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[4438] 色欲のルルーシュ(CodeGeass ※壊れ)
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:11fd1fa6
Date: 2009/12/05 21:19
※ 性格改変、設定捏造、TSなどで構成される話ですので、そういった話を不快に思われる方はスルーして頂くのが賢明かと思われます。
また、最終回の雰囲気を壊したくない方もスルーを推奨致します。

 2008年10月14日、テスト板より移行

 2009年12月05日、注意事項にTS追加




[4438] 色欲のルルーシュ~プロローグ~ 『バカ が 生まれた 日』
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:11fd1fa6
Date: 2008/10/14 20:35


 色欲のルルーシュ~プロローグ~ 『バカ が 生まれた 日』







 Cの世界1日目

 ゼロ・レクイエムを成就した後、再び意識を取り戻した俺が存在したのは、Cの世界だった。

 まず目にしたのは、ロロ、シャーリー、ユフィと言った、もう会えないだろうと思っていた人達。
俺がしてきた仕打ちを咎めるでもなく、労いの言葉を掛けてくれる三人に思わず目頭が熱くなる。
抱えきれない罪を犯しながら死んだ俺に与えられたのが、こんなにも優しい世界で良いのかと思いもしたが、それでも胸が暖かくなるのは止められなかった。
その後、それぞれに感謝や謝意を告げながら、現世での溝を埋めていき、Cの世界での基本的な過ごし方などを教わる。
なんでも特にやる事もないそうなので、日がな一日、下界(?)を観察して過ごしたり、親しい人達で茶会を楽しんだり、まったりと過ごすそうだ。

 遺してきたスザク達に申し訳ないと思わないでもないが、いまは先達の言に従いCの世界を満喫してみようと思う。




 Cの世界2日目~

 あれから、俺も少しずつCの世界での過ごし方に慣れてきた。
書庫で読書に興じたり、シャーリー達と戯れたりと、反逆していた頃から見れば考えられない、穏やかな時間を過ごしている。
その間、前皇帝の父シャルル、母マリアンヌ、義兄クロヴィス、V.V.、そしてマオなどとも顔を会わせたが、基本、俺の復讐の餌食になった連中の為、死後も相容れる事はなかった。
両親には「ぶゥるわァァ!」と吼えられるか、「そんな子に育てたつもりはないわ!」と泣き叫ばれ、V.V.には「呪われた皇子めっ!」と罵られ、クロヴィスには話す間もなく逃げられ、マオは「しーつーしーつー」煩くて会話できない。
それ以外にも、俺のせいで死んだ人、俺が殺した人がそれなりにいて、この程度が自身への罰になるとも思わないが、中々に肩身の狭い思いもしたりしている。
確かに、死んだところで恨みが消える訳もないだろう。
そう考えるとシャーリー達三人の与えてくれる慈悲の心のなんと有り難い事か。
感謝してもし足りない。



 Cの世界30日目~

 と、日数を書いて見たものの、時間の概念がないらしいこの世界では、あくまで体感的なものに過ぎない。

 この位になると、Cの世界に完全に順応してしまい、逆に退屈を覚えるようになった。
そうした時の対処方として真っ先に挙げられるのが、下界の観察だろう。
大切な人達を遺してきた世界が気にならない筈もなく、暇さえあれば下界に目をやる日々だ。
世界のこれからの行く末も気にならないではないが、観察対象としては、やはりナナリー、C.C.、スザク、カレンやナナリー、ジェレミア、そしてナナリーといった個人に気が向いてしまう。

 どうやら、こちらとあちらでは時の流れも違うらしく、俺の死を悼んでくれていた人達も、もう随分と前から気丈に前を向き歩きだしている。
ブリタニアの代表として起つ事を決めたらしいナナリーにも、ゼロとなったスザクがついているし、俺はここから安心してナナリーの、そして世界の行く末を見守ろう。



 Cの世界90日目位~

 寂しい。
近頃よくそう思うようになった。
もちろん、今の現状に不満はない。
シャーリーも、ユフィも、ロロも、皆が皆、俺の荒んだ心を様々な方法で癒してくれる。
俺が寂しさを感じるのは、もっと別の事柄。
有り体に言えば、そう下界の事だ。

 あぁ、ナナリー。まさかお前とスザクが付き合い始めるなんて…。
本当なら二人を祝福してやりたい。
俺がいない以上、ナナリーを任せられるのはスザクしかいない。
スザクにだってナナリーの優しさは救いに感じる事だろう。
だが、なんだ。この疎外感は?
決して、スザクが積極的にナナリーを口説いている現場を目撃したからではない筈だ。
あまつさえ、その時にスザクが口にした「僕がルルーシュを忘れさせてあげるよ」と言う言葉に、この裏切りの騎士が!なんて思ったりもしてない。
しかし、スザク。俺にはどうしても、お前が生きて罰をうけ続ける人間の顔をしている様には見えないんだ。

 …いや、俺は既に退場した人間。もはや何も言うまい。
ナナリーが幸せであってくれさえすれば、俺は、………ナナリー、グスッ。



 Cの世界120日目位~

 これが俺に与えられた罰なのだろうか?
先日、ついにナナリーの純潔が散らされた。
ナナリーとスザクが付き合いだして以来、二人の動向だけを観察し続けていた俺は、その光景をアリーナ席でまざまざと見せつけられた様なものだ。
ナナリーを相手にハッスルするスザクの勇姿は、この俺を以てしても流石は、我が最強の騎士ナイト・オブ・ゼロだと、唸らざるを得ないものだった
スザクめ!初心なナナリーを相手取りながらお得意の回転まで駆使するとは、なんと容赦のない男だッ!
実戦経験なく死んだ俺にできた事は、スザクのアレを見て、ふん、所詮イレブンか。と蔑むことで自分を慰める事だけ。
フッ、一時は世界制覇をも成したこの俺が、堕ちたものだ。

 しかし、頬を上気させたナナリーのなんと愛らしいことか!
何故、相手が俺じゃな―――ハッ!何を考えているんだ、俺は…。
ナナリーはあくまでも妹。妹なんだ。

 ………ハァハァ、ナナリー。



 Cの世界150日目位~

 鬱だ。
毎晩毎晩、ナナリー相手にゼロの仮面を脱ぎ捨てビーストモードにチェンジするスザク。
あまりに辛い現実を直視できなかった俺は、下界の観察を止めた。
別にナナリー達を見なければ良いとも思ったが、他に目を向けてみても、カレンにジノ、ミレイにリヴァル、ジェレミアにアーニャetc…、えぇい、どいつもこいつも!
まぁ、良い。
俺はピーピングなんてもとから趣味じゃなかったんだ。
…C.C.、やはり俺の共犯者はお前だけだ。



 Cの世界160日目位~

 絶賛引き篭り中。
王の力は俺を孤独にすると言う言葉は、強ち間違っていなかった様だぞ、C.C.。
シャーリー達が俺の調子を察して、懸命に励ましてくれるものの、いまの俺にはそれに応える気力すら湧かない。

 あぁ、ナナリー。



 Cの世界162日目位~

 Cの世界の片隅で膝を抱え失意に沈む俺は、ふと人の気配を感じて顔をあげる。
シャーリーか。こんな俺なんかにいつもいつも構ってくれるなんて、君は本当に優しいんだな。
でも俺は大丈夫だ。この絶望からだっていつかきっと立ち直ってみせる。
え?「ルルが好き」だって?
止してくれ、俺は君に想ってもらえる様な男じゃない。
それでも、シャーリーは俺を抱き締めて優しい言葉を投げ掛けてくれる。
シャーリー、本当に止めてくれ。こんな時に優しくされたら、俺は…。
「私じゃダメ?」なんて、決してそんな事はないんだ。ただ俺は。
狼狽える俺に「私はずっとルルの傍にいるよ」なんて言ってくれるシャーリー。
俺は、おれは…。

 トドメはシャーリーからの口づけだった。
呆然とする俺に頬を染めて「ルルにならいいよ」なんて。

 ………シャ、シャーリィーーーッ!!



 Cの世界200日目位~

 シャーリーと関係をもった俺は、ものの見事にシャーリーに溺れた。
下界のスザクすら足元に及ばない程に日夜フルスロットルな日々を送り続け、気付けばこんなにも期間が経過していた。
しかし、こんなにも素晴らしいものだったとは!

 シャーリーと過ごす日々は、確実に俺を立ち直らせてくれた。
今ならナナリーとスザクの仲睦まじい様も、口の端から血を滲ませる程度で眺める事ができる。
横で穏やかな寝息をたてるシャーリーを見ながら強く思う。
これが想いの力ッ!
シャーリー、君はなんて凄いんだ。
今まで気付けなかった俺はなんてバカなんだろう。
C.C.。お前が「童貞坊や」と俺を罵った理由が良く分かったよ。
童貞が世界制覇なんて、鼻で笑われても仕方なかったな。

 おっと、シャーリーが目を覚ました様だ。
フハハハ、ヤる事もできたし、今回はここまでにしておこう。



 Cの世界212日目位~

 昼間からシャーリーと励む。
涙目で抱きつかれ、耳元で「ルルゥ」とか言うのは反則だ。
ダメだ、このシャーリー可愛い過ぎる。はやくなんとかしないと…。
そう思った直後、俺達が行為中の部屋に入ってくる人影が三つ。

 ロロとユフィは、まぁ分かるとしても、か、母さん!
いつもは「親不孝者!」とか言って近づいても来ない癖に、何故こんな時に限って!?
顔を真っ赤にして固まる俺達四人を尻目に、「あらあら、やっぱり父子よねぇ」って、動じないにも程がある。
いいから、早く出ていってくれ!



 Cの世界215日目位~

 この前の事があってから、俺もシャーリーも流石に色々と控えている。
控えてはいるが、情事を目撃されてしまった気まずさは如何ともし難く、ユフィとロロを交えた四人でいる時に微妙な空気が漂う様になってしまった。
そんな不和を少しでも解消すべく、俺はユフィと散歩しながら語らっていた筈…だったのだが、何故俺はユフィに押し倒されているんだ?

 知っている。このユフィの上気した様な瞳を俺は知っている。
これは、ベッドの中でのシャーリーと同種の!
マズい!三日間にも及ぶシャーリー断ちの影響で、俺も興奮してきてしまっている!
どうにかこの場を切り抜けなければ、シャーリーにだって申し訳が立たないじゃないか!
ユフィ、待つんだッ。君を嫌っている訳じゃない。ただ俺達は半分とは言え血の繋がった兄妹………、「関係ありません」だと?バカな事を言うな!それが罷り通ってしまったら、俺はなんの為にナナリーを諦め、って違う!そ、そうだ、君はスザクの事を想っ…ン?
ユフィが指差したのは下界…のスザクとナナリー。
スザクめッ、またしてもナナリーに手を!
のべつ幕無し求められて困惑しているナナリーが分からないのか、あの性獣!
いやいや違う。ユフィ、スザクに対して言いたい事は大体理解したが、それとこれとは…。
「昔、わたくしをお嫁さんにしてくれると言ったのは嘘だったのですか?」って、そんな子供の時の話を…、だから、ユフィの事は好きだ!でもそれは、ま、待ってくれ、俺にはシャーリーが………。

 こうして、俺は一つの禁忌を犯してしまった。
初めてで野外とは、なんて恐ろしいお姫様だ。
同時に、俺の中での兄妹愛に関する自制の枷が緩む音も聞こえてきたが、全力を以て無視した。

 内容については、………流石俺の初恋の人、とだけ言っておこう。
シャーリー、すまない。………グスッ。



 Cの世界216日目位~

 ユフィに襲われた日から、俺は非常に危険な綱渡りをしている。
シャーリーにバレない様にユフィと、ユフィにバレない様にシャーリーと。
いや、ユフィはシャーリーとの関係を知った上で関係を結んだのだが、それでも気を使うのは確かだ。
ロロも交えた四人で茶会を開いた時などは、どうにかこうにか話がそっちに行かない様に、策を巡らしている。
まったく、ゼロとして活動していた時以上の仮面生活だ。

 しかし、近頃はシャーリーとユフィだけでなくロロまでもが俺を見る目が怪しい。
たまに「兄さんが望むなら僕だって…」とか、言ってくるのは本当に止めてくれないだろうか。
女の良さを知ってしまったいまの俺、いや、そうでない時からもだが、男を相手に突っ込むのも突っ込まれるのも、俺は絶対に御免だ。
あぁ、ロロ。そんなに切なそうな視線を寄越さないでくれ。
今となってはお前も俺の大事な弟だが、それでも、兄弟愛で性別を超える事は出来ないんだ。
せめてお前が女だったなら、病んだ一途さと言い、命懸けの献身と言い、ナナリーには及ばずとも匹敵し得る潜在妹力を持った逸材だったろうに!
そう考えるとなんて惜しいヤツだ、ロロ。

 いかん、シャーリーが呼んでる。



 Cの世界229日目位~

 今日も今日とて俺は腰を振る。
たった今シャーリー相手に3Rを終え、これから4Rに…、と言うところで、俺達のいる部屋のドアが勢いよく開いた。
またこのパターンか、って、ユフィ!?
待て、待ってくれ。違…くはないんだが、えぇい、何も思い浮かばない!
突発的なアクシデントに弱いという俺のウィークポイントは、死んでも治ってないらしい。
ここから話に聞く修羅場が展開するのかと、半ば諦めに近い覚悟を決めた俺の前で、ユフィが服を脱ぎ始める。
「どういうコト?」とシャーリーに訊かれるが、いや、俺にも状況が…。
って、ユフィ。「わたくしも混ぜてください」って、お前は何を言ってるんだ。
いや待て。シャーリーも「負けませんから」じゃないだろう。火花を散らすな!
怖いから二人して獰猛な笑みを浮かべないでくれ。
く、来るなァ!

 結局、4Rは2vs1の変則マッチに移行したあげく、俺のTKO敗けにて幕を閉じる事となった。
シャーリー、ユフィ。君たちはそれで良いのか?



 Cの世界241日目位~

 女は魔物だ。
あれ以降、シャーリーもユフィも積極性を増してしまった。
来る日も来る日も愛欲に埋もれる日々に、俺自身も性格的にはっちゃけてきている気がしてならない。
と言うか、Cの世界に来てからナニしかしてない気が…。
これで良いのかと思わないでもないが、彼女達の甘い誘惑に抗えないのも、また事実。
まさに、朝も夜も恋い焦がれて、と言うヤツだ。
悪逆皇帝と畏れられたこの俺が、これ程までに堕落するとは!

 あぁ、また彼女達が呼んでいる。
ん?今日も三人で、か。
ふ、フハハハッ!いいだろう、ヤッてやろうじゃないか!
いまイクよ、俺は流れ星ッ!

 …ロロ。お前は来なくて良い。



 Cの世界245日目位~

 この頃は、ほぼ2vs1の戦局が続いている。
戦いは行方知らずどころではなく、敗けっぱなしだ。
圧倒的な戦力差。
しかし、このままで終わらせる気は俺には更々ない。
俺のプライドに賭けて、今度こそ二人同時に満足させてみせる!
その為には、まずはスタミナ、そして知識とテクニックを身につける事が急務か。
…知識とテクニックは癪ではあるがヤツに教えを請うとして、スタミナは、…む、ロロ良いところに来てくれた。体力作りのトレーニングに付き合ってくれ。
って、なんだその残念そうな顔は。
「そっちか」って、お前はどっちを期待していたと言うんだ。



 Cの世界259日目位~

 「よぉく来たぬァ、むぅす子よォ」とか、いま俺の前で声を張り上げている巨漢は、認めたくはないが俺の遺伝子提供者の片割れである元皇帝シャルル・ジ・ブリタニア、その人だ。
そう、俺は現在ロロとの体力トレーニングと平行して、この男にアッチ方面の教えを受けているのだ。
何故父とも認めぬ輩に下げたくもない頭を下げてまで、教えを請うかだって?
俺には、この男に頭を下げる事よりも、シャーリー達に連敗続きな現状の方が我慢できないからに決まっている。
何より勝利を掴みとる為には、この男の教えは必要不可欠。
何せ、百八人もの妻を娶り、バカみたいに子供を産ませた性豪だ。
事、性の方面にかけて教授されるにあたって、この男以上の人材はいる筈もない。
「先日むぅあで生むぅすめだった者ォ、たぁかだかふぅたりすぅら満足にゥ相手できぬとわぁ、ぬぅあんたる脆弱さァ」と言われた時には、この世界でも反逆してやろうかとも思ったが、成る程、確かにコイツの教えは為になる。
KO続きだった対シャーリー、ユフィ戦線で判定にまで勝負の行方を持ち込める様になったのは、間違いなくシャルルから受けた教えのお陰だろう。
思えば、当時まだ童貞だった俺が、よくこの英傑に打ち勝てたものだ。
今のままでは、もう一度勝てる気がしない。
フッ、認めたくはないが、流石は我が父上と言う事なんだろうな。

 物思いに耽る俺に、横で沈黙を保っていた母が声を掛けてきた。
え、「これからシャルルと一戦交えるけど、参考までに見ていく?」だって?


 だ れ が 見 る か !



 Cの世界275日目位~

 俺は猿じゃない。その筈だ。
猿と言われる程に盛っていないし、猿とは比べるべくもない学習能力だってある。
証拠に、いま父から伝授されている最中の『ブリタニアン性術』も、後は奥義の習得を残すのみとなっているしな。
そのお陰か、シャーリー達をまとめて相手にした時も、少しずつだが白星も増えてきている。
愛とは限りなく与えるもの、を一つのスタンスにしている俺にとって、情事の後の彼女達の満足しきった寝顔を眺めるのは、この上無い至福でもある。
だから、決して肉欲に溺れているわけではない。
だから俺は、断じて猿なんかじゃない。
言うなれば、そうッ!これは俺の矜恃をも賭けた人としての闘いなんだ!

 …それにしてもナイト・オブ・トゥエルブ、確かモナ、いやモニカと言ったか。
あまり面識は無いが、中々に美人だと思うんだが、どうだろう?



 Cの世界296日目位~

 日夜続くシャーリー達との戦いと、過酷な特訓。
その甲斐もあってか、ネックであったスタミナ不足も、僅かにではあるが解消されつつある。
そんな中で得られた久しぶりの休養日に惰眠を貪って体力回復を図っていた時にそれは起こった。

 夜半、気配を感じて目を覚まして見れば、そこには布団越しに俺に覆い被さる弟の姿。
慌てて身を起こし問い質してみれば、「夜這いにきたんだ」とか、はにかむ様に告げるロロ。
可愛い気に言えば許されるとでも思っているのか!?俺は男はノーサンキューだとアレほど…、何?「兄さんは嘘吐きだから」だと?何を都合の良い解釈をしようとしているんだ、お前は!
もう嘘は吐かないよッ!お前にだけは………、ってなにぃ!?何故今まで眼の前にいたお前が、後ろから俺のズボンを下ろして!そ、そうか、絶対停止のギアス。
まさか、死後の世界でもギアスを行使できるとは…って、そうじゃない!やめろ、それ以上ズボンを下ろすな!何がしたいんだお前は!?
「だって兄さん言ってたじゃないか。『ヤッて良いのは、ヤられる覚悟のあるヤツだけだ』って」って、バカか、お前は!?
俺の理念を勝手に改悪するんじゃない!
何が「さぁ、兄さん」だ!止めろ、近付くんじゃない!く、来るな!

 ヤ メ ロ(ギアス発動)

 ハァ、ハァ、なんとか助かったか。
「わかったよ、兄さん」と言って部屋から出ていくロロを尻目に、安堵の溜め息を漏らす。
ギアスが無ければ危なかった。
ロロめ、なんて恐ろしいヤツだ。
これからは少し付き合い方を変える必要性があるな。

 あぁ、それにしても折角の休息時間が…。



 Cの世界315日目位~

 ついに、ついに奥義を習得し、父から免許皆伝を言い渡される。永かった。
ありがとうございます。父上、母上。
さぁ、帰ってさそっくシャーリー、ユフィを悦ばすとしよう!

 ロロはこっち来んな。



 Cの世界343日目位~

 もはやシャーリー、ユフィのタッグも俺の敵ではなくなった。
そんな訳で、何回戦目かの後、限界を超え眠りに着いた二人を起こさぬ様に気をつけながら、余裕の出来た俺は、再び下界の観察をする様になった。
さて、女を知った上で観察し直すと、色々と見えてくるものがある。
主だって言うなら、空に俺を思い浮かべて寂しそうに微笑み語りかけるC.C.とか、紅蓮のキーを大切そうに握りしめるカレンとか、写真に写る俺を涙目でみる会長とか、切な気に「お兄様」なんて呟いてくれるナナリーとか、だ。
正直、勿体無く思い始めてしまう。
今思えば、誰も彼も俺に気があったぽく思えなくもないし、ナナリーが俺の最期に叫んだ言葉なんて、「愛しています!お兄さまっ!!」だ。
…俺はあのまま悪逆皇帝続けても良かったかもしれない。
と言うか、なんで潔く死んだんだ。俺の愚か者め!

 はぁ、止めよう。余りに醜すぎる未練だし、それこそ今更だ。
そもそもCの世界に来なければ、シャーリー達と愛し合う事も出来なかったし、ブリタニアン性術を極める事もなかったんだ。
俺は今、満足しているさ。後悔は無い。

 …あぁ、でも、此処に来なければ、ロロに貞操を狙われる事もなかったし、ナナリーがスザクの餌食になる事もなかったな。

 ………怪我の功名と言うべきか、ロロのお陰でまだギアスを使える事も解ったし、もう一度『神』とやらにやり直しさせてくれとでも頼んでみるか。
どうせダメ元だ。眠りに着く前にやってみるか。




 ???

 そうして眠りから意識を戻した俺、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは今ここに立っている。
何処とも判断のつかない廃墟。
目の前には、ブリタニア軍人の死体がいくつか。

 まさか、まさかここは!

 辺りを探れば、すぐ傍らには倒れ伏した拘束着のC.C.。
俺は確信する。
やはりここはシンジュク・ゲットー。
そして、いまこの時は、俺の反逆の開始時点だ。


 思えば、俺はCの世界にいた時からずっと願っていたのかも知れない。
C.C.はいい女、カレンもいい女、そしてナナリーは究極。
俺が未来に遺してきてしまったのは、どいつもこいつもいい女ばかりだ。
全く手を出せない状況に苛々して、でも死んでいると言う理由で彼女達を諦める事も出来なくて。
だけど手に入れた。やり直しの機会を。

 だから…!






プロローグおわり





 あとがき


 連休中、その他の掲示板をお借りして書いてる話の息抜きに書いてたら、先に出来ちゃってた作品。
Cの世界とか認識を確実に間違ってます。

 これは死後、色欲に目覚めて間違った方向に吹っ切れちゃったルルーシュが、物語の始まりに戻って、間違った方向に頑張る日々を、半ば日記形式で綴った馬鹿話です。
たぶん、正史をなぞりつつ、機会があれば手当たり次第に女性をオトしにかかるんだと思います。

 そんな中、何故か妹化したロロに狂喜したり、当然の如く男のままのカノンさんに落胆したりしながら、最終的には、色欲皇帝ルルーシュの女性関係にキレたナナリーとダモクレスで激突。

「お兄様の罪はわたしが断ちます!」

「くっ、ナナリーの愛を取り戻すには、もはやゼロ・レクイエムしかッ!!」

 え、それなんてRe:?って感じなんじゃないかと。
とか言いつつ、プロローグだけしか考えてないんで、続くかどうかは読んでくれた人の反響次第と言うことで。

 最後にこんな拙い馬鹿話につき合って下さった方に感謝して、締めとさせて頂きます。








[4438] 色欲のルルーシュ Return01『覚醒 の 白き 魔女』
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:11fd1fa6
Date: 2008/10/16 18:10

 どれだけの時を、死ぬ事だけを望み、無為に生きてきただろう。
死にたい。でも、死ねない。
永い繰り返しの中では、僅かに心暖まる事もあった。心許せる人もいた。

 けれど、私は永遠を生きる魔女。

 永い年月の内にあった微かな温もりも、最後には必ず裏切りと怨嗟の声に塗り潰されて。
なら、初めから何も思わず、誰も想わずに、ただ死ぬ事だけを願っていよう。
その為だけに、周りの全てを騙して、利用して。

 そうさ、私は魔女なのだから。

 ………あぁ、でも。
そんな辛いだけの日々の途中で、私は出逢ってしまったんだ。
酷く傲慢に世界を愛した、優しい嘘吐きに。

 お前は、ひどいヤツだったよ。

 私に死ぬ事以外の望みを気付かせたくせに。
私に笑顔をくれると言ったくせに。
私に―――もう一度生きたいと思わせたくせに。

 自分勝手に世界を創り変えて、私を置いて逝ってしまうなんて。


 けど、だからこそ私は今も望んでいる。
お前に逢いたい、と。
お前の声が聴きたい、と。


 夢の淵ででも、一瞬の幻としてでも構わないから。


 そんな風に、願って、祈って。
聞こえてきた声がある。
私を眠りから呼び覚ます様に、強く。

 幻聴?
いいや、違う。
忘れていたよ。お前は、『神』にさえギアスをかけるバカモノだったな。
…だけど、お前のそのバカのおかげで、また始まるんだ。

 さぁ、やり直そう。
お前に再び逢える事を嬉しいと思える今の私のままに、もう一度お前と。



 ((見つけた。私の…))



 最愛の共犯者。






 色欲のルルーシュ Return01『覚醒 の 白き 魔女』







 現世復帰初日1ページ目

 地獄―――訂正、あそこはある意味天国だった―――より舞い戻ってきて早々に、思惑とは違うギアスをかけるハメに陥ってしまった。

 やり直しの機会を得た事に、多少舞い上がって高笑いしていた俺は、前回と同じくヴィレッタに見つかり詰問を受け、狼狽。
そんな俺の一瞬の隙を突くかの如き絶妙のタイミングで名を訊かれ、つい高らかに名乗ってしまったのだ。
アラン・スペイサーではなく、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、と。
すると、どうだろう。KMFのスピーカー越しにも分かる、可哀想な人間を憐れむ様なヴィレッタの声。
「お前、大丈夫か?」とか、訊いてくるヴィレッタは非常に腹に据えかねた。
しかし、ならばこの状況を利用するまでと思い直し、そのまま可哀想な人間のフリをし続けければ、案の定、そんな俺を心配したヴィレッタは、KMFを降り、近付いてきた。
ククク、甘さですね、ヴィレッタ先生。結局は、あなたも情を捨てきれない。
そこですかさず「頼むから今の事は忘れて、KMFを俺に寄越せ」とギアスをかけた。

 ―――訳なんだが、クソッ!初めからなんたる失態だ。
相変わらず突発的な事態に弱い己を呪う。
なんだかんだ焦ってしまって、このザマとは。
もっと有効なギアスのかけ方があっただろうに!
…例えばもっと直接的に「俺のものになれ」とか。

 いや、しかしそんなギアスをかけたらかけたで、少しだけ煩悩にまみれた今の俺が、あのヴィレッタのエロいパイロットスーツを前に、自制できたかは怪しい。
もし欲望に負けてヴィレッタとやらかしてしまったら、時間的に恐らくカレンが死んでしまう。
そして何よりッ!この世界での俺の童貞はナナリーに捧げると誓っているんだから、今は目先の欲望に囚われてる場合じゃないだろう!
だから、…だからあのギアスのかけ方は間違ってなかったんだ。………その、筈だ。

 まだ意識を失ったままのC.C.を抱えて乗り込んだサザーランドの中、俺はそう考えてどうにか苛立ちを沈めた。

 憶えていろ、ヴィレッタ。
お前を扇の嫁にはさせない!



 現世復帰初日2ページ目

 通信を傍受し、クロヴィスの軍を扇グループを指揮して撃退する為の準備を整えた。
今は扇グループとの最初の接点となるカレンのグラスゴーを助ける為に待機中だ。
そんな待ち時間、俺の膝の上で眠るC.C.を眺める。
ブリタニアが傾く一因となったのだから、事実、傾国の、と言って良いだろうその寝顔は美しかった。

 Cの世界でも何度となく思ったが、過去の俺はなんてバカだ。
下界でのコイツのどこか寂しげな笑みを見る度、思わずにはいられなかった。
こんなにも良い女を遺したまま何故死んだ?明らかにフラグがたって…、じゃない、コイツに本当の笑顔を与えてやれずに死んだ自分が情けない、と。
そもそもキスだってされたし、何故あの頃に今の心持ちで欲じょ‐愛情を注いでやれなかったのか、と。

 大体、コイツがあれ程心を開いてくれるまでに、一体どれ程の苦労とピザ代を費やしたと思ってるんだ、過去の俺。
…ダメだ。考えれば考えるほどに割りに合わない気がしてきた。
今に見ていろよ、魔女。
今度こそ、心をと言わず、全てを俺に開かせてやる。
幸い、抑えるべきポイントは、なんとなく理解しているしな!


 しかし、こうも密着しているとコイツの体の柔らかさがダイレクトに、…いい匂いもするし、………クッ、ここは堪えるんだ!誓いを思い出せ!初めてはナナリー、はぢめてはナナリー!!


 む、マズい、カレンがッ!



 現世復帰初日3ページ目

 危なかった。
もう少し気づくのが遅れれば、俺の大切にしたい人の上位ランカーであるカレンがCの世界に旅立ってしまうところだ。
が、今はなんとか危機を乗り越え、扇グループと協力中。
とは言っても、相手は所詮クロヴィス。しかも俺にとっては、展開の知れたゲームをするのとなんら変わらない。
カレンや井上に指示をする時にだけ格好つけて声を気持ち張り上げ、小マメにポイント稼ぐくらいしか気遣うべき事がない。
故に、お座なりに指示を出しつつ考えるのは別の事。

 その内容は、―――反逆するべきか、否か、と言う事なのだが…。
ここを脱け出す為にも、義兄クロヴィスを叩きのめすのは必要事項だ。
前回と同じく虐殺を命じた事にも怒りがある。
しかし、Cの世界での義兄の俺に対する怯え様を思い出すと、あまりに不憫すぎて、殺すのも躊躇われる。
実際、真相に関わっているわけでもなかった義兄は、復讐のとばっちりで死んだのだし。
だが、傍らにC.C.がいる以上、やがては反逆をせざるを得ないのも確かなのだ。
父と母の計画を阻止しなければ、俺の望む未来は訪れない。

 素直に反逆してゼロとなれば、ユフィや姉上、ラウンズの女騎士達など、より多くの美女とも接点を持てる事も確か…なのだが、未来を知っている強みを生かす以上、前回となるべく似通った展開を辿った上で、彼女達にアプローチをかける必要性が生じてくる。
しかし、そんなリスクを背負ってでも、成し遂げようと俺に思わせる理由もまたあるのだ。
そう、それはユフィの存在。
今となってはユフィを他の誰かに取られるなんて、耐えられるものじゃない。

 あぁ、でも反逆せずにナナリーや、シャーリー、カレン、会長、ニーナ、咲世子などとのアシュフォード学園での愛に満ち溢れた穏やかな性活も捨てがたい。
反逆すれば、ナナリーと対峙する可能性も0ではないのだし。
くッ、それだけはダメだ!
いまの俺なら、ナナリーに「お兄様は悪魔です!」なんて言われた瞬間に、命を落とす自信がある!
それならばいっそ両親の計画が成就するまでの間、思う様ナナリーを貪って…。
だが、そうなるとユフィ達に手が………、えぇい、考えが纏まらない!って、なんだP-1、五月蝿いぞッ!
ん?「一機とんでもないのがソッチに向かっている!」だと。
なんだそれは、今の俺はそれどころじゃ、…げぇッ!ランスロット!?
となると、搭乗しているのはスザクッ!

 ま た お 前 か !!

 最後が共闘関係だった故に忘れていたが、そうだ、俺とお前は相容れない敵同士だったな!
忌々しい白兜め!
こちらには前の世界でお前にナナリーを傷物にされた借りがある。
我が覇道を阻むなら、例え親友のお前でも容赦は…って、あぁッ、腕を!
ぐぅッ!何度も何度も何度も何度もッ、お前は一体俺に何の恨みがあると言うんだ!
クソッ、この化け物が!やはりKMF戦では勝ち目はないか!
『神』も『神』だ!どうせやり直しをさせてくれるのなら、リヴァルがよくやっていたゲームみたいに、ラウンズ並の操縦技術を周回特典につけてくれればいいものをッ!って、C.C.!なんだその寝相の悪さはッ!そ、そんなトコをグリグリしゅるんひゃな―――いかんっ、殺られる!
こ、こんなマヌケな終わり方なんてしたら、やり直した意味が、…ナナリィーーッ!!

…。
……。
………ん?
咄嗟に閉じた目を恐る恐る開くと、そこにはランスロットを止める赤いグラスゴー。
「借りは返したぞ!」って、カレンか!
お、お前ってヤツは今回も…。
流石ゼロの親衛隊隊長だ!
フッ、借りは返す、か。
決めたぞ!今回こそは、君を我が騎士とする事を…!
そして、騎士としても女としても、俺の『剣』を与えてやるッ!

 と、未来の予定もたった所で、俺は離脱させて貰おう。
カレンッ、死ぬなよ!


 こうして俺は、やり直した世界で初の危機を乗り切った。
案の定、人命救助を優先するランスロットを見やりつつ、脱出装置のレバーを引く。
フハハハッ、戦術的勝利だろうが戦略的勝利だろうが幾らでもくれてやるさ。
だが!この世界ではナナリーも、ユフィも、スザク、お前には渡さない!




 現世復帰初日4ページ目

 困った。
いや、困ったどころの話ではなく、先程のランスロット襲撃以上の危機とも言える状況だ。
いま俺は、射出された脱出装置の中にいるのだが、未だに意識のないC.C.にのし掛かられて思ったように身動きが取れない。
そんな中で、C.C.の感触やら、体臭やらに充てられて、俺のアレが絶賛反逆中な訳だが…。
その、なんだ。
天を衝かんばかりに勃起したアレにちょうどクリティカルな形で、C.C.の拘束服の金具が、体重をそのままにのせて押し付けられていて、互いの服越しとは言え、非常に痛い。
その癖、魔女のフェロモンにでもやられたか俺のアレは勢いを増すばかりで、今にもヘシ折れてしまいそうだ。
これだけの苦痛ですら萎える事が許されぬとは、これが魔性、…魔女たる由縁、か。

 …って、何を落ち着いて語っているんだ、俺は!
マズい、痛い、マズい!!
このままでは、ナナリーと結ばれる為の最重要連結パーツがオシャカになってしまう!
今回も童貞のまま死ぬなんて有り得ない屈辱だ!
二度目の人生が始まって間もないと言うのに、即(男として)ゼロ・レクイエムされるなんて冗談じゃないぞッ!

 オイッ!C.C.、起きるんだ!頼むっ!!
このままでは、お前の共犯者が、大変な事になってしまうんだぞッ!
ぐッ、俺にギアス能力を与えたお前が、その直後に俺を不能にするとか有り得ないだろ、おい!
俺が(男として)死んだら、お前の願いも叶わないんだぞ!
最期には笑って死にたいんじゃなかったのか!
おれが、俺が笑わせてやる!必ずお前に笑顔をやるからッ!
だから目を覚ましてくれっ、頼む!しーつぅーーーッ!!



 現世復帰初日5ページ目

 願いは届いた。
俺の声に呼応する様に目を覚ましたC.C.。
体重をのせた金具と言う凶器も、俺のアレから離されて一安心、…の筈なんだが、何故かC.C.の様子がおかしい。
俺の瞳を見詰めるその顔には、魔女としての不遜な表情はなく、何かを堪える様な笑顔で、目尻には大粒の涙が、ってこれじゃまるで、ン…。
唐突に口付けられる。
数秒のキスの後、唇を離した魔女が嬉しそうに言う。
「これでキスは何度目だったかな?ルルーシュ」って、まさかお前も!?
笑みを絶やさぬままに「聞こえていたよ。お前の呼ぶ声が…」などと頬を赤らめて、もう一度向こうからのキス。
あー、これが周回特典という事で良いのか?
唇を割ってはいってきた舌に、自らも応えながら思う。
とりあえず、今までのピザ代ムダにならなかったな。


 ………なんだ?C.C.。
ッ!う、うるさいっ!お前だってニヤけっ放しなのは変わらないだろうが!



 現世復帰初日6ページ目

 雰囲気に流されて、そのままC.C.と、なんて事になれば、今度こそカレン達が死ぬ。
そんな訳で、C.C.には先にクラブハウスに行っているよう指示を出し、俺はブリタニア軍人にギアスをかけながら、一路クロヴィスのいるG1ベースを目指している。

 それにしても危なかった。
すぐ近くでした銃撃音がなかったら、俺の童貞はなんら抗うことすらできずに、あの魔女に奪われていた事だろう。
何度でも言うが、俺の初めてはクラブハウスのベッドでナナリーと、と決めているのだ。
間違っても、虐殺が行われている街中で、俺のアレを再起不能にしかけたピザ女に捧げるものじゃない。
考えて戦慄する。
本当に危なかった。
きっとあれだ。カレンや、未来の仲間になるかもしれない者達を案ずる俺の強い意志が、ピザ女の魔性に打ち勝ったんだ。
そうに違いない。


 む、やはりそこに居たな、クロヴィス。
さて、色々あって結論できてないんだが、この第3皇子をどうするべきか?



 現世復帰初日7ページ目

 やってしまった。
もう後戻りは出来まい。

 以前の通りギアスで人払いの後、銃で脅し付け虐殺を止めさせた…までは良かったんだが、俺が正体を知らすや「私は知らない!」とか騒ぎだしたクロヴィス。
そんな事は既に知っているが、未だに反逆云々を決めかねていた俺は、気分転換のつもりで、クロヴィスにギアスをかけた。
その内容は「お前の女関係を洗いざらい吐け」。
しかし、興味本意のそれがとんでもない失策だった。
ギアスにかかったクロヴィスの口からは、爛れた女関係が出るわ出るわ。
始めの内は呆気に取られて聴いていたものの、十数分後、話が皇族の権力を乱用した見目麗しい娘達への複数調教にまで及んだ時点での、俺の怒りが解るか?
俺とナナリーが異国の地で地獄を見ていた時、この芸術家気取りの変態はッ!
あまつさえ、俺ですらまだ成し得ていない憧れの4P以上を、さも当たり前の様に語るとは!
極めつけは、怒りで震える俺に、ギアスの解けたクロヴィスが必死の形相で叫んだ、「信じてくれ!私は殺っていないっ!」と言う言葉。
嘘を吐くな!ヤりまくりだろうがっ!!
そう思うと同時、俺は銃を撃ってしまっていた。

 …結果、いま俺の視線の先には抑えた肩口から血を流し、痛みにのたうち回るクロヴィスが一人。

 ………こうなってしまった以上、道は一つ、反逆だけだ。
この駄兄には、死んで貰った事にして地方の何処かで、幾人かにギアスを使って監禁するしかない。
そうと決めたからには、さっそく反逆の準備に入ろう。
事ここに至ってしまったからには、仕方がない。
もう一度皇帝となり、近親婚可能な世界を築き上げるまでの事っ!


 その為には、退路は要らない!
なんとしても創ってみせる!俺とナナリーが添い遂げる事のできる優しい世界を…ッ!!


 ………と、言うわけなんで、義兄上、俺に着いて来て下さい。
何?「痛いよ、ルルーシュッ」?「血が足りない」?ハハハ、死を偽装するんです。この程度じゃ足りない位ですよ。さぁ、早く。
「歩けない」だと?煩いぞ!いちいち喚かずに黙って着いて来いッ!



 現世復帰初日8ページ目

 偽装完了。
俺の頭脳と、この絶対遵守のギアスがあれば容易い事だ。

 しかし、C.C.の事もあり、もしやクロヴィスも?とも思ったが、そんな事もなかったな。
以前の記憶を持っているのは、俺達だけか?それとも、他にも存在しているのか?
…楽観は出来ないが、基準が判らない以上、気にし過ぎても意味はない、か。

 ただこうなると、カレン達との作戦の前に一応の確認のつもりで掛けたシャーリーの電話での対応がやけに気になるな。
以前より随分と熱心に心配してくれていた様だし…。
まさかとも思うが、一応明日の学園でそれとなく訊いてみるか。



 現世復帰初日9ページ目

 天使がいる。いや、女神か。
とにかく、ナナリーだ!ナナリーが今、帰宅した俺の前に!
くぅ、思えば仲睦まじい兄妹として顔を合わせるのなんて、俺からすればブラック・リベリオン以来の事。
ま、マズい!堪えようとしても、溜まりに溜まったナナリーへの愛が、気を弛めた瞬間に溢れだしてしまいそうだ。

 だが、いきなり「結婚しよう、ナナリー!」とか言ったら、いくらナナリーだってヒくだろうし、俺もどれだけナナリー分が不足していようとも、合意の上以外でナナリーに手を出すつもりは決してない。…うん、たぶん。
焦るな。時間はそれなりにあるんだ。
ナナリーにだって、心の準備が必要な筈ッ!
少しずつ、少しずつ俺の愛を顕にして、ナナリーの意識改革を促して行けば………、あぁ、ナナリー。「お兄様?」なんて小首を傾げるなんて、なんて殺人的な仕草をッ!
「心配していたんですよ?」とか、もうッ!………ハァハァ。

 あ、危ないところだった。
いや、なんでも無いんだよ、ナナリー。ただこれ以上お前とふれ合っていると俺の理性が、…いや、本当になんでもないんだ。今日は少し疲れていて、待っていてくれたのに悪いンだけど、もー寝ることにするヨ。オヤスミ、ナナリー。

 少し怪訝そうにしながらも「おやすみなさい、お兄様」と返してくれるナナリー。
…ナナリー、俺はお前のそのパジャマ姿さえあれば、5回はイケ、じゃない!まだまだ堪えられそうだよ。いや、堪えて見せる!
その為にも、ナナリーの余韻が残っている内に、早く自室に………ッ!


 って、シーツー!何故俺の部屋に!?



 現世復帰初日10ページ目

 ピンチだ。
しかも今日最大の。
原因はすでに全裸なC.C.。
猫の様にすり寄ってくるさまは非常に可愛―――ダメだ、ダメだ!ここで魔女の誘惑に乗ってしまったら、俺の神聖なる誓いはどうなるっ!
そうだこんな時はさっき見たナナリーの姿を思い返して煩悩を、…いかん、余計に興奮してしまう!
頼むC.C.!これ以上俺に密着するな!

 って、傷付いた顔をしないでくれッ!
お前を抱くのは吝かではないどころか、願ってもない事ではあるが、ただ、俺の童貞はナナリーに捧げると誓ったんだッッ!!
だから、それまでは…ん?「お前も冗談を言えるようになったんだな?」って、冗談な訳があるか!俺はナナリーに関しては常に本気だ!
「あぁ、わかったから私をこれ以上焦らさないでくれ」だと!?
だ、だから焦らしているんではなくて、俺は本気で、……ッ!

 な!?俺はいつの間に裸にっ!
くっ、や、やめろ。舐めるな、吸うな、指を絡めるなぁッ!
「覚悟はいいか、坊や?」とか、良い訳あるかッ!いや、確かに凄まじく気持ちが良いが、それでも―――ちょ、それ以上腰を落とすんじゃないッ!ヤメ………。



 ナナリー、すまない。
俺は一番大切な誓いさえ、欲望に負けて守れない最低の兄だ。
ひぐっ、でもこの魔女ギアスが効かないんだ。

 ん?なんだC.C.、あ、「愛しているよ、ルルーシュ」だとっ!?
だ、黙れ魔女!
照れてなんかいるものかッ!



 こうして、夜は更けていく。








 色欲のルルーシュ Return01『覚醒 の 白き 魔女』おわり








 あとがき

 どうも、これ書いたバカです。
さっそく板移しましたが、全くエロくない気が!

と言うか、書いてく内にルルーシュが果てしなくバカに、ってかルルーシュじゃ無くなっていくのを止められませんでした。
ともあれ、まずは順当に公式での嫁をGET。
しかし、ナナリー攻略までの道のりは、まだ長く険しいのであった。

 自分の予想以上に反響があったのをバカみたいに喜んで、またまた即興で仕上げてみたんですが、如何だったでしょう。
またご意見頂けたら嬉しい限りです。

 あ、それと、xxx板の方に移したところ、既に『鈴木』のハンドルネームを使っている方がいらしゃっいましたんで、区別の為に飛翔滑走翼つける事に相成りました。
混乱した方、申し訳ありません。

 続きは、今回、調子に乗って暴走してたりしないか不安なんで、また読んで下さった方の反応を見てから考えたいと思います。
レス返しはまた時間のある時に落ち着いてさせて頂きますので。

 では、これで。








[4438] 色欲のルルーシュ Return02『弟子入り の クラスメイト』
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:11fd1fa6
Date: 2008/10/16 18:12



 この頃、ルルーシュのヤツがおかしい。
毒ガステロがあったり、クロヴィス殿下が殺されたりと、最近世間は何かと騒がしいんだけど、オレにはこっちの方が問題だ。
別に、おかしいとか言ってもイヤな感じのするもんじゃないし、良いっちゃ良いんだけど、なーんか気になるんだよな。

 まずさ、シンジュクに一緒に行ってはぐれた翌日辺りから、妙にヤツれてるんだよ。
毎朝毎朝、教室入ってくる時腰擦ってるし、遅刻も前よりめちゃくちゃ増えてるし。
けど、体調崩してるって感じでもない。

 後、…うん、俗っぽくなったと言うか、なんと言うか。
オレ達くらいの男だったら、当然もってる様な欲求をドコかに置き忘れてきたみたいなアイツが、この頃じゃそういう話にもやけに喰い付いてくるし。
この前も冗談のつもりで、カレン・シュタットフェルトに気があんの?って訊いたら、「ある。とてもある」とか、真顔で頷かれたし、んじゃ、ルルーシュのヤツはカレンとつき合いたいのかなー?とか思いもするんだけど、そうなると、今まで以上に仲好さげなシャーリーはどうなるんだ?ってなってくるし。
こりゃ、ホントにお歳頃なのかね、ルルーシュ君。


 とか、考えてたら本人が話掛けてきたよ。
なんだルルーシュ?え?「リヴァル、会長の事好きか?」って、んー、確かに惚れてるけどさ。まさかお前からそんなコト訊かれるなんて…。「別に訊いてみただけだ」って、おいおい。
…え?「俺達、どんな事があっても友達だよな?」ってホント、最近どうしたってんだよルルーシュ。当たり前だろ、そんなこと。
ちょーっとヘンに思いながらも、オレが頷いたら、「そうか」なんて言って、普通の世間話し始めたよ。

 あー、だけどなルルーシュ?妹の話するのに息荒くするのは、やめた方がいいぜ?
いや、お前がシスコンなのは知ってるけど、今までより悪化してないか?
…やっぱ少しだけおかしいよ、最近のお前。







 色欲のルルーシュ Return02『弟子入り の クラスメイト』







 現世復帰2日目1ページ目

 太陽が黄色い。
ベッドの上で身を起こし、目を擦る。
横にはつい先程漸く力尽き眠りについたC.C.の姿。
ナナリー。貞操は失ってしまったけれど、心の純潔は守りきったぞ!
…それにしても際どい勝利だった。

 昨夜、自宅に戻ってきて早々に魔女に貞操を奪われた俺。
ナナリーへの大切な誓いを破らさた事に泣き咽び、しばらくはC.C.のいいように責め倒されていたが、その内にだんだんと気分が乗っ、いや、腹が立ち始めたので、逆に襲いかかってやった。
Cの世界で培った経験もあるのだし、その気にさえなればピザ女の一人や二人物の数ではない、………と、思っていたのだが、そこは流石に永きを生きた魔女。
父直伝のブリタニアン性術駆使する俺相手に、一歩も退かぬ奮闘を見せる。
むしろ、俺の知識と経験に、童貞を失ったばかりの肉体が追い付けず、魔女の味わった事のない舌技や腰使いに徐々に窮地にすら追い込まれた。
しかもこの女、「童貞坊や」と呼ばなくなった代わりに「この早漏め」とか罵って、更には蔑む様な顔で「私をあまり失望させるな」とか、以前より俺の心を抉る言葉と態度で俺にトドメを刺しにくる始末。

 …が、このまま敗北するしかないのか!?というところで、苦し紛れにこの女の本当の名を呼んでみると、それが予想以上に効力を発揮。
明らかに変わった悦び方と締め付けのキツさに突破口を見い出した俺は、「卑怯ものォ」とか、甘い声で哭くC.C.に構わず攻守を逆転しラストスパート。
どうにかこうにか魔女を陥落する事に成功し今に至る、と言う訳だ。

 しかし、肉体的な経験値のない俺の身体は、想定していたよりも随分と敏感だった。
その分得られる快感も大きくはあったのだが、魔女に何度も何度も早漏呼ばわりされた事を考えると、感度が鋭ど過ぎるのも良し悪しだ。
これからの事を踏まえて、同じく初期状態に戻ってしまっているスタミナ共々、鍛え直すしかないな。

 さて、そろそろ時間も推しているしナナリーと一緒に朝食を摂って、登校だ。
C.C.は、…寝かしておくか。
放っておいてもピザ頼むだろうし。

 そう言えば、ナナリーに声とか音とか聞こえてないだろうな?
…まさかとは思うが、聴覚の発達しているナナリーだ。取り返しのつかない事になる前に、部屋の防音性を上げておこう。


 って、なんだこの腰の痛みはッ!?



現世復帰2日目~2ページ目

 朝食。
とりあえずナナリーには昨夜から続いたC.C.とのデスマッチはバレていない様で一安心。
それにしても、朝食を口に運ぶ仕草といい、俺との会話に微笑む様といい、なんて可愛さだ!
朝の陽射しがナナリーの後光に見えるし、やはり女神か。
そこら辺の女とは同じ人類には思えない。
腰の痛みも吹き飛ぶと言うものだ。

 なんて事を夢想している内に、ナナリーとの幸せな朝食時間も終わってしまい、仕方なく登校。
また腰に痛みが走る。
如何に超絶的な癒しを与えてくれるナナリーとのふれ合いでも、流石に肉体的な治癒は見込めないらしい。
まぁ、当たり前か。
もしそんな事が可能なら、死の間際のナナリーの「愛しています!お兄様ッ!」を聞いた瞬間に全快して、ゼロ・レクイエムも破綻しただろう。

 しかし、本当に腰が痛い。
我ながらなんて脆弱さだ。
長期戦とは言え、半分以上はC.C.が主動だったと言うのに。
む、思い返したら股関が…。
これ以上歩きにくくなってどうする!
おのれ、魔女め!



 現世復帰2日目~3ページ目

 クラブハウスからの短い距離にすら苦労しながらも学園に到着。
腰が痛いのを耐え学園の廊下を歩いていると、前方にシャーリーを発見。
彼女も戻ってきているのか確認する良いチャンスと思い、声を掛け………る間もなく、抱きつかれ、腰の痛みもあって支えきれずに、倒れてしまう。
その体勢のまま見上げれば、涙を湛えたシャーリーの顔。
ダメだ、シャーリー!幸いにも他に人目がないとは言え、学園の廊下でなんて、いくら俺でも………って、え?そうじゃない?「ルルは、あのルルなんだよね?」って、あぁ、そう訊ねてくると言うことは、シャーリー、君も…。



現世復帰2日目~4ページ目

 人目のつかない場所に移動して、いくつか確認をとったところ、やはりシャーリーも『やり直し』たシャーリーだった。
なんでも、Cの世界から唐突に消えた俺を想っていったら、昨日に戻っていたとか。
パワー・オブ・ラブですね?わかります。
敢えて普段使わない言葉で言わせてもらうが、『想いの力』スゴ過ぎじゃね!?
いや、もちろん嬉しくない訳ではないが、一体どんな基準で『やり直し』が起こっているのかが、非常に気になってきたな。

 その後、俺の再度の反逆の決意と、前回と違いクロヴィスを殺してない事などをかい摘まんで打ち明ける。
心配だ、と渋い顔で俺を諌めようとするシャーリーには、すまなく思うが、俺の心は変わらない。
ナナリーと、そしてシャーリー、君を含めた沢山の女性達と添い遂げる為にも俺は………って、これはまだ言うべきではないな。下手すればシャーリーを敵に回しかねないし。
とにかく、もう二度とあんな悲劇を巻き起こさない、皆が幸せに笑っていられる世界の為にも!と、シャーリーを説得。
未だに納得はしきれていない様だが、時間を掛けて受け入れて貰おう。

 ………にしても、このシャーリー、水泳部の朝練を済ましてきた直後らしく、まだ艶やかに光る髪と言い、いつも以上の色気が………、いやいや、自重するんだ俺ッ!もうすぐHRだし、腰がこれ以上悪化しても困る。
だ、だがしかし、ってなんだシャーリー、ん?み、水着持ってるだとッ!?こうしてはいられない急いで俺の部屋―――は魔女がいるし、そうだ!保健室!保健室に行こうシャーリーッ!
鍵?養護教諭?ハハハ、シャーリー、何の為の王の力だと思っているんだ?


 こんな感じで、シャーリーの二度目の処女喪失は保健室だった。
………水着で。



 現世復帰2日目~5ページ目

 自分の限界も考えずに盛ってしまった結果、当然腰が悪化した。
引き際を見誤るとは俺らしくもない。
シャーリーにマッサージして貰わなければ今こうして生徒会室に顔を出すことも出来なかったに違いない。
リヴァルの昨日のシンジュクで置き去りにしてしまった事への愚痴や、今日の大幅なシャーリーとの遅刻を問う声が聞こえてくるが、お座なりな返事しか返せない。

 あぁ、けれどここには俺が永遠に失ってしまった筈の日常がある。
腰痛と体のダルさを推してでも来て良かったと思える安らぎがある。
一度、失ったからこそ改めて実感できる。
俺にとって如何にこの空間が救いだったかを…。

 リヴァル達にからかわれて顔を紅くするシャーリー、相変わらず美人で巨乳の会長、…ニーナは、うん、今後に期待する事にして、あとリヴァル。
本当に来て良かった。特に会長のあの胸は、ハァハァ。
え?なんですか会長その書類は…、今日中!?って、俺はこの後に夜ナナリーと幸せな時間を過ごす為に少しでも体力を回復させると言う崇高な使命が、「ガぁーーーツッ!」って、誰がかかるかそんな魔法!お、おいシャーリーも乗るな!リヴァルも何やる気になってるんだ!?胸か?あの胸に騙されたのか?………なら仕方な―――くない!

 やはり来るべきじゃなかった。



 現世復帰2日目~6ページ目

 なんとか部活予算の申請書類を片付けて、教室に戻ってみれば、昨日のシンジュクの事件で騒ぐクラスメイト達の声。
クロヴィスの事にはまだ触れない前回と同じ報道。
どうやら、偽装も上手くいったようだ。

 安堵して教室を見渡せば、そこには過去に見慣れた紅い髪が、女子生徒に囲まれて座っていた。
なんだ、リヴァル?「ひょっとして惚れちゃったぁ?」だと?あぁ、そうだな。そうかもしれない。
だからリヴァル、間違ってもカレンにちょっかい掛けるなよ?
あと、遠目から見るシャーリーの視線が痛いから、もうカレンの話はするな。

 さて、カレンも無事にシンジュクから戻ってこれた様だし、予定通りに行動を起こすとしよう。



 現世復帰2日目~7ページ目

 昼休み。
シャーリーからのお誘いを断り中庭に来ている。
やり直しの機会を得てから俺が考えていた事の一つに、カレンにどうやってアレコレしてやろう、と言うのがあった。

 まず一つは手っ取り早くギアス。
しかしこれは、大切な人の心を捻じ曲げる事になるし、あまり気がのらないので、却下。
スザクも「間違った方法で得た女に意味は無いと思うから」とか言っていたが、これに関してだけは俺も同意だ。

 故に残った二つ目と三つ目。
前回と異なり等身大のルルーシュ・ランペルージでラブ・アタックと言う方法と、前回と同じくゼロとして慕われた後に、と言う方法。どちらにするかで悩んでいたのだが、結局は妥当に三つ目の方法を取ることにした。
あの忠犬っぷりをもう一度みたい誘惑には抗えなかったしな。


 む、一人になったか。さて、ここで「シンジュクの事は言うな」とさえ言っておけば、明日にはカレンのシャワーを、違う。疑いを持ったカレンと接触の後、ゼロとして東京タワーに呼び出す為の伏線は回収完了だ。
…だが、改めてみるとやはり美人だ。
翔んでる蜂を手刀で真っ二つにするのは頂けないが、それを除外すれば、顔といい、スタイルといい、…髪をおろしている今の姿も、普段とのギャップがあって、こう―――方法1でも別に構わないかなぁ。

 …って、シャーリー!?しまった、校舎の窓から丸見えじゃないか!ち、違うんだシャーリー、これは…ッ!えぇい、とにかくカレン!シンジュクの事は誰にも言うんじゃないぞッ!


 その後、拗ねているシャーリーの機嫌をとるのに苦労した。
破れ被れで、ナナリーとの夕食後に俺の部屋に来いとか言ってしまったが、…魔女どうしよう?



 現世復帰2日目~8ページ目

 学園から帰り、ナナリーとの夕食。
少しでも早い仲間入りの為と期待して、咲世子も誘ってみたが、「使用人が、家主と食卓を共には…」云々で断られた。
できたメイドではあるものの、非常に残念だ。

 とは言え、今はナナリーと二人きり。文句などつければバチがあたる。
スープを口の端から溢してしまうナナリーを見て、思わず舌で舐めとりそうなるのを我慢するのに大変な精神力を費やしたり、「昨日のお兄様、少しおかしかったから」とか言われ、意識を飛ばしかけたりもしたが、どうにか平静を保ち食事を続行。

 ん、折り鶴?あぁ、そうだ。大事なフラグを忘れるところだった。
お前の目が見える様になるまでには、必ず優しい世界を創ってみせるよ、約束だ。ナナリー!
…指切りをした時に、ナナリーセンサーが発動しないか、少しだけ怖かったが、それもなく、無事に夕食を終える。

 本来ならば、少しずつでも前回と違うアプローチをしていきたいのだが、夜にシャーリーが来る事を考えれば、今夜はナナリーを早く寝かし付けてしまわなければならない。

 すまない、ナナリー!決してお前を蔑ろにする気はないんだ!信じてくれ!



 現世復帰2日目~9ページ目

 ナナリーを寝かし付け、さぁ次はC.C.をどうするべきか?と考えて自室のドアを開けると、そこには百合の世界が………は?
目を擦って再確認しても、視界に入るのは全裸で喘ぐシャーリー…と、愉悦を浮かべシャーリーを弄ぶ魔女、って、しぃーつーーッ!お前一体ナニを、と言うか何故すでにシャーリーが部屋にッ!
なに?「まだっるこしいのは嫌いだ」?…いや「説得するの手伝ってやるよ」って、それは助か、違うッ!お前ソッチの気もあったのか!?
「私達は共犯者だからな」とか、あー、『共に犯す者』なんだし納得。ハハ、中々うまい事言うじゃないか、C.―――でもなくて!
やめろ魔女!だいたいシャーリーが嫌がって、…ないな、うん。
だ、だが腰を痛めている今の俺に3Pは荷が重す、「いいから早く来い」って、くッ!なんて刺激的な誘惑を!

 ………い、一回戦だけだからなッ!?





 現世復帰3日目~1ページ目

 明けて翌朝。
シャーリーは流石体育会系と言うべきか、既に朝練に行き、C.C.は、満足した顔で眠りについている。
あぁ、わかっていたさ。とても一回では終わらない事くらい。

 結局、二日徹夜の上、腰をあり得ない程に痛めてしまったものの、やり直し後、初の3Pはとても素晴らしいものだったのもまた確か。俺に後悔は無い。
なんだかんだとシャーリーも今の現状を、グダグダな感じで受け入れ、と言うか魔女と師弟関係築いてたし。
…C.C.、底の知れない女だ。

 さて、カレンと良好な関係を構築する為にも、今日のイベントは逃すわけにも行かない。
どうにかして、学園に辿り着かねば。



 現世復帰3日目~2ページ目

 そして今、目前にカーテンを一枚隔てただけで、俺の腕を掴むカレン。
素晴らしい!やはり今回我が騎士は君しかいないようだ!
カーテンに映る影でもハッキリ分かる腰の括れに、豊満な胸!
ゼロとしての俺に心を開いた暁には、どうやって、その肢体を味わってくれようか、ハァハァ。

 ん、「あの日シンジュクに居たの?」だと?何の事だ?今良いところだから、話掛けないでくれ!
何?「惚けないでッ!」って、あぁ!見えそうで見えない!
くッ、どうするべきだ?いっそギアスを使って…って、さっきからジリンジリン煩いぞ、電話!
全く、なんだこんな大事な時に!はい、もしもしッ、………あぁ、C.C.か?そ、そうか、俺が頼んだんだったな。バ、バカッ!忘れている訳ないだろう!少し立て込んでいただけだ!
まぁ、いい。C.C.、上手くやってくれよ?―――カレン、君に電話みたいなんだが…。

 そして伸びた電話線で開帳されるカーテン。
良くやってくれたぞ、C.C.!



 現世復帰3日目~3ページ目

 カレンと談笑しながら、皆の元に…。
なんとか前回通りに、カレンの健康的な裸体を目に焼き付ける事に成功、ではなく、疑いを晴らし、扇達のグループとの足掛かりを掴む事ができ、俺も非常に満足している。
後は、カレン達の協力を得て、スザクを救出。華々しくゼロデビューを飾るとしよう。

 …だが、スザクか。
親友、とは言え、俺がいなくなった世界でヤツがナナリーにした事を考えると中々に複雑だ。
正直、敵に回すとヤツ程やっかいなヤツもいないし、ここで救出しなければ、労せずにスザクを………、いやいや、しかしそれだとナナリーが悲しむだろうし、今回はシャーリーだって…ん?テレビの音が聞こえてきた。
前回と同じく、クロヴィス殺害を報せるニュース。
そこには予想通り容疑者として拘束されたスザクが―――って、バカなッ!?


 目に飛び込んで来たのは、前回と異なる容疑者を撮すテレビ中継。
そのイレギュラーに考える事も忘れ驚愕する。

 何故だ?何故お前がそこに映っている!?
お前はそんなトコにいちゃいけないんだ!ってかおかしいだろ、普通に考えて!!


 ………何故、お前が捕まっているんだッ!?玉城ッ!!







