茶々丸が現れる。

「ちうサンがお産と聞いっ……!」
「超さんが駆けつけて下さ……!」
「「……」」
「「一体どう言う事なのネ(ですか)!!!」」



「ちうが千雨さんで、千雨がネットのちうさんで、ネットのちうさんがちうさんで…」
「おい、ロボットがオーバーヒートを起こしてるぞ」
「おそらく千雨サンの概念が崩れ去ったからネ。仕方ないヨ」
「まったく…誰が来たかと思えば超か。肝を冷やしたぞ」

 千雨のお腹に手を当てながら問診する超。その後ろでは茶々丸が事情を察せずに頭の排気口から煙を出しながら目を回す。
 エヴァは固まってる二人に千雨の事を簡単に説明するが落ち着いて話を聞く超と違い茶々丸は事態が飲み込めずソフトウェア、ハードウェア共に混乱していた。
 そんな中、千雨はさよやエヴァに続き一気に2人にバレる事によって半場諦めの境地に達しており、状況が状況なので取り乱す事なく淡々とエヴァのやけに詳しい千雨のみの上の話を聞き流しながら軽くなった痛みの周期の合間に身体を休めていた。

「超はやけに落ち着いてるじゃねーか。同級生がこんな事になってるのに」
「ハハハ、驚いた事は確かヨ。だけど火星人はこんな事で動揺しないネ」

 エヴァは茶々丸が持ってきた布団やクッションを千雨の下に引き、十数年前に大人姿で参加した夏祭りの浴衣を病院着の代わりに着せる。股を出す事を考えると和服、それもラフな浴衣はこの状況に適した服であろう。
 
「思えば私のペットに狼を勧めたのもお前だったな。全ては手の平の中って訳か」
「ノンノン、それは違うネ。少なくとも『ちうサンが千雨さん』とは知らなかったヨ」
「ほう、どこまで信じれば良いかな」
「火星人は嘘付かない、ピースが埋まっただけヨ。あっ、でも…ネットのちうさんが千雨さんとは知ってたけどネ」

 途端に口に含んでいた飲み物を吹き出す千雨。そのままゴホゴホとむせた胸をドンドンと叩きエヴァが彼女の背中を擦る。
 超はしてやったりの笑顔を浮かべながらカルテに千雨の状況について書き込んだ。

「ワタシが千雨さんの安否を確認したのは一月ぶりにHPが更新されてたのもあるネ。最初はハカセも同級生が行方不明になって動揺してたヨ」
「HPの事は後で聞くとして、留学とかそんな感じで私の事は説明されてたんじゃねーのか?」
「いや、ワタシとハカセは魔法の事を知ってるからネ、ワタシ達と魔法生徒は行方不明と知ってるヨ。流石にちうサンが千雨サンとは誰も気付いてないけど」

 エヴァは何時まで経っても動かず、思考停止した茶々丸の頭を叩く。
 途端に再起動した茶々丸は千雨を横目に見るとそそくさと罰が悪そうに一階へ上がっていった。そんな茶々丸をエヴァは呼び止めず超に顔を向ける。

「普通だったら茶々丸の反応が普通だろうし、さっきの話も『のもあるネ』か…。ホント、お前はどこまで知ってるんだ……」
「言葉尻を取るのは良くないよエヴァンジェリンサン。何でもは知らないネ知ってる事だけヨ」
「エヴァの言う通り十分怪しいぞお前」
「ハハハ、よく言われるヨ」

 そう言いながらパラパラと今まで書き溜めていたデータを見返す超は顔を顰めながら心苦しそうに千雨に話を切り出した。

「私の事は置いといて今は千雨サンの事ヨ。今は痛くないかネ?」
「ああ、さっきと比べてだいぶ痛くなくなった」

 お腹を擦りながら答える千雨の様子は狼の時と違い余裕が見て取れる。
 狼の姿の時はあんなに痛みに悶えていたのだが人の姿をとった今の方が痛みが軽いと言う矛盾。これ一体どういう事なのか。頭を悩ます超。

「そうネ、ふむ…千雨さん、聞き苦しいのだが今までの経緯を説明する事は可能カナ」
「おい、超」
「いやいや、全部話さなくて良いヨ。ワタシの質問に答えてもらえれば良いネ」
「それは…」

 罰の悪そうに訪ねる超に難色を示す千雨。
 言わばトラウマを掘り起こす事に成りかねない話だがわざわざ聞き出そうとする事はよほど大切な話であろう。わざわざこの状況で切り出すところをみるに無責任な話ではないはず。
 千雨はしぶしぶ超の質問に答える事にする。
 それは彼女の問診も含んだ話であり、千雨の現状を把握するため。一つ一つ言葉を選びながら深く切り出していく。その様子をエヴァは心配そうに見つめていた。
 やがて話が一段落し、超は千雨の話を聞き込むと白衣を靡かせながら顎に手を置くと千雨の現状について考え、そして頭の中で一つの仮説を組み立てる。
 そして超はその仮説と一緒に彼女へ一つの真実と思惑を込めて打ち解ける事にした。

「千雨サン、千雨サンはおそらくその様子、狼の姿や人の姿に無意識に変わるところを見るに原因は精神に起因してるかも知れないヨ」
「それはどう言う事だ?」

 超は千雨とエヴァに話し始める。
 千雨の身体のメインが狼なのは変わらない。また人の姿になれるのは高貴な妖怪や魔族、神様の類ではなんらおかしくない普通の事だ。
 しかし話を聞いた限りでは狼の姿の時が痛みが強い。普通に考えると人の姿の時が痛みが強く長引くのだ。しかし実際は逆。
 それは千雨自身が元人間であり、精神が未だに狼として割り切れていないからと言う話であった。なので出産という一種の極限状態に入った所で『千雨』と言う存在が狼か人か、どちら側かに振り切れず2つの合間を彷徨ってると言うのだ。

「千雨サンは種族で言うと完全なる人外ネ。だけど人間だった時と同じ思考が働いてる。精神は身体に引き寄せられるのにヨ。母親としての思考は人でも狼でも同じだがベースとなる思考は人のまま」
「まて、それだと私はどうなる。私も元人間だが元から理性的だと自負してるぞ」
「エヴァンジェリンさんの時とは似てるようで違うヨ。その違いを説明すると長くなるからまた今度ネ」

 妖怪とは何か。それを千雨は理性的な妖と考えた。
 なので狼になった当初は狼、また妖として本能に従い人を襲ったりした事をある。
 その度に千雨は自責の念に囚われ精神を安定させる為に人と交わり精力を養う事によって血肉の代用とした。しかし普通は超が言う通り、13歳のひ弱な精神に耐えられる訳がない。『常識』に考えると千雨は千雨ではなく一匹の狼という名の怪物になるのだ。それが千雨として意識が残り続けた『非常識』

「長谷川千雨、何故君が狼に姿を変えても自意識を保てたカ」
「なっ……」
「何故つがいと成る筈だった全ての元凶を殺す事が出来たのか、何故出産と言う一種の生命の危機になる事によって姿が不安定になるのか。その答えはただ一つネ…」
「…まさか! 超!!」
「長谷川千雨、君が精神干渉系が効かない特異体質であり……人間の頃から自己を確立させているからネ!」

 そう、彼女が『長谷川千雨』として姿を変えても生きていけた理由。それは彼女の精神干渉の類が効かない特異体質が今の彼女を形成してたのである。

「…う、嘘だ…でも…つまり私は…人間だった時から……」
「そう、普通ではなかったネ。思えば心当たりがある筈ヨ」
「超! お前!!」

 咄嗟に超の胸ぐらを掴むエヴァ。しかし超は気に留めず千雨の目を合わせ続ける。

「エヴァ、手を離してやってくれ。やっと納得いった…」
「千雨、お前…」

 思い出すのは教室の裏でさよと話した日の出来事。
 そこで綾瀬夕映は教室の後ろに狼である千雨が居ることを非常識でありながら麻帆良では常識と表現していた。それはつまり彼女自身割り切っていた訳ではない。意識誘導と阻害認知によるもの。その事を思い出し咄嗟に千雨は推測する。
 思えばチャチャゼロやさよが話していた通り、ここ麻帆良は魔法使いの街である。

「超、この麻帆良では意識誘導が常に働いているのか?」
「働いているネ。千雨サンの今まで苦しめていた原因、全ては麻帆良の魔法使いが原因ヨ」
「それじゃもう一つ、この精神干渉は魔法使いが悪用する為の術なのか…?」
「……それは違う。彼らは『立派な魔法使い』を志して動いているからネ。麻帆良で悪人はそこのエヴァンジェリンさんぐらいヨ」
「おい」

 突然話に出てきたエヴァは咄嗟に突っ込むが超は冗談と笑みを浮かべたまま決して千雨から目を話すことはない。
 千雨は頭を伏せながら思い巡らし静かに今までの過去を振り返えり、そして暫くすると口を開いた。

「たぶん私が人間のままだったら魔法使いたちを許さなかったと思う。今まで積もり積もった悩みや苦しみの原因だし」
「なら千雨サン…!」
「でも今なら麻帆良の魔法使いたちの考えも分かるんだ。今の私やエヴァ、さよみたいな人外もここには居るんだろ?」
「あぁ、居るぞ。私みたいな人外の他に魔法世界っていう別世界出身の奴もいる」
「魔法使いや妖怪、魔族や神様ってのは言わば『非常識』。それに一般人を関わらせない為の措置は『常識』だと思う。それは私がこんな姿になってより一層、そう思うんだ」
「その認知で間違ってない。お前が麻帆良に戻ってきた夜みたいに物騒な世界に一般人を巻き込ませない措置だ」

