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[4469] 魔導剣士ジェネラルシグナム……で良いのか? byシグナム (シグナム憑依?もの)
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2012/08/16 21:19
チラシの裏から移動してきました。
以下はそのときの注意書きですが、そのまま継続して載せます。

題名通り、シグナム憑依?ものです。

・憑依を苦手とする方
・このキャラはこうでないといけないとこだわりを持つ方
・設定は大切ですという方
・原作と違う結末はダメという方

などなど、上記やそれに類似することを持つ方にはかなりの危険物です。
ご注意のほどを。

あと、この作品は回りくどい表現で小ネタがある場合があります。
これどこにあるの?、などと思われた場合、斜め読みを一旦中断し、過去をたどってください。
突飛でない限り、過去に必ずあるので。
どうしてもわからなかったら感想にて対応する……かもしれません。

今のところのコンセプトは以下の通り(ただ、守るかは未定)

・シグナムに憑依?
 その際、シグナムの技能が使えることの説明っぽい設定をだす。

・憑依物なので、本来のシグナムではやりそうも無いことをやらせる。

・憑依なのにシグナムらしくバトルマニア。

・シリアスにもギャグにもなりきれない。
 そんな微妙なところを進むが最後はハッピーエンド(のつもり)

まあ、テストですのでハッと鼻で笑いながら生暖かく読むことを推奨。



2012
8/16 第二十七話訂正

8/15 第二十七話掲載
   第二十六話訂正(納刀時に使用したカートリッジを強化型に)

2010
1/13  第二十六話掲載
    以下訂正箇所(幻翼さん感謝です)

第十七話
・バリヤフリー → バリアフリー
・瞬時に体を裁き → 瞬時に体を捌き


第二十四話
アルフとの会話でシグナムが気づいてることを感じさせるように改定

第二十五話
・原作の書の意思の拘束しているベルト → 原作ではあったベルト

9/2  第二十五話掲載
    以下訂正箇所(幻翼さん感謝です)
第二話
・すべてを一通り解説されたはずなのだが~
→ 違和感無いように覚えている部分などの説明?追加。
第三話
・涙ぐんだ後すら → 涙ぐんだ跡すら
第八話
・さい先がいい → 幸先がいい
第十話
・これで積みだ → これで詰みだ
第十三話
・調べつく前に → 調べがつく前に
第十四話
・聞及んでいる → 聞き及んでいる
第十五話
・アインを見て吹いた → アインを見て噴いた
第十八話
・建造物は破壊しなければいいのだからな → 句点
・博士ははやてとなにかやりとりをしてから立ち上がる → 同上。
・庭の諦観 → 庭の景観
第十九話
・今までの訓練で、やはり、なのはは砲撃に適正があった。
→ 今までの訓練で、やはりというべきか、なのはは砲撃に適正があることがわかった。
外伝三話
・仲良く慣れたの → 仲良くなれたの
第二十話
・高町家の面々と → 高町家の面々に
第二十三話
・それを目に下 → それを目にした
・ユーのも私も → ユーノも私も
・今度は貴貴女が → 今度は貴女が
・声を駆けた → 声をかけた
第二十四話
・まあ、本来はノエルの運転だから帰りは大丈夫だろう → 句点
・分かれたものと → 別れたものと
・先ほど分かれた → 先ほど別れた


6/30  第一話訂正
    第二十四話ユーノ側追記

6/28  第二十四話掲載

4/19  第二十三話掲載

3/30  第二十二話掲載
    一つ前の更新履歴を忘れていたので追記

3/16  第二十一話掲載

2/27  第二十話掲載

2/12  外伝三話掲載

1/29  第十九話掲載

1/12  第十八話掲載
    第十七話訂正 獲物→得物
    前回の更新履歴を忘れていたorz

1/8  第十七話掲載

1/2  板移動
    第十六話掲載

12/31 各話訂正。
訂正内容

第二話
以外と→意外と

第三話
シュベルトフォーム→シュベルトフォルム

第十話
レヴァンティンが振るう→レヴァンティンを振るう
ディレイバインド→ディレイドバインド

第十二話
時間とともに消えていくのが今後の課題だ→消えていくのでどうするかが今後の

第十三話
闇の書の守護騎士と私は別だぞ→闇の書の守護騎士と私たちは別だぞ
現にアインの→調べられても、現にアインの
幸いに→幸い、

第十四話
お父様→父様

外伝二話
僕は、後で知ったアームドデバイスと呼ばれるデバイス→アームドデバイスと呼ばれることは後で知ったが、そのデバイス
お父様→父様

12/28 外伝二話掲載

12/22 外伝一話掲載
    規定に対応

12/18 前書き注意追加
    第十五話掲載
    更新履歴を忘れそうになった。

12/12 前書き訂正
    第十四話掲載

12/6  第十三話掲載

12/1  第十二話掲載

11/24 今回から更新履歴をここに。
    題名仮決定。
    第十一話掲載



[4469] 第一話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/06/30 22:39
ふと、目覚めると、あたり一面真っ暗な場所に立っていた。

おかしい。

なぜなら俺はトラックに挽かれて(誤字にあらず)あの世行きになったはずだからだ。

とりあえず死後の世界と言うことで納得しておこう。」


「いや、そこで納得されても困るぞ?」


あ~、そら耳か?」


「違うぞ」


じゃあ、お迎え?」


「とりあえず、こちらを向け」


お迎えと疑っていない俺は素直に振り向いた。」


「やっとこちらを認識したか」


振り返った先にいたのはヴォルケンリッター、烈火の将、剣の騎士、シグナム。」


「私の事を知っているのなら話は早いな」


いったい何事なのだろうか?

知っているとは言ってもコアなリリカルファンである我が友につきあわされた時に知り、その後に原作を見たが、やはり友にはかなわない。

ちなみに我が友はヴォルケンリッター、鉄槌の騎士、ヴィータのファンである。」


「ほう、ヴィータの事も知っているのか。
 それと、さっきからすべて声に出ているぞ」


「あ~、わかってはいたが認めたくない事が一つあったので」


なにしろ目の前の烈火の将と同じ声な訳ですよ。


「突然自分の姿が変わっていたらそうなるだろう。
 そろそろお前の状況について話したいのだが?」


「どうしようもないのでお願いします」


「まず、最初に、ここはあの世などではなく闇の書の守護騎士プログラム格納領域だ。
 私がいることからわかるように、その中でも剣の騎士シグナムの領域だ」


「つまり、俺はシグナムのシステムに組み込まれた訳だな?」


「そう言うことになる」


そうするとなぜ俺を取り込んだか、だな。


「なんで俺が取り込まれたんだ?」


「魔導砲『アルカンシェル』により闇の書が破壊された際に、守護騎士システムに障害が発生し、騎士シグナムのリンカーコア情報に欠損が発生し、それを補うために周囲にあったリンカーコアを取り込んだ。
 オリジナルのシグナムは損傷の過程で消失。バックアップデータを元に取り込んだリンカーコアを改変している最中だ」


シグナムの手にある紙の束にそれらの事は書かれているようだった。

オリジナルのシグナムが消失したと言うことは、目の前に居るシグナムはバックアップデータで構成されたシグナムなのだろう。

何より、端的に表された情報からすれば俺がシグナムの姿をしているのは復元過程で俺のリンカーコア、この場合は魂の入れ物にもなっているのだろう、それが、シグナムのリンカーコアへと改変されている証拠だということだろう。


「バックアップである私と、メインコアとなるお前がこうして相対しているのは書き換え作業の途中だからにすぎない。
 作業が終わればバックアップである私は消えるだけだ」


「そうか」


「さて、そろそろいいだろう。
 書き換えも終わっているし、最後の行程だ」


そう言い放つと目の前のシグナムは剣を模したアクセサリーを目の前に掲げる。


「私と戦い、ベルカの術式、呼び起こせ」


その言葉に(私・俺)の体は反応して同じように剣のアクセサリーをかざす。


「「レヴァンティン!」」


『『Jawohl』』


思考形態もある程度改変されたようで、簡単に言うなら現状は(俺+シグナム)÷2=私、と表せる。

もはや一人称すら変わっている。

おそるべきベルカの技術。

少し思考がそれてしまったな。

さて、『私』としていくとするか。


「「レヴァンティン、カートリッジロード」」


『『Explosion』』


なるほど、これが『私』の炎熱変換能力と言うわけか。

変換した魔力が刀身から散らないように魔力をコントロールする。

『シグナム』の経験はすでにこの身に宿っている。

後は私が『シグナム』を越えなければならないのだ。


「「紫電一閃!」」



第一話『シグナム、二人?』

第二話に続く。



あとがき

ども、ryugaです。

初めてなのに無謀な挑戦をしてみました。

とりあえず最後までは続けます。

その最後がA'sかstsかは決めていませんが。

予定としては次で主人公がオリジナルシグナムとどれだけ違って、リリカルの知識がどれだけあるのかに触れるつもりです。

その後は定番の、他のヴォルケンズと別に、フライングして闇の書から出てくるのですが、無印介入するか悩んでおります。

まあ、どちらにしろ日常編とかもやっていくつもりなので気が向いたら見てやるか程度のノリでいるのが吉。

アドバイスなどもありましたらどしどし叩きつけてください。



[4469] 第二話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/09/02 01:31
第二話『○○、始めました』



あれだけ意気込んだにもかかわらず、私と『シグナム』の戦績は全25試合、すべて引き分け。

決着の仕方は同時に魔力切れか、相打ちで決まっていた。

お互いにある意味で同一人物であるための実力伯仲。

私と『シグナム』は思いっきり楽しんでいたのだが、気づいた。

私と『シグナム』が引き分けている時点で、私の意気込みはともかく、『シグナム』の目的である、戦闘方法と古代ベルカの術式を呼び起こすという目的は達せられたことに。

それも、やっぱり二人同時に気づいた。


「で、今の。なにか今のうちに聞きたいことはあるか?」


「昔の。とりあえず戦闘については無い」


ちなみに、戦闘中に、お互いがシグナムであるために呼びにくいという事態が発生したため、昔のの発案で、私を“今の”(シグナム)、バックアップである昔のを“昔の”(シグナム)と呼ぶことになった。

お互い、今だけの区別なので了承した。


「だが、昔の。守護騎士はどこまで闇の書に、いや、夜天の魔導書にアクセスする権限がある?」


「そうだな、我等ヴォルケンリッターのデバイスと術式、それらに関する技術やプログラムソースも参照可能だ」


やはり、どこからか紙の束を出して答える昔の。

簡潔に答えが返ってくる。


「しかし、それを聞いてどうするのだ、今の?」


「なに、“俺”は技術者としてハードとソフトの両方の開発を生業としていた。
 デバイスとその術式は“俺”にとっては興味が尽きない。
 融合騎である夜天の書もその対象だ」


前世とでも言えばいいのか、“俺”は技術者であった。

そのため我が友のリリカルなのは講座で最も興味を引いたのはデバイスの技術や、術式がプログラムで作られていたりするところだ。

なにより、我が友の「闇の書はな、…まあ、お前にわかりやすく言うとだな、夜天の書にウイルスやバグをわんさかつけて、書の主と周囲に多大な迷惑を与える困ったちゃんだ」というありがたくも無い発言が、今の我が身に降りかかっている現状を打開するためにも、この情報は必要だ。

私の知識欲を満たし、なおかつ、現状を良いものにするため今の闇の書からできるだけデータを引き出しておく必要がある。


「まあ、ここだけの存在である私が問いただすことでも無かったか。
 何をするつもりかわからんが下手は打つなよ」


「ああ、わかっている」


「短い間だったが楽しかったぞ、今の」


「こちらもだ、昔の」


『シグナム』に対する闇の書の復元機構のアクセスが終了し昔のが消えていく。

忘れることは無い楽しいひと時だった。

さて、名残惜しいがやることを進めていこう。

ヴォルケンリッター烈火の将のアクセス権限を起動。

まずは我らのデバイスと術式に関するデータをコピー。

元が術式研究の為のデバイスと言うことだけはあり、古代ベルカの術式の基礎からカートリッジシステムの情報までも記録されていたので、コピーしておく。

これらは夜天の書が古代ベルカ製であるためか、アクセスするための権限が低くても参照可能なようだ。

さらにアクセスを続け、参照可能だった夜天の書のログも回収する。

ログによると現在、闇の書は復元中で、まだ次の主の元へは移動していないようだ。

『シグナム』の破損原因はやはりわからず、アルカンシェルを受けた後に破損した事、無限再生機能でも復元出来ず、今回の手段をとったことはわかった。

そしてオリジナルの再生不能の原因もわからなかった。


「レヴァンティン」


『Was ist es?』
(何でしょうか?)


「今のデータをすべて保存できるだけの容量はあるか?」


まあ、レヴァンティンはアームドデバイスだから期待はしていない。


『Es gibt es』
(あります)


おお、武器であるにも関わらず、機能は充実しているのだな。

戦闘面での機能は把握しているが、記憶などの情報処理も意外と高性能なようだ。

以前のシグナムの記憶をたどっても情報処理などはシャマルの担当だったからな。

レヴァンティンの機能すべてを把握する機会が無かったのは悔やまれるところだ。


「データを保存し終えた後の容量はどれぐらい残る?」


『Ich kann ungefähr drei Male in Kapazität durch Schätzung lagern』
(概算でも同容量を三回ほど保存可能)


「わかった。保存と閲覧のための整理を頼む」


『Jawohl』


レヴァンティンに処理を任せ他の行程に移る。

データの保存されているアーカイバに接続して現在の権限でアクセス出来る項目の一覧を呼び出す。

低級項目から順になるようにソートをかけ見ていく。

『ベルカ式健康法』……必要ない。

『天気予報プログラム』……なぜある?

『家庭の味 ~ベルカ編~』……コピーしておくか。

『デバイスの基礎 自作への道~ミッド編~』……コピーするが、これがこのレベルでいいのか?

さらに見ていき、必要な項目はデータをコピーし、次々と項目の確認を進める。

どんな情報だろうと有益であると判断したら容量の許す限り保存する。

何しろ、覚えているのは大体の流れと、今の私をはじめとするヴォルケンリッターの面々の情報ぐらいだ。

今の現状ではっきりと覚えているのがそれだけなので、シグナムになったときに記憶に欠落が発生したのと、あまり興味が無かった部分だろう。

うろ覚えだが、おそらく本筋はわかっていると思う。

それらの時期関係があいまいになってはいるのだが。

このあたりは時期が来たり、関連のあるものから思い出せるかもしれない。

昔の記憶についてはシグナムの物と、“俺”に関する性別にかかわらない記憶がある。

これは、完全に感覚をシグナムとして最適化するためだろう。

シグナムの体に違和感を起こすものを排除した結果と推察している。

“俺”の性別に関しては性別にかかわらない記憶しかないため“俺”という呼び方通り男だと推察するが、なぜか男女ともに告白されているので深く考えないように、その記憶があることも含め忘れることにする。

覚えておくといろいろと危険なことになりそうな予感がするからだ。


『Das Ende』


「わかった。待機していてくれ」


『Jawohl』


レヴァンティンを再び待機状態にしておき、ふと思う。

たしか、舞台である海鳴には高町家という戦闘民族が存在している。

あのとらハでも、リリなのでも半端ではない戦闘力と勝負できるのなら、血沸き肉踊る戦いができるのではないかと。

ただ、原作に半端ではない影響を与えることとなる。

これはかなり悩むな……




第三話につづく



あとがき

題の○○には、技術屋、戦闘狂などを各自当てはめてください。

料理人でも可。

あと、副題は『レヴァンティンをただのアームドデバイスと思うな!』です。

AI搭載ならこのぐらいは出来て欲しいという願いからこんなことに。

いくら武装特化で魔法補助がほとんど無いデバイスでも情報の保存と、自己判断できるだけのAIがあれば簡単な処理は出来ないとそもそもデバイスとして成りたたんと思うわけです。

まあ、この話ではそんなものだということにしておいてください。

そろそろ、闇の書から叩き出されると思います。

……たぶん。

あと、レヴァンティンの会話は翻訳サイト使ってます。

意訳の違いなどがあると思いますが、ドイツ語ではなくベルカ語だからと自分に言い聞かせてスルーしてください。

>訂正
一話
昔のの台詞「私と戦い、古代ベルカの術式、呼び起こせ」を

古代ベルカからベルカに変更。

自分のことを古代という人はまずいない。

全話
レヴァンテインからレヴァンティンへ

情けない打ち間違い…



[4469] 第三話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/09/02 01:31
第三話『闇と炎、夜天と雲』


高町家の面々とは後々機会があるだろうと自身を納得させた。

優先順位を間違えないための自戒でもあるのだが。

……我慢できるかは、そのとき次第だが。

ちなみに、現状では闇の書の中枢にはアクセスできなかったのであきらめるしかなかった。

仕方が無いので、まずは、コピーした情報を整理することから始める。

デバイス関連のデータを集め、各項目ごとに整理。


「データの整理は終わったか?」


「まだだ」


魔法についても同様に行う。

さて、次はなぜかあった、役立ちそうな日常生活編だ。


「そろそろいいか?」


「まだだ」


これで、とりあえずはいいだろう。

中身の確認はしやすくなったので後回しだ。

……そういえば、昔のはすでに消えたはずだったが。


「……グスン」


慌てて振り向くとそこには無表情で涙目になっている管制人格がいた。


「すまない、まさか、この状況でアクセスしてくるとは思ってもいなかった」


「かまわない、どうせ私は破壊と輪廻を繰り返すだけのはた迷惑な存在だ……」


ああ、何だ、このマイナス思考……

気づかなかった私も悪いが、さすがにこの落ち込みようは……

待て、相手のペースに引き込まれるな。

そうだ、我らベルカの騎士に一対一で負けはない!

そう、意気込み、再び視線を管制人格へと向ける。

そこには涙ぐんだ跡すら見えない無表情。

……いや、私にはわかる。

無表情に見えるが、あれは笑っている。


「ほう、私をからかって楽しいか?」


『Explosion』


私の意を汲んでシュベルトフォルムになり、カートリッジを炸裂させるレヴァンティン。

刀身に炎が吹きあがる。


「何か言いたいことはあるか?」


「すまない」


先ほどとは違う感覚に戸惑いを覚えつつ、これは冗談に対するものではないと察し、レヴァンティンに指示する。


「魔力拡散」


『ja』


炎は散り、余剰魔力が蒸気の様に吐き出される。

そのまま鞘に納め腰に留め置く。


「いったい、何に対する謝罪なのだ?」


「今の烈火の将ではない烈火の将に、そして、今の烈火の将に」


ああ、意外と責任を感じているのだな。

わざわざ私の領域に顔を出すのだ、責任を感じていないわけがない。


「オリジナルの存在が無い今、謝罪の必要はないよ。
 私は今の自分が嫌ではないしな。
 何より、私が救われていなかったら”私”も”俺”も消え去っていたのだ。むしろ感謝している」


「すまない」


「謝る必要はない、と言ったが?」


「…そうだな、ありがとう」


「どういたしまして」


重苦しい話は早く終わらせるに限る。

持ち直したらしい管制人格がこちらに向き直る。

それに対して思ったことを聞くことにした。


「聞きたいことがある。
 一つ、私はどのように認識されているのか。
 一つ、なぜお前が現状でここにこれたのか
 一つ、ここに来た目的、だ」


「いいだろう。
 問題なく、システム上では烈火の将として認識されている。私もそのようにして扱っている。
 次に、闇の書の修復、転移には書の蓄積魔力を消費する。未だ修復段階にあるからな、私の制限をはずすくらいの魔力は十分にある。周囲の魔力を蓄積することも出来るしな。
 そして、肝心の目的だが、お前の自由にさせるためだ」


的確に答えてくる管制人格。

しかし、私の自由に?


「修復行程で記憶は見せてもらった。
 語られていた物語、その結末。
 偶然とはいえそれがここにある。
 ならば波紋を一つ起こせば連鎖的にほかの波紋は形を変える」


「つまり、私を外界に今の時点で出すわけだな。
 その小さな違いで物語を大きく変えようということか」


頷く管制人格。

確かにそれだけでも大幅に変わっていくことだろう。


「しかし、それだといろいろと不都合があるのではないか?」


「烈火の将の維持はお前自身の生成魔力で十分だ。外から取り込んだリンカーコアにシグナムの要素を加え『シグナム』として編集されたのだ。以前と比べても生成魔力や保持量などかなり向上している」


「…解説助かる」


そうだとするなら、昔のと引き分けたのは保持に魔力を消費しているのだろう。

そういうことにしておく。

ご都合主義なのだが、いいことなのだ、活用する事を心がけよう。


「では、外に放出するぞ」


保存領域が鳴動する。


「管制人格よりシステムコール。
 ヴォルケンリッター烈火の将を外界に。
 シークエンス開始」


私の体が光に包まれ視界が薄れていく。


「また会う日まで、頼むぞ、烈火の将」


「ああ、ではな」


光が止み、私が目をあけると広大な大地が広がっていた。

闇の書が再生しているのは宇宙空間なのだから、管制人格がわざわざ転移させてくれたのだろう。

一回り見回してみる。

……もう一回り。

…………もう一度だ。

虚しい……

現実逃避はやめよう。


「さきほどぶり、だな」


「……ああ」


「……なんでお前まで出てこられたのだ?」


「……」


「どうしてだ?」


「…操作ミスとエラー」


「……なるほど、操作対象を私単体ではなく私の領域にした挙げ句、修復中の不具合、自己認識エラーで私と一緒に出されたわけか。魔力も活動期分は余裕であったしな」


「解説すまない」


それは私の台詞なのだがな。

どんな偶然だ、これは。

奇跡的な確率とはいえるが、管制人格のない闇の書がどんな活動をするかわからんぞ……

それにだ、


「私の魔力が減っているのはお前が原因だな?」


「その通りだ。現状、私が存在するために烈火の将と接続している」


「まあ、消えたら問題があるだろうからしかたないが、燃費がずいぶんと悪いな」


オリジナルのシグナムがAAAランク相当だったが、今の私はSランク相当で、管制人格の維持の為に実状はAAランク相当。

実に(+と-分を除き)2ランク分も維持だけで消費されている。

これで魔法を使われようものなら私の側がBランク相当まで落ちる事だろう。

現状、管制人格を守りつつ、AAランクで戦うことを前提としなければならない。

…一人なら強敵に戦いを挑みにいけたのだがな。


「仕方がない。本来なら…」


「いや、言わずともいい。むしろ、一時かもしれんが自由であることを喜ぶべきだ」


「…そうだな」


この偶然をくれた何かに感謝してもいい。

素直にそう思えるほどの奇跡だ。


「それと、シグナムでかまわん」


「わかった、一時とはいえ自由なのだ。その意も含めて、そう呼ばせてもらおう」


「ならば、そちらはどう呼べばいい?」


「……なら、アインと」


「私の”記憶”からか?」


「いや、確かに、あの名は、あの主からもらうべきものだから名乗れないが、これは、言うなれば、私は長女になるのだろう?」


「そういうことか。私たちの長女。一番目、アインスと言うわけか」


「そういうこと」


ふむ、今現在の私たちの関係を家族にたとえて見たわけだな。

まてよ、そうすると我等ヴォルケンリッターの位置づけはどうなっているのだ?


「アイン、お前の考える、我等を家族にたとえた時の関係を教えてくれないか?」


「かまわないが、まず長女はさっきも言った通り私で、次女は、シグナムだ」


「年齢設定はシャマルが上なのだが?」


「シャマルは母だ」


思わず吹いた。

設定年齢が私と3つしか違わないのに母扱いとは……

不憫だな、シャマル。


「三女がヴィータ、ザフィーラは……」


「「ペット」」


そこは予想通りか。

何気にシャマルが一番ひどい扱いを受けている気がするが。


「それよりも、こんな問答をしている場合ではなかった。
 今の時期はどれぐらいかわかるか、アイン?」


「時間は先ほどと変わらない。いまだ闇の書は同じ場所で復元している」


「アルカンシェルが放たれた直後のままか。外界では一瞬の出来事だったわけか」


「そういうことだ。そしてここはどこだかわからない」


は?


「何しろ、知るすべが無かった」


「…確かに。仕方ない、まずは町か、ここが把握できるものを探そう」


「わかった。どうするかはその後決めるわけだな」


「そういうことだ」


私はアインと共に歩き出した。

ともかく、出だしから奇想天外のこの旅が、無難に進むことはありえないことだけは確かだな……




第四話に続く




あとがき

……なぜ、アインが出たのだろう?

予定では最終付近のつもりでいたのに。

気がついたらいつの間にやら、シグナム取り付かれてるし。

どうも皆様、私自身予想外な方向に走っておりますが、このまま全力疾走いたします。

まあ、シグナム強化と同時に制限をかけることは予定通りなので。

未だ11年前な二人ですが、シグナム自身の予感通りなのかは進んでみないことには。

さまざまなこともありますが、な(以下略)

シグナムとアインの旅、乞うご期待……しないでください。

ちなみに、元は、ぶらりシグナム一人旅の予定でした。


>訂正
第二話

血肉沸き踊る→血沸き肉踊る




[4469] 第四話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2008/10/28 17:01

第四話『シグナム&アインの珍道中そのいち』




私たちが歩き出してすぐの事だった。

レヴァンティンにコピーしておいた術式をアインがロードし、私からの魔力供給で発動させる。

ただし、私にいっさいの断りもなしにだ。

急激にランク単位で減少した魔力のために目眩を覚えつつその行使には感嘆する。

アインの魔法行使が終了すると同時にアインに向いていた魔力の流れが私に戻る。

その感覚と目眩が収まった頃私はアインに聞いた。


「アイン、今、何をした?」


「レヴァンティンに広域探査魔法が記録されていたから、それを読み込んで行使した」


「使用目的と結果は?」


「宛もなく探すよりはいいだろうと思い、生体反応をサーチ、結果はここから20km圏内に少なくとも生物が集まっている」


「わかった。そこまではいい。だがな……」


「?」


「広域探査の魔力波で私たちが見つかる事は考えなかったのか?」


睨む私、目を逸らすアイン。

……このドジっ子が。

ああ、私の認識は間違っていたのだ。

これからはこの長女のドジにも注意を払わなければならないらしい。


「やってしまったものは仕方がない。魔力行使は必ず私に問いかけてくれ。
 思念通話程度なら私の側から魔力をとらなくても現状の供給魔力だけで出来るはずだ」


「戦闘の際に支障をきたさない様にか、わかった、心がける」


今のカートリッジは……12か。

現状で戦闘するとなるとほぼ、シュベルトフォルムで戦う事を余儀なくされるな。

よほどのことが無い限りはシュランゲフォルムで戦うことは出来ない。

アインの見つけた場所にかけてみるか。

何かあったときの為に即座に戦闘に移れるように騎士甲冑を展開する。


「……アイン、設定したのはお前か?」


「その通りだ。今までのものはデザインがアレだったり、重装甲すぎるものばかりだったからな。色を変えて作った」


アインはそう言うが、現在の私の甲冑は、次の主である(はずの)八神はやてからもらい受けるはずの騎士甲冑の色を黒にしただけのものだ。


「完全に新しいものを考えるのが手間だったこともあるが、色を黒にする事で正式なものではないという意味合いを持たせている」


まあ、それで納得しておこう。

でなければ、ストレスがたまる一方だ。


「よし、アイン。案内してくれ」


「わかった」


こうして私はアインとともに進みはじめたわけだが、この、ドジっ子長女はさっきの行為でいろいろな面倒事を私に運んできたのだ。

まあ、いろいろとは言ってもそれほど数は多くなかったのだが、アインのドジに要注意と再度私に刻み込んだのは言うまでも無い。


「アイン、止まれ」


私の声を聞き止まるアイン。

息を殺し上空を見上げる。

そこには大群と呼んでもいいほど、大型の鳥が集まっていた

そして、盛んに放出されている魔力波。

……もしかしなくとも、だな。


「静かにここから移動する」


「わかった」


しかし、運が無いのだろうか?

大型の鳥が一匹こちらを向いたのだ。

一斉に向きをこちらに向ける大群。


「しかたない、走れ!」


私が未だ腰で鞘に納めていたレヴァンティンを抜き放ち、殺気を向けて威嚇すると同時に、アインは私から離れるようにかけだした。

これほどの魔導生物の集団をしとめるにはカートリッジ使うしかないかもしれないが、いざと言うときはためらわない。

飛行をはじめ、空戦で対応する事にする。

不利になることもあるが、地上でアインを守りながら戦ったら危険なことになる。

相手の土俵で戦い、叩き伏せ、今の状態を把握する。

走っていったアインよりも、目の前で死の予感を伝える私を優先したのだろう。

アインに向かっている鳥はいない。

加速し、一匹をすれ違いざまに斬り伏せる。

落下していくのを後目に、次の獲物へと斬りかかる。

次々と落ちていく鳥。

思っていたよりも知能が低く、大型のため天敵がいなかったのか?

カートリッジを使う必要など全く無く、嘴をかわしながら切り捨てていく。

せっかくの機会なのだ、いろいろ試させてもらおう。


「レヴァンティン、魔力をカートリッジの炸裂チャンバーに圧縮封入、出来るか?」


『Ich kann es machen』
(出来ます)


「では、頼む」


『ja』


なぜカートリッジというものに圧縮して魔力を炸裂させるのか。

バッテリーの様に魔力を貯蓄しておけばそのまま使えるだろうが、わざわざ圧縮をかける理由。

その答えは炸裂させることにあるのではないか。

圧縮から解放されるときに発生する爆発力も魔力として用いられているならバッテリーでない理由も納得できる。

魔力を圧縮させながら敵を切り捨て、空を疾駆する。


『Magische Machtverdichtung, Patronenvergleich 50%』
(魔力圧縮、カートリッジ対比50%)


「圧縮中断、決めるぞ」


『Jawohl……Explosion!』


カートリッジ使用時よりも弱いが刀身に炎が走る。


「紫電一閃!」


切り捨てられた鳥は炎に包まれ、残りはその光景を見て逃げていく。

ふむ、カートリッジの節約にもなるな。

カートリッジ作成が出来るまで、当座はこれで凌いでいけそうだ。

シュランゲフォルムも使うことができるだろう。


「そういえば、アインはどこまで行った?」


あたりを上空から見回すがアインの姿は見えない。


【アイン、どこにいる】


【今、変な集団に絡まれている。そこから見える森の中だ】


ちょ、何というトラブルメーカー……

再び魔力を圧縮しつつ、加速して言われた森の入り口に降り立つと、すぐにアインの姿は発見出来た。

……盗賊の姿もあるがな。


「こんなところにいたのか」


そういいながらアインの横に立つ私に、下媚た笑いを浮かべた盗賊たちは私とアインを囲む。

何というか、ここまで易々と引っかかるとは。


「なんだぁ?」


「姉ちゃんも、一緒かい?」


ああ、見ているだけで虫酸が走るな。

一掃してしまおう。


【私がシュランゲフォルムにすると同時に伏せろ】


【わかった】


「私に勝てたら考えてやるぞ」


レヴァンティンを抜き放ち、構える。

その様子を見てあわてて身構えはじめる盗賊たち。


「遅い!レヴァンティン!」


『Explosion!……Schlangeform』


「はあぁぁぁぁぁぁ!」


振るわれた連結刃は寸分の狂いもなく盗賊の武装解除をする。

流して見る限りはデバイスを所持している様子は無かった。

だからといって油断できる訳でもないが。

……だが、物足りないのは否め無い。


「さすが、シグナム。見事だな」


「この程度、如何と言う事は無い」


周囲を改めて見回すと、盗賊たちは腰を抜かし怯えていた。

なんとも情けない。


「今すぐに私たちの前から消えろ。さもなくば……」


シュランゲフォルムのままのレヴァンティンを軽く振り、地面を抉る。

さらに脅しをかけようとしたが、それよりも早く盗賊たちは逃げていった。


「アイン、集団で感知した生命反応は、まさか奴等ではないだろうな?」


シュベルトフォルムに戻し、鞘に収めながらアインに問いかける。


「いや、あの程度ではない。それこそ、小さな町くらいの数はあった」


「わかった。進んでいこう」


「いや、少し休憩をしよう。カートリッジなしで圧縮魔力の行使は負担が大きい」


なぜ、カートリッジなのか、の答えか。

言われればかなり消費している気がする。

効率向上のためのカートリッジでもあるわけか。

先ほどの戦闘の場所から離れた開けた場所で休憩し、ついでとばかりにこれからのことを話し合う私たちであった。




第五話に続く



あとがき

なぜ、カートリッジなのか、考察してみました。

シグナムの騎士服は、今までがキワモノばかりだったのですよ、きっと。

シグナム=バトルマニアは常識じゃね?

