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[6245] 魔法戦記リリカルなのは~GuardianS~ 【第十二話 ~役割演技~】
Name: Anrietta◆f3aee459 ID:de8dbf33
Date: 2009/05/05 16:17
【なのは第四期詳細情報が知りたい方は第九話の後書きまでジャンプしてください】

前書き

魔法戦記リリカルなのは~GuardianS~は、StrikerSから5年後の世界を想定した、第四期妄想です。

尚、この作品は比村乳業さんの同人作品である『魔法少女リリカルなのは Betrayers』の影響を多分に受けています。

オリキャラを最小限に抑えて既存キャラを活躍させます。
はやてとか守護騎士とかナンバーズとか。

コンセプトは軍事(笑)、知略(笑)、燃え(笑)、といったところでしょうか。
あと、二期の面白さは正義vs正義にあったと思うのでそれを再現したいなぁと。

あんまりぐだぐだ書くとついネタバレしそうなんでこのくらいで。

つまんなければ感想で罵倒してください。
泣いて喜びます。

面白ければ感想で褒めてください。
執筆スピードが加速します。

それでは駄文でよろしければ第四期妄想にお付き合い下さい。



[6245] 第一話 ~予言の守護騎士~
Name: Anrietta◆f3aee459 ID:de8dbf33
Date: 2009/04/02 15:00
古代ベルカの大戦以降、小規模な争いこそあったけれど、平和とされてきた世界で。

世界を二分しての大戦が始まろうとしていた。



片方はこれを聖戦という。

片方はこれを贖罪という。



どちらかが絶対的に正しいなんて、この世の誰が言えるだろうか?

そもそも、絶対的に正しい事など、この世に存在するのだろうか?



子供は、親を、親というだけで正しいと信じ込む。



だが、考えてみて欲しい。



貴方の誕生日は、本当に『その日』か?



貴方の名前は、本当に『その名前』か?



そもそも──貴方は本当に『その人達の子供』か?



何故、疑わない?



理論やデータなどいくらでも改竄する事ができる。

疑う余地などいくらでもあるはずだ。



何故、確かめない?



信じているからだ。



無意識のうちに、まるで刷り込まれたかのように。

人は生まれながらに理解しているからだ。



『正しさ』にはなんの意味も無いという事を。



要は、『それ』を信じるか、否か、ただ、それだけだ。



そして、信じるものを違えてしまったが故に、この世界は二分された。



こんなにも、悲しく、虚しく、儚く、壊れてしまった。



魔法戦記リリカルなのは~GuardianS~



始まります






































<<新暦0080年10月12日 ???>>

ヴァンガード・ナイトレイは本が幾つも収納されている、知らない者が見れば書庫と思う様な場所にいた。
事実、ヴァンが腰掛けている机の左右には本棚が大量の本を抱えてそびえる様にして立っていた。
しかしながらここは図書館でもなければ、世界の記憶を収めた場所とまで言われる彼の有名な無限書庫でもない。

これらの本に目を通した事は無かった。
ヴァンがここに越して来てから5年経ったが、毎日が激務の連続であり本を読む暇などなかった。
しかし、仮に暇があったとしてここにある本を読むかといえば答えは否であったが。

ひとつ大きく嘆息した。
さらさらの黒髪が頭の動きに合わせて揺れ、本に囲まれているその一場面だけを見ればさながら名画の様だった。
それほどまでにヴァンの容姿は良く、若く、悲壮を背負っていた。

ヴァンはこれから自分が起こすであろう事象の事を考えればいい気分ではいられなかった。
その事が悲壮感として体外に現れるほどであり、その悲壮感は1人の女性の心を揺さぶった。

「ひどく、悩んでおられるようですね」

側に控えていたクラン・ロッテが見かねた様にして尋ねた。
クランからしてみればこれから起こる事象は起こるべくして起こる事象。
その事でヴァンが悩むのを見るのは心苦しかった。

「……クラン、例の作戦についてどう思う?」

ヴァンは髪と同じくらい黒い瞳でクランの瞳を見つめた。
人と話しをする時は必ず相手の目を見て話しをするというのが彼のスタンスであった。
その行為が多くの女性の心を揺さぶってきた事など当の本人が知る由もなかったが。

「私は兼ねてよりヴァンガード中将がこの様な所にいる事は我慢なりませんと申してきたはずです」

「私の事など、心底どうでもいい事だ。それに此処に来たのは私の意志でもある」

「地上本部総司令として地上の平和を護る……ですか。
確かに立派な志ではありますが、実際にはJ・S事件の尻拭いではありませんか」

ジェイル・スカリエッティ(Jail・Scaglietti)事件。
5年前に起きた非人道的な技術とされた生命操作技術によって作り出された戦闘機人や人造魔道師を用いた1人の科学者が起こしたテロ事件に、当時の地上本部総司令であったレジアス中将が一枚噛んでいたとされ、本局は地上部に監視役を置くという異例の措置をとった。
その監視役として抜擢されたのがヴァンガード・ナイトレイであった。

今ヴァンとクランがいるこの一室は時空管理局地上本部の司令室に他ならない。

「だが、そのお陰で大出世できた。齢20にして地上本部総司令に着任だぞ?
それに、尻拭いとはいえ多くの人を救う仕事ができているのは事実だ」

「出世ではなくて左遷の間違いでしょう?中将程の能力があればいずれは元帥となる事すら容易なはずです。
地上で人々を救うこともできますが、空であればもっと多くの命を救う事ができるはずです」

「私はそこまで傲慢ではないよ、今の地位でも身に過ぎるものだ。本局の方達は私の事を快く思っていないしね。
空であれば多くの命を救えるというのは偏見だよクラン、それで地上の一角を蔑ろにしていい事にはならない」

「魔道師ランクSS、現役では最高ランクとされている魔道師ランク……。
本局のバカ共は中将の能力に嫉妬しているだけではありませんか」

「魔道師ランクSSは私だけではないよ、『歩くロストロギア』八神はやて准将も確かそうだったはず。
ただ、彼女の場合未だにいわれの無い理由で一部の人間に嫌われている様だがね。J・S事件の功労者だというのに。
未だに闇の書に縛られている……闇の書の呪いと言えない事も無いかもしれないね。
しかし、上官達に対してバカ共は言いすぎだよクラン」

ヴァンが笑いながらたしなめるが、クランはご自慢の栗色の長い髪を少し揺らして頬を膨らませただけだった。
陽に当たったその髪は金色とも言える輝きを放っていた。

「中将とていわれの無い理由で嫌われているのですから同じでしょう。人の本質を見抜けない奴はバカでいいんです」

「ありがとう、クラン。でも、公の場でさっきの様な事を言ってはいけないよ?」

そう言うとヴァンはクランの栗色の髪を撫で、クランは少し赤面しながらまた頬を膨らませた。

「また中将はそうやって私を子供扱いします」

「私からすればクランはまだまだ子供だよ」

「年齢自体は同じと記憶していますが?」

「まぁ、そうなんだけどね」

──クランはまだ、子供のように綺麗な心を保っている。

言葉にこそ出さないが、ヴァンは心底からそう思っていた。
そしてできればそれを護ってやりたいとも思っていた。

「クラン、地上部戦略研究会の方はどうなっている?」

「なにも問題ありません」

「そうか……できればクランには退いて欲しかったんだけどね」

「言って聞くような女だと思っていますか?」

「思えないねぇ」

ヴァンはこの日二度目の嘆息を零した。

………

……



<<同日 時空管理局地上本部職員宿舎>>

「いやぁ~それにしても久しぶりっすねぇ、チンク姉にディエチ姉、それにノーヴェ!!」

時空管理局地上本部職員宿舎の一室で濃いピンク色の髪を後ろでまとめている少女、ウェンディが
久方ぶりの姉妹の再開を身体で表現するように両手を広げていた。

「おいこらウェンディ、何故私にだけ姉をつけねぇんだ!!」

対照的にイライラした様子の赤髪の少女、ノーヴェが声を上げた。
しかし本気で怒っているわけではなく、これがノーヴェなりのスキンシップであった。
元よりノーヴェは何かにつけてイライラしている事が多かったのでウェンディも気にしている様子はない。

「いや、だってノーヴェは何か姉って感じがしないんっすよ。それにノーヴェ姉って呼んで欲しいんっすか?」

「……やっぱいい、なんかこう、背中がむず痒くなる」

ウェンディがからかう様にして下からノーヴェの顔を覗き込みつつ言うと、
ノーヴェは両手で肘を抱きかかえる様にして一歩下がり、背中を掻き始め、それをウェンディはまたからかう。

そんな妹達の様子を2人の姉達が微笑ましそうに眺めていた。

「あいつ等はここ数年で変わったな」

右目を眼帯で覆い隠した、銀髪の小柄な少女、チンクが隣に立った人物に同意を求めた。
その見た目故に勘違いされやすいが、チンクは『現状』姉妹達の中では一番の年長者であった。
年長者であるが故に、妹達の事を心底から思い、目の前の楽しそうな妹達を見ると幸せな気分になれた。

「確かに変わりもしましたが、変わってない気もしますね」

茶色でロングヘアーを後ろで縛っている少女、ディエチが半ば矛盾した答えを姉に返した。
隣を見ると、ディエチが返した矛盾をチンクは理解した様で、神妙に頷いていた。

ディエチもチンクに次いで二番目の年長者であるから妹達の事を気にかけている一人だった。

ひたすらノーヴェをいじっていたウェンディは気が済んだのか、満足そうな顔をしていた。

「あぁ、チンク姉にディエチ姉それとノーヴェ、今お茶を淹れるんで適当に座っててくださいな」

そう言い残すとウェンディは部屋の奥へと引っ込んでいった。
その明るさからか、ウェンディがいなくなると急に人が少なくなったような印象を受ける。

「ノーヴェも久しいな、スバルやギンガとはうまくやっているのか?」

身近にあったソファーに腰掛けながらチンクがそう問うと、地べたにあぐらをかいていたノーヴェはバツの悪そうな顔をした。

「ギンガとはうまくやってますけど、スバルとは喧嘩ばっかりですね。
合わないんですよ、なんかあいつとは」

ノーヴェにとってスバルやギンガはチンク達とはまた違った、もう1つの『姉妹』の様な関係にある。
ノーヴェのクローン元となった遺伝子はスバルやギンガの母親のものであるから、この解釈は間違っていない。
だからといって仲良くなれているかと言われれば、答えは否のようだが。

「同族嫌悪ってやつですかね」

「ディエチ姉、私とスバルを一緒にしないで下さい……」

ディエチが零した言葉にノーヴェはがっくりとうな垂れた。
どう考えてもスバルとノーヴェはある意味、良く似た性格をしていると思うのだが、ノーヴェはそれを認めようとはしなかった。

しかし一時期はスバルの面会を断っていた事も考えると、これはこれでうまくいっているのかもしれないと2人の姉は思うのであった。

「ほいほいほい、お茶が入ったっすよ~!!ウェンディさん特製のなんとかって紅茶っす!!」

ウェンディが、自身が淹れたこと以外全く分からない情報を喋りながら紅茶をテーブルに並べていく。
紅茶の知識などないからこれは何だと言われても全く分かりはしない姉妹達であったが。

「そんでさ、ノーヴェはゲンヤさんとはどうなってんっすか?」

ブゥッッッ!?

ウェンディがそう問うた瞬間、ノーヴェは口に溜まったウェンディさん特製なんとかって紅茶を盛大にぶちまけた。

「ぬおおおおおおおおおお!?目が、目がぁああああああああああ!?」

紅茶を顔面で受け止めたウェンディが目を押さえながら床をのた打ち回っていた。

「ななな、何でゲンヤの事を聞くのよ!!」

「いや、ゲンヤは我々の保護責任者だろうが。関係を聞くのは当たり前だろう」

「チンク姉さん、そういう事ではないと思います」

ディエチの言葉をチンクは全く理解できない様子で首を傾げていた。
顔を真っ赤にしているノーヴェの様子を見れば一目瞭然だと思うのはディエチだけでは無いと思うのだが。

「わかってないっすね~、チンク姉。ノーヴェはゲンヤさんの事が『IS起動』……え?」

いつの間にか復活したウェンディが目を輝かせてチンクに説明しようとするが、ノーヴェの声に邪魔される。

『IS起動』とは姉妹が持つ先天固有技能を起動する為のリミッター解除の様なものだ。
魔道師のデバイスでいうなら『セットアップ』がこれに当たるかもしれない。

ノーヴェがこれを発したという事はノーヴェのISであるガンナックルとジェットエッジが武装される事を意味する。
ガンナックルは右手の甲につけた黄色の部品が入った籠手の武装、ジェットエッジは足に着けたローラーブレードの様なものを指す。
それらを武装したという事は……

「吹き飛べぇえええええええええええええええええええええええええ!!」

ドンという鈍い音が部屋に響き渡るが、チンクとディエチは我関せずといった風に紅茶を啜っていた。
姉達の予想通り、目の前には大きな盾の様なもので身を護ったウェンディが悠然と立っていた。
この盾の様なものはライディングボードと言い、ウェンディのISで盾になったり移動手段になったり砲撃装置となったりと
汎用性の高い装備である。

「ふふふ、甘いっすよノーヴェ。このウェンディさんには不意打ちなど無意味さぁ!!」

さっき思い切り紅茶をぶっかけられた事はもうすっかり忘れているらしい。

それから狭い部屋の中で器用に姉妹喧嘩を始めた妹達を眺めながらチンクとディエチは紅茶を啜った。
元より止めるつもりなどない、爆破型のチンクと砲撃型のディエチの2人が介入したらこの部屋が壊れかれない。
それに、なにより面倒臭かった。

「全く、せっかく4人揃って休みがもらえたと言うのにあいつ等は……」

姉妹達は時空管理局地上部隊として所属しているが、それぞれ部隊が異なる為にこうして4人揃う事はなかなかなかった。
それ故に今日そろって会えるのを楽しみにしていたのだが。

「喧嘩するほど仲がいいって奴でしょう」

「そういうものか。しかし、あの事件からもう5年か……セイン、オットー、ディードは元気でやっているだろうか?」

チンクは引き離された妹達を思った。彼女達と最後に会ったのはいつの事だろうか。

「聖王教会の騎士団の一員として元気にやっているそうです。
姉妹で集まれればいいのですが、さすがに騎士団の休みまでは合いませんねぇ」

セイン、オットー、ディードの三人は保護責任者が聖王教会の人間という事もあって全員が騎士団へ入団していた。

チンク達姉妹には保護責任者がいる、それだけで分かるとおり彼女達は過去に犯罪を犯したのだ。
後にJ・S事件と呼ばれるようになったテロ事件に戦闘機人として介入していた。

それでも今こうして平穏として暮らしているのは事件後に罪を認め捜査に協力し、更正プログラムを受けた為である。
その後はそれぞれの「生きる道」を模索していたが、どうにもやはり戦う事が彼女達には合っていたらしい。
気がつけば、全員がなにかしらの武装組織に入っていた。

ただ、言いなりになって戦うのではなく自分の意思で選んで戦っているし、
人を護るために戦っているのであるからその充実感は以前とは比べ物にならなかったが。

「元気でやっているならそれでいいのだがな」

「ウーノ、トーレ、クアットロ、セッテにも会えればいいのですが」

チンクはその名を聞いて表情を暗くした。
それは罪を認めず、更正プログラムを受ける旨をよしとしなかった姉妹達。

「無理だろうな、トーレとセッテはともかく、ウーノとクアットロはDrを好いているからな」

テロの主犯、スカリエッティと志を同じくするのであるから釈放はないだろうと思う。

トーレとセッテは「敗者には敗者の矜持がある」という理由で刑期短縮を断っている。
元々頑固な性格であったから今更何を言ったところで罰を受けるつもりなのだろう。

「……もし、私達が普通の姉妹であったならどれだけ幸せだったんでしょう」

ディエチは遠くを見るような目で零した。
優しい子であるから牢獄に入っている姉妹を心配しているのだろう。

「幸せとは限らん、だが、悪くないようには思う」

──だが、それでも。

チンクは目の前でじゃれあっている2人の妹を見つめた。

今、この瞬間は、少なくとも幸せであると感じていた。

………

……



<<同日 聖王教会>>

聖王教会の騎士カリム・グラシアは『預言者の著書』というレア・スキルを保有している。
最短で半年、最長で数年先の未来を、詩文形式で書き出した預言書の作成を行うことのできる能力。
かつてJ・S事件を予言していた事もあって、この能力は時空管理局本局でも以前にもまして重要視されるようになっていた。

そして、今回の予言はカリムの悩みの種となるには充分すぎた。

「やはり地上部戦略研究会が一枚噛んでいる様ですね」

ヴェロッサ・アコース捜査官より手渡された報告書を眺めながらそんな事を呟く。
しかし、手渡された報告書はあまり多くのことは書かれていなかった。
それだけ情報漏洩に気を配っているという事だろう。

「ずいぶんと慎重に事を進めている様でね、それ故に怪しいんだが」

白いスーツに身を包んだ緑の長髪の男がカリムの呟きに答える。
この男こそが時空管理局所属のアコース捜査官に他ならない。
手作りのケーキを手土産に持ってきてくれたが、カリムはとても食べる気にはなれなかった。

「セインのディープダイバーを使っても報告は同じようなものでしたしね。
しかし、ここまでセキュリティを固めれば逆に怪しまれるとは思わないのでしょうか?」

「彼らにとっては疑われる事よりも確証を得られる事の方がまずいんだろうね。
……あるいはブラフという可能性も否定できないが」

結局は何も分からないという事。
カリムは嘆息しながら、預言者の著書を起動し、ページの一枚を選んで取る。

それは、詩文というには余りにも短すぎる文章。

『蒼き月が満ちる頃に、守護騎士は反逆する』

守護騎士と言われてまず思い浮かべるのは八神はやてが所有する闇の書より生まれし「守護騎士(ヴォルケンリッター)」
しかし、カリムはこの守護騎士達が反逆を起こすとは思えなかった。

主である八神はやてを護る事を誓っている彼女達だし、その誓いを破る事は騎士としての誇りを失う事を意味する。
なにより、八神はやてが亡くなれば守護騎士達はその役目を終えて消滅するはず。

また、その人柄を近くで見てきたカリムであるから彼女達には全幅の信頼を寄せていた。

後に残っているのは地上本部総司令官ヴァンガード・ナイトレイ。
もちろん名前にガード・ナイトと入っているから疑っている訳ではない。
疑っている理由は皮肉にも『地上の守護騎士』と二つ名がつくほどに彼は市民や部隊員から好かれている事。
ヴァンガード中将いわく、二つ名は犯罪抑止力となるプロパガンダにする為に本局が流したのだろうと言っていたが。

カリムは数回に渡ってヴァンガード中将に会った事がある。
そして、その人柄を認めてもいた。
地位、名誉、富を求めているわけではなく、純粋に人々を護りたいと願っている人物のはずだ。

そしてその人柄を知っているが故に反逆を起こすとは思えなかった。

「ヴォルケンリッターに地上の守護騎士……予言の守護騎士はいったい誰だというの?」

カリムが思わず零した言葉にヴェロッサは何故かくっくと笑っていた。

「いったい何が可笑しいのですか、アコース?」

少し身構えるようにしたカリムにアコースは両手を挙げて攻撃の意思なしのポーズをとっていた。

「いやなに、奇妙なものもあるものだなぁと思ってね」

「いったい何を……」

「君はこの可能性を考えないのかい?」

──教会の守護者、聖王教会第2騎士団、騎士団長カリム・グラシアともあろう方が。

………

……



<<同日 地上部戦略研究会>>

地上部戦略研究会は新暦0078年に起きたアルカディア事件を機に発足された戦略研究会である。

アルカディア事件。
第97管理外世界から違法に持ち込まれた質量兵器を用いて、アルカディアと名乗る組織が時空管理局ならびに
聖王教会が危険物として管理している過去に滅んだ超高度文明から流出する技術や魔法『ロストロギア』の強奪を目的とした、
過去に例を見ない大胆なテロ事件。

質量兵器を使用しない治安維持を目的として発足され、質量兵器の保有を認めない時空管理局からすればそれは挑発にも似た行為だった。

世界は、これをすぐに鎮圧すると信じていた。
それほどまでに管理局の魔法による治安維持能力は信頼されていたのだ。

しかし、現実は違った。
質量兵器は管理局の知るそれよりも圧倒的な殺傷能力を身に着けていた。

事態は急変した。
魔法と違い圧倒的な殺傷能力をコンスタントに発揮できる質量兵器による犠牲者は増える一方。
遂には地上本部総司令官であるヴァンガード中将が直々に出向いての管理局の総力をかけた
アルカディア掃討作戦が行われた程だった。

そしてそれを解決に導いたのは皮肉にも同じく禁止された技術、過去のテロリスト。
J・S事件の戦闘機人、ナンバーズと呼ばれる姉妹だった。

事件はそこで終わらなかった。
アルカディア事件を機に質量兵器を用いた犯罪が急増。
管理局側の魔道師の犠牲も加速度的に上がっていく事は目に見えていたが、
ヴァンガード中将ならびにナンバーズ、陸士176部隊(通称、八神部隊)の活躍もあり今日までなんとか治安を保っていた。

それらを踏まえた上で地上部戦略研究会が出した結論は

「質量兵器を用いた犯罪を抑止するためには戦闘機人の運用もやむなし」

だった。
事実として、地上部隊の武装魔道師の損耗率は無視できる範囲をゆうに超えており、
このままでは治安維持能力を維持できないところまで来ていた。

戦闘機人を運用するには管理局最高評議会と本局を説得して法律を変える必要がある。
しかしながら現実的にそこまで時間をかけていればいずれ管理局の護るミッドチルダの治安は崩壊する。

故に……

「ここ最近、教会のねずみがせわしなく動いているな」

薄暗い部屋で1人の男が報告書に目を通しながら呟いた。

「なぁに、何もわかりはしませんよ。そうでしょう……」

その呟きに返事をするのは地上の守護騎士とまで謳われたヴァンガード・ナイトレイであった。
ヴァンはそのまま視線を1人の女性に向けた。

──八神はやて准将?

………

……



To be continued.



……

………

<<用語説明>>

■ヴァンガード・ナイトレイ

オリキャラ。正直、厨二設定だと自分でも思うw
中将として軍団規模の部隊指揮権をもっている。
名前の由来はトヨタ車のヴァンガードより拝借。

■クラン・ロッテ

オリキャラ。正直、いらない子なんじゃないかと出した後で思ってきた。
ヴァンの補佐役。
名前の由来はトヨタ車のクラウンより拝借。

■アルカディア事件

オリジナル事件。突っ込みどころ満載ですが、生暖かく見守ってください。
名前の由来はここのHP名より拝借。

■第97管理外世界

地球のある世界。

■陸士176部隊

八神はやて直轄部隊。数字に意味は無い、規模は中隊規模。
八神はやては准将として連隊規模の部隊指揮権を持つ。
おそらくヴォルケンリッターの面々もいるはず。

■聖王教会騎士団

聖王教会が保有する武装魔道師軍団。1騎士団の規模は大隊規模。
第2騎士団の団長がカリムなのは、なんとなく。

■質量兵器

小型拳銃~戦術核まで、とにかくボタン1つとかで簡単に人を殺せる兵器。
刃物がこれに入るのかは疑問。

■ナンバーズ

ナンバーズかわいいよナンバーズ。



[6245] 第二話 ~蒼き月が満ちる頃に~
Name: Anrietta◆f3aee459 ID:de8dbf33
Date: 2009/03/02 14:33
<<新暦0080年10月14日 聖王教会騎士宿舎>>

セミロングで水色の髪の少女、セインは辟易としていた。
今日は久方ぶりに姉妹揃って休みがとれたのでオットーとディードを部屋に呼んでいた。

「いや、それでシャッハの聖訓ってのを耳が腐るくらい聞かされてさ」

セインの保護責任者であるシャッハ・ヌエラは何かと教会の教えをセインに聞かせたがる。
おかげで望もうが望むまいが、協会の教えに関してはそこらの信者より詳しくなってしまったほどだ。
その事で2人の妹に愚痴をこぼそうとしたのだが……

「そうですか」

相槌をうってくれるのはカチューシャをつけた茶色のロングヘアーの少女、ディード。

「…………」

茶色の短い髪をしているオットーは、まるっきり興味が無いのか無言、無表情のまま。

この2人の妹は双子と言われるくらいにそっくりの性格をしている。
あえていうなら無言、無表情。
これでも5年前から比べれば、だいぶ改善された方ではあったが。
ディードは元々社交的であったからこうして会話できているのだが、どうにもまだ掴めない。
良い子であることに間違いはないのだが。

「カリムはそんな事しないでしょ~?マジ羨ましい……」

「カリムは信仰は個人の自由だと言ってくれていますから。
それでも騎士団に所属する以上ある程度は学習させられましたが」

「ぬあぁ、宗教ってめんどくさ!!なんで大昔に死んだ人に祈らなきゃならないのさ!!」

セインがうがぁ~っと言いながら両手で頭を抱える。
そんなセインの様子をオットーは気だるそうに眺めていた。

「騎士の聖王教批判は大罪だよ、セイン」

オットーの言葉にセインが頬を膨らませる。
どうにもセインにはオットーの指摘は不満なものらしい。

「そうだけど、なんていうか、先達に敬意を払うのは分かるけど、崇めるのってなんか違う感じがするんだよ」

「僕は、どっちも同じ意味だと思うんだけど」

「違うんだよ、なんか、よく分かんないけど」

そう言ってセインは両手を頭の後ろで組んで床に仰向けに倒れた。

「ヴィヴィオだってそうじゃん、『聖者の印』を持つ者とかって祭り上げられて」

ジェイル・スカリエッティによって創られた人造生命体であるヴィヴィオの事を思う。
右目が翡翠、左目が紅玉のオッドアイは古代ベルカにおいて「聖者の印」として尊ばれていた。

さすがに遺伝子レベルで聖王の器を持っている事は一般人には知らされてはいないが、
オッドアイについては隠しようもなく、一部ではヴィヴィオを聖王の末裔として持ち上げる動きもある。

騎士団長カリムと八神はやて准将にフェイト・T・ハラウン二佐、ヴィヴィオの保護者である高町なのは一尉、
の保護もあって押さえ込んでいるが、ゆくゆくどうなるかは分からない。

「まだ11歳だというのに……教会の外にもなかなか出させてもらえない様ですしね」

そしてそれだけの影響力を持つヴィヴィオであるから、自由とは程遠い生活を送っていた。
同じような境遇にあるからセイン達とヴィヴィオは行動を共にする事も多かった。
だからこそ、セイン達はヴィヴィオを妹の様に思っていた。

「でも、それが宗教だよ」

オットーが静かに呟くと、姉妹たちは嘆息した。
聖王教会を嫌っているわけではない、だがしかし、宗教色が強いこの団体に疑問を持つ事はある。

「なんか、すっきりしない事ばっかなんだよね」

「カリムの予言の件ですか?」

「あぁ、地上部戦略研究会が何かしら企んでのは間違いないんだけど、セキュリティが高い。
私の『ディープダイバー』でさえ引っかかるって事は私が侵入する事を予測してたんだろうし、
おまけにアコース査察官の『無限の猟犬』でさえ掴めた事はほぼないと言っていい」

セインの持つIS、ディープダイバーは無機物に潜行し、自在に通り抜けることが可能な能力。
その性能故に隠密行動や潜入作業に向いているが、J・S事件の教訓を受けてか、セキュリティが強化されていた。

また、アコース査察官の目視や魔力探査にかかりづらいステルス性能を持つ無限の猟犬でも結果はほぼ同じだった。
異常なまでのセキュリティ、まるで疑ってかかれと言っているかのようなもの。
だが、疑う事はできても確証が得られなければ聖王教会は動く事はできない。
もし間違いであったなら内政干渉と批判を受け、その地位を失墜しかねない。

「蒼き月が満ちる頃に、守護騎士は反逆する」

──蒼き月が満ちるまで、もう時間がない。

………

……



<<新暦0080年10月16日 時空管理局地上本部>>

ウェンディは慣れない手つきで事務作業をしていた。
身体を動かす事が主な任務ではあるが、だからといって事務作業が無いわけではない。

「ぬああああああああ、つまんないっす」

元々事務作業が嫌いなウェンディは思わず愚痴を零してしまう。
こんなときオットーがいればすぐに終わるのになぁ、なんて事を考えていた。

「こらこら、お仕事中でしょうが」

そんな声に振り向くと長い金髪を後ろで束ねている女性、フェイト・T・ハラオウンが苦笑いをしていた。
ウェンディは慌てて敬礼をする。

「お勤めご苦労様ですハラオウン二佐殿!!」

そんなウェンディを見てフェイトは少し驚いた後に目を見開いた。
その後にくすくすと笑いながら答礼する。

「あはは、そんなに畏まらなくてもいいのに」

「規律ですので。それに私の場合は人一倍気をつけなければ、なんやかんやとうるさいですからね」

ウェンディは辟易とした表情で愚痴を零した。
ナンバーズを未だにテロリストとして見ている人物は多い。
彼女達がいくら頑張ろうが、どんなに人を救おうが、貼られたレッテルは簡単に剥がれる事はなかった。

「だったら、さっきのつまんないっすもまずいかもね」

「う……気をつけるっす」

ウェンディがバツの悪そうな顔をすると、フェイトはその頭を優しく撫でた。

「大丈夫だよ、きっといつかは分かってもらえる」

しかし、ウェンディは珍しく表情を曇らせた。
元来明るい性格である彼女をここまで暗くさせる事があるのかとフェイトは驚いた。

「差別はなくなりませんよ、私達が戦闘機人であるって事実は消えません」

ウェンディが思わず零した言葉にフェイトは胸が締め付けられた。
確かに戦闘機人や人造魔道師を毛嫌いしている人は多い。
禁じられた技術で創られた、というのも確かに理由の1つではあるが、それ以上に大きい理由がある。

それは、『自分達とは違う』という理由。
人間は完成された空間に異物が混入すれば排除しようとする傾向にある。
戦闘機人や人造魔道師はこの世界からすれば禁止された異物でしかないのだ。

フェイトとて人造魔道師であるからその気持ちはよく分かった。
しかし、フェイトの場合は周りが優しい人達ばかりだったのでそれほど気にせずに成長できたが、
ナンバーズはそうともいかなかった様だ。

「でも、だからって諦めちゃ何も変わらないよ」

「それは……わかってるんっすけどね」

そう言いながらウェンディは頭をポリポリと掻いた。

それを見て、フェイトは本当に愛らしいと感じていた。
こんな少女がいわれの無い理由で傷ついているという理由はフェイトを怒らせるには充分な理由だった。

……今度アコース査察官に頼んで探りを入れてもらおうかと本気で考えるフェイトであった。

「そういえば二佐は何でこんな所にいるんっすか?」

フェイトは元々本局の人間であるから地上部にいることは珍しい。
それにこんな一部隊にわざわざ顔を出しに来たという事はよほどの用事だろう。

「はやて准将にちょっと呼ばれててね、ナンバーズも連れてくる様に言われてるんだ」

「え……私達何も悪い事してないっすよ!?」

ウェンディはあたふたと手を振って否定の意を示す。
フェイトはそれを見てまたくすくすと笑うのだった。

「あはは、そういう事じゃないと思うよ」

「なんだ……良かったぁ」

ウェンディがそれを聞いてほっと胸を撫で下ろした。
しかし、その後またう~むと首を傾けていた。

「それなら、なんでっすかねぇ?」

「さぁ、分からないけど。また皆と仕事ができる様になったら楽しいなぁと思ってるよ」

「あぁ、機動六課でしたっけ。でも私達を1つの課で独占なんて上が黙ってないと思うんっすけど」

そう、アルカディア事件が起きて以降ナンバーズを求める声は各地で上がっている。
ウェンディは今日はたまたま事務処理だが、姉達はきっと誰かしら出動しているはず。

「あ、もしかしたら姉さん達出動してるかもしれないっす」

そのことに思い至ったウェンディが声を上げるが、フェイトは気にした風も無かった。

「なんか、はやて准将が無理を言って全員今日の出動は無しって事にしたみたい」

「はぁ……それだけ重要な事ってことっすか」

全く話しの全容が見えてこないのでウェンディはまたう~んと首を傾けるのだった。

………

……



<<同日 時空管理局地上本部ブリーフィングルーム>>

「なんや、久しぶりやねぇ」

八神はやてがナンバーズとフェイトを笑顔で出迎えた。
フェイトが思わず顔を緩める横でナンバーズは顔を引き締めていた。

「八神はやて准将に対し、敬礼!!」

背後からしたチンクの号令に思わずビクリとすると、ナンバーズが綺麗に敬礼していた。
フェイトも慌てて敬礼するが、その様子を見てはやてはくすくすと笑った。

「へぇ、なんやいっちょまえの兵隊さんみたいやなぁ」

そんな事を言いながらはやても答礼して楽にするように促す。
しかし、はやての言葉を聞いたチンクはむっと顔をしかめた。

「お言葉ですが准将、我々は既に陸士部隊の一員です」

「あぁ、ごめんごめん。別に嫌味とかやあらへんよ?
ただ、最初のイメージが強すぎたというかなんというか」

はやては慌ててフォローになっているのか良く分からない事を言った。
確かに以前敵だった彼女達がこうして軍人然となっていれば驚くのも無理は無いだろう。
ナンバーズ達もその自覚はあるのか全員が若干頬を赤くしていた。
そんな様子を見てフェイトはまたくすくすと笑った。

「そんな事よりも、何かあったんだよね?」

フェイトがそう問うと、はやてはその表情を暗くした。
否、引き締めたといっていい、その瞬間にはやては軍人然とした雰囲気をかもしだしていた。
フェイトもそれに気づくと表情を引き締めた。

「今日皆に集まってもらったのは他でもない、大事なお話があったからや」

はやてがそう言った後で部屋の雰囲気が若干変わった。
いや、変わったのは雰囲気ではない、これは……

──魔力ジャミング!?

