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[6250] 夢はユーノくんのお嫁さん(TS転生オリ主 腹黒) ※お詫びとお知らせ 
Name: VITSFAN◆7f8187e6 ID:a753e2df
Date: 2009/11/06 16:54
どうも、VITSFANと申します。
この作品は私、VITSFANの酔狂の塊です。
自己投影したオリジナル主人公のTS転生ものです。第1話に神様が出てきます。
はい、地雷設定ですね。こんなもん誰が読むんだって感じですが。

ただ、異色を放つ設定があるとは自負できます。

この作品は元男のTSオリ主が

            ユーノ・スクライア

と結婚するために行動する作品です。

はい。
そのほか、各種色々と物語は展開しますが、主人公にとっては瑣末事です。

チラ裏に掲載してたのですが、数名の応援によりこのたびとらハ板に引っ越してきました。
では、次のページからどうぞ。


2/19   第一部「『転生少女ドリームこのは』完結。
3/4   とらハ板移行、外伝1(上)投稿。
4/28   外伝1(下)投稿。
5/27   第二部『許嫁少女ストレートこのは』列伝1投稿。ついでにタイトル変更。
6/21   第二部『許嫁少女ストレートこのは』真・開始。本部第七話投稿。
7/27   第八話投稿。
9/10   口伝ソノ壱投稿。
11/7   言い訳掲載。



[6250] 転生少女ドリームこのは6,504 第一話 ある日びっくり玉手箱?
Name: VITSFAN◆7f8187e6 ID:a753e2df
Date: 2009/03/04 21:27
こんにちは皆さん。わたし高町このは9歳、小学三年生です。はじめまして。
全然普通の小学生ではありません。オリ主です。転生です。ユーノくんの嫁です。




「リリカルなのは」の主人公高町なのはの双子の妹としてこの世界に生を受け早9年(端数切り上げ)。今は桜満開の四月です。もうすぐ一期が始まります。

「プップー」

バスが来ました。




今でも鮮明に思い出せます、9年前のあの日。
連日の寒気を乗り越えて立ち向かった大学の定期試験が終わり、久方ぶりに何の気兼ねもなく
「魔法少女リリカルなのは」の二次創作を漁っていた日のことです。

ユーノくんの登場しているSSに興奮し、何故僕と彼とは性別が一緒なのか、
何故彼の周りにいる女性陣は彼の魅力に気付かないのか、
僕が女性なら登場人物なら絶対そんなことはしないのに、と無意味な嫉妬を繰り広げていたら、
急に胸が痛くなって目の前が真っ暗になりました。

……それが「僕」が今の「わたし」となる転機だったのです。そして……



神様に会いました。

……。

いや、引かないでください。僕だって言いたくないんです。
でも本当なんです。全然威厳のないうそ臭い神様だったけど。
神様の話では、僕は神様の失敗で間違えて死んでしまったらしいのです。酷い話です。
内定決まってたのに。

ちなみに本来の予定は隣の家のオタ友、ニート君(仮)だったそうです。
メタボ体型が祟ったようです。
神様は土下座して謝って下さいまして、お詫びとして別の世界に転生させる、と仰いました。
何処かの小説世界に行ってU-1をやっちゃってもかまわないんだそうで。

生き返るのは無理なのかと伺ったところ、因果系の保存力たる時間力の慣性モーメントを覆すと、
陥穽係数が増大してしまうので被害数が発散してしまうのだそうです。

つまり、僕が生き返ったら大勢の人に迷惑が掛かるわけです。
大学卒業してこれからは研究三昧だと思っていたのに、酷く落ち込みました。
まあ、仕方ありません。色々特殊能力も下さるそうですし。
さらっと水に流して何処か別の世界で人生を楽しませていただきましょう。



さて、ではどうするかと考えたところ、ふとさっきまで読んでいた「リリカルなのは」を思い出しました。
見たところ現代世界と変わらない。魔法なんてものもある。(しかも、科学で解明可能!)
そしてなにより、ユーノくんもいる。

尋ねてみたらTSもオッケーだそうです。決まりです。転生先はユーノくんのお嫁さんです。
あ、でもいきなりお嫁さんに転生することは無理なんだそうです。
魂の入れ替えはある種の人殺しなので、何の罪もない一般人を殺すわけにはいかないんだそうで。
だから、縁を結びたい人物に関係のある人の関係者を作製してそこに入れるんだとか。



神様との協議の結果、「リリカルなのは」の主人公である高町なのはの妹になることに。
自分としてはスクライアの幼馴染というのに心引かれたのです。
が、ほとんどオリ設定になるので「リリカル」世界に来た気がしないだろう?と。

別にどうでもいいのですが。



あと、なのはの妹ということで魔法について特典があるそうで。これは少し考えました。
なのはと一緒に砲撃ドカドカも楽しそうだけど、ユーノきゅんと疎遠になりそうだし。
熟慮してユーノくんとお空のランデヴーができるだけの魔力があれば大魔力は要らない旨を告げると、

「では、代わりにこちらで君の生き方に役立ちそうなレアスキルを1つあげよう」

などと、太っ腹なことを仰いました。
でもレアスキルはスカリエッティに見つかったら実験材料にされかねません。
怖いのでいらないと言うと、

「大丈夫。見つからないように神様ステルスをつけるから」

と。
正直胡散臭いですが、まあいいでしょう。どうせ二回目の人生です。
別に死んだってどうってことないでしょう。
レアスキルは脳に説明書を焼き付けとくから、の声を背景に僕は「リリカル」世界に旅立ちました。





通学バスの窓から外を見ながら、そんなことを思い出してました。
わたしの横にはアリサちゃんにすずかちゃん、そしてわが姉なのはが座ってわいわい話し合ってます。

「どう、このは。あんたは今日のテスト自信ある?」

テストですか。小学三年生で英語があるってなんなんでしょうねー。まあでも、

大丈夫だよ!だてにアリサちゃんやすずかちゃんとスキンシップしてないよ!」(英語)

小学校1年生からの努力が身に付きつつあります。高町姉妹はバイリンガルが目の前です。
言ったなー、このー。と襲い掛かってくるアリサちゃんにきゃあきゃあ言っている間に、
バスは聖祥に入っていきます。

ふと、強い風が吹いて桜並木が揺れました。

「「「「わぁーーー」」」」

皆で窓に張り付いて見事な桜吹雪に歓声をあげました。
窓の外に舞い踊る桜色の嵐を見ながら考えます。
もうすぐ、わたしの運命の人がこの海鳴にやってくる。
世界を吹き飛ばしかねない災厄とともに。

でも、大丈夫。何もしなくても執務官が全部やってくれます。
わたしのやるべきことはユーノくんの保護だけ。
待っててね、ユーノくん♪未来の妻たるこのはが助けてあげますからね。





あ、ちなみにレアスキルは《シナリオライター‐微小‐(駆け出し‐微小‐)》です。なんでしょうね、微小って。




あとがき

処女投稿です。テストが終わって気分がハイになったので、なんか心の赴くまま書いてたらとんでもない物が出来上がりました。
まだまだ妄想が湧き出ています。助けて。




[6250] 転生少女ドリームこのは6,504 第二話 千里の道の1歩目から踏み外す
Name: VITSFAN◆7f8187e6 ID:a753e2df
Date: 2009/03/04 21:25
こんにちは皆さん。高町このは9歳、小学三年生です。数日振りです。
ごく普通の大学生だったわたしに訪れた転機。それから始まった二度目の人生。
この世界で運命が紡がれるまであと少し。





「みなさんは将来何になりたいですか?」

先生が前で言っています。将来の夢だそうです。そんなの決まっています。

ユーノくんのお嫁さん

目標は家にいる両親、及び兄夫婦です。
毎日バカップルも真っ青ないちゃいちゃを繰り広げています。
正直言って羨ましいです。

端から見ている分には面白いので、兄夫婦(特にきょーちゃん)を思いっきりからかったり、
美由希お姉ちゃんをそそのかして突撃させて、ビデオ撮ってます。青春の1ページです。
端から見ると、兄夫婦は混沌の渦です。ハーレムです。もうなってるかもしれませんが。

みんななかよしさんだね、となのはは疎外感を感じているようです。
でもこのは、あのバカップルたちをそんな一言で済ませられる同い年の姉に戦慄を禁じえません。

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。

授業が終わりました。お昼休みです。
いつも通り、なのはたちがお弁当に誘ってくれます。

「このはちゃん、お弁当食べよ」

すずかちゃんの声は名前のとおり鈴みたいで耳に心地よいです。
今日は日差しが気持ちいいから屋上行くわよっ、とアリサちゃんが宣言してます。でも、今日は無理なのです。お仕事があるのです。

「ごめんね、アリサちゃん、すずかちゃん、なのはちゃん。今日は図書委員の仕事があるからっ」

親友たちに謝って準備を整えると、
べつにいいよーこのはちゃん、というなのはの声をバックに駆け出します。
手にはお弁当と暇つぶしの本(題名「男が悦ぶ50の方法」ブックカバー付)。

本は昼休みや放課後の図書委員の必須装備です。図書室に着きました。
今日も本を借りに来る人たちに対して司書の真似事です。



昼休みも半ばまで過ぎました。
本のページをめくる手を休め、屋上に思いを馳せます。
上手くいったら今頃は原作通り、なのはが自分の将来について悩んでるころでしょうか。

今朝、なのはは誰かから呼ばれた気がするって言ってました。
すでに第1話が始まっていると見ていいでしょう。
つまり、今日がわたしとユーノくんの出会いの日♪

しかし、たかが小3でそこまで将来について悩む必要なんてあるんでしょうか。
まだまだ義務教育の時間は長いんだし、ゆっくり決めればいいんじゃないかと思うんだけど。
まあ、そう追い込んだ一人が言ってもしょうがないですが。

でも、心なしかなのは、原作よりも焦ってるかもしれません。
まずいですねぇ、なのはの焦りによっては原作と違う展開になってしまうかもしれません。

というか、すでに洒落にならないぐらい原作からずれてしまっています。
これ以上ずれてしまうとユーノくんとの明るい未来に重大な傷が入る可能性が。
というか、ユーノくんとの出会い自体がなくなってしまうやもしれません。

そんなことになったら本気でこの世界に来た意味ないので必死ですよ。
姉を孤独に追い込むことぐらい、ちょっとした温情で勘弁してもらいたいです。はぁ。

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。

お昼休みが終わりました。閉館を告げてまだ居座ってる人を追い出します。
まだ読みたいなら放課後に来るか借りてください、と告げて教室の戸締まりします。
さて、昼からも退屈な授業、頑張りますか。

……。
あ、なのはが原作より焦ってるのって、わたしや義姉さんがいるから翠屋の跡継ぎさえ、
自分である必要がないって思ってるからじゃ……(汗)




放課後も残って図書委員やってます、高町このはです。読んでいる本は『宝島』です。
なのはたちとは後の塾で合流するのですよ。
ユーノくんを拾うのは塾の後だから、そのときに一緒にいればいいのです。
そのときまではなのはに将来について悩んでもらっとかないと。

しかし、なんでまたこうめんどくさいことになったんだか。いや、わたしのせいなのですが。
最初の間違いはレアスキル《シナリオライター(微小)》試してみようと思ったことだったのです。
次の間違いは原作でのなのはの孤独、これを取り除いてやろうと思ったことです。

……結果は散々でした。いえ、成功はしたのですが、成功しすぎてしまったといいますか……

端的に言います。
今、わたしには美由希お姉ちゃんとなのはの他にもう一人お義姉ちゃんがいます。
フィアッセ=クリステラお義姉ちゃんです。


はぁ。
《シナリオライター‐微小‐(駆け出し‐微小‐)》は基本、現実をちょっとだけ書き換える能力です。
これは、現実の事象を術者が思い描く理想の事象に書き換えることさえできてしまう
超強力なレアスキル《ストーリテラー(腕のいい脚本家)》または《スクリプトワーカ(U―1)》、
両方の下位互換なんだそうです。まぁ、どうでもいいことですね。

スキルを使ってフィアッセさんとスキンシップを取ったところ、わが兄恭也のラブコメスキルが発動。
胸、揉みやがりました。さすがエロゲ主人公。
結果、フラグが立ち、今高町家は光の歌姫と同棲しとります。

ごめんなさい忍さん。ごめんなさいお姉ちゃん。このははいらんことをしてしまいました。
どうやら、わたしの無意識に男だったころの

「何故フィアッセルートじゃないんじゃあ!」

という心の叫びが残ってたらしく、フィアッセさんの胸を揉むうちにポロッと出てしまった。
というのが真相みたいです。

あ、そろそろ時間です。塾に行かないと。もう1人の当番の子に謝って帰ります。
お疲れー、と声をかけてくれる優しい友人に手を振って。
いざ行かん、運命の地へ!

このはー、メールが届いたよー♪

メールの着信音はフィアッセさんです。あ、なのはからだ。ピッと。








「三人でフェレットさんを拾ったよ!怪我してたみたいだから病院に連れてっ行ったら
ペロッて舐めてくれて可愛いの!名前何がいいかなー。このはちゃんも考えてね♪」




なん……だと……?

あとがき
このは痛恨の覚え間違い。下手に原作を弄った罰が当たりました。
ちゃんと塾で誰が預かるか相談してるのにねー。




[6250] 転生少女ドリームこのは6,504 第三話 高町このはの脳内葛藤
Name: VITSFAN◆7f8187e6 ID:a753e2df
Date: 2009/03/04 21:24
わたしとユーノくんの仲を応援してくださる紳士の皆さんこんにちは。
高町このは9歳、小学三年生です。さっきお会いしたばかりですが、こんにちは、です。
緊急事態です。わたしとユーノくんの運命の出会いが邪魔されてしまいました。ガッテム。
何者かの陰謀に違いありません。見つけたら即座に処刑してやります。
え?自分のミスだろう?ご、ごほん。まぁ、それはともかく。何か対策を採らないといけません。




のお~。やばいですよ。ピンチですよ。まさか、《シナリオライター‐微小‐》の弊害がここまでとは……。
眼は脳髄に機械的に状況を映していますが、はっきり言ってどうでもいいです。
前で何か講師が喋ってますが、左から右に抜けて頭に入ってきません。
ひたすら脳内で頭抱えています。唸ってます。悶えてます。まさに七転八倒。

「では、問いの1番を……相川さん?」
「はい、答えは12、です」
「正解です。では、同じような問題が後9問ありますので解いてみましょう、時間は10分」

今、授業に割いてる脳のリソースは微々たる物です。
ほぼ条件反射の部類で筋肉を動かし、耳から入る先生の命令を実行しています。
残りの大部分、つまり平常使ってる脳の能力のほぼ全ては今回の失敗に対して使用されています。

過ぎた過去に対する悔恨、非常事態を認める度胸、困難に立ち向かう決意、打開の手段を探す計算。
それらは泥土のように混じりあい、ブイヨンのようにわたしの脳髄でゴトゴト煮えて澄んでいくのです。

「この例題は、先ほどとあまり変わりません。先ほど黒板に示したこの公式を使って……」

落ち着け、落ち着くのよ、高町このは。まだ状況は致命的ではありません。十分取り戻せます……!
とりあえず、授業前に後でユーノくんに会わせてもらう約束はしました。
一手先んじられましたが、これでともあれスタートラインに立てます。
わたしとなのはは一卵性双生児。全く同じ顔が二つ並んだら誰だって興味深いでしょう。

「それではバニングスさん、③番の答えはわかりますか?」
「はい、35です」

ユーノくんだってきっと興味深いはずです!
しかも、なのはに比べて少ないとはいえ私だって魔力あります。
傷つき倒れた自分。助けを求めて駆けつけたのは顔のそっくりな可愛い双子。両方とも魔力持ち。
その一点でだけでもアリサちゃんやすずかちゃんは出し抜けます!

「次は高町さん。ええと、高町なのはさん。問題4の〔2〕番はわかりますか?」
「ふぇ!?[ガタッ]え、えっと……(112ページよ ボソ)えと、24です」

懸念はわが片割れ、高町なのはです。

わたしの策は他の二人には有効ですが、なのはには反って不利です。
同じ顔で、同じような性格(表面上は)。同じ魔力持ち。そしておそらくは魔力光も一緒。

しかし、魔力量はなのはのほうが桁違い。
しかも、呼びかけに気付いたのはなのはの方。
すごい不利です。やばいです、今すぐに差を埋めるだけの策が思いつきません。
あ、なのはからノート回ってきた。

「高町このはさん、〔3〕番はわかりますか?」
「63です」

と、とりあえず、呼びかけに気付いたことにしてなるべく差を縮めないと。
えっと、お母さんに預かれないか相談してみよう?と。カキカキ。
山は今夜のユーノくん救出作戦。なのはに先んじることができれば、まだイーブンなはずです。

でも、ここでユーノくんをフラグ立てると、一期を高町このはが演じることになるのですね……。
その程度のことは別にかまいませんが、問題は魔力量です。

相手はジュエルシードの魔物とそして金の閃光フェイト。
フェイトは言うに及ばず、魔物さえユーノくんを打ちのめしているのです。
超長距離の魔力追跡と遠距離転送の連続使用で疲労していたとはいえ、Aランク魔導師であるユーノくんを。

生前の取り決めから考えると、魔力量においてわたしはユーノくんとどっこいどっこい。
下手したら陸士クラスかもしれません。しかも、錬度においては圧倒的に劣ります。
なのはが一期を勝ち抜けたのはその圧倒的なまでの魔力量が数年の修練を駆逐したからです。

あと、もしかしたら数百年続いた人殺しの血。
翻ってわたしだと……。だめです。最悪神社でワンちゃんにスプラッタです。うう。
御神流?まだ10歳にもなってないのに使えるなんてわたしはなんてKYOUYAですか。
第一習ってません。今からでも父さんに頭下げますか。間に合うわけないですが。

あ、でも、お兄ちゃんやお姉ちゃんならワンちゃんや傀儡兵ごとき十派一からげでズンバラリ?
巻き込んでしまうのも手かもしれません。ふむ。

「時間ですので、今日はここまで。宿題は114ページから118ページまで。それでは」

あ、授業が終わりました。おお、ノートが5ページも進んでる。




「あーっ、かわいい~、えっとね、わたし高町このは。このはって呼んでね」「誰に言っているのよ……」
「でしょー。ペロッて舐めてくれるんだよー。あ、わたしは高町なのはだよ、似てるけど間違えないでね。」
「なのは……あんたまで……」「あ、あはは」

「うわぁいいなぁ、ねね、わたしも舐めて~、きゃっくすぐったい、ふふふ」
「フェレットさん、こっち、こっち。わたしの指も舐めて!」
「ずるいよなのはちゃん、二回はずるい」
「ずるくないもん。わたしが見つけたんだよ、このはちゃん」

以上姉妹の会話である。時々挟まっているのはアリサちゃんとすずかちゃんです。
姦しくてすみません。ここは槇原動物病院です。騒がしくしてはダメです。
後ろで槇原愛先生とアリサちゃん、すずかちゃんが苦笑してます。ユーノくんは目を白黒させてます。

どうでもいいことなのですが、この世界の愛先生は耕一さんと結ばれたのでしょうか?
また未来が狂ったら困るので深入りしませんが、従兄弟とか幼馴染みたいな関係に妙に憧れるのです。
18禁世界だと特に。愛先生は耕一さんの従姉でメインヒロインです。しかも幼馴染です。

朝起こしに来たり、お弁当作ってくれたり、何かとお世話してくれる【あの】幼馴染です。
もしくっついているのなら私的に大明神と崇めるのですが。

あ、そういえばフィアッセお義姉さんも恭也兄さんの幼馴染ですね。大明神の仲間入りです。
朝はやっぱり、きょうやー、おきてー朝だよー♪なんてやってるのでしょうか。

思考ぶっ飛んでますね。目の前に愛しのユーノくんがいるからですね。
ええ。目の前のユーノくんと幼馴染になれるかと思うと涎が止りません。ジュルリ。おっと(苦笑)。

いくら嬉しいからと言って地を出してはだめです。わたしは天真爛漫な高町なのは(現時点)の妹。
何時如何なる時ときでもそれを忘れてはいけません。目標はなのちゃんです。
ふふふ。幼馴染として、ユーノくんを起こすときはお口で優しくして上げましょう。

「槇原先生、この子を治療して頂いてありがとうございます。それと、押しかけてまで騒いですみませんでした」

ひとしきり、ユーノくんを可愛がった後、愛先生にお礼と謝罪をします。
三人はユーノくんの治療の時、丁寧にお礼を言っていました。ユーノくんも見てるし、負けていられません。
愛先生はニコニコ笑いながら

「いえ、いいのよ。この子が助かってよかったわ」

と、寛大なことを言ってくれます。動物好きなんだなぁ、と実感しますね。
よかったねー、そうだねー、なんて四人でわいわい話します。あ、ユーノくんが見てる。
よし、今がチャンスです、まずはなのはとの差を縮める一手を打ちます。

「そういえば、どこでこの子見つけたの?」

ふと、思いついたように言います。
すると、アリサちゃんとすずかちゃんが苦笑いを浮かべながら

「「それは、なのは(ちゃん)が……」」

と、はもってまた苦笑します。それに首をひねって

「?なのはちゃんが?」

と、なのはの方を見ます。えっとね、となのはが首を傾げながら事態を説明してくれました。
曰く、誰かに呼ばれた気がして通学路の脇の山の中に行ってみたらユーノくんが倒れていた、と。
他の人は愛先生も含めて苦笑しっぱなしですし、なのは自身も荒唐無稽な話だと笑っています。
が、わたしの心は歓喜に満ち溢れていました。

よし、でかしたなのは、よくぞ恥ずかしがらずに経緯を説明してくれた!
わたしは努めてマユを寄せ、何か思い当たるような顔をして聞きます

「それって何時くらい?」
「ええっと、帰り道の最中だから……「4時5分前よ」ありがとうアリサちゃん」「……ねえ、その声って『―――たすけて、だれか。だれか、どうか……』みたいな感じ?」
よし、ユーノくんがこっち見た!「ええ!?このはちゃんなんで知ってるの!?」

あのときのセリフは単語自体は少ないんだから、適当に組み合わせてもそれらしくなります。

「かすかにね、聞こえたのよ。そんな感じの声が。切れ切れで、ほんと囁くようなか細いものだったし、周りもそんな声しないってばかりだから頭おかしくなったのかって不安だったのよ」
「このはも聞こえたの?偶然にしてはできすぎてるわね……」「よかった~。わたしだけ?って正直恐かったの~」

ホッとしているなのはの横で、アリサちゃんが腕を組んで首を傾げています。まあ、捏造ですし。

「もしかしたら、この子の生きたいって思いが貴方たちに届いたのかもしれないわね」

ナイス総括ありがとう、愛先生。わたし、先生のためならレアスキル使ってもいい気がする!
先生の意見に上手く乗っていけば、ユーノくんにわたしという存在が刷り込めます!

「えー、じゃあなんであたしやすずかは聞こえないのよ」
「それはあれだよほら!うん、アンテナ!アリサちゃんやすずかちゃんのはワンちゃんやネコさんの声が聞こえるんだよきっと!わたしたちはこの子!」
「あ、そっか~。アリサちゃんちは犬さんがいっぱいいるし、犬さん専用なのかも」
「ふふふ、じゃあわたしのアンテナは猫さん専用、かな?」

その後も雑談に交えて、わたしは対ユーノくん爆撃を敢行しました。
声の持ち主が心配で探し回ったとか、幻聴じゃないかとみんなに心配されて悲しかったとか、
なのはからのメールを読んでこの子だったのかも、と思っただとか。

私の言うことに、いちいちなのはが頷いてくれて効果は倍増です。
アリサちゃんの快活な声とすずかちゃんの鈴を転がすような声がそれに拍車をかけます。
ユーノくんの目をさりげなく確認したところ、感謝の念と申し訳なさが同居していました。

その視線の向く先はもちろんわたしとなのはの双子。
そこに双子に対するロマンチックな思考を持った少女への好意が入っていればいいのですが。

わいわい話したあと、早く体治すんだよー、とユーノくんにこえをかけ、愛先生に挨拶して家路に付きました。
第1次ユーノハート捕獲作戦終了。




眠いのです。寝てはいけないと思うとなおさらに睡魔が襲ってくるのです。
まあ、でも暗闇で目を閉じてるだけでも睡眠と同じ効果はあるらしいですし、今はそれで我慢です。
あのあと、家に帰ったら晩御飯食べてお風呂入って宿題して寝ました。おお、1行で済んだ。

ああ、ごはんおいしかったなあ
晩御飯はフィアッセ義姉さんのお手製でとてもおいしかったです。
デザートのケーキの腕もメキメキ上達しています。もう二代目は確定ですか?

どちらの時間もユーノくんの話で盛り上がりました。
皆、なのはと私が体験した不思議な出来事に興味を持ってくれたようです。
でも、よく見るといろいろと目配せが飛び交ってました。桃子さんまで。

うーん、まあこの家、いやこの街は知る人ぞ知る人外魔境ですからねぇ。
人に変化する化生なんて珍しくもないんでしょう。今そこにくぅくぅ寝てる久遠がいますし。
わたしたち姉妹は一足早く大人の世界に触れてしまった、というところでしょうか?

『――――けて……』

今のって!

『―――けてくだ――――あなた…』間違いありません!ユーノくんからのラヴ・コールです!

ガチャ、ドタドタッ。

くっ、出遅れました。でも、まだ大丈夫間に合います!
用意しておいた靴を履き、そっと物音立てないように窓から出ます。雨樋を伝って庭に降り立ちます。
ちらっと、玄関からなのはが出て行くのが見えました。こうしちゃおれません。
至急、なのはに追いつこうと玄関を飛び出て、

「このは、今回のことはなのはのやりたいようにやらせてやってくれないか?」

えー。



あとがき
反響が多くて嬉しいです。
書きあがるかどうかわかりませんが、応援していただけたら幸いです。
さて、今回は実はなのはの行動は家族にバレバレだった、というオチ。
そこにこのはという魔法の使える人材を入れることで裏の物語が花開く、ということはありませんのでご容赦を。
また、このはの勘違いを伏線として蒔いてみました。使うかどうかもわかりません。
少しタイトルのレイアウト変えました。




[6250] 転生少女ドリームこのは6,504 第四話 風雲!高町式子育て会議
Name: VITSFAN◆7f8187e6 ID:a753e2df
Date: 2009/03/04 21:22
わたしとユーノくんの仲を応援してくださる淑女の皆さんこんにちは。
高町このは9歳、小学三年生です。さっきのことは覚えてますか?
はい、またしても不測の事態です。というか、原作でなのはの行動が筒抜けかも?なんて考えますか?
Shit!ほんと誰なんだ黒幕は。絶対、<世界最高の探偵 L>ぐらいいやらしい奴に違いない。








今、なんとか父さんを説得して迎えに行くだけ、と言って出てきました。
いろいろとなにやら言いつけられました。どうやら何か悪巧みに巻き込まれそうです。
そんなことを考えながら必死で槇原動物病院に走りましたが、現実は無常でした。
ああ、やっぱり間に合いませんでした。毒々しい(八つ当たりの主観)ピンクの光線が吹き上げています。
ああもう、こうなったらほんとに「迎えに行って色々事情を聞く」という形で無理やり割り込もう。

あ、それとユーノくんにシャワーをしてあげよう。逃げ回って汚れてるだろうし。
出遅れた以上、細かなところで点数を稼がないと。
それに私も念話聞こえてるんだから、もしかしたら原作に参加できるかもしれません。
いえ、別に参加したいわけでなくて。
なのはがユーノくんと話してるのに、私が話せないのははっきり言って我慢なりません。それだけです。
あ、来ました。ユーノくん(とおまけのなのは)です。一寸濡れてます、大丈夫でしょうか?

「なのはちゃん、どうしたのっ!?」

なんとか心配そうな顔を作り、今追いついた、という態と取って飛び掛るような勢いで尋ねます。
なのははとても驚いたようで、わっ、と固まってその後おずおずと、

「こ、このはちゃん!?あ、あのね。そ『あのっ!できたらさっきのことは内緒にして欲しいんです!』ふぇ?」ハイ?

「あ、あのね。えっとね。そのね。う~んと?あ、あうう……」

目の前でなのはがわたわたしてますが、表情を取り繕うのに精一杯で何も考えられません。
イ、イマナンテイッタノデスカユーノクン。ワタシハイラナイコデスカ?ユーノクンハナノハヲエラブンデスカ?
い、イや、落ち着けわたし。キ、きっとワたしを巻き込みたくないってイうユーノくんの気遣いに違いありませン。
ポジティブシンキング、ポジティブシンキングですワタシ。素数を数えて落ち着くんです。
1,2,4,5,7,8,11,13,17……。ふう。たヅん、もう大丈夫です。

「こ、このはちゃんはなんで?」

そこへなのはが聞いてきました。逆に尋ね返してうやむやにしてしまおうという腹でしょう。


「わたし?わたしは夕方の声がまた聞こえたから、またあの子が危ないのかな?と思って。……もしかしてなのはも?」

私は優しいので乗ってあげます。ついでに助け舟も出してあげます。ホラ、ユーノクン、ワタシhaヤサシイデショウ?

「う、うん!そうなの!すごく必死な声だったから不安になってね、そしたらねバーンてね、か、壁が……」

「……へぇ、そうなんだ。何か大変だったんだねぇ。……とりあえず、その子連れて帰りましょう?」

「う、うん。」

助かったとばかりに話に乗り、勢いでダメと言われたことまで喋っちゃいそうななのはの話を止めて帰ろうと促します。
あ、そうだ。

「なのはちゃん、その子にこれ。その子濡れてるし、包んであげたら暖かいかなって」

羽織ってきたケープを脱いでなのはに話しかけて、わたしの匂いが充分についている布でユーノくんを包みます。
ふふ、腕の中のユーノ君の感触が心地いいです。見上げてくる瞳がキュートです。
まだ4月で寒い日もあるから、とケープを出したままにしておいてよかったです。
ユーノくんを包んだ後、なのはに抱き抱えてさせ、手をつないで一緒に歩き出します。

月明かりに照らし出される道はそれほど寒くはなくて、繋いだ手が体をぽかぽかにしてくれました。
でも、なのははうつむき加減で、わたしたちは家に着くまで無言でした。ユーノくん撫でてましたけど。悔しいのでわたしも2回に1回は手を伸ばしてました。

家に帰ると、父さんは待ってませんでした。そして、家の中は静まり返っています。
どうやら、寝た振りしてなのはをやり過ごす魂胆みたいです。なんでそこまで徹底するんでしょう?
そしてなぜわたしはなのはの側じゃないんでしょう?まあ、あとで訊けばいいですか。
つらつらと取りとめもなく考えながら、家に入りました。音を立てないようにそっとです。

で、なのはを誘ってお風呂場に直行し、二人掛りでユーノ君の体の隅々までシャワーで洗ってあげました。
え?何故二人掛りかって?だって、わたし1人でシャワーは少し露骨に過ぎる、そう思ったんですよ。
今ユーノくんを独占しようとすると、なのはからユーノくんを奪おうとしてる、そう勘繰られるのではないかと思ったのです。

悔しいことですが、ユーノくんを、見つけたのも、助けに来たのも、このはではなくなのはです。
おそらくユーノくんの関心は、わたしではなくなのはの方に向いてるはずです。
そこに、【なのはに対抗心剥き出しの】このはが登場するのはよくありません。
ここは、なのはに遠慮しつつも、ユーノくんを諦めきれない【先を越された】双子の妹がいるべきなのです。

だからこそ、帰り道でユーノくんを気遣いつつもなのはに抱かせ、時折手を伸ばすだけで我慢したのです。
お風呂もそうです。なのはにシャワーを持たせ、主導権を握らせます。
先を越された哀れな妹は、寂しそうにサポートに徹します。でも、専用の石鹸は買ってないのでどっちにしろ手で揉むだけですが。

……シャワーの後はもう寝るみたいです。なのははユーノくんを抱えて二階に上がります。
わたしはケープ片手にそれを後ろから付いていきます。

「じゃあ、お休み。」

「うん、お休み。」

なのはは部屋に入っていきますが、わたしは部屋に入る振りをするだけです。
なのはの部屋の前でじっと聞き耳立てます。
父さんへの報告は、なのはが寝入るまで待たなくてはなりません。

「あの……、なんでこのはちゃんには話しちゃダメなんですか?このはちゃんにも呼びかけが届いたんですよね?」

おや、すぐ寝るわけではないようです。しかも、これは……。少し続きが聞きたいような、聞きたくないような……。

『……彼女は貴方に比べて魔力量が少ないんです。僕よりも少ないと思います。』

 これは……。

『だから……、彼女がこの件に関わることになったら……おそらくは僕みたいに倒れてしまいます』

『ほんとは、貴方を巻き込むのも申し訳ないんですが……。本当は僕1人でやらなくちゃいけないのに……』

『厚かましいお願いですが、どうかお願いします!協力してください!ジュエルシードが暴走したらこの街が、下手をしたらこの世界が危ないんです!』

「あの、ひとついいですか?」

『なんですか?』

「あの変なのを倒さないと、この海鳴が、もしかしたら世界が危ないかもしれないんですよね?」

『はい』

「それで、それをなんとかできるのは、わたしとこのはちゃんしかいないんですね?」

『はい、呼びかけが聞こえたのは貴方たちぐらいで……。魔力がないと呼びかけも聞こえませんし、ジュエルシードを何とかすることもできません』

「それで、このはちゃんは……、ええと、魔力?魔力が少ないから力不足ってことなんですね?」

『……はい、たぶん僕と同じように負けてしまうと思います。ただ、いたずらに怪我人を増やすよりは、と……』

「わたししかいないんですね……」

『……すいません!貴方方の平穏な生活を乱してしまって、どうお詫びしていいか……。運搬船から当局に連絡が行ったはずですので、その間の時間稼ぎでいいんです!お願いします!』

「……」

『スクライアからも局に連絡が行ってますので、危険なことは最小限で済むはずです!どうか!』

「わかりました!不肖高町なのは、事態の解決に一役買わせて頂きます!」

『ありがとうございます!御礼はいくらでもします!』



……。

もう、ユーノくんったらっ♪

もう、てっきりなのはを選んでわたしを捨てたのかと思ったじゃないですか。実際は逆だったんですね。
わたしを気にかけるからこそ危険から遠ざけようと。ああん、もうユーノくんたら紳士さんなんだから♪
そんなに気遣わなくたって、この身は全てユーノくんのものなんだからボロ雑巾になるまで使い倒してくれたっていいのに。

至福の余り、自然と両手が蕩け落ちそうな頬を押さえます。ユーノくんの生の気遣いがうれしくて、腰を起点に体が自立的に波を打ちます
今、誰かがわたしを見たらさぞ不気味に思うかもしれません。でも、そんなの気になりません。
あ、ケープからユーノくんの匂いがする♪

「あれ?そういえば、喋らないんですね?さっきは喋ってたのに」

『あ、はい。一応用心のために。家の方には悪いですが、聞き覚えのない声が聞こえると不審に思われるでしょうから』

「はぁ、そうですか。じゃあ、わたしも貴方が使ってるの、覚えた方がいいですか?」

『そうですね。やはりジュエルシードがらみのことは念話で行った方がいいかもしれません。明日にでもお教えします』

「念話っていうんですか。よろしくお願いします。あ、わたし夕方にも言いましたけど高町なのは9歳、小学三年生です」

『こちらこそお願いします。あ、名前はユーノ・スクライアと言います。考古学者です。年齢は9歳なので同い年ですね』

「あ、はい♪これからよろしくね、ユーノくん♪」

『こちらこそ、なのは』

「……」

『……』

……。
……。
……眠った、かな。

じゃあ、階下に行って父さんに報告しますか。出かける前に言ってたのは確か、書斎をノックで2、2、3、でしたっけ。
はぁ、しかし、念話の盗聴ができるとは……。どうやら、わたしとなのははリンカーコアの波長まで同じようですね。
まあ、今は色々役立つのでいいのですが、そのうちユーノくんに教えてあげなきゃいけません。





合図を送ると、父さんが出てきました。そして、夫婦の寝室に案内されました。
不審に思いながらもお邪魔すると、なんと、今高町家にいるなのは以外のすべての人がそこにいました。
つまり、今仕事などで家にいないうちの家族を除いて高町家全員集合なのです。

具体的には父さん、母さん、兄さん、姉さん、フィアッセ義姉さん、晶ちゃんにレンちゃんです。
那美さんと忍さんは家の仕事でいません。久遠はいます。今日は事情を聞くだけなので久遠は留守番です。
ってちがう!何で全員集合してますか!というか、レンちゃんは今日から検査入院じゃなかったんですか!

「いやー、一応登録はしてんけどな、なのはちゃんが心配で戻ってきてもうてんー」

ああ、さいですか。しかし、ここまでバレバレだったとは。
父さんの玄関待機、レンちゃんの病院からのUターンを考えると、なのはの出て行く音で気付いたわけじゃ……。
あの目配せか!
信じられません。あの一瞬でそこまでのアイコンタクト。この人たちには掛川高校サッカー部も真っ青です。

「それで、このは。何があったか教えてくれないか?」

いきなり、本題に入りますか兄さん。わたしはまだこの会議の趣旨を把握してないんですが。

「あの……、その前になんでなのはちゃんは行ってよくて、わたしはダメだったんですか……?」

「そうだな、まずはそこから説明すべきだろうな。必死なこのはを呼び止めたのは私たちなんだし」

父さんが腕を組んで言います。そして、少し考えるように一旦目を瞑ってから、徐に話し始めました。

「……このは、なのはがよく、―例えば朝食のときなんだが―寂しそうにしているのに気付いているかい?」

……そっちこそ気付いてたんですか。

「……あれは、なのはが私達や、恭也達の雰囲気になじめていないからだと思うの」

的確な分析です、おかーさん。
わかっていたなら手を打って下さい。

そんな私の心情に答えるように、兄夫婦が声を発します。あ、マユがよって困ったようなフィアッセ義姉さんの顔、可愛い。

「最近では、声をかけても遠慮が先立つようなんだ……」

「……家族なんだから遠慮しなくていいのに……」

いやいや。家族云々の前に、あの雰囲気に割って入るのは勇気要りますよ?兄さん、義姉さん。

「でも、今私達がそういう雰囲気を止めることはできないのよね。もし止めたら……」

「なのはは気付くだろうな。あの子は聡い。悟るだけなら別にいいんだが……」

父さん、母さんはどうにかなのはを輪に引き入れようと画策したことがあるみたいですね。
口ぶりからすると、モーションの段階で弾かれてしまったようですが。

「問題は、俺らの態度が変わったのがなのはちゃんにどう影響するか、と言うことですよね」

「最悪、うちらに気使わせたって自分を追い込んでまうかもしれへんですし」

「それだけならまだいいよ……。今のなのははまだ、自分の思いを完全に自覚してない。一番悪いのはなのはが自分の思いを自覚しちゃうことだよ……」

「……その思い自体が間違いなんだけどな」

高町家の皆がどんどん発言していきます。
……なのはは、自分がこれだけ愛されていることに気が付いてるんでしょうか。
……気付いてないんでしょうね。だからこそ、孤独感からの焦りがあるんでしょうが。
まあ、9歳児に大人の気遣いを解れなんて無茶な話です。でも、そんな高町家の懸念も今回のことで解消する……。
原作で、ほとんど放任と言われるような背景はここにあったのですか。なるほど……。

あれ?一寸待ってください。今の話では弾かれてるのがなのはだけでなくわたしもになりませんか?
なぜにわたしは心配ないと?ノー天気に気にしてないでハーレムにちょっかい懸けてたから除外、とかじゃありませんよね?

