<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

赤松健SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[4354] 宿命背負いし者その手に掴め(ネギま×GetBackers)
Name: こい◆d9c51d38 ID:64223ef6
Date: 2009/02/23 18:53



『宿命背負いし者その手に掴め』
―1時間目―



「泣くなよ卑弥呼」

消えていく身体……それは代償。
最後に目に見えるのは涙を流す大切な妹。

「俺は後悔なんかしてねぇよ。悲しいのはいまだけだ……俺という存在が消えれば悲しみも消える」

彼女の頭に手をのせる。
今ままで伝えれなかった想いを精一杯その手にのせて。
けれど、もうその感触さえも曖昧だった。
ただ泣き止んで欲しくて、最後は笑顔を見せて欲しくて。

「夏の日の――通り雨みてぇによ」

(だから笑ってくれよ)

――後は頼んだぜ、銀次――

その日一つの世界から一人の青年が消えた。



宿命、運命、呪い。
いろんな物を背負った青年。



(あ~さみい。なんだよ、消滅しても寒さはのこるってか?わけのわからねぇ宿命だ)

……だがその男、美堂蛮は確かに風を感じていた……

(……さみい)

「さみいんだよ!静かに寝かせろや!死んでまで宿無し生活させるつもりか!」

蛮は叫びながら飛び起きた。

「あ?」

だが目覚めて見た場所は天国でも地獄でもましてや無限城でもなかった。
いや、地獄の可能性はあるのかもしれない、何故ならそこは暗い闇が広がっていたから。
……だが頭上に見覚えのある小さな煌き達があった。

「……何処だここ?」
(無限城じゃねぇな?どこだ?しかも夜かよ)

だがふと気がつくと近づいてくる気配を感じた。

「人?ってことはここはあの世じゃねぇのか?」

(つっても全ての人間の記憶からも忘れられて、存在そのものが消滅した俺にそんなもんあるのかもわからねぇが)

「まあいい、とりあえず人がくるなら尋ねりゃいい。まずは一服だ」

だがズボンのポケットを探ってみるが無い。
懐だったか?と思い手をのばして。

「裸だな」
(そういやぁ、身体の包帯も赤屍との戦いで吹き飛んじまったか。のわりに傷はふさがってんな)

考えていると、もうそこまで近づいている二つの人影。

「やっぱりここは天国かもな……巨乳の美女が迎えに着たんだし、もう一人は夏実並か」

二人の人影、一人は蛮よりも背の高いきつめの美女、そして胸は無いが(蛮主観)まあ美少女の二人が近づいてきた。

「あ~君達、道を……っとその前に煙草と服もってない?」

彼女達、(胸の無い)美少女、桜崎刹那と長身の美女(美少女)龍宮真名は侵入者を見て警戒をしていた。

戦闘者の二人だからこそ暗闇のこの距離でも見える、上半身裸で刀傷などの傷跡……だがその身体は一目みて鍛えられた身体だと分かる。
だがこちらが近づいていっても殺気の一つも放たない。
この不可思議な侵入者に二人は困惑していた。

「気をつけろ刹那、素手だが魔法を使うかもしれん」

「分かっている」

二人はそう言った後、互いを見て頷くと自分たちの得物を握り。侵入者の男に近づいていく。

「あ~君達、道を……っとその前に煙草と服もってない?」

その言葉に二人は一瞬何を言われたかわからなかった。



(まずったか?まあこんな夜に裸の男がいたら怪しむか)

「あ~すみません。怪しい者じゃないんですが」

蛮は猫をかぶりながら愛想笑いを浮かべてそう言った。
しかし、どう考えてもこんな夜中に上半身裸の海栗みたいな頭をした男が、いきなり服と煙草を要求してきたら誰だって怪しむ。
しかも蛮にはわからないがこの場所は特殊な場所だった。
そう、一般人やただの変質者が入れない結界の張ってある場所。

「貴様何者だ?どうやってここに進入した?西の者か?」
「は?西?なに言ってるんだい?」

サイドテールの少女の言葉に蛮はわけがわからなかったが。
とりあえず愛想笑いを浮かべて猫かぶったままたずね返した。

とそこであることに気付く。

(ん、あの女が持ってんの刀じゃねぇ?となりの女は……銃か。どうやらここは強面のお兄さんらのシマなのかもしれねぇ。そしてあの女達は極道の妻とその娘か)

「何者だと聞いているんだが教えてくれないかな?」

と言いながら美女が銃を向けてくる。

(冗談じゃねぇぞ!天国だと思ったら地獄かよ!)

「あ~その持っている物は銃ですか?」

「話すきはないようだね?」

「力づくで言わせろということか」

と二人の女はそれぞれの獲物を持って襲い掛かってきた。

「ちっ」

まずは小柄な少女が刀で切りかかってきた。
舌打ちをしながら蛮は地面を蹴って初撃をかわした。
と着地点にむかって銃弾が飛んでくる。
蛮はそれを身体をひねり手で着地することで着地点をずらしかわす。

「かわしたか」

少女は刀を構え直しながら少し驚いた表情で呟いた。

「それなりの実力者というわけだね」

美女は目を光らせ口元を歪める。

蛮は二人の攻撃を受けて冷静に思考した。

(あの女ガキのくせに鋭い斬撃、弥勒一族だったりしてな。はっ笑えねぇあのくらいの年であの技術まだわからねえが、もっと鍛えればいつかは夏彦並になるかもな。それにあっちの女あそこまで絶妙な援護をしやがるとは、二人とも昔の卑弥呼より実力は確実に上だな)

「っつてもまあ、俺様の敵じゃねえがな」

そう言いながら蛮は殺気を放った。

「てめぇらマジなんだな?」



「てめぇらマジなんだな?」

その言葉とともに男の雰囲気が一変した。
尋常じゃない殺気あれほどの殺気を放てるものは神鳴流でもそうはいなかった。
それほどの殺気に刹那は足を止めた。

「くっ、すごい殺気だな」

真名はその男の雰囲気の変わりように驚いた。
あれは歴戦の戦士だと、そうわかった。

「龍宮援護を!」

「ああ」

そう言葉を発して彼女たちは本気になった。



(ちっ殺気を放っても士気は落ちないか……最初に会った頃の猿真似野郎はビビりやがったんだがな)

勿論蛮は殺気を放ったと言っても本気ではない。
精々昔初めてあったころのビーストマスターと言われた冬木士度に放った殺気と同等……だと本人は思っている。

(あの頃のあいつは正直弱かったしなぁ、まあなんか知らんが俺もあいつらもそれからどんどん実力が上がっていったが)

実際は相手が女ということもあり、ただでさえ低い(蛮にとっては)殺気をさらにセーブしていた。

「女を殴るのは目覚めが悪いがしかたねぇ!」

「斬岩剣!」

放たれる斬撃、だが今の波児を父をそして赤屍を超えた彼には十分かわせる攻撃だった。
かつて卑弥呼程の実力者に30連撃を3撃にしか見せなかったスピードをもつ男。
いや……「疾風の王」と呼ばれた男でさえ完全に見ることはかなわなかったスピードを誇る彼に彼女の攻撃は当たらない。

「遅い」

振り下ろした刀、そこに標的はいず。
彼女の後ろから声が聞こえる。

「刹那!」

飛んでくる銃弾……それさえもかわす。
昔の彼ならともかく、無限城を上り絶大なLVUPをした彼にはそれさえもかわせる。

真名の後ろに移動した彼は右手を、その毒蛇の牙を振り上げた。
真名は彼の手がふりおろされるのを驚愕の目で見ていた。

「龍宮!」

それを見て叫ぶ刹那。
男のスピードはまるで常時瞬動をつかっているようだった。
そのスピードに追いつけるはずが無い。

「なんてな」

彼女の顔のわずか数センチ手前で彼の手は止まった。
腕を止めた彼は悪戯小僧のような笑みを向けていた。



「あ~だりぃ。こっちはあのクソ屍とやりあったばっかだってのに無理させやがって」

(だいたいこの女、髪の伸びた卑弥呼にどこか似ていてマジで攻撃しにくいし)

蛮は呆然とする美女にそう言うと手を差し出した。

「え?」

「いや、煙草もってねぇ?」

「いや、もっていない」

「ちっ」

蛮はがっかりして肩を落とした。



手を差し出し男は煙草をくれと言う。
真名には理解できなかった。
自分達は殺し合いをしていたのではなかったのか?

(すくなくとも私達はそのつもりだったんだけどね)

真名は目の前で「さみい」と言っている男が理解できなかった。



刹那には理解できなかった。
この男の戦闘力が、そのスピード、残像が残るほどのスピードから瞬動と思われるが何度もそして一度もスピードを落とさずしかも直線ではない動きまでしている。
ありえないと思った。
果たして目の前の男は人間なのだろうかと、しかもそれほどの実力を持ちながら自分たちにはいっさい攻撃をしなかった。
いやしたのはした。
最後の一撃、だがそれも寸前で止めた。
そして今は龍宮の前で「さみい」といっている。
この男が刹那には理解できなかった。



(はぁ邪眼使えばすぐだったんだがなぁ、4回使ってるし……最低でも一日は置かないとやべえだろうしなぁ)

「いきなり攻撃してきやがって。てめえらやっぱりヤクザか?……まあいい、ここどこだ」

「「……」」

蛮は尋ねるが、二人の女は無言。
いや驚愕の目で蛮を見ていた。

「ちっ、おい!きいて!?」

蛮が怒鳴ろうとしたその瞬間背後から殺気を感じた。
蛮が振り向くとそこには数対の異形。
このような異形は蛮は鬼里人ぐらいしか知らない。

「なんだこいつは!?」

「龍宮!そこから離れろ」

少女のその言葉に反応したのか、異形は蛮と女に襲い掛かってきた。

「……っ!」

「ちっ」

蛮はとっさに女を抱きかかえると、少女の隣に移動した。
そのスピードはかの「疾風の王」を超える。

「!?」
「この女を見てろ」

少女はいきなり蛮が隣に現れたことに驚いて返事をしなかった。

「しっかり見とけよ!じゃなきゃ乳もむぞ」

「な!?」

蛮はそう言うと、今度は違う意味で驚愕している少女を無視して、異形に向かって駆けた。

「おら!」

蛮の右腕が吼える。
蛮は異形の前に移動し顔を掴むと地面に叩きつけた。
その彼の背中に幻のように片方だけ翼がみえた。



刹那は彼の戦いぶりに見惚れた。
力強く速いそしてなにより彼の背中には片翼の羽が見えた。

「……私と同じ?」

真名は思うこれほどの人間がいるのかと。
普通なら彼を化け物だと思っただろう。
だが彼の背中にみえる羽、それは。

「片翼の天使」

彼女はそう呟いていた。



「はぁさみいし、腹減った」
(そういやぁ、ずっと戦闘続きで飯食ってない。波児のコーヒー飲んだくらいじゃねぇか)
「はぁ、どうすっかねぇ」

蛮は呆然としている女二人を見てそう呟くのだった。







2008/10/05 チラシの裏に投稿
2009/02/23 題名決定と赤松板に移動



[4354] 宿命背負いし者その手に掴め(ネギま×GetBackers)2
Name: こい◆d9c51d38 ID:64223ef6
Date: 2009/02/23 18:54

『宿命背負いし者その手に掴め』
―2時間目―



「あ~そろそろいいか?」

蛮は未だに呆けてる女二人に話しかけた。
もう今度は猫を被ってはいない、戦闘中にあれだけ地を出していたんだから無駄であろうから。

「ここはどこなんだ?」

「「は?」」

蛮の言葉に、二人は言われた意味がわからないというような顔をした。

「いや、だからここどこ?」

「……本気でいっているのかな?」

蛮の言葉に訝しげに美女がそう返答した。
少女の方はまだこちらをきつい眼差しで見ている。

「だからさっきから本気だっての」

「そうか、まあ助けられたのは事実だからね。教えはしよう」

「そりゃ助かる」

美女はため息をついて口を開いた。

「ここは麻帆良学園都市、聞いたことはあるだろ?」

「……ないな」

「なに?」

蛮の返答に今まで黙っていた少女が疑問の声を上げた。

「だから聞いたことねぇって言ってんだよ」

「……そうか」

「ああ、大体俺は今まで無限城にいたんだよ。……まあお前ら程の実力があるなら名前くらい聞いたことあるだろ?」

蛮の言葉に二人は顔を見合わせると首を傾げた。

(なんだよ、しらねぇのか?)

「聞いたことの無い場所だ。いったいどこだい?」

「ああ、新宿だ。まあ知らない奴もいるか……っとそうだ携帯持ってねぇか?知り合いにかけるからよぉ」

「……わかった」

そう言って美女は携帯を渡してきた。

「ありがとよ」



(この男何者だ?この場所にきていて麻帆良学園を知らない?嘘か、だがそんな嘘をつく必要はあるのか……私達を油断させるためか?だがこの男の実力なら私達など簡単に倒せるはずだ……わからない……)

刹那は目の前で電話をかける男を見てそう思考した。

ただ戦っている姿にはどこか美しさを感じたなと思いながら。



『ただいまおかけになった番号は――』

「ちっどういう訳だ?あいつらの携帯なら分かるが、Honky Tonkにもつながらねぇ」

(なんだってんだ?大体さっきの化け物にしてもだ。あんなもんババアにも聞いたことねえぞ?)

蛮は舌打ちしながら女に携帯を返した。

「ありがとよ」

「いや、それで繋がったのかな?」

「いや」

蛮はそう言うと肩を落としてため息をついた。
もうわからない事ばかりで疲れたのだった。

「そうか、ならついてきて貰えるかな?刹那がここの責任者に連絡してね。着て欲しいそうだ。……ああ刹那というのは彼女のことだ」

「……」

そう紹介されると刹那は頭を少し下げた。

「私は龍宮真名、貴方の名前も聞かせてもらえないかな?」

「龍宮、こんな不審者の名前などいいだろう!それに私の名前まで勝手に教えるな」

「そうは言うがな、私達は仮にも命を救われたんだ。それに私達をどうにかしようと思えばいつだってできる。そのくらいさっきの戦いでお前だってわかっただろう?」

「うっ」

言いあいをはじめる真名と刹那を見て蛮はため息をつく。
まったく自分の関わる女は普通なのがいないと。

「ああもういいわ、他あたるから」

蛮はそう二人に告げるとその場を後にしようとした。
確かに情報も大事だとは思ったが、この二人の戦闘力とさっきの異形を見て、あまり関わりたくもないと思ったからだ。

だがそれを聞いて二人が「はいそうですか」と見送るわけもなかった。

「まて!逃げる気か!」

刹那が刀を握り締めそう叫ぶ。
それを振り返って見て蛮はまたため息をつく。

「逃げるって……はぁいや、もういい。なんかお前らに関わると碌なことになりそうにねぇから」

「失礼だね。だがまあそう言わずに一緒に来てくれると嬉しいんだが」

少し困った顔でそう言う真名は、刹那ほどの敵意はないようだった。

「でもなぁ、なんか嫌な予感がするんだが。そっちの娘もなんか敵意むき出しだし」

「刹那」

「……くっ、助けられた事には感謝します。……だが私は貴方を信用はしていない」

「いや、会ってすぐに信用するほうがおかしいだろう?ただ殺気を飛ばすのはやめろって言ってんだ」

刹那の言葉にも蛮は当然といった風に言葉を返す。
だいたい蛮の送ってきた人生は、そんな簡単に人を信用して生きていけるようなものではなかったのだから。



真名は蛮の言葉にほうっと感心した。

普通命を助けた相手にこんな態度をとられあんな事を言われたら、機嫌を損ねると思うのだが彼は一切機嫌を損ねた風ではなかった。
真名の生きてきた世界もそうであったからどこかこの男に興味がわくのを自覚した。

(だがそれは別にさっき抱き上げられたからではないけどね)

そう彼女は一人心の中で言い訳のようなことを考えていた。

(だが彼の戦闘力は凄まじいものがある、高畑先生にも匹敵するかもしれない)

真名はこの学園都市でも最強クラスの人物と蛮を比べて苦笑した。



「ふむ、それじゃあ付いてきてくれたら衣服と食料、そして煙草を用意しよう。それでどうかな?」

「龍宮、いくらなんでもそれで動くような奴はいないだろう」

真名の言葉に呆れたように刹那が呟きながら蛮の方を見ると、彼は凄く悩んでいる様子だった。

「馬鹿な」

「くっ、痛いところをついてきやがる」

「どうだい?悪い条件ではないだろう?どうやら貴方は金銭も持っていないようだし」

どう考えても彼女らと関わる事にしては良い条件とも思えないのだが、今の蛮にとっては服と煙草が大事だった。何より食べ物をタダでもらえるのは大きかった。
普通の人ならばまた違った答えが出ただろうが、かつて10円で依頼を受けたこともある蛮
にはその話はすごく惹かれるものがあった。

「いいだろう。その話のってやるぜ!」

「……」

「ぷ、くくく」

刹那は蛮の言葉に驚愕し、真名は笑いを堪えきれずに吹き出した。

「おい!てめぇが言いだしたんだろうが、なに笑ってんだよ?」

「いや、すまないね。ところで名前教えてくれるかな?」

「俺は美堂蛮だ」

「まあとりあえずは、よろしく美堂さん」

「……あ~まあ少しの間だけな。飯もらったら帰るからな!」

「わかったよ」

あれだけの強さを持つものがこんな態度を取ることが、よっぽどおかしかったのか真名の警戒心は大分薄れていた。
だが同時になにかあれば即座に殺すという意思があることを蛮は見抜いていた。

(立派な覚悟だこと)

まあ蛮にとってはいざというとき、相手が自分を殺すきであろうと殺されるつもりもないが。
まあとりあえず蛮は歩き出す真名についていくことにした。
逃げ出すことを警戒してるのか後ろには刹那がぴったりついていたが。

「おいサムライ女、何なら手でもつなぐか?」

「っ!結構です。それに私は桜咲刹那という名前があります。龍宮がさっき言っていたでしょう」

「いやフルネームは聞いてねぇが、まあよろしくな刹那ちゃん」

にやりと笑い「せつなちゃん」を強調して蛮はそう言った。

「くっ、馴れ馴れしく名前で呼ばないでもらえますか!」

刹那は顔を真っ赤にして怒鳴った。

「はいよ、桜咲」

「……さっさと歩いてください」

「つまんねぇ奴」

蛮が小声でそう言うと、聞こえていたのか刹那にきつく睨まれた。

「美堂さん。あまり刹那をいじめないでくれないかい?」

「へっ、わりいな」

「もういい龍宮。はやく行こう」

「ふぅ、やれやれ」

真名は二人の態度にやれやれといった顔をしながらも歩き出した。
この学園の責任者の元に。



学園の前までくると蛮が呆れた声を出した。

「おいおい、ここは日本だろ?どんな学校だよ」

「この学園は特別さ。まあ気にせず入ってもらえますか?」

わかったよと言って蛮は真名の後ろを付いていく。



ある部屋の前で真名は足を止めた。

「ここなのか?」

真名は蛮の方をちらりと見た後扉をノックした。

「失礼します。龍宮真名です。侵入者を連れてきました」

『おおすまんの、入ってくれんか』

真名が扉を開けて三人は部屋の中に入った。



部屋に入ると頭のやたら長いお爺さんと渋いおじさんがいたそうな。

「フォッフォッフォよく来たの」

「ふんっ」

(くっ、落ち着け蛮。これは俺の冷静さを欠く相手の作戦だ!乗るんじゃねぇ。そうだ前にもバル○ン星人の爺さんに会ったことがあるじゃねぇか、そうだこんな人間めずらしくねぇさ)