 色欲のルルーシュ Return02『弟子入り の クラスメイト』おわり






 あとがき

 どうも鈴木です。
今回も手早くできたんで投稿。
でも、作中の勢い落ちてる気が…。
後、もう板移すつもりはないんですけど、xxx板でこの内容も逆に詐欺だとも思えてきた次第です、はい。

 感想も本当にたくさん頂けて嬉しさ通り越して恐縮する事しきりです。
ありがとうございます。とても励みになります。
本来なら個別に返すのが礼儀?とも思うんでそうしようと思ったんですが、似た様な返事しかできそうにないんで、お座なりで申し訳ありませんが、ここでまとめて感謝を。

 で、指摘下さった事を二つ。

 一つに、ニーナなんですが、どうなんでしょう。書いてる方としては自身の好き嫌いでなく出て来たキャラを…、みたいに思ってるんで。
まぁ、様子見ながら書いていきます。

 二つに、吉田!
これは完璧に誤りでした。井上さんです。訂正しときます。
このルルーシュも流石に男色の気はないかと思いますんで。
指摘ありがとうございます。


 では、これで。






[4438] 色欲のルルーシュ Return03『ライフ は ゼロ』
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:11fd1fa6
Date: 2008/10/22 19:04



 寝苦しさに目を覚ますと、そこは見たことのねー部屋だった。
あ?ドコだよ、ここは?
…って、体中がスゲー痛ぇし動かねー!何だってオレはこんなコトになってんだよ!?
パニくったまま、オレ自身の記憶を思い返して見る。

 …確か、シンジュクでの作戦が失敗した後、得体の知れないヤローの言うこと仕方なく聞いてやって、その後ワケのわからねーままだったが、なんとか逃げたんだよ。
ンでもって、次の日にクロヴィスに何かあったんじゃねーか?とか仲間内で話してたコトをアジトで一人考えてたら、ソコに通信があったんだよな、うん。

そん時、アジトに通信が入っても誰もいねーしオレが出たら、「クロヴィスは死んだ」とか誰かもわからねぇ女の声が言ってきた。
で、「他のヤツの手柄になる前に…」だの続ける通信をぼんやり聴きながらオレは閃いたんだよ。
連絡してきたヤツが信じられるかは別として、クロヴィスになんかあったって事は間違いねーんだし、ここで実行犯はオレだ!とでも言っときゃ、もしクロヴィスがマジで死んでたら、儲けモンじゃねーのか!?ってな。
居てもたってもいられなくなったオレは、そのままゲットー中に「オレがあの憎きブリキ野郎をぶちのめしてやった」って聞かせて回ったんだよ。
で…、そこを運悪く、巡回中のブリタニア軍に見つかって捕まった。

 その後は散々だったぜ。
拘束服着せられて、待ってたのはジェレミアとか言うブリキ野郎の尋問だよ。
どうやらマジでクロヴィスは殺されたみたいでよ、「オレは殺ってねぇ」って言ってンのに、「君がやったかどうかは、問題じゃないのだよ」とか言いやがってさ。
あれ?コレってオレやばくね?と思ったら、やっぱ「見せしめに公開処刑だ」とか、「特例中の特例としてイレブンの貴様にも裁判を受けさせてやる」とかよ。
んじゃ、その裁判でオレが助かる可能性を訊いたら、「これはあくまで大衆へのアピール。結果は決まっている」「そもそもナンバーズの貴様が型式だけでも裁判を受けられる事に感謝するのだな」だのなんだの言われてよ。
さすがにオレも絶望したね。

 だけど、そうして裁判+処刑場に、スゲー警備で護送されてる時に、真犯人とか言うヘンな仮面のヤローが出てきて、なんかわからねぇけど拘束を解かれて、オレの運もまだ尽きてねーじゃんと思って………。
アん?そっから先の記憶がねーぞ?あの状態から、なんだってオレはこんなコトに…。


 ンな感じで余計に俺が混乱し始めてると、部屋にドヤドヤと入ってくる連中。
うるせぇぞ!体に響くから静かに………って、扇!それに杉山、吉田、南、井上、カレンも!

 その後、なんか「助かって良かった!」とか涙を流してる連中に取り敢えず、記憶のない時のコトを訊いた。
なんでも、ゼロ―――あのヘンな仮面のお陰でオレは救出されたそうだ。
けどその最中、オレは生きてるのが不思議な位の目にあったらしい、ってか、死は時間の問題だと思われてたらいしンだが、一応ってコトでゼロのヤツが、ナンバーズでも治療してくれる様に病院を手配してくれて、今ここで寝ているってワケだ。
仲間達が口々に、「良かった!」とか騒いでるが、当たり前だろ。オレ様は不死身の男、玉城慎一郎様なんだからなッ!


 ケッ!それにしてもお前ら、「ゼロのお陰だ」とか言ってンじゃねーよ。オレが救かったのは、オレの実力だってーの!
…まー、でも、一応感謝はしといてやるよ、ゼロ。







 色欲のルルーシュ Return03『ライフ は ゼロ』






 現世復帰3日目4ページ目

 夜。
落ち着いて考えて見れば、玉城を救出せずとも、俺にデメリットがない事に気付いた。
悪いヤツでは無かったが、騎士団時代もいてもいなくても何一つ困らない様なヤツだったし、無駄遣いするし、馴れ馴れしいし。
だいたい、親友とか言ってた癖に、割りと簡単に切り捨てられて、最後敵だったしな。
…やめよう。あれは俺の方にも悪因は多々あったし、前回の事だ。整理はついている。

 それよりも今回、何故玉城が…、と言うのは考えても詮なき事だが、同じ救けるのでも、スザクと玉城では、周りへの印象も随分と変わるだろう。
ゼロとして大衆の前に現れる初の舞台が玉城の救出ってのは、どうなんだ?
第一、玉城を救けると言うことは即ち、咲世子とならび我が忠実なる臣下だったジェレミアに再びロード・オブ・オレンジを歩ませる事と同義。
ジェレミアをオレンジ化させてまで、玉城を救けるとか…。
無い。それは無い。
あの忠義溢れる男には、今度こそちゃんとした生身の体で生を全うして欲しい。

 しかし、明日カレン達を東京タワーに呼び出してしまったし、………ドタキャンとかしたらもう二度とチャンスなさそうだしな。
そうすると、カレンを我が騎士とする計画にも大幅な遅れが…、クッ、玉城め!なんて余計な事しかしない男なんだ!

 ん?「お兄様?」って、いかんいかん!ナナリーといる時に、玉城の事を考えるとか有り得ない!…なんだい?ナナリー。
車椅子から抱き上げて、ベッドにナナリーを寝かせる。
なんて華奢な体だ!と言うかナナリーの腕が俺の首の後ろに、………このまま押し倒して、ってバカか!?まだその時期では!え?「本当にあの日本人の方がクロヴィス義兄様を殺してしまったのでしょうか?」って?いや、義兄上生きてるし―――ってこれは秘密だったか。


 結局、曖昧に頷きながらナナリーを寝かし付け、部屋を出る。
フフ、しかし良かった。手堅くナナリーへのオヤスミのキスが出来た。
やり直して初の快挙だ!
あぁ、だがもう少し自制を覚えねばな。危うく襲い掛かるところだった。
…ナナリー。


 さて、一応手配しておいた仮面を取りに行くとして、…本当にどうするべきかな、玉城のヤツ。




 現世復帰3日目5ページ目

 イレギュラーの原因発見。

 仮面を確保し帰って来た途端、魔女に襲われ格闘。
その激戦の合間の休憩時間に玉城の話をふってみると、「あぁ、私だ」とか言ってきた。
いや、なんでヤツらのアジトの通信番号知っているのかとか疑問は多々あったが、どうやらこの魔女、親友のスザクが捕まれば俺がまた悲しむとか思い、ダメ元で幾つか策を用意したそうだ。
結果、まんまと玉城が引っ掛かったらしいのだが、…バカ過ぎるだろう玉城。こんな策とも言えぬ策に掛かるとは。

 でもC.C.、お前そんなに殊勝な女だったか?
それに気持ちは嬉しいが、今回もスザクは、ナナリーに関して俺の敵になりかねないし、正直有り難迷惑なんだが…。
ん?「それにアイツらは前にお前を裏切っただろ?」…ってC.C.、お前なんて可愛い事を!「ふんッ、余計なコトみたいだな」って拗ねるな、拗ねるな!
ヤバい、この素直じゃないトコも良い!おい、C.C.!続きしよう、続き!






 現世復帰4日目1ページ目

 起床。
あの後も交わりながら、二人で会話し情報整理したのだが、やはり玉城を救出する事に決めた。
C.C.は難色を示していたが、よくよく考えて見れば、ここでカレンを逃す手は…、ではなく、扇達も俺が今回上手く立ち回れば裏切る事もないだろうし、早急に手駒が欲しいのも事実。
なにより、ジェレミアがオレンジ化してくれない事には、ギアスキャンセラーを手に入れる事が出来ないと気付いたのが大きい。
ナナリーが今回も自力で開眼できるとは限らない以上、苦渋の決断ではあるが、ジェレミアには涙をのんでもらう事にしたのだ。
つまりこれは、『玉城奪還作戦』と銘打ちながら本質はカレンへのフラグ建てと、キャンセラーの入手に重きを置いた作戦。
これならば俺のモチベーションの低下も避けられるし、言うことはない。


 にしても、昨夜のC.C.は可愛かった。
俺の為に怒るなんて、考えもしていなかっただけに、胸に響いたぞ、アレは。
あんなC.C.を見れたんだ。
腰の痛みも、寝不足も甘んじて受けとめようじゃないか。

 さぁ、今日は、東京タワーにカレンを呼び出した日だ。
そろそろ行動を開始するとしよう。


 まずは俺の女神、ナナリーとの朝食だな。




 現世復帰4日目2ページ目

 クロヴィスの死を悼む集会後、シャーリーが「やっぱりやるの?」と小声で話掛けてきた。
大丈夫だよシャーリー、今度は上手くやってみせる。
あぁ、心配ないさ。C.C.も納得してくれたし…、って、確認?
師匠にメールって、いつの間にアドレスを!?って言うか魔女はいつ携帯を―――え?今夜シャーリーも部屋に来る?べ、別に構わないが、しかし、作戦の成功の為にも腰をこれ以上酷使するのも…。
む、シャーリー、リヴァルが来たから、その話は後で。




 現世復帰4日目3ページ目

 リヴァルがしてきた話は、純血派とは?と言う質問と、賭けチェスについてだった。
そうだな、賭けチェスはもうやめるよ。もっと手強い相手も見つけたし…。
言ってシャーリーを見れば俯いて赤面している。
照れてるシャーリーはやはり可愛い、って、なんだリヴァル?「オレも混ぜてくれよ?」だと!?
冗談じゃないッ!男なんか混ぜてたまるか!!




 現世復帰4日目4ページ目

 学園が終わり、呼び出し通り東京タワーに来たカレンを電車へと誘導し、ゼロとして対面する。
カレン、そして扇、杉山、吉田。
前回通りのメンバーに前回通りに言葉を掛け、玉城救出の約束を取り付けた。

 しかし扇。お前はこの頃それなりにマトモだし慎重だったんだよな。
それなのに何故前回は、あんなにもあっさりシュナイゼルを信じてしまったのか。
俺にも多々原因はあったが、それでも一方的過ぎただろう、アレは。
やはりヴィレッタの存在がそれだけ大きかったと言うことなのか。
まあいい。今の俺なら女に惑わされたお前の気持ちも多少は解るし、…今回は独り身のままに騎士団の良心として頑張ってくれさえすれば、悪い様にはしないさ。


 それとは別に思ったんだが、ギアスがあれば電車内と言うシチュエーションでも思いのままだ。
………今度、C.C.でも誘ってみるか。




 現世復帰4日目5ページ目

 ナナリーとの時間を前回以上に大切にするべく、早々と帰宅し夕食を楽しんだ。
後、自室に戻ったはいい………のだが、既にC.C.とシャーリーで始めているのはどうなんだ?
おい、C.C.!「あぁ、お帰り」じゃなくて、もっとこうなんかないのか!?「お前もはやく服を脱げ」ってあぁ、それはそうなんだが、―――例えばだ!首尾はどうだった?とか訊いたり、無事で何よりだ。とか労ったり!…あるだろう、そう言うの!?
って、違うんだシャーリー!君に怒鳴ったわけじゃ…。う、煩いぞ魔女!何が「あーぁ、泣かした」だ!昨日はあんなにも可愛いらしかったのに!えぇい、こうなったらお前も泣かしてるやるッ!



 …またやってしまった。
行為後、腰の痛みにのたうつのは解っている事だと言うのに…。
俺の両脇で息を整えている二人をみながら、何度目かもわからない反省。
二人は幸せそうに横たわり、その秘所からは俺の流し込んだ精液が、…って、オイ!そう言えば避妊してないじゃないか!?
Cの世界では必要すら無かったから失念していたが、これはマズいだろ!
おぃ、魔女何を笑ってる!?き、気付いてたなら早く言ってくれ!と言うか大丈夫なのかお前!?
なに?「私はC.C.だからな」って理由になってない!それにシャーリーも、………あ、うん。Cの世界いたもん仕方ないよな。そうだな、今度から俺も気を付けるから。ま、まぁ、お互い早い内に気付けて良かった。
C.C.も、いつまでも笑ってるんじゃない!「アタらなければどうと言う事はない」ってそれはそうだが、…ハァ。


 もう色々とダメだ、この状況。








 ―――それから玉城奪還作戦までの数日は、3Pだったり、各々にだったりで楽しんだり、ナナリーと仲睦まじい兄妹として戯れたりと、恙無く過ごした。
作戦決行前日に諸々の準備を指示するのに協力者を確認した際、扇グループ全員が名乗り出たのは意外だったが。

 …意外に人望あったんだな、玉城のヤツ。








 作戦決行当日1ページ目

 そして、とうとう玉城を救い出す日が来た。
現在、決行時刻を目前に控えて待機中なのだが、一つマズい事が起きている。
何がかと言えば、…その、なんだ、俺のアレが勃ちっぱなしな状況が、としか言えない。
原因は分かっている。
前日、流石に作戦に差し支えがあっては困ると、二人の誘いを無理して断ったせいだろう。
おかげで体力と腰の容態は問題ないのだが、その代わりがこれでは!
一日女断ちしただけでこうなるなんて思いもしなかった。
一体どうしてしまったんだ、俺の体は!?

 マズい、マズぞ!ゼロスーツでこの勃ちっぷりともなれば、マントを開いた時にどうなるかは自明の理。
稀代のテロリストとしてではなく、空前絶後の変態として指名手配がかかるとか、どんな悪夢だッ!

 クッ、仕方が無い自分で処理を…。
もし万が一にでも素顔を見られないように、仮面を被ったまま下半身を露出。…泣きたくなってきたな、って、人の気配!?なッ、井上!
ま、マズ―――いや、これは逆にチャンスか?




 作戦決行当日2ページ目

 井上陥落。
作戦が近いと俺を呼びにきて、下半身全裸の仮面を見るなり、全力で逃げだそうとした井上を引き留め、色々とした。色々と。
結果、比較的速やかに篭絡する事に成功した俺は、これ幸いと井上で猛りを鎮め、今はハリボテの御陵車の屋根に立ち現場に向かっていると言うわけだ。

 しかし助かった。あれで井上に突っぱねられでもしたら、俺は破滅で、玉城も死ぬ。
が、俺が思っていた以上に俺の性技能は高くなっていたらしく、いくらもしない内に向こうから体を預けてきた。
それを考えるとあの魔女が如何に難敵かも実感できる。
必要ないとも思ったが念の為に「この事は誰にも言うな」とギアスもかけたし、取り敢えず作戦に支障はないだろう。

 …時間も迫っていたので焦ったが、間に合って本当に良かった。
今だけは、未だ早漏である我が身に感謝するべきか。




 作戦決行当日3ページ目

 そうして今、目の前にジェレミアがいる。
堂々とゼロとして名乗りを挙げ、さぁ、後はジェレミアにギアスを…と言うところ。
だが、決断をしたつもりでも、本人を前にするとやはり罪悪感を感じるのは否めない。
せめて『オレンジ』ではないマシな名を、と直前まで考えていたが、思い付くのは『みかん』とか『ポン』とか、柑橘系の枠を越えられない、駄作ばかりだった。
それにもう『オレンジ』と言ってしまったし後戻りもクソもない。

 すまない、ジェレミアッ!
俺が再び皇帝となった暁には、お前には広大な農園と、帝国最高の忠臣の証、ナイト・オブ・オレンジの席を用意すると誓う!
だから、だから今はッ!




 作戦決行当日4ページ目

 苦悩しながらもジェレミアにギアスをかけ、玉城の身柄を確保。
さて、後は飛び降りるだけか。
ん?お前はディートハルト。そうか、お前元々は報道の人間だったな。
フッ、格好良く撮ってくれよ?
玉城救出では、スザクの時程の印象にはならないだろうが、これは神楽耶への大事なアピールにもなるのだから。
なに?「ゼロ、時間だ」って、あぁ、そうか。では失礼させてもらおう。
煙幕を展開し、公道より飛び降りる。


 フハハハッ、さらばだ!




作戦決行当日5ページ目

 失態だ!
玉城を抱え、扇の張った簡易ネットに飛び降りた、と思ったら、俺が抱えていたのはカレンだった。
どおりで抱き心地が良い筈だ。
俺の腕の中で、「ちょっ、やだゼロっ」とか身動ぐ姿はとても可愛い―――ではなくっ!
違う!間違っているぞ俺ッ!何故こんな間違いを!?………本能か?…いやいや!そうじゃないッ!そう玉城だ!玉城は何処に!?

 まさかと思い見上げれば、そこには未だ飛び降りていない玉城を発見。
あのバカ!オイ、何をしているッ!はやく飛べ!「でもよォ」じゃない!作戦を台無しにする気かお前はッ!?
玉城はやく!…なんだお前、怖いのか?…違うなら急げ!はやくっ!!
………えぇい、世話の焼ける!


 い い か ら 、 飛 び 降 り ろ ! (ギアス発動)


 …ふぅ、ギアスもかけたしこれで一安心、と思った直後、一機のサザーランドの銃撃によってネットが壊された。
―――って、マズい!いま飛び降りたら、玉城は!
玉城、今のなしッ!ギアスなしッ!待て!はやまるんじゃないッ!たまきぃーーーッ!!


 流石は絶対遵守のギアスと言うべきか。
玉城は哀れにもそのまま地面に激突。
そんな玉城に、追い打ちで機銃の掃射が襲い掛かる。
奇跡的に直撃はないものの、着弾の衝撃に煽られ右に左に吹っ飛ぶ玉城。
あぁあぁーッ!止めてくれ!玉城のHPはもうゼロなんだぞ!…ジェレミア!はやくそのサザーランドを止めろッ!!


 その後、ボロ屑の様になった玉城を担いだカレンと共にどうにか脱出。
あまりに玉城が不憫だった為、ギアスを使い最高の治療施設を用意はさせたが、………あのダメージでは、恐らくは、もう。


 クソッ!だから急いで飛び降りろと言ったのに!
玉城ッ!バカだ、お前はッ!!




 作戦決行当日6ページ目

 失意の内に帰宅すると、C.C.とシャーリーが優しく慰めてくれた。
「お前だけが悪いんじゃないさ」とか「ルルはやれる事をやったと思うよ」などなど、俺を包み込む様に言葉を掛けてくれる二人に縋り付きそうになったが、玉城の死を考えると気分が乗らず、喪に伏す意味も込めて一回戦で済ました。

 が、数時間後、玉城生存の報せが扇から届き、玉城生還祝いと言うことで、結局は朝までした。


 けど、良かった。
玉城、なんて生き汚―――いや、生命力だ。
本当に良かった。
…どうやら井上の事も、C.C.達には勘づかれていないようだし、漸く安心して楽しめる。







 色欲のルルーシュ Return03『ライフ は ゼロ』おわり






 あとがき

 ども、鈴木です。
本日仕事休みだったんで、再び投稿。
しかし、このルルーシュ、エロいんじゃなく、ただバカなだけと言う事に書いてる本人が漸く気付きました。

 感想、いつも楽しみに読ませて頂いてます。
わずか一日の間にたくさんの書き込みありがとうございました。

 では、今回やりすぎてないか不安に思いつつ、この辺で失礼します。






[4438] 色欲のルルーシュ Return04『皇女 と 痴女』
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:11fd1fa6
Date: 2008/10/22 19:10

 私(わたくし)の命を絶ったのは、数多くいる義兄弟の中で、私が最も愛した人でした。
殺された事に対する憤りも持てず、ただ何故?と、そう思い死んだ筈の私は、その後に目覚めた世界で、色々な事を見て、そして知りました。

 何が、誰が、悪かったのでしょうか?
それは、未だにわかりません。
ただ私の死が、それまで以上の覚悟を義兄―――ルルーシュに齎してしまいました。
何を失って、何を犠牲にしようとも、自身の道を征くのだと言う覚悟を。
例えそれが、私の騎士となってくれた人、ルルーシュにとっても親友であったスザクと憎しみあう事なのだとしても、と。
その道行きが、とても哀しくて、それを見ている事しかできない私自身が不甲斐なくて、涙が溢れて。

 けれど、それから続く残酷な世界でも、彼らは諦めませんでした。
何度憎みあって、何度絶望しても、それすら超えて、沢山の人々の想いに支えられて、新しい世界の基盤を創ってみせたのです。

 だから私も泣く事をやめました。
全てを終えてこちらに来たルルーシュに、お疲れさまでした。って笑顔で言ってあげられる様に。
彼の傷付いた魂が、少しでも癒される様に。

 そうして、Cの世界で幸せな時間が始まりました。
ルルーシュと、彼を取り巻く人達との、とても幸せな時間。
たまに見るスザクとナナリーのアレコレが、ちょっと複雑だったりしたんですけど、私も初恋が叶いましたし…。
やっぱり、幸せな事に変わりありませんから。



 ………そんな風に思ってCの世界で暮らしてた私なんですけど、なんか気付いたら戻って来ちゃったみたいなんです。
最初は信じられなかったんですけど、クロヴィス義兄様のコトやゼロのコトがあって間違いないんだって確信できました。
少し違うのは、捕まった人がスザクじゃないコトくらいで…。

 それから色々と迷って、混乱して、でもやっぱり、前回の私に出来なかったコトをするチャンスが与えられたんだって考える様にしました。
今度こそ、ルルーシュ達と一緒に平和な世界を築ける良い方法を見つけだせるチャンスだって。
前の記憶があるのが私だけなのか、それとも他にいるのかも、まだわからないんですけど、私は私なりに、やれるコトをやろうと思うんです。


 だから、エリア11に着いたらまず、スザクに会うコトにしましょう。
前の記憶を持っているせいか、少しだけ思うところもありますし。えぇ、本当に少しだけ…。







 色欲のルルーシュ Return04『皇女 と 痴女』






 玉城奪還作戦数日後1ページ目

 人間と言うのは凄い。
連日、腰痛に耐えながらもC.C.とシャーリー相手に盛っていた結果、腰もだんだんと痛みを訴えなくなっていき、体力の限界値も少しずつ上昇している。
性技の方もまだまだ伸びる可能性を見い出せたし、何よりセックス以外の時間に余裕を持てる様になった。
その時間を前回より如何に反逆を有利に進めるかの準備と、前回より如何にナナリーや他の女達と良い関係を構築するかに費やせるかによって、俺の『やり直し』の真価が問われると言っても過言ではないだろう。

 玉城を救いだしてから数日、世間はゼロの話題で持ちきりだ。
話題性では、スザクの時に劣ると見ていたが、それでも殆んどの雑誌の表紙を飾り、ニュースでも連日の様にゼロについての特集が組まれている。
玉城がスザクの様に再び自ら裁きの場に舞い戻る事は、ケガの具合からしても、立場からしても有り得ないので、事件後、前回より若干日本人への風あたりが強さを増したが、これすらゼロとしての名を売る機会が増えたと、勘定を上向きに修正して笑える程度に大人しいものだった。

 そしてもう一つ、スザクではなく玉城を救けた事によるメリットとしてあげられるのが、扇グループへの心象。
救出から病院の手配までの流れは、彼らに少なくない感銘を与えたらしく、秘匿通信での応対が前回より随分と好意的だ。
何故か扇ではなく井上と通信する事が多いのだが、これは特に支障をきたす事でもない。
いや、むさい男と話すより応答にも張り合いがでて良い位だ。


 そんな事を考えながら通学の準備をしていると、ベッドから身を起こしたC.C.がすり寄って来た。
って、止めろC.C.!昨夜も散々相手しただろうがッ!この頃只でさえ遅刻続きな上に、朝練をサボれないシャーリーが教室で凄い拗ねるんだぞ!
だいたい、俺との朝食を楽しみにしてくれているナナリーを待たせる訳には―――え?「あと五分」?それはこう言う時に使う言葉じゃない上に、後五分で何をしようと言うんだお前はっ!?
ん?「五分もあれば充分だ」って、無理を言うな!いくら俺が未だ早漏気味とは言え限度があるだろうがッ!「さすが『閃光』の長子だな」って、ここから叩き出すぞ、お前ッ!




 玉城奪還作戦数日後2ページ目

 悪循環だ。
教室での授業中に頭を抱える。
今朝は、着込んだ制服を脱がせようとする魔女を振り切ってナナリーとの朝食に間に合わせたので良い。
が、このままでは確実にナナリーに疑念を懐かせるだろう。
肉欲に溺れた結果、ナナリーの好感を下げてしまうなど本末転倒も良いところ。早急に打開策を見つけ出す必要性がある。
それでなくとも、最近は学園で拗ねたシャーリーの機嫌をとるのに休み時間保健室に籠りきりで、会長やカレンへの接触の機会を作り出すことすら儘ならないと言うのに…。

 などと考えていたら余程深刻な顔に見えたのだろうか、教師が保健室に行く事を奨めてきた。
近頃はヤツれ具合もあって、周りから心配されていた事も手伝ったのだろう。
これは良い機会と、教師の言葉に甘えて席を立っ―――たところで、シャーリーが挙手。
待つんだシャーリー。「私が連れていきます!」って、君は保健委員でもなんでもない筈。
一人で結構です。と発言する前に、シャーリーの気迫に圧されて教師が許可をだしてしまった。

 そのまま有無を言わさずに手を掴まれ、保健室までの廊下を引き摺られながら改めて思う。
あぁ、最近こんなのばっかりだ。
と言うか、シャーリーが魔女の悪影響を受けている気がしてならない。
積極的なのは嬉しいが、授業を抜けてまでなんて…。
純真だった頃の君はどこへいってしまったんだ、シャーリー。


 え?「ホントに調子悪いなら」って、いや、折角だしスるけど。




 玉城奪還作戦数日後3ページ目

 休み時間。
いつもならシャーリーとの時間とする筈であるが、今日は先程までの授業時間をシャーリーと過ごせた為に体が空いた。
本来なら、こうした時間に少しでも会長やカレンにアプローチをかけたいのだが運悪く捕まえられず、今は中庭のベンチで一人ノートパソコンに向かい『明日の為の秩序ある反逆計画』を練っている。

 手始めに打ち込むのは、サクラダイト干渉磁場の発生原理、即ちゲフィンオンディスターバーの開発理論。
前回はラクシャータの参入がなければ戦線に投入できなかったこの装置も、前回から持ち越した知識に頼れば、以前より早期の実用化が見込める筈だ。
開発に必要な資料を打ち込んだ上で、シンジュク近辺の技術者にでも作製を命じれば、ククク、それだけでも初期の作戦が大分楽になるのは間違いない。


 と、悦に入っている俺に声が掛かった。
見上げれば、そこにお嬢様モードなカレンが、って、なんだ?さっきあれ程捜しても見つからなかったのに…。
この時期俺にカレンから声が掛かる様な用件は………、いや、まさか、まさかとは思うが、やたらそわそわと云いにくそうにしているし、もしや―――告白!?




 玉城奪還作戦数日後4ページ目

 残念ながら告白では無かった。
カレンからの用件は質問で、訊ねられた事は、先日のバスルームでの電話の着信履歴について。
成る程、どうにかゼロの正体の手懸かりを、と言ったところか。
ベンチから立ち上がりながら、そういえばこんな事もあったな、と半ば落胆しつつシラを切る。

 ん、だがこの時って確か魔女が…。
ふと今回のカレンに同期して、C.C.が俺の服を着て学園を彷徨う姿が脳裏を過ったが、今回もそんなバカな真似はしないだろうと結論。
さぁ、折角だしカレンと会話を、と視線を前に戻した瞬間に、我が目を疑う光景に出くわした。


 そこには、―――カレンの背後、少し離れたその場所には、前回と同じく緑髪の魔女の姿。
それは良い。何故今回も、と思わなくもないが、まだ良いと思える。
何せ魔女だ。その程度で驚いていては、あの女と連れ添うなどとても出来ない。

 だが、アレはなんだ?
前回と同じく中庭に生える木の側近くでクルクル回っているあの女は、何故Yシャツ以外何も身に付けていないんだ!?
待てC.C.!それ以上動くと裾がッ!!
クソッ、俺以外が魔女のあんな姿を見るなんて許容できるか!
そもそも、なんであんな格好で徘徊を!?前回と違い服は幾つか買ってやっているだろうに!
第一、昼間からあんな格好で外で踊るとか、どうみてもだだの痴女だ!
あぁ、ダメだ。あのままじゃ、俺以外の男がC.C.を………、もしかしてお前はそれで構わないと言うのか?C.C.!?


 ………ん?至近から「あの」と声が掛かってそちらを向けば、目の前にカレンの顔が。
どうやら興奮していたとは言え、無意識にC.C.を目撃させぬ様に、カレンの顔を両手で固定していたらしい。
魔女の事はひとまず思考放棄して、安堵。
困惑した声で「コレはなに?」と訊ねてくるカレンの唇を見て思う。
なんだろう?いや、どうしよう?

 呟きながらカレンの顔を見直すせば、困惑した顔も悪くないし、近くで見る唇が、なんとも言えず艶かしい。
これは、ひょっとせずともチャンスでは?―――そう考えた時には抑えが効かず、ほとんど自動的に唇を奪っていた。


 一秒、二秒、……五秒。


 それだけ唇を重ねてもノーリアクション。
事態に対処出来ず呆然としているだけなのか、それともこの時点でオーケーと言うことなのか、どうにも判断がつきかねる。
故に、次のステップとして舌を入れて―――


 ―――返答は、右頬への強烈なストレートだった。
一撃で崩折れた俺へ、更に悪鬼羅刹の如く蹴りを放つカレンに、「ゴメンナサイ、出来心ダったンデス。やメて下サい」とギアスを使ってしまった事については、俺はなんら後悔していない。

 しかし、懐いている内は愛玩犬に似た可愛らしさも覗かせると言うのに、敵と見るや何一つ躊躇いなく襲いかかるところは、相も変わらず恐ろしい女だ。
やはり今回は是が非でも最後まで共に戦って貰おう。


 その後、痴女を叱責するべく目撃者にギアスをかけながら追い掛けている途中でシャーリーに遭遇。
カレンへのキスを目撃されていたらしく、同じく既に腫れ始めた右頬に痛烈な平手打ちを受けた。

 泣きたくなった。




 玉城奪還作戦数日後5ページ目

 で、現在。
C.C.を捕獲した後、詰問しようと連れて来た学園の屋上で、四つん這いで並ぶC.C.とシャーリーに後ろから覆い被さり腰を振る俺。

 なんでも、あの痴女紛いの行為は、今朝にべもなく断った俺への当て付けだそうで、カレンにしたキスで機嫌を損ねてしまったシャーリー共々、何故か被害者の筈の俺が奉仕する羽目に陥った。
しかしこの魔女、「私も少し拗ねてみただけだ」とか可愛らしく言っているが、一回誘いを断っただけでコレでは、今後どうなってしまうのか、考えるのも嫌になってくる。

 そうしてまた、屋上を訪れ真っ昼間からの3Pを目撃した輩に、腰を振りつつギアスを発動。記憶を搾取し追い返す。
今ので何人目だろうか?
やり直してギアスの能力の検証が必要ない分、節制が出来る筈だったと言うのに、蓋を開けてみればこんな仕様も無い事で、明らかに前回よりもギアスの使用が増加している。

 しかも、せめて頬を冷して熱を取りたい、腫れを抑えたい、と懇願しても、「後にしろ」とか、酷すぎる。
気の毒に思ったのかシャーリーが頬を舌で舐めたり、手で擦ったりしてくれるのが、唯一感じれる優しさだ。
挙げ句、俺が堪えきれずに、流れ落とした一筋の涙を見て、「泣く程嬉しいのか?このスケベ」とか、C.C.お前は俺をなんだと思っているんだ?



 と言うかC.C.のヤツ、母さんとの脳内回線はちゃんと切ってあるんだろうな?
こんな姿知られてたら、反逆どころじゃないんだが…。
いや、そこは共犯者を信じてやらねば。

 ………グスッ。




 玉城奪還作戦数日後6ページ目

 学園で纏めたゲフィオンディスターバー等のデータを、適当な技術者連中にギアスをかけて渡し帰宅すると、ナナリーとC.C.が夕食の席を並べて俺を待っていた。

 もう嫌だ、この魔女。
今回は最初から合流できたのだから、ナナリーと魔女の接触は避けられたと安心していたと言うのに、数日遅れで発生させるとは。
しかも前回と違い既に色々とナナリーに拭き込んでいる様子で前回より仲が良さ気。恋人認定されてる気が…。
心なしか悲しそうな顔をしているナナリーに焦りが増す。

 あぁ、違うんだよナナリー。そりゃあ、C.C.の事だって愛しく思うけど、将来も約束したけど、それはナナリー、お前と添い遂げると言う前提があっての事で、え?「意外とお早いんですね?」って、ナナリー!?
おい、魔女!?お前ナナリーにナニを言ったんだッ!ち、違うんだナナリー!俺は本来早くなんか、「落ち着けルルーシュ」って、C.C.!これが落ち着いていられるか!ナナリーに早漏なんて思われたら俺は、おれは………何?その事じゃない?

 錯乱する俺を見て、前回と違い、C.C.自らがカップを割り、キッチンへと連れて行かれ説明を受ける。
なんでも、話した事に前回と大した違いはなく、ただ、前回より親しく接しただけとの事。
安堵したのも束の間、「義妹になる娘だからな」とか、発言に不穏当な部分が見受けられたが、今はスルーする事にした。


 いまは何よりもナナリーとの夕食と、C.C.との関係についてのフォローが先決だ。
いや、C.C.。ピザもないし、夕食にわざわざ付き合う事は………。

 なんかだんだんと俺の肩身が狭まっていく気もしたが、それもスルーする事にしよう、うん。




 親友転入日1ページ目

 翌日、教室。
昨日に続き、珍しく遅刻する事なく自分の席に着く。
と言うのも、C.C.とナナリーとの会話をヒヤヒヤしながら聞いていた夕食中、肉を咀嚼していた俺の右下の奥歯が猛烈な痛みと共に砕け、抜け落ちたのが原因だった。
明らかにカレンの拳が巻き起こしたその事態。
痛みに耐え兼ねた俺は、最寄りの歯医者に急行。ギアスを使い治療を急いで貰いなんとか事なきを得て再び帰宅。
まだ痛む歯を理由に昨夜と今朝のお相手は免除して貰い、久方ぶりにグッスリと睡眠する事が出来た、と言う訳だ。

 お陰で目覚めも良好。
晴々した気持ちで学園に来れたのだが、…む、回想している内に教師が入って来てHRが始まった。
いつも通りの挨拶から始まる教師の話を流し聞きながら…。

 …。

 ……。

 ………待て。適当に流して教師の話を聞いていたが、今聞き捨てならない単語がヤツの口からでなかったか?
確か『転入生』と。…ハハハ、有り得ない。
前回と違ってスザクは捕まっていないんだ。
話に聞いたユフィとの出逢いが、そう都合良く起き得ない以上、スザクが転入なんて………おい、立ってるよ、教壇の前に。


 ス ザ ク め !


 何故だ!?どう言う理由でそこにいる!
手段は?動機はッ!?まさか今回もナナリーを手篭めにする気か!?
させんぞ!それだけはッ!

 ク、ククク、まぁ、良い。今回の俺には未来を知っていると言う強みがある。
ならば前回と同じくクラスメイトと言う近い立ち位置から、精々お前の目的を阻ませて貰おう!
覚悟するんだな、スザクっ!!



 ―――ところで、尋問を受けてない筈のスザクの顔が、何故前回以上に悲惨な事になっているんだ?







 色欲のルルーシュ Return04『皇女 と 痴女』おわり







 あとがき

 ども、鈴木です。
毎回勢いだけで書いてる為に、その内展開が破綻しそうで怖いんですが、とにかくカレンとのキスをかなり早い段階で達成。
果たして良かったのか、悪かったのか。

 この話。続きを書くにあたり決めた事が二つありました。と言うか二つしか決めてませんでした。
一つ、一話毎に女を一人オトそう。
二つ、なるべく本編に近い展開。タイトルを心掛けよう。

 一つ目は今回で敢え無く×。二つ目もタイトルに沿わせるのが難しくなってきた悪寒。
あと考えてるのが『ギアス 対 エロス』くらいしかない。
これから、どうにかしようと思いますが、ダメだったらすいません。
構成を練り直そう、うん。

 で、毎度同じ事しか言えませんが、感想下さる皆様、本当にありがとうございます。
ルルーシュはこのまま、自信を持ってバカでいって貰おう。
井上さんに使ったギアスとかご指摘頂いてから、あぁ成る程な、とか思わされまして、次から気をつけたいと思います。
C.C.、可愛いとか言ってもらえたのも嬉しく思いましたが、今回どうかなぁ?とか。

 では、今回はこの辺で







[4438] 色欲のルルーシュ Return05『新たなる 仮面』
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:11fd1fa6
Date: 2008/11/02 20:59


 シンジュクでの作戦の後、僕の軍務以外の時間は、七年振りに再開したのも束の間、再び安否がわからなくなってしまった友達―ルルーシュを捜す事に費やされた。
とは言っても、複雑な事情のある彼だろうから、公の機関に頼るのも憚られて、見つけ出すのは難しい。
そうこうしている間に、クロヴィス殿下の暗殺から、ゼロと名乗るテロリストの出現なんて事が立て続けに起きて、苛立ちは募るばかりだった。

 そんなある日、僕は上からの出頭命令を受ける。
驚いた事に、僕を呼び出したのは、崩御なされたクロヴィス殿下に変わり、日本―――エリア11の副総督に就任する為にこの地に赴いた皇族。
ユーフェミア・リ・ブリタニア第3皇女殿下。未だあまり表に顔を出していないお姫さまで。
もちろん、只の一等兵。しかも一名誉ブリタニア人にしか過ぎない僕が彼女と面識なんてある筈もなく、「アナタに興味があるの」なんて微笑まれたところで、最初は僕の持つ『枢木』の姓がそうさせたのか、と訝しむ事しか出来なかった。

 けれど、違った。
「以前、あなたに似た人が好きだったの」なんて、臆面もなく微笑まれ、僕の警戒心は一気に取っ払われてしまって。
その後、まさか皇女様のお願いを断る事も出来ず、彼女のお転婆に付き合う形で租界に脱け出して、遊び回って、色々な話をした。
家族の話、友達の話、恋の話―――をした時の彼女の笑顔が、少し冷ややかに感じたのは気のせいだと思いたい。うん。
とにかく、話している間に、僕たちは見る間に打ち解けた。

 そうして、僕にとっても久しぶりに楽しいと思えた一日の夕暮れ、彼女は言った。「シンジュク・ゲットーを見せて下さい」と。
予感はあった。その瞳にあった憂いは、今までに見てきたブリタニアの人達とは大きく違っていたから。
このブリタニアお姫さまが、只のお遊び気分で、租界まで脱け出すなんて事は無いと。
だから僕は、彼女と共にゲットーに向かった
そして、向かったゲットーで起きていたのは純血派同士の抗争。
タイミングを合わせたかの様に、その場に来たロイドさん達の協力もありランスロットで戦闘に割り込んで、続くユーフェミア様の名乗りで抗争が中断され後、彼女は僕に訊ねてきた。

 真摯な瞳で、僕の戦う理由を。日本人でありながらブリタニアに膝を折る理由を。
あまりに真っ直ぐな彼女に誤魔化す事も出来なくて、しどろもどろになりながらも答えた言葉はなんだったろうか?
辛うじて、正しく在りたいのだ、と返した筈だ。
「それがどれ程の苦難でも?」と問いを重ねた彼女に、死も厭わない、とも答えた。
過去に自らが間違った方法で得た結果を知る僕だからこそ、今度こそ正しい方法で、ブリタニアの中から、正しい方向に変えて行こうと生きてきた。
そう生きて、それでも叶わぬ夢ならば、道半ばで果てても本望だったから。

 でも、七年前から今までの僕が苦しみながら導き出して、信じ続けてきたその答に返されたのは、僕の頬を張る彼女の一撃だった。
呆然とする僕に彼女は泣きながら訴えた。
死ぬ事は贖罪じゃないと。
死に逃げるなと。
どこまでも本気で、悲しげに、言葉と共に手を振るわれた。

 いくら彼女の細腕だと言っても、無防備に受け続ければ、それなりに腫れもするし、痛みもあったけど、その行為を理不尽だとは思えなかった。
恐らくは、気付かされたからだと思う。
なぜ彼女が、僕自身ですら誤魔化し続けてきた胸の内に潜む願望を言い当てる事が出来たのかはわからない。
けれど彼女の言葉は、知らず死に逃げ道を求めていた僕自身の心を、死んで楽になりたいと言う惰性を孕んだ想いを、自覚させてくれた。
その後で、愕然とする僕に、落ち着きを取り戻し謝罪と共に差し出してくれた彼女の手を、僕は一生涯忘れることはない。
正しく在りたいと、幸せな未来を望むのなら、今度こそは死に囚われずに、私とその方法を探しましょうと、夕日を浴びて微笑む彼女に、僕は泣いた。
泣いて、彼女の手を取った。
救われた思いだった。彼女とならば、と思えた。
自然膝を折って礼を礼をとる僕に彼女は言った。
祈る様に、「私の大切な人が道を間違えてしまうかもしれません。それを止める為にも、どうか一緒に…」と語るその言葉にも否はなく。
強く頷いて、彼女―――ユフィと笑いあったのが、僕らの出逢い。

 まぁ、只でさえ腫れてた顔を、ユフィと共に帰った後、脱け出した事で更に上官から粛正されたのは、流石に苦笑してしまったけれど。



 そして今、ユフィとの出逢いにより、少しだけ立場を変えた僕は、彼女の取り計らいで通える事になった学園の屋上で、七年振りに無事と知れた親友と語り合っている。
ルルーシュの現在の立場を聞いて、ユフィにも隠し立てしなければならない事ができたのが少しだけ心苦しいけれど、嬉しい事に変わりはないし。
ナナリーも無事でいてくれた事も解って、この機会を与えてくれたユフィには、感謝してもしたりない。

 さぁ、この幸福が壊されない世界に一日でも早く近づける様に、僕は僕で、出来るだけの事をしていこう。



 それはそうとルルーシュ。
僕の顔のケガもそうだけど、君の顔もなんでそんなに腫れているんだい?







 色欲のルルーシュ Return05『新たなる 仮面』







 親友転入日2ページ目

 確信した。ユフィも帰って来ている。
理由は、以前と同じくサインを使って屋上に呼び出したスザクの話から。

 ナナリーも俺と一緒にいる事や、俺達の現在の身分などを話し、シンジュクでの事も、C.C.の事も含めて前回と同じように誤魔化した後、俺からスザクに幾つか質問をしてみて明らかになった事実。
名は伏せられていたが、スザクの顔を悲惨な状態にしたのはユフィで間違いないだろう。
フハハハ、ザマァないなスザク。あれだけユフィ、ユフィ言いながらナナリーに手を出した報いだ!
…ではなく、元々クロヴィス暗殺の容疑者でなかったスザクが学園に転入してきた時点で予測はついていたとは言え、これでユフィがやり直しているのも確実となった。

 しかしマズいな。
ユフィにもCの世界での記憶があるのは嬉しくあるが、それと同じ位にマズくもある。
C.C.やシャーリーの様に、前回の記憶を持っていても俺の傍にいてくれるのなら問題はないが、ユフィの立ち位置はブリタニア側だ。
俺達もやり直している事は、まだ知らないだろうし、今回クロヴィスが死んでいない事は言わずもがなだ。
今はスザクの反応からしても、俺の事を急にどうにかする気はないと見れるが、優しい彼女の事だ。最悪、敵対してでも俺を止めようとするかもしれない。
俺の思考を以てしてもユフィの事は読みきれない、謂わば最大のイレギュラー。
彼女が前回の流れに干渉を起こす様な行動にでる前に、早めに接触を図り、スザクの毒牙にかかる前に二度目の処女も俺が―――じゃなくて、現状の説明、説得、その他諸々をして、味方になって貰いたいのだが…。


 っと、しまった。今はスザクと会話中だったな。
なんだ、スザク?「ナナリーにも会えるかい?」って?
く、コチラから極力ナナリーの話を振らないようにしてたのに、コイツは。
逢わせるのは簡単だし、ナナリーも喜ぶだろうが、スザクはナナリーにも、フラグ建て兼ねないヤツだからな。
スザクとナナリーのフラグとか、俺にとってはあらゆる意味で死亡フラグ。当然へし折るべきだろう。
けれど、ダメだ!なんて言い方は、一応親友な現在の関係では角が立つだけだし、仕方ないからスゴく迷惑そうな雰囲気を出して、嫌々ながらに誘う。
が、そこは流石にスザクと言うべきか。空気など一欠片も読まずに「えっ、いいのかい?」なんて嬉々として言ってきた。

 ………あぁ、まぁいいさ。俺のナナリーへの愛で、お前に付け入る隙を与えなければいいだけだ。クソ。


 こうなれば、スザクへのディフェンス対策を練るしかないと考え、じゃあ夜に、と屋上での会話を切り上げようとした俺に、スザクが「そういえば、君の顔も面白い事になってるけど?」とか声を掛けてきた、が無視。
カレンに殴られましたなんて言える訳がない。


 今回もやはりスザクとは相容れない様だ。




 親友転入日3ページ目

 自室に戻り会議。
C.C.とシャーリーにユフィもやり直しているだろう事を告げる。
C.C.はどうでも良さそうに聞いているが、シャーリーはCの世界で親交のあったユフィのやり直しを随分と喜んでいる。
しかし、俺を含めてやり直しが確認されたのは、これで四人目だ。
いったい、どういう理由でやり直しがなされているのか、本格的に調べるべきだろう。

 C.C.なにか解る事とかないか?ん、「推論だが」?あぁ、別に構わない、言ってみろ。
何?「今やり直しが確認されているのは皆、お前と精神的に繋がりのあるヤツだ」と?どういう意味だ?
「まずお前と私には契約者としての繋がりがある」と、それは解る。
が、シャーリーとユフィは…、「文字通り繋がっただろ?精神世界で」って、なんだその嫌な笑い方は!シャーリーも照れてるんじゃない!
いや、オカシイだろ、それは。
確かにCの世界は精神世界と言えなくもない…のか?
だが、そうするとアレか?Cの世界で俺の抱いたヤツは皆やり直してると?
む、「今のところ筋は通っているだろう?」だと?
確かにそうだ、な。
それに、その仮説を信じるとするなら、やり直している人間の一応の目処もつくし、執拗に俺のもう一つの貞操をつけ狙っていたロロからの完全な解放を意味する事になる。
けど、関係をもった女みんなとなると、それは…。
い、いや、違うんだシャーリー!「私たちの他に誰かいるの?」なんて、そんな事あるわけないじゃないか!

 そ、それよりも!今夜スザクがくるから、C.C.は、絶対に部屋から出るなよッ!
シャーリーもすまないが今夜は遠慮してくれ!あぁ、埋め合わせはきちんとするから!



 ………誤魔化せた、か?




 親友転入日4ページ目

 夜。
スザクの来訪とナナリーの帰宅。
そして、三人での夕食。
あまり回想したくないので適当に記す。

 ナナリーは涙を流して喜んだ。それは嬉しい。
儚げなナナリーの顔は、言葉などでは尽くせぬ程に可愛い。
が、それはスザクの齎したもので、嬉し涙とは言えナナリーを泣かし、あまつさえ俺の女神の手を握って微笑み合うとか、前回のナナリーとスザクのアレコレがフラッシュバックして、グギギギ。

 食事では七年分の溝を埋めるかの様な楽しげな会話。
二人きりで生きてきた中で培ったナナリーの中の『優しいお兄様』像を崩さない為にも、想像を絶する精神力を費やす。
そんな責め苦の中で得た情報としては、スザクは今回も技術部に配置替え。即ちランスロットのデヴァイサー=今回も俺の敵。
控え目に言っても、直ぐ様スザクを叩き出してやりたくて仕方がなかった。

 そうこうしている内に余りに長々とナナリーと戯れるスザクに、俺の忍耐が尽き、最終手段『ぶぶ漬け』を投入するも、ただ喜ばれて終わる。
日本人の癖してスザクのヤツ!
しかも、俺のナナリーが「今日は泊まっていかれるんでしょう?」とか俺を殺傷しかねない発言をしてしまう。
スザクもスザクで「え、いいのかい?」とか記憶にない発言をするもんだから、必死に不自然に思われない様に阻止する羽目になった。


 で、漸く今スザクとクラブハウスの玄関で向き合っている訳だが、長く過酷な戦いだった。
同じ学園にいる以上、スザクとナナリーはどうしたって出逢ってしまうから今回の食事会は仕方無いと割り切ったとは言え、ここまで疲弊するとは…。

 それにしてもスザクのヤツ、何故か前回と違い、吹っ切れた感が漂っていて、終始笑顔だ。
ユフィが何かしたのだろうか?
いや、スザクの顔を酷い事にしたのは解るが、それはスザクが前回よりニコニコしている理由にはならないし…。
叩かれて嬉しそうって、はッ!まさかスザク、Mに目覚めたのか?
ユフィもCの世界で色々とはっちゃけていたし、やり直しの機会を得て、ここぞとばかりにスザクを調教し―――いや、落ち着け俺。こんな推測はユフィにも失礼だ。
だいたい、スザクのSはサディストのSって位、コイツはMの対極にいる男の筈だ。
思い出せ!俺亡き後、スザクがナナリーにだんだんSっ気を露にしてプレイに及んだ時のあの憤怒を忘れたのか!?

 そう、そうだ。
俺は決して忘れない。
思えばスザクがナナリーにSM紛いの行為を働いた時から、俺とスザクの道は完全に別たれたと言って…、なんだ、スザク?まだいたのか。何?「僕たち学園では他人でいよう」?あぁわかった、そうしよう。じゃ、おやすみ。

 背を向けてクラブハウスに入ろうとする俺に「ちょ、……え?」とか、戸惑った様な声が聞こえてくるが、今の俺はそれどころじゃない。
思い出せば出すほど、余計にスザクをナナリーに近付ける訳にはいかなくなった。
出来る限りの策を構築せねば…!





 親友転入日5ページ目

 スザク対策に思い悩みながら部屋に戻るとC.C.が「今回、スザクはどうするんだ?トモダチだろう?」とか訊ねてきた。
違うな。間違っているぞ、C.C.。
確かに友達は友達だが、それ以上にヤツは俺の仇敵だ。
言った筈だろう?我が覇道を阻む者は、相手が誰であれ容赦はしない、と。

 ん?「じゃあ、学園でもあのまま放っておくのか?」って?スザクが孤立しているの、シャーリーにでも聞いたのか?
まぁ、流石に前回と同じでは些か不憫だが、幸いにも今回のスザクは、クロヴィスの件との関連性はないからな。
今は名誉ブリタニア人として距離を置かれているが、そう遠くない間に学園に馴染むだろう。
後は、会長にでも頼んで運動系のクラブに籍だけでも置かせておけば、スザクの事だ。軍務の間にでも、力技で自分を認めさせるだろうさ。
故に、前回のアーサーに仮面を奪われる様な醜態も、晒さなくて済むだろう。

 おい、何故ションボリする。「アレはアレで良い見せ物だったんだが…」って、魔女、前回見てたのか!?
そんな目で見てもやるわけないだろう!意図的にあんな事を起こしてたまるか!
そもそも、学園の連中にゼロの仮面見られたら洒落にならないだろうが!「ギアスがあるだろ」って、お前バカか?野外でお前たちとスる時に、俺がどれだけの人数にギアスをかけたと思ってるんだ!
俺のギアスは一人につき一回。既にギアスを使用した相手に仮面を見られたら即アウトなんだから、そんなリスク冒せるかッ!
だいたい、今回スザクの生徒会入りは阻止する方向で動いているんだから、あんなイベントは必要ないだろうが!
た、確かにナナリーの「ニャー」や、キスが貰えないのは痛いが、それを考慮しても負わねばならないリスクが大きすぎるんだよ。

 って、「ふぅん」とか、お前そんな…、人が折角説明してやってるのに、どうでも良さそうに服を脱ぐな!「いいからヤルぞ」って、人の話を―――ふ、まぁ、良いだろう、あくまでそういう態度を見せるのなら、お望み通り泣いて許しを乞うまで躾してやろうじゃないか!
やり直した当初ならまだしも、シャーリーすらいない現状、たかが魔女一人で魔王たる今の俺をどうこうできる訳がないんだよ、ハハハハハッ!

 ところで、「Cの世界からはあと何人やり直しているんだろうな?」とか、………え、C.C.、お、お前まさか知って―――「何がだ?」って、いや、なんでもない!なんでもないから、その意味深な微笑をやめろぉッ!



 精神的な揺さぶりに加え、普段あまりしてくれないフェラetcの奉仕攻撃により、その日の俺は、久し振りに1vs1の戦いで破れた。
未だ底を見せていなかったとは、恐ろしい女だ。







 スザク転入翌日1ページ目

 誤算だった。
朝、俺が昨夜の敗戦のショックを引き摺りながら教室に入ると、そこには、シャーリー、リヴァルと打ち解けているスザクの姿。
それに釣られてちらほらと他のクラスメイト達も周りに輪を作っていた。
聞けば、スザクは生徒会のメンバーとなったそうで。
何故だ!?とか考えるまでもなく、シャーリーが行動を起こしたのだろうと、予測がついた俺は、動揺を隠してスザクに「良かったな」と声を掛けておいた。
やり直したメンバーの中で、ユフィのこれからの行動にばかり考えを巡らせていたが、思えばシャーリーがスザクを放っておく筈がない事に気付く。
それは彼女の優しさ故の行動なのだし、俺がどうこう言うのも筋違いなのはわかっているが、…はぁ。

 恒例となった保健室でのシャーリーとの情事後に確認をとってみれば、案の定、シャーリーがミレイ会長に掛け合ったが為のスザクの生徒会入りだそうだ。
クソ、スザクめ!前回同様悉く俺の想定を外してくれる!
なにかの加護でも受けているんじゃないのか、アイツ?


 余談ではあるが、俺の落ち込みを勘違いしたシャーリーに、「エッチって勝ち負けじゃないと思うの!」とか励まされた。
言っている事は正しいと思うし、気持ちは嬉しくあるが、シャーリーに何をメールしてくれているんだ、魔女よ。




 スザク転入翌日2ページ目

 C.C.に敗北し、スザクに予想を覆された二つのショックから落ち込む俺を立ち直らせてくれたのは、意外な事に井上からの連絡だった。
初め、チュウブのサムライの血がコーネリアに潰されて云々の報告に、覇気のない声で受け応えしていた俺を、「ショックなのはわかるわ」とか言いつつ、とても親身に心配してくれた上で、「あなたならきっとあの魔女にも勝てる!」と応援してくれた。
歳上の包みこむ様な声に癒され、気分を復調した俺は、今後の指示を幾つかだし、礼をして通信を切る。

 ありがとう、井上。
お前は大切な事を思い出させてくれた。
そう、そうだ!たかが一度魔女に遅れをとった程度で、スザクが生徒会に入った程度で、俺は何を弱気になっていたんだ!
こんな事では近く控えるブリタニアの魔女、コーネリア義姉上との戦いにも支障を来してしまうところじゃないか。

 義姉上との対峙までには、ゲフィオン・ディスターバーも低出力ながら間に合いそうなのだ。
そうなれば、義姉上攻略の最大の障害であるギルフォードにも早々に退場願えるだろう。
ククク、義姉上にフラグ建て捲りだろうあのメガネさえ排除すれば、義姉上はあらゆる意味で我が手に落ちたも同然!
ギルフォードに手傷を負わせれば、ゼロ=俺とバレた時に怒るかもしれないが、それすらも義姉を想うが故の弟の可愛い嫉妬ッ!義姉上ならわかってくれる筈だ!

 フハハハ、そう考えれば気分が高揚してきたぞ!
さぁ、まずは井上が「きっと勝てる」とお墨付きをくれたC.C.にリベンジマッチだ!




 スザク転入翌日3ページ目

 上がったテンションは長続きしなかった。
勇み足で、頼んだばかりのピザを頬張る魔女に襲いかかり、ピザに気を取られている魔女を窮地に追い込んだ―――までは良かったのだが、俺とした事がTPOを忘れていた。
C.C.の上になって腰を振り、後一歩でトドメ!と言う時に、お茶の時間なナナリーが俺を誘いに部屋に入って来たのだ。

 咄嗟に動きを止め、C.C.の口を塞ぐ。
部屋の防音対策も改善済みな為、どうやら音では気付かれなかった様だが、如何せん性臭はどうにもならなかった。
「あら?この匂い」とか首を傾げるナナリーに、「ピザだよ!」とか必死になって誤魔化したは良いが、咄嗟の言葉にしても我ながら無理があったと思う。
ナナリーも怪訝な顔をしていたし、お茶の時にどうにかフォローしておかねば…。


 ふぅ、しかし危なかった。
この段階でナナリーに知られて、もし嫌われでもしたら、もう死ぬしか道がない。
本当に紙一重だ。
おっと、すまん。C.C.苦しかっただろう?もう良いぞ、って―――し、死んでる!?
お、おい、C.C.!冗談は止せ!いくら行為中の息があがってる時だからって、お前がそんなに簡単に窒息死とか………おい、魔女!



結局、蘇生と共に激怒したC.C.には、ピザ20枚で許して貰った。
…不死で良かった。




 スザク転入翌日4ページ目

 なんとかC.C.を宥めすかし、ナナリーとのお茶の為、リビングに向かうと、今日、仮面を奪い逃げ回る筈だった猫のアーサーが、ナナリーの膝に座していた。

 な、ナナリーが、ナナリーがアーサーと、猫語?でにゃーにゃー話している!
なんて恐ろしい光景だ。大望を抱き未だ道半ばである俺に、一瞬でも今死んでも本望だと思わせるとは!
え、にゃんだいナナリー?「この猫さん飼ってもいいですか?」?ハハハ、こんな光景がいつでも見れるなら、俺に反対する理由はないよ!



 こうして、やはりアーサーと名付けられた猫は今回、ナナリーの飼い猫となった。
…ハァハァ、ニャニャリー。





 クロヴィス国葬日1ページ目

 あれから数日、猫を可愛がるナナリーを見て、なんどか命尽きそうになりながらも、来るべき日へ向けて俺は、余念のない行動をしてきた。

 租界の技術者たちをつかって、反逆活動を有利に運ぶ為の機器を着々と揃えているのが一つ。

 前回と同じく『イレブン』としてのスザクの生徒会入りに怯えるニーナに、度々、元気づけフォローを入れているのが一つ。
なにせニーナを放置すれば、ユフィを信仰と言うレベルで慕い、その後、ゼロ憎しでフレイヤなんて発明してしまう文字通りの爆弾娘だ。
今回ユフィをあんな目にあわせるつもりは微塵もないから、ニーナを敵に回す可能性も低いが、それを鑑みずともあの頭脳、才能。内に取り込んでおくに越した事はない。これはそう考えての行動。

 そして最後の一つは、ゼロ仮面のバージョンアップ!
やり直してから思うところあり、改良を依頼していた仮面が、なんと今日完成するのだ!
本音を言えば今すぐ取りに行きたいのだが、忌々しい事に今日は、クロヴィスの死を受けた皇帝の演説の日だ。
表向き一学生に過ぎない今の俺が、それをサボる訳には流石にいかず、こうして集められた体育館で、演説が始まるのを今か今かと待っているのだが………む、皇帝が出てきた。

 どうやら演説が始まるようだ。




 クロヴィス国葬日2ページ目

 演説中、父であり、師であり、超えるべき壁である男を見る。
前回は憎しみが先立って他の事に目が行かなかったが、冷静になってみると本当に偉そうだ。
その演説内容も、とても共感を得ようとして語られる言葉とは思えない。

 ………それはそうか。何せラグナレクが成就するまで保てばそれで良い統治だ。いくらでも強気でいられよう。
C.C.の仮説が正しいなら、皇帝はやり直していない事になるのだから、目的はやはりラグナレクなのだろうしな。

 見るからに自信満々な父シャルル。
今回もやはり、母さんやV.V.と誓った目標の為に心血を注いでいるのだろう。
しかし、俺は知っている。いや、ヤツ本人からCの世界でポツリとこぼされ知った。
嘘嫌いです。とか標榜しながら、ヤツは母さんにさえ嘘を吐いていた事を。
その嘘、ヤツ曰く嘘でなく隠し事、らしいが、それはラグナレクを推し進める真実の理由だ。
この世界の誰が想像できようか?世界の頂点たるあの巨漢が、抱えきれなくなった女関係の精算の為に、神殺しを企んでいようと!

 しかもヤツめ。クロヴィス死んでないの知っている癖に堂々と国葬とか非道に過ぎる。
つい先日も、「ルルーシュ、画材を買うお金が欲しいんだが…」とか電話してきたクロヴィスが憐れに思えてきた。

 あ、ダメだ。
Cの世界では、一子相伝のブリタアン性術を伝授されて絆されたりもしたが、改めてヤツの行動理由を考える程に腹が立ってきた。
俺だけならまだしも、ナナリーにさえ実害が及んでいるのだから、許そうと思う事自体間違いだったんだ。

 よし、やはりヤツは殺そう。
待っていろシャルル・ジ・ブリタニア!
知力権力の上でも、性的な意味においても、必ずや貴様を超え、皇帝の座に就いて見せようッ!




 クロヴィス国葬日3ページ目

 そして夜。
皇帝の演説を受け、誓い新たにした俺の意を汲むかの如く仕上がってきた、新・ゼロ仮面を見て俺は柄にもなく興奮している。
外見は何一つ変わらなく見えるこの仮面だが、この前の仮面とは比べるべくもない性能を備えている。

 1.耐久性。
スザクに銃弾を撃ち込まれて割れる事などもうあり得ない、その防弾能力!

 2.索敵・通信能力。
KMFが破壊されても大丈夫。小型ファクトスフィアの搭載に成功し、通信機能も完備。不足の事態にも指示を出す事が可能!

 3・ギアスの能力サポート。
全盛期より弱まっている俺のギアスを補う為、ギアス仕様に際し開閉する部分に、収束・拡散のレンズを切り替え式で設置。
ギアスが光情報であるからこそ、レンズを介しての遠距離、広範囲でのギアス行使を実現!

 最後に4・酸素吸入装置!
井上との行為中に痛切に実感した息苦しさもこれで解決!
仮面を被ったまま事に及んでも、極度の疲労の心配なしだ!!


 …ふ、しかも、これだけの機能がついていながら、重量もそこまででないとは、自分の設計能力が恐ろしい。
本当は4の機能だけの改善だった筈だが、C.C.やシャーリーの悪ノリに耳を傾けてみて正解だったな。

 どれ、さっそく装着してみるか。
―――む、心なしか被り心地も良いような。
ク、クハハハ!素晴らしい!これでこそゼロの仮面だ!
その内フロートとか付きかねんぞ、コレは!ハハハハ―――って、ん?いま後ろから物音が、って、咲世子ッ!?
マズい!ゼロの仮面被って高笑いしてるところを見られるとは!ってか、索敵能力機能してないじゃないか!!



