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[4594] 殺人貴と魔法少女達(×MELTY BLOOD)
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/07/01 17:25
すいません、投稿を失敗しました。

テスト版の方で書いていて妄想が止まらなかったので書き始めました。
更新速度は亀どころかカタツムリにも劣るかもしれませんが完結まで頑張るつもりなので最後まで生暖かい眼で見守っていただけると幸いです。

一応メルブラの七夜志貴がリリカルなのはの世界に行く設定ですが作者がactress againをやっていないのでそちらを希望していたメルブラファンのかたはご容赦を。そして幾分かオリジナル設定があるのでそちらが苦手な方はご遠慮下さい。

*七夜志貴の性格がかなり丸くなっています。ご注意下さい。

1/6 リインフォースの名前を修正
   A's編完結

1/9 修正のみ

3/9 修正のみ

4/3 修正のみ



[4594] 第一話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/10/19 17:50
 第1話 一つの物語の終わり

 太陽の光が届かない深い森の中、二人の男がいた。本来ならばその姿を視認することも難しいほど暗い森。
 しかし、二人の周囲の木が燃えているため、その二人は太陽の光が届かなくとも姿がはっきりと見えていた。
 両者ともが満身創痍だが、一人は倒れており、もう一人がそれを見下ろしている形になるため、その二人の状況がはっきりとしていた。

 「…才能は父を超えようが心技未だ至らず。餓鬼に堕ちるとは…失望させてくれたな、七夜。」
 「ハ、餓鬼に堕ちた、か…そんなこと分かっているさ。この身はアンタと同じ所詮は作られたもの…オリジナルの俺の不安そのものだ。
 俺が生まれて生き方を変えられた親父とは違う、ただ殺すことしか出来ない出来損ないさ。」

 立っている男(軋間紅摩)が仰向けに倒れている男(七夜志貴)に向かって言い放つと、七夜もそれに反応する。

 「ふん、分かっていながら変えられない、か。救いがたいな。」
 「ああ、まったくだ。
 だが、もうすぐ消えるせいか、穏やかな気分だ。あれほどあった殺人衝動が湧いてこない。」

 紅摩の言葉にも特に激昂することも無く言葉通りに穏やかな笑みを浮かべながら話す七夜。それを見て紅摩は呟く。

 「…今の貴様とやっていたならば今、こうして立っていたのは貴様だったかもしれないな。
 出来ることならばもう一度今の貴様と戦りあいたいものだ。」
 「そうかもしれないがな、それはもう意味の無い仮定だ。
 今この場で勝者はアンタ、そして敗者は俺。それが全てだよ。そして敗者の俺はこのまま消えるのを待つさ。アンタはどうするんだ?」
 「俺も消えるのを待つだけだ。先程も貴様が言っていたように俺のこの身は作られたもの。
 だが、せっかく貴様に勝ったのだ。もう少し戦ってくるとしよう。この身が消えるまでな…」

 そう言って紅摩は七夜に背を向けてゆっくりと歩き出した。その姿が見えなくなって七夜は自嘲の笑みを漏らした。

 「クク、ただ殺すためだけに呼び出されたと言うのに殺人衝動も無ければ、鬼を殺すことも出来なかったか。
 まあいい、殺人衝動が消えている俺がこれからどうなるかは分からんが…ここで消える以上考えても仕方ないな。さて、まだ時間には余裕があるようにも感じるが、夜明けまでには流石に消えて 「あら、このまま消えるなんて私がさせないわよ?」 ん? 誰だ?」

 もうすぐ消えると思って周囲を警戒していなかった七夜に声がかけられる。志貴が声の方に顔を向けると三人の男女が姿を現した。

 「誰だとはこれはまたご挨拶じゃのう。
 ブルーに面白いものが見られると言われて来てみたが、いやはや、まさかタタリの残滓がタタリとしての意識ではなく自身の意思を持つとは…確かに面白い。」
 「…私を呼びつけた以上は誰かの意識を人形に入れようってんだろうが…まさかタタリとはね。
 確かにこれはどうなるか興味があるな。」
 「もう、爺さんも姉貴も焦りすぎよ。
 とは言えあまり時間が無いのも確かだし…
 いい、志貴? とりあえず貴方を姉貴の人形に入れて一つの個体として存在させるから。」

 興味深そうに七夜を見る二人。それに割り込むようにブルーと呼ばれた女性、蒼崎青子は端的に説明する。
 しかし、七夜はその説明で目の前にいる存在が誰なのかを理解して説明を聞くどころではなかった。

 「今の会話を聞く限り、そっちにいる老人は宝石翁か…それにそっちは人形師か?
 …まったく、ブルーも凄い面子を集めたものだな。それにこの面子を見る限り、俺の情報を人形の素体に入れてから平行世界に飛ばす、といったところか…まあ、既にこの世界にオリジナルの志貴がいる状態ではそれくらいしか『俺』が残れる可能性があるのは無いしな。」
 「…説明が不要みたいで結構。それにしてもブルーなんて呼び名じゃなくて先生って呼んでくれればいいのに…」

 七夜の言葉に少し唇を尖らせて青子は七夜に言った。

 「それは志貴に許された呼び名だ。俺は七夜だし、何より大元のタタリが倒されたせいなのかどうかは知らんが少しではあるがタタリの情報も俺の中に来ている様だ。
 まあ、流石に魔力は少量しか受け継いで無いが…恐らくは本体が消えた結果中身というか、情報がタタリによって生み出された存在に分配されたのだろうな。」

 自嘲気味に話す七夜。それを見て人形師と呼ばれた女性、蒼崎橙子が口を挟む。

 「ふむ、お話をするのは構わんが時間が無いのではなかったか?
 正直、私としては貴様が消えるのは構わんがタタリの情報を私の人形に入れた時どうなるか、と言う私の実験が出来なくなるのは勘弁して欲しい。
 面倒なことではあるが、ここに来た意味も無くなりそうなんでな。やるのであればさっさとして欲しいものだな。」
 「何よ姉貴、いいところで 「まあ、そうなんだろうな。正直に言えばこのまま消えるのも悪くは無いが生きられるのであれば生きてみたい。殺人衝動が収まった俺がどう生きられるのか自分でも興味がある。」 ちょっと、志貴まで。
 もう、分かったわよ。やればいいんでしょ、やれば…」

 青子の台詞にかぶせるように七夜が話す。そのことで青子は少し拗ねてしまったようだ。
 だが、拗ねながらも必要な魔法陣をひいていくところを見ると流石は魔法使いと言うべきなのだろうか。
 そして、書かれた魔法陣の上に七夜と橙子がもってきた人形の素体を並べると儀式を始めた。次第に七夜の体が薄れていき、人形の素体の形が変わっていく。 
 そして、薄くなった七夜の体が消えると十歳前後の子供が横たわっていた。

 「ほう、これは面白い。どうなったのじゃ?」

 この状況を見て宝石翁と呼ばれた男、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグは興味深そうに七夜の情報が入った人形を見やり、二人の女性は目を丸くして見ていた。

 「ん、もう終わったのか?」

 二人が言葉をなくし一人が興味深そうに眺めている中、七夜は意識を取り戻した。
 そして、ゆっくりと体を起こすと、青子が言葉をかけてきた。

 「ね、ねえ志貴? 何か違和感とか無い?」
 「いや、体が少し縮んだくらいで身体機能に不備は無い。」
 「いや、だから、何で体が縮んだのか聞かないわけ?」
 「む、最初からこうなる予定ではなかったのか?」
 「当たり前でしょ!」

 言葉を荒げる青子に淡々と返す七夜。傍から見ている分には面白い二人だが、面白がっているだけ、というわけにはいかない。

 「あ~青子。何でそうなったのか私には分からんが、とりあえずタタリの欠片に体を与えるのには成功した訳だ。次の段階にいってもいいんじゃないか?」
 「む、そうね。とりあえず、同じ人間が二人いるって言う矛盾を世界が消しに来る前に貴方をゼルレッチ爺さんの力でこの世界から別の平行世界に送るわ。
 とりあえず修正を誤魔化している少しの時間だけだけどその間に私達に何か聞きたいことは無い?」
 「そうだな、体が縮んだ理由はタタリの知識で予想はつく。後は淨眼か…」

 七夜はそう呟くと、静かに眼を瞑り集中する。そして、眼を開いた時には黒かったその眼は蒼く染まっていた。

 「!? 何だと?」
 「? どうかしたの?」

 急に声を上げた七夜を不思議に思い、青子が声をかける。

 「七夜の淨眼が志貴の持っていた直死の魔眼になっている…情報の消失、変換によって死を間接的にとは言え感じたせいか? それとも…」
 「あ~、それまで。とりあえず今の推論でほぼ間違いないと思うわ。というわけで次。
 って言うか貴方、さっき体が縮んだ理由は予想がつくって言ってたわね。どういうこと?」

 思考の海に沈みそうになった七夜を青子が止め、逆に質問する。

 「ああ、貴女達はタタリの縛りから外れた“七夜”の情報を人形に入れたんでしょう?
 ならこの姿は“遠野志貴”として生きた俺の時間を省いて純粋に“七夜”としての俺の情報を入れた結果だと思う。
 遠野志貴の中の七夜が完全に封印されたのは遠野志貴が九歳のときに遠野四季が反転した頃だ。
 だったら俺は九歳の頃から意識的そして魂としては成長していないのだろうな。
 まあ、遠野志貴の知識を持っていたおかげで頭の中は一応高校生くらいの知識はあるが魂のほうがまだ九歳なんだろう。それだけの話だな。」

 七夜の説明を聞いて三人は納得したように頷いていた。

 「ほう、面白くなりそうじゃの。タタリの知識を持った殺人貴か。殺人衝動は消えておるようだが、どうなることやら。」

 ゼルレッチの言葉に七夜は苦笑して言葉を返す。

 「ああ、その心配は無い。
 そもそもタタリの知識はそこまで多く入ってきているわけじゃない。
 凡そ…タタリの魔術と錬金術師ヅェピアの思考の極一部といった所か…正直、さっきの結論は覚えていてもそこに至った過程がぼんやりとしか思い出せない。それに思考が霞がかっている感じもする。
 まあ、しばらくすれば完全に消えるだろうさ。少なくともこのタタリの夜が終わる頃には全て消えていると思う。」
 「むぅ、それはまずいの。タタリが消えるのは構わんが世界の修正を受け始めているせいかも知れん。
 まあ、タタリがお主の思考に完全に溶けるだけかもしれんが不確定要素がある以上は面倒が起こりかねん。さっさと飛ばしてしまうか。」

 七夜の答えにゼルレッチは少しも焦ったように感じさせず、懐から宝石剣を取り出し解放し始める。
 そして、それを尻目に青子がやってきて手に持ったトランクを投げ渡した。

 「これは?」
 「餞別よ。とりあえず平行世界だからと言ってこの世界のお金が使えるか分からないから私からは金の延べ棒を二本。
 姉貴からは貴方の父親が使っていたらしいからって撥を予備を含めて四本作ってくれたわ。魔術的に強化もしておいたけど見つかると面倒だから魔力隠蔽の呪式も刻んでおいたわ。
 ゼル爺さんからは魔力を込めた宝石を十数個。貴方が魔術を使えるのなら触媒としても使えるし、飲み込めば魔力も回復してくれるわ。そんで、いくつかの着替え。
 私達からはそれくらいね。後、持って行くのは貴方が持っている七夜の短刀くらいかしら。それと、直死の魔眼は大丈夫? 流石に魔眼殺しは用意してなかったんだけど…」

 その言葉を聞き、七夜は投げて寄越された小さめのトランクを脇に置くと三人に向かってそれぞれ頭を下げた。

 「ああ、大丈夫だ。志貴とは違って俺はこの魔眼を淨眼と同じように切り替えられるみたいだから。有難う、生きさせてくれて。それと済まない、恩に着る。」
 「私は実験に付き合ってくれた対価のようなものだからな。礼はいらん。」
 「ワシはこれからのお前がどう生きるかが楽しみなだけじゃ。まあ、遠野としてではなく、そして七夜としてでもなく生きてみよ。たまには見に行くかも知れんからその時につまらんことになっていてくれるなよ?」
 「まあ、ある意味私が志貴に力を自覚させちゃったわけで…もしかしたらタタリの七夜を生んじゃった間接的な元凶かな? なんて思ってるから、その罪滅ぼしよ。」

 七夜の礼に対してそれぞれ言葉を返す。宝石剣の解放は完了し、後は作動させるだけだ。

 「さて、これからどうなるかワシにもわからんが、とにかく志貴として好きなように生きろ。」

 ゼルレッチの念を押すようなその言葉と一緒に七夜の体は七色の光に包まれていく。七夜は、その光に包まれながらも最後に三人に対して感謝の視線を投げかけて、目を閉じた。
 そして虹色の魔力の流れに身を任せる。光が収まった後、そこには七夜の姿も、脇に置いてあったトランクも見当たらず、ただ三人だけがその場に残っていた。そしてその三人も七夜の姿が消えたことを確認するとそれぞれその場から去っていった。
 タタリによって生まれた七夜志貴は未だ消えたわけではないが、今夜タタリの殺人貴として生まれた七夜はその縛りから解放され別の世界へ。
 そこに待っているのは日常かそれとも非日常か。運命は廻り始め既に巻きなおすことは出来ない。七夜が辿るこれからの物語、始まります。

4/3 誤字修正+微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 第二話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:32


 第2話 やってきた世界で…

 (これが平行世界へと渡る感覚か…心地良い。)

 魔力に包まれて波に揺られているような感覚を感じ、志貴は出発前に閉じた目を開くこともせずにむしろ心地良さに身を任せ、意識を手放そうとしていた。
 そんな時、今まではたゆたっているだけだった自分がどこかに向かって引っ張られているのを感じた。

 (…そろそろ出口か。さて、“七夜志貴”も“遠野志貴”もいないことは宝石翁の話からわかってはいるが…まあいい、最初にどんな奴と接触するかで判断するか。警戒はされても此方が敵意を持たなければどうと言うこともないだろう。)

 そう考えている内に感じる先程までの心地良い感覚とは違う浮遊感。

 (浮遊感? 何が…!?)

 「ぐっ!?」

 感じた浮遊感に違和感を感じすぐに反応したため、志貴は受身には成功したが…

 「…! …!?」

 遅れて落ちて来たトランクにうめき声すら上げられずに腹を抱えて悶絶していた。
 どうやら丁度鳩尾にトランクの角が当たったらしい。

 「…く、迂闊…トランクの存在を忘れていたな…さて、ここは森…いや山の中か…」

 自身のいる場所を認識すると志貴は体を起こした。

 (さて、とりあえずトランクの中身を改めて確認したいが…近づいてくる気配があるな。確認は後、か。
 ここにいる理由は、記憶喪失だとぼろが出る可能性があるな…この世界の裏の情勢が分かるまでは本当の事を織り交ぜつつ詳しく話さずに誤魔化すか…)

 頭の中で考えをまとめながら志貴は改めて寝そべりながら近づいてくる気配の主を待つことにした。

 「さて、鬼が出るか蛇が出るか…普段から運は最悪なんだが…まぁ、この世界での生活の今後を占う軽い運試し、といった所か。」


 ここで少し時間を遡る。高町士郎、恭也、美由希の三人は早朝トレーニングのためのランニングで海鳴市にある山に来ていた。

 「さて、この先に清流がある。そこで一旦息を整えて帰るぞ。」

 軽く息を切らせながらも後ろにいる二人に指示を出す士郎。後ろを振り返り、二人が頷くのを見て再び前を向いて先に進もうとする。
 そのとき、進行方向から少しずれた所で何かが落ちる音が聞こえた。そこで士郎は足を止めて二人に話しかける。

 「…二人とも、気付いたか?」
 「ああ、父さん。音の数と感じから恐らくは一人。あとは何か重たい荷物が一つと言ったところか…」
 「お父さんと恭ちゃんが気付いたんだったら私の勘違いってわけでもないんだよね。どうするの?」

 恭也が頷き、美由希が問いかける。士郎は美由希の問いかけに少し考えたようだがすぐに答える。

 「見に行こう。敵意は感じないし、何より気配が動こうとしない。怪我をしているかもしれないからな。見捨てるのも悪いだろう。」
 「…危険な奴だった時は?」
 「…そのときは父さんが責任を持つ。この決定も父さんがしたわけだしな。」

 士郎の答えに懸念を聞く恭也、それに士郎は意思を込めた顔で答えた。その問答を終えて三人は気配があるほうへ向かった。
 そして三人はそこに着いて絶句した。そこには高町家の末娘である高町なのはと同じくらいの子供が倒れて(三人にはそのように見えた。)いたのだから。
 傍らにはトランクがあり、他に気配がしないのでここにいるのは自分達を含めて四人だけ。ぱっと見外傷は無いようだが目を瞑ったまま動く気配が無いので三人は慌てて駆け寄った。

 「大丈夫かい? 怪我は無いようだけど…」

 最初に駆け寄った士郎が志貴に話しかける。
 すると元々気絶していたわけではないため士郎達にとっては呆気無いほどすぐに志貴は目を開き、目の前にいた三人に話しかけた。

 「…あなた方は誰ですか?」

 志貴にしてみればここで会ったこの三人がどういう人間かでこれからの生活が決まるのだから慎重にならざるを得ない。
 だが、三人はそうとらずに志貴に自己紹介を始めた。

 「ああ、済まない。私は高町士郎と言う。この山の麓の町にある喫茶店のマスターだよ。
 後ろの二人は私の息子の高町恭也、娘の高町美由希だ。」

 士郎の紹介に恭也は軽く頭を下げて、美由希はにっこりと笑って挨拶した。

 「俺は七夜志貴といいます。両親や兄弟に死なれ、数ヶ月前まで先生に連れられて生きてこられたのですが…その人ももうここにはいません…そういうことでしばらく一人旅をしていたのですが、迷ってしまったんです。」

 (さて、どう出る?)

 表面では悲しそうな表情を作りながらも内心志貴はこの三人を試していた。
 そんな志貴の内心に気付きもせず美由希は涙ぐんでおり、士郎と恭也の二人は志貴の眼を見ながらコトの真偽を見極めようとしていた。

 (完全に真実というわけではないが、嘘は言っていない…といった所か。誰かに危害を加えるつもりは無さそうだが、放っておく気にもならない…俺の勘じゃあ悪い子では無さそうだが、一応監視の意味も含めて同居を提案してみるか)

 「そうだな、じゃあ、家に来るかい?
 これでも私達は剣を嗜んでいてね。困ったことがあっても多少のことなら助けてあげられるよ。」
 「良いんですか?」
 「ああ、構わな 「全然大丈夫だよ! それに家には志貴君と同じくらいの妹がいるから、話し相手になってくれればいいし!」 美由希…」

 あっさりと決めてしまった士郎に驚いた七夜が聞き返すと、士郎の言葉に美由希が割り込んできて来ればいい、ということになってしまった。

 「あ、じゃあ、よろしくお願いします。」

 志貴が素直に頷いたことで先程まで探るような眼でこちらを見ていた士郎と恭也は少し警戒を緩めた。
 それを見て志貴は心の中で呟く。

 (やはり七夜の名前には反応しなかったな。
 雰囲気から見て裏に縁のある人たちだと思ったのだが…やはり七夜と言う存在が無い世界に送ってくれたんだな。
 とは言え、美由希、と言う奴はともかく士郎と恭也は恐らく俺の監視、というか俺がどういう奴なのかを見極めようってコトなんだろうな…)

 そういうことで話がまとまり、士郎を先頭に高町家に行く事になった。
 そしてたどり着いたのは翠屋と書かれた看板のある喫茶店。士郎はその扉を開けるとカウンターにいる女性に話しかけた。

 「あら、お帰りなさい。そっちの子はどうしたの?」
 「ああ、山の中で迷っていたのを見つけてね。家族はいない、ってコトだから家に連れてきたんだが、大丈夫だったかい?」
 「あらあら。そう言うわけなら大歓迎ですよ。じゃあ、まずは自己紹介しましょうか。私は高町桃子。士郎さんの妻で高町家のお母さんよ。」
 「…お母さんだったんですか。若いですね…俺は七夜志貴って言います。行く場所が無かったので皆の好意に甘える形ですが、よろしくお願いします。」

 どう見ても美由希や恭也の母親には見えず、姉かと思っていたため、志貴は少し驚いてしまったが挨拶はちゃんと返した。
 そこでいくつか質問され、答えられることには答えたが、どのあたりから来たのか、と言う質問には答えを濁すしかなかった。

 「じゃあ、夜のご飯の時に改めて挨拶しましょう。なのはも今は出かけているみたいだし…
 あ、部屋は恭也と一緒でいいわよね?」
 「ええ。本当に有難うございます。」

 そんなこんなで部屋に案内された志貴。恭也は志貴を部屋に案内するとすぐに鍛錬のために外の道場に出かけてしまい、今は一人だ。
 志貴はトランクの中身を確認し始める。すると、金の延べ棒が入っていることを思い出した。
 同時に致命的なことも考え付いてしまった。

 「…ブルー、いくら中身が高校生程の年齢として設定されていたとしてもこの外見の子供がこんなものを持っていても換金できるはずが無いだろう…」

 宝石の関係はゼルレッチが魔力を込めているのでもっておくことにするが、金の延べ棒だけはどうしようもない。(そもそも元の見た目だったとしても成人していないため延べ棒を換金できるかと聞かれれば否であろう…)

 「仕方ない。一つはこの家の人間に預けるか…着替えは…下着にズボンとTシャツが二組ずつ、それに上着が一枚、後は着流しか…とりあえず着流しに着替えておこう。」

 何故この年齢に合うサイズのものが揃っているのか疑問に思わないでもなかったが考え始めると怖い結論に至りそうだったのでスルーした。そのまま何も言わずに着替え始める志貴。
 そしてトランクの中身を確認して整理しているうちに外が暗くなってきた。
 夕食の時に改めて自己紹介するということだったが、呼びに来てもらえるのかが分からなかったため、志貴は部屋の中で横になった。そしてこれからのことを考える。

 (この家の人間は雰囲気からして桃子以外は裏の住人と言うよりは裏の事情を知っていてかなり腕のたつ連中といった所だな。
 変な違和感は感じるが魔に属する感覚じゃない。この世界で七夜の業を披露することは無さそうだ。
 ブルーや宝石翁が言っていたように普通に過ごしてみるか。どうしようもなくなった時はそのときに考えよう。)

 「志貴く~ん、ご飯…ってうわ、着物!?」

 考え事がある程度まとまった所で美由希が志貴を呼びに来た。だが、志貴の格好が変わっていることに驚いたようでまじまじと見つめている。

 「…なんかじろじろ見られてますが、この格好じゃまずかったですか? 後、これは着流しです。着物ほどちゃんとしたものじゃないですよ。」
 「あ、ううん。全然そんなことは無いと思うよ。ただ格好が変わってたからちょっと驚いただけ。じゃ、下に行こう?」

 志貴が起き上がり美由希についていく。
 リビングに着くと、志貴以外は皆席についているようだ。そこで志貴は初めて見る少女に気がついた。

 (アレが美由希が言っていたなのは、と言う子か?)

 少女のほうも志貴のほうを見ている。少しの間時間が止まったかと思ったが、桃子が二人に声をかける。

 「はいはい、見詰め合ってないで席について。食事を始めましょう。ちゃんと自己紹介する時間もあげますから。」

 桃子の言葉に我に帰った二人、志貴はそれもそうだと普通に席に向かう。
 しかし、なのはは自分が初対面の男の子の顔をまじまじと見つめていたことに気がついて顔を赤くしていた。そして、志貴が席に着くと、とりあえず食事の前に自己紹介だけしておこうと顔を見合わせた。

 「さて、とりあえず今日からこの家に泊まることになった七夜志貴君だ。」
 「七夜志貴です。行く場所も無いのでこれからお世話になります。」

 そう言って頭を下げる。そしてそれを聞いた後、意地悪そうな笑顔を浮かべ、士郎が話を始める。

 「さて、私と桃子、恭也と美由希はもう自己紹介したから後はなのはだけだな。」
 「え? え~~~~~!!!?」

 いきなり振られてなのはは混乱した。
 それを見て苦笑する志貴。その笑顔を見て顔を赤くするなのは。

 「う~、皆先に仲良くなるなんてズルイ…」
 「ほらなのは、ちゃんと自己紹介しなさい。志貴君が困ってるぞ。」
 「あ、ごめんなさい。私は高町なのはです。聖祥大付属小学校三年生の九歳です。よろしくお願いします、七夜君。」

 とりあえず気を取り直して自己紹介を済ませるなのは。志貴はそれによろしく、と返すと言葉を続けた。

 「呼び方は志貴でいいよ、こっちも名字で呼ぶと家族の皆と混ざりそうだからなのはって呼ぶし…それと、俺もなのはと同じ九歳(のはず)だ。
 まあ、元居た家庭、というか個人的なものだけど、その事情で学校には行ってないんだけどね。」
 「あ、うん。分かったよ志貴君。よろしくね。」

 なのはの笑顔に志貴も微笑む。周囲の四人はそんな二人を微笑ましそうに見つめる。

 「さて、ご飯も食べちゃいましょうか。冷えちゃったら勿体無いものね。」

 そうして志貴はこの世界に来て初めての食事を貰うことになった。…懐にはブルーから貰った金の延べ棒を入れたまま…


あとがき

 これで今の所書き溜めているものの半分を放出です。なるべく早く次を書きたいと思います。

 志貴が敬語なのは一応猫を被っているからです。次第に地が出てくる予定…
 それにしてもグダグダですね…


 文才が欲しい…

4/3 誤字修正+微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 第三話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:32


 第3話 新しい人生の幕開け

 食事が終わった時、志貴はあてがわれた部屋を出る前に懐に入れた金の延べ棒を取り出して言った。

 「えっと、一時期俺の面倒を見てくれた人が 「この先きっと色々入り用になるだろうから、何かあった時に使いなさい」 と言って渡してくれたのですが、このままじゃあ使い道が無いし、これを両替するための知識や年齢的な信用なんてものも無いので、此方で預かってくれると助かります。」

 そう言われても 「はい、そうですか」 とすんなり言える訳が無い士郎と桃子だが、志貴の説得に結局は志貴が大人になるまで預かる、と言う結論で落ち着いた。
 そして、その話し合いの中で志貴が学校に通っていないことが判明したため、こちらは志貴の反論を許さず、なのはと同じ聖祥小学校に一週間後から転入し通うことになった。



 「…なのはの両親は結構強引なんだな。」
 「にゃ、にゃはは…でも、志貴君と一緒に学校に通えるのは嬉しいよ。せっかく仲良しさんになれたんだし、私の友達とも仲良くして欲しいから。」

 食事が終わった後、志貴はなのはの部屋に来ていた。
 なのはに手を捕まれて一緒にリビングから出る時に恭也から殺気が送られてきたが、今まで普通に接していたはずなのに突然殺気を送られる理由が見つからないため志貴はスルーした。

 「いや、確かに学校に通うなんて初めてだし、新鮮だからそれはいいんだ。ただ、その分のお金は俺が持ってきた金の延べ棒を換金したものから出してくれればいいのに、結局は二人の世話になることになった。というのが少し、な…」
 「あ~、まあ、確かに。でも、お母さんもお父さんも気にしてないと思うよ?」
 「…だから、俺が、気にしてるんだが?」
 「にゃはは…」

 苦笑しながら話す志貴に乾いた笑いを返すしかないなのは。その後もたあいの無い話をしてお互い寝ることにした。

 「じゃあ、また明日。おやすみ、なのは。」
 「うん、おやすみなさい、志貴君。」


 なのはの部屋から出た志貴は先程までのことを思い出していた。

 (他の人もそうだが、この家の人間は信用できそうだな。士郎と恭也は俺を警戒しているようだがそれも家族に対する優しさの裏返しなんだろう。
 しかし…さっきの部屋では一緒にいたイタチ…いや、確かなのははフェレットとか言っていたか? あいつから探るような視線を感じた…レンと同じく誰かの使い魔なのか? もしそうならば恐らくマスターはなのはだろうな、馬鹿みたいにでかい魔力を感じたし。
 …ブルー、アンタが志貴に言った言葉は正しいようだ。)

 「…異端の力を持つ存在は異端の力を引き寄せる、か。」

 思考の最後にポツリと呟くと志貴はそのまま恭也の部屋に向かう。
 そこで志貴は恭也になのはの部屋で何をしていたのか根掘り葉掘り問い詰められることになるのだが、それは余談である。


 一方、なのはは志貴との話を終えた後フェレットに変身しているユーノと話をしていた。

 「ねえ、ユーノ君。志貴君どうだった?」
 「うーん、魔力は持ってるみたいだけど僕が知ってるものとはどこか違うのか大きいか小さいかはっきりしないね。
 だけど、彼はきっと魔導師じゃないね、リンカーコアが活性化していないところを見ると魔法を使っているわけじゃないみたいだし。多分、以前のなのはと同じで魔力資質のある一般人じゃないかな? はっきりしないのはリンカーコアが未成熟なせいだと思うし…」
 「ホント? じゃあ、ユーノ君の事は秘密だね。」
 「うん、でも…」
 「? どうしたの?」
 「あ、いや、なんでもないよ。それじゃあ、お休み、なのは。」
 「うん、お休み、ユーノ君。また明日ね。」

 (うん、きっと気のせいだ。彼が僕の正体に気がついてるかもなんてことは…なんか僕のことを警戒してるような気もしたけど、それこそ気のせい…
 ううん、ちょっと見てみただけで片付けられるくらいの感じだったし…魔法を使ってる魔導師みたいにリンカーコアも活性化してなかった…
 でも、もしそれを隠せるような力を持った人だったら…
 駄目だ、漸く怪我から復帰した今、なのはを不安にさせることは出来ない。)

 ユーノの懸念は大まかには当たってはいたが、今後しばらく知られることは無いのだった。



 それから二、三日して、志貴の入学手続きが終わったと桃子から聞かされた。そしてとうとう学校に通う日まで一日になった。

 「…明日から本格的に小学生か…不安は無いが、今まで通ったことがないからなんか変な気分だ。」
 「大丈夫だよ、皆いい人だし、少し前にフェイトちゃんが転校して来たばっかりだから珍しがられることは無いと思うな。」
 「そっか。気を遣わせて悪いな。で、俺のことはもう誰かに話してるのか?」

 志貴のその言葉に顔を引き攣らせて曖昧に笑うなのは、それを見て志貴はやれやれといった感じでなのはに目を向ける。

 「…言ったんだな?」
 「そ、それは…」

 反論しようとするなのはだが目が泳いでいる。最早その沈黙は肯定しているのと大差は無い。

 「言・っ・た・ん・だ・な?」
 「あう…で、でも皆に言いふらしてるわけじゃないよ? フェイトちゃんとアリサちゃん、あとはすずかちゃんにちょっと話しただけで…」

 志貴の語気を強めた言葉に弱気に反論するなのは。
 最後のほうは聞こえないくらいにしぼんでいたが…そんななのはを見て志貴はため息を一つつくと言葉を発する。

 「まあいい。別に俺が困るわけじゃないからな。」
 「そ、それじゃあ、意地悪しなくてもよかったんじゃないかなぁ!?」
 「だが、驚かせようと言っていたのはなのはだろうが。それを話してどうするんだ。」
 「あぅ…だってアリサちゃんとすずかちゃん、すっごく鋭いんだもん…」

 志貴の言葉に再びシュンとするなのは。

 「…はぁ、落ち込ませた俺が言うことじゃないかもしれないが、俺のことを話したのはもう終わったことだ。あまり気にするな。」
 「だ、だって…と言うかやっぱり志貴君意地悪だよ。」
 「…このまま続けば会話がループする気がするからスルーするぞ?
 それに面倒なのは苦手だから細かいことはまた明日だ。
 後、なのは。これが俺の素だからな、今までは初めて会った人達ばかりだから猫を被っていただけだ。慣れとけ。」
 「むぅ、分かりました~。どうせなのはは志貴君に意地悪されるだけだし…」

 何か黒いオーラを出し始めたなのはを見て冷や汗を流しながら志貴は部屋を後にする。もちろん今のなのはに声をかけるのは躊躇われるので黙っていたが。

 「初対面の時だって皆はとっくに自己紹介を終わらせててなのはだけ志貴君のことを知らなかったし、志貴君に何か聞いても冷たく言われるだけだし…
 も~っ志貴君はなのはの事が嫌いかなの!! ってもういないの!
 うにゃ~!! 志貴君がとっても意地悪なの~っ! こうなったら明日きっちり、じっくりと 『お話』 聞かせてもらうの!」

 なにやら不吉なことを言い始めるなのは。
 志貴は恭也の部屋で悪寒を感じていたとか…

 そして翌朝、夜のことを引きずっているのかなのはの周りに黒いオーラが出ており、士郎は桃子と、恭也は美由希と話すことでそちらに眼を向けないようにしていた。
 だが、それを直接向けられている志貴は流石に逃避することが出来ずに、冷や汗をかきながら俯き気味で前髪で目元を暗くしているなのはを見ているのが一人。

 (く、俺が気圧されている!? 何だ? このプレッシャーは!?)

 話す相手もおらず、食事をしないと言う選択肢もないため、我慢しながらテーブルに着く志貴。
 そんな志貴になのはは目元を暗くしたまま声をかける。

 「志貴君?」
 「な、なんだ? なのは。」

 (このプレッシャー、いつぞやの暴走した姫君の殺気に匹敵する! いや、殺気じゃないはずなのにこのプレッシャーを発しているなのはのほうが余程怖く感じる!! 何だ、この得体の知れなさは!!)

 なのはの発するプレッシャーに気圧されながらも何とか言葉を搾り出す志貴。
 対してなのははゆっくりと顔を上げるとイイエガオで志貴に話しかけた。

 「どうして昨日はお話の途中でいきなり帰っちゃったのかな?」

 顔は確かに笑顔だろう。脇から見ている分には天使の笑顔と評されて見惚れてしまっても仕方が無い。
 しかし、その笑顔を向けられている志貴にはそんな余裕は無く空気さえも固まるくらいに重くなった空間で必死に言葉を探していた。

 (ど、どうする!? 周りは既に回避済み。退路は断たれている、現状で俺には回避が不可能。地雷を踏まないように…志貴ならば…駄目だ。奴は確実に自爆する。ならば、適当に話を逸らすか?)

 「い、いや…あの時は夜も遅かったし夜更かししてなのはの目元に隈なんか作らせたくなかったしな。
 とりあえずお休みだけ言って部屋に戻ったのだが…せっかくの可愛い顔に影を作るのもどうかと思ったし…」
 「可愛い?」

 プレッシャーに押されて最早口説き文句に近くなっていることに気がつかない志貴。
 だが、なのはが 『可愛い』 と言う単語に反応してプレッシャーが少なくなったことに気がついた志貴は好機とばかりに続ける。

 「あ、ああ。なのはは可愛いと思うぞ。と言うよりなのはが可愛いと見えない奴は眼科に行ったほうが…」
 「そんなことはどうでもいいの! 志貴君は私が可愛いと思う?」
 「さっきも言ったが…」
 「いいから!!」

 さっきとは別の方向でプレッシャーが増した。それに気圧されて志貴はくりかえした。

 「あ、ああ、なのはは可愛いと思うぞ。」
 「そっか~、えへへぇ。」

 さっきとは一変してご機嫌になったなのはを見て首をかしげながらもホッとする志貴。
 志貴は兄が妹に可愛いと言う感覚でなのはに可愛いと言ったのだが、ここで少し問題が生じている。志貴の外見が10歳ほどになってしまっているので傍から見れば告白に近くなってしまっているのだ。
 証拠として、先程まで眼を逸らしていた4人がこちらを向き男二人は警戒、と言うか殺気を隠そうともせずに睨んでくるし、桃子はあらあらと微笑ましいものを見る眼になっている。美由希に関しては 「なのはにも先を越された!?」 などと言って影を背負っている。
 …コメントは控えよう。それから朝の食卓は混沌としたまま進んでいった。

 (やれやれ、何だったんだ? 今日の朝は。最初はなのはがおかしかったんだがなのはがご機嫌になったとたんに恭也と士郎に睨まれるし…桃子に聞いても誤魔化されそうだな。美由希に…あれは駄目か。何故かは知らんが今はアレに声をかけるなと本能が警告している。
 まあいい、これからは小学生か。ブルー、人形師、宝石翁。貴方達の言うとおり新しい人生を楽しませてもらうことにする。
 まあ、何事も無く大人しくすごせればいいのだがなのはが魔力を持っている以上それは難しいのだろうな。何か相談されるようなことがあれば手伝ってやるとするか。)

 志貴は物思いにふけると、これからすごしていくであろう学校に向かうために準備を始めた。

 そこでなのはに続く第二の魔法少女との出会いがあることを夢にも思わずに…



あとがき

予想以上に感想が多いのに驚きました。批判の声には多少凹みましたが、厳しい声もこれからの糧として頑張ろうと思います。

色々言われるかもしれませんが時間軸はA’sでした。
志貴が天然化!? まあ、遠野志貴の朴念仁は七夜の頃からではないかと思いこんな形に…ああっ石を投げないで! 一応志貴のキャラは天然のイヂリキャラになってもらう予定です。

ついでと言うのはおかしいですが、学校に行くと決まった夜のたあいの無い話とそれがばれた話は外伝として書く可能性もアリですが、今の所予定はしていません。
ただでさえあれなのに、更にグダグダになる可能性が大なので…

それは今は置いておいて、最初は無印に介入させることも構想に入れていたのですが、直死の魔眼を持ってジュエルシード事件に突っ込んでしまうと最初に遭遇した時にジュエルシードそのものを殺しそうになると思ったので避けてしまいました。

それに、無機物との戦いよりは対人の方が志貴らしいとも思ったので…とは言え既にフェイトが転入済み。かなり進んでいますね。
一応構想というか大まかな流れは簡単な設定として書いたものがStSまで言っているのですがそれをいかに二次の文章にして伝えるか…

原作シーンに志貴を入れるのもそうですが、オリジナルの日常シーン、戦闘シーンがうまく作れない…日々精進ですね。頑張ります。

4/3 誤字修正+微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 第四話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:33


 第4話 少女達との会合

 志貴は目の前の状況を見て困惑していた。

 「ねえ、ここに来る前はどこに住んでたの?」「好きな食べ物は何?」「趣味は?」「好きな女の子のタイプは?(ボソッ)」「って言うかむしろフェイトちゃんとの関係は?」

 自己紹介が終わり、担任の言葉で一時間目の授業が自習になったとたんに志貴は周りを取り囲んだ女子達に質問攻めにあっていた。
 殺気があって囲まれるのならともかく、こういった相手が好奇心丸出しの状況の対応に慣れていない…というより、質問をしてくる女子の向こう側にいるなのはから何故か黒いオーラと一緒にいつぞや感じた殺気もバンバン送られてくるために正直やっていられない。

 (ああ、どうしてこうなったのか…)

 志貴はここまでの状況を思い返してみることにした。
 とりあえず、朝食が終わり、何故かご機嫌になったなのはと一緒に家を出て仲が良いと言う三人との待ち合わせの場所まで行くことにした。
 そしてその場所に着いてみると既に三人の女の子が待っていた。

 「アリサちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃん、おはよー。」
 「おはよ、なのは。」
 「おはよう、なのはちゃん。」
 「なのは、おはよう。」

 なのはの挨拶に三者三様に返し、その後に志貴に視線が送られるのだが、志貴は三人の名前は聞いていても写真などを見せてもらっていないため顔と名前が一致しない。
 だが、黙っているのもどうかと思ったのでとりあえず挨拶をすることにした。

 「あ~、おはよう、三人とも。あまり時間が遅くなってもいけないし、自己紹介は登校しながらしないか? 俺としては三人の名前と顔が一致しないから早く自己紹介をしておきたいのだが、だからと言って遅刻するわけにもいかないだろう?」

 志貴の言葉に三人は頷いて歩き始める。

 「さて、三人とも俺のことは一応なのはから聞いてると思うけど、はじめまして七夜志貴だ。名字で呼ばれるのは苦手だから志貴と呼んで欲しい。それに俺も三人のことを名前で呼ぶつもりだからな。なのはから名前だけは先に聞いてたし。」
 「ん、分かったわ。アタシはアリサ。アリサ・バニングスよ。アタシ達だけはアンタのことをなのはから聞いてるけどクラスの皆には言ってないから。まあ、これからよろしくね、志貴。」
 「はじめまして、私は月村すずか。よろしくね、志貴君。私達は皆同じクラスだから志貴君も同じクラスになれると良いね。」
 「はじめまして。フェイト・テスタロッサです。よろしく志貴。私も転校して来たばかりだから学校のことは分からないことが多いけど、一緒に頑張ろう。」
 「で、私が高町なのはです。」
 「「「「知ってる(わ)よ、なのは(ちゃん)」」」」

 自己紹介の最後になのはが名乗ると4人からツッコミが入る。なのははそのツッコミにひるんで落ち込み始めた。

 「うぅ…志貴君だけじゃなくて皆が私をイヂめるよぅ…」
 「…あ~、なのは?」
 「うんっ、何!?」

 落ち込み始めたなのはに志貴が声をかけ、なのはが眼を輝かせて振り向く。
 その勢いに弱冠引きながら志貴は言うべきことを言う。

 「落ち込むのは別に構わんが遅刻しないようにな。」

 しかし、期待したような言葉は来ず、志貴の言葉はなのはを叩きのめした。

 「る~、いーんだいーんだ、どうせなのはなんて…」
 「だ、大丈夫だよなのは。私はなのはの味方だから。」

 黄昏たなのはを見てフェイトが元気付けようとする。なのははそれに幾分元気付けられたように少しだけ復活した。

 「あ、ありがとう、フェイトちゃん。そう言ってくれるのはフェイトちゃ 「フェイトも早く来ないと遅刻するぞ~。」 「あ、うん。すぐ行く。」 ん…うぅ、フェイトちゃんも取られていくよう…」

 救いの女神も志貴の言葉に学校に向かうことになった。なのははしばらく落ち込んでいたが、声をかけてもらえず、気がついたら皆かなり離れていたので焦って追いつくべく走り出した。

 「うにゃ~、待ってよう、なのはも一緒に行くの~。」

 4人がゆっくり歩いてなのはが追いつきやすいようにしたのは少しの優しさだったのだろうか。
 まあ、そうして少し落ち込み気味のなのはと一緒に登校して、志貴は職員室に行くため4人とは玄関で別れた。そして、職員室で担任と会い、先日なのは本人から聞いていたなのはのクラスと同じだということを確認した。
 そして、担任についてクラスに向かう途中、志貴は考え事をしていた。

 (さて、なのはと一緒と言うことは、すずかも一緒か…悪い奴じゃないのは話してみて分かったんだが、どうにも退魔衝動がな…どうも秘密にしているみたいだし、デリケートな問題なんだろうな…仕方が無い。
 志貴にとってのレンだと思えばあまり問題ないだろう、気にしないようにすれば無視できる程度だし、混血…しかもかなり血は薄まっていると見た。
 まあ、普段は気にしないようにして何か言われたらそのときに話すことにしよう。
 それにフェイトのほうも違和感があったんだよな…魔力を使ってる気配があるし、未だ体捌きが拙いとは言え素人じゃないことを考えると多分なのはと大体同じなんだろうな…こっちも何か聞かれたら答えるくらいの感覚で良いか。)

 「あ、ちょっとここで待ってて、私が呼んだら入ってきてね。」

 考え事をしている間にクラスについたらしい。担任が話しかけたことで我に帰ると志貴は担任に向かって頷き、その場で立って待つことにした。

 (結局、殆ど保留と言うことに落ち着いたが…まあいい。あれこれ考えるのは元々得意じゃないんだ。
 それに、殺人貴だった頃の俺はもういない。普通の人間、七夜志貴として生活すれば良いだけだ。)

 そんなことを考えていると、志貴の名前が呼ばれた。
 中に入るとニコニコしているフェイト、なのは、すずか。一方でニヤニヤしているアリサ。他の生徒達は志貴にしっかり注目していた。
 そんな異様な雰囲気の中志貴は自己紹介を始めた。

 「はじめまして。七夜志貴です。学校に通うのは初めてなので色々迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします。」

 そう言って志貴は(無意識に)微笑んだ。その結果、女子(一部男子)が頬を染め教室の時が止まった。
 その空気に触れずに担任が志貴の席を指定する。フェイトの隣だ。志貴は自分にあてがわれた席に向かうと改めてフェイトに挨拶をする。

 「よ、隣になったな。ま、これからよろしくな、フェイト。」
 「あ、うん。よろしく、志貴。転校して来たばかりだからまだ教科書とか持ってないと思うから、そのときは見せてあげるね。」
 「ああ、そのときは頼む。」

 軽く微笑んで礼を言う志貴に周囲の女子は大半が落とされた。そして担任が1時間目を自習にしてしまったところで、志貴の周囲は女子に囲まれた、と。

 ここまで回想しても志貴自身はどうしてこうなったのか理解できない。
 遠野志貴に対してならばともかく、子供の頃や殺人貴として構成された後、七夜志貴に対して男女間の好意を寄せてくる人間が今までいなかったためそれがどんな感情なのか理屈では知っていても理解できないのだ。
 親愛にしては強すぎ、何の愛情なのか全く分からない。戸惑いながら隣を見るとフェイトのほうも志貴に最初に声をかけてもらったと言うことで志貴と似たような状態だった。
 一方で他の知り合いであるアリサやすずかはこの状況を楽しんでいるようだし、なのはに至っては何故か黒いオーラを発しており目を向けるのが怖い。

 仕方なく志貴は周囲に助けを求めるのを断念して質問に答えることにした。

 「昔は○○県の三咲町と言う所に住んでいた。好きな食べ物は…特に無いな、カレー以外ならば大概は食べる。と言ってもカレーが嫌いというわけではないのだが、昔近くにカレー狂いがいたからちょっと苦手なんだ。
 趣味は…特に無いな、強いて言うなら刃物収集か? 好きな女のタイプ、と言うのはよく分からん。誰かを好きになった経験があるわけじゃないからな。」

 律儀に一つ一つ答えていく志貴。
 それからもしばらく質問攻めは続き、(誕生日は覚えていなかったので、恐らく遠野志貴として過ごしたときのそれと同じだろうと当たりをつけてその日を口にした。) そしてしばらく質問が続き、そろそろ時間も押してきた所で唐突に地雷がおかれた。

 「ねえ、志貴君は今どこに住んでるの?」
 「なのはの家だが…」

 置かれた地雷を迷うことなく踏む志貴。と言うよりは置かれた地雷に軽く銃弾…いや、むしろ核弾頭を打ち込んだ。
 勿論無意識で。そして当然のごとく凍りつく教室の空気、だが、そんな状態も長くは続かず、すぐに爆発した。

 『え…ええええええええええええ!!!!!!!!!!??????????』「にゃっ!?」「はうっ!」

 至近距離、全方位からの音波攻撃に志貴の意識は簡単に吹っ飛ぶ。
 声を発していなかった人物のうちアリサ、すずかはこうなることを読んでいたかのように何食わぬ顔で耳を塞いでいたが、塞いでいなかったフェイトとなのはは撃沈した。(だが、なのはは自分と一緒に住んでいると言う志貴の言葉にトリップしていた途中だったのか気絶はしていてもその顔は幸せそうだ。) だが、フェイトはともかく志貴に対する追求はこんな所でなくなるほど優しいものではなかった。
 真っ先に我に帰った女子の一人が気絶している志貴の両肩を持ち、がくがくと揺さぶって問いかける。

 「な、何で? どうして!?」

 先も言ったが志貴は意識が吹っ飛んでいる。そんな状態で肩を揺さぶっても起きることは無い。むしろ脳がシェイクされて死ねる。だが、流石にまずいと思ったのか、アリサとすずかが止めに入る。

 「ちょ、ちょっと、そのまま揺すってたら志貴が死ぬから、一旦放しなさいって。」
 「私達もその理由までは聞いてないから早く聞きたいけど、そのままじゃ志貴君が死んじゃうって。」

 アリサはゆっくりと志貴の方を掴んでいた手をはがし、志貴の頬をはたいて気付けをする。

 「く、俺は?」
 「あ~、起きたわね。」
 「む、アリサか。どうしたんだ? と言うよりどうなっていたんだ?」

 アリサに状況を尋ねる志貴、アリサはちゃんと説明をする。

 「なるほど。しかしまさか俺が声だけで気絶するとはな…」

 アリサの説明に納得がいったが、それでもどこか納得いかないといった様子で志貴が呟く。

 「あはは、凄い叫びでしたから…あ、とりあえず私も志貴君がなのはちゃんの家に住んでる理由を聞きたいです。なのはちゃんは志貴君が来たってことしか話してくれなかったから。」

 フォローしつつも質問の答えが気になるのか志貴に答えを言うように促すすずか。
 それに志貴は頷くと答える。

 「まあ、深い理由は無いのだが、親兄弟が死んで山を彷徨っていた所をなのはの父の士郎さん、後、兄弟の恭也さん、美由希さんに拾われたからだな。」
 「…………………………………………………」

 かなりさらっと言ったため、その意味を皆が理解するのに一瞬間があった。だが、意味が頭に浸透するにつれて皆が気まずい顔になってきた。

 「ご、ゴメン…」
 「ごめんなさい…」

 その空気に耐えられなかったのか最初にその質問をした女子とすずかが謝ってきた。
 その後にも興味本位で聞こうとした生徒が何人も謝ろうとしてきたので志貴は手をかざしてストップをかけた。

 「気にしないでくれ。何年も前の話でもう両親の顔も思い出せないからな。正直今も悲しい、と言うわけじゃない。気にするならむしろ普通にしてくれ。気を遣われるほうが疲れる。」

 そう言ってこの話題を終わらせる志貴。その直後にチャイムがなり、1時間目が終わる。そして2時間目が始まるので何かを言われることは無かった。
 先程の音波攻撃で気絶したフェイトは幸か不幸か午前中は教師に当てられることは無く、志貴にも疲れて眠っていると勘違いされてそっとされていたため4時間目のチャイムが鳴るまで意識を取り戻さなかった。(なのはもずっと気絶していたが、2時間目の途中で先生に当てられて怒られていた。)


あとがき

小ネタの反響に驚きです。(主に批判のほうで…)
まあ、内容が無茶苦茶だったと言うのは自覚していますが、指が進んでしまった上に書いてしまった以上ネタとしてはまあありかな? と思ったのでやってしまいました。

さて、学校に初登校。カレー狂いは遠野志貴の知識にあるシエル先輩から抜粋と言った感じで。

とにかく頑張って続きだ。

4/3 誤字修正+微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 第五話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:33

 第5話 穏やかな時間

 「ねえ、放課後は翠屋に集まらない?」

 昼休み、朝の質問タイムの時に志貴がしれっと暴露した話によって暗くなっていたアリサとすずかになのはが提案した。
 ちなみにこの場に志貴はいない。クラスの男子に引っ張られていたのをなのはは見ている。こっちに呼ぼうにもアリサが沈んでいるので無理に引っ張れなかったのだ。
 まあ、なのはの家に住んでいると言う爆弾発言以降気絶していたフェイトは二人が沈んでいる理由が分からなかったが突っ込み辛かったので聞いてはいない。
 とりあえず志貴に直接聞こうと思っているようではあるが…

 「…そうね、じゃあ、お邪魔するわ。」

 アリサは一瞬考えるも今の状態が良い訳ではないと理解しているのでなのはの提案に乗ることにした。

 そして放課後、志貴は一緒に帰っている少女達の扱いに困っていた。と言っても別に侍らせているわけではない。とりあえず、帰宅中はあまり気にしていなかったが翠屋についてからも変わらず暗い表情をしているアリサとすずかに声をかけた。

 「なあ、どうしたんだ、二人とも?」

 その言葉に少し顔を見合わせ、アリサが意を決したように質問する。

 「ねぇ、朝のHRの質問の時、最後に言ってたことだけど…あれって本当?」
 「ん? どれのことだ?」

 アリサにしては歯切れが悪く具体性も無かったので志貴は聞き返す。それにアリサはばつが悪そうな顔をして具体的に聞くことにした。

 「アンタの両親が死んだって…」

 その言葉に驚いて志貴の顔を見るフェイト、そして表情を少し暗くするなのは。それに気付かない振りをして志貴は答える。

 「ああ、親兄弟、それに親戚も死んだ。七夜の親族の中で生き残ったのは俺だけだろう。」
 「そ、そうなんだ…でもどうして? あ、言いづらかったら別に…」
 「だから気を遣うなと…まあ、一族が滅んだのは10年以上前の話らしいし、最後に生き残った母親が死んだのも俺が3、いや、4歳か? それくらいの頃だ。理由など知らんよ。」

 断っておくが志貴の言葉に嘘は無い。
 ただいつのことかをはっきりさせていないのと、今言った二つの事柄の時期が一緒だと言うことを話していないだけだ。
 それに、殺されたとも言ってはいないし、何より理由は推測であり、知っているわけではない。
 ただ、初めて知ったフェイトは志貴に悲しそうな視線を向けてくる。

 「ええい、そういう視線が苦手だから気にするなと言ってるんだ。質問された時にも同じ事を言った…ああ、フェイトは気絶してたのか…」
 「あう…」

 同情するような視線を向けてくるフェイトに志貴は朝も言ったことだと切って捨てようとして、フェイトが気絶していたことを思い出す。
 自分で自覚していることとは言え気絶していたことを他人に言われるのはかなり恥ずかしい。そのため、先程までの悲しい表情はどこに行ったのかフェイトは顔を赤くした。

 「まあ、気絶してた奴もいるからもう一度言うが、死んだのはかなり前で顔も思い出せない。正直顔も知らない奴の死に対して悲しみを覚えるほど俺は優しい奴でもないし、もう何年も一人だったんだ。気にしなくていい。」

 そう言われてもなかなか切り替えることは出来ない。しばらく志貴を除いた4人は俯いていたがアリサが急に顔を上げる。

 「うん、じゃあこの話はここでおしまい。で、ごめんなさい、志貴。悪いことを聞いちゃった。」
 「だから気に 「これは私なりのけじめなんだから素直に受け取っときなさい。」 む、了解。それなら素直に受け取ろう。
 それと、俺は本当に気にしていないからな。借りとか考えるなよ?」

 頭を下げたアリサに気にするなと言う志貴、この話は本当にこれで終わりにするつもりみたいだ。
 続いて3人も謝ってきたが、志貴はそれぞれに気にするなと言った。そして顔を上げて5人は笑いあった。

 (殺人貴として生まれた俺でも笑うことが出来る。…この世界は温かいな。)

 「よーし、暗い話し終わり! で、志貴、一緒に住んでてなのはのことどう思ってるの?」
 「ん? 可愛いと思うぞ?」

 アリサがわざと明るく、そしてニヤニヤしながら志貴に質問したが、志貴は一瞬も躊躇せず答えた。
 あまりにあっさり言ったのでなのはは顔を赤くし、他の3人はポカンとしてしまった。正直、店内には他に客がいるが、たまたま死角になっていたのか目を引くことは無かった。
 志貴自身は変なことを言ったつもりは無いので妙な反応をした3人に話しかける。

 「どうした、3人とも?」
 「あ、いや、そんなにあっさり答えられるとは思わなかったから…」

 一足早く硬直から抜け出したアリサの言葉にフェイトもすずかもコクコクと頷く。

 「? 別にお前達が困ることじゃないだろう? 本当のことだし、何よりなのはだけじゃなくてアリサやすずか、フェイトも充分可愛いんだし。」

 以前も言ったが志貴は17、8歳の感覚で話しているのであって他意はない。
 しかし、自分の体が9歳の外見をしており、相手も9歳と言うことをすっかり忘れている。
 志貴自身としては4人は年下の少女として可愛いと言っており、そこに恋愛感情は一切無い。
 …無いのだが、傍から見れば完全にスケコマシだ。
 そんな志貴の言葉に頬を染める3人、一方でなのはは少し不満顔。しかし、肝心の志貴が首をかしげているため、アリサはため息をつく。

 「はぁ、素なのね。慣れるしかない、か。」

 頭を抱えるアリサの横ですずかが復活していた。

 「志貴君、あまりそういうことは言わないほうがいいと思うよ。」
 「どうしてだ? 本当のことだろう?」

 そう言ってすずかの頭を撫でる志貴。当然無意識の行動だが妙に手馴れているように見えることは決して考えてはいけない。

 「あぅ…」

 そしてすずか再び轟沈。一方でそれを見ている三人の乙女達の不機嫌度は上がる。
 何時の間に眼を引いたのか、そんな空気を店に来ている客達は微笑ましそうに見守っていた。
 その後も色々話すことはあったが、志貴が誰かを構うたびに他の三人が不機嫌になると言う繰り返しはあまり変化が無かった。

 そして、日が沈みそうになった頃、翠屋に一人の女性がやってきた。

 「あら? フェイトさん、なのはさん、アリサさん、すずかさんじゃない。そちらは…初めましてね。リンディ・ハラオウンです。」
 「初めまして。今日聖祥小学校に転校した七夜志貴です。今日はフェイトに教科書を貸してもらったり見せてもらったりお世話になりました。」

 礼儀正しく挨拶をする志貴だが、それどころではない人もいる。フェイトだ。フェイトは今の台詞の中で記憶にないものがあったことに気付き志貴に問いかけた。

 「ねえ志貴、私、教科書貸したっけ?」
 「ん? ああ、午前中フェイトはあの音響兵器で気絶していたからな。俺の席は窓際だからフェイト以外に見せてもらえないから机の中からこう、拝借します、と言う感じで…」
 「え、ってことは志貴、私の机の中…」
 「ああ、綺麗に片付いていて探しやすかったよ。と言うかそれで御礼をするのを忘れていたな。いや、助かった。ありがとう、フェイト。」
 「あ、うん。どういたしまして…じゃなくて! え? あれ?」

 フェイトは混乱している。顔を真っ赤にしてオロオロしている光景は実に和むがいい加減に落ち着かせないとそろそろ不味い感じだ。

 「…あうっ。」 ぷしゅ~

 処理の限界を超えたのか顔を赤くしながら額から煙を出しながら目を回してしまった。その様子を見てくすくす笑っているリンディ達。
 志貴は少し真面目な顔をして言った。

 「ふむ、少しからかい過ぎたかな? いや、フェイトはアリサとは別の方向でからかいがいがあるな。」

 その言葉ですずかが噴出し、皆が笑い出した。だが、アリサがある一言に気付く。

 「あっはは…っておい! あたしまでからかいがいがあるってのはどういうことよ!」
 「ん? 気づいてなかったのか? アリサは打てば響くように反応が返ってくるから見てるだけじゃなくて実際にからかってもなかなか面白いんだぞ?」
 「そんなこと褒められても嬉しくないわよ!」
 「そういうところが面白いと言っているんだけどな…」
 「っ!? う~~~。」

 自身の失態ではないとは言えやり込められたことに気付いて呻るしか出来ないアリサ。どうにかしようとは思っているのだろうが恐らく無理であろう。
 それがツンデレクォリティだ。
 そうこうしている内にフェイトが復帰した。

 「あれ? 私…」
 「お、起きたか、フェイト。いや、からかい過ぎたな、すまない。流石に俺でも気絶している奴の机を漁りはしないよ。前の奴に頼んで教科書を貸してもらっただけだ。」

 その言葉に自分がからかわれたと気付いたフェイトは少し脹れながら志貴に文句を言う。

 「むぅ、最初からそう言ってくれればいいのに…それに気絶してるの気付いてたなら起こしてくれればよかったのに…」
 「いや、最初は気絶していたから起こそうとは思ったんだが、なかなか可愛い顔で寝てたから起こすのが忍びなくてな。少し観賞させてもらった。」

 その言葉で再び赤くなるフェイト。

 「え、あう…だ、騙されないよ。そ、それもからかってるんでしょう?」
 「む、まあ、俺は確かにそんな悪趣味なことはしなかったが…からかいがいがなくなってきたか…今日はもう引っかからないかな。」
 「あ、明日も引っかからないよ!」

 相変わらず赤い顔のまま反論するフェイト。まあ、明日になればまたからかわれるだろう。
 それが天然クォリティだ。
 冥王オーラを纏った時のなのははからかうのもある意味命がけだし、おっとり形のすずかはからかったつもりでもいつの間にかからかい返されていることになりかねない。
 やはりフェイトとアリサが今後も志貴のからかいの的になるだろう。

 「ふふっ、仲が良くなって良かったわ。志貴君。フェイトさんのこと、よろしくね?」

 そんなことを言ってリンディはマンションに帰って行った。この日は夕方になり、すずかとアリサが塾に行くまで談笑を続けた。


あとがき

眼鏡、復活!
眼鏡、復活!
眼鏡、復活!


…妙なテンションになっていることをお詫びします。眼鏡無しだったのでパソコンに触るのが本当に久しぶりで勢いのまま書いてしまいました。誤字、脱字などがあればどうかご連絡を…

ともあれ、およそ二週間、本当にお待たせしました。あちこち携帯で出来る作業をしながら、他の方の作品に感想を書いたり…一体何をしていたんだと聞かれると申し開きの使用もございません。

今回はほのぼのした日常を目指してみましたがどうにも微妙な感じに…

それにしてもどこで戦闘シーンを入れようか凄く悩んでいます。あまりずるずると引きずると読者の方々には引かれてしまいそうですし…

とにかく次に進まねば、ですね。頑張ります。

4/3 誤字修正+微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 第六話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:35

 第6話 誘拐事件!?

