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[44091] ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/02/09 15:43
 勇者―異世界に召喚され、魔王討伐を目指し仲間と共に冒険の旅に出る者。この世界ではそんな存在を『仮面ライダー』と呼ぶ―。
 今宵も、現代日本から1人の青年が召喚された―高校生・儚田勇也(はかなだゆうや)だ。勇者の証でありチートスキル“仮面ライダー”の力を授かった彼は、剣と魔法の世界を支配しようと目論む魔王討伐を目指し、パーティメンバーと冒険を繰り広げる―はずだった。
 陰キャ―それが彼の、唯一にして最大の欠点だった!パーティの輪に入れない!スライム相手にもコミュ障発動!異世界モノは好き!だけど未知の冒険とかダルすぎる!もう家に帰してくれ~!果たしてこんな彼でも、無事魔王を打ち滅ぼし世界に安寧をもたらすことができるのか……?これは1人の陰キャと、それを支える個性豊かな仲間(畜ママエルフのヒーラー、煽り厨少女型オートマタetc)と共に世界の救世主を目指すサクセス(?)ストーリーである。
 そして、世界の危機は現代日本にまで伝播する。異世界召喚“3回目”の謎、そしてこの世界と向こうの世界の繋がりを紐解いたとき、物語はあらぬ方向へと加速する―。
 ▼本作品はアニメ脚本です▼スタイリッシュ且つ情緒溢れるト書き▼漫画やアニメを見ている感覚でご覧になれます▼各話約2000文字~5000文字とコンパクトに仕上がっています▼ハーメルンでも絶賛連載中▼面白ければお気に入りや評価、感想の方よろしくお願いします!▼



[44091] 第一幕 陰キャ、召喚
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/09 15:11
●:柱
◆:柱《回想》
二文字開け:ト書き
○○M:モノローグ
○○N:ナレーション
○○(声):ボイスのみ
×××××:カットバック(場面転換・時間経過)
〔回想〕:閃光回想(フラッシュバック)

* * * * *

●??・教会

  小さく、廃れた教会
  中は暗く、雑然と荒れている
  その最奥、祭壇に佇む一人の少女
  手に持つ杖を天に掲げ、祈る

??「この世界は、再び魔王の手に堕ちようとしている……。どうか、お救いください……。異界の勇者……、『仮面ライダー』よ……!」

  杖、煌びやかに光る
  まるで、祈りを聞き届けたが如く
  その光が、少女の瞳を照らす

●??・魔王城

  煮え滾るマグマのような空
  その元、漆黒の巨大な城が聳える
  玉座に座る巨躯の男
  2本の角、鋭利に光る
  ニヤリ、邪悪に口角が上がる

●儚田宅・勇也の部屋(朝)

  カーテンが閉められた暗い部屋
  本やゲームが散らばり、雑然としている
  モニターの前、椅子に座る儚田勇也
  画面の明かり、彼の顔を無機質に照らす
  呆然と見開かれた、赤く充血した瞳
  画面の向こう、キャラが広大な大地を駆ける
  カチャカチャ、コントローラ―の音がする
  その時、スマホのアラームが響く
  スマホ画面を見る勇也
  7時10分の表示

勇也「あぁ、学校行かなきゃ」

●高校・教室(同日・午前)

  椅子に座る勇也
  窓側、一番奥の席
  所謂、主人公席だ
  頬杖をつき、ぼんやり外を眺める
  ノートには、キャラの落書き
  まるでお経のような、教師の声

× × × × ×

  昼休み
  勇也、一人席に座っている
  空の弁当箱をしまい、教室を出る

× × × × ×

  勇也、トイレから出てくる
  教室の入り口で、ふと立ち止まる
  勇也の席の周り、生徒がたむろしている

勇也「……」

× × × × ×

  勇也、トイレから出てくる
  教室の入り口で、ふと立ち止まる
  また別の生徒、勇也の席を占領

勇也「はぁ~……」

  勇也、トボトボとどこかへ歩き去る

●高校・生物部室(同日・放課後)

  空き教室
  一つの机に四つの椅子が並ぶ
  理科実験室のようだ
  棚の上、大きな水槽が一つ
  何匹かの金魚が泳いでいる
  椅子に座る勇也
  テーブルに腕を乗せ、漫画を読む
  その対面、友人が座っている
  机の上のパソコン、のめり込んでいる

勇也「どうして陽キャは、他人の机を勝手に使うんだろう」

友人「自分の縄張りを広げたいんでござるよ」

勇也「野生動物じゃん」

  静かな教室
  パソコンからゲームの音が響く

勇也「それ、どこまで行った?」

友人「レベル、素材カンスト。収集要素もコンプリート」

勇也「まじか、やることないじゃん」

友人「まさか。この広大な異世界を歩き回っているだけでも、ファンタジーの世界に浸れるでござるよ」

勇也「ほんと好きだよな、異世界モノ」

友人「勇也殿も、このゲームをプレイしているなら同じでござる」

勇也「俺はなんか、そこまでのめり込めないんだよなぁ。やっぱり、現実に生きてるっていうか?他のオタクとは違うっていうか?なんてね」

友人「……教室では空気みたいに扱われ、放課後は暗い空き教室で、名ばかりの生物部として金魚を横目にゲームや漫画という家でも出来るようなことを繰り返す毎日……」

  友人、勇也を見る
  その瞳に、光はない

友人「こんなリアルにまだ生きる希望を見いだせてる勇也殿は、ラスボスより断然強いでござるよ……」

勇也「……やめてくれ、悲しくなる」

●下校路(同日・夕方)

  勇也、スマホを片手に歩いている

勇也M「俺は、今の生活に不満があるわけじゃない。誰に気を使って、調子を合わせて愛想笑いをして過ごすくらいなら、一人でアニメや漫画を嗜んでいる方がよっぽどマシだ。俺は、この現実が割と好き。それこそ、もし異世界になんて行ってしまったら、ホームシックで涙がちょちょぎれてしまう」

勇也「お、このアニメ二期決定してる……」

  交差点に差し掛かる
  歩行者信号は赤
  しかし勇也、気づかず道路に出る
  直後、勇也を照らす明かり
  大型トラックのヘッドライトだ
  クラクションが大きく鳴り響く
  バッと振り向く勇也

勇也M「歩きスマホによる死亡事故は、年々増加している。その中でも、特に多い事故の発生場所は『道路』。はい、今の俺です。死にたくないけど、これも自業自得か。せめて、加害者にならなくて良かった。……轢かれるまで割と時間あるなぁ。新キャラのキャストでも予想しとく?いや、流石に無理か……」

  諦めて目を閉じる勇也
  瞬間、どこからか声が聞こえる

??(声)「どうかお救いください……。異界の勇者……、『仮面ライダー』よ……!」

勇也M「え、なんて?」

  目を開ける勇也
  直後、眩い光が視界を覆う

●??・森

  目を覚ます勇也
  ゆっくりと体を起こす

勇也「ここは……」

  辺りを見回す勇也
  一面、緑に覆われている
  木々の隙間から微かな木漏れ日

勇也「……天国って、もっと白くて綺麗で、階段とかあるのかと思ってたけど……。でも、これはこれで悪くないな、うん」

  満足げな表情の勇也
  その時、ガサッと物音
  反応し、立ち上がる勇也
  草むらから、一匹の猫が飛び出す

勇也「猫……、何でこんなところに……?まぁ、天使みたいに可愛いって意味じゃ、間違ってないけど……」

  猫、尻を向け走り去る
  道中、チラチラとこちらを振り返る
  まるで、何かをアピールしているかのよう

勇也「もしかして、着いて来いってこと?」

  小首を傾げる勇也
  そっと、猫の後を着いて行く

× × × × ×

  森を抜け、崖の上に出る勇也
  目の前の景色に、思わず瞠目する

勇也「すげぇ……」

  眼下に広がる広大な世界
  どこまでも続く新緑の平原
  大きな湖は、世界の写し鏡
  聳える巨山、その頂上は遥か雲の上
  優しい風、吹き抜ける
  まるで、少年の訪れを祝福するかのよう

勇也「オープンワールドのゲームみたいだ……」

  その時、足元から猫の鳴き声
  直後、猫、崖から飛び出す

勇也「ちょ、あぶな―」

  咄嗟に手を伸ばす勇也
  しかし、猫は落ちない
  それどころか、空中を歩いている
  その光景に唖然とする勇也

勇也「いやいやいやいや、どうなってるんだ……!?」

  軽やかなステップを踏む猫
  その先、小さな集落が見える

勇也「い、行ってみる……?」

  勇也、崖の外にそっと足を伸ばす

勇也「無理無理無理無理!」

  すぐさま足を引っ込める
  横に続く道を走り出す

●??・獣人族の村

  やってくる綾人
  辺りを見渡して―

勇也「なんだ、ここ。村……、ってより廃材置き場みたいな……」

  人の気配はない
  取り残された建物の残骸
  その間を、風が吹き抜ける
  その時、ふと猫の鳴き声

勇也「お」

  正面、先ほどの猫
  勇也、近寄り猫を抱き上げる

勇也「お前、凄いな~。もしかして、本当に天使か?どっかのSNSで見た、あんな悍ましい姿じゃなかったんだな~」

??「アンタが連れてきてくれたの?」

勇也「え?」

  ふと、正面から声がかかる
  一人の少女、こちらを見ている

勇也「あいや、連れてきたっていうか、連れてきてもらったっていうか……」

??「どっちでもいいけど、とりあえず礼を言うわ。急にいなくなって、探してたのよ」

  猫、勇也の腕を抜け少女の元へ
  少女、猫を抱き上げて頬擦り

??「もう、勝手にいなくなっちゃ駄目でしょ~?」

  思わず口角が緩む、和やかな光景
  勇也、その少女をじっと見て―

勇也M「すごい、エジプシャンな服装……。それに……、猫耳……!?」

勇也「き、君は誰……?」

バスティ「アタシはバスティ、獣人よ」

  バスティ、腰に手を当て勇也に向く
  勇也、その答えに狼狽して―

勇也「獣人!?獣人ってあの、人と獣の混血の……!?」

バスティ「それ以外に何があるのよ。アンタは?」

勇也「お、俺は儚田勇也……。一応、人間だけど……」

バスティ「変な名前ね。それに、人間にしては変わった見た目……」

勇也「あ、もしかして君が天使?俺を天国に連れてってくれるの?」

バスティ「はぁ?何言ってんのよ」

勇也「何って……。俺、本当にどこに来たんだ……?」

バスティ「どこって、ここは―」

??(声)「儚田勇也様、ですね?」

勇也「だ、誰……?」

  突然かけられる声
  否、それは脳に直接響いてくる
  勇也、驚き身構える

エルマ(声)「神官、エルフ族のエルマと申します」

勇也「エルフ……?」

バスティ「アンタ、誰と話してんのよ?」

  バスティ、怪訝に目を細める
  しかし勇也、それどころではない

エルマ(声)「貴方様を、召喚させていただきました」

勇也「……え、今なんて?」

エルマ(声)「トラックに轢かれそうになっていた貴方様を、召喚させていただきました」

勇也「召喚って、どこに……?」

エルマ(声)「ようこそ、異世界・『ボーテミュイズン』へ!」

勇也「異世界?」

エルマ(声)「はい」

勇也「日本じゃない?」

エルマ(声)「はい」

勇也「天国でもない?」

エルマ(声)「はい」

勇也「つまり、異世界召喚ってやつ?」

エルマ(声)「はい!」

  呆然とする勇也
  エルマの元気な返事が頭に反響する
  やがて、肺一杯に息を吸い込み―

勇也「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

× × × × ×

  地面に寝そべっている勇也
  猫たちの溜まり場と化している

勇也「分からない……。何も分からない……」

バスティ「アンタ、大人気ね……」

勇也M「どうして俺が、異世界召喚……?あの時、トラックに轢かれたんじゃないのか……?というか、こんなアニメみたいなこと―」

エルマ(声)「勇也様、大丈夫ですか?」

勇也「いや、大分大丈夫じゃないです……。どうして、俺を召喚したんですか……?」

エルマ(声)「詳しいことは、直接お話しいたします。そのため勇也様には、私を見つけていただきたいのです。その地から程遠くないところに、小さな教会があります。私はそこで、貴方様の到着を待っています。どうか、お越しください……。この世界の、平穏のために……」

勇也「ちょ、ちょっと!?もしも~し!?」

  しかし、反応はない
  繋がりが途切れたようだ

勇也「勝手に話し終わらすな~!教会って何だよ~!」

  勇也、項垂れジタバタとする
  猫の遊び場と化している
  バスティ、それに溜息をついて―

バスティ「仕方ないわね、アタシが連れて行ってあげる」

勇也「え?」

バスティ「探してた子見つけてくれたお礼よ。教会の場所ならアタシも知ってるし。別に、アンタが心配だからとかじゃないんだから、勘違いしないでよね!」

勇也「女神……」

バスティ「獣人!ほら、行くわよ」

  バスティ、ズンズンと歩き出す

勇也「あ、あぁ」

  勇也、立ち上がる
  バスティの後を歩いていく

勇也N「突然、異世界召喚された俺。まだ何も分からないことだらけだ。とりあえず、死ぬよりはマシかと思ったけど、俺の現実は戻ってくるのだろうか……」



[44091] 第二章 憧れの異世界
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/09 15:10
●ボーテミュイズン・平原

  勇也とバスティ、歩いている
  草を踏む涼やかな音、耳に心地いい
  バスティ、勇也に振り返り―

バスティ「そういえばアンタ、さっき誰とh―」

勇也「家に帰りたい~っ!」

バスティ「え~っ!?」

  地面にうつ伏せの勇也
  ゴキブリのようにカサカサと動く
  その様子に、驚きが隠せないバスティ

勇也「ベッドに寝転がってアニメ見たい~!モニターの無機質な明かりが恋しい~!自然光とか体が蒸発する~!」

バスティ「吸血族みたいなこと言ってるわね……」

  バスティ、勇也の腕をグイと引っ張り―

バスティ「ほら、立ちなさいよ!教会行くんでしょ!」

  しぶしぶ立ち上がる勇也
  目に涙が滲み、揺れる
  瞬間、その目をハッと見開く
  自分の手を凝視して―

勇也M「女の子に、手を触ってもらえた……。生まれて、初めて……」

  勇也、バスティを見やる
  その頬は僅かに赤く、息は荒い

勇也「もしかして、君がメインヒロイン……?」

バスティ「何言ってるのか分からないけど、余計な期待はしないことね」

× × × × ×

  トボトボと歩く勇也
  遠慮がちな声で―

勇也「バ、バスティちゃん……?バスティさん……、はエルマちゃん……?エルマさんって知ってますか……?」

バスティ「……」

  ふと立ち止まるバスティ
  ジト目で勇也を見やる
  勇也、その反応に戸惑い―

勇也「バ、バスティちゃんさん……?」

バスティ「そんなに言い淀むなら呼び捨てでいいわよ。それと、敬語は禁止。余所余所しいの好きじゃないのよね」

勇也「あ、う、うん……、そのつもり、だったんだけど俺も、その……」

バスティ「なによ?」

勇也「せ、正式に許可を貰わないと、不快感を与えてしまうかな~と……」

バスティ「考え過ぎよ」

× × × × ×

  歩いている勇也とバスティ

バスティ「で、そのエルマって人は、何族なの?」

勇也「エルフ族って言ってた。神官をやってるって」

バスティ「エルフで神官……?変ね、たしかエルフって……」

  バスティ、ボソボソと何かを呟く
  眉を寄せ、何かを考えているようだ
  勇也、それに疑問符を浮かべて―

勇也「何がおかしいの?」

バスティ「いえ、こっちの話しよ。それでアンタは、この世界に召喚?されてきたってことね」

勇也「そうそう。って、そんな簡単に受け入れられないんだけど……」

バスティ「アタシだって、異世界人と会ったのはこれが初めてよ。でも、いくつか伝承は残ってるから、本当だったんだ~って感じね」

勇也「にしては、小慣れてる感じだけど……」

バスティ「ねぇ、アンタがいた世界ってどんななの?アタシ、気になるわ」

勇也「俺がいた世界……」

  〔回想〕
    カーテンが閉められた暗い部屋
    本やゲームが散らばり、雑然としている

勇也「暗くて、散らかってて、じめっとしてるところ、かな……」

バスティ「え、何それ。魔界より行きたくないんだけど……」

勇也「でも、俺にとっては天国だったんだよ~。あ~、涙がちょちょ切れそう……」

バスティ「ったく、情けないわねぇ」

  体を縮こめる勇也
  バスティ、それに溜息をついて―

バスティ「そんなアンタに、いいもん見せてあげるわよ」

勇也「いいもん……?」

バスティ「前、見てみなさい」

  バスティに促され、正面を見る勇也
  その光景に、瞠目
  パッと、表情に華が咲く

バスティ「アタシのお気に入りの景色よ」

  どこまでも広がる大地
  大きな湖、太陽を反射し輝く
  視界の中央、巨大な樹木が聳える
  天を貫き、その樹冠さえ見えない
  まさに、幻想的な光景
  平原を、爽やかな風が吹き抜ける
  勇也、ゴクリと息をのみ―

勇也N「俺だって、憧れがなかったわけじゃない」

◆儚田宅・勇也の部屋《回想》

  暗く雑然とした部屋
  モニターに向かう勇也

勇也N「オタク友達に教えてもらったゲームで、俺は広大な世界を旅して、仲間との絆を深めて、勝利の喜びを知った。あのゲームが、俺のファンタジーへの扉だった。それから一時期、数々の異世界モノを見漁った。まぁ、友人には叶わなかったけど。それでも、あの感動を、あの喜びを、俺が、俺自身が味わえる……、そんな現実が本当にあるなら……!」

●ボーテミュイズン・平原

勇也「……エルフって、耳長いんだよな」

バスティ「え?」

勇也「美人が多いっていうし」

バスティ「まぁ、そうかしらね」

勇也「獣人って、まんま獣に変身できるんだよな!?」

  勇也、羨望の眼差し
  先程までの落ち込みはどこへやら
  バスティ、その圧と光に目を覆い―

バスティ「そ、そういうのもいるわよ!アタシは出来ないけどぉ!」

勇也「よし、教会に向かおう!今すぐ向かおう!大冒険が、俺を待ってる予感がする!否、待っている!」

  勇也、ズンズンと突き進む
  バスティ、それに仕方なく微笑み―

バスティ「ったく、調子いいんだから……」

●ボーテミュイズン・教会前

  見上げる勇也とバスティ

勇也「これが、教会……」

  石造りの小さな教会
  大部分が苔に覆われている
  崩れた瓦礫が放置されている
  廃退的で、不気味な雰囲気

バスティ「えぇ、間違いないわ。にしても、しばらく見ない間に随分とまぁ」

  中に入るバスティ
  勇也、その後ろをついていく

●ボーテミュイズン・教会

  並べられた座席と、最奥に祭壇
  中央を、色褪せたカーペットが伸びている
  勇也、少し怯えた様子で―

勇也「なんか、出そう……」

バスティ「大丈夫よ。そんな噂、一度も―」

  その時、子供の泣き声が響く
  ビクッと肩を震わせる勇也

勇也「な、何……!?」

バスティ「驚き過ぎよ」

  バスティ、席の足元を覗き込む
  そこには、一人の少年の姿
  蹲り、肩を震わせる

バスティ「ただの子供。キミ、こんなところで何し―」

  少年の肩に触れるバスティ
  その手に、何かが糸を引く

バスティ「これ……」

  瞬間、少年の形がドロッと崩れる
  その何か、バスティに飛んでくる
  寸前で避けるバスティ
  青く、弾力と粘度のある何か
  湿った音を立てて地面に着地

バスティ「モンスターだったのね」

勇也「もしかして、スライム?」

バスティ「えぇ。子供に化けてたんだわ」

勇也「や、やっぱり初エンカウントはスライムって相場が決まってるんだ。流石の俺でも、あのくらいなら―」

バスティ「油断しないで」

勇也「え?」

バスティ「スライムは、触れた相手を取り込んで、その姿に化けることが出来るの」

勇也「……ってことは、さっきの少年の姿は」

バスティ「可哀そうに、一瞬だったでしょうね……。それに、さっきアタシが触った時に取り込まれなかったのも奇跡みたいなものよ」

勇也「今まで葬ってきたスライムは数知れず。歴戦の勇者ゆえ、この戦いは君に任せよう、バスティ!」

  威勢のいい表情の勇也
  しかし、体は座席の裏で震えている

バスティ「逃げるの早っ!」

  飛びついてくるスライム
  バスティ、それを軽々と躱す
  しかし、その表情は深刻だ

バスティ「格闘技のアタシとは、相性最悪なのよ!次触れれば、一瞬で取り込まれるかもしれない。避けるのは簡単だけど、このままじゃ勝つことも出来ないわ!」

勇也「スライムと相性がいいのは、遠距離攻撃……」

バスティ「えぇ、魔法とかね。物理攻撃だと、それも取り込まれるわ」

勇也「俺はもちろん、バスティも魔法は使えないのか……」

勇也M「っていうか、俺は何が出来るんだ?普通、異世界に召喚された勇者は、何か特別な力を持ってるってのが定石だけど……。俺のチート能力は、何だ?」

バスティ「危ないっ!」

勇也「え?」

  考え込む勇也
  故に、バスティの声に反応が遅れる
  こちらに飛んでくるスライム
  獲物を取り込まんと、大きく口を開く
  眼前に迫る、もう避けられない

勇也M「あぁ、おわ―」

??「『ヴズリーブ』!」

  直後、スライムが爆散
  足元、小さく火があがる
  勇者とバスティ、呆然
  その時、コツコツと足音が響く

??「お待ちしておりました、儚田勇也様」

勇也「あ、あなたは……?」

  手に持つ長い杖
  エルフ耳の少女、上品に微笑み―

エルマ「神官、エルフのエルマと申します。貴方様を、召喚させていただきました」



[44091] 第三幕 勇者の証
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/09 15:11
●ボーテミュイズン・教会

  呆然とする勇也

勇也「あなたが、エルマさん……」

勇也M「長いエルフ耳……。これは、魔法の杖かな。それに白金のローブ……、エルフってより、神様みたいだ……」

  エルマ、静かに目を伏せ―

エルマ「勇也様を召喚したのは他でもありません。ここボーテミュイズンは、魔王の手に堕ちようとしている……。勇也様には勇者となって、この世界を魔の手から救っていただきたいのです……!」

  ハッと目を見開く勇也
  バスティ、戸惑った様子で―

バスティ「ちょっと、魔王ってどういうこと!?何も聞いてないわよ!第一、魔王なら400年前に討伐されたはずでしょ?」

  静かに首を振るエルマ

エルマ「いいえ、あれは討伐ではなく封印だったのです……。そして今、その封印が解かれた。以前より強大な力を以って、復活しようとしているのです……!」

バスティ「そんな……!」

勇也「俺が、勇者……?」

エルマ「はい。勇也様には勇者として、魔王を討ち滅ぼしていただきたいのです」

勇也「ど、どうして、俺なんですか?」

エルマ「私たち神官の役目は、魔王が現れし時、異界から勇者たり得る者を召喚することです。今まで、何人もの勇者がこの地に降り立ち、その多くが散っていきました……。どうして異界なのか、どうして貴方様なのかは、私にも分かりません……」

バスティ「そんな、適当に召喚されたの?」

エルマ「いいえ。これはきっと、神の思し召しなのです。勇也さまこそが、この世界を救ってくださる勇者だという……」

勇也「だったら、人選ミスだよ……。俺には、そんなこと出来ない……。俺には、何の力もない……」

  俯く勇也
  哀しみと恐怖が混じった表情

エルマ「いいえ、力はあります」

勇也「え?」

エルマ「勇者に選ばれた者だけが手に出来る力……。距離も時さえも超えて受け継がれる伝説の力……。名を『仮面ライダー』……!」

  直後、勇也の眼前が光り輝く
  眩い光に、思わず目を覆う勇也
  やがて現れたのは、一つのベルト

エルマ「それは『クエストドライバー』。この世界の勇者……、仮面ライダーに変身することが出来る唯一無二の装備です」

  勇也、クエストドライバーを手に取る

勇也M「仮面ライダーって、ニチアサの……。特撮はあんまり見てこなかったけど……」

エルマ「歴代勇者様は、その力で魔王に立ち向かっていきました。同じく勇者である勇也様にも、きっと使いこなせるはず。その力で、此度復活を遂げようとしている魔王を、今度こそ永遠に葬っていただきたいのです……!」

  勇也、ドライバーを見つめる
  その瞳に、覇気はない

勇也M「分かってた。ただ、平和な異世界を旅するだけじゃないって。でも、こんな責任重大なこと、実際にお願いされたら……」

勇也「俺一人に、そんなこと出来るの……?」

エルマ「確かに、勇也様お一人では、難しいかもしれません。ですが、仲間と力を合わせれば、きっと可能でしょう」

勇也「仲間?」

エルマ「歴代勇者様には、パーティと呼ばれる、共に魔王討伐を目指して旅をする仲間たちがいました。まずは、彼らを募るところから始めましょう」

勇也「そっか、一人で戦ってたわけじゃないんだ……」

エルマ「はい。そしてこれは、その証」

  瞬間、エルマの胸元が眩い光を放つ

勇者「え、何?規制?」

  直後、純白の宝石が現れ、勇也の手へ

勇也「これは……」

エルマ「盟友の証石(しょうせき)。勇者の仲間となった者がその勇者に託す、魂の結晶です」

勇也「ってことは、エルマさんが……」

エルマ「はい。私、エルマ、魔王討伐のため、勇者、勇也様にお仕えいたします」

  上品に首を垂れるエルマ
  勇也、感動したように瞠目
  顔を上げるエルマ、バスティを見て―

エルマ「獣人の貴方はどうしますか?」

バスティ「バスティよ。ま、仕方ないから着いてってあげるわ。魔王がいるんじゃ、安心して過ごせないしね」

エルマ「では、貴方も盟友の証を―」

バスティ「それはちょっと待って」

エルマ「え?」

  掌を突きつけるバスティ
  エルマ、それに疑問符を浮かべる

バスティ「アタシはまだ、アンタを勇者だとは認めてない」

勇也「な、何でだよ。この勇者の証が目に入らぬか」

  ドライバーを突きつける勇也
  それに、バスティが鋭い視線

バスティ「何で……?自分の胸に手を当てて考えてみなさいよ。アンタ、さっきのスライム戦で何してた?」

  思い出すように眉を上げる勇也

  〔回想〕
  ・勇也「今まで葬ってきたスライムは数知れず。歴戦の勇者ゆえ、この戦いは君に任せよう、バスティ!」

勇也「何もしてませんでした……」

バスティ「あんなへっぴり腰に、本当に勇者なんてつとまるわけ?」

エルマ「異界から召喚されたのですから、間違いありません……、多分」

勇也「エルマさん?」

バスティ「まぁ、今後の活躍次第では、認めてあげないこともないけど」

勇也「なんか上からだな~……」

バスティ「何か言ったかしら?」

勇也「喜んで精進させていただきます」

エルマ「でも、確かにそうですね。クエストドライバーを使いこなすにも、ある程度の修業は必要です。仲間集めと並行して、戦闘訓練も行いましょう」

勇也「そうだな……、俺の冒険はここから始まるんだ!」

  勇ましい表情の勇也
  一歩踏み出して転ぶ

勇也「あべしっ!」

バスティ「ったく、何やってんのよ」

  体を起こす勇也
  顔を顰めて―

勇也「いててて……」

エルマ「あらあら、大丈夫ですか?」

  こちらに手を差し伸べるエルマ
  心配そうに、眉を顰めている
  それを見上げる勇也
  エルマとバスティを交互に見て―

勇也M「あれ、何だろうこの気持ち……。こんなに女の子に囲まれたことなかったから……。もしかして、これがハーレムってやつ!?」

  勇也、エルマを見つめて―

勇也M「やっぱり、エルフが美人ってのは間違いなかったんだな……。話し方も穏やかで優しくて……。なんか、ママ味を感じる……」

  勇也、エルマの手を取る
  口角を歪に上げて―

勇也「マ、ママありがとう……。なんつって、ふへへ―」

エルマ「キモッ」

  エルマ、勇也の手をパチンと弾く
  勇也、その仕打ちに唖然

勇也「エルマ、さん……?」

エルマ「私はあくまで、勇者の仲間として貴方様にお仕えするだけです。正義と性欲を混同しないでくださいね……?」

勇也「ち、畜い……!」

  バスティ、酷く眉を顰めて―

バスティ「アンタ、それはないわ……」

× × × × ×

  教会外
  そそくさと歩くエルマとバスティ
  その後ろを追いかける勇也

勇也「待ってぇぇぇぇぇ!!!」

勇也N「かくして、勇者になってしまった俺。まさか、魔王討伐を任されるなんてことになるなんて……。果たして、俺に仲間なんて出来るのだろうか。万年ボッチの、俺に……」



[44091] 第四幕 「肩書じゃ人間性は変わらないんだよ……」
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/09 15:14
●ボーテミュイズン・世界樹の麓

  世界樹を見上げる勇也
  その大きさに、口は半開き
  勇也が十人並んでも足りない幹の太さ

エルマ「これが世界樹、『ユグドライド』。この世界、ボーテミュイズンの心臓とも言える、重要な樹木です」

勇也「遠くから見たことはあったけど、まさかこんなに大きいとは……」

バスティ「アタシたちは、この世界樹から色んな恩恵を受けてるのよ」

勇也「恩恵?」

バスティ「えぇ。例えば……、え~っと……、ま、毎日楽しく暮らせるとか?」

勇也「魔王のせいで安心して暮らせないとか言ってたんですがそれは?」

バスティ「と、とにかく大事な樹なのよ!」

  バスティ、腕を組みフイとそっぽを向く
  勇也、再び世界樹を見上げて―

勇也「樹冠が見えないけど、ほんとどんだけ高いんだ……」

エルマ「いいえ。ここからでは、樹冠を見るのは物理的に不可能です」

勇也「え、それはどういう?」

エルマ「この世界は、上界と下界に分かれています。上界に顔を出した樹冠は、この下界からは臨むことは出来ません」

勇也「つまり、階層が分かれてるってことか……。こんだけ広いと、全然そんな感じもしなけどなぁ」

バスティ「そのせいで、アタシたち亜種族にも格差があるのよ。高貴種とか下賤種とか……、ほんとクソくらえだわ」

勇也「バスティは下賤種なんだね」

勇也M「異世界にも格差があるのか……。上から見れば煌びやかで綺麗な世界だけど、その裏には悲しみや苦しみが潜んでる……。まるで、この世界そのものが仮面を被ってるみたいだ」

エルマ「魔王が世界樹の力を手にしたとき、この世界は滅亡するでしょう。今はまだ動きはありませんが、いつ魔の手を伸ばしてきても不思議はありません。それを防ぐために、勇者様は魔王を討伐しなければいけないのです」

勇也「そっか……」

  勇也、クエストドライバーを取り出す
  心強い眼差しで見つめて―

勇也「でも、俺には勇者の力がある。俺は現実でも歴戦の勇者だった!どれだけ強大な魔王でも、俺が必ずこの手で討伐してやるぜ!」

エルマ「まぁその前に、魔王直属の亜種族たちが、勇也様を葬らんと本気で襲ってきますけどね」

勇也「いやあぁぁぁぁぁ!!!」

  満面の笑みのエルマ
  毒気の一切ない、純粋な笑顔
  それを見て、勇也、蹲る
  土下座の要領で地面に頭を打ち付ける

バスティ「ちょっとエルマ、勇也のやる気を削ぐようなこと言わないの!」

エルマ「あら、真実をお伝えしたつもりだったのですが……」

勇也「真実は時に、人の心を酷く抉るんだよ……」

エルマ「そうなのですね、神官としての教養が足らず……」

  俯くエルマ、胸に手を当てる
  しかし直後、また満面の笑みで―

エルマ「ですがこれも、全ては勇也様をお導きするため。どれほど残酷な真実でも、躊躇わずにお教えいたしますね!」

勇也「いやあぁぁぁぁぁ!!!」

バスティ「エルマァ!」

●ボーテミュイズン〔下界〕・湖

  大きな湖
  陽の光を反射し、燦々と煌めく
  そのほとりを歩く、勇也一行

エルマ「まずは王都に向かい、下界の王・ニズシクス様から下界と上界を行き来する許可をいただきます。それがないと、亜種族との交流が滞ってしまいますから」

勇也「って言いながら、湖に来てるけど……」

  立ち止まるエルマ
  ゆっくりとこちらに振り返る
  ペロッと舌を出して―

エルマ「私としたことが、迷ってしまいました……」

勇也M「なんだこいつ……、可愛いな」

バスティ「ったく、仕方ないわねぇ」

  バスティ、鼻をスンスンと動かす
  進行方向を指さし―

バスティ「王都はこっちよ」

エルマ「凄いです、匂いで分かるのですか?」

バスティ「まぁね。これでもアタシ、獣人だから」

勇也「さすが犬」

バスティ「失礼ね、アタシは猫よ」

勇也M「じゃあなんで分かるんだ……?」

× × × × ×

  歩いている勇也一行
  勇也、トボトボとした足取り

勇也「王都ってことは、王様か……」

バスティ「そうね」

勇也「どうしよう。凄い頑固親父で、お前に勇者はつとまらんとか言われたら……。最悪、こんな凡人が王都に立ち入った罰として、打ち首……」

バスティ「凡人って、アンタ一応勇者でしょ?」

勇也「肩書じゃ人間性は変わらないんだよ……」

エルマ「ご心配なさらず。ニズシクス様は、心優しいお方ですよ」

勇也「本当かな~?グチグチ言われたら、俺心折れちゃうよ~」

●ニズスタトリスタ〔下界王都〕・王城

ニズシクス「許可~」

エルマ「ありがとうございます!」

勇也「え、凄いあっさり。そ、そんな簡単に行き来できるものなの?下界と上界って」

バスティ「王様が言ってるんだから、問題ないでしょ」

  ニズシクス、玉座に座る
  穏やかな眼差しで勇也を見て―

ニズシクス「あなたが、此度の勇者様ですかのう?」

勇也「あ、えと……、は、はい……」

  モジモジと挙動不審の勇也
  目を合わせられず、俯いている

ニズシクス「我々の世界のために、態々申し訳ない。だが、あなたがきっと魔王を討伐してくださること、信じておりますぞ。そのためにこの王都、自由に使ってくだされ。下界の廃れた小さな都で申し訳ないですが、十分に英気を養って、魔王討伐の旅に―」

勇也「あぁぁぁぁぁぁ!!!」

  地面に這いつくばる勇也

バスティ「誰よ、重力魔法かけたの!」

勇也「責任と期待という名のグラビティに押しつぶされそう……」

ニズシクス「だ、大丈夫かのう……」

●ニズスタトリスタ・飲食店

  テーブルを囲む勇也一行
  エルマとバスティが隣同士
  その対面に勇也
  並べられた料理を訝し気に見つめ―

勇也「……これ、食えるの?」

エルマ「えぇ」

勇也「俺のいた世界では見たことない……」

バスティ「でもこれで、下界と上界の行き来が自由になったわね」

エルマ「はい。早速、パーティメンバーを集めに行きましょう」

勇也「うん」

  勇也、徐に店内を見回す
  店内には、亜人の客が大勢
  白と黒のツートンカラー
  背中には、左右に形の異なる羽

勇也「この人たちは、何族なの?」

エルマ「彼らは人間族です。主に、王都で暮らしています」

勇也「いやいやいや、何で人間に羽なんて生えてるの。人間っていうのは、俺みたいなやつのことだよ。……そう、こんな俺でも、一応、人間……」

  徐々に俯いていく勇也

バスティ「なんで卑屈になるのよ」

エルマ「確かに、勇也様の世界の人間と比べたら、似ても似つきませんね」

  バスティ、勇也をまじまじと見つめて―

バスティ「アンタ、人間のくせに変な見た目してるって思ってたのよね~」

勇也「えぇ、もしかして俺がマイノリティ?」

エルマ「かつてこの世界にも、勇也様と同じ姿形をした人間族がいました。人間族の起源、とでも言いましょうか。しかし、時が経つにつれて亜人の勢力は拡大し、いつしか人間族は滅んでしまったのです。それを憂いた天使族と悪魔族が手を取り合い融合し、新たな一つの種族となった……。それが今の人間族です」

勇也「天使と悪魔が合体して人間、っていう方程式が呑み込めないんだけど……」

エルマ「善意を想う天使の一面と、悪意が潜む悪魔の一面、その両方を掛け合わせ、持ち合わせているのが人間だと、彼らは主張しています」

勇也「確かに二面性はあるけど、外見に影響出すぎでしょ……」

  愚痴を溢すように呟く勇也
  それを見て、バスティ、不思議そうに―

バスティ「アンタ、全然人と目合わせないわよね」

  ギクリ、肩を跳ねさせる勇也

エルマ「確かに、勇也様のお顔、しっかり見たことありませんね」

バスティ「王様と話してる時もずっと下向いてたし、凄い自身ないように見えるわよ?」

勇也「自身がないんだよ、自分の外見に。親と目を合わせるのだって、結構ハードルが高い……」

  勇也の顔を覗き込むバスティ
  勇也、顔の前に手を突き出し―

勇也「は、恥ずかしいからやめて」

バスティ「色んな見た目の種族がいるこの世界で、アンタのみてくれなんて気にならないと思うけど」

勇也「それ、励ましてるようで傷つけてるからね?」

  その時、店外から叫び声
  バスティ、思わず立ち上がる

バスティ「何、今の……!?」

エルマ「行ってみましょう……!」

●ニズスタトリスタ・広場

  走ってくるエルマとバスティ
  逃げ惑う人々
  目の前に、二匹のスライム

エルマ「あれは、スライム」

バスティ「ったく、どこから入って来たのかしら」

エルマ「でも、好機です。私が倒してしまいたいところですが、ここは勇也様に―」

  振り返るエルマ
  勇也、店内から顔を覗かせて―

勇也「頑張れ二人とも~!」

バスティ「ちょっとアンタ!」

  バスティ、勇也をズルズル引き摺って―

バスティ「アンタ、それでも本当に勇者なの!?ちょっとは良いところ見せなさいよ!」

勇也「嫌だ、取り込まれたくない!怖すぎる!」

エルマ「勇也様、クエストドライバーを使う時です。勇也様の内に秘められた勇者としての潜在能力、見せてください!」

勇也「えぇ……」

  勇也、渋々ドライバーを取り出す
  腰に装着、ベルトが巻き付く

勇也「ちょ、キツ……。ど、どうやって使うの、これ?」

エルマ「それは、台座に収められた伝説の剣を模したもの。まずは、台座を立ててください」

勇也「こ、こう?」

  ドライバーの両端を押し込む
  横倒しの台座が立つ
  壮大な待機音が鳴り響く

エルマ「伝説の剣を抜いて、勇者の鎧を身に纏ってください」

勇也「えっと……」

勇也M「確か、こういう時って……」

  ドライバーの剣を引き抜く

勇也「変身」

  勇也の体に鎧が装着される
  勇也、仮面ライダーに姿を変える
  手には剣と盾
  自分の姿を見て驚く勇也

??「うぉ、本当に変身した!」

エルマ「仮面ライダーヴァラーLevel5。魔王を倒すため、異界から降り立った勇者の真の姿です」

  戸惑いが隠せない様子のヴァラー
  その時、一体のスライムが飛んでくる
  驚き、咄嗟に剣を構えるヴァラー
  それによりスライムを切断
  真っ二つ、べチャッと地面に溶ける

ヴァラー「……」

バスティ「凄い……、それが勇者の伝説のつる―」

ヴァラー「我、歴戦の勇者なり!」

バスティ「は?」

  腕を広げ、言い放つヴァラー
  バスティ、思わず呆けた声が出る
  ヴァラー、剣をスライムに突きつけ―

ヴァラー「スライムの一匹や二匹、赤子の手を捻るより前に、俺が倒してやる!」

× × × × ×

  剣を振り下ろすヴァラー
  スライム、飛び跳ね避ける

バスティ「歴戦って……、今初めて変身したじゃない。ほんと、すぐ調子に乗るんだから」

エルマ「ですが、思い込みの力も、存外無下には出来ないものですよ」

  剣を振るうヴァラー
  しかし、刀身がスライムにくっつく

ヴァラー「あ」

エルマ/バスティ「あ」

  剣を取り込むスライム
  剣の形に化け、ヴァラーを切る

ヴァラー「どぁーっ!」

  吹き飛ぶヴァラー
  バタバタと取り乱して―

ヴァラー「きらっ、きららっ、切られたっ!俺切られたっ!お父さんにも切られたことないのにっ!」

エルマ「落ち着いてください、勇也様!」

  ヴァラー、ピタッと動きを止めて―

ヴァラー「あれ、痛くない……」

エルマ「並の攻撃では、鎧に傷をつけることすらできま―」

ヴァラー「ハッハッハ、そんな攻撃痛くも痒くもないわ!」

  立ち上がり言い放つヴァラー
  バスティ、物言いたげな表情

ヴァラー「でもどうしよう、剣取り込まれちゃった」

エルマ「そうですね。となると、盾で殴殺……」

バスティ「そんな勇者嫌ね……」

エルマ「そうですね。もしかしたら、盾も取り込まれるかもしれません」

ヴァラー「もうどっちが勇者か分かんねぇな」

エルマ「そうです、勇也様。先ほど私が託した、盟友の証石を使いましょう」

  ヴァラー、証石を取り出して―

ヴァラー「これ?」

エルマ「台座を反して、証石をかざしてください」

ヴァラー「う、うん」

  ドライバーの両端を二度引く
  台座が引っ繰り返る
  台座の裏、刻まれた小さな魔法陣
  ヴァラー、そこに証石をかざす
  すると、証石がバックルに形を変える

ヴァラー「これは……」

エルマ「勇者様は、託された証石によって、仲間の力の一端を身に宿すことができるのです。そしてそれは、私の魔法の力……」

ヴァラー「そっか、遠距離攻撃!」

  魔法の杖型のバックル
  ヴァラー、それを手首のスロットに装填
  右腕のアーマーが左腕に集約
  新たに、魔法使いのアーマーが装着
  飛び掛かってくるスライム
  ヴァラー、それに手をかざし―

ヴァラー「『ヴズリーブ』!」

  突如、眼前が爆発
  スライム、跡形もなく弾け飛ぶ
  ヴァラー、変身を解除
  放心したように一点を見つめる
  直後、広場に響く拍手
  大勢の人々、勇也を笑顔で称える

エルマ「初戦闘、お疲れ様でした」

バスティ「やればできるじゃない。ま、勇者って認めるにはまだ早いけ―」

勇也「うおぉぉぉぉっ!!!!」

  突如、雄叫びを上げる勇也

バスティ「ちょ、どうしたのよ急に……!?」

勇也「魔法が使えた!俺の手で!夢にまで見たあの魔法が!魔法使いになれたんだ!」

  バッと振り返る勇也、その後頭部

勇也「俺、このまま魔王、倒せるかもしれない……!」

  エルマ、パッと目を見開く
  そして、優しく微笑み―

エルマ「良い御顔ですね……」

バスティ「確かに、思い込みも悪くないかも」

エルマ「いいえ、これは―」

  勇也、子供のような満面の笑み
  クシャッと、無邪気な笑顔

エルマ「思い込みでは、ないかもしれません」



[44091] 第五幕 戦闘極力回避宣言
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/10 09:52
●ボーテミュイズン〔下界〕・平原

勇也「嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!」

  平原に響き渡る絶叫
  勇也一行、逃げている
  勇也、号泣しながら全力疾走
  その後ろ、巨大な翼竜が咆哮

バスティ「ちょっと、逃げてるだけじゃどうにもならないでしょ!戦いなさいよ!」

勇也「無理無理無理!空高く連れてかれて、そこでバラバラだって!」

× × × × ×

  木の裏に隠れる勇也一行
  翼竜、どこかへ羽ばたいていく
  それを見た勇也、安堵の溜息
  目には涙の跡

エルマ「スライム討伐時のあの笑顔が、見る影もありませんね」

  〔回想〕
  ・勇也「俺、このまま魔王、倒せるかもしれない……!

