シャルロットの問題が一段落し、平凡な学院生活に戻ると思われた拓也。
しかし・・・・・
第二十二話 魔法学院のとある一日
シャルロットの家から学院に戻ってきた翌日。
朝、拓也が目を覚ましたとき、
「・・・・・・・なんだこりゃ?」
部屋中が荒れていた。
机は倒れ、タンスは横倒しになり、あちこちに焼け焦げた跡とと水溜り、壁や床などには切り傷がある。
更に見回すと、アイナ、シャルロット、イルククゥが床で寝ていた。
しかも、イルククゥは覇竜刀を掴んでいた。
「おいおい・・・・・・」
拓也はなんとなく予想がついた。
おそらく、夜中にシャルロットとイルククゥが忍び込んできたのだろう。
それにアイナが気付き、戦闘になった。
イルククゥは人間形態の時には、先住魔法が使えないので覇竜刀を武器にした。
拓也が起きなかったのは、眠りの雲か何かを使ったのだろう。
拓也の寝床の周りだけは、なぜか全くの無傷だ。
「やれやれ・・・・・・」
起こすにはまだ少し早い時間だったので、拓也は覇竜刀を鞘に納め(鞘は、ギーシュに作らせた)、背負い、3人に毛布をかけてやり、外へ出る。
外にある水汲み場まで行き、顔を洗う。
拓也はふと思いつき、覇竜刀を抜く。
広場にある木の傍に行き、少し太めの枝に向かって覇竜刀を振った。
――スパッ
と、殆ど手ごたえなく枝を切り落とした。
しかも、その断面は鏡のようにつるつるである。
「・・・・・・・・・・・」
拓也は、今度は拳大の石を拾う。
左手で石を放り、右手で覇竜刀を空中の石に向かって振り下ろした。
――スパッ
枝よりかは手ごたえがあったが、問題なく両断した。
その石の断面も鏡のようにつるつるであった。
拓也は両断した石の片方を拾い、断面の角に沿って指を動かす。
指の皮膚が切れて、血が出てきた。
「・・・・・・切れ味良すぎだろ」
拓也は覇竜刀の切れ味に戦慄を覚えた。
覇竜刀を鞘に納め、血が出た指を舐めてアイナの部屋に戻った。
部屋に戻ったが3人はまだ寝ていた。
起こすのが怖いが、ほっとく訳にはいかないので声をかける。
「お~い!朝だぞ~!起きろ~!」
そう言うと、それぞれがもぞもぞと動き、眠そうに起き上がる。
「3人とも、おはよう」
「おはようタクヤ・・・・」
「・・・・・おはよう」
「タクヤさま、おはようなのね・・・・・」
3人が目を擦りながら挨拶を返す。
「おう。シャルとイルククゥは早く自分の部屋に戻れよ。アイナは着替えて。俺は外で待ってるから」
と、3人に突っ込む暇を与えずにそう言って、逃げるように部屋から出る。
因みに、拓也のシャルロットの呼び方は、『シャル』になった。
シャルロットからそう呼んで欲しいと言われたので了承したのだ。
廊下に出て暫くすると、制服に着替えたアイナが部屋から出てきた。
「やっと来たか。シャルとイルククゥは?」
「窓から出てったよ」
その言葉に納得し、2人は食堂へ向かった。
朝食時、拓也はいつも通りアイナの隣に座る。
すると、拓也の隣にシャルロットが座った。
「な、何でそこに座るの?シャルロット」
拓也を挟んで、アイナがシャルロットに問いかける。
「私は彼の騎士。いつも一緒」
その言葉に、アイナはむっとする。
「はあ・・・・・・食事の時ぐらい落ち着いて食わせてくれ」
拓也はため息をつき、そう呟く。
因みに、シャルロットの隣に座ったキュルケは、面白そうな笑みを浮かべてその光景を見ていた。
前よりも感情表現が多くなったシャルロットが嬉しいのだろう。
「フフフ・・・・・頑張りなさいよ、シャルロット」
そう言ってキュルケはシャルロットの頭を撫でる。
シャルロットは頬を染め、心なしか拓也に寄り添う。
それを的確に察知したアイナからは、いつもの如く黒いオーラが滲み出た。