の、三本立て?です。

騎士服が色違いになったのは、面倒くさかったのでしょう、アインが。

さらに、カートリッジシステムに独自解釈混じってますがスルーの方向で。

今回、アインはほとんど空気でしたが、これからがんばっていきます。

書いてて思った。バトルマニアが戦える機会のある無印を逃すのか?

迷走を続ける旅はまだまだ続く……?



>訂正
全話

レヴァンティンの台詞の『』の位置を変更。

第四話

あとがきの訂正



[4469] 第五話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2008/10/30 01:41


第五話『シグナム&アインの珍道中そのに』



「さて、シグナム。私たちのするべき事は何だろう」


「私に丸投げか?まあいい。最終目的とするならば原作よりもいい状態、具体的に言えば、アイン、お前が生存した状態で闇の書にケリをつける事だな」


「それはわかった。そこに行くまでの過程は何かあるのか?」


「さてな、何しろ今は原作から11年も前だ。ただ、懸念すべきなのは…」


「私がここにいること、だな」


そう、そのために闇の書がどうなるかは予想もつかない。

だが、これは、同時に好機ではないのだろうか。


「アイン、今、闇の書とのリンクを感じるか?」


私は一切感じることはない。

何しろ、アイン自身の操作でスタンドアローンで活動している。

でなければ闇の書が修復している間に外界に顕現できまい。


「いや、私にも感じることはできない。データは私自身が保持しているし、レヴァンティンにもある程度バックアップされている。単体の稼働で気になるのは魔力面だけだ。ほかの保存媒体があれば独立稼働できるだろう」




今、ものすごく重要な事を言わなかったか?


「アイン、今、なんと言った?」


「独立稼働できる、か?」


「その前だ」


「ほかの保存媒体があれば?」


ああ、とんでもなく重要だった。

これをうまく使えばアインと我らヴォルケンリッターの扱いは、うまくすれば向上する。


「アイン、目的が定まった」


「なんだ?」


「本型ストレージの発見だ」


「?」


「お前の保存媒体を探す。うまくすれば闇の書と夜天の書を別物として、闇の書だけを処分できる」


まあ、単純に私たちがプログラム(私は改変の際にそうなった)で出来ているのだから新しい器を用意すればいいと言う話で。

せっかくなのでそれを利用して、完全に闇の書から解放されている私たちを別の本型ストレージに保存。

原作の時間帯までに、『闇の書は夜天の魔導書をコピーしたパチモノ』と言う情報を真実にする。

現在のアインの様子なら夜天に戻ることが出来るはずだ。

後は闇の書から残りの三人をどうにかして分離し、こちらに保存すればいい。

そうなればヴォルケンリッターは闇の書に奪われていて操られていたとか、適当に理由をつけておけば管理局もうるさく言うまい。


「なるほど。復元された私がほかのヴォルケンリッターを蒐集すれば分離出来るな。うまく行くかもしれない」


なるほど、リンカーコアの蒐集機能の元は魔法の記録機能だ。

それを応用すれば改悪されたときの機能も再現できるだろう。


「決まりだな。拠点を決めたら、遺跡などありそうなところを回るぞ」


「ああ、我らと主の為に」


お互いに微笑みが浮かぶ。

……ような気がした。








ようやく、アインの感じた反応が見える範囲にたどり着くと、そこにあったのは町だった。

が、そんな私たちに立ちふさがったのはさっきの盗賊たちだった。


「よう、ネエちゃんたち、待ってたぜ」


「ここいらじゃここにしか町はねえからな」


「待ち伏せさせてもらったぜ」


息も乱れぬ連携と、少しはほめておこう。

でなければ、あまりにも取り得が無い。

それに、次々としゃべる盗賊たちに次のパターンが読めたような気がした。


「旦那!やっちまってくだせぇ!」


「強者と言うから期待してみれば、女二人とは」


「見下すとは余裕だな。アイン、下がっていろ」


男はつぶやく、『セットアップ』と。

ミッドチルダ式の魔法陣が男の足元に浮かび上がる。

が、遅すぎる。


「はっ!」


レヴァンティンでデバイスを切り落とす。

デバイスがかわいそうなので、コアを避けてバラバラに切り落とす。


「実力を見抜く目を持つことだな」


おそらく、管理局から抜け出した魔導師なのだろう。

おかげで、ここがミッドチルダからそこまで離れていないだろうと見当をつけつつ、こいつらと一緒にいるのは何か理由ありなのだろうとも思う。


「旦那まで?!」


あわてふためく盗賊たち。

しかし、テンプレに乗っ取った感じだな、こいつら。


「アイン、行くぞ」


「こいつらはどうするのだ?」


「捨て置く。そこまで面倒は見れん」


一様に怪訝そうな顔をする一同。

…なぜか、アインも混ざっているが。


「こちらが被害を受けたわけではない。それにこいつらも面倒ごとにならなければこれ以上何かする気にもならんだろう」


ちらりと町の入り口に視線を向けると、そこには心配そうにこちらを見ている女、子供の集団。

私の視線を追って、その場の全員が同様の光景を視界に移す。


「最初は盗賊だと思っていたのだが、あれを見る限りそこまで悪い集団ではないのだろう」


【そうなのか?】


【そう言う事にしておけ】


【わかった】


「私たちは町を訪ねた旅人。後から入ったお前たちは町に帰ってきた町人。私たちは初対面だ。それでいいな?」


感動している町人一同。


「まったく、こういうことは最前線で戦う私の考えることではないのだがな」


レヴァンティンを鞘に収め、嘆息する。

さらに、視線を移し、先ほど対峙した男性魔導師に向く。


「さて、デバイスの構成からみて、管理局に在籍していたと見受けるが?」


単純に、バリアジャケットが制服っぽかったからなのだが。

まあ、制服調のバリアジャケットなど管理局以外にあるまい。


「……元、だ」


「承知の上。ただ、ここが次元世界のどの辺りか知りたいのだが?」


「普通、転移するときに目的地を設定するはずだが?」


「転送事故だ。家族とも離れてしまった」


これらは町に着くまでの間にアインと相談して決めたことだ。

ある程度、決めておいたほうが不都合が減るだろうという理由だ。

家族はいうまでも無くヴォルケンリッターの事だ。


「…そうか。ここはミッドチルダからはそこまで離れてはいない。第5管理世界だ」


「助かる。現在位置が分かればどうにかなる」


これで次元転送していけば地球にもたどり着ける。

ミッドチルダに近いことに気を付けておけば管理局と問題を起こさずにすむだろう。

私とアインは町の中に入り、気付く。

所持金がない。

……どうするか。




第六話につづく




あとがき

さらに地雷を設置する、の回。

闇と夜天うんぬんは旅の目的付け。

…そうしたら、大風呂敷広げてしまいましたorz

アイン、喋ったら便利発言かドジって……

個人的に課題を満載してしまった五話でした。

ちなみに、敵に見せ場が無いのは仕様です。



[4469] 第六話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2008/11/07 23:42


第六話『シグナム&アインの珍道中そのさん』


結局、資金は町の人に剣術を教えることで、授業料の形で稼ぐことになった。

資金のほしい私たち。

強くなりたい町人たち。

双方の利害が一致した結果だ。


「要請されて、さらに入り用だったとは言え、よく教える気になったな?」


「強くなるための近道でもあるしな。自分の知ることを整理し身につけるには、人に教えることが一番簡単だ」


「そう言うものなのか?」


「ああ。この場合は、教える相手は様々なタイプだ。そのために、それぞれに合った条件を考えていくだろう?それはそのままあらゆる相手を想定することになる」


「つまり、一つの利点として、様々な相手を想定する、それによって対処の為の策を考えられるということか」


「そうだ。さらに、教える為に簡潔にまとめる必要がでてくる。自然と整理する事になる訳だ」


「なるほど、簡潔にまとめないと理解されないからか」


「その通りだ。これらのことを一人で意識してやることは難しい。だからこそ、教えることは上達の早道となる」


「勉強になった」


アインは私にそれだけ尋ねると部屋から出ていった。

何の意味があったかは分からないが、この後は、町の女性たちと何かするのだろう。

料理となるとなぜか私もつれて行かれるので、それ以外と言うことになると思うが。

私はレヴァンティンを取り出し、手入れをはじめる。

一月前にこの町を訪れてからレヴァンティンの手入れとカートリッジの作成を欠かしたことはない。

レヴァンティンは我が魂でもあり、カートリッジは重要なものだからだ。

……思考がそれたな。

この一月は、基本的に剣術を教え、カートリッジを作り、遺跡の探索には出ていない。


「そろそろ、探しに行くべきだな」


『Ich stimme überein』
 (同意します)


この一ヶ月は基本的に、私とアインの現状の能力把握に使った。

私自身は自身の魔力の限界を確認したにすぎない。

本題であるアインは、本格的に確認した。

魔法については、現状では広域に及ぶ魔法は使用することが難しい。

単に魔力が足りないだけなのだが、デアボリック・エミッションなど放とうものなら、間違いなく二人そろって一日寝込む。

実際、そうなった。

使用できる、出来ないに関わらず、記録されていた魔法はほぼバックアップに含まれていた。

一部分は損失しているが、ほとんど使えない地方言語などだったのでかまわないだろう。

使えるのは、探索系や補助系がほとんどで、攻撃は魔力的に厳しいものがある。

ユニゾンに関してもチェックした。

お互いの魔法行使や、戦闘に支障はないのだが、アインの維持そのものに魔力を使っているため、AAランク以上は到底出せない。

もしかしたら、仮権限での認証だからかも知れないが。

これに関しては、保存媒体がなければ解決出来ないだろう。

とにかく、これらを考慮していかなければならない。

ちなみに、権限認証は主となる予定のはやてのために仮権限とした。

別に本認証が出来ないわけではない。


「さて、これでいいだろう」


『ja』


きれいになった為か幾分弾んだような声のレヴァンティン。

再び待機状態に戻し、日課の素振りを行う為に外に出る。

ちなみに、教えるための練習場はきちんとあり、ほとんどはそこで素振りをしている。

たまに、今日の様に外で修練する事もある。

私が外に足を踏み出すと、そこには門下と言っていいのだろうか、その内の一人、私が対峙したミッド式の魔導師がいた。


「どうした、今日の稽古は休みだと伝えてあるはずだが?」


「以前より問いかけているように、接近戦の魔法を伝授願いたい」


そう、この男、私に負けて以来、接近戦にこだわる様になった。

以前に問いただしたことがあるが、元々接近戦が好みだったのだが、管理局のスカウトを受けたため、ミッドチルダ式にしたとのこと。

この男も管理外世界で局員の事故に巻き込まれてこの世界に入ったらしい。

ミッドチルダ式はオールラウンド型だから、接近戦もあるはずなのだが、この男、やけにベルカ式にこだわるのだ。


「以前から言っているように、ミッド式とベルカ式は互換しない。ミッド式をきちんと収めることだ」


正直、さすがに私でも一月近く、ほぼ毎日聞かれれば苛立つ。

私は早く鍛錬がしたいのだ。

まあ、私たちの使うベルカ式、いわゆる古代ベルカ式は無理だが、近代ベルカ式なら使えるということは教えていない。

大雑把に言えば、近代ベルカ式はミッドチルダ式によるベルカ式のエミュレーション。

古代ベルカ式が「術者→ベルカ式」の直結。

対する近代ベルカ式は「術者→ミッドチルダ式→ベルカ式」と辿る。

術者である魔導師自体が触る術式はミッドチルダなのだ。

自分で調べ、その上で問いかけてくるのならば答えるつもりではある。

ヘコんでいる男を置き去りに、戸締りをしてから、私は以前から使っている場所へと足を運んだ。


「遅かったな」


「アインか。なぜここにいる?」


「単に、修練場をあけていなかったからここに来ると踏んでいた」


「なるほど。で、ここにわざわざ来るのだから、聞かれたくない話なのだろう?」


「いや、そうでもない」


私にはまったく見当もつかない。

まあ、以前から私の修練のときにフラッとやってくることもあったからそれと同じだろう。

素振りをするためにレヴァンティンをシュベルトフォルムにする。


「レヴァンティン」


『Jawohl』


鞘から抜き、素振りを始める。


「それで、私に、話すことは、無いのか?」


マルチタスクはこういうときにも役立つ。

よく、修練の時には邪魔の無い、集中できる環境がいいなどというが、私は違うと思っている。

実際は、集中できる環境など無いし、さまざまな要素に気を割かねばならない。

そのために私は修練をしながら話をしたりする。

もちろん、動作をおろそかにしたりはしない。


「ああ、ここに転移したときに探査魔法を使っただろう」


「ああ、そうだな」


「そのときに、妙な魔力反応があったのを思い出した」


「妙?」


「反応自体は微弱だったが、ベルカ式、のような反応だったと思う。たぶん」


「随分、今更の、話、だが、再度、確認、したい、という、事か」


「そういうわけだ」


そこで素振りをやめる。

優先する事柄を間違えるわけにはいかないからな。

仮権限で魔法使用を高レベルで制限しているので許可を出す。

…私とて、日常で倒れ続ける虚弱体質もどきはいやだからな。


「わかった。魔法使用許可を出そう」


「仮権限認証。魔法使用許可確認。広域探査、最大出力」


「ちょ、ま…」


私が止める隙も無く、全力発動する我らが長女。

……お前は、魔力量をまだ、書本体がある時と同じと思っているのか?

急激に減る魔力に薄れ行く意識の中、私はそれだけを思った。




第七話に続く




あとがき

町での日常編。

この一月の間はまあ、いろいろあったのですが、書くと無印まで物凄い話数になるのでカットに。

オリジナルとの混ざり具合と考え方の違いを付けていくテスト。

ここまでが序章で、次から夜天復刻編というか、無印前強化の旅というか、まあ、珍道中から冒険編となります。

魔法に関して、若干、独自解釈が混ざるのはご了承を。

確実に違う場合は訂正を言っていただければ幸いです。

夜天となる前に、題名つけないと……





[4469] 第七話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2008/11/10 21:46


第七話『運の良さはかなり高いのだろうな byシグナム』


倒れた私が目をさますと、枕元に無言でアインが立っていた。

どうやら倒れた私を運んだのはアインではないようだ。

周囲に門下生たちもいるからだ。


「すまないな、どうやら迷惑をかけたようだ」


門下生たちは口々にそんなことはないと言ってくれた。

近くにいた一人に問うと、倒れてからは一時間と経っていないようだ。

アインは何処と無く沈んだ表情をしている。

この町で暮らして一ヶ月。

その間にずいぶんと感情が出るようにはなった。


「アインさんがあわてて人を呼びに来たから、急いでみんなで駆けつけたらシグナム先生が倒れていたので吃驚しましたよ」


「そうか」


アインが、か。


「皆、すまなかったな。もう、私は大丈夫だ。仕事を放り出してきた者もいるだろう。戻っていいぞ」


「先生」


「……そうだな、心配だと言うならしばらく稽古は休みだ。その間に旅行にでも行かせてもらおう」


「わかりました。俺たち各自でしっかり自主稽古しておきますので、安心して骨休めしてきてください」


「ああ、そうさせてもらおう」


「一月くらいはゆっくりしてくださいよ」


「そんなにか?」


「みんな先生が吃驚するくらい強くなってますんで」


「言うじゃないか。ならば、本当に一月休ませてもらおう。そのかわり、そこまで言ったのだ、再会するときは私が直に見てやる」


「望むところです。では、先生」


「ああ、またな」


それだけ会話すると門下生たちは部屋から立ち去っていった。

それでも一向に私と顔を合わせないアイン。


「まあ、お前の探査は全力だと攻撃並に消費することがわかったな。ついでに一月は探索に出れる。プラスの方が多いのだ。そこまで深刻に考えることはあるまい」


「……」


フォローになってなかったか?


「シグナムが気を失って、消えてしまいそうで…」


早とちりの気もするが、それほど心配してくれたと言うことか。

これだけ感情を発露するようになったのもいい傾向なのだろう。


「今のお前は私とラインがつながっているだろう、それで無事だとわからなかったのか?」


まて、何だ、その、しまったと言う表情は。


「…しかし、よく一ヶ月も空ける気になったな」


「……当初の目的を忘れたわけではあるまい?」


「…………覚えている。ようやく探しに出るわけだな」


言われて思い出したか。

あからさまに話題を変えたからよほど恥ずかしかった様だが、まあいい。


「準備は整えてある。お前が良ければ出発するが?」


「かまわない。しかし、さすがシグナム。そこまで周到に準備までしてあるとは」


……昨日、何となく片付けついでにまとめたとは言えないな。

私は起き上がり、手近にあったまとめた荷物を持ち上げようとする。

…待てよ、この荷物は私の部屋に置いてあったはずだ。

辺りを見回すと確かに私の部屋だ。

嫌な予感がする……


「アイン、何か変わった所はないか?」


見回しながらアインに尋ねる。

アインも周囲を見回し、答える。


「…シグナム、落ち着いて聞いてほしい」


「なんだ?」


「…アレを見てくれ」


アインが指さした先は私のタンス。

ちなみにこの町は服をしまうのはクローゼットではなくタンスだ。


「私のタンスがどうした?」


門下生の誰かが下着ドロをしたなんてベタなオチは無いだろうな?


「下から三段目だ」


言われた通りに三段目を開ける。


「……なんだこれは?」


なぜか入っているスカートの群。

私は今のところスカート類は持っていない。

そして三段目は空だった。

それがギリギリまで詰まっている。


「下着ドロならまだ解るが、スカートを詰めていくとは……」


ああ、頭イタイ…

私はこの光景を見なかったことにするため、タンスを閉め、荷物を持つ。


「騎士甲冑、展開」


『Jawohl』


騎士甲冑を纏い、家から出る。

アインがあわててついてくる。


「では、案内頼むぞ」


「あの反応の所だな。わかった」


私たち二人は家の管理を周囲に頼み、一路目的地を目指す。







向かう道中、アインに尋ねてみた。


「アイン、以前、反応はベルカ式の様なものと言っていたがどうだったのだ?」


「ああ、灯台もと暗しと言うか、ベルカ式ユニゾンデバイスの反応だ。ただし、機能はすべて死んでいる」


さすがに、アインの探査は精度が高すぎる。

私が倒れる位だからそれぐらいでなくては納得できないがな。

さらに、さりげなく私の”記憶”から諺を持ってくるとは。

そう言うところは処理能力の高さがかいまみえる、様な気がする。


「少なくとも、媒体にはなりそうか?」


「おそらく、媒体としては適しているだろうが、書としての機能は修復する必要が出てくるだろう」


「それでも一歩前進出来るだろう」


心なし、やっぱり嬉しそうなアイン。

自分が機能を取り戻せる可能性が高まってくればそうなるか。

それに、新しい媒体が見つかれば、あのおぞましい防御プログラムと完全に分かれられる。

今の状態で私たち二人が闇の書と遭遇してしまえば蒐集されるか、制御下におかれてしまうことが考えられるからな。

ユニゾンしての戦闘でも、魔法使用のリスクは無いがAAランク程度の私たちでは闇の書のヴォルケンリッターに勝てない。

せいぜい、逃げるのが関の山だ。

これで、媒体が手に入れば、私の魔力制限はおそらく解消される。

それなら、三人が相手でも渡り合えるだろう。

もちろん、その場合は一対一なら負けは無い。


「シグナム」


「どうした?」


「新しい書になったら、お前はどうするんだ?」


私はどうするか、か。

私よりも前に出たアインに答える。


「私は夜天の守護騎士だ。書に属するさ」


「そうか」


なにか思うところがあったのだろうか?

今はアインの背しか見えないため表情はわからない。

そこからしばらくは無言が続いた。

アインが立ち止まるのにあわせて私も立ち止まる。


「反応があったのはこの地点だ」


「どう見ても、岩壁にしか見えないのだが?」


そう、そこには岩壁が見えるだけだった。


「何かで埋まったのだろうな。吹き飛ばせそうか?」


「無論だ、レヴァンティン!」


『Jawohl……Explosion!』


「飛竜一閃!」


高威力魔力砲撃並の破壊力なら吹き飛ばせると判断し、飛竜一閃を選択した。

念のために、岩壁到達と同時に魔力をバーストさせる。

予想に違わず、岩壁は吹き飛び、遺跡の入り口と思わしき階段が現れる。

私が魔力斬撃を選択したのは、単純にこの世界は管理局の監視が甘いのか、魔力行使しても未だ管理局が現れないからだ。

まあ、ミッドチルダで使わなければ、人手不足なのだ、来ることはないだろう。


「さて、行こうか」


「ああ」


私とアインは遺跡に足を踏み入れるのだった。




第八話に続く



あとがき

ようやく、探索に入った二人。

転んでもただでは起きないシグナムと感情が表にどんどん出てくるアイン。

…どんどんとアインが予定から離れていく。

あと、無印に関わることになった理由は、この二人がいる時点で絶対に流れが変化してくると思ったのが一つ。

どう足掻いても、原作組との接触は避けられそうも無いです、二人の計画だと。

そこら辺と他の理由は追々本編にて。

もう少し進んだらアイン側とかの番外編を書くのもいいかもと思う今日この頃。

あと、題名のつけ方を変えてみた。



[4469] 第八話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/09/02 01:32

第八話『Sie sollten verschwinden byレヴァンティン』


私とアインが遺跡に入った時、ふと、思う。

壊れたはずのユニゾンデバイスがなぜ遺跡にあるのか。

ここは研究施設だったのか?

はたまた、ユニゾンデバイスを餌にした罠だらけの遺跡なのだろうか?


「シグナム、カートリッジはどれくらいある?」


「残弾はかなりあるが。荷物にもかなり入れてきたからな」


この一ヶ月、苦労しながら作ったものだ。

最初のうちは圧縮工程を間違え、自室の壁に穴を開けたことがあり、専用の部屋を作ったのは余談だ。

一月で総数は10ダース、120個。

まあ、元々1ダースは持っていたので作ったのは9ダース。

よく、続けられたものだ。

一手に引き受けていたシャマルには頭が下がる。

あ、個数は入る前に1発使っているから残り119発。

正直、自分でも持ちすぎだと思う。


「それだけあれば、戦闘に支障はないか」


「そのための作り置きだ。まあ、消費しないことに越したことは無いのだがな」


「確かに」


入り口付近の比較的明るい場所を歩いていく。

どうやら、研究所ではあるが、元々洞窟だったところを使用しているようだ。

動力が生きているのか、明かりがあるところが嫌な予感を増加させる。


「シグナム」


「どうした?」


私を呼んだアインの側に行く。

そこには壁面のスイッチを指さすアイン。

…押さなかった分は評価しておこう。

よく見るとスイッチには文字が彫ってある様だ。


「アイン、読めそうか?」


「掠れて読みにくい」


そう言いながらマッピングしていくアイン。

最悪、迷ったときには必要になる。

…魔力さえあれば転移でどうにかなるが、不慮の事態も想定するとあるに越したことはない。

予想の斜め上を行くのは本当にあるのだから。

……それをやるのが家の長女の確率が高いのがもの悲しい。


「とりあえず、放っておいて先にいこう」


「わかった」


私の選択は間違っていなかったのかは後にならないとわからないが。

まあ、触らぬ神に祟りなし、だしな。

しかし、意気込んできた割にはなんとも手ごたえがない。

普通の研究施設の様ではある。


「なんとも手ごたえがないな」


「どうやら地殻変動で沈んだ施設の様だ。そこらに意味のない窓もある」


「そうだな。だが、動力が生きているのに対侵入者用の設備が働いていない」


「そこらは私にはわかりかねる。ただ、ベルカの物だろうことはわかるぞ」


「アイン、それは間違いないか?」


「ああ、先ほどのスイッチはベルカ語で書かれていた。それ故の判断だが」


しかし、不思議なものだ。

ここはミッドチルダからはそれほど離れた世界ではない。

侵攻の足がかりだったのかもしれないな。


「シグナム、周囲の部屋はどうする?」


「ユニゾンデバイスの反応はわかるか?」


「ああ、カートリッジを一つもらうぞ」


「わかった」


『Explosion』


レヴァンティンがカートリッジをロードし、魔力が私を通してアインに届く。


「探査開始」


アインを中心として魔力波が放たれる。

即座に解析が終わり、アインが私に伝えようと動き始める。


「シグナム、この研究施設の構造がわかったぞ」


そう言いながらアインはマップを作る。

それを私に見せながら解説をはじめる。


「私たちがいるのがこの施設の本来の地上部位だ」


そう言って紙の上に書いた部分を指す。

どうやら、アインの書いた注釈をあわせると、普通の研究施設で間違いないようだ。

問題は地下施設だ。


「見ればわかるが、地下施設と地上施設の間に天然の洞窟がある」


「確かにあるな。それもかなり大きい」


「そこである程度の罠を感じた。種類などはわからないが数は多い」


「目的の物は下層か」


「その通りだ」


アインの探査で作られた地図を元に、元地上部分を探索していく。

あっけなく探索し終え、かなりの収穫があった。

各種デバイスパーツなど、ここなら一通りの物を作れそうだった。

書の復元に際しても使えそうな設備が多い。

何より、動力が生きている為、設備は完全に動いている。

拠点に出来ると判断した。


「いきなりの大当たりだな」


「幸先がいい」


私とアインは手ごたえを感じ食事にしようと食堂だった場所へ足を踏み入れる。

一番の拠点となることが考えられるので掃除から始めることにした。

二人で分担し手早く終える。

本格的な掃除は後にするが、とりあえずここで過ごす分には問題ない。


「キャッ!」


確か、アインには保存庫の方を任せたはず。

そう思い出しながら、レヴァンティンを抜いて悲鳴の方へ駆け出す。

廊下に出ているアインを見つける。


「どうした、アイン!」


私の問いに答えず、入り口の中、保存庫を指さす。

レヴァンティンを構えたまま踏み込んだ私の視界に入ってきたのは黒い物体。

カサカサと蠢き、台所を侵略する恐怖の生物。


「いっ…」


その数の多さに生理的嫌悪感で出そうになる声を意識的に押さえ込む。

が、それよりも予想外の事態が起きた。


『Explosion、Explosion、Explosion!』


三連続でロードされるカートリッジ。

同時に偶然にも保存庫内に向いていたレヴァンティンから炎が巻き起こり、黒い奴等を焼き尽くす。


『Es ist Insekten, die die heilige Küche verschmutzen!』
 (神聖な台所を汚す虫共め!)

レヴァンティン、性格変わってる……

黒い奴等は燃えつき消え去った。

今更だが、ほかの世界にもいたのだな、奴等は。


『Meister』


「な、何だ、レヴァンティン?」


変わってしまったレヴァンティンに問いかけられ、吃驚する私。


『Meine Verstärkung』
 (私の強化を)

「どうした、いきなり」


『Wir können stärker sein』
 (私たちはまだまだ強くなれます)

「ああ、そうだな」


……

まさか、な。


「レヴァンティン、本音を言ってみろ」


『Ich vernichte sie』
 (奴等を全滅させるのです)

何かトラウマが出来たのだな、レヴァンティン……

頼まれたが、元々強化しようと思っていたからちょうどいい。

この設備なら出来るだろう。

未だ腰を抜かしているアインを起こす。


「すまない」


「まあ、さすがにアレは私も怖い」


食堂に戻り、持ってきた簡易食を工夫して調理して食べた私たちだった。




第九話に続く



あとがき

レヴァンティン、トラウマに火がつく。

G、次元世界を渡る。

なぜか書いてるあいだにこうなりました。

さてさて、過激なレヴァンティンですが、それほどしゃべらないのでバレない。

シグナムですらようやく気付いたほど、隠してます。

自身の強化をGどもを全滅させるために求めちゃう困ったさんです。

シグナム&アインの二人組はがんばりますよ~

題名の意訳は本文を読むと分かるかと。

訳を載せるとバレバレなので。




[4469] 第九話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2008/11/15 00:40


第九話『シグナムはスクライアでもやっていける byアイン(後日談)』


食事を取り、探索を再会する。

最初のスイッチが地下への入り口の場所だった。

地上部分で見つけた研究員の日誌には掠れていた文字がなんと書かれているか記してあった。


「地獄の下り坂超特急」


「……アイン、間違いないな?」


「ああ、確かに。不吉すぎるが間違いない」


なに、この、いかにもヤバいですと主張するスイッチは…

さすがに私たちは二の足を踏む。


「アイン、ほかに道はないのか?」


「探査で引っかかりはしたのだが、やはり認証が必要なのだろう」


……行くしかないか。


「覚悟を決めろ」


「シグナムに任せる。こっちは大丈夫だ」


「では、行くぞ」


私の合図にあわせてアインがスイッチを押す。

静かな音をたてて自動で開くドア。

そこに私は踏み込んだ。


「まさか、な」


踏み込んだ私の視界に入ったのは天然のものに人の手が少し入った通路。

もちろん、スイッチに書いてあったように下り坂だ。

これは、ベタなネタのトラップだろうと思うのだが。

暗いので明かりを用意する事にした。

魔力を手のひらに集め炎熱変換。

生み出された炎が周囲を明るく照らす。


「どうだ、シグナム」


入ってくるアイン。

若干距離があるためアインの側は少し暗く、手を壁に付きながらこちらに向かってくる。

……猛烈に嫌な予感がする。


「アイン、壁から手を離せ!」


「えっ?」


その瞬間、アインの手元から音がする。

……遅かった、か。


「走れ、アイン!」


こちらに走ってくるアイン。

今の私たちだと飛行術式を二人同時に展開できない。

さらに、ここは抱えて飛べるほど天井は高くない。

そのため二人して走るしかない。

走っている私たちの後ろの方が鳴動している。


「明かりは任せる」


「わかった。術式移行、再展開」


明かりをアインが引継、私は両手を自由にする。

目の前には大きな、飛び越せそうもない大穴が待ちかまえる。

即座に天井との距離を視認、指示を出す。


「レヴァンティン、シュランゲフォルム!」


『Explosion……Schlangeform』


「ハアッ!」


レヴァンティンを揮い、天井に先端を深く突き刺す。


「魔力刃、展開、アンカーだ!」


『Jawohl』


突き刺さっていて見えないが先端で魔力刃が広がり、フックの様にしっかりと固定される。

所謂、返しというやつだ。

岩盤のため二人でも支えられるだろう。


「アイン!」


すぐに寄ってきたアインを抱え、連結刃を縮める。

私とアインは大穴の中央で天井からぶら下がる形になる。

その数瞬後に、後ろを鳴動させていた巨石が落下していく。


「地球製遺跡探検映画ばりの仕掛けを作ったのは誰なんだ……」


私が口に出した後、巨石を追うように、怪しい色の液体が流れていったが気にしないことにした。

その後、アインから飛行し対岸に降り立つ。


「シグナム」


「言いたいことはわかる。仮権限起動」


「仮権限承認。行くぞ」


「「ユニゾン・イン」」


私とアインのユニゾンは少々特殊らしく、それは顔に現れる。

髪はリインⅡとのユニゾン時と変わらないが、特筆すべきは眼だ。

それぞれが私とアインの色をしているオッドアイになった。

さらに、なぜか書の意志の時のアインの様に顔にラインが入る。

騎士甲冑は配色がアインと同じ黒だ。

オッドアイの理由はアインにも分からないらしい。

背中に羽は展開できるが、狭いので展開していない。

戦闘力の強化ではなく、はぐれたりしない為にユニゾンするなどということは、今の私たち以外には無いと思いたい。


『さあ、進んでいこう』


「私に丸投げしたとも言えるがな」


『だが、何かあっても対処しやすいのは確かだろう』


「まあ、な」


どこか釈然としないが、アインのドジで起こる被害をまともに受けることが無いのだからよしとしよう。

先ほどのアインの書いた地図を頼りに進む。

すると、行き止まり、では無く、子供が通れる位の穴が壁にあいていた。

なんとも、面倒くさいつくりだ。


「アイン、任せる」


『わかった。変身魔法起動』


光が体を包み、晴れたとき、すでに完了している。


『鏡が無いのは残念だ』


「ちょっと待て、どう言う事だ」


『シグナム、子供バージョン。設定年齢6歳程度』


しかもレヴァンティンは邪魔にならないように待機状態にいつの間にかなっていた。

軽く、裏切りにあった気分だ……


『カメラでもあればよかったな』


シメる。

後で絶対にシメてやる。

人目は無いが、これは羞恥プレイに等しい。

すばやく穴を通り私の側で魔法を解除する。

一息つき、再び地図を見る。


『基本的に、こんな罠ばかりのようだな』


「これでは、某探検映画を体験したいから、というのが罠を作った理由だといわれたら納得するぞ、私は」


『それは同意見だ』


“俺”の記憶を見たことのあるアインも同意してくる。


『いい加減、このトラップに付き合う必要は無いと思うが?』


「ああ、私もそう思った」


『Explosion』


私たちに満ちる魔力。

即座に、トラップを探査魔法で正確に発見する。


「もう一つだ」


『Jawohl……Explosion』


『この量なら問題ない』


「わかった。いくぞ」


「『仄白き雪の王、銀の翼以て、眼下の大地を白銀に染めよ。来よ、氷結の息吹』」


『Atem des Eises』


この一ヶ月で練習したうちの一つ。

ユニゾン状態で魔法を安全に行使するために、考えたものだ。

レヴァンティンを書の代わりとして術式の展開に用い、私が魔力制御、アインが術式制御を分担する。

正しく発動した術式はトラップのみを凍結し無効化する。

ここまで精度を高く出来るのもアインの力だ。


「これでいいだろう」


『ああ、先を急ごう』


あまり、この使い方は出来ない。

すべての魔法において、足を止めることを余儀なくされるからだ。

書本体が出来れば気にする必要は無くなる。

だんだんと近づく感覚に、私とアインは先を急ぐのだった。




第十話につづく




あとがき

題のアインの感想は言い過ぎだと思う気がする。

思ったよりも早く書きあがりました。

これもレヴァンティンのおかげ(おぃ

いきなりユニゾン。

ですが、深い意味はありません。

次も期待せずに、お待ちいただくと吉。




[4469] 第十話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/09/02 01:33
第十話『そこへ直れ、叩き斬る byシグナム』