勇也「返す言葉もございません……。でも、これからは無駄な戦闘は避けて行こう」

バスティ「魔物を野放しにするっていうの?」

勇也「言い方に語弊があるけど……。通常戦闘はもちろん、ボス戦も極力避けたいんだ。体力は温存して、時間は節約!RTAの基本だよ、やったことないけど」

エルマ「確かに、全ての魔物と戦う必要はありませんが、ある程度戦闘を重ねて経験値を―」

  その時、バタンッと音
  勇也、地面に倒れ伏している

エルマ「勇也様!?」

バスティ「ちょっと、どうしたのよ……!?」

勇也「……つ、疲れた」

エルマ/バスティ「え?」

  喉から絞り出すような勇也の声

勇也「王都からここに来るまでに、一晩明けました。カットされてるところで休んでるって思うじゃん?No睡眠で夜通し歩き続けてたからね。俺はゲームのキャラじゃないので、そんなの無理です。おやすみなさい」

  勇也、大きないびきをかきだす
  バスティ、呆れたように―

バスティ「こんなところで寝たら、さっきのに食われるわよ?」

勇也「爆速起床」

  勇也、飛び跳ね起き上がる
  エルマ、足を摩りながら―

エルマ「確かに、ずっと歩いてばかりでしたね」

バスティ「流石にアタシも、尻尾がこってるわ」

勇也「何その現象」

エルマ「この近くに、ドワーフ族の村があります。そこの宿屋で、少し休みましょうか」

バスティ「いいわね!」

勇者「ドワーフって、あのずんぐりした?」

エルマ「えぇ。皆さん気さくで、良い方々ですよ」

●ドワーフ族の村

  村を埋め尽くすほどのドワーフたち
  勇也一行を前に整列する
  まるで、棚に丁寧に飾られた人形
  その光景に、言葉を失う勇也

ウレアヌ「ドワーフの村へ、ようこそお越しくださいました、勇者御一行様。私、村長のウレアヌと申します。心行くまでお寛ぎください」

  エルマ、何てことなく笑顔で―

エルマ「ありがとうございます」

●ドワーフ族の村・宿屋

  ベッドに飛び込む勇也
  気だるげな声で―

勇也「あ~、疲れた~。引きこもりに日中の長時間行動は拷問だ~」

  バスティ、溜息をついて―

バスティ「こんなんじゃ、魔界に着く前に力尽きそうね」

エルマ「体を鍛えるために、休息は三日に一度にしましょうか」

バスティ「それはアタシも死んじゃう。っていうか、良く泊まれたわね。お金とか持ってるの?」

エルマ「いいえ、一文無しです」

バスティ「げっ」

エルマ「心配いりません。勇者一行であれば、皆さまご厚意で良くしてくださいますよ」

勇也「え、無料で何でもし放題ってこと?」

エルマ「はい。ですが流石に心苦しいので、明日はウレアヌ様のお仕事のお手伝いをいたしましょうか」

勇也「アルバイトもしてこなかった俺の初労働が異世界とは、何か感慨深いな……」

エルマ「ドワーフ族は木こりを生業としています。勇也様でも、容易にこなせると思いますよ」

バスティ「ま、今後どんな方法で稼がなきゃいけなくなるか分からないものね」

  その時、コンコンとノック音
  ガチャッと扉が開く
  ウレアヌ、顔を出して―

ウレアヌ「勇者御一行様。村一番の宿屋は、ご満足いただけておりますかな?」

エルマ「えぇ、とても。明日、村長様のお仕事を、ぜひお手伝いさせていただければと、お話ししていたところです」

ウレアヌ「それはそれは、大変心強い。では明日、楽しみにしておりますぞ」

エルマ「はい、私共に出来ることがあれば、何なりと」

  ウレアヌ、部屋から出て行く
  バスティ、怪訝な顔で—

バスティ「あれが、村長……?」

エルマ「どうかされましたか?」

バスティ「いや、なんか見分けつかないのよね。この村のドワーフって」

勇也「分かる、韓流アイドルみたいなね」

バスティ「ちょっと何言ってるのか分かんない」

エルマ「確かに、ドワーフ族はもっと十人十色だったはず……」

バスティ「ま、みんな同じような体型だからそう見えるのかもね」

エルマ「もう、失礼ですよ」

勇也「スタイルがいいやつの余裕だな」

バスティ「ちょっと、いやらしい目で見ないでよ」

勇也「そんなんじゃないけど、気を付けた方が良いんじゃない?」

バスティ「何を?」

勇也「バスティ、夜ご飯二十杯くらいおかわり―」

バスティ「ふんっ!」

  バスティ、勇也の頬にビンタ
  涙を散らし、吹き飛ぶ勇也

バスティ「育ち盛りの女の子なんだから、仕方ないでしょ!」

勇也「き、斬られるより痛い……」

バスティ「アタシはもう寝るけど、変な気起こしたら、アンタの旅はここで終わりだと思いなさい」

エルマ「それは困ります」

  バスティ、ベッドに潜る

勇也「そんな度胸があったら、この年まで童貞してないよ……」

× × × × ×

  深夜
  皆が寝静まった頃
  スースーと寝息が聞こえる
  勇也、徐に目を開ける

勇也「ん~、トイレ~」

  ふと、隣を見る
  雑に捲れたベッド
  そこにバスティの姿はない

勇也「トイレ被りしちゃった……。そろそろ、一家にトイレ二台持ちが常識になってくれないかな……」

  勇也、トボトボと部屋を出る
  ベッドの下、奇天烈な寝相のバスティ

× × × × ×

  水の流れる音
  勇也、トイレから出てくる
  眠い目を擦りながら―

勇也「ん~……」

  その時、微かに猫の鳴き声
  ふと足を止める勇也

勇也「ん、猫……?もしかして、バスティ……?」

  声のした方に歩く勇也
  やがて、倉庫のようなものが見える

勇也「バスティ、そんなリアルな声出せるんだね。こんなところで何して―」

  木造の扉をギシッと開ける
  足元、一匹の猫が走り去る
  勇也、中の光景に絶句

勇也「……!」

  大勢のウレアヌ、正面を向いて整列
  表情も変えず、微動だにしない
  まるで、並べられた人形の様
  息を詰まらせる勇也、思わず―

勇也「何、これ……」



[44091] 第六幕 木こりの村の秘密
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/10 09:54
●ドワーフ族の村・宿屋

  翌朝、陽の光がさしこむ
  部屋に響くアラーム音
  エルマ、目を覚ます
  起き上がり、伸びをする

エルマ「もう朝ですか……」

  ベッドの下、チラと猫耳が揺れる
  バスティ、ベッドの下から出てくる
  煩わし気に眉を顰めて―

エルマ「おはようございます」

バスティ「おはよう。なに、この音?」

エルマ「恐らく、勇也様の―」

  ふと、勇也に振り向くバスティ
  震える勇也、目はガンギマリ
  歯をガチガチと鳴らしながら―

勇也「こ、怖くて寝れなかった……」

バスティ「勇也!?」

●ドワーフ族の村・森

  鬱蒼とした森
  その中に開けた場所がある
  ドワーフたち、木を切っている
  体より大きな斧で、木を打ち付ける
  その中に、勇也一行の姿
  手刀で木を切るバスティ
  魔法で木を運ぶエルマ
  勇也、手に持つ斧を下ろす
  燦々と輝く太陽に目を向ける
  スマホを取り出して―

勇也「さすがに、異世界には対応してないか」

  天気アプリ
  温度は表示されていない

バスティ「何サボってんのよ」

  バスティ、こちらにやってくる

勇也「バスティが有能すぎるんだよ」

  バスティ、スマホに気付いて―

バスティ「なに、その板?」

勇也「テンプレの反応ありがとう」

  エルマ、やってきて―

エルマ「スマートフォン。勇也様の世界で、広く使用されている携帯機器の一種ですね」

バスティ「もしかして、さっきピッピピッピいってたのもこれ?」

エルマ「えぇ、アラームと言います」

勇也「ポケットの中弄ってたら入ってたんだよね。まぁ、wi-fiとか何もないから、ほぼ使えないんだけど」

  勇也のスマホの右上
  『圏外』の表示

エルマ「この世界では魔法が普及しているので、そういったものは存在しないですね」

勇也「そういえば疑問だったんだけど、なんで太陽出てるの?言ったら下界って、地下洞窟みたいなものでしょ?」

  エルマ、ニッコリ笑って―

エルマ「魔法です」

勇也「ワオ、便利」

ウレアヌ「捗っていますかな?」

  ウレアヌ、やってくる

エルマ「えぇ、貴重な体験をさせていただき、ありがとうございます」

  勇也、目を見開く

  〔回想〕
  ・倉庫内、立ち並ぶウレアヌたち
  ・無機質で、人形の様

ウレアヌ「いえいえ。こちらこそ、勇者御一行様にお手伝いいただけるなんて、何たる光栄なことか」

勇也M「さすがに、気のせいか……」

ウレアヌ「ところで勇者様」

勇也「は、はい」

ウレアヌ「昨晩は、倉庫で何をしていたのですかな?」

勇也「え、倉庫って……」

ウレアヌ「見ていましたぞ」

  ザッと足音
  背後にウレアヌだ

ウレアヌ「勇者様が、我々の倉庫に足を踏み入れたところ」

  ザッと足音
  傍らにウレアヌだ

ウレアヌ「まさか、見られてしまっていたとは」

  ザッと足音
  正面にウレアヌだ

ウレアヌ「出来れば知られずに―」

  ウレアヌだ
  ウレアヌだ

ウレアヌ「済ませたかったのですが」

  ウレアヌだ
  ウレアヌだ
  ウレアヌだ

ウレアヌ「見られてしまっては―」

  ウレアヌだ
  ウレアヌ
  ウレアヌ
  ウレアヌ

ウレアヌ「仕方がない……」

  ウレアヌ
  ウレアヌ
  ウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレアヌウレ―

●ドワーフ族の村・宿屋

  ベッドに寝そべる勇也
  徐に目を開ける
  重い体を起こして―

勇也「ここは……」

エルマ「勇也様、お目覚めですか」

  傍らには、バスティとエルマ

勇也「二人とも……」

ウレアヌ「ご無事で何よりです、勇者様」

  声に振り向く勇也
  ウレアヌ、優し気な眼差し
  勇也、ガタッとベッドから飛び起き―

勇也「ホラー展開は予想してないっ!」

ウレアヌ「驚かせてしまい、申し訳ありません。ですが、何も取って食おうというわけではないのです」

勇也「そうなの……?」

ウレアヌ「勇者様の損失は世界の損失。我々……、いや、私のようなドワーフにそれ程の業を背負う覚悟、ございませぬ」

バスティ「みんな同じ顔してるって思ってたけど、気のせいじゃないわよね?」

ウレアヌ「この村にいるドワーフは皆、私なのです」

バスティ「どういうこと?」

エルマ「もしかして、クローン魔法?」

ウレアヌ「その通り……。かつて、この村の規模は今より大きく、それだけ多くのドワーフが暮らしていました。しかしある時、魔族の襲撃を受け、村は焼け落ち……、幸か不幸か、生き残ったドワーフは私だけじゃった……。どうしてこの村なのじゃ、どうして私らなのじゃ……。孤独で過ごす日々は、永遠のようじゃった。自ら、命を捨てようとしたこともあった。じゃがそれでは、我々ドワーフ族の生きた証を永遠に失ってしまう。唯一残ったこの村を守るため、私自身がこの村の守り神となり、千思万考しようと考えたのじゃ」

勇也「そんなことが……」

ウレアヌ「私自身である全てのドワーフと全感覚を共有し、今ならどこに魔族が現れようとも、察知することができる。勇者様、昨晩あなた様がご覧になられたのは、私のクローンの保管庫だったのです」

勇也「そうだったんだ……」

  その時、ダッダッダと足音
  バンッと扉が開く
  ウレアヌ、息を切らして―

ウレアヌ「大変じゃ!巨大な翼竜の群れが、この村を狙っておる!」

ウレアヌ「何じゃと!?」

勇也「翼竜……。もしかして……!」

× × × × ×

  外に出る勇也一行
  見上げた空に翼竜の大群
  その姿に見覚えがあって―

バスティ「あれ、昨日アタシたちが襲われたやつじゃない!」

ウレアヌ「ダクティーロ……。ここらの上空を縄張りにしている、魔獣の一種です」

  ウレアヌ、拳をグッと握る
  村中に聞こえるように声を上げ―

ウレアヌ「この村を奪われるわけにはいかない!全勢力を以って、ダクティーロを討伐するのじゃ!」

ウレアヌ達「おーっ!」

エルマ「勇也様、私たちも―」

勇也「……」

  翼竜を見上げたまま立ち尽くす勇也
  それに、怪訝な表情のエルマ

エルマ「勇也様?」

勇也「え?あ、あぁ、戦おう。戦わなきゃ……」

  勇也、クエストドライバーを装着
  両端を押し込み、台座を立てる
  壮大な待機音、村に響く

勇者「変身!」

  ドライバーの剣を引き抜く
  勇者の鎧、勇也の体に装着
  仮面ライダーヴァラー、現る
  ダクティーロ、ヴァラー目掛けて急降下
  思わず尻餅をつくヴァラー

ヴァラー「……ちょ、待て!」

  ヴァラー、ブンブンと剣を振るう
  しかし、飛んでいく翼竜に当たらない

バスティ「ちょっと、ダサいわよ!」

ヴァラー「元の世界にあんなのいないから!見慣れてないの!」

エルマ「あの位置では剣がとどきません。私の、盟友の証石を使ってください!」

ヴァラー「魔法で遠距離攻撃ね!」

  ヴァラー、盟友の証石を取り出す
  ベルトにかざし、バックルに変形
  手首のスロットに装填
  魔法使いの鎧、装着

ヴァラー「これ、光弾とかレーザーとか出せないの?」

エルマ「魔法はイメージの世界です。勇也様が想像できることなら、なんでも実現しますよ」

ヴァラー「なるほど、よくあるやつね。妄想は俺の専売特許だぜ~」

  ヴァラー、目を閉じ顔を伏せる
  ブツブツと呟き、考え込む
  やがて、パッと目を開いて―

ヴァラー「『レグプルーヤ』!」

  翼竜にかざされた手
  そこから光弾が射出
  翼竜の腹に大きな風穴を開ける
  翼竜、地面に不時着、砂煙が舞う

ヴァラー「うお、出た!見掛け倒しで、レベルはそこまで高くないのかな?」

エルマ「お見事です、勇也様」

  ヴァラー、エルマに振り向く
  杖を構え、祈るエルマ
  周囲に魔力が溢れ出す
  白いローブがはためく

エルマ「さらに想像力を磨けば、こんなことも出来るようになりますよ」

  エルマ、パッと目を見開く
  杖を天に掲げ―

エルマ「『ラージェル』!」

  杖の先端から光線が放たれる
  幾重にも重なり、翼竜を撃ち抜く
  次々と地面に落ちる翼竜の死骸
  砂煙が上がり、地響きが鳴る

ヴァラー「か、かっけぇぇぇぇ!」

  得意げな表情のエルマ

バスティ「テンション爆上がりじゃない」

  地面に倒れる翼竜
  その瞳が、カッと開く
  ヴァラーの背後、起き上がり、爪を振るう
  ヴァラー、振り向くが避けられない

ヴァラー「やばっ、まだ生きて―」

  直後、翼竜、真横に吹き飛ぶ
  その巨躯の上、バスティの姿

バスティ「地上の死に損ないはアタシに任せて、アンタらは飛んでるやつを!」

エルマ「お願いします!」

  バスティ、飛び上がり拳を突き出す

バスティ「『モーロット』!」

  そのまま、翼竜の上に着地
  強烈な拳を叩きこむ
  轟音と衝撃、辺りを揺るがす
  翼竜、動かなくなる
  空を飛ぶ翼竜たち、集まる
  一斉に炎を噴き出す
  ウレアヌたちに業火が迫る
  ヴァラーとエルマ、彼らの前に立ち―

ヴァラー/エルマ「『ザシータ』!」

  巨大な魔力の防御壁、炎を弾く

ウレアヌ「勇者様だけに全てをお任せするわけにはいかん!この村への我々の執念、あの鳥擬きに見せつけてやろうぞ!」

ウレアヌ達「おーっ!」

ヴァラー「結構キャラ変わるじゃん」

ウレアヌ「クローン生成!」

  ウレアヌたち、木を伐採する
  残った切り株、モゾモゾと蠢く
  やがてウレアヌの姿になり、動き出す

ヴァラー「あ、想像と違った」

エルマ「勇也様の想像力を、彼らが上回ったということでしょうか……」

  ウレアヌたち、何人も積み重なる
  高く高く、どこまでも積み重なる
  やがて、大きな一つの塊になる
  その姿は、巨大なウレアヌだ

ウレアヌ「『ドワーフ・ドール』!」

  咆哮、木々を揺らす
  巨大な斧、空を切る
  跡形もなく血飛沫と化す翼竜
  勇也一行、開いた口が塞がらない

ヴァラー「いや、強すぎるって……」

× × × × ×

ウレアヌ「皆様のおかげで、村を守ることができました。感謝を」

エルマ「いえいえ、私たちは何も」

勇也「ほんと、最後持ってかれたからね……」

ウレアヌ「もう、行くのですか?」

エルマ「はい。本当は、被害箇所の復旧をお手伝いしたいのですが……」

ウレアヌ「良いのです。あなた方は、あなた方のやるべきことを……」

バスティ「ねぇアンタ、アタシたちの仲間にならない?」

エルマ「バスティさん」

  バスティ、何の気なしに聞く
  それに、意外そうな顔のエルマ
  穏やかな表情を崩さないウレアヌ
  首をユルユルと横に振り―

ウレアヌ「いえ、私の使命は、この村を永遠に守り抜くこと……。いつか勇者様方が魔王を討伐し、この世界に真の平和をもたらしてくださること、この小さな村でお祈りしておりますぞ」

●ボーテミュイズン〔下界〕・平原

  歩いている勇也一行

バスティ「もう少し、あの宿にいたかったわね~」

エルマ「そうですね」

バスティ「ねぇ、勇也もそう思うわよね?」

  しかし、反応はない
  バスティ、首をかしげて―

バスティ「ね~、勇也ったら~」

勇也「え?あぁ、うん、そうだね。真夜中にウレアヌさんの大群を見るのは御免だけど……」

バスティ「それ、アタシも見たかったな~」

  背後、会話をするエルマとバスティ
  勇也、一人神妙な面持ち

  〔回想〕
  ・勇也「これからは、無駄な戦闘は避けて行こう」

勇也M「俺のせいだ。俺があそこで戦っていれば、村は襲われずに済んだ。危うく、ウレアヌさんの故郷を、滅ぼすところだった」

  勇也、顔を上げる
  決意したかのような表情

勇也M「戦わなきゃ、誰かが死ぬ。勇者って、そういうことなんだ……」



[44091] 第七幕 大は小を想う
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/11 11:41
●ボーテミュイズン〔下界〕・川沿いの道

  歩いている勇也一行
  傍ら、大きな川が流れる

バスティ「勇也、なんか話しなさいよ」

勇也「いや、無茶振りが過ぎるでしょ。別に、話すことがなければ無理に話す必要なんてないじゃん。ボロが出るだけだよ」

バスティ「ったく、面白い話しの一つや二つ、持ってないわけ?」

勇也「そんな彩り豊かな人生送ってたら、促されなくても話してるよ」

  その時、何かが空を切る音
  巨大な剣、目の前の地面に突き刺さる
  辺りに反響する、甲高い音

勇也「あっぶな!」

エルマ「何者ですか!?」

??「よぉ、兄ちゃんたち。この先は通さねぇぜ……?」

  直後、轟音
  砂煙、地面が揺れる
  その向こう、人影
  一人の少年、立っている
  挑発的に口角を上げて―

??「この先は、矮人族の集落だ。部外者はとっとと引き返せ」

  バスティ、前に出る
  挑発的な態度を返して―

バスティ「アンタこそ、奇襲みたいなことしてタダで済むと思ってるのかしら?」

??「獣人……。その装備、格闘家だな」

勇也「え、戦うの?」

エルマ「バスティ、気を付けてください。あの筋肉、骨格……、巨人族です」

バスティ「巨人族?にしては、随分と小さいわねぇ」

  少年、眉をピクリと上げる
  舌打ちをし、バスティを睨む

??「姉ちゃんよぉ……、巨人の力舐めてっと、痛い目見るぜ!」

  少年、飛び出す
  地面に亀裂
  同じく飛び出すバスティ
  両者の拳、かち合う

バスティ「子供のくせに、結構な力じゃない!」

??「姉ちゃんも、中々やるな。でもそんな細い腕、簡単にへし折ってやる!」

バスティ「やれるもんなら、やってみなさいよ!」

  両者の戦闘、目にも止まらぬ速さ
  それを見守る勇也とエルマ

勇也「な、なぁ、あれ平気なの?」

エルマ「確かに巨人の力は凄まじいですが、その分動作は重い。バスティさんの、獣人特有の素早さで上手く攻撃を受け流していますね。ですが、巨人族の脅威はそれだけではなくて―」

  直後、刃が空を切る音
  バスティの拳、短剣が掠める

バスティ「あっぶな!なに持ち出してんのよ!」

??「へへっ、巨人族は武器の扱いにも長けてるんだ!武術しか使えない獣人族と違ってな!」

  ドンッ、地が揺れる
  少年、巨大なハンマーを構えて―

??「世間知らずは命知らずだぜ、姉ちゃん!」

  少年、飛び出す
  ハンマーを振り下ろす
  轟音と共に砕ける地面

バスティ「ちっ……!」

  飛び退けるバスティ
  その着地点の周囲、無数の剣が囲む

バスティ「やばっ……!」

  ハンマーを振り下ろす少年
  バスティ、避けられない

エルマ「『ザシータ』!」

  目の前に現れるエルマ
  防御壁、ハンマーを防ぐ
  メキメキとひびが入る

勇也「変身!」

  勇也、仮面ライダーに変身
  少年に剣を振り抜く
  飛び退ける少年
  着地、舌打ちして―

??「マジか、兄ちゃん勇者だったのか。流石に部がわりぃ……」

  少年、飛び去る
  ヴァラー、変身解除
  直後、狼狽して―

勇也「お、思いっきり剣振っちゃったけど、大丈夫だったかな……?」

エルマ「巨人族の体は頑丈です。今の勇也様のレベルでは、かすり傷すら付けられませんので、ご安心を」

勇也「ご安心と共にご傷心なんだけど」

バスティ「いたた……」

  顔を顰めるバスティ
  脹脛から血を流している

勇也「う、血が……」

エルマ「先ほどの、着地の時ですね」

バスティ「エルマ、アンタ治癒魔法とか使える?」

エルマ「えぇ。ですが、まずは身を落ち着けるために、この先の矮人族の集落に行きましょう」

勇也「そう言えば、さっきの少年そんなこと言ってたな」

バスティ「そうね。アタシ歩けないから、誰か運んでってね~」

× × × × ×

勇也「矮、矮……、小さいってことか」

エルマ「はい。巨人族と矮人族は、共に高貴種と下賤種で対をなす種族です」

勇也「あ~、そこでも対なしてるのか……」

エルマ「それにしても、先ほどの少年は、どうして私たちを足止めしたのでしょうね……」

バスティ「ちょっと待って、矮人族って初めて見るんだけど、どれくらい小さいの?」

エルマ「大体、小指ほどの大きさだと。花びら三枚あれば、一週間は食に困らないといいます」

バスティ「どうやって暮らしてるの?」

エルマ「地面や壁に穴を掘ったり、枯れ葉や枝を組んで家を作ったり……。小さいなりの工夫が見られますよ」

バスティ「ってことは―」

●矮人族の集落

  足元、行き交う矮人族
  ほんの小さな家が点々としている
  一歩で全て踏み潰してしまいそう
  木の枝の上を走る者もいる
  崖の壁面、穴の中の矮人族がこちらを覗く
  バスティ、それを見て眉をピクピクさせ―

バスティ「アタシたち、ゆっくりなんて出来ないじゃない」

勇也「むしろ、俺たちが平穏な生活を奪ってしまいそう……」

エルマ「そういえば、そうでしたね」

バスティ「ったく、アンタそういうところあるわよね。ところで―」

  宙に浮くバスティ
  エルマの魔法だ
  腰を持たれて宙ぶらりん状態

バスティ「この運び方はないんじゃない?」

× × × × ×

  地面に腰かける勇也一行
  エルマ、バスティの脹脛に手をかざす
  淡い光が漏れ、傷を癒す
  バスティ、上機嫌そうに―

バスティ「さすが、エルフ族の魔法は一級品ね」

エルマ「エルフ族は、魔法適性が他の種族と比べて高いですから」

バスティ「召喚魔法も使えるんだもの。やっぱり、魔法でエルフ族の右に出る者はいないのね」

エルマ「……そう、ですね」

勇也「あの~……」

バスティ「なによ?」

勇也「何か俺たち、囲まれてないですかね……」

バスティ「え?」

  ふと、正面を見るバスティ
  矮人族たち、勇也一行を囲んでいる
  その手には、針や木の枝
  こちらを警戒、震えた声で—

矮人「巨人族め、今すぐこの集落から立ち去れ!」

バスティ「巨人族?」

エルマ「いえ、私たちは巨人族では―」

矮人「嘘をつくな!」

矮人「その大きさ、どこからどう見ても巨人族だ!」

バスティ「いや、アンタたちから見たら誰でも巨人族じゃない」

勇也「何か歓迎ムードじゃないと思ったらこれか」

エルマ「随分と、巨人族に怯えているみたいですね……」

  怪訝に眉を寄せる三人
  直後、轟音が鳴り響く

勇也「な、何!?」

  眼前、立ち込める砂煙
  その先、何やら人影
  にしては、あまりにも大きすぎる
  それを見て、矮人族、叫ぶ

矮人「きょ、巨人だーっ!」

  慌てふためく矮人族、逃げ惑う
  一人の矮人、家の中に隠れる
  その家、跡形もなく踏み潰される

??「はっはっは!小指ほどもねぇ虫ケラ共が!我々巨人族の前にひれ伏せ!」

  暴れ回る巨人、地面を踏み荒らす
  それを見て、バスティ、眉を顰める

バスティ「ちょっと、あれ……」

エルマ「えぇ、酷いですね……」

矮人「助けて……、助けてください……」

  足元の矮人、涙を流し怯える
  それを見つめる勇也
  クエストドライバーを取り出す
  握る手、微かに震えている
  直後、勇也、ダッと飛び出して―

勇也「お、おい……!きょ、巨人……!」

??「あぁ?」

  声に振り向く巨人
  目の前の勇也を見下ろす
  体格差は何十倍にも渡る

勇也M「これが、巨人族……!」

ペリオー「何だ、てめぇ。この巨人族六神が一人、ペリオー様に何か文句でもあんのか?」

勇也「か、神様なんですね~、すご~い……」

ペリオー「はっ、それが分かってんなら引っ込んでろ」

勇也「……でも、勇者として、これは見過ごしたらいけない気がする……」

  勇也、台座を立て、剣を引き抜く

勇也「へ、変身……!」

  仮面ライダーヴァラー、現る

ヴァラー「お、おらぁ!」

  ヴァラー、ペリオーに剣を振るう
  しかし、全く歯が立たない
  太い腕が、まるで巨大な岩石の様

ペリオー「その程度か?勇者さんよぉ」

  直後、体に衝撃が走る
  同時に、重く響く打撃音

ヴァラー「がはっ……!」

  ペリオー、勇也の腹に拳を入れる
  激しく吹き飛んでいくヴァラー
  受け身が取れず、地面を転がる
  変身解除、鎧が弾ける

エルマ「勇也様!」

  駆け寄るエルマとバスティ

エルマM「まさか、一撃で変身解除になるなんて……!」

バスティ「ちょっと、これヤバいんじゃないの……!?」

  ドスドスと響く足音
  ペリオー、こちらに歩いてくる
  鋭い眼光、ギロリと睨み―

ペリオー「エルフに獣人……、なんだ、下賤種の寄せ集めじゃねぇか。高貴種の俺様が、ここで全員纏めて殺してやるぜぇ」

  巨大な拳を振り上げるペリオー
  勢いよく振り下ろされる
  思わず目を閉じる勇也
  しかし、予想した痛みが訪れない
  恐る恐る目を開ける
  すると、目の前に少年の背中
  ペリオーの拳をギリギリで受け止めている
  その姿に、見覚えがある

勇也「あ、さっきの……」

  少年、拳を弾く
  ペリオー、余裕そうに笑い―

ペリオー「小僧……。あぁそうか、ガンテってのはてめぇか。巨人族の落ちこぼれが、正義のヒーロー気取りか?」

  ガンテ、ペリオーを冷たく睨み―

ガンテ「黙れ、クズ野郎。今すぐここから立ち去れ」

ペリオー「黙って聞いてりゃこのクソガキ……。瞬きの間に踏み潰してくれるわ!」

ガンテ「やってみろよ、おっさん。図体ばっかでかいだけで、何の取り柄もないくせに!」

ペリオー「ほざけ!」

  ペリオー、拳を振り下ろす
  響く轟音、地面が砕ける
  ガンテ、丸太のような腕を登る
  ペリオーの肩に乗り肩車状態
  ガンテ、右手にショットガンを錬成
  ペリオーの後頭部に突きつける

ペリオー「な―」

  直後、引き金を引き絞るガンテ
  銃声と共に、ペリオーの頭に風穴
  鈍い音を立てて倒れる
  広がる血だまり、矮人の家を呑み込む

勇也「つ、強い……」

男性「ガンテ!」

  足元から声
  ガンテ、地面を見下ろす
  一人の矮人、ガンテを見上げて―

男性「ありがとう……!」

  ガンテ、優しく微笑み―

ガンテ「あぁ」

  ガンテ、こちらを睨む
  僅かに身構える勇也
  しかし、何も言わずに走り去る

勇也「ちょ、ちょっと待って……!」

  追いかける勇也
  その後ろ、エルマとバスティも着いてくる

× × × × ×

  川を見て黄昏るガンテ
  そこに勇也一行、追い付く

勇也「ねぇ君、さっきの―」

ガンテ「別に、お前たちが巨人じゃないの知ってたし!」

勇也「へ?」

ガンテ「知った上で、実力を試しただけだし!勘違いしたとかじゃねぇから!」

バスティ「ったく、素直に謝りなさいよ」

エルマ「あははは……」

勇也「えっと、どうしてあの集落を守ったの?君も巨人、だよね?」

ガンテ「俺の親父が矮人族なんだよ。だから、あそこが襲われるのが許せなかった……」

  〔回想〕
  ・男性「ガンテ!ありがとう……!」

勇也M「もしかして、さっきの……」

ガンテ「ってか、上に住んでようが下に住んでようが、そんなん関係ねぇだろ……!」

  勇也、悲し気に目を伏せて―

勇也「……うん、それは思う」

  ガンテ、顔を上げる
  意外そうな表情
  直後、決然と―

ガンテ「なぁ、兄ちゃんって勇者なんだろ?」

勇也「え?ま、まぁ一応」

バスティ「一応じゃないでしょ」

エルマ「正真正銘、勇者です」

ガンテ「だったら、俺に協力してくれねぇか……?」

勇也「それは、何を?」

ガンテ「巨人族六神をぶっ潰すんだよ。矮人族を守るために……」

  ガンテ、真っ直ぐに勇也を見て―

ガンテ「俺と一緒に、上界……、巨人族の街に来てくれ!」



[44091] 第八幕 上だとか下だとか
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/11 11:41
●ボーテミュイズン〔下界〕・平原

  歩いている勇也とガンテ
  ガンテ、無言で歩を進める
  勇也、気まずい空気を感じて―

勇也「あ、あの~。これは、どこに向かってるんでしょうかね……?」

ガンテ「世界樹、ユグドライドだよ。上界に行くには、そこからテレポートしなきゃいけないんだ。勇者なのに、そんなことも知んねぇのかよ、兄ちゃん」

勇也「まだまだ、巨人に傷一つ付けられないレベル5なもので……」

ガンテ「早くしねぇと、またあの集落が襲われる……」

勇也「ずっと、あの集落を守ってきたの?」

ガンテ「あぁ、俺一人でな。別に、協力者が欲しかったわけじゃねぇけど。おかげで、有名になっちまった」

  〔回想〕
  ・ペリオー「巨人族の落ちこぼれが、正義のヒーロー気取りか?」

勇也「どうして、巨人族は矮人族を襲ったりするの?」

ガンテ「見下してるからだよ。大きいものが小さいものを、高貴種が下賤種を下に見るのは、当然のことだ」

勇也「だけど……」

ガンテ「って、連中は思ってやがる」

勇也「ガンテくんは、違う?」

ガンテ「ったりめぇだ。俺の両親は、そんな種族の壁を取っ払ったようなもんだからな」

勇也「母親が巨人で、父親が矮人……」

ガンテ「あぁ、俺はハーフだ。だから、上とか下とか、そんなん関係ねぇ。小せぇだの非力だの馬鹿にされたってなんてことねぇ」

勇也「……巨人族はみんなそうだと思ってたけど、俺が浅はかだったよ」

ガンテ「そうだぜ、兄ちゃん。しっかりしてくれや」

  ガンテ、勇也の背中を叩く
  その力強さに、顔を顰める勇也
  上機嫌そうに歩を進めるガンテ
  勇也、その背中を見て―

勇也M「にしても、どうやって、その……、シタんだろう……」

●ボーテミュイズン〔下界〕・世界樹の麓

  眼前、天高く聳える世界樹

ガンテ「着いた」

勇也「テレポートって……、ガンテくんも魔法使えるの?」

ガンテ「いや、俺が使えるのはちょっとした錬金術ぐれぇだよ」

勇也「十分凄いよ」

ガンテ「上下界のテレポートは、世界樹の恩恵の一つだ」

  ガンテ、世界樹に向かって声を上げる

ガンテ「上界に連れてってくれ!」

  直後、二人の体が輝く

勇也「え、何こ―」

  光の粒子となり、空へ登っていく

●ボーテミュイズン〔下界〕・川辺

  座り、川を眺めるエルマとバスティ
  エルマ、ソワソワと落ち着かない様子で―

エルマ「やはり、今からでも追いかけた方が―」

バスティ「しつこいわね、何回やるのよこのやり取り」

エルマ「まだ三十四回目です」

バスティ「エルフの感覚分からないわぁ」

  バスティ、溜息をついて―

バスティ「アンタ、意外と落ち着きないわよね。平気よ、アイツが一緒に来なくていいって言ってたんだから」

エルマ「いつになく、頑なでしたね……」

バスティ「まぁ、少しは勇者らしくなってきたんじゃないかしら」

  あっけらかんと笑うバスティ
  その隣、心配そうに眉を寄せるエルマ

●巨人族の街

  見上げる勇也
  開いた口が塞がらない
  道幅は、ざっと勇也二十人分
  それに沿って、巨大な家が立ち並ぶ
  中央の噴水はまるで滝の様

勇也「あ、頭バグりそう」

ガンテ「おい兄ちゃん、なに呆けてんだよ」

  建物の陰に隠れる二人
  ガンテ、対面の建物を指さして―

ガンテ「あそこが、巨人族六神のいる建物だ。何もない限りは、大体やつらあん中にいる」

勇也「そっか。さっきガンテくんが一人倒したから、今は五神だね」

ガンテ「いや、四神だ。前に一匹殺した」

勇也「やっぱ強いな。俺なんて、いなくてもよかったんじゃないの?」

  ガンテ、僅かに目を伏せる

  〔回想〕
  ・勇也「……うん、それは思う」

ガンテ「今まで、俺に味方してくれるやつはいなかった……。矮人族でさえ、俺のことを恐れていた」

  ガンテ、顔を上げニカリと笑って―

ガンテ「同じ考え持ってるやつが一緒にいたら、心強いだろ?」

勇也「そっか……、そうだね!」

ガンテ「しっかし、どうやって乗り込むか……」

勇也「う~ん……」

勇也M「ゲームでは、隠し通路とか見つけるの面倒だったからなぁ」

ガンテM「裏口とか、奇襲とか、んなコソコソしたやり方、俺の性に合わねぇ!」

  勇也とガンテ、顔を見合わせて―

勇也/ガンテ「やっぱり正面突破!」

ガンテ「だな。よし、行くぞ!」

  ガンテ、ダッと走り出す
  その後を着いていく勇也

●巨人族の街・六神集会場

  廊下を歩く巨人・イオス
  ダッダッダという足音に気付く
  しかし、その時にはもう遅い
  背後にガンテ、イオスの首を掻っ切る
  ゴトッ、床に首が落ち倒れる
  ガンテ、傍らに華麗に着地
  その隣、ヴァラー、感心したように―

ヴァラー「凄い、あっという間に……!」

ガンテ「親父とお袋には感謝しねぇとなぁ。力と身軽さを兼ね備えたこの体、どんな巨人でも相手になんねぇぜ!」

  直後、轟音が響く
  傍らの壁、突然砕け散る
  巨人・クロノ、突撃してくる

ヴァラー「壁ぶち破ってきたーっ!?」

??「何者だ!」

  ドスドスと廊下に足音が響く
  巨人・クレイ、駆け付ける

ガンテ「ちっ、バレたか!」

クレイ「貴様、ガンテだな?巨人族の落ちこぼれが」

ガンテ「っせぇな!一日に何度も言うんじゃねぇ!」

クレイ「……隣の貴様、何者だ?」

ヴァラー「あ、いえ、ただの通りすがりの勇者ですので、おかまいなく~……」

  ヴァラー、壁穴から脱出を試みる
  しかしクロノ、それを妨げて―

クロノ「おっと、行かせねぇよ」

クレイ「我々六神の集会場に無断で侵入して、タダで帰れると思うなよ?」

ガンテ「てめぇらこそ、矮人らの報いを受けてもらうぜ?」

クロノ「ほざけ、巨人のなり損ないが!」

  同時に拳を振り下ろす巨人二体

ヴァラー「『ザシータ』!」

  その拳を、防御壁が防ぐ

クレイ「なっ、魔法……!?」

ガンテ「最高だぜ、兄ちゃん!」

  ガンテ、宙に手をかざす
  数多の武器を錬成する
  剣、斧、ハンマー
  槍、鉈、短剣
  それらを扇状に組み合わせる
  超速回転、飛び立つガンテ

ガンテ「『ヴラシェーニ』!」

  扇状の刃がクレイの首を刎ねる
  次いで、クロノの体をズタズタに切り裂く
  鈍く重い音を立てて倒れる巨人二体

ヴァラー「ぬあぁ、血だまりがプールみたい!」

ガンテ「兄ちゃん、先進むぞ!」

ヴァラー「う、うん!」

  走り出すヴァラーとガンテ

●巨人族の街・六神集会場・最奥

  中に入る勇也とガンテ
  警戒し、辺りを見回している

ガンテ「ここで行き止まりか……」

  その時、バタンッと扉が閉まる

??「活きが良いのが二匹紛れ込んでいるな」

  バッと振り返る二人
  見上げた先、巨人・アノス
  こちらをギロリと見下ろし―

アノス「まさか、我々六神をここまで追い詰めるとは……。だが、このアノス様からは逃れられない」

ガンテ「言ってろ!」

  ガンテ、アノスに斧を振り下ろす
  しかし、全く歯が立たない
  まるで、鉄を切ろうとしているかの様

ガンテM「か、硬すぎる……!」

  腕を振り抜くアノス
  ガンテ、吹き飛び壁に激突

ヴァラー「ガンテくん……!」

  ヴァラー、アノスに向き直り―

ヴァラー「『レグプルーヤ』!」

  ヴァラー、光弾を射出する
  しかしアノス、それらを片腕でいなす

ヴァラー「『グラヴィータ』!」

  アノスに強大な重力がかかる
  凹む地面、亀裂が入り砕ける
  しかしアノス、それをものともしない
  拳を振るい、軽々とヴァラーを吹き飛ばす
  魔法使いの鎧、弾ける

ガンテ「兄、ちゃん……!」

アノス「先刻、小人共を根絶やしに行ったペリオ―とアぺトが戻っていない……。全て貴様の仕業だな、ガンテ?」

ガンテ「……」

ヴァラー「どうして……、どうしてそこまで、矮人族を目の敵にするんだよ」

  アノス、常識を語るかの如く―

アノス「我々より、下等な存在だからだ。高貴種が下賤種をどうしようとも、この世界の規則に反することはない」

ヴァラー「何だよ、それ……。ってか、何なんだよその、高貴種とか下賤種とかって……」

アノス「全ての始まりは、忌子をこの世界に再び召喚したエルフ族だ。やつらを皮切りに、亜種族間の高貴と下賤の選別が行われ、多くの種族が下界へと堕ちることになった。下劣な者、罪を犯した者、醜い者、汚らわしい者、憎らしい者……」

ヴァラー「お前らは、どうなんだよ……」

アノス「我々巨人族は、やつらとは違う。多種多様な武器の錬成と流通。この世界に貢献する、正真正銘の高貴なる存在、上界にこそ相応しい種族。ただちまちまと死なぬために生き、資源を浪費するだけの醜い小人とは違う。我々高貴種が、やつら下賤種を踏み潰すのは当然の行為!そしてやつら下界に堕ちたものにとって、当然の報いだ!」

ガンテ「……!」

  ガンテ、ギリッと歯を食いしばる
  拳を力いっぱい握り締め―

ガンテ「てめぇ―」

ヴァラー「……お前らは、いつもそうだ」

アノス「なに……?」

ヴァラー「自分は上だと信じて止まず、格下認定したやつは隅に追いやって見向きもしない……。いや、それだけならまだいい方だ。一度自分が上だと知った途端、相手に牙を剥き始める。虐げて、利用して、体も心も殺すんだ。俺たちは、何もしてないじゃないか……。ただ、そこにいるだけじゃないか……。だったらお前らも、何もしないでくれよ……」