「頼むから、焚きつけるような真似は止めてくれ」
拓也は、哀願するようにそう呟いた。
授業中。
拓也は授業には同行せずに外にいた。
拓也は使い魔扱いなので、授業には出なくても全く問題ない。
流石に授業中までも黒いオーラに晒されては堪らない。
ゆえに、授業中は外でのんびり過ごそうと考えていた。
しかし、拓也に想いを寄せる竜がいることを忘れてはならない。
「きゅい!タクヤさま~!」
何処からともなくイルククゥが現れ、拓也に抱きついた。
少し前までなら、拓也は大いに慌てていたのだが、
「いきなり抱きつくなっていつも言ってるだろ」
慣れてきたのか意外と落ち着いている。
やっぱり男として美女(竜だが)に抱きつかれて悪い気はしない。
いつもはアイナの嫉妬が怖いために逃げるだけだ。
今は授業中なので、アイナに見つかる心配はない。
なので、邪険に扱うような事はしなかった。
拓也は昼まで、イルククゥと2人でほのぼのと過ごした。
だが、2人は忘れていた。
イルククゥは、シルフィード。
つまり、シャルロットの使い魔なわけで。
拓也と才人は別だが、普通の使い魔は主と感覚を共有する事が出来る。
それ即ち、イルククゥが拓也と2人で過ごした事はシャルロットに筒抜けなのであった。
授業中、
「シルフィード、後でお仕置き」
と、シャルロットは誰にも聞えないぐらいの小声でポツリと呟いたのであった。
昼。
昼食が終わった後の休憩時間。
外にあるテーブルの一つに、拓也、アイナ、才人、ギルモン、ルイズ、キュルケが集まっている。
因みにシャルロットは、シルフィードにお仕置き中でここにはいない。
最近は、このメンバーでいる事が多くなっている。
拓也と才人もだいぶ学院生活になじんでいるわけだが、やはり平民と見下す人物は多い。
だから、こんなことが起こるのだ。
「おい、平民共」
そんな声がかけられ、拓也と才人は振り返る。
そこには、1人の貴族の少年がいた。
「なんだよ?」
才人が面倒くさそうに問い返した。
「ここは貴族の為の場所だ。卑しい平民はどこかへ行きたまえ」
その貴族はそんな事を言ってきた。
「俺達は使い魔だし。それに何処にいようと俺達の勝手だろ。つーか、お前誰だよ?」
目の前の人物は、才人は記憶には無い。
「ヴィリエ・ド・ロレーヌ。入学早々、シャルロットに決闘を申し込んであっさり返り討ちにあった情けない男よ」
そう答えたのは、キュルケ。
「ふーん・・・・って、シャルロットって誰だっけ?」
シャルロットの名前に聞き覚えが無い才人は首を傾げる。
「ああ。あなた達は知らなかったわね。タバサの事よ。彼女の本名がシャルロットなの」
「え?そーなの?」
知らなかった才人とルイズは、軽く驚き、ヴィリエのことなど既に眼中に無い。
無視されていたヴィリエが声を上げた。
「へ、平民の分際で、僕を無視するなぁ!」
「まだいたのかよ。怪我したくなかったらどっかいけ」
才人はそう言って追っ払おうとする。
「ふ、ふん!貴様、ギーシュ如きに勝った位で、いい気になるなよ」
その言葉を聞き、拓也はアイナに問いかける。
「なあ、コイツのレベルは幾つなんだ?」
「ヴィリエ?えっと・・・・・・・確かラインメイジだったと思うけど・・・・」
アイナは曖昧ながらも記憶を引っ張り出す。
「ホントかよ?ギーシュより弱そうに見えるんだけど」
拓也は思ったままの事を言った。
それが、ヴィリエの耳に入ったらしい。
「待て。今のは聞き捨てならない。僕がギーシュより弱いだと?」
拓也にヴィリエがそう問いかける。
「身に纏った雰囲気からそう判断しただけだけど」
拓也はそう答える。
「はっ!君の目は節穴だな!ギーシュは『ドット』だが、僕は『ライン』だぞ。君のご主人様と同じさ」
「アイナがライン?」
拓也はふとおかしいと思ったが、