トラップの無効化に成功した私たちだったが思わぬ事態に陥った。


「寒い……」


『氷結系は失敗だったな……』


正直、騎士服越しに寒さを感じるほどとは……

私もアインもノリと勢いで選んだが失敗だった。

ユニゾンするとドジもそうなるわけか…

ただ、致命的からはかなりの勢いで遠のいたから許容範囲ではある。

せめて、ユニゾンしたとき位は逃れたいものだ。

このままでは、このドジは呪いレベルだ。


「早く進もう」


『このままでは凍える』


ここで炎熱変換で暖まるとトラップが元通りなので自重。

駆け抜けて終点と思わしきドアを発見する。

もう、寒くて洞窟部分の探索どころではない。

駆け抜けている間も、足元に転がっているカルシウムの固まり位しか気がつかなかった。


「よし、ここから出るぞ」


『ああ、早く、凍える、意識が…』


ちょ、アインの方が危険。

ドアに急いで近づくと、床が抜けた。


「術式展開!」


『Jawohl』


飛行術式を展開して落下を食い止め、ドアを開けて地下部分に入る。

即座に炎熱変換して火を生みだし、暖を取る。


「生き返るな」


『本当に』


アインも同意してくる。

ユニゾンしているのに私よりも寒かったのは不明だが。


『地下部分に入ったが、ユニゾンはどうする?』


「今の所は続けておこう。嫌な予感がする」


『わかった。シグナムの予感はかなりの確率で当たるからな』


納得したアインとのユニゾンを維持したまま地下部分の探索を開始する。

一度、探査魔法を使用したが、やはり最奥にあるようなので、手近な所から順に探索する。

はじめの部屋は食料保管庫だった。

ここにもGが居たため、レヴァンティンが暴走し勝手にカートリッジを3連続ロードの後に火炎放射で殲滅。

私とアインは半ば現実逃避をし、「二度ネタとはな」『だが、続ければ持ちネタだろう?』などと会話していた。

現実逃避もほどほどにして探索を再開する。

地下にも地上施設と同様に生活の拠点があるのは助かった。

さらに探索を進めた結果、かなりの戦利品を手に入れた。

地上施設にはデバイス関連のものはかなりあったが、こちら側では多種多様なパーツを発見した。

いろいろ作れそうだ。

残すは最奥。

厳重になっている扉を開ける。

かなり広く取られた空間に、奥に鎮座する一冊の本。


「目的のものだな」


『ああ、ユニゾンシステムは生きていないが』


「そのスペースをお前が使うのだろう?」


『でなければここまで来ていない』


「それもそうだな」


私はゆっくりと本に向けて歩き出す。

ゆっくりと歩くのは嫌な予感がするからだ。


『魔力増大、気をつけて』


「……やっぱり、か」


『信頼されてなかった?!』


「信頼はしている。が、ドジがあるからな。警戒したまでだ」


『そっちの方が酷い……』


「冗談だ、許せ」


レヴァンティンを抜き、戦闘体制に移行する。

魔力が収まり、現れたのは四体の影。


「当たりも当たり、大当たりだ」


『これなら媒体としては期待できる』


現れた四体。

言うまでもなく、ヴォルケンリッターである。

一様に黒い服を着込み、眼には生気が感じられないが。


『平均魔力AAAランク。厳しい戦いになる』


「わかっている。気を抜くな」


おそらくは守護騎士プログラムの試験体であろう。

容姿が黒一色である以外は私、ヴィータ、シャマル、ザフィーラそのものだ。

持っているデバイスも同様だが、こちらも試験型なのか反応が若干鈍いようにも見える。

なんというか、魔力量にしては流れが悪いのだ。

そこまで調べられるアインの探査魔法のおかげか。

先陣を切って突撃してくるヴィータ(仮)のアイゼン(仮)をかわしながら同時に思考展開する。

おそらく、感覚的に、相手側は戦闘経験の蓄積がないようだ。

数と魔力の暴力に勝つにはそこをつくしかあるまい。

この場合、もっとも注意するのは“旅の鏡”だ。

再び迫るアイゼン(仮)を今度はパンツァーシルトで流しながら切り返す。

ヴィータ(仮)の前に現れたパンツァーシルト、魔力光からしてザフィーラ(仮)のものだろうそれを視認した瞬間、私は距離をとり体勢を立て直す。

その一瞬後に私のいた場所をシグナム(仮)が切り裂く。

連携はまともか。

瞬間、予感に従いその場から飛びのく。

手が空間から生える。

クッ、旅の鏡か。

正直、未熟とはいえ、この連携は洒落にならない。

うまく削り取り、隙を見て止めを刺す方向でいこう。


「何より、許せんことがある」


『どうした?』


「人の振り見て我が振り直せ、というがな」


『?』


「さすがにその格好は容認できん。そこへ直れ、叩き斬る!」


あの、ピッチリとした黒い服はラインが丸わかりだ。

破廉恥すぎる。

再び迫りくるヴィータ(仮)をかわしながら、シャマル(仮)を如何するかを考える。

だが、その暇を与えないかのように連携を続けるヴォルケンリッター(仮)。


「レヴァンティン!」


『Explosion!』


『ブラッディダガー』


アインがブラッディダガーを放ち、足止めをする。

経験が少ないのが災いしたのか、連携が崩れる。

そこに私に迫る旅の扉。

この時を待っていた!


『Explosion』


「紫電一閃!」


旅の扉から出たシャマル(仮)の腕を咄嗟に張られたザフィーラ(仮)の障壁ごと両断する。

目論見通り、シャマル(仮)は炎に包まれる。

回復役を潰すのは定石。

その隙を突き、レヴァンティンにカートリッジを再装填する。

すばやくシグナム(仮)の攻撃を回避。

この程度、昔のの攻撃に比べれば児戯に等しい。

戦闘中に気付いたが、もしかしたらまだ術式が記録されていないのかもしれない。

シャマル(仮)は旅の扉のデータ取りが目的にされていたのかもしれない。

なぜなら連携パターンはしっかりしているのに攻撃術式がないからだ。

ザフィーラ(仮)は防御系の汎用的なものしか使用しないのもそれを表している。


「アイン!」


『わかった。炎熱加速!』


「レヴァンティン!」


『Jawohl……Explosion!』


「『飛竜一閃!』」


ザフィーラ(仮)を障壁ごと吹き飛ばし、沈黙させる。

本当に、戦闘経験が無くて助かる。

この状況で放つ一撃が障壁破壊であることなどは予測がつくのだから。


『盾よ』


術後の隙を狙ったヴィータ(仮)をアインがパンツァーシルトで受け流す。

体勢を崩した隙にこちらの一撃を見舞う。

レヴァンティンを振るう直前にカートリッジを炸裂させる。


「紫電一閃!」


完全に捕らえヴィータ(仮)を斬り伏せる。


「我等の前身とは言え、その姿見るに耐えん。この場から、私たちが解き放とう」


『Explosion!』


二連続でカートリッジがロードされる。


『Bogenform』


ボーゲンフォルムになると同時にカートリッジをリロードする。

無防備な私に剣を振り下ろそうとするシグナム(仮)。

しかし、その剣は私を捉えることなく、空中に固定される。


『ディレイドバインドだ。この状態でも夜天の機能は損なわれていないのだ。我等に死角は無い』


「言いすぎだがな。これで詰みだ。翔けよ、隼!」


『Sturmfalken』


放たれた一撃の後に残ったのは、床に突き立ったレヴァンティン(仮)だけだった。


『どうにかなったな』


「戦闘経験の差だ。私にはオリジナルから蓄積されている経験がある」


『その差、か』


「まあ、ランクが戦闘力そのものを指すわけではない。持てる力でできることをするだけだ」


『そうだな』


「今回は武道の達人と入門したてが同じ条件で戦うようなものだからな」


そう言いながら私は本を手に取るのだった。




第十一話に続く




あとがき

無理やりくさい、十話でした。

あと、人の振り見て我が振り直せ。

こういうのは、外から見てはじめて気がつくものです。

…だから、自分の映ったビデオなど見たくない。

番外編というか、短編集も手を出し始めました。

こっちは本編の詰まったときの気分転換なので公開するかも未定。

全然進んでないし(本編止まってないし)

では、十一話で。





[4469] 第十一話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2008/11/24 23:10


第十一話『どうにかなる、どうにかしよう byアイン』


「これでようやくスタートラインだな」


『ああ、使える機材は地上部分にある。行こう』


「その前に、ユニゾンアウトだ」


『わかった、ユニゾン・アウト』


アインとのユニゾンを解除する。

それと同時に急激な脱力感で膝をついてしまう。


「シグナム!」


「大丈夫だ。ユニゾンが長かったから疲弊したのだろう」


静かにこちらを見つめてくるアイン。

その目はすでにわかっている目だった。


「ラインでわかる」


「そうか、すまない」


その言葉を伝えると同時に意識が落ちた。












目覚めると、アインが隣にいた。

部屋は移動したらしく、地下施設のベッドのある部屋のようだった。

枕元には先ほど手に入れた書もある。


「無茶をしすぎだ」


「むぅ、すまない」


「先ほどから謝罪するということは自分のやったことをわかっているな」


「まあ、な」


アインにかかる負荷をすべてこちら側に回したのだ。

私と違って、現状では魔力を自己生成できないアインは昏倒してしまうと魔力を得ることができなくなる恐れがある。

何しろ、私からアインに流れる魔力を制御しているのはアイン自身なのだ。

私はその流れを制御することはできない。

私が倒れても魔力生成はされるのでアインは無事だ。

まあ、それを実行したおかげでアインに説教されているわけだが。

ああ、以前デアボリック・エミッションを試したときは倒れただけで意識は飛んでいない。


「シグナム」


「なんだ?」


「この書を解析したい。手伝ってくれるか?」


「もちろんだ」


アインの提案に頷く。

何しろ試験型の守護騎士システムが発動したのだ。

ユニゾン機能が探査魔法では壊れていると出たが確認しておくほうがいい。

地下施設の機材を使い解析を試みる。

かなりの時間を要したが、解析のほうは成果が出た。

まず、書の管制人格は消失している。

先ほどの守護騎士は防御プログラムの反応であり、条件反射のようなものだった。

この防御プログラムも、危険時に守護騎士を出力するくらいの動作しかしない。

倒した守護騎士たちはすべてロストし、データの欠片も残されていない。

これは機密保持の観点から見れば納得できる。


「試作型のアインには興味があったのだがな」


「私としては、会わなくてよかった」


「どうしてだ?」


「いろいろと、な」


「そうか」


次に、書の基本機能の方は実装されている。

おそらく、この書は夜天の製作過程においてのデータ収集用デバイスも兼ねていたのだろう。

ただ、蒐集データはすべて無くなっている。

ログを見る限り、夜天完成時に吸い出され移されたようだ。


「おそらく、私が知る限り、蒐集したことの無いデータがそうなのだろう」


「なるほどな」


本題だ。

アインを書に移し、通常動作ができるかどうか。


「どうなんだ、シグナム」


「端的に言えば、可能だ」


「つまり…」


「私からの魔力は必要なくなる。通常出力は問題なく確保できる」


表情が明るくなるアイン。

……まだ途中なのだがな。


「喜ぶのは早い。書の機能維持に魔力を割くと結局は私から魔力を取る必要がある」


つまり、アインだけで活動するならば可能だが、書の機能を使うためには機能維持のための魔力が別に必要になるのだ。


「まあ、今までどおりで書の機能が使えるといったところか」


「そう、か」


「書の魔力生成機能が一部おかしいだけだ。これくらいならばアイン自身で修復できるレベルだと思う」


「私次第ということか?」


「まあ、そうだな。時間自体はかなりあるから急ぐことも無いだろう」


「わかった。できるだけ早く済ませる」


……急ぐことは無いのだがな。

まあ、新しい書に慣れるためにはいいかもしれん。


「では、私は書に移る。レヴァンティンにあるバックアップデータも一緒に移させてもらおう」


「ああ、頼んだ」


待機状態のレヴァンティンをアインに手渡し、それぞれの作業に移った。

私は、デバイスのパーツを集めるために地上施設と地下施設をたびたび往復するのだった。

……もちろん、施設に私とアインを登録した。

もう、あんな冒険型通路は遠慮したい。












結局、一月はこの施設周辺で過ぎてしまった。

やることが多かったのもあるが、この施設、拠点に改造するのに手間が必要だった。

……そのあたりは割愛しよう。

数少ないベルカの遺跡を手に入れられたことに満足しつつ、アインと今後の計画を練ることにする。


「さて、今後はどうするか、だな」


「無為に時を過ごさないために、だな?」


「ああ、書があるおかげで魔力確保にも困らなくなったし、やれることも増えた」


「魔法行使でシグナムに負担をかけることが少なくなったし、書の機能も使えるようになった」


アインの話によると、具体的には魔法蒐集と蒐集行使や自動修復システム、守護騎士システムが復旧した。

だが、守護騎士システムは領域の確保だけで誰も入っていない。

使える状況にはある、という意味だ。

自動修復システムは書が対象なのでアインに効果があるが、私は魔力を供給するために、いまだスタンドアローンなので対象にならない。

唯一、蒐集行使だけはユニゾンすれば使えるとのこと。

魔法蒐集はかなり便利になったというが、まあ、その内アインが披露してくれるだろう。

私は私で、レヴァンティンの改造をした。

一部、アインにも手伝ってもらったが、中々の出来だと思う。

これもその内、披露することになるだろう。

ただ、書の機能も、レヴァンティンの強化部分も簡単に使うことはできない。

……私とアインは、慢性的に魔力不足なのだから。

何とか、そこの改善もしたいところだ。

負担が減ったなどと言ったが、お互いの気休めだったりする。

戻りに転移用のシステムを起動して、入り口をふさいできた。

後は町に戻り、ゆっくりと休んでから、次元世界を回ることにしている。

もちろん、道場を任せられればの話だがな。

この施設に来る前の状況のままなら、まあ、二年が最速だろう。

アインと喋りながら町へと戻る。


「ところで、アレはどうするのだ、シグナム?」


「……ああ、そう言えば放置してきたのだったな」


「忘れたかったのは解る。だが、放置するのも面白くないだろう?」


「ああ、なんと言うか、そのままにしたら負けのような気がする」


その後、アインと相談して決めた。

町に戻り、翌日。

稽古再開の日である。


「さて、どれだけ上達したか、約束通り見せてもらおうか」


やる気満々の門下生を前に、私はそう言い放つ。

おっと、アインが考え付いたことがあったな。

……こんな事を思いつくとは、大分町の女性たちに毒されているな。


「そうだな、人のタンスにスカートを詰め込んだのは大目に見てやろう」


頭に疑問符が浮いている門下生。

だが、知らない振りをするなら動揺を顔に出してはいけないな。

その点は心の中で減点しておく。


「更にだ、それぞれが好みのスカートを詰め込んだと思うが……」


知らない振りを続けているが、表情は誤魔化しているのに、顔色が悪くなっていくのは面白い。


「万が一にも私を追い込めたのなら、そのスカートを履いてデートしてやろう」


一転して顔色が途端に良くなる。

その後、雄叫び。


「一番手、出て来い」


私の声にあわせて、すぐに飛び出してきた犠牲者一人。

基本、私と立ち会うときはいつ仕掛けてきてもいいことになっている。

そのため、すぐに攻撃を仕掛けようとしてくる。

だが、まだまだ甘い。

それを軽く避け、始まって、逃れられなくなったときに、肝心の事を言う。

このタイミングも、アイン指定のものだ。


「ひとつ言っておく、一切、加減はしない」


餌をぶら下げたといえ、私も到底、デートする気などは無いのでな。

この日から、しばらくの間は、道場に死屍累々と男たちが倒れることとなる。

……後日、その死屍累々とした男たちを見て、アインがニヤリと笑ったのを見て恐れたのは、私だけの秘密だ。




第十二話につづく。




あとがき

先に謝ります。

説明文だらけで読み飛ばした方、読みにくくてすいません。

ベータのアイン登場を期待した方、他の案のため、あえなくカットしました。

私にはアインのドジが精一杯です。それ以上のドジは無理。

では、謝罪はこれまでで。

さて、夜天復旧はひと段落しました。

……まだ、完結はしてませんよ?

これからは、一応、ぶらり二人旅シリーズ、次元放浪編のつもり。

更なるトラブルを呼び込む予定。

そろそろ、原作キャラも出して行こうかなとは考えているんですけどね。

では、次の話にて。




[4469] 第十二話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2008/12/31 23:53

第十二話『出会いは突然に、だな byシグナム』


あれから、どうにか道場を渡すレベルに門下生が達したこともあり、私とアインは本格的に旅に出ることにした。

かなりの年月を費やしたが、門下生たちは上々の仕上がりだった。

引き渡した者は剣技だけならベルカの騎士としても十分にやっていけるレベルだと思う。

ちなみに、私たちが年を取らないことも町の人たちは理解している。

アインが闇の書をどうにかするということまで喋ってしまったからな。

まあ、そのおかげか喜んで送り出してくれたから結果的には良かったのか。

それから、いくつかの世界を転々としてきた。


「で、そろそろ現実逃避はやめるか」


「ああ、そうしよう」


「アインに任せた私が悪かった」


「私も自分のドジに泣きそう……」


まあ、町でもアインのドジは常識になっていたし。

アインが何かやらかすと、「ああ、いつものですか」と皆が納得するくらい。


「魔法自体は正確に発動したのだがな」


「座標設定で誤動作が起きたようだ」


いろいろな世界を転移してきたが、その際は私がやっていた。

今回、アインに任せたのはなぜなのだろうと思わず回想しそうになった。


「結局、ここはどこだ?」


「迷子、のようだ」


心の中での現実逃避もやめ、周囲を見渡すが、一面は荒野だった。


「まあ、しばらく探索して何も無ければ転移しよう」


「そうだな、最悪は拠点に転移すれば良い」


結局、そう結論付け、この世界を放浪してみることにした。

数時間、歩き続けて、見たものは荒野だけ。

どれだけ続くかも見当がつかない。


「さすがに、飽きる」


「確かに。下手すると、ここは無人世界かも知れんな」


「そろそろ転移するか?」


「そうだな、……いや、待て。音がする」


二人して耳を澄ますと、かすかに聞こえる。


「この音、そして、独特の雰囲気……」


「間違いない、戦いだ。いくぞ、アイン!」


「了解だ」


私たちが駆けつけると、そこには、たとえるなら大型恐竜だろうか?

それぐらいの巨大さを誇る魔法生物と、戦っている管理局員と思わしき一団。

魔法生物は一体ではなく、目視で確認できるのは二体、管理局側は苦戦している。


「まずいぞ、管理局側は負傷者が多い」


「わかった。静かなる癒しを発動する」


アインの書には私たちヴォルケンリッターの使用する術式も記録されている。

魔力消費の問題で記録された術式を使うのに最低一つはカートリッジを使うのが難点だが。


「了解だ、レヴァンティン!」


『Jawohl……Explosion!』


「風よ、皆を癒せ」


管理局員たちは突然回復したことに驚き、動きを止める。

自分たち以外に誰かいるとは思っていないのだから仕方ないが。


「止まるな!狙われるぞ!」


私の一喝で皆が一旦距離を取る。

咄嗟の判断は悪くは無いようだ。

真意を問いただすためか、先頭で戦っていた少年がこちらに寄ってくる。

……ああ、小さいな。


「僕は時空管理局員のクロノ・ハラオウンです」


原作キャラ初邂逅はクロノだった。

ここは助けて、印象を良くして置こう。

まあ、助けなくても乗り切るのだろうが、私が戦いたい。

正直、その選択が後々面倒なことになるとは思わなかったがな。


「戦闘の音が聞こえたので救援にきた」


「たまたまだったが、転移してこの世界に出たら鉢合わせたからな。これも何かの縁だ。手助けする。私はシグナム。連れはアインだ」


「ありがとうございます」


「ハラオウン、状況を教えてほしい」


「わかりました。僕らは訓練演習でこの世界に来たのですが、無人だったはずのこの世界に何故か大きな変化があったのです」


「大きな変化?」


「はい、詳しくは機密になるので言えませんが、明らかに人為的なものでした」


「私たちには発見できなかったが……」


「そういうもの、と思ってください。それらに関係して出てきたのが……」


「あいつら、か」


頷くクロノ。

機密、と言ってもたいしたことではないだろう。

犯罪者関連も部外者には機密として扱われるのは当然だしな。


「それで、私たちは逃走援護か?それとも、やつらを撃破すればいいのか?」


「あれらは違法に作られた魔法生物です。破壊していただいてかまいません」


「わかった、退かないということか。それと、あれらは証拠にならんのか?」


「残念ながら。それらに関してはほかのチームが今行っていますから大丈夫ですが……」


「よし、なら始末してしまおう。弱らせることに集中したらやられる可能性が高い。アイン、ほかの局員の防御を」


「わかった」


私は魔法生物を視界に納めながらアインに指示する。

敵は私たちが距離を置いてからは様子を伺うかのように動きを止めている。


「そちらの指揮はどうなんだ、ハラオウン?」


「本来なら、教導で来た僕の師匠というべき人が取るのですが、別のチームについているので……」


「不在か。なら、引き継いだ者は?」


「負傷組です。現状では僕以外の戦力はないと思ってください」


「承知した。ならば、自身を戦力と見なしたその腕前、あてにさせて貰うぞ」


「望むところです」


「アイン、カートリッジ二発分でいいな?」


「十分だ」


レヴァンティンが二連続で炸裂させる。

その際に生まれた魔力は書のほうに蓄積される。

これができるおかげで魔力の無駄が少し減った。

ただ、この方法で蓄積した魔力は時間とともに消えていくのでどうするかが今後の課題だ。

カートリッジを再装填して準備は整った。


「いくぞ、ハラオウン」


「任せてください」


同時に飛行を始める。

私たちを危険と見なしたのか、活動を再開する魔法生物。

植物型や、恐竜型など、それなりに種類も多い。

見た目で判断はできないものもいるようだ。


「スティンガーレイ、ファイヤ!」


『Stinger Ray』


打ち出されたスティンガーレイはうまく恐竜型の一体の足に命中し体勢を崩す。

そこに切りかかるが鱗の硬さで刃が通らない。

ならばと、カートリッジを炸裂させ、刀身に炎を生み出す。

生まれた高熱は鱗ごと首を焼き切り、斬り落とす。

背後に迫っていた触手はクロノのスティンガースナイプで迎撃されている。

敵の攻撃の隙に再び空に飛び上がる。


「とりあえずは一体か」


炎は維持しつつ、クロノに確認を取る。

……この程度で終わるなら管理局の隊員がこれほどまでにやられるはずが無い。


「残念ながら……」


クロノの返答は私の予想通りのものだった。

仕方が無い、か。

そう思っていた矢先だった。

クロノの背後に迫った敵の影。


「チィ!」


思わず、らしくは無いが舌打ちをしながらクロノと位置を入れ替える。

パンツァーシルトを展開し、受け流しを試みる。

それも瞬間的に破られ、咄嗟に左腕にパンツァーガイストを集中させ受ける。

ダメージは軽減できたが、左腕の反応が鈍い。

攻撃してきた触手を切り落とし、再度距離を取る。


「ハラオウン、無事か」


「僕は大丈夫です」


そう答えながらも私に回復魔法を施すクロノ。

その間に視線をめぐらすと、首を落としたはずの恐竜型は元通りに首がつながっていた。


「再生能力か」


「ええ、何度倒しても復活するんです」


……ならば、タネを探すしかあるまい。


【アイン、魔力はどれくらい持つ】


【フィールドを展開し続けて二十分だ】


【探査魔法を併用するとどうだ】


【五分だ】


【わかった。合図したら探査も展開。対象は魔力だ】


【まかせておけ】


「ハラオウン」


「何ですか?」


「五分以内にもう一度どちらかを倒す。できるな?」


「一度できたことなら必ず」


「いい返事だ」


左手を握り締めて感覚を確かめる。

痛みは無いが反応はやはり鈍い。

だが、やるしかあるまい。


【アイン、頼む】


思念通話でアインに指示を出し、恐竜型を狙う。

後方からのクロノの援護射撃が始まる。

私の邪魔にならないようにスティンガースナイプが駆け巡る。

向かってくる触手はクロノが迎撃。

私は一直線に恐竜型へと接近する。


「ハアッ!」


爪の一撃を気合を乗せて斬り払う。

衝撃で少し距離が開くが、レヴァンティンによって爪は断たれる。

振り回された尻尾を空で体を捻り回避。

その際に接近して一太刀を入れる。

もがき苦しむ恐竜型から一旦距離を取り、再度。


「レヴァンティン!」


『Explosion!』


付加された炎は更に燃え盛る。

左腕が使えないため紫電一閃は威力が落ちる。

それを補うために更に魔力を追加した。


「紫電一閃!」


右腕のみで振られた一閃はギリギリで片腕を落とすことに成功した。

即座に始まる再生。

思惑通りなら、これでわかるはずだ。


【シグナム、そこから東に魔力反応だ。座標を送る】


アインから送られてきた座標を確認してクロノを呼ぶ。

同時に触手の圏内からも離脱。


「レヴァンティン、ボーゲンフォルムだ」


『Explosion!……Bogenform』


続いてカートリッジが一発ロードされ、矢が形成される。

レヴァンティンに施された改良のひとつはこの魔力運用の効率化だ。

私とアインの現状、魔力の無駄は避けたい。

それゆえに、魔力収束を実装。

私が刀身に魔力の炎を纏わせ続けられるのは収束の手前の技能とはアインの談。

それをサポートするように、収束機能をレヴァンティンに実装した。

もともと容量の大きいレヴァンティンには苦も無く実装できた。

ただし、これも起動にカートリッジが一発必要なのが改良すべき点だ。

座標に向けて狙いを定める。

……左腕が安定しない。

アインに念話で呼びかけ、クロノにも座標を送らせる。


「ハラオウン、今そちらのデバイスに座標を送った。狙撃できるか?」


「……ブレイズキャノンでも無理です」


ならば、無茶でもやるしかないか。

震える左腕に無理やり力を入れ、弓を引き絞る。

くっ、このままでは……

その時、左腕が安定した。


「僕でも、これぐらいはできますから」


クロノが私の左腕を押さえて安定させていた。

……ふ、中々できるじゃないか。


「最高の仕事だよ。いい男になる」


私の言葉に顔を赤くするクロノだが、左腕にブレは無い。

……いける。


「翔けよ、隼!」


カートリッジがロードされる。


『Sturmfalken!』


魔力を収束し放たれた矢は間違いなく、目標ポイントを破壊する。

爆煙があがった後、植物型が枯れ果てる。


「やはり、二体一組か」


回復役は植物型だが、本体は離れたところにあり、触手だけが伸びて周囲に広がっていた。

恐竜型は本体を悟らせないためにセットになっているのだろう。

すぐさま、クロノのブレイズキャノンで恐竜型も葬られる。

とりあえず、一段落したのだ。

ゆっくりと休ませてもらうとしよう。




第十三話につづく




あとがき

クロノ登場。

リーゼ姉妹に局員の訓練に放り込まれてシグナムと遭遇という裏話。

小さくても強いぞクロノ。

次元漂流編と言うよりも、本編前騒動編になってまいりましたが、まだまだ続きます。

では、次回にて。



[4469] 第十三話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/09/02 01:34
第十三話『……ノーコメント、だ byクロノ』


戦闘も終わり、ゆっくりと休んだ私たちの次の仕事は負傷者たちの回復だった。

無論、私はカートリッジを使いアインに魔力を送るだけだがな。

クロノは、先ほどの戦闘で魔力を大分使ったので、隣で休んでいる。


「……そう言えば、貴女方はどうしてこの世界に転移を?」


……今頃か?