 ………ど、どうしよう?






 色欲のルルーシュ Return05『新たなる 仮面』おわり






 あとがき

 遅くなった上にグダグダでスミマセン。鈴木です。
今回は色々と準備編。
やらかしてないか非常に恐いんですが、取り敢えずの投稿をば。
もうちょい進めば書きたいトコロなんで頑張ろう、うん。

 今回も感想ありがとうございます。
何回も読み返してます、はい。

 で、そろそろサブタイが苦しくなってきたわ、エロくないわで、xxx板にある意義を問われそうですが、ゴメンナサイ、エロかけない。
後、ルルーシュ視点が大部分で、書き切れない事とかでてきたんで、姑息ではあるがキャラクター説明でも作ろうかとかも考えてますゴメンナサイ。

 もうちょいしたら、忙しいのも一段落しそうなんで、そしたら更新も少しずつはやまる…と、思います。
では、また。






[4438] 色欲のルルーシュ Return06『ギルフォード を 撃て』
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:11fd1fa6
Date: 2008/11/19 22:03


 私は生まれが貧しかった。
ブリタニアと言う、世界最大の富と権勢を誇る国に生まれながら、―――いや、だからこそなのだろう。
巨大国家故に、より顕著に生じる格差社会の最底辺で、皇族、貴族と呼ばれる者達の華やかな暮らしぶりを羨みながら私は育った。

 国是と掲げられた『弱肉強食』が、貧しさを助長する。
力無き者には死を。皇帝陛下が語るその言葉通りに同じ生まれの者たちが、次々に命を失っていく。
地獄にも似た飢餓と貧困の中で、どうにか死なない様にと、その思いだけで生きる日々。
そんな毎日の暮らしが、私の胸の内に形作ったのは、強く歪つな上昇思考だった。
生まれや、『弱肉強食』と言う掟が、私を、家族を苦しめると言うのなら、逆にそれを利用してやれば良い。
力を得て、力無き者を淘汰する側にさえ成れたなら、この苦しみからも解放される。
そうしていつか、幼い頃羨みながら見やるしか出来なかった、貴族と呼ばれる者達の位へと上り詰めるのだ。
騎士候などと、所詮は一代限りしか位の保証されない地位ではなく、家格を世襲する事の許される本当の貴族位へ、と。

 その想いだけで軍へと入り、武功と言う手っ取り早い昇進の糸口を一つずつ手繰り寄せながら、やっとの思いで掴んだ肩書き。
それが、純血派所属の騎士候、ヴィレッタ・ヌゥと言う今の地位だった。

 そう、この地位は何年もかけてようやく掴んだ貴族への足掛かり。
これからだったのだ。私の貴族へと成り上がる道は…。

 けれど、その地位が今、足場から崩れさろうとしている。
始まりは、クロヴィス殿下が殺害されたシンジュク事変の折、記憶の欠落と共にKMFを奪われたあの日から。
若手将校であり、軍でも有望株と目されていたジェレミア卿について、エリア11の代理執政の一端を担う立場になったのも束の間、突如現れたゼロと名乗る仮面の男のせいで、純血派は失脚。その後起こった純血派内での抗争。
貴族への足掛かりになる筈だった組織と仲間は、私を含め皆、瀬戸際に立たされている。
全てがただ一人のテロリストによって狂わされてしまった。


 このままでは終われない。
新しくエリア11の総督へ就任されたコーネリア皇女殿下指揮の下、サイタマ・ゲットーを壊滅する為に敷かれた布陣の一角で、私は心を決める。

 シンジュクと似たこの状況。
当事者たちの記憶の欠落でリンクするジェレミア卿のオレンジ疑惑とシンジュク事変。
ならば、シンジュクで私からKMFを奪ったのも間違いなくゼロだ。
故に、シンジュクと同じ状況を作ったサイタマ・ゲットーにもヤツは来る。
いや、来い。

 幸い、副総督となられたユーフェミア皇女殿下の取り成しにより、純血派が完全なる閑職に追い込まれる事は防がれた。
程度は今まで以下とは言え、行動を許可されているのならば、ゼロを討つ機会も必ず回ってくる。


 私には、今までに得た地位も名誉も失って、また幼い頃に味わった地獄へと叩き落とされるなど、容認できない。
この窮地を脱っし、必ずや今以上の地位へとのし上がって見せる。
その為にはゼロを、あの全ての原因となった仮面の男を、必ずやこの手で仕留めて見せる!


 だから早く、早く姿を現せ、ゼロ!








色欲のルルーシュReturn06 『ギルフォード を 撃て』






 クロヴィス国葬日4ページ目

 どうするべきだ?
目の前には咲世子。
相対するのは、仮面を被ったままの私服な俺。
このままでは、あまりに沈黙が痛い。

 いま巷を騒がすテロリストの仮面を被ってバカ笑いしていたのを見られたのは確実。
俺=ゼロと判断される情報が、咲世子を通じてナナリーやアッシュフォードに流れたら、現時点では非常にマズイ。
ともかく、無理でもなんでも誤魔化すしかないだろう。
なに、俺の頭脳があれば乗りきれる筈だ!

そうと決まれば、まずは第一の策。
『ルルーシュ・ランペルージなど知らぬ存ぜぬ!俺は偶々ここにいたテロリスト!』GO!
私の名は、ゼr「ルルーシュ様?」………失敗。当然か。
仕方なく仮面を脱ぐ。
あぁ、解っていたさ、無理がありすぎることぐらい!しかし天然な咲世子ならどうにかなると信じたかったのに…!

 えぇい、策はまだある!第二策、『経緯は省くが、今流行の仮面を拾ったんで、思わず童心に還ってしまったんですよ。ははは、でも見られてしまうなんて。恥ずかしいんでこの事は誰にも言わないで下さいね』GO!
咲世子さん、実h「わかっています、ルルーシュ様」え、咲世子さん、なんですか?そのイイ笑顔?わかってるって何が?
「貴方は疲れていらっしるんです」って、まぁ、ゼロと学生の二重生活に、C.C.達の相手で、確かに疲労はあるが。
「未だ学生の身で、ナナリー様とお二人での生活は、さぞ苦労も多かったことでしょう」って、いや、ナナリーとの生活に俺が感じるのは苦労でなく至福―――「そのせいで心が…」、…は?

 もう耐えきれないとばかりに、ハンカチを取りだし目尻を拭う咲世子。
「なんて、お痛わしい」とか、待て!
只でさえ、心を患った可哀想な子扱いは我慢ならないと言うのに、なんか『労しい』のニュアンスまで違っただろ、いまッ!?
咲世子!それなりに長い間を共に暮らして来たと言うのに、お前というヤツは、俺の人間性をどんな風に認識しているんだ!?
クソッ!咲世子の天然が、これ程とは!
このままじゃ、ナナリーにゼロの正体が知られるよりもっと最悪な話を吹き込まれかねない!
おい、天然メイド!いつまでも泣いているんじゃない!泣きたいのはコッチだッ!!

 何?「今日はもうお休みになって下さい。明日然るべき病院に…」とか、こ、この!
いいかッ、よく聞け!俺は………!




 クロヴィス国葬日5ページ目

 …やってしまった。
この後悔は一体何度目だろうか。
やり直してからこっち、以前より性欲を強固に感じる様になったのは自覚しているが、それに付随して感情にも蓋がしにくくなってきている気がする。

 が、自重せねば、と思っても今回は既に後の祭りだ。
喋ってしまったのだ。
俺の本当の経歴。今まで味わった辛酸。父への隔意。ナナリーへの愛。その結果としてあるゼロとしての立志。
だから俺はブリタニアをぶっ壊す!わかったか!!と、締め括ったところで我に返ったが、もう遅すぎる。
やり直し云々はいくら激昂していても、口から飛び出なかったのが、せめてもの救いか…。

 ちらりと咲世子を伺ってみれば、えらく驚いた様子。
まぁ、そうだろうな。さて、ここまで来ると誤魔化すも何もないが咲世子はどうでるか?
この時点で俺がこんな事言っても協力者となってくれるかは―――あれ、拍手?
………ひ、跪いて、どうしたんですか、咲世子さん?
えっと、「その志、感服いたしました。この篠崎咲世子。メイドとして、忍として、お許し頂けるならば、これよりルルーシュ様個人にお仕えしたく思います」って、コレはどうとればいいのか?
前回、ジェレミアと並んで忠臣の筆頭だった咲世子だが、もしかして、この時点でも結構好感度的なものが高かったのだろうか?

 些か考えていたリアクションとは異なる事に動揺しながら、かろうじて、許す。と応えた。
俺の返答を受け、咲世子は立ち上がり笑顔。
まぁ、誤魔化せはしなかったが、良い方に事が進んだのだから喜ぶべきか。
そう思い直し一息。
く、これでナナリーに有らぬ誤解を受ける事がなくなったと思う安堵で涙腺が…。

 人前で涙など屈辱だ!
急ぎ手で顔を隠し、咲世子へ背を向け―――ようとしたところで、頭を胸に抱き込まれた。
何故だ?と思う前に聞こえてきたのは、「お泣き下さい」と言う柔らかな声。
続いて、「貴方はそんなにも辛い決意を抱え込んでいたのですね?」とか言われたが、ん?涙の理由を勘違いされている様な。
しかし、なんだ?この心の落ち着きは?
俺の究極の女性像はナナリーなのだから、俺は歳下好みの筈。
なのに、咲世子の胸といい、この前の井上との通信といい、非常に癒される。
やはり歳上も良いなぁ。
追い打ちで、「これからは少しでも私をお頼り下さい」とか、優しげに頭を撫でられては、もう辛抱堪らない。
胸に抱かれたままの形で見上げれば、魅力的なお姉さんスマイルな咲世子の顔があって、―――さ、咲世子さんッ!!


 ………また自重出来なかったが、俺は悪くない。
咲世子との行為途中、最初可哀想な子扱いした事のお仕置きと称して色々調子に乗りすぎたかとは思った。
が、咲世子だって「い、いけません、ご主人様!」とか、ノリノリだったし。
うん、俺は悪くない。
と言うか、最高だメイド。

 事の後、今回はまだ咲世子にギアス未使用なのを思い出したが、まぁ、それも結果オーライというやつだろう。
寧ろ、考えれば考える程に反逆序盤での咲世子仲間入りは旨味が増す。
変装術を駆使した影武者としてサポートを任せられるし、反則的な体術はナナリーを護って貰うに、相応しい。
そして、歳上でくの一なハイスペックメイドの参入は、夢の4Pへの条件すら全てクリアしたも同然!

 く、クハハハ!これだ!これでこそやり直した意味があると言うもの!
待っていろ、ブリタニア皇帝!
お前の野望を打ち崩す日に、俺はまた一歩近づいたッ!




 クロヴィス国葬日6ページ目

 と言う訳で、深夜俺の部屋に集まり、俺達の新しい仲間、咲世子をC.C.とシャーリーに紹介。
因みに咲世子だが、俺達の関係をなんとなく察していたそうだ。
既にC.C.とは食卓で何度か顔を合わせていた上、毎日毎日シーツ等が洗濯に出されていては、それも当然だと、己の迂濶さに気付く。
咲世子が主人のプライバシーを吹聴してまわる様なメイドで無いことは信じているが、何の拍子にナナリーに話が流れるか解らないのだから、本当に危なかった。
そうなる前に咲世子が仲間になってくれて、良かったと安堵。

 そんな俺の隣で、二人に頭を垂れ挨拶する咲世子。
C.C.は「そうか。よろしくな、咲世子」とピザを食べながら返事を返し、シャーリーも、咲世子に返事を…、って、あれ?な、何故そんな涙目で俺を睨むんだシャーリー。
「ルル、まさか咲世子さんにも手をだしたの?」って、あぁ、…その、だ、駄目か?

 返答は、速やかに飛んできた顔面へのピザだった。
どうやら、手近にあったモノを咄嗟に投げてしまった様で、「あぁッ!私のピザぁ」なんて魔女の声が聞こえて来たが、はっきり言ってそれどころじゃない!チーズが!熱したチーズが顔にッ!
漸くカレンに殴られた頬がマシになって来たと言うのに、今度はピザで火傷とか、呪われているのか、俺の顔面!?
それに魔女!だからベッドの上でピザを食べるなとあれ程…!た、助けて咲世子ッ!ち、チーズを、チーズを取ってくれ!はやくっ!!

 迅速に対処してくれる咲世子に感謝しつつ、聞こえてくる声に意識を向ける。
「ルルのスケベ!もしかしてこれからも増やす気なの!?」とか、「そんなコトよりシャーリー!よくも私のピザを!」とか。
4Pまでの道程が遠退くのをまざまざと実感させられて、溜め息。

 ………どこで見誤まったと言うんだ、俺。






 作戦準備期間1ページ目

 あれから二日。
学園の廊下を目的地へと歩きながら回想する。

 咲世子が仲間に加わった日、達成は困難かと危ぶまれた4Pは、なんとその日の内に叶えられた。
ピザの報復と称し、シャーリーに襲い掛かったC.C.に、流石我が共犯者!と便乗する形で、俺と咲世子も乱入。
混戦にもつれ込んだ中での、俺の性技ある、いや、誠意ある説得が実を結び、シャーリーからの許しを貰えたのである。
C.C.から「今からそんな風に嫉妬していては、これからが大変だぞ?」なんて諭されて、「でも私、やっぱりルルの一番になりたい」とか、切ない声で呟いたシャーリーを前にしては、俺も理性のリミッターを外さざるを得なかった。

 そんな訳で、都合三人もの美女を相手にハッスルすれば、一夜の天国を味わう代償として、その後襲ってくるであろう腰痛などの地獄も覚悟していたのだが、そこには嬉しい誤算。咲世子の持つスキルの一つ、名を房中術。
スーパーくの一の名は伊達ではなく、文献などでしか知らなかったそのスキルを惜しみ無く駆使してくれたお陰で、三人を相手取った後にも俺は気力充実。
爽やかな朝を迎えられた時の感動は筆舌に尽くし難かった。

 メイドとして奉仕のエキスパートでありながら、くの一としても色事のスペシャリストな咲世子。
仲間としてと同時、良き夜の好敵手としても認めざるを得ない逸材だ。
その咲世子の的確な処置のお陰で、ピザによる火傷も極々軽度なもので済んだしな。


 ―――む、思い返しながら歩いている内に、目的地に着いたようだ。
歩を止めた場所は、アッシュフォード学園の理事長室前。
この部屋に赴く理由は、理事長から直々に呼び出しを受けたからだ。
しかし、前回はこの時期に呼び出しなど受けた記憶がない。
今日は、一部機能不全が発覚し修理に出した新・ゼロ仮面を引き取りに行く予定なんだが、いったい何の用件だ?




 作戦準備期間2ページ目

 入室を許可され入った理事長室には、部屋の主であるルーベン・アッシュフォード。
アッシュフォードの理事長であり、会長―――ミレイ・アッシュフォードの祖父。
かつては、ブリタニアの公爵であり、ヴィ家の後見を務めていた老人。
母マリアンヌの死を切っ掛けに爵位を奪われ本国を追われた身の上でありながら、今でもこうして俺とナナリーを学園に匿ってくれている恩人でもある。
そんな恩義ある彼の呼び出しだからこそ、俺も素直に応じた訳だが…。

 本当に何の用件だろうか?
目の前に座すルーベンは、ミレイとの血の繋がりを強く思わせるいつもの好々爺然とした態度ではなく、凋落したとは言え元大貴族の当主であるに相応しい威厳を湛えて、俺を見据えている。
こんなルーベンを見るのは久しぶりだ。まさかとは思うが、俺の行動を察知されているのか?
それならば、ギアスをかけるしかない…、と思考を巡らせていると、ルーベンが重々しく口を開いた。

 「…殿下」―――耳を疑う。そう呼ぶと言うことは、今ルーベンは俺を一学生のルルーシュ・ランペルージではなく、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとして、話をしようと言うことだ。
理由は分からねど、益々警戒を強める俺に、ルーベンは質問してきた。

 「篠崎咲世子を召し抱えたと御聞きしましたが、誠でしょうか?」と。って、は?
咲世子?いや、召し抱えたと言われれば、そうなのだろうが、理事長、アナタはそれを誰に?
「篠崎本人から話をされました。殿下自身の口から、元皇族である事もお話されたとか」って、なぜ咲世子はそんな黙っていれば済むような事をルーベンに話したんだッ!?
おいルーベン!「殿下も再び他人を信頼できる様になられたのですね?」とか、嬉しそうに頷いてないで、その事を詳しく話てくれ!
咲世子が余計な事まで話していたら一大事だ!


 ………なんと言うべきか。
ルーベンから聞くに、経緯はこうだ。
俺に忠誠を誓ってくれた翌日、咲世子は元々の雇用先の主であるルーベンに、律儀にも俺に仕えるようになった事を報告しにきたらしい。
なんでも、ルーベンは俺とナナリーがどう暮らしているのかを密かに気にしてくれていたらしく、雇われていた咲世子には、俺とナナリーの暮らしぶりについて報告を頼んでいたそうだ。
もちろん、俺達に何か異常があれば、直ぐ様対処できる様に、と言う意味も込めて。
が、俺個人に仕える事になった以上、おいそれとルーベンに報告を続けるのは、俺への背信と判断し、ルーベンにその旨を伝えたとの事。

慌てたのはルーベンだ。
俺個人に仕えるようになった理由を咲世子は黙して語らなかったらしく、いくら優秀で信用の篤いメイドとは言え、名誉ブリタニア人、しかもイレブンである咲世子が俺達の素性を知ればどうなる事か、と。
しかし、焦りつつも問い詰めた咲世子の口からでたのは、俺本人から本来の素性を聞いた、と言う言葉で。
それを知った上で俺に仕えると言う咲世子の言にも虚偽を見つける事は出来ず、それ以上に日本に送られて以来、頑なに他人に心を開かなかった俺が、誰かに信頼をおいた事に喜び、ルーベンは咲世子の話を受け入れた、と言う。
今日俺が呼ばれたのは、一応の確認の為だったそうで、裏付けが取れたルーベンは、さっきから「良かった。良かった」と、相好を崩している。

 俺はと言えば、咲世子が反逆の事まで洩らしていないか冷や汗モノだった。
話を聞き終えた後は、いくら天然に過ぎる咲世子とは言え、そこまでは無いかと一安心。
もっと咲世子を信じてやらねば。と思いながら、用は済んだであろうルーベンに一礼し背を向ける。
では、理事長。俺はコr「そう言えば、もう一つお訊ねしたいのですが…」―――まだ、何かあるのか?

 訝しく思い振り向けば、会長が悪巧みを思い付いた時そっくりの顔をしたルーベンがいて。
「二人程、女性を囲っているそうですな、殿下?」って、ブフゥっ!
るる、る、ルーベン!誰からそんな馬鹿げた話を!?
笑みを深くしたルーベンから返ったのは、「いえ、これも篠崎から耳にしまして。毎晩お励みのようですな」と言う解答。


 咲 世 子 !!


 信じた俺がバカだった!と言うか、頼むよ忠臣!

 恥じ入る俺を見て「いやお若い」とか、「殿下も年頃の男だったと言う事ですなぁ」なんて、それはそれは楽しげに呟いているルーベンだが。
き、気まず過ぎる!擁護を受けてる立場で毎晩女を取っ替えひっ替えって、客観的にみたら最低じゃないか!
くっ、二人いると知れているから、恋人です!なんて主張も通じないだろうし………。
と、とにかく何か言い訳するしかないだろう、と口を開く。

 違うんです、理事長!これには深い訳が―――「良ろしければ、ミレイも加えてやってくれて構いませんぞ」、…ん?ミレイ、会長?
…。
……。
………い、良いのか?
いや、将来的にはもちろんそのつもりだが、ルーベン、それは…。
「アレも、隠してはいますが殿下を慕っておる様ですし、私も、親に決められた望まぬ婚姻に悲しむ孫娘はみたくない」って、理事長、アナタと言う人は、なんて孫想いな!

 そうか、やはりミレイは俺を慕ってくれていたのか!
そうとわかれば遠慮はいらないな!ルーベンから婚約をブチ壊す大義名分も与えられた事だし、近く控えた作戦が終わり次第、あのおっぱい、―――いや、ミレイに想いを伝えるとしよう!
「おや、殿下も乗り気になって下さいましたか?」って、当然ですとも!
ミレイは必ず俺が幸せにしてみせます、理事長、いや、義祖父さん!!

 ニヤリと笑うルーベンに、同じくニヤリと笑いを返し、俺は今度こそ理事長室を後にした。






 作戦準備期間3ページ目

 ルーベンの呼び出しから更に数日後。
前回の記憶から予測される作戦決行日を前日に控え、俺が足を運んだのはサイタマ・ゲットー。
この日までに完成が間に合ったゲフィオンディスターバーの設置を、扇達の協力の下進める為だ。
最初は、現地のヤマト同盟に協力を依頼しようかとも思ったが、僅かばかりの信頼も築けてない彼らを頼って、作戦を破綻させるのも癪だ。
そんな判断から、扇グループに連絡を入れたところ、二つ返事で色好い返答を貰い今に至る。

 指示通りに快く働いてくれる扇達。
やはり前回よりも心象は良い様子。
まぁ、幾度か行った通信からそれなりに好印象を得ていると察してはいたが、前準備だけでなく、当日も作戦に協力したいとまで言ってくれた時には流石に驚いた。
騎士団結成の為のメンバーを不測の事態で欠いてしまうリスクを考え、その提案は断らせて貰ったが、信頼はされているに越した事はないだろう。

 しかし、現地に集まった扇グループの面子に玉城がいるのはどういう事だ?
アイツ、この前瀕死の重症を負ったばかりの筈。
大方、仲間外れが嫌で付いてきたという感じだろうが、全身ギブスでもそれを成す根性には素直に感心する。
結局、ただ喚いているだけで役立たずなのは変わらないが、―――ヤツの評価を少し改めるべきかも知れん。

 それともう一人、当然の如くいるカレン。
俺個人としては今回人手も足りていたし、彼女には学園で生徒会メンバーと親交を深めて貰う方が優先と考えた為、通信で不参加でも構わないとそれとなく打診したのだが、やはり反ブリタニア活動の方が大事という事か。
当然と言えば当然なんだろうが、出席日数を気にしてくれる程度には、早く学園がカレンにとっても大切に思える場所の一つになって欲しいとも思う。

 因みに、同じく此処にいる俺はと言えば、さっそく影武者咲世子の力を借りている。
彼女がメイドとしての仕事と、俺の影武者としての任を両立してくれているお陰で、ここ数日はいつもなら学園にいた時間を反逆準備に回す事が可能になった。
そうやって作った残りの時間も、ナナリーや他の女達へのアプローチに費やせて、とても助かっている訳だ。

 唯一あったのは、俺となった咲世子が無駄なフラグ乱立能力を発揮して、俺の意中の女以外にも大量にイベントを発生させてしまう懸念だが、それも事情を知るシャーリーが良い具合にストッパーになってくれている様だし。
端から見れば、一番苦労している筈の咲世子が影武者学園生活を楽しんでいるのだから、特に問題もない。


 ん?なんだ井上。すまない、考え事をしていた。………設置が完了したのか?
「そうじゃないんだけど…」って、何か言いにくい事でも、………いや、みなまで云うな。
その潤んだ目、上気した頬。
こんな時の女がナニを求めているか察せる位には、俺も成長している。
他のメンバーを働かせてと言うのは心苦しいが、新・ゼロ仮面の機能テストも兼ねて、コチラから相手願いたいくらいだったのだから!
さぁ、場所はそこら辺の廃墟しか無くて悪いが、早速いたそうじゃないか井上!


 数時間後、ゲフィオンディスターバーの設置は完了し、動作も良好。
明日への布石も万全となり、解散と相成った。
ただ一つ、キスをせがむ井上に押し切られ仮面を脱がされた為、仮面の機能テストを行えなかったのが、残念でならないかったが。

 ………まぁ、目隠しプレイという新たな境地を拓けただけ良しとするか。







 サイタマ・ゲットー壊滅作戦当日1ページ目

 義姉上との最初の戦いの時が来た。
やはり前回と同じく、ゼロを誘うかの様に流された情報を確認し、俺はサイタマへの出立の準備を整える。

 よし!では行ってくるぞC.C.!
意気込む俺に返ってきたのは、どうでも良さそうなC.C.の返事。
………おい、魔女。お前の共犯者がこれから戦場に赴くと言うのにその態度はどうなんだ?
「心配して欲しいのか、坊や?」って、そ、そうではないが、前回はお前、俺を止めたじゃないか。
いや、「止めれば行かないのか?」とか言われると逆に困るんだが、何か納得いかないというかだな。

 ふん、まぁ良い。とにかく行ってくるぞ!
何?「いつワイアードの介入があるかも知れないから、油断だけはするなよ」って、何だそのワイアードというのは?
ふむ、「ワイアード(繋がりし者)だ。まぁやり直してるヤツがみんなCの世界でお前とヤった女と言う仮定が正しければ、便宜上そう呼んでも差し支えないだろう」だと?
む、確かに、性行為=繋がる。だし、ワイアードと呼称してもおかしくはないか。
すると、今のところシャーリーやユフィがワイアードな訳だな?
まぁ、中々のネーミングセンスだと褒めてはやるが、C.C.、それなら余計に俺が心配だったりは―――「私は今回は助けに行かん」って、くッ!勝手にしろ!
大体、ワイアードとやらの介入なんてそうそうある筈がない!お前などいなくても、俺は事を成してみせるさ!
それに俺にはこの作戦が終わったらミレイに想いを伝えると決めているんだ!何かあってなど堪るものか!
そうだ、何人たりともこの俺の邪魔などさせない!ふハ、フハハハハッ!

 と言うことで、俺はサイタマに行く!
じゃあな、C.C.!


 部屋を出る直前、「お、おい、ルルーシュッ!それは死亡フラグだ!」なんて魔女の声が聞こえたが、俺は意に介さず扉を閉めた。
最初から心配してくれるなら可愛げもあると言うのに、今さら焦ったところで遅いんだよ、C.C.!




 サイタマ・ゲットー壊滅作戦当日2ページ目

 到着したサイタマ・ゲットーは、やはりシンジュクと同じ布陣が敷かれていた。
ブリタニア兵に問答無用に殺戮されていくゲットーの住人達。
自らも撃たれる覚悟を持つ故の冷酷さなのだろうが、コーネリア義姉上も相変わらずだな。
もしやユフィが阻止してはくれまいか、とも期待したが、恐らくは作戦自体聞かされていないのだろう。

 ヤマト同盟には、前もって匿名で今日ブリタニアが行う作戦を示唆してはおいたものの、それもあまり意味はなさなかった様だ。
名も知れぬ誰かの言葉など、聞くに値しないと取られでもしたか。
かと言って、前日からゼロの名で危険性を聞かせて回るリスクを負う訳にも行かず、俺としても苦肉の策だったのだが…。

 やり直しているからこそ、出ると知っている犠牲を見過ごす事への罪悪がある。
しかし全てを救けられるという考えなど、自惚れも良いところだ。
殺害されていく人々を目に写しながらも、改めて大事な人との未来の為に、己がエゴを貫く覚悟を決める。


 軍服を来た俺の背後にKMFが降り立った。
さぁ、始めようか。
まずは寄越せ、お前のKMFをッ!




 サイタマ・ゲットー壊滅作戦当日3ページ目

 作戦は、計画通りに推移している。
ゼロとしてヤマト同盟へ連絡を取り指揮下へと入れ、ブリタニア軍をそれなりに撃破。
シンジュクと同じ展開に、ゼロの存在を感じ取ったであろう義姉上がゲットー外苑まで軍を退かせるのも、前回通り。

 俺はと言えば、退いていくKMFには混ざらずに、幾つか設置しておいたゲフィオンディスターバーの近くに位置取り、時を待つ。
やがて、引いた軍に代わる形でゲットーに進撃してきた、ギルフォード機を含む三体のグロースターを確認し、自機の識別信号を回復させる。
案の定、こちらに向かってくるギルフォード達を見て、俺は勝利を確信した。

 ククク、義姉上。残念ながら今回俺は貴女の事を撃とうなどと思ってはいない。
キングであるこの俺を狙う貴女と、端からナイトであるギルフォードを目的としていた俺。
まして、俺は最初から流れを知っているのだから、ゲームにすらならないのも当然の事!


 目前に迫ったグロースターを視認しゲフィオンディスターバーを起動する。
『な、なんだ、これは!?』などと、ギルフォードの驚愕声がオープンチャンネルで木霊した。
流石に第7世代機であるランスロットを動かせなくするには、まだ出力不足は否めないが、グロースター程度ならこの通りだ。

 こうなってしまえば、機体性能も操縦技術も関係ない。
機能停止に追い込まれたグロースターに照準し、銃撃。使いものに出来なくする。
それなりの怪我は負ったろうが、死んではいまい。
さて、後は速やかにギルフォードを拘束し、既に確保してある退路を使い、この場から撤退するだけだ。
ギルフォードの処遇は、同じく撤退させるヤマト同盟を介してキョウト六家にでも献上しよう。
ギルフォードとて、帝国の先槍とまで呼ばれた男。キョウト六家―――ひいては、神楽耶との関係構築の良い架け橋となってくれる筈だ!

 フハハハッ、すまないなギルフォード!前回お前にはフレイヤの爆発から逃がして貰った恩があるが、だからと言って義姉上攻略の最大の障害を見逃す訳にはいかないんだよ!
今まで卿が義姉上に建てたであろうフラグは、この俺が全てヘシ折らせて貰う!!

 フッ、しかしC.C.め。ワイアードだのなんだの不安を煽ってくれたが、結局何も無かったじゃないか。何が死亡フラグだ。
こんなところに何時までもいても仕方がない。さっさとギルフォードを回収して―――ッ!

 グロースターに近づいた直後、俺のサザーランドの前に、ハーケンが突き刺さる。
ハーケンだと!?何処から!
索敵するまでも無く、現れたのは、数機のサザーランド。
クソッ、事ここに至って邪魔をするとは、どこのどいつだッ!?

 いや、今は所属などどうでm『ゼロォオーーーッ!!』って、まさかこの声は!?『うるさいぞ、オレンジ!』………やはり、そうか。
現れたサザーランドは全機、ショルダーアーマーを紅くした純血派仕様の機体。
この時点で純血派が動く許可を与えられているだと?誰の差し金………って、考えるまでもなくユフィか、ハァ。
しかし、ジェレミア。俺のせいとは言え、部下にまでオレンジ扱いとは、お前というヤツは本当に―――って、違う!いま俺が考えねばならないのは、どうやってこいつらを退けるかだ!

 ―――まぁ、策を考える以前に包囲されいる訳だが………えぇい!いいだろう相手してやる!
機体性能にさして差がないのなら、数がいると言っても所詮は純血派の噛ませ犬!
一応はダモクレスの最終決戦まで戦い抜いた俺が、負ける訳がない!たぶん!

 ヤマト同盟、ゲフィオンディスターバー、使える全てを駆使して、この俺が直々に退けてくれる!!




 サイタマ・ゲットー壊滅作戦当日4ページ目

駄目だった。
今日の教訓、純血派ナメるべからず。
俺が最終決戦まで戦えたのは、やはり搭乗していたKMFの性能のお陰だったらしい。

 ゲフィオンディスターバーは破壊され、ヤマト同盟もやられた。
純血派の機体も幾つかは撃破したが、エース級は未だ健在。

 と言うか、前回はあっさり脱落してくれたんで軽く見ていたが、純血派とはこんなにも厄介だったのか!?
ジェレミアのあの強さも、てっきり改造人間化後のモノかと考えていたが、生身状態でも相当の動きを披露している。
良い動きをしている機体で撃破できたのは、ヴィレッタの駆るサザーランドくらいだ。

 そんな状況故、万策尽きて必死にサザーランドで逃亡する俺を追撃する二機の機体。
後ろからオープンスピーカーで『ゼロ!このジェレミアと闘え!』とか『黙れ、オレンジ!ゼロはこのキューエルが!』とか、聞こえる通り、デヴァイサーはジェレミアとキューエルの二人。
何故いまの時点で俺=ゼロと判断しているかは解らないが、どうせ残った最後の一機だからとか、そんな理由だろう。
ジェレミアは個人的な情から、キューエルはヤツの妹に恨まれる恐れから相手し辛い。

 どうにか上手くやり過ごす手は―――と、考えている内に、とうとうランドスピナーを破壊された。
それを好機と、叫びながら突撃してくるジェレミアとキューエル。
クッ、俺はナナリーと結婚するまで死ぬ訳にはッ!

 愛の為、目前に迫る死にどうにか抗おうと頭をフル回転させるが、この状況では!
『いたぞ!ゼロだッ!』―――と、半ば死を覚悟した俺の耳に飛び込んで来た通信に、一時忘我する。

 はっ、として見回せば、廃墟の屋上に立つにゼロの影。
ゼロを見た途端、俺に興味をなくしゼロへ突撃する純血派の面々。
最大級の危機は、前回同様にゼロの登場により救われた。

 ―――C.C.!お前ってヤツは!
なんだかんだで来てくれたC.C.に胸が熱くなる。

 俺は、胸に溢れる想いのまま、魔女に感謝を捧げる為、ゼロの方にもう一度視線を向け、―――そこに展開されている光景に絶句した。




 サイタマ・ゲットー壊滅作戦当日5ページ目

 現れたゼロは規格外すぎた。
数機のKMFを相手に一歩も退かずに応戦しているのだから、その出鱈目さは嫌でも理解させられる。
それと同じく中身がC.C.でないのも理解した。
何せ、目前で跳ね回るゼロはと言えば、弾は避けるわ、苦無は飛ばすわ、と八面六臂の大活躍。

 今も迫り来る弾丸を凄まじい跳躍で回避し、空中に躍り出たところを狙って射たれたハーケンすらも足場として飛翔。
天高く舞い上がった上で回転し、無数の苦無を撒き散らす。
もちろん、苦無程度ではKMFの装甲を傷付ける事はできないが、攻撃が意味を成さないのはジェレミア達も同じ。
つまりは互角だ。
純血派の面々から『ゼロは化物か!?』なんて、恐慌に陥ったかの如き叫びが放たれているが、それには俺も強く同意を示す。

 スザクにも何度か抱いた感想だが、―――咲世子、お前は本当に人類なのか?
救けに来てくれたのは嬉しいが、どう見てもやりすぎだ!これを機に、『ゼロをKMFと同等の脅威として対処』などとなったら、本来のゼロな俺は命がいくつあっても足りないじゃないか!?

 しかもアレだ。咲世子の戦いぶりからするに、投げつけてる武器が苦無じゃなく、例えば棍棒型手榴弾(ポテトスマッシャー)とかだったら、明らかにKMFから勝ちを拾える気がするんだが………って、感心して眺めている場合じゃないだろう、俺!

 咲世子が時間を稼いでくれている内に、一刻も早く離脱せねばッ!!




 サイタマ・ゲットー壊滅作戦当日6ページ目

 咲世子の暴れっぷりのお陰か、割りとすんなりと確保していた退路である下水路に辿り着き、同じく煙玉で追跡を逃れたと言う咲世子と合流。
煙玉って、ファクトスフィアのセンサーまで誤魔化せる物なのか?と疑問に思わないでもないが、それはさて置き礼を言う。
頭を下げる俺に、「いえ、私もつい童心にかえってしまいました」なんて微笑む咲世子には、軽く引いてしまったが、引き気味になりながらも、俺を救出に来てくれた経緯を訊ねれば、やはりと言うかなんと言うか、咲世子をここに派遣してくれたのはC.C.だそうだ。
「アイツの死亡フラグを叩き折ってくれ」と頼まれたからこその今回のゼロ咲世子だったらく、これは魔女にも感謝しなければならないだろう。

 そうして、取り敢えずはお互いに無事で良かったと労い合い帰路に着こうとしたところで、―――頬を銃弾が掠めた。
咄嗟、咲世子は俺を庇い前に出る。
驚きながらも、咲世子が睨み付けている方を見ればそこにいたのはヴィレッタ。

 先ほどKMFを撃墜されたヴィレッタは、満身創痍なれど、「これで上手くすれば私も貴族に…」なんて目をギラつかせて俺達に銃を向けている。
流石に前回独力でゼロの正体に辿り着いた女。非常に怖い。
が、その執念には感嘆すれど、大人しく捕まってやるつもりもなく、直ぐ様、咲世子に無力化の命令を下し、呆気ない程簡単に返り討ちとした。
打撃により気を失ったヴィレッタを見下ろし、「どうします?」なんて訊いてくる咲世子に、顔を見られ、ギアスも使用済みな女の為に、一緒に連れて来てくれと指示をだし、下水路を後にする。



 今回の作戦、ギルフォードを確保出来なかったのは痛手だ。
ゲフィオンディスターバーをこの時点で晒してまで得た戦果がこれでは目もあてられない。
まぁ、ナリタにはギルフォードを出てこれない様にできただけ良しとしよう、と考え気を落ち着けようとした矢先に、ヴィレッタなんて爆弾まで抱え込む始末。


 前回よりも前途多難な結末に頭が痛くなってきた。
どうにかヴィレッタを懐柔できれば良いんだが………。






 色欲のルルーシュ Return06『ギルフォード を 撃て』おわり






 あとがき

 ずっと咲世子さんのターン!
また随分と間を開けてしまいすいません、鈴木です。
生まれて初めて食中毒と言うものになりました。
まさか、あそこまで苦しいものだとは…。
皆さんもナマモノの賞味期限にはくれぐれもご注意を。

 さて、言い訳はここまでにして、今回も感想を下さった方々に感謝を。
毎回、感謝を表明できることを嬉しく思います。
続きを催促してくれる書き込みは、書いてる人間として幸福を感じました。
仮面も笑ってもらえたようで何よりです。
あと、一番衝撃だったのは、「ラグナレクの理由こうすれば?」とご意見下さった方。
何故思いつかなかった!と頭抱えました、はい。

 で、今回の投稿。
後の展開を気にすれば気にする程、文が説明臭くなったり、長くなったりで、どうにも。
もしかしたら、書き直すかもしれません。
キャラも魅力的に書けてるか不安なんで、やはり、指摘下さった方がいたReturn5.65みたいな形で、余裕が出来ればやろうかな、とも考え中。
と、言っても時系列間的なことを調べてもどうにも不明瞭。
先月でたコンプリート本みたいなのにそういうの載ってるんだろうか?とか。

 最後に、数日前にテスト板の方にギアスの短編投稿しましたんで、良ければそっちも見てやって下さい。
長々とあとがきましたが、今回はこの辺で。
では、また。






[4438] 色欲のルルーシュ Return07『黒 の 既視感』
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:11fd1fa6
Date: 2008/11/23 20:54




 ブリタニアと言う国の中で生きながら、私はブリタニアに興味を持てなかった。
ブリタニアは完成された素材。
完成していると言う事は、同時に変わりばえがないと言う事だ。
いくら国の頂点が言葉で進化を唱えたところで、大多数の国民は今のままに与えられた平穏を甘受してしまっている。

 ならば、それは進化ではなく停滞だろう。
そんなものを撮って何が楽しい?
私は周りの同業者達のように、日々を生きる糧を得る為だけに、この仕事を選んだ訳ではない。
例え主義者と謗られようとも、時代の動きをこそ、カメラの中に捉えたかった。

 だが、そんな『動き』はどこを探しても存在しない。
変革を良しとしない完成した強さをブリタニアは誇ってしまっていた。
その事実に絶望しながらも取り巻く現状は変わらずに。
いつしか他の同業者と同じく、ただ稼ぎの為だけにカメラを手に取る自分に苛立つ日々。
諦めがあったのだ。ブリタニアがある限り、と。


 ―――だからこそ。
ゼロ。そう名乗る仮面の人物が、初めて大衆の前に姿を現した時、私は震えた。

 新たな時代の象徴が、人の形を象ってカメラの先に在る。
人が持つ混沌と、それにより撒き起こる時代の変革こそを映像の中に映し出したい。そう渇望し報道の仕事に道を見い出しながらも、長く巡って来なかったそのチャンス。
とうとう、そんなチャンスにありつけるかも知れないと予感させたゼロだけが、その時から私の唯一の被写体となった。


 それからの私の行動は、全て彼が起こす活動を中心に据えてのものとなる。
ゼロが関与していたであろうシンジュク事変の洗い直しから始まり、オレンジ疑惑他、ゼロが現れてから活発になったトウキョウ近辺での反ブリタニア活動への、出来得る限りの徹底した調査。
起きた事件にゼロの影が見てとれるものは、それこそどんなものでもだ。
幸いにも、そのゼロにより軍内部での地位を弱めたジェレミアと言う男が流してくれる情報のお陰もあり、僅かずつではあるがゼロと言う人物の輪郭が形を持ってきている。

 今もこうして、先日サイタマに現れたと言うゼロの行動を―――なんだ、これは?
ジェレミアから提供された情報の一部を見て、我が目を疑う。
『ギルフォード卿がゼロの仕掛けた罠に嵌まり重態』。これは流石だ。
帝国の先槍との名声も高い彼の騎士に痛手を負わせる等、並の戦略家ができる芸当ではない。やはりゼロは素晴らしき素材と、興味を強める。

 しかし問題は、『ゼロは生身でありながら、純血派のKMF5機と交戦の末、苦もなく撤退』と言う一文や、その後に続く『その際ゼロが使用した武器は、イレブンに古く伝わるニンジャと呼ばれる者達が用いるクナイという得物であり、ゼロの正体は生き残ったニンジャの末裔であると推測される』と言う文。

 ニンジャ、だと?あまりにナンセンスだ。
この情報を信じるなら、私が今までに構築した『ゼロは頭で戦うタイプの人間』、『彼が垣間見せる主義主張から、必ずしもイレブンであるとは考えにくい』と言う推論が根底から覆されしまう。
大体、どんな体術を極めようとも、人が現行最強の兵器KMF―――しかも複数と渡り合うなど、馬鹿げているにも程があり過ぎるだろう。
もし真実とするなら確かにカオスの極みではあるが、あまりに奇を衒い過ぎていて私の求めるカオスとは大分に趣旨が異なる。

 …ジェレミアめ。サイタマでのギルフォード救出で、完全なる閑職を免れたからと安心したのではないだろうな。
ゼロの正体を暴く利害関係を破棄する為に、こんな突拍子もない情報で私をおちょくっているのか?

 とにかく、ヤツのお陰で、再びゼロの人物像が欠片も解らなくなってしまった。
考えをまとめ直したくとも、これからすぐに河口湖に中継に出向かなければならんし…。



 くそ!忌々しい!
おのれ、ジェレミアめ!!







 色欲のルルーシュ Return07『黒 の 既視感』






 サイタマ・ゲットー生還後数日間1ページ目

 やり直してから初めて夢を見た。
内容は、俺がナナリーと、…ナナリーと!
くぅ、思い返しただけで鼻血が!!

 残念だったのはお互いにこれでもかと触れ合い、愛を(男女的な意味で)囁き合って、さぁ、いざベッドに!と言うところで、C.C.とシャーリーに起こされてしまった事だ。
何故そんな狙い澄ましたかの様に邪魔を!?と憤ろうとしたのだが、「ナナちゃんの名前を呼んで魘されていたから…」と心配そうに言われてしまえば黙るしかない。
本心としては、それは魘されていたんじゃなく息を荒げていただけだ。と反論したくもあったが、「前回のナナリーとの事をまだ気に病んでいるんだな」とか悲しげに言われてしまっては、その勘違いを正す事は出来なかった。
まぁ、あのまま夢が続けば夢精は確実だったし、ある意味では起こして貰って助かったのかも知れない。

 しかし、我ながらどういう性欲をしているんだ?
昨夜もC.C.とシャーリーを抱いたと言うのに、夢の中までとは…。
いや、ナナ欲(ナナリーに対する欲求)は、俺の根幹に根差す四大目の欲求だし、性欲として括るのが間違いか。

 さて、自身で納得がいった事だし、少し早いが起きてナナリーとの朝食に備えるとしよう。
先日の作戦の諸々の後始末が難航し、ここのところストレスが溜まっていたが、今朝はナナリーが夢に出てきてくれたお陰で気分も良好。
このままの調子で一日を乗り切るとしようか。


 そう思いベッドから降りれば、これもまた久々に腰に痛みが走る。
くっ、咲世子を加えた4Pより、咲世子が抜けた3Pの方が体に負担を感じる事からしても、房中術の偉大さが身に染みてわかるな。




 サイタマ・ゲットー生還後数日間2ページ目

 ナナリーと朝食。
なんか当然の様にC.C.が混ざってピザを食べるようになっていたが、ナナリーが気にした様子もないのでスルーする。
本音を言えば、俺とC.C.の関係を勘繰ったり、少し位は嫉妬してくれたりして欲しかったが、それも追々と言う事で。
今朝あんな夢を見た事から考えて、俺自身で思っているより余程ナナ欲が溜まっているようだし、その状態で嫉妬なんて可愛い事をされれば理性を保つ自信もない。
今はこれで良しとするべきだろうな。

 それに正直、C.C.がナナリーの話相手となってくれるのは有り難い。
前回、俺とナナリーは良くも悪くもお互いを大事にし過ぎた。
俺はナナリー大事さに知らず肝心のナナリーの気持ちを見失い、自分のエゴの押し付けがナナリーにとって最善の未来と疑う事なく突き進んでしまった。
ナナリーも、そんな俺の愛情に縛られた事で形作られた、ナナリーの中の『お兄様』と言う偶像を捨てきれず、後に知った本来の俺との齟齬に苦悩した結果、溜まった鬱屈を支えきれず断罪の刃を手に取るしかなかった。

 思い返せば、俺達はお互いを盲目的なまでに想い遣る故に、お互いの事が真に見えていなかったのだと思う。
過ぎた後悔ではあるものの、俺がもっとナナリーの気持ちに耳を傾けていれば、もしくはナナリーがもっと本心を吐露できる様な関係を築けていれば、と。そんな想いは、やり直した今も胸の内に苦くある。

 ―――だからこそ、C.C.の明け透けで傲岸不遜な態度は、無意識に『手のかからない妹』で在ろうとするナナリーに良い影響を与えてくれるのではないか?そんな期待があるのだ。
もちろん、俺とてC.C.に任せるだけでなく、同じ轍を踏まぬよう関係改善の努力を怠ってはいないが………。


 C.C.とナナリーが会話する様子を見てそんな事を考えていると、不意にテーブルの下から「ニャー」と鳴く声。
見れば今回我が家の家畜にして、ナナリーの愛猫となったアーサーがコチラを見つめている。

 あぁ、お前もお腹が空いたのか。
フフ、アーサーよ。
ナナリーのお前へのあまりな溺愛ぶりに嫉妬し、こんな事になるのなら最初に萌えた勢いでお前を飼う許可など出すのではなかった!と、そう考えていた時期が俺にもあった。
加えて言うなら、学園でまでナナリーにベッタリなお前の排除すら考えた程だ。

 だが今は違う!
ナナリーへ近付こうとするスザクに対するお前のディフェンスは、高く評価しているとも!
朝飯だろうと何だろうと、出来る限り優遇してやろうじゃないかッ!

 守護神とか二つ名をくれてやっても良いくらいのアーサーに、望み通りに食事を与えてやる。
アーサーがナナリーの飼い猫になった事で、再び猫祭りも開催するみたいだし、色々と愉しみだ。
そう色々と。
しかし、そう考えるとなんかアーサーのヤツ、咲世子並に良い仕事してる気が…。
もう、崇め奉っても構わないんじゃないか、あの猫?


 あ、そうだ、咲世子。C.C.に強請られたからと言って、朝っぱらからピザなど用意してやらなくて良い。甘やかすな。
ピザ女もブーイングするんじゃない!大体お前、今回は既にチーズ君二つも持ってるだろうがッ!食い過ぎなんだよ!




 サイタマ・ゲットー生還後数日間3ページ目

 通学。
サイタマでの作戦の後は、これといって何かがない限り咲世子に頼らず学園に出向いている。
作戦後初の通学時、影武者をして貰っている時の報告は受けてはいたし、シャーリーというストッパーもいたとは言え、咲世子なら何かやらかしていてもおかしくはないと危ぶんだりもした。
が、それは杞憂だったようだ。
何かあったとしても微々たるもので、多少女生徒受けが良くなったくらい。
前の時の様に、滅茶苦茶な数の女とデートの約束みたいな事態になっていないのならば充分に恩の字だろう。

 むしろ、咲世子が影武者をしてくれていた間でニーナの好感度などはかなり上がっていて、髪型がインヴォーグ時代の彼女に近いものになっていた時はとても驚いた。
俺も前回より随分とニーナと会話するようにしていたにも関わらず、中々どうして頑なだったニーナをよくぞここまでと、感心した程だ。

 その成果が、咲世子の手練手管の為なのか、レズ疑惑のあったニーナが本能的に俺の影武者が女だと悟ったからなのかは、疑問が残るとは言え、ニーナにフラグを建てておけば、執拗にユフィを崇拝する事もないだろうから一安心ではある。


 こうして、間に影武者を挟んでも順調に見える学園生活ではあるのだが、一つだけ問題があった。
それは作戦後から俺の抱えているストレスの一つ。
何かと言えば、作戦後にと決意したミレイへの告白を未だ実行に移せぬ事で。

 告白を決めた前日、影武者咲世子がニーナと仲の良いミレイにも上々の好感触だった、そう報告を聞いて俺はほくそ笑んだ。
お膳立てはばっちりだ、と。
だが、喜び勇んで告白を決行しようとしたところで、最大の障害を失念していた事に気付いたのだ。

 障害の名をシャーリー。
何せクラスが同じで、生徒会も同じ。おまけに夜も大抵一緒となれば、彼女の目を掻い潜ってミレイに接触を図るのは難しい。
シャーリーとて、俺の思惑に気付いて監視している訳ではない。只いつも通りに俺の傍にいるだけだ。
だから、彼女が部活の時などは当然俺達は別行動。
しかし、そんな時に限り今度はミレイが見つからない。
何か見えない意志が働くかの如く、ミレイと二人きりになれない状況に俺は焦った。

 ミレイと関係を結んだ後でなら、シャーリーに認めて貰う事は、どうにか可能だとは思う。
けれど、告白したいんですけど良いですか?とは、絶対に訊けない。
訊いてはならぬ!と、俺にも僅かある野生の勘が告げるのだ。
次はピザでは済まないのだ、と。

 故に、勘の告げるに従い、シャーリーに承諾を求めるのはミレイと結ばれた後にして、どうにかシャーリーのいない間に。と機会を狙う内にズルズルと数日が経ってしまい…。



 ―――思い悩む内に、結局今日も今日とてチャンスのないままに学園が終わってしまう。
折角ルーベンから許可を貰っておいてこれでは、と歯痒く思いもするが、この後にはもう一つの問題であるヴィレッタへの対処にも時間を割かねばならないのだ。

 黒の騎士団を旗揚げする日も近づいているし、不本意ではあるがミレイへの告白は後日に回すしかないのかも知れない。
………グスッ。




 サイタマ・ゲットー生還後数日間4ページ目

 サイタマで抱え込んでしまった爆弾、もとい純血派所属の騎士候、ヴィレッタ・ヌゥを捕らえ隠蔽するのに使用したのは、学園の地下。
いっそクロヴィスと同じように遠方に拘置してしまおうかとも考えたのだが、この女は侮れないと前回で学習済み。
ならば、近くに置いて早期の懐柔をと目論んで、何日が経過しただろう?

 ヴィレッタをこちらに引き込むにあたり、俺はこれまで様々な手でアプローチを行ってきた。
この女の、異常なまでに高い地位への執着から、反逆を成した後の待遇の保障を約束。
今あるブリタニア崩壊までの道筋を、なるべく真実味を感じる様に説くところから始まり、このままこちらへの協力を誓わぬのなら命を失うと言う脅しも当然行わせて貰ったし、ブリタニア軍にお前がゼロの協力者との情報を流した、と言う虚偽を吹き込む事で心を挫こうともした。

 が、どれも不発。
それなりにブリタニア軍人としての心構えはあるのだろう。
口先だけでいくら捩じ伏せようとしても、首を横に振るばかり。
それどころか、最近では俺が肉体的な責め苦を行う気がないと理解したのだろう。
まして、命を奪うなど、と笑みを浮かべる余裕まで持たせてしまう始末。
性的に屈伏させてしまうのも一つの手段ではあるが、噛み千切られそうで怖、ではなく、それは最後の手段としておきたいし。

 行き詰まり、C.C.達にも相談もしたのだが、それも碌な助力には成り得なかった。

 C.C.は「これ食わせてみろ。アタレばどうにかはなるぞ」とか言って、C茸なるものを差し出して来たが、ビームだったり、巨大化だったりしては困るので却下。
シャーリーにはひたすら想いの力を力説されたものの、一方通行にも程がある関係では何をすれば良いかもわからず却下。
咲世子に至っては「こうですね一思いに、キュッ!と…」などと手で首を捻る動作で殺害を仄めかされて、震えながら却下した。

 ………万策尽きたかもしれない。
今朝ナナリーの夢を見た時は、ミレイか、ヴィレッタ、どちらかの事態に進展があると予感したんだが、それは楽観だったか。


 憂鬱ではあるが、さぁ今日はどうヴィレッタを説得しよう、と考える。
俺の経歴を明かしたところで、あの女が皇族への忠義などで純血派にいる訳がないのだ。意味もない。ハァ…。

 溜め息を吐き、ヴィレッタを拘束している部屋へと入る。
薄暗い部屋の中、そこにはいつもと同じく、C.C.と咲世子によってあらゆる角度から頭と首筋にチョップを入れられて涙目のヴィレッタが………って、は?

いかん、我知らず相当にストレスを感じているらしい。
その所為で有り得ない幻覚が。ズビシッ!とかバシッ!とか、幻聴まで聴こえて―――とか、言ってる場合か!?
オイ!お前たち二人して何をしているんだ!?ヴィレッタが泣くとかそうは無いぞ!
おい、チョップ入れる角度とか悩んでないでいいから質問に答えろ!!




 サイタマ・ゲットー生還後数日間5ページ目

 一つ理解った。コイツら馬鹿だ。
いや、コイツら、と言うのは、天然故の付き合いの良さを発揮しているだけの咲世子に失礼だったな。
訂正する。C.C.は馬鹿だ。

 拘束され動けないヴィレッタに、延々とチョップを入れ続ける。
そんな悪質なイジメにしか見えない事を至極真面目な顔で行っている二人を止めて、俺は事態の説明を要求した。
すると「ふふん、お前が手間取っているようだから私が助けてやろうと思ってな」とか、偉そうに前置きして語られたC.C.の行動理由に絶句させられる。

 ひたすらチョップを入れるその理由。
そんなものあるとは思えないが、それを無理にでも要約すればこうだ。


 『ギアスで記憶を失わせるとかがもう出来ないのなら、他の方法で記憶を奪えばいい』


 もうなんと言うかアレだ。
このポンコツ女は、やり直すに際し脳の回線の何本かを断線させたに違いない。

 もちろん俺は止めた。
有り得ない。そもそも何故チョップなんだ、と。
それに答えてC.C.曰く「この女、前も記憶喪失になったんだろう?だが記憶を失うなんて人間そうはないんだ。それが起こると言うことは、その人間自体に記憶を喪失する切っ掛けの様なスイッチがある筈。そこを上手く刺激してやればだな…」だそうで。
聞いて、二の句を継ぐ事が出来ぬ俺を放置し、またも咲世子と共にヴィレッタへチョップの嵐を見舞いだす。

 ………本当にダメだ、この魔女。と言うか、この光景。
なんか書き記す気力も起きないので、ここから少し音声だけで楽しんでくれ。


 「こうか?」

 ビシッ!

 「痛ッ!」

 「いえ、こうではないでしょうか?」

 ドビシッ!

 「うぁっ!」

 「おぉ!今のは中々…。なら私は、ここをこう!」

 ズドッ!!

 「―――ッ!!も、もう止めてぇ」


 これはヴィレッタでなくても泣くだろう?
ん?ヴィレッタがこちらに向かって何か言っているな。
何?「お前も見ていないで、この女とゼロを止めてくれ!」って?
あぁ、そう言えばこの間ゼロの衣装な咲世子を見てから、ずっと咲世子がゼロだと思っているんだったな、ヴィレッタは。
まぁ、その勘違いを正してやる必要もないが。

 ………なんて考えている内に、業を煮やしたC.C.の「えぇい、これならッ!」なんて掛け声と共に放たれた見た目にも威力満点のチョップにより、ヴィレッタの意識は刈り取られた。可哀想に…。

 「ふぅ、恐らくこれで次に目を覚ました時には記憶喪失なってるんじゃないか?」とか、如何にもやり遂げた感を出してC.C.が言ってくるが、そんな事があって堪るか!
咲世子も「お見事でした」とか、このバカが調子づくから煽てるんじゃない!

 もういい!後は俺がやるからお前たちは部屋から出ろッ!
「後も何も、もう解決したじゃないか」とか、だから有り得ないと言っているだろうが!
さぁ、早く部屋を出るんだ!




 サイタマ・ゲットー生還後数日間6ページ目

 ―――結果から言う。有り得た。
非常に遺憾ではあるが、ヴィレッタは本当に記憶喪失になってしまった。

 そうとわかり愕然とする俺を見つめるヴィレッタの瞳には、怯えが色濃く見て取れる。
演技とは思えないし、どうやら真実記憶を失ったと見て間違いないだろう。
後ろでは退室させた筈のC.C.が「ほら見ろ」とか言っているが、俺はと言えば今までのヴィレッタに対する説得を全て無駄にされたような気がして、心の整理が出来ない。
得意気なC.C.にも思うところはあるが、それより何より、あんな方法で記憶を失うヤツもどうかと思う。
壊れ掛けたテレビじゃないんだからだな、もっとこう…。

 いや、止めよう。
大事なのは、起こってしまった事に悩む事ではなく、そこからどうするかだ。

 だが記憶喪失か。
なんからの拍子に記憶が戻ってしまうとも限らないのだから、問題を先送りにしただけの気もする。

 ………そうだな。ヴィレッタの記憶が戻った時、なるべく早くの対処が出来た方が良い。
メイドとして咲世子の監視下に置いて雇うとするか。
名前もこのままじゃマズイから、―――前回、扇はなんと名付けていたか?
確か、ち、ち……さ。ちぐ、さ?あぁ、そうだ、千草だった。
変に拘って名付けても仕様がないし、千草と名乗って貰うとしようか。

 自分が記憶喪失である事に狼狽し、「わ、私はいったい…」などと混乱しているヴィレ、千草を宥め透かし、落ち着いたところで多分に虚偽を交えた説明をする。
そうして、こちらが用意した千草としてのこれから立ち位置を、彼女が戸惑いながらも受け入れてくれたのを確認し、俺は彼女の拘束を解いてやった。

 しかし、「よ、よろしくお願いします」とか頭を下げる千草を見ていると、とてもあのヴィレッタと同一人物とは思えない。
案外、こちらが本質だったりするんだろうか?
産まれたての仔鹿を思わせるオドオドした態度は、俺の嗜虐しn―――ではなく、擁護欲を駆り立てるものがある。

 良し!何はともあれ一件落着だな。
完全な解決とは言えないが、騎士団創設の準備に忙しくなる前に、物思いの種が一つ減った事には変わらないのだ。喜ぶべきだろう。
これからは、千草が記憶を取り戻す前に、どれだけ彼女を絆する事が出来るかの勝負となったのだし、なんとかしてみせるさ。

 まだ混乱の抜けきっていない千草を咲世子に預け、さぁ俺も部屋を出よう、としたところでC.C.に袖を引かれる。
ん?なんだC.C.?…お前への礼?

 む、多少納得はいかないが、そうだな。感謝している。
何?「態度で示せ」だと?あのな、俺はこれから騎士団の創設に向けて色々と………、わかった。わかったから頬を膨らませるとか子供染みた不貞腐れ方をするな!

 とりあえず、ここじゃアレだしベッドがある部屋に行くぞ、C.C.。






 黒の騎士団創設宣言日1ページ目

 騎士団のアジトとするべく道楽貴族へギアスを使用して譲り受けたトレーラー。
千草がランペルージ家の使用人とし働く様になってから、早くも数日が経過した。

 その間、千草の意外な家事能力に驚かされたり、「なんでメイドなの!?」とシャーリーに詰問されたりと、細かには色々あったが、それは些事なので省かせて貰う。

 まぁ、ヤる事をヤりつつも騎士団の創設準備へと精を出し、サクラダイト生産国会議が行われる日、―――即ち、日本解放戦線によるホテルジャックの行われる日までに、なんとか創設の目処をたてる事ができた。

 現在、車内の内装に驚嘆する扇達を下の階に残し、ゼロの私室とした二階部屋で、間もなく解放戦線の声明が出されるであろう河口湖からのテレビ中継へと注目している。


 今回のホテルジャックを利用する形で行う作戦の目的は大きく三つ。

 一つは当然、人質を救出後、電波ジャックにより黒の騎士団の創設とその行動理念を国内外に知らしめる事。
これは以前と同じく滞りなく運べるだろう。
前回、河口湖への観光に向かった為に人質となってしまったミレイ達も、シャーリーが日程をずらす事で、その心配は無くなっているし。
それによって、ニーナとユフィのファーストコンタクトも回避できるから、ニーナ狂化の可能性も減らせて言うことはない。

 二つ目は、俺個人としては最も重要な事、ユフィとの接触だ。
彼女もワイアードであるのだから、なんらかの形でホテルジャックを未然に止めようとするかとも思ったが、それはなかった。
その事から考えるに、つまりは彼女も、ホテルに人質として囚われる事で、ゼロである俺との接触を望んでいるという事。
これは非常に有り難い。
俺もやり直している事を告げ、ユフィがスザクの毒牙にかかる前に、再び手を取り合う為の邂逅をいち早く叶える舞台が整えられる。

 そして三つ目。
日本解放戦線の人間を一人、ギアスをかけて従わせる事だ。
後に控えるナリタでの戦闘を円滑に進める為にも、解放戦線のトップ、片瀬とのパイプを作っておきたい。
その為には、出来るだけ解放戦線での地位が高いヤツを見繕う必要がある。
一番適任なのは、今回の事件の首謀者でもある草壁中佐なのだが、あの男には、ホテルジャックの責任を負って貰わねばならないので除外。
そうなると、次点は草壁の副官あたりか。
上手くギアスをかける事が出来れば良いが………。



 そうして作戦の流れを予測していると、誰かが部屋に入ってきた。って、カレンか。
なんだ、人質が心配か?今回は画面に映る人質達の中に顔見知りがいる訳でもないだろうに、優しいな。

 そうそう、やり直した今回、前回との差異として扇達の心象が良い事を挙げたが、それはカレンも例外でなかった。
それが決定的となったのが、前回のサイタマに置いて何処からか洩れた『ゼロは生身でKMFと互角』説を耳にした時かららしく、「スゴいんですねッ!」とか、以前より早期に敬語で感心されて驚いたのは記憶に新しい。
流石は肉体派のカレンと言うべきか。
指揮官として少数の手駒でブリタニア軍と渡り合う知略より、個人でKMFと互角に戦える体術を有している人物の方が敬意の対象らしい。

 瞳をキラキラさせて話し掛けてきたカレンに、いや、その時中身違ったから。とはとても言えずに、そのままズルズルと。
本当の事を語れなかった所為で、「稽古つけてくれませんか?」と誘われた時などはとてつもなく焦った。
何せ、迂濶に相手すれば死に繋がりかねない。
相手をしない理由として、一度全力戦闘を行うとその後、肉体的負荷から約一ヶ月は身体能力が常人以下になる。などと、トランザムな言い訳をしてしまった時は、ドコの小学生だ!と酷く自分を罵ったものだ。
………信じる方もどうかとは思うがな。

 まぁ、カレンに好意を持たれるのは悪い事じゃないし、いつナニがあっても構わぬ様にこの私室にもベッドを完備した。
フフフ、夢が拡がるな。
代わりに学園でのルルーシュとしては、女誑しとして以前よりも距離を置かれているが、それも少しずつ挽回していけば良い。


 ん?また誰か入って来たな。
…扇か。なんの用だ?って、あぁ、団員服か!