「ああ。そういえば、そういう話だったけ」
アイナは周りにはラインと認知されていた事を思い出し、納得する。
「でも、そうやってラインぐらいで力を過信してること自体が、ギーシュより劣ってるって言ってるようなもんだな」
拓也の素直な感想であった。
それが引き金であった。
「くっ、平民の分際で、何処までも僕を馬鹿にするつもりか!?いいだろう。その考えが誤りであることを証明してやる。君に決闘を申し込む!」
ヴィリエは拓也に杖を突き出してそう言った。
「11歳の子供に決闘を申し込むか普通・・・・・」
拓也はため息をつきながらそう呟いた。
「まあ、試したい事があるから別にいいけど」
拓也は立ち上がる。
「ヴェストリの広場だ。そこでやるぞ」
ヴィリエはマントを翻し、ヴェストリの広場へ歩いていく。
「あいつって、タクヤの強さ知らないのかしら?」
ルイズがそう呟く。
不幸にも、ヴィリエは拓也と才人が実際に戦ったところを見ておらず、人伝に聞いただけだった。
「地面に這い蹲る姿が目に浮かぶわね」
キュルケが面白そうに呟く。
「それじゃ、俺も行くから」
拓也は、ヴェストリの広場へ向かった。
丁度その時、別方向からシャルロットが戻ってきた。
ヴェストリの広場へ向かう拓也に気付き、
「タクヤは何処に向かったの?」
キュルケに尋ねた。
「ド・ロレーヌに決闘を申し込まれたのよ」
キュルケはそう答える。
シャルロットは一瞬ピクリとする。
「タクヤは、試したい事があるって言って、決闘を受けたの」
アイナが続けた。
シャルロットは、それを聞くと、踵を返しヴェストリの広場へ向かおうとする。
「見に行くの?ド・ロレーヌとの決闘なんか見るまでも無いと思うけど」
キュルケがそう聞くと、
「『試したい事』が気になる」
そう言って、ヴェストリの広場へ向かった。
「そう言われると気になるな。俺も見て来るか」
才人も立ち上がる。
既にアイナは、その場にはいない。
結局、キュルケも気になったのか、ヴェストリの広場へ向かう事にした。
ヴェストリの広場では、拓也とヴィリエが対峙しており、いつかの時と同じようにギャラリーが多数いる。
ヴィリエがなにやら口上を述べているが、拓也は聞いちゃいない。
「お~い。訳の分からん事ばっかり言ってないで、さっさと始めようぜ」
拓也はそう言った。
ヴィリエはそれを聞くとやれやれと首を振る。
「まったく。せっかちな平民だな。貴族の決闘には作法がある。まあ、平民の子供に言っても分からないかもしれないが」
拓也は、相手が実戦経験の無い、全くの素人だということを感じる。
実戦を少しでも知っていたら、口上の途中でもこんなに隙だらけにはならないだろう。
拓也は無言で、右手で覇竜刀を抜き、左手で地下水を持ち、構えた。
「フフフ・・・・・平民らしい武器だな。一応名乗っておこう。ヴィリエ・ド・ロレーヌ、謹んでお相手仕る」
「神原 拓也。アイナの使い魔だぜ」
拓也も名乗り返す。
すると、ヴィリエは堂々と杖を振り上げる。
「平民の名前などには興味はない!いざ!」
ヴィリエは呪文を唱え、杖を振り下ろす。
『エア・カッター』、真空の刃で相手を切り裂く呪文だ。
空気の刃のため、攻撃が見え辛く、『風』の下級呪文の中でも厄介な魔法である。
本来なら。
相手に気付かれないように唱えれば、効果的な呪文なのだが、ヴィリエは堂々と杖を振り上げ、呪文を放ったのだ。
そんなのは、相手に呪文の出のタイミングと狙う場所を教えているようなものだ。
拓也は、杖が振り下ろされると同時に、覇竜刀を前に突き出す。
覇竜刀には『反射』がかかっているので、当然の如くエア・カッターはヴィリエにはね返る。
エア・カッターは、ヴィリエの頭上を通過し、ヴィリエの髪を何本か切る。
「へっ?」