ガンテ「兄ちゃん……」

アノス「干渉されたくなければ、死ぬしかない。高貴種に搾取されるのは、下賤種にとって当然の運命だ」

ヴァラー「高貴とか、下賤とか……、上とか下とかそんなの知らねぇよ!同じ『人』が付いてるなら、どうしてそれだけで分かり合えないんだよ!お前らは自分のことを高貴種って言ったよな……?でも、矮人族のみんなからしたら、お前らの方が下賤だ。下劣で傲慢で、体ばっかりでかいだけで心の狭い、さっきお前が言った下賤種そのものだ!」

  アノス、落ち着き払った表情、声音
  しかしその瞳は、怒りに満ちている

アノス「……ほう、言うではないか、此度の勇者よ。勇者の損失は世界の損失……。だが、我ら六神に牙を剥いたとなれば話しは別だ。その大罪、己の身を以って償え!」

  アノス、ヴァラーに拳を振り下ろす
  ガンテ、それを寸前で受け止める

ヴァラー「ガンテ……!」

ガンテ「俺は今まで、ずっと一人で戦ってきた……。こいつらだけじゃない、上のやつが下のやつを虐げるのは当然なんて、きっとみんな思ってる……。その中で、違うのは俺だけだった……。でも、ようやく会えた!」

  ガンテ、ヴァラーに振り返り―

ガンテ「勇也、お前に頼んでよかった!」

  直後、ガンテの胸元が光り出す
  その光、拳を弾きヴァラーの掌へ
  そこにあるのは、茶色の宝石

ヴァラー「これ、盟友の証石……!」

  アノス、ガンテに巨大な鎌を振るう
  それを受け止める、巨大な腕

ガンテ「兄ちゃん……!」

  鎌、大きく弾かれる
  そこには、仮面ライダーヴァラーの姿
  両腕に、巨人の鎧を装着している

ヴァラー「俺はきっと、この世界では下界に住むべき人間だ……。だから、矮人族を見放したりしない!」

アノス「小賢しい!」

ガンテ「行くぞ、兄ちゃん!」

ヴァラー「うん!」

  飛び上がるヴァラーとガンテ
  拳を構えて―

ヴァラー/ガンテ「『モーロット』!」

  それぞれの拳で、アノスの顔を挟む

アノス「ぐっ、我を苔にしよって……。許さんぞ、ガンテ、勇者ぁぁぁぁ―」

  ヴァラーとガンテ、アノスの頭を潰す
  倒れるアノス、血溜まりが広がる

ヴァラー「……やった」

ガンテ「兄ちゃん!」

  差し出された、ガンテの手
  その手を取るヴァラー
  二人、力強い握手を交わす

●ボーテミュイズン〔下界〕・川沿いの道

  歩いている勇也一行

バスティ「まさか、巨人集団を壊滅させちゃうなんて、アンタも結構やるじゃない」

勇也「そ、そうかな」

エルマ「レベルも十に上がりました。着実に、勇者として成長されていますよ」

バスティ「にしても良かったわね~、魔王の手先とかじゃなくて」

勇也「……いや、まだそっちの方が良かった」

バスティ「なに、自信満々じゃない」

勇也「そうじゃなくて。例えば、魔王に操られてるとかだったら、魔王を倒せば事は収まる。だけど、これは―」

エルマ「深く種族に根差した文化的常識、価値観……」

勇也「俺が戦ったところで、変わることじゃないんだ。勇者にだって、出来ないことはあるんだよ……」

ガンテ「でも、矮人族の集落は救えた。もうあいつらは、巨人に怯えなくて済む。それだけでも大手柄だと俺は思うぜ、兄ちゃん!」

  ニカッと歯を見せて笑うガンテ
  勇也、それを見て薄く微笑んで―

勇也「ガンテくん……」

バスティ「で、なんでアンタがいるわけ?」

  渋い顔のバスティ、ガンテに指さし

勇也「あぁ、正式にパーティメンバーに入ってもらったんだ。盟友の証石も貰ったし」

ガンテ「そう言うこった。これからよろしくな、獣人で世間知らずの姉ちゃん!」

バスティ「世間知らずは余計よ!このチビ巨人!」

ガンテ「なっ!今はまだチビだけど、これからもっとでっかくなって、俺が一番に魔王を倒してやるんだからな!」

バスティ「はっ、強がっちゃって~。ママとパパから離れて、寂しくないんでちゅか~?」

ガンテ「何だと~、この犬!」

バスティ「猫よ!」

  背景、言い合いを続けるバスティとガンテ
  それを横目に、勇也、突然立ち止まる

× × × × ×

  どこかの建物、壁沿い
  数人の人物に囲まれる勇也
  顔には痣、涙を流す
  服は汚れ、所々切れている
  相手の顔には靄、見えない

× × × × ×

  頭を押さえ、呆然とする勇也
  呼吸を乱し、眼球が震える
  それに気づいたエルマ、怪訝な顔で—

エルマ「勇也様、どうかされましたか?」

勇也「え?あぁ、いや、何でもないよ。さ、次の仲間を探しに行こう!」

  あっけらかんと歩き出す勇也
  エルマ、その背中を見て静かに―

エルマ「勇也様……」



[44091] 第九幕 「エルマってよりエルバd—」
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/15 10:54
●ボーテミュイズン〔下界〕・砂漠

  照り付ける太陽
  一面の砂の海
  その中に佇む、バスティとガンテ
  緊迫した雰囲気、静かに身構える
  風が吹き、微かに砂が舞う
  やがて二人、飛び出す
  両者の拳、強くかち合う
  轟音と衝撃、砂漠を揺るがす
  それを離れたところで見守る勇也とエルマ

エルマ「ガンテが加わったことで、大幅な戦力増強になりましたね」

勇也「バスティだけでも心強かったけど、やっぱり男がいた方が安心だから。にしても、あの年で偉いよな~。強くなって巨人族を見返そうなんて、俺にはとてもとても」

エルマ「そうですね。共に戦う相手ができて、バスティにとっても良い刺激になっていると思います。勇也様も、あの中に混ざって来ては?レベルも上がったことですし」

  勇也、バスティとガンテに目を向ける
  目にも止まらぬ交戦
  その表情は、お互い血気迫っている

勇也「……俺、魔王よりアレの方が怖いんだけど、この認識で大丈夫?」

エルマ「はい……。もし敵であったら、間違いなく大きな障壁になっていたでしょうね。ですが、勇也様が目指すべき強さは、あの二人よりもさらに上です。パーティを統率できるほどでないと、魔王を倒すことは不可能です」

勇也「はぁ~、荷が重い……」

エルマ「レベルが上がれば、それに応じて剣も鎧も進化します。私たちも、命を懸けてお手伝いいたしますので、ご安心ください」

勇也「うん、ありがと」

  薄く微笑むエルマ
  直後、僅かに目を伏せて―

エルマ「勇也様、先日の巨人族のことですが……」

勇也「あぁ、ごめんね。勝手に行くって決めちゃって」

エルマ「いえ。結果として、勇也様は勇者に相応しい成果を挙げられました。ですが、あまり無茶なことはしないでいただきたいのです。どうか、私たちのことも頼って……」

勇也「ありがとう。でも―」

  勇也、立ち上がる

勇也「俺、勇者だからさ。だから、戦わなきゃ」

エルマ「勇也様……」

  勇也を見上げるエルマ
  その瞳には、憂慮の色が滲む

●ストヴァーニェ

  どこまでも広がる広大な土地
  その中に、百態の建物が立ち並ぶ
  ガンテ、口をおっぴろげて―

ガンテ「でっけぇ街~」

エルマ「亜種族共存都市『ストヴァーニェ』です。その名の通り、下界の様々な種族が集まり、共存しています。文化や言語が混在しており、下界の中でも特に異質な場所ですね」

  勇也、表情に不安の色を浮かべて―

勇也「ここはその……、平気なの?ほら、矮人族みたいに……」

エルマ「あぁ、それは心配いりません。ここに住むのは下界の種族だけですので、迫害や上下関係は存在しないんです。亜種族たちは、決して排他的ではないので、このように様々な種族が交流して栄えている場所もあるんですよ」

  勇也、安堵したように微笑み―

勇也「そっか」

エルマ「本日は、ここの宿でお休みしましょう」

ガンテ「っしゃあ、遊びまくるぞ~!」

  勢いよく走り出すガンテ

バスティ「ちょっとアンタ、エルマの話し聞いてなかったの~!?」

  それを追いかけるバスティ
  勇也、その二人を見て苦笑い

× × × × ×

  八百屋
  顎に手をやるエルマ、食材を吟味
  その傍ら、ガンテが食べようとする
  それを必死に止めるバスティ
  勇也、得体の知れない食材に瞠目

× × × × ×

  街の中央を走る大きな道
  その上を、龍車が駆け抜ける
  それを見て、目を輝かせる勇也とガンテ
  その二人に微笑むエルマとバスティ

× × × × ×

  武器屋
  様々な武器や防具が並ぶ
  防具を腕に装着し試すバスティ
  その傍ら、剣を持つ勇也
  あまりの重さに見たことない表情になる
  ガンテ、武器を錬成し店主に金をせびる
  それに、申し訳なさそうな顔のエルマ

× × × × ×

  通りを歩く勇也一行
  その足元、矮人族が走り抜ける
  思わず踏みそうになり慌てるガンテ

●ストヴァーニェ・宿屋

  テーブルに並べられた豪勢な料理
  目を輝かせるバスティとガンテ
  その隣で、得意顔のエルマ

勇也「なるほど、エルマのママ属性の結晶だ……」

ガンテ「うんっまそ~!」

  ガンテ、勢いよくがっつく
  バスティ、それにやれやれと溜息

バスティ「ったく、みっともないわねぇ。そんなんで、アタシに世間知らずなんてよく言えたこと」

ガンテ「んだよ~」

バスティ「ご飯を食べる時はこうやって手を合わせて、作ってくれた人に感謝して―」

  バスティ、丁寧に手を合わせる
  姿勢から指先まで、洗練され美しい
  目を閉じ、軽く頭を下げて―

バスティ「いただきます」

  だが直後、皿に顔を突っ込む
  見事な犬食いを披露

ガンテ「おめぇが人のこと言えるか!獣人ってか、ただの獣じゃねぇか!」

バスティ「失礼ね!獣族とアタシとじゃ似ても似つかないわよ!」

エルマ「お二人とも、ゆっくり味わって食べてくださいね」

  一人黙々と食べる勇也
  感心したようにしみじみと―

勇也「にしても、ほんと美味い。ぶっちゃけ、この食事があるからホームシックにならないで済むまである」

エルマ「うふふ、胃袋を掴むのが大切といいますからね」

勇也「料理とか、よくしてたの?」

エルマ「そうですね。幼い頃は、よく両親のお手伝いをしていました」

ガンテ「なぁ、エルマって何歳なんだ?」

エルマ「え、え~っと……」

バスティ「アンタ、レディに年齢聞くとか、デリカシーないわね」

勇也「その概念異世界にもあるんだ」

ガンテ「でも、エルフってすっげぇ寿命長ぇんだろ?千歳とか一万歳とか。もしかして、ママってよりババア……、エルマってよりエルバd―」

  直後、何かが空を切る音
  一本のフォーク、ガンテの眉間に突き刺さる
  ツーと血が垂れる

エルマ「良い度胸ですね、ガンテ……。そこまで命を惜しまないというのなら、今すぐ魔界に召喚して差し上げましょうか……?」

  眼前に迫るエルマの顔
  目はひん剥かれ、激しく充血
  痛いほどの、禍々しいオーラを放つ
  ガンテ、本気で怯えながら―

ガンテ「す、すみませんでした……」

  勇也、ガンテの額にハンカチを当てて―

勇也「ガンテくん、大丈夫?」

ガンテ「皮膚が頑丈で良かった……」

バスティ「そう言えばアンタ、何でガンテには君付けなのよ?アタシたちは呼び捨てなのに」

エルマ「そういえば……」

  勇也、気まずそうに目を逸らし―

勇也「あ~、えっと……、義務笑い、的な……?」

バスティ「何それ?」

勇也「今まで、陽キャにはヘコヘコしてきたから、その癖が抜けなくて……」

◆高校・教室《回想》

  窓際最後列の席
  勇也、椅子に座り教科書を読んでいる
  周囲では、生徒たちがガヤガヤ
  そこに、一人の男子生徒がやってきて―

生徒1「儚田くん、係だったよね?提出遅れちゃったんだけどさ、このプリント先生に届けてくれない?」

  勇也、爽やかな笑顔で—

勇也「あ、うん。任せて!」

× × × × ×

  帰りの支度をする勇也
  鞄を持って、教室を出る直前―

生徒1「儚田くん!ごめんだけど、掃除当番代わってくれない?どうしても外せない用事があってさ~!」

  勇也、爽やかな笑顔で—

勇也「うん、大丈夫だよ!」

生徒1「ありがとう!マジ助かる~!」

生徒2「お~い、早く行くぞ~」

生徒3「この時間、カラオケ混みやすいんだから」

生徒1「今行く!じゃあ儚田くん、頼んだ!」

  ダッと走り出す男子生徒
  その後ろ姿を見つめる勇也
  笑顔を崩さない

× × × × ×

  机に突っ伏し寝たふりの勇也
  そこに男子生徒がやってきて―

生徒1「儚田くん。え~っと、今度の体育祭の後にクラスで打ち上げやるんだけど~……。儚田くん、もしかして来たり、来なかったり……」

  勇也、爽やかな笑顔で—

勇也「ごめん、その日は用事があるからいけないや!」

生徒1「そっか、そうだよな!ありがとう!」

  去る男子生徒
  勇也、眉をピクピクと動かし―

勇也M「ありがとう……?」

●ストヴァーニェ・宿屋

勇也「おかげで敵はいなかったけど……。はぁ~……」

バスティ「いや、四面楚歌じゃない」

エルマ「つまり、ガンテから只ならぬ陽キャオーラを感じると……」

ガンテ「にーちゃん……」

  ガンテ、ニカッと笑い―

ガンテ「んなん気にすんなよ!俺だってにーちゃんのこと好きに呼んでんだからさ!これからは俺のことも、好きに呼んでくれよ、な?」

  ガンテ、眩い後光を放つ
  その眩しさに呻き苦しむ勇也

勇也「ぐっ、うぅぅぅぁぁぁぁぁ……!」

バスティ「やめなさいガンテ、勇也が浄化しちゃう!」

エルマ「あははは……」

●ストヴァーニェ・宿屋・寝室

  深夜、皆が寝静まった頃
  眠っているガンテ
  ベッドから足を放り出し、イビキをかく
  その隣のベッドに勇也
  仰向け、目を閉じているが起きている

勇也M「スライムも、翼竜も、巨人も倒せた。この力があれば、俺は戦える。俺一人でも、きっと負けない。戦わなきゃいけないんだ、俺は勇者なんだから」

●ストヴァーニェ・??

  窓から陽の光がさす
  外から人々の声、微かに聞こえる

??「ん~」

  ゴロリと寝返り
  ムクリと体を起こす

??「あれ、もう昼……?久しぶりだ、こんな遅くまで寝たの……。あれ、スマホ、スマホ……、後でいいや」

  ベッドから降りる
  ヨロヨロと歩き、部屋を出る

??「ここに来てから、すっかり健康的な生活だったからな~。ずっと寝てるとバスティにどやされるんだよ……」

  辺りを見回す
  人の気配がない

??「ん、みんないない。出掛けたのかな?ったく、勇者をハブにするなんて、とんだパーティだぜ」

  顔を洗う、二度、三度
  タオルで水滴をふき取る
  正面には鏡
  そこに映る勇也―ではない

??「……あ?」

  ずんぐりとした体型、皺がれた顔
  呆然、思わず呆けた声が出る

??「……誰?」



[44091] 第十幕 勇者は僕の玩具
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/20 08:39
●ストヴァーニェ・宿屋

  扉の前、立ち尽くす勇也
  正面に、エルマとバスティ

エルマ「おはようございます、勇也様」

  薄く微笑むエルマ
  しかし、勇也の瞳には戸惑いと恐れ

??「だ、誰だおめぇら……?どうして、ワシの家にいるんだ……?」

バスティ「はぁ?何言ってんのよ。寝ぼけてんの?」

  バスティ、立ち上がり一歩踏み出す
  しかし勇也―ではない誰か、身構えて―

??「ち、近づくな!盗みか?こ、この家に金目の物などない!」

バスティ「ちょっと、いつまでふざけてんのよ」

エルマ「……失礼ですが、ここは本当にあなた様のお家ですか?」

バスティ「エルマ?」

??「当たり前だ!ここはワシの―」

  揺れる眼球、辺りを見回す

??「ど、どこじゃ、ここ……?」

エルマ「お名前、教えていただいてもよろしいですか?」

??「ワ、ワシは、ルモウヌじゃ……」

エルマ「そうですか。きっと、本当のあなたはこのようなお姿ではないですよね」

  エルマ、立ち上がる
  杖をルモウヌに向けて―

エルマ「『ゼルーカ』」

  杖の先端に鏡面が現れる
  そこに映るのは、紛れもない勇也の姿
  しかし、ルモウヌと名乗る男、狼狽

ルモウヌ「だ、誰じゃこれ!?ワシじゃないぞ!」

バスティ「ど、どうなってるのよ……?」

エルマ「どうやら、勇也様の中身が誰かと入れ替えられてしまったようです」

バスティ「中身が入れ替わった?」

エルマ「正確に言えば、魂、でしょうか。恐らくこれは、吸魂族の仕業ですね」

バスティ「あ、聞いたことあるわ。確か、魂を吸い取って入れ替えるって……」

エルマ「この都市に吸魂族がいるのでしょう。そしてその影響を、どうやら勇也様が受けてしまった……」

  その時、バンッと扉が開く
  虚ろな表情のガンテ

ガンテ「にーちゃん……」

ルモウヌ「き、君は……?」

ガンテ「ん~、なんかにーちゃんの声、ジジ臭い……」

  ヨロヨロとした足取り
  そのままガンテ、ルモウヌに寄りかかる
  イビキをかいて、再び寝始める

バスティ「こいつ、朝弱いのね」

エルマ「とにかく、街を探しに行きましょう。きっと、勇也様も彷徨われているはずです」

バスティ「えぇ、そうね」

エルマ「ルモウヌ様、お住まいを教えていただけますか?あなた様と入れ替わられた方が、そこにいるかもしれないのです」

ルモウヌ「あ、あぁ。分かった」

●ストヴァーニェ・広場

  辺りを見回し、走るエルマたち
  ガンテ、エルマにおぶられ未だ眠る
  やがて、何かに気付き立ち止まる
  正面、うずくまる一人の老父の姿
  暗い雰囲気、その背中に悲壮感が漂う

エルマ「あれ……」

バスティ「間違いなくそうね。陰気なオーラが、魂から滲み出てるわ」

  老父、ポンと肩を叩かれる

エルマ「勇也様」

  振り返ると、エルマたちの姿

エルマ「お変わりはございませんか?」

勇也「エ、エルマ―」

  老父、飛び上がりエルマに抱き着こうとする

エルマ「『ザシータ』」

勇也「へぶっ」

  しかし、防御壁に阻まれる

エルマ「こちらが、ルモウヌ様でお間違いないですか?」

ルモウヌ「あ、あぁ、ワシじゃ」

× × × × ×

  ベンチに座る勇也一行
  ガンテ、エルマの膝枕で未だ眠る
  エルマ、勇也とルモウヌに杖を向けて―

エルマ「『ザメーナ』」

  勇也とルモウヌ、ハッと息をのむ
  二人、自分の体を確認して―

ルモウヌ「も、戻った……」

勇也「よかった~!」

バスティ「ったく、驚いたわよ」

ルモウヌ「ワシもこんなこと、村を出てから初めてのことじゃ」

エルマ「そうなんですね。ルモウヌ様、ご種族は?」

ルモウヌ「ワシは、ドワーフじゃ」

  一同、ハッとして―

バスティ「え、ドワーフって」

勇也「昔、魔族に襲われた村の……」

ルモウヌ「知っておったか」

  呆然と空を見上げるルモウヌ
  ため息交じりで―

ルモウヌ「日常が奪われるのは一瞬じゃな。命からがら、この共存都市まで逃げてきたものの……。もう、ワシの帰る場所はない。仲間も、誰一人として生きておらん……」

勇也「いや、生きてるよ」

ルモウヌ「なに?」

勇也「村も残ってる」

ルモウヌ「な、何故そんなこと……」

エルマ「以前、ドワーフ族の村にお邪魔することがあったんです。今は、ウレアヌ様が唯一残った村を守護しておられますよ」

ルモウヌ「ウレアヌが……」

バスティ「そうね。アンタも村に戻った方がいいんじゃない?」

勇也「きっと、死ぬほど辛い思いしてるよ、たった一人で……」

ルモウヌ「そうか、そうじゃったのか……。なら、こんなところで油売ってる場合じゃないな」

  ルモウヌ、立ち上がる
  希望に満ちた表情で―

ルモウヌ「ありがとう、旅のものよ。おかげで、長年の胸のつっかえが取れたわい。感謝するぞ」

  勇也一行、優しく微笑む

× × × × ×

  ベンチに腰掛ける勇也一行
  広場には、様々な亜種族の姿

勇也「吸魂族って、前にバスティが言ってたやつか」

バスティ「いや、それは吸血族よ」

エルマ「名前は似ていますが、全く異なる種族です」

勇也「うん、異世界ムズイ」

エルマ「ですが、どうして勇也様が吸魂族の影響を受けたのか、分かりました」

勇也「その心は?」

エルマ「吸魂族は、近しい間柄であったり、強い影響を受けた者同士の魂を操作するんです。きっと、ドワーフ族の村での出来事が強く印象に残っていた影響で、ルモウヌ様の魂と入れ替わってしまったのだと思います」

  〔回想〕
  ・勇也「戦わなきゃ、誰かが死ぬ。勇者って、そういうことなんだ……」

勇也「……そうかも、しれないね」

  その時、広場に笑い声が響く
  正面遠方、一人の少年が大笑い

勇也「なんか、凄い楽しそうな子供がいる……」

エルマ「うふふ、微笑ましいですね」

  その少年、笑いながらこちらに近づく
  跳ねるような、軽快なステップ
  同時に、周りの人々が次々に倒れる

勇也「いやいやいや、全然微笑ましくない!怖い怖—」

??「おにーさん、勇者だよね?」

  少年の顔、いつの間にか眼前へ
  見開かれた、真ん丸の瞳
  吸い込まれそうなほど大きく、漆黒

勇也「え?」

??「ずっと探してたんだ~」

  少年、勇也の顔を、体を見る
  ジロジロと、舐め回すような視線

??「へぇ~、なんかあんまり強くなさそう」

勇也「ぐふっ!」

  勇也、少年の言葉にダメージ

エルマ「あなたは?」

ノーミタ「僕の名前はノーミタ。ただの可愛い少年だよ」

勇也「いやいや、こんなの通り魔も真っ青だって」

  広場に目をやる勇也
  倒れた人々、ピクリとも動かない

ノーミタ「ノーミタ……、何だっけ?何かね、長いのがくっついてて思い出せないんだよね」

  その時、ガンテの瞳がカッと開く
  飛び起き、ノーミタに拳を振るう
  しかし避けられ、地面を砕く

バスティ「ちょっとガンテ、いきなり何してんのよ!」

ガンテ「……」

  身構えるガンテ
  その瞳、少年を鋭く睨む
  眠気など、最早感じられない
  ノーミタ、興味深そうに―

ノーミタ「つよつよ格闘家二人に、優秀な魔法使いさんが一人……。魂が元に戻ったのも、おねーさんのせいかな?」

エルマ「まさか、あなたが吸魂族?」

ノーミタ「ふふっ、にしても楽しかったな~。おもちゃがワチャワチャしてるの」

勇也「お、おもちゃ?俺が?」

ノーミタ「うん、おもちゃ。この世界は、みんな僕のおもちゃ。君たちはみんな、僕の遊び道具。それで僕が遊ぶのは、当然の権利だよね?」

バスティ「アンタ、何言ってんの……?」

ノーミタ「勇者のおにーさんが慌ててるの見るの、楽しかったよ。でも、もっと大勢で一緒に遊んだほうが、もっと楽しいよね……?」

勇也「え?」

  ノーミタ、無邪気な笑顔
  両手をバッと広げて―

ノーミタ「今日の夕方、僕はこの都市に住んでいる人たちの魂で遊ぶ!名付けて、『霊魂総入れ替え』だよ!」

  エルマ、それを受けて静かに―

エルマ「理解できません、どうしてそんなこと。亜種族同士、同じ下界に住んでいる者同士、互いに危害を加えるべきではありません。同じ下賤種ならばお分かりでしょう?高貴種に、理不尽に扱われる気持ちが」

ノーミタ「……まぁ、そうなんだけどね。でも、僕にも一応役割があるんだよ」

エルマ「役割?」

  ノーミタ、勇也をギロッと見て―

ノーミタ「そう、勇者を足止めするって役割」

勇也「……!」

ノーミタ「魔王様に辿り着くまでの時間稼ぎをしなくちゃいけないんだ」

バスティ「魔王って……」

エルマ「まさか、あなた……!」

ノーミタ「あぁ、思い出した……。僕はノーミタ。魔族冥衆『リーシェティム』の一人だよ」

バスティ「魔族……!」

  咄嗟に構えるエルマとバスティ

ノーミタ「今は何もしないよ。では勇者様、また夕方。楽しみにしてるよ」

  ノーミタ、フワッと消える
  まるで、魂が尽きるよう
  辺りの人々、起き上がる

勇也「魔族、冥衆……」

  〔回想〕
  ・エルマ「まぁその前に、魔王直属の亜種族たちが、勇也様を葬らんと本気で襲ってきますけどね」

勇也「本当に来た……。嘘じゃなかった……」

ガンテ「あの雰囲気、あの気配……、明らかにそこらの種族とは違ったぜ」

勇也「と、とにかく今は、あの子の計画を阻止しないと……」

バスティ「霊魂総入れ替え……。この都市の亜種族全員の魂を入れ替えるなんて、どう止めればいいのよ……」

  勇也、ハッと目を見開き―

勇也「そう言えばエルマ、さっき―」

  〔回想〕
  ・エルマ「吸魂族は、近しい間柄であったり、強い影響を受けた者同士の魂を操作するんです」

勇也「だったら、その影響を受けない……、というか、受けたことを忘れられればいいんじゃない?」

ガンテ「一時的な記憶操作……。できるか、エルマ?」

エルマ「可能です。それを元に戻すことも、問題ありません」

ガンテ「じゃあ後は、あのノーミタって野郎をぶっ殺すだけだな」

勇也「それは、俺がやるよ」

バスティ「アンタ一人で平気?」

勇也「大丈夫。二人分の証石もあるし。それに、記憶が消えたらみんな混乱するかもしれない。もしかしたら、この都市から抜け出そうとする人も出てくるかも。そうなった時に混乱を収めるために、出来るだけここに多くいて欲しいんだ。だから、吸魂族の討伐は、俺に任せて」

バスティ「そういうことなら、早くやっちゃいましょう、エルマ」

エルマ「そうですね」

  エルマ、杖を天に掲げて―

エルマ「『ステラパーミィ』!」

  魔法の杖、光り輝く
  人々、辺りをキョロキョロ
  怪訝な表情を浮かべている

エルマ「一時的に、人々の記憶をすべて削除しました」

勇也「えっと、ノーミタはどこに来るかな……」

  エルマ、遠方を指さす
  その先、一際高い建物

エルマ「この都市の中心、一際高い建造物があります。都市中の人々を見下ろすなら、恐らくそこかと」

勇也「分かった!」

  ダッと走り出す勇也

バスティ「さぁ、アタシたちもやるべきことをやりましょう!」

ガンテ「あぁ!」

  走る勇也の後ろ姿
  それを見て、エルマ、静かに―

エルマ「勇也様、どうかご無事で……」



[44091] 第一一幕 勇者は孤独にあらず
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/20 08:40
●ストヴァーニェ・北門

  一人、佇むエルマ
  その正面、大勢の人々
  門を、都市を出ようと詰め寄る
  混乱、喧騒、怒号が混濁
  エルマ、杖を天に掲げ―

エルマ「『コーピヤ』」

  エルマの両隣、二人の複製体が現れる
  毅然とした声、表情を崩さず―

エルマ「申し訳ありませんが……、ここを通すわけにはいきません……!」

●ストヴァーニェ・南門

  詰め寄ってくる群衆
  バスティとガンテ、たじろぐ

バスティ「ったく、どんだけいんのよ……!」

ガンテ「これでも、全員じゃねぇからなぁ……!」

バスティ「エルマは一人で平気なわけ?」

ガンテ「エルマなら、この都市の一人ひとりをいなせるだけの複製体が作れるぜ」

バスティ「だったら、やりなさいよ、アイツ!」

ガンテ「魔力の消耗が激しいんだとよ!」

  バスティ、その時なにかに気付く

バスティ「あ、ガンテ、足元!」

ガンテ「あぁ!?」

  矮人族、人々の間を縫うように走る
  ガンテ、慌てて彼らに立ち塞がり―

ガンテ「おっと、行ってもらっちゃ困るぜ。あんたら、きっと後悔することになる」

  しかし、矮人族、怯えて―

矮人1「きょ、巨人だーっ!」

矮人2「踏み潰されるーっ!」

  ガンテ、グッと歯を食いしばって―

ガンテ「……ぜ、全部終わったら村に戻っていいからさ。だから、今は勘弁してくれよ」

  その時、バスティの短い悲鳴

バスティ「きゃっ!」

ガンテ「バスティ!」

  ガンテ、その場で跳躍

ガンテ「『イゴーリッツ』!」

  無数の槍を召喚
  地面に突き立て、群衆の道を塞ぐ
  バスティ、人ごみに揉まれ身動きできない
  それを、ガンテが引き上げる
  お姫様抱っこ、高く跳躍する
  キメ顔のガンテ、輝かしい
  それに、思わず頬を赤らめるバスティ
  キラキラと煌めく、二人だけの世界
  まるで、ディ○ニー映画の―

バスティ「早く下しなさいよーっ!」

ガンテ「ぶぶぉあっ!」

  バスティの拳、ガンテの頬に炸裂
  立ち上がり、パンパンと体を叩きながら―

バスティ「ったく、いつまで触ってんのよ、このスケベ!」

ガンテ「もう二度と助けてやんねぇ、この女……」

  その時、脳内にエルマの声が響く
  魔法を用いた、神経を通じての会話だ

エルマ(声)「二人とも、聞こえますか?」

ガンテ「あぁ。そっちは大丈夫か?」

エルマ(声)「えぇ、何とか。それより、そろそろ時間になりますね……」

  ガンテ、空を見上げる
  橙色の太陽、地平線に差し掛かる
  空の夕焼けが、心なしか禍々しい
  直後、見上げる空に何かが浮かぶ
  大量の、人々の魂だ

ガンテ「おい、あれ……!」

バスティ「そんな……!確かに、記憶は消したわよね……!?」

  魂、グルグルと渦を巻き入り混じる
  空を見上げるエルマ、眉を顰める

エルマ「勇也様……!」

●ストヴァーニェ・一際高い建造物・屋上

  ノーミタ、悠然と都市を見下ろす
  その視線の先、浮かぶ大量の魂
  ノーミタの背後、勇也の姿
  信じられないというように瞠目

勇也「な、何で……!?」

ノーミタ「記憶を消すなんて、随分思い切ったことをするね。でも、無駄だよ。強い想いが……、信念が刻まれる本当の場所を、君たちは履き違えている」

勇也「え?」

  ノーミタ、そっと胸に手を添えて―

ノーミタ「魂だよ。魂にこそ、想いは刻み込まれる。だから君たちが、いくら記憶を、脳を操作したところで、僕は魂を弄り放題ってことだよ」

  無邪気に口角を上げるノーミタ

ノーミタ「あはははっ、楽しいね!」

勇也「それは、君だけだよ……」

  勇也、クエストドライバーを装着
  台座を立て、待機音が響く

ノーミタ「いいよ、戦うのも楽しいよね。相手になってあげる」

勇也「変身……!」

  台座の剣を引き抜く
  勇者の鎧、勇也の体に装着
  仮面ライダーヴァラー、現る
  静かに剣を抜き、構える
  だがその手は、カタカタと震えている
  ヴァラー、深く深呼吸
  剣を鞘にしまい、拳を構える

ノーミタ「ふふっ、優しいね、勇者様」

  ヴァラー、飛び出し拳を振るう
  それを小賢しく避けるノーミタ

ノーミタ「そんなんだから、弱いんじゃない?」

  ノーミタ、ヴァラーの拳を軽々と受け止める
  そのまま、地面に叩きつける

ヴァラー「がっ……!」

ノーミタ「魂はね、入れ替えて遊ぶだけじゃないんだ。こんなことも、できるんだよ……?」

  ノーミタ、ヴァラーの胸に手を添える
  そこから、白い何かがフワッと飛び出す
  ノーミタ、それを両手で優しく包み―

ノーミタ「見せてよ。君の魂は、どんな想いを、記憶を、刻んできたのかな?」

  地面に倒れ伏すヴァラー
  体に力が入らない
  意識も朦朧とする

ヴァラーM「ダメだ……、もう、意識が……」

  〔回想〕
  ・勇也「それに、記憶が消えたらみんな混乱するかもしれない。もしかしたら、この都市から抜け出そうとする人も出てくるかも。そうなった時に混乱を収めるために、出来るだけここに多くいて欲しいんだ」

ヴァラー「あんな、偉そうにみんなに指示して……。結局、このザマか……。俺は、何も成長してないんだな……」

◆小学校・教室(五年前・午後)《回想》

  生徒たちのグループが七個ほど
  机に集まり、何やら話している
  黒板には、“修学旅行”の文字
  勇也、意気揚々と地図を指さし―

勇也「ここと、ここと、ここ行こう!」

女子2「え~、私、日光東照宮見た~い」

勇也「いやいや、そんなとこ行っても楽しくないよ!それより、今俺が言ったプランで!あと、このお店でお茶もしよう!はい、決定ね!」

  勇也の班、一番に行動計画票を提出
  グループメンバー、不服そうな顔
  しかし勇也、それに気づかず得意満面

勇也M「昨日、ちゃんと下調べしてきたんだ!よかったね、俺と同じグループで。これは、最高の修学旅行になるぞ~!」

◆新江ノ島水族館前(修学旅行当日・午後)《回想》

  入口に群衆
  とても入れそうにない

男子1「うわ~、絶対無理じゃん」

女子2「だからこの時間、やめとけばよかったのに~」

勇也「じ、じゃあ―」

  勇也、懐から地図を取り出して―

勇也「先に国会議事堂に行こう!その後に、また来ればいいよ!バスに乗れば、間に合うと思う!」

  グループメンバー、物言いたげな表情

◆国会議事堂前(同日・午後)《回想》

  入り口、警備員が立ちはだかる

警備員「ごめんね~。今、入れないんだよね~」

勇也「え……?」

警備員「学校の方に、予め連絡入れたと思うんだけど~」

勇也M「き、聞いてなかった……」

× × × × ×

  トボトボと、道を歩く勇也たち

女子1「先生言ってたじゃん。聞いてなかったの?」

勇也「……だったら、行き先決める時に言ってくれればよかったのに」

男子2「だって、儚田がすごいゴリ押ししてくるから、秘密の抜け穴でもあるのかと思って」

勇也「ないよそんなの。アニメの見過ぎ」

女子2「で、次どうするの?」

勇也「え、俺?」

女子1「そうでしょ。だって今日の予定、全部儚田くんが決めたんだから」

勇也「あ~……」

  勇也、懐から地図を出して―

勇也「じゃあ、予定よりちょっと早いけど、お茶しに行こう!ここからだから~……、あっちのバスだ!」

◆カフェ前(同日・午後)《回想》

  入り口扉を見上げる勇也
  茫然自失とした表情
  扉には、臨時休業の看板

女子1「ねぇ、どうするの?もうあんまり時間ないよ」

勇也「ま、まだ、他にお茶が出来る場所は~……」

男子2「もうお茶はいいよ」

男子1「うん、別にお茶したくない」

女子2「それより、日光東照宮行こうよ~」

勇也「いや、それよりもう一回水族館行ってみよう……!」

◆新江ノ島水族館前(同日・午後)《回想》

  入り口には、未だ群衆

男子2「いや、だから無理だって」

勇也「えっと、次は次は~……!」

  あたふたとする勇也
  その傍ら、女子の無情な一言

女子1「あ、もう自由時間終わりだ」

勇也「……え?」

◆帰りのバス・車内(同日・夕方)《回想》

  勇也、俯き暗い表情
  前から、自分の陰口が聞こえる

女子2「結局、今日の自由時間なんも回れなかったんだよ~」

女子3「え、マジで?」

女子1「ね~、ほんと最悪~」

男子2「儚田、三回も乗るバス間違えんだもん」

男子1「中学生になったら、儚田と同じグループやめようぜ」

  ハッと息をのむ勇也

勇也M「俺は、みんなに楽しんでほしかっただけなのに……」

●ストヴァーニェ・一際高い建造物・屋上

ヴァラーM「やっと、俺を見てくれる人が、できたのに……」

  〔回想〕
  ・エルマ、バスティ、ガンテの姿

ヴァラー「嫌われたく、ない……」

ノーミタ「惨めだね、勇者様。こんな悲しい魂、存在しない方が良いよ。僕が、食べてあげるね……」

  ノーミタ、口を開く
  愛おしそうに、魂を顔に近づけて―

エルマ「『ヴズリーブ』!」

  ノーミタの足元、魔法陣が描かれる
  気づき、すぐさま飛び退ける
  直後、魔法陣、爆発を起こす
  魂、ヴァラーの中へ
  意識を取り戻し、立ち上がるヴァラー
  エルマたち、勇也の元に駆けつけて―

エルマ「大丈夫ですか、勇也様!?」

ヴァラー「みんな、どうして……?」

バスティ「魂の入れ替えが起こったから、何かあったんじゃないかと思って」

ヴァラー「都市の人は?」

エルマ「皆さま、お眠りになられているので、ご心配なく」

ヴァラー「そっか……、ごめん」

エルマ「謝る必要はございません。さぁ、皆で力を合わせて―」

ヴァラー「いや、俺がやる」

バスティ「勇也?」

ヴァラー「俺が言い出したことだ。俺が、ちゃんとケジメをつけないと。今の俺は、勇者なんだから……」

  拳を構えるヴァラー
  微かに足が震えている
  それを見て、エルマ、溜息をつき―

エルマ「全て、お一人でなさるおつもりですか?」

ヴァラー「え……?」

エルマ「勇者だから、という責任感に囚われて、全て自分でなんとかしなければと、お思いですか?」

ヴァラー「それは……」

エルマ「お思いですよね。だから、巨人族の街にも、自ら名乗りを上げた。私たちには、来させずに」

バスティ「あ、そういうことだったの?」

ヴァラー「ち、ちょっと、エルマ……!」

バスティ「なに、水臭いことやってんのよ!アンタ、そんな責任感強いタイプじゃなかったでしょ!」

ガンテ「にーちゃん、最初の頃、スライム相手に椅子の裏に隠れてたんだって?」

ヴァラー「返す言葉もございません……」

エルマ「確かに、貴方様は勇者です。どんな状況でも、どんな敵とでも戦い、勝ち抜いて、この世界の人々を守る使命がある……。ですがそれは、勇也様だけに課されたものではありません。貴方様に仕え、共に旅をする私たちも、同じなのです」

ヴァラー「エルマ……」

エルマ「もっと、私たちを頼ってください。全て、一人で抱え込むには大き過ぎることなのです。かつての勇者様方も、きっとそうだったはず……。そのためのパーティですから、ね?」

  天使のように微笑むエルマ
  対してノーミタ、興味なさげに足をブラブラ

ノーミタ「ねぇ、もう終わった?僕のおもちゃが、僕を差し置いて勝手なことしないでよ」

  ノーミタ、丸い目を鋭く細める
  低く、唸るような声音で―

ノーミタ「そういうの、一番腹立つんだよね」

  その気迫に、思わず身構えるヴァラー
  しかしガンテ、余裕そうに一歩前に出て―

ガンテ「はっ、誰がおもちゃだ、このクソガキ。捻り潰すぞ……?」

  バスティ、前に出ながら―

バスティ「クソガキ仲間が何言ってんのよ」

ガンテ「何だと!?」

  エルマ、ヴァラーの前に出て―

エルマ「勇也様、盟友の証石をお貸しいただけますか?」

ヴァラー「え?う、うん」

  ヴァラー、エルマとガンテに証石を渡す

エルマ「これはまだ、お伝えしておりませんでしたね……。証石に隠された、特別な力のこと……」

ヴァラー「特別な、力……?」

  エルマ、目を閉じ証石に祈る

エルマ「勇者は、決して孤独ではない……。その力を、パーティメンバーに託すことができる」

  二人の証石、バックルに変形

エルマ「つまり私たちも、仮面ライダーになれる!」

  二人、バックルを手首のスロットに装填

エルマ「行きますよ、ガンテ」

ガンテ「かっこよく決めるぜぇ?せ~のっ―」

エルマ/ガンテ「変身!」

  エルマに魔法使いの鎧
  ガンテに巨人の鎧が装着
  ヴァラー、その光景に唖然として―

ヴァラー「二人とも、変身した……!」

  ライダーが立ち並ぶ、圧巻の光景
  仮面ライダーヒール
  仮面ライダーバトル
  そして、いつも通りのバスティ

ヴァラー「あれ、バスティさん?」

バスティ「悪かったわね、まだ信用できてなくて!」

  ノーミタ、パチパチと気の抜けた拍手

ノーミタ「わ~、すご~い!これって、遊べるおもちゃが増えたってことだよね?」

バトル「あぁ、そうだな。んでテメェは今から、そのおもちゃに遊ばれんだよっ!」

ノーミタ「ふふっ、それはいいね。じゃあ、僕を楽しませてよ!」

  ノーミタ、正面に手を突き出して―

ノーミタ「『ドゥシャータ』!」

  ノーミタの周囲に現れる魂
  弾丸のように射出される

ヒール「『レグプルーヤ』!」

  ヒール、杖から光弾を射出
  互いに相殺、激しくぶつかり合う
  愉快そうに喉を鳴らすノーミタ
  そこに、大きな影が落ちる

ノーミタ「……!」

バトル「おらぁっ!」

  バトル、ノーミタに拳を叩きこむ
  ノーミタ、それを両腕で防御
  重い衝撃、火花が散る

バスティ「押し込みなさい!」

バトル「『バーストヴィン・モーロット』!」

  バトルの拳に力が集約
  ノーミタの防御を破壊する
  響く轟音、建物が揺れる
  地面に叩きつけられたノーミタ
  腕は潰れ、へし曲がっている
  苦しそうに吐血、力ない呼吸