驚いていたのは何もフェイトだけではない、ナンバーズとてそれを感知していた。
おそらくは通信妨害の類の術、それを地上本部内で展開するという事はそれだけで問題になりかねない。
しかしはやてはそれを気にした風もなく、部屋に用意された椅子に腰掛け、皆に座るように促した。

「まわりくどいのは好きやない、せやから単刀直入に言うで」

そこまで言って、はやては一度大きく息を吸った。

「私、八神はやて准将及びその同志は本日1400をもって現時空管理局の体制に疑問を呈す者として、
現体制からの脱却を図るべく、時空管理局および最高評議会に軍事力をもって訴えかけるものとする」

フェイトは、はやてが浪々と紡いだ言葉を頭で理解しても心が理解するのを数瞬遅れるのを感じていた。
それはナンバーズとてそうであった。

頭から血の気が引いていくのを感じ、一瞬にして喉がからからになる。
冷や汗か、脂汗とでも言うのだろうか、フェイトの背を冷たいものが伝っていった。

そして理解した、これは……。

「クーデターを起こすつもり!?」

『Barrier Jacket, Impulse Form』

フェイトは立ち上がり無意識の内に自身のデバイスであるバルディッシュを起動していた。
漆黒のバリアジャケットを身に纏い、即応体制をとる。

『IS起動』

ナンバーズ達も同様に武装していた。
これだけの火力で攻められれば、いくらはやてとて勝てるはずがない。

「分かりやすく言えば、そういう事やね」

しかし、自分に向けられている武器たちを見ても実に冷静に返していた。
騎士甲冑を装備する様子もない、何故これほど余裕を持っていられるのかフェイトには理解できなかった。

「……まずは、話しを聞こうか」

「そんなら武器を下ろしてくれるとありがたいなぁ」

「それは……できない」

今、目の前にいるのは現時点ではテロリストとなんらかわりない事を起こそうとしているのだから。
しかし、頭ではそうだと分かっていても長年友達と思ってきた者にバルディッシュを向ける事は心を痛めた。
そんなフェイトの様子を冷静に伺うはやてが何故かそら恐ろしかった。

「私がクーデターを起こそう言うんは何も権力に目が眩んだ訳やない、管理局の現体制に疑問を持っているからや」

「現体制に……疑問?」

「アルカディア事件以降、質量兵器を用いた犯罪は加速度的に増えてきている。
といっても、そのどれもが小規模なものや、本局が動くほどの──次元犯罪であることは、まずない」

アルカディア事件。
地上で起きた事件故に本局が関与するほどのものではないとタカをくくっていた事件。
だが、現実には地上本部の魔道師、聖王騎士団だけで対処する事はできなかった。

本局がその重い腰を上げたのは地上本部の人的被害が無視できる範疇を超えてからだった。
そして使い捨てのコマといわんばかりにナンバーズを最前線にさしむけた事も記憶に新しい。
結果的にその功績によってナンバーズの厳重監視期間は大幅に削られる事になったのだが。

それ以降、魔道師に対して非常に有効な攻撃手段として質量兵器が使われるようになったのは管理局内では周知の事実である。

「要するに、本局からもっと武装魔道師を地上部に増員して欲しいって事?」

「──あかん」

「──え?」

「本局から武装魔道師を地上部に増員したとして質量兵器対策の抜本的な解決になるか言うたら、答えは否や。
確かに一時的に戦力は得られるかもしれへんけど人的消耗度は変わらへん……いつか『弾切れ』になる時がくる。
それに本局の戦力を削るいう事は、次元犯罪に付け入る隙を与えるいうことや。そんな事あってはあかん」

「でも、それじゃあクーデターを起こしても事態は何も変わらないんじゃ……」

「質量兵器を用いた犯罪を抑止するためには戦闘機人の運用もやむなし。
これが……地上部戦略研究会が質量兵器犯罪抑止の為に打ち出した結論や」

「──な……に?」

その言葉に驚愕したのはフェイトだけではない、ナンバーズからも驚愕の声が上がっていた。
戦闘機人の運用が意味する事は……

「戦闘機人を量産しようというの!?」

「そや、質量兵器に対する戦闘機人の有用性は既に実戦証明されてる。
こういう言い方はしたぁないけど、それによって武装魔道師や魔道騎士の被害を減らす事ができる。
つまりは地上部隊は地上部隊として質量兵器に対する抑止力を持つ事ができる」

「──ふざけんな!!」

ドンっと鈍い音が部屋に響き渡る。
壁をガンバックルで殴りつけながら怒号を上げたのはノーヴェだった。
打ち付けられた壁は余りの衝撃に大きくひび割れてしまっていた。

しかし怒っていたのはノーヴェだけではなく、ナンバーズ全員の表情から怒りが伺えた。
要は怒号を上げるのが早いか遅かったかだけの話し。

「なぁんもふざけてないよ」

しかし、そんな様子を見てもはやては表情1つ変えることはなかった。
まるで感情を総て殺したかのような様子にフェイトは思わず息を呑んでしまう。

この5年の間にずいぶんと、変わってしまった。
何故、気づけなかったのかとフェイトは自責の念に囚われる。

「てめぇらがやろうとしてんのは、戦闘機人を魔道師の盾とするようなもんじゃねぇか!!
非人道的な技術だと言っておきながら、いざ必要となったら手のひら返すのかよ!!
戦闘機人を使い捨てにするような戦術が非人道的じゃねぇっていうのかよ!!」

いっきに言葉を紡いだノーヴェは、はぁはぁと呼吸を荒くしていた。
そしてはやてがノーヴェの言葉を聞いて紡いだ言葉は唯の一言のみだった。

「詭弁やなぁ」

まるで吐きすてるように、感情も無く放った言葉。
その言葉はノーヴェの逆鱗に触れるには充分すぎたらしい。
フェイトが気がついたときには既にノーヴェは飛び上がり、はやてとの間合いを詰めようとしていた。
その瞬間に部屋の雰囲気がまた変わった。

──魔力ジャミング解除。

「レヴァンティン!!」

『Jawohl,Panzergeist!!』

耳に響くのは懐かしき戦友の声。
共に武を高めあった友である彼女の声。

「ダメ!!戻っ……」

フェイトの言葉は最後まで紡がれる事無く、鳴り響く破壊音と剣戟に打ち消された。
彼女はこの部屋の上階から壁を突き破ってここまで突出してきたのだ。
部屋を覆いつくさんとする爆煙の中からノーヴェが弾き出され、壁に打ち付けられた。

「ガハッ!?」

そして煙の中から現れたのは八神はやての守護騎士、ヴォルケンリッターの将、シグナムであった。
炎を身に纏い、静かに佇むその姿は見る者を萎縮させる。
生物の本能で知らされるレベルの力の差。
『炎の魔剣』レヴァンティン、『烈火の剣精』アギトを従えたシグナムの魔道師ランクはSSに匹敵するとまで言われていた。

フェイトの魔道師ランクはS+、魔道師ランクが総てではないが、それは強さの基準として明確に存在する。
そしてSランク以降は+ひとつですら圧倒的に力量に差が出る事はよく知られている。
事実、フェイトは模擬戦でアギトを従えたシグナムに勝つことは至難の技だった。

「話しの途中やったなぁ、非人道的な技術、戦闘機人。
確かにそうかもしれへんけど、こうしている間にもどこかで魔道師は死んでいってるかもしれん。
それをただ見殺しにしていくことが人道的と言えるんやろうか?」

気がつけばまた魔力ジャミングが展開されていた。
どうやら、このジャミングは通信妨害とシグナムの突入タイミングの二つの目的を持っていたらしい。

「……それでも、戦闘機人が非人道的な技術である事には変わりない」

だが、一時的とは言え、ジャミングを解除して爆発的な魔力を出したのだ。
すぐに誰かが気づいてとんでくるはず。
ならば今すべきなのは、時間稼ぎ。

「ん……あぁ、誰か助けに来てくれると思てる?
安心してえぇよ、地上本部のセキュリティは既に同志が制圧してるから。
ゆっくりお話できる」

一瞬出口に目を向けたのがばれたのか、思考を呼んだ様にフェイトの考えをあてた。
ナンバーズ達をちらりと見ると、全員が即応体制をとっていた。
ノーヴェも既に起き上がってシグナムを睨みつけていた。
あるいは全員の一斉攻撃なら……

「非人道的言われても、それでたくさんの命が救えるんなら、それは価値のある事やと思わんか?」

「……その身勝手な理由で、我々のように差別される命が大量に生産されるのだな」

そこまで沈黙を護っていたチンクが初めて口を開いた。
やはりナンバーズはあまりいい扱いをされていなかったらしい。

「差別が生まれるんは戦闘機人うんぬんよりも人の心に問題があるとは思わへんか?」

「それこそ詭弁だ、人はそう簡単には変わらない」

「諦めたらそれこそ、何も変わらへん」

その言葉は皮肉にもフェイトが先ほどウェンディに言った言葉そのものだった。

何故、同じ思いを持っているのに、こうも立場が違ってしまったのか。
その事を悔やまずにはいられなかった。

「……貴女の理論も理解はできる、だが、同じ技術で創られた我々であるからこそ、
生理的な部分でその理論は否定される、両親のいない悲しみを、差別される悲しみを、
これ以上いたずらに増やすことは我慢ならんのだ」

「どうあっても、相成れんか?」

「これ以上は語る言葉をもたん」

それを聞くと、はやては大きく嘆息した。

「ギンガとスバルも同じ様な事を言ってた、当事者でなければ分からんもんもあるって事か」

「てめぇ……スバルとギンガに何をしやがった!!」

その言葉を聞いたノーヴェが怒りに身体を震わせていた。
視線だけで人が殺せるならばはやては既に死んでいるだろう。

「なぁんもしてへんよ、2人と陸士108部隊は既に指揮権下から離脱してる。
今どこにおるんかは私の知ることじゃない。
あんた達もはよう行き、クーデター開始までもう時間がない」

その言葉を一瞬理解できなかった。
つまりは見逃すと言うのか、クーデターが起きると知っているフェイトとナンバーズを。

「私達は貴女をテロリストとして捕まえる事が……」

「勘違いしたらあかんよ、フェイトちゃん……見逃してあげるいうてるんやで」

確かに、今ここで戦えば援軍が来るのは間違いなくはやての方。
そうなれば捕まるのはどちらかなど、考えるまでもない。

「……次に会うときは、敵同士かな?」

「……絶対に止めるから」

その言葉を最後にフェイトとナンバーズは部屋を出て行った。
はやては最後まで向けられた敵意の視線に、今更ながらに心を痛めていた。

「良かったのですか?」

騎士甲冑を解除したシグナムがそう問いかける。

「あの子達には、きちんと説明せないかん気がしてな……分かってもらえるとは最初から思ってへんよ」

「ずいぶんな悪役になってしまいましたね」

「それで多くの人が救えるならそれでいい、私は悪魔にでもなんにでもなる」

「しかし、ヴァンガード中将が黙ってみているでしょうか?」

「スバルとギンガの時も黙ってたんやから何も言わへんやろ。
あるいは、私がこういう行動とるのも、中将はお見通しなのかもしれへんな」

ヴァンガード・ナイトレイが何らかの思惑を持って動いている事だけは確か。
それだけは確証を得ていたが、それが何であるかをはやてはまだ知らなかった。
全くもってくえない人というのがはやてのヴァンに対する評価だった。

「何を企んでんのか知らんけど、せいぜい利用させてもらうわ」

………

……



To be continued.



……

………

<<用語説明>>

■聖王教

聖王教会が信仰している宗教。
古代ベルカ帝国の聖王を信仰?
キリスト教みたいな感じかなぁと勝手に解釈。

■高町なのは一尉

皆階級が上がっているのに、なのはだけ一尉の理由は未だに教導官であるから。
主役なのに何故か出てこない……。

■魔力ジャミング

通信、映像、魔力反応を遮断する場。

■次元犯罪

とにかく大きな犯罪。
ロストロギア関連が多い。

■陸士108部隊

ギンガとゲンヤ・ナカジマが所属。
ギンガの道連れで離反?



[6245] 第三話 ~翼の道~
Name: Anrietta◆f3aee459 ID:de8dbf33
Date: 2009/02/27 22:10
<<新暦0080年10月14日 時空管理局地上本部司令室>>

「スバル・ナカジマ准尉、陸士108部隊に続いてフェイト・T・ハラオウン二佐及び
ナンバーズが指揮権下から離脱したようです」

端末に送られてきた情報を眺めながらクランが報告する。
ヴァンはそれを聞いて大きく嘆息を洩らした。

「こうも戦闘機人が離脱するとはねぇ」

「それならば、何故八神はやて准将を野放しにしておくのです。
いくらクーデター首謀者といっても度が過ぎる行いです」

どうにもクランは八神はやてをあまり快く思っていないらしい。
確かに、クーデターに加わる者として情報漏洩は良い事ではない。
下手すれば一生を牢獄で過ごすなんて事にもなりかねないのだから。

「野放しにしているつもりはないよ、私の予想通りに事は運んでいる。
それに情報漏洩は大した意味を持たないよ、これまでセキュリティを担当していたのは彼女だ。
その彼女が情報を流したという事は、その情報に価値が無いか、あるいは撹乱目的のブラフか。
正直言えばナンバーズには此方に残って欲しかったが、それでもさしたる問題ではない」

ヴァンの言葉にクランは目を若干泳がせた。
長年付き合っていて分かったが、クランが目を泳がせるときは、疑っている時か嘘をついている時だ。
今はおそらく前者、どうやら疑われているらしい。

「いったい何を企んでいるんです?」

意を決っして問いかけてきたクランにヴァンは微笑しながら答える。

「企んでいるとは穏やかではないね、クラン」

「今回のクーデターにしても首謀者はヴァンガード中将の方が適任の様に思えます。
それを八神准将に託したのは何故です?」

「人にはそれぞれ役割というものがある。
私には私の成さねばならぬ事があるのだよ、もちろん八神准将にもね」

「……切り捨てるおつもりですか?」

クランが若干声を低くして呟いた言葉にヴァンは思わず身体が固まるのを感じた。

そして次の瞬間には爆笑していた。

「──な、何故笑うのです!?」

クランはヴァンが何故爆笑しだしたのか、訳が分からなかった。
しかし、自分がその引き金を引いてしまった事だけは確かであるから羞恥に頬を染めていたが。

「ぷっくくく、いや、すまない。そうだね、ある意味で私は彼女を切り捨てるのかもしれない」

「……そうですか」

クランは納得した様な、納得していない様な、曖昧な返事を洩らした。
ヴァンはクランのそんな様子を愛しいと感じていた、それがひどく利己的な考えであると自覚しながら。

そして唐突に警告ウインドウが目の前に立ち上がる。
それは時空管理局本局が襲撃を受けている事を示していた。

「始まったようだね」

ヴァンは事も無げに呟くが、クランは目を見開いて驚きを示していた。
それもそのはず、通知された作戦開始は本日の1400。
現在、まだ1230となっており作戦開始には早すぎたからだ。

「バカな!?まだ作戦開始の1400までは時間があるはず!!」

「クラン、第97管理外世界にはこんなことわざがあるらしい」

──敵を欺くにはまず味方から。

八神はやて准将に対するヴァンの評価は全くくえない人物だった。
下手をすれば呑まれかねないと危惧していたが、その評価は間違っていなかったらしい。

だが、それでも。

──私の手のひらで踊ってもらうよ、八神はやて。

ヴァンはまるで好敵手とチェスをするかのような高揚感を覚えていた。
ヴァンの計画を実現させるには八神はやてには存分に踊ってもらわなくてはならない。

そう思う一方で、それを打ち破られるのもまた一興と考えている自分がいることにヴァンはまたくっくと笑った。

果たして反逆者は誰であろうか。

──蒼き月が満ちる頃に、守護騎士は反逆する。

「私達も動くとしようか、まずはクーデターを成功させなくてはならない」

「はっ、了解致しました!!」

──蒼き月は、まだ満ちてはいない。

………

……



<<同日1400 聖王教会>>

「管理局内部でクーデター!?」

教会の一室にカリムの驚愕が木霊する。
予想しなかった訳ではない、ただ起きないで欲しいとは願っていた。

そんなカリムをよそにアコース査察官が自身のレア・スキル、無限の猟犬で得た情報を解析していた。

「あぁ、間違いないね。なんでか急にセキュリティが弱くなったと思って怪しんでいたんだが。
決起部隊は既に時空管理局本局、最高評議会、主要浄水施設や魔力供給所、ミッドチルダ各放送局、
隠居している権力者宅、ほう……一部企業まで制圧か。ずいぶんと手際が良いね」

「それだけの同時作戦を展開したというの!?」

「いちいち驚いても仕方ないだろう、カリム。少し落ち着こう」

アコースは手を両手に広げて困ったという風な格好をした。
カリムの気持ちも分からなくはないが、こんな状況だからこそ、情報を正確に把握する必要がある。

「多分、ずっと前から計画されていたんだろうね、動きが統率されている。
それも決起部隊がここまで同時作戦を展開できるほどまでに集まるのを待って。
あるいは精鋭を集めたか……それにしても規模が大きい」

「はやて……八神はやてはどうしているのですか!?」

「そんな細かい所まで分からないよ、おまけにこの情報は決起部隊がわざと流している可能性が高い。
きっと制圧したとされている施設のいくつかも実際には制圧していないはずだ。
いくらなんでも展開が早すぎる、念のために各放送局の放送には充分に注意しておいた方がいい、いずれ……」

アコースの言葉を遮るようにして緊急通信が入る。
そして、その通信元はミッドチルダにある放送局のものだった、発信先は全次元世界。

「早いね……恐れ入ったよ」

一体、この侵攻の速さは何だというのか。
あまりの組織としての機動力にアコースは恐ろしさを覚えずにはいられない。

いくら決起部隊とはいえ、元はあの緩慢な時空管理局の部隊だったはずだ。
それをわずかな期間で完全な軍として作り直したというのか。
あるいは、本当にそれだけの事が可能な人材が集まっているというのか。

──ならば、何故真っ先にこの聖王教会を叩かないのか。

管理局の次に武力を持っているといっていい聖王教会。
それを叩き、北の憂いを無くしてからでも主要浄水施設や魔力供給所は制圧できる。
というよりその方がいいに決まっている。
ここまで完璧にクーデターを決行しているからこそ、聖王教会を野放しにしている姿勢に疑問を感じる。

それをするには人手不足だったか?
民衆の反感を買うからか?

いや、それにしてもプレッシャーをかけるくらいはしていいはず。

──どうにも、解せない。

解せない、だからこそ情報は必要だ。
アコースは意を決して緊急通信を開いた。

『全次元世界の皆様、私は時空管理局陸士176部隊所属の八神はやて准将です』

通信を開いてアコースは絶望した。
まさかとは思った、何度もその可能性を考えては否定した。

カリムとアコースが妹の様に思っていた人物が、今、通信に映し出されていた。
後ろではカリムが手で顔を覆っていた、まるでそこにある現実を否定するかのように。

『皆様ご存知の通り、アルカディア事件以降、質量兵器を用いた犯罪は増加傾向にあります。
そしてその犯罪を抑止するために多くの魔道師達がその尊い命を落としている事は、残念ながら事実です。
しかし現管理局はその現状を打開する案を何も出さないまま、ただ悪戯に時が過ぎるのを見守るだけでした』

「カリム……すぐにこの放送を止めさせた方が良い」

『この映像を見てください、これは彼のアルカディア事件で強制的に前線に派遣された戦闘機人達です』

そこに映し出されたのは数々の質量兵器を前に怯む魔道師達の間から突出するナンバーズ達。
次々にテロリストを倒していくが、質量兵器の前に傷ついていく様が生々しく映し出されていた。
極めつけに、ノーヴェの腕が吹き飛ばされるシーンまでもが、そのまま惨たらしく放送された。
皮膚からいくつものコードが垂れている様子をまざまざと見せ付けられる。

「だめです、騎士団を動かすには教会の評議会の支持を得なければ……」

──なんと、緩慢な部隊か。

否、騎士団が緩慢なのではなく、決起部隊の機動力が尋常ではないのだ。

『このように、アルカディア事件の早期解決は彼女らの尽力があったからこそです。
しかしながら、当時の管理局はこれを本局魔道師の手柄とし、戦闘機人達に与えられたのは雀の涙ほどの恩賞。
その後の事件でも、質量兵器を用いた犯罪には彼女達が駆り出され、数々の事件を解決に導いています。
しかし、実態は戦闘機人の功績を総て本局の魔道師のものとする事で、皆様を騙し続けていたのです。
更には、管理局内でも戦闘機人に対する差別は広がるばかり』

次に映し出されたのは、食堂のような場所で食べ物をぶちまけられたディエチの姿。
管理局の魔道師らしき人物達はその顔を愉快そうに歪めていた。
周りの人々もそれに汚いものを見るような視線を向け、誰も助けようする者はいなかった。

「もう……遅い」

『本当の地上の守護者は戦闘機人である彼女達です、それを管理局はないがしろにし、その事実を隠し、皆様を偽った。
この事実は戦闘機人の人権を蔑ろにしているだけではなく、皆様の安全すら脅かす行為であることを充分に理解して頂きたい』

大衆というのは得てしてヒロイズムに弱い。
弱者を助ける者に潜在的な憧れというものをなにかしら持っている。

『このような事がまかり通っていいはずがない、それ故に私達地上部戦略研究会は管理局の今後を憂う者として決起致しました。
私達は皆様に仇なす者ではありません、総ての者が正常に評価される世界を、皆様に更なる安全を約束する者です』

民意は、少なからず、決起部隊に傾く。

………

……



<<同日1412 聖王教会周辺>>

「第一魔道小隊は地対空迎撃戦用意、第一及び第二空戦魔道小隊はスバルとギンガの援護だ。
第二魔道小隊は前に出て食い止めろ、1人として聖王教会に近づけさせるな!!」

『了解!!』

ゲンヤ・ナカジマは危機に瀕していた。
管理局の指揮権下から離脱した後に聖王教会を目指していたのだが、八神はやての声明が終わった
直後から連隊規模の武装魔道師に追われていた。

降伏勧告を敵部隊率いるヴァンガード中将が直々に流していたが、降伏はできなかった。
というのも、敵の軍門に下りたい奴はいるかと念話を個別に送ったが、全員がこれを否定。

『己の正義に殉じれるなら、それで構わない』

言葉こそ多少の違いはあったが、大方の返事はそのようなものだった。

『それに、お嬢ちゃん達を残していっては男が廃る』

と全員が顔を綻ばせながら言っていた。
元々部隊員だったギンガはともかく、飛び入りのスバルまでもが好かれているらしい。

ゲンヤは最初、一部隊に殿を命じて聖王教会にそのまま逃げ込むつもりだったが、聖王教会側がこれを拒否。
それならばと騎士団の派遣を願い出たが、これも拒否。

聖王教会いわく、騎士団を派遣するには評議会を通す必要があり、すぐには決定できない。
また、教会の安全を脅かす危険のある今は貴官らを教会に招き入れる事もできないとのこと。

ようするに決起部隊といざこざを起こしたくない腰抜けの共のせいでこんな事になっているのである。
そのくせ自分達には騎士団が派遣されるまで戦線を維持せよとの命令が来た。

ようするに死ねってことだ。

ゲンヤ達が決起部隊を退けるならそれでよし、壊滅しても私達は関与していませんで通すつもりだろう。
それで引き下がってくれる相手でない事など分かっていないのか。

それでも、ゲンヤは騎士団が来るまで戦線維持を選んだ。
逃げ場はふさがれてしまった、いや、管理局を抜けた時から既に逃げ場などなかったのかもしれない。

ならばせめて一矢報いたいというもの。

彼の名将、ヴァンガード・ナイトレイが率いる魔道師軍とどこまで渡り合えるかという個人的な趣向もあったが。
男とは得てしてそういうものだ、強きものがいれば力比べをしてみたいというもの。

負ける訳にはいかない。
ここまで付き添ってきてくれた従順な部下達を失う訳にはいかない。

市民を護る戦いならまだしも、こんな訳のわからない所での戦死など不名誉でしかない。
それに、この部隊には自身の娘であるギンガとスバルがいるのだから。

『スバルよりCP、ヴァンガード中将を捕捉。これより戦闘に入ります』

その娘のスバルより念話が入る。
スバルの事をバカだバカだとは思っていたが、まさかここまでバカだとは思わなかった。
この状況でスバルが突出すれば待つのは部隊の全滅だけだ。

「バカかてめぇは!!一体何を考えて──」

『いろいろと考えた……』

映像に映るスバルはどこか物憂げな表情だった。
怒っている訳でも悲しんでいるわけでもない、ただ、不満だけが渦巻いているような。
元々明るい性格のスバルがこのような表情をするのはゲンヤでさえ珍しいと思った。

敵部隊から来る弾幕のような砲撃をいなし、かわし、ウイングロードを伸ばし、敵部隊に肉薄していく。
そして先頭集団を強引に突き破り、遂にウイングロードを敵部隊のど真ん中につき立てる。

『難しい事はわかんない、でもあいつは気に入らない、だからぶっ飛ばす!!』

それだけ言うとスバルのベルカ式魔方陣がそれまでに増して輝き始めた。
剣十字の魔方陣が空で眩しいほどに輝く様は見るものに神秘的なイメージすら持たせる。

スバルの念話を聞いたゲンヤは一瞬思考がストップしてしまっていた。
三段論法にすらなっていない短絡的な思考。

あぁ、だが確かにそうだ。

なんか難しいことをいろいろ言っているが、本当に何が正しいのかなんてわからん。
でもあの小僧のことは気に入らんし、はやての言う事も気に入らん。
だったら殴り飛ばして言う事を聞かせればいい。

なんと、あほらしい理論か。

だがゲンヤは笑える事に、これほど的を射た理論はないと思ってしまったのだ。
念話を聞いていた他の魔道師からも笑い声が聞こえる。

『第一空戦魔道小隊、これよりスバル准尉の『援護』にまわります』

『第二空戦魔道小隊、同じく『援護』にまわります』

どうやらこの部隊は阿呆ばかりだったらしい。
部隊としての勝利よりも1人の男をぶん殴るほうが大事だというのだから、狂っているとしか言いようがない。

──だが、嫌いではない。

ゲンヤはこの時ほど、この部隊員達を誇らしく思ったことは無かった。

「CPよりスバル。本来なら止めるべきなんだろうが、俺もあの坊主は気に食わねぇ。
どうせやるなら、あのくそ坊主の澄ました顔に一発でかいのをぶち込んでやれ!!」

『了解!!』

そう言うスバルはどこか吹っ切れたような笑顔を見せていた。

──こいつらは正真正銘、世界で一番のバカ共だ。

………

……



スバル・ナカジマは1つ深く深呼吸をし、敵部隊の真ん中に突き立てたウイングロードを眺める。

おそらく、どうやっても、陸士108部隊は全滅する。
連隊規模の部隊に中隊で対処すればどうなるかなど考えなくても分かる。

圧倒的なまでの数の暴力の前にただ蹂躙されるのみ。
それでなくても錬度の高いヴァンガード中将の直轄部隊なのだから。

自暴自棄になったわけではない。
ただ、どうしてもあのすかした男だけは一発ぶん殴ってやりたかった。

そこに正当性や理屈などない。

ただ、気に入らなかった。

「マッハキャリバー、ギア・セカンド!!」

『Ignition!!』

自身のデバイスの名を呼び、カートリッジシステムを起動。
魔力を込めた弾をデバイスにロード。
これで、一時的に爆発的な魔力を得る事ができる。

足に装備したローラーブーツ型デバイスであるマッハキャリバーの出力を向上させ、
暴力的なまでの速度で敵部隊の真ん中を吶喊していく。

敵の空戦魔道師が行く手を阻むように展開しているのを見ると、十二分に増加させた魔力を拳に装備したナックル集中させ、
ナックルスピナーを回転させる。

「どけぇえええええええええええええええええええ!!」

ナックルスピナーで発生する衝撃波を、ナックルに纏わせたまま魔道師の一名にぶち込んで周りの魔道師もろとも吹き飛ばす。
そして速度を維持したままに敵将、ヴァンガード・ナイトレイ目指してウイングロードを伸ばしていく。

衝撃波を逃れた魔道師達がスバルの背中に砲撃を開始しようとするところに、スバルから少し送れて吶喊してきた
第一、第二空戦魔道師小隊の支援砲撃が襲う。

スバルが敵部隊のど真ん中に打ち立てたウイングロードは遠目から見れば文字通りに敵部隊を真っ二つに引き裂いていた。

『嬢ちゃん、背中は俺らに任せてあいつにぶちかましてやんな!!』

『人の恋路を邪魔するやつはなんとかってなぁ!!』

念話で心強い声が届いてくる……恋路はなんか間違っている気がするが。

スバルは更に加速した。

敵部隊のど真ん中に切り込んだのだ、最初こそ勢いのままに攻められるが、止まればそこで殲滅させられる。
元より戻る道など存在しない、ならば進軍あるのみ。

「しっかりついて来てよ、おっちゃん達!!」

『ばかやろう、おっちゃんじゃねぇ、お兄さんだ!!』

『バカ、お兄さんじゃなくてお兄ちゃんだろうが!?』

『ダメだ、てめぇは何もわかってねぇ、この戦闘が終わったら貴様の捻じ曲がった性根を叩きなおしてやる!!』

『上等だこらぁああああああ!!』

どこか間の抜けた念話が心地よく感じた。
これから死地に向かうというにも関わらず、悲壮を背負ったものなど一人もいなかった。

連隊規模の部隊を縦断した先に、ヴァンガード・ナイトレイは悠然と立っていた。
蒼き騎士甲冑を身につけ、部隊の指揮を執るその姿はそれだけで部隊の士気を上げるとまで言われている。

手を合わせるまでも無く、分かるほどの強大な魔力に思わず足がすくみそうになるのを、気迫で押さえつける。
ここまで来たからには、一発ぶち込まない事には死んでも死にきれない。

そんな事を考えていたせいか、横からのアンブッシュの対処に数瞬遅れるのを感じた。

そこには既に魔力を強大なまでに膨らませた砲弾が迫ってきていた。

「──落ちなさい」

視界の端に栗色の長髪をなびかせる綺麗な女性がいた。
聞いた事がある、ヴァンガード中将の側近中の側近……砲撃の名手、クラン・ロッテ。

次の瞬間にその砲撃は爆発し、辺りを爆音と爆風と爆煙が包み込む。

ヴァンはその様子を見て実に満足そうに笑い、自らのデバイスに命令する。

「ダインスレイヴ、カードリッジロード!!」

『Jawohl,Nachladen!!』

ヴァンのアームドデバイスである剣の形をしたダインスレイヴに魔力を込めた弾丸を与える。
元々強大な魔力をカードリッジシステムで更に高めた事によってダインスレイヴの周りの魔力は視認できるレベルにまで強化されていた。

ヴァンは空中に足場を作ることで、爆煙に向かって跳躍、爆煙から飛び出してきたスバルを真っ向から斬りつける。
奇襲できると信じきっていたスバルの顔が驚愕に染まっているのが見て取れた。

『Tri Shield』

危険を察知したマッハキャリバーが盾の魔方陣を展開、ダインスレイヴの一撃を受け止める。
しかし圧倒的なまでの魔力に魔方陣に『ひび』が入る。

「ぶち抜け──ダインスレイヴ!!」

『Zerstörung!!』

ヴァンがそう命令した途端にダインスレイヴは更に攻撃力を増して盾の魔方陣を木端微塵に砕き、
その勢いのまま強かにスバルを地面めがけて弾き飛ばす。

一方、爆煙の晴れた隣りではスバルの代わりに砲撃を受け止めたギンガとクランが対峙していた。
そして踊るような空中戦を展開していた。

「スバルッ!!」

「──戦闘中に余所見ですか?」

しかし、スバルが落ちるのを見てギンガが一瞬生み出した隙を見逃さずに、クランが容赦ない砲撃を浴びせる。
それをもろに食らって、ギンガのウイングロードが消失、頭から地面へと落ちていく。

ヴァンはスバルとギンガが落ちていく様を静かに眺めていた。

「……こんなものか?」

この程度の力の為にわざわざクーデターを起こしたのではない。

堕ちていったスバルからもう一度蒼き道、ウイングロードがヴァンまで伸びて来たのを確認すると、ヴァンは顔を綻ばせて喜んだ。

「──それでいい」

彼の戦闘機人との戦闘がこのような幕引きでは興醒めというもの。
せめて自身に一発くれてやるくらいでなければクーデターを起こした意味が無い。

「マッハ……キャリバー……カードリッジロード!!」

『Ignition』

思わず手放しそうになる意識を無理やり引き戻し、もう一度カードリッジシステムを使用。
再びマッハキャリバーを加速させてヴァンへと肉薄していく。

「ダインスレイヴ」

『Dreieck Schild』

スバルの目線がちょうどヴァンと同じになるまで来ると、ヴァンが挑発するように盾の魔方陣を展開させていた。
それは皮肉にもスバルと同じ蒼き魔力光。
まるで、撃って来いと言っているかのように悠然と構えていた。

まるで値踏みするかのような視線にスバルは怒りを覚えた。
それが罠であるかなど考えもせずに、ただ、目の前の男に拳をぶち込む事だけを考えていた。

「──ギア・エクセリオン!!」

『A.C.S. Standby!!』

魔力の翼を左右2枚ずつ展開させ、更に加速。
それはまさに『遷音速』と呼ぶに相応しいまでの速度。
そんな速度の中、魔力をナックルに集中させ、ナックルスピナーを回転させる。

「ディバイン──」

加速をのせたままヴァンが展開した盾にナックルを撃ち付ける。

『Ignition』

そのまま更にカードリッジをロード、一時的に自身の限界を超えた魔力を得る。
狙うのは魔導師としての力と戦闘機人としての力の全てを運用した零距離からの破壊。

一撃必倒。

「バスタァアアアアアアア!!」

『──Break』

その一撃は確かにヴァンの盾を破壊し、ヴァンに強かに打ち込まれていた。
今度、地面に落ちていくのはヴァンの番であった。

「ヴァン!!」

「──戦闘中に余所見ですか?」

クランが一瞬、ヴァンに気をとられた隙に、いつの間に肉薄していたのかギンガの一撃を強かに食らう。
拳を綺麗にあごに入れられ、クランは意識が遠くなって堕ちていくのを感じていた。

『ヴァンガード中将、南西より巨大な魔力反応。ハラウン二佐の一団かと……。
更には聖王教会より突出する大隊規模の部隊が有るようです』

落ちていく中でヴァンに部下より念話が届く。

ナンバーズの到着が、思ったよりも遅かった事が気にかかる。
それに、聖王教会がまさか自ら動いてくるとは思わなかった。

──しかし。

『ここは普通、私を心配するところじゃないのかい?』

ヴァンが念話の中で辟易としながら部下に返す。

『我らの将が負けるはずがありません』

『……随分と好かれたものだね』

『事実です』

ヴァンは頭から落ちながら、器用にため息をついた。
多分、もう二度とすることはないのだろう等と、のんきな事を考えながら。

「……ダインスレイヴ」

『Klanges Bewegung!!』

それは瞬間移動にも似た動き、一瞬にして姿勢を戻したヴァンは、落ちていったクランを抱きかかえていた。

それを見たスバルは驚愕した。

ひとつは、いくら魔力ダメージとはいえエクセリオンモードのディバインバスターを食らって無事な事。
もうひとつは、その瞬間移動はフェイトやエリオが得意とするソニックムーヴに酷似していた事。

勝てないと、本能で知らされてしまった。

『目的は果たした、撤退する』

『了解しました』

その後、じりじりと後退を始めた決起部隊を見て陸士108部隊は沸き立っていた。
皆がスバルの背中を良くやったと言いながら、叩いていたがスバルは素直には喜べなかった。

手加減してもらって、この力量差だというのなら、全力なら何だというのか。
無力さを感じずにはいられなかった。

一方で、撤退の指示を各指揮官に出しているヴァンガード・ナイトレイは唇を強く噛みすぎて血を流していた。
思わずブラックアウトしそうになるほどの魔力ダメージを気迫で押さえ込んでいたのだ。

部下達の前では強がったものの、先の一撃はヴァンを沈めるには充分だった。
しかもその後に慣れないソニックムーヴ等使うから肉体的にも魔力的にも限界を超えていたというのが正直なところ。
自業自得といえば、自業自得。

なんにせよ、スバル・ナカジマに対する評価を改めなければいけない様だ。

ヴァンは、薄く笑っていた。
まだゲームは始まったばかりだというのに、これは……

──実におもしろい。

………

……



To be continued.



……

………

<<用語説明>>

■魔力供給所

発電所の様なもの、多分、電気使ってないだろうし。
かといって魔力使ってんのかと言われれば謎だけど。

■はやての演説(声明?)

クーデター側に都合のいい事だけ放送してます。
まぁ、当然っちゃ当然だけど、これだけだとはやて悪いなぁw

■決起部隊

クーデター軍と考えていいです。

■連隊とか

連隊=270~900人
大隊=90~300人
中隊=30~100人
小隊=10~30人
空戦魔道師は少ない為、空戦魔道師のみの場合は最小人数。

■デバイス発言

雰囲気を壊さない為にここに一応の訳を、あまり自信ありません。

Ignition=点火
Jawohl,Nachladen=了解、装填
Tri Shield=三角盾?
Zerstörung=破壊
Dreieck Schild=三角盾
A.C.S. Standby=A.C.S.スタンバイ
Break=壊す
Klanges Bewegung=音の動き

■ダインスレイヴ

ヴァン保有のアームドデバイス。
名前は魔剣ダーインスレイヴ(Dáinsleif)より拝借。

■CP

コマンドポストの略。

■念話

通信のようなもの。

■ブラックアウト

魔力ダメージによる意識喪失。



[6245] 第四話 ~加速する世界~
Name: Anrietta◆f3aee459 ID:de8dbf33
Date: 2009/02/27 22:10
<<新暦0080年10月14日 最高評議会>>

鳴り響く爆音と剣戟と悲鳴と怒号。
最高評議会へと続く道は魔道師たちの血で彩られた赤い絨毯の様。

これが、秩序を培ってきた管理局が引き起こした様であると誰が想像できたであろうか。

『スティンガー01よりCP、戦線を維持できません!!一旦退却させて下さい!!』

『CPよりスティンガー01、退却は認めない。戦線を維持せよ』

『くっ──もう一度検討を!!』

『スティンガー大隊が崩れれば第二防衛線は総崩れだ、答えは変わらない。
急ぎ救援を出すから、それまで』

『あぁぁ……やめ──うあぁああああああああああああああああああああああああああ!!』

『CPよりスティンガー、応答せよ、繰り返す、応答せよ!!』

『第二防衛線突破されました!!』

戦場MAPを起動、敵マークを示す赤い点が防衛線を食い破り、隊列の崩れた味方、青い点を染めていく。
赤く、紅く、それはまるで流れ出す血の様に。

『CPより各リーダー、戦える者を集めて隊を編成し最終防衛線まで撤退!!』

「ふざけるなよ──!!」

念話を聞きながら魔道師の男が悪態をつく。
だからといって事態は改善せず、あいも変わらず戦況はこちらに不利なまま。

ふざけている。

たかだが一個連隊の決起部隊に師団規模の防衛部隊が押されている。
しかも防衛に絶対的な優位なこの最高評議会の防衛システムを使用しているにもかかわらず。

そして許せなかった。

男は空を仰いで、かつて隊長だった者達を見つめた。

戦技教導隊。

各隊のエースやストライカーを集めた精鋭部隊。
対人戦の専門家であり、数々の修羅場を潜り抜けてきた英雄達。

それがまさか決起部隊に加担していようなどとは思いもしなかった。

憧れだった。

目標だった。

信じていた。

なのに何故?

