わたしとユーノくんの仲を応援してくださる紳士の皆さんこんにちは。
高町このは9歳、小学三年生です。さっきお会いしたばかりですが、こんにちは、です。
緊急事態です。わたしとユーノくんの運命の出会いが邪魔されてしまいました。ガッテム。
何者かの陰謀に違いありません。見つけたら即座に処刑してやります。
え?自分のミスだろう?ご、ごほん。まぁ、それはともかく。何か対策を採らないといけません。
のお~。やばいですよ。ピンチですよ。まさか、《シナリオライター‐微小‐》の弊害がここまでとは……。
眼は脳髄に機械的に状況を映していますが、はっきり言ってどうでもいいです。
前で何か講師が喋ってますが、左から右に抜けて頭に入ってきません。
ひたすら脳内で頭抱えています。唸ってます。悶えてます。まさに七転八倒。
「では、問いの1番を……相川さん?」
「はい、答えは12、です」
「正解です。では、同じような問題が後9問ありますので解いてみましょう、時間は10分」
今、授業に割いてる脳のリソースは微々たる物です。
ほぼ条件反射の部類で筋肉を動かし、耳から入る先生の命令を実行しています。
残りの大部分、つまり平常使ってる脳の能力のほぼ全ては今回の失敗に対して使用されています。
過ぎた過去に対する悔恨、非常事態を認める度胸、困難に立ち向かう決意、打開の手段を探す計算。
それらは泥土のように混じりあい、ブイヨンのようにわたしの脳髄でゴトゴト煮えて澄んでいくのです。
「この例題は、先ほどとあまり変わりません。先ほど黒板に示したこの公式を使って……」
落ち着け、落ち着くのよ、高町このは。まだ状況は致命的ではありません。十分取り戻せます……!
とりあえず、授業前に後でユーノくんに会わせてもらう約束はしました。
一手先んじられましたが、これでともあれスタートラインに立てます。
わたしとなのはは一卵性双生児。全く同じ顔が二つ並んだら誰だって興味深いでしょう。
「それではバニングスさん、③番の答えはわかりますか?」
「はい、35です」
ユーノくんだってきっと興味深いはずです!
しかも、なのはに比べて少ないとはいえ私だって魔力あります。
傷つき倒れた自分。助けを求めて駆けつけたのは顔のそっくりな可愛い双子。両方とも魔力持ち。
その一点でだけでもアリサちゃんやすずかちゃんは出し抜けます!
「次は高町さん。ええと、高町なのはさん。問題4の〔2〕番はわかりますか?」
「ふぇ!?[ガタッ]え、えっと……(112ページよ ボソ)えと、24です」
懸念はわが片割れ、高町なのはです。
わたしの策は他の二人には有効ですが、なのはには反って不利です。
同じ顔で、同じような性格(表面上は)。同じ魔力持ち。そしておそらくは魔力光も一緒。
しかし、魔力量はなのはのほうが桁違い。
しかも、呼びかけに気付いたのはなのはの方。
すごい不利です。やばいです、今すぐに差を埋めるだけの策が思いつきません。
あ、なのはからノート回ってきた。
「高町このはさん、〔3〕番はわかりますか?」
「63です」
と、とりあえず、呼びかけに気付いたことにしてなるべく差を縮めないと。
えっと、お母さんに預かれないか相談してみよう?と。カキカキ。
山は今夜のユーノくん救出作戦。なのはに先んじることができれば、まだイーブンなはずです。
でも、ここでユーノくんをフラグ立てると、一期を高町このはが演じることになるのですね……。
その程度のことは別にかまいませんが、問題は魔力量です。
相手はジュエルシードの魔物とそして金の閃光フェイト。
フェイトは言うに及ばず、魔物さえユーノくんを打ちのめしているのです。
超長距離の魔力追跡と遠距離転送の連続使用で疲労していたとはいえ、Aランク魔導師であるユーノくんを。
生前の取り決めから考えると、魔力量においてわたしはユーノくんとどっこいどっこい。
下手したら陸士クラスかもしれません。しかも、錬度においては圧倒的に劣ります。
なのはが一期を勝ち抜けたのはその圧倒的なまでの魔力量が数年の修練を駆逐したからです。
あと、もしかしたら数百年続いた人殺しの血。
翻ってわたしだと……。だめです。最悪神社でワンちゃんにスプラッタです。うう。
御神流?まだ10歳にもなってないのに使えるなんてわたしはなんてKYOUYAですか。
第一習ってません。今からでも父さんに頭下げますか。間に合うわけないですが。
あ、でも、お兄ちゃんやお姉ちゃんならワンちゃんや傀儡兵ごとき十派一からげでズンバラリ?
巻き込んでしまうのも手かもしれません。ふむ。
「時間ですので、今日はここまで。宿題は114ページから118ページまで。それでは」
あ、授業が終わりました。おお、ノートが5ページも進んでる。
「あーっ、かわいい~、えっとね、わたし高町このは。このはって呼んでね」「誰に言っているのよ……」
「でしょー。ペロッて舐めてくれるんだよー。あ、わたしは高町なのはだよ、似てるけど間違えないでね。」
「なのは……あんたまで……」「あ、あはは」
「うわぁいいなぁ、ねね、わたしも舐めて~、きゃっくすぐったい、ふふふ」
「フェレットさん、こっち、こっち。わたしの指も舐めて!」
「ずるいよなのはちゃん、二回はずるい」
「ずるくないもん。わたしが見つけたんだよ、このはちゃん」
以上姉妹の会話である。時々挟まっているのはアリサちゃんとすずかちゃんです。
姦しくてすみません。ここは槇原動物病院です。騒がしくしてはダメです。
後ろで槇原愛先生とアリサちゃん、すずかちゃんが苦笑してます。ユーノくんは目を白黒させてます。
どうでもいいことなのですが、この世界の愛先生は耕一さんと結ばれたのでしょうか?
また未来が狂ったら困るので深入りしませんが、従兄弟とか幼馴染みたいな関係に妙に憧れるのです。
18禁世界だと特に。愛先生は耕一さんの従姉でメインヒロインです。しかも幼馴染です。
朝起こしに来たり、お弁当作ってくれたり、何かとお世話してくれる【あの】幼馴染です。
もしくっついているのなら私的に大明神と崇めるのですが。
あ、そういえばフィアッセお義姉さんも恭也兄さんの幼馴染ですね。大明神の仲間入りです。
朝はやっぱり、きょうやー、おきてー朝だよー♪なんてやってるのでしょうか。
思考ぶっ飛んでますね。目の前に愛しのユーノくんがいるからですね。
ええ。目の前のユーノくんと幼馴染になれるかと思うと涎が止りません。ジュルリ。おっと(苦笑)。
いくら嬉しいからと言って地を出してはだめです。わたしは天真爛漫な高町なのは(現時点)の妹。
何時如何なる時ときでもそれを忘れてはいけません。目標はなのちゃんです。
ふふふ。幼馴染として、ユーノくんを起こすときはお口で優しくして上げましょう。
「槇原先生、この子を治療して頂いてありがとうございます。それと、押しかけてまで騒いですみませんでした」
ひとしきり、ユーノくんを可愛がった後、愛先生にお礼と謝罪をします。
三人はユーノくんの治療の時、丁寧にお礼を言っていました。ユーノくんも見てるし、負けていられません。
愛先生はニコニコ笑いながら
「いえ、いいのよ。この子が助かってよかったわ」
と、寛大なことを言ってくれます。動物好きなんだなぁ、と実感しますね。
よかったねー、そうだねー、なんて四人でわいわい話します。あ、ユーノくんが見てる。
よし、今がチャンスです、まずはなのはとの差を縮める一手を打ちます。
「そういえば、どこでこの子見つけたの?」
ふと、思いついたように言います。
すると、アリサちゃんとすずかちゃんが苦笑いを浮かべながら
「「それは、なのは(ちゃん)が……」」
と、はもってまた苦笑します。それに首をひねって
「?なのはちゃんが?」
と、なのはの方を見ます。えっとね、となのはが首を傾げながら事態を説明してくれました。
曰く、誰かに呼ばれた気がして通学路の脇の山の中に行ってみたらユーノくんが倒れていた、と。
他の人は愛先生も含めて苦笑しっぱなしですし、なのは自身も荒唐無稽な話だと笑っています。
が、わたしの心は歓喜に満ち溢れていました。
よし、でかしたなのは、よくぞ恥ずかしがらずに経緯を説明してくれた!
わたしは努めてマユを寄せ、何か思い当たるような顔をして聞きます
「それって何時くらい?」
「ええっと、帰り道の最中だから……「4時5分前よ」ありがとうアリサちゃん」「……ねえ、その声って『―――たすけて、だれか。だれか、どうか……』みたいな感じ?」
よし、ユーノくんがこっち見た!「ええ!?このはちゃんなんで知ってるの!?」
あのときのセリフは単語自体は少ないんだから、適当に組み合わせてもそれらしくなります。
「かすかにね、聞こえたのよ。そんな感じの声が。切れ切れで、ほんと囁くようなか細いものだったし、周りもそんな声しないってばかりだから頭おかしくなったのかって不安だったのよ」
「このはも聞こえたの?偶然にしてはできすぎてるわね……」「よかった~。わたしだけ?って正直恐かったの~」
ホッとしているなのはの横で、アリサちゃんが腕を組んで首を傾げています。まあ、捏造ですし。
「もしかしたら、この子の生きたいって思いが貴方たちに届いたのかもしれないわね」
ナイス総括ありがとう、愛先生。わたし、先生のためならレアスキル使ってもいい気がする!
先生の意見に上手く乗っていけば、ユーノくんにわたしという存在が刷り込めます!
「えー、じゃあなんであたしやすずかは聞こえないのよ」
「それはあれだよほら!うん、アンテナ!アリサちゃんやすずかちゃんのはワンちゃんやネコさんの声が聞こえるんだよきっと!わたしたちはこの子!」
「あ、そっか~。アリサちゃんちは犬さんがいっぱいいるし、犬さん専用なのかも」
「ふふふ、じゃあわたしのアンテナは猫さん専用、かな?」
その後も雑談に交えて、わたしは対ユーノくん爆撃を敢行しました。
声の持ち主が心配で探し回ったとか、幻聴じゃないかとみんなに心配されて悲しかったとか、
なのはからのメールを読んでこの子だったのかも、と思っただとか。
私の言うことに、いちいちなのはが頷いてくれて効果は倍増です。
アリサちゃんの快活な声とすずかちゃんの鈴を転がすような声がそれに拍車をかけます。
ユーノくんの目をさりげなく確認したところ、感謝の念と申し訳なさが同居していました。
その視線の向く先はもちろんわたしとなのはの双子。
そこに双子に対するロマンチックな思考を持った少女への好意が入っていればいいのですが。
わいわい話したあと、早く体治すんだよー、とユーノくんにこえをかけ、愛先生に挨拶して家路に付きました。
第1次ユーノハート捕獲作戦終了。
眠いのです。寝てはいけないと思うとなおさらに睡魔が襲ってくるのです。
まあ、でも暗闇で目を閉じてるだけでも睡眠と同じ効果はあるらしいですし、今はそれで我慢です。
あのあと、家に帰ったら晩御飯食べてお風呂入って宿題して寝ました。おお、1行で済んだ。
ああ、ごはんおいしかったなあ
晩御飯はフィアッセ義姉さんのお手製でとてもおいしかったです。
デザートのケーキの腕もメキメキ上達しています。もう二代目は確定ですか?
どちらの時間もユーノくんの話で盛り上がりました。
皆、なのはと私が体験した不思議な出来事に興味を持ってくれたようです。
でも、よく見るといろいろと目配せが飛び交ってました。桃子さんまで。
うーん、まあこの家、いやこの街は知る人ぞ知る人外魔境ですからねぇ。
人に変化する化生なんて珍しくもないんでしょう。今そこにくぅくぅ寝てる久遠がいますし。
わたしたち姉妹は一足早く大人の世界に触れてしまった、というところでしょうか?
『――――けて……』!
今のって!
『―――けてくだ――――あなた…』間違いありません!ユーノくんからのラヴ・コールです!
ガチャ、ドタドタッ。
くっ、出遅れました。でも、まだ大丈夫間に合います!
用意しておいた靴を履き、そっと物音立てないように窓から出ます。雨樋を伝って庭に降り立ちます。
ちらっと、玄関からなのはが出て行くのが見えました。こうしちゃおれません。
至急、なのはに追いつこうと玄関を飛び出て、
「このは、今回のことはなのはのやりたいようにやらせてやってくれないか?」
えー。
あとがき
反響が多くて嬉しいです。
書きあがるかどうかわかりませんが、応援していただけたら幸いです。
さて、今回は実はなのはの行動は家族にバレバレだった、というオチ。
そこにこのはという魔法の使える人材を入れることで裏の物語が花開く、ということはありませんのでご容赦を。
また、このはの勘違いを伏線として蒔いてみました。使うかどうかもわかりません。
少しタイトルのレイアウト変えました。