ノーミタ「あ~ぁ……」

  ヴァラー、ノーミタの元へ
  剣を構える
  しかし、やはりカタカタと手が震える
  ヴァラー、苦しそうに目を逸らして―

ヴァラー「ごめん、ガンテ。お願い……」

  バトル、それにフッと微笑み―

バトル「あぁ、今はそれでいいよ。にーちゃん」

  バトル、ノーミタの元へ
  哀れみを含んだ目で見下ろす

ノーミタ「もっと、遊びたかったなぁ……」

バトル「……」

ノーミタ「気を付けてね。リーシェティムのみんなが、君たちをつけ狙ってる。これからは、もっと酷い目に合うかもね……」

ガンテ「そうかよ」

  バトル、拳を振り上げる
  ノーミタ、スッと目を閉じる

× × × × ×

  瓦礫に塗れた、灰色の荒廃した土地
  その中、一人彷徨い歩くノーミタ
  肌は煤汚れ、服は着ていないも同然
  そこに、一人の人物がやってくる
  とある、薄暗い謎の場所
  正面の円卓、謎の人物たちが座る
  ノーミタ、目を丸く見開き―

ノーミタ「勇、者……?」

  ゆっくりと、俯く
  僅かに、口角を上げて―

ノーミタ「まだ、遊べるんだ……」

× × × × ×

  拳を振り上げるバトル

バトル「そうかよ。楽しみにしてるぜっ」

  振り下ろされる拳
  ノーミタの小さな体を叩き潰す
  鈍い音が響き、血飛沫が散る
  その光景に、目を逸らしたままのヴァラー
  微かに震える肩、呼吸は乱れている

●ストヴァーニェ・広場

  ベンチに腰掛ける勇也
  肩をすくめ、俯いている
  呆然と、地面の一点を見つめている

エルマ「勇也様」

  ふと、顔を上げる
  エルマ、勇也の隣に腰かける

エルマ「ご気分は、いかがですか?」

勇也「……うん、大分落ち着いたよ」

エルマ「そうですか」

  静かに応えるエルマ
  遠方、バスティとガンテがはしゃいでいる
  勇也、力なく溜め息をついて―

勇也「やっぱ、人型はキツイな~。しかも、子供」

エルマ「確かに、これまではスライムと翼竜と……。あれ、巨人はどうだったのですか?」

勇也「易々と壁突き破ってくるのは、もう化け物の範疇でしょ」

エルマ「うふふふ」

勇也「……そん時はさ、また頼っても良いかな?みんなのこと」

  意外そうに眉を上げるエルマ
  優しく目を細めて―

エルマ「はい、もちろんです」

  勇也、その言葉に微笑み返す

エルマ「ですが、今後どのような敵が現れるか分かりません。そのためにも、勇也様には早々に慣れていただかないと。まずは、小動物あたりから始めますか?」

勇也「ち、畜い……。けど、頑張ります……」

  「ふふっ」と柔らかく笑うエルマ
  ベンチから立ち上がり―

エルマ「では、行きましょうか。次の、勇也様を支えてくださる仲間を探しに」

勇也「……うん!」

  立ち上がる勇也
  エルマと共に、バスティたちの元へ
  その姿を、夕陽が赤紫に照らす
  まもなく、日が沈みそうだ



[44091] 第一二幕 「1クールでやっと回収ってマジ?」
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/21 09:59
●リーシェティム・サバト

  薄暗い、灰色の空間
  無音の音が聞こえるほど静か
  中央に円卓、座る謎の人物たち
  薄闇のせいで、胸から上が見えない

??「ノーミタがやられた」

??「ま、いいんじゃない。あんな子供、端から期待してないよ」

??「それより、次は誰が行く?」

??「アーシが行くよ」

??「キュバラー……。勇者を、魔王様に近づけるな」

キュバラー「善処はしようかね」

●植人族の森

  木々の生い茂る広大な森
  木漏れ日が暖かく美しい
  ヴァラー、スライムを叩き切る
  変身解除、一息つく

エルマ「スライムは、難なく倒せるようになりましたね」

勇也「流石に、序盤の雑魚敵で燻ってる俺じゃないよ。魔族も、この前倒したしね」

ガンテ「トドメさしたのは俺だけどな!」

  エルマ、「ふむ」と顎に手を当てる
  バスティ、それに首をかしげて―

バスティ「どうしたのよ?」

エルマ「……リーシェティム。まさか、そんな組織が構成されていたとは」

ガンテ「魔王の手先……。あいつ、死に際に気味悪いこと言ってたぜ」

  〔回想〕
  ・ノーミタ「気を付けてね。リーシェティムのみんなが、君たちをつけ狙ってる。これからは、もっと酷い目に合うかもね……」

バスティ「そんなこと、言われなくても分かってることじゃない。どんなやつが来ても、迎え撃つだけよ!」

エルマ「そうですね。私たちも、仮面ライダーの力を有効に活用しましょう。ヴァラーの秘める力には、及ばないかもしれませんが」

ガンテ「ってかさぁ、これ全然レベル上がんねぇよ。あの魂野郎潰しても、レベル1しか上がんなかったし。にーちゃん、この短い間によくレベル10まで上げたな」

勇也「まぁ、俺は元々レベル5から始まったからね」

バスティ「あぁ、そう言えばそうだったわね」

ガンテ「はぁ~、ズリィだろ~」

エルマ「確かに、どうしてヴァラーだけはレベル5からだったのでしょう……?」

  勇也、腰に手を当て胸を張り―

勇也「やっぱ俺に、勇者としての素質があったってことかな、あははははっ!」

バスティ「弱すぎて、ドライバーがハンデくれたのよ」

勇也「ぐっ、何を~?そんなこと言ってないで、早く盟友の証石をくれませんかねぇ、バスティさん?」

バスティ「す~ぐそうやって調子に乗るアンタみたいなやつ、危なっかしくてあげらんないわよ!」

エルマ「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて」

  ガンテ、興味ありげに―

ガンテ「なぁ、勇者の初期装備って何なんだ?」

勇也「あ~、変身できないから分かんないけど……」

エルマ「確か、レベル1は『仮面ライダーヴァル ウッデンソード』。端的に言えば、木の枝ですね☆」

バスティ「……よかったわね、レベル5からで」

勇也「ゼ○ダのブレ○イじゃん……」

  その時、遠方から話し声

勇也「ん、何だ?」

エルマ「どなたかいらっしゃるようですね」

ガンテ「まさか、リーシェティム……!?」

勇也「いやいや~」

バスティ「あ、あれじゃない?」

  バスティの視線の先、一人の男性
  木に向かい、笑顔で口を開く

??「おはよう、今日も綺麗だね。愛してるよ」

  木に口づけをする男性
  その隣の木に屈み込み―

??「やぁ、いい子にしていたかい?今日は何をして遊ぼうか?」

  愛おしそうに目を細める男性
  勇也、それを見て顔を歪める

勇也「え、あの人平気……?」

バスティ「一発殴ったら正気に戻るかしら……」

??「何か言ったかい?」

  突然、背後から声、男性だ
  茶色の肌は、木の幹をいくつも束ねたよう
  それでいて、人の形を保っている
  驚き、飛び跳ねる勇也たち

ガンテ「こいつ、いつの間に背後に……!」

勇也「い、いえ、いい森だな~、なんて」

  男性、勇也を繁々と見つめる
  やがて、ふと目を見開いて―

??「もしかして、あなたが此度の勇者様ですか?」

勇也「え?」

エルマ「はい、私たちは此度の勇者一行です」

??「これはこれは、大変失礼いたしました」

  男性、丁寧にお辞儀をする
  新緑色の葉の髪、涼し気に鳴る

エントン「私は、世界樹の『ガイア』、植人族のエントンと申します」

勇也「く、食われる……!」

バスティ「違うでしょ」

エントン「どうか勇者様に、この森をお救いいただきたいのです」

●植人族の森・エントンのコテージ

  木造の小さなコテージ
  資材の焦げ茶が鮮やかに光沢する
  椅子に腰かける勇也とエルマ
  その背後に立つバスティとガンテ
  対面には、エントンが座る
  勇也、訝し気に部屋を見回して―

勇也M「これは、共食い的なのには引っかからないのだろうか……」

エルマ「世界樹のガイア……。まさか、そのような存在がいたとは……」

エントン「えぇ、今のところガイアは私一人だけです。以来、この森で世界樹を守護しています」

エルマ「なるほど……。では、現在の魔王の動向はどのようなものか、お分かりになりますか?」

エントン「魔王の動向、ですか?」

エルマ「はい、魔王は世界樹の力を狙っています。気配や、悪しき力などは感じられますか?」

  直後、沈黙が落ちる
  微かに眉を顰めるエルマ

エントン「いいえ、今のところ感じられません」

エルマ「……そうですか」

エントン「きっとまだ、その時ではないのでしょう。ですが、魔王の手がいつ世界樹に触れてもおかしくない状況には違いありません」

勇也「それまでに仲間を集めて、力を付ける、か……」

バスティ「それで、さっき言ってた『森を救う』って何なのよ?」

  エントン、躊躇いがちに―

エントン「実は、私の住処であるこの森が、獣族に襲われているのです」

バスティ「獣族……!?」

  〔回想〕
  ・ガンテ「おめぇが人のこと言えるか!獣人ってか、ただの獣じゃねぇか!」
  ・バスティ「失礼ね!獣族とアタシとじゃ似ても似つかないわよ!」

エントン「一月ほど前のことでした。突如、獣族がこの森を襲撃してきたのです。幸い、その時は私一人で対処できたのですが、やつらは襲撃の度に数を増やし、森を荒らしていくのです。今では、森の一部が荒れ果ててしまい……。私一人の力では足りません、故に勇者様のお力をお借りして、この森を守護したいのです」

勇也「なるほど……」

  考え込む勇也
  その隣で、エルマが短く笑う

勇也「ど、どした?」

エルマ「いえ。こうして頼みごとをされるのも、勇者として少しは名を知られてきた証拠かな、と思いまして」

勇也「……そうだね、やろうか。緊急クエストだ」

エントン「感謝します、勇者様」

  その時、動物の遠吠え
  広く森に反響する
  エントン、目を細め―

エントン「来た……!」

  ゴクリ、息をのむ勇也

●植人族の森

  森の中に開けた場所
  そこに集まる、獣族の群れ

勇也「うわ~……。最初に見た猫ちゃんが恋しい~……」

バスティ「獣族に小細工はいらないわ。正面突破で掃討、これだけよ」

ガンテ「さっすが獣同士、分かってるぅ」

バスティ「うるさいわよ」

勇也「え、正面突破って走ってくの?俺、真っ先に美味しくいかれる気しかしないんだけど……」

バスティ「そこは勇者なんだから、気合とガッツでどうにかしなさいよ」

勇也「結局メンタル頼り!?」

エルマ「では、これを使いましょう」

  エルマ、杖を構えて―

エルマ「『ゲネラーツ』」

  杖が光り、魔力を放出
  複雑に編み込まれ、生き物を形作る
  やがて、大きな龍が四体現れる

勇也「これって、龍車の……」

エルマ「はい、ストヴァーニェで見たものを記憶し、再現してみました」

バスティ「凄いわね。生き物の生成までできるなんて……」

エルマ「これに乗って、獣族に突撃しましょう!」

  ガンテ、目を輝かせながら―

ガンテ「やる気出てきた~!やっぱライダーだからな、何かに乗るのは当然だよな!」

勇也「1クールでやっと回収ってマジ?」

エルマ「行きますよ!」

  龍に乗り込むエルマたち、走り出す
  重なる龍の足音、大地を揺らす
  合わせて、突撃してくる獣族たち

ガンテ「荒れるぜ~、止めてみな!」

  飛び上がるガンテ
  地面に手をかざし―

ガンテ「『イゴーリッツ』!」

  地面から無数の槍が突き出す
  獣族を串刺しにする

ガンテ「へっ、鈍いぜ!」

  直後、ガンテに火炎弾が直撃
  腕で防ぐが、咳き込む

ガンテ「っぶねぇ、燃え移ったらどうすんだ!」

  ガンテ、槍を召喚
  手に持ち、振りかぶって―

ガンテ「『ドリャメターニ』!」

  ガンテ、槍を投げる
  空を駆け抜け、大地を穿つ
  獣族、跡形もなく散る

ガンテ「決まったぜ」

  直後、ガンテに飛びつく獣族
  その腹を、バスティの腕が貫く

バスティ「ぼさっとしてんじゃないわよ!」

ガンテ「してねぇよ!ねーちゃんこそ、足引っ張んなよな!」

バスティ「はっ、こんな獣風情に後れを取るアタシじゃないわよ!」

  バスティ、龍から飛び降りる
  忍び寄る獣族たち、唸り声をあげる
  バスティ、それらを睥睨して―

バスティ「……アンタらのせいで、アタシたち獣人族がどれだけ理不尽な目に合ってるか、知らないでしょうね。せっかくだし、日頃の鬱憤、晴らさせてもらうわ……!」

  バスティ、クラウチングスタートの体勢

バスティ「『ヴィベーガ』」

  飛び出すバスティ、炎が迸る
  目にも止まらぬ疾走、残像が見える
  そのまま、両拳を構えて―

バスティ「『セーリヤ・ウダーロフ』!」

  神速の拳を繰り出す
  目にも止まらぬ拳の乱撃
  獣族、成す術なく血飛沫と化す

× × × × ×

  龍に乗るエルマ
  獣族に囲まれ、動けない
  エルマ、杖を天に掲げて―

エルマ「『メチェオール』!」

  エルマの上空、宇宙色に染まる
  そこから降り注ぐ、無数の流星
  大地を抉り、獣族を塵と化する
  エルマ、「ふぅ」と一息ついて―

エルマ「少し、やりすぎてしまいましたかね……?」

  その傍らを駆け抜けるヴァラー

勇也「エルマさん、マジパネェっす……」

  両隣に獣族の群れ
  ヴァラーと並走、涎が滴る

勇也「……久しぶりに剣使ってみよっかな、っと!」

  勇也、天高く跳躍
  体を捻り、剣を構えて―

勇也「『ヴラシューダ』!」

  高速の回転切り
  周囲の獣族を細切れにする
  ヴァラー、得意げに―

勇也「俺の剣技は、みんな大好き緑の勇者様仕込みだぜぃ!」

  その時、地面が揺れる
  背後、重い足音が迫る
  恐る恐る振り返る勇也
  眼前、巨大な獣族が立ちはだかる

勇也「め、めっちゃでっかいゴリラ来たー!」

  両拳を振り上げる獣族

勇也「いや、無理無理無理無理!」

  そのまま、勇也を叩き合わせる
  しかし、それに対抗する勇也
  巨人の鎧、拳を受け止める

勇也「『チュドヴィシューラ』、間に合った~……!」

エントン「勇者様!」

  背後から、ダッダッダと足音が迫る
  エントン、こちらに走ってくる

エントン「私にお任せください!」

  エントン、跳躍し―

エントン「『リデレーヴォ』!」

  獣族の足元の地面、盛り上がる
  巨大な樹木の幹、姿を現す
  獣族の股から脳天を突き破る
  さらに天高く昇り、樹冠を付ける
  立派な大樹が聳える
  それを見上げ、得意満面のエントン
  しかし勇也、口元を引き攣らせて―

勇也「あ、ちょっとグロい……」

●植人族の森・エントンのコテージ

  勇也の手を強く握るエントン

エントン「勇者様、皆様、ありがとうございました!これで一先ず、獣族の脅威は去りました!」

勇也「よかったよかった。最後美味しいところ持ってかれたけど……」

エントン「共に、魔王からこの世界を守りましょう!」

勇也「……うん!」

キュバラー「いいじゃない、感動的ねん」

  突如、聞き覚えのない声が響く
  いかにも女性的な、艶めかしい声
  その声に、振り向く一同
  コテージの奥、椅子に腰かけるキュバラー
  額には、二本の大きな角
  エントン、一歩踏み出し―

エントン「えっと……、あな―」

  直後、パチンと指を鳴らすキュバラー
  瞬間、エントンの体が激しく炎上

エルマ「エントン様!」

  断末魔を上げるエントン
  あっという間に燃え滓になる
  言葉を失う勇也一行

キュバラー「用があるのはアータよん」

  キュバラー、勇也に人差し指を向ける

キュバラー「でもまぁ、一応役目は果たしたわん。こいつがいると、魔王様が世界樹に触れられないもの」

エルマ「魔王……!?」

ガンテ「まさか、てめぇ……!」

  キュバラー、ニヤリと口角を上げて―

キュバラー「そう、アーシはキュバラー。リーシェティムの一人……、って、これ恥ずかしいのよねん」

  エルマ、杖を構えて―

エルマ「魔族冥衆……。ここに何の用ですか……?」

キュバラー「いやね、今日はただの挨拶。今回の勇者がどんな子か、見てみたくてねん。ふ~ん、結構かわいい顔してるじゃない」

勇也「一人称アーシはちょっと無理かなぁ……」

キュバラー「あら、残念。これでも、同種では人気者だったのよん?ま、今日はこのくらいで。また会いましょう、勇者の坊や」

  フッと消えるキュバラー
  まるで霞のよう

勇也「セ、セクシーなお姉さんだったね~」

バスティ「それ以上に、ヤバそうだったけどね」

エルマ「今回は、敵意がなかったのが幸いでしたが……」

勇也「そうだね……」

  勇也、その時何かに違和感

勇也「……ん、何だ?」

エルマ「どうかしましたか?」

勇也「いや、なんか……、む、胸が、重い……?」

エルマ「え?」

  勇也、自分の胸に触れる
  そこには、確かなふくらみを感じる

勇也「……え?」

  勇也、恐る恐る股間に触れる
  ヒュッと息をのむ

バスティ「ゆ、勇也……?」

勇也「……ない」

ガンテ「ないって、何がだ?」

勇也「……おち○ちん、ないなった」

  訪れる沈黙
  それを、バスティが破る

バスティ「はぁーっ!?」



[44091] 第一三幕 ひと夢の楽園
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/22 10:21
●ストヴァーニェ・宿屋

バスティ「で、何でアンタまで女の子になってるわけ?」

  ちょこんと椅子に座るガンテ
  色白の玉肌、丸く大きな瞳
  どこから見ても美少女
  だが、足を組み、苛立たし気に舌を打つ

ガンテ「俺が知るか、クソッ」

バスティ「やめなさい、違和感がすごい」

エルマ「女体化の影響を受けたのは、勇也様だけではなかったようですね……」

バスティ「にしても、あのクソガキがこんなに可愛くなっちゃって。何なら、アタシもかけて欲しかったわよ」

ガンテ「ねーちゃん、俺のこと見て発情すんなよ?ざーこざーこ♡」

バスティ「ガキなのは変わってないのね、このメスガキ……!」

エルマ「バスティがかかっても、男性になるだけですよ」

バスティ「前言撤回、面倒くさそうだわ」

ガンテ「んなこと言ってる場合かよ」

エルマ「そうですね。魔族冥衆・キュバラー……、淫鬼(いんき)族ですか……」

バスティ「え、勇也のこと?」

ガンテ「ちげぇよ、淫らな鬼、だ」

エルマ「確かに、勇也様は陰気(いんき)ではありますが……。まさか、魔族が立て続けに襲ってくるとは……」

ガンテ「あの魂野郎の言ってたことが、現実になりやがった……」

  〔回想〕
  ・ノーミタ「気を付けてね。リーシェティムのみんなが、君たちをつけ狙ってる。これからは、もっと酷い目に合うかもね……」

ガンテ「まさかこれ、あの淫乱女倒さねぇと元に戻んねぇとかねぇよな!?」

エルマ「いえ、それは大丈夫だと思います」

ガンテ「そうか……」

バスティ「そう言えば、勇也は?」

エルマ「勇也様なら……」

  エルマ、とある部屋に目を向ける

●ストヴァーニェ・宿屋・寝室

  姿見の前に立ち尽くす勇也
  長い黒髪、大きな胸
  全裸の自分を、恍惚とした顔で見つめる

勇也「はぁ……、はぁ……」

勇也N「一時期、女性の体に憧れていたことがあった。別に、女性になりたいとか、そういうわけではない。俺の性自認は男で、恋愛対象は女だ。一般的な世の思春期男子が、女性の胸や秘部に関心を示すように、俺は女性の体そのものに憧れ、成り代わりたいと思っていた。その考えを拗らせて、女装をしたこともあったんだが―」

× × × × ×

  勇也の部屋
  勇也、姿見の前に立っている
  ゴスロリファッションを身に纏っている
  その姿を見て、酷く顔を顰める

勇也N「絶望的に似合わなかった。当たり前だ、別に着た服が問題じゃない。その時鏡に映っていたのは、ただ女性の服を着た男の俺に過ぎなかった。俺の欲は満たされず、むしろそれが軽いトラウマになって、以来女性の体への憧れはしばらく封印されていた」

× × × × ×

勇也N「でも、今の俺は違う。鏡の中にいるのは、どこからどう見ても一人の女性で。今の俺は、確かに一人の女性で。傍から見れば、さっき俺のしたことは―」

  勇也、自身の胸にそっと手を伸ばす
  そして触れる直前、バンッと音がして―

エルマ「勇也様!」

勇也「おひゃあぁぁぁぁぁっ!!!!」

エルマ「……どうかされました?というか、どうして裸……?」

勇也「ちゃんとノックしてよ、ママ!」

エルマ「ママではありません」

ガンテ「にーちゃん、これ暫く経てば元に戻るみたいだぜ」

勇也「え、そうなの……?」

エルマ「『インファルマ』で確認したところ、お二人にかけられている女体化の呪いは永続的なものではなく、時間経過で解かれる一時的なもののようです」

バスティ「よかったわね、魔族に手加減されて」

勇也「……」

  明らかに肩を落とす勇也

バスティ「え、なに、不満なの……?」

  直後、バッと顔を上げて―

勇也「そうだ!時間経過で解かれるなら焦っても仕方ないし、切り替えてパーッと遊ぼうよ!」

ガンテ「いいじゃねぇか!獣族討伐したばっかだし、ちっとは褒美がねぇとなぁ!」

エルマ「う~ん……。エントン様がお亡くなりになられた今、世界樹への対策を考えたいのですが……」

勇也「そんなのあとあと!さぁ、行った行った!」

  勇也、ガンテとエルマを促し部屋を出る
  バスティ、部屋を出る直前、ふと振り向く
  視線の先、窓の側、一つの机
  その角の一つが、ジットリと濡れている

バスティ「……?」

●ストヴァーニェ・海

  照り付ける太陽、青い海、白い砂浜
  思い思いの時間を過ごす亜種族たち
  勇也、バシャッと水を一かけ

勇也「あははっ、あはははっ♪」

バスティ「やったわね~?゛ニャッ!」

  バスティ、爪で水を掬いかける

エルマ「やんっ、冷たいですよ~♪」

  バスティ、杖を構えて―

バスティ「そ~れっ!」

  杖から大量の水を放出
  まるで滝、勇也をうつ

勇也「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ―」

  ガンテ、砂浜に体育座り
  はしゃぐ勇也たちを遠目に―

ガンテ「あいつら、はしゃぎすぎだろ……」

勇也「あ~!水着が飛ばされちゃった~!」

  恥じらい、露わになった胸を隠す勇也
  周囲の亜種族たち、視線を奪われる
  勇也、それに口角を上げ―

勇也M「ケヒヒッ、見ておる見ておる。今の俺は、何をしても完全な女の子。その目にしかと焼き付けるがいい!にしても最高だな、水着回。まさか自分が演出することになろうとは思わなかったが……。せっかく、念願の女体になったんだ!このTS展開、思う存分楽しませてもらうぜぇ!」

× × × × ×

  砂浜を歩く勇也
  意気揚々と、自信に満ちた足取り
  その時、ザッと背後に誰か現れる

亜人「へぃ、姉ちゃん可愛いね!」

亜人「俺たちと一緒に―」

勇也M「もしかして、これってナンパってやつ?さっきも鏡で見たけど、女体化した俺って結構可愛いもんな~。ふっ、仕方ない、ここは甘んじて彼らに夢を見せてあげ―」

  振り向く勇也
  目の前、得体の知れない生物
  クラゲのような頭部
  肉食獣のような体で二足歩行

亜人「俺たちと一緒に、海底街のヌシ討伐にいかない?」

亜人「分け前は、ヌシの触手5本でどうだ?」

勇也M「……お前ら、何族……?」

× × × × ×

  空、僅かな夕焼けに染まる
  エルマたちの元に戻ってくる勇也

勇也「はぁ~、まともな男も海の家もなかった……。そりゃそっか、ここ異世界だもんな」

  うつ伏せのガンテ
  その上にバスティ、馬乗りになっている

勇也「ほえ、どういうプレイ?」

バスティ「オイルを塗ってあげてるのよ。せっかく綺麗な肌が日に焼けちゃうからね」

勇也「こっちにもそういうのあるんだ」

ガンテ「だ、だから良いって……!」

バスティ「な~に恥ずかしがってんのよ。いつもあんなにテンション高いのに、急にしおらしくなっちゃって」

勇也「海だけに、つってな」

エルマ「“汐”違いです」

  エルマ、杖から水を放出
  勇也に直撃

勇也「ごめんごめんごめんごめんごめん―」

ガンテ「だ、だって、水着とか恥ずかしいだろ……?あんなの、ほとんど、は、裸だし……」

  頬を赤らめ目を伏せるガンテ
  それを見て、バスティ、辛抱堪らんように―

バスティ「もう、アンタ急に可愛くなり過ぎよ!」

  ガンテを強く抱きしめるバスティ
  その胸が、ガンテの体に押し付けられ―

ガンテ「ちょ、当たってる当たってる……!」

バスティ「何よ、アンタだって同じのあるじゃない」

エルマ「勇也様、そろそろ良いお時間だと思いますが、お次はどうなさいますか?」

勇也「ふっふっふ……、期待してくれちゃっていい。何せ、次が本命と言っても過言ではない……」

バスティ「あら、そうなの?」

  勇也、パチッと片目を閉じて―

勇也「良いところがあるんだ……」

●ストヴァーニェ・大浴場

  奥行きのある広い浴場
  湯煙で靄がかっている
  床は黒曜石、壁は白を基調としている
  中央に大きな柱が聳える
  最奥、天使を模した像が見下ろす
  布の擦れる音がする
  服、床にフワッと舞う
  バスティのアーマー、カランと鳴る
  エルマのローブ、バサッと翻る
  ペタペタと足音
  浴場に片足を踏み込んで―

バスティ「ちょっと待ちなさい」

勇也「何よ」

ガンテ「どうしたのよ」

バスティ「いや、当たり前のように一緒に入ろうとしてるけど、アンタたち、自分が男だってこと忘れたの?」

勇也「でも、この姿で男湯に入るわけにもいかないし……」

ガンテ「お湯が真っ赤に染まっちゃうぜ」

バスティ「すっかり慣れちゃって……」

エルマ「では、こうしましょう」

  エルマ、杖を構えて―

エルマ「『ゲラネーツ』」

  杖から光の帯が伸びる
  渦巻き、纏まり、人の形を作る
  やがて、一人の男性が現れる

エルマ「一般的な、成人男性の裸体です。これを見て、どう思いますか?」

  勇也とガンテ、顔を赤らめる
  指の隙間からチラチラと見て―

勇也「そ、そんな、急に……!」

ガンテ「お、おっきい……」

エルマ「大丈夫だと思いますよ」

バスティ「嗜好まで女になってるのね……」

× × × × ×

勇也「お、貸しきりじゃ~ん、ラッキー」

エルマ「勇也様、よくご存じでしたね」

勇也「偶々見かけて、行ってみたいな~ってね」

  鏡の前に佇むガンテ
  俯き、顔を赤くしている
  その隣、体を洗うバスティはふと―

バスティ「どうしたのよ、俯いちゃって」

ガンテ「や、やっぱり、ちょっと恥ずかしい……」

  体にタオルを巻いているガンテ
  肩をすくめ、タオルをキュッと摘まむ
  それを見て、バスティ、犬歯を光らせる
  手をワキワキさせ、ガンテに飛びつく

バスティ「タオル貰ったーっ!」

ガンテ「うわーっ!」

バスティ「アンタだけじゃない。ルール違反よ」

ガンテ「だ、だって……、自分の体は、どうしても……」

バスティ「……ったく、仕方ないわね」

  バスティ、ガンテと鏡の前に立つ

バスティ「ほら、洗ってあげるわよ。これで恥ずかしくないでしょ?」

ガンテ「う、うん……」

  ガンテ、頬を赤らめ上目遣い
  バスティ、それに心を打たれる
  ガンテにガバッと抱き着いて―

ガンテ「お、おい……っ!」

バスティ「いいじゃない。今日が終わったら、またクソガキのアンタに戻っちゃうんだから」

ガンテ「ちょ、胸、胸……!」

バスティ「アンタだって、同じの持ってんでしょ!」

  湯につかる勇也
  心地よさそうに深く息を吐く

勇也M「ひと時の夢も、明日が来ればもう終わりか……。目が覚めたら元の体に戻ってる……、うん、よくあるパターンだな。だけど、こんな一生に一度できるか分からない体験をさせてくれて、あの魔族には感謝しないと。もしかして、魔族って案外いいやつらなのでは?あのキュバラーって人だけでも、仲間に出来ないかな。そうすれば、いつでも好きな時に―」

勇也「ぐふふふふ……」

  陰気な笑みを浮かべる勇也
  バスティとガンテ、冷たい視線を向ける

ガンテ「どうしたんだ、にーちゃん……?」

バスティ「性別が変わっても、陰のオーラが滲み出てるわね……」

  その時、勇也の周囲のお湯が泡立つ
  それを見たエルマ、首をかしげる

エルマ「勇也様?」

  直後、お湯の中から何かが飛び出す
  巻き込まれる勇也
  触手のようなものに捕まっている

勇也「どわーっ!」

バスティ「な、何よあれ!?」

エルマ「あれは、スライム……。水中に潜伏していたんですね……」

ガンテ「スライムにしちゃ、でかくねぇか!?」

エルマ「触手……、特異体です。気を付けてください、勇也様!」

勇也「そ、そんなこと言われても……!」

  触手、勇也の腿裏を舐める

勇也「ひゃあっ!♡」

  両足を掴み、グワッと開脚させる
  あられもない姿を晒す勇也
  だが、頬は赤く、息が荒い

勇也M「こ、これが触手プレイ……!圧倒的な力に抵抗も出来ず、無理矢理されちゃう女の人の気持ち~っ♡」

  触手、勇也の胸を弾く

勇也「あひゃんっ!♡」

  嬌声を上げる勇也
  その顔は蕩けている

バスティ「アイツ、喜んでない?」

ガンテ「助けなくていいんじゃねぇか?何か楽しそうだし」

エルマ「勇也様、ヴァラーに変身してください!」

勇也「む、無理!ドライバー、脱衣所に置いてきちゃった!」

  バッと振り返るエルマ
  触手、脱衣所への道を塞いでいる

勇也「ごめん、水没したらまずいと思って!」

  バスティとガンテ、飛び出し―

バスティ「なら、アタシたちがやってやるわ!」

ガンテ「あぁ!力は落ちても、スライム如きに負けな―」

  二人の拳、スライムに取り込まれる

バスティ/ガンテ「え?」

  二人同時、触手に体を掴まれる
  勇也同様、あられもない姿に

バスティ「ちょ、どこ触って……、ニャアッ!♡」

勇也「おぉ、二人も無理矢理されに来たの?」

ガンテ「にーちゃんみてぇな癖は持ってねぇよ!」

エルマ「はぁ~、仕方ありませんね」

  エルマ、両手をそっと合わせ―

エルマ「『ヴィゾーフ』」

  魔法の杖、召喚される

エルマ「特異スライムに、近接打撃は禁物ですよ」

  エルマ、杖を構えて―

エルマ「『リダミール』!」

  杖から斬撃が発生
  飛翔し、スライムを粉々に切り刻む
  支えがなくなり、落下する三人
  勇也、エルマに向かって真っ逆さま
  直後、目の前が真っ暗になる

勇也M「思い出した、もう一つのよくあるパターン……、定石を。裸の男女が衝突、ラッキースケベというやつだ。そして、こういう状況に限って、どういう因果か、変化していたものは都合よく元の姿に戻る傾向にある。つまり―」

  倒れるバスティ
  その上、ガンテが覆いかぶさる

バスティ「ハニャッ!♡」

  嬌声を漏らすバスティ
  ガンテの小さな手、バスティの胸を掴んでいる

ガンテ「……あ」

バスティ「こ、この……、マセガキ!」

  バスティ、ガンテを殴る
  吹き飛ぶガンテ、お湯にダイブ
  倒れるエルマ、その上に勇也
  男の体をバッと起こし、視線を泳がせる

勇也「エ、エルマ殿……、こ、これはですな……!その、創作におけるお決まりというかなんというか……!意図してこのタイミングで戻ったわけじゃ―」

  エルマ、ごみを見るような目で―

エルマ「……キッモ」

勇也「……トゥンク」

勇也N「不覚にも、ときめいてしまった……」



[44091] 第一四幕 大きな胸に芽生える蕾
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/25 15:34
●ストヴァーニェ・広場

  バスティとガンテ、歩いている
  ガンテ、手を頭の後ろにやり気怠げ

バスティ「この街も、随分見慣れたわね」

ガンテ「ちっ、買い物とかめんどくせぇ。しかも、ねーちゃんと一緒とか」

バスティ「それはこっちの台詞なんだけど?」

ガンテ「ちゃんと金、持ってきたのかよ」

バスティ「当然よ」

  バスティ、金の入った袋を手に持つ
  重く、大きく膨れている

ガンテ「にしても、随分溜まったなぁ」

バスティ「魔族や獣族の討伐報酬として稼いだ分よ」

ガンテ「全部、菓子に使おうぜ!」

バスティ「エルマにどやされるわよ」

ガンテ「はぁ~。ま、にーちゃんがあんなんだから、仕方ねぇか」

バスティ「……」

◆ストヴァーニェ・宿屋《回想》

  武器を磨くガンテ
  バスティ、窓際で香箱座り
  そこに、エルマがやってくる

エルマ「お二人とも、少しよろしいですか?」

バスティ「どしたの~?」

エルマ「お二人に、お遣いを頼みたいのですが」

バスティ「アタシ、日光浴で忙しいからパス~」

ガンテ「にーちゃんに行かせろよ。買い出しも、勇者の使命だろ?」

エルマ「それが、ですね……」

◆ストヴァーニェ・宿屋・寝室《回想》

  ベッドに仰向けの勇也
  まるで意識がないように、一点を見つめる
  瞳は絶望の黒に染まり、酷く無機質
  ガンテ、愕然として―

ガンテ「そんな、嘘だろ……。まだ俺、にーちゃんとこの世界、旅したかったのに……!にーちゃん、にーちゃん……!うわあぁぁぁぁっ!」

  勇也に泣きつくガンテ
  エルマ、至って冷静に―

エルマ「まだ死んでいません」

バスティ「どうしたのよ、コイツ」

エルマ「私も、よく存じ上げないのですが……。どうやら、今までの冒険譚を物語?として書き留めていたらしく。それで、以前の女体化した日のことを執筆していたところ、己の行動の愚かさに気付き、それがトラウマとなって酷く心を痛めてしまった、という感じでしょうか……」

バスティ「何やってんのよ」

エルマ「私は、勇也様のお世話をしなければなりません。お金は預けます。今晩はお二人の好物をお作りしますので、どうかお願いします。ゆめゆめ、無駄遣いはなさらないように。お菓子もほどほどにしてくださいね?」

  視線を逸らすガンテ
  下手くそな口笛を響かせる

●ストヴァーニェ・広場

バスティ「ったく、アタシはいつになったら盟友の証石を渡せるのかしら……」

ガンテ「にーちゃんって、結構繊細だよな」

バスティ「面倒臭いって言うのよ」

ガンテ「……」

  〔回想〕
  ・バスティ「もう、アンタ急に可愛くなり過ぎよ!」
  ・バスティ「いいじゃない。今日が終わったら、またクソガキのアンタに戻っちゃうんだから」

ガンテM「……柔らかかった」

  ガンテ、強く胸を握り締める
  不服そうに歯を鳴らして―

ガンテ「ねーちゃん」

バスティ「ん?どうし―」

  重い衝撃、周囲に波動が広がる
  バスティに拳を打ち込むガンテ
  それを片手で受け止めるバスティ

バスティ「……何、ここでやろうっての?」

ガンテ「……ちげぇよ」

バスティ「じゃあ何よ、急に」

ガンテ「何かイライラすんだよ、ねーちゃんといると……!イライラして、この辺がムズムズして……」

バスティ「アンタそれ、もしかして……」

ガンテ「……」

バスティ「風邪でもひいてるんじゃない?アンタも、勇也と一緒に宿屋で―」

ガンテ「ちげーよ!バーカ!」

  ガンテ、飛び出して行ってしまう

バスティ「ガンテ!」

  屋根を飛び伝って遠くへ
  あっという間に姿が見えなくなる
  バスティ、怪訝そうに首をかしげて―

バスティ「ったく、変なやつ」

× × × × ×

  息を切らすガンテ

ガンテM「あん時からだ……。ねーちゃんといるとイライラして、モヤモヤして……。なのに―」

  胸を強く握りしめて―

ガンテ「気ぃ抜くと、ニヤけちまいそうだ……」

●ストヴァーニェ・花屋前

  ガンテ、一人ほっつき歩いている

ガンテ「することねぇな~。でも、今はまだねーちゃんのとこには帰りたくねぇ……。かと言って、宿屋に戻ったらエルマにどやされそうだしな~」

  その時、ふと何かに気付く
  花屋の影から、遠くを覗く巨躯
  ガンテ、それに訝しげな顔をする
  ズンズンと近づいて行って―


ガンテ「おいお前、怪しいな!」

少年「え……、き、君は……?」

  振り向く巨躯、慌てている
  図体の割に幼い顔立ち
  ガンテ、胸を張って―

ガンテ「俺様は、この世界を守る勇者一行の戦士だ!」

少年「ゆ、勇者一行……!」

ガンテ「お前、巨人だな?こんなとこで何してんだぁ?」

少年「え、えっと……、その、僕は……」

  少年、目を泳がせオドオド

ガンテ「言えねぇってことは、後ろめたいことがあるってことだな!これは一発、この俺が制裁を―」

少年「わ~、待って待って!」

ガンテ「んだよ」

少年「じ、実は―」

  少年、手に持つ花束を掲げて―

少年「このお花を、あのお店の人にあげたいんだ……」

ガンテ「あん?」

  ガンテの視線の先
  店頭に、一人の人間族の女性

ガンテ「渡しゃいいじゃねぇか」

少年「そ、そんな簡単に……!」

  遣る瀬無さそうに俯く少年
  その頬は赤く、体は微かに震えている

ガンテ「もしかしてお前、あの女のこと好きなのか?」

少年「え、いやっ、そ、そんなこっ、とっ、いやっ、ばっ、まだっ、なんでっ―」

ガンテ「はははっ!お前、分かりやすいな」

少年「う~……」

ガンテ「そーかそーか……。そういうことなら、この戦士様に任せろ!」

少年「え?」

  ガンテ、花束をバッと奪う

× × × × ×

  店頭に立つ女性
  そこに、ダダダダダッと足音
  ふと、その方向を見て唖然
  ガンテ、花束を振ってこちらに走ってくる
  少年、それを全力で引き留める

ガンテ「お~い!こいつがお前のこと好―」

少年「ダメダメダメダメダメ!」

ガンテ「んだよ、もうちょっとだったのに」

少年「いくら戦士様でも、パワープレイが過ぎるって!」

  少年、ガンテを引きずって遠ざかる
  それを見つめる女性、首をかしげる

× × × × ×

  花屋横に腰かける少年
  ガンテ、彼を見下ろして―

ガンテ「ったく、情けねぇ。男だったら、あんぐれぇバシッと決めろ!」

少年「戦士様みたいにはできないよ……」

ガンテ「にしても、巨人族と人間族か……。言うて、関りねぇだろ?」

少年「まぁね。ただの店員と客だよ。その……、まだ小さい頃に一目惚れして、それからずっと好きなんだ……」

ガンテ「ほ~ん?」

少年「だから、どうしても仲良くなりたい。けど、そうやって頑張ってる自分が気持ち悪くて……。どうしようもなく好きなのに、そんな自分が嫌になるんだ……」

ガンテ「何だそれ」

少年「そもそも、巨人族が人間族に……、なんておかしいよね。僕なんかがこんなの……、迷惑だよね……」

  俯き、声音を低くする少年
  しかし、ガンテ、あっけらかんと―

ガンテ「別に、んなことねぇだろ」

少年「え……?」

ガンテ「そりゃ、急に花束渡されたら、何だコイツってなるかも知んねぇけど」

少年「うぅ……」

ガンテ「でも、迷惑なんてことねぇよ。ましてや、異種族同士だからおかしいなんてこと、絶対にねぇ。それは、俺が一番よく分かってる」

  真っ直ぐに少年を見つめるガンテ
  強い意志が感じられる瞳

少年「……もしかして、戦士様も好きな人、いるの?」

ガンテ「え?」

●ストヴァーニェ・宿屋・寝室

  ベッドに仰向けの勇也
  絶望顔、より色濃くなっている
  無機質に、口をパクパク

勇也「あ……、うぁ……」

エルマ「……よほど、心に深い傷を負ってしまわれたのでしょう……。ですが、このままずっとストヴァーニェに滞在するわけにもいきません。魔王の手は、今も世界樹に迫りつつあるのですから……」