 志貴が転校してきてからおよそ一週間が経った。
 その間、志貴は自身の能力の確認や使用が可能であった分割思考の振り分けを行い日常生活に溶け込んでいたが、ある日の夜、なのはが家に帰ってこず、翌日に学校に行くとフェイトも休んでいた。
 二人とも魔力を持っていることは知っていたが二人揃って休むというのは少し不自然な感じがしたので昼休みに志貴は授業中文句を言わずに二人分のノートをとっていた二人に声をかけた。

 「なあ、アリサにすずか。なんか二人は二人分のノートをとる事に慣れてるみたいだけどなのはやフェイトはよく休んだりするのか?」
 「え? あ~、フェイトはアンタと同じで転校してきたばかりだから知らないけどなのはは今年になってからちょっと増えたかな? ねえ、すずか?」
 「うん、前もそうだったけど今回も何か悩んでることがあるみたいだけど待つことにしたの。この間はフェイトちゃんを紹介してくれたし今度も何かあるんだろうな、って。」
 「前のなのはの時は私達が交互で取ってたけど、フェイトが入ってからは二人分だし、二人でそれぞれの分を取ってあげようってことになったのよ。」

 二人の言葉にはなのは達に対する信頼が見えた。そして午後の授業でもノートをとる二人を意識の端に置きながら志貴は考え事に集中していた。

 (…多分ではあるがあいつらが休んだ原因はあいつらが持っている馬鹿でかい魔力関係だろうな、どこかに出て行った気配はあったし家の人間も気付いていながら黙認してるみたいだしな…
 なのはやフェイトには魔術回路の存在は感じなかったから恐らくは魔術以外の、この世界の魔力行使方法で魔術を使っているんだろう。
 そうなると多少なりともズェピアの魔力を宿した俺も速かれ遅かれ巻き込まれるか…とは言え積極的に巻き込まれに行く気にもならないな。
 なのはが帰ってこないことには多少の心配はあるが、とりあえずはこのままの生活を続けるか。)

 幸い午後の授業で志貴が指名されることは無かったので何事も無く放課後になった。
 志貴は帰る準備をしている途中でアリサに捕まり、そのままアリサに引っ張られながら正門に向かった。それを見ていたすずかは苦笑していて、志貴は諦め顔だった。
 周囲の男子の刺すような視線に晒されながらも志貴は二人と一緒に帰るため正門を出る。
 その直後、門の内側から死角になっていた場所に停めてあった車から覆面をかぶった数人の男が現れ一瞬のうちにすずかを抱えて車に乗り走り去っていった。
 周りの生徒達はあまりにも現実離れした光景から呆気に取られたままであったが、その中で志貴は一瞬思考を止めてしまったが、流石にそのまま呆然としているような生易しい精神をしてもいなかった。

 「(チ、自分に敵意が向いていなかったとは言え俺が視線を向けられていることを見逃してしまうとはな…たった一週間とは言え少しぬるま湯につかりすぎたか…) アリサ! 俺はあの車を追いかける。お前はすずかの家に連絡を!」
 「え、ちょ、アンタ、追いかけるって言っても相手は車……って、嘘……」

 アリサは志貴の言葉に呆けていた意識を取り戻しツッコミを入れかけたが、その眼に入ったのは電柱を一気に駆け上っている志貴だった。電柱の頂上に着くと志貴は周囲を見回した。

 (タタリの知識にあったマント硬化の応用で身体能力全般を強化できるのは幸いだったな。車を探せるし何より七夜の体術と併せれば最短距離を進めるから道なりに進んでいる車にも追い着けるしな…見つけた。)

 電柱から屋根へ、そしてそのまま視界から消えていった志貴をしばらく呆然と見送っていたアリサだったがすぐに我に帰り月村の家に連絡を入れる。

 『はい、月村です…』
 「ノエルさん!? 私アリサです! それで、すずかが攫われたの! ナンバーははっきり見てないけど黒いミニバンだったわ。クラスメートの男の子が追いかけたけど…」
 『アリサ様ですか? すずか様が攫われたのですね? 分かりました。アリサ様はそのままお帰り下さい、アリサ様も御身を狙われる立場なのですから…それですずか様を追いかけているというクラスメートの方の御名前は…』
 「志貴。七夜志貴よ。」
 『志貴様ですね? お二人のことはお任せ下さい。』

 アリサの剣幕に対しても冷静に対処するノエルと呼ばれた女性が興奮しているアリサを落ち着かせるように話す。
 その会話でアリサは少しは落ち着きを取り戻したが、だからと言って 「ハイ、そうですか」 と引き下がるほど大人ではなく、しかしながらそれでも自分がいても事態は進展することは無いことが理解できる程度には子供ではなかった。
 結局、何も出来ないがじっとしていることは出来ないのでアリサはノエルに対して質問を投げかけた。

 「あの…そっちに行ってすずかと志貴の帰りを待ってても良いですか? 何も出来なくても連絡が来るまでじっと待っていられなくて…」
 『…はい、構いません。ファリンを迎えに行かせましょう。』

 そう言って電話は切られたが、アリサは携帯を胸の前で握ったままへたりこんでいた。

 一方、全力ですずかを追いかけていた志貴だが分割思考の一つに押し込めたズェピアの部分が冷静であるため一応の認識阻害の魔術は使っていた。
 流石に空を飛ぶ小学生として認識されて奇異の目で見られたくは無かったのだろう。

 (すずかを攫った理由としてはすずかから感じる人外の気配が関係してるんだろうな、他に理由は考えられないし…
 だが、どんな理由があっても目の前で漸くできた友人を攫われて大人しくしていられるほど人間は出来ていない。すずかに掠り傷一つでもつけていようものなら生き地獄を味あわせてやるか…)

 すずかやアリサがお嬢様だということをまだ聞いていない志貴は攫われた原因を自身の退魔衝動を理由に判断していた。
 内心で物騒な思考をしながらも速度を落とすことは無く、まもなく目的地に辿り着いた。

 (さて、すずかが無事であれば別に他の連中がどうなろうと俺の知ったことじゃないんだが…流石にすずかの前でスプラッタは不味いか…
 とりあえず、すずかがいる部屋の奴は首の骨を挫いておこう。完全には折らないがそれで死ぬかどうかはそいつらの運次第だ。)

 そこまで考えると志貴は外壁を駆け上がり、すずかの気配がするフロアの空き部屋の窓から侵入、気配を消し廊下の様子を伺う。

 (扉の前に気配が二つ…階段側に一つ。こっちは踊り場と往復してるから下り始めた瞬間が勝負か…)

 自身の感覚を研ぎ澄ませ、階段側の気配が下り始め、扉側の意識がこちらに向いていないと言う最高のタイミングで志貴は行動を開始した。
 壁から天井へ、そして扉の前の二人の頭上に来ると片方の首を蹴り砕く。そしてそいつが倒れる前にもう一人の首筋に飛びつき口を塞ぎながらこっちの首の骨も折った。
 とりあえず倒れた音で気付かれるのもバカらしいので倒れそうになった男を支え壁に立てかける。もう一人も同じようにして志貴は階段側の男から見つからないように殺した男の影に気配を隠して中の様子を伺った。

 (さて、中には…気配は四つか…一つはすずか、一つはリーダー格だろうな。残りは…窓際に一つ、扉のそばに一つか。すずかに一番近いのはリーダーか…何とかなるか…)

 そこまで考えて行動を開始しようとした志貴の耳にリーダーのものらしき声が聞こえてきた。

 「ククク、漸くだ…漸く、この化け物どもを殺すことが出来る…まずはこの餓鬼からだな。」

 対象が複数形だったその言葉に疑問を抱く前に銃を構える気配がしたため志貴は今まで考えていた段取りなど関係無しにこっちに来る時に開眼した魔眼を発動させ、扉を切り殺し、刃をしまった後扉の近くにいた男の脇腹に在った点を抜き手で突いた。
 そして一瞬ですずかを抱え銃の射線から身をかわす。直後今まですずかがいた場所に銃弾が打ち込まれるが、既に退避した後だったので誰も傷つくことは無かった。
 志貴はすぐに魔眼を閉じ、銃を撃った男をにらみながら口を開いた。

 「全く、俺の友人に何してんだ?」
 「え…志貴、君?」

 一瞬の出来事に意識が着いていかなかったすずかだが、最近になってよく聞くようになった声に現実に引き戻され、思わず眼の前にいる新しい友人の名前を呟いていた。

 「遅くなったか? 一応アリサにすずかの家に連絡を入れてもらってるけど… 「貴様…その化け物の仲間か?」

 すずかに話しかけている途中で割り込んでくる空気の読めない男に志貴はゆっくり振り向く。化け物、その言葉を聞いた時に体を硬直させたすずかのことは今はとりあえず気にしないことにした。

 「化け物…それはすずかのことか?」
 「そうだとも。その小娘は人間ではない。夜の一族と言われる吸血鬼の一族なのだよ。だからこそ、この人間の世界に化け物どもは不要。今回の誘拐で弱みを握り、将来的には一族を根絶やしにしてくれる!」

 最初から金銭目的ではなく、殺す気だったと堂々と言う。そしてそれを話したということは志貴も生かして帰す気はないということだろう。
 志貴はそんな男を呆れたように見てそのまま無視するように後ろで震えているすずかに振り返り、ゆっくりとその頭に手を伸ばした。
 すずかはビクッと体を竦ませたが志貴はその頭に手を乗せ優しく撫でたため、すずかはキョトンとした顔を志貴に向けた。

 「すずかが人間だろうがそうでなかろうが俺の友人であることに変わりは無い。すずかはすずかだろう? それに、俺にはこんな子供に手を出すあんた達のほうが余程人でなしに見える。」
 「ふん、貴様がなんと言おうと意味は無い。そこの化け物と一緒に貴様もここで死ぬのだからな。」

 そう言って一度下ろした銃を今度は志貴に向かって構える。だが、この場でそんな悠長なことをする隙を志貴が見逃すはずも無い。
 ポケットから短刀の柄を取り出しながら銃を構えた男に走り、男の手首を蹴りぬく。そしてその手から零れ落ちた銃を空中で奪うとを最早空気となっていた窓際の男に投げつけ、銃を持った右手首に当てた。そのまま投擲の為に身を捻った反動を利用して最初に向かった男の顎を踵で蹴りぬき意識を刈り取る。着地と同時に窓際の男に向かって駆け、懐に入るなり投げ飛ばした。背中から叩きつけられた男は追撃の短刀の柄による一撃を鳩尾にくらい、肺から空気を吐き出しそのまま意識を失う。
 志貴は二人が意識を失っていることを確認して最後まで刃を出さなかった短刀をポケットにしまいこみすずかに話しかけた。

 「大丈夫だったか?」
 「あ、うん。」

 すずかは呆然としていたがこの建物内にいる誘拐犯たちを全員気絶させたわけではないし、何よりすずかの前で凄惨な殺しをするつもりは無いので (最初の一人は死の点を突いて殺してしまったが見た目には脇腹を貫手で突いただけであり、血も殆ど出ていないのですずかの目には死んだようには見えていない。) 長々とここにいることは出来ない。
 正直投げた銃が暴発しなく、これだけ戦闘行為を行っても他の人間に進入を気付かせなかったのは奇跡に近いだろう。

 「さて、ここにいつまでもいる訳にもいかないし、まずは大通りまで行こう。歩けるか?」
 「えっと…う、こ、腰が抜けちゃって無理みたい。しばらく休ませて貰っていいかな?」

 志貴の質問にすずかは顔を赤くしながら答える。その答えに志貴は少し考える仕草をするとすずかに近づき膝裏と背中に手を入れて持ち上げる。
 所謂女の子の夢、『お姫様抱っこ』と言う形だ。志貴が本来の肉体なら絵になるのだろうが、いかんせん今は9歳児の体格だ。志貴が一生懸命抱えているようで微笑ましくしか見えない。
 まあ、実際は強化をかけているので軽々抱えているのだが。

 「ちょ、志貴君!?」
 「ん? 大人しくしててくれ。すずかが歩けない以上こうするしかないだろう?」
 「で、でも恥ずかしいよ…せめて背負うとか…」

 最後のほうは消えるようになってしまい志貴の耳には入らなかった。

 「まあ、俺なんぞに抱き上げられるのは不本意だろうし確かに恥ずかしいだろうが我慢してくれ。落ち着いた場所に行ったら下ろすから。
 ただ、俺も忍び込んできた立場だから時間が惜しいし、何よりこっちの方が背負うより気を使わないで良いから楽なんだよ。」
 「ううう……はい…そういう意味じゃないのに~」

 すずかは何か言いたげではあったが志貴が完全に善意から言ってくれたことは分かったので大人しくすることにした。
 もちろん最後の言葉は小声であったため志貴の耳には届いていない。そして志貴たちが大通りに着いたとほぼ同時にノエルが運転している車がやってきて二人を見つけた。

 「すずかお嬢様! よくぞご無事で…」

 ノエルと忍は二人に駆け寄ってきた。しかし、忍はすずかが無事だと分かるとホッとした表情をしながらもニヤリとして子悪魔の表情になった。

 「あらあら、すずかったら男の子にお姫様抱っこされるなんてやるわねぇ。私もいつか恭也にしてもらいたいわ~。」

 (ん? 翡翠の声? こいつはこんなにテンションが高かったか?)

 志貴にとっては以前聞いたことのある声だったのでそちらに顔を向けるとすずかと同じ髪の色をした女性が居た。
 その女性はからかいを重視したような言い方をしていたが最初にホッとした表情をしていたのを見た志貴からすれば明らかにホッとしたことを悟られないための照れ隠しではあった。
 だが、顔を真っ赤にして顔を伏せたすずかは気付かない。
 まあ、その反応を見たいが為に面白がっているという点も完全には否定できないが…そして車の中で詳細とまでは行かないまでも志貴やすずか視点でのあらましを聞いた忍は志貴に向かって問いかけた。

 「ねえ、志貴君。今回のお礼に家で夕ご飯を食べていかない? なのはちゃんの家には私が恭也経由で連絡を入れておくから。
 アリサちゃんも心配して家で待ってるしファリンもアリサちゃんと一緒に留守番だから志貴君のことを紹介したいし…」

 穏やかな口調と表情とは裏腹にその眼は笑っていない。その眼を見て志貴は言葉の裏にあるものを読み取ろうとしたが情報が少なくどうしようもない。
 好意は無いにしても少なくとも敵意は無いことが読めたのは僥倖ではある。

 「良いですよ。好意は受け取ることにします。(恐らくは化け物…いや、夜の一族と言う単語が問題なのだろうが、それで俺に何かしようという感じではない。別に構わないだろう。)」

 志貴の隣ですずかが何か言いたそうにしていたが志貴はとりあえずすずかの家に着くまでは保留することにしたため、今はあえて無視することにした。


あとがき

はい、ご都合主義で進ませていただきました。戦闘シーンにすらならない上に無双…恐ろしく賛否両論が分かれるであろう展開なので読者の皆様の反応が怖いです。
それに口調の方もあの独特な芝居がかった口調にならなかった…そっちの方は実力がある人達との戦いではちゃんとするつもりなので今回はどうかご容赦の程を…

そして今回初めて出してしまった声優ネタ。ネタと言うほど引っ張ってはいませんが七夜が翡翠の声を知っているのは知識としてではなくタタリの夜にちゃんと会っているからです。
一応出会った人物は作者がアーケードモードをクリアした時に対戦した相手と同じだと仮定します。

1、 翡翠
2、 蒼崎青子
3、 ネロ・カオス
4、 アルク
 5、 紅赤朱 秋葉
 6、 都古
 7、 白レン
 8、 ワラキアの夜
 9、 吸血鬼シオン
 10、 軋間 紅摩

と言う感じで。志貴絡みの声優ネタもあればこの中と志貴をこの世界に送った三人の中から引っ張ってこようと思っています。まあ、使えるのは翡翠、アルク、白レン辺りくらいかなぁ…

それ以外の声優ネタは作者(自分)が思いついて更に無理が無い程度に入れていく予定です。特にアリサは似たキャラ(ツンデレ)が多いので使いやすい。
まあ、私には使う場面が思いつかないのですが。
とりあえず日常を長くするかA’s編が終わった後のStS編に向かう間の話し辺りで何か考えてみようかとは思っています。

4/3 誤字修正+微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 第七話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:35

 第7話 暴露話

 「志貴! すずか!」

 月村の家に着くのとほぼ同時にアリサがすずかに抱きついた。あまりに心配だったのか目の端には涙も浮かんでいる。後ろで見ているノエルとは違うメイド (志貴は恐らくこの人物が車内で聞いたファリンだと辺りをつけた。) も目元をハンカチで拭っている。
 アリサが落ち着いて家に戻り、志貴が月村家で食事を終えると恭也がやってきた。そこで忍はノエルとファリン、すずかを交えて話を切り出した。

 「さて、志貴君。とりあえず選択肢をあげるから選んでくれる?
 まずは今回の事件に関わることを全て忘れて普通に暮らすこと、次にさっきと同じように全てを忘れてもらうけどこの町から出て私達に今後一切関わらないこと。最後に私達の秘密全てを聞いて私達の身内として全部を内緒にすること。」
 「…記憶を操作されるのは真っ平だな。そもそもその系統の術が今の俺にどれだけ有効か分からないが…その選択ならば最後のものを選ばせて貰おうか。」
 「術で忘れさせるって言うわけじゃないんだけど…そういう術があるのかどうかも怪しいし…
 だけどまあ、あなたの選択は分かったわ。じゃあ、まずは聞いたとは思うけど私達は純粋な人間じゃない。夜の一族と呼ばれる吸血鬼の一族。
 でも伝説にある吸血鬼のような力なんてない、ただ普通の人よりちょっと基本的な身体能力が高くて頑丈で長生きなだけ。
 その代償に私達は遺伝子の問題で体内で鉄分を生成できないの。だから人の血から吸収する必要があるんだけど…条件として異性のものじゃないといけないの。とりあえず今出来る説明はこれまでだけど…」
 「ああ、大体の事情は分かった。まあ、身内といっても俺には身内がいないし月村家に養子としてでも入ればいいのか?」
 「あ~、年齢が近いから志貴君にはすずかの婚約者にでもなってもらおうかなと思ったんだけどそれもいいわね…それにしても身内がいないって言うのはどういうこと?」
 「ん? すずかから聞いてないのか? まあいいか。そっちも秘密を話してくれたことだしこっちも高町の家の人にも話していない俺自身の秘密でも少し話そうか。」

 志貴の秘密と言うことで全く知らないノエルにファリン、忍は言うに及ばず、高町一家にも言っていない秘密を持っていることを知らなかった恭也とすずかも志貴の言葉に耳を傾けた。

 「まあ、大したことじゃないが、質問は話し終わった後で受け付ける。途中で切ると忘れそうだからな。
 …まず、俺はこの世界の住人ではない。平行世界、所謂パラレルワールドと言う所から来た。ああ、すずかや恭也さん達に以前話した俺の親兄弟、親族が皆死んだというのは事実だ。正確には殺された、というのが本当だがな。」

 だんだんと物騒になっていく志貴の話に忍たちは質問したそうにしていたが志貴が最初に釘を刺していたので黙って聞いていた。

 「まあ、そのことを知ったのは極最近だけどな。一族を滅ぼした奴らのリーダーが自分の息子と同じ名前だからと俺を拾ったらしい。もちろん俺の記憶を改竄してだ。
 で、そいつが死んだ後、俺の記憶が戻ったのは良いんだが今度は一族同士のいざこざとは別の理由で俺が死にそうになった。
 そこに通りがかったわけじゃないがたまたまそこにいて俺が死にそうだということを知った昔の恩人が来てこれからは普通の人生を送れなんて言われてこの世界に放り出されたわけだ。
 まあ、行くあてが無かったからこっちに来てすぐに恭也さんたちに拾われたのは運が良かったと言うしかないんだが…」

 あまりにも重い志貴の話に暗い雰囲気になりかけるが、そこに忍が質問をした。

 「ねえ、嘘は言ってないと思うんだけど質問。君はどうやってこの世界に来たの?」
 「ああ、俺の世界に五人しか存在していない魔法使いの人の力だ。ある程度自由に平行世界を行き来することが出来るらしい。」
 「魔法使いか、そんな人もいるんだね。じゃあ、次の質問。君はどうやってそんなに強くなれたの?」
 「…一族の業、だな。物心つくころにはある程度一族に伝わる技を使えたし、使えなかった技も記憶には在る。一族に伝わる技だからそれを使うのにふさわしい体は生まれた時から出来ていた。そのためだけに近親交配を繰り返したような一族だからな。
 記憶が戻ってからは昔使っていたときとのリーチの違いに戸惑ったし今も完璧じゃない、流石に何年も経つとその頃よりリーチが長くなるしその間技を使ってないものだから感覚どおりに使えない。だから今は技を磨くより自分の有効射程を調べている最中だな。
 とは言えそこらのチンピラとか裏の事情に詳しくないヤクザ程度じゃあ相手にもならないけどな。」

 質問の応酬が終わった所でそこにいた人は一息ついた。そこで志貴は今気付いたという風にすずかに話しかける。

 「ああ、すずか。血が欲しかったら俺の奴をあげるから何時でも言ってくれ。それにこの家の養子になる可能性もありそうだしな。」
 「あら、すずかの婚約者は嫌?」

 志貴の言葉に忍が茶々を入れる。その言葉にすずかが不安そうな顔をするが志貴はすずかの頭を撫でながら否定する。

 「そうじゃない。さっきも言ったが俺はこの世界の住人じゃない、ということは戸籍が無いって言うことだ。つまり俺が婚約者になってもこの世界じゃ公的には結婚を許されないって事だから。」
 「ああ、成程。」

 志貴の言葉に相槌を打つ忍だがさっきから結婚だの婚約者だの言われている上に志貴に頭を撫でられているすずかはもうこれでもかといわんばかりに顔を赤くしている。
 そこを恭也が納めようと言葉を発した。

 「そこまでにしておけ忍、志貴。とりあえずこの年齢で婚約者や結婚は早いだろう。友人として秘密を護らせれば良いだろう。
 それに志貴のことはなのはだけじゃなく父さんも美由希も母さんも気に入ってる。家からそうほいほい連れて行ってくれるな。」
 「はーい。」

 恭也の一言でこの場は収まったが、志貴を見る恭也の目はまだ厳しいままだった。その視線を受けたまま志貴は恭也に対して口を開く。

 「恭也さん、何か聞きたいことがあれば聞いてくれ。俺が分かっている範囲でなら答えるから。そう警戒されたままだと精神的に参りそうだ。」
 「…先ほど君は一族の業だと言った。見たところ得物はポケットに入っているナイフくらいだが、ナイフ使いの一族なのか?」
 「へぇ、なかなか鋭い所を突いてくるな。だが、それは外れ。俺の一族は暗殺者の一族。ナイフはその手段であり、本来の分類であれば体術という所か。
 俺の一族は武器は使うがこれといったものは無いし、そもそも武器の有無やその種類の違いで技の内容がそうそう変化することはありえない。
 俺たちが使う武器と言うのは単純に自分達の体術が生かせる上で自分の手に馴染むものを使っているというものだけだ。」

 以前と同じように嘘は言わずに肝心の所をぼかして伝える志貴。
 流石に退魔の一族などと伝えたら忍やすずか辺りからどんな反応が返ってくるかわからない。
 それ以前に暗殺者の習性と言うべきか自身の手札を容易に晒したりはしない。志貴の言葉にある程度納得いったという感じの恭也を見て志貴は全員を見回す。

 「さて、質問はもう無いか? 俺としてはこの話は自分が信用できると判断した上に裏の事情に通じている人間には自分で話したいと思っているから他言無用に願いたいのだが…」
 「あ、それは大丈夫だよ。互いが互いの秘密を知っちゃったわけだしこっちが一方的に話すつもりは無いよ。牽制みたいになっちゃうのは嫌かもしれないけどこの話はここだけのこと、と言うことで。」

 志貴の言葉にすぐに答える忍。二人がここにいる一同に目を向けるとそれぞれ了解の意思を示していた。
 それで話も一段落したことで志貴は改めてすずかに向かった。

 「すずか、一応信用はしてくれていると思うが契約の代わりだ。俺の血を吸ってくれ。」
 「え、えええっ!?」

 突然の提案に驚きを隠せないすずか。すずかにとって志貴のこの提案は目の前に地雷を設置されたくらいの衝撃を与えた。
 だが、志貴の顔は至って真面目だしからかっている雰囲気は無い。
 忍は面白くなってきたと言わんばかりに目を輝かせているしノエルとファリンに至っては読まなくてもいい空気を読んで退室しようとするくらいだ。
 …恭也は頭を抱えていたが。

 「む、皆がいるとやりにくいか? じゃあ、誰も見ていないところでも構わないが…」
 「え、あ、う…」

 更に爆弾投下。すずかの顔は真っ赤だ。
 すずかが喋れるようになる前に忍は先手を取った。

 「じゃあ、今夜はここに泊まらない?」
 「良いのか? 迷惑なんじゃ…それに高町の家への連絡も…」
 「そっちは私から連絡入れとくわ。ね、恭也もそうしなさいよ。」
 「む、まあいいだろう。じゃあ、志貴。こっちの心配はするな。」
 「分かった…」

 ある意味話の中心であるすずかを放置して話は進んでいく。
 すずかはずっとアウアウしていたが気を利かせたのか忍のいたずらに同調したのかファリンによって部屋に連れて行かれ、志貴と二人になってから漸く我に帰った。

 「ん、正気に戻ったか。で、どこから吸うんだ? 指か、腕か、それとも首筋か?」
 「あ、えっと出来れば首筋で…じゃなくて志貴君、本当にいいの? ってもう肌蹴てるし!」

 ポロリと本音が出たすずかだが、すぐに気を取り直そうとした。
 まあ、志貴が首筋を見せるように上着を肌蹴たことでまた慌てることになったが。そんなすずかを志貴は珍しいものを見たという目で見ていた。

 「な、何?」
 「あ、いや…すずかがツッコミをする光景が珍しくて…」
 「…そうさせてるの志貴君だよね?」

 そう言いながらうなだれるすずかを志貴は微笑ましそうに見た。

 「む~、アリサちゃんの気持ちが少し分かったかも…」
 「ククク、いや、すずかは可愛いな。…それにからかいがいもある。」
 「え…?」

 志貴の可愛いという言葉に再び赤くなるすずか。(声が小さかったせいで後半部分は聞こえていない。) だが、志貴はそんなすずかの様子を気にすることなくすずかに話しかけた。

 「そろそろ吸わないか? このままでいると流石に風邪をひきそうだ。」

 志貴の言葉で現実に引き戻され、少し頬を膨らませながら志貴の首筋に口を近づける。

 「吸うって表現は嫌だな…それと、本当に良いんだよね? 後で駄目だって言われてももう知らないよ?」
 「自分で言ったことだ。責任は持つさ。」

 短いやり取りの後すずかは志貴の首筋に噛み付き志貴の血を飲む。そこまで長い時間ではないが、言葉を発さずにいたため実際より長く感じた一分弱。
 首筋から離れたすずかは志貴と向かい合った。その顔は何故か真っ赤だったが。

 「? 何故顔が赤いんだ?」
 「え、あ…うん、ちょっとね。志貴君の血が美味しかったから…」

 最後の言葉は顔を伏せてしまったため少し小さくなったが志貴の耳にはしっかり届いていた。

 「そうか、だけどあまり度々飲まないでくれよ? 流石に貧血で倒れるのは勘弁して欲しいからな。」

 志貴の言葉に先ほどまでとはまた別の理由で赤くなるすずか。少々飲みすぎていたらしい。もちろん志貴はそんなすずかの表情にツッコむことはせずはだけた上着を着なおしていた。
 あまりにも普段どおりの志貴の行動にすずかは少し不満顔になる。だが、すぐに何か思いついたような顔になるとゆっくりと志貴に近づいていく。
 当然志貴は気付いていたが敵意も何もないので放っていた。
 すると、突然志貴の目の前にすずかの紫色の髪が広がり、口に違和感を感じた。

 「…!?」
 「…ん…」

 志貴が現状を把握して少し慌てるとすずかは溜飲を下げたのかご機嫌だ。

 「えへへ~ご馳走様。からかったお返しだよっ。後は、助けてくれたお礼っ。」

 そう言うとすずかは顔を真っ赤にしながら布団に潜り込みその肩を規則的に揺らし始めた。

 (やれやれ、照れるくらいならやらなければいいものを。まあ、礼と言うのならば受け取っておくか…)

 内心で愚痴りながら志貴も今のすずかには何を言っても意味がないということを分かっているのかすずかの隣に並び布団に入った。
 だが、すずかは緊張と興奮でなかなか眠れずに寝た振りをしていただけだが志貴は普通に寝ていたので翌朝のすずかが少し不満顔だったのは余談だ。


あとがき

猫ネタをどこに入れたらいいのか分からない…

あと、七夜志貴が遠野志貴と同じように朴念仁なのはぶっちゃけデフォルトです。
不安を具現化したとは言え、結局同一人物なのだからこうなるのでは?
と言う作者の妄想だと考えてください。

後、直死の魔眼についてツッコミが多かったので弁解を…
直死の魔眼で点を突かれると霧消するということですが、調べた結果別にそういうわけでもないようです。
あくまで死んだ結果がそこに現れるわけですから、霧消したのは点を突いたのが死徒、もしくは死者であるため殺した結果身体を構成できなくなり霧消したのではないかと…(コミック、ゲームの中で志貴が殺したのは死徒と死者、そして渡り廊下とグラウンドでしたか…)wikiでは存在が終わった状態、生命活動の停止や魂の消滅、物質の結合の崩壊などが起こると書いてありましたので、やはり、霧消したのはこの魂の消滅に当たるのではないでしょうか。(渡り廊下、グラウンドを殺した時に霧消してしまったら大変なことになりますし…)
前回殺したのは生きている人間でしたので生命活動の停止のみ、ということにさせて頂きました。

ツッコミが無ければスルーしていたことだったので、ラレ様、うろんげいん様、知らせていただいてありがとうございます。
今後も何か気になったことがあればドンドンツッコミを入れてください。調べなおして謝罪と訂正、もしくは言い訳させていただきます。

4/3 誤字修正+微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 第七話後編?
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:36


 第7話後編(蛇足の番外編とも言う…)

 志貴が月村家に泊まり、朝目が覚めるとすずかがいるであろう右手側だけでなくお腹の上にも重みを感じた。

 (ん…? 何だ?)

 一瞬で意識を覚醒させて右腕を見るとすずかが抱きついており、腹部には三匹の猫が丸まっていた。

 「…志貴はレンで慣れていたのだろうが俺が気付かないとは…やはり警戒が薄れているのか?」

 志貴にしてみればすずか以外いなかったこの部屋に誰もいなかったはずなのに、害意が無いとはいえ何者かが入ってきたことに気付かなかったことにショックを受けていた。
 更に猫達を退かそうとしても右腕はすずかがしっかりと抱きついており、放す気配も無いので起き上がることも猫を退かせることも出来ない。

 「せめて時間が確認できればこのままでいいかどうかの判断もつくんだが…」

 寝ている上に身動きが取れない状況ではどうしようもない。志貴はどうせ起きる時間になればメイドが起こしに来るのだろうと考えとりあえずは放置することに決めた。
 すると、志貴の上にいた猫達の内の一匹が志貴が起きたことに気付いたのか目を開けており、そちらを見た志貴と目が合った。

 「ニャ~」
 「ん、おはよう。」

 一匹が鳴いたのをきっかけに他の二匹も起きてくる。志貴はそれぞれに挨拶をしつつ、空いている左手で喉を撫でてやっていた。
 三匹がそれを気に入ったのか、それぞれ構ってくれと舐めてくるのだが、いかんせん今の志貴には自由になる手が一本しかない。どうしようか悩んでいるとドアがノックされる音が聞こえた。

 「失礼します。すずか様、志貴様。起きる時間ですよ。」

 その声で志貴は在る意味助かったと思ったが猫達にはそんなことは関係ないらしい。そんな声は聞こえない、今は至福の手を離さないと言わんばかりに志貴に構ってくる。
 一方、外にいるメイド(ファリン、と言ったか?)は反応が無いことを確認すると部屋に入ってきた。

 「あれ? 志貴様はもう起きてらっしゃるんですね? おはようございます、志貴様。」
 「ああ、おはよう。ファリン、と言ったかな? とりあえず俺は少し前に起きたんだが、猫が構ってくるのとすずかが右手を放してくれなくてな。時間はまずいのか? もしそうならすずかを起こすが…」

 お互いに朝の挨拶を済ませると志貴はすずかの対応をどうするかファリンに質問する。だが、ファリンは少し思案すると顔を横に振った。

 「いいえ、いつもすずか様がお起きになられている時間ではありますけど、特別時間に余裕がないというわけではありませんので、どうかそのままで。
 ですが、いつもならすずか様ももう起きてらっしゃるんですけど…とにかく忍様にどうするか聞いてきますので。」
 「な、おい、ちょっと…行ったか。彼女はもう少し落ち着いてもいいと思うんだがな…」

 現状が打破できないことが分かった志貴はとりあえず問題(と言うほどのものではないが)は置いておくことにした。それからしばらくした後、扉の向うに誰かの気配がするのを感じた。

 「(この気配は…)忍、と言ったか? 覗いてないで入ってきたらどうだ?」

 その言葉に外にいる人物は一瞬ビクッとしたようだが極力音を立てないようにして入ってきた。

 「もう、何で気付いちゃうかなぁ。」
 「昨日、俺の生い立ちについては話しただろう。人の気配には敏感なんだよ。」

 むくれる忍に志貴は呆れながら言い返す。だが、現状をどうにかしてくれる人物が来たことで志貴は猫を構っていた左手ですずかが抱き着いている右腕を指しながら言った。

 「なあ、どうでもいいことは置いておいて、すずかはどうしたらいい?」
 「いいじゃない、時間に余裕はあるんだから寝かせておいてあげなさいよ。おっと、そんなことよりカメラカメラ…」

 この人物も現状をどうにかしてくれるわけではないことに気付き、志貴は顔を盛大に引き攣らせた。そして忍のほうを見ると手にビデオカメラを構えて志貴達を写していた。
 猫達は自分達を構ってくれる左手がなくなったので志貴の方を見るも志貴は忍の行動に意識が集中しているので気付いていない様子だ。

 「しかも動画か…」

 力ないツッコミを入れながら志貴は左手で額を押さえた。その一連の行動でしばらくは自分達に構ってもらえないことに気付いたのか猫達はベッドから降りた。
 左手を額に持っていった時に右腕がすずかの腕の中からずれたのを感じ取ったのかすずかがより一掃力を込めて志貴の右腕を抱きしめた。

 「んにゅ…志貴君…」

 …しかも寝言のおまけ付だ。
 忍はビデオを構えているため声こそ出していないものの、その顔は満面の笑みを浮かべていた。しかもビデオを持っていない手はガッツポーズまでしているオマケ付きだ。

 (ああ、これは確実に後でからかわれるな。)

 現在起きている志貴はまだいい。だが、寝ているすずかにとっては災難以外の何者でもないだろう。
 しかも、志貴にとっても少しまずい状況ではある。右腕を圧迫する力が増したのだ。そろそろ痺れてきて冗談ではすまない状態になってきている。

 「ん…」

 志貴がそんなことを考えているとすずかが起きた。だが、まだ意識がはっきりしていないのか志貴の右腕を放さずにボーっと目の前の志貴を見ている。
 次第に意識が覚醒してきたのかすずかは自分が志貴の右腕を抱きしめていると言う状況に気付き、顔を赤くしていく。

 「え…あ…う…し、志貴君…?」
 「ああ、おはよう、すずか。」
 「お、おはようございましゅ…」

 多少噛みながら挨拶を返すすずか。だが、テンパっているため志貴の右腕を放すと言う当たり前の行動すら取れていない。そんなすずかに対して志貴は苦笑を浮かべると忍のことを極力意識しないようにして言った。

 「そろそろ手を離してくれると嬉しい。流石に痺れが洒落にならなくなってきたから。」
 「あ、ゴ、ゴメンなさい!」

 志貴の言葉にすずかは急速に現状を理解しつつ、右腕を放して飛び起きた。そんな行動を見て忍の笑みはいよいよ極上といえるものになっている。
 何も知らない人が見れば見惚れただろうが、性格をある程度知った人が見ればそれは本能が警戒しかねないほどだ。
 最早何を言ってもからかわれるのは目に見えていたので志貴は思わずため息を吐いた。
 そのため息を聞いたすずかはビクッっと肩を震わせると恐る恐る志貴の方に向きながら質問した。

 「あの…呆れました…よね?」
 「いや、俺が呆れてるのはあっち。」

 そう言いつつ痺れていない左手で忍を指す志貴。それを見て忍は笑顔を崩さずに言った。

 「あ、酷いな~。ちょっとしたお茶目じゃない。」

 その言葉ですずかは初めて忍に気がついたのか、ギギギという音が聞こえてきそうなくらいぎこちなく忍のほうに振り返った。
 忍といえば、すずかが振り返りきる前にビデオカメラを背中に隠していた。

 「お、お姉ちゃん? い、何時からそこに…」
 「え~っとね? すずかが起きるちょっと前からかな? 志貴君はとっくに起きてたけど。」

 そんなことを言いながらも笑顔を崩さない忍に何かあったのだと確信しながらすずかは志貴に聞く。

 「志貴君? 志貴君は何時目が覚めたの?」
 「ん? ファリンというメイドが起こしに来る少し前だな。すずかが右腕を放さなかったし腹の上に乗ってた猫を構ってたから正確な時間は分からないが十分くらいか? ファリンに聞いてもすずかを起こしていいのか分からなかったからな。」
 「そ、そっか。起こしてくれても良かったんだけど…で、お姉ちゃんは何をしてたの?」
 「すずかまでそんなこと言う~、お姉ちゃんは悲しいぞ?」

 何かをしていたのは確定事項らしい。なにやら不満の声を上げている忍を見て志貴は苦笑した。

 (まるで志貴と共にいるときの姫君のようだな…)

 「志貴君?」

 一瞬思考に沈んでしまいそうになった志貴をすずかの声が引っ張り上げた。

 「ああ、忍が何をしていたか、だったな。とは言え色々していたわけじゃなくただビデオを撮っていただけだが。」

 その一言ですずかは凍りついた。一方で何でもないように言った志貴に忍はやはり不満そうな声をかけた。

 「む~、何でもないように言うのね。すずかが起きる前のリアクションからもうちょっと面白い言い方をしてくれるかと思ってたんだけど…」
 「どうあがいてももうからかわれるのは確定だろうに。それなら開き直った方がまだダメージが少ないというだけだよ。」
 「イヂリがいがないわね~。まあいいか。その分すずかには面白いリアクションを見せてもらってるし。」

 二人が和やかに話している脇で解凍したすずかは顔を真っ赤にし、オロオロしながらアウアウしているという非常に珍しいリアクションをとっていた。
 だが、何時までもそうしているわけにもいかないので志貴は忍に話しかけた。

 「なあ、まだ時間に余裕があるようなことを言っていたけど全員が起きたんだしそろそろ飯にしないか?」
 「そうね、からかうのはいつでも出来るし。」

 からかう前提なのはどうしようもない。とりあえず、最早なんと表現していいのか分からないほど混乱しているすずかを落ち着かせるため左手で鼻を抓んだ。

 「ひ、ひひふん?(し、志貴君?)」
 「そろそろ落ち着け。焦っても混乱しても現状は変わらん。今はとにかく学校に遅れないように飯を食うのが先決だ。」
 「ひゃ、ひゃい。(は、はい。)」
 「よし。」

 すずかが頷くのを見て志貴は手を離す。すずかはその鼻を押さえながら若干涙目で志貴を睨む。

 「鼻を抓まなくても良かったと思うんだけどなぁ…」
 「(涙目で睨んでも可愛いだけだが…)ずっとしがみつかれていて右手が痺れているんだ。それくらいは許してくれ。」
 「あ、ゴ、ゴメンなさい…」
 「いいさ、これでお相子だとでも思ってくれ。」

 和やかな雰囲気になりかけた所で忍が口を挟んだ。

 「はいはい、いい雰囲気の所お邪魔するわよ。」
 「お、お姉ちゃん、そんなんじゃ… 「志貴君が言ったとおり、先にご飯にしない?」 そ、そうだね…」

 すずかにしてみればからかわれる場面が遅くなっただけなのだが、寝起きのまま志貴と話すのはそれなりに恥ずかしいらしく、着替えを先にすることにして志貴は先に食堂に行った。

 朝食の場で忍が志貴に対して声をかけた。

 「志貴君、今回は初めて家に泊まったわけだけど、よく眠れた?」
 「ああ、昨日の夜すずかに血をあげたんだが、その後はゆっくりと眠れたな。まあ、猫が上に乗っても起きなかったのはおれ自身驚きではあったが…」

 昨日の夜の話題を出されてすずかの脳裏には血を飲んだ後のキスまでが思い出され顔を再び真っ赤に染め上げた。

 「あら? どうしたの、すずか?」
 「な、なんでもないよ!」

 噛んでる上に顔を赤くしたままだと説得力は皆無だ。忍は今朝のことに加えて更にからかいのネタが増えたと笑みを深めた。
 それに危険信号を感じながらも志貴は昨日の夜に起こったことを思い出す。

 「ああ、そういえば昨日血をあげた後 「わー! わー! わー!」 してきたな。…どうしたすずか?」
 「そういうことは言わなくてもいいの!」
 「…まあ、恥ずかしいというのなら秘密にするけどな。」

 再び涙目で睨んでくるすずか。と言うか納得いかないといわんばかりの視線である。

 「納得いかないよ、何で志貴君そんなに普通なの?」

 言葉にも出してきた。その言葉に志貴は少し悩んだ素振りを見せると言った。

 「いや、別に何も感じることがないと言うわけじゃないぞ。ただ、親愛の証でやることもあるだろうことは知っていたからな。」
 「そういうんじゃないのに…」
 「何か言ったか?」
 「何でもない!!」

 そう言ってすずかはそっぽを向いてしまった。そんなすずかを見て忍は先程とは異なる眼光を浮かべて志貴に問いかける。

 「ねえ、何をしたのか教えてくれない?」

 すずかが反論しようとしたがしのぶの眼光がいつもと違うことに気付き口を噤む。志貴はそんなすずかの様子に気付き、お茶を濁す返答は認められないだろうと思い話すことにした。

 「昨日の夜、俺が血をあげた後、すずかが少しからかったお返しと、助けた礼と言うことでキスしてきたんだが…」
 「それで、貴方としてはどう思ったの?」
 「ん? さっきも言ったように親愛の証にやることは知っていたし、何より礼と言うのなら受け取らないのは失礼だと思ったので受け取ったのだが…どうかしたのか?」

 志貴が話し終えた辺りで忍がすずかの近くまで行き話していた。

 「ねえ、志貴君ってもしかして恭也の同類?(ボソボソ)」
 「多分…もしかしたら鈍感なだけじゃなくて結構天然なのかも…(ボソボソ)」
 「頑張りなさいよ、すずか。私はすずかの味方だから。(ボソボソ)」
 「そう言うのならからかうのは止めて欲しいんだけどなぁ…(ボソボソ)」
 「無理よ。(ボソボソ)」

 志貴は自分を他所に話し合いを続ける姉妹を見ながら疎外感を味わっていた。そこで今更ながら男が自分ひとりしかいないことに気付き忍に聞いてみることにした。

 「ところで恭也さんは?」
 「え? ああ、恭也なら早朝の鍛錬で朝早く帰ったわよ。もう、恋人の家に来たときくらいこっちを優先してくれてもいいのに…」

 ぶつぶつと文句を言い続ける忍、だが、そこにはやはり恋人を想う感情が見えていた。すずかも、さっきの話し合いで感情に一応の決着を見たのかさっきよりは落ち着いている。
 若干のカオスを交えながら月村家の朝は過ぎていった。


あとがき

初の連続投稿! とは言えぶっちゃけ番外みたいなものなんで大したものじゃないですが、楽しんでもらえるならと…あれ? 元々猫を入れたかったから書いた話なのに入ったのは最初の部分だけになってしまった…

と言うか朝の部分だけで一話使うとか…もう少し短くするつもりだったのですが、書き始めたら止まらなくて…

まあ、いらない蛇足のような一話でしたが、楽しんでもらえたらいいなぁ…

いい加減ヴォルケンリッターも出さないとA’sっぽくないんですが、志貴に空を飛ぶ技能がない以上絡ませ難いんですよね。
まともに絡むのは最終決戦の辺りになりそう…

まあ、A’sで始めたのはフェイトを早く出したかったからですし、何よりA’sで話を完結させるつもりはないので寛大な心で見逃してやってください。

では、また自壊…おっと違ったまた次回。

5/24 微修正



[4594] 第八話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:36

 第8話 烈火の将との出会い

 すずかを誘拐犯の所から救出し、月村邸に泊まった翌日、志貴が月村家で朝食をとった後に高町家に荷物を取りに行くが、今日もなのはは帰っていないことを桃子から聞き、流石に何があったのか疑問に感じていた。

 (しかし、以前もこんなことがあったから言い出すまで待つなんて家族に言われたら俺が無理に聞き出すわけにもいかないだろうが…)

 志貴はアリサ、すずかと合流し、学校に向かいながら今朝の桃子との会話を思い出し、そのことについて悩んでいた。
 桃子だけじゃなく高町家の家族は皆なのはが何をしているのか聞くことそのものには抵抗はないようだが、無理に聞こうとしていないため本人に確認する以外に情報が入りそうにない。

 (簡単に教えてくれるようなことだったら家族はとっくに知っているだろうし…恐らくはなのはやフェイトだけじゃなくてユーノとかアルフも関係しているんだろうな…リンディ・ハラオウンも魔力を持ってるみたいだし…
 やれやれ平穏な暮らしは一年と持たないか…それが俺の宿命なのかもな…)

 「ちょっと志貴! 聞いてんの!?」

 考え事をしていたせいでぼうっとしていた志貴にアリサが話しかけていたのか、自分の話を聞いていないことに痺れを切らせて怒鳴っていた。

 「ん…済まない考え事をしていた。で、何だ?」
 「あ~もう、アンタまで四月の頃のなのはと同じ反応して…もしかして、今なのはとかフェイトが何してるか知ってんじゃないでしょうね?」

 考え事をしていた志貴にジト目を向けるアリサ。隣のすずかも言葉にはしていないが問うような視線を向けてきた。そんな二人を見て志貴は一つため息を吐いて答えた。

 「…まあ、聞いてはいないし知ってるわけでもない。そもそも家族にも言っていないことなんだ、俺が知っているわけが無いだろ?
 だけどまあ、簡単な予想くらいは出来てる、そんなところだな。で、さっきまで俺に話しかけてたことはこのことか?」
 「そうよ。前はなのはがちょくちょく休んでたけど今回はフェイトも一緒だもん。やっぱり何かあるんじゃないかって心配してるの。」
 「うん、でも志貴君凄いね。私達は予想なんてつかなかったのに志貴君はつくんだ。」
 「あ、そうよ。その予想ってどんなの? 聞かせなさいよ。」

 再度問うような視線になる二人。その視線を志貴は黙殺する。それでも二人の視線は緩まることはなかったので志貴は今日二回目となるため息を吐いて話す。

 「…詳しいことは分からないから恐らく、としか言えないが、簡単に言えば危ないことだ。しかもあいつらのことだから巻き込まれたんじゃなくてむしろ積極的に自分から首を突っ込んでる感じだな…
 流石にどんな内容かは知らない。が、恐らくはリンディ・ハラオウンとその家族の人たちは皆関係者だと思う、それだけだよ。」

 魔力の有無という要素を除いた志貴の予想に二人は心配そうな顔を隠そうともしない。加えて、それに気付けなかった自分が不甲斐無く感じてもいるようだ。

 「あまり気にしなくてもいい。単純に付き合いの長い二人より俺のほうが客観的に観察しただけの話。それにこれが合っているかどうかも知らないし、どの道本人達が話してくれるまで知りようがないさ。」
 「…それはそうだけど…」

 志貴の話を聞いても納得がいかないのか不満そうな顔をするアリサ。
 すずかも心なしか不満気だ。
 やはり親友が危ない目に遭っているかもしれないのに何も出来ないことが悔しいのだろう。

 「ほら、さっさと学校に行くぞ。なのは達のことを心配して話をするのはいいが、それで俺達が遅刻するのは洒落にもならない。」
 「「あ…」」

 結局学校には間に合ったが志貴は今日一日二人の質問攻めに遭うのだった(志貴が延々と予想を話しそれで自分は気付かなかったと落ち込む二人をなだめつつ、アリサの愚痴を聞いているのが学校内のいたるところで確認された)。

 そして夜、流石に二日連続で月村家に泊まるのは悪いのではないかと考えた志貴はすずかに断りを入れて高町家に戻り、いつもどおり夜中に抜け出し、魔術の訓練をしていた。

 「ふう…(バッドニュースとファンブルコードは悪性情報を魔力で固めるだけだから問題なく使える…レプリカントコーディネーターはこの世界の悪性情報を固定化できるだけの人物を俺が選定できないからまだ無理…使えるようになっても魔力不足もあるしあまり回数は使えないな。
 クリーチャーチャンネルは純粋に俺の魔力を使うから使用できても威力が足りないし、攻撃の方はともかく、もう情報体じゃないから転移の真似事は無理だろうな…これは研鑽あるのみか…ナイト・オン・ザ・ブラッドライアーやナイトルーラー・ザ・ブラッドディーラーはそもそも発動のための魔力が無い。宝石の支援があって漸くそれぞれ一発ってところだな。
 固有結界はそもそも問題外だな、俺の心象風景というものには興味はあるが、魔力量と知識量の問題から宝石の補助があっても使えるとも思えないし使おうとも思わない。
 分割思考も戦闘意識に切り替えての戦闘中ならば普通に使えるようになった…なるべく日常生活でも使えるようにしておかないとな…今朝みたいにアリサの話を聞いていなかったら今度は何を追及されるか分かったものじゃない。
 後は…なのは達みたいに魔力を使ってくる連中相手には七夜の体術は使わずに魔術で相手しようか。
 この件に積極的に首を突っ込む気も無いし、俺や友人達に危害が及ばない限り相手を牽制して逃げるだけならそれと気配遮断や見切り程度で問題ないだろう)…ん?」

 ここは山の中だったため視覚的な異常は感知出来なかったが、志貴の七夜としての感性が周囲の空気が変わったことを敏感に感じ取っていた。

 「結界か…どこの誰かは知らないがこれだけ障害物が存在する山の中で俺を標的にしたことを後悔させて…いや、魔術で相手をするんだったな…適当に相手して逃げるか。
 …それにしても気配を漏らさずに発現したにしてはバカみたいに広い結界だ…おっと、来たか。」
 「…子供か?」

 志貴が思考の海に沈みかけた時、上空から女の声が聞こえた。
 志貴が見上げると体には甲冑を纏い右手にはむき出しの直剣を持った、ピンクの髪をポニーテイルにした女が空中に立っていた。

 (おいおい、重力制御か? それともこの世界には飛行の魔術か何かがあるって言うのかよ…)

 「済まない、本来ならば子供からこういうことをしたくは無いのだが…我が主のため、貴様の持つその魔力を貰うぞ。」

 志貴が呆然としていたのを恐怖で固まっていると勘違いしていきなり誤りだす女。志貴はそんな女を見て問いかけた。

 「魔力を貰うと言われてハイそうですかと渡す奴はいないんじゃないか? アンタが何を言ってるのか分からないけど体に何かされるのは嫌だから逃げさせてもらうぞ?」
 「…そういう訳にもいかないのでな。嫌だというなら力づくだ。」

 そう言いながら剣を構える女。魔力と言う単語を聞いてそのことについて質問しないということはそれを知っているということだ。
 リンカーコアが活性化していないのは確認できているため魔法を知っているだけの一般人かそれともただのハッタリかと判断したようだ。
 志貴はポケットから七夜の短刀を取り出して自然体に構えた。

 「…いい目だ。覚悟を決めた奴の目だな。この短い間にその年齢でそこまでの目をする奴に何度も会うとは…世界と言うのは狭いものだ。」
 「あんたらがいる世界が狭いんだろ? 流石に覚悟を決めた小学生なんて早々いるもんじゃない。」

 感心した女の言葉に志貴が返し、女は苦笑する。

 「ふ、それもそうだ。私の名はヴォルケンリッター剣の騎士、烈火の将シグナム。この剣はレヴァンテイン、お前は?」
 「…志貴、七夜志貴だ。この短刀の銘は七夜、母親の形見ってところか…」
 「…参る。」

 短い言葉と共にシグナムが志貴に接近する。

 (予測より速い! この間合いだと避けられない…ならば受け流せるか?)

 一瞬で詰められた間合いに驚く間もなく志貴は反射的に短刀を振りレヴァンテインの腹に短刀を当てて剣閃を逸らしていた。
 自身の斬撃が逸らされたことにシグナムは驚くが表に出すことはせずに返しの一撃を振り上げる。
 だが、そのときには既に志貴はバックステップで間合いを離していた。

 「ふ、なかなかの体捌きだ。だが、その動きを捉えるには加減していては少々梃子摺る。
 時間もそうあるわけではないのでな、全力を出させてもらうぞ。未熟ゆえ殺してしまうかもしれんが許してくれとは言わん。怨んでくれてもいい。
 だが、止まる訳にはいかないのでな…」
 「俺はそう簡単には殺されないぞ。と言うか現状では俺が勝つのは無理そうだからとっとと逃げさせてもらう。」
 「逃がさん!」

 短く言い放つと同時に再び接近して斬りかかる。
 だが、今回志貴はシグナムが速いことは知っている。
 故にさっきより多少速いとしても落ち着いて対処できる。

 「予測どおりの速度だ。バッドニュース…」

 今回は短刀を使わずに徐に左手を前に出す。
 その行動に一瞬疑問を感じたシグナムだが直後に現れた黒い爪に驚きを隠せなかった。

 「くっ、パンツァーガイスト!」

 反射的な行動だったが何とか間に合い志貴の放った攻撃を無力化することが出来た。

 「…リンカーコアが小さい上に活性化していないと思ったのだがまさか魔導師だったとはな…しかも魔法陣を発生させずに魔法と使うか。
 この世界には魔法文化は無かったはずだが…飛行魔法を使わないのは適性が無いからか?」
 「魔法…お前達はこれをそう呼ぶのか?」
 「…どういうことだ?」

 志貴の言葉に疑問を投げかけるシグナム。志貴は警戒を解くことなくシグナムに話す。

 「俺達はこれを魔術と呼ぶ。
 時間と金をかければ現代科学の中でいつかは実現可能の神秘。
 俺達の魔法って言うのは時間や金をかけて、どうあがこうとも現代の科学技術では実現できないものの事。そう易々と口に出すものじゃない。」
 「…そうか。ならば貴様は魔術を使う者というわけか。」
 「ああ、分類としては確かに俺は魔術使いだ。そして魔術師は自身の利益にならない戦いをしない。
 そもそも魔術は隠匿するもの。それは魔術師相手でも例外ではない。
 まあ、俺自身としてもあまり手の内を晒したくないからそろそろ逃げさせてもらうぞ。」
 「そう簡単に逃がすはずが無いだろう。
 貴様の魔術は我々の使っているものとは違い不意を突かれたが大した威力じゃないようだしな、あの程度、知っていれば目眩ましにもならない。」

 そう言いながらあらゆる方位からの攻撃に備えるシグナム。
 志貴が先程と同じように左手を前に出すと突然出現した黒い爪に対応した。

 「この程度で!」
 「今回はこれで幕だ。ファンブルコード…じゃあな。」

 志貴がポツリと呟くとシグナムの足下から黒い渦が発生し、シグナムを飲み込みその視界を覆いつくした。

 「くぅっ!」

 突然の足下からの攻撃に再び不意を突かれるシグナムだったがすぐにレヴァンテインを一振りして渦から脱出する。

 「く、気配も無い…逃げられたか。
 結界内に残っているならば時間をかければ追いつけるだろうが、テスタロッサたちに気付かれるより早く離脱しなければな…
 管理局の妨害さえなければ追いかけるものを…七夜志貴、今回は勝負を預ける。次は決着をつけるぞ。」

 そういうとシグナムは結界を解除してその場から姿を消した。
 その姿を確認したのか、近くの木の陰から志貴が姿を現した。

 「やれやれ、行ったか。それにしてもテスタロッサか…やっぱりフェイトはこういうことに首を突っ込んでるんだろうな…
 多分…いや、確実になのはも…それじゃああいつらにとって魔法のことを知らないはずの俺たちに対しては説明のしようが無いか。
 ま、俺のこともあいつらもいつかばれるまでは今の生活が続くだろうな。
 なるべくならばれるのが遅くなることを願うばかりだ。」

 説明するのが面倒だからなと、志貴はそう呟くとシグナムと同じようにフェイトやなのはにばれる前に山を下りることにした。

 その日は久しぶりの実戦で疲れたのか戻ると布団に直行しそのまま志貴の意識は途切れていった。


あとがき

とりあえず志貴とシグナムの邂逅は簡単に済ませてしまいました。

これじゃあバトルと言うより魔術説明が主になっている感じが…
それに微妙にタタリの台詞が混ざっている点は最初の時点で志貴とタタリが半ば混ざった時点で決めていたことなので、七夜の芝居がかった口調はA’s編の間には出ないかも…

初魔法バトルでしたが、シグナムがフェイトの名前を覚えてるしこれからは別の世界で蒐集する感じなのでなんかこれ以上のバトルはA’sの中では難しそうだ…しかし、ここでなのは達と絡ませるのも考えましたが、自分の思考回路で無理に絡ませようとしたら志貴がなのはの砲撃に偶発的に巻き込まれて吹っ飛ばされるか直死の魔眼で魔力砲を殺しているイメージしか湧かない…

誘導弾や直射弾ならともかくあの極太の敵を殲滅しかねない砲撃魔法は回避できません。

4/3 誤字修正+微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 第九話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:37

 第9話 お見舞いと再会

 シグナムとの会合を終えた翌日、なのはとフェイトが久しぶりに学校に来ていた。そして二人を含めた五人は昨日、すずかの友人である八神はやてが入院したことを聞き、お見舞いに行くことになった。
 その時一緒に撮った写真には志貴は写らなかった。本人曰く、

 「写真に写るのは苦手だからいい。そもそもどういう表情をすればいいのか分からないからな。」

 らしい。当然一同から不満の声が上がったが結局は逃げられてしまった。
 そして後日のお見舞いは成功したと言っていい。はやては女子四人だけでなく志貴とも仲良くなれたからだ。そしてその後、志貴は一つの懸念を持っていた。

 (なのはやフェイトと同じくはやてにも魔力を感じた…流石にあの病気が演技とは思わないがどこか胸騒ぎがする…関係ないということは、まあ、ありえないよなぁ…)

 以前の誘拐事件以降、志貴は高町家と月村家を一日ごとに行ったり来たりしているが今回は高町家だ。
 そして今、何よりの懸念材料はクリスマスイブのサプライズパーティーだ。
 以前自分がシグナムに襲われたことと無関係ならいい、だが、シグナムがはやての関係者だとすればこのサプライズで彼女と鉢合わせる可能性もある。

 (クリスマスイブまで後二日…それまでに色んなシチュエーションを考えとかないとな…シグナムがテスタロッサって名前を零した以上フェイトとは顔見知りだろうし、何より明らかに敵対してるんだよなぁ。
 …まあいいか。あいつらの問題はあいつらでけりをつけてもらおう。
 俺は何も知らない振りをしてはやての面倒を見る。
 で、万が一の時のためにアリサとすずかの護衛ってところだな…はあ、面倒なことになってきたな。)

 そんなことを考えながら志貴の意識は眠りに向かっていった。
 翌朝、結論としてあちらからアクションをとってこない限り、自分は無関係を装うことにした。
 しかし、そのついでにシグナム辺りが睨んできた場合、追求される前にカバーストーリーを作らなくてはいけない。
 志貴だけでは大したことが出来ないが、ヅェピアの記憶と分割思考によってその時のための構想が何とか出来上がっていく。

 (まあ、こんなものか。
 話の矛先をシグナムに向ければいいから多少穴があっても大して突っ込まれないだろう。突っ込まれても更にシグナムに矛先を差し出せばいい。これで何とかなるだろう。)

 何気に黒い思考になっていることも気にすることなく目の前で行われているサプライズパーティーについての話し合いに耳を傾けていた。
 志貴の思考の中ではシグナムとはやてが完全に関係者ということになっているが志貴は気にしていない。
 と言うかはやてから魔力を感じた以上関係者ではない確率のほうが低いし、何より関係者でなければ何も気にすることはないのでそちらの時の対応などは考えなくてもいいのだ。

 そしてクリスマスイブ、サプライズパーティーの当日、はやての病室はなのは、フェイトの二人と守護騎士達の間に走る緊張感によって空気が張り詰めていた。

 (…やっぱりこうなったか…)

 志貴は内心、この場で頭を抱えたい衝動に駆られたが何とか表面上はいつもどおりの顔を作れていた。そして、志貴はシグナムの視線が自分にも注がれていることに気がついた。

 (ク…正直ここまで予想通りだと呆れるよりもむしろ笑えてさえくるな。まあいいか、とりあえずは予定通りだ。)

 「ん? どうかしましたか、シグナムさん。もしかして以前のことを気にしてるとか?」
 「「「な…!」」」
 「「え…?」」

 驚愕はヴォルケンリッターの三人から、疑問の声はなのはとフェイトから。後の三人は何か事情があるようだと好奇の視線を向けてきた。

 「何々? 志貴君とシグナムって顔見知りなん?」

 はやてが興味深そうに話を聞いてくる。
 それに緊張感を増すヴォルケンリッターとなのは達。
 特にシグナムは今でこそはやての前なので自重しているが、何か口を滑らせようものなら例えはやての前だとしても剣を抜いて斬りかかってきそうだ。そんな五人に気付かないように志貴は話し出す。

 「ああ、俺はこの海鳴市に来てからあまり長くないからな。この辺りの散策に出て辺りを見回しながら歩いてたら不審者に見られたみたいで襲われた。その時は俺が逃げ切ったけどな。」

 志貴がいたずら小僧のような笑顔を浮かべて言ったこの台詞によりはやてとヴォルケンリッターの意識がシグナムに向く。
 シグナムはいきなりの話に眼を白黒させている。それに畳み掛けるように志貴は言葉を続けた。

 「剣道場からの帰りだったのか知らないけど流石に竹刀を持って追いかけられたら誰でも逃げるって。
 でもまあ、あの時の俺は微妙に挙動不審で自分でも不審者っぽかったから仕方ないかな? と思ってるし気にしなくてもいいぞ。」

 追加の台詞でシグナムに向かった視線が冷たくなる。それに比例してシグナムのおろおろは増している。
 だが、このままでは不味いと思ったのかヴィータとシャマルに念話を送りながら話題を変えようとする。

 「あ、主…私達は高町とテスタロッサに話があるので席を外します。」

 そう言ってはやての冷たい視線から逃げるように病室から出て行った。
 それを追いかけるようにヴィータやシャマル、更になのはとフェイトも出て行く。それを苦笑しながら見送った志貴はポツリと呟いた。

 「少しいじめすぎたかな?」
 「いじめって…ちょっと、アレって嘘だったの?」

 志貴の呟きを耳ざとく聞き取ったアリサがツッコむ。だが志貴は何気ない口調で言い返す。

 「ちょっと大げさに言っただけで嘘は言っていないぞ? 大体、竹刀を持って小学生を追いかける成人女性がいたら騒ぎになるだろ。
 公園で問い詰められそうになったからなんとなく逃げちゃっただけだよ。」

 事実は逆にむしろさっき言った方が大人しいぐらいなのだが、そのことを言うと今度はシグナム達の魔法や自分の魔術のことも説明しないといけないので、話さない。

 「それやったらさっきのは嘘ばっかやん。」
 「いやまあ、最初に一太刀振るわれたけど当たらなかったし周りに人はいなかったからね。そのまま竹刀を構えて 「お前は何者だ?」 なんて聞かれたら普通逃げるだろ。」
 「「「…あ~。」」」

 はやての質問に答えた志貴の言葉に三人は納得してしまった。そして志貴は壁にある時計を見た。

 「ん? そろそろ面会時間が終わるな。じゃあ、俺達はこれで帰ろうか。また明日も来るよ。」
 「そうね、あまり長居してはやての体に障ってもアレだし、また明日ね、はやて。」
 「明日はなのはちゃんとフェイトちゃんもシグナムさん達と仲良くなれたら良いね。」
 「そやね。皆ありがとうな。すずかちゃんのゆうとおり今日はぎすぎすしてもうてちょっと残念やったけど、皆が来てくれて嬉しかったわ。」

 簡単に挨拶を済ませて志貴たちは病室を後にした。

 一方、屋上に出たシグナム達は…

 「シグナム、貴女、一般人の志貴君を襲うなんて…」
 「アイツ、殆ど魔力を感じなかったから魔導師じゃないんだろ?」
 「…いや、私はあいつから蒐集しようとしたのだが、ベルカ式でも、ミッド式でもないこの世界の魔力行使方法、魔術とやらを使って私と正面から戦い撤退しきったのだ。」

 なのはとフェイトの視線を一旦端に置いてシグナムに追求を行うヴィータとシャマルだが意外すぎる言葉に驚きを隠せない。
 なのは達を見るとこっちも驚いている。

 「じゃ、じゃあはやてとあいつを一緒においてたら不味いじゃんか!」
 「いや、あいつは無駄な争いをしないと言っていた。こちらから手を出さない限りは問題ないだろう。
 まあ、今後奴のリンカーコアを狙うこともあるだろうがな。」

 シグナムのその台詞になのはとフェイトは我に帰って話をしようとする。

 「ちょっと待ってください! 今の闇の書さんは改変されているんです! このまま蒐集し続けたらはやてちゃんが!」
 「うるせえ! 管理局の連中の言う事なんか信用できるか! あたし達は闇の書から生まれたんだ、闇の書のことは誰よりも分かってんだ!」
 「じゃあ、何で闇の書なんて言うの!? 何で本当の名前で呼んであげないの!?」
 「本当の名前…?」
 「そうだよ、闇の書って呼ばれる前の本当の名前。」
 「ぐ…そんなん今はかんけーねぇ! 早くしないとはやてが死んじゃうんだ! 邪魔をすんなぁ!」

 なのはが必死にヴィータを説得しようとするが聞く耳を持っていない。フェイトとシグナムも同じような状況だ。
 フェイトはバリアジャケットを変化させ、シグナムは剣を構える。

 「装甲を薄くしたか。緩い攻撃でも当たれば死ぬぞ?」
 「…その分速く動けます。今のままで貴女に勝てる方法はこれしかありませんでしたから。」

 一触即発の雰囲気、そんな中突然シグナムがバインドに囚われた。
 フェイトはその気配を察知して攻撃を仕掛け、その先にいた仮面の男を射程内に収めるがもう一人いた男に囚われてしまう。

 見るとなのは達の方も似たような状況だ。

 シャマルまでも捕らえ、男達は闇の書を使い、シグナムとシャマルを蒐集、その存在を闇の書に吸収させ、ヴィータや、途中で飛び込んできたザフィーラも蒐集し、ぎりぎり存在できるレベルで抑えると、なのは、フェイトを四重のバインド、そしてクリスタルケージと呼ばれる魔法で隔離し準備を始めた。

 二人の容姿が変身魔法によってなのはとフェイトと同じになり、屋上に魔法陣が現れる。
 その中心に転移させられたはやては状況が飲み込めず、目の前で囚われているヴィータや横たわるザフィーラを助けるように懇願する。
 だが、なのはとフェイトに化けた二人はその願いを聞き入れることは無かった。

 「ふふふ、この子達は壊れてるんだ。だから…」
 「もう壊しちゃってもいいよね?」

 その言葉を皮切りにヴィータとザフィーラの姿が消えていく。それを認識してはやての意識は暗転した。
 そこに現れたのは銀髪に黒いバリアジャケットを身に纏った女。女は涙を流しながら上を見る。
 そこには仮面の男に施されたバインドとケージを破ったなのはとフェイトがいた。

 「また、全てが終わってしまった…幾度このようなことを繰り返せばいい? この身に残された時間は多くない。
 主よ、あなたの願いを叶えます。このような悲しみを与える存在を、世界を…破壊します。」

 その言葉と同時に闇の書の統制人格と思われる女の掌に膨大な魔力が集まる。

 「闇に沈め…デアボリックエミッション。」

 放たれる呪文(ことば)と共に放たれる魔力。なのはとフェイトはなのはの防御でダメージこそ負わなかったものの遠くまで飛ばされ、魔力をかなり削られる。
 ビルの陰に隠れた二人を逃がさないようにか闇の書の統制人格は結界を張る。
 そしてはやてを悲しませた原因(と思い込んでいる)相手、なのはとフェイトを探すために飛行魔法を展開して宙に浮かび、攻撃を開始した。
 ブラッディダガーやフォトンランサーがなのはやフェイト、そして合流したばかりのユーノとアルフに襲い掛かる。
 なのはやフェイトも反撃しているが強力なシールドの前に悉く阻まれる。そして闇の書の統制人格が手を眼前に掲げられた。

 「咎人達に滅びの光を…星よ集え、全てを貫く光となれ。」

 呪文(ことば)が綴られる度に掲げられた手に集まる魔力が増大していく。
 過去に一度それを喰らったことがあるフェイトがいち早く察知して遠くに逃げるように提案する。
 四人が逃げる間にも闇の書の統制人格の手に集まる魔力は止まらない。

 「ねえ、こんなに離れなくてもいいと思うんだけど?」
 「駄目、アレがなのはのスターライトブレイカーと同じものだったら確実に防御も抜いてくる。少しでも離れて魔力が拡散してから防がないと…」

 喰らった本人の言葉だけに実感がこもっている。なのはは何も言えずに相手から距離をとることに専念した。そんな時、レイジングハートが警告を発した。

 『近くに民間人がいます。数は三。』

 その言葉に驚くもスターライトブレイカーがチャージされている現状で立ち止まるわけにも行かず、かといって報告された民間人を放置することも出来ないのでデバイスたちが示す民間人のところまでなのは達は飛んでいくことにした。


あとがき

対シグナムのカバーストーリーは我ながら穴だらけだと自覚はしています。10歳児を不審者扱いするってシグナムさん、あーた…
ですが、これ以上のものが私の貧相な頭では出てこなかったんです…

屋上のやり取りとリィン様のスターライトブレイカーまでは原作と変化無しなのですっ飛ばしました。

次回は視点を変えていきます。そっちの流れは既に出来上がっているので後は書き上げるだけ。早めに投稿できると思います。
ただ、もしかしたら少し感想で凹んでいるので今までと変わらない感覚になるかも…