戦闘中だったから、今更になるのは仕方ないか。


「私たちは、とあるロストロギアを破壊するために旅をしている」


「ロストロギアを?」


「そうだ。厄介なことに転移するから、こちらは追いかけるしかない」


「それで、転移を……」


「そういう事だ」


なにやら考え始めるクロノ。

それほど深刻な顔はしていないから、切り出せないだけなのだろう。


「何か、聞きたいことがあるのか?」


「ええ、今のところ僕の知るロストロギアで転移するタイプのものはひとつ。闇の書だけです」


「それで?」


「まさか、闇の書の……」


「その通りだ。私たちの目的は闇の書の破壊だ」


驚愕に目を見開くクロノ。

……年齢が年齢だけに、可愛らしいがな。

簡単に目的を明かしたことに驚いているのだとは思うが。


「その話題を出すと言うことは、家族に犠牲者がいるのか」


まあ、知ってはいるが、問いかける。

ちょっとした布石を打つためでもあるが。


「……父が、自分の艦とともに」


「そうか、ならば、父親はクライド・ハラオウン提督で間違いないな?」


「ええ、そうですが」


「ならば、君は私たちの恩人の息子になるな」


疑問符が浮かぶクロノ。


「私は、夜天の魔導書の守護騎士。以前は……」


……ああ、クロノは意外に短気なのか。

S2Uをこちらに向けている。


「ひとつ言うが、闇の書の守護騎士と私たちは別だぞ」


「え?」


「夜天の魔導書と闇の書は別物だと言うことだ」


この設定、確かめようが無いからかなり重宝する。

調べがつく前に広まってしまえば真実になるし、調べられても、現にアインの手元に書があるのが証拠と示せる。


「私とアインは闇の書に外郭データ、要は体のデータだな。それを取られていて活動できなかったのだが、闇の書がアルカンシェルで吹き飛ばされた拍子なのかデータが戻ってきた」


「だから、父が恩人と言うのですか」


「ああ、だからこそ私とアインはこうしてここにいる」


詳細はどうあれ、間違ってはいない。

クライド提督の行動により闇の書はアルカンシェルで破壊。

その際に私たちは外界に出た。

ほら、ここだけ取れば間違いは無い。

……外面的だがな。


「ハラオウン、どう取るかは聞いたもの次第だ。どう受け取るかは自身で考えろ」


幸い、クロノは最低限の情報でも自身の推論を立てるタイプだ。

自己解釈をして納得してくれるから助かる。


「……もし、闇の書を破壊できたら、その後はどうするんですか?」


「幸い、私たちには時間がある。アイン次第だが、本来の役目である魔法の研究かもしれない」


「貴女は?」


「私はヴォルケンリッター、雲の騎士だ。雲は風の流れのままに、だ」


黙り込んでしまった、か。

こちらから振る話題も特に無い。

クロノが素直なうちに出会えたのは僥倖、か。

しばらく、無言の時間が過ぎたが、アインが戻ってきて沈黙も終わる。


「待たせたな。全員、支障のないレベルまで回復できた」


「そうか。では、転移するか」


「今度はシグナムがやってくれ」


「わかっている」


私が転移術式を展開し始めたときだった。

クロノがこちらを向き、口を開く。


「また、会えますか?」


……そう来たか。


「そうだな、ハラオウン、君が望むなら、また会えるのだろう」


どの道、会うことにはなるのだろうが。

このときくらいは、雰囲気を壊さないように勤めよう。


「なら、次に会うときは、貴女が驚くくらいになっておきます」


「そうか、期待している。私が認めるほどになっていれば、その時は姓で無く、名で呼ぼう」


どこかうれしそうにしているクロノを見ながら、私は転移術式を起動した。











「……今更だが、かなり恥ずかしいことを口走っていたな」


「シグナムにしてはものすごく珍しいな」


ああ、後から恥ずかしさが……

私の口からあんな恥ずかしい台詞が出てくるとはな。


「それで、シグナム、ここはどこだ?」


「先ほどの世界からはそれほど離れてはいない。ただ、人の居ない場所、と指定しただけだ」


先ほどのように巻き込まれるのを回避し、一旦休むために無人世界に転移した。

……先ほどの世界も無人世界だったのは無視だ。

私自身、先ほどの混乱から抜け出す時間がほしかった。


「しかし、思ったよりも疲労しているな」


「ほとんど休み無く魔法を行使したからな」


「しばらく休憩しよう」


簡易結界を張り、休憩を取る。

再度、左腕に力を入れて確かめる。

……やはり、まだ力が入らない。


「治療するから左腕を出して」


アインに促されるまま左腕を出す。

丁寧に触診して、治癒魔法を使い始める。

最近はシュベルトフォルムのまま鞘に収め、腰に下げているレヴァンティンがカートリッジをロードする。

まったく、私は指示していないのだがな。

瞬く間に腕の違和感が消え、元の通りに動くようになる。


「思ったより深手だったのか」


「ああ、ハラオウンの治癒で直ったのは危険部位だけだ。戦闘中の臨時措置だからな」


要は、血管や神経などの重要部位だけを直して、断裂した筋などはそのままだったわけだ。

アインの治療によって完全に元通りになった。

しかし、感覚の無い身体部位は全身の体感覚をかなり狂わせる。

実際に紫電一閃は引き手である左腕の感覚が無かったため、正確に振るえなかった。


「では、休むとするか」


「そうだな。先ほどの残りの魔力で結界を張ろう」


私たち二人のみを対象とした結界でゆっくりと休むことにした。




しばらく休み、回復してから再び色々な世界を回ったが、特にたいした物は無かった。

そこで、アインに転移を任せ、何か起こることを期待したのだが……

いい意味でも悪い意味でも期待を裏切らないアインだった。

アインによる転移で開けた場所に出たはいいが、問題は私たちの前に鎮座する物体だった。


「なんというか、もう、アインに任せれば色々とうまくいく気がするよ」


「私には、なんとも言えない」


私たちの前に鎮座しているのはひとつのケースだ。

……シリアルナンバーの振ってある、な。

こればかりはどうしようもなく、私たちは動きを止めている。


「アイン、絶対に触るなよ」


私は、爆死したくない。

それはアインも同様か、私と同じように少し距離を置いている。


「これをどうするか、だな」


「生憎、私には活用できないぞ」


「それは私もだ」


もちろん活用できる人物など都合よく居るわけが無い。

仕方なく、私たちはケースの上から封印を施し、私が持つ。

その内、書に物を収納できる機能とか搭載するのはどうだろうか、などと考えながら慎重に取り扱う。


「因果なものだ、この時点でこれを拾うとはな」


「まあ、拾いたくなかったのが本音だが」


「それを言うな。お前の転移で見つけたものだ。これも何か意味があるのだろう」


そう思うことにした。

……そうでなければ、私は間違いなく胃を壊す。

町に居たころは私以外の者が壊したがな。

アインに持たせていた荷物袋を受け取り、ケースを入れ、肩にかける。

今しばらくは世界を回り、時間を潰すほうがいいだろうと判断して転移術式を構築する。

時と場合によってはコレを売ることも視野に入れておこう。

爆死よりは遥かにマシだ。


「さて、次の世界に行くか」


「まて、シグナム」


アインの呼び止めに応じて術式を霧散させる。

同時に周囲を警戒する。


「どうした、アイン」


「転移反応だ。この世界に転移してきた。数は三つ。術式からしてミッドチルダの魔導師だ」


警戒を最大に。

ただ、状況的に、戦闘は不可能だな。

最悪のときは、これを爆弾代わりにして転移するしかないか。


【聞こえますか、シグナムさん】


唐突に届く思念通話。

この声は……


【思っていたよりも再開が早かったな、ハラオウン】


【すみません、上に報告したら、貴女に会いたいと】


【それで面識のあるハラオウンを交渉役にしたわけか】


いっそのこと、その上役のところでコレを爆破してやろうか。

一瞬、考えてしまった。


【ともに居るのが、その上役か?】


【いえ、一緒に居るのは僕の師匠で、会いたいといっているのは、僕の師匠の主人です】


【なるほど、取り合えず話は聞こう。こちらまで来てくれるか?】


【わかりました】


【それと、別れ際の約束だが、しばらく延長だな】


【……どうも】


どこか気まずげな返答をしてクロノからの思念通話は切れる。


「どうした、シグナム?」


「先方から連絡があった。こちらに来るということだ」


「そうか、シグナムの判断に任せる」


「ああ、警戒だけはしていてくれ」


私たちは、クロノとその師匠二人を警戒しながら待つのだった。

もちろん、交渉のためのカードは頭の中で展開しておいた。

頭脳戦はあまりしたくは無いのだがな……




第十四話に続く




あとがき

危険物を回収した二人。

まあ、爆破はしないですけどね。

次回はクロノの上役との頭脳戦。

……そこまで大層なものではありませんが。

今回は繋ぎの話なので特に行動はしていない二人です。

とりあえずのメモでは十五話くらいで事前の放浪は終わる予定。

……収まるかは疑問ですが。





[4469] 第十四話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/09/02 01:35
第十四話『(リーゼ姉妹に睨まれております。しばらくお待ちください) byグレアム』


しばらく待つと、クロノたちがやってきた。

クロノの後ろには二人。


「お待たせしました」


「いや、そんなことは無い」


「まるでデートの待ち合わせじゃん、クロ助」


ロッテがクロノをからかう。

からかわれたクロノは顔を真っ赤に染めている。

……まあ、場所と格好が違えばデートの待ち合わせの台詞かもしれない。

まだ、クロノはからかわれている。

そして、こちらに向くロッテの視線。

一緒にからかえ、ということだな?


「そう言う様に思われているとは、私も捨てたものではないようだな」


クロノに辛うじて聞こえる声でつぶやく。

聞こえたのか、更に真っ赤に染まるクロノ。

よく見ると、肌の出ているところは真っ赤だ。

ロッテがこちらに向けた視線から良くやったと言ってくる。

それにそちらこそと視線で返す。

そして、お互いに笑みを浮かべる。

それに気付いたアリアはため息をひとつ。

アインは何故か私を睨んでいる。

クロノは停止寸前だ。

そして、誤解を解く気の無い私。

場は混沌としているため、仕方なく私から切り出す。


「さて、そちらの二人のことを紹介してくれないか?」


「…………」


「ハラオウン?」


「あ、はい。そうですね」


見事に動揺している。


「僕の師匠たちで、近接戦闘の師がリーゼロッテ」


こちらに手を振るロッテ。


「魔法関係の師がリーゼアリアです」


軽く会釈するだけに留めるアリア。

ロッテの先のノリからするとギャップが大きいが、最低限は警戒しているのだろう。

そして、同時にグレアムの下まで最短で連れて行かれるのだろう事も想像できる。

少し、厄介なことになりそうだと思いながら、クロノを先頭に移動を始めた。












予想通りというか、最短でグレアムの所まで転移でやってきた。

事前に手回ししてあるのか、私たちの姿を見ても局員たちは何も反応しなかった。

……私たちは騎士服のままなのだがな。

しばらく進むとクロノが立ち止まった。


「ここが、グレアム提督の部屋です」


それだけ告げるとクロノは立ち去った。

あからさまにロッテが手で指示していたがな。


「いくぞ、アイン」


アインに声をかけ、部屋に入った。


「ようこそ、夜天の魔導書の守護騎士殿。私はギル・グレアム」


「私は夜天の守護騎士、ヴォルケンリッター烈火の将、剣の騎士シグナムだ。貴殿のご高名は聞き及んでいる」


簡単な探り合いから始まる。


「隣の方は夜天の主かな?」


「いや、夜天の管制人格だ。今はアインと呼んでいる」


まさか、主なしで居るとは思わなかったのだろうか?

それとも、管制人格が表に出ていることだろうか?

意外に驚いているグレアムを見ながら、流れをつかもうとこちらから投げかける。


「驚いているところすまないが、話に入りたい」


「そ、そうでしたな」


「……すまない、こちらから促しておいてなんだが、このままの格好では失礼だったな」


そう言いながら私はレヴァンティンを待機状態にし、騎士服を解除する。

途端、リーゼ姉妹の視線はグレアムを捕らえ、アインの視線もそれに準ずる。


「シグナム、騎士服は展開していたほうが良い」


「む、こっちのほうが失礼だったか」


軽装よりも騎士服のほうが戦闘を前提としているために失礼に当たると思ったのだが。

アインの言葉にリーゼ姉妹も頷いているから従うとしよう。

再び騎士服を展開し、再度、グレアムに話を振る。


「では、そちら側の闇の書の対策を教えていただきたい」


「そうだな、呼んだのだからそれが当然か」


激しく動揺しているグレアムが話し始める。

内容は原作と同様、デュランダルによる氷結封印を前提としているようだ。


「なるほど、確かに、封印はできるかも知れないな」


聞く限りでは確かに封印できそうに聞こえる。

あくまで、封印は、だがな。


「だが、それでは封印までだ。私たちが望んでいるのは破壊。そのための策もある」


「ほう、それはどう言う方法かね?」


「かなり難易度は高いが、できないことではない。まずは……」


私たちの考えている対応策をグレアムに伝える。

話している間、グレアムの表情が様々に変わっていくのが少し面白かった。

そこからしばらくは言葉の応酬が続いたが、お互いの手札を公開させつつ、うまく落としどころに持っていく。


「……なるほど。確かに、破壊できるかもしれない」


「では、問うぞ。一人を犠牲にして封印するか、困難に対して立ち向かい、犠牲を払わずに破壊するか」


ここで、あえてグレアムに問いかける。

そうすることで自身の立場を明確にする狙いがある。

それと同時に、私たちと敵対するか否かという問いも含まれている。

困難に立ち向かえない腰抜けなのか、とも聞いている。


「そこまで言われれば、私は困難に立ち向かうしかない。こんな私でも局員の端くれ。犠牲が出ないのならばその道を選択する以外にない」


まあ、相手が動揺している隙に話を進めたのは私だがな。

それを踏まえてもこの結果は最高に近いものがある。

うまくいけば、グレアムたちも局内の立場を失うことは無いのだ。

……話し合いのために説得内容を延々と町で考えていたのが報われたな。

こんなこともあろうかと、というやつだな。


「わかった。そちらの意思は確認させてもらった。問題は今の闇の書がどこにあるかだが…」


「残念ながらこちらでもいまだ把握できていない」


今の時点のグレアムたちでも把握しきれていないのか……

こうなると、私たちがいきなり海鳴に転移するわけにもいかなくなる。

はやての両親を救うことができるかはグレアム達次第になる。

私たちが突然、闇の書の場所を突き止めてしまえば疑われ、はやてたちを救うことがより難しくなってしまうからだ。


「仕方がないか。情報が入り次第、私たちは現地に向かう」


「わかった。闇の書の場所が判明次第、連絡を入れよう。それまでは宿泊場所などはこちらで用意しよう」


「では、よろしく頼む」


宿泊場所に関することは妥協した。

私たちは費用を浮かし、グレアム達は私たちを監視することをそれぞれの対価とした形だ。

さて、こんなところだろう。

お互い、妥協しているとはいえ、そこまで分の悪い賭けではなくなった。

ミッドチルダを観光するのも悪くないかも知れんな。


「ねえねえ」


「ロッテ、何か?」


「しばらくは暇でしょ?」


「ああ、そうだな」


「だったらクロ助の特訓に付き合ってくれない?近接戦闘はベルカの本領だし」


面白い申し出だな。

ただ、あれだけ完成しているしな……


「いや、遠慮しておこう。あれだけ完成していると教えることもないし、模擬戦だと私は加減を忘れがちになる」


現時点でクロノを潰してしまうことも避けるべきだしな。

戦うなら執務官になってからがいいだろう。

そのころなら存分に楽しめるはずだからな。

……なんだ、ロッテ、その楽しみが減ったという視線は。


「父様も貴女に協力するし、当然私たちも協力は惜しまない。何かあったら言って」


「わかった、アリア」


姉妹の正反対の視線を受けつつ部屋から立ち去る。

部屋から出る間際にグレアムから宿泊施設の地図を受け取ったのでそこに向かうとしよう。


「どうにか、まとまったな」


「まあな。妥協もしたし、自身でも穴が多い策だとは思っているさ」


「だが、犠牲は少なくできるだろう?」


「それも話の上では、だ」


あくまで、グレアムに考え直させることができたことも僥倖なのだ。


「……覚悟はしている、か」


「ああ、でなければ立てないし、進むこともできん」


「願わくば、全てのものに祝福を……」


アインの願いを聞きながら、私は未来に思いを馳せるのだった。




第十五話に続く




あとがき

グレアムとの対談でした。

頭脳戦にするつもりだったのですが、グレアムの人物像を考え直すと、そういうことになりにくいと思い今の形に変えました。

そして、アインが動く隙すらなかった……

とりあえず、中途半端になった気がしますが、対談は終了で、協力関係が結ばれました。

……あとがきも支離滅裂ですいません。

では、次の話で。




[4469] 第十五話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/09/02 01:35

第十五話『類は友を呼ぶ、とは言わないでくれ…… byシグナム』


グレアムとの会談から数日。

グレアムのほうから、何故か謝罪を兼ねて、と食事の誘いがあった。

まあ、誘いを断る理由も無いので承諾した。

何より、謝罪と言っているのに断ったら私が怒っていると取られるだろう事は簡単に想像できる。

と、言うわけで、アインを伴いやって来たわけだ。

向こうもリーゼ姉妹を連れてきている。


「呼び立ててすまないね」


「いや、招待していただき、ありがとうございます」


人間、礼儀は大事。

お礼はしっかりと、だ。

グレアムが予約してあった席に着き、料理を頼む。

……店員の微笑ましい視線が向いてきたがな。

店員にお孫さんですかと言われ苦笑いしているグレアムが印象的だった。

アインは仲良くなったリーゼ姉妹と面白おかしく会話しているようだ。

時折、私は三人の話についていけないことがある。


「実は、あの会話の後、二人に怒られてしまってね」


「それは、なぜ?」


「紳士が女性に気を使わせるなんて、と」


ああ、グレアムはイギリス出身だったか。

紳士の国などとも言われる所だからな。

あのときの三人の視線はそういうことなのだろう。

アインも“俺”の記憶で知ったのかもしれない。


「それで、食事会を?」


「まあ、それもあるがね。それ以外にも何か協力できることはないかね?」


ふむ、今の時点で、か。

……詳しい状況は抜きにしろ、おそらくはやてのリンカーコアの浸食はあるのだろうと思って行動するか。


「では、ひとつ」


「なにかね?」


「リンカーコア関連の病や症状に詳しいものを紹介してほしい」


ある程度の状態を説明して、なにか出れば儲け物だからな。


「ふむ、闇の書に蒐集された者が出たときのためかね?」


「まあな。現場で簡易でも処置ができれば回復もはやくなるだろうしな」


表向きの理由でグレアムには納得してもらう。

コレも理由のひとつではあるが、やはりはやてのためというのが一番に来ている。


「わかった。こちらのほうで手配しておこう。連絡は宿舎の方に入れよう」


「助かる」


「何、協力しているのだ。こういうことは任せたまえ」


五人で談笑しつつ、食事を楽しんだ。

私たちが遠慮なく食べたため、会計のときにグレアムは少し青い顔をしていた。













後日、グレアムから連絡があり、先方がこちらと会うとの事。

グレアムも相手が誰かは知らないらしく、渡りをつけてくれた人物が時間と場所を指定してきたらしい。


「アイン、頼むぞ」


「わかっている。こういうときは私の魔法行使のほうがいいからな」


アインなら気付かれずに魔法行使することも可能だしな。

料理に何かあってもどうにかなる。

戦闘に向かう気持ちで指定された場所に向かう。


「確かに、ここで間違いないのか、シグナム?」


「ああ、確かに、ここで、合っている」


私たちの前にあるのは居酒屋だった。

なぜここなのか疑問に思いつつも中に入り、指定された席に着く。

少し待つと入ってきたのは白衣の男だった。

……こんなところでも白衣を着ているとは正気を疑うな。

この人物がはやての体調をどうにかできる可能性があると思うと口には出せないがな。

その人物は私の横に座り酒を注文する。

私たちは席に着いたときに注文したが、話し合いと思っていたため、私はアルコールではないが。

……アインはしっかりとアルコールを注文しているぞ。

白衣の人物を見ると、どこか見たような気になり、ネームプレートがつけっぱなしだったのでそれを見ることにした。

J・S、だと?


「さて、君たちが私にリンカーコアについて聞きたいという人たちかな?」


くっ、相手は現実逃避の時間すら与えてくれないのか。


「ああ、私はシグナム。連れはアインだ」


ちなみに、アインには酒は飲んでいいから話すなといってある。

この場はドジをされるわけにはいかないからな。

魔法行使する可能性はほとんど無いと踏んでもいたし。


「私はジェイル・スカリエッティ。そうだね、今は博士とでも呼んでもらおうか」


現実は無情、か。

とりあえず、自分の気を落ち着けるためにスカリ…いや、博士に酒を注ぐ。

更に、アインにも注いでやる。


「これはすまないね。それで、私に頼みたいこととは?」


まだ、今の時点では幾分かマシなのだろうか?

普通の問いかけに少し気圧されつつも答える。


「リンカーコアが外的要因によって侵食されている際に、その進行を止める、または改善させる方法は無いだろうか?」


「ふむ、それは、リンカーコアの侵食によって起きる症状に対処したい、ということかね?」


「ああ、その通りだ」


「それについては簡単だ。以前、研究して対処法もできている」


さすが、だな。

今はまだマシとはいえ狂人だけに研究には余念が無いようだ。

きっと、人造魔導師素体に対処しているうちに完成したのだろう。


「そうだね、対価といっては何だが、質問に答えてもらおう」


博士にしてはずいぶんと安い対価なのではないか?

……これからの時間の経過で物凄く歪むのだろうな。


「簡単だ。無限の欲望について、だ」


ちょっと待て、あれか?

存在理由に疑問を持っているのか?

単純に聞きたいだけという線も捨てがたいが、最悪は斜め上を行くものだ。

それも考慮に入れて答えるとしよう。


「まあ、質問が抽象的過ぎるから意図したこととは違うかもしれんが、そもそも、それは人間そのものだ」


“俺”、いや、ここまでの時間経過でその感覚は希薄になっているから、もう“彼”でいいだろう。

“彼”の考え方の根幹にあったものだ。

こんな機会でもないと話すことも無いだろうから、話すことにした。


「人は生きていくうえで必ず何かを欲している。食料にしろ、衣類にしろ、住居にしろ、娯楽にしろ、何か、必ず必要としているものだ」


「ふむ、それで?」


「さて、それらの欲は尽きるかな?」


「たしかに、尽きることは無いね」


「それだけでなく、人は生きる意味さえ欲する。聖人となろうとすることも欲だといえるし、人のために何かしたいというのも欲だ。目標に向かうことも欲だといえる」


「それでは、何をするにしても欲だといえるね?」


「ああ、良いにしろ、悪いにしろ、すべては欲望だといえる。それらを内包する人間は?」


「……無限の欲望、だね」


「そういうことだ。そこに居るのは欲をいい方向に制御できる人間か、欲に負けて滅びる人間しか居ないと考えている」


「なら、無限の欲望と名付けられ、高度な能力を与えられたものはどうかね?」


「そんなものはただのできることが人より多いだけの人間だ。俗に言う、天才と凡人の違いくらいだろう」


私が答える前に口に含んだ酒を思いっきり噴出す博士。

何か、驚くようなところがあったのだろうか?

ちらりとアインを見るとすでに出来上がり始め、色っぽくなっていた。

……無言で飲み続けていたからなぁ。

ちなみに、博士はアインを見て噴いたわけではない。

博士も落ち着いたらしく、こちらに向き直った。


「いい話を聞かせてもらったよ。私的に治療薬以上の対価をもらってしまった。何か用があったら構わず念話かここに連絡したまえ」


そう言いながら白衣のポケットから連絡先の書かれた紙を出して渡してくる。

それを受け取り、しまっておく。


「治療薬は後日、データとともに届けよう。患者のデータを入力すると処方してくれるソフトもつけておこう」


「ずいぶん、至れり尽くせりだな」


「私が感じている恩はこんなものではないよ。マッドの恩返しだ、覚悟しておきたまえ」


自分で言うな、自分で。

私は出来上がりかけたアインを連れ、戻ることにした。

博士はまだ飲んでいくらしく、会計も持ってくれた。

それから、博士とは幾度と無く会って話し合いをすることになる。

……主に、向こうからの奇襲で。

その代わりのように、色々とやってもらったが。

赤い危険物を有効活用したりとかな。

そんなこんなで時は過ぎ、ようやく、グレアムから連絡が入った。

“闇の書は第97管理外世界、地球、日本、海鳴にある”と。




第十六話に続く




あとがき

まさかのスカ博士登場。

この時期なら幾分まともだろうと思い登場。

そうしたら変なフラグがたった。

…それは置いておいて、ようやく、海鳴に向かいます。

では、次の話で。




[4469] 外伝一話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2008/12/22 00:01


外伝一話『今回はアインの視点らしいぞ byシグナム』




回想そのいち ~スカートはサービスらしい~


私とシグナムが町で暮らし始めてから大分たち、生活も安定してきたころだった。

シグナムたちの修練が終わり、いつものように私は差し入れを持って道場に上がった。


「皆さん、お疲れ様です。今日の分の差し入れですよ」


我先にと持ってきた差し入れのおにぎりの争奪戦が始まり、私はシグナムとともにお茶を注ぐ。

ちなみに、この口調は対外的なもので、あまり使わない。

お茶を配り終え、皆が差し入れに舌鼓を打っている間に、私は準備をする。

いつも、稽古に参加した人から毎回会費を集めるのは私の仕事だからだ。

これに関しては、この町の男性たちは出稼ぎに出ると月単位で戻ってこないことがあるために、その家族や、参加している女性から一回ごとに集めてほしいと頼まれたからだ。

名簿を出して、集金し、チェックしている。

参加日数もこれで一目でわかるようになっている。

そうやって集金しているうちに、門下生がシグナムの回りに集まり始める。

また、シグナムに何か質問があるのだろう。

この光景も日常的なものだ。


「先生」


「どうした、何かあったか?」


「質問があるんですけど」


「私に答えられるものならな」


シグナムと門下生の問答が始まる。

なんだか普段の質問の様子と違い、どこか落ち着かない様子だ。


「では。先生」


「何だ?」


「先生はなぜ、その、あの…」


「ちょ、代表して聞くんだろ?!」


「早くしろよ!」


周りの門下生が質問をしている人に怒鳴る。

なにやら、おかしな雰囲気だが、質問は門下生の総意のようだ。


「先生!」


「どうした、言ってみろ」


「先生は、なぜ、す、スカートを履かないのですか?」


とんでもない質問が飛び出した。

それは、女性にする質問ではないでしょうに。

シグナムが答えるとは思えないのだけれども……


「特に深い理由でもないのだが、答えてやろう」


って、教えるの?!

ちょっとした驚愕に包まれつつ、聞き耳を立て続ける私。


「別に私はスカートが嫌いなわけではない。剣だけでなく、徒手でも戦ったり、剣を扱っているときでも蹴りを使うこともある」


頷く門下生たち。


「そのときに相手に必要以上にサービスすることはあるまい?」


おどけたように答えるシグナム。

シグナムに対する認識を改めた私だった。

その後、若干、集金額を間違えたりしたのは余談だ。

集金後、町の女性たちにこのことを話した。

即座に女性陣の会議が始まり、シグナム自身の手で門下生を懲らしめる作戦を立てた。

都合があり、しばらく後になったが、この作戦は見事成功を収めた。

結果を見たときに思わず笑みが浮かんだのは少し反省している。

ただ、若干名、危ない趣味に目覚めたのはまったくの予想外だった。

その若干名に関しては、シグナムはおろか、私もその行方は知らない。




回想そのに ~料理、味見、シグナムの舌~


普段は私が家事をしていたのだが、あるときのシグナムの一言がこの事件のきっかけだった。


「たまには私が料理を作るか」


ある意味、衝撃的な発言。

何しろ、私とシグナムが行動をともにしてからそういった分野は私が担当していたのだ。

一度も、シグナムが料理をしたことなど無い。

それが、私の不安を駆り立てた。


「アイン、その顔は疑っているな。私が料理を作れないと思っているのだろう?」


馬鹿な、私の無表情から感情を読み取るなど……


「加えて、どうやって感情を読み取ってるのかなどと思っているのだろうが、完全に表情に表れている」


鏡を見る。

やはり、そこには変わらぬ表情の私。

隠し通せている自身はあったのだが……


「まあ、意図的に隠してはいるのだろうが、私にはわかりやすいぞ」


「そうなのか?」


「ああ、他の者にはわからないだろうがな。そういうことにしておけ」


「わかった」


釈然としないが、それはこの際おいておこう。

今は、もうひとつの方が重要だ。


「話は戻るが、今日の昼は私が作る。今日の稽古は休みだからしっかりと作ろう」


動揺していた私は押し切られ、シグナムが作ることに決定した。

数時間後、買い物を済ませたシグナムの後ろには、ご近所の方々。

シグナムが買い物をしているのを見て、珍しいのでついて来たようだ。

すでに、シグナムはキッチンに入り、エプロンをつけている。

先ほど、シグナムに改めて確認したところ、こう帰ってきた。


「もともと、“俺”は一人暮らしで自炊していたのだ。ある程度なら作ることはできる」


その言葉を聴き、危険は去ったことはわかった。

ご近所の方々までやってきたため、作る量はかなりのものだった。

私の持つデータの中には様々なところの料理のレシピなどもあるが、シグナムが作ったものは無い。

まあ、先ほどの話からして、“彼”の料理なのだろう。

気になるのは、味付けをして味見をした後のシグナムだった。

味を見ては調味料を微妙な単位で調節していたのだ。


「さて、これで全部だ。味は保証できんが食べてくれ」


そう言われ、思考を切り替える。

ご近所さんも手を付けようとはしないため、私が率先して食べることにする。

料理を口に含み、良く噛んで味わう。

……これは危険だ。

主に、体重の面で。

私とシグナムには関係ないことではあるが。

私が食べる手を休めないのを見てほかの人たちがいっせいに食べ始める。

……即座に完食。

味が良かったため、作ってくれと言い出すものが絶えず、シグナムには料理禁止令が出された。

味付けに関して聞いてみると、


「やけに味に関して敏感でな、舌が納得できるように調節したのだ」


とのこと。

この後、私や女性陣がその味に挑戦して、味付けでミスをして胃を壊すものが続出した。

……かなり、紙一重のバランスに成り立った危険な味だということを思い知った。

その後、しばらくはシグナムに料理に関して警戒されたのは悲しかった。

シグナム自身は危険を回避したのに……




回想そのさん ~天敵は台所の黒い生物~


町の人たち曰くの『シグナム料理事件』から数日。

私は、最近、レヴァンティンの調子がおかしいとシグナムから相談され診断することにした。

シグナム曰く。


「魔法の行使や動作におかしなところは無いが、応答が遅れることがあってな。心配だから見てやってくれ」


ということだ。

ほとんどのことは自分で済ませ、自身の魂とまで言うレヴァンティンを私に預けるほどだ。

動作的ではなく、AI側なのだろうとあたりをつけ問いかけることにした。


「レヴァンティン、どうした?」


『Ich will es wissen』
(知りたいことがある)


「何が知りたい?」


『Die Leute der Stadt lobten das Kochen vom Meister, und eine Küche wurde ein Heiligtum gerufen』
(町の人々は主の料理を褒め、台所を聖域と言った)


「そうなのか。それで?」


『Ich will eine Sache kennen, die gegen das Heiligtum vom Meister verstößt』
(主の聖域を侵害するものを知りたい)


シグナムの聖域が台所というのは納得しかねたが、その心意気は納得できた。

主に害なすものは排除するのが我々のあり方なのだから。

ただ、その台所で会話していたのが拙かったのだろう。

待機状態で台所に置かれていたレヴァンティンの上を黒い影が通り過ぎた。

すかさず、スリッパを手に取り、叩き潰す。

以前、シグナムがやっていたから真似た。

それを処理し、レヴァンティンに注意を向ける。

一応、表面を拭き、綺麗にする。


『Ist es der Angreifer der Küche?』
(台所の侵略者?)