彼らは今教え子達にその武器を向けるのか。

「答えろよ──高町なのは!!」

自身の魔力の総てをデバイスに込める、そうだ、彼女が教えてくれた全力全開。
その目標をまさか彼女自身に向ける事になるなど、なんという皮肉か。

デバイスの先端に魔力の塊が出来上がる、彼女のそれとは比べ物にならないくらい小さい砲弾。
これが──この程度のものが、彼にとっての全力全開であった。

強くも大きくもない、だが、彼の総てをつぎ込んだその砲弾を誰が笑う事ができようか。

意を決してその砲弾を彼女へと飛ばす。

それは、片手で弾かれた。
盾など使う必要すら無いほどに、彼女の前では無力だった。

「君は──」

こちらに気づいた彼女が空から接近して来ていた。
魔力消費の反動でブラックアウトしそうになるのを堪える。
この問いを聞くまでは、死んでも死にきれない。
杖のデバイスを地面につき立てて、寄りかかる。

「なんでだよ……それだけの力があって、なんで!!」

地に舞い降りた彼女の純白のバリアジャケットは煤けていて、その表情は悲しかった。

そんな顔になりながら、何故戦うのか?

「これはね、私の贖罪なんだよ……」

鳴り響く爆音や怒号が遠く聞こえる。
それはまるで音楽であるかのような錯覚さえ覚えさせる。

なんと、悲しい音楽か。

「贖罪……?」

「私は、罪を償わなきゃいけない、他の隊長達もそう思ってる」

「罪って──」

そこで、不意に視界が暗くなっていくのを感じた。
抵抗などできない深い眠りの中へと誘われ、そこで彼の意識は途切れた。

なのはは、倒れていく彼を抱きかかえた。

偽善的な行為であると自覚しながら、身体は勝手に動いていた。
視界がぼやけて熱いものが頬を伝って彼の顔に落ちていった。

「ごめんね──」

なのはの言葉と、流した涙を、彼が知ることはなかった。

………

……



<<新暦0080年10月15日 聖王教会>>

「騎士カリムの独断は目に余るものがあるな」

「あぁ、民衆は管理局を支持する者が多いというのに、余計な事をしてくれたものだ」

管理局の部隊と元陸士108部隊の戦闘から1日経った今日、聖王教会評議会では第二騎士団の無断出兵について審議されていた。
言うまでも無く、出席した議員達は皆良い顔をしていない。

「しかし、弱者を助けよ。とは教訓にもありますし……」

比較的若い議員が弱々しく発言するが、老人達の視線の前に萎縮してしまう。

「いくら教訓にあるとはいえ、物事には順序と規律というものがある。
まずは評議会での審議で賛成を得てからでも出兵は遅くなかったはずだ」

「その通りですな」

若い議員はそれを聞いて辟易とした。
出兵は遅すぎこそすれ、早すぎることなど無かった。
おそらく騎士カリムがあそこで騎士団を動かしていなければ元陸士108部隊は全滅していたはずだ。

結局この老人達も自分の利益のことしか追求していない、これが聖王家に仕える者とは笑わせる。
とはいえ、確かに物事には順序と規律がある、現管理局に正義があると思っている人もいるだろう。
無断出兵など軽いクーデターと同じであるのだから普通なら死をもって償うべきだが。

「しかしながら、騎士団員の多くが現管理局に反発しているのも確か……」

1人の老人が零した言葉に皆その顔を顰めた。
ベルカの歴史と聖王教会の在り方を考えればそれは至極当然であった。

古代ベルカでは大きな戦争があった。

それは質量兵器を用いた戦争であり、質量兵器は悪戯に戦火を広げ、多くの死者を出したとされている。
それ故に聖王教会は質量兵器を認めていない。
またその理念は教会の支援で創設された質量兵器の根絶を目指す組織、時空管理局の根幹となっている。

そしてもう1つ聖王教会が毛嫌いしている技術がある。
それは人造生命体の技術、戦闘機人と人造魔道師。

古代ベルカではベルカ統一を計るために数多くの『王』がこの技術を使用。
自らの肉体強化を計るだけでなく、自らの子孫にもその力と技術を強要した。

そして、この力と技術は質量兵器と合わさる事で更なる戦火を呼び、戦乱の時代が訪れた。
それを『ゆりかご』と呼ばれる絶対的な力を持ってベルカ統一を計ったのが聖王教会が信仰している聖王一家である。

それ故に、悪戯に戦火を広げた質量兵器と人造生命体の技術が教会で否定されるのは至極当たり前の事であった。

「そんな状況で騎士団員から好かれている騎士カリムを罰すれば第二の管理局となりかねん」

「だからといって何の罰も与えなくては規律が乱れるな」

騎士カリムの処遇を巡っての議論は堂々巡りとなり、結局出された結論としては『保留』となった。

この不安定な状況で騎士達を刺激したくないのが1つ。

そして万が一に備えて騎士団の力を極力削りたくないという思惑もあった。

「して、我々も今後を考えていかねばならぬ」

騎士カリムの一件に一応のかたがつくと、議員の1人が次の議題を挙げた。
言うまでも無く、管理局に恭順するか、それとも教えに従って反発するか。

「現管理局は民衆の支持を得ている、それに悪戯に争いを引き起こすのは得策ではない」

「だが、管理局に恭順すれば騎士団と信者からの批判は避けられぬ」

「反発するか……確かに騎士団と信者は支持するが、勢力の縮小はやむをえんな」

また始まった老人達の出口の無い論議に若者は辟易とした。
こんな事では、いずれ管理局に呑み込まれるのは必須だという事が分かっていないのだろうか。
部隊としての機動力もそうだが、組織としての機動力も現管理局と教会では天と地程の差がある。

「我々は既に経緯はどうであれ、元陸士108部隊やその他の元管理局員を保護しています。
これをネタに管理局からの批判を受ければ言論であれ武力であれ争いになる事は必須かと。
また教えを蔑ろにしている管理局から批判を受けて黙っている騎士団達ではありません。
放っておけば遠からず彼らも決起するでしょう」

意を決して若者は老人たちに言葉を紡ぐ。
ここまで来たのなら、若者も教会もはらを決めなければならない。

「しかし、あれは一騎士の独断であって」

「ならばその騎士に厳しい処罰を科し、保護した元管理局員を今すぐに追い出すべきです。
ですが、それは騎士達の反発を受けるからできないというのでしょう?
分かりやすく言ってあげましょうか?」

若者は初めて老人の言葉を途中できり、自らの考えを述べた。
本来ならば一喝されてもおかしくない行いであるが、そんな彼の言葉を止める者など誰1人いなかった。

「我々は既に、現管理局と立場を違えた。戦う以外の選択肢など初めから存在していないのですよ」

………

……



<<同日 時空管理局地上本部医務室>>

クランが目を覚ますと、そこはには見知らぬ天井が広がっていた。
未だ覚醒しきっていない意識の中で記憶を手繰り寄せる。

クーデター、陸士108部隊、聖王教会、戦闘機人。

そうだ、確か聖王教会に対しての牽制という目的でヴァンとクランは出撃していた。
そこで陸士108部隊と遭遇し、戦闘になったのだ。

そう、覚えている。

ヴァンがいつものように余裕をかましてスバル准尉が自ら切り込んでくるように部隊を動かしていたのだ。
半円形に部隊を展開させて敵が背水の陣を敷くように強要させつつも、わざと中央を薄くして無理なく切り込めるように。
部隊には非殺傷設定の威嚇砲撃しか認めさせずに。

最もクランだけはその命令に反発してスバルを撃ち落そうとしたが、ギンガによって阻止されてしまったが。
今考えればそれすらヴァンの計算のうちだったのだろうと思う、実際ヴァンはクランの行動に何も言わなかった。

だが、信じられない事にいつも余裕たっぷりで自信家で圧倒的な力を持つヴァンが撃ち落されたのだ。
それはクランを動揺させるには充分すぎた、現にその隙を突かれてギンガの一撃で沈められたのだから。

そこまで思い出してクランは頭から血の気が引いていくのを感じていた。
上司であり戦友であり愛しい人、絶対に失いたくない人。

彼はいったいどうなった?

「ヴァン!!」

反射的に上体を起こし、気がつけばその名を叫んでいた。
周囲が見渡せるようになって気がついたことがある、ここはおそらく個室の病室。

そして隣で椅子に座ったまま黒髪を揺らして器用に寝息を立てているのはヴァンガード・ナイトレイその人であった。

無事を確認して安心するのと同時に怒りが込み上げてきた。

何故いつも無茶をするのか、自分を蔑ろにするのか。
指揮官なら指揮官らしく後ろに控えていればいいものを、ヴァンは常に危険な位置で指揮を執る。

だからこそ、部下達に好かれているのだろうし、クランとてその1人なのだが。
どうにも自分の命を軽んじているように思うのだ。
それをヴァンに問いただせば違うと答えるのだろうけど。

ふと、ヴァンの唇に目がいってしまった。

今、この部屋にはクランとヴァンの2人しかいない。
しかもヴァンは気持ちよさそうに寝息を立てている全くの無防備状態ではないか。

ベッドから抜け出して近くまで寄るが、起きる気配は全く無い。
今ならばその唇を奪う事ができるのではないか?

クランは鼓動が高鳴るのを感じていた、もう2■歳にもなるというのにキスくらいで何を高揚しているのか。
しかし、ずっと憧れていたのだ、劣等感を抱いていたと言ってもいい、それくらいにヴァンの事を好いていた。

「……いただきます」

キスする前に言う言葉として絶対的に間違っていると自分でも思いながら唇を寄せていく。
程なくして唇と唇が触れて、部屋に響く水音が何故か異様に大きく聞こえる。
ヴァンの吐息が心地良く、身体が熱くなっていくのが分かる。
自分でも分かるほどに頬が赤く染まっているのだろうと思う。

程なくして目を開けるとそこには、既に開眼していた黒い2つの瞳があった。
頭からサーッと血の気が引いて朱に染まった頬が一瞬で真っ青になる。

まるでソニックムーヴを用いたかのような速さでクランはヴァンから離れ、ベッドに潜り込む。
クランはまるで何もありませんでしたよと言っているように布団を深くかぶっていた。

「……クラン」

布団の外からヴァンの声が聞こえ、思わずびくりとする。

怒っているだろうか?
そうに決まっている。
でも嫌だ、嫌われたくない、だってずっと憧れていたのだ。
そんな事を考えても、もう遅い。

数々の思考が頭の中を奔流し、クランの不安を煽っていく。

布団から少し顔を出して様子を伺うと、クランの頭を優しく撫でるヴァンの姿があった。

「いただきます、は無いだろう」

どうやら確信犯だったらしい。

………

……



『ヴァン……ガード中将?……えっと』

「どうかしたのかね、八神准将」

どうかしたも何も、頬に真っ赤な手形をしっかり付けた状態で冷静に対処されても困る。
通信の端っこで補佐のクラン・ロッテが荒れている様だから何かあったのだろうけど。

普段完璧に振舞っているヴァンのそんなギャップに思わず肩透かしを食らった気分だった。

『失礼しました、暫定最高評議会の件ですが隠居していたギル・グレアム氏をはじめとする方々に着いてもらう予定です。
詳しくは送付した資料を参照下さい』

通信端末に送られてきた資料を開くと、そこには既に隠居していた者達の名前がずらりと並んでいた。
確かにクーデター軍の息のかかった者が過半数を占めているが、クーデターを起こした後の内部改革にしては良心的な方か。
ヴァンの許可を求めてきたと言う事は後でとやかく言われたくないからだろうか。

「確認した、特に問題は無いように思う。このまま進めてくれてかまわないよ」

『ありがとうございます。また、暫定最高評議会の面々が揃い次第、新法案が提出される予定です。
それに伴い、犯罪者ID:GG-W-85494-D765642137443-11との司法取引を結ばなくてはなりません』

犯罪者ID:GG-W-85494-D765642137443-11……ジェイル・スカリエッティ。

「私が直接交渉しよう。多分、他の者では無理だろうからね」

『お任せ致します、よほど自信があるようですね』

「こんな所でつまづきはしないさ」

──彼は駒のひとつに過ぎないのだから。

「あぁ、それと八神准将」

『なんでしょう?』

「昨日、何故か離脱していた元陸士108部隊と我が部隊が戦闘になってね」

『まさか、クーデターを察知していた者がいるとは……私の不手際で中将に迷惑をかけてしまったようですね。
申し訳ありませんでした』

少しくらい動揺するかと思ったが、それほど単純ではないらしい。
戦果報告を聞いているのもあるだろうが。

ヴァンが元陸士108部隊を殲滅する事を望んでいたか、あるいはこうなる事を見越していたか。
どちらであろうか。

「……別に構わんさ」

『そう言ってもらえると助かります』

どちらでもいい、大局に変化はないのだから。

「では、また後ほど」

『失礼致します』

通信を終えた後でまだ痛む頬に氷をあてる。
なんとも無様ではあるが、自業自得といえば自業自得の結果である。

「暫定最高評議会に新法案、そしてジェイル・スカリエッティとの司法取引ですか……展開が早いですね」

そしてどうやら完全に復活したらしいクランが先の通信を聞いての感想を洩らす。
先までの少女の様に恥らう姿はどこかへ行ってしまったらしい。

「早い……か、それでも世界は加速する」

一度流れた水が戻らぬ様に、転がり落ちた石が加速する様に。
動いてしまった以上止まりはしない。

「私はこれからグリューエン軌道拘置所へと向かう、後のことは頼んだよクラン」

「でしたら私も……」

「クラン一佐は別命あるまで地上本部で待機……これは命令だ」

命令の一言を聞くと、ついて来ようとしたクランの動きが止まる。
軍において上官の命令は絶対であるとクランに教えたのは他ならぬヴァンだった。
そして、そのヴァンが発する命令であるからこそ、絶対に守らなければならない。

「了解……しました」

クランのいかにも渋々といった了解の声を聞きながらヴァンは病室を出た。

………

……



<<同日 XV級艦次元航行艦船クラウディア>>

クロノ・ハラオウン提督率いる次元航空部隊の旗艦であるクラウディアのブリーフィングルームは騒然としていた。
その数、実に7人の姉妹達……スバルとギンガも数に入れれば9人の姉妹達。
更にカリムにフェイト、総勢11人の女性陣。

男性陣はゲンヤとクロノとアコースの3名のみ。
クロノは特別女性が苦手という事はなかったが、流石にこの比率はおかしいと思う。

姉妹たちは久しぶりの再会を楽しんでいる様だが、いつまでもそうしてはいられない。

「皆、少し聴いて欲しい」

クロノの一言でそれまで和気藹々としていた雰囲気が引き締まる。

「今日、皆に集まってもらったのは他でもない、今後の事を話し合うためだ。
まずは今までの経緯を纏めてみたいと思う」

そこまで述べると、ブリーフィングルーム中央にある球型の物体が浮かび上がる。
これは360度どの方向から見ても映像が見られる端末。
そこにはこれまでの経緯を簡単にまとめたものが箇条書きにされていた。

「まず、10月14日1230に決起部隊が管理局やその他施設への侵攻を開始。
防衛部隊は最高評議会の警備を固めたが、決起部隊により戦闘開始から僅か一時間半という速さで陥落。
最高評議会制圧と同時に出された降伏勧告により防衛部隊は降伏し決起部隊は事実上、管理局を制圧」

「あのくそ女、クーデター開始は1400とか言っておきながら!!」

ノーヴェがダンっと握りこぶしで机を叩く。
シグナムに吹っ飛ばされた事もあって姉妹の中でも一番はやてに対する印象が悪いらしい。

「仕方ないよ、私がその後クロノに連絡をとったのがバレたんだろうし。
それにしても防衛部隊が一時間半しか持ちこたえられないなんて……」

フェイトがその後にクロノにクーデターの旨を伝えようとして連絡をとったのがまずかった。
当然ながらセキュリティにひっかかり、それが実際にはクーデターの時間を早めた原因となったのだろう。

「最高評議会制圧部隊には戦技教導隊が加わっていたそうだ……多分、高町なのは一尉も参加している。
更には八神はやて准将直轄のヴォルケンリッター達までもが参加。
オーバーSランク達を相手に一時間半も持ちこたえたんだ、良くやったほうだと思う」

「……やっぱり私達も防衛部隊として参加すべきだったのかな」

フェイトの言葉に皆の表情が暗くなる。
防衛部隊からしても決起部隊からしても自分達はただ抜け出した腰抜けでしかないのだから。

「それは今ここで論議すべき事じゃない、今必要なのは今後の対策だ……話を続ける。
本局または地上部隊から離脱したのは陸士108部隊、スバル、ナンバーズ、フェイト。
そして我が第12次元航行艦隊、各次元駐留部隊の一部も既に指揮権下からの離脱を表明している。
それら総てまとめた戦力と考えると我が軍はだいたい連隊規模になるはず」

「連隊……か、それだけかき集めてもヴァンガードの直轄部隊と同等ってわけか」

それまで静かに聴いていたゲンヤが初めて意見を述べる。
相手が引いてくれたから良かったものの、全滅しておかしくない戦いだったのだから。

「始めから戦う事だけを考えてちゃいけないのかもしれない……でも軍事力があるのとないのとでは影響力も発言力も全然違う」

言葉は確かに武器になり得る。
だが、それはあくまで力というものに後押しされた形でないと意味を成さない。

「幸いというべきか何と言うべきか、聖王教会も今朝正式に現管理局を認めないとする発表があった。
現管理局に対抗するにはこれらの諸勢力を纏め上げる必要がある、そして纏め上げるには明確な旗印が必要だ」

それは指導者であり象徴であり信念の拠り所。

現管理局では八神はやてとヴァンガード・ナイトレイがそうであるように反対勢力にも明確な旗印が必要。

「お兄ちゃん……もしかして」

クロノの次の言葉を予想したのか、フェイトが顔を真っ青にしている。

「聖王の証を持つヴィヴィオを、聖王の末裔として、現管理局の反対勢力の旗印として祭り上げる。
現管理局の反対勢力としてはこれ以上ない明確な旗印となると思う」

「おい、ふざけんなよ!!」

今度怒号を上げたのはセインだった。
ディードとオットーも無表情と言われる彼女達にしては珍しく表情に怒りが表れていた。

「あんたは……このいざこざの為にヴィヴィオの一生を変えるつもりか!?」

「セインの言う事も理解できる、だが今、ヴィヴィオの中途半端な影響力は危険すぎる。
それに、その影響力のせいで一生を教会の中で過ごしていくことが幸せなんだろうか?」

「だが……聖王になるって事は、もう『人間』じゃなくなるって事なんだぞ!!」

「そういう事になるだろうね」

「てめぇ!!」

セインが立ち上がろうとした時には既にオットーがクロノの前にきていた。

パシンと乾いた音が部屋に響き渡る。

姉妹たちは皆驚愕していた、姉妹たちの仲で一番冷静なオットーがまさか殴りに行くとは。

「──今のは、僕の個人的な怒りだ、謝りはしない。
ただ、ヴィヴィオの事を決めるのはヴィヴィオだ、お前でもなければ僕らでもない」

「……そう言おうと思っていたんだがな」

クロノは頬をさすりながら何かのボタンを押して会議室のドアを開けた。
そこにいたのは、右目が翡翠、左目が紅玉のオッドアイの少女、ヴィヴィオだった。

「──いいよ、陛下って呼んでも」

………

……



To be continued.



……

………

<<用語説明>>

■戦技教導隊

各隊からの隊長、特にエースやストライカー級で編成された教導隊。
対人専門というのは毎日人をぶっとばしてるから、多分、一対多数とか得意。
規模自体は小隊規模だが戦場に与える影響は大きい様子。

■聖王教会評議会

表向きであれ、裏の世界であれ、多分あるでしょう。
老人いっぱいいそう、流石に脳みそはいないはず。

■ベルカの歴史

たぶんあってる……と思う。

■XV級艦次元航行艦船クラウディア

何がXV級なのかまったくわからんけど、L級(アースラ)より新しくて大きくて強いw
Xは試作とも考えられるけど実戦配備されてるからやっぱサイズなのかな。

■新法案

言うまでもなく戦闘機人の運用の件。
可決され次第、量産開始される様子。



[6245] 第五話 ~戴冠宣言~
Name: Anrietta◆f3aee459 ID:de8dbf33
Date: 2009/02/27 22:11
漆黒の空間に無数の光が瞬いている。
それらは変わることなく瞬き続ける、いつまでも、いつまでも。

そう、変わらない。

変えられないし、変わるものではない。

この無数の光も、私も、おそらくは、彼も。

………

……



<<新暦0080年10月16日 グリューエン軌道拘置所第1監房>>

カツ、カツと誰かが足を運ぶたびに静寂を引き裂く音が生まれる。
ここに本当に人がいるのかというくらいの静寂、俗世間からの絶対的な隔離。

そんなところに、ジェイル・スカリエッティはいた。

場所がどこだろうが、スカリエッティの頭にはいつでも研究のテーマがあった。
頭の中で理論を構築し、シミュレートしていく。

ここは物事を考えるには実に適しているが、それだけだ。
肝心の実践というものができなければ、いくら理論だけが素晴らしくとも、文字通り卓上の空論でしかないのだから。

その事に不満を抱いた事はある。
だが、管理局の連中の元につくつもりなど更々無かった。

そもそも『地上の人間達』に譲歩するという発想が無い。
私の研究は私の為にあるのであって、その他の者の為にあるのではない。

今日も愚かな管理局の人間が尋ねてくるらしい。
毎度毎度、ご苦労な事だ、実にうっとおしい。

規則的に響いていた足音が、止まる。
スカリエッティの元にその人物のものと思われる影がのびてくる。

「お久しぶりです──Dr.」

その声に引き寄せられるように視線を向けると、漆黒の髪に漆黒の双瞳を携えた青年がいた。
管理局の制服を着ているが、見間違えようの無いその姿。

──ドグン

その姿を見たときに、確信した。
ここ数年感じた事の無い程の感動、驚喜、興奮が沸きあがってくる。

何年待ったことか、渇望していたといっても良い。
ゆりかご起動時に介入してくるかと思っていたが遂に姿を現さなかった男。

あぁ、だが、これで念願の願いが叶う。

「く……っく、ひひっははははははは!!」

スカリエッティは、笑いが漏れるのを抑え切れなかった。
こんな事がありえるだろうか?

なんという宿命、宿業。

──まさか、この男が私を求めてくるとは!!

傑作だ、最低すぎる運命。

やはり世界は腐っている。

スカリエッティは自分でも狂っていると思うくらいに笑った。
それまでの静寂が嘘のように、笑い声だけがひたすら響き渡る。

しばらくしてもその笑いは収まる事はなかった。

「ふは、済まないねぇ、いやしかし随分と久しぶりじゃないか。
私を殺しにでも来たのかい?まさか私の力を借りたいというわけでもあるまい?」

「そのまさかですよ、貴方の力を借りにきました」

まだ笑いの余韻が残ったまま問いかけるスカリエッティに表情ひとつ変えることなくヴァンが答える。

「クーデターってやつかい、いや実に愉快な事になっているらしいね」

「……どうやらここの情報セキュリティを見直す必要がありそうですね」

「単なる暇つぶしの一環に過ぎんよ、セキュリティの突破など。機会があれば逃げ出すつもりだった」

スカリエッティが見たことも無い魔法陣を展開させて、立体映像を展開。
一見しただけでは意味の成さない文字列が高速で流れていく。
おそらくは、この拘置所のセキュリティプログラムだろう。

「おやおや、そんな事を私に話してもよろしいので?」

「かまわんさ、君には私が必要なのだろう?」

スカリエッティがニヤリと口元を歪める。

「どういった心境の変化です?」

その言葉を聞いたスカリエッティは狂気に顔を歪ませていた。
ヴァンを舐める様に纏わりつく視線に生理的な不快感を覚える。

「最初はもちろん断るつもりだったさ、だが君が直接来てくれるとは思わなくてねぇ!!
君がいればどう転んでも楽しいものが見れそうだ、こんな所にいるのはその貴重な体験を放棄するという事だ。
そんな勿体無い事ができるか?私にはできないねぇ、あぁ、できない!!
君の為だというのなら、私は喜んで私の総てをささげようじゃないか!!」

「……そうですか、ありがとうございます」

それからまた狂ったように笑い出したスカリエッティにヴァンは冷めた目で見つめた。
別に怒りも殺意も沸いてこない、ただ、反吐が出るほどに気持ち悪かった。

「盛大に踊ってくれたまえ、私の為に──■■■■■としてねぇ!!」

ガツンと鈍器の様なもので後頭部を殴られた気がした。
頭をシェイクされる、気持ち悪い、視線が定まらない、世界が揺れる。

「──失礼します」

その一言を言うのが精一杯だった。
逃げるようにしてスカリエッティのもとから去る。

溺れてしまいそうだった。

………

……



それから何食わぬ顔で手洗い場に入り、ヴァンは嘔吐した。

気持ち悪い、記憶の奔流、自我の奔流。
身体から尋常でない程の汗が噴出して来ていた。

無意識のうちに通信端末を起動していた。

クラン・ロッテ。

『ヴァン──どうしたのその汗!?一体何が』

通信に映るクランの顔が驚愕に染まる。
そういえば汗の事を失念していた、らしくもない失態。

「クラン、済まない、ちょっと君の声が聞きたくなってね」

滴り落ちてくる汗を拭って、荒れた呼吸を整える。

『私の声って……スカリエッティに何かされたの!?』

「はは、おかしな事を言うね。彼が私に何かできるはずないじゃないか」

──だって私は■■■■■なのだから。

思わず吐き気が込み上げてくる。
胸の辺りをぐるぐると、訳の分からないものが渦巻いている。

「クラン、私は、誰だ?」

『──え?』

「溺れそうなんだよ、自己という概念の海に」

一体何を言っているのか。
あほらしい、何が自己という概念の海だ。

単に確固たる自己というものを保てていない脆弱者なだけだ。

ほら、クランだって困っているじゃないか。

『──ヴァンはね』

通信を切ろうとして、手を伸ばすが、クランの声によって制止する。

『かっこつけて、すかしてて、いっつも余裕かましてて、自信たっぷりで、冷めた態度で
なんか人を見下してる感じで、この世の誰にも興味ないって雰囲気だしてる』

「ものすごい嫌な奴だな」

まぁ、総て否定できないが。

『でも、実は熱血で、正義感が強くて、優しくて、面倒見が良くて、不器用で、寂しがりやな人』

「確実に私ではないな」

誰だその気持ち悪いのは。

『そんなヴァンが、私は……好き』

「……は?」

なんだそれは。

通信越しに見るクランは顔の見える範囲を総て紅く染めていた。

『私の知っているヴァンはね、そういう人なんだよ』

「……随分と好かれたものだな」

『ねぇ……私じゃ、ヴァンを支える事はできない?』

そう問いかけるクランの瞳はとても澄んでいた。
ヴァンは何故これほど自分が好かれているのか理解できなかった。

「既に充分に支えてくれているよ、ありがとう、クラン」

クランといるときだけは、ヴァンガード・ナイトレイとして自己を保っていられる。
不思議と胸に渦巻いていた気持ち悪さが消えていた。

あぁ、これが好きとか愛とか恋とかいうものか。

──だとしたら私はなんとも最低な人間だ。

『それじゃ、さっさと帰ってきてよ、ヴァン。仕事だっていっぱい溜まってるんだから』

「あぁ、分かっている」

まだ成さねばならぬ事がありすぎる。

だが、それを成したときクランはどんな顔をするのだろう?

少なくとも、笑ってはくれない気がした。

………

……



<<新暦0080年10月17日 聖王教会>>

『セイン、まだ納得していないのかい?』

『オットーは納得できるの?』

『できない、だからと言って、ヴィヴィオが自分で決めた道を僕らの一方的な心情で捻じ曲げることが正しいとは思わない』

戦闘機人特有の通信手段を用いて連絡を取り合うセインとオットー。
彼らが見守るのは綺麗に、丁寧に、雅に飾り付けられたヴィヴィオの姿。

妹の晴れ姿なのだから本来ならば笑顔で見守ってやるべきなのだろう。

だが、そんなことできるだろうか?

妹は、今日、人間でなくなる。

人々の希望も正義も悪意もその華奢な背に背負って生きていく。
まだ、11歳の少女でしかないというのに、聖王として。

何故、見守る事しかできないのか。

分かっている。

旗印としてヴィヴィオがこれ以上ないくらい適している事を。

なんだ……

結局私も、妹の為といいながら自己の利益の方を追求しているだけだ。
でなければ、今この場でどんな手段を使ってでもヴィヴィオを連れ出すべきだ。

そこに、正義がなくとも、ヴィヴィオの意思に逆らおうとも。

『オットー』

『何?』

『……私達は、なんでこんなに無力なんだ?』

大切な妹1人何故救えないのか。
ただ足に力を入れて、その手を一杯に伸ばせば届く距離。
ディープダイバーを使えば逃げる事などたやすい。

何故、それだけの事ができないほどに無力なのか。

『それでも……だとしても、僕らにはまだできる事がある』

『できる事?』

『姉として、一騎士として、ヴィヴィオを護り通す、どんな願いだろうがヴィヴィオの望む事なら叶えてやる。
何が起ころうとも、誰が敵であろうと、これ以上ヴィヴィオを悲しませる事なんて起こさせやしない。
それが、今ここで、何もできない僕らにとっての唯一の贖罪の道』

ギリっと人工の筋肉が軋む音がした。
オットーはあれ以来、変わった、もちろん私も変わったけれど、それ以上に変わった。

オットーはヴィヴィオとひたすら喋り続けていた、姉として、友として、それまで以上に。
それまで、無口で、不器用で、伝えられなかった事を悔やむように。

会場が、ワーと沸いた。
ヴィヴィオの頭に冠が載っていた。
右目が翡翠、左目が紅玉のオッドアイという聖者の証以上に、その瞳に宿る意思の強さに、王を見た。

『この様子を見ている全次元世界の皆様』

その声は、わずか11歳の少女が出すにはあまりにも浪々としていて、それがまたセインには悲しかった。

『私、高町ヴィヴィオは今日、恥ずかしくも第14代聖王として即位しました』

──なんでだ

『現管理局は、非人道的な技術である生命操作技術を容認し、戦闘機人の量産化を進めています。
でも、考えてみて下さい、量産化される戦闘機人達もまた、皆さんと同じ人の子なのです。
皆さんと同じように、笑う事も、泣く事も、怒る事もできるのです、傷つけば痛いし、血が出ますし、死んでしまいます。
質量兵器に有用だからといって、そんな命を悪戯に量産し、過酷な前線に送り込む事が正しいと言えるのでしょうか?
戦うためだけに生み出されて、ひたすら傷ついていき、死んでいく、人間の人生は、命は、そのようなことの為にあるんじゃない。
前線で命をかけている魔道師からすれば、私が振りかざしているのは偽善なのかもしれません、ただ、それでも……』

そこでヴィヴィオは一度言葉を止めた、その頬を一筋の雫が伝っていく。

『やっぱり、それは悲しいんだよ……』

──なんで、世界はこんなにも悲しい。

やっと、幸せになれたと思った。
これから、新しい自分が始められると、ヴィヴィオと楽しくやっていけると思っていた。

楽しい思い出だっていっぱい、いっぱい、作っていけるはずだった。
教会から出られなくても、作られた命だとしても、他の者と違っていたとしても。

たまの休日に皆で集まって、おいしいもの食べたり、遊んだり、愚痴をこぼしたり。
そうやって、私達は、いっぱい、いっぱい、笑っていられるはずだった。

──なんでだよ!!

視界がぼやけて熱いものがいくつも零れ落ちては地面にしみをつくっていく。
黒く、丸く、点々と、いくつも、地面を汚していく。

ヴィヴィオの姿を見届けなくてはと思うが、その姿はぼやけていてよくわからない。

──ちくしょう、ちくしょう!!

『我々、聖王教会及び旧管理局武装魔道師隊は現管理局と快を分かち……
この世界の理想を保存するべく別個の新秩序の建設を決意しました、即ち──』

腕で涙を拭ってやっと見えたその姿は余りにも凛々しくて。
私は確信してしまったんだ。

『今日この日、今この時をもって、新国家『聖王連合』の名において管理局統治からの独立を宣言します』

聖王であると。

『聖王の名の下に集いし勇者達よ、その胸に誓いを立てろ!!その腕で何を護る?その力で何を倒す?その命で何を貫く?
我に従う者よ、我らの正義の為に武器を持て!!我に楯突く者よ、我を許すな、その胸に己が正義をしかと刻んで我に挑め!!』

ウオオオオオオオオオっと聖王教会が勇ましい鬨の声に包まれる。
戦いが、始まる、正義と正義、主張と主張、信念と信念の、救われない、救いようの無い戦いが。

『──私が、聖王だ!!』

頬に涙を流しながらも、勇ましい顔してヴィヴィオは言い放った。

………

……



<<同日 管理局地上本部>>

『辺境駐留部隊を中心に決別電文が次々と!!』

『放送を止めさせろ、何をしている!!』

『無理です、既に離反した管理局の魔道師部隊及び聖王教会支部が各地の放送局でそれぞれ流しています!!
予備も含めればとても対処できる数ではありません!!』

『第一、第五、第七、ば、バカな……これだけの数が……』

中央のモニターに決別した部隊の名称が流れるように映し出され行く。
その数は数える事すらあほらしい。

「ヴァンガード中将……」

隣に控えているクランが不安そうな声を上げてヴァンの手を握ってくる。
どうにも、あのキス以降、大胆になったというか、ふっきれたというか、壊れたというか。

ヴァンが軽く手を振り払うと、クランの肩がびくっと震えた。
怒られると思っているのか、嫌われたと思っているのか、大胆になったのにこういうところは小心者だ。

「今は公務中だ、クラン一佐」

わざと冷たく言うが、クランはそれだけの事がわからない女性ではない。
若干落ち込んでいたが、後でフォローしておけば大丈夫だろう。

……相変わらず、私は下衆なまま、クランの無償の愛情を享受している。

それが彼女を傷つける結果にしかならぬと分かっている。
だが、ヴァンはこの愛情を失えば多分、狂ってしまうのだろうと半ば予想していた。

何も考えずに、クランと付き合えたのなら、それはどれほど素晴らしいだろう。

「聖王教会が向こうについたのは大きかったか、あるいはあの聖王の力によるものか。
どちらにしても、八神はやて准将の思い描いたシナリオ通りといったところか」

「まさか、今回の事は八神准将の思惑なのですか!?」

「おそらくはね、確証はない」

「ならば、何故?」

「カンだよ」

ヴァンがそう答えると、クランは肩透かしを食らった様な顔をしていた。

「私のカンは良く当たるのだよ」

「それは、知っていますが……カンでは相手を処罰することもできません」

やはり罰するつもりだったか。

八神はやてのシナリオはおそらく、戦闘機人をよしとする者と、それ以外の者達との闘争。
力ある者が、その世界の正義という半ば乱暴なやり方か、あるいはその途中で『答え』を見出すつもりか。

確かに今回のあの少女の戴冠宣言によって管理局と聖王連合の軍事力は同等のものとなるだろう。
ずいぶんと過酷な道を選んだものだ、自らが罪と嘘に塗れると分かっていても選んだのだから敬意を示すべきか。

救われない物語だな。

現にあの少女が泣いている。

……人のことは言えないか。

私とて、あの少女をある意味では利用するし、クランを悲しませる。

下衆はどこまでいっても下衆という事か。

「安心していいよ、クラン。最後に勝つのは『我々』だ」

「中将が、そう仰るのであれば何も心配はいりませんね」

しかし……

「クラン」

「なんでしょう?」

「なんで、世界はこんなにも狂ってしまった?」

私が人としての幸福が許されぬように、彼女もまた、人としての幸福が許されない。

こんな世界が、狂っていないと言えようか?