それではまた次回。

4/3 誤字修正と微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 第十話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:37

 第10話 志貴の能力(ちから)

 なのは達が闇の書の統制人格と戦っている頃、志貴とアリサ、すずかは結界内に閉じ込められていた。

 「ちょっと、どうなってんのよ。いきなり周りが暗くなるし他の人は消えちゃうし…」
 「お、落ち着いて、アリサちゃん。」

 いきなりこんな状況に置かれてうろたえる二人の横で志貴は分割思考を使うことも忘れて思考の海に沈んでいた。

 (まったく…どういう種類の結界だよ。
 関係者以外を締め出せるんなら俺達も締め出されているはずだし、対象を指定するタイプなら俺はともかくこの二人が巻き込まれるのはおかしい…)

 「…やっぱりはやて関連かな?」

 志貴は自分が声に出していたことを自覚していない。
 だが、すぐ傍にいた二人には聞こえていたようでアリサが志貴に突っかかってきた。

 「志貴、アンタもしかしてこんな状況になった原因解ってんの?」
 「…ん?」

 アリサの言葉で現実に戻ってきたがさっきまで志向を続けていた志貴はアリサの言葉を聞いていなかった。
 その態度が気に障ったのかアリサは声を荒くした。

 「だから! 今、この状況とさっきから空がピカピカ光ってる原因を知ってんのかって聞いてんのよ!!」
 「ああ、あっちの光は多分魔法だろ? この状況は結界に閉じ込められたせいだろうし…」

 あまりにもあっさり答えられた内容に二人は呆気に取られた。だが、すぐに我に帰ると更に問いただす。

 「結界に魔法ってアンタふざけてんの!?」
 「別にふざけちゃいない、受け入れられなくてもそれが現実にあるんだ、受け入れろ。
 だけど光の色がそれぞれ一人一色だとしたら数が合わない。あそこで光ってるのは三色だけだけどあの場に魔法を使える人物は少なくとも五人はいたはずだ。
 シグナム達の陣営かもう片方の陣営に何かあったか?」

 どうせ結界に閉じ込められた以上は巻き込まれているのでこのことに関しては誤魔化すことなく話していく。そこで志貴は二人に質問した。

 「さて、今ここで俺達には三つの選択肢がある。」
 「三つの選択肢?」

 志貴の言葉に疑問の声を上げるアリサ。志貴はそれに軽く頷いて続きを話す。

 「そう、この近くに隠れてやり過ごすか結界の外周へ向かってこの結界からどうにかして逃げるか、それともあの光の方に向かって行ってどちらかにこの結界から出してもらえるように頼むか。」
 「ちょっと待ってね。志貴君、さっきあの場に魔法を使える人物は五人いたって言ってたけどあの場っていうのはどこでその人物って誰なの?」

 志貴が選択肢を出した時点ですずかがさっきの志貴の言葉に入っていたこの現象を起こしている人物を知っているような文を出して質問する。

 「…場所ははやてのいた病室。五人って言うのははやてと俺達三人を除いた五人のこと。
 まあ、もしかしたらはやても魔法を使えるかもしれないけど…」
 「…なのはとフェイトも?」

 志貴の言葉にアリサは呆然として聞き返すが志貴は僅かに頷くのみ。そこまで聞いて二人は決心した様子で志貴に言う。

 「「じゃあ、あっちに行って二人に話してみよう(ましょう)。」」

 その結論に至った時、病院側の空に大きな桜色の光が現れた。
 それに追われる様に桜色と金色の光がこっちに来ているがあの結論を出した以上は好都合だ。
 志貴は二人を連れて大通りに向かった。大通りに出たとたん三人の姿は砂埃で隠されていた。そんな中に聞きなれた声が聞こえる。

 「あの~、そこにいるのは誰ですか? そこは危険なので安全な場所に移動してもらいたいんですけど~。」

 その声が聞こえると同時に志貴はやっぱりかと額に手を当て空を仰ぎ、アリサとすずかの二人はそっちに意識を向けた。
 次第に砂埃も晴れ、お互いの姿が認識できるようになった所で志貴以外の四人の顔が驚愕の色に染まった。
 なのはとフェイトはどうして、と言う驚愕で、アリサとすずかは志貴の言っていたことが本当だったと言う驚愕で、と言う違いはあるのだが。

 「…え…? アリサちゃんにすずかちゃん、それに志貴君?」
 「何で三人が?」
 「なのは…」
 「フェイトちゃん…」

 お見合いを始めたように固まる四人、そこに志貴が手を叩いて四人を正気に戻す。

 「お前らお見合いしている状況か、いい加減現実に戻ってくれ。
 このことについての話は二人に後でしっかりとしてもらうとしてなのはとフェイトの後ろの桜色の光はどうなってるんだ?」

 その言葉になのはとフェイトは慌てる。

 「ま、不味いかも…今転送を始めたらスターライトブレイカーが撃たれちゃう…」
 「防ぐしか…無いかな?」

 そうこう言っているうちに桜色の光の束がこっちに向かってくる。
 その光景になのはとフェイトは覚悟を決めた顔になる。

 「フェイトちゃん、私が前に出て威力を殺すから三人に向かう余波を防いでくれる?」
 「分かった。なのは、お願い。でも無理はしないでね。」

 二人が何か打ち合わせをしている間志貴達三人は蚊帳の外だ。
 フェイトが振り向いて三人に話しかけた。

 「ゴメン、今は余裕が無いから後で絶対に話す。だからここでじっとしていて。」

 そんな話をしている間も桜色の光の束はこっちに向かってくる。
 それに対してなのはが前で何か光る盾を出したかと思うとフェイトも色違いではあるが同じように光る盾を出した。
 焦ったような表情をしているフェイトに志貴は話しかける。

 「なあ、こっちに向かってきてるあの光をどうにかしたいのか?」
 「…大丈夫、志貴達は絶対に護るから。」

 『どうにかしたい』と『どうにかする』のニュアンスの違いを受け取ってもらえないことで一瞬の間に志貴はフェイトがかなり切羽詰っている上に、完全に防ぐことは賭けに近いことを見抜くと一つため息をつく。
 そしてフェイトの肩を叩いて言った。

 「万が一の時、二人への防御は頼んだ。」
 「…え…?」

 いきなり肩を叩かれて、しかも志貴が自分のシールドより前にいるどころかなのはのところに向かっていることに気付いたフェイトは慌てて志貴に声をかけようとするがそれより早く志貴の声が聞こえた。

 「なのは、その光の盾、足場として使わせてもらうぞ。」
 「え、え?」

 いきなりすぐ後ろから聞こえた声になのはは慌てる、スターライトブレイカーが間近まで来ているのにすぐ後ろから志貴の声が聞こえたのは何故か、などと混乱しているうちに志貴はなのはの前に張ってあるシールドに立ち、顔(特に眼)を何かから隠すように片手をかざして言葉を紡いだ。

 (直死の魔眼がばれるのは面倒だからな、とりあえず視線を感じる上方から俺の眼は見えないようにしているが、流石になのは達には見えるかも知れないな…今は誤魔化せるとしていつまで隠しとおせるか…)

 「カット。」

 ただ一言、そのたった一言で志貴の目の前に現れた黒い三本の爪がスターライトブレイカーに突き刺さり、その光をかき消した。
 志貴が起こしたであろうその状況に呆気にとられる四人、特になのはやフェイトといった魔導師組みにはショックが大きかったようだ。
 そのためか、今の志貴の眼が蒼く染まっていることに気付いた人間はいなかった。

 《さて、安全な所に転送するよ。》

 そこにエイミィの声が響き、アリサとすずかの『二人』の足下に白い魔法陣が現れる。
 それに気付いてアリサはなのはとフェイトに話しかけようとするがその前に二人は姿を消した。その直後、そこに一人の女が現れた。
 地面から触手が伸びてきてなのはとフェイトは捕まったが志貴はかわしている。
 そして三人の間でなにやら話が纏まっていったようだが、志貴は自分を捕まえようとする触手が次第に増えてきている上に、更に増える可能性もあるためそちらに耳を傾ける余裕がなくなってきている。
 見切りだけでの回避が辛くなってきたので短刀を使おうかと思ったあたりでフェイトが女の言葉に反応して飛び掛り黒い空間に囚われ、光になって吸収された。
 ずっと自分を捕らえようとしていた触手から回避を続けていた志貴だが、それを見て実は自分のことは忘れられているんじゃないだろうかと思い、初めて言葉を発する。

 「なあ、そちらはそちらで、大変なことに、なって、いるようだ、けど、とりあえず、何故、俺は避難、させて、くれなかったの、かな? いい加減、この数、の攻撃を、避けるの、も辛く、なって、きて、いるんだが…」

 回避の最中の会話のため、途切れ途切れになる。それを見ながらもエイミィが声をかける。

 《えっと、君もある程度こっち側の人間みたいだし、なのはちゃんと一緒に闇の書を止める手伝いをして欲しいんだけど…》

 「無理、だ。…ええい、鬱陶しい! ファンブルコード、千切れ飛べ!」

 通信越しに聞こえるエイミィの言葉に志貴は即座に反論する。触手の攻撃がいい加減ウザったくなってきたのでフェンブルコードで触手を散らす。
 そこでエイミィではない大人の女性の声が聞こえてきた。

 《そ、即答なんてしないでそこを何とか…今の魔法だってさっきのスターライトブレイカーを消した魔法だってあるじゃない?》

 「…アンタがどういうつもりで聞いているのか知らないが、俺の言葉をちゃんと聞いていたか? 俺は嫌だではなく無理だと言ったんだ。手を出せるものならばとっくに出している。」

 《え…どういうこと?》

 志貴の言葉に意味が分からないと聞くリンディ。志貴はリンディにたいして言葉を続けた。

 「簡単な話だ。俺は空を飛べない。ついでに俺がまともに攻撃できる最大範囲は先程使った爪が届く範囲程度だ。
 攻撃も援護も届かない場所での戦闘に介入するのは無理だ。さっきの奴は攻撃対象を指定できないから確実になのはを巻き込むしな。」

 志貴の言葉に固まる一同。闇の書と呼ばれる女も一回触手を散らされてから攻撃を仕掛けてこない辺り律儀なのかどうなのか…なのはは純粋に驚いているが、雰囲気から通信越しの二人の額には大きな汗がにじんでいるのが感じられる。

 しばらくして漸く相手からのリアクションが帰って来た。

 《え、えっと…じゃあもう一回転送の準備をするからしばらく待っていて下さい。その間は申し訳ありませんが、相手の攻撃を避けていてください…》

 「了解。準備が出来たらもう一回連絡してくれ。」

 戸惑いを感じさせる返答に志貴は軽く答えると闇の書のほうに顔を向ける。そこで初めて志貴と闇の書は視線を合わせた。

 「あのスターライトブレイカーを消したのはお前か…だが、それだけの力を持ちながら空を飛べないとは…適正がなかったのか…」
 「お前らの魔法体系とこっちの魔術体系はまるで違うんだよ。こっちじゃ空を飛べる魔術師なんか数えるくらいしかいないんじゃないか? 知っている中では一人だけだしな。」
 「そうか…だが、あの攻撃をかき消すほどのイレギュラーだ。このまま放置するには危険だな。ここで倒れてもらおうか。」
 「そっちの攻撃ほど危険なものじゃないさ。それにお前の相手は俺じゃない。あと、いい加減上を見た方が良いと思うぞ?」

 志貴の声に従い上を見ると魔力を集中しているなのはの姿が、闇の書の統制人格はそれを見てその場から離脱しようとする。その時、別の場所から声が聞こえた。

 《よし、転送準備完了! さっきの子達と同じ所に送るからね!》

 「ディバイィーン…」

 志貴の足下に魔法陣が浮かぶのとなのはが攻撃態勢を整えるのがほぼ同時だ。
 闇の書の統制人格は志貴を攻撃するかなのはの砲撃に対応するか一瞬逡巡し、その隙に志貴は転送された。

 「く、しまっ…」
 「バスタァー!」

 志貴の転送を見た直後、なのはの砲撃が闇の書の統制人格に降り注いだ。


あとがき

直死の魔眼、スターライトブレイカーをかき消すの巻き! そして殆ど描写のないまま終わる!
魔法と魔術の違いがあるにせよ直死の魔眼なんぞを知られたら調査がウザいのを知っているのでこのことを話すことはないと思ってもらえれば…

それにしてもこの志貴、要所要所にいるくせに殆ど手を出しません。この事件をきっかけに立ち位置を多少変えることになりますが…

今回のフェイトの扱いがぞんざいなのはあの場面では志貴を絡ませにくかったのとなのはとフェイトの後ろで触手を避けている志貴を描写に入れながら書くと妙に間抜けなシーンになってしまったのでカットしたからです。
一応主人公は志貴なのでそれが絡まない話や本編の大筋に影響を与えるような変化以外は本編どおりに進めている形なので今後も省略することもあり、メインキャラがぞんざいな扱いになることは多々あるかも知れませんが、その辺りは先に誤っておきます。本っ当にスイマセン!!
なるべくそのようにならないようには頑張るつもりなので…

4/3 誤字修正と微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 第十一話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:38

 第11話 フルボッコ前のインターバル

 転送された志貴が最初に見たのは海に向かって移動しながら衝突を繰り返している二つの魔力光だった。
 さっきまでの状況から恐らくは闇の書と呼ばれた女となのはだろう。
 激しいドッグファイトを繰り広げているが、ダメージを感じさせない動きだったので志貴は不審に思った。

 「ん? 俺が転送される直前に確か…なのはのディバインバスターだったか、アレが撃たれたと思うんだが時間稼ぎ程度にもならなかったのか、それともあのタイミングでアイツが避けることが出来たのか…それとも他に俺の知らない何かがあるのか?
 まあいい、アリサとすずかは…海岸線沿いか。」

 志貴は先に転送されていた二人を見つけたが二人は遠くで移動を続けている光を追うことに一生懸命で後ろに転送された志貴には気付いていない。
 志貴はいたずらをしてみようかという衝動に駆られたが流石に状況がシリアスなので自重した。
 だが、何時までも気付かれないのはアレなのでとりあえず二人に近づき声をかけることにした。

 「あまり見晴らしのいいところにいると流れ弾が飛んでくるかもしれないから気をつけたほうがいいぞ、二人とも。」
 「「えっ!?」」

 いきなり予想外の所から話しかけられたからかそれとも志貴がここにいるとは思っていなかったからか二人はとても驚いた顔をして振り向いた。

 「ちょ、ちょっと! 何でアンタがここにいるのよ!」
 「なんだアリサ、俺がここにいちゃ悪かったか?」
 「そうじゃなくって! 最初アンタはここにいなかったでしょうが! ってことはなのは達を手伝ってるんじゃなかったの?」

 まくし立てるアリサと同じ気持ちなのかすずかもコクコク頷いている、こちらは何も言わない分志貴を睨む目が怖い。
 だが、そんな二人をスルーするように志貴は通信で言ったことと同じ事を二人に話すことにする。

 「あそこにおいていかれたのは俺も予想外だ。それに地面に足をつけて戦うならどうにでもなるが俺は空を飛べない。
 空中でドンパチするような奴らの中で俺が出来るのは逃げ回るくらいだからな。だからこっちに転送してもらった。」
 「う、それなら仕方ないわね。で、あっちはどうなってるのか分かる?」

 戸惑ったように状況を聞くアリサ、それに志貴は答える。

 「とりあえず俺が攻撃を避わしている間にフェイトがアイツに捕まったのは分かってる。
 だけど、どうやら解決法が見つかったらしいな、なのはが吹っ切れた顔をしてる。」
 「こ、ここからなのはちゃんの表情が見えるの?」

 今現在も戦況が見えていると言わんばかりの志貴のことばにすずかが戸惑いながら聞く。

 「ん、まあ。元々血筋の関係で特殊な目をしてるし今は魔術で強化も出来るから…って、はぁっ!?」
 「え、え? どうしたの?」
 「まさかなのはに何かあったの!?」

 珍しく志貴が大声を上げて驚いたのと同時に海上で今までより一際大きな輝きと爆音が起こったので今戦っている親友に何かあったのではと志貴に詰め寄る。
 だが、志貴はそれに対して呆れたように首をゆっくりと左右に振り答えた。

 「いや、吹っ切れた顔をしていたのは分かっていたけどまさか全力で特攻するとは思わなかった。」
 「と、特攻ってなのはは大丈夫なの!?」
 「ああ、問題無さそうだ。それにフェイトも助け出したようだし…いやはや、この歳でアレだけのことが出来るとは末恐ろしいな。
 将来はどんな砲撃魔術師…いや、あいつらの言い方だと魔導師だったかな? それになっているのやら。流石にあだ名が人間ロケットランチャーになるのは勘弁して欲しいぞ、全く…」

 志貴は心配しているのかどうなのかよく分からない台詞を言い、アリサとすずかは顔を引き攣らせた。
 志貴は付き合いが短い上に魔術師の世界と言うものを多少とは言え知っているためにそこまでショックは無かったが魔導、魔術の世界に縁が無く、その上でなのはと付き合いの長い二人にしてみれば運動神経皆無どころか運動神経が破綻していると言っても過言ではないなのはがそこまで凄いものだと言われてもピンとこないのだ。

 「ん? はやても出てきたな…っと、お? シグナムにヴィータ、シャマルに…あと誰だ? まあいいか、四人出てきたな、後は他に知らない顔が二人、いや、三人に増えたな。」
 「ねえ志貴、一人で納得してないでこっちにも分かるように話してくれない?」
 「そうだよ、一人だけ納得するのはずるいよ?」

 志貴はその状況を見ながらぶつぶつ言っている。
 それに唇を尖らせながら二人は抗議するように志貴に話しかけた。

 「ああ、悪いな、だけど流石に全部実況するのは無理だと思うんだが… 《ちょっと良いですか?》 ん? どうかしたのか?」

 志貴が二人に話しかけている間に志貴の目の前には緑の髪をポニーテールにした女性、以前翠屋に行った時に一度だけ会ったリンディ・ハラオウンが移っているウィンドウが浮いていた。
 それに対して質問をする志貴。それを受けて女性が話す。

 《時空管理局、現事件の責任者であるリンディ・ハラオウン提督です。七夜志貴君だったわね? 聞きたいことがあるのだけど良いかしら?》

 「リンディか、以前翠屋で会ったな。まあ、それは置いておこう。聞きたいこととは?」

 《それなんだけどね。さっきの魔法を消した方法で暴走した闇の書の防御プログラムを消すことは可能かしら?》

 リンディの言葉に少し考え込む志貴。それを見て女性は志貴に話しかける。

 《あ、無理だったら構わないのよ?》
 「いや、情報が少ないからなんとも言えないが、暴走した闇の書の防御プログラムってのはさっきまでなのはやフェイトが戦ってた女じゃなくて今遠くに見えるあの『黒い塊』のことを指してるので良いのか?」

 志貴に問われ説明不足だったことを思い出したのかすまなさそうにしているリンディ。
 そこで志貴はとりあえず話せるだけの情報を求めた。
 そこに出てきたのは大まかに言えば『アレはあの女性の破壊衝動とも言えるもの』ということと、『放っておけば世界が滅びるかもしれないが、あれ自身の特性によって封印も出来ず、壊すにしても被害が馬鹿にならない』の二点だった。

 《で、どうかしら、何とか出来そう?》

 「ああ、出来ることは出来るだろうが…あんたらの話に出てきたバリヤーをどうにかするのと、その本体とやらに、俺が出した爪が届くくらいの距離に俺を届けるか本体をこちらに近づけるかの二つが出来ないと無理だぞ?」

 あくまでも志貴自身の七夜の技能と直死の魔眼に関しては秘匿するらしい。
 リンディは志貴の何とかできると言う言葉を信頼しているのか笑顔になって続けた。

 《それなら大丈夫、うちの中でも強い子達が揃ってるからそれくらいは何とかなるわよ? と言うかそこまでは出来ても最後の一押しが出来ない状態だったからそれでいいのよ。》

 「分かった。じゃあ、そっちに俺が行くにしろそっちがこっちに来るにしろ、俺は空を飛べないから足場は頼む。」

 《ええ、分かったわ。それじゃあ彼女達の所に転送するわね?》

 そう言われ足下に白く展開する魔法陣。それを見てアリサとすずかが声をかけてきた。

 「なのは達と一緒に無事に帰ってきなさいよね!」
 「頑張って、でも無茶はしないで下さいね?」
 「ああ、アリサの方は了解した。だけど、すずかはなかなか無茶を言うな。まあ、善処しよう。少なくとも死にはしないさ。じゃあ、行ってくる。」

 その言葉と共に志貴は目の前の景色が変わるのを見た。

 「ふう、二回目とは言えまだ空間転移は慣れないな…っと、待ったか?」
 「「志貴(君)!」」
 「さて、メンバーも揃ったし、そろそろいいか?」

 目の前に現れた志貴になのはとフェイトは近づいたが空気の読めない執務官が口を挟んだ。

 「さて、最後の本体は彼、七夜志貴だったか? 君が何とかするらしいが、大丈夫だろうな?」
 「ああ、そっちは気にするな。与えられた役目はちゃんとこなすさ。」

 クロノは志貴の返事に納得すると全員に向けて話をする。

 「聞いての通りだ。最後は彼が何とかするらしいから、それまでの結界破壊と本体を覆う魔力体の破壊が僕達の仕事だ。
 僕もだが、皆も彼に聞きたいこともあるだろうが後二、三分でアレは暴走を開始するからそんな余裕は今は無い。皆、準備は良いか?」
 「「「「「「「「「「うん(はい)(ええ)(ああ)!!」」」」」」」」」」

 クロノの言葉に現状は和んでいる場合じゃないと認識できたのか気を引き締めるなのは達。
 そしてシャマルがなのはとフェイトに向かって話しかける。

 「さて、とりあえず回復しましょう。今の魔力じゃ全力を出せないでしょう?」

 そう言ってシャマルの足下に魔法陣が浮かぶ。

 「ヴォルケンリッター湖の騎士シャマルと風のリングクラールヴィント。後方支援、回復がその本領です。癒して、クラールヴィント。」

 優しい、薄い緑の魔力光になのはとフェイトが癒されていく。二人が回復をしている間、その後ろでシグナムが志貴に話しかけた。

 「ふ、久しぶりだな、七夜。まさかお前が切り札だったとはな。」
 「ああ、シグナムか…俺は別に切り札になった覚えは無いのだが…まあ、アレを放っておけば世界が如何こうなるって言うのなら手伝わざるを得ないだろう。ここは俺も住んでいる世界なんだから。
 まあ、最初は敵として戦りあったお前と肩を並べるのは不思議な感覚だが、色々話すのはアレをどうにかしてからにしようか。」
 「ああ、そうだな。あの時は逃げられたが今度はお前の力を見せてもらおうか。」

 病院で話をしていたことは知っていたが、仲良さげに話をする二人に周囲の面々(特になのはとフェイト。但しはやてを除く)はシグナムと志貴が本当に顔見知りだったことに驚き、何時、何処で知り合ったのか(物凄く)聞きたそうだったが、志貴の最後の一言で二人の関係を『問い質す』のは終わってからでもいいと思いなおし、今にも暴走を始めようとしている闇の書の防御プログラムに意識を集中させる。

 《時間です、暴走が始まります! 皆、頑張って!》

 エイミィの通信と共に黒い塊に罅が入り、中から異形の何かが現れた。

 「ストラグルバインド!」
 「チェーンバインド!」
 「縛れ、鋼の軛!」

 アルフとユーノ、そしてザフィーラが叫ぶと共にそれぞれの魔力光と同じ色の鎖が異形を縛っていく。異形の周囲に蠢いている触手のようなものの動きを封じ込めると、なのはとヴィータが前に出てきた。


あとがき

中途半端なところで切ってしまいました、どうもすいません!!

この続きも加えると倍くらいの長さになったので…流石に次の話でフルボッコの話は終わります。それにしても志貴が闇の書に絡んだのが最後だけか…力を振るうのには抵抗が無いにしても最初は普通の生活をしようとしていた以上はこれくらいかな? とも書く前は思いましたが、書いていたら流石に少ない気も…と思い始めました。

とりあえずA’s編は後二話くらい、StS編を書く前にその間の話を少し長めに入れるつもりです。最初はスパッと終わらせてStSへの足がかり程度にしか考えていなかったのですがいつの間にか日常やらなにやら思いついて組み込むうちにこんな長さに…

前話の感想で直死の魔眼についてのツッコミが多かったので第7話に続いて更に言い訳を…

志貴の直死の魔眼でスターライトブレイカーを殺せないのでは、と言うことですが、こうしないとこれから先の話に絡めない。と言うご都合主義というだけではなく理由もちゃんと考えています。

『遠野志貴』の覚醒した直死とは違って七夜は生物としての死だけでなく、『タタリ』と言う情報体での死を体験したわけです。
直死の魔眼については死を体験したことによって死を理解してしまったがゆえに死が見えるようになった、と言う風に私は解釈しているので、七夜は自然現象などの死は遠野志貴の直死の魔眼と同じく見えませんが、情報の死は遠野志貴よりは負担が少ないまま見えるわけです。
スターライトブレイカーは純粋魔力の放出ですが、こちらも魔法のプログラムによって固められているものなので核となるプログラムを殺せば攻性の魔力から純粋なマナに変わってスターライトブレイカーは霧散するのでは、と言うのが私の見解です。
当然ですが、理解の範疇を超えている自然現象が消せない以上、サンダーレイジやエターナルコフィンなどの魔力を自然現象に変換した魔法については殺せません。
…変換した魔法が殺せるもの程度の物質であれば話は別ですが、エターナルコフィンは対象を中心に凍りつかせるものと判断したので…もちろん、凍らされた後の物質については殺せます。
とりあえず、私の小説の中においての魔法に対する七夜の直死の魔眼の考え方としては超高濃度のAMFと似たようなものでしょうか。

流石にこの点については賛否両論あると思われますが、私の直死はこういうものだと理解していただければ、と思います。

今後も気になった点や、質問などがあればドンドン聞いてください。私が初期に設定したものに入っていれば言い訳のようなものを、設定に入れていなかったものに関しては謝罪と訂正をしたいと思います。
誤字については感想を読んだ次の更新時に同時に訂正します。

12/19 改訂

4/3 誤字修正と微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 第十二話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:38


 第12話 連続攻撃(と言う名のイジメ)

 「チェーンバインド!」
 「ストラグルバインド!」
 「縛れ…鋼の軛!」

 ユーノ、アルフ、ザフィーラ。それぞれの声と共に魔力の鎖が出てきた異形の周囲に存在する触手を絡めとり、絞め、切る。
 本体以外に障害物が存在していない状況になり、攻撃の舞台は整った。

 「ちゃんと合わせろよ、高町なのはっ! 遅れんじゃねぇぞ!」
 「ヴィータちゃんもね!」

 闇の書の暴走体を前にしてなのはとヴィータはお互いを鼓舞する。まず、ヴィータが一歩前に進みグラーフアイゼンを構える。

 「ヴォルケンリッター、紅の鉄騎ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン! あたしらに砕けないものは…」
 『Gigant form』

 ヴィータの手の中のグラーフアイゼンから薬莢が排出されその姿を大きく変えていき、巨大な鎚に変化した。ヴィータはその大鎚を上段に構えた。

 「無ぇっ!! 轟天爆砕、ギガントシュラーク!!」

 気合と共に振り下ろした大鎚は闇の書の防御プログラムの前に展開されたバリアに接触し、バリアは乾いた音と共に割れた。
 ヴィータの攻撃から間髪置かずになのはがレイジングハートを構える。

 「高町なのはとレイジングハート・エクセリオン。行きます!」

 つい最近装備されたばかりだと言うのに既に手に馴染んだ反動が加わり薬莢が排出される。
 なのははカートリッジロードによってフルドライブ状態になったレイジングハートを構えると眼前に魔法陣が浮かぶ。

 「エクセリオンバスター!」

 声と同時に四本の光が螺旋を描くように闇の書の防御プログラムへ向かう。
 しかし、四本の光は手前のバリアに阻まれそこまでで止まってしまう。
 だが、それだけで終わらないことの証明のようになのはの眼前の魔法陣には更に強い光が集まっている。

 「ブレイク…シュート!!」

 その叫びをトリガーに魔法陣から一際大きな光が四本の螺旋を巻き込んでバリアに当たり、また一つのバリアが砕ける。
 その光景を後ろで見ている志貴は呆れた声を出すしかない。

 「おいおい、なのはの馬鹿でかい魔力砲もそうだがヴィータの大金鎚はなんなんだ…やっぱりこっちでも魔法って言うのは非常識らしいな…」

 志貴の呟きを気に留めることなく攻撃は続く。

 「次、シグナムとテスタロッサちゃん!」

 シャマルの声にシグナムとフェイトも構える。

 「剣の騎士、シグナムとその魂、炎の魔剣、レヴァンテイン。刃と連結刃に続くもう一つの姿…」
 『Bogen form』

 シグナムがレヴァンテインを鞘から引き抜き柄を鞘と合わせる。それと同時に二つは一つになり、弓を形成した。

 「翔けよ、隼!」
 『Strum falken』

 弓の間に物質化された矢が形成され魔力を伴い撃ちだされる。矢はバリアに当たり、爆散しながらもバリアを壊す。
 また、フェイトも自身の得物を構える。

 「フェイト・テスタロッサとバルディッシュ・ザンバー…行きます!」

 フェイトはバルディッシュを大きく振り上げる。

 「撃ちぬけ雷神!」
 『Jet zamber』

 バルディッシュの刀身から伸びた光が最後のバリアを砕く。
 それに反応したかのように闇の書の防衛プログラムは触手を使い、砲撃の準備に入ろうとする。
 しかし、その前に反応する影があった。

 「盾の守護獣ザフィーラ、砲撃なんぞ撃たせん!」

 その言葉を肯定するように白い杭が砲撃準備に入った触手を貫いていく。
 その隙に次の一手を打つようシャマルがはやてを促す。

 「彼方より来れヤドリギの枝、銀月の槍となりて撃ち貫け! 石化の槍、ミストルテイン!」

 はやての白銀の魔力が防衛プログラムを貫き、その表面を石化させていく。だが、石化した部分が崩れても別の部分が補い、姿を変えていく。

 「…何だがどんどんグロテスクになっていくな…『混沌』が喰い散らかしたあのホテルの血河屍山の状態よりはマシだろうが…」

 『やっぱり並の攻撃じゃ通用しない! ダメージを入れたそばから回復されちゃう!』

 その姿を見て志貴はぼやく。いまいち緊張感の無い志貴とは対照的に通信からは悲痛な叫びが聞こえる。そんな中執務官の冷静な声が聞こえた。

 「だが、効いていないわけじゃない。攻撃は通っている、プラン変更は無しだ。行くぞ、デュランダル。」
 『OK Boss』

 クロノの言葉に手の中にあるデュランダルが答える。

 「悠久なる凍土、凍てつく棺の内にて永遠の眠りを与えよ。」

 クロノの魔力が冷気に変換され、防衛プログラムの周辺の海を凍らせていく。そして、クロノとデュランダルがとどめの言葉を紡ぐ。

 「凍てつけ!!」
 『Eternal coffin』

 防衛プログラムの体が完全に凍り、更に表面が崩れる。
 それを好機と見てなのはが最後の追い討ちをかけるためにフェイトとはやてに声をかける。それに頷いた二人はなのはに合わせて魔法を展開していく。

 「全力全開、スターライトォ…」
 「雷光一閃、プラズマザンバー…」
 「ごめんな…おやすみな…響け終焉の笛、ラグナロクッ…」

 「「「ブレイカーーーッ!!!!」」」

 三人の声と同時にそれぞれから凄まじい魔力が放出された。
 三方から向けられた砲撃に外装は完全に破壊され周辺は煙に覆われた。
 その中をシャマルが旅の鏡で本体を探る。

 「本体コア露出…捕まえ…た!」

 シャマルの展開する旅の鏡の中で黒い光が強く輝く。

 「志貴君、お願い!」
 「ふう、漸く出番か…さ、受け取れよ、アンタへの手向けの花だ…」

 その輝きを前に志貴はゆっくりと顔を伏せ、蒼く輝く眼を誰にも見られないように手をかざす。
 その体勢のまま志貴は魔術を作動させる。

 「じゃあな、ここで消えろ。バッドニュース…」

 志貴の言葉と共に三本の黒い爪がコアに襲い掛かり、蹂躙する。志貴の目にはその中の一本が点を貫いているのが視えていた。
 その直後、志貴の目の前で黒い光が強く輝き、消えた。

 「もう、終わったの?」

 あまりにも呆気無い消滅の仕方だったため疑うような声を出すなのは。

 「ああ、終わった。まあ無いとは思うが後は再生するか観測してもらえ。」

 志貴の言葉に観測した結果を知らせるアースラ組み。

 『再生反応ありません。闇の書の防衛プログラムの完全消滅、確認しました…』
 『信じられないわ、アレだけでどうやって…』

 信じられないといわんばかりの正規の管理局員。民間協力者は単純に全部終わったことが嬉しそうだ。
 だが、シグナムだけは顔色が悪い。はやてがそんなシグナムに気付いた。

 「どないしたん、顔色が悪いでシグナム?」
 「いえ、あの黒い爪ですが以前、志貴に喰らわされたことがあるので、もしかしたら私もあのように消えていたのかと思うと…」

 その言葉を聞いた志貴は直死の魔眼を秘密にするつもりであったので魔術の効果であると言うことは否定しないようにしたが、簡単に出来ることではないとシグナムには釘を刺しておくことにした。

 「アホか、あんなのがそうホイホイ出来てたまるか。アレはある意味俺の魔術の限界を超えてる。触媒無しに出来るものじゃない。」
 「触媒?」

 シグナムが疑問の声を上げるが志貴は自分に問いかけてきたシグナムよりもはやてに目線を向ける。

 「答えるのは構わないがもうそろそろはやてが限界だ。見たところ初めて魔術を使ったのにアレだけ大規模の大魔術、魔力の負担もそうだが、体に疲労が無いはずが無いだろう。
 っとお前らの言い方だと魔法だったな。」

 志貴の言葉と同時にはやての体が傾きシャマルに支えられる。シグナムもそれを見て駆け寄った。
 シグナム以外に志貴の言葉は聞こえていなかったので一気に悲壮な雰囲気になる。そこに志貴が割り込んだ。

 「落ち着け。初めて使う魔法でしかも大魔法を連発したんだ。疲労が限界に来ただけだから命に別状は無いはずだ。
 俺達の魔術なら危ないだろうが…兎も角、今は慌てずに回復させろ。」

 志貴の言葉に次第に落ち着く一同。志貴の言葉ではやてはアースラで面倒を見ることになったが、その際にリンディから志貴にも声がかかった。

 『ねえ、志貴君。さっきはゴメンなさいね。一人だけ置いて転送してしまって。』

 「いや、別に構わんよ。そっちの責任者としてはその場にある駒で使えそうなものは使う必要があったんだろうし。
 何より俺もあの魔力砲を消すなんてでしゃばった真似をしたから戦闘もこなせると思われたんだろうしな。」

 『そう言ってもらえると助かるわ。あの時は切羽詰ってたし、事後承諾で手伝ってもらおうと思っちゃったから…』

 「気にしていないと言ったぞ? 使うべきものは効率よく使う。魔術師だろうがあんたら魔導師だろうがその点は変わらないだろう?」

 『そうね、その通りだわ。
 ところで、貴方も闇の書の最後に関わったものとしてアースラまで同行願えないかしら?』


あとがき

フルボッコの回終~了~!

後一回か二回でA’sも終わりだ。殆ど後半からのスタートだったのに意外と長くなったのには反省。後はフルボッコ、逃走があっただけで戦闘にならなかったのが心残りかな?
まあ、作者はバッドエンドを見るのは結構好きですが、自分で構想を練るとバッドエンドにならないのでこの話もバッドエンドにはならないと思います。
ですが、そう簡単なハッピーエンドにもならない(と思う)ですよ?

それにStSではリィンⅡも登場させるつもりですし、リィンフォースにははやてについてもらおうか志貴についてもらおうか…
この辺りはどちらにしても話の大筋に変化は無いので感想で希望があれば書いてください。一週間で多かった方の意見を採用させてもらおうと思います。アンケートではないのであくまで希望です。(私が書くとどうするか…と言うのは秘密です。)

年末年始は何故か妙に忙しいので、A’s編が終わってから次の話しに行くまでかなり遅れるかもしれませんが、時間を見つけては書き続けます。
なるべく早くお会いできるように頑張りたいと思います。

ではでは次回。

4/3 誤字修正+微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 第十三話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:39


 第13話 志貴、尋問される!?

 「で、一体君は何者なんだ?」
 「着くなり失礼だな。そもそも何を聞いているのか分からんぞ。」

 リンディの誘いに乗りアースラへ行くことを了解したのはいいのだが、アースラに到着し、会議室に着くなり志貴はクロノに問い詰められていた。
 だが、会議室にいるアースラスタッフもクロノに多少なりとも同意見なのか口を開こうともしない。その様子に志貴はため息を吐き、とりあえず自己紹介でもするかと考えている。
 すると横合いからおずおずと意見が出た。

 「志貴、多分クロノは志貴が使った魔法のことを聞きたいんだと思うよ?」
 「それだけではないんだが…まあ、まずはそれからだな。」

 フェイトの意見にクロノが憮然としながらも頷く。それを見て志貴は肩を竦めた。

 「やれやれ、それならそうと言ってくれればいいのに。俺が何者かなんて聞かれても俺は七夜志貴だとしか言えないからな…っと俺が使ったアレの説明か…理由は後で説明するが、詳しいことは話さないぞ。」
 「なっ…貴様っ…」

 志貴がいきなり詳しく説明するつもりは無いと言うのでクロノが立ち上がる。だが、それはリンディに止められる。

 「待ちなさい、クロノ。」
 「何故ですか、母さ…リンディ提督! 彼は我々に対して詳細な情報の提示をするつもりが無いと言っているのですよ!」
 「落ち着きなさい。確かにそう取れなくも無いけど、理由は後で説明するとも言っているわ。納得するかどうかはそこまで聞いてからでもいいでしょう?」

 リンディの説得にクロノは渋々座りなおした。しかし、志貴を睨む眼光は衰えていない。
 志貴はそれを飄々と受け流しながら話を再開する。

 「もういいか?」
 「ええ、ゴメンなさいね。話を中断して。」
 「いや、別にいいさ。さて、俺の使っているアレに関してだが、残念ながらフェイトの言っていたような魔法ではない。俺達は魔術、と呼んでいる。」

 魔法と魔術、二つの言葉が出てきたがその違いが分からない一同は首を捻るしかない。
 その中ではのはが志貴に質問した。

 「あの~、志貴君? 魔法と魔術の二つって何か違うの?」
 「…まあ、お前達にとっては二つの言葉に大した差は無いのだろうが、とりあえず魔術師の前でその台詞はやめておいたほうがいいな。
 魔術を使うものにとって魔法とは手の届かない領域にあるものだ。簡単に言えば時間と金、設備さえあれば現代の科学技術で起こせる現象を起こすのが魔術。そして、それらの全てが揃っていても起こすことができない奇跡を起こすのが魔法だ。
 俺の知識にある魔法の例としては…完全に何もないところから存在を生み出す無の否定。過去や未来へ干渉できる時間旅行。魂単体で世界に存在し、不老不死となることが出来る魂の物質化あたりか…」

 自分の素性を完全に明かすつもりは無いのでその可能性に行き着く可能性のある平行世界の運用については黙っている。
 だが、それでも今までの志貴の台詞に黙っていられなかったクロノが叫ぶ。

 「バカな! そんなことは不可能だ!」
 「そう、不可能だ。だが、言っただろう? 不可能を起こす、そんな奇跡を俺達は魔法と言うんだ。それ以外は須らく魔術なのさ、俺達にとってはね。」

 志貴の言葉に納得はしていないが理解してしまったクロノは渋い顔をしながら矛を収めた。
 だが、今の話を完全に理解出来なかったのかなのはがおずおずと手を挙げた。

 「あの…志貴君、ちょっといいかな?」
 「ん? 質問はいいが、話は途中だから後でまとめて聞いたほうがわかりやすいと思うが…」
 「…分かった。」

 志貴の言葉に渋々と言った感じで引き下がるなのは。志貴はそんななのはを見て話しても問題ないレベルの説明を続ける。

 「さて、魔法と魔術の違いを話した上にまるで違うもののように話したが、言ってしまえばこの二つは同じものだ。ただ、それが現代科学で再現できるかどうかってだけの話さ。
 魔力を用いて、根源からの情報を直接的にしろ間接的にしろ掬い上げ、そして望む現象を起こす。
 まあ、魔術は基本的に感覚的なものだから俺のイメージではあるが、誰に聞いても今の三点で表現が変わることは殆どないだろう。
 根源からの情報を掬い上げるのか、写し取るのか、その辺りが感覚次第、といった所か。」

 大まかな魔法と魔術の違いの説明に感心したような顔をする一同。その中でもなのはは自分の世界にそんなものがあると知らなかったので驚きも一入だ。

 「さて、俺の魔術についてだが、爪はバッドニュース、渦はファンブルコードと言う。付加能力として魔力を加えて見せたような消滅と言う結果を出せる。話せる情報はこれくらいだな。」
 「理由は…教えてくれるんでしょう?」

 殆ど何も分かっていないのと変わらない志貴の説明にリンディが口を挟んだ。志貴は頷くと言葉を続けた。

 「ああ、さっきも言ったが魔術も魔法も根源から情報を掬い上げて使うことに大きな差は無い。」
 「ちょっと待った。さっきも聞こうと思ってタイミングを逃しちゃったけどその根源って何?」

 志貴が説明を続けようとするとユーノが突っ込んだ。それに対して志貴は少し逡巡すると話を続けた。

 「そうだな、少し長くなるがそこから話した方が言いか…お前は…」
 「ユーノだよ。」
 「そうか、ではユーノ。アカシックレコードと言うものは知っているか?」
 「え? えっと…どこかの文献で似たような言葉を見た記憶はあるけど…
 確か、世界の情報全てが詰まっている場所、だったっけ?」

 ユーノの言葉に軽く頷いて志貴は自身の説明を続ける。

 「まあ、その認識でほぼ間違っていない。
 簡単な説明になるが、そのアカシックレコードというものには全ての情報がある。魔術の情報も当然のことながら魔法の情報もそこには含まれる。
 魂の情報を内包したものによる死者蘇生や時間の情報を内包したものによる時間旅行などな。」

 死者蘇生という単語にフェイトの体が反応したが、気配に敏感な志貴、感覚がリンクしているアルフ以外には気付かれていなかったので、突っ込んで聞くのは野暮か、と思った志貴は続けた。

 「そのアカシックレコードを魔術師、魔法使いは総じて全ての魔術、そして魔法の根本がある場所として根源と呼ぶ。」

 根源についての説明には大体のところで納得したのか、今回は突っ込む人間はいなかった。

 「さて、話が少し逸れたが、魔術も魔法も根源から情報を掬い上げて行使していることに差は無い、とまでは言ったな。
 もちろん、越えられない差はあるが…
 それは今は置いておいて、さっきの話の中で問題になるのが魔術師、魔法使いの数だ。
 根源といえどそこに蓄えられる…いや、少なくとも今までの人間が確認した限り、そこにある魔術・魔法の情報は無限ではない。当然、汲み上げられる限界も存在している。」

 今までに無い話にそろそろなのはの頭はいっぱいになりそうだ。ユーノは考古学一族としての血が騒ぐのか目が輝いている。

 「そうだな…簡単に言えば、一日ごとに張り替えられる湯船いっぱいの湯を想像してくれ。そこが根源だ。
 そして魔術師達はそこに神秘を使うためにコップを持って集まっていると考える。根源はコップを持っている存在には魔力の多少に関係なく平等に湯を分ける。
 コップを持っている人間が増えたら一人当たりの割り当てはどうなる?」
 「当然少なくなるよね…ということは魔術を使える回数が少なくなる?」

 志貴の問いかけにユーノが即座に答える。だが、志貴はそれに苦笑しながら答えた。

 「ハズレだ。根源にあるのは情報だけだからな。回数に関しては基本的に本人の魔力量に依存するからそこには殆ど関係がない。答えは魔術の力が下がる、だ。」
 「下がる?」
 「そう、威力だけでなく、持続時間、効果、効率など、魔術そのものの力が下がるんだ。これは根源が多くの人間に神秘を分けるために神秘そのものを希釈しているせいかもしれない。
 まあ、詳しいことは分かっていないが魔術は使うのを見られるだけでもその力を下げる危険を孕んでいるということだけは分かっている。
 ましてや自身の魔術を詳しく説明するなんて魔術師としては自殺しているようなものだ。
 とは言え、今みたいに魔術の根本を話すだけでも他の魔術師に知られれば俺は問答無用で殺されるだろうがな。」

 殺す、と言う単語で激しく反応する人影があった。

 「そんな!? 無茶苦茶だよ! 非殺傷設定は!?」

 なのはが叫んだ聞きなれない単語に志貴は眉を顰める。

 「非殺傷設定?」
 「知らないの? 肉体にダメージを与えずに魔力のみにダメージを与える。そうすることで相手を殺さないようにするものなんだけど…」

 志貴の疑問の顔にリンディが答えた。だが、志貴はその言葉にも顰めた眉を戻さずに言う。

 「知らないな。と言うかこちらとそちらの技術体系を同じだと思わないで欲しい。そちらが知っていて当たり前のことがこちらでは当たり前ではないし、その逆もありえるんだから。」
 「じゃあ、君はどうやって魔術の腕を磨いたのかしら?」

 非殺傷設定が無い以上人を殺しているかもしれない。
 もしそうならば見逃せないという気持ちを込めてリンディが言った。
 志貴は、それを感じ取りながらもいつもと同じ姿勢を貫いて答えた。

 「人間相手には使ったことは無いな。攻撃の系統を訓練する時は基本的には案山子が的だった。他には草木くらいだな。
 魔術を使った実戦は今回のことが初めてだよ。まあ、少し前にシグナムとやりあって結果としては俺が勝利条件を収めたが…」
 「え…? 志貴、シグナムに勝ったの? 逃げたって聞いたけど。」

 聞き捨てなら無い台詞が出たのでフェイトが志貴に疑問を投げた。

 「ん? ああ、病院でも言ったが、いきなり襲われたんだよ。違うのはそれが剣だけじゃなくて魔力の応酬に準じるものだったって事だけどね。それに、勝ったわけじゃなくて俺が負けなかっただけだよ。」
 「それって、どういうこと?」

 実質、自分が最後まで勝てなかった相手に負けなかったと言われ、興味を抑えきれないのかフェイトは身を乗り出して志貴に話を聞こうとする。それに志貴は若干引きながら話した。

 「時間が無い、みたいな事を言っていたから会話で時間を潰してファンブルコードで眼くらまし、丁度周りは木ばかりだったから身を隠してやり過ごした。
 あの時、俺が負けないためには時間切れ、あっちの制限時間の間俺があっちの勝利条件を満たさせないことだったし。」
 「…それ、逃げたっていうんじゃないの? 勝ってないよね?」
 「ああ、出力じゃ完全に負けてるし、俺は空を飛べない。
 そもそも俺にはシグナムと戦う意味も無かったし。とにかく俺はシグナムにとっての時間切れまで生き残れば勝ちだったんだよ。」
 「そっか、じゃあ、志貴はシグナムに勝てないんだね。」

 あまりにも期待はずれな内容にフェイトは少し不満げな声で棘を放った。

 「いや? 勝とうと思えば勝てるぞ。闇の書の闇だったか? アレを消した要領でシグナムを消せばよかったんだから。
 そもそもシグナムが純粋な生命体じゃないのは一目で分かったし。」
 「え…?」

 純粋な生命体じゃないという所でフェイトが再び反応する。それが流石に気になったのか志貴が質問する。

 「なあ、フェイト。何がそんなに気になったんだ? さっきからクロノのオーバーアクションを除いて、局所局所で一番大きな反応をしたのはフェイトだ。」

 志貴の質問にフェイトは俯き、他の一同は気まずげな顔をする。それを見て志貴は自分がまずい質問をしたのかと思い話題を打ち切ることにした。

 「…不躾な質問の上、拙い話題だったみたいだな。悪かった。
 これ以上は聞かないし、空気を悪くした俺はさっさと退散することにするよ。
 他に何か聞きたいことがあればまたはやての目が覚めてから聞く。」

 そう言って志貴は部屋から出て行く。
 部屋に残ったメンバーは志貴のシグナムを消せばよかったという言葉に対する疑念はあったが、気落ちしたフェイトを放っておくことも出来ず、志貴に話を聞くのは後にすることになった。

 一方で志貴ははやての眠る部屋に向かっていた。


あとがき

魔術と魔法の違いなどの点についてはほぼ独自解釈です。リリなのサイドにしろ型月サイドにしろなるべく原作との矛盾点は少ないようにしたいと思ってはいるのですが…

クロノ君が妙に喧嘩腰だ…私の中ではこの頃のクロノ君ってこんなイメージになってるんですけど…っていうかツンデレですね。だけど、全てを話したわけじゃない志貴に対してはデレない。そんな感じです。

フェイトに対するフォローは早いうちにします。

感想に戴いたアリサとすずかのアースラ行きは無しでした。その話を書くと私の力だと話を纏めるのに何話かかるやら…アリサ分、すずか分は中間期で補給です。

次は順調にいけばヴォルケンリッターサイド。
話が上手く纏まらなかったらまた番外なり小ネタなりでお茶を濁すかも…恐らく大丈夫だとは思いますが。
とにかく、A’s編がなかなか終わらない…グダグダ引っ張るとウザくなってしまうのは分かっているんですが…
鋭意努力しなければ、ですね。
とりあえずリィンフォースは志貴サイドに決定します。

今年中に区切りを付けたかったんですが、そろそろ忙しくなりそう…今年中には後一回更新できるかどうか…少しでも暇が出来れば書いていきたいと思うのですが…

A’s編完結目前でこんなことになるとは…悔しいです!!

4/3 誤字修正+微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 第十四話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:39


 第14話 閑話…のようなもの

 アースラの一室、特に何がある部屋ではないがそこに八神はやてとヴォルケンリッター、リインフォースは揃っていた。
 と言うのもあの戦いの後、空中で意識を失ったはやてをこの部屋に寝かし、主が心配だった一同が離れなかったからだ。
 そして今、この部屋には重い空気が漂っていた。

 「やはり、破損が致命的な部分にまで至っている…防御プログラムは停止したが、歪められた基礎構造はそのままだ。
 私は、夜天の書は遠からず新たな防御プログラムを生成し、再び暴走を始めるだろう。」

 淡々とした口調が事実を伝えていることを如実に現している。そこには感情の入る余地は無く、最早そうなることにしかならないのだと。

 「…やはり、か。」
 「修復は出来ないの?」

 予想は出来ていたとシグナムが口を開き、次いでシャマルも一縷の望みをかけようとしてリインフォースに尋ねる。
 だが、それに帰ってきたのは諦めたように首を横に振り答えたリインフォースの冷たい言葉だった。

 「出来ない…管制プログラムである私の中から夜天の書本来の形が消されてしまっている…」
 「元の姿が分からなければ戻しようが無い、と言うことか…」
 「そういうことだ。」

 リインフォースは狼の姿のまま話すザフィーラの言葉を肯定する。そこまで聞き、シグナムは眠っているはやてを見つめて口を開いた。

 「主はやては大丈夫なのか?」
 「何も問題は無い。私からの侵食も完全に止まっているし、リンカーコアも正常作動している。
 不自由な足も時を置けば自然に治癒するだろう。」
 「そう…それならまあ、良しとしましょうか。」
 「ああ、心残りは無いな。」

 その返答にシャマルとシグナムは安心したように答えた。

 「防御プログラムが無い今、夜天の書の完全破壊は簡単だ。破壊しちゃえば暴走することも二度とない。
 …代わりに、あたしらも消滅するけど…」

 最初のリインフォースと同様、事実を淡々と口にするヴィータ、それを見てシグナムはヴィータに謝った。
 だが、ヴィータもその可能性はあったと言うことは知っていたようで、落ち着いた様子だった。だが、そこにリインフォースが言葉を重ねた。

 「いいや、違う。」

 その言葉に一同はリインフォースの方を見る。ヴォルケンリッターの疑問の視線を浴びながらリインフォースは更に言った。

 「お前達は残る。逝くのは…私だけだ。」

 そこまでリインフォースが言うとノックする音が聞こえた。

 「ん、誰だ?」
 「七夜志貴だ。ちょっとあっちに居辛くなったんでな、はやての見舞いに来た。」
 「そうか、入ってくれ。」

 言葉の後に空気の抜けるような音が聞こえ、志貴が中に入ってきた。

 「いや、すまんな。家族の中に入るつもりは無かったんだが、ちょっとした失言でな…
 それで、どうした? 通夜会場か火葬式場のどっちかみたいな雰囲気をして…はやてに致命的な何かがあったわけじゃないだろうし、お前達の誰かに何かあったのか?」

 その言葉に志貴にもさっきと同じ説明をした。その後でリインフォースが志貴に提案をした。

 「七夜志貴、と言ったな。あの暴走した防御プログラムを消したものと同じ方法で私と夜天の書の本体を完全に消すことは可能か?」
 「…可能か不可能かで言えば可能だ。だが、目が覚めないはやてを置いておいて結論を出すのは早計じゃないか?」

 リインフォースの提案に肯定の返事をする志貴だが、志貴の返した質問にリインフォースは首を横に振るだけだった。

 「…待っていては手遅れになる可能性が高いのだ。
 新たな防御プログラムが生成されるのは何時になるか分からない。遥か未来のことになるのか、それとも刹那の後のことになるのか…
 こうして話している間にも生成される可能性すらゼロではないのだから。」

 その言葉を聞き、志貴は複雑そうな顔をする。

 (くそ、宝石翁と人形師がいればこの状況も何とでもなるが、俺だけでは…いや…)

 「そうか、分かった。
 リインフォース、明日の朝だ。それまでにはやてが目が覚めない、もしくは目が覚めて尚同じ結論になったなら俺の所に来い。準備があるから一旦翠屋に行く必要はあるが、俺がやる。」
 「分かった。まあ、主が起きてどう言ったとしても結論は変わらん…そうでなければ私が主を殺してしまうのだからな。
 私にはそれが耐えられないのだ。」
 「それでもだ。時間が無いことは理解したが今すぐ消えていいという理由にはならない。
 何も言わずに消えるのははやてを悲しませるからな。せめて一晩くらいは待ってやれ。
 その前に暴走するようならその場で俺がお前を消してやるさ。」

 自嘲めいたリインフォースの言葉にも志貴はきっちりと釘を刺し出て行く。
 残されたリインフォースとヴォルケンリッターは静かに眠っているはやてを見下ろすだけだった。

 一方、部屋を出た志貴はリインフォースのことと自身の魔眼についてのことを考えていた。

 (とりあえず直死の魔眼についてはやはり秘密にした方がいいだろうな。
 殺すと言う単語だけでアレだけの反応を示したんだ。実際に殺すための眼なんて持っていることが知られたら何を言われるか分かったものじゃない。魔力の塊と闇の書を消したのは宝石による魔力のブーストと俺の魔術の特性ということにするか。
 リインフォースについては…)

 そこまで考えた所で前から知った顔が歩いてきたことに気付いた。

 「ん? なのは、フェイト。もういいのか?」
 「あ、うん…」

 フェイトは答えるもののその表情は暗い。志貴は何かあることは気付いていながらそれが何なのか分からないので迂闊なことも言えない…

 「なあ、さっきの話し合いの中で何がそんなに気になったんだ?」
 「志貴君っ!」

 というわけでもなく、ずけずけと聞いていく。
 なのはが志貴を責めるように声を上げるが志貴はそちらを一瞥して一息つく。小動物のように震えるフェイトがなのはの影にいることも原因の一つではあろうが、自分が言ったことで空気が重くなったことが最大の原因であるのだろう。

 「まあいいや、多分何かトラウマを抉るようなことを言ったんだろうし、いきなり言った手前説得力はないかもしれないが言いたくなったら、と言うか俺に言ってもいいと思ったら話してくれればいいさ。」

 流石にここで更に問い詰めるほど、空気を読めない志貴ではないので、フェイトを追い詰めるようなことはしない。
 …相手が敵であるなら嬉々として挑発しながら追い詰めるのだろうが、フェイトは敵ではない。
 その一言で少しホッとしたのかフェイトの纏う暗い雰囲気が和らいだ。
 なのはもフェイトの雰囲気が少し良くなったことに気付き、志貴を見て今までどうしていたのか聞いた。

 「ん? ああ、はやての見舞いにな。まだ目は覚めてなかったが。その代わり、ヴォルケンリッター達とは少し話した。」
 「そっか…」
 「ねえ。」

 まだ目が覚めていないことに気を落としたなのはだが、フェイトは志貴に対して口を開いた。

 「ん? どうした、フェイト。」
 「志貴はどうやってシグナムが純粋な生命体じゃないって知ったの?」

 どうしてもこれだけは聞きたい、嘘は許さない、と言わんばかりの眼光で志貴を見るフェイト。
 その眼光に志貴は説明するまで放してくれそうに無いと悟って、当たり障りのない建前を話すことにした。

 「ん、まあ、俺の魔術の特性だと思ってくれれば…」
 「…………ホントに?」

 詳しい説明ではない以上納得できないと眼で訴えかけてくるフェイト。それに苦笑して志貴は少し嘘の種をばらすことにした。

 「俺の魔術特性は情報に特化しているんだ、プログラム相手だと何となくでも分かるのさ。
 シグナムは完全に受肉した状態だったから分かりにくいとは思ったがやっぱり情報体である以上感覚的にではあるが、違和感はあったんだ。」
 「そっか…うん、分かった。」
 「秘密にしてくれよ? 流石に自分の魔術特性まで魔術を知らなかった相手に話すとは思わなかったんだ。
 なのはも、今聞いたことは他の人には秘密だ。」

 その志貴の言葉に少し嬉しそうに頷く二人、そこで志貴はさっきまで考えていたことを思い出し、なのはに質問した。

 「なあ、今更だとは思うが俺は帰れそうに無いのか? 任意同行で来たとは言え流石に一晩丸々だと半ば軟禁されている状態と言われても文句は言えないと思うんだが…」
 「私にそんなこと言われても…」

 志貴の質問に困ったように笑うなのは。そこにクロノとユーノがやってきた。

 「心配しなくても家には帰すさ。だが、流石に今から帰ったら夜中だし、今夜はアースラの空き部屋に泊まるといい。
 なのはの家に連絡はいっているしな。」

 その言葉を聞いて、志貴は仕方ないと言わんばかりにため息を吐いた。

 「何か不服そうだな?」
 「いや、言い分は分かるさ。だが、感情は別だと言うことだ。
 そもそも行使方法の違う魔力使用体系がすぐ近くにあって落ち着けるほど俺は図太くは無い。まあ、特別、神経質と言うわけでもないがな。
 で、俺の部屋はどこになるんだ?」

 その言葉を聞いてユーノが口を開いた。

 「それが決まったから案内しに来たんだよ。とりあえず場所を教えても道が分からないと思うからクロノについていってよ。」

 そう言いながらユーノはなのはとフェイトの方に近づいていく。
 その言葉を受け取ってクロノはこっちだと短く言って志貴の前を歩いていく。
 それについていきながら志貴はクロノに話しかけた。

 「ああ、そうだ。とりあえずこちらの情報ばかり公開するのは流石に不公平だからな。そちらの魔法とやらについてもある程度聞かせてもらうぞ。」
 「…仕方ないな。こちらが聞き出したことだ。だが、君も全てを言ったわけではないからこちらも全てを話さないぞ?」
 「構わないさ。一般的な行使方法と武器のようなものについて話してくれれば問題ない。個人個人のスキルにまで口を出そうとは思わないさ。
 ただ、どちらにせよそれははやてが目を覚ましてからがいいだろうな。あいつも魔法について何も知らないだろうし、その程度のことを何度も説明させるのも悪い。」

 軽い言葉の応酬をしながら何時の間にか一つの扉の前に着いていた。

 「とりあえず、さっきの君の提案は呑もう。その時になったらこちらから連絡する。今日のところはゆっくりしていってくれ。」

 そう言われ、志貴はぷらぷらと手を振り、用意された部屋に入っていった。
 クロノはそれに気を悪くするでもなく離れていった。
 そして、部屋の中では志貴が横になりながらも思考の海に沈んでいた。

 (確認はしていないが恐らく監視、盗聴…そこまでいかなくともそれに類する処置はされているのだろうな。だが、口に出さずに考えるだけで表面上は何もしなければいいだけの話だ。
 さて、明日の朝、リインフォースがどういう行動をするか…十中八九はやては目覚めないだろうしリインフォースも消えることを選ぶだろう。
 俺が消す前にはやてが目覚めて話をしてくれれば或いは別の道も…)

 とりとめもなく思考を続ける志貴だが、どの道動くのは明日になってからだと眠ることにした。


あとがき

アニメ的にしたら数分分しか進んでない…まあ、今の段階ではアースラメンバーにリインフォースのことを話していないので半ばオリジナルになっているのですが。

だけど、この調子じゃあ後二話は続く感じですね。リインフォースの立ち位置の決定とその後のエピローグ…

やべえ…二話でも終わらない気がしてきたぞ…

書きたいことはありますが、あまりにも長いと間が悪くなる…考えれば考えるほどドつぼに嵌っていく気がします。

とにかく頑張って続きも書きますので、指摘等あれば、書いてください。


オマケ (独自解釈の魔術の説明です。本編でこのような会話があったかどうかは定かではありません。)

アースラ艦内でユーノに魔術について質問された志貴。

ユーノ(以下、ユ)「ねえ、志貴。さっきの話を聞く限り魔術と魔法の間には使用するのにあまり差が無いように思えるんだけど…」
志貴(以下、志)「あの話じゃそう思えるのも仕方ないだろうが…越えられない壁が在ると話しただろ?」
ユ「そう、それ。越えられない壁って何?」
志「簡単に言えば常識かな。」
ユ「常識?」
志「そう、常識。」
ユ「…意味が分からないんだけど?」
志「まあ、簡単に言い過ぎたか。なんていうか…火を起こすことや風を送ることとかは普通に考えて道具を使えば誰にでも出来るだろう? 空を飛ぶことだって飛行機、と言う手段があれば出来る。こういう根源から零れ落ちた奇跡が一般人にも常識として浸透しているもの。それを魔力を使って起こすのが魔術。
 逆に時間を遡ったり、死者を生き返らせたり、なんていうものは常識的に考えてありえない。こういった根源から世界に常識として零れてきていない現象を起こすのが魔法。
 じゃあ、何故どちらも起こすことが出来るのか。
 それは魔術師はあくまで根源から世界に零れてきた常識を掬い上げているのに対して魔法使いは世界に零れてきていない根源そのものから奇跡を拾い上げることが出来る。
 魔術師自体も常識から外れている存在ではあるが、世界が作り出している常識と言う壁は果てしなく高い。だからこそその壁を乗り越えて魔法に至った魔法使いと言うものに特別な意識があるのさ。」
ユ「成程、面白いね。ありがとう、何か分からないことがあったらまた聞きに来るよ。」
志「聞かれても答えるかどうかは分からんが、それでもいいならな。」

前回の補足説明のようなものです。魔術に関してあまりにもはしょって説明しすぎたので。更にツッコミがあった場合はこれに加えていくかもです。
逆に分からなくなった、と言う意見もあるかもですが、私の表現力ではこの程度が限界ですのでスルーしていただきたいです。

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[4594] 第十五話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:40


 第15話 リインフォースの行方

 一晩明けて、志貴の予想通りと言うか、リインフォースははやてが目覚めていないことと自身はやはり消えることにするということを話に来た。
 志貴は仕方ないと思いながらも艦内でやるわけにもいかず、地上への帰還、そして自身が行うことについてクロノやリンディに話すことにする。

 「…それしかないのね?」
 「ああ、私の中にあるプログラムは既に基の形を忘れている。遠からず暴走してしまう可能性がある以上今のうちに消えるしかない。」

 リンディの言葉にもリインフォースは淡々と答える。リンディはリインフォースの意思が固いことを確認し、視線を志貴に移す。

 「志貴君も同じ考え?」
 「…せめてはやてと話し合えと言ったんだが、時間に余裕がないのであれば仕方ないだろう。それに、なのはやフェイトにやらせるくらいなら俺がやる方がいいだろう。
 直接手を下させて心に傷を負わせるよりは余程いい。」
 「そう…」

 その言葉に顔を俯かせるリンディ。それに代わるようにクロノが口を挟んだ。

 「まあ、そういうわけなら構わないだろう。だが、なのはやフェイトに話さなくていいのかい?」
 「一応ヴォルケンリッターが話すと言っていたが…」
 「「志貴(君)!!」」

 志貴が言いかけると同時に二人が乱入してきた。二人はその勢いのまままくし立てる。

 「「リインフォースを消しちゃうって聞いたけど本当!?」」
 「ああ、事実だ。」
 「「何で!?」」
 「…俺に聞くより本人に聞いてくれ。俺が何を言っても納得しないだろ。」
 「なっ!?」

 まくし立てられた志貴は矛先をリインフォースへと変えさせた。
 しかし、いきなり話を向けられたリインフォースにしてみればたまったものではない。志貴やリンディ達にした説明で納得しそうにないなのは達だったが、リインフォースの根気勝ちというところだろうか、何とか納得したようだった。

 「仕方ないなんて納得したくないけど…」
 「はやてに何度も負担をかけたくはないし…」
 「ああ、何より今度もはやてが暴走を抑えて防御プログラムを切り離せる保証はないからな。俺としてははやてが目覚めるまで待ってもらいたかったがそういう理由なら急ぐ必要もあるだろう。」

 なのは、フェイト、志貴はそれぞれ無理矢理納得したような表情をしていた。

 「それで、志貴君は一旦翠屋にかえって準備するって言ってたけど二人はどうする?」
 「「リインフォースさんと一緒に…行きます。」」

 なのはとフェイトの答えに志貴は頷くとそこで一旦別れることになった。

 翠屋に着いた志貴は自分の荷物を漁りながら考え事をしていた。

 (さて、儀式の魔法陣用に二つ…実行用に二つ…魔眼のカモフラージュ用に一つ…今までの魔眼もそういうことにするなら消費したことになる宝石は七つか…撥も三本持っていくか、魔力の通りがいいものだと説明すればバッドニュースを使うこともないだろ。
 宝石のことも説明する必要はあるだろうし、その間にはやてが来れば何とかなるかな?)