「ん、ああ。今のがそうだ」


『Ich beschloß es』
(決めました)


「何を?」


『Ich vernichte es』
(奴等を全滅させます)


その物騒な発言に驚愕。

アームドなのだが、インテリジェント並みのAIだな。

まあ、こうしてレヴァンティンはG殲滅を決意したのだ。

さすがに、シグナムには教えられなかった。




外伝一話、了




あとがき

今回は外伝で、以前までの裏話です。

基本、外伝はシグナム以外の視点で動きます。

舞台裏や意外な感情がわかるかもしれません。

誰の視点かは副題でシグナムが。

各回想にも副題がついています。

回想の個数は決まっていません。

ではまた。




[4469] 外伝二話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2008/12/31 23:56

外伝二話『クロノ視点だが、大丈夫なのだろうか? byシグナム』




回想そのいち ~出会いは突然に クロノ側内心編 会話は無いよ~


僕らが演習に来た無人世界。

そこで、指名手配犯の魔力反応を感知。

それも転移後の残留魔力反応だった。

幸いにも、今回はアリアが同行していたため、その場で魔力を辿り、追跡を開始。

僕は残った局員たちとともに、周囲の探索に入った。

該当する犯罪者は、転移前に魔法生物を置き去りにし、実験している。

放って置くと繁殖する厄介なタイプの場合もあるため駆逐することが決められた。

恐竜型を発見し、強襲。

連携良く倒すことに成功した。

その後、植物型が現れ、不意を疲れたほかの局員たちはほとんどやられてしまった。

僕が前線に立ち、ほかの局員たちを守りながら戦っていたときだった。

突然の魔力反応とともに、局員たちが回復。

どうやら、戦闘の音を聞いて駆けつけてくれた民間の魔導師のようだ。

僕は確認するためにその魔導師たちに近づいた。

その立ち居振る舞いは威風堂々。

凛々しくも美しい……って、これは僕のキャラじゃない。

20才前後と思われる、女性の魔導師が二人。

僕と会話し、方針を決めたのか、二人は分かれ、一人は局員を助けに向かった。

一人は僕とともに戦闘に参加。

アームドデバイスと呼ばれることは後で知ったが、そのデバイスを自在に操り、的確な状況判断で戦闘を進めていく彼女。

正直、見惚れていた。

近接戦闘の師であるリーゼロッテよりも優れた戦闘技能に、何より、それをこなす彼女の姿に、雰囲気に見惚れてしまったのだ。

それが僕の油断につながった。

植物型を避け損ね、彼女が僕をかばい負傷した。

それでも彼女は果敢に戦い、勝利した。

彼女の左腕を支えたときに言われた台詞はさすがに恥ずかしかったが……

恐竜型を倒したとき、照れ隠しも混ざっていたのは僕だけの秘密だ。

ほかの魔法生物は局員たちが連携し、倒すことに成功した。

あのときに回復が無かったらと思うと血の気が引く。

ただ、二体一組はこの組み合わせだけだったらしく、ほかの大量の魔法生物はカモフラージュだったようだ。

……どうやら、まだ動揺しているようだ。

思考がうまくまとまっていない。

ゆっくり休んで、思考も落ち着いてきたころ、確認のために彼女に問いかける。

彼女の口からは驚愕の事実が次々に出てきた。

幸いにも、彼女は僕に選択の余地を残してくれたため、自力でたどり着くことにする。

少し気になり、目的を達成した後のことをたずねてみた。

思えば、僕は、ここから自分の道を真剣に考え始めたのかもしれない。

ついでに言えば、生真面目すぎるといわれた性格を少しは変えようかとも思った。

その後、彼女とはわかれ、リーゼたちにこのことを報告する。

すると、グレアム提督が、彼女に会いたいといい、顔を知っている僕が結局行くことになった。

恥ずかしながらも彼女と再会し、今回はノーカンにしてくれた。

僕は案内だけして彼女と別れた。

これからは、訓練により一層力を入れて臨もうと思った。

……ロッテのからかいも酷くなりそうだし。




回想そのに ~会談の後のちょっとした話~


彼女と提督の話が終わったようで、彼女たちは戻っていった。

僕は今後の訓練についてリーゼたちと話をするために提督の部屋に入ることにした。


「提督、クロノです。入ります」


「クロ助~、いいよ~」




この軽さはロッテだが、なぜロッテが許可を出すんだ?

疑問に思いつつも部屋に入ると、何故か、正座をした提督と、その前に立っているアリア。


「まったく、さっきの行いは紳士たる父様らしくありませんでした。女性に気を使わせるとは……」


どうやら、提督が延々とアリアに説教されているようだ。

はじめてみる光景に呆然としていた僕にロッテが事情を話してくれた。


「いやね、さっきの会談のときに父様がシグナムに気を使わせちゃって」


「気を使わせた?」


「そ、あっちはバリアジャケット、まあ、あっちじゃ騎士甲冑って言うけど、話し合いだからって気を使って解除したわけ」


「それで?」


「持っていたデバイスも待機させて完全に非武装。そこまでさせるなんて紳士の行いじゃないでしょ」


「まあ、確かに。そうなる前に声をかけるべきだと思うけど」


いつもなら、そうなる前に声をかけているし、気を配っている。

提督に人望があるのはそういうところが大きいとほかの局員も話していたし。


「それにしても、グレアム提督にアリアが説教とは」


「ああ~、確かにアリアのキャラには見えないよね」


まあ、ロッテのキャラでもないが。


「いま、私のキャラじゃないって思ったな、クロ助?」


う、鋭い。


「いや、そんなことは無い。それよりも、今後の訓練なんだけど……」


何とか話題をそらして目的を遂げる。

その間、延々と説教されてうなだれている提督が印象的だった。

…時間?

僕がロッテと打ち合わせしている間だったから二時間くらいだったかな。




回想そのさん ~特別講師は危険な香り~


提督が説教されてから数日。

……あの日から詰め込みで訓練になっているから時間間隔がわからなくなってきてるな。

まあ、数日は過ぎているだろう事は確実だが。

そんなある日、突然、アリアが言い出した。


「クロノ、今日は特別講師を呼んでる」


「特別講師?」


「そう、今日は魔法実技だけど、その人と模擬戦してもらうわ」


そう言うと視線を扉に向ける。

どうやら念話で呼びかけたようだ。

そして、開いた扉から入ってきたのはアインさんだった。


「アリア、特別講師って……」


「そう、アイン」


「アリアからクロノと模擬戦をしてほしいといわれたからな。友人の頼みは断れない」


そう言って、アインさんは槍から穂先を取ったような形をしたアクセサリーを取り出した。


「これを使わせてもらう」


デバイスのようで、起動したソレは槍のような、杖のような、どちらともいえないものになる。


「これは試作型のデバイスだから名前は無いが、中々にいいものだ。シグナムが作ったものだ」


あの人が作った?

デバイスを作る技術も持っているのか。

さすがは、あの人だ。


「じゃあ、ルールだけど、魔法は非殺傷、決着は気絶か続行不能と判断したとき、負けを認めたときね」


「わかった。アインさんもソレでいいですか?」


「ああ、それでいい」


「では、始め」


アリアの声で模擬戦が始まる。

まずは様子を見ながら攻めよう。


「スティンガーブレイド、ファイア!」


『Stinger Blade』


様子見ではなったこれにどう対処するか……


「ならば、スティンガーブレイド」


な、同じ魔法!?

しかも、相殺された。

内心の動揺を押し隠し、次の魔法の準備をしながら移動を開始する。


「カートリッジロード」


アインさんの声にあわせてデバイスからカートリッジが吐き出される。

大きな一撃がくることを感じ、防御体勢も整える。


「論理発展、術式拡張。さて、夜天の魔法研究性能を見せよう」


そういえば、以前アインさんがリーゼたちと話をしていたときに言っていた気がする。

『私自身のデバイスは魔法研究用だ』と。

……まさか!


「うまく耐えろ。スティンガーブレイド・エリミネイトシフト」


複数展開されたスティンガーブレイドは僕の周囲と彼女の正面に数え切れないほどだ。

更に彼女のデバイスから炸裂音。

カートリッジが吐き出されるとともに、スティンガーブレイドに射出用の環状魔方陣が出現する。

……拙すぎる。

ただでさえ、初速の速い魔法を更に加速するつもりなんて。

待機させていた魔法を展開する。


「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」


数は及ばないが、すべてを一定方向に打ち出し、相殺、爆煙を上げ、進路を確保する。

移動開始とともに射出音。

一瞬前にいた場所を無数の弾丸が通り過ぎる。

洒落になっていない。

何とか回避行動を取れているが、避けた魔法すら、射出魔法が再展開されこちらに方向を変える。

もっと洒落にならないのは、彼女の前にまだ展開されたままの魔法があることだ。

いつ、射出されるかもわからない。

そう思ったときに、衝撃。

僕の意識は落ちた。





「気がついたか?」


目を覚ますと、何故か目の前にアインさんの顔。


「やりすぎてしまった。許してほしい」


「いえ、訓練ですから。仕方ありません」


そう言って起き上がろうとする僕をアインさんが押し留める。

……後頭部の感触で落ち着けないのですが。


「かなりエグイ攻撃だったね、アイン」


「アリア、私も反省しているからもう言わないでほしい」


ああ、ロッテがいなくて助かったな。

この状況はなんていうか、死亡フラグが立ちかねない。

何とかアインさんから離れて立つことに成功。

死亡フラグを回避したことに安堵しつつ、模擬戦といえない模擬戦を確認する。

……映像で見ると自分が生きていることが不思議でならない。

生の実感をかみ締めつつ、より強くなろうと決意した。




外伝二話、了




あとがき

エイミィ、ゴメン。




[4469] 第十六話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/01/02 22:44


第十六話『久しぶりに動いた気がするよ byグレアム』


グレアムの呼び出しに応じ、グレアムの部屋にやってきた。


「闇の書の場所が見つかったとの事だが……何をやっている?」


見てみれば、椅子に座り仕事をしているアリアと、手伝っているロッテ。

そして、普通のスーツを着て外出の準備をしているグレアム。


「アリア、なぜグレアム提督の仕事を?」


アインの疑問にはすぐに答えてくれた。

何でも、自分が後見人をしている友人の娘の写真に、闇の書が写っていたらしい。

そこで、顔見せと確認を兼ねて、会いに行くと連絡したらしいが、グレアムの休みが取れなかったそうだ。

どうにか休みが取れないかと口論した結果、アリアとロッテが休みを潰し、グレアムの仕事を変わりにするということで決着がついたそうだ。


「そういうことか。なら、行くとしよう」


私とアイン、グレアムで海鳴に転移した。







人目につかないところに転移が完了してすぐに、グレアムの案内で歩き始める。


「勝手ですまないが、戸籍と住む場所を用意させてもらった」


「それはこちらとしても助かるが、どうしてだ?」


「ひとつはこちらの世界で活動するためだ。戸籍があれば活動に支障が出ることは少ないだろう」


「確かに、活動制限は私たちとしては好ましくないな」


「住む場所も用意したのは、君たちの第五管理世界での話を聞いたからだ」


「ああ、アリアたちから聞いたのだな。シグナムが話すとも思えない」


確かに、私は話していないが、そこまで話していたのか、アイン?

なんとなく釈然としないがグレアムに続きを促す。


「自活していた君たちが、私の援助とは言え、小学生程度の子供に養われるのは抵抗があるだろう?」


……まったくもって、その通りだ。

それに、今まで稼いだ分をグレアムに換金してもらい、生活に困ることは無い。


「それと、先に言っておくが、はやて君の家には闇の書の危険から一般人を遠ざけるために結界を張ってある」


「……効果は人払いと、魔力隠蔽というところか?」


「そうなる。人払いといっても、一人暮らしを気にしなくなる程度だ。彼女が施設に行ってしまったら被害が大きくなるかも知れない」


「局員としての苦肉の策か」


「本来なら、もっといい手もあるはずだがね。しがらみがあるとどうにもうまくいかないものだ」


少し陰のある表情を浮かべるグレアム。


「さて、ここだ」


グレアムが指したのは高級そうな住宅だった。

私とアインが住むには少々広い気がする。


「基本的にはどの部屋も使って構わない。魔力隠蔽のしてあるから魔法も使える。あと、一部屋は使わせていただくよ」


「何にだ?」


「実は、ごり押ししてトランスポーターの設置許可をもらったのだよ」


なんだか、だんだんとグレアムが暴走している気がするのだが……?

ちらりとアインに視線を向けると私から視線を逸らした。


「アイン?」


「私は、リーゼたちに転送機があれば便利じゃないかなどとは言っていないぞ?」


ダウト。

しかも、リーゼ姉妹も裏でかんでいるとは……

まあ、気軽にミッドと行き来できるなら儲けものか。


「ただ、設置するのは少々非合法のものでね。博士の一品だよ」


ちなみに、グレアムと博士は面識がある。

私とグレアムが話しているときに奇襲を仕掛けてきて、討論会に。

どこをどう間違ったか意気投合し、今では討論会にグレアムすら混ざっているときがある。

そして、この紳士は何かリミッターが壊れてしまったのかもしれない。

それと、非合法な部分とは、転送ログが残らないこと。

管理局認可の場合、転送許可と転送を証明するログが必要になるそうだ。

そのため、許可の無いときはログが残らないようになっているとの事。

まあ、ありがたく使わせてもらおう。

私とアインの部屋割りを決め、転送機を置く部屋を決定。

後は、リーゼたちが設置してくれるとの事なので三人で軽食を取るため外出する。

少し歩いたところで、よさそうな喫茶店を発見。

中に入り、案内され、席に座る。

今、私たちを案内した男はかなりの実力者であることは一目でわかった。

その動作に隙が無い。

更に上手なのはカウンターにいるマスターだ。

マスターの奥方と思われる人は普通のようだ。

それぞれが注文し、食事を取る。

グレアムが紅茶を飲んで唸っていたりする。

真剣なところを見るとかなり気に入ったようだ。

先に食べ終わった私は、コーヒーを飲みながら二人を待つ。

と、不意に視線を感じ、そちらに視界を移すと、先ほどの店員の男がこちらを向いていた。

が、すぐに、長髪の女性に引きずられていった。

……なんだったのだろうか?

二人が食事を終え、グレアムが会計を済ませる。

こういうときには必ずグレアムが払う。

一度、払おうとしたら断られたしな。

喫茶“翠屋”を後にして、はやて宅に向かう道のりで、また、とんでもない事態に遭遇した。

金髪の女の子が車に押し込められているところだ。

それを見た私たちの行動は素早かった。

グレアムは管理局法なんのそのと言わんばかりに、隠蔽しながらの抜打ちのごとき魔法行使。

車のタイヤをパンクさせる。

アインと私はその時には駆け出し、アインが少女の確保。

私は実行犯を叩きのめした。


「大丈夫か?」


「あ、はい、大丈夫です」


アインの声に答える少女。

それを聞きながら、私とグレアムは実行犯の男たちをフルボッコ。

更に、車の中から、拘束用具が見つかったのでそれで拘束。

ミリ単位ですら動けないようにして、携帯端末で連絡をしている少女をその場に、私たちは立ち去る。

もちろん、隠蔽して使用した探査魔法であの少女に害をなすものがいないことも確認している。

初日でこれだけのトラブルと遭遇するとは、私たちのトラブル体質も相当なものだな。

更に厄介になる前に離れることに成功したが、これが更に厄介なことにならないことを祈るだけだ。

その後はトラブルに巻き込まれることも無く、無事にはやての家までたどり着いた。

グレアムがインターホンではやてと会話している。

すぐさま、玄関が開いた。


「いらっしゃい、あがってな」


進められ、家に上がり、リビングに招待される。

すぐに、お茶とお菓子も出てきた。

車椅子でこの機動力、びっくりだ。


「八神はやてです」


「会うのは初めてだね。私が君の後見人のギル・グレアムだ。こちらの二人は…」


「シグナムだ」


「アインです」


「君のために、二人は近くに引越ししたので、何かあったら頼るといい。私に急用があるなら二人に話してくれれば伝わるようになっている」


にこやかに、紳士的笑顔とでも言えばいいのか?やわらかい笑顔ではやてに話しかけるグレアム。

はやては驚きを隠せないようで、目を丸くしている。


「あと、君のような麻痺に関する専門医と知り合いでね。定期的に見てもらえる手筈も整えた」


言わずともわかるが、博士のことだ。

討論会で、はやての現状を知ったグレアムが博士に頼んだ。

それをあっさりと承諾。

後でこっそりと聞いたが、“提督とのパイプは役立ちそうなのでね”といっていたが。


「そんな、そこまでしてもらわんでも……」


「たいしたことではない。まず、私とアインは今まで旅暮らしをしていたからな。ゆっくり暮らすのにこの地域を紹介してもらった」


「ええ、とてもいい所で、紹介してもらったお礼を、ということで、グレアムさんに聞いたら」


「はやて君は足が不自由だからね。私は中々、休みが取れないので時々見てあげてほしいと」


「それで、グレアムさんからはやてさんは足が不自由と聞きまして、知り合いの専門医に」


「先方も“いろんな症例があると治療法も確立しやすい”と乗り気でな」


「そういうわけではやて君が気にすることは無いのだよ」


見事な連携で打ち合わせどおりに事を運ぶ。

まだ幼くとも他人を気遣うはやては、こうやって捲くし立てるのが早いと結論付けたからだが。

うれし泣きをするはやてを優しく扱うアインとグレアムを見ながら思う。

この少女には優しさに満ちた世界を見せたいと。

……それと、死亡フラグに紙一重なこの町で平和に過ごせるのだろうか、と。




第十七話に続く




あとがき

海鳴編始まりです。

いきなりトラブルに巻き込まれるのも定番ですね。

では、次回。




[4469] 第十七話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2010/01/13 02:25
第十七話『紙一重、だな byアイン』


はやてと話し込み、かなり時間が経ってしまった。

夕食ははやての家で食べ、リーゼ姉妹が過労で倒れないよう、グレアムが戻るため、私たちは帰ることとなった。

……あの二人なら大丈夫だとは思うがな。


「もう、帰られるんですか?」


「ああ、中々休みが取れないものでね。また、休みが取れたらよらせてもらうよ。まだ会わせていない二人もいるからね」


「そやけど…」


やはり、今までの反動か、寂しいのだろう。

ここはひとつ、助け舟を出すとしよう。


「はやて、すまないが、今日は泊めてもらえないだろうか?」


「シグナム?」


アインは問いかけてきたが、グレアムはすぐに察したようだ。


「実は、二人とも今日引っ越してきたばかりでね、準備がほとんど終わってないんだよ」


「シグ姉、そうなん?」


「ああ、まだ、必要な家財道具が運び込まれていなくてな。急で悪いが大丈夫か?」


「もちろん、大丈夫や。お布団も数はあるし、部屋も空いとるからな」


満面の笑みで答えるはやて。

ちょっと出遅れた感のあるアインは少し暗い。

ちなみに、はやては私をシグ姉(ねえ)、アインをアイン姉と呼ぶようになった。


「では、私はこれで。またお邪魔させてもらうよ」


「グレアムおじさん、またな」


「ああ、また」


最後まで紳士的にグレアムは帰っていった。

……両手にタッパーを持って。

はやての案内で私たちが割り当てられた部屋まで行き説明を受ける。


「お布団はそこに入っとるよ。そういえば、着替えは?」


「私が取ってこよう。服は家にあるし、ここからはそう遠くは無い。アインははやてを見てあげてほしい」


「わかった。特にこだわらないから手早く戻ってきてくれ」


アイン、すまん。

私は揉まれたくは無いのだ。

玄関から出るとき、後ろから「ほな、お風呂入ろか」と聞こえてきた。

……アイン、本当にすまん。

まあ、私自身、少し先送りにできた程度だと思っているが。

くだらない思考をしているうちに家に着き、着替えを持ち、即座に引き返す。

せめて、早く着く事で被害の時間を少なくしてやることができればいいのだが。

玄関前で息を整え、はやて宅に上がる。

そこには、すでに風呂から上がった二人がいた。


「もう、お嫁にいけない……」


ちょ、そこまでか!?

私が走って、往復20分程度だったはずだが、何が起こったのだ……


「そんな、胸を揉んだだけで大げさな」


犯人は、はやて。

それだけは間違いない。

そして、すでに風呂から上がっているのだから、今日の被害はもう……


「ほな、シグ姉、一緒に入ろか」


な、なんだと……


「アイン姉は早々にこうなってもうたから、まだ、きちんと洗ってないんよ」


……無念。








次の日、私とアインははやてをつれて、翠屋にやってきた。


「ここが、シグ姉たちの言ってたお店か?」


「そうだ。ケーキもおいしかったから、はやても期待しているといい」


目が輝いているはやてを連れ、店内に入る。

バリアフリーのようで、車椅子でも難無く入れる。

そして、私たちの姿を見て、店員が凍りついた。

……昨日、何も無かったはずだが?

奥では電話をかけているようだ。

訳がわからないが、とりあえず注文し、席に着く。

注文したものはすぐに出てきて、はやては喜んで食べている。

そして、外から急ブレーキの音が聞こえた。

開け放たれる店のドア。

店員の指が私を指す。

かけてくる足音。

目の前に現れたのは三人の少女。

……まあ、言わなくてもわかるだろう。


「き、昨日は助けてくれてありがとう」


「「アリサちゃんを助けてくれてありがとうございます」」


「そこまで感謝される覚えは無いが、無事で何より」


私はそう答え、視線に気付く。


「なあ、シグ姉、昨日引っ越してきたばかりやろ?」


「ああ」


「引越し初日になにしたん?」


「この少女がさらわれそうになっていたのでな。助けただけだ」


「ちょ、どこのドラマやねん……」


まあ、自己紹介をして、一緒にお茶となった。

三人、なのは、アリサ、すずかははやてと同い年らしく、すぐに打ち解けた。

あと、何故か、高町家(月村忍含む)の自己紹介も受けた。

そして、高町家長男、恭也の一言。


「腕のある剣士とお見受けする。俺と勝負してほしい」


もちろん、受けてたった。

……だが、私の目の前で、この発言をした恭也をアイアンクローで持ち上げた、月村忍のほうに興味がわいたのは私だけの秘密だ。

一度、私たちは家に戻り、はやて宅で待機。

士郎さんが車で迎えに来て高町家にやってきた。

……はぁ、はやてに魔法のことを伝える前にこうなるとはな。

高町家の道場で恭也と相対する。

得物はレヴァンティンとほぼ同じ長さの刀だ。

向こうは当然、小太刀二刀。

どちらも刃は潰してあるものだ。

鞘から抜き、構える。


「永全不動八門一派、御神真刀流、小太刀二刀術、高町恭也」


そう名乗られたからには名乗り返すしかあるまい。


「ヴォルケンリッター、剣の騎士、シグナム」


「「勝負!」」


開始早々に、お互いの剣が弾きあう。

お互いの狙いは相手の首であり、同じ軌道に乗った剣がぶつかり合ったのだ。

左の鞘で殴りかかり、もう一刀の小太刀で受けさせ、そこを蹴り飛ばす。

魔法は使えないので、空に位置を取れないのが悔やまれる。

若干、恭也との距離が開き、よろめいた隙を狙い、剣を突き込もうとしたが、危険を感じ下がる。

そして、空を裂く音が聞こえた。

過ぎ去ったのを確認すること無く、瞬時に体を捌き、位置をずらす。

視認も難しい突きが通り抜けていく。

そこから展開されぬよう、鞘で小太刀を打ち流し、体勢を崩させる。

切りかかるも残りの小太刀で受け流されてしまう。

そこでお互いに距離を取る。

このレベルならば、純粋に剣技のみで戦えば、決着は一瞬。

半身になり、剣を構え、魔力は込めないが全力の一刀として、紫電一閃を選択する。

恭也も小太刀を納刀し、順手と逆手の握りで構える。


「まさか、鋼糸を読み、射抜まで抑えられるとは思わなかった」


「経験、だな。並みの剣士では避けることはおろか、何があったかもわかるまい」


「ならば、次で決めよう」


「ああ、このままでは決着はつかん。全霊の一撃で答えよう」


集中を高め、視覚のみに集中する。

次にくるのは最速の抜刀。

ならば、叩き切るのみ。

恭也の体に反応があったのを見た私は迷わず剣を振り下ろす。

振り下ろしと同時に恭也の姿が消え、私の剣と現れた恭也の小太刀二刀はぶつかり合い砕けた。


「……引き分け、だな」


「ああ、楽しいひと時だったぞ」


お互いに、それだけを交わす。


「綺麗に終わろうとするのはいいが、こちらを見てほしいのだが?」


アインの言葉に、二人でそちらを向く。

そこには、アインの目の前に刺さった刀の破片があった。

見回すと、残りの二本のうちひとつは天井に。

もうひとつは立会人を果たしてくれた士郎さんの指の間に挟まっていた。

私と恭也は謝り倒すしかなかった……




第十八話に続く




あとがき

はやてからは逃げられない。

ちなみにギャラリーは高町家の人々、はやて、アイン。

なのは撮影で映像記録になってたりもする。

では、次の話で。





[4469] 第十八話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/09/02 01:38
第十八話『世界は広いな by高町恭也』


あの後、高町宅に私、アイン、はやての三人で泊まることになった。

はやてはなのはの部屋に、アインは美由紀の部屋に。

私は、道場を借りた。

木刀を一本借り、素振りをする。

……隣に、恭也と忍がいるがな。


「それにしても、すごいわ。恭也と引き分けるなんて」


「私も驚いている。今まで、私に比肩する腕のものには中々出会わなかったものでな」


素直に感想を漏らす。


「ねぇ、恭也。シグナムの腕前ってどれくらいなの?」


「かなりの腕前だ。一瞬の攻防で徹も貫も流された」


恭也の言葉を聴いた途端、忍の顔が驚愕を表す。

先に、恭也に聞くとしよう。


「高町、その徹と貫とは?」


「ああ、うちの技法のひとつでな、徹は剣の衝撃を文字通り相手に徹す」


「なるほど、防御も徹る攻撃法か」


「で、貫は相手の動きを読み、その隙を突く。相手はすり抜けたように感じるから貫と呼ばれる」


「ならば答えは簡単だな。徹に関しては受けるときは止まらずに流すようにしているからな、それで衝撃も流れるのだろう。貫に関しては、あの攻防で読まれるほど、私は浅くない」


口下手な説明でも恭也は納得したようだ。


「……確かにな。まだ、全力でない気もする」


そこまでわかるか。

恭也との話が止まる。

そして、今まで止まっていた忍が計ったように動き出した。


「シグナム、明日、うちに来て。恭也、案内よろしく」


「忍?」


「フル装備でね」


どうやら、フラグが連鎖しているようだ……はぁ。

二人が道場から出たのを確認し、私は眠りにつく。








翌朝、朝食も頂いた私たちはまた来ることを確約し、恭也の案内の元、月村邸に向かう。

忍はすでに戻っている。

……「とことんやるわよ!」と意気込みながらな。

メンバーは私、アイン、はやて、恭也、なのは。

一旦、私の家に寄り、連絡が来ていないか確かめるために端末を確認する。

……博士からとグレアムからか。

グレアムは“はやてにお礼を”との事。

博士は、今日の夕方にはやての診察のためにやってくるとの事。

二人に返信をして、リビングに戻ろうとしたときだった。

向かう先から聞こえる物音と「にゃ?!なんか出てきた?!」だの「一体どこから!?」だの聞こえる。

冷や汗が止まらん。

更には、アインの魔力光が見える。

それに、「あかん、後光が見えるわ」や「この世は広いんだな」とか、聞こえる内容だけでもカオスだ。

急いで、私はリビングの扉を開ける。

そこには、足元に魔法陣を展開し、魔力光を発しているアイン。

その手には、槍型の、試作で試験用のミッドチルダ・近代ベルカ両用のデバイス。

私と博士はアームドストレージなどと分類している。

名前はまだない。

そして、驚いているその他一同。

おそらく、転移前にアインに預けていたアームドストレージを落としでもして展開。

それを慌てて拾い、誤って起動した、というところか。


「コマンド、緊急停止。待機に移行」


『ok』


即座に待機に移行し、アインの手のひらに収まる。

…アインがクロノの訓練で使ったものでなくて良かったと考えよう。

頭を抱える私に全員の視線が向く。

はあ、私が説明するしかないか。

とりあえず、三人には簡単に説明する。

魔法資質、リンカーコア、デバイス、術式体系などなどをさわりの部分だけ。

使えるのかどうか、見てみたいなどといわれたので検討する。

使えるかどうかは、高町家で全員に話すときに。

実際に見せるのは月村邸にて行うことになった。

恭也が言うには「あそこで油断はできん」との事でそうなった。

そして、すべての説明も含めて、関係者になる月村家も含めて高町家にて説明することになった。

そして、移動し、月村邸の門前。


「それで、忍。今回は?」


『そこから、うちの玄関までたどり着く。それがそちらの条件よ』


「先に確認するが、いつも通り、どんな手を使ってもいいんだな?」


『何で今更確認するの?』


「なに、俺はいつも通りだが、シグナムが何を使うかわからんだろう」


『それもそうね。どんな手を使ってもいいと明言しておくわ』


恭也がこちらを向いている。

……狙ったな、これは。


『ほかにはないかしら?』


「ああ、それだけだ」


「私からはひとつある」


『なに?』


「敷地の損傷はどこまでが許容範囲だ」


『そうね、庭なら全損でもいいけど、建物は破壊しないでね』


「わかった。それが聞ければいい」


『それじゃあ、恭也、シグナム。がんばってね』


ギャラリーであるはやて、なのは、アインは先に邸内に入っている。

何でも、監視カメラで実況中継するらしい。

さて、ルール通り、何でも使わせてもらおう。

アインには先に結界を張っておいてもらったので敷地内では問題ない。

建造物は破壊しなければいいのだからな。


「レヴァンティン」


『ja』


騎士甲冑が展開され、レヴァンティンがシュベルトフォルムになる。


「なるほど、全力に思えないわけだ」


「まあ、仕方なかろう。私の本領はベルカの剣技。魔法との同時使用が前提だからな」


「準備はいいな。基本、庭にトラップが設置されている。それの対処からだ」


「ああ。恭也、先手は私が取るぞ」


恭也は頷き、それを見て私はレヴァンティンを抜き放つ。


「まずは、庭の罠からだったな。レヴァンティン!」


『Explosion……Schlangeform』


シュランゲフォルムになったレヴァンティンを見て驚愕する恭也。

おそらく、モニターしている向こう側でも同様の表情だろう。

忍、庭の全損を許容した自身を恨むといい。


「ハアァァァァァァァァ!!!」


気合とともに振るい、庭全体を打ち据える。

芝生であった部分はすべて茶色、土しか見えない。

そのほか、植木など、庭の景観を生んでいたものはすべて無事だ。

私がやったのは芝生に隠して埋め込まれていた罠を駆逐したに過ぎない。


『ちょ、何それ、反則じゃない!』


「私はルール通りにやっただけだが?」


『うっ…』


レヴァンティンをシュベルトフォルムに戻し鞘に収める。

確認した通りなのだから私に非はない。


「これほどとはな」


「まあ、な」


私と恭也は悠々と歩いて玄関までたどり着く。

騎士甲冑を解除し、レヴァンティンは待機状態へ。

やはり、そのサイズにも驚いているようだ。

現れた忍にいたっては、私の襟首をつかみ揺すっている。

…恭也たちに止められたがな。

庭の損害に関してはこれから話す魔法のことや、それらの一部技術提供で帳消しということに。

もちろん、魔法に依存しない程度のものだが。

そうしているうちに、博士の到着時間が近づいてきたため、ノエルの運転で私たちの家に。

私とアインで手分けしてお茶を出し、博士の到着を待つ。


「やあ、遅くなったかね?」


リビングの扉を開け、現れた白衣の博士。

あまりの自然さに白衣に違和感を覚えなかったほどだ。


「はやて、彼がはやてを見てくれる…」


「ジェイル・スカリエッティだ。気軽に博士と呼んでくれたまえ。ドクターでも構わんがね」


「はい、八神はやていいます。よろしゅう、お願いします」


「今日は、簡単な診察のみだから、少し失礼するよ」


そう言いながら、はやてに手のひらを向け、魔法陣を浮かび上がらせる。

そして、すぐに消し、口を開く。


「ふむ、リンカーコアが弱っているのが麻痺の原因だね。これなら薬を飲めば歩けるようにはなる」


【事の詳細は端末に直接送ろう】


【わかった。よろしく頼む】


【なに、持ちつ持たれつ、ということだよ】


「では、手続きなどがあるから……と、その前に」


博士の視線がなのはに向く。

なのはは視線が向いたことに驚き、恭也は飛び出せるように身構える。


「君」


「にゃ!……私ですか?」


「そうだ。君は、運動するのが苦手ではないかね?」


「わかるんですか?!」


「ああ、君はかなりの魔力を持っているが、扱い方を知らないようだから、発散される魔力で運動が阻害されているようだ」


「じゃあ、なのはの運動オンチは……」


「ふむ、ご家族の方のようだが、おそらく想像の通り。体の問題ではなく、魔力運用の問題。要は、魔法の使い方を覚えれば改善されるものだ」


……なるほど、自然発散される魔力が身体強化と反対の作用をしていたということか。

なら、今から鍛えれば、原作よりも強く……


「ふ、どうやら、教えたくてたまらない人がいるようだから、その点は心配ないようだね」


「シグナムは教えるのも得意だからな」


博士にアイン、こちらを見てニヤニヤするな。


「その件に関しては全員に話すときにだ。博士、はやてのほうだが」


「現状、魔法行使は禁止。使用すれば命にかかわるだろう。まずは体のほうから治すことだね」


はやては魔法を使えないことに少しがっかりしているようだが、体が治る見込みが出てきたのでうれしそうだ。

博士ははやてとなにかやりとりをしてから立ち上がる。


「では、私はこちらの病院との手続きなどがあるのでこの辺りで失礼させてもらうよ」


そうして博士は去っていった。

その後、全員で高町家に移動し、説明。

長時間に及んだが、質疑応答も済み、大体は理解してもらえたようだった。

なのはに関してはあっさりと承諾。

私がなのはに魔法を教えることになった。

……士郎さんよりも桃子さんのほうが乗り気だった気もする。

新しい環境が構築されようとしているのが何よりもうれしい。

そんな気持ちになる、この人たちとのやりとりだった。

後、その際の条件として、何故か私が翠屋で働くことになった。

……士郎・桃子ペアには別の意味で勝てん。




第十九話に続く




あとがき

ちなみに、今回の月村家の損害額は八桁前半。

そして、ある意味、翠屋の一人勝ち。

では、次の話で。




[4469] 第十九話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/09/02 01:39

第十九話『とりあえず穏やかな日々。長く続かんのが悲しいがな… byシグナム』


海鳴に来て、早数ヶ月。

基本的魔力運用を学んだなのはは、順調に運動オンチの汚名を返上している。

近々、士郎さんが御神流を教えてみようと思うと言っていた。

基本、なのはの訓練は、魔法関連が私、格闘関連が士郎さんと恭也が担当している。

なのはの動きに合わせた魔法運用を教えるために格闘関連の時も私は一緒にいる。

はやてにはなのはとの時間が長いと拗ねられ、機嫌を直すのにアインと苦労したものだ。


「さて、なのは」


「はい、師匠」


ちなみに、この呼び方は御神の剣士組提案、なのは採用による。

何でも、先生よりも師匠のほうがなんか合っているとの事。


「渡したデバイスを起動してみろ」


「わかりました」


なのはに渡したのは、件のアームドストレージを練習用として完成させたものだ。

なのはにあわせて、ただのストレージではなく、インテリジェント並みのAIを搭載し、祈祷型のルーチンを組み込んだ。


「騎士甲冑、いや、ミッドチルダ式が元だからバリアジャケットだな。それと、デバイスの形状もイメージしろ」


「はい」


なのはのイメージが固まり、バリアジャケットとデバイスのフレームが構築される。

デバイスの形状は槍に近いが、杖の範囲だろう、エクセリオンを更に槍に近づけた形だ。

エクセリオンとストラーダを足して二で割った感じだな。

バリアジャケットは、私たちの騎士甲冑と聖祥の制服が混じったイメージをしたのだろうか?