ヴィリエは、何が起こったか把握しておらず、呆けている。
拓也は、その隙を見逃さない。
「『エア・ハンマー』」
地下水の力を使い、エア・ハンマーの魔法を唱える。
圧縮された空気の塊が、ヴィリエの顔面に直撃する。
「ごぶっ!?」
ヴィリエはぶん殴られたように吹き飛び、杖が手を離れ、宙に投げ出される。
拓也は、足に力を込め、
(スピリットを、体に同調)
一気に地面を蹴った。
ガンダールヴを発動させた才人に迫るほどのスピードで地を駆ける。
宙に投げ出された杖を覇竜刀で両断。
そのまま切り返し、ヴィリエの首筋で覇竜刀を寸止めした。
「勝負ありだな」
拓也は勝ちを宣言した。
決闘開始後、ジャスト10秒の決着であった。
「え?あ?え?」
ヴィリエは何が起こったか理解できていない。
拓也は覇竜刀を鞘に納め、地下水をしまうと、アイナ達のほうに向かって歩き出す。
「やっぱりギーシュの方が強いな」
拓也はぼそりと呟く。
その言葉は、ヴィリエのプライドを完膚なきまでに打ち砕いた。
ヴィリエは、ショックの余り地面に手を付き、うな垂れた。
それを見ていた、アイナたちは軽く驚いていた。
「え?進化してないのに何で・・・・?」
アイナが拓也の身体能力に驚く。
「今の、ガンダールヴを発動させた俺と同じぐらいの速さだったぞ」
才人がそう言う。
「どうなってるのかしら?」
キュルケが疑問に思う。
「恐らく、今のが『試したい事』」
シャルロットはそう推測する。
元々、拓也の身体能力は、11歳の中では運動神経抜群の類に入るのだが、あくまで子供のレベル。
高校生である才人と比べても、拓也のほうがかなり劣る。
だが、拓也はスピリットを肉体と同調させ、進化せずとも一時的に身体能力を跳ね上げる事が出来るのだ。
その力は、1人でエレベーターの部屋を押し倒せるほど。
これは、ルーチェモンとの最終決戦の前に一度やった事であり、今回の決闘で、出来るかどうか試したのだ。
結果は上々。
進化と違い、タイムラグも無い為、咄嗟の時には重宝する。
と、そんな事を拓也が考えていた時、影が拓也を覆った。
拓也が振り返り見上げると、10メイル位の岩のゴーレムが、拓也を踏み潰さんとばかりに、足を振り上げていた。
「げっ!」
拓也は声を漏らす。
ゴーレムは躊躇なく足を振り下ろした。
――ズズーン
地鳴りが響く。
「はーっははは!!平民め、思い知ったか!!」
ゴーレムの肩の上で、男子生徒が大声を上げて笑っている。
「あの平民に苦渋を舐めさせられて数ヶ月・・・・・ついに、ついに復讐を「あっぶね~」何!?」
拓也は、ゴーレムの足をギリギリで避けていた。
身体能力を上げることを試していなかったら、やばかったかもしれない。
「おのれ、しぶとい奴め!」
拓也はゴーレムを見上げる。
「つーか、お前誰だよ!?」
拓也は叫んでそう問う。
「な!?僕は貴様に苦渋を舐めさせられた事を一時も忘れた事はなかったのに!き、貴様という奴は」
その男子生徒は、そう言うので、拓也は記憶を掘り起こす。
「え~っと・・・・・・」
拓也は考えるが、思いつかない。
「き、貴様~~!!もう許さん!!『トライアングル』となった僕の実力を思い知れ!!」
その男子生徒は勝手にキレる。
が、それ以前に、拓也を危ない目に合わせたことが、2人の乙女の逆鱗に触れたことに男子生徒は気付いていない。
「忘れたと言うのなら思い出させてやる!!この僕!『岩石』のグ・・・・」
そこまで言ったところで、無数の炎の矢がゴーレムを粉々に粉砕する。
「うわあっ!?」
男子生徒はレビテーションで無事に地面に着地するが、
「ひゃあ!?」
今度は氷の矢が飛んできて、男子生徒のマントを地面に縫い付ける。
男子生徒は、氷の矢が飛んできた方を見た。
「ひいっ!?」
思わず悲鳴を上げる。