 「志貴君、帰ってくるなりそんな荷物を持ってどこに行くんだい?」
 「…約束を守りに。何があったのかは帰ってきたらなのはと一緒に話しますよ。」
 「そうか。」

 出掛けに士郎と会い、何をするのか聞かれたが後でなのはと一緒に話すと約束することでその場では何も聞かれなかった。

 そして、志貴はリインフォースとなのは、フェイト、そしてヴォルケンリッターが揃っているところにやってきた。

 「…この調子だとアースラの方でも見ていると思っていいんだろうな。」

 『ええ、ちゃんと終わったかどうかは観測しなければいけませんから。』
 『流石にこんな時に覗きみたいなことはしたくないんだけどね~。知ってる人の行動だから尚更。でも、そうしないと納得しない人達もいるから。』

 志貴の台詞にリンディとエイミィの声が聞こえた。

 「別にいいさ。昨日の話の段階では話さなかった手札をあまり晒したくはなかっただけだから。
 で、リインフォース。今からお前と夜天の書の本体を消すわけだが、一応説明をしておこうと思う。」

 そう言って志貴は背負った荷物の中から三つの宝石と三本の撥を出した。

 「この撥は魔術的に強化されているから俺の魔術とは相性がいい。
 手順としてはこの撥に魔術を通してリインフォースの体に刺す。ただ、それだけじゃあただ刺すだけになるからな。俺の魔術をブーストするためにこの宝石を使う。」

 魔法と宝石、その二つに関連性を見つけられなかった一堂は首を傾げるしかない。そんな一同を見て志貴は説明を続ける。

 「宝石とは魔力を蓄えやすいものだ。それが純粋なものであれば尚更な。この宝石はギリギリまで俺を後押ししてくれた爺さんが数十年レベルで魔力を注ぎ込んだであろう宝石だ。このうち二つを使って魔法陣を、一つで俺の魔術を強化する。
 以前シグナムにも言ったこれが俺の魔術を強化するための触媒だ。
 正直、金もかかる上に魔力を込める時間まで必要だからそうホイホイ使えるものでもないがな。」
 「それが…」

 初めて聞く話に納得する。そして、志貴は三本の撥のうち二つをそれぞれ自身とリインフォースの後ろに突き刺した。

 「この撥が魔法陣の基点となる。何も説明しないでやると何を言われるか分からなかったんでとりあえず説明から入ったが、納得したか?」
 「ああ、では始めてくれるか? 私の覚悟はもう出来ている。」

 リインフォースがそう言った直後、志貴の後ろから車椅子ではやてが追ってきた。

 「あかん! そんな、消えるなんて…!」

 誰の手も借りずに必死になってリインフォースと志貴のすぐ傍までやってきたためか息は荒い。だが、その眼には疲れよりもリインフォースに対する必死さが見て取れた。

 「破壊なんてせんでええ、あたしがちゃんと抑える! だから…大丈夫や! こんなん、せんでええ!」
 「主はやて…」
 「…」

 はやての登場によって志貴は二人の間を邪魔しないように無言で動く。それを察したわけではないが、他のメンバーも口を挟もうとはしない。

 「いいのですよ、主はやて。」
 「いいこと無い! いいことなんか、なんもあらへん!」
 「随分と長い時を生きてきましたが、最後の最後で私はあなたに綺麗な名前と心を頂きました。騎士達もあなたの傍にいます、何も心配はありません。
 ですから…私は笑って逝けます。」

 その一言ではやては抑えているものが決壊するように叫ぶ。

 「話を聞かん子は嫌いや! マスターは私や…だから、話を聞いて!」

 一旦零れた言葉は止まることはない。自分にも言い聞かせるような言葉は留まることを知らない。

 「あたしがきっと何とかする、暴走なんかさせへんて、約束したやんか!」
 「その約束はもう立派に果たしていただきました。
 主の危険を払い、主を守るのが魔導の器たる私の務め。ですが、今の私は主を害する存在でしかない。あなたを守るための最も優れたやり方を…私に選ばせてください。」
 「そやけど…ずっと悲しい思いをしてきて、やっと…やっと救われたんやないか…!」

 はやての声はもうかすれて聞き取ることも難しい。だが、気持ちだけはしっかりと伝わってくる。それを受け取り、リインフォースははやてをしっかりと見つめながらはっきりと告げる。

 「私の意志はあなたの魔導と騎士達の魂に残ります。私はいつもあなたの傍にいます。」
 「そんなん…そんなん違うやろ! 志貴君も、こんなん止めて! 他に何とかできんの!?」

 初めて、はやてがリインフォース以外に意識を向けて懇願した。それに対して志貴ははっきりと言った。

 「…まあ、何とかしろと言われて何とかできないわけじゃないが…」
 「え…?」

 その場にいたメンバーは志貴の言葉が浸透するまで時間がかかった。その言葉を理解していく前に志貴は続きを話す。

 「…成功率は七割いくかいかないか。いくつかの条件と幸運が重なって、更に最低条件として受け入れる必要があるものもある。」
 「…その条件とは? それに何故、最初にそのことを言わなかった?」

 リインフォースは今まで自身の中に消えると言う選択肢しかなかったので他の選択肢があると聞き他のメンバーより早く立ち直ることが出来た。
 若干志貴に対する視線は冷たいが、はやてもその声で我に帰ったのか首を縦に振っていた。
 それを見て志貴は条件を言う。

 「…とりあえずは条件から話そうか。
 まずは一番問題なさそうな点だが、成功率七割近くと言っても当然失敗の可能性はある、その時の覚悟だ。その場合、儀式の中心である俺とリインフォースの存在が消滅する。
 破壊なんて生易しいものじゃない。生まれてきた、と言うことがなかったことになる。まあ、俺もその辺りは問題ないし、リインフォースもさっきまで消えるつもりでいたんだろうしこちらも問題ないだろう?」
 「………確かにな。」

 志貴の言葉に頷くリインフォース。
 他のメンバーにしてみればこの段階でかなり重たい話になっているが、志貴がこれが一番問題なさそうな点だと言っていたので次の言葉を恐る恐る待つ。

 「次に…後で理由は説明するし、お前にとってはこれが一番の問題になるのだろうが、はやてとの魔法というか魔術的な繋がりが完全になくなる。」
 「な…!?」

 二つ目の条件にリインフォースは思わず声を上げた。

 「最後だが、リインフォースは基本的に俺と行動を共にしてもらうことになる。こっちはさっきの条件と理由は重なるから一緒に話そう。」
 「…志貴君はそれでいいん?」
 「ん? 何がだ?」

 志貴が全ての条件を言い終えるとはやてが志貴に問いかけた。しかし、質問の意味が分からず問い返す。

 「その…命をかけるやなんて…」
 「ああ、気にするな。魔術師にとって力を行使する時には常に持っている覚悟だ。体調や精神状態まで魔術行使には影響するんでな、最初に持つのはどんなに親しい人間の命が失われたとしても平常心を保つ精神鍛錬、そして自身の命を道具として使う覚悟。
 まあ、道具とは言っても魔術師だって死にたくは無い。使い潰さない程度にギリギリまで。そういうことが出来るのが魔術師である最低条件のようなものだ。」

 その話で場の空気が更に重くなる。

 「それしかないん?」
 「ああ、少なくとも俺には。
 だがまあ、正直な話どちらにせよはやてからリインフォースは奪う形になる上、これは両者の同意がないと出来ない。
 だが、はやてと話してくれないとリインフォースは同意してくれないだろうし、何も言わずに奪うのも気が引けたからな。
 とりあえずはやてが来るまで時間を稼げたのは良かった。」

 志貴が最初からリインフォースをただで消すつもりは無かったと言う言葉を聞いて周りは絶句する。

 「ねえ、せめて私達には話してくれても良かったんじゃない?」
 「リインフォースがどれだけ大切にされているかくらいは知ってる。だけど、はやてを差し置いて先に他の連中に説明するわけにもいかないだろうが。
 そもそも最初にこの提案をしなかったのもその点を懸念していたからだ。それにこの話を聞いたとしてもはやての説得が無ければ聞き入れない可能性もあったからな。
 その辺りはもういいだろ? じゃあ、どうやるのかちゃんと説明するぞ。」

 シャマルの言葉に反論する志貴。皆が納得する意見ではないが、志貴自身はこれでいいと思っているため話を元に戻した。

 「まず、昨日話を聞いた限り、夜天の書の根幹部分が元の形を忘れていて歪められた基礎構造通りに闇の部分が修復される、俺の認識はこんな感じだが、そこまでは間違っていないか?」

 志貴の問いかけにリインフォースは頷く。

 「なら話は簡単だ。基礎構造が歪められて間違った形で修復されるならその根幹である歪んだ基礎構造そのものを消してしまえばいい。」
 「なっ!? そんなことをすればリインフォースそのものが消える! 先程といっていることが違うだろう!」

 シグナムが志貴の言葉に突っ込む。だが、志貴はそんなことは分かっていると言わんばかりに頷いて続きを話す。

 「確かに普通はそう考えるだろうが、俺の力は消すものを選別できる。簡単に言ってしまえば毒を飲んでも体内の毒だけを、それも体や衣服には一切傷をつけずに消すことも出来る。
 それと同じ要領でリインフォースの中にある基礎構造『だけ』を消し、統制人格であるリインフォースの人格だけを残す。
 当然、夜天の書で繋がっているはやてとはこの段階でラインが切れることになる。
 そして勿論そのまま放っておけばリインフォースと言う存在も消えるんでな。俺との間に魔術的なラインを創り、俺の使い魔という立場にする。
 力そのものは落ちないが、定期的に俺から直接魔力を渡さなければ体を構成できずに消滅しかねないんでな、基本的には俺と行動を共にしてもらう、って事だ。
 とりあえず、説明はそれだけだが理解したか?」

 あまりに常識外れの内容に理解がついていかない。その中ではやてとリインフォースだけは何かを決意したようだった。

 「なら、魔術的なラインって言うのをあたしに繋げるのは無理なん?」
 「少し時間をもらえるか?」

 話し出すタイミングはほぼ同時。それに対して志貴は返した。

 「はやての意見に対する返答だがそれは無理だ。魔導師のリンカーコアと同様、魔術師になるには先天的に魔術回路が無いといけない。はやてにはそれがないからな。
 それで、リインフォースはどうした?」

 志貴の答えにがっくりとうなだれるはやて。リインフォースは志貴の言葉を受けてはやての前に進むと片膝をついてその頬に両手を添えた。

 「…主はやて。私の中にある魔導は今のうちに全てあなたの中に移します。その後、主の言うように生きてみようと思います。
 あなたと離れてもあなたから頂いたこの名と心は常に共に…」

 しばらくそのままでいた二人だが、リインフォースの両手が離れると同時に志貴の方へ向く。

 「志貴、お前に命を賭けさせるのは心苦しいがやってくれるか?」
 「ごめんな、志貴君。」
 「気にするなと言った。話を持ち出したのは俺だ、お前達が気にすることじゃない。じゃあ、始めるぞ。
 基本はさっきの手順と変わらんが、夜天の書の基礎構造を壊した後にコレを飲んでもらう。」

 そう言って志貴は荷物の中から更に宝石を取り出した。あまりにホイホイ出てくるのでその場にいたメンバーは唖然としている。

 「詳しい説明は面倒だが、一応やるか。この宝石は魔力の塊だ。飲み込めば魔力を放出してくれる。その魔力で俺とリインフォースの魔力の波長を無理矢理合わせる。
 そこでリインフォースと俺の間にラインを作る、それだけだ。質問は後で受け付ける。始めるぞ。」

 志貴はそう言うと撥を刺した場所まで移動する。その上に宝石を一個ずつ置く。

 「リインフォース、さっきの位置に移動してくれ。」

 言われるがまま、さっきの位置に移動するリインフォース。リインフォースが位置につくと志貴は眼を閉じて集中し始める。
 すると、撥の上に乗っていた宝石が溶け出した。宝石の中から溢れた光がゆっくりと這いずり魔法陣を形成していく。
 志貴は三本目の撥を構え、顔を伏せる。

 「いくぞ。」
 「ああ。」

 ただそれだけのやり取り。だが、それで十分だったのか、志貴はゆっくりとリインフォースに近付くとその撥を人間で言う丹田の部分に突き刺す。
 リインフォースの顔に苦痛が無い所から本当にリインフォースの人格の部分には全くダメージが無いのだろう。
 二人が少しはなれて志貴が顔を上げると手に持った宝石をリインフォースに渡す。そして、自身も宝石を取り出し飲み込んだ。
 それを見てリインフォースも手に渡された宝石を飲み込む。
 外見的には変わっていないように見えるが、リインフォースは体内に自分のものではない魔力が溢れたのを感じる。
 その感覚に驚いていると志貴は顔を上げて詠唱を始めた。

 「死よ来たれ(カット)
 吾が内にある欠片に刻まれし 朱月の制約の下 告げる 新たなる契約と制約をこの者に与え 吾が使い魔となせ 」

 詠唱が終わると志貴はリインフォースをまっすぐ見る。

 「同意するか?」
 「ああ。同意しよう。」

 その言葉を聞くと志貴はポケットからナイフを取り出し人差し指を切る。

 「この指から出る血を飲めば契約は完了だ。」

 そう言われ、リインフォースはゆっくりと志貴の指を銜える。その指から流れる魔力を含んだ血を舐めとると口を離した。

 「これでリインフォースは俺の使い魔になった。最初の頃はお前達の魔力と俺達の魔力の差があるから馴染むまでしばらくかかるだろう。
 馴染むまでは毎日魔力を通した俺の血を飲んでもらうぞ?」
 「ああ、了解した志貴…いや、新しいマスター。」
 「…別に俺のことをマスターと呼ぶ必要は無いぞ? お前が俺の使い魔になったといっても俺は魔力を供給するだけの存在だ。力はリインフォース自身のものに依存するし。
 それに俺自身そんな呼ばれ方をしたらこそばゆくて仕方ない。」

 リインフォースが志貴を『主』では無く『マスター』と呼んだのはやはりリインフォースの意識の中に闇の書の統制人格として主に当たる人物にはやてがいるからなのだろうか。
 志貴自身の提案とは言えリインフォースとしては生きると言う選択肢を与えてくれた新しいマスターを呼び捨てにするのは流石に躊躇われたが、志貴はその辺りは気にしなくてもいいと言い続けたため、リインフォースは志貴、と呼ぶことに落ち着いたようだ。

 「さて、俺の使い魔になったわけだし、リインフォースの名ははやての次の魔導の器に受け継がれるわけだ。お前には俺から新しい名前でも送ってやるかな。
 そうだな…はやてから貰ったその名前を完全に変えるのも悪いし、こういうのはどうだ? リインフォース・…」

 志貴の口から出たその名前を聞いてリインフォースは微かに笑ったように見えた。

あとがき

なっげぇ~~~~!! いつもと比べて文字数がかなりのものになっていることに愕然としました。
かと言ってフルボッコの時みたいに中間点が存在するわけではないのでどっかでぶった切るわけにもいきませんでしたし…

そのせいではありませんがヴィータの夜会話(?)すっ飛ばしました。いや、元の場面では電気が消えていただけで実際に夜だったかどうかは知りませんが…
とにかく、今回は難産でした。

ぶっちゃけ志貴がリインフォースを何とかできることを話していなかったせいではやてとリインフォースのあの感動の掛け合いのどこに突っ込むのか…
どこに入れてもギャグ風味にしかならなかったので、とりあえずアニメの掛け合いをDVDを借りて全部耳コピし、その後、区切り区切りで片っ端から志貴の台詞を入れて…という作業に入りました。

あまり大差ないような形になってはいますが、とりあえずはマシな形になっているとは思います。ただ、この話に関しては後日また修正版を出すかも…

リインフォースの扱いは変わりませんが、構成がまだ改良の余地があるような…私の力量では無理なような…といった感じですから。

リインフォースは是非志貴のデバイスに! と言う方にはご期待に沿えず申し訳ありませんでした。リインフォースは志貴の使い魔です。
やはり、私のイメージでは志貴は空戦をやるタイプではないので…完全に陸戦に固定するかな…

リインフォースの新しい名前は次回に引っ張ります。
いや、もう決めてあるんですがね? まあ、流石にこの名前は誰にも予想できまい…フッフッフ。
ちゃんと元ネタも存在して、その上で志貴のパートナーだから、と考えてつけてます。
デバイスの方も同じネタから引っ張ってくる予定です。
元ネタの公表はしないつもりです。デバイスの名前などから連想してもらえれば…といったところですか…ラスト辺りまで来たらやるかもしれませんが、少なくともStS前にはやらないかなぁ…

後二話くらいとか言っていた頃が懐かしい…どこまで引っ張るつもりだ!? とかいう感じですよね? スイマセン。
いや、漸くA’s編にも終わりも見えたんで、頑張ります。次は一週間以内に更新できたらいいなぁ…
その後は中間期、StS編と続けていくつもりです。

それにしてもフラグを立てる場面は妄想できるのだがその他の場面が上手く構成できない…うぅ、頑張ろう…


契約で人差し指から血を飲ませる場面を書いている最中にリインフォースタンの指チュパ~!! と興奮してしまった自分はもう末期です…

4/3 誤字修正+微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 第十六話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:40


 第16話 志貴の意思

 闇の書事件が終了した次の日、なのはとフェイトははやてと一緒に親友や家族達に今までのことを話す決心をしていた。

 「はぁ~、そんなことがあったのね…
 で、志貴が知ってるのはどういうこと? 志貴のことはなのは達も知らなかったんでしょ?」

 一通り話し終えてアリサが感心したように呟いた。
 だが、自分が知らなかったことを知っていた志貴に対する疑問が出てきた。

 「まあ、俺はこいつらみたいな魔導師じゃないから。世界の外から来た魔導師じゃなくてこの世界の中にいる魔術師だよ。(ま、平行世界と言う壁は挟んでいるがな。)
 以前アリサの前で電信柱を駆け上がったことがあっただろ? アレは身体能力を魔術で強化してやったことだから。」
 「う~ん、魔術と魔法って同じみたいに思うんだけど?」
 「名前だけはな。
 こいつらの魔法は言ってしまえば魔力の有無だけが重要なこっちで言う科学技術みたいな魔力運用技術、対して俺の魔術は魔力によって世界に存在する現象を起こすある意味奇跡の領域だな。
 難しく言えばそんな感じか。
 モノとしては完全に別物だよ。」
 「へぇ~…で、すずかが驚いてないのはどういうこと?」
 「え? 私は少し前に、って言うかあの後に少しだけ教えてもらったから。」

 すずかの答えにアリサの米神が反応した。

 「…志貴?」
 「流石に巻き込まれた相手に何も話さないのは拙いだろう。誘拐事件に勝手に首を突っ込んだ俺も俺だが、その点に関しては話さないようにしていたからな。」
 「何で?」
 「最後に普通に生きてみろ、って別れ際に言われたからな。」

 志貴のその一言で少し空気が重くなる。志貴の一族が皆死んでいることを知っているため最期にそう言われたのだと連想してしまったからだ。
 事実を少し知っているすずかは困っていたが。

 「ま、俺自身の方はそんな感じか…正直、管理局に行く気もあまりしていないし、今は現状維持のような気がする。」

 その一言を聞いて五人は驚きの目を向けた。

 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! アンタ、魔術なんていうなのは達を手伝える力があるのに見て見ぬふりするつもり!?」
 「いや、あの時も言ったが俺は空を飛べない。正直、ついていったとしてもこいつらを手伝えるかと聞かれれば無理だと言うしかないぞ?」

 それを聞いて思い出したように苦い顔をするアリサ。

 「で、でも、管理局には陸の仕事もあるみたいだよ?」
 「それじゃあお前達の手伝いをするというよりは管理局に就職しているだけだろうが。
 俺自身は別に管理局に思うことは無いからわざわざ行くほどのことでもないと思うんだが…」

 フェイトの言葉を聞いて志貴は即座に反論する。最後に言葉を濁したことが気になったのか志貴の方を見ると視線がリインフォース・エスリンの方に向いていた。

 「エスリンがはやてを手伝いたいと思うなら行くしかない。魔力供給の問題もあるしな…」

 リインフォースはあの後志貴によってエスリンと言う名を貰っていた。どういう経緯で名付けられたのかリインフォース本人は聞いているようだったが、なのは達がどちらに聞いても曖昧に笑うだけで答えてはくれなかった。
 正直、綺麗な名前だとは思ったので気にしなかったが、二人だけの秘密があるというのは釈然としないのだろう。まあ、なのはとフェイトは、はやてがリインフォース・エスリンに聞いて、それでも答えなかった時点で既に今の段階で聞くのは諦めていたが…

 「どちらにせよ小学校を卒業するまではこのままさ。今すぐ決めなければいけない内容でもなし、お前達が余程困った時には少し手を貸すくらいだな。」
 「そっか、でも志貴君、この間みたいな誘拐事件はそう無いから私のことは気にしなくてもいいよ?」

 言外にすずかを守ると言う以前の話を気にする必要は無いと言っているのだろうが志貴からすればそういうわけにもいかない。
 志貴の中にあるタタリの記憶からも引っ張り出せるように血を使った契約は重いものだ。まあ、その辺りをここで言い出すわけにもいかないので一応黙っているが。

 魔法関連の話はそこで終わり、クリスマスパーティーもつつがなく終わる。

 志貴はなのはと一緒に高町家に戻り、リンディやフェイトと一緒にアリサやすずかの時と同じ説明をした。
 ちなみにリィンフォース・エスリンははやての家に行っている。今日の分の魔力は月村邸で渡しているので明日まで一緒に過ごすようだ。

 「…まあ、なのはやフェイトさん、リンディさんのことは驚いたが…志貴、君の事は月村の家で言っていたこととは少し違うようだが?」

 以前志貴の話を聞いている恭也は士郎達よりは驚きは少なかったが、気になったことを聞く。

 「まあ、あの時には俺が魔術師だと言わなかったし。だけど考えてもみてくれ。そもそも魔術の強化無しに九歳児の俺が何人もの大人で構成された誘拐犯達からすずかを一人で奪還できるとでも?」
 「…む。」

 志貴の言葉で黙る恭也。それに対して志貴はそれに、と続ける。

 「それに魔術師の習性で全てを話すということに抵抗があるんだ。まあ、自分が大丈夫だと思った人に対しては自分の口からある程度は話すけどな。
 流石に全てを話す気は家族にも無い。あるとすれば将来に自分と共に歩く人くらいなものだ。
 ああ、リィンフォース・エスリンはこれから俺の使い魔になって生涯仕えてくれると言っていたからほぼ全てを話すつもりだ。」
 「私達は信用されていないのかしら?」
 「…そういうわけじゃないがな。信用していなければ最初から話すこともしない。いつかは話すけどまだ付き合った時間が短い、必要以上に神経質だとは思うが性分だ。
 今後、またどこかで話すだろうさ。」

 志貴のこの言葉でとりあえずこの場は終了した。

 翌日、志貴はリインフォース・エスリンと共に月村邸に泊まっていた。

 「で、家のすずかというものがありながら他の女を連れてきた志貴君に質問です。」
 「お、お姉ちゃん!?」

 今この場には月村姉妹と志貴、リインフォース・エスリンしかいない。恭也は今回は泊まっていないしメイドの二人は食事の準備中だ。
 それは兎も角、突然言われた内容に志貴は微妙な表情を向ける。

 「誤解されるような言い方をするな。まあ、アンタには言ってなかったけど、こいつは俺の使い魔という立場になるリインフォース・エスリンだ。
 普段はエスリンと呼ぶことにしている。」
 「へぇ、使い魔、ねぇ。この間言っていた魔法使いと何か関係あるの? あ、勿論なのはちゃん達のことじゃないわよ?」

 軽い口調ではあるが目は笑っていない。志貴はとりあえずは真面目に答えることにする。

 「まあ、俺も魔術師になって一ヶ月くらいとは言え魔術師だからな。未熟な上に俺の魔力がある意味特殊だから一緒にはいるが、別に俺の女とか言うわけじゃない。」
 「…女…」

 最初の忍の言葉といい、今の志貴の発言といい、すずかは顔を赤くしっぱなしだ。志貴の後ろにいるエスリンは志貴に任せているのか黙っている。

 「管理局とか言う組織に所属している人間の前で魔術を使ったから多分スカウトみたいなことをされるんだろうが、以前此処で誓ったすずかを守るという意思も変わっているわけじゃない。
 すずかには気にしなくてもいいと言われたがこの辺りははっきりさせておきたいから聞いておくぞ。」

 半ば告白の前どころか親に結婚させてもらいに行く男のような台詞にすずかの顔は既に限界だ。このまま言葉が続けば確実に倒れるだろう。
 だが、志貴はその様子を気にすることなく言った。

 「俺があっちの世界の組織に行ったとしてもすぐにこっちにいられるように魔術でマーキングをさせてくれないか?」

 空気が凍った。

 それはもう盛大に。

 志貴としては何か変なことを言ったのかと言う感じで首をかしげている。

 「そ、それは確実に向うに行くことが前提なの?」

 何とか正気を保ち質問する忍。すずかは相変わらず凍っている。
 それを気にしないように志貴は答えた。

 「正直あっちの組織がどういう対応に出るかによるな。時空管理局なんてたいそうな名前を掲げてるんだ、俺の実力は兎も角、技、と言うか魔術と言う技術に目をつけたとしたら多分スカウトどころじゃなく俺を勧誘してくるだろう。」
 「そんなのを使ったの?」
 「俺の知る限り、アレが出来る存在は俺を含めて三。」
 「…確かに珍しいけど、確認されているだけでそれって言うのは微妙な数ね。」
 「そのうち一つは存在を確認されていないが神話時代の怪物だ。」
 「…………」

 三人なら珍しいがありえない数ではないと忍は思ったが、その一人、と言うか一つは神話時代の怪物だというなら話は別だ。
 正直どう反応するべきか思考が停止した。

 「ねえ、志貴君、それってどの神話?」
 「ケルト神話だ。
 ちなみに同じ能力(ちから)を持っているという奴は俺の世界の吸血鬼の姫様にバケモノ扱いされた。」

 流石にヤバイ内容だということに気がつきすずかも顔が少し引き攣っている。正直、志貴の世界にも吸血鬼がいたということより、そんな能力を志貴が持っていることのほうが重要なのかその点について突っ込んでいく気配も無い。

 「その能力って何?」
 「…それは秘密と言うことで。あまり話したくないものでもあるし、あっちには魔術特性だって誤魔化してるから今の所この世界でこの内容を知ってるのは俺だけ。
 まあ、隠せなくなった時には話すつもりだから聞かないでくれると助かる。」

 質問に答えた志貴だが、内容に納得いかない忍は唸る。

 「いつか話してくれるんだよね?」
 「…」

 忍が唸る横ですずかが志貴に問いかけるが、志貴は無言。
 それでも尚見つめてきたので根負けした志貴はため息を一つ吐いて言った。

 「二十歳だ。
 もし俺が二十歳を迎えた時に誰にも言っていなければその時、一番にすずかに話すことを約束しよう。
 その前にばれそうになった時はその時にそいつらと一緒に話す。」
 「うん!」

 嬉しそうにするすずかを見て忍は息を吐いて緊張を解いた。

 「分かったわ。じゃあ、その時までこのことについては聞かないことにする。今日はこれくらいにしてご飯にしましょう。」

 忍のその一言でこの場は解散した。

 そして食後、エスリンが志貴と同じ部屋に寝ると言い出し、忍が困っているとすずかまで志貴と一緒に寝ると言い出し収拾がつかなくなった。
 渦中の人である志貴はといえば…
 「別に何でも構わないぞ」
 と言って今は入浴中。
 結果として忍の一言ですずかは別室、エスリンはそれでも折れずに志貴と一緒にベッドは別にした客間に行くことになった。

 そして夜。

 「死よ来たれ(カット) この場に音の死を 静かなる空間を此処に」

 志貴の言葉で遮音結界を張り、エスリンと向き合った。

 「まさかお前が此処まで頑固だとはな。すずかも来ると思ったが、来ないなら丁度いい。エスリンには全てを話しておくよ。」

 そう前置きを言って志貴は自分のことを話し始めた。

 全てを言い終えたころ、既に時計の長針は二回りもしていた。

 「それでは志貴は…」
 「ああ、この世界の存在ではないどころか人間ですらない。言ってしまえば闇の書の闇と同じ存在さ。
 魔術師だというのも嘘だし俺が七夜志貴だと言うのも嘘。全ては虚言の夜に生まれた殺人鬼がたまたままともな思考を持ってこの世界に人形の体と一緒にやってきただけさ。」

 エスリンは自嘲すら含めたその口調に顔をしかめたが志貴は続ける。

 「だからこそ俺は管理局に行くことを躊躇っている。
 俺の中にはこの世界ではないにしろ多くの人を殺した記憶や経験が入っている。今は抑えられる程度とは言え退魔衝動もある以上面倒ごとが起きる可能性も高い。
 すずかやアリサになのは達を手伝ってくれと頼まれたし、なのは達は俺にとっても友人だ。
 だが、組織と言うものを俺が信用できない以上、この話をお前以外にしてしまったらあいつらにも迷惑がかかるのではないかと言う恐怖もある。」

 そこまで聞きエスリンは志貴を優しく抱きしめる。

 「エスリン。此処まで言っといてなんだが、俺の全てを聞いてそれでも俺の使い魔でいてくれるか?」
 「ああ、私の命は志貴に救われ、そして既に志貴の使い魔として仕えると誓った。その言葉に嘘はない。それが例え今の話を聞いた後だとしてもだ。」
 「そうか、ありがとう。」

 その夜、志貴はエスリンに抱かれて眠ったが、夜中にすずかも入ってきて布団に潜り込み、翌朝起こしに来たノエルを驚かせ、更に朝食の場で忍にからかわれた。


あとがき

久しぶりの更新です! お待たせしました!!
え? 待ってない? これは失礼を…かなり時間が空いたもので自分がどんな感じで書いていたのか忘れていました。
最初から自分の作品を見直して書いてみたので違和感がないといいのですが…

まずは謝罪を…リインフォースの新しい名前をどうとか言っておきながら二週間以上放置していたこと、本当にスイマセンでした…年末年始にネットに繋げず、かと言ってこの容量ですから携帯からも投稿できず…言い訳ですね、ゴメンなさい。

今後はなるべくペースを落とさずに…出来るといいなぁ…

さて、話は突然変わりますが、志貴がリインフォースに新しく付けた名前はエスリンでした。漫画やアニメ、ラノベ等からネタを引っ張ったわけではないので分からない方も多いと思いますが、一応別方面で元ネタがあります。
ですが、そのネタを出してしまうと今後、志貴達のデバイスやオリジナル魔法が出た時に面白くなくなりそうな予感がある…
と言う訳でしばらくは元ネタに関してはノーコメントを貫かせていただきます。どうかご容赦を…
まあ、デバイスの名前が出てくるのはそんなに後じゃありませんし、その後はwikiを見れば出てくる程度のものですのであまり難しいものじゃないと思ってくれれば。

それにしても…アレ? すずかと並んでエスリンもおかしいレベルでフラグが立ちましたね…
此処でこれだけ立てちゃうと今後の展開が難しく…

でも指が止まらなかったんです! やっちゃったことは今後の展開を修正して頑張ろう…

ともあれ一応の形ですがA’s編終了です。
次からは時系列は最初はA’s編と殆ど変化ありませんが中間期と称してStS編へ向けて次第に年を重ねていこうと思います。

此処まで読んでくださった方々、これからも生暖かい眼で見守っていてください。

4/3 誤字修正+微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] ちょっと息抜きの本編に関係ない小ネタ
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2008/11/05 19:23


 小ネタ *多少どころではなく志貴のキャラが壊れているので注意してください。
     *残虐な表現もあるので苦手な方はご遠慮下さい。

 前書き
 感想板で七夜を倒すなのはが見たいと言うものを見て妄想してしまったネタです。
 時系列はStS以降で志貴となのはが敵対しています。
 あくまでネタなので本編には関係してくることは無い(はず)です。完全な別物として読んでください。



  ここはある研究所、かつてジェイル・スカリエッティ提唱したプロジェクトF.A,T.E、その研究をしていた場所であったはずだ。
 しかし、今この場所に立ち込めているのは薬品の臭いではなく血の臭い。辺りにはかつては人であったであろう手足が散乱している。あまりにもばらばらになっているため元々何人いたのかは定かではないが周辺が血だまりになっている所を見るとその数は少なくとも二桁は下らないのであろうが…
 そんな現場に真っ白いバリアジャケットに身を包んだ少女と女性の丁度中間くらいの年齢の女が舞い降りた。

 「遅かった…またなの? 志貴君…」

 その女、高町なのはは子の惨劇を作り出した人間に心当たりがあるかのように呟く。
 数瞬その場で黙祷を捧げると更に奥に進む。まるで奥にその犯人がいるといわんばかりに確信に満ちた足取りである。
 研究所の最奥、そこにただ一人佇んでいる存在があった。暗がりでその顔ははっきりとは見えないが蒼く輝く眼光に手に持った液体が滴っている刃物がやけに浮かび上がって見えた。

 「…志貴君…ううん、連続殺人犯七夜志貴、時空管理局です。武装を解除して大人しく投降してください。」
 「…なのはか…なあ、何故君に従う必要がある? こいつらはクローンを作り出し薬品を投与し切り刻んだ。被験者として生み出された子供が泣き叫んでもな。俺はそいつらがやってきたようにそいつら自身を刻んでやっただけだ。これ以上の悲劇を防ぎつつ、俺の中にある殺人衝動を抑えることが出来る。一石二鳥じゃないか、わざわざお前達が俺のことで悩む必要も無い。」
 「それでもっ! 殺すのはいけないことだよ…十年間抑えてきた衝動が志貴君を苦しめてるのは知ってる。でもっ!」

 なのはの言葉に志貴は肩を竦ませ、ため息をついた。

 「ふう、またそれか、厄介だね、なのはのその性格は。」
 「志貴君!」

 その昔のような行為になのはは顔を輝かせる。だが、続く志貴の言葉は辛辣だった。

 「なのは、君の存在は俺を惑わせる。在ってはならないんだそんな存在は。」
 「え…?」

 志貴はその蒼い眼に狂気を滲ませながら続ける。

 「管理局のエース・オブ・エース。その屈託の無い笑顔。スバルでなくとも君に出会えば誰もが思うさ、君のようになりたいと、君のようでありたいと!」
 「そ、そんなこと…」
 「故にこそ君は俺を惑わせる。俺には許せないんだ、君と言う存在が!」

 はき捨てるように言うと志貴は手に持っている血まみれの短刀を構える。それに反応してなのはも反射的にではあるがレイジングハートを構える。
 なのはは志貴の狂気と言葉に当てられつつも頭を振り決意を秘めた眼を向ける。

 「そんな…それでもっ! そんな評判が私の全てじゃないよ!」

 言いながらなのはは周囲にシューターを展開する。しかし、志貴はそんななのはを見るなり視界から姿を消した。

 『プロテクション』
 「え?」

 レイジングハートの言葉と同時に展開されるシールドと、そのシールドに何かが当たる音。なのはが振り返ると冷たい眼をした志貴がいた。

 「ふん、それが誰にわかる、何がわかる!? わからないさ、誰にもな!」
 「くっ、レイジングハート!」
 『バリアバースト』

 なのはの言葉にレイジングハートはバリアを炸裂させる。だが、志貴はその瞬間にはもうその場にはいなかった。
 なのははレイジングハートを構えなおすと周囲を警戒する。
 だが、志貴はそんななのはの行動をあざ笑うかのように正面から姿を現した。

 「君の笑顔は好きだったが、世界は君の笑顔のように綺麗でも優しくも無い。」

 静かに宣言すると志貴は再び闇に身を紛らわせる。なのはは周囲に浮かべるシューターの数を増やし自身も全方位からの攻撃に警戒する。
 だが、そんななのはを更にあざ笑うかのように志貴はなのはの懐に入り込んでいた。

 -閃走 六兎-

 「きゃぁっ!」

 咄嗟に掲げたレイジングハートで首への直撃は免れたが偶然に近い。そう何度も出来る芸当ではなかった。

 「これが定めだ。こうなることはわかっていながらも来たんだろう?」
 「な、何を…」

 志貴の言葉になのはは少し動揺する。

 「俺が何も知らないと思ったか? 管理局の俺に対するスタンスくらいは把握しているさ。」
 「!?」
 「クク。正義と信じていた管理局、その裁定を理解できないと逃げ、周囲の皆の言葉も聞かず!」

 志貴の言葉になのはは顔色を青くしていく。志貴の言葉は真実だからだ。管理局は志貴を永久凍結し次元の狭間へ追放するという実質死刑と変わらない刑罰を与えるつもりだからだ。それがかなわなくとも既に志貴はデッドオアアライブの賞金首になっている。だが、志貴はそんななのはに更に言葉を投げつける。

 「その結果がこれだ。俺がこの衝動のことを話した時点でお前達は俺を幽閉するなり封印するなりするべきだった。それを怠ったが故の現在(いま)だ。もう穏便に済ませることなど出来ないんだ。俺を殺すか、それとも俺が人を殺し尽すか…いずれにせよもうどうしようもないんだよ。」
 「そんな…そんなの志貴君の理屈だよ! 管理局も…!」

 なのはの叫びに志貴は鋭い視線を向けて黙らせる。

 「それが組織だよ。俺一人を殺して全てがうまくいくならそれを躊躇わない。」
 「違うよ!」
 「…はっ、何が違う、何故違う! 今君が眼にしている事実、それに君、フェイト、はやてにヴォルケンリッター。そんな俺の身近だった人間に俺を殺すという命令を出すような管理局の何を信じ、何故信じる!」
 「それは志貴君が意固地になってるから!」
 「俺は自分のことが一番よくわかっているだけさ。それに人は自分が知っていることしか知らない。俺は管理局が信用できないし、何より俺が! 俺自身を抑える自信が無い!」

 志貴の血を吐くような言葉になのはは今までの出会い、戦いを思い出していた。

 「言葉だけじゃ何も変わらない、伝わらない!」

 最初は衝突していたフェイト、

 「優しくしてくれる人たちに囲まれてぬくぬく育ってきた餓鬼に何か言う必要無い!」

 なのはのことをあまったれだと言ったアルフ、

 「時空管理局クロノ・ハラオウン執務官だ。この場は僕が預かる!」

 フェイトとの戦いに割り込んできたクロノ、

 「悪魔め…」

 はやてのために魔力を蒐集していたヴィータとヴォルケンリッター、

 「私は世界一幸せな魔道書です。」

 雪の降る中、はやてと別れたリィンフォース、

 他にも事故で心配をかけた病院の人に教導官の資格を得るための勉強に協力してくれた人達、機動六課で一緒に過ごしたロングアーチの人達に短い間に凄く成長してくれたフォワード陣。
 思い返せば本当にいろいろな人がいた。その中には勿論志貴との思い出もある。だが、現実がなのはの目の前に重くのしかかる。

 「いつかは何とかできる。そう繰り返し今がある。まだ苦しみたいのか、まだ苦しめたいのか!」

 志貴の言葉に揺らぎそうになる心を必死に徒留める。

 「…どの道君が一人でここに来た時点で俺の勝ちさ。ゆりかごでの戦いで君は全力を出せない。そんな状態で俺をどうにかできるはずも無い!」
 「…………」

 志貴の言葉にもなのはは無言を貫く。あくまでも自分の意思を揺らがせることのないように…

 「君をここで殺しその首を管理局に持っていけばもう止める術は無い。俺と管理局の全面戦争だ。俺は存分に殺し、そして死ぬことが出来る!」
 「そんなことっ!」
 「こんなことになるまで俺を放置していたのは誰だ? 俺は解決策を提示した。だがそれをしなかった君達の行動の結果さ! 君自身もそうしてきた一人だろうが!」
 「それでも…志貴君を守りたいんだよっ!! レイジングハート、リミッター解除! ブラスターシステム3まで解放!」
 『マスター、それは…』
 「いいから!」

 なのはの叫びと共に周囲にブラスタービットが浮かぶ。

 「バ、バカか君は! そんなことをしたら…」
 「うるさいの! バカなのは志貴君のほうなの! 永久凍結刑なんてさせない! ユーノ君が無限書庫で回復方法を探してくれる! なら私は全力全開で志貴君を助けるだけなの!」

 ブラスタービットが志貴の四方を囲む。それぞれに集まる魔力光によって既に闇といえる場所は無い。そんな中でも志貴は冷静に状況を見ていた。

 (俺が動く素振りを見せたらそのまま発射、動かなくても発射か…ならば隙は発射の瞬間。カウンターでなのはの首を落とす!)

 志貴はじっと力を溜めつつなのはの動きに対して全神経を研ぎ澄ませる。

 「スターライト…」
 (今だっ!)

 -閃鞘 八穿-

 なのはが発射体勢に入った瞬間に志貴は駆けた。なのはの頭上に現れた志貴はなのはが自分に気付いていないことを確信して短刀を閃かせた…

 『プロテクション』

 瞬間、なのはと短刀の間にシールドが展開されて志貴の一撃は防がれていた。

 「なっ!? バ、バカな…」
 「そう来ると思ったの。ブラスタービット、スターライトブレイカー…発射!」

 信じられなかった光景に一瞬呆然とした志貴、なのははそんな志貴の隙を見逃さず自身の回りにプロテクションを張り、ビットからのスターライトブレイカーを志貴へと向けて撃った。収束されて尚太い魔力砲が三方から志貴となのはを飲み込んだ。

 砲撃が過ぎ去った後、志貴は気を失っていた。

 「ふう、うまくいったね、レイジングハート。」
 『マスター…うまくいったからいいものの…』

 なのはの言葉通り、あの状況は完全になのはがコントロールしていた。志貴は自分を囮にしたなのはにまんまとはめられたのだ。

 後日、ユーノが志貴の殺人衝動を抑える方法を見つけ、裁判ではその点と志貴を弁護する言葉が多く、何より志貴は無差別ではなく悪人のみを殺してきていたので、管理局への生涯無料奉仕と言うことで片がついた。
 解決の立役者となったなのはは癒えきっていない体でブラスターモードを使用したため、Sランクオーバーあった魔力がBランクレベルまで落ちていた。しかも、魔力の総量が落ちただけではなく、魔法を使用しようとするだけで体に痛みが走るようになった。

 「…すまないな、俺のせいで…」
 「いいの、私がやりたかったことだし、自業自得なの。」
 「だが、もう魔導師としては…」
 「うん…でも、魔導師としてはもう駄目だけど、出来ることは魔導師としてだけじゃない。他にも色々あるから…ね?」
 「………」

 なのはの言葉に明らかに納得のいかない表情の志貴。そんな志貴になのはは笑いかける。

 「ふふっ、じゃあ責任とって貰おうかな~?」
 「…責任?」
 「そ。女の子を傷物にしたんだから責任とってくれないと。」

 くすくす笑うなのはに志貴は呆気にとられる。だが、すぐに気を取り直すと真面目な表情になる。

 「なのは、今の俺は囚人と同じだ。それに俺にはそんな資格なんて…」
 「志貴君は私じゃ駄目なの?」
 「ぐ…」

 上目遣いに見つめるなのはに志貴はたじろぐ。そんな志貴を見てなのはは更に追い討ちをかける。

 「駄目なんだ…」

 眼が潤み始めている。流石にこれを見て黙っていられるほど志貴は外道ではなかった。

 「………………………嫌じゃない………………………」
 「え?」

 志貴の言葉が聞こえなかったのかなのはが首をかしげる。(まあ、聞こえてはいるのだが、意地悪である。)

 「~~~~~~~~~~」
 「なんて言ったのかな?」
 「ぐ…~~~嫌じゃないって言ったんだ!」

 吐き捨てるように言った志貴の言葉になのはは満面の笑顔で志貴の腕に飛びついた。

 「っと、なのは?」
 「えへへ~」

 罪悪感もあるが、別に嫌っているわけではないので腕を組んでくるなのはを邪険に出来ず、志貴は困惑した顔で歩いていった。
 横に笑顔のなのはを連れたまま。


 小ネタのあとがき

 あっれ~? シリアスにしたまま終わらせるつもりだったのに最後は何故か微甘に…
 ともあれ妄想文章終了です。ネタは判る方がいるとは思いますがアレです。種です。
 まあ、私の力量では種風味を超えることはできませんでしたが…最初はプロヴィの方になのはさんを置きたかったのですが、
 「それでも守りたい(ry」 等と叫んでいる志貴君。書いていると違和感バリバリなので書き直し。そのポジションならやっぱりフェイトかな~? 最終的に魔王様が撃ち落としそうだけど…

 余談ではありますが、自分が甘い雰囲気の小説が苦手なので終わりの部分を書いている途中で悶えてました。
 バトルらしいバトルにならなかったのは精進あるのみか…因みに本編、誰をヒロインにするか決めてません。シグナム、フェイト、すずか、ギンガ、リィンフォース、そして大穴でスバル、穴対抗でシャマルとヴィータ。
 とりあえず、志貴自身が人形の体に入れられているという設定を使って純粋な人間ではない方達をヒロインに使用とは思っているのですが…ああ、数の子達にヴィヴィオも使えるか…

 っと妄想は今はこれくらいにして。
 次話も見捨てずに読んでいただけると幸いです。感想の方で私の妄想力を書きたてるねたが来たら書くかもしれませんが、基本的には本編重視でいきたいと思います。
 それではノシ



[4594] もしかしたらあったかもしれないこんなフルボッコ 
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/04/03 13:55


 この話は題名にもあるように完全にifの話になっています。
 本編とは何の関係もないのですが、それでもいい、という方のみ進んでください。

 ※今回修正しましたが、作者の自己満足程度なので中身は殆ど変化ありません。










































 それでは、もしかしたら、あったかもしれないこんなフルボッコのシーンをお楽しみ下さい。



 志貴がなのは達の所に転送された時、アースラではある異常が観測されていた。

 『艦長! 小規模の次元震…いえ、次元断層が発生! これは…なのはちゃん達の真上です!』
 『なんですって!? クロノ、警戒を 「いや、いらないよ。」 え?』

 その場の全員が警戒を強める中、志貴は落ち着いていた。そんな志貴の言葉に何かを知っていると確信したクロノは問い詰めるように志貴に対して口を開いた。

 「どうしてそんなことが言えるんだ! 君は理解できていないのかもしれないが、次元断層はとても危険な現象なんだぞ!」
 「…多分だが、俺をこの世界に放り込んだ爺さんの仕業だろ。この程度なら完全に制御できているさ。」

 そして上空の空間の裂け目から三人の人影が見えた。それを見て志貴は頭を抱えた。

 「久しぶりじゃな、タタリの残滓、七夜よ。」
 「…こっちに俺が跳ばされてから一ヶ月も経ってないけどな。しかし、アンタだけかと思ったがまさか三人とも来るとは思わなかったぞ。」

 志貴がそう言うと青子が口を挟む。

 「いやー、じーさんが志貴のこと見てたら気に入らんことが起こったっていうじゃない? で、見せてもらったら本当に面倒そうなのが見えたってわけ。だから姉貴も拉致って来たんだけど…」
 「こっちはいい迷惑だ。何故一銭の得にもならないことを私が…」

 軽い感じで話す四人を呆然と見ていたなのは達だが、クロノが真っ先に正気に戻り先程の次元断層との関係を聞こうとした。

 「すまない、僕は管理きょ…ムグッ」

 言葉の寸前に志貴がクロノの口を塞ぐ。そしてクロノの耳に口を寄せると三人に聞こえないように話す。

 「黙っとけ。何かの拍子に機嫌を損ねたらここにいる人間くらい簡単に皆殺しに出来る人達だ。紹介くらいはしてやるからお前達は話すな。」

 志貴の言葉に不満そうな顔を向けるクロノだが、真剣な顔を向ける志貴に渋々頷く。
 クロノが頷いたのを確認すると志貴は紹介を始めた。

 「ふう、こっちの世界じゃ知られてないから一応紹介する。
 あっちの爺さんは魔術師の世界の中でも正しく魔法使いの称号を得た存在でキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。通り名は色々あるが、魔術師の間で一番知られている通称は魔導元帥、宝石剣のゼルレッチだろうな。自身が製作した魔術礼装、宝石剣で多くの平行世界を旅する人だ。
 ちなみに千年前に真祖の吸血鬼が月をこの地上に落とそうとした時、気に入らないからと言う理由で力づくで月を押し返し、実行した真祖の吸血鬼を滅ぼした上、その時に血を吸われて吸血鬼になった人だ。」

 凄まじい紹介に一同の頬が引き攣るのが見えたが志貴は気にしないようにして続ける。

 「次にロングヘアーの女性は蒼崎青子さん。フルネームで呼ばれることが嫌いらしいから基本的には呼ばないことにしてる。
 彼女も魔法使いの称号を得た一人で通称マジックガンナー、ミス・ブルー。まあ、俺としては人間ロケットランチャーの方が通りがいいような気もふるは…はひをふる、ひふ・ふふー。」

 志貴が青子の紹介をしていると突然頬を引っ張られた。
 志貴が抗議をしながら青子のほうを見ると、青子は額に青筋を浮かべながらにこやかに言った。

 「いや~、そんなことを言うのはこの口かな~? って。」

 コミカルな雰囲気になっているのは志貴と青子だけで、ミッド式、ベルカ式の一同は魔法使いと言う称号と言う所でさっきのゼルレッチと同じことが出来るのかと思い額に汗を浮かべている。
 一方、志貴は青子の頬抓りから脱出し、少し赤くなっている頬をさすっている。

 「く、酷い目に遭った…っと、まだ終わっていなかった。
 最後にショートカットの女性は蒼崎橙子さん。名字から分かるようにさっき紹介したミス・ブルーとは姉妹だ。ただ、姉妹間の仲は最悪だからそれについての深入りはしないように。
 彼女は魔法使いではないが魔術師としては最高の称号である封印指定を受けた魔術師。封印指定の説明は面倒だから今は省略。
 通称と言うか、この人を一番よく表す分かり易い言い方としては人形遣い、かな? 正式に組織から付けられた名前を言うと殺されるから言わないけど。」

 命拾いをしたなと言わんばかりの視線を無視ながらここまで言って、唖然としている一同を尻目に志貴は三人の方に顔を向ける。

 「で、改めて聞くが…どうしてこっちに来たんだ?」
 「さっきも言ったじゃろう。気に入らんことが起こったからとりあえずアレを消しにじゃ。」

 そう言って黒い塊を指差す。その行動に志貴は再び頭を抱えた。

 「冗談…にしてはメンバーが笑えないし、本気か…」

 あまりといえばあまりにもな会話に本気で呆然とする一同。そんな時、アースラから連絡が入る。

 『た、大変! 闇の書の防衛プログラム発動するよ!』
 「しまった! もうそんな時間か!」

 アースラからのエイミィの声に焦るクロノ達。だが、それとは裏腹に志貴は落ち着いたものだ。

 「落ち着け、あの人達がやってくれるって言ってただろ?
 と言うかあの人達が来た時点で決着だ。
 あのメンバーであの程度の奴をどうにかできないことなんてないさ。」

 闇の書の暴走をあの程度呼ばわりする志貴の言葉に訝しげな視線を向けるクロノとヴォルケンリッター。
 なのは、はやて、フェイトは志貴が自信満々なので大丈夫なのかな? と言う視線だ。その上では三人が話し合いすらしようとしないで浮いていた。
 それを見て不安になる一同。

 「さーて、ギアを上げるわ。」

 青子の宣言と共に上昇する威圧感、そしてその手に集まる魔力に一同は目を見開いた。

 「行くわよ~、スヴィア!」

 片手から凄まじい魔力の奔流が巻き起こる。それを見て一番驚いたのははのはだ。

 「そんな!? 私のディバインバスター並の砲撃をあの一瞬で!?」

 だが、その驚きは次の行動で更に驚くことになる。

 「ブレイク! スライダー!!」

 先程の砲撃も残っているうちに殆ど溜めることもなくもう一方の手からもう一つの砲撃、そして更に足からも同等の砲撃を放つ姿を見て一同は言葉を失う。
 三重の砲撃は相乗効果を生み出し四枚のバリアを纏めて撃ちぬき、ついでと言わんばかりに本体にも少しのダメージを通した。

 「ん~…まだまだってトコねん。」

 その言葉に一同は本当に言葉を失った。その心中は一つであろう。

 《アレでまだまだなの!?》

 それに続きゼルレッチが宝石剣を取り出し、それに魔力を通す。

 「さて、宝石剣よ。幾多の世界より魔力を集め、その刀身に纏え。そして彼の者へとその力を開放せよ!」

 宝石剣が一際強く輝くと宝石剣から伸びた光の帯が防衛プログラムを飲み込んだ。爆発すら起こらなかったが、魔力が通った後には黒い光が浮かんでいた。

 「ふむ、本体を消せなんだか…手加減しすぎたようじゃの。」

 それを聞いた一同はいよいよ頭が痛くなってきていた。

 《一撃でアレだけしておいて手加減しすぎたの!? って言うか手加減してたの!?》

 心の叫びが一致している間、青子がタバコをふかして静観を決め込んでいた橙子を見る。

 「何だ? 私もやるのか?」
 「いや~、私が逆行運河でやってもいいけど連れてこられて何もしないで帰るのも癪じゃない?」
 「お前が無理矢理連れてきたんだろうが、これを使うのもそれなりに神経を遣うんだぞ…まあいい。」

 そう言うと大きなトランクを自分の足下に浮かべた。

 「出て来い、餌の時間だ。アレでも喰っとけ。」

 そう橙子が言うとトランクから黒い影が出てきて肉体を再生し始めた防衛プログラムを覆う。
 しばらくすると、周辺にまで移動しようとし始めたので橙子がトランクの側面を蹴る。

 「コラ、餌はそれで終わりだ。とっとと帰って来いバカが。」

 その言葉に従ったのか黒い影はトランクの中に帰っていく。橙子はそれを見ると一つため息をつく。

 「やれやれ、食い意地の張った奴だ。と言うか青子、これを見越してこいつを持ってきたな?」
 「あっはは、何を当たり前のことを。」

 軽い挑発を含んだやり取りの後、殺気を出し始めた二人に志貴は頭が痛くなった。この二人の仲裁をするなど命がいくつあっても足りない。だが、やらないでいてはこの町が消滅しかねないのでやるしかない。

 「…先生、貴方達姉妹が此処で戦りあうとさっきの奴を消した意味がなくなってしまうんですが…」

 志貴としては『遠野志貴』の口調を使うのは違和感がありすぎて嫌なのだがそうも言っていられない。

 「あら志貴、そう呼んでくれるの? こっちに送るときはあんなことを言ってたのに。」
 「…助けてもらった礼だ。嫌ならやめるが。」
 「ううん。やっぱり中身は違うとしてもその外見だとそっちの呼ばれ方のほうが違和感がないわ。ま、今回だけみたいなことを言ってたけど、次に助けてあげた時も宜しくね?」

 (まだ次があるのか…)

 青子は橙子に向けていた殺気を抑えて志貴の方を向く。
 志貴としては最悪の姉妹喧嘩を止められたことにホッとしていたが続く青子の言葉に額を押さえる。
 一方、周りの一同はあまりにもあっさりと終わってしまったので何がなにやらさっぱりだ。
 志貴は額を押さえていた手を離してその様子を見てこの後来る質問攻めに頭が更に痛くなる。
 しかし、現状で三人のことを放っておく訳にはいかないので今後のことについて宝石翁に話しかける。

 「で、どうするんだ? これだけ介入したら面倒になるんじゃ…」
 「その心配は要らん。とりあえずやることはやったから帰るしの。では七夜よ。送る前にも言った言葉、忘れるでないぞ。
 まあ、また気に入らんことがあったら来るかも知れんがの。」
 「じゃあね、志貴。また縁があったら会いましょう?」
 「まったく、おいタタリの残り滓、面倒はこれっきりにしてくれよ。」
 「ちょっと待て、俺一人に説明を押し付けるつもり…」

 橙子の言葉があんまりといえばあんまりだがそれだけ言って志貴の抗議を無視したまま三人は来たときと同じように空間の裂け目の中に消えた。
 この後、志貴は三人や自身のことについて散々聞かれることになった。

 (まったく、三人とも、残っていたら自分達がこうなることが分かっていてさっさと消えたな。)

 今頃気付いてももう後の祭りである。根掘り葉掘り聞かれた結果、志貴はしばらく三人娘からは同情の眼に、他のメンバーからは疑惑の目で見られることになった。


続かない


あとがき

感想の中で妄想をかきたてられたネタが来たからついカッとなって書いた。反省も後悔もしていない。だが、どんな反発があるのか恐ろしくなってはいる。それでも感想は欲しいな~。

随分前の話になりますが、ネタを提供いただいた冥狼様、ありがとうございます。そのまま使ったわけではありませんが、ご希望に添えていたならば良かったです。それに、一応自分の書いた本編版フルボッコと照らし合わせて楽しめる内容であれたならと、思います。

これからも妄想をかきたてられるネタがあればなるべく書こうとは思います。本編に絡むかどうかは私の構想からぶつからない限りは、といった所でしょうか。絡まないにしてもこのような形で小ネタとして楽しんでいただければ幸いです。

一応、リィンフォースの扱いに関しては今の所志貴と一緒にするのが有力ですが、はやてと一緒にしてくれとの意見もありますので金曜までは様子を見ようかなと思います。本当にたくさんの感想、ありがとうございます。
お茶を濁す形になりましたが、今回の更新はこれだけです。

金曜にも次の話を更新できるように頑張ります。

それでは本編の方でまた会いましょう。

1/12 微妙に修正しました

4/3 誤字修正+微妙に改訂



[4594] 七夜の固有結界?
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/04/03 13:57




 この話はあくまで本編とは関係ありません。

 と、言いながらも、ここで書いた内容にある固有結界は好評であれば後々本編で使わせる可能性も…



 設定としては七夜が宝石翁に送られたのは直接ミッドチルダ郊外で、その意識は現在は殺人衝動に取り込まれています。
 当然、なのは達とは面識はありません。
 年齢的にはなのは達と大差はありません。
 時間軸は空港火災の翌年、なのは達が16歳の頃と考えてください。
 階級などは詳しい資料が無い上に調べてもこの辺りのことは無かったので独自設定です。

 注意点としては完全に原作レイプであり、尚且つご都合主義設定、独自解釈による矛盾などが作中で多々出てきます。

 当然、固有結界を本編で使う場合、その辺りは何とか解消する予定ですが、ある意味試験的な番外なので、今回は生暖かい眼でスルーしてやってください。

 とにかく、以上の設定に嫌悪感を持たない方のみお進みください。

 ※今回修正しましたが、内容は相変わらずの作者の自己満足です。お気をつけ下さい。



































 前編



 「小規模次元震?」

 高町なのはが幼馴染兼親友であり上司である八神はやてに呼び出された理由を聞かされた時、突拍子もない言葉を聞かされて声を上げた。

 「そうや、ほんの五分くらいの揺らぎやったんやけどな。ちーさな次元震を本部が察知したんや。そんで調査隊を送ったらしいんやけどな…」
 「だったらどうして武装隊の私のところに話が来るの?」

 当然の疑問ではあるがはやてはゆっくりとなのはを制し、続きを話す。

 「やけどな、その調査隊五人、全員と連絡が取れんのや。しかも連絡が途絶えてから何回か再調査に魔導師を向かわせたらしいんやけど、その部隊とも連絡が途絶えてしもうた。
 最初の調査隊が音信不通になってから二週間。流石になんかあったんやろうってことで高ランク魔導師が揃っとるアースラメンバーにお鉢が回ってきたところや。
 去年も同窓会みたいな任務があったばかりやけど、今回もそんな感じやね。」

 小規模ながらも次元震が発生しており、その調査に向かった部隊が失踪していると言う言葉になのはは予想より物騒な任務なのだと認識した。

 「それでや、流石にアースラはアルカンシェルを外しとる最中やからて使う許可を貰うことは出来んかったから、なのはちゃんとフェイトちゃん、シグナムとヴィータに現場に行ってもらって、うちとシャマル、ザフィーラとクロノ君は後詰として待機っちゅうことになっとる。
 なのはちゃんがなかなか捕まらんかったからなのはちゃんが了解してくれれば全員の了解は取れたことになる。
 上からせっつかれとるし、出発は三日後になる。なのはちゃんの返答に関係なくや。」

 そこまで話してはやては一息つく。

 「正直、この任務は危険や。そんで、うちとしては最優先は調査隊の人達の安全確認、次が次元震の原因究明や。
 上からは逆の優先順位やと聞いとるけど、うちのわがままに付き合うてくれるか?」
 「勿論だよ、はやてちゃん。それに、フェイトちゃんにヴィータちゃん、シグナムさんが来るんでしょ? はやてちゃんにザフィーラさん、シャマルさんにクロノ君も控えててくれるんだし、怖いものは無いよ!」

 なのはは笑顔で了解して、これで調査メンバーが確定した。

 そして、調査当日。指定された場所は木がうっそうと生い茂る小高い山だった。

 「こんな所で次元震なんて…別にロストロギアの反応があったわけじゃないんでしょ?」
 「そうなんだけど、自然に発生したものにしては規模も大きかったみたいだし発生時間も長すぎるらしいの。だから、誰かが意図的に起こしたものか、それとも管理局のセンサーにも反応しない新しいタイプのロストロギアなのか…
 調査隊の人達が音信不通になっているから、高ランク魔導師の私達が派遣されることになったんだって。」

 なのはの質問にフェイトが答える。だが、近くに来ても相変わらず、ロストロギアの反応があったという連絡はないし、魔導師の魔力反応も無い。
 事前に散布したサーチャーにも特に反応が無かったので、直接出向くことになった。

 山の中は薄暗く、昼間だと言うのに太陽が沈んでいるのではと錯覚させるほどだった。

 四人がしばらく歩くと開けた場所に出た。周囲を見渡すと木に焦げ目がついていたり、ここで戦闘が行われたかのようだった。

 「ふむ、攻撃魔法の跡がある、と言うことはロストロギアではなく、何者かがここで次元震を起こした可能性が高くなったな。」
 「…客とは珍しいな、こんな所に何の用だ?」
 「っ!? 何者だ!」

 声をかけられるまで至近距離に近づかれたことに気付かなかったため、シグナムの声と同時に四人は武器を構えて声がした方を見る。すると、なのは達と大して年齢に差がないであろう少年がいた。
 少年、志貴は武器を構えた四人を見ながら、特に警戒するわけでもなく肩をすくめて言った。

 「何者だも何も俺はここに住んでいる者だが…むしろそっちが何者なんだ? いきなり武器を構えて…」
 「あ、ゴメンなさい。私達は時空管理局のものです。私はフェイト・T・ハラオウン執務官こっちは向かって右から高町なのは二等空尉、ヴィータ三等空尉、シグナム三等空尉です。
 私達はここで小規模ながら次元震が起こったのでその調査と、音信不通になった以前調査に来た人達の安否を確認しにしたんですが…」

 フェイトの名乗りに志貴は少し考える仕草をした。それを見ながらフェイトが更に続ける。

 「ここに住んでるんですよね? 以前ここに人は来ませんでしたか?」
 「ん、確かに来たな。次元震や時空管理局だとか言うのにも聞き覚えがある。」

 その言葉にフェイトとなのはは顔を綻ばせる。調査部隊の安否を知っていそうな人物に会えたのだ。
 だが、一方でシグナムとヴィータは警戒を解いていなかった。

 「こちらにだけ名乗らせておいて自分は名乗らないつもりか?」
 「ああ、済まないな。俺の名は七夜志貴。6年ほど前になるか…気付いたらここにいてそれ以来ここに住んでいる。」

 シグナムの質問にあっさりと答える志貴。
 シグナムはここまで普通に答えられるとは思っていなかったのか少し呆気にとられたような顔をしている。
 だが、それでも尚警戒を解かないヴィータとシグナムになのはとフェイトは不思議に思って尋ねた。

 「ねえ、何をそんなに警戒してるの? 今の話を聞く限り、彼は次元漂流者なんだよ?」
 「七夜、ここで戦闘の跡が見つかったのだが、それに関して知っていることはあるか?」

 なのはの質問を流してシグナムが志貴に声をかけた。それでなのはは多少不機嫌になるが、シグナムの戦士としての勘は志貴から意識を逸らしてはいけないと訴えていた。
 志貴はそんなシグナムの質問に薄く笑いながら答えた。

 「ああ、さっきも言った管理局とやらの連中が戦った跡だろう?
 まったく、自分が魔法使いだとか言っていたからかなり警戒したんだが…結局大したことはなかったな。」

 その志貴の返答になのはやフェイトも漸くおかしいことに気付く。

 「その局員達はどうなった?」
 「さあ、そこらへんを探せば体くらいは出てくると思うが。」

 あっさりと吐き出された言葉にその意味を理解するのに数瞬かかる。いち早く理解したシグナムが更に問いかける。

 「…貴様がやったのか?」
 「ああ、さっきの…次元震、だったか? どんなのか聞いてみて、それは俺の実験が原因かもしれないと言ったら問答無用で連れて行く、だ。嫌だっつったら攻撃を仕掛けてくる。
 まあ、思ったより大した相手じゃなかったから多少はやりすぎたかも知れんがな。」

 微塵も悪いと思っていない志貴の態度に四人は改めて武器を構えた。

 「何の実験で次元震が起きたのかは知りませんが、次元震を起こした上、局員への傷害に任務執行妨害。執務官としてあなたを逮捕します。」

 フェイトの宣言にも志貴は堪えたような笑いをあげるのみ、それが癇に障ったフェイトは叫んだ。

 「何がおかしいんですか!?」
 「ククク、いや何、おめでたいなと思ってな。あえて傷害と言う言い方をしたのか、それとも気付いていないのか…俺にはそんなことはどちらでもいいんだがな。
 気付いていると思うんだが、まあ一応言っておこう。俺はその局員とやらを無駄に傷つけてはいない。ただ単に殺しただけだ。
 それに、魔力のある奴らの命は色々使い道があるからな。」