簡単に言うと、腰から上がエクシード、下がアグレッサー、といった感じだ。


「うまくいった様だな」


感動しているのか、言葉の出ないなのは。

それを見ながら、アインとユニゾンし、ミッド式とベルカ式の本格的な訓練に入る。

今までの訓練で、やはりというべきか、なのはは砲撃に適正があることがわかった。

かといって、私が教えるのに、接近戦の技法を教えないのも癪だ。

そこで、ミッド式による遠距離戦、ベルカ式による近距離戦とした。

別の術式同士を運用しやすくするために、ベルカ式はミッド式によるエミュレーション、近代ベルカ式にしてある。

これが、功を奏したのか、なのはの運用技術は驚くほど早く上達し、デバイスを運用できるレベルに達したというわけだ。


「なのは、準備はいいのか?」


「はい!」


正気に戻ったなのはと訓練を開始する。

もちろん、やるなら徹底的にだ。











「もうだめなの……」


「よし、今日はここまでだ」


なのはが限界に来たため訓練を終了する。

アインとのユニゾンを解除し、なのはに反省点を伝え今日の訓練は完了。


「中々、興味深い術式だったな」


「そうなのか?」


「ああ、近代ではなく、私たちと同じベルカ式も運用できるかもしれないな」


ふむ、アインの言うとおりならルーチンをミッド式とベルカ式の並列処理型に変更してもいいな。

なのはの成長に合わせて検討するとしよう。

刹那の差で明暗が分かれるときもあるのだから、直接扱えることはいいことだ。

エミュレーションは若干のタイムラグが出るからな。


「さて、なのは、そろそろ動けそうか?」


「はい、もう大丈夫です」


「なら、はやての所に行こう」


なのはを連れ立ってはやての家に。

現在、はやては博士の診療を受け、かなり改善した。

博士の技術は侮れない。

ただ、根本の原因が取り除けない限りは完治はしないとの事。

今現在、ミッドの科学者として引っ張りまわされている博士には秘密裏に闇の書をどうにかする時間が取れないのだ。

何しろ、戦闘機人関連の技術を応用して不自由ない義肢を作り上げて一躍有名人に。

デバイスの低コスト高性能化など、片っ端からやっているから余計に時間がない。

どう吹っ切れたのか、やりたい放題だ。

こちらには、はやての診療くらいしか来ていないのだ。


「はやてちゃ~ん!」


「なのはちゃん、ど~ぞ」


なのはが先に上がりこむ。

その後について入っていく。


「あ、シグ姉。今日はどうやった?」


はやてがなのはの訓練の様子を聞きに私のところに歩いてやってくる。


「相変わらず大暴れだ」


「にゃ?!師匠の方がハチャメチャなの!」


「そうか?」


「そうなの!」


「ようはいつも通りいうことやな」


「ああ、シグナムもなのはもいつも通りだった」


それを言うアインも今回は暴れていたがな。


「じゃあ、お茶入れるから待っててな」


少し、力の入っていない足取りではやてが台所に向かう。

それを補助するためにアインがついていく。


「はやてちゃん、大分歩けるようになったんだ」


「ああ、来週から学校に行くことになっている」


「あれ、はやてちゃんはどこに通うんですか、師匠?」


「聖祥だ」


「じゃあ、なのはと一緒ですか?」


「そうだ。色々面倒見てやってほしい」


「任せてください!」


張り切るなのは。

グレアムが頑張った甲斐があるというものだ。

この前、リーゼ姉妹とともに久しぶりに来たグレアムがはやての話を聞き実行した。

しかも、なのはと同じクラスになるようにだ。

そういう話をなのはとしているとお茶をもってはやてが戻ってきた。


「もう、私はそこまで面倒かけへんよ」


「歩けるとはいえ、長時間は無理なのだ。車椅子のときに助けてもらうことも多いからな」


「そら、そうやけど」


一応、聖祥は車椅子でも困るところは少ないとなのはから聞いているがな。


「友達を助けるのは当然だよ。だから、遠慮なく言ってね、はやてちゃん」


「うん、ありがとうな、なのはちゃん」


まあ、私が言わずとも、優しい子達が多いのだから心配することもあるまい。


「それにしても、シグナム」


「なんだ、アイン?」


「時間は大丈夫か?」


ちらりと時計を見る。

……


「すまん、後は頼んだ」


「ああ、勉強のほうは私の担当だからな。任せておいてくれ」


このあたりは、デバイスとしての面目躍如というのか、アインの得意分野だ。

はやてが聖祥に通っても困らないように、家庭教師をしている。

なのはも時間があると今回のように参加することもある。

そして、バイトの時間が迫っている私は翠屋に向かった。

翠屋に到着すると、着替え、接客をはじめ、業務をこなす。

一応、なのはの魔法訓練が私の主な仕事にあたり、翠屋はバイト扱いだ。

高町夫妻からそうお願いされたのだ。

常に、なのは優先という契約なのだ。

ちなみに、特別に作られた契約書には“なのはに関すること、魔法に関することの場合はそちらを優先すること”と明記されている。

魔法に関することには私たちやはやてのことも含んでいるとも言っていた。

マルチタスクですばやく処理し、片隅でくだらないことを考えながら翠屋での業務を終える。

そして、高町家の人々とともに高町家に移動する。

すでにアインとはやてはなのはとともに待っていた。

そして、剣士組となのはに私を加えたメンバーで道場にて稽古。

その間に桃子さん、はやて、アインが食事の準備をする。

いまは、歩けるはやてのサポートをアインがしている状態だ。

稽古が終わればそのまま夕食。

食材分は給料から天引きされているところが抜け目が無いというのか。

そうして、寝るために家に戻るというサイクルがここのところの私たちの生活パターンになっている。

私もアインも覚悟しながら楽しい生活を満喫していた。

だが、やはりというか、来るべき時は来てしまうのだった。




第二十話に続く




あとがき

今回は三回書き直したのに、まとまりませんでした。

次回からは外伝が少し入ります。

薄い部分や淡白な部分は外伝で語られる……たぶん。

では、次の話で。



[4469] 外伝三話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/09/02 01:40

きっかけは不思議な出会いでした。

アリサちゃんを助けた人たちとの出会い。

知らなかった世界への入り口。

新しい友達。

運命は加速していきます。

魔法少女リリカ……え、今回はこれじゃない?

こほん。

魔導騎士リリカル……あってるけど、今回は別ですか?

では。

魔砲騎士リリカルなのは、始まります。

え~、師匠。これでいいですか?




外伝三話『ああ、OKだ……と言うわけで、なのは視点、始まるぞ byシグナム』




回想そのいち ~きっかけは誘拐、後光、白衣なの~


私が出会った不思議な人たち。

凛々しいとか、そういう言葉の似合うシグナムさん。

同じようだけど、ドジをしたり、茶目っ気のあるアインさん。

そんな二人との出会いのきっかけはアリサちゃんでした。


「そんな感じでね、颯爽と私を助けてくれたんだけど、すぐに行っちゃったのよ」


お昼に屋上でお弁当を食べていると、アリサちゃんが話してくれたの。

聞けばびっくりだけど、アリサちゃんが誘拐されそうになったときに助けてくれた人たちの事。


「ねえねえ、アリサちゃん」


「なに、すずか?」


「どんな人たちだったの?」


それはなのはも聞きたかったので、アリサちゃんに話してもらうことにしました。


「そうね、一人は見た感じ、紳士って思うわね」


「紳士って、あの?」


「そう、雰囲気って言うのかな、それが、私は紳士ですって言ってる感じ」


何でこんな説明かというと、後でもう一度聞いたところ、「雰囲気しか覚えてなかったのよ」と。

まあ、後でその人にあったときに、ああ、紳士だって思って納得しました。


「あとは、銀髪のストレートで、クールっぽいけど優しい女の人と、赤紫?まあ、そんな感じの色で、纏めてて、なのはのお兄さんみたいに、武人って感じの女の人」


あれ?

その人たちはどこかで聞いたことが?


「アリサちゃん」


「どうしたの、なのは」


「お兄ちゃんが話してた翠屋に来たって人の話に出てきた気がするの」


それからのアリサちゃんの行動は早かった。

翠屋に連絡を取り、お兄ちゃんに確認した上で、またやってきたら連絡が来るように手配。

もちろん、アリサちゃん自身じゃなくて鮫島さんがしたんだけど。

それからはあっという間。

翠屋から連絡が来て、アリサちゃんと一緒に行き、そこで出会ったの。

シグナムさんはすごい人で、お兄ちゃんと試合をして引き分けるほどの人。

……さすがに、破片が飛んできたときはびっくりしたの。

新しい友達のはやてちゃんとはすぐに仲良くなれたの。

シグナムさんとアインさんのことをうれしそうに話してくれた。

出会って一日だけど、はやてちゃんには頼れるお姉さんなんだって。

アインさんは、私が魔法に触れるきっかけになった人。

……かなりのドジっ子なの。

シグナムさんがリビングから移動して、私たちが待っていたときにそれは起こったの。


「あ、しまっ…」


アインさんの手からキーホルダーみたいなものが落ちる。

地面に落ちるその瞬間、槍のようなものに変わったの。


「にゃ?!なんか出てきた?!」


「一体どこから!?」


思わず声に出してしまった私に、身構えたお兄ちゃん。

もう、皆で大騒ぎ。

それに慌てたのか、アインさんが光りだしたの。


「あかん、後光が見えるわ」


はやてちゃん、さすがに違うと思うの?!


「この世は広いんだな」


お兄ちゃんも変に納得してる?!

もう、完全なパニック状態。

そこにシグナムさんがやってきて、騒ぎを収拾してくれた。

簡単な説明だったけど、魔法に関することはわかりやすく教えてくれた。

私たちの質問にも答えてくれたし。

その後の魔法の実演はすごかったの。

シグナムさんの剣が変形して、光りながら、忍さんの家の庭が大変なことになったの。

……後ですずかちゃんが見たらびっくりするだろうなぁ。

その後は、また、シグナムさんの家に戻って、はやてちゃんの診察だそうで。

現れた人は白衣が違和感無い男の人でした。

この人は、私が魔法を習うきっかけをくれた人。

博士かドクターと呼んでくれとのことで、私は博士、はやてちゃんはドクターを選びました。

博士が言うには私の運動オンチは魔力運用がなんたら。

正直、使い方を覚えなさいと纏めてくれたのは助かりました。




回想そのに ~師匠の雇い主はお父さんとお母さんなの~


実際に魔法を習うためにお父さんたちに説明をすることになり、高町家に全員集合しました。

まずは、魔法のことについて、シグナムさんが説明してくれました。

疑問に思ったことも実演を交えて答えてくれて、とてもわかりやすいものでした。


「魔法のことについては良くわかりました。ですが、なぜ私たちに説明を?」


まあ、お父さんが疑問に思うことも当然ですが。

それに答えるために、先陣を切ったのはアインさん。

見事な土下座で、思わずDO☆GE☆ZAと表現したくなったの。

……でも、どこで土下座を知ったのかな?


「まことに申し訳ありません。私の不注意で、説明しなければならなくなってしまったのです」


「不注意で娘たちが魔法を知ってしまったからですか?」


「はい」


難しい顔をしているお父さん。

お母さんは落ち着いて聞いています。


「それだけではありません」


「シグナムさん?」


「高町御夫妻、ご息女の運動が苦手なところは、魔法資質に関係していたからです」


真剣に聞いているお父さん。

それを見守るお母さん。

そして、暇そうにしているはやてちゃん。


「それについては……」


『私から説明しようか』


いきなり博士の顔が浮かび上がったのでみんな思わず下がったの。


『私はジェイル・スカリエッティだ。気軽に博士と呼んでくれたまえ。ドクターでも構わんがね。ちなみに、この台詞はテンプレだからツッコミは遠慮してほしい』


何か余計な一言が……

もはや、どこにツッコミを入れるべきかもわかりません。


『私はそこの八神はやて嬢の主治医だが、診察の際に近くにいたからね。診させてもらったよ』


「それで、うちの娘は…」


『魔力発生の原理はシグナムから聞いているとは思うが、魔力素を取り込み魔力を発生させる器官、リンカーコアというが、そこから自然に発生する魔力の量が多すぎてね、運動機能の阻害をしているのだよ』


「それは……」


『水道管がところどころ詰まっていて流れにくいのにかなりの量の水を流している状態とでも言えばいいかね?』


はあ、なるほど。

……って、破裂します?!


『まあ、それでも修理しなくとも支障は無く使えるぐらいといったところだね。もちろん、修理すればもっと効率よく水が出せる。水道管の圧力が運動のし難さ、中の水の流れが魔力の使いやすさだ。魔力の使い方を覚えれば圧力は減り、運動するのは簡単になる』


「同時に、つまりが取れ、普段でも運動しやすくなります」


『そういうことだね』


「ニュアンス的には博士の行った通りです。それで、ご息女の魔法に関しては任せていただけないかと」


考え始めるお父さん。


「聞いてもいいですか、シグナムさん?」


「はい、何でしょう」


「なぜ、なのはに教えて下さろうとしているのですか?」


お母さん……


「ひとつは運動オンチを直せるから。これはご息女のメリットです。
 次に、魔法を使える次元世界の中でも、かなりの魔力を持っているから、どこまで育つのか。
 魔法を知ったからこそ、魔法に対する自衛の手段と知識を。
 知ってしまった以上、無関係ではいられませんし。
 そして、教えることが、ご息女に魔法を知られる原因を作った私たちのできることだからです」


シグナムさん……


「わかりました、なのはのこと、お願いします」


「おい、桃子……」


「なのは」


「はい」


「頑張るのよ」


「うん!」


お母さんは認めてくれました。

きっと、私からもシグナムさんにお願いしたのがわかったのかもしれません。


「……シグナムさん」


「何でしょうか」


「うちのなのはをよろしくお願いします」


「はい、我が剣、我が魂に誓って」


お父さん……

シグナムさんもちょっと大げさすぎでは…?

で、しばらく話し合い、この話も終わりかけた時。


「シグナムさんには翠屋で働いてもらいましょう」


「おお、それはいい」


「え?」


あ、シグナムさんがキョトンとしてる。


「私たちはなのはを見てもらえるし、お店の戦力が増えるし、シグナムさんたちはお給金出るし、はやてちゃんにお土産を持っていけるし。ね、いい案でしょ」


結局、シグナムさんはお母さんの条件を飲みました。

後で、「外堀を埋められてはどうしようもなかった」と教えてくれました。




回想そのさん ~修行の日々、勉強の日々、遊びの日々なの?~


「クロスファイア、セット」


『展開』


師匠の周囲に魔力スフィアが浮かび、滞空している。

アインさんとユニゾンしている師匠はとんでもないの。

すでにスフィアは数えるのも大変な数になってるし。


「ディバインシューター、シュート!」


ディバインスフィアを私の周りに滞空させて役割を割り振り、一部を師匠目掛けて飛ばす。

それと同時に師匠に向かい加速。

それも、飛んできた魔力スフィアで断念した。


「見え透いた行動は死に繋がる。対応されないよう策を練るか、敵を上回るほどの力で押し通るかは自分で考えろ」


……それって、暗にもっと考えろと言っているのでは?

何度も繰り返し接近しようとするが、まったく持って近寄れない。


「まあ、考えるのはやめないことだ。さて、砲撃も許可する。攻撃のパターンやバリエーションも考えろ」


待ってました!

昨日考えた魔法を見せるの。

私は師匠から距離を取り、構えます。


「ディバイィィィィィィィン、バスター!」


初披露だからちょっと力が入りすぎたかな?


『術式構成が甘いな。祈祷型のシステムに頼りすぎだ。自分でも把握することだな』


あう、アインさんにダメだしされたの……


『論理展開、術式補正。シグナム、任せた』


「蒐集行使、ディバインバスター!」


師匠が放ったのはアインさんに補正されたディバインバスター。

……要は、提出物の添削返却なの。

術式構成の大切さをわからせる為と言って、魔力は私と同じだけ使い、私の魔法を打ち負かす。

迫ってきた魔法をかわして師匠に向き直る。


『術式複合、発展、展開。バリエーションのひとつとして参考にするといい』


うぅ、嫌な予感がするの……


「もちろん、その身に受けてな」


「『ディバインバスター・……』」


そして、気がついたときには、はやてちゃんの家だったの。

慌てて時間と日付を確認。

……あれ?


「修行で疲れているのはわかるが、居眠りはよくないぞ、なのは」


「そうやで、なのはちゃん。せっかくアイン姉が教えてくれとるんやから」


……よっぽど、あの訓練はきつかったのかなぁ?

おとといの訓練のことを夢に見るなんて。


「はやて、そこはこの公式を使えばいい」


「お、ほんまや。何や、簡単だったんやね」


「もともと、簡単に解くためにあるのが公式だ。それを使って解けないのは問題があるぞ」


う~ん、それは違うと思うの。

アインさんは、一応ユニゾンデバイスだから演算処理は凄まじいって師匠に聞いてみたときに言ってたし。

それに、はやてちゃんがやってるのは高校生の数学の教科書なの。

この間、アリサちゃんが悔しがってたし。


「なのは、眺めているのはいいが、術式構成の演算構築は済んだのか?」


うう、きっとこれの所為であんな夢をみたの……

そうして、何とかノルマを達成した私と、勉強を終えたはやてちゃん、師匠と交代してきたお兄ちゃんとすずかちゃんの家に。

あの一件から何とか再生された庭がなんとも言えません。

しばらく後に、すずかちゃんに問い詰められて、師匠に許可をもらってから話しました。

その時は、アリサちゃんも一緒に遊ぶつもりで来ていた為、すずかちゃんと一緒に説明しました。

二人とも、驚きつつも、理解してくれて一安心です。


「でも、なのは」


「どうしたの、アリサちゃん?」


「アンタだけ使えるってのは、なんだか不公平よね」


「でも、アリサちゃんは、なのはちゃんとシグナムさんの修行についていけると思う?」


以前に二人は私たちの修行を見ていたけど……


「絶対、無理」


「だよね。私も、なのはちゃん良く続くなって思ったもん」


うぅ、二人が酷いの。

悔しいから、ゲームで返しました。

まあ、その所為で術式構成の訂正を忘れて、怒られたのですが……




外伝三話、了




あとがき

博士、自重。





[4469] 第二十話 無印一話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/09/02 01:43

第二十話『別れと出会い。悲しく嬉しい、表と裏なの byなのは』


私たちが海鳴で生活をしてずいぶん経ったと感慨にふける。

はやてたちも三年になったしな。

そう言えば、以前、なのはたちと同じクラスだと喜んでいたな。

……ん?

何か、重要なことを忘れているような?

その時、私の脳裏に送られてくるイメージ。

無差別の思念通話か。

森か林かは定かではないが、力尽き倒れる少ね……フェレットが映る。

その助けを求める声を聞き、ようやく思い出した。

無印本編の始まりか。

今のなのはからすれば難易度などあってないようなものだが、油断は出来ん。

ただ、修行には持って来いかもしれないな。

そう思いながら、眠りについた。

そして翌朝、なのはとランニングに出るついでに公園に立ち寄ることとなった。

もちろん、なのはも思念通話を受けていたためだ。

そして、倒れているフェレットを保護し、自宅に戻ってきた。


「なのは、気になるとは思うが、学校に遅れてしまうぞ」


「あ、そうでした。学校が終わったらまた来ます」


「ああ、そうするといい。私たちが面倒を見ておく」


「はい、師匠。それでは」


そう言ってなのはは高町家に戻る。

普段なら剣士組も一緒に走るのだが、恭也は月村家にて忍の手伝いとか。

美由希は学校の課題、士郎さんは翠屋のほうで予約の分の準備との事。

時折、企業などからの大口の依頼が来ることもあるくらいになったからな。

それは置いておいて、普段なら朝のランニングが終わると私と高町家は別れ、それぞれ自宅に戻っている。


「アイン、すまないが頼めるか?」


「ああ、風よ、癒しを」


回復魔法でフェレットの傷を治し、目覚めるのを待つ。

傷は完全に癒えているので、指先でつついて寝覚めを促す。

……中々、いい感触だ。

正直、変身魔法だからどこか違和感があるかと思っていたのだが。

いい毛並み、いい手触りだ。

しばらく、つついていたが、目覚めそうな気配がしてきたのでやめる。

アインの方は、私がフェレットを構っている間に朝食の準備をしてきてくれていた。


「ここは……」


「目覚めたようだな、ここは私の家だ」


「え?」


私の声に驚き、こちらを見るフェレット。

変身魔法とわかってはいるが、正直、きょとんとした姿がかわいい。


「君が思念通話、ミッド式で言うところの念話を無差別で行ったのを聞き、君を保護した」


「そうだったんですか。僕はユーノ、ユーノ・スクライアです。助けていただいてありがとうございました」


「礼には及ばん。私はシグナム。そっちは相方のアインだ」


「よろしく、ユーノ。まあ、ここで話すよりも、食事をしてから話すとしよう」


「そうだな。スクライア、君もそれでいいか?」


「あ、はい」


私が手を出すと、慣れたように腕を上り、肩に乗る。

……こんなことも練習しているのだろうか?

食卓に着き、ユーノをテーブルの上におろす。


「傷は治っているが、魔力の回復が思わしくないだろうから、そのままでいるといい」


「お気遣い、すいません」


ユーノに聞いてみると、フェレットのときは食べる量も体格相応になるそうなので、用意した。

きっちりと朝食を取り、落ち着いてから、会話再開。


「それで、スクライアはなぜあそこに倒れていたのだ?」


「あ、ユーノで構いません。僕が……」


ユーノの話を纏めると、やはり原作通り。

ジュエルシードを発掘したものの、輸送中にトラブルが起き、この海鳴の地に散らばったそうだ。

ユーノ自身は回収のためにやってきたが、暴走体を封印し損ねて現在の状況に。

更に、責任を感じていて、管理局に連絡する気がないとの事。


「なるほど、ならばジュエルシードの回収が終わるまではこの家を拠点にするといい」


「そんな、ご迷惑に……」


「どちらの姿であろうと、この世界は優しくないぞ」


「シグナムの言う通りだ。人であっても警官に補導され、動物形態なら人に捕まり檻の中。最悪、保健所で……」


「人生を閉じることになるな……」


「わかりました。拠点にさせていただきます」


ちょっと、脅しが効きすぎたか?

青くなってガタガタ震えている。

だが、深く考えなくとも、この国の制度では仕方ないことではある。

原作でも、なのはと一緒だったから助かったようなものだ。

なのはに思念通話でユーノのことを伝え、今日の午後の訓練は中止だと伝える。

士郎さんたちとの約束もあるので、なのはは自分から関わってこない限りは参加させない。

ユーノから更に細かい話を聞き、アインに封印の術式を用意してもらい準備を完了させる。


「今回の術式は事後の封印処理だけだ。停止させるのは任せる」


「ああ、任された」


「シグナム、そろそろ時間だぞ」

おっと、翠屋に行く時間だな。

後をアインに任せ、仕事に向かった。








翠屋の業務も終わり、今日は用事があるからといつもの食事を断って町に出る。

はやては美由希に任せてきたがな。

何とか、街中での戦闘は避けたいものだがな……

そうも言っていられないようだ。


「レヴァンティン」


「ja……Gefängnis der Magie」


封鎖領域を展開し、周囲に被害が及ばないようにする。

正直に言えば取るに足らない相手なのだが、油断はしない。

私だけに被害があるならいいが、油断した上に周囲に被害などもってのほかだ。


「スクライア、あの物体がそうか?」


「はい、ジュエルシードの暴走体です」


「魔力ダメージによるオーバーフローが一番早そうだな。アイン、封印術式を待機しておけ」


「わかった。……まったく」


「どうした?」


アインの言葉に私も、アインの肩にいるユーノも疑問符を浮かべる。


「シグナム、我らが弟子は首を突っ込んできたぞ」


どこか呆れ顔で言うアインに、同意を禁じえない。


「師匠!どうなってるんですか?!」


「見ての通りだ」


すでに騎士甲冑を展開してシュベルトフォルムのレヴァンティンを手にしている私を見て慌てるなのは。

まあ、いきなり街中で結界を張って戦闘とは普通は思うまい。


「よし、なのは」


「はい」


「テストだ。あれを倒せ」


私の言葉につられたのか、なのはが反応するよりも早く、暴走体がなのはに飛び掛る。


「にゃぁぁ!?」


ふむ、あの不意打ちを避けながらデバイスを展開しているのだから大丈夫だろう。

ああ、あらかじめ高町家の面々になのはが首を突っ込んできたらそのまま関わらせてもいいと許可をもらっておいてよかった。


「あの子、大丈夫なんでしょうか?」


「あの程度の相手に遅れを取るような鍛え方はしていない。いざとなったら私もアインも居る」


「シグナム、まずいことになりそうだ」


「どういうことだ、アイン?」


「言いつけを破っている」


アインの一言に目を凝らす。

単純な攻防を繰り広げているが、まずいのはデバイスだ。


「え、ちょ、どうしたんですか?」


「なのはのデバイスはそこまでフレーム強度が高いわけではない。だからこそ魔力量に注意しろと言ってきたのだがな……」


「それってもしかして……?」


「ああ、デバイスに過剰に魔力を注いでいる。このままでは崩壊するぞ」


「ディバイン……」


……もう持たないな。

そう判断し、なのはの射線軸に出て、暴走体に向き直る。


「パンツァーシルト」


右手で発動し暴走体を止め、左手でなのはの方から飛んできたデバイスコアをつかむ。

同時に、アインが鋼の軛や、各種バインドで完全に暴走体を拘束する。

……そこまでやることも無いと思うが。

さすがにこれでは修復も出来んな……


「……仕方が無い、私がやろう」


レヴァンティンを構え、魔力を伝達し、最も信頼する一刀の準備をする。

アインに視線を送れば、各種バインドを維持したまま、封印術式を構築している。


「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」


「どうした、スクライア、何かあるのか?」


「いえ、彼女のことなんですけど、どうするんですか?」


「どうもしない。ただ、今回のことは私が決着をつける。弟子の不始末は師匠の責任だ」


『Does she only have to be concluded?』
(彼女が決着をつけられればいいのですか?)