  エルマ、杖を構えて―

エルマ「『ポッドゾナース』」

  エルマの体、光り輝く
  やがて、光の粒子となり散る

× × × × ×

  そこは、まるで海の底
  どこまでも暗い闇が、延々と続いている
  その中に、祈るように佇むエルマ

エルマM「勇也様の、数ある潜在意識。その中から、勇也様の心を蝕んだものを排除すれば、心を持ち直し、再び目覚めるはず……」

  様々な記憶の断片が漂う
  その中に、女体化時のものを見つける

エルマ「あれですね」

  エルマ、杖を構えて―

エルマ「『ラズルーシェ』」

  女体化時の記憶、砕け散る
  エルマ、一息ついて―

エルマ「さて、戻りま―」

  その時、何かに気付く
  黒い淀み、目の前を過ぎる
  ふと、視線を向ける
  遠方、漆黒の何かが蠢き膨張している

エルマ「あれは……」

× × × × ×

  勇也、ふと気づき体を起こす

勇也「……エルマ」

エルマ「おはようございます、勇也様」

勇也「え、もしかして俺、ずっと寝てた?」

エルマ「はい。それはもう、ぐっすりと」

勇也「うわ~、やっちまった~!」

  エルマ、勇也に仕方なく微笑み―

エルマ「勇也様は、もう少し精神も鍛えなくてはなりませんね」

勇也「ん?あ、あぁ……、お、お手柔らかに……」

エルマM「……それにしても、あれは」

  〔回想〕
  ・遠方、漆黒の何かが蠢き膨張している

エルマM「潜在意識の奥深くに、酷くこびり付いているような……。トラウマよりも、もっと大きな何か……」

  エルマ、小さくため息をつく

エルマM「憶測の域を出ませんね……」

●ストヴァーニェ・広場

  ベンチに座るガンテと少年
  その手には、もう花束はない

少年「ありがとう、戦士様のおかげだよ!」

ガンテ「俺は何もやってねぇよ」

少年「これからもたくさん渡して、もっと仲良くなれるように頑張る!」

ガンテ「まぁ、ビビらせねぇようにな」

少年「それで、戦士様は誰が好きなの?」

ガンテ「あぁ?俺は別に、好きとかそんなんじゃねぇよ。ただ、一緒にいるとイライラして、モヤモヤして……、こう、変な感じになるだけだ」

少年「その人のこと、ずっと考えたりする?」

ガンテ「考えるってか、ずっと一緒だから考えざるを得ないような……」

少年「もし、その人が怪我とかしたら悲しい?」

ガンテ「あいつ、俺に負けず劣らずの実力だからな~。あんま考えらんねぇ」

少年「難しいね……」

ガンテ「ただ不思議と、あいつといると笑いそうになる……。自分の筋肉なのに、自分で抑えが効かねぇってのは変な話だけどよ」

  少年、ハッと眉を上げる

少年「……それって、やっぱり好―」

バスティ「ガンテー!」

  バスティ、小走りで来る
  手には買い出しの大荷物

バスティ「ったく、急にいなくなるから探したじゃない」

ガンテ「んな大荷物抱えて、本当に探してたのかぁ?」

バスティ「もちろん、買い物ついでよ」

ガンテ「酷ぇ!」

  二人のやり取りを見つめる少年
  フッと笑い、立ち上がる

少年「じゃあ、僕は行くよ」

ガンテ「ん?おぉ、頑張れよ」

少年「うん。戦士さんも、頑張ってね!」

  少年、ペコリとお辞儀
  踵を返し、ドスドスと歩き去る

バスティ「あれ、巨人よね。知り合い?」

ガンテ「いんや?何か色恋沙汰に巻き込まれた」

バスティ「アンタが?似合わないわねぇ~」

ガンテ「んなことねぇだろ!」

バスティ「じゃあ、アンタは誰か好きな人でもいるの?」

ガンテ「俺は……」

  〔回想〕
  ・バスティ「もう、アンタ急に可愛くなり過ぎよ!」
  ・バスティ「いいじゃない。今日が終わったら、またクソガキのアンタに戻っちゃうんだから」

ガンテ「……さぁな!」

バスティ「ふ~ん?」

  ニヤニヤと、ガンテを覗き込むバスティ
  その時、悲鳴が上がる

ガンテ「今の……!」

バスティ「行きましょう!」

ガンテ「あぁ!」

  バスティとガンテ、ダッと走り出す

× × × × ×

  窓の外を覗くエルマ

エルマ「街が騒がしい……」

勇也「い、今の悲鳴って……!」

エルマ「はい。出番です、勇也様」

勇也「うん……!」

  勇也、力強く頷く



[44091] 第一五幕 この蕾、枯れる前に
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/25 15:35
●ストヴァーニェ・広場

  逃げ惑う亜人たち
  勇也とエルマ、走ってくる
  ふと、何かに気付き立ち止まる
  ザッと立ちはだかる足元

勇也「あれは、ゴブリン……?」

  緑色の体色、長い耳、猫背
  短剣を振り回す5体のゴブリン
  こちらを見て、ニヤリと笑う

エルマ「はい、あれがこの世界のゴブリンです」

勇也「見事に期待を裏切らない造型……。メンタル貧弱の俺にはありがたいね」

  勇也、クエストドライバーを装着
  台座を立てる、待機音が響く
  エルマ、スロットにバックルを装填

勇也/エルマ「変身!」

  勇也、台座の剣を引き抜く
  勇者の鎧、魔法使いの鎧、両者に装着
  仮面ライダーヴァラー、ヒール、現る

ヴァラー「俺が行く!」

  ヴァラー、ダッと飛び出す
  剣と短剣の鍔迫り合い
  ヴァラー、身を翻しゴブリンを切り裂く

ヴァラー「スライム同様の雑魚モンスター筆頭!魔族を倒した俺が負ける相手じゃない!」

  バタバタと倒れるゴブリン共
  血溜まりが地面に広がる

ヴァラー「ふぅ。これで終わ―」

  直後、一体のゴブリンが飛び掛かってくる
  それを、辛うじて剣で受けるヴァラー

ヴァラー「おわっ、別個体!?」

  勇也、ゴブリンを弾き斬る
  辺りを見回す
  蠢くゴブリンの群れ

ヴァラー「あれ、なんかさっきより増えてない……?」

  ヴァラーの足元に亜人の死体
  それが、ムクリと起き上がる
  緑の体色、長い耳、不協和音の咆哮
  その濁った瞳、もはや正気ではない

ヒール「やはり、遅かったようですね……」

ヴァラー「ちょ、エルマ、どうなってるの!?」

ヒール「ゴブリンは、血を介して同胞を増やします。つまり、ゴブリンに殺され者は、ゴブリンになってしまうのです」

ヴァラー「な、何そのゾンビ映画みたいな展―」

  ヴァラー、言葉を詰まらせる
  ハッと、何かに気付く

ヴァラー「じゃあ、ここにいる人たちみんな……。さっき、俺が殺したのも……」

ヒール「勇也様の、ご想像の通りです……」

ヴァラー「……!」

ヒール「厄介なのは、親元を経っても増殖が止まらないこと……。ゴブリンにされた者が別の者を、それがさらに別の者を……。すべて倒さない限り、この惨劇は終わりません」

  俯くヴァラー
  ブツブツと呟いている
  不穏に陰る複眼

ヴァラー「……倒さなきゃ。早く、倒さなきゃ。じゃないと、この街の人たちが……」

  震えるヴァラーの肩
  そこに、ポンと手が置かれる
  ヒール、優しい声音で―

ヒール「落ち着いてください、勇也様。私たちがいます。共に戦いましょう」

  ヴァラー、正気に戻って―

ヴァラー「……うん。ごめん」

ヒール「鎧を纏っている私たちは、感染の心配はありません。早急に、ここら一帯のゴブリンを掃討します」

ヴァラー「で、でも、この人たちは―」

ヒール「ゴブリンにされた時点で、既に死んでいます。ここは、割り切らなければ如何にもならない……。勇也様、今こそ勇者としての精神を身に着ける時ですよ」

ヴァラー「……鬼畜だな」

× × × × ×

  仮面ライダーバトル、銃を錬金
  ゴブリンの頭を吹き飛ばす

バトル「ちっ、大元を殺しても意味がねぇ!これだからゴブリンは嫌いなんだよ!」

  バスティ、ゴブリンに拳を入れる
  次々に薙ぎ倒していく
  バスティ、構えて―

バスティ「『ヴラシクラーク』!」

  高速で回転するバスティ
  拳でゴブリンを巻き込み、粉微塵にする
  バスティ、「ふぅ」と一息
  直後、別個体のゴブリンが飛びつく
  瞬間、響く銃声
  ゴブリンの体が吹き飛ぶ
  ゴロゴロ、首が地面を転がる

バスティ「これで、獣族の時の貸し借りはチャラね」

バトル「二手に分かれるぞ、ねーちゃん!」

バスティ「えぇ!」

  バスティとバトル、反対方向に飛び出す

× × × × ×

  ダッダッダと走るバトル
  辺り、有象無象の死体の山
  思わず、舌を鳴らしてしまう
  とある店前を通る時、ふと何かに気付く
  立ち止まるバトル
  店頭、座り込む巨躯の背中

バトル「おいお前、死にたくなかったら早く逃げろ!」

??「……だ、誰……?」

  ゆっくりと振り向く巨躯
  その涙に滲む横顔に見覚えがある

バトル「お前、さっきの……!」

  バトル、変身解除
  少年に駆け寄る

ガンテ「こんなとこで何して―」

  咄嗟に言葉に詰まるガンテ
  少年の目の前、何やら蠢いている
  柱に縛られた一匹のゴブリン
  背中に、天使と悪魔の羽が一対ずつ
  その姿が、誰かと重なる

  〔回想〕
  ・店頭に、一人の人間族の女性

ガンテ「嘘、だろ……」

少年「……おかしいよね、こんな姿なのに。もうとっくに、あの人なんかじゃないのに……。それでもまだ、好きで好きで堪らないんだ」

  少年の手、一輪の花
  それを、そっとゴブリンに近づける
  しかしゴブリン、その花を噛みちぎる
  無惨に散る花弁、ハラハラと床に落ちる

ガンテ「……逃げるぞ」

  しかし少年、力なく首を横に振る

ガンテ「こんなところにいたら、お前まで……!」

  直後、ガンテ、言葉を失う
  こちらに振り向く少年
  その顔は半分が緑で、耳が長い
  大きく、充血した目
  鋭い牙が光る
  悔しそうに喉を鳴らすガンテ

ガンテ「お前……」

  背後からタッタッタと足音
  バスティがやってくる
  目の前の光景に息をのむ

少年「殺して、戦士様……」

ガンテ「……っ!」

少年「良いんだ、この人と一緒なら。何も分からなくなったまま……、この気持ちも忘れたまま、僕は生きていたくなんかない……」

  歯を食いしばっているガンテ
  握り拳、力が入り震える
  見かねたバスティ、一歩踏み出して―

バスティ「アンタが出来ないなら、アタシが―」

ガンテ「やめろ、ねーちゃん……!」

バスティ「……」

ガンテ「……俺がやる」

  ガンテ、少年に近づく
  一歩一歩、踏みしめるように

ガンテ「……ごめんな」

少年「ううん。ありがとう、戦士様。僕、あの世では幸せになれるかな……」

ガンテ「ったりめぇだろ……。ってか、なんなきゃ許さねぇ」

少年「戦士様がそう言うなら、大丈夫だね」

  ガンテ、拳を構える

ガンテ「『プレース』……」

  頭上に現れる、巨大な拳の残像
  一直線に落下、二人を叩き潰す
  鈍い音が響く、血溜まりが花弁を染める

ガンテ「……」

バスティ「ガンテ……」

  その時、どこからともなくガタガタと物音
  ふと、顔を上げるガンテ
  その死角から、ゴブリンが飛び出す

ガンテ「……!」

  牙を剥き、ガンテに飛びついてくる
  奇襲、避けられない

× × × × ×

  杖を構えるヒール

ヒール「『ヴズリーブ』」

  爆発、ゴブリン共を木端微塵にする

ヒール「一先ず、ここら一帯は掃討しましたね」

  ヴァラーとヒール、変身解除
  勇也、苦しそうに息を切らしている
  直後、傍らからドサッと倒れる音
  バッと視線を向ける勇也
  目を見張り、叫ぶ

勇也「ガンテ、バスティ!」

  地面に倒れるガンテとバスティ
  ガンテ、激しく息を切らし―

ガンテ「た、助けて、くれ……!バスティが……!」

  エルマ、バスティに駆け寄る
  右腕から腹にかけて、緑に変色し蠢いている
  大量の汗をかき、顔を顰めている

エルマ「まさか、感染したのですか……!?」

ガンテ「俺の、せいだ……!」

勇也「エルマ、ガンテも……!」

  体を起こすガンテ
  その腕、一部が緑に変色

ガンテ「仕方ねぇ……」

勇也「な、何を―」

  ガンテ、剣を錬金
  肘から下を切り落とす

ガンテ「ぎっ、があぁぁぁぁぁっ!!!」

  ボトッと落ちるガンテの腕
  ボタボタ、大量の血が流れる
  痛みに激しく悶えるガンテ
  勇也、何もできずただ絶句
  エルマ、ガンテに杖を構えて―

エルマ「『アベズボリヴァ』」

  杖の光、腕の切断面を包み込む
  徐々に息を整えるガンテ

ガンテ「助かった……。けど……」

勇也「エルマの魔法で、どうにかならないの……!?」

エルマ「いくら魔法でも、こればかりはどうにも……」

勇也「じゃあ、バスティは……」

エルマ「……一つだけ、血清があります。それがあれば、バスティを救える……」

勇也「ど、どこに……!?」

  エルマ、スッと立ち上がる

エルマ「上界……、ハーピー族の天空街に行きます。それが、バスティを救う唯一の道標です」



[44091] 第一六幕 霊薬の在り処を知る者
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/26 16:01
●ボーテミュイズン〔上界〕・世界樹の麓

  勇也一行、テレポートしてくる
  バスティは、既に意識がない
  エルマの魔法で宙に浮いている
  ジワリと、体が緑に侵されていく
  勇也、世界樹を見上げて―

勇也「樹冠、初めて見た……」

エルマ「懐かしいですね、上界……」

  呟くエルマ
  ガンテ、それに鼻を鳴らし―

ガンテ「ま、そうだよな」

勇也「んで、“天空街”ってことは……」

  上空を見上げる勇也
  世界樹の樹冠の、遥かその先
  小さな何かが点々としている

エルマ「はい、あれがハーピー族の天空街です」

勇也「こっからだと、ゴミの塊にしか見えないんだけど……」

× × × × ×

  空中に浮遊する大きな都市
  その周りを、建物が浮遊している
  魔法の光に包まれる勇也たち
  天空街へ飛んでいく
  勇也、顔を青ざめさせて―

勇也「下見るな下見るな下見るな下見るな―」

ガンテ「おい、何か来るぞ……!」

  目を細めるガンテ
  視線の先には天空街
  そこから、無数の影が飛び出す
  勇也も、目を細める

エルマ「こちらに来ますね」

勇也「あれはなん―」

  瞬間、勇也の頬を鋭い何かが掠める
  切れる頬、細く血が伝う

勇也「……え?」

  遠方、キラキラと無数の光
  徐々に大きく、迫ってくる
  大量の矢だ

勇也「これやばいって……!」

  ガンテ、勇也たちの前に出て―

ガンテ「魔法錬金『ザシータ』!」

  ガンテ、防御壁を召喚
  全ての矢を弾く
  直後、傍らを何かが飛ぶ
  四方八方、何かが高速で羽ばたく

勇也「もしかして、これが……!」

ガンテ「ハーピー族だ。襲われてんな、俺たち」

エルマ「ですが、ここまできて退くわけにはいきません!」

  エルマ、杖を掲げて―

エルマ「『モルノーナスチ』!」

  直後、神速で飛び出すエルマたち
  ハーピー族を跳ね除け、天空街へ一直線

エルマ「振り落とされないでくださいね!」

勇也「皮がはげるーっ!!!」

●ハーピー族の天空街・広場

  上空に、勇也一行の姿
  地面に激突するように着地
  勇也、重そうに体を上げる

勇也「あ~……、これ、骨いってない……?」

  ふと顔を上げる
  辺りを囲うハーピーたち
  鋭い目つき、勇也たちを睨む

ガンテ「ま、歓迎されねぇよな」

  その時、コツコツと足音
  群衆の中、際立って聞こえる
  そして現れる、一人のハーピー
  羽の鮮やかな赤が印象的
  紅の瞳を鋭く細める

??「エルフに獣人……、下界の者がこの天空街に何用だ?」

エルマ「……」

ガンテ「俺は、上界の巨人族だが?」

??「ならば、尚のこと理解不能だ。なぜ、上界の種族が下民と行動を共にしている?」

ガンテ「俺の仲間に上下とか関係ねぇんだよ、この鳥女」

??「不届き者が……。この場で殺されても文句は言えぬぞ?」

ガンテ「望むとこr―」

エルマ「ガンテ」

ガンテ「……ちっ、へぇへぇ」

  ガンテ、一歩下がる
  立ち上がるエルマ
  ハーピーを真っ直ぐ見つめ―

エルマ「私たちは、此度の勇者一行です。ハーピー族の長に話しがあります」

  赤毛のハーピー、ハッと目を見開く
  そして、跪く
  辺りのハーピーも同様、頭を下げる

??「勇者御一行様、我々の無礼をどうかお許しください」

勇也「我々……」

エルマ「では、あなたが?」

ピュルハ「私の名はピュルハ。ハーピー族の長をしております」

●ハーピー族の天空街・城

  ベッドに寝そべるバスティ
  ピュルハ、彼女の緑の部分に触れて―

ピュルハ「なるほど。ゴブリンの血、ですか。混血故に、助かりましたね」

勇也「どゆこと?」

ピュルハ「外部から混入した血の巡りは、混血であればあるほど遅いのです」

エルマ「バスティは、獣族と旧人間族の混血。感染から数時間が経った今でも、この程度で収まっているのは不幸中の幸いですね」

ガンテ「俺も、巨人族と矮人族の混血だ。もし純血だったら、とっくにゴブリンだぜ」

ピュルハ「それで、この天空街に訪れたあなた方の目的は?」

エルマ「世界樹液です」

ピュルハ「……なるほど」

勇也「なんそれ?」

ピュルハ「不治の病をも癒す霊薬……。世界樹が、この世界にもたらした恩恵の一つです」

エルマ「それがあれば、バスティとガンテに混入したゴブリンの血を、浄化することができます」

勇也「なるほど、血清ってのは比喩か」

エルマ「場所はレーネス山。しかし、その具体的な場所を知っているのは、頂上と近しい高度に住むハーピー族だけです」

  ピュルハ、改めて背筋を正し―

ピュルハ「勇者御一行様のお望みとあらば、我々ハーピー族、喜んでご案内いたします」

ガンテ「よし、ならさっさと―」

ピュルハ「しかし、警戒しなければならないことが一つ」

エルマ「何でしょう?」

ピュルハ「セイレーンの歌声です」

勇也「セイレーン……?」

ピュルハ「聞いた者の心を惑わし、精神を蝕み、思考を侵す魅惑の歌声……、それがレーネス山の山頂から鳴り響いているのです。今まで、世界樹液を求めて旅立ったハーピーや他の種族が帰ってきたことは、一度もありません。セイレーンの歌声に、惑わされたのです……。此度は勇者様のご意向ということで、私が先導いたします。ですが、これは命懸けの旅となることをご承知ください。故に、セイレーンの歌声にも負けぬ強靭な精神力を備えた方一名を、世界樹液の元へご案内したいと思います」

勇也「強靭な精神力……」

  ガンテ、一歩踏み締め―

ガンテ「俺が行く」

エルマ「ガンテ……」

ガンテ「正直、他にいねぇだろ。それに―」

  〔回想〕
  ・死角から飛び出すゴブリン
  ・牙を剥き、ガンテに飛びついてくる
  ・奇襲、避けられない
  ・寸前、視界に飛び込んでくるバスティ

  眠るバスティを見るガンテ
  悔しそうに目を細める

ガンテ「……俺が行かなきゃ、示しがつかねぇ」

勇也「だ、だったら、俺も行く……!」

  勇也、ガンテの隣に並ぶ

勇也「そんな危険なところに、ガンテ一人で向かわせるなんて、勇者として出来ない……!」

ガンテ「にーちゃん……」

ピュルハ「しかし、世界樹液まで辿り着けるのは、どちらかお一人だけです」

勇也「立候補するだけならタダでしょ?どっちが相応しいか、ピュルハさんが決めてくれていいよ」

ピュルハ「……分かりました。では、一つ試させていただきます」

  勇也、小首を傾げる

ピュルハ「レーネス山までは、我々ハーピーの背に乗り、飛んで行ってもらいます」

勇也「優雅な空中散歩だ、いいねぇ~。久しぶりに、平和な異世界って感z―」

× × × × ×

  遥か上空
  高速で飛行するハーピー
  その背中に乗る勇也
  アクロバティックに急降下、一回転を決める
  勇也、涙が飛び散り、顔の皮が波打つ

勇也「無理無理無理無理無理―」

ハーピー「あ、あの~……、そろそろ降りm―」

勇也「うっ」

ハーピー「うっ?」

勇也「オロロロロロロロロロロッ」

ハーピー「ぎゃーっ!!!」

× × × × ×

勇也「俺とエルマはバスティを見てなきゃいけないから」

  勇也、立ち上がる
  ガンテの肩に手を添える

勇也「ガンテ……、辛く苦しい旅になると思うが、俺は君を信じてるよ……!共に、バスティを助けよう!」

ガンテ「にーちゃん……!」

  ピュルハ、白けた目で勇也を見る

ピュルハ「これが、此度の勇者……」

勇也「言いように寄っちゃ焼き鳥だよ~?」

●ハーピー族の天空街・広場

  整列するハーピー族、離陸体勢
  ガンテ、ピュルハの背に乗っている

ピュルハ「準備はいいか?小さな巨人」

ガンテ「小せぇって言うな!俺はガンテだ」

ピュルハ「そうか……。いくぞ、ガンテ!」

  ピュルハたち、一斉に飛び立つ
  地上の勇也、見上げ手を振る
  遠方に聳えるレーネス山
  ガンテ、それを力強く見つめ―

ガンテ「待ってろ、バスティ……!」



[44091] 第一七幕 半端者でも守りたい
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/26 16:03
●ボーテミュイズン〔上界〕・レーネス山への上空

  ハーピー族、大空を飛んでいる
  見事なV字の陣形
  その先頭にピュルハとガンテ

ピュルハ「で、そのバスティってのが、お前の想い人か?」

ガンテ「聞かれてた、恥ずかしっ」

ピュルハ「自ら名乗り出た時も、彼女のことを見ていたからな」

ガンテ「鳥のくせに、余計なこと覚えてやがって……」

ピュルハ「ハーピー族は記憶力に優れているんだ。遥か昔の友の顔と名さえ、言い淀むことはない」

ガンテ「……別に、んなんじゃねぇよ。ったく、どいつもこいつも、色恋話しが好きだなぁ」

  呆れたように嘆息するガンテ
  ピュルハ、それに「ふふっ」と笑い―

ピュルハ「些か、空気が張り詰めていたからな。族長として、話題提供をしたまでだ」

ガンテ「変な気遣うんじゃねぇよ」

ピュルハ「ならば、尚のこと世界樹液まで辿り着かせて見せよう。この世界を魔王から救うのはお前らだ」

ガンテ「お、さっきまでの畏まった態度はどうしたよ?」

ピュルハ「勇者様本人を前にしては、砕けた言葉遣いも出来まい」

ガンテ「にーちゃんはんなこと気にしねぇよ」

ピュルハ「些か、不安を煽られるお方ではあったが……」

ガンテ「パーティメンバー募集してっけど、どうだ?」

ピュルハ「実に光栄な話しだが、生憎、私にはハーピー族の族長という使命があるのでな。世界の平和は、お前らに託そう」

  ガンテ、フッと微笑む
  進行方向を真っ直ぐ見つめて―

ガンテ「そうかよ」

●ハーピー族の天空街・城

  ベッドに寝そべるバスティ
  その傍ら、勇也とエルマが座っている

勇也「タオルでキツく縛ったら、血止まらないかな?」

エルマ「どれほどキツく縛っても破れない耐久力のタオルであれば、可能ですよ」

勇也「ゴブリンの血キモすぎ~」

  エルマ、バスティを見つめている
  静かに口を開いて―

エルマ「勇也様、今お持ちの証石をお見せいただけますか?」

勇也「おぉ。え~っとね~……」

  勇也、懐から証石を取り出す
  掌に、純白と茶色の宝石が一つずつ

勇也「エルマとガンテの二つだね」

エルマ「やはり、バスティからはまだ貰っていませんか」

勇也「何か、頑ななんだよな~」

エルマ「私たちはゴブリンの血に感染しませんでした。直接の攻撃を受けていないのもそうですが、一番は鎧を身に纏っていたからです」

  〔回想〕
  ・ヒール「鎧を纏っている私たちは、感染の心配はありません」

エルマ「ですが、バスティは……」

勇也「そっか、バスティは変身できない……。生身で戦ってたんだ」

エルマ「獣族討伐の時もそうでした。仮面ライダーにさえ変身していれば、多少の攻撃は受けようとも、このようなことにはならなかったのに……」

勇也「ま、まぁまぁ、それはさ……」

  勇也、「あはは」と苦笑い
  エルマ、ハッとして―

エルマ「申し訳ありません、決してバスティを責めているわけではないのです。ですが……」

  エルマ、バスティを見やる
  心配そうに、眉を寄せる

エルマM「未だ盟友の証石を託せない理由が……、特別な事情が、何かある……?」

●ボーテミュイズン〔上界〕・レーネス山への上空

ピュルハ「間も無く、レーネス山だ」

ガンテ「あぁ」

  分厚い雲を抜けた先
  眼前に聳えるレーネス山

ガンテ「巨人の街からも見えてたけど、流石に登ろうって気にはなんなかったなぁ」

ピュルハ「いくら頑健な巨人族でも、この山を己の足で登ろうとするのは自殺行為だ」

  岩壁が近い
  その時、ピュルハ、何かに気付く

ピュルハ「あれは……」

  岩壁に横たわる、白い何か

ピュルハ「……っ!」

  白骨化した死体だ
  岩壁に無数に転がっている
  骨が、岩壁を白く染め上げるほど
  ピュルハ、その内の一つの様相に見覚えがある
  悔しそうに喉を鳴らし、唸る

ピュルハ「セイレーン……!」

ガンテ「どうかしたか?」

ピュルハ「……いや、少し取り乱した。それより、もうす―」

  その時、何かが聞こえてくる
  透き通った、玉を転がすような声
  一定のリズムと音程を刻んでいる

ピュルハ「セイレーンの歌声……!」

  V字の陣形が見る見る崩れていく
  ピュルハ、フラフラと揺れる
  ガンテ、身を乗り出し―

ガンテ「おい、大丈夫か!?」

ピュルハ「すま、ない……、ガン、テ……」

ガンテ「おい、しっかりし―」

  直後、ガンテの視界が蠢く

ガンテ「なん、だ、これ……」

  視界が縦に伸び、横に伸び、回る

ガンテ「くっそ……、抗え、ない……」

  頭を抑えるガンテ、目は虚ろ
  やがて、目の前が真っ暗になる

ガンテN「俺は、親父とお袋が一緒にいるところをみたことがない。家族3人で暮らしたことは、一度もない。最初に一緒にいたのは、お袋だ。ちょっと貧しかったが、愛情深く俺を育ててくれてたと思う。物心ついてから、親父が他種族……、矮人族だと教えられた。そん時は何も思わなかったけど、でも、親父に初めて会いに行った時……、矮人族を初めて見た時、思い知った」

× × × × ×

  矮人族の集落
  並ぶ矮人族、ガンテに攻撃する
  ガンテ、絶句し立ち尽くしている

ガンテN「半端者の、ばつの悪さを」

× × × × ×

ガンテN「矮人族には恐れられ、巨人族には罵られ……。恋とか友情とか、そんな段階じゃなかった。俺には、両親以外の味方は一人もいなかった……。でも、あいつは違った」

  〔回想〕
  ・バスティ「はっ、強がっちゃって~。ママとパパから離れて、寂しくないんでちゅか~?」
  ・バスティ「ったく、みっともないわねぇ。そんなんで、アタシに世間知らずなんてよく言えたこと」
  ・バスティ「ほら、洗ってあげるわよ。これで恥ずかしくないでしょ?」

ガンテN「ウザいし、生意気だし、世間知らずだけど、ねーちゃんは俺を邪険に扱ったりなんてしなかった。俺を種族じゃなくて、一人の人として見てくれた……。こんなとこで、くだばってやる玉じゃねぇだろ、ねーちゃんよぉ……!」

●レーネス山・岩壁

  カッと目を見開くガンテ
  バッと体を起こす
  辺り一面、白が埋め尽くす
  見渡す限りの白骨死体
  ふと振り返るガンテ
  頂上まで、あと僅かだ

ガンテ「あいつらは―」

ピュルハ「―なさい……」

  弱弱しく、震える声
  反応し、振り返るガンテ
  ピュルハ、肩を震わせている

ピュルハ「ごめん、なさい……」

  ガンテ、ピュルハに歩み寄る

ガンテ「おい、どうした、大丈夫か?」

ピュルハ「な、んで……?全部、忘れてた……」

ガンテ「何をだ?」

  紅の瞳が涙で揺らぐ
  先程までの威厳はどこへやら
  ピュルハ、喉を引き絞るように―

ピュルハ「ママと、パパのこと……」

ガンテ「親か……、どこにいるんだ?」

  ピュルハ、ゆっくりと顔を上げる
  ふと指を指して―

ピュルハ「……ここ」

ガンテ「……!」

  ピュルハが見るのは、白骨死体の山
  ガンテ、思わず心臓が揺れる

ピュルハ「まだ小さい頃、体が弱かった私のために、ママとパパは世界樹液を探しに行った……、この山に……。探しに行ったきり、帰って来なかった……」

ガンテ「……」

ピュルハ「ずっと、ここにいたんだね……。ごめん、思い出せなくて……」

ガンテ「ピュルハ……」

ピュルハ「……悪いな、ガンテ。私が先導できるのは、ここまでのようだ」

ガンテ「え……?」

ピュルハ「私は、ここに残る……。いや、残らなきゃいけない……。ママとパパを、記憶の奥底に閉じ込めてた、せめてもの罪滅ぼしだ……」

ガンテ「……けんな」

ピュルハ「ママ、パパ……、やっと一緒に―」

  パンッ、乾いた音が響く
  掌を振り抜くガンテ
  ピュルハ、目を見開いている

ガンテ「感謝しろ、これでも大分手加減したんだ」

ピュルハ「……」

ガンテ「ふざけんな、そんなの体のいい言い訳だろうが!お前の親父とお袋は、お前を生かすためにこの山に来たんだろ?だったら、今のお前にできることは、ここで死ぬことじゃねぇ。生きることだ、これからも!」

ピュルハ「ガンテ……」

ガンテ「あともう少しだってのに、こんなとこで諦めるなんて絶対許さねぇ……。俺は誰も見捨てねぇ、誰も死なせねぇ!」

  ガンテ、隻腕を天に掲げて―

ガンテ「『アプロメーティ』!」

  巨大な拳の残像が現れる
  それを、岩壁に叩き付ける
  激しい揺れ、轟音が響く
  セイレーンの歌声を掻き消すほどの轟音

ガンテ「起きろ、鳥ども!こんなとこで寝てたら、エルマに鳥料理にしてもらうぞ!」

  ピュルハ、紅の瞳を細める
  決意に満ちた表情
  そして、バッと飛び出す
  その背には、ガンテが乗っている

ピュルハ「お前のおかげで目が覚めた、ガンテ!今の私にできることは、子守歌の中で素直に眠ることじゃない。両親の骨を拾って、仲間の元へ帰ることだ!幸い、ママとパパの顔は覚えているからな!」

ガンテ「鳥のくせに、記憶力良いじゃねぇか!」

  ピュルハ、空中で振りかぶる

ガンテ「ちょ、おい、何やって―」

  勢いよく、ガンテを投げ飛ばす

ガンテ「どわーっ!!!」

  頂上に向かって飛んでいくガンテ

ピュルハ「その先が頂上だ!後は任せたぞ、ガンテ!」

ガンテ「……おうよ!」

  ガンテ、拳をグッと握り締める
  やがて、頂上が見える
  中央に大きな穴、中は空洞
  ガンテ、その中に入っていく
  深く、大きな空洞
  どこまでも落ちていく
  やがて、遠方に何かが見える

ガンテ「セイレーンってのはてめぇか……」

  羽の生えた女性の石像
  そこから、歌声が響いている
  しかし、もはやガンテに効果はない
  拳を握り締め、吠える

ガンテ「声デケェにも程があんだろうが!俺のお袋でも、ボリュームにはもう少し気遣ってたぜ!」

  〔回想〕
  ・少年「その人のこと、ずっと考えたりする?」

ガンテM「あぁ、考えてるよ……」

  〔回想〕
  ・少年「もし、その人が怪我とかしたら悲しい?」

ガンテM「悲しいし、怖えぇよ……。こんなとこに、無鉄砲に突っ込むくらいにはな。でも、それは―」

  ガンテ、拳を突き出し―

ガンテ「『バーストヴィン・モーロット』!」

  強大な力が集約されたガンテの拳
  セイレーンの像を打ち砕く
  地面に着地、息を切らしている
  足元、何かを見つける
  灰色の、小さな壺のような物
  ガンテ、手に取り呟く

ガンテ「また、随分とちっこいなぁ」

●ハーピー族の天空街・城

  ベッドに寝そべるバスティ
  ゆっくりと目を覚ます
  パチパチ、瞬きをする
  傍ら、眉を寄せて覗き込むガンテ

バスティ「ガンテ……、みんな……」

  ゆっくりと体を起こして―

バスティ「ここは……?アタシ―」

  直後、体に衝撃を受ける
  ガンテ、バスティに抱き着いている
  震える声で―

ガンテ「よかった……!」

バスティ「……何よ、そんなに寂しかった?」

ガンテ「ったりめぇだろ……」

  バスティ、意外そうに眉を上げる

× × × × ×

  拳を突き出し落ちるガンテ
  遠方、セイレーンの像

ガンテM「悲しいし、怖えぇよ……。こんなとこに、無鉄砲に突っ込むくらいにはな。でも、それはねーちゃんに限った話じゃねぇ。にーちゃんだって、エルマだって同じだ。みんな、上とか下とか半端とか関係なしに、俺を受け入れてくれた大事な仲間だ!だから―」

× × × × ×

  バスティに抱き着いているガンテ
  消え入るような小さな声で―

ガンテ「ずっと、俺が守ってやる」

バスティ「……!」

ガンテM「みんなのことは、俺が……!」

  ガンテの声のない決意
  バスティ、密かに胸の鼓動が高鳴る

●ボーテミュイズン〔上界〕・???

  どこか分からない
  ただ暗く、静か
  その中に、一人佇む少女
  全容は明確でない
  ただ、蛇のような尾を這わせている
  異形であることだけが分かる
  手には四角くて薄い板―元い、スマホ
  少女、長い舌をペロリとして呟く

??「勇、也……」



[44091] 第一八幕 故友の帰巣
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/27 16:09
●ハーピー族の天空街・城

  エルマとバスティ、向かい合って座っている
  うんと伸びをするバスティ

エルマ「お身体の具合はどうですか?」

バスティ「おかげさまで、絶好調よ。もしあのままだったら、獣人とゴブリンのミックスになってたわ……。だから、ありがと」

エルマ「肉薄したのはガンテですから、お礼なら彼に」

バスティ「……まぁ、そうね。でも、エルマがみんなをここまで飛ばしてくれたんでしょ?アンタがいなかったら、そもそもハーピーにすら会えてないわ」

エルマ「そう、ですね……」

  不意に言い淀むエルマ
  ゆっくりと口を開く

エルマ「では、そのお礼ということで、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

バスティ「ん?」

エルマ「バスティが、未だ勇也様に盟友の証石をお渡しにならない理由です」

  バスティ、ハッと眉を上げる

エルマ「今回の件、バスティが仮面ライダーに変身していれば……、盟友の証石を託していれば起きなかった」

バスティ「……そうね」

エルマ「決して、責めているのではありません。ただ、何かそれが出来ない理由が、あるのではないですか……?」

バスティ「……」

  エルマ、ボソッと―

エルマ「勇也様を……、我々を仲間であると、まだ信用していないとか……」

  バスティ、身を乗り出して―

バスティ「そんなことない……!これまで一緒に過ごしてきた中で、アンタたちは十分信頼に値する。アイツだって、最初はあんなんだったけど、今はもう普通に戦えてるし……」

エルマ「では、何故ですか……?」

  眉を寄せるエルマ
  バスティ、呆れて溜息
  背もたれに身を預ける

エルマ「バスティ……?」

バスティ「いえ、ちょっと呆れちゃってね……、自分に」

エルマ「え?」

バスティ「ここに来るまで、ドワーフとか矮人とか、いろんな種族に会ってきたでしょ?そして、助けてきた」

エルマ「はい……」

バスティ「だから、私たちのことも助けてくれるんじゃないかって……。勝手に、どっかで期待してたのかしらね……」

  エルマ、訝しげな顔で―

エルマ「……それは、バスティの故―」

勇也「なあぁぁぁぁぁい!!!!」

  突然響く勇也の声
  エルマ、思わず言葉を切る
  バスティ、それにフッと笑う
  しかし、その表情はどこか悲し気

バスティ「時が来たら、ちゃんと話すわよ」

エルマ「……分かりました」

  バスティ、勇也の元へ

バスティ「何よ、急に大きな声出して」

勇也「ない、ないんだよ!」

  狼狽する勇也
  顔面蒼白、目が泳いでいる

バスティ「ちょ、落ち着きなさいって……!何を失くしたのよ?」

勇也「スマホ……、スマホがなくなったんだよ!」

バスティ「スマホ?」

ガンテ「何だ、スマホって?」

エルマ「もしかして―」

  〔回想〕
  勇也「さすがに、異世界には対応してないか」
    天気アプリ
    温度は表示されていない

勇也「ずっとポケットに入れてたのに、いつの間に……」

バスティ「ここに飛んでくるときに落としたとか?」

エルマ「であれば、私が感知できています」

ピュルハ「ラミア族の仕業かもしれないな」

  ふと、声がかけられる
  振り向く一同
  視線の先、赤毛を翻すピュルハ
  遺骨の入った壺を抱いている

勇也「ラミア族?」

ピュルハ「下半身が蛇の姿をした、下賤種の中でも一際醜い種族です」

勇也「い、言うねぇ……」

ピュルハ「奴らは、暗殺や盗みを生業としている……。特に、我々ハーピー族は手を焼かされているのです」

ガンテ「は、こんな高いとこに来んのか?」

ピュルハ「あぁ。どういう原理かは知らんがな」

勇也「ラミア族……」

勇也M「俺がここまで狼狽しているのは、何も俺がスマホがないと呼吸も出来ない中毒者だからではない。以前も話したが、この世界にwi-fiなんてものは存在しないから、SNSは使い物にならない。それでも尚、俺がスマホに固執する理由、それは―」

バスティ「そう言えばアンタ、それでなんか書いてるって言ってなかった?」

ガンテ「あぁ、物語な」

勇也「おひょいっ!」

  勇也、肩を跳ねさせる
  恐る恐る、二人に振り向いて―

勇也「み、見た……?」

ガンテ「いや、全く」

バスティ「興味ないわ」

勇也「それはそれで傷つく……」

勇也M「そう……。あのスマホには、俺の勇者としての冒険譚が、唯一まともに使えるメモアプリに物語として記してあるのだ!因みに、現在第十七幕まで連載中。『突如異世界に召喚されたイケメン陽キャの俺、圧倒的なチートスキルとバトルセンスで敵を薙ぎ払い、魔王を倒し、うはうはハーレムライフを送る夢と感動のストーリー』……。そんなものが誰かに見られたら、俺はもう生きていけない!ただでさえ理想と現実のギャップで禿げそうなのに!でも仕方ないよね!理想の自分を主人公にして物語を書く、みんなも通る道だよね!」

  奇声を上げる勇也、ブンブンと頭を振る
  それに冷たい視線を向ける一同
  勇也、声と肩を震わせて―

勇也「お願いです……、一緒に探して……」

バスティ「はぁ~、仕方ないわね。アタシは賛成、助けてもらったお礼ってことで」

ガンテ「俺も、別にいいぜ!」

エルマ「では、二手に分かれましょう。私と勇也様は住宅街を、バスティとガンテは商店街を探してください」

ガンテ「おうよ!」

バスティ「はいはい」

勇也「あ、ありがたき幸せ~……」

  勇也、綺麗な土下座を披露

ガンテ「おいおい、軽いな」

ピュルハ「これが、此度の勇者……」

●ハーピー族の天空街・商店街

  バスティとガンテ、気だるげにぶらつく

バスティ「って言っても、手がかりも何もないんじゃ、探しようがないわよ」

ガンテ「んな大事なもんなんだな~。見つけたら、こっそり中見てみようぜ」

バスティ「趣味悪いわよ……。それより、アンタはもう平気なの?その腕は」

ガンテ「あぁ。俺も世界樹液使ったからな。切断部分は、エルマの魔法で繋げてもらった」

バスティ「そう……」

  バスティ、モジモジとする
  俯き、言い淀みながら―

バスティ「アンタが、体張ってくれたって聞いたわ。その……、ありがと。アタシのために……」

ガンテ「バスティ……」

  見つめ合うバスティとガンテ
  二人のだけの時間が流れる
  しかし、ガンテ、悪戯に口角を上げ―

ガンテ「な~にしおらしくなってんだよ、ねーちゃん~」

バスティ「くっ、仕返しされた気分……!」

ガンテ「感謝なら、行動で示してもらわなきゃな」

バスティ「え?」

  ガンテ、ふと指をさす
  屋台、煙がモクモクと上がっている
  ガンテ、ニカッと笑い―

ガンテ「一緒に食おうぜ、ねーちゃん!」

× × × × ×

  バスティとガンテ、ベンチに座っている
  モシャモシャと食べるガンテ
  その隣、バスティ、怪訝な顔で―

バスティ「これ、何の肉……?」

ガンテ「鳥」

バスティ「どんな気持ちで売ってるのかしら……」

ガンテ「食わねぇなら、俺が貰うぞ?」

バスティ「た、食べるわよ……!」

  バスティ、モシャモシャと食べる

バスティ「……結構おいしい」

ガンテ「おいおい、バスティ」

バスティ「ん?」

  そっと迫るガンテの手
  バスティの口元を拭う

ガンテ「ったく、相変わらずの犬食いだな」

  フッと微笑むガンテ
  それにバスティ、目を見開く

  〔回想〕
    バスティに抱き着いているガンテ
    消え入るような小さな声で―
  ガンテ「ずっと、俺が守ってやる」
  バスティ「……!」

  ジワジワと赤くなる、バスティの頬
  フイとそっぽを向いて―

バスティ「バーカ、バーカ!」

ガンテ「語彙力どこ行った?」

  その時、ガンテ、正面に何かを見つける

ガンテ「なぁなぁ、あれ登ってみようぜ!」

バスティ「え?」

  視線を向けるバスティ
  巨大な建造物、空中を浮遊している

ガンテ「俺たちの跳躍力ならいけるって!」

  ガンテ、バッと飛び出す

バスティ「ちょ、まだ食べてる途中なんだけど!」

  バスティ、後を追って飛び出す

●ハーピー族の天空街・住宅街

  立ち並ぶ家々
  その路地を歩く勇也とエルマ
  狼狽し、辺りをキョロキョロ
  その表情は鬼気迫っている

勇也「どこ……、どこにある……!?」

エルマ「勇也様、少し落ち着いてください。見つかるものも見つかりませんよ」

  エルマ、フッと微笑み―

エルマ「それほど大切なものなのですね。何か、思い入れでも?」

勇也「……エルマは、トイレしてるのを誰かに見せたりする?」

エルマ「え?い、いえ、まさか……」

勇也「それと同じだよ……」

エルマ「た、大切なもの……?なのですね……」

??「そんなに大切なら、アーシも探すの手伝ってあげようかしらん?」

  ふと妖艶な声、上から聞こえる
  バッと見上げる勇也とエルマ
  屋根の上、キュバラーの姿
  ニヤリと笑い、こちらを見下ろす

エルマ「魔族冥衆……!」

勇也「あ、出た」

キュバラー「アーシの呪い、満足してもらえたかしらん?随分と楽しそうだったわねん」

勇也「の、呪い?何のこと……?」

エルマ「えっと……、それはまた後で。それより、何の用ですか?また、私たちの邪魔を?」

キュバラー「えぇ、ふざけてるのかって追い返されちゃって。だから、今日はどんな悪戯してあげようかって楽しみにしていたんだけど……」

  杖を構えるエルマ
  キュバラー、それにフッと微笑み―

キュバラー「その必要もなさそうねん」

エルマ「え……?」

  瞬間、バサバサと羽ばたく音
  遠方、大量に聞こえる

勇也「な、何の音……?」

キュバラー「上から見ればわかるんじゃないかしらん?」

勇也「え……?」

× × × × ×

  バスティとガンテ、浮遊する建物の上
  辺りの景色を見渡している

ガンテ「って言っても、高すぎて景色もクソもねぇな」

バスティ「殺風景が過ぎるわね……」

  その時、バスティ、何かを見つける

バスティ「あれ、何かしら……?」

ガンテ「あ?」

  遠方を見つめるバスティ
  白い何かが大量に迫ってくる
  バサバサと音、大きくなってくる
  背景には、聳えるレーネス山
  ガンテ、ハッと目を見開き―

ガンテ「おい……、あれ、白骨死体じゃねぇか……!?」

  大量の白骨死体、天空街に羽ばたく
  空を白く染め上げるほどの軍勢
  凄まじい羽音、鼓膜を揺らす

× × × × ×

  エルマ、訝し気に眉を寄せ―

エルマ「何をしたのですか?」

キュバラー「アーシは何もしてないわよん。むしろこれは、アータたちのせい」

勇也「え、俺たちは何も……」

キュバラー「セイレーンの像、壊しちゃったのよねん?」

  ハッと目を見開くエルマ

キュバラー「眠りから目覚めた小鳥たちが巣に戻ってくる……、ただそれだけのことじゃない」

  エルマ、クッと喉を鳴らす

キュバラー「あぁ、それと、この街にはアーシ以外にもリーシェティムのメンバーがいるから、気を付けることねん」

エルマ「魔族冥衆がもう一人……!?」

キュバラー「ふふっ。じゃあ、また会いましょう」

  キュバラー、フッと消える
  勇也、心臓の鼓動が高まる
  死者の羽ばたき、直ぐそこまで迫っている

●ハーピー族の天空街・広場

  怒号と金属音が響く
  死者を迎え撃つハーピーたち
  弓を放ち、空を飛ぶ死者を穿つ
  剣を振るい、迫る死者を切り裂く

ピュルハ(声)「我々には責任がある、レーネス山へ仲間を送り出した責任だ!中には、家族や恋人……、大切な人を失った者もいるだろう。故に、幾年を経てようやく帰ってきた彼らを、仲間として、我々が責任を持って葬ってくれよう!」