表向きは冷静さを保ちながらも蛮の内心はすごく動揺していた。

「失礼します学園長」

「うむ、ご苦労じゃったな二人とも」

「いえ」

どうやら頭の長いお爺さんが学園長らしかった。
学園長の言葉に刹那はあわてて頭を下げた。

「でさっそくなんじゃが侵入者君」

「いや、その前にやることがある」

蛮はそういうと瞳を鋭く細めた。

「ほっ?」

「!」

蛮のその変化に学園長の横に立っていた眼鏡をかけた渋い男が、警戒した雰囲気を見せた。
刹那と真名も同時に警戒した。
ただ学園長だけは目をすこし大きく開いただけだった。

「飯と服、それに煙草を用意してもらおうか」

蛮のその言葉に学園長以外の三人は少し体制を崩した。

「ふぉっふぉっふぉ、いいじゃろう。高畑君用意していたものを運んでもらってくれんかの?」

「は、はい。わかりました」

高畑と呼ばれた男がどこかに連絡すると服がすぐに持ってこられたので着替えた。
偶然なのか蛮がよくきるシャツと見た目同じだったが。
そして食事は少しかかるらしいので来るまでの間に蛮は名前だけを言った。
二人の名前も聞いておくことができた。
頭の長い爺さんは近衛・近右衛門というらしい。
そしてさっきから蛮を警戒している男はタカミチ・T・高畑という名前であることが分かった。

(あっちのおっさんは女二人よりもやりそうだな)

蛮がそんなことを考えていると食事が運ばれてきた。

「こ、これは!」

蛮の前には幻のような光景があった。
そう、それは彼の夢。
彼とその相棒がかつて追い求めた夢があった。
そう、それは。
…………
……




「ご、極上寿司だと!」

そう蛮の目の前にはなんと極上の寿司が運ばれてきたのだった。

「へ、へっ。な、なにが出てくるかとおもやあ。す、寿司かよ」

「ふぉ?お気に召さんかったかの?」

「い、いや。別にいいぜ。お、俺はこれでもよ」

(くっ、やってくれるぜ。てっきりコンビニの弁当かなんかが出ると思っていたが寿司とはな、しかも極上かよ……悪いな銀次。俺は先に上を行くぜ!)

蛮は心の中で相棒にそう告げるのだった。

「完全に目が寿司に釘付けだな」

「あ、ああ」

真名は笑いを堪えながら、刹那はまたもやびっくりという顔で返事した。

(この青年が本当に桜咲君と龍宮君を軽くあしらったのか?)

高畑は額に汗をかき呆然としていた。

「く、食ってもいいんだな?」

「もちろんじゃとも」

「くっ、うめぇ」

そういって蛮は瞳に涙をためていた。



刹那は、目の前で寿司を本当に美味しそうに食べている蛮を見て、すこしだけ笑いそうになった。

(本当に美味しそうに食べますね。よっぽどお腹が減っていたのでしょうか?)

「うっ」

と喉をつめたようなので刹那はすばやく水を渡した。
蛮は勢いよくそれを飲み干した。

「ん、はぁ。ありがとよ」

「いえ」

(本当に子供みたいだな)

刹那はそんな蛮をみてきづかづに口元を緩めていた。



蛮が寿司に夢中になってる間に真名が学園長達に、自分たちとの戦いと救われたこと、そして話した内容を伝えていた。

「ふむ、そうか。では後は本人に聞くかの」

「はい、そうしてください」

真名は後ろで食べ終えた蛮を見ながらそう言った。



(くっ、やるじゃねぇか極上寿司)

蛮は感動に打ち震えていた。

「あ~美堂君そろそろ話をしてもいいかの?」

「いや、その前にやることがある」

そう言って蛮は真剣な表情をした。

「ほう、なんじゃね?」

「煙草吸わしてくれ」

高畑は今度こそか!っと警戒していたがまた外されて、こけそうになっていた。
刹那と真名はさすがにもう分かっていたのか呆れた顔をするだけだった。

「好きにしとくれ」

学園長のその言葉がむなしく響いた。








[4354] 宿命背負いし者その手に掴め(ネギま×GetBackers)3
Name: こい◆d9c51d38 ID:64223ef6
Date: 2009/09/25 17:26
『宿命背負いし者その手に掴め』
―3時間目―



「ふー、じゃあ話するか」

蛮は吸った煙を吐いて煙草を灰皿に入れると、そう言葉を発した。

「やっとかの?」

「ああ、まあそちらさんも話できたんじゃねぇのか?」

「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃのう」

蛮と学園長は会話をしながら視線を交わしあった。

「では話を始めるかの」

「ああ」

学園長はそう言うと瞳を鋭くした。
隣にいた高畑、刹那、真名も姿勢を正した。
蛮はその三人を視線だけ動かして見た後話す。

「他の三人にも聞かせるのか?」

「ふむ、まあいいじゃろうて。彼女らはこの中では一応君との時間が一番長いからの」

「長いといっても1、2時間だろ?……そっちのおっさんは保険か?」

「いやいや、高畑君はこの学園でもかなりの立場での。聞いといてもらえれば話す手間もはぶけるじゃろ」

「そうかよ」

「ふむ、気に入らんかの?」

「別にいいさ」

(その男でいざという時、俺を止められると思ってるならな)

蛮は心の中でそう告げた。
別にこの学園長を襲おうという気があるわけではない。
だが今から始まる話し合いとはいうが……どうなるかはわからない。
その時は蛮にも考えがある。



「とりあえず何か免許とかもっておらんかの?」

「もってねぇよ。財布もないしな一文無しだ」

蛮はため息をつき、肩を落としながら答えた。
どうせ財布の中にはお金など入っていなかったが、免許が入っていた。
それを考えると精神的にくるものがある。

(泣きたくなるぜ)

「ふむ、じゃあ年はいくつかの?」

「年?え~と今が18……いや、もう一年たってたか。じゃあ2000年だから19だな」

「……ふむ、じゃあ今は21歳というわけじゃの?」

「……何言ってんだよ?19て言ってんだろ」

(なんだこの爺、ぼけてやがんのか?)

蛮は自分が19と言ったのに、学園長がそれから2年も歳を増やしたことに話を聞いていなかったのかと呆れた。
だが学園長の様子を見ると少し悩むような顔をしている。
不思議に思い彼が周りの三人を見ると、彼らも蛮を不思議な事を言うと、訝しげな目で見ていた。

(なんだ?この反応は俺がおかしい事を言ってるみたいじゃねぇか)

「おい!なんなんだよ?特に侍女!その不審者を見る目は……乳揉むぞこら!」

「何を言う! それに私は桜咲と言ったでしょう! 侍女じゃない! それにどう考えても貴方は不審者だ」

確かに刹那達から見たら蛮は明らかに不審者だった。

「なんだとてめぇ!揉まれる乳がねぇから怒ってんのか?心が狭いな貧乳」

「この、変質者が!」

刹那は蛮のあまりの言葉に切れて襲い掛かりそうになった。
だが、横から腕が伸びてきてさえぎられた。

「龍宮」

その腕に我に返り。
腕の主の名前を呼びながらも、刹那は少し涙目になっていた。
少し胸の事を気にしていたのかもしれない。

「落ち着け刹那」

その言葉に瞳を潤ませながら、真名の顔を見上げた後刹那は頷いた。

(私にそんな瞳を向けられてもな。相手が違うのではないか?)

真名は内心で頭を振り、蛮を見た。

「美堂さん、貴方にも何度も言ってるが、刹那を挑発するのはやめてくれないか?」

「あ~悪かった。すまねぇ桜咲」

蛮は真名に言われたからと言うよりも、涙目の刹那を見て彼には珍しく謝罪の言葉を言っていた。

(涙目になるって気にしてたのかよ……ちっなんかなぁ)

「い、いえ」

刹那は蛮の謝罪が以外だったのか、少し戸惑いながらもそう答えた。



「いいかの美堂君?」

「あぁ?」

「君はさっき2000年だから19歳と言わんかったかの?」

「言った」

「……じゃあ今は21じゃないのかの?」

「だからなんでそうなるんだ?」

(なんだよさっきから?2000年で19って言って今が21だと?じゃあまるで今が2002年みたいじゃねぇか)

蛮は考え込む。
蛮は普段の言動からあまりそうと思われないがはっきり言って頭がいい。
学園長の言葉を聴いて少し考えることにした。

「あ~少し待て」

そう言って考え出す。

自分は無限城で赤屍と最後の戦いをする前に4度目の邪眼を使った。
だから世界の全ての人の記憶から自分は消え去り、その世界から消滅するはずだった。
ウィッチクイーンと呼ばれた祖母は嫌いではあったが、嘘を言うような人間ではなかったし。
この蛮の持つ瞳の力の代償のことは良く聞かされた。
だとすると自分は世界から消滅したはずなのだが。

(だが俺はここにいる)

学園長が自分が2000年だから19と言った事に対して、不思議に思いじゃあ今は21と言った事。そして他の三人も学園長を不思議に思うのではなく自分に対して不可思議な目を向けていることから、学園長の言っている事は正しく。
自分が言っていることがおかしいということになる。
あくまで彼らにとってはだが。

(……だがもしも)

彼らにとってそれが現実ならばこの場所は2002年ということになる。
だとしたら自分は2年間眠りについていて、起きたら2年たっていたのだろうか。
だがそれだと世界から消滅したことにはならない。
確かにあの時自分の身体は、透けていきだし世界から省かれようとしていたのだ。

(消滅し存在を消す。ということは世界からいなくなるって事だ)

そこまで考えてもしやと思う。
確かに自分は世界から消滅し、存在を消されたのかもしれない。
言い換えてみれば、一つの世界から存在を消す……追放され人々の記憶から消えてその世界からいなくなれば消滅ということだろう。

(だとしたら俺が今いるのは別世界だと?馬鹿馬鹿しい)

だがそう思いながらも完全に否定できない自分もいた。

いきなり目を覚ませば無限城とは違う場所にいた自分。

祖母にさえ聞いたことも無い異形がいたこと。

そこそこの実力を持ちながら無限城のことを知らない二人。

目の前の老人の言うことが事実ならば、年代が違うこと。

(だからって別世界?俺自身が邪眼にかかってるって事の方が現実的だぜ)



「すまねえな、ひとつ聞きたいんだが今は2002年なのか」

「……そうじゃ」

蛮は学園長の言葉にそうかと呟き大きく息吸って吐いた。

(ふむ、彼にとってわしの言ったことが認めがたい何かがあったということかの?わしと彼が話したことからして歳のこと。彼は2000年だから19と言いそれに対してわしが今は21と言ったら悩みだした。だとしたら彼にとっての現実は2002年ではなく2000年ということかの?)

学園長はそこまで考えたが、彼に話を聞いたほうが早いと彼の言葉を待った。

「……あんた無限城知ってるか?」

「ふむ、その無限城とやらについては龍宮君からも聞いたわい。君が食事をしておる間に少し詳しい者に調べてもらっておったがそんな場所新宿には存在せんよ」

「……まじかよ」

「いや、新宿にある小さな店の名前とかならわからんぞ?さすがにそこまでは調べきれんからの」

「いや、東京にいる人間でしらねえ奴はいない場所だよ。少なくとも噂くらいは一般人でも普通聞いてるはずだ」

(裏新宿の住人じゃなくてもな)

蛮はそう心の中で呟いた。



「じゃが現実にはそんな場所は存在せんのじゃよ」

「そうかよ……」

「ふむ?では本題にはいろうかの……美堂蛮君。君は何者じゃ?」

その言葉と共に学園長の雰囲気が変わり他の三人も身構えたが。
蛮だけは特に変化がなかった。

「何者って人間だよ。それとも……この学園を狙ってるとか言って欲しいのか」

そう言って蛮は不適に笑った。
その言葉に場に緊張が漂った。

「!? ほう」

(やはりこの男学園に仇名す者か?)

刹那は夕凪を持つ手に力を込めた。

だが蛮はそれらを見てまたいたずらっ子のように笑った。

「なんてな、冗談だよ。さっき桜咲が言ってた「進入」とかなこんな物騒な物を持った奴らが辺りを警戒してる所とか、俺に対してのこの態度とかなそれを見て言ってみただけだ。実際にはこの場所がどこかもしらねえよ」

「……ふむ、君は麻帆良学園も知らないらしいの?」

「ああ、聞いたことねぇよ。まあ言わせて貰えば俺もこの場所を知らないが逆にこの世界で俺を知ってる奴はいないかもしれないな」

「何をいっとるのかね?」

「俺は別世界の住人ってことだ」

(自分でいっときながら馬鹿みたいだ)

蛮は苦笑を浮かべた。

「ほう、別世界のお」

「ああ、自分で言ってて頭がイカレてるみたいだがな」

「そう思う根拠は何かの?」

「俺の知ってる世界に合ってあんた達の言う世界に無いものがある。そして俺の知ってる世界に無くてあんたらの世界にあるものがある。それだけだ、まあここが俺の夢ってのもありえるがな」

「……ふむ、美堂君」

「あ?」

「君「魔法」って言われて信じるかの?」

「魔法だ?」

そこから学園長の話が始まった。

魔法使いという存在がいること。

そして自分達の中には「立派な魔法使い」と呼ばれる存在、それを目指す者であること。

魔法その他が一般には隠されていること。

異形、鬼の事。

魔法界というものがあること。

そして蛮が話をしてる間一応嘘か本当の事を言ってるのかどうかわかる魔法を使ったこと。

大まかに分けてこれらの事を学園長は蛮に伝えた。

「魔法ね」

「驚かんのかね?」

「ああ、まあアンタの話が本当なら確実にここが違う世界だというのは分かった」

「ふむ」

「まあ仮に俺がお前らの敵でも、そのくらいの話なら知ってて当然だから話したってことだろうしな」

「そうじゃ」

蛮はため息をつくとその場を立った。

「なんじゃ?」

「もう話は終わった。俺は勝手にこの世界で過ごさしてもらうぜ。聞いた話では表の世界は俺の世界とあんまり変わらないらしいからな。まあド田舎から都会に出てきたとでも思えば2年の違いもそんなにないだろ」

「い、いやだがお主、金も住むところもないのじゃろ?」

「適当に稼ぐ」

「いやいや、君の話が本当ならば戸籍もないじゃろ?仕事もできんぞ?」

「前の世界でも似たような物だったから大丈夫だ」

蛮はなんでもないようにそう言うと扉に向かって歩き出す。

「なんならわしが住むところや戸籍を用意してやってもいいんじゃぞ?」

「へえ」

蛮は振り返り学園長を見る。

「どうじゃね?」

「いい話だな。だけど断るぜ」

「なぜじゃ!?」

「胡散臭いんだよ。自分で言ってもなんだが俺は怪しい。魔法とやらが事実だとしても俺の存在は怪しすぎる。そんな俺をあえて手元においておくって事は監視かなんかだろ?そんなのはごめんなんだよ」

「……確かにの、じゃがわしらの事情も分かってほしいんじゃよ。君が別世界から来たことは別としてもじゃ、君は龍宮君と桜咲君を簡単にあしらった。それ程の人間……しかも今までの経歴なども分からない存在を野放しにするわけにもいかんのじゃ」

「……」

「君がさっき言ったように君が否定してもこの学園の敵という可能性は否定できん。君が違うというのならなおのことわし等の元にいてもらわんといかんのじゃ」

「なら力づくで拘束でもして監禁でもしたほうがいいんじゃねえのか?」

蛮はにやりと笑って高畑の方を見ながらそう言う。
自分はそれでも構わないという意思表示だった。
高畑はそれに苦笑で返した。

「それはやめておこうかの、こちらの被害の事も考えると君とは仲良くしていきたいんじゃよ美堂蛮君?」

「仲良くね」

(このまま逃げてもいいが、追っ手やら何やらに追われる事になるか。しかたねえ今はこの爺さんの話に乗るか。まあこの世界の魔法使いとやらの実力にも興味あるしな)

「まあいいぜ、その代わり住むところ頼むぜ」

「ふぉっふぉっふぉ交渉成立じゃの」

そう言って手を差し出す学園長。

「ああ」

握手をしながら二人は笑いあった。

(とりあえず金やら何やらが必要だしな)

(ふぉっふぉっふぉ、やっかいなことになったわい)



「では仕事の話とかはまた明日話すとして、今日は高畑君の家に泊まってくれるかの?」

「いいのか?」

蛮は高畑の方を見て言う。

「分かりましたよ学園長。では美堂君」

「ああ」

(簡単に背中を向けるのか。そんな簡単に不審者を信用していいのかね?それとも其れほどまでに自分の実力に自信があるのかこのおっさん)

蛮は自分に背中を向けた高畑を見て思う。
だがまあいいかと思い背中についていく。

「美堂さん」

と後ろから声がかかった。
真名が呼びかけたのだった。

「助けてくれた事お礼を言っとくよ。今度お礼もするよ借りは作らない主義でね」

「そうか、なら今すぐもらおうかな」

「今すぐ?」

そう真名が疑問の声を上げた瞬間、蛮の姿が消えた。

「「「「!?」」」」

「ひゃあ!」

蛮は真名の後ろに現れると、その大きな胸をわしづかみにして揉んでいた。

「いや~うんいい揉み心地だ。さすがにヘヴン程はないがな」

蛮はそういってニヤリと笑った。

「っこの!」

真名は頬を染めて肘打ちを蛮の鳩尾に向かって放ったが、蛮はたやすくそれをかわした。

(やはり強い)

(本気ではなさそうじゃがこのスピード……頭がいたいわい)

(ほう、速いな)

それらを見ていた三人は各々そう考えた。



「そんなに怒るなよ。いい大人が乳揉まれたくらいでよ」

いきなり他人に胸を揉まれたら大人だろうが子供だろうが怒るのは当たり前だが、蛮は挑発するようにそう言った。

「あ~美堂君。龍宮君は中学生だよ?」

「あ?」

高畑の言葉に蛮は固まった。

「嘘だろ?俺より背が高いぜ?」

「事実じゃ」

「事実です」

「事実だよ」

蛮が真名の方を見ると、真名は胸を両手で押さえて頷く。

「いや~……いい乳だな」

「……これで礼は無しだよ」

真名はまだ少し頬を染めながら蛮を睨みそう言った。

「じゃあ行こうかおっさん」

「おっさんはやめてくれないかな」

「じゃあ高畑?タカミチ?」

「どっちでもいいよ」

「わかった、じゃあいつまでになるか分からないがよろしく頼むぜタカミチ」

「よろしく、蛮君でいいかな?」

「ああ」

蛮と高畑はそう言うと、部屋を出て行った。



後には気まずい空気が流れていた。

(胸を揉まれた、揉まれた)

真名は見た目よりもショックが大きいようだった。
普段はクールな印象を受けるし、腕も確かなのだがそっち方面は結構初心ならしい。



(……あの男いったいなんだ?)