「たとえ世界が狂っていたとしても、私だけはずっと貴方の側にいます」

隣で少し頬を染めて笑ってくれるクランはとても綺麗だった。

なんでだ。

なぜ、この笑顔を享受することが許されない。

狂っている。

………

……



<<同日 管理局地上本部>>

「我々の思惑通りに事は運んでいますね」

「そうやな、全部、思い通りや」

「それならば、何故涙を流しておられるのですか、我が主よ」

薄暗い部隊長室でシグナムが静かに問いかける。

ヴィヴィオの戴冠宣言を見て、聞いた八神はやては涙をぽろぽろと流していた。
それはヴィヴィオに対する侮辱にしかならず、愚かな行為だと分かっていても止める事ができなかった。

パシンと乾いた音が部屋に響き渡る。

「甘ったれるのもいい加減にしてください。
これは貴女が望んだ未来、これは貴女が引き起こした事象、これは貴女の罪なのですよ。
泣いて許されると思っているのですか?」

「思ってない、思ってないけど、今、悲しむ事はそんなに悪い事やろうか?」

「えぇ、罪です、私達に涙を流す資格などありはしない」

その言葉を聞いて、はやては涙を拭った。
まだその目の周辺は赤く腫れていたが、その眼光は鋭さを取り戻していた。

「安心してください、罪を背負うのは貴女だけではありません。
我らヴォルケンリッターも、貴女と同じ共犯者です」

「我に楯突く者よ、我を許すな、その胸に己が正義をしかと刻んで我に挑め……か。
ほんまに敵わへんなぁ、あの子には……えぇよ、やってあげようやないか」

せめて己の信じる正義の名の下に、狡猾に、慈悲も無く。
ただひたすらに力をもってその正義を蹂躙してみせようではないか。

「それが、我らの贖罪の道」

なんと救われない贖罪だろうか。
罪を償った先にあるのは、更なる罪だけだといのに。

八神はやては立体映像端末で通信を起動する。
黄色の瞳に紫の髪、狡猾な微笑を携えたスカリエッティが映し出される。

『Dr.あの子達は何時ごろできる予定やの?』

『これはこれは准将閣下、焦らずとも一週間もあれば第一陣は完成致しますよ』

『別になんも焦ってへんよ』

『ふひははっはは!!そんな赤く腫らした目をしていったところで説得力ありませんよ!!
罪の意識に苛まれていましたか?ちっぽけな偽善が邪魔をしてしまうのでしょう?
さっさと捨ててしまえばいいんですよ、そんな邪魔なものは!!』

『Dr.自分の命は大切にせなあかんよ?』

つい、殺してしまうかもしれへんやんか。

『そうですねぇ、大切にしなくてはいけませんねぇ、これからおもしろいものが見られるのだから!!
私の作品と作品の殺し合い!!かつての仲間と仲間の殺し合い!!逃れられぬ運命に翻弄される者!!
こんなおもしろいものを見ずにして死ねませんからねぇ!!』

『この下衆が!!』

シグナムが堪えきれずに暴言を吐くのをスカリエッティは実に楽しそうに眺めていた。

『同じ言葉を貴女にも返してあげますよ』

そこで強制的に通信をきったのははやてだった。
その後に続くであろう暴言をシグナムに聞かせたくはなかった。

「なぁ、シグナム」

「……なんでしょう?」

「なんで、世界はこんなにも救われんのや」

ヴィヴィオも、魔道師も、騎士も、戦闘機人も、守護騎士達も、あるいはスカリエッティも。
なんで、こんなにも救われない。

「たとえ世界が救われなくても、我ら守護騎士はいつまでもあなたの側にいます」

「ありがとう……ごめんな、こんな最低な主で」

でも、しゃぁないやんか。
頭わるい私には、これくらいしか救いの道が見つけられんかった。

世界は二分された、あとはもうひたすら戦うのみ。

己の正義を信じて、寄りかかる者を信じて、そこに救いがあると信じて。

もうすぐ、戦いが、始まる。

………

……



Stanby Ready ?



……

………

<<用語説明>>

■グリューエン軌道拘置所第1監房

スカリエッティが捕らえられている施設。
軌道ってあるんだから多分宇宙じゃね?
ってことで最初の意味不明な文は宇宙をイメージしています。

■クラン

急激にフラグがたってるのも性格が壊れてるのも仕様ですw

■戴冠宣言

載冠式(たいかんしき)
新国王が、王家に伝わる宝冠を初めてかぶり、即位を内外に明らかにする儀式

だそうですw

戴冠宣言はその際に出される宣言ですが何かぶっとんでます。
国つくるっていっても実際にはベルカ自治州に旧管理局が軍として加わるだけなので、
改革は軍部だけ……なのかな、良くわかんない。

■決別部隊

ヴィヴィオの戴冠宣言を聞いて決別を決めた部隊。
気持ちは分からんでもない。

■八神はやて

完全なピエロとなってる気がします。
彼女に救いはあるのでしょうか。

■Stanby Ready ?

某同人誌の終了が印象的だったので。
というわけで準備はいいか、クソ野郎共。こっから先は貴様らの墓場だ、生き残りたければ目標を殺せ、慈悲をかけるな。
嘘です、調子のりました、次からはどーん、バーン、ワーって感じが増えるかと思います。



[6245] 第六話 ~聖王の鎧~
Name: Anrietta◆f3aee459 ID:de8dbf33
Date: 2009/04/02 14:59
<<新暦0080年10月24日 ミッドチルダ首都クラナガン辺境>>

『CPより各リーダー、本日、10月24日ミッドチルダ標準時1200をもって我々聖王連合と管理局との聖戦が開始される。
念のために確認しておくが、聖王連合軍の戦略目標は管理局最高評議会の完全制圧となっている、それ以外には構うな。
また、戦技教導隊、守護騎士隊、ヴァンガード・ナイトレイ、八神はやて、との交戦はできるだけ避ける様に。
もし交戦状態になったら命がある事を祈れ。尚、これらの部隊にはナンバーズ、竜騎士隊、第一独立騎士小隊が応戦する。
また、非常に心強い事に第14代聖王陛下が危険を承知で直々に戦場に出てこられる。陛下に無様な姿を晒してくれるな』

『ナンバーズ01、了解』

『ドラグーン01、了解』

『ライトニング01、了解』

『各隊持ち場に着け……皆に聖王陛下の加護があらんことを』

………

……



『CPより各リーダー、防衛部隊からの報告によると、聖王連合軍と思われる武装魔道師隊が最高評議会へ向けて侵攻中だ。
部隊規模はおよそ二個師団程度……ほぼ敵の総軍である。敵の戦略目標はおそらく最高評議会の完全制圧にある。
我が軍の戦略目標は最高評議会の死守と聖王陛下の確保にある、尚、聖王陛下は絶対に殺してはならない。
また、リストに上がっている元管理局員ならびに戦闘機人との交戦はできるだけ避けるように。
我々はどうやらヒールの様だが、我々にも譲れぬものがある。平和の為に散った先達に無様な姿を晒してくれるな』

『ストライカーズ01、了解』

『ヴォルケンリッター01、了解』

『ナイトレイ01、了解』

『総員即応体制(コンディションレッド)……せめて悪役らしく蹂躙してみせろ!!』

………

……



戦場となる荒野を埋め尽くさんばかりの、人、人、人。
漆黒の管理局特有の防護服に身を包んだ魔道師達、思い思いの甲冑を身につけた教会の騎士達。

上空にはいかつい銀の装甲で太陽の光を反射する多くの艦隊。
それを眺めるは、右目が翡翠、左目が紅玉の瞳、まだ、11歳に過ぎない少女。

──作戦、開始。

『遠距離砲撃用意!!』

CPからの命令と同時にそれまでただの荒野だったところに幾つもの魔力光、魔方陣が展開される。
穏やかな風か吹く中、高層ビルが立ち並ぶ首都クランガンのはずれのまだ開拓されていない自然の残る場所で戦いは開始された。

「バルディッシュ、カードリッジロード!!」

『Yes, sir』

フェイトがそう叫ぶと同時にバルディッシュのリボルバーカートリッジシステムが起動。
小さな爆発音と共に魔力を込めた弾丸を連続して二発ロード。
強大な魔力を錬って、雷の属性を付与、フェイトの身体から溢れた魔力が静電気の様にバチバチと周りに帯電する。

天地貫く業火の咆哮、遥けき大地の永遠の護り手、我が元に来よ、黒き炎の大地の守護者。竜騎招来、天地轟鳴、来よ、ヴォルテール!

辺境駐留部隊から竜騎士部隊として聖王連合に従属した、竜召喚士が朗々と召喚呪文を詠みあげる。
自慢の桃色の髪の毛をはためかせ、少し大きくなった背に力を入れて、竜騎士である少年に護られながら。
竜召喚士であるキャロ・ル・ルシエの周りに巨大な召喚魔法陣が現れ、ヴォルテールと呼ばれる巨大な竜が地面より這い上がってくる。

『ウオオオオオオオオオオオ!!』

漆黒の巨大な翼を広げて、黒竜は戦場に仁王立ちする。
その雄たけびは大地を揺るがすかと思うほどに、雄雄しく、頼もしい。

「IS、起動。イノーメスカノン」

ディエチの声によって大きな無反動砲のような形状をした大砲が出現。
狙いを敵部隊のど真ん中に定め、魔力砲撃を行う為にカードリッジシステムを起動。
連続でカードリッジを消費、莫大な魔力をその砲身に集めていく。

「IS、起動。レイストーム」

オットーの声によってミッドチルダ式に似た魔方陣が展開。
グローブに追加したカードリッジシステムを起動、連続でカードリッジを消費。
右手に緑色に輝く魔力エネルギーが集まってくる。

その他にも聖王連合軍の遠距離砲撃が可能な魔道師や騎士達が砲撃の準備を始める。

一方、聖王連合軍の襲撃を事前に察知していた管理局は最高評議会前に防衛線を敷いていた。
クーデターや戴冠宣言で勢力の縮小は間逃れなかったものの、未だその軍事力は全次元世界で最高峰を誇る。

『聖王連合軍より強大な魔力反応が多数!!距離約1000!!その数600……700……まだ増えている!?』

管制官の慌てる声が虚しく響き渡る。
わざわざ言われなくても、魔力資質のない者ですら、多くの『力』を感じていた。

それほどまでの、色とりどりの魔力光。

これが、こんな綺麗なものが破壊をもたらすなど誰が想像できようか。

いくつもの砲撃が聖王連合軍から放たれる。
大地を削りながら、轟音を轟かせながら、一直線に部隊へと向かってくるいくつもの光。

『第一波、来ます!!』

光と音の織り成す幻想的かつ、圧倒的な破壊力をもったそれらに、部隊が無意識のうちに若干後退する。
管理局部隊の後方、量産された『彼女達』を従えた新たなる部隊……通称、八神兵団。
その中で騎士甲冑を纏った八神はやては、自らに向かってくるそれらの砲撃を見て薄く笑っていた。

「ガジェットドローン、起動。A.M.F(アンチマジリングフィールド)展開!!」

八神はやての一言でそれまで潜んでいた多くのガジェットドローンと呼ばれる兵器が部隊の前面に展開。
その物量にものを言わせて高濃度A.M.Fを何重にも展開させていく。

その濃度は、普通であれば視認できないA.M.Fを遠くからでも確認できるほどに高い。

A.M.Fと、魔力砲撃が衝突し弾ける。
耳を劈くような爆発音、衝撃波が後方に控えていたはやてまで襲ってきていた。

いくつもの魔法が着弾して打ち消されていくが、『一部の』高ランク魔道師達の魔法は打ち消せずに部隊へと襲い掛かる。

『敵部隊前面に高濃度A.M.Fの展開を確認!!多くの砲撃が無力化されていきます……着弾率……8%だと!?』

『出力元を照合……データありました!!これは……ガジェットドローン!?』

騒然としているのは聖王連合軍のHQであるXV級艦次元航行艦船クラウディアのブリッジ。
巨大モニターに大量のガジェットドローンの姿と展開されたA.M.Fが映し出される。

今度慌てるのは聖王連合の方だった。
質量兵器を搭載したガジェットドローンを出されれば魔道師が大半を占める聖王連合は崩れてしまう。

──だが。

「質量兵器は搭載していないだろうね、そんな事をすれば自ら掲げた理想を棒に振るようなものだ。
確かにA.M.Fだけでは人を殺すことなどできないから、ガジェットドローンは質量兵器になりえない。
ずいぶんとうまいことやるもんだね……八神はやて!!」

クロノは苦い顔をした。
兵力でも、兵の錬度でも劣る聖王連合がこの戦いに勝つためには先の砲撃で大方の戦力を削っておく必要があった。

こちらの考える事など予想済みと言う事か。

『え……ですが……さ、三番ハッチ開きます!!』

女性オペレーターが突然ハッチの開放を宣言する。

「おい、何を……」

艦船の状態を示すウインドウが赤く点等し、ハッチが開いている事を警告する。
急いで三番ハッチの映像を映し出すと、そこには既に防護服を着たヴィヴィオの姿があった。

──いつの間に抜け出した!?

つい先ほどまではここで一緒に戦況を見ていたはずだった。

……考えるまでも無い、空間移動だ。

通常なら先天的な素質がないと使いこなせない様な魔法であっても、ヴィヴィオにはできてしまう。
なぜならば、身体が一回見た魔法は総て使えるようにできているからだ。

これから何をするつもりかなど、考えなくても分かる。

『陛下、ブリッジに御戻り下さい!!そこは……』

『控えなさい、クロノ!!』

引き戻そうとしたクロノも一喝されてしまう。
今絶対的な権力者はヴィヴィオなのだ、彼女の命令には逆らえない。

『進路クリア、システムオールグリーン……あの、本当によろしいのですか?』

女性オペレーターの戸惑ってクロノの方をちらちらと見ている。

『くどいですよ、出ます!!』

クロノの了解を得る事も無く、その一言を最後に1人戦場の空へと飛び立っていく。
轟々という気流の音が虚しく聞こえてくる。

どうして、自分を大切にしないんだ。

戦争を引き起こした責任を感じているのか?

まだ11歳の少女が?

だが、もう既に、犠牲にしたではないか。

その、人生を。

それでは、まだ足りないというのか。

「くそっ!!」

らしくもなく、デスクを叩いて八つ当たりをするが、状況は変わるはずもなかった。

『敵部隊後方より強大な魔力反応多数!!オーバーSランク砲撃が……6……14……まだ増える!?』

『魔力波長照合……戦技教導隊、守護騎士隊、アンノーン多数……戦闘機人部隊と思われます!!』

戦場の魔力エネルギーを表す三次元グラフが大きく歪む。
ずば抜けて高い魔力のせいで、波形が不自然に盛り上がっていた。

味方でいるときは頼もしいが、敵になるとこんなに強大だとは……

「次元航行艦隊を前に出せ!!対魔力シールド出力最大、ここで受け止める!!」

『ですが、一点集中砲撃されれば艦隊のシールドでは持ちません!!』

「……だったら指を銜えて見ているか?」

『それができたら、こんなに焦っていませんよ!!』

「焦る事はないだろう、陛下は既に脱出済みだ!!安心して死ねるぞ!!」

『はっ……それなら安心ですねぇ!!』

そんな事を言いながらも次元航行艦隊が聖王連合軍の前面に展開。
各艦隊が最大出力で対魔力シールドを展開。

『各艦隊のシールド展開完了……砲撃来ます!!』

もっとも、受け止めるのはおそらく艦隊ではないだろうが。

『な!? 部隊前方に強大な魔力反応……ベルカ式?違う……系統不明!!』

『映像でます!!』

それは、虹色に輝く魔力光。

精悍な顔つきの少女が、迫り来る砲撃を睨みつけるように見つめていた。

「ブレイブハート、カードリッジロード!!」

『Load cartridge』

ヴィヴィオの一声で杖型デバイスのブレイブハートのカードリッジシステムが起動。
高速でカードリッジをロードしていく、その数……実に十発。
明らかなオーバーロードによってヴィヴィオの制御しきれない魔力が発生する。

『あれは……陛下!?』

「うあぁあああぁぁぁぁぁああああああ!!」

虹色の膨大な魔力がヴィヴィオの周りに不安定な状態で停滞。

オーバーロードによる余剰魔力エネルギーと身体に掛かる負荷により強制的に聖王状態へと覚醒。

身体を、戦闘に向いている成人の状態に定着。

聖王の鎧を起動……状態を超広範囲防御魔法に変換。

『holy wing』

虹色の魔力を強大な翼の状態へと固定。
荒野を埋め尽くさんとする聖王連合軍前面に立ちふさがるように虹色の巨大な両翼が展開される。
大きく広げられた翼から虹色の羽がひらひらと宙に舞う。
天使というにはあまりにも力強く、悪魔というにはあまりにも綺麗なその翼。

『防御魔法を展開、魔力規模……SS……いえ、と、SSSランク!!』

広げられた翼に、管理局魔道師が放った砲撃が衝突……『消滅』させられていく。

『砲撃……総て……消滅しました』

呆然と管制官が状況を告げる。

それは地上の部隊でも一緒だった、皆が阿呆のように前方を見ていた。

そして次の瞬間にウオオオオオオオオオっと鬨の声が上がる。
絶望的な戦力差の中でも、ヴィヴィオの天使の様な虹色の両翼は味方の士気を高めるには充分すぎた。

しかし、これでお互い長距離砲撃が通用しない事がわかってしまった。

持久戦に持ち込まれれば確実に力負けするのは聖王連合だ。
何故なら、その圧倒的な防御力は少女1人が支えているのだから。

『HQより各リーダー。予定より『少しだけ』残存する敵の数が多いが作戦内容に変更は無い』

陛下であるヴィヴィオが指揮権をほったらかして前線に出てしまったせいで臨時的に部隊総指揮をとったクロノから各部隊に念話が入る。

『ナンバーズ01よりHQ。具体的にどうすれば良いのでしょうか?』

これが本当の部隊だったなら、その場で銃殺されそうな質問をぶつけるのはスバルだった。
ナンバーズ全員が額に手を当ててため息をついていた。

『目の前の奴をぶっ飛ばせ!!評議会の老人共を縛り上げろ!!作戦内容はそれだけだ!!』

『はっ……分かりやすい!!』

それを聞いたスバルはニヤリと笑って拳で手のひらをパンっと撃ちつける。

『CPよりナンバーズ、確かに戦略目標はそうですが……御部隊はガジェットドローン破壊もしくは無力化が最優先目標です。
先行してA.M.F発生源である……』

その様子を見かねたのかCPから念話が入るが、スバルはきょとんとした顔で

『要するに、あの機械を全部ぶっ壊せって事でしょう?』

と簡潔にまとめた。

『……そういう事です。盛大に暴れてい下さい』

心なしかため息混じりに管制官が告げる。
気持ちは分からなくも無い、だが、これでいいのだろうとナンバーズ達は考えていた。

スバルにしてみれば『気に入らない奴らをぶっとばす』事なのだから。

このすら戦争その延長線上に過ぎない。

実に分かりやすい。

物事はいつだってそうだ。

難しく考えるから難しくなる。
だったら分かりやすく簡潔にした方がいい、そうした方がうまくいく事もある。

少なくともナンバーズはスバルのそういったところを好いていた。

『そんじゃ、いっちょ暴れますか!!』

戦場に似つかわしくない明るい声があがった。

………

……



『ヴァンガード中将、陛下の確保は貴方に一任します……ですが、本当に可能なのですか?』

通信越しに見る八神はやては、いつぞやに見たときよりもだいぶやつれていた。
ただ、眼光だけは以前よりも更に鋭さを増していたが。

何が、八神はやてをそこまで駆り立てるのだろうか。

罪の意識だろうか?

聖王連合軍が掲げるのが希望だとすれば、管理局が掲げているのは贖罪だ。

罪の重さは、罪を犯したものでなければ分からないし、理解できない。

償いなど自己満足と言われればそれまでだ。

理解と共感が得られない故に管理局は悪として見られる傾向にある。

それは、八神はやての本来の在り方とはかけ離れているのだろう。

故に、無理をする。

「可能だ、安心していい。君に『迷惑』はかけない」

『念のために確認しておきますが、陛下の確保は必ず生存している状態で行ってください』

「心得ている」

殺してしまっては意味が無い。

八神はやてにとっても、ヴァンにとっても。

『吉報をお待ちしています』

「では後ほど」

通信を切り、ひとつため息をついた。

八神はやてには同情せざるを得ない。
優しすぎるが故に、こんな道しか選べなかった。

冷徹な仮面をつけ、心で涙を流しながら、血を吐く想いでこの修羅の道を行くのだろう。

なんともこっけいな姿だが……

そんな姿を誰が蔑める?

「ではクラン、動くとしようか。部隊指揮は任せたよ」

ヴァンの言葉にクランは目をパチパチさせて驚いていた。
一時的に部隊の指揮を任されたことはこれまでも何度かあったが、最初から総て任される事など無かったからだ。

「部隊指揮を執られないのですか?」

いっつも戦闘を行いながらも的確に部隊に指示を出しているというのに。
この大事なときにクランに指揮を任せるとはどういう事か。

「クランを信頼しているからね」

「ふざけないで下さい」

さすがのクランも作戦行動中は甘い雰囲気を微塵も出さない。
目が若干泳いでいる……疑惑か。

「私も自信が無い」

「中将の自信が無い姿など想像できませんが」

「つい先日見たばかりだろうに」

「あれは……別の事情があったのでしょう?」

「そうなんだがね。少なくとも、考え事をしながら戦闘できる相手ではないよ……あの天使は」

そう言ってヴァンは上空に出現した虹色の翼を見上げた。

「それに……失礼だろう?」

「……は?」

「聖王陛下の御前に部隊をぞろぞろとひっさげて登場するのは」

………

……



To be continued.



……

………

<<用語説明>>

■IS

質量兵器は管理局の理念に反するので、二年前にカードリッジシステムを用いる事で魔力による非殺傷設定が行われる様に改造されている。
カードリッジ装填数は気にしたら負け。
尚、攻撃力を持たないISは従来通りである。

■戦闘機人

質量兵器を認めない管理局が戦闘機人を認めているのは、彼女達が『人間』であるから。
人間である以上彼女達は兵器ではなく、また彼女達を質量兵器と認めるならば格闘技に特化した人間も質量兵器とせざるを得ない。
実際のところ管理局がこれらを兵器扱いしているかどうかは現在では描かれていない。

■八神兵団

戦闘機人部隊、守護騎士部隊、戦技教導隊を従える独立連隊。
また、守護騎士部隊、戦技教導隊も部隊指揮に影響されない独立部隊なので内部は複雑。
戦闘機人部隊のみが八神兵団に完全に従属。

■A.M.F

アンチマジリングフィールド。
視認できるレベルまで強化されると高ランク魔道師でないと突破できないチート仕様。
イメージはエヴァのA.Tフィールド。
ガジェットドローンの量産化は気にしたら負け。
尚、ガジェットドローンの保有武装はA.M.Fのみで攻撃性を持たないために質量兵器ではないとは管理局の見解。
クロノも認めて(?)いる。

■XV級艦次元航行艦船クラウディア

基地を持たない聖王連合のHQ。
総司令はヴィヴィオだったが、前線にいってしまったのでなし崩し的にクロノが指揮を執る。
対魔力シールドはあるんじゃないかな、多分。

■ブレイブハート(勇敢な心)

ヴィヴィオのデバイス。
元になっているのは、なのはのレイジングハート(不屈の心)。
強度は気にしたら負け、たぶんすごい頑丈なんだよ、聖王のだし。

■ヴィヴィオ、聖王覚醒

カードリッジシステムのオーバーロードによって擬似的にレリックのもつエネルギーを再現。
更に身体に負荷をかける事で聖王の鎧を強制発動。
持続時間は気にしたら負け。

■聖王の鎧

ヴィヴィオを護ろうとする遺伝子レベルでの能力。
身体が大人になっちゃいます、膨大な魔力だって制御しちゃいます、魔力なんて無効化しちゃいます。
ヴィヴィオTUEEEEEEEEEEEEEEEEE!!
翼はなんとなく生やしてみた、後悔も反省もしていない。



[6245] 第七話 ~贖罪~
Name: Anrietta◆f3aee459 ID:de8dbf33
Date: 2009/03/02 14:34
<<新暦0080年10月24日 第一独立騎士小隊>>

第一独立騎士小隊『ライトニング』は少数精鋭部隊である。

聖王教会騎士団ならびに、離反した元管理局魔道師から抜擢した者達で部隊を編成。
部隊長のフェイト・T・ハラオウンを始め、部隊員はエースと言われるだけの実力は保持している。

本来ならばエース達は分散させるべきなのだろうが、それでは太刀打ちできない敵部隊が存在する。

戦技教導隊。

管理局において各部隊のエース級魔道師を集めて編成される教導隊。
戦時には解散されてそれぞれの部隊へと戻るはずのその部隊は、そのままで運用されていた。

管理局史上、まぎれもなく最強のその部隊は小隊規模ながら戦況を左右するまでに影響を及ぼす。
その証拠に、戦技教導隊の識別呼称は畏敬も込めて『ストライカーズ』の名を冠している。

それに対抗する為だけに作られた独立小隊が、第一独立騎士小隊である。

聖王連合軍は管理局が敷いた防衛線まで侵攻。
各地で高速魔道戦が展開される中をライトニング部隊は遊撃をしながら戦技教導隊を探索。

フェイトは内心穏やかではなかった。
もちろん戦いの渦中にいるというのは大きい。

だが、それ以上にヴィヴィオの事が心配でならなかった。

敵の砲撃を受け止めた……いや、打ち消したあの不思議な両翼。
虹色の魔力光と見たことも無い魔法陣があれがヴィヴィオのものである事を表していた。

その翼は今も尚、健在。
クロノの説得でさすがに後方に下がったが、その姿はそれだけで味方を鼓舞する。

だが、フェイトは知ってしまっていた。

聖王の鎧を起動するにはカードリッジシステムのオーバーロードが必要であると。
つまりは、身体に尋常でない負荷をかけるのだ。
それは魔力的な問題だけでなく、肉体的にも大きな負担をかける。
下手すれば、死ぬ事だって有りうる。

しかも、その能力は本来のヴィヴィオであれば忌むべき能力なのだ。
陛下と呼ばれる事だってそうだ。

なぜ、まだ11歳の少女がそこまで自分を犠牲にしなくてはならない。

なぜ、それを見ている事しかできない。

フェイトの中にあるのは自身への怒りと無力感だった。

『Catch a group have big magical power.』

バルディッシュが強大な魔力をもつ集団を捕捉したことを知らせる。

「魔力波長は──?」

『……Your best friend.』

高町なのは……戦技教導隊。
見つけてしまった、いると分かっていたけれど、認めたくはなかった。

「座標特定、急いで」

『……Are you all right?』

「大丈夫だよ……お願い、バルディッシュ」

『Yes, sir. MAP-F-73.But……』

戦場MAPを展開し、座標を入力してHQへ送信。
すぐさま広域探索魔法に引っかかった敵部隊がマーカーとして表示される。

『It approaches at a high speed.』

それらは既に高速でライトニング部隊へと向かってきていた。
赤いマーカーが槍の様に青いマークを押しのけてくる。

「捕捉されていた!?ライトニング総員即応体制!!ライトニング01よりCP……」

『It comes.』

バルディッシュの言葉通りにライトニングの前面に展開していた部隊から爆発が起きる。
それは見覚えのある桜色の魔力光、圧倒的なまでの破壊力。

あたりを爆煙が包み込み、衝撃波がフェイトのいるところまで襲ってくる。
いくら非殺傷設定とはいえ、こんなものをくらって無傷ですむはずがない。

フェイトの頬を生暖かいものが掠めていく。
ぬぐったそれは、赤黒い液体で鉄臭かった。

爆煙が晴れ、一撃で沈められた魔道師達の中に人影が浮かび上がる。
本来であれば純白の防護服を血と煤で汚し、目には悲壮を宿し、ストライカーと呼ばれる魔道師を従えて。

「よりによって……なんで貴女が……!!」

なんで、世界はこんなに無情なのか。

なんで、私は気づけないのか。

フェイトが久しぶりに見たなのはの目は、余りにも冷たすぎた。

なのはは、泣きそうな顔のフェイトを一瞥しながら、頬についた返り血をぬぐい、何事も無かったかのようにレイジングハートをフェイトへ向ける。

「答えてよ……なのはぁぁぁぁあああああああああ!!」

フェイトの悲痛な叫びをよそに、レイジングハートが槍の様にその先端から桜色の刃を突き出す。

なのはがダンっと右足で地面を思い切り踏み切り、フェイトに向けて跳躍。
跳躍した瞬間に身体を魔力によって更に加速させ、フェイトの身体の中央部めがけて高速の衝きを行う。

フェイトは反射的にバルディッシュで予想したレイジングハートの進路を塞ぎ、左に受け流す。

ガキィィンと金属音に似た剣戟が辺りに響き渡る。

一撃を流されたなのはは、魔力による速度抑制と足を地面に派手にスライディングさせる事で速度を相殺。
背後にいるフェイトに更に一撃を当てるべく、振り向きざまにレイジングハートで斬りつけるが、バルディッシュで防がれる。

再び剣戟が鳴り響く。

そのまま鍔迫り合いに持ち込まれ、バルディッシュがじりじりと後退する。

「これはね、私達の贖罪なんだよ、フェイトちゃん」

「こんな……人をたくさん傷つけて贖罪なんて……!!」

なのはは余裕の表情を浮かべたまま更にレイジングハートを深く押し込んで有利な姿勢をとる。
一方フェイトは額に汗を浮かべながら押し返そうともがいていた。

「傷つく……? 私達の教え子はもっと苦しんだ!!」

途端になのはの力が増してレイジングハートが更に深く沈もうとする。
フェイトが耐えられずにレイジングハートを受け流して後方へ跳躍して距離をとる。

しかし、間髪いれずになのはも跳躍していた為に相対的に位置は変わらない。
再び振り上げられたレイジングハートをバルディッシュで受け止める。

フェイトは腕がしびれるのを感じた。
この華奢な腕でなんと重い一撃を放ってくるのか。

「だからといって、他の人たちを傷つけていい事にはならない!!」

『Load cartridge.』

バルディッシュのリボルバーカードリッジシステムが起動。
魔力を込めた弾丸をロードして一時的に力を得る。

その魔力もろともバルディッシュでレイジングハートを押し返す。

弾き飛ばされたなのはは、魔力による速度抑制とレイジングハートで地面を抉るようにして速度を殺していく。
ガガガガガっとレイジングハートによって削られた地面が悲鳴をあげていた。

『Plasma Lancer』

フェイトは弾き飛ばしの後すぐさま余剰魔力エネルギーで魔力を込めた小型の弾丸を生成。
総数8にもなる小型の弾丸の周りを環状魔法陣が取り巻く。

フェイトが弾丸を発射するのと同時になのはがようやく止まり、フェイトから放たれた弾丸を確認。
なのはは回避の為に上空に跳躍、同時に自らも魔力を込めた弾丸を生成。

風を切り裂く音と一緒になのはの足元をフェイトが放った黄色い弾丸が通り過ぎていく。
だが、このままで終わらない事をなのはは知っていた。

「ターン!!」

通り過ぎていったはずの弾丸はフェイトのその言葉で急停止し、再びなのはに照準を合わせて加速し向かってくる。
再び空気を切り裂きながら向かってきた弾丸に反射的に自ら生成した弾丸をぶつけ威力を相殺、いくつもの弾丸がなのはの近くで爆発していく。

けたましい爆音と髪を揺らすほどの爆風、同時に発生した爆煙によって視界を奪われる。

だが、視界が奪われる程度でうろたえるほどなのはは、やわな生き方をしていない。
目を閉じて探索魔法を起動……魔力を集中させ、あたり一面を捜索。

隠しきれるはずもない巨大な魔力を感じてそこにレイジングハートを向ける。

フェイトは防護服の装甲を最も薄いソニックフォームへと変換。
装甲は無いに等しく、攻撃を食らえば一撃で沈められてしまうが、装甲を薄くした余剰魔力を移動に転用する。
一時的に人間の反射速度では対応しきれないほどの機動力を得る。

更に高速移動魔法であるソニックムーヴを展開。
なのはの背後を一瞬で取ると同時にバルディッシュのリボルバーカードリッジシステムを起動。
弾丸を連続で四発ロード。
自身が扱えるぎりぎりの魔力を総てバルディッシュへと流し込む。
雷の大剣ライオットザンバー・カラミティへと状態変化したバルディッシュを天高く掲げる。

『Round Shield』

危険を察知したレイジングハートがなのはの背後にミッドチルダ式魔方陣で円形の盾を生成する。
背後からはバチバチというバルディッシュから漏れ出した電気属性の魔力エネルギーが感じられる。

一撃必墜。

「ぶちぬいて……バルディッシュ!!」

『Yes, sir.』

なのはの展開した盾を容易に切り裂いて雷の一撃と共に地面に叩きつける。
鳴り響く雷鳴と爆発音、あたりに広がっていく爆煙と爆風。

バルディッシュの状態をカラミティからスティンガーへと移行。
雷の大剣をスピードと防御に優れた双剣状態に変える。
再びソニックムーヴを展開、爆煙の中心部へ一瞬で移動。
立ち上がろうとしていたなのはの首元に右手に握ったスティンガーを突きつける。

「話を……聞こうか」

スティンガーを突きつけたままフェイトが言う。
その額には汗が浮かんでおり、呼吸も荒々しい。

「聞いてどうするの?」

片膝を地面に着いたまま、圧倒的に不利な状況にも関わらずなのはは冷笑さえ浮かべていた。

「共感はできなくても、理解はできるかもしれない」

それから、しばらく2人はお互いににらみ合ったままだった。
あたりに散発的に響き渡る爆発音や悲鳴や怒号が遠く聞こえる。

「……私達は戦技教導隊として多くの魔道師達を指導してきた」

ぽつりと、まるで懺悔のようになのはが言葉をもらす。

「私達は、みんな誇りを持っていたんだ……教導官という仕事に。
私達が精一杯、持てる技術を尽くして戦う術を教えれば魔道師達は多くの人々を救う事ができる。
教え子達が絶対に死んでしまわない様に……厳しく指導して、恨まれても生き残ってくれるならそれでいい。
どんなに恥ずかしくても生き残っていけば、その人はより多くの人を救う事ができるって」

それまで、冷徹な仮面を被ってきたなのはの頬を雫が伝っていく。

「でも、それじゃぁダメだった。私達がどんなに必死になっても皆……みんな死んでいってしまう!!
本局の人たちは気づかない……気づこうとしないけれど、魔法ではどうにもならないところまで来てしまったんだよ!!
私達は見てきたんだ……目の前で教え子が死んでいく様を、戦友が死んでいく様を、大切な部下が死んで行く様を!!
私達が戦い方を、生きていく術を教えたのに……私達にもっと力があれば救えたかもしれないのに!!」

冷徹な仮面は完全に剥がれ落ちて両目からぽろぽろと涙が落ちていく。
フェイトは何も言わずにただ、懺悔にも似たなのはの言葉を聞いていた。
涙が溢れそうになるのを堪えて、突きつけたスティンガーが下りてしまわぬように力を入れて。

「だから……これは贖罪なんだ。死んでいった多くの魔道師達の死を無駄にしない。
これ以上、質量兵器で被害は出させない。彼らが望んだ平和な世界を手に入れる……。
その為に戦闘機人達が必要だと言うのなら、私は悪魔にでもなんにでもなる」

『Barrier Burst.』

桜色の盾が急に展開し、フェイトを弾き飛ばす。
なのはがレイジングハートを構えて涙を流しながらも、鋭い眼光でフェイトを睨みつける。

フェイトは弾き飛ばされた衝撃で一粒だけ涙を流してしまっていた。

理解はできた。

同情もする。

だが、共感はできない。

どうしても、生命操作技術だけは許せないのだ。

悪戯に命を量産し、人の都合で決定される人生を許せるはずがない。

この意思だけは変わらない。

例えどんな理由があっても人を殺してはいけないというのが一般的な道徳であるように。

フェイトにとってそれは心の根幹とも言える場所が拒否しているのだ。

言い訳をするのはもうやめよう。

これは、もはやフェイトのエゴに過ぎない。

だが、なのはの言っている事もエゴに過ぎない。

人は結局エゴイストでしかないのだ。

理論や正当性など後からとってつけた言い訳に過ぎない。

「私達……友達だよね?」

レイジングハートをその友達であるフェイトに定めながら問う事のなんと皮肉な事か。

「うん……15年前からずっと……」

フェイトも防護服を通常状態に戻して再び大剣状態になったバルディッシュをなのはに向ける。

「だからこそ」

『Load cartridge.』

カードリッジシステムを起動、魔力を込めた弾丸を消費して莫大な魔力を得る。
レイジングハートの先端部に十二分に高められた桜色の魔力が凝縮されていく。

「止めてみせる」

『Load cartridge.』

同じくカードリッジシステムを起動、魔力を込めた弾丸を消費、バルディッシュへと供給。
元々大きいバルディッシュの剣が更に巨大化して雷の属性を纏う。

ふたつの強大な魔力はぶつかり合う前から威力を発揮し始める。
あふれ出すエネルギーが小規模な闘争を始める。

全力全開。

鳴り響く雷鳴と爆音、ぶつかり合う2つの強大な魔力に辺り一帯が吹き飛ぶかと思うような爆風に包まれる。

それまで鳴り止む事のなかった戦場に響き渡る爆音が、この時ばかりは一瞬止まる。
敵味方とわずに、強大な魔力同士のぶつかり合いを感じていたのだ。

不気味なまでの静寂の中、爆煙の中から2つの影が浮かび上がる。

なのはが苦痛に顔を歪め、汗を流しながらもニヤリと笑う。

フェイトの身体がぐらぐらと揺らいで、ついに身体をささえきれなくなって倒れる。
視界が狭くなって息苦しい、何度も襲ってくるブラックアウトの感覚。

なのはが、レイジングハートを地面につき立てる。
まるで、勝利を誇示するかのように。

──負けた。

その絶望感に、フェイトは遂にその意識を手放す。

フェイトのブラックアウトを確認した後でなのはは打ちのめされた気持ちになった。

何が足りなかった?