 志貴の言葉が終わらないうちに志貴の横から鉄槌が振り下ろされた。

 「チ、外したか。」
 「慌しいな。ゆっくり話を聞いても罰は当たらんと思うが?」
 「うっせぇ! 話は捕まえてからきっちり聞いてやるよ! だがな、人を殺したとか平然と言っている奴の言葉を戦いの前に聞くほどアタシは温くはねぇ!」

 ヴィータと志貴のやり取りの間に他の三人は志貴を見ながら何時でも動けるように構えていた。

 「やれやれ、どちらにせよせっかちなのは変わりないか。まあいい、では改めて…」

 大仰に手を広げた志貴を見て四人は警戒する。だが、志貴はそんな四人をゆっくりと見渡しながら言葉を紡いだ。

 「『吾は面影糸を巣と張る蜘蛛 吾が棲むは死神の森 吾が舞い躍るは偽りの月の下 吾が進むは屍山血河の道 吾が眼前には死の舞踏 生きし者には死の洗礼を 死せる者には狂乱の生を 此処に在るは固有結界 《七夜の森》 ようこそ この素晴らしき惨殺空間へ』」

 志貴の言葉が終わると共に世界が変わる。喋っている間には魔力の変動が無かったため対応出来なかった。
 木々がうっそうと茂っていることには変わりがないが空に真円の月が輝いているのが見える。ついさっきまでは光が届いていないために暗かったが、時刻的には太陽も高い昼間だったはずなのにだ。
 四人はこの現象の原因であろう志貴に視線を向けた。
 それを受けた志貴は皮肉気な笑顔を浮かべて言った。

 「命に保険はかけたか? その首、俺が貰い受ける。」


あとがき

どこで切っていいのか分からずにここで切りました。

さて、ぶっちゃけ今回やりたかったのは固有結界だけです。この話では詠唱部分だけ。
ただ、導入が無しで固有結界の中での七夜無双をやるだけやって終わったら何がなにやら分からないんで、七夜無双は次に回します。

まあ、本編を進めずに此処まで書いておいて何を言っているのか分からないと思いますが、私も書いている最中に思ってしまいました。

本編より書いていて楽しい…と。

まあ、本編の方の息抜きなんで、本編が行き詰った時に入れる…言ってみれば困った時の蛇足入れ。
こうやって本編が詰まっても更新の意欲を消さないようにしているという言い訳です。

本編より番外に力を入れているわけではありませんが、番外を書いていると止まらずに書ききらないと本編が進まないと言う罠。

ぶっちゃけ本編の志貴君よりこっちの方が七夜らしいんですよね。ただ、七夜無双を開始して、敵はなのは、フェイト、シグナム、ヴィータの四人。どう収拾つけようか…

書き始めてなんですが、連載をするつもりはないのでとりあえず前後編の二つで終わらせようと思います。(もしかすると作者の力不足のせいで前中後編の三部作になるかも…)

この作品を書き始めてからしばらく温い文を書いていたせいか、中間期のバトル的な妄想がなかなか浮かばなかったので、こんなんを提供してしまいましたが、本編も考えが纏まり次第投稿していきますので気長に待っていただけると嬉しいです。
温い文も中間期で志貴が動き出すまでの辛抱だ…と私自身に言い聞かせてモチベーションを保とうとしているので。

では、とりあえずは後編で。その後は必ず本編を出します。

4/3 誤字修正+微妙に改訂



[4594] 七夜の固有結界 後編
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/04/03 13:58


 この話は題名から分かるように前回の続きです。
 前回の話が許せない、作者死ね、等々不快感を持たれた方は引き上げてください。
 前回にも書きましたが、ご都合主義等の要素がふんだんに使われております。
 内容が許せないからと言って荒らすのは勘弁してください。

 では、前回の話が許容できた方は先へ進んでください。

 ※今回修正しましたが内容は相変わらず作者の自己満足です。お気をつけ下さい。


























 後編



 今現在目の前で起きている現象になのは達は眼を見開くしかなかった。
 ついさっきまで目の前にいる志貴からは魔力を感知出来なかった。隠そうとしていた気配もない上、何より下手をすればオーバーSランクにまで認定されるかもしれない結界を展開する詠唱であろう言葉の間にも一切魔力が活性化したように見えなかったのだ。
 だが、起きてしまった以上は現実を受け入れるしかない。目の前に自然体で立つ志貴を警戒しながらも手にしたデバイスを構えるのだった。

 「…実験の結果は良好か。この感覚なら恐らくは一日は展開できるだろう。」
 「…実験…?」

 志貴の零した言葉に反応するなのは。
 そのとき、そのなのはのデバイスに通信が送られてきた。

 『なのはちゃん! 今、そこで次元震…ううん、次元断層に類する反応があったんやけど何があったん!?』

 はやての通信に四人はそれを起こした本人が目の前にいるにも拘らず意識を通信向けてしまった。

 「じ、次元震って…こっちには何の反応も無いよ?」
 『せやかて通信が出来てるのにこっちから人を送ろう思おても転移魔法とか効かへんし、ちょうど反応の中心点になのはちゃん達がおるから何が起こったんやろうって…』
 「…ちょっと待ってね。君、七夜志貴君、だったよね? 何をしたの?」

 はやてとの通信を一旦置いておいて目の前で動きを見せようとしていない志貴に問いかける。それに志貴は薄笑いを浮かべて答えた。

 「何、世界に俺の心象風景を投影して世界を反転させただけだ。結界の中は俺の心の中、外は通常空間。その位相の違いがお前たちの言う次元断層になっているのだろうよ。
 まあ、前に来た連中の話から予測するとそんな感じだろう。」

 志貴の言葉に理解が追いつかない。ただ分かったことは結界の境目が次元断層となっていると言うことだけ。

 「…結界の解除を。境界で次元断層が起きている以上これは危険なものです。聞き入れられないようなら…」
 「ようなら?」

 志貴はフェイトの勧告に対して挑発するように問いかける。

 「実力で止めます。」

 フェイトが言うや否やその姿がぶれる。

 瞬間、フェイトは志貴の後ろに回りこんだ…ハズだった…

 「「「「なっ!?」」」」
 「後ろに回った時点でそのまま切っていれば良かったものを…いちいち完全に静止するまで制動をかけるから隙だらけになる。
 せっかくの早さもまるで意味のないものになっている。」

 フェイトは後ろを取ったはずの志貴に後ろを取られて首筋に短刀を押し付けられていた。

 「な、何で…」
 「丁度良くオマエが制動と姿勢制御に意識を割いた瞬間と俺の後ろに入ったオマエにそっちの連中が意識が向いた瞬間が重なったからな、俺から意識が逸れたその瞬間に後ろに滑り込ませてもらった。」

 なんでもないかのように言っているが隙と言っても一瞬のことだ。そこに入り込むなど簡単に出来るものではない。それを極自然にやってのけた志貴に警戒心が募る。
 しかし、フェイトの首筋に短刀が突きつけられている状態では迂闊に動くことも出来ない。
 そう葛藤しているうちに、志貴はフェイトの首筋に押し当てた短刀をどけ、なのは達がいる方へと背を押しやった。

 「え…?」

 何故自分が解放されたのか分からないと言った表情を志貴の方へと向けるフェイト。それに対して志貴は薄笑いをやめずに言った。

 「さて、他から魔力を持ってきての展開実験は完了だ。後は性能実験か…あくまで予測できているだけだからな…まあ、頑張って全てを確認するまでは死なないでいてもらいたいものだ。」

 その言葉でフェイトは頭に血が上るのを感じた。自分は結界の性能を確かめるための駒だと、役目を果たす前に使えなくなると面倒だと、その程度で見逃されたのだ。
 その瞬間、フェイトはカートリッジをロードしていた。

 「お、おい、落ち着け、テスタロッサ!」
 「へぇ…」

 自分の前に魔法陣が展開されても笑みを崩さない志貴。それが酷く癇に障りシグナムの制止の声も聞こえずに魔法を放っていた。

 「プラズマスマッシャー!!」

 叫ぶように放たれた言葉と共に飛んでいく金色の砲撃。
 志貴はそれを前にして短刀をゆっくりと構える。避ける素振りは一切見せていない。
 砲撃が志貴のナイフの射程圏内に入ると同時にフェイトは直撃すると確信した。しかし、その確信も驚きの現実の前に霧散することになる。

 「嘘…」

 なのはの呟きが静まった辺りに響く。
 志貴は短刀を前に突き出しただけ。ただそれだけでフェイトが自信を持っている砲撃が何もなかったかのように消え去った。フェイトは声も出ない。
 だが、志貴はその程度は当然だと言わんばかりにこちらを意識の片隅に追いやり考え事を始めた。

 「ふん、こっちは予測より負担が軽いな…まあ、そちらの方が好都合だが。」

 知らないうちに志貴の両目は先程までの漆黒から一転して深い蒼に染まっていた。
 フェイトが呆けているうちに志貴は考え事が終わり視線を四人に向けてくる。

 「さて、魔眼の負担軽減は予想以上に働いているらしいが、本命のこちらはどうかな?」

 志貴は言葉と同時に自然に立つ。構えてもいないその佇まいは隙だらけのはずなのに隙を見出せなかった。

 「…!? バカな!!」

 最初に声を上げたのはシグナム。その声を皮切りに他の面子も志貴の姿が薄くなっていくことに気付く。

 「ククク、この結界の中、本気で隠れた七夜を認識できるか?」

 そう言うと志貴の姿は完全に見えなくなった。

 「さあ、蜘蛛の巣が張り巡らされた森に迷い込んだ哀れな蝶達よ、蜘蛛の毒牙にかかり息絶えるか、蜘蛛の糸から逃れることが出来るか…さあ、生と死をかけた鮮血の宴を始めようか!」

 声は聞こえるが姿は見えない。四人はお互いに背中を合わせ、背後から狙われないようにして四方を警戒する。直後、四人は寒気を感じてそれぞれの前方に身体を投げた。

 「ほう、直前に気付くとはな…だが、その様子から二つ目の性能は予想通り働いているようだな。それを生かせなったのは俺がまだまだだということか…」

 直後、それぞれが背を向けていた場所から聞こえるはずの無い声が聞こえた。
 四人が背中合わせに立っていたその中央、確実に誰もいなかったはずの場所であり警戒を始めてからは近くに来たという気配すら感じさせること無く短刀を振り切った体勢で志貴は立っていた。
 信じられないという目を向けているなのはとフェイトとは異なり、シグナムとヴィータは既に臨戦態勢に変わっている。

 「高町! テスタロッサ! 臨戦体勢を解くな! この男は不味い!」
 「「え…?」」

 二人が疑問の声を上げるのが早いか志貴はシグナムの目の前まで来ていた。

 「他人の心配をしている場合か?」
 「くっ!」

 シグナムは構えるが志貴は既に攻撃を放つ直前だった。

 「斬刑に処す。」
 「パンツァーガイスト!」

 -閃鞘 八点衝-
 『panzar guist』

 どちらの展開が早かったのかシグナムは志貴が発した幾つもの剣閃を浴びて後ろに飛ばされていた。

 「シグナム!!」
 「ラケーテンハンマー!」
 「…遅い。」

 -閃走 水月-

 フェイトがシグナムの名を叫んでいる間にヴィータは技を使った直後で硬直しているであろう志貴に攻撃を仕掛けた。
 だが、その攻撃も志貴の動きにかわされてしまう。

 「チッ、また外したか。」
 「いやいや、タイミングはなかなかに良かったぞ。アレでもう少し速い攻撃ならば喰らっていたかも知れん。それに…」

 志貴は言葉を濁してシグナムが飛んだ方向に眼を向ける。

 「あの一瞬で防御膜を張り尚且つ後ろに跳ぶとは、シグナム、と呼ばれていたな。お前もなかなかの使い手だな。」
 「…やはり気付いていたか。だが、それでもそれなりにダメージは受けたぞ。」

 木陰からシグナムが姿を現す。

 「ククッ、アレを張らなければお前が後ろに飛んでいたとしても少なくとも四つの肉片に解体していたのだがな…そっちの二人とは違って命のやり取りをしたことがあると見た。」

 志貴のその言葉に一瞬体を震わせるシグナムとヴィータ。

 「だからどうしたってんだ…」
 「いやなに、そういう戦士の勘が働く奴が管理局とか言う温い環境にいることが意外だったのさ。
 まあ、前に調査に来たって言う連中が基準だがね。そっちの二人は金髪…フェイトだったか? アンタはそれなりの覚悟が感じられたがなのはだったか…アンタは本気で温いな。
 まあ、普段は人の感傷に如何こう言うつもりは無いんだが、俺を相手にする時は少なくとも緊張を緩めないでいてもらいたいな。」

 ヴィータが睨みを利かせながら言っても志貴は飄々と言葉を発するだけ。その上、なのはやフェイトに駄目だしまでする始末である。
 だが、態度は飄々としていながらも殺気は少しも抑えられている様子も無い。

 「貴様…何故そこまで命を軽く見ることが出来る。」

 シグナムは志貴があまりに殺す、ということを隠そうともしないので思わず聞いてしまった。
 志貴はそれに対しても態度を変えることなく答える。

 「簡単だよ、俺にとっては生よりも死の方が身近だからさ。」
 「…どういうことだ?」

 まさか答えが返ってくるとは思っていなかったのでシグナムは答えが返ってくることを期待せずに再び志貴に尋ねた。

 「そうだなぁ…簡単に言えば俺は殺すために生まれた。それが生物であろうと無かろうと差は無い。ただそれだけのことさ。」
 「そんなっ!?」

 志貴の答えにフェイトが声を上げた。

 「そんなの悲しすぎるよ! 殺すために生まれたなんて…他の生き方もあったはずでしょう!?」

 必死になって声をかけるフェイトに志貴は少し寂しげに言葉を返していた。

 「さあな。六年前ならそれも探せたかもしれないが…今言っても詮無いことだ。この力が手に入ったとき既に俺(私)は輪廻の輪から外れた。
 殺し殺され、死後もタタリとなってヒトを殺し続ける。それが俺の未来だ。」

 シグナムにヴィータは得物を下ろしてはいないが、志貴の話に聞き入り攻撃するということを忘れている。
 なのはやフェイトに至っては既に話を聞くモードでデバイスは下ろしている。

 「…私もアリシアになるためにクローンとして生み出された。でも、私の人生は私だけのものだって教えてくれた人がいた!
 君だって君自身の生き方があるはずじゃない!」
 「残念ながら、これが俺の生き方さ。六年前に一瞬だけ別のことを考えたこともあった。だが、内から沸き起こる殺人衝動は収まることは無かった。
 俺が俺でいるためには殺すしかない。だが、殺せば殺すほどハズレていく…」

 フェイトの必死の説得にも志貴は応じない。
 多少揺さぶられているのか感情が顕わになり始めているが殺気は収まることを知らないかのように発され続けている。
 そんな志貴を見てフェイトはバルディッシュの穂先を下げ志貴に向かってバルディッシュを持っていないほうの手を差し出して穏やかに言葉を紡いだ。

 「ね、管理局に投降して? 罪を償えればきっと君自身の生き方が始められるはずだから。」
 「…断らせてもらうよ。今は俺でいられるけど殺すのをやめて俺が俺であるための殺人衝動を抑えたとしても…いや、むしろ押さえてしまったら俺は七夜ではなくなってしまうから。」
 「そんな…」
 「吸血鬼、ヅェピア・エルトナム・オベローン。今、俺が俺であるための指針を失えば俺はこいつになる。タタリと言う現象になり死ぬことなく永遠に人を殺し、その血を吸い続けるだろう。
 それが嫌なら俺を殺すことだ。まあ、俺も黙って死んでやる気はないがな。俺が俺であるために俺は殺し続けるだけだ。」

 長い話が終わり、志貴は今までの寂しそうな顔を最初の頃と同じ薄笑いに戻し、短刀を構えた。

 「さて、話はもう終わりだ。俺が生まれてから六年間、意識が七夜ではなく志貴に戻ったのはこれで二回目だ。その礼に殺してやるから殺してみせろ!」

 志貴は身を屈めると一瞬で視界から消える。

 「寝てな。」

 -閃鞘 八穿-

 音も無く一瞬でヴィータの上に現れた志貴はその首に短刀を走らせた。だが、その剣閃は横から現れた別の剣閃によって阻まれる。

 「やらせん!」

 シグナムが志貴の短刀を防いでいる間にヴィータは既に攻撃の体勢に入っていた。

 「へっ、空中なら身動きとれねぇだろ? もう一回コイツだ! ラケーテン…」

 グラーフアイゼンから薬莢が排出され変形していく。

 「ハンマー!!!」
 「ガァッ!」

 空中では避けられないので間に短刀を持っていないほうの腕を挟みながらも胴体にハンマーを喰らう志貴。だが、その手ごたえにヴィータは眉を顰めた。

 「テメェ、シールド張るどころかバリアジャケットすら着てねぇのかよ!?」
 「「えっ!?」」
 「グ、ガハッ…ハァッ、ハァ。お前らの常識を俺の常識と同じにするな。それに、今は命のやり取りをしているんだ。俺の心配をしている暇があるのか?」

 明らかに折れている左手を押さえることもせずに軽く息を整えて志貴はヴィータに対して軽口で答えると再び姿を消した。
 ヴィータとシグナムはあのダメージを負って尚消えるほどの動きが出来る志貴に驚いており、なのはとフェイトはバリアジャケットすら着ていない相手にどう立ち回るかで戸惑っていた。

 「この期に及んで俺の心配か? お優しいことで。だが、それが命取りだぞ!」

 姿が見えない志貴の声を聞き、シグナムとヴィータは二人の方へ意識を向ける。
 だが、それは志貴の誘いだった。志貴は意識が逸れたヴィータの背後に回り屈んだ。

 「掛かったな? 蹴り…穿つ!」
 「なっ!? ガ…!」
 「ヴィータちゃん!?」

 志貴の声に体が反応し、かろうじてグラーフアイゼンを間に挟めたが、グラーフアイゼンごと喉を蹴られて吹っ飛ぶ。
 なのははその光景にヴィータの名前を叫ぶだけだったが、一人だけ志貴に対してアクションを取った人物がいた。

 「チィッ、レヴァンテイン!」

 シグナムの声と同時に薬莢を排出するレヴァンテイン。シグナムはそれを確認するや否やまたも空中にいる志貴に向かって突進した。

 「紫電…」
 「待っ…」

 それに反応してしまったフェイトだが、シグナムは既にフェイトが今からソニックムーブを構築しても間に合わない間合いにまで詰め寄っていた。
 志貴は迫り来るレヴァンテインを見ながら穏やかな笑みを浮かべていた。

 「これで…俺は…」
 「一閃!」

 シグナムがレヴァンテインを振り切る。
 志貴の体は吹っ飛ばされたが、フェイトはその直前に志貴が浮かべていた穏やかな笑みを見てしまい、心を痛めた。

 「シグナム…」
 「何も言うなテスタロッサ。確かに私は非殺傷設定ではあるが、死んでもおかしくない攻撃をあいつにした。それに私も最後に浮かべた奴の笑みは見た。
 だが、それでもああしなければ殺されていたのは私達だっただろう。」

 そこまで言った時、周囲の景色が溶けていき、最初に来たときと同じ山になっていた。

 「…あの結界の中では満月だったけど今日、この世界は新月なんだね…」
 「…ああ、そうだな。」

 フェイトとシグナムの会話の後ろで、なのはとはやてが話をしていた。
 次元断層を起こしていた固有結界が解けたおかげで殆ど間を置かずに応援に現れた局員によって志貴は意識不明の状態で拘束され管理局に連行された。


 ~あの後、周囲を探索した局員は首の無い死体と干からびた首が同数見つかったとの報告をしたらしい。
  当然と言うのもおかしな話だがその数は調査に行った局員の数と一致したそうだ。
  志貴の裁判だが、どうにも志貴の意識が回復しないらしく、最後まで進んでいない。でも、多分目が覚めても、封印処理をして次元漂流の刑、実質の死刑になるらしい。流石に誰かに誑かされた訳ではなく、自分の意思で二桁もの人間を殺した上に次元断層をおこした罪は軽くないみたいだ。
  私は志貴があの時最後に見せた笑顔が気になっているけど、起きたら次元漂流の刑だし、このまま目が覚めないのもアリかな? と思ってしまっている。
  でも、ほんの少しの時間でもいいから起きてもらって、あの最後の笑顔の意味を聞いてみたい。そんな私は我侭なのかなぁ?
  私と同じような出自の人を救えなかった。出来れば救いたかったんだけど…今回のことは暫くは私の胸にしこりを残すと思う。だけど、もうこれ以上こんな思いをしないためにも私は一人でも多くの人達を助けてあげたい。~

                               フェイト・T・ハラオウンの日記より抜粋




続かない


あとがき

なのはとフェイトが戦闘に参加してねぇ…その上なのはが完全に空気だ…
そのせいでしょうが、凄いやっちまった感が襲い掛かってきます…
打ち切り感漂うこの話は凄く叩かれるんだろうなと思いつつもこれ以上妄想の翼を広げると収拾をつけられなくなるので投稿。

正直、なのは達を皆殺しにして終了させるか志貴を殺して終了させるかそれとも今回のような終わり方にするか悩みました。

なのは達を殺してしまうと私自身、本編を放置して更に七夜の続きを書きたくなると言う病気が発動しそうだったので本編のために没。
志貴を殺すにしても闇の書事件以降のヴォルケンリッターはそう簡単に殺すことはしないだろうし、なのはやフェイトに至っては言うに及ばず。ということでこれも止め。
と言うことで一番中途半端なこんな終わり方になりました。

生まれてから六年と言う言葉にツッコミを入れることがなかったのは流石にあのシーンでツッコミを入れるのはどうかと思っただけですし、何よりなのは達が志貴の殺気に中てられてツッコム余裕を持たなかったのが原因です。
決して作者がツッコませることを忘れていたわけではないのであしからず。

ちなみにこの固有結界、前編の一番最初に書いたように反響が良ければ本編、StS編の後半辺りで出します。
一応能力を細かく話の中で書いていなかったので補足。

固有結界名 『七夜の森』
結界範囲  およそ一キロ四方
展開時間  個人で展開すると大体三分(触媒や協力者の魔力量で上下)
能力:志貴の気配の隠蔽(本気で隠れようと思えば目の前にいても認識できない。)
結界内に入った人間の方向感覚阻害(出ようとしても同じ所をぐるぐる回り続ける。)
直死の魔眼の負担軽減
志貴自身は魔術、魔法を使えなくなる。(体術は問題なく使える。)

とまあこんな感じで。本編に出すとしたらこれを基準に煮詰めます。

さて、中間期に移行する前に妙なテンションになりましたが中間期も少しの間温い空気が続くのでこの話で七夜分を補充。
中間期も半ば辺りから七夜も無双を起こすほどではありませんがそれなりに動き始めるのでそれまでは…

よし、温い文を書き続けて下がっていたモチベーションもそれなりに持ち直したし、頑張って続きを書こう。では、来週に…会えるといいなぁ。

4/3 誤字修正+微妙に改訂



[4594] 中間期 第一話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:41


 第1話 魔導師へと進む道

 闇の書事件が終了して二ヶ月、志貴の生活は相変わらず高町家と月村家を行ったり来たりしていた。
 シグナムと出会う前の普通の学校生活の中、以前と変わったのはなのはとフェイトが魔導師の任務でいない時には前もってに連絡が来ると言うところか。

 (魔法、魔法と連呼されても違和感が少なくなってきたのは俺もこちらに染まってきたからか?)

 エスリンは基本的に翠屋にウェイトレスとして働いて、終わった後は志貴と一緒に高町家や月村家に泊まっているが、一、二週間に一度は八神家に泊まる。
 志貴もそれに付き合っているため、高町家や月村家の近所だけでなく、八神家の近所の人達ともある程度顔馴染みになっていた。その中の一回、一月前に出てきた話題で志貴はシャマルに言われたことがある。

 「志貴君、君は魔術回路を使って魔術をしていると言ってたけど、一応リンカーコアもあるし、魔導師になってみたらどうかしら?」
 「魔導師か…それも一応考えてはいるがアレはデバイスが無いとサポートを受けられないのだろう? 俺は今まで魔術師としてやってきたから単純に魔力を使うとなると自然と魔術になるんだが…」

 シャマルの提案に志貴は当然の返答をする。
 それに対してシャマルは笑顔を浮かべると言った。

 「それなんだけどね、リンディさんから志貴君にその気があるならデバイス作成を本局で依頼してもいい、って言われたの。
 で、どうするの?」

 志貴はシャマルの言葉に考え込んだ。
 提案は魅力的ではあるがデバイスを持ったとしても志貴のことを魔術師として見ている以上、少なくとも皆の前では七夜の業は使えない。
 元々使う予定の無いものだとしても、他の人には自分が魔術師だと言っていたとしてもやはり志貴は七夜なのだ。デバイスの通信装置などで自分の動きが制限されると今まで以上に七夜の業を使いにくくなる。
 それらのことを考えた上で志貴は答えを保留してもらっていた。

 そしてそれから一ヶ月、何度か八神家に行っていたが、答えを出さなかったが今日は八神家に行く日なので答えようと思っていた。

 「こんにちは、はやて。」

 エスリンは最初の頃こそ志貴の前ではやてを主と言って志貴に謝ると言う行動をとっていたが三週間もすれば呼び捨てにすることが出来ていた。

 「いらっしゃい、エスリン、志貴君。」
 「や、大体一週間ぶりだな。」
 「せやね。」

 軽い挨拶の後、志貴ははやてにシャマルはどこにいるのか聞いた。

 「シャマル? 今の時間やと買い物やね。もうそろそろ帰ってくるよ? 何か用事やったん?」
 「ん、まあ、用事と言えばそうだが…一ヶ月前にリンディさんが俺のデバイスを作ってくれるみたいなことを言っていたということをシャマルから聞いたからな。
 今はもうエスリンはデバイスとしての機能は持ってないし、俺もいつまでも保留しておくのは悪いと思って今更ながら答えを言いに来た、と言うわけだ。」
 「そっか。で、どうするん?」

 リビングに向かいながら話をする二人。エスリンはデバイスとしての機能を持っていないというところで暗い顔をしたが黙って二人の後ろをついていった。

 「作ってもらおうかと思ってる。一応形も考えた。」
 「ほう? ならば志貴も魔法を覚えるわけか。」

 志貴の言葉に真っ先に反応したのはシグナム。
 以前の志貴との戦いは志貴に逃げられたし、それ以降志貴と手合わせする機会が無かったので魔法を覚えれば模擬戦を出来るかもしれない、と言う考えもあったのだろう。
 その内心を感じたのか、志貴は微妙に引きながら答えた。

 「あ、ああ。こちらが個人的に頼む以上予算をそれほど取れるわけじゃないし、恐らくストレージかアームドになると思うが、春休みにでもな。どうせ春休みまでは後一月くらいなんだし。」
 「そうか。」
 「志貴君、エスリン、座って座って。」

 シグナムに答えるとはやてに座るように促される。それに甘えて座ると玄関からチャイムが鳴った。

 「あ、シャマルかも。」
 「ただいま~はやてちゃん。あ、志貴君、エスリンいらっしゃい。」
 「邪魔してるよ。」
 「ああ、邪魔をしている。」
 「………………………プッ」

 主従揃って似たような反応だったのがおかしかったのかはやてが吹き出した。だが、何がおかしかったのか分からない志貴とエスリンは顔を見合わせて首を傾げていた。

 「…まあ、いいか。シャマル。一ヶ月前に聞かれたデバイスの件だが…」
 「あ、そういえば、どうするつもり? 一応リンディさんはまだ待ってくれるって言ってたけど。」
 「ああ、春休みにでも作ってもらおうと思っている。一応形もこちらで考えてはいるが、その辺りは融通してくれるのか? ああ、無理なら別に構わないが。」
 「多分、それくらいは大丈夫だと思うけど…」

 その答えに志貴はホッとした顔を見せた。

 「どういう形にするつもりなの?」
 「ああ、手甲型だ。装備しながら別のものも持てる形にしときたかったから。」
 「ほう、志貴は武器戦闘もこなすのか?」
 「いや、今のところその予定は無い。単純に魔術との併用中に魔術の触媒…まあ、あの宝石だが、アレを持てるようにな。」
 「ああ、成程な。」
 「それと…」
 「え?」
 「エスリンにもデバイスを作ってもらいたい。」
 「志貴っ!?」

 志貴のその一言はエスリンにとっても意外だったのだろう。珍しく大きな声を出した。

 「ん、どうした?」
 「私は使い魔だ。夜天の書だった頃から魔力の運用は問題ないからデバイスは…」
 「ああ、そういうことじゃない。
 確かにお前を使い魔にしたけど、俺はお前をそういうふうに扱っていくつもりは無い。正直、単純な戦闘能力だったら俺よりエスリンの方が上だ。
 主の威厳とか言われてもよく分からないし、俺のほうが力が弱いのに立場が上、と言うものがなんとも変な気分になる。
 だからエスリンはどう思っているかに関係なく俺としては対等の立場でいたい訳だが…
 それに、それだけじゃなく、お前は俺から魔術的なラインで魔力を持っていっているから魔術のサポートも兼ねてだ。」

 志貴の言葉は初めて聞いたといわんばかりにその場にいた一同の目が見開いた。

 「…劇画チックな驚愕の顔を浮かべてもツッコまないぞ、はやて。」
 「残念…やなくて志貴君! エスリンも魔術を使えるん!?」

 わざとボケていた訳でなく素だった様だ。恐るべきは関西の血か。
 はやての驚きの声に志貴は一同も同じ感想を持っていると感じた。

 「言ってなかったか? エスリンは魔術回路は無いが俺と魔術的にラインが繋がっているからエスリンが魔術の使い方を理解しさえすれば魔術を行使できるんだぞ。
 それに、結構無理矢理魔術的なラインを作ったせいと言うか、エスリンの魔力がどちらにでも使用できる中庸的な魔力になっているんだ。
 エスリン自身には魔術回路こそ無いから個人で使うことは出来ないけど、エスリンの馬鹿でかい魔力をラインを通じて俺に送り俺が擬似魔術回路となって魔術が出来るように変換。その魔力をラインを通してエスリンに返すことでエスリンが魔術を使うことが出来る、と言うわけだ。
 まあ、俺だけでやるのは下手をすれば魔術回路が焼きつくくらいにキツイ作業だからデバイスの方でカバーできれば、と思っただけだ。」

 志貴の説明に一同は成程と納得する。だが、エスリンだけは納得いかない表情をしている。

 「志貴。私は別に魔術は使わないから…」
 「そうかもしれないが、手札は多いほうがいい。俺は兎も角、エスリンのデバイスには別にカートリッジシステムを入れるわけじゃないからブーツ型にでもしようと思っている。」

 既に構想まで出来ている志貴に対してエスリンは強く出ることが出来ない。シャマルに至っては既に連絡までしている。
 八方塞と言うか四面楚歌と言うか…逃げ道をふさがれたエスリンはため息を吐いて現状を受け入れた。

 「さて、それは兎も角として志貴。」
 「何だ?」

 シグナムはため息を吐いたエスリンを横目に志貴に言った。

 「デバイスが出来たら模擬戦を申し込ませてもらおう。」
 「…いいけど、魔法の使い方を覚えてからだぞ?」
 「ふ、構わんさ。だが、言質はとらせてもらった。以前はつけられなかった決着、楽しみにしているぞ。」
 「まあ、こっちも使う魔法が実戦で使えるかの丁度いい練習にもなる。
 当然、やるからには勝ちに行かせて貰うがな。」
 「出来るならばな。」

 好戦的な笑みを浮かべたシグナムと志貴を見てはやてが呟く。

 「シグナムが戦い大好きなんは知っとったけど、志貴君も似た者同士やったんやね。ヴィータがおったらバトルマニアがもう一人、とか言いそうやな。」

 現在この場にいない八神家の現末っ子はゲートボールをしに出かけている。はやてはそんな末っ子のことを考えて笑みを浮かべた。

 この日の夜は志貴が魔導師の道に進む第一歩を踏み出した記念だと賑やかな夕飯になった。

 「ふう、此処に来ると何かにつけて大騒ぎするな。」
 「志貴、さっきの話だが、私に魔術を使わせると言うのは…」
 「言いたいことは分かるがこれは俺の意思だから気にする必要は無い。
 それにその時に言ったが手札は多いほうがいい。あのことに関してもな…」

 それを聞いて少し暗い顔をするエスリン。やはり前のとは言えマスターだった者に隠し事をするのはやりきれないようだ。

 「エスリン! 風呂入ろうぜ、風呂!」

 空気が重くなった辺りで、明るい声と共にヴィータが突撃してきた。
 ヴィータはエスリンの腕を引っ張って風呂に連れて行こうとする。その明るさに助けられエスリンの表情も柔かくなった。

 「っと、ヴィータ、あまり引っ張るな。」
 「はやても一緒なんだし、急ごうぜ! 志貴、エスリン借りてくぞ!」
 「ああ、ゆっくり入って来い。」

 狙っていたわけではないだろうが暗い雰囲気を払ってくれたことは変わりないので、志貴は快く頷いた。

 志貴はエスリンが連れて行かれる音を聞きながら今後の行動について考え始めるのだった。


あとがき

中間期第一話! 正直短いです。どこかの短編に入れようかとも思ったのですが、どうやっても此処が始まりになるので本編として書きました。

次は志貴がデバイスを手に入れた後の話に飛びます。学校での日常編は更に後。志貴達が小学生の間には書きますがあくまでメインは志貴の魔導師、魔術師としての動きです。

StSの開始を機動六課の設立と同時期にすると考えると恐らくA’s編より長くなると思いますが投稿ペースは崩さずに頑張りたいと思うのでこれからも読んでいただけると幸いです。
…とは言え来週から試験があるのでその間は投稿ペースが遅れると思いますが…
まあ、過去回想の話はほぼ無しで此処でやってしまうので中間期の途中で「これもうStS入ってんじゃね?」と思われたとしても題名に中間期と書いている限りは一応中間期だと思ってください。
あくまで作者の主観なので結構境目が適当ですが、何とか勘弁してください…

それは兎も角、サブタイトルを考えるのがきつくなってきた…
リアルの時間的にではなく単純にネタが浮かばないのが主ですが…
そのうち突然サブタイトルが消えるかもしれませんが笑って見逃してください。

それでは、次の話で。

4/3 誤字修正+微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 中間期 第二話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:41


 第2話 志貴のデバイス、その名は…

 「と、言うわけでとりあえず形の希望、カートリッジシステムの有無、その他諸々を聞いて試作を作ってみたわけなんだけど…」
 「何が『と、言うわけ』なんだ? それとアンタは誰だ。」

 春休みになり、志貴とエスリンはリンディにデバイスの件で話があると呼び出された。
 ハラオウン家の転送ポートからアースラに着くなり目の前に見知らぬ女性が現れデバイスの試作ができていると言う。
 志貴からしてみれば現状を理解することが出来ないためかなりぶっきらぼうな言い方になっていたが、言われた本人はあまり気にしていないらしく笑顔で自己紹介を始めた。

 「あ、ごめんなさいね。私はマリエル・アテンザ。なのはちゃん達のデバイスにカートリッジシステムを付けたのも私なんだ。それと、仲がいい人にはマリーって呼ばれてるわ。よろしくね。
 で、いきなりなんだけど、一応希望を聞いてデバイスの試作を作ってみたから後は本人がそれでいいか確認するだけなの。
 ちょっとついてきてもらえるかしら?」
 「…まあ、いいが。
 ああ、俺のことは聞いているかも知れないが、七夜志貴という。呼び方は志貴でいい。」
 「私はリィンフォース・エスリンだ。エスリンと呼んでくれ。」
 「了~解。じゃ、行きましょうか。」

 志貴とエスリンはマリーの後ろをついていった。

 少し歩いて辿り着いたのは、志貴には理解できない機材が並んでいる部屋。その中でも一際大きなポッドのような機械の中に銀色を地に、縁に蒼い線が入っているカードと髪留め用のゴム(青い宝石付)が浮いていた。

 「志貴君の方は要望通り、手甲型、君達の世界だと西洋鎧みたいに肘まで覆う形だね。それに、カートリッジシステムは一応、肘の部分に大口径のものを各一発ずつ。タイプは限りなくアームドデバイスに近いインテリジェンス。それで… 「ちょ、ちょっと待ってくれ。」 ん? 何?」

 デバイスの説明を受けている途中で思わずツッコんでしまう志貴。それに対してマリーは首を傾げる。

 「インテリジェンスを作ってもらえたのは個人的には嬉しいのだが、俺はそんなに金を払えないぞ?」
 「ああ、大丈夫。そっちの方はリンディさんが『出世払いでいいからね』って言ってたから。」
 「……………………」

 その一言で黙り込んでしまう志貴。流石にそこまでしてくれるとは思っていなかったのだろう。マリーは黙り込んだ志貴を傍目に説明を続ける。

 「さて、説明を続けるわよ? 志貴君の子がインテリジェンスだって所までは話したわね? この子の名前は決まっていないから志貴君に決めてもらうことにして、AIも未成熟だからちゃんとお話をすること。
 次にエスリンさんのデバイス。こっちはブーツ、って言うよりは甲冑の足部分みたいになっちゃったんだけど…とりあえずこっちにはカートリッジシステムは未搭載、こっちの子はサポート専用のストレージデバイスってことだったけど、ブーツ型だとアームドデバイスみたいになっちゃうし、それならってことで志貴君に合わせてこっちもインテリジェンスになったから。
 志貴君の子と同じでこの子もまだ名前は決まってないわ。こっちの子もちゃんと名前、付けてあげてね。」
 「…俺のほうは…手甲か…そうだな、ラウファーダ…これがいいか。」

 ついさっき名前を付けろと言われた直後にすぐつけた志貴。マリーは目を丸くして志貴を見た。

 「へぇ~、あまり考える時間が無かったにしてはいい名前じゃない。どういう意味?」
 「まあ、秘密だ。とは言え、まだ名前がついていなかったのは少し驚いたな。」
 「まあね。命を預けるパートナーだから名前も自分で付けてもらったほうがいいかなって思ったのよ。で、エスリンさんはどういう名前にする?」
 「…流石にこればかりは志貴に名付けてもらうわけにもいかないからな…私と共に行く者の名か…私の名の由来は確か…ならば…あの一族の武具からとってクラウソラスだな。」

 志貴に続きエスリンも名をすぐに決める。それを聞いたマリーは再び眼を丸くしたが笑顔に戻るとポッドに浮いた待機状態のデバイスをそれぞれ二人に渡す。

 「二人とも、その子達の名前を呼んであげて。AIは未成熟だけど、マスター登録をしてくれればもう貴方達の相棒だから。成長するのはそれから。」
 『マスター、私の名前を呼んでください。』
 『以降は我々はマスターの剣となり鎧となります。』

 マリーの言葉にデバイス達が声を上げる。
 それを聞き志貴とエスリンはそれぞれの名を呼んだ。

 「ラウファーダ。お前の名前はラウファーダだ。俺の手となり共に道を歩んでくれ。」
 「お前はクラウソラスだ。私のサポートをよろしく頼む。」
 『『了解、マスター。』』

 ラウファーダは女性の音声、クラウソラスは男性の音声でそれぞれ答える。

 「ラウファーダのセットアップはここで?」
 「あ~、ここでは止めといて? その子達はもう二人に合わせて微調整するだけだからその辺りは持って帰ってからやってね~。」

 志貴の言葉にマリーが割り込む。
 確かに狭い上に精密機器が並んでいるこの場でセットアップをして放出した魔力がどう影響を及ぼすか分からない以上、確かに止めておいたほうがいいだろう。

 「さて、ではラウファーダはもう俺が持っていってもいいのか?」
 「うん。定期的にメンテする時には改めて連絡するから、ちゃんと育ててあげてね。」
 「そうか。じゃあ、これから宜しくな、ラウファーダ。」
 『はい、こちらも宜しくお願いします。マスター。』
 「いや、マスターと言うのはこそばゆいから志貴と呼んでくれ。」

 ラウファーダが志貴をマスターと呼んだ辺りでエスリンの肩がピクリと反応したが、続く志貴の言葉に意識をクラウソラスへと戻す。

 『? どうかしたのですか、マスター?』
 「…いや、なんでもない。」

 クラウソラスがエスリンの反応を感じて聞くもエスリンは落ち着いて答えた。

 『分かりました、マスター志貴。』

 しかし、ラウファーダが続けた言葉にエスリンはクラウソラスをギシィ! と言う音が聞こえるほどに強く握り締めた。

 『痛い!? 痛いですマスター!』
 「あ…す、スマン…」

 エスリンとクラウソラスがなにやらコミュニケーションに失敗している横で志貴はラウファーダに呼び名からマスターの文字を取り除こうと苦心しているようだ。
 しかし、その努力も空しくというか、ラウファーダに

 『マスターではないんですか?』

 などと悲しそうな声で言われたら折れざるを得なかったらしい。未発達なAIのはずなのに既に泣き落としを習得しかけているとは将来が恐ろしい子である。
 とりあえず志貴はラウファーダの泣き落としに負け、

 「…好きに呼んでくれ…」

 と諦めた。
 だが、ここに納得がいかない様子の元ユニゾンデバイスが一人。

 「何故だ志貴! そいつが志貴のことをマスターと呼ぶのが構わないのならば私もマスターと呼んで構わないだろう!?」
 『む、志貴はマスターのマスターなのですか? ならばグランドマスターと呼ぶべきでしょうか?』
 「いや、エスリンの方は既に納得しただろう。それとクラウソラス、それは止めてくれ。魔術師としても魔導師としても半人前以前の俺がそう呼ばれると要らん誤解を招きそうだ。」

 エスリンの抗議とクラウソラスの質問にしれっと返す志貴。だが、やはり納得がいかないのかエスリンは抗議を続けている。
 だが、最終的には志貴の

 「いや、エスリンは自分で納得したわけだし、ラファのように最後までごねたわけでもないからな。」

 という言葉でエスリンは沈黙…

 「…既に愛称まで…クッ、私も最後まで抗議していれば…」

 していなかった。
 黒いオーラを背負い、志貴ですら若干引いている。

 「あ、ああ、クラウソラス。お前も俺のことは志貴でいい。エスリンに対する呼び名はお前の好きにしていいと思うがな。
 とりあえずお前のことはクラウと呼ばせてもらうが構わないか?」
 『了解です、志貴殿。』

 エスリンの黒いオーラから目を背けながら志貴はエスリンの手にあるクラウソラスと会話する。しかし、志貴がクラウソラスに愛称をつけた辺りでエスリンの背負う黒いオーラが次第に無視できるレベルではなくなってきた。

 「そうか…私を差し置いて二人には愛称をつけるのだな、志貴は…」
 「い、いや…お前も正式な名前はリィンフォース・エスリンだろう。一応俺としてはエスリンも愛称のつもりなんだが…」

 頬を引き攣らせながら言った志貴にエスリンの黒いオーラが少し退く。

 「そ、そうか…それで、私にも志貴をマスターと呼ばせて欲しいのだが…」
 「それは却下。」
 「な、何故だ!?」

 にべも無く即答する志貴にエスリンは叫んだ。

 「まず一つ。外見上俺がお前にマスターと呼ばれたらどんな噂が立つか分からん。
 二つ、以前も言ったようにお前と俺は主従の関係ではなく対等でありたい。
 そして最後に、既にお前には志貴と呼ばれ慣れた。今更変えられても違和感しかない。」
 「…最初と最後の理由が本音に聞こえるのだが…」
 「気のせいだ。」

 やはり今回もエスリンの希望は聞き入れてもらえなかった。
 まあ、条件としてこれから一緒に寝るなど色々な約束をさせられたが、志貴にとっては今の外見ならば別に問題ないと判断したため、簡単に承諾した。
 ちなみに今回のことでクラウソラスとエスリンの仲よりクラウソラスと志貴の方が仲が良くなってしまったのは余談である。


あとがき

試験前に投稿したかったのですが、完成直前にいきなりパソコンがフリーズ。
 流石にたった二年も使っていないのに天寿を全うされたとは思いたくないので学校のサポートセンターで修理に出し、帰ってくるまでの時間はパソコン断ちというまさに地獄の苦しみを味わいました…何でこの時期にたくさんの修理依頼が重なって代わりのパソコンが用意されてないんだよぅ…前に液晶を割った時には代わりがあったのに…
幸いデータは別のメモリーに保管していたので今までの話も含めて全消去と言う憂き目に会うのだけは回避できましたが、学校で続きを書くわけにもいかず、結局は試験終了までパソコン断ち確定でした。(近くにネカフェが無いのでそっちに篭る事も出来ず…)
昨日パソコンが帰ってきたときには狂喜乱舞しましたとも、ええ。

さて、私のリアルの話は置いておいて、内容のあとがきに…とりあえずですがマリーさん登場です。使い捨てのオリキャラにするかマリーさんを使うか悩みましたが、使い捨てにするくらいならとマリーさんを使うことにしました。
ちなみにデバイスの名前に関しての由来はググってみたら一番最初に出てくるwikiに出てたりする。エスリンの名前の由来もそこからです。
まあ、志貴の目は由来がアレ関連でつけられることも多いですし…
志貴の使う魔法の名前もそこから出すつもりです。

中間期に入って二話連続で短い話になっているのは私がサボっているわけではありません。
ぶっちゃけ、話を続けるには必要なものではあるが、長く書いても間延びする話が多いのが原因です。

まあ、次からはちゃんと日常編を書くので今回や前回ほど短くはならない予定。多分…きっと…
少なくともなのは墜落の11歳までには少なくとも後2,3話挟むつもりです。

一応この後のオマケでちゃんとデバイスの紹介はしておきます。
読みたくなければ、と言うか読まなくても本編を読んでいれば性能は出てきますので、更に読むのが面倒いと言う方はここで引き返されても結構です。
まあ、声優ネタをどこかで使おうとも思っているので一応イメージCVくらいは見ておいて欲しかったり…それに形をイメージしやすくするためにも見ておいて損は無いと思いますが。

それでは、また次の話で会いましょう。


オマケ

志貴のデバイス
 名前:ラウファーダ(愛称はラファ)
 イメージCV:南央美

 セットアップ時は両手に装備される手甲型。装備後のイメージ的にはスパロボOGに出てきたソウルゲインの腕の部分みたいな感じ。
 StS編のフェイトの腕部装甲を更にごつくした感じでも可。フェイトとしてはお揃いなので結構気に入っていたり…
 バリアジャケットの形はメルブラのワラキアの夜の服をそのまま引用。やりたいことがあるので格好まで魔術師になってしまった件についてはご容赦を。

 カートリッジシステムは肘部分の突起に各一発ずつのみ。ただし、使ったとしても志貴は某赤い癖毛のお人のように
 『リミット解除、コード○麟!』
 などとは叫ばない。(まあ、番外編などでギャグネタでやる可能性は無きにしも非ず)

 大口径の特殊カートリッジ(大容量)なので使用には前もって許可、もしくは現場での指揮官の承認が必要。

 名前の由来はググってみれば見れると思います。まあ、元は出てくるやつそのまんまの名前でいいかなぁ、と思ったのですが、微妙に捻ってみることに。分かりにくかったらスイマセン。
 調べて分からなかった、もしくはメンドいからさっさとネタバレしろ、何でこの名前にしたのか意味が分からん等の意見があったら次回の更新で書きます。
 まあ、たいした理由があるわけじゃないので書いたら逆に叩かれそうですが…

 ちなみにラファは志貴にマスターと呼ぶのを認めてもらった(泣き落とし)せいで微妙にエスリンから睨まれている。
 性格は若干幼い感じがあるが、今後の成長に期待。

エスリンのデバイス
 名前:クラウソラス(愛称はクラウ)
 作者のパソコンで変換すると最初は「喰らう逸らす」と変換され訳が分からなくなった。
 イメージCV:諏訪部順一

 セットアップ時は両足装備のブーツ。と言うより中世の甲冑の足の装甲みたいになる。セットアップ時にエスリンが翼を広げると『それなんて2Pカラーのアン○ェルグ?』といった感じのイメージに…さあ、清水香○ボイスでファントムフェ○ックスを使ってみ(以下検閲削除)
 スパロボが分からずになのはシリーズだけは知っているのであれば、ノーヴェのジェットエッジの膝部分のでっぱりとスピナー部分、ローラー部分を取り除いたイメージでも可。(作者のイメージは前者が強いんですが)
 カートリッジシステムは組み込んでおらず、完全にサポート専用デバイス。リインフォースが使える魔法を補助する役割と魔術補助、後は多少はブースト魔法も使える。
 名前の由来が剣なのに脚部装甲型にしたことについては深い意味は無いです。単純に志貴が腕部装甲型だしこれで良いんじゃね? くらいに軽く考えています。それに手袋型だとStSの時点でキャロと被るので…
 大抵は執事然としてエスリンを立てているが、志貴が絡んだ時のエスリンを見ると少しだけ志貴がマスターだったら良かったと思うことも…

 待機状態が髪留めのゴムについた宝石なので基本的にはエスリンの髪型をポニーテイルにしており、エスリン本人も志貴に髪型を褒められたのでそのままにしている。
 セットアップ時も髪型はポニーテイルに固定するようにバリアジャケットを展開するようになる。

4/3 微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 中間期 第三話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:42

 第3話 月村家での一時

 志貴がデバイスを受け取ってから数日後、月村家にマーキングすることへの了承を得られたため、志貴は月村家に泊まる時にはいつも使っている部屋で作業をしていた。

 『あの、マスター志貴。何をなさっているんですか?』
 「ん? 工房作成。」
 『工房作成ですか?』
 「ああ。」

 簡単な受け答えをしながら志貴は部屋の四隅を魔力を込めた指でなぞり続ける。

 『マスター志貴。特に道具を置いているわけではないようですが、何故工房なのでしょうか。』
 「ああ、魔術師の工房と言うのは本来のものとは若干意味が違うからな…簡単に言えば魔術師の本拠地と言うか、まあ、誰にも知られたくない秘密の部屋のようなものだ。」
 『はあ。』

 秘密の部屋を作っているという意味がラファにはよく分からなかったが、とりあえず志貴が魔力を込めて何かをしていることは理解したので志貴が作業を終えるまで黙っていることにした。
 ちなみにエスリンは一日に一回の魔力補給の時を除くとデバイスを受け取って以降八神家にしょっちゅう愚痴を言いに行っているらしい。何でも志貴をマスターと呼ぶ権利をポッと出の小娘に取られたと言う噂が(主にはやてから)流れてくる。
 フォローやお願いなどは聞いているのにと志貴の悩みは絶えない。

 「っと、これで一応の体裁は保てるか。」
 『お疲れ様です、マスター志貴。』
 「ん、ありがとう。」

 志貴が終わったと言ったところでラファが志貴を労う。数日の会話でかなり一般的な会話が出来るようになっているようだ。
 とりあえず一息つくために志貴はいすに腰掛ける。その時、ノックの音がした。

 「志貴君、入るよ?」
 「ああ、すずかか。いいぞ。」

 志貴がそう言うとすずかが普通に入ってくる。それを見てラファは志貴に問いかける。

 『マスター志貴。秘密の部屋を作っていたのではないのですか?』
 「? そうなの?」
 「ああ、秘密の部屋といっても俺は別に魔術師として隠さなきゃいけないものを置いておくつもりは無いからあまり意味は無い。ただ、此処が俺の本拠地だという証をつけただけだよ。
 まあ、これ以降、何か置くかもしれないが、見られて困るものや触られると不味いものは置かないと思う。
 やばい物を置く時は前もって言っておくしな。」
 『そうですか。』

 そこまで言うとすずかが志貴に近づいてきた。

 「ん? どうした、すずか。」
 「ん~、そろそろ血が欲しいな~っと思って。」
 「ラファがいるのはいいのか?」
 「大丈夫だよ。志貴君の相棒だからどっちにしてもいつかはばれてたと思うし、今ばれても気にしないよ。エスリンさんがいなければ…」

 以前エスリンの体を維持させるために血を与えているということを話したとき以来、すずかは微妙に対抗心のようなものを燃やしているようだ。

 「ねえ、エスリンさんの体の維持のためには本当に血を飲ませないといけないの?」
 「…………、以前も言ったが、俺はそれ以外を知らないぞ。」
 「今の間は?」
 「…………」

 一瞬詰まったことを感じ取り、すずかは志貴に詰め寄る。その態度に志貴は観念したようにため息を吐いてすずかを見る。

 「本当に聞きたいか?」
 「うん、志貴君の血を貰うのは私だけでいいもん。」

 何気に危ない台詞が入ったが志貴は全力でスルーした。

 「まあ、確かに血である必要は無いんだが…」
 「志貴、帰ったぞ。」

 志貴が話し始めるのと同時にエスリンがノックの音と共にどこの酔っ払い親父かといわんばかりの台詞と共に部屋に入ってきた。
 流石に本当に酔っ払っているわけではないが、微妙に不機嫌そうなのは、はやて達に愚痴を聞いてもらっても納得がいかない上に、結局の所、自分は志貴にマスターと呼ぶなといわれたのにラファが呼ぶのを許可されているのが気になるのだろう。

 「ん、丁度良かった。今すずかにエスリンの体維持の方法を言おうと思っていたんだ。エスリンも知っている通りすずかには俺の血をあげてるからな。」
 「そうなのか?」
 「…うん…」

 流石に本人の前で堂々と言うのは気が引けるのかすずかは曖昧に頷く。

 「さて、エスリンの体を維持するためには俺の魔力をエスリンの体に通してやらないといけない。その時にてっとり早く魔力を馴染ませるため血液を飲んでもらっていたわけだが、別に血液である必要は無い。」
 「そこまではさっき言ってたよね。」

 志貴は、すずかは此処までを聞いていたがエスリンは最初はいなかったので説明を最初からすることにしたということを話した。
 エスリンは血液が必要ないのであれば他にどんな手段があるのか聞こうと黙って次を促す。

 「まあ、魔術師の血液には本人の魔力が濃く溶けているから効率はそれなりにいい。これより効率の悪い方法としては…」

 そこまで言って言葉を濁らせる志貴。

 「続きは?」

 だが、それもすずかのイイ笑顔によって強制的に続きを話させられた。

 「…口内の粘膜接触。簡単に言えばキス、接吻だな。」
 「「な、なな…き、キス!?」」

 驚きの声を上げた二人とは対照的に志貴は最早開き直ったといわんばかりに最後の方法を口にする。

 「一番効率のいい方法は今の俺の肉体年齢では到底無理な話だが、実際に交わること。ぶっちゃけるとS○XだSE○。」
 「「セッ…!!?」」

 なにやら凄まじいカミングアウトにすずかとエスリンは顔を赤くする。

 「で、他の方法にしろとすずかは言っていたわけだがどうするんだ?」
 「い、いいから! 変えなくていいから!!」
 「わ、私は今は効率の悪い方法で十分だが…」

 同時に答えたため声が小さくなったエスリンの台詞はすずかの叫びにかき消された。エスリンの台詞が聞こえなかったためか志貴はホッとして答えた。

 「なら、今のままで続けようか。流石にそういう関係でもないのにこれらの方法をとるのは気がひける。」

 志貴の言葉を聞いた二人の反応は両極端だった。そこにラファが口を挟んだ。

 『マスター志貴、何故効率のいい方法を使われないのですか?』
 「ああ、この体の年齢的な問題でな、俺がそれを選択できない。それに加えて相手が異性の場合、魔力の受け渡しとは違う意味も持つ行為だからあまり軽々しくは出来ないんだ。
 まあ、相手が同性の場合、余計にこの方法を使おうとも思えないがな。」
 『なるほど。では、その別の意味とは何でしょうか。』

 何と言うか、未成熟なAIだから仕方ないのかもしれないが、気分的には子供に子供がどうやって出来るのかを聞かれた親の心境である。
 だが、誤魔化してしまうと間違った知識を溜め込んでしまう可能性が高いというか、ほぼ確定なので志貴はありのままを教えることにした。

 これ以降、夕食のお呼びがかかるまで志貴は次々と繰り出されるラファの質問に正確に答え続け、傍で聞いていたエスリンとすずかの顔が人類の限界を超えて赤くなっていることに気付くことはなかった。

 夕食の場でまともに志貴の顔を見れなくなったエスリンとすずかの二人は、その挙動不審について忍に問い質されてからかわれたのは言うまでも無い。
 志貴に至っては今回のことでラファのAIが少しでも成長したことを喜ぶべきか羞恥プレイをさせられたことに対して怒るべきか判断がつかなかったが、エスリンとすずかのついでとばかりに忍にからかわれて思考を放棄した。

 「ふう、今日の夕食の間は大変だった。」
 『申し訳ないです。ですが、今日の話は勉強になりました。』
 「ああ、だがあまり言いふらすなよ?」
 『勿論です。すずかさんのこともプロテクトをかけておいて他人には見られないようにしておきます。』
 「ああ、その辺りは頼んだ。それに本格的にラファを使うのは多分、俺が小学校を卒業してからになるからな。それまでに他にも色々教えてやる。」
 『はい、宜しくお願いします、マスター志貴。』

 志貴はラファと今後のことについても話し始める。ちなみにエスリンとすずかは食堂でのこともあり、今は志貴の顔がまともに見れないため別室にいる。
 志貴とラファが話していると志貴はふと思いついたように聞く。

 「そういえばラファの声、記憶に引っかかっているんだが…」
 『そうなんですか? ですが、私がマスター志貴と出会ったのはあの時が初めてのはずですが…』
 「そうなんだがな…まあいい。はっきり思い出せないのならば別に気にするほどの相手ではなかったのだろうさ。」

 …草葉の陰で泣いている薄幸吸血鬼に幸あれ…
 そこまで会話してノックの音がした。

 「エスリンか?」
 「ああ、私だ。」

 流石にラインが繋がっているため相手が誰かすぐ分かった志貴。
 まあ、この家の人間は皆特殊なため、扉の前に立つ前には誰か分かるのだが。

 「志貴、魔力の受け渡しを、効率の悪いほうでいいから…」
 「ちょっと待った~!!」

 エスリンの台詞を遮るようにすずかが部屋に入ってきた。

 「すずか、一応ノックくらいはするべきだと思うのだが…」
 「あ、ごめんなさい…じゃなくて! 志貴君、私が先。血を頂戴。」

 ずい、とエスリンの前に出てくるすずか、それを見て志貴は一言。

 「随分テンションが高くなったな。最初の頃は一歩ひいた感じがしたんだが…」
 「う、だって…志貴君がどんどん可愛い子と仲良くなっていくんだもん…それになのはちゃん達を手伝いに行ったらもっと…(ボソボソ)」

 じわじわとしおれていくすずか。最後の辺りは声が小さくなって聞こえにくくなっていったが、志貴にはしっかりと届いていた。

 「以前も言ったが、お前を守ると言う約束を反故にするつもりはないぞ。」
 「志貴君…」
 「この世界で始めて出来たともいえる友人を守るのは当然と思うからな。」

 微妙に感動していたすずかも志貴の付け加えた言葉でまた落ち込む。

 「さて、血だったな。エスリン、少し待っててくれ。」
 「……了解した。」

 最初の間が気になったが志貴はすずかに血を渡すために首筋を肌蹴た。そこにすずかが抱きつくように志貴の首筋に顔をうずめ血を飲む。
 すずかの後ろ(志貴からすれば正面)から何かをかみ締めるような音が聞こえるのは気にしてはいけない。

 その後、エスリンは志貴から血を受け取ろうとしたが、新しく傷を作ることは無いと言ってすずかが血を飲んだ首筋から血を貰っていた。
 このときも、すずかがいるはずの方向から黒いオーラが感じられたのも気にしてはいけない。

 ただ、その状況で志貴は

 (何で首筋から吸いたがるのか…それにしても二人は間接キスか…)

 などとなんとも言えない感想を持っていた。


あとがき

すずかが妙にハイテンションだ。
何と言うか、アルクに似てきてしまった感がある。ちゃんと抑えないとな~。

クラウが空気。登場させようにも今回の話で絡ませるのが難しかった…戦闘の時は話させるつもりだけど、日常会話だと空気になり続けそうだ…

さて、志貴ぶっちゃけました。将来そういう関係になるのか…いや、ネタとしてXXX掲示板に絡みを入れても…

と妄想が暴走し始めて本編に余裕が持てたら、と言う結論になりました。
最近スランプ気味なんです…妄想がStSの方に飛んでしまい、だからと言ってこの中間期が無かったらStSでやりたいことが出来ないしで結構切実です…

次はアリサと絡ませたいのですが、ただ魔法のことを知っているだけの一般人であるアリサと志貴をどう絡ませればいいのか分からないので、予定を変えていくかも…

ううん、志貴がなかなか動き始めない…他の人との絡みを抑えてさっさと志貴を動かすか?