刹那は去っていく背中を見ながらそう考えていた。
ただ脳裏にはかれの戦いが焼きついていた。
あの動き、そして片翼の翼が。

その動きに見惚れた。

その強さに少し恐怖しながらも。

彼の戦いはどこか幻想的で。

見える翼は自分のよりも美しいと感じた。

そして子供のような表情を見せた。

平気で女性の胸を揉んだ。

(彼がどういうった人物なのか見極めなければ)



(ふぅ、彼がわれわれの力になるかそれとも、もう少しでネギ君もこの学園に来る。どうなることやら……彼の仕事、売店の売り子でいいかの?)



母に悪魔と呼ばれた男。
邪なる瞳をもつ彼はちがう世界に降り立った。
彼の者に今度こそ、今度こそは幸福を。
その呪われし宿命を「悪魔の腕」を「天使の腕」に変えた青年に……。







2009/02/23投稿
2009/09/25誤字修正



[4354] 宿命背負いし者その手に掴め(ネギま×GetBackers)4
Name: こい◆d9c51d38 ID:64223ef6
Date: 2009/09/25 17:44
『宿命背負いし者その手に掴め』
―4時間目―



蛮達が出て行った後。
真名と刹那も学園長に頭を下げて部屋を出た。

「それにしても刹那」

「なんだ龍宮?」

部屋を出て廊下を歩き出すと真名が口を開き、刹那が返事を返した。

「美堂さんにやけに敵意をむき出しにしていたな?」

「うっ。そ、それは……侵入者なんだ警戒するのはあたりまえだろう!」

刹那はばつが悪そうに怒鳴った。

「確かに最初はそうだ。だが私達はこちらから一方的に攻撃をしかけ手加減されている。しかも敵から助けてもらってもいる。もう少し感謝して態度を柔らかくしてもよかったんじゃないのかい?」

「だ、だがそうやって私達を油断させておいて後から一気に仕掛けるつもりかもしれないだろう」

刹那は最初はどもったが、冷静なそぶりで考えられる事を口にした。

「私達を倒すつもりならいつでもできた……それはわかっているのだろ?」

「だが異世界の住人などと……不審すぎる!」

「確かにね。まあ監視する必要はあるだろうが、それでも次に会う時はもう少し態度を改めてはどうだ?冷静なお前にしてはやたら彼にきつい態度だったしね」

(まあ冷静といっても表面だけなんだがね、刹那は実は感情的になりやすいし)

言葉にしながらも真名は心の中で苦笑した。
戦友でもありクラスメイトでもある、刹那とコンビを組むことで真名は刹那が結構な激情かだということを知っていたからだった。

「……わかっている」

(どうしたんだ私は。熱くなりすぎていた)

刹那は自分自身感情が制御できなかったことを恥じていた。

……ただふと脳裏に彼の翼と力、そして子供っぽい笑顔がよぎり頭を振った。



その頃蛮と高畑は高畑のすむマンションの前まで来ていた。

「なあタカミチ……馴れ馴れしすぎるかタカミチさん」

(一応ここでは俺の立場も不安定だからな、世話になる年上の人間に呼び捨てはまずいか)

蛮は自分でもらしくないと思いながらもそう言った。

「なんだい?」

高畑はそれにとくに何も言わず少し苦笑を浮かべ聞き返した。
何も言わなかったのは彼なりの気遣いだったのだろう。

「ここか?」

「そうだよ」

そのマンションは独身男性が住むには中々の所だった。

「ふ~ん教師って結構儲かってんだな」

蛮はマンションを見ながら感心したように言った。

「いや~学園長が格安で提供してくれているのさ。家庭をもっていて家を持っている先生もいるけど、そうでない人間も多いしね。学園に近くて暮らしやすい場所をってね」

「へぇ~」

(あの爺さんがね~何かあった時魔法使いの教師がすぐに学園に行けるようにか)

蛮は学園長の思惑を考えていた。
しかし自分には関係のないことではあるし、言い方は悪いが学園長が自分の手駒をどう使おうと勝手だと思いまあいいかと頭を振った。

「さ、男の一人暮らしだからたいしたもてなしは出来ないが上がってくれ」

「いやいや、屋根があって壁がある。それに窮屈じゃなく足が伸ばせるだけでも十分だぜ」

(車で寝るのはいつもなんか身体が疲れるからな)

蛮はあっちの世界での暮らしを思い出して苦笑した。
彼にとって寝るところとは車の中か、たまに依頼でどこかに泊めてもらえる程度だったからだ。
しかも依頼の殆どはろくでも無い物だったのだから。
監視つきとはいえ、一室で寝れるのは嬉しいことだった。



「じゃあ適当にくつろいでくれるかい」

蛮を部屋に上げて高畑はそう言ってくれた。
蛮はその言葉に甘えて部屋にある小さなソファーに腰を下ろした。
床に座布団が敷いてあるにも関わらずそこに座らない辺り蛮の性格が窺える行為だ。
彼らしいと言えばそれまでだが。

高畑はそれに気にした風もなく、台所のほうに行く。

蛮は高畑がいない間一人暮らしにしては広い部屋を見回した。

(はぁ~いいよなぁ、仕事から帰ったらくつろげる空間があるなんてな。……っちうらやましくなんてねぇぞ!)

蛮は心の中で涙を流した。
改めて自分の送っていた生活との差を見せ付けられたのだから。

(でも邪馬人や卑弥呼と奪い屋やってた頃は隠れ家はあったよな……卑弥呼、俺の妹か)

卑弥呼のことを考えて蛮は天井を見上げる。

(もう俺の記憶はないんだろうな……だけど銀次や他の奴らもいる。何よりあいつは強くなった。もう俺は必要ないだろう)

そう、蛮は邪馬人との約束を果たしたのだから。
その呪われし宿命からの開放を果たしたのだ。
卑弥呼は気付いていなかったかもしれないが蛮はずっと彼女を大切に思っていたのだから。

(まあ俺はもうあの世界には必要とはされて)

「おまたせ」

蛮がその声に思考を中断して振り向くと、高畑がカップを二つ持って戻ってきた所だった。

「コーヒーを入れたんだけど飲むかい?一応砂糖とミルクはあるけど」

どうやらコーヒーを入れてきてくれたようだった。
彼はどうぞと蛮にカップを渡してきた。

「ああ、わりいな」

「男の一人暮らしなもんでね。インスタントで悪いけど」

「……いや、ありがてえよ」

(コーヒーか、波児のコーヒーももう飲めないんだな)

蛮はブラックでコーヒを飲むと波児の淹れた物との味の違いにふっと笑った。
それは彼にしては珍しく何処か寂しげだった。

「君の居た世界の事を思い出しているのかい?」

高畑が蛮にそう声をかけてきた。

「あ、ああ。コーヒーを淹れるのが旨い奴がいてな」

「そうか、じゃあインスタントを飲ませるのは失礼だったかな?」

「いや、俺から飲んだんだ。それに得体の知れない相手にこうまでしてくれて感謝してるさ」

苦笑して言う高畑に蛮はそう返した。
それは本音ではあった。
高畑にとって蛮の監視はあくまで仕事だ。
ここまで気を使う必要はない、蛮は彼の人の良さに笑った。

「そうか、しかし君の知り合いはいきなり君が消えたんで心配しているんじゃないかい?」

普通ならば誰もが考えることを彼は聞いたそれに帰ってきた答え。

「誰もいないさ俺を覚えてる奴なんてもう誰一人な」

そう呟く彼の表情を見て男は何故か一人の少女の顔が浮かんだ。
周りに忘れられた者と周りを忘れた者……どちらが悲しいことなのだろうかと。



「煙草吸っていいか?」

しばらく呆けていた高畑に蛮は問いかけた。
とは言ってももう蛮は煙草を咥えて火をつけていたが。

「君は未成年だろう?」

高畑はそれを見てため息をつきそう言った。

「ああ、あんた教師だったな」

「そうなんだよ……まあ煙草くらいならいいけどね」

高畑はそう言って苦笑すると、自分もポケットから煙草を取り出し火をつけた。

「なんだ、タカミチさんも吸うのかよ?」

「ああ、初めはある人の真似だったんだけどね。やめられなくなったんだ」

「そうかよ」

しばらく二人は無言で煙草を吸っていたのだった。



「そういえば君は桜咲くんと龍宮くんを軽くあしらったんだね」

「ん?……ああ、あの二人か」

蛮は思い出したように呟いた。

「彼女達は裏という意味での学園の中でもかなりの実力なんだけどね」

「へえ、確かに中学生……何年だ?」

「2年生」

「じゃあ14位か、にしてはかなりの実力があったな。だけど俺の敵じゃなかったな」

蛮は自信満々にそう笑う。

「そうか、でもこの学園には彼女達よりも強い人間はいる」

「例えばアンタとかか?」

「いや、僕はそんなに大した事はないさ」

蛮の言葉にそう言う高畑。

「へえ、たいしたことも無い人間を魔法学園のトップが傍に置くのかねぇ?」

「まいったな」

蛮がそう言うと高畑は本当に困ったと言う顔で苦笑した。

「僕はただ」

「『この学園には彼女達より強い実力者が何人もいるのだからへんな真似はしないことだ』ってか?」

その言葉に高畑はため息をついた。

「まあね、君がいくら強いといっても『ヒュッ』?」

高畑の言葉の途中で蛮の腕が一瞬振れた気がした。

「ほらよ」

蛮がそう言って手を差し出すと、その手のひらにはボタンが乗っていた。

「!?」

驚いて高畑が自分の服を見ると、そこにはボタンが無かった。

「驚いたな」

高畑は感嘆の声を上げた。

(いくら油断していたとはいえ目で追いきれなかった……強いな)

「俺は今すぐアンタとやりあってもいいんだぜ?」

高畑はその蛮の言葉に鳥肌が立ち。
なにやら胸の内でザワリとした感覚がした。
それは恐怖ではなく、戦士として目の前の青年と戦ってみたいと血が騒ぐのだった。

「……やめとくよ。君と僕が戦えば」

「『無事ですまない』か?俺は負けるつもりはないぜ?」

「いやいや、このマンションが無事じゃすまないだろ」

高畑のその言葉に二人はニヤリと笑いあった。

「冗談だ。俺だって厄介ごとを抱え込みたくねぇからな」

「だろうね」

(にしても)

「君を見ているとある人を思い出すよ」

高畑は笑いながらそう言った。

「あん?」

「僕が憧れた。英雄と呼ばれた人をね」

高畑は懐かしそうにそう呟いた。

「英雄?俺には縁の無い言葉だな」

「そうかい?」

「ああ、どっちかというと俺が呼ばれるのは」

―悪魔よ、この子は悪魔の子よ―

(ちっ)

蛮の脳裏にかつて言われた言葉がよぎった。

「いや、なんでもない」

「そうかい?さてと蛮君お風呂に入るといいよ」

「風呂?いいのか!」

蛮は瞳を輝かせて訊ねた。

「あ、ああ。さきに入ってくれて構わないよ」

「そうか!ありがとよタカミチさん!」

蛮はそういうと席を立った。

「あ、風呂何処?」

「あっちだよ、着替えも用意しておくから」

「わりいな」

そう言って蛮は鼻歌を歌いながら風呂場のほうへと行った。

「底の見えない実力を持っていると思えば、少年のように笑う。本当に似ていますよ貴方にナギ」



「ふぅ~あったけぇ」

蛮は身体と頭を洗うと湯に使った。

(それにしても何度か身体を動かしたがクソ屍と戦った時ほどのキレがねえな。だからといって身体が付いてきていないという感じでもねえ。これが無限城の中との差かまあそれでもベルトラインに入る前よりずっと身体の動きがいいがな)

蛮は改めて無限城という空間の異常さをその身に実感していた。
あの場所は特殊な空間であり生命力が強化されるからだ。
しかもベルトライン以上ではデタラメ時間の流れを掴むことで驚異的な現象も起きるからだ。

まあだからこそ無限城の外での実力こそがその者の本来の実力なのだろう。
だが波児が『疾風の王』と名をはせたのは無限城の中では無いしそれを越えた蛮の実力は無限城の外でも驚異的だ。
もう向こうの世界では蛮と戦えるのは、雷帝かドクタージャッカルくらいだろう。

「にしてもシャンプーとか石鹸勝手に使ったけどまあいいよな」

(ふっ俺もこの世界で学園長に仕事を貰えば、一室の主か)

この時の蛮は仕事は裏の仕事で、命をかけるのだから(自分は命をかけるつもりは無いが)相当な金額だろうと考えていた。

「くっくっく悪くねえ。銀次!俺は先に行くぜ!」

だが世の中そんなに旨く行くわけも無い。
蛮の世界では裏の仕事は確かに高い値段だった。
それこそ一回の仕事で数百万から数千万はもらえるほどの。
まあ蛮たちは金に縁がなかったのかまったく稼いでいなかったが。

だがそれがこの世界でも常識と考える蛮はまだまだ甘かった。

「最低でも一回の仕事で1万は貰うぜ爺!はっはっはっはっ!」

……そうでもないのかもしれない。
普段はプライドの高いこの男。
しかし仕事の依頼は最低でも1500円以上と相棒に言ってた男は変な所でプライドが低かった。



「それにしても彼お風呂の中で大声で笑うのはやめてくれないかな?近所迷惑だよ」

高畑は煙草を吸いながら風呂の方を見てそう呟くのだった。








小ネタ

「そういえば蛮君」

「なんだ?」

「君は武器は使わないのかい?」

「武器?」

「刀とか似合いそうだけどね」

「刀ね~『唸れタケミカヅチ!』」

「!?どうしたんだい」

「いや、なんとなく……しかしだめだ俺に刀は使えねえ!」

「何故だい?」

「なんか使うと女は妹にしか興味の無いシスコン野郎とか思われそうだから」

「……なんだいそれは?」

「いや、なんとなく」

だが前の世界で実の妹の乳を揉みまくっていた男なのだから、どちらにしろシスコンの変体と言われてもおかしくない。

「だれだよ!」

「どうしたんだい」

「いやなんか声が」











[4354] 宿命背負いし者その手に掴め(ネギま×GetBackers)5
Name: こい◆d9c51d38 ID:64223ef6
Date: 2009/09/25 17:36
『宿命背負いし者その手に掴め』
―5時間目―



自分には争いしかないのだと思っていた。
あの頃はまだ……
かけがえの無い相棒ができた。
戦いの中で分かり合えた者がいた。
でもそれらは全て争いの中だった。
自分にとって争いこそが宿命だと。
そう、あの頃はまだ……






「どこだって?」

日が昇り人々が学校や仕事に行く時間。
蛮は学園長室にいた。
昨日の約束どおりに仕事を貰うためだ。

「じゃから学園都市内の喫茶店で働かんかって言っとるんじゃが?」

学園の長。
近右衛門に蛮はそう言われていた。

「喫茶店だと?」

蛮は疑問の声を上げる。
蛮としてはあまり予想していなかった仕事だったから。

「うむ、生徒もよく使っておる所じゃよ」

「いや、そんなことは聞いてねえよ」

「じゃあなんじゃね?」

近右衛門は蛮の態度に何が不服だと尋ねてきた。

「いや、俺はてっきり昨日戦った化け物退治が仕事だと」

「ふむ、勿論それもやってもらう」

「それだけでいいじゃねえか」

蛮は不機嫌そうにそう言う。
蛮としては昨日の夜に倒したような奴らを相手にしていれば良いと思っていたからだ。

「じゃがあんなもの毎日くるわけではないんじゃよ? それではお金も入らんし食っていけないじゃろうて」

「毎日来るんじゃねえのか!?」

「あんなのが毎日来とったら、いくら人がいても足りんわい」

近右衛門は汗をかきながら、蛮の怒鳴り声に目を閉じて答える。
彼は内心やれやれとため息をついた。

(彼は毎日戦うつもりでおったのか)

近右衛門は少し呆れながら、目の前で肩を落としている蛮に目を向けた。
異世界から来たという青年。
自分でも正直信じていないという。

(まったくやれやれじゃの)

近右衛門は考えて頭が痛くなる想いだった。
既に高畑に昨日の夜の様子は聞いている。
彼が言うには特に怪しい行動は無かったということだ。
それだけで全面的に目の前の男を信用できるわけではないし。
かといって放り出すわけにもいかない。
まったくもって頭の痛い問題だった。

「というわけで君には喫茶店で働いてもらおうと思う」

「まあ待てや爺さん」

「ふぉ?」

「俺を放っとくことはできないんだろ?じゃあ生活費も全部くれればいいじゃねえか。てか渡せ」

「世の中なめとるじゃろ?働かざるもの食うべからずじゃ」

「……さてと世話になったな爺。もう会うこともないだろ」

そう言うと蛮は学園長室を出て行こうとしだす。
近右衛門はそれに慌てて声をかける。

「ま、まつんじゃ!」

「なんだよ、俺は忙しいんだよ」

蛮は鬱陶しそうに振り向いて言った。

「嘘を言うんじゃないわい」

近右衛門はため息をついて言い返す。

「確かに食費とか身の回りの物は自費じゃ。しかし家賃などは無しで住むところを用意しようと言うとるんじゃ。しかも仕事も用意しとる。その上服とか必要な物を買うお金は少しはだしてやるんじゃ。君にとって悪い条件じゃないじゃろう?」

「……ちっ」

蛮は舌打ちをして天井を見上げた。

(くそがこの爺、人の足下見やがって。これが元の世界だったら……だったら……! どちらにしろ住むとこなかったなぁ)

蛮は少し涙が出そうになった。
結局どんな場所だろうと自分には金が無いし、住むところも元の世界では車だ。
そしてこの世界では、目の前の老人の条件を飲まねば最低でも数日は野宿。

「どうじゃ?」

「な、泣いてなんかいねえよ! 車だって外よりはましなんだからな!」

「は?」

「……」

「……」

「……明日は晴れるかな?」

「晴れるんじゃないかのう」

近右衛門はとりあえず蛮の言葉に合わせておいた。
彼のどこか寂しげなその瞳が、さっきの言葉の意味を聞くことを躊躇わせた。

「人の気持ちをいたわれる人って、俺尊敬するぜ」

「……はて、なんのことかのう?」

この時確かに彼らの気持ちは通じ合っていたのだろう。
蛮は他者からの思いやりに胸を熱くさせた。

「へへ」

「ふぉっふぉっふぉ」

二人は顔を合わせると笑みを浮べ合った。



「ってきもいんだよ爺!」

「うるさいわい!」

その時彼らの気持ちは確かに通じ合っていた。
相手に対する想いで。



「話戻していいかの?」

「ああ」

近右衛門の言葉に蛮は頷く。

「どこまで話したかの?」

「呆けたのか爺? 食費や身の回りの物は自費だが、家賃などはなしで住むところと車を提供するし、仕事も用意してるってところまでだろ?」

「ああ、そうじゃったそうじゃった」

「ったく」

蛮は苦笑を浮べた。
だがその顔にはどこか満足げな所が見えた。

「すまんの」

近右衛門も苦笑を浮べながらあやまった。

「っておぬし車ってなんじゃ!? そんな物よういせんわ!」

「なんだと爺! ケチ臭いこと言ってんじゃねえ!」

「……ミニ四駆でいいかの?」

「てめえは俺に何を求めてんだよ!」

傍から見るとこの二人はすっかり打ち解けているように見えるのだった。



「いいかげん話がすすまんわい」

「誰のせいだよ」

蛮は不機嫌にそう呟いた。

「まあおぬしには喫茶店で働いてもらう」

「……給料は?」

「時給850円位じゃと思う」

「5000円」

「おぬし喫茶店のバイトで時給5000円って舐めとるじゃろ?」

「そのかわりに一日2時間働くからよ」

(ほ、本気で言うとるのか?)

「……おぬしバイトの経験は?」

「ねえよ」

近右衛門は頭を抱えた。

(なんという青年じゃ。なんか色々と常識外れじゃ)

「と、とりあえず時給1000円でどうじゃ? 後は働き次第で給料を上げてもらえるように交渉しておくから」

「仕方ねえな」

(ふぅ、この青年なら給料が下がることはあっても上がることはないじゃろ)

「ただし時給をそっちの条件に合わせる代わりに俺の髪型には文句は言わせねえ」

「!?」

蛮の発言に近右衛門は驚愕の表情を浮べた。
彼は髪型のためだけに無茶な要求を出していたのではないか。
そう思わせられたからだ。

(だ、だとしたら今までのは全部演技じゃと? 全ては髪型を認めさせるための演技というのか! ……しかしそれ以前にそこまで髪型にこだわるのか)

「わ、わかった。飲食店としては問題じゃが、まあいいじゃろう。店にはそのように伝えとく」

「交渉成立だな」

「ふう、おぬし何処までが演技じゃったんじゃ?」

「なんの事だ?」

蛮のその言葉に近右衛門はこの男は底が見えないと思った。

(まあよいか)

近右衛門にとっては蛮に学園都市内の仕事を受けてもらったのには訳があった。
学園内での仕事は、まだよくわかっていない人間を内部にいれるには不安がある。
そしてもうすぐ来るある少年との接触が多くなる可能性がある。
それはできれば避けたかったのだ。
だからといって学園都市外の仕事だと、こちらの目が届かない。
となると一番いいのが学園都市にある場所での仕事だったのだ。



「ところで化け物退治とやらは結構給料弾むんだろうな?」

「ま、まあの。といっても魔法先生達は皆正義感でやってくれとるから」

「そんなの関係ねえな。最低でも一回の仕事で……そうだな。い、一万……いや2万はもらうぞ!」

「ふぉ?そ、そうかの。し、仕方ないが出すわい。こ、こちらとしてもきついが君も金が無いときついじゃろうしな。う、うむ最低でも2万はだすぞ」

(ど、どれだけの金額を言われると思えば2万とは)

近右衛門は額に脂汗をかきながら蛮にそう答えた。

「当然だぜ!」

(へへ、最低で2万だからな。仕事によったら一回で5万とかいくかもな)

近右衛門にとっては命がけの戦いに2万でいいと言い出す青年が理解できなかった。
はっきりいって近右衛門からすればボランティアと変わらない。
そして蛮にとってはあの程度の敵(蛮主観)相手にするだけで金が入るならもうけものだと思っていた。

(もしやこの青年は実は口では結構な事を言うとるが、こちらに気を使ってくれとるのか?住居を用意してもらったことに感謝しとるのかの? はっ! もしや2万とはドルか?)

「2万円じゃな」

「ああ最低でも2万円だ!」

どうやら蛮の言ってるのは日本円らしい。
それが分かり近右衛門は、この青年はやはり気を使ってくれとるんじゃなと納得した。

(まあ2日に一回来るとして一月約30万~75万+バイト代+バイト以外で依頼受けて仕事すりゃ……まあそこそこいくだろ)

蛮の考えているバイト以外での仕事。
彼は独自で奪還などの依頼も受ける気でいた。

「じゃあ今日はもう良いだろ? 仕事はいつからだ?」

「う、うむ明日か明後日くらいには」

「そうか、もう昼だな飯あるか?」

「そ、そうじゃの! 美堂君何が食べたい? なに遠慮せんでもいいぞ! また寿司でも頼むかね?」

(せめてこんな事で彼からの好意への返しをしとくかの)

「お! いいのかよ爺。あんたいい奴だな」

(へへ、また寿司が食えるなんてな。俺にもツキが回ってきたぜ。悪いな銀次)

―ずるいよ~蛮ちゃん―

そんな声が聞こえてきた気がした蛮だった。



「もうこんな時間か」

蛮が時計を見ると時間はもう3時を回っていた。

「美堂君これ君の携帯と、仕事の給料が入るまでの生活費じゃ」

近右衛門はそう言って、携帯と札束の入った封筒を渡した。

「ありがとよ」

蛮は笑ってそう告げる。

「あと龍宮君を呼んであるから、この辺を少し案内してもらうといい。時間的にそんなに回れんが少しは分かるじゃろ。あと家はとりあえず高畑君の隣の部屋があいとるからしばらくはそこに住んでくれんかの」

「わかった」

蛮が近右衛門に右手を上げて了解を言うと、扉をノックする音がした。

『学園長。龍宮真名です』

「ふむ、入りなさい」

「失礼します」

扉を開けて真名が入ってきた。
真名は室内を見ると近右衛門に頭を下げて、蛮の方を見ると少し頬を赤くして目をそらした。
どうやら昨日胸を揉まれた事を思い出したらしい。

「では悪いが頼めるかの?」

「わかりました」

真名は近右衛門の言葉に頷くと蛮の前まで来た。

「では案内するよ美堂さん」

「おお、巨乳中学生」

その言葉に真名は銃を取り出して蛮の額に突きつけた。

「私は龍宮真名だよ美堂さん。それと昨日のような真似はしないようにね」

「最近の中学生は物騒なんだな。いいのか爺中学生が銃なんて持ってよ?」

蛮はそれに対して不敵な笑みを浮かべてそう言った。

「これはエアーガンだよ美堂さん。それに中学生にセクハラする人に言われたくはないね」

「セクハラというと……」

言葉が途切れ蛮が真名の視界から消えた。

「後ろか!」

真名は即座に後ろを向き銃を撃つが弾は部屋の壁に穴を開けるだけだった。

「これのことか」

「ふあ!」

蛮は真名の背後から胸を揉みしだいていた。

「くっくっくっほれほれ」

蛮はここぞとばかりに揉む。

「ぅん、やぁ、ゃめて!」

真名は叫んで後ろに肘打ちを放ったが空振りに終わる。

「はぁ、はぁ、はぁ」

真名は頬を染めて呼吸を荒くしている。
それを見て蛮は満足そうな顔をした。

「いや~いい乳してるぜ。なぁ爺さん」

「うむまっ……い、いや。いかんぞ美堂君! そんな事をしては」

蛮はにやにやしながら近右衛門に問いかけて、近右衛門も頷きかけて真名に睨まれて蛮をたしなめたが鼻の下が伸びていた。

「……また揉まれた。会ってすぐの男に2回も」

真名は蛮を睨みつけると銃を向けた。

「美堂さん」

「なんだ?」

「死んでくれ」

真名はそういうと銃を乱射した。

「おっとっと」

蛮はそれを危なげなくよける。

「やめとくれ~部屋がこわれる!」

それから真名が落ち着いて蛮と部屋から出て行くまで。
頬を染めた少女と青年の戦闘(?)は続いた。
後に残ったのは、ぼろぼろの部屋で涙を流す老人だけだった。



自分には争いしかないのだと思っていた。
あの頃はまだ……
今はまだ先のことは分からない……









[4354] 宿命背負いし者その手に掴め(ネギま×GetBackers)6
Name: こい◆d9c51d38 ID:64223ef6
Date: 2009/09/25 17:45


『宿命背負いし者その手に掴め』
―6時間目―



「何そんなに怒ってんだよ?」

「怒ってなどいない」

蛮の言葉に真名は不機嫌に言い返した。
今二人は蛮の生活用品の買い物中である。

「そうかよ」

「そうだよ」

蛮はやれやれと溜息をつくとポケットから近右衛門に貰った携帯を取り出した。

「もう携帯をもっているんだね」

「ああ。ちょっとまってろよ。お前の機嫌を直してやるぜ」

「だから私は怒ってなどいないさ」

蛮は近右衛門に教えてもらった学園長室の電話番号を入力した。
因みに学園長室の電話は黒電話である。

「どこにかけるんだい?」

「まあ待ってろ」

蛮は口の端を吊り上げて答えた。
少しまつと相手が出た。

『こちら学園長室じゃが?』

「じじい俺だよ俺!」

『む! その声は誰じゃ?』

「俺だよ! 俺だってば!」

『はて?』

「じじいの孫だよ! 忘れたのかよ?」

蛮は悲しそうに話す。
孫と答えたのは、さっき近右衛門から孫がいるとだけ聞いていたからだ。
年齢や性別など詳しいことは聞いていない。
だからなのか、この時蛮は声色を変えようともしていない。

『何! こ、木乃香かい?』

「そうだよじじい! 木乃香だ」

『ど、どうしたんじゃ木乃香? それになんだか口調も』

「俺を疑ってんのかよじじい!」

『い、いやそんなことはないぞ!』

電話の向こうで近右衛門はうろたえて答える。
蛮はその必死な声を聞いて口元を歪ませて続ける。

「大変なんだ。ちょっと盗んだバイクで走ってたんだが」

『盗んだバイクじゃと!? どうしてじゃ?』

「いや、じじいの後頭部に絶望して」

『そ、そんな……わしの頭のせいで木乃香がぐれたのか』

電話のごしに悲しそうな声が聞こえる。
蛮としてはありうる事を言っただけのつもりだったのだが、予想以上に近右衛門にはショックだったようだ。

「そ、それでバイクで人轢いちまって」

『なんじゃと! こ、木乃香や、それで木乃香に怪我はないんか?』

近右衛門は真っ先に孫の木乃香の怪我を心配した。
蛮はそれに少し呆れたが続ける。

「ああ、ねえよ」

『それはよかった。安心したわい』

「でも逃げる前に通りかかった警察に捕まっちまってよ」

『なんじゃと!?』

「抵抗はしたんだ! でも、警察があまりに強くてな。いや俺ほどじゃないんだが20人くらい応援がきたから」

『そ、そうか』

「どうしようじじい! 警察がじじいに話があるって」

『わ、わかったぞい』

近右衛門の返事を聞くと蛮は真名に携帯を渡す。
渡された真名は呆然として蛮を見ていた。

「ほら出ろよ。うまくやれよ?」

「い、いや」

「なんだよ? ああそうか。大丈夫だ。成功報酬でお前にも何か奢ってやるから」

蛮はそう言って真名を安心させるように笑いかける。
蛮の中ではこの計画は完全に成功すると思い込んでいるようである。
普段は頭が切れるのに、ある特定の条件では蛮は頭が弱くなるのかもしれない。
因みに実力も。
そしてそんな自信満々な蛮を見て、真名は呆れてため息をつく。

「いや、さすがに今の美堂さんの発言で相手が騙されるとは思わないが?というか相手は学園長かい? そうなら孫の木乃香の性格と大分ちがうよ」

「大丈夫だ。俺様の話術にあの爺完全にだまされているさ」

「いや、それは無いと思う」

「ちっ、もういい」

蛮は煮え切らない真名の態度に諦めて自分で警察役をした。

「警察だがじじい」

『じじい?』

「あ~近衛さんの親族の方ですね?」

『祖父ですが、木乃香が人を轢いたというのは』

「残念ながら本当です。ですがそちらも事を大きくしたくは無いでしょう。彼の未来もありますし」

『そうですな。しかし彼とは? 木乃香のことですかの?』

「あ、ああ失礼。彼女でしたね」

(孫って女かよ)

ここで蛮は初めて自分の勘違いに気付く。
木乃香という名前からして女だと気付いてもいいのだが、初めにあの口調で話していたのに近右衛門が疑いもしないものだから、蛮は孫が男だと完全に思い込んでいた。
それに蛮としてはあんな祖父―主に後頭部―をもつ孫ならぐれている男だろうと決め付けていたからだった。
だが正直なところ口調とかをいちいち考えるのが面倒だったからともいえる。

『ま、孫のためならいくらでも払います。何処に振り込めばいいんじゃ?』

「ああ……しまった口座つくってねえや」

「馬鹿かい?あなたは」

真名が蛮の間抜けな発言に呆れた声を上げる。

『じゃあの美堂君。そろそろ忙しいからきるぞい?』

「い、いつから気付いていやがった!?」

『あれで騙される奴がいるなら見てみたいわい。「彼」という発言で気付いたわい』

「ちっ良い耳してるな爺」

『ふぉっふぉっふぉ美堂君も惜しかったの。ではな』

通話が切れて蛮は肩を落とした。
今回は蛮の完全なる敗北だった。
そのことは蛮自身が一番わかっていた。

「ばれた」

「当たり前だと思うが」

「ちっ爺の孫が女だとわかっていたら『彼』なんて言わなかったのに」

「それまで学園長は気付いてなかったのか!?」

「ああ、おしかったぜ」

こうして蛮の資金増加計画は失敗に終わった。
相手が普通の人ならばもっと早く計画は終わっていたのだろうが。



「気を取り直して買い物に行くか」

「分かった案内するよ。美堂さん」

「ああ頼むぜ巨乳中学生」

「龍宮真名だ」

真名は表情を変えずに返す。
だんだん蛮の言葉になれてきたのかもしれない。

「ちっうるさい奴だな。わかったよデカ乳ちゅ」

「龍宮真名だ」

蛮は言葉の途中で後頭部に銃を突きつけられた。
それで諦めたのか蛮はわかったよと言って両手を挙げた。

「銃なんかで人を脅すなんて最近の中学生は恐ろしい奴だぜ」

(コーヒーがまずいと言った位で自殺しようとしたりよ)

「安心するといい美堂さん。普通の中学生は銃など所持していないからね」

そう言って真名は口の端を上げ笑う。

「お前本当に中学生かよ? 俺の知ってる中学生は確かに乳はそこそこでかかったが……まあもっと子供っぽかったぜ?」

「自分の価値観を人に押し付けるのはやめて欲しい。というより美堂さんみたいな頭の人の方が普通じゃないと思うよ」

「ああ! てめえこの髪型は向こうの世界じゃな、最高の強さを誇る奴にだけ許された髪型なんだよ」

勿論嘘である。
銀次や他の仲間達がこれを聞いていたら、即座に否定しただろう。
真名も絶対嘘だと思ったが何か思いついたように口を開く。

「そうかその髪型は武器にもなるね『刺すぞコラ』とか言ってそのトゲ……すまない髪だったね。それで刺したりするのに使うんだね。ああ、なんて恐ろしい武器だ。確かにある意味最強な人間にしか許されないと思うよ」

そう言って真名は満面の笑顔を浮かべる。
普通の男なら一発で惚れてしまうかもしれない。
しかし目の前の男はいろんな意味で普通ではない。

「てめえ、泣かすぞ!」

「ほう、どうやってだい」

真名は余裕の笑みを浮かべながら、服の下から蛮に銃を向ける。

「学習しない奴だな」

真名の目の前から蛮の姿が消える。
いや、実際には消えたわけではない。
ただ目で追えない程のスピードで蛮が動いたのだ。

(速い! だが後ろから来るというパターンは読めているよ!)