「ハーレム……」orz

「あははー、恭也、やっぱりそう見えるんだよー。私はいいから月村さんにお願いして、中東あたりの戸籍貰おう?」

「い、いや。お、俺は一途だ、一途なはずなんだ……」

兄さんが自分の行状に膝を付いてますが、自業自得(ウソ)なのでほっときます。
まあ、面白半分に焚き付けてたのは私なんですが。
すると、ハーレムの構成員の姉さんたちが話し始めました。

「そう、それ(ハーレム)なんだよね」

「て、いうか、うちらが焦ってもうたんが原因やねんよ、このはちゃん」

「なんか熱病に浮かされたみたいに師匠に猛烈にアタックしてしまったんだ」

「……あのとき、フィアッセときょーちゃんがくっつきかけて、みんな焦ったのかもね。わたし達の誰もなのはをよく見てなかった」

「いまじゃ、俺らがなのはちゃんにかまうのも師匠のついでって思われてる節ないか?カメ」

「カメ言うな、おさる。やけど、今のなのはちゃんやと、下手したらお師匠の歓心引くための胡麻すりや思われとるかもしれん」

いや、そこまでは。まあ最悪を語ってるだけですし、姉さんたちの手が届かないのは理解できましたけど。
それがどうと言われても……。今のなのはとわたしが外側である現状の再確認でしか……。いや、あのとき?
あっ!?

「そのハーレムのせいでなのはがこのはとも違うって考えるようになったかもしれないのよねー」

母さん、兄さんに容赦の欠片もないですね。ハーレムを完全にスルーとは。
しかし、これはもしかして原作に近づけようとした努力が裏目に出ましたか……?
いやでも原作からずれ過ぎて、リンディさんが来たりしたら目も当てられませんし……。

「このは、士郎が入院したときのこと覚えてる?あのとき、わたしが恭也や美由希、このはたちに謝りに来たときのこと」

「うん、お兄ちゃんがフィアッセお義姉ちゃんの胸を揉んだときのことだよね」

「……」orz

「……(赤面)」

あ、しまった。義姉さんのシリアスなセリフに何も思わず、あの時最も印象に残ったことを答えてしまいました。
義姉さんが落ちてしまって、これでは話が進みません。

「私はあの時、士郎さんのお世話でいなかったけど、事情は聞いてるわ。なのはが怒ろうとしたけど、このはが止めたって」

……まあ、間違ってません。うやむやにしたが正しいですが。

……なのはのこの激発は、原作において深刻な影響を多方面に与えます。最も影響を受けたのが他ならぬなのはです。
なのはの人生観は、ゲームとアニメでは全く変わっています。
たった一時の激情。それでその後の人生が180度変わってしまうのはどうなのか。なのはにとっていいことなのか。そう思いました。
せめて先延ばしに。どちらの人生を歩むにせよ、自分で選べるように。
私が原作改変に手を伸ばした理由です。

しかし、結果は思ったより最悪の目を出していたようです。
自分は、なのはが怒る前にうやむやにするつもりで、実際上手くうやむやにできたんです。
でも、結果が今の兄さんの惨状で、なのはの心境なんですが。
間違いない、たぶんなのはは……。

「このはがフィアッセを許したことが、なのはの心の負担となっている。俺たちはそう思っている」

「あれが原因でフィアッセときょーちゃんの中が急接近。わたしたちは焦って、きょーちゃんの周りは一気に騒がしくなった」

「うがった見方をすれば、フィアッセは許されて再び高町家の一員となった。美由希達高町家の一員が、恭也とフェアッセの周りに集まるのは、そのことに賛同しているから。そんな風にも見えるんだ」

「それはあの時、【許さなかった】なのはの孤立を意味するわ」

次々に考察されていくなのはの心境。ほぼ、間違いないだろう。
なのはは責任感が強すぎて、自虐的な考えに陥ることが原作でも幾度かありました。

「そして、【許した】このはちゃんは、うちらの輪の中で楽しそうにしてる」

うう、レンちゃん、そんな気がないのはわかってますが、それは私を暗に非難してませんか?

「それがある意味決定的だよな……」

がふっ。晶ちゃんまで……。

「それに、あの時以来、私たちはあのことについて一切話題にすることはなかったし……。あの時に亡くした物、失った人たちのことが重すぎたっていうのは、言い訳になるよね……」

「それで、どうすることもできなくてズルズル来ちゃったんだよね……」

語り部を次々に交替させながら語られた、なのはの心の話。
後悔の懺悔が終わったのか、誰も言葉を口に上げることなく、シンとした空気が流れます。
わたしも、少し項垂れてしまいます。

先ほどのユーノくんとなのはの会話を思い出したからです。
ユーノくんの嫁になるためとはいえ、自らの双子の姉にした所業を痛感し罪悪感が募ります。
原作を知っているわたしには、他の誰よりもなのはの心の闇に触れる機会があったはずなのです。
家の中の、【疎外されている】なのはには、外での立ち位置もその心に影響を与えたに違いありません。

「くぅん」

とことこと久遠がやってきます。
……そういえば、久遠はなのはに懐いていますが、それでも一番は那美さんで、兄さんにも懐いてます。
今の解釈で言うなら、なのはは久遠にまで拒絶されてることになりますね……。
久遠を腕に抱えて優しく撫でながらつらつら考えます。

なのはの将来に対する不安。自分以外の親友二人はすでに進路を決めている。
一般的な人でも、置いてかれているという焦りを禁じえないこの差異。
この差異はなのはには致命的な毒をもって襲い掛かったのではないでしょうか。

―――自分は必要とされていない。

原作での戸惑いは、わたしというイレギュラーの存在で何倍にも膨れ上がります。
顔も、性格も、ほとんど全く同じもう1人の自分とも言える存在。
でも、家の中で中心となってるのはもう1人の方。その子は将来もすでに決めている様子。
全てにおいて自分を越えるもう1人の自分。……翠屋だってその子が継げばいい。

―――なら、できの悪い自分は必要ないじゃないか?

……なのはが求めるのは自分がここにいていい証明。自己の存在証明(アイデンティティー)の確立。
しかし、全ては発端たるあの激情に邪魔されます。なのはの現状を作り上げ、今なお逃れることを許さない激発を後悔する自罰の念。
……なのはは自らを追い詰め、出口のない心の迷宮を作り出していきました。
救おうとする家族の手は、迷宮の中心にいるなのはに届かず、逆に壁となって迷宮の更なる増築を促します。
……救えるのは、上から落ちてくる天の気まぐれ<運命>のみ。
だから、あれほど魔法に嵌ったのか。自分を自分にしてくれたものだから。

「……そんなとき、今回のことが起こった」

「聞いた感じだと、なのはの方がこのはより【呼びかけ】に強く反応してるようだった。実際、今晩もなのはの方が10秒ほど動き出すのが早かった」

「だから、なのはに任せてあげて欲しいのよ。なのはには夢中になれることが必要なの。……こんなこと、このはに頼む時点で親失格なのだけれどね」

「そしりなら後でいくらでも受ければいいさ、桃子。今はなのはの救うことが先決だ。チャンスを逃す手はない。……そういうことなんだ。頼むこのは。父さんたちの手伝いをしてくれないか?」

「お願いこのは、なのはに任せてあげて」

「「「「お願い(頼む)、このは(ちゃん)」」」」「くぅん」

自嘲の念をを押し殺し、みんながわたしに向かって頭を下げます。
そこには、子育ての不手際を子供に拭わせる悔恨、末妹をそこまで追い詰めた無念が詰まっていました。
……そうですね、わたしにも(ていうか大半)責任があります。ここは、断腸の思い出で、
ユーノくんには双子丼で我慢していただきましょう。

その後、私は見聞きしてきたことを話し、家族とユーノくんとなのはのしようとすることについて話し合いました。
結論として、父さんや兄さん、そして姉さんが気付かれないように護衛しながら見守り、
失敗したときの布石として那美さんに連絡を入れ、早急に帰ってきてもらう、という基本方針が立ちました。
万が一を考えて神咲家への連絡を密にするという超豪華なバックアップ支援体制です。
あれ?魔力と霊力って同じものなんでしょうか?神咲家について説明してくれた兄さんにそこを突っ込んでみました。
答えは……

「大丈夫だ」「同じかどうかは研究してる人に聞かないとわかんないけど、相互に干渉は可能って確認できてるよー」「御神も昔、どちらも切れる、と確認してる」

……最後の父さんのセリフは突っ込んだほうがいいのでしょうか?まあ、万一の時なのはが守れるのはいいことです。
しかし、魔力と霊力の干渉が可能って誰が確認したのでしょうか。義姉さんの口ぶりだと見たことあるみたいですが……?
あれ?「おもちゃ箱」では干渉ができなかったはず……。またしても私のレアスキルの影響ですか?

その後、わたしは上で寝ている二人の会話が聞こえるのを利用して、突発的になのはが動くときの連絡係に任命されました。
あと、ユーノくんですが。言動を鑑みるにもう十分大人、年齢を考慮に入れてもこの件に関してはこちらに引き入れて協力を得るべきというのが大勢を得ました。父さんと母さんは、少し忸怩たる物があるようでしたが。
賛同を得たので、折を見てユーノくんをこっち側に引き込む算段をします。これで私にもユーノくんフラグが立ちます。
なるべく密に会合を行う、という締めで(わたしが参加した)第1回の高町家子育て会議はお開きとなりました。

布団の中で、今日のユーノくんとなのはの会話、会議で話し合ったなのはの闇について反芻します。
なぜか、頭から離れないのです。何か、重大な事を見逃している様な……?

「ひとついいですか?」「なのはがよく、寂しそうにしているのに気付いているかい?」「あの変なのを倒さないと、この海鳴が、もしかしたら世界が危ないんですよね?」「【許さなかった】なのはの孤立」「なんとかできるのは、わたしとこのはちゃんしかいないんですね?」―――できの悪い自分は必要ないじゃないか?『呼びかけが聞こえたのは貴方たちぐらいで……。魔力がないと呼びかけも聞こえませんし、ジュエルシードを何とかすることもできません』「なのはの方がこのはより【呼びかけ】に強く反応してるようだった」「このはちゃんは力不足ってことなんですね?」『……はい、たぶん僕と同じように負けてしまうと思います』なのはが求めるのは自分がここにいていい証明。「わたししかいないんですね……」なのはは自己の存在証明(アイデンティティー)を確立させたい……。

「わたししかいないんですね……」

あ!?

……もしかして…。今回のユーノくんとの出会いで、なのはの求めたもの、執着したものは―――?
……。確かめてみる必要があります。
わたしの考え通りなら、なのはを傷つけずにユーノくんをわたしのほうへ向かせられます。
でも、今は無理ですね……。おそらく機会はあの時、リンディさんの説明会。
そこでなら、おそらくたった一言でなのはの大切なものを見分けられます……。
今は家族の皆に根回しを……。あと、ユーノくんが拒否できないような強烈なフラグ立てを……。zzz……。




どうも、こんにちは。第2回高町子育て会議へようこそ。
今日は、定例報告だけになりそうです。まだ、ユーノくんを引き込めてませんから。
ユーノくんとなのははまだ神社で夕焼けを見ている、ということです。というかいます。テレビにそれが映ってます。
気付かれる心配?義姉さんが<アポート>を使ってまでカメラで撮影していますので、その点は抜かりありません。いいのか。
兄さんが帰ってきました。今日の護衛は高町恭也(故障なし)です。KYOUYAではありません。念のため。

「あの程度なら問題ないだろう。倒してしまうわけにはいかないから、ダメージを与えられるのかはわからなかったが、少なくとも鋼糸を絡めることはできた。最悪、縛り付けて動きを拘束してなのはに止めを任せればいい。」

開口一番このセリフです。ワンちゃんの牙にも、爪にも言及してません。
御神流ってなんかおかしいでしょう。あのワンちゃん結構なスピードあったと思うんですが。

「まあ、問題ないねー」

おねーちゃん、あなたまで!

「え?だってあの子、なのはに吹っ飛ばされてたでしょ?ジュエルシード?だったっけ?それって全部同じものなんでしょ?全部があのレベルじゃなのはのバリアを越えられないよ」

特殊能力があるのがいたらどうするんですか!と抗議します。
原作知ってる自分としては気が気でなりません。

「そのときは神速を使ってでも割ってはいるさ」

「それから久遠に頼んでお仕置き、かな。お願いね、久遠。那美さん♪」

「あ、あはは」

「くぅん」

……久遠の雷撃なら下手を打てばアースラも墜ちますね。フェイトが心配でなりません。
ちなみにわたし、久遠の正体を知っています(原作知識じゃなくて)。先ほど教えてもらいました。
知っている知識と知っているはずの知識の溝が埋まるのはよい傾向です。こんな状況では何時ぼろを出すかわかりませんし。

この後、ユーノくんたちが帰り始めたのを見て、会議は解散となりました。




やあやあ、皆さんこんにちは。今日は第3回の会議ですよ。パンパカパーン!
なぜにそんなにハイテンションかって?最近、なのはが疲れているのです。
さっき、晩御飯まで寝るねこのはちゃん、なんて言ってましたから、今日があの噂に名高い「なのはは晩御飯までお休みなさーい」の日なのです!
なのはがぐっすり寝れば、その間ユーノくんはフリーです。つまり、会議に引き込める、というわけです。言い換えれば!今日はユーノくんとわたしの新たな関係が築かれる記念すべき日なのです!しかも秘密の!ドンドンパフパフー。

秘密の関係は内容いかんを問わず、秘密の共有者に連帯意識を持たせます。それが若い男女なら何をいわんや。
ふふふふふ。これでユーノくんとの仲がぐっと縮まるのですよ。ふふふ。
ユーノくんにお願いして私も念話習っちゃいましょう。秘密回線ゲットしてお喋り三昧、さらに距離を縮める魂胆です!ふふふ。ブーケは誰に投げてあげましょうか。

なのはの部屋の前に立ち、聞き耳を立てます。
ドアの隙間から翡翠色の魔力光が漏れてきました。跳び付いて隙間からでもユーノくんの顔を見たい衝動をぐっとこらえます。
今ここで私がユーノくんの正体を知っていることを家族の皆に知られれば、計画している直行フラグを回収できなくなります。
周りには誰もおらず、見てないと思いますが、あの晩、階下から私たちの状態をリアルタイムで把握していた化け物集団相手にはどれだけ用心しても足りません。

わたしは未だ、久遠が人型になれることを知りません。そして、この世界の誰も、ユーノくんが人間の男の子であることも知りません。
そこが重要なんです……。他の皆は、ユーノくんが化生の類であると考えているから、人間の男の子に接するよりもさらにガードが低くなっています。
だからこそ、あのイベントが起こり、そこで我が《シナリオライター―微小―》で……。
このフラグさえ立てておけば、なのはの執着しているものが何であっても、わたしは敗残者にだけはならなくて済むはずです。
ユーノくんの性格上、見捨てることはないはずです。

……よし、もう一度光が来ました。ユーノくんとの交渉と行きましょう。
ガチャリとドアを開けてなのはの部屋に入ります。

「なのはちゃん……?もう寝ちゃった……?」

あ、ユーノくんがこっち向きました。にっこり笑って手を振り、ベッドに近づきます。
顔を近づけてなのはの様子を確認。すぅ、すぅ、と規則正しい寝息。どうやら完全に眠っているようです。
よし、ではユーノくんとお話しましょう。ふふふ。初会話♪

「あの……、ユーノくん?少しいいですか?」

ユーノくんがこちらを見上げます。つぶらな瞳に鼻血が出そうです。
ああ、このままお持ち帰りしてしまえたらどれだけ幸せでしょうか。
しかし、今はぐっと我慢です。後数週もしたら、もっと過激に触れ合えるはずなんですから。

「今、なのはちゃんがやっていることでユーノくんに事情を伺いたいのですが」

あ、驚いたのか、背筋がビクッてなりました。私は少し苦笑するような表情を作って、

「念話……でしたっけ?あの夜の会話、私にも聞こえてましたよ?」

「そ、そんな……。呼びかけのときならともかく、個人指定の念話まで……」

よっぽど驚いたのか声が出てきました。
ああっ!ユーノくんの生の声!水橋ボイス!

「うーん、多分双子だからじゃないのかな?わたしたち、どこを見ても同じで違いなんて運動ができるかどうかだけなんですよー。一応、私のほうが成績がいいんです。あ、あと声は小さくお願いします。なのはちゃんが起きちゃうので」

「あ、はい、すみません。ええと、今回のことでお姉さんには迷惑を……」

ユーノくんが謝ろうとするのを人差し指で止め、そのまま自分の口に持って行ってウインクします。

「謝らないでください。なのはちゃんが自分で決めたことなんだから私たちが何か言うことじゃないです。あ、あと、わたしのこと、気遣ってくれてありがとうございます。とっても嬉しかったです。優しいんですね」

にっこり笑って心情を示す。あ、赤くなってる。やった!

「あ、ありがとうございます。ええと、僕は……」

「あ、そうだ。わたし、高町このはって言います。このはって読んでください。あと、敬語は止めてください。なのはには普通に話してるでしょ?」

「あ、はい、じゃなくて。わかったよ、このは。僕はユーノ・スクライア。考古学者をやってる。これでいい?」

「うん、これからよろしく、ユーノくん♪」

「うん、こちらこそ。このは」

あはぁ。し・あ・わ・せ。おっと。こうしてる場合じゃないんでした。

「あ、えと。まずは下に行こう、ユーノくん。なのはちゃんが起きちゃう」

「うん、そうだね。起こさないように静かに出よう」

なのはを気遣いながら部屋から出ます。ユーノくんは腕の中です。重さが幸せ。
部屋を出た後、事情を説明し、階下で待ってるみんなの元に行きました。





……会議は有意義なものでした。会議中は終始ユーノくんはわたしの腕の中でした。
ああ、もっとこの至福の時間が続けばよかったのに……。
会議ではまず自己紹介の後、情報交換が行われました。
ユーノくんからジュエルシードの危険性と紛失の経緯が明かされました。
高町家は一番になのはを応援したい事を告げ、バックアップ体制は整っていることも明かしました。
バックアップが整っているのなら、なのはを危険に晒すことも、と渋るユーノくんでしたが、あの子が始めて自分でやりたいと思ったことだから、と皆で頭を下げてお願いしました。

え?なのはの闇ですか?まだ新しい友達に告げるには重過ぎるから言わない、という方向に第1回の会議で決まってましたから。
母さんに感謝です。なのはの闇なんて告げられたら一気にフラグ立っちゃいます。いざとなったらわたしが提案する気でしたが。

あと、管理局のことでまた色々と取り決めが。ここは主に那美さんが話してました。
この世界では魔法の類は云々。神秘は秘匿されるべき云々。魔法が公開されるのは科学が再発見してから云々。
結局、この世界の霊術については管理局に報告しない方向で決まりました。いいんでしょうか。

最後に、わたしこのはが連絡役にユーノくんと高町家の連絡役になることに。
でも、なのはに秘密でとなると今日のような幸運が重ならないと無理です。
そのためにある程度(念話ぐらいですが)魔法を教えてもらうことになりました!
わたしの魔法の先生はユーノくんなんだよ♪えへへ。


『以上、かな?あの会議で決まったこと。取りこぼしはないよね?』

『うん、そんなぐらいだと思うよ。でも、魔法上手いね、このは。もう念話覚えちゃうなんて。教えたのは隠匿性能付きのやつだからかなり難しいと思うんだけど』

『えへへー、ありがとう。もっと褒めて』

こんにちは皆さん。会議から少し経って、今は大木事件の日の夜です。明日が月曜日です。
初めての魔砲に疲れたなのはが眠ってしまったので、私の部屋でユーノくんとお話しています。
魔法の手ほどきをされています。ベッドに座ってユーノくんを膝の上に載せています。
至福のときです。わたしの計画が上手くいけば、人型のユーノくんとこういうときが過せるんです。
がんばりましょう。

『でもでも、大丈夫だよね?なのはちゃんにばれないよね?レイジングハート?だったっけ?あの子が気付いて話しちゃわないよね?』

『うん、それは大丈夫。この術式の隠匿性能は、管理局の最新艦でも捕らえるのが難しいはずだよ。いくらレイジングハートでも、捕らえられない。だからなのはに気付かれることはないよ』

『そっか、そうならいいんだけど……』

私は安堵の息を吐きます。RHに今のバックアップ体制を気付かれれば、なのはがもっと落ち込みかねません。
下手したら壊れませんか?そうなったら最悪です、それだけは避けないと……。
割って入るにしても、たまたま気付いて追いかけたらなのはがピンチだった、そういう展開にしないと……。

「それにしても、ずいぶんなのはが大切なんだね」

ユーノくんが念話を止めて普通に話しかけてきました。
それはそうでしょう。もし、こんな些細なことでなのはに壊れられたらユーノくんが責任持ちかねません。

「うんそうだね。生まれたときから一緒の双子で、最も近い家族だったし、こんな風に別々のことやるなんてなかったもん」

ベッドに座り込んだ状態で足をブラブラさせながら答えます。
上手く今日の会話でフラグ立てとけないかなぁ。

「……ぼくはスクライアの集落で育ったし、そういう家族、っていないから、すごく羨ましいなぁ」

「ああっ、ごめんね気が利かなくて。……あのね、わたしたちもね……」

ユーノくんに話します、高町家の成り立ちを。血が繋がってなくても繋がる想いを。ちが家族を作るのではなく、互いを思いあう心が家族を作る想いだと。

「……ごめんね、ユーノくんは私よりよく知ってるよね」

「ううん、ありがとう、このは。僕自身は確信してても、他の人から聞かされるのはやっぱり違うよ。一緒の考えの人がいて、嬉しい」

「ふふっ、あ、そうだ!ユーノくん!」

「何?このは」

「私たちも家族になろうか!」

「え?ど、どうやって?」

「簡単だよ、約束すればいいだけ。それから、お互いを想い合って一緒に暮らしていれば、私たちは家族だよ」

「……うん、そうだね。このは、ぼくの家族になってください」

「はい、こちらこそよろしくお願いします、ユーノくん♪」

パッと笑いかけると、少し顔を赤くして目をそらします。
首尾は上々です。甘酸っぱい会話に終始した甲斐がありました。
……ユーノくんは理解してるようですね、この会話がほとんどプロポーズに近いことを。
でもね、ユーノくん。このフラグは、後にこのはがユーノくんが人間だということを知ったとき、初めて意味を持つんですよ。
そのときまで待っていてくださいね。

その後、夜中過ぎまでいちゃいちゃ(願望込みの主観)と会話して楽しい夜を過しました。

「あっ、会議であったこともう一つあったよ!ユーノくんが責任者でもないのに無茶するなってお父さんに怒られたことっ」

「ああ、もう!それはもう言わないで!今はもう反省してるから!」








さて、なのはの物語は原作からの逸脱も破綻もなく、順風満帆、ですね。
今の陣容なら、フェイトのことも上手く処理されるでしょう。
なのはの道行きに幸あらんことを祝い、わたしはわたしの計画に専念しましょう。




あとがき
はい、第4話です。おもいっきり遅くなってすみません。
フリーザ並みの戦闘力を持つ羞恥心を打倒し、なんとか書き上げました。
他にも、会議の描写と中身に苦戦したりしました。
高町家の面々の性格を捉えきれてなかったので、とらハ3を1週してきたり。
なのはの闇はメモがあっても表現しづらいものでした。皆さんに納得してもらえれば僥倖です。
最後に、次回の展開を予想できるような描写を入れてみました。予想できる方は多いと思います。で、次回の展開について意見をいただけたら、と。ある意味、ユーノくんの汚名を容認するようなものですので。

さて、次回はさらに難航しそうです。次回の難易度は戦闘力にして人造人間レベル。下手したセルクラスの化け物かもしれません。


P.S.全部改行は読みにくいとのことでしたので、pタグをbrタグに換えてみました。こっちの方がよろしければ、1~3話もこの形にします。




[6250] 転生少女ドリームこのは6,504 第五話 順調な計画と破綻しつつある運命
Name: VITSFAN◆7f8187e6 ID:a753e2df
Date: 2009/03/04 21:21
ユーノくんをこよなく愛する変態紳士の皆さんこんにちは。高町このは9歳、小学三年生です。二週間ほど、お久しぶりです。
待ちに待った連休です!温泉旅行です!ユーノくんと混浴です!この温泉旅行でユーノくんにこのはルート決定フラグを立ててもらいます。
それと、なのはの心の分析が急務です。なのはが存在証明として見出したもの。それが具体的に何なのか。それを解らずしてなのはを救うことはできません。焦るつもりはありませんが、できるならアースラが来るまでに確証を得たいです。
とりあえず、ユーノくんといちゃいちゃして反応を見てみるつもりです。もし、少しでも嫉妬するようなら、即座に双子丼ルートにルート変更するのですが。
それでは、始まります。





どうも、こんにちは! ただいま、温泉に向かう車の中です。
わたし、旅行ってゴールデンウィークに行ったものだと思いこんでました。
それより少し速かったんですね。
原作どおり、三家族による合同旅行です。人数はずいぶん多いですが。
全部で18人(久遠とユーノくんを足せば20人)都合、三台の大型車による大旅行です。
内訳は、1番前の車に父さんたち、1番後ろは兄さんたち。
そして、真ん中がわたしたち仲良し4人組です。
月村のおじさんおばさんが仕事で来れなかったのは残念でした。
でもでも、すずかちゃんと忍さんは来てますよ!

ぶっぶー。ぶっぶー。
私は今、超ご機嫌です。
思わず車の走行音を口ずさんでしまうくらいご機嫌です。ぶっぶー。
え?なぜかって?ふふふ。それはね~。
膝の上にユーノくんがいて、家を出てからずっといちゃいちゃしっぱなしだからですよ!
ああ、至福の時間。

『ごろごろ~』
『うわっ、くすぐったいよ、やめてこのは!』

指と手でユーノくんをくすぐってます。ユーノくんはお腹を見せて降伏の態です。
はふぅ。実際、ユーノくんとこんなに遊ぶのも久しぶりです。
普段、ユーノくんはなのはと行動してばっかりなので、つまらないのです。
密通は欠かしていませんよ?でも、なのはの隙を見てなので、時間ありませんし。はぁ。
ですので、思いっ切りこの至福の時間を堪能してます。それはもう、なのはに見せ付けるように。
ですが……。

「なのはちゃん、ほらっ!ユーノくん全面服従のポーズっ!」
「きゅ~」
「……」

なのはは流れていく外の景色を見るともなしに見ているだけです。
何の反応もしてくれません。さみしい。

……“魔法をくれたユーノくん”が取られて悔しくないのでしょうか。
わたし、ある程度強引に行ったと思うんですが。
はっ。まさか!
その程度でわたしとユーノくんの仲を裂けると思ってるの、という余裕?
このはちゃんなんて眼中にないよ、ってことですか!?
きぃっ。

……。
冗談はおいときましょう。
いや、まあ。つい先日、ライバルの女の子-フェイト-と出会いましたし?
今はあっちの方が気になるんでしょう。うん。目新しいものには目が行きますし。
……しかし、原作ではこうまでフェイトを気にしてたでしょうか……?
露骨なまでに気にし始めたのは、この温泉旅行が終わってからだったはずですが。
……。

「このはちゃん、私にもユーノくん貸してくれないかな?」
「あっ、うんいいよ。はい、どうぞ」
「ありがとう~♪」

ありゃ。すずかちゃん?
わたしを挟んでなのはと反対側、左隣に座わっているすずかちゃんですが、
わたしがユーノくんに構ってるのを見て、興味を持ったみたいです。
少し残念ですが、快く頷いて橋渡します。
ユーノくんは私の腕を伝って、すずかちゃんの腕を走り、すずかちゃんの胸にポスリと収まりました。
一番左端に座っているアリサちゃんも加わって、三人できゃいきゃい構っていると、やっとなのはも気が付いたようです。

『あれ?ユ、ユーノくん?だ、大丈夫?』
『た、助けて~』
「わ、わ~!アリサちゃん!こっちにもユーノくんプリーズ!」

ユーノくんのヘルプを受けて、なのはが大慌てで救出に掛かります。
が、しかし。アリサちゃんは、なによさっきまでボーっと外見てたでしょ、とまだまだユーノくんに構いたいようです。
結局、わたしとすずかちゃんが仲裁に入りました。ユーノくんはわたしとすずかちゃんの間で眠ることになりました。
安心してすうすう眠るユーノくんを皆で囲み、旅館に着くまでわいわいと話してました。




「おまたせー」
「じゃあ、いこっか」
『……い、いいい……』
『ユーノくん、温泉って入ったことある?』

さあ、みなさん!このやり取りは覚えてますね!
そう!なのはたちがユーノくんと混浴したという、ひっじょーに羨ましいシーンの始まりです!
しかし、今! その場面に! 私は立ち会っている!
なのはたちにだけおいしい思いはさせません!
というか、これを利用して花嫁レースを一歩も二歩も先んじてやります!

『な、なのは!ぼ、ぼくはやっぱり……』

はっ、ユーノくんが逃げようとしてます! そうはいきません!
すすすっとなのはに近寄ります。

「なのはちゃん、準備できた?」
「あっ、このはちゃん。もう一寸待って」
「うんわかったよ。あっ、ユーノくん!一緒に入ろ~」

有無を言わせず、ガシッとつかみます。
逃がしませんよユーノくん……。貴方にはここでわたしにフラグを立ててもらうのですから……。
顔は満面の笑みで楽しそうにしてますよ?心のうちのどす黒い想いは完全封印です。
ユーノくんを抱き締めたまま、なのはを待ちました。ほんの1分ほどです。ユーノくんは悶えてましたが。

「このはちゃん、おまたせ~」
「じゃ、いこっか。なのはちゃん」

なのはの用意ができたので、連れ立って浴室に行きます。
すずかちゃんとアリサちゃんは先に入ったようです。義姉さんたちも。
私たちが最後なので、少し急ぎます。

「やっほ~。なのは~このは~」
「遅かったじゃない。なにやってのよ?」

先に入ってたみんなが声をかけてきます。
別に何をやっていたわけでもありませんが、わたしたちが最後なのは事実です。
ごめんなさーい、となのはが謝り、輪に入ろうと小走りします。
わたしも、一歩遅れてトトトっと走り出しました。
腕の中のユーノくんは諦めたのかぐったりしています。
好機。
《シナリオライター―微小―》、起動。

[次の瞬間、私はつるっとこけました。 マンガみたいに。
 腕の中にいたユーノくんも放り出され宙に舞い、トン、と床に降り立ちました。
 しかし、浴室の濡れた床のせいか、ユーノくんもバランスを崩し、こけました。
 そして、仰向けなユーノくんは、つぅーっとわたしのほうに滑ってきます。
 ちなみに。ユーノくんの顔は此方向き、わたしはこけた反動で足が開いてます。
 シャッハに睨まれたヴィヴィオ、と言えばわかりますか?
 そこにユーノくんがつぅーっと滑ってくると……]

……何が起こったかはわかりましたね?

「いたたた……」
「むぐ、きゅ~」

すぐに足を下ろしてユーノくんを挟みます。ユーノくんを逃がさないためです。
今、ユーノくんの目にはドアップで映ってるはずです。何とは言いませんが。
存分に目に焼き付けてもらいましょう。後々のために。

「ちょっと、大丈夫?」
「マンガみたいなこけ方だったよね」
「うん、大丈夫……」
「むぐむぐ、うきゅ、きゅきゅむぐ~」
ペロッ。
「ひゃあ!」

慌てて立ち上がりました。な、なにか今変な感触が……。
少しザラザラしたものが、わたしの下の方から這い上がったような……。
……。

「あ、ユーノこのはの下敷きになってたの!?」
「ユーノくん、大丈夫やったか?」

あ、ハーレムメンバーがユーノくんを気にして上がってきました。
囲まれると、わたしのインパクトが減ってしまうかもしれません。
疑問は後にして、ユーノくんを気遣わないと。

「ご、ごめんなさい、ユーノくん!大丈夫だった~」
「きゅ~」

……こんなときでも演技を忘れないユーノくんは立派だと思います。
念話じゃないと、今回のアプローチのインパクトは探れませんね。
とにかくこの場はごまかして、後で念話で謝りましょう。

『ユーノくんごめんね、押しつぶしちゃって。大丈夫だった?』
『う、うん。だ、大丈夫だよ。このは』

しばらく後。
露天風呂につかりながら、洗面器のお湯に入ったユーノくんに謝っています。さっき、体を洗ったあげたときも謝ったのですが、それでも謝り続けます。顔を真っ赤にしてこっちを見てくれないからです。理由はわかりますが、わからない振りです。
話しているのに顔を見ないのは失礼だと思うのでしょう。時折顔を向けてくれるのですが、わたしを見たとたん、ボンッと音まで出そうな勢いで顔を赤くし、そっぽ向いてしますのです。
ふふふ、これはかなり動揺してくれているようですね。
兄さんが義姉さんにフラグ立てたときのことを参考にしたのですが、思ったより破壊力があったようです。
ユーノくんの性格上、このことは気に病むに違いありません。正体バレのとき、一気にケリをつけて上げましょう。

……でも、あのときの変な感触はなんだったのでしょう?
あの、すこしザラザラの、生暖かい……。
……。もしかして。

えと、状況を整理してみましょう。
まず、ユーノくんはわたしの太股に挟まれてじたばたしていました。
次にユーノくんは、しきりと声を上げていました。
わたしの足の付け根(もしくはその中間)あたりに触れた感触は生暖かいものでした。
……ユーノくんの舌?

『あのね、ユーノくん』
『な、なに。このは?』
『うん、あのときね、ユーノくん何かした?なにか生暖かいものが……』
『う、うわー!ごめん!苦しくてじたばたしてたら、偶然舌が当たっちゃったんだ!』
『ああ、そうだったんだ。ごめんねユーノくん苦しかったでしょ?』

やはり舌のようです。
ふ。
ふふふ。
ふふふふっふふうううふふふ。
ふっふうふふうふふあは、あ、あはははっははははっははっ。
あーっはっはっはっはっ、あははあは、あーっははははははははははははあははははははっはははははははははあははははははははははははは!
あはは、ふう。
そこまで協力してくれるとは思いませんでしたよユーノくん。
自らフラグを立ててくれるなんて、ユーノくんもわたしと結ばれたいと想っているのですね。
待っていてください。もうすぐですから。一緒にバージンロードを歩きましょうね。
ふふっ。

……長湯しすぎで湯当たりしてしまいました。少し考えに集中しすぎたようです。今度から気をつけましょう。




う~ん、頭がグラグラします。お湯の中で興奮しすぎました。
見事な湯当たりです。顔が熱いです。扇風機の風が心地よく吹いてます。

『このは、大丈夫?』
「くぅん」

うう、優しいですね二人とも。
皆なんて、ここに運び入れたらすぐ何処かに行っちゃったのに。わたしの味方は貴方たちだけですよ。
くそ~、そんなに温泉地での卓球が魅力的ですか!子供をほったらかしてまで熱中しますか!?
……いや、実際、ただの湯当たりだから体を冷やせばいいだけですしね。何にも心配ありません。
この二人も交代要員なんでしょう。大人顔負けに気が利きますし。
“なのはと同じような性格のこのは”なら、下手に大人がいれば気を使ってしまうかもしれませんし、そういう気遣いですね?

「くぅん、くぅん」パタパタ。
『うわっ、ちょっとやめて!なめないで!すっきりしたのに!』

ああ、ユーノくんと久遠のじゃれあいに癒されます。
同類だからでしょうか、久遠はユーノくんが気になるようで、時折ちょっかいをかけるのです。
ごろごろ~ごろごろ~、とユーノくんが逃げ、久遠が追いかけて舐める、が繰り返されます。
久遠は遊び相手がいて嬉しいのか、尻尾をパタパタ揺らしています。
あ、ユーノくんが走って逃げ出しました。

『ちょ、もうやめて!これ以上舐められたら!』
「くぅん、くぅんくぅん」

久遠が追いかけて、二人はわたしが寝ている周りをぐるぐると回り始めました。
かわいい二人がじゃれ合っていると、ほんとに和みますね~。
ん?狐とフェレットって自然界でどういう関係でしたっけ?