まあ、その辺りはグダグダと日常編を書いて時間をゆっくりかけるのではなく、とりあえず本筋に関係無い話は絡ませずに時間をすっ飛ばすのでもう少し待っていてください。

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[4594] 中間期 第四話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:42



 第4話 戦闘見学と一つの決意

 春休みももう終わろうとしている頃、志貴とエスリンはアースラへと呼ばれた。

 「今日はどうしたんだ?」

 志貴は前を歩いているリンディに聞いた。

 「ちょっとね、闇の書事件の傷も癒えた頃だし、ミッド式対ベルカ式の模擬戦を行うことになったらしいの。それで、高ランク魔導師同士の模擬戦を見るいい機会だろうと思って呼んだのだけど…都合が悪かったかしら?」
 「…俺が暇だったってわかってて言ってるだろう。都合が悪かったら此処には来ていないさ。それに魔法世界での実力者と言うものの戦いも見てみたかった。」
 「そう、じゃあ、本当にいいタイミングだったわけね。」

 そう言いながらも志貴とエスリンはモニターがある部屋まで来ていた。モニターには十人の男女が向かい合っていた。

 「五対五か。経験でははやて達、というかヴォルケンリッター達だが、なのはとフェイトの出力もバカバカしいほどにあるからな…どちらに転ぶか…正直クロノがどれだけ二人を使えるかが勝負の分かれ目だろうな。」
 「あら、クロノを結構買ってくれてるのね。」
 「まあ、本当の実戦経験者はなのは側ではクロノだけだろうし、今まで見ている限り、それなりに動きに無駄が少ないからな。」
 「だが、対するヴォルケンリッター達は全員本当の実戦経験者だぞ?」

 リンディと志貴の会話にエスリンが入り込んだ。だが、志貴は表情を変えずに反論する。

 「だが、はやては違う。一人だけ実戦を経験していないというのはその一人をフォローしないといけないから意外と動きにくいんだ。それに、ザフィーラやシャマルがそういう補助専門でもやはり、他の連携が出来ている状況でたった一人のフォローと言うのは動きに乱れが生まれる。
 対して一人だけが実戦経験者だというならその一人が戦いを組み立て、他のメンバーを動かせばいい。そういう意味でクロノがキーだと言ったんだ。
 まあ、経験者の指示についていけるスペックがあいつらにはあるからこそ言える話だけどな。」
 「成程な。だが、その程度で負けるほど騎士達は甘くはない。もとよりその条件下で戦うことを続けてきたわけだからな。」

 そんなことを話しているうちに模擬戦は始まっていた。戦闘には色々な相性が絡み合うとは言え、どちらも相手は何度も戦ったことのある相手だ。お互いに自分達の戦いに引き込もうとして一進一退。
 完全に、とは言わないが拮抗している戦いになっていた。

 「へぇ、なかなか…」
 「ふむ、騎士達を相手に簡単に近寄らせないか。あの二人やるな。」
 「ま、此処までは大体予想通り。はやてが何かしてるけど、なのはとフェイトは二人がかりで何かの準備をしているみたいだしな。
 もし、俺があそこにいて真っ向から戦う必要がなければ決着はこの辺りでつけられるんだが、多分二人は真っ向勝負するつもりだろうし…出力がどちらに傾くかは流石に予想できないな。」
 「確かにな…だが、真っ向から戦う必要がなければ、と言ったが他に戦い方があるのか?」

 エスリンと志貴が戦況を見ながら会話する。志貴はエスリンの質問に目はモニターに向けながら答える。エスリンもモニターを見続けているからお互い様ではあるが…

 「ユーノとなのはという硬い防御を持つ二人がいるんだ。はやてが広域殲滅魔法を使うなら二人のシールドを盾にフェイト、クロノの集中砲撃。その間アルフが騎士達の牽制のために回り込んではやてに直接攻撃。
 はやてが集中砲撃をするならなのはがスターライトブレイカーで相殺。それが出来なければ進行を弱めてユーノで防御。その隙にフェイトが高速移動ではやての背後に回り一撃。
 一番のネックであるどちらを撃ってくるかだが、詠唱や魔法陣から魔法の特性を見ることは難しくないからその辺りは臨機応変でも何とかなる。
 まあ、フェイトもまだ機動が甘いように見えるしなのはやはやても魔力量があっても周りを見ながら戦えるほど経験もないから騎士達を完全に抑える奴がいても、せいぜい互角。またははやてが若干分が悪いという感じか…
 まあ、前提が騎士達を抑える存在がいるということだから、この戦い、クロノ、アルフ、ユーノ対ヴォルケンリッターと、なのは、フェイト対はやての二つの戦いになっている。クロノ達は良く粘っているが流石にきつそうだ。なのは、フェイトが早くはやてを落とさないとずるずると負けるな。」

 そう言っている間になのはとフェイトはコンビネーション砲撃を準備していた。一方のはやても広域殲滅魔法を構築しており、傍で見ている志貴もこれは拙いんじゃないかと思った。
 三人から目を離して周りを見回すと、なのはとフェイトの後ろの方でクロノが呆れたような顔になりユーノに結界の構築を頼んでいた。

 「…あいつら三人の魔力だぞ? 余波だけだとしても一人分の結界で十分なのか?」
 「…一応ザフィーラとシャマルも補助をしている。少なくともこの部屋が消え去ることはないだろう。」
 「そ、それに、魔導師用の訓練室ですもの。魔法に対してはそれなりの強度を持っているわよ?」

 志貴の呟きにエスリンとリンディが答えるが微妙に引き攣った頬が自信の無さを現している。それだけ三人の魔力の上昇と収束が半端ではないのだ。
 そんなことを話しているうちに訓練室を映していたモニターがホワイトアウトした。両者の魔法がぶつかり合うことで生まれた衝撃と魔力の余波でモニターが一時麻痺したらしい。
 とは言え、流石管理局の技術力と言うべきかモニターそのものは十秒ほどで回復した。だが、モニターは舞い上がった煙で中にいる人物を映してはいなかった。
 しばらくしてモニターが回復すると、ボロボロになりながらも笑い合う三人の少女が見えた。周囲にも同じようにボロボロになってはいるが深刻なダメージを受けたわけではない皆がいる。
 皆が元気そうだったので、志貴は安心した。そこにリンディが質問してきた。

 「どうだったかしら、魔導師の戦闘は?」
 「色々思うところはあるが、一番はやはり面白そう、というところか…」

 志貴は戦闘が終わったモニターから目を離してリンディの言葉に答えた。

 「俺は空を飛ぶ気は無いし、あいつ等ほど魔力を持ってもいない。勿論、空を飛べるかどうかも分からないしな。
 だが、例え空を飛べなかったとしてもこっちの魔法を使えるというだけで俺の可能性が広がったのは素直に嬉しいことだからな。」
 「…私にユニゾン機能が残っていれば志貴を飛ばせることくらいは訳が無いのだが…」
 「ん、その気持ちだけでいいさ。」

 エスリンの残念そうな言葉に志貴は穏やかに答える。そこまで話して、リンディがそろそろ訓練室を吹っ飛ばした三人娘を迎えに行くと言うので、志貴も一緒に行くことになった。

 訓練室から出てきた十人ほどの男女、その一団に志貴は声をかけた。

 「なかなか派手な引き分けだったな。」
 「え? 志貴?」

 その声に真っ先に反応したのはフェイトだった。とは言え、他のメンバーも声には出していなかっただけで視線は志貴の方を向いていたのだが。

 「あれ? 見てたの?」
 「ああ、魔導師の戦闘と言うものを見ようと思ってな。闇の書の防御プログラムの時は戦闘と言うよりはただの連続攻撃だったから、対人、もしくは人相手ではなくても同程度の大きさの相手と戦うときにどう動くかを見ようと思ったんだ。
 と言うか連絡は貰ってないのか? 俺はリンディ提督に呼ばれてきたんだが。」
 「あ~、知らんかったわ。でも、志貴君が来とるんやったら勝ちたかったなぁ。」
 「む、負けないよ、はやてちゃん。ね、フェイトちゃん。」
 「うん。」
 「どういう対抗心だ。と言うよりさっさと救護室に行ってこい。余波とはいってもそれなりにダメージは受けてるだろうが。」

 三人娘と志貴が話している横ではヴォルケンリッター…いや、既に闇の書の守護騎士プログラムから解き放たれたから元、をつけるのが正しいだろうが…彼女達とエスリンが話していた。

 一方、海鳴の方では、志貴が今日はアースラの方に行くと聞いたすずかが枕を抱きながら唸っていた。

 「う~、志貴君には私の方は心配ないって言ったけど、私にも何かできること無いかなぁ…」

 親友のことも気になるが、自分にも何かできることは無いかと考えてもいたのだ。
 以前、魔法の素質が無いことを教えられたすずかは海鳴で皆の帰りを待とうと考えていたのだが、春休みの終わりに近付く毎に新年度から異世界で頑張る親友達や、小学校卒業を期にその親友達の所へ行ってしまうであろう志貴のことを考えてもやもやした気分になるのだ。

 「でも、私まで行っちゃうとアリサちゃんがこっちで一人になっちゃう。それに、何も手伝えない私が行っても…」

 ある意味で思考のループを続けさせている原因になっているのはその二つだ。無理矢理ついていくにしても何の役にも立たなければただ迷惑をかけるだけになってしまうし、もし何かできるとしてもアリサを一人置いていくのは気がひけてしまうのだ。
 既に小学生の思考ではないが、グルグルと思考の渦に囚われているすずかは相談すると言う結論にも行き着かない。
 そんな時に、すずかの部屋にノックの音が響いた。

 「う~…」

 すずかは気付いていない様子だが、ノックをした人物はそのまま扉を開いて入ってきた。

 「す~ずかっ。」
 「ひあっ!? お、お姉ちゃん!?」

 すずかの目の前に明るい声と共ににこやかな姉の顔が広がった。ノックの音にも気付かなかったすずかの驚きは推して知るべきだろう。

 「ど、どうしたの? ノックもしないで…」
 「したわよ。ただ、すずかが気がつかなかったの。」
 「え、あ、ごめんなさにゅ…」

 自分の姉は冗談は言っても自分に嘘はつかないと信じているのですずかは自分の失態だと謝る。だが、それは頬を引っ張る指で中断させられた。

 「にゃ、にゃにふゆにょ?」
 「最近、すずかは暗~い顔ばかりだったからね~、何を悩んでるのかお姉ちゃんがここで聞いてあげようってわけよ。」
 「にゃやみゅにゃん…はにゃしゅえ、おにぇえひゃん。」

 悩みを聞くといっておきながら頬を引っ張ったままでは話すことも出来ない。そのことを抗議するように目で訴えるすずかだが目の前の姉はニヤニヤしたまま放す気配も無い。

 「なんでもないならそれこそ話してみなさい。誰かに相談することは決して恥じゃないし、一人で解決できるならそもそもそんなに沈んだ顔しないの。」

 ニヤニヤした顔を軽く引き締めてすずかに話しかける忍。すずかの頬を引っ張ったままなのが締まりきらない原因だろうが…

 「れみょ…、……っ!」

 流石にそのまま話すと色々アレなので自分の頬から姉の指を離す。

 「お姉ちゃん、話を聞く気があるなら頬を引っ張らなくてもいいと思うんだ。」
 「え~、可愛かったわよ?」
 「お姉ちゃん!」

 頬を膨らませながら忍を軽く睨むすずか。だが、それを見て忍は小さく笑うと踵を返した。

 「やっといつもの顔に戻ったわね。ま、相談するのは私じゃなくてもいいから一人で抱え込まないこと。」
 「あ…」

 今までの忍の行為の意味を理解したすずかは軽く言葉を失う。忍はそのまま扉の方に向かったが、扉の前で一旦止まりすずかと目を合わせる。

 「でもね…これだけは言っておくわね。お姉ちゃんはすずかが後悔しなければすずかの好きにしていいと思ってる。
 難しく考えなくてもいい。私と恭也が出会って恭也が私を受け入れてくれたようにすずかにもそういう出会いはきっとある。志貴君だってすずかのことを知ってもいつも通りだったじゃない。だからね、心配しないですずかの思うままにしなさい。」
 「で、でもそれじゃ…」

 忍の言葉にすずかは逡巡する。本当にいいのだろうかと、ただの我侭でもいいのだろうかと。

 「私のことは気にしないで。恭也もいるし、ノエルもいる。それと、すずかのお友達とはちゃんと話をすること。すずかが本気ならきっと応えてくれるいい子ばかりだと思うから、後はすずかが本気でどうしたいのかをちゃんと決めてね。」
 「…………うん。」

 すずかが頷くのを見て忍は扉を開けて部屋から出る。閉じられた扉を見ながらすずかは小さく呟いた。

 「…ありがとう、お姉ちゃん。」

 すずかは一つの決心をした。



あとがき

また変な引っ張り方をしてしまった…
とりあえず、今回の話はすずかの志貴フラグを消滅させないための分岐点ですね。

さて、すずかは遠距離恋愛を決心したのかそれとも押しかけ女房となることを決心したのか…
報われるかどうかは置いておいて、すずか攻略フラグは残しておきます。
エスリンと並んで現在では本命ですし、任務の間に帰ってくるときだけ会うというのでは流石に…

遠距離恋愛ならなのはとフェイトのようにビデオメールで文通、押しかけ女房ならそのまんまの意味でフラグを保守。

後はエスリンとのユニゾンフラグを完全にぶち折りました。
ユニゾンして空戦もそれはそれで有りな気もしましたが、やはり志貴は完全に陸戦魔導師になってもらいます。
まあ、スバルのウイングロードのような空中戦補助用の魔法は構想に入ってはいるのですが…

後は、模擬戦の中身は省略させてもらいます。志貴が絡んだわけでもないので中身はA’sコミックスと同じですし。
志貴はまだ魔法を使えるわけではないので訓練でも無謀です。
今回の模擬戦で使えそうな魔法の映像をラファに記録。映像媒体なので細かい術式が分からなければ後で使っている本人かエスリンに聞けば大丈夫、と言う感じです。(ラファ、クラウは空気と化していますが、当然手放してはいません。)

さて、次はすずかの話を更に書くかな…その後はアリサとの話し合いは書くか、アリサは番外まで保留していきなりなのは撃墜から続けるか…

何はともあれ、今のペースを続けられるならまた一週間以内に会いましょう。ではでは。

4/3 微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 中間期 第五話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:43


 第5話 少女二人

 「志貴君、私に戦い方を教えて。」

 突然すずかにそんなことを言われて志貴は戸惑っていた。

 「…いきなりどうしたんだ?」
 「……お姉ちゃんにはもう話したけど、私も志…なのはちゃん達と一緒にいたい。でも、皆管理局って所に行っちゃうから。
 私とアリサちゃんは皆が安心して帰ってこれるようにこっちで待ってようかとも思ったけど、私は皆の役に立ちたいの。
 志貴君はなのはちゃん達みたいに魔法は使えないし魔力も少ないって聞いた。けど、向うに行ってなのはちゃん達の役に立てるんでしょう? だったら、志貴君が戦い方を教えてくれたら私も志…なのはちゃん達の役に立てるかも知れない。
 だから、戦い方を教えて。」

 すずかの目はこれ以上ない位に真剣だったが、だからこそ志貴はその提案に頷くことは出来なかった。

 「駄目だ。」
 「っ! どうして!?」
 「いくつか理由はあるけど、一番問題なのは俺が教えられる戦い方なんて一つしかない。だけど、それを教えることは出来ない。って言うこと。」

 すずかが詰め寄ってくるが志貴は態度を崩さない。いつものように自然体で話す。

 「じゃあ、その一つって言うのを…」
 「却下。
 とは言え、納得いかないって顔だな。文句を言うのは理由を聞いてからでも遅くないだろ。」

 すずかは志貴の言葉に渋々頷いてまっすぐ向かい合った。これからの説明は一言も逃さないと言わんばかりの態度である。
 それを見て志貴は話を続ける。

 「まず、前も話したように俺は暗殺者の一族だ。だから俺の教える戦い方なんて相手を『殺す』こと。
 それこそ他に何も雑念を入れない。只々どうすればより効率よく、気付かれずに、そして完璧に殺すことが出来るかを追求することだけだ。」

 そこまで言った時点ですずかの顔は見えるほどに青くなっていたがそれでも目から感じられる力は衰えていない。志貴はそれに気付いてため息を一つ吐くと続きを話す。

 「次に俺が使っている技術は俺の一族が長い時間をかけて血に刻み込んだ業だ。生まれた時から既にこの業を使うのに最適な体を持って生まれる。
 だから、他人…七夜一族以外の人間がこの業を使おうとしてもそうそう使えるものじゃないんだ。そもそも、この業に対応できる体を作るのにどれだけの時間がかかるか分からないからな。」

 ここまで聞いたすずかの顔が悔しそうに俯くのが見える。

 (最後に俺がすずかに教えると退魔衝動の関係で訓練中に昂ぶってすずかを殺しかねないからな。)

 最後の理由は心の中だけで言う。

 俯くすずかに志貴は声をかける。

 「なあ、何で戦おうと思うんだ?」
 「…だって、皆戦ってる。私も何かの役に立つにはやっぱり戦えなきゃ…」

 悲壮感漂うすずかの言葉に志貴は馬鹿にしたように声を投げかける。

 「バカか、すずかは。」
 「なっ!? バカは酷いと思うんだけど!?」
 「別にその理由なら戦える必要は無いだろうが。何かの役に立つなら後方支援、オペレーター、デバイスマスター。他にも選ばなけりゃどこでもある。」
 「でも、皆が戦ってるのに私だけ…」
 「どこにいようが必要な人員には違いない。その上、どの部署だろうが危険の度合いが違うだけで楽をしてるわけじゃないだろう。
 早く役に立ちたいなら魔力も無くて戦闘技術もない現状より今からの勉強で少しでも早く支援できるようになった方が建設的だろ?」

 そこまで聞いてすずかはため息を吐くと上を向いた。

 「あーあ、やっぱり直接背中を守ってあげるのは無理かぁ…」
 「当たり前だ。それにその口ぶりだと最初から芽が少ないことは理解してたな?」
 「うん、正直できれば、ってくらいだったし、そっちの方が良かったのは確かだったけど。」
 「…………」

 すずかの変わりように志貴は微妙に着いていけていない。すずかはそんな志貴に笑みを向けながら話す。

 「まあ、お姉ちゃんにお願いして時間があるときは機械関係の勉強を見てもらうことになってるし、マリーさんもあまり突っ込んだものじゃなかったら教えてくれるみたいだから、こっちで少しでも知識を詰め込んでから志貴君と同じくらいにあっちの世界に行って本格的にデバイスの勉強をするつもりだよ。
 勿論、今志貴君に戦い方を教えてもらえればそっちを優先するつもりだったけど。」

 すずかの言葉に頭が痛くなる志貴。と言うか機械の勉強より戦闘訓練を優先するとはすずかは意外と好戦的なのだろうか…
 まあ、単純に皆がいる場所に一緒にいたいだけだろうが…

 すずかの説得が終わった翌日、そのことをすずかと一緒に話しにアリサの家に行った。
 紅茶を飲みながら話すすずか。しばらくして話を聞き終わったアリサは志貴に食って掛かった。

 「ちょっと! すずかまであっちに行くってどういうことよ!」
 「俺に言うな、俺に。すずかが決めたことだろうが。」

 尤もなことを言う志貴だが、それでアリサは納得できるわけがない。志貴の隣にいるすずかは困ったように笑っているだけで志貴の援護をする気配はない。
 アリサは次第に悩み始め、自分が出来そうなことを羅列し始めた。

 「じゃあ、G○粒子で動くモビル○―ツを手に入れて…」
 「…何か危険な香りがするからそこまでにしておいたら?」
 「じゃ、じゃあ、使い魔でも呼び出して…」
 「…何を爆発させるつもりだ。」

 その後も氷を…とか錬金術で…とか紅○の王と契約…などなど、メタな主張が続き、片端から却下するすずかや志貴。
 何故二人が此処まで詳しいのかは置いておくとして、そろそろ二人が疲れ始めた頃、アリサが爆発した。

 「あーもう!! それじゃあアタシはどうしろって言うのよ!!」
 「…何でお前達はそう戦闘の方向にしか意識がいかないんだ…すずかはデバイス開発とかの部署に行くと言っていたろう。」
 「そうだよ。私も戦闘に関しては何も出来ないって志貴君に言われてお姉ちゃんに機械関係の勉強を見てもらうほうに集中することにしたんだから。」
 「…でも、私が出来ることってなんなのよ…」

 逆ギレのようなアリサの態度にも志貴は落ち着いて(呆れたように)対処する。加えてすずかもフォローを付け加えるが、アリサはそれでも納得いかないのかブツブツ言っている。

 「別にここに残ったからといって誰かが責めるわけでもないし、それもアリサが決めた生き方だろう。小学生の間に決めるというのは酷かもしれないんだから考えの一つくらいに軽く考えればいいんだよ。」
 「…アンタも小学生でしょうが。何悟ったような言い方してるのよ。」
 「それなりに波乱万丈な今までだったからな。」

 答えになっていない答えを返すと志貴は苦笑した。隣のすずかも微妙に頬が引き攣っている。

 「…そうね、今焦って後で「間違えた」って後悔してもバカバカしいし、あんた達みたいに小学校を卒業するまでに考えておくわ。」

 まだ納得がいっていないような表情だったが、理性で抑え判断を保留した。そこでアリサは初めて気がついたといわんばかりに志貴に質問した。

 「ねえそういえばさ、エスリンさんはどうしたの? いつもは志貴と一緒にいるじゃない。」
 「ん、ああ。あいつは翠屋でウェイトレスをさせられている。感情はそれなりに豊かになってきているが、表情が硬いと桃子さんに言われて、笑顔の練習らしい。」
 「あまり成果は出てないみたいだけどね。この前はやてちゃん達が様子を見に翠屋に来たらしいけど、はやてちゃんとヴィータちゃんに爆笑されたみたい。シャマルさんとかシグナムさんにも目を逸らされたらしいし。
 それで自分には笑顔が似合わないんじゃないかって落ち込んでたよ?」

 すずかの台詞に志貴は首を捻った。

 「…それは聞いてなかったな。と言うかすずかは何時相談を受けたんだ?」
 「昨日の夜私が志貴君の所に行く前にね。
 志貴君に落ち込んだ顔を見せたくないからって私の部屋にいたから。」
 「…エスリンさんもそういう悩みがあるのね…」

 普段の態度では見せられていない意外な悩みにため息を吐くアリサ。一方、志貴は腕を組んで虚空を見つめていた。

 「…あまり気にする必要はないと思うがな。エスリンの笑顔は綺麗だし。」
 「…その台詞が何の気負いもなく出てくるアンタが怖いわ。
 でも、意見には賛成かな。エスリンさんほどの美人に笑顔が似合わないわけがないし。」
 「むう、確かに最初の頃よりは表情も柔かくなったと思うけど…」

 アリサは呆れ顔、すずかはほんの少し眉を顰めて微妙に難しい顔。志貴はそんな二人を見てフォローするつもりで今この場に流れている微妙な空気に止めを刺した。

 「まあ、流石に本人の前では言わないさ。恥ずかしいからな。」
 「「…………………」」

 志貴の言葉に固まる二人とその場の空気。だが、二人が固まる理由が分からない志貴は空気が固まったことに対して首を傾げるしかない。

 「どうした? 二人とも。」
 「……アンタの口から恥ずかしいなんて言葉が出てきたのが信じられなかっただけよ。普段はあんなにホイホイくさい台詞が出てくるのに…」
 「ぅぅ~~~」
 「失礼な。それくらいの感性は俺にもある。」
 「…アンタ、過去の自分の言動を振り返って喋りなさいよ?」
 「ぅぅ~~~~~~」

 志貴の質問に対するアリサの答えは失礼なものだったが、志貴は憮然と返すだけだった。
 その隣で微妙に涙目で唸っているすずかは何か触ると危険な気がしたのだが放置しておくわけにもいかず二人がかりで宥めることになった。
 結果、すずかは機嫌を直したが志貴は朴念仁だという烙印をアリサによって押された。

 「…俺はアイツじゃないのにな…朴念仁か…」

 何か釈然としないものを感じながら、志貴はその場が収まった以上は蒸し返すことでもないかと今はその評価を甘んじて受けていた。


あとがき

サブタイトルの意味が分からなかったかもしれませんが、とりあえず今回の焦点はすずかとアリサの二人だったので…
この調子だとStS前にはサブタイトルが消えるかも…

それは兎も角、志貴が未だに自分の中身と外見の差を考えずに発言することが朴念仁だと言われる原因なのですが、まあ、小学生相手じゃあ…いや、中学生も…という感じなのでアリサ、すずかを含む少女達を女としてみるのはかなり後になってからですね。

志貴は聡いですが作者とは違いロリコンではないのですずかを含む主人公達が恋愛対象になるのはかなり後でしょう。エスリン大きくリードですね。

すずか地球に留まるという方の意見が少なかったため、すずかのミッド行きフラグが成立しました。アリサはどうするかなぁ。欲張ると破綻しそうなのでアリサは海鳴に残すかも…StSのサウンドステージ(銭湯)の話もありますし。

この辺りで多分日常編は終了すると思います。アリサ分が少ないのはゴメンなさい。私の頭じゃ限界だったんです。今回その分の中身の人ネタを入れてしまい、逆に読みづらくなってしまった感も…
ですが、そろそろ志貴を戦闘で動かさないと、こう…のんべんだらりとした話だと書いてる私も読者の方々もだるくなってきているようですし。

まあ、StS編のフラグ立ての辺りまで妄想は羽ばたいているわけですが、こちらも疎かにするつもりはありません。

拙いオリジナルストーリーですが、これからも生暖かい目で見ながら付き合ってやってください。
それではまた次話で。

5/24 微修正



[4594] 中間期 第六話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:43


 第6話 日常が壊れる時

 志貴達がこの世界の魔法という異端に触れてから凡そ二年。なのは達が管理局に勤め始めてからも同様の年月が経過していた。

 「久しぶり、って感じではないか。だけど、学校に来るのは一週間ぶりだな、なのは、フェイト、はやて。」
 「にゃはは、ちょっと忙しくて…」
 「私達みたいな高ランク魔導師は管理局にも珍しいから色々やることがあるんだよ。」
 「あたしは高官試験のための勉強もあるけど、古代ベルカ式の使い手ってだけで重宝されとるからね。」
 「仕事もいいけどあんまり心配させるんじゃないわよ、三人とも。」
 「私も中学に上がったら本格的にデバイスの勉強をするためにミッドチルダだったっけ? そっちに通うことになると思うから、あまり如何こう言えないけど、無茶だけはしないでね?」

 なのはやフェイト、はやてが学校を休むのは最早いつものことになり始めていたため、此処では笑い話になっているが、志貴は微妙な違和感に気がついた。

 「…なのは、お前疲れてるか?」
 「ん? 何で?」

 志貴の質問にもいつもどおりの笑顔で返すなのは。だが、志貴はどうしても感じてしまった違和感を拭えなかった。

 「いや、少し違和感が…」
 「大丈夫だよ! 元気元気!」
 「そうか…だが…」

 笑顔のまま力瘤を作ってみせるなのはだが、志貴はやはり心配そうな顔だ。

 「心配しすぎだよ、志貴。なのはは凄く頑張ってる。私じゃ追いつけないくらいに。」
 「せやね、なのはちゃん、あっちこっちに人気者で引張りダコやもんな。」
 「っ! それはっ…!」
 「そろそろ急がないと遅れるわよ!」
 「あ、うんっ!」

 フェイトとはやての言葉に志貴は原因に心当たりをつけたがアリサの言葉で走り出した二人にこの場で言うことは出来なかった。

 (チ、拙いか…少なくとも今日中になのはとは話しておく必要はあるだろうな…とりあえずはHRの後に休み時間があるからそれで構わないか…)

 考えている間においていかれる志貴。志貴の身体能力ならなのは達が学校に着く前に追いつけるだろう。だが、志貴のこの考えは最悪の方向で裏切られる。
 志貴が校門で追いついたとき、そこになのはとフェイト、はやての姿は無かった。

 「…三人は?」
 「任務だって。」
 「まったく、一週間ぶりなんだから少しくらい顔を出してもいいってのに…」

 アリサとすずかは残念そうな顔をしているが、志貴は苦い顔をした。

 「? どうしたの、志貴君?」
 「何か忘れ物でもした?」
 「あ、いや。なんでもない。」

 アリサとすずかの質問に志貴は平静を装って返す。二人はいつもとは違う感じの志貴を不思議に思ったが、そろそろ遅刻しそうな時間だったので急いでそれぞれの教室に向かった。
 HRの間、志貴は教師の言葉を耳に入れることなく考え事をしていた。

 (まさか、このタイミングで任務に出るとはな…今のなのははヤバイ…魔法という力を手に入れて変わったわけじゃなかろうが精神的にハイになって自分の疲れを認識できていない…
 才能があるせいで魔力が充実してることもあるんだろうが、このままじゃあ近いうちに潰れかねない…今回はもう行ってしまった以上どうにも出来ないが無事を祈るしかないか…)

 昼休み、学年が上がって志貴だけが同じクラスにならなかったのでアリサとすずかは教室に志貴を迎えに来て屋上へ向かう。
 まあ、学校でも人気トップクラスの美少女が教室まで迎えに来るため志貴に対する視線はこの時間だけは恐ろしく冷たいが、今日に限っては志貴はそれを気にする余裕も無い。
 とはいえ、それは内面に限った話で外見は普段と殆ど変わらないのだが…

 「ねえ、志貴。どうしたの? 今朝なのは達が任務に出たって聞いてから様子が少しおかしいわよ?」

 その殆ど変わりない外見の違いを感じ取れるくらいには親しくなった二人には通用していないらしい。
 視線を少しずらすとすずかもアリサの言葉に頷きながら志貴を見ていた。

 (こいつらにまで心配をかけるわけにもいかないか…)

 「いや、一週間ぶりに顔を見たってのにさっさと任務に行ってしまうあたり、あいつらの将来がかなり心配だからな。」
 「…どういうこと?」
 「この調子だと確実にワーカホリックになる。」
 「「…あ~。」」

 誤魔化そうと思い口に出した言葉だったが、意識を逸らせることには成功したらしい。思わず納得してしまったという顔をした二人は先程よりも表情が柔かくなっている。

 「でもあんた達もなのは達がいる所に行くんでしょう? 大丈夫なの?」
 「あはは、どうなんだろうね。」
 「…流石に大丈夫だろう。そもそも小学生にあそこまでたくさんの任務を言い渡す方も言い渡す方だが受け取るほうも受け取るほうだと思うぞ。
 少なくとも俺はあそこまで仕事一筋にはならないよ。適度に緩めるさ。」
 「私もそんなことにはならないよ~」

 言外に自分もワーカホリックになるのではないかと言われた気がしたすずかの柔かい抗議の声を聞きつつ志貴は誤魔化せたその雰囲気に乗って暗い考えを払拭しようとした。
 だが、朝、なのはの雰囲気に違和感を感じた時からしこりのように残っている嫌な予感だけは消えることは無かった。

 夕方、今日志貴はクラスメイトやアリサ、すずかの誘いも断り高町家にまっすぐ帰っていた。

 「志貴、どうかしたのか?」

 泊まらせてもらっている部屋に着くなり、昼間のアリサ達のように志貴の雰囲気の違いを感じ取ったエスリンが心配そうな顔で尋ねてきた。

 「いや、何でも…」
 「私にまで嘘はつくなよ?」

 昼間のように誤魔化そうとも思ったがエスリンの鋭い視線と言葉に中断させられた。そのため志貴はため息を吐いた。

 「…俺はそんなに分かりやすいか?」
 「お前ほどポーカーフェイスなのも珍しいくらいにいつもは表情は読めないがな、二年も毎日顔を合わせていればそれなりに読めるようになる。
 更に言えば今日はいつもと比べてかなりはっきり表情に出ているぞ。」

 まあ、それなりに付き合いが長く無ければ気付かないだろうがと続くエスリンの言葉に志貴は自嘲の笑みを浮かべた。

 「そうか…ならあれだけ心配されるのも分かるな…」
 「志貴。」
 「ああ、スマン。まあ、俺の考えすぎならいいんだ。だが、今回の任務でなのはがちゃんと帰ってこれれば話すよ。
 ちょっと気になったことがあるだけなんだ。」
 「私には教えてくれないのか?」

 少し悲しそうな顔を浮かべるエスリン。
 志貴はエスリンをまっすぐ見て言葉をかける。

 「俺自身杞憂であれば良いと思っているだけだ。口に出したら本当にそうなりそうだから…話せないわけじゃない。ただ、嫌な予感が消えないだけさ。」
 「そうか…」

 エスリンはこれ以上突っ込んで聞いても志貴は答えてくれないというのが分かったので残念そうな顔を隠そうとはしていないが大人しく引いた。
 と、そこで部屋の隅から暗い声が響いた。

 『…マスター志貴…何でいつも持っていてくれないんですか~』
 「…ラファ? いい加減慣れたんじゃないのか?」
 『だって朝マスター志貴が出て行くのを見送ってから帰ってくるまでずっとマスター志貴と離れ離れなんですよ? もうそろそろ一緒に行かせてもらってもいいじゃないですかぁ…』

 ラファの声を聞いて苦笑しながら待機状態のカードに向かって手を伸ばした。

 「お前は質問がすぐに声に出るからな。その癖さえ何とかなればいいんだが。」
 『ちゃんとお話したい時には念話でやりますって。』
 「それは俺が慣れていないから駄目だ。通じないとか俺が声に出すとかなら兎も角そっちの声が俺に届かなかったらラファは音声に出してしまうだろう? そっちにも俺が慣れてからだ。」
 『うぅ~~』

 ここ一年繰り返された会話をしながら志貴はラファを胸のポケットに入れる。すると、ラファから恨めしげな声の念話が届いた。

 《ほら、こうやって至近距離ならちゃんと届くじゃないですか。マスター志貴が離さないでいてくれればいい話ですよ。》
 《ほう、それは私への挑戦ということか、ラファ?》
 《へ? あ、いや、そんなことは無いですよ? エスリンさんのことはマスター志貴の使い魔だとちゃんと認識していますし。》

 志貴の頭の中で睨み合うイメージを送る二人。というかラファは志貴に好意を寄せているエスリンに対してナチュラルに喧嘩を売っていることに気づいていない。
 そんな二人を置いて志貴は額に手を置きながらクラウに声をかける。

 「すまないな、お前にラファの会話の相手を押し付けて。」
 『いえ、問題ありません。マスターとの念話もありますから。ただ…』
 「ただ? どうかしたのか?」

 言葉に詰まるクラウに志貴は怪訝な顔をして尋ねる。それに対してクラウは言いにくそうに、それでもはっきりと言った。

 『志貴殿の話になると今のような空気になるのが苦手なのです。』
 「ああ、だが、そればかりは俺にもどうしようも無いな。俺のことをマスターと呼ばせ無かったことに対する確執なのだろうが、せめてこっちにいる間くらいはその呼び方をされると世間体が悪いからな。」

 そこまで話した所で下の方から悲鳴のような叫びが聞こえた。

 「「『『!!??』』」」

 志貴とエスリンは反射的にそれぞれのデバイスを持って下に急いで降りる。

 「どうかしたのか!?」
 「…………」

 志貴の言葉にも反応を示さない桃子。呆然としていて隣で士郎が支えていなかったら今にも倒れてしまいそうな雰囲気だ。
 それを見て声をかけにくい雰囲気に黙りそうになったが、それでもおずおずと声をかける志貴。

 「…どうかしたんですか?」
 「…なのはが怪我を負ったらしい。しかも、重症で意識不明だそうだ…」

 その一言に志貴は朝から感じていた嫌な予感が現実に起こってしまったことを感じていた。


あとがき

やっと転換期に来れた…これまでの志貴の魔法訓練とか書いても良かった気もするんですが、そこまでしてしまうとミッドチルダに行く前にアホみたいに時間を喰うので自重。
でも、シグナムとの模擬戦はちゃんと書きます。

とりあえずと言うのはアレかもしれませんが、なのはが墜落したことで話の動きが活発になるので今までのゆったりした話が何とか締まってくると思います。

まあ、まだ転換期に入ったところなので、志貴は動き始めますがまだ七夜らしい動きを見せるのはもう少し後だと思います。
でも、次の話かその次の話で志貴にはミッドチルダに行ってもらう予定なので、本格的に動く準備は出来ました。後は…志貴君に(ネタバレになるため自主規制)になってもらう予定です。

何と言うかスランプです…中間期の肉付けが上手くいかないです…ですが、諦める気はサラサラ無いので頑張ります。ただ、更新速度が残念なことになるかも知れませんがこれからも生暖かい目で見守ってもらえると嬉しいです…

4/3 誤字修正+微妙に改訂

5/24 微修正



[4594] 中間期 第七話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/04/03 14:03


 第7話 お見舞い…に行ってない!?

 なのはが重症だという話を聞き、志貴とエスリンは高町家の皆と一緒になのはが入院しているミッドチルダに見舞いにやってきていた…はずなのだが、

 「まあ、許可の在るやつと家族以外は面会謝絶なのは予想して然るべきだったな。」
 「確かに、それくらいは確認してから来るべきだったな志貴。」

 病室の前で家族以外は面会謝絶だと言われ、志貴とエスリンは集合時間を決めて高町一家と別れ、その間ミッドの街をブラブラすることにしていた。

 「そういえば、はやて達の誘いを断ってよかったのか?」
 「ん? ああ、エスリンには話しておこうか。別に俺はあても無くブラブラしてんじゃない。コイツをどうにか出来る場所を探してるのさ。」

 そう言いながらポケットから金の延べ棒を取り出しエスリンの前でプラプラと振る志貴。周囲の視線が志貴の手元に集まるが気にしていない。
 視線のことについては意識の外に置き、志貴が取り出した金の延べ棒を見てエスリンは余計に分からなくなったという顔をする。

 「ならば余計に大人の案内が必要だろう。リンディ提督の誘いを断る理由になっていない。」

 エスリンの言葉に志貴は軽く笑った。

 「普通ならそっちの方が良いんだろうけどな、管理局と強く関係している人間にはなるべく知られたくなかったんだ。
 俺は管理局を信用していない。と言うか元々の気質で個人的に信頼するやつは出来ても組織を信用しようと思えないんだ。
 特に今回の件で俺の管理局と言う組織に対しての信用は正直な所かなり下がっている。世界が違うから常識が違うと言われればそれまでなのかもしれないが、組織がなのはの体調管理を疎かにしていたことは事実だ。
 なのは達の手助けをするためにこっちに来た以上はあいつらの不利になることはしないが、イコール管理局に友好的になるということは無い。
 だからコレは俺個人のものとして誰にも知られずに持っておきたい。ある意味で切り札的なものになるかもしれないものだからな。」
 「む、そうか…」

 実際にはそういうわけではないのだが、自分は信用しているが、元のマスターであるはやてやヴォルケンリッターたちはあまり信用していないと言われている様で微妙な顔をするエスリン。
 志貴はそんなエスリンを尻目に周囲を見渡す。

 「それにしても本当に異世界だな、言葉は通じるのに文字が読めない。
 さて、エスリン、何時までも落ち込んでいないでそろそろ現実に戻ってきてくれ。とにかくコイツを換金できる所を知りたい。」
 「あ、ああ。だが、そのままでは駄目なのか? 見たところかなり高額のものになると思うのだが…」
 「レートが分からない。一旦正規のルートで換金してこっちの価値に合わせておかないとボッたくられた時に気付けないからな。
 以前こっちに来た時にジュースを奢ってもらったからある程度の価値は分かっているつもりだ。安いものだけでは分かりにくければ、実際にラファ達の製作にどれくらいかかったか聞けば問題ない。高額なものとの比較で間のものは大体分かる。後は使って慣れるだけだ。」

 そう言ってエスリンに案内と言うか翻訳を任せる志貴。
 そしてしばらく歩き、志貴達は管理外世界の貴金属をミッドの価値基準で換金できる場所に着いていた。換金所の人間が志貴が出した金の延べ棒を見て驚いていた所を見るとエスリンが言ったとおり、それなりに価値が高いものだったのだろう。
 志貴の外見が子供だったが、ミッドの就職年齢の低さと後ろに立っているエスリンのおかげであまり警戒されることも無く金を受け取れたのは志貴にとっても嬉しい誤算ではあった。

 (さて、案内されている間にそこそこきな臭い所は覚えた。まあ、色々やろうと思ったら今回手に入れたコレだけで足りるとは思わないし、もしかしたら宝石翁の宝石のいくつかにも手をつける必要はあるかもな…後は誰にも気付かれずに出来るかだが、こっちの学校で魔法を学ぶようになればいくらでも時間は作れるだろう。)

 頭の中で今後の計画を練っていく志貴。その後も分割思考を使い、考えを進めながらエスリンとブラブラしていたが、合流時間が近付いてきたので病院へ向かう。

 「ふむ、ある程度基本的な字はエスリンのおかげで読めるようにはなったが、流石に本格的にはこっちに来てからでいいか。」
 「その気があるのなら海鳴でも言葉を教えるが?」
 「ありがたい提案だが、その時間があればリンカーコアでの魔力行使法を学びたい。ラファがいるとしても俺自身が感覚を掴めなければ足手纏いになりかねないからな。」

 それを聞いてエスリンは苦笑する。

 「そこまで一生懸命にならずとも魔法の勉強の休憩がてらに空いた時間で構わないぞ。」
 「…その時間はお前の魔術行使の勉強だ。」
 「う…」

 墓穴を掘ったと先程までの苦笑から一転顔をしかめるエスリンだが、志貴はエスリンを見る目を外さない。

 「せっかく馬鹿でかい魔力を持っている上に魔法、魔術の両方を使うことが出来るんだ。それに魔術師にとって最初の課題と言うか、壁である魔術回路の製作は飛ばして良いんだ。
 暫くは魔術回路によって変換された魔力に戸惑うだろうが感覚さえ掴めれば使用だけなら簡単だろう。それから魔導師と魔術師の心構えの差を教える。
 まあ、俺も与えられた知識しかないからまともに教えられるとは思えないが、何の知識も無いやつよりはマシだろう。」

 微妙に自嘲の笑みを浮かべた志貴にエスリンは悲しそうな顔をする。だが、志貴はそれを感じさせないように普段の表情に戻す。

 次第に病院に近付き、その前で暗い顔をしている高町一家とフェイト達魔導師組が目に入った。志貴達は皆に近付いて現状を聞くことにする。

 「で、どうなんだ、なのはは?」
 「うん…」

 志貴の質問に落ち込んだように話しはじめるフェイト。周りの皆は沈んだ様子を隠しきれずにその言葉を聞いている。特に桃子の表情はいつもの柔かい笑顔が完全に形を顰めてしまっている。

 「そうか、何はともあれ命は助かったんだ。まず一つは心配事が減ったな。」

 一通り話を聞き終えて志貴が最初に発した言葉はコレだった。それに対して美由希が反発する。

 「ちょっと、志貴君! なのはは女の子なんだから命が助かったってだけで…!」
 「分かっているさ。だが、俺としては今、話を聞いただけなんだ。命が助かっているだけでも安心することは悪いことか?」
 「う、それは…」

 反発したはいいが、志貴の言葉に尻すぼみになる美由希。それを見て志貴は更に続ける。

 「それに、命が助かった分、次の心配事に目が向くのは分かるが、これからどうするか決めるのはなのは次第だ。俺は如何こう言える立場じゃない。」
 「それはそうだけど…」
 「まあ、心配するなと言っているわけじゃない。家族なんだから心配するのは当たり前だ。
 それに、俺も心配していないわけじゃない。此処で暗くなっても事態は変わらないからこうしているだけだよ。」

 志貴の言葉に今まで黙っていた士郎が口を開いた。

 「志貴君は強いのだな。」
 「…強い、か…(俺は強くは無い、ただ、壊れているだけさ…)」

 士郎の言葉に対して小さく呟いた志貴の言葉は誰にも聞かれることは無かった。

 志貴はそのままなのはに面会することなく海鳴に帰り、後日、なのはが大怪我を負ったという現状を知らなかったアリサとすずかに詰め寄られることになったのは余談である。










 なんか本編が凄く短くなったのでオマケ

 「ところで志貴君はなのはの顔を見なくて良かったの?」

 ミッドの転送ポートに着く前に桃子が志貴に尋ねた。その質問に対して訝しげな顔を向ける志貴。

 「良いも悪いも意識不明の重体患者に家族でもない俺が面会を許されるわけが無いだろう?」
 「あら? 志貴君は私達のことを家族だと思ってくれていないのかしら?」

 志貴の言葉に悲しそうな顔をする桃子。他の高町家の視線も志貴に向いている。

 「…気持ちがそうであっても法的には俺は高町家の居候だろう。相手を家族だと思うのかどうかは今回、なのはに面会できるかどうかには関係ないと思うが…」

 苦し紛れにも聞こえる志貴の言葉を聞き、桃子は意外そうな顔をした。

 「あら、そんなことは無いわよ。何故か(・・・)志貴君の戸籍は無かったけど、忍さんと話し合って『七夜志貴は高町家の子です』ってことで役所に提出しておいたから。」
 「……………………………………………………………………………は?」

 桃子の言葉に呆気にとられる一同(士郎を除く)。高町家の人間は桃子という人となりを知っているため比較的早く立ち直ったが、志貴はそうはいかない。
 桃子の人となりは知っていてもまさかそこまでしているとは思っていなかったのだ。しかも、忍と話し合ったということは戸籍はちゃんと作られているのだろう。彼女は志貴がこの世界の人間ではないことを知っているわけだし。

 「…い、何時の間に?」
 「学校に行ってもらうのにまさか戸籍も無いとは思わなかったから忍さんにお願いさせてもらったのよ。忍さんも結構ノリノリだったから話したその日に出来ていたわ。」

 志貴が高町家に来たその日のうちに外堀は埋められていたらしい。だが、桃子と士郎は夫婦だから知っているにしても本人や家族にまで言っていなかったのはどういうことだろう。

 「うふふ、志貴君が凄く早く打ち解けてくれたから私もう言ってたと思ってたわ。」
 「いや、まあ別にそれはいいんだが…」

 あまりよくないことだがこれ以上聞くと藪蛇になりかねないので無理矢理納得する志貴。

 とりあえず、桃子に逆らってはいけないことをこれまで以上に肝に銘じる志貴だった。



 オマケその2

 『遅いな…』
 『遅いですね…』
 『何かあったのだろうか…』
 『少し心配です…』

 メンテナンスを終えたのは良いが一向に自分達のマスターが来てくれない現状にデバイス達は暇をもてあましていた。
 志貴達は病院に行ってそのままデバイスを受け取るのを忘れて海鳴に戻っているのだが、そうとは知らないデバイス達はたあいの無い話を続けている。

 『ふむ、この身に実体があれば茶の一つでも入れるところなのだが…』
 『私に実体がなかったら意味は無いですよ?』
 『む、そうだったな。』
 『…バカ…』

 結局志貴達がデバイスを取りに来たのは一日経っても取りに来ない志貴達に、何かあったのではと技術局からの連絡が届いた後、更に翌日になってからだったのだが、その頃にはデバイス達は不貞腐れてしまい、志貴とエスリンは二人(?)の機嫌を直すのに数日の時間を要するのだった。

あとがき

今回は感想に激励されて何とか一週間以内に書き上げられました。
志貴君の動きが少ないなぁと思う方も多いと思うでしょうが、あまり表立っては行動しません。感想を見てハラオウン家に詰問に行ってもいいかなとは思いましたがやめました。

…今後のフェイトフラグを残すためにここで確執を植えつけるわけにはいかない…!
まあ、管理局そのものへの不信感は上がりましたが、管理局に対して完全に敵対フラグを立てちゃうと志貴が第三勢力、もしくは独力で動くしかないわけですが、第三勢力として動くには純粋に戦力が足りませんし独力で動くと話が崩壊しかねなかったものですから。
StS編に入った辺りで志貴が管理局に対して反旗を翻して勝利する短編を書くのもいいかと思ってもいます。

なのはの怪我の重さに関しては原作とほぼ同じです。

…オマケは無くても良かったと反省。かなりの無茶ぶりだったなぁと思っています。

とりあえず今回はなのはとの面会は無しで。リハビリシーンも書こうとは思えないので志貴が管理局メンバーに知られずに独自の金、しかもそれなりの大金を手に入れたという以外は大したことはありません。
まあ、最初の頃に少し出てきただけの金の延べ棒を覚えている人が果たして何人いるのか…
第一話に二本手に入れたことは書いていましたし、高町家に預けるのは一本だと志貴君本人が第三話で言っていましたからね。
残りの一本は此処に…作者自身も忘れかけていましたが。
まあそれはともかく、金の延べ棒の存在が無くてもすずかに金を出してもらいヒモとなる志貴を書いても面白いと思いましたが、まだだ、まだ正ヒロインは決めさせんよ…!
という脳内電波が発信されたことでこんな感じに。ヒモ志貴君は妄想が暴走すれば番外で書くことも無きにしも非ず、といった感じですが。

これから志貴の魔法修行編とかミッドでの志貴の行動とか色々ネタはあるのですが、肉付けがうまくいっていない現状…何とかしないとなぁ…

まあ、志貴の魔法修行に関しては、話の展開上あまりに重要なイベント以外はすっ飛ばして後で短編集にでもすればいいかなとも思い始めているわけですが…それでも最低限シグナムとの模擬戦くらいは書きたいと思っています。

伏線を張りつつ話を進めるのは難しいなぁ…

3/9 誤字修正のみ

4/3 更に誤字修正+微妙に改訂



[4594] 中間期 第八話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/03/13 12:38


 第8話 殆どダイジェスト気味な閑話

 なのはが堕ちた事件から一ヶ月、志貴はリンディの推薦でミッドの士官学校に入学することになっていた。

 「タイミングとしては学校の方も年度が終わる頃だったから丁度良かったとはいえ、まさかほんの一ヶ月で戸籍すらない…いや、一応桃子と忍が作った偽造の戸籍はあったな…ともかく、異世界の人間の入学手続きに必要な書類を纏めるとは…」
 「志貴、彼女のことに関しては桃子同様気にしてはいけないと思うのだが…あの短期間で私達二人にインテリジェントデバイスを作らせるくらいだからな…」
 「…それもそうか…」

 志貴とエスリンは細かいことを考えるのをやめた。色々考えると藪蛇になりかねないのである。
 ちなみにここにすずかがいないのは、単純にすずかはこっちに移り住む許可が出なかったからである。
 すずか本人は志貴と一緒にミッドに行きたいようだったが、忍がなのはたち同様に最低限中学卒業までの学歴は取っておけと言われたためである。(なのは達とは異なり、志貴やすずかは短期で済むほど高ランク認定されていないため入学するとなると完全にミッドに移り住む必要があるため。)

 「そういえばエスリンは高ランク魔導師用の短期コースだったな。」
 「ああ、私は志貴の使い魔だから志貴と一緒に卒業出来ればよかったのだが…」
 「魔力量的に考えても使い魔だという言葉も信じてもらえ無かったし、仕方ないだろう。そもそも俺達の使い魔のラインはこっちの世界の魔法のものとは根本的に異なる。その辺りを突っ込まれて俺達のことを研究されるのは真っ平だ。
 …そういえば、一応リンディの口利きで卒業後は進路を希望できるらしいが、どうするんだ?」
 「私のランクから卒業と同時に前線に出される可能性は高いな。まあ、私の体の保持のために志貴からあまり長時間はなれることは出来ないから海には行かずに陸に志願するつもりだが…」

 何気に洒落にならない話をしながら二人は士官学校校舎前に着いた。受付でそれぞれの部屋の鍵を渡され、そのまま向かうことになる。翌日から早速始まるので無駄な時間は過ごせない。

 「むう、出来れば志貴と同じ部屋が良かったのだが…」
 「いくらなんでも男女で同室は有り得ないだろう。そもそもコースが違う上に俺は陸戦魔導師、お前は空戦魔導師。前提としてコンビにすらならない。」

 志貴の言葉に頬を膨らませるエスリン。この二年でかなり表情豊かになっている。
 そのままエスリンと別れ、それぞれの部屋に着くと、志貴の胸ポケットから声がした。

 『うう…すみませんマスター志貴。私が飛行魔法をちゃんと補助できればエスリンさんと同じコースに行けたかもしれないのに…』
 「気にするな、ラファ。俺は最初から俺に空戦適性があるとは思っていない。それに、俺とエスリンの間には明らかな魔力量の差がある。どちらにせよ今の段階で変わることじゃない。」

 カード型で待機しているラファの謝罪を志貴は流す。

 部屋の中に荷物は前もって送ってもらえたので後は開くだけなのだが、志貴は特に何かをする気も起きずそのまま眠りについた。

 翌日から始まった授業は志貴にとっては退屈なものだった。局員としての心構えや魔法の公式を座学で教えてもらっていても基本的なところは二年の間にエスリンに教えてもらっているし、某錬金術師の力も持っているせいなのか記憶力や理解力は以前より遥かに上だ。(そもそも管理局に忠誠を誓うつもりは毛頭無いので心構えの辺りは完全に聞き流していた。)
 そんな志貴が唯一退屈でない授業は実技なのだが、こちらは志貴の魔力の少なさがネックになりシールドは全力で張っても薄く、(覚えたばかりの頃フェイトに頼んで攻撃してもらった時にはサイスモードの一振りで一瞬だけしか抵抗出来ずに切り裂かれた。なのはの攻撃はアクセルシューター一発すら危うい。シグナムの攻撃に至ってはただの魔力を込めた一撃ですらシールドを斜めにして受け流そうとしても何の影響も与えることが出来ずに切り裂かれてしまった。)攻撃魔法は特に効果を付与したわけでもない単純な射撃魔法十数発でリンカーコアが悲鳴を上げ始める始末だ。(こちらも覚えたての頃の威力はフェイトのディフェンサー+(カートリッジ無し)を張ってもらっても二、三発当てたくらいでは罅を入れることが出来なかった。)
 その頃から当面の課題として魔力量の底上げを頑張っているがまだまだ管理局基準で最低ランクから漸く抜け出したレベルだ。魔術があるにしても魔法が実戦で使えるレベルじゃない以上、魔術に傾倒した戦術にならないように魔法の技術を磨くのは必須であった。

 そして時は流れ、一年が経った。エスリンはちょくちょく志貴の魔力を受け取るために会っているが、既に士官学校を卒業している。『陸』の数少ない空戦魔導師として部隊の人たちには重宝され頑張っているようだが、志貴の卒業まではあと一年はかかる。
 現在は地球の学校で言う春休みに当たる、新年度に新入生が入る前の休日であり、ラファは数ヶ月に一度のメンテナンスに出している。
 ここ一年で志貴は特に親しい友人を殆ど作らずに単独での戦闘を中心に磨いてきた。そこで、以前なのはの見舞いの時に手に入れた金を使い、ある店に来ていた。

 「…ここか…邪魔をする、少しいいか?」
 「…なんだい坊や。こんな所に。」

 志貴の外見は十代に入ったばかりの子供なので、入るなり明らかにバカにしたように店主であろう人物が声をかけてきた。
 志貴はそんな店主の態度を気にするでもなく淡々と自分の用件を話す。

 「依頼だ。一応概要は此処に書いてある。こっちじゃ紙媒体の資料は珍しいらしいからな。盗撮などは出来ないからこういう時には便利だな。」

 そう言って志貴は店主に手に持った紙を渡す。店主はその紙に書かれた文字を読んでいき、一通り読むと志貴に視線を移した。

 「で? 期限は?」
 「半年から一年。まあ、一年後に出来ていれば良いさ。俺自身あまりこちらには来られないだろうからな、半年後に一度こっちに顔を出す。それと、これを。」

 志貴はポケットからカウンターに一つ物を置く。そのものを店主は確認して志貴に返す。

 「……取り合えず金額はこのくらい、前払いで半額、終わった後にもう半額だ。そして受ける条件はどんなことがあっても俺のことを他人に言わないこと。」
 「大丈夫だ。わざわざ言い触らして面倒なことになるようなことはしない。ついでにその紙は必要ないと思ったら燃やしてくれ。」

 店主の言葉に答えながら提示してきた金額の半分をカウンターの上に置く。提示された金額は換金して手に入れた金額のほぼ全額だったが他に使う気もしないために躊躇いもせず渡す。
 店主は渡された金額を確認すると志貴に何を言うでもなく店の奥に引っ込んだ。志貴もそれを見送ると店を後にする。

 「さて、後はどうするか…」

 宿舎に戻ってもやることはない。エスリン卒業の辺りから始まったすずかやエスリンとのメールも別に急ぐことでもないと認識しているし、魔力増強のための訓練はあまりやりすぎても効率は上がらないことは分かっているため論外。
 しばらく考えた結果、志貴は郊外の林に向かい、魔力コントロールの感覚を研ぎ澄ませるための瞑想をすることにした。

 静かな林の中、そよぐ風に揺られた葉の音以外は何も聞こえない場所、そこで志貴は瞑想していた。
 体のあちこちが志貴の魔力光の色でもあるダークブルーにうっすらと輝いている。そして、舞ってくる木の葉が体に当たる寸前、その部分に魔力が集中し木の葉を弾く。
 弾かれた木の葉は傷つくことも無くただ志貴の体から離れ、地面に落ちる。いや、いくつかは弾かれた衝撃で傷ついているが、それも少数だ。
 一時間もそうしていただろうか、志貴は地面に散った葉を眺め、ため息を吐く。

 「やれやれ、まだ少し制御が甘いか…まあいい、時間は潰せた。後は夜にもう一度来れば良いだろう。」

 そう言って志貴は宿舎に戻っていく。

 宿舎で夕食を取った後、志貴は先程の林に来ていた。既に日は落ち、こんな時間に郊外の林に近付くものはいない。
 そんな中、志貴は持ってきた短刀を取り出し構えた。

 「…ひゅっ」

 志貴の呼吸音が響くと同時にその姿が消える。
 そこには志貴がやって来るまでの静謐とした林が広がっている…

 いや、所々に銀色の線が走り、散っている木の葉の何枚かがその線に触れ地面に落ちる途中で音も無く四散する。
 誰にも見られてはおらず、しかしながら誰かが見てもその状況を理解できないだろう。時々走る銀の線にそれに追従するように走る暗い中でもはっきりと映る蒼の線。
 二つは踊るように、それでいてただ冷たく縦横無尽に走り消えていく。

 どれほどの時間が経ったのか、志貴は最初に立っていた所に再び姿を現していた。

 「…ふうっ、動きそのものはやはり鈍ってはいないな…流石に実戦で使っていない以上絶対と言えるほどのものではないが、七夜の体術を忘れない程度にはまだ問題ないか…やはり、俺が七夜として生きるならば完全に錆び付かせる前にどこかで使う必要は出てくるな…」

 一つ息を吐くと志貴は張り詰めていた気を散らす。そして少しだけ上がった息を落ち着けるために軽くストレッチをして宿舎に再び戻っていった。

 翌日、技術局のマリーの所に預けたまま一日近く放置していたラファが一年前と同様拗ねてしまい、機嫌を直してもらうまでしばらくかかったとか…




 オマケ デバイスのご機嫌取り

 「いい加減機嫌を直してくれって。」
 『ふーんだ、一年前にも同じようなことをされたのにも拘らずまた同じことをしたマスター志貴なんて知りません。』
 「…分かった、じゃあお前の提示する条件を少しは呑もう。」
 『…っ!? そ、そんなことで釣られるほど私は安い女じゃないです!』
 「…動揺したな?」
 『う…』
 「よし、今晩、寝ている間はラファを展開したままでいようじゃないか。」
 『マスター志貴に一生ついて行きます!!』
 「……ふぅ……」

 何気にハッチャけた方向に成長している自分のデバイスに、志貴は気付かれないようにため息を吐いた。


 オマケ2 その夜、眠る志貴の両手に装備されたラファ

 『(マスター志貴と一緒の布団マスター志貴と一緒の布団マスター志貴と一緒の布団マスター志貴と一緒の布団マスター志貴と一緒の布団マスター志貴と一緒の布団マスター志貴と一緒の布団マスター志貴と一緒の布団マスター志貴と一緒の布団マスター志貴と一緒の布団マスター志貴と一緒の布団マスター志貴と一緒の布団マスター志貴と一緒の布団マスター志貴と一緒の布団マスター志貴と一緒の布団…あうぅ…)』

 いい感じにテンパッているラファさんだったそうな。

 当然、そう遠くない未来にエスリンやすずかにこのことがバレ、仁義無き女の戦いが繰り広げられるのだが、現在においてはまったくの余談である。

 更にその戦いに他に何人か参加するのもまた秘密である。

あとがき

…オマケはどっちもやっちまったかなぁ…と思わないでもない。が、後悔はしていても反省はしていない。

まあ、今回は伏線だらけで話としては破綻している気がしないでも…いや、破綻していると思う…何とか笑って見逃してください…
仕官学校時代は今回はスルーさせてもらいます。ぶっちゃけネタが浮かばなかったというのが大きな理由ですが…
もし見たいという方が多ければ短編と言うか中編みたいな形にして書こうとは思いますが、今後の話に絡むキャラは出てこないと思います。
オリキャラなんて出しちゃうと私の執筆力の関係上、志貴君と仲良くなっていたとしても本気で使い捨て、もしくは空気なキャラになるので…更に言うと話の流れ的にも六課を作った時にオリキャラとして志貴の部下にするつもりはありません。

まあ、今回張った伏線はStSまで引っ張るつもりはありません。中間期の間に消化するつもりです。
今回の伏線は多分意外と言えば意外、納得といえば納得の形で出せる気がします。
とは言え既にばれてる可能性も無きにしも非ずかなぁ…

管理局の士官学校に春休みがあるかどうかは不明。独自解釈です。
志貴君が卒業する段階でなのは達が13歳…まあ、そろそろ空港火災も見えてきますが、ぶっちゃけ空港火災の前後からが中間期の中で一番やりたい部分なのでこれから少し長くなります。具体的には決まっていませんが、次の話し辺りで志貴君を卒業させることが出来ればA’s編と同じかそれより少し長いくらいの話数で中間期が纏まりそうかなぁ…

あまりズルズルと引っ張っても意味は無いのですが、自分で書いていてもまさか此処まで長くなるとは…
まあ、それを言ってしまうとA’s編もあんなに長く書く気は無かったのでこの状況は纏めるのが下手な作者の力不足なだけなんですが…

さて、志貴自身の動きとかシグナムとの模擬戦とか中間期の中で色々書かなきゃいけないことが残ってる…さあて、頑張るぞぉ。



[4594] 中間期 第九話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:c9986050
Date: 2009/04/03 14:06


 第9話 シグナムとの模擬戦

 士官学校での生活も残り半月ほどになった頃、志貴の休みとシグナムの休みが偶々重なったことで、現在の魔法でどれだけ戦えるのか確かめるために志貴がシグナムに模擬戦を申し込んだ。

 「ふむ、卒業するころに私から申し込ませてもらおうかと思ったがそちらから来るとは思わなかったぞ。」
 「お前達に魔法の発動や効果の確認のために付き合って貰ってそれなりに仕組みを理解したからな。今回は肩慣らしを兼ねた実践だ。」
 「成程。だが、お前が肩慣らしのつもりでも私の方は手加減をするつもりなど毛頭無いぞ?」
 「構わないさ。むしろそうでなかったら実戦で使えるかどうか分からない。
 そして俺のほうも負ける気はサラサラ無い。」

 挑発のような軽口のような周囲の人間には判断つきかねるやり取りの後、シグナムがすぐに訓練室の使用許可を取り二人は訓練室に向かった。

 訓練室に着き、設定を障害物の無い野外にすると二人は待機状態のデバイスを取り出しお互いに向かい合う。

 「ラファ、セットアップだ。」
 『はい、分かりました。マスター志貴。』

 シグナムが無言でレヴァンテインを展開するのを見た志貴はラファに声をかけて自分もデバイスを展開する。

 「ふ、そう会ってはいないはずなのにお前のバリアジャケットもたった一年でもう見慣れてしまったな。」
 「都合がつく時だけとは言え会う度に展開しているからな。」

 マント付きの中世貴族のようなバリアジャケットに、その外見に不釣合いなゴツい手甲。
 それはかつて志貴が七夜として屠ったズェピア・エルトナム・オベローンの服装の上にラファを装備した姿だった。

 「さて、あまり無駄話をする時間すら勿体無いな。」
 「確かに、訓練室の使用許可は貰っているとは言え何時までも居て良い訳ではない。許可を得ているのは一時間、ならば三十分の勝負で構わないか?」
 「ああ、それでいい。むしろそれだけの時間俺の魔力はもたないだろうから長すぎるくらいだ。」

 そう言いつつも志貴は全身から余計な力を抜き半身になって構える。それを見たシグナムもレヴァンテインを左脇に構え、志貴を見据える。
 僅かな静寂の後、シグナムが志貴に突進する。

 「はっ!」
 「……」

 斜めに切り上げてくるシグナムの剣を屈みながら踏み込むことでかわし右手をシグナムの右脇に置く。その右手に魔力が集まることを感じたシグナムは防御より攻撃を選び、柄を志貴の延髄に落とす。

 「ふっ!」
 「チィ…穿て…魔弾タスラム!」
 《タスラム、撃ちます!》

 シグナムの攻撃を感じた志貴は収束中の魔力をそのまま直射魔力弾に変換、シグナムと自分の距離を離すために使う。
 反動で距離を離すことは出来、延髄への直接打撃は避けられたが突き出した右手にレヴァンテインの柄が当たり志貴の体が泳ぐ。本来ならばそんな隙を見逃すシグナムではないが、シグナムもまた無理にレヴァンテインを引き戻した上に構成途中の弱いものとは言え志貴の魔法が当たったことで体勢が整っておらず、結果志貴とシグナムが体勢を整えたのはほぼ同時だった。

 「……」(流石に反応はいいな。無理に大振りをすれば私のほうがダメージを受ける、か。それにしてもあのタイミングで魔法を発動できるとは…展開から発動までが恐ろしく早い。威力が大したことがないのが唯一の救いか…)
 「……」(何度も思ったことだが、魔法に頼り切ったわけではないシグナムの隙を突くのはこの戦い方では難しいか…その上、今の俺の魔力量はタスラムに換算すれば二十七発。今一発使ったから残り二十六…貫通力があってもそもそもの威力が大したことが無いから無駄には使えんな。)

 無言で向き合う二人。内心では相手に対する称賛とこれからの戦略がめぐっている。

 「フ、来ないのか?」
 「…俺の魔力量は圧倒的に少ないんだ。無駄に攻撃するつもりは無い。」
 「そうか…ならば、レヴァンテイン!」
 《shlange folm》

 シグナムは志貴を挑発して攻撃させるつもりだったが、志貴の言葉を聞いてシグナムはレヴァンテインの形態を変化させ、中距離で攻撃を始める。
 だが、志貴は半身の自然体を崩すことなくラファに声をかける。

 「ラファ、アンヴァル発動準備。タイミングは全て俺に預けろ。タスラムと消費が変わらない以上無駄撃ちは出来ない。」
 《はい、マスター志貴。アンヴァル構築完了、発動権を全てマスター志貴に委譲します。》

 ラファの言葉を聞くや否や志貴はシグナムに向かって駆け出す。

 「近づけさせん!」

 シグナムの言葉にレヴァンテインは生き物のように志貴に襲い掛かる。だが、志貴はその攻撃を全て紙一重で回避する。
 だが、近付くにつれ襲い掛かる刃の蛇はとぐろの間隔を狭めていく。

 「さあ、最早逃げ場は殆ど無い。防御も薄く、攻撃の際に出来る隙間に飛び込もうにもテスタロッサほどの速度が無いお前がどうやってそこから逃れる?」
 「見せてやるさ。俺だって発動を手伝ってもらっていた頃から成長していないわけではないからな。」
 「ああ、見せてもらおうか! 刻め、レヴァンテイン!」

 志貴の言葉に口の端を吊り上げてシグナムは志貴を囲むレヴァンテインの刃を志貴へと向ける。前後左右、更には上方からの同時攻撃に対し、志貴は更にシグナムに向かって踏み込み、前方から襲い掛かる刃に対して手を突き出した。

 「無駄だ、お前程度のシールドで止められるほど私の攻撃は甘くない!」
 「止めるつもりは…無い。」

 志貴はレヴァンテインの刃の下に手を入れると襲い掛かってくる刃を持ち上げた(・・・・・)。それによって出来た隙間に志貴は全力で突っ込む。

 「駆けるぞ…アンヴァル!」
 《了解、加速します。》
 「な!?」

 初めて目の当たりにする現象を起こされた上に、今までに無い加速にシグナムは対処が遅れる。その隙に志貴はシグナムの懐に入り、鳩尾に右手の人差し指を押し付ける。

 「タスラム、ガトリングシフト。」
 《タスラム構築完了です。いつでもいけます!》
 「チッ、パンツァー…」

 先程の攻撃を思い出し、回避は間に合わないと判断したシグナムは魔力を防御に回すためパンツァーガイストを展開しようとする。
 だが、一瞬だけ志貴の方が速かった。

 「遅い…タスラムガトリング…《ファイア》」

 指先から二十発のタスラムが立て続けにシグナムの鳩尾に吸い込まれていく。

 シグナムは吹っ飛ばされ、その場には膝に手を置き肩で息をしている志貴が残った。

 (どうだ…? 普通の人間なら一発で呼吸困難になるものを二十連発だ…バリアジャケットがあるにしても同一箇所にあれだけ叩き込まれて無事だとは思いたくないが…)

 《勝ったんですか…? マスター志貴。》
 「……いや、どうやら駄目だったようだ。」

 ラファが志貴に問いかけるが志貴の感覚はシグナムがまだ戦えるコンディションにあることを感じ取ってしまった。

 「ぐ…やるな、七夜。今の攻撃…魔力弾の数が更に倍あれば私は倒れていただろうな。」
 (…残り魔力のおよそ九割をつぎ込んだ攻撃の更に倍…か。無茶を言ってくれる…)

 レヴァンテインを地面に突き刺し、片膝をついているシグナムと相変わらず自然体でシグナムを見下ろしている志貴。
 第三者がこの場面を見れば確実に志貴が優勢だと見るだろうが、実際はリンカーコアが悲鳴を上げている志貴と、ダメージこそ負ったもののまだ戦闘可能なシグナム。魔術回路による魔術こそ使用可能であるものの、どちらが有利かは火を見るより明らかだった。

 しばらくしてシグナムが立ち上がり、レヴァンテインを正眼に構えて再び志貴に正対した。

 「さて、続きをするか。」
 「……何故疑問系ではないのか聞きたい。」
 「愚問だな。私はまだ立って戦えるしお前も未だ構えに隙が見えない。」

 何を当然のことをと言わんばかりにシグナムは嬉しそうに答える。そんなシグナムに志貴は一つため息を吐いて言った。

 「残念ながら俺はこれ以上は無理だ。魔法を撃てるとしてタスラム一、二発が限度だろうな。」
 「む、そうなのか?」
 「ああ、だが一つ聞いておこう。今のタスラムガトリングシフトでどれくらいのダメージを負った?」
 「? 少しの間息を吸えなくなったことと、腹筋にダメージが入ったために起き上がることがきつかったくらいだが…」

 何故、今そんなことを聞くのか分からず困惑しながらも答えるシグナム。
 それを聞いて志貴は少し考えてシグナムに言った。

 「……ならばこの一発に賭けてみようか。最後のタスラム、受けてみるか?」
 「……フ、何を考えたか知らないが一発で私を倒すことが出来るとでも?」

 シグナムの言葉に志貴は答えず、僅かに前に体重をかける。

 「…舐められたものだな…」
 「舐めたつもりは無い…カット、ファンブルコード!」
 《魔術展開、補助します!》
 「何っ!」

 志貴とラファの声と同時にシグナムの足下から黒い渦が巻き起こった。シグナムの意識が自分から外れたことを認識した志貴は駆け出した。

 「ラファ、タスラムは…」
 《構築は完了してます。トリガー、預けますね、マスター志貴♪》
 「助かる。」

 シグナムの所まで辿り着くまでの数瞬に準備を完了させた志貴はマントの端を握りシグナムの鳩尾があるであろう場所へと投げた。

 「この程度でっ」
 「硬化」
 「グフッ!?」

 シグナムがファンブルコードの渦を振り払うと同時に志貴はマントを硬化させシグナムの鳩尾に叩き付けた。
 意識に無い攻撃によって僅かに意識が鳩尾に向かったシグナムの顎に向かい志貴は人差し指を構える。

 「タスラム」
 《シュートです》

 志貴の放ったタスラムは狙い違わずシグナムの顎を撃ちぬき、シグナムは意識を飛ばした。そのまま前に向かって倒れるシグナムを志貴は優しく抱きとめる。

 《あーー!!》
 「どうした?」

 抱きとめた瞬間、ラファから大声が上がった。それを疑問に思いラファに尋ねる志貴。

 《マスター志貴、シグナムさんに抱きついてます!》
 「…流石にそのまま倒れさせるのも悪いし、今の俺の身長だとこれが普通の格好だと思うぞ?」

 ちなみに現在の志貴の身長は154cm、12歳の男子平均身長より少しだけ高い程度だ。対してシグナムは女性にしては長身の170cm、流石に正面から受け止めるとシグナムの胸に顔を埋めてしまう事になるので後ろから抱きしめる形になっているが、結局はこれが一番無難な受け止め方だ。
 だがまあ、納得できない人(?)には納得できないわけで。

 《倒れさせておけばいいじゃないですか! マスター志貴の腕の中にいていいのは私だけなんです!》
 「言葉の意味が微妙に違う気がするのだが…」

 志貴の腕の中で気を失っているシグナムを意識から外してラファの言葉を聞く志貴は困惑しているが、志貴の腕に装備されているお姫様はご立腹のようだ。
 拗ねて無視されかけている時とは違いラファが志貴に向かって延々と文句を言ってくるので志貴からしてみればどうすればいいのか分からない。
 結局、シグナムを医務室に抱えて行き、ベッドに下ろしても暫くはラファの機嫌は直ることは無かった。

 ちなみにレヴァンテインは起動したままなので一言一句聞き逃していないのだが元々口数が多い方ではないので見守っているだけだった。
 ただ、この後、デバイス達が一緒に整備される時にこの時の映像記録が皆のデバイスに流れ、ついでと言わんばかりにデバイスマスターのメンバーにも見られるのはお約束であった。



オマケ 今回志貴が使った魔法

タスラム…今後の志貴の魔法戦において基盤となる魔法。単純な直射魔法だが、暴発しないギリギリまで圧縮させているので貫通力は高い。指から撃つ際、指先に弾速を加速させるための環状魔法陣を展開させる。なのはのディバインシューターの術式をコピー、ユーノに見てもらい、誘導術式を取り除き、効率も限界まで魔力のロスをなくして撃てるようにした。
志貴が魔力運用をもっと上手に出来るようになれば更に効率も上げられるとはユーノの言。
書いていて作者がこれは幽○白書の霊○ではないかと思ってしまった。

アンヴァル…今回明確に出たのは加速用としてだが、他にも使ってはいる。身体強化魔法や加速魔法、ブースト魔法ではないが汎用性はかなり高い。今後色んな場面で出てくるので今回は詳しい性能に関しては伏せることにする。

現在の志貴の魔力量…漸く最低ランクのFから脱出した入学当時から更に増えた。とは言え、未だDランクの半ばにどうにか届く程度の魔力量である。成長期なので増加率はそれなりに早いが最終的な最大保有魔力量はAランクに届くかどうか、といった程度である。(StS編辺りでは大体C~Bランク位にする予定)
ただし、リンカーコアから抽出される魔力と魔術回路によって生成される魔力は別物であるため魔法が使えなくても魔術は使える。


あとがき

シグナムは今回気絶したまま放置。次回辺りに目を覚ましてもらいます。

それにしても戦闘描写は難しい。頭の中ではこうだと考えているのに文章にしてみるとあまり反映できていなかったり…全部書こうとするとくどくなったり…擬音表現を使うと幼稚な文章になったり…
読者の方に脳内妄想で保管してくださいとは言えないので、分かりにくいのでここをもう少しこうして欲しい等の意見が多ければ改訂します。

シグナムに勝っちゃったのはシグナムの戦い方を志貴は何度か見ていたのに対してシグナムの方は志貴の戦い方を見たことがないからです。
シグナムが志貴が力を振るう場面を見たのは一回目は撤退戦、次は闇の書を消した場面、そしてリインフォースのバグを消した場面、それ以降は魔法発動の実験と倒すための戦いを見せていませんでしたからね。
魔法に関しても戦闘に耐えられる形になったものは一度も見せていませんでしたし、言ってみれば全て奇襲できたから何とかシグナムに勝てたという感じでしょうか。
七夜の体術を使わなかったのは確実に叩かれるでしょうが、私なりに考えがあってのことなので何とか見逃してください。

オマケに書いた魔法ですが、今後ちゃんとまとめて設定として書き出すと思います。

三月二十日からArcadaがサーバー移転のための休憩に入るようなので、少しの間書き溜めに力を入れようと思います。
それでは四月に会えるように頑張りたいと思います。

4/3 誤字修正のみ



[4594] 中間期 第十話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/04/19 18:09


 第10話 志貴の受難

 「いらっしゃ…あら? 志貴君?」

 模擬戦を終えた志貴がシグナムを抱えて医務室に着くと何故かシャマルがいた。

 「シャマル? どうしたんだ、お前。」
 「私は元々後方支援が本職だから医務官としての研修もさせてもらってるのよ。それで、シグナムを抱えてるみたいだけど、志貴君こそどうしたの?」
 「ああ、シグナムと模擬戦をしていたんだが、シグナムが脳震盪を起こしてな。」

 シャマルの質問に答える志貴だが、その内容にシャマルが目を丸くする。

 「え? 志貴君がシグナムを倒しちゃったの?」
 「まあ、簡単に言えばそうなるが…それはいいからシグナムをベッドにおいていいか? この体勢のまま話すのは締まらない。」
 「あ、ゴメンなさい。こっちよ。」

 魔力量からして明らかにハンデのある志貴がシグナムに勝ったということが余程信じられなかったのかシャマルは絶句していたが、志貴の言葉で正気に戻りシグナムをベッドに横たえるように言って先導する。その直後、医務室に入ってくる金色の風があった。

 「志貴! シグナムと模擬戦したって聞いたけど大丈…」

 医務室に入るなり志貴の心配をしていたフェイトだが、目の前の光景を処理しきれずにフリーズしていた。だが、少しするとフェイトも再起動し志貴に話しかける。

 「志貴、シグナムに勝っちゃったの?」
 「ん? ああ、勝ちは勝ちだな。まあ、あんな勝ち方では多分シグナムは納得しないだろうが。」
 「???」

 フェイトの知る限りシグナムは負けたからといって納得しない人ではないはず。
 志貴の言葉の意味が分からず、フェイトは首をかしげていた。シャマルも同様である。

 「志貴君。シグナムは模擬戦で負けたからって根に持ったりしないから…」
 「…まあ、普通ならな。」
 「ん……」

 横で喋っていた三人がうるさかったのかシグナムが目を覚ました。

 「目が覚めたか? 魔力ダメージは大したことはないだろうし、肉体ダメージも魔力弾が当たった衝撃だけだから深刻なことにはなっていないと思うんだが。」
 「七夜…何故あそこで嘘など吐いた。」

 気を遣っているのかよく分からない志貴の言葉を流して、シグナムは志貴を睨み付ける。志貴の傍にいる二人はシグナムの眼中にはいないらしい。
 フェイトとシャマルが困惑していると志貴は薄く笑って返した。

 「嘘など吐いていないさ。まあ、騎士であるお前はアレを卑怯だと言うのだろうが、俺からすればあの程度の言葉遊びで騙されるお前がどうかと思うぞ?」
 「言葉遊びだと?」

 シグナムは訝しむもその雰囲気は刺々しいままだ。志貴はそのシグナムの視線を飄々と受け流しながらニヤリと笑った。

 「あの時、俺の残り魔力は確かにタスラム一発分だけ…少なくとも二発は全力では撃てなかった。だが、それはあくまで『魔法』の魔力であって『魔術』が使えないとは言っていない。
 加えて、最後のタスラムで勝負を仕掛けたのは確かであって、あの時点から後の攻防で魔術を使わないとは言っていない。
 そもそも俺は魔術を使わないで戦うなど一言も言っていなかった。それまで魔法のみで戦っていたからといって魔術を使わないわけではないし、俺が魔術を使わないと思って警戒していなかったのは単にお前の警戒心不足だ。」
 「む………」

 志貴の言葉に納得できないながらも反論できないシグナム。只の屁理屈ではあっても確かに、とシグナムが思ってしまえば反論は詰まってしまう。
 志貴はそんなシグナムを見ながら言葉を続ける。

 「そもそも俺とお前では持っている魔力量が圧倒的に違う。俺が普通に戦っても俺がお前に一方的に嬲られるだけだろう。だからこそ弱い俺は策を弄し、お前を油断させ、そして勝つ手段を講じる。
 今回の言葉遊びはその一つだということだ。今回は誤解させるような言い方だけだったが、犯罪者になると普通に嘘を使って騙してくる奴らもいる。仲間だから、管理局員だからといって気を緩める理由にはならないだろう?」
 「く…次は負けんぞ、七夜。」

 真面目な性格が災いしてシグナムは反論する糸口を見つけられずに負けを宣言した。後ろではフェイトも感心した顔で志貴を見ている。
 唯一志貴の言っていることが屁理屈であり、言い訳にもなっていないことが分かっているシャマルは苦笑している。まあ、教えたとしてもシグナムが志貴の屁理屈に少しでも納得してしまっていたら結局は押し切られることになるのだが…
 シグナムが次の模擬戦までに力をつけておくと宣言すると今度はフェイトが目をキラキラさせながら志貴に模擬戦を申し込んでいる。聞いている方の志貴は二人のバトルマニアっぷりに若干顔が引き攣っているが、一応士官学校を卒業してからなら、とだけ言って了承していた。
 半年以上先のことだと考えて微妙に不満そうではあったが、一応とは言え頷いてくれたことに多少なりとも満足したのかフェイトとシグナムは退室していく。残ったシャマルは疲れたようにため息を吐いている志貴に目を向けた。

 「大変ね。あの二人にロックオンされるなんて。次くらいは危ないんじゃない?」
 「いや、別に今回のことが対処されても俺にはまだいくつも裏技はあるからな。暫くは負けないが…まさかその度に模擬戦を申し込まれるのだろうか…」
 「ふふっ…シグナムは気に入った人とはとことん戦ってお互いを高め合おうとするし、フェイトちゃんも強い人と戦って強くなりたいって言う点ではシグナムに結構似ているみたいだからねぇ。
 もし志貴君が負けたとしても結局模擬戦は申し込まれ続けるんじゃないかしら?」
 「…勘弁してくれ…」

 さらに肩を落とす志貴にコロコロと笑いながらからかうシャマル。少しの間医務室に穏やかな雰囲気が流れたが、シャマルは急に表情を引き締めると志貴の目を見つめた。

 「さて、志貴君。とりあえず今日と明日、魔法の使用を控えてくださいね。」
 「…分かるか?」
 「当然です。まだ志望している段階とは言っても医務官だもの。それに、今までヴォルケンリッターの後方支援として色んな症状を見てきたわ。
 今の志貴君は魔力を限界まで使ってリンカーコアが急速に魔力をかき集めている状態ね。
 もし無理に魔法を起動しようとすればリンカーコアが悲鳴を上げて今以上の激痛が志貴君を襲うことになるし、それを越えると魔法を使えなくなる可能性すらあるわ。
 正直平気な顔をしているのが信じられないくらいね。もし、なのはちゃんの事故のことが無かったら私も注意深くならなかったから気付かなかったかもしれないわね。」
 「そうか…」

 かなり深刻な状況に志貴がどのような表情をしているのかと思ったシャマルは志貴の穏やかな表情を見て意外そうな顔をした。

 「ん? どうした?」
 「ううん、ただ…」
 「俺が落ち込むか後悔すると思ったか?」

 志貴の言葉にシャマルははっきりと驚きの表情を浮かべた。いつも柔かい笑顔を浮かべているシャマルの珍しい表情を見て志貴はおかしそうに笑った。

 「もとより無理も無茶もする気は無いさ。とりあえず現状での限界、戦闘状態で限界まで魔法を使った感覚、どちらも予測通りだからな、あまりにも予測通りでむしろ笑えてくる位だ。
 まあ、今回のことで大体俺の感覚が間違っていないことが分かったからな。次からはもう少し余裕を持って戦うさ。」
 「もう、それが無茶なのよ。子供の間に無茶なんかしちゃ駄目よ? 成長期なんだからリンカーコアもそれなりに成長するんだから。」
 「…オバサンくさいぞ、シャマル。」
 「ふぐっ!?」

 志貴の一言にシャマルの心は痛恨の一撃を受けてたった一発でノックアウト寸前まで追い込まれた。志貴は空気を読んで追撃をかける。

 「自分を子供じゃないと言っている内は子供。そういう垣根を気にしなくなって大人。子供に対して子供だからと説教じみたことを言い始めるとそろそろ拙いんじゃないか?」
 「う…うう…」

 シャマルは何か言いたそうにしているが志貴のターンは終わらない。

 「そうでなくともお前達ヴォルケンリッターは実年齢が…」
 「も、もうやめてっ! 私の(精神的な)ライフはもうゼロよっ!」

 志貴がシャマルに対してのとどめの一言を言い切る前にシャマルは涙目で言葉をかぶせた。それを見て志貴はニヤリと笑った。

 「精神的に成熟した子供に子供なんて言うとこれくらいはからかわれるぞ?」
 「か、からかっ…うう…志貴君、酷いわ…」

 今までの志貴の言葉がシャマルをからかうためのものだったと聞き、シャマルはorzの形に崩れ落ちた。
 それを見つつ、志貴は自嘲の笑みを浮かべボソリと呟いた。

 「精神的な年齢と外見年齢、実年齢がばらばらな俺が言えたことじゃないのだろうがな…」

 落ち込んでいるシャマルと呟いた本人である志貴しかいないこの医務室ではそんな志貴の台詞を聞くものはいなかった。志貴の様子を感知することが出来なかったシャマルはユラリと幽鬼のように立ち上がった。

 「…志貴君…?」
 「ん? なんd…」

 自身も微妙な感覚に陥っていたため、志貴はシャマルから発される腐海のようなオーラに気付かず振り向き、硬直した。

 「今回はからかったということで見逃しますが…」
 「………………………」

 前髪によってシャマルの顔の上半分が隠れてしまい、表情は見ることが出来ないが、感じる気配から少なくともシャマルの中に負の感情が渦巻いていることが分かる。
 志貴はすぐにでもこの場を去りたかったが、シャマルの見えないはずの眼光に射竦められて後退ることすら出来なかった。

 「今度そんなことを言ったら…」

 そこまで言いながら顔を上げるシャマル。
 その顔は第三者的な視点から見れば万人を魅了するほどに綺麗な笑顔だったが、笑っていない目と真っ黒なオーラを向けられている志貴にしてみればそんな感情を抱く以前の問題である。

 (こ、この感覚は…なのはと初めてあった頃に感じた気配…いや、あの時のなのはよりこっちの方が余程拙い気がするが…)

 「リンカーコアごと内臓ぶち撒けちゃいますよ♪」
 「わ、分かった。心に刻んでおく…」

 素晴らしい笑顔なのに、言っている内容と送られてくるオーラはやばいなんてものではない。

 (姫君とそっくりな声なだけに、冗談に聞こえないな…シャマルの旅の扉もえげつないし…出来ないことは無いのだろうな…)

 「宜しい♪」

 色々と脳の中身が振り切れたのか、ブチ切れた表情とオーラが治まる気配すらない。志貴は冷や汗をかきながらシャマルをからかうのは程々にしておこうと深く心に誓った。

 そして半年後、今日は志貴が卒業する日だというのに、志貴はワクワクした目を向けてくる目の前の人物達をどうするかで頭が痛かった。

 「「志貴(七夜)! 模擬戦をしよう(するぞ)!!」」

 家に直接やってくるのも拙いが、此処は先ほど卒業式が終わったばかりの学校の前だ。そこら中に人目があるため、目立つことこの上ない。

 「とりあえずこれだけは聞いておこう。何で此処まで来たんだ?」
 「シグナムとばっかりやって、私とは半年先なんて言われたんだもん。ずっと楽しみだったんだよ?」
 「半年前の屈辱は忘れていないぞ、七夜。今度こそ半年前のように騙されたりはしない!」

 志貴の質問に答えているのか答えていないのかよく分からない返答をする二人。その上誤解されるような言い方をしているせいで周囲からの視線が痛い。最初に模擬戦をすると二人が叫んでいるにも拘らずそんなの関係ねぇと言わんばかりの冷たさだ。
 そんな冷たい視線にもめげずに志貴は目の前の天然なバトルマニア達に声をかける。

 「色々言いたいことはあるが、一番聞いておきたいこと以外は今のところ置いておこう。お前達、仕事はどうした?」
 「「有給(だ)!」」

 短くも明確な答えを聞いて志貴の目にやっと休みを取ってくれたと喜ぶ人事部の人達が見えたのは気のせいではないはずだ。
 とにかく、二人ともそう簡単には引きそうに無い上に、休暇をとったとしてもこの二人のことだからこの一日だけだろう。そのことを考えて志貴は諦めたようにため息を吐いた。

 「…分かった。とりあえず二人は訓練室の使用許可を取っておいてくれ。俺は後から行くから…」

 二人はそのまま訓練室に向かうのだろう。建物の中に向かっていった。それを見て志貴は更にため息を吐きながらマリーの所に向かった。

 (二人を相手にする以上は面倒だがカートリッジの使用許可を貰う必要があるだろうな。やれやれ…今回のことで手札をどれだけさらけ出すことになるのやら…)

 連戦とは言え、手加減して魔力の消費を抑えつつ戦えば例え負けたとしても志貴としては全く問題ないとは言え、シグナムもフェイトもその辺りをしっかりと感じ取ってきそうなので、模擬戦での勝敗よりも今後の戦闘で自分を有意に立たせるためのカードがかなりの数オープンさせられるだろうことを予想して憂鬱な気分になる志貴だった。

あとがき

スランプだというのに、リアルの方も留年してそろそろ学校ガ始まるというのにフェイトアンリミテッドコードとトリガーハートエグゼリカエンハウンスにはまり込んでいるタツノオトシゴです。
自重しながら進まないともう一回同じ学年で勉強しそうな罠…格ゲーは兎も角、シューティングは拙い。本当にいろいろな意味で。

さて、私のことは置いておいて、とりあえず志貴君には仕官学校を卒業してもらいました。
下手にこの間を書くとズルズルと引っ張りそうな予感がしたもので…

それにしてもシャマル…此処で志貴とのフラグを立てようと思ったのについつい調子に乗っていじり倒してしまったんだぜ☆
…そして黒シャマル降臨…
志貴の精神年齢だとシャマルさん辺りはストライクなはずなんだが…シャマルの今後の立ち居地はこれで固定してしまうのだろうか…
私自身シャマル先生は結構好きなんだけどなぁ…

次はフェイト、シグナム両名との模擬戦。一人一話にするか二人を一話にまとめてしまうか…どちらにせよこの模擬戦で私が考えている志貴が使う分のオリジナル魔法は全て出すつもりなので、魔法の設定も整理中。

今の志貴君の魔力量は漸くDの上位からCに手が届きそうな位にはなりました。タスラムに関しても魔力制御の技能が若干上昇したことで弾数はかなり増え、50発程撃てるようになっています。

さて、次は模擬戦だ模擬戦だ! 前回に引き続きテンション上がってきたぜ! スランプだけど気にしないことにするぜ!



[4594] 中間期 第十一話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/04/24 21:04


 第11話 フェイトと模擬戦

 志貴がカートリッジ使用許可を貰って訓練室に着いた頃にはシグナムとフェイトは既に模擬戦の準備を終えて志貴を待っていた。

 「遅いぞ七夜。」
 「…お前達が早すぎるんだ。と言うかさっき別れたばかりなのに何で訓練室の使用許可が出るのがこんなに早いんだ?」

 シグナムが志貴に文句を言うが、志貴は呆れながらも尤もなことを言う。それに対して答えたのはフェイトだった。

 「待ちきれなかったからバルディッシュをセットアップしてソニックムーブで許可を貰いに行ったの。そしたら私が待ちきれないのが分かってくれたみたいで凄く早く許可が出たんだ。
 それに気を遣ってくれたのか分からないけど三時間も時間を取ってくれたんだよ?」
 「(…それは脅迫されていると思い込んだからじゃないのか? と言うかその行動が半ば脅していることにフェイトは気付いているのか? 気付いて無さそうだが…)」

 フェイトの浮かべる笑顔は黒いものなんて微塵も感じられないほど純粋だ。とりあえずはこのフェイトの対応を任された事務の人間には黙祷を捧げておくべきだろう。

 「さて、シグナムは半年前に一度やりあっているからまずはフェイトからだ。フェイトとの模擬戦が終わって俺が戦える状況ならシグナムと戦ろう。無理だったらまた後日だ。」
 「うんっ」「む…」

 嬉しそうに元気良く返事をしてくるフェイトに納得いかないようなシグナム。だが、一度戦っている自分とは違い、初めての相手であるフェイトに気を遣い渋々といった様子であるが引き下がった。
 そうしてシグナムが離れた所に行くと既にセットアップを終えているフェイトと待機状態のラファを手に取った志貴が向かい合う。

 「ラファ…」
 『はいっ、バリアジャケット構築しますね。』
 「シグナムは半年前に見てるけど、私は志貴のその格好を見るのは久しぶりだな。」
 「確かに、学校に入る前にフェイトに防御魔法の硬度を見てもらった時以来だったか? もう一年以上前の話になるのかな…」

 軽く笑いながらフェイトと志貴はお互いに構える。その時、ラファが微妙に不機嫌な声を出す。

 『…どうでもいいですけどマスター志貴、何で私が起動している時のマスター志貴の相手は学校でもどこでも殆どが女性なんですか?』
 「知らん。男の場合は闇討ちみたいな形が多かった上にわざわざラファを展開して撃退する必要を感じない連中ばかりだったからかもな。」

 ラファの言葉に一瞬フェイトとシグナムの眉が動いたが、続く志貴の言葉で何事も無かったかのように落ち着く。
 そんな状況でも志貴もフェイトも大きな隙を見せることなく構えていたのは流石と言うべきだろうか。

 フェイトはシグナムが志貴に攻めさせて負けたということを聞いていたので、先に志貴に攻めさせて自分のスピードで志貴の攻撃をかわし、カウンターを撃とうと思っているのだが、志貴はフェイトの動きを見ているだけで仕掛けてくる気配が無い。
 五分も経っていないが向かい合っている二人にとってその時間は恐ろしく長く感じていたため次第に焦れてきたが、フェイトは仕掛けたいという衝動を一生懸命耐えていた。フェイトの頬を流れる一筋の汗を見た志貴はフェイトに話しかけた。

 「埒が明かないな。」
 「でも、志貴の目は凄くいいから…それにシグナムも前回は先に攻めてやられたって言ってたからね。その話を聞いた予想だけど、多分志貴はカウンターが得意なんだよね?」

 そのフェイトの言葉を聞いて志貴はため息を吐いた。このままいてもフェイトが動く可能性が低いことを感じたからだ。

 「…ラファ、アンヴァル起動。」
 『了解、でも、いいんですか? 多分フェイトさんの望む展開ですよ?』
 「別にカウンターが得意なんじゃなくてそうしないと魔力が勿体無いだけだからな。まあ、時間も勿体無いしどちらにしても俺が動かない限りフェイトも動きそうに無いからな。」
 「……」

 志貴とラファが話している間にもフェイトはタイミングを逃さないといわんばかりに集中している。
 だが、瞬きをした次の瞬間、志貴は急加速してフェイトに飛び掛った。

 「っ!?」

 予想外の速さにフェイトは思わず空中に飛び上がり、志貴の追撃に備える。だが、志貴から攻撃は来ない。不思議に思い志貴を見下ろすと、志貴はフェイトを見上げてフェイトの攻撃に対処する体勢をとっているだけで行動を起こそうともしていなかった。

 (もしかして…)
 「バルディッシュ、フォトンランサー。」
 『yes sir.』

 フェイトは地上の志貴に向け十個ほどのスフィアからランサーを射出し始めた。
 10秒ほど撃ち続けて志貴がフォトンランサーを紙一重で避けるだけで反撃してこないことを確認したフェイトは続けて魔法を構築する。

 「(やっぱり志貴は空中の相手に対する攻撃方法が直射魔法以外には無いんだ…)こういうやり方は卑怯かもしれないけど…プラズマランサー…」

 フェイトが先ほどのものより僅かながらでも構築に時間がかかる魔法を選択したことを見た志貴はその顔に笑みを浮かべた。

 「ラファ、アンヴァル多重起動準備。追加でクリーチャーチャンネル補助開始。」
 『は~い。じゃ行きましょうか、マスター志貴!』
 「セット…ファイア!」

 フェイトが五発のプラズマランサーを放つと同時に志貴は地を蹴り向かってくるランサーに向かっていく。志貴とプラズマランサーが交叉する瞬間、フェイトは直撃したと確信し、志貴はフェイトが油断したと笑みを深くした。

 「え…嘘!?」

 直撃した上に志貴の防御力なら確実に落とせたと確信し、勝利を疑わなかったフェイトの顔は直後に驚愕に染まった。
 なぜなら、志貴は空中で軽く何かを蹴ってプラズマランサーを避けただけでは無く、そのまま横を通り過ぎていくだけだったはずのプラズマランサーを足場にして更に加速を続けながらフェイトに向かってきているのだから。
 だが、フェイトの位置が地上からかなりの距離があったおかげか、志貴がフェイトの懐に辿り着く直前にフェイトは我に返ることが出来た。

 「タスラム…」
 「っ…バルディッシュ! ブリッツアクション!」
 『ふぁいあ~!』『blitz action』

 本来ならば自身のこめかみがあった位置をタスラムが通り過ぎていく。後一瞬でも反応が遅れれば直撃を受けていたであろうタイミング。
 そのほんの僅かな差で志貴の攻撃を避けることが出来たフェイトは安心からか動いた先で止まってしまった。その瞬間を志貴は見逃さない。

 「まだだ、隙だらけだぞフェイト!」

 黒いマントに包まり、フェイトの視線から外れる志貴。だが、志貴がマントに包まれた瞬間、マントは空間に吸い込まれるように小さくなっていく。初めて見るその現象に目を奪われるフェイトだが、そんなほんの一瞬の意識の間隙を作ることも志貴は許さない。

 「フラガラッハ…」
 『残念でした、フェイトさん』
 「え…?」
 『protec…』

 フェイトは志貴が言葉を発したおかげでそちらに体を向けることが出来たが、そのせいで志貴は狙いをこめかみから顎へと変更した。
 フェイトの背後に現れた志貴は魔力で包まれた手刀を振り返ったフェイトの顎に繰り出し、正確に繰り出された攻撃は狙い違わず防御が間に合わなかったフェイトの意識を刈り取った。

 空中で意識を失ったフェイトをそのまま放り出しておくわけにも行かないことはラファも分かっていたようで、志貴がフェイトをお姫様抱っこをして地上に降りた時は不機嫌そうな気配を隠そうともしていなかったが、シグナムの時のように何かを言うことは無かった。

 「終わってみれば双方受けたダメージはテスタロッサへの一発だけ、か。七夜は終始攻められていたから圧倒的には見えない戦いだったが、結果だけを見れば圧倒的な差だな。」
 「少しくらいは気付いて欲しかったが…一応俺にも多少とは言えダメージはあるぞ。」
 「ほう?」

 フェイトを地面に横たえながら、自分にダメージがないように見えるのはシグナムが気付かなかっただけだという志貴にシグナムは興味深そうな目を向ける。

 「ならば、私との模擬戦は無理か?」
 「無理じゃないが、フェイトが起きるまで待っておいてやったらどうだ? 俺も少しの時間とは言え回復ができるし、フェイトも俺とシグナムの戦いを見学できて一石二鳥だろうが。」
 「成程な、かなりの時間部屋を借りることが出来たおかげでそれくらいなら時間も大丈夫だろう。その間に聞いておきたいことがあるのだが…」

 フェイトが起きるまで軽く休憩を挟むということにシグナムは依存が無いのですぐ了承した。
 志貴がフェイトの横に座り込んでいるのを見てシグナムは気になったことを聞くことにした。

 「フェイトとの模擬戦で使った魔法に関してはノーコメントだ。わざわざ戦う前の相手に自分の情報をさらけ出してどうする。模擬戦が終わったら二人ともに話してやるさ。」
 「……ならばいい。前回の私の連接剣やテスタロッサのプラズマランサーを避けたり足場にした方法を聞きたかっただけだからな。」

 シグナムの質問を聞く前に回答拒否する志貴。それに対して自分が聞きたかったことを言いながら志貴の隣に腰を下ろす。

 「ならば別のものだ。何故最後に新しい魔法を使ったのだ?」
 「詳しくはノーコメントだが、簡単に言えばあの状況でフェイトに対してタスラムを正確に当てたとしてもその一撃で意識を刈り取る自信が無かったといったところだな。これ以上この魔法に関する情報は打ち止めだ。
 まあ、正直な所、最初のタスラムが避けられるとは思っていなかった。正直タイミングは兎も角フェイトの意表をついて攻撃を当てるには十分な速度もあった。それにフェイトの防御も俺からしてみればかなり強力とは言え、お前に比べれば段違いに薄い方だからあのタスラムで確実に防御を抜くことも出来たはずだ。
 俺としてはあれでフェイトを落とすつもりだったんだが…流石にそれはフェイトを舐めすぎていたようだな。一応保険としてラファに補助させていた魔術が役に立って良かったよ。」
 「そうか…ならばあの場所にいたのが私ならばどうだ?」
 「もし、俺との戦闘経験が無い時、まあ、前回の時にあの状況になっていたならタスラムを撃っていただろうが、今のお前ならタスラムを当てる自信があろうがなかろうがフラガラッハを使っていたよ。フェイトとは違って一度受けたことがある以上今度はタスラム単発でお前の防御を抜けるとは思わないからな。」

 訓練室に似合わない穏やかな空気が流れ出す(まあ、話している内容は穏やかとは遠くかけ離れたものではあるが…)が、志貴の両手からは微妙に黒い気配が流れ出している。

 『(うう…何でマスター志貴はいっつも女性といい雰囲気になるんですかぁ…一番一緒にいる時間が長いのはエスリンさんやすずかさんでもなくて私なのに…)』

 こうして穏やかな二人と黒いオーラを滲ませているデバイス、そしてその隣に気絶している少女と言うあまりにもカオスな風景が出来上がってしまった。

 ちなみに三十分後、何とか意識を取り戻して目を覚ましたフェイトが志貴に対してまともに一撃も与えられずに負けたことに落ち込み、それを志貴が慰めることでシグナムと志貴の模擬戦の開始時間が更に十分遅くなったことを一応書いておく。


あとがき

何故か投稿が出来ずに色々時間がかかってしまいました。スイマセン。微妙にパソコンの調子が悪いのが影響してるのかなぁ?

それは兎も角、フェイトとの初模擬戦闘決着!

凄く短いですが、志貴もフェイトも防御が薄い上にフェイトは魔力量に則った攻撃力、志貴は人体急所を正確に狙う攻撃と、本気でクリーンヒットが一発入るだけで終了してしまう組み合わせなので、志貴にとってフェイトは相性がいい相手です。(フェイトに凄い速度があっても志貴はある程度は目で追えますし、攻撃前の気配も読める。そして、それにカウンターを合わせる技量もあるため。)
二人の模擬戦を一纏めにしてみてはとの意見もあり、シグナムとの模擬戦もこの話に組み込もうかとも思いましたが、キリがよくなったのでとりあえず一旦ここで区切ります。
シグナムの方も同時進行で書いていたので今度はパソコンがご臨終なさらない限りは今までよりは早めに出せると思います。

今回のことでアンヴァルの正体に気付いた人もいるのでは…新しくフラガラッハという魔法も出ましたし。さてと、次はシグナムだ。

魔法のことに関しては次の話のオマケに書くなり、改めて設定として書き出すなりしておきます。



[4594] 中間期 第十二話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:44


 第12話 シグナムと再勝負

 「さて、フェイトも起きたことだし、俺達も始めるか。」
 「そうだな、お前がテスタロッサとの模擬戦で既に消耗していることが納得いかないといえばいかないが、前回の雪辱戦だ。手加減はしないし、油断もしない。」
 「前回も手加減は無かったと思うがな…それをした時点でお前の負けだということは骨身に沁みて分かっているだろう?」

 前回と同じく言葉の応酬をしながら自然と構える二人だが、志貴の最後の一言でシグナムのこめかみが引き攣った。それでも頭に血が上って飛び掛ったりしない辺りシグナムの経験が伺える。

 「ラファ。」
 『アンヴァル構築完了です、マスター志貴。』
 「ほう、今回は攻めてくるのか?」

 前回の模擬戦、先程のフェイトとの模擬戦。二回とも最初は様子を見ていたのに、最初から魔法を起動する準備をしている今回の志貴を見てシグナムが問いかける。
 それに対して志貴は頬を軽く吊り上げて答える。

 「既にアンヴァルでの奇襲は望めないし、シグナムのことだからカウンターに対する備えもあるだろう? だったら今度はアンヴァルの本当の使い方(・・・・・・)を見せてやるよ。加速なんてものは副産物に過ぎない。」

 志貴の言葉にシグナムは表情を引き締める。だが、志貴は自分に意識を集中させたシグナムに対して薄く笑い、そのまま前へ突っ込んだ。
 急加速をしていない普段の速度で来たためシグナムは一瞬とは言え戸惑ってしまった。その一瞬を見逃す志貴ではない。

 「ファンブルコード。」
 「っ!? チィッ!」

 過去三回シグナムはファンブルコードによる目眩ましを受けているためその名前を聞いた瞬間に反応した。出来てしまった(・・・・・・・)。
 経験から下に意識が向いたシグナムだが、そこにあったのは小さな渦。直撃して僅かにダメージはあっても無視できるほどの威力。
 その隙に志貴はシグナムの懐に入り込んでいた。

 「迂闊だな。」
 『フラガラッハ行きます!』

 完全に不意を衝いた攻撃、志貴のフラガラッハを纏った右手がシグナムの鳩尾へと吸い込まれていく。傍らで見ているフェイトもこれは完全に決まったと感じていた。
 しかし、志貴の攻撃が届く瞬間、シグナムは口の端を吊り上げた。

 『パンツァーガイスト』
 「迂闊なのはそちらだ、七夜!」

 レヴァンテインから薬莢が排出され防御魔法が志貴の攻撃を受け止めた。カートリッジの魔力を上乗せした防御を志貴は抜くことが出来ず、攻撃直後の硬直を狙ってシグナムはレヴァンテインを振り下ろす。その刀身は炎を纏っている。宣言どおり手加減無しの一撃であることが見て取れる。
 だが、志貴は迫ってくる炎を纏った剣を見ながらも落ち着いていた。

 「ラファ。」
 『はいは~い』

 志貴の言葉でフラガラッハを纏った右手はそのままに左の掌に薄い魔法陣が浮かぶ。殆ど力の無い魔法陣。遠目にはその魔法の光は殆ど確認できない。フェイトは魔法陣は見えていないだろう。極近くにいたシグナムだからこそ、辛うじてその光を見ることが出来た。
 そして志貴はその魔法をそのまま振り下ろされるレヴァンテインの側面に叩きつけた。

 「チ、足りないか?」
 『肩にも展開しますね』

 僅かにレヴァンテインの軌道がずれたが、完全に逸れたわけではない。志貴の右肩に向かってくるレヴァンテインに対して、もう一つ命中が予測される肩部にも先程の魔法陣が展開される。レヴァンテインと魔法陣がぶつかると魔法陣は弾ける様に消えて、その反発力で志貴は片足を軸にしつつ回転、シグナムの首筋にフラガラッハを纏った右手を叩きつける。

 「ガッ!?」
 「ラファ、追撃だ!」
 『はい、マスター志貴。フラガラッハ・アンサラーいきます!』

 志貴の攻撃の後の出来るであろう硬直を狙ったシグナムが逆にその攻撃の直後を狙われたため、延髄に直撃する。
 加えて意識が途切れる寸前の無防備な早打(肩甲骨の内側にある人体急所の一つ)に向けて放たれた追撃の掌底を受けてうめき声を上げながらシグナムが吹き飛ぶ。だが、その手ごたえからシグナムがまだ完全には倒れていないであろうことを確信し、志貴は追撃をかける。

 「ラファ、カートリッジロード!」
 『はいっ! 神槍アラドヴァル準備開始です!』

 肘部分から『バガンッ』というレヴァンテインやバルディッシュのそれより大きい、排出音と言うよりは最早爆音とも言えるレベルの薬莢を排出する音が響き、魔力が倍増する。志貴はその魔力を額に汗を浮かべながら制御しつつ、眼前に魔法陣を構築し始めた。

 「トゥアハ・デ・ダナンの至宝よ 雷纏いし神の槍よ その五条の光に灼熱を纏いて奔れ! 必中の神槍 アラドヴァル!」
 『バレル、シュートです!』

 志貴の左の五指と掌にそれぞれ魔力が集まっていく。五指に集まった魔力はシグナムの位置を確認するように突き進み、相手に当たり、その事実を志貴の感覚に伝える。
 その感覚を受け取るなり、志貴は左の掌に集めた魔力に対し右拳を振りかぶる。そのまま右拳にも魔力を籠めて最後の一撃を繰り出すために集めた魔力に叩きつける。

 「イブル…」
 『ブレイク!』

 右拳を叩きつけられた魔力は一筋の光になって五本の魔力によって出来た道を進んでいく。
 着弾し、土埃が舞い上がった時、志貴は更に追撃をかける余力は残っていなかった。

 「はぁ…はぁ…」
 『大丈夫ですか、マスター志貴?』

 手を膝につき息を切らせる志貴にラファが気遣わしげな声をかける。志貴はその言葉に対して軽く息を整えた後、苦笑しながら答える。

 「流石に大丈夫とは言い難いな…正直これで立たれたら負けを認めるしかない…まったく、火力で攻めるのは俺のやり方じゃないんだが…持久戦を望めるだけの魔力量が無いのも確かだからな。勝敗がどうなっても今回は仕方ないか。」

 そう言いつつ土埃が晴れるのを待つ。
 次第に視界が晴れてくると、志貴は姿勢を整えて土埃の先を見据える。その視線の先に人影が見えた。

 「…くそ、やはりと言うべきか…まだ立てるのかよ…」

 お互いの姿を見ることが出来るほどに土埃が晴れるとお互いの姿を認めた志貴とシグナムは相手を見据えたまま薄く笑った。

 「「お前の勝ちだ、シグナム(七夜)…」」

 二人とも意地で立っていたらしく、お互いに相手の勝ちだと言って崩れ落ちた。そのまま志貴は意識を失ったがシグナムはダメージで動けないだけで意識ははっきりしていた。

 「相打ちか…いや、七夜はテスタロッサとの模擬戦で消耗していたからこの勝負も私の負けだな。」
 「大丈夫? 志貴、シグナム。」
 「…これが大丈夫に見えるのであれば眼科かもしくは脳外科…いや、むしろ脳内を洗いなおした方がいいと言っておこう。」

 見学していたフェイトがやってきて二人の心配をするが、それに対してシグナムは仰向けに倒れたまま皮肉で返す。
 それを聞いたフェイトは苦笑してしまう。

 「それだけ言えるなら大丈夫そうだね。志貴の方は…完全に気絶しちゃってるか。」
 「…ああ。だが、短時間でニアSランク、オーバーSランクの私達二人との模擬戦をしておいて士官学校を卒業したばかりで魔導師ランクDの奴が一勝一分だ。
 正直テスタロッサとの模擬戦が無ければ今回も私は負けていただろう。魔導師ランクに関係なく七夜は強かった。」

 シグナムの言葉を聞きつつ、フェイトはその隣に腰を下ろして話す。シグナムが起き上がるのをその場で待つつもりらしい。

 「うん。何と言うか…クロノに似てる感じがした。強いんじゃなくて戦うのが上手いんだ。それもクロノよりもずっと。」
 「そういえばあいつも魔力の絶対量が魔導師の強さじゃない、と言っていたことがあるらしいな。私は聞いただけだから良くは知らないのだが…
 とは言え、あいつ自身は魔力量もAランクオーバーするくらいのものは持っていたから管理局内にあいつより魔力の多いものがそう多くは無かったと思うが…
 図らずも七夜がその言葉を端的に証明して見せてしまったわけだ。最後の砲撃だけは桁違いだったがな。」

 シグナムは言いながら少し回復したのか体を起こして志貴が倒れている所へと向かう。足下がおぼつかないがフェイトが肩を貸しているため倒れることは無い。
 志貴の近くに来ると二人は腰を下ろした。

 「やれやれ、Dランクで私達二人と連戦できる魔導師が…いや、ランクに関係なくこの短時間で私達二人と連戦して勝ちこせる魔導師が管理局にどれほどいるか…」
 「そうだね。魔術の世界で戦ってきて、魔力を殆ど使わずに戦う方法を知ってる志貴だからこれだけ出来るんだろうけど…」
 「ん…」

 二人が話していると志貴が目を覚ました。そして起きているシグナムを見て笑みを浮かべながら言った。

 「勝負は俺の負け、だな。」
 「何を言ってるの? 模擬戦は引き分けでしょ?」

 志貴の言葉にフェイトが疑問を挟んだ。だが、志貴はふと天井を見上げた。

 「模擬戦で引き分けでもこれが単純な勝負であれば先に意識を取り戻したシグナムの勝ちだ。今この瞬間まで俺は無防備だったわけだからな。」
 「だが、お前がテスタロッサと戦わずに万全の状態で私と戦っていれば今のように魔力切れは起こさず、お前が勝っていただろう。」
 「勝負に『もし』や『なら』は無い。いつでも万全の状態で戦いに出られるわけでもない。その場の全力で勝つ。それが出来なかった以上敗者は俺さ。」

 フェイトの質問に答え、シグナムからの意見も却下して志貴は目を閉じる。

 「やれやれ、やっぱりまだまだか。」

 自嘲したような声色に傍にいる二人は声をかけるのを躊躇われた。だが、志貴はすぐに目を開けると二人に向き合った。

 「さて、シグナムが戦う前に聞きたいことがあるらしかったが、フェイトはどうだ? 答えられることなら答えるが…」

 志貴のその言葉に二人は食いついた。根掘り葉掘り全てをというわけではないが、特に気になっていたことを聞く。

 「まずは戦う前に聞こうと思っていたが、私のシュランゲ・バイゼンを持ち上げたりテスタロッサのプラズマランサーを蹴り飛ばしたり…何をしたんだ?」

 まずはシグナムが質問した。フェイトもそのことを聞きたいのか目が真剣だ。それを見て志貴は苦笑しながら答える。

 「アンヴァルを使っただけだ。この魔法には色々と使い道があるからな、知らない奴が相手ならこれだけで簡単に意表をつける。」
 「アンヴァル? 前のシグナムの時とか使ったって聞いたし、私の時にも使ってたけど、アレって高速移動の魔法じゃないの?」

 シグナムがその高速移動で負けたことを聞いているフェイトは不思議そうな顔をしている。シグナムも同じことを思っているのかハテナ顔だ。

 「アンヴァルはラウンドシールドの変形と言うか改造したものだ。なのはのラウンドシールドが相手の攻撃を弾く術式があったからそれを使って俺の体を弾いて早く動いただけだ。
 同じように掌に隠すように展開してシグナムの連接刃を持ち上げたように見せたり、今回のシグナムの剣を炎ごと剣筋を逸らしたり、肩に展開して俺の体を弾いて反転させたり。
 フェイトのプラズマランサーを足場に出来たのも足の裏にフェイトの魔力光に紛れるように薄く展開したアンヴァルでプラズマランサーの側面を蹴り飛ばしただけだ。」

 志貴の説明に二人は感心したように志貴を見る。アンヴァルの使い方は勿論それだけではないのだが、志貴は説明しない。今後隙を作らせるためにも手札は隠しておくつもりだからだ。
 とは言え、予想は簡単に出来るものではあるが…クソが頭に付くくらいに真面目なこの二人なら説明通りの機能しかないと思い込んでくれることだろう。

 「じゃあ、私との戦いでカートリッジを使わなかった理由ってあるの?」
 「? 無しでも勝てただろ?」

 今度はフェイトが志貴に質問するが、一言でバッサリと切り捨てられる。フェイトはその場でorzの形に落ち込んだ。
 それを見て志貴は笑う。

 「ククッ、冗談だ。」
 「うう…酷いよぉ、志貴…」

 涙目で見上げてくるフェイトはなかなかにクるものがあるが、志貴はそんなフェイトを華麗にスルー。そのまま説明を続ける。

 「いくつか理由はあるが、一つは使う意味が無い。魔力が上がった所でフェイトの速度を捕らえることが出来なければ無駄撃ちだし、魔力での押し合いになったらその時点でカートリッジを使おうが使うまいが俺が押し負けるのは目に見えているしな。
 二つ目はフェイトと俺は初戦闘だから不意を衝ける手段が多くあったから使わなかった。
 最後に俺のカートリッジは大口径で特注なんだ。だから使用に許可が要るし、装備できるのも各肘に一発ずつの二発だけ。加えて今回は許可が下りたのは一発だけだったからな。正直負ける寸前まで追い詰められなければフェイトに対しては使うつもりは無かった。」
 「へぇ~」

 志貴の説明にフェイトはいつの間にか立ち直っており、シグナムもしきりに感心したように頷いていた。だが、このフェイトの態度に志貴の悪戯心が刺激されたのか悪い笑みが浮かんだ。

 「まあ結局の所、俺にカートリッジを使わせるくらいまで追い詰めることが出来なかったフェイトの力不足が一番大きな原因だよ。」
 「あうう…」

 志貴は笑いを抑えながら再び落ち込んだフェイトの頭を撫でる。からかわれていることに気付かないくらいにショックだったらしい。
 しばらくしてフェイトが復活する頃には志貴とシグナムも歩ける程度には回復していたので、そのまま歩いて一応の用心として医務室へと向かった。

 そこでまた無茶をしたことにシャマルからの説教があったのだが、すぐにそれぞれ帰ったフェイトとシグナムはそのことを知ることは無かった。


あとがき

模擬戦の回、二回に分かれましたが無事終了。
結局バトルシーンが少々…と言うかかなり短いものになりましたが、やっとバトルが書けたので微妙に作者のテンションが上がっています。
説明中のラファが空気になっているので救済しようかとも考えましたが、今回は放置。

とりあえず、魔法の詳細は設定として別に書き出します。志貴のオリ魔法だけでなく、エスリンにもいくつかオリ魔法は使わせるつもりなので、これからも微妙に増えていくと思いますが…

これで志貴君13歳の始まりです。空港火災まで色々書きますのでここからが微妙に長いです。時期的にエリオがフェイトに保護されるのもこの頃だったと思いますし。
ゼスト隊の人達の救済は間に合いませんでしたがティーダはどうしようかなぁ…ティアナフラグ残すためには死んでもらったほうが楽なのですが…ヴァイスを救済してラグナフラグ立てるのも面白いかも…

ああ、そろそろ収拾がつかなくなりそうだから自重しろ自分…

とりあえず、すずかは地球で義務教育を終えるまで(15歳まで)こっちに来ないので絡みはほぼ無しですが…エスリンも前線に出ているため出番が少なくなります。
…よし、今のうちにラファのフラグを増設するか色んな人のフラグを立てようか。

今後の予定としては日常編を書いた後、一話ほど閑話を挟んで志貴君達の動きを書いていきます。

さて、ちょっとリアルが拙い感じです…勉強の仕方を忘れてる…次の話まで時間がかかるかもしれませんが、書きあがり次第上げていくのでそのときにまた会いましょう。

5/24 微修正



[4594] 中間期 第十三話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/24 17:44


 第13話 模擬戦の後で…in海鳴

 シグナムとフェイトとの模擬戦を終えた後、志貴は限界まで魔法を使用してまたリンカーコアに負担がかかったせいでシャマルに再び魔法の使用を控えるように言われ、養生を兼ねて海鳴に戻ってきていた。
 翠屋にて戻ったと言う報告をするなり、志貴の卒業パーティーをアリサの家でやると言われ拉致まがいに連れてこられたわけだが、その場で何をしていたのか説明をさせられた。

 「あっはは! それは災難だったみたいね。」
 「まったくだ。シグナムもそうだがフェイトも負けず劣らずのバトルマニアだから始末におえない。結局、今回も俺は一日魔法を使わないことをシャマルに言い渡されたから次に都合が合う時に再戦をするという約束をさせられた。下手をすれば今後は都合が合う度に模擬戦を挑まれそうだ。」

 爆笑するアリサに対して肩を落とす志貴。少し目を逸らすと離れた所でシグナムとフェイトがはやて、シャマル連合軍に説教を受けている。

 「二人とも…志貴君が卒業した日には、アリサちゃん家で志貴君の卒業パーティーをする言うとったやろ?」
 「まったく、士官学校を卒業した日にその日一日は出来る限り安静に、翌日は魔法の使用禁止なんて診断をするなんて思って無かったですよ?」

 正座させたシグナムとフェイトの前に腰に手を当てて仁王立ちをしてエガヲで説教をする二人。ぶっちゃけ目が笑っていないので怖すぎる。周りも説教をしている二人のプレッシャーに押されてか四人の周囲は穴が開いたように誰もいない。

 「で、ですが主。あの模擬戦は七夜も了承したものであって…」
 「そ、そうだよ! 志貴だって私の後に戦えるようじゃなかったらシグナムとは戦わないって言ってたし…それにカートリッジだって…」
 「「何ですか(や)?」」
 「「……ナンデモアリマセン……」」

 しどろもどろに言葉を紡ぐシグナムとフェイトだったがはやてとシャマルのエガヲの前に沈黙する。
 二人は視線を彷徨わせ、志貴を見つけるなり念話で志貴に話しかけてきた。

 《し、志貴。この二人何とかして…》
 《無理》
 《なっ!? お前も当事者だろう七夜!》

 フェイトの懇願を志貴は即座に切り捨てる。シグナムがそれに対して抗議をしてくるが志貴は微妙に遠い眼をしながら答えた。

 《なあ、俺はお前達が帰ってから医務室で三時間説教を受け続けたんだぞ。しかもシャマルだけなら兎も角、途中から説教する人間が増えていったくらいだ。具体的にはクロノとかはやてとかリンディとか。
 それに比べればお前達はまだマシだろう。それにパーティーの場だ。二人もわきまえて短めにしてくれると思うぞ?》
 《そ、そうだといいけど…》
 《今のこの二人の顔を見る限りその確立は低そうだぞ?》

 志貴の念話を受けつつ顔を引き攣らせて二人のエガヲを見るシグナムとフェイト。一向に説教が終わる気配は無いが、志貴との念話で気を逸らせることが出来てるから何とか意識を保てている。
 それを見て志貴は無常の一言を残す。

 《ま、一時間経っても終わらなければ助けてやるよ。それまで俺はゆっくりさせてもらおう》
 《《い、一時間…》》
 《じゃ、頑張れ》

 まだ何か言いたそうな二人を無視して志貴は念話を切る。その直後不吉な言葉が聞こえてきた。

 「さて、念話は終わったようですね。」
 「そやね。ずっと聞いてなかったようやしみっちり反省してもらおか。」
 「「ば、バレて…」」

 目を逸らした方向からひぎぃとか聞こえるがきっと空耳だと全力で意識から外す。なるべくそちらを見ないようにしながら志貴はパーティーを楽しむことにする。

 「志貴君。」
 「ん? すずかか、どうした。」

 はやて・シャマルの連合軍と捕虜のシグナム、フェイト。パーティーと言うにはあまりにも異様な雰囲気を撒き散らしている四人のことはとりあえず無かったことにされて、他のメンバーも純粋にパーティーを楽しみ始めると志貴のそばにすずかがやってきた。

 「卒業おめでとう。もう管理局に就職できるみたいだし…何か差をつけられちゃった気分だなぁ…」
 「早い遅いはそう問題じゃないだろう。学校の成績を落とさずにこっちに来るための勉強もかなりはかどっているようだし、俺よりすずかの方が凄いんじゃないのか?」
 「そんなこt「志貴も頑張っているだろう。一度勝っているとはいえ今回の模擬戦でフェイトとシグナムに連戦して尚負けなかったのだから。」…エスリンさん…」

 志貴の言葉にすずかは照れたように答えようとするが、エスリンに割り込まれて少し不機嫌になる。だが志貴は変わらずにエスリンに対応している。

 「お前もかなり活躍しているようじゃないか。一昨年のなのはみたいに無理しない限りは応援してるからな。」
 「ふふ、マスターである志貴に恥を欠かせないようには頑張るさ。」
 「ねえ、志貴。結局アンタはこれからどういう風になるの?」
 「どういう風とは?」

 エスリンと話しているとアリサに話しかけられた。だが、志貴にはアリサの言わんとしている事が分からないので聞き返す。

 「なのは達は仕事をしながらでも学校に通っているけどアンタはどうなるのかってことよ。学校みたいに毎日時間を縛るものじゃないのだったらまたこっちの中学にも通えばいいじゃない。」
 「ああ、成程な。だがそれは無理だろうな。今のなのは達みたいに前線に向かうのであれば年齢的なことも考慮されてそれなりに時間は取れるんだろうが俺はまだ研修段階だ。
 学校を卒業した所で就職が内定するわけじゃないのはこっちと変わらない。俺の魔導師ランクが高ければ研修も短縮されるんだろうが、残念ながら俺はこれからみっちり時間をかけて仕込まれるだろうな。」
 「そっか。ま、時間が出来たら帰ってきなさいよ?」
 「ああ、翠屋には桃子さんや士郎さんの顔を見るためになるべく戻ってくるつもりだ。」
 「「…………」」

 志貴がアリサとばかり話しているからなのかエスリンとすずかは拗ねている。
 それに気付かない志貴は大人達が集まっている方へと向かう。

 「アリサちゃん?」
 「志貴と長く話ができて楽しそうだったな?」
 「うっ…」

 残された場所にはプレッシャーを放つ二人と冷や汗を流して言葉を出せなくなったアリサがいた。勿論、この場は無礼講と言うことでこの周囲も無かったことにされかけているのだが…
 アリサが助けを求めて志貴が向かった方向に視線を送るが二人のプレッシャーが跳ね上がったところを見ると逆効果だったのだろう。
 ちなみに志貴は既に安全圏だ。本気でそっちで何が起きているか知らずに歩いているとリンディに話しかけられた。

 「あら、志貴君じゃない。どうしたの?」
 「どうしたというかまあ、色々話をして回っているだけだが。」
 「そう…あ、卒業おめでとう、志貴君。陸に行くみたいだけど…」

 微妙に言葉を濁すリンディ。というのも志貴はリンディに海の部隊に来るように誘われていたからだ。
 まあ、現状から分かるように志貴は誘われるたびに断り続けていたわけだが。

 「正直、士官学校に行っている間に海と陸の確執についてはある程度知った。俺みたいな低ランク魔導師を海に勧誘するとなると、表面上は兎も角、内情に関して海にも陸にも目を付けられるから勘弁して欲しかったんだよ。」
 「そんなの気にすること無いわよ。非公式とは言えフェイトさんとシグナムさんに勝ってるんだから、すぐに実力は証明されるわ。」
 「別に目を付けられるだけなら貴女の言うように気にすることは無いのだろうが、陸の方は確実に俺のスキルを調査するために動くだろう。
 海の方は低ランクの俺が入ったとしてもコネで入ってきただけの厄介者だと思われるだけだろうが、陸の方は低ランクだが何か公開されていない何かが俺にあると勘ぐる可能性が高いからな。
 実際、魔術と言う管理局に無い能力を持ってはいるわけだが、俺程度のものだと大したことは出来ない。だが、それを陸の奴らが信じるまで調べられるがままにしていろと? 魔術に関しては例え調べられたとしてもオカルトを否定している管理局に理解できるとは思わないが、目障りなことに変わりは無い。
 加えて、殆どゼロとは言っても理解される可能性も無いわけじゃない。それにまあ、別の意味でも思うところがあるしな。」

 志貴の言葉にリンディは少し残念そうに目を伏せて苦笑した。

 「そこまで考えてるんじゃ仕方ないかしらね。でも気が変わったらいつでも言ってね? 私が出来る限り融通は利かせるから。」
 「職権乱用じゃないか?」
 「あら、権力なんて使うためにあるんだから使わないと勿体無いじゃない。」
 「おいおい…」

 リンディがそんなことを笑顔で言うので志貴は微妙に引き攣った笑顔でリンディの顔を見た。
 だが、当のリンディは涼しい顔をしている。なにを言っても無駄だということが分かった志貴はため息をついた。

 「まあ、気が変わったらな。そのときは頼み込むことにするさ。」

 そうして手をひらひらと振って歩き出す。その後も色々と歩き回って、志貴は思う存分言いたいことを言ってすっきりした表情のはやて、シャマルと長時間の説教によって真っ白に燃え尽きているシグナム、フェイトの四人が集まっている所にやってきた。

 「かなり盛大に説教したようだな。」
 「あ、志貴君!」
 「これでも足りないくらいですよ。おめでたい席なんですから。」
 「「(これで足りないって…)」」

 志貴がやってきて、はやては笑顔で迎え、シャマルはため息をつきながら苦笑した。後ろの方で戦慄している金色とピンクがいるがはやてとシャマルはスルー。

 「まあ、医務室での説教を一人で受け続けた意趣返しのつもりで放置したが、流石に後日また説教しようって言うのなら勘弁してやってくれ。俺が模擬戦を受けたことも確かなんだから。」
 「「志貴(七夜)…」」

 余程説教がきつかったのか志貴の言葉に涙を浮かべかねない勢いで感動している金色とピンク。恐らく二人の目には志貴の後ろから後光が射しているように見えているに違いない。

 「まあ、志貴君が言うなら仕方ないなぁ。一番大変な本人やからなぁ。」
 「そうですねぇ、このパーティーが終わった後にリンディ提督たちも誘って二人に言いたいことを思う存分言おうと思ってたんですけどやめときましょうか。」
 「「………」」

 一方で説教組の台詞に金色とピンクははやてとシャマルから微妙に距離をとる。

 …どれだけきつかったのだろうか?

 志貴はそう言っている二人の顔が笑っていることに気がついているので、冗談だと分かっている。とは言え、わざわざ教える必要を感じていないので、怯えた表情を隠しながら僅かに距離をとっている二人を見て楽しんでいる。とりあえず震えていないことは評価するべきか。

 「まあそれはいいさ、今はのんびりしようか。」
 「そうやね。ところで志貴君、リンディさんが志貴君は海には行かんで陸の部隊に入るって言うてたけど、どの部隊に行くかは決まっとるん?」
 「そういえばそのことは聞いていなかったな。」
 「志貴がどんな戦い方をするかで頭がいっぱいだったよ。」
 「あ、復活しましたね、二人とも。それにしてもどれだけバトルマニアなんですか、志貴君が卒業するって分かってるんだから一番最初に浮かぶのはそっちでしょうに…」

 シャマルの台詞に引き攣った笑みを浮かべる金色と…いや、いい加減名前に戻そう。引き攣った笑みを浮かべるフェイトとシグナム。
 志貴はそんな二人の反応に苦笑しながらはやての問いに答える。

 「陸士106部隊と聞いた。ただ、陸士訓練校じゃなくて士官学校の卒業生だからかは知らないが出世は早いだろうが忙しくなるのは覚悟しておけと言われたな。
 出世に関しては気にしていないが士官学校の入学を推薦してくれたリンディの顔に泥を塗らない程度には頑張るつもりだ。」
 「そっか、私は104に出向していたこともあったから同じやったらいいなって思ってたけど…ま、同じ現場に出たときは宜しくな。」

 志貴とはやてがしっかりと握手すると、シャマルがチェシャ猫の笑みを浮かべてやってきた。

 「さ~て、今日は志貴君に思いっきり飲ませましょう!」
 「は?」
 「そうやな! やるで~!」
 「ちょっ、おい!」

 飲みましょうではなく飲ませましょう。シャマルの言葉に一瞬呆けてしまった志貴だが、その一瞬の隙ではやてまでノッてしまい、逃げる隙を逃してしまう。
 そこで志貴はフェイトとシグナムに目を向けるが…

 「志貴、私達が助けてって言ったのに助けてくれなかった。」
 「このような場で晒し者になった屈辱、少しだけでも溜飲を下げさせてもらおう。」
 「お前ら…俺はもっとやばいことになったって…ムグッ!」

 抗議の言葉を放つ前にはやてが志貴の口にビンを突っ込む。シャマルはクラールヴィントを展開した上で志貴が逃げられないように両手を縛っている。

 -これから始まる地獄絵図は多少見苦しいものも含まれているためとりあえず描写を控えさせていただきます。しばらくお待ち下さい。-

 はやてとシャマル、二人の気分がスッキリするまで飲まされた志貴はフラフラになっていた。シャマルは医務官らしく二日酔いにならないように回復魔法をかけていったが、それならば最初から飲ませるなと文句を言いたい。
 だがまあ、例え二日酔いにはならなくても現状で既に酔っ払っていることは確かなのでその場で横になっていたが。

 「志貴お疲れ。」
 「フェイトか…労ってくれるくらいならお前が最初から止めてくれればこうならなかったんだがな。」
 「ゴメン…でも、志貴だってこんな人がたくさんいる中でお説教されてる私達を助けてくれなかったんだからお相子だよ。」
 「…一応、後で発生するであろう正座&説教四時間コースは止めてやったんだがな。」

 拗ねたような志貴の言葉にフェイトは苦笑した。そこで志貴は此処にフェイトしかいないことに気付いて尋ねる。

 「シグナムはどうした? さっきまで二人一緒にいただろう?」
 「あ、シグナムは志貴が限界なのを察したシャマルとはやてにロックオンされて飲まされてるよ。私は何とか逃げたけど。」

 言われてみれば酒のせいで微妙に靄がかかっている意識の端にシグナムの悲鳴のような声が聞こえる。
 しかし、あまり考え事をすると頭痛がするので考えるのをやめる。すると志貴の頭がなにか柔かいものの上に乗った。

 「…フェイト?」
 「ん…まあ、志貴が私達のことを庇ってくれたのは確かだからそのお礼、かな?」
 「そうか…じゃあ少し眠らせてもらうぞ。」
 「うん、お休み、志貴。」

 フェイトの膝枕に思考回路が鈍化した志貴はうろたえもせずに少し楽になったと思い、目を閉じた。
 それからすぐにフェイトの耳には志貴の寝息が聞こえてきた。正直もう少し何か反応があるかもと思っていたフェイトとしては微妙に納得がいかないようだ。
 何故そんなことを考えるのかフェイト自身にも分かってはいないようだったが。

 「あ、でも志貴の寝顔を見るのは初めてかも。」
 「ほう、それは良かったな、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン…」
 「それは宣戦布告と見ていいのかな、フェイトちゃん?」

 穏やかな表情で志貴の寝顔を見ながら髪を撫でていたフェイトだが、背後から聞こえた氷点下の声に体を硬直させた。

 「え、えっと…二人ともどうしたの?」

 ギギギ、と壊れたブリキの玩具のような動きで振り向きやっとのことでそれだけ口に出したが、少し前まで自分達に説教をしていたはやて、シャマル連合軍のエガヲを遥かに超えるその表情に続く言葉を封じ込められる。
 本当にこれは笑っているのだろうか。正直目が笑っていなかった連合軍のエガヲはまだ笑みだと判断することが出来た。だが、この二人の表情は口は吊りあがって笑っているように見えるが、顔の上半分は影になっていてよく見えない。だというのに、そのハイライトの無くなった目だけが自分を見ているのが分かる。
 あまりの恐怖に手近にあったものを抱きしめてしまったフェイトを責められる人間はいないだろう。例えそれが膝の上にあった志貴の頭であったとしても。

 「「……………………………………………………………………………………………………………………へぇ」」
 「ヒッ」

 極寒の中温かいものを抱きしめる反射をするフェイト。二人の殺気に寝苦しそうにするもフェイトの体温が落ち着くのかすぐに穏やかな表情に戻る志貴。そして、それを見て二人の視線の温度が下がっていく。絶対零度にまで届きそうな勢いだ。

 この負の連鎖の中に飛び込もうという勇者は存在せず、この状態は二人の極寒の雰囲気をフェイトの体温だけで防ぎきれなくなった志貴が目覚めるまで続いた。
 志貴の頭が離れた時、二人の殺気が霧散したことでフェイトはホッとしたと同時に何故か残念そうな表情をしたが、フェイト自身自覚してやっているわけではないので、パーティーに参加しているうちにその表情は明るいものに戻っていた。


 オマケ その後の二人…

 「エスリンさん…」
 「ああ、彼女は自覚していないが天然だけに強敵になりそうだな。」
 「負けられませんね。」
 「私はもとより負けるつもりは無い。無論お前にもだぞ、すずか?」
 「ええ、私も譲るつもりはありませんよ。今は遠くても追いついてみせます。」
 「フフ、楽しみにしていよう。」

 微妙に笑顔が怖い二人の近くに来る人はいなかったのでこの会話は聞かれることは無かったようだ。


あとがき

バイトを始めたのはいいのですが、早朝シフトのおかげで四時起きで就寝が十一時などと言う凄く健康的な生活になってきたタツノオトシゴです。それに伴いこっちを書く時間が取りにくく…GWは学校が無いのでこの間に何とか書き上げました。次は何時になるかなぁ…

そしてすずかファン、そして私のエスリンが好きな方、スイマセン、何故か二人がヤンデレ風味に…最後のこれは此処までするつもりは無かったんですがフェイトフラグ成立の前段階にテンションが上がりすぎてしまってこんな感じに…

まあ、これでフェイトフラグを立てられるようにはなりましたね。微妙に立っている感じはしますが、フェイトが自覚していないので私としてはまだ立っていないと主張したい!

ちなみに志貴が所属する部隊は本編では描写されていなかった部隊で、完全にオリジナルです。

そして志貴が卒業してくれたおかげで漸く自由に動かせます。中間期に入ってからどれだけかかっているんだよと言うツッコミは無しの方向でお願いします…私自身此処まで長くなるとは思わなかったんです…
私の気分的にはやっと此処で折り返しなんで、中間期にもう暫くお付き合い下さい。ゆる~く進んでいた物語が少しは締まり始めると思いますので…
とりあえずは今まで溜めに溜めた伏線やらフリを消費し始める予定ではあります。まあ、フリとは言え固有結界は未定のまま進めているんですが…
本編を進めつつ、感想で頂いたネタに浮気しつつ、マイペースで完結まで書いていこうと思いますので、見捨てないでもらえると嬉しいです。

5/24 微修正



[4594] 中間期 第十四話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/05/16 14:57


 第14話 …の様なバレバレの伏線用の閑話

 どこかの暗い部屋の中で白衣のようなものを着た何人かの男達が会話をしていた。

 「おい、詳しい日程はよく分からないが、一週間以内に此処に管理局の強制監査が入るらしいぜ。」
 「ああ、昨日、○○○○○からそんな連絡があったな。遅くとも三日以内にヤバイ資料やあいつらと繋がりを示すものは消去しておけとのお達しだ。最低限、ばれても構わないものは置いておかないと怪しまれるからその選定もしないとな。」
 「全部消すだけなら問題ないんだろうけど…此処も管理局の施設だし、監査のために踏み込んだらデータがゼロでした。なんてことになったら犯罪者に内通している疑いがかけられる可能性もある、か。」
 「まあ、ヤバイ資料は消しとくわけだし、俺達は犯罪者に襲われて監禁されていることになるんだ。奴らが来るまでに何とかすれば管理局の法では俺達を裁くところまではいかないさ。」
 「確かにな、捕まっても少しの更正期間を耐えれば再就職まで斡旋してくれるんだ。管理局様々だな。」

 なにやら怪しい会話を繰り広げる男達。だが、そんな中に異質な存在が現れた。

 「やれやれ、どいつもこいつも腐ってるねぇ、どうも。」

 暢気な口調と共に今までどこにいたのか男達のすぐ傍に現れる地球で言う忍び装束に黒頭巾で蒼く輝く片眼だけを露出させた全身黒尽くめの男。
 部屋で話をしていた男達は自分達が気付かなかったことは兎も角、警報装置すら鳴らなかったことに白衣の男達は驚き、同時に声を荒げる。

 「な、何者だ! どうやって此処まで入ってきた!」
 「馬鹿な!? あいつらが此処を襲撃することになっている日までにはまだ時間があったはずだ!」
 「俺が何者か、どうやってここまで入ってきたのかなんて些細なことさ。アンタ等が言っているあいつらが誰なのか俺は知らないし、アンタ等が俺のことを知る必要も意味も無い。
 それに俺は長話が得意じゃない上に、そもそも話すことそのものが好きではないのでな、さっさと仕事を始めさせてもらおうか。クロウ。」
 『了解です。』

 黒尽くめが誰かの名前を呼ぶと右手に短刀が現れた。言葉を話したところを見る限りこの短刀はデバイスであり、尚且つクロウと呼ばれた存在であろう事は見て取れた。
 だが、男達はそんな暢気な黒尽くめ達の言葉に何を始めるのかと聞くことは出来なかった。黒尽くめの姿がぶれ、男達の間を通り抜けていく。
 部屋が暗く、魔法を使うときには必ず漏れるであろう魔力光が無い上、相手の服装が黒だったこともあり一瞬姿を見失いそうになったが、黒頭巾から覗く蒼い眼光が筋のように流れたため完全に見失うことは避けることが出来た。
 …一人の例外を除いて。

 「ぐあぁ!!」
 「なっ…どうした!?」
 「目…目が…」

 すぐ近くで顔を押さえて蹲る男に対して別の男が声をかける。そんな男達を見ながら黒尽くめは嘲る様に言葉を投げつける。

 「指で少し目を小突いただけで喚くなよ、情けない。別にこの世界の技術力ならば失明することも無いだろうに。」
 「き、貴様! こんなことをすればどうなるか…」

 黒尽くめに向かって啖呵を切ろうとした男も、次の黒尽くめの動きで黙らされることになる。
 一瞬で近付かれたと思ったら次の瞬間、視界から黒尽くめの姿が消える。

 -閃走 六兎-

 蹴り足に赤黒い光を纏わせ男の懐に潜り込んだ状態からまっすぐに男の顎に向かって吸い込まれる足。
 鈍い音を響かせながら男は蹴り上げられ、そのまま地面に力なく叩きつけられた。

 「…脆いな…まあ、もとより壊れやすいもの、か。さて、逃げるなら…いや、もう遅いか…」

 そこから先は一方的な虐殺だった。目を潰し、喉を潰し…色々な方法で無力化されていく男達だが、共通しているのは全員手足の骨を砕かれ、その状況で尚生きているということだ。

 「運が良かったなぁ、あんたら。大凶に当たるなんて選ばれた人間の証だよ。」

 最早その場に黒尽くめの言葉が聞こえている人間はいなかった。誰も彼も意識を失っており、目立った出血なども見られない。放置していても丸一日は死ぬことは無いだろう。
 まあ、それだけの時間放置されれば下手をすれば砕けた手足は繋がることなく切断せざるを得ないかもしれないがそんなことは黒尽くめの知ったことではない。
 そして死屍累々といった状態で転がるそれらを見て黒尽くめは肩を竦めた。

 「今までは普通に手加減していただけで今回こういうやつら相手に初めて非殺傷設定使ってみたわけだが…これを俺が使うとこうなるのか…確かに死にはしないだろうが…むしろこれは殺してやった方が救いがあるんじゃないのか?」
 『普通は死ぬような攻撃を非殺傷設定と言うクッションを挟んだだけで結局手加減はしていませんでしたからね。
 とは言え、最初に首を蹴り上げた人とか喉を潰した人とかは非殺傷設定に関係なく首の骨にダメージがあって普通に死にそうですが…』
 「まあ、致命傷だけ(・・)は与えてないわけだし…いつも通りだろ。」
 『いつも通りですねぇ。』

 ほのぼのした会話をしている黒尽くめとクロウだが周囲が死屍累々となっている殺伐とした空間なためこの二人の醸し出す雰囲気はミスマッチなことこの上ない。
 黒尽くめは一息つくとデータが入っているであろう機器の方へと向かい、コンピューターを起動させ、中身を覗き始めた。

 「さて、此処はどうだ?」
 『…戦闘機人のパーツの一部を作っていますね。色々なものを作ってカモフラージュしているようですが、微妙に浮いているものがあります。
 更にどこからかは分かりませんが思考能力の無いクローン体をいくつか送られていたようでパーツとの適合性を見る人体実験のデータもいくつかありますね。』

 黒尽くめはクロウにその施設にあるコンピューターにハッキングをかけさせて情報を吸い出していく。中には洒落にならない内容が含まれており、此処が普通の施設ではないことを示していた。

 「クロウ、データは監視カメラの映像データだけ残してあとは完全に消去しておけよ。どうせ残しておいてもこの惨状だから嵌められたとか言い張られるとそれを否定する証拠は無いから意味は無い。雇い主に直接データを渡せればいい。」
 『はいはい、こっちもいつも通りですね。でも、毎回疑問なんですが、何で他のデータを完全に消去しているのにこの監視カメラの映像データだけは修復が可能な程度に軽く壊すだけで残すんですか?』
 「俺の外見を残すためだ。それしか残っていないのだから、手がかりはそれだけ。加えて黒尽くめだから手がかりはこの蒼い眼だけだ。結局は俺のところまで辿り着けんよ。
 万が一のために変身魔法の応用で声と魔力の色は変えているしな。只残すだけじゃないのはある程度壊していないと逆に疑われかねないからだ。」

 会話をしながらも作業を止めることはなく、やがて完了した合図なのかデバイスコアが輝く。

 「ん、終わったか。この仕事を始めてから一ヶ月で作業が早くなったな。」
 『…たった一ヶ月しか付き合っていないとは言っても、もう四回目ですから。平均すれば週一回のペースで襲撃なんてしていれば私だっていい加減慣れます。』

 疲れたように言うクロウに黒尽くめはおかしそうに笑うだけだ。それを聞いて微妙に諦めたようにクロウが声のトーンを落とした。

 『まったく…こうしょっちゅう動いているのに何で管理局は未だに私達を捕まえようっていう動きを見せないんですかねぇ…』
 「組織なんてそんなものだろう。上の方が下のやつらに動くように命令を出すまでには時間がかかる上に上の連中がもみ消して内々に処理する可能性も無いわけじゃない。
 まあ、微妙に証拠は残しているわけだし、もみ消すのも限界だろう。多分だが、そろそろ本格的に動き出すんじゃないか? 犯行完了メッセージも置いているわけだしな。」

 こんな風にと言いながら黒尽くめは短刀を持ってなるべく広く見える壁の方へと向かう。
 クロウは最早いつものことだと諦めたのかため息すら吐かずに黒尽くめの行動に従っている。とは言え微妙に空気が重いのは隠せていないが…
 黒尽くめが壁の前まで来るとゆっくりと短刀を構えた。

 「…フッ!」

 黒尽くめの短刀を持った右腕がぶれ、いくつもの斬撃音と共に壁に傷が出来ていく。
 一分もしないうちに黒尽くめは構えを解いた。表情は見えないが眼を見る限り満足したのだろう。自身がつけた壁の傷を満足そうに見ていた。

 「よし、流石に強制監査前の管理局の施設が襲われるなんて出来事が三回も続けば次の監査場所である此処のことを感付くまでそうかからないだろう。多分明日明後日には管理局も此処に踏み込むぞ。」
 『分かってやっている貴方を呆れればいいのか分かって付き合っている私に嘆けばいいのか判断に苦しみますね…』

 そう言った後黒尽くめは振り返り出口を目指す。
 だが、少し嬉しそうな声を出している黒尽くめとは対照的にクロウは嫌そうな声だ。

 「気にするな。今までは普通に襲撃したがこれからはばれない様な布石も打つ。とは言え、お前を表に出せないのが心苦しいがな…」
 『気にしないで下さい。先程も言ったように全て分かって付き合っているのですから。貴方の闇は私がちゃんと受け止めます。』

 クロウの台詞に黒尽くめは表情はわからないのに苦笑したように見えた。

 「分かった、これからは気にしないことにしよう。…だからこれが最後の謝罪だ。悪いな…そして、ありがとう、クロウ。」
 『か、感謝も結構です! 私はそのために生まれて貴方のために力を貸すだけですから! …貴方がそんなことを言うなんて…明日は血の雨でも…いえ、貴方が貴方でいる時はいつも降らせていましたね…』
 「ククッ、それは酷いな。これでもかなり自重しているのだが。」
 『襲撃するたびに発生する誰一人見逃さない死屍累々模様を見てそれを信じろと? それならば管理局が完全無欠の善人集団だと言われた方がまだ説得力がありますよ。』

 漫才を繰り広げながら施設から出て行く二人(?)。その後に残された施設は黒尽くめの予想通り翌日には管理局員が踏み込んだ。
 そのときに局員が見たものは手足の骨を悉く砕かれ、目か喉のどちらかを潰されて意識は失っているものの、かろうじて生存している研究者達と壁に残された不自然な傷痕。
 その傷痕は大きな蜘蛛のような形を象っており、その下には同じように傷をつけて書いたのであろう文字が見られた。

 【吾ハ面影糸ヲ巣ト張ル蜘蛛 吾ガ巣糸ニ捕ラワレシ魂ハ 毒々シク輝キヲ放チ 極彩ト散ル】

 刃物で付けられたような傷によって出来た文字であるために読みにくいものである上、第97管理外世界、地球の日本語で書かれていたためその場で解読できるものはいなかった。


あとがき

謎の黒尽くめ登場(爆)。いやあ、バレバレだなぁ…
謎のデバイスも登場(爆)。こっちもバレバレだなぁ…
こいつらの後ろにいるのは…!? こっちはバレて無いと思うけど…

最初の頃はデバイスはアームドデバイスで自我は持たせないつもりだったのですが、何故か超微妙なツンデレ風味になって登場させてしまいました。
まあ、バレバレではあっても正体は隠したまま進みます。

とりあえず声を変えているという謎の黒尽くめ(爆)のイメージcvは福山潤さん。ただし、別に世界に反逆しようなんて考えてはいません。
次に、謎のデバイスのイメージcvは釘m…いえ、冗談です、スイマセン…本気でツンデレにしようとは思っていません。
まあ、釘宮さんが声をあてているのはツンデレだけではないのですが、作者のイメージ的にはあのお人の声はツンデレボイスなので…それにアリサと同じ声にしちゃうと後々激しく黒くなる方々がかなりの数出て来ちゃうので…

…仕切りなおして、クロウのイメージcvとして考えているのは浅川悠さんです。少しお姉さんっぽいイメージで。
そして、最初に愛称で出してしまった以上ここから先にクロウの正式名称が出て来そうに無いので一応此処で名前だけ紹介。
正式にはクロウ・クルワッハです。分かる人には分かると思われるこの名前。少しも捻ってません。調べたらすぐに出てきます。

とりあえず、中間期で一番書きたいことが書けて、これから事態が今までより大きく動き始めたのですが、まだまだStSにはいきません。なるべくまとめられるようにはしたいと思っていますが、前回も書いたように確実にA’sより長くなります。

次は閑話を終了して日常のようなそうでないような本編を進めます。
それではまた次回に。



[4594] 中間期 第十五話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/10/19 17:50


 第15話 噂…

 志貴が士官学校を卒業してから半年、志貴は本当に久しぶりに休暇が重なった幼馴染達と街に出てきていた。
 とは言え、志貴よりも長くミッドに住んでいるくせに志貴よりもミッドの店について知らない三人娘に志貴は呆れたような表情をしていた。

 「おい、お前達は本当に俺より長くミッドに住んでいるのか? いや、日常品やらデパートやら実用的な場所に関しては確かにお前達の方が詳しかったんだが、こう…喫茶店とか、嗜好的な店に関してなら俺のほうが詳しいって言うのはお前ら…何と言うか…女としてどう思うよ?」
 「「うう…」」
 「し、仕方ないやんかぁ…仕事とか試験のための勉強とかで急がしいんやから…」

 頼んだコーヒーの前で小さくなる三人。はやては弱気ながらも言い返そうとしたが、志貴は冷めた目ではやてを見て言った。

 「いつも休日は何をしているんだ?」
 「うっ…その…勉強とか、あまった仕事の後片付けとか…」
 「…………まあいい。
 で、今日呼び出したのはどうしてだ?」
 「スルーかい…」

 志貴のツッコミに更に弱気になるはやてだが、志貴が流したので思わずツッコんでしまう。隣にいる二人も微妙に不満そうな目で志貴を見る。
 それを見て志貴は呆れたように答える。

 「なんだ、何か言って欲しかったのか?」
 「「「う…」」」

 志貴の視線に三人はたじろぐが、それでも志貴から目を逸らさない。それを見て志貴は小さくため息をついて言った。

 「仕事中毒なのは…まあ、良くはないがまあいいだろう。だが、女を捨てるにはまだ早すぎないか?」
 「「「なっ!?」」」

 志貴の一言に三人は絶句。今回呼び出した話の本題も忘れて志貴に詰め寄る。

 「志貴君! それはかなり酷いんじゃないかなぁ!?」
 「そうや! なのはちゃんの言うとおりや! それに私はなのはちゃんみたいに仕事中毒とちゃうもん!」
 「…え? はやてちゃん?」
 「そ、そうだよ! なのはみたいに無茶とかしてないし!」
 「フェイトちゃんまで!?」
 「いや、なのはが一番無茶をするのは今までのことを考えると当然として「当然なの!?」…当然として、お前達も五十歩百歩と言うかどんぐりの背比べと言うか…」

 三人で志貴を責めていたはずなのにいつの間にか自分一人が孤立していることに気付き絶望しているなのは。
 影を背負って端のほうに移動していくなのはに志貴以外は気付かず、そのまま志貴を締め上げん勢いで詰め寄る。

 「訂正してや! 私はちゃんと有給も消化しとるし、家の皆と過ごすことも結構あるもん!」
 「わ、私だって母さんとかクロノ、エイミィと食事したりするし…」
 「待て。」

 微妙に聞き逃せない単語が聞こえたので志貴はとりあえず二人の追及を止める。それを少し怪訝に思った二人は一応志貴の言葉に耳を傾けることにした。

 「まあ、普段、お前達の休日が休日になっていない分は有給を取って少しでも休んでいるのはとりあえずだが納得しよう。だがはやて、そこで影を背負って落ち込んでる奴はそれすら取ってないのか?」
 「へ? な、なのはちゃん!?」
 「え? な、なのは!?」
 「いいんだ…私なんて…私なんて…」

 いい感じで暗黒面に堕ちかけている高町家のなのはさん。本気で気付いていなかった親友二人は必死に慰めようとしているが、効き目は薄い。
 なんだかグダグダになってきたのでいい加減に帰りたくなってきた志貴だが、呼び出された用件を聞かないまま帰ってしまうのもどうかと思ったので方向修正に入る。

 「話の爆弾を放り込んだ俺が言うのもなんだがいい加減本題に入らないか? こんな話をするために呼び出したわけじゃないだろう?」
 「そ、それはそうなんやけど…」
 「なのは! なのはっ!」
 「確かに私はお休みも殆どとってないし、学校と局の往復みたいな生活だけど、女を捨ててるまで言われるし…まだ中学生なのに…」
 「…とりあえずなのはをどうにかするのが先決か…」
 「勢いとは言え私やフェイトちゃんも止めさしたからなぁ…」

 必死に呼びかけるフェイトとレイプ目になって影を背負っているなのは。そしてそれを半分諦めつつ眺める志貴とはやて。ぶっちゃけカオスなフィールドが昼間の喫茶店の一席に形成されていた。

 三十分後、どうにか復活したなのはを交え、漸く本題に入ることになった。

 「えっと…色々遠回りしたけど、とりあえず今回皆を呼んだのは他でもない…ちょっとした相談みたいなものや。」
 「相談?」
 「うん、最近になって私も少しずつ階級上がってきたおかげか色んな事件の資料を見せてもらえるようになったんやけどね、その事件のうちの一つに犯人が私らと同じ地球出身と思われるやつがあるねん。」
 「あ、それ私のところにも事情聴取みたいな感じで質問しに来たよ。
 でも、カタカナと漢字を知ってるだけならミッドチルダの人でも何人もいるし、実質犯人が残したメッセージの翻訳が間違ってないかの確認程度だったの。」
 「確か…【吾ハ面影糸ヲ巣ト張ル蜘蛛 吾ガ巣糸ニ捕ラワレシ魂ハ 毒々シク輝キヲ放チ 極彩ト散ル】だったっけ? 意味はよく分からないけど。
 その犯人ってバリアジャケットが顔まで覆った黒尽くめだったことと蒼い眼をしていたってことくらいしか分かってないみたいだけど…」

 はやての言葉に対して関連していると思われることを思い出すなのはとフェイト。志貴はそんな三人を見ながら考え込むように腕を組んで俯いている。
 はやてはなのはとフェイトの意見に頷きつつ話を続ける。

 「そや。それがこの世界のあっちこっちの研究所で傷害事件を起こしとるから管轄は陸士、しかも私がこの犯人と同じ地球出身やからって言うことで、私が個人的にお世話になっとるナカジマ三佐のいる108とそれに志貴君が今所属しとる106の二つの陸士部隊がこの事件に当たることになったんや。」
 「は? 俺は聞いてないぞ?」

 はやての言葉の中に思いがけない内容があり、声を上げる志貴。だが、はやてはそんな志貴に対して涼しい顔で答える。

 「そらそうや、この決定だって昨日決まったばかりやもん。知っとるのはそれぞれの部隊長、副隊長クラスと直接この話を持ってこられた私くらいやろ。
 まあ、明日か明後日あたりに正式に通達されるんとちゃう?」

 志貴の驚いた顔を見てはやてはしてやったりといわんばかりの表情で言い返す。そしてなのはとフェイトに向かって話し始めた。

 「まあ、それはそれとしてや。この事件の犯人…暫定的に蜘蛛って呼ばれとるけど、この蜘蛛はどうやってかは知らんけど管理局の情報を手に入れとるらしい。
 今まで被害を受けた六つの施設はいずれもきな臭い噂があって強制監査が入る予定の場所やったんよ。」
 「それが偶然ってことは?」

 なのはの質問にはやてはゆっくりと首を振る。

 「勿論百パーやないけどその線はほぼ無いと考えてくれてええ。管理局に反抗しよう思っとるんやったらもっと大きなところに仕掛けとるやろうし、単独犯やから大きい所に手を出せんのやったら、今まで被害を受けた施設の規模が大きすぎる。」

 はやての言葉を無言で聞いていた志貴だが、ここで口を挟む。

 「それで、相談と言うのは? 情報を渡すだけならここに呼び出さなくても問題ないだろう?」
 「ああ、そうやった。まあ、その蜘蛛が管理局の情報をどうにかして手に入れとると仮定して網を張ることにしたらしいんや。
 一ヵ月後にある施設に監査に入るっていう情報を流すんやけど、そん時にもし手が空いとったら手伝いに来てくれへんかな? あ、勿論強制やないで。」
 (話していないとは言え俺対策の部隊に自分自身が行くことになるとはね…命令だというなら抜けるわけにもいかないし、少し予定より早いが一応保険としてアレを使っておくか…)

 はやての台詞に志貴は内心で複雑な気持ちになり、なのはとフェイトはその辺りの自身の予定を思い出していた。
 少し考えて、二人はそれぞれ答えを口にする。

 「私はちょっと無理かも…丁度その辺りに教導隊の任務があるから…入ったばかりで任務を休む訳にもいかないし。」
 「私は大丈夫かな。丁度次の任務が決まるまでは時間が空いてるし、有給も溜まってるし…」
 「ちょっと待てフェイト。お前また有給溜めてたのか? 前に俺と模擬戦をしたときも溜まっていた有給をやっととってくれたって人事部の人たちが涙を流していただろうが。」
 「えっと…そうだったっけ?」

 フェイトの台詞に思わず声を上げる志貴と、その言葉に本気で首を傾げるフェイト。事実として、志貴はあの模擬戦の後暇をもてあましていた所、その場面を目撃しただけであってフェイト自身は全く知らないことではあるのだが。

 「あれ? フェイトちゃんも溜まってるの?」
 「私もってなのはも?」

 思わず顔を見合わせた二人だが、その横では志貴とはやてが二人に聞こえないように話をしていた。

 「こいつらはこんな感じだが、お前は?」
 「私は家族サービスのために、皆の休みが重ならなかった時には皆と話し合って休みを合わせるようにしてとってるからそんなには溜まってはないよ?」
 「ということはこいつらが単に仕事が恋人なだけというわけか…」
 「志貴君、それは少し酷いと思うんだけど!?」

 あまりの言い草に思わず声を上げるなのは。その横でフェイトもコクコクと頷いているが、志貴はそんな二人の態度を見ても呆れたような視線を向けることはやめずに更に続ける。

 「そう言われたくないのなら自身の行動を見直せ。お前らが働きすぎて文句を言われるのはお前達自身の前に人事部の連中なんだ。」
 「うぅ…それは…」

 過去、そういうことで文句を言われたことがあるのか強く出られないなのは。
 小さくなったなのはを前に志貴はさらに言葉を続ける。

 「まったく…特になのはは以前も無理をして墜ちたんだから少しはのんびりすることも…っと、また本題から外れてきたな…まあ、こいつらへの説教は別に俺がする必要も無いか。
 はやて、とりあえず予定はフェイトは来られるが、なのはは無理、ということになったんだが、詳しい話は後でこっちの部隊長に聞くことにして、なんで今俺がいるここでその話を持ち出したのか聞いてもいいか?」
 「そうやね。本音としてはこの四人で小隊を作って事に当たりたいって思うとったんやけど…なのはちゃんが無理みたいやし、もう一個のほうの話をしとこうか。
 私な、自分の部隊を持ちたいねん。まだまだ先のことになるとは思うんやけど、そのときになったら三人とも私に力を貸してくれへん?」

 前半の言葉になのはは申し訳無さそうな顔をしたが、続く言葉に目を丸くした。それは他の二人も同様で、はやての顔をマジマジと見ている。
 そんな三人の顔を見てはやては思わず噴出した。そのままいきなり笑い出したはやてに戸惑う三人を尻目にはやてはしばらく笑い続け、少し落ち着くと息を切らしながら話しはじめる。

 「はぁ…はぁ…あぁ、思いっきり笑かしてもらったわ。なのはちゃんやフェイトちゃんは兎も角、志貴君の呆けた顔が見られるとは思ってなかったし。」

 その言葉を聞いてなのはとフェイトは顔を赤く染め、志貴は眉を顰めてそっぽを向くが、志貴も顔が少し赤くなっているのではやてのニヤニヤは収まらない。

 「ま、珍しいもんも見れたし、とりあえず本題な。さっきも言うたけど、私は将来自分の部隊を持つことが夢や。
 勿論今すぐやないし、嫌やったら断ってもらっても構わへん。だけど、古代ベルカ式とミッド式に適正がある上に全員が魔導師ランクA以上のヴォルケンリッターまで従えている夜天の主っていうことで私自身が管理局では凄く浮いとる。その上、今は一部やけど、歩くロストロギアって言うあだ名まで付けられとるし、私を良く思ってない人間が結構多い。
 せやから、もしそのときが来たら私に力を貸して欲しいんや。」

 はやての台詞に真剣に耳を傾けていた三人だが、はやての言葉が終わると同時になのはとフェイトは笑顔になって肯いた。

 「勿論だよ、はやてちゃん。親友が困っていたら助けるのは当然なの。」
 「そうだよはやて。そのときになったら絶対力になるよ。」

 二人の力強い言葉に安心したようにため息を吐くはやて。その中ではやてが話している間と変わらず言葉を発さずに穏やかな表情で三人を見守るようにしていた志貴に三人の視線は向く。

 「志貴君はどうなん?」
 「ん? まあ、俺自身お前達を助けるために管理局に入ったわけだから力を貸すのは吝かではないぞ。まあ、放っておいてもはやての手助けならエスリンから言い出しそうではあったがな。
 あいつも時間が取れれば今回の蜘蛛を罠にはめる作戦にも参加するだろうし、今後も協力はするだろう。
 まあ、今はここにいないが多分すずかも同じ気持ちだろうとは思う。今いないからといってそのときにはすずかに話をしておけよ?」

 志貴の言葉を力を貸してくれるという意味で解釈して笑顔になるフェイトとなのはだが、はやては微妙な顔をしたままだ。

 「む~、なんかエスリンやすずかちゃんが手伝うから志貴君も手伝う、みたいな言い方やね。」
 「そんなつもりは無かったんだが…とはいえ、俺もお前達ほど魔力が無いから出世は早くないだろうが、一応士官学校を出た身だ。ある程度まで出世するとそっちの部隊に所属するわけには行かなくなるぞ。
 とは言え、そのときに俺がどの程度の立ち位置にいるかが問題ではあるがな。」
 「あ~、そうだったね。志貴は私やなのはみたいに短期じゃ無かった上に最初から上級官職に行くための勉強もしているわけだし…」
 「はやてちゃんでも後から勉強してるくらいだから、もしかしたらこの中で一番短い期間で部隊を率いるくらい高い階級にいけちゃうかもね。」

 はやての拗ねたような声に対して志貴は苦笑しながら答え、フェイトとなのはは微妙な表情になりながら納得したような声を出した。

 「流石にお前達より早くは無理だろう。ある程度まで上に行ったら魔力量がネックになって打ち止めになるだろ。」
 「そういうわけでもないんじゃない? 魔力を持って無くても階級が高い局員もいるし。」
 「そうやね。地上のレジアスって言う将校も魔力は持ってないけど地上本部の重鎮やし。」
 「…俺にデスクワークで上に行けと? それこそ似合わないだろ。」
 「「「…………プッ」」」
 「おいコラ、何を想像した。」

 何かを考えるように上を向いた後、すぐに噴出した三人を見て志貴はジト目になりながら問い詰めるも三人は笑うだけで答えない。
 三人はひとしきり笑った後、志貴を含めた四人はさっきまでのシリアスな雰囲気をどこかにおいてきたように再び談笑し始める。

 「あはは、今日はよく笑う日やなぁ。」
 「今日に限ってはお前だけだ。ま、答える気は無さそうだから今回は見逃すが、次は無いぞ。」
 「…プフッ(い、言えへん…恰幅が良くなった志貴君を想像したなんて…)」
 「オイ」

 舌の根も乾かないうちにまた噴出すはやてを見て志貴はまたジト目になる。
 周りを見るとなのはとフェイトも口元を押さえて顔を背けながら肩を震わせている。声を漏らさないだけ頑張っているのだろうが、笑われている志貴にとってはどちらでも関係ない。音もなく顔を背けている二人に向かうと笑顔でフェイトの肩に手を置く。

 「ヒウッ!? 志、志貴…?」
 「何を想像していたか教えてくれないか?」
 「え、えっと…」

 肩に手を置かれたフェイトは志貴の顔が近いことに顔を赤くしつつ、その声に若干の怒気が混じっていることに気付いて先ほどとは違う意味で体を震わせていた。
 それを見て少しずつ後ずさるなのはだが…

 「どこに行くんだ、なのは?」

 志貴の一言で直立して硬直するなのは。そこで二人は逃げ場がないことに気付き、慌てて言い訳をし始める。

 「ち、違うんだよ志貴!」
 「そ、そうなの! 偉くなってレジアス少将みたいに太った志貴君なんて想像してないの!」
 「ちょ、なのは!?」
 「あ…」
 「ほぉう…」

 なのはの思わず零した一言に志貴の笑みが深くなる。フェイトはなのはを嗜めようとするが、一度こぼれてしまった言葉はもう飲み込めない。志貴はゆっくりとなのはの方に向くと右手をなのはの頭に置いた。

 「えっとね…これは違うんだよ?」
 「うん、色々言いたいことはあるだろうけど、今は置いておこう。」
 「て、天然発言はフェイトちゃんの役目のはずなのにぃ!」
 「…アンコールは無しだ。潔く眠れ。」
 「にゃああぁぁぁ!」

 志貴の手の中でなのはの頭蓋骨が嫌な音を立てたのを聞いたと同時になのはの意識が落ちた。それを見て冷や汗をかくフェイトとはやてだが、志貴の目が二人の方に向くと同時に呼び止められた時のなのはと同じように硬直した。

 「逃げるなら…いや、もう遅いか…」
 「志、志貴? ここは色んな人の目があるから…」
 「フェイトちゃん…こんな所でも勘違いさせかねない台詞は流石や。
 って志貴君!? 冗談、じょぉ~だんやて! だからその笑ってない目を向けるのはやめて!?」
 「奈落より這い山河を越え大路にて判を下す。ヤマの文帖によるとお前達の死は確定らしい。」
 「死亡確定宣告!?」

 その日、本来は穏やかなはずの昼下がりに少女達の悲鳴が響き渡った。


あとがき

一ヶ月以上の放置、申し訳ございません。その間もPVは増え続けている辺り、私の作品を読んで頂けている実感が出て本当に嬉しかったのですが、いかんせんパソコンが突然ご臨終したり、そのせいで今まで書いていたデータが吹っ飛んだり…あれ…涙が…
とりあえず今までの自分の文を読み直してイメージがずれないようにはしているのですが、かなり無理のあるないようになっているかもしれません。
ツッコミは甘んじて受ける覚悟です。

それにしても日常シーンをシリアスで締めることができないなぁ…

部隊については、はやてが108に世話になっていた時期が分からない上、104に関しても空港火災の時に指揮官研修中だということが分かっただけで期間もはっきりしなかったので104は今回は無かった事にしました。
108もこの段階で知り合っているかどうかは分からなかったのですが、106単独だとオリキャラばかりになって収拾を付けられなくなりそうだったので…まあ、出たとしても中間期だけのモブキャラになるでしょうが…

さて、次は管理局員志貴の視点で書くか、それとも黒尽くめ視点で書こうか…既に中間期のプロットは役に立たなくなりつつあるので書き進めるのに時間がかかりそうだなぁ…でもStSに矛盾を持っていけるはずもないし…
StSのプロットまで崩壊しないように中間期は慎重にならざるを得なくなってきたので更新は亀更新になりそうです。
楽しみにしていただいている読者の方々には迷惑をかけるかもしれませんが、絶対に完結はさせます。それではまた次の更新で会いましょう。

10/19 修正



[4594] 中間期 第十六話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/10/22 18:02


 第16話 激突、黒尽くめと陸士部隊!?

 「さて、管理局が待ち伏せしていたから引き返したとなるとこれから先、舐められるかそれとも内部犯を疑われて動きにくくなるだろうと思って来てみたはいいが…」
 『まさに蟻の子一匹通さないといった様式ですね、ご主人様。』

 森に覆われた、いかにも後ろめたいことがありますといわんばかりの怪しい場所に作られた施設、その周辺を管理局の制服を着た人間が囲み、人員が配置されていない所にはサーチャーが展開され、まさにクロウが言ったとおり誰も通さず、誰も逃がさないといった様相を晒している。

 『それで、どうします?』
 「言うまでも無い。機械やサーチャーは誤魔化しにくいが、人間の目なんて単純なものだからな。サーチャーの反応が一番薄いところを気配を消して堂々と突破するさ。
 幸い、破らなければいけない囲みは森の中に展開されているからな。その中で気配を消した俺を補足するなんてそれこそ俺が今回置いた保険くらいだ。
 とりあえず、いつも通り頼むぞ、クロウ。」
 『分かりました。任せてください、ご主人様。』

 右眼を覗かせるだけで他は全て隠れた頭巾のせいで全貌を見ることはかなわないが、クロウの返答を聞いて一瞬雰囲気を和らげると黒尽くめはその場から姿を消した。

 数十分後、黒尽くめは誰にも見つかることなく施設への侵入を果たしていた。

 『…ご主人様、実際に見つからなかったことはいいことなのでしょうし、色々やっている私が心配するのはお門違いかもしれませんが、これだけ簡単に進入を許してしまうというのは組織の部隊としてどうなんでしょう…?』
 「それは今更だろう。確かに進入している俺達が言う言葉じゃないし、こういう言い方はしたくは無いが管理局の連中は基本的に魔法を絶対視しすぎているきらいがあるからな。これくらいやった方が後々良い方に進むんじゃないのか?」

 施設に侵入して既に大半の局員を気絶させている黒尽くめは本来の目標である中心部へと向かう。

 「(目標発見…クロウ)」
 『(はい………完了しました。いけますよ、ご主人様。)』

 途中、施設の研究者ではなく外にいる部隊と同じ制服を着た管理局員を発見する度に黒尽くめはそれらを無力化していく。
 無力化した数が十を越えた辺りで黒尽くめは目的の部屋に到着した。

 「(中には…一人? 他に気配が無いということは施設の全体に広く人員を配置したな。俺達を甘く見すぎだと思うが…)」
 『(ですが、恐らく中にいるのはフェイト・T・ハラオウン執務官でしょう。彼女のデバイスはインテリジェンスなので今までどおりには出来ませんし、高ランク魔導師なのでご主人様も大変ですよ?)』
 「(外なら兎も角この狭い空間で俺が負けるとでも? しかも相手は【俺】の戦いは初めて見るはずだぞ。)」
 『(失言でしたね。
 ですが、扉を開ければ気付かれますし、ここで機会を窺っても最初に昏倒させた魔導師が見つかったら面倒なことになりますよ?)』
 「…………」

 クロウの言葉に無言で返し、黒尽くめは扉の向かいの壁に対してクロウを振るう。
 音も無く何度か振るうと、その結果を見る前に扉の横で気配を消す。直後、クロウを振るわれた壁が手前にずれ、音を立てて倒れた。

 音を聞きつけたのか、中から金髪で黒いバリアジャケットを着た少女、フェイトが出てきた。
 少しの間周囲を警戒していたフェイトだったが、誰もいないことに戸惑い、警戒を少し解く。

 「誰も…いない? バルディッシュ、近くに生体反応は?」
 『中に一人。貴女と入れ替わりに入った男性がいますが…』
 「え…?」

 その言葉にフェイトは一瞬呆けるが、すぐに我に返って部屋の中に戻る。そこには、黒いバリアジャケットで全身を包んだ男がコンソールを操作している姿が見えた。

 「あなたは…」
 「む、思ったより遅かったな。もう少し早いかと思って急いでいたが…」

 フェイトが声を出すと同時に黒尽くめはコンソールを消しフェイトに唯一露出している右眼を向ける。

 「その姿…あなたが【蜘蛛】ですか?」
 「【蜘蛛】?」
 「…………あれ?」

 黒尽くめの反応にフェイトも首をかしげる。何と言うか本当に知らない様子なので戸惑ってしまう。

 (クク、こいつの反応は面白いな)
 《悪趣味ですよご主人様。確かに誰かに名乗ったわけではないのでその対応は間違ってはいませんが、毎回残している傷痕に【吾は面影糸を巣と張る蜘蛛】って書いてるじゃありませんか》

 「えっと、最近管理局の施設が襲撃されているんですが…あなたと同じ外見らしいんです。更に襲撃した後の施設の壁面に蜘蛛のような図形とそれを示すような言葉が刻まれているんですけど、何か知りませんか?」
 「ん…ああ、俺のことか。俺って【蜘蛛】って呼ばれているのか?」
 「っ!? やっぱりあなたのことなんですね! C級次元指名手配犯【蜘蛛】、管理局施設襲撃の罪で逮捕します。武装解除を。」
 「なにやらそちらは自己完結できたようだが、俺がその要望に応えると思うか?」
 「聞かないのであれば強制的にでも……え?」

 フェイトがそう言うと共に黒尽くめの姿が消える。フェイトが戸惑っているとバルディッシュから警告の声があがる。

 『左です!』
 「え…きゃぁ!?」

 その声にフェイトは咄嗟に反応できたが、完全にかわすことは出来なかった。

 「ふむ、反応は悪くない。が、半端に反応できる辺り余計なダメージを負うことになる。クロウ!」
 「その程度…バルディッシュ!」

 黒尽くめの声と同時に手にした短刀、クロウから赤黒い魔力球がフェイトに向かって奔る。フェイトはバルディッシュでその球を迎撃すると殆ど手応えを感じさせること無くその球は弾けた。
 それに違和感を感じながらもフェイトは黒尽くめに対して攻撃を仕掛ける。

 「プラズマランサー…ファイア!」

 撃ち出された魔力弾は黒尽くめに襲い掛かるが黒尽くめは大きく後退すると壁に背を預け、プラズマランサーが命中する直前に天井まで跳び上がって回避した。
 当然、プラズマランサーは壁に直撃してしまうが、フェイトは追撃の手を緩めず、すぐに黒尽くめに向かって飛び掛った。

 「このっ!」
 「無策に突っ込んできても……ん?」

 黒尽くめは空中でフェイトを迎撃しようとしていたが、すぐに違和感を感じ、壁を蹴って前方に身を投げ出し、突っ込んでくるフェイトの頭上を飛び越えた。
 その数瞬後黒尽くめがいたところを通過していく幾筋かの金色の閃光。黒尽くめはその正体を瞬時に把握する。
 その正体であるプラズマランサーはそのまま天井に突き刺さるがそれでも尚消えることなく、天井から抜けたあともその場に浮遊していた。

 「先ほどのアレか…誘導機能は兎も角、壁や天井に直撃させても消えないとはな…」
 「(直前まで気付いてなかったみたいだから絶対に当たったと思ったのに、あの反応…この人強い…でも、わざわざ壁を蹴って退避したって言うことは飛行魔法は使えないってことかな…ううん、思い込みは危険だ。)
 ターン…バルディシュ、プラズマランサーを維持したままフォトンランサー・ファランクスシフト。出来る?」
 『やって見せましょう』

 黒尽くめの軽口に付き合わずフェイトは心の中で黒尽くめの強さを痛感していた。自分が突っ込んで意識をこちらに向けさせた上に完全に死角である真下からの攻撃に対応した以上、不意をつくことは難しいと考え攻撃方法を変える。

 「おいおい、流石に地下でその威力の魔力弾をその数撃ったら危なくないか?(…成程、先ほどの不意打ち臭い攻撃が当たらなかったら物量攻撃か…その考えは理解できるが流石にこれ以上時間をかけると面倒だな…それに、さっきの布石もこの状況だと意味は無い、か)」

 フェイトの周囲に浮かぶ大量のスフィアと天井の方から自分の方を向いているプラズマランサーを見て冷や汗をかく黒尽くめ(とは言えその風貌のせいでフェイトに伝わることは無かったが)。

 「一応ですが、ここが崩れないギリギリの威力には絞ってあります。ですが、危ないのは確かですので最後にもう一度言います。武装を解除して投降してください。」
 「投降するのもそれを喰らうのも勘弁だな。
 クロウ!」
 『了解しました。』

 黒尽くめの言葉と共に撃ちだされる魔力弾、フェイトは一瞬それに対して警戒したが向かっているのが何もない地面だったので警戒を解いてしまった。
 そして対象に当たる音も魔力弾がはじける音もせずに静かに地面に沈んだのを見てフェイトは怪訝な顔になる。

 「何を…!?」

 言葉を発する瞬間、壁に亀裂が入る。

 「さて、少し急所を外したから崩れるまでは後十分といった所か…今のうちに逃げた方がいいんじゃないか?」
 「そんな…ですが、十分もの時間があればこの魔法で貴方を無力化するには十分です。ここが崩れても転移なり地上まで天井を撃ちぬくなりすれば…」
 「クク、俺はここに来るまでに見かけた局員には気絶してもらったからな、ここの崩落に巻き込まれれば命は無いぞ。その魔法がここの崩落に止めを刺すならば尚更な。」
 「なっ!? バルディッシュ!」
 『通信に反応なし。デバイスが破壊されているか、気絶しているかのどちらかと思われます。配置した場所に生命反応はありますが』

 黒尽くめの言葉に驚愕し、バルディッシュに確認を取るが、黒尽くめの言葉が正しいことが証明されただけ。焦っている所にエスリンからの念話が届く。

 『テスタロッサ! 先ほどの通信はどういうことだなど聞きたいことはあるが、いきなり建物が崩れ始めたのだが何が起こった!?』
 『エスリン?』

 目の前の黒尽くめのことに完全に意識が固定されていたせいで連絡を怠っていたフェイトにエスリンの念話が入ることで安堵の表情が浮かぶ。

 『sir…』
 「ゴメン、バルディッシュ後にして。」『今私の目の前に【蜘蛛】が居るの。【蜘蛛】が言うには後十分くらいでこの建物は崩壊するって…私達以外の皆は意識を失くしてるみたい…全員を転移させるのにどれくらいかかる?』
 『…全員の現在の座標と転移先の座標を固定させるためにおよそ五分。その間私は集中しなければいけないからそちらの応援には行けないぞ。』
 『充分! 皆をお願い!』

 念話を終えて意識を完全に黒尽くめのほうに向けようとしたフェイトだったが、黒尽くめの姿は無かった。

 「あれ? バルディッシュ、【蜘蛛】は?」
 『【蜘蛛】ならば先ほど貴女がエスリン殿と念話をし始めた瞬間に撤退しました。後にしてとのことでしたので一応魔力反応をトレースした後、待っていたのですが…』
 「それなら…」
 『既に魔力反応はロストしました。魔力を完全に隠蔽できる技能を持っている可能性がありますが、兎に角【蜘蛛】を逃がしてしまいました。』
 「そっか…なら私達も全力で撤退。【蜘蛛】の魔力は記録してる?」
 『はい。』
 「うん、それなら大丈夫。また次に会った時に捕まえよう。」

 バルディッシュの回答にフェイトはこれから【蜘蛛】に追いつくのは難しいと判断、撤退準備に入る。

 『はやて。』
 『フェイトちゃん! 大丈夫やった!?』
 『うん、でも【蜘蛛】は逃がしちゃった…』
 『…入るときも出るときも一切魔力反応は無い…か。今回は私達の完敗やね。』
 『でもバルディッシュが魔力の波長を記録してるから一応一歩前進だよ。あ、あと、十…ううん、考えてた時間を合わせると多分あと五、六分くらいでこの建物崩れるみたい。他の局員はエスリンが転移させてくれるみたいだし、私もこれから地上に戻るね。』

 そこまで話してフェイトは念話を切ると出口に向かう。
 その部屋から出たところでフェイトは目の前の壁に刻まれた蜘蛛の傷痕とメッセージを見つけた。

 【吾ハ昏キ夜ニ舞ウ蜘蛛 捕ラエルツモリナラバ覚悟セヨ】

 「ねえ、バルディッシュ…私、こんなに近くでこんなのが書かれてたのに気付かなかったんだね…」
 『私もあの部屋から【蜘蛛】が出た時点でロストしましたから気づきませんでした。』
 「次は捕まえないとね…」

 フェイトは覚悟を新たにし、外に向かった。

あとがき

まずはおよそ四ヶ月の更新停止、その上生存報告すらしなかったこと、本当に申し訳ありませんでした!

投稿している場所が学校の図書館なので全裸でジャンピング土下座は出来なかったものの、家で書いている間は延々と正座で書いていました。

今回、フェイト対蜘蛛だったのですが、途中で放った魔力弾も何もないまま終了…ちゃんと考えてはいたのですが、戦闘が長引いた場合、エスリンがやってきたり、局員の応援がやってきたり、蜘蛛を脱出させる手段が浮かばなくなりそうだったのでここで切りました。
まあ、一番の理由はここで戦闘を長引かせると要らないことまで喋らせてしまいそうだったせいなんですが…

そして一番悩んだのがエスリンのフェイトに対する呼び方。フェイトと呼ぶには若干違和感があり、テスタロッサではシグナムと被った時に面倒…ハラオウンならこの場面では違和感は少なかったのですが、知り合った時点ではまだフェイト・テスタロッサであったのでこっちの呼び名に慣れているというのには話の流れ的に違和感が…というわけでシグナムと被りますがテスタロッサと言うことで…StS辺りではフェイトと呼ばせておきたいですがね。

さて、今回の話で黒尽くめの名前が【蜘蛛】に固定されることになります。そこで質問です。【】はつけたままのほうがいいですか? 無くてもいいならば消しますが…



これまでの言い訳は前回の生存報告にある程度書いているので割愛します。最後にお待たせして本当に申し訳ありませんでした。



[4594] 中間期 第十七話
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/10/22 18:02


 第17話 16話…その裏(表?)で

 「フェイトちゃん、内部に突入する部隊の指揮お願いな。」
 「うん、はやてと志貴もこの施設の包囲頑張って。」

 前回の話し合いから早くも一ヶ月、かねてからの計画通り『強制監査を行う予定の研究所』と言う設定の施設を姿を潜めながら包囲している二つの部隊、その中ではやてとフェイトは外で包囲する部隊と突入部隊、それぞれの責任者と言うポジションについていた。
 正直、新参者にここまでのポジションを任せられるということに違和感を感じたはやてだったが、この任務を足がかりに出来れば夢に向かって大きく踏み出せるだろうということから意気込んでもいた。

 「志貴君も内部の観測頼むな。」
 「…了解。」
 「うう…志貴…」

 なにやらごちゃごちゃした機材の前ではやての言葉に苦笑しながら返事をした志貴。その横ではフェイトと同じく突入部隊になったエスリンが志貴と一緒にいられないことで拗ねたように唸っている。
 最初は広範囲に攻撃可能なエスリンがはやての補助をし、接近戦ではシグナムにも劣らない強さを誇る志貴がフェイトと共に施設に突入するということになっていたが、エスリンにとって志貴とフェイトが『一緒に』施設に突入することになることに嫉妬込みで反対し、編成の見直しを要求した。(二人きりかそうでないかはエスリンにとっては全く関係ないらしい。)
 話し合いの結果、士官学校を卒業した志貴は作戦指揮の勉強としてはやての補佐兼仕事の見学者と言うわけの分からないポジションにつくことになり、エスリンはフェイトと施設に突入することになった。

 「今回は宜しくね、エスリン。」
 「…ああ、志貴と同じ任務に就けるのに志貴と一緒に居られないのは残念だが、宜しく頼むテスタロッサ。」
 「今の間がエスリンの葛藤を表しとる感じやな。」
 「……」

 フェイトの声に一瞬の間をおいて答えるエスリンにツッコミを入れるはやて、沈黙を保つ志貴となかなかカオスな状況が展開していた。
 その直後、四人は周囲の目も考え気を引き締める。

 「さて、緊張も解れたと思うし、そろそろ行動に移ろうか。フェイト・T・ハラオウン執務官。」
 「うん…じゃなかった、はい、隊長。」

 仕事モードに入ったはやてに畏まって対応するフェイト。そこには先程までじゃれあっていた雰囲気は無い。

 「……」
 「……」
 「……堅っ苦しいな…」
 「……そうだね。」
 「……やめよか。」
 「…うん。」

 …無かったのだが、やはりこの二人は友人相手に硬い言葉を使うのは慣れないようだ。
 とは言え、まだ中学生。階級が違うとは言え同年代相手に敬語を使い続けるのは苦痛なのだろう。志貴とエスリンはそんな二人を見て苦笑している。

 「んじゃ改めて…フェイトちゃん。」
 「うん。」
 「大変だと思うけど小隊三つ率いて内部の警戒宜しく。エスリンもフェイトちゃんの補佐お願いな。」
 「うん、はやても包囲と外部警戒お願いね。」
 「了解です。」
 「志貴君は私と一緒に周囲の警戒。それと同時に色々やってもらうからそのつもりでな。」
 「…ああ、分かった。」

 即答するフェイトとエスリンとは対照的に志貴の反応はいまいちだ。そのことに関して三人は志貴を心配するが、志貴は心配ないと返すばかりだ。
 そうこうしているうちに包囲部隊は展開を終え、後はフェイト達内部警戒部隊が入るのを待つだけになり、その場での詰問は終了した。

 「志貴、あんまり無理しちゃ駄目だよ?」
 「ああ、以前の高町のようになって欲しくはないからな。」
 「フェイトty…にその心配をされるとは思わなかったな。それとエスリン、俺は大丈夫だよ。」

 はにかみながらも答える志貴に再び三人は怪訝そうな顔を向けるが、問答をするよりも何時【蜘蛛】がやってくるか分からないので質問は後回しにしてそれぞれの配置へと向かう。
 はやての副官として彼女の後を追う志貴は表情には出さないが、内心は冷や汗がダラダラだった。

 (く、七夜の奴…お前の真似なんて出来るわけ無いだろ。絶対にいつかぼろが出る…)

 どうやらここにいるのは七夜志貴本人ではないらしい。
 そのことに誰も気付かないまま、志貴の視界の端に動くものが見えた。

 (やっと動き出したか。部隊の展開が終わってから動く辺りいやらしい奴だな、相変わらず。
 っと、イタタ、あんまりもたないな、これは。)

 何かに耐えるような表情を一瞬で取り繕うと志貴ははやてに追いつくためにペースを上げた。


 志貴が配置される場所に着くなりはやての視線が志貴に注がれる。

 「何?」
 「いやぁ、今日の志貴君なんか違和感あるなぁって思って。」
 「気のせいだよ。それより警戒しなくていいの?」
 「周辺はサーチャーと隊員達で埋め尽くされとるし。流石にこの状況で見つからんゆうことはないやろ。」

 実際【蜘蛛】がこの包囲を抜けて施設に入っていることを知っている志貴から見れば苦笑を浮かべるしかない言い分である。
 とは言え、会話を続けるとやはりぼろが出ると思い、はやての言葉には苦笑することで返し視線をウィンドウに向ける。すると、そこには内部警戒部隊のメンバーから配置についたとの報告が丁度来た所だった。
 これから彼らは三十分ごとにこちらに定時報告をすることになっている。

 (七夜なら大体このタイミングで動き出すかな。次の定時報告まで三十分…どうなることか)
 「お、定時報告やね。私らも警戒しとかんとな…ここで【蜘蛛】を捕まえんと次にどれだけ被害が出るか分からん。」
 「あんまり気負いすぎないこと。これだけの人数が居るんだから。(我ながら白々しいなぁ…)」
 「ん、そうやね…でも、なんか嫌な予感が頭から離れんのや。」

 はやての言葉に志貴は鋭いと感じながらも特別何かを分かっているわけでも無さそうなので結局放置した。

 三十分後、定時報告が来ないことを告げるとほぼ同時にエスリンから報告が届く。

 『志貴、はやて! テスタロッサが【蜘蛛】と応戦中! 加えてこの建物が崩れ始めています! 他の隊員は気絶させられているようなので私がなんとか全員を捕捉、そちらに転移させたいと思うのでそちらの座標固定をお願いします!』
 「な…何時の間に【蜘蛛】は中に…? ってそれよりも、志貴君!」
 「ラファ、フォローお願い。エスリンから送られてきた座標…受け取った。後はエスリン自身の…」
 『オッケーです、マスター志貴。クラウさんの信号受け取りました。先に気絶してる局員達を転移させてからエスリンさんをこっちに転移させますね。』
 『はやて。』

 はやての指示を受け、志貴がラファのフォローを受けながら手元のコンソールを叩いているとフェイトからの連絡が入る。志貴はそのまま作業を進めるが、はやてはフェイトが無事でいてくれたことでホッとしたように話しかけた。

 「フェイトちゃん? 無事やったんやね。」
 『うん。でも【蜘蛛】には逃げられちゃった。まだこの建物内に居ると思うけど、外に出てたら宜しく。』
 「おっけーや。志貴君…は作業中やから…えっと…包囲している各部隊に告ぎます。【蜘蛛】は既に内部にいた模様。外に逃げてくるみたいやから、発見次第拘束してください。」

 はやての指示が終わると目の前に気絶した局員が積み重なった。

 「…志貴君、救護班に連絡を。私は【蜘蛛】を見かけ次第そっちに向かうから。」
 「はやてty…今回は指揮官なんだからあんまり軽々しく動かない。皆を信用しとこう。」
 「そうですよ、動くのは私達に任せてください。」

 志貴の言葉に同調するように今転移してきたばかりのエスリンもはやてに言う。

 「お、エスリンお帰り。」
 「はい、ただいまです志貴。そろそろテスタロッサも…」

 エスリンがそう言うなり三人の近くに魔法陣が浮かんだ。

 「フェイトt…もお帰り。」
 「ん、ただいま。でも中では【蜘蛛】を逃がしちゃった…」
 「大丈夫やよ。中に入るんは私達が来る前にでも居ればいいことやけど、出るのはそうはいかんから。」

 わざわざ管理局が来るまで潜んでそれから動き出すということは管理局の情報が筒抜けだということに気付いていないのか若干楽観主義なはやて。
 そんなところへ今はやて達が居る場所から研究所を挟んで反対側の局員から連絡が入った。

 『隊長! 【蜘蛛】らしき黒尽くめを発け…え?』
 「どないした?」
 『め、目の前で突然消えました…』

 その報告に眼を丸くするはやてとエスリン。フェイトは自身が入れ違いになったことに気付かなかったということを体験したし、志貴に至っては相手のことを知っている以上、何をしたのかは分からずともそういうことは出来るだろうと思っている。
 はやてとエスリンが呆けていた時間はほんの僅かなものだったが、その間にフェイトと志貴はそれぞれ行動に移っていた。

 「あれ? フェイトちゃん?」
 「アイツは連絡があった場所に飛んで行ったよ。
 後、はやて…今、俺達が包囲している範囲内にある生体反応は微生物や昆虫などを除けば局員のものしかない。包囲は抜けられたみたいだし、これからどう動く?」

 志貴の言葉にはやては少し考え込んで答える。

 「…包囲内には生体反応は私らだけなんやね?」

 その言葉に頷く志貴。それを見てはやては大きなため息を吐くと顔を引き締めて言った。

 「じゃ、しゃあない。見つかったって方向にはフェイトちゃんも向かっとるみたいやから私らは撤収準備や。
 流石に負けたのは癪やけどな。」
 「了解、じゃあ一応俺はアイツが向かってない方向…そうだな、向かって右の方の森を警戒しに行く。エスリンは反対側を頼む。」
 「…ああ…」
 「うん、これだけの人数を短時間で無力化させた相手やから気をつけてな。」

 志貴の言葉に一瞬の間があったエスリンは今度こそ志貴と同行できると思っていたのだろう。少し肩を落としたが、気を取り直せたのかいつもの三割り増しの速度で左の方へと飛んでいく。

 一時間後、【蜘蛛】が見当たらなかったため、四人は集合し、部隊は撤収することになった。


 その帰り、トランスポーターまで歩いている間にエスリンが志貴に問いかけた。

 「…そういえば志貴、調子は大丈夫なのか?」
 「ん? ああ、別に問題ないが?」
 「あれ?」
 「なんか、違和感がなくなったことに違和感が…?」

 いつもの調子で答えた志貴に先程までとまるで違う雰囲気を感じ取り、いつも通りになっているはずなのに、三人は違和感を感じていた。


 『フム、マスターを送り出した時には話し方がぎこちなかったが、今はそんなことはないな…』
 『ム、クラウさん? マスター志貴はマスター志貴です。変わってませんよ~』
 『ラファ殿がいいのであれば問題ないのでは?』
 『確かにな…彼のデバイスである彼女が気にしていないのであれば邪推しても益体がない、か』

 一方でデバイス達は特に気にすることは無かったようだ。


あとがき

今回はサブタイ通りの16話の裏話と言うか表話です。

この話は16話と同時進行だったのでなんとか早く仕上げられました。(と言うか16話を投稿した時点で八割がた出来てはいました。)
というのも元々この話を先にするか今の16話を先にするかでずっと悩んでいたんです…

結局、この話に出てくる【志貴】と【蜘蛛】の関係は次の話に持っていくことにしました。
まあ、こっちも結構バレバレな感じではありますが…

それにしてもやっと中間期もA’s編の話数を越えましたし、書き始めてからそろそろ一年経ちそうです。これまでは外伝とか結構適当なネタを並べていたのですが、次の外伝のネタとしてクリスマスとか大晦日とか正月とか時期のお話も多少は考えているので余裕があったら書きます。勿論、話の続きと平行作業ですが。

さて、リアルの方がじわじわではなく、何故か一気に忙しくなったので、執筆時間がなかなかとれず…16話みたいに四ヶ月とかは空けないつもりですが、どうなることか…
一月以内に書き上げられたら…とは思っています。

それではまた次の話でお会いしましょう。



[4594] 作中のオリジナル魔法一覧 ※厨設定注意!
Name: タツノオトシゴ◆d22a4e9f ID:1e9ff585
Date: 2009/04/29 17:31

 作中のオリジナル魔法一覧 ※厨設定注意!

 とりあえず今まで出てきたオリジナル魔法の紹介をしておきます。題にもあるように果てしなく厨な設定が出てくるので注意してください。


 志貴のオリ魔法

>タスラム…元々はなのはのディバインシューターの術式を移させてもらった射撃魔法。
 ただ、志貴の魔力量の少なさから消費魔力を抑えられないかと無限書庫でユーノと一緒に色々試行錯誤した結果、誘導機能をオミット、加えて現状のプログラムでギリギリまで魔力のロスをなくした術式を組み込んだ。
 更に志貴本来の攻撃力不足を補うための工夫として貫通力を高めるために魔力弾の口径を同じ消費魔力量でディバインシューターの約半分まで圧縮する術式に、弾速を上げるために付けられる加速用の環状魔法陣と単純な直射魔法の癖にやたらとハイスペックな出来上がりになっている。

 通常は単発式だが、連射用のガトリングシフト、精密射撃用のスナイプドローなどいろんな場面に使える術式も組んでおり(ユーノ作)、結構汎用性も高い。

 名前は光の神ルーが使ったバロールの眼を撃ちぬいたと言われる投石器の弾から。

 攻撃力や魔力量が低い志貴のためにユーノが魔力弾圧縮術式のついでに防御貫通術式を組み込んでいる。
 ただし、消費魔力に影響の出ないギリギリまで効力を弱めているので魔力攻撃が通るというよりも当たった衝撃の一部が通る使用になっている。以下、志貴の使う攻撃魔法には全てこの術式がユーノによって組み込まれている。

 魔法ランク:B
 威力:C
 射程:C
 発射速度:A
 追加能力…防御貫通(弱)

>アンヴァル…ラウンドシールドの発動実験を頼んだ時にシールドが濡れた和紙みたいに簡単に破られるためにいっそのこと防ぐことをほぼ放棄し攻撃の軌道を逸らせる事のみに重点を置いた魔法。
 魔力変換資質の余波を防ぐ程度の強度は持っているが、基本的に小さく発動、攻撃の横合いから叩きつけて攻撃の軌道を逸らす、足りなければ小規模なバリアバーストを発動させて術者本人を弾く。
 元々は以上のことのみを視点に置いていたのだが、掌だけで発動すると効果範囲に制約がかかりそうだということでフローターフィールドの術式も組み込むことに。
 そのため多少なら体から離れた所に展開できる上に、足の裏において自分の体を弾いて加速させたりも可能になった。
 更に単純に展開するだけならば難しくないのに防御力も相手の攻撃に対応できるギリギリまで落としているので消費魔力がかなり少ない。バカみたいに魔力を持っている奴らからすれば魔力を絞る作業が面倒なので普通にシールドに魔力を注ぎ込んだ方が楽。

 名前はこれも光の神ルーが乗ったと言われる不落の白馬から。

 魔法ランク:D(志貴のような使い方をしようと思うとランクがBまで跳ね上がる)
 防御力:E⁻
 防御範囲:E⁻

>フラガラッハ…大層な名前が付いているが簡単に言えば手刀の表面に魔力を纏って数ミリ程度の長さの魔力刃を展開し、極至近距離の取り回しを考えただけの魔法。
 指先から魔力刃を更に伸ばすことは可能だが小太刀程度の長さまで伸ばして約一分維持するだけで消費魔力量がタスラムの十倍以上と言うバカバカしい数値になるのでしない。
 ちなみに魔力は指先だけではなく、手首から先全体を覆っているため攻撃方法は手刀だけではなく拳、掌底による攻撃にも使える。シグナムの模擬戦で使ったフラガラッハ・アンサラーは手首から先を覆っている魔力をインパクトの瞬間、打点のみに集中させるもの。
 収束のための魔力は当然消費するが、普通に当てるより威力が高いうえに、魔力の移動はデバイスの演算によって自動で行われるため打点がずれてしまうということが起こることはそうそう無い。

 名前は光の神ルーの持っていた、抜けば自動で敵を切ると言われた剣から。

 魔法ランク:B+
 威力:C
 発射速度:A+
 追加能力…防御貫通(弱)

>アラドヴァル…消費魔力が志貴の1.5人分(開発時。魔力ランクはDだった頃)必要だったなどというアホらしい砲撃魔法。ぶっちゃけカートリッジ無しで使える魔法ではない。
 なのはのエクセリオンバスターを見て考えた。正直魔力量がAランクになっても恐らく全魔力量の半分近くを持っていかれるために普通に使うことは珍しいことになるはず。
 五指から発射された攻性の誘導式捕縛魔法で相手の四肢と首に絡みつきバレルを形成、その後、掌に集中させた魔力を打ち出す。(とは言え誘導術式は相手の魔力をオートで追うようにしているため誘導能力そのものはあまり高くないが、拘束力はかなり高い)
 自身の指と相手が捕縛魔法によるバレルで直結しているために捕縛魔法をどうにかしない限り必ず当たるというえげつない魔法。打ち出す魔力弾にはタスラムにも使われている圧縮術式が組み込まれているため、貫通力もあり対魔力が弱い人間に撃つと失神どころか下手をすればあの世にご招待な威力になっている。

 名前は光の神ルーの使った、投げれば五条の光になって必ず狙った敵に当たると言われた槍ブリューナクの別名から。

 魔法ランク:AA
 威力:A
 射程:B
 発射速度:D
 追加能力…防御貫通(弱)
 
 参考までに魔法ランク、威力、射程、発動速度の全てが公開されているクロノのブレイズキャノンとフェイトのプラズマランサーの能力を…そしてアラドヴァルの発動時間と比較できる砲撃魔法、スターライトブレイカーとディバインバスターの能力を追加しておきます。

 ブレイズキャノン
  魔法ランク:A+
  威力:A
  射程:B
  発射速度:A

 プラズマランサー
  魔法ランク:AA
  威力:AA
  射程:B
  発射速度:A+

 スターライトブレイカー(無印版)
  魔法ランク:S
  威力:AAA
  射程:C
  発射速度:E

 ディバインバスター(無印版)
  威力:A
  射程:A+
  発射速度:C


 とりあえずこれまでのオリ魔法はこれで紹介終了です。ぶっちゃけ作者の妄想が爆発して生まれた魔法ばかりなので魔法の内容に関して何か矛盾点に気付いた方がいらっしゃった場合見直します。

 今後オリ魔法が出てくればその都度更新します。


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