 千雨は大きく膨らんだお腹に目をやると手を当て優しく撫でる。お腹の子は人ではない存在。ふと子どもたちの未来を思い浮かべる。

「『非常識』な存在が『常識』と交わる街。今の私だとユートピアかもな」
「千雨サンでも…!」
「そしてもし魔法使い達が私の体質を知ってたとしても何もしないのが一番なのかも知れない。なぜならこの物騒な世界を知ってしまうから。一度知ってしまうと戻れない」
「……それはそうだガ」
「結局の所、何が正しかったのかは分からない。だけどそれはもう過去の出来事。魔法を知るとか以前に狼になって妊娠すると言う非常識で考えられない出来事を体験してる私には些細な事さ」
「千雨、お前…」

 超とエヴァの方を向きながらしんみりとした表情で答える千雨。結局のところ彼女はサッパリとした性格であり過去に固執する事はない。そうじゃなければ今まで生きていけないのだ。
 狼の右手で目に掛かった前髪をかきあげると両方のほっぺたをパチンと叩き思考を変える。この話はおしまい、それより今はこの出産時のトラブルが問題である。

「それで超、話を戻すがその私の特異体質が今の人でも狼でもない独立した精神のせいで矛盾した関係を生み出し、姿が定まらないと言う事で良いのか?」
「…あぁ、そう言う事ヨ。妖怪や魔族が人の姿になっても根本は妖怪や魔族のまま。しかし千雨サンはそちらに完全に堕ちることなく理性を保つことが出来た訳ネ」
「それじゃ千雨はどうしたら良いんだ?」

 超は先程までの思惑が篭った視線から打って変わり、妊婦を見届ける医師と同等の目に変わる。その様子をエヴァは横から疑惑の篭った瞳で見返す。
 超は一体何を考えていた? エヴァは彼女を不審がるが今の彼女には先ほどの不穏な空気は感じられない。これは後で彼女を問い詰めるべきと考えながら、エヴァも超と千雨の会話に割り込んだ。

「今の千雨サンは狼の身でありながら精神は長谷川千雨と独立した、どちらかと言うと人間寄りの思考をしている。しかし出産という極限状態で身体と精神で隔離をお越してる現状、狼と人の姿が定まらない宙ぶらりんの状態。これは今から生まれてくる赤子にどう影響するのか想像出来るものではないネ」
「狼の姿の時に生まれてきた子は狼として、人の姿で生まれてきた子は人として思考が生まれる訳か」
「恐らくネ、問題は生まれて来た姿ではなく子供の精神。今の独立した長谷川千雨としての精神を持ち合わせてる千雨サンにとって生まれてくる子二人が別々の思考を持って生まれてくると子育てが大変ヨ」
「待って、どう大変なんだ?」
「極端な例だガ……一人は人の姿で幼稚園に通い、もう一人は狼の姿で野山を駆け巡ぐる。それは互いの知識レベルに大きな差を生むかも知れないネ。同じ種族でも思考が違うと行動パターンは全然変わってくるヨ」

 生まれてくる子供について、千雨は誰にもバレていない時はエヴァのペットの狼として細々と暮らしていくつもりであったが出産前に正体がバレてしまうハプニングに遭遇する。しかしこの結果、彼女と子供の生き方に新しい道筋が生み出された訳である。それは人の姿を取りながら人の世に交わり生活する事。
 しかしそうなった場合、親と子の精神構造体が別になると千雨自身の子育てに多大な負担になる事は容易に想像できた。

「じゃあどうしたら良いんだ? 私は精神干渉系が効きづらいんだろ。一方の精神に傾けるのは難しいと思うんだが…」
「千雨サン、普段千雨サンが人の姿を取る時その姿は完全に人間の姿かネ?」
「完全って…まぁ耳と尻尾以外は」
「…! そう言う事か!」
「エヴァンジェリンさんは分かったみたいネ」

 はっとするエヴァを横目に未だピンとこない千雨は首を傾げる。そんな千雨を前に超は確信に触れた答えを開示した。

「人の姿を取った時に耳と尻尾がそのままなのはつまり人と狼の中間、どちらかと言うと人間寄りネ。それは無意識に人間寄りである長谷川千雨の精神を表してる。つまり千雨サン…どちらか傾ける必要はないヨ。狼と人間の中間の姿で産むのはどうかネ」
「それってつまり…?」
  
 人の姿で出産すると人間寄り、狼の姿で出産すると狼寄り。しかしどちらかに寄せることは千雨自身の力では出来ない。それならばどちらかに振り切らなくても良い。中間の姿で良いのだ。それはつまり…

「超はfurryの姿になれって言ってるんだよ。ようはケモノ、獣人だ」
「……は、はぁあぁぁぁ!?」



《後書き》
出産回前編。だけど説明回なのでエロくない

出産時で色々悩んだ結果こうなりました。産まれてくる子供の姿は次回のお楽しみ。

超が不穏な空気を醸し出してますが伏線です。
なんで超はこんなに詳しいんだろうか…。ちなみに彼女は嘘は付かない。

この作品はアンチ・ヘイトにはなりません。原作千雨が納得したならこっちの千雨も納得する筈

furryは海外でのケモノやケモ耳少女など示す言葉。エヴァは外国人だからそっちが先に思い付いた訳でした。
ちなみに向こうではtransfurじゃなくてtransformationなので検索する際は要チェック!

感想、評価宜しくお願いします。
次回は出産回後編。お楽しみに!



[42260] 千雨は数々の苦難の果てに、二人の子供を授かる話
Name: みきまる◆6808e8f3 ID:15ac6120
Date: 2017/10/02 18:31

「ちょっと待ってくれ、意味が分からないんだが…」

 予想外の提案に頭を悩ます千雨。
 超から提案された出産方法は獣人の姿での出産。一体彼女は何を考えているのだろうか、千雨の頭の中に無数のハテナマークが沸き溢れる。
 そして隣で納得した表情を浮かべるエヴァ。彼女までが超の提案に驚きながらも納得した表情で腕を組みながら頷く。今この場で状況を理解できていないのは千雨のみであった。

「先程話した通り、獣姿の千雨サンと人間姿の千雨サンの中間が獣人の姿って訳ネ。なんらおかしくないヨ」
「あぁ、言いたいことは分かる。ただ獣人と言うのがイメージが付かないと言うか何というか…そもそも私って狼の姿以外にも変身出来るのか? って言うか…」

 超の説明にピンと来ない千雨。
 そもそも何故姿を変える必要性があるのか。そもそも超の説明で千雨の精神は『長谷川千雨』であって人でも狼でもないと説明されたばかり。それならば出産の姿は関係ないのでは?
 すると隣で目を閉じ腕を組みながら話を聞いていたエヴァが片目を開け、千雨の方を見ながら口を開いた。

「なれるって言うよりならなきゃいけない。そもそも精神は肉体に引っ張られる。千雨も心当たりがあるだろう」
「あっ……」

 思い浮かぶのは狼の姿に成れ果ててからの出来事。人を襲い、血肉を貪った記憶。

「どんなに精神が強固な人でも環境や肉体など色んな要因で変わって行くネ。今の千雨サンが人としての比率が高いのは純粋に今までの環境、人間から生まれて人間として育ち、そして人間の身で狼の姿に堕ちたと言う経緯が今の千雨サンを作ってるヨ」
「千雨から生まれてくる子供達は肉体と言う面では千雨と違って最初から狼であり人間ではない。そう考えると人間の姿で出産した場合、子供の精神と肉体でどのような乖離を起こすか未知数。そう考えると狼の姿で出産するのが妥協だが…」
「そうなると今度はちょっと前に説明した通り、千雨サンと子供の間で軋みを産む可能性があると言う訳ヨ」

 精神は肉体に引き寄せられる。それは身をもって体験した出来事。ここでやっと千雨は過去の経験も踏まえて超の考えを理解した。
 千雨は茶々丸の持ってきたクッションに背中を預ける足を組み、獣の右手と人の左手の甲を下に膝の上に置くと目を閉じゆっくりと深呼吸、心を落ち着かせる。
 思い浮かべるのは何時もの過程、人から狼に変わる変身過程であり肉体を変化させるシーケンス。それを客観的に捉える。

 骨を動かすイメージ、それに伴う筋肉痛の様な痛みが身体全体に広がる。
 獣化を繰り返すうちに気にならなくなった痛みだが慣れというのは怖いもので今ではちょっとした違和感でしかない。
 骨が伸び縮み、それに従って肉付きも変わる。
 尾骶骨が伸び尻尾を形成すると太ももの筋肉、広背筋が発達する。膝の関節が曲がり逆向きになると足先にそってスッとスリムな肉付きに。指が短く内向きに回転するように動き出し親指が狼爪へと形を変え一本一本指の爪が内側に巻きながら伸び太く固くなった。
 身体は四足歩行に適した、お腹を下に向ける様な形に肋骨が動き体全体を支える背骨が横向きに適した形に。そして肋骨と背骨に一つずつ新しく形成される。内臓器官は狼のモノへと置き換わり、胸筋が発達すると後ろ足同等に腕の方も形を変えた。
 そして顔全体の骨格が前に伸びる形に。外から見る分には鼻先が伸びマズルを形成する。
 鼻先が黒く色を変え、仄かに湿りだすと一本一本の歯が形を変え牙を作る。ベロは長く太く、上唇が舌唇を覆い隠す形に。耳は後ろ上に引っ張られ軟骨が形を変え三角形に。目付きは横に鋭くシュッとした佇まいに。
 変身する過程で変化の兆しが見られる節ゝを覆うように生えた短く立った夏毛である銀色の狼毛は身体全体を覆いやがて千雨は狼の姿へ形を変えた。

「なにやってんだ千雨。狼の姿じゃ意味ないだろ」
「バカ、変身の感覚を掴んでるんだよ。何時もだったら一瞬で終わらせるし」
「何時見ても声帯が気になる所ネ。どれ、見せて貰っても良いかナ?」
「今はそんな時じゃねーだろ。これだからマッドサイエンティストは……」
「ハハハ、冗談に決まってるヨ。それでどうかネ、出来そうか?」