……いや、関係ありませんか。
今ここにいるのは、フェレットのなれる少年と少女になれる化け狐だけです。
自然界の掟は意味を成さないでしょう。

……。
少女?
……そういえば久遠は中々の美少女になれたはず……。

「にゃあああああああああああああ!」
「くぅ!?」
『ど、どうしたの!?このは!?いきなり飛び込んできて!』

……気付いたらユーノくんと久遠の間に飛び込んでました。
久遠に嫉妬したなんて言えもせず、飛び込んだままの状態でベシャっと潰れていると、騒ぎに何事かと駆けつけたアリサちゃんに呆れられました。




夜です。さっき、なのはが飛び出していきました。
アルフの接触イベントはどうしたかって?
スルーのようです。湯当たりで寝込んでいたので。少しリアクション考えてたんですが。
まあ、とにかく温泉地決戦です。ここで、なのはとフェイトは名前の交換をするはず。
で、私たち家族はというと、

「……護衛は?」
「父さんが。あと、あの子がいるらしいから、那美さんが久遠と一緒に待機してくれてる」

……完璧に気付いて見守りモードだったりします。ついでに隠蔽工作まで。
しかし、久遠がフェイトを狙っているそうですよ。祟り狐まで動員って、そこまでやりますか高町家。
フェイトは気付いてるのでしょうか?自分の命のはかなさに。
ん?でも原作では、なのははかなり打ちのめされたはず……?どこまでやったら電撃が飛ぶんでしょうか?
あ。

ゴソゴソ。
「んー?このはー、どうしたのー?」
「えと、ちょっと心配になって。覗いてみようかな~って」

はい。思い出しました。原作では結界張ってたはずです。
つまり。
結界内に入れなくて、那美さんたち困ってるかもしれません。
でも、わたしなら。結界内に入れるかもしれません。
あのときの条件設定が何かわからないので断言できませんが、わたしとなのはの遺伝子は同じですし。

こそこそとすずかちゃん、アリサちゃんに気付かれないように宿を出ます。
特に、すずかちゃんはたぶん夜の一族ですから要注意です。
忍さんもこちら側ですから、万一があっても誤魔化してくれる筈ですが、それでも見つからないに越したことはありません。
さて、どこになのはたちはにいるのでしょうか?
あれ?

い、いました。見つけましたよ、ぐすっ。
人が通らない暗い道が怖かったです。幽霊が出そうでした。
“前世”から幽霊とか苦手です。だって、科学で【在り得ない】って証明されてないじゃないですか!
基本、科学で証明されていないことは【あるかもしれない】って考えるタイプだったんです!実際、“神様”も“魔法”もあったじゃないですか!
ぐす。夜闇の中で戦っているなのはたちが、ものすごく頼もしく見えました。

と。
いきなりぐいっと引っつかまれて薮に引き込まれました。お、お化け!?
思わず声を上げようとすると、口を手でふさがれました。モガモガ。
あ、よかった。手があります。少なくとも人間な……あ、父さん。

「このは……。どうしてきたんだい?」
「えと、なのはちゃんが心配になって……」
「そうか……。見てごらん、中々に壮観だ」

言われて指差す方向を見てみると、二人の飛び交っている姿が見えました。
その周囲を、金色の球体が、ある程度の規則性を持ってヒュヒュと、一直線に飛んでいます。そしてときおり、ピンクの太い砲撃が夜空にベタ塗りのように走って消えます。
……確かに中々壮観です。そして、綺麗でした。少し、憧れました。

「ふw、むぐ」

思わず、声が漏れかけてました。でも、父さんに口を塞がれました。
で、音もたてずに現在位置から高速で離脱。父さんが、わたしを抱えて、です。わたし、30キロ近くあるんですが。
いや、それよりこの移動には何の意味が?

「向こうにはサーチャーというモノがあるらしいからな、用心だ。2,3語話したら動くことにしてる」

はあ。なるほど、用心深いですね。
だからこそ、魔法のサーチを潜り抜けてなのはの護衛ができるわけですね。
ふむ。個人単位の魔法なら、臆病なぐらいの慎重さを持てば潜り抜けられるわけですか。
貴重な情報です。覚えておきましょう。

あれ?そういえば結界は?
元々わたしはそのために来たんですが。
……。
考えても仕方ありません。
後で、ユーノくんに聞くことにしましょう。

用がなくなったわたしは、父さんに宿に戻ると告げ、ここで別れることにしました。
父さんは監視の続きです。ご苦労様。
おやすみなさいを言って宿に戻りました。

……しかし、なのはたちの使っていた魔法、今の時期だと<ディヴァインバスター>と<フォトンランサー>ですか?
あんまり弾速ありませんでしたね。まあ、神経強化してない以上、見て避けれる速さは上限があるわけですが……。
具体的にどれだけの速さが出るのでしょう?ファルケンの音速超過が特筆事項ですから……。ふむ。
ユーノくんと婚約できたら暇ができるでしょうし、昔とった杵柄、“研究者”として、“魔法”、研究してみましょうか?




はい~、どうも。高町このはです~。
旅行の後、なのははそれまでより頻繁に出歩くようになり、周囲との関係が希薄になっている気がします。
ユーノくんも連れないで出かけることもあるようですし。レイジングハートと特訓でもしてるんでしょうか?
えーと。今の時期は、原作で言えば第6話あたりですか?
今日、ていうかさっき、ですね。アリサちゃんとなのは、喧嘩しました。うん、間違いありません。

それにしても。
激しい喧嘩でした。わたしとすずかちゃんとで二人の間に割って入らなかったら、1年生の時以来の掴み合いになっていたはずです。
それのせいでしょうか?なのはに置いてかれました……orz
すずかちゃんが落ち込んだわたしを慰めてくれます。うう、優しいなぁ。
アリサちゃん怒ってますし、すずかちゃんだけですよ、学校でのわたしの癒しは。

とぼとぼと、1人で帰ります。
なのはが気になる、と二人には先に塾に行ってもらいました。
1時間ほど時間がありますし、わたしは家族会議に今日の報告だけでもするつもりです。
アリサちゃんすずかちゃんは今頃、回想イベント真っ只中でしょうか。
しかし、殴り合いの果てに友情を結ぶ主人公。う~ん。

そういえば、1年生のお友達ユニット結成時、わたし別クラスであれに参加してないんですよね……。
双子の弊害、でしょうか。ほとんど瓜二つですし、間違いやすいでしょう。今年度、同クラスになっただけでも奇跡的です。
先生も時々間違ってますし、次はおそらくなのはとは別クラス、ですね。
まあ、体育の合同はあるかもしれません。運動でなら、わたしは人並みですし。体育の時間は見分けが付きます。

あれ?なんでなのはと運動能力に差があるのでしょう?
何かがわたしとなのはで違うのでしょうか。前世の有無?魔力量?(本当の)性格?
興味は尽きませんね。なんででしょう?
考えるだけで楽しいですね。本格的に実験してみるのもいいかもしれません。

……いやいや。今はそんなこと考えているより、なのはの心理状況です。
考察材料は揃っています。そして、懸念事項も出てきました。
「高町なのは、アリサ・バニングス両名の諍いが肉体的なものにまで発展仕掛けたこと」
これです。明確な原作との差異。あの場面は何度も見たわけではないので確証はありませんが、状況及び周囲に原作との明確な乖離は認められませんでした。

状況及び周囲に原因が求められない以上、この唐突に発生したように思われる異変の端緒は、以前からの懸念事項「なのはの闇」に求められるはずです。
ここでのなのはは、原作に比べて闇が深い、と言えます。なぜか?
原作では兄さんたちは恋人同士ではありません。【なのはの罪の証】義姉さんもいません。
【義姉さんを許した】家族もわたしもいません。わたしというドッペルゲンガーもいません。
これら全てはなのはの心にマイナスに働きます。原作以上である根拠は十分です。
だからこそ、原作以上になのはは“自分に特別な力をくれたユーノくん”に執着している、と見たのですが……。

ユーノくん、御座なりにされてません?
なんというか、この頃、わたしの方がユーノくんに構ってる時間が多いような……?
ええと、連休旅行前はある程度構ってましたっけ?
ですが、わたしが独占してても嫉妬する様子はありませんでしたし……。
……もしかして、ユーノくんはなのはの心の重要な要素じゃないのでは?

じゃあ、なのはの心を占めているのはなんなのでしょう?

あ、家に着きました。
悩んでも仕方ないです、相談してみましょう。
ただいま~。




塾が終わって今は家にいます。夕ご飯も終わりました。
と、いうわけで。恒例の家族会議です。

「で、このは。なのはの様子が変だっていうのはどういうことだい?」
「えとね、今日……」

なのははいません。ユーノくんもいませんし、ジュエルシード探索でしょう。
あ、そうか。今日、時空震ががががが……きききました。あわわ。
グラグラ揺れてます。普通に地震です。
会議は一旦中止です。状況を把握しないといけません。
なのはは無事か、とケータイで連絡とってます。
…。
……。

はい、家族会議再開です。ええと、現状は。
なのはは無事でした。まぁ、わかってたことなのですが。今は眠っています。
ユーノくんはレイジングハートの修理を急げないかといじっています。
うん、では。わたしの推測と、疑問と、提案を。

「ううん、つまりこのはは、なのはが拘っているものがわからない、と言いたいんだね?」
「はい、初めは“魔法を教えてくれたユーノくん”だと思っていたんだけど……」

じゃあ何なのか、となるとよく解らなくなってしまうのですが。
少なくとも今、ユーノくんは双子丼ルートフラグを立てていない、それがわたしの結論です。
みんなもう~ん?と考え込んで固まってしまいました。

「……“魔法”、じゃないかな?」
「“魔法”?」

フィアッセ義姉さんが考えながら口に出します。
今は少しでも新しい考え方が欲しいです。一も二もなく、義姉さんの意見に耳を傾けました。

「あのね、ユーノの“呼びかけ”はこのはにも届いたでしょ?つまり、ユーノはこのはにも、【魔法を教えた】わけじゃない?」
「ああ、そうか。それだと、このはちゃんも【同じ特別】になっちゃいますね」
「じゃあ、なのはは、“このはよりも上手く使える魔法”に拘っているってこと?」
「でも、それだとすずかたちと激しく喧嘩した説明が付けられなくない?」

義姉さんの考え方がブレイクスルーになったようです。一気にわいわいと意見が飛び出し始めました。
三人よれば文殊の知恵とはよく言ったものです。どんどんわたしの疑問が解体されていきます。

「……そんなら、【街を守れるのが自分しかいない】はどうですやろ?なのはちゃんは自分がいる意味を探しています。ユーノくんもこのはちゃんも役に立たない、自分しかこの危機に立ち向かえない、そんな今の状況はなのはちゃんを夢中にさせるに十分やったんやないですか」

おお、新しい視点が。そうか、ううん。
なのはの行動、意固地なまでに―アリサちゃんとの大喧嘩に発展しかけてまで―ジュエルシード探索に拘るのもそういう背景があれば納得できます。

「士郎さん達に聞いた金髪の女の子だったかしら?その子も関係してるかもしれないわね」
「へ?あの子がなのはにどう影響してるの?」
「あのね、今日相談されたんだけど……」

母さんがなのはに相談された内容を話します。
そしてそこから、なのはは寂しそうな目をするフェイトを自分に重ね合わせていてどうにかしてあげたい、そう思っているのではないか、と言いました。
その手段が、対等にフェイトと話をするための手段が“魔法”であることも。

「つまり、なのはが拘っているのは【みんなを守ることができる】、そして【友人を作るのに必要な】“魔法”、というわけか?なのはを救う手段だと思って見守っていた俺が言うのもなんだが、依存しすぎじゃないか?」
「元々いた友人たち、すずかちゃんやアリサちゃんはどう思ってるんだ?このはから聞いた限りじゃ、かなり怒っていたようだが」

父さんが結論を大雑把にまとめ、困ったように懸念を吐き出します。
兄さんも、わたしたちの喧嘩の顛末に眉をひそめ、わたしの方を向いて聞いて来ました。

「すずかはそんなに怒っていたってわけじゃないわよ?アリサちゃんもそうだけど、親友が悩みを打明けてくれないのが悲しい、力になれないのが悲しいってのが大半を占めてる」
「ええと、塾の後にすずかちゃんがなのはちゃんにアリサちゃんはそんなに怒ってない、心配ない、いつだって応援してるってメールしてたよ。だから大丈夫じゃないかな?」

忍さんは姉妹だからこそ察せるすずかちゃんたちの心情を伝え、わたしは喧嘩の後の仲直りのことを伝えます。
わたしとしては、友情を再確認出来てよかったね、ぐらいにしか思わないのですが、大人たち(忍さんも含めて)はため息をつきます。

「すずかちゃん、アリサちゃんが引いてくれたか。今はこれで良しとすべきか?」
「今はいいとしても、これからが問題だぞ、恭也。なのはが魔法に関係し続ける限り、なのはとあの二人との関係は溝が広がり続ける。友情っていうのは固いようでいて、時折呆気ないほど脆くなるんだ。ふと気が付いたら切れてしまっていた、なんて笑い話にもならん」

……うわぁ。
事態はかなり深刻なようです。友情の危機まで発展してしまいました。
う~ん。でも、焦りすぎではありませんか?
まだ、わたしたちの推測が外れている可能性もないではありません。
一つ一つ可能性を検証していくべきだと思うのです。
というわけで。

「あ、あのね。お父さん、お兄ちゃん」

わたしは、まだこの考察が推測に過ぎないこと、頭を悩ませるのは確定してからでも遅くないことを意見し、まずは“魔法をくれたユーノくん”がなのはにとって特別でないかどうかを調べようと言い出しました。

「ふむ、それはいいけど、どうやって調べるんだい?」
「あのね、“ユーノくん”と“魔法”は関係ないってことになってるでしょ?だから、どっちか選ばないといけないようになったら……」

わたしの提案は受け入れられ、ある程度自由裁量によって“実験”を開始できるようになりました。
会議後、ユーノくんにもそのことを話し、もしジュエルシード探索から離されることがあってもその場は黙っていてくれるようにお願いしました。




で。次の日の晩。

「つきましては、お宅のなのはちゃんのご助力を戴きたく……」

目の前にリンディ提督がいます。
真相知っている此方からしたら、目が丸くなるほど口八丁手八丁で“魔法”の部分をぼかして協力を求めてきました。
……エイプリルフールはどれほど被害者が出るのでしょうね。

「……わかりました。そういうことなら。なのは、迷惑かけないよう、気をつけるんだぞ」
「なのはちゃん、怪我しないようにね」
「なのは、危ないまねはしちゃだめだよ」

こちらも、狸ですねぇ。
真相知ってるくせに欠片も匂わせないあたり、空恐ろしく感じます。
なのはの頭を撫でつつ、心配そうに注意を与える様子は心底家族を可愛がり心配してるようにしか見えません。よっぽど演技慣れしてるのでしょうか?
もしかして、わたしの演技もばれてたりして?
……考えないでおきましょう。精神衛生上よくありません。

「うん!大丈夫!頑張ってくる!」

さて、なのはが元気に挨拶していますが、ここで“実験”開始です。
進み出ていって、なのはの手を握り、ブンブン振って喋ります。

「頑張ってきてね!なのはちゃん!応援してるから!」
「ありがとうこのはちゃん!わたし、一生懸命やってくるから!」

「うん!その間、ユーノくんは私が責任持って面倒見とくから心配しないで!」

リンディ提督が固まったように見えました。恐らくは、クロノを初めとするアースラスタッフたちも。
わたしの後ろに控える家族たちに流れる空気も、少し固くなった気がしました。
ユーノくんに至っては呆然としています。

はい、これがわたしの“実験”です。
現状、ユーノくんはただなのはに拾われた誰かのペットで、リンディ提督の語った災害に関して何の関連もありません。
つまり、なのはがユーノくんを危ない場所に連れて行く理由がないのです。
これで、なのはの心を見れるはずです。

でも、なのはと一緒にリンディ提督が来たときはヒヤッとしましたね。
原作で、リンディが高町家を訪ねるのは2回目、なのは一時帰宅のときだったはずだからです。
全く、“実験”に乗じてユーノくんを独占しようとした罰が当たったのかと……。
ゲフンゲフン。

いやいや、今のノーカンで。
仕切りなおし、仕切りなおし。

ええと。
なのはにはユーノくんを連れて行く理由がないということまで話したのでしたね。
魔法のことを説明してユーノくんを連れて行く、という選択肢は管理局の性質上取れません。
なのはが管理局に入る、というのならともかく、ただの民間協力者であるからです。
その点を突き、なのはに“選択”を突きつけたのです。
つまり、【“魔法”で街を救い、フェイトと話し合う】ためには、【“ただのペットであるユーノくん”は置いていかないといけない】、という状況。

もちろん、“街の平和”と“ただのペット”を天秤にかける以上、責任感の強いなのはなら、最終的に“街の平和”を選ぶに決まっています。
見るべきはどれだけ躊躇するか。
すなわち、「ユーノくんを連れて行きたいとわがまま言うか否か」
……少しでも、ごねるのなら父さんたちの懸念は笑い話で済むのですが。

「え、あ、うん。おねがいね!このはちゃん!」

……悪い予想は当たるものなようで。






あとがき
第5話終了。
投稿は一週間ぶりですか?申し訳ない。他の方々はなんであんなに速いんでしょう?
今回の第5話、色々と分岐は考えられたんですが、当初の通り行くことにしました。
さて、「なのはの闇」はどうなるでしょうか。
このはが原作世界に来たことでできた些細な歪み。辻褄を合わせようと無理した結果、さらに広がってしまった世界の傷は、ついにこの世界を原作の流れから乖離させ始めます。
まずは、第6話でその片鱗が見えますでしょう。次回、第1部最終話です。

あ、あと。原作時系列について質問なんですが、
なのはとユーノがアースラに移ってジュエルシード探索に打ち込む期間って
何月からどれくらいの間でしたっけ?



[6250] 転生少女ドリームこのは6,504 第六話 大団円!?披露宴だけお早めに?だけだったらどれだけ楽か。
Name: VITSFAN◆7f8187e6 ID:a753e2df
Date: 2009/03/04 21:20
ユーノくんを愛するあまり性差を忘れた変態紳士の皆さんこんにちは。
高町このは9歳、小学三年生です。また今晩もいらっしゃいませ。
ど、どどどどうするんですか!?これほどなのはの“魔法”依存が深まってるなんて、全くの予想外ですよ!?
何の躊躇も無く頷くなんて完全に想定の範囲外です!どんだけ斜め上ですか!
あわわ。やばい、やばいですよ!そもそも海上決戦はどうするんですか!ユーノくんいないとフェイトに会うことすら出来ませんよ!?
い、いや。最悪でも一回はチャンスがあるはずです!アルフを拾ったあと、なのはは一度帰ってくるのですから!え、あれ?それって海上決戦後、じゃなかったっけ?
意味無いじゃん!ああもう、と、とにかく始まります!




「こ、このは~。ぼく置いてかれちゃったじゃないか~(号泣)」

「ご、ごめん~」

ユーノくんが落ち込んでいます。
置いてかれた、というのもあるでしょうが、ジュエルシード探索から外されたということが何より利いているようです。
ユーノくんの責任感の大きさは原作どおりなようです。

「ま、まさかほとんど何の躊躇も無くお願いされるなんて……」

わたしも頭を抱えてしまいます。
なのははここでユーノくんをほって行くような子だったでしょうか?
三期では相手が自分のことを理解してるの前提、というか善意の押し付けのようなことやってた覚えはあるんですが……。
ん?相手が自分のことを理解してくれてることが前提?

「というか!どっちにしたってあの問いかけじゃ、ぼくは置いてかれてた気がするんだけど!(泣)」

「迷ってる間に「うんわかってる友達がいないと寂しいよね~」みたいなこと言って誤魔化すつもりだったの!」

ふむ。
もしかしてなのはは、ユーノくんをあちらに引き込む算段を持っていたのでしょうか?
いや、なのはは頭の回転は速いですし、あの少しの詰まった時間に思いついたのかもしれません。
まあ、どちらでもいいことですね。
だからこそ、あの場でスッと引いたのでしょうか。

「あああ、どうしよう。元々ぼくのせいでこんなことになったっていうのに……」

……そういうことなら納得できますね。
どういう手段にせよ、後で回収できるのなら、こだわる必要はありません。
で、それぐらいユーノくんだって思いついてる、と考えて……。
「相手もそのぐらい考えてるだろう」として行動するのはなのはの癖ですかね。

「だ、大丈夫だよユーノくん!
あの人たちだってユーノくんいないと困るだろうから、何かいい方法を考えてくれるよ!」

では、その回収方法とはなんでしょうか。
すぐに思いつくのは無難に飼い主が探しに来た、でしょうか?
これなら、アースラスタッフの誰かにそれらしい演技をさせればいいだけだし、すぐさま実行できます。
他にもいろいろと考えれますが、コストやリスク、後々を考えればこれが最善手かな?

「でも、どうやってさ~」

「あ、あはは。そ、それは~。さあ?」

泣きそうなうるうるした瞳にグッと来ました。
……。
一瞬、「盗む」とか「掏りかえる」なんていう方法が浮かんでしまいました。
そういうのは最終手段であるべきでしょう。
誰が実行するにせよ。

「それじゃ意味ないよ~!」

「ユ、ユーノくん落ち着いて!
ジュエルシードが見つかるまで何日かは掛かるんでしょ!
その間には帰れるように考えるから!」

今は思いついた最善手は言わないでおくことにします。
相手側のアクション待ちの方法ですし、期待させるのも難です。
それに、この家で考え付いているのがわたしだけ、なんてことはないでしょう。
わたしは子供らしく予想外のことが起きて慌ててましょう。
……上手くすれば状況を操作できるかも、なんて考えてませんよ?

「ユーノくん、そんなに落ち込まないでくれ。
なんとか君が探索に戻れるよう私達も尽力する。
だから、今日のところは我が家に止まっていってくれ」

「は、はい。ありがとうございます……。
それからよろしくお願いします……」

さて、ユーノくんの処遇は決まったことですし、家族会議で今後の方針を話し合いましょうか。
今回考えるべきは……。
1. ユーノくんをどうにかしてアースラに戻す方法。
2. なのはの“魔法”依存をどうにかする。
ですかね。

「さて。
このはの頑張りとユーノくんの犠牲によって、なのはが夢中になっているのは“魔法”の可能性が高い、と考えられるようになった。
それについて何か……」

結果だけを記すと、今回の会議ではあまり進展が望めませんでした。
さっきの“実験”でわかったですが、なのはの“魔法”に関する思いははっきり“依存”と言っていいレベルにあると考えられます。
あまり知らない人たちの中で過すのに、一時とはいえ知人と別れる決断ができる、というのはわかり得やすい証左です。
心の寄る辺が“魔法”という自らの内にある物に向いているので、孤独感を感じていないのでしょう。

う~ん。
なのはの魔法傾注は原作でも結構なものでしたが、それ以上ですね。
えっと、確か原作では……。

義務教育後どころか、最中でさえ管理局の仕事をしていましたっけ、確か。
で、管理局後はこの世界を置いて住居をミッドに移す、と。
相当に夢中になっていますよねぇ。はぁ。

それ自体は別に悪いことじゃないんですが、なのはは心の闇がありますしねぇ。
あれを何とかしないと、最終的にものすごくやばいことになりそうな……。
原作より酷い精神の歪みが何をもたらすか全く予想できないので、勘でしかないんですが。

原作で高町家がそういう危惧を持っていたかはわかりません。
しかし、持っていたとすると、原作でもなのはの“魔法”に関する依存はどうにもできなかったことになります。

そう考えれば、今すぐに打開策が浮かばなくても仕方が無いのですが……。
あれ?チート家族高町家が無力?それ以上にわたし、害悪になってません?
……。
いえ、今の高町家は原作より頭脳が増えています。
諦めずに打開策を練ろうではありませんか。

結局、この会議ではいい提案は出ず、なのは関連のことは全員一日良く考えること、となりました。

あ、でも。
ユーノくんについては方針は固まりました。
全員でわいわいやってたら案の定、「飼い主作戦」が出てきました。
で。その内容は。

アースラの人が飼い主として迎えに来るだろうから、一旦は帰ってもらい、なのはを呼び戻してなのはとわたしで一緒に帰す。

こういう形にすることになりました。
え?何で一旦帰すのか、ですか?
なのはに疑われないための用心なのです。

【責任感の強い】“なのは”なら、自分の拾ったペットには最後まで責任を持ちたいでしょう。
そして、【なのはと同じような性格の】“このは”は「帰す現場にはなのはちゃんもいるべき」と考えるはずです。

それをしないで帰してしまったら……。
不審に思われてたら、最悪全部ばれるかもしれません。
完全バックアップ体制が。
考えただけでもゾッとします。

そうならないための用心なのです。
なんと、“このは”がこういう時どうするかも想像しての作戦内容ですよ。
そのために演技指導まで受けるました。
……小学生の演技を装うのは苦労しましたよ。

これぐらいですかね。
会議が終わり、みんなそれぞれの部屋に解散していきます。
あ、そうだ。“このは”がしそうな事、と言えば……。

「お父さん。あのね、明日からわたしにも剣術教えて?」

「「「「「「はい?」」」」」」

……そんな大きな声を出さなくても。

「このは、何でそんなことを思ったんだ?」

対して、お父さんはものすごく真面目な顔になっています。
返答しだいではたとえ娘でも怒鳴りつけそうです。
まぁ、御神流は早々簡単に教えていい物ではないですし、当然の反応です。

ですが、【なのはが学校を休むほど頑張ることを知った】“このは”なら、
そして【一度でもなのはが戦っているのを見た】“このは”なら、
この選択は有り得るものなのです。

「あ、あのね。
なのはちゃん、明日からすっごく魔法を使うんだよね。
町の人を守るために。怪我しちゃうかもしれないのに。
……。
だから、わたしも……。
なのはちゃんみたいに守ることはできないけど、でもそんな努力はできるし……。
なのはちゃんだけ危ない真似っていうのは……」

う~ん、上手く説明できてません。
言葉にするのって難しいですね。
要するに、なのはが魔法で荒事やって傷ついているかもしれないのに、同じ双子の自分だけ安全なところでのうのうとしているのが心苦しいってことなのですが。
なのはも頑張っているのだから、わたしも一緒に頑張る、という幼いけど健気な考えのつもりです。

以前、“このは”は温泉地でなのはとフェイトの決戦を見ました。
ではその時、“このは”どう思ったでしょうか。

ちなみに、“このは”の性格は、「なのはと同じような性格だけど、少しなのはより甘えん坊っぽい」をコンセプトに設定しています。
他人が「なるほど、確かになのはの双子だな」と納得できるように、あまり違いを出さないように振舞いました。
別に全然違う性格の双子でも良かったんですが、ユーノくんに気に入られるのには最適だろうと。
【なのはより甘えん坊】というのも、仲良くなった後、ユーノくんに接近しやすいだろうという判断です。

なのはなら、先の状況に置かれれば、其処でじっとしているのを【良し】としないでしょう。
必ず、自分ができることを探します。
自分もアースラに合流して手伝おうとするかもしれません。

“このは”も【良し】としないでしょう。
同じように、自分にできることを探し、
ただ、自分の魔力は少ないから、とアースラ合流は自重する、といった感じですか。
でも、「なのはだけ頑張ってる」のは申し訳なくて、周りを見回し、自分にもできる何かを探すと。
そこで、御神流が出てくるわけです。

えっ?“わたし”ですか?
“高町このは”を演じてるわたしではなくて、この体に入っていない、演技する必要の無い、生の“わたし”ならどうするかって?
……わざわざ危ないことを受け持ってくれるっていうんだから万々歳。勝手に頑張って下さいな。
ですかね。

……。
話を戻します。
不器用な話しぶりながらも、父さんには伝わったようで、目が少し優しくなっています。
それでもやはり、御神流は危ないものだから、とやんわりとダメな旨を告げられました。

これも予想通りです。
こんな子供っぽい理由にほだされて、殺人術を教え込む父親がいたらそっちの方がどうかしてます。
それに、今回のお願いは“このは”らしさを出すためのもので、絶対に通さないといけない訳でもありません。

御神流を習ってみたい、という気持ちはあったので「御神流を習いたい」になりましたが、
実際は何でも良かったのです。
「言うだけは無料」ですし。

では、少ししょんぼり気味に部屋に向かいましょう。
今日はユーノくんと同じ布団で寝れますね。
うふふ。シングルベッドで添い寝♪

「いいじゃないか、父さん。
別に御神流を教えなくてもこのはの目的は達成できるだろう?」

ほえ?

「どういうことだ?恭也」

「このはが御神流を習いたいと言ったのは、なのはが魔法を頑張っているのに、何もしないでいるのが我慢できないからだろう?
だったら、別に頑張るのは御神流じゃなくてもいいはずだ。
朝の遅いこのはには、俺たちのように朝早く道場に出るだけでも頑張ることになると思う。
それに、鍛錬の中でも御神流に絡まない基礎トレーニングなら一緒にできるだろう?
刀を使うときは見学させておけばいい。
何日かこのはに御神流を間近に見させて、それでも習いたがるなら覚悟はあると見極めることもできるしな。
どうだろう、父さん。こういう形でこのはも鍛錬に参加させてみないか?」

「ふむ……。
 そうだな。そういう形ならいいかもしれないな……」

兄さんの提案に父さんは腕を組んで考えた後、そういう形なら、とOKをくれました。
明日は朝から鍛錬です。しかも、御神流の。
これは最強系への道が開けましたか?

「だって。よかったね!このは!」

「うん!ありがとう!お父さん、お兄ちゃん!」

「ああ。
 ただ、明日から鍛錬の間は父さんのことは師範と呼びなさい。
 そして、話をするときは敬語を使うこと。
恭也、美由希に話しかけるときもだ」

「はい、わかりました!明日からよろしくお願いします!」

お二人にはお礼として、満面の笑みを贈っておきました。
姉さんには、明日からよろしくお願いします、と言って二階に上がります。
明日は朝早いのだから、早く寝ないといけません。
ユーノくんと連れ立って部屋に戻りました。



このはが去った居間。
そこでは、大人たちが居残り、さっきの話について会議が継続していた。

「それにしても、このはが御神流を習いたい、ねぇ。
 このはは、そういうのは苦手だと思っていたんだけどなぁ」

美由希が頬杖を付いて眉をしかめて思いを吐露する。
あの子があんなこというのは意外だった、そう態度で発言している。

「別に、得意になったわけじゃない。
 今でも苦手だろう。ただ、このはも一度は生で魔法を見てるからな」

美由紀の言を否定し、恭也は端的に理由を述べる。
ああ、とそれで納得した美由希を疑問に思い、桃子が問いかけた。

「どういうこと、恭也?
 魔法を直接見ていたら何か違うの?」

「別に、何か違うって事は無いんだ。
 ただ、実感できるってだけだよ、母さん」

「実感?何をよ?恭也」

腕を組んで困ったように吐き出した恭也に、忍が首を傾げて聞く。
……疑問はいいのだが、この人月村邸に帰らなくていいのか?
まだ、夜半じゃないとはいえ、夜も更けて来ているのだが。

「……魔法がアニメなんかで語られているほど、夢の溢れた物じゃないってことだよ。忍ちゃん」

恭也に代わり、士郎が返事をする。
紡がれる声は陰鬱に響き、それだけで内容があまりいい部類ではないと判断できた。

「空を飛んだり、変な怪物を封印したり。
 ユーノくんの治癒魔法もだな。
 ああいうのは、私達も“魔法”と言われて思い浮かぶイメージに合致する。
 これぞ、不思議の国からやってきた!って感じでね」

「正直、少し羨ましかったかな。
 なんであたしにはあんな素敵な力が無いんだろうって。
 でも……」

士郎の言葉を美由希が続け、さらに恭也が受けて話をする。
最もそばで“なのはの魔法”を見てきた親子が気付いた夢と現実の違い。
それは、御神流―人を殺すための業―を継ぐ者たちの苦悩の響きにも聞こえた。

「途中から使い始めた、光線を放つタイプの魔法。
 ユーノの話だと、長距離砲撃魔法、だったか?
 他にも、射撃を誘導する魔法とかもだな。
 あれらは、違う。明確に人を傷つけるものだ。
 断じて夢の力じゃない」

「それに、金髪の子、フェイトちゃんだっけ?
あの子が使う魔法は全部そんな感じ。
速く飛ぶ魔法も、相手を捕まえる魔法も、みんなあたし達と同じ人を殺すための業。
向こうの世界では“魔法”があたし達の業のような使われ方をしてるんだなって思い知らされた」

「殺すためっていうのは行き過ぎだ、美由希。
 非殺傷設定だったか?ユーノくんが言っていたのは。
むしろ、武術や兵器のようなものだろう。
スポーツのようなもの思えばいい、私達の業のように見せられないものじゃない」

「だが、夢の力じゃないのは事実だ、父さん。
 彼女たちの、ユーノの、なのはが使う魔法は、互いを傷つけるためのもの。
 それは事実なんだ」

「きょーちゃん、あたしにはそうも思えないよ。
 非殺傷を設定できるってことは逆もできるってことでしょ?
 あたし達の業と何が違うの?
このはが頑張るものに御神流を選んだのが、少し怖いんだよ。
あの子、時々ポンと本質突くじゃない。
このはの思いつく中で一番魔法に近いと無意識に感じたから、じゃないの?
 このはの周囲には、晶やレンだっているのに。
 武術でいいなら、空手や中国拳法でもいいじゃない。
 なんでわざわざ御神流を?」

「……美由希。
 御神の業を覚えたこと、後悔しているか?」

「……ううん。後悔なんてしてないよ。
 由来はどうあれ、あたしはこの業でフィアッセを守ることができた。
 御神の母さんと仲直りすることができた。
 だから、本当に後悔なんてしてないんだよ」

「だったら、そこは心配ないだろう。
 なのはは聡い子だ。
 人を傷つけるために使う、なんて真似するはずがないだろう。
 誰かを守るために、突然の悲劇で泣く人が出ないように、“魔法”を“そのための力”として使うだろう」

「でも……」

「でも。それでも、人を傷つける業だ。
 たとえ、なのはが人を守るために使っても、“魔法”で何かが得られても、それは変わらない。
非殺傷であったとしても関係ない。
死にはせずとも、傷つける事はなくても、痛みは走る。
 ……なのはにはそれがわかっているんだろうか?」

「……。
 そうだな。痛みは恨みを誘発する。
 誰かに痛みを与えれば、その誰かが自分に恨みを向けるかもしれない。
 誰が正しい、正しくないの問題じゃない。
 たとえ、痛みを与えた誰かが正しくても、恨みに思う奴はきっといる。
正しくないから、罰せられるんじゃない。
力を持つから罰せられる。
世界はそういうものなんだ」

「……。
……それらを自覚し、それでも守りたいなら覚悟せよ。
守るために傷つける(痛みを与える)者よ、覚悟せよ」

「いつか、誰かに恨まれて傷つけ(痛みを与え)られるかもしれないことを。
 親しい者達に降りかかる理不尽が、自分への恨みを発端にしているかもしれないことを」

「……覚悟ができたのなら、剣を取れ。
 そして唱えよ、か。
 後の誓言は今は不要だな」

最後の辺りは、御神流の誓約文言の前文を読み上げる形となった。
半ば、高町親子の苦悩を聞く形となった家族達は、静まり返って消沈している。

彼らの道行きは暗く、そして険しい。
それを思って。
それでも剣を取って守る道を選んだ彼らに対する思いを心に秘めて。
ある者は感謝を。ある者は敬意を。ある者は理解の念を向ける。
最後に、自分達の末の娘の道行きを案じて。
黙考は続く。

やがて、解散の合図なしにまた一人また一人と部屋に戻っていく。
今日の懸念は末っ子たちの前では見せぬようにと、暗黙のうちに了解し。
会議は終わった。
最後に士郎が居間を立ち去るとき、明かりを消して呟いた。

「……私達はこの手の力は血に塗れた物だと知っている。
 たとえ、どれだけの理不尽を打ち砕いてもそれは変わらない。
……なのはは、自分の魔法が人を傷つけ奪う物だと理解しているのだろうか?」



すー。すー。
枕元の籠からユーノくんの寝息が聞こえます。
わたしは何故か寝付けません。
なにか、聞き逃してはいけないことを聞き逃しているような……。
そんな歯痒い気持ちでいっぱいです。

うう。
わからないだけにいらいらします。
明日は早く起きないといけないのに、気懸かりのせいで寝れないじゃないですか!

……もういいです。
どうせたいしたことじゃないに違いありません。
こういうときは小難しいこと考えていたら自然に眠れるはずです!

何を考えましょう?
う~ん。
やっぱり、現在最大の懸案事項、なのはのことにしましょうか。
なのはの性格について、考察してみましょう。
留意すべきは、仮定仮定の連続で信憑性が薄いことですね。

……なのはは今まで【聞き分けのいい、手の掛からない】“良い子”でした。
ですが、それは本当だったのでしょうか?本当に始めからそうだったと?
それはない、と思います。

もし、本当に始めから“良い子”であったなら。
原作でフィアッセの事件は起こってないと思います。
フィアッセの告白を聞いた上で、フィアッセに罪は無い、本当に悪いのは……と自分を納得させ、フィアッセに許しを与えたでしょう。

……そんな五歳児ははっきり言って気持ち悪いですが。

わたし?
わたしはただ、フィアッセに甘えただけですよ?
恨みより人恋しさが先に立った、というような心情を演出しましたとも。

……。
話を戻します。なのはは、“良い子”に成長した、というのが正しいでしょう。
では、それはいい方向への成長、と言えるのでしょうか?

違うでしょう。
むしろ、あまり好ましくない、というのがわたしの見解です。
急激な成長は上滑りになりかねない、少なくともその危険があるのでは?

心というのは千差万別、一人一人全く形が違います。
何に好悪を感じるか、何を以って善悪を判断するか、何が欠落しているか、エトセトラ、エトセトラ。

それら全然形の違うものを知識や常識、言葉や経験などで同じような球体にする。
わたしは、それが教育だと思っています。

欠落しているところをおかくずなどで埋め、割れていたなら接合剤を流し込み、何度も何度もニスを塗って仕上げていく。
それらの行程は決して焦ってはいけません。前のニスが乾いて定着してから次に進まないと、前に塗ったニスまで取れてしまいます。

……心もそうなのではないでしょうか。
急激に成長したなのはの心は大人の分別と、幼い子供の我侭の間に隙間ができていて、ちょうど果物の実と皮のようになっているのでは?
だから、簡単に剥けるし、ちょっとした圧力で中身が出てきている、と。

……なのはの「相手が自分のことを理解してくれてることが前提」という立ち位置は、人間であれば誰しも錯覚しがちな感覚です。
これは子供のころの感覚の名残と言えますね。
時々わたしもやらかしてました。

ですが、三期8話のように【わかってくれていなかったから】傷つく、というのは子供の我侭でしかありません。
大人ならば、そこで説明をすべきでしょう。
ふむ、そういうことで考えると、ティアナも同罪ですかね。
【自分はこんなに頑張ったんだから】と考えてる節ありますし。

……。
というか、わたしはそんな偉そうな事言えるような人間ではないのに何説教してるんでしょうか。
わたしだって【ユーノくんと結婚できなきゃこの世界に生まれてきた意味ないから】なんて理由でなのはを孤独に追い込んでる最低人間なのに。

……馬鹿なこと考えました。気が滅入ります。

なのはやティアナにお説教とかは他の方に任せて、わたしはわたしのことだけを考えましょう。
ユーノくんとの幸せな未来と、わたしのせいで起こったなのはの(原作より)過度の“魔法”依存についてを。ふぁ。

それと、もしかしたらこれから起こるかもしれない、ふぁ。
原作からの悪い方向への逸脱を。ふ……。
……。
…。



おはようございます!朝です!
早朝です!鶏が鳴く前です!