想いは充分だった。

正義だってあった。

全力全開だった。

体中を鈍痛が襲い、視界がぐらぐらと揺れる、襲ってくる嘔吐感。
世界が……暗くなっていく。

違う、足りなかったのではない。

フェイトにもまた、譲れないものがあった。

これは唯それだけの話。

だが、ここで意識を失う訳にはいかない。

そうだ、私はまだ……。

『高町なのは……覚悟!!』

揺らぐ世界の中で、朦朧とした意識に向かって声が聞こえる。
聖王連合軍の騎士達がなのはにデバイスの先に溜めた膨大な魔力弾を向けていた。

──まだ、終われない。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

魔力ダメージを気迫で捻じ伏せ、レイジングハートを騎士達へ向ける。
こんなところで終わるわけにはいかない。

まだ手に入れていない。

平和な世界。

理不尽な死刑のない世界を。

邪魔などさせるものか。

「レイジングハート!!」

レイジングハートに魔力を込めた瞬間にガツンと身体の内側から殴られた様な衝撃が身体に走る。
内臓を傷つけられたのか、口の中が鉄の味で満たされていく、たまらず吐き出すと赤い塊のようなものが出てきた。

明らかな魔力負荷による副作用。

──だからどうしたというのか?

『Accel Shooter』

魔力弾を同時展開……その数4。
これが、もう、限界だった。

目の前には膨大なまでの魔力弾の数々。
仮にもエースとまで言われてきた歴戦の勇士達だ、魔力弾を当てられたわけでもないのに身体が痺れてくる。

私達の、理想の世界を。

なのは目がけて騎士達の魔力弾が放たれた瞬間、身体が宙に浮く感覚を覚える。
視界が、一瞬で変わっていく。

ソニックムーヴ。

『ストライカーズ04より02、ストライカーズ01の救出に成功』

『ストライカーズ02より04、良くやった。一旦退却して体勢を立て直す』

なのはを抱きかかえるようにして飛んでいるのは、戦技教導隊の一員。

──退却?

『私は……まだ戦え……』

聞こえてくる念話に抗議の声をあげようとする。

『部隊指揮権は今、俺が保持している。異論は認めん。
それに口から血を吐いているだろうが、明らかな魔力負荷による副作用だ……死ぬぞ?』

『だとしても!!』

『異論は認めないと言ったはずだ01。返事はハイかYesだ……これ以上俺の目の前で死人は出させん』

視界が暗くなっていく。
抗う事のできない深い眠りへの誘い。

『ストライカーズ02よりCP、目標敵部隊をほぼ壊滅……しかし此方も手痛い被害を被った。
戦闘不能4名、内1名が重症だ。魔力衰弱状態が2名……最高評議会への撤退を要求する』

『CPよりストライカーズ、敵部隊の捕縛は可能か?』

『できると思いますか?』

『……CPよりストライカーズ、撤退を許可する』

『感謝する』

遂に、なのははその意識を手放した。

………

……



To be continued.



……

………

<<用語説明>>

■魔道師

管理局所属の魔法資質を持つ者。

■騎士

聖王連合所属の魔法資質を持つ者。

こういう分け方にしたらすっきりしたので、原作の設定とは異なるかもしれませんがご了承を。

■デバイス発言

一応の訳です。自信ありません……

Catch a group have big magical power.──大きな魔力を持つ集団を捕捉。
Your best friend.──貴女の親友(フェイトにとっての親友、高町なのは)
Are you all right?──大丈夫か?(心を気遣う場合でもこれでいいのかな?)
Yes, sir. MAP-F-73.But──了解、MAP-F-73。しかし
It approaches at a high speed.──集団が高速で接近中。
It comes.──来ます。
Load cartridge.──カードリッジロード。
Plasma Lancer──プラズマランサー(フェイト技名)
Round Shield──ラウンドシールド(ミッドチルダ式盾)
Barrier Burst.──バリアブースト(なのは独自防御魔法)
Accel Shooter──アクセルシューター(なのは技名)

■エゴ

利己的な思想、多分あってる。

■戦闘不能、魔力衰弱

戦闘不能=ブラックアウトの意味。死亡ではない。
魔力衰弱=ブラックアウト手前、多分あるんじゃないかな。



[6245] 第八話 ~竜騎士と守護騎士~
Name: Anrietta◆f3aee459 ID:de8dbf33
Date: 2009/03/07 15:12
<<新暦0080年10月24日 管理局軍後方>>

管理局部隊の後方、騎士甲冑を纏った八神はやての周りには立体映像がいくつも展開されている。
それは通信であったり、広域戦術MAPであったり、魔力観測画面であったりと多種多様。
管理局最新鋭の技術を結集させている指揮官用端末にはリアルタイムで莫大な量の情報が行き交っている。

A.M.Fのおかげか、戦況は管理局優位だ。

管理局地上部はA.M.Fの導入を早い段階から計画していた。
これは、過去に起きたアルカディア事件でもA.M.Fが広く用いられ、質量兵器とあいなって管理局が苦戦した事に起因する。
そしてA.M.Fの魔道師への有効性を文字通り身を持って体験していた彼等であるからこそ、治安を護る意味でA.M.Fの導入を待ちわびる声が上がったのだ。

もちろんA.M.Fの導入には地上部戦略研究会が一枚かんでいる。
クーデターやその後に起きる魔道師達の反乱を鎮めるのにこれほど有利な兵器はないからだ。
その目論見はクーデターにおいても今回の戦争においても見事に成功していると言える。

そして、A.M.Fが真に力を発揮するのはクーデターの様な攻略戦ではなく、今回の様な防衛戦。

さすがにA.M.Fでも高ランク魔道師達の砲撃は無効化しきれないが、威力を大幅に削ぐ事はできる。
そして削がれた威力の砲撃であれば対処法などいくらでもある、砲撃による相殺、多人数による結界魔法。
それらがある限り、防衛軍は被害を被る事はまずない。

また局所的に展開できるガジェットドローンであるから進路さえクリアすれば一方的に砲撃を加える事ができる。
聖王連合軍にこちらから一方的に砲撃を仕掛ける事でこの戦争は管理局が絶対的な優位に立つはずだった。

だが、思わぬ邪魔が入った。

いや、そもそもあの戴冠宣言を見ていた時点でその可能性を考えておくべきだったのだ。
第14代聖王、高町ヴィヴィオ。
ヴィヴィオが聖王として即位するだろうとは思っていた。
その過程は元々八神はやてが思い描いていた計画の一部分に他ならないのだから。

だが、まさか本当に聖王として戦場に出てくるとは思わなかった。
いくら『ゆりかご』がないとはいえ、聖王としてのヴィヴィオの魔力は戦略的な意味を持つ。

事実、あの巨大な両翼は今も尚、敵軍の後方に展開されている。

接近戦に持ち込まれた時点で管理局側も同士討ちを避けるために大規模な砲撃魔法は行えない。
本来ならば意味のない魔力の無駄遣いに過ぎないのだが──あの両翼はそこに在るだけで騎士達の士気を向上させる。

おそらくヴィヴィオは意識していないのだろうが、戦場で士気を向上させる事は思いのほか難しい。
聖王連合は元々宗教意識が高い集団……ヴィヴィオの聖王としての一面を見たことで士気が高まっている。
意図してやっているのだとしたら、結構な策士だ。

実際にヴィヴィオには裏などなく、純粋に騎士達を護りたいのであろうが。

『第一防衛ライン右翼よりナイトレイ大隊は吶喊を開始、ヴォルケンリッター小隊はこれを支援』

『ウィング中隊、E-23の制空権を完全に掌握』

『第一防衛ライン人員損耗率16.34%──ガジェットドローン稼働率74.2%──異常ありません』

オープンチャンネルからは戦況が事細かに報告される。

戦場MAPに目をやると、味方マーカーを示す青い光点によって紡がれた線は未だ健在であることを示していた。
戦闘機人部隊は未だ部隊の後方で即応体制をとっているにもかかわらず、戦況は圧倒的に管理局有利。
いかに敵の士気が高かろうと、それだけで戦争に勝てはしない。

管理局部隊はまがりなきにもアルカディア事件で過酷な死線を潜り抜けてきた者達。
更にはアルカディア事件の教訓を受けて地上部は完全に部隊を『軍』として再教育しなおしている。
軍人『ごっこ』をしている本局魔道師や教会騎士団とは錬度に差があって当然、むしろなくては困る。

戦闘機人部隊、A.M.F、兵の錬度……それらを覆す力など聖王連合にはない。
これは勝敗の決まったチェスと一緒だ、いくら最強の駒だといってもクイーンだけでは戦況は覆らない。
しかもこれはクイーンさえ取れば終わるゲームなのだからクイーンはどうしても護りがちになる。
戦術的な勝ちはあっても戦略的に勝てはしない。

「それでも尚、この盤面を覆せるっていうんなら──」

きっと聖王連合が正しいのだろう。

驕りでもなんでもなく、純粋にそう思った。
はやては、そう思えるだけの準備も努力もしてきたのだから。

『エッジ01よりHQ。敵の戦闘機人部隊を捕捉──予測通り、ガジェットの破壊を優先して行っているようです』

戦場MAPの尺度を変更、拡大すると赤い光点が猛然と青い光点の中を駆け回っていた。
確かに高濃度A.M.F 環境の中で機動性に優れたガジェットを破壊するには戦闘機人はまさにうってつけの存在だ。
アルカディア事件でもそうだった……尤も今回はこちらに質量兵器はないから一旦高濃度A.M.F 環境に入り込まれれば魔道師では対処できない。
せいぜいが、A.M.F 影響外からの包囲網を張ることくらいしかできはしない。

そう、魔道師ならば。

スカリエッティによって新たに作られた戦闘機人達でできた小隊、識別呼称『ヴァルキリー』。
ヴァルキリーマムとして八神はやてが指揮をとり、補佐としてスカリエッティが名を置いている部隊。

これはナンバーズ対策の為に『量産型試作機』である彼女達を纏めただけのできあわせ部隊。
さすがというべきか量産型で試作機というにも関わらず平均して戦闘出力はナンバーズのそれを軽く凌駕している。
更にナンバーズには想定していなかった魔力制御能力も向上させている為にカードリッジシステムも難なく扱えるはずだ。

それが、彼女達の『スペック』

……思わず、彼女達を兵器として見ていることに胸を痛めた。

割り切ったと思っていたのにこの体たらく、もしシグナムが知ったらまた殴られるかもしれない。
どんなに言葉で取り繕おうが、管理局からすれば結局彼女達は『兵器』でしかない。
そんな事は分かっている。

頭ではそうだと認識していても、心がそれについていかない。

これは、迷いだ。

八神はやては世界を二分化してどちらが正しいかを主張する闘争を思い描き、実行に移した。
だが、そんな事をせずとも自分が正しいと確固たる意思をもっていたのなら、反対勢力を押し込めてでも理想の世界は実現できたのではないか?
それだけの力も発言力も統率力も持っていた。
あらかじめ反発しそうな人間をリストアップして拘束する事など簡単だったはずだ。

だが、しなかった。

結局、自分では答えを出せずに、自分の外側で答えが出るのをよしとして、逃げていたのではないのか。

いろんな考えが、浮かんでは消えていく。
クーデター前にも考えた事をまた同じように考えて、悩んで、結局答えなんてでない。

──やめや。今やるべきなんは、この戦争に勝つ事や。

永遠とも一瞬ともとれる思考の海を越えて、ようやく一息つく。
パシン──っと両手で頬を叩いて頭を切り替える。私は八神はやて准将、ヴァルキリーマム、クーデター首謀者。

通信ウインドウを開いて素早く回線を繋いでいく。
思考してしまっていた為にできたタイムラグを少しでも解消したかった。

「ヴァルキリーマムよりエッジ、ダガー、ジョーカー、各リーダー。これよりヴァルキリー隊をそちらまで向かわせます。
到着するまで連携して敵戦闘機人部隊を足止めしてください」

『了解!!』

力強い返事をそこそこに通信を新規に開く。
無表情な顔の少女がじっとこちらを見つめていた。感情の感じられない、まるで人形の様なその姿。

スカリエッティによって彼女達には人間的な感情をできるだけ取り除くようにプログラムされている。
兵器としても、兵士としても、それはある意味でとても優秀なのである。

「ヴァルキリーマムよりヴァルキリー01。予定通り目標部隊の無力化を図るで、全機最大戦速でポイントE-34へ向かう」

『了解しました』

──いつか、本当に平和になったら……

そこまで考えて、唐突に自分を殴りつけたくなった。
そんな事を思う資格など、自分には到底あるとは思えなかったから。

………

……



<<同日 竜騎士部隊>>

聖王連合軍の後方。
強大な黒竜、ヴォルテールは開戦からずっと砲撃を続けていた。

ヴォルテールの殲滅砲撃『ギオ・エルガ』であれば、高濃度A.M.Fの上からでもぶち抜ける。
つまりは敵の後方牽制、更にはガジェットドローンの破壊にも繋がるからだ。

というより、聖王連合軍はナンバーズを除けばこれくらいしか高濃度A.M.Fに対抗できる手段がなかった。
それ故に『多少、召喚士に負担がかかろうとも』砲撃を続ける他ない。

戦況は圧倒的に聖王連合軍が不利なのだから。

熱いわけでもないのに、ほほを汗が伝っていくのを竜召喚士であるキャロは感じていた。

ヴォルテールは確かに強力だが、完全にコントロールし続けるのにはかなり魔力を食われる。
こんなに長い間、ヴォルテールを制御し続けた事など今までなかった。

切り札は、一撃で敵を沈める事ができるからこその切り札なのだ。
それをいつまでも出し続けられるはずがない。

「キャロ……一回ヴォルテールを引っ込めたほうがいいんじゃないかな?」

赤い髪の少年、エリオがそんなキャロを心配してか困ったようにこちらを見ていた。
心なしか、エリオの肩に止まっている今は小型化している竜『フリードリヒ』も元気がないように見える。

召喚士というのは、得てして『弱い』。

召喚したものに集中していれば魔道戦など行えるはずがないし、逆もまたしかり。

誰だってそれは分かっているから、召喚獣を見つけた際にはまず召喚士を狙ってくる。
そのほうが『楽』なのだから。

一匹の伝説とまで謳われた竜と小娘1人、どっちを相手にするかといわれれば後者に決まっている。

だから、召喚士を護る役が必要になってくる……ちょうど、エリオの様に。

「私は、大丈夫だから……気にしないで?」

できるだけの笑顔を作ってこたえるが、エリオはますます困った顔をしていた。
きっと、大丈夫そうには見えていないのだろう。

この数年間、ずっと一緒にいたんだから気づかれて当たり前といえば当たり前かもしれない。
そんなことが何故か嬉しかった。

そうこうしている間にもヴォルテールが魔力弾の充填を終えて、ギオ・エルガを放つ。

空が一瞬赤く光ったかと思うと、ヴォルテールから放たれた砲撃が敵陣後方に轟音を立てながら突き進んでいく。
何体かのガジェットードローンを破壊していくが、高濃度A.M.Fで減衰した砲撃では魔道師達を削ることはできない。

ヴォルテールが一発撃つたびに、キャロの身体が鉛のように重くなっていく。
だが、負けるわけにはいかない。
唇を噛み締めて、足に力を入れて自らを奮い立たせる。

差別される命の悲しさをキャロは知っているから。

認めるわけにはいかないから。

──不意に目の前に警告ウインドウが立ち上がり、警告音を発し始める。

「敵部隊接近……奇襲部隊か!?」

エリオが慌しく、指揮官用端末を起動。
戦場MAPを起動し、尺度をかえて付近の光点の様子を見ると、赤い光点が青い光点を押しのけるようにして猛然と突き進んでくる。

「規模が大きい……それに侵攻速度が半端じゃない」

薄く広がっていた戦線の左翼から飛び出した赤い塊がこちらにむけて吶喊してきている。

何故護りに徹しているはずの管理局から吶喊する必要がある?

『CPよりドラグーン!!』

通信ウインドウからCP将校の叫び声の様な通信が聞こえてきた。

「ドラグーン01よりCP、状況はどうなっているんですか?」

『CPよりドラグーン、吶喊してくる敵部隊を一秒でも良いから足止めしろ……やつらの狙いは聖王陛下だ!!』

やがてエリオの戦場MAPに敵の予測進路が表示された。
左翼から部隊中央の後方までまっすぐにしかれた予測進路……最終地点には……

思わずエリオは後ろをふりむいてその『翼』を確認する。

管理局にとって最高評議会がアキレス腱なように、聖王連合軍にとってのアキレス腱。

──『クーデター軍は開戦から一時間半という速さで最高評議会を完全に制圧』

半信半疑だったあの報告も、これを見た後であれば納得する事ができる。
これがその突破力と機動力だというのか。

「ドラグーン01よりCP、敵部隊の詳細は……」

『CPよりドラグーン、魔力波長によれば、おそらくはナイトレイ部隊にヴォルケンリッター部隊だ』

ナイトレイ……は確か地上部総司令官、精鋭揃いだと聞いた事がある。
ヴォルケンリッターは……言うまでもない。

その強さと恐ろしさと優しさは5年前にいやというほど思い知らされた。

そうだ、教え込まれた、本当にいろいろな事を。

その恩師達は今、敵となってしまった。

ズキリと胸が痛むのを感じた。

彼女達に何があったかをエリオは知らない。
いや、知ってはいるが、本質的に理解していない。
経験と伝聞とでは情報には天と地ほどの差がある。

だから、きっと彼女達にしか理解できない理由と正義を持って決起したのだと理解できる。

だが、エリオからしてみればそれは悪だ。

絶対的な悪。

作られた命の悲しさをエリオは身を持って体験している。

これもきっと彼女達には理解できないだろう。

彼女達は経験していないのだから、伝聞して推察することしかできない。

だからこそ、こうも別れてしまったというのか。

『HQより202、203騎士連隊。どうやら聖王教に入信したい奴らがわんさかいるようだ……1人残らず縛り上げろ!!』

『了解!!』

今度は、エリオが彼女達に引導を渡してやろう。

かつてエリオが彼女達に教えてもらったように。

少なくとも、そのくらいの気迫がなければエリオは一瞬で敗れてしまうだろう。

確信にも似た予感がエリオの中には確かにあった。

………

……



<<同日 守護騎士部隊>>

空戦魔道師だけを集めたナイトレイ大隊は聖王連合軍を空から砲撃を行いながら吶喊していた。
部隊員は全員アルカディア掃討作戦を生き残り、ヴァンが直々に育てた部隊であるからその錬度は高い。
その後を、殿を務めながら追ってくるのがヴォルケンリッター小隊。
ヴォルケンリッター小隊もシグナム、ヴィータ、ザフィーラをはじめとする元陸士176部隊の面々であるから錬度の高さはいわずもがな。

はっきり言って、アルカディア掃討作戦に比べたらこれは遊びに等しかった。
非殺傷設定である魔力弾であれば、まず死ぬ事などないのだから。
質量兵器は違う……あれは相手を殺すことだけを考えて設計されたものなのだから。

だからこそ許すわけにはいかない。
対抗する手段がどうしても必要だった。

聖王陛下……ヴィヴィオさえ捕獲できれば理想の世界はもうすぐそこだ。

『なぁ、シグナム』

隣で一緒に飛んでいるヴィータから念話が送られてくる。
今、ヴィータは人格型ユニゾンデバイスであるリインとユニゾンしているために真っ赤な騎士甲冑は今純白になっていた。
髪の毛も若干白みがかっているかもしれない。

『今は作戦行動中だぞ02』

『いいじゃねぇか、どうせ誰も聞いてなねぇんだから』

『アタシが聞いてるけどな』

シグナムの中からシグナムが今ユニゾンしている烈火の剣精、アギトが声をあげる。
ユニゾンの関係上、シグナムに届く念話はアギトも聞く事ができるようになっているのだ。

『リインもいるですよー』

ヴィータの中からはリインの声が聞こえてくる。
っていうか、こいつらは今敵陣のど真ん中を行っている事を自覚しているのかとシグナムは心の中で嘆息した。

『……がんばれ』

どこからともなく、男のハスキーな声が聞こえてきた。
ザフィーラの声だろう……今はザフィーラにしては珍しく、人型形態になっていた。

『ザフィーラ、隊長をやってみないか?』

『我らの将はシグナムだ、それ以外は認めん』

あぁ、そうだ、ザフィーラはこういう奴だった。
頭が固いというかなんというか……シグナムもよく頭が固い等と皆からからかわれるが、きっと気のせいだろう。

『おーい、シグナム?』

『あ、あぁ……なんだ?』

『私達は……正しい事をやっているんだよな』

ヴィータの言葉は疑問なのか断定なのかよく分からなかった。

ヴィヴィオさえ捕らえればこの戦争は終わる。
だがそれは同時に戦闘機人の問題に強制的に終止符を打つことでもある。

勝ち取ってさえしまえば、それが正しかろうが間違っていようが、答えになるのだから。

『何を正義とするかによってその答えは異なるな……』

『それは……分かってる。分かってるけど、なんか違う気がするんだ』

『違う気がする……とは何だ?』

『……すっきりしねぇんだ。正しい事をやってるはずなのに胸の奥にもやもやした何かがずっと残ったまんまだ。
なんか、似ているんだよ、あの闇の書の時と』

闇の書事件……主はやての為と思って完成させた闇の書は結局闇の書を暴走させただけだった。
とはいっても、他に選択肢などなかったのだから不可抗力といえばそうなのかもしれないが。

『だからといってお前は戦闘機人を諦めて今の質量兵器犯罪をそのままにしておくつもりか?』

『それは……ダメだ』

『ヴィータ、私は思うんだ』

シグナムは、八神はやてを一番近くで見てきた。
だからこそ、その意志の強さと人間的な部分で揺れるはやての辛さを分かっているつもりでいる。
だが、揺れながらもはやては確かにここまでやってのけたのだ。

有志を集めて、組織を作り直して、クーデターを起こして、後に残すは世界の平定。

はやてをここまでつき動かした根底にあるもの。

『人は、自分が正しいと信じる事を成すべきなんだ、きっと絶対的な正義なんてこの世にはない。
だからきっと、正しいことをしても傷つく人たちも出てくる』

『間違った結果を生むかもしれない』

『そうかもしれない、でもそうじゃないかもしれない。だから……成すべきなんだ、それが正しいと信じるなら』

『……そうだな』

そう、正しいと信じるならば成すべきだ。

そうでなければ、何も始まらないし、何も終わらない。

『なんかさ、アタシにもここまできて1つだけ分かった事があるよ』

それまで黙って聞いていたアギトが唐突に口を挟む。
気のせいか、シグナムの中でため息をついている気がする。

『あんた達は、多分とんでもない貧乏くじを引いているって事だな』

『……違いない』

シグナムの目は確かに白い竜に乗った小さな竜騎士をとらえていた。

………

……



To be continued.



……

………

<<用語説明>>

■アルカディア事件

いろいろと設定考えてたらこれ単体でもSSかけそうな気がしてきた。
次回作があればこれやってみたいなぁ。

■人格型ユニゾンデバイス

リイン、アギト等。
魔道師とユニゾンすることで能力をひきだす。
相性によって効果に差がある。
身長は30cmくらいらしい。

■ヴォルケンリッター小隊

シグナムが隊長
ヴィータ副隊長
ザフィーラ(多分、実際には指揮とかしてそう)
シャマルさんは衛生兵なので外れた?
その他のメンバーは元八神部隊(陸士176部隊)の空戦魔道師で編成。



[6245] 第九話 ~炎龍一迅~
Name: Anrietta◆f3aee459 ID:de8dbf33
Date: 2009/03/07 15:06
魔法により、通常では行えない数多の奇跡を起こしてきたこの世界で、制限されてきた魔法技術があった。

神の領域……人間に踏み込むことが許されるはずのない『命』の操作技術。

──生命操作技術。

倫理的な問題を多くはらんだこの技術は大まかに3つに分ける事ができる。

『遺伝子調整による生命選択』

『クローン体との換装』

『生体と機械の完全融和』

先にあげた三つの中でも、特にクローン体との人格換装を目的とし、運命と名付けられた人造生命の研究計画がある。

──プロジェクト「F.A.T.E」

任意の人物の体細胞より、任意の人物と寸分違わぬ器としての素体を造りあげ、その器に任意の記憶を転写する。
記憶転写型クローン──分かりやすく言うならば、『同一人物』を作り出すための計画。

そもそも、同一人物の定義とは何か?

体細胞や身体的特徴が同じであればその人物は同一人物なのであろうか?
その理論でいけば同じ体細胞で同じように発育し、身体的特徴が酷似する可能性の高い一卵性双生児は同一人物ということになる。

もちろんそんな事はない。

いくら体細胞が同じで身体的特徴が酷似するといっても、それぞれには体験する出来事……つまりは記憶が異なる。
記憶、つまり体験が異なれば、性格も変化する。
一卵性双生児でも性格が異なるのは簡単に言えば、それぞれに体験したものが異なるからだ。
逆に双児の性格が良く似るといった現象がおきるのはおおくの体験をお互いが共有しているのに起因する。

極論を言えば、一日中拷問を受けて育った人間と、一日中愛情を受けて育った人間では性格が異なるのは至極当たり前のことなのだ。
だが、これの逆説を説くなら、全く同じ経験をした人間は同じ性格になるのではないか?

では、任意の人物と同じ体細胞を持ち、同じ発育をし、身体的特徴をもつ人間に、任意の人物の記憶を転写するとしよう。
同じ身体を持ち、同じ記憶を持ち、同じ性格をもつ2人の人間。

それは、もはや同一人物ではないのか?

同一人物であるとするならば、片方が死んでしまっても、片方が生きてれば、その人物は生きているということにはならないだろうか?
それならば、死んでしまった人物を『生き返らせる』事すら可能なのではないか?

根本的な『死』からの蘇生はいくら魔法の力をもってしても『通常は』不可能だ。
魔法とはあらゆる事象における『プログラム』を改変する能力のことを言う。
死とは、生命活動プログラムが終了したと言いかえることができる。
終了したプログラムをいくら改変したところで、何も変わりはしない。
ENDの後にいかなるプログラムを加えようとも、そのプログラムが実行される事はないのだから。

尤も、強力な力……ロストロギアをもってENDの位置を強制的にずらしてしまう事は理論上可能ではあった。
しかし、それはやはり『無理』をしている為に永くはもたない不完全な技術。

なら、擬似的とはいえ死んでしまった人物を確実に『生き返らせる』ことのできるプロジェクト「F.A.T.E」は素晴らしい計画ではないのか?
それはある意味で純粋な想いをもった研究だったのかもしれない。

擬似的な蘇生を望み、そして生み出された人間達がいた。

フェイト・テスタロッサ……そして、エリオ・モンディアルもそうやって生まれてきた。

だが、模造品はどこまでいっても模造品だった。
何がどう違っていたのかは分からない。
完全に同一であることは──オリジナルになることはできなかった。
利き手の違い、性格の差異、才能の違い──人間では模造することのできない『何か』が違っていたのだ。

それでも、生み出された者達は否応なくその『運命』を決定される。

オリジナルのレプリカとしての人生、作り出された姿形、生み出した者達に望まれる人格、挙動、生き方の強制。

それを知らずにいられたならまだいい、だが、自分がただの模造品でしかないと知ってしまったらどうなる?
真に望まれていたのは『自分』ではないと。
どうやっても払拭できないオリジナルとの違い。

いっそのこと完璧に同一であれたならどれだけ幸せだっただろうか。

絶望という言葉すら生ぬるいアイデンティティの崩壊。
言葉では形容できるはずもない悲しみ。

──そんな地獄を見てきた。

………

……



<<新暦0080年10月24日 聖王連合軍後方>>

エリオは白竜、フリードに跨って強襲連隊を目指していた。
キャロは既に残魔力量が少なかったためにHQへの撤退を指示していた。

──キャロがいないのなら、『多少』の無茶はできる。

エリオがフリードと共に強襲してくる連隊の前に出ようとしたとき、空に紅い閃光の様なものが奔った。
轟と空気を切り裂いたそれは、エリオの直ぐ前に停止し、進路を塞ぐように佇む。

エリオ・モンディアルには師と尊敬する女性が2人いる。

1人は人間不信に陥って荒んでいたエリオを文字通り身を持って引きずり上げてくれたフェイト・T・ハラオウン。
もう1人はエリオがかつて強くありたいと願ったときに不器用ながらも訓練をつけてくれたシグナム。

今、目の前に敵として現れたのは紛れもなくエリオが師として尊敬していたシグナムだった。
炎の翼をメラメラと燃やしながら、ただ真っ直ぐな瞳がエリオを射抜く。

「久しいな……最後に会ったのは何年前だったか?」

鋭い眼光でエリオを牽制したまま、シグナムが静かに問いかける。
爆発音や怒号が飛び交う中で、シグナムの声は妙にすんで聞こえた。

「──5年前です」

機動六課のフォアード陣として、1人の弟子として、シグナムに教えを乞うてから5年。
今まで遊んでいた訳ではない、否、エリオが鍛錬を欠かした日などなかった。
ひとえに強くありたいというのもあったが、それはキャロを護るための力が欲しかったというのが強い。

「歳はいくつになった?」

「15になりました」

以前は振り回されていた感があったストラーダもエリオが成長し、体格がしっかりしてきた事で本来の性能を発揮できるようになっている。
幼かった頃にはどうしても長物の武器ゆえに振り回されている事が多かったのだ。
それも、今はもう無い。

「そうか、随分と……大きくなったものだな」

戦場には似つかわしくない世間話をしながらも、シグナムの構えには隙がない。
エリオは心の中で悪態をつく。
フリードと共に単騎で切り込めば相手が守護騎士隊だろうが何であろうが『足止め』できる自信はあった。
敵勢の中に入ってさえしまえば、敵は同士討ちを気にし、派手に動けないがこちらは気にせずに暴れる事ができる。
いくら錬度の高い部隊だろうが、かならず『混乱』が生じる。
もちろんそんな捨て身の作戦は長くはもたない、その後のことなど正直考えたくもないが今は強襲連隊の勢いを削ぐ事が大切なのだ。
だが、そうこうしている間にも連隊は目標へ向けて着々と侵攻している。

「──時間稼ぎのつもりですか?」

不機嫌さを隠さず、敬語こそ使っているが語気が荒くなる。
そんなエリオの様子をシグナムはどこか冷めた目でみつめていた。

「世間話に過ぎんさ……それに、お前はここで倒れるのだから、あの連隊を気にする必要もないだろう?」

まるで、それが当然の事実であるかのように言い放ち、シグナムの手が炎の魔剣レヴァンティンに伸びる。
同時にシグナムから感じられる魔力が増大し、炎の翼は更に激しく燃え始める。
エリオは反射的に槍型のアームドデバイス、ストラーダを強く握り締めていた。

ぞくりと寒気が走った。
背中を冷たい汗が伝っていくのを感じる。
レヴァンティンが既に自分の喉下に突きつけられているような錯覚に陥る。
蛇に睨まれた蛙とでも言った方がいいかもしれない。
生物としての格の違いを、強者と弱者の関係を、無意識の内に思い知らされていた。

──脳は戦うべきではないと警鐘を鳴らしている。

──だが、心は戦えと己を突き動かそうとする。

『Wählen Sie Aktion(行動の選択を)』

ストラーダが主の迷いを感じとったのか、行動の選択を迫る。
強襲連隊への奇襲が失敗した以上、ここは下がるべきだ。
勇敢と無謀は違う、エリオが吶喊することで連隊の侵攻速度が少しでも下がるならばその行動には意味がある。
だが、今ここでシグナムと戦ったところで連隊の侵攻速度は変わらない。
確かにシグナムをひきつけるという点では意味があるのかもしれないが、それでもやるなら確実に倒すべきだ。
少なくとも、1人で当たるべきではない。

「──聞きたい事があります」

頭の中では既に撤退という答えが出ているにも関わらず、シグナムに問いかけていた。
否、問いかけずにはいられなかった。

「なんだ?」

「本当に戦闘機人を──生命操作技術を容認する気ですか?」

それは、願望だったのかもしれない。
違うと否定して欲しかった、ただ脅されているとかそういう理由で仕方なく加担しているのだと。
本当はそんな技術を容認する気などないと。

あるいは、迷いだったのかもしれない。
かつての恩師に、戦友に、敵として武器を向けることに迷っていたのかもしれない。
それを吹っ切れる何かが欲しかったのかもしれない。

「容認するもなにも、私達が推し進めてきたことだ。今更主張を変えるつもりなどない」

エリオの問いかけに、シグナムは表情を崩さずに淡々と答える。
そんな様子が余計にエリオの心を乱す。

クーデターの首謀者は八神はやてだった。
その時点でそんな事は分かっていたはず、だが、当人達からその言葉を聞くまで信じられるはずもなかった。

これは──怒りだ。

信じていた者達からの裏切り──忌まわしい記憶がふつふつと鮮明に甦ってくる。
お前は生命操作を受けた人間だと、黒服の男達に研究所へ連れて行かれるエリオ。
そんなはずがないと、これは何かの間違いだと信じていた。
気がつけば、助けを乞うように両親へと手を伸ばしていた。
だが、両親達は黒服の男達の言葉を否定もせず、エリオの手を掴もうともしなかった。