 突っ立ったエヴァの横で千雨と目線が合う様にしゃがみ込み、彼女の右手を弄りながら苦笑いを浮かべ気にかける超だが肝心の千雨は微妙な表情を浮かべ首を横に振る。

「さっきの過程を見てたなら分かると思うがピンと来ないんだよ。変身途中の姿だったら人と狼のキメラにしかならねーぞ」
「確かに。…しかしさっきの変身シーンはうん…」
「おいエヴァなんだよ、ちょっと顔見せろ。なんで顔逸してるんだ」
「なんかエッチかったネ…って痛いヨ!!!」

 ムッと来た千雨は超の右手に噛み付く。と言っても甘噛み程度の優しい物。
 しかし当たりどころ、いや噛み付きどころが悪かったのか超の右手に小さなキズが付きそこから血が小さく滲み出た。口の中で血の味が広がり、途端に眉を潜める千雨。
 超は条件反射で千雨の口から手を引くと傷から滲み出た血を舐め止血する。ちょっとした傷程度なので治療する必要もない。超は気にせぬ素振りをすると千雨に謝った。

「ゴメン、ごめんヨ。こんな時に冗談言うんじゃなかったネ」
「……」
「千雨サン、おーい千雨サン。大丈夫ネ?」
「んっ、いやなんでもない…。こっちもスマン」
「まったっく、お前バカだろ。それで千雨、イメージで言うとディズニーやカートゥーンを思い浮かべるんだ。なんならリビングのテレビを持って来るか?」
「……」
「おい千雨?」
「いや、大丈夫。何とかなるはず」
「千雨サン、ホントどうしたネ…?」

 上の空な千雨に違和感を覚える超とエヴァは二人顔を合わせ首を傾ける。
 彼女はナイーブな時間なのだろうか。そういえば陣痛で痛がっていた筈のオオカミ姿であるが今は痛みを感じていないのだろうか、先程から苦しそうな素振りが見られない。
 超はこの間、出産の準備と足りない物資を補給する為に短い時間の合間をぬって茶々丸を引き連れエヴァ家から飛び出す。元々緊急事態と言うことで千雨の元に駆け付けたのであってこうして余裕がある時に準備を進める最段であった。
 地下室にはソファに身体を預け横になる千雨とエヴァの二人になる。そして千雨は口を開いた。

「エヴァ、あいつは何者だ……」
「いきなりどうした…超の事か?」
「あぁ、明かせる所までで良いから教えてくれ」
「良いがどうして今?」
「……超の血に、私と同じ血が混ざってる」
「!? なんだって!!」

 血を舐めた時に感じた違和感。沢山の血が入り交じった奥に感じるその味は自分自身の血の味。これは一体どういうことなのか。
 考えられるのは遠い親戚。しかし長谷川家に中華系の親戚など聞いた事もない。
 もう一つ考えられるのはあの神社の狼の家系。遠い祖先にあの狼が居る可能性。言われてみれば超の発言には思わせぶりな発言が多い。ついさっき獣化する時も「何時見ても〜」と発言していた。つまり超の身近な所に喋れる狼が居た可能性が高い。
 しかし長谷川家と例の狼、どちらの血なのか判断するには量が少なすぎる。

「うむ…しかし超の身内にオオカミが居たと言う話は聞いた事がないし、そもそも知ってる事が少ない。麻帆良に来る前の情報は皆無だ」
「はぁ!? あいつってそんなに胡散臭いのか?」
「それも彼女はここ麻帆良で何かしでかすみたいだぞ。私にアポを取ってきた時に無関与を提案してきたからな。その報酬が茶々丸だし」
「…あの学園長は何を考えているんだ…?」
「あの妖怪ジジイの考えている事は私にも分からん。私はどうでも良いからその時は放っておいたがな」

 そう言ってエヴァはクーラーボックスからペットボトルを取り出し大皿に注ぐと千雨の前に差し出す。それを千雨はゆっくりと舌を出すと口の中に含み、血を洗い流すつもりで濯ぐ。そのままゴクリと飲み込んだ。
 
 途端に目を見開く千雨。
 彼女は驚き、考え、思考し、取り込む。
 それは血に記された証。断片的な思い出。
 超の記憶。一間の追体験。
 その血から読み取れたモノは一片の記憶であり、超と言う存在にたどり着けるモノではない。しかし少なくともこの現状を打破するモノを持ち合わせていた。

「……」
「…今は考えても仕方ない。超の事は後回しだ。それで変身出来そうか?」
「…あぁ、大丈夫だ」

 超の事は出産後の二人の時まで取って置き、千雨はイメージする。
 あの記憶を元に。
 ベースは人間。骨格や体付きは人と変わらない。変わるのは外見、その周りの容姿。
 骨を人の姿に戻し狼の名残を残しながらも身を引き締める。一本一本の指がモノを持てる形と開いて行く。大きく発達した太ももはそのままで。脚の関節は曲がった形から真っすぐに直立の姿勢を保てる形に。そして前足は細く女性らしい腕となる。
 顔は狼の時とあまり変わらずマズルを保ちながら目線の向きが人に近く内向きにと、どこか人の姿の千雨の面影がある顔に。そして首下にはモコモコの毛が生えた。
 大きな胸の乳房の下に並ぶ小降りの乳房が段となり複乳となる。膨らんだお腹周りの毛は薄く露になる胸。そして恥丘。

「…妙に生々しい変身だな」
「初めてだから文句言うな。それよりも服取ってくれ」

 水の入った大皿に映るメスの狼姿の獣人。
 エヴァの言う通りディズニーのキャラクターを生々しくした様なその姿はあの記憶のまま。超の記憶の、千雨の姿。
 彼女の記憶を垣間見たその姿は千雨自身。狼であり、人であり、そして今の獣人の姿。その姿を頼りに自身の姿を変えたのだ。
 ゆっくりと立ち上がり身体をほぐしながら身体全体を見回す。
 エヴァから手渡された浴衣を羽織る千雨。狼としての姿が長かったせいなのか羞恥心はそこまで感じない。しかし人の姿に近いのもあって常識的に考えれば服を着るが当たり前と考えるのだが毛皮の上に羽織る布地がまるで服を二枚着る感覚であり違和感を感じる。

「毛皮の上の服ってなんか落ち着かないな」
「そう言えば私が見てきた獣人達も露出が多かったり、ゆったりした服の奴らが多かったな。そう言う理由もあるのか」
「私みたいな奴って案外普通?」
「魔法世界ではな。私は見慣れてるしそこまで気落ちしなくても大丈夫だ」
「そうか、普通か…」

 普通と言われて嬉しかったのか耳と尻尾をピョコピョコさせる千雨。その様子を見ていたエヴァは無性に恥ずかしくなり顔を赤くする。

「んっ? どうしたエヴァ」
「なんでもない、なんでもないぞぉ!」
「声裏返ってるって。なんだよ、恥ずかしいのか?」

 くっしっしと口に手を当て意地悪そうな顔を浮かべあざ笑う千雨。エヴァにとって自分のモノである千雨の可愛らしい仕草にドキッとし、その感情が悟られない様に顔を反らす。
 そんなエヴァにイタズラ心が産まれた千雨は浴衣の留め紐を緩め両襟に手を掛けた。

「ほらエヴァ、コッチを見ろよ」
「なんだよ…ってブッ!!!」

 浴衣を開き裸体を露にする千雨に吹き出すエヴァ。銀色の狼毛が薄暗い地下室の中で艶やかに艶かしく反射する。毛に覆われた身体でありながらお腹周りから陰部に掛けての体毛は薄く身体のラインがくっきりと現れ大きく膨らんだお腹が目に付いた。
 エヴァをからかう千雨。しかしエヴァはため息を吐いたあと千雨に苦言を指す。

「いや千雨。今はそんな時じゃないだろ」
「えっ、ダメ? エロくない?」
「セックスアピールは後にしてくれ。今は恥ずかしいとか言ってる場合じゃないからな」
「はっ! つまりこんなモフモフした姿でもこれが平時だと…!?」
「うっさい! そろそろ超達が戻って来るからちゃんと羽織っとけ」
「はいはい、エヴァロリおばあちゃん」
「誰がロリババアだ!」

 エヴァは千雨にペット関係、主従関係、家族関係と入り交じった感情を抱いている。
 それがファンタズマゴリアの一件しかり、独占欲であったり。この感情は彼女自身表せるモノではない。もしかしたら恋愛感情を含む可能性だってありえる。
 その複雑な感情をぶつける際に姿など二の次。人でも獣でも獣人でも何も変わらない、全てが長谷川千雨に変わりないのだ。エヴァ自身、一生成長しない不死身の身体。自分にハンデがあるからこそその人個人を対象として見る。それがエヴァの考えであった。
 そうしているうちに天井の方から玄関を開く音が。二人の足音が段々と近づい来ると地下室の扉が開かれる。そこから買い出しに向かっていた超と茶々丸が沢山の荷物と共に顔を出した。

「おっ、千雨サン。変身出来たのかネ」
「おう、『超のお陰で』イメージ出来たからな」
「? よくわからないけど良かったヨ」
「えっ……千雨さん、ですか?」
「なんか茶々丸の反応が当たり前な筈なのに妙に新鮮だ…」

 ケモノとなった千雨の姿を見て引き気味の茶々丸の反応が一般人としての全うな反応であり新鮮味を感じる。
 と言っても引いてる茶々丸本人がロボットと言う非常識な存在であり、大きな矛盾を抱いているのだがこうも奇想天外摩訶不思議な人生を歩んでいると感覚が麻痺してる気がする千雨。そう言えば教室には幽霊である相坂さよも居ることだし今頃かと半場諦めの境地に。彼女自身が非常識であるがうえの心境であった。
 後日さよの所に顔を出さなくてはとつらつら考える千雨。そうしているうちに超と茶々丸は大学の方から持ってきたのであろうか、簡易的なベッドを組み立て今度は動物としてではなく人間の出産に必要な器具を用意していた。

「それで千雨サン、今の千雨サンは人間で言うと開口期、本陣痛の最中ネ。ちょっとゴタゴタが入ったから意識が逸れていたかも知れないけどまた痛みが周期的に襲って恐らく数時間続くヨ」
「ベッドなどを用意したって事は今の姿が人寄りだからか?」
「そう言う事ネ」

 超は千雨とエヴァに彼女が考えられる出産の流れを説明する。
 基本人間と流れは同じだが時々獣としての特徴が顕になるだろう。そこら辺も踏まえながら懇切丁寧に解説していく。

「それで千雨サン、私たちは席を外すべきカ? 一応飼い主であるエヴァンジェリンさんは置いておくガ」
「えっ? ちょっと待て超。私一人で千雨のお産を手伝わなきゃいけないのか!?」
「なんだよ超。今更抜け出す気か?」
「いや、だって千雨サン。すっごい今更だけど……」

「同級生に出産もろともアソコとか色々見られて良いのかネ? 今は比較的人に近いと思うんだガ……」
「「あっ…」」
 


 「それじゃ私と茶々丸はリビングで待機しておくから何かあったら呼びに来てネ。頑張れ千雨サン! 後エヴァンジェリンお婆ちゃんも」
「おう、ありがとな」
「任せろ、年の功を見せてやる。あと誰がお婆ちゃんだ!」

 そう言い残し茶々丸を一緒に退散する超。地下室は千雨とエヴァのみとなる。
 千雨は10分以内という比較的短なループの中で陣痛の痛みに襲われながらも茶々丸が持ってきた子育て雑誌を読みながら気を紛らわせ、エヴァは隣に置いた机で必死に超の持ってきた出産マニュアルをメガネを掛けながら読みふける。
 獣人という常人から逸脱した身体が幸いとなりそこまで痛みに苦しむことがない。しかし次第に間隔が短く、痛みが強くなるのを見るに子宮口が広がっているのは確かであった。
 こうして時間が刻一刻と過ぎていく。そんな中エヴァはメガネを掛け直し本を置くと口を開いた。

 そこで話されるのは千雨の今後の人生について。
 子供の子育てや身元の証明、生活や学校など千雨の将来を決めること。それをエヴァは千雨に聞き、まとめ、妥協案を考える。
 エヴァはこの麻帆良では学園長との繋がりが強く権威も権力も全うではないがある程度通じる立ち位置かつ独立したポジション。千雨にとって最高の環境であった。
 エヴァと千雨は互いに言葉を交わし考え、悩み、答えを見つける。それはごく自然の家族としての出来事であり主人としての勤め、そして飼い主としての責任。そして千雨を手放したくない独占欲。それがエヴァを動かす原動力となる。
 そうして二人の会話が一段落し、暫くすると千雨の痛みは更に酷くなる。

「んぅう…っ…」
「いいか、肩の力を抜いて長くゆっくりと息を吐くことに集中するんだ。なんならテニスボールもあるぞ」
「だ…大丈夫ぅ……」

 周期が短く、痛みが酷い。それは娩出期に入る証拠。
 ここでいきむ訳にはいかない千雨は大きく深呼吸したり姿勢を変えたりしていきみを逃し、痛みを紛らわせる。
 やがて子宮口が全開となるとお腹の子が下降するのが感じられた。それは娩出期に入った証拠。途端に胎児を包んでいる一番外側の幕が破れ、陰部から水が噴出する。

「んっ…ぅう…っ。うぅ〜…っ…!」
「良いか! 目を閉じるなよ、私の方を見ておくんだ」

 エヴァは千雨の口に布を当てると悶える痛みで顔面の皮膚が内出血しないように目を開けるように指示する。破水した千雨から子供が産まれるまでそこまで時間は掛からない。
 陣痛の波に合わせて何度もいきみ続けると、赤ちゃんの頭が膜に包まれ見えたり隠れたりする排臨の状態に。産道を通って降りてきた子供達の頭の形が膣口とぴったりと合うまで排臨は続く。そして数時間。

「ふっ、ふっ、ふっ…ぅ〜ん」
「よし、羊膜が顔を出したぞ! ほれ、ひっひっふー。ひっひっふー」

 ラマーズ法で呼吸を整え腹部に力を入れる。会陰が伸びるにつれて感覚的に麻痺し、焼け付き刺すような痛みをともなう。そんな千雨の隣でエヴァは彼女の手を握りながら励まし続ける。そしてまた数時間の格闘の末に膜に包まれた赤ちゃんが膣口から顔を出し続ける状態、発露に入った。

「いきむのを止めて呼吸は短く、ハッハッハッと落ち着くんだ」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」

 赤ちゃんが一気に飛び出して会陰が裂傷するのを防ぐ為に短促呼吸に切り替える様に指示する。浅く短くなった呼吸が静かに木霊する。そして数回の陣痛収縮の後、遂に出産を迎える。

「っ…ぁあ…ぅぐぁあああ…ぅわぁあああぉぉぉんっっっ!!!!」

 本能のままに声を出すアクティブバース。人として、狼としての叫び声。
 それと同時に羊膜に包まれた赤ちゃんが立て続けに二人娩出する。エヴァと千雨は一人づつ赤ちゃんが包まれた羊膜を破くと千雨は赤ちゃん達と繋がったへその緒を噛み切り、一人一人鼻と口を舐めて呼吸を促した。
 そして赤ちゃん達が大声で鳴き無事に呼吸している事を確認すると千雨は自分の乳に近づけ授乳する。難なく赤ちゃん達は千雨の乳房に口を付けた事によって、千雨の出産における最大の山場は乗り越えたのであった。



 後産期に入り、後は胎盤が外に押し出され出血が治まるのを待つのみ。その間、千雨はベットに身を任せお腹の上でぐっすりと眠る赤ちゃんに目をやりながら静かに微笑む。
 赤ちゃん達は予想していた狼姿ではなく人の姿でありながら手先や足先、耳や尻尾などが狼である半獣人の姿で産まれてきた。例えるならケモミミ尻尾と獣人の合間であろうが。二人は幸せそうな寝顔を浮かべ乳房を枕に眠る。
 千雨の後陣痛が収まるまでの間に破水などによって汚れたシーツの後片付けに徹するエヴァ。そんな中、彼女はふとある事を思い出すとベットの上の千雨に尋ねた。

「なぁ千雨。今更だけど子供の名前って決めてるのか?」
「えっ…うん…。まぁな……」

 まさか突っ込まれるとは思わなかったのか尖った爪で顔をポリポリかきながら明後日の空を見上げる千雨。そこには気まずそうな空気が漂う。

「なんて名前なんだ?」
「…私って千雨って名前だろ」
「うん」

 静かな地下室ですやすやと眠った子供たちの寝息が響く。暫くの沈黙。やがて千雨は気まずそうに口を開いた。

「だから千雨から一文字ずつ取って女の子は千、男の子は雨ってのはどうかな…?」
「どこかで聞いたことあるんだが……」
「…うん。後になって気付いた」

 こうして長谷川千雨は、数々の苦難の果てに千と雨と言う名の二人の子供を授かったのであった。



《後書き》
真面目な出産回後編。
まさかUQの方でネギと千雨が結婚するとは…驚きと罪悪感で胸が一杯でドキュメンタリーっぽく…なんかスミマセン…

個人的な宣伝ですが10/8に神戸国際展示場で開催される関西けもケット6でポケモン融合をテーマにした合同誌、「P-MergeSG」に寄稿しました。
興味が御座います方はC-23「愛鋼熊纂」へどうぞ!

ちう狼は次回で最終回の予定。最後までお付き合い頂けたら幸いです。
感想、評価よろしくお願いします。



[42260] 千雨は再び非日常を手に入れ、超は千雨に想いを託す話(終)
Name: みきまる◆6808e8f3 ID:15ac6120
Date: 2017/10/24 21:19

 出産後は改めて振り返ると、今までとはまた別に波乱万丈な3ヶ月であったと千雨は一人物思いにふける。

 6月の頭に千と雨という二人の子供に恵まれた千雨であるが、出産時にエヴァと彼女の二人で取り決めた通りに出産後は物事を進めて行った。
 まず千雨ら三人、いや三匹は子供二匹が親離れする年まで狼としてダイオラマ魔法球の中で過ごす。それは幼少期におけるアイデンティティ形成の為。
 千雨たちは今後どのような環境に放り込まれようとも『狼』であることは変わりないのだ。
 野を駆け、山を走り、野生動物、正確に表すならば箱庭の中で野生化した動物だがそれらを狩って生活するごく自然な動物としての生活。
 最初は懸命に乳に縋っていた子供たちも次第に大きくなり肉を喰らい付くようになる。群れが存在しない以上、千雨一人が狼の本能に沿って子供らに教えなくてはならない。これはエヴァら第三者がどうすることも出来ない事であった。
 そうして時が流れ、やがて親離れの時期がやって来る。ここで千雨は一つの篩いにかけた。
 それは野生の狼として生き続けるのか、それとも人間社会に紛れて生活するのか。このまま親の元を離れたら狼としてだけの生き方を否定するつもりはない。これが一つの分岐点。
 その問に関しての子供たちの答え、それは千雨に付いていく、人に紛れて生活すると言う選択肢であった。出産して二ヶ月、現実に換算するとたった3日後の出来事である。
 
 ここからは人として紛れて生活するための特訓、教育が始まる。狼の生後二ヶ月は人で言う3歳、この年から『人間』に付いて学ばなくてはならなかった。
 人に擬態する事を覚え、人との常識、言語などを覚える。麻帆良の街は魔を抑する結界が張ってあるため人前で狼の姿に戻ることはまずないが、気を緩めると耳と尻尾が出てくるかも知れない。子供たちには口酸っぱく人前では本性を表さない様に注意しなくてはならなかった。
 また『人』としての子育てにはエヴァやさよ達も参戦する。
 当初さよが子育てする予定は全く考えてなかったがエヴァが登校地獄で学校に必ず登校しなくてはならず、また茶々丸も家を空けてしまう為、四六時中暇なさよに白羽の矢が立ったのである。
 エヴァは教室でゆらゆらと一人寂しそうに漂ってるさよに声を掛け、新たに認知して貰える人物に出会えた喜びに嬉しさのあまり飛び掛かる彼女を軽やかに避けながら魔法球に無数に保存してあったエヴァの自動人形に憑依させる。
 そうする事によって、さよは浮遊霊から家政婦と言う新しい称号を手に入れたのであった。
 こうして千雨とさよ、時々エヴァと茶々丸の四人による育児、子育てが現実と魔法球の両方で行われる。
 人に化けるのはよいが立ち上がるという概念がなく両手両足を地に付け、城の中を駆け回る子供らに頭を悩ませたり、狼としての言葉、要はテレパシーの類を使用せずそれらの言語を日本語として説明し覚えさせたりなどなど、普通の子育てより一癖二癖も手に掛かる子供達に頭を悩ませながらもエヴァらの手を借り、何とか人の世に紛れて生活出来るレベル、幼稚園保育園に通える所まで育て上げる事が出来たのだ。
 ここまで現実で言うと三ヶ月。しかし千雨らは数年の歳月が過ぎてるのであった。

 子育てに奮闘する千雨であったが彼女の仕事はそれだけではなかった。
 彼女は育児の合間合間を縫ってエヴァの従者として魔法などを習い始めた。
 そう、千雨はエヴァ家に従者、そしてペットとして家族に迎えられたのである。首元のチョーカーはペットの証。手綱を握るエヴァに繋がった首輪である。
 何故千雨がエヴァの庇護下に迎えられたのか。それは関東魔法協会、関西呪術連合との交渉に大きく出る為である。
 千雨が狼に襲われた大きな原因、それは関西、関東の管理不足による責任なのは間違いない。千雨の特異体質と言うイレギュラーがあったとしてもだ。
 もしあの時千雨が襲われそのまま死ぬ、もしくはあの狼の眷属、つがいに成り果てていたならばそのまま隠蔽して終わりであったが今の千雨は神狼の類に昇格しており容易に無視できる存在ではない。
 ここで千雨がこっそりと人に化け麻帆良に社会復帰した所で見破られるのは時間の問題であり、社会的地位のない彼女は彼らの善意であろうがホイホイと関東の首輪付きの犬に成り果てるのは目に見える。
 彼らは被害者である千雨に悪いようにはしないだろう。しかし千雨は自分の事に付いて他人に主導権を握られるのは癪に障るのであった。
 そうなる前に関東の中でも独立し、ある程度力のあるエヴァの加護に入ることで関東、関西と同じテーブルに対等に並び今後の事で交渉することが出来るのだ。

 結果的に千雨は社会復帰が約束された。
 千雨は表向き海外留学なのは変わりない。しかしそれとは別に行方不明であったと知る魔法先生、生徒には別の説明がなされた。それは一つのカバーストーリー。
「魔法使いの犯罪者組織に攫われていた所を救出された」という安い話。
 しかしこの説明でなぜ千雨がエヴァと一緒に生活しているか、なぜ魔法を知っているのか、なぜ二人の子供たちが同居してるのかなど、それらを第三者が容易に想像させる事が出来るのだ。
 なんせあの20年前の大戦の黒幕である秘密結社も最近活動を活発化させている。これにより彼女が根掘り葉掘り追求される可能性が格段に下がったのであった。
 こうして千雨は「魔法の事を知っている一般人」と言う称号を手に入れ、関東の下に付くことなく今までどおり平和で退屈な生活が保証されたのである。
 では千雨が神狼と知るのは誰であるか、それは交渉の場に居た学園長とタカミチ、あとは関西トップである近衛詠春の三人。
 この件はMMには報告していない。あの組織に知れ渡った所で不幸になるのは組織のトップである彼ら以外にも千雨自身に魔の手が伸びる可能性は否めない。魔法先生に千雨の事を説明しないのはメガロからの魔法使いも在籍する為であった。
 決して悪人ではないが組織の上に立つ人物達。
 なので千雨との交渉も遅れを取らせては行けない。しかしながら前提として教え子であり、子を守る大人なのも間違いないのだ。
 なので学園側からとしての要望はとても簡単な物であり一般人に手を出さない事、自分たち学園と敵対しない事、そして出来ることならエヴァを支えてあげて欲しいと言う必要最低限の取り決め。首元のチョーカーはエヴァの管理下の証。これを見せることによって手綱を握られている証明には十分である。
 また別に、何かあったら龍宮同等に交渉と言う形で千雨を何かしらの依頼するという話も決まったのであった。

 そして最後の大仕事、それは神社の遷宮。
 三峰神社の一角に存在する千雨の神社は人も神も存在しない亡骸。土地神の任は千雨には負っておらず、纏めるべきオオカミ達は絶滅。狩猟文化から農耕文化に移ったご時世、神様は狼よりお狐様である。
 今の千雨は神を名乗る資格は持っているが信仰が貰えず三峰神社のお零れを貰うのみであった。
 そこで例の狼を祀っていた神社を龍宮神社の一角に遷宮し千雨を祀神として祀り直す算段である。
 結界が解かれている今、神社を放っておけばそのうち神力が廃れるのみ。ならば人に祀られる場所に移転し、新しくリニューアルすれば良いと言うとても単純な話。
 関西としては神の類をこのまま廃らせるのは色々問題である為、正式に関西、関東、エヴァら、時々超が顔を出し三者の極秘裏に行われる。
 こうして千雨を祀る神社が麻帆良の地に立ち、御神体として髪の毛の束を奉納。龍宮神社の一角に新しく千雨を祀神とした神社が完成したのであった。
 ちなみに超はこれを機に神社ビジネスを始め『理系に強い!』『有名人になれる!』など千雨のハッカーとしての技量やネットアイドルなどと掛けたご利益を謳い、お守りや御札が作られ、夢追う学生を中心に千雨の神社は知名度を上げる。
 信仰対象が増えるのもあって千雨は何も言わなかったが恋愛願望や男性関連などはあまり願ってほしくないと思う彼女であった。


 
 学生鞄を両手で持ち、横開きの扉に寄り掛かる。
 今は1限前の朝礼の時間帯、夏休みが明けて初めての学校。
 扉を隔てた先の2−Aの教室では個性豊かなクラスメイト達が夏休み明けである為か、普段より増して和気藹々とお喋りする声が聴こえてくる。そこに静かにするよう呼び掛けるタカミチ先生と委員長の声。
 千雨は新しく新調した伊達眼鏡を掛け直すと大きく深呼吸。そして両手を頭の上に置くとそのままお尻の方も触って今一度再確認する。
 尻尾や耳が出てたら一大事。
 恐らく一般生徒には麻帆良特有の変なファッション、それこそ仮装やコスプレと言うお気楽な理由で済まされるだろうが龍宮や桜咲などの魔法生徒に知られるのはマズい。なんせ彼女らは一度は拳を交えた者同士である。気まずいったらありゃしない。
 千雨の事情を知ってるのは協会側では学園長とタカミチ先生しかおらず、バレるのは彼女の精神を考えると得策ではないのであった。
 ちゃんと耳と尻尾が隠れてるのを確認しホッと一息。そのまま安堵の表情で顔を上げると目の前には廊下の窓ガラスに彼女自身の顔が映し出された。
 そこには何処か垢抜けた、大人の顔になった千雨。
 ダイオラマに居た際の歳月のせいなのか、はたまた経産婦で二児の母である為か、体格にあまり変化がなくとも中学1年生の頃と比べると何処か大人っぽい雰囲気を醸し出されており、例えるならまるで同級生の那波のヤツみたいに老けた感じだと自虐的に頬が緩んだ。
 途端に後ろの教室の壁越しから強烈な怒りのオーラ放出され、千雨の背中越しから威圧する。

「ち、ちづ姉が阿修羅の様な笑顔に!」
「夏美、大丈夫よ……」

 冷や汗をかきながら唾を飲み込む千雨。
 思えばうちの子ら、千と雨を彼女が保母のボランティアをする保育園に預ける際にもちゃんと事情を説明する様に無言のプレッシャーを放っていた事を思い出す。
 一般人向けのカバーストーリーは魔法使い達とまた別に用意していたが、那波から醸し出された空気を考えると何処か嘘を付いてると感潜られているかも知れない。
 そう思うとやはり末恐ろしい彼女である。スキがないとはこう言う事を言うのだろう。思わずハンカチを取り出し、冷や汗を拭う千雨。
 そうしてるうちに連絡を終えたタカミチ先生が教壇に出席簿を置き手を叩くと、大事なお知らせがあるとクラスメイトに話を切り出した。

「それから一つ、二年生になって海外留学していた長谷川千雨君が帰ってきました。千雨君、入って来なさい」

 千雨は「はい」と言うと扉に手を掛ける。
 その先ではさよを除くクラスメイト29人の顔が一斉に伊達眼鏡を通して彼女の方に向けられた。一瞬ヒヤッとしながらも彼女は教卓の前に立ち、数ヶ月振りの面子に帰省の報告と言う名のカバーストーリーと久々のご挨拶を述べる。
 中にはエヴァみたいに終始ニヤニヤした顔の奴がいたり、超みたいにニコニコ笑顔を浮かべていたり、窓越しからさよがふわふわと浮きながらこっそりと覗き込んでいたりしていたが、珍しく2-Aのクラスメイト全員が静かに千雨の話を聞いていたのであった。
 はて、一体どうしたのだろうか? このクラスの面子にしては珍しい。
 そんな事を思いながら話を終えると一年生の時と同じ、教室の一番後ろの席に座り隣の席の綾瀬に軽く会釈。綾瀬は小さな声で「お久しぶりです」と返すとそのまま教壇に居るタカミチ先生が朝礼を終わらせた。

 席を立ち、委員長の礼という号令で皆が一礼。
 なんだかよく分からない感情が渦巻く。
 クラスメイト皆、自分の事に微塵も興味ないのだろうか。あんなうるさいクラスメイト達が異様に静かにまるで業務連絡を受けた様に淡々と話を流された気分。
 確かに人付き合いは悪かったと思うが、此の様に誰も興味を示さないと思うと心に来るものがある。
 そんな事を考えながら頭を下げる。
 やはり戻ってくるべきじゃなかった、やり直そうと思わなきゃよかった…大人しく魔法球の中で引きこもり野生生活でもしておくべきだった……自分は…。千雨の心に曇りが。
 そして頭を上げた千雨。
 すると目の前にはクラスメイトが皆笑顔で手元を隠し千雨の方を向いていた。
 そのまま手に持ったパーティークラッカーを引くと一斉に紙吹雪が舞う。そしてクラスメイト一同が一斉に口を揃えてこう言ったのだ。

「「「千雨ちゃん、お帰りなさい!!!」」」

 あぁ、これでまた、賑やかなクラスメイトに囲まれながら退屈で非日常な日常が始まる。

 こうして彼女は人外と言う身に堕ちながらも『長谷川千雨』として沢山の祝福を受け、再び社会復帰いや人間社会に復帰したのであった。



「あのパーティーを企画したのは那波と委員長だ。意外だっただろ」
『いつも通りうるさくなるとは思ってたが祝賀会は予想外だったな。一体何があったんだ?』
「ほら、お前が子供達を預ける際に海外の親戚の子って嘘を話しただろ。
 その話を小耳に挟んだ美空のヤツが魔法生徒に説明した『犯罪者に襲われた』って部分と結びつけ、一人納得していた所を那波達に詰め寄られ魔法の部分を隠して勝手な解釈を説明した訳だ」
『あー、つまり私が海外で大変な苦労を追ったので励まそうって感じ…ってか美空って魔法使いなのか!?』
「そうだぞ、知らなかったのか。まぁ今から分かるんだがな」
『今から分かるって……もう一つツッコんでも良いか…?』
「いいぞ」
『なんで私が真夜中の麻帆良で狼姿に戻ってエヴァを乗せなきゃいけねーんだ!!!』

 真夜中の麻帆良。雲に隠れた満月が時々顔を覗かせる。
 そこには金髪碧眼の幼い少女を背中に乗せた大きな銀狼が世界樹の麓にある広場まで風を切りながら走っていた。
 幼い少女、エヴァは黒いマントに身を包み手綱の代わりに狼に繋がれたリードを握る。
 そのリードに繋がれた銀狼、千雨は建物の屋根を渡り歩きながらエヴァを振り落とさない様に夜の闇の中をぐんぐんと先へ進んで言った。

「何言ってんだ。お前は千雨じゃなくて私のペットである『ちう』だろ。これならジジイ達との約束は破ってないから一緒に夜の警備に参加出来る」

 そう言いながら懐から一枚のカードを取り出し見せつけるエヴァ。
 それは仮契約の証、パクティオーカード。そこには後ろ向き佇む凛々しい表情の獣人の姿が。そして下の方には『長谷川千雨』の文字。

『そのカード、人前で出すのはマジで辞めろよ。殆ど服着てねーじゃないか』
「大丈夫、モフモフの体毛に隠れて見えないし千雨の事は秘密だからな」

 仮契約のカードには出産時に姿をとった獣人の姿。
 銀色の体毛に足先や手に巻き付く包帯みたいな衣装。長いマズルと立て耳がピンと張っており、後ろ向きで振返っている姿勢であるが為大きな尻尾が目に付く。
 そして太ももにはホルダーが巻き付いており、そこには何故か魔法少女が使うステッキが納められているのであった。
 胸と局部はさらしの様に巻き付いた包帯がちゃんと大事な部分を隠しているが殆ど裸に近い姿であり、体毛に隠れる隠れていない関係なく、人型に近いため何度も見るたびに羞恥心に蝕まれる。
 狼の姿では裸であってもなんら問題ないが獣人の姿は一応服を着るべきであると言う千雨の常識であった。

『そう言えば七部衆はどうした?』
「お前の子供達の遊び相手じゃないか。逃げ惑うネズミを追いかけるのは狼にとって健全な遊びだろ、元気一杯な雨のヤツが目に浮かぶ」
『千はパソコンに興味持ってたからな…そう考えるとアイツらは教育玩具に最適かも知れない…』

 何処からか「ちう様ー、ぼくたちはおもちゃじゃありませんよー」と嘆きの声が聞こえる気がするが無視して足を進める。
 千雨のアーティファクト、力の王笏には七匹のネズミ型上位電子精霊がセットで付いており、カードに納めてる状態でも普段は常にフワフワと千雨の周りで待機しているが、千と雨が保育園など千雨が見えない所で人間社会に紛れて生活を初めてからはもっぱら子供達の遊び道具兼監視役に徹してるのであった。
 そうこうしてるうちに女子寮を屋根を走り抜け、石畳に着地。そのまま誰も居ない筈の桜通りを駆け抜ける。しかしそこで千雨達は寮と反対方向に向かって大きな段ボールを抱えて歩く、普段から見慣れた白衣姿の少女とすれ違った。

「おい超。どうしたんだ?」
「エヴァさん、丁度良い時に来たヨ。ちょっとこの荷物を運ぶのを手伝って欲しいんだガ…千雨サン、手伝ってくれないかネ?」
『そんなこと言われてもな。エヴァが……』
「…いいぞ千雨。終わったら世界樹の広場まで来るんだ」

 そう言ってエヴァは一人広場に向かって夜の闇の中に消えて行く。
 残されたのは一人の少女と一匹の狼。千雨は空中でくるっと一回転すると麻帆良の制服に身を包んだケモミミ尻尾の標準的な人の姿に戻った。

「あれ? 元の姿に戻るのかネ?」
「狼のままじゃ荷物持てねーだろ。ほら全部寄越せ」

 ぶっきらぼうに伝え、超の代わりに荷物を持つ千雨。そのまま二人は超の研究室がある麻帆良大学へ向かう。
 荷物を運ぶだけの簡単なお仕事。大学構内ではバレない様にちゃんと耳と尻尾を収めて荷物を研究室まで運び終える。そして二人は大学の隣にある小さな公園に赴くと超がお礼に自販機から温かい飲み物を手渡した。

 ベンチで横並びに座る二人に沈黙が流れる。
 聞こえるのは秋の夜風の音色のみ。残暑厳しい季節でありながら今日は比較的気温が低く、冷たい風が身を掠めて行った。
 思えば出産後のゴタゴタで超と二人っきりになったのは今日が久しい。もしかしたらエヴァは千雨に気を使って超と二人きりにさせたのかも知れないと千雨は考える。
 彼女は出産時から気になっていたあの話を切り出した。

「超、単刀直入に聞く。お前は何者だ?」
「…それは一体どういう事ネ?」
「私が出産の時に噛み付いただろ、あの時私はお前の血を舐めた」
「あの時はごめんネ。悪ふざけが過ぎたヨ」
「…その血には超、お前の私に関する記憶と私自身の血が混ざっていた」
「……!?」
「これは一体どういうことだ…?」


 空に浮かぶ満月が雲の裂け目から顔を出すとそのまま月明かりが二人を照らす。
 そこには予想外の出来事で驚きに満ち満ちた超と、冷静に事のあらましに付いて説明を求める千雨の真剣な表情が。
 二人の間には暫くの沈黙。そして超が切り出した。

「私が何者なのか、ネタばらしにはまだ早いネ」
「早いって何がだ! 超鈴音、ちゃんと説明しろ!」
「何故なら千雨サンはまだ知らない…」

 立ち上がり声を荒立てる千雨。
 この場に及んでシラを切ろうとする超に怒りが沸き、尻尾と耳が逆毛立つ。すると超も立ち上がりそのまま千雨に近づくと耳元に口を近づけこう言った。

「ごめんなさいネ、千雨お母様」

 そのまま超は千雨の横を通り過ぎる。
 彼女の衝撃的な言葉に暫く固まっていた千雨であるが言葉の意を理解すると超の方へ咄嗟に振り向いた。
 月明かりを遮る雲は流れ満月が顔を出し、二人の場所を幻想的な空間へ眩く染め上げる。
 その満月をバックに立つ超。
 しかし彼女のシルエットは千雨が知る彼女の姿ではない。
 頭の上の耳、そして尻尾。人間にはある筈のない二つのシルエット。
 千雨と同じ姿。強いて言えば毛の色が赤みにくすんだ銀色をしているぐらいの違いであろう。それらが満月をバックに照らし出されている。

「超…お前まさか……」
「フフフ、まだ答えは秘密ネ。何故なら千雨サンの物語はまだまだ始まったばかりだから」

 人差し指を口に付け、白衣をはためかせながら超は語る。

「千雨サン達2-Aはこれから波瀾万丈な人生を歩む事になるヨ。でもこの言葉だけは忘れないで欲しい」
《わずかな勇気が本当の魔法》
「どっかの誰かサンの受け売りだがこの世界の大事な言葉…」

 そして超は再び歩き出し千雨の横を通り過ぎるとベンチに置いていた飲み物を手に取り立ち止まった。
 満月は再び雲に隠れ、公園は夜の闇に包まれる。
 超の後ろ姿には先程の耳と尻尾は付いておらず、白衣の真っ白な背中のみ。

「その言葉は後にはこう続くヨ」
《少年少女よ大志を抱け その一歩が世界を変える》
「私も大志を抱いてこの地にやって来タ。だから千雨サン…」

 そして超は千雨の方を振り向くと最後に笑顔でこう言った。



「ちゃんと世界を救って、新しい幸せに見つけるのネ───!」



 超の言葉は何処か先の、千雨の未来を祝する言葉であった。





《後書き》
 これにて「千雨が狼に犯されながら狼になった後、狼をぶち殺す話」は一応完結となります。

 しかしながら子どもたちの話や原作イベント、はたまたエッチな話などまだまだ書き足りない所も多く、今後は不定期ながらも一話読み切りの短編という形で投稿出来たら良いなと考えております。

 ここまでご覧頂き、ありがとうございました!



[42260] 千雨とエヴァが互いに身体を重ね合わせるだけの話
Name: みきまる◆6808e8f3 ID:a4173257
Date: 2020/03/12 01:25
「そう言えば千雨。お前は男と寝たことはあるのか?」
「なんだよ突然。まだ真っ昼間だぞ」

 燦々と照りつける太陽の光がジリジリとまるでローストチキンを焼き上げるようにゆっくりと黄金色に肌を焼き、思わず額に汗が滲み出る。耳と尻尾は項垂れ、今にも落ちてしまいそう。
 ここは麻帆良学園都市の雑木林に立つエヴァンジェリン邸。
 夏休み真っ只中のエヴァと居候兼従者兼ペットの千雨は、担任であるタカミチから頂いたスイカが冷えるまでぼーっとログハウスの軒先で桶に入った氷水に足を付け、麦わら帽子とハットを深く被りながら、うちわで互いを仰ぎ合っていた。
 白いワンピースにハットのエヴァとタンクトップに麦わら帽子の千雨。そんな千雨はケモ耳尻尾の省電力バージョン。茶々丸はお買い物をしに外出しており、さよは時間の流れが速い魔法球の中で子供達のベビーシッターに精を出すそんな8月の昼下がり。

「いや、深い理由があるわけじゃないんだが千雨は色々特殊だろうから面白い話の一つや二つあるかもと思ってな」
「そんなのねーよ。飢えを凌ぐために無差別に道行く人を犯してた時ぐらいしか人間の男とは寝てねぇ」
「ほーん、そんなものか」

 そう言ってエヴァは興味が失せたのか大の字になりながら寝転び、そのまま何も無い天井をぼけっと見ながらゆっくりと時間が流れて行く。そんな彼女のワンピースは汗で張り付き、幼いながらも大人びた黒のブラがうっすらと透けて見え、チラチラと覗く千雨の胸にはもやもやとスケベ心が生まれ始める。
 千雨は様々な出来事を体験し異性愛者、同性愛者などの垣根を越えた何でも来いのバイセクシャルと思っている訳であり、なんだったらパートナーと言う言い当てがしっくり来るエヴァとは性的な関係としてセフレに近い関係であったがここ数ヶ月は千雨自身、中学生として一般社会に復帰し、母親として忙しかった為か性的なことに関してはご無沙汰であった。

「まぁ私はエヴァが居るからあんまり男は気にしてない」
「んっ、それは告白か何か?」
「いや、只の欲求不満」

 そう言って帽子を取った千雨は寝転んだエヴァの上に馬乗りになるように腰を浮かしながら跨がると唇に接吻。
 突然のことに驚いたエヴァであるがそんな彼女も興が乗たのか、千雨の口内に舌を這い出すと互いに絡め合いながら涎を混じり合わせ、啜る音を奏で合う。じっと見つめ合いながらエヴァの頭を両手で包み込み、エヴァも千雨の肩に手を回すとそのままごろりと回転し、互いに横になりながら足を絡め始めた。
 首元に見えるメラニン色素の薄い白い柔肌から透ける赤い血管。もし私がエヴァと同じ吸血鬼であるならこれほど美味しそうなものは無いだろう。千雨はスッと親指の爪を首筋に押し込むと彼女の柔肌に傷が付き、そこから真っ赤な血が小さな雫となって彼女の手に流れる。

「千雨、お前の立ち位置忘れてるだろ……」
「忘れてないさ、そもそも普段のエヴァにだったらこんな綱渡りはしないし」
「はぁ……後で覚えておけよ……」
「まぁまぁ、イメージプレイだと思って」

 真っ赤な血が滴る左手に舌を這わせ、指を一本一本音を立てながら丁寧に嘗める千雨。涎と血が舌の上で互いに混ざり合い、身体が火照ると頬を赤く染める。
 普段捕食者の立場であるエヴァであるがこの場は逆。彼女は狼に食べられる赤ずきんでしか無い。千雨はエヴァの口元に指をやると彼女は小さな舌を出し、チロチロと舌先で指先を刺激した。
 目の前に居るのは自分の主人であるがそんな彼女が自分自身の指を懸命に嘗める姿は、普段のギャップと背徳感でゾクゾクと身体を震わせる。彼女のプライドや立場を考えると忌避感があると言えば嘘では無いが、逆に主従交代な雰囲気が興奮させることも事実。実際エヴァ自身もこうやって自分を欲してると言う事は案外乗り気ではないだろうか。
 千雨はもう一度唇と唇を重ね合わせると、太ももを股部に押し当てながら手探りで背中のチャックに手を掛け、そのままゆっくりと布地を噛まないように引っ張ると何も遮るモノのない、露わになった背中に手を回し、ぎゅっと抱きつく。そのままゆっくりと身体を重ね情熱的に抱き合った。

 くしゃくしゃと皺が付き、汗で身体にピタリと付く真っ白のワンピース。はだけた肩筋からは見た目不相応の大人びた黒いレースの下着の肩紐が。千雨は背中に回していた手先を肩紐に引っかけると小さな胸を保護していたブラは擦れ、小さな乳輪が垣間見えた。
 千雨はそのままもう片方の肩紐を外すと支えの無くなったカップは下にずれ、緩やかな双丘の頂点に二つの小さな乳首が顔を出す。彼女の薄ピンクの乳頭は今も昔も、そして未来も決して変わることはない。自分自身そこまで変だとコンプレックスに抱えたわけではないが、子育てを経験し赤く熟れて成熟したモノを持つ自分からしてみれば、羨ましいと思うと同時になんて初々しい輝きなのだろうとインモラル感情を刺激し、興奮する。
 見た目は第二次成長期を迎えていない子供。中身は600歳のお婆ちゃんみたいなものだ。人の理から外れたモノ同士であるが千雨は少し羨ましいと思うと同時に何時もの事であるが背徳感でゾクゾクと身体を震わせた。

「普段の威厳を感じるエヴァも良いけど、されるがままの無口なエヴァも可愛い」
「そう言うお前だって普段はそこまで口数多くないだろ。お互い様っん……!」

 全てを言い終わる前に小さな乳頭を親指と人差し指で摘まむとくりくりと転がす。突然の事でびっくりしたのであろう、思わず声が漏れてしまったエヴァに、してやったりの笑みを浮かべると彼女はキリッと睨み付ける。
 転がし、摘まみ、弾く。爪先を立て乳首の周りをぐーるぐる。ゆっくりと円が描くと中心点の乳頭にキュッと引っ張ってみる。胸の無いエヴァの乳首を引っ張ったところで千雨と違い、おっぱいが持ち上げられる事はない。しかし何時までも衰えることの無い初々しい刺激と快感が彼女を襲い、ツンと堅くなる。そんな乳頭を覆うように胸を手のひらで包み込むと軽く揉んでぷるぷると揺らし、焦らしていく。
 千雨がリードするパターンはあまりない。
 やはり主従関係が生まれている以上基本大人姿のエヴァが千雨を襲うのが殆であり、なんだったら時にエヴァの股間には大きなイチモツが付いてるパターンすらもある。そう考えるとこうやって魔法球ではなく外で身体を重ね合わせること自体珍しいのではないだろうか。千雨の性格上、やられっぱなしは気に障るタチも相まって興が乗ると段々とノリノリになって行く。

「おいおい、感じてるのか。まだ早いんじゃねーの」
「うるさい、うるさい……!」
「プライドが高いのは良いけどこう言う時ぐらい身体を預けなよ。ほら、脱がすぞ」

 汗が噴き出し、全身火照った千雨、それはエヴァも同様。千雨はちゃっちゃとエヴァの服を脱がすと、自分が身に纏っていたタンクトップも脱ぎ始める。胸元が露わになり、紺色のブラが顔を出した千雨は黒の下着一枚になったエヴァの、もはや胸を覆う役割をしていないブラのホックに手を掛けると彼女の色白な小さな胸が顔を出した。
 千雨はそのままエヴァのショーツに手を掛ける。しかし脱がす事はまだ早計。太ももでゆっくりと刺激を受けた股下は少し湿っているがそこには直接触れずにそのまわりをゆっくりと手を這わせる。触るか触らないかとギリギリを責めるような感覚で内側を下から上に。そして空いた口はこれまた彼女の小さな耳にキスをするとそのまま耳たぶに舌を這わせ、唇で甘噛みする。
 エヴァの耳元から聞こえるのは舌と涎が口の中で混ざり合いながら奏でる甘美な音楽。"クチャリ…クチャリ…"とゼロ距離で奏でられる湿った音は色欲を増幅させ、快感を増大にさせる。そんなエヴァも千雨の耳に口を近づけるが、そこにあるのは綺麗に整えられたもみあげしかなく人耳は見当たらない。

「……そう言えばお前の耳は頭の上だったな。忘れてた」
「正直自分でも忘れてる事多い。よくイヤホン落とすし」

 千雨がイヤホンを掛けるときのイメージを思い浮かべるエヴァ。そこには頭の上からケーブルを垂らし顔に掛かった千雨が、邪魔そうにしかめっ面を浮かべながらぶるぶると犬みたいに顔を振るシュールな光景。勿論ケーブルの位置は顔に掛かったままであり、やがて感情が死んでしまったのであろうか、チベスナ顔の千雨で佇んでいた。

「……ぶっ」
「あっ、エヴァ笑ったな! 何考えてやがる」
「いや、そのな。やっぱり犬だなーって」
「そう言うエヴァは子猫だけどな。口は余裕でもコッチの方はどうだ?」

 千雨湿ったクロッチを指でなぞり、エヴァの鼻の前に持ってくるとツンと漂う愛液の香りが彼女の鼻腔を擽る。
 この匂いを発しているのが自分自身だと思うと羞恥と興奮で赤面してしまい、顔を逸らすエヴァ。普段ミドルネームの"キティ"と呼ばれるのはエヴァの逆鱗であるが、従者である千雨にされるがままのこの状況に彼女はギャップを感じ、怒り出すことなく逆に興奮していたのだ。
 まさに捕食者、狼に襲われる小さな幼子、さながら気分は赤ずきんであろうか。実際の所、捕食者は吸血鬼であるエヴァであるがそこに突っ込むのは野暮であろう。
 千雨はそのままエヴァの恥丘を一枚の布越しに指を滑らせる。上に、下に、触れそうで触れないように、焦らすように上下に撫でる。何時膣や陰核にふれてもおかしくない。しかし千雨は局部に決して触れることはなく、焦らすのみ。やがて指先の小さな接地面から手のひら全体で優しく包み込みすりすりと撫で上げる。
 そうしてもう一方の手は露わになった胸を優しく包み込みながら、もう片方の胸に顔を近づけ、桜色の乳頭にキスをすると、そのまま唇を小さく開き口の中に加える。
 決して痛みを感じないように甘噛みをしながら、歯を擦らせてくりくりと抓るとやがて乳首が小さく立ち上がる。そんなエヴァの表情は目を瞑り、感覚の一つ一つに走る快感を顎を引き、歯を食いしばりながら黙々と一人感じていた。

 声に出さないのは彼女の捕食者である吸血鬼としての矜恃とプライドであろう。そんな彼女を千雨は否定する気はないが、お構いなしに彼女は愛撫を繰り返す。
 胸、乳房全体を包み込み、乳輪の輪郭、そして全体へと舌を滑らせる。焦らし、いざ触れたかと思うと少しの合間で口を離してしまう。焦らし、焦らされ欲求は積もり積もってゆく。
 そして胸から顔を離したかと思うとまた最初と同じように下腹部、臀部、会陰と比較的身体の柔らかい部分をリズミカルに指先で触れながら刺激を加えていき、身体の中へ中への振動を伝え渡らせる。ゆっくりと、ゆっくりと、身体を重ね、色んな部位に触れあい、時に敏感な胸や局部に触れる。
 舐めたことでテカテカに光る胸に、千雨はフッと息を吹きかけるとエヴァの背筋にゾクゾクと快感が走った。性感帯である耳たぶから縁へと舌先を這わせ、過敏に感じる快感に身が悶える。唾液の音が頭の中まで響き渡る。息が上がり、力が抜け、蕩けた目をして項垂れるエヴァ。そろそろであろうか。

 千雨はエヴァのショーツの隙間に手を入れるとゆっくりと脱が始めた。エヴァの小さくて細い足は力が抜けきった状態であっても呆気なく、何の苦も無くスルスルと脱がす事ができ、思わず拍子抜けしてしまう。何だかんだで目上として接することの多いエヴァであるが身体は子供と何ら変わりない事を改めて知らしめると同時に、もう一度背徳感に背中を震わせる。
 見慣れた光景であるがエヴァの陰毛一本もないつるつるの陰部が露出し、小さな筋が顔を出す。普段は下からのぞき込むことが多い部位であるが、今回みたいな上からのぞき込むように彼女の立溝を拝見するのは割と珍しい。千雨はゆっくりと足を持ち上げると左右に開きエヴァの股座を覗かせる。そこには愛液が垂れる陰裂が開かれ、綺麗で幼い女性器が露わになった。
 いつ見てもエヴァの女性器は変わることなく美しく、そんな彼女の秘部にゆっくりと千雨の手が、布を挟まず直接触れると同時に指先に暖かさと湿っぽさが伝わり、ゆっくりとスポンジを触るように凹ませる。小さな丘であるが脂肪で膨隆した部位を撫で、そのままヴァキナの縁を周りを指腹で触り、息を吹きかける。ゆっくりと、ゆっくりと焦らして行く。
 太陽が地面を焦がし熱がじわじわと二人を蝕み、セミの鳴き声が会話の無い二人の世界で唯一奏で続け、時に窓際に吊していた風鈴が風を連れて音を鳴らし、二人の合間をすり抜けて行く。

「エヴァ、触れるぞ」
「……あぁ」

 濡れた花びらに優しく触れると身体を震わせるエヴァ。
 人差し指と中指でクリトリスを挟み組み指を左右に開くと、そこには小さな花弁が顔を覗かせる。そのままもう片方の手で壊れ物を扱うように優しい手つきでクリトリスに触れると、手首を動かしながら上へ下へと刺激を加え愛撫する。優しくリズムを刻むように指を滑らせ、擦れる度にゾクゾクと快感が走り出す。エヴァは自分の長い金髪を小さな手で掴みながら身に悶え、感覚を研ぎ澄ましながらゆっくりとゆっくりと快楽を受け入れていた。
 そして千雨は股に顔を近づけると唇と唇でクリトリスを挟み、ハムハムと口動かしながら吸ったり優しく刺激を加える。クチュクチュとやらしい音が静かな空間に流れ、その音を発するのが自分自身と言う所に興奮を覚え、更に股を濡らすエヴァ。そのまま千雨は舌を出すと勃起した小さな豆を舌先で叩き、チロチロと舐め上げ、更に刺激を加えてゆく。
 ゆっくりと、ゆっくりと二人は身体を重ね、口づけ合い、触れあって抱き合う。
 普段とは違ったスローセックスは二人だけの世界を静かに作り出し、まるで時の流れがゆっくりと自分たちだけのモノになったように錯覚する。快感の波が静かに風に吹かれ、波打つように継続的にリズムよく身体中を走り回り、暖かさと安心感で身も心も包まれる。そんな受けのエヴァと違い、千雨は攻めに徹っしているが彼女もエヴァと直に触れあい体温をや血の巡りを感じることで心が満たされていた。

 千雨は舌を陰核からヒラヒラの陰唇にずらし、そのまま女陰全体を下から上へと舐め上げる。ぷくっとしたクリトリスに鼻息が掛かり、モゾモゾと身体をくねらすエヴァ。すると突然ビクッと身体を震わせた。
 千雨は舌を尖らせ、狭い膣口に挿入すると縁をぐるっとなめ回しそのままズルズルと音を立てながら息を吸い込んで洪水のように溢れ出た愛液を啜る。鼻先がクリトリスに触れ、口周りは陰唇を包み込み、舌は膣内をうねり回る。
 反射的に思わず千雨を引き離そうと彼女の頭を押さ込むエヴァ。しかし千雨の両腕はしっかりと太ももを押さえ込んでおり、年相応の筋力しか無いエヴァが人外である千雨に適うはずもない。
 逃げようにも逃げられず、ただただ快感に享受することしか出来ないエヴァは下唇を噛みしめるが快感に、快楽を押さえ込む事は出来ない。股下から腹部、そして脳天へと電流が突き走るような快感がグッと襲いかかると、それが反復し、暫くの合間大きなうねりとなって襲いかかる。足先をピンと伸ばし、食い縛った歯の隙間から押し殺した嬌声が漏れ出すと口端からは涎が垂れ、一本の筋が出来た。
 長い髪をくしゃくしゃに床一面に広げ、目の焦点が合わず虚ろな目をしたエヴァを股から口を離した千雨はのぞき込む。そのまま千雨はエヴァの顎をクイッと持ち上げると両手で優しく顔を包み込みながら唇と唇を重ね合わせたのであった。



「もう十分スイカ冷えてるな」
「今更なんだが魔法薬で一気に冷やせば良かったんじゃないか?」
「馬鹿、それだと風情がないだろ、まったく……」

 そう言ってエヴァは千雨が切ったスイカをほっぺた膨らませながら口いっぱいに頬張ると、口先を尖らせ種を庭に思いっきり飛ばす。シャワーを浴びてサッパリとしたエヴァと千雨は下着にTシャツと言うラフな格好に着替えると豚の器に入った蚊取り線香の隣でお皿に綺麗に並べられた三角形のスイカを口にしていた。井戸水で冷やしたスイカは冷たすぎず、ぬるすぎぬのちょうど良い加減に冷まされ、夕食前でありながらおかわりの手が止まらない。
 太陽は大きく傾き、空を茜色に染め上げる。時刻は夕刻、そろそろ買い物に行った茶々丸が帰ってくる時間帯。
 あの後暫く身体を重ね合ったエヴァと千雨であったが、疲れからかそのまま二人は縁側で横になり夢の世界に落ちる。そうして暫くの合間二人抱き合って眠っていた訳だが、目を覚ましたのが肌寒く感じる静かな夕焼け時であった。

「もうそろそろさよも子供達を連れて戻ってくるだろうし、夕食の準備をしないと」
「折角だから棚に飾ってたシャンパン開けるか。食事と一緒に出して貰っても構わんぞ」
「了解。しかし何故このタイミングに?」

 機嫌が良いのか、酒棚から一本開けるように指示をしたエヴァに何故だろうかと疑問を覚える千雨。良くも悪くも今日は何も無い平和な一日であり、なにか喜ばしい事も、良い知らせもあった訳ではない。するとエヴァは千雨の方に振り向くと、お盆の上のスイカに手を取りながら彼女の質問に答えた。

「いや、ただ良い気分にさせて貰ったからな、それだけだよ。そんな平和な日常を謳歌出来るって事に改めて乾杯って事さ」
「そんなものか」
「そんなものだよ。お前だって望んでいただろう」
「……そうだな、そうだったよ」

 そんな夏休みのある日の出来事。
 彼女らが同じA組のクラスメイト達と波瀾万丈な日常と毎日に巻き込まれるのを、その時はまだ知るよしもなかった。



《後書き》
 パスワードを忘れて四苦八苦してたのですがなんとかログインできました。

 千雨とエヴァがレズセするだけのエッチな話。今回は千雨がタチでエヴァがネコ

 既にこの作品が3~4年前の作品ってのが恐ろしく感じる今日この頃。
 ここ数年はのんびりと4ヶ月に1作のペースで短編を書いてますがエッチな小説は1年以上書いてなかったので、つい最近UQホルダーを読み返してたのもあり、リハビリがてら書いてみました。

 気が向いたらまた更新するので気長にお待ちください。


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