日の出前の空気でメシが上手い!
嘘です。
でも、空気はほんとにおいしいです。

さっき起きたところです。
動きやすいようにジャージに着替えました。
顔を洗って道場に向かいます。
何故か、ユーノくんも付いて来ています。
興味あるんでしょうか?

「うん。少し興味あるよ。
魔法なしに発達した技術っていうのが特に。
だから、見せてもらうだけでもできないかなぁって」

わたしの肩の上でユーノくんが答えます。
考古学者の血が騒ぐんでしょうか。
見学は別にいいですが、ちゃんと父さんの許可は得てくださいね?

道場に着きました。
ああ、しまった!
みんな道場前に集合してます。初日から失敗です。

「おはようございます!遅れて申し訳ありません!」

「うむ。いや、時間通りだ。ただ、弟子は師より早く来るべきだ。
 だから、もう十分早く道場に来るべきかも知れないな」

「はい!わかりました!」

上手く敬語で挨拶できたでしょうか?
武道なんて前世で一年ほどしかやってないし、決まりごとなんてあやふやなのですよ。
でも、一応問題はないようです。
父さんの前に並ぶ兄さん、姉さんの横に二人の真似をして並び立ちました。

「ん?
 このは、その肩にいるのはユーノくんか?」

「あ、はい。
 この世界の武術に興味があるってことなので、
見学を希望しているのですが、いいでしょうか?」

ユーノくんが肩から降り立ち、頭(体全体?)を下げて一礼します。

「いきなり押しかけて申し訳ありません。
この魔法を使わないで発達した武術というモノに興味がありまして。
 昨晩一晩考え、失礼かとも思ったのですが、いきなり押しかけてしまいました。
 どうか、見学だけでも許してもらえないでしょうか」

「うーん。うん。いいよ、ゆっくり見ていってくれ」

ちらっと兄さんと姉さんとに視線を走らせ、答える父さん。
習うのはともかく、見るだけなら別にいいのかもしれません。

「は、はい!ありがとうございます!」

勢いよくユーノくんがお辞儀します。
良かったですね、ユーノくん。

「さて、そうだな。
 このはも入ったことだし、今日はメニューを変更して、ランニングから始めるか。
 恭也、美由希はいつもどおりのコースを走れ。
 俺は、このはにコースを考えてから後で追いつく。
 このはは、始めの20分ほどは父さんと一緒に走ってどれくらいの走力が有るか見るぞ。
 その後は、父さんが言ったコースを走って家に戻って来るんだ
いいな!」

「「「はい!」」」

父さんがびしっと背筋を伸ばして言います。
わたしたちも背筋を伸ばして声に力を篭めて返します。
では、出発です。

「父さん、このはのコースを決めるのはいいが、
 一人では危険じゃないか?」

って、ありゃ?

「もー、きょーちゃんは心配性だなぁ。
 夜ならともかく、もう朝なんだよ?
 そんな危険なんて無いよ」

「ううん、しかしなぁ」

兄さんほんとに心配性です。
私の鍛錬参加は兄さんが言い出したことなのに、
ここに来てうだうだ言うのはなぁ、って思うんですが。

いえ、うれしいですよ?
でも、わたしは父さんたちについていけませんし、
父さん達の鍛錬レベルを下げるわけにはいきません。

どうしろと?
幸い、もう明るくなって来てますし、変質者なんて出ないでしょうから、
大丈夫だと思うんですが。

「そうだ!ユーノ、君も鍛錬に参加してみないか?」

「え?」

「はい?」

「ふぇ?」

「え?ぼ、僕ですか?」

う~、と唸っていた兄さんが唐突に手を打つと、
ユーノくんに話しかけました。

どうやら、ユーノくんと一緒ならまだ安心だと踏んだみたいです。
ユーノくんも同い年ですが、確かに一人より二人のほうが安全です。
ユーノくんと早朝ランニングですか。いいですね。

ん?ちょっと待ってください。

「何、鍛錬といってもこのランニングだけだよ。
 さっきから言ってると思うが、俺はこのはに一人でランニングさせるのが心配でならないんだ」

「は、はぁ」

わたしまだ、ユーノくんの正体知りませんよね?
まだユーノくんことを人語を話すフェレットと思っているはず。

「君も久遠と一緒でヒト型になれるだろう?
 ヒト型になってこのはと一緒にランニングして欲しいんだ!」

「た、たしかに、今なら人に戻れますけど……」

ちょっ、ちょっと待ってください!
予定外です!正体バレは年末の予定で……
ええい!

「ヒト型?」

ボソッと小さく盛り上がってる二人には聞こえないように、
しかし、他の二人には聞こえるように呟きます。不思議そうな響きを篭めて。
作戦変更です。必要最低限の役者兼観客は揃っているんです。
台本変更の必要が無い以上、ただ時期が早まっただけ。
ユーノくんには早々にこのはエンドに到達してもらいましょう。

「頼む!魔法がご法度なのは聞いているが、心配なんだ!
 もし、これで君が不利になることがあれば全力で支援を惜しまない!」

「は、はぁ。そういうことなら。変身魔法を解くぐらいなら別に大丈夫ですし……」

「あ、きょ、きょーちゃん」

姉さんが「わたしが久遠がヒト型になれることを知らない」事に気付き、
声を上げますが、もう遅いです。
翡翠色の魔力光が放たれました。

わたしは持てる限りの演技力を駆使し、8話のなのはを再現します。
一片たりともぼろを出さず、寸毫の疑いも持たれてはなりません。
この一瞬一瞬にユーノくんとの未来が掛かっているんです!
死ぬ気でやっています!

「あ、あ、あ……」

わたしの腕は上手く振れているでしょうか?
わたしの顔は呆然の態を上手に表わせているでしょうか?

あちゃー、という態の父さんと、頭を抱えた姉さんがそれを教えてくれます。
……今のところ上手くいっているみたいです。

「ふむ、いい顔だ。その年で大分揉まれていたようだな」

「ありがとうございます」

兄さんはユーノくんの顔を見て、その人生を感じ感心した風です。
ユーノくんも爽やかに挨拶して、和やかな雰囲気は流れてますがそうは行きません。

「ユ、ユ、ユーノくん!?」

わたしの裏返った声に、ユーノくんは振り返ります。
さぁ、正念場です!!

「あ、このは。う「お、お、男の子ーーっ!?」うわっ!?
 え、あ、あーっ!!!!!
 そうか、なのはも知らないんだら当然……。
うわーー!昨日なのはに教えたので忘れてたーーーっ!!!!!」

慌てるユーノくん。
思いっきりテンパってます。ですが、容赦はしてあげません。
顔を赤くして詰め寄ります。

「ユユユユーノくん!」「は、はい!」

「ひひひ人だったの!?」「は、はい!」

「ああああの、りょりょ旅行のとき!」「あ!

「あっ」「ん?どうした美由希?」「そういえば、このは温泉で……」

姉さんが気付いてくれたようです。
わたしの暴走を疑問に思った父さんと兄さんに話し始めます。
では、一気に“その言葉”を引き出しにかかりましょう!

「お、お、温泉!温泉でユーノくん!」「ごごごごめん!」

「わわわたしの、わたしの!!」「はははい!その通りです!すみません!」

「ユユユーノくんのっ、エエッチ!スケベ、変態、痴漢!」「ううう、ごめんなさい、すみません!」

よし、ユーノくんがあの時のことを思い出して真っ赤になりながらも、
自分を責めて、土下座までしている!!!
チャンス!

「……もう、お嫁に行けない~っ!!うわーん(泣)!!!!!」

「ごめんなさい!僕にできることでしたらどんなことでもします!」

「責任とって結婚してください!」

「はい、わかりました!責任もって結婚し……えええっ!?

…。
……。
………。
計画通り。
………。
……。
…。

これで、ユーノくんは私のものです。
くふふふふふふふふふふふふふふふふふうふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふあははははははははっははははははははははっははははっははへえへへへへへへえええっへへへっへっへへへっへへっへっへへっへへへっへえっへへへへへっへえっへへ。

今のわたしは、下を向いて叫ぶように言葉を向けた後、ずっとそのまま下を向いています。
わたしのセリフに噴出した父さんと姉さんが息を整えていますが、顔を上げません。
近くでユーノくんが、兄さんが、慌ててますが、それすら無視して顔を上げません。

でないと、笑っているのを感づかれてしまうからです。
今のわたしは、某新世界の神並みに邪悪な顔であるに違いありません。
ひたすら笑うのを堪えながら、そう思いました。

その後、家族の前で一気に暴走したことを思い出し、二人してまた赤くなりました。
わたしは演技ですが。
で、わたしの勘違いを正そうとして逆にユーノくんが人間だと知った父さんたちは思いっ切り驚いてました。

その後は、姉さんは冷やかし交じりに祝福してくれ、父さんは苦笑しただけでしたが、
兄さんが暴走しかけました。うちの子はやらん!というあれです。
ですが、父さんと姉さんに二人掛りで沈黙させられてました。

そんな騒動のせいで鍛錬の開始はかなり遅れてしまいました。
が、しかしランニングは予定通り行いました。
ユーノくんとは、始めは父さんに連れられて、残りは二人きりで一緒にランニングしました。
ランニングの間中、お互いの顔見れなかったけど、それでも肩を並べて、決して離れずに走りました。
えへへ。

しかし、御神流の鍛錬はきついですね。
小学三年生ということで加減して10キロ。何か間違ってるでしょう。
その後ひたすら素振りです。木刀で。小太刀でしたが。



朝食のころにはへばってました。
もそもそと食事を取ります。
これを毎日ですか~。うへ~。

あ、ちなみに。
我が姉、美由希大先生によって朝食の席で今朝の顛末が暴露されました。
頼もしい味方の高町家女性陣の、「それは責任取らなきゃね~(ニヤニヤ)」攻勢のおかげで、わたしとユーノくんの結婚はほとんど本決まりです。
少なくとも、ユーノくんは女性陣にからかわれているとも思わずに、そうしないといけない、と思っているようでした。
好都合です。それに託けて朝食の席で婚約しちゃいました。

ふ、ふははは。
笑いが止りません。
満面の笑みでラ○トが出てくるのを阻止します。
お前が活躍するのは私の心の中だけですよ。

ふふふふふ。
すずかちゃん、アリサちゃん、そしてなのは。
邪魔者は全て(ユーノくんの視界から)消えました。
そして、他の者は微笑みながら私たちを祝福している(ようにユーノくんには見える)。
この状態からなら、管理局にわたしたちの仲を認めさせるのも時間の問題……。
障害は一掃され、道(ヴァージンロード)は開かれました。
わたしはユーノくんの嫁となります。


…。
……。
あっ、そうだ。

「ねぇ、お父さん。
 このことって上手く使えないかな?
 ユーノくんがわたしたちに正体ばれたってこと。
 ばれたって事にすれば、ユーノくん、簡単にあっちに戻れるんじゃない?」

そう提案してみました。
みんななるべく早く、なのはを一人で魔法に依存している状態から引き剥がしたいと思っていたのでしょう。
魔法についてばれたなら、もう今までのように影から動く、そんな必要はありません。
直接、魔法についてなのはに質問できるので対策も立てやすいでしょう。
唯一、ユーノくんが魔法を知られた、という汚点がつきますが、
ユーノくんも快く了承してくれ、また、こちらでフォローストーリーも考えました。
それにリンディ提督なら、この程度で罰を下す事は無いはずです。
満場一致でこの提案は可決されました。



で。数時間経ちました。お昼です。
ユーノくんが失敗して正体を知られてしまった、ということをアースラに連絡すると、
事情説明のため再びリンディ提督がこの家にやってきました。
なのはも一緒です。

ふむ。
フォローストーリーを信じているということは、アースラからわたしたちを四六時中監視しているわけではないようですね。
これはいい事を知りました。

まぁ、それはそれとして。
リンディ提督から本当の事情説明を受けましょうか。
ん?なのは、いきなり前出てきてどうしたの?

「あのね、お父さん、お母さん!
 わたし、管理局に入りたいの!」

……今、12月でしたっけ?













第一部「転生少女ドリームこのは」完。
第二部「婚約少女ストレートこのは」をお楽しみに!


あとがき
第一部、完。
なんと言われようと、第一部完、です。
問題は山積みにしたまま、外伝、第二部へと続きます。
対策を練る前になのはに先手を打たれてしまった高町一家。
これからどうやって動くのでしょうか。



[6250] 夢はユーノくんのお嫁さん外伝6,505 なのはの修行に付き合ってみる件(上)
Name: VITSFAN◆7f8187e6 ID:a753e2df
Date: 2009/03/04 21:59
やあやあ、どうもこんにちは。読者の皆さん。
スクライア一族(予定)のこのはです。小学三年生です。
ユーノくんとの婚約から数週間経ちました。今はもう、5月末です。
数週間もご無沙汰してすみませんでした。
あの後、もういろいろあって。
今回はその辺も考慮して近況報告をしてから話に入ろうかと思います。

PT事件も無事解決し、わたしたちは皆、平穏な毎日を過ごしています。
なのはも魔法を通して友達ができて生き生きしています。
毎日の訓練も家族に秘密にしなくていい分、(原作より)心の負担は少ないようです。
ただ、家族、特に父さんはその訓練量にいい顔してませんが。
でも父さん、わたしやユーノくんがこなしてる御神流の鍛錬量の方が絶対多いと思うの……。

あ、わたしとユーノくんは御神流の鍛錬を続けています。
というより、わたしと婚約したことでユーノくんが兄さんに目を付けられてしまい、逃げられなくなった、といったほうが正しいかも。
わたしは、ユーノくんだけ、というのはどうかなと思いまして、鍛錬を続けています。
まあ、将来、遺跡発掘なんてやるんですし、体力はあったほうがいいに決まってますしね。
……決して、朝のランニングがミニデートだ~、なんて思っていませんよ?

さて。
さっき少し触れたなのはですが、もう一度彼女の現状を書き記してみたいと思います。
前回、なのはが原作吹っ飛ばして管理局に入りたいって言ったのは覚えてますか?
あのあと、色々ありましたがなんとか管理局入りを諦めさせることができました。
ただ、それなら嘱託魔導師になる!て感じでなのはが燃え上がってしまって……。
というか、嘱託魔導師、という選択を示したおかげで管理局正式入局を遅らせることができたのですが……。
その辺のことは後で述べるとして、なのはが燃え上がってしまったのです。

朝から晩まで魔法漬け。
しかも、嘱託魔導師になりたいもんだから夜遅くまで(といっても夜十時程度だけど)勉強。
いくらなんでもやりすぎです。
これはいけない、ということで介入する高町家。
結局、家族で持ち回りでなのはの魔法訓練に付き合う、という形になりました。

で。
今回はわたしがなのはの訓練に付き合った日のことを書いてみようかと思います。




PiPiPi……。

まだ、朝も暗いうちから目覚まし時計がなります。
最近はいつもこの時間に起きてます。
週に1,2回はなのはの魔法訓練に付き合うし、そうでない日は御神流の鍛錬です。
ああ、カーテンの隙間から見える朝日が懐かしい。

「ふわぁ~」

そんなことを考えながら、ごそごそとベッドから這い出ます。
パジャマ(パジャマ好きなんだよね、正直シースルーよりもトキメキません?)を脱いでベッド横に掛けてあったスカート、タートル、チュニックを手に取ります。
次の日着る服は前の日に出しておく、ちょっとしたわたしの癖です。

え?あ、はい。今日はなのはの着ている服をイメージしてみました。
なんていうか、気分です。
別に普段着に拘っているわけじゃありませんが、なんとなくなのはの真似をしたくなっただけです。
なのはの服装、かわいいので。

それから、両手両足にリストバンドを巻きつけます。
ええ、テ○スの王子様でやってたアレです。
ちゃんと1本250gの重りを挟めるポケットまで付いてます。
ピンク色が付いてるのは父さんたちなりに気を使ったのでしょうか?

準備が整ったので顔を洗いに洗面所に行きましょうか。
と。
その前にユーノくんを起こしに行かないと。
ユーノくんも、(兄さんに強要されてる)鍛錬があるので起きなくてはなりません。
しかし、ユーノくんは放浪の一族です。
顔を洗いに行ってたら寝顔を拝見できないかもしれません。

おっと。その前に鏡を見て、最低限の身だしなみができてるかチェックしないと。
特に目の周り、鼻の周り、口の周りは要チェックです。
寝癖ぐらいは愛嬌で済みますが、そこらへんに1晩分のごみが溜まっているのを見られたら見苦しいどころの話ではありません。
ユーノくんに幻滅されたら生きてられませんから、これは死活問題です。
念入りにチェックします。

え?化粧はしないのかって?
いやだなぁ、みなさん。わたしとユーノくんは「家族」ですよ?
家族に会うのにわざわざ化粧なんてする人いないでしょう?
ああ、でも。あまりに「家族」過ぎると昇華されてしまいますし、そこはさじ加減ですね……。

ユーノくんの部屋はわたし、このはの部屋の横にあります。
位置的には二階の一番奥になりますね。
物置だったのを運び出してユーノくんの部屋としました。
わたしは同室がよかったんですが、各所(主に男性)からの意見によりユーノくんも個室を持つことになったのでした。

部屋が整うまでの数日間は夢のようだったなぁ……。
ユーノくんは私の部屋で寝起きしてましたから。
まるで新婚さんみたいだったよね……。はふぅ。
今の朝起こしに来る通い妻幼馴染の境遇も悪くないですけど♪

トントンとノックをして部屋に入ります。
少し大きめの大人用ベッドが部屋の置くに鎮座しているのが見え、
大きい青い布団が少し盛り上がり、ハニーブロンドの彼がそこにいることが確認できました。
そっと近づくと、今日のユーノくんはまだ寝ていました。
すぅ、すぅ、と小さくも健康的な寝息が聞こえます。

しかし、いつ見てもなんときれいな顔なんでしょうか。
すっと通った鼻梁。長くも整ったまつげ。
口元は健康的な朱色を帯びて、目にした人物を惹き付け止みません。
顔の縁を彩るハニーブロンドは、顔より下を隠す青色に映え、その美貌を際立たせます。

正にスリーピング・ビューティー。
眠り姫、と訳するのも惜しい、眠れる美、そのものです。

……。はっ。
おっと、見惚れていてはいけません。
早くユーノくんを起こさないと、ユーノくんが兄さんに怒られてしまいます。
兄さん、ホントユーノくんに厳しいですよね。
何か含むところでもあるんでしょうか。
いや、わかってますけどね。

ユーノくんをユサユサ揺らします。
もし、これで起きなかったら今日こそ、口で……。

「ユーノくん、起きて。起きて~、朝だよ~」

「う~ん」

「おはよっ、ユーノくん♪」

ユーノくんはすぐさま反応します。
もしかして、起きててわたしを待っててくれるんでしょうか。
ユーノくん、やさしいなぁ。

そして、目を擦り擦り、起き出したユーノくんに満面の笑みで朝の挨拶です。
陽射しがないのが残念です。
あったらわたしの笑顔がキラキラと輝いて、一枚の絵のようになっていたに違いありません。

「おはよう、このは」

ユーノくんがにっこり笑って返してくれました!
くぅ~っ、幼馴染イベント!幼馴染イベントです!
なんというかいいですね!毎日やってても全然飽きません!
18禁ゲームのメイン(以外は認めない)ヒロインたる幼馴染が毎日起こしに来るわけがよくわかります!
こんな素晴らしいこと、止めるわけないじゃないですか!
それでいて高感度アップ!Marvelous…….

ユーノくんが着替えるのを待って一階に下ります。
顔を洗いに行くつもりです。
二人して洗面所に向かうと、先客がいました。
なのはです。

「おはよっ、なのはちゃん」

「おはよう、なのは」

「あっ、おはよっ、このはちゃん、ユーノくん」

元気に挨拶を返してくれました。
なのはは横にずれて洗面台を空けてくれます。
三人並んで朝の身支度です。

顔をばしゃばしゃ洗って、ふかふかのタオルに顔をうずめます。
ガラガラ~、ペッ、とうがいをし、歯磨きをします。
身支度を整えて、

「よし!歯磨きしゅうりょ~!」

「ええと、今日はこのはちゃんと一緒に訓練するんだよね?」

「そうだね。あと、大人は美由希さんだっけ?」

「うん、そうだよ!ユーノくんはお父さんたちと鍛錬だね!」

「ああそうだね……。恭也さん……、今日は扱きは勘弁してくれるかなぁ」

「あ、あはは。が、頑張って、ユーノくん」

三人で雑談しながら、一緒に玄関まで歩いてきました。
途中、レンちゃんや晶ちゃんたちに会いました。
ご飯の準備だそうです。母さんと義姉さんは翠屋で仕込みの最中だそうで。
高町家の朝はとても早いのです。(※現在時刻AM04:45)
あ、姉さんが玄関で待ってます。
おはよっ、お姉ちゃん!

「おはよっ、なのは、このは、ユーノくん」

「おはようございます、美由希さん。士郎さんと恭也さんは既に?」

「ん?いや、まだだよ。集合は丁度だし。今は屋根で自主トレじゃないかな?」

そんなことを話しながら、靴を履き外に出ます。
ここから、ユーノくんは道場へ、わたしたちは桜台に行きます。
なので、わたしはすすすっとユーノくんに近寄り、満面の笑みで

「いってらっしゃい、ユーノくん。頑張ってね、ちゅ」

最後は何の擬音かって?言わずともわかるでしょう?
あ、ユーノくん可愛い。顔真っ赤にしてる。思わずお持ち帰りぃ~したくなります。
もう、お持ち帰り以上の関係なんですがね!

「あ!う、うん!い、いってきます!」

ユーノくんが真っ赤の顔のまま駆け出して行きます。
う~ん。行ってきますの返礼はまだお預けのようです。残念。

「あ、あはは……。このはもしっかり影響受けてたんだなぁ……」

姉さんが汗をかきながら、笑います。
?なにかおかしいことしたでしょうか?
あれぐらいしないと愛情表現ではないと思うのですが。

「ほぇ?ん~?なのはちゃん、わたし何か変なことした?」

「え?ん~?別に何もおかしなことはないような……」

「なのはまで……。ほんと、うちの家の空気、見直した方がいいかも……」

あはは、と苦笑いしながら姉さんが外門に向かって歩き出しました。
わたしたちもそれに続いて歩きます。
外門をくぐると、じゃあ桜台まで走ろうか、と姉さんが言いました。
はいっ、二人で答えます。
なのはの魔法訓練、開始です。

「あっ!わかった!」

「はにゃ?」

「ん?何がわかったの、なのは」

「さっきのユーノくんとこのはちゃんの変なトコ!
 唇じゃないよ!お父さんお母さんたちは唇なのに!」

「「……」」



「守護する盾 風を纏いて鋼と化せ……」

なのはが魔法の練習をしています。
これは広域防御魔法、バリアタイプ、といわれる魔法でしょうか?
デバイスなしの魔法詠唱の練習として己の力のみで魔法を使っています。

「あ、なのはちゃん!そこちがうみたい。
今のところの詠唱に合わせる印は……」

「はにゃ?ええと、こう?」

わたしはなのはの魔法行使を見ながら、
レイジングハートが映してくれる術式と照らし合わせてなのはを指導します。
術式となのはの挙動が少しもずれない様に細心の注意を払っているのです。

なんでそこまで慎重に見ているのかって?
下手をしたら海鳴一体が吹き飛んでしまうかもしれないからですよ。

魔法は魔力を用い、特定の技法により作用を引き出す科学技術体系です。
その根本となる魔力、世界構成要素として考えるなら魔力子(または魔力素)と呼ばれる素粒子の一種は存外に応用分野が広く、
可視域の波長を与えてプログラム言語を書いたり、現実干渉の媒介にして物理法則を書き換える手段として用いたり、集束させて純粋魔力体として運用したりなど、運用方法は多岐にわたります。
果ては現実の物質に変化させたり、小人を人間大の大きさにまで巨大化させることも可能だというのですから呆れてものが言えません。

しかし、忘れてはいけません。これは科学技術なのです。
科学技術はしっかりとした理論を基にし、精確に精密に狂いないように作られます。
正しく運用しないと動きませんし、下手したら災害が起こったりします。
よくアニメなどで出てくる、手を振ったりするだけで成立する“魔法”とは違うのです。
そういう夢溢れるものよりは、古の賢者たちが挑んだ“錬金術”や、それより前では筋道だった理論がある“魔術”と呼ばれるものに近いですね。

え?“錬金術”や“魔術”は科学じゃないだろうって?
何を言ってるのですか。彼らの試行錯誤、実験結果、そしてなにより思いつきより筋道立った理論を優先する考え方。
それらは科学に受け継がれました。科学は彼らの遺産を受け継ぐ子孫なのです。

あ、筋道だった考え方はソクラテスやプラトンとかのギリシア哲学が端緒かな?
まあ、“魔術”の源流の一つに、四大元素説などもありますし、哲学や宗教は更なる源流と考えればいいですか。

まあ、なにはともあれ。
魔法は科学であって、正しい使い方をしないとダメなのです。
手順をふまないと発動しませんし、大惨事が起きることもあります。

例えば、自動車を運転するとしましょう。エンジンを掛ける時、どうしますか?
その自動車の鍵をエンジンスイッチに差し、鍵をSTARTの位置まで回さないとエンジンは掛かりませんね?
これが魔法の発動失敗に当たると言えましょう。

では、エンジンを掛けたとき何か致命的な失敗をしたとしたら?
ハンドブレーキを掛け忘れてたとか。チェンジレバーがP(ギアがニュートラル)じゃなかったとか。ブレーキじゃなくてアクセル踏んでたとか。
どうなります?
はい、事故起きますね。子供を轢いてしまうこともあるかもしれません。

魔法はその発動過程において、物理法則に干渉します。
つまり、この世界を構成する大本の法則を弄るわけです。
ものすごく危険だと思いませんか?
それこそ、さっきの自動車なんか比較にならないぐらいに。
下手に弄繰り回して万有引力定数にマイナスを書き加えられたら堪ったもんじゃありません。

何度も使用され、安全が確認された術式ならよし。発動しても大丈夫でしょう。
しかし、失敗した術式は?何も知らない術者が勝手に作った術式は?
下手したら世界を壊してしまうかもしれません。

まぁ、それを想定して、汎用的に出回る魔法術式にはセーフティロック機能がいの一番に発動するような仕組みが組み込まれていますし、
デバイスは、術式のチェック機能が付けられて緊急停止権限も付加されています。
その上で、術者が自身で作った魔法をデバイスの補助なしに使うのはご法度とされていますから、それほど心配するようなことではない、とのことです。

そんなわけで、デバイスなしで魔法を行使できる(していい)者はほとんどおらず、
使い魔などの生命自体にセーフティが組み込まれた生命体か、
世界を隔離して結界を築けるほど世界について知悉した結界魔導師ぐらいなんだそうです。

管理外世界に魔導師がいるのが法律違反になるのは、ここら辺が原因なのでしょうね……。
魔法は魔力量が多ければ多いほど発動効果も強力になりますから、
AAA級の魔導師が管理外世界にいることなんて正しく災厄でしかならないのでしょう。
どんな事が起こっても管理外世界住民には抵抗なんてできないはずですし。

ええと。また話がずれた気が。
結局、わたしがなのはの自力詠唱を一生懸命見守っているのは、
なのはの魔法失敗が―セーフティがあるとはいえ―、大惨事を起こさないためだということです。
つまりはこの役、結構重要なのです。なんでこんな役、わたしに。大役過ぎるって。

え?姉さんですか?
横で腕組んでじっと見てますよ。
多分、なのはの訓練に無理がないか観察してるんでしょう。
変わって欲しいな~。

無理ですけどね。わかってます。
レイジングハートは魔力ないと動きませんし。
だから、なのはの訓練には必ずわたしかユーノくんが付き合うことになってます。

そうこうしてるうちになのははフィールド系の練習を終えたようです。
よし、とポーズをとって次の魔法に入ろうとします。

「じゃあ次は儀式魔法を……」

っておい!儀式魔法はデバイスなしでやっちゃ犯罪だって!
ていうかその前に!

「ダメー。それは危ないからユーノくんがいないとダメ、って言ってたじゃない。
 そういう大きいのはユーノくんに結界張ってもらってから、でしょ」

ユーノくんの言ったことを忘れるとは何事ですか!

「う~、最低でも儀式魔法は1つ使えないと第Ⅱ種にもなれないから少しでも練習したいのに~」

「でも、約束は守らないとダメだよ。
それに、別にいいんじゃないかな~、なれなくたって。
何か事件が起きれば、リンディさんが第Ⅲ種にしてくれるんでしょ?」

「それ、民間協力者の別名だよ~。
 わたしは、管理局に入りたいの!
わたしが管理局に入れば。
わたしがどこかで泣いて「はいはい」このはちゃ~ん!!」

なのはの決意をぞんざいにあしらいます。
なのはが抗議してきますが、無視です。

「別に頑張るのはいいよ。なのはちゃんの決めた道だもん。応援するよ。
けど、約束ぐらい守ろうよ。約束も守れない正義の味方なんて変だし。
……。
ていうよりもさ、なのはちゃん」

なんか上から目線でSEKKYOUしてる気がしますが、置いときます。
すこしでもなのはの決意を鈍らせることになれば、という気持ちでSEKKYOUです。
そして、一旦言葉を区切り、なのはをしっかり見つめ言い放ちます。

「なのはちゃんに必要なのは儀式魔法の練習より、テストの勉強なんじゃない?
嘱託魔導師の試験って法律とか魔法とかのテストもあるんだよ?
 先週やった過去問、30点じゃなかったっけ?」

「それを言わないで~」

なのはが頭を抱えて耳を塞ごうとします。
あ、なんかかわいい。もっといじめてやろうかな。

「なのはちゃん、国語、というか文系全般弱いもんね。
 この前の社会のテスト、60点だったっけ?
 そっちの方がよっぽど頑張らないといけないと思うんだけどな~」

「う、う~。が、頑張ってるもん!夜は勉強してるもん!
 ていうかこのはちゃん!国語とかは関係ないと思うの!
 嘱託じゃなくて普通に管理局には入れたらそんなの関係ないもん!
 人を救うお仕事にお勉強なんて役に立たないよ!」

なんか典型的なダメ学生のようなセリフを投げてきました。
なんというか、あれです。
学校の勉強が社会に出てからそれだけ役に立つのか、なんて言っちゃう人です。

ははは、なのはくん。それは死亡フラグだよ。
この前、君がくらって轟沈した母さんのセリフをぶつけてあげましょう。

「管理局に入っても、文字読めなかったり、法律の意味わからなかったらどうするの?
この前の学校の英語のテスト、50点じゃなかった?
小学校三年生のテストでそれで、ちゃんとお仕事できるの?
 管理局に入るのはいいけど、せめて義務教育を受けてちゃんと仕事ができるような人になってからね?」

これくらったときのなのは、すごかったなあ。
今まで誰がどれだけ説得しても頑固に管理局に入りたい、人を守りたいと言って聞かなかったのに、
桃子さんがにこやかに放った一撃で轟沈したもの。
……うん、あれはすごかった。

それでも管理局に入りたい、となのはが食い下がりましたが、
学業の邪魔にならないような仕事があるの、と文系能力が必要な嘱託魔導師を示されました。
リンディさんに。
たぶん、管理局に入っても大丈夫だと親に示すためにこれぐらい取って見せろ、ということなんでしょう。

なんというか、リンディさんも反対だったんですね。
ごめんなさい、勘違いしてました。
てっきり、チャイルドソルジャーを作り上げる非情の人かと思ってました。

さて。声真似までして母さんの言葉をそのまま言ってみましたが効果はどうでしょうか。
おお!なのはが悶えている!
効果は抜群だ!

「そ、それ、お母さんのことばー!
 パクリ、パクリだよ!人真似はいけないんだよ!」

「パクリ万歳、人真似上等!
 世界に誇る日本の技術は模倣から始まるのだ!
さあ、レイジングハート、リピートアフタミー!できればお母さんの声で!」

なのはの反撃をはじき返して、追撃のアンコール口撃!

「管理局に入っても、文字読めなかったり、法律の意味わからな……」

『管理局に入っても、文字読めなかったり、法律の意味わからな……』

「レイジングハートまで!
もうやめて!なのはのライフはもうゼロなの!」

「HA☆NA☆SE!」

と、まぁ、なのはを弄っていますが、母さんのセリフには色々と穴があったりします。
簡単なところでは、原作では二束の草鞋を履けてるってところですね。
友人たちの協力があれば普通に可能だったりします、管理局入り。

他にも、下の会話をよく考えれば母さんの言葉に穴が空いたりします。
わたしがなのはを弄ってる間、姉さんがレイジングハートと会話してるのですが、

「そういや……。ねぇ、レイジングハート。
 なのはもそうだけど、ユーノくんとか、リンディさんとかよくこっちの言葉喋れるよねぇ」

『翻訳魔法というモノがあります。
 最先端の技術を持つ管理局などでは、脳内変換で発音から当該世界の言語を話すことができますが、
 私共、デバイス等の音声は意訳通達式なので、注意すれば言語が二重に聞こえると認識できるはずです。』
(英語)

「わ、ほんとだ。たしかに英語なのに日本語として理解できる」

『多様化する管理世界の現状に対応するため、旧暦以前より翻訳魔法は政令として義務化がなされています。
そのため、私を初めとしてほとんどのデバイスには翻訳魔法が基礎行程で組み込まれていまれているのです。
また、管理外世界出身者やリンカーコア非所持者のため、あらゆる媒体に対して各種の翻訳処置が世界規模で整備されています。
これらにより、異世界間であっても意志の疎通は可能です。
……ユーノは、もうこの国の言語体系を覚えてしまったようですが』
(英語)

「ええ!ユーノって頭いいんだ~」

……このように、言葉がわからないということはありません。
というか、よく考えれば日本語で報告書を書いても普通に受理されることがわかります。
下手したら、法律でさえ簡単に頭に入るのかもしれません。
つまり、文系能力低いことはあまり問題にならないと……。

あれ?じゃあなんでカリムの預言解読できなかったんだ?
いや、レアスキルだからこそ翻訳魔法が掛かってなかったとか?
だからこそ、解読チームが貧弱でルーテシアにも負けてしまったとか?
ん~、興味が絶えません。

というか、ユーノくん頭いいですね!
さすがマイダーリン。
……。
ごほん。

でもまぁ、家族たちはなのはが気付くまでほっとくつもりです。
少なくとも、今年ぐらいは入局を防げるでしょう。
なのはの成績を鑑みれば、今年中に嘱託に合格できる可能性は無きに等しいですし。

……と言っても、今年中までなんですよね~。
原作通りと言えばその通りなんですが、今のなのはの心の状態を考えるとそのまま入局させていいものか……。
この状況からなら、上手~くなのはをコントロールしていけば、なのはの入局を15歳までずらす事ができるっていうのに。はぁ。

そこまで遅らせることができたなら、なのはの心の問題はほぼ解決してるはずです。
学校で同級生の間で過ごすにつれ、精神が成長し、なのはは自分の悩みが見当違いのものだとわかると思うんです。
所謂、時間がすべてを解決してくれるってやつです。

でも冬にはフェイトとはやてが入局してしまって、なのはは二足の草鞋を履けることに気づいてしまう、と。
この時期に入局されるのはやばいですね~。

友達関連は、まあいいでしょう。
アリサちゃん、すずかちゃんのかわりにフェイトとはやてがなのはの親友になってくれるはずです。
長い人生、友人関係が代わっていくことなんて珍しくありません。

でも、他の問題は深刻です。
魔法にのめり込んでしまいますし、周りのほとんどが大人なので子ども扱いされますし。
はっきり言って精神の成長が見込めません。

ああもう!何でリンディさんははやてやフェイトを管理局に入れたんだか。
いや、わかりますけどね。
過失や情状酌量の余地はあれど事件の加害者側にいたんですし、罰が甘すぎるとの声が上がったんだと思います。
そこで、保護観察などの言い分をつけて局で働かせることで不満を逸らそうとしたのでしょう。

ああ、わかってるだけに腹立たしいです。
なのはの状態は原作よりも魔法にのめり込んでますから、
最悪あの事件でお陀仏になりかねません。
どうにかならないかなぁ。う~ん………。

キィーッ!
フェイトやはやての入局がなければ万事上手く行くのに!

……。うん?
フェイトやはやての入局がなければ上手く行く?
ふむ、検討の余地がありそうですね。

ええと。まず、原作で何故彼女たちが管理局に入ったか考えましょう。
はやては闇の書の主としての贖罪と、司法取引の結果、であってますよね?
フェイトのハラオウン家に恩を返したい、役に立ちたいだったはず。
なのはは……。「伝えたいんだ、わたしの魔法」でしたっけ?
あれ?三期では「この手の魔法は大切なものを守れる力」とか言ってたような……?
いや、この場合はどちらにしても……。

……。
ふむ。こうして考えると、三人娘の入局理由って原因になっているのははやてなのかな?
なのはもフェイトも闇の書事件を通して思いが固まったって感じでしたし。
その思いも、なんていうか、フェイトもなのはも直接管理局に入らないとダメー!とか、
すっごく管理局に入りたい、みたいな理由が感じられないというか。
何か、友達が入るからわたしも、的な。そんな感じがします。
特になのはから。わたしの勘違いかもしれませんが。

いえ、なのはやフェイトの管理局入りの理由は私の推察でしかありません。
まだ起こってもいないことを前提としての推測は危険です。
それに、原作とではなのはの心情が変わっています。
なのはは原作を基準にして考えるのは危険です。
いや、そこは私たち家族が抑えればどうにでもなりますか?

