外伝一話『今回はアインの視点らしいぞ byシグナム』
回想そのいち ~スカートはサービスらしい~
私とシグナムが町で暮らし始めてから大分たち、生活も安定してきたころだった。
シグナムたちの修練が終わり、いつものように私は差し入れを持って道場に上がった。
「皆さん、お疲れ様です。今日の分の差し入れですよ」
我先にと持ってきた差し入れのおにぎりの争奪戦が始まり、私はシグナムとともにお茶を注ぐ。
ちなみに、この口調は対外的なもので、あまり使わない。
お茶を配り終え、皆が差し入れに舌鼓を打っている間に、私は準備をする。
いつも、稽古に参加した人から毎回会費を集めるのは私の仕事だからだ。
これに関しては、この町の男性たちは出稼ぎに出ると月単位で戻ってこないことがあるために、その家族や、参加している女性から一回ごとに集めてほしいと頼まれたからだ。
名簿を出して、集金し、チェックしている。
参加日数もこれで一目でわかるようになっている。
そうやって集金しているうちに、門下生がシグナムの回りに集まり始める。
また、シグナムに何か質問があるのだろう。
この光景も日常的なものだ。
「先生」
「どうした、何かあったか?」
「質問があるんですけど」
「私に答えられるものならな」
シグナムと門下生の問答が始まる。
なんだか普段の質問の様子と違い、どこか落ち着かない様子だ。
「では。先生」
「何だ?」
「先生はなぜ、その、あの…」
「ちょ、代表して聞くんだろ?!」
「早くしろよ!」
周りの門下生が質問をしている人に怒鳴る。
なにやら、おかしな雰囲気だが、質問は門下生の総意のようだ。
「先生!」
「どうした、言ってみろ」
「先生は、なぜ、す、スカートを履かないのですか?」
とんでもない質問が飛び出した。
それは、女性にする質問ではないでしょうに。
シグナムが答えるとは思えないのだけれども……
「特に深い理由でもないのだが、答えてやろう」
って、教えるの?!
ちょっとした驚愕に包まれつつ、聞き耳を立て続ける私。
「別に私はスカートが嫌いなわけではない。剣だけでなく、徒手でも戦ったり、剣を扱っているときでも蹴りを使うこともある」
頷く門下生たち。
「そのときに相手に必要以上にサービスすることはあるまい?」
おどけたように答えるシグナム。
シグナムに対する認識を改めた私だった。
その後、若干、集金額を間違えたりしたのは余談だ。
集金後、町の女性たちにこのことを話した。
即座に女性陣の会議が始まり、シグナム自身の手で門下生を懲らしめる作戦を立てた。
都合があり、しばらく後になったが、この作戦は見事成功を収めた。
結果を見たときに思わず笑みが浮かんだのは少し反省している。
ただ、若干名、危ない趣味に目覚めたのはまったくの予想外だった。
その若干名に関しては、シグナムはおろか、私もその行方は知らない。
回想そのに ~料理、味見、シグナムの舌~
普段は私が家事をしていたのだが、あるときのシグナムの一言がこの事件のきっかけだった。
「たまには私が料理を作るか」
ある意味、衝撃的な発言。
何しろ、私とシグナムが行動をともにしてからそういった分野は私が担当していたのだ。
一度も、シグナムが料理をしたことなど無い。
それが、私の不安を駆り立てた。
「アイン、その顔は疑っているな。私が料理を作れないと思っているのだろう?」
馬鹿な、私の無表情から感情を読み取るなど……
「加えて、どうやって感情を読み取ってるのかなどと思っているのだろうが、完全に表情に表れている」
鏡を見る。
やはり、そこには変わらぬ表情の私。
隠し通せている自身はあったのだが……
「まあ、意図的に隠してはいるのだろうが、私にはわかりやすいぞ」
「そうなのか?」
「ああ、他の者にはわからないだろうがな。そういうことにしておけ」
「わかった」
釈然としないが、それはこの際おいておこう。
今は、もうひとつの方が重要だ。
「話は戻るが、今日の昼は私が作る。今日の稽古は休みだからしっかりと作ろう」
動揺していた私は押し切られ、シグナムが作ることに決定した。
数時間後、買い物を済ませたシグナムの後ろには、ご近所の方々。
シグナムが買い物をしているのを見て、珍しいのでついて来たようだ。
すでに、シグナムはキッチンに入り、エプロンをつけている。
先ほど、シグナムに改めて確認したところ、こう帰ってきた。
「もともと、“俺”は一人暮らしで自炊していたのだ。ある程度なら作ることはできる」
その言葉を聴き、危険は去ったことはわかった。
ご近所の方々までやってきたため、作る量はかなりのものだった。
私の持つデータの中には様々なところの料理のレシピなどもあるが、シグナムが作ったものは無い。
まあ、先ほどの話からして、“彼”の料理なのだろう。
気になるのは、味付けをして味見をした後のシグナムだった。
味を見ては調味料を微妙な単位で調節していたのだ。
「さて、これで全部だ。味は保証できんが食べてくれ」
そう言われ、思考を切り替える。
ご近所さんも手を付けようとはしないため、私が率先して食べることにする。
料理を口に含み、良く噛んで味わう。
……これは危険だ。
主に、体重の面で。
私とシグナムには関係ないことではあるが。
私が食べる手を休めないのを見てほかの人たちがいっせいに食べ始める。
……即座に完食。
味が良かったため、作ってくれと言い出すものが絶えず、シグナムには料理禁止令が出された。
味付けに関して聞いてみると、
「やけに味に関して敏感でな、舌が納得できるように調節したのだ」
とのこと。
この後、私や女性陣がその味に挑戦して、味付けでミスをして胃を壊すものが続出した。
……かなり、紙一重のバランスに成り立った危険な味だということを思い知った。
その後、しばらくはシグナムに料理に関して警戒されたのは悲しかった。
シグナム自身は危険を回避したのに……
回想そのさん ~天敵は台所の黒い生物~
町の人たち曰くの『シグナム料理事件』から数日。
私は、最近、レヴァンティンの調子がおかしいとシグナムから相談され診断することにした。
シグナム曰く。
「魔法の行使や動作におかしなところは無いが、応答が遅れることがあってな。心配だから見てやってくれ」
ということだ。
ほとんどのことは自分で済ませ、自身の魂とまで言うレヴァンティンを私に預けるほどだ。
動作的ではなく、AI側なのだろうとあたりをつけ問いかけることにした。
「レヴァンティン、どうした?」
『Ich will es wissen』
(知りたいことがある)
「何が知りたい?」
『Die Leute der Stadt lobten das Kochen vom Meister, und eine Küche wurde ein Heiligtum gerufen』
(町の人々は主の料理を褒め、台所を聖域と言った)
「そうなのか。それで?」
『Ich will eine Sache kennen, die gegen das Heiligtum vom Meister verstößt』
(主の聖域を侵害するものを知りたい)
シグナムの聖域が台所というのは納得しかねたが、その心意気は納得できた。
主に害なすものは排除するのが我々のあり方なのだから。
ただ、その台所で会話していたのが拙かったのだろう。
待機状態で台所に置かれていたレヴァンティンの上を黒い影が通り過ぎた。
すかさず、スリッパを手に取り、叩き潰す。
以前、シグナムがやっていたから真似た。
それを処理し、レヴァンティンに注意を向ける。
一応、表面を拭き、綺麗にする。
『Ist es der Angreifer der Küche?』
(台所の侵略者?)
「ん、ああ。今のがそうだ」
『Ich beschloß es』
(決めました)
「何を?」
『Ich vernichte es』
(奴等を全滅させます)
その物騒な発言に驚愕。
アームドなのだが、インテリジェント並みのAIだな。
まあ、こうしてレヴァンティンはG殲滅を決意したのだ。
さすがに、シグナムには教えられなかった。
外伝一話、了
あとがき
今回は外伝で、以前までの裏話です。
基本、外伝はシグナム以外の視点で動きます。
舞台裏や意外な感情がわかるかもしれません。
誰の視点かは副題でシグナムが。
各回想にも副題がついています。
回想の個数は決まっていません。
ではまた。