真名は身体の向きはそのままで銃だけを後ろに向ける。
今までのパターンから蛮は人の背後から胸を揉むだろうと予測しての行動だった。
しかし彼女のそんな考えは、この美堂蛮という男の前ではあまりに甘いといえるこうどうだった。

「ひゃん!」

なんと蛮は目の前に姿を現し堂々と真名の胸を揉みしだいていた。
優しく、それでいて大胆に。

「ひゃ、いや、だめ、ふあ、やめ……ろ」

ありったけの思いを込めて揉む。
伊達に今まで色んな人間の乳を揉んで来たわけではない。
そう蛮の手はこの時<神の手>と呼ばれてもおかしくなかった。

「おらおら」

「くぁ、やめ……ひゃ……ろ!」

真名は蛮の鳩尾にを膝を叩き込んだ。
さすがの蛮も胸に夢中になって油断していたのか直撃を受けた。
前の世界では素人のヘブンの攻撃を普通に受けていたから当然といえば当然である。
なんだかんだと女に弱い男である。
そして真名はその場にへたり込む。

「ぐっ、いてえな」

「……っ」

真名は座り込んだまま、上目遣いに蛮を睨む。
その瞳は涙で少し潤み、頬は少し赤らんでいた。

「な、なんだよ」

そして蛮は泣きそうな真名を見てうろたえた。

『おいおい、あれって通り魔じゃないか』

『女性を襲ったんじゃない』

『街中でかよ』

『誰か警察を呼んだほうが』

そしてそんな二人を見て、集まった野次馬からいろいろな声が聞こえてきた。
内容を聞く限り、警察を呼ばれそうである。
危険を感じた蛮は真名の膝の下に手を入れて持ち上げるとその場から逃げ出した。



蛮はさっきの場所から大分離れた場所まで来ると、真名を置いてあったベンチの上におろした。
そしてさすがに悪いと思ったのか自販機でコーヒーと紅茶を買ってきて、紅茶を真名に渡した。

「ほら、飲めよ」

「……いただくよ」

二人とも缶を開けて中身を飲みながら無言。
そこにはなにやら気まずいような雰囲気が漂っていた。

「あのよ」

「……」

「いやな」

「……」

真名は無言で蛮から顔を背けていた。
こういうところは大人びていても確かに年頃の少女なのかもしれない。

「くそっ、あ~なんだ買い物いかねえ?」

この男は謝ると言う事が本当に苦手なのである。

「……美堂さん」

「あん?」

「人前であんなふうに抱き上げられると流石に恥ずかしい」

蛮は何を言われたのか分からなかったが、少し考えてからさっきの抱き方のことだと分かった。
そうお姫様抱っこという奴をしていたのだと。
だからと言って蛮はその程度の事で照れたりもしない。

「そうか、悪かったな」

だが、何故だろうか。
真名にそう言われて蛮は素直に謝る事が出来た。

「まあ許してあげるよ。でも何か奢ってもらうよ? あんな事をしたんだ。私は安い女じゃないからね」

「しかたねえな、分かったよ。俺様が……この俺様が奢ってやるよ!」

蛮は他人が見れば大げさと思えるくらいに『奢る』を強調した。
しかし、蛮を知る者は驚くだろう。
彼が人に奢るなんてと。

(へへ、銀次。俺は他人に奢ってやるんだぜ)

―す、凄いよ蛮ちゃん!―

そんな相棒の声が蛮には聞こえた気がした。

「じゃあ行くか」

「……美堂さんは歩く時は私から2メートル以上離れてあるいてくれ」

「また抱き上げるぞ、コラ!」

「もしそんなことをしたら次は叫ぶよ」

「くそガキが」

「そのガキの胸を揉んだのは誰だったかな?」

真名はもういつもどおりの表情で軽口を叩いた。

「ちっ、行くぞ」

「やれやれ美堂さん。貴方では店の場所がわからないだろ?」

そう言って真名は蛮の前を歩き出した。

(舐めやがって)

そんな真名を見て蛮は少し考えたあと、邪悪な笑みを浮かべた。
だが前を歩く真名はそれに気付かなかった。

「あのよ」

「なんだい?」

そう言って真名は振り向いた。

「いい手触りだったぜ」

蛮はそう言って笑いながら親指をたてた。

「っ!」

真名は蛮の言葉の意味を少し考えて、理解したあと頬を染めて目を吊り上げるのだった。
そして蛮はこの後怒った真名をからかいながら買い物に行こうとしたが、道が分からず。
結局真名にもっと奢ることを約束させられるのだった。








[4354] 宿命背負いし者その手に掴め(ネギま×GetBackers)7
Name: こい◆d9c51d38 ID:64223ef6
Date: 2009/09/25 17:21




『宿命背負いし者その手に掴め』
―7時間目―





どんな人間にも朝は来る。
生きている限り。
それは不平等な世界での少ない一つの平等。
だからこそ男にも朝は来る。

「朝か」

美堂蛮はカーテンの隙間から入る日の光を浴びて目を開いた。
ベッドの上で上半身を起こして欠伸をひとつ。
平穏な朝だった。
激闘の日々を駆け抜けた。
昔の自分はこんな朝を迎える日が来るだろうとは少しも思っていなかっただろう。

「コーヒーでも飲むか」

ベッドから降りて立ち上がり台所に向かう。
元々用意してあった食器棚。
彼の性格を見抜いていたのか、それとも善意からなのか食器類は一人暮らしには十分な量が用意されていた。
棚から適当なカップを一つ取り出す。
そして昨日買ったコーヒーメーカに挽いた豆を入れる。
電源を入れて水を注ぐ。
少しずつ落ちていくコーヒーを眺める。
漂ってくる香り。
その香りに思い浮かぶのはかつていた場所。
相棒がいて、そしていつもコーヒーを淹れている男がいた。

「あのコーヒーはもう飲めないか」

最後に飲んだのは……そう蛮にとっては癪だが助けてもらった時。
確かに美味かった。
だがあの店で、あの場所で、相棒と、店の奴らと飲みたいと思った。
そんな事を考えている自分に苦笑してコーヒーをカップに淹れる。

「らしくねえ」

本当にそう思った。
別に孤独な生活は初めてではない。
かつての母親代わりだった人の場所を飛び出した時。
かけがえのない仲間の命を自ら消してからの日々。

コーヒーを飲む。

「ふう」

飲みなれたのとは違うその苦味がやけにきつく感じた。

「仕方ねえか。覚悟はしていたしな」

そう蛮だって4度目の邪眼を使うことの覚悟はしていたのだ。
使うことの代償も、それゆえに無くしてしまうモノも。
しかし何故か蛮はこうして今も存在していたが。

「本当にらしくねえな」

蛮がもう一度そう呟いたとき、机の上に置いておいた携帯が鳴る。
蛮は携帯を持ち上げると、開いて相手を確認する。
まあ、蛮の携帯の番号を知っている人物はまだ3人しかいないのだが。
一人は用意してくれた学園長である近右衛門。
もう一人は部屋もすぐ隣の高畑。
そして最後の一人は、何故か教えてくれといわれて教えた龍宮真名。
彼女が言うには、そのほうが便利だということらしい。

『それに携帯に一人くらい女の名前がないと、美堂さんが可哀想だからね』

ということも言われたが、蛮にとってはおおきなお世話である。
まあそんな事を思い出しながらも、携帯の画面を見て相手を確認して通話を開始する。

「なんだよ?」

『おお、美堂君。何かあったのかね? 仕事先の者から君がまだ来ていないと連絡を貰ってのう』

電話の相手は近右衛門だった。
今日からのバイトにまだ来ていない蛮を心配して連絡をよこしたようだ。

「ああ、すまねえな。少し理由があってな」

『なんじゃね?』

「いや、あまり人に言うことでもねえよ。すぐに行くから」

蛮はどこか辛そうに言う。

『そうかね。まあ深くは聞かんよ、じゃが遅れるならわしに連絡なりくれんか?』

「すまねえ。今度から気をつける」

『うむ、店のものには伝えておくが、できるだけ早くの』

「ああ」

そして通話が切れた。
そう今日は蛮のバイト初出勤の日であった。
それにも限らず、蛮がこんなにものんびりとすごしていたのには理由がある。
大抵の人間が一度くらいは経験がある理由。

「ちっ、忘れてたぜ」

そう蛮はバイトの事をすっかり忘れていたのだ。
そんな蛮だが、元の世界で奪還屋をしていた時は、依頼人との約束を忘れたことなどはない。
しかしここに来て、自分が表の仕事をするということにイメージがわかなかったのか、どちらにしろ忘れていたことには違いはないのだが、蛮は急いで身支度を整えると、部屋から出て扉に鍵を閉めて走り出したのだった。





蛮は近右衛門に言われていた店の前まで来て立ち止まった。
そして店を見上げる。
大きくはない、どちらかといえば小さいともいえる。
だがその店は、蛮の見た感じ良い雰囲気だと感じた。
それは、どこか波児の店に似ている感じがしたからだろう。

蛮はそんな事を考えている自分に苦笑し、気を取り直して店の扉を開く。
カウンターにお客だろう男が3人、そしてその向こう側に男がいる。

「いらっしゃい」

落ち着いた感じの低い声が響いた。
蛮が声の主を見ると、エプロンを着けた40代くらいの男性だった。
印象としては渋い顔立ちだが、けして恐い感じではなく親しみさえわく。
そしてこれが一番感じたことだが、どこか暖かさを感じる笑顔を浮かべる男だった。

「おや? その髪……ふむ。君が近衛さんの言っていた美堂君かな?」

蛮が遅れた事を怒るだろうと思っていたが、彼からでた言葉はそれ。
別段その声にいらだっているような雰囲気は見出せない。
おそらく近右衛門がうまく説明してくれたのだろう。
それでも彼にしては珍しく悪いなという気持ちが湧く。
だから蛮は彼にしてはらしくないが、少し戸惑いながら頷く。
彼は蛮が頷くのを確認すると、蛮の頭から足元まで見た後、蛮の瞳を見てくる。
蛮はその瞳を見返す。

そこで蛮はふと思う。
戦闘時ならともかく、それ以外でサングラスを付けずに真正面から目を合わすことはあまり無いことなんだが……と。
近右衛門との時は敵対する可能性があったからだし、他の者にしてもそうだ。
だがそこまで考えてから、この世界では邪眼のことを知る者などいないのだから別にいいかとも思う。

男の目を見返してしばらくして、男はふむと頷くと口を開く。

「良い眼をしているね」

男はそう言った。
蛮はそれに対して少し驚く。
そんな事を面と向かって言われた事など無いから。
気心の知れた者ならともかく、一般人でさえも蛮の瞳に本能的な何かを感じるのか、眼が合うと逸らす者が多いのだから。

「少し待っててくれるかな? 一人で店をやっているからね。休憩時間を挟んで店も一旦閉じるからね。ああそうだ、何か飲むかい? それとも何か食べるかな? 軽い物しか出せないが、席に座ってこれから自分が働く場所の雰囲気を少しでも知ってくれると嬉しいな」

男らしいと言える笑みを浮かべながら蛮にそう言って席を勧める。

「もうすぐ一旦閉じる時間だからね。今はお客も少ないんだよ」

男はそう言う。

「おいおいマスター、お客はどの時間もそんなにいないだろう?」

客の一人、これも30代位の男が笑って言った。

「おいおい、これでも時間によっては色々な客がくるんだぞ? 彼に嘘を吹き込まないでくれよ」

男、マスターはそう言って苦笑を浮かべる。

「マスターのコーヒーは旨いからもっと客が来ても良いと思うけどな」

「おいおい、客が増えると俺は落ち着いてコーヒーが飲めなくなるよ」

他の二人の客達もそう言って笑う。

「はは、まあ美堂君こんな雰囲気の店だが何か飲むかい?」

「ああじゃあ……とすいません。頂きます」

蛮はいつもどおりの口調で話しそうになったので、一旦止めて敬語をつかう。

「はは、私には話しやすいように話してくれていいさ。君はあまり敬語とか似合わない雰囲気がするしね。まあお客さんにはちゃんと対応してもらうがね。で何を飲む? 酒などとは言わないでくれよ?」

そう言ってマスターは笑顔を浮かべる。

「あ~」

「うん? ああ御代はいらないよ。その代わりこれからバリバリ働いて貰うからね」

「じゃあコーヒーをブレンドで」

「よし、まっててくれ」

マスターは慣れた手つきでコーヒーを入れる。
そして、コーヒーと一緒に小皿にクッキーを少し乗せて蛮の前に置いた。
コーヒーにクッキーというのも珍しい組み合わせだが、マスターのサービスだったのだろう。
蛮はコーヒーの入ったカップを手に取る。

「どうぞ」

言われ、蛮はコーヒーを一口飲む。
口元に広がるほのかな苦味と独特の味。

「……うまい」

蛮は思わずそう声を出していた。
正直波児と同じかそれ以上の味だと思えた。

「おお、青年よ。マスターのコーヒーはうまいだろ? 紅茶も人気があってこんな店なのに女性客も結構来るんだぞ」

「おいおい、こんな店とは酷いな」

客が蛮にかけた言葉に、マスターは笑いながらそう言う。

「まったくだな俺はこの店は日本一、いや世界一だと思ってるぜ」

「はは、ありがとう」

「だからマスター値段安くしてくれよ」

「おいおい、この店をつぶす気か?」

他の客の言葉に笑って返すマスター。
それを見る蛮は、この雰囲気に好感を覚えた。

(波児の店に似ているのか? それともこの男の雰囲気が俺にそう思わせるのかよ?)

蛮はそう考えて思わず苦笑する。

「じゃあマスターご馳走様」

「ああ、ありがとう。また来てください」

客の一人が出て行き、しばらくすると残りの二人も勘定を済ませて店から出て行った。

「さてとそろそろ一旦閉めようかな」

そう言うとマスターは店から出て行き、扉の前に[CLOSE]の看板を立てた。





「さてと美堂君。私はこの店のマスターの山田吾郎だ……と言っても私一人でやっている店だがね」

「美堂蛮。よろしく頼……みます」

「まあ言葉遣いは気にしなくていいよ。徐々に慣れてくるだろうし、これから二人でやっていくんだ。仲良くしようじゃないか」

「そうだな、じゃあ遠慮なく。よろしく頼むぜ! マスター」

蛮はそう言って子供のような無邪気な笑顔を浮かべる。

「はは、近衛さんの言っていた通りの性格のようだね。蛮君と呼んでいいかな?」

蛮の言葉遣いにも気にしたような所は無く、優しげに笑ってそう尋ねる。

「ああ、気にせず呼んでくれ」

「そうさせてもらうよ。蛮君はこういう店で働いた経験もないらしいね?」

「ああ、無い」

「ふむ。コーヒーを淹れた事はあるかい?」

蛮はその言葉に少し考える。
波児に言われてコーヒーを淹れたことはあるが、正直うまいといえる物ではなかった。
それを正直に伝えるべきかと考えたが、伝えることにした。

「知り合いのところで一回だけ淹れたことはある。ただ美味いとは言えなかったな」

「そうか、では時間がある時に練習してもらうとしよう。勿論紅茶などもね」

「分かった」

「じゃあ軽く仕事の内容を説明するよ」

そして蛮は仕事の内容をマスターに説明された。
店の商品、ケーキ、あとは飲み物の事など。
レジの打ち方、最初のうちはマスターが打つのを見て、しばらくしたらマスターの前でレジを打つ事。

「まあ取り敢えず最初の内は、コーヒーなどをお客様の所に持っていって貰うよ」

「わかったぜ」

そして蛮はエプロンを着けると、店の前の看板を[OPEN]に変えた。



しばらくして一人の中年男性が入ってきた。

「いらっしゃいませ」

「おお! いらっしゃいませ!」

中年男性は蛮を見て少し驚いた顔をしてカウンター席に座る。

「蛮君。元気がいいのは良い事だが、それではお客様が驚かれてしまわれる。普通に笑顔でいらっしゃいませでいいんだよ」

「ちっ、わかったよマスター」

そんな風に答える蛮を見てマスターは困ったような笑顔を浮かべる。

「マスター。人を入れたのかい?」

「ええ、やはり私一人だときついですからね」

男性客の言葉に笑って答えるマスター。
どうやらこの客も常連客らしい。

「そうか。若いのマスターを助けてやれよ」

「ああ、言われなくったってやってや、いて!」

蛮が言葉の途中で叫ぶ。
客に向かっても普段どおりに話そうとする蛮の頭を、マスターがトレイで叩いたのだった。

「蛮君。相手はお客様だぞ」

「ちっ、すいません」

「はは、元気なのが入ったようだね」

そんな蛮の態度にも機嫌を悪くした様子を見せず、客は笑いながらそう言った後、コーヒーを頼み、飲み終わると出て行った。

「蛮君。今のお客さんは常連客で良い人だから笑い飛ばしてくれたけど、誰にでもその態度では困るよ」

「ああ、悪かったよマスター。気をつける」

その後は蛮は敬語をちゃんと使い、客への対応を問題無くこなした。
これを見てマスターは驚いた顔を見せたが、気を取り直して仕事をしていた。
客が減り、いなくなった時間にマスターが蛮に問いかけた。

「君は敬語とか使うのは苦手かと思っていたが、驚いたよちゃんと出来ていたね」

「まあ生きてく上でやらなきゃいけない時もあったから」

そう言って蛮はマスターを見て不適な笑みを浮かべる。
正直蛮は別に敬語とかを使ったりする事が苦手だが、下手ではない。
苦手なのはプライドの問題である。
しかし敵に狙われたりしながら生きていくなかで、人を欺かなければ生きていけない世界でもあったから。

「ふむ、そうか」

マスターは何も聞かず、ただそう言ってコーヒーの入ったカップを渡してきた。

「少し奥で休むといい。初日だから疲れただろう? それを飲み終わったら後少しがんばってもらうよ」

「おお、ありがとよ。マスター」

蛮はそう言って奥にある椅子に座ってコーヒーを飲むのだった。

「近衛さんが頼んできたのも分かるね。確かにどこか普通のあれくらいの歳の子とは違うけれど……いい子だ」

この店のマスター・山田五郎はそう呟いて笑った。





コーヒーを飲み終わり蛮は店内に戻った。
早いもので、もう気が付けば夕方だった。

「ああ、蛮君。少し奥にいるから、今の時間は来ることは殆ど無いけれどお客さんが来たら呼んでくれ」

「わかった」

蛮が戻ってくるのを見て、マスターはそう告げて奥の部屋に入っていった。

「あ~誰もこねえな」

マスターの言ったとおり、しばらくしてもお客は来ず、蛮は欠伸をして目をこすった。
そして扉の方を見ると、開くのが見えた。

「いらっしゃいませ」

蛮は営業スマイルを浮かべて入ってきた人を見る。
入ってきたのは金髪の美女といえるほど顔の整った女、ただし後数年すればだが。
残念ながら今は背の低い、小学校高学年か成長の遅い中学性くらいの美少女だった。

「ほう」

少女は蛮の方を見ると、少し驚いた顔をした後カウンターの椅子に座ろうとした。
だが、少女には少し椅子が高いらしく、少し苦労している。
蛮が笑いそうになるのを堪えながら見ていると、少女は蛮を睨んできた。

「何を見ている。貴様私を馬鹿にしているのか?」

「いえいえ、座るのにお手伝いしましょうか?」

蛮は少女の言葉遣いに怒鳴りつけたくなったが、相手は見るからに子供だ。
そんな相手に怒鳴りつけるのは大人気ないと、心を落ち着けて作り笑いを浮かべてそう言った。

「いらん」

そう言うと少女は椅子にのぼり席に座ると、カウンターに肘をつけて蛮を見てくる。

「マスターはどうした?」

「少しお待ちください呼びますので」

「はやくしろ、マスターの奴も使えない男をやっとったものだな」

その少女の一言は蛮には聞き逃せなかった。
というかこんなガキが俺様にこんなでかい態度しやがってと思ったのだ。

「譲ちゃん。少し口の利き方に気をつけやがれよ!」

蛮は切れて怒鳴りつけた。

「貴様はチンピラか。いいから早くマスターを呼べ」

少女はそんな蛮を冷ややかに見つめて言う。
そんな少女の言葉に蛮は殴り飛ばしてやろうかとも思ったが、いくら蛮でもこんな少女を
殴ることはできない。
しかたなく言葉でやり返すことにした。