……しかし、どういう理由にせよ、なのはとフェイトは闇の書事件に関わることで管理局入りの考えを持ったことは間違いないですね……。

単純にフェイトだけなら、闇の書事件に関わる前は管理局に入ることは考えてなかったのは確実です。
彼女の思いは嘱託で叶えられます。
なのはに会うだけで十分満たされていた彼女が、次の夢を自覚するのは契機がなければかなり遅れるのは明白……。

契機――この場合は闇の書事件ですか。
それなら、闇の書事件に関われなくしてしまえば……。
はやてと友達になることもなかったでしょうし……。
はやてがいなかったらというより、はやてと友達にならなかったら、なのはもフェイトも管理局に入らない?
もしくは、入ったとしても時期は遅れるのでは?

ふむ。
…。
……。
――――――八神はやて、切りますか?
そうした場合、どういうことになるでしょうか……。
…。
……。
…………。
………………………………………………………………………………………。
………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………。

「このはちゃん?おーい、このはちゃん?」

「何か考え込んじゃったみたいだね。
どうするなのは、私だと術式の構成とか見てあげられないんだけど」

「う~ん……。
 レイジングハートでシューター操作の練習するよ」

考え込んでしまったこのはを置いて、高町家の姉妹は訓練を再開しました。
ピピピ、と鳥が鳴き、朝の時間は楽しく浪費されていきました。



朝ごはんです!
パンです!トーストです!卵です!目玉です!ウィンナーです!
なんでご飯と味噌汁、漬物じゃないんだ!
この家、日本家屋なんですよ!?
出て来い、原作者!修正してやる!

ユーノくんはなぜかボロボロです。
よっぽど痛めつけられたのか。兄さん大人気ないです。
切った唇にバターが沁みるのか、おっかなびっくり食べています。

「いたっ」

「あ、ユーノくん大丈夫?」

ふきふき。
隣座っているわたしがナプキンを優しく傷口に当てます。
テーブルの向こう側で炎を発生させてる人がいますが、無視です、無視。
母さんたちは苦笑しきりです。自分達の所業をまざまざと見せ付けられた気分なんでしょう。

おっと。そうだ。
ユーノくんを挟んだ隣に座るなのはに声を掛けます。

「なのはちゃん、なのはちゃんもしてあげて」

「はにゃ!?
 え、えっと……。こう?」

ふきふき。
おずおずと、なのはがわたしの真似をしてユーノくんのお世話を甲斐甲斐しくします。
なにか、炎が二つに増えて勢いが増した気がしますが、気のせいでしょう。
ユーノくんは緊張してされるがままです。
別に二人まとめて抱き締めちゃってもいいのに。

え?なんでなのはにもさせているのかって?
いえ、擬似ハーレムを作ることによって少しでもなのはの歪みを修正できたらな、と。

アニメやマンガに出てくる、主人公のハーレムっていうのは、
あまり性的な臭いがせず、どちらかと言えば主人公を中心とするコミュニティ的な雰囲気があります。
仲良しグループの中心人物が主人公だ、と言い換えてもいいでしょう。

そして、このグループにいる女性たちは、必ずしも主人公と結ばれたいと思っているわけではありません。
女性たちは大体お互いとても仲がよく、他を出し抜いて自分が、みたいな事をあまり考えないのです。
それどころか、現状を楽しみ、波風を立たすために引っ掻き回すような人物さえいます。
こういう人物はどっちかというと、主人公への思いよりも周りへの思いが強く、ハーレムの人物というより仲良しグループの盛り上げ役、と言えるのではないのでしょうか。

つまり、ハーレム=仲良しグループと言えるのです。
そして、今なのはは学校と魔法の両方に友人がいます。
こういう関係はなのはがどちらかにも交流があるときはいいのですが、
どちらか一方だけと会うことが多くなると、会うのが少なくなった方とは切れてしまいやすいです。
大人になると、20年近く会ってない親友とか普通にありますけど、小中学生にそれを期待するのもねぇ。

なので、ユーノくんを中心としたハーレムを作るのです。
そういうじゃれあいをしていけば、ハーレム住民たちの絆は深く、家族といえるほどになるでしょう。
なのはの疎外感と孤独感から来る歪みを根本から治そうという試みです。
今は、わたしとなのはだけでやってますが、ゆくゆくはアリサちゃんやすずかちゃん、フェイトやはやてにも参加して欲しいですね。

あれ?
何かなのはの動きがぎこちないような……。
照れているんですかね?
ほとんど毎日やらせているんですからもう慣れてもいいでしょうに。
不思議と、機能よりもぎこちなく見えます。

……。ああ。
そういえば、原作でなのはは、食事の間や通学途中、『魔導師養成ギブス』をしてるんでしたっけ。
これは家族に内緒にしてるのかな?わたし聞いてないですし。
なのはの仕草が昨日よりぎこちなく見えるのは、もしかしたら負荷を大きくしたのかもしれませんね。



「おっ、もぉ~い~ぃい、こんだぁらぁ~♪
 試練ん~のみぃち~ぃをぉ~、行くがぁ~おとこのぉ~ど根~性ぉ~♪」

通学の行き道、わたしは「ゆけゆけ飛○馬」を歌いながらなのはと姉さんの前を歩きます。
上機嫌で歌っていると、不思議そうになのはが聞いてきました。

「?なにそれ?このはちゃん?」

「ん?巨○の星だよ、巨人の○。知らない?」

「知らない。なにそれ?」

「そ、そんな……。日本アニメ史に残る傑作スポコンを知らないなんて……」

「ぶぅ~、だから聞いてるのに~」

「あはは。まぁ、大分前のアニメだから、知らないのも無理ないよ。
 むしろ、私はこのはが知ってたことにびっくりしたな」

私がなのはの「知らない」発言に衝撃を受けていると、姉さんが口を挟んできました。
え~、そうかなぁ。普通にTVでやってません?
なつかしのアニメBEST100とか。

「そうかな~。テレビとかでやってるよ。懐かしのアニメ、とか。
 それで気に入って、インターネットで調べてみたの。
 それに、○人の星はアリサちゃんやすずかちゃんも知ってると思うよ」

「そっか~。そういや時々そういうのやるよね~。
あ、わたしこっちだから、いってらっしゃい!なのは、このは」

「「いってきま~す!!」」

姉さんに見送られて二人でバス停に歩いていきます。
バスに乗ってしばらくすると、なのはが話しかけてきました。

「……ねぇ、このはちゃん」

「なぁに?なのはちゃん」

「アリサちゃんやすずかちゃんも知ってるってほんと?」

さっきの話が気になるようです。
適当に言っただけなのに、気にしてるようです。
まあ、なのはは疎外感感じてますからねぇ。仲間はずれが嫌なんでしょう。

「はぇ?あ。う~ん?ああ!巨人○星?
んー。適当に言ってみただけ~。
 気になるなら聞いてみよっか」

「ぷぅ~。このはちゃん、ウソ言ったの?」

「それぐらい言っても間違いじゃないくらい有名なんだよって言いたかったの!
 嘘付いたつもりなんてないよ!?」

「ふ~ん。じゃあ聞いてみようかな~」

バスはゴトゴトと平和に走っています。



「おはよ~♪」「おはよ~」

「なのはちゃん!」「おはよー♪」

聖祥に着きました。元気に挨拶して教室に入ります。
アリサちゃんとすずかちゃんが上機嫌で挨拶を返してくれます。
そして、いつもどおり姦しくも華やかに駄弁ります。
ん?駄弁るって何か悪いイメージありますね。
訂正。お話します。

「あ、そうだ。
ねぇ、アリサちゃん。すずかちゃん」

「ん?なぁに?」「どうしたのよ」

お喋りの途中、なのはが思い出したかのように尋ねました。
さっきの○人の星を聞くのでしょうか?

「巨人の○って知ってる?
 このはちゃんはみんな知ってて当たり前、みたいに言うんだけど」

「え~と、どこかで聞いたことあるような……。
 どこだったっけ……」

「日本の昔のアニメよ。いや、マンガかな?こっちが原作だし。
父親に夢を押し付けられて前時代的なシゴキを受ける主人公が、それを真に受けて破滅的な特訓を繰り返して腕を壊すって話よ。
熱血展開に持っていってるけど、正直破滅を賛美するようなストーリー展開には疑問を呈さずにはいられないわね」

なっ……!なんという暴言、ファンに喧嘩売ってますね……!
ここはガツンと言ってやらなきゃいけません。

「アリサちゃん!それは言いすぎだと思うの!
 飛雄馬はつらく苦しい修行を乗り越えて、唯一つの一番星、巨人の☆をを掴もうとしたんだよ!
 その艱難辛苦と頂点を目指す意思には誰もが感動を禁じえないの!」

アリサちゃんに噛み付きます。
一アニメファンとして譲れない一線、なのです。
1時の熱血スポコンアニメ(漫画)全盛時代を築いた先駆け的存在を悪く言うことは許せません。

「修行っていうのがおかしいって言ってんでしょ!
 艱難辛苦もいいわ、頂点を目指す意志も持つべきよ!
 でもね、方法が全然間違ってんのよ!なによ、『大リーグボール養成ギブス』って!
 あんなもん常時つけてたら疲労するだけで何も得られないわよ!」

「『大リーグボール養成ギブス』をつけることで飛雄馬は、
誰も持ち得なかった速球と、魔球とも言うべき必殺技を手に入れたんだよ!」

「馬鹿言ってんじゃないわよ!
 それを持ったから投手生命がたった3年しか持たなかったんじゃないの!
あのねぇ、必要なのは駆け引きの能力であって、それさえあれば必ず敵を倒せるような必殺技なんて持つ意味ないの。
というか、休みもせずに無茶ばっかりする必要なんかどこにあんのよ!」

「特訓、修行、必殺技がなくっちゃ、飛雄馬は投手としてやっていけなかったじゃない!
 飛雄馬には必殺技が必要だったんだよ!」

「投手としてやっていく方法は他にもあったわよ!
必要だったのは、適度な練習と科学的なトレーニング計画、そして疲労回復のための休養!
 あれだけ負荷をかけて最後には野球できない体になって意味があるの!?」

「アリサちゃんには破滅の美というものがわからないの!?」

「あんた、ソレ反論になってないわよ?」

「マンガやアニメだからこそ映える一瞬の光芒が巨○の星の素晴らしさだって言ってるの!」

「バカが真似したらどうすんのよ!」

「現実で真似なんてできないよ!
 だからこそ、マンガの特訓がかっこいいって思うんじゃない!」

「「……」」

わたしとアリサちゃんの白熱した舌戦をなのはとすずかちゃんは息を呑んで聞いています。
ふむ、アリサちゃんが知っていてくれたおかげで、なのはに刻み込みたい言葉は全部出てきました。
気になって調べてくれたら、ぐらいに思っていたんですが、ラッキーなことです。
これがなのはへの楔となってくれたらいいんですが。

さて。最後に仕上げをして終了としましょう。

「頑張って!飛雄馬ちゃん!
 わたしは、明子は応援してるの!がんばって!全てかゼロか、よ!」

「わ、わたし、なのはだよ!」

なのはにすがり付いて励ましの言葉を掛けます。
アリサちゃんはナニ言ってのこいつ、みたいに見てきますが、とりあえず無視です。
すずかちゃんはアニメの世界に入っちゃダメだよー、帰っておいで~、なんて言っています。
あれ?わたし可哀そうな人?

キーンコーンカーンコーン。

あ。予鈴が鳴りました。授業が始まります。




あとがき

遅れて申し訳ありません!VITSFAN、ただいま帰還いたしました!
見ての通り、外伝です。
第2部のプロットが決まらないので、外伝でお茶を濁そうという魂胆です。
しかも、初の上下編。だらだら外伝書いてたら長くなってしまって、途中で切るという節操のなさ。
ああ、自分に計画性がないのがよくわかります。
そして、次回からの更新も一気に遅くなることが確定済み。
ごめんなさい。先に謝っときます。

今回、なにかこのはの性格がおかしいところがありますが、そこは作者のアンテナが怪電波を受信したからです。
受信率が上がったのは、時折起こる「もう最強系でいいんじゃね?」という誘惑に必死で耐えていたのが原因かもしれません。
だって、なのはの闇を解決する方法が思い浮かばないんだもん。
もう、このままでいいか、なんて考えてることも。
原作でも最後までそのままだったしね。
感想見てる人で何か対策考えた人いたら、提案プリーズ。

あと今回、二期に関してこのはが黒いこと考えてますが、物語の展開として単純にはやてがいて欲しいかどうかのアンケートをします。
そう、単純にはやてが登場して欲しいかどうかのアンケートです。



没ネタ

まだ、朝も暗いうちから目覚まし時計がなります。
最近はいつもこの時間に起きてます。
週に1,2回はなのはの魔法訓練に付き合うし、そうでない日は御神流の鍛錬です。
ああ、カーテンの隙間から見える朝日が懐かしい。

「ふわぁ~」

そんなことを考えながら、ごそごそとベッドから這い出て、隣のユーノくんをユサユサ揺らします。

「ユーノくん、起きて。起きて~、朝だよ~」

「う~ん」

「おはよっ、ユーノくん♪」

目を擦り擦り、起き出したユーノくんに満面の笑みで答えます。
ユーノくんも、(兄さんに強要されてる)鍛錬があるので起きなくてはなりません。




[6250] 夢はユーノくんのお嫁さん外伝6,505 なのはの修行に付き合ってみる件(下)
Name: VITSFAN◆020611e3 ID:60033e16
Date: 2009/04/28 19:58
  WARNING!!!
今回の記述には主人公の特定の人物に対する扱いに対し、読者の皆さんに嫌悪感を誘発する成分が含まれているかもしれません。
お読みになる場合、覚悟を決め、内容に不快感を抱いたとしても自己責任で対処していただきたく存じます。








はいはい、読者の皆さんご注目。お久しぶりです、こんにちは。
このは・T・スクライア(予定)です。
私立聖祥大付属小学校第3学年に所属してます9歳の女です。
ちなみに、前世持ちのTS転生者だったりします。
前回は途中で話を終えてしまってどうも済みませんでした。
続きを皆さんにお届けします。 外伝1の下が始まりますよ~。






「小数点というのは、数直線の上で“8”や“9”など、整数の間にある空白を……」

授業中です。 前で先生が話しています。
普通に真面目にノートとってます。 ですが、つまりません。
先生のお話を聞きながらドリルをやっときましょうか。 ペラリ。

ええと、今日の範囲は18ページからですね……。 宿題用ノートを出して……。
カリカリ。 レベルが高いといっても習うレベルは小学生ですしねぇ。
試験問題の応用問題なら頭を柔軟に捻らないといけなかったりしますが、
授業で習うのは基礎基本ですし。 復習にしても今更小数点って……。ねえ。

ですが簡単に解けることに慣れ、考えること、理解することができなくなっては本末転倒です。
有名私立の入試問題などで“考える力”を失わないよう頭を捻ってますが、十分と言えません。
―――――――――――――ええと、5.6+1.9=7.5っと。
なので、塾や兄さん姉さんを有効利用させて頂いてます。

はい。高校受験レベルから自力学習です。 小学校1年生当時から。
いやはや、色々忘れてること有りますねぇ。 特に英語は苦手だったからかすっぽり抜けてますよ。
―――――――――――――2.8+6.1=8.9で、9.3+4.2=13.5。よし、次2番。
ただ、問題はそのあと。 理系の勉強をどうするかなんですよね。家族は全員文系ですし。
予備校に見学に行けば、問題くらいは手に入りますか?
あ。忍さん理系だった……。

……。
まあ、この問題が行き詰るのはまだまだ先のことです。
考える時間は十分有ります。 ゆっくり対策を練ればいいでしょう。
今は、早急に考えなければいけない案件が別にありますし。

八神はやてを切り捨てるかどうかです。
切り捨てるのならば、早く決断してしまわないといけません。
―――――――――――――18ページ終了です。次のページに行きましょう。ペラリ。
今日は原作の時期で言うと、涙の別れ―互いの名前を呼び合う13話―のすぐ後なのです。
ですから、あと10数日ほどで八神はやての誕生日が来て、ヴォルケンリッターが降臨してしまうのです。

その後、彼女の周りにはほぼ常時、無比の精鋭たる雲の騎士達が侍ります。
彼らを相手に行動を起こすのは、宣戦布告、敵対宣言以外の何者でもありません。
わたしは、失敗が約束されている試みを実行する阿呆でもありませんし、
自ら敵を作って喜ぶようなマゾヒスト的思考も持ち合わせていません。
―――――――――――――11.6-7.7=3.9……。
八神はやてを処断するならヴォルケンリッターがいない今。
この機会を逃しては彼女の排除は容易ではありません。

よって、早急な決断が必要です。
6月3日まであと2週間を切っている、という現実を考えれば、どんなに遅くとも明日には動き始めたいところです。
……それでも遅いくらいですが。もっと早く思いつきたかったですね。
―――――――――――――4.5-3.6=0.9。8.4-5.7=2.7。
ですが、過ぎたことは仕方ありません。今日は行動選択と平行して、排除手段も考えていきましょう。

う~ん……まずは排除手段ですが……、
あまり長期にわたって関わるのは避けたいですね。
え?なぜ二期に介入しようとしないのかって?
それは……わたしが施す処置は、八神はやてに対して害を及ぼすもので、
露見することだけは絶対に避けなくてはならない部類だからです。

原作にわざわざ介入してチョコチョコ動いていたら、
どこかで誰かに尻尾をつかまれてしまう可能性があります。
―――――――――――――6.2-5.6=1.6じゃない、0.6。
とかく、他人に悪意を及ぼす行為は人の捜査が入りやすいもの。
良心的な行為であれば、家族たちのように共犯者となることもできますが、
八神はやての件に関しては共犯者を求められません。

ですから、この処置は一回の行動で最大限の成果を出したいのです。
そして、わたしと八神はやての間には何の繋がりもないことが条件です。
つまりは朝、テレビを付けたらニュースで近所の女の子が死んでいたらしい、がベストです。
……下手に接触して情が涌いたら困りますし。

この条件で行くと……。
排除手段は災害、可能ならどうしようもないような天災がいいですね……。
候補としては、交通事故、火事、地震、etc、etc……。
―――――――――――――19ページも終了です。20ページに行きましょう。
ですが、駄目ですね~。 災害を起こすには少し仕込み時間が足りません。
う~む。 むむむ。なら……。

あ、そうだ。 人災ならどうでしょう?
彼女は一人暮らし。 強盗が押し入るのにちょうどいい環境じゃないですか。
―――――――――――――1.7+6.2+8.3=16.2。
それとも、犯罪者入ってるロリコンさんに足の不自由な一人ぐらいの可愛らしい少女がいる、と吹き込んであげたほうがいいでしょうか。
今なら誰の妨害もありません。 犯人さんも楽に本懐を遂げることができるでしょう。
問題はグレアム提督の監視ですが……監視は外側からのサーチだけでしたから、
犯人さんが宅配便とかに化けていれば簡単にやり過ごせます。

まぁ、少しスケジュールに無理があるので、都合のいい犯人さんが見つかるか、
すぐさま犯行に移ってくれるかどうか、など穴もありますが。
―――――――――――――4.3+7.6+2.8=14.7。
ですが、失敗してもわたしには何の害もありませんし。
次の手を考えればいいだけです。 やってみるだけやってみましょうか。

他の手段をとるなら……。 グレアム提督の尻馬に乗るとかですか。
そもそも、原作でなのはを初めとするアースラ勢が闇の書事件に関わることになったのは
なのはがヴィータに襲われたからです。
―――――――――――――4.6+8.7+6.2=18.5?あ、ちがうや。消し消し。
なのはを襲っていた犯人が闇の書の守護騎士とわかったので、
彼らをなのは襲撃犯として追っていたアースラが闇の書事件担当となったのです。

おそらくは、アースラの責任者であるハラオウン親子が闇の書事件の被害者であることも影響したのでしょうが、
さすがにこの襲撃がなければ、アースラはフェイトの裁判の後始末に追われ、闇の書事件に関わっていないでしょう。
―――――――――――――4.6+8.7+6.2=19.5と。
クロノたちが名乗りを上げなければ、なんのかんのと理由をつけてグレアム提督が闇の書事件の指揮を執ったのは明々白々。
そして、デュランダルによってカチコチ氷付けで闇の書事件は終了です。
本来の流れはこうだったはずです。それがなのは襲撃でひっくり返った。

なら。
なら、それを取り除いてやればOKです。
たしか、三期でエリオが短期の士官学校の講習を受けてたはずです。
それをなのはに教えてやればいい。10日もあれば手遅れになるには十分でしょう。
―――――――――――――ええと、次は……。三つの引き算ですね。
海鳴にいなければ、ヴィータに襲撃されることもなく、フェイトが助けに入ることもなく、
アースラが闇の書事件の担当になることもない。
かくして、闇の書の担当は次に因縁のあるグレアム執務官長に移る、と。
後は勝手にグレアム提督が始末してくれるでしょう。

ん?
もしかして、二つ目の策はなのはを管理局に幻滅させるのにも役に立ちませんか?
全てが終わった後で、八神はやてが、今回の闇の書の主が、
何も望まない幸せに暮らしたいだけの9歳の女の子だったのだとなのはが知ったらどうでしょう?
―――――――――――――14.8-3.7-6.2=4.9。

そんな、唯の一般人を管理局が裁いたと知れば、
なのはは、管理局の正義、というモノに失望するのでは?
そうすれば―“【魔法を扱う】管理局の正義”では救えないものがあるとすれば―、
なのはが“魔法”依存していても、管理局入りをしないかもしれません。

……おお。
すばらしい、エクセレント。
―――――――――――――13.7-7.8-4.6=1.3。
グレアム提督に全て任せれば、なのはの管理局入りを遅らせるだけではなく、完全に防げるとは!
たとえ“魔法”依存していても、普通の女の子として過ごしてくれれば、
心身の成長と共になのはの歪みは矯正されていくでしょう。
最終的にはなのちゃんみたく魔法を捨て、幸せな家庭を築いてくれるのでは?

は?
なんでそこまでなのはの将来を気にするのかって?
―――――――――――――18.3-2.5-6.4=9.2。
いやまぁねぇ。なのはは、こっちに来てから丸9年、一緒に過ごしてきた姉なんです。
崖の淵に立っているのに、背中を押そうとは思えませんよ。

わたしとなのはは、物心ついた頃から何をするにも一緒。
父さんの事故の後、フィアッセ義姉さんが謝りに来るまでの寂しい日々も、
聖祥に入るための受験を受けに行く時も、ずぅっと手を繋いでいた姉妹なのです。
はっきり言ってなのはは、わたしがこの世界でユーノくんの次に情をうつしている存在です。

少しでもいい未来をあげよう、なんておこがましいことは考えていません。
フィアッセ義姉さんの事件で、自分の偽善で歴史を改変する愚を思い知りましたから。
―――――――――――――11.3-3.9-5.7=1.7。
なので、なのはが選んだ未来なら祝福して背中を押してあげたいところなのですが……。
明るい未来どころか、10代前半に死亡フラグを立てているんですよ。 無視できません。

ぶっちゃけちゃうと、なのはの未来においてどうしても見逃せない事件がありますよねぇ。
ええ。 入局2年目の冬、つまりはなのはが11歳の時に起きた「高町なのは撃墜事件」です。
原作の状態そのままなら、死にはしないので放っておいてもいいのですが、
今のなのはののめり込み具合を見るに、おそらく事件は深刻化します。

原作よりも疲労が溜まった状態で撃墜日を迎えるのか、
疲労が溜まるのが早くなり、原作より撃墜時期が早まるか、それはわかりません。
ですがどっちにしろ、もたらすものは同じでしょう。

どうなるか。
原作より疲労が溜まった体で原作と同程度の攻撃を受けるのか、
もしくは、原作より未成熟な体で原作と同程度の攻撃を受けるのか。

つまり、なのはの受けるダメージは確実に大きくなります。
原作であれだけの怪我。 じゃあ、それ以上のダメージを受けたなら―――?

はい、どうみても死亡フラグですね。 どうもありがとうございました。

……さすがに、十年ちょっとの人生は短すぎると思いません?
そして、それの根本原因が自分の起こしたフィアッセ義姉さんの事件が発端っていうのはさすがに酷すぎるかなぁ、と。
ですので、撃墜死亡を回避しようと奮闘中です。免れた後は露骨な介入はしないつもりですが。

……別に、撃墜事故起こったらユーノくんの一番がなのはになっちゃうんじゃないかな~、なんて考えてはいませんよ?

キーンコーンカーンコーン。

「じゃあ、今日は宿題としてドリルの18ページと19ページをやってくること!」

おお、授業終了と共に宿題も終わってしまっていました。
ラッキーです。 今日の宿題の時間が空きました。
ユーノくんといちゃいちゃでもしましょうか。





ええと、次の授業は……英語?
英語ですかぁ~、未だに苦手意識がぬぐえないのですよ。
前世の苦労が……。 克服したはずの英語が……。
うう、TOEIC200点の悪夢が蘇る~。

やはり、次の英語は自動車運転は無理ですね。
さすがに苦手教科で自動車の運転のように手を動かしながらあっち見てこっち見てするのは無謀です。
というか、必死にやらないと落ちこぼれる……。

マルチタスク? なのはみたいに?
無理無理。 何処のファンタジーですか。 できるわけありませんよ。
というか、なんでなのははマルチタスクできてるですか。

だいたい脳は一つしかないんですよ? どうやって思考を分割するんですか。
まぁ、術式の脳内自動演算はいいでしょう。 鉛筆を動かしながら別のことを考えるのも。
ご飯を食べるとき箸をどう使うか一々考えなくていいように、訓練次第で脳の思考外に動作・演算を行わせることは可能です。

ですが、人間は二つ同時に別々の風景を見て、そして考えることはできません。

できるのはせいぜい自動車乗るときのように、視界に映る風景を基本とした思考の土台にさまざまな判断、情報を次々に挿入して交差させることぐらいです。
空戦にしても、まず五感を基にした戦術思考があって、移動、避ける、防御魔法、攻撃魔法などの判断は、あくまでコマンド、思考の選択肢でしかありません。

これがマルチタスクだ、と言うのなら納得しますが、わたしは違うと思うんですよ。
マルチタスクってコンピュータがやる動作の並列進行でしょ?
それって優先順位のブレがないじゃないですか。 設定しない限りどの動作も平等。
でも、人間の思考には優先順位ができます。 ですが、基盤となる思考を二つ以上、並立させるには各思考を全く平等に扱えなけばいけません。
原作で言われているマルチタスクってそういうのを指しているんでしょう?

……ところで、なのはがレイジングハートで行っている訓練は、魔法の術式演算を、箸を使うのと同じように思考の外で演算できるようにする訓練だと言えます。
人間の思考はどこまで行っても五感から得られる自分中心の一元思考でしかありませんから、思考外に演算を行えるようになる訓練は必須です。

でも、授業を理解しながら空戦シュミレーションを行うというのは、どちらも「理解」が必要な、つまり基盤思考であります。
それを同時進行させる?
つまりなのはは、思考を完全に二つに分けて動かせるのですか?

化け物です。
聖徳太子も真っ青です。
うらやましい。

賭けてもいい。
わたしがやったら十中八九、先生の話、右から左ですよ。
わたしの脳は一つのことしか処理できません。

……ほんとに魔導師全員、思考が分割できてるんでしょうか?
もしできているなら、三期の新人たちですら私の上を行っていると?
わたしみたく、魔法を思考外で演算できるように訓練してても駄目なんですかね、魔導師。
欝です。

まぁなんにしろ、なのはは天才だということですねぇ。
思考分割を軽々こなすなのはを見てると、わたしの頭は努力型なんだとつくづく思いますよ。
前世知識というチートを持っていても、所詮は一般大衆だということですね。

なんか考えてたら腹立ってきました。
ちくしょう、演技に騙りに情報操作、何を使ってでも絶対ユーノくんの正妻の座は渡してやんない。

ああ、そうだなのは!
授業だから思考分割する、友達との会話は思考分割しない、なんて明確な「友達・家族>勉強」の格付けはいかんだろ!

……。うん、これだけは言っときたかった。
イエーイ! SEKKYOU♪SEKKYOU♪

……なに独りで盛り上がってるんでしょう、わたし。バカみたいです。
さっきまで授業の片手間にドリルを解いてた人間の言うことじゃ有りませんね。はぁ。

「Hallo, everyone! How are you, today?」

げ。先生来た!
わたしまだトイレ行ってないのに!





昼ごはん♪昼ごはん♪ 屋上でみんなと一緒にお昼です。
ぽかぽか陽気に誘われるので、ここ最近は何かない限りずっと屋上でお昼しているのですよ。
ああ~、お日様があったかい~。きぃ~もぉ~ちぃ~い~い~~。

「こら。寝ようとするんじゃないわよ」

「ふぉあ?」

ユサユサと揺さぶられます。 アリサちゃんです。
春の陽気のあまりの気持ち良さにご飯を食べる前に眠りかけてたみたいです。
アリサちゃんが起こしてくれなかったらそのまま夢の中だったかもしれません。
これはお礼を言わなきゃいけませんね。

「ふぁふ。アリサちゃんありがと~」

「ったく、ベンチに座った途端落ちるんじゃないわよ」

「ごめんね~。ぽかぽか気持ちよくて、ついうとうとと……」

お弁当の包みを開けながら右隣のアリサちゃんと会話します。
アリサちゃんの向こうで、なのはとすずかちゃんが笑っています。
ふむ、なんというか、笑い方一つでも性格が表れますねぇ。
なのははお弁当を開きながら明るくニコニコ、すずかちゃんは上品に口許に手を当てくすくす、といった感じです。

……こうしてみると、なのはも普通の小学生のように見えるんですが。
違うんですよねぇ。 全然、普通の女の子じゃないんですよねぇ。

誰が想像できるというのでしょう。
この、楽しそうにお弁当を友達と食べてニコニコ笑っている、何処にでもいそうな少女が、

持って生まれた才能だけで管理局に所属する魔導師の最上位に立てるほどの稀有な才能を持っていて、
管理局の武装隊に自発的に士官候補生として入隊し、教導隊を目指して邁進する熱血戦士になり、
10年の実戦経験を積んで≪不屈のエースオブエース≫を謳われるほどの歴戦の勇士になる、

という事実を。

ニコニコ笑っている姿からは、そんな彼女の一面など全く見て取れません。
世の中っていうのは、ほんとわからないものです。
……まぁ、世の中ってそういうものなのかもしれませんね。

「ふぇ?どうしたのこのはちゃん。わたしの顔に何かついてる?」

「ううん。おいしそうに食べるなぁって見てただけ♪」

なのはの質問ににっこり笑って答え、わたしもお弁当を食べ始めます。
う~ん。 この盛り付けはフィアッセ義姉さんかなぁ。
義姉さん、ほんとうに料理上手くなりましたねぇ。
本気で歌はどうするんだと訊きたくなります。

「そういえばなのは、海外にできた友達にビデオメール送るんだって?」

「あ。う、うん。
色々準備あるからまだ少し先だけど、まずはわたしから送るつもり。
 どんなことを言うかまだ全然考えてないんだけどね。
でも、お互い早くお話したいなぁって思ってるんだ」

「なのはちゃん、その子のことがほんと好きなんだねぇ。 少し妬けちゃうなぁ」

「ふぇええ!?すずかちゃん、何言ってるの!?」

「ふふふ。
冗談だよ。すこし、からかっただけ。
ふふふふふ」

「むー。あやしい……」

「アリサちゃんまで!?
すずかちゃんも意味ありげに笑うの止めてー!」

まぁ、すっごく怪しいですもんね。あのふたり。
というかなのは。 顔を赤らめながら言うからそんなこと言われるんだと思いますが。

……。

今、なのはの笑顔からは心の内に巣食う闇は感じ取れません。
そしてのめり込み過ぎの気はあるものの、フェイトとの友情も育んでいます。
多少原作からのずれはあるものの、ここら辺で満足しておくべきなのかもしれません。

でも、なのはには‘家族’の暖かみも知って欲しいんですよねぇ。
それに、(アリサちゃんとすずかちゃんの間でわたわたしてる姿からは想像できませんが)今朝の訓練で見せた様子だと、放っておくと突っ走りかねませんし。

三人の会話に耳を傾けながらおかずを食んでいて、そんなことが思われました。

……。
八神はやて排除計画、どうしますかねぇ。
はぁ。

わたしは、一人憂鬱な気持ちになってため息をつき、
フォークで適当についたおかずを見もせずに口に入れました。

うぐっ。プチトマト……。





放課後はなのはの訓練、と言いたいところですが、ちょっと待ってくださいね。
今日は委員会なのです。
月に1回、放課後に生徒会を初めとして全委員会が一度に会議を開く日があるのです。
特訓はその後です。

私は図書委員なので図書委員会に行くのです。
あ、アリサちゃんは委員長なので生徒会、すずかちゃんは体育委員会があります。
なのはは意外かもしれませんが文化委員です。

みんなで一緒に帰る約束をして、さぁ図書室にレッツゴー!

「それでは図書委員会を始めたいと思います。
 今日の連絡事項は……」

図書委員長の号令で図書委員会が始まりました。
今月の入荷書籍、生徒達の入荷依頼統計、今年から運用されているPCの使用状況……。
主に図書室の環境についての報告がなされ、その後に次回からの図書室運用が論議されます。
時折、席の方から発言・質問・提案が飛び、それについて意見が交わされます。

ですがぶっちゃけた話、低学年の3年生に発言権など有りません。
期待されているのは1,2年生の面倒を見て委員会のお仕事を教えることだけです。
本格的に委員会の仕事をするのは来年からです。

ですので、この会議もただ参加してるだけです。
欠伸しながらずっと聞いているだけなのです。
暇です。 ふわぁ。

……やっぱり、八神はやての排除について、今動くのは得策でないかもしれません。
彼女の排除がなのはの将来にどう働くのか、わたしが把握できていないからです。

現在のなのはの状態は一応安定していると言っていいでしょう。
それがはやて排除によって崩れ去るのですが……。

目論見どおり、なのはが管理局から離れてくれればいいのです。
が、しかし。
今気付いたんですが、わたしが管理局を変える! なんて考える可能性もあったりするわけです。
諸刃の刃どころか、こっち向いてる刃のほうが鋭く尖ってます。

つまり、失敗したときのリスクが大き過ぎるわけです。
後がないならまだしも、ハイリスクな賭けはする必要はないと思います。
はやて排除の機会はいくらでもありますし、リスクを犯して取りに行くほどのものでもないでしょう。

というかそもそも、わたしの目的ははやて排除じゃありませんしね。
なのはの歪みの矯正。 これが第一目的です。
矯正が無理だった場合は、撃墜による死亡回避ですね。
撃墜事件まで2年。 アプローチの方法はいくらでもあります。

矯正できなくても、ある程度健康体なら撃墜されても原作どおり死なないでしょう。
重傷は負うでしょうが、それはわたしの責任じゃありませんし。
……最悪、撃墜を防ぐだけなら、強制的に休養を取らせればいいだけです。

ああ、もう。
事件や事故を防ぐのは簡単なのに、人の心というものは何故こんなに難しいんでしょう。
先に情報がわかってても心というのは複雑怪奇なのです。
闇の書事件やJS事件ぐらいに明瞭簡潔だった嬉しいのに。

ううん。 なんとかならないものかなぁ。

「……では、これにて委員会を終わりたいと思います」

あ、考え事してる間に終わりました。
早くなのはたちのところへ行きましょう。
待ってるかもしれません。

ん?
あの子、なんか落としましたよ?
なんでしょう?

近づいて手に取ってみました。 生徒手帳みたいです。

……。あれ……」

もういなくなってました。
どっか行くの、早いなぁ。
これ、どうしましょう……?

ええと、名前は……ふむふむ。 ほわぁ。
なんかかわいいですね~、大きく「ななせ」なんて書いてますよ。
1年生の子のでしょうか。 だめですよ、苗字も書かなくっちゃ。

あ、ID番号とパスワードがはさまってる。 不用心だなぁ。
んー、どうしましょうか、これ。 職員室に届けたほうがいいでしょうか。
それとも図書室に預けておいたほうが……?
あ、せんせーい! これ、どうしましょ~。





んー。
なんか後頭部がむずむずします。
……。
見られてる?

バッ。
無言で急に振り返ってみます。……。
誰もいません。
……。

「なにしてんのよこのは」

何度も後ろを振り返っていると、気になったのかアリサちゃんが話しかけてきました。
すずかちゃんもなのはも少し不思議そうな顔で見つめてきます。 頬に視線が感じます。
今は帰り道の途中。 四人で仲良く帰っている最中でした。
あんまり不安にさせたくなかったのですが、わたし自身の行動が不安にさせていたようですね。
仕方ありません。

「え、んー。 ……なにかね、見られてるような気がして……」

ストーカーかな、なんて言うと、アリサちゃんがマユを顰めます。
あれ? アリサちゃん、ほんとにこの中の誰かにストーカーでもついてるんじゃないかと思っちゃった?
すずかちゃんも不快そうな顔をしています。
なのはですか?すっぱい顔でレイジングハートを弄っています。

「……このはちゃん、もし次見られてる気がしたら振り返らないで教えてね……」

すずかちゃんがこっちを向かずに前を向きながら、小声で話しかけてきました。
小声なのに私たちの耳には良く聞こえます。 どういう喋り方なんでしょう?
すずかちゃんは追いかける気満々なようです。 マジで?

アリサちゃんが小声で指令を出し始めました。

「普段通りに喋って歩くわよ。 つけて来る奴らにわからないようにね。
このは。もし、視線感じたらすずかの右手を叩きなさい。 することはそれだけよ。
すずか、このはに叩かれたら方角と場所を確かめて、少し待機。
初動なしで一気に行きなさい。 振り返る動作で気付かれちゃ駄目よ。
なのは、あたしとあんたは二人の挙動が気付かれないようにフォロー。
二人の動作に気付いても気にせずに話続けるわよ。 OK?」

「了解」「わかったよ」

二人も小さく、後ろにわからないように頷きます。
え、なに? この本格的なストーカー退治。
本当にするの?