 フッ。良いだろう、それ?
これから我々が立ち上げる組織の一員たる証だ。
女性の団員服は、ブリタニアに対抗して前回より露出度跳ね上げようとしたんだが、生憎シャーリーの反対にあって断念せざるを得なかった。
それだけが心残りではあるが、カッコ良い事に変わりはない!さぁ、喜ぶがいい!

 何?「確かに格好良いとは思うんだけど、俺達レジスタンスだし」だと?
違うな。間違っているぞ扇!
私達は、レジスタンスなんかじゃあない!

 私達が目指すもの。そう。それは、―――性技の、…失礼した。正義の味方だッ!!


 ククク。
と言う訳で早速、河口湖まで正義を行いに行こうじゃないか!



 因みに、結局未だ達成出来ていないミレイへの告白も、記憶喪失になってから魅力を増した千草へのアプローチも、黒の騎士団創設後に改めて!と、決意し直している。
もちろん今回は死亡フラグ回避の為にも、表立って宣言はしていないが………。




 黒の騎士団創設宣言日1ページ目

 ギアスで河口湖付近に駐留している中継車を一台拝借し、その屋根に立ってやって来たのは、人質が囚われているホテル周囲に敷かれたブリタニア軍による検問前。

 ゼロ出現の報に辺りがざわめく中、目の前に立ち塞がったのは、当然今回もコーネリア義姉上。
とは言え、やはりサイタマで負傷したらしいギルフォードは不在。
ダールトンだけを付き従え、二機のグロースターで行く手を阻む。

 「貴様がゼロか?」と、グロースターの操縦席から身を乗り出して、此方に銃口を向けてくる義姉上に隣のダールトンが、「いけません姫様!ヤツの前に生身を晒すなどッ…」と偉く焦っているのが滑稽だ。
大丈夫だよ、ダールトン。自慢じゃないが俺は生身でなら大抵のヤツに負ける自信がある。とは、もちろん言わず、しばし義姉上を観察。
うむ、やはり俺はもう少し薄化粧の方が義姉上の美貌は映えると、って、そうじゃないだろ、俺。

 ゴホン。と咳払いして仕切り直し、義姉上に此処を通して貰う為の会話を始めようとしたところで、被っている仮面から銃弾を弾くような音が………って、なんだと!?う、撃ってきた!?

 その事実に驚き見れば、「よくもギルフォードを!」と憎々しげな表情の義姉上が持つ銃からは、硝煙が立ち上っていて、「随分頑丈な仮面だな」とか面白くなさそうに吐き捨てている。

 ―――あ、危なかった。仮面に防弾性能つけてなかったら、ここで死んでいたじゃないか!
ま、待てコーネリア!「仮面以外を狙えば…」とか、冗談じゃないぞ!
ちょっ、銃を構え直さないで話を聞け!え?「命乞いか?」って、まぁ、そう言えなくも―――違う!えーと、アレ?………そ、そうだ!ユフィだ!

 ユーフェミアの名前を出すと、向けられる銃口が僅かに揺れる。チャンス!
そこからは必死になって、救けてみせる私なら!と言って聞かせた。
でなきゃ、死ぬ。もう予期せず始まった死のカウントダウンに膝とかガクガクだったが、俺はととも頑張った。


 その努力が通じたのか、なんとか検問を通過できたのだが、義姉上があんなにキレるとは。
今度ギルフォードと出会したら、もう少し手加減してやらないと駄目だな、これは。

 続く日本解放戦線の防衛戦もパスし、ホテル内に招き入れられながら、俺はそんな事を思っていた。




 黒の騎士団創設宣言日3ページ目

 コーネリア義姉上の対応が前回と異なった事に嫌な予感を覚え、ホテルに入ってからも何かと警戒していたが、どうにか前回通り事が進んだ事に安堵する。

 扇やカレン達には、予定通り爆弾の設置に向かって貰ったし、激昂して襲い掛かってきた草壁達も前回通りギアスで処理した。
作戦目的の一つである草壁の副官にギアスをかけるのも、割とすんなりといった。
後は、この部屋に連行されてくるであろうユフィを待つだけだ。

 そう思った直後、部屋の外から入室の許可を求める声が聞こえてくる。

 来た。ユフィだ!
とうとう、とうとうこの時が来た!




 黒の騎士団創設宣言日4ページ目

 Cの世界以来のユフィと会話。
お互いにやり直している事と、これまでの各々の動きを確認し合い、シャーリー達の事、クロヴィス義兄上の生存も伝えたところで、いざ、再会の抱擁を!………とはならなかった。

 ルルーシュ、と硬い声で俺を呼ぶユフィの表情は厳しいもので。
あれ?嫌な既視感がするぞ、その顔?
え、なんだいユフィ?「また戦いを始めるつもりなの?」って、決まっているだろう、そんな事。第一、俺が何もしなければ、父上達の計画が遂行されてしまうのは、ユフィだって承知の通りじゃないか。
「他の方法もある筈よ」って、ユフィ。それは理想論だ。
時間的にも、父上に対する勢力を集める為にも、この方法が一番確実なんだよ。
でも人が傷付くって?それこそCの世界で君も知った筈だ。
痛みを伴わない変革なんて、有り得ないのだと。


 ―――マズイな。どれだけ話そうとも、ユフィは俺を止める事しか頭にないらしく、話は平行線。
なまじ反逆の果てに俺が辿る一つの結末を知ってしまっているだけに、その意志は滅多な事で覆りそうにない。

 たが、このままではユフィと決裂しかねない。
それならば、いっそユフィの言う通りに他の方法を―――って、それは駄目だ!
このやり直しでの絶対条件は、ナナリーとの結婚!
それを為すには再び皇帝となり法を改正しなければ、ってあれ?ユフィの目が更に険しくなってないか?

 ん?「ルルーシュ、ナナリーと結婚って正気なの?その為に戦うって、そんな…」って、げぇッ!まさか口に出していたのか!?
ど、どうする俺!?二度とユフィにギアスはかけないと誓っているし、ここは口先で誤魔化すしか…「答えて下さい!」って、うん、まぁ、一応そんな感じで…。

 ユフィの勢いに圧され、観念して肯定する。
と、返答を受けたユフィは力なくよろめき、床に崩れ落ちた。
そして耳を澄ませば聞こえてくるのは「そんな。なんて、なんて罪深い」と言う呻き声。
って、待て!そもそも俺の禁忌のリミッターを外した張本人である君がそんなにショックを受ける事自体…、む、ユフイ、なんでそんな目で俺を睨む?
何?「ナナリーはあなたと同腹の妹でしょ」って?ふん、そんなのは関係ない。俺はもう覚悟を決めたんだ。
「それは赦されざる道です!」だと?赦しなど要らない!ナナリーと結婚できるならばッ!!

 あぁ、言い切ってしまった。
宣言直後に激しく後悔し彼女を見れば、そこには決意を秘めた顔で立ち上がったユフィがいて。

 ここに来て漸く、猛烈に嫌な予感がすると同時に、既視感の正体を悟る。
そうだ。この顔はダモクレス決戦前にナナリーがしていた表情と…。

 マズイ、マズイ、マズイ!いや今の嘘とか言って通じるだろうか?とにかくこのままでは、「ルルーシュ。いえお義兄様!」―――ッ!は、はい!
「どうしても、その道を征くのですね?」って、う、うん、まぁ、それが我が運命ならば。とか思わなくもない………かな?

 いや、でも考え直さなくもない(嘘)からユフィも思いとどm「ならば、私(わたくし)はお義兄様の敵ですッ!!」って、グハッ!心が、ココロが悲鳴を………ッ!
嫌な予感は見事に的中し俺は、胸を抑えて膝をつく。

 そんな俺に「私がCの世界で貴方を変えてしまったというなら、その罪は私が断ちます!」とか、欲しくもない追い討ち加える我が愛すべき妹。
心の痛みに耐えながら立ち上がり、その妹にどうにか弁解しようと口を開いたところで、ランスロットによる作戦の成功で、ホテルの倒壊が始まってしまった。

 クッ、スザクめ!またもや邪魔を!
ま、待ってくれユフィ!俺は………、え?「貴方がゼロだと言う事をバラすつもりはありません」だと?
ち、違うんだ、ユフィ。俺が言いたいのは、―――って、クソッ!もう本当に時間がない!
ユフィと決裂したままに脱出するしかないと言うのかッ!?




 黒の騎士団創設宣言日5ページ目

 『撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるヤツだけだッ!!』


 ユフィと決裂したままと言っても、俺はゼロなのだ。
強気を通さねば何もかもが破綻する。
そう己を戒めて、黒の騎士団の創設イベントをどうにかやりきった。

 その後、人質の解放と、ギアスで支配下においた草壁の副官への言伝てを終えて、撤退。
騎士団員となった扇達に、今後の行動予定を渡し解散、帰路に着く。



 ―――俺の空元気が続いたのはそこまでだった。
帰宅した俺の憔悴ぶりに心底驚いた様子のC.C.達にも、直ぐには事情を説明する気にはなれずベッドへと身を投げ出す。
胸に穴が空いた様だ。今は何もする気が起こらない。
慰めに身を寄り添わせてくれるC.C.やシャーリーに応える事が出来ないのを申し訳なく思いつつ、その日の俺は泥のような眠りに堕ちていった。


 微睡みながらユフィを想う。
あぁ、ユフィ。このままでは君はスザクと。
それは危険だ、許容できない。
こうなれば、やはりスザクを………Zzz…。






 色欲のルルーシュ Return07『黒 の 既視感』おわり






 あとがき

 久々に連休なので少し早めの投稿頑張りました。どうも鈴木です。
前回、受け入れて貰えるのか不安だった咲世子さんの暴走が、意外に大丈夫だったようなので、今回も調子に乗りました。
やらかしてたらすいません。ご指摘は甘んじて受ける所存です。

 感想の下さった方、いつもありがとうございます。
咲世子さん笑って貰えてよかったです。人生で初めて忠誠誓って頂けたりもしました。聖天八極式は、もう少し精進を重ねたら名乗るとします。
同時にテスト板の方に感想下さって方へもここでお礼させて頂きます。

 さて今回、一時的にユフィと決裂。
あくまでも、スザク君にルルーシュの為に頑張って立ち塞がって貰う為の措置。
神根島あたりで、また動きがあると思いますんで、ご辛抱下さい。

 そして、サブタイをパロるのですが、今回が限界っぽい。
次回『リフレイン』とか、どうしろと?

 あ、最後に一つ。
エロくないのは仕様です。それで言いと言ってくれた人に勇気を貰い開き直る事にしました。
纏まりが悪いですが今回はこの辺で。では、また。







[4438] 色欲のルルーシュ Return08『リゲイン』
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:11fd1fa6
Date: 2008/12/05 22:28




 ホテルジャックの後、憔悴してたルルは帰って来るなり、直ぐに眠りについてしまった。
翌朝、事情の説明をしてくれたルルの話では、ユーフェミア様―――ユフィに拒絶されてしまったみたい。

 Cの世界では、あんなにもルルの傍にいたユフィ。
私とルルとロロの四人でいつも一緒にいて、確かにルルを巡るライバルではあったけど、でも、ちゃんと仲の良い友達で。
だから、私もユフィはルルと一緒に手を取り合うんだって、疑いもしなかった。

 ホントは、私だってルルがゼロなのは、あまり良い思いはしない。
ルルが反逆を始めちゃえば、どうやったって人が傷付くし、ルルだって絶対安全なわけじゃない。
けど、やり直したルルが無闇に他人を犠牲にするような事はないって信じてるから、信じられるから、今度こそ、何も出来なくても最後までルルの側でしっかり応援しようと決めた。
その気持ちは、Cの世界で話したユフィだって持っていたものなのに、なんで…?
ルルとの間に何があったと言うんだろう?



 そんな風に、理由の良くわからないままユフィが離れてしまってからのルルは、もう見てられなかった。
いつもなら、直ぐに立ち直るルルなのに、今回は私や、師匠、咲世子さんがどれだけ励ましても、気力を取り戻してくれない。
学園にも来ないで、部屋に篭りっぱなし。
師匠なんかは「もうしばらく放っておくしかないな」なんて言って、ホントにそうしているけど、やっぱりどうしても心配。

 ルルはやり直してから明るくなったと思う。ちょっとエッチになり過ぎてたり、女癖が悪いのはたまに、なんなのよ!と思ったりするけど、前より優しさや好意を隠さずにいれる様になったルルは、前よりもっと魅力的に見えて、私は好きだ。

 だけど、きっとそれと同じくらい弱くもなった。
いまのルルは、愛情が与えられるだけのものじゃないって実感できているから、ルル自身にも向けられる想いにしっかりと気付いているから、だから余計に、それを失った時の傷口が大きいんだと思う。
ユフィの事でガッカリが長引いてるのだって、たぶんその所為。

 そんなルルの力になるにはどうしたら良いんだろう?
師匠や咲世子さんは、ルルの為に動き始めてる。
なら、私は?
最近はそんなことばかり考えて、でも考えてばかりじゃダメだと思うから、私もなにかしようと決めて。


 それで今日、顧問の先生が風邪をひいて休みになった部活のお陰で出来た時間を、なんとかルルに元気になって貰おうって、色々頑張るつもりで引き篭ってるルルの部屋に急いで来たのに―――


―――そのルルは、傷付いて元気がない筈のルルは、ヴィレッタ先せ、千草さんとエッチしてるって、どういうコト?



 ダメだ、このままじゃルルは別の意味でダメになっちゃう気がしてきた。
うん、例えばヒモとか呼ばれるダメ男に…。

 だから、だからね、ルル?
怒ってないから、少しそこに正座して、ね?






 色欲のルルーシュ Return08『リゲイン』






 黒の騎士団創設後数日1ページ目

 ブリタニアの少年ルルーシュは、二つの咎を持っている。
一つは早漏。如何なる相手よりも先に満足を得る、絶対速射の力。
一つはシスコン。愛する妹達へ向ける禁断の愛情。

 やり直しの機会を得たルルーシュは動き出す。
己が愛する者たちを囲う為、そして、妹ナナリーと幸せに過ごせる世界を創る為。

 ユーフェミアに拒絶され傷心中の彼が、これからどんな行動を起こすのか、今はまだ、誰も知らない―――



 ―――って、黙れ、魔女!
なんだその人を小馬鹿にした様な語りはッ!
俺はもう早漏じゃないだろうが!
それに咎ってなんだ、咎って!?俺が妹を愛する事を、まるで罪悪の様にナレーションするんじゃない!
何?「お前が義妹にフラれたくらいで、いつまでもイジけているからな。揶揄かいたくもなる」?
くっ、お、お前に何がわかる!?ユフィは、ユフィはなぁ、シャーリーと共に、Cの世界で俺の癒しであってくれた女なんだぞ!
それが、それが…、くぅ、いま考えればユフィに対しての釈明、説得がいくらでも思いつくと言うのに、俺は何故あの時、ああも不様を晒してしまったんだ…。
その所為で、俺はユフィを………グスッ、駄目だ、寝よう。
寝て、嫌な事は忘れるんだ。

 そうしてベッドに潜り込む俺の背後から、「またそれか?いつになったらお前は復調するんだ…」なんてC.C.の呆れ声が聞こえてきたが、無視だ、無視。


 あぁ、ユフィ。

 神よ、できるならもう一度やり直しさせてはくれまいか…。




 黒の騎士団創設後数日2ページ目

 語りたくもないが現状。
ユフィとの訣別があってから、俺は物の見事にやさぐれた。
いいや、過去形で語るのは違うか。現在も絶好調でやさぐれている。

 学園には行かず昼間からC.C.に溺れ、学園が終わった後はシャーリーに溺れ、手が空いているのを見ては咲世子に溺れる。
彼女らは、いつまでも立ち直る兆しを見せずにいる俺を、それぞれの形で叱咤激励するものの、結局は突き放す事はせずに受け入れてくれて。
俺もこれではマズイ。と思いつつも、そんな彼女たちの思いやりに甘え、縋り、自堕落な日々を過ごしていた。

 が、ここ最近はあまりにあまりな俺のヘタレっぷりに、彼女たちも困惑気味。
C.C.なんかは完全に俺を捨て置いている。

 まぁ、当然か。
俺だってこんな自身の有り様を自嘲している。これでは駄目だとも自覚している。
それでも、…それでも、立ち直ってやる!という気力が欠片も湧かないのだ。
ククク、一度は世界をも手に入れた俺が、まさかたった一つの愛を失った程度で、こうも落ちぶれるとはな。

 ユフィに拒絶されたショックは、俺が自分で思っていたより、存外に大きかったという良い証拠だ。
何せ、電波ジャックでの黒の騎士団創設宣言の折、美観を損ねるから、と言う理由で断固参列許可を出さなかった全身ギブスの玉城が、普通にゼロの後ろに並んでいるのを、後日ニュースで見て気付いた程だ。

 傷心の中、きちんとゼロとして行動出来ていたつもりでも、これでは他にもミスをしているかもな。
最悪、騎士団の崩壊に繋がる失態すらしているかも知れん。

 …だが、まぁそれでも良いか。などと思ってしまう程に弱気なのが今の俺の心理状態。
実際、学園だけでなくゼロもサボっているしな。

 理想へ向けたゼロとしてのこれからの行動の果てに、ユフィ以外の誰かも失ってしまうくらいならば、この閉じた箱庭で時間の許すまでシャーリー達とウフフアハハしていた方が、傷付かなくて済むし、と愚にもつかない事を真剣に思い悩んで今日で何日目だったか?




 黒の騎士団創設後数日3ページ目

 学園にも行かず、ベッドに横になり読書。
本当に良いご身分だな、俺は。

 …む、さっき開けたばかりのポテチがもう空か。
咲世子―――は、俺の代わりに学園だったか。病欠で良いと言ったのに律儀な事だ。
C.C.も何故かいない。
…面倒だが、自分で―――って千草、良いところに来てくれた。
部屋の掃除?それは良いから、キッチンに買い置きしてあるポテチ持ってきてくれないか?後、プリンも…。

 ん?「これ以上はお体に障ります」だって?
ハハハ、何を言っているんだ千草?ポテチやプリンの食べ過ぎで、この俺がどうにかなるとでも?
「ですが、ナナリー様も心配なさっておりますし…」って、痛い所を。

 千草達には、俺の状態に対してナナリーへの箝口令を出していたが、それもあまり意味はなかった。
ナナリーは直ぐ様俺が気落ちしている事に気づき、心配をしてくれている。
そうと知りながらも、俺はこの体たらく。
はぁ…。駄目だ、せめてナナリーにだけは心配を掛けるべきではないとわかってはいても、ナナリー=愛妹=ユフィと、どうしても今俺が抱えたダメージへと連想が向いてしまう。
こんな状態でナナリーの前に出ても、ナナリーを余計に心配させるだけだし、こんな情けない俺をナナリーに見られたくはない。
………うん、明日は心の傷も少しはマシになっているかもしれないし、明日考えよう、明日。

 って事で千草、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。ポテチ持ってこい。あとプリン。
何?「いけません、ルルーシュ様!」だと?千草、使用人の分際で、俺の考えに意見する気か?
ほう、そこで睨み返すとは、お前も少しはランペルージ家のメイドとして馴染んできてはいるようだ。
だが、気丈を装っても足が震えているぞ?全くヴィレッタの時とは偉い違いだな。

 仕方ない、もう一度だけ言うぞ?千草、これ以上俺の嗜虐心を刺激しない為にも、手早くポテチとプリンを―――「で、ですが…」じゃない!必要なんだよッ!C.C.達ともこの頃ではあまり愛し合えていない俺の心の傷をを慰めるには、ポテチと!プリンがッ!!もう限界なんだ!さぁ、はやく!
………それとも何か?お前がポテチとプリンに代わり俺を慰め―――これだ。

 千草、ポテチとプリンを持って来ないならそれもで良い。が、ならば代わりにお前が俺を慰めろ。
フッ、そこできょとんとするとは、可愛いじゃないか。
しかし、わからないとは言わせないぞ?女だったら出来ることがあるだろう?

 そこまで告げて漸く、理解に至った千草の顔が赤くなる。
クク、狼狽えてる、狼狽えてる。可愛いなぁ。少し癒されたよ。
まぁ、俺も力関係を盾にとった強制は趣味じゃない。
ポテチとプリンさえ持ってくれば、今の話は無かったこt「やります!」………ん?やります?

 はて?と首を傾げて千草を見れば、決意の表情を顔に浮かべたメイドが一人。
え、いや、予想外なんだが…。
だいたい、多少仲良くなったものの、千草に体を許される程に好かれる様な事をした覚えはまだないし。
ん?「ルルーシュ様の腹部が醜く弛んでいくのを、ただ見ているなんて、私には耐えられない!」って、そんなに腹出てるだろうか?

 ………いいや、OKならば頂くとしよう。
肉体関係から深まる愛もあると、今見ていた本にも書いてあった事だし。

 
 じゃあ千草、こっちに。………待て、メイド服は脱がないで良い。




 黒の騎士団創設後数日4ページ目

 歳上の魅力を再確認。
その上、千草の意外なウブさも良い感じだ。
なんと言うかこう、恥じらっている中にも大人の色香が漂って、加えて慣れてきてもオドオドしていると言うか、慎ましやかと言うか…。
そんな千草にはメイド服の似合う事似合う事。咲世子とは別ベクトルで、一つの理想形かも知れない。
千草をメイドとして雇った自身の先見の明を褒め称えやりたいくらいだ。

 まぁ、そんな千草の何日かに及ぶ献身的奉仕のお陰もあり、俺は少しずつではあるが、気力が戻って来ている。
そう、ポテチとプリンへの依存を止め、朝夕の食事をナナリーと共にできる程には、だ。
ユフィの問題がどうともなっていない以上、根本的な解決にはなっていないものの、なら、どうにかしてやろうじゃないか!と僅かでも思える様になってきたなら、俺はまだ立ち直れる筈。
だから、早く立ち直る為にも、今は千草と思うさま愉しもう。

 そんな訳で、目の前の千草のおっぱいを揉んだり、吸ったり。
まだ日が出ている、と言うのに抵抗があるからか、「ぅン~~~ッ」とか極力声を出さない様に努める千草。非常にそそる。
これは、扇のヤツ、前回相当にイイ思いしてたに違いない。

 良し!俺も堪らなくなって来たことだし、いざ挿入を―――と、千草の足の間に割って入ったところで、部屋のドアが開く音が…って、この展開、Cの世界でもあった様な………。
恐る恐るそちらに目を向ければ、そこには肩にかけたスポーツバッグを取り落として、こちらを見るシャーリーが―――って、シャァーリィーーッ!?

 バカなッ!?よりにもよってシャーリーだと!?一番見られてはいけない相手にッ!!
と言うか、君はまだ水泳部のある時間帯の筈じゃ………え?顧問が風邪?今日休み?
おのれ!風邪くらい気合いでどうにかすれば良いものを―――「咲世子さんに頼ってズル休みしてるルルのセリフじゃないでしょ!?」って、そ、それは確かに…。
「何してるのよ!私達みんなルルが元気ないの心配してるのに、部屋に引き篭って、まさかずっと千草さんとシてたってわけ!?」って、いや、千草とシてたのはここ数日で…、じゃない!
ち、違うんだシャーリー、これは次に俺が提案しようとしていたメイドさんプレイの予行演習と言うかなんというか。じ、実はシャーリーのメイド服も既に用意してあ―――え?弁解になってない?ですよね?
あれ?でも弁解しないと俺死ぬんじゃ…。

 マズイ。シャーリー笑顔なのにとてもとても怖い。俺にかかってもいない『生きろ』というギアスが全力で―――って、言ってる場合か!ち、千草、助け、ッ!いないだと!?
主人を置いて逃げるなんて、そんな…「ルル?」…はい、ごめんなさい。
はい、言いたい事はわかります、はい。
でも、あの、………ギアス使って無かった事にとかは、駄目、ですよね?

 
 質問の答えとして帰ってきた、顔面へのスポーツバッグにより、俺は意識を手放した。




 黒の騎士団創設後数日5ページ目

 終わった。致命的だ。
気絶から叩き起こされ、シャーリーからのお説教の後、更正が認められるまでの千草禁止令を出されたのは、まぁ、良い。
本当は良くは無いが、良い事にしとかないと命が危ないので、良しとしておこう。

 では、何が終わったのか?
終わったのは、そう、反逆である。
シャーリーから解放され、千草禁止令撤廃の為にもと、更正への前向きな決意を胸に誓った俺は、ユフィとの訣別以来、久しぶりに日付の確認を取って、そこで目を疑った。

 過ぎていたのである。諸々の期日が。
猫祭り、カレンのリフレインイベント、草壁の副官に指示して取り付ける筈だった日本解放戦線指揮官片瀬との談合。
俺が部屋でポテチ食べたり、千草とハァハァしている間に、予定していた計画の実行日は、既に何日か前に通り過ぎていた訳だ。

 ふ、ふハ、フハハハハハッ!なんと言うかもう涙もでないぞ、これは!
猫なミレイとニャンニャンする予定も!カレンとの重要なフラグも!ナリタでこそは義姉上を手中にと思っていたのもッ!全て!すべてッ!俺自身のアホな行動でご破算とは!!

 猫耳猫尻尾なんか、ナナリー、C.C.、咲世子、千草の分まで用意していたと言うのに!それで猫祭り当日は自宅でもニャンダフルデイズにしようと夢見ていたのに!
カレンの母親も救う筈が、これでは既に!
俺が、俺がいつまでもいじけていた所為で………。
クハハ、この俺がまさか女で身を持ち崩すとはな。全てを失ったいまの俺こそが、正にゼロ、か。


 もういい、グレてやる。
グレるには何が良い?酒か?煙草か?それともクスリか?

 …あぁ、クスリと言えばリフレインがあるじゃないか。
いいさ、やってやる。せめて幻覚の中でだけでも幸せになるんだ。
…ヒグッ。






 黒の騎士団創設後数日6ページ目

 終わった、と言ってすぐに発言を覆して悪いが、終わってはいなかった。

 リフレインを少量仕入れ帰宅し、自室で使用する直前、それを見咎めたシャーリー達にリフレインを没収され、俺は狂乱した。
放してくれと暴れ、もう計画は破綻したんだと訴えた。
そんな俺に、C.C.の蹴りと(痛かった)、シャーリーのビンタと(悲しくなった)、咲世子の貫き手(死ぬかと思った)が見舞われ、同時に聞かされたのが、「自棄になるのは勝手だが、計画に破綻はないぞ」と言う言葉。

 は?と、情けなくも疑問を口に出した俺に、三人は説明してくれた。
なんでも、最近の俺を見るに見かねたC.C.達は、このままではゼロとしても学生ルルーシュ・ランペルージとしても立ち行かなくなると、危ぶんだらしい。
最初の頃は、俺を慰め、激励してはいたが、これはどうにも長引きそうだと見るや否や、俺が心的ダメージから回復するまでの間、ゼロと言う役柄をC.C.と咲世子で兼任し計画に支障の出ないようにする事を決意。
シャーリーは忙しくなる二人を学園や、クラブハウスでサポートしてくれていたと言う。

 幸いにも、俺が書き置いていた計画の詳細や、前回の記憶を持つC.C.の立ち回りの妙により、ゼロの行動は今のところ恙無く。
学園でも、影武者な咲世子の頑張りと、シャーリーの的確なフォローにより、何一つ問題は起きていないそうで…。
説明の締めとして告げられた、「まぁ、ルルが楽しみにしてた猫祭りは、代わりに咲世子さんと楽しんじゃったけどね」と言うシャーリーの微笑み混じりな言葉を耳にして、不覚にも俺は涙した。

 感謝する、ありがとう。

 次いで、素直に俺の口から零れた言葉にも、C.C.は当然だと胸を張り、シャーリーは照れくさそうに笑い、咲世子は黙って一礼を返してくれる。

 それを見て改めて実感したのは、俺の不甲斐なさと、心を預けてくれる仲間たちの有り難み。
たった一度ユフィと仲違いしたと言うだけで、俺はなんでこうまで自暴自棄になっていたのか。
俺には、ユフィだけでなく大切にしたい人達がいて、彼女達が支えてくれているからこそ今日という日があると言うのに、それを蔑ろにするような事をしてしまっていた。

 そう、そうだよな。彼女達の想いにしっかりと応える為にも、こんな事でへこたれている場合じゃなかったんだ。
俺には成すべき事がある。それをやっと思い出せた。
進むよ。もうこんなバカはしないと誓う。
ユフィとだって、再び手を取り合える未来を諦めたりはしない。

 そうさ、俺は奇跡を起こす男、ゼロなのだから!


 ―――と、決意新たに立ち直った俺に、やれやれと言った感じでC.C.が提案したのは、久し振りの4P。
ならばと、用意した猫耳猫尻尾を無駄にしない為にも、『猫祭りinベッド』を主張。
勢いで千草禁止令も撤廃に持ち込む事に成功し、初5Pも体験できた俺に、もはや何一つの憂いもない。

 明日からは再びの反逆生活だ。
忙がしくなる前に、クロヴィスに電話で自慢しておかねばな。

 そんな風に気分最高潮の俺だから、ピロートークの際にシャーリーが呟いた、「でも、益々ルルがゼロである必要なくなったよね」という発言も、聞かなかった事にした。




 傷心回復翌日1ページ目

 色々な意味で狂乱の夜が明けて翌日。
俺は学園に復帰し、ホテルジャック後のユフィの動向を探る為に、生徒会室で二人きりになる時を狙いスザクに接触した。
そして、それとなく、お前をここに通わせてくれた人とか、ゼロの事件を受けてどうなんだ?と話を振ってみれば、ゼロへの糾弾が出るわ出るわ。

 スザクの話によれば、ホテルジャック後のユフィは、政庁に用意された自室で泣き濡れているとの事で、この時点で前回よりもユフィに対する傾倒が強く窺えるスザクは、「河口湖でゼロに何かされたに違いないんだ!」とゼロ憎しな感で息巻いている。

 しかしそうか、ユフィも。
彼女を泣かせているのは、もしかしなくとも俺だろう。
その事を居たたまれなく思う反面、それがユフィもまだ俺を想ってくれている証に思えて嬉しくなる。

 お陰でスザクが前回より余計にゼロを敵視してしまっているが、それはどうとでもしてみせよう。
傷心のユフィがスザクの毒牙にかかってしまう前に、もう一度ユフィとの接触か、スザクを行動不能にする術を模索せねばな。

 そうして、聞きたい事を聞いた後も続くスザクのゼロ批判を受け流し考えている途中、ふと机の上に置いてある雑誌に目が止まる。

 表紙はゼロ。それは構わない。
C.C.達が上手く事を運んでくれているのだから、この時期どの雑誌もゼロ一色だろう。

 だがなんだ、この『魔王ゼロ』と言う写植は?
前回もテロリストの親玉として、賛否両論、様々な呼び方をされはしたが、仮にも正義の味方を標榜する黒の騎士団のトップを『魔王』などと名付ける雑誌など存在しなかった筈。

 頭を過る嫌な予感に押され、その雑誌を開いてみれば、―――予感は的中してしまった。

 目の前に躍り出た文字は、『巻頭特集!魔王ゼロの正体に迫る!!』『生身でナイトポリスを撃破!』『心臓を撃ち抜かれても死なない不死身の謎!』『魔王、ピザ屋を襲撃!?』などなどで…。

 雑誌を持つ手が震える。よくあるゴシップで片付けるには、心当たりがあり過ぎるこの内容。

 俺はバカだ。ヤツら二人がゼロとして動いてくれていたその事実に感動し、大まかな作戦のあらましを訊いただけで満足してしまっていた。
が、よく考えれば、ゼロの中身は、不死のピザ女と、天然メイドなくの一。詳細を事細かに確認せねば、安心などできなかったと言うのに…!

 事は一刻を争うと判断し席を立つ。
ん?なんだスザク?ゼロの話?悪いが急用が出来た、また今度な。

 生徒会室を出てクラブハウスに全力疾走。
あの二人、ナリタでの作戦も近いと言うのに、ゼロを一体何者に仕立て上げたいんだ!?これじゃ只の化け物だろうがっ!!
くそっ!アイツら、どうしてくれよう………。






 色欲のルルーシュ Return08『リゲイン』おわり






 あとがき

 どうも、鈴木です。
ルルーシュの誕生日なんだし投稿せねば!と書いてみた今回の話ですが、この話、Return08.5『仮面 の 新事実』みたいな感じで、ゼロ(C)、ゼロ(咲)がルルーシュが凹んでいた裏で何をしていたか?と併せて一つにしようとか目論んでいます。

 で、こんな凹み過ぎのルルーシュは実際どうなんだろう?とか。
折角、初期から頼れる仲間がいるのだし、内助の功ってことで、今回は女性陣に頑張ってもらおうと思いまして。
タイトルもそのものずばり回復ってことで、ルルーシュには一度思うさま堕落してもらいました。
幾つかサブタイ案頂いて、喜んだのも束の間、今回は自分で捻り出して書き始めた後に見たもので、すみません。
次回以降再び困る様な事があれば、遠慮なく頼らせて貰おうと思っています、はい。

 そして、いつもながら他にも感想ありがとうございました。
楽しんで頂けてるようで幸いです。
一号、二号のご意見、唸らされました。ちょいと次回に反映するかもしれません。
あー神楽耶は、三人官女は早めに揃えておきたいんで、近い内。
その前に先ずは、今回本編ではスポットの当たっていたカレンを、次回!

 ってことで、色々書きましたが、今回はここら辺で。
次は番外?みたいなんで出来るだけ早めに。
では、また。







[4438] 色欲のルルーシュ Return08.5『仮面 の 新事実』
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:11fd1fa6
Date: 2009/01/06 10:37



 主と定めお仕えする事をお許し頂いたルルーシュ様が、黒の騎士団を旗揚げなさった日より早数日。
なんでも親愛を交わされていた義妹様と仲違いをされてしまったとの事で、それ以来ルルーシュ様はずっと意気消沈しておられます。

 最初の内はC.C.様やシャーリーさん共々、ルルーシュ様が逸早く立ち直られる様に、とお慰めする事にだけ心を砕いておりました。
ですが、近頃ではご復帰になられるまで長引きそうなルルーシュ様を見て、「このままではルルーシュの反逆に差し障りが出るな」と仰るC.C.様のお言葉に従い、僭越ながらこの篠崎咲世子、ルルーシュ様の療養がお済みになるまで主の変わり身を務めさせて頂く事と相成りました。

 学園では今までと同じく私がルルーシュ様に扮し、黒の騎士団総帥ゼロとしての活動はC.C.様と私で分担を、と。
こうなれば、流石に使用人としての役割を全うに果たせなくなるかとも危ぶみましたが、先日より同じ使用人として働く事となった千草さんのお陰でその心配も杞憂で済みましたし。

 そう言った事情もありますので、C.C.様との協議の結果、ゼロとしての活動時お互いの認識に齟齬をきたさない為にもと、今日よりその日一日の活動を、C.C.様と交代交代で日記に記帳していきたいと思います。

 本来ならばこの様な事態となる前に、ルルーシュ様がご自身を立て直されるよう最善を尽くすのが私共の本分であるのでしょう。
然れどそれが叶わぬ現状、次善を察し動く事こそが臣下の務めとも心得ます。

 ですので、ルルーシュ様のお心に沿う様にとの活動を記したこの日記。『はんぎゃく日記』と銘打ちまして、しばし続く主不在な状況下での己が役割に、誠心誠意邁進していく所存にございます。


 願わくば、一日でも早くルルーシュ様がご快復なさいますよう。







 色欲のルルーシュ Return08.5『仮面 の 新事実』







 はんぎゃく日記1ページ目

 ヘタレがヘタれたままなので、私と咲世子でヤツが復帰するまでの時間を稼ぐ事になった。
シャーリーもフォローにまわってくれるそうだから、最初私一人でゼロを演じなければならないか、と考えていたのよりは遥かにマシになったと言える。

 しかしルルーシュのヤツめ、一度ユーフェミアに素気無くされた位でああも落ち込むとは…。
以前、ナナリーにゼロを否定された時も割りと早くに立ち直ったものだから今回もすぐに復調するかと思ったが、どうにも雲行きがよろしくない。
どうやら撃たれる覚悟はあっても、フラれる覚悟は持ち合わせていなかったという事か。

 今も不貞腐れながらポテチを貪ってるし。
どうせならピザを食ってポイント稼ぎに貢献する位しろと言うのだ。

 はぁ、これが魔王になるとまで嘯いて、時の摂理まで捻じ曲げた我が共犯者かと思うと情けなさが込み上げてくる。
大体、ここまで思い遣っていると言うのに、たかが女一人にフラれた事をウダウダ何時までも思い悩むなんて、私達に対する侮辱だろうに。
まったく、これだから脱童貞したばかりの坊やは。
こんなヘタレの為にそれでも尽くしてやろうと言うのだから、私は共犯者の鑑だな、うん。


 おい、ルルーシュ。私はこれから少し出てくるからな。
こちらに見向きもせず、背中を向けたまま手だけで了解の合図を送ってくるルルーシュ。
…やはりヘタレている。普段のアイツならこんな時、「お前の外出など許可できるか!」とグチグチ小言を行ってくると言うのに。

 まぁ、今は好都合か。
今日からゼロの変わり身として騎士団を率いて活動をせねばならないのだし、ルルーシュが私の動きに頓着しないのなら精々好きにやらせて貰おう。

 私達はギアスが使えないから、柔軟性には欠ける部分を力業で補うしかない。
どの道、多少の無茶をせねばならないのなら小姑の如く目を光らせるヤツがいない方が事をスムーズに運べるだろう。

 さて、今日は汚職政治家の粛正だったか。





 はんぎゃく日記2ページ目

 学園より帰宅。
今日も私なりに精一杯ルルーシュ様を演じさせて頂きました。
それにしても演じてみてつくづくルルーシュ様の人誑し振りを実感させられます。

 私の目から見ても解る、あちらこちらに建てられたフラグの数々。
どれを回収するべきか迷ってしまうところではありますが、ここはC.C.様の指示にもある通り生徒会の方々を念入りに。

 私としましては、ルルーシュ様の復帰後の人間関係が円滑である為にももう少し積極的に動くべきとも思うのですが、シャーリーさん曰く「もう充分ですっ!って言うかやりすぎなくらい。あぁ~またルルを狙うコが増えちゃう!」との事で、中々に儘ならないものを感じます。
まぁ、それはこれからも鋭意努力を重ねるとして、一先ず今はもう一つの使命ゼロとしての活動を考えるべきでしょう。


 既に、先日より先だってC.C.様がゼロとしての活動を開始なされており、連日雑誌では黒の騎士団の特集が組まれています。
汚職政治家や過ぎた営利企業への断罪を繰り返していく黒の騎士団の華々しい活躍に世間は持ちきりと言ってしまっても良いでしょう。

 ですが、その活躍は並々ならぬ苦労を押して飛び回るC.C.様のご尽力あっての事。
なんでも、作戦時の経路確保などの際には度々過酷な肉弾戦を強いられるらしく、流石のC.C.様も披露困憊のご様子。
故に、先に決めた計画通りとうとう本日、私にもゼロとしての役回りが巡ってきたという訳なのですが…。
さて、ルルーシュ様ご本人でなくとも、ゼロとして堂々とした振る舞いをなされるC.C.様と同じ事が私にもできるでしょうか?

 不安な思いはあれど、成さねばルルーシュ様の臣下としての名折れ。
ここは気合いを入れて事に臨むと致しましょう。

 幸いな事に、私の手にはC.C.様より頂いた『アナタにもできるゼロ。黒の騎士団総帥編』がありますし。
作戦開始までの残り数時間、完璧なる任務遂行の為にも、もう一度予習をしておきましょうか。
やはり最初は『人間関係の章』からですね。
えぇと、現時点での主要構成員の頁は…。




  扇―能力値(将来見込み含む)☆☆

  モジャ。特筆すべき事のないノッポ。凡庸を絵に描いた様な男ではあるが、現メンバーの中心ではあるので、反感を買うと後々面倒。 そこそこに重用しつつ生かさず殺さずを心掛け手懐けるべし。
 少しでも裏切りそうな素振りを見せたら、作戦時の事故を装い排除も可。私はそうする。


  玉金―能力値☆

  この前助けたヤツ。ヒゲ。組織の癌。
 作戦時に何かミスがあったり、資金繰りが上手くいかない時はコイツを疑え。そして犯人であった様なら徹底的にヤれ。
 煮ても焼いても、な男だが、生存率だけは突出しているので、囮や盾くらいにはなるだろう。


  南―能力値☆☆★★(黒星は特殊な条件下でのみ発揮される能力値)

  メガネ。可もなく不可もなくなのでそれなりに使え。
 だが、もし作戦に幼女などが絡んでくる場合は能力値が跳ね上がるので、その時はコイツを前面に推し出した作戦行動もありだろう。
 ただし、正義の味方を謳う黒の騎士団から犯罪者を出すのはマズイので、行き過ぎた行為があれば排除すべき。


  杉山―能力値☆☆★★★

  モジャでもヒゲでもメガネでもない男の華奢な方。
 可もなく不可もなくなのでそれなりに使え。
 ただし、ピザを作らせたらそれなりのモノをもっているので、長い目で見てやって欲しい。


  吉田―能力値☆☆☆

  モジャでもヒゲでもメガネでもない男のマッチョな方。
 特に特徴はないが、癖がないだけに使い勝手も良い。筋肉なだけあって力仕事の時は便利。
 メンバーの中で、一番死相が色濃くでてるヤツでもあるので、作戦時に余裕があれば気を配ってやるといいだろう。


  井上―能力値☆☆☆

  長髪の女。情報関係全般にそこそこに使える。
 後、ルルーシュのバカがゼロとして手を出した模様。この前迫られた。
 もし迫られた時は、私達にはアレが付いてないので、バレる。上手く理由を作って断れ。
 どうしても断れない時は、目隠しでもして前戯だけで満足させるしかないだろう。大丈夫だ。咲世子、お前ならできる!

  それからコイツにも死相が出ている。
 手を出した女である以上、死ねばルルーシュが悲しむだろう。
 不本意ではあるかもしれないが、出来るだけ守ってやれ。


  紅月カレン―能力値☆☆☆☆☆☆

  赤髪の女―――と言うか生徒会で一緒だな。
 咲世子、お前が生身でのルルーシュの切り札なら、コイツはKMF戦でのルルーシュの単騎最高戦力になる女だ。特に念入りに気に掛け てやるべきだろう。
 犬属性高めなので、良く躾け良く褒めてやると良い。

  コイツとの関係悪化=ルルーシュの死亡フラグ成立に成りかねないので、充分に注意してくれ。
 後の細かい餌付けは私がやる。



  総評とするなら、少し癪ではあるが、コイツらが裏切らない様に信頼関係を築いておくべき。
 ルルーシュがコイツらを率いると決めたのだから、上下関係をしっかり認識させた上で出来る限り好感を持たれる振る舞いを心掛けてや ろうじゃないか。
 まぁ、要は飴と鞭だな。

                                                                』


 ………なるほど。とても勉強になります。
C.C.様とて団員の方々と付き合ってまだ日は浅いでしょうに、ここまで事細かく記述されるとは。

 しかも死相まで読み取る等、常人に軽々しく出来る筈もありません。
お会いした当初より、得も言われぬ存在感をお持ちな方とは思っていましたが、流石ルルーシュ様の伴侶のお一人ということでしょうか。
そのC.C.様のお力添えに応える為にも、ゼロとしての責務、しっかりと果たさなくては。

 おや、もう時間ですか?では、張り切って参りましょう。
大事なのは飴と鞭、飴と鞭ですね。



 ※追記

 作戦自体は成功を治めましたが、逃走経路確保の折に少々問題が発生。
C.C.様に頂いた教本に記述されていた通り、問い詰めてみれば玉金さんの些細なミスが原因でしたので、教えに従い軽く鞭を振るわせて頂きました。
鞭だけでは難ですので、その後アジトの方で飴として和食を振る舞わせて頂きましたところ、皆さん大変お喜びの様でしたのでなりよりと思います。
ただ、「ゼロが料理なんて意外だ!」と、大層驚かれてしまいましたので、もしゼロのイメージとそぐわぬ行動であったなら申し訳ありません。





 はんぎゃく日記3ページ目

 ゼロとして活動を初めて数日。
私はもちろんとして、咲世子の方も差し障りなく役割を果たせている様なので、今のところ問題ない。
天然なこともあり多少心配していたのだが、私の予期していた以上の働きでゼロとしての活躍に大いに貢献してくれている。
元より驚異的な戦闘能力を誇る咲世子の事、作戦を力業で成功させる手腕は私以上だ。
ルルーシュの様にギアスを駆使してスマートに、とはいかぬ中で上々の出来と言って良いだろう。

 不得手かと思われた騎士団員達を統率する手際も中々に見事なもので、渡した教本通り飴と鞭を上手く使って団員を従わせている。
少し鞭が強すぎる様で、玉城の減り始めていたギブスがまた増加傾向にあるが、それは自業自得でもあるしな。

 それに作戦後、美味い料理を振る舞うのは単純ながら中々の発想だと言える。
胃袋から攻めるは人心掌握の基本の一つ。
咲世子はゼロのイメージ云々を気にしてはいたが、本来のゼロであるルルーシュ自体、お前本当にブリタニアの皇子か?と詰問したくなる程に家庭的な料理上手だ。
これで騎士団が前回よりもゼロに好感を深めてくれるなら、気にする方が野暮と言うもの。
結果としてヤツらが、素顔を晒したとしてもルルーシュを裏切らないというところまで漕ぎ着ける事が大事なのだから。

 かく言う私も、先日より咲世子に倣い作戦後にはピザを頼んでやっている。
お陰でポイントが貯まる貯まる。経費なので懐も痛まないし、ピザを食べ放題だし、良いこと尽くめだ。
前回の作戦で遂に4体目のチーズ君も手に入れられたし、このまま行けば夢のチーズ君ハーレムも達成間ぢ―――もとい、ゼロを中心とした騎士団の結束もより強固なものとなるだろう。

 フフフ、早く次のチーズ君のポイント貯まらないかなぁ。そしてチーズ君に囲まれた生活を。
あー、ちなみにこれは浮気じゃないぞ?
と言うか、私に女としての情動を思い出させておいて放っておくルルーシュが悪いんだ、うん。

 この空虚を埋めるには、たくさんのチーズ君にだな―――「C.C.さん?」と、すまない、ナナリー。お前との食事中に考えるような事じゃなかったな。
「お兄様の事ですか?」って、あぁ、そんなところだ。

 それにしても酷い兄だな。いつもはお前が可愛い可愛いと煩い癖に、自分が手一杯だとほったらかしとは…。
ナナリー、お前もこんな時こそアイツに我が儘言ってやっても良いんだぞ?
お前が、「私に寂しい思いをさせないで下さい」とでも言ってやれば一も二もなくヘタレるのをやめるだろうしな、アイツ。

 うん?「いつも私の事ばかりに気を遣って下さるから、こんな時くらいお兄様をそっとしておいてあげたいんです」だと?
んー、兄と違って出来た妹だよ、お前は。

 まぁ、代わりと言ってはなんだが、私がいる。寂しかったら甘えて良いぞ?
なに、遠慮は要らないさ。ナナリーは私の義妹になるのだし、少しは欲望に忠実になったとは言え、お前が一番である事に変わりないルルーシュとお前の間に、こんな事で溝が出来ても困る。

 なんなら今夜は一緒に眠るか?所用で夜遅くはなるが、―――ん?「C.C.さんはお兄様の側にいてあげて下さい。…落ち込んでいる理由がわかれば私も慰めてあげたいのですけど」って、………あー、お前の義姉にフラれたから泣き濡れているとは、流石に教えられんしなぁ。けどナナリー、お前は本当にそれで良いのか?
ふむ、「仲の良いお友達もいますし」か、ナナリーがそう言うならば無理強いはしないが―――っと、そろそろ時間か。それじゃあナナリーまた明日な?
「はい」と気持ち寂しげに頷くナナリーを咲世子と千草に任せ席を立つ。


 …しかしルルーシュのシスコンの影に隠れて目立たないが、ナナリーのヤツも立派なブラコンだ。
気丈に振る舞ってはいるが、ルルーシュとコミニケーションできないのが相当堪えているのだろう。
なんだかんだと会話の半分以上は兄を気遣う話題だしなぁ。

 本当なら学園と同じく食事中も咲世子にルルーシュを演じさせたいところだが、ナナリーには恐らくバレる。それも出来ない。
かと言って、何時までもあんな寂し気な顔をさせておくのも忍びないし。

 ったく、ルルーシュのバカがさっさと立ち直ればこうはならないと言うのに。
かつて生きる理由とまで言い切った妹にまでコレでは、先は長そうだ。
ゼロを演じるのも中々に激務だし、早いとこルルーシュが復活するのを願うしかない、か。


 さぁ、今日は騎士団参加を希望する勢力の迎合だったな。
サボりたい気分ではあるが、こういった仕事は咲世子より私向きだ。そうもいかない。
はぁ、ルルーシュが元に戻った暁には、たっぷりと礼をして貰うとしよう。





 はんぎゃく日記4ページ目

 ゼロとして幾つか作戦を熟していて思った事なのですが、ルルーシュ様は巧妙に隠されているだけで、実は武術の達人だったりするのでしょうか?
作戦中、戦闘を強いられる事が度々あり、その都度強く疑問には思ってきた事ではありますが、私の把握しているルルーシュ様の身体能力では明らかに切り抜けるのが不可能な事態がそれなりの頻度で起こります。

 ですが、私共が変わり身を務めさせて頂く前は、確かにルルーシュ様お一人で作戦を成功に導かれていた筈。
となれば、これはもうルルーシュ様には秘めたる戦闘技能がお有りになると考えるしかありません。

 それとも、私などには及びもつかない智力の成せる御業なのでしょうか?
何れにせよ、私は最大限の敬意を捧げるべき主人の能力を未だ見誤っていた事を恥じ入るばかりです。

 先日アジトでカレンさんの稽古にお付き合いしていた時にも、「ゼロって最初の頃よりワイルドになりましよね」と言われてしまいましたし、C.C.様より頂いた教本にあった『部下の前でゼロる時は、出来る限りオーバーアクションでありながら、モヤシっぽく』を実践できてるとはとても思えません。
近頃ではゼロとしての活動も軌道に乗り、少々自信も持てる様になって来ただけに落胆は隠せず、精進の足らぬ我が身を嘆くばかりです。


 ………そんな私がC.C.様に意見などと烏滸がましくは思うのですが、一つだけ進言をさせて頂きます。


 C.C.様、飴として食事を振る舞うのは私も素晴らしい事とは思います。
ですが、どうか団員の方々にピザ以外のものもお与えになって下さい。

 私の方でゼロとして食事を作る時にも、色々とバリエーションに気を遣ってみてはいますが、それ以外が全てピザでは如何ともし難く。
玉金さん達が、「なんの罰ゲームだよ!?」と騒ぐだけならまだしも、井上さんに「ゼロお願い!もうピザはやめて!これ以上太ってしまったら、私もう貴方の前に立てないッ!!」と悲痛な顔で泣きつかれるのは、同じ女の身として見るに堪えません。

 C.C.様がピザをこよなく愛するお気持ちは理解しておりますが、騎士団の士気にも関わります。
ですから、どうか、…どうか!





 はんぎゃく日記5ページ目

 ルルーシュを裏切った事を水に流してやるか、と思い始めた矢先に団員共が「ピザはもう嫌だ」とぬかし始めた。
有り得ない。ピザが嫌だとか、どうしたらそんな言葉が吐けるのか。

 この前までなんだかんだと食べていたのだし、テリチキにシーフード、ポテマヨetcとバリエーションだって豊富だ。
コイツらはちょっと我が儘が過ぎると思う。

 大体カレンを見習えと言うのだ。
あの嬉しそうにピザを貪る姿は、私としても品性を疑―――ではなく、一目置けるものがある。
まったく、最年少者が文句も言わない状況で、他がこうも弱音を垂れ流すとは、恥ずかしく思わないのか?

 とは言え、咲世子に嘆願されてしまっては無下にする事も出来ない。
仕方なくピザ以外にもサイドメニューを頼む事を許可してやったのだが、………遅い!

 まさかアジトにデリバリーを頼む訳にもいかず、この頃はいつも作戦後カレンをピザ屋まで出向かせピザを調達していたが、今回は珍しくそのカレンが不在。
故に、自らピザ屋行きを名乗り出た扇に買い出しを任せて、もう一時間が経とうとしている。

何をやっているんだあの男は!
ガキの使いじゃあるまいに、ピザを買う事すらまともに出来ないと言うのか!?
あぁイライラする。今日の分で新たなチーズ君のポイントが貯まりきるというのに―――って、扇、戻ったか!

 随分と遅かったじゃ………うん?お前、何故手ぶらなんだ?
いや、「すまない」じゃないだろ。狼狽えてないで事情を話せ。
何?「じ、実は、イレブンにピザを売る事は出来ないって言われてしまって」だと?


 …。
 ………。ふ、フフフ、そうか、ならば仕方ない、な。扇、ご苦労だった。
「ぜ、ゼロ、急に席を立って何処に?」だと?
決まっている!そんなふざけた事を宣ったピザ屋に制裁を与えにだッ!

 ハッ!「正義の味方を自称する俺達がそんな事をしたらマズい!」だぁ?
お前は何を言っている?これは黒の騎士団の理念に乗っ取った正当な行動だ。
強者(ピザ屋)が弱者(ナンバーズ)を虐げる事を私は許さない!
売って良いのは、撃たれる覚悟のある店だけだ!まして客を拒むなど、相応の覚悟はあろう!
お前達もいくぞ!着いてこい!


 と、騎士団を率いてピザ屋に乗り込み抗議してやったのだが、ピザ屋の店長はゼロな私を前にしても知らぬ存ぜぬを繰り返し、あろう事か「そ、そんな客は我が店に来てすらいません!信じて下さい!」とまで言い切った。

 嘘まで吐くとはピザに携わる人間の風上にも置けぬ行い。
罰としてその場で店は解体。店に在ったピザとチーズ君に罪はないので、ついでに回収。

 予定外の事態ではあったが、どうやらゼロとしてまた一つ正義を為してしまったようだ。
これでは魔女と名乗るのも憚られてしまうな、フフフ。



 ※追記

 ………ピザ屋襲撃の件だが、「ピザ販売を断られた」と言うのは、これ以上ピザを食したくないが故の扇の嘘だったらしい。
ピザ屋を壊滅に追いやった後、やけに青ざめた顔をした扇を問い詰めたら白状した。

 あの店長は嘘など吐いていなかった訳だ。
やはりピザに携わる者に悪いヤツはいない。悪い事をした。

 しかし扇め、いくらピザを食いたくないからと嘘まで吐くとは、所詮その程度の男だったという事か。
ピザを愛する事も出来ないヤツでは、再びルルーシュを裏切りかねない。
その為、排除も止む無し、とも考えたが、―――まぁ今回扇にはキツい制裁を加えておいたので、咲世子も大目に見てやって欲しい。

 わ、私は悪くないぞ、うん。
何を反省する必要があるのかさっぱりわからない。

 …ただ、これからはピザ以外のものも頼んでやっても良い。
だから、この事はルルーシュには内緒だ。な?





 はんぎゃく日記6ページ目

 ここしばらくのゼロとしての役割はほぼC.C.様が熟しておいでです。
口ではいくら「私は悪くない!」と仰られても、どうやらピザ屋襲撃に関してそれなりに責任を感じていらっしゃるご様子。
そうなってしまいますと、私としては書き記す事が特にございませんので、ここは一つ身近にあった喜ばしき一件についてご報告を。

 先日から同僚として共に働く事となった千草さんを、ルルーシュ様がお召しになられたそうです。
学園が終わった後の使用人としての仕事の合間に、頬を染めた千草さんに打ち明けられました。

 ルルーシュ様が、女性をお求めになられる程にはお心を持ち直されたのならば、完全なるご快復もそう遠くの事ではないかもしれません。
また、同僚である千草さんも満更ではないと見受けられましたから、私も暇を見ては彼女にルルーシュ様の魅力を語って聞かせた甲斐がございました。

 これでもし千草さんに記憶が戻った後にも、事が少しでも収まりやすくなれば良いのですが…。





 はんぎゃく日記7ページ目

 撃たれた。しかも心臓直撃だ。
租界での密輸業者襲撃の際発生した銃撃戦中、偶々そこを通り掛かったピザのデリバリーに運悪く向いてしまった相手方の銃口。
その瞬間、悪気はなかったとは言え店閉まいに追い込んでしまったあのピザ屋の店長の泣き顔が私の脳裏に浮かび、咄嗟、配達員を庇う為に体を射線上に躍らせてしまったのだ。

 結果、私は鉛玉に貫かれ意識を手離し―――心配した団員達の手によって危うく仮面を剥がれる寸前で蘇生した。
身体を起こした私を見て「生き返ったぁッ!?」と恐慌に陥るヤツらは、防弾服と血糊を使っただけと煙に巻き落ち着かせはしたが、一体どこまで誤魔化せたものか…。

 それにしても、私らしくもない失態だった。
マリアンヌ達に思惑を悟られるのを嫌い最初以来Cの世界との接続を断っている所為で、どうにも理性的に物事を運べない時が増えてきた気がする。

 それを人間味と言えば聞こえは良いし、私自身悪い気はしないが、いざという時にルルーシュの共犯者として手抜かりがあるのは、私の望みではない。
少し気を引き締め直す必要があるかも知れないな。

 まぁ、今回に限って言うなら、ゼロの負傷を受けた騎士団の連中の錯乱ぶりから、ゼロに対する好感はかなりのものだと伺えただけでも良しとしよう。
ピザの配達員も無事だったしな。





 はんぎゃく日記8ページ目

 C.C.様が前回の作戦時に軽くとは言え負傷なされたとの事で、久しぶりにゼロとして活動したのですが、少々やりにくいなどと思ってしまいました。

 確かC.C.様のお話では、銃弾が軽く掠めただけ、と言うお話でしたが、アジトに顔を出した瞬間に「もう大丈夫なんですか!?」、「無理はしないでね!」と、カレンさんや井上さんを筆頭に過剰に心配して頂きましたし。
作戦決行中も、皆様のいつも以上の頑張りでやる事がほぼないままに終わってしまい、それならばせめて食事くらいは…、と意気込んでもキッチンにすら立たせて貰えぬままにその日のゼロ活動が終わってしまいました。

 騎士団の皆様のお心遣いは嬉しく思うのですが、本来この待遇をお受けになる権利を持つC.C.様に代わっての上げ膳据え膳は非常に心苦しく、普段以上に疲労を感じました。

 上に立つ人間には、やはりなれそうにありませんね、私は。




 はんぎゃく日記9ページ目

 むぅ、怪我をしたと咲世子に告げた途端、「少しでもご静養を!」とゼロの仕事を取られてしまった。
私は不死身だから平気だ、とはまだ咲世子にも流石に言えず、はっきり言って暇。

 いつもなら全然構わないんだが、ルルーシュと触れ合わなくなって久しいこの状況では、ゼロとして身体を動かすくらいしか火照りの発散方法がないので困る。
だからと言って、ヘタレたルルーシュを襲うのは興が乗らないし、自分で慰めるのも何か癪だ。

 ………と言うか、疼きを持て余している共犯者の私を放っておいて千草と乳繰り合ってるルルーシュに段々腹が立って来たんだが、チーズ君s、私はどうするべきだろう?




 はんぎゃく日記10ページ目

 近く控えた大掛かりな麻薬製造場襲撃作戦の為の準備で、騎士団の活動も小康状態です。
そうでなくとも、「もう完治した!ゼロとして動いてでもいないとやってられん!」と大変熱心に仰られるC.C.様のお陰で、私の方は学園での影武者生活に従事するくらいしか、今はやる事がありません。

 その学園生活も、ミレイ様発案の猫祭りの準備で持ちきりですし、特に懸念する様な出来事もなく。
いま目の前には猫のこすぷれをなさった生徒会のメンバーの皆様がいらっしゃいます。
皆様とてもお似合いで、シャーリーさん、ニーナさんはもちろんの事、ミレイ様などはかなり際どいご格好。

 ルルーシュ様がこの場に居られれば、さぞお喜びになった事でしょう。
私も影武者として、ルルーシュ様が取るだろう行動を…、はい?なんでしょうか、シャーリーさん?
え?「会長に近付いて何する気ですか?」ですか?
いえ、ルルーシュ様のお心を汲むべく、ミレイ様にこの場で出来得る限りでのアプローチを―――え?「ダメェーーーッ!」とは、何故でしょうか?
………あぁ!大丈夫です、シャーリーさん。ミレイ様の初モノはあくまでルルーシュ様のもの。そのような影武者の分を超えた不敬な行いは致しません。
それにいくら私でも学園の、しかもこんな衆人環視のな、え?「違います!」?はぁ、ではどの様な?


 と、そうシャーリーさんに訊こうとしたところで今度はスーさn―――枢木スザクさんに、話し掛けられてしまいました。
C.C.様のお話を聞く限りでは、ルルーシュ様にとって親友であり、仇敵であり、恋敵の彼。
現状どう対応すべきかは保留との事ですが、私見を述べさせて頂くなら、ルルーシュ様に対するスザクさんの態度には男友達としての範疇を超えた怪しいものを感じずにはいられません。
ルルーシュ様にそちらの気があるのなら、私も逆に対処し易いのでしょうが、生憎ルルーシュ様はその対極にいらっしゃるお方。正しく異性にしか興味をお持ちではありませんし。

 ですので、お二方の友情に皹を入れない様にあしらうのは中々に骨の折れるものがありま―――あぁ、スザクさんと対している内にカレンさんも生徒会室に…。
えーと、スザクさん、離して頂けないでしょうか?
私としましては、ゼロの時と違い、何故かルルーシュ様を毛嫌いしているカレンさんの好感を少しでも稼いでおきたいのですが…。駄目ですか、そうですか。

 どうしましょう?こんな時いつも気を利かせて中に入ってきてくれるリヴァルさんも、ミレイ様に夢中のようですし、もういっその事隙をつき手刀でも叩きこ―――いけません、いけません。今の私はルルーシュ様、ルルーシュ様。

 …あの、シャーリーさんも「スザク君、GJ!」などと親指を立てているのならフォローをお願い出来ませんでしょうか?