  バスティとガンテ、広場へやってくる

ガンテ「さすが戦闘部族。初めて出くわした時もそうだったが、ただの平和ボケした住民とは訳が違うぜ」

バスティ「アタシたちも加勢しましょう」

  戦闘態勢のバスティ
  ガンテ、それを片手で制する

バスティ「何よ」

ガンテ「まぁまぁ、ねーちゃんは休んどけって」

バスティ「はぁ?」

ガンテ「実はあの像、すっげぇコスパ良くってよぉ」

  ガンテ、バックルを手首のスロットに装填

ガンテ「変身!」

  巨人の鎧、装着

バトラー「今の俺は、仮面ライダーバトラー。何と、Level30だ!」

バスティ「30……!?って、見た目じゃ分かんないわね」

バトラー「だが、漲る力は比べもんになんねぇぜっ!」

  バトラー、ダッと飛び出す
  高く跳躍、地面に拳を叩きつける
  大きな地割れ、波動に死者が飛び散る

バトラー「へへっ、天空街じゃなくて、ただの街にするとこだった」

バスティ「はぁーっ!」

  バスティ、死者に蹴りを入れる

バトラー「おいおい、休んどけって言ったろ?」

バスティ「ずっと寝てたから体が疼いてんのよ。アタシにも戦わせなさい!」

バトラー「はっ、そうかよ!」

  バトラー、蠢く死者共を睥睨

バトラー「こいつら全員倒して、今度こそハッピーエンドだ!」

× × × × ×

  剣を振るうヴァラー
  ヒール、死者の骨を砕く

ヒール「『ラズルーシェ』!」

ヴァラー「これ、俺たち勝手に倒しちゃっていいのかな?」

ヒール「レーネス山を利用して、生きて帰ってきた……。私たちにも、生者としての責任があります」

ヴァラー「戦争で生き残った人の気持ちがちょっとわかったかも……」

  ヴァラー、その時なにかに気付く
  遠方、一人の少女が佇んでいる
  この惨状に、一歩も動かない
  そこに、死者の軍勢が襲い掛かる
  ヴァラー、思わず手を伸ばし―

ヴァラー「あ、危ないっ!」

  瞬間、少女、一回転
  死者、バラバラに崩れ落ちる

ヴァラー「……へ?」

  少女、屋根を伝って跳躍
  死者を足場に飛び、次々と殺していく
  あっという間に、空を飛ぶ死者が消える
  悠然と着地、息一つ切らしていない
  ヴァラー、その光景に唖然として―

ヴァラー「す、すげぇ……」

× × × × ×

  空を飛ぶピュルハ、弓を構える
  同じくハーピーたち、周囲に集まる

ピュルハ「『ストリール』!」

  放たれた矢、一ヵ所に集約
  巨大な一本の矢となり、宙を突き進む
  その後には、死者など跡形もなく散る

ピュルハ「今度こそ、安らかに眠れ……」

× × × × ×

  ヴァラーとヒール、変身解除
  少女に駆け寄る

エルマ「まさか、あれほどの数を一人でいなすとは……」

勇也「君、凄いね……」

  しかし少女、何も喋らない
  ただ俯いているだけ
  勇也とエルマ、顔を見合わせて―

勇也「え、えっと……」

  その時、何かを差し出す少女
  その手には、四角くて薄い板のような物

勇也「あ、俺のスマホ!どうして君が……!?」

  エルマ、ふと少女の足元を見やる
  細くうねる何か、地面を這っている

エルマ「もしかして、ラミア族の方ですか?」

勇也「ラミア族って……」

  〔回想〕
  ピュルハ「下半身が蛇の姿をした、下賤種の中でも一際醜い種族です」

勇也「じゃあ、君が俺のスマホを……?」

  その時、少女、ゆっくりと口を開く

??「あなたが、勇也、でしゅか……?」

勇也「え?あぁ、うん、そうだけど……」

??「じゃあ、その物語はあなたが書いたんでしゅね……」

  訝し気な顔の勇也
  直後、ハッと目を見開いて―

勇也「み、見られ―」

??「面白かったでしゅ!もっと、もっと見せてくらしゃい、勇也しゃん!」

勇也「……へ?」

  少女の羨望の眼差し、キラキラと光る
  対して、勇也、ただ呆けた面を晒すだけ



[44091] 第一九幕 蛇足少女の憂鬱
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/01/27 16:10
●ハーピー族の天空街・宿屋

  勇也と少女、向かい合って座っている
  バンッと身を乗り出す少女
  キラキラと羨望の眼差しを向けて―

??「儚田勇也しぇんしぇえ(先生)!」

勇也「ふっふっふ、先生はよしたまえ……」

  腕を組み、鼻を高くする勇也
  バスティ、それに白い目で―

バスティ「ま~た調子乗ってるわよ……」

勇也「口を慎みたまえ、バスティくん」

バスティ「うざっ」

勇也「して、君の名前は何だったかな?」

ナーチ「ナーチ、ラミア族でしゅ」

勇也「じゃあ、ナーチちゃん。君は、俺の小説の何処に魅力を感じたのかな~?」

ナーチ「イキイキと魅力てち(的)な登場人物……。しぇん(鮮)明に映し出されるような情景描写……。夢と希望に溢れた壮大なストーリー……。こんな物語を書けるのは、勇也しぇんしぇえ(先生)の他にいましぇん!」

勇也「はっはっは、何度聞いてもいいな~!」

エルマ「もう34回目です……」

バスティ「伸びた鼻、壁に突き刺さればいいのに」

ガンテ「そんなにいいもんなのか~?」

  ガンテ、勇也のスマホを手に取る
  画面、文章をしげしげと見て―

ガンテ「『魔王を倒してこの世界を救う……、これが俺に与えられたDestiny……』『俺のことは構わず先に行け!なに……、同じ空の下にいれば、いつかまた必ず会えるさ。I’ll be back…….』『決めるぜ、俺の必殺技!スターバー○ト・スト○ーム』……」

  ガンテ、読み上げて渋い顔
  傍らのエルマとバスティも同じ顔

ガンテ「俺知ってるぜ、こういうの『中二病』って言うんだろ?なぁ、エルマ」

勇也「Shut up! 」

  勇也、ゴホンと咳払い

勇也「作家なんて、みんな中二病で頭おかしいんだから。そうじゃなくても、普通の人は『よし、二次創作を書こう!』なんて考えたりもしないんだよ。俺はナンバーワンじゃなくて、オンリーワンを目指してるの!」

ナーチ「しゅばらしい心構えでしゅ!」

エルマ「なるほど!その結果、勇也様は教室でナンバーワンのオンリーワンになったわけですね☆」

勇也「ごふぅ!」

  勇也、吐血

バスティ「わぁー!何か分からないけどやめなさい、エルマ!」

エルマ「?」

ガンテ「それはそうと、勝手に人の物を盗むのは見過ごせねぇな」

ナーチ「ご、ごめんなしゃい……」

勇也「俺はずっと肌身離さず持ってたんだけど、いつ盗ったの?」

  ナーチ、ガンテをチラと見やり―

ナーチ「そこの、赤毛の人が……」

ガンテ「俺?」

ナーチ「レーネス山に飛び立つとき、勇也しぇんしぇえ(先生)手振ってた……」

勇也「まさかその時に?」

ガンテ「なに感動的な場面で水差してくれてんだ!」

  ガンテ、机をバンッと叩く
  ナーチ、激しく怯えて―

ナーチ「ぴゃあ!お、男の人、怖い……!」

勇也「全く気付かなかった……」

エルマ「手癖の悪さは見過ごせませんが……」

  〔回想〕
    少女、屋根を伝って跳躍
    死者を足場に飛び、次々と倒していく
    あっという間に、空を飛ぶ死者が消える
    悠然と着地、息一つ切らしていない
    ヴァラー、その光景に唖然として―
  ヴァラー「す、すげぇ……」

エルマ「あの戦闘力といい、かなりの実力者ですね」

ガンテ「おかげで、ここのやつらは迷惑被ってんけどな」

ナーチ「ラミア族は、適者しぇい(生)存……。村が貧しいから、こうでもしないと生きられない……」

勇也「そんなに?」

バスティ「……ちょっと、分かるかも」

エルマ「……」

ナーチ「忌子の力で、家族も仲間もバラバラになった……」

  勇也、ふと気づいて―

勇也「ねぇ、忌子って何?」

  〔回想〕
  アノス「全ての始まりは、忌子をこの世界に再び召喚したエルフ族だ。やつらを皮切りに、亜種族間の高貴と下賤の選別が行われ、多くの種族が下界へと堕ちることになった

勇也「巨人族の街でも、そんなの聞いたけど」

エルマ「忌子は、この世界に初めて生まれた魔王を討ち滅ぼした、旧人間族の勇者……、歴史上一人目の勇者です」

勇也「え、凄いじゃん。何でそんな不穏な呼ばれ方されてるの?」

エルマ「その強大すぎる力ゆえ、魔王だけでなく他の亜種族にまで甚大な影響を及ぼし、恐れられたとか。伝承にそう語り継がれているだけで、私も詳しいことまでは分かりません」

勇也「そっか……」

ナーチ「……でも、こんなの言い訳」

勇也「え?」

ナーチ「全部、弱い私が悪い……、ラミア族に生まれた私が悪い……。私は、こんな私を好きになれない……」

  ナーチ、肩を落とし俯く
  勇也、それにゆっくりと首肯し―

勇也「分かる、分かるよ~」

ナーチ「え?」

勇也「俺もさ~、元の世界では空気みたいな、いてもいなくても変わらないような扱いされて。そのくせ、自分が都合の悪い時だけ俺をいいように使ってきて。俺も、自分なんて好きになれないよ……」

ナーチ「勇也しゃん……」

勇也/ナーチ「はぁ~……」

  どんより、重い空気が二人を包む

バスティ「何か似てるわね、この二人」

ガンテ「あぁ、暗いオーラがそっくりだぜ」

勇也「う、また吐血しそう……」

バスティ「エルマ、治癒魔法」

エルマ「魔力の無駄です☆」

??「可哀そうな勇者の坊や。アーシが慰めてあげようかしらん?」

  ふと、声がかかる
  聞き覚えのある声だ
  バッと振り返る勇也たち
  キュバラー、ベッドに腰かけこちらを見る

勇也「ま~た出たよ」

キュバラー「あら、嫌われちゃったかしらん?」

  ガンテ、拳をガチガチと合わせ―

ガンテ「のこのこ自分からやって来るたぁいい度胸だ。この前の借り、返させてもらうぜ!」

  ガンテ、キュバラーを睥睨し吠える
  しかしキュバラー、聞く耳を持たない
  正面、目を逸らすナーチを見て―

キュバラー「まさか、勇者に媚売りなんてね。それがアータのやり方ってことかしらん?」

勇也「え、知り合い?」

エルマ「ということは……」

キュバラー「魔族冥衆・リーシェティムが一人、ラミア族のナーチ」

勇也「ナーチが、魔族冥衆……!?」

  エルマ、ハッと目を見開く

  〔回想〕
  キュバラー「あぁ、それと、この街にはアーシ以外にもリーシェティムのメンバーがいるから、気を付けることねん」

エルマ「あの時言っていたもう一人は、ナーチ……!」

キュバラー「別に、アータのやり方がそれって言うんなら構わないけど……。もし、寝返るようなことしたら―」

  キュバラー、ギロッと目を見開いて―

キュバラー「分かってるわよねん、ナーチ?」

  ナーチ、ヒュッと息を呑み込む
  俯き、小さな肩をガタガタと震わせる
  何も言い返すことができない
  勇也、それに怪訝な顔

キュバラー「まぁいいわん」

  キュバラー、喉に手を当てゴホンと咳払い
  窓から、外に声をかけるように—

キュバラー「こっちに魔族冥衆がいるぞ、囲え!」

  勇也たち、それを聞いて驚愕
  まるで、別人の声だ
  その声は、ハーピーの女戦士そのもの

キュバラー「じゃ、あとは頑張ってね~ん」

  ユルユルと手を振るキュバラー
  フッと消える
  直後、バンッと扉が開く
  大勢のハーピー、突入してくる
  手に持つ槍を構えて―

ハーピー「動くな!ほう、ラミアの魔族か、丁度良い……。ひっ捕らえろ!」

●ハーピー族の天空街・広場

  ナーチ、磔にされている
  それを見上げるハーピーたち
  睨みつけ、嘲笑している

ピュルハ「ちょこまかと煩わしい奴らだったが……、ようやく捕えたぞ、ラミア族。貴様らのせいで、失った仲間は数知れず……。今宵、その命を以って、罪を償うがいい!」

  ナーチ、何も言わずただ俯いている
  遠方、建物の陰に佇む勇也一行

勇也「あれ、どうにかならないの……?このままじゃ、ナーチが……」

エルマ「これは、ハーピー族とラミア族の、長年の因縁の話し……、ここが分水嶺です。私たちが、口を挟むようなことではありません……」

勇也「……」

  勇也、眉を顰めナーチを見つめる
  ピュルハ、ナーチに言い放つ

ピュルハ「貴様の死を以って、同族に知らしめてくれよう……。我々ハーピー族を敵に回せば、どうなるかということを!」

  ピュルハ、バッと翼を上げる
  二人のハーピー、飛び上がる
  上空で弓を構える
  標的は、当然ナーチだ
  ナーチ、ただ静かに目を閉じる
  涙さえ、今は出ない

ナーチM「これでいい……。いつか、こうなることは分かっていた。私の居場所は、どこにもない。今まで、どれだけ盗み、殺してきただろう……。その度に、嘲笑われ、罵られ、蔑まれ……。リーシェティムにさえ、私の居場所はなかった……。私は、ただ普通に生きたい……、ただの普通の女の子でいたいだけなのに……。これも、ラミア族に生まれた私の宿命。私はどこまでも、私が嫌いだ……」

  放たれる矢
  鋭い音を立て、空を切り裂く
  そして、ナーチの首に触れる寸前―

エルマ「『ブラーン』!」

  吹き荒ぶ激しい風
  矢、どこかへ飛んでいく
  そして、タッタッタと足音
  こちらに近づいてくる

勇也「ちょっと待った~!」

  目を開けるナーチ
  正面、こちらを見上げる勇也の姿

ナーチ「勇也しゃん……?」

勇也「ナーチ、虐められてるんでしょ……?」

ナーチ「え……?」

勇也「分かるよ」

  〔回想〕
    ナーチ、肩をビクッと跳ねさせる
    俯き、小さな肩をガタガタと震わせる
    何も言い返すことができない

勇也「あんなに震えてたら……」

ナーチ「あ……」

勇也「俺も、自分が大嫌いだよ……。昔も、今も、多分これからも……。だから俺たちは、どれだけ自分を許してあげられるかが大事だと思うんだ」

ナーチ「許してあげる……?」

勇也「ちょっとずつ……、ちょっとずつ自分で自分を許せるところを見つけて、ゆっくり自分という存在を受け入れていくしかないんだよ……。自分でいることは、やめられないんだからさ」

ナーチ「……しましたよ」

勇也「え?」

ナーチ「何度もしました。たくさん許そうとして、受け入れようとして、自分の行いに目を瞑ろうとして……。それでも、ダメだった。周りのみんなが、私が私を許しゅことを、許してくれない……。私だって―」

勇也「だったら、俺がナーチを許すよ!」

ナーチ「え……?」

勇也「もしスマホを盗まれてなかったら、こうしてナーチと会うこともなかった……。素直に嬉しいんだよ、自分の作品が誰かに読まれて、凄く良かったって言われるのが……。もっと、読んでほしいと思ったよ」

ナーチ「勇也しゃん……」

勇也「だから、自分でいることを諦めないで。自分の境遇に、絶望しないで。俺たちが、ナーチを許すから!」

  ナーチ、瞳いっぱいに涙を浮かべる
  フッと微笑むと、大粒の涙が頬を伝う

ピュルハ「勇者様……」

  勇也、バッと振り返る
  目の前には、大勢のハーピーたち

勇也「みんな、聞いて欲しい!」

  声を上げる勇也
  だが、途端に言葉に詰まる
  冷や汗をかき、顔を青ざめさせる
  勇也、一旦退席
  エルマを連れて戻ってくる

バスティ「大事なところで決まらないんだから……」

エルマ「ハーピー族の皆様、勝手なことをしてしまい申し訳ありません。皆様のご苦労は、私如きが簡単に理解しているなどと口にしてはいけないものだと思います……。ですが私たちは、ここでラミア族の彼女の命が絶えるのは、損失であると考えました」

ピュルハ「損失……?」

エルマ「彼女の行いは、到底許されるものではありません……。ですが、これまで数多の人や物を手に掛けてきたその技術、そして高度な戦闘能力……、彼女こそ魔王討伐に必要な存在なのです。よって私たちは、彼女を勇者一行として迎え入れることにしました!」

  エルマ、高らかに言い放つ
  どよめくハーピーたち
  ナーチ、驚き目を見開いている

エルマ「ラミア族の行動も、私たちが管理したいと思います。ですので、どうか彼女を開放していただきたいのです……!」

  深々と頭を下げるエルマ
  その傍ら、勇也も頭を下げる
  目を細めるピュルハ
  やがて、「はぁ~」と溜息をつく

ピュルハ「勇者御一行様の命令だ。降ろしてやれ」

  エルマ、パッと表情に華が咲く
  その傍ら、ガッツポーズをする勇也
  磔の縄が切られる
  ナーチ、解放される

エルマ「お怪我はございませんか?」

ナーチ「は、はい……!えと、その……」

  モジモジ、言い淀むナーチ
  そこに差し出される手

勇也「ようこそ、勇者パーティへ!」

  ナーチ、パッと顔が明るくなる
  勇也の手を取り―

ナーチ「よろしくお願いしましゅ!」

× × × × ×

  撤収してくハーピーたち
  その傍ら、集まる勇也一行

勇也「そう言えば、ラミア族の管理とか、そんなのできるの?」

エルマ「あれはハッタリですよ」

勇也「Oh……」

エルマ「ですが、同族が勇者一行に加わったとなれば、少なからず行動や考え方に影響を与えられるとは思います」

勇也「ふむ、なるほどね~」

ナーチ「そ、それで、私はこれからどうしたら……?」

  モジモジとするナーチ
  勇也、それに目を細めて―

勇也「ナーチ、リーシェティムのメンバーだったんだよね?」

ナーチ「は、はい……」

勇也「じゃあ、魔族たちが集まる、集会場的な場所も分かったり?」

ナーチ「サバト、ですね。知ってましゅ」

勇也「……ふっふっふ」

  低く笑う勇也
  それに首をかしげるバスティ

勇也「これまで、散々やられっぱなしだったから、このままでいいのかって思ってね……」

ガンテ「確かにな」

エルマ「と、いうことは―」

  勇也、一同にバッと振り返り―

勇也「反撃開始だ!今度はこっちから、サバトに乗り込もう!」



[44091] 第二十幕 リーシェティム奇襲攻略作戦
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/02/01 18:21
●リーシェティムサバト

  コトコト、足音が響く
  暗く、冷たく、そして静か
  キュバラー、気だるげに溜息

??「気掛かりがあるなら言葉にしなよ。あからさまな行動で、相手に察することを強要しないで」

キュバラー「何よ、冷たいわねん」

  キュバラー、席に腰かけ―

キュバラー「ナーチが、勇者の坊やに尻尾振りまくりなのよん。心配だわ、家族として。大切に育ててきたのよん?」

??「……よく言うよ。まぁ、もしそうなっても、端から素質がなかった、ただそれだけの話し。魔王様に仕える器じゃなかったんだ」

キュバラー「そうねん。……復活の時も近い。ここが、頑張り時よねん」

??「見え透いた忠誠心の君が、今更何を」

キュバラー「アーシの話しはいいのよん。それより、アータは上手くやってるのかしらん、コートヴァ?」

  円卓、椅子が立ち並ぶ
  その一つに、何かが座っている
  人形だ
  何の変哲もない、無機質な
  その真っ黒な瞳で、キュバラーを見つめる

コートヴァ「当然だよ。俺は、君と違って悪ふざけはしないから」

キュバラー「……相変わらず、感じ悪いわねん」

エルマ(声)「『ヴズリーブ』!」

  直後、爆発音が響く
  壁、激しく砕け散る
  パラパラと落ちる瓦礫
  そこに、ザッと足音
  勇也一行、乗り込んでくる

ヴァラー「エルマ、監視は任せた」

エルマ「はい」

キュバラー「あら、勇者の坊やじゃないのん。随分と、派手なご登場ねん」

ヴァラー「いつもそっちから来てもらってるから、偶にはこっちから顔出さなきゃと思ってね」

キュバラー「お気遣いありがとう」

  キュバラー、鋭く目を細める

キュバラー「ナーチ、アータの差し金ねん……?」

  ハッと息をのむナーチ
  だが、決然とした顔を上げ―

ナーチ「私はもう、リーシェティムには戻りません……!」

キュバラー「まさか、本当に裏切るなんて、困った子ねん。拾ってあげた恩も忘れたのかしらん?」

バトラー「俺たちが誘ったんだ。こいつに非はねぇよ、ババア」

キュバラー「結局、寝返っていたら同じことよん。いいわん、せっかく遊びに来てくれたのだから、楽しみましょ?後悔させてあげる……」

バトラー「にーちゃん、ここは頼んだ」

バスティ「アタシたちは、もう一体を追うわ」

ヴァラー「分かった。よろしく」

  バスティとバトラー、走り去る
  奥の暗闇へと姿を消す
  ヴァラー、剣を抜き、飛び掛かる

ヴァラー「だぁーっ!」

  容赦なく叩きつけられる白刃
  しかしキュバラー、それを片腕で受け止める
  身を翻し、飛び掛かるヴァラー
  壁を突き破り、サバトの外へ

ヴァラー「『ヴラシューダ』!」

  ヴァラー、高速回転
  キュバラーに突撃する
  だが、それを小指で止めるキュバラー

ヴァラー「……!」

キュバラー「忘れたのかしらん、勇者の坊や?アーシは淫鬼族……、“鬼”なのよん?そんな短小極細貧弱な剣で、アーシに傷がつけられるとでも?」

  キュバラーの蹴り、ヴァラーに炸裂
  地面を抉り、吹き飛ぶ

ヴァラー「な、な~んかメンタルにも来るな~……」

  ヴァラー、立ち上がり―

ヴァラー「『カピーチ』」

  強大な力、剣に集約
  紅の力のオーラを発する

ヴァラー「馬鹿力には馬鹿力だ!『リダミール』!」

  剣を振り抜くヴァラー
  紅の巨大な斬撃が飛翔
  キュバラーを刈らんと空を穿つ
  しかしキュバラー、それさえ片手で掴み止める
  グッと拳を握る、斬撃が弾け散る

ヴァラー「……!」

  瞬間、キュバラーの顔、目の前に
  華麗な縦回転、踵落とし
  ヴァラーの後頭部を打つ

ヴァラー「がっ……」

  ヴァラー、地面に顔面を叩きつける
  微かに痙攣している
  キュバラー、それを悠然と見下ろし―

キュバラー「まだまだ、レベル不足ねん」

  その時、ザッと足音
  ふと顔を上げるキュバラー
  ナーチ、こちらを睨む
  鋭い目つき、だが体は―

キュバラー「震えてるじゃない」

ナーチ「……」

キュバラー「最後のチャンスよん。今戻ってくるなら、許してあげるわん」

  しかしナーチ、決然とした表情を崩さない

ナーチ「絶対に、戻らない……。私は、勇也しゃんと一緒に魔王を倒す……!そしてこの世界で、普通の女の子として生きる!」

キュバラー「……そ、残念」

  キュバラー、ギロッと目を見開いて―

キュバラー「ならアータも、ここで終わらせてあげる」

× × × × ×

  タッタッタと足音、空虚に響く
  バスティとバトラー、辺りを見回している
  何もない、長方形の空間、暗い

バトラー「もう一人いたはずだ」

バスティ「えぇ、話し声が聞こえたわ」

  その時、ふと立ち止まるバスティ
  正面、何かを見つける

バスティ「あれ……」

バトラー「ん?」

  バトラー、視線を向ける
  正面、中央に椅子、ポツンと
  そこに一つの人形、座っている
  真っ黒な瞳、二人を見つめる

バトラー「人形……?」

コートヴァ「君、獣人だよね?」

バトラー「……!」

バスティ「喋った……!」

コートヴァ「人形族、知らないかい?」

バスティ「聞いたことないわ……」

コートヴァ「……まぁ、それもそうか」

バトラー「おい、俺もいんだぞ、無視すんじゃねぇ!」

コートヴァ「そうだね。でも今は、獣人の彼女と話したいんだ。邪魔をしないでくれるかな?」

バトラー「ちっ、だとよ」

バスティ「別に、アタシはアンタと話すことなんて―」

コートヴァ「君の故郷、少し弄らせてもらったよ」

バスティ「……え?」

コートヴァ「今頃、面白いことになってるかもね」

  無表情に伝えるコートヴァ
  その声は、不気味な笑みを孕んでいる

バスティ「……パパ……、みんな……」

  ブツブツと呟くバスティ
  グルグルと視界が回り、歪む
  様々な感情、思考が入り乱れる
  頭が混乱し、胸が詰まる

バトラー「おい、大丈夫か!」

  バッと顔を上げるバスティ
  正気に戻る

バスティ「……えぇ、平気よ。それより、今すぐ殺りましょう」

バトラー「あぁ、あんな人形ぽっち、俺の拳で簡単に―」

コートヴァ「無理だよ」

バトラー「あぁ?」

コートヴァ「君たちに、俺は殺せない……」

バトラー「そんなん、やってみなきゃ分か―」

  直後、コートヴァ、蠢く
  グニグニと、奇妙な変形を繰り返す
  やがて、人の形を作る
  そして、現れたのは―

バスティ「……!」

バトラー「にーちゃん……!」

  コートヴァ―否、勇也、二人を見る
  邪悪に口角を上げて笑う

× × × × ×

  ナーチ、高速で地を駆けている
  残像がいくつも見えるほどの速度
  手に持つデュアルダガー
  構えて、キュバラーに斬りかかる
  しかし、それを見逃さないキュバラー
  ナーチの首を掴み、持ち上げる

ナーチ「ぐっ……!」

キュバラー「いつもワンパターンなのよん、アータは。初めてアーシと会った時も、そんな風に襲ってきて……。優しく、愛情深く育てて上げたのに……、恩を仇で返すような子に、ママは育てた覚えはないわよん?」

ナーチ「誰が……、ママ……!」

  キュバラー、首を握る力を強める
  ナーチ、苦痛に顔がひしゃげる

キュバラー「そんなんだから、勇者の坊やなんかに手懐けられるのよん。本当、どこまでも醜く浅ましい子……。勇者と旅をする?魔王を倒す?普通の女の子になる?アータみたいな下賤種が、そんな人生送れるわけないでしょ。精々、道端で餓死するのが関の山よ。まだ、アーシみたいな心の広い鬼に出会えて幸せ者だって言うのに……。はぁ、調教が足りなかったかしらねん。いいわん、今からたっぷり―」

  直後、腕を斬りかかる剣
  ヴァラー、その複眼に淫鬼を映し―

ヴァラー「ナーチを、虐めるな……!」

キュバラー「……アータは、もういいわよ」

  キュバラー、ナーチを投げ捨てる
  拳を構えて―

キュバラー「『デモニー・ルトヴァルダ』」

  キュバラーの拳に力が集約
  禍々しい赤紫のオーラを放つ
  それが、ヴァラーの顔面を抉る
  吹き飛ばされるヴァラー
  地面をバウンドし、どこまでも転がる

ヴァラー「かっ……、あっ……」

ナーチ「勇也しゃん!」

  駆け寄るナーチ
  ヴァラーを覗き込む
  瞳に涙をいっぱい浮かべながら―

ナーチ「勇也しゃん、勇也しゃん……!」

ヴァラー「……ナーチ……」

ナーチ「私は……、私なんかが、本当に仲間でいいんでしょうか……。私の力なんて、これっぽっちで……」

ヴァラー「……言ったでしょ」

  ヴァラー、体を起こす

ヴァラー「ナーチは、俺たちが許す……。誰が何と言おうと……、あんな一人称クセ強おばさんが何と言おうと、関係ない……」

キュバラー「……?」

ヴァラー「これは、俺たちが決めたこと……。俺たちは、ナーチが欲しい……、ナーチの力が必要なんだよ……」

ナーチ「勇也しゃん……」

  ヴァラー、重たい体を持ち上げる
  立ち上がり、剣を構える
  カタカタと、震える手足

キュバラー「カッコいいこと言うわね、勇者の坊や。でもね、そういうのはイケメンが言うから価値があるのよん?」

ヴァラー「そんなの、この十何年間生きてきて、重々承知してるよ……。でも、言葉にしなきゃ、端から伝わんないから……」

キュバラー「あら、耳が痛い。アーシも気を付けなくちゃねん」

  キュバラー、拳を構えて―

キュバラー「じゃあ、おやすみ、坊や」

  拳が迫る、ヴァラーの腹部に
  微かに、風を感じる
  しかし、何かがそれを受け止める

キュバラー「……?」

  紫の宝石、ヴァラーの腹部で輝く
  閃光、キュバラーの拳を弾く
  宝石、ヴァラーの掌へ

勇也「これ、盟友の証石……!」

ナーチ「……勇也しゃんがそこまで言ってくれるなら、もう迷いません……。私なんかの力で良ければ、使い潰してくだしゃい!」

勇也「……よし!」

  ヴァラー、ドライバーを反転
  魔法陣に証石をかざす
  紫の宝石、バックルに姿を変える
  それを、手首のスロットに装填
  バックルの双剣を弾く
  脚部の鎧、上半身へ移動
  暗殺者の鎧、脚部に装着

ヴァラー「止めてみろ、キュバラー……!」

  ヴァラー、地面を蹴り飛び出す
  これまでの比にならないスピード
  到底、目で追えるようなものではない

ヴァラー「『ヴラシューダ』!」

  繰り出される、高速の回転斬撃
  いくつもの残像、キュバラーに斬りかかる
  キュバラー、煩わしそうに喉を鳴らして―

キュバラー「小賢しいわねん……!『ラズローズムリエ』」

  キュバラー、地面に両拳を打ち付ける
  轟音と共に、粉砕する地面
  禍々しいオーラが立ち昇る
  足を取られたヴァラー、フラつく
  そこに、キュバラーの蹴りが炸裂
  吹き飛び、地面を転がる

キュバラー「結局、何も変わってないじゃないのん」

ナーチ「勇也しゃ―」

  瞬間、目の前にキュバラーの姿
  ナーチの耳元、そっと囁く

キュバラー「そうだ、最後に良い夢を見せてあげるわん」

ナーチ「……?」

  直後、キュバラー、男性に性転換
  驚くナーチを覗き込む

キュバラー「アータだって、年頃の女の子。男に興味を持つのは恥ずかしいことじゃないわん。もし普通に生きられていたら、恋愛とかも……、こんな風に」

  キュバラー、ナーチにソフトキス
  ハッと目を見開くナーチ
  体が硬直、言葉が出ない
  キュバラー、「うふふ」と笑い―

キュバラー「初心ねん。でも残念だわん、裏切り者のアータには、普通の恋愛なんて―」

ナーチ「『アベズグラーヴァ』……」

  ナーチの姿がない
  突然、目の前から消えた
  振り向く
  真後ろにいた、いつの間に
  嘲笑しようとする
  声が出ない
  構える双剣に血、誰のだ
  ガクン、視界が急降下する
  ゴロゴロと転がる、止まらない
  止めようとしても、制御できない
  止めようと動いている感覚がない
  ふと視界に入る、倒れた体
  首から上がない、動かない、血塗れ
  そして気付く

キュバラー「アーシの、からd—」」

  瞬間、フッと意識が途切れる
  深い深い、闇の中へ堕ちていく

ナーチ「……」

  双剣を構えるナーチ
  フルフルと震えながら―

ナーチ「男の人、怖い……」

× × × × ×

  勇也に変身したコートヴァ
  こちらに近づいてくる
  剣を抜き、力なく振るう
  バスティとバトラーを挑発

コートヴァ「俺は、この目で見た全ての生物に化けることができる。どうだ、殴れないだろう?君たちの仲m―」

  直後、大きく吹き飛ぶコートヴァ
  二つの拳、コートヴァに炸裂
  コートヴァ、目をかっ開いて―

コートヴァ「な、何で……!?」

バスティ「あ~、スッキリしたわ~!」

バトラー「むしろもっと殴って、にーちゃんには耐性つけてもらわなくっちゃな」

バスティ「今、アンタの方がレベル高いんだっけ?」

バトラー「あぁ!実質、俺が勇者だぜ!」

バスティ「調子に乗らないの」

  コートヴァ、絶句している
  バスティとバトラー、近づいてくる

バトラー「と、言うことで―」

  二人、拳を構えて―

バスティ/バトラー「『ヴドヴァヨーム・モーロット』!」

  拳の乱撃、コートヴァに炸裂
  コートヴァ、勇也の姿を保てない
  堪らず、人形の姿へ逆戻り

バトラー「それを待ってたぜ!」

  バトラー、拳で人形を叩き潰す
  潰れた人形、白い綿を露出
  黒目がポロリと落ちる、もう喋らない

バトラー「今度、本気でにーちゃん鍛えてやるか」

バスティ「ほどほどにしてあげなさいよ?」

× × × × ×

  合流する勇也一行

バスティ「アンタ、ボロボロじゃないの」

勇也「へへっ、意外と格闘系だった」

ガンテ「こりゃ、鍛え甲斐ありそうだぜ」

ナーチ「あ、あの……!」

  声を上げるナーチ
  一同の注目を一身に浴びる

ナーチ「みなしゃん、これからよろしくお願いしましゅ!」

  ペコリと頭を下げるナーチ
  その手には、紫色の宝石
  バスティとガンテ、微笑んで―

バスティ「えぇ!」

ガンテ「よろしくな!」

  それを見て、微笑む勇也
  直後、エルマ、こちらに顔を出す
  鬼気迫った表情で飛び出し―

エルマ「皆様、逃げt—」

  直後、凄まじい衝撃、傍らを迸る
  思わず顔を背ける勇也

勇也「エルマ、何があ―」

  勇也、絶句
  エルマ、体に大きな風穴
  向こう側がハッキリと見えるほど

勇也「エル、マ……?」

  ドチャッ、倒れるエルマ
  広がる血だまり、もう動かない
  開かれたままの瞳、光を失う
  一同、その光景に茫然

勇也「エルマ……、エルマ……!」

  駆け寄ろうと、一歩踏み出す勇也
  直後、足音、静かに聞こえる
  響く、こちらに迫る
  やがて現れた、二人の少女
  色白の肌、純白のワンピースに長い黒髪

ガンテ「だ、誰だ、お前ら……」

??「……こんなことしたら」

??「……ダメだよ」

勇也「え……?」

  直後、キンと耳鳴り
  そして、弾ける
  何もかも、全て

× × × × ×

  瓦礫の山、血がこびりついている
  サバトなど、見る影もない
  地面にポツンと落ちる何か
  腕だ、細い腕
  紫の宝石を握っている
  冷たい風、吹き抜ける
  眼球、コロコロと転がる
  そこにザッと、誰かの足元
  瓦礫の山を歩いている
  やがて、何かを見つける
  ボロボロに壊れた何か
  クエストドライバーだ
  辛うじて、形状は保っている
  それを握る腕も、また一緒
  誰か、その場にしゃがみこむ
  その足は、白くて美しい
  光沢があり、無機質に輝いている
  笑みを孕んだ声で、呟く

??「間違えちゃったデスね」



[44091] 第二一幕 「ちょうど二十幕も超えたことデスし―」
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/02/03 09:50
●リーシェティムサバト・跡地

  勇也、地面に仰向け
  身を投げ出しているかのよう
  ゆっくりと目を開ける
  眩い光が入り込んでくる
  夜が明けた、空は快晴だ

勇也「こ、こは……」

  掠れ声で呟く
  そこに、ヒョコッと少女の顔
  視界に飛び込んでくる

??「ようやくお目覚めデスか」

勇也「うわぉっ!」

  勇也、思わず跳ね起きる

??「人間は、よく眠るデスね」

勇也「き、君は……?」

  クリーム色の長髪、碧空色の瞳
  華奢で、線の細い体
  その所々、金属パーツ
  服は着ていない、胸を露出している
  だがそれも、光沢のある膨らんだパーツ
  無垢と人工物の融合体
  その姿はまるで―

勇也M「アンドロイド……?」

  少女、局部を隠して―

??「やんっ。起床早々発情とは、ハレンチな男デスね」

勇也「ち、違くて……!君は……?」

ピリオネ「ワタシの名はピリオネ、マキナ族です」

勇也「マキナ族……」

ピリオネ「それはそうと、案外平静デスね。さっきまで、バラバラの粉々だったデスのに」

勇也「え、な、何のこと……?」

ピリオネ「……あぁ、記憶がないだけデスか。ま、無理もないデス。だって、脳みそぶちまけたんデスから」

勇也「ふっ、そんなんで動じる俺じゃないぞ。これでも、グロ耐性はあるん―」

ピリオネ「あぁ、ごめんなさいデス。ぶちまけたのは脳みそだけじゃなくて―全部、でしたデス」

勇也「さ、さっきから何を言って―」

  ピリオネ、スッと指をさす
  その細い指が示す先
  勇也、ゆっくりと振り向く
  そして、絶句する

勇也「……っ!」

  辺りは瓦礫の山、乾いた血の染み
  魔法の杖、それを握る手首
  千切れた両足、赤毛が散らばっている

勇也「あ……」

  顔面の抉れた頭部、猫耳は動かない
  細い腕、宝石を握っている

勇也「あ……、あ……」

  紫の光は、もはや灯っていない
  吐瀉物を煮詰めたような悪臭

勇也「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ピリオネ「うるさいデ~ス」

  勇也、頭を抱え発狂
  見開かれた瞳、涙が落下
  身を捩り―

勇也「痛い、痛い……!うっ、げぼぉぉぁっ!」

  勇也、嘔吐
  ビチャビチャ、大量に吐き出す
  腹の底から痙攣する
  それにピリオネ、鼻で笑い―

ピリオネ「痛いわけないデス。バラバラだったオマエを、ワタシが魔道具でくっつけたんデスから。おぇ、クッサ……」

  肩を振るわせる勇也
  呼吸は絶え絶え

  〔回想〕
  エルマ「皆様、逃げt—」
    エルマ、体に大きな風穴
    向こう側がハッキリと見えるほど
  × × × × ×
    やがて現れた二人の少女
    色白の肌、純白のワンピースに長い黒髪
  ??「……こんなことしたら」
  ??「……ダメだよ」
    直後、キンと耳鳴り
    そして、弾ける
    何もかも、全て

  呆然とする勇也
  そこに、何かが聞こえる
  嫌な音だ
  何かを貪るような音
  ハッと顔を上げる
  魔獣だ、勇也たちを囲っている
  大型の狼のような魔獣、涎を垂らす
  だが、その様相は獣らしくない
  実に、機械的な造形をしている

ピリオネ「あ~あ、呼び寄せた。オマエのせいデ~ス」

  不快な音はどこからともなく
  戸惑う勇也、辺りを見回す
  一匹の魔獣、何かを貪っている
  手首だ、エルマの手首
  牙を立て、夢中で肉に喰らいつく
  勇也、それを見て震える
  喉から絞り出すように―