うわ、なのははサーチャーまで起動しましたよ。
確実に探し当てる気だ。
ああ、大事になってきました。 どうしましょう。
……。



「で、その映画がさ~、ほんっとに駄作で……」

「ほんと原作を馬鹿にしてるよね~。 もう少しどうにかした方がいいんじゃないかな~」

……。
始まってしまいました。 ストーカー(仮)退治。
危ないって~。 止めとこうよ~。
なんて言おうとしたら目で止められたし。

どうしますかねぇ。
ほんとにストーカーだったら、こんな子供だけでどうにかな、……るか。うん。
なのはは強力な魔導師で、すずかちゃん、夜の一族だし。
はっきり言って二人のうちどっちかだけで十分な戦力ですねぇ。

心配の必要、ない? なぁ~んだ。
じゃあ普通にストーカー退治、頑張ろうかな。
ん?うわさをすれば……。 後ろの方から……。
よし。

とんとん。

「すずかちゃん」

「なあに、このはちゃん」

すずかちゃんの手をたたいて寄りかかると、すずかちゃんが笑いかけてきました。
ただ、目は一切笑ってないです。 怖気がします。
夜の一族こえー。

「うん、あのね。 別になんでもないんだけどね。 ちょっと手をつなぎたくって」
ボソ(私の右斜め後ろ15m)

「うふふ。このはちゃん、甘えんぼさんみたい」
ボソ(さっき通り過ぎた曲がり角?)

話に紛れて小さい声で視線が出ているところを教えると、
同じく小さい声で返します。悟られないように話を続けながら、です。

「うん。わたし甘えんぼさん」

「うふふふふ。もう、このはちゃんってば・・・・・・」
ボソ(じゃあ、いってくるね)

と、宣言すると
一気に後ろに飛んで一瞬にして曲がり角を曲がっていきました。
続けて、二つの足音がします。
あの一瞬ではストーカー(仮)は逃げる暇も無かったのでしょう。
すずかちゃんに追いかけられているようです。
この調子なら、おそらく捕まえられますね。

「……え?」

「……そんな」

すずかちゃんが向こうのほうで固まった声を出しました。
それと同時に後ろで息を呑む音が。

なのはです。
振り返ると、レイジングハートを持って固まってました。
なんかあったのでしょうか?

「どうしたの?なのは。
 早くストーカーのとこ行くわよ。
すずかー。ストーカーはどんなやつだった?」

アリサちゃんが曲がり角を曲がって駆けていきました。

「なのはちゃん、わたしたちもッ」

なのはに声をかけてわたしも走り出します。
後ろであわててなのはも走り出したようです。

もう一度角を曲がると、すずかちゃんとアリサちゃんに追いつきました。
? なにか揉めてます?

「そんな、人が消えるわけ無いでしょう!」

「ほ、ほんとだよ。 ほんとに角を曲がったところでぱぁって……」

え? 消えた?

すばやくなのはに視線を向け、確認します。

『なのは、さっき言ってたのって?』

なのはもこっちに視線を向け、頷いてきます。

『あ、うん。突然向こうで、人の反応が消えて。
 詳しくは調べてみないとわからないけど、たぶん転移魔法だと思う。
 だけど、なんか変なの。普通そういうのはレイジングハートで後を追えるのに、
 今回は全く跡って言うか、魔力の残滓がないらしくて』

『そう、わかった。ありがとう』

確認を終え、二人のほうに向き直ります。
とりあえず、すずかちゃんにも詳しい事情を聞かないと。

「ねぇ。アリサちゃん、すずかちゃん。
 ストーカーさんはどうなったの? 消えたってどういうこと?」

「あ。こ、このはちゃん。
 あ、あのね。わたしも信じられないんだけど……」

……。

すずかちゃん曰く、相手は普通の男の人っぽくてストーカーのようには見えなかったそうです。
しかも、あまり足が速くなくて、簡単に捕まえられそうだったそうです。
しかし、角を曲がってもう少しで捕まえられるってところまで来たところでいきなり消えてしまったのだそうです。

「ほかに、なにか気になったことはなかった?」

「ううん。特になにもなかった、と思う。
 あ……、そうだ。
近くまで追いたとき、なにかブツブツと唱えていた、ような……」

……ほぼ間違いなく魔導師のようですね……。
一体何が目的であるのやら……?
原作でもこういうことはあったんでしょうか……?
それとも、わたしが原因なのでしょうか?
う~ん。判断がつかないなぁ……。
……。

……そんなことを考えていたからでしょうか。
わたしは、アリサちゃんとすずかちゃんの、こちらを探る目に気がつかなかったのです……。





ドウゥッ!

目の前を桜色の、光線と呼ぶには幅広い、いや、【極太】の砲撃魔法が飛んでいきます。
……いやもうこれ、魔法じゃなくてカメ○メ波でしょう。
“気”ですよ、“気”。
少なくとも亀○人のじっちゃんぐらいの威力はありそうです。桑原桑原。

少しずつ茜色に染まっていく、しかしそれでもまだ抜けるような青が、半分以上空を占めている時間。
わらしたちは、真下に見える家々よりは雲に近い場所で―つまりは空中に浮んで―結界をの中でなのはの魔法訓練を行っていました。

「このはちゃーん! このはちゃんもやらなーい?」

「わたしはいいよ~! なのはちゃんががんばって~!!」

なのはが数十メートル向こうから呼びかけてきます。
返事を返していると、ふとイタチ姿のユーノくんが見えました。
なのはの向こうにいるユーノくんに念話で聞きます。

『ユーノくん。どう?大丈夫?』

『うん。大丈夫。
十分な強度に設定してるから、たとえなのはの砲撃でもこの結界は破れないよ』

『ううん。そっちじゃなくて。
そんな強力な結界使ってユーノくんは大丈夫なのかなって。
まだ、完全に魔力回復してないんでしょ?』

『……うん。大丈夫だよ。……ありがとうね、このは』

……。
しばらくいちゃいちゃと会話しました。
なのははなのはで、自分の魔砲を改良するのに夢中なようでした。
すっごく楽しそうで見ていてほのぼのしました。
ユーノくんも同じようで、わたしとユーノくんは二人してなのはの様子を見てほのぼのとしてたわけです。
なんというか、幸せ♪な時間でした。

……しかし、こうカ○ハメ波のごとき極太光線を見てると、
ドラゴ○ボールがまた見たくなってきましたね……。
今は実写版が公開されているようだし、今度ユーノくん誘って見に行きましょうか。





さぁ、勉強のお時間です。
どちらかの部屋に折りたたみ式の机を持ち込み、なのはと顔を突き合わせて勉強です。
今日はわたしの部屋でやってます。
ただ、今日の宿題は授業中に済ませたドリルだけですし、なのはもすぐに終わらせるでしょう。
なので、すこしベクトルの違う勉強でもしましょうか。

「なのはちゃん、レイジングハート貸して♪」

「ふぇ!?なにするの?」

にっこり笑って手を出すと、テーブルを挟んだ向こうの、自分そっくりの顔が目を丸くしました。
うんうん。いままであんまり魔法に興味示さなかったから不思議なんですね。

「うん。すこし魔法のお勉強しようかと思って」

「え、ええと。あ、う、うん。いいよ。でも、どうして?
いきなりっていうか、いままでわたしが誘ってもほとんどやることなんてなかったのに」

「うん。そうだね。今まではあんまり興味なかったし。
 でも、今朝ね、なのはちゃんの訓練見てたらどうしても魔法の構成が見てみたくなって」

ほんとはレイジングハートはなのはのものだっていう気持ちがあったからですが。
まぁ、魔法を使うんじゃなくて構成を見るだけならオッケーですよね?

「う~ん?それなら……はい、どうぞ」

「ありがとう、なのはちゃん」

はいはい。どうもー。
さぁ、魔法のお勉強です。がんばるぞー!
と言っても、いくつかのプログラムを言語で映して比べるだけですが。

「ねぇねぇユーノくん。
ここの、全部に共通して最初に書いてあるこの部分が起動シークエンス?」

<ディヴァイン・シューター>に<ディヴァイン・バスター>、
それから<フラッシュ・ムーヴ>のプログラムを出して並べ、
共通部分を指差して、そこが何を意味するのかユーノくんに聞きます。

「えーと。あ、あー、ここか。いや、そこは起動前の魔力供給源の設定部分だね。
 プログラム起動部分を書いた言語はその下、3行目部分からだよ」

「ふーん。あれ?
魔力供給源を設定できる部分があるってことは、魔力を他の人から取っちゃうことってできたりするの?」

横から覗き込んで教えてくれるユーノくん。
ふわふわの髪からすこし汗のにおいがします。いい匂い♪

「うーんとね、なのはの<スターライト・ブレイカー>って覚えてる?
 このはも映像で見たでしょ?あの、なんていうか、凄まじいの」

「あー。あの、フェイトちゃんだっけ?
 あの子を虐殺した容赦の欠片もない、【あれ】?」

「ふ、ふたりとも!なんだか酷くないかな!?」

いや、あれ洒落になってないって。
ていうか、一撃目の<ディヴァイン・バスター>で息も絶え絶えになってたフェイトに、
あの鉄槌を加えるのは容赦がない、と考えるのは普通の思考だと思うのですが。

「ああ!なのはごめん!すこし、口が過ぎたかもしれない」

「ああー、うんごめんね。なのはちゃん。わたしいいすぎたかもー(棒」

ユーノくんはとっさに失言を詫びました。
ですが、わたしはなのは弄りを続行します。

「ユーノくんはともかく、このはちゃんに誠意が感じられないの!」

「あははー、いやごめんね。唐突になのはを苛めたくなって」

「ひどくない、それ!? なんで苛めるの!?」

「だってー。このごろなのはちゃん、魔法に掛かりっきりだしー」

いきなりなのはの現状にブータレします。膨れっ面して拗ねてる振り。
ついでに机に突っ伏してだらーって垂れて見せます。
完全にともだちが塾とかに行って遊べなくてブーブー言ってる悪ガキです。

「最近さー、なのはちゃんさー、魔法ばっかりじゃないー。
つまんなくってー。楽しそうななのはちゃん見てると意地悪したくなるんだもん。
 前はー、アリサちゃんやすずかちゃんと別れた後もさー、
二人で遊んでたと思うだよねー。このところ全然だしー」

「あ、あううう。ご、ごめんね。このはちゃん」

ふふふ。いつの間にかなのはが悪くなってる口先の魔術!
K-1に弟子入りでもしましょうか。

「まぁ、新しいものに夢中になるなのはちゃんのこともわかるからさ、
こうやって魔法を勉強しようかなって。そしたらまた遊べるかなー?ってね」

「このはちゃん……」

最後にニコッて笑顔と共に健気さを主張して一丁あがり。
なのはは申し訳ないやら感動するやらで大忙しです。
ささ、今のうちに。

「で、ユーノくん。<スターライト・ブレイカー>がどうしたの?」

「あ、うん。
なのはの<スターライト・ブレイカー>は空気中に散布した使用後の魔力を収集する特性があるんだ。
集束って言ってね、術者に資質がないとできないんだけど……」

「ん?あれ?じゃあ、集束の資質があったら自分の魔力全然要らなくない?
 空気中からいくらでも魔力持ってこれるんだし」

「あー、いや。全然いらないって事はないよ。
 ああいう、集束系の魔法が集めるのは主に術者本人の魔力が主で、
 なにより、起動から発射までプログラムを動かすのに術者の魔力を供給してやらないとダメだし」

「ん~。じゃあ、他人の魔力を使って魔法を起動させたりとか、
もっと簡単に魔力を奪っちゃう魔法とか、は無理ってこと?」

「そうだね。今の、汎用的なミッドチルダ式じゃあ無理だよ。
 昔は、そういうふうな、少ない魔力を補うための体系もあったけど、今はだいぶ廃れてしまったって習ったんだ。
 ただ、たしか教会は……」

「うん?昔あったけど、今のミッドチルダ式では無理?
ってことはプログラムを一から書けば、大気中から魔力を取ったりとかできたりする?」

「うーん。
さすがに空気中から収集するのは、プログラムを変えただけじゃあ無理だろうけど、
ほかの人から魔力を供給してもらうのはできるはずだよ。歴史が証明してる。
そもそも、ジュエルシードだってエネルギー内包型のデバイスとも考えられるわけだし」

「ふぅん。夢が広がるなぁ」

そんなこんなで魔法談義をしていたわたしたちでした。
なのは? 何回か話に参加してたんですけど、気づきませんでしたか?





夕飯です。
焼きサワラです。皮がすこしこげてパチパチしてます。
横から覘くと、よく焼いた身は脂がのった白が目に映ります。
火が強かったところは脂の焦げでうすく茶色がさし、透明感のある骨が身の間に垣間見えます。
上から見下ろせば、程よい香ばしさを放つ銀色の皮がサワラの身全体を包んでいるのです。
所々、気泡が膨らんでは割れた円形の焦げ目。
さらには、焼いた魚の放ついい匂い。

食欲をそそります。ご飯が進みます。
やっぱり魚はおいしい。
海魚なら、何もつけてなくても魚の持つ塩分だけでご飯が見る見る減ります。

ああ、おいしいなぁ。
ニコニコしながらご飯を食べてると、ちょっと不思議な光景が目に写りました。

フィアッセ義姉さんです。
なにやら、青い顔してます。今にも吐きそうです。
気分でも悪いのでしょうか?

ガタッ!ダダダッ。

うわ。トイレに走っていきましたよ。
大丈夫でしょうか?

「フィアッセ……、どうしたんだ」

兄さんが後を追いました。母さんも立って…・・・

ん?
目配せ? えと。父さんと?
なにか思い当たる節でもあるんでしょうか……。





今日は夜の空中機動訓練はお休みです。
いえ、さっきまで、つまり十時近くまでドンちゃん騒ぎだったので。
なぜかって?

夕食の時、フィアッセ義姉さんが青い顔して帰ってきた時。
母さんが、

「フィアッセさん。何ヶ月くらいきてないの?」

って聞いたからです。

いや、もう疲れました。
で、三人で早々にお風呂入って寝ることにしたんです。
今はお風呂上り。
なのはもユーノくんも疲れてもう上にいます。
わたしはトイレに行ってから寝ようとこっちに来たんです。

が。

「ああ。あれから向こうからの積極的な接触はない。
 聞いた話じゃ、強い魔力を持った子は難癖付けられて向こうに拉致られるんじゃなかったか?」

……なんでしょうこれ。
お父様、あなたは誰と話してるのでしょうか。
何も持たずに!

「ああ。そうか。
やはり、発見して担当となった人物の人柄が重要な要素になるのかもしれないな……」

「ああ。ああ。わかっている。引き続き警戒は続ける。
 どうせあの子の様子じゃ、しばらくは向こうから離れそうにない。
そっちをせいぜい利用させてもらうさ」

離れましょう。はっきりヤバイ話です。こそこそ……。

「このは」

ビクゥッ!

「今の話、他言することは許さん。
誰であれ、堅く口を閉ざせ。“彼”にでもだ。
……俺はお前と彼の間に関してはどうもせん。奴等もな。
幸い彼は“スクライア”だ。歴史の傍観者たる彼らに手を出す者はいない。
決して勝手に藪をつつき、蛇を出すようなマネはするな。
―――お休み。ちゃんと歯、磨けよ」

は、はははははは。
本気の殺気当てられるなんて初めてですよ……。
こわかったぁ……。

なんか、原作から外れておかしくなってません?
まぁ、ユーノくんと関係を気づいた今、原作がどうなろうが、知ったこっちゃないんですが。
しかし、裏で何が進行してるんでしょうね……。

いえ、触らぬ神に崇りなし。あんまり深入りはやめましょう。
お休みなさい。








あとがき
外伝1(下)終了~っ!
や~っと終わりました。待っててくれた人もいるのに申し訳ない限りです。
八神はやてに関しては4-4でどっちが優勢ということもなかったので、一応このまま生きていてもらうことにしました。
感想待ってます。それでは。

P.S.
次は第二部です。



[6250] 許嫁少女ストレートこのは????列伝1: 失敗作『クレイヴ・リミテイション』
Name: VITSFAN◆7f8187e6 ID:a753e2df
Date: 2009/05/27 03:34




――――――――――――喩えるのなら、そう。飢えていた。


――――――――――――ただ、知りたかった。
――――――――――――自分にあった感情はそれだけだった。


――――――――――――あれをしたい、これもしたい。
――――――――――――そんな、プラスの感情ではなかった。
――――――――――――それだけはわかっていた。


――――――――――――ただ、知識が欲しかった。それだけ。
――――――――――――膨らんでいく欲望じゃなくて、無いものを埋める渇望。
――――――――――――生れ落ちて以来、絶えずそれに苦しんできた。


――――――――――――知識を得る。
――――――――――――そのためだけに、生きてきた。
――――――――――――ただひたすら、自分の中にある空白を埋めるためだけに。
――――――――――――あたかも、地の底まで続く穴に土砂を流し入れるように。


――――――――――――ひたすらに知識を集めていた。


――――――――――――でも、世界は自分が集める以上の速さで知識を生み出していて。
――――――――――――どれだけ頑張っても世界から知らない知識は無くならなくて。
――――――――――――いくら集めても飢えは増していくばかりで。
――――――――――――いつまでも終わらない飢餓地獄が延々と続いて。


――――――――――――自分は、この飢えに殺されるんだ。
――――――――――――そう思って。
――――――――――――飽きて、疲れて、諦めていた。






耳を澄ませば、遠くでゴオゴオと何かが燃える音がする。

白亜の外壁は濁色の黒い炎にあぶられ、窓のガラスは向こう側にゆらゆら紅く蠢く影を映す。
光沢のあった黄色い廊下は灰混じりの煙に燻され、働いていた室は無粋な乱入者の紫の光に汚されている。
共に銀色の机に座り真理を目指した隠者たちは閥族体制の尖兵たちに組み伏され、
金色に光る培養液で実験していた賢者とその弟子たちも杖を持った現代の貴族の縄に縛られている。

目を閉じていても、その景色は想像できた。


先ほどまで、私はそこで彼らと共に探求していたのだから。





ここまで来れば大丈夫。
ひと時の休息ぐらいはできるだろう。

そう思って地面に大の字に寝転がった。
研究所から一気にここまで走ってきたせいか体が重い。
地面に寝転ぶと、縫付けられたかのように体が動かなくなった。

冷えた土の感触に、私の疲労が地面に染み込んでいくような気分になる。
その感覚が気持ちよくて、私はいつの間にか目を閉じていた。

研究所の裏、気晴らしに歩いたことのある山。その頂上付近。
天然の芝生に寝転んで、切れ切れに息を吐き出しながら山の清涼な空気を吸い込む。

クラナガンから程よく離れた山の自然は、
裾野で起こった火事も知らぬ気に冷たさと清らかさを保っていた。

私は、睡魔に負けつつある目を無理矢理こじ開け、
半分ほどが黒い煙に隠されてしまった中つ大地の星空を見上げていた。

一際大きく映える双子月と、大気のせいで煌く星たち。
夜空の主役達は濛々たる黒煙に邪魔されてもなお、種々の色を放っていた。
いや。黒煙さえ、月と星々のコントラストを讃えるように縁が燈に輝いていた。

常人なら美しいと判断するだろう光景。

しかし、私の胸に去来したのは違う感情。
虚しさ、虚無の感情。疲労感、徒労の悲哀。無力感、卑小さの嘆き。諦観、無限への絶望。
それから、嫉妬。憎悪。

いつの夜も星の光は変わらない。
ただ其処に在り、人の営みを見下ろす。
人の世など関係ないと、ただ光を、熱を、粒子を生み出し続ける。

あたかも神のごとく、天の高みに座しながら。

そこに手を伸ばそうとする人間など無視して。
まるで、人間の努力を嘲うかのように。
彼らは自身の営みだけを続ける。


だから、私は虚ろに思う。
自らの、絶対に満たされることのない心の渇きを。

だから、私は消沈する。
真理への飢えが生み出す虚ろの深さに。

だから、私は哀惜する。
いくら世界を解き明かそうと尽きることのないこの世界の真理に。

だから、私は諦念する。
どれだけ奮起しても減ることのない彼らとの距離を。

だから、私は嫉妬する。
いと高き貴みに生まれし星々がに擬される万物を識る神々に。

だから、私は憎悪する。
全てを知る前に散ってしまう儚い我が命に。





「ああ、知りたいなぁ……」

思わず、声が出た。
何よりも自分を突き動かす衝動。
自分の生涯を鎖のごとく縛り付け、これからも拘束し続けるだろう、植付けられた本能が。

全てを差し置いて這い出てきた。
逃亡による疲労と、切り捨てられた憎悪と、管理局に対する怨嗟の底から、這い上がってきた。

なによりもまず、それが出てきたことに苦笑する。
今このときも自分の一挙一動を支配し続けているのを実感する。

抗う術などないのだ。
自身に組み込まれた真理への思いは、全てを差し置いて最優先事項と定義されている。
それこそ、人間の三大欲求すら押し退けるほどに。

知識欲。
一般的にはそう解釈されるだろう、欲望。

だが、違うのだ。
知識欲とか探究心だとか、そういう問題ではないのだ。
少なくとも、自身にとっては。

【欲求】。もしくは、【渇望】。
それが正しい。
なくては生きていけないもの。取らなければ死んでしまうもの。
それが、造られた自分の、失敗作である自分の、人とは違うところ。

何処だかの世界では、「衣食足りて礼節を知る」という。
私の場合は【衣食】より前に【研究】が来る。
眠いから寝ることが当たり前なように、腹が減ったから食うことが常識なように、
喉が乾いたから水を飲むのが自然なように、研究ができてこそ人間になれる。
私にとって【研究】とは、【食事】や【睡眠】と同義なのだ。

だが。
私を造った連中は私を造る際、何か致命的な失敗をやらかしていたらしい。
私の探究欲は、睡眠欲や食欲と違って納まる気配がないのだ。

まずは、想像して欲しい。
満たされない本能。納まらない欲求。空きっ腹。不眠症。貞操帯したままAV。
……地獄の苦しみだ。

しかし。
腹を満たしたいなら食えばいい。睡眠欲は寝れば解消される。ヤりたいなら風俗がある。

私の探究欲は。
あたかも、底のない真っ黒な穴を埋め立てるような。
まるで、広大な灼熱の砂漠に水を撒くような。
丁度、海辺で砂粒の数を数えるような。

そんな徒労感さえ感じさせるほど。
納まる気配が全くないのだ。

……心に飢えがある。

どこかで聞いたフレーズだが、これほど私の現状を表しているものはないだろう。
私は、絶えず飢餓にも似た知識欲求に晒されているのだから。

……兄弟達でさえ、そこまでじゃないらしい。
彼らは、「あれもしたい、これもしたい」と迷ってしまうらしい。
やりたいことはたくさんあって、際限がない。

羨ましい。
人間として、
衣食足りてそれから欲しがる、
醜くも健全な、正の方向を向いた欲望だ。

……私だけが違う。
私だけが、生きていく上で最重要欲求と定められながらも、
人間の欲望のごとく際限のない探究欲を持ち、納まることのない飢餓に苦しめられている。

叶えば叶うほど膨らみ続ける正数の願いの正反対。
叶えても叶えても埋まることのない虚数の乾き。
それが、私。

喩えるなら、そう。
Unlimited Crave.
欲望ではなく渇望。それが私を縛るもの。





「……それにしても、まさかあっさり切り捨てられるとは思わなかったな……」

黒煙が散り、満天の星空に近づいてきた空を見上げ、そう呟く。
研究所では、ダミーの私の死体が見つかっているはずだ。
突入してきたのは特務課じゃない。地上本部の部隊だ。
最高評議会直属じゃない彼等なら、まだあとしばらくは誤魔化せるはず。

そう思って、また物思いに耽る。

……最高評議会の要請を無視し、二体ほどのサンプルを造っただけで戦闘機人の研究開発を放り投げたのが悪かったのかもしれない。
彼らが欲っしているのはたった二体の高性能機ではなく、個体性能差の少ない数多くの量産型なのだから。
命令したこともせず、遊び呆けている駒に用はないだろう。

もちろん、こっちにだって言い分はある。
命令された戦闘機人研究は兄弟達のせいでほとんど道筋ができてしまっていたし、
プロジェクトFで散々研究した記憶があったから人体を弄くる楽しみに今更感があったこと。
なにより、研究所に適合するサンプルが一体しかなかったことが決定打だと思う。
はっきり言って新発見のない作業は飢餓の苦しみをいや増すのだ。

だから、私は悪くないはずだ。
そう結論付けて、これからどうしようか考えた。

……。
…………。
……………………。
…………………………………………。

……しまった。
これからどうするか、全くプランがなかった。
ここから何処へ逃げるかさえ考えてなかった。

しかも、だ。
金がない。財布を研究室に置き忘れてきたらしい。

慌ててあっちこっち引っくり返してみたが、
小銭の一枚どころか、いつも懐に忍ばせているカードさえ見つからない。

襲撃に備えて逃走経路を用意し、準備万端にしておいたというのにこの様。
無性に泣きたくなった。

……。

……いや、考えようによってはこれでいいのかもしれない。
私の探求欲は三大欲求以上の本能として私の中に根付いている。
例え逃げ延びたとしても、私は研究しなければ生きていけない。

だが。私が処分を拒否し脱走したことに、最高評議会が気づかないわけがない。
追手は執拗に伸びてくるだろう。今後自分が研究に携わるのはまず無理と考えていい。
つまり、遅かれ早かれ研究欲に喰い殺されるわけだ。

なら。
今ここで餓死するのも悪くないんじゃないか?
そう思った。





「まだ、知りたいか?」

驚いた。
私はこれでも絶えず周囲に気を配り、誰かが近くに来ればすぐ反応できるようにしている。
所詮、インドアな人間の付け焼刃でしかないが、それでも。

傍に立たれても全く気づかず、声をかけられてからその存在に気づくような事はなかった。
どうやら、彼‐声の調子からして‐はずいぶんな実力者らしい。

目を開くと、感情の読めない目が私を見下ろしていた。
黒い髪に黒い服。物を見るような冷めた目線。
一瞬、闇の中に目だけが存在しているように思えた。

「もう一度聞く。まだ、知りたいのか?」

声は何処からか降ってくるように聞こえた。
黒いマスクのようなものをしているからか、口が動くのが見えなかった。
だから、声を発している人物が誰なのか理解するまで時間がかかった。

「……。
 ……聞いてどうするんだね」

しばしの沈黙の後、返した答えは疑念が混じっていたように思う。
目の前にいる人物は、最高評議会が私を始末するために派遣した処刑人の可能性が高い。
そんな処刑人(もしかして違うのかもしれないが、最高評議会のお膝元、しかも最も警戒
の激しい秘匿研究所にまで手を伸ばせるほど強力な敵対勢力が存在するなど、過分にして
聞かない。)がどうして私の都合など聞くのか全然わからなかったのだ。

「貴様のことは知っている。
 管理局最高機密、次元世界管理プロジェクト。
そのγ計画の要、人為的研究者作成コード、『Unlimited』シリーズの失敗作。
胎児段階での行動指標プログラム植え込み。
その作業中でのバグにより、自身の探求欲を直接命令より優先させるようになった。
……もし、貴様にまだ研究を続ける気があるのならその場所を提供してやろうと思ってな」

驚いて思わず立ち上がった。

「ど、どういうことだ!?
 私は君達にいらんと捨てられたのだぞ?
 それがなぜ、今この時になってまた手を差し出す?
 これはなにか?まさか、飴と鞭のつもりか?
 今燃えているあそこには、今まさに完成しようとした理論だってあったんだぞ!?」

驚愕の声は途中から憤りの呻きに変わっていた。
このような奴等に使われていた私自身に嫌悪が走る。

だが、そんな私の憤りはただの一人相撲だったらしい。
目の前に立つ黒尽くめの男は先ほどから変わらぬ冷めた目線で冷えた答えを返してきた。

「勧誘に来たのはシリーズの中で貴様がもっとも有用だと判断されたからだ。
 ただ、設備が充実している中で設備が悪いところが勧誘しても来るわけない。
 また、変に忠誠を発揮されて通報されても困るからな。
悪いが貴様が上に切り捨てられるまで待たせてもらった。
貴様を切り捨てた奴等に復讐してやろうとは思わないか?」

……私はしばし固まった。
どうやら、目の前の彼は最高評議会の手先ではないらしい。
驚くべきことに、管理局のお膝元、最高評議会の目と鼻の先にまで
スパイを送り込めるほどの勢力が次元世界には存在しているらしい。

「……復讐には興味がない。
 私にとって重要なのは研究できるかどうかだけだ。
 君達は私の研究の邪魔はしないかね?これこれを何十体生産しろとか言ったりは?」

だが、私にとって重要なのは研究だけだ。
それができるのなら砂漠の真ん中に取り残されようとかまわない。
まずはそれを聞く。

「ある程度の研究の方向指定はするかもしれんが、基本的に邪魔をしないことを約束する。
大量生産はプロトタイプを作ってくれればこっちでしよう。
 ただ、まず最初に貴様が知っていることは論文の形で提出してもらうことになる。
 貴様が知っていることでも我等が知らん事ともあるだろうしな。
 お互い、要らぬ手間を省くためだと思え。貴様が必要とするものを用意するためである。
 それぐらいなら我慢できるだろう?」

私は彼の出す条件を吟味する。
その間も彼は次々と私の待遇を話す。……棒読みだったが。

潤沢な資金を約束された専用の研究室。結論を代わりに文章化してくれる専属の助手。
何より知識を与えあえる専門分野の違う研究者達。

……吟味するまでもなく、ここで野垂れ死ぬよりか何万倍もいいに決まっていた。

「……わかった。
 設備はあまり良くないようだが、研究を邪魔されるようなことはないらしい。
 君達に従おう」

再び研究ができる。その喜びに身を浸しながら答えた。
すると彼は、

「よし。すぐに移動しよう。
 特務に見つかったら始末に時間がかかる」

と中々に頼もしいことを言い、背を向けて動き出した。
その後を追いかけながら、ふと思ったことを尋ねてみた。

「そうだ。
 私が一番有用とはどういう意味なんだ?」

さっきの彼の言葉の一つだ。
これでも、命令の聞かない問題児だと自覚はしている。
それで有用とはあまりよく理解できなかった。

彼は前を向いて歩き続けながらこともなげに答えた。

「貴様がもっとも安全だからだ。
 貴様の活動を長期間観察させてもらったが、見事に研究一筋だ。
 それ以外に目を向けることなど全くなかった。
貴様なら、研究欲さえ満たされるなら喜んで支配下にいるだろう。
あまり有能で反乱でも考えられると抑えられるかわからんからな。
そういう意味で我等にとって有用だということだ」

なるほど。
どうやら彼らは、技術開発の速度よりも事を荒立てないことに気を配っているようだ。
まぁ、反管理局組織なら当然か。

「そうだ。忘れていた。
 貴様、名前はどうする?
 研究所ではシリーズの名前そのままに、スカリエッティと呼ばれていたのだろう?
 だが、犯罪者と同じ名前のままだとさすがに匿い続けるのは難しいのでな」

ふと、彼が振り返って尋ねてきた。

名前。名前か。

「クレイヴ」

「クレイヴ?」

ふと思いついた名前を言ってみる。
クレイヴ。思いつきだが、中々いいかもしれない。

「ああ。クレイヴだ。クレイヴ・リミテイション。
 中々いい名だろう?」

「そのままじゃないか」

「私にはふさわしいと思うがね。
 欲望ではなく、渇望。増えることのない虚数の願望。
 絶えず探究の渇きに苦しめられる私にふさわしい。」

「そういう意味ではないんだが……。
 まあいい。クレイヴだけなら誤魔化せるだろう……」

前を歩く彼の後を追いながら、研究所を振り返る。

ここから。ここから私の人生が始まる。
『Unlimited』のNo.3ではなく、クレイヴ・リミテイションとしての人生が。
生殺与奪を握られ、飼い殺されていた人生は先ほど終わり、
今からは、自分で選びこれからも自分で選んでいくだろう人生が始まる。
私は今、生まれたのかもしれない。

……まぁ、私は研究さえできれば飼い殺されようが構わなかったんだが。







あとがき

どうも~、VITSFANです。
いきなり毛色の違う話、驚いたでしょうか?
ですがこの話は以前からプロットに載っていたもので、
予定外の話、というわけではありません。
世界観を厚くする試みだと思ってもらえれば幸いです。

さて、この作品「夢はユーノくんのお嫁さん」では
主人公・高町このはが語る本編を『本部』と位置づけ、
その他に存在する『伝承集』として様々な物語を書こうかと思っています。
おおまかに区分けし、○○伝みたいな形でお贈りすることになるかと。

この列伝ではリリカル世界の様々な人にスポットを当ててみようと思います。
列伝で出てきた人たちが本編に出てくることがあるかもしれませんし、
本編の脇役が列伝で主人公になるかもしれません。
そんなことを夢想しています。
ただ、ほとんどがオリキャラになってしまうのでストックが余りありません。

なので、リクエストを募集します。
原作キャラでも、(貴方の創った)オリキャラでもいいんで。
そこから適当に選んだり選ばなかったりして列伝を書きます。
ただ、オリキャラをリクエストする際、どういう扱いになろうと文句は受け付けないということで。

一応、列伝2は大英帝国魔導師、『ギル・グレアム』を予定しています。



P.S.
このはのデバイスについてアンケートとります。
①お金掛かるし、無し。
②あり、名称『スレイヴカラーズ』。
どちらがいいでしょうか。



[6250] 許嫁少女ストレートこのは6,506 第7話 デートだあぁぁぁ~~~~っっ!!!!
Name: VITSFAN◆7f8187e6 ID:a753e2df
Date: 2009/07/27 01:20
*************************
ブー
この作品はフィクションです。作品に使われている人物・団体などの名称は実在の人物・団体とは全く関係ありません。
ブー
*************************



やあ!久しぶり!このはです。
ユーノくんの婚約者です。
第二部始まります!
え?前回はなんだったんだって?
前回は外伝ですよ?列伝?知りません。そんなのあったんですか?
ではでは始まります~。






「ユーノくん、ここだよ。 ここに映画館があるの」

「へぇ、ここって総合商店だよね。 どこもやることは変わらないんだな~」

なのはがユーノくんにデパートを指差して説明してます。
わたしたちの今いるところは、駅からすぐの、デパートを臨む大通りです。
いや~原作ではあんまり描写なかったですが、でっかいですよ~。

え?なんでそんなとこにいるのかって?
ふふふ。な、な、なぁーんと!デートなのです!
いいでしょ~♪

「にゃ?
 ユーノくん、その言い方堅くない?
 ミッドチルダじゃそんな言い方するの?」

「ん?いや、ちがうよこのは。
 僕がわざと古い言い方してるだけ。
 向こうとこっちだと訳語に齟齬があって伝わりにくいことがあるからわざと直訳にしたんだ」

「ふ~ん」

今日は天気も良くて絶好のデート日和です。
わたしたち三人が今日という日を思いっきり楽しめることを太陽が保証してくれているようです。

え?なにかおかしいですか?
……別にいいじゃないですか。三人でデートしても。

「楽しみだな~。
 今日見る予定の映画はね、世界中で大人気のアニメの実写映画でね~」

「へぇ~。
 この世界って、単一国家じゃなくって100以上の国家が乱立してるんだよね。
 そんな中で世界中で大人気なんて凄いことなんじゃないかな?」

ほらほら、なのはも楽しんでますし!
ニコニコ顔で解説してます!横でユーノくんも感心したように頷いてます!
まるで、カップルみたいですよね!

……。

って、だめじゃん!

なのはがわたしからユーノくんを寝取ろうとしている!?
そんなことさせるか~っ!
抱きつき!

「うわっ! このは、どうしたの?」

「むぅ~。 わたしを放ってっちゃダメ!」

「もう、そんなことしてないってば」

「にゃははは」

そんなことをごちゃごちゃ言いながらデパートに入っていきます。
ちなみに。なのははわたしの影響か、ユーノくんの右腕を掴んでいます。
わたし?当然、さっきから左腕に抱きついたままですが?

周りから、わたしたちはどのように見られているでしょうね。
仲のいい男の子を取り合う姉妹ってところでしょうか?

そんなことをふらふら考えながら、エスカレーターに乗ります。
ウィンウィン動く板の上でユーノくんに甘えながら、そっとなのはの様子を観察しました。

ふむ、ニコニコ楽しそうな笑顔。
ある程度のリフレッシュにはなっているようですね。
非日常の魔法から日常に誘い出すつもりでデートに誘ったんですが、気分転換になったようで重畳重畳。

そのうち一日中二人っきりになれる日があるから、と自分に言い聞かせて
わざわざ二人きりのデートをつぶした甲斐がありましたよ、うん。

この頃、なのはは日がな一日魔法漬けでした。
どれだけ楽しいことでも、そればっかりではダメ。
たまにはゆっくり別のことをやって生き抜きすべきですよね。

それに。
学校の成績に管理局入局に関するあれこれ、魔法の特訓。
毎日毎日、色々考えてて煮詰まってる感じでしたし。

わたし的にも、こういうお出かけでなのはの体調(精神かな?)管理ができるのを発見し、
撃墜回避ができるかもしれないという意味ではいい兆候と言えるでしょう。

………………なのはにはあくまで愛人でいてもらわなくてはいけませんしね。(ボソ

ま、こういう精神的なものは当人じゃわからないことが多いですし、
これから先何度かこういう機会を設けて精神安定を図りましょうか。

あ、そうこうしてるうちに五階のアミューズメントフロアに着いたみたいです。
さて、映画館は……。

「五階とうちゃ~っく! って、混んでるね……」

「「うん……」」

勢い込んできたはいいものの、思いっきり混んでいます。
これじゃあ三人まとめて座れるかどうかわかりません。

「待ち時間、長いかな……」

「う~ん。 二人とも、少し早いけど先にお昼食べとかない?」
 
「あ。 そうだね~、放映は一日数回あるし、お昼からの部でもいいかな~」

「よし! じゃあ、六階のレストラン街に行こう!」

今は11時前。すこし早いですが、軽く昼食にしましょう。
テクテクとシネマ横の階段を登って行きました。

……この時、わたしは、もう少し周りに気を配ればよかったかのもしれません。
後で聞かされて、そう後悔することになりました。
まぁ、ユーノくんもなのはも気づかなかった以上、私だけの責任ではないのですが……。


「ねぇ、アリサちゃん。あれ……」

「……すずか、つけるわよ」

……。
つまりは、そういうことです。






「ごはんも食べたし、いざ!シネマ!」

「おー!」

ふう。おなかいっぱいです。役得もありましたし、精神的にも満腹です。
そういうわけでコブシを突き上げて気炎を吐きます。
なのはも付き合いよく掛け声をあげて気合を入れてくれます。

「うん、第1回の上映中だから見事にすいてるね。
 まぁ、後1時間位は待たないと駄目みたいだけど」

「……入り口でお話しとこっか」

子供三人♪と切符を買って第二回の上映待ちをします。
三人で入り口の一番近くに、でも後から入る人の邪魔にはならない場所に陣取りました。
入り口の切符切りのおじさんに話しを聞いてみます。

「どうですか~? 流行ってます?」

「まぁ、上々だね。
 [ピー!](ジュエルシードっぽい物体)の映画化って言うのがかなりの宣伝になったみたいだ。
 できは最悪だけどね」

「……おじさん。 わたしたちもう切符買っちゃったの……」

ちょ、ちょっと。
駄目だし発言は酷くありません?
……映画、変えちゃいましょうか?

