「オーリス、お前はもう下がれ……」
今まで地上本部の権威として築いてきた確固たる地位が、足元から崩れ去ろうとしていた。
「……それは、貴方もです。もう指揮権限はありません。ここにいる意味はないはずです」
野太い声と、その声から窺(うかが)い知れそうな凛とした声が、一室に響いていた。
「わしは……ここに居らねば……ならんの、だよ……」
そこで力強く開かれるその部屋の扉。本当はもう少し早くつく予定だったけど、本局周り(スバルをアルトが拾いに行くついでにヘリに乗っていった)でしかも直接地上本部にヘリを下ろせないから少しはなれたところに下ろしてもらったお陰で、大分時間が経ってしまった。
「あんたがレジアス・ゲイズ中将? あ、もう中将じゃないからレジアスのおじさんでいいわよね?」
「誰だっ! 貴様っ! 警備兵はなにをっ……くっ」
そこでレジアスは、今の自分の境遇に気付く。自分を守るものは、もうないのだと。管理局からは追放され、そして管理局に逮捕される運命にあるのをひたすらに先延ばしにしているだけの状況だということに。
「わたしはあんたが嫌ってる起動六課の部隊長八神はやての秘書」
「……あの小娘の側近か、確か遠坂とかいったか……それが、なんのようだ」
そこで凛は部屋に違和感を持つ。
多少の顔見知りであるオーリス、そしてレジアスがいるのはいいとして、知らない顔が1人。
「ん、ちょっとの間だけどおじさんの護衛。多分あんた、殺されるわよ?」
「殺されるのは構わん。だが、わしにはまだ待たねばならん男がいる」
怪訝な視線を浴びせるオーリス、そして小動物のように震える役割のわからない女性をを他所に、凛はレジアスの傍、椅子の傍らにまで接近する。
「そ。それじゃ、それまでわたしの好きにさせてもらっても?」
「ふん、勝手にしろ。どうせわしにはもうなんの価値もな――――……ふん、またせおって」
―――――暴!―――――
扉が爆発した。いや、物凄い力で蹴破られた、というべきか。
凛は心の中で、ギリギリセーフ、とひと息つく。だが、その表情は顔には出さない。まさか、これほどまでに派手な登場だとは思っていなかった。
「手荒な来訪で、すまんなレジアス」
ゼスト・グランガイツ。シグナムからの情報により身元が発覚。……本来いるはずのない、”死者”。
――――こいつが、戦闘機人……?
凛は予め装備していたポーチに手を伸ばし、”とっておき”の1つを人差し指と中指の間に挟む。
2つあるポーチの内の1つは、1から10までのポケットを作り、手を伸ばせばすぐさまに取り出せるようにちょっとした改造をしてある。
eins(1番)は士郎に渡したピジョン・ブラッド(鳩の血)。なのでzwei(2番)に手を掛ける。
そして既にその2番には陣を宝石に刻み込んで、唱えるだけで発動するように細工も。
「構わんよ、ゼスト……」
オーリスが盾になるようにレジアスの前に出るが、それを制すレジアス。
「ゼスト……さん?」
オーリスとゼストが顔見知りだと凛は知らなかったが、特に興味もないのでそれ以上の思考は無駄だと判断し考えない。
「オーリスは、お前の副官か」
壁をぶち破るという暴挙な進入とは裏腹に、ゆったりとした足取りで歩いてくるゼスト。ゼストは凛を一瞥したが、どうでもいい、とも言いたげな目線をやっただけだった。
「頭が切れる分、我侭でな。子供のころから変わらん」
ゼストはオーリスをチラリと見るが、微笑などを投げ掛けることもなくレジアスに向き直る。
「……聞きたいことは、1つだけだ」
ぼろぼろの上着から取り出すのは2枚の写真。
凛はその位置から、その写真になにが写っているかわかってしまった。
……こんなことを知るは、心の贅肉にしかならないのに。
「8年前、俺と俺の部下達を殺させたのは……お前の指示で間違いないな」
「…………」
黙秘は、沈黙は肯定と同じ、という言葉を誰が言ったのか。
そもそも、ディベートの”沈黙は同意”という原則からなのだろうが、そのような使われた方をするのは的を射ているからこそ広まったのだろうが、これは残酷すぎた。
1枚目に見えるのは前に立っている襤褸(ぼろ)雑巾のような風貌とは別に、スーツ姿を決めている若いころのゼストに、その部下達だろう。
レジアスが写真を動かしたためにきちんと見えなかったが、スバルやギンガと似たような容姿の人がいたようにも見える。
「……共に語り合った、”俺とお前の”正義は……どう、なっている」
正義、この言葉を凛は頭が痛くなるほど考えたこともあった。
どっかの馬鹿が散々こけて、苦しんで、もがいた言葉。
「む……ぅ……」
そしてもう1枚の写真に写っていたのは2人の男。
……その若いころのゼスト、そして同じく若いころなのだろう、今より少し痩せているかもしれない、レジアスである。
――――そこには1つ、正義があった
小さな区画、地域はどうでもいいといわんばかりに優秀な人員を引っこ抜いていく本局。待遇も良く、同じ管理局なので引き抜かれる局員は皆、栄転だと喜んだ。
そのうちに、本局から声が掛かることは名誉なことだ、という風潮が出来ていた。
……それを、レジアスはどうしても許せなかった。
大きな次元世界というものを救うために、ミッド地上という小さなものを切り捨てていいのか、いや、断じてならん、と。
そしてその正義に、ゼストは賛同していた。いや、今でも賛同しているだろう。
――――その正義が、歪んだものでなければ
「……お前に問いたかった。俺はいい、お前の正義のためなら、殉じる覚悟があった。……だが、俺の部下達は……何のために、死んでいった……」
ゼストに籠められる一言一言には”思い”が詰まっていた。
「…………」
その強い言葉に、レジアスは閉口を保つ。
ああ、レジアスだってどこかで、自分が歪んできているとわかっていた。だからこその沈黙。
「どうして、こんなことになってしまった……俺達が守りたかった世界は、俺達がほしかった力は、俺とお前が求めた正義は、いつのまに……こんな姿に、なってしまったんだ……」
――――凛は、その話を聞いていなかった
ここに来た本分はなんだった?
”戦闘機人”と接触するためだっただろう。
そして凛は、ここにいる”4人全員”に注意を払っていた。
このシリアスな場面の中で動いている対象がいれば、疑うのは当然だ。
ゼストが入ってきたときは机よりも奥にいたはずの、”正体不明の局員”。
そいつが、手に”凶器”を持っていたらどうなる?
「凛殿っ!?」
ちっ、タイミングが悪い、と凛は心で舌打ちする。蹴破られた扉の向こうから現れたのはシグナム、そしてリインフォース。
そして、凛、シグナムが気付いているのだから当然、歴戦の戦士であるゼストは気付いていた。
「―――― Ich komme Verhaftung ! ( ――――来よ 戒めの 楔 !)」
「貴様……! どういうことだっ!」
捕縛されたことに驚き声すらも上げられない桃色の髪。そして、この状況に対して言える言葉は一つしかないのか、レジアスの叫び。
「はい、捕まえた。それ特別製だから。破れるもんなら破ってみなさい」
だが、勿論”魔術”なんて現象はゼストから見たらわからない。
「レジアスっ!!……はぁぁぁぁぁぁっ!!」
そして、ピアッシングネイルを装備したドゥーエに斬りかかるゼストだったが、それを後ろから見たシグナムはどう思うか。
――――こんなこともあろうかと、と呪を刻んだ宝石はもう1つ用意してある。
殺し殺される覚悟はあれど、生ぬるいとは思いつつも、凛は出来るだけ死人を出したくなかった。不必要なものを出すのはスマートではない。
拘束すればそれで十分すぎるのだから。
ポーチに手をいれ、さっき使った2番の次、3番の位置に入れてある宝石を――――
指をポーチに入れた瞬間、凛は戦慄する。
――――しまった……!
……指を入れた先に宝石がない。
そうだ、強力な3番は元々セイバーのためのバックアップに先ほど飲み込み、予め予備として陣を呪を刻んだのは”4番”。
指を直ぐ隣に動かせば取れるものなので特に支障はないが、”1秒を争う高速戦闘の前では”それが致命的にな時間になる。
このままでは戦闘機人が殺される。
――――それは困る
恐らくは数年間、気付かれず管理局のスパイをしており、”聖王の器”の関係から聖王教会にも通じていたであろうこの女を失うのは惜し過ぎる。
だが、間に合わない……!
「紫電――――」
凛が、頑張っても間に合わない状態でもなんとか魔術を発動させるよりもはやく――――
「――――一閃!」
シグナムが一瞬で間合いを詰め、レヴァンティンがゼストの槍を半分に砕いた。
「ふぅ……貴重なスパイ、殺さなくて済んだ。ありがとう、シグナム」
「いえ……」
「何で……何で私がスパイだとわかったっ!」
そして桃色の女性が手に装備した物騒な鍵爪がレジアスに刺さるより早く、凛の呪が間に合っていた。
3本の機械的な爪がレジアスの背中に突き刺さる寸前で止まっている。いや、それ以上突き出すことが出来ないほどに鎖で全身を絡めとられている。
凛から呪文と共に放たれた宝石は不気味な漆黒の鎖を呼び出し、即座に地面とその女性を繋ぎ、縛ったのだ。
マニアックな連中が喜びそう……いや、引きそうなくらいに雁字搦めにするほどの本数。そして、それは本来1工程(シングルアクション)で家一戸吹き飛ばすほどの魔力量が篭った宝石である。
――――”こっちの世界”に振りほどける輩はいないんじゃないだろうか?
魔法にはバインドという便利なものがあり、態々宝石を使うなんて考えられないわけだが。
こっちの人が聞いたら笑ってしまいそうなお金対効果であるが、それを差し引いても”神秘”というのはこちらの世界では有効なものだ。
士郎と違って凛は魔術師だから基盤が必要になるが、それはそもそも大丈夫だと確認済み。
「多分レジアスのおじさん以外は気付いてたと思うんだけど……どう? ゼストさんは」
「ああ……すまん、早まった。危うく殺すところだった。そこの騎士、シグナムとかいったか、感謝する」
「私も危うく、貴方を殺すところでした。お互い様でしょう」
それを、ゼストは頷くだけで返す。
「あああ!! 貴方達はもうドクターにとって用済みなのです……ここでレジアスを殺せば、貴方の復讐も終わりでしょう……!」
「煩(うるさ)い。――――Ich binde es fest ( 縛り 律せよ )」
「――――がっ……」
立った状態で張り付き、地面と繋がっていた漆黒の鎖が突如地面に引っ張られるように強い力が働き、ドゥーエを地面に貼り付ける。
口にも鎖が猿轡(さるぐつわ)のように巻きつき、息は出来るが何も喋れないようになっている。戦闘機人が舌を噛み切って死ぬのかどうかはわからないが、それの防止のためである。
「小娘、感謝する」
「いえ、わたしはレジアスのおじさんを囮に使わせてもらっただけなので……礼を言われることはしていませんわ」
「ふん……」
縛られた戦闘機人をレジアスは一瞥し、それに対しドゥーエは睨み返すが、レジアスは表情を変えずゼストに向き直った。
そして紡がれる、独白の言葉。
「……ゼスト……わしは、わしは……どこで、道を違えてしまったのだろうか……」
一騒動が治まり、数秒の沈黙が流れた後、今まで口を開かなかったレジアスが口を開く。その言葉は重く、そして、切ないものだった。
オーリスは数歩退き、巨大な本棚に背中を預け、崩れるように座る。目には涙さえ、浮かべていた。
「……そこまでわかるのならば、生き残った時間全てを掛けて答えを出せ。そして、俺に……いや、俺の墓に報告しに来い」
今まで冷静を、いや、全てを悟ったかのように動じなかったレジアスが動揺する。
「な、ま、待てゼストっ! それはどういうことだっ! ならん、ならんぞっ! お前にまで死なれたら……わしは……」
それを……ゼストの過去を知るものにしかわからないほど、ゼストと長い付き合いがあるものにしかわからないほどのものだが、その後にかけられる言葉は優しく、”友人に”かけられるものだった。
「……無理を言うな、レジアス。ここまで来るのでさえ、体に鞭を打ってきたのだ。そして、死人は土に還らなければならん。――――そうだろう、そこの小娘」
「……ええ、その通り」
「――――だが、まだ死ぬわけにはいかん」
そこで、黙って聞いていたシグナムが口を開く。
「ご同行を、願います」
「――――断る」
それを一瞬も思考することもなく、ほぼ反射のような感じで答えられた。
「ゼストっ!!」
「レジアス、そして騎士シグナム、俺にはまだ、やることがある。ルーテシアを救いに戻り、スカリエッティをとめなければならん」
「スカリエッティ、そして戦闘機人については既に逮捕。ルーテシア・アルピーノも、私の部下が保護するべく、動いています」
その言葉に、ゼストは眉1つ動かさない。
「……そうか。それならば俺のやることは、後1つだ」
「ゼストっ! 頼むっ! 考え直してくれ……わしも、わしも一緒に独房に入る。だから、頼む……逝かないで、くれ……」
ゼストは、シグナムが叩き斬った得物の先の部分を拾う。
「悪い、な」
――――凛は、セイバー達”英霊”を見てきたことから、今からゼストがなにをしようとしているのかを悟った。
赤い妖精、アギトが必死にゼストを止めようとしているが、それも無駄なことだ。
――――騎士には騎士の、死に様がある。
凛は目を瞑る。そして、目を開く。
しっかりと見届ける、それが唯一、ゼストにしてやれる手向けだと思ったから。
――――こんな感傷に浸るなんて自分らしくない、と思いつつも。
「あ、ぁぁ……ゼスト……ゼスト……すまなかった、すまなかった……」
「構わん。お前が正しい道に、”俺達が求めた正義”に目を逸らさないで、そして戻ってくれるなら、それで、な」
「ゼストォォォォ……ぅぅ……ぁぁぁあぁ……」
その言葉に、レジアスは両手で顔を覆う。そしてその手の隙間からは、零れるように、溢れるように、涙が流れていた。
「おじさん、ちゃんと、見ててあげなさい」
”正義”という言葉に翻弄され、道を間違えた男と、その間違えた道を正そうと本気になってくれる友人。その2人の在り方に少しだけ、本当に少しだけ、凛は思うところがあったから。
「……ぅ……小娘、感謝、する……貴様がいなかったら、わしはゼストを見送れなかった……」
「礼はいいから、しかと、目を見開きなさい」
「ああ……」
そして叉、一瞬の沈黙。
――――シグナムがレヴァンティンを構える
――――ゼストが、もう武器としての機能を2割も果たしていないだろう、半欠けの槍先を持つ
「……夢を描いて未来を見つめたはずが、随分と道を、違(たが)えてしまった……。本当に、守りたいものを守る。――――ただそれだけなのに、なんと難しいことか」
ここに響くのは最初とは違い、ゼストの言葉のみ。
その言の葉が染み渡り、すすり泣く2人、レジアスとアギトの嗚咽が漏れる。
「…………はぁっ!!」
動いたのはゼストだった。見るものが見れば笑ってしまうほど、ゼストの勢いはない。全盛期の何分の1だろうか? 数メートルしか離れていないはずのシグナムの場所まで、一体どれほどの時間がかかっただろうか。
しかし、シグナムはそれを決して嘲笑わない。
騎士としての最後を遂げようとしている者を、笑う騎士はいない。いや、この場所にもいなかった。
ゼストが走り出したのを見て、シグナムはカートリッジをロードする。
「――――紫電一閃」
小さく呟かれたその言葉に呼応するように、レヴァンティンは炎を帯びる。
今のゼストになら、カートリッジを使う必要なんてなかっただろう。
だがシグナムは、己の全力を持ってゼストに向かう。
――――斬――――
得物の長さですら勝てないゼストの槍先が届くことはなく、シグナムのレヴァンティンはゼストを斬った。
非殺傷設定だったが、シグナムの一閃はゼストの生命……心臓ではなく、レリック……を、叩き割っていた。
崩れ落ちるように倒れるゼスト。それを直ぐに、シグナムが抱える。
「俺が出来る限り調べた事件の真相は……ここに、収めてある。そして……アギトとルーテシアのこと、頼めるか……?」
「はい」
そして、ゼストが倒れたのを見て耐えられなくなり、それに駆け寄るレジアス。
「ゼストっ! わしはっ! わしはっ! 絶対、絶対にもう一度這い上がって、管理局を変えてみせる……!」
「ああ……お前なら、でき、る……」
「ゼスト……わしは……わしは……」
レジアスの言葉はその先、涙で言葉にならなかった。
もう誰から見ても明らかな短い、ゼストの命。
「旦那ぁっ!!」
ゼストの横にあの炎の精霊が寄っていく。それを優しく、ゼストは手で包み込んだ。
「アギト……お前とルーテシアと過ごした日々、存外……悪く、なかった……」
「旦……那ぁ……そんな……しみったれたこと……」
「俺やレジアスが守りたかった世界……お前達は……間違えず、進んで……く……れ……」
「……く…………」
そして、これが、ゼストの最後の言葉となる。
「……いい、空だな」
――――レジアスの慟哭が響き渡る。
~・~・~・~・~
レジアスの雄叫びがこの部屋に響いていたのはどれくらいだろうか。数秒、数十秒、いや、数分……。
レジアスはゼストを抱え、零れる涙を空いている手でふき取った。
シグナムは目を閉じ、黙祷している。
――――そしてわたし、遠坂凛は……。
「……おじさん、わたしが、葬りましょう」
「…………ああ、頼む」
ゼストは本来、管理局に属していた。
もしこのまま遺体が発見されてしまえば、即座に検死に回されいたるところまで調べられてしまうのは明白だった。
こんなことをするのは贅肉を通り越して税金だ、と、どこかで否定する気持ちがあったのは確かだが。
「……小娘、でかい借りが、できてしまったな」
「ん。そうね……まぁ、おじさん、貴方が知っている”情報”、沢山あるんでしょ?」
「ああ……」
「なら、すべきことはわかる?」
「そこまで腐ってはおらん、つもりだ」
「わかった。全てが済んで、あんたが自由の身になるときまで”貸し”とくから、返しにきなさい。わたし、貸し借りには煩いから」
「ふん、まぁいい、借りておくとしよう……オーリスっ!」
ゼストを横に寝かせ手を胸の上で組ませると、レジアスは立ち上がる。その目にはもう、涙の色はない。
「私は、貴方という父に着いて行くことを誇りに思っています」
「いい、返事だ。これからも、頼む」
「はい」
そしてオーリスも気丈に立ち上がる。
…………ああ、これはいい”貸し”を作れたのかもしれない。
たまには税金もいいものに使われるってことか、と凛は自嘲気味に思った。
もし、レジアスが”上”に操作されていた可能性があるとすれば、レジアスの罪は相当に軽くなるだろう。そして、元々政治手腕は確かにあった人物だ。
この世界で嫌われている質量兵器の有用性を今まであれだけ主張していたレジアスの考えも、揺り篭の登場で一気に真実味を帯びるはず。
――――割のいい賭けをするのは好きだ
「それじゃ――――Anfang(――――セット)」
特に、宝石も使わない。
ただ、使うのは”あの神父”から教わったものだから少しだけためらいというか、嫌悪感というか、なんともいえない不快な気分になるのだが、自分が使える弔いの言葉、それに近いものはこれしかないので諦める。
「―――― Ich ermorde Sie. ( 私が殺す )」
「Ich erhalte es am Leben.Ich werde verletzt, und ich heile es.( 私が生かす 私が傷つけ 私が癒す)」
ゼストの前に立ち、すぅ、と弧を描くように手を回すと、ゼストの体の回りに円環が現れる。
「Es gibt nicht die Person, die überhaupt von meiner Hand entkommen kann.Es gibt nicht die Person, die meine Augen überhaupt nicht erreichen (我が手を逃れうる者は一人もいない 我が目の届かぬ者は一人もいない)」
そして、その円環の内側に手を伸ばす。遺体を中心にするように芒星を描き、そうすることによりその線に魔力が流れ、儚げに光が灯る。
「 Es wird zerschlagen.Ich lade die Person ein, die verlor, die Person, die alt wurde. (打ち砕かれよ 敗れた者 老いた者を私が招く)」
その光景に見入っているレジアスにオーリス、アギト、シグナム。リインフォースは先ほどはやてからの連絡が入り、飛び立ってしまった。
「Ich vertraue es zu mir an und lerne von mir und folgt mir.Ruhe.Ich ließ Sie jede Schwere ohne mich ohnevergessendes Gebet zu vergessen, ohne ein Lied zu vergessen leicht vergessen(私に委ね 私に学び 私に従え 休息を 唄を忘れず 祈りを忘れず 私を忘れず 私は軽く あらゆる重みを忘れさせる)」
そして死者への手向けの言葉は架橋に入る。
ゼストの遺体を中心とし、凛から流れる魔力が部屋全体を包み込み、一種の幻想的な風景を描く。
”魂”から完全に消滅させるこの詞(ことば)。
「 Seien Sie nicht gekleidet.ZurSache, die es für Verzweiflung in Hoffnung auf Verrat auf Vertrauen durch Vergeltung leicht gibt, um ihm Dunkelheitsgerade zu vergeben; der Tod, der zur Sache dunkel, die es gibt, ist (装うなかれ 許しには報復を 信頼には裏切りを 希望には絶望を 光あるものには闇を 生あるものには暗い死を)」
レアスキルが嫌いなレジアスだったが、不思議と、今の光景に嫌悪感を抱くことはなかった。
いや、そもそも、レアスキルが嫌い、という自分が歪んでいることに気付いた。
起動六課、八神はやてはなにをした? 確かに犯罪行為をした。が、あの小娘は潔く罪を認め、そして償い、下から這い上がった。
――――あやつは自分の地位も省みず、地上を守ってくれたのに。
自分がしたのは何だ? あら捜しをして、八神はやてを引き摺り落とそうとしただけだ。
聖王教会の予言、何故無碍(むげ)にした。
もしあの言葉をしかと聴いていればまた違ったのかもしれない。
――――自分には魔力がない、つまりは、ただの妬みで、嫉妬で、レアスキルを嫌っていたのかもしれない
「 Das Leben der Ewigkeit, wenn ich Ihr Verbrechen entzünde, und die Ruhe wird einen Fleck auf meinen Griff aufschreiben, wird im Tod gegeben (休息は私の手に 貴方の罪に油を注ぎ印を記そう 永遠の命は 死の中でこそ与えられる)」
――――そして、この八神より年上で、オーリスより下かまたは同じくらいの、この小娘
レジアスは凛に命を救われた。
だからといって、何かしらの感慨が浮かぶレジアスではないが、ゼストとの会話が出来、最後を看取れたのは凛のお陰だ。
あの、魔法陣すら浮かばない魔法はなんだったのだろうか? デバイスすら使っていない。地面から生えるように戦闘機人に巻きついている幾重もの漆黒の鎖はなんなのだろうか。
そして、今行なわれている神秘的な光景はなんなのだろうか。
だが、レジアスはそう思うだけで、特に何かを言及しようとは思わなかった。
――――ゼストの最後に、そんなものは無粋だろう、と
「――――Die Erlaubnis hier.Ich wer machte ein Inkarnationsversprechen(――――許しはここに 受肉した私が誓う)」
一層、光が強くなる。
レジアスは悟る。
逝ってしまうのか、ゼスト、と。
だがもう悲しまない。
レジアスは年甲斐もなく、生きる希望を見つけた。
いや、道を間違えてしまったが、間違えたことに今更ながら気付いた。
レジアスは心に思う。
心に思うのは、このような言葉は自分には似合わないから。
――――”最後に言おうゼスト、ありがとう、と”
呻るような幾多もの光芒の筋がゼストに絡みつく。
そして、凛の最終小節。
服の下で見えないが、駆動し輝く魔術刻印がある手をゼストの上に、陣の上に翳(かざ)す。
「―――― Kyrie eleison (――――“この魂に 憐れみを”)」
―――――――――――
完全にレクイエムの詩を使っても良かったのですが・・・Fate的にこっちかな?と。
でも、カトリック教のミサで使われるものをドイツ語でやるというなんという矛盾というか・・・。
そこのところはスルーしてくださると嬉しいかもですorz
そもそも、Kyrie eleison.というのは、主よ、あわれみたまえ。という役でそのあとに、Christe eleison.キリストよ、あわれみたまえ、と続きます・・・
でも、ドイツキリスト教、というのがある?ので間違っては・・・いないのかな?
詳しくないので、すいません;;
そして、士郎君について。
士郎って
・弓道部引退後(高2)
・魔術の鍛錬はやってたけど身体的鍛錬をやっていたという描写はない(当初は一般人並?)
・強化の魔術は、士郎が使うのは特別で、木から弓を作ったり、サッカーボールを修復したりが可能
・剣以外の投影に関しては”可能”だが、”外見のみ”。しかしそれは霊媒系の術者でさえも違和感を持つ程度くらいまでしか思わない、精巧なもの。
これで、間違っているところがあったら・・・私の認識不足だと思うので;;
士郎の強さ(私主観)
・基本的に戦いになると格上ばかりなのでボロボロ。基本もみくちゃにされる。
・しかし、正義の味方になりたい、などの強い意志によりどんなにぼろぼろでも這い上がる。
・我慢比べでは学園1。
・ちゃんとした武器を投影できる数は多くて10程度。(アーチャーと戦ったときで計8?)真名開放でどれくらい投影できるかは不明・・・。(このSSではちょっと成長してるので中身外見しっかりしてるものを約15~17くらいは可能)
これを元に、”衛宮士郎”という人物を書いてたりします・・・。もし間違っていたら根本から考え直さないといけないのですが、教えてくださると幸いです。
そして最後に、今回の凛。流石に凛パートはこれが本命じゃないです(苦笑)
折角凛とセイバーも連れてきたんだから、多少は暴れてもらったほうが・・・うん、このままだと”いらなかった”ということになりそうなので(苦笑)
そして、後半出てきませんでしたがドゥーエ姉さん縛られっぱなしの放置プレイです。一応生きてます(い、いきてた・・・)
レジアスも生きてます(当初の予定はそのまま死んでるはずだった・・・あれ・・・?)
そんな感じで、書きたかった部分を消化。少し短かかったですが(苦笑)
その分あとがきを長々と・・・申し訳ありませんでした。
では、読んでくださった皆様に感謝です!
感想ご指導、お待ちしております。
あすく