 はんぎゃく日記11ページ目

 また死んだ。
いや、これはルルーシュに殺されたようなものだ。

 咲世子、先だって念の為にと書いておくが、ゼロの仮面の側部に目立たぬ様に設置されたスイッチは絶対に押すな。
これは、押せと言うフリじゃない。絶対の絶対に押してはダメだ。

 知っての通りゼロの仮面は多機能だ。お前も重宝している事と思う。
私も常々便利だと思っていて、今日もアジトのゼロの私室で色々と機能を確認していた。
そんな時、発見した側部のスイッチ。なんだ?とマニュアルと照らし合わせてみれば、『未完成。絶対に押すな!』の注意書きだ。
当然私は押した。

 そうしたら何が起こったと思う?
こともあろうにルルーシュのバカ、仮面にフロート機能―――わかりやすく言えば飛翔機能だ―――をつけてやがったのさ。
いつぞやに目を輝かせて話してはいたが、まさか本当につけるとは。

 運悪く仮面を被っていた私はそのまま浮き上がり、空中で首吊り状態。
不幸中の幸いか、室内だった為に天井で止まってくれはしたが、いつ団員が訪ねてくるかわからぬ状況では仮面を脱ぎ捨てる訳にもいかない。

 もがき苦しみながらもそのまま操作を試みたが、未完成な為に操作どころか停止スイッチすらなく、私は天井で仮面に吊るされたまま息をひきとる事となり、次に気付いた時にはエナジー切れした仮面を着けたまま、私室の床に倒れ伏していた。
心底に安堵したよ。蘇生しても首吊り状態のままだったらと思うと、未だ震えが走る。
まぁ、元々あんな小さな仮面に搭載できる動力源では飛翔時間もたかが知れていたのだろうが…。

 とにかく、だ。
私だったから良いが、あれが咲世子だったなら、我々は貴重な戦力を永久に失っていたに違いない。
押すなと言われれば押さずにはいられない心理を突いた、実に狡猾なルルーシュの罠だった。
後でゼロのデスクを漁ってみれば、『ゼロ仮面可翔式についての記載洩れ』なんて紙切れが出てくる始末。

 永くを生きてきたが、こんなアホな死に方をしたのは初めてだ。
マリアンヌ達と通信してないで本当に良かった。

 ルルーシュめ、私にこうも屈辱を与えてくれるとは、どうしてくれよう?
ここまでくるともう、流石は我が魔王と褒めてやっても良い気がしてきたぞ。




 はんぎゃく日記12ページ目

 まずは、C.C.様に大事なかった様で何よりでございました。

 ですが、ふろーと機能、ですか?
生身の人間が空を飛ぶなど、俄には信じられない話ではありますが、完成をみればこの上ない力となってくれそうな装置ではありますね。
まさかルルーシュ様のご見識がそちらの方面にまで伸びているとは、幾度目にかなるもわかりませんが頭の下がる思いです。

 事実、作戦中に仮面の機能が役にたった事も、一度や二度ではありませんし。
ただ一つ、眼の部分が開閉する機能についてだけは、何の為にあるのか疑問があったのですが、飛ぶ事を可能とする装置まで搭載しているのですから、あれにもやはり何かしらの用途があるのでしょう。


 さて、それでは此方からの報告ですが、ゼロをC.C.様に任せきりですので、前回同様に学園での生活の事を。

 今日、ルルーシュ様として生徒会の買い出しで租界に赴いた時、偶然カレンさんとお逢いしました。
見れば、名誉ブリタニア人の青年を、ブリタニア人数人で囲み暴行を加えている現場に駆けつけようとしていましたので、お止めしたところ、「見過ごせっていうの!?」と、それは凄い剣幕で返されてしまいまして。

 そうこうしている間に、暴行を加えていたブリタニア人がこちらに絡んで来てしまいましたので、カレンさんの実力は知れど万が一もあると考え、やむ無く彼らを排除致しました。

 その後、少し近くのベンチでお話したのですが、うっかりイレブンではなく日本人と呼称するなどミスをしてしまった割には、「ただの女誑しだと思ってたけどやる時はやるじゃない。少しは骨のある男みたいね」とそれなりの好感触も得られ、中々に有意義な時間を過ごせたと思います。
ルルーシュ様が、カレンさんにゼロの正体を明かすにしろ、明かさぬにしろ、良き関係を築くに越したことはなく、僅かでもそのお手伝いが出来たかと。

 そもそも、カレンさんがあそこまで学園でルルーシュ様を忌避していた理由が私には未だわからないままなのですが、いったいルルーシュ様はカレンさんに何を為されたのでしょう?



 ※追記

 排除したと書いたブリタニア人達ですが、暴行を加えられていた名誉ブリタニア人の方に後日見当違いな報復をされては困りますので、カレンさんと別れた後、もう一押ししておきました。
恐らく、二ヶ月程は病院のベッドの上かと…。




 はんぎゃく日記13ページ目

 この頃は近くに迫った作戦の準備調整の為にアジトの方でデスクワークをしているのだが、その中で空いた時間に何人かが個人的に相談に乗って欲しいとゼロの私室のドアをノックしてくる。
前回より信頼を得ている証とも言えるが、その内容がどれもこれも下らないものばかりで、私も段々と辟易してきた。

 その相談内容を挙げるなら、例えば玉城。

Q.ギブスが取れず、体が洗えない。どうすれば良い?
A.臭いから近づくな。

 例えば南。

Q.最近、自分の性癖に自信が持てないんですが?
A.キモいから近づくな。

 例えば井上。

Q.ねぇゼロ、私たち随分ご無沙汰じゃない?
A.焦らせば焦らす程、後の盛り上がりが期待できる。わかるな?

 例えば杉山。

Q.同僚のI上さんとつき合いたいんですが、思わしくありません。どうすれば良いでしょう?
A.男を磨け。特にピザ作りの上手い男に堕ちない女はいない。


 ふむ、ざっと列挙するだけでも堪らなく馬鹿馬鹿しい。大丈夫なのかこの組織?
ほら、そう思ってる間にもまた誰かがノックしている。次は扇か?吉田か?
はぁ、今度は誰が、どんな相談で、私のやる気を削いでくれるのか………。




 うんざりしながらも、入れ、と告げれば、ドアの向こうから姿を見せたのは意外にもカレンだった。
そして「皆がゼロに話を聞いて貰っているって聞いたんで…」と前置きして始めたのは、相談と言うよりも愚痴に近いもの。
あぁ、意外でも無かったか。この時期のカレンが溜め込んでいる事など、母親の事しか有り得ない。

 ハーフである自身のシュタットフェルトでの立ち位置。
イレブンである実母は、使用人としてカレンやカレンの義母に蔑まれながらも、昔の男に縋るしか脳がない。
そんな母親なら要らないのに、何故か情を捨てきれない自分が嫌で。

 話す内、顔を顰めながらに熱を帯びるカレン。
知っているさ、前回のお前はそんな自分を酷く悔いていたものな。

 けれど、そんな事情を、未来を、カレンの母の本当の心の裡を知るからと言って、私に何が出来るだろう。
お前の母親はリフレインを常用している、と今告げてたところで其処に救いなどない。

 ルルーシュはカレンの母親も救いたがってはいたが、如何に早く手を打っても、いつからかも判らぬ麻薬の常用を続けているカレンの母親をどうにかできたとは思えない。
なら、カレンとその母のわかりきった結末を前に、ゼロであり、ルルーシュの魔女である私は、なんと応えるべきなんだろうな?




 ………そうして話を聞き終えれば、礼を述べて退室したカレン。
その晴れやかとは言えぬ背中を見て溜息を一つ。
結局は、大した事もしなかった。

 家族の愛情とはそんなものか?と、何か見落としている母の心情があるかもしれない、とカレンに吹き込んだだけ。
これでは結末は変わらない。変わる筈もない。

 ただ、そう吹き込まれたカレンは後に思うだろう。
あの時ゼロの言葉をもっと良く聞いておくべきだった、と。
そうしていれば母を救えたかもしれない、と。
それによって増す、カレンの中でのゼロの発言の絶対性は如何程か?
少なくとも、小さなものではない。

 要は刷り込みだ。
カレンの中でのゼロへの敬愛をより大きなものとする為の。
今回カレンがゼロであるルルーシュの敵とならない様にする為の。

 その為に、カレンの母の変わらぬ結末―――カレンのブリタニアを憎む新たなる起点を利用する。

 …フフフ、やはり私は魔女のままだったらしいぞ、ルルーシュ。
魔王が死なずに済むように、そんな打算だけで動いた人でなし。


 この事を知れば、今のお前は私をどう思うのかな?




 はんぎゃく日記14ページ目

 準備も終え臨んだ、埠頭の倉庫群にあるリフレイン製造場を狙った今回の作戦。
ゼロの仮面を被る前、「恐らくは大事が起きる。カレンを救けてやってくれ。…頼む」と、どこか哀しげな表情でお告げになったC.C.様のご様子が気掛かりだったのですが、なるほど、この事態を予見しておられたのでしょうか。


 目の前には、カレンさんの搭乗するKMFを破壊せんとするナイトポリス。
これもリフレインの売買を公安が裏で手引きしていた良い証拠です。
倉庫内には、その喰い物にされた日本人のリフレイン中毒者も多く、見れば先日ブリタニア人に絡まれていた青年までも、虚ろな瞳で中空に何か呟いていて。
…腐っていますね。わかっていた事とは言え遣り切れません。

 普段のカレンさんならば、苦もなく撃破できる筈の相手に手こずる理由も、庇う様にKMFの腕に乗せられたリフレイン中毒者の女性故でしょう。
万全を期して、他の団員の方にもKMFに搭乗して待機していて貰うべきでした。


 ―――っと、この窮状ではそんな事を四の五の言ってもいられませんか。
ここでカレンさんを喪うのは、C.C.様の願いに反しますし、延いてはルルーシュ様の損失に繋がる事態。


 なればこそ、ルルーシュ様の御為に篠崎流37代目SP、篠崎咲世子―――もといゼロ!全力で参ります!!




 ………なんて飛び出したものの少し困りました。
ゼロであるこの身を囮としてナイトポリスの標的をカレンさんからこちらに移したまでは良かったのですが、どうにも決め手に欠けるこの状況。

 銃弾も、おっと!…ハーケンも、ハッ!―――搭乗している人の腕の問題か、避けるのも容易く、然したる脅威にはならないのですが、如何せん私もKMFの装甲を破壊するには火力不足は否めません。
このまま長引けば、騒ぎを察した増援の到着で撤退も儘ならなくなりかねませんし、その前にどうにかナイトポリスを破壊するしかないのですが…。

 せめて、KMFがある事から今回は不要と持参しなかった、ロケットランチャーや、手榴弾があれば。
もしくは、KMFの装甲と同等の硬度を持つ武………、ピンときました。
確かこのゼロの仮面は、ルルーシュ様が厳選に厳選を重ねた超硬仕様。少なくともKMFの装甲にも遅れはとらぬ逸品の筈!

 ならば事は迅速に運びましょう。



 一、銃撃の間隙を計り。


 二、隙を見てナイトポリスの懐に潜り込み、真上に跳躍!


 三、そして眼前に来たナイトポリスの頭部への、全身全霊を籠めた頭突きッ!!


 四、着地、………っと、流石にこうも質量差があると衝撃が尋常ではありませんね。フラフラしますし、星が散りました。



 ですが、これでセンサーは破損した筈、と仰ぎ見れば、案の定頭部を陥没させ、視界を失い狼狽えた様子のナイトポリスが一機。
さぁ、カレンさん。後は立ち上がれぬKMFのハーケンでも軽く仕留められます。
サクッとコックピットブロックをヤッちゃって下さい。



 事の後、カレンさんからこちらが申し訳無く思うほどに、感謝されてしまいました。
何でも、作戦時に庇っていた女性はカレンさんのお母様だったらしく、カレンさん自身もお辛いでしょうに何度も何度も頭を下げて。
涙を浮かべ、「貴方の言う事をもっとちゃんと聞いてれば!」ですとか「私の所為で貴方の体に負担がッ…!」などなど延々と―――って、はて?体に負担、ですか?
頭はズキズキしますが、これと言って負担などは………。

 まぁ、ここは無難に「君が無事だったなら、それが何よりだ」と返しておきましょうか………って、あら!変わった!変わりましたよ!そう告げた瞬間にカレンさんの目に溜まった涙の質がッ!

 私でも確信できます!
これは間違いなく恋に落ちた少女の瞳!
やりました、ルルーシュ様!騎士候補カレンさんゲットです!



 ※追記

 なんでも体の負担云々は、全力戦闘をしてかかった負荷を暫くは引き摺る、と言うものだった様です。
初耳です。いつの間にそんな設定が…。

 カレンさんの件で浮かれていましたが、まだまだゼロを演じるにあたり知らぬ事が多いと痛感致しました。反省。




 はんぎゃく日記15ページ目

 咲世子が上手くやってくれた。
騎士団にも欠員は無かった様だし、漸く一山越えたと言うべきだろう。

 ナリタでの作戦までには復活してくれていなければキツいと考えていたルルーシュも、千草との情事を知ったシャーリーに喝入れされて、更正に前向きな意欲を見せている。
そろそろ地方を平定に廻っていたコーネリアも、再びこの地に舞い戻ってくる時期だし、私が今日の日本解放戦線との談合で、ナリタでの協力を取り付ける事さえ成功させれば、私達のゼロ生活も一旦の終演を迎える訳だ。

 しかし、ルルーシュめ。前回シャーリーの父親を殺めたのが相当に堪えていたみたいだな。
シャーリーの警告に応えて、父親がナリタに出向かないとの確たる保証がない以上、逆落としは使えない、か。

 まぁ、それ故の日本解放戦線との協力で、その為の草壁の副官へのギアスなのだろう。
解放戦線の指揮官片瀬さえ首を縦に振れば、片瀬を主君と仰ぐ(どこが奇跡かわからないのが逆に)奇跡の藤堂と四聖剣とも初期からの連携が望める。
うん、イレギュラーさえなければ、この作戦でも行けるだろう。

 それじゃあ片瀬に諾と頷かせる為にも、久し振りに気合いを入れるかな。



 ※追記

 談合後、片瀬の色好い返事を土産にクラブハウスに戻ってみれば、何をトチ狂ったかルルーシュがリフレイン片手に暴れていた。
私達が苦労してる間、散々千草と愉しんでおいて、最後にこれか。

 決めた。
おい、シャーリー、咲世子、まずちょっとこのバカに仕置きしようじゃないか。
ナニを搾り取るのはその後だ!







 色欲のルルーシュ Return08.5『仮面 の 新事実』おわり







 あとがき

 明けましておめでとうございマシタ。どうも、鈴木です。
近い内とか言っておいて一ヶ月経ってましたごめんなさい。お待たせしておきながらこんなのでごめんなさい。もうなんか総じて言ってごめんなさい。

 先に目一杯謝罪した上で更に見苦しく言い訳を重ねますが、やっぱり予測で物事言うもんじゃなかったです。
簡単にいけるだろうと思っていた話が全く進まず、少し間を置こうと思っている内に仕事納めを迎え、その後にはνガンダムが伊達じゃなかったり、リリィの背中にハァハァしたりしてたらいつの間にやら年を越し、まずい書かなきゃ!と思いはするもののFFの魔力からは逃がれられず、それでも、その間に頂いていた続きを希望してくれた方達の書込みを見てビビり、その書込みに後押しして貰ってどうにか書き終える頃には、休みも終りが目前に迫っていましたよ、と。
…もう一度謝っときます。ごめんなさい。

 で、今回に話の方なんですが、タイトルは『仮面 の 真実』から。
本来なら『仮面 の 軌跡』からなんでしょうが、そこは入れ替えさせて頂きました。

 そして、誰も望んでいないだろうにシリアスっぽくしようとしながら挫折。
原因はC.C.がルルーシュ同様にバ化したせいです。バカは一人で充分なのに、流石は共犯者!

 それから、いつも以上に纏まりが悪かったり、敬語の用い方だったり、咲世子さんの各々への敬称が違ってそうだったり、その他諸々、随分と不安がありますんで、気になった点はご指摘下されば嬉しく思います。

 さて次回からは、今回穴埋めに終始した所為で入れられなかった一号二号ネタとか、折角だしR2キャラとか、少しずつ出して行こうと思います。
あ、後、お訊きしますが、SE6のあの話は幼少ルル神楽フラグで問題ないですよね?

 と、毎度の事ながら長々書きましたが最後に、いつもいつも感想を下さる皆様、本当にありがとうございます。
特に今回みたいな書けない時には、とても助けられました。
今年も話を続けていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 次回は、今回ほど遅れないぞ!と自身に言い聞かせつつ、ではまた。









[4438] 色欲のルルーシュ Return09『モニカ 来る』
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:6a07a562
Date: 2009/12/05 21:21

 ※今回の話では、一部ヒロインと言うかC.C.の扱いが、あまりにアレな部分が含まれます。
C.C.ファンの方は特に気分を害される恐れがありますので、僅かでも該当すると思われた方はスルーして頂くのが賢明です。
それでも構わないと言う方は、どうぞこのまま読み進めてやって下さい。








 近頃、騎士団内に日本人以外の団員の姿が見える様になってきている。
ゼロは言った。「ブリタニアの打倒と言う確たる意志。それさえあるのなら我々は仲間だ」と。
暗に人種は無関係だと告げるその発言に、団内から異論が挙がるのは当然の事。

 それでも、結局そんな声はすぐ消沈した。
幹部と目される様になった扇さん達が、「人種は問わない」と言うゼロの判断に沈黙を守っていたのも大きいだろう。
けど、何よりゼロの決断は騎士団の絶対だ。
ゼロが必要だと判断しての采配なら従う。
そうやってここまで勝ってきたし、これからも勝っていく。
だから、最後には皆その決定に頷かざるを得ない。
僅かな不満は残ろうとも。

 その事に関して私はと言えば、扇さん達と同じく、特にどうする事もなく傍観していた。
私はハーフだ。
認めたくはないけれど、紛れもない事実として私の体には半分ブリタニアの血が流れている。
もちろん、心はどこまでも日本人のつもりでいるから、日本の解放は日本人の手でと言う気持ちはわからなくもない。

 でも、自分を偽り通う学園の生徒会で、ブリタニアと言う人種全てが憎悪の対象にはならないと言う事も実感として知っていたから、人種を問わないと言うゼロの考えは素

直に受け入れられた。
受け入れられる程にゼロと言うリーダーを信頼していた。

 そんな自分を省みて笑う。
今は誰よりもゼロを信じている私自身が、最初は誰よりも仮面の彼を疑惑の目で見ていたと言うのにね、と。



 初めはシンジュク事変で助けられた。
次はブリタニアに捕まった仲間を救出してくれた。
その後仲間となって彼に手を貸したのは、恩義と「その手腕なら」と言う期待からだったのだと思う。

 そう、ブリタニアと戦えるだけの能力を彼は持っていて、私達にはその能力がどうしても必要だったから。
だから私達は彼と手を結んだのだ。
つまりは、利害が一致したからこその、信頼の薄い協力関係。
仮面で正体を隠した人物に、信用をおくつもりなどない。
彼に従うのは、あくまでも日本解放と言う目的の為だ。
そう思っていた。

 けれど、いつからだろう。
『ゼロ』と言う象徴でしかなかった人物が垣間見せる、思い遣りや人間味に惹かれていた。
彼が見せてくれる未来への可能性に、それを実現できるだろう力に魅せられていた。

 彼に救われる度に。
彼に導かれる度に。
私の中の想いがどんどん形を変えていく。
仮面に対する疑念は敬愛に。
仮面に従う思惑は忠誠に。
信頼なんか出来る筈がないと思っていた人からの信頼を、逆に何よりも欲っする様になっていた。

 レジスタンスだった頃からの皆もそう。
仲間内でゼロを疑う人はもう居ない。

 だって彼は私達に示してくれた。
信頼に値する行動で、仮面の正体を気にする事の無意味さを。
今は誰もが思っている。
『ゼロになら着いて行ける』ではなく、『ゼロだから着いて行こう』と。


 あぁ、私達は、―――私は、もう彼がいなければダメなのかも知れない。



 そう考える様になって暫くしたある日。
現在も拡大を続ける騎士団の中枢となってゼロを支えるメンバー。
旧扇グループ全員がゼロの部屋に呼び出された。

 促され着席した私達にゼロがした事は謝罪。
「人種を問わず入団を認めた事に対して、君達に意見を聞かずの独断を先に謝っておく」と頭を下げた。
慌てたのは私達だ。謝罪の必要などない。
ゼロは絶対のリーダーではあっても、傲慢な独裁者ではない事を、メンバー皆がわかっている。
人種なんかに拘っても、結果が出せなければ意味はないと、そんなゼロの考えを皆が汲み取っていた。
それが正しいと思えたから私達は異を唱えなかった。

 扇さんが皆の総意としてそう告げると、ゼロは少し笑った。
「随分と信用されているな」と可笑しそうに。
そうして、「その信頼への礼として少しだけ明かそう」と、ゼロが語り始めた話に、私達は耳を傾けたのだ。

 彼が順序立てて話してくれたのは、一つの道筋。
騎士団の当面の目標は、この日本の地を取り戻し新たな国家を設立する事。

 けど、それだけでは終わらない。いや、終われない。
ブリタニアが健在で、日本の地にブリタニアの欲するサクラダイトがある限り、一度ブリタニアから日本を解放したところで、その脅威に晒され続ける事になる。
そうならない為には、現体制のブリタニアの打倒は必要不可欠だ。
その為の力を、ゼロはこの地で興した新国家の外交を用い、反ブリタニアの国々と結びつく事で生まれる巨大な国家連合に求めようとしていると言うのだ。

 「だからこそ、それを成す為に結成した黒の騎士団には、人種に拘ってばかりいられては困る」と、そう締め括ったゼロに、言葉がない。
彼は誰よりも本気で、大真面目に、ブリタニアの打倒に向けた未来を見据えている。
日本解放だけを願ってがむしゃらに戦う事だけを考えていた私達とは違い、その後の情勢すらも既に視野に入れて、それを実現しようと動いている。
それがどれだけ達成困難な事と理解していたとしても、やり遂げるだろう、ゼロならば。

 ただ、凄いと思った。
この人と戦える事を幸福に思った。

 だから、「故に、日本解放は私にとって目的ではなく手段に過ぎない。それでも君たちは…」なんて言葉の続きは言わせない。
それでも貴方に着いて行くと、皆で返答した。

 でも、「君たちの信頼に感謝と、それでもこの仮面を外せぬ私の不義に謝罪を」と続けたゼロの次の言葉には、流石に驚いた。
あっさりと、「かく言う私も日本人ではない」なんて。
ゼロが日本人ではないからって今さら決意を翻そうとは思わないけど、作る和食は美味いし、忍術使うしで、完璧に日本人だと思っていたから…。
井上さんだけは、うんうんと頷きながら、「アノ大きさは、日本人じゃないわよねぇ」とか言って驚かなかったけど、それが逆に不思議なくらい。
大体、大きさって何の?

 けれど、これでゼロが仮面を被る理由を全てじゃないにしても知れた。
それが、ゼロからこちらへ預けてくれた小さくはない信頼の証に思えて嬉しくなる。
やっぱり何も変わらない。
彼が日本人ではないとしても、私は彼に着いて行く。




 その決意を胸に、私は今ここにいる。
ナリタ連山。日本解放戦線を討ちに現れるだろうコーネリア軍との決戦の地。

 メシアですら奇跡を起こさねば認められなかった。
これから成す事の為には、私達にも奇跡が必要だとゼロは言う。
民衆の支持を集める為にも力を示す。
圧倒的な戦力差を跳ね除け、コーネリア軍を退ける奇跡を起こせば、きっと誰もが認めるだろう。

 その為の力は、もう私の手の内にある。
紅蓮弐式。多数の無頼と共にキョウトより送られてきた、初の完全日本製のKMF。
ゼロがその鍵を与えてくれた日の事を、私は決して忘れない。

 紅蓮には貴方こそがと言った私に、自分は指揮官で、君がエースパイロットだと答えたゼロ。
その後ぶっきらぼうに、「KMFの操縦は得意ではなくてな。私では紅蓮を扱いきれない」なんて言っていて。
彼に不得手があるのは意外だったけれど、そこをサポートできる力が私にあると認めてくれた事が喜びだった。
「君には戦う理由がある」と、力をくれたゼロに応えてみせると誓った。

 私の戦う理由を肯定してくれたゼロに訊ねてみた事がある。
貴方は何の為に戦うのですか?と。
返って来たのは「大切な人達と穏やかに暮らせる優しい世界が欲しいから」なんて言葉。
「いつか、君が厭うている血の半分も受け入れられる様な世界を、私は創りたいと思う」と言って差し出された手を、私は握り締めた。
その時ゼロが微笑んでいると何故かわかって、いつか私にその仮面の内側を教えてと、意識せずに願っていた。


 紅蓮のコクピットに、『総員、配置に着け!』とゼロの指示が響く。
遂にブリタニア軍がナリタ連山の包囲を終えたらしい。
間違いなく今までで最大の戦闘が始まろうとしているのだ。
覚悟と共に操縦桿を握る。

 ゼロに出逢ってから心の裡に産まれた灼熱が叫ぶ。
ゼロを守れ!と。

 そうだ。全ての敵から彼を守る。
彼を害そうとするものは全部全部斬り裂いてやる。

 その在り方は剣だろうか?
ゼロを守る、ゼロの剣。

 うん。それが良い。
そうで在りたい。
彼の剣になれたなら、彼に振るわれたなら、何者にも臆さず突き進める筈だから。


 見ていてね、お母さん。お兄ちゃん。
私、頑張るから。

 見ていろ、燻っていた過去の紅月カレン。
ブリタニアの理不尽に涙するのはもうお仕舞い。

 そして、見るがいいブリタニア。
やっとお前たちと対等に戦える。

 その力をゼロがくれた。
今日この時この場所での戦いが、お前たちに対する本当の反撃の始まりだ!







 色欲のルルーシュ Return09『モニカ 来る』







 傷心回復翌日2ページ目

 C.C.と咲世子に事のあらましを問い質すべく急ぎ戻ったクラブハウスで俺が見たのは、俺の自室に大量のぬいぐるみを運び入れているC.C.だった。
俺がヘコんでいる間は、他の部屋でC.C.曰くの別居をしていたのだが、それも必要なくなったし俺の部屋に戻る準備との事。
もともとからして物に執着を見せない女だし、準備も何もお前の荷物などチーズ君くらいしかないだろうが、と思っていたのだが、そのチーズ君が一、二、三、………十二体

。増殖していないか?

 おい、C.C.。なんだ、これは?はぁ?「クラブハウス最愛のぬいぐるみ達。チーズ・オブ・ラウンズ」だと?
すると、チーズ君共で囲む様にした中心のピザ型クッションは円卓とでも言うつもりか?
なぁ、C.C.。色々とツッコミたいのを後回しにして言わせてもらうが、円卓の騎士とは本来、王を含めた十三人で構成される者達だ。これではチーズ君が一体足りな――

―なんだ、その含み笑いは?

 C.C.が背後に隠すように抱えていたナニカを、俺に見せつけてくる。
それは十三体目のぬいぐるみ。他と違い王冠と外套を纏ったチーズ君で………。
「チーズ・アーサーだ!」とか、誇らしげに胸を張るC.C.を見て思う。
こんなの俺の魔女じゃない。

 どうしてしまったというんだ。確かにお前はやり直す前からも一にピザ、二にピザのピザ女ではあった。
が、それでも肝心なところでは冷徹冷酷、傲岸不遜な俺の頼もしい共犯者だったじゃないか。
それなのに。それなのに!やり直してからのお前ときたら、日に日に頭のネジが弛んでいってるとしか思えないポンコツっぷり!
あの頃のお前は、一体何処へ逝ってしまったんだ!?魔女かむばっく!!

 は?「お前への愛が私を狂わせたのさ」だと!?
そんな愛いるか!
第一、ニヤニヤしながら言われても、説得力がないんだよ!
その愛ゆえの行動の結果が、俺がナナリーに捧げる筈だった貞操の強奪だったり、この無駄に増えたチーズ君だったりなんて冗談じゃない!

 あぁ、俺が引き篭っている間にゼロを引き受けてくれていた事には、感謝しているさ!だが………ん、待てよ。
そもそも、いくらC.C.がピザ命のピザ女とは言え、俺がヘタレていた期間だけで、こんなにもチーズ君を増やせるとは思えない。

 にも拘らず、不可解な増殖を果たしたチーズ君。
先程生徒会室で目にした雑誌のゼロ関連の記事。

 この二つ事柄から導きだされる解は一つだが、…信じられん。いや、信じたくない。
まさか、チーズ君欲しさに騎士団でピザ屋を、なんて………。

 ………C.C.、共犯者たるその身を信じて弁明の機会をやる。
ゼロのピザ屋襲撃と、爆発的に増えたチーズ君の関係性。きっちり説明して貰おうか。

 はっ、「関係などない」?虚偽は許さん。
「う、嘘じゃない!」だと!?そういう事は俺の目を見て言え!
おい、視線を逸らすんじゃない!

 更にしつこく問い詰めれば、狼狽えた様子のC.C.から、「咲世子がチクッた?…いや、それは有り得ん」とか、「それに元はと言えば、あれは扇が…」などと言った呟

きが聞こえてくる。

 …やはりか。
語るに落ちてるぞ、魔女。
チーズ・オブ・ラウンズだのなんだのと、C.C.の珍妙な言に惑わされはしたが、クラブハウスに戻ってきた目的を俺は忘れていない。
C.C.。ピザ屋襲撃の件も含めて、ゼロを演じていた間の事を仔細問い詰めさせて貰うぞ。
拒否?認める訳がないだろう。
いざとなれば、扇達にギアスを使い訊き出す事も出来るんだ。観念しろ。

 そう告げれば、途端に「アレは冤罪だ!」などと喚き始める魔女。
終いには、俺が仮面に搭載したフロートのせいで死んだ。いや、あれはお前に殺されたようなものだ!とか逆ギレしてくる始末。
まだ使うなと注意書きを残して置いたのに、使ったのか、お前は。

 もういい、わかった。少し落ち着け。
冤罪かどうかも、咲世子と併せて話を聞いた上で判断してやる。
だから、逃げるなよ?




 傷心回復翌日3ページ目

 なんと言えば良いのか。
C.C.と咲世子。二人を目の前に正座させて詳しく話を聞いてみれば、出るわ出るわ。

 団員達を統制する為のスパルタ。騎士団運営費を用いてのピザ責め。ピザ屋襲撃。ピザの宅配員を庇って死亡。ナイトポリスのゼロ単体での撃破。
嘘だよな?とか訊き返したが、二人が渋々提出してきた『はんぎゃく日記』なるものが決め手となった。
目を通して見れば、記されているのは二人がゼロとして活動していた時の詳細な全記録。

 ………なんだこのゼロ?
俺と違ってギアスが使えない故だろうが、作戦中、血路を切り拓く為の格闘戦に次ぐ格闘戦。
只でさえピザ関連を初め奇怪な行動が目立つと言うのに、挙げ句「え?どこの武神?」って位にゼロ無双なその内容。

 確かに、日記の内容からは二人の頑張りが伝わってきて、再び感謝の念が沸き上がりはする。
ピザ屋襲撃だって初めから意図しての行動ではないと判明したし、騎士団の前回より強固な結束などのプラス要素も多く見受けられる。

 しかし、俺がゼロに戻った時の事をもう少し考えて欲しかった。
このままでは、これからの作戦中にピンチに陥った瞬間、困った時のゼロ頼み!でブリタニア軍と生身でガチンコ勝負をさせられかねない。
つまり、戦闘能力の皆無な俺はそこで御陀仏になりかねない。

 どうしよう。…と言うか、どうしてくれるんだ、C.C.!咲世子!
何?「自業自得だ」だ?そんな訳あるか!
笑い事じゃない!死活問題なんだぞ!何とかしなくては…!!

 ん?「仕方ない、私が解決案を授けてやろう」だと?
やけに自身ありげだな、C.C.。とりあえず言ってみろ。




 ナリタ作戦準備期間《ゼロスーツ編》1ページ目

 C.C.が提案してきた解決案は、「戦えなくて困ってるんなら、戦える様になれば良いじゃない」という馬鹿げたモノだった。
が、馬鹿げてはいるが、一番シンプルな打開策であるのも、また事実。
スザクや咲世子みたいな超人になれるとは欠片も思わないが、鍛えておくに越したことはないだろう。
前回は自身の知略とギアスだけを頼りに戦っていたが、生身での護身をある程度習得していればよりスムーズに事を運べただろう事態が幾つもあった事だし、これは丁度良い

機会なのかもしれない。

 と言うか、前回も僅かでも鍛える位はしておくべきだったと、今更ながらに思う。
自身の採れる戦術が向上したのなら、それを踏まえた上で戦略に幅を持たせる事も可能なのだから。
ナナリー達と幸せに過ごす理想世界実現の為にも、少しでも有利となる要素を増やす努力は怠るべきではない。
それに、C.C.と咲世子により形作られた、ゼロ=武闘派と言うイメージをこれから無理に軌道修正するくらいなら、既に形成された今のゼロのイメージを逆手に取ること

により、不本意ながらモヤシなイメージを持たれている俺を、ゼロの正体かも知れないと言う疑念から遠ざける事も出来る。

 なぁに、俺の身体能力が芳しくない理由は、必要性を感じずに鍛えなかった故の、持久力や筋力の無さだ。
反射神経は悪くない(と思う)のだから、決して生粋の運動音痴ではない…筈。

 幸い篠崎咲世子と言う俺が師事するに相応しい戦いのエキスパートもいる。
やる気にさえなれば、それなりに戦える様になる事など軽い軽い。
となると、やはり最初は基礎的な筋トレあたりからだろうか。


 ………などと、色々前向きに考えて鍛え始めたは良いのだが、いきなり壁にブチ当たった。


 まず、この咲世子師。俺をどう過大評価してくれているかは知らないが、基本的に「私が出来る事をルルーシュ様に出来ぬ訳がございません」とか無茶な方針を振り翳して

くる。
パンチはこう、キックはこう、と他様々な体捌きを一通り俺に見せた後、「ではルルーシュ様。今の感じでそこの壁を砕いてみて下さい」とか、「まず5m程跳躍してからで

すね…」とか。

 無理だ!と泣き付いても、「出来ぬと思うから出来ないのです。貴方様なら出来ます!」と、根拠のない根性論で押し切られる。
普段おっとりな咲世子からは考えられないスパルタに嫌味を溢しても、「主君を想えばこその厳しさです!」と、逆に叱責を受け。

 自棄になり、いいさ!やってやる!と挑戦した結果、拳は砕けそうになり、体全体が軋みをあげる。
その横ではC.C.が「気だ!ルルーシュ、気を使うんだッ!即ちフォース!ギアスという異能を制したお前ならできる!!」などと好き勝手に叫んでは笑い転げていて。
救いを求めてシャーリーを見ても、「ルル、がんばってるんだね」とか、感動していて気付いてくれない。

 鍛えるって、こんなにも大変な事なのか。そりゃあこんな事してれば咲世子もスザクも強いわけだよなぁ。なんて現実逃避してみても何も始まらず。
このままではナリタを前に死んでしまうと、咲世子に師事を受ける前の自分の考えを酷く後悔した。

 ごめんナナリー、俺はもう駄目かも知れない。
………愛してるよ。




 ナリタ作戦準備期間《ゼロスーツ編》2ページ目

 非常識な教えに死を覚悟しながらも、ナナリーへの想いだけを支えに鍛練を続ける事約一週間。

 何一つ成果を上げない、むしろ日に日に衰弱していく俺に対して、「やはり、筋力トレーニング等で身体の基礎を作る事が先決ですね」と本当に今更な事に気付き、残念そ

うな表情でそう言い渡してくれた咲世子。
無理なものは無理なのだから、残念そうにされる謂れはないとわかってはいるものの、忠実な家臣の期待を裏切ってしまった事には違いなく、少しだけ罪悪感に苛まれる。

 が、それすらオーバーワークによる死の恐怖から解放された安堵感には代えられるものではない。
咲世子も方針を改めてくれた事だし、これで漸く俺が思い描いていたトレーニングに精を出す事が出来るようになる。


 そう思って再び咲世子の指示に従ったと言うのに、やり直してからの世界はどこまでも俺の思惑の斜め上を行ってくれた。


 違う。このトレーニングは何か違う。
「精が出ますね」と、気の毒そうに話しかけてきた千草の苦笑が全てを物語る。
あぁ、確かに精は射精してるな。違う意味でドバドバと…。

 体全部を使った運動なのも認めよう。
スタミナだって向上するだろう。
でも、普通筋トレとは、腕立てとか、腹筋とかだろう?
俺が咲世子に期待したのは、そう言った手段での最も効率の良い方法を教授して貰う事であって、断じてベッドの上で過剰に腰を振る事を強制されたかった訳じゃない。

 俺が想い人を抱く事に魅入られた最大の理由は、単純に気持ちが良、じゃなくて!…そこに恋人達との心の繋がりを感じとれるからとか、癒されるからと言った精神的なも

のが多く含まれるからだ。
お互いがお互いを慈しみながら、求め合う。実に素晴らしい。

 しかし、現状のコレはまるで義務。
最低でも一日に一人3Rを1セットとした四人分。即ち4セット。
あくまでも俺が主に動いて鍛えるトレーニングな為に、騎乗位は禁止。
しかも、回を重ねる毎に、そこに『多対一の集団戦闘を想定した訓練』とか、筋力トレーニングと言う大義名分を忘れた4P、5Pが追加され始めた。

 どんな苦行か。
そも、こんなので本当に強くなれるのか?
「愉しみながらのトレーニング、何が不満なんだ?」とか訊いてくるC.C.には、何もかもだ!と声を大にして言ってやりたいし、シャーリーの「腰使いは逞しくなってき

てるよ」と言う言葉も、なんら慰めにはならない。
俺もノリノリだった癖にとブーイングする外野は、もうこの際全て無視するべきだ。

 大体、いくら全身運動とは言え、こんなの腰まわりが強化されるだけじゃないか。
端から咲世子達に頼ったのが間違いだった。

 こうなれば俺自身で何か別の方法を―――む、なんだC.C.?お前の胸を揉め?
あー、頼まれたからには揉むが、これが一体なんだと?
は?「これで、握力も鍛えられている」だと?

 …。

 ……。

 ………ぬぅ、意外に侮れんな、このトレーニング。
もう少し続けてみるか。




 ナリタ作戦準備期間《ゼロスーツ編》3ページ目

 俺が、度を超えた性交=理に叶った鍛練だと騙されてやれたのは、駅弁で腕力UP説までだった。
いくら父親からの遺伝により絶倫とは言え精力的に限界に来ていたのもあるし、この鍛練で力が身に付くのならブリタニア皇帝が最強の筈と思い至った事も大きい。

 よって、微々たるスタミナの向上のみを成果に、トレーニングは打ち切りとした。
まぁ、他にも腰のキレが良くなったりはしたが、重労働だった割には報われない結果だと言えるだろう。

 わかっていた事ではあるが、肉体的な頑強さを手に入れるのに、短期間でお手軽にと言うのはやはり甘い考えだった。
筋力トレーニングは地道に続けるにしても、それでは俺が戦える様になるまでどれ程の月日を要するのか知れないし、下手をすれば、肉体的に完成する頃には反逆が終わって

いると言うのも充分に考えられるだろう。

 それでは意味がない。
が、だからと言って俺に諦める気はない。
そもそもここで簡単に諦める様なら、初めから世界一の大国相手の反逆など企ててない。
ゼロとして戦うのに、自身の肉体的ポテンシャルで足りないとならば、不足分を他で補填してやれば良いだけの事。

 そう発想を切り替えた後より着手したのが、ゼロスーツの改造企画書作成だ。
仮面だけに機能を持たせるのではなく、マントやブーツにも色々とギミックを仕込んで、ゼロの衣装がそのまま一種の強化服としても機能する様に完成させてやれば良い。


 となれば、防弾防刃は当然として………おいC.C.、じゃれつくな。俺は今忙しい。
は?「私も交ぜろ」?ふざけるな。
お前の意見を聞いていたら、とんでもなく夢見がちなモノになってしまう。

 「私だってたまに袖を通すものなんだから、権利はあるだろう」だと?
………そう言われれば無下にもできんが。
よし、取り敢えず交ざって良いから、なんか案をだしてみろ。

俺の意見から先に述べさせて貰えば、飛行能力は必須だ。
何せ、世間では『魔王ゼロ』らしいからな。飛ぶくらいは必要だろう。

 そんなに嫌な顔をするな、C.C.。
お前が身を以て示してくれたから、仮面にだけフロートを着けても首吊りになるだけと解ったんだ。
次はブーツにもフロートを搭載して、空中での姿勢制御を万全にするとも。

 「なら、いっそエナジーウィングとかどうだ?」って?馬鹿を言うな。
いや、確かにゼロにアレが着いてたらカッコ良いが、可能とは思えん。
やるだけやってみるが、一先ずは飛べるだけで我慢しろ。

 次に攻撃手段なんだが、手袋にスタンガンとかどうだ?
飛び道具ではないが、不意を打つ点での優位性は中々だろう。「MVS」?………常に帯剣もどうかと思うが、考えておこうか。

 次、防御手段。「ブレイズルミナス」か。
言うとは思ったが、どうだろうな。
実装出来れば心強くあるが、って、これではまるでランスロットだな、おい。

 「あとはゲフィオンディスターバーだな」って、それこそどうしろと言うんだ?

 …む、それは。

 ……しかしだな。

 ………その手があった、のか?


こうして、途中からシャーリーと咲世子までも加えて、会議は深夜遅くまで続いた。




 ナリタ作戦準備期間《ゼロスーツ編》4ページ目

 会議に会議を重ねた俺達の新ゼロスーツ製作案は、ギアスで支配下へと置いた技術者達の不眠の頑張りもあり、驚異的なスピードで現実の物として形を成した。

 本来、ロイドやラクシャータと言った一流処がこれより未来に完成させる物品とは言え、やり直した俺にとっては既知の物。
技術開発は畑違いだとしても、前回に記憶した知識と、多くの技術者の助けがあれば、それらを小型化するのは思うより容易だったと言える。
とは言え、可不可を問わずに盛り込まれた夢見がちな装備まで、一応の実装にまで漕ぎ着けられたのは、嬉しい誤算だろう。

 フフフ、外見的には今までと変わらない様に見えるこのゼロスーツ。
しかして、その実態は人間サイズのKMFと言っても過言ではないポテンシャルを持った強化服へと仕上がった。


 一つに防御力。

 スーツとマント自体が優れた防弾防刃防火を誇り、それでも防げぬ攻撃に襲われた場合も、普段マントで隠されている肩部に仕込んだ装置により、瞬間的なブレイズルミナ

ス展開での防御が可能。
絶対守護領域の搭載こそドルイドシステムの小型化と、操作する為のタッチパネルをどう持ち歩くかが解決できずに躓き諦めたが、それでも充分以上の防御手段を得るに至っ

た。

 一つに攻撃力。

 MVSと言う切れ味抜群な剣と、左手袋に仕込まれた高出力のスタンガン。
そして右手袋に仕込まれた小型ゲフィオンディスターバー。
これらの装備により人間を感電死させたり、KMFを行動不能に陥らせた後、斬り裂いたり出来る凶悪なものとなった。

 と、こう書けば敵無しなように思えるが、小型化した事によるゲフィオンディスターバーの出力不足もあり、敵KMFのユグドラシルドライブ設置位置に超至近から使用し

なければならないと言う欠点もある。
それに、それで行動不能と出来るのは極短時間な為、有用性は微妙だ。
あって何かの役に立てば儲けもの程度に認識している。

 ちなみに、いつでも冷凍ピザを温められるという理由で、C.C.が熱望した輻射波動は廃案となった。
腕が弾け飛んでは溜まらない。

 一つに機動力。

仮面だけでなくブーツにも搭載したフロートにより安定した飛翔能力を得るだけでなく、マントに折り畳まれる形で実装された小型エナジーウィングの展開で、緊急時は超高

速での機動が可能。
ビジュアル的にも俺の好むところだし、満足している。
小型エナジーウィングなんて半ば冗談だった筈なんだが、やってみるものだ。

 飛ぶだけ飛んでも着地はどうする?と言う問題も、靴底に大量の衝撃吸収剤を注入する事で解決。
ある程度の高所からでも、負担なく着地できるだろう。


 ざっと挙げるだけで、これだ。
なんと言うポテンシャル。
なんと言う高スペック!
エネルギーの関係もあり、現状どの機能も使えて一回~三回。
フロートも飛べるのは三分(エナジーウィングなら一分)だけと言う制限はあるが、強力な装備である事に変わりはない。

 更に、ここで培った技術をジェレミアに流用する事で、戦いが激しさを増す終盤、オレンジ・アルビオン、はたまたジェレミア聖天柑橘式と言う、ナイト・オブ・ゼロすら

超える最強の騎士の誕生も期待できると言う寸法だ。

 ふっ、幼少期にスザクと見た戦隊物や変身ヒーロー物を思い出す。
年甲斐もなく心が踊るぞ、これは!

 さぁ、C.C.。残すは実用試験だけだ。
生まれ変わったゼロスーツの力を俺に見せてくれ!

 何?「なぜ私がテストしなきゃいけないんだ?」だと?
そりゃあ、お前なら何か不慮の事故があっても大丈、じゃなくて!お前を信頼しているからだ!

 ほら、ブツブツ言ってないで始めよう!
最初はフロートからだなッ!!


 おぉ、問題なく飛べているな。
フロートはOK、と。
あんなにはしゃいで飛び回って、C.C.もなんだかんだと楽しんでいるじゃないか。
よし、次はエナジーウィングだ。
C.C.、翼を展開してみろ!

 順調順調と頷きながら指示を出す。
しかし、指示した通り翼が展開された瞬間、俺の近くを飛び回っていたC.C.が掻き消えた。



 ………?



 疑問符を浮かべ、首を傾げる事数十秒。
この不可解な事態への答は、はるか空の上から降ってきた。


 くえすちょん。エナジーウィングを使用したらどうなりましたか?

 あんさー。ボロクズの様になりながら天空で絶命し、たった今地面に激突と言う形で帰還を果たした共犯者。


 なるほど。
エナジーウィングの余りの速度に制御を失い上空へ加速。KMFと違い、剥き出しの身体にそのまま襲い掛かる諸々の圧殺力に耐えきれず絶命。その後エネルギーが切れて落

下、と言う訳か。
C.C.、すまない。初めからこうなると気付いて然るべきだったかも知れん。

 こうなると、エナジーウィングの生身での使用は無理か。残念だが取り外そう。
やはり製作可能なのと、実用可能なのは違うと言う事だろうか。

 これは他の機能もわからなくなってきたな。
早くC.C.に蘇生して貰い、色々と試さねば!




 ナリタ作戦準備期間《ゼロスーツ編》5ページ目

 臍を曲げたC.C.をどうにか説き伏せ、実用試験を重ねた結果、ゲフィオンディスターバーも使用困難と判明した。

 使った瞬間に、敵KMFだけでなく、こちらのゼロスーツの機能もほぼ停止してしまうのは盲点だったと言わざるを得ない。
ゲフィオンディスターバー搭載の手袋を使用中は、他の機能が使えない。つまりは、仮面のファクトスフィアやフロートとの併用が不可能と言う事。
そうなると、KMFへの懐に潜り込んでの使用が絶対条件の小型ゲフィオンディスターバーは、それこそ咲世子くらいしか使い熟す事が出来そうにない。

 MVSにしてもそうだ。
熱に浮かされる様にして勢いで作ったは良いが、落ち着いて考えてみれば如何に切れ味が鋭かろうと、剣術のけの字も知らない素人が携えて意味のある武器か疑問に思える。
普通に銃器使用した方が強そうだ。
今目の前で飛び回りながら、余す事なくゼロスーツの機能を引き出している咲世子が実に羨ましい。


 ………結局、開発した新ゼロスーツは、俺にとっては小型フロートシステムの完成と、防御力の突出と言う恩恵を齎すに留まってしまった。

 いや、それでも素晴らしい成果ではあるんだが、俺がゼロとして戦闘出来る様にと着手した筈の計画にも関わらず、結果的に咲世子が更なるパワーアップを果たす事態とな

ったのが何故か釈然としない。
くそ、俺が真のゼロなのに………、と恨みがましく思っても、ゼロスーツを扱いきれない自身の不徳だ。納得するしかないだろう。

 最終的には、若干の火力不足すらエナジーウィングを撤去した空白部位を利用し、棍棒型手榴弾をマント内に多量に(重量的に俺やC.C.ではキツい程)ぶら下げる事で解

消した、強襲殲滅型ゼロ咲世子の誕生を区切りとして、今計画は幕を閉じる事になった。






 ナリタ作戦準備期間《黒の騎士団etc編》1ページ目


 長々と新ゼロスーツ開発の経緯とその顛末について書いてしまったが、もちろんそんな事だけに全てを傾注していた訳ではない。
我が日常は、学生としての生活と、反逆者としての活動により編まれるもの。
ゼロとしても復帰を果たし、近く迫ったナリタへと向けて全力で取り組んでいる。
引き籠りから脱して初めて黒の騎士団に顔を出す時などは、隔たった団員達との関係を憂慮してもいたのだが、中々どうしてC.C.達は上手くやってくれていたらしい。

 予想以上の慕われぶりで、逆に些か戸惑ってしまった程だ。
C.C.達の前でそう溢した時は、「もう少し私達を信用しろ」と拗ねられてしまったが、『はんぎゃく日記』なんてものを読まされれば不安にならない方がどうかしている



 しかし、前回ならば此方の指示に渋々と言った感じでしか従わなかった玉城ですらが、快く動いてくれているのだ。
不安はすぐに杞憂と知れた。
現時点で玉城はすでにゼロを親友呼ばわりで。
あの玉城がそうなのだから、他のメンバーは言うまでもないだろう。
一方ならぬ信頼が寄せられている事は、容易に窺えた。
それに、皆友好的ではあっても馴れ合っては来ず、そこに一律の統制を感じられるのも好ましい。

 正直、ゼロとして活動するのに理想的とも言える環境だ。
好感度次第でこうも変わるのかと、現況と照らし合わせた前回を僅か悔やむ。
飴と鞭なんて言ってはいたが、餌付けと制裁だけでこうも見事に上下関係を構築するとは…。
C.C.と咲世子。近頃アホらしい面ばかり見せられていたが、やはり優秀なことは間違いないらしい。

 そんな風に二人の株も再び上がってきていたものだから、当然、カレンの忠誠値が最大まで高まっていると判明した時は、よくぞここまで!と、手放し褒め讃えた。

 今もこうしてゼロとしてアジトに姿を見せてみれば、すかさずカレンがお茶を出して来る。
仮面で飲めないの知っているのに遠回しな嫌がらせだろうか?とも最初は思ったが、そこにあるのは純粋な好意だ。
礼を言えば、瞳に喜色を浮かべた彼女に犬耳と尻尾が見える。

 むぅ、可愛いじゃないか、カレン。
久しく向けられていなかったこの愚直なまでの忠誠心。
こうも早く拝める事になろうとはな。

 前回はゼロの正体が俺とバレてしまった瞬間から即座にツンデレモードに移行したカレン。
後々、そのあまりに短かった忠犬期の終わりをCの世界で残念に思ったのを憶えているだけに、感慨も一入だ。
しかもツンデレ時はビンタされたりとかのツン分が強すぎて、あまりデレ分の思い出がない。
悪逆皇帝として、本気で命狙われたりしたし時は、彼女に『可憐』なんて名付けた親の考えを疑ったりもした。
が、この忠犬ぶりをみるに名付け親は正しく慧眼の持ち主だったのだろう。

 何度でも言うが、可愛い。実に可愛い。
お手。とか言いたいし、させたい。
首輪とかプレゼントして飼いたい。
対カレンの重要イベント。紅蓮のキー譲渡までは我慢しようと思っていたが、もうアタックしてしまおうか?

 いや、けれど今回カレンの好意がここまでなのは、C.C.、咲世子の働きであって俺は何もしていないのが些か引っ掛かる。
でも、まぁ、それも時期の早い遅いはあれ、前回純度100%に俺だったゼロでもカレンは忠犬化したのだし結果は同じか?

 ならば、いつ手を出そうとm―――いやいや、しかし彼女の母親があんな風になってしまったばかりでもあるし、それはあまりに無節操過ぎる気もする。
俺がヘタれずに計画通りに事を進めていれば、ギアスでリフレインを断たせた後に療養先を見つけてやれるなりなんなり出来た筈で、そうすれば、少なくとも服役なんて事態

は回避できた。
その事に関しての負い目もあるし、ここはもう暫く時期を置いてからにするべきか…。

 ………うん、そうだな。そうしよう。
よくよく考えれば、今ゼロのままカレンの純潔を奪って、いざゼロの正体が俺とバレた時に「騙された!」なんて泣かれるのは辛い。
態度は多少軟化してきているとは言え、やはりここは学園での俺に対する好感度ももう少し上げてから、ドラマティックに正体を明かしてからと言うのがベストだろう。

 となると、時期は神根島の前辺り。
認めたくはないが、もし今回もスザクがユフィの騎士に就任するのなら、それに合わせてとか、か。
親友が憎むべき白兜のパイロット→苦悩する俺→それを知るカレン→そして二人は…。なんて流れはどうだ?

 悪くない、と言うか非常に良い!………が、それまで長いな。長過ぎる。
カレンからのこの慕われっぷりを前に、そこまで俺が我慢できるだろうか?

 やはり今の時点で味見くらいしても罸は―――って、井上?
あ、あぁ、すまない。考え事をしていた。
何?「もう限界なの…」って何の事だ?
おい、何処へ引っ張っていくつもりだ!?私はこれからナリタでの作戦に向けて会議を、ってKMFの格納庫ぉ!?ッ、何故脱ぐ?!
ま、待て!今はマズイ、と言うか此処はマズイッ!!
折角カレンとも良い感じなのに、こんな現場見られたら…!せめて私の部屋に―――って、ほわぁーーーッ!!


 ………C.C.達め、とんでもない爆弾を残していてくれたな。
カレン達に見つからなかったのは救いだが、禁欲から自らを解き放った井上は、雌豹だった。淫獣だった。
問答無用に部下に逆レイプされるとは。
実は、全然理想的な環境じゃなかったじゃないか。




 ナリタ作戦準備期間《黒の騎士団etc編》2ページ目

 井上に襲われてから暫くした夜。
学園のプールにてC.C.とシャーリーが戯れているのを横目に、プールサイドで情報を纏める。

 井上の奇襲により、一度はカレンの事が色々と有耶無耶になってしまったのだが、あれから熟考を重ねた結果、どうすれば俺がゼロとバレた時に、「騙された」と思われな

いか一つの答に至った。

 まず、ルルーシュ・ランペルージとしての俺の印象を良くするのは必須。
その上で、バレる前に自らでゼロとしての目的が『日本解放』などに留まらない事と、日本人でない事を告白してしまう事にしたのだ。
実は元皇子ですとまではこの時点では流石に明かせなくとも、ある程度打ち明けた上で彼女が道を選んで着いてきてくれるのなら、「裏切られた」とは思うまい。

 故に数日前、扇グループだけを呼び出し、打ち明けた。
カレンだけに、と人選を絞らなかったのは、なんだかんだと扇達の判断にカレンが左右されやすい事と、ここで扇達を取り込む事が出来れば後の憂いが軽くなると判断した為

だ。
C.C.が「今の好かれ具合なら大丈夫だろ」なんて薦めてきた事もある。

 とは言っても、事前に人種を問わずに入団を認める。と指示する事で反応を窺わせて貰いはした。
そこで悪感情をわかりやすく表に出したなら、打ち明ける事は危険だと判別する為の予防線―――だったのだが、扇達は誰一人不満を口にする事はなく。
ならば、と。予定した通りに話して見ても、カレンも、扇達も、ゼロに着いて行くと言う意見を変えなかった。

 意外、と言っては彼らの寄せてくれる信頼に失礼だろうが、前回が前回だっただけに驚いたのは無理なからぬ事だろう。
まぁ、そのお陰でカレンを忠犬モードなままに騎士とする第一条件はクリア。
入団に日本人である事が前提ではなくなったからこそ、より優秀な人材を集めやすくなりもした。
これでこれからの戦力も充実が期待できるだろう。

 今も開いたノートPCの画面には様々な顔ぶれが軒を連ねて―――む、ディートハルト、今回も来たか。
ふん、優秀な事は疑いない。採用しようじゃないか。
まぁ、不審な気配を僅かにでも感じたら、お前の死に際の願い通り、今回はギアスをかけてやるさ。って、お、美人だな、この女。
審査には引っ掛かっていない。ブリタニア人か。むむ、こちらの女も中々に………。

 ははは、魔王ゼロだのと呼ばれた時は民衆の心離れを危惧したが、なんだ、対外的に『正義の味方』である事に変わりないじゃないか。
黒の騎士団の人気は相変わらずだ。
ゼロが客寄せパンダ的な扱いなのは少し遺憾だが、人々の関心が高いのは喜ぶべき事だろう。

 ―――「順調なようだな?」って、C.C.か。
あぁ、順調だよ。日本人に限らずとも、人間ってのはスタンピードに弱いらしい。
少し煽ってやれば、この通り『正義の味方』大好きなヤツ等が集まってくる。っと、またも美人だ。国籍は…中華か。採用!

 ククク、良い感じだ。
このままならルキアーノのヴァルキュリエ隊みたいに、零番隊を優秀な美人のみで構成すると言う夢も簡単に叶う!
おっと、嬉し過ぎる未来予想図につい涎が!って、ん?「そ、それは正義の味方の顔じゃないな」だって?
フフフ、そうかい?



 直後、C.C.と同じくプールから上がってきていたらしいシャーリーに目論見が露見。怒られた。
頬が痛い。




 ナリタ作戦準備期間《黒の騎士団etc編》3ページ目

 本日はナナリーを連れてナリタにハイキング。
先日まで、図らずもナナリーに寂しい思いをさせてしまった事に対するささやかなお返しと、ゲフィオンディスターバーなどの罠を設置する為の地理的な下見、その両方を兼

ねて訪れた訳だ。

 メンバーは、俺、ナナリー、C.C.、シャーリー、咲世子、千草、アーサーとそれなりの人数である。
本当なら、C.C.と千草はあまり人目に晒すべきではないのだが、来るなと言って聞くC.C.ではないし、そうなると一人残す事になる千草にナナリーが悲しむ事は目に

見えていた。
それ故、仕方なくの全員行動。
もちろん、C.C.と千草には変装はさせているものの、発見された時の為に警戒はしておく。

 が、気にし過ぎて、ナナリーがそれを察してしまっては意味がない。
こんな時に頼りになる咲世子もいてくれる事だし、そこそこに気を抜いてナナリーを愛でるとしよう。

 ハイキングとは言ったが、目と足の不自由なナナリーでは楽しみ方にも制限がある。
体だって丈夫とは言えないのだし、様々な兼ね合いの結果だとしても、連れて来る場所を間違えたか?とも思った。

 けれど、ナナリー曰く「お兄様や皆さんとお出掛けできたのに不満なんてありません」との事で、事実それを示す様に終始にこにこと天使の笑みを浮かべてくれている。
そのナナリーに、俺の頭から、罠設置の下見なんて予定は早々に消し飛んだのは言うまでもないだろう。

 うん、下見は明日一人で来よう!と決め直す。
己が全身全霊でナナリーを愛でずして何がルルーシュ・ヴィ・ブリタニアか!?と。

 そんな訳だから、ナナリーの目を盗んで青姦に持ち込もうとする魔女なんかは断固拒否。
場所的なものを利用して「なぁ、ルルーシュ。雪が何故白いのか知っているか?」とか雰囲気出してきても、全力で拒否。



 当然、翌日もしっかりと下見に行った。
疲れはしたが、ハイキングの帰り道ではしゃぎ疲れて眠ってしまったナナリーの寝顔を思い返すだけで、それも吹き飛ぶ。
やはり、俺の選択は間違いじゃなかった。




 ナリタ作戦準備期間《黒の騎士団etc編》4ページ目

 下見の結果、ナリタ連山には罠を設置するに適した箇所がふんだんに見受けられた。
多く生い茂る草木や、起伏に富んだ岩場、降り積もった雪と、豊富な自然そのものが設置する罠を巧妙に隠しきってくれるだろう。

 これなら考えていた以上に義姉上の軍を混乱に陥れる事が出来そうだ―――と、人が気分良く学園の教室にてナリタでの作戦を見直していたと言うのに、理事長からの呼び

出しがそれを台無しにしてくれた。


 ルーベンが俺を呼び出した用件は、新ゼロスーツ運用試験時に仮想敵KMFとして使用したガニメデの無断借用に対する注意。
「何に使ったかは問いませんが、せめて一言断りを…」と語るルーベンに、俺も尤もな意見だと謝罪した。

 これだけで済んだなら、気分を害する理由はなかったのだが、問題は「それはさておき本題ですが」、と続けられた次の話の内容。
それは、何でうちの孫娘に手を出さねぇの?と言う叱責で…。

 聞くに、ルーベンとしては殿下にもGOサインも出したんだし、可愛い孫娘の秘めたる恋も間も無く成就する筈!と思い、今か今かと吉報を待ち望んでいたらしい。
ところが、複数の女を囲ってたりするし、中々のやり手だと思われたその殿下は、待てど暮らせどミレイに手を出す様子はなく、それどころか別の女を一人メイドとして新た

に囲いだす始末。
そうこうしている内に、ミレイの両親が伯爵家との縁談を進めようと動きだして………。

 なんなの殿下?あれだけ女囲ってるのに、なんでミレイは放置なの?なにミレイにだけ純情ぶってんの?もしかして純愛なの?バカなの?死ぬの?
このままじゃうちの孫娘は伯爵家に嫁にいく事になっちゃうよ?いいの?
ってか、アンタほんとにあのブリタニア皇帝の息子?