「ねぇ、二人とも。 今から払い戻し頼んでこない?
 面白くない内容らしいから別なのにしない?」

「ええ~? 見てみないとわかんないよ~。
 それにわたし、実写での[ピー!]波(主人公の流派の奥義)見に来たのに~」

「まぁまぁこのは。せっかくだし、見ていこうよ。
 僕たちは面白いって思うかもしれないし。
 もし面白くなくても、何事も経験だって」

「むぅ~、そうだねぇ~」

二人のとりなしも有って、見る映画はそのまま、ということになりました。
しかし、あと約1時間。暇ですね~。 まぁ、お話しとけばいいですか。


「やめときゃいいのに……」

「ア、アリサちゃん?何で遠い目をしてるの?」

「すずか……。人にはね、触れちゃいけない領域があるのよ……」






はいはい。時間ぶっ飛びましたよー。
映画見終わっちゃいました。
わたし達は悄然とシネマから出てきたところです。

オジサン、あなたは正しかった(怒)。

あんなもんをわたしは[ピー!](某人参)とは認めません!
[ピー!](タートルエロ爺)が全然エロくない!
というかなんだあの[ピー!](必殺技)は! どう見てもフィジカルヒールですよ!?
なにより! [ピー!](じっちゃんの形見)が!!
ああああああああああああ~~~~~~~~っっっっ!!!!!!(号泣)

……。
ひとしきり脳内で怒っても、それを表に出すころにはすっかり萎れてしまいます。
それほどの落胆でした。

「……あれは全然[ピー!](摩訶不思議アドベンチャーな漫画)じゃないの……」

すっかりしょげて呟くと、なのはが乗って来ました。

「このはちゃんもそう思う?!
 ひどいよね、あれは絶対[ピー!](いつの間にかバトルメインになったアニメ)じゃないよね!?
 何か別のリメイクだよね!?」

「……! なのはちゃん……!」[ガシッ]

「このはちゃん……!!」[ガシッ]

もう、これ以上言葉は要りません。
わたしとなのはは互いを支えあい、道に崩れ落ちるように抱き合います。

今、わたしとなのはの間に完璧な意思疎通がなりました。
人間は言葉を解さなくても理解しあえる、素晴しい生き物なのだと心から感じます。
このような思いはやがて世界を平和にするに違いありません。

「……ごめんね、このはちゃん。
 わたしが……、わたしがあんなこと言ったから……!」

「ううん。 わたしこそ……。
 なのはちゃんが無茶したら止めなくちゃいけないのに……!
 たった二人の、生まれた時から一緒の双子なんだから……!」

なのはが感激してわたしを見つめてきます。
わたしは頷きを返して答えます。

「このはちゃん……」

「なのはちゃん……」

ああ、互いを思いやる気持ちは美しきかな。
世界中の人がこのような心境に慣れるのなら、世界はきっと優しいものになるでしょう。
そして、それはそんなに遠くないはずです……。

だってこれは多くの国で上映予定なんですから……。

「あのー、そんなにダメだったのかなあの映画。
 中々作りこんでたと思うよ。ストーリーも時間内に上手くまとめてたように思うし」

……ピシャア!!!

戦慄が走りました。
なんと……、なんということ……!
この、この未曾有の大災害を理解し得ない人がいるなんて……!

「……二人して劇画調で固まらないでよ……。
 でも、ほんとさ、二人がそこまで嘆くほどの出来じゃなかったと思うんだけどなぁ」

「あ、ありえないよユーノくん!
 あ、あんな……、あんな映画を[ピー!](超インフレ格闘アニメ)の端くれと認めるなんて……!」

なのはが立ち上がって反論します。
そうです、これは断固として認めてはならない事実なのです。
たとえ、たとえわたしの生きる意味そのものであるユーノくんの言葉といえど、
立ち向かわなければならないときはあるのです……!

……。あれ?
ちょっと待ってください。
もしかして……

「な、なのはちゃん……。 忘れてた、ユーノくんって原作知らなくない?」

ピタリ。
なのはちゃんが固まりました。
私も気付いた事実に体が上手く動かせません。

なのはとお互いの顔を見るともなしに見合わせ、
二人してギギギッとユーノくんのほうに向き直ります。

「あっ、そういえば原作があるって言ってたよね。
 どんな感じなの? もしかして映画より数段面白いの?」

やっぱりー!?

即座になのはと作戦会議に移行します。
顔を突き合わせてごにょごにょと内緒話です。

「どうしようか、このはちゃん……(ボソボソ」

「……ここは、ユーノくんにも知ってもらうしかないんじゃない?(ボソボソ
 摩訶不思議な7つの石が織り成す、日本が世界に誇る素晴らしき冒険譚を(ボソボソ」

「……。うん、そうだよね。(ボソボソ
 日本に住んでいる以上、あの血と汗と涙が詰まった戦いの系譜を知らないなんて不幸すぎるよね。(ボソボソ
 あれ……?でも、家に全巻揃ってたっけ?(ボソボソ」

「……たしか、お兄ちゃんの部屋にはある程度あったと思う。(ボソボソ
 お兄ちゃんたちは直撃世代だから、少なくとも後半……遅くても[ピー](粘土魔人)編は確実に……。(ボソボソ
 でも、お兄ちゃん今いないし……勝手に入るのも……(ボソボソ」

そう、兄さんは今家にいないのです……。
それどころか、海鳴にもいません。ですので、勝手に部屋に入って漁るのも……。
いえ、家族ですし遠慮は返って失礼とは思うのですが、
下手に漁って男性の夜のお供を発見してしまったら気まずいどころじゃないですし……。

まぁ、ユーノくんにはそんな遠慮するつもりはないんですけどね!
むしろ、「ユ、ユーノくん……。こういうの好きなの……?(赤面)」とフラグ立てに……。
ぐふふ。だめですよ、ユーノくんったらまだ日の高いのに……あ、ユーノくんのおっき……

あれ?そういや、ユーノくんや兄さんのお供ってなんでしたっけ?
原作だと、なんというか、二人ともそういう気配が全然しなかったような……。
え。もしかして枯れてるの?それはこまるなぁ……

「「う~~ん」」

あ!と声を上げてなのはがポンと手を打ち合わせました。
い、いきなりなんですか?
でも、それのおかげで気付いて現実に戻ってこれました。

ええと。今なのはと相談してたんだよね。
あれ?何の話でしたっけ?

なのはは、わたしの様子に気付かず、
先ほどよりなおいっそうわたしの耳元に口を寄せて囁きます。

「あ、あのね……。(ボソボソ
 この近くに漫画喫茶ってあったでしょ?(ボソボソ
 そこに行けば全巻揃っているんじゃない?(ボソボソ」

おお。
そうでした。
[ピー](神様が中間管理職な漫画)の話でした。

「その手があった。[ビシッ](ボソボソ
 あ、でも、今からだと2,3時間ほどしかいられないよ?(ボソボソ」

なのはの意見に盲点だった、というように指を指して賛同してから、
家の門限という問題に気付きました。

「う~ん。そっか~、そうだね。(ボソボソ
 今3時過ぎだもんね~。さすがに読みきれないかな~(ボソボソ」

「だから。せっかく、お義姉ちゃんたちがコンサートツアーに出かけてるんだし、
 レンタル屋さんで借りてきて夜を徹してOHANASIなんてどう?(ボソボソ」

「……お店手伝わなくていいの?(ボソボソ」

「ふふふ。今朝言ってたじゃないなのはちゃん。(ボソボソ
 この週末は、お母さんがコンサートツアーの千秋楽に納入するケーキの構想を練るって。(ボソボソ
 だから、明日はお休み、何も予定がない!んだよ♪(ボソボソ」

「 ! 
 じゃあじゃあ、今日は夜更かし三昧?(ボソボソ」

「YES。お父さんやお母さんは一階だし、わざわざ注意しには来ないよ♪(ボソボソ」

「このはちゃん……、悪い子だね……♪(ボソボソ」

二人でニヤニヤ、肘で小突きあっていると、
すこし困惑したようなユーノくんの声が聞こえました。

「あ、あのさ。ちょっと端寄らない?
 道の真ん中でそんなことしてると、迷惑だよ? 」

その言葉にわたし達は顔を見合わせ、周りを見回しました。
ふむ。見事に奇妙なものを見る目で見られていますね。

……よし。
一瞬でなのはとアイコンタクト。
二人してユーノくんの腕を掴み(抱きつきっ)、走り出しました。

「「ユーノくん、レンタル屋さんいくよ!」」

「うわわっ。 二人とも!? 」

ユーノくんが足を縺れさせかけて、すこし慌てて走り出します。

「いざ! でっかい宝島アドベンチャー! 」

「いざ! 数多の強敵(とも)との戦いの日々! 」

目指すは駅の東側!このショッピングモールの反対、駅の裏手。
そこに我らが目指す桃源郷があるっ!
今時のレンタル屋は漫画もレンタルできるのです!

「「おーーっっ!!」」

掛け声は、大きく響いたのだった。


「……いきなり二人で奇行始めたと思ったら今度は走り始めたわ……」

「……二人とも、走り出す前、あの男の子に抱きついてたよね……。
 すごく仲良しなんだね……」

「確かに。 随分と仲いいみたいね……。 
 なのにあたしたち、紹介された覚えないわよね?」

「うん……。 私たちには秘密なのかな……。
 ……あ。 あの人の名前、ユーノくんって……」

「へぇ、フェレットと同じ名前ね……。 あれ?
 ……そういえばあの子の名前、いきなり決まってたわよね……」

「……アリサちゃん。 私の考えすぎ、だよね……?」

「……うん、そうよね……」






レンタルビデオ屋さん、とぅ~ちゃっく!
さぁ! これでユーノくんに本当の[ピー](西遊記の猿と同じ名前の人物)を見せて上げられます!

「えーっと。 ここは……? 」

ユーノくんが看板を見上げて呟きます。
何故連れて来られたのかわかってないようです。
まぁ、なのはと相談しただけで、ユーノくんにはなにも言ってませんしね。

わたし達はくっとすこしだけ胸を張り、ピッと後ろの

「「ここで漫画/アニメを借りるの! 」」

……。あれ?

「ちょ、ちょっとなのはちゃん!?
 借りるのは漫画じゃないの!?
 アニメだと一話に絶対三十分かかるから全部見れないよ!?」

「大丈夫! ダイジェスト版があるの!
 というか、アニメじゃないと必殺技のあの迫力はわからないよ?」

「二階にはビデオデッキ置いてないでしょ!」

「あ……」

ショボーンとしてしまいました。思いっきり忘れてたみたいですね。
う~ん。映画版1本ぐらいは借りて来ても今晩中に見れるでしょうか?

「えーと……とにかくここでなにかを借りるわけだね。
 でも、なにを? もしかしてさっきの映画の元になった作品?」

ユーノくんがわたし達の会話に入ってきて尋ねます。なのはを励ましながら答えました。

「うん。 そのつもりだよ、ユーノくん。
 ああ、なのはちゃん、元気出して。
 一本くらいならおとーさんたちと一緒に晩ご飯の後で見れると思うから」

「うう……。そうかなぁ」

「さ、はいろ」

「……うん」「そうだね」






う~むむむ。これは想定外。半分以上の巻が借りられています。
しかも、今回最も借りたいところ、修行編や大魔王との決戦のところが。
……どうも、わたし達と同じような思考回路を持った人は多かったようです。

「……このはちゃん、これじゃあ借りる意味無くない?」

「ううん。 アニメのほうを借りるしかないかなぁ」

「でも……ダイジェスト版でも何本かの組だよ?
 それこそ、夜更かししてビデオ見ないと終わんないよ。
 ええと。一作にエッセンスを凝縮するように編集したのなんてあったっけ……」

ううう、どうしましょう。
わたし達が頭を抱えて悩んでいると、そこにユーノくんが話しかけてきました。

「さっきから何を悩んでるの?
 何をしてくれるのか教えてくれたら一緒に考えられるよ?」

ああ。
ユーノくんって、普段の、にっこり笑った顔も魅力的ですけど、
今の、すこし困惑気味で、笑顔に影が差した顔もまたイイですね……♪

おっと。
見とれている場合じゃない、説明説明。

「あのね。 さっき見た映画の原作を読んでもらおうと思ってたの。
 でも、その原作が全然揃ってなくて……ビデオは見るのに時間かかるし……」

むぅ~っと顔をしかめて困った顔をします。
実際、どうしましょうかね。 全く改善案が浮かばないんですが。

「う~ん。 ええと。 見る量がすごく多いのかな?
 魔法使えば、一瞬で内容確かめられるけど?」

! それだ。

「それだそれだよ、ユーノくん!」

パンと手を叩いた後ユーノくんの手を取り、らんららんらと踊ります。
喜びの舞のつもりで手を上下左右に振ります。

忘れてました忘れてました。
ユーノくんは同時に20以上の本を読めることができるんでした。

「ねね、ユーノくん、なのはちゃん。
 ここで借りるのは止めにして古本屋さんか、漫画喫茶行かない?」

「ほえ? でも、ここになかったのに向こうに置いてるかな~~」

なのはは唇の人差し指を当て、首を傾げます。
ユーノくんは困惑顔で、いまだに上下に振ってるわたしの手に合わしてくれています。

「そうなんだけど、どうせこっちにはないし駄目元で。
 それにユーノくんが魔法で時間節約してくれるから2,3時間でも時間は十分だし。
 なにより、魔法使う時、魔力光を誰かに見られたら困ると思うの。
 古本屋さんならたぶん人少ないし、漫画喫茶なら個室があるし。
 どっちもここよりは人目がないと思うんだ」

「や、魔力光なら見えなくすることできるけど……」

「ええっと……。
 やっぱり、人前で魔法はできるだけ避けたほうがいいのかな……」

「う~ん、あのねユーノくん。
 わたしは、計器なら後から改竄とか誤魔化しが効くけど、
 人に直接見られたら誤魔化せないと思うんだど、どうなのかな」

「う~ん。 まぁ、それもそうかな」

よし、では移動しましょう!
手をつないでレンタルショップから出ました。

うん? 人影?
……。

「どうしたの?このはちゃん」

「……。 ううん、なんでもないよ」

気のせい、ですか。
今、そこのお店のレイアウトの大きな柱から
紫がかった髪と薄茶色の交じりの金髪がはみ出ているような気がしたんですが。


「……。 ふぅ、行ったわね。
 ありがと、助かったわ、すずか」

アリサがほっとため息をついて、後ろから自分を抱えてくれているすずかに礼を言う。
二人がいるのは、このはが視線を向けていた方向とは真逆の位置にあるベンチでだった。
このはが感づいた瞬間、すずかがアリサを抱えて全力移動したのだ。

「ううん。いいよアリサちゃん。
 でも……。アリサちゃん……。
 なのはちゃんたち、さっき、魔法って……」

「……最近様子がおかしかったのはこれなのかもね。
 これは問い詰めてみないと……。
 なのはたちはまだデートするみたいだから、買い物する時間はあるわね。
 どこかでテープか何か買って、証拠取って帰り道に先回りするわよ」






そういうわけで、最終的に二人とも納得してくれたので移動です。
移動先は漫画喫茶にしました。個室なら誰かに見られることはないでしょう。

受付のおねぇさんに個室をもらって(無理やりペアシートもらいました)、
なのはがクリームを、わたしが[ピー](尻尾が生えてる彼)を迎えに、
ユーノくんは先に個室に行って待っててもらうことになりました。

ユーノくんはこういう処初めてですからね。
準備その他は次来たときに参加してもらいましょう。

ええと……と、と、とっと。 ……おし!
ありました、ありましたよ、全42巻!
思わずガッツポーズしてさっそく回収です。

賭けでしたが、ここにきて正解でした。
ここを選んだ自分を褒めてあげたいです。

さすがに全巻持っていくのはきついので対管楽器編や赤い髪紐軍隊編とか、
そこら辺を重点的に選んでいきます。
いや、この漫画の魅力を考えるなら一回目の探索編がいいかな?

よいしょっと。
……まぁ、これぐらいでいいでしょう。
まだ半分以上残っていますが、
少なくても映画版の範囲はカバーできているはずです。
さぁ、持っていきましょう。

あれ?
ここって漫画を一度に持って行っていい量とか決まってましたっけ?






えっちらおっちら、漫画を抱えて個室に戻ってくると、
なのはがパソコン前の机にお盆を乗せていました。
お盆の上には、大きいジョッキに入ったカル○スがデンと鎮座しています。

「ただいま~、ってあれ?
 ジュースにしたの、なのはちゃん?」

「おかえり、って、このは重くない? 持とうか?」

「おかえり~このはちゃん。 あ、うん。
 なんでかわからないけど機械から出すクリームに抵抗があって。
 お母さんのシュークリームの影響かな?」

紳士的態度を発揮し、持つよと言ってくれるユーノくんを丁重に断り、
片方のスペースに持ってきた十数冊をぼさっと置きながらなのはに尋ねると、
なのはは首をかしげながら苦笑いして答えました。
う~ん。こんなところにも親の影響って出るんですねぇ。

「ううん。
 そういえば、わたしも外のはなんかおいしくないかもって思うことが……。
 あ!そうだ、ストローってある?」

「はいこのは。
 色々つけてくれたみたいだけど、どれにする?」

ユーノくんがお盆からストローを何本か取って差し出してくれました。
色取り取りで綺麗ですね。形もシンプルな直線や、グルリと回って円を描いてる物とか様々です。
っておお、さすがはペアブース。なんとバカップル用のあれがありますか。

というかユーノくん。
これを出してくれるということは誘ってくれているという事でいいんですね!
そういうことなら期待に答えないといけないなぁ、うぇへへへ。

「ユーノくんユーノくん!
 一緒にジュース飲もうよ! これで!」

ユーノくんの手からそのストローを取り上げ、差し出します。

ジュースにつけるストローの根元から真っ直ぐに一本の直線が伸び。
中頃まで来ると道筋は折れるように曲がり、ハートの形を描いていく。
愛を描ききったストローは再び上を向き、口に向かって一直線。

二本用意したそれを絡め合わせ、2つの心を互いに交差させる。
尖りの部分で描き始めの最初と最後のストローを接合し、形が崩れないように維持。
これにより、二人の心は絡み合い決して離れることはありません。
しかし、繋いだ心の自由度は高く、知恵の輪のようにくるくる位置関係を変えられます。
寄り添うことも向かい合うことも選べる、各々のカップルを尊重した造り。

見事なまでの一品。
紛う事無き、純粋なまでの愛を表現した至高の一品です。

まさに熱愛カップル、いえ。
わたしとユーノくんのために用意された一品ではないですか。
これはもう、これでジュースを飲めと言う天の啓示に違いありません。

あ、でもこれじゃ唾液の交換できないなぁ……。

「ええ!?」

「ちょ、ちょっとこのはちゃん!」

ユーノくんとなのはの声が重なります。
あ、そうかなのはいたんだった。
ちっ。

「これ三つないよ!仲間外れいやだよわたし!」

「「………………」」

えーと。よ、予想の斜め上な言葉が。
ユーノくん、顔真っ赤にして固まってますよ。
わたしもしばしの間、呆然としてしまいました。
ま、まぁ、なのはが自己主張してくれたので良しとしますか。
うん。

……。

あ、そうだ。
結局、ジュースはストローを三本差して飲むことになりました。
同じ顔に挟まれながら、同じジョッキからジュースを飲むユーノくん。
顔が赤くなってるのが可愛かったです。

……カップル用のストローは丁重に鞄の中にしまいました。
頃合を見て使わせて頂きましょう。






「じゃあ、このはが持ってきてくれた漫画を読み取るね」

「……(ワクワク)」

今のわたしはワクテカが止りません。
原作での勇姿、第二期までお預けだと思っていたユーノくんの読書魔法行使が今見られるのですから当然です。
この後、感動したわたしはユーノくんに検索魔法と読書魔法を教えてほしいと頼む、という段取りです。

なのは?
わたしの横で息を飲んでます。
新しい魔法っていうのにワクワクしているようです。

「……!」

ユーノくんがバッ!と印を組むと、
何かが動いたような気配がわたし達を包み、
一瞬後、十数冊の本がふわりと浮き上がりました。

おおー!
って、あれ?

浮かび上がった漫画たちはバラッと捲れた後、
すぐさま元あった場所に戻ってしまいました。
え、もう終わり?

「……ああ、なるほどね。
 確かに二人が怒ってもしょうがないかもしれないなぁ」

もう全部把握してるー!?
どんだけ早いんですか!?
パソコンのダウンロードだってもっと時間掛かりますよ!?

……って、ちょっと待って。
つまりはなんですか?ユーノくんのCPUのカタログスペックはスパコン並みってこと?
いや、下手したらスパコン以上?

化け物だー。化け物がここにいるー。
いやもう、すごすぎ。……濡れる。

「そうでしょ!そうでしょ!
 酷過ぎるよね! 冒涜って言ってもいいよね!」

なのははあまり衝撃を覚えなかったらしく、すぐにユーノくんの意見に同調します。
わたしは横でコクコク頷きます。さっきのユーノくんの素晴らしさに中てられて上手く喋れないからです。

「でもね、あの映画だって監督とスタッフと俳優の人たちが頑張って作ったものなんだよ。
 だから、頭ごなしに否定するのは駄目だと思うんだ」

「「はーい」」

あ。声出た。

……ユーノくんに叱られてしまいました。
えへへ。なんか新鮮。

「あ、そうだ。ユーノくん。
 さっきの魔法教えて欲しいな?
 一度にたくさん本が読めるなんてすっごく便利だもん」

叱られて反省もそこそこにユーノくんに予定通り読書魔法の伝授をお願いします。
これ使えたらベッドで寛ぎながら本読めるのですっごく便利です。
それに。二期でユーノくんのサポートできて、その後の人生で最も近い位置に陣取れます。

「ああ、う~ん。
 ごめん、このは。この魔法、かなり制御が難しいから
 デバイスがないと……」

ガーン。


「撮ったわね、すずか」

「うん。アリサちゃんも音声取れた?」

「ばっちり。……じゃあ、見つからないうちに一旦出るわよ」

「うん」






……わたしが落ち込んでいる間も、ユーノくんは次々に読み込んでいきました。
そして映画版まで読み込んだときには、わたしも一頻り落ち込んで気分が回復していました。

う~ん、よし。 気を取り直して。
それではせっかく日本が世界に誇る漫画を読んでもらったのですから、
三人でワイワイ漫画談義といきましょう。
そう思ってユーノくんに尋ねます。

「ところで、ユーノくん。
 漫画の中で何が一番印象に残った?
 わたしは[ピー](伝説の生物)レーダーかな」

玉が保有する微弱な特異な電磁波波長を捕らえ、
スイッチ一つで何処にあるかを探せる装置。
世界中どこでも、後には別の惑星どころか宇宙全体でも反応を探し出して見せました。

元理系の人間としては興味のそそられる一品です。
造りあげた[ピー](廃止された体操服)は正に天才と言っていいでしょう。
わたしは、いつかあのような発明品を造れるでしょうか。

……そういえば、うちの学校ではまだ廃止されていなかったですね、ブルマ。
後々のため、高等部の体操服も買っておくべきでしょうか?
ユーノくんは喜んでくれるかなぁ。男にとってあれは最高にそそる衣装の一つだと思うんですが。

あれってかなり魅力的ですよね。きゅっと締まった太ももとか。
股間もギリギリまで外に出ていますし。お尻を直すときの仕草とかも受ける要素の一つでしょう。
個人的には、開脚していくときの段々凹みが見えてくる内太ももがイイと思うのですが。

そうやって開いた太ももとブルマでユーノくんの顔を挟んで上げたいなぁ。

……。
よし、お年玉とかをフル稼働させて学校系の衣装は揃えておきましょう!

「う~ん。 そうだなぁ……。
 あの、なんでも願いを叶えてくれる玉。
 ジュエルシードに似てたよね、まぁジュエルシードじゃ死んだ人は生き返らないんだけど」

ユーノくんの声にハッと我に返ります。
そ、そうでした。今はユーノくんと楽しいお喋りの時間!
い、今は会話を楽しむべきですよね!

わたしはユーノくんの言ったことについて考えます。

○○○○ボール。神様の作った奇跡の玉。
運命は己で切り開いていくべきだと考えの下、世界から遠ざかった神様の、
ただ一つの、もしもの可能性。ジュエルシードすら霞む奇跡の七つ玉。

そう。ジュエルシードすら霞む。
この漫画に出てくる透明な球体は死者すら蘇らせるのだ。
魂を捜索して、肉体がないのなら肉体さえ造り直して。

ロストロギアどころの話ではありません。
この世界では、アルハザードに至らなければ無理でしょうね。

「そっか~。 なのはちゃんは?」

ユーノくんの話に頷きつつ、なのはの方に話を向けます。

「わたし? わたしはやっぱり、か○は○波かな~。
 あの大きな白い光がBGMと一緒に唸りをあげて飛んでいくのは大迫力だよ」

ふむ、アニメの方で考えてますね。

か○○め波。武○老師から連綿と受け継がれる亀○流の奥義。
主人公の必殺技にして、10年以上も続いたシリーズの代名詞とも言うべき技。
海外でも大会があったりしますよね。それくらいポピュラーな技だったりします。

どうでもいいんですが、なんでわざわざ掛け声の大会なんてするんでしょうね。
あれ、何度聞いても最後が「アッー!」って聞こえて気持ち悪いんですが。

そういやば以前、色を抜きに考えなければ、
なのはの<ディヴァイン・バスター>が似ているなぁって考えたんだっけ。

ん?……ちょっと待って。

私の背筋に戦慄が走りました。
……これは、確かめなければならないでしょう。

「……なのはちゃん。
 もしかして<ディヴァイン・バスター>って……」

もしかしなくても、あの○めは○波から?
あの、人造人間編では余波で太陽系を吹っ飛ばすとか言われてたあれをモデルに?

「にゃ!? ち、ちがうよ~!
 わたし、そんな乱暴な人じゃないよ!?
 あれ、レイジングハートに始めから入ってたんだよ~。
 ね、ねぇユーノくん! わたしがはじめて使ったとき、封印のためだったよね?」

表情からわたしの言いたいことを悟ったのでしょう。
なのはは顔色を変えて必死に自分を弁護します。
<ディヴァイン・バスター>は不可抗力だと謂れのない誤解を正そうとします。
ユーノくんにも助けを求めています。

「な、なのは……」

ですが、現実は非情でした。
ユーノくんも驚愕の表情で後ずさっています。
ユーノくん、ここは弁護してあげるトコではないのですか?
それとも、間近で見ている威力と態度に何らかの確信でも得たのでしょうか。

「ゆ、ユーノくーん!?」

なのはの悲鳴はむなしく響きました。






ひとしきりなのはをからかった後、また漫画談義に戻ります。

「それにしても、三人とも全く興味の向く所が違ったね」

「そういえば、そうだね」

「むぅ、このはちゃん、ユーノくん。ヤリ逃げは酷いのぉ~」

あ。なのはだけ萎れたまんまだ。
ペアブースのソファーにうつ伏せに突っ伏していた彼女は
今の今までプシュ~と煙上げていたんですが、だら~って顔だけ上げて講義してきます。
……たれなのは?

「まぁまぁ。なのはちゃん。
 なのはちゃんだってそう思うでしょ?」

「……そうだね。 見事に全然違うよね。
 このはちゃんは発明品っぽくって、ユーノくんはロストロギアっぽい。
 そしてわたしは魔法っぽいの」

なのはのは魔砲だと思うんですが。

「うん。 なんというか、これって。 今僕たちが現実に興味持っているもの、
 僕たちの進みたい道を示してるんじゃないかな」

ほへ?

「え~っと。
 わたしは魔法に興味があって、ユーノくんはロストロギアを見つけたくて。
 このはちゃんは何かすごい発明品を造りたいってこと?」

なのはは唇に手を当てて、天井を見ながら呟きます。
ユーノくんはこくりと頷いて続けます。

「僕の場合はロストロギアじゃなくて、遺跡とか遺失物とか、
 古代の人の営みについてとか、そういうのだけどね。
 でも、だいたいあってるんじゃないかな」

なるほど。さすがはユーノくんです。
わたしも、発明とか実験とかによって真理を知ることに興味を持っていた人種でした。

「なるほどね~。
 じゃあわたしは何か作るのがしてみたいってかんじなのかな~」

とぼけて言います。
自分的には再発見ですが、やはりわたしは科学者をやりたいみたいです。
てことはすずかちゃんと進む方向が一緒なのかな?

すずかちゃんは遺失工学だろうから、
わたしは魔法工学ってことでいいのかな?役割分担的に。
あれ?工学に進むということはサイエンティストというよりテクノロジストですか?

う~ん……、それにしても。
メカボディと不思議エネルギー。
これで「こんなこともあろうかと!」な武器があればまるっきりロボットアニメなんですが。
なんとか渡りをつけて将来友達連中でそんなの作ったら面白いかも。

どこかにないかなぁ……、武器。
デバイス?う~ん、代用できるけどこういうのは全く未知の技術を使ってるのが……。
遺失工学、魔法工学に続く第3弾の科学!

その名も!その名も……。う~ん。
え~と、え~と。どんな名前がいいですかね?

……デバイスとかは簡単に言ってコンピュータですよね。
どんな武器だって今じゃコンピュータ制御は難しいんですから、
それに変わるような科学ってことで……。

「そうだ演算工学!」

「にゃ!?」

「どうしたのこのは? いきなり変なこと叫んで」

あ。しまった。
二人が驚いて飛び上がってます。

「ご、ごめん。ちょっと別のこと考えてて……。
 それよりもユーノくん! ユーノくんはやっぱり考古学が気になるんだね!
 やっぱりロストロギアはどっちかって言うとおまけなの?」

誤魔化しに掛かります。
今の妄想には原作知識も混じっているので問われるとすこしやばいのです。
ユーノくんに勢い込んで尋ねます。

「う、うん。そう、だね。
 でも、おまけってトコまでは行かないかな?
 ロストロギアも昔の人の作り上げた立派な出土品であるし。
 興味の対象ではあるよ」

「じゃあさじゃあさ。
 この漫画みたいに世界各地、いや次元世界全体に散らばっているような、
 集めて初めて意味がわかるような、そんなロスト、ううん、出土品とかもあるの!?」

勢いに任せて口が動くまま喋ります。
多少、話が繋がってるように思えませんが、勢いで誤魔化しましょう。
ユーノ君の顔にズズイッと迫り続けます。

「あ、る、んじゃないかな……。
 そういや、そんなロストロギアの噂があったような……(ボソ」

「あるの!?」

「ある、と思う」

ユーノくんはわたしの勢いに押されて壁に背をつきながらも、力強く頷いてくれました。
わたしの目、たぶん今は輝いていることでしょう。
……なんで?あ。そうか。

なんかわたしの未来が見えてきた気がしたんだ。
そうです。このD○の○ルマみたいに発明をして……。
ユーノくんのお供として……

「じゃあ、じゃあねユーノくん!
 わたし、レーダーみたいなの作る!
 それで二人でこんな風な旅をしようよ!」

本を掲げて言います。
持っているのは1巻から2巻。
ちょうど最初のボール集めの時期です。
こんな風に、様々な価値観や人々、真実に出会っていくのはとても楽しいでしょう。

「ちょ、ちょっとこのは。 どういうこと?」

「あんなふうに、なにか一つの文明や一連の出土品とかを世界中から見つけ出せるようなものを作るの!
 だからユーノくん、一緒にたくさんの次元世界を巡って、各地の遺跡を探検したり発掘したりしようよ!
 きっとすごく楽しいよ!」

ちょっと興奮してきました。
思いつくまま喋ってたんですが、思いがけず夫婦生活の具体的プランができてしまったり。
わたし達は各自のロマンを追いながらも睦まじくやれそうな予感が。

万歳。

「ええと……。 それってあんまり考古学に関係ないような……」

「そうかな?
 まず、ユーノくんが何か研究したい文明や出土品があるとするでしょ?
 そしたら、わたしがその出土品だけを探し出すようなものを研究するの。
 作れたら、出土品を探す旅に行くの。
その中で、いろんな文化や風習、未知の学問に出会いながら、レーダーの示すまま旅を続けるの。
 出土品が眠ってる遺跡とかが見つかったらそこで役割分担。
 わたしは発掘に役立つようなものをわたしが作って、
 ユーノくんが考古学者として発掘を指揮するっていう感じ。
 どう?」

ちょっと不安になりました。勢い込んだけど大丈夫でしょうか……。
何か余り乗り気じゃないような……。
具体的なプランを示してみましたが乗ってくれるでしょうか……?

ユーノくんが目を瞑って考えた後、万感の想いをこめるように呟きます。

「ああ、うん……。 それはおもしろそうだなぁ……」

「ほんと!?」

やった!大逆転!
思わず躍り上がってしまいそうです。

「でもこのは。 それってあんまりこの漫画関係ないと思うよ?」

えー。そうかなぁ。
こういう冒険モノの醍醐味って様々な奇っ怪な社会や生態系に出会うことだと思うんですが。
まぁ、なんにしろ円満な夫婦生活ができそうです。ふふふ。

「ぶぅ~。二人とも、何がそんなに面白いの?
 わたし、全然楽しくないんだけど」

あ!なのはのこと忘れてた。
でも、なのはこういうときは
「わたし用心棒~」なんて言って参加してくれればいいのに。

「あ、ごめんね、なのは」

ユーノくんがすぐになのはを宥めにかかります。
でも、膨れっ面のなのはってすごく可愛いですね。

そんなことを考えていたのがばれたのか、
なのはを宥めるのに何時もより時間が掛かってしまいました。

その時間も夫婦生活が決まったおかげでルンルン気分であったわけですが。
いやもう、この世をばわがよとぞおもふって感じですか。






で。帰り道。

「さぁ、なのは。 どういうことか説明してもらいましょうか?」

「なのはちゃんも。そっちの子も。 逃げないでね(ニコ」

いきなりお先真っ暗?

**********************
あとがき

この作品はフィクションです。作品に使われている人物・団体などの名称は実在の人物・団体とは全く関係ありません。

言いたいことはそれだけです。調子乗ってすみませんでした。
ちなみに下におまけ載せてます。さらに調子乗ってます。すみません。

***********************
付録
お昼ごはんでのこと。 著高町なのは
***********************


お昼時のこと。
わたしたちは三人でちょっとしたファミリーレストランでご飯を食べていました。
丸くて赤いテーブルがお洒落な、今小学校で話題のお店です。
お店の名前は……なんだっけ。まぁいいや。

今は食べることが先。
そう思ってふと湧いた疑問を横に置き食事を再開します。
わたしはチュルチュルと注文したスパゲッティ(かけられた白いミルクが濃厚、です。)を啜るのを再開しました。

ちなみに。
このはちゃんはわたしと同じスパゲッティ(ただし、黄色いスープにつけられたの。)のスープをズズーッと飲んでいて、
ユーノくんはでろでろに濁った茶色いタレをたっぷりかけた丼をパクパクと休みなく口に運んでいました。
ときおり料理の感想を上げて楽しくお喋りしながら、お昼は続きます。

ふと見ると、
このはちゃんがユーノくんのほうに手を伸ばしていました。
どうしたんだろ。

「あ、ユーノくん。ご飯粒ついてるよ」

「え?ほんと?」

あ。ほんとだ。
口許に白いご飯粒がペトリとついてます。

「うん。はいっ[ヒョイ][パク!]とれたよ♪」

「あ、ありがとう、このは」

「ううん、いいよ♪ まだお箸、使いにくい?」

「うん? そんなことないよ、もうずいぶん慣れた」

「そう?よかった~」

……なんていうか。
 おとーさんとおかーさんの関係みたいだな~。

そんなことを思いながら二人を見ていると、
このはちゃんの鼻の天辺に白っぽい蕩けた具がついてるのを見つけました。

でも……

「このはちゃん、このはちゃんにもついてるよ」

「ふぇ!? どこどこ?」

わたしはひょい、と手を伸ばして
このはちゃんの鼻についてるドロッと融けてる白いのを
人差し指をつかって掬い取り、ぺロっと舌先で舐めとりました。

……おかーさんたちと違って、遠慮しないといけない感じはしないよね……。
どうしてだろう……。雰囲気は同じ、だよね……う~ん

「……(チッ 邪魔だな(ボソ」

「……(ゴクッ」

……う~ん。
このはちゃんやユーノくんがわたしと【一緒】だからかな?
 わたしたち皆魔法が使えるよね。
わたしとこのはちゃんとユーノくんは、お兄ちゃんたちみたいな仲良しさんのグループなのかな?
 ……だったら嬉しいな。

「あつっ」

そんなことを思ってぼぅ~っとしてたせいか、
フォークからスパゲッティを落としてしまいました。
おまけに、ホワイトミルクが跳ねて手にかかって指が痛熱いです。

「大丈夫? なのは」

「う、うん。 ちょっと熱いけど……」

?このはちゃんがすすっと椅子を寄せてきました。

「なのはちゃん。 火傷した? 手、出して」

そんなことを言ってきたので、不思議に思いながらも手を出すと。
指先にぬめっと湿った感触。柔らかくも押し返してくるような弾力。

「はにゃ!? こ、このはちゃん!?」

すこし驚きました。
このはちゃんが火傷した指を舐めてくれたんです。
だんだんと痛くて熱いのが和らいでいくのがわかります。
ペロペロ横腹を丁寧に舐めてくれたり、
先っぽに付いたままだったミルクを舐め取ってくれたり。
おかげで随分、火傷がマシになったかな?

「……(ゴクッ」

……?
唾を飲み込むような変な音がしたのでそっちを向くと、
ユーノくんの後ろでウェイターさんが棒立ちになってました。
どうしたんでしょう……?