「お譲ちゃん。小学生のお小遣いでお金は大丈夫かい?」

その蛮の言葉が気に障ったらしく、少女は眉を吊り上げる。

「貴様みたいな男に心配されなくても足りる! それに私は小学生ではない! いいからマスターを呼べこのウニ頭」

「て、てめえこの髪型はなあ、がっ」

蛮が頭の事を少女に指摘されて切れて怒鳴ろうとして、頭に衝撃が走った。
そして後ろを見るとマスターがトレイ片手に蛮を睨んでいる。

「蛮君。お客様が来たら呼ぶように言っていたと思うが? それにお客様に向かってなんて態度だ」

「くっ、すいませんでしたよマスター」

蛮はマスターに謝りながら金髪の少女を睨み付ける。
少女はそんな蛮を見て鼻で笑う。

「てめえ」

「蛮君、相手はお客様だよ」

「ちっ」

蛮はマスターの言葉に渋々引き下がる。
そんな蛮を見て少女は何かを思い出したような顔をして、蛮の顔を凝視してくる。

「なんだよ? あ、もしかして俺に惚れたか」

「違う! 貴様名字はなんという?」

「なんだよやっぱり惚れたのか?」

そういって蛮はにやにやと笑いながら、からかうように言う。

「いいから言え!」

「はあ、……美堂、美堂蛮だよ」

蛮はマスターに横目で見られて、溜息をついた後答えた。

「そうか、貴様が」

少女は一人何か納得したように呟く。

「エヴァンジェリン君。今日も紅茶を飲みに来てくれたのかい?」

そんな少女―エヴァンジェリンと言うらしい―にマスターはたずねた。

「ああ、ここの紅茶は美味いからな」

「ありがとう、少し待っててくれるかい」

「ああ」

紅茶を淹れ始めたマスターを横目にエヴァンジェリンは蛮を見てきた。

「なんだよ?」

「私の名前はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」

「ああ、そうかよ」

「覚えておけ」

その言葉に蛮はエヴァの顔を見る。
瞳から子供らしくない冷たい視線。
蛮はその瞳を見て不適な笑みを浮かべる。

「いいぜ、覚えていてやるよ」

その言葉に満足したのか、満足そうな笑みを浮かべるとエヴァは出された紅茶に口をつける。

「ふむ、美味い」

「ありがとうエヴァンジェリン君」

マスターはエヴァの言葉に嬉しそうに微笑み礼を言った。

「マスター、代金は置いておくぞ」

「ありがとう。また来てくれると嬉しいな」

「ふん、面白い奴をやとったようだからなまた来る。それにマスターの淹れる紅茶は美味いからな」

そう言ってエヴァは扉の前まで行くと立ち止まり、振り向いて蛮のほうを見る。

「なんだよ?」

「ガンマンと剣士を退けたからと言って調子にのらないことだ」

そう言い残してエヴァは去っていった。

「ゲームか何かの話かい?」

マスターはエヴァの言葉に不思議そうに首を傾げて、蛮にそう言った。

「さあ? ガキの言うことはわからねえよマスター」

(関係者ってことかよ)

蛮はそう言ってマスターの方を見て笑った。





その後お客が少し来て、蛮のアルバイト初日は終わった。
蛮は返りにコンビニで弁当を買うとそれを持って帰路につく。
家に帰って弁当を食い終わると、蛮は風呂に入ってベットに寝転がった。

「こんな生活も悪くないかもな」

蛮はそう呟いてゆっくり瞼を閉じて眠るのだった。







[4354] 宿命背負いし者その手に掴め(ネギま×GetBackers)8
Name: こい◆d9c51d38 ID:d9d3b3d0
Date: 2009/09/22 00:58




『宿命背負いし者その手に掴め』
―8時間目―





蛮が喫茶店のバイトを始めて数日後。
麻帆良学園、学園長室の椅子に座りながら、近右衛門は口を開く。

「してどうじゃ、彼を見ての感想は?」

近右衛門の質問に目の前の少女、エヴァンジェリンは口元を歪め微笑したあとに答える。

「ふん、頭の悪い男と言った所だ……と一般人なら言うのかもしれんな」

エヴァンジェリンの言葉に、近右衛門は先を促す。

「奴は相当な修羅場をくぐっているだろう。目の奥の光と、雰囲気だな。少し殺気を篭めて睨んでやったのだがな……真正面から返された」

話を聞いて近右衛門はため息をついた。
美堂蛮という青年と彼女が、会うことは分かっていた事だ。
もともとあの喫茶店が、エヴァンジェリンの行きつけの店だという事も近右衛門は知っていたし、それを見越して態と彼をあの店に紹介したのは近右衛門自身だったのだからである。
だがそれでも。

「エヴァよ、あまり彼を挑発せんでくれんか。彼は桜咲君と龍宮君を軽くあしらったのじゃぞ? この学園にそれ程の実力者が何人居ると思っておる?」

そう言わずにはいられない。
勿論目の前の少女……のように見える女が、彼に対してどういう対応をするかなどだいたい分かっていた。
挑発まがいな皮肉なども言うであろう事も考えられる。
しかし、まさか殺気をぶつけて挑発するとまでは思わなかった。
その位は彼女も自重してくれるだろうと。

だが、そんな近右衛門の内心など知ったことかという風に、エヴァンジェリンは話を続ける。

「確かに、未熟者とはいえあの二人はそれなりにはやるからな。ジジイの話が本当ならば確かに軽くあしらえる者はこの学園にはいないだろうな。タカミチにジジイ……そしてこの私を除けばな」

そう言ってエヴァンジェリンは不敵な笑みを浮かべる。
そこからは彼女の自分の力に対する自信が見える。

「エヴァ、言葉を間違えておるぞ? 『力を封印される前の私なら』じゃろ」

「死にたいのか?」

近右衛門の言葉に殺気を向けるエヴァンジェリン。
しかしそれを受け流し言葉を続ける。

「確かに力を殆ど封印されたおぬしでも、触媒を使えば少しは魔法をつかえる。そしてその程度の魔法しか使えなくても、他者を倒せる実力と、なにより経験をおぬしはもっておる」

そこまで言って、近右衛門はお茶を飲む。

「桜咲君や龍宮君にも、一対一ならばおぬしなら勝てるじゃろう。今の力を封印されたその状態でもじゃ。そういう状態の戦い方も知っておるからの」

それは近右衛門の本心からの言葉だった。
確かに今のエヴァンジェリンと刹那、真名では後者の二人の方が、単純な実力で言えば上だろう。
それでも実戦ならば必ず後者の二人がエヴァンジェリンに勝てるとはいえない。
むしろ力を封印されたエヴァンジェリンの方が勝つと、近右衛門も思う。
だがそれでも……。

「高畑君には勝てんじゃろ?」

「……奴がタカミチと同等の実力者とでも?」

エヴァンジェリンの言葉に、近右衛門はため息をつく。

「頑固者が。そうは言ってはおらんじゃろうが。じゃが美堂君の実力はおぬし自身さっき認めただろう。高畑君より弱いとしてもその差はそんなにあるとも思えん。そんな彼と今の状態のおぬしが戦えばどうなるか」

エヴァンジェリンは舌打ちして、近右衛門から顔を背ける。

「……店の外に茶々丸を待機させていた」

エヴァンジェリンの様子を見て、説教になってしまっていたと近右衛門は少し後悔した。
彼女ほどの人物が今言ったことに、気付いていないはずがなかったのだ。
しかし彼女はたまに回りが見えていないことがある。

サウザンドマスターと呼ばれたナギ・スプリングフィールドに敗れて、力を封印されたのも結局はそういう所があったのも一つの原因だと彼女は気付いているのか、そんな心配が近右衛門の脳裏に浮かんだ。

「まあこの話はもういいわい。蛮君の印象も聞けたしの」

「……その美堂蛮だが、奴の実力。私が測ってやろうか?」

「む?」

「奴を私の別荘に招待してやろうと言ってるのだ。そこで私が直接戦う。どうだ? 貴様も奴の実力を知りたいとは思わないか? あそこでなら私も力を発揮できる」

エヴァンジェリンはそう言って唇を歪める。
そして近右衛門はエヴァンジェリンの言葉に少し考える。

知りたい、確かに知りたいと近右衛門は思う。
今後、『仕事』もやらせるのだし、その実力は知っておきたい。
しかし……。

「おそらく高畑君クラスの実力者だろう彼を相手にして、おぬしは彼を『壊さず』に力量を測る程度に手加減できるのか?」

「ふん、タカミチ程度、私の全力からすればまだまだ敵ではないからな、手加減はしてやるさ……もっとも私なりの手加減だがな」

エヴァンジェリンは手加減するとは言うが、彼女の全力からしての手加減でいくつもりだと言うことを強調する。
近右衛門はその言葉に少し考える。

確かに美堂蛮の力を知っておきたい。
だが、エヴァンジェリンに任せても大丈夫だろうか? 彼はプライドが高そうな男だ。
自分の実力にも相当な自身があるように近右衛門には見えた。
そんな人間が自分より圧倒的な力に敗北し―しかもエヴァンジェリンの性格から考えてかなり打ちのめすだろう―戦士として立ち直れるだろうか? 戦士としての心が『壊れて』もう戦士としては終わるのではないか? そんな不安がよぎる。

しかしまた思う。
彼はどうせこの世界にとってはイレギュラー。
まだ完全な確証はないが、この世界の人間では無い可能性は彼の話からして高い。
どうせ本来はこの世界で、手に入る戦力ではない。
たとえ実力を見る上で、使い物にならなくなったとしたら、美堂蛮という男はその程度の存在だったというだけで、自分にとって大した損失にはならない。
近右衛門は組織の長として、そんな考えも持っていた。

そして考えた末、近右衛門は決断をした。

「いいじゃろう、好きにするといいわい」

「ふん、そうでなくてはな。なに心配するな。殺しはしないさ」

エヴァンジェリンはそう言って笑うと、部屋から出て行く。

エヴァンジェリンが出て行くのを見送った後、近右衛門は溜息をつく。

「にしても、美堂君がすなおに戦いに応じるかのう? というか、彼ならわしの想像を超えるかもしれんのう……どこか奴に似ておるし」

近右衛門は窓の外を見ながら、最後の言葉は小さく呟いた。

「……もうすぐ、あの子もくる。蛮君はどんな反応をするのじゃろうな」







美堂蛮は街中を歩いていた。
今日も喫茶店のバイトには入っていたのだが、マスターに用事ができたらしく、だからと言って蛮一人に店の事を任せることなどできるはずもない。
元々店のマスターである彼一人でやっていた時から、彼自身の用事で店が開けない事も多々合ったらしく、その辺は常連客も慣れているという事らしい。

そんな事でよく店を続けられるなと、普通の人ならば心配するのが当然だが、蛮にとっては別にどうでもいいことだった。
蛮の記憶にある波児の店が、客が少なくても成り立っていたのだから、というのも理由の一つかもしれないが。

そんな理由で蛮はバイトが午前中までで終わり、昼食を食べた後、ぶらぶらと街を歩いていた。

「ちっ、その辺に大金でも転がってねえかな?」

そう口にしながら辺りを見回す蛮。
しかし、道端に大金などが転がっているような世界ならば、誰も働いたりなどしない。
ふらふらと歩いていた蛮は、通りかかった公園にあるベンチに一人座り、懐から煙草を取り出して口に咥えて火をつけた。
咥えた煙草の先から煙がゆらゆらと空に昇っていく。
蛮は煙を追いかけるように空を見上げた。

(この世界で生きていけとでも言うのかよ? 邪眼を4度使ったにも関わらず生きていられるだけマシなんだろうが)

風が吹く、冷たい風が。
厚着をしていても今は冬だ。
自分がこの世界に来た時はよく裸で耐えられたな、と蛮は苦笑してしまう。
くだらないことを考え、そして空に浮かぶ雲を見て……蛮は口を開いた。

「何かようか?」

「美堂蛮様ですね?」

蛮は煙草を足で踏み消して、声の主を見る。
見覚えのある制服を着た何かが立っていた。

普通に考えたら、人だろう。
声からして女だ。
だが人ではない存在と言うことは一目で分かった。
というより誰でも見れば気が付くだろう。

腰まである長い髪、そして整った顔立ちをした女。
これだけを聞けば唯の人間の女性だ。
だが、まるで人形のような足の関節部分、そして長いアンテナのような耳。
それらは目の前の存在が人間では無い事を表していた。

「へっ、驚いたぜ。会話をする人形がいるとはな」

そう言いながらも、蛮は驚いた顔など見せず、むしろ不適に笑う。

「失礼ながら私は人形ではありません。ガイノイド……絡繰茶々丸と申します」

そういって一礼をする目の前の女、絡繰茶々丸。
その行動だけを見ると、まるで人間のようだと蛮は思った。

「そんで俺に何のようだよ? 悪いが俺は今忙しいんだが」

ただ座って煙草を吸っていただけにもかかわらず、堂々と忙しいなどと言う蛮にも気にした様子をみせず、茶々丸は「申し訳ありません」と言って「ですが」と続ける。

「私のマスターであるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル様が、美堂様に御用があるそうです。いきなりで申し訳ありませんが、私についてきて頂けないでしょうか?」

その名前を聞いて、バイト初日にあった少女を思い出した蛮。
あんな珍しい名前の人物は、日本には滅多に居ないのであの少女だろう。
どこか普通とは違う雰囲気を出していた少女。
そう、あれはまるで……。
思いながらも、どちらにしろ蛮の答えなど決まっていた。

「いかねえよ、俺は忙しいんだよ。ガキに付き合っている暇はねえんだよ。用があるなら自分で来るように伝えとけ」

蛮の言葉に茶々丸は困ったように―とはいっても無表情なのだが―沈黙した。
そして、また口を開く。

「ですが、マスターには絶対に連れてくるように言われております。お願いします」

「しらねえよ。帰れ」

蛮はそう言って追い払うように、手をひらひらと動かす。
茶々丸はそれを見ても首を横に振って、その場から動かない。

「マスターの命令ですので私も帰れません。どうか来て頂けないでしょうか?」

そう言って頭を下げる茶々丸。
そんな茶々丸を見て蛮は思う。
よく出来ていると、表情は無表情だが、その体の動かし方などは人間そのものだ。

「乳まであるのかよ」

そして蛮は一部分をみて呟く。
女の象徴である部分、そこはそれなりの膨らみがあった。
しかし……蛮は作り物かと鼻で笑う。
いくら相手が人間ではないとはいえ、ここまで人間らしい行動などをとっている存在に失礼な男である。

「?」

一方の茶々丸は、自分の方を見ていきなり鼻で笑った蛮を見て、首を傾げる。
蛮はそんな茶々丸を見ると苦笑して、立ち上がる。
茶々丸の熱意に負けて付いていく事にしたのだ……という事はこの男にはありえなかった。
蛮はその場に立つ茶々丸に背を向けてその場を去ろうとした。

「あ?」

立ち去ろうとしたのだが、蛮の腕を茶々丸の腕が掴んでいた。
それを見て、蛮は振り向く。

「へえ、力づくで連れて行く気か?」

そう言って蛮は唇の端を吊り上げる。

「いえ、傷つけるつもりはありません」

茶々丸は戸惑った声で言う。

「ふぅ、わかったよ。行く。だから手離せ」

蛮はやれやれというような表情をしてそう言った。

「ありがとうございます」

その声は心なしか、驚いたような声色だった。
そして茶々丸は蛮の腕から手を離す。

「あ!」

「はっはっは! 誰が行くかよ!じゃ~な」

蛮は茶々丸が手を離すと同時に、駆け出して、そして悪戯が成功した子供のように笑いながら公園から去っていった。

そして公園には茶々丸の姿が残されて……いなかった。




蛮はあの後一時間くらい麻帆良学園都市をぶらついて、帰路に着いた。

缶コーヒーを飲みながら、マンションまでの道を歩く蛮。
そしてマンションの前まで来た蛮は、コーヒーを噴いた。

マンションの前には絡繰茶々丸が立っていたのだ。
そして蛮が来たのを見ると、一礼する。

「お待ちしておりました。美堂様」

「ガホッ、ゴホッ。何でてめえが此処にいんだよ!」

蛮は苦しそうに咳き込みながらも、おもわずそう叫ぶ。

「貴方の住所はあらかじめマスターから聞いておりました」

「だから何でお前のマスターとやらが俺の住んでる所を知っているんだよ」

「マスターは学園長から聞いたそうです」

「あの爺からだと?」

(わざわざガキに俺の住所を教えやがったのか、何たくらんでやがるあのジジイ)

そして茶々丸を見て蛮は溜息をつく。

「俺がいかなかったらどうすんだよ?」

「来てもらえるまで待ちます。……ですがマスターからは急ぐようにと仰せ使っているので、できれば今すぐ来ていただきたいのですが」

(こいつ、このままじゃずっと部屋の前にいそうだな。ちっ、まあいい)

「案内しろ」

「え?」

茶々丸は、ガイノイドでありながらも、一瞬蛮の言葉に耳を疑う。
あれだけ拒否していた蛮がそう言ったので、驚いたのだ。

「だから案内しやがれって言ってるんだよ」

「はい、ありがとうございます」

そう言って茶々丸は深く頭を下げる。
蛮はそんな茶々丸を見て頭を掻きながら言った。

「ただし、晩飯ぐらい食わせろ! 」

「はい、マスターに許可を貰い、私がご用意します」

「まずかったらなぐ……てめえの主人に責任とらすからな」

「分かりました。出来る限りの物を作らして頂きます」

「お前が作るのか!? 」

「はい」

蛮は当然のように頷く、茶々丸を見て、便利な奴だと思った。

「では案内します」

「遠くないだろうな?」

「そこまで遠くはありませんが……疲れておられるなら私が抱えて飛びましょうか?」

「いらねえよ! てか飛べるのか? 」

「ガイノイドですので」

「当然のように言うな! 」

蛮は怒鳴りながら、茶々丸の後を付いていくのだった。

身体に当たる風は相変わらず冷たかった。






あとがき

最近原作読み返して気付いたのですが、蛮には他の主人公が持っていない力があったのです!。
その名も『モミポ!』。
蛮が女の胸を揉むと女は顔を赤く染める。
これってニコポ、ナデポに次ぐ新ジャンルになりません?
……え?誰が揉んでも普通恥ずかしくて頬を染める?
そして蛮のように殴られて、通報される?
そうですか……。






[4354] 宿命背負いし者その手に掴め(ネギま×GetBackers)9
Name: こい◆d9c51d38 ID:d9d3b3d0
Date: 2009/12/27 20:58





『宿命背負いし者その手に掴め』
―9時間目―




「着きました」

「この家か……ちっ、良い家に住みやがって」

茶々丸の案内で着いた場所には、立派なログハウスが建っていた。
茶々丸は扉を開けると、その場に立って蛮に一礼。

「どうぞ、お入りください」

「ああ」

蛮が家の中に入るのを確認した後、茶々丸も中に入り、扉を閉める。

「靴はそちらで、お脱ぎ下さい」

さすがにいくら蛮でも人の家に土足で上がるつもりはない。
そして蛮が言われて靴を脱ぐと、茶々丸はスリッパを出して蛮の前に置いた。

「どうぞ、お履きください」

蛮がスリッパを履くのを確認すると「こちらです」と言って、茶々丸は見知らぬ家に来た。蛮が付いてきやすい速度で前を歩いた。



そこは驚くほど広いと言う訳でも無く、一般的な広さの家。
途中様々な、少女趣味な人形が多くあったのが見えたが、蛮はあまり気にせず、茶々丸についていくだけだった。

意外に思うかもしれないが、蛮は仕事でそれなりに多くの依頼者に会っている。
そしてその中には、変な趣味の家なども多くあった。
だからそれほど気にしたりもしない。

「こちらです」

目的の部屋には直ぐに到着した。
ノックをしたあと、茶々丸が扉を開く。
そして「どうぞ」と一礼して、茶々丸は蛮が部屋に入るのを待つ。
それを横目に、蛮が部屋に入ると、見覚えのある少女がいた。

「あの方が、私のマスターであるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル様です」

後ろから蛮につきそうように、部屋に入った茶々丸が言葉を発する。
茶々丸のマスターである少女、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
学園長などにはエヴァと呼ばれる彼女は、入ってきた蛮たちにも気付かずに、真剣な顔で椅子に座り、人形を抱きしめてテレビを見ていた。

「俺様を呼び出しておいて……テレビなんか見てやがる。殴っていいか?」

「申し訳ありません。あれはマスターが毎週楽しみにされている番組で純愛ドラマ『僕が彼女に貢いだ100個目の品』です。私達がすぐに来ないので、我慢ができずに見てしまわれたのでしょう。……申し訳ありません。私が美堂様を見つけて声をかけるのに時間をかけすぎてしまったせいです。どうかマスターを悪く思わないでください」

そう言って茶々丸は深々と頭を下げる。
たとえ茶々丸が言うように、蛮を探すのに時間がかかったのだとしても、遅くなったのはどう考えても、蛮が公園から逃げたせいだろう。

だからと言っていきなり見知らぬ人間に―この場合ガイノイドだが―「ついてきてください」などと言われれば普通の人でも、すぐには付いて行かないであろう。
結局、蛮と茶々丸のどちらも悪いとは言えない。

ただ、蛮の場合は知り合いでも、一方的に呼ばれたのなら行かない男なのだが。
今回は茶々丸が何回も頭を下げたのと、夕食をたかるためと言う理由があったから来たのだ。

『お前にわかるか!? 通販で予約した商品が発売日に届かなかった人の気持ちが!』

『はっ、分からんよケイタ。私の予約した商品は毎回発売日に届く。しかもたまに発売日前日に届くからな! 』

「これはケイタの情報収集が足りんのだ。私が買う店は有名な店だからな。毎回必ず発売日に届くぞ」

真顔でエヴァは、テレビに登場しているケイタに文句を言う。
だがエヴァの発言など関係なく、テレビ内の二人の会話は続く。

因みにエヴァが使っている通販の買い物は、茶々丸担当。
ネットなどで店を調べたのも茶々丸。
商品を探すのも、注文するのも茶々丸の仕事だ。
ついでにハンコを押して受け取るのも茶々丸の仕事である。
そしてエヴァはその店の名前さえ知らない。

『貴様! それが発売日に届かない人間に言う言葉か!?』

『くくく、惨めだな。貴様にはお似合いだよ。しかも! 今度発売する超大作ゲームがあるが、私にはちょっとしたコネがあってね。発売日より2日前に購入できるのだよ』

『なんだと! それは俺も予約予定のあの超大作? ……くそっ』

「別にゲームなど発売日にできなくてもいいだろう」

エヴァは人形の手を動かしながら、テレビの登場人物であるケイタの発言に突っ込む。
ゲームなどしない彼女には、ケイタの気持ちが理解できなかった。

『ふっ、貴様にはゲームのストーリーを発売日前に、メールや手紙で送ってやろう。勿論ラブレターなどに見立ててな。貴様の事だ、罠と分かっていても見ずにはいられないだろう……くくく、はっはっはっ!!』

『なんて汚い手を。ハイタ……何が、何がお前をそこまで変えたんだ?』

『憎しみだよ。私が、私が! ……最後に食べようと楽しみに残していたショートケーキの苺を奪った貴様への憎しみだ! その日の晩は涙が止まらなくて眠られなかった。その日から毎晩夢に見た。貴様に苺を食べられる瞬間の悪夢を!』

「これもケイタが悪いな。だがハイタも女々しい奴だ」

そう言うエヴァにも、紅茶と一緒に食べていたショートケーキの苺を落としてしまい涙目になり、不貞寝。
翌日、主の悲しげな姿に心を打たれたのか、茶々丸が一時間並んで、有名ケーキ屋のショートケーキを購入。
そしてケーキはその日、夕食の後さりげなくエヴァに出される。
出されたケーキを見てエヴァは「余計な事を」と言いながらも、目を輝かせてケーキを食べたという過去を持つ……丁度一週間前の出来事である。

人には言えない過去を持つエヴァは、未だに蛮と茶々丸に気付いた様子はない。
蛮は拳を握り締めながらも、相手はガキでしかも女だ、と自分に必死で言い聞かせていた。
いつもなら相手が子供だろうと、怒鳴りつける蛮だが、夕食のために我慢しているのだろう。

『たったそれだけの事で』

『たった? ……たっただとぉ!! 私があのケーキを買う為にどれだけの苦難を乗り越えたと思っている!? 周りは女性だらけ。その中で男は私たった一人。店員には苦笑され、周りの女には影で笑われ、そして子供には「お母さんあの眼鏡のお兄ちゃん一人で並んでるよ?」などと言われた屈辱が! 男がケーキを食べて何が悪い! 苺のショートを食べて何が悪い!』

「ふん。この男、知り合いの女くらいいないのか? ケーキなど女に頼んで買ってきてもらえばいいだろう。それにたかがケーキごときで馬鹿かこいつは? どうせそんな事だから恋人も居ないのだろうがな」

蛮が切れる寸前になっても、番組は続く。
そんな蛮や茶々丸にも気付かず、エヴァはテレビに夢中で、今も感想を述べて鼻で笑っている。
だがテレビに出ているハイタを鼻で笑うエヴァにも恋人はいない。
そして10年以上も前から絶賛片想い中であるのは秘密である。

今もテレビのすぐ前で椅子に座り、人形をその腕で抱きしめながら、ケイタとハイタの会話に夢中になっているエヴァ。
それを見てとうとう我慢の限界に来たのか、蛮はエヴァのいる場所に向かって歩き出す。

『……わかったよハイタ。もうあの頃には戻れないんだな』

『そのとおりだケイタ! 決着をつけよう。我らのいまま――』

「なっ!」

登場人物の言葉の途中で、エヴァの見ていたテレビの画面は真っ暗になる。
それを見てエヴァは驚愕の声を上げた。

「はっ」

そう鼻で笑う声が聞こえた。
エヴァの背後からだ。
彼女が振り向くと、近くの机の上に置いていたテレビのリモコンを持って笑う、見覚えのある男が立っていた。
美堂蛮である。

「貴様……何故消した? 今いいところだったのだぞ……」

怒りを押し殺した声で、エヴァは蛮に問いかける。
そしてそんなエヴァを見て、嬉しそうに笑みを浮かべて蛮が言う。

「知るか。人を呼び出しておいてテレビなんて見やがって。……俺なんてここ何年もゆっくりテレビなんか見たことねえんだぞ!」

だが初めは嬉しそうに語りだした蛮も、自分の過去でも思い出したのか、エヴァに怒鳴りつけはじめる。

「それこそ知るか! この貧乏人が!」

人形の手を握りながら、エヴァも負けじと蛮に怒鳴りつける。
それにたいして、またも八つ当たりにも近い言葉で怒鳴りつける蛮。
そして口論を始める二人を見て、慌てて間に入る茶々丸。

「どけ、茶々丸!」

「マスター。どうか落ち着いてください。あの番組はちゃんと録画してあります」

「ほ、本当か!? ……いや、だ、だが」

茶々丸の言葉を聞いても、エヴァは納得がいかないようだ。
それを見て蛮は笑って挑発する。

「へっ、たかがテレビくらいでムキになりやがって、お前馬鹿だろ?」

「き、貴様ぁあ!」

今にも飛び掛らんばかりのエヴァを、自分の背中で隠して茶々丸は蛮を見る。
蛮はと言うと、唇の端を吊り上げて茶々丸を見返す。

「美堂様。さっきの事は私が謝ります。ですからマスターを挑発するのはやめてください」

そう言って頭を下げる茶々丸。
さすがの蛮もそんな茶々丸を見て、不機嫌そうな顔をしながらも黙ろうとするのだが。

「そんな男にお前が頭を下げる必要などない! 表に出ろ。くびり殺してやるわ!」

「誰がガキなんか相手にするか。一人で外に出て迷子になってのたれ死ね!」

「殺す!」

怒り暴れるエヴァと、その身体を押さえて宥める茶々丸。
そしてそれを見て、挑発する蛮。
それがしばらく続いた。







数分後、椅子に座りティーカップを置いて、息を吐くエヴァがいた。
その傍には茶々丸が立っている。

「……」

エヴァの対面には蛮。
彼もカップに注がれた紅茶を飲んでいる。
その紅茶を飲む仕草も、彼を知るものなら驚くほどさまになっていた。
それは何処か気品のある仕草だったからだ。
蛮は唇をカップから離し、ゆっくりとカップを置く。
そして瞳を少しの間閉じた後、瞳を開くと同時に話し出す。

「そろそろ俺を呼びつけた理由……聞かせてもらおうか?」

そう言って蛮は真剣な顔でエヴァを見る。
エヴァは蛮をみて唇の端を吊り上げ笑みを浮かべる。

「美堂蛮。貴様を呼んだ理由は……私が貴様に興味をもったからだ」

「へえ、お前みたいなガキが、俺に興味を? まさか俺様の好きな女のタイプでも聞きたいのか?」

蛮はそう言って皮肉げな笑みを浮かべる。

「ふっ、それも聞いてみたい気もするが……少し違う。だが貴様の事を知りたいというのは本当だ」

エヴァはそう言って、その容姿に似つかわしくない笑みを浮かべる。
それは、他者を魅了するようで、どこか危険を思わせる笑み。

「はっ、なら自己紹介でもするか? まあ俺の事はとっくに、学園長の爺に聞いているんだろうがな」

「ほう、きづいていたか」

エヴァは少しだけ驚いたという風に、目を見開く。

「そっちの人形娘が言っていたんだよ。てめえが俺の住所を爺から聞いたってな。そして俺の部屋の前で待ち伏せしてやがった。躾がなってないんじゃないか?」

「それは失礼した」

エヴァはちらりと茶々丸を横目で見る。

「申し訳ありません。ですが他に良い方法が思い浮かばなかったので、美堂様お許しください」

茶々丸は改めて詫びを言い、深々と頭を下げる。
蛮は頭を下げる茶々丸をみて舌打ちをする。
エヴァはというと、そんな二人の様子を面白そうに見ていた。

「さて、美堂蛮。詫びも兼ねて、我が別荘に貴様を招待しよう」

「いらねえよ。俺はここに晩飯を食いにきただけだからな」

「フフ……そう言うな。別荘で料理も用意するさ」

「他にも何かありそうだけどな」

「なに、貴様にとってもマイナスにはならん事さ」

「……いいぜ。いってやろうじゃねえか」

蛮とエヴァは互いの目を見て、唇の端を吊り上げる。
そしてエヴァは席を立つ。

「私は先に行く。茶々丸、そいつを案内してやれ」

「畏まりました」

茶々丸の返事を聞くと、エヴァは部屋から出て行った。
それを見送った茶々丸は、無言で紅茶を飲んでいる蛮の方を向く。

「では美堂様。案内いたします」

「わかったよ」

蛮はいかにも嫌そうな顔をして頷く。

「こちらです」

茶々丸はそんな蛮を見ても気にしたふうもなく、歩き出す。


蛮は茶々丸の案内で部屋を出て、すぐの場所で地下室に案内された。
そしてガラスのボトルに包まれたミニチュアの塔の前で、茶々丸は立ち止まった。

「こちらです」

「おいおい、別荘って言うのはこの玩具の事かよ。はっ、さすがはガキの別荘だな」

蛮はそう言って笑う。

「玩具ではありません。これに触れてください」

「ああ? こんな物に触れて――」

蛮が茶々丸に促されて、そのボトルに触れると蛮の見ていた景色が一瞬にして変わった。

高い建物の上、辺りには見渡す限りの空と海。
そこはどうやら、さっきまで見ていたミニチュアの塔の上のようだった。

「へえ、こいつは驚いたな。そういえば糞ババアが似たような物の話をしていた事があったな」

「こちらです」

蛮が感嘆の声を上げていると、茶々丸は今いる小さな塔と大きな塔を繋ぐ橋の上を歩き出す。
橋には手すりなども無く、足を踏み外せば落ちてしまうような橋だが、茶々丸と蛮は平然と歩いた。

大きな塔に着くと、そこは広い場所だった。
戦闘も十分にできる広さ。
そして奥にある宮殿のような建物。

「ようこそ私の別荘へ」

そう言って一人の美女が、宮殿から歩いて出てきた。
ボンテージのような魅惑的な衣装に、金髪の長い髪をした美女。
さっきまで蛮が話していた少女、エヴァンジェリンが大人になったらそのような姿になるだろうと、美女の豊かな胸を見ながら蛮は思う。

「自己紹介がまだだったな。私の名前はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。真祖の吸血鬼にして『闇の福音』と呼ばれる最強の悪の魔法使いだ!」

エヴァンジェリンと名乗る美女は不適に笑った。





[4354] 番外編1
Name: こい◆d9c51d38 ID:64223ef6
Date: 2009/04/19 08:51

『宿命背負いし者その手に掴め』
―番外編・出会い―





離れたからこそ思い出す。
それは遠い過去の記憶。

「なあ銀次……あの頃の俺達は笑っちまうくらい弱かったよな」

雨の降る日、蛮は雨宿りをしながら煙草を吸っていた。

思い出す。
他人を信じられず、力を振り回していた時。
思い出す。
出会いを。

「あの頃のお前は馬鹿みたいに眉間に皺をよせてやがったな」

思い出す。
あの出会いを……。




雨が降り止まぬ日。
雷の音がやけに耳に残る日だった。

「うぎゃああ! 顔があ!」

男達の集団がいた。
数は数十人にものぼる。
その中で泣き叫ぶ声が響いた。
顔面を己の血で染めた男が泣き叫ぶ声。
その声を無視して、血に塗られた手を蛮は眺めていた。
服には返り血が、そして顔のサングラスにも血が付いていた。

「ここはVOLTSの支配エリアだ」

その声に人の波が割れる。
その中から一人の男が歩いてくる。
年齢は蛮と同じくらいだろうか、彼の冷たいその瞳が蛮を射抜いていた。
冷たいが……どこか哀しそうな瞳だったなと思ったのは、その時からずっと後の事だった。

「すぐに立去った方がいいよ?」

その言葉は優しげであったが、声に秘められた敵意を感じる。
だから視線をそちらに向ける。

「……死にたくなければね!」

その言葉に血が騒ぐ。
蛮は身体を相手の方に向ける。
両手をポケットに入れて笑う。

「やってみな……」

向き合う二人は、この時には感覚的に分かっていたのだろう。
目の前の男は自分と同じ『場所』に居ると……。



「……銀次さん」

「お前達は帰っていてくれ……ここにいると危険だ」

銀次と呼ばれた男の言葉に、集団の男達は顔を見合わせ頷くとその場から去っていった。
あの男達の中では、この男は絶対的な存在なんだろう……そんなことを蛮は考えて銀次という男を見る。
空では雷が光っていた……。

「待たせたな」

「てめえが雷帝とか呼ばれてる男か?」

「その問いに意味はあるのか? これから死ぬ男に」

その言葉に蛮は笑いそうになる。
自分が死ぬ? お前程度の男に俺は倒せない……そう思って。

「確かにな、これから死ぬ奴の事なんかどうでもいいな」

その言葉と共に、二人は地面を蹴った。

蛮の拳が銀次の顔面に向かって放たれる。
銀次は頭を横に数センチずらし、その拳をかわす。
そして銀次は、その接近した距離から、回し蹴りを蛮の顔面に放つ。
蛮はそれをしゃがんでかわすと、地面を蹴り距離を取る。
そして相手を見ると、銀次も後ろに跳んで距離を取っていた。

離れながら、二人はこの時同じ事を思っていた。

『見えている』

どちらもまだ本気ではなかったが、それでも相手が強い事は分かった。
本気を出せるほどに……。
そうかつて無い程……。

「遅いな」

そう言って蛮は口元を歪める。
それを見て銀次は無言で地面を蹴った。

蛮の正面に走りこんだ銀次は、蛮の腹に拳を叩き込む。
確かに手ごたえを感じる。
だが次の瞬間、銀次の腹部にも衝撃が来る。
蛮の膝がめり込んでいた。

だが二人とも、痛みに動きを止めることはなく、銀次は足払いをかけようとする。
蛮はそれを軽く飛んでかわすと、お返しとばかりに銀次の顔面を蹴り飛ばした。
後方に吹っ飛ぶ銀次、それを冷たい目で見送る蛮に悪寒が走る。
即座に顔をずらすと、雷光が横切る。

(雷?)

そう考える蛮の顔からサングラスが壊れて落ちる。
雷の衝撃で壊れたのだ。
蛮はそれを見て口元を吊り上げる。

「これがてめえが雷帝と呼ばれる理由か」

蛮の目の前では、銀次が立ち上がっている。

「次は外さない」

銀次は手を掲げる。
その手から雷撃がほとばしった。
迫る電撃を蛮は飛んでかわす。
だが、目の前に銀次が現れて蛮の顔面に拳を放ってくる。
蛮はそれを右手で掴むと、その常人離れした握力で握りつぶそうとして、身体を電気が駆け巡る。
そして一瞬硬直した蛮を、銀次は蹴り飛ばす。
蛮は吹っ飛び、瓦礫の山にぶつかった。
砂埃が舞い、蛮の身体が隠された。

「っ」

銀次はその場でそれを見つめ、短く息を吐く。
だが即座に後ろを向くと、雷撃を放つ。

「ちっ」

舌打ちの下方向を見ると、しゃがんだ蛮が目の前まで来ていた。
顔面に向かって蛮の拳が昇ってくる。
その拳に交差するように、銀次も拳を振り下ろす。

拳の当たる音。

銀次は蛮の拳を逆の手で受け止めている。
蛮も銀次の拳を逆の手でうけとめていた。

そして瞬時に二人とも相手に蹴りを放つ。
蛮の蹴りは銀次の腹に、銀次の蹴りは蛮の顔面に……。
その衝撃に二人は後ろに吹き飛ばされた。



立ち上がり蛮は、口の中にある血を唾と共に吐き捨てる。
銀次はそんな蛮を冷たい目で見る。

「終わりにしよう」

「ああ?」

銀次は蛮の疑問の声を無視して、手を前に掲げる。
手の前に雷撃の塊が複数浮かぶ。
そしてそれが蛮に向かって飛んできた。

蛮は大きく跳んでよける。
雷撃が当たった地面は深く陥没していた。
いや……消滅していたのだ。
蛮はそれを見て、何かを決心したように大きく息を吸う。
そして紡ぐ。

「……その呪わしき命運尽き果てるまで 高き銀河より下りたもう蛇遣い座を宿すものなり」

「されば我は求め訴えたり 喰らえ――その毒蛇の牙を以って!!」

蛮の身体の内から、狂おしいほどの力が湧き上がる。
蛮はその力を右手にこめて、眼前に迫る雷撃に向かって振るった。

爆音が鳴り響く、蛮の居た場所から煙が立ち上る。

銀次は無感情にその場所を見つめる。
瞬間瞳に驚愕の色が走る。
煙の向こうに気配を感じたから、さっきまでも強い力を。

「てめえ終わったぜ?」

煙の向こうから声が聞こえる。
煙が晴れるとそこには、無傷の蛮が立っていた。
蛮の姿が消える。
いや、凄まじいスピードで銀次の目の前まで迫っていた。

銀次は雷撃を放つが、蛮は避けながら迫ってくる。
蛮の右腕が振りかぶられる。
その手は、牙の生えた口のような形に見えた。
飛び上がり避ける銀次。
瓦礫に足をつけて下を見下ろす。
冷たい瞳で蛮は銀次を見上げていた。

銀次はその瞳を見て、変な感覚を覚えた。
いや、戦いの最中も感じていたのかもしれない。
――この相手とは共に道を歩む事になる――
そんな考えが脳裏をよぎり、振り払うように銀次は呟く。

「お前は誰だ? ……何なんだ、お前は?」

「さあな」

蛮の言葉に、拳をこめて銀次は叫んだ。
その叫びと共に、空から銀次に向かって雷が降り注いだ。
そして銀次の身体から雷が放出された。



蛮は今までとは桁違いな電を纏う銀次を見ながら思う。
邪眼を使うか?
そう考えたが、すぐに却下する。
別に邪眼を使うことが卑怯だと考えたわけじゃない。
ただ、この相手は……この相手だけは自分の純粋な実力で叩き伏せたいと思った。
そして蛮は禁呪を紡ぐ。
その右手に宿りし、真の力を解放するために。

「その呪わしき命運尽き果てるまで 高き銀河より下りたもう蛇遣い座を宿すものなり」

「されば我は求め訴えたり 喰らえ――その毒蛇の牙を以って」

「汝が神に我が身を捧げん!!」

――コノコハ アクマノコヨ――

右手の変質と共に言葉が脳裏をよぎる。
その右手は正に悪魔の右手だった。

「殺す!」

「死ね!」

銀次は、今までの比では無い莫大な大きさの雷撃を蛮に向かって放つ。

「舐めんな!!」

蛮は悪魔の右手を着弾する雷撃に向かって、思いっきり振る。
爆音が響き雷撃はかき消される。
蛮は直ぐに地面を蹴り、銀次に向かって跳ぶ。
銀次も蛮に向かって跳んだ。

両者の拳がぶつかり合う。
片方は握り締められた悪魔の拳。
片方は雷を纏った拳。

ぶつかり合い衝撃で二人の服が所々裂ける。
そして蹴りを放ち合う。
両者の腹にめり込みながら、それでも二人は離れない。

拳が顔面を打つ。

雷撃が掠る。

膝がめり込む。

拳が頭を叩く。

気付けば二人は血だらけだった。

「うおおお!!」

叫びながら蛮が拳を顔面に放つ。
銀次はしゃがんで避けながら、足払いを仕掛けるがまたも跳んで避けられる。
そして気が付くと顔面に衝撃を感じて、吹っ飛んでいた。

「ぐふっ」

血を吐きながら立ち上がるも、目の前にまた蛮の足が迫ってきていた。
とっさに銀次は雷撃を放った。
銀次が体制を立て直すと、身体から血を流しながら立ち上がる蛮が見えた。

そして銀次は、残ったありったけの雷撃と力を拳にこめて、走り出した。
眼前にはもう蛮の姿が迫っていた。
銀次は拳を振りぬいた。

目の前に迫ってくる拳よりも速く、もっと速く。
奴を越えろ、限界を超えろ。
そう心の中で叫びながら蛮は拳を振りぬいた。





気が付くと銀次は、地面に大の字で転がっていた。
雨はもう止んでいた。
雲の隙間から見える太陽が、やけに眩しく顔を横に向けると、人の足が見える。
目線を上げていくと今まで戦っていた男の顔が見えた。
銀次は言葉を発していた。

「きみ、名前は?」

「美堂蛮」



蛮は空を見上げて息を吐いた。
気が付けば雨は止んでいた。
雲の隙間から自分達を照らす太陽のように、今まで仲間を失ってからずっと心にやどっていた暗雲が晴れた気がした。
そして今まで戦っていた相手を見下ろした。

「きみ、名前は?」

「美堂蛮」

「……俺は天野銀次」

蛮はその言葉を聞くと、銀次に背を向けた。

「じゃあなカミナリ小僧」

そう言った蛮は笑っていた。



「じゃあなカミナリ小僧」

そう言われた銀次は悔しさで泣きそうになった。
ここまで悔しいと思ったのは、生まれてきて初めてかもしれないと思った。
戦いに負けたことが悔しかった。
そして……名前を呼ばれなかったことが、自分を美堂蛮が認めなかったと思い悔しいと思ったのだ。

「認めさしてやる」

銀次はそう呟いた。

まだ彼らがコンビを組む前の出来事だった。





蛮は吸っていた煙草の火を消した。
見上げると雨は止んでいた。
空を見上げると雲の隙間から太陽が顔を出していた。

「……帰るか」

蛮は太陽の下歩き出した。
あの日のように蛮は笑っていた。

END



後書き

本編と期待していた方すいません。
今回は蛮と銀次の初めての出会い(戦い)を書いてみました。
原作でもこの話は無いので、気になっていたので自分で書きました。
正直自分の力量ではこの程度で限界です。
本当はもっと上手に書ける人か、原作者に書いてもらいたい話でした。

補足ですが自分は雷帝にはいくつか種類があると思っています。
1、原作で一番多かった切れたときになる雷帝。
2、初めての無限戦でのVS赤屍戦での99%までいった雷帝の100%。
3、最後の無限上で蛮が悪魔の右手で戦った、無限上が力を貸して顕現した雷帝。
4、そして呪術王と戦った時に言われた『真の雷帝』
今回の話の雷帝2番目だと思ってもらえればいいです。

もう一つ、蛮がデモンズアームを使っているのは原作の回想でこの時使っていたからです。
ですがこの話ではサングラスを壊しましたが、原作では壊れていません。
これはわざとです。

ではここまで読んでくださってありがとうございました。



[4354] 作者の息抜きで書いた短編、名づけるなら「ハミガキポ」
Name: こい◆d9c51d38 ID:d9d3b3d0
Date: 2009/09/23 18:29

うん?
おお、いらっしゃい。
作者が本編の9話を投稿する前にこの話に気が付くとはアンタ此処の常連さんかい?
いつもきてくれてありがとよ。
まあ別に特に何も無いところだけどな。
今日は俺が、代理の店長みたいなことさせられててよ。
自分の店だけで手が一杯だってのに。
まったく人使いの荒い奴だよ。
おっとすまねえな、何か俺の愚痴聞かせちまって。
下にある話は、作者が暇つぶしと息抜きをかねて書いたものらしいぜ。
まったく、あきれるよな。
あとsage機能を試したかったらしいが、修正するのにいきなり使うのが不安だったらしいんだ。
まあ、アンタが「仕方ない、作者の暇つぶしに付き合ってやるか」と思うなら読んでやってくれ。
残念ながら俺はでないがな。


ああ!そうそう言い忘れていたぜ。
すぐ下に「このネタを書いた理由」と言うものがあるがネタにしか興味がなければ読む必要はないぞ。
作者の愚痴のような物が書いてあるだけだからよ。





*下の文章は作者の戯言に興味が無い人は飛ばしてもらって大丈夫です。



「このネタを書いた理由」


『8話のあとがきを書いた後、私は思いました。
『モミポ』ではだめなのかと。
そして思いつきました! その名も『ハミガキポ!』具体的にはこの物語を読んでください。
あとこの話は本編には一切関係ないネタです。
9話書こうとおもったのですが、8話を投稿した日の晩、私はベッドに横になったのですが30分くらい寝付けませんでした。
するとなにやらカサカサと言う音が聞こえました。
私は枕もとに本などを置いているので、それが擦れた音かなと初めは思うようにしました。
しかし気になり電気を点けると……天井の壁に黒い悪魔ことGがいたのです!
私は急いでベッドから降りて殺虫剤を噴射しまくりました。
幸いGは倒して、屍をトイレに流すことができたのですが、部屋に殺虫剤が充満しました。
私の部屋にはエアコンはありますが、換気扇はありません。
仕方なく窓を開けて、部屋から殺虫剤が消えるまで2時間くらいでしょうか。
そして私は寝ようとしましたが、もう電気を消してベッドに横になるのが恐くなり寝れませんでした。*(実話です。)
そしてそんな事もあり9話で考えていた話は吹き飛んでしまったのです!
……いやまあ、吹き飛んだのは言いすぎでした。
ぶっちゃけこの話は時間稼ぎかもしれないです。
ですが、GBの原作に描かれはしませんでしたが、蛮と彼女の間には今から描く秘話があったのです! (作者の捏造ですが)
……でも書いてから思うと、このネタの話ってSSではよくあるなぁ』






*下から本編です。




蛮&卑弥呼ver

『思い出の』




「う~ん」

卑弥呼は鏡の前で首をひねって悩んでいた。

(この間の仕事で両手怪我しちゃったからな~、歯が磨けないわ……兄貴は今いないし)

卑弥呼は兄妹で『奪い屋』という裏の仕事をしている。
最近は彼女の兄が、どこからか卑弥呼より少し年上の男を拾ってきてしまったので三人だが。
とりあえず、それは置いておいて先日、卑弥呼はミスをしてしまい、両手に怪我をしてしまったのだ。

だから彼女は今悩んでいた。
お風呂も入ったし、寝たい……寝たいのだが歯を磨かないのは嫌だった。
しかし両手が使えず、どうしようかと悩む卑弥呼。

卑弥呼が悩み続けていると、いきなり扉の開く音が聞こえて振り向くと、少年が立っていた。
『美堂蛮』兄が拾ってきたじぶんより年上の男。
蛮はいつも卑弥呼の事をからかってくるので、卑弥呼は蛮のことをあまりよく思っていなかった。
そんな事を思われているとは知らない蛮。
彼は卑弥呼を見ると意地の悪い笑みを見せる。

「よう卑弥呼。何やってんだよ? 」

「あんたには関係ない」

「あ? ……わかったぜ。鏡見て自分に見惚れてたんだろ? 卑弥呼。一つ忠告しといてやるが、お前の顔は鏡を見て自分で見惚れるほどじゃねえぞ。まだ乳も小さいガキだしな」

「黙れ」

卑弥呼は蛮の言葉に、顔面を殴りつけてやりたい衝動に襲われたが両手がこの状態。
仕方なく卑弥呼は蛮の腹に蹴りを入れた。

「ぐっ、て、てめえ」

(別に自分が可愛いなんて自惚れていないわよ)

蛮はあんなことを言って、卑弥呼自身そう思ってはいたが、卑弥呼と同年代の子を比べれば確実に卑弥呼は可愛いといえる美少女ではあった。
しかし蛮がそんな事を素直に言うはずも無いので、卑弥呼にその自覚は無かったが。

「くそっ……で、どうしたんだよ?」

「うるさいわね。ほっといてよ」

「てめえ人が親切に聞いてやってんのに!」

「ふん」

そう強がってはみたが、卑弥呼は悩む。
歯を磨かずに寝るのは嫌だ。
だがそんな事を目の前の男に言うのも嫌だった。

「かわいくねえな……そうか、歯磨けねえんだな?」

しかしこの男は気が付いてしまう。
基本的に蛮は鋭いのだ。
まあこの場合は気付かないほうがおかしいが。

「……そうよ」

「ふ~ん。今日は諦めて寝たらいいじゃねえか」

「そんなの嫌よ!」

「めんどくせえ女だな」

蛮はそう言って溜息を付くと歯ブラシを洗面台から取る。
歯ブラシは3本あり、蛮が青、邪馬人が黒、そして卑弥呼の歯ブラシはピンクだった。
普段男勝りな卑弥呼だが、やっぱり女の子なのだ。
歯ブラシくらいは可愛い色がいいと、この色の歯ブラシにした。

そして蛮が手に取った歯ブラシはピンク。

「ちょっと、それあたしの歯ブラシ」

「わかってるよ」

「?」

卑弥呼は蛮の意図が読めず、首を傾げる。

「磨いてやるよ」

「……はぁ? いいわよ!」

まさか蛮がそんな事を言い出すとは思ってもいず、卑弥呼は一瞬理解できず。
理解した瞬間顔を赤くして怒鳴った。
また蛮が自分をからかっていると思ったからだ。

(あれ?)

しかし蛮の顔は普段、卑弥呼をからかったりする時のような顔ではなく、真剣な顔をしていた。

「両手使えないんだろ?」

「う、うん。でも」

「邪馬人もいつ帰ってくるかわかんねえし、それにそのまま寝たくねえんだろ?」

その通りだった。
だが卑弥呼も年頃の女の子。
自分と歳が近い男の子に歯を磨いてもらうなど恥ずかしい。
だが、この時は、それよりも歯を磨きたいと言う気持ちが勝ったのか、或いは混乱していたのか、卑弥呼は蛮の言葉に頷いて返していた。

「よし、じゃあ」

「ちょ、ちょっと待って!」

「なんだよ?」

「磨く前に……うがいだけさせて」

蛮から目をそらし、俯き加減で卑弥呼は、いつもとは違う弱弱しい声で言った。
卑弥呼も女の子。
やはり普段から一緒に生活してる相手でも、恥かしい物は恥ずかしい。
口の中を見せる前に、少しでも綺麗にしておきたかったのだ。

蛮もそれは分かったのか、頷く。
コップに水を入れると、「来いよ」と言って卑弥呼を洗面台の所までよび、コップを卑弥呼の口元にもっていき、ゆっくりと傾ける。

卑弥呼は水を口に含むと、念入りにうがいをして、水を吐く。
それを5回ほど続けて、蛮に「もういいよ」と言った。
蛮は頷くと、卑弥呼をその場に座らせる。
そして蛮も卑弥呼の前に座りこんだ。

「じゃあ磨くぞ。口あけろ」

「う、うん」

「よし」

「あ、あのさ!……その」

「なんだよ?」

「……ごめん。なんでもない」

歯ブラシを近付けてくる蛮。
それと共に、蛮の顔も卑弥呼の顔に近づいて、卑弥呼は思わず声を上げる。
しかし、何を言っていいかもわからず、謝るだけだった。

「おら、あけろ」

「う、うん」

卑弥呼は、ゆっくりと口を開く。
しかし恥ずかしいのか、瞳は閉じて。
ピンク色の舌と白い歯が、蛮の目に映る。
それを見て頷くと、蛮は歯ブラシを卑弥呼の歯に当てて動かし始めた。

「あ」

「痛かったか?」

「んん」

蛮の心配するような声に、卑弥呼は口を開いたまま、少しだけ首を横に振る。
蛮はそれを見ると、歯ブラシの動きを再開させる。

蛮の磨き方は、卑弥呼が思っていたような、普段の荒々しさはなく、凄く優しく繊細な磨き方だった。
それが予想外に心地よく、卑弥呼は声を上げてしまったのだ。

(蛮って歯を磨くの上手いんだ)

そんな事を考えながら、蛮の顔を卑弥呼は見る。
そして蛮の瞳を見て、卑弥呼には、その真剣な瞳が綺麗に見えた。
蛮自身は自分の眼を嫌っていることは、卑弥呼も知っている。
『邪眼』呪われし瞳。
それでも卑弥呼は戸惑い無く、その瞳を見つめた。

その間も蛮の歯磨きは続く。

「ん」

「なんだよ?」

「んん」

卑弥呼は、蛮の言葉に頬を赤く染めながらも、首を横に振って、「なんでもない」と伝えるために。
蛮もそれが分かったのか、そのまま続けた。



「終わったぞ」

蛮が言う。
卑弥呼は、どこか、思考がうまく出来ない気がしながらも、ゆっくり頷いた。

(……終わったんだ)

そして卑弥呼は、蛮に水を口に含ませて貰い、うがいをした。

「なかなか上手かっただろ?」

蛮は無邪気に笑いながら、卑弥呼にそう尋ねる。

「……うん」

卑弥呼はただ頷く。
その顔は心此処にあらずという風に見える。
そんな卑弥呼に蛮は首を傾げた。

「あたし、寝るね。……ありがと」

卑弥呼はそう言葉を残して、洗面所から出て行った。

残ったのは首を傾げる蛮だけだった。



卑弥呼は自分の部屋のベッドに潜ると、顔に一気に血が上るのを自覚した。
さっきまでは、頭がうまく回らなかったのだが、ベッドにもぐった途端に思考がはっきりして、さっきまでの自分を思い出したのだ。

(あたし、蛮の前で……)

恥ずかしさが込み上げてくる。
過去の自分に会えるなら、「蛮に歯を磨いてもらうなんてやめなさい!」と言うだろう。
だが。

(……優しい磨きかただったな)

卑弥呼は思い出して、意思を飛ばして、はっとしては顔を赤くした。

(でも両手こんなだし、明日も……)

そして卑弥呼の一日は終わるのだった。

その日から卑弥呼は蛮を見ると、たまに頬を赤く染めて、疑問に思った蛮や邪馬人に尋ねられると、「なんでもない!」と怒鳴りつける日が続くのだった。

END



あとがき

何書いてるんだろ?
まあ原作の卑弥呼が、蛮に好意を持っているのはこういう事があったからですね!
というのは冗談ですが、この頃の二人ってまだ子供ですし、こういう出来事が卑弥呼が蛮を少しずつ意識するきっかけになったとか。
だめですかね?
……ですが、蛮と卑弥呼って実の兄妹なんですよね。
原作でも蛮は卑弥呼の気持ちに気付いてるっぽいですけど、その事を知っているから答えるつもりはなかったみたいです。
当たり前ですよね、兄妹ですし。
ここまで読んでくださってありがとうございました。





よお、ここまで読んでくれてありがとな。
うん? なにか複雑そうな顔だな。
わかるぜ、俺も人を相手にする商売をしてるからな。
まあこの話を深く考える必要は無いさ。
作者の奴も深く考えずにかいたらしいしよ。
じゃあ、また来てやってくれや。
作者もよろこぶだろうしよ。
じゃあな、来店ありがとよ。








感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.044969081878662