 ―――なんて旨の話を延々と………いや、今でも俺を敬ってくれているルーベンであるから、口調はもっと丁寧ではあったのだが、不甲斐ない俺に喝を入れる語り口だった

事には違いない。
要は、早いトコ決めちゃって下さい!と言う事だ。

 俺としても、俺は常に純愛だ!とか、あのクソ親父なんかと一緒にするな!!とか言い返したい事は山程あった。
が、未だミレイに手を出していないのも確かな事実。
沈黙を通し粛々とルーベンのお叱りを受ける他に術はない。

 ただ、敢えて言わせて貰うとすれば、「出さない」のではなく「出せない」のだと言う事だけは理解して欲しかった。
シャーリーの目を掻い潜りミレイにアタックするのがどれ程の困難か、ルーベンは知らない。
C.C.達に協力を仰ごうにも、「自分の女一人御せずに、何が魔王だ」とか鼻で笑われるだけだし、事学園での恋愛戦線において俺は孤立無援なのだ。
それでも頑張ってチャンスを狙っている内に、ナリタでの作戦準備が大詰めを迎え、時間的な余裕すら失った。

 あぁ、ルーベンに言われるまでもない。
俺だってあのおっぱいを揉みしだきたいさ!
けれども、俺のゼロとしての宿命が今はそれを許さない。

 本末転倒も良いところだ。
ナナリーやミレイ達と幸せな世界でアハハウフフする為の反逆。その為のゼロ。
だと言うのに、そのゼロとしての活動が、ミレイを口説く機会すら圧迫しているこの皮肉。


 そうして、こみあげてきた歯痒さを表に出さぬ様に、ルーベンには「善処します」とだけ告げ、足早に理事長室を出たのがつい先刻。
クソ、引き篭ったり、ゼロとしての活動にばかり気を取られていたツケがここで回ってきた様だ。

 ルーベンが言っていた伯爵とは、間違いなくロイド。猶予は少ない。
ヤツとの見合いの前に、なんとしてもミレイと恋仲にならなくては、あのおっぱいを揉めなくn、じゃなくて、彼女はまた望まぬ婚約に苦しむ事になってしまうだろう。
もうシャーリーの怒りを恐れている場合ではない。
ナリタでの作戦が完了した直後、ミレイを我が恋人にして見せる!

 いや、違うな。
ミレイだけじゃない。
ナリタが成功に終われば、コーネリア義姉上、あわ良くばユフィすらも我が手中。
カレンとだって色々したい。

 そうだ、俺はヤる!ヤッてみせるッ!
もう一度思い出せ!やり直す前のCの世界で、俺は何を神に祈った!?やり直したのは何の為だ!?
愛に満ち溢れた性活の為だろう!

 思うに最近の俺は消極的に過ぎた。
ナリタと言う節目が過ぎれば、一応の区切り。
ここで一気に攻勢に出て、沢山の愛を育んでやろうじゃないか!

 その為にも、必ずや!必ずや、ナリタを勝利で飾ってみせる!!ふ、フは、フハハハハッ!!



 ナリタ作戦準備期間《黒の騎士団etc編》5ページ目

 想う女達への愛欲を、ナリタへの意欲へと変えて俺は働いた。
俺だけじゃない。C.C.や咲世子。ゼロの下一つに纏まった騎士団員達も、戦闘訓練、KMF操縦の習熟に熱意を以て取り組んだ。
今作戦では協力関係を結んだ日本解放戦線からも、罠の設置を初めとした全ての準備は整ったとの連絡も入った。

 俺にとって最大のイレギュラーであるユフィによって、コーネリア達の動きが変わる事だけが最後までの懸念事項だったが、政庁に密偵として忍びこんだ咲世子の報告によ

れば、どうやらそれもない。
恐らく、義姉上はユフィが何か動こうとしても取り合わなかったのだろう。
つまり前回と同じく、コーネリア軍はナリタ連山への包囲作戦を展開する事は確実。
入団を希望するディートハルトから挙がってきた報告からも、裏は取れた。

 負傷したギルフォードの穴を埋める為に招聘されると警戒していたグラストンナイツも本国待機のままだ。
推測に違わず、日本解放戦線など簡単に勝利できる相手だと、慢心にも似た考えを義姉上は持っている為だろう。
サイタマで不覚をとった純血派の存在も、今回は最初から敵戦力として換算済み。
カレンに紅蓮のキーも渡すと言う、重要なフラグも消化した。

 となれば、此方側にもはや何一つ負ける要素はなく。
作戦決行までに残すは、日本解放戦線片瀬との最終調整の為の談合のみ。

 今や日本の一大勢力のトップ同士の作戦会議。
万全を期して臨むとしよう!




 ナリタ作戦準備期間《黒の騎士団etc編》6ページ目

 なんて意気揚々と、俺としては初めての片瀬との談合に赴いたと言うのに、………駄目だ、コイツ。
一度では気が済まないので、もう一度言う。
駄目だ、コイツ。

 何が駄目って、仮にも組織の指揮官であるにも関わらず、その自覚が全く見受けられない。
口を開けば、「藤堂が」、「藤堂に」、「藤堂なら」、と全て人任せ、と言うか藤堂任せ。
藤堂藤堂藤堂とーどー、実に五月蝿い。
なら、もう藤堂が指揮官で良いだろうに…。

 今この場にいないその藤堂にしても、何故こんなのを主君と仰ぐのか理解が出来ない。
それが軍人と言えばそれまでだが、こんなのの下で日本解放が果たせると本気で考えているのだとしたら、藤堂の評価の再考も已む無しだ。

 大体、この片瀬と言う男。自分で語る頭もなく、何故いまの地位にいるのだ?
その癖、「日本は、我々こそが!」と固執する想いだけは病的なまでに強いと来ては、失望を禁じ得ない。
愛国者と言えば聞こえは良いが、いざと言う時にその想いの強さで暴走されては、手を組むこちらとしては堪まったものではないのだから。

 直に会ってわかった事で、片瀬はダメと言う以外にもう一つ。
コーネリア軍と言う共通の敵がいる現状こそ一先ずの協力関係を保ててはいるが、片瀬は危機を切り抜けた瞬間に、日本人を至上とはしない黒の騎士団をも自分たちの敵と見

なす。
そこには、ギアスを使い草壁の副官にさせた「黒の騎士団は我々と敵するものではない」と言う微かな印象操作などなんら意味を為さない。


 あぁ、ならばこそ。
片瀬、こうして直にお前に会う事の出来たこの機会に感謝を。
我が目的の為にも、下らぬ小競り合いに手を煩わせている暇はないんだ。


 だからお前は、『我に従え!』


 ―――これで、全ての仕込みは済んだ。
後は、作戦当日を待つだけだ。




 ナリタ作戦当日1ページ目

 今回、逆落としは使わない。
シャーリーの父はもう殺せないし、彼女の父に限らず人的被害は最少に抑えるべきだ。
それにジョセフ氏がシャーリーの呼び掛けに応えてここに来ていない保証はない。
あまりに執拗にシャーリーがジョセフ氏を止めれば、ナリタ連山での戦闘を予期していたのかとシャーリーが疑われるだろうと控えさせた。

 つまり、逆落としは、使わないと同時に、使えない。
それでも、これならばいけるだろうと言う自信が俺にはある。


 前回の記憶と違わぬ日時にコーネリア軍による、日本解放戦線壊滅作戦は始まった。
ナリタ連山を包囲するのは、物量、練度共に圧倒的なブリタニアの精鋭達。
しかし、対する黒の騎士団員に怯えはない。陳腐な演説ではあったが、作戦前の鼓舞は効いている様だ。

 奇跡は安売りなどしていない。
前回のこの日この時、玉城が俺に向けて放った言葉から始めた演説。

 確かにその通りだ。
それでも勝つ為には奇跡が必要なら、それを我々の手で起こして見せよう。
勝ちたければ、これからも勝ち続けたければ、ここで勝利を掴んでみせろ。
この戦いを生き残り、本当の戦士となってブリタニアを打倒するその日の為に。

 そう言い聞かせれば、返ってきたのは咆哮だった。
勝ってみせると、誰しもが決死の覚悟を顔に浮かべていた。
騎士団の士気は高い。

 表向き対等なフリをする様にと命令したが、片瀬も既にギアスの支配下だ。
先立って騎士団が流したナリタ連山襲撃の情報により、藤堂達も初めから無頼・改で作戦に備えている。
前回の様に互いの意図を察した共闘ではなく、指示に従う駒として使えるのだから、解放戦線を、そして藤堂と四聖剣を指揮下に置けるのは大きい。

 前回身を隠した洞穴に待機させた強襲殲滅型ゼロ咲世子他、幾つかもしもの為の策も用意した。

 一通りの戦力、戦術を見直して再び思う。
いけるだろう、これならば、と


 ブリタニアの侵攻が始まる。
密かに複座へと改修した無頼・ゼロ専用機の中、操縦は同乗しているC.C.に任せ相手の布陣を確認。

 正面は、右からコーネリア、中央にダールトンを挟んで、左アレックス。
ふむ、出撃できないギルフォードに代わり、ダールトンがコーネリアの護衛として付き従うかとも考えたが、どうやら偏りなく将兵を配置する事を優先したらしい。

 クク、理に適った布陣とは思うが、義姉上の護りが薄いのはこちらにとっても好都合だ。
その判断悔やませて差し上げよう。

 さぁ、義姉上。再び始めましょうか。
姉弟での戦いを!




 ナリタ作戦当日2ページ目

 用いる基本戦術は単純。
規模こそ違えど、サイタマの焼き増しだ。

 こちらのKMFを囮とし、そこに向かってきた敵KMFを各所に潜ませたゲフィオンディスターバーで停止させ破壊。
KMFの数でどれだけ劣っていようとも、動けぬ兵器なら歩兵であっても破壊できる。
これで数的な有利を削ぐ事に成功すれば、如何に精強なコーネリアの軍も、初めから襲撃に備え士気も高い騎士団と解放戦線相手に戦力的な拮抗を見せざるを得まい。

 ランスロットの関係していなかったサイタマでゲフィオンディスターバーを一度使った程度では、ロイドがディスターバー対策を施せる訳もない。
それどころか、知りもしていないかも知れない、と言う読みは見事当たった様だ。
面白い程に敵はゲフィオンディスターバーの餌食となっている。

 この隙を突く形で、予め指示していた通りに、藤堂と四聖剣率いる部隊が、G―1ベースへの進軍を開始。
途中で既に勢いを失していたアレックス隊を撃破して、G―1ベースに接近している。

 片瀬を介し藤堂達に伝えたのは、そこにいるだろうユフィの確保だ。
政略に利用する為、決して傷付けぬ様にとの注釈を加えたこの命令だが、真の目的は別にある。
例えユフィを確保出来なくとも、コーネリアの動揺を誘えるであろう事が一つ。
そして、最大の邪魔者であるランスロットの足止めが一つ。

 ユフィがG―1に乗っているならば、スザクは必ずランスロットで護ろうと出撃するだろう。
だが、如何にスザクと言えど、藤堂と四聖剣相手の防衛戦。こちらに手を回す余裕は流石にあるまい。

 ダールトン隊や他の部隊も、日本解放戦線全戦力と設置したゲフィオンディスターバーに任せてある。
もし抜かれたとしても、奴等が目指す解放戦線の本拠地は初めから裳抜けの殻、痛くも痒くもない。

 条件は整った。
この間に紅蓮弐式を擁する黒の騎士団本隊にて、コーネリアにチェックをかける!



 ククク、順調だ。
桐原公達の情報網にすら掛からなかったコーネリア軍の今回の作戦を察知した事で高まっている京都六家からの評価も、これに勝てば更に鰻登り。
ゲフィオンディスターバーを使った事が知れれば、ラクシャータの関心も引けるだろう。
ナナリーの足に治療が見込めるとすれば、それはKMF開発だけでなく、医療サイバネティクスの権威でもあるラクシャータをおいて他にいない。

 あぁ、待っていてくれナナリー。
お前には今度こそ絶対に、優しい世界と、何不自由ない肉体を………!

 その為にm『ゼロォオーーーッ!!』、ッ!来てくれたか、ジェレミア!
閑職に回されていないだけあって前回より遭遇が早い。なんて良いタイミングだ!

 そう、ナナリーの足がラクシャータの医療サイバネティクス頼りなら、目の方は、ギアスキャンセラー保持者(予定)のジェレミアしかいない!

 ナナリーの目の為に、本当に悪いとは思うが、お前にはもう一度キャンセラー保持者になって貰う!
そう言う事でカレン、程々にチンしてやってくれ!!




 ナリタ作戦当日3ページ目

 唐突ではあるが、ここで誰にでも出来るギアスキャンセラー保持者の造り方を簡単に紹介しよう。

 まず、純血派のジェレミア辺境伯を一人用意します。
その彼をオレンジ呼ばわりした後に、輻射波動で傷みすぎない様注意してチン。
その後暫く寝かせた後で、一皮剥けて帰ってきたオレンジを、今度は重石(ガウェイン)と共に海底に叩き込みましょう。
それから運を天に任せ、更に一年程寝かせる事により、あら不思議!
ギアスキャンセラー保持者、忠義の騎士ジェレミア・ゴットバルトが出来上がります。

 …なんて、同乗した魔女が寝言並べているが、こう聞くと本当に悲惨だなアイツ。
最後、よくあそこまで仕えてくれたものだ。
今も、『ヴィレッタの仇、ここでとらせて貰う!』とか部下思いな叫びが聞こえるし、本当に良いヤツだ。
せめてヴィレッタは生きてます。と教えてやりたくなってしまう。

 そんなナイスガイを、これから冥府魔道に叩き落さねばならないと思うと、いくら俺でも良心が疼く。
しかも今回はわかっていて同じ目に遇わせようと言うのだから、尚非道い。

 数分後。
カレンが熱し過ぎないかヒヤヒヤものだったが、上手い具合に脱出装置が作動し、空高く消えて行くジェレミアを見送りながら、心からの謝罪をしておく。
ジェレミア、お前の先行きに幸多き事を………。

 などと気を取られていたら、いつの間にか他の純血派も壊滅しかけている。
これは良い意味での誤算だった。
今回のカレンは恐ろしく強い。
高い士気の所為もあるだろうが、確実にこの時点での操縦技術が前回よりも上がっている模様。
「ゼロは私が守る!」とか、ナリタで聞けるとは思わなかった。

 C.C.に一日ピザ食い放題と言う条件で操縦させているから、この無頼・ゼロ専用機もそこそこにやれる筈なのに、活躍の場が僅かにもない。
これもまた、想いの力か。
その鬼気迫る戦い方を呆然と見ている内に、純血派は早くも一機を残すのみとなっている。

 まぁ、ジェレミアさえ無事(?)なら、他はどうでも―――って、待てよ。純血派にはもう一人死なせてはマズイ男がいなかったか?
あー確かあれは…『オレンジを倒したからといって、調子に乗るなよイレブンがッ!』って、この声、そうだ、キューエル!

 カレン、待て!輻射波動を停めろ!
ほら、キューエルも『クソ!なぜ脱出装置が作動しない?!』とか困ってるじゃないか!

 待て!いや、頼むから待ってくれ!
ソイツを死なせてしまうと、妹のマリーカが俺を………、とか言っている間に盛大に爆発したぁッ!?

 響く轟音。
コックピット部分が飛んでいった形跡なし。

 結論。
キューエル・ソレイシィ。ナリタにて戦死。


 ………き、キュゥーエルゥーーーッッ!!




 ナリタ作戦当日4ページ目

 なんて事だなんて事だなんて事だ!
折角順調に作戦が推移していたのに、みすみすキューエルを死なせてしまうとは!
くぅ、これで確実にマリーカに恨まれ、マリーカの姉貴分リーライナまでが、敵に回る事が確定してしまった!

 カレン、『ゼロ、やりました!』とか、褒めてオーラを醸し出されても、今はそんな気分になれないんだ。
君に非がないのはわかっているが、忠犬なら「待て」位は出来て欲しかった。

 あぁ、C.C.、「ヘコんでないで、コーネリアを確保に向かうべきじゃないか?」なんて事は、お前に言われずともわかっている。
ここで落ち込んで、作戦を台無しには出来ない事くらい。
さっさと作戦を終了させてから悩むとするさ。

 騎士団はこれよりコーネリアの確保に向かう!
戦線の硬直が崩れない内に、迅速を以て敵の指揮官を捕らえるのだ!
騎士団本隊、私に続けッ!


 ハァ、しかし、今後を思うととんでもなく気が重い。
キューエル、何故死んだ。




 ナリタ作戦当日5ページ目

 何もかも上手くいくかに思えた今作戦。
俺にとっての凶事はキューエルの死だけでは済まなかったらしい。

 最初にやられたのは玉城。
コーネリアに向けて進軍中、横からの砲撃で撃破され脱出した。
『クッソォー!』なんて叫びながら飛んでいったコックピットを見て、もうアイツKMF搭乗禁止にしようか悩んでいる内に、南、杉山、吉田、と次々にKMFが破壊されて

行く。
『そんな!?』とか『ゼロ、すまない!』との言葉を耳にしながら、流石に只事ではないと気付いた時には、紅蓮が一体のKMFと抗戦していた。

 現れた敵はなんと単騎のグロースター。
それが我が軍最強の紅蓮と互角にやり合うと言う冗談の様な状況で、驚きはそれだけに留まらない。

 俺の更なる驚愕を誘ったのは、そのグロースターの色だった。
深い緑と金色の色彩。
それは、知る人ぞ知るであろう皇帝護衛部隊のカラーリング。
そして、記憶が確かならその纏め役は、ナイト・オブ・トゥエルブ!


 そう認識した瞬間、ゾクリとした怖気と共にCの世界でのある会話が再生される。



 『ねぇ、ルルーシュ君。ユーフェミア様やシャーリーって子と、何時も一緒にいるわね?随分と仲も好いみたい』

 『そ、そうか?』

 『そうよ。………浮気とか、してないわよね?』

 『ッ!?あ、当たり前じゃないか!俺はモニカだけさ』

 『そう。良かった』

 『………』

 『………』

 『………ち、ちなみに』

 『え?』

 『いや、あくまで例え話!本気で浮気してるとかじゃなく例え話なんだが、…俺が浮気してたら、どうするんだ?』

 『………そうね。一度死んだ後の世界でこんな事言うのも可笑しいかもしれないけれど、もし浮気なんてされてたら―――』

 『さ、されてたら?』

 『―――あなたを殺して、私も死ぬわ』



 冗談めかして喋ってはいたが、あの時のモニカの目が笑っていなかったのを、俺は忘れない。忘れられない。
そうだ。だから俺は誓ったんだ。
モニカにだけは、何があろうとも他の恋人達との関係をバラしてはならないと!

 そのモニカが目の前にいる。
スザクには機体の性能差もあって瞬殺されていたが、流石はラウンズ。
経験不足と言えど、絶好調の筈のカレン相手に、劣る機体で一歩も退いていない。

 クソッ!そう言えば作戦直前の学園で、また顔を腫らしていたスザクに原因を訊いた時、確かアイツはこう言っていなかったか?
「うん、なんかブリタニアの凄い位の高い騎士さんが昨日本国からお忍びで来てね?その人女性なんだけど、会った瞬間に殴られちゃって、僕何かしたのかな?ってホント参

っちゃったよ」と。

 それがモニカだったならスザクの顔の傷も頷けると同時、彼女が前の記憶を持っている事にも確信が持てる。
何せモニカにとってスザクは、前回自分を殺した相手だ。彼女でなくとも殴るだろう、そんなの。
そもそも、前回には有り得ないこの事態そのものが、明らかに彼女がワイアードである事の証。

 マズイ、マズイ、マズイ!
ブリタニア側のユフィ以外のワイアードがこうも早く。
大体、モニカの目的はなんだ!?

 恋人な俺に逢いに来た?
わざわざ戦場に?有り得ない。

 では、ゼロである俺を阻止しにきた?
それならば、まだ良い。

 最悪なのは、どうしてか女関係がバレている場合だ。
モニカは絶対、殺る気満々に決まっている。

 いやいや、しかしそれでも俺もやり直してるなんて、モニカは知らない筈なんだから誤魔化し様は、ある、のか?
でも、凄い殺気感じるし。

 ………よし、一先ずは逃げよう。逃げるべきだ。
これから先の展開を考慮してフロートを封印したのが少し悔やまれるな。
とにかく、C.C.。カレンが戦ってくれている間に、最大戦速でこの場をはn『待ちなさい!る…ゼロッ!』って、おぃ今モニカのヤツ「る」とか明らかに俺の名前言い掛

けたぞ!?

 えぇい、カレンの前で名前呼ばれたら計画が全てご破算になってしまう!
かと言って、この場に残っても殺されそうだし、これでは八方塞がりだ!

 逃げる事も、進む事も出来ないとは、―――く!ブリタニアン性術覚えたてで調子に乗りまくってたあの頃の大馬鹿者な俺を殺してやりたい!
なんて危険な女に手を出してしまったんだ!!
このままでは、成功まで後一歩の作戦も瓦解してしまうじゃないか!


 どうすれば良い?どうすればッ!?






 色欲のルルーシュ Return09『モニカ 来る』おわり







 あとがき

 前回、前より遅くならないぞ、とかどの口でほざいたのか。
更に間を空けてすみません。どうも鈴木です。

 なんか、最近自宅のPCがネットに繋がらないんで今回は初のネットカフェから更新です。
話自体はちょい前から出来てたんで、休日を利用して漸く投稿。
これ、店員さんに書込み内容すぐにはバレナイヨネ?とかビビりつつの投稿。
ともかく、待って下さっていた方いらっしゃいましたら、少しでも楽しんで貰えれば幸いです。

 で、今回。
多々ネタに走り過ぎました。
悪夢ゼロさんに少しでも近付く為にどうしたら良いか無駄に考えてのゼロスーツだったり。
あまりどんなキャラか判明してないと思われるモニカさんの好き勝手捏造だったり。
もう自分でもどこに向かってるのかわからなくなって来てます。
タイトルも当初『カレン 飼う』だったのに某マフィア漫画みたいなのに変わってるし。

 文章の方も、長くなるにつれ文章力や語彙量のなさが明るみに出ちゃいました。
何回同じ言い回し使えば気が済むのか。
内容の方も含めて、これは無ぇだろ?みたいなのあったらご指摘下さい。救われます。

 で、いつもの感想下さった方々への御礼を。
本当にありがとうございます。
執筆ペース落ちて来てますが、これからもよろしくお願い致します。

 「玉城」「玉金」のご指摘について。
誤字ではありません。
C.C.がふざけて記したものを、天然の咲世子さんが愛称かなんかと思い込み呼んでいる、って感じで一つ。
わかり難い書き方をしてしまい申し訳ないです。

 そんなところで、次回はナリタ決着と、Cの世界でのモニカとの経緯云々を。
次こそは、そこまで遅くなりません。きっと。
何故ならもう出来掛けているから!
そして未来日記のSSも投稿するかも知れません。
その時はどうか御贔屓に。

 またも長くあとがきましたが、今回はこの辺で。
サブタイトルの伏字は次回投稿時に直します。
では、また。









[4438] 色欲のルルーシュ Return???『FLUKE REBELLION ~1~』
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:6a07a562
Date: 2010/05/29 19:33
 ※ なるべく巻き舌で脳内再生願います。





 近頃、妻の様子がおかしい。
妻の名はマリアンヌ。我が最愛の女であり、計画遂行の為、共に心血を注いできた同志でもある女。
とうの昔に肉体は滅び、現在はアーニャ・アールストレイムと言う娘の中に精神だけが宿っている状態のそのマリアンヌが、どうにもおかしいのである。

 兆候が見え始めたのは、エリア11にてクロヴィス崩御の報せがあった頃。
「やっぱり、私でも子供に殺したい程まで憎まれるのは辛かったのよねぇ」とか、「放任が過ぎた所為であんなに捻くれちゃったのかしら……」とか、ぶつぶつと一人何かを呟きながら黄昏の間で時間を潰す様になり。
それが三日程続いたところで、「C.C.と連絡が取れなくなったわ」などと、さも大した事ではないかの様に告げてきた。

 慌てたのはこちらだ。
C.C.。かの女の持つコードは、兄さんのコードやアーカーシャの剣と共に計画の要となるモノ。
そのコード持ちのC.C.を側に置かず好きにさせていたのは、マリアンヌとC.C.の間にCの世界を介した繋がりがあり、計画が最終段階に入れば、いつでもC.C.を確保できる算段があればこそだった。

 その繋がりが断たれたと言う事は、つまりC.C.を見失ったと言う事。
流石に些事などとは捨て置けず、直ぐ様部下にC.C.捜索の命を下そうとした、……のだが、それにもマリアンヌから待ったがかかってしまう。
何故だ!? と問い質す儂の前に差し出されたのは、アーニャ・アールストレイムの携帯。
見ろ、とばかりに提示された液晶の文面に目をやれば、そこに―――



 『マリアンヌ、シャルル、私は現在契約中のお前達の息子との愛に生きる事にした。

  だから、ラグナレクとか困るんで、悪いがお前達の計画はぶっ潰す。

  私のコードが欲しいなら、そちらの準備が出来た頃にでも、コチラから雌雄を決しに出向いてやるんで、それまで待っていろ。
                                                     
                                                                   未来の義娘より』



 ―――なんて内容が。

 ……なぁ、マリアンヌ。これ、何ぞ?








 色欲のルルーシュ Return???『FLUKE REBELLION ~1~』







 ある皇帝の手記 1ページ目

 で、現在黄昏の間にてマリアンヌと件のメールについて、語らい合うているのだが。

 ……いや、マリアンヌ本当にこれ何ぞ?
いや、「C.C.ったら、アーニャとメル友らしいのよねぇ」とか訊いておらんから。
と言うか、これC.C.? メル友? マリアンヌ、お主は何故そんなに落ち着いて……、いやいや、その前に息子って?
儂、娶る女娶る女大抵孕ませとるから息子大量生産しとるけど、しかしあの死にたがりの魔女をオトせる様な子息にはとんと心当たりが……。

 む、わかったぞ、マリアンヌ! さてはこのメール自体がお前一流の冗句、悪戯か!?
ヌハハ、こやつm「お前“達”の“息子”って言うからには、一人しかいないわよねぇ」……ルルーシュですね、わかります。

 しかし、そうか。ルルーシュか。
かの地にて生き抜いておったのだな。
ならば、シンジュクでのクロヴィスの件もあやつの仕業、という事になるのであろうな。
それなら、Cの世界を介してもクロヴィスと交信できぬ理由も得心がゆくと言うもの。
死んでおらとあらば、それも当然。
半分とは言え血の繋がった兄を殺すのを躊躇ったと見える。甘いものよ。

 何? 「そう言うところは貴方に似たのね」だと?
ふんっ、片腹痛いわ! 形だけでも皇族殺しなどと言う反逆の狼煙をぶち挙げておきながら、情に流されるなど、なんと半端な覚悟かぁ!
 儂なら己が利になるかわからぬ輩なぞ、その時点で葬っておるわ!
そう考えれば自ずとルルーシュの器も知れる。例えC.C.からギアスを与えられたところで、儂の前に立ち塞がる事などできよう筈もなかろう。
ぬ? 「でも、このメール見る限りC.C.、あの子に完全協力体制よ? あのC.C.に『愛に生きる』とか言わせてるのよ? これって凄い事じゃない?」だと?

 ……ふんっ、それがあやつの危険性の証明になどなるものか。もし万が一、いや、億が一立ち塞がったとしても、その時はその時よ。
父の偉大さをたっぷりと叩き込んでくれようとも。


 しかし、うむ。
お前の様子がおかしいので大事かと思ったが、そう言う事ならば問題あるまい。
C.C.が向こうからコードを持ってやって来てくれるならば、殊更に是非もない。
良かろう。あの愚息は捨て置く事としようではないか。

 む? 「それはあの子の好きにさせるって事かしら?」とな?
ぬぅ、確かにそう言う事になろうが、それはただ単に歯牙に掛ける必要も感じぬだけの事。
儂は、決して、反逆を目論む愚息に与える温情などを持ち合わせておる訳ではないからなっ!
ぐ、マリアンヌ、何を笑うておる!? 「素直じゃないわねぇ」などと変な事を申すでないわ!

 ……まぁ良い。兎も角決定は下した。
問題があるようならば、その度対策を講じれば良いだけの事。

 これでこの話は終わりよ、とに背を向けた儂に、「私は私で動いても構わないかしら?」と訊ねてくるマリアンヌ。
それに、好きにせい。とだけ返し、黄昏の間を後にする。



 そうして自身の宮に帰る道すがら、考えるのは先のマリアンヌとの会話の内容。
そうか、あのルルーシュが儂らの計画をぶっ潰すと言っておるのか。

 ヌハハ! あやつめ、グレおったわァ!
……などと本心から笑い飛ばせればどんなに心が楽であろうか。
恨まれているのだろうな。

 が、それも当然よ。
兄さんから遠ざける為に已む無くとは言え、儂はあやつとナナリーを人身御供として差し出しただけでなく、その地に戦争仕掛けたしのぅ。
儂だってそんな親ぶっ殺す、と言うか、実際叔父とかは殺しとるし。

 しかし、如何に理想の為とは言え、ルルーシュと戦わねばならぬ可能性を考えるのは、やはり辛い。
自身の子供を量産してる儂ではあるが、真実愛した女との結晶として産まれたあの二人は、それこそ数いる息子、娘達の中でも一等に愛しいと言い切れる。
そんなルルーシュを、もちろんナナリーも、可愛く思わない筈がない。
しかも、ルルーシュはあのC.C.を陥落せしめる程の男に育っとる様子。
儂とマリアンヌの息子と言う事からしても、幼少時の容姿からしても、将来はテライケメンになるのは確定的だったとは言え、まさかそれ程までとは思わなんだ。
ギアスを手に入れ、C.C.をパートナーにしたとは言えど、なんの後ろ楯がある訳でもなかろうに、大国ブリタニアの君臨者たる儂に牙を剥く気概も見るべきところがある。
よもや、本当に儂の前に立ち塞がるかもしれん。と考えるのは親の贔屓目が過ぎようが、もしそれを成し遂げる器を持つ男に育っておれば、……ブリタニア皇帝たる真の証。一子相伝ブリタニアン性術を継承するに相応し―――


 ―――ふっ、止すべきだな。詮なき夢よ。
シャルル・ジ・ブリタニアともあろう儂が何を考えておる。
息子と相対したくはないと考えた矢先にこれとはな。

 第一、ブリタニアン性術の継承とは、つまるところブリタニア皇族が抱える業の継承に他ならぬ。
儂自身、ブリタニア性術を修めたての頃に、つい調子に乗ってブイブイ言わせてしまった所為で、いつの間にやら嫁が108人。
いくら絶倫な儂とて、寄る年波や腰痛には逆らえぬ訳で、近頃は皇妃による壮絶な寵愛争いを、俗事とスルーするしかないのが現状だ。

 あの愛憎渦巻く皇族間での殺し殺されは非常に胃にもクる。
絶対者としての鉄面皮で誤魔化してはいるものの、いつまで儂の腰と胃が保つもののやら。
マリアンヌも怖いし、はっきり言えば早いトコどうにかしたい。
そんな首の回らぬ事態を再び引き起こし兼ねない宿業を、可愛い息子にまで受け継がせるなど以ての他だ。

 ……ふ。そう、そうよな。
今更に悩まずとも、わかりきったことであったわ。

 兄さんやマリアンヌとの誓いの為に。
若かりし頃の儂自身の軽挙をリセットする為に。
やはり愛する息子と言えどラグナレクの接続を阻止せんとするならば、叩き潰す覚悟を決めるしかあるまい。

 接続さえなれば、どの道全ては集合無意識へと統合される。
そこに至る為に、今日まで心を鬼にして進んできたのだ。
その道程を今更個人の感傷で損なう訳にはいかぬ。

 赦せ、ルルーシュよ。
儂は割り切らせて貰う事とする。

 ブリタニアに楯突くがどれだけの至難かを悟り、儂を止めるのを諦めるならばそれで良し。
それでも反逆を続け、我が大望の妨げとなるのであらば! 
もしも儂の前に障害として現れたならば!
このシャルル、容赦はせぬ!!


 そうと決めたなら、アーカーシャの構築と各地の遺跡掌握を急がせるのが最善であろう。
接続の準備さえ整ってしまえば、後は兄さんのコードの力でC.C.を拐ってくれば事は済む。
C.C.が完全に離反した事を現時点で兄さんに気付かれても面倒になりかねぬし、そうなる前に速やかに事を進めるとするか。




 ……そう言えば、マリアンヌの後見のアシュフォードだったかは、爵位を返上した後、エリア11に渡ったのではなかったか?
当主のルーベンは元公爵、儂とも旧知であった。
 うむ! ルーベンが元気か知りたいし、期を見てちょいと秘密裏に昔馴染みに連絡してみるも良かろう。
あくまで、あくまでそのついでに、ルルーシュとナナリーの事を知っとったら、うむ、……まぁ、アレだ。




 ある皇帝の手記 2ページ目

 計画を早期に推し進めようと決意したにも関わらず、中々にそれが儘ならぬのも大国の皇帝、いや、妻が108人もいる我が身の不甲斐なさと言えよう。

 事はクロヴィス殺害の一報を受け、その母であるガブリエッラが精神状態を持ち崩した事に始まる。
皇帝の業務の一つである謁見に訪れる貴族が急に増加したと思えば、宣う事は皆が皆クロヴィスの死を悼んだ後で、「どうかウォリック宮へガブリエッラ様をお見舞い下さい」と来たものだ。

 なにせガブリエッラは只でさえ位の高い皇妃である上に、その広い社交性からカリーヌの母やその後見貴族を初め、様々な宮廷内権力にも強い結びつきがある女。
ラ家の長子が死に皇位継承の目が限りなく少なくなったとは言え、それでも尚ガブリエッラに利を見い出す皇族、貴族は多い。

 それ故に、ガブリエッラを放置し過ぎれば、危ういバランスで保たれている宮廷内の秩序を乱す可能性も少なくはない。
計画が最終段階にあればそれですら俗事と済ませてしまうところだが、残念ながら未だその前段階である現状、ともすれば権力争いの肥大に通じる芽を、全てが全て俗事と切り捨てる訳にもいかぬ。

 だからこそ、思惑通りに計画を速められぬ歯痒さを感じつつもウォリック宮へと見舞い、少しずつでもガブリエッラに落ち着きを取り戻させる事に時間を割いたと言うのに!

 その甲斐あって、仕立てあげられたであろう犯人が処刑されるとの報が入った時には、ガブリエッラも上辺だけとは言え平静を取り戻しておったと言うのに!

 処刑当日、ゼロと名乗った真犯人が全て台無しくれおったわ!

 何故そこで空気を読んでくれぬのだ!? 我が息子ルルーシュぅ!!

 お前が自分が殺りましたと宣言した上に、今まで犯人と目されていた男まで掻っ攫ってくれた所為で、またガブリエッラが乱心してしまったのだぞ!
しかも、「陛下! はやくっ、はやくあの仮面の変態を殺して下さいましぃ!!」などと半狂乱で懇願されて、ビビッて慌てふためいた挙げ句にエリア18の平定を終えたコーネリアに、エリア11鎮圧のゴーサインまで出してしまったではないくぁッ!!

 折角! この儂が! もしもの時は撃つと覚悟を決めながらも! なるべくならば事を荒立てぬ様に、荒立てぬ様にと気遣っておると言うのに! その親心が何故わからぬと言うのかぁっ!?

 そも、相手があのコーネリアでは、如何にギアス持ちのルルーシュとて太刀打ちできまい。
何せあの娘の下には優秀なる騎士と将兵が余る程におり、コーネリア自身もそれらを十全に用いる将器を持っておる。
どう考えても、ルルーシュに勝ちの目があるとは思えぬわ。

 く、ゼロの仮面、衣装。一目見ただけで儂との血の繋がりを確信できたその洗練されたセンス。
儂のヘアースタイルにも通ずるあの完璧なる造形美には、心の奥底で、それでこそ儂とマリアンヌの息子よ! と秘かに賞賛すらしておったのに。
その直後、儂自らに『ルルーシュ終了のお知らせ』を下させてしまうとは!

 ………ルルーシュよ、この愚か者がぁ!!




 ある皇帝の手記 3ページ目

 と、ガブリエッラの狂乱に巻き込まれる形でパニックを起こしておった儂だが、日数を置いて考えてみれば、コーネリアとその実妹ユーフェミアは、ヴィ兄妹と仲が好かったのではないか? と思い出す。
ならば殺される可能性は低いだろうし、コーネリアがルルーシュを叱りつけて反逆など止めさせてくれれば万々歳と思い至り、なんとか儂も落ち着いた。

 ガブリエッラやその一派も、ブリタニアの魔女の派遣と、クロヴィスの盛大な国葬を儂自らが執り行うと決めた事で、静かになってくれた様だし、後は国葬にて民衆への演説をかましてやれば、漸く一段落。
計画遂行の為に本腰を入れられると言うものだ。

 実は死んでおらぬのに儀式的に葬られてしまうクロヴィスは憐れな事だが、圧倒的な戦力差があったに関わらず義弟に不覚をとった己を悔やんで貰う事としよう。
今更儂が、クロヴィスは生きておる。と言っても話をややこしくするだけであろうし、何よりも面倒よ。

 なに、筆と画板さえ持たせておけば幸せそうな顔をしていたヤツの事。
ガブリエッラに強制されたり、抱え込んだ部下達が下手に優秀だったりした所為で、継承権争いに身を投じてはおったが、そこから解放された今の方が、案外楽しんで筆でも振るっておるだろうよ。うむ、おそらく。

 さぁて、そんな感じで儂自身の気持ちの整理も一先ずはついた事だし、ここは一つ、何処かで観ているであろうルルーシュにも父の雄々しさが理解できる様、ブリタニア皇帝らしく国葬を執り行ってやるとしようではないか!
ルルーシュよ、大衆へのパフォーマンスとは如何なるものか。儂の演説を観て度肝を抜かすが良いわ! ぬゥあっはははははッ!!




 ある皇帝の手記 4ページ目

 ルルーシュでは、コーネリアには敵わない。
そう考えていた儂は、どうやらルルーシュを過小評価しておったようだ。


 国葬も終わり、コーネリアもエリア11に着任を終えて数日。
計画を進める傍ら、ゼロ捕縛の報がいつ飛び込んでくるものやらと待っていたところに届いたのは、『帝国の先槍ギルフォード・G・P・ギルバート卿、ゼロと交戦の後、負傷』といったものであった。

 最初こそ、帝国の先槍て誰ぞ? と思いはしたが、よくよく記憶を思い返してみればコーネリアの筆頭騎士のメガネだったと思い当たり、驚愕。
確かヤツはコーネリアの騎士にならずとも、ラウンズ入りの候補に見込まれる程の手練れではなかったか?

 その騎士に負傷を負わせたのがゼロ、つまりはルルーシュだと言うのだ。
しかも、それだけでは飽き足らず、KMF数騎と互する乱闘を繰り広げた後、戦場から逃げ仰せたと言うおまけ付き。
コーネリア側に慢心があったと考えても、そうは無い戦果であろう。
ルルーシュめ、まさかそれ程までの男に育っておるとは、このシャルル、見誤ったわ!


 ……と感慨に耽る間こそあれ、あれよあれよという内に、黒の騎士団などと言う組織を立ち上げ、それからも次々にゼロの情報は舞い込んでくる。


 曰く、正義の味方、黒の騎士団総帥。

 曰く、神策鬼謀の魔王。

 曰く、不死身のピザ屋ハンター。

 曰く、生身でKMFを破壊する武神。

 曰く、NINJA。


 ―――倅はおかしくなってしまったのであろうか?

 正義の味方なのに、魔王とか呼ばれてるのはまぁ百歩譲って良いとしても、その他あまりの息子の無双っぷり、いや無法っぷりが心配になってきてしまう。

 いやいや、自身で諜報を動かしている訳でもないのだから、話半分に見ておくべきなのであろうが、それにしても、だ。
この情報から判断できる事など、確実にC.C.は息子と一緒にいるという事くらいであろう。

 ……兎も角、コーネリアには及ばぬなど、とんでもない間違いではあったようだ。
それどころかコーネリアの斜め上を突き抜け過ぎて、息子の将器を計る前に、息子の正気を疑う事態である。

 いかん、コトがコトだけに封印した筈の親心が疼きよるわ。

 エリア11に送って数年、息子の身に一体何があったというのか?
もしや、息子は既に正気を失っているのではあるまいか?
大体、NINJAとは言うが、それはIGAなのか? KOUGAなのか? それともバイクなのか?

 ぬぅ、独りで悩んでいても埒があかんか。
ここは一つ、マリアンヌにも相談してみる事としよう。




 ある皇帝の手記 5ページ目

 黄昏の間にて、息子の行状を相談してみたところの妻の反応は、「いいんじゃないかしら」と軽いものだった。

 うむ、軽すぎて儂びっくり。
何故にそんなに軽いのか? と訊いても「息子が強く育っているのに、何がそんなに問題なの?」と、質問を返される始末。

 何がって、余りに強くなられ過ぎると、いずれ儂に直接ケンカ売ってきそうじゃし……。
いやいや、もしそれでも儂らの息子が稀代のカリスマとして反逆してくるならば、口では、この賢しき愚か者がぁッ! とか罵倒しつつも、秘かに立派に育ちよって。とか思えるかも知れんよ?

 けど、いまの息子ってば、“稀代のカリスマ”と言うよりは、“エリア11で僕と握手”的なナニカになっとような気がするんよ。
そんなんにケンカ売られても、儂凄く困る。
それに、これ下手すると息子のギアスは、『身体能力はKMFを圧倒できる程に上がるが、代わりに頭はお花畑』てな感じのヤツで、最悪、既に暴走しているとかも考えられる様な……。

 む、「それはないわ」って、マリアンヌよ、何故そんなに自信満々に。
ぬ? ルルーシュのギアスは絶対遵守とな?
はて? 儂そんな話聞いとったっけ? は? 言い忘れてた?

 ……いやいやいやいや! 待て、マリアンヌ! 
その前に何故ルルーシュのギアス能力を知っておる!?
は? 「C.C.が最後の更新の時に教えくれた」だと?

 そ、そんな大事な話を忘れるんでないわッ!!
それにC.C.は、もうルルーシュの味方なんだから、嘘かも知れんであろうが!
そもそも、現にゼロは生身でKMF撃破なんて離れ業成し遂げとるのだぞ!?
絶対遵守とやらでそんな事ができるとは思えんし、もう一人のゼロ役と思われるC.C.にそれが出来ぬのはマリアンヌ、お前だってわかっておる事だろうが!

 ルルーシュのやつにしてもそうであろう。
例えばお前の身体能力を引き継いでおったのなら、それも可能かも知れん。
しかし、あやつの中身は明らかに儂よりの頭脳派だった筈!
ギアスに頼らずこんな真似が出来るとはとても……って、何? 「なんでゼロがもう一人いるとは考えないのかしら?」だと?


 むぅ。た、確かにそう考えるのが一番自然なのであろう……か?
し、しかし、その推測からすると―――


 〈伝え聞くゼロの情報-ルルーシュとC.C.がゼロを演じていたと予測できる情報=謎の三人目の情報〉


 ―――と、なる訳であるからして、ぬ、要はピザと不死身と神策鬼謀と、まぁ、正義の味方だの魔王だのも抽象的すぎるから除外。
と言うことは、つまり―――


 〈謎の三人目=生身でKMFを破壊する武神、NINJA!〉


 ―――倅の仲間におかしいのがおる。


 ……マ、マリアンヌよ。息子の頭が大丈夫そうな事はわかったが、逆に別の不安が!

 ルルーシュがこの三人目を仲間として扱っとるのか、ギアスの支配下に置いとるのかは判断できん。
が、あのコーネリアの軍に手傷を負わせるまでの策士となったルルーシュが、C.C.とNINJA、この二人を主軸にエリア11の抵抗勢力をとり纏めれば!

 「えぇ、遠くない未来、見過ごせない脅威になると思うわ」……ッ、やはりお前もそう思うか。
うぅむ、これは実に厄介な事になってきおったわ。
適当な相手を宛がって無力化し、儂のギアスで記憶を書き換えた後は、計画成就の時まで大人しくさせておくが無難と思っとったと言うのに。
それを成せるであろうと予測していたコーネリアが、ルルーシュのヤツを御しきれるかわからなくなってきた以上、あやつを押し込める為に何かもう一手打つ必要性も考慮に入れなくてはならなくなってきてしまった。

 だが、傍目にはたかが一エリアへの派兵。
いま赴いているコーネリアでさえ過剰な戦力に見えるコトだろう。
だと言うのに、ここから更に増援を送り注目度を上げてしまえば、まず間違いなく兄さんがルルーシュの存在に気付いてしまう。

 それは、いかん。
儂が心を鬼にしてルルーシュ達をエリア11に追いやった意味がなくなる。
確実に生きとるとわかったならば、その想いは尚更だ。

 なれば、極秘裏にラウンズの誰かを送るか?
いやいや、それも人選を誤ればルルーシュが死んでしまうかも知れん。

 ……匙加減が難しいのう。とんだジレンマよ。

 なぁ、マリアンヌ。お前はどう思う? って、そういやお主さっきから何故にそんな終始にこにこと。
儂らの息子の先行きにてついて真剣に悩んどる最中なのだぞ?
もう少しこu「ラウンズの派遣、良いんじゃない?」、ぬ? 今なんと?

 「だから、ラウンズよ、ラウンズ」って、マリアンヌぅ!?
いや、待て! 「じゃ、さっそく……」ではないわッ!
確かに案の一つとして出してはみたが、下手するとルルーシュが死んでしまうかもしんのだぞ!?
それ故に儂だって苦心して、って、何? 「死んだなら所詮その程度だったと言うことよ」? 「それに私たちの息子なのよ?きっと乗り越えてみせるわ!」?

 ………。

 ……………。

 …………………。

 ……む、ぐ!なんと言うスパルタにして、親バカよ。
余りに無根拠な自信に、最愛の妻の発言と言えど、儂ちょっと固まっちゃったんだぜ?


 まぁ、それは置いて仕切り直すがな、マリアンヌ? 
その自信を信じてラウンズを派遣するのは良いとしてもだ。
もし万が一、それすら兄さんにバレてしまったらどうする?

 目的の為には、儂ら以上に手段を選ばぬ兄さんの事。
気付かれてしまえば、必ずやお前の時の様にルルーシュを害s「なら先にV.V.を消しましょう」…………なぬ?
 



今度こそ儂は固まった。




 ある皇帝の手記 6ページ目

 マリアンヌの『兄さんをぶっ殺そう』発言をうけて数日。
儂は何一つと手に着かず、ただ玉座に身を沈め、黙考に耽る。

 考えるのは、「私、C.C.との連絡が途絶えてから色々と考えてみたんだけど……」などと始まったマリアンヌの提案について。
提案を聞いたままに思い起こせば以下の通りとなる。




 あのね、シャルル。
私たちは計画の為とは言え、ルルーシュとナナリーを捨てたわよね?
計画さえ成就すれば死んでいようが、いまいが究極的には関係ない。
だからこそ、あの子達よりも計画の実行を優先した。

 だと言うのに、実際はV.V.から逃がす為にエリア11送りにしたり、今反逆を始めたルルーシュに思い悩んだり、切り捨てた子供への執着を捨てきれずにいる。
元から親として褒められたものじゃないって自覚はしていたけれど、これって酷い矛盾、いえ、傲慢よね。
あの子たちの立場から見るまでもなく、本当に最低な親だと思うもの。

 でも、そんな傲慢で最低な親でも、C.C.が惹かれる様な男に育った息子を今更ながらに嬉しく、誇らしく思っている事も事実だわ。
計画が完成されて皆が個を失えば、決して見る事の叶わない我が子の将来を夢想している。


 ………いいえ、アナタ。そんな顔をしないで頂戴。
わかっているわ。私たちにとって計画は絶対。
今頃になって親子の情を少し理解した気になったくらいで、中止を唱える気はもちろん無い。

 ただ、思うのよ。
少しだけ考え方を変えてみるのはどうかしら? ってね。

 ねぇ、シャルル。
計画遂行と子供への愛の間でジレンマを抱えるのではなくて、計画は計画。子供への愛は子供への愛。って、傲慢なら傲慢なりに、いっそ開き直ってしまいましょう。
そうして最低の親なりのやり方で、子供達を愛するの。

 私たちは子供達より計画が大事。だから邪魔ならば叩く。
子供達には乗りきれるかはわからない位の困難な試練を与えて、それに叩き潰されてしまえば、やっぱりそれまでの事。

 けれど、その試練と言う名の私たちの愛を乗り越え、もしも私たちを打倒するまでにあの子達が成長してきた時は、私たちの敗け。
潔く子供達の勝利を祝福してあげるの。




 そんなマリアンヌの提案聞いた時、儂は確かに揺れた。
要は考え方を変えるだけの話。詭弁に近いものがある。

 なれど、大事なものを切り捨てて歩んで来た我が道の、これからの過程、結末が、ただ重く遠いものとは違ったものになるのを感じたのもまた事実なのだ。


 ………もし、もし本当にそこまでにルルーシュが成長し、そうして儂を破るとするならば、誠に天晴れと言わざるを得ぬ。
さすれば、儂のこの盲執にも近い想いにも諦めが着くかもしれん。との期待も芽生える。

 が、それを兄さん承諾する筈がないのもまた現実。
儂らがそれで納得したとしても、兄さんは決して諦めない。
故にマリアンヌは、兄さんを消そうなどと言ったのであろうが、儂はただ一人の兄をそう簡単に切り捨てたくはない。

 だからこそ、揺れ動く心の裡に悩む。


 いや、まぁ、悩む理由として、マリアンヌがその後にも、

 『待っていなさいルルーシュ! 母の愛(刺客)があなたを更に強くする! これも教育よ!』とか。

 『そうして次々と与えられる厳しい試練を超え、見るも逞しく育った私の息子と夫が、世界の未来を賭けて激突! あぁ、素敵!』とか。

 『シャルルが勝てば、ラグナレクで予定調和。敗けても精強なる次代皇帝ルルーシュの母! つまり国母ッ! ……ふふっ、完璧だわ!』とか。


 色々はっちゃけてた所為もあるのだが。
……うむ、儂聞いとらん、何も聞いとらんよ?

 と、兎も角。
マリアンヌの話は中々に魅力的だ。
なんとか兄さんの抹殺ではなく、説得と言う形でマリアンヌが折り合いをつけてくれる様ならば、乗ってみるのも悪くはない。

 ……どれ、一つ頼みこむ事とするか。



 で、ブリタニア皇帝にして、夫でもある儂が頭を下げたと言うのに、「イヤよ」の一言で切って捨てられました。
しかも、駄目。ではなく、嫌。

 いや、「考えてみたら私一回殺されてるんだし、私も一回は殺して良いんだったわ」とか言われてもだな。ほら、兄さん幼いし。マリアンヌも精神は生きとるし。

 いやいや、「私が決めたんだから決定よ!」とかそんな無体な。
む? 「大体、もしルルーシュが勝利した時には、腹の一つでも割っ捌いて詫びなきゃ、貴方くびり殺されるわよ」? 「その場合、孫見れないけど良いの?」? 

 ……よ、良くは、無い!
「ならコード奪っとかなきゃ」と言う理屈もわかる!
しかし! しかし、たった一人の兄さんなのだ! マリアンヌ、頼むぅッ!

 せめて、せめて判断はルルーシュが実際に儂を脅かす存在になってからとしてくれまいかッ!?


 結局、兄さんの事は一先ず保留と言う事でマリアンヌは落ち着いてくれた。

 ………幾つか条件をつけられたが、な。




 ある皇帝の手記 7ページ目

 今は兄さんを見逃すからと、マリアンヌが出した条件は三つ。


 一つ目は、ルルーシュに送る刺客の人事権。

 これは良い。
なんだかんだ、マリアンヌはルルーシュを強く育てたくて堪らない様子。
ならばこそ、送る刺客もきちんと段階を踏んだ強さの者とするだろう。
儂が心持ちを僅かに転換したと言うのに、直後あまりの強敵にルルーシュ終了。では、色々と切なすぎる。
その点において、マリアンヌならば上手くやる事であろう。

 二つ目は、アーニャ・アールストレイムのラウンズ昇進。

 これも良いだろう。
実力的には謂わずもがなであるし、そも、まだラウンズでもないと言うのに、ラウンズ詰所のイルバル宮に近頃良く顔を出しておるらしく、ビスマルクのヤツが困っておった。
が、ラウンズにしてしまえばそれも解決。
むしろ、渡りに舟と言うやつよ。


 故に、問題があるとすれば三つ目の提案。

 『V.V.の所に、ロロって男の子がいるから、その子を連れて来て頂戴。あっ、その子、絶対停止のギアス持ってる筈だから、V.V.にそう言えばわかるわ』

 だそうで。

 まぁ、何故そんな事知っとるのかは、Cの世界通信かなんかであろう、と納得しよう。マリアンヌ怖いし。
しかし、何故そのロロとやらを名指しなのか、今一わからん。
マリアンヌは『もし私たちが敗けてしまった時の保険その1』とかなんとか言っておったが、うぅむ。


 考えておる内に兄さんが来た。
さて、嘘は吐きたくないが、どうやってマリアンヌの事を伏せたまま、ロロと言う能力者を借り受けたものか。

 兄さん、実はですね……。




 ある皇帝の手記 8ページ目

 借り受け自体は、案外簡単に出来た。
ちょっと人が要るんで、こういう感じのギアス能力者いたら貸して欲しいのですが、と頼んだところ。
あっさりと「あぁ、ならロロがいるね。今は使ってないし良いよ」と置いて行ってくれた……のだが。


 「あ、あの、それで僕は何をすれば……」と、兄さんに何か言われたのか戦々恐々と儂を見上げてくる、どこかナナリーを彷彿とさせる容姿のこの子供。


 一人称は僕、とか言ってますが、どう見ても少女です。本当にありがとうございました。……とか言っとる場合ではなく。


 いかんな。
ロロと言う名前と、ギアス能力の一致で完全に安心しとったが、まさか性別が違うとは。
マリアンヌの出した条件は男。
兄さんにも今更なんといって交換を頼めば良いか皆目検討もつかんし。

 ……と、とりあえずロロ違いとは言え、マリアンヌのトコに連れて行ってみるしかあるまい。うむ!



 と言うことでマリアンヌさん、ご希望のロロ一丁お届けにあがりましたぁー!
しかしスマン! 女であったわ!
でもあの、名前ロロだし、絶対停止使えるみたいなんで、どうか兄さんの命だけわぁ!!
と、素早く土下座。


 そうして頭を下げたまま十秒程待ってみるも無言。
駄目か! と思いながら恐る恐る顔を上げてみると、予想に反し瞳を輝かした妻がおり、次の瞬間、


 「ナナリーの対抗馬ktkr!!」


 とか叫んでおりましたとさ。

 ……ぬ? 儂、と言うか兄さん助かった?
バン、バン、と儂の肩を叩き、「GJよ! なんでTSしてるのかわからないけど、むしろこっちでOK! シャルル、GJ!!」と興奮しているマリアンヌを見るに、首が繋がったようではある。

 アーニャ・アールストレイムの影響か、あまり意味のわからぬ言葉を遣うのはいただけんが、指摘して機嫌を損ねては元も子もない。
マリアンヌの返答が変わらぬ内に、撤退させて貰うとしよう。

 後ろからは、「ロロ、今から私を母と呼びなさい」とか、「これから私が、貴女をナナリーにも劣らぬ妹へと教育してみせる!」とか自称母のトチ狂った決意表明に困惑する少女ロロの悲鳴が聞こえたが、やはり儂も我が身は可愛いのだ。許して欲しい。

 後、今更ながら、あまりのマリアンヌ出現率に、アーニャ・アールストレイムがどうなっとるのかが気になるわ。
ギアスで誤魔化すの儂なんだし、少し自重してくれんもんかのぅ。




 ある皇帝の手記 9ページ目

 黄昏の間よりロロと言う子羊を生け贄として脱出してから数日。
事態は更なる風雲急を告げた。


 コーネリアがエリア11にて最大の抵抗勢力壊滅に乗り出すというから、ほぼ間違いなくルルーシュのヤツも動くと推測。
ヌゥハハ! ルルゥーシュよぉ、見事コーネリアを降し、まずは一歩、この父に近付いてみるが良いわぁッ! とか玉座でふんぞり反っとったら、それは来た。

 鬼気迫る形相で、「陛下、私にエリア11行きの御許可を!」と詰め寄って来た女騎士の名は、モニカ・クルシェフスキー。
ラウンズの十二席を与えた儂の騎士で、即ち、帝国最強の一人。

 そんなのを今コーネリアを相手取るのにいっぱいいっぱいになっとる筈のルルーシュのところに送ったら、折角息子の成長も楽しもうと決めた矢先に、ゲームオーバーな可能性大である。

 だから儂は言った。ならん、と。
けど、聞いとらんのよ、この娘。

 何故かは知らんが「ゼロを殺すのは私です!」とか本気で息巻くクルシェフスキー。
こんな性格ではなかった筈だが、今や目が爛々と輝き、奥底に渦巻く情念が透けて見える。

 はっきり言って怖い。
け、気圧されるぅ? 儂ゃ、皇帝陛下の筈なのにぃ!? とか心の中でチビる位に怖い。

 怖い、が、もう『殺す』とか単語言っとる時点で儂的にアウトなんで、頑張った。
お前にはロイヤルガード任せておるのに、そんな事言うのは職務怠慢であろうが! とか叱りつけた。


 しかし、まぁ、それでも駄目であった。


 何故かって?
だってクルシェフスキーのヤツがこう言いおったんよ。「奥様の許しは得ております!」って。


 『条件その一:刺客の人事はマリアンヌに一任』


 ふっ、そうと知れた時点で白旗を挙げるしかなかったわ。
成る程、イルバル宮に頻繁に出入りしとったのは、この仕込みであった訳だ。
仕方無し、と、クルシェフスキー単身でと言う条件付きで許可を出さざるを得なかった。

 こんな父を赦せ、ルルーシュよ。
お前なら、きっとどうにかはなると信じておる。



 ……にしても、わからぬのはマリアンヌよ。
初っぱなの刺客からあんなにも、ルル狩るマジ狩る、な強敵を据えるとは、どう考えったって成長を促す前に殺りにいっとるとしか思えん。

 例えば、同じラウンズでもヴァインベルグとかならば、儂もここまで渋りはせんかった。
返り討ちにされて「本気だしときゃ良かった」と負け惜しみ言っとるところも割と想像がつくしなぁ。

 ふぅむ、やはり一人目からクルシェフスキーは、ちとスパルタが過ぎようと言うもの。
両親の教育方針の齟齬は、子供の成長にも悪影響を及ぼす場合があると聞く。
ルルーシュは今回ので駄目かもしれんが、残るナナリーの為にも、そこら辺の不和は解消しておくべきであろう。


 そう決意し、あれ以来マリアンヌが籠りっぱなしである黄昏の間に訪れてはみたのだが―――


 『え、えっと。……にい、さん?』

 『ダメよ、全くなっていない! そんな事でルルーシュを陥落させられると思って!?』

 『ひッ…! ご、ごめんなさぃ』

 『……ッ! そう、それ! その媚びが重要なのよ、ロロ!』


 ―――取り込み中の様なので、またの機会としよう。

 ぶるぁ。妻がわからぬ。




 ある皇帝の手記 10ページ目

 後日、エリア11より届いたのは『モニカ・クルシェフスキー卿、M.I.A』の報せ。
兄さん、妻のスパルタでも、息子はなんら問題なく育つ事が証明されてしまいました。

 それを受けたマリアンヌも「まだよ! 例えモニカが敗れようとも、第二、第三の刺客が……!」とノリノリです。

 もう、放っておこうと思います。







  色欲のルルーシュ Return???『FLUKE REBELLION ~1~』 おわり







 あとがき

 陛下、誕生日おめでとう。
今日、新シリーズが告知されたとか、されないとか、よくわかりませんがホントなら嬉しい限り。お久しぶりです。どうも鈴木です。
久しぶりなのに、期待してくれていたかも知れないモニカの修羅場でなくてごめんなさい。エロくなくてごめんなさい。
まずは、ここまで遅れたにも関わらず感想下さった方、読んで下さった方に感謝を。

 で、今回。
更新しなかった間に設定を少し練り直したからこその、明日の為のその1、と言うことで今回の話如何でしたでしょう?
前回の更新時に頂いた感想で、『原作の設定をちゃんと考えてる』的なお言葉が非常に嬉しく、心に残ったんですが、さっそく設定を考えずの内容になった事、お詫びします。
それでも良きゃ、見てやって下さい。
タイトルは良いのが浮かばなかったんでスルーの方向で。

 あと先に、もしかしたら反応があるんじゃないかと思っている二つだけ。
マリアンヌ→戻って来てるが別に近親行為に及んではいない。
TS→もうこれ以上はない。
マリアンヌ逆行とロロTSの理由につきましては、(大したタネもないですが)これからの物語上で明かしていきたいと思ってますので、どぞヨロシクです。
それでも反応が恐くて仕方無いところではありますが、忌憚無きご意見お待ちしています。
もちろんその他、皇帝の口調だとか、もっと単純に設定、文章だとか、気になるところビシバシご指摘頂けると嬉しいです。

 で、次。
長期更新停止の理由を簡潔に。

 私は、携帯のmdをデータとか入れるのに活用してるんですが、書いてるモノもそこに入れてました。これが失敗。
この前(今回もですが)ネカフェで更新。→更新後、飲む。→携帯失くす。(記憶も失くす。)→翌日気付く。→探す。→無い。→どこをどう探しても本当に無い。→事ここに至り、中に入ってたエロデータとかも携帯のアドレスを通じて仲間内(特に職場)に広められたらどうしよう? とか、しなくても良い心配をしだす。→鬱だ、ちのうorz →試合終了。

 まぁ、結局特に何もなく、見つからないまま時が過ぎ、その間にDTB2始まったり、村正が蜘蛛カワイかったり、劇場版の青バジュラとグレイスおっぱいが素晴らしかったりで、心の傷も癒えたんで再開します。

 んじゃ、毎度のことで長くなりましたが、最後にもう一度、感謝を。
読んで下さった方、感想下さった方、ありがとうございました。
特に感想! 凄い救われました。
これからもよろしくお願いします。

 では、次回こそナリタの続き!
そんな遅くならない内に、また。













[4438] 色欲のルルーシュ Return10『ナリタ 逃亡戦』 加筆分追加
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:a73c8cd5
Date: 2010/05/30 10:21
 ※1なるべく直接的な描写は避けましたが、グロイかもです。苦手な方はご注意下さい。
 
 ※2作者は、ギアスキャラは皆好きです。他意はありません。

 ※3前半部分を読むにあたり、【後部座席でただ喚いてるだけのルルーシュと、そんなルルーシュの相手をしてやりながら、黙々と操縦するC.C.】という絵を想像しながら読むと、少しは楽しめると思います。

 ※4加筆分は前回更新分の下にありますので、既にお読みになっている方はそこまでスクロールして頂ければオーケーです。







 ブリタニアでも名家に数えられるクルシェフスキー家。
私はその長女として生を受けた。
ある程度の爵位を持つ家に産まれた女児の慣例として、特定の年齢に達した後は、皇族の宮への行儀見習いとして送られ、そこで過ごした幼少期。

 行儀見習いを終えれば、そのまま宮仕えとして働くか、家名を背負い貴族の令嬢として社交の場に出るか。
迫られた選択を前に、どちらも選ばず軍人を志せたのは、ブリタニアに弱肉強食の国是があったから。
女であっても、他より勝れていれば自身の力で高い地位を挑(のぞ)める国。
例え軍に於いても、否、軍だからこそそこに例外はなく、事実、前例として武勲を以てその名を轟かせる女傑は何人か存在していた。

 そんな先達に憧れるままに士官学校への入学を決めた私に、当然の如く両親は嘆いた。
なぜ態々軍になど!? と言う言葉から始まって、お前であれば皇族へ嫁ぐことさえ出来るだろうに! なんて言葉まで。
家格を上げたいと願うのは貴族の常。
もちろん、クルシェフスキー家の長女である私に寄せる両親の期待―――即ち、より高い位の家との娘の婚姻による結び付きを願う気持ち―――の大きさは充分に理解していた。
それでも、それに従わず軍人の道を選んだのは、気質、としか言い様がない。
もしかすれば、親の言うがままに好きでもない男と契るなど、と。貴族としての自覚無い幼稚な反抗心もあったのだろうか。

 とにかく、両親に自分の選んだ道に間違いはないのだ証明する為にも、私は己の優秀さを誇示し続けた。
そして掴み取ったのは、名門ボワルセル士官学校首席卒業という経歴。
エニアグラム卿や、ファランクス卿、そしてコーネリア皇女殿下と、ボワルセルにてこれを成した女性達が、どの様な地位にいるのか、そこからどの様な地位に就くであろうかは語るまでもなく。
この頃には、両親からの嘆きの声もすっかり消えていた。

 周囲からの雑音より解放された私は、勝ち取った立場の限り、自由を謳歌したと思う。
只の貴族令嬢として過ごしていれば、家柄と言う括りに邪魔されたであろう恋に身を焦がした事もあったし、軍人としての転属という形ではあっても、ブリタニアの外の世界を様々に見て回る事も出来た。

 そうこうしている内、各地での戦線で積み重ねた武功を認められ、ブリタニア軍人としての最高位たるラウンズの第十二席を賜る事が出来た。
ナイト・オブ・トゥエルブ。
登り詰めた座は、掛け値無しに誇れるもの。
地位に見合った重責すらも心地好く、国を、その頂点たる皇帝を護る事に全霊を費やした。


 けれど、そんな生前の、……いや、“一度目”の人生における私の絶頂は、余りに短く終わりを告げる。


 世界の変革は突然に。
エリア11にて、ゼロと名乗る仮面の男が巻き起こした反乱から、約一年。
たったそれだけの期間に、如何なる事があろうと変わらなかった世界のパワーバランスは塗り替えられた。
全てを巻き込んだ動乱の中で、ブリタニアに終末を齎したのは、騎士であるならば知らぬ者のないであろう、閃光のマリアンヌを母に持つ悲劇の皇族。死んだ筈の皇子。
名をルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

 突如として表舞台に立った彼は、堂々と帝位の簒奪を宣言。
私達の同胞である筈の枢木スザクを騎士として従え、ブリタニアと言う国のこれまでの在り方を嘲笑うかの如く破壊した。

 そうして、ブリタニアの貴族として、シャルル陛下のラウンズとして、それを認められなかった私にも、あっさりと訪れる終幕。
ヴァルトシュタイン卿の指揮の下、シャルル皇帝に忠誠を誓うラウンズの総力を挙げて赴いた決戦の場にて、ただ一人の騎士が駆る、ただ一騎のKMFにより私達は殲滅された。

 予想外だったのは、その後の事。
無念を抱き、自機の爆発に飲み込まれる形で終わりを迎えたであろう筈の私の自意識に続きがあった事だ。

 Cの世界。
最期を迎えた個人の意識が行き着く場所。
天国とも地獄とも知れぬ死後の世界。

 そこで私は知った。
全て、とまでは言えずとも、私達が生きていた世界のからくりと、今まで起きていた戦争の舞台裏を。
ギアス。
コード。
シャルル皇帝の行おうとしていた事。
ゼロの正体。
ルルーシュの願い。
計画を挫かれ、最早何一つの干渉すら叶わぬ立場に置かれた故か、シャルル皇帝や、共に計画に携わった者達から、訊ねれば隠す事無く語られた、荒唐無稽な真実の話。

 聞けば、困惑しかなかった。
真実を知れば、もし真実を知っていれば、私はシャルル皇帝に忠誠を誓い続けられただろうか?
ゼロを、ルルーシュを、単純に己の敵として見れただろうか?