「……やっぱり(ボソ」

このはちゃんが何か呟いた?何だろう。

「このはちゃん? 何言ってるの?」

「ううん、独り言。 なんでもないよ」

なにか怖い気もしたんだけど、どうしたのかな~。
ま、いっか。なにか悩み事なら相談してくれるだろうし。

「ありがとう、このはちゃん。
 おかげで随分、痛くなくなったよ!」

「うん! よかった。 どういたしまして!」

その後。
ユーノくんも火傷してしまってこのはちゃんに治療してもらったり。
わたしとユーノくんの治療をしていたら、
スープスパゲッティが冷えてしまってこのはちゃんが涙ぐんだり。
ウェイターさんが気分が悪くなったのか前屈みになってしまい、別のウェイターさんに連れて行かれたり。
色々とハプニングが起こったりもしましたが、楽しいお昼ご飯でした。

「……まだ、直接的に攻めることはできませんか……(ボソ」

ん?何か言った?このはちゃん?

「んー♪ なんでもないよ♪」

「さっきもそうだけど、すっごく気になるのー。
 教えてよ、このはちゃぁん」

「にゃはははは! ひっみつ~♪」

「もぅ~!(プクー)」

「ははは。 二人とも、お昼も食べたし、5階に戻らない?」

ユーノくんの声に顔を見合わせて、にっこり答えます。

「うん! そうだね!」

「よし! じゃあ、ご飯も食べたし。 いざ!シネマ!」

「お~!」

映画も楽しみだな♪

(おわり)



[6250] 許嫁少女ストレートこのは6,506 第8話 ばれちゃった!?
Name: VITSFAN◆7f8187e6 ID:a753e2df
Date: 2009/07/27 01:21
こんにちは皆さん!(今はまだ)高町このはです。
すこし前にユーノくんと婚約したわたしですが、調子に乗ってしまったかもしれません。
おもいっきりピンチです。目の前にアリサちゃんとすずかちゃんがいます。
はい、ほぼ確実に魔法バレイベントでしょう。
魔法がばれたら魔女ガエルにされてしまいます……!(番組がちが)

何が悪かったのでしょうか。
デートなんてしゃれ込んだのがいけなかったのかもしれません。
なのはの心の闇をどうにかしようとしたのが悪かったのでしょうか。
え?そもそもお前がこの世界に来たのが悪いと?
そんなのオリ主全員に言え!

いや、待ってください。
これはチャンスなのではないですか?
上手く持ち込めばわたし達の魔法で繋がる輪の中に
アリサちゃんすずかちゃんも引き込めるのでは……?

それでは、始まります!






ジー……。

……テープレコーダーは無慈悲に回転し、
先ほどのわたし達の会話を寸分違わず再現しました。
今は、何も取ってない、まっさらの音を紡ぎだしています。

……何も言わず、俯いたままテープレコーダーを掲げるアリサちゃん。
俯いたせいで髪に隠された顔が余計に恐ろしいのですが。

……カチッ。

レコーダーを掲げている細い指が僅かに動き、
固まっているわたし達の前でテープレコーダーが止められます。
テープレコーダーを止めたアリサちゃんは掲げていた手を優雅に下ろし、
腰に手を当てると、王侯貴族のように臣下に命令を下しました。

「で。 このは。
あんた達が隠してること、今日こそ教えてくれるんでしょうね?」

……。
…………。
……………………、はっ。

あ、あわわわ。
アリサちゃんとすずかちゃんに捕まってしまったのですよ。
しかも、なんかアリサちゃんが思いっきり怒ってるー!?
というか、なんでわたしに振るんですか。なのははどうしたっ!!

「アリサちゃん、怒ってたら話が進まないよ」

すずかちゃん!
助けてくれるのですか!
ああ、さっきも黙ってたおやかに佇んでいたので期待していたんですが、
やはりアリサちゃんの暴走を止めるために居てくれたんですね……!
貴方は天使です……!

「こういうときは笑顔で威圧するのが一番なんだよ……(ニコリ

瞬間、わたしの前にはエリザベータ・バートリが立っていました。

……。
…………。
…………………………。

前言撤回。
すずかちゃんはもっと怖かった……。
あ、ユーノくんの向こうでなのはがエクトプラズム出してる……。

「ね……♪」

DAKARA、なんでわたしなんですか!
当事者なのはですよ!(泣)

『ゆゆユーノくんなのはちゃん!?
 ヘルプ!ヘルプミー!』

泡を食って二人に助けを求めます。
ですが……、

『………………、あっ。
……ごめん、このはちゃん。 無理だよぅ。』

『っ~~! う、裏切り者ぉ!!』

わたしの念話で正気に戻ったなのはは、当事者の癖にあっさり裏切りました。
しかも、ユーノくんの後ろに隠れようとするし。
ていうか、ユーノくんの背中でこそこそするなぁ!
ユーノくんはわたしのなんです!

「え、えっと。お二人とも……」

ユーノくんが敢然と立ち向かってくれますが、

「あ。こんにちは。
た ぶ ん 初対面の方に無礼だとは思うのですが、
積もる話はまた後で」

「アンタと話すのは後よ。
 あんたにも色々聞きたいことはあるけど、今は後回し」

……一蹴されてしまいました。
くっ!こうなったら!

『ユーノくん!このはちゃん!』

っ、っと、とっとっと。

『な、なのは?』

『……なのはちゃん?』

わたしが動く前になのはから念話が飛んできました。
ユーノくんをわたしの婚約者だと言って
魔法の方はうやむやにしてしまうつもりだったんですが、出鼻を挫かれてしまいました。
まぁいいや。なのはの提案を聞き……

『にげよう!』

はい?

ちょ、いきなり逃げですか!?
それはちょっと、あんまりな気が……。

驚いてなのはの方を向くと、なのははユーノくんの影で縮こまってました。


考えていたら、アリサちゃんが焦れた様に一歩前へ出ました。

ずしん。

「さて。それじゃあ、教えてもらいましょうか?」

ひ!?
ア、 アリサちゃんの背中からなんか黒いものが!?
こ、これはオーラ!?いや、瘴気!?

『お、OK!』

『え、ちょ、ちょっと。ふたりとも!?』

即座に意見を変え、なのはに賛成します。
ユーノくんが止めてきますが、無理です。無茶です。無謀です。

アリサちゃん、かなり怒ってます。
こういうときはとりあえず、三十六計逃げるにしかず。

『い、いくよ! このはちゃん!ユーノくん!
 掛け声と一緒に後ろの方に!』

『ALL RIGHT!
WARNING! WARNIONG!
 撤退準備! 撤退準備!』

『え、えええええええ!?  ああもう!』

なのはが、震えながらも逃走の開始を合図すると言い。
わたしも、ユーノくんの制止の声を無視し、動揺しながらも体勢を整えます。

ユーノくんは?
おお、頭を抱えるようにしながらも付き合ってくれるようです。
さっすが、ユーノくん! え?ちがう?

『いっせーの、』

気圧される振りで体を後ろに傾け、
重心を僅かにずらしいつでも駆け出せるようにしました。
右足をたわめ、左足に力を込めそのときを待ちます。

『『でっ!!!』』

GO!

念話での掛声が銃声代わり。
わたし達はいっせいに後ろを向き、走り出します。

「ああっ、ちょっと! 待ちなさい!
 ……! すずか!!」

アリサちゃんが慌てた声を上げますが、絶対的に―そして絶望的に―遅いです。

徒競走において、最も大切なのは初動。
スタートダッシュとその後のストローク。
単純でありつつも奥の深いこの動作を上手くこなすことさえできれば、
不意を突かれて棒立ちだった人間との差など、一瞬で数メートルに開きます。

たった数メートル。
普通なら、万能なアリサちゃん、夜の一族のすずかちゃんにとって問題になる距離ではありません。
相手は運動神経が切れてるとさえ言われるなのはと、なのはより成績は良くても平均よりは上、程度なわたしなのですから。

しかし、ここは街中。
普段とは勝手が違います。

5メートル。
5メートルもあれば、街角を利用して姿を晦ますことなど造作もありません。
石塀に金網に、抜け穴。全て利用して逃げ延びてみせましょう。

今、この場所においては初動の遅れは致命的。
どれだけ能力差があろうとも、覆せるものではありません。
わたし達は無事生き延びることができるでしょう。

ふははは!
また会おうではないか、明智くん!

……って、また来週会うのに逃げる意味あるんでしょうか?

「わかったよ、アリサちゃん」

とん。

……。
                え?


……えーと。見間違えでしょうか?
め、目の前にすずかちゃんが居るんですが。

「どこいくの?」


ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



「にげちゃだめだよ」

お、おにが、おにがえがおでちかづいてくる……。

「……☆♪□↓○¥△&◎$!?」

「あ、ちょっと!
 なのは!?なのはーっ!!」

あ、なのはが白目剥いて倒れました。
あ、あははは。そういうわたしも、もう限界……。
こ、こしが……。

「ああ!? このはまで!!
 しっかり!しっかりして二人ともーっ!!」

ユーノくんに支えてもらっても全然足が立ってくれません。
ユーノくんは殺気を叩き付けられなかったようで、
しきりにわたし達を心配してくれます。

とりあえず、道の壁に運んでもらいました。
なのはも横で塀に寄りかけられています。
そしてアリサちゃんが後ろから、すずかちゃんが前からゆっくり近づいてきます。
ははは、どうしましょうこれ。



**************************************
                    少々お待ちください。
**************************************



……先ほどは失礼しました。
前から迫ってくる、笑顔なのに笑顔じゃない顔に思いっ切りビビッたこのはです。
失神はしませんでしたがお股の方がすこし冷たいです。

「……さて、仕切り直しね。
 じゃあ、さっそくこのは。洗いざらい吐きなさい」

「……」

というか、さっきのすずかちゃん、少し前のおとーさんより怖かったんですが?
あれ?てことはすずかちゃんのほうがつおいんですか?

「……だんまりってわけ。
 あんまり怒らせないで欲しいわね」

「……」

「こ、このはちゃ~ん」

いやいやまってください。
古今東西、御神は最強です。
その麒麟児不破士郎ともなればその実力は隔絶したものでありましょう。
種族が違うとはいえ、たかだか小学三年生の女の子より弱いはずが……

「……へ、へぇ。い、いいいい度胸してるわね。
 も、もう一度言うわよ? 隠してること洗いざらい吐きなさい」

「……」

「こ、このは?」

「くすくす」

……!そうか!あのときの父さんは手加減してたんだ!
そうですそうです、そうですよ。
話を立ち聞きされたとはいえ、子供に純然たる本気で殺気をぶつける大人なんてまずいません。
あのときのあれは、警告の意味を兼ねた楔打ちだったに違いありません。
そもそも、もしかしたらわたしに立ち聞きさせたのもワザとだったり……

「……っておい!」

「にゃ!?」

な、なにごとですか?
って、ひぃ! 般若!?

目の前にアリサちゃんの顔が迫っていました。
燃えるような紅い瞳がなんとも恐ろしい……。

「あたしに黙っていただけでも許しがたいのに、さらに黙秘を通そうとか。
 い い 度胸してるじゃない?」

いやいや。
考え事に夢中になってただけで、そんな大それたこと考えてませんよ?

「もっと悪いわ!」

アリサちゃんが怒ります。
こめかみの青筋が目に見えるようです。

へ、ヘルプミ~~。
涙目になって二人に助けを求めて見ますが……

「「……」」

ユーノくんもなのはも無言で無視!?
って、そこ!目をそらすな~!!

恋人の裏切りに一人涙していると、
横からすずかちゃんが近づいてきました。

「このはちゃん、そろそろ真面目に話してくれないかな?
 おびえた振りで誤魔化そうとしてるみたいだけど、演技が遊びすぎ。
 騙される人なんてあんまりいないと思うよ?」

……えーと。
状況を楽しんでたのは本当ですけど、
怯えたり逃げたりしたのは全然演技じゃないんですが。

「……そんなにわざとらしく見えた?」

「うん。バカにされてるのかと思った」

首を傾げて利いてみたら思いのほか厳しい答えが返ってきました。
う~ん。確かに状況を楽しみすぎたかも。
すずかちゃんの頭の向こうでは、
アリサちゃんが抑えていても漏れる怒気でなのはを怯えさせてますし。

……仕方ありません。
事情を話すことにしましょう。

ま、ここで魔法をばらしても原作にはさほど影響ないですよね。
このふたりが怒っているのは仲間外れにされたことでしょうし。……だよね?
秘密を教えれば人仕切りの説教の後、矛を収めてくれます、……たぶん。

……もしかして、なのはだけ魔法に関わるのを寂しいなんて言ってくれるかもしれません。
そうしたら、なのはを日常に留める力になってくれるでしょう。

ま、抑止にはなりませんが。
魔法って聞いて思いつくのはどうしても「ぴぴるぴるぴる~」のほう。
がしゃこんがしゃこんどかんどかん、なんて思いつきもしないでしょう。

彼女達がこの世界の魔法の本質―戦闘行為―を知るのはどの道12月になってから。
このときこそ、彼女達は抑止力になってくれるかもしれません。

……高町家は戦闘民族だからどうも戦闘行為に肝要なトコありますし。
なんか大怪我負っても、「困難に挑め」とか「試練」とか、
もしくは「自業自得」の言葉で片付けそうな気が……。

……うん。アリサちゃんもすずかちゃんもこっちに来てもらおう。

……ん? いや、「ぴぴるぴるぴる」じゃだめか。
「テクマクマヤコンテクマクマヤコン」ですね。

「ええとね……」

立ち上がり、ポーズを取りながらユーノくんのところまで歩きます。
ユーノくんの手を取り、こっちに引き寄せたところに腕を絡め、にっこり笑顔。

「まずは紹介するね。
 こちら、ユーノ・スクライアくん。
 わたしの旦那さん」

と紹介しました。

「え、ちょ、こ、このは!?」

「「……」」

ふふふ。みんなみんな、固まってますね。ふふふ。
まぁるく開いたお口が並んでいて中々チャームミングですね。
……今から魔法に関するネタバレをするわけですが、
その前に、泥棒猫の牽制は忘れてはいけませんよね?ふふふふふ。

あの温泉で、今の私たちの関係の原点となった温泉で、
一緒にお湯に使ったのはわたしだけではないのですから。

ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。

「実はね……」

で、固まっている金髪と紫髪の親友に向かい合い、
わたし―高町 このは ―は、傍観者・・・として知っている限りの
双子の姉―高町 なのは ―の、当事者・・・の事情を打明け始めました。



**************************************
             カクカクシカジカ、シ■クイム■ヴ、■ンテ新登場!
**************************************



「……ということだったんだよ!」

「「「な、なんだってー!!」」」

なはははは。
話してるうちに興が乗ってきて、ついキ○ヤシになってしまいました。
左手を元気○を作るように顔前あたりに掲げ、深刻そうな表情を作ってみたら
思いのほか上手かったらしく、三人とも乗ってくれました。

ん?三人?

「って、なんであんたまで乗ってんのよ!!」

「ひ、ひひゃい、ひひゃいよ、アフィファひゃん」

アリサちゃんが怒ってなのはのほっぺたをグニグニしました。
なのはのほっぺたが面白いように伸び縮みします。
目に涙を浮かべながら手足をばたばたさせるなのはがかわいいです。

「っていうか、これ当事者このはじゃなくてなのはじゃないのよ!
 なにこのはに説明させてんのよ!
 自分で説明しなさいよっ!!」

「ふぁ、ふぁって、こふぁひゃったんふぁひょ~」

「何言ってんのかわかんないわよッ」

「ひょんな~」

うわすご。人間のお肉ってあんなに伸びるんだ。
っていうか、アリサちゃん。自分で喋れなくしておいて、その発言は外道……。

「このはちゃん」 「あ、あの。手を離してくれませんか?」

ん?すずかちゃん?

「どうしたのすずかちゃん」

アリサちゃんの暴虐を傍観していると、
ユーノくんの手を掴んだすずかちゃんが近寄って来ました。
どうしたんでしょうか。

「あのね、さっきの話でね気になることがあったんだけど……」

?なんでしょうか。
なにか名状しがたい表情していますが。

「なぁに、すずかちゃん」

「うん。アリサちゃんが興奮している間に、と思って。
 ……このはちゃんの話をまとめると、
あの、フェレットのユーノくん=このユーノくんってことになるんだけど……」

ついに来ちゃった正体バレ!
ええい!おちつけ、落ち着くのよこのは。
旦那さん宣言は済ませています、ここは……。

「……とっちゃやだよ?」

かわいらしく首をかしげて誤魔化せ~~っ!

「~~~~~~~~~~っ、…………はぁ。
 ……そういうこと、聞いているんじゃないんだけどなぁ」

顔色を真っ赤から真っ青まで、虹色のように変えた後。
すずかちゃんは苦笑いで矛を収めてくれました。
ユーノくんを掴んでいた手も離してくれます。

あとは三人でアリサちゃんの暴虐が去るまで待っていました。






「でも……まさかとは思ってけど、ほんとうだったんだ……」

「……? なにが?」

「ユーノさんのこと。
 今更ながらだけど、肌を見られたって考えたらちょっと恥ずかしくて……」

「ああ! えと、あのその節はその……。
 ご、ごめんなさい……。お詫びはなんでっ、むぐっ」

「だいじょーぶだよー。
一番の被害者のわたしが許したんだから、二人とも許してくれるって~」

「ふふっ。このはちゃんったら……」






「……で、あんたはその、“ユーノくん”の手伝いをする気になったわけだ」

「は、はい。 それで、あの大きな木のときに……」

「余計なことは囀るんじゃない!
 あんたはあたしが聞いたことに答えるだけでいいのよ!」

「ひゃ、ひゃい。わきゃりまひた、わきゃりまひたぁ~!
 だきゃら、だきゃらぁ~、ああ~ひたいひたいひたい~~っ」

……なんか、哀れに思えてきました。



あとがき

8話終了。今回はちと短め。ごめん。
次はどうしましょうか。事件なんて起きるわけないんだけど。

でもやばい。このごろこの展開に少し飽きてきた。
プロットのほとんどが日常。ギャグもほとんどなし。
日常の中でユーノくんと楽しく過ごして中を深めていくのが
この作品を主要コンセプトだから仕方ないんだけど。

ああ。
血みどろの戦いが書きたい。絶望の未来に抵抗したい。
救われなかった人間を救済してみたい。
自分の考えた古代ベルカの王達を復活させたい。
インディー・ジョーンズ張りの大冒険をしたい。

以上、愚痴聞いてくれてありがとう。



[6250] 夢はユーノくんのお嫁さん口伝6,506  ソノ壱 地球の事情
Name: VITSFAN◆7f8187e6 ID:a753e2df
Date: 2009/09/10 03:48
端的に言って高町士郎は頭が痛かった。
目の前の、共に死線を乗り越えたこともある旧知の人間の話す内容に
開いた口が塞がらなかったのである。

「……お偉方は気でも狂ったのか?」

「決断を下した方々は全員、この上もなく正気で本気でしたよ」

頭を抱えながら搾り出したセリフに
律儀に答える男を苦々しく思いながら士郎は嘆息した。

「……だが。そんな処置、頭がどうかしたとしか思えんぞ。
 ……そんな、万一の場合、“彼”に接触した可能性のある者すべて(地域全域)を
“処置”するつもりだったなど……」

「ええ……。たしかに正気とは思えない指示です。
 ですが、事実です。
 上層部(日本政府)は“彼(ユーノ・スクライア)”の検疫において、
(未知の)ウイルスが発見された場合、海鳴を含む○県南部一帯で(を)“滅菌処理(焼き払う)”する予定でした」

裏の意味を正確に聞き取り、士郎はもう一度嘆息した。








夢はユーノくんのお嫁さん口伝  苦悩








喫茶翠屋。
近所でも評判の美人パティシエが店長を務める、
ケーキ好きなら県外からも来訪者が現れる人気のケーキ屋。
その店先には、パラソルが数本立つ外部スペースが存在する。

その外部スペース、道路に面した日当たりのいいその一角で、
およそケーキ屋には似つかわしくない男が三人、テーズルを囲んで座っていた。
男達は皆、深刻な顔をして話している。

傍目から見てもおかしな組み合わせの三人だった。
一人は、『MIDORIYA』とプリントされた黒いエプロンをした男。
深刻そうに額にしわを寄せ、何度もこめかみを押さえている。
もう一人は、もうすぐ梅雨が明ける時期だというのに茶色のコートを羽織った男。
柔和そうな顔立ちを笑いの形に歪め、手で眼鏡のずれを直している。
最後の一人はこの昼日中に白衣を着込み、なんと髪の色が紫だ。
しかもこの男、その場の雰囲気など知らぬ気にジャンボパフェなどを喰らいついている。

どうにも違和感のある三人組。
しかし彼らの話の内容は、男たちの風采に輪をかけて正気の沙汰ではなかった。
“焼却”とか、“海鳴一帯”とか。
他人が聞いたら気でも狂ってるのかと思うだろう。

そんな外側の事情など知らぬげに、男達の話は続く
男達のうちの一人―先ほどから話していた二人のうちの一方―は、再び口を開いた。

「……それほどまでに危険なのか?」

エプロンをつけた男の、重く、呻くような問いに、
問われた男も同等ぐらいに深刻な声で返す。
テーブルの上に両肘を付き、遠い目をしながら口を開く。

「最近のSARS、鳥インフルエンザで世間(政府)は苛立ってますから。
 また世界が混乱するのはどうやってでも避けたいのでしょう。
 止むを得ない、という考えです」

エプロンをした男は腕を組み、苦々しげに吐き捨てる。

「ふんっ、中々にご立派な態度だな。
 大を取るためには小さなこちらが受ける迷惑(焼き殺される人間)のことなど、
とるに足らんというわけか?」

「そう言わないで下さい。
 あの人たちは恐れているんです。
 かつて、南アメリカ大陸の人口がヨーロッパから持ち込まれた疫病によって激減したように、
 今また外から持ち込まれたウィルスが地球上で猛威を振うことを」

コートの男はテーブルから自分の紅茶を取り口に運ぶ。
しばし、のどの渇きを癒してから再び話し始めた。

「ましてや、むこう(次元世界)はこちらとは環境(物理法則)という根本的の点から違います。
 むこうから飛来するウイルスには、
 我々の常識など全く通用しない可能性が高いのですから……」

男が苦笑し、コートから眼鏡ふきを取り出しながらエプロンの男の怒気を受け流す。
エプロンの男は目の前に座るコートの男を睨み、
しかし、そこに含まれた暗い響きになにやら思うことがあったらしく、
しばらくの間口と目を閉じた。

「「…………」」

テーブルに重い沈黙が満ちる。
白衣の男が一人、空気を読まずにパフェを頬張る音だけが場を繋ぐ。
重苦しい沈黙を払うようにコートの男は話題を転換した。

「そうそう、病気といえば士郎さん。
 ここ数百年で最も警戒されている病気は何か知っていますか?」

「……HGS、だな」

エプロンの男、士郎は話題の転換を訝りながらも話を合わせた。

HGS。
この世界の大多数にとってHGSという病はネッシーとほぼ同意だ。
名前ぐらいは知っているが、詳細などまるで伝わってこない、眉唾な存在。

実際のところ、HGSは医療関係者には普通に知られている。
ただ、医療関係を除く一般大衆からは隠されているだけだ。
HGS患者の症状が差別や偏見を引き起こしかねない、というのがその理由である。

だが、士郎は裏の世界にいたからこそ知っている。
世界が、国連が、その全力を以ってHGSに関する研究結果を秘匿したことを。
今なお、HGSの詳細には徹底的な情報操作が施されていることを。

「ええ。
 変異性遺伝子障害、または高機能性遺伝子障害。通称、HGS。
 二十数年前、なぜか世界同時多発的に発生したこの奇病は、
 先天性の遺伝子疾患が原因とされ、現代医療では根元治療が不可能な難病です。
 それは、遺伝子治療が発達してないことも原因の一つではありますが、
 その発生原因から発症に至る経緯、罹患者の症状に至るまで
 単純な遺伝子疾患では説明できない不可解な謎に満ちていることも治療法確率を由来します」

「私がここに来るときに読んでいた論文」

突如、三人目の男、先ほどまで夢中でジャンボパフェを頬張っていた男が口を挟んできた。
話していた二人は首を回し、そちらを向く。
話を止めた白衣の男は四つの視線を受け止めて、嗤いながら続ける。

「その中の一つにそれに言及したものがあったよ。
 数種類に症状が大別される点、大半の発症者の初期における免疫反応じみた症状、
 症状と遺伝子変異が一対一で関連付けられる点、などなど。
 これらは全て、HGSを遺伝子に作用するウイルス性疾患と考えればつじつまが合うとか書いていたね。
 ま、私から言わせてもらえれば、証拠不十分な上に論理の飛躍が過ぎる妄想でしかないが」

好きなように喋った男はふわりと立ち上がった。
そして、そのまま白衣を翻して中に入っていこうとする。
エプロンをした男は訝しげに問うた。

「どこに行くんだ?」

「なに、ジャンボパフェが中々に美味でね。
 もういっぱいもらおうかと思って。
 ついでに、ここの名物のシュークリームをいくつかもらってくる」

手をひらひらと振って、中に入っていく。




「いらっしゃいませ~、あら? もう食べ終わったんですか?」

中からは聞こえるのは、おそらくは美人店長だろう、耳に心地よい声だ。
目の前に立っているだろう奇人に微塵も動じていないあたり、その器の広さが伺える。

「ははは、食べ始めたら夢中になってしまってね。
 もういっぱい戴けるだろうか?できたら名物だというシュークリームも」

「はいはい。わかりました。ちょっとお待ちくださいね~。
 ……それにしても、クレイヴさん。ひかりちゃんは良くできた子ですね?
 なんでもてきぱき対応してくれて、とても助かってます」

「ははは。自慢の姪ですよ。あれ?従妹だったかな?
 うちでも家事が全く駄目な私に代わり、色々な雑事を片付けてくれて非常に助かってます」

「あらっ、だめですよ。うちの娘達よりも小さな子に頼りっきりじゃあ」

「ははは面目な「マスター」おや、ひかり」

「あら、ひかりちゃん?」

「店長。7番テーブルでシュークリームを4つ追加です」

「はいはい待っててね。クレイヴさんも少々お待ちを」 パタパタパタ。

「どうだいひかり。手伝いは順調かい?」

「はい、マスター。当面のところ目立ったミスもなく無難にこなせているかと。
 マスターの方は商談は済んだのですか?」

「ふむ。それはよかった。
 商談は今その最中さ。もう少しの間、お借りしている彼の代わりをしてくれたまえ。
 ……ところで、ひかり。この国では『マスター』とは『ご主人様』という意味らしいよ?
 ここはどうだろう、ひとつ言い方を変えてみてはくれないかね?」

「了解しました、ご主人様。
 郷に入っては郷に従えということですね。
 では、この国ではご主人様のことをご主人様とお呼びいたします」

「うむっ、これで異文化コミュニケーションはばっちりだなっ!」





……。

「……啓吾、話を戻そう。頭が痛くなってくる」

……頭が痛い。
耳に入ってくる会話に嘆息し、士郎はコートの男―啓吾―に先を促す。
啓吾も同じような心境だったらしく、苦笑しながら先を話し出す。

「ええ……。
 先ほどクレイヴ博士の言っていた論文なのですが、
大元になった仮説は二十年前、HGSが市民権を得るころにはすでに存在していました」

「そして、この論文はすぐに情報操作がなされました。
証拠不十分であり、正統派の学者からは眉唾扱いされる説でしかなかったのですが、
それを知った一部の人間が、劇的に反応したからです」

士郎は顔を歪める。腕を組みなおし、苦々しい口調で合いの手を打った。

「……以前流行った、人の正当進化が云々、というあれか」

「はい。
もっとも、それも根拠があるものらしく……。
 ……現在の進化論では、ウイルスによる遺伝子干渉が進化をもたらしたという考えが一定の支持を得ています。
HGSを引き起こしたウイルスは、その、進化を促した因子なのではないかと……そういう論議が学会で巻き起こったんです」

そこで話を切り、
組んでいた手を解き、士郎は訝しげに口を挟む。

「それは……すこしおかしくないか?
 元々の『HGSウイルス性疾患説』からして仮定のものだったんだ。
 その上にさらに仮定を重ねた仮説がどうしてそこまで影響力を持つ?
 学会で論議が起こったということは、学者連中の中にも支持したのがいたんだろ?
 学者連中ほど曖昧な思考を嫌う者はいないぞ」

啓吾は士郎の疑問に手を振って答えた。

「ああ、それは別にいいのです、HGSがウイルスではなくても。
進化論には突然変異説もあるので、『HGS=進化種説』を唱える学者が変わるだけですから。
我々には関係ありません。
 問題は、学会だけでなく世界各国各界で論議が起こった、ということなのです」

「……なるほど。 だが、くだらんな。
 たかが遺伝子中の数箇所の変異だろう。その程度の差、親子間でも起こり得る」

士郎は啓吾の話を一蹴する。呆れさえした顔で問題点を指摘した。

「遺伝学上で考えれば、種を分けるのは染色体の数、ミトコンドリアDNA……ほかには、交配可能性とかか。
 ……いや、そもそも何を以って別種とするか。生物学者でもない奴が理解できるのか?
 ヒト科の分類なんて専門家の間でも特に論争が激しい分野だったはずだ」

「その通りです。
 人類の進化を解明する研究について、特に深く関わってくるのは
 形質人類学、言語学、考古学、そして遺伝学になりますが、
 その、どの分野においても現状の分類法ではHGSは新人類と認められませんでした」

啓吾はここで言葉を切り、憂鬱そうに額を押さえた。

「にもかかわらず、彼らは主張を撤回しません。
 どうしても彼らの頭から離れない疑問があったからです。
 そして、否定派は終ぞその疑問に答えることができませんでした」

















とある宗教家が言った。

「貴方達は、神の御業にしか見えない現象を起こす方々をどうお考えなのですか?」

HGSが、たかが病気の一つが、
致死率もさほどでもないにも拘らず、世界から存在を秘匿されるまで恐れられた理由。
それがこれ。

遺伝子に特殊な情報が刻まれる、、、、、、、、、、、、、、

その情報によって一部のHGS患者は物理法則を超えた事象を引き起こす。
その現実は人類に深刻な問いを投げかけた。

空間転移、熱量変化、念動力。これらを任意で操ることができる。
そして、その能力を使えば、人一人ぐらい手も触れずに殺せる存在。
貴方は、そんな存在を、人類と、同胞と認められますか?と。














士郎が疲れたようにため息をつき、椅子に座り直す。
啓吾は、もはや顔に張り付いたかのように苦笑いを浮かべたまま話を続ける。

「……元々、生物が進化した瞬間なんて実際に見れるわけではありませんしね。
 ヒトの近縁種なんて、亜科レベルでしか残っていませんから、比較は圧倒的少数の化石でしかできませんし。
 化石においてさえ、早期のネアンデルタール人がホモ・サピエンスと類似した形態をしていた、なんて報告もあるのですから、
 種が分化した始めのころ、2つの種にどれほど差異があったかなんて誰も答えられないわけです。
 分化の前兆だ、なんて言われると誰も否定できません。
 今生きているHGS患者の中から新人類のアダムやイヴを生む存在が出てくる可能性だって有り得なくは……」

そして、そんな疑念を後押しするかのように。
士郎はHGSに関する研究の一切に情報改竄がなされたことを友人の政治家から聞いた。

これは、おそらく目の前の啓吾も知らないだろう情報。
友人が一国の重鎮レベルの政治家であったからこそ知り得た情報。




……もしかしたら。




ドンッ。
いきなりジャンボパフェが降ってきた。

驚いてそちらを見ると、
手にシュークリームの皿を持った白衣の男―店長によればクレイヴ―がニヤニヤ笑っていた。

「ああ、わたしのことは気にしないで話を続けてくれ。
 勝手にパフェを食べながら話を聞いておくさ」

「……」

こいつ子供か。
本当に一心腐乱にパフェを食べだしたクレイヴを見て
士郎―四児の父親でもある―は、そう思った。
頭痛が戻ってきたように感じ、手で眉間を揉みながら話を元に戻した。

「はぁ、……だが、夜の一族はどうする。
 それに、世界各国に存在する退魔の一族は。
すでに俺達は二千年以上も彼らと共存してきたはずだ。
 異能を初めて知った連中からすれば確かに恐怖でしかないが、
存在を秘匿してきた政府からすれば今更な話だろう?」

体の向きも問いかけの方向も啓吾の方にしか向いていなかった。
本当にクレイヴがいないように振舞っている。

啓吾も士郎を習ってクレイヴを無視することにしたようだ。
白衣の男を視界に入れないようにして士郎の問いに答える。

「それですが……一定以上の社会的地位を持つ者ならば、誰でも彼の一族について知悉しているようになったのはHGS蔓延後。
 HGSが発生した時点でそれを知っていたのは世界のホンの少数です。
情報開示も、政治家にも新人類の台頭を恐れて抹殺を主張するものが増えたからです」

夜の一族、および退魔の血統。
彼らは生物としての分類はホモ・サピエンスでありながら、特定の条件下で種々の特異な能力を発動させる。

そして、HGSはまだ二十年ほどだが、彼らとの共存年数はすでに四桁に達している。
ハーフ、クォーターなど人類との混血も血が絶えることなく存続し、騾馬のようにならないことが確認されている。
夜の一族、退魔一族は黒、白、黄、赤などと同じ人種の一種であると言える。

そのため、限定的にだが彼らに関する情報開示がなされた。
どちらの一族も猛反発したが、姓名を隠すという条件で上層部は押し切った。

すべては、対異能過激派の暴走を防ぐため。
『人類はすでに何千年も人類以上の存在と共存できている』というプロパガンダ。

特に退魔の一族に関しては、一般人からも高い霊力を持ったものが普通に生まれ、
一族からもほとんど霊力を持たない者が多く出ているという点に期待が寄せられた。
霊力はほぼ全ての人類が保有していてそれの高い低いだけだと事実もあった。

『異能=異人類→人類の危機』と考える過激派を黙らせられる切り札になるはずだった。

「ですが、古来よりその存在を秘匿していたことが仇となりました。
 古から存在する異能の一族の情報は、ある一定の効果をあげましたが、
 新人類の台頭を恐れる人物の中にはより過激化し、全異能根絶を叫ぶ人まで出てきています。
 今現在、地球は上層部の必死の調整で沈静を保ってますが、
 ほんの少しの刺激ですぐさま内戦が勃発する危うい状態なのです」

士郎はようやく啓吾の話に合点が言った。
つまりは、こういうことなのだ。

「……だからこそ、パンデミックは勘弁して欲しいというわけか?」

ずばり、真意を突いてやる。
啓吾は苦笑いを消し、真面目な顔で頷いた。

「ええ。もしこれでHGS患者だけ生存率が高い、なんてことになったら目も当てられません。
 何処かのアニメの話ではありませんが、それこそ血のバレンタインが起こりかねません」

士郎はふと、友人がHGSに関する情報を教えてくれたときのことを思い出した。

一介の剣士でしかない士郎が知り得たのは
友人が危機を何度も救っている士郎を信頼してくれたからであり、
かつ、友人の娘と士郎の息子とが愛し合い結ばれ、二人が親戚となったこと。
そして、義娘がHGS患者であったから。

だがそれでもおかしい。
今までの話を総合すれば、HGSに関する情報改竄の重要度はおそらく優に国家機密レベルを超えるはず。
切れ端だけでも世界が吹っ飛びかねない最悪の機密を信頼できるとはいえ、ただの友人に話す?

(……もしかしたら俺は、もしものときのフィアッセを託されたのかもしれないな)

あの時訊かれたのは、化け物と親戚になれるか、ということではなく、
化け物として殺されそうな娘を守ってくれ、ということだったのかもしれない。

(……とりあえず、次会ったら激昂してぶん殴ってしまったことを謝ろう)

だが、そんな思考も啓吾の次のセリフで止まる。

「幸い、最近流行した病にはそのような“種族差”は見られませんでした。
 しかし、医学者間ではHGSの起源は地球外にあるのではないか、などという説が支持を集めていて……」

士郎は天を仰ぎたくなった。
まったく誰だそんなことを言い出したバカは。
おかげでこっちはこんがり焼かれるところだった。

「……なるほど。
 もし、ここで次元世界由来の伝染病が蔓延すれば、否応なく病原に注目が集まる。
 そして、地球外起源とわかれば同じように【世界の外から来た】HGSに対する隔意が広がる。
 今の世界情勢なら、隔意がそのまま『異能狩り』に繋がる可能性が高い。
 ならいっそ、真実が漏れる前に吹っ飛ばした方が被害が少ない、そういうことか?」

呻くように声を出す。
できれば否定して欲しかった。
自分達は、士郎の愛する家族は、何の語弊もなく世界の平和のために殺されるところだったのだ。

だが、啓吾は重々しく頷いた。そして、

「そういうことになります。
 そして、士郎さん。今日、ここに来たのは貴方の娘さん方のことです」

本題に入った。

「……どういうことだ?」

一瞬、背筋を走った凍るような想いを封じ込め、
士郎は顔からあらゆる表情を消し、次の言葉を促した。

啓吾とは以前よりギブアンドテイクの関係を続けており、
魔導師たちやジュエルシード、そして管理局の情報などをやり取りしていた。

だが、今の流れで魔導師、いや、娘達に言及する。
どう考えても危険だった。

眼光によって目の前にいる“敵”を射殺さんばかりに観察する。
目の動き、筋肉の筋、汗腺の状態。相手の全てをつぶさに捕らえる。
少しでも隙を見せたらそこから全て引きずり出すつもりだ。

「怖い顔しないで下さい。
 ……士郎さんだって、私がここに来てあんな話をする理由、
 うすうす感づいていたのではないですか?」

啓吾もまた、表情を消し真正面から士郎を見返す。
淡々とここに来た理由を話し出す。

「先日から、娘さん方に監視をつけていることはお知らせしていましたよね?
 彼らから報告が上がってきたのですが、監視対象周辺が小学生にしては能力が高すぎる、と」

「ふん。どういうことだ?」

以前、娘たちに聞いた変態の話を思い出す。あのときのことか。
娘達の話を思い出しながらも、顔色を変えずにそのまま返す。

「監視に気付かれたのはこちらの失態ですが、
 訓練を受けた大人を追い詰められる身体能力や、転移しