キャロ「わたしとフリードがイチロウさんとであってから、さんかげつがたちました。
あれからわたしたちはずっといっしょにいます。
フリードがたまにイチロウさんにかみついてしまいますが、わたしもフリードもイチロウさんがだいすきです。
イチロウさんはりょうりにんで、いろんなゴハンをたべるのもしごとだそうです。
いろいろなところにいって、いろいろなものをたべました。
どれもおいしかったですが、イチロウさんがつくってくれるゴハンがいちばんおいしいです。
わたしはイチロウさんのためになにができるかかんがえて、おせんたくをすることにしました。
イチロウさんはゴハンをつくるのはじょうずですが、それいがいはいいかげんです。
イチロウさんはそんなことしなくてもいいっていってくれましたが、わたしでもできることがあってうれしいです。
イチロウさんはわたしにいろいろなことをはなしてくれました。
イチロウさんのことやおともだちのこと、よるねるまえにはなしてくれるじかんがまいにちたのしみです。
イチロウさんはもうすこししたらミッドチルダっていうところにおしごとにいくそうです。
それまでに、なにがしたいかきめるようにいわれました。
なんでもいいからじぶんできめることがだいじだっていってくれました。
わたしは・・・なにがしたいんだろう。
まだよくわからない。
そんなことをかんがえていた、あるひのことでした・・・」
魔法少女リリカルなのは【かんりきょくのこっくさん】
第04話「悪いなフェイト。 お前が中学に上がったあたりから、俺のストライクゾーンからは外れてるんだ」
それはいつものように午後のおやつを食べ、一郎とキャロがホテルの部屋でくつろいでいる時に起こった。
突然部屋の中に転送ポートが開き、そこから金髪の少女が現れると、二人が呆然としている間にその少女は一郎に泣きついてきた。
「一郎っ!!
聞いて聞いて、なのはがひどいんだよ!!」
「「・・・・・」」
突然現れた女の子は、二人が呆然としているのにも気付かずに話を続ける。
「今度はね、今度こそ私怒ってるんだ。
なのはが謝ってくるまで私許さないんだから。
だから『ゴスッ!!』、イタッ・・・うう・・・なんでぶつの?」
頭を押さえて一郎を見つめる女の子に向かって・・・一郎は溜め息とともに、それでも久しぶりに会えた友人に、
「なんでクロノにも教えてない俺の正確な居場所がわかったのかはおいて置くとして。
まあ・・・久しぶりだな、フェイト」
嬉しそうに話し掛けた。
「うんっ♪
久しぶりだね、一郎。
一郎の卒業式からもう半年ぐらい経ったんだね。
一郎は全然連絡くれないから、皆寂しがってたよ」
と、嬉しそうに話す女の子・・・フェイトを見ながら、
「それは確かに俺が悪かったが・・・まあなんだ、転送してくるにしても事前に連絡ぐらいしろよ。
見ろ、キャロのやつがどうしていいかわからずに困ってる」
そう言って一郎がキャロのほうを見ると、フェイトもつられるようにしてキャロのほうを見た。
「あれ?
一郎、この子は?」
やっとキャロに気づくと、フェイトはキャロを見ながらそう呟いた。
「ああ。
キャロ、自己紹介」
そう言って一郎が促すと、キャロはようやく話すきっかけを与えられ、若干緊張しながらも自己紹介を始める。
「あ、あの・・・はじめまして。
わたしはキャロ・ル・ルシエっていいます」
「あ、はい。
私はフェイト、フェイト・T・ハラオウン。
よろしくね、キャロ」
そう言って、フェイトはにっこりと笑って挨拶をした。
「はい。
・・・あの、フェイトさんってイチロウさんのおともだちのフェイトさんですか?」
「えっ!?
うん、そうだけど・・・私のこと知ってるの?」
「はい。
いつもねるまえにイチロウさんがはなしてくれるんです。
えっと・・・フェイトさんとか、なのはさんとか、はやてさんとか」
その言葉にフェイトは怪訝そうに、
「寝る前?
あの、キャロ・・・いつも一郎と一緒にいるの?」
そう尋ねると、キャロは嬉しそうにはにかむと、
「はい。
イチロウさん、やさしくしてくれて・・・。
わたしがいろんなことおもいだしてないてたら、いっしょにねてくれたんです」
そう言って顔を赤らめた。
「・・・・・・(スッ)・・・・・・バルディッシュ、アサルトフォーム」
《yes,sir》
キャロの様子を見たフェイトは何も言わずに立ち上がると、バルディッシュを基本形態にして一郎に突きつけ、たまになるダウナーモードに突入した。
「・・・一郎・・・ごめん。
・・・私、気が付かなくて・・・」
「・・・・・・・・・・はい?」
一郎はまったく事態についていけていないが、フェイトは気にせず話を続ける。
「一郎もきっと・・・寂しかったんだよね?」
そう言って、フェイトは可哀想なものを見るような目つきで一郎を見つめた。
「お前、頭大丈夫か?」
「いいんだよ。
・・・あのね、一郎・・・悪い事をしたら、ちゃんと謝らなきゃだめなんだよ・・・」
「いや、だから・・・」
「ちょっと痛いかもしれないけど・・・大丈夫」
「何が大丈夫だっ!!
おいコラッ、バルディッシュ!!
テメー気付いてんならさっさとコイツを止めろ!!」
《no problem,ichiro》
「どこがだっ!!
プロブレムだらけじゃねーか、このポンコツ2号!!
ったく・・・いいから聞けフェイト、俺は・・・」
一郎はなんとかフェイトを説得しようと試みるが、
「イヤッ!!
聞きたくないっ!!」
フェイトは耳を塞ぎ、いやいやをするように首を振り続けた。
「・・・お前もたいがいはやてに毒されてきたな・・・」
一郎は呆れたようにフェイトを見つめた。
「大丈夫・・・皆は許してくれないかもしれないけど、私はちゃんと信じてるから。
なのはが私を信じてくれたように」
「で、お前が俺をぶっとばすのか?
なのはがお前にしたように」
「うん。
一郎も、私の大切な友達だから・・・」
フェイトの目には光るものが浮かんでいた。
「(こいつの場合、演技じゃなくて素なのが怖ええな・・・)」
毎度毎度の事とはいえ、もうちょっと柔軟に物事を考えられないものか?
無理だとはわかっていても、一郎はそう願わずにはいられなかった。
「はぁ・・・まあ、もう面倒だから早くしてくれ。
キャロ、俺は大丈夫だから心配するな」
もはや一郎は諦めたのか、今度はキャロの心配をし始めた。
「うん。
でも・・・フェイトさんは?」
「ああ・・・このお姉ちゃんはな、時々こうなるんだ。
後でクロノっていうこのお姉ちゃんのお兄ちゃんがくるから、そいつについてるんだ。
・・・キャロのことは少しだけ話してあるから」
一郎の言葉を何とか理解したのか、キャロは頷き、フリードリヒを抱えて少し下がった。
「・・・お別れは済んだ?」
一郎が再びフェイトと対峙すると、虚ろな目をしたフェイトが一郎に問い掛けてきた。
「お前・・・まるっきり悪役のセリフだぞ、それ」
「いいの・・・一郎のためならこれくらい・・・」
「そういう訳じゃねえんだが。
ったくさっきといい今といい・・・絶対はやての影響だろそれ。
・・・・・・・・・・よく考えたら、一緒になってからかったのは俺か。
自業自得といえば自業自得だな」
結局・・・なのはとはやてよりも、キレたフェイトが一番手に負えない。
そしてついに、
「いくよっ!!
『貫けっ!! 轟雷っ!!』」
《thunder smasher》
フェイトの目の前、バルディッシュを中心に魔法陣が展開し、
「さようなら、一郎。
・・・大好き・・・だよ」
「お前、自分が何言ってるかわかってねえだろ。
・・・まあ、もういいか・・・」
その言葉を最後に、一郎の意識は途切れた。
目覚めた時に一郎の目に飛び込んできた光景は・・・半壊したホテルと、ずっと手を握ってくれていたキャロ、自分の顔を舐めているフリードリヒに、それと、
駆けつけてきたクロノにこっぴどく叱られている、正座したままのフェイトだった。
「まったく・・・緊急で僕に通信が入った時は何事かと思った。
フェイト、今日はたしかなのはとデートだったんだろう?
昨日は楽しそうに話していたじゃないか。
・・・どうやったら昨日の今日でホテル半壊なんて事態になるんだい?」
「・・・うう・・・それは・・・」
ここは一郎達が泊まっていたホテルの一室・・・不幸中の幸いなのか、ホテルは全壊とまではいかず、とりあえずは別の部屋を借りていた。
「色々と手を回した結果、オーナーはホテルの修繕費用さえ払えば大事にはしないと言ってくれた。
・・・あまりこんなことに管理局の名前を使いたくはないんだが」
「ご、ごめんなさい、お兄ちゃん・・・」
「当分の間、減給は覚悟してくれよフェイト。
僕は君のことを大切な義妹だと思っているけど・・・さすがにね。
あとは、戻ったら母さんの説教だ」
「・・・あうう・・・」
すっかり小さくなったフェイトは、あまりの恥ずかしさに顔も上げられない。
「なんつーか、予想通りすぎてつまらんな」
ふと、目を覚ました一郎がそうこぼすと、
「君もだ!!
少しは自覚しろっ!!」
くわっと目を開いたクロノが一郎に向かって吠え立てた。
「うぉっ、やぶへびだったか・・・。
まあそう怒んなって。
見ろ、キャロのやつが怯えてるだろ」
そう言って一郎はキャロの頭を撫でる。
「・・・ハア、まったく君ってやつは・・・。
君の頼みを聞いているうちに、僕は最近裏技ばかり得意になっていく。
僕がどれだけの葛藤と戦っているか君はわかっているのかっ!?」
「いや、全然」
「あーそーだろーよ。
君はそういうやつだ」
さすがにこれ以上はまずいか、と思った一郎はすかさずフォローに入る。
「まあ落ち着け。
理解はしてねえけど感謝はしてるって。
これからも頼むよ、な?」
「・・・・・言いたいことはまだある」
これ以上言っても効果がないと判断したのか、クロノは話を変える。
「君に言われた通り、そこのキャロって子のために地球で暮らす場合とこの世界で暮らす場合、それにミッドチルダで暮らす場合の三種類の書類を用意したんだ。
君が保護者になるか、それともこの世界で誰か任せられる人間を見つけるか、あらゆる可能性に対応できるように準備した。
なのに君ときたら・・・竜を使役しているなんて聞いてないぞっ!!
一体どういうことなんだ?」
「いや・・・ペットってことにして誤魔化せるかと・・・」
「そんな訳ないだろうっ!!
まったく君ってやつは・・・わざと黙っていたな?」
「んな訳・・・」
「あのっ!!」
二人が言い合っていると、横からキャロが叫んで二人の話を止めた。
「・・・どういうことですか?」
一郎に向かってキャロは尋ねた。
「ん・・・ああ、フリードのことか?
こいつ小さいし、何とかなるかな、と・・・」
「そうじゃないです。
わたしのことです・・・なんでですか?」
キャロがそう問い掛けると、一郎は答えにくそうに、それでもはっきりと答えた。
「それは・・・まあ・・・あれだ。
出来る限りのことをしたかったんだよ、俺が。
どうやら何時の間にか、キャロは俺にとって大切な人になってたらしくてな」
「えっ!!」
一郎が何を言っているのかわからず、混乱するキャロ。
「たいせつ・・・わたしが・・・?」
「俺はそう思ってる
・・・もしかして嫌だったか?」
「ち、ちがいますっ!!」
思い切り首を振って否定するキャロに一郎は、
「この三ヶ月・・・キャロと一緒にいて楽しかった。
メシ作るのも食べるのも、やっぱ一人じゃないのはいい」
一郎は一旦言葉を止め、小さく息を吐くと意を決してキャロに精一杯の思いを込めて伝えた。
「キャロがもし、俺と同じ気持ちでいてくれるなら・・・、
俺の、家族になってくれないか?」
その言葉を聞いたキャロは一郎に抱きつくと、部屋中に響くような声で泣き叫んだ。
「どうでもいいけど、出来る限りがんばったのは僕なんじゃないかな?」
「しっ・・・だめだよお兄ちゃん、邪魔したら」
「それは、わかっているけど・・・」
「うう・・・感動だよ。
私泣いちゃいそう・・・」
「・・・そうか、僕は泣くより先に困惑している。
なんでこんなことになっているんだろう?」
「それは勿論、愛だよ」
「(即答か。)
・・・それよりフェイト、話は変わるけど」
「え、何?」
「今度はなのはと何が原因で喧嘩したんだい?」
「ああ、うん、えっとね・・・。
今日なのはと遊びに行ったんだけど、なのはったら映画館で寝ちゃったんだよ・・・私楽しみにしてたのに。
酷いと思わない?」
「(・・・結局いつもの痴話喧嘩じゃないか。)
あーなんだかとーとつにかんげきしてきた・・・なみだなみだ」
「あれ、もしかして流されてる・・・なんでかな?」
そばで繰り広げられる兄妹漫才にも気付かずに、キャロは一郎に抱きついたまま、いつまでも泣き続けた。
・・・つづく。