その視線の先には、真っ黒なオーラを纏った赤毛の少女と、いつもは無表情なその顔に、静かな怒りを露にした青髪の少女。
言わずもがな、アイナとシャルロットである。
流石にこの雰囲気は拓也でも少し引いた。
2人はゴーレムを操っていた男子生徒に、近付いていく。
「ふ、2人とも・・・・・何かな・・・・・・?」
その男子生徒は、恐る恐る問う。
「タクヤを、傷つけようとした」
アイナが呟く。
「彼を・・・・殺そうとした」
シャルロットの呟き。
「そ、それがどうかしたのかな?」
今の2人に拓也を格下に見る言葉は、禁句である。
その男子生徒の、「一体何が悪いのか?」と言いたげな態度に、2人はプッツンした。
――ゴウッ
アイナから炎が、シャルロットから氷嵐が巻き起こる。
「ひっ、ひいいいいいっ!?」
それに恐怖する男子生徒。
「覚悟は・・・」
「・・・いい?」
2人の言葉に、ガタガタと震える。
そして、
「ぎゃあああああああああああっ!!」
炎と氷の嵐に呑まれ、絶叫が響き渡った。
夜。
拓也は、五右衛門風呂に入っていた。
「ふ~、やっぱり風呂は落ち着くな」
1日の疲れを癒す拓也。
ハルケギニアに来てから、この風呂に入るときが、一番心休まるときであった。
シャルロットも加わり、拓也の気苦労は1,5倍である。
「ふい~、モテ過ぎるのがこんなに大変だとは知らなかったな~」
拓也は呟き、双月を見上げる。
「まあ、悪い気はしないんだけど・・・・」
と、呟いたとき、月に影がかかる。
「ん?」
拓也は目を凝らす。
「あれは・・・・・・」
その影は人型で、どんどん大きくなっている。
否、落下してきていた。
「なっ!?」
「きゅい~~~!」
――ドッボォォォォン
その影が、ダイレクトで風呂釜に飛び込んできた。
幾分か、湯が減ったが、浸かるには問題ない。
「な、なんだぁ?」
拓也は何が落ちてきたのかと視線をやると、
「きゅいい~!」
お湯の中から、イルククゥが勢い良く顔を出した。
水滴が飛び、双月の光を反射し、イルククゥを幻想的に見せる。
「あ・・・・」
拓也は、一瞬その姿に目を奪われた。
が、すぐに我を取り戻し、現状を把握する。
目の前にはイルククゥ。
もちろん裸である。
「どわああああああっ!!??イ、イイイ、イルククゥ!?一体何やってるんだよ!?」
腕で目を覆い隠しながら後ろを向く。
「きゅい。タクヤさまがお風呂に入ってるのが見えたから、シルフィも一緒に入ろうと思ったのね」
イルククゥはそう言う。
「ふ、普通は男と女は一緒に風呂に入るもんじゃない!」
拓也は叫ぶ。
「きゅいきゅい。シルフィは気にしないのね」
イルククゥは笑いながらそう言う。
「俺は気にするんだよ!」
顔を真っ赤にしながら拓也は叫んだ。
そのとき、
「な~にやってるのかな~」
凄まじく重い声が聞えた。
拓也は恐る恐る視線を其方に向ける。
そこには、アイナとシャルロット。
「きゅいきゅい。一緒にお風呂入ってるのね」
イルククゥはなんでもないように言う。
拓也は既に覚悟している。
「ふ~ん」
アイナとシャルロットがゆっくりと杖を掲げようとした。
だが、
「きゅい。お姉さま達も一緒に入る?」
イルククゥの一言で2人の動きがピタリと止まる。
「どういうつもり?」
シャルロットがイルククゥに問う。
「シルフィ考えてみたのね。タクヤさまは、お姉さまが好きな人。けど、シルフィもタクヤさまのことが好きなのね。これだけは、いくらお姉さまでも譲れないのね」
イルククゥはハッキリとそう言った。
「だから?」
シャルロットは、続きを促す。
「シルフィ、タクヤさまの事が好きだけど、お姉さまの事も好きなのね。お姉さまと争いたくはないのね。だから、お姉さまがタクヤさまを好きでも構わないのね。それに、あんまり争い合ってると、タクヤさまに愛想尽かされちゃうかもしれないのね」