勇也「食うな……。エルマを、食うなぁぁぁぁ!!!」

  勇也、ヴァラーに変身
  剣を振るう、魔獣の首を落とす
  飛びついてくる魔獣、ヴァラーの腕を噛む

ヴァラー「ぐっ……、らぁ!」

  腕を引く、体と頭を分断させる
  目の前、細い腕を貪る魔獣

ヴァラー「俺の仲間を、食うなぁぁぁぁ!!!」

  飛び出すヴァラー
  直後、膝をつく

ヴァラー「ぐっ……!」

ヴァラーM「体が、動かない……!」

ピリオネ「どうやら、まだ本調子じゃないようデスね。はぁ~、仕方ないデス」

  ピリオネ、ピョンピョンとスキップ
  ヴァラーの前に立つ
  目元、手でピースサインを作り―

ピリオネ「くたばれゴミムシ共、デス☆」

  直後、瞳から光線が放たれる
  魔獣、一瞬のうちに灰と化す
  咳き込むヴァラー、変身解除

ピリオネ「不甲斐ないデスね。肉体も精神も貧弱軟弱、これが本当に勇者デスか?」

勇也「―けて」

ピリオネ「はい?デス」

勇也「仲間を……、みんなを助けて……。俺みたいに、生き返らせて……」

  ピリオネ、至極平然と―

ピリオネ「嫌デス」

勇也「な、何で……!俺のことは生き返らせたのに……!」

ピリオネ「それは、ワタシにとって利益になると演算したからデス。既にオマエは、蘇らせてもらったという借りがあるはずデス。その上、仲間全員を生き返らせろなんて、図々しいにもほどがあるデス。ワタシにそんな義理はないデs―」

勇也「デスデスデスデスうるっせぇんだよっ!」

  勇也、ピリオネの肩をガッと掴んで―

勇也「早く……、早く生き返らせてくれよ!みんなの、こんな姿……、俺は……!」

ピリオネ「慣れないことはするもんじゃないデス。実に、惨めデス」

勇也「え……?」

  肩を掴む勇也の腕
  カタカタと小刻みに震えている

ピリオネ「自分の責任を、赤の他人に押し付けるなデス。このバッドエンドを招いたのは、他の誰でもないオマエデス。その責任の所在を履き違えてワタシに詰め寄るなんて……、オマエ、どこまでも浅ましい奴デス」

  勇也、フッと力が抜ける
  ドサッと膝から崩れ落ちる

勇也M「そっか……、全部、俺が招いたことだ……」

  〔回想〕
  勇也「反撃開始だ!今度はこっちから、サバトに乗り込もう!」

勇也M「俺が、調子に乗ってあんなこと……」

  ポツポツ、涙が零れ落ちる
  ただ、落ちるだけ
  絶望に、顔は強張っている

ピリオネ「ですが、ワタシも鬼じゃないデス。オマエがワタシの願いを聞いてくれるなら、考えてやってもいいデス。というか、そもそもそのために生き返らせたんデスから」

勇也「ほ、本当……!?」

ピリオネ「じゃ、着いてくるデス」

  ピリオネ、一人で歩を進める

勇也「ど、どこに……?」

  ピリオネ、こちらに振り返って―

ピリオネ「オマエを、ワタシの故郷に案内するデス」

●ボーテミュイズン〔上界〕・山道

  勇也とピリオネ、歩いている
  辺りは木々が鬱蒼としている
  一歩進むごとに、その色は濃くなる
  勇也、ピリオネをチラと見て―

勇也M「何だ、この状況……。俺、サイボーグ少女と歩いてる……。いや、魔法の世界だから、オートマタが正しいか……?Siriを擬人化したら、こんな感じなのかな……」

勇也「き、今日の天気は?」

ピリオネ「ボーテミュイズン上界の天気は、晴れです」

勇也「おぉ……!え、えっと……、付き合ってください……」

ピリオネ「すみません、よくわかりません」

勇也「……お、おっぱい」

ピリオネ「……」

  ピリオネ、鼻で嘲笑

勇也「あ、死にたい」

ピリオネ「ですが、聡明なワタシに物事を尋ねるのは賢明な判断デス。オマエの知りたいことなら、なんだって語ってやるデス」

勇也「あ、あの……」

ピリオネ「なんデスか?」

勇也「は、儚田勇也なんですけど……、俺の名前……」

ピリオネ「そうデスか」

  ピリオネ、ニタッと笑って―

ピリオネ「じゃあ、とっとと質問するデス、オマエ」

  勇也、それに溜息

勇也「んと……。じゃあ、この世界について」

ピリオネ「というのは、ボーテミュイズンについて、デスか?」

勇也「うん。俺、勇者だけどまだまだ知らないこと多くて。っていうか、多いみたいで……、周りの反応的に」

ピリオネ「なら、ちょうど二十幕も超えたことデスし、ゆっくり解説していくんだぜ、デス!」

勇也「なんか聞き覚えが……」

ピリオネ「ここは、ボーテミュイズン。世界樹『ユグドライド』を核とした、剣と魔法、そして亜種族の住まう世界デス。因みに、この世界で魔法に精通している種族は2つあるデス。何かわかるデスか、オマエ?」

勇也「エルマがエルフ族で……、あとは何だ?」

ピリオネ「龍人族デス。それぞれ、魔法に対する認識が違うらしいデスが、そこら辺は興味ないので割愛するデス」

勇也「あ、はい」

ピリオネ「この世界は、上界と下界に分かれており、それぞれに高貴種と下賤種が住んでいるデス」

勇也「この世界の差別の根源ね……」

ピリオネ「因みに、ワタシはどっちだと思うデスか?」

勇也「何その『私、何歳に見える?』みたいな質問」

ピリオネ「答えによっては、勇者の旅はここで終わるデス」

勇也「高貴種!高貴種です!」

ピリオネ「その通りデス!」

  胸を撫で下ろす勇也

勇也「そうだ、旧人間族?はどうだったの?」

ピリオネ「何言ってるデス。その当時は、まだそんな区別なかったデス」

勇也「あぁ、そっか。確か、エルフ族が何とかって……」

ピリオネ「でも―」

  ピリオネ、手を口元へ
  クスクスと笑いながら―

ピリオネ「オマエは、間違いなく下賤種デスね」

勇也M「こいつ、いつか分からせてやる!」

ピリオネ「まず、その見てくれがいかにも下賤種デス」

勇也「どの世界でも、俺の相場って変わんないんだなぁ……」

ピリオネ「実に、哀れ哀れデス」

勇也「そう言えば、まだピリオネのこと聞いてなかった」

ピリオネ「ワタシのこと、デスか?」

勇也「さっき、剣と魔法の世界って言ってたけど、科学とかAIって、その対極じゃない?」

ピリオネ「オマエが何をほざいているのか分からないデス」

勇也「え?だって、その格好……」

ピリオネ「これは、魔機学の結晶デス!」

勇也「魔機学……?これまた、新しい概念……」

ピリオネ「エルフ族……、その中でもより高貴な存在であるハイエルフ・マギーチェス氏を始祖とする、魔法を発展させた学問デス」

勇也「発展させた……?」

ピリオネ「魔学……、つまり一般的な、自由さと柔軟さを備えた魔法の側面を殺した代わりに、より高度で精密な分析や観測を可能とする……、それが魔機学デス。そして、その魔機学から生まれた存在……、それがワタシたち、マキナ族デス!」

勇也「なるほど、現実世界の科学やAIに、たまたま似てたってだけか……」

ピリオネ「魔機学の結晶である我々の使命は、ボーテミュイズンの監視、及び研究。そして、並行世界、時間軸の観測デス」

勇也「並行世界!?時間軸!?」

  勇也、羨望の眼差しを向ける
  キラキラと輝く瞳
  先程までの絶望が嘘のよう

ピリオネ「い、今までにない食いつきデス……」

勇也「そりゃ、SFは男のロマンだからなぁ!」

ピリオネ「もしかしたら、オマエのいた世界も観測できるかもしれないデスね」

勇也「おぉ、確かに」

ピリオネ「ということで、到着デス!ここが、我々マキナ族の住む、魔機都市デス!」

  手を広げ、言い放つピリオネ
  しかし、そこには何もない
  相変わらず、木々が鬱蒼としている
  風が吹き、葉がさざめく
  勇也、ポカンと口を開けて―

勇也「えっと……。もしかして、木の上に住む種族だったりする?」

ピリオネ「はぁ~、やっぱり変わらないデスか」

勇也「え?」

  肩を落とすピリオネ
  気だるげに、勇也に向き直り―

ピリオネ「よく聞けデス。これが今、マキナ族に起こっている問題。そして、オマエを蘇らせた理由デス」

勇也「問題って……?」

ピリオネ「消えたデス、魔機学が、この世界から」

勇也「は?」

ピリオネ「正確には、過去の影響を受けて、今のこの世界が魔機学のない世界に改変されたのデス」

勇也M「……大丈夫、大丈夫。ドラ○もん見てたからこのくらい……」

勇也「つまり、過去改変?」

ピリオネ「ご名答、デス。さっき戦った魔獣、どこかおかしかったデスよね?」

勇也「……あ」

  〔回想〕
    魔獣だ、勇也たちを囲っている
    大型の狼のような魔獣、涎を垂らす
    だが、その様相は獣らしくない
    実に、機械的な造形をしている

勇也「確かに、あんなのこれまでいなかった……」

ピリオネ「あれは、魔機獣。恐らく、改変によって生まれた存在デス」

勇也「じ、じゃあさ、魔機学が消えたならどうしてピリオネは存在してるの?魔機学から生まれた存在なら、ピリオネもいないことになってるはず……」

ピリオネ「ワタシは、特異点デス。世界に関する、あらゆる改竄の影響を受けませんデス」

勇也M「特異点……、聞いたことある」

ピリオネ「そして、オマエも特異点デス」

勇也「お、俺も!?」

ピリオネ「そもそも、オマエはこの世界の歴史には無関係の存在。召喚される勇者は、基本的に皆特異点デス」

勇也「そっか……。それで、俺を生き返らせたのは……」

ピリオネ「ワタシと一緒に、過去に飛んで歴史を元に戻す、デス」

勇也「つまり、魔機学の始祖を……」

ピリオネ「彼の存在無くして、ワタシたちは成り立たない。それは、彼が魔機学の始祖であるのと同時に、彼が自らの命を犠牲に、魔機都市を稼働させているからデス」

勇也「もし、成功したら……」

ピリオネ「約束通りオマエの仲間、全員蘇生してやるデス。さて、どうs―」

勇也「やる!」

  ピリオネ、眉を上げる
  勇也、彼女を真っ直ぐ見つめて―

勇也「過去に飛ぶ……!それが、今の俺に出来る唯一の罪滅ぼしだ……」



[44091] 第二二幕 デウス・エクス・マキナ
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/02/03 09:51
●??

  勇也とピリオネ、落ちている
  蠢く、不思議な空間が広がる

勇也M「これが、所謂タイムホール……。やはりピリオネは、未来から来た猫型ロボットではないのか。だって、さっきも―」

◆ボーテミュイズン〔上界〕・山奥《回想》

  ピリオネ、腹のあたりを弄っている
  そこには、一つのポケットが着いている

勇也「な、何してるの?」

ピリオネ「過去に飛ぶための魔道具をば」

勇也「魔道具?」

  巨大な装置、ポケットから出てくる

ピリオネ「テッテレ~『タイムカプセル~』」

  ドスンッ、砂煙が舞う
  勇也、口をあんぐり

ピリオネ「これで、過去の時間に飛ぶデス。因みに、実際に肉体ごと飛ぶわけじゃないデスよ?意識だけのタイムリープデス」

勇也「ごめん、青狸にしか見えなくて、話しが入って来ない……」

ピリオネ「侮辱デスか!?訴えるデス!」

●??

勇也M「あれは完全に、もしもボ○クスを出すときのドラ○もんだったな……」

ピリオネ「馬鹿面してるとこ悪いデスけど、そろそろ着くデスよ」

勇也「口の方が悪いよ。そういえば、魔機学が確立したのって何年前なの?」

ピリオネ「さぁ、遥か昔過ぎて数えるのも嫌デス。ただ、高貴種と下賤種の選別が行われた……、それより前なのは確実デス。今となっては、エルフもハイエルフも等しく下賤種デスからね」

  〔回想〕
  アノス「全ての始まりは、忌子をこの世界に再び召喚したエルフ族だ。やつらを皮切りに、亜種族間の高貴と下賤の選別が行われ、多くの種族が下界へと堕ちることになった」

勇也「……」

ピリオネ「さ、到着デス。衝撃に備えろ、デス!」

勇也「え、え?衝撃って?ちょ―」

  直後、目の前、光り輝く
  その眩しさに、思わず目を覆う勇也
  やがて、真っ白な光が二人を包み込む

●エルフ族の森・マギーチェスの部屋

  木造の、落ち着いた雰囲気の部屋
  古びた本棚には、大量の書物
  読み込まれボロボロ
  中央のテーブル、置かれた杖の数々
  そして、その傍らで倒れるマギーチェス
  血溜まりの中で眠る、動く気配はない
  勇也、思わず尻餅をついて―

勇也「こ、れが……」

ピリオネ「あ~。これ、詰み、デスね」

勇也「え……?」

ピリオネ「端的に言えば、ワタシたちにこの事象を変化させることは出来ないデス」

勇也「い、今からでも治癒魔法で……!あ、証石はエルマが……」

ピリオネ「馬鹿デスね、そう言う話ではないデス」

  勇也、眉を歪める
  不服と困惑が混じった顔

ピリオネ「さっきも話したデスが、今のワタシたちは意識体。ワタシたちの意識のみが、体を置き去りにしてこの時間にやってきたデス」

勇也「幽体離脱、的な……」

ピリオネ「故に、ワタシたちはこの時間の人や物、あらゆる事象に直接干渉することはできないデス。ワタシたちの行動は例えば、本がカタッと動く、扉がギシッと鳴る、塵が僅かに舞うetc、などのほんの些細な現象として表現されるデス。そしてそれが、マギーチェス氏が魔機学の研究を始めるきっかけになるはずなのデス」

勇也「つまり……、マギーチェスさんは大々的に『魔機学の研究をするぞー!』って言って始めたわけじゃない……?」

ピリオネ「そうデス。彼のもたらした結果は、確かに偉大だった。デスが、そのきっかけはほんの些細なもの……。彼が、魔機学の研究を始めるも始めないもただ偶然……、確率論でしかないのデス。その証拠に、魔機学のない改竄された世界は、特異点のワタシたちから見ても、気づかない程度の変化しかなかったはずデス」

  〔回想〕
    魔獣だ、勇也たちを囲っている
    大型の狼のような魔獣、涎を垂らす
    だが、その様相は獣らしくない
    実に、機械的な造形をしている

勇也「確かに、モンスターはちょっと変だったけど、それ以外はなにも……」

ピリオネ「それだけ、魔機学がニッチで、マキナ族が排他的である、ということデス。偉大、というのもマキナ族にとって偉大、というだけデス。ワタシたちの存在を知っている種族なんて、この世界に殆どいないデスよ」

  ピリオネ、視線を落とす
  その横顔は、心悲しげ

勇也「そうなんだ……」

ピリオネ「さて、今回の事象デスが、どうやら並行世界の過去の出来事が、ワタシたちの世界線の過去に影響を与えたみたいデスね」

勇也「殺すぐらいだから、魔機学が確立されると不都合な誰か……。もしかして、魔族冥衆……!?」

ピリオネ「そんな単純な話じゃないデス。この世界には、数多の可能性があり、それと同数の並行世界が存在するデス。世界は常に分岐している……、どんなことがあっても不思議じゃない。これも、数ある内の事象の一つに過ぎないのデス。それこそ、基盤となる事象が確率論的なものであるなら尚のこと。そしてこれは、ワタシたちとは異なる直接的な干渉。それを止めることは出来ないデス」

勇也「ってことは……」

ピリオネ「諦めて帰る、デス!」

勇也「え、ちょ……!」

  直後、空間、激しく歪む
  眼前、広がる暗闇
  どこまでも続いている
  勇也、やがてその闇に呑まれる

勇也「……!」

× × × × ×

  ハッと目を見開く勇也
  最初に聞こえたのは、お経
  木魚、無機質に木霊する
  次に、人々の啜り泣く声
  椅子に腰かけ、手を合わせ、涙を拭う
  ふと、正面に目を向ける
  飾られた写真、勇也が写っている
  遺影だ
  無表情、こちらを真っ直ぐ見つめる

勇也「俺……?」

勇也M「違う、これは並行世界だ……。こんなこと、本当に起きてるわけじゃない……!だけど……」

  直後、再び歪む空間
  悍ましい気配に身を包まれる

× × × × ×

  ハッと目を開く勇也
  煮え滾るマグマのような空
  そして、地面に倒れ伏す勇也一行

勇也「みんな……」

  遠方、何かが佇んでいる
  影が差し、全容は分からない
  しかし、悍ましい気配を放っている
  思わず、後退りしてしまうほど
  勇也、グッと歯を食いしばり―

勇也「頑張れ、負けるな……!これが終われば、きっと帰れるから……!だから……、立て、俺……!」

  直後、再び歪む空間
  眩い光がさす
  勇也、それに包み込まれる

●ボーテミュイズン〔上界〕・山奥

  ハッと目を覚ます勇也
  巨大な装置の中、体を起こす
  傍ら、ピリオネが気づいて―

ピリオネ「おはよう、アナタ♡デス」

  しかし、勇也、呆然
  一点を見つめている

  〔回想〕
    遠方、何かが佇んでいる
    影が差し、全容は分からない
    しかし、悍ましい気配を放っている

勇也M「まさか……、あれが……」

勇也「魔王……」

ピリオネ「あぁ、きっと他の並行世界や時間軸と繋がっただけデス。気にすることないデス」

勇也「……そう、だよね」

ピリオネ「それより、どうするデスかね~」

勇也「まさか、歴史が元に戻らないと、みんなを助けるって約束も―」

ピリオネ「もちろん、叶わないデス。条件が達成できてないデスからねぇ」

勇也「そんな……!」

  ゴソゴソ、ポケットを弄るピリオネ

ピリオネ「ん~、何か良い魔道具は~」

  直後、ピリオネ、ハッとする
  ポケットから、小型装置を取り出して―

ピリオネ「テッテレ~『時空間修正装置~』」

  ピリオネ、それを足元に設置
  直後、大きな地揺れ、轟音が響く

勇也「な、なになになに!?」

  眼前、薙ぎ倒されていく木々
  空間が歪み、そして拡張
  やがてそこに、巨大なビル群が現れる

勇也「こ、これは……?」

ピリオネ「これが、マキナ族の魔機都市デス!」

勇也「……え?」

ピリオネ「なんデス?」

勇也「えっと……、あれ……?」

ピリオネ「脳みそよわよわデスか?」

勇也「だ、だって……、マギーチェスさんが死んだ、から、全部なくなったって……」

ピリオネ「だから、たった今、それを解決したデス」

勇也「……は?」

ピリオネ「この装置で、改竄された歴史を綺麗サッパリ戻したデス」

  勇也、開いた口が塞がらない

ピリオネ「馬鹿面デスね。デスが、これがマキナ族!」

  ピリオネ、ビシッとポーズを決めて―

ピリオネ「『デウス・エクス・マキナ』でズバッと解決!終わりよければ全てよし、デス!」

  ピリオネ、言い終わりポケットを弄る

ピリオネ「いや~、ちょうど良い魔道具があって助かったデ~ス」

  勇也、口をポカンと開けたまま
  言葉が出てこない

勇也M「これ、俺、必要だった~……?」

●マキナ族の魔機都市・ピリオネの家

  エルマ、料理を作っている
  慣れた手つきで、食材を切る
  そこに、勇也がやってくる
  エルマの包丁を手に取り―

勇也「俺がやるから、エルマはゆっくりしてて!」

エルマ「あ、ありがとうございます……」

× × × × ×

  ガンテとナーチ、武器を磨いている
  そこに、勇也が颯爽と現れ―

勇也「俺が綺麗にしとくから、二人は休んでて!」

ガンテ「おぉ、にーちゃん、さんきゅー」

ナーチ「……」

× × × × ×

  バスティ、窓際で香箱座り
  その隣、勇也が香箱座りで―

勇也「バスティも、俺がやっとくからゆっくりしといて!」

バスティ「アンタは何をやってるのよ」

× × × × ×

ガンテ「何か、にーちゃんおかしくねぇか?」

エルマ「妙に積極的と言いますか……」

バスティ「日向ぼっこ、邪魔されたわ」

ナーチ「私のDual Dagger……」

??「全く、調子のいいやつデス」

  振り返る一同
  ピリオネ、椅子に踏ん反り返って座っている

ガンテ「んで、こいつは誰なんだ?」

ピリオネ「口を慎めデス、半端者」

ガンテ「んだとっ!?」

エルマ「これがマキナ族……、初めて見ました……」

バスティ「マキナ族?」

エルマ「魔学……、魔法を転用した魔機学という学問を基に造られた、機人の種族です」

バスティ「ふ~ん」

ピリオネ「ふっふっふ、その目にしかと焼き付けるといいデス!」

ガンテ「うっぜぇ~」

エルマ「勇也様とは、いつの間にお知り合いに?」

ピリオネ「それはまぁ~、色々あってデスね~」

バスティ「色々ってなによ?」

ピリオネ「そうデスね~、例えば―」

  ピリオネ、ニヤッと悪戯に笑って―

ピリオネ「一緒に寝たデス」

ピリオネM「タイムカプセルで」

  バスティ、ボッと顔を赤くして―

バスティ「な、なになに、何言ってんのよハレンチな!」

ガンテ「ねーちゃん、何そんな焦ってんだよ?」

バスティ「だ、だって……!お、男の人と女の人が二人で寝たら、す、することなんて一つじゃない……!」

ガンテ「?」

ナーチ「はわわわ~……!」

エルマ「はぁ~……」

ピリオネ「我々マキナ族の使命は、ボーテミュイズンの観察、及び研究デス。ということで、しばらくオマエたちに着いて行くことにしたデスので。貴重な研究材料として、十分に機能することデスね」

× × × × ×

  夜
  廊下を歩く勇也
  そこにふと、バスティが現れて―

勇也「バスティ」

バスティ「勇也、少しいいかしら……?」

勇也「?」

  勇也、ハッとして―

勇也「まさか、夜のおさそ―」

バスティ「早く来なさい」

× × × × ×

  とある一室
  席に腰かける勇也、その隣にエルマ
  対面のバスティ、神妙な面持ち

勇也M「3Pとは、バスティもレベル高いな……、なんて」

エルマ「それで、お話というのは?」

バスティ「……そうね、前の続きって言えば分かるかしら?」

  エルマ、ハッと目を見開く

  〔回想〕
  バスティ「だから、私たちのことも助けてくれるんじゃないかって……。勝手に、どっかで期待してたのかしらね……」
  バスティ「時が来たら、ちゃんと話すわよ」

エルマ「……はい」

勇也「ん、何のこと?」

バスティ「アタシの故郷について、そろそろ話そうと思ってね」

勇也「バスティの、故郷……?」

  バスティ、静かな声音で―

バスティ「アンタらを、獣人族の村に案内するわ。特に勇也……、アンタには知っていてもらいたいの。アタシたち、獣人族のことを……」



[44091] 第二三幕 同じ獣物の血
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/02/06 15:35
●獣人族の村

  勇也一行、歩いている
  人の気配はない、閑散としている
  ジャリジャリ、砂の音が妙に響く
  小さく、荒んだ家が立ち並ぶ
  まるで廃村

ガンテ「ここがねーちゃんの故郷か~」

バスティ「まぁ、そんなところね」

  静かに応えるバスティ
  白のローブに、深々とフードを被る
  勇也、あくびに涙を滲ませ―

勇也「にしても、何でこんな朝早く……」

ナーチ「眠い……」

バスティ「ゆっくり話せないからよ」

エルマ「……」

  とある家に着く
  所々に亀裂、苔が生えている
  バスティ、ギシギシと扉を開く
  中には、一人の男性
  筋骨隆々、堀の深い顔
  頭の猫耳には見覚えがある
  バスティ、その人物に薄く笑いかけ―

バスティ「ただいま、お父さん」

勇也「お、お父さん!?」

??「バスティー!!!」

  迫る巨躯、バスティを抱き上げる
  頬擦り、摩擦で火が起こりそう

??「久しぶりだなー、5年振りか?ちゃんと食べてるか?猫耳の手入れは?パパ直伝の香箱座りは出来るようになったか?」

  怒涛の質問攻め
  バスティ、それにたじろいで―

バスティ「ちょ、お父さんやめて……!」

??「お父さん?いつもはパパって―」

バスティ「いいから下して!」

??「相変わらず我儘だな~」

  男性、バスティを下ろす
  ふと、勇也たちに気付いて―

??「お友達か?」

バスティ「えぇ。ラミア族のナーチ、マキナ族のピリオネ、エルフ族のエルマ、巨人族のガン―クソガキ」

ガンテ「おい!」

バスティ「そして、勇者の勇也よ」

勇也「ど、どうも~……」

??「勇者……?と、言うことは―」

バスティ「私、旅をすることになったの。勇者と一緒に、魔王を倒すために」

  男性、ハッと眉を上げる
  そして、静かに土下座
  深々と、おでこを床に付ける

??「勇者様……」

勇也「ちょ……!」

??「バスティは、気は強いですが、どこまでも真っ直ぐで純粋な子です。あぁ、何たる僥倖……。私が、断腸の思いでバスティをこの村から逃がした意味が、今ようやく結ばれました……」

エルマ「……?」

??「まだまだ半人前ですが、どうかバスティを……、私が命をかけて愛し、育ててきた娘を、どうかよろしくお願いします!」

バスティ「パパ……」

勇也「は、半人前なんてそんな……!俺なんて、半人前にも満たない4分の1人前……、いや微塵切りにした内の一欠片にも満たない……」

エルマ「勇也様、お気を確かに」

ピリオネ「台無しデ~ス」

ダイゴーン「申し遅れました。私、獣人族のダイゴーンと申します。何もないところですが、どうぞごゆっくり」

勇也「あ、ありがとうございます」

  その時、村に鐘の音が響く
  一度、二度、そして三度
  低く、唸るように鳴り響く
  妙に、胸をざわつかせる音色

ダイゴーン「じゃあ、行って来るよ」

バスティ「……うん」

  ダイゴーン、歩き去る
  扉、静かに閉まる

勇也「おでかけ?」

バスティ「……見に行ってみる?」

  首を傾げる勇也
  その隣、静かに目を伏せるエルマ

× × × × ×

  犬獣人、巨大な荷物を引いている
  瓦礫、木の丸太など様々
  いずれも、人の身で引くには過酷
  遠方、広大な田畑
  農作業をする羊獣人
  ただひたすらに、農具を振るう
  その顔、瞳に覇気はない
  とある人間族、羊獣人を恫喝
  毛皮を掴み、引っ張り回す
  しかし羊獣人、一切の抵抗もない
  むしろ、その気力がないようにも見える
  村中、至る所に獣人族
  その全てが労働をしている
  服はボロボロ、黒ずみ汚れている
  痩せぎすの体、顔や瞳はまるで死人
  ポツポツ、雨が降ってきた
  だが、誰も何も気にしない
  ただ無機質に、機械的に作業をこなす
  勇也、それを見て唖然

勇也「これが、獣人……?」

人間族「ふざけるな!」

  直後、怒号が聞こえる
  人間族、ライオン獣人を殴りつける
  睨みつけ、怒鳴る

人間族「寝る暇があったら手を動かせ!お前ら獣人族如き、働けるだけでもありがたいと思え!」

  しかし獣人、答える気力もない
  人間族、拳を構え殴りかかる
  直後、目の前にバスティ
  獣人を守るように立ち塞がる

人間族「何だ、貴様……?」

  バスティ、ローブのフードを取り―

バスティ「この子の責任はアタシが負うわ。だから、解放してあげて……!」

人間族「……あぁ、貴様が例の逃亡者か」

  人間族、陰湿に口角を上げて―

人間族「そこまで言うなら、逃亡の罰として働いてもらおう……。死んでも、逃れられると思うなよ……?」

  ゴクリ、息をのむバスティ
  頬を伝うのは、きっと雨

●獣人族の村・ダイゴーンの家

  勇也一行、思い思いの場に腰かける

勇也「……勝手な思い込みだけど、獣人の住む場所ってもっと、ケモ耳パラダイスみたいな……」

ガンテ「はっ、んな楽園があったら、行ってみてぇな……」

勇也「ちょっと、まだ動揺してる……」

エルマ「勇也様……」

勇也「おかしくない?いくら下賤種だとしても、獣人族だけこんな……。他の種族は、何て言うか……、もっと無難に暮らしてたのに」

エルマ「……獣人族は、下賤種の中でも特段地位が低いのです」

勇也「え?」

エルマ「獣人族が、どの種族同士の混血かは、以前お話ししましたよね?」

勇也「確か、獣族と旧人間族の……」

エルマ「不幸なことに、その事実が何よりの原因なのです」

勇也「どういうこと……?」

ガンテ「獣族のことは、にーちゃんも知ってるよな。見境なく襲ってくる、土地を破壊する、当然話しなんて通じねぇ……」

勇也「……もしかして、同じ血の混じった獣人族も、そう見なされてるってこと……?」

エルマ「はい。獣族は、魔獣の一種。同じ血の流れる獣人族も、同様の待遇を受けているのです」

勇也「何だよ、それ……」

エルマ「さらに、その認識は上下選別以降、より強いものになりました。獣人族は、元々暮らしていた下界の村を破壊され、今はこの上界の小さな村で、人間族の管理のもと労働をさせられているようです」

勇也「あ……」

  〔回想〕
  勇也「なんだ、ここ。村……、ってより廃材置き場みたいな……」
    人の気配はない
    取り残された建物の残骸
    その間を、風が吹き抜ける

ナーチ「でも、バスティしゃんは……」

エルマ「彼女だけは、逃れたようですね。恐らく、ダイゴーン様が手を回されたのでしょう」

  〔回想〕
  ダイゴーン「あぁ、何たる僥倖……。私が、断腸の思いでバスティをこの村から逃がした意味が、今ようやく結ばれました……」

ピリオネ「いや~、下賤種の中でも最下層に位置する奴らの見事な働きっぷり、実際に見て感動したデス!」

ガンテ「あぁ……?」

ピリオネ「もっと、クローンでも子供でも作って、今後も底辺からこの世界を支えて欲しいデス!」

ガンテ「おいてめぇ、言い方に気を付けろや!」

ピリオネ「なぜ、高貴種であるオマエがキレるデスか?私たちは、下賤種を蔑んで、使い潰す立場デス。奴らに同情するなんて、家畜や食い物に同情するのと同じデス。お門違いも甚だしいデス」

ガンテ「俺は、高貴種も下賤種も関係ねぇんだよ!俺の親父とお袋が、それを証明してくれた!」

ピリオネ「それは、オマエの親の話し、オマエの基準の話しデス。今この場において、そんな話に価値はないデス。これが、ボーテミュイズンの現状。高貴種が下賤種を支配する。獣人族は、奴隷であることを強いられている。この世界が始まって以来、種族間に刷り込まれた覆しようのない常識デス。オマエらが勇者一行でも、こればかりは手の出しようがないデス」

  俯く勇也
  その眉間、皺が寄っている

●獣人族の村・作業場

  バスティ、ツルハシを振るう
  息を切らし、汗を拭う
  その背後、ザッと誰かの足元

??「バスティ」

  自分を呼ぶ声
  振り向くバスティ

??「さっきはありがとう、助けてくれて」

  バスティ、それにフッと微笑んで―

バスティ「セクミィ、久しぶりね」

セクミィ「うん」

× × × × ×

  地面に座るバスティとセクミィ
  隣同士、肩を寄せ合っている

セクミィ「何年ぶりだろうね」

バスティ「たまに帰って来てるけど、前の時は会えなかったわね」

セクミィ「ずっと寂しかったんだから。私、バスティしか友達いないし……」

バスティ「ごめんごめん。でも、これからもっと忙しくなりそうなのよねぇ。それこそ、もう帰って来れるかも分からないわ」

セクミィ「勇者と、冒険することになったんだよね。ダイゴーンさんが言ってたよ」

バスティ「パパったら……」

セクミィ「すごいね、獣人族からは二人目じゃない?」

バスティ「あぁ、そんな話もあったわね。でも、別にそんな大層なもんじゃないわよ」

セクミィ「いいなぁ。私も、自由になりたいよ……」

バスティ「セクミィも、アタシたちのパーティに入る?」

セクミィ「私なんて、足手まといになるだけだよ。それに、もう手遅れだし……」

  セクミィ、目を伏せる
  薬指、金の指輪が付けられている
  バスティ、歯をグッと噛み締め―

バスティ「アタシが……!」

セクミィ「?」

バスティ「……いえ、何でもないわ」

バスティM「何ができるって言うのよ……、村から逃げたアタシに……」

  ふと、空を見上げる
  黒く、分厚い雲が視界を覆う
  雨は、未だ強く降り続けている

バスティM「ほんと、役に立たないんだから……」

  その時、ドサッと音がする
  ふと、目を向けるバスティ
  セクミィ、地面に倒れている
  瞳孔が開いている

バスティ「セクミィ、どうしたの?」

  首を傾げるバスティ、問いかける
  しかし、反応はない

バスティ「……ねぇ、どうしたの?セクミィ?」

  強く体を揺らす
  しかし、反応はない

バスティ「セクミィ、セクミィ……!」

  何度も呼び掛ける
  やはり、反応はない

バスティ「……っ!」

  瞳が揺れる、視界がぼやける
  もう、言葉は届かない
  もう、動かない

× × × × ×

  横たえられた体、布がかけられている
  その傍ら、呆然と立ち尽くすバスティ
  冷たい雨が、鎧を打ち付ける
  そこに、ザッザッザと足音
  勇也一行、かけつける
  バスティ、エルマに飛びついて―

バスティ「ねぇ、助けてよ!アンタ、治癒魔法使えたわよね!?」

  今にも泣きだしそうな顔
  エルマ、それに目を伏せて―

エルマ「治癒魔法は、負った傷を癒す魔法です……。機能を停止した体に、効果はありません……」

  バスティ、ハッと眉を上げる
  力なく、膝から崩れ落ちる

バスティ「……ママが死んじゃってから、ずっと一緒にいて、アタシを励ましてくれた……。なのに……、こんなのあんまりよ……!」

エルマ「……他にも、同じような事例がいくつも報告されているようです」

勇也「村で起きた、突然の不審死……」

ガンテ「しかも、こんな短時間で……」

  ガンテ、思わず舌を打つ
  その時、傍らからゴソゴソと物音
  ポケットを弄るピリオネを見て―

ガンテ「おい、何してんだ」

ピリオネ「空気悪いのは嫌デスので、私が解決しようかと」

ガンテ「そんなことできんのかよ……!?」

ピリオネ「当然!魔機学の結晶、このピリオネ様に出来ないことはないデス!」

エルマ「そのポケットは?」

ピリオネ「数多の魔道具を収納できるポケットデス。中に、異次元空間が広がってるデス」

エルマ「凄いですね……」

勇也M「マジでドラ○もんじゃん……」

ピリオネ「お、ちょうどいいのがあったデス!」

  ピリオネ、ナイフ形の道具を取り出し―

ピリオネ「テッテレ~『真犯人を殺す魔道具~』」

ガンテ「な、何だそれ?」

ピリオネ「馬鹿デスか?読んで字の如し、デス」

ガンテ「ちっ!」

ピリオネ「原因や過程をすっ飛ばして、真犯人の元にひとっ飛び!あっという間に解決して―」

勇也「それじゃダメだ」

  ポツリ、呟く勇也
  一同、彼に視線を向ける

ガンテ「にーちゃん?」

勇也「それじゃ、意味ないだろ。原因とか過程を調べないと、次同じことが起きた時、対処できなくなる……」

ピリオネ「何を言ってるデス?手っ取り早く真犯人ぶっ殺して、ハッピーエンドデス。終わりよければすべてよし、デス!」

勇也「……じゃあ、殺人事件は犯人が捕まりさえすれば解決なの?もし今、ピリオネの体をバラバラに壊した人がいて、それは犯人が捕まれば全部解決なの?」

ピリオネ「飛躍した理論デスが、答えはYesデス。結果さえ出せれば、それまでの過程も苦労も関係ないデス。良い結果、正しい結果こそが全てデス!」

  勇也、目を伏せる
  鼻で嘲笑して―

勇也「……そんな短絡的な思考しか出来ないんなら、魔機学も大したことないね」

ピリオネ「……下賤な人間風情が、デス!」

  ピリオネ、目をひん剥いて―

ピリオネ「なら、どちらが先に真犯人を特定できるか、勝負するデス!過程か結果、どちらが重要か白黒つけてやるデス!」

勇也「勝負とか、失礼だろ。俺は、普通に犯人を捜すよ」

ピリオネ「認識の違いなどどうでもいいデス!崇高なマキナ族に盾突いたこと、後悔させてやるデス!」

  ピリオネ、踵を返し歩き去る
  ドスドスと、不機嫌な足取り
  その背中を見つめる勇也

ガンテ「にーちゃん……」

勇也「……やろう」

  勇也、バスティに向き直る
  雨に潤んだその瞳を見つめ―

勇也「みんなで、獣人族の村を助けるんだ……!」



[44091] 第二四幕 牙の跡は癒えぬ
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/02/06 15:36
●マキナ族の魔機都市・ピリオネの家

  ピリオネ、一人佇む
  薄暗い部屋、一切の物音もしない
  近未来な白い壁、僅かに彼女を照らす

ピリオネ「『サイディーネ・ザーピス・ボーテミュイズン』……」

  呟くピリオネ
  その言葉に呼応し、部屋が光る
  まるで、眠りから目覚めたかのように起動
  無数のモニター、辺りに現れる
  映し出される、ボーテミュイズンの景色
  ピリオネ、それを操作しながら得意満面

ピリオネ「世界の記録にアクセスできるワタシに、敵うはずないのデス。ワタシに盾突いたこと、後悔させてやるデス!」

  その時、ふと眉を上げて―

ピリオネ「ほう、これは面白いデス……」

●獣人族の村

  地面に横たえられた人々
  布が、その体を覆い隠している
  バスティ、その傍らに座り込む
  頬には涙の跡、呆然としている
  その背中を見つめる勇也一行

勇也「バスティ……」

  そこに、ザッザッザと足音
  ダイゴーン、バスティに寄り添う
  バスティ、彼の肩に泣きついて―

バスティ「パパ……、パパ……!」

  咽び泣くバスティ
  ダイゴーン、口を結ぶ
  ただ、彼女の頭をそっと撫でる
  その時、背後にザッと足元

人間族「おいおい、何サボってんだ、野良猫共が」

  ふと、振り返る
  一人の人間族、こちらに迫ってくる
  バスティを見て、鼻で嘲笑し―

人間族「物も考えられねぇ獣人でも、仲間の死は惜しいか?だが安心しろ、すぐ同じところに行けっから。極限まで使い潰して、使いもんになんなくなったら、あの世に送ってやんよ」

  見下ろし、嘲笑する人間族
  ダイゴーン、それを鋭く睨む

人間族「あぁ?なんだ、その目は……」

ダイゴーン「……いえ」

  直後、重い衝撃
  人間族の蹴り、ダイゴーンの顔面に入る

バスティ「パパ……!」

人間族「お前らの代わりなんていくらでもいるんだよ!親子共々使い潰して、最後は仲良くあの世n―」

  直後、凄まじい打撃
  人間族、吹き飛んでいく
  荷台に激突、グッタリと動かない
  眼前、ガンテの姿
  拳をガンッと突き合わせ―

ガンテ「俺が手ぇ出す分には、問題ねぇだろ」

バスティ「ガンテ……」

ガンテ「あいつ、拘束しとくか?」

エルマ「そうですね。また、いつ牙を剥いてくるか分かりません」

ガンテ「よし来たっ」

× × × × ×

  丸太に括りつけられた人間族
  未だ、気を失っている
  手をパンパンと叩くガンテ

ガンテ「なぁ、こいつが犯人じゃねぇのか?」

エルマ「いえ。あくまでも労働力である獣人族を、大量に処分する理由が分かりません。極めて、不合理です」

ガンテ「そっか~……」

  勇也、ふと視線を下げる
  バスティの薬指、金の指輪が光っていて―

勇也「あれ、バスティいつの間に結婚したの?」

ダイゴーン「何っ!?」

バスティ「さらっと何言ってんのよ……」

エルマ「その指輪は、獣人族が人間族と奴隷契約を結んでいる証です」

  横たえられた獣人族たち
  その投げ出された手
  薬指、金の指輪が光っている

バスティ「魔力が込められていて、この指輪のせいでアタシたちは人間族に逆らえない。もし反乱でも起こそうものなら、どうなるのかしらね……」

エルマ「ですが、この指輪の一番恐ろしいところは、獣人族と人間族の生命活動がリンクしていることです」

勇也「ど、どういうこと?」

エルマ「人間族と獣人族は、指輪の微量な魔力を通して繋がっています。その繋がりが一方的に絶たれた場合……、つまり、人間族の誰かが亡くなった場合のみ、その人とリンクしている獣人族の誰かが亡くなるのです」