 シャルル皇帝には感謝がある。
母国の発展と、それに伴う臣民として受けた恩恵。騎士として賜った地位と名誉。
だからこその忠誠。

 ルルーシュには怒りがある。
ゼロの反乱によって帰らぬ人となった戦友達。帝位簒奪により奪われた母国の在り方、自身の命。
だからこその憎悪。

 けれど、真実の一端を知り、少なからず浮かんでしまう感情。
シャルル皇帝の計画に対する反感と、それを阻もうとしたルルーシュへの共感。

 余りに滑稽だった。
知らなかった事、知れなかった事を、私は悔やみ。
生きて、事情を知っていれば私はどうしただろう? と、死んだ後に考える必要もない事を“今更だ”と笑い飛ばす事も出来ずに思い悩んで……。


 そんな私自身すら納まりの着かない心情を持て余していた時に起きたのが、ルルーシュの死。ゼロレクイエム。


 悪逆皇帝と、人々に恐れられた男の最期。
束の間の平穏と、それを維持する為の一人の英雄を産み出す為に、命を捨てる。
恐らくは、歴史上にすら前例の無いだろう世界全てを観客とした壮大な茶番劇。

 死を代償に名を残す事を誉れと感じる者はいるだろう。
自らの死に価値を見い出す者もいるだろう。
しかし、彼に残るのは汚名。
見い出した価値であろう世界の平穏も、如何な形であれ世界統一の偉業を成した己が今生を投げ出す程に欲する様なものなのか?
自身が手にした地位と秤にかけて尚、憎しみを一身に背負った最期は希求するに値するものだったのか?

 理解の及ばぬ選択。私には出来ない。
いや、そもそも自分が彼の立場にいたとしても、実行に移そうなどとは露とも考えないであろう。

 しかし、ルルーシュは己が命でゼロレクイエムと言う結果を既に選びだしていた。
事実として見せ付けられたその生き様は、あまりにも鮮烈で。
己に理解できない在り方の、その最たるものだからこそ、彼に一方ならぬ関心を持った。

 最初に始めたのは、遠くから様子を覗う事。
ルルーシュは、彼を慕う数人の者達と穏やかに暮らしながらも、時に一人、かつて生きた世界を眺める事でCの世界での時間を過ごしていた。
そうやって見るルルーシュは、本当に歳相応の少年にしか見えず、それだけにふとした瞬間覗く、物憂げな表情が際立っていた。
それが何故か胸を締め付けたから、私が彼に話し掛ける様になるまでも、そう長い時間は要らなかった。

 「誰かと思えばラウンズか。恨みを晴らしにでも来たのか?」なんて皮肉げな言葉が、ルルーシュと交わした言葉の初め。
尤も、ここでは殺されてやることも儘ならないが………、と苦笑する彼に、私も強張った顔で相対したのは、記憶に新しい。
敵同士。討った者と、討たれた者。
Cの世界なんて自意識の延長線上にある世界に住む以上、死んで全てをリセットなんて事は誰にも出来やしない。
必ずや引き摺ってしまう生前の遺恨、柵で、私達の初の接触は、それはそれは刺々しいものだった。

 けれど、話がしたかった。
彼の口から聞きたかった。
稀代の悪役が、何を考え、何を思ったのか。

 だから告げた。
険悪な雰囲気の中、馬鹿正直に、話がしたい、と。
それが、余程彼の意表をついたのだろうか?
一瞬、表情から警戒が零れ落ちた、生のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアのマヌケ顔は、それはもう見物と言う他なく。
毒気を抜かれ思わず吹き出した私と、それに憮然としながらも、自身の隣に座るよう促してきた彼と……。

 それから、彼が一人で過ごしている時決まって彼の元を訪れる様になった私に、彼はぽつりぽつりと全てを語ってくれた。

 ブリタニアへの憎しみ。
大切な人達の死。
戦いを始めた責任。
ギアスを使った事へのケジメ。
守りたかったモノと、欲しかった明日。
ルルーシュ自身の口から吐露された、その心情。


 話を聞き終えた私が、接触を試みた当初期待した彼の行いに対する理解や納得を得る事は、遂になかった。
わかったものなんて、彼の僅かな為人くらいのものしかない。
けれど、それを残念に思う気持ちが沸き上がっては来なかったのは、無辜の人々を犠牲にしたきた事への罪悪を過去に置き去りする様な人間でなかったと知れただけで、生前の無念が僅かに晴れた気がしたから。
彼と言葉を交わす内、理解できずとも、それを好ましく想う感情が芽生え初めていたから。

 そんな風に始まったルルーシュとの時間は、やがて私にとって得難い一時となっていった。
Cの世界での語らいは続く。
訪ねる口実が尽きた後にも、私は足繁く彼の元へと足を運び、他愛ない日常の一幕を話して、話されて。
色々な事を話す内、ルルーシュに惹かれる自分を自覚した。

 ある時は、冷静、冷徹を絵に描いた様な容姿をしている彼の、それを裏切る内面の激情を知った。
ある時は、遺してきた人を憂い沈む彼の、その覗く弱さに母性を疼かされた。
誰よりも人を思い遣りながら、誰よりも傲慢で。
誰よりも賢しく在りながら、誰よりも不器用。
そんなルルーシュの抱えるパラドックスにさえ、途方もない魅力を覚えた。

 そうやって、過ごす時間が長くなれば、親密さもそれに比例する。
それは彼も同じだったのだろうか。
会話の最中、歳相応の下心が垣間見える様になり。
それでも、それに嫌悪を感じる事なく、可愛らしいとすら思った時点で、私は既に恋に堕ちていたのだろう。

 後は駆け引きだった。
曲がりなりにも年上の女であるプライドが、惚れるが侭に彼の言いなりでは情けないと囁く。
私に欲(よく)する彼と、彼を欲(ほっ)する私。
籠絡するのか、されるのか。
仇でもあるルルーシュと想い結ばれる事に対する、ブリタニアの同胞達への後ろめたさ。
そんなジレンマを匂わせる私を、見た目程に女を口説き慣れていないと思われるルルーシュが、どうやってその気にさせてくれるのか。
そんなやりとりを我知らず楽しんだ。

 結果、仲間への背信を渋る私に、焦らし過ぎた為か余裕を失ったルルーシュが発した「俺のギアスにかかってしまえば良い」なんて台詞に私は負けた。
実際にはギアスなど発動していない彼の、無茶苦茶な―――ともすれば、失笑しか出来ない様な物言いではあったけれど。
その瞳の強さに、私を求めてくれているとわかる、その想いの発露に貫かれて、「あぁ、もう良いか」なんて思わされてしまったのだ。


 そこからは早かった。
彼に体を赦し、想いを交わし合う様になってすぐ、私の身と心は取り返しのつかないまでに彼に溺れたのだ。
リードしてあげよう、なんて考えていたのが馬鹿馬鹿しくなる位に、焦がれていた男は巧みだった。
辿々しく私を口説いていた、あの初々しさはなんだったのか? と思わせる程、事肉体関係においてのルルーシュは、驚くべき情熱と執拗さで私を責め立てた。
行為の最中、「お前は俺のものだ」と呟く彼の低い声を今でも鮮明に思い出せる。
呟かれる度、私自身も心の中でこう思っていた。

 そうだ。そして、ルルーシュ。アナタも私のものだ、と。

 そう思ってしまった時から、騎士としても、女としても、心身の制御を徹底してきた筈の私の裡に、御する事の敵わない魔物が巣食い始めた。
宿主の思惑を無視して際限ない肥大を続けるそれは、情愛のリヴァイアサン。
想いは加速度的に大きくなっていく。

 そして、彼が、シャーリーという少女や、ユーフェミア皇女殿下と共にいるところを目にしただけで、経験のない不安と怒りが胸に渦巻くまでになった頃、とうとう私の頭に独占の二文字が過り始める。
どんな形でも良い。ルルーシュを独占出来たなら、この怒りも不安も溶けて消えるに違いない、と。
一度考えれば、そう願うのを止められなくなった。
彼は嘘吐きだと知るが故、手遅れになる前に、私と彼だけの“絶対”が―――



 ―――そうして今、二度目の生を私は生きている。
赴いたのはナリタ。
ここならば、ゼロに確実に逢える。

 過去に経ち返った事に困惑するのはもう止めた。
0に戻ったルルーシュとの関係を悲しむのも、私の識る前回との差異に“彼”も戻ってきているかもと希望を見い出すのも、そんな“彼”の身の安全を願うのも、ぜんぶぜんぶ止めにした。

 何故なら、マリアンヌ様が言っていたから。
同じ様に戻ってきていた彼女の口から聞いたのだ。
彼女が知る限りのCの世界でのルルーシュの嘘は全部。

 私が危惧していた通りの二人。
シャーリー・フェネットと、ユーフェミア・リ・ブリタニア。
もしかしたら、他にもいっぱい。
ルルーシュは、あの手で、あの声で、私以外の女に愛を囁いた。

 言った筈だ。言った筈だ。言った筈だ。

 一度ならず二度。
二度ならず三度。
それこそ数を数えるのも馬鹿らしくなるまで、「浮気をしたら殺す」って。

 だから実行する事にした。
幸いにマリアンヌ様からも「好きにして良いわよ」と許可も出ている。邪魔はない。
突然のラウンズ参加にコーネリア殿下は良い顔をしなかったけれど、それも知ったことじゃない。

 私が望むのはただ一つ。
恐らくは戻ってきている“彼”をこの手で殺して、私も死ぬのだ。
そうすれば、Cの世界には、今度こそ私達の二人だけ。
他に雑音のないそこで、“彼”に刻み付けるのは私の愛と、苛立ちの全て。

 そうして“彼”がわかってくれたなら、後は時間の許す限りを二人きりで幸せに過ごそう。
そこまでして初めて、私は“絶対”を手に入れられる。

 その為なら、他の一切は無視できる。
一度殴るだけで、枢木スザクに殺された恨みを忘れてやる事も。
顔を会わせば殺してしまうかも知れない、ユーフェミア・リ・ブリタニアへの顔見せを辞退して、敢えて彼女を見逃す事も。

 だって、殺せばCの世界に異物が混ざる。
そう考えるから、我慢する。無視できる。

 心の裡のリヴァイアサンが牙を剥くのは唯一一人だけ。
自壊寸前まで高まった愛憎の全ては“彼”にだけぶつける為のもの。


 ねぇ、ルルーシュ君。
この情動。この執着。
私自身でも信じられない程に狂的なこの想いは、いったいモニカ・クルシェフスキーのどこに眠っていたのでしょうね?

 答えは簡単。
自制も利かぬ程に楔打たれた想いの原因なんて、アナタのギアス以外に有り得ない。有り得ちゃいけない。
私は確りとアナタにギアスを使われていたという事でしょう?

 だから、私に掛けた誓約の責任は、アナタがなんと言おうが果たして貰うわ。


 ほら、もうすぐあえる。

 もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ、もうすぐもうすぐもうすぐもうすぐもうすぐもうすぐもうすぐもうすぐもうすぐもうすぐもうすぐ――――――みつけたっ!








 色欲のルルーシュ Return10『ナリタ 逃亡戦』










 ナリタ作戦当日6ページ目

 俺が初めてモニカと会話を交わしたのは、Cの世界にて。
良くも悪くも俺の名は知れ渡っていたからこそ、興味を持たれる事もそう珍しい事では無い。

 Cの世界では、ゼロレクイエムの真相も皆が知る事実だったとは言え、俺が行った悪事は確たるもので。
大半の人間が畏れ、忌み嫌い、俺から距離を置く中、それでも稀に接触を図ってくる者もいた。
モニカもそんな内の一人だ。

 ナナリーがスザクの毒牙にかかった直後で、酷く塞ぎこんでいた俺は、声を掛けてきたモニカの扱いにえらく苦心したのを良く覚えている。
怨み辛みをぶつけられるのには慣れていたが、「話がしたい」などと言ってきたのは、シャーリー達を除けば、それこそ彼女が初めてで、だからこそ対応に困った。
いや、傷心の俺は煩わしいとすら思っていた筈だ。

 それが一転したのは、シャーリー達と関係を持ち、シャルルにブリタニアン性術を習い始めてから。
あの時の俺は今考えれば、どうにかしていたと思う。

 シャーリー達を悦ばせたいが為のブリタニアン性術だったと言うのに、その力を他で試してみたくて仕方がなかったのだ。
クソ親父に、「デフォで好感度の高い処女を何人喰ったところで、儂の足下にすら及ばぬわぁ!」と挑発された所為もあるだろう。
だからこそ、初めから俺に好意を持っている訳でもなく、それなりに経験もありそうで、しかも美人なモニカを、俺は格好の標的と見定めたのだ。
しかも年上である。
シャーリーは同い年で、ユフィは年下。
モニカを制すれば、晴れて俺的なグランドスラム達成となれば、燃え上がらない方がどうかしているし、事実燃え上がった。

 それからは、性交渉まで漕ぎ着けるのが手間取ったとは言え、いざそういう関係になればこちらの独壇場。
既に免許皆伝も近かった俺の性技能は、如何にラウンズまで登り詰めた女傑と言えど容易に打ち倒せる程に高まっていた。

 だが、これが悪因の一つだった。

 何せ高まった俺の技能は、回数を重ねる度、ベッドの上でのモニカを従順で献身的にしていく。
これ程の良い女を思うが侭に躾られるとは、凄いぞブリタニアン性術。凄いぞ俺! とばかりに調子に乗っていった俺は、それ故に気付く事が出来なかったのだ。
所謂引き際というやつを、既に見誤まっていた事に……。

 気付いた時には全てが手遅れ。後の祭だ。
モニカが俺に向ける想いは病的で、致命的なまでに育まれてしまっていた。

 会話の中で少し他の女の名前がでようものなら、瞳が闇を孕んで濁り出す。
「殺すから」「殺しちゃう」「殺させないで」なんて、本気の殺意と共に零されれば、本当の事など言える筈もない。
シャーリーやユフィという、モニカとの関係が始まる前から側にいた二人すら、友人、妹と言う建前で普段共にいる事を目溢しして貰えているという状況だったのだ。
他がバレればどうなるか? と言う想像は、俺に日記に記す事すら憚られる程の、途轍もないストレスを与えた。
ロロのヤツに後ろの穴をつけ狙われるよりキツかったと言えば、俺がどんなに追い詰められていたかわかって貰えると思う。

 そんな悩みの種。
Cの世界から戻ってきてからは、忘れていた、いや、忘れた事にしていたかった女。
ワイアードである可能性から敢えて目を背け続けていたその女が、今目前にいて、しかも覚悟完了の気概を醸している。


 ど、どうするべきだ? と、何度も自分に問い掛ける。
落ち着け、落ち着くんだ。
まだチェックには程遠い筈。
まずは現状を把握しよう。
事ここに至り、自体は最悪を想定して動くべきだ。
即ち、考えたくもないが、モニカは俺の女性関係を知っていて、それだけでなく、俺がやり直している事も知っている、と仮定しよう。
となれば、モニカは宣言通り俺を殺しに来たと見て間違いない。

 ならば、戦うにしろ、言い訳をするにしろ、逃げるにしろ、俺の正体を知るモニカを、完全忠犬化計画進行中のカレンと何時まで接触させておくのはマズい。
ここで正体を暴露され全てをご破算にされる位ならば、例え紅蓮と言う盾を失ってもカレンを遠ざけた方が身動きも取りやすい!

 そうと決まれば………、Q―1! そのKMFは私に任せ、君は手筈通りコーネリアの確保に向かえ! と内部通信で指示を出す。
しかし、返ってきたのは、「で、でも、コイツ強い!もし貴方が……」なんて戸惑いの声。
くっ、その心配そうな調子、嬉しくはあるが今は素直に従って欲しいところだ。
仕方ない。ここはもう一押し、私がラウンズ如きに遅れをとるとでも? とでも言っておk「思いません!」って即答とはな。
随分と過大に勘違いをされているが、今回は利用させて貰おう。

 ならば、自らの役割を果たせ! と檄を飛ばせば、カレンは直ぐ様グロースターから距離を取り、コーネリアへと紅蓮を走らせる。
フッ、良い切り替えの早さ。それでこそ我が騎士(予定)だ。
だがな、カレン。『ゼロッ、どうかご無事で!』なんて、わざわざ外部スピーカーで叫んでくれるな。
お陰で、グロースターから『ふふ、随分手懐けるのが早いのね』なんて呪詛が聞こえてくるじゃないか。

 だが、これで確信は更に強まった。
コーネリアにとって最大の脅威である紅蓮をあっさりと見逃したモニカ。
ラウンズにあるまじきその選択の真意は、つまり、『あはっ。これで邪魔者はいない』………と、聞こえてきた言葉の通りなのだろう。

 む、妙だな。幾多の修羅場を潜り抜けてきたこの俺が、この程度のピンチで手の震えを止められないとは。
ん? なんだ、C.C.?
は? 「修羅場違いだからじゃないか?」? お前少し黙っていろ!
人が必死に平静を保とうとしているんだから茶化すんじゃない!
ほら! お前の所為で震えが足にまで……。くそ、精神の均衡が崩れそうだ。

 いやいや、とにかくカレンを遠ざける事に成功して選択の幅は広がったんだ。
後は落ち着いて。
そうだ、落ち着いて、落ち着いて、落ち着いて、落ち着け、落ち着け、落ち着け落ち着けおちつ―――




 ナリタ作戦当日?ページ目

 己の脳内に設けられた緊急対策会議室。
ここは、ルルーシュのルルーシュによるルルーシュの為の行動方針を決定する為、俺を構成するあらゆるルルーシュ達が意見を戦わせる場だ。

 出席者を順に挙げれば、まず常に背水の陣な心持ちで強引にでも覇道を突き進む皇帝ルルーシュ。
女に興味ありません、と硬派を気取る思春期の中学生みたいなルルーシュだ。
やり直す前の俺の残滓が一番強く残ったルルーシュと言える。

 次が、勝つ為ならば手段を選ばぬ非情なる策略家、ゼロルルーシュ。
俺の最も冷酷な部分が具現化したルルーシュであり、実際に俺が立案する戦略の基本骨子を司るルルーシュ。

 次、エロルルーシュs。
名の通り俺の性欲を司るルルーシュ達であり、何故複数形かと言えばCの世界で色恋に目覚めた勢いに乗り、いつの間にかこの会議での議席数を三席も獲得していた連中だからである。

 次、幼ルルーシュs。
幼き頃の姿をした皇子時代のルルーシュ達で、ナナリーこそが世界の中心であり至上と掲げる者達だ。
議席数は四。
当然、我が心の最大派閥でもある。

 最後が、学生ルルーシュ。
事なかれ主義のルルーシュ。
斜に構えた態度をとってはいるが、平和ならそれで良いと思っている一学生であり、この会議きっての穏健派。

 そして、そんなルルーシュ達での会議を纏め、進行を執り行う俺こそが、出席者達の全人格を併せ持つ議長ルルーシュである。


 ―――と、紹介も済んだところで早速今回の議題、『モニカと対しているこの状況にどう対処するか?』について話し合いたいと思う。
全員の意見を踏まえたいと思うので、右の皇帝ルルーシュから忌憚なき意見を。


 「意見? 意見だと? 決まっている。情を交わした女とて我が覇道の妨げとなるなら容赦するべきではないッ! 交戦し撃退するまでの事!!」


 まぁ、交戦したとしてもラウンズのモニカに勝てそうにないからのこの会議な訳だが……。
それを言えば「ラウンズならば尚の事、皇帝たる俺に刃を向けるなど……!」とか喚き始めたが、無視。
第一、未だ皇帝じゃないしな。

 皇帝ルルーシュはこう言っているが、ゼロルルーシュ、如何か?


 「私は撤退を進言する。モニカに正体が知られている以上、某かの対処は必要だろうが、今は状況が悪い。ここはなんとしても逃げ切り、対策を講じるべきだ」


 ふむ、流石知性派。冷静な判断と言えよう。
真逆の意見な皇帝ルルーシュに噛み付かれて言い合いを始めたゼロルルーシュから視線を外し、次のエロルルーシュ達に発言を求め―――


「やっぱりおっぱいならミレイだろう」「いや待て。胸ならばセシルを忘れて貰っては困るな」「大きさが正義だと誰が決めた! 形や感度も大事だろうに」「セシルと言えば尻も良い感じだ」「カレンも中々に引き締まった良い尻をしているぞ」「尻の話をしていながらC.C.の名前が出ないとは、なんたる愚かしさ!」「おい、それより議長ルルーシュが何か言っているぞ?モニカがどうとか……」「モニカか。……あれもまた美乳だったな」「あぁ、そして美尻でもあったな」


―――ようとしたが、他の議題に忙しい様なので次、幼ルルーシュ。


「モニカとかどうでも良い。僕らは早くナナリーに逢いたいだけだ」「そうだ。だから撤退だ! 僕が決めたんだから決定だ!」「そんな事よりエロルルーシュのヤツら、美乳美尻の話をしていながらナナリーの名前を出さないなんて……!」「なんだと!? これだから下半身でものを考えるエロルルーシュどもは!」


 そのままエロルルーシュ達の猥談に乱入する幼ルルーシュ達。
皇帝とゼロもまだ意見闘わせてるし、会議場がどんどん体裁を失っていく。
まぁ、いいか。幼ルルーシュ達の意見も撤退、と。

 さて、学生ルルーシュ。お前の意見はどうだ?


「ナリタが終わったら今度こそシャーリーとデートなんだ。あんな危険な女を相手していられるか! 撤退だ!」


 と言うことは、結果として交戦1、撤退6、無効票3。
集計通り、ここは無難に撤退するべきだろう。
皇帝ルルーシュがまだ「この俺が敵に背を向けるなど……!」と騒いでいるが、この議会の決定は絶対である。
交戦交戦煩い皇帝ルルーシュは他のルルーシュ達が取り抑え、早いトコ決定しろ、と俺に視線を向けてくる事もあるし……。

 それに従い、議長としての決定を通達しようとしたところで、突如ナニカが会議場の天井を突き破り飛来した。
そのナニカは皇帝ルルーシュを守るような位置取りでこちらに銃口を向ける白いKMF。

 『皇帝陛下に対する無礼は赦しません!』って、スザクだと!? ヤツめ、何故俺の脳内会議場にまで……ッ!!
「ふざけるな!」と再度皇帝ルルーシュを取り抑え様としたルルーシュ達が、ランスロットのヴァリスで吹っ飛ばされている中で、皇帝ルルーシュは臆面無く「さぁ、民主主義を始めようか」とか宣いだした。

 まさか皇帝ルルーシュのヤツ、武力でこの議会を乗っ取るつもりか!?
くそ!あの暴君、無駄にプライドが高くて明らかに現状が把握出来ていない。
このままでは本当に『モニカと交戦』なんて黄泉路を歩まされる事になってしまうじゃないか!
どうにかせねb、ん?ゼロルルーシュ、「私に任せて貰おう」だと?
一体何を? って、その剣は!?

 言うが早いか、ゼロルルーシュはランスロットのヴァリスをものともせずに突撃を慣行。
皇帝ルルーシュに抵抗の間すら与えず突き殺してみせた。

 「ぐはぁっ!」と、血ヘドを撒き散らし沈む皇帝ルルーシュ。
ランスロットから『陛下ッ!?』と焦燥が響き、その当の陛下と言えば、「世界……を、壊、し、……せかい、を……つく………」なんて辞世の句を呟き始める。

 ……もう駄目だなアレは。
そして、その全てを意に介さず、決定を促す視線をこちらに向けてくる殺害犯ゼロルルーシュと目が合う。

 よ、よし! ともかく決議は成った! 結論はモニカめっちゃ恐い!
故に今は戦わずに撤退。撤退だッ!




 ナリタ作戦当日7ページ目

 ―――はっ! お、俺は一体何を?
数秒間、意識に空白がある様な……。

 ん、「数秒どころか、四、五分は何やらぶつぶつ言いながら遠くに逝っていたぞ」だって? それは本当か、C.C.!?
バカな、この俺が恐怖のあまり意識を飛ばしていた……だと? な、なんて無様な。
「それより方針は決まったのか?」って、あ、あぁ、方針としては、モニカめっちゃ恐、ではなく、現状では分が悪い!
一旦なんとしてもモニカから距離を……って、おい、待てC.C.。俺の今見ているものが現実なら、既にグロースターに抗戦している様に見えるんだが?

 は? 「四分も五分も相手が黙って待っていてくれる訳ないだろ」だと?
いや、確かにその通りだが、じゃあ何か? この五分間、お前はモニカのグロースター相手に凌いでいた、と?
「……ギリギリだがな」とか、C.C.、お前はなんて頼りになる共犯者だ!

 そうだ。そうだった! 思い返してみれば、このC.C.という女のデヴァイサーとしての能力は決して侮れるものではないんだ。
ある意味一番ヤバかった時期のジェレミアと互角に戦ってみせた事から始まり、ラウンズ蔓延る戦場で四聖剣達となんら変わらぬ活躍をして見せた事もある。
そもそもダモクレス決戦時には、性能的には僅かに本家から劣るとは言え、それまでスザクしか高い適合率を示せなかったランスロットすら乗り熟してみせた。
そして、何より肝なのが、実戦ではデヴァイサーとしてそれだけの事をやってのけるC.C.が、普段はシミュレーターすら面倒臭がり、ピザを食っているか、寝ているかしかしていないと言う事。

 改めて検分してみて、実はC.C.のKMF適性は、潜在的にラウンズを超えるのでは? とすら思う。
しかも、今回そのC.C.にはピザを山車にシミュレーターもみっちりやらせてある。

 と言う事は………。

 ふ、フハハハハッ!モニカ恐るるに足らず!
どうやら俺は、モニカの迫力に圧され脅威の度合いを必要以上に大きく見ていた様だ!
機体性能が違うとは言え、所詮違いは一世代。カスタム機という条件はどちらも同じ!
機体が劣る分は、C.C.の操縦技術と、俺の知略で充分に補えるし、地の利は元より我らのものだ!
いける! いけるぞ!! ここで俺の正体を知るモニカさえ無力化して捕らえてしまえば、後顧の憂いもほぼ無くなり、今回の作戦の修正も容易くなる!

 ククク、モニカめ。捕らえた後はどうしてくれようか?
もし本当に全てバレているのなら、逆にこちらも開き直れると言うものだ。
口で誤魔化すも良し、俺を恐怖させた咎めを受けさせるも良し。
どちらにしろ、たっぷりと躾し直してやろうじゃないか!

 そうと決まれば、さぁ、行くぞC.C.!
何? 「いや、無理だろ」とか、そんな訳あるか!
俺とお前が揃っていて高がラウンズ一人に負けるなど有り得ない。そうだろう?
何が「冷静になれ。恐怖の余りに変に気が大きくなっているぞ」だ!
余計な気を遣わずとも俺は常に冷静だ! 恐くなんかないッ!

 なぁ、C.C.。良く考えてもみろ。
モニカはラウンズと言えど、スザク如きに有象無象の扱いを受けて殺られる様なラウンズだぞ?
戦闘力を数値に直せば、いって精々2ヴァインベルグ位のものだ!
な? 恐くない。そんなの全然恐くなんかない! って、なんだその目は!?

 いいから戦え! じゃないとピザ無しだぞ!
は、「後悔しても知らんぞ」だって?
はははは!俺が後悔する訳ないだろう?
後悔はするんじゃなく、させるんだよ。

 さぁ、モニカ。覚悟して貰おうかッ!




 ナリタ作戦当日8ページ目

 ……誤算だった。
いざ交戦してみたモニカは、数値換算でも2ヴァインベルグどころか、4クルルギは有ろうかと言う化け物だったのだ。

 後悔先に立たず、か。
ふっ、先人は良い事を言う。

 ん? 「格好つけてる場合じゃないだろう」か。あぁ、確かにその通りだな、C.C.。
では、無理に平静を装うのは止めるとして―――


 ―――ど、どどどどどういう事なんだ、あの戦闘力はッ!? おかしいだろ! おかしいよな!? 
なぁ俺が戦力分析を多少誤ったのは認めるさだけどだからといってアレはないだろない筈だこっちの銃撃をなんなく避けるのはまぁわかるさ想定内さけど飛んでくるハーケンをランスの先端ピンポイントにジャストミートさせて抉り砕くとかゲフィオントラップを予知能力でもあるのかって位正確に回避破壊するとかなんなんだアレ勘とかふざけるなって話だろ獣染みてるにも程があるっていうかもう比喩じゃなくケモノの領域に片足どころか両足突っ込んでるって事は餌は俺かいやいやいやそんな事言ってる場合じゃなくて明らかにおかしいだろアレの動きはグロースターのものじゃない有り得ないあんな戦い出来るヤツがスザクのアルビオン相手とは言え一瞬で撃破されたとか嘘だろなんだもしかして感情の起伏で戦闘力が変化するとかモニカも実はオモイノチカラ使いとかいや笑えないなんてのは俺の台詞でしかも奥の手ケイオス爆雷四連発すら展開前にいとも簡単に撃ち落とされて本格的な戦闘開始から三分も保たずにこっちの全武装強制解除されたとあっては本当になんだそれ悪い夢だ夢に決まっているそうに違いない起きよう朝だナナリーが待ってるおはようナナリー今日も咲き誇る花の様に可憐だねハハハとかも言ってる場合じゃなくてもう尻尾巻いて逃げるしかないじゃないかッ!!


 荒れ狂う心情のままに言い切って、「ワンブレス乙」というC.C.の労いに、息を整えながら、ああ、とだけ返す。

 ふぅ、吐き出すだけ吐き出したお陰で多少落ち着いたとは言え、状況は最悪だ。
今も全力で逃げの一手を打つ事で命を繋いでいるに過ぎない。

 先程、モニカとの交戦中に遠くから聞こえてきた大規模な爆発音から察するに、自軍の状況もそう芳しいものではないだろう。
あの爆発音は恐らく日本解放戦線本拠地に仕掛けた爆薬によるものだ。
裳抜けの殻にしてある本拠地最奥まで中隊以上のコーネリア軍が辿り着いた時点で、その部隊諸共吹き飛ばしてしまう様に指示し、設置させたトラップ。

 それが発動したと言うなら、本作戦が解放戦線本拠地そのものを囮とした迎撃戦だと気付かれるのも時間の問題。
互いの被害状況も拮抗している中で、作戦目的自体が消失したとなれば、コーネリアも遅かれ早かれ撤退の判断を下す。
本拠地のトラップ発動が予測よりも早い事もあり、それまでの猶予はより少ないと見るべきだろう。
こちらもモニカに掛かり切りとあっては、撤退前に紅蓮がコーネリアにチェックをかけられれば、それだけでも恩の字、と言うところ。

 まぁ、つまるところ、こちらへの援軍も望むべくはないという事だ。

 いや、本来ならば増援の当ては一つだけある。
俺達のワイルドカードとも目していた味方が一人だけ。

 が、モニカのあの戦闘力を見せつけられた今となっては、その切り札すら心許なく思えてしまう。
俺達が逃げ延びる為だけに、彼女を使い潰すなどしてはならない事だ。

 C.C.の「紅蓮を呼び戻すか?」と言う提案も却下。
確かにカレンなら喜んで引き返して来てくれるだろうが、それでは本作戦の意味そのものを無くすし、なんの為に一度モニカから遠ざけたのか、と言う話にもなる。
大体、あれだけ大見得切っておいて、どの面下げて助けてなどと言えるというのか?

 あぁ、「でも、このままじゃ死ぬぞ」なんてのは、言われずともわかっているさ。
だから今考えている。俺達だけで、ここを逃げ延びる方法を。
となると、そうだな。前提として、戦闘で退けるのが不可能と判明したのだから、もはや口先で言い含める位しか手はない………か?


 ならば、まず一つ。素直に謝る。
「モニカ、すまない。罰は受ける!許してくれ」→「じゃあ、死んで」
駄目だな、容易に想像できる。


 二つ。ブリタニアン性術も駆使して、再びこます。
この状況ではどうやってもモニカに触れるられるとは思えない。
KMFから降ろす事からして無理だろう。却下。


 三つ。生死が絡めば四の五の言っていられない。ギアスをかけてお引き取り願う。
モニカもワイアード。ギアスを知っているし、警戒もしている筈。
二つ目以上に無理。没。


 四つ。愛を説き、情に訴える。
「何故だ? なぜ俺達が戦わなければならない!?」→「それはアナタが浮気したからよ!」→「理解かり合ってた!」→「C(偽り)の世界でね!」
これも高確率で俺が死ぬな。と言うか会話が続く気すらしない。
そも、言って聞く女ならCの世界で俺はあんな苦労をしていない。


 五つ。開き直る。
「そんなに殺りたければ殺るが良い。しかし俺を殺した瞬間に、お前はこの愛を永遠に失うのだ!」→ランスで一突き。
バカな、煽ってどうする。


 六つ。全力で開き直る。
「ふん、浮気は文化だ! お前など数いる女の一人に過ぎんわ。バーカ、バァーカ!」→銃弾の雨霰。
愚策中の愚策だ! 自殺志願か!?


 ……マズいぞ。頭が煮詰まって変な方向にしか思考がいかない!
なんだ、この〈マルチエンディング ※但し全てデッドエンド〉みたいな未来予想は!?
これなら今のまま白を切り通した方が、少しは寿命が延びそうだ。

 あああ、なんてやっている間に、何も思い付いていないのに、背後から聞こえる『待ちなさい! 全部わかってるんだからッ!』なんて声だけはどんどん近くなってくる。
くぅ、そもそも、だ! 今更ではあるが、なんでモニカに全部バレてるんだよ!?

 ワイアードで、俺が誰々と関係持ってました、なんて少しでも知ってるのブリタニア側ではユフィくらいだろ!
でもユフィが、そんな事を吹聴してまわる訳ないし……、いや、待て、天然な彼女ならついうっかりとかも―――って、なんだC.C.? 服の裾を引っ張るな、伸びるだろう。
お前は操縦に集中して、む? なんだこの紙切れ。何か書いてある様だが。何々? “犯人はマリアンヌ”だと?

 ……そうか。犯人は母さんか。なら、仕方な………………って、はぁ!!?

 や、待て。待て待て待て待て! 犯人が母さんって、お前、自分が何言っているかわかっているのか!?
「いや、だからマリアンヌがモニカに……」って違う! それがどう意味かわかっているのか? と訊いているんだ!?
そこで首を傾げるんじゃない! いいか、落ち着いて考え直せ、そして犯人を書き直すんだ。この紙切れに書いたままでは、お前はまるで母さんがワイアードだと言ったも同然の、って、そこで頷くなぁッ!!
「事実だ」だと? 有り得ない! か、母さんがワイアード? 嘘だ。出鱈目だ!

 第一、ワイアードの条件は《俺と繋がった者》の筈! 
推測の粋を出なかったが、今回のモニカで俺は確信を得ている。その推測に間違いはない、と。
だからこそ母さんがワイアードである事は解せないのだ。
何故?単純な話だとも。


 俺は、 断じて、 母さんとは、 ヤってないッ!!


 C.C.! 「そうなのか?」とか、お前いったい俺をなんだと!?
だって、俺の母親だぞ? つまりヤツの妻だ。有り得ん!
どれだけ外面が美しかろうと、所詮シャルルの使い古s―――いやいや人道的見地からして実の母親に手をだすなど!
う、うぷっ、想像するのも悍ましい。吐き気がする!

 何?「妹は良いのか?」って、……C.C.、お前は一体何を言っているんだ?
あの母親とナナリーを同列に扱うなど! 母と妹は 完 全 な る 別 物 だ ッ ! 

 ふん!お前とは、母さんがワイアードだと黙っていた事も含めて、良く話し合う必要がありそうだな!
って、違う!話がずれているぞ!

 いいか? だから母さんがワイアードなのは絶対に有り得ないと、……は? 「マリアンヌは、心を渡るギアス持ってるだろ」? って、それがなん―――いや、待てよ?
考えたくはない。考えたくはないが、もし母さんがCの世界でギアスを使っていたのだとしたら?
母さんのギアス発動条件は“死”だ。Cの世界では常時死人。死んでいるんだからギアスフリーなんてバカげた解釈が罷り通るのなら?

 あぁ、くそ! あの人なら絶対使っていたに違いない。
ワイアードである事もそれなら得心がいく。

 く、ククク、と言うことはアレだ。俺は最低でも一回、母さんの憑依した誰かを抱いていたという事か。
例えば、俺が熱情に浮かされた勢い以外ではナナリーにしか恥ずかしくて囁けない「愛してる」とか「好きだ」とかの睦言に応えていたのは、実は母さんだったかもしれない、と?
情事の最中、シャーリーを抱き締めているつもりで、実の母親を抱き締めていたかもしれない、と?

 さいていだ。最低の母親だッ!
それに母さんの事だ。その後しっかりとシャルルのヤツに報告して、二人して「クスクス、あの子ったら○○が××で……」とか、「ぬぅははははぁっ! 青いのぉ」とか俺を嘲笑っていたに決まっている!
しかも、だ! それにも増して最悪な事に、俺は俺が知らない内にあのクソ親父と穴兄弟になっ、て……うげぇ。

 ふ、ふはは、怒りだ、もはや怒りしかないッ! やはりブリタニアはぶっ潰すしかない様だな!
おいC.C.、感謝するぞ! お前の齎してくれた情報のお陰で、俺は益々死ぬ訳にはいかなくなった!
なんとしても二人でこの窮地を切り抜、け………?

 あー、なんだ。その、C.C.? 気持ち機体が傾いて、いや、地面に横たわっている気がするんだが?
え? 「とうとう片足ごとランドスピナーを撃ち抜かれたか」とか、え?

 ………つまりそれは、「詰んだな」って、な、なななな何を落ち着いて!?




 ナリタ作戦当日9ページ目

 ガシャリ、とKMF越しにこちらに向けられる銃口。
『アハハハッ、やっと捕まえた!』なんて声と共に伝わってくる濃密な死の気配。
既にコクピットブロックを射出する機は逸した。

 そんな中で、必死に生き延びる為の策を練る。
あの哂い方からして、この女はもう俺の知るモニカじゃない。
話が通じると思うのも諦めた。

 モニカの『ルルーシュ君、年貢の納め時よ』という嬉しそうな声に、背筋が凍る。
何か返さなければマズいと咄嗟に思い、人違いでは? と声には出してみるものの、白を切り通せるとは俺自身考えていない。

 案の定、『嘘よっ! 私は知ってる! 聞いてるんだから!!』なんてヒステリックな叫びが木霊した。
次いで、『最期に一度、顔見てから殺すから』と宣告を下される。
当然、出てこい。と言う意味だろう。

 冗談ではない。出れば死ぬ。
しかし、出ていかなくとも待つのは死だ。

 ぐ、どうすれば良い!?
沈黙を返すこちらに『……一分、待つわ』と刻限だけが告げられた。


 ……一分、一分か。
そうだ、一分だ。あと60秒もある。まだ慌てる様な時間じゃない!
その内になんとしても打開案をっ!
考えろ、考えろ、考えろ!

 こう言う状況で俺はどう生き延びてきた?
前回のナリタはどうだったんだ!?
思い出せ、あの時もスザクのランスロットに追い詰められて、……そうだ、確かそこにふらりと現れた―――C.C.!

 ははは、良いぞ! 光明が見えた!
C.C.、出番だッ!! って、「あァ?」とかお前、なんでそうもテンション低いんだ?
「なんか用か?」って、そんな他人事みたいに……。

 なんだ? なんでこの女はここまでやさぐれている?
あ、あー、とにかくC.C.? ほら前回の時みたいにだな、お前が外に出て、お得意のショックイメージでガー! とか、やってる間に俺が安全圏まで逃げる訳だ。な?
モニカは複座式とは知らないだろうし、上手く行けばこの機体に乗ってたのは一人だったとか騙す事もできるだろうし。な?

 って、人がここまで頼んでるのに「ダルい」とか、いや、ちょ、おま……、はぁ!?
おいC.C.、何が不満なんだ!? は? 「最初から逃げとけば良かったんだ」だと?
ぬぅ、確かにあれは俺が悪かったとは思うが、だからって今そんなことを言っt「人の意見を聞かない共犯者に頼まれてもなぁ」……駄目だ、完全に拗ねている。

 仕方ない。何が望みだ?
な!?「最近、ピザの供給が少なすぎると思っていたんだ」だと?
お前、この状況を利用して俺を脅す気か!? 「いや、交渉だ」とかどの口でッ!
元々、今回の作戦中の報酬は一日食い放題で既に手を打っ「操縦以外は別料金だ」って、ふざけるなぁッ!

 こうなったら言わせて貰うがな! やり直してからと言うものお前は浪費が過ぎる!
携帯、ネット、衣類、そこら辺までなら良いだろう。
だかな! 訳のわからない通販商品だったり、用途さえ良く把握できないアダルトグッズを宅配業者が日参する勢いで買い込むとか、どうなんだ、それ!?
しかも、俺の名義で、俺の金! あの配達員なんか影で絶対に俺を変態扱いしてるに決まってるんだ!
そして、何よりも腹立たしいのが、それだけの金を使っておきながら、出費堂々一位が未だピザ代と言う事実! どれだけ食う気だ、このピザ女!

 いいか、C.C.! この件に関してだけは、俺は絶対に脅しには屈さn『……あと30秒』くっ、時間が無い!
「良く聞けルルーシュ。所詮ピザの料金は高が知れている。けれど、お前の命はプライスレス」とか喧しいぞ魔女! その買える命はマ○ターカードで、とでも言いたげな笑いを引っ込めろ!

 俺は絶t『……20秒前』……ッ!
くぅ、わかった。二日だ! 食い放題の期間を二日間に延長! これなr「もう一声!」………こ、この女ッ!
し、仕方ない。三、「私はそこら辺寛大だが、あのラウンズの女の事、シャーリーが知ったらどうなるか……」四日! これ以上は罷らんぞ!


 こうして、10秒前、の声を待たずに俺の一方的な譲歩にて交渉は成立。
心中でこのピザ女覚えておけよ! と毒づきながらも、四日間湯水の様に使われるであろうピザ代と引き換えに、俺は自分の命を買ったのだった。




 ナリタ作戦当日10ページ目

 交渉が成立すれば、俺達は即座に動き始める。
急いでお互いの座席を交換し、モニカの秒読みが0に達する直前、C.C.がKMFの外へと出ていった。
俺はと言えば、一先ずの安堵でシートに身を凭れながらも、脱出のタイミングを見計らい、外の様子に耳を傾ける。

 『な!? 貴女、……魔女!』と困惑するモニカの声が聞こえた。
良し!やはり複座である事はバレてなかったか。

 「私にラウンズの知り合いはいない筈だが。……誰だと思っていたんだ?」なんて惚けるC.C.も上手い。
『彼は何処!?』と激昂するモニカの問いをのらりくらりと交わしながら、然り気無くグロースターとの距離を詰めている様子。
この分なら、直ぐにでも脱出の機会が訪れそうだ、と身構え―――


 ―――そこで、C.C.のヤツがポカをした。


 始まりは、微かに、しかし何故かはっきりと聞こえた、「あっ、これ見せるのマズイか?」と呟くC.C.の言葉。
直後、何? と俺が疑問を差し挟む間もなく、グロースターから聞こえたきたのは、『あははははははははッ!!』と言う、モニカの耳を覆いたくなる様な哄笑だ。
視覚情報が入らず、何が起こったかを音で判断するしかない俺は、混乱しながらも更に耳を傾けて、後悔した。

 俺に後悔を齎した一連のやり取りを記すとこうなる。


 「チィ、一番ショックを受けるものが、これとか、この女なんなんだ? これじゃ錯乱どころか更に怒り狂ってしまう」

   ↓

 『あはっ、あはは! 3Pとか、4Pとか。何これ? なにこれぇっ!?』

   ↓

 「いや何って、私達の愛のメモリーだが……。あぁ、勘違いして欲しく無いのは意図的に見せたんじゃなくてだな。お前がなんか見たくないだろうものをイメージさせたら自動的にこうなったんだよ。参ったな、これじゃ私が見せ付けるのを趣味にしてるみたいじゃないk―――」

   ↓

 『黙れ』

   ↓

 銃撃音。そして、ナニカが崩れ落ちる音。



 ……。

 ………取り敢えず、だ。

 まず間違いなく、自らが好物のピザのトッピングの様な惨たらしい姿になってしまっただろうC.C.の冥福は祈っておくとして、だ。

 それとは別に、俺はどうすれば良いのだろう?
さっきの会話から判断するに、もう色々と手遅れなのはわかった。
ナニを見せたのかも大体は想像がつく。
結果、モニカは錯乱どころか、火に油の状態で、隙を見て脱出など夢のまた夢。

 このまま、ここで息を潜めてやり過ごせれば最高だが、今のモニカの獣染みた勘を考慮するに、見逃して貰えるとは思えない。
野生の勘など僅かしか持ち得ない俺でも、理性からの警鐘は存在する。
それがアラートを鳴らすのだ。ここに隠れていても死ぬだけだ、と。

 ほら、そうして悩んでいる間に、やはりモニカは気付いてしまった様だ。
『このナイトメア、……まだ怪しい、かな?』なんて声がする。
手は残っているか? いや、全て無駄だろう。


 そういえば、ブリタニアン性術を習う前にシャルルが言っていた。
ブリタニアン性術には業があり、ブリタニアン性術の継承。それ即ち業の継承でもあるのだ、と。
その業を御しきれなければ、悲惨な終わりが待っている。その覚悟があるのなら……。

 その言葉をどうやら当時の俺は軽く捉え過ぎていた様だ。
明らかにその業を御しきれていないシャルルがピンピンしていたものだから、見誤った。
よく考えれば、どれだけ元気でも、アイツは既に死んでいたというのに。


 悲惨な終わり。
成る程、その通りだ。
業を御しきれなかった結果として、情を交わした女に俺は殺される。

 悔いはある。
が、廻り廻っては俺自身の不始末。
俺を殺すのがモニカ、そう思うと何故か怒りも沸いて来ない。

 覚悟して目を閉じる。
グロースターがランスを構える気配を微かに感じた。
その切っ先が俺を貫くまでに、ナナリーや、愛した女達の顔を思い浮かべ………、



 刹那、爆音。



 驚いて、目を開ける。
『誰!?』と問うモニカの声に返る、『私はここだッ!』と言う叫び。
続き、仮面の通信機から響いたのは、『お待たせしました、ルルーシュ様』と言う、我が切り札の頼もしい声だった。

 『注意を引き付けます。その間にC.C.様とお隠れ下さい』との通信に了と応え、遠ざかるグロースターのスピナー駆動音に、深く安堵の息を吐く。
現れた救い手の名は強襲殲滅型ゼロ咲世子。略称、ゼロ3(さん)。
指示が出るまでは待機を命じた筈の彼女が、何故ここに赴いてきたのかはわからない。
が、それにより俺は再び彼女に救われた。

 俺を死の寸前まで追い詰めたのが情を交わした女なら、その殺意から俺を守ったのも、情を交わした女の一人。
はは、どうやら運はまだまだこちらに味方しているらしい。

 やはり、時代はジャパニーズメイド。
神憑ったタイミングの登場に、指示せずともの適切な判断力。最高だ。

 咲世子では、モニカに敵わないと見て投入を見送っていたが、俺達と言う守る対象が離れた今ならば、彼女も逃げに徹する事が出来る。
そうなれば、忍たる彼女の事。相手がモニカとはいえ煙に巻き、逃げ仰せる事も可能な筈だ。

 ならば、こちらも己の役割を果たすとしよう。
咲世子の稼いでくれる時間を無駄には出来ない。

 となると、一先ずは他の連中の動向を把握しておくべきか?
ゼロに依存し過ぎた組織体系だったが故、ゼロが崩されれば全てが共倒れしてしまった前回の反省を踏まえ、今回はそれなりの命令系統を事前に準備した。
とは言え、如何せん日の浅い組織。心配はある。
ここは一度井上にでも―――おっと、それよりも前にここを離れるのが先決だったな。
早くC.C.も回収せねば。

 そう思い立ち、辺りを警戒しながら外に出て、C.C.を探す。
すると、すぐに(たぶん)C.C.(らしきモノ)を発見。したのは良いが、………困った。ジグソーパズルみたいになっている。
愛する女で、しかも不死身とわかっていなければ、目を叛けたくなる有り様だ。
放ったらかしはマズいし、どうにかして回収するべきだが……。

 えぇい、世話の焼ける!
仕方無く纏っていたマントを地面に広げ、そこにC.C.のパーツを投げ入れる。
細かい部品も隈無く回収した後、風呂敷包みにして背負い、立つ。
そして、そんな自身の行動を客観視しない為に、ふっ、これが愛する者の重みか……、とか現実逃避をし始めたところで、再び咲世子からの通信が入った。

 その内容は『この敵は、ルルーシュ様の正体に気付いておいでですか?』と言う確認。
何時もより低い彼女の声に気圧され、あぁ、とだけ頷けば、『わかりました。では此処で打ち倒します』と告げて通信が切れる。
制止の声は間に合わなかった。


 俺は数秒その場で頭を抱えた後、風呂敷を背負ったまま咲世子の元に走り出した。
行っても出来る事はないかも知れない。
ただ、このままでは俺のメイドさんが死んでしまう。
それは困る。
俺救出のご褒美とか色々考えているのに死なれては困るんだ!

 そう思えば体が勝手に動いていたのだ。




 ナリタ作戦当日11ページ目

 俺が現場に到着した時点で、激突はとうに始まっていた。


 『ゼロッ、いいえ、ルルーシュ君ッ! 観念して貰うわ!!』

 『只人が! 魔王たる私に歯向かうというか!』


 そんな応酬と共に、黒が舞い、深緑が荒れ狂う。
ズガーン!とか、ドカァーン!とか、とても戦っている片方が人間だとは思えないツッコミ処の満載の音が鳴り響く戦場で、戦う二人は更にツッコミ処満載だった。

 咲世子の方は堂々と魔王を名乗り変なキャラクター立ててるし、モニカの方も何故かその自称魔王が俺で無いと気付かない。
近くの岩場に隠れ戦いを見守っているが、気分的にはコミックショーの観客にでもなった感じがする。
が、しかし、そんな要素を抜かして見るなら、両者の戦いは一進一退の正に激戦。

 咲世子は、人ならではの小回りを生かし、付かず離れずの距離から、ヒット&アウェイを繰り返す。
モニカは、パワーで圧倒している有利を軸に常に攻め手を取りながら、時折襲う小刻みな攻撃を、KMFの巨体ながらも上手く流している。

 モニカがハーケンを撃ち出し、咲世子はMVSで斬り落とす。
咲世子が手榴弾を投げ放ち、モニカがランスにて穿ち貫く。

 手に汗握る、とはこの事か。
黒と深緑は、互いに交差し、離れ、その連続を散らす火花で彩っていく。

 むぅ、咲世子が心配でつい足を運んでしまったが、これは見る限り当初懸念した、咲世子ではモニカに敵わない、なんて単純な分析の及ぶ戦いではない様だ。
戦闘に於いて素人とも言える俺から見れば、実力は伯仲。
咲世子の予想の遥か上をいくデタラメな強さは喜ばしいが、逆に俺では勝負の行方がどちらに転ぶか皆目見当もつかなくなってしまった。

 何かしら介入行動に移りたくとも、ああも俺の名前を叫ぶモニカが相手では、増援の手配も出来ない。
咲世子の勝利を信じて待つか、何か他の行動を起こすか。


 だが、そんな風に選択に迷う中、答を出すより先に目前の戦いが動いた。
つい数分前まで拮抗していた筈の攻防が、見る間にモニカの有利に傾き始めたのだ。
それに焦り、注視して、理由を悟る。
明らかにモニカのヤツが、咲世子の動きに慣れてきていた。

 そうだ。気付いて然るべきだった。
モニカと咲世子が互角に戦えた理由。
それは勿論、咲世子自身の超人的な戦闘能力に因るところも大きいだろう。
しかし、相手もラウンズ。それだけでは、人とKMFの力量差は覆せない。

 故に咲世子は、KMFと言う兵器の不利を上手く突く事でその差を補っていた。
KMFの企画段階から想定などされていなかったであろう、自騎より極端に小さい人型兵器との戦闘。
想定されていないからこそ、確立もされていないその対処方法。
そう、不利とは対処方法の不足。
咲世子は、対処を知らぬからこそ生じるだろうモニカの戸惑いを以て、先程までの互角の戦いに相手を引き摺り込んでいたのだ。

 だと言うのに、ものの数分で、モニカはその互角の状況を崩してきた。
流石はラウンズ。対処する為の戦術を戦いの最中に構築しているのだろう。

 ここが限界だ。
これ以上戦わせてはいけない。
咄嗟にそう判断し、咲世子に撤退の指示を出そうとした瞬間、遂にグロースターのランスでの横薙ぎが咲世子を捉えてしまった。

 遅かった!
まるでホームランボールの様に後方に弾き飛ばされた咲世子を絶望的な思いで見やり、唇を噛み締める。

 おい、咲世子! 返事をしろッ!
俺自身無理な注文だとわかっていても、そう通信機に呼び掛ける。
無論、返事はない。
舌打ち一つ。
居ても立ってもいられず、咲世子の元に駆け付けようと、岩陰から身を乗り出し、何かに足を取られ、ずっ転ける。

 くそっ! なんだこの非常時に!? と苦々しく振り向いてみれば、そこには隣に置いた風呂敷から伸びて、俺の足を掴む一本の腕。
腕の生えた風呂敷は、もぞもぞと蠢きながら、「まぁ、落ち着け。咲世子なら平気だ」などとくぐもった声を発している。

 ………シュールだ。

 咲世子の窮状すら忘れ一気に脱力する。
「おぃ、こら、出せ、ぉい」とかもがく風呂敷を半ば無意識に開放。
中からは、「ぷはぁっ! 死ぬかと思ったぞ」とか、どうリアクションを取れば良いのかすらわからない発言と共に、C.C.が復活を果たしてきた。

 ………お前、あの状態からこうも短時間で蘇生するとか、再生速度上がりすぎてないか?
俺のそんな疑問にも「慣れだ、慣れ」と、どうにも納得のしかねる返事をした後、魔女は不敵に微笑む。
「見ていろ。咲世子はここからだ」なんて、何かを確信した言葉と共に。




 ナリタ作戦当日12ページ目

 C.C.の言葉は直ぐ様証明された。

 ここからも何も……、と俺が反論しようと口を開くより早く、咲世子が吹き飛ばされた先より爆発が巻き起こる。
なんか今日は爆発してばかりだ、と思いながら振り向けば、そこには魔女の予言通り、燃え盛る炎の中からゆっくりと立ち上がる黒い人影。
その光景に満足そうに何度も頷きながら、「ふふふ、爆炎の中からの復活。いいぞ咲世子、私の演技指導を実によく活かしている!」とか隣で悦に入るC.C.。

 おい、もしかしてあの爆発、演出の為だけに手榴弾を一つ無駄にしたのか? って言うか、演技指導ってあの咲世子の変なキャラクター、お前の入れ知恵か!?
や、「無駄とはなんだ! 大切なコトだぞっ」とか憤慨されてもだな。

 大体、なぜ無事なんだ? ああも質量差のある攻撃を直撃されて平然と起き上がるとか、超人なんて理由だけで誤魔化せるものじゃないぞ!?
は? 「お前は、自分の造った物をもっと信用しろ」だって?
だから、その造ったゼロスーツの耐久性を遥かに超えるダメージだったと、ん? なんだ「良く見ていろ」?

 C.C.の指差すに従い、再び咲世子に視線を戻す。
そこには、俺と同じく驚愕しているだろうモニカの追い討つ銃撃を、腕を組み悠然と立ったまま、周囲に展開された力場にて防ぎ弾く咲世子の姿。

 そうか、忘れていた! ブレイズ・ルミナス!!
成る程。極短時間の展開しか出来ないとは言え、小型化に成功し実装したあの装備の防御力は、揺るぎない。
確かにあれならば、モニカの攻撃を耐えきった事も説明がつく。

 咲世子が全く使っていなかったものだから、それを見ていた俺まで存在を失念していた。
……む?いや、待てよ。そうなると失念していた機能ってブレイズ・ルミナスだけじゃないぞ?

 と、言うことは?
C.C.が俺の疑問に答える様に大きく頷いた。


「ここからが、強襲殲滅型ゼロ咲世子、―――ゼロ3の真の力だ」




 ナリタ作戦当日13ページ目

 そこからは、劇的だった。
いや、“的”と言う字は要らない。
劇だった。


 咲世子に撃ち続けていた銃撃を止め、『こんな、……まさか本当にルルーシュ君じゃないの?』とか本当に今更な事をモニカが漸く疑問視し始めたのを契機に、咲世子も動き始める。
ゆったりとした仕草で組んでいた腕をほどき、片手には再び剣を取り、もう片手の掌は自らの眼前に掲げる。

 その掌から迸るのは雷光。
青白い光が黒塗りの仮面に反射しツルリとした表面を撫で上げる。
それは恰かも、象徴たるその仮面には傷一つ負ってはいないとの、相手への強烈なアピールにも見えた。
左手袋に仕込んだスタンガン。
KMFには余り意味のないそれを、演出の為だけに使う咲世子はもう立派に役者だ。

 実際、スタンガンを使った視覚効果は、充分な凄みをその立ち姿に付与している。
そして、あの変なキャラのまま、今度は台詞でのやり取りに移行した。


 『名乗った筈だ。我が名はゼロ。魔王ゼロッ! それ以外の何者でもない!!』


 『この力、まさかギアス!? ……でも、彼のギアスは―――』


 『まずは、詫びよう。君を侮っていた。私をここまで手こずらせるとは、流石ラウンズと言ったところか』


 『ッ! ……いいわ。貴方が誰であろうとゼロの仮面を被って私の前に立ち塞がる以上は、私の標的。その高みからの物言い、死と言う形で後悔させてあげる!』


 『よかろう! ならばコチラも、全力を以て臨むまでッ!!』


 『き、来なさい!』


 ……熱演である。
熱が入り過ぎて、これからブリタニア軍と真のゼロである俺が相対した時の考慮が全く為されていない程の熱演である。

 可哀想に、モニカもそれに付き合わされる形で、あの不思議時空に引き摺り込まれていた。
お陰で、先刻までのバーサクぶりは成りを潜めてはいるものの、何故か素直に喜べない。

 俺が渇いた笑いを浮かべている間にも舞台は進む。
言葉途中から、低く腰を落とした極端な前傾姿勢にて力を溜めていた咲世子は、台詞が終わると同時に、その力を爆発させた。
今まで咲世子の立っていた地面が爆ぜ、飛び出した咲世子は先に倍する勢いでの突撃で距離を詰める。

 再度、戦いの火蓋が切って落とされた。




 ナリタ作戦当日14ページ目

 ゼロスーツの能力を全面開放した咲世子によって、形勢は面白い程簡単に逆転した。

 まず、モニカの攻撃がなに一つ掠りもしない。
先程までの様にあの手この手で回避にも全霊を傾けている動きではないのに、何一つ危うげも無くグロースターを去なしていく。
巧みなのは、フロートシステム使い方だ。
稼動時間に限界のあるフロートを、本来の機能通り飛行に使うのではなく、要所要所、跳躍時の空中での方向転換や、加速のみに用いる事により、三次元での戦いに以前まではなかった幅を持たせていた。
その意表を突く動きに着いていけず翻弄されるモニカのグロースターは、逆にどんどんと攻撃を喰らう率が高くなって来ている。

 状況は優勢。
このまま行けば、咲世子はグロースターの装甲を削りきって見せるだろう。
勝てる、そう思いたい。
しかし、本当にそうか?