その言葉を聞き、2人は、うっとなる。
「タクヤさまも、シルフィ達が争うより、仲良くしたほうが良いと思うのね?」
「まあ、そりゃあ、争い合うよりも仲良くしてくれたほうが良いに決まってるけど・・・・・・」
「きゅい!タクヤさまもそう言ってるのね。お姉さまも、仕方ないからおチビも、仲良くするのね」
アイナとシャルロットは互いに顔を見合わせる。
「シャルロットの使い魔もやるね」
「アイナの使い魔ほどじゃない」
互いに微笑む。
「きゅい!それならお姉さま達も一緒にお風呂入るのね」
イルククゥがそう言う。
「じゃ、じゃあ、俺はもう出るから・・・・」
そう言ったが、
「「「ダメ(なのね)!!」」」
3人揃ってそう言われた。
5分後。
「な~んでこうなるのかな・・・・・」
顔を赤くしながら、拓也はポツリと呟く。
拓也は風呂釜の端によって、外側の方を向いている。
「タクヤ、こっち向いたら?」
アイナが話しかける。
「向けるわけないだろ」
「暗いから大丈夫」
シャルロットもそう言う。
(何で3人ともこんなに大胆なんだよ!?)
拓也は心の中で叫ぶ。
拓也は外を向いていても心臓バクバクである。
それもその筈、拓也の後ろでは、アイナ、シャルロット、イルククゥがいるのだ。
もちろん裸で。
そんな美少女2人と、(外見が)美女1人と一緒に風呂に入っていると考えるだけで拓也の頭は、オーバーヒート寸前だ。
そんな時、
「タクヤ」
アイナからまた声がかけられた。
「ん?」
拓也は声だけで返事をする。
「タクヤ、改めて言うけど、私は、タクヤのことが好きだからね」
いきなりアイナからそんな事を言われ、拓也の顔が更に真っ赤になる。
「きゅいきゅい!シルフィもおチビに負けないくらいタクヤさまの事が大好きなのね」
イルククゥも便乗して言った。
「~~~~~~~~ッ!」
拓也は余りの恥ずかしさに声にならない声を漏らす。
「タクヤ・・・・・・・好き」
シャルロットは顔を真っ赤にしつつ、俯いて呟いた。
それがとどめだった。
拓也は、頭に血が上り、尚且つ長時間湯に浸かっていたので、のぼせてしまった。
拓也は気を失い、湯船の中に沈む。
3人は慌てて介抱するが、拓也はその日、目を覚ます事はなかった。
次回予告
いよいよ夏季休暇に入る魔法学院。
だが、拓也とアイナはルイズの任務の手伝いをする事になる。
トリスタニアの街ではどのような事が起こるのか?
次回!ゼロの使い魔と炎に使い魔
第二十三話 魅惑の妖精亭
今、異世界の物語が進化する。
あとがき
二十二話完成。
出来はホントにビミョー。
正直、今回やりたかった事は、拓也の生身でも戦闘可能にする事。
これだけだったんですよね。
一応、フロンティアの最終回で、エレベーター押し倒してましたから、これを使おうと思ったしだいであります。
一応能力的に、力はガンダールヴより上。
スピードはガンダールヴより下です。
才人と戦ったら十中八九拓也が負けます。
話は戻って、ヴィリエ・ド・ロレーヌをかませ犬として出してしまいました。
あんまり原作キャラをいじめるのは良くないかなーとは思ったのですが、原作でもかませ犬的存在だったので、まあいいかと。
それで、もう1人出てきた男子生徒。
覚えてますか?
なんか閃いてしまって、出したんですけど、名を出される事もなく退場。
拓也のかませ犬第一号です。
最後に混浴ネタ。
いつかはやろうかな~とは思っていたのですが、話の長さが足りなくてここに入れました。
にしても、3人の中じゃイルククゥが一番目立ってるな~。
イルククゥは色々と動かしやすいんです。
次から5巻に入ります。
いつの間にやら4巻が終わったな。
それでは、次回も頑張ります。