勇也「……ほんと、どこまでも胸糞」

バスティ「だから、もし上界の王都に何かがあった場合、アタシたちが真っ先に駆り出される。都合のいい、肉の壁としてね……」

  重い沈黙が落ちる
  目を伏せる勇也
  だが、ハッと目を見開いて―

勇也「じゃあ、もしかして王都で何か起きてるんじゃ?」

エルマ「えぇ。裏で何者かが人間族を殺して回っている……、その可能性もあるかもしれません」

勇也「行ってみよう……!」

  バスティ、ダイゴーンに振り返る
  物言いたげに、眉を寄せる
  勇也たちに、一歩が踏み出せない
  ダイゴーン、それに優しく微笑み―

ダイゴーン「勇者一行としての役目を果たせ。それが、今のお前のやらなきゃいけないことだ」

バスティ「……えぇ!」

  バスティ、一歩踏み出す
  勇也一行、走り去る
  ダイゴーン、その背中を見つめる
  それを遮るように、雨はまだ降りしきっている

●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・広場

  行き交う人間族たち
  勇也一行、辺りを見渡している

勇也「パッと見、騒ぎとかはなさそうだけど……」

ナーチ「人、多い……」

  ガンテ、そこに走ってきて―

ガンテ「話、聞いてきたぞ」

勇也「コミュ強助かる」

バスティ「何だって?」

ガンテ「何も。目立つようなことはなく、平和だってよ」

バスティ「……おめでたいことね」

エルマ「では、元凶は獣人族の中に……」

バスティ「そ、そんなわけ……!」

エルマ「もちろん、そうではないと信じています。ですが、可能性としては一考に値するかと……」

バスティ「……」

ガンテ「なぁ、王城に行ってみねぇか?王様なら、何か知ってんかもしれねぇ」

エルマ「そうですね」

勇也「行ってみよう」

●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・城門

  一体のオーク、城門前に佇む
  巨躯、鈍く光る鎧に身を包む
  鋭い目つき、勇也一行を睨み―

??「何者だ?」

エルマ「私たちは、勇者一行です。王、ヴラガロード様に謁見を願います」

??「……却下だ」

ガンテ「な、何でだよ!?」

??「王は今、国務に追われ手が離せない。貴様らに構っている暇はないのだ」

ナーチ「そんな……」

勇也「お、俺たちは、獣人族の村を助けたいんです……!だから、せめて話だけでも―」

??「あぁ、貴様らか。街の民に、次々に声をかけているという怪しい連中は……。実は全て、貴様らの自作自演だったりしてな」

勇也「そ、そんなこと―」

??「問答無用!」

  オーク、抜刀
  白人を地面にガンッと突きつけ―

??「疑わしきは罰せよ……。それが上界の王、ヴラガロード様のご意向である!」

●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・地下牢

勇也「嘘やん」

  勇也一行、厚い鉄格子の向こう側
  陽の光は届かない
  水滴、ポツポツと滴る
  壁のランタンが、僅かな光源

勇也「ガンテ、これ壊せない?」

ガンテ「さすがに、王城の牢屋は頑丈だぜ」

バスティ「アイツ……、ピリオネが助けてくれればいいんだけど……」

ガンテ「はっ、あんなやつの力なんて借りて堪るか!気に入らねぇ!」

バスティ「じゃあどうするのよ!」

ガンテ「それを今考えてんだよ!」

勇也「エルマは杖取られちゃったし……」

バスティ「そう言えばアンタ、この前杖召喚してたじゃない」

エルマ「杖との距離が遠すぎて、魔力を感知できません……」

勇也「詰み、です……」

ナーチ「あ、あの……!」

  ナーチの声、無駄に響く
  一同、彼女に視線を向ける

ナーチ「わ、私が行きましゅ……」

勇也「え?」

ナーチ「私なら、ここから抜け出せると思いましゅ……」

ガンテ「いや、いくら蛇足でも、この隙間は―」

ナーチ「『プレヴラーシェ』……」

  呟くナーチ
  直後、ナーチの体がみるみる縮む
  やがて、掌サイズになる

エルマ「なるほど、部分変身の魔法ですか……」

  ナーチ、牢屋をスルリと抜ける
  勇也たちに向き直り、目を伏せる

ナーチ「せっかく仲間にしてもらえたのに……、私、まだ何も出来てないでしゅ……。だから今は、私が力になりたい……!」

  〔回想〕
  ナーチ「私は……、私なんかが、本当に仲間でいいんでしょうか……。私の力なんて、これっぽっちで……」

  真っ直ぐに、こちらを見つめるナーチ
  勇也、それに力強く頷いて―

勇也「分かった、頼りにしてる!」

  ナーチ、パッと顔に光が灯る
  そして、踵を返して走り去る

●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・とある家

  薄暗い寝室、カーテンが閉まっている
  ギシギシ、ベッドの軋む音
  それと重なる、肌と肌を打ち合う音
  獣人の女と人間の男、体を絡め合う
  否、それはとても一方的だ
  獣人、涙を流すその瞳に光はない
  人間の荒い息遣いのみ、部屋に籠る
  二人の視線は、決して交わらない
  獣同士の交尾のように、激しい

人間族「……孕め……っ!」

  その時、ガチャリ、扉が開く
  誰かが入ってくる、その籠る足音
  ベッドで交わる両者に忍び寄る

人間族「うっ……!」

  バシャッ、血を浴びる獣人
  目の前、人間族の血だ
  胸を貫く一本の腕、赫赫と照り輝く
  引き抜かれ、倒れる人間
  獣人に被さる、もう動かない
  瞬間、獣人、短く喉を鳴らす

獣人「かっ……、あ゛っ……!」

  激しく、悶え苦しむ
  ギシギシ、ベッドが揺れる
  喉を締め、掻き毟り、藻掻く
  まるで、酸素の供給が絶たれたかのよう
  やがて、脱力し動かなくなる
  薬指の指輪、金の輝きを失っている

??「忌々しい獣人め……」

  骸を見下ろす巨躯
  鎧に身を包むオーク、一人呟く

× × × × ×

  路地裏
  暗く、人の気配はない
  そこに、甲冑の揺れる音
  真っ赤な獣人を引き摺っている
  行き止まり、それを投げ捨て踵を返す
  遠ざかっていく足音
  ナーチ、それを聞いて姿を現す
  そして、目の前の光景に絶句する

ナーチ「これ、は……!」

  山積みにされた人間族たち
  誰一人として動かない
  死体の山だ
  思わず、手で口元を覆う
  荒い呼吸、肩が上下する

ナーチM「大丈夫……、こんなの、今まで嫌というほど見てきた……、大丈夫……」

  ナーチ、深呼吸

ナーチ「勇也しゃんたちに、知らしぇないと……!」

  瞬間、ナーチに落ちる大きな影
  振り向くナーチ、目を見開く

●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・地下牢

  重い沈黙が続いている
  傍ら、ガンテは腕立て伏せ

ガンテ「57997、57998、57999……」

  瞬間、ハッとして―

ガンテ「誰か来るぞ……!」

勇也「え?」

  直後、ドタドタと大きな音
  誰か、牢屋の前に倒れ込む
  勇也、思わず立ち上がり―

勇也「ナーチ……!じゃ、ない……!?」

  目の前の巨躯、鎧を着ている
  オークの兵士だ
  悔しそうに眉を顰め、こちらを睨む

??「この勝負、ワタシの勝ちデス」

  地下に響く、やかましい声
  足音の方に視線を向ける勇也たち

勇也「ナーチ、ピリオネ……!」

ピリオネ「オマエらが無様に牢屋の犬になっている間に、ワタシが一人で突き止めてやったデス!」

勇也「じゃあ、この人が……」

バスティ「やっぱり、頑なに王に会わせようとしなかったから、怪しいって―」

ピリオネ「違うデス」

バスティ「え?」

ピリオネ「さぁ、とっとと正体を現せデス」

  オーク、立ち上がり鼻で嘲笑

??「はっ、何のことだかさっp―」

ピリオネ「正体を現せ、ビームッ!」

  ピリオネ、瞳からビームを放出
  オークの体を撃ち抜く
  瞬間、その体、奇体に蠢く
  様々な姿形に変身、変形する
  やがて現れたその姿に、一同唖然

エルマ「に、人形……!?」

ピリオネ「コイツ、魔族冥衆デスよ」

  その時、勇也、ハッと目を見開く

  〔回想〕
  バトラー「にーちゃん、ここは頼んだ」
  バスティ「アタシたちは、もう一体を追うわ」

勇也M「確か、バスティたちが倒したはず……」

勇也「どうして……?」

ピリオネ「どうやら、此度の勇者はどうしようもない鳥頭のようデス」

勇也M「あ、そうだ……」

◆リーシェティムサバト・跡地《回想》

  瓦礫の山、仲間の骸
  見下ろす勇也、眉を下げる

ピリオネ「これを使うデス」

  ポケットから、とある魔道具を取り出す

ピリオネ「テッテレ~『時間を巻き戻す魔道具~』」

勇也「そ、それは―」

ピリオネ「時間を巻き戻すやつデス」

勇也「ですよね~」

ピリオネ「デスが、実に勿体ないデス。せっかく、リーシェティムを壊滅させられたというデスのに」

勇也「それでも、みんながいなかったら意味ないよ……。俺は、みんながいるから旅を続けられるんだ……。リーシェティムは、また倒せばいい」

ピリオネ「仲間の犠牲など、あって然るべきもの……、実に非合理的デス。が、それがオマエの望みなら、反故にはしないデス」

  ピリオネ、魔道具を起動
  空間が歪み、巻き戻る
  やがて、目の前に現れるサバト

ピリオネ「さ、ハーピー族の天空街に行くデス」

勇也「え、何で?」

ピリオネ「その時点まで、時間を巻き戻したデス。早く戻らないと、違和感を持たれるデスよ」

勇也「そっか……。ありがとう、ピリオネ!」

  ピリオネ、眉を吊り上げ―

ピリオネ「はっ、デス」

●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・地下牢

ピリオネ「さてさて、このまま木端微塵にしてやってもいいデスが、そうすると誰かさんがうるさいデスので、仕方な~く動機を聞いてやるデス。最後の言葉と思って、噛み締めながら喋るデス」

バスティ「どうして、獣人族を殺したの……!?」

コートヴァ「どうして……?最初に俺を愚弄したのは、貴様らの方だろう」

バスティ「え……?」

コートヴァ「まだ、魔王様が子供であられた頃、とある勇者一行が俺たちの元へやってきた。いや、そのパーティは既に壊滅していて、残っていたのは一人の戦士……、狼の姿をした獣人だった……。奴はあろうことか、ただの人形だった俺を斬りつけ、踏みつけ、痛めつけた……!最後は俺が嬲り殺しにしてやったが、あの時刻まれた屈辱は、何百年、何千年経っても忘れたことはない……!」

バスティ「……それだけの理由で、みんなを……、セクミィを……?」

コートヴァ「それだけ……?醜く、浅ましく、肥溜めで蠅のたかった餌を食むのがお似合いのお前らが、俺を苔にしていいはずないだろう……?」

ガンテ「てめぇ……、黙って聞いてりゃ―」

ピリオネ「あはははははははっ、デス!」

  響く、ピリオネの高笑い
  一同、言葉を奪われる

ピリオネ「それだけ長い時を生きていながら、たった一つのことに執着するなんて、オマエ、どれだけ心狭いデスか?」

コートヴァ「何だと……?」

ピリオネ「そんな色褪せた人生を送っている、オマエの方が醜くて浅ましいデス。さっさと獣人の牙に生地裂かれて、綿出して死ね、デス」

コートヴァ「お、お前に俺のn―」

ピリオネ「もうくどいデス」

  ピリオネ、コートヴァを踏み潰す
  グリグリ、地面に擦り付ける
  もはや、原形をとどめていない
  ピリオネ、牢屋に歩み寄り―

ピリオネ「本当は、コイツを見つけた時点で殺しても良かったデスが、ストレスが溜まってたデス。まぁ、最終的にオマエの言っていたことも果たせて、ワタシの完全勝利。結果オーライデス」

勇也「……これは、俺じゃできなかった。ありがとう……」

  ガンテ、歯をギリギリ、ピリオネを睨む

ナーチ「私も、ありがとうございました……」

ピリオネ「そうデス。あの時ワタシがいなかったら、今頃蛇の開きデス。崇め奉り、尻尾の一つでも献上するデス!」

ナーチ「はいっ!」

  ナーチ、満面の笑顔
  掌に尻尾、まだ動いている

ピリオネ「け、決断が速いのはいいことデス……」

ガンテ「おい、早くここから出せよ」

ピリオネ「誰に口を利いてるデスか?ワタシは勝者、負け犬のオマエには、ワタシの言うことを聞く義務があるデス!」

勇也「え、そんな約束したっけ……?」

ピリオネ「反故にするなら、オマエらはそこで朽ち果てるだけデスね」

バスティ「やりなさいよ、勇也」

ガンテ「にーちゃん、負けたんだろ?」

エルマ「約束を破るのはメッ、ですよ?」

勇也「あれ、味方いないなった?」

  勇也、溜息をつく
  ピリオネを見上げて―

勇也「分かった、俺に出来ることなら……、って、そんなにできることないけど……」

  僅かに沈黙が落ちる
  そしてピリオネ、勇也を指さして―

ピリオネ「土下座しろ、デス!」

勇也「……は?」

ピリオネ「オマエ、あの時ワタシになんて言ったか覚えてるデスか?」

  〔回想〕
    勇也、目を伏せる
    鼻で嘲笑して―
  勇也「そんな短絡的な思考しか出来ないんなら、魔機学も大したことないね」

  ピリオネ、地団太を踏み―

ピリオネ「他の何を差し置いても、ワタシへの侮辱は絶対に許さないデス!訴訟!有罪!極刑!万死に値するデス!」

ガンテ「こいつ終わってんな」

ピリオネ「さぁ、早く土下座するデス!おでこは、地面にピッタリくっつけるデスよ!」

勇也「わ、分かったよ……」

  勇也、姿勢を正し―

勇也「チクチク言葉を言って―」

  頭を下げる
  おでこが地面に着く

勇也「ごめんなs―」

  その寸前、消える
  エルマも、消える
  バスティも、消える
  ガンテも、消える
  ナーチも、消える
  ピリオネも、消える
  ランタンの光が、微かに揺れるだけ



[44091] 第二五幕 「ナーチの自虐、キャンセル!」
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/02/09 15:40
ナーチ「―しゃん……、勇也しゃん……!」

  眠っている勇也
  ゆっくりと瞼を開く
  砂に横たえられた体、バッと起こす

勇也「ナーチ……」

ナーチ「よかった……」

勇也「ここは……?」

  見渡す限り一面の砂
  そこに、無数の墓石が立ち並ぶ
  空は一点の光もない闇
  まるで、地獄

× × × × ×

  地面に倒れるバスティとガンテ
  頬に水が触れる、その感覚で目を覚ます
  重そうに体を起こすバスティ
  傍ら、ガンテを殴って―

バスティ「ちょっと、起きなさいよ」

ガンテ「……ってぇな」

  ガンテ、気怠げに体を起こす
  辺りを見回し、眉を顰める

ガンテ「あぁ?何だ、ここ……」

バスティ「さぁ、分からないけど―」

  眼前、聳えるは巨大な噴水
  そこから湧き溢れる、真っ赤な液体
  まるで、血液のよう

バスティ「マズいことになってるのは、間違いなさそうね……」

× × × × ×

  エルマとピリオネ、辺りを見渡している
  どこまでも続く、永遠の漆黒
  遠方、一点の光が眩しくさすだけ

エルマ「魔界、ですね……」

ピリオネ「間違いないデス」

  ピリオネ、低く唸るように―

ピリオネ「どうやら、魔王が目覚めたみたいデス……」

●屍の丘

  ザッザッザ、砂を掻く音が響く
  勇也とナーチ、歩いている

勇也M「一面の砂景色に、立ち並ぶ墓石……。これまた、何とも不気味なこと……。でも、中二病的には悪くない景色だぁ。よし、ここを『屍の丘』と命名しよう」

  振り返る勇也
  ナーチ、後を着いてくる
  その表情、影が差している

勇也「ナーチ、大丈夫?」

ナーチ「は、はい……。みなしゃん、どこに行っちゃったんでしょう……」

勇也「抜け出す方法を考えないとな……。取り敢えず、今は歩いてみよう。もしかしたら、何か見つかるかもしれないから」

ナーチ「は、はい……」

× × × × ×

  10分後
  歩いている勇也とナーチ
  靴に砂が入ってくる
  不快感に眉を顰める
  しかし、堪えて歩き続ける

× × × × ×

  30分後
  表情に、疲労の色が見え始める
  砂の入った靴が、鉛のように重い
  勇也、息を切らしながら―

勇也M「何もない……。っていうか、砂と墓しかないから進んでるのかさえ分からない……。これ、エルマたちと離されたの、結構ピンチなんじゃ……?」

ナーチ「勇也しゃんは、いつから小説を書き始めたんでしゅか?」

勇也「え?」

勇也M「も、もしかして、気を遣ってくれてる……?」

勇也「えっと、確か中学2年生の頃からかな」

ナーチ「そ、そうなんでしゅね……」

勇也「……」

ナーチ「……」

勇也「ナ、ナーチは小説、自分で書いたりとかしないの?」

ナーチ「わ、私が小説なんて、そんな恐れ多い……」

勇也「いやいや、理想の世界を実現する権利は誰しも平等に持っているのだよ。用意するのはペンと紙だけ!君もどうだい?」

ナーチ「その、ペンと紙さえないでしゅから……」

勇也「あぁ、そっか……」

ナーチ「……」

勇也「……」

勇也M「いや、話しが重いよ!っていうか、互いに陰キャだから会話が続かない……!この二重地獄から抜け出すにはどうしたら……」

  勇也、ふと墓を見やる
  ハッと、目を見開く
  吸い込まれるように、墓石の前へ

ナーチ「ゆ、勇也しゃん……?」

  後を着けるナーチ
  勇也、一つの墓石の前に佇んでいる
  そこに刻まれた文字―

ナーチ「ミミゲ……?」

勇也「……犬の名前だ。俺が、小さい頃飼ってた」

ナーチ「え……」

勇也「当時から俺、友達いなかったからさ、ずっと一人で……。それを見かねた両親が、飼ってくれたんだ。凄く人懐っこくて、四六時中ずっと一緒にいた。もう、ミミゲさえいれば、あとは何もいらないって、本気で思ってたよ……」

ナーチ「仲良しだったんでしゅね」

勇也「……でも、死んじゃった。散歩してたら、突然走り出して。道路に飛び出しちゃって、車に轢かれて、そのまま……」

ナーチ「……」

勇也「だからね、めちゃくちゃ考えたんだよ。原因を」

ナーチ「え?」

勇也「俺の力が弱かったのか、リードが緩んでたのか、肌触りが気に入らなかったのか、車の音とか外の景色に興奮したのか、別の犬の匂いを感じたのか、俺には見えない何かを見たのか……。SNSで調べつくして、獣医さんにも聞いて……。次に飼う子は、絶対に同じ目に合わせないために」

  ナーチ、ハッと眉を上げる

  〔回想〕
  勇也「それじゃ、意味ないだろ。原因とか過程を調べないと、次同じことが起きた時、対処できなくなる……」

勇也「今、どうしてるかな……。ちゃんと、散歩行けてるかな……」

ナーチ「勇也しゃんは、優しいんでしゅね……」

勇也「……そうかな。俺はただ、自分が生きやすいように環境を……、状況を整えてるだけだよ。悲しいこととか辛いこととか、精神衛生上よくないでしょ?もう、あんな気持ちはごめんだよ……」

ナーチ「その、新しい子はなんて言うんでしゅか?」

勇也「ハグキ」

ナーチ「あぁ……」

ナーチM「さっきから名前のせいで、あんまり話が入って来ない……」

  その時、激しい地揺れ
  轟音、遠方から迫ってくる

勇也「な、何だ……!?」

  眼前、砂丘、弾ける
  立ち昇る砂の間欠泉
  一匹の巨大な獣、姿を現す
  勇也、その姿を見て唖然

勇也「ミミゲ……?」

ナーチ「え……?」

  血濡れの体、露出した内臓、折れた首
  真っ黒な瞳でこちらを見下ろす
  それを呆然と見つめる勇也
  闇に吸い込まれ、体が動かない
  ナーチ、その様子を見て決然とし―

ナーチM「私が……、私がやらなきゃ……!」

  飛び出すナーチ
  双剣を構え、首元に振るう
  しかし、弾かれる
  傷一つつかない

ナーチ「あ゛っ……!」

  ミミゲ、前足を振るう
  それが、ナーチを殴打
  吹き飛ぶナーチ、砂に塗れる

勇也「ナ、ナーチ……!」

  駆け寄る勇也
  ナーチ、眉を顰めて―

ナーチM「私は……、私は、また……」

  〔回想〕
  勇也「だから、自分でいることを諦めないで。自分の境遇に、絶望しないで。俺たちが、ナーチを許すから!」
  ピリオネ「そうデス。あの時ワタシがいなかったら、今頃蛇の開きデス。崇め奉り、尻尾の一つでも献上するデス!」

ナーチM「ずっと、助けられてばかりで……」

ナーチ「こんな、無力な私が、本当に仲間d—」

勇也「キャンセル!」

ナーチ「……え?」

勇也「ナーチの自虐、キャンセル!」

  ナーチ、微かに首を傾げる

勇也「ナーチは、無力なんかじゃない。だって、ちゃんと自分と向き合ってるから。弱さとか、欠点とか、嫌なところとか……。そんな自分を変えようとして、みんなの助けになろうとしてくれてる」

  〔回想〕
  ナーチ「せっかく仲間にしてもらえたのに……、私、まだ何も出来てないでしゅ……。だから今は、私が力になりたい……!」

勇也「そうじゃなかったら、自分からあんなこと言ったりしないよ」

ナーチ「……でも」

勇也「状況が悪かったら、まぁ嘆きたくもなるよ。今だって、ナーチ手加減してくれてるんでしょ?」

ナーチ「……!」

勇也「何て言うかな……、良い子なんだよ、ナーチは」

ナーチ「そう、なんでしゅか……?」

勇也「いつまでも過去に囚われて、いざという時体が動かない……、俺の方がよっぽど無力だ。でも、もう大丈夫。これが本当にミミゲなら、俺がやらなくちゃ……。燻ってる場合じゃない……!」

ナーチ「勇也しゃん……」

  響く、ミミゲの咆哮
  身構える勇也に、前足を振るう
  瞬間、紫の光がそれを受け止める
  そして、勇也の掌へ
  盟友の証石、紫紺に輝く
  ナーチ、ヨロヨロと立ち上がり―

ナーチ「……勇也しゃんが、そこまで言うなら……。私の力、存分に使い潰してくだしゃい!」

  力強く言い放つナーチ
  勇也、それにフッと微笑み―

勇也「これは、運命論だったんだな」

  勇也、ドライバーを取り出し装着

勇也「いくよ、ナーチ!」

ナーチ「はい!」

  証石、バックルに変形
  手首のスロットに装填
  暗殺者の鎧、装着
  飛び出す二人、目に見えない速度
  砂が、舞うのを忘れるほど

ナーチ「『プレヴラーシェ』!」

  ナーチの両腕、筋肉で肥大化
  まるで、鎧を纏っているかのように頑健
  その腕を振るい、ミミゲの四肢を切断
  崩れ落ちるミミゲ、砂埃が舞う
  その中から、現れるヴァラー
  双剣を構えて―

ヴァラー「俺の記憶を反映してるなら、まだまだだな!ミミゲの耳毛は―」

  ヴァラー、双剣を振り下ろす

ヴァラー「もっと長かった!」

  ミミゲの首を切り落とす
  轟音と共に地面に倒れ込む
  やがて、姿が揺らぎ霧散
  ヴァラー、変身解除
  ナーチ、駆け寄ってきて―

ナーチ「やりましたね!」

勇也「うん!これで、元の場所に戻れればいいんだけど……」

  眉を顰める勇也
  その傍ら、モジモジとナーチ
  勇也、それに首を傾げて―

勇也「どうかした?」

ナーチ「え、いやっ……、さ、さっき、その……、私のこと、良い子、って……」

勇也「え?あぁ、うん、ナーチは良い子じゃん」

ナーチ「きゃはっ♡」

  思わず顔を覆うナーチ
  耳まで赤いのが見える
  勇也、それに苦笑い

勇也M「も、もしかして耐性ないのか?ふっ、面白ぇ女……」

  掌、紫紺の証石
  勇也、それに視線を落とす

勇也M「みんな、無事d―」

  消える
  砂埃、微かに舞う



[44091] 第二六幕 機人少女はかまってちゃん
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/02/09 15:41
●命の日巡り

エルマ「魔界とは、地名の総称ではない……。魔界とは、魔結界が影響を及ぼした特殊領域のこと……」

ピリオネ「魔結界は、発動した瞬間に世界に存在しる勇者を強制的に呼び寄せる……。それが、今のワタシたちデス」

エルマ「つまり―」

  エルマ、天を仰いで―

エルマ「魔王が、目覚めた……」

× × × × ×

  どこまでも広がる永遠の闇
  四方八方を漆黒が覆う
  空も地も、境なし
  その中に一点、光がさす
  遠方、地面に埋もれた光が半分顔を出す

ピリオネ「ここから抜け出せなければ、ユグドライドの力が魔王の手に渡り、この世界は文字通り“終わり”デス」

エルマ「私たちが固まってしまったのは痛手ですね。勇也様たちは、平静でいられるでしょうか……」

ピリオネ「にしてもオマエ、よく知ってるデス。この世界のこと」

エルマ「神官として、当然のことです。魔法、この世界の知識……、あらゆる研鑽を積んできましたから」

ピリオネ「そうデスね。それがオマエの強さの根源であり、同時におかしな点デス」

エルマ「おかしな点?」

ピリオネ「今の時代、神官は龍人族が務めているはずデス。オマエらエルフが下賤種に堕ちてから、神官の務めは龍人族に成り代わったはずデス」

エルマ「……ピリオネ様も、よくご存じですね」

ピリオネ「舐めるなデスッ。マキナ族の使命は、ボーテミュイズンの監視。これまで、あらゆる時代の、あらゆる姿のこの世界を、この目で見てきたデス。デスが、ここ500年、エルフの神官はオマエを覗いて一人も見たことがないデス」

エルマ「……」

ピリオネ「どうしてオマエは、エルフの身でありながら、今尚神官であり続けるデスか……?」

エルマ「それは―」

  エルマ、伏せた顔を上げる
  静かに、それでいて熱量の籠った声で―

エルマ「私には、果たすべき使命があるからです」

ピリオネ「果たすべき、使命……」

  エルマ、真っ直ぐにピリオネを見つめる
  ピリオネもまた、エルマを見つめる
  互いの瞳が呼応し合う
  無音、重い沈黙が落ちる
  やがてピリオネ、「はっ」と鼻を鳴らし―

ピリオネ「ま、別にどうでもいいデス。誰が神官をやろうが、オマエの使命が何だろうが、ワタシに迷惑をかけない範囲で勝手にしろって感じデス」

  あっけらかんと言い放つピリオネ
  エルマ、それに溜息をつく
  どこか、緊張の糸が解けた様子
  しかし再び、空気が切り替わる

ピリオネ「そう、ワタシが気になるのはそこじゃないデス」

エルマ「え?」

ピリオネ「エルフ族と龍人族……、この世界の魔力を司る二大種族。確か龍人族は、『生涯で出来る限り多くの魔法に触れること』。そして、エルフ族は―」

エルマ「……『生涯で、一つの魔法を極めること』」

ピリオネ「あぁ、そうデスそうデス。で、オマエはどうなっているデス?」

エルマ「え……?」

ピリオネ「オマエが今まで使ってきた数多の魔法……。ワタシからすれば、オマエはどちらの種族の掟からも外れているように見えるデス……。一体その身に、どれほどの魔力を内包し、どれほどの魔法を極めているデスか……?」

  ピリオネ、狂気に目を見開く
  エルマを糾弾する目つき
  沈黙、空気が張り詰める
  エルマ、それにフッと微笑んで―

エルマ「私は、ただのエルフ。神官に憧れた、ただのエルフです。それ以上でも、以下でもございません」

ピリオネ「……そうデスか」

  エルマ、パンッと手を叩いて―

エルマ「私の話しはおしまい。今度は、ピリオネ様のお話を聞かせてください」

ピリオネ「ワタシの、デスか?」

エルマ「えぇ。これまで、魔機学に関する文献もいくつか目にしました。私の中では、御伽噺のような感覚だったのですが、今こうして相対することができて、感動しています」

  エルマと目を合わせないピリオネ
  どこか、吐き捨てるように―

ピリオネ「はっ、嘘つくなデス」

エルマ「え?」

ピリオネ「ワタシたちは、魔機学の結晶として生まれてからずっと、この世界を監視してきたデス。誰とも、関わることもなく……。ワタシたちの存在を知っている種族など、いないに等しいデス。ましてや、感動だなんて、思ってもないこと言うなデス」

エルマ「ですがあなたは、勇也様と接触し、こうして行動を共にしている……」

ピリオネ「全ては利害の一致。演算が導き出した最善の選択デス」

  ふいとそっぽを向くピリオネ
  エルマと目を合わせようとしない
  まるで、いじけた子供のよう
  エルマ、それに小首を傾げて―

エルマ「……もしかして、寂しいのですか?」

ピリオネ「……は?」

エルマ「本当は相手にされたくて、構ってもらいたくて、あのような言動を……」

ピリオネ「確かに、ワタシはマキナ族の中でも感情を持った個体デス。デスが、ワタシは常に客観的な事実を基に発言しているデス!そんな、幼稚な感情に振り回されている訳じゃないデス!」

エルマ「それなら、先ほどの私の発言も、嘘ではありませんよ?」

ピリオネ「何デス?」

エルマ「ピリオネ様は、そう思っていないかもしれませんが―」

  〔回想〕
  ピリオネ「これが、ボーテミュイズンの現状。高貴種が下賤種を支配する。獣人族は、奴隷であることを強いられている。この世界が始まって以来、種族間に刷り込まれた覆しようのない常識デス。オマエらが勇者一行でも、こればかりは手の出しようがないデス」

エルマ「私は、ピリオネ様に勇者一行の一員になっていただきたいと思っています」

ピリオネ「はっ、ワタシにそんな義理はないデス。魔王とかどうでも良い、仲間ごっこならオマエらで勝手にやってろデス」

エルマ「そうですか……。でも、私の想いは変わりません。世界の監視者であるピリオネ様が加わってくだされば、きっと百人力です」

ピリオネ「百人力?」

エルマ「えぇ、魔王如き、私たちには手も足も出ないでしょう。きっとこの世界に、永久の安寧をもたらすことができる……」

ピリオネ「オマエ、どうしてそこまで……」

エルマ「私が、ピリオネ様を尊敬しているからです」

  ピリオネ、ハッと目を見開く

ピリオネ「ま、まぁ、オマエがそこまで言うなら、考えてやってもいいデスけど……?」

エルマ「本当ですか!?」

ピリオネ「あと、“様”はいらないデス。気軽に“ピリオネ”と呼べデス……」

エルマ「ふふっ、ありがとうございます、ピリオネ」

ピリオネ「さて、そろそろ体が動かなくなってきたデス」

エルマ「そうですね」

  暗闇の中の、一点の光
  いつの間にか、反対側へ移動している
  まるで、水平線に沈む太陽

エルマ「命の日巡り……。領域内に召喚した者の寿命を操り、強制的に死へと導く……」

ピリオネ「あの光が沈めば、ワタシたちも死ぬ……。まさに、魔王に相応しい卑劣さデス」

エルマ「ピリオネ様―」

  エルマ、ピリオネに真っ直ぐ向き直り―

エルマ「お手合わせ、願えますか?」

  ピリオネ、ニヤッと口角を上げ―

ピリオネ「面白いデス。勇者一行の魔法使いの実力、見せてもらうデス」

  微笑むエルマ
  柔らかく、そして勇ましい笑み
  杖をバッと突き出して―

エルマ「『ヴズリーブ』!」

  眼前、巨大な爆発
  空気が弾け、揺れる
  ピリオネ、身を翻し後退

ピリオネ「幕開けに相応しい派手さデスッ!」

  ピリオネ、眼球から光線
  無数のレーザー、一直線にエルマに飛ぶ

エルマ「『レフレークス』!」

  魔法壁、レーザーを反射
  四方八方に飛散

エルマ「……!?」

  ピリオネがいない
  ふと、影が落ちる
  見上げる
  頭上を飛ぶピリオネ
  エルマ、杖を地面に突き立てて―

エルマ「『ゲイゼール』!」

  地面から、無数の光柱
  ピリオネ目掛けて突き昇る
  身を翻し避けるピリオネ
  手に持つは、無数のナイフ
  エルマ目掛けて投げ飛ばす
  その一本、エルマの手首を掠める

エルマ「……っ!」

  カタン、杖が落ちる
  ポタポタ、血が滴る
  ピリオネ、悠然とした顔で―

ピリオネ「自分から喧嘩売ってきた割には、大したことないデスね。そんなんで、本当にこの世界を救えるデスかぁ?あぁ、それとも、自分には出来ないからワタシをパーティに誘ったデス?そういうことなら、喜んで加わってやるデス!オマエの後釜になって、オマエを嘲笑い、オマエが果たすべきポジションで、オマエを遥かに凌ぐ功績をあげ、オマエの代わりに賞賛されてやるデス!」

  喧しく高笑うピリオネ
  エルマ、それに歯ぎしり

エルマ「う、う゛ぅぅぅ……」

ピリオネ「何デスか?悔しいデスか?唸り声なんてあげて惨め、まるで獣人デス。オマエも、アイツらに紛れて肥溜めで働くといいデス!同じ下賤種同士、お似合いデス!」

エルマ「う゛、ぅあ゛ぁぁぁっ゛……!」

  唸るエルマ
  その声、徐々に大きく、猛々しくなる
  やがて、ピリオネに落ちる影
  それが、徐々に膨張していく
  ピリオネなど覆いつくすほど巨大で奇体に
  目を見開くピリオネ
  微かに、眼球が揺らいでいる
  やがて、乾いた笑みを溢して―

ピリオネ「……なるほど、これがオマエの、力の根源デスか……。これは、お手上げデs―」

× × × × ×

  どこまでも広がる暗闇
  一点の光、もうほとんど見えない
  その中、一人佇むエルマ
  天を仰ぎ、息を切らしている
  魔法の杖、自分の首に突き立て―

エルマ「……『リダミール』」

  真っ赤な華が咲く



[44091] 第二七幕 陜輔∪繧後※縺?¥
Name: であであ◆b51e0746 ID:7a189a35
Date: 2025/02/09 15:42
●鮮血の泉

  拳、交わる
  けたたましい轟音、衝撃が迸る
  睨み合うバスティとガンテ
  沈黙、鮮血のせせらぎ

ガンテ「ねーちゃん、飽きた」

バスティ「アタシも」

× × × × ×

  噴水のヘリに腰かける二人
  止めどなく溢れる鮮血
  赫赫と輝いている
  空は荒んだ赤色、太陽も月もない

ガンテ「107戦中89勝。俺ってば、やっぱ才能あんだな~」

バスティ「レベルが上がったんだから、当然でしょ」

ガンテ「あれあれ~?未だに仮面ライダーに変身できねぇやつとか、いねぇよなぁ!?」

バスティ「くっ……!アタシだって―」

  バスティ、唐突に立ち上がり―

バスティ「っていうか、ここ何なのよ!ずっと血溢れてて気持ち悪いし、もう何時間も閉じ込められたままなんだけど!」

ガンテ「落ち着けって。多分、にーちゃんたちも別のとこに連れてかれてんだ」

バスティ「この噴水が悪いのよ!こんなもの……!」

  拳を構えるバスティ、飛び出す
  しかし、血に足を滑らせて―

バスティ「きゃっ!」

  倒れるバスティ
  それを、ガンテが咄嗟に支える
  呆れてため息をつき―

ガンテ「ったく、大人しくしてろってんだよ」

バスティ「……ふんっ、子ども扱いしないでよね」

ガンテ「はいはい」

  バスティ、パンパンと体を叩く
  やがて、落ちる沈黙
  その中、モジモジするバスティ
  ツンと唇を尖らせて―

バスティ「……う、嬉しかった?」

ガンテ「何が」

バスティ「ア、アタシに、触れて……」

ガンテ「……あぁ?」

バスティ「だって、あの時―」

  〔回想〕
    バスティに抱き着いているガンテ
    消え入るような小さな声で―
  ガンテ「ずっと、俺が守ってやる」
  バスティ「……!」

バスティ「あの時から、ちょっとおかしいのよ、アタシも……。だから、ここでハッキリさせたい。アンタは、アタシのこと―」

  バスティ、ガンテに振り向く
  その唇が、奪われる

バスティ「……っ!」

  優しく触れあう、唇と唇
  永遠に感じるほど長い
  やがて、舌と舌が絡み合う
  漏れる吐息はバスティの
  激しく、淫靡な音が響く

バスティM「ガンテ……」

  もう、何も考えられない
  脳が痺れ、瞳が蕩ける

??「こんな状況で、お盛んなことねん」

  ハッと意識を取り戻すバスティ
  声のした方に構える
  キュバラー、噴水に腰かけている
  しっとりとした目つきでこちらを見て―

キュバラー「ごめんなさいねん、お邪魔しちゃって」

ガンテ「んなこたねぇよ。ここがどこか、教えてくれりゃな」

キュバラー「そうね、アータらとも長い付き合いだし、特別に教えてあげるわん」

  キュバラー、目を細め―

キュバラー「魔界……、正確には、魔結界の一つねん」

バスティ「魔結界……?」

ガンテ「ってことは―」

キュバラー「魔王、セミアデス・ブラディカ様が、ついに目覚めたのよ!」

  手を広げ、高らかに言い放つキュバラー
  バスティとガンテ、その事実に唖然

キュバラー「ここは、魔結界『鮮血の泉』。その血はね、浴び続ける者の精神を蝕んでいくのん。最初は高揚してハイに、そこから沈んで鬱に、そして最後は狂気に堕ちる……。それこそ、自死を選ぶほどのねん」

ガンテ「ふざけんな!どうやったら出れんだ!」

キュバラー「まさか、出すわけないわん。そのために、こうしてアーシがいるんだものん」

ガンテ「何……?」

キュバラー「魔族冥衆・リーシェティムは家族……。魔王様には、指一本触れさせないわん」

バスティ「ふんっ、随分と自信あるようじゃない。アタシたち相手に」

キュバラー「あら、忘れたのかしらん?アーシは淫鬼族……、鬼なのよん?生半可な力で、アーシに勝とうなんて―」

  直後、凄まじい風が迫る
  ガンテの拳が空を切る風だ
  一足で跳躍、キュバラーに迫る
  そして、拳が顔面にめり込む
  地面に叩きつけられるキュバラー
  パチパチ、瞬きしながら―

キュバラー「……あらん?」

ガンテ「散々弄ばれてきた恨み、ここで晴らしてやるぜ!」

  ガンテ、キュバラーに馬乗り
  顔面に、無数の拳を浴びせる
  キュバラー、もはや抵抗しない
  目は虚ろ、やがて意識が遠のいていく
  最期、微かに唇を震わせて―

キュバラー「かわい、そう……、自覚、ないの、ねん……」

  キュバラー、息絶える
  瞳から、スッと光が消える
  しかし、ガンテ、拳を止めない

バスティ「ガンテーっ!!!」

  瞬間、飛びついてくるバスティ
  ゴロゴロと転がる二人
  バスティ、ガンテに馬乗りになる
  前のめりに顔を近づけて―

バスティ「アタシと交尾しなさい!」

ガンテ「っしゃあ!服脱ぐからそこどけ!」

バスティ「獣人にはね、性奴隷にされてる子もいるのよ!どんな感じなのか、ずっと気になってたの!」

ガンテ「これからは、俺のことご主人様って呼べ!」

バスティ「でも、どうすればいいのか分からないのよね!」

ガンテ「俺もだ!」

バスティ「アンタの親はどうやったのよ!」

ガンテ「お袋が親父持って、自分で出し入れしたって話し聞いた!」

バスティ「そう、地獄絵図ね!」

ガンテ「出し入れって何だ!?」

バスティ「さぁ!?」

ガンテ「でも、あんなに仲良いのに、二人でいるところ見たことないんだよな……」

バスティ「アタシも、ママが死んじゃってからは、パパと二人っきり……」

ガンテ「家族なのに、何でだよ……」

バスティ「パパも大好きだけど、やっぱりママが忘れられない……。未だに、夢に見るもの……」

ガンテ「もしかして、俺が愛されてないだけ……?俺がいないところでは、二人は仲良く暮らしてるのか……?今家に戻ったら、また仲良く出し入れしてるのか……?」

バスティ「どうして、アタシなんて生まれてきたのかしら……。ただの奴隷に、何の生まれてきた意味があるの……?いえ、アタシは村から逃げた……。種族の務めすら果たせないアタシに、そもそも価値なんてないんだわ……」

ガンテ「半端者の俺に、味方してくれるやつなんていないんだ……」

バスティ「ねぇ、ガンテ……」

ガンテ「あぁ……?」

  顔を上げるガンテ
  直後、強烈な打撃が顔面に炸裂
  思わず、倒れ込むガンテ
  バスティ、それを見て狂喜し―

バスティ「あははっ、分かる!?それが、アタシたち獣人族の痛みよ!世界の上で踏ん反り返ってるアンタには、一生分からないでしょうね!」

ガンテ「くっ……、はは、ははは……、あははははっ!」

  ガンテ、歪に口角を歪める
  噴水に、拳を振るう

ガンテ「死ね!死ね!死ね!死ねぇ!」

  何度も何度も、殴りつける
  しかし、ビクともしない

ガンテ「クソがぁぁぁぁぁっ!」

  ガンテ、巨大な砲台を錬金
  響く轟音、重い衝撃が空を薙ぐ
  迸る血飛沫、あがる煙
  その中から、バスティの爪が飛び出す

バスティ「死ねーっ!」

  爪、ガンテの右目を切りつける
  ピッと血が舞う

ガンテ「……っ!」

  ガンテ、拳を構えて―

ガンテ「おらぁ!」

  バスティの腹部に一振り
  しかし、それが―

バスティ「ごぼぉっ……!」

ガンテ「……!」

  貫通してしまった
  赫赫と照り付けるガンテの腕

バスティ「げぼごぉぉぉぁっ……!」

  バスティ、大量に吐血
  しかし、その口角は不気味に上がっている

バスティ「……あは、あはは、あはははっ……!やった、やっと、ママに会える……!ママ、今行くわ……」

  手を天に掲げ、恍惚と口にするバスティ
  息を切らすガンテ、ギリッと歯ぎしり
  そして、バスティの顔面を殴りつける
  何度も、何度も、何度も

ガンテ「はは、ははは……、はは、ははは……!」

  ドスドス、鈍い音が響く
  返り血、ガンテの顔に飛ぶ
  やがて、水気を含んだ音に変わる
  バスティの頭部、もはや原型はない
  ドロドロのグチャグチャ
  湧き出る鮮血といっしょくた
  コロコロと転がる眼球、ガンテを見つめる
  次第に、地面に広がっていくヒビ
  頭部のないバスティの体、妙に艶めかしい
  ガンテ、それを見て頬を赤らめる
  歪めた口元、端から涎を垂らし―

ガンテ「俺も、すぐ行くから……」

  フラッと立ち上がり、両手を前にかざす
  無数の銃を錬金
  その銃口が向く先は―ガンテだ
  一斉射撃
  ガンテ、旋毛から爪先まで風穴
  止めどなく溢れる血
  ドチャッ、地面に倒れる
  一筋の涙、頬を伝う
  瞬間、全てが真っ黒になる

× × × × ×

  ハッと目を覚ますガンテ
  直立している
  眼球だけで、辺りを見回す
  煮え滾るマグマのような空
  眼前、聳える巨大な城
  見上げるガンテ、瞳が痙攣する
  ガンテの隣に立つバスティ
  同じく、唖然としている

勇也「バスティ、ガンテ……?」

  ふと、掛けられる声
  勇也、こちらを見ている
  心配そうに眉を歪めている
  エルマ、ナーチ、ピリオネの姿も

エルマ「よかった……。みなさん、無事に合流出来ましたね」

  エルマ、安堵の柔らかい声音
  しかしガンテ、反応出来ない
  言葉が、頭に入って来ない
  その意味が、認識できない
  やがて、乾いた笑いが零れる

ガンテ「……はは……、はは……」

勇也「ガンテ……?」

  ガンテ、白目をむき―

ガンテ「疲れた」

  バタッ、倒れる


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