「レイジングハート?」


突然話し始めたデバイス。

持ち主であるユーノ自身もその反応に驚いている。


「そうだな。出来るのであればな」


『It is easy』
(簡単です)


「そういうことか。わかったよ、レイジングハート」


それだけで納得したのか、ユーノはなのはに向かって駆け出した。


「アイン、バインド維持だけ続けてやれ」


「わかった。だが、いいのか?」


「見守るのも師の務めだ」


「そうか」


アインから視線を外し、なのはたちを見る。

なのはの前にたどり着いたユーノはきわどい魔力量なのに変身を解除してなのはと対する。


「君は……?」


「自己紹介は後で。君は、まだ戦う気はある?」


「でも、デバイスが……」


「デバイスがあったとしたら?」


「もちろん、戦うよ」


そう言ったなのはの瞳は決意を固めた色をしていた。


「わかった。なら僕は君に、戦う力をあげる」


ユーノの手から渡されるレイジングハート。

その輝きは、どこか、自信を感じられるものだった。

私はそこにデバイスコアを投げ渡す。


「出来れば、データを引き継いでやってほしい。それが手向けになるだろう」


レイジングハートは了承したのか、デバイスコアと輝きが同期し、その後、デバイスコアの輝きが消える。


「ごめんなさい、今までありがとう」


なのはが別れを告げ、コアをしまう。


「言葉が浮かんでくる……風は空に、星は天に、そして、不屈の心はこの胸に!」


『Please call me』


「うん!レイジングハート、セットアップ!」


『stand by ready……set up』


セットアップが完了し、暴走体に向き直るなのは。


『Let's shoot it』


「そうだね、あの子のためにも、だね」


『yes』


「いくよ!ディバイン!」


『buster!』


桃色の奔流に飲まれ、ジュエルシードは封印された。

気が抜けてフェレットに戻ってから倒れたユーノを回収し、帰路に着く。

さて、やることは増えたが、これからが楽しみだ。




第二十一話に続く




あとがき

ようやく無印に突入しました。

シグナムたちによってかなり原作と変わっていきそうな予感。

では、次の話で。




[4469] 第二十一話 無印二話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/03/16 01:18


第二十一話『外堀が埋まるってこういう事なんだ…… byユーノ』


「ええ、こちらに泊まらせます。はい、事情説明もしますので。わかりました。では」


受話器を置き、一息つく。

最初に電話を取ったのは恭也だが、打撃音とともに士郎さんに代わっていた。

……生きてるか若干心配になる音だったが、恭也なら大丈夫だろう。

今はユーノが起きてくるのを待っているので、なのはとアインが風呂に入っている。


「あがったぞ、シグナム」


「師匠、ありがとうございました」


噂をすれば、か。

なのはもアインも着替えてユーノを見る。

ちなみに、なのはは以前にはやてと泊まったときに宿泊用具をここに置いている。

はやても同様だ。


「う……ん」


どうやら起きるようだな。

起き上がったユーノはこちらを見ると頭を下げる。

……フェレット姿だと、元を知っていても可愛らしいな。


「すみません、運んでもらって」


「気にすることは無い。話してもらっていいか?」


なのはに視線を向けるとユーノも頷き、なのはに向き直る。


「えっと、高町なのはです。君は、さっきの子、だよね?」


「はい、ユーノ・スクライアといいます。ユーノと呼んでください」


「わかった、ユーノ君だね。私は九歳の小学三年生」


「あ、同い年ですね」


「だったら、ユーノ君も敬語じゃなくていいよ」


お互いの自己紹介をして、話し込む二人。

仲がいいのはいい事だ。

二人が話している間にレイジングハートから了承をもらい解析とメンテを行う。

メンテナンス用の機材と接続し、状況をモニタリングする。

その際に、本来のレイジングハートとは違うであろう、空白部分を見つけた。


「レイジングハート、この空白部分は何かわかるか?」


『When additionally optimizing it to a present mastering, it made it』
(現在のマスターにあわせて最適化を行ったときに出来ました)


「なら、これは何に使うかわかるか?」


『For external enlargement』
(外部拡張用です)


と、言うことは……


「なのは、デバイスコアを持ってきてくれ」


言うことを聞き、デバイスコアを持って私のところに来るなのは。

肩にはユーノが乗せられている。

受け取ったコアを空白部分にあわせると、内部に取り込まれ、空白は見えなくなった。


『stand by ready……』


自己診断モードに入ったレイジングハートは黙り込む。

私は接続しているメンテナンス用の機材に映し出される処理内容に目を向ける。


「レイジングハートはどうしたんですか?」


「義理堅いデバイスなのだな、レイジングハートは」


私の言葉に疑問符を浮かべるユーノとなのは。

納得顔のアインはわかったようだ。


「結論はともに歩もう、か」


画面には『ベルカコア最適化完了』と出ている。

レイジングハートの心遣いにうれしくなる。


「ありがとう、レイジングハート」


『You're welcome』
(どういたしまして)


そう言ってレイジングハートはスタンバイモードに戻る。

なのはに手渡し、一息。


「さて、なのは。現状はわかったか?」


「はい、ユーノ君の探し物がロストロギアで、早く回収したほうがいいんですよね」


まあ、かなり端的だが、間違ってはいないな。


「明日、士郎さんたちには私から説明する。なのははどうしたい?」


「……私は、ユーノ君を手伝いたいです」


「そうか、なら私たちはサポートに回る。しっかりやるといい」


私に言葉に呆気に取られているなのはとユーノ。


「ただ、覚悟はしておけ」


「進むなら、阻まれる覚悟をせよ。力振るえば、振るわれる覚悟をせよ。でしたよね」


「そうだ、いつも言っている通り自分のすることはされる覚悟を持っておけ。さて、二人とも休むといい」


そう言われて二人は一緒に部屋を出て行く。

まあ、なのははユーノのことを人間と認識しているし問題ないだろう。

部屋も別々に割り振ってあるしな。

さて、やることをやってしまおう。


「アイン」


「ああ、すでに隣町も含めて探査範囲だ。転移反応があれば完全にトレースできる」


「最大範囲は?」


「問題ない。ここを軸にして、次元航行船の転送範囲くらいなら確実に突き止めて見せる」


まったく、頼りになることだ。

こういうことに関しては安心して頼めるしな。

私とアインで色々と準備をして、来る戦いに備えるのだった。








次の日、なのはをつれて朝早くから高町家へ。

朝食をご馳走になりつつ、今回の事件を説明。

同時に、ユーノが女性陣につかまる前になのはと同い年の少年であることも説明。

その際、家の結界である程度魔力が回復していたユーノは元の姿に戻り自己紹介することに。


「ユーノ・スクライアです。年はなのはと同じで、スクライア一族として遺跡の発掘をしていました」


「ほう、ユーノ君は学者なのかい?」


「まあ、だいたいはその認識であっています。今回のジュエルシード発掘の陣頭指揮を執っていました」


すでに、この数年の間で高町家と関係者にはミッドのことなども含めて話してあるため、ユーノの話も違和感無く聞くことが出来る。

……むしろ、その状態に持っていくまでが大変だったのだが。

士郎さんたちはユーノの話を興味深く聞いている。


「なあ、シグ姉」


「どうした、はやて?」


「なんで、簡単に許可したん?」


「そういう契約だ。なのはがこの件を自分のすることとしたからな。なるべくなのはが不自由しないようにサポートするつもりだ」


「そか。ほんなら私はすずかちゃんとアリサちゃんと協力して学校のサポートするわ」


「そうだな。私たちは学校の内部まではサポートしきれないからな」


「こっちは勝手に決まってる?!」


なのはの驚愕を無視してはやてに学校でのことを頼む。

即座にアリサとすずかにメールが行き、了承が帰ってきた。

まったく持って頼もしい。


「そうか。ユーノ君」


「はい、何ですか、士郎さん」


あちらも話はまとまってきたようだな。


「なのはを嫁にどうだ?」


……マテ、そこの中年剣士。

どこから、その突拍子も無いことが出てきた。

だが、周りを見渡すと高町家(なのは除く)のイイ笑顔。

……さらばだ、ユーノ・スクライア。

そして、こんにちは。ユーノ・タカマチ。

以前、なのはの相手には婿入りしてもらうと言っていたからな。

あの家族は口に出したらほぼ実現する。

更にたちの悪いことに、士郎さんの後ろにウインドウが二つ。

言うまでも無く、紳士とマッドだ。

次元世界での逃げ場も無いだろう。

博士が必ず居場所を突き止め、グレアムが管理局を使い“保護”する。

もちろん行き先は高町家だ。

そして、今現在、赤面しているなのはでチェックメイトだ。

そうこうしているうちにユーノは高町家行きとなった。

ちなみに婚約者決定は高町家により確定で、グレアムと博士両名によってスクライアに伝わった。

アリサとすずかにははやて経由で。

忍は出勤前にここによってから翠屋に行くのでこの場にいる。

……明日には海鳴全体に知れ渡るのではないだろうか?

このまま行くと御神流も習うことになるのだろうな。

ふむ、ミッド式の練習に参加させるのもいいな。

そんな逃避をしつつ、アインははやてと出て行き、私は翠屋に向かう。

最近は店に出せると太鼓判を桃子さんからもらったが、客の回転的に、持って二時間だろう。

早く終わることを切に願う。

ちなみに、グレアムに聞いたのだが、基本原則、管理外世界には次元航行船は来ない。

アースラなどは次元震を起こさない限りはこないだろう。

まあ、この事件のことは伝えないことにしたとグレアムも言っていたしな。








何とか桃子さんたちが間に合い、どうにかなった。

何とか一息をついていたときに魔力を感知。


【アイン】


【こっちは問題ない。ジュエルシードはなのはが封印した】


【そうか。転移反応は?】


【それはまだだな】


【それで、戦闘のほうは?】


【レイジングハートのベルカ式運用テストを兼ねて接近戦だ】


アインの話によると、ベルカ式の運用をテストするために砲撃を封印して戦ったようだ。

結果はあっさり勝利。

アイン曰く、及第点、だそうだ。

今度はどんな訓練を進めようか、マルチタスクで考えながら仕事に戻るのだった。




第二十二話に続く




あとがき

ユーノ、逃げ場無し。

自重しない高町家。

あ、この士郎さんと恭也はなのはの相手を決めたがります。

犠牲者はユーノ。

では、次の話で。





[4469] 第二十二話 無印三話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/03/30 23:02


第二十二話『年齢も時代も関係ない。そんなこともある。 byシグナム』


「師匠も一緒に行きませんか?」


「何にだ?」


なのはが唐突に聞いてくるが、内容が無かったため思わず聞きなおした。


「お父さんが監督してるサッカーチームの試合があるんですけど、応援に行きませんか?」


ふむ、士郎さんが翠屋は休業だといっていたがこのことか。

はやてとアインがそろって出かけたのもこのことだろう。


「そうだな。はやても一緒に行くんだったか?」


「はい。すずかちゃんとアリサちゃんも一緒です」


いつものメンバーか。

……そういえば。


「旦那はどうした?」


「ユーノ君なら、お父さんに鍛えられていたので、一緒に参加するみたいです」


なるほどな。

そして、旦那の単語でナチュラルにユーノが出てくるようになったか。

なのはとともに出かける準備をして会場に向かう。

アインははやてと先に行っているから、あまり待たせないようになのはを促し、家を出る。

……よくよく考えれば、私は置いていかれるところだったのではないだろうか?








「お~い、なのは!こっちこっち!」


「シグ姉、こっちやで!」


アリサとはやての声を聞き、なのはとそちらに向かう。

そこには一角に陣取り、応援体勢を整えているアリサ、すずか、はやてと佇んでいるアイン。

グラウンドには地元の少年に混じってユーノの姿もある。

試合はすでに始まっているようで、同点のまま均衡を保っているようだ。


「ユーノ君!頑張って!」


愛しの旦那様に声援を送るなのは。

最近の子供は親密度が急上昇するらしい。

声援を受けて動きの良くなるユーノ。

一体、どれだけの特訓をしたら数日でうまくなるのだろうか?

嫉妬に駆られた敵チームの選手をあしらっている。


「なのはちゃんやるなぁ。ほなアリサちゃん、すずかちゃん、いくで」


「そうね」


「うん」


「「「みんな~!頑張れ~!」」」


途端に動きの良くなる翠屋JFC。

年齢関係なく、悲しい性は存在しているようだ。








あの後、見事勝利した翠屋JFCを労う為、翠屋に移動した。

活躍したユーノはJFCメンバーにもみくちゃにされている。

それを見ているなのはは……触らぬ魔王に災い無し、だ。

はやてたちは少し離れて談笑している。

私とアインは、用意していた料理が足りなくなったので厨房担当だ。

ちなみに、事前に思い出していたので、ジュエルシードは落としたものだからと少年からすでに受け取っている。

今はレイジングハートに収納されている。

件の少年とその彼女にはお礼と称して桃子さん直伝のシュークリームを送った。


「よし、こっちはあがったぞ。アイン、そっちはどうだ?」


「ああ、これで終わりだ。しかし、すごいな」


「まあ、育ち盛りだしな」


私とアインが追加して作った料理の数もかなりの量だが、その前に準備してあったのもかなりの量だった。

ちなみに、今回の働き分はバイト代として出ることを士郎さんから言質を取っている。

私は慣れた手つきで、アインは慎重に料理を運んでいく。


「ほら、お前たち、美人のお姉さん方が作ってくれたんだ。心して食えよ!」


「「「「はい!」」」」


……調子いいな、こいつら。

それに、士郎さんも悪ノリが過ぎる。

まあ、仕事もないし、ここら辺で失礼するとしよう。

ユーノを救出し、なのはと一緒にはやてたちのほうに向かう。

ユーノが席に着くと、なのははすかさず横に陣取り、甲斐甲斐しく世話を焼いている。


「さて、私たちはここら辺で戻らせてもらおう」


「あれ?シグナムさんたちは用事でもあるんですか?」


「あ、そういえばはやてちゃんも」


「そうやった。ドクターが来て診てくれる事になっとるんよ」


「私とシグナムは付き添いというわけだ」


納得顔の面々。


【何かあったら連絡してくるといい】


【はい、師匠】


【わかりました】


「じゃあ、私たちは行くぞ」


「はい、ありがとうございました」


「今度はお茶会に招待しますね」


「そのときは私とシグナムで差し入れさせてもらおう」


「またな、アリサちゃん、すずかちゃん」


一路、私たちの家に向かうのだった。

長距離の歩行がまだ無理なはやてはおとなしく車椅子でアインに押されている。


「そや、シグ姉?」


「ん、なんだ、はやて?」


「シグ姉も料理できたんやなって思うて」


「作らなかっただけだ。作るにしても味に妥協するしかないからな」


「ちょ、妥協せなあかんって」


「それについてはまた今度、私から話すとしよう。シグナムの料理に関しては本人が語るよりはいい」


アイン、それはどういうことだ。

若干、アインににらみを利かせる。

これでも、桃子さんの手伝いに厨房に入れるのだぞ。

……ん?


「この反応……!」


私が封時結界の展開をアインに頼もうと思ったときに思念通話が届いた。


【封時結界、展開します!】


ユーノからの思念通話とともに結界が広範囲、おそらくは海鳴全体に展開される。

家に敷いた結界で完全に回復しているために魔法使用も問題ないらしい。

正直、驚嘆に値する速度で結界は形成された。

その数瞬後に巨大な木が成長して聳え立った。


「な、なんやの、これ……?」


「ロストロギアの力、だ」


私はそうはやてに答え……はやて?


【ユーノ】


【何でしょうか?】


【結界内にはやてがいるのだが?】


【ええ?!】


【こちらは何とかする。なのはと二人で封印してくれ】


【わかりました!】


「レヴァンティン!」


『ja』


即座に騎士甲冑を展開し、レヴァンティンを抜き放つ。

同時にカートリッジがロードされシュランゲフォルムになる。


「シグ姉?」


はやての声に答えることはせず、周囲を警戒する。

……来る!


「ハアァァァ!」


気合とともにレヴァンティンを振る。

周囲から突如伸びてきた植物の根と思われるものを時に弾き、時に切り落とす。

正直、洒落になっていない。

はやてはアインの張った障壁に守られているので問題は無い。

問題はこちらだ。

正直に言えばこの程度はそれほど苦ではないが、いかんせんこの状態が続くのは不味い。

遠くには翠色に輝く魔力光が見て取れる。

なのはの集中のためにユーノが障壁を張っているのだろう。

つまりはコアを探すまでに時間がかかるということ。

……仕方が無い。


「レヴァンティン、カートリッジロード!」


『ja!……Explosion!』


シュランゲフォルムのまま刀身に魔力を通し、炎熱変換。

炎をまとった剣蛇は迫り来る根を焼き切っていく。

切り落とし続ければ、視界に入ってくるのは桃色の魔力光。

放たれたそれは無事ジュエルシードを封印した。

それを見届けた後、甲冑を解除し、レヴァンティンを待機状態にする。


「……シグ姉、これも魔法なんか?」


「ああ、そうだ」


「……だからこその覚悟なんやね」


今回の件ではやても何か思うことがあったのだろう。

はやてのつぶやきと同時に結界が解除され町並みが破壊前の姿を取り戻す。

今回の顛末はなのはに聞くとして、今ははやての診察のために戻ろう。


「さて、戻らねばな」


「あ、うん。そやね」


歩き出した私にあわせ、車椅子を押すアイン。

この後、診察の終わったはやてに料理を作らされたのは余談だ。

料理を作った後、食べるまもなく翠屋を出たのが頭にきていたらしい。

再びアインとともに機嫌取りをする羽目になったのは言うまでもないだろう。




第二十三話に続く




あとがき

ユーノ、なのはの傍では活躍する。

では、次の話で。

……次回はついにフェイト登場。

フェイトの扱いは悪くないよ、ホントダヨ。




[4469] 第二十三話 無印四話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2009/09/02 01:45

第二十三話『高町式お話は通じるまで続くの byなのは』


「すずか、今回の招待、うれしく思う」


「いえ、そんな、約束しましたし……」


「それでもだ」


今回、忍経由ですずかからお茶会に誘われ、月村家にやってきた。

以前約束した通り、すずかが誘ってくれたので、こちらも約束通り、差し入れを持参してきた。

もちろん、私とアインで協力して作ったものだ。

私の一月のバイト代の四分の一を消費して作られた洋菓子の山は圧巻の一言に尽きるだろう。


「シグ姉もすずかちゃんも、はよせな無くなってまうで?」


「それはいかんな」


「そうですね、行きましょう」


はやてに促されてすずかと皆のところに行って驚いた。

はやてが気を使って呼んでくれたと思っていたのだが、ほとんど無いのだ、持ってきた洋菓子が。

あれほどの、ある意味、砂糖の山を、わずか十数分で、だと?

すずかを見れば驚きで目を丸くしている。

正直、こいつらは大丈夫なのかと。

主に……


「お前たち、体重計が楽しみだな?」


と、言うところで。

ぴたりと動きが止まる一同。

苦笑しているユーノと恭也ら男性陣とアインは例外だが。

ノエルとファリンは作業のためこの場にいない。

むしろ忍が仕事をさせたからだが。

その忍がもっとも顔を引きつらせている。


「まったく、一度に食べようと思うからだ。何のために持ち帰り用の箱まで持ってきたと思っている?」


私とアインは最初から持ち帰りを前提で作っていたからこそ、箱まで用意したのだ。

仕方が無いので、自分の分とすずかの分をそれぞれ箱詰めして確保しておく。

幸い、男性陣は意図に気付いてくれていたようで、しっかりとキープしていた。

主に、甘さ控えめの、恭也でも食べられるものだ。

恭也はしなかったが、ユーノはしっかりとなのはの分も確保している。

さすがに、抜け目が無いな。

それらのことを確認しつつ、ノエルとファリンの分も箱詰めしておく。


「ん?」


「どうしたんです、シグナムさん?」


私のあげた声に、ユーノが問いかけ、恭也も不思議そうな顔をしている。


「一個だけあったケーキ、誰が食べたか知らないか?」


「いえ、僕たちはわかりませんけど、それがどうかしましたか?」


「通常サイズでのカロリーの限界を追求したケーキでな」


「……ショートケーキと同サイズでか?」


「ああ、ちなみに、ひとつで成人男性の一日に必要なカロリーの半分は取れるはずだ」


その言葉に、更に凍りつく女性陣。

……む?


「残念だが、追求している時間はなさそうだ。ユーノ」


「ええ、ジュエルシードの反応です」


「なのは、出番じゃないの?」


「うん、そうだね、アリサちゃん」


アリサに促されてレイジングハートを手に取るなのは。

ユーノはすぐに結界を張り、私たちは戦闘態勢を整える。

発動地点にたどり着いて唖然とした。

猫が巨大化することは一応覚えていたが、実物はここまで大きいとは……

ユーノとなのは、アインも私と同様に呆気に取られている。


「って、呆気に取られてる場合じゃなかった。なのは、封印を」


「うん」


「……!ちょっと待って、結界に侵入者だ!」


ユーノの声に戦闘態勢に移行する私たち。

そして……


「フォトンランサー、フルオート、ファイア」


『Photon Lancer』


金色の閃光が巨大な猫に迫る。


「ディバインシューター、シュート!」


『Divine Shooter』


そして、桃色の閃光がそれを阻む。

なのはがディバインシューターで発射元であるフォトンスフィアを打ち落とす。

猫に向かっていたフォトンランサーはユーノの障壁で防がれている。


「……」


「……」


お互いにデバイスを向け合い、その場で動きを止めている。


「……私、高町なのは」


「……フェイト、フェイト・テスタロッサ」


「フェイトちゃん、ジュエルシードは危険なの。見つけたユーノ君と一緒に責任持って封印してるの」


「…………それでも」


「え?」


「それでも必要だから。ジュエルシード、頂いていきます」


フェイトから膨れ上がる魔力。

先ほどよりも更に込められた魔力が現れたミッド式の魔法陣に注がれていく。


「打ち抜け、轟雷!」


『Thunder Smasher』


一直線に、なのは目掛けて突き進む雷光。

それを目にしたなのははレイジングハートを構える。


『Protection』


発動した防御魔法は完全に雷光を遮り、なのはは無傷でいる。


【なのは】


【何でしょうか、師匠?】


【この件はお前に任せている。好きなようにするといい】


【はい!】


「ユーノ君、下がってて。私とフェイトちゃん、一対一」


「わかったよ、なのは」


ユーノも私も戦闘態勢をやめ、なのはを見守る。


「フェイトちゃん、何でジュエルシードを集めているのか話してくれないかな。力になれるかもしれないし」


「言ってもわからない。話す意味が無い」


『Scythe Form』


「そっか。言ってもわからないなら、高町式お話で行くよ!」


『BELKA System Active』


お互いに近接戦闘を選択し、フェイトは魔力刃を展開。

なのははベルカ式を起動し、接近してくるフェイトを迎え撃つ。


「ハァッ!」


『Scythe Slash』


迫ってくる魔力刃をなのははレイジングハートで受け止める。

……やはり、鍛えているとはいえ、適正の有る無しが出ているのか。

しかし、バリア貫通付加の刃でも、なのはが収束して纏わせた魔力と拮抗している。

まだまだ荒いが、まあ、及第点か。


「行くよ!」


『Magic conversion "Flame"』
(魔力変換”炎”)


……苦手な魔力変換をデバイスに丸投げするとは、訓練追加だな。

巻き上がった炎でフェイトが怯んだ隙に若干距離を取り、


「紫電、一閃!」


基本にして奥義である、紫電一閃を使い、フェイトを弾き飛ばす。

やはり、武器の使い方がなっていない。

前から検討していた通り、士郎さんに徹底的にやってもらおう。

レイジングハートと話して、小太刀二刀を形態に組み込むのもいいかもしれん。


『MID-CHILDA System Active……Shooting Mode』


『Device Form』


距離が開き、お互いに砲撃魔法の構えを見せる。


「ディバイィィィィィン!」
「サンダァァァァァ!」


お互いに膨れ上がり、魔法式に注がれていく魔力。


「バスタァァァァァ!!」
「スマッシャァァァァァ!!」


ほぼ同時に放たれぶつかり合う。

数瞬は拮抗したが、すぐになのはのディバインバスターが押し勝ち、フェイトは桃色の光に包まれる。

そして、閃光が晴れたとき、フェイトの姿は無かった。


「もしかして、やりすぎたの?」


……馬鹿弟子が。


「そうでもないと思う」


なのはの後ろから声が聞こえるとともに、首筋に当てられる魔力刃。

なのはの視界が自身の砲撃で狭まったのを利用し、押し負けた瞬間にブリッツアクション。

絶妙なタイミングだったな。


「じゃあ、ジュエルシードはもらっていくよ」


「勝負あり、だな」


「師匠……」


「……今度は貴女が相手ですか?」


声をかけた私に警戒を見せるフェイト。


「いや、すでに勝負はついているからな。なのは、さっさと封印してテスタロッサに渡せ」


「はい……」


背中に暗い影を背負って封印にむかうなのは。

そして、私は二人の戦闘中にアインに思念通話して持ってきてもらったものをフェイトに渡す。

……素直に受け取ったのは意外だったが。


「私が作ったもので悪いが、余りそうなのでな、貰ってくれると助かる」


実際に、私のした発言が拙かったのかアインの見立てでは先ほどから減っていないようだったらしい。

フェイトが手に持った箱を確かめようとしたときになのはが戻ってきた。


「はい、フェイトちゃん。次は負けないからね」


「……次も私が勝つから」


『sealing』


バルディッシュに収納され、確認したと同時に飛んで去っていく。

なのははフェイトの去っていったほうを見つめていた。




第二十四話に続く




あとがき

原作でフェイトが負けたのは油断と傷、そして、阿呆みたいななのはの成長速度。

だから、油断もない状態ならかなり強いと思ってフェイトの強さを設定しました。

あと、名前を名乗ったのは最初のやりとりでなのはの実力を認めたから。

では、次の話で。




[4469] 第二十四話 無印五話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2010/01/13 02:23
第二十四話『予想外のこともあるということだな byアイン』


唐突だが、私たちは温泉に来ている。

ことの始まりは仕事を終えた私に、桃子さんが話しかけてきたことだった。

はやてをつれて温泉に一緒に行かないかと誘われ、それに同意して今に至る、が……


「あれには、乗りたくないな……」


「だがな、アイン。割り当ては帰りも変わらんのだぞ?」


「……帰りは、運転手を交代してもらおう」


まあ、本来はノエルの運転だから帰りは大丈夫だろう。

と、言うよりも忍に運転させんがな。

出かける直前に、せっかく免許を取ったからと忍が運転することになったのだが、それが間違いだった。

スピード狂でもあったらしく、7人乗りでドリフトまでかましたのはさすがに肝が冷えた。

助手席にいた恭也がナビをしつつも手に汗を握っていたのを私は確認している。

……本当に初心者なのだろうか?

気にしたら負けのような気がするが。

割り当てられた部屋に荷物を置き、一息つく。

ちなみに、私たち以外はすでに温泉に入っている。

まじめに、避難経路なども確認していたんだがな……

一緒に確認していた恭也となのはは連れて行かれてしまったし。


「……まあ、はやてから逃れられたからよしとするか」


「アイン、微妙にトラウマになってたのか」


あ、目を逸らした。

気持ちはわかる。

正直、私も二度はゴメンだ。

よし、これで荷物のほうもいいな。


「さて、アイン、行くぞ」


「ああ、楽しみにしていたから早く行くとしよう」


私とアインは、はやて以上に楽しみにしていたのだ。

海鳴に来るまでの反動か、やはり、清潔にすることの大切さを再認識した私たちだったのだ。

そのせいか、私とアインはそろって、大の風呂好きになった。

……はやてのアレさえ無ければな、もっと落ち着いて入っていられるのだが。

入浴の準備を整え、部屋を出る。

温泉へと向かう廊下で固まっている集団を発見。


「どうした、なのは?」


「あ、師匠。この人が、私を誰かと間違えたみたいで…」


そのなのはの視線の先には、一人の女性。

ただし、呆けたようになっているが。

ああ、そういえばここで顔合わせだったのか。


「あはは、ゴメンねぇ、間違えちゃったみたいだよ」


「いえ、私と間違えた人に会えるといいですね」


「ああ、ありがと」


そう言うと女性は去っていった。

……今の会話、何か違和感があるな。


「なのは」


「何です、師匠?」


「今の女性はどうしたんだ?」


「何でも、私と良く似た人と間違えたらしくて。まあ、それに気付いたらちゃんと謝ってくれたんですけど」


「そうか」


「シグナムさんたちは温泉ですか?」


「ああ。ユーノとなのはしかいないが他はどうした?」


「皆それぞれです。僕たちも誘ったんですけど、別行動することになりまして」


ああ、そういうことか。


「では、また後でな」


「はい」


私たちはなのはたちと別れ温泉へ。

しかし、先ほどのなのはたちのやりとりが引っかかるな……

会う機会があったら、そこだけは確認しておくか。


「シグナム、考え事をするくらいなら、早く入るぞ」


「ああ、そうだな」


準備を整え、浴室に入る。

おや、先客がいるようだな。


「あれ、あんたたち……」


……私は、別れたものとすぐに会う呪いでもかかっているのだろうか?

先に入っていたのは先ほど別れた女性だった。


「見間違いかと思ったのに、何で、シグナムとリインフォースがここに……?」


呆然とした様子で、思わず声が出たようだ。

その言葉の中に、聞き逃してはいけない一言があった。

すぐさま、レヴァンティンをシュベルトフォルムにして首筋に突きつける。

ちなみに、レヴァンティン自身が望んだから風呂場まで持ち込んだんだからな。


「……貴様、なぜ私はともかく、まだつけられていないアインの名を知っている?」


しまったという表情を浮かべる女性。

だが、すぐに私の言葉の意味に気がついたのだろう。

態度を切り替え、話し始める。


「そのことを知ってるってことは、アンタも憑依者かい」


答える代わりにレヴァンティンを待機状態に移行する。


「わかってると思うけど、あたしはアルフ。フェイトの使い魔さ」


「一応は憑依になるのか。シグナムだ」


「シグナム、どういうことだ?」


「アルフも私と同じ出身というわけだ」


私たちがこうなっている経緯をアルフに話す。

静かに頷きながら聴いてくれていた。


「なるほどねぇ。そういうことだったのかい」


「ああ、そっちはどうなのだ?」


「あたしも似たようなもんかねぇ。使い魔作成の儀式で、本来のアルフの変わりにあたしが入ったって感じだね」


納得していた私がちらりと見ると、アインは暇つぶしに、私たちのような現象が起こる確率を計算していた。

……天文学的な数字しか出てこないと思うが。


「アルフが同郷の者なら話は早い」


「あたしに何か頼み事かい?」


「ああ、時の庭園に戻ることがあれば、ガイドかアンカーを頼みたい」


「転移魔法のアンカーか。フェイトに害は無いだろうから、良いけど、条件があるよ」


「こちらに出来る範囲ならな」


同郷のものだからこそ、何を要求されるかわからんな……


「あたしと、ザフィーラの仲を取り持ってほしいんだよね」


……本音ではなさそうだが、まあ、いいだろう。


「尽力しよう」


私は返答した。


「オッケー、商談成立。あたし、ザフィーラのファンだったからさ。助かるよ、シグナム」


「皆が幸せになるのだ。構わないだろう」


選択の自由が無かったザフィーラ、尊い犠牲となってくれ。

お前を売ったわけじゃない。

お前にも幸せを届けるためだ。


「しかし、ずいぶんと簡単に承諾してくれたな?」


「まあね。すでに、原作介入どころじゃないからねぇ、この状況」


「違いない」


まあ、簡単に承諾してくれたのだから、よしとしよう。


「さて、あたしは行くとしますかね」


「ああ、ここのジュエルシードだな」


「フェイトからも念話が入ったしね」


そう言いながら、バリアジャケットを構成するアルフ。

原作よりは肌の露出が低めだな。

大差ないといってしまえばそれまでの違いだが。

……まて。


「服はどうする?」


「ここに戻ってくるからそのままにしといてよ」


それは私たちにここにいろ、ということか。

まあ、今回は長湯するつもりだったからいいか。


「わかった。うちの弟子は中々やるぞ?」


「うちのフェイトもね」


飛び立っていくアルフ。

それを見送って、私とアインは温泉を堪能するのだった。


「ああ、いい湯だ」


「本当だな」


このまったり感がいいな。

非常に落ち着く。

ん?

そう言えば、このときのアルフの相手はユーノだったか?

二人でゆっくりしてから大分経ったが、状況はどうなのだろう?


「アイン」


「結界内は把握しているぞ」


本当に手際のいいことだ。

海鳴での生活で気を回すのがうまくなっているな。


「現在、なのはとフェイトが交戦中。かなり競っている」


ふむ、善戦は出来ているようだな。

慢心を叩き折るように訓練し直したからな。


「ユーノとアルフが交戦。ん、ユーノがアレを使ったぞ」


「ああ、アレか。実践テストをする気だな」


「よし、この魔法を利用して……映ったぞ」


サーチャーと空間投影魔法を使って中継放送か。

アインが持ち込んでいた杯に注いでやる。


「すまないな」


アインはそれをサッと飲み干し、視線を投影しているモニタに移す。

見るのはユーノのほうだ。

ユーノが両手に展開した刃を見てアルフは驚いている。


「かなり驚いているな」


「無理も無い。原作知識で対応したならユーノは鬼門になりえる」


何しろ、高町家に馴染んだからな。

もちろん、剣術家としての、だ。

前衛ユーノ、後衛なのはとかシャレにならない。

ヴィータ、逃げて~、だな。


「しかし、私たちが手伝ったとはいえ、ユーノのアレは反則気味だがな」


「魔力刃が悲しく思えるな」


ユーノは御神流に適正があったから、なお酷い。

感性も、この数日で考古学を旨とするスクライアから外れてきたように思う。

おや?

……まあ、いいか。

ユーノ側となのは側の同時中継で戦闘を確認するとわかるが、似てきたな、二人が。

またアインに注いでやり、モニタに向き直る。

正式名称を決めてないため、ブレイドとそのままで呼んでいる刃をブラフに周囲にバインドをばら撒いている。

近接も出来ると見せかけてのバインドのばら撒きと不可視の設置型の併用か。

アレはやられる側は結構神経を使うからな。


「時間稼ぎか」


「ああ、一瞬を狙っているんだろう」


今のユーノの技量はそれほど高いわけではない。

ただ、それは近接戦とブレイドの運用に関してだけであり、おそらく、ユーノの狙っていることは今の技量で足りるはずだ。

その証拠に、障壁を展開するためと見せかけて利き手のブレイドを消している。

バインドで時間をかけつつ、マルチタスクで周囲をうかがう運用法。


「マルチタスク関連は飲み込みが早かったな」


「もともと考えるのが得意だったようだからな。思考展開は目を見張るものがあるよ」


対するアルフは近接戦の可能性と周囲にばら撒かれている、可視と不可視のバインドに攻めあぐねている。

そして、アルフ、なのは、フェイトの三者の隙に、ユーノが動いた。

ユーノの利き手から伸びた細い魔力糸がジュエルシードを絡み取り、それをユーノの手に運ぶ。

これなら、ユーノはブレイドの運用と近接戦の訓練でどうにかなるだろう。

才能は士郎さんのお墨付きなのだから。


「決着がついたな」


「ああ、で、どうだった、これを見て」


私は、こっそりと入ってきていた子供たちに問いかける。


「何なのよ、これ!?」


「アリサ、見ての通りだ」


「なのはちゃんたちは、いつもこんな事を……?」


「いつもではないが、まあ、おおむねそうだな」


「シグ姉、なんで、なのはちゃんたちがやらなあかんの?」


……まったく、この子達は。


「いいか、そも、戦いの前には老若男女貴賎は一切関係ない」


「……うん。わかるわ」


はやては前回のことか、はたまた違うことか、思うところがあるのだろう。


「ゆえに、そこにあるのは、自らの意思、覚悟、決意。まあ、それらは他人に促されることもあるがな」


静かに聞き入る子供たち。


「あの子は、自分に出来る力があり、それをやり遂げると決めた。私はその覚悟を一人の戦士として見てやることにした」


ああ、これは騎士としてではなく、戦うことを教えた戦士としてなのだろう。

我が弟子の戦いを見届けようと思ったのは。


「もし、お前たちがあの子を阻むというのなら、私がお前たちを阻む。それ相応の覚悟をすることだ」


「じゃあ、どうすればいいって言うのよ!」


「アリサちゃん……」


「つらいか?」


「ええ、そうよ」


「苦しいか?」


「…はい」


「なら、待つことだ。待って、つらい気持ちと向き合うこと。それもまた、戦うということなのだから」


息を呑む子供たち。

まあ、小学三年生には無い発想だったのだろう。

この子達が大人びていても。


「……うん、わかったわ。待つこと、帰ってくるところを守るって言うことやね」


「そうね、やってやろうじゃない!」


「頑張ろう、アリサちゃん、はやてちゃん」


意気揚々として戻る子供たち。

……ずいぶんと、あっさり納得したものだ。


「へぇ、あんた、教える才能あったんだ」


「受け売りだがな。それに、聞き耳立てなくても良かったろうに」


「アルフになってからは耳がいいもんでね」


……まったく。


「しかし、ありゃなんだい?」


「ユーノのことなら黙秘するぞ」


「ちぇっ」


さて、露天に移動するかな。

子供たちが来たからうかつに移動できなかったからな。


「あ、ちょっと、シグナム?!」


アルフが慌てているが無視。

で、露天に移動すると、フェイトが浸かっていた。


「あ、この間の……」


「テスタロッサか。この間のケーキはどうだった?」


「……おいしかったです」


「そういえば、私の紹介はしていなかったな。シグナムだ」


アイン?

酔いつぶれかかって風呂場の端で休んでいるが?


「なんだ、あのケーキはあんただったのかい」


「アルフも食べたのか?」


「ああ、結構うまかったからビックリしたよ」


「あれ?アルフ、知ってるの?」


「ああ、さっき温泉に入ったときに一緒になってね」


「そうなんだ」


……やはり、引き分けた上に、ジュエルシードをユーノに取られたのがショックか。

仕方ない。


「レヴァンティン」


『ja』


すぐさま身構える二人。

……事前説明しなかったのは拙かったか。


「出してくれ」


『ja』


念のためにつけた機能だが役に立ったな。


「ジュエルシード?!」


偶然に飛んでいる鳥から回収したものだ。

幸運にも取り込まれる前だったらしく、つかんでいた足から失敬した。


「持っていくといい」


「……いいんですか?」


「弟子が自分で回収したわけではないからな。取り返すのも修行のうちだ」


【さっきの契約の前金代わりだ。よろしく頼む】


【そういうこと。わかったよ。任せな】


これで下準備は完了したな。

さて、これからどう転ぶことやら……

二人に別れを告げ、アインを回収して部屋に戻る私だった。

……しかし、いい湯だった。




第二十五話に続く




あとがき

本編は完全シグナム視点なのでシグナムがなのはたちから離れるとこうなる。

皆様の意見を踏まえ、ユーノ側を追記。

では、次の話で。





[4469] 第二十五話 無印六話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17a8b8f1
Date: 2010/01/13 02:24

第二十五話『前に進む。何があろうとも byシグナム』


【シグナム、聞こえてるかい?】


【ああ、問題ない】


【それじゃ、今から時の庭園に向かうから、トレースするんだよ?】


……なら、その前に聞いておくか。


【ひとつ聞かせてほしい】


【なんだい?】


【私たちに手を貸す、本当の理由だ】


【……何のことだい?】


【あの程度の理由で私たちが納得したと思っていたのか?】


【……わかったよ、あんたは言い出したら引かないだろうし。原作、知ってるだろ?】


【ああ】


【実際に見るとさ、きついんだ、アレ。何とかしてやりたくてもアタシには限界。せいぜい、プレシアの病状を治癒魔法で抑えるぐらいさ】


淡々と語るアルフ。

どこか、諦めがにじんでいるようにも感じられる。


【まあ、虐待は原作より少しは軽くなってるって言える。それでも、アタシに出来たのはそれだけ。大きく変えるなら、もう、あんた達に頼るしかないんだよ】


【……最善は尽くす】


【その言葉だけで十分さ】


「……アイン、トレース開始だ」


「任せておけ」


【それじゃあ、庭園で】


アルフからの思念通話が終了すると同時に、アインのトレースが始まる。

いくつもの中継点を経由し、トレースが終了する。


「転移術式、スタンバイ完了。いつでも庭園まで跳べるぞ」


「わかった。レヴァンティン」


『ja』


騎士甲冑を展開し、レヴァンティンは待機状態のままで。

アインに視線を向け、転移を促す。


「転移、開始」


途端に視界がブレ、私とアインは時の庭園に転移した。








「待ってたよ」


「フェイトはどうした?」


「今はプレシアのところさ」


アインの転移により、時の庭園に着いた私たちはアルフと合流。

……嫌な予感がするな。


「アイン、転移時に探査妨害はしていたのだろう?」


「もちろんだ。演算も、周囲の結果も問題ない」


「……アイン、戦闘準備だ」


「わかった」


私の意を汲んで、すぐに戦闘準備に入ってくれるアイン。

私もレヴァンティンをシュベルトフォルムにし、戦闘に備える。

アルフも、私たちの怪訝な空気を感じ取ったのか、同様に戦闘準備に入る。

話し合いをするためにレヴァンティンを待機状態にしていたのは無駄になったか……


「何だってんだい?」


「おそらく、私たちの侵入がバレた」


当然バレるだろうことも予測していたが、予測より早すぎる。

だが、私が感じているのは戦場の雰囲気だ。

どちらにしろ、バレていると考えておいたほうがいいだろう。


「シグナム、カートリッジは通常型が2ダース、強化型が2ダースだ」


通常型はいつも通りのベルカ式カートリッジ。

よくある赤色のやつだ。

強化型は博士と圧縮術式の見直しをしてより魔力密度を高めたものだ。

通常型と比較して1.62倍だが、安全面にも魔力を回すため、出力は1.5倍相当になっている。

数値も現行のカートリッジを強化したために、妙に半端だ。

まあ、博士が計算して作成したのでご愛嬌といったところか。

通常型と区別するため青色に塗装されている。

レヴァンティンはこのカートリッジに対応するためにカートリッジ周りは改修してある。

カートリッジだけですんで、何とか、アレを起動させずにすめばいいのだがな……


「半分は私のほうで使わせてもらうぞ」


「了解した」


「トワイライト、騎士甲冑、展開」


アインの両手にガントレットタイプのデバイスが装着される。

同時に、騎士甲冑が展開し、アインも準備が整う。

アインの騎士甲冑は、原作ではあったベルトが無く、頭部にあった翼が無い。

アインがトワイライトを掲げると、空中にあった書が格納される。

ちなみに、アインのデバイスがガントレットなのは、拠点でかき集めたパーツが組み上げるとそうなったからだ。

そのために、完全に、非人格型のアームドデバイスである。

空は黄昏て、夜となる、そう言う意味でトワイライトと名づけられた。

なぜベルカ語ではないのか疑問はあるが聞かないでいる。


「じゃあ、プレシアのところに案内するけど、いいかい?」


「ああ、よろしく頼む」


アルフの案内で時の庭園を進んでいく。

しばらく進んだところで、アルフが立ち止まった。


「……」


「どうした、アルフ?」


「おかしいね、普段は開いてるんだけど……」


私たちの前には完全に閉じている門があるだけ。

やはり、戦闘になるわけか……


「来るぞ」


私はレヴァンティンを抜き、構える。

即座に、アインも戦闘体勢を整える。

その数瞬後に現れる大量の傀儡兵。


「アイン、後衛任せる」


「当然だ。カートリッジロード!」


炸裂音とともに吐き出される薬莢。

アインの足元と周囲に展開されるミッド式の魔法陣。


「スティンガーブレイド・エリミネイトシフト!」


私たちを守るように、更には敵を囲むように展開されるスティンガーブレイド。

トワイライトから更にカートリッジが吐き出され、射出用の環状魔法陣が展開される。


「撃ち損なったのは任せる。カウント行くぞ」


「ああ」


「3・2・1……0!」


ゼロカウントとともに射出されるスティンガーブレイド。

爆炎が晴れるとともに更に姿を現す傀儡兵。

まったく、きりが無いな。

あれでも三桁に届くか否かというほどの傀儡兵を破壊したのだが……


「アルフ、左翼は任せる。私は右翼を叩く!」


「仕方ないね、任せときな!」


アルフはしぶしぶといった感じで手伝ってくれる。


「蒐集行使、ブーストアップ、ストライクパワー!」


アインの魔法により、アルフの両拳に魔力の光が宿る。


「すまないね!」


それを合図に私とアルフは両翼に別れ、アインは続けてエリミネイトシフトを利用し私たちの援護。

追随してきたスティンガーブレイドが着弾し、傀儡兵が体勢を崩した隙に切り捨てる。

アルフのほうも同様のパターンで数を減らしている。

更に、両翼から中央に寄るように傀儡兵を誘導し、集めきる。


「今だ、アイン!」


「強化型カートリッジ、連続ロード、デアボリック・エミッション!」


青色の薬莢が二つ排出され、空間攻撃が発動する。

漆黒の闇に傀儡兵が飲み込まれ一掃される。

退避が遅かったら飲み込まれていたな。


「レヴァンティン、強化型カートリッジロード!」


『Explosion!』


「飛竜、一閃!!」


私の一撃が閉ざされた扉を粉砕する。

更に、攻撃の余波が扉の向こう側にいた傀儡兵も破壊している。

周囲の傀儡兵は片付いたが、今だ、扉の跡の向こう側には傀儡兵が見える。


「アルフ、たいした歓迎だな」


「ホントにどこにこんな数を隠してたんだか。アタシも知らなかったよ」


「その辺りもさすが大魔導師といっておくべきなのか?」


「いや、それはどうかと思うぞ」


正直、魔力節約に困ってしまう。

傀儡兵の数が想定より多すぎる。


「レヴァンティン!」


『Explosion!……Schlangeform!』


シュランゲフォルムによる魔力斬撃にて傀儡兵を纏めて切り捨てる。

中には魔力障壁で防いだものもいるが、殆どの傀儡兵を破壊できた。

……はずなんだがな。


「いい加減にしてほしいな……」


「やっぱり、アレかねぇ、原因は」


「アルフ」


「ちょ、二人とも、目がコワいって!」


思わず顔に出ていたようだ。


「アタシは、行き詰ったら気分転換したほうが効率いいよって言っただけだよ」


「それが何でこうなってるんだ?」


「気分転換に傀儡兵作ってたのかな~、と」


ああ、頭痛くなってきた……

アインにカートリッジを更に渡し、再度空間攻撃をさせる。


「広域攻撃でもう残り少ないんだがな……」


「仕方なかろう」


「わかった。強化型カートリッジ四連続ロード」


青いカートリッジが四つ吐き出され、アインの足元と、傀儡兵の集団の足元に魔法陣が展開される。


「再現レアスキル『遠隔発動』、闇に沈め!」


本来は術者中心に発動されるデアボリック・エミッションを遠隔発動で傀儡兵を攻撃する。

この遠隔発動、博士がはやての診察の際に発見したスキルをデータ化して組み込んだものだ。

まあ、博士のことだ、何も言うまい。

一気に開いたところを駆け抜け、アルフの指示通りに進んでいく。


「げ」


「かなり大きいな」


「最終的な門番といったところか?」


砲門を二つ背負った傀儡兵が最後の門の前に立っていた。


「術式ロード、ディバインバスター!」


アインの放ったディバインバスターが傀儡兵に襲い掛かる。

しかし、傀儡兵の魔力障壁で防がれてしまう。


「バリアならアタシに任せな!」


アルフが飛び出し、ディバインバスターで揺らぎを見せている障壁に拳を叩き込む。


「バリアブレイク!」


アルフの声とともに障壁が砕け散り、拮抗していたディバインバスターが傀儡兵を貫く。

ものの見事に爆砕し、傀儡兵は片付いた。


「ようやく到着か」


「ああ、ここがプレシアのいる場所さ」


使ってしまったカートリッジと消費した体力が想定よりも多いな……

残りのカートリッジは少ないが仕方が無い。

二人に目配せをして頷きあい、意を決してプレシアの部屋に足を踏み入れた。




第二十六話に続く




あとがき

庭園突入。

次回はプレシアとの対面になります。

……たぶん。





[4469] 第二十六話 無印七話
Name: ryuga◆99139df5 ID:17487ea2
Date: 2012/08/15 05:47

第二十六話『ああ、戦いはすばらしい byシグナム』


「どうしたのかしら、まだ治療の時間には早いわよ、アルフ?」


「わかってて言ってるところがイヤミだねぇ、プレシア」


「そうかしら?」


「まぁ、いいさ。それよりも…」


「変わった客を連れてきたものね。今までは協力してくれていると思っていたのだけれど?」


「アンタがフェイトの為になることをやってるんだったら、アタシも喜んで今まで通り手伝ったんだけどね」


アルフの声に怪訝な表情を浮かべるプレシア。


「子供にあんな仕打ちをするのを見たらそんな気も起きなくなるさ」


「……そう、アレを見ていたのね。それで、そこの二人は私と戦うための助っ人というわけなの」


プレシアの周りに魔力の光が煌めき始める。

それはやがて雷となり、周囲に存在を示す音が鳴り響く。

しかし、なんだか私たちはなし崩し的に巻き込まれていないか?

プレシアの周囲で高まる魔力を見ながら、私たちは戦闘準備を整える。


「ごめん、やっちゃったよ。ああなるとプレシアは話を聞かないんだよね」


「話し合いからそれてしまったのは仕方ないと思っておくさ」


アルフは私たちから目を逸らし、すまなそうな顔をしている。

その表情には若干、焦りが見えるが。

アルフの行動が、故意なのか、天然なのか図りかねてはいるのだが。

徐々にプレシアの周囲に魔力スフィアが生成されていく。

まだ、スフィアのほうは帯電はしていないか。


「アイン、仕方ない、高町式お話だ」


「わかった。ついでに術式蒐集もしておこう」


「……それで通じるアンタたちがスゴいよ」


「プレシアの情報を少しでもいい、教えてくれ」


「ああ、基本は原作と変わらないよ。ただ……」


「ただ……?」


話している私たち目掛けて飛んでくるスフィアの嵐。

それを回避しながらアルフの声に耳を傾ける。


「アタシが治療の研究して病の進行とめてたから魔法行使は原作の比じゃないよ!」


この間にも嵐のように降り注ぐ魔力スフィア。

避けながら思い出すが、


「確か、プレシアはオーバーSだったような……?」


「正解!」


嬉しくないぞ!

確か次元間魔法も使ってたはず……


「シグナム!」


「くっ、パンツァーシルト!」


咄嗟に展開したパンツァーシルトで左から来たスフィアを弾き飛ばす。

これは洒落になってない!

数が多いだけでなく威力まで高いとは……


「フフフ、どうしたのかしら?」


「スティンガーブレイド・エリミネイトシフト!」


余裕のプレシアに対し、アインがスティンガーブレイドでスフィアの迎撃に移る。

だが、次々と打ち落とされているにも関わらず、プレシアの表情は変わらない。


「……試してみるか」


レヴァンティンを鞘に戻し、構える。


「カートリッジ、ロード!」


『Explosion!』


「飛竜……」
「プラズマ……」


気付かれているか……なら、好都合!


「一閃!」
「スマッシャー!」


飛竜一閃とプラズマスマッシャーが拮抗する中、スティンガーブレイドとスフィアの相殺は続いている。

……一人では賄いきれない魔力量か。


「アルフ、魔力の供給停止を頼めるか?」


「ああ、わかっ……」


返事を返そうとしたアルフが魔力弾に打ち抜かれる。

胸が上下しているから、動きが無いところを見ると気絶したようだ。


「悪いけれども、させないわ。供給魔力に気がついたところは流石というべきかしら?」


「そのためには協力者も関係無しか」


「あら、手加減はしたわ。後で言い聞かせなくてはいけないもの」




何か引っかかるが、今はそれどころではない。


「さて、そろそろ本気で行きましょうか。プラズマランサー」


今まで空中にあった魔力スフィアが帯電し始める。

数えるのがバカらしいほど浮いているものすべてが、だ。

私は咄嗟にアインの傍に移動する。


「シュート」


プレシアの呟きと共に打ち出されるプラズマランサーの群。

正直これはエリミネイトと大差が無い。

回避はほぼ不可能と言っていいだろう。


「蒐集行使、ライトニング・プロテクション!」


対雷系魔法のプロテクションが張られ、プラズマランサーを防ぐ。

凄まじい勢いで叩かれているプロテクションが悲鳴を上げている。

今だ破れないのはアインが持ち前の演算能力で適宜修正を加えているからだ。


「あら、思っていたよりも硬いわね。なら、これでどうかしら?」


プレシアの声にあわせ、更に注ぎ込まれていく魔力。

降り注ぐプラズマランサーがアインの演算を上回る速度になり綻びが生じ始める。

アインに目配せをしてタイミングを計る。


「さあ、これで終わり」


その言葉と共に、残りのプラズマランサーがすべて打ち込まれる。


「カ…ト………ロ…………リ…………ト」


着弾の轟音で聞き取りにくいがアインが行動を開始する。

カートリッジで強化された障壁を炸裂させ、プラズマランサーを巻き込み破壊する。

その爆煙の中、私も行動する。


「カートリッジロード、パンツァーガイスト!」


『Explosion!……Panzergeist!』


パンツァーガイストをカートリッジで強化、発動し、一気に突っ切る。

爆煙から姿を現した私をプレシアが攻撃してくるが私の鎧を貫くことは出来ない。

プレシアの目の前でパンツァーガイストを解除し、レヴァンティンを振り抜く。


「ハアァァァァァァァ!!」


私の一振りがプレシアの杖型デバイスを両断する。

それと同時に、私自身はプレシアの魔力弾に弾き飛ばされてアインの隣まで押し戻される。

正確に言えば、魔力弾に押されてデバイスを両断することしか出来なかった、だな。


「くっ」


「大丈夫か、シグナム?」


「なんとかな。これで……」


「どうにかなると思ったのかしら?」


プレシアの不敵な声が響く。


「……まさか!?」


「ふふ、研究者が単純なデバイスを使ってると思ったのかしら?」


『Form change』


デバイスの音声が響き渡り、プレシアの両断されたデバイスが形態を変える。

二つに断たれた杖はそれぞれが球体を形作り、プレシアの周囲を旋回し始める。


「確かに、普通のデバイスだったら役に立たなくなっていたわ」


プレシアの言葉を聞きながら、私たちは構えなおす。


「研究者の中には、私のようにひとつのデバイスに二つのコアを搭載している者もいるのよ」


球体の中にそれぞれコアがあるということか。


「普段はひとつのコアしか使ってないからあの状態だったけど、これが私の本気」


二つのコアの演算能力をフルに使っているようで、供給された魔力が紫電を放っている。

流石は、大魔導師だけはある。


【アイン、こちらの持ち札はどれだけある?】


【少なくともこの時点で相手はSSくらいと見ておくべきだな。そうすると取れる手段はあまり無いな】


【……仕方あるまい。で、アインの判断は?】


【カートリッジだけではひっくり返せないだろう。そうなるとユニゾンか……】


【それでも出力が足りないだろう。他には、私のアレに、アインの奥の手か】


【現状ではどちらも意味が無いな。基本出力が足りない以上、やはり、最善は本認証だろう】


【それしかないか……】


【心情はわかるつもりだ。だが、はやてが本認証できなかったのだ。私は他に適任はいないと思っている】


前に、覚悟を決めてやってきたはやてが、アインの夜天の書での本認証を試みたことがあった。

私とアインはすんなりと通ると思っていたのだがはやての認証は弾かれた。

博士の見立てでは闇の書とのつながりがあっても可能だというのにだ。

驚くべきことに、闇の書に対する適正はあっても、アインの夜天の書に対する適正がないということだ。


【……わかった。本認証するぞ】


【ああ】


「さて、相談は終わったかしら?」


「ああ、おかげさまでな。アイン!」


「管制人格よりシステムコール。
 仮認証から本認証に移行。
 全システム、使用権限開放」


「リミッター、解除」


「コマンド確認。
 魔力生成機構、活動開始。魔力の安定生成を確認。
 シグナムの魔力リミッターを全面開放」


今まで、書の機能を私の魔力で維持することによって、私自身のリミッターとしていたものを解放する。

書を維持していたときは概算でAAランクだったものが、Sランク相当まで引き上げられる。

ん?

騎士甲冑の色が変わっていく?

原作で”シグナム”がはやてから賜るはずだった騎士甲冑か。


「カラーは、はやてが決めてくれたぞ」


まったく、いつの間に相談したというのだ?

まあ、悪い気はしないがな。


「なら、負けられんな」


レヴァンティンを握りなおし、プレシアに向き直る。


「そういえば、まだ、名前を聞いてなかったわね。私はプレシア・テスタロッサ」


「……夜天の書の守護騎士、ヴォルケンリッター、烈火の将、シグナムだ」


「今は、夜天の書の主だがな。私は夜天の書の管制人格、アインだ」


「いいわ、この空気。本当に久しぶり」


プレシアから感じられるのはただひとつ。喜びだ。


「研究者なのに大魔導師なんて不思議でしょ?
 答えは簡単。研究者の前に、敵無しの魔導師だったのよ」


「強者の憂い、か」


あまりに強すぎて自分に追随できるものがいなかったのか。


「そうよ。だから、あなたたち二人をアルフが連れてきたときは久しぶりに血が騒いだわ」


「それであの流れか」


「ええ、ちょっとわかり安すぎた気もするけどね。安心して。どちらにしろ、終わったら話は聞くわ」


「正直、私も血が騒ぐ。このレベルの戦いならそう長くは続くまい」


「そこが残念なのだけどね」


「……そうだな。さあ、アイン!」


「ああ、行くぞ、シグナム!」


「「ユニゾン・イン!」」


アインとのユニゾン時のカラーは変わらんのだな。

だが、得られる出力はリミッター時とは比べ物にならないものがある。


「それが本来のあなたたちの姿というわけね。正直、驚いてるわ」


「これで終わりだと思うなよ?」


「ええ、そちらもね」


軽口を叩き合う私たちだが、同時に魔力を高めている。


【タスク展開。詠唱開始】


【わかった。マルチタスク展開、多重詠唱開始】


書の機能のひとつであり、アインの得意とするスキルでもある多重詠唱を使う。

術式は完全にアインに任せ、私はレヴァンティンを鞘に納め構える。


「レヴァンティン!」


『ja……Explosion!』


強化型カートリッジが三連続でロードされ、さらに魔力が高まる。

そして、鞘からレヴァンティンを抜き、紫電一閃の構えを取る。

鞘のほうは腰に固定しておく。


『いいな、シグナム』


「ああ」


『スティンガーブレイド・エリミネイトシフト』
「プラズマランサー・ファランクスシフト」


すぐさま、打ち合いが始まり、私は駆け出す。

追ってくるプラズマランサーはアインがスティンガーブレイドで打ち落とす。

一瞬の隙を突き、肉薄。


「ハァッ!」


振りぬいたレヴァンティンは幾重にも張られたプロテクションにはじかれる。

すぐさま回避行動をとり、プレシアから離れる。

私のさっきいた所に雷撃が落ちている。

一度離れて、仕切りなおす。


「さすがね、普通ならもう倒れているわ」


「そちらこそ、倒れているはずなんだがな」


再び、軽口を言い合う。

ああ、本当に楽しいなぁ。

見ればプレシアも同様に楽しそうな顔をしている。


「惜しいけれど、幕引きといきましょうか」


プレシアの宣言とともに高まっていく魔力。

それはあたりに雷鳴を響かせる。


「これを撃った後に立っていたものはいないわ」


「なら、今日からは違うな」


「言うじゃない」


そう言いながらプレシアは手をかざし、プレシアの周りに浮いていたデバイスとともに魔力スフィアを展開する。

庭園からの潤沢な魔力を受け、巨大な魔法陣が生まれる。


「トライデントスマッシャー!!」




第二十七話に続く




あとがき

次回に続く。

あと、プレシアは研究だけで大魔導師と呼ばれるのだろうかと思ったので。

バトルジャンキーは続いている(笑)




[4469] 第二十七話 無印八話
Name: ryuga◆99139df5 ID:7d5c83b3
Date: 2012/08/16 21:18

第二十七話『本当に楽しいわ byプレシア』


「本当にあれを防ぎきるなんてね……」


プレシアの放ったトライデントスマッシャーの爆煙から姿を現した私を見てプレシアが口を開く。


「さて、そちらの攻撃は耐え切った。今度はこちらの番だ」


再度、レヴァンティンを鞘に収め、先ほどの納刀時にカートリッジを炸裂させて得られた魔力を刀身に伝達する。

抜刀し刀身に纏った魔力を変換し、レヴァンティンが極大の炎を纏う。

その勢いは炸裂させたカートリッジ三発分よりもはるかに多い。

これが、鞘に組み込まれた機能の一つ魔力増幅機構だ。

使う条件は、一度納刀しカートリッジを使用し、増幅するまでに時間が必要で、増幅した魔力を使うために再度納刀しなければならない。

作成には博士に協力してもらったが、もともとは私たちの魔力不足を補うために考案した機能の一つだ。


【アイン、再度タスク展開。振り分けは任せる】


【ああ、まかせておけ。タスク拡張、詠唱展開】


【増幅分と、アレの状況は?】


【三発増幅したからな、最低でも倍だと思っておけばいい。アレはもうまもなくだ】


【了解】


「さあ、反撃開始だ!」


一気に加速してプレシアとの間合いを詰める。

もちろん、プレシア相手に簡単に近づけるわけがない。

即座に大量展開されたプラズマスフィアが襲い掛かってくる。


『一番開放、アンチマギリンクシールド』


広範囲に作用するアンチマギリンクフィールドでは周囲の味方の魔法も消してしまい使いにくい。

そして、私自身に必要なのはシールドサイズのものだ。

効果範囲が広ければ邪魔でしかない。

シールドならば手に展開して魔法を打ち払うこともできるからな。

ただし、魔力消費は大きい。


「なんて、デタラメ!?」


「プレシアに言われたくはないな!」


連続して斬りかかるが、うまく弾かれる。


「焦ったけれど、その程度の連撃を捌ききれない私じゃないわ」


「ほう、ならば、手数が増えたらどうなるかな?」


『二番開放、鋼の軛、続けて三番開放、火竜一閃、形状固定』


鋼の軛による拘束に対抗している間に、左手に火竜一閃を放つための炎剣を生成、形状を固定してそのまま留める。


『四番開放、炎熱加速』


左の炎剣と右のレヴァンティンの炎がさらに増大する。


「させないわ!」


それを見たプレシアが間髪入れずに大量に展開したプラズマスフィアをこちらに向けて殺到させてくる。

……このままでは抜かれるか!?


『想定済みだ。五番、六番、七番同時開放、アンチマギリンクシールド』


相殺限界を超えたシールドが破綻するよりも先に新たに展開されたシールドが他のスフィアを消し去っていく。

即座にその開いた隙間を通り、プレシアに肉薄する。


「そうはさせないわ!」


プレシアの気合と共に、周囲に滞空していたデバイスから魔力の鞭が伸びてくる。

アンチマギリンクシールドに防がれることを前提としているためか目前の床に打ち付けられる。

それにより破砕した床で動きを阻害される。

私が飛びのくのと同時にアインが魔法を発動させる。


『八番開放、スティンガーブレイド・エリミネイトシフト』


飛び散ってきた残骸が打ち抜かれると同時に、さらに前に踏み込む。

プレシアまで、あと三歩。


「この!」


再度、見舞われるプラズマスフィアの大群。

今回はスティンガーブレイドがそれらを撃ち落としていく。

プレシアまで、あと二歩。


「くっ、トライデントスマッシャー!」


空中に生成された魔法陣から打ち出される三条の閃光。


『九、十、十一番開放、アンチマギリンクシールド』


さらに展開されたシールドがそれぞれの光条を防ぎきる。

プレシアまで、あと一歩。


「これなら!」


プレシアの声と共に打ち出されるのは二本の鞭。

魔力を物質化して打ち込んできたのか!


『だが甘い。十二番、十三番開放、鋼の軛!』


繰り出された二本の鋼の軛が、それぞれの鞭と絡み合い拮抗する。

そして、開いたプレシアへの道。

届く!


「瞬閃乱舞!」


「『火竜連閃!!』」


本来なら中距離の範囲攻撃である火竜一閃を組み直し、レヴァンティンと同程度の長さに圧縮し、近距離高威力連続攻撃として打ち放つ。

その威力はプレシアに悲鳴をあげさせることもなく吹き飛ばし、壁に叩きつける。

構えを解くことなく、対処できるように警戒を続ける。


「…………」


『…………やり過ぎたか?』


「…………ありえんな」


現に、プレシアの周囲にはデバイスが滞空しているし、魔力が紫電を放っているからな。

プレシアがゆっくりと体を起こし、こちらを見てくる。

その動きは、どれだけのダメージがあったか如実に語っていた。


「ふふふ、ほんとうに楽しいわね」


「それについては同感だな」


「さぁ、続きを……」


「そこまでだよ、プレシア」


私達を止めたのは、気絶していたはずのアルフだった。


「これからがいいところなのに、止めるのかしら?」


「本当はやらせてあげたいところなんだけどねぇ、残念だけど、バイタルデータがあと少しでレッドゾーンだからね。ドクターストップさ」


「……残念ね」


小さくそう言うと、プレシアはデバイスを待機させ、魔力を拡散させる。

いささか不完全燃焼だが仕方あるまい。

私もユニゾンを解除し、レヴァンティンを待機させる。


「さて、約束もしていたのだし、今回のことについて説明もしたいし聞きたいこともあるのだけれど?」


「ああ、こちらも同様だ」


まずはこちらの状況を説明する。

なぜジュエルシードを集めているかなど、相手が聞いてきたことに答える。


「なるほどね。そんなことになっていたなんて」


「ああ、その過程で戦闘することになったのだがな」


「まったく、困った娘ねぇ。ごめんなさいね、母親として謝罪するわ」


「いや、こちらも弟子の修行になっているから構わないんだが」


ん?

何か、こちらの得ていた情報と激しく食い違っているのだが?

視線をアルフに向ける。


「いや、原作を知ってて、介入しない訳ないだろ?」


「まぁ、そうだが……」


「だから、フェイトに何があったかなんてのは嘘。プレシアと仲の良い親子やってるよ」


「ちょっと待て、それならなんであんな嘘を……」


「いやぁ、プレシアが調子が良くなってきたら戦いたいって言い出して、日に日に目が座ってきてたもんだから。そこに調度良くあんたたちに会ったもんだから」


「原作を持ちだして私を煽ったと言う訳か」


「ああ、シグナムには悪いと思ったけど、プレシアは家族だからね。何とかして叶えてやりたかったのさ」


「それにしては迫真だったが」


「これでもこうなる前は女優だったからね。演技は自身があるのさ」


……見事にしてやられたわけか。


「まぁ、私も楽しんだからな。不問にしよう」


「助かるよ。正直、斬られる覚悟もしてたんだよ」


原作の“シグナム”ならバッサリいっていただろうがな。


「よし、これで当面は大丈夫だ。あとは私とシグナムの知り合いに見てもらえばいいだろう」


「ありがとう、助かったわ」


私とアルフが話している間に、アインがプレシアの治療をしていた。

ふむ、後で博士に連絡しておくか。

そう考えながら、プレシアとの話し合いを始めるのだった。




第二十八話に続く。




あとがき

ものすごく久しぶりですいません。

正直、頭の中では激戦だったのですが文章に起こせず、orzするばかりでした。

ぼちぼち頑張っていきます。




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