──それは、まるで審判が下された罪人のようで。

そんな様子が、強烈なデジャブとなってエリオの前に現れる。
ストラーダをいつでも斬りつけられるように握りなおし、フリードの手綱をより強く握りなおす。

「我々は騎士だ……言葉を並べ立てて争うなど愚かだとは思わないか?」

──確かに愚かだ。

迷う必要など最初から全く無かったはずだ。

敵対する組織、対となる思想、騎士と騎士。

既に戦争は起きて、ここは戦場なのだから。

なにより、許せない。

怒りと悲しみが混ざった静かではあるが激しい感情がエリオを支配していく。
金縛りのようにエリオに纏わりついていた幻想のレヴァンティンの枷を外れていくのを感じた。

──行動の選択を。

「──貴女に騎士を名乗る資格などあるものか!!」

覚悟を決めろ、騎士として、弟子として、戦友として。

──止めてみせる。

「ストラーダ、カードリッジロード!!」

『Explosion』

ストラーダのカードリッジシステムを起動、魔力を込めた弾丸を消費して一時的に力を得る。
エリオはおそらく、生涯で初めての殺気を放ち、かつての師を睨みつけた。

「良い顔になったな──ヴォルケンリッターが将、シグナム『烈火の剣精、アギト──推して参る!!』」

炎の翼をはためかせ、シグナムが空中で加速して突進にも似た一撃を放ってくる。
金属音に似た剣戟が響き、火花が散る。
ストラーダで力の流れに沿って受け流すと同時にフリードを旋回させ、勢いあまったシグナムの背後をとる。
間髪いれずにフリードが口に溜めた炎の弾丸をシグナムに向けて放つ。

『そんな炎が通じるかよ!!』

後ろを向いたままシグナム──正確にはユニゾンしているアギトが炎の魔力弾を放つ。
フリードのブラストレイとぶつかり、容易にブラストレイを『燃やし尽くす』

強力な炎の属性を持つシグナムを破るにはそれ以上の炎をもって相手をするしかない。
だが、それはSSSランクの炎属性の魔法を使用することに等しく、また、そんな事は不可能だ。

──ようするに、炎は通じない。

予想より早い段階で対処され、エリオの周りを爆煙が広がっていく。
煙から逃れるためにフリードを急上昇させていく。

「どうやら成長したのは身体だけではない様だな──安心したぞ!!」

「──っ!?」

いつの間に肉薄していたのか、フリードと併飛するシグナムから更に一撃が加えられようとしていた。

鋭い剣戟を鳴らしながら十回ほど打ち合う……だが、押され始めているのをエリオは感じていた。
リーチにおいて絶対的に有利である長物の槍を用いているにも拘らず、刀であるレヴァンティンの方が大きいような気さえしていた。

──それは、純粋な剣技による賜物か、古代ベルカの騎士であるが故にデバイスとの相性がいいのか。

考えてみれば当たり前の事だ。

エリオが鍛錬を欠かさなかった様に、シグナムもまた鍛錬を欠かす日などなかったはずだ。
元々卓越した騎士であるシグナムに追いつくにはエリオはまだ若すぎた。

何十回目かの剣戟を終えたときに、ストラーダが上に大きく弾かれるのを感じた。
未だ手中にあるものの、胴体ががら空きになったことに変わりは無い。

そんな隙を見逃すシグナムではなく、それまで保っていた槍の間合いから剣の間合いまで踏み込まれてしまっていた。
長物は確かにリーチにおいて絶対的に有利だ、だが一度こうやって間合いの内側に入ってしまえばその長さが災いして圧倒的に不利になる。
そもそも、間合いに入られる時点で負けは決定するのだ。

『Sonic Move』

受ける事は不可能と悟ったエリオはフリードの手綱を放し、機動力を一時的に強化、フリードを足場にして上空に跳躍する。
先ほどまでエリオがいた空間をレヴァンティンが通り過ぎていく。

「思い切りはいいが……空中では避けられんぞ!!」

瞬間、シグナムの持つレヴァンティンの刃に炎が纏わりつく。
レヴァンティンに纏わりつく魔力量の多さに思わず身体が震えだしそうになっていた。

──これが、恐怖というものだというのか。

圧倒的な暴力という名の恐怖に人間の本能が反応してしまう。
フェイトと違い、空中戦のできないエリオでは空中でソニックムーヴを使うことはできない。

ストラーダの魔力噴射により一時的に空中に浮く事はできるが、それはあくまで浮くのであって飛ぶのではない。
つまりは、あの尋常でない炎の魔力の塊を受け止めなくてはならないと言うこと。

──くらえば、ただでは済まない。

良くて全身火傷、悪ければ……考えたくもない。

我が乞うは、大いなる力。若き竜騎士に、力を与える祈りの光を

不意に、聞き覚えのある声がしてエリオの身体とストラーダを光が包む。
攻撃力強化のブースト魔法。

『──キャロ!?』

この桃色の魔力光は間違いなくキャロによるもの。
撤退命令を無視して追いかけてきたというのか。

『大丈夫だよ、エリオ……私も一緒に戦ってるから!!』

不思議と、それまで感じていた恐怖が引いていき、気持ちが落ち着いてくる。

我が乞うは、疾風の翼。若き竜騎士に、駆け抜ける力を

更にエリオの身体を新しい光が包んで、視界の端でフリードも光っているのが見えた。
機動力強化のブースト魔法。

キャロ──そうだ、護らなければならない、絶対に。
長い間、キャロの竜騎士となっていたエリオにとってそれは使命にも似た決意だった。

──だが。

『命令違反……後でおしおきだ』

『エリオだって、約束破って無茶しようとしてたんだからお相子でしょ……それに、先におしおきをしなきゃいけない子がいるでしょ!!』

『あぁ──本当だ』

さっきまであれだけ恐怖を感じていたというのに、キャロの声を聞いて、ブースト魔法を感じて、安心していた。

──負けられるものか。

自分のためにも、キャロの為にも。
そうだ、1人ではないのなら、倒す事だってできるはずだ。

「ストラーダ、カードリッジロード!!」

『Explosion』

カードリッジを更に二発消費してエリオが扱えるギリギリの魔力量を制御下におく。
属性に電気を付与し、ストラーダに膨大な魔力を流し込んでいく。

「──紫電一閃」

『──火龍一閃』

ストラーダを横薙ぎに払って、雷による刃を飛ばす。
レヴァンティンからは炎の刃が迫ってきていた。

魔力と魔力の衝突。

一瞬力が均衡するが、次の瞬間にふたつの魔力は相殺され、けたましい爆音をあげながら消滅していた。

──カードリッジシステムとブーストを使ってやっと同程度だというのか。

次の瞬間、機動力を強化されたフリードが空中に投げ出されていたエリオをその背に乗せて急速旋回。
レヴァンティンが真横の空間を切り裂いていた。
再び、側面からの魔力を感じて反射的にストラーダを出していた。

剣戟が響き、余剰魔力からの炎がストラーダを襲い、その熱がエリオの手にも伝わってくる。
思わず落としてしまいそうになるが、気合で更に深く握りこむ。

──機動力強化のブーストに追いついてきている!?

『Guten Tag Mein Freund.(こんにちは、我が友よ)』

鍔迫り合いになりながらレヴァンティンが久方ぶりに会ったストラーダへ挨拶する。

『Guten Tag Mein Feind.(こんにちは、私の敵)』

ストラーダが魔力を一気に開放して炎を吹き飛ばし、余剰魔力の属性を電気に変換してレヴァンティンへむりやり流し込む。
しかし、一瞬の後に無効化されてしまう。

──魔力量が違いすぎる。

「よりによってなんで貴方達が──それだけの力を持っていながら、なんで間違った方向に使う!!」

「我々にとってはこれが正義、貴様達こそ悪だ」

『そういうこったな、アタシも間違っているのはそっちだと思うぜ』

レヴァンティンが更に深く沈みこみ、フリードが耐え切れずに側面へ滑り出す。
気を抜けばすぐにはじき出されそうな圧力を歯をくいしばって耐える。

「ふざけろ──自分達の都合で命を創造して弄ぶことの何が正義だ!!」

「我々にとっての正義だ、理解されようとは思わん。確かに貴様らの掲げる『正義』は耳に心地よく響く、あぁ正論だろうとも、だがな……」

『Explosion』

レヴァンティンが初めてカードリッジをロードする。
魔力が刃に圧縮されて紅い魔力光が刀身を包み込み、魔力が視認できるレベルにまで強化される。

『Tri Shield』

危険を察知したストラーダが自動的にエリオを護るように魔方陣による盾を展開させる。

「我々をただ悪だと否定して質量兵器対策の解決案をなにひとつとして示さない貴様らには虫唾が奔る。
結局は自らの手を汚したくないだけの潔癖主義者。我々を悪だと声高に批判するのなら打開案を示して見せろ!!
それができないかぎり貴様らの言っていることはただの『我がまま』にすぎん!!」

『悪いけど、アンタ達の我がままに付き合ってる暇はねぇんだよ!!』

『Verschwinden Sie.(吹き飛べ)』

魔方陣による盾が割れる音、暴力的な魔力をただ純粋にぶつけられ、フリードもろとも空中へと投げ出される。
加速していく世界の中で襲ってくるのはブラックアウトの感覚、視界が狭くなり、呼吸が苦しくなる。
抗えぬ眠りへの誘い。

──我がまま?

確かにそうに違いない。
だが、たとえそうだとしても、命を懸けてでも譲ってはいけないものがある。

戦おうとする意識をよそに、世界は暗さを増していく。
無力感が、身体を覆っていく。

我が乞うは、祝福の翼。傷ついた竜騎士に、空を駆ける翼を、想いを貫く力を、決して砕けぬ鎧を

──声が、聞こえる。

身体を暖かい光が包み込み、魔力が回復していく。
視界がクリアになり、力が満ちてきていた、感じるのは浮遊感。
桃色の翼がエリオを空中にとどめていた。

──3つ目のブースト。

その意味を理解したとたんにエリオの頭から血の気が引いていっていた。
ただでさえヴォルテールの召喚で魔力を消費していたはずだ、そこで3つもブースト……しかも一番魔力消費の激しいブーストを使ったのだ。

視界の端でフリードが本来在るべき姿から魔力消費を抑えた小型竜の姿になって落ちていくのが見えた。

『キャロ……キャロ、返事をしてくれ!!』

念話で呼びかけるが返答はない。ブラックアウト──いや、それで済むならばまだいい。
真に恐ろしいのは魔力反動による副作用。

「……仕留めたと思ったんだがな」

再び飛翔してきたシグナムは、ばつの悪そうな顔をしてため息をついていた。

──なんだ、それは。

頭に血が上って視界が赤くなる感覚、動悸が激しくなっていく。
エリオがここまで激昂したのは生まれて初めてだった。
ストラーダを握りつぶすような強さでギリっと握り締めた。
自身のどこにこんな魔力があったのか、魔力が体中を駆け巡っていく。

──私も一緒に戦ってるから!!

心に響くのはキャロの言葉。
身体を巡っているのはキャロの魔力、であれば余計に負けられるはずが無い。

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

『Sonic Move』

雄たけびとも咆哮ともつかぬ声を上げながら、空中を駆ける。
ガキィィィンとストラーダとレヴァンティンの衝突する音が響き渡る。

打撃力を強化され、機動力を強化され、空を舞う自由を得た今、ストラーダが槍としての本来の力を発揮し始める。
上下左右の感覚も無くなる様な高速魔道戦──否、それは魔道と言えるものではなく、騎士と騎士による純粋な武の競いだった。

「我がままだと言ったな、あんた達だって自分の都合で他人の命を決定しようとしているだろう!!傲慢だとは思わないのか!?
自分が、自分の知り合いが不幸になるのはダメだから、知らない奴を不幸にしようってだけだろう!?
そんな『我がまま』が許されるはずがないだろう!!」

ストラーダに取り付けられた推進ノズルから魔力を噴射、速度に任せてレヴァンティンを思い切り切り上げる。
圧倒的な加速度によってシグナムの手からレヴァンティンが離れ、レヴァンティンが宙を舞う。

「──だとしても!!」

そのままストラーダを振り下ろそうとするが、するりとシグナムがエリオの懐近くまで入り込み、回し蹴りを叩き込む。
ブーストをかけたエリオとの戦闘によって憔悴したのか、シグナムの顔はひどく弱々しいものに感じられた。

「生まれた理由がどうであろうと、人はその意思しだいで幸せになれる──そうだろう?」

言葉を発したシグナム自体、驚いていた。
未だにこんな『言い訳』をエリオに向かって喋ることになろうとは思わなかった。
いや、圧倒的な実力差と知って傷つきながらも向かってくるエリオに何か感じることがあったのかもしれない。

──失言だった。

「それを──お前が語るなぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

ストラーダのカードリッジシステムを起動、魔力を込めた弾丸を連続で4つ消費。
ストラーダをウンヴェッターフォルムに変形、噴射口と石突から金色の魔力があふれ出す。
余剰魔力の属性を電気に変換、ストラーダには収まりきらずにエリオの体の周りを電気魔法が包み込む。

「──雷轟一迅」

シグナムも悪態をつきながら宙に舞ったレヴァンティンをたぐりよせると、カードリッジシステムを起動する。
魔力を込めた弾丸を4つ消費、総ての属性を炎にかえてレヴァンティンの刀身と自身に纏わせる。

『──炎龍一迅』

ほぼ同時に空中を駆けた2つの強大な魔力を纏った身体は一瞬交錯、心地いいほどの剣戟の後に空中で静止する。

………

……



『ヴィータよりシグナム、ぶっ倒れてたキャロを捕捉……どうやら魔力反動の副作用があったらしいな、吐血してる。一応の応急処置だけはしといたぞー。
死ぬ事は無いとは思うがな、後遺症はあるかもしれないな。あぁ、あとティアナの部隊と交戦中だ。ナイトレイ大隊は私達に殿をまかせて目標へ侵攻中──終わったのならさっさと来いよ』

ヴィータからどこか緊迫感のない通信が届く。
どうやら先の巨大な魔力衝突でかたがついた気づいたらしい。

『──お前は私が負けるとは思わないのか?』

シグナムはため息交じりにこたえる。

『現実ってのは残酷だからな、どんだけ綺麗な想いをもってても、どんだけ激昂しようと届かないもんもある。
あたしらはそういうもんを間近で見てきたんだ──そうだろ、シグナム?』

『──それが総てだとは思いたくはないがな』

シグナムは血だらけになったエリオを抱きかかえていた。
体中に裂傷があるだけではなく、所々に火傷の痕がある──死ななかったのはエリオ自身の力によるものか。
地上に降りて、地面に横たえてやる。
幸いにもここは聖王連合軍の中なのだから誰かが見つけてくれるだろう。

『何だかんだ言って甘いよな、アンタも』

ユニゾンしているアギトから辟易とした声が聞こえてくる。
確かに半殺しにしておいて、エリオを抱きかかえるあたり非情になりきれていないのかもしれない。
死人を出したくはないという想いもある、そのために自分達は決起したのだから。

だが、それ以上に師である自分に『一撃』を入れた弟子を誇らしく思ってもいたのもある。
シグナムの脇腹あたりから血が滲み出してきていた、戦闘に支障があるほどではないが、後でちゃんとシャマルの世話にならないといけない。

後もう少し、エリオが肉体的に成長していたなら、この勝敗はまた違っていたのかもしれない。

『……私にだって罪悪感ややりきれない想いだってあるんだ』

『さっきはボロカスに言ってたくせにか?』

『あれは私の本心だ、間違ったことを言ったとは思っていない……だが、あれだけが世界の総てではないだろう』

『矛盾だな』

『矛盾──というよりは願望なのかもしれない。だが、それを願うには私達はリアリストになりすぎた』

『さしずめ聖王連合はロマンチストか──まぁ普通の人間はロマンチストに惹かれるわな』

『……難しいな』

『あぁ、難しい、そんでもってイライラする。だけどな、アタシたちはもう戻れないところまできてしまったんだ』

『安心しろ、主張を変えたりはしない』

『変えたときはアタシが燃やし尽くしてやるよ』

『あぁ、そうしてくれ』

最後に、自分の弟子を一瞥してからシグナムは再び空に舞い上がった。

………

……



To be continued.



……

………

<<用語説明>>

■プロジェクト「F.A.T.E」

作者の独自解釈が多分に混じっております。
多分間違ってないとは思いますが、何か疑問に感じた点があればお気軽に感想掲示板までどうぞ。

■デバイス発言

訳は本文中に載せています。
ドイツ……ベルカ語は分かりにくいと思ったので。

■雷轟一迅、炎龍一迅

勝手に作ってしまいました。
一閃と違うのは魔力を自身にも纏わせて突進するということ。
ちなみに自分の身体に電流ながすとほぼ100%死にますので良い子は真似しないで下さい。
確か0.?Aくらいで人間は余裕で死ねるはずです。

■非殺傷設定なのになんでエリオ半殺しになってんの?

A's編でシグナムがフェイトの事を殺してしまうかもしれないと言っていたので古代ベルカ式、もしくはヴォルケンリッターは非殺傷設定ができないのではないかと。
まぁ単純にシグナムの意思の強さを表しているものでもあります。
自らの手を汚す事を恐れないというか、自ら汚れにいっているというか。

■キャロ3つ目のブースト

空戦ができないエリオの為のブースト。
治療、飛翔、防御効果。
本来ならば単体で使うはずのブースト。
5年たっているならブースト魔法だって強化されているはず!!

■キャロ、エリオ呼び捨て

5年間一緒にいてエリオ君はいい加減不自然だろうなぁと。
それだけです。

………

……



<<後書き>>

どうやらリリカルなのは第四期が決定したよう(?)です。

その名も『魔法戦記リリカルなのはForce』だそうです。

ちなみにコミックだそうで。
なのはさん25歳だって、そりゃ少女ってつけられないよな。

詳細が知りたい方は「娘TYPE vol.01」4月30日(木)発売 をお買い求め下さい。
コミック連載「魔法戦記リリカルなのはForce」 原作:都築真紀 画:緋賀ゆかり(シャイナ・ダルク)

娘TYPEの表紙がなのはで、映画の情報もあるようです。

あと、コンプエース7月号(5/26)でもコミックで「魔法少女リリカルなのはViVid」連載開始!(画:藤真拓哉) だそうな。

リアルタイムで読みたい気もあるけれど、作者はやっぱり単行本化を待ってしまいそうです。

これにあやかってSSの題名かえてやろうかと……いや、度々かえて申し訳ありません。

宣伝はこのくらいにして本編の後書きを。

いや、もう何回も同じ議論を繰り返していますね。
いい加減あきあきしてきた人もいるかと思いますが、本作品のテーマであるが故に割愛するわけにもいかず。

物語はなめくじのような速さですが、進んでいますので安心してください。

感想をくれた人……はいませんでしたが、今回も読んで頂けたようでありがとうございます。

次回更新はちょいと時間があきそうです。

余り長々と書くのもあれなんでこのへんで、次回の第十話で皆様と再び会えますのを楽しみにしています。



[6245] 第十話 ~涙~
Name: Anrietta◆f3aee459 ID:de8dbf33
Date: 2009/03/12 01:15
<<新暦0080年10月24日 第一防衛ライン>>

高濃度A.M.Fが展開されている中を戦闘機人で構成された独立小隊『ナンバーズ』が駆けていた。
純粋な身体能力による物理破壊とカードリッジシステムに物を言わせた魔力砲撃でガジェットを破壊していく。

ガジェットの破壊はそれほど難しいものではない。
確かに機動力に優れている兵器ではあるが、攻撃性を持たないのであれば接近して確実に破壊する事ができる。
おまけに高濃度A.M.F影響下にあるためか、管理局の部隊がナンバーズを迎撃しようとする動きも無い。

いや、確かに影響外から包囲網を張っているようではあるが、それは大した意味を成さないだろう。
ナンバーズはそれぞれに圧倒的な戦闘能力を備えている。
たとえて言うならば、S級魔道師と同程度か、それ以上の戦闘能力。

オーバーSランク魔道師を止める為には中隊以上の部隊が必要とまで言われているのだ。
たかが3個中隊に囲まれた程度でどうにかなるはずもない。
それに包囲網とはある意味で破りやすい陣形である、一点集中で突き破ればどうという事は無い。

だが、油断は禁物だった。

なにしろ高濃度A.M.F影響下ではHQとの通信が使えない。
ナンバーズが共有しているデータリンクは正常に作動しているが、魔法技術を用いた通信はそういう訳にもいかない。

要するに、戦況が分からないのだ。

戦場においてそれがどれほどの意味をなすかなど考えなくても分かる。
孤立無援の状態になればいくらナンバーズとてタダでは済まない。
おまけに『敵の戦闘機人』部隊だっているのだ、それの動きが分からないのは正直不安だった。

『ナンバー04、E-65地点を制圧』

『ナンバー06、E-62地点を制圧っす』

スバルの目の前に立体映像の簡易戦場MAPが表示され、制圧した地点が青く塗られていく。
もちろん実際に映し出されているわけではなく、脳にそこにあると誤認させているにすぎないが。

以前は忌み嫌っていたこの戦闘機人としての能力だが、使わないわけにはいかなかった。
高濃度A.M.F下でも作動するというのもあるが、なにより部隊の連携に大きな意味を持つ。
リアルタイムで各員の動きが分かるなら、急造の部隊であろうとも高レベルの錬度を保つ事ができる。

目標達成率……34.3%

「──っ」

ガジェットを破壊しだしてから少なくとも10分以上は経っている。
だが、それでもまだ目標の30%にしか達していない。
多少A.M.Fの影響も薄れてきたが、ガジェットの後ろには魔法結界を張っている部隊までいる。
二重の絶対的な防御……確かに管理局軍は無理に攻め込む必要などない。

要は耐え忍べばいいのだから。
後は適度に迎撃をして聖王連合軍が勝手に損耗してくれるのを待つだけでいい。

だが、最高評議会を一時間半で落とすような決起部隊がそのような消極的な作戦をとるだろうか?

そんなはずはない、必ずこちらに必殺の弓を撃ちこんで来る。
この絶対的な防御は、それが完成するまでの時間稼ぎに過ぎない。
だからこそ、最速で防御を崩して一気に押し込む必要があるのだ。

その為にはA.M.Fの除去が必要不可欠。
だが、それには時間がかかる。
堂々巡りの議論。

いくら破壊しようとも沸いてくるガジェットには殺意しかわかない。
何も語らない無機質なその姿が『お前達のやっている事は無駄なのだ』と言っているような気さえしてくる。

「──くそっ!!」

飛び上がり、八つ当たりに近い感覚でガジェットに拳を打ち込んで破壊していく。
いくら苛立とうともナンバーズがガジェットを破壊していかなければならない事に変わりは無い。
焦燥感だけがスバルの中で高まっていく。

そんな中、唐突に警告ウインドウが立ち上がる。
データリンクによりセインの身体に異常が起こった事を示すウインドウが立ち上がる──左腕損傷!?

『セイン!?』

ほぼ同時にオープンチャンネルからナンバーズたちの驚愕の声が聞こえてきた。

──まさか……いや、そんなはずない。

『こちら07、E-58地点にて敵の戦闘機人部隊と交戦中!!規模は──不明!!』

スバルの想いを知ってか知らずか、セインは焦燥した声で『敵』の来訪を告げる。

──そんな!?

敵の戦闘機人部隊──予測しなかったわけではない。
それに備えて熱感知センサー、振動感知センサー、あらゆる索敵センサーには気を配っていたはずだ。
魔道師隊が来ても戦闘機人部隊がきても直ぐに対応できるようにしておいたというのに──何故!?

『01より07、速やかにE-62地点まで撤退し』

『ごめん……無理みたい』

次の瞬間にセインの身体の状態を示すものが真っ赤に染まる。
──戦闘不能。
戦闘開始から10秒もたっていないにも関わらず無力化されたというのか!?

『──セインッ!!』

呼びかけようとも、返事はない。
否、あるはずがない……セインのバイタルデータは既にブラックアウトを示しているのだから。
目立った負傷が左腕だけというのがせめてもの救いだろうか。

より効率よくガジェットを破壊する為に広範囲に散開していたのが仇となって返って来ている。
今更悔やんだところで仕方が無い事だが悔やまずにはいられない。
もっと慎重に行動すべきだったのだろうか?

スバルは再び堂々巡りになりそうな思考を無理やり止める。
頭を冷やして考えるべき、物事はいつだって簡潔に考えるべき、答えというものはいつだって身近にあるものなのだから。
今やるべきなのは──

『01より各員、E-58地点に集合してセインを回収しつつ、敵戦闘機人部隊を迎え撃つ!!』

それは、指揮官としては間違った指示であろう事はスバルにも自覚はあった。
既に襲撃された地点に赴くことは敵陣の中に飛び込むという事だ。
おまけにそんな中でセインを回収などと、無茶にも程がある。

『了解!!』

だが、そんな無茶な命令をナンバーズ達は二つ返事で了承する。
おそらく、誰が指揮官であったとしても同じ命令を下したのだろうとそんな事を考えていた。
いつもスバルのことをバカだバカだといって貶しているが、皆さして変わらないではないかと密かに愚痴を零した。

「マッハキャリバー!!」

『All right.』

マッハキャリバーに魔力弾を消費させて推進力を得ると、スバルは駆け出した。
部隊として行動する以上、進行速度は一番遅いものに合わせるのが常識ではあるが、そんな事は考えられなかった。

今までさんざんイライラしてきたスバルであったが、不思議にも、今の心にあるのは救いたいという気持ち。

セイン──そしてまだ見ぬ妹達を。

………

……



<<同日 管理局軍後方>>

『ヴァルキリー01よりヴァルキリーマム。E-58地点にて6番目標の沈黙を確認、部隊損耗率0%、作戦行動に支障ありません』

高濃度A.M.Fの中を戦闘機人部隊、識別呼称『ヴァルキリー』が駆ける。
指揮官である八神はやては高濃度A.M.F影響下でも通信可能な、地球で用いられている類の通信機器から部隊の報告を受けていた。
ノートパソコンの様な端末の液晶画面にヴァルキリーのデータリンクがリアルタイムで表示されていく。

『ヴァルキリーマムよりヴァルキリーズ。敵の本隊がそこに向かってくるはずや。そのまま迎撃準備』

『了解しました』

戦場MAPを見るとヴァルキリーが敵を懐深くまで誘い込むV型の陣を形成していた。
指揮官など本来必要ないほどに素早く、洗礼されたその動きには素直に驚愕するしかない。

「八神准将閣下、いかかですか私の作品たちは?」

ザッザという足音を立て、不敵な笑みを浮かべながらスカリエッティがはやてに近づいてくる。
あのスカリエッティが管理局の制服を着ているというのも奇妙な話ではあるが、その姿は中々に様になっていた。
元々スカリエッティの容姿自体はさほど悪くは無いのだ。
尤も、はやてから見れば──もとい、一般的に見ればスカリエッティの性格は破綻しているために好意は持てないが。

はやては生理的にスカリエッティが嫌いだった。
5年前のJ・S事件も少しは影響しているが、なによりこの笑いと相手を舐め回すような視線には悪寒しか覚えない。
しかしながらスカリエッティがはやて直轄の参謀である以上、無視するわけにもいかないだろう。

「なんの不満もありませんよ、スカリエッティ三佐殿。彼女達は精力的に働いてくれているようですし」

相手を見ず、また不機嫌さを微塵も隠さずにはやてがぶっきらぼうに答える。
上官に対して敬礼をしてこない輩など本来であれば叱責するところだが、それはスカリエッティには当てはまらない。
というか、はやてはできるだけスカリエッティと関わりたくはなかった。

「なんの不満もない割には不満そうな声ですねぇ」

「私の嫌いな人物が近くにおるからなぁ」

「これはこれは手厳しい……ですが、貴女が不満を持っている理由はそれだけではないでしょう?」

スカリエッティは愉快そうにくっくっくと笑いながら問いかけてくる。

「──なんのことやらさっぱりですが?」

「ナンバーズ……それにタイプ0は閣下とも馴染みが深いと伺っておりますが?」

──そんな事は分かっている。

わざわざスカリエッティに言われるまでも無く、敵と呼ぶには彼女達とはやては親しくなりすぎた。
いくらはやてが割り切ったと思っても無意識下ではやはり不満や疑問というのは燻っている。
それが今のはやての不満や不機嫌さの原因であってもそれは至極当然のこと。

尤も、それをスカリッティに言い当てられたことではやての不機嫌さは更に増しているが。
心の中を覗かれたような、見透かされたような言いようの無い不快感が纏わりつく。

「──『三佐』殿には関係の無い話です」

わざと階級を強調することで言外に『黙れ』というメッセージを込めたが、スカリエッティは特に気にした様子も無い。
元々スカリエッティには地上の人間に譲歩するという概念がないのだ。
それは八神はやてに対しても同様であり、階級など知ったことではない。
ただ、面白いものを見る前にまた牢獄にぶちこまれるのはうまくないので、それなりにやってはいる。
これはただそれだけの話。

「えぇ、関係の無い話です。では関係のある話をしましょうか?」

そう言うとスカリエッティははやてがそれまで見たことも無い魔法陣を展開させて、立体映像を展開した。
そこには人型の3D模型──否、それは『彼女達』の模型だった。
バイタルデータと呼ぶには生々しすぎるデータの数々が表示されていく。

「量産型戦闘機人──私はC.O.Fと呼称していますが、C.O.Fと旧世代機の違いが何であるかはご存知ですかな?」

「単純な出力の向上による戦闘能力の向上、魔法制御能力の向上、ISの共有性、感情の抑制──そしてステルス性」

「そうです。まぁ、ステルス……とは言っても既存のISを応用させたものです、唯一の欠点は戦闘行動中は仕様不可ということくらいですか。
質量兵器対策に取り入れた性能ですが……旧世代機にも効果はあったようですね」

ステルスとは『レーダー』やその他索敵機器から探知され『にくい』軍事技術の事だ。
もちろん『人間』にも発見されにくいように音を消す事や迷彩による目くらましも含まれる。

C.O.FにはISの共有性によってクアットロが使っていたステルス性に優れたIS『シルバーカーテン』が標準で備わっている。
故に、C.O.Fにはその恩恵としてステルス性が備わるということだ。

「そんな事をわざわざ言いにきたんですか、三佐殿」

「まさか──准将閣下はひとつ忘れていらっしゃる、C.O.Fの性能を」

………

……



<<同日 第一防衛ライン>>

E-58地点にナンバーズが到着するが、そこは静かなものだった。
おおよそ、敵がいるとは思えないし、索敵センサーのいずれも敵がいないことを示している。

──撤収したのだろうか?

確かに時間稼ぎを目的としているならば、ナンバーズを壊滅する必要は無い。

だが、この戦争をおこした目的というものを考えたときに、管理局軍の戦闘機人は大人しすぎるのだ。
本来であれば最前線に立って魔道師隊を蹂躙し、その『力』を示すはずだ。
それをしないというのなら、後に残るのは既に『力』を示しているナンバーズを壊滅させること。
確かに効率のいいやり方であるが。

「おい、あれセインじゃないのか!?」

ノーヴェが指ををさした方向には確かにセインが横たわっていた。
駆け寄ってみると、左腕の肩口から指先にかけてまで裂傷があり、かなりの出血がある。

不意に強烈なデジャブが甦ってくる。
5年前にギンガが血だらけにされた出来事。

──ソウダ、ギンネェハ、チダラケニナッテ

ドグン、と心臓が一際強く打ちつけられるような感覚。
スバルの中で自分ではどうしようもない戦闘機人としての本能──破壊衝動が湧き上がってくる。

セインをこんな目にあわせた奴も同じ目にあわせるべきだ。

否、足りない。

破壊するべきだ──怒りに身を任せて相手の身体を破壊し、骨まで砕いて二度と再生できぬ様に。

「スバル──落ち着きなさい」

バイタルデータを見るまでも無く異常な状態のスバルを見かねて、ギンガがそういいながらスバルの肩に手を置く。

「──っ!?」

そこでスバルはようやく金縛りにもにた思考の束縛から抜け出した。
知らぬ間に呼吸を止めていたのか、肺に溜まった二酸化炭素を一気に吐き出そうとして、むせてしまった。

──ダメだ、あの感情は。

あれでは殺してしまう……否、破壊してしまう。
救うと決めたのだ。
かつてナンバーズ達のように『まだ見ぬ妹達』もまた、きっと行動の選択ができないだけだ。
ならばその行動には悪意などないのだろう。

なればこそ、救わねばならない。

「くっそ、こそこそとふざけた真似しやがって!!」

普段以上に不機嫌さを増したノーヴェが拳を手のひらに打ち付けてパンっと鳴らす。
良く勘違いされやすいが、ノーヴェはナンバーズの中で非常に高い仲間意識を持っている。
それ故に仲間が傷つけられるのは我慢ならないのだろう。

いつまでもこうしているわけにもいかない。
今は誰か1人がセインを連れて撤退をすべき……

──なぜ、セインは拘束もされずに野放しにされている?

唐突に沸きあがった疑問。

いくら戦闘不能とはいえ戦闘機人の恐ろしさは管理局軍の方が知っているはずだ。
むざむざ置いていくはずが無い。

「──全員即応体制!!」

スバルが言うが早いか、どこから現れたのか数名の武装した少女達が現れる。
否、持ってまわる言い方などしなくてもそれは戦闘機人なのだろう。
見覚えのある漆黒のタイトな防護服……首にはシリアルナンバーだろうか、数字が刻まれている。

少女達は腿と足首、手首付近からエネルギー翼・インパルスブレードを発生させていた。

──IS『ライドインパルス』

確かに機動性に優れたISだが、これは……異常だ。
まるで瞬間移動したかのような錯覚さえ覚える──機動性では説明のつかない移動。
現にデータリンクでは突如そこに敵が現れたかのような反応を示している。

『Protection』

魔力を即座に錬って左右の拳の周りに魔力を圧縮した防御膜を生成。
左右から挟撃するようにして高速で迫る翼の刃をいなす。
少女達は実に洗礼された動きでナンバーズ達を無力化しようと一糸乱れずに挟撃してくる。

──まずい。

少女達は高速の翼の刃によってナンバーズ達を囲うようにして動き回る。
反撃する隙など無い。
一瞬でも気を抜けば文字通りにその身体を切り刻まれる事だろう。

──なんとかして離脱しなくては。

スバルがそう思った瞬間に、少女達は一斉に動きを止める。
思わずほっとしたのも束の間、すぐにデータリンクに警告ウインドウが立ち上がる。

──高濃度魔力エネルギー

発生源に目を向けると、そこには大砲『イノーメスカノン』を構えた少女が2人いた。

『皆、飛んで!!』

ディエチの言葉と共にディエチとオットーを除いたナンバーズ全員が上空へ飛び上がる。
それとほぼ同時にデイエチのイノーメスカノンとオットーのレイストームが火を吹く。

一瞬送れて少女達のイノーメスカノンの砲撃が放たれる。
ぶつかり合う二組の魔力、一瞬は拮抗したように見えたそれ。
しかし、ナンバーズ達の砲撃を『呑み込んで』ふたつの砲撃はそれぞれディエチとオットーへ向かっていく。

かなり上空まで飛び上がったにも関わらずにスバルのいるところまで爆風がきていた。

データリンクによるバイタルデータウインドウが赤く点滅して自動的に展開される。

『05[ディエチ]──戦闘不能:ブラックアウト』
『08[オットー]──戦闘不能:ブラックアウト』

悲しむよりも怒るよりも早く、更にデータリンクに警告ウインドウが立ち上がる。

──後方に魔力反応!?

振り向く暇すらなく背中を魔力刃によって斬りつけられ、地面が急激に迫ってくる。

『Floater Field』

魔力による膜を三重に張って衝撃を緩和しようとするが、高濃度A.M.F環境下にある為に緩和しきれずに地面に強かに打ちつけられる。
直感に任せてそのまま身体を回転させると、先までスバルがいた空間を翼の刃が通り過ぎていった。

『03[チンク]──腹部損傷:危険度E』
『06[ウェンディ]──右脚部損傷:危険度B──機能停止』

データリンクにバイタルウインドウが次々と湧き上がるが気を配る余裕はなかった。
スバルは追撃に来た高速で迫る翼の刃をいなし、がら空きになった少女の脇腹に拳を叩き込む。
そのまま身体を回転させつつ足を振り上げて後方に回し蹴り──後ろでツインブレードを構えていた少女を吹き飛ばす。

──やはりそうだ。

少女達は高いステルス性を持っている──攻撃時にこそそれは解かれ、場所がわかる。
だが、データリンクの警告ではその速度に追いつけない。
結果的に少女達は隠れながらも攻撃を行うことができる。

ステルス性の高いISは確か──『シルバーカーテン』

少女達は先天固有技能であるISを複数個持っている。
ナンバーズ達にとってそれはある意味で盲点だった、というよりそんなことできるはずがないと思っていた。
だが、スカリエッティがナンバーズを彼女達の試作として扱っていたとするならば、それはありえない事ではない。

スバルは、ようやくその結論に至る。
だが、タネが分かったところで彼女達を攻略できた事にはならない。
既に戦力的にこちらは圧倒的に不利だった。

認めたくは無い──だが、どうあがいても勝てない。

少女達はナンバーズの数段上、純粋な戦闘能力だけをとればあの戦技教導隊すら上回るかもしれない。

『02[ギンガ]──右腕部損傷:危険度D』
『03[チンク]──戦闘不能:ブラックアウト──腹部損傷:危険度E』
『04[ノーヴェ]──右腕部損傷:危険度C──機能低下』
『06[ウェンディ]──戦闘不能:ブラックアウト──右脚損傷:危険度B』
『09[ディード]──戦闘不能:ブラックアウト』

無情にもデータリンクは傷ついたナンバーズの様子をリアルタイムに知らせてくる。
少女達を救うなど、なんと傲慢な事を考えていたのかと思い知らされた。
戦闘開始3分足らずでナンバーズ達が無力化されるとは。

──実力が違いすぎる。

『今のスバル』では、どうやっても勝つことはおろか、まともにやりあう事さえできない。

──考えろ。
──部隊としての勝利がなくなっても、まだできることがあるはず。
──いくらISが多用であるとはいえ同時に複数展開することができない以上対処することができる。

今までの襲撃パターンは突撃前衛となって常に姿を晒す少女とシルバーカーテンで姿を隠し奇襲を仕掛ける少女と2人連携。
突撃前衛によって生み出された隙に奇襲をしかけるといったある意味で王道の戦略。

ライドインパルスでは仕留められないと悟ったのか、武装をガンナックルとジェットエッジ少女が向かってくる。
そのままシューティングアーツによる近接格闘戦へ持ち込む。
気をつけるのはつかず離れず適切な距離を保ちながら戦闘を行うこと。

──襲ってこない。

スバルの予想通り、突撃前衛に張り付いていれば奇襲は仕掛けてこない。
ならば……と思案しようとした瞬間、腹部に鈍痛。

──え?

そのまま流れるように鳩尾、顎に衝撃、身体が浮いたところを再び腹部を蹴られ、吹き飛ばされる。
顎に衝撃が入った事により脳が揺さぶられ、急激な吐き気が襲ってくる。

再び背中に鈍痛。

突撃前衛からスバルが離れたことによりツインブレイズを装備した少女に斬りあげられたか。

『01[スバル]──戦闘能力低下:魔力衰弱状態──腹部損傷:危険度D』
『02[ギンガ]──戦闘不能:ブラックアウト──右腕部損傷:危険度D』
『04[ノーヴェ]──戦闘不能:ブラックアウト──右腕部損傷:危険度C──機能低下』

──このまま終わるのか。
──なにひとつできないままに。
──だが、仕方が無いではないか。

身体は既に疲労困憊、唯一自信のあった近接格闘までいなされてしまってはどうしようもない。
きっと身体能力を向上させているのだろう。
そうだ、設計上ナンバーズ達では太刀打ちできないようにできている。

『Buddy!!(相棒!!)』

不意に、声が聞こえた。

──マッハキャリバー?

『We can still take actions... you and I.(まだ動けます……私も、あなたも)』

強烈なデジャブ。

『We can still fight. So why abandon now?(まだ戦えます。なのに、こんな所で終わる気ですか?)』

──そうだ、マッハキャリバーにこの言葉を言われるのは2回目だ。

──まだ、やれる事がある。

スバルの元にミッド式でもベルカ式でもない魔方陣──否、それは魔方陣などではない。
それは、戦闘機人特有の『テンプレート』
エメラルドグリーンの瞳が金色に変わっていく。
あふれ出た魔力が風を巻き起こす。

追撃しようとしていた少女がスバルの異変に気づき、距離をとる。

スバルの中で急激に湧き上がってくる破壊衝動。

──抑えろ……冷静に。

自我を保ちながら、感情を抑えながら、それでいて『タイプ0』としての戦闘機人の力を最大限に引き出す。

視界が傷ついたナンバーズ達を捕らえる。

──誰がやった?
──決まっている、あの少女達だ!?
──コロ……セコロセ殺せコロセころせ殺せ!!

「──っ!?」

スバルの中で黒いものが渦巻いていく。
思わず叫びだしそうになるほどの破壊衝動。

『Buddy!!』

──そうじゃない!!
──救うと決めた!!
──制御してみせろ、『それ』は自分の中の感情に過ぎない──ならば、制御してみせろ!!

あふれだしていた魔力が、スバルの中に集約していく。
5年前とは違う静かな戦闘機人としての覚醒──否、戦闘機人であるスバルとしての覚醒。

「マッハキャリバー!!」

『Load cartridge. A.C.S. Standby.』

マッハキャリバーの状態をギア・エクセリオンに。
魔力の翼を左右2枚ずつ展開、マッハキャリバーで最高の機動性を誇るモードに。
スバルが本当の意味で魔導師としての力と戦闘機人としての力の全てを運用する事が可能になった今、その相性は抜群のはずだ。

『Are you ready?』

………

……



<<同日 管理局軍後方>>

「強力な兵器とはいえC.O.Fにも弱点はあるのですよ」

スカリエッティはまるで演説するかのようにはやての前に立って話し始める。
データリンクには戦闘開始から僅かに3分足らずだというのに既に沈黙させた目標が示されていく。

「彼女達は兵器ではありませんよ、三佐……言葉には気をつけて下さい」

はやてはそれを横目で見ながらスカリエッティの相手をする。
確かにスペックでナンバーズを圧倒している事はわかっていたが、これほどの成果をあげるとは。
これほどのものを創りあげるスカリエッティはやはり天才といわざるを得ないだろう。

「あぁ、『そういうこと』になっていましたね。閣下のお立場からすれば認められませんか、失礼いたしました。
さて──続きですが、閣下はC.O.Fの性能を見てどう思いますか?」

「確かに素晴らしいものやと思います、だからこそ同時に──恐ろしい」

はやての率直な感想にスカリエッティは満足そうに頷いた。

「えぇそうです。C.O.Fは確かに素晴らしい戦闘能力を秘めていますが、彼女達は厄介な事に自我というものを持っている。
自我を持つ──武力ほどおそろしいものはありませんからねぇ」

スカリエッティは思わず兵器という単語を使おうとして武力と言い換えた。
そもそも自我という話しを持ち出す時点で彼女達を兵器扱いしているのだが。

「自我を持つ──ならばそれを完全にコントロールしてしまえばいいのですよ」

そう言うとスカリエッティはまた新しい立体映像ウインドウを開いて一見しただけでは意味を成さない文字列をはやてに見せる。

「コンシデレーション・コンソール──閣下も良くご存知かと思いますが、この文字列はその発動キーです」

コンシデレーション・コンソールシステム。
スカリエッティが戦闘機人の『商品化』を視野にいれて導入していたシステム。
わかりやすく言うならば洗脳技術。
5年前のJ・S事件でスカリエッティがギンガを洗脳し、意のままに操った事は鮮明に覚えている。

「今のままでも充分使えますが、『万が一』と言う事もありえますからねぇ……閣下にはこれの発動キーを渡しておきます」

スカリエッティは一方的にまくしたてるとはやてに文字通り鍵のようなものを手渡す。

「発動は簡単です──ただそれに魔力を通せばいい」

「三佐──こういう重要な事は前もって話しておくべきなんちゃうか?」

「なにぶん急いでいたものですからね。セキュリティとして魔力波長の照合がありますから私にもそれは扱えません」

………

……



<<同日 第一防衛ライン>>

先ほどのガンナックルとジェットエッジを装備した少女に一気に肉薄し近接戦闘を仕掛ける。
未だスバルの中でふつふつと湧き上がる破壊衝動を抑えながら相手を圧倒していく。
ここまで来ると、もはや自分との戦いに等しかった。

「なんで──なんでこんなことを!!」

スバルの問いかけにも答えずに黙々と、しかし的確に少女は戦闘行為を行う。
その様子はまるで操り人形の様で、スバルを苛立たせる。

──抑えろ。

スバルはもう何度目になるか分からない自己暗示をする。
自我を失っては『終わり』だ。

「答えてよ!!」

スバルが遂に少女の拳を捕まえる。

「──命令だから、そう望まれた、命令の遂行が私達の存在意義」

それは、ひどく無感情な声だった。
注意深く聞いていなければ聞き逃していたであろう程小さな声。

「──そうじゃない……それは違う!!」

気がつけば、スバルは涙を流していた。

「違わない、必要とされなければ廃棄される──それは嫌だ」

「廃棄なんてさせない、絶対に──私達が助ける、だから、手を伸ばして!!」

スバルは少女に向かって手を差し出す。
少女はその行動に困惑こそするが、手を伸ばそうとはしなかった。

「知らない──私は、貴女を知らない」

「ならこれから知ればいい──世界には、悲しい事だって溢れてるけど、幸せな事だって溢れてる!!
貴女達は知る権利があるんだ、幸せになる権利があるんだ……笑って、いいんだよ!!」

「戦う為に生み出された」

「それは生み出した奴が決めた事で、貴女が決めた事じゃない!!」

「私が──決める?」

「そう、決めていいんだ──だから手を伸ばして!!」

言葉は、稚拙だったかもしれない。
スバルが本当に伝えたいことの1%も伝わっていないかもしれない。

──それでも。

スバルのその必死さに何か感じるものがあったのか、少女はその手をおずおずと伸ばす。

次の瞬間、スバルが感じたのは柔らかい感触ではなく、酷くごつごつした魔力による鎖だった。
それもそうだ、支援が来ないほうがおかしい状況なのだ。

少女は、ほんの一瞬、葛藤した後にスバルに『ナックル』を伸ばす。
その顔は、ひどく困ったような顔をしていて。
無力感が、スバルの中で広がっていった。

『01[スバル]──戦闘不能:ブラックアウト──腹部損傷:危険度D』

『独立騎士小隊ナンバーズ──部隊稼働率0%──作戦行動不能』

少女は、生まれて初めて『涙』というものを流していた。

………

……



<<同日 管理局軍後方>>

『ヴァルキリー01よりヴァルキリーマム。目標部隊の壊滅を確認しました』

『キー』を握ったはやてとスカリエッティがしばらく睨み合っていると、作戦終了の報告が流れてきた。

「どうやら、いらぬ杞憂だったようですね」

その報告を聞いて、スカリエッティは肩を竦めていた。
はやても、心のそこではほっとしたのだろうか、気が抜けた。
元々『キー』使うつもりなど無かったが、彼女達が寝返るとしたら、どうなっていたかわからない。

『ヴァルキリーマムよりヴァルキリーズ。目標部隊を敵陣まで届けてやり、よう目立つようにな』

『了解しました』

「おやおや閣下も人が悪いですなぁ──ナンバーズを晒し者にする気ですか?」

スカリエッティは新しいおもちゃを見つけた子供の様に実に楽しそうに笑いながら言った。
こればっかりは反論できそうもない。
聖王連合軍の士気を削ぐ為にはこれ以上ない策だという自負もある。

聖王連合軍の誇る切り札が無様な格好となって返ってくるのだ。
前線部隊の士気低下は免れないだろう。

「なんとでもどうぞ」

「まぁ私はかまいませんがねぇ……あぁそうそう、閣下にひとつだけ忠告を」

立ち去ろうとしていたスカリエッティが途中で何かに気づいた様にしてはやてに振り返る。

「『彼女達』に足をすくわれぬようにお気をつけください」

それだけ言い残すと、スカリエッティはどこかへ行ってしまった。
今のところ彼女達ははやてに従順だが、足をすくわれるとはどういう意味だろうか。
単なる嫌味の可能性もあるが、どうにもスカリエッティの残した言葉がはやての心の底にこびりついていた。

それは擦っても擦ってもとれない汚れのようで。

──蒼き月が満ちる頃に……

………

……



To be continued.



……

………

<<用語解説>>

■量産化戦闘機人──C.O.F(Cybernetic Organism Fighter)

スカリエッティがつけた『商品名』
要するにサイボーグですよみたいな感じです。

■データリンク

設定があやふやだったので勝手に作ってます。
イメージはガンダムのコクピットに表示されるものてきなのりですね。

■コンシデレーション・コンソール

一言で済ませるなら洗脳技術。
詳しい事はスカリエッティに聞いて下さい。

■発動キー

物としてあったほうがプレッシャーになるのではと思ったので。

■スバル覚醒

タイプ0の戦闘機人としてのスバル。
タイプ0の定義があいまいなのをいい事に好き放題やらしてます。

………

……



<<後書き>>

安西先生……感想が……欲しいですorz
いや、まぁ感想が来ないのは作品の方に問題があるのでしょうけど。
大丈夫です、まだ戦えます、Pv数が増えているのなら2人くらいは純粋な読者がいるはず!!
そして1人くらいはこれを楽しみに……していてくれるならまさに僥倖ですね。
文章を書く者としてそれほど嬉しいことはないですから。

ということで10話です。

作者としてはまだ10話なのか!?って感じですが皆様どんな感じでしょうか。
物語で言うと起承転結の承がやっと終わる……いや、終わりそうな感じです。

ちなみにこの話、明日から一週間ほど旅行というのもあって、かなり乱暴に仕上げていてまともに推敲できていません。
文章に違和感がないことをいのるばかりです。

さて、物語はどう転がっていくのか。
次回の11話はかなり先になりそうですが、11話でも皆様の変わらぬ姿が見れる事を切に願っています。



[6245] 第十一話 ~嘘と裏切り~
Name: Anrietta◆f3aee459 ID:de8dbf33
Date: 2009/04/02 14:45
<<新暦0080年10月24日 XV級艦次元航行艦船クラウディア>>

『ライトニング、ドラグーン、両部隊の魔力反応が消失しました!!』

『敵E-123、E-134部隊、依然陛下に向かって侵攻中!!』

『陛下への通信はまだ繋がらないのか!?』

『ダメです、一方的に遮断されています!!敵部隊侵攻速度衰えず侵攻中!!』

聖王連合軍の旗艦であるクラウディアにCP将校らの悲鳴にも似た報告が響く。
戦略MAPには青い点が赤い点に呑み込まれていく様がリアルタイムで克明に映し出されていく。
管理局軍と聖王連合軍に戦力差があることなど最初から分かっていたことだ。

だが、これほどまでに一方的な展開になると誰が予想できた?

聖王連合軍は聖王という絶対的な護りがある以上、互角に渡り合えると思っていたのだ。
だが、管理局軍は持ちうる総ての技術を投入して更に護りを固めてきていた。
考えが甘いといわれればそれまでだろうが、聖王連合軍はどうしても速攻で管理局に攻め込む必要があった。
聖王連合軍にはバックボーンがない。
否、確かに聖王教会というバックボーンがあるにはあるが、多数の企業が味方をしているのは治安改善を掲げる管理局。
長期戦を挑まれれば疲弊するのは確実に聖王連合軍であり、それは既にある戦力差を更に広げる事にもなる。
だが、それでも。
ライトニングとドラグーンを失ってしまったが、聖王連合軍にはまだ『聖王』と『ナンバーズ』がいる。
故に、A.M.Fさえとりのぞけば逆転するチャンスはある。
ある……否、作らなければならない。
そのためにも、高濃度A.M.F環境下でも常人以上の戦闘行動を行う事ができるナンバーズに頼る他なかった。

皮肉なものだった。

聖王連合軍は戦闘機人という技術を否定しながらも、それを有用に使い、戦争に勝利しようとしている。
主張と行動が矛盾していると知りながらも、どうしても必要だった。

──だからだろうか?

『あ……アイオーン01よりCP。敵……戦闘機人部隊を視認』

HQに送られてきた映像にはざっと十数人程度の少女達が映し出されていく。
髪の長さや色、顔のつくりというものは個人で差があるものの、絶対的に無感情な瞳は全員が共通して持っている。
クロノはその光景に、薄ら寒いものを感じながらも何故か同時に美しいと感じていた。
無感情な瞳は人間的には異端ではあっても、どこか完成された宝石のようにも感じられる。

少女達は、『何か』を肩にひっかけていた。
『それら』からは粘着性のある紅い液体がドロリと流れている。
少女達は何も言わずにそれらを丁寧に地面に横たえていく。

「なん……だって」

魔力通信画面が最大望遠設定になり、『何か』の姿が画面上に鮮明に映し出される。
傷つき、深き眠りについたそれらは

『ナン……バーズ』

──これが、その罰だというのか

騎士の男が無意識の内に呟いた言葉が艦内に響き渡る。
否、その言葉を口にしていたのは騎士の男だけではなく、クラウディアでこの画面を見ている全員から上げられていた。
クロノも良く知る彼女達、聖王連合軍の切り札、戦闘機人部隊。
ナンバーズたちは今、1人残らず血で彩られ、戦闘不能にされていた。

『管理局軍から通信開線要求が来ています!!魔力波長は──八神はやて!!』

その名を聞いた瞬間にクロノは悔しさのあまりにくっと唇を歪めた。

──どうあっても聖王連合を、その理想を認めないつもりか!!

何故、こんなになるまで八神はやての変化に気づけなかった?
否、八神はやてだけではない、大勢──地上部のほとんどの局員の思想が変わっていた。

──だが、本当に、気づけなかったのか?

それは、唐突にクロノの中で湧き上がってきた違和感。

──何か、おかしくはないか?

『……どうしますか?』

女性管制官がクロノの指示を待っている。
クロノは頭をふるふると振って余分な思考を追い出す。

「通信を、開いてくれ……」

通信を開くと、そこには良く知った顔が現れていた。
尤も、はやての見たことも無いくらいに無感情な顔にクロノは思わず息を呑んでいたが。

『管理局軍司令官八神はやての名の下に聖王連合軍に告げます、貴軍の敗北はもはや時間の問題となりました。
これ以上の戦闘は無意味なものと考えます、悪戯に戦闘を長引かせ無駄な犠牲者を出すのは貴官らも望むものではないはずです。
管理局軍は戦争の早期終了の為にも聖王連合軍の全面降伏を求めます。捕虜の扱いは管理局の定める法の下に公正に行われ、軍事裁判においても同様です。
尚、これは最後通達であることを良く理解して下さい。
猶予時間として一時間設けます。この間管理局軍は聖王連合軍に動きが無い限り、一切の作戦行動は行わない事を保障致します』

「……全軍、行動停止」

クロノの言葉で戦場の音という音が途切れる。
管理局軍は返事を待つ為に、聖王連合軍は上層部の指示を仰ぐ為に。
音の無い戦場というのは、とても不気味で、静寂はただそこにいるだけで神経をすり減らしそうだった。

『まずは私達の提案を考慮していただけた事に感謝いたします。では一時間後にまた返答を伺います。
貴官らが賢明な判断を下してくださることを心より願っています』

八神はやては言いたい事だけ言うと、一方的に通信を切っていた。
それと入れ替わるようにして新しい通信ウインドウがクロノの前に現れる。
秘匿回線──相手の素性は分からないようになっているし、傍受などできないが、クロノには通信の相手が誰であるかは想像がついていた。
これまで頑なに通信を一方的に切断していたというのに、自分から繋げてきたということは戦場の変化を読み取ったのだろう。
それもそうだ、敵味方全軍が一斉に活動を停止させればいくら通信を切っていようが変化に気づく。

『……なんのつもりですかクロノ』

機嫌がいいとは言いがたい声色が通信ウインドウから流れる。

「八神はやてが我が軍に降伏勧告を出しました、これから一時間──正確な時間はタイムカウンタを見て下さい。
その間は猶予時間としてお互いに一切の戦闘行為は行わない事になっています」

クロノの目の前に通信ウインドウとは別に新しいウインドウが作成され、6桁のタイムカウンタの右2桁が激しく動き出す。
それは、猶予時間の終了時間までのカウントダウンだった。

『降伏なんてありえません!!』

「陛下、客観的に見て我が軍は圧倒的に不利です。更にお気づきの事でしょうが陛下に向かって進行中の部隊もいるのです」

『分かっています──そんなものは私が変えてみせる、近づく部隊は皆返り討ちにしてみせる!!』

「……お言葉ですが陛下、人間にはできることとできないことがあります」

『私は聖王だ、既に人間ではない!!』

ヴィヴィオの言葉がクロノの心を大きく揺さぶる。
いったいどんな顔をしてそんな悲しいことを言うのか。
しかし、無情にも通信ウインドウにはSound onlyと表示されておりヴィヴィオの表情はクロノからは伺うことはできなかった。

「……王は万能ではありません」

『……降伏しろというのですか?
ここで私が折れれば今まで傷ついた騎士達は何のために戦ったのです?聖王教の教えは何のために在るのです?
──この聖王としての四肢は何のために在るのか!!』

しばらく、沈黙が流れる。
気がつけばクラウディアの管制官達も黙ってクロノの様子を伺っている。
彼らが願っているのは降伏か、それとも……

「──誰がいつ降伏しろと申しましたか?」

『──な、に?』

「この戦いは主張と主張の戦い、余力がある内に降伏するとはすなわち敵の主張を認めるということ。
それだけは絶対に許されない、我々の主張に一点の曇りもないと信じるならば、本当の最後まで降伏してはなりません。
降伏ができないのであれば撤退するべきですが、管理局軍は総力をかけて追撃してくるでしょう。
元々バックボーンが無いに等しい聖王連合軍です、呑まれるのは時間の問題。
なればこそここで決着をつけなければなりません、聖王連合軍が勝利する条件は管理局最高評議会の完全制圧。
ですがこれはもはや物理的に不可能と言わざるをえません。ならば他の勝利条件を探せばいいのです」

『──他の勝利条件とは?』

「まず陛下に向かっている部隊を迎撃し、一点集中で高濃度A.M.F地帯を突破、敵戦闘機人部隊を抑えつつ八神はやてを捕縛し説き伏せる」

『八神はやてを説き伏せる?』

「えぇ、八神はやては──本質的には我々が知っている彼女のままです。
非情にはなりきれず、おそらくは無意識下で迷いというものを抱えている……はずです。
であればこそ、その隙に付け入ることは可能なはず──まぁ、総ては憶測の域を出ませんが」

『──成功確立は?』

「限りなく0%に近く、陛下が管理局軍に捕らえた時点で0%になります」

『話になりませんね』

「全くです」

『──管理局軍と通信を』

………

……



<<同日 聖王連合軍後方>>

「敵陣のど真ん中で待機とはあまり心地いいものではないね」

言葉とは裏腹に涼しげな表情でヴァンが言葉を洩らす。
現在もナイトレイ大隊と聖王連合軍の部隊のにらみ合いは続いている。

「中将、先の降伏勧告は……」

「八神准将の独断だろう、まぁここで『彼女』が降伏してくれるなら物騒なことをしないで済むのだがね」

「またあの女は──!!」

クランは誰が見ても分かるくらいに不満に顔を歪めていた。
確かに、侵攻の勢いを削がれてしまったことは痛く、このタイミングで降伏勧告を出すのは納得のいくものではない。
ヴァンに従順であるはずの部隊員も黙ってはいるが、それぞれに不満感を身体から出していた。

「クラン一佐、上官を侮辱することは許さん」

「八神准将は中将を蔑ろにしているではありませんか!!今回の作戦だって失敗すれば待つのは壊滅だけです!!
我々は『カミカゼ』ではないのですよ」

「今回の作戦は私が自ら願い出たもの。作戦開始前に死ぬ覚悟のある奴だけついて来いと言ったはず。
准将を批判することは私を批判することと同義、それが分かった上での発言か?」

ヴァンの言葉にクランも部隊員もバツの悪い顔をした。

「……申し訳ありませんでした」

「かまわない──無茶な作戦にこれだけの人数が参加してくれたことを私は誇りに思う」

「そんな事を言ってはまるでお別れみたいではないですか」

クランが笑いながら、そう返すとヴァンは神妙な顔をして「そうだな……」とだけ返していた。
その様子に何かを感じ取ったクランが言葉を発そうとするが、それを妨げるように緊急通信が入る。
通信ウインドウを展開すると、そこに映っていたのは金髪に右目が翡翠、左目が紅玉の瞳の女性。

──聖王。

『先の降伏勧告の返答をさせていただきます。
単刀直入に申し上げますと、我々には降伏しなければならない理由が見当たらない為に貴官の提案は呑みかねます。
我に楯突く者よ、我を許すな、その胸に己が正義をしかと刻んで我に挑め。
……私の言葉をお忘れになりましたか?
仮にも貴様らに正義があるのなら最後までそれを示してみせろ!!私を討ち取ってみせろ!!我が在る限り聖王連合に敗北などあるものか!!
騎士達よ、臆するな!!退路など既に無い、その胸に譲れぬものがあるのならば進め!!
目を閉じてよく聞け──その手に握られているものは本当に武器だけか?その目に映るのは敵だけか?いま隣にいるのは誰だ?その心に映るのは誰だ?
目を開けろ、前を見ろ、武器をとれ、歯を食いしばれ、総て懸けて護るべきものを護り通して見せろ!!』

──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

雄たけびか、咆哮か、形容しようの無い鬨の声が戦場に響き渡る。
クランの身体が無意識のうちにぶるっと震える。
武者震いとでもいうのだろうか、戦場全体が震えている感覚すら覚える。

『回答、ありがとうございました。──それがあんたの答えか、ヴィヴィオ。
ほんまに……後悔せぇへんのやな?』

対して響いたのは、予想に反して優しい声色だった。

『後悔──していないと言えば嘘になる。ただ、それでも、譲れないものがあるんだよ』

それは、ほんの一瞬だけだったのかもしれない。
だけれど、その瞬間だけはヴィヴィオはヴィヴィオだった。

『──私達の主張が認められずに誠に残念です。お望みどおりその正義とやらを完膚なきまでに叩きのめして差し上げましょう。
魔道師達よ、武器を掲げろ!!』

ザッと魔道師達が各人のデバイスを天高く掲げる。

『今こそ贖罪のとき、命を賭して成し遂げよ──勝利は我らにある!!』

ドンと魔道師達のデバイスが地をつき、音を鳴らす。

『──戦闘開始(オープンコンバット)!!』

──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

「八神はやては厄介な人を敵に回してしまったようだね──だが、それでこそ王だ」

鳴り響く咆哮をよそに、ヴァンが薄く笑いを浮かべながら呟いた。
好敵手に出会ったときにヴァンは必ずこういう満たされた顔をする。
尤も、クランは密かに自分にはそれをむけてくれないことに不満を抱いていたが。

「クラン!!後のことは作戦通りだ、任せたぞ」

ヴァンはそういうと直ぐにソニックムーヴの術式を錬り始める。

「──中将、ひとつだけ約束して下さい!!」

気がつけばクランは叫んでいた。
なにか得体の知れない不安というものを感じてしまっていたのだ。

「必ず……必ず戻ってきて下さい」

それは、耳を澄まさねば聞こえないほどの小さな声。
クランは何故自分がこんなことを言っているのか理解できなかった。
ヴァンは勝負の結果がどうであれ、クランたちを置いてどこかへ行ってしまうなど在り得ない。
そういう人間だとクランは確信している。
だが、この時ばかりは問いかけずにはいられなかった。

「──あぁ、戻ってこよう」

ヴァンが呟くようにして返す。
クランに背を向けているのでヴァンが今どのような表情をしているのかは伺えなかった。

『Sonic Move』

ヴァンのデバイス、ダインスレイヴのその言葉を最後に2人の距離は離れていった。

………

……



<<新暦0080年10月24日 聖王連合軍後方>>

「ブレイブハート……アクセルモード」

『All right』

ヴィヴィオが自らのデバイスにモードチェンジを命じて高速魔道戦に向いたモードへ。
騎士達の咆哮が響く戦場を見据える。
これまで攻める立場でありながら護りに徹するしかなかった聖王連合軍も捨て身の作戦にでた。
ひとつ大きく深呼吸する。

やることは1つ。
味方の騎士達を大型魔力砲から護りつつ、A.M.Fをぬけて敵魔道師軍に吶喊、八神はやてを捕縛。

ばかげている。
だが、成さねばそこで聖王連合の理想は潰えてしまう。

『Warning(警告)』

ヴィヴィオが進軍の号令を出そうとした瞬間にブレイブハートが危険を知らせる。

「どうしたの、ブレイブハート?」

『An enemy is coming close at high speed(敵が高速で接近してきています)』

単体で接近?
ヴィヴィオの周りは空戦騎士達で固めているというのにどうやって──

『It comes(来ます)』

次の瞬間に鳴り響いたのは金属音にも似た剣戟。
ヴィヴィオの、聖王の鎧によって条件反射的に出したブレイブハートが剣のデバイスを受け止めていた。

「すまない、ミッドチルダの魔法はなれないもので、少し行き過ぎてしまったようだ」

ちっとも悪びれた風もなく、ヴァンは更に力を込めてブレイブハートを押していく。
純粋な力比べでは部が悪いと悟ったヴィヴィオはブレイブハートを押し返すと同時に後ろに大きく距離をとる。

「──貴方に構っている時間はありません」

周りの騎士達は何をやっているのか、と思い戦略MAPを見て愕然とした。
ヴィヴィオを護るように展開していた布陣はもはやズタズタになっている。
逆に赤い光点がヴィヴィオを護るように──否、これは『邪魔が入らぬように』展開している。

「つれないな、聖王閣下──800年ぶりの再会だというのに」

──800年ぶり?

「なに……を」

「尤も、あの時は青年だったかな──まぁ『私が直接会った訳ではない』からあまり確証は持てませんが」

「──ッ」

ヴァンの様子に何か得体の知れない恐ろしさを感じたヴィヴィオはブレイブハートをヴァンに向ける。

「わけのわからないことをごちゃごちゃと!!」

「あぁ、わけが分からない。はっきりしない。はっきり言って苦痛だった。だが、それも直に終焉を向かえる」

いったい何を言っているのか?
ヴィヴィオには理解できない──ただ、全身を蛇のように這いずり回る得体の知れない何かを感じる。
いや、それはただの恐怖。

「陣風」

『Sturmwinde』

ヴァンがダインスレイヴを横薙ぎに払った瞬間に風の衝撃波がヴィヴィオ向けて襲い掛かってくる。
咄嗟に純白の両翼を防御としてヴィヴィオの前方に持ってくる。
だが、風はそれを『まるで無かったかのように』すりぬけてきた。

「な──!?」

気がついたときには風の刃はヴィヴィオの身体を貫いていた。
非殺傷設定であったのがせめてもの救いか、身体が真っ二つになることなどなかったが、身体の内側を抉られるような衝撃が襲い掛かってくる。

「私と閣下の関係は矛盾に似ている」

ヴァンは追撃することなく静かに語りだした。

──わが盾の堅きこと、よくとほすものなきなり

──わが矛の利なること、物において陥さざることなきなり

──ならば子の矛をもつて、子の盾を陥さばいかん

「800年前は引き分けだった──さて、今回はどちらが勝つと思う?」

実に愉快そうにヴァンは顔を歪める。
それは、戦闘狂の顔だった。

「──盾が勝つ」

この場合、どう考えても聖王が盾でヴァンが矛なのだろう。
そう思って答えたヴィヴィオだったが、ヴァンは愉快そうに笑った。

「認めたな──自分が敗者であると」

「なに?」

「まだ分からないか?800年の昔、聖王一族は絶対なる矛『ゆりかご』をもって世界を平定しようとした。
だが、平定される側からもってすればそれは単なる蹂躙に過ぎない──故に絶対なる盾『イージス』が求められた。
ゆりかごが絶対であったなら何故ゆりかごは沈み、聖王家は途絶えてしまった?」

「滅ぼしたとでもいうのか──お前が」

「そう『らしい』な。尤も私も、我が一族も無事では済まなかった様だが」

語り終えた後、ヴァンは静かにダインスレイヴをヴィヴィオに向けた。

「御託はもう終わりにしよう──800年来の勝負に決着を付けようではありませんか、聖王閣下」

「800年来の勝負になど興味はない」

「そうですか、ならば興味を持たせてあげよう──私が負ければ、管理局軍は降伏してもいい」

「──本当ですか?」

「あぁ、約束する」

──それは、ヴァンの嘘だった。
だが、誰かに騙されるなどという経験もなくこの11年間ぬくぬくと育ってきたのであったからそれは無理も無いことなのかもしれない。
あるいは、絶望的な状況に、一縷の希望が見えたというのもあったのかもしれない。
どんなに背伸びをしたところで中身は11歳の少女であるヴィヴィオはそれを受け入れた。

「いいでしょう──蹂躙してあげます」

「ゆりかご無き聖王にできるものなら」

「ブレイブハート──エクシードモードA.C.S!!」

『All right』

ヴィヴィオの言葉によってブレイブハートが槍型のフォームに変形、虹色の魔力刃と魔力翼が生成されている。
そしてそのままヴァンの身体の中心部めがけて高速の突きを繰り出す。

ヴァンはそれを受け流し、円を描くような動きでヴィヴィオを切り伏せようとしてくる。
ヴィヴィオは、ほとんど条件反射でそれを受けていくが、ヴァンは流れるように剣を振るってくる。

リーチでは確実に勝っているはずの槍も、ヴァンが少しずつ間合いを詰めてくる事で剣の間合いに近づきつつあった。

「ふむ──閣下は槍術が苦手のようですね」

次の瞬間にブレイブハートが大きく弾かれ、がら空きになった胴体に蹴りを入れられる。
そのまま空中を数m吹き飛ばされ、直ぐに体勢を立て直すがヴァンは追撃してきてはいなかった。

「これでは興ざめというもの──閣下の本分で戦ってもらわねば」

その薄ら笑いを浮かべている表情がヴィヴィオはたまらなく気に入らなかった。

──いつまでも、そうやって余裕をかましていればいい。

「ブレイブハート」

『Blaster Mode』

ブレイブハートからブラスタービットが4基放たれる。
身体が若干重くなるのを感じるが、贅沢も言ってはいられない。

「──刃以て、血に染めよ

詠唱を行いながらヴァンが再び開いた距離を埋めようと吶喊してくる。

「アクセルシューター!!」

『Accel Shooter』

ヴァンを撃ち落とそうと、ブラスタービットとブレイブハートからホーミングレーザーのような魔力弾が発射される。

「──穿て、ブラッディダガー

『Bloody Dagger』

ヴァンの周りから血の色をした鋼の短剣が多数発射され、アクセルシューターにぶち当たっていく。
着弾と同時に爆発──爆煙が煙幕の代わりとなって視界を塞いでいく。

そして爆煙から飛び出すようにして出てきたヴァンだったが、目の前にあるのはヴィヴィオではなくブラスタービットだった。

『Short Buster』

チャージタイムがほとんどない魔力砲撃がヴァンを思い切り貫く。

「──っ!?」

咎人達に、滅びの光を。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ

詠唱が下から聞えくる。
見れば、ヴィヴィオが既に周囲の魔力を集積にかかっていた。

我は神々の運命、神々の黄昏の開始を告げる者

ヴァンも執拗に追ってくるブラスタービットの砲撃を避けながら詠唱を開始。
同時にカードリッジシステムを起動して二発ロード。

貫け、閃光。スターライト・ブレイカー

響け終焉の笛、ラグナロク

虹色の巨大な閃光と蒼色の巨大な閃光がぶつかり合う。
空が、揺れているのではないかと思うほどの魔力のぶつかり合い。
しばらく拮抗した2つの魔力は、自らの持つ魔力量に耐え切れずにどちらともなく爆発する。

そして次の瞬間再び剣戟が響き渡る。
ヴァンがダインスレイヴを再びふるって来ていた。
さすがにこうなってしまってはヴィヴィオにブラスタービットを使う余裕はない。

「──私の本分で戦わせてくれるのではなかったのですか?」

「──あぁ、戦わせてあげるさ」

ヴァンはそういうと剣技を続けながら『詠唱』を始めた。

仄白き雪の王、銀の翼以て、眼前の敵を白銀に染めよ

──バカな!?

「こんな至近距離で撃つつもり!?」

「安心していい──私の魔力属性は氷だ」

「──っく。来よ、白銀の風、て──!?」

詠唱に気をとられていたせいか、ヴァンの純粋な体術によるものか。
否、ヴァンは先の会話の間に『詠唱』しながらソニックムーヴの術式を錬っていたのだ。
一気に槍の間合いも剣の間合いもすりぬけて左手でヴィヴィオの口を塞ぐ。

「詠唱などさせるものか──来よ、氷結の息吹 !!」

『Atem des Eises』

次の瞬間にヴァンの周り数十mが熱を奪われ、凍りつく。
それは空中に浮かぶ巨大な氷の塊。
数瞬後にそれは小さな炸裂音と共に細かな塵となって砕け散る。
その様子はダイヤモンドダストと呼んでもいいくらいの美しさを持っていた。

「チェックメイトだ──聖王閣下」

ヴァンの腕には聖王の鎧の効果も切れたヴィヴィオが眠るように収まっていた。
不意にぐらりと世界が歪む。
やはり無茶をしすぎていた、いくら魔力属性によって耐性があるとはいえ自らの全力を自らでくらうことになるとは。
ある意味でこれは賭けだった。

ヴィヴィオが前代の聖王のように本当に成熟した人間であったならば、また勝負はどうなっていたか分からないであろう。

ヴァンの頭が魔力ダメージとは違った痛みを訴える。
記憶の奔流、アイデンティティの揺らぎ。
体験したことのない体験、自分ではない何かが心の奥底に潜んでいる。

──必ず……必ず戻ってきて下さい

何故か、不意にクランの声が頭に響いた。

「──クラン、私は、初めて君に嘘をつく」

言葉にすると、ずきりと心が痛んだ。
だが、まだだ。
まだ成さねばならないことがある。

おもむろに騎士甲冑の中から『キー』を取り出す。

──コンシデレーション・コンソール

『彼女達』を服従させる為のキー。

それを握り締めたまま、ヴァンは秘匿通信を繋ぐ。

『これはこれは中将閣下、王様は捕獲できましたか?』

そこに映ったのはジェイル・スカリエッティだった。
何が可笑しいのか、ニヤニヤと笑っている。
いや、確かに可笑しいのかもしれない──私が総てを裏切ろうとしているのだから。

「何の問題もありません」

『そうか、では、始めるとするかね』

スカリエッティの言葉にヴァンは、手に握られたキーを見つめる。

『くっく……どうする?それを発動したら最後──もう戻れはしない。
あの愛しい小娘にももう会えなくなるかもしれんよ?』

半ば笑いながらスカリエッティが問いかけてくる。

──覚悟などとうの昔に決まっている。

「かまいません」

──私に愛される資格などありはしない。

『ではひとつ、大きな花火を打ち上げようじゃないか!!』

「堕天使の鎮魂歌──発動」

蒼き月が見守る中、ヴァンはそのキーに魔力を込めた。

………

……



To be continued.



……

………

<<用語説明>>

■特になし

<<後書き>>

どうもお久しぶりです。
感想くれた皆様、本当にありがとうございました。
旅行から帰って長期メンテで見れないときは愕然としましたが、ちゃんと読んでいます。
罵倒なんかも覚悟していたのですが、暖かい言葉ばかりで思わず目が、目がぁああああああああああってなりました。

それで、更新が遅くなった理由ですが──すんません、BALDR SKYってゲーム(18禁なので注意)にはまってました。
やっぱ魔法もいいけどロボットもかっこいいよロボット。
ジルベルトの歪みっぷりなんて外道すぎてかっこいいです。

まぁそんなわけで(?)、次回第12話ですか……物語はどこへ行くのでしょう。
起承転結の転に向かうわけですが──どんな変化があることやら。

感想、批判がありましたらまた下さいませ。
作者が泣いて喜びます。



[6245] 第十二話 ~役割演技~
Name: Anrietta◆f3aee459 ID:de8dbf33
Date: 2009/05/05 16:16
<<新暦0080年10月24日 聖王連合軍後方>>

作戦発動を指令した後もヴァンはそのまま空中に佇んでいた。

聖王──尤も今はブラックアウトによって聖王の鎧の効果もきれ、少女の姿になって眠っているヴィヴィオを抱きかかえている。
しばらく目覚める事はないだろうし、目覚めたところで魔力を失っている今、脅威にはならないが一応バインドによって手足を固定している。

穏やかな表情で眠っているヴィヴィオは歳相応の少女そのものである。

「無事、捕獲できたようですね。ヴァンガード中将殿」

不意に声がするほうを見れば、炎の翼を纏わせたシグナムが敬礼をしていた。
ただ、ヴァンに向けるその目だけは、ひどく冷え切ったものに感じられるが。
返礼をしてお互いにしばらく無言のまま睨み合う。

「守護騎士小隊は殿の任についていたはずだが?」

先に口を開いたのはヴァンの方だった。

「今現在も私の優秀な部下達が聖王連合を退けています──更に後方には中将殿の優秀な部隊もいますのでご安心下さい」

明らかに敵意をむき出しにしているシグナムだが、冷静に答える。

「だからと言って持ち場を離れるのは感心しな──」

「単刀直入に申し上げます」

シグナムは上官であるヴァンの言葉を遮る様に、鋭く言い放つ。
そしておもむろにレヴァンティンを抜き放ち、真っ直ぐにヴァンに向けて構えた。
レヴァンティンが陽の光に照らされて刀身が独特の光沢を放つ。

「聖王を今すぐに此方へお渡し下さい」

「……手柄を横取りするつもりかい?」

「……でなければ貴方を反逆者として捕らえることになります」

そう言いながら、シグナムが空中に現れたコンソールをレヴァンティンを突きつけたまま片手で操作。
ヴァンの目の前にウインドウが表示される。

『Sound Only』

──くっく……どうする?それを発動したら最後──もう戻れはしない。あの愛しい小娘にももう会えなくなるかもしれんよ?

──かまいません

──ではひとつ、大きな花火を打ち上げようじゃないか!!

──堕天使の鎮魂歌──発動

それは、先に交わしたスカリエッティとの会話。
秘匿通信をハッキングされたのか、『元々網を張られていたのか』、どちらにせよまんまと引っかかったらしい。

「どうやら私は准将にずいぶんと信頼されているらしいね」

「とぼけるな!!貴様──いったい何をしようとしている?」

激昂と共に、どぅっとシグナムの炎の翼がいっそう強く燃え上がる。
その気になればヴァンとシグナムの間にある間合いなど一瞬で詰めることができるだろう。
それでもヴァンは聖王を渡そうとも、剣を抜こうともせずに、ただそこに佇んでいた。

「ロールプレイングだよ」

「──なに?」

シグナムは不意をつかれた相手の解答が理解できずに、眉をひそめる。

ロールプレイング?

「役割演技──私はただ私に与えられた役割をこなそうとしているだけだ」

「役割だと?」

「お前が主を護る守護騎士の様に、私にもまた役割がある、これはただそれだけの話だよ」

「そうか……なるほど」

納得したように頷くと、シグナムはゆっくりと剣先を下ろした──かと思うと、直ぐに両手で構えなおす。
レヴァンティンの刀身にごうっと炎が灯る。

「ならば私が貴様を倒すというのも、私に与えられた役割であり、道理であるという事だ!!」

「あぁ、全くもってその通りだ──だが、本当にできるかい?」

ヴァンは不敵に笑う。
シグナムがヴァンへの間合いを詰めようとした瞬間、両者の目の前に自動的に新しいウインドウが展開される。
真っ赤なウインドウに映る『Warning』の大文字。
更に小文字で文字列が表示されていく。

この、コードが指し示すもの。

──照射警告。

敵と対峙しているにも関わらず、シグナムは反射的に頭上を見上げてしまっていた。
慌しく顔を動かし、聖王連合軍、管理局軍、両陣営に展開していた数々の次元航行艦から『それ』を目で探す。

そして見つけた。

管理局側に船の頭を不自然なほどに地面へと傾けた次元航行艦が一隻。
遠く離れていても目視できるほど、主砲に蓄えられた魔力エネルギー。
主砲の周りには3つの巨大な環状魔法陣が展開されている。

──まさか……!?

「アルカンシェル──着弾後一定時間の経過によって発生する空間歪曲と反応消滅で対象を殲滅。
その効果範囲は発動地点を中心に約百数十キロメートル──ここにいる人間を皆殺しにするに十分に足る威力だな」

自らもその影響範囲内にいるというにも関わらず、ヴァンは淡々とアルカンシェルの威力について語る。

──どうやって船の制御を奪った?

──いや、それよりも

「き、さ……ま──ここには管理局軍も聖王連合軍も貴様の部下達もいるんだぞ!?」

効果範囲には、当然はやてや守護騎士、なのは、フェイト、エリオ、大切な人々が含まれているというのに。
それだけではない、いったい何千、何万人の死者が出ると思っているのか?

もしこのままアルカンシェルが発射されれば闇の書事件やJ・S事件やアルカディア事件など比べ物にならない被害がでる。
管理局は戦力の大半を失い、その機能を停止する。
聖王教会は騎士団を失い、聖王すらも失い、治安維持能力を失う。

その先で、更にどれだけの被害が出ると思っているのか。

「それが、どうかしたのか?」

にもかかわらず、ヴァンは何故そんな事を聞いてくるのかと、できの悪い生徒を見るような目で見つめてきた。
シグナムはいよいよヴァンガードという男が分からなくなっていた。

J・S事件でも、アルカディア事件でも確かに被害は出た。
だが、今これから起きようとしているのは被害などと言うのも生ぬるいただの虐殺。
しかもこの男は主義も主張も正義も振りかざさずにただ、それが自らの役割だという理由だけで実行しようというのか。

周りにいた騎士達や魔道師達も急に展開されたウインドウの『警告』の意味を知り、混乱状態となってきていた。
我先に逃げ出そうとするもの、部隊をまとめようとするもの。
魔力砲撃は止み、あたりには怒号と悲鳴が響きわたる。

『はぁ~い、皆さんお待ちかね、久しぶりに登場のクアットロさんで~す!!』

そんな緊迫状態の中、どこか間の抜けた声と共に1人の女性が通信ウインドウに映し出される。
茶色の髪に、メガネは外しているが、それは紛れもなく『ナンバーズ』の1人だった。
ただし、更正プログラムを受けず、スカリエッティの『量産化のサンプル』の申請によって半ば無理やりに釈放されたのだが。

シグナムはそれを見て苦い顔をした。
クアットロが通信に映るのはまだいい、問題はその背景。
それは明らかに『次元航行艦のブリッジ』だった。

『皆さんお気づきの様に、当艦は既にアルカンシェルを地上に向けて発射体勢にありま~す。
もし攻撃なんかしてきたら思わず手が滑って発射しちゃうかもしれませんから、しないで下さいね~。
あと、管理局、聖王連合問わずに他の次元航行艦がアルカンシェルをチャージなんかしたりしたら、その瞬間にドッカーンってなっちゃいます♪
地上に配備されている3機のアインヘリアルについても同様ですので、お友達を消滅させたくなかったら不審な行動はとらないで下さいね~』

クアットロは実に愉快そうに語っている。
背後にトーレとセッテの姿も見えることから、監獄にいれられていたナンバーズで次元航行艦をジャックしたのだろう。
当然、彼女達が勝手なことをしない様に監視役もいたはずだが……まかれたか、あるいは殺られたか。

「当然、私に何かあってもアルカンシェルは発射される様になっている」

ヴァンは極普通に、共犯であるということを独白していた。
いや、このタイミングは元々ヴァンに都合が良すぎた、偶然と呼ぶことなどできはしないだろう。
すべては必然、この状況では隠す必要すらないということか。
シグナムは悔しさのあまりに唇を噛み締めるしかなかった。

「……貴様の、要求は何だ?」

自らの命だけを握られているのならまだいい。
だが、握られているのは何千、何万人の命。
下手に動けば直ぐにでも奪われてしまう、ならば相手の条件を呑むしかない。

「──特に無いな」

しかし、無理難題をふっかけてくるだろうというシグナムの予想に反して、ヴァンの回答は冷めたものだった。
要求が無い。
ならば何のためにこんな大掛かりな脅しをやってみせたというのか。

「ふざけるな!!」

「ふざけてなどいないさ、そうだな……強いて言うなら『我々が離脱する』のを見逃してもらおうか」

──離脱だと?

「できると思っているのか?」

「できないと思うのかい?君達は指をくわえて見ているしかないというのに」

「……仮にこの場を離脱できたとして管理局から逃がれ続ける事ができると思っているのか?」

「思っていないね」

会話がかみ合っていない。

この男を理解することができない。

シグナムはこの時になって、はやてがヴァンガードを『全くもってくえない人』と評価していた事を身をもって体感していた。
くえない等というレベルではない。
全くもって理解できないし、掴めない。

「まぁ、いずれ理解できるさ。私達はまた再び巡り会う、そこで私は役割を終える」

──■■■■■として、あるいはヴァンガード・ナイトレイとして。

だが、それは本当に──

「ヴァン!!この状況はいったい──」

不意に、声が響く。
栗色の髪をなびかせながら、そこに駆けつけてきたのはクラン・ロッテ。
皆が逃げ出すか、部隊を指揮している中でクランだけは逃げ出さず、指揮官の任を放棄してヴァンに会いに来ていた。
その様子に思わず呆れたヴァンは無意識のうちにこう思っていた。

──後で説教をしてやらなくては。

そう思った後で、思わず自分でも笑ってしまっていた。
裏切っておきながら、人質にしておきながら、利用しておきながら、未だに愛着を持っている。
いや、執着していると言ってもいいかもしれない。

それは、この五年間に起きたヴァンにとって唯一の計算外の事象。
だが、だからと言って止めるわけにはいかない。

クランを想うならこそ、やりとげなければならない。

たとえ間違っていたとしても──

クランがヴァンの側に寄ろうとすると、どこからともなく、ヴァンの両脇に漆黒の防護服を身に纏ったC.O.F──量産化戦闘機人が現れる。

──C.O.F部隊。

それを見たときにシグナムは激しく動揺した。

最初は、きっと、はやてが事情を察して寄越してくれたに違いないと思った。

だが、ならば何故。

ならば何故『ヴァンガードを護るように』してISをシグナムへ向けるのか。

──コンシデレーション・コンソール

不意にシグナムの頭に浮かんだ文字列。
C.O.Fに搭載されている洗脳技術。

発動したというのか。

「き……さま、人の心を弄んでまで、世界を裏切るつもりか!!」

「生命を悪戯に創造し、遺伝子をいじくり、能力を与え、感情を奪い、肉体を奪い、鉄を埋め込み、自我さえも奪うシステムを組み込む。
完成された生物兵器、これを最初に質量兵器対策として提案したのはお前達だろう?今更、自我を奪ったとて、どうということはあるまい?」

確かに、そうだ。

だが、これは──

こんなやり方は──

──間違っていると、言えるだろうか?

それを望み、推し進めたのは自分達だというのに。

今更そんな言葉を言う資格などあるのだろうか?

シグナムは言葉を詰まらせ、押し黙ってしまっていた。

「ヴァ……ン?」

ようやく、ヴァンの様子がおかしい事に気づいたのか、クランは困惑した表情を浮かべていた。
その目は戸惑うように空中を泳ぐ。
ヴァンの良く知るクランのクセはそのままだった。

そのことが、嬉しくて、悲しくて。

「さようなら、クラン」

たったそれだけを言い残して、ヴァンの身体をIS『シルバーカーテン』が覆いつくした。

「待て!!」

「待って!!」

2人の叫びが虚しく空に響き、直ぐに周りの喧騒に飲み込まれていった。

………

……



<<同日 管理局軍後方>>

「くそっどうなってるんや!!通信が通じへん!!」

八神はやては焦っていた。
突如としてC.0.Fで構成されたヴァルキリー隊とのデータリンクが切れたかと思うと、アルカンシェルの照射警告。
それに伴う指揮系統の混乱。

もはや部隊は部隊として機能してはいなかった。

それにさっきの通信で警告してきたのは間違いなくクアットロ。
ということはスカリエッティが一枚かんでいるのは言うまでも無い。

なにもかもがまずい方向に向かっている。

スカリエッティと元ナンバーズには厳しい監視体制が敷かれていたはずだ。
それを易々と破られてしまったというのか。

はやては無駄だと思いつつもスカリエッティに通信を繋いでいた。

出るはずが無い。

しかし、はやての予想とは裏腹に通信ウインドウにはスカリエッティの顔が極普通に映し出されていた。

「三佐!!これはいったいどういう事や!!」

怒鳴るように言うはやてとは対照的にスカリエッティは愉快そうに笑っていた。

『さぁ、いったいどういう事でしょうかね?私にも何が何やら』

くっと唇を噛み締める。
まさかこのような形でスカリエッティに復讐されるとは思わなかった。
まさかこんな大人数をまるごと人質にとられるとは。

「……要求はなんや?」

『要求ですか?』

スカリエッティがはて?と顎に手をあてて考えるそぶりを見せる。
冷静にならなければと思うが、そんなスカリエッティのふざけた様子がはやての心を揺さぶる。

「そうや、研究資金も研究所も研究テーマも望むものが手に入った言うのにそれを全部かなぐり捨てた動機はなんや」

『さぁ……特にありませんが』

「動機も特にないのにこんな事をしでかすほどあんたの頭はイカれてるんか?」

『これは手厳しいですなぁ准将閣下。動機ですか……強いてあげるならば、好奇心ですかね?』

「好奇心で何万人を殺す気か、やっぱ最高にイカれてるで、あんた」

『そんな事を言われましても、これをしかけたのは私ではありませんので』

「……なんやて?」

ならば、いったい誰が?
ふと、その思考を遮るようにスカリエッティの背後に漆黒の防護服に身を包んだ少女が映る。

量産化戦闘機人。

何故あんな所にいる?
何故通信はとぎれた?

スカリエッティに操られているのか?

そこに思い至ったとき、はやては思わず手に持っていたキーを強く握り締めていた。

思い出すスカリエッティの言葉。

──発動は簡単です。ただそれに魔力を通せばいい

──セキュリティとして魔力波長の照合がありますから私にもそれは扱えません

「スカリエッティ。あんた、私に嘘をついたんやな」

『私は閣下に嘘をついた覚えはありませんが?』

「現に、あんたはキーを既に、発動してるやないか」

そう考えるのなら、急にデータリンクが途絶えたのも、少女があそこにいるのも辻褄が合う。
今まで少女達は、はやてに従っているふりをしていた。
これはただそれだけのこと。

『それは違う──セキュリティは厳重に監視されていましたから、ごまかし様がありませんよ。
ちゃんとC.O.Fのコンシデレーション・コンソールは『准将以上の階級の者にしか扱えない』様にプロテクトがかかっていますから』

准将以上の階級の者。
ならば、スカリエッティには扱えない。

だとしても、キーはひとつ。
はやて以外の者が発動することなどできるはずがない。

いや、キーは、鍵は──本当にひとつか?

「スカリエッティ、キーには、スペアがあるなんて言わへんよな?」

『普通、鍵にはマスターキーとスペアキーがあるものですよ准将閣下』

准将以上の階級の者。
キーは2つ。

こんな事をしでかす様な人物はひとりだけ。
ヴァンガード・ナイトレイ。

「あぁ、そうか……ようやく納得いったわ。んで、あんた達は『聖王』を手に入れて何をしでかす気や?」

『さぁ、それは本人に直接尋ねられるのがよろしいかと。私はあくまで脇役ですので。
……そろそろ時間の様です。それでは准将閣下、ごきげんよう──生きていたならまた会いましょう』

それだけを言い残すと、スカリエッティは一方的に通信を切ってしまった。

チッと舌打ちをし、はやてが新しく通信を開こうとした瞬間、緊急通信が割って入る。

ウインドウには傷ついた男性の管理局魔道師が映し出される。
頭から血を流し、苦痛に顔を歪めている。

「なんや、何があった!?」

『ハンター01より全リーダー。最高評議会が……襲撃を受けている!!至急応援を!!』

──バカな!?

最高評議会の防衛システムが敵部隊を見落とすはずが無い。
発見しだい控えている迎撃部隊が出る。

それに、あそこには既に撤退した戦技教導隊の残存魔道師もいるはず。

『防衛システムを上回るほどのステルス性とSランク魔道師と対等に渡り合える戦力』が無い限りそんなことは不可能だ。

ドンっと画面の向こう側で爆発音が聞える。
ちらりと見えた漆黒の防護服──見間違えようの無いかつての部下達。
C.O.F部隊。

『っ──くそがぁあああああああああああああああああああ!!』

男性魔道師が直ぐに応戦しようと、振り向き、その瞬間にまた爆発音。
ウインドウが漆黒の色に変わる。

「くっ、ヴァンガード中将……手が早すぎるで!!」

いや、こちらの手が遅すぎるのか。
後手後手どころの話しではない。

迅速に手をうたなければ。

はやては素早く指揮官用の端末を機動。
素早く通信を繋いでいく。
開く通信回路は3つ。

そのうち繋がったのは2つ。
さすがにヴァンガード中将への直接通信は無理だったか。

「シグナム、ヴィータ、聞えてるか!?」

『こちらシグナム──ヴァンガード中将のことで話しがあります』

『こちらヴィータ──混乱を沈めるので精一杯だ!!本当にあいつらアルカンシェルを撃つつもりか!?』

見慣れた顔が2つウインドウに映し出される。
シグナムはいたって冷静なようだが、ヴィータは若干取り乱しているようだ。

「わからへん、とりあえず、ヴィータはできるだけ部隊をまとめて至急、最高評議会へ!!」

『おいおい、アルカンシェルを放っておいていいのか!?』

「アルカンシェルは私がなんとかする……せやから今は最高評議会へ!!」

『くそっ──了解!!』

ヴィータとの慌しい通信を終えて、シグナムと向き合う。

「で、シグナム。中将の話しっていうのは?」

『スカリエッティと中将が繋がっているという証拠を押さえました。データをそちらへ送ります』

シグナムからはやての元にひとつの通信記録が送られてくる。
どうやら網を張っていたのは正解だったようだ。

「それで、肝心の中将は?」

『──取り逃がしてしまいました。一応、重要参考人としてクラン一佐を捕獲していますが、どうやら……こちらはシロのようです。
それから中将は、C.O.Fの指揮権を得ている様でした』

「そうか……それで、中将の要求っていうのは?」

『無い、だそうです。強いて言えば我々が離脱するのを見逃せと言っていました』

「……なんやそれは?」

『よくわかりませんが……』

いったい、何をしでかそうとしている?
アルカンシェルを止めるにはどうすればいい?
このまま静観していればいいのか?

ダメだ。
相手の狙いが分からない以上、次の手を予測することなどできない。

そんなはやての思考を遮るようにまた新しいウインドウが立ち上がる。
一瞬、ヴァンガード中将からの通信かと思ったが、どうやら緊急通信らしい。

「今度はなんやっていうんや!!」

愚痴を零しながらウインドウを開くと、慌てた様子の女性のCP将校が映る。

『アインヘリアル一号機が──起動しています!!』

「ばっ──」

──地上に配備されている3機のアインヘリアルについても同様ですので、お友達を消滅させたくなかったら不審な行動はとらないで下さいね~

はやての脳裏にクアットロの警告が再生される。
だが、同時に妙に納得していた。
離脱するのが目的のはずのヴァンガード中将が何故わざわざ最高評議会を強襲したのか。

あそこにはアインへリアルの最高優先順位の制御コンソールがある。
アルカンシェルに対抗できる唯一の兵器を掌握する。

絶対的な攻撃と共に絶対的な防御を得る。
それだけではない。
難癖さえつければ、アルカンシェルを撃ち込む理由にさえなる。

『二号機、三号機も起動!!』

「強制停止信号を!!」

『強制停止信号──受け付けません!!』

──どうすればいい?
頭上を見上げて件の次元航行艦を見上げる。
エネルギーはもう充填されている、あとは撃つだけの状態。

『一号機が魔力充填を開始!!発射可能まで60秒──狙いは……例の次元航行艦です!!』

明確な答えも出せず、はやては空を睨みつけることしかできずにいた。

………

……



To be continued.



……

………

<<用語説明>>

■特になし

<<後書き>>

皆様お久しぶりです。
感想くれた皆様、ありがとうございました!!
そんでもって更新が遅くなって申し訳ありません。
物語自体に困っているわけではないんです、ただ、書く時間がとれなかっただけで……

なんか話題ってことでBALDR SKYに続いて『シークレットゲーム』(例によって18禁)を紹介。
えぇ、執筆放り出してやってました。
密閉された空間での生き残りをかけたサバイバルっていうコテコテの設定なんですが、途中で抜け出せない面白さがあります。
最後のEPでは鳥肌立ちましたね。
ああいうシナリオを作れる人は尊敬します。

んでまぁ本編、アルカンシェルうんぬんはこの回で終わらせる予定だったのですが、長くなって次回に持ち越し……
スカリエッティの狙いは何か、ヴァンの役割とは何か。
次回も皆様に会えることを願っています。



[6245] 番外編 ~バレンタイン~
Name: Anrietta◆f3aee459 ID:de8dbf33
Date: 2009/02/14 12:24
『HQより各員、今この時1400をもってアルカディア掃討作戦を終了する。
念のために周辺への警戒をおこたるな。尚ジャベリン中隊は……』

終わった。
HQから念話が聞こえてくるが、ノーヴェは気持ち半分で聞き流す。

吹き飛ばされてしまった左腕からはいくつものコードが垂れ下がり、鈍痛が体中を支配している。
腕はまた『再生』してもらえばいいから気にならない。

腕が無い喪失感よりも、体中を支配する鈍痛よりも、重くのしかかる徒労感よりも

嬉しかった。

私達、戦闘機人部隊はこの作戦でかなりの戦果を収めたはずだ。
自分で言うのもなんだが、英雄勲章を授与されてもおかしくないと思う。

それは、私達が多くの人を救ったと言う事。

私達は要らない存在なんかじゃない。

ここにいていいんだ。

そう、思えた事が嬉しかった。

腕を押さえるようにして安全地域まで退避する。

祝福されると思っていた。
多くの管理局員達が戦場から帰還してきた魔道師達を祝福し、治療を行っていた。

私に気づいて、何人かの魔道師がこちらを見た。

その目は異形の者を見る目だった。
視線の先を辿っていくと、腕から垂れた何本ものコード達。
どこかの回路がショートしたのか、火花すら飛ばしていた。

『おい、あれって……』

『あぁ……テロリストだろ』

『おい、やめろって。一応は英雄だろう』

『はっ──何が英雄だよ、厳重監視期間を短縮したいだけだろう。
見ろよ、あんな腕になっても平気な顔してる。あんなのが一緒にいると思うと恐ろしいぜ』

念話でそんな事を話しながらも笑顔を向けてノーヴェを迎える局員達。

よくやった。えらいぞ。ありがとう。そんな『空虚』な言葉を投げかけてくる。
腕の心配などしている人が1人もいないのがこっけいだった。

あぁ、知らないのか。

私が盗聴できる事を。

怒るよりも、悲しむよりも

虚しかった。

褒められたかった訳じゃない。

監視期間を短縮したかった訳じゃない。

ただ、認められたかった。

結局は相成れない存在。

だが、一方的ではないか。

望んでこんな身体に生まれてきた訳ではない。
テロに加担した事だって、あの時はあぁするしかなかった。

私には、スカリエッティが創った世界が総てだったのだから。

素晴らしいものがあると信じていた外の世界。

なんと言う事は無い。

ただ空虚なだけではないか。

そう考えると、今まで色彩を放っていた世界が急に暗くなっていく。
たとえるなら、総てが灰色の世界。

ほら、こんなにもつまらない色をしている。

だが、そんな世界の中でも、まだ色彩を放っている人がいた。
その人は人々を押しのけるようにしてノーヴェへと向かってきていた。

「ノーヴェ!!」

まるで鬼の様な形相でかけつけてくる中年の男。
ノーヴェの保護責任者、ゲンヤ・ナカジマ。

反射的に腕を隠した。
ゲンヤにだけは今の自分の姿を見られたくは無かった。

異形でしかない自分、世界からは異端である自分。

そんな姿を見れば、ゲンヤに嫌われるに決まっている。
それだけは避けなければならない。

ゲンヤから逃れる為に走り出そうとした所を、頑なに左腕を隠していた右腕をつかまれ、思いっきり引っ張られた。
何故か、力が入らなかった。

不具合かな、と思った自分が悲しかった。

曝け出された左腕。

「見るな!!」

ノーヴェの悲痛な叫びを他所に、ゲンヤの視線は確かに左腕の回路やらコードを射抜いていた。

終わった。

何もかも、総て。

絶望にうちひしがれるノーヴェだったが、ゲンヤの目にあったのは侮蔑でもなんでもなく

「大丈夫か!?くそ、医療班は何やってやがるんだ!!」

純粋に心配してくれていた。

なんで?

あぁ、そうか。
スバルやギンガと一緒だから同情しているのか。
そうに決まっている、私はあの姉妹と違ってゲンヤの家族ではないのだから。

「っ──うっせぇ、ほっとけよ!!」

自分の口から出た言葉に思わず自分でびっくりする。
違う、言いたいのはこんな事じゃない、放っていかないでほしい。

私はどこまでダメなんだ。

「ほっとけるか!!」

ゲンヤは怒ったようにそういってぐいっとノーヴェの右腕をそのまま引っ張っていく。
魔道師達が何事かと2人の様子を見ていた。

侮蔑の視線。

「放せよ──あんたまで勘違いされるぞ!!」

ノーヴェのその言葉と表情に、ゲンヤは一瞬だけ黙った後にため息をついた。
ゲンヤにも分かってしまったのだ、ノーヴェが今どんな気持ちでいるか。

「あのなぁノーヴェ」

ゲンヤは振り向いて優しく、まるで語りかけるように話しだした。

「お前が何を思って、何を考えて、何を感じているか俺にはわからん。
だがな、ひとつだけ俺に言える事がある」

ノーヴェの瞳を射抜くゲンヤの視線は真剣そのものだった。

「お前は誰が何を言おうと、俺の『家族』だ」

そう言って、優しく抱きしめてくれた。
それはまるで父親のように大きい胸板で、恋人のような優しさがあった。

………

……




<<新暦0080年2月13日 時空管理局地上本部職員宿舎>>

「ウェンディ──お前……料理得意だよな!?」

「ぬお!? またいきなり唐突っすね……まぁノーヴェの作る汚物よりかはうまい自信はあるっすよ」

今日は久しぶりの休みでウェンディは自室でまったりと過ごす予定だったが、ノーヴェが部屋に押しかけてきていた。
しかも何をとち狂ったのか、料理のことを聞いてきたのである。

「汚物って言うな!! ……ちょっと見てくれが悪かっただけで」

「じゃぁノーヴェが自分で作ったもの食べてみなよ」

「食えるかあんなもん!!」

「うえ……思い出しただけで気持ち悪くなってきたっす」

ウェディはノーヴェが以前作った、原材料は食えるものだけなのに明らかに食べ物ではなくなった物を思い出していた。
あれは……一種のバイオ兵器だ。ノーヴェには悪かったが厳重に封をして生ゴミに出しておいた。

「だから、そうじゃなくてだな……その、チョコレートの作り方をおしえてくれないか?」

「はぁ──チョコレートっすか。なんでまた」

「うっせぇ、急に食べたくなったんだよ!!」

だったら買えばいいじゃないか。
そもそもチョコレートを作るっていったっていろいろな種類がある。
簡単なものは本当に簡単だし、難しいものはそれこそ何時間もかけて作らなければいけない。

「バレンタインってやつっすか」

「な──違う、そんなんじゃないぞ!!」

「ゲンヤさんの祖先の出身は第97管理外世界の日本ってとこらしいっすからねぇ」

「だから違うって」

「あーはいはい。そういう事にしといてあげますからさっさと作っるすよー」

まるっきりやる気のない声を出しながらキッチンへと歩いていくウェンディ。
確か、簡単なお菓子の型があったから、あれに溶かした板チョコでも流し込めばそれらしくなるだろう。
それならばいくら料理の苦手なノーヴェでも──

………

……



「いやいやいや、なんっすかこれ、マジありえねぇっす」

「……チョコレートだ」

「チョコレートはうねうね動いて奇声を上げたりしねぇっす。
なに新しい生命体つくってんすか、あんたマジで天才っすね。スカリエッティも真っ青だよ」

そこには元は板チョコだったものがうねうね動いてキシャァァアという鳴き声(?)を上げていた。

「いやいやいや、中身なにいれたんすか」

「中に誰もいませんよ?」

「ノーヴェ、その言葉はなんかダメな気がするっす」

「なんなら包丁でチョコレートをくぱぁってしてみようか?」

「くぱぁってなんすか、っていうか絶対なんかいるっす。なんかうねうねしたのが」

「うねうねしたのってなんだよ」

「わかんない、なんか触手っぽいものっす。あぁ……ノーヴェくぱぁしちゃらめぇえええええ!!
私達XXX板に移動しなきゃいけなくなっちゃうっす!!」

ノーヴェが包丁でうねうねしたものをくぱぁする前にむんずっと掴んでゴミ箱にシュート。
速攻で袋の口を閉じて封印する。
後ろからキシャァァアという鳴き声が聞こえるがきっと幻覚にちがいない。

「もう一回最初からやってみるっす、見ててあげるから」

「分かったよしゃーねぇなぁ」

チョコレートを溶かして、袋に詰めて、穴をあけて、モザイクで処理されたうねうねしたもの──

「ちょま、ノーヴェ!! その手にもってるうねうねなんっすか」

「あれだ、こいつでチョコまみれになって『私を食べて☆』大作戦だ」

「導入部とノーヴェの性格がちがぁああああああああああう!!」

「ファンサービスってやつだ」

「そういうのはXXX板の住人に任せておけばいいんっすよよ!!ここじゃどうやっても超えられない壁があるっす!!」

「ぶち壊してみてぇんだ──常識ってやつを」

「壊さないでぇえええええええええええええええ!!」

「反逆のノーヴェ」

「ずいぶんと小さい反逆っすねぇ!?」

「いいじゃねぇか、こんな駄作どうせ誰も見てねぇよ」

「作者のやる気を削がないでぇええええええええええええええええ!!」

………

……



<<新暦0080年2月14日 時空管理局地上本部>>

なんとかまともな形になったチョコレートを箱に入れておいた。
何故かウェンディがすごく疲れていたようだが、気にしない。

チョコレートを大事に抱えてゲンヤを探しに行く。

喜んでくれるだろうか?
おいしいと言ってくれるだろうか?
受け取ってくれるだろうか?

嬉しいような恥ずかしいような不安なようないろんな気持ちで胸がいっぱいになる。
そんな事を考えていたからか、局員と肩がぶつかってしまった。

しまったと思ったときにはも遅かった。

チョコレートを入れた箱は廊下に落ちて、その衝撃で箱の口が開いてしまう。
無残に散らばってしまったチョコレート。

「すま……ないな」

『っチ──ただのテロリストか』

『おい、見ろよ。チョコレートだってよ、いっちょまえに人間の真似事してやんの』

『はっ……もらう奴に同情するぜ』

一時は謝った局員は立ち去りながらツレと念話で陰口を言い合う。

人間の真似事。

思わず自分でも笑ってしまった。

何を浮かれていたのか。

私は人間ではないというのに。

散らばってしまったチョコレートがひどく空虚なものに見えてしまった。
ウェンディと一緒にせっかく作ったのに……。

ごめん、ウェンディ……汚くなっちゃった。

散らばったチョコレートを拾い集める。

ひどく惨めな気分だった。

──ポリっ

「おお、なかなかうめぇじゃねぇか。これノーヴェが作ったのか?」

──は?

顔を向けるとゲンヤが落ちたチョコレートを拾って食べていた。

「何落ちたもの食ってんだよ、汚ねぇ」

「汚くはねぇだろう、多分お前が作って大事そうに抱えていたもんなんだから」

──ポリポリ

「見てたのか」

「あぁ、誰に渡すつもりだったかは知らんが……こうなっちゃもう渡せねぇな」

──ポリポリポリ

「勝手に食ってんじゃねぇ……!!」

「もったいねぇから俺が全部食っておいてやる……だから……そんな悲しい顔して泣くな」

ゲンヤはそういってノーヴェの頭をくしゃくしゃと撫でた。
そんな事が、とても嬉しくて、愛しくて。

こんな世界でも、私にはちゃんと居場所があるんだって思えたんだ。

………

……



<<後書き>>

ついむしゃくしゃしてやった。
後悔もしているし、反省もしている。

推古もしていないから文章もおかしいと思う。
でもまぁ番外編なんでご勘弁を。


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