 気付いてしまった事が一つ。
ゼロスーツを駆使し始めた咲世子は、その前とは違い、彼女の持つ武装の中で、最も攻撃力のある手札、手榴弾を使っていない。
破壊力がある代わりに大味で避けられやすいそれを、攻撃回避の為の牽制に使う必要がなくなった為に出し惜しんでいるだけか?
ならば良い。

 が、もし既に使いきってしまっているのだとしたら?
それはマズい。

 如何に切れ味が鋭くとも、人が扱うサイズの刀身しか持たぬMVSでは、KMFを一刀の下に両断とは行かない筈。
つまり、手榴弾が切れたその時点で、決定力不足は否めなくなる。

 決定打に欠けてしまえば、採れる選択は長期戦しかない。
そうなると、今度は有利を生み出しているゼロスーツの稼動限界時間が致命的なほどに少ない。

 この考えが、ただの俺の憂慮であれば良い。
だが、モニカには今日一日で何度も、勝てる、と言う楽観を覆されているのだ。

 だからこそ―――ん? C.C.?
「心配せずとも、咲世子は勝つさ。奥の手も授けてある」だと? お前、本当に色々と俺の知らない仕込みをしているんだな。
で、なんだその奥の手と言うのは?

 ……ほう。かつて世界を支配し悪行の限りを尽くした魔王を、一撃の下に葬り去った英雄の必殺技、か。
それを咲世子は使えるというんだな?
そうか。そんなものまで知っているとは、伊達に永く生きてないなC.C.。


 ならば、安心して勝負の行方を―――『ナイト・オブ・ラウンズ!これで終りとしよう!』ッ!?


 ―――見届けるか、と続けようとした時には、勝負は動いていた。
急ぎ見れば、戦いの最中KMFの巨体を常に動く事で的とさせなかったモニカのグロースターが、微動だにしていない。って事は、ゼロスーツの右手袋に仕込まれた小型ゲフィオンディスターバーを使ったのか!?

 実戦で良くもまぁ、と驚く。
しかし、あれはKMFの懐に潜り込む危険を侵さねばならない上に、それに成功させたところで、動きを止められるのはKMFのOSが再起動するまでの、僅か数瞬。
しかもゼロスーツのほぼ全ての機能も同様の状態にしてしまう諸刃の剣だ。

 そんなデメリットを抱え込む機能を何故、このタイミングで……。
思考に沈みそうになる俺を、C.C.の『出るぞ』と言う呟きが引き戻す。

 咲世子は、動きを奪った数瞬で、大きく後方に跳躍。
自らの剣の切っ先をグロースターに向け、胸元で水平に構える。


 奥の手とやらの発動の直前に、C.C.の説明が重なった。


 「あれこそが、世界を恐怖のどん底に陥れた魔王すら、一撃で打倒せしめた英雄の、超威力、絶対不可避の奥義!その名を―――」


 発動。


 「ゼロ・レクイエムッ!!」


 叫びと共に、天から降り注ぐ雷光が、摂理に叛き地を奔った。
放たれたのは、黒い稲妻、そう見紛う程の速度を有した刺突。
この距離からでも咲世子の疾駆する姿を見失い、慌てて目で追えば、既に、決着は着いていた。

 メーザーヴァイブレーションが停止している筈のMVSでKMFの装甲を軽々とぶち破りそのままに制止する咲世子と、腹部に剣で刺されたとは到底思えない孔を穿たれたグロースター。

 ごくり、と喉が鳴る。

 ………なんて威力だ。
技の名称と相俟って、俺の身体の中心にも幻痛が走ったぞ―――って、おい、C.C.! 誰が悪行の限りを尽くした魔王だ!?

 と言うか、ゼロレクイエムは飽くまでも作戦名であって、必殺技の名前なんかでh「それはスザクに言え」だとぉ? 
あのバカ俺がいなくなった後の世界で何をしていたんだっ!?
大体なんでスザクの技をお前が咲世子に伝授できる?
はぁ? 「何度も身に受けたからな」とか、お前はお前でいったい………って、あああ、もうつッこむの面倒臭い!
とにかくっ! 母さんの事も含め、後でしっかりと問い詰めさせて貰うからな!?

 頷いたな!絶対だぞ?!
良し! ならば、「わかったから今は咲世子達だろう」って、そうだった!
咲世子、待て! モニカは殺すな!

 くっ、未だ通信が通じないのか? 何故だ!?
「集中したくて切ってあるんだろ」とかなんでお前は何もかも見透かした風に………とかも、今はいい!

 それなら急いで咲世子を止めに行かねb「飛んでったぞ、モニカ」って、はぁ!?
待て、待ってくれ! 逃がすのはもっとマズい!

 咲世子! 至急あの脱出ポッドを………ッ!?

 指示を出そうと顔を向けた先。
咲世子が、力なく地面に崩れ落ちた。
トサッ、と余りにも軽い音。


 ―――咲世子ッ!!?




 ナリタ作戦当日15ページ目

 咲世子が倒れたとあっては、モニカを取り逃がす云々を言ってはいられない。
あれから、直ぐ様前回の洞穴に身を隠した俺達は、運び込んだ咲世子の容態を手早く確認。
驚いた事に、仮面を取ったその下から出てきたのは見知らぬ男の顔だった。

 仮面の下にまで変装をして秘匿義務を守るそのプロ根性には頭が下がる。
これで、咲世子の運び出しも条件がクリアされ、残るはダメージの大きさだけ。

 幸いな、と言えるものでもないが、咲世子の怪我の具合は比較的軽症。
何本かの肋骨の骨折と、骨折からくる発熱が倒れた主な原因だった。

 ブレイズ・ルミナスを展開したとは言え、やはり最初の一撃は、その防御を抜けていたらしい。
にも関わらずその状態でモニカを撃破し、果てに「申し訳ありません。取り逃がしてしまいました」と息も絶え絶えに謝られたては、俺の立つ瀬などあったものではなかった。
万感の心持ちで、良くやってくれた。今は休め、と告げたその言葉に従う様に今は静かに寝入ってくれている。


 それを見届けた後に取ったのは井上との連絡。
心配そうな井上に、こちらの現状を伝え、今作戦の簡単な報告を聞く。

 結果から言えば、コーネリアの捕獲には失敗。
紅蓮によって追い詰めたまでは良かったが、そこにまたもランスロットの乱入があり後一歩のところで取り逃がしたらしい。

 何故ランスロットが、と問えば、抑えだった筈の藤堂達が、G―1ベースにて交戦したのはギルフォード率いる部隊だったとの事。
つまりはコーネリアの窮地に無理を押したギルフォードの予想外の出撃で、図らずも前回と同じ組み合わせでの戦いと相成った訳だ。
『現在は撤収の準備を始めているわ』、と締め括った井上に、報告に対する礼と、モニカの捜索。そして、此方への迎えを頼み通信を切り、思案する。

 コーネリアの捕獲がならなかったのは痛い。
が、今回向こうに与えた打撃は決して小さなものではないだろう。
聞けば、解放戦線の基地爆破の被害を受けたのはダールトンの部隊だそうだし、輻射波動の万全だった紅蓮はランスロットを中破に至らしめたとの事。

 そして何よりも大きいのが、コーネリア軍の方から撤退を始めたと言う事実。
日本解放戦線との共同戦線ながらに、黒の騎士団が、コーネリア軍を退けた、という結果はエリア11で、格好の宣伝効果になる。

 他にも、ゼロが音信不通であっても滞りなく作戦が進行したのは、これから組織案を強化していく上での良いテストケースになったと考えられるだろう。
前回を知るが故、俺自らが出向きスカウトし、今回初期からの戦力に組み込んでおいた、影崎キズナ他数名の有用性も改めて計る事が出来たし、散々な思いをした割には、マシな結果と言えなくもないな―――とか言ってる間にもC.C.、射精そうなんだが………。
「はやいな」って、煩い!井上との通信で呻き声抑えるの大変だったんだぞ!?

 くっ、そもそもこの俺を、フェラチオくらいで誤魔化せると思うなよ?
お前には訊かなきゃならない事が、って噛むなぁ!
わかった、わかったから噛むな! な?

 ……ッ!
ちょっ、だからってそんなに強く吸うな。わ、馬鹿マズいヤバい射精る、射精る、でッ―――たぁ。


 ふぅ。
C.C.有り難う。
いや、死の危険を感じると生殖本能が強くなるって本当だな。
モニカに殺意を向けられてからと言うもの、実は勃ちっ放しだったんだ。
騎士団との合流前にお前が鎮めてくれて、助かったよ。

 まぁ、こんな岩場でギシアンすればそれこそ背中や膝が堪ったものじゃないからな、フェラチオと言うのは実に理に適った選た、おいC.C.どうした?
は?「誰が顔射しろと言った、このバカっ」って、おいおい、そう怒るなよ。

 いいかC.C.。俺はなぜ雪が白いのかは知らない。
だが、白濁に汚れたお前は卑猥だと思う。俺は決して嫌いではn「死ねッ!!」―――……。



 こうして、C.C.の逆鱗に触れた俺は、意識を失う形で二度目のナリタの幕を降ろした。
モニカの事だったり、迎えに来たカレンと、ゼロの愛人を名乗り挙げたC.C.との一悶着だったりと、山積みの問題については、また後日語るとしよう。


 あぁ、そうだ。最後に一つだけ。
俺も後に聞いた事だが、咲世子が絶妙のタイミングで俺の救援に現れたその理由。

 それは、C.C.の心臓が止まった瞬間放たれる様設定された、救難信号によるもので。
「もしこの信号が入ったなら、最優先でルルーシュの下に駆け付けてくれ」と命じられた咲世子は、全力でその命令を遂行してくれたのだ。

 俺に隠れてそんな仕込みをするC.C.と、それに忠実に応えた咲世子。
そんな二人の恋人の手のひらで、今回の俺は最初から最後まで踊らされていた訳だ。

 全く、なんて事だ。
そんな事を聞いてしまえば、ますますもって死ぬ訳にいかなくなったじゃないか………。







 色欲のルルーシュ Return10『ナリタ 逃亡戦』おわり













 おまけ【ゼロレクイエムができるまで・前編】




 悪逆皇帝ルルーシュ。忌むべきものとして歴史に名を刻まれた暴君。
それを打ち倒し、今や正義の象徴として世界に名を轟かす事となった英雄ゼロ。

 そのゼロ―――かつては枢木スザクの名を持ち生きていた青年は、黒の騎士団CEOに用意された一室で一人考えを巡らせていた。
頭に渦巻くは、世界のこれから。
友は命を捧げ現在の平穏を作り出した。
その平穏をゼロとして維持していく事こそが、友の願いであり、彼自身の決意でもある。


 悪逆皇帝の死から二年。
確かに今も、世界は平和の内に復興と発展を続けている。
以前とは比ぶべくもない穏やかさに満ちている。

 しかし、二年。
たったそれだけの期間で、綻びは見え始めていた。


 死に逝く前に友は言った。
俺の死によって齎される平和など高が知れている、と。
その平和な時間を少しでも長続きさせる為に、お前が英雄になるのだ、と。

 その為に、友は様々な物を遺してくれもした。
彼も、全身全霊でゼロの務めを果たしてきた。

 それでも二年。
一つに纏められ葬られた筈の悪意は分散され、再び人々の間を行き交い始めた。

 人の世は移ろうものだ。
流動的な世界のうねり全てを予測するなど、神ならぬ人間に出来得る筈もない。
手の平から少しずつ零れ落ちる様に薄れていくゼロレクイエムの成果に、彼は焦燥を覚えずにはいられなかった。

 どうにかしなきゃいけない。
友と願った優しい世界が、こんなにも短い期間で崩れさってしまって良い筈がない。
自分はなんの為にここに生きている?
なんの為に正義の味方になったんだ?

 そうだ。世界の平穏を維持する為だ。


 (それが僕に。俺に。いや、私にかけられたギアス。その為ならば………!)


 彼の平和を願う想いは、どこまでも強く、真摯だった。
故に、それから彼がとった行動の、何かを間違えたのだとしたら、それはその方向性。

 枢木スザクは決して愚昧な人間ではない。
信用に足る男と判断されたからこそ、彼は世界を託された。

 だがそれでも、彼に仮面を遺したルルーシュも、現在仮面の中身を知りながらも彼を支える周囲の人々も、認識が不足していたと言わざるを得ないだろう。
そう。枢木スザクは決して愚昧な人間ではなかったけれど、先代ゼロとは比較にならぬ程、頭の弱い人間である事もまた、覆しようのない事実だったのだから。




■□■                        ■□■                        ■□■




 『少しの間、……そうだな、一ヶ月程、山に籠ろうと思う』


 「は?」


 ルルーシュの願いを汲み、世界の行く末をより良い方向へと導くと誓った者達が一同に会する場。
その定例となった議会の場にて唐突に放たれたゼロの一言に、皇神楽耶は唖然となった。


 「ゼロ様、今なんと仰られましたか?」


 思わず訊き返す
この若さで、耳が遠くなったのだろうか?山に籠るとか聞こえた様な……。
いえいえ、いくら中身があの脳筋な従兄弟と言えど、近頃はゼロ様としての言動もかなり様になってきていますし、世界がまた僅かにでも諍いの火種を抱え始めた今この時、平和の象徴たるゼロが一月も世界から姿を消すなんて事の意味をわからぬ筈は、流石にありませんわ。

 訊き返しながらもそう考え、聞き間違えだろうと結論する。
周りに視線を投げてみれば、他の出席者も一様に同じ結論に至ったようで、なんとも形容しがたい表情で黙りこんでいた。

 そうですわ、やはり聞き間違え。
うん、と頷き苦笑。ゼロの返答を待つ。
だと言うのに……。


 『だから山に籠ると……、いや、正確にはオレンジ畑だが』


 聞き間違えではなかったらしい。
思わず両の手で顔を覆う。

 神楽耶の従兄弟が象徴たる仮面を継いで二年。
あの優しい悪逆皇帝の嘘に、少しでも報いる為にもと、神楽耶自身も身を粉にして世界の発展に努めた二年だった。

 その中でも、特に力を入れた一つが、ゼロをゼロらしく在らせる事。
なにせ中身は初代ゼロと同列に扱うのが憚られる程の脳筋。

 当初、気を抜けばすぐゼロらしくない態度を露呈し、挙げ句、暴徒の鎮圧などのおり、白き死神の代名詞であった技、陽昇流誠壱式旋風脚―――別名、枢木スザクのくるくるキックなどを平気で使う。
そのゼロの元婚約者としては見過ごせない駄ゼロっぷりを矯正すべく、同じく自他共に認めるゼロフリークであったカレンを同志として、ゼロの演技指導に心血を注いだ二年だったのである。

 だのに、その二年の成果を少しは誇っても良いのではないか? と思い始めた矢先、ゼロに相応しいとはとても思えぬ今回の発言。
全て徒労だったと言われた気さえしてきてしまう。


 「あの、ゼロ? 何故急にそんな……」


 『修行の為だ』


 神楽耶ほどのダメージを受けていなかった出席者の一人からの控え目な質問にも、ゼロとして有り得ない返答。

 修行? 修行ってなんの? なんで修行?
皆がそう思ったに違いない。
それならば、ゼロとしての重責に嫌気が差してきたので、一ヶ月休暇が欲しい、と言われた方がまだマシだ。

 場に沈黙が落ちる中、どうにか気力を奮い起たせ、神楽耶は必死に考える。
今この場にて何が必要かを。

 彼の人が教えてくれた。
人と人はわかり合える。話し合う事で理解を深め、明日へ進んで行けるのだ、と。

 ならば、匙を投げるにはまだ早い。
目の前の仮面の脳筋がどれだけ訳のわからぬ事を言い出そうとも、何を思い修行などと言い出したのか、その理由を尋ね、知り、その後で然るべき行動をとるべきだ。


 (あぁ、ルルーシュ様!)


 涙ぐみながらも、今尚胸に強く残る青年の面差しに力を貰い、神楽耶は毅然とゼロに向き直る。


 「何故です? 何故修行などと……」


 『どうしても必要な事だからだ』


 答になってませんわ!
そう怒鳴りたいのは必死に堪えた。
 
 まだだ、まだ堪えられる。
神楽耶は挫けない。人は理解り合えるのだから。
額に青筋を浮かべながらも、周りからの応援の眼差しに勢いを貰い、質問を重ねる。


 「……どうして修行が必要だと?」


 『必殺技が欲しいんだ』


 堪えられなかった。
気付くと席より身を踊らせ、ゼロの襟首に掴みかかっていた。
世界の英雄に対する無礼を咎める者はこの場にはいない。

 ガクン、ガクンと仮面を前後に揺さぶりながら、罵倒する。
取り敢えず、なんで急に必殺技などと言い出したのか、その理由を洗いざらい吐かせてやると、その場の全員の考えは一致していた。




■□■                        ■□■                        ■□■




 揺れる仮面越しの視界で、従姉妹の悪鬼の如き表情を捉えながら、ゼロは首を傾げていた。
世界の平和の為にゼロとしての自分が出した答は、至極に真っ当なものだと思う。

 二年前、世界はルルーシュを憎しみの象徴とする事で纏まった。
けれど、既に亡き人ひとりが象徴であり続ける事は不可能だ。
事実、ルルーシュへの憎悪は薄れ、再び世界は足並みを乱し始めている。

 それは、ゼロと言う記号の印象も同じ事。
抑止として在らねばならぬ自分の、正義の味方と言う印象すら薄れてきたからこそ、世界にはまたも弱者虐げる輩が蔓延り始めたのだ。

 ならば、どうする?
決まっている。
もう一度ゼロが正義の味方として人々の心に強く刻まれれば良い。

 その為には必要な事は?
自分には、ルルーシュの様な人を惹き付けるカリスマは無い。
頭だって良いとは言えない。
でも、身体能力だけは自信がある。
それなら、KMFの軍事利用が縮小されている昨今、個人の持つ武力が脚光を浴びやすくなっている現状を追い風と出来る筈だ。

 即ち、この身一つで如何なる悪をも打倒せしめる破格の存在。
幼少期、今は亡き友と夢中になって見つめたブラウン管の向こうに映っていた正義の味方。ヒーロー。
その在り方を、自分自身で体現してみせれば良い。
考えがそこまで至れば、後の思考は流れる様に展開した。

 正義の味方には必ずその象徴となる必殺技が必要だ。
しかし、自分自身の必殺技くるくるキックは、使用禁止とされている。
自分でもゼロが使ったらマズいか、と最近思うようになった。
だったら、開発するしかない。

 よし、修行だ!
咲世子さん辺りなら良い修行場所とか知ってるかな?
え? ジェレミア卿のオレンジ畑?
確かにあそこなら修行の相手にも事欠かないし、仮面を外しても問題ない。
なら、後は関係者にアポイントメントをとれば良いだけだ。
ルルーシュ、僕は頑張るよ!



 彼は思う。
やはり、これまでの経緯を思い返しても、神楽耶からこんな扱いを受ける理由がない。
一ヶ月ならば、代役を立てる事で乗り切る事も可能な筈。
これはどうしても必要な事なのだ。
今や最も守るべき人となったナナリーだって、昨夜ベットの上で寝物語に聞かせたこの考えを、にこやかな笑顔で「素晴らしい決意だと思います」と言ってくれた。

 何より、こちらは端から不退転の心持ちで話を持ち出したのだ。なんとしても了承して貰うしかない。
さて、この物分かりの悪い従姉妹をどう説得しよう?

 そんな風に考えながら揺さぶられる彼は知らない。
ナナリーが素晴らしいと褒め称えたのは、あくまでもその“決意”であって、その後に続いた必殺技云々は、彼なりの冗談だと思っていた事を。

 揺さぶる皇神楽耶も微妙にわかっていない。
こうと決めたら意地でも貫く、ルルーシュをすら辟易させた己が従兄弟の頑固さを。


 最終的に、子細問い詰め聞き出したゼロの思考ルーチンに一同は絶句。
自棄となった神楽耶の「お好きになさいませッ!」と言う怒声を何ら疑問に思わず了承と受け取ったゼロのアレっぷりにより、一ヶ月後、その技は陽の目をみる事となる。



■□■                        ■□■                        ■□■



 一ヶ月。
言葉にしてしまえば、あまりに短い期間。
しかし、その完成までの時間は、決して平坦なものではあり得なかった。

 そも、必殺技の開発と言っても、一筋縄ではいかない。
どんな技にするのか?
構想の時点で具体的なイメージすらないのだ。


 (さて、どうする?)


 そんな、オレンジを食べながらも悩むゼロに最初に提案したのが、修行に付き合うため同伴した篠崎咲世子。


 「もしゼロが必殺技とするならば、ルルーシュ様をお倒しになられたあの突きしかあり得ません」


 世界中の人が御覧になられていましたし……、との意見にジェレミアも強く頷く。


 「うむ。陛下ですらお倒れになられた突きだ。凡百の悪党には過ぎたものと思わなくもないが、ゼロを象徴する必殺技とするならばあれ以上に相応しいものはないだろう」


 どれだけ時が経とうとも亡き主君への敬意忘れぬ機械農夫に思慕の念を募らせるアーニャも、早く二人きりの生活に戻りたい一心で積極的に意見した。


 「なら、名前はゼロレクイエム?」


 それしかない! と皆が頷く。


 道筋が見えたなら、後は行動あるのみ。
猶予は一ヶ月しかないのだ。
ルルーシュを倒した技を象徴とするならば、決してみすぼらしい必殺技であってはならない。

 刺突でありながら、刺突を超える技。
正に必殺と呼ばれるに相応しい突きへと昇華してみせなければ、絶対悪として果てた魔王にも申し訳がたたない。
ゼロは決意を新たに立ち上がった。


 「見ていてくれルルーシュ。この技を、君に捧げる鎮魂歌としてみせる」


 その日より、辛く厳しい修行が始まった。



■□■                        ■□■                        ■□■



 修行を始めて最初のニ、三日は良かった。
ジェレミアと咲世子。
共に、これ以上ない程の修行相手がいてくれる。
必殺技の試し突きをするにしても、広大なオレンジ畑には死んだ樹木が山程ある。
修行は順調であるかの様に見えた。

 しかし、オレンジ畑での滞在が五日を過ぎたある日、壁に突き当たる。
修行の成果を欠片ほどにも感じられない。
皆が気付いてしまった。
ゼロの恵まれ過ぎた天賦の才は、若くして伸び代を残さぬまでに彼の武を完成させてしまっていたのだ、と。

 これでは修行をしても意味がない。
今ゼロの放つ刺突こそが、彼の放つ最高の刺突であり、それ以上は有り得ない。
誰もが悲壮な面持ちでそう口にしてしまいそうな中で、けれどゼロだけは諦める事を知らぬかの如く剣を振るった。


 闇雲に剣を振るい、修行開始から一週間。

 己の身体能力と武技に限界を感じ、悩みに悩み抜いた結果。
彼が辿り着いた先は、感謝であった。

 束の間の平穏を創り出す為に命を捧げた友への、限りなく大きな恩。
自分なりに少しでも返そうと思い立ったのが、一日一万回。
感謝の刺突。


 気を整え、

 拝み、

 祈り、

 構えて、

 突く。


 一連の動作を一回こなすのに当初は五~六秒。
一万回を突き終えるまでに、初日は十八時間以上を費やした。

 突き終えれば倒れる様に寝る。
起きてまた突くを繰り返す日々。


 二週間が過ぎた頃、異変に気付く。
一万回突き終えても日が暮れていない。


オレンジ畑での滞在が三週間を越えて、完全に羽化する。


 感謝の刺突一万回。一時間を切る!
代わりにオレンジの収穫を手伝う時間が増えた。


 そして一ヶ月。
オレンジ畑を後にしたゼロの刺突は、音を置き去りにしていた。

絶技ゼロレクイエムが完成したのである。



■□■                        ■□■                        ■□■



 『一ヶ月もの不在を謝罪しよう。しかし、その甲斐もあり、私はここに至った』


 一ヶ月後、本当に姿を消していたゼロが、戻ってくるなり謝罪と共に披露した、彼曰くの必殺技。
廃棄処分を待つだけだった一騎のKMFにただの一撃で大穴を穿ったその威力を見て、呼び寄せられた一同は息を飲む。

 そんな彼らを一歩退いた位置で見やりながら、紅月カレンは無感情に呟いた。


 「……馬鹿だわ」


 「えぇ、馬鹿なんですわ」


 隣に立つ神楽耶も苦虫を噛み潰した様な顔で頷く。
皆の反応に痛く満足したらしく、どうだ! と言わんばかりに誇らしげに胸を張っているゼロを見ていると、なんとも言えない気持ちになってくる。

 思うは一つ。
どうしてこうなった。

 聞けば、ルルーシュが最も信頼したであろう忠臣、ジェレミア・ゴッドバルトと篠崎咲世子も修行に携わっていたらしい。
が、あのゼロに比肩し得る人外二人は、ストッパーになるどころか更に脳筋の背を押してくれたやがった様子。
正義の味方に、俺はなる! とか宣言し、直後オレンジ畑に籠ったと思ったら、まさか一ヶ月後に人間辞めて帰ってくるなどと誰が思おう。

 確かに彼ら―――最後の戦いにてルルーシュの陣営にあった者達には、借りがある。情もある。引け目もある。しかし、この場は呆れが勝る。
隣から呪詛の様に聞こえてくる「あんなの、……あんなのゼロじゃない」と言うカレンの嘆きも大いに納得できると言うものだ。

 今も周囲のアンコールに応え二騎目のKMFをスクラップにしたゼロに、あぁ、我が従兄弟ながら……、と神楽耶は悲嘆した。
その横で、とうとうカレンが虚ろな目で頭を抱えブツブツと呟き始める。
どうやら亡き先代ゼロと会話をしているらしい。

 だから神楽耶は、カレンを、そして己自身も鼓舞する意味で、一縷の希望を叫ぶ事にした。


 「それでも、シュナイゼルなら!シュナイゼルならきっとあの脳筋をどうにかしてくれますわ!」


 そうだ。
一手も二手も先を読むに長けていたあのルルーシュが、頭の弱い二代目ゼロの暴走など予測しなかった訳がない。
だからこそ彼は、ゼロの足りない頭を補う為、この様な事態のブレーキとする為、シュナイゼルと言う駒を遺していったのだ。


 「そ、そうですよね?!」


 半信半疑ながら、彼方より帰還を果たしたカレンも、その叫びに追従する。
事態は既に自分達の手に余るところまで来てしまった。
ならば、ルルーシュと並ぶ頭脳を持つシュナイゼルの、のらりくらりと人を思うがままに操るその手腕が、ゼロを止めてくれる事を信じるより他ない。


 「えぇ、きっと」


 祈りも込めて相槌し、神楽耶は全てをシュナイゼルに任せる事にした。

 その決断を直ぐ様悔やむ事になるとも知らず。



■□■                        ■□■                        ■□■



 神楽耶が信じるルルーシュにすら誤算だった事が一つある。
彼がシュナイゼルにかけたギアスは、“ゼロに従え”。
ルルーシュはこのギアスをかける事により、シュナイゼルをゼロの参謀、助言者として世界に役立てようと目論んだ。

 その目論見も、そう的外れなものではないだろう。
確かにシュナイゼルはゼロに請われれば、その頭脳を出し惜しむ事なく世界の為に使ってみせたのだから。

 だがここで一つ問題なのは、それがシュナイゼル自身の自発的な行動ではないと言う事。
シュナイゼルの観点からすれば、世界の為に自身の頭を使っているのではなく、あくまでもゼロに請われた為に頭を使った結果、それが世界に役立った、と言うだけの事で。
つまり、シュナイゼルの中ではゼロ>世界であり、例えゼロの行動により世界が混乱しようとも、それを誅するなどと言う思考が、彼に芽生えよう筈もない。

 これがルルーシュの誤算。
“ゼロに従え”と言う単純にして明快なその縛りは、シュナイゼルから判断能力を著しく損わせる事となり、彼をゼロの助言者と言うには余りに盲目的なゼロ専用のブレインへと仕立て上げてしまった。
ルルーシュは、望めば間違った方向であろうとも全力で策を練る、世界最高峰の頭脳をゼロにプレゼントしてしまったのである。

 そんなシュナイゼルだからこそ、今回の件に関しても当然、ゼロにブレーキをかけさせるどころか、更にアクセルを踏み込ませる手伝いを全力でしてしまう。
『必殺技も完成したし、こっから悪い奴らゼロレクでバリバリ悪・即・斬みたいな感じなんで、今後とも夜露死苦!』的なゼロの発言に、「ゼロ様の望みのままに……」なんてにこやかな笑顔を返すシュナイゼルの脳内では、既にその為だけのプロパガンダが凄まじい速さで展開されていた。



■□■                        ■□■                        ■□■



 それから一年。
ゼロは獅子奮迅の働きにて、悪の火種を消してまわった。

 見敵必殺。世界中、どんな小さな火種も見逃さないとばかり。
西に弱者を虐げる者あらば行ってゼロレクイエムし、東に富を独占する者あらば行ってゼロレクイエムする。
技の威力、致死性などのインパクトも申し分無く、それをシュナイゼルの無駄に優秀な頭脳が、情報操作などの面から完璧を以て後押しした。
結果、ゼロレクイエムの大衆への知れ渡り具合といったら、それはもう凄い事。

 子供の躾に「こらッ、言う事聞かない悪い子はゼロレクイエムされますよ!」なんて使われるのは、初歩の初歩。
酷いものになれば、「えーマジ? ゼロレクイエムくらった事ないの!?」「ダサーイ」「ゼロレクくらった事もなくて悪者ぶるのが許されるのは小学生までだよね!」「キャハハハハハハ」なんてAAが作られる始末。

 人々は言う。
悪だからこそゼロレクイエムされるのか。
ゼロレクイエムされたからこそ悪なのか。
もはや、ゼロレクイエムされることこそ巨悪の証。
悪たる者のネームバリュー。

 一年。ただの一年で、そんな風に語られる伝説の御技へと、ゼロレクイエムは昇華された。されてしまった。

 悪党としては堪ったものではないだろう。
ゼロレクイエムをくらわなければ半端者の烙印を捺され後ろ指を指される。
が、当然くらう訳にはいかない。何せ、くらえば死ぬのだ。
悪い事はやめよう、と思う者が続出するのも無理の無い流れと言えるだろう。

 かと言って、悪徳により得られる利権を諦めきれぬ者達の、「恐怖で人を支配するなど悪逆皇帝と同じじゃないか」なんて反論も、世間は許さなかった。
子供達からも絶大な支持を受けるゼロは世論すらも味方とし、必然、ゼロレクイエムは凄まじい抑止力を世界に齎したのだ。


 そんな、間違った方向に全力疾走しながらも身を結んでしまった成果を前にしては、神楽耶達も黙るしかない。
んなアホなと、どこか釈然としないものを抱えながらも、世界の平穏が長く続く現状を受け入れた。

 ゼロは、遂に正義の味方としての頂を登り詰めた。
世界に平和が戻ったのだ。


 (このゼロレクイエムがある限り、世界の平和は崩れない。ルルーシュ、見てくれているかい?)


 自分は、再び世界に平和を取り戻してみせた。
そして、この平和はこれからも続くだろう。
少なくとも自身が存命である限り、続かせて見せる。
これからだって、どんな強大な相手が目の前に立ち塞がろうとも、自分のゼロレクイエムで打ち倒して見せようではないか。

 完成させた必殺技への揺るぎ無い自信を胸に、今や名実共に正義の味方となった男は、今度こそこの平穏を守り通せると確信した。




 けれど、正義の味方を体現し、世界の平和を勝ち取ってみせた当のゼロは、一つのセオリーを忘れている。
それは、彼が希望を見い出したテレビのヒーロー達も例外なく経験した挫折。
即ち、必殺技はいつかは破れさる運命である、と言うセオリーを……。



■□■                        ■□■                        ■□■



 そうして、半年の後にその日は訪れた。
絶対の必殺技に敗北の二文字を齎した者の名は、義賊C.C.。


 奇しくも、ルルーシュの元で肩を並べて戦った魔女の前に、ゼロレクイエムは破れ去ったのだ。




                                                   後編に続く







 あとがき

 おまけが長くなりすぎたので、前後編にわけました。
次話投稿時に後編も添えます。ごめんなさい。と言う感じで、どうも鈴木です。

 まずは、いつもの如く感謝を。
読んでくれた方、感想書いて下さった方、毎度毎度ありがとうございます。
誤字の指摘なんかも、推敲してるつもりで多々穴があるのでご指摘非常に助かります。
遅ればせながらsageを覚えたので、暇をみてちょいちょい直していきます、はい。

 で、10話でいくつか。
モニカさん捏造はもうどうしようもないんで置いておいて、ルルーシュのシャルルと穴兄弟云々は、あくまでルルーシュの推測です。
マリアンヌさんのシャルル愛からして、いくらお茶目でも流石にねーだろと自分でも思います。
真相は、バレバレでしょうがその内に。

 次、C.C.の超進化。
回復マッハだったり、ショックイメージの内容把握は、完全なご都合設定です。

 おまけの話。
やり直し前の世界までバ化させるのはどうかとも思ったんですが、読み返してみたら既にスザクがナナリーにSMっぽい事してたんで、まぁいいやと思った次第。
ただいつも以上にネタに走ってるんで、ご不快に思った方いましたら申し訳ありません。
ネタは自重がきかなくなると、自分だけが楽しくて、読んでくれてる人が醒めるとか怖い事態に陥ると思うんで、兆候見えたりしてたら一言頂ければ嬉しいです。

 最後に。
ここ数話、更新間隔延びに延びてて本当にごめんなさい。
少しずつ、速度戻していこうと思いますんで、これからもよろしくお願いします。
次は一~二週間の間にはと決意表明しときます。
では、また。











[4438] アーニャのブログ1
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:9f9959ea
Date: 2011/03/21 21:54






 初めに。
 今回の震災にて被害を被られながらもこのarcadiaというサイトの管理維持を続けてくださっている管理人の舞様に、この場を借りて心よりお礼申しあげると共に、お体の無事何よりお慶び申し上げます。





※ あくまでもネタです。

 あまりに更新しない状況が続いてますんで、自分に発破をかける意味での更新予告。
に、それだけではアレなんで、sage機能の試しも兼ねて前に書いたくだらないネタを添えさせて頂きました。
と言った感じで前回上げたものを再UP。今回は次回更新時も消しませんが、前回読んでくださった方は、全く同じ内容ですので、2の方に読み進んで下さい。
では、どうぞ。







〇月#日

 このブログを始めた時から書いて来た事だけど、私は時々記憶がおかしくなる。
それを少しでも解消する為に日記をつけたり写真を撮ったり。
このブログもその一環。

 けど、それも無意味かも知れない。
最近は記憶と記録の食い違いだけじゃなく、欠落まで起こり始めた。
この前なんか、気付くと陛下の御前にいた。
なぜ?と思いながらも謝ったら、お咎めは受けなかったから、それだけが救い。

 私の記憶はいったいどうなっているんだろう。嫌になる。



$月★日

 今日は、EUとの小競り合いに駆り出された。
私無双。
大規模な戦いだったけど、前回の派兵時の功績を認められて今回からグロースターへの搭乗を許可された私に隙は無かった。

 この歳でグロースターへの搭乗権利を得るのは結構スゴい事らしい。
ちょっと自慢。

 戦っている時に記憶がおかしくなった事はないので、逆に安心。
頑張ったので記録。



∀月Э日

 記憶の欠落が段々と深刻化。
ふと気付いた時に目の前に陛下がいる事は、もう慣れてきたけど、知らない内にラウンズの人と知り合ってたりしたのは驚いた。
どうしてかナイト・オブ・ワンのヴァルトシュタイン卿に敬語を使われて困惑したのも一度や二度じゃない。
嫌がらせか何かだろうか?

 記録も本格的に意味を成さなくなってきている。
私自身の記憶より、周りの人から聞いた私の行状の方が正しく思える時が出てきた。
ブログのコメントで奨められた医者にも診察して貰ったけど、心身ともに異常無し。
自分がわからない。

 飼い猫のエカテリーナ達も時々私を怖がる様になってきた。
理由は不明。鬱だ。



℃月Я日

 クロヴィス殿下が亡くなったり、ヘンな仮面のテロリストが暴れてたり、エリア11は今大変らしい。
最近メル友になったピザ大好きっ子さんもエリア11在住なので心配。

 彼女も記憶の欠落を何度も経験しているし、昔の記憶も曖昧だそう。私と同じ。
いや、気付けば血塗れの服を着たままテロ現場で倒れているなんて事もザラだと言うから私以上に壮絶。
それでも、それを全く気にせず生きている彼女はスゴい。
たまにくれるアドバイスにも勇気を貰えるし、救われる。
そんな良き理解者のピザ大好きっ子さんが、エリア11のテロに巻き込まれないで欲しいと思う。



ж月%日

 【美少女軍人】アーニャたんを応援するスレ6【閃光の再来】

 発見。私にも↑みたいなスレッドが立つようになったらしい。
私の目撃情報も結構書き込まれていて、それが私自身の記憶と一致するものもある。意外な信憑性。
電波扱いはイヤだけど、欠落時の記憶の補完が少しはやりやすくなるかも、と期待して定期的に覗いてみよう。



=月!日

 イルバル宮でのお茶会に招かれた。
……と言うか、この頃出入りが頻繁。
ラウンズの詰所に一軍人が何故? と私自身思うけど、ヴァルトシュタイン卿が黙認してくれているので、モニカ(そう呼んで良いと言われた)に誘われるままお邪魔している。

 今日は、エリア11を騒がすテロリスト“ゼロ”の特集をテレビでやっていた。
けど、ラウンズからすればクロヴィス殿下殺害の犯人とは言え、たかがテロリスト一人、と言う認識みたい。
エニアグラム卿が、「コーネリアが派遣されるし、コイツも終わりだ」と発言した後は、皆興味を失っていた。

 そんな中、モニカだけが悲しそうな目を画面に向けていたのが印象的だったので記録。



?月@日



 恐れていた事が現実になった。
ついに戦闘中に記憶を欠落。
憶えているのはグロースターに騎乗するまでで、次に意識を戻せば焼け野原と化した戦場跡で、周囲からの賞賛に包まれている不思議。

 後から同僚に訊いた話によれば、私は戦端が開くと同時に敵拠点に単騎で突撃。
鬼神の如き強さで群がる敵を薙ぎ倒し、遂には無傷で拠点を陥落せしめた、らしい。

 ………なにそれ怖い。と思ってピザ大好きっ子さんに相談。
返ってきたのは「実はお前には真の力が眠っていて、それが覚醒したんだ」なんて冗談だったけど、落ち込んでいる私を元気付けようとしてくれているのがわかって少し泣きそうになる。
その後に、「まぁ、戦場で意識を無くしたのに死んでないし良いじゃないか」とも言われて妙に感心。
彼女は本気でそう思っていそう。

 対処法が思い付かない以上、彼女の図太さを見習い開き直るのも一つの手かもしれない。


Й月б日

 イルバル宮でお茶会。
話題は忍者の末裔との噂もあるゼロと、対するコーネリア皇女殿下の意外な苦戦について。
殿下と親しいエニアグラム卿が聞いた内容を、苦虫を噛み潰した様な顔で話してくれた。
なんでもKMFを停止させる卑劣なトラップ(詳細不明)で、殿下の騎士を騙し討ったそう。
汚ないなさすが忍者きたない

 それから、隣に座っていたモニカがスゴいソワソワしていたので記録。



△月▼日

 宮中にて、いつもの様にふと気付けば目の前に陛下。
気にすると疲れるのでそれはもういい。

 けど、その帰りの宮中で栗毛の少女に「母さん!」と声をかけられたのがいつもと違った。
どう見ても同年代の少女に母親に見られるのはショック。
人違いと説明して納得してもらうのに10分も要した。

 そんなにも母親に似ていたのか?
そんなにも私は老けて見えたのか?
とてもショック。

 だいたい、今までにあんな子宮中で見たこと無い。
皇族の人は一応皆記憶してる筈。

 ………隠し子?



~月∵日

 この前の戦いの功績を認められて、ラウンズ昇進を言い渡された。
史上最年少の記録を塗り替える栄誉らしい。
けど、私の実力かと問われると微妙。素直に喜べない。

 でも、拒否は親族も許してはくれないし、受けるしかない。
ピザ大好きっ子さんからもエールを送られたし、頑張ってみようと思う。


 とりあえず、昇進にあたってブログのプロフィール欄の尊敬するナイトを書き換える必要が出てきた。
流石にブロントさんはマズイから、ヴァルトシュタイン卿の名前でも………、と思ったら何故かもう[閃光のまりあんぬ]と書き換えられていた。
記憶にない現象が、とうとうブログにまで。


ξ月Γ日

 ラウンズ就任式。
貰った席は6番目だった。
閃光のマリアンヌ様も元は6の席にいたというのが奇妙な偶然。
私はもしかしたら本当に電波でも受信してるのかも。



Θ月Ю日

 ラウンズ顔合わせ。
と言っても、いつもお茶飲んでたメンバーなので特に何かある訳でもない。
ただ、後輩が出来たのを喜ぶジノがやたら先輩風吹かせてきてウザかった。



И月о日

 モニカが怖い。
何故かスゴい怖い。
いつも微笑みを浮かべている筈の彼女が、最近急に豹変した。
頻りに親指の爪を噛みながらブツブツ。

 彼女は、昇進が早かったせいで歳の近い同性の友達すら少ない私の、数少ない親しい同僚。
何か力になりたいけど、怖くて近寄れなかった。
反省しつつ記録。



ω月η日

 モニカの事をピザ大好きっ子さんに相談メール。
「男にでもフラれたんじゃないか」と返ってきた。成る程。
でも恋とか、私には馴染みが薄い。
力になれなそうで残念。
下手に干渉して馬に蹴られたくないし、そっとしておこう。

 ちなみにピザ大好きっ子さんはヒト科・ヘタレ属・ヒモ種の雄を一人飼育しているらしい。
「やれば出来るヤツなんだが、私がいないと駄目なんだよ。………シスコンだし」と続いたメールにピザ大好きっ子さんの器の大きさと愛の深さを見た気がする。
私も想い人でもつくれれば何か変わるだろうか?

 考えさせられたので記録。



й月”日

シュナイゼル殿下が擁する特別派遣嚮導技術部にて、第7世代KMF運用が現実味を帯びてきたそう。
私達ラウンズにも第7世代の専用KMF開発チームが個々に組まれるそう。楽しみ。

 期待の好みを訊かれたので、高火力の砲撃型が良いと答えておいた。
本当に楽しみ。


追記

 後日あがってきた私のKMF設計図には、何故か皇帝陛下直々の命で双剣が装備される事になっていた。
開発者の人に、「直々に剣を賜れるのは、ラウンズの中でもヴァルトシュタイン卿とアールストレイム卿だけの栄誉ですぞ!」と言われたけど、贔屓される理由がわからないので不安。

 それを話したピザ大好きっ子さんに冗談混じりに脅された事もあって、まさか目をつけられた? 身請けされるんじゃ………、とか考えてしまう。
不敬になるし直接的な発言は避けるけど、私はロールケーキは好物じゃない。



β月‰日

 ブラッドリー卿に、腕試しを挑まれた。
私のラウンズとしての資質をチェックするとか。

 てっきり卓上の相克が行われるのかと思ったが、どうやら生身での格闘らしい。
彼はその方面のエキスパートだって聞いた事がある。
やられた、と思ったけどもう遅い。試合は明日だ。
なんとか一太刀はいれたい。

 決意を記録。



ρ月ψ日

 KMF戦なら兎も角、生身でブラッドリー卿相手にどこまでやれるか………と考えていたのがバカらしい。
試合が始まると同時、「力の使い方を教えてあげるわ」なんて声が聞こえた気がして、気付けばズタボロのブラッドリー卿と、必死に私を止めるジノとヴァルトシュタイン卿の姿。
御前試合でも無いのに見に来た陛下の腰も退けていたし、私はブラッドリー卿に何をしてしまったのだろう?

 ……でも、ここまでくると、もう疑いようがない。
私には本当に、ピザ大好きっ子さんの言う様な眠れる真の力がある………かも。



Λ月Ω日

 なんてブログに書いたのが失敗。
いつものスレッドを覗きにいくと、私が手遅れなレベルの厨二病扱いされてた。

 ピザ大好きっ子さんとも今日は連絡取れないし、モニカは本国にいないみたいだし。最悪の一日。


 ………寝よう。



                                      おわり




 あとがきは2の方で。










[4438] アーニャのブログ2
Name: 鈴木 可翔式◆ecc40991 ID:9f9959ea
Date: 2011/03/21 21:56



※ 1の続きです。読んでいない方は1からどうぞ。





ヽ月ー日

 今日もイルバル宮でお茶を飲む。
ラウンズって実は暇人の集まりなんじゃ……? とか思ってたら、陛下からの呼び出しを受けた。

 急いで御前に伺えば、本国を空けているモニカの代理としてロイヤルガードを一時執り仕切れと命じられる。
なんでも、モニカは単身エリア11にコーネリア皇女殿下の助勢に赴いたらしい。
ネットなんかで『ゼロパねぇwww』とかよく見るし、実際コーネリア皇女殿下も梃子摺られている様だけど、まさかラウンズまで投入とは……。
今度こそゼロオワタ\(^o^)/

 それにしてもわからないのが今回の人事。
エリア11に向かわせるラウンズがロイヤルガード責任者であるモニカというのも謎だし、その穴埋めが昇進を果たして間もない私というのも理解できない。
代理と言うのなら、まずモニカの副官をそれに充てるのが道理の筈。

 まさか、陛下は本当に私を狙って……?



ヾ月ゞ日

 今日から陛下付き。
微かではあるが貞操の危機を感じたので、ヴァルトシュタイン卿にそれとなく辞退を申し出たが、とりあって貰えないどころか太鼓判を捺された。
代理とは言え、若輩の私がロイヤルガードに抜擢された事に他のラウンズから反対意見でもあれば、と期待もしたが残念な事にそれもない。

 それどころか私との闘いの後から妙に卑屈な態度をとる様になったブラッドリー卿から「姐さん、おめでとうございます!」とか盛大に祝われた。
嬉しくない。
腹立たしかったので、カフェオレ買って来いよ、と言ったら本当に買ってきて絶句。

 仕方がないので覚悟を決めて任務にあたろうと思う。



〃月仝日

 色々と緊張していた割に職務の方は拍子抜けだった。
部下もいる為、私一人が四六時中陛下に張り付いていると言う事もなく、かと言って一番怖れていた陛下が色目を使ってくる事態もない。

 と言うか逆に陛下が私に気を遣っている気が……。
妙に優しいし、実は良い人なのかも知れない。



〆月<日

 ショックな事があった。
モニカがエリア11で生死不明だとの報告。
生き死には軍人の常だとは言うけれど、まさかラウンズであるモニカが一エリアのテロリストに後れを取るなんて誰が予測出来ただろう。
それもブリタニアの魔女と呼ばれるコーネリア皇女殿下の指揮下にありながらである。
もしかしたらピザ大好きっ子さんの言った通り、本当に失恋の痛手を引き摺っていたのかも知れない。

 本国の貴族達はラウンズの撃破と言う事態にもブリタニアの強大さを盲信し、何一つ脅威を感じてはいない様子だけれど、軍内部ではいよいよゼロに対する見方が少しずつ変わってきている。
特に、モニカやコーネリア皇女殿下の実力を最もよく知る内の一人であろうノネットはそれが顕著。
私自信も、同僚であり友人であるモニカの凶報に沸々とした怒りを感じる。

 とにかく今は出来る事をやろう。
モニカの生還を信じ、モニカが帰ってくるまでロイヤルガードを務めあげるのが、私の責任だと思う。
絶対に忘れない様に記録。



\月″日

 決意して職務に励む日々の傍ら、自分を鍛え上げようと思い立つ。
モニカの生存は信じてるけど、もしもの時は仇を討ちたい。
けど、今の私がモニカを退けた相手に勝てるとも思わない。
もしゼロと会い見える事が出来た時の為に、決して負けない位の力が必要。
私自身の秘めたる力の解放でも何でも良いから、もっと強くならなければ。

 ……そう思って色々と鍛練方法について悩んでいたら、自宅の本棚に見覚えのない本を発見。
またも記憶にない事が、とヘコみながら開いてみたその本のタイトルは『双剣の書~私はこうして皇妃になった~』。

 バカみたいなタイトルとは裏腹に、その書物の膨大で密度の高い情報量に不思議と目を奪われる。
奪われたついでにと、本の通りに双剣を試したところ、こちらも不思議と体に馴染む。
これしかない。そう確信。



∥月…日

双剣を振る、振る、振る。
最近、私自身何かに取り憑かれたのかと思えてしまう程、暇を見つけては剣を振り回している。



‥月]日

 双剣使いも少しは様になってきた気がするので、ジノと腕試し。

 五回やって五回勝つ。
一回勝負が終わる度に「本気出しとけば良かった。次からは私も本気を出す!」とか言ってたけど、結局最後までジノの本気は見れなかった。

 あと、私達の試合を見たブラッドリー卿がガクブルし始めたので記録。



Å月¢日

 今日は久し振りにピザ大好きっ子さんからメールが来た。
何でも最近忙しかったらしい。
モニカの凶報以来下降線を辿っていた気分が、久々に良くなる。

 メールには近況報告と、ブリッター始めましたの文字。
早速覗いてみたら、『修羅場なう』とか呟かれていて驚愕。

 然り気無く壮絶な人生を送っているピザ大好きっ子さんマジリスペクト。



~月㎡日

 職務中、偶然部下のひそひそ話を聞いてしまった。

 内容。

 「ハァハァ、アーニャたんテラカワユス」

 「馬鹿、リアルではアールストレイム卿って呼べ! 不敬にあたるぞッ!」

 とか、どこのスレの住人か一瞬でわかる会話だった。
まさか部下にいるとは……。

 とは言え、最近は鍛錬にかまけて覗いていなかったのを思い出し少し見てみたところ、


 【ナイトオブシックス】アールストレイム卿を応援するスレ47【リアルヴァンパイアハンター】


 凄い伸びてた。

 どうやら、ラウンズ昇進→ブリタニアの吸血鬼血祭り→ロイヤルガード就任のコンボで連日祭りだった模様。
相変わらずの電波扱いと、お通夜状態のモニカスレ住人との諍いが残念だったけど、応援されるのは悪い気分じゃない。

 頑張ろうと改めて思ったので記録。



¶月§日

 何故かヴァルトシュタイン卿と闘う事になった。
私が双剣を使うのを見て興味を持ったとのこと。
いざ始まって見れば、恐ろしい程に強かったけど、必死に鍛えた甲斐もあり途中までは善戦出来ていた……筈。

 けど、「この力、マリアンヌ様以外に使うことになろうとはな!」とか叫んで、隻眼と思われていたヴァルトシュタイン卿が両目を開眼してからは、一気に劣勢に立たされた。
こちらの攻撃をまるで予知しているかの様に捌かれてしまい、後は膂力の差で押し切られそうになる。
どうやら、自ら片目を封印して普段は実力を隠すとか〇×△(不敬にあたるので検閲)な事をしていたらしい。

 さすがはナイト・オブ・ワン。厨二っぷりも帝国最強。
そう思い素直に負けを受け入れようとした時、今度は私の厨二も爆発した……らしい。
らしいと言うのは、また記憶を失ったから。
意識が戻った時には、引き分けという結果と、清々しい顔のヴァルトシュタイン卿と、観戦者の中に泡を吹き気を失ったブラッドリー卿の姿が見えた。

 闘いの後、ジノが健闘を称えてくれたけど、明らかに腰が退けていた様に思う。
少し泣いた。



。月ф日

 先日のヴァルトシュタイン卿との一騎打ち以来、やたらと“閃光の再来”と持て囃される様になった。
前々から言われてはいたし、引き合い出される事は多かったけど、双剣を使い始めてからは、それが今までの比じゃない。
あまりにも言われるんで、私自身少し気になって来たので調べてみたら、こんなのが出てきた。

 ↓


 全盛期のマリアンヌ様伝説


・3分間に5KILLは当たり前、3分8KILLも

・敵拠点壊滅を頻発

・マリアンヌ様にとっての敵拠点壊滅は、敵軍全滅のしそこない

・単騎での敵本拠地壊滅も日常茶飯事

・戦力比1:100、味方全員負傷の状況から一人で勝利

・一回の斬撃で剣が三本に見える

・生身でKMF撃破

・戦線に立つだけで敵指揮官が泣いて謝った、心臓発作をおこす将兵も

・勝ち戦でも気分が乗らなければ敵指揮官を殺らずに帰ってきた

・あまりに強過ぎるから上官からも腫れ物扱い

・その上官も凹

・敵KMFを一睨みしただけでコックピットブロックが空高く飛んでいく

・軍務のない休日でも2KILL

・剣を使わず手刀で斬ったことも

・敵の銃弾を素手でキャッチして、指弾で打ち返す

・勲章授与なんてザラ、勲章がダブることも

・味方全軍で攻めるより彼女一人でやらせた方が早かった

・自軍の最後衛に居ながら敵指揮官を倒した

・彼女の鼻っ柱を叩き折ろうとした前帝時代のナイト・オブ・ワン、それに加勢したツー、スリー、フォーのラウンズともども全員土下座させた

・陛下のプロポーズに応えながら敵軍殲滅

・グッとガッツポーズしただけで敵が5人くらい死んだ

・剣の一振りで山が割れたことはあまりに有名

・血の紋章事件が終わった原因はマリアンヌ様のオーバーキル

・皇妃になってからもアリエス宮を狙った刺客は自ら処理していた

・G‐1ベースを楽々スクラップにしていた

・自らKMFに飛び乗って他皇妃の宮に突撃するというデモンストレーション

・全盛期のマリアンヌ様が撃破したKMFのコックピットブロックがちょうど敵指揮官機の傍に落下したんだが、すでにそのコックピットブロックに殺害予告が刻んであって驚いたそうだ



 …………なにこれこわい。



㍍月㌣日

 よくよく調べれば、マリアンヌ様が活躍していた時代はKMF全盛には程遠いそうなので、あの伝説のほとんどはデマっぽいとわかり安心。

 けど、あんな伝説が実しやかに流れる様な人の後継と見られるのはやっぱり有り得ない。
双剣使うのを自粛しようか考え中。



№月ヶ日

 今日は嬉しい事が一つ。

 モニカが生きて帰ってきた。
ラウンズ一同、喜びと共に迎え入れる。
とても嬉しいので記録。

 とは言え、これからが大変。
聞いた話では、ナリタ周辺にて保護されたモニカは、エリア11派兵時辺りの記憶が不自然なまでにごっそりと抜け落ちているらしい。
ラウンズに席を置きながら敗北した事も含め、その責を厳しく追及されるとの事。
降格も有り得るらしい。

 よく記憶を失くす身としてはモニカの事は他人事とは思えず、何と声をかけて良いのか悩む。
けどモニカは本人は、エリア11に赴く前と比べれば、憑き物の落ちた様なさっぱりとした顔をしていたのが印象的だった。

 とにかく今はモニカの帰還を喜びたいと思う。
本当に良かった。



≦月×日

 今日は少し前に話に出ていた第7世代KMFの開発現場にお邪魔した。
と言うか陛下が連れてきてくれた。やはり良い人。

 視察したのは、エリア11で活躍中のランスロットとは別に開発が進められていたKMF、名をガウェインというらしい。
従来のKMFとは一線を隔すデザインのその黒いKMFはコウモリ耳がラブリーだった。

 しかも飛ぶ。
しかもビームもでる。
ガウェイン凄い。

 なんでも私のKMF開発チームにお願いした“高火力砲撃型”と言うリクエストに応える為には、ガウェインのビーム兵器―――正確にはハドロン砲と言うそうだ―――の完成が必要不可欠であるとか。
てっきり私のKMFは実弾山盛りの弾薬庫KMFになるかと思っていたら、まさかビームとは………。

 早期の完成を願ってガウェインを記録。



▼月〒日

 モニカ生還に次いで、帝国の吉報が続く。

 クロヴィス殿下ご生還。
元々遺体も確認されず、忽然と姿を消した殿下だけに、ネットでは死亡説を疑う声も多かったし、果てはゼロこそがクロヴィス殿下本人だなどと言う失笑ものの噂もあった中で、当の御本人は身柄を抑えていたゼロの目を盗み、中華連邦へと身を寄せる事に成功。
どうにか本国への渡りを付け無事舞い戻る事が出来たようだ。

 それにしても、クロヴィス殿下がエリア11にて敗北を喫しブリタニアの威信を貶めたのは紛れもない事実と言う声も少なからず挙がる中、陛下の「良い、咎めは無しだ」の一言で皇族復帰が叶ってしまうなんて、私の母国は割とアバウトな気がする。
もちろん、私の預かり知らない政治的な事情は沢山あるのだろうけれど。

 とは言え、陛下良い人説を信じる私は、今回のクロヴィス殿下皇族復帰の件を受け、非常に甘ったれた事を陛下にお願いしてみる事にした。
そのお願いの内容はずばり、クロヴィス殿下お咎め無しならモニカも降格しなくて良くない? と言う内容を小難しくした感じので。
それに対して陛下も「うん、いいよー」と言う内容を小難しい言葉で返してくれた。

 陛下やはり良い人、私の見立ては正しかった。
そして私GJ。
なにより専制君主国家万歳。

 ……ただ、陛下がその後胃の辺りを擦っていたのが、少し気になる。


追記

 モニカの件で舞い上がり書き忘れたけど、クロヴィス殿下が生還された事でゼロが一つ嘘を吐いていた事が判明した。
これが仮面のカリスマにどう影響を与えるのかもこれから興味津々。



㌘月★日

 モニカのラウンズ続投が決まり、私のロイヤルガード生活も終わりを告げた。
問題なく引き継ぎも終えて、一度イルバル宮に引き返そうとした私に陛下からのお声がかかる。
新たな任務と思いきや、暇な時にある人物の相手をして欲しいとの事。
KMF開発現場視察やモニカの件で陛下株急上昇中の私に断る理由は何もなかった。

 快く引き受け、陛下の案内で宮殿の奥の部屋に通される。
そこで顔を会わせたのは、しばらく前に宮中で私を母親呼ばわりした同年代の少女。
やはり隠し子? と疑問に思う中で、陛下が説明を始める。

 その説明によると、少女の名前はロロ。
陛下の隠し子では断じてないが、場合によっては義理の娘と言えなくもないと思わないでもないとかなんとか。
とある事情により宮殿の奥に匿い住ませてはいるが、来たる未来、陛下の最大の敵になるかも知れない相手への最高の切り札になるかも知れなくもないかもしれない秘中の秘。対妹萌え用最終決戦兵器なのだそうだ。

 うん、私の記憶が定かなら彼女の名前以外何一つわからない説明だったが、そこで、陛下頭大丈夫ですか? と訊くのは不敬にも程があるので、黙って頷いておく。
とにかく、諸事情ある中でも宮殿の奥に一人置いておくのはあまりに不憫と言う事で、歳の近い私が話相手など仰せつかった、と言う解釈で良いのだろう。

 その後、陛下が退室して暫く、親睦を深めようと色々と話してみる。
控え目な感じはするが、感情豊かとはお世辞にも言えない私としてもペース的には似通ったものを感じ好印象。
暇があれば、これからも出来るだけ会いに来ようと思う。

 同年代の友達GET記念ツーショットを記録。



Ы月≠日

 たまに記憶と記録の齟齬を感じるけれど、最近は嬉しい事が続くので気分もあまり落ち込まない。
今日は特にお務めもなかったので、丸一日ロロと過ごして、夜はピザ大好きっ子さんとメール。

 メールの中で、ロロという友達が出来た喜びを伝えたくて、先日撮ったロロとのツーショットを送ってみる。
陛下が秘中の秘と言っていたので、もしかしたらマズいかもと思いつつ、他人に見せないで欲しいと一文添えて送信。
返信には、おめでとうの言葉と、今度ピザ大好きっ子さんの彼氏の写真も送るという報告が……。楽しみ。

 最後に、修羅場平気だった? と訊いてみる。
返信は「Here come the new challenger!」なんて文。
とりあえず前の戦いには勝ったらしい。

 恋は戦いと言う言葉を実践し過ぎなピザ大好きっ子さんに乾杯。



ζ月%日

 暇なのでロロと遊ぶ。
その最中、ロロの動きが洗練され過ぎている事に気付き指摘。
ロロが話すには、暗殺術を少々嗜むとか。

 そこから渋るロロを説得、腕試しをしてみたんだけれど………。

 次の瞬間、私は地面に叩き伏せられていた。
正に、あ、ありのまま今おk(AA略 なポルナ○フ状態。
催眠術だとか超スピードだとかじゃ断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗をリアルで味わってしまった。

 上には上がいる事を実感。
マリアンヌ様の再来なんて煽てられて知らず知らず増長していたのかも。

 冗談半分の腕試しとは言え、悔しかったので私も更なる高みを目指そうと思う。



Э月Ξ日

 遂にピザ大好きっ子さんから、彼氏の姿がメールに添付されてきた。
しかも動画。

 うきうきしながら開いてみると、題名は『俺の義弟がこんなに可愛いわけがない!と悩むバカ』。
意味は良くわからないけど再生してみる。

 動画の中では、『あ、あいつが……女……だと? し、しかも可わ……クッ、おのれブリタニアぁぁぁッ!!』とか荒れ狂う黒髪の少年。
何がそこまで彼を狂乱させるのかは知らないけど、酷く歪んだその顔からも整ったその容貌が確認でき……?

 何か引っ掛かるものを感じてもう一度動画を注視。
それから、自分の携帯のフォルダの奥深くに眠る一枚の写真を開きこちらも良く見てみる。

 ………見比べてみてわかった。
私の持つ写真の男の子と、動画の中のピザ大好きっ子さんの彼氏は似通い過ぎていた。
恐らくは同一人物。

 ……と言う事は、私は過去にこの人に逢った事があ……る?






                                      おわり





 あとがきと言うか見苦しい言い訳

 ごめんなさい。来月中には本編上げます。
まだ見捨てずに覗いて下さっている方がもしいましたら、もう暫くお待ち下さい。
今はこれでお茶を濁しておきますので、クロヴィスとかモニカとか、なんでこうなってるとかツッコミながら本編が上がった時にでも見に来て頂ければ幸いです。
後、取り敢えず生きてます。

 毎度の事ですが、読んで下さった方、感想書いて下さった方、本当にありがとうございます。
しかも今回は大量の誤字指摘して頂けて非常に助かります。
次の更新時に折を見て直そうと思います。本当にありがとうございました。

 では、今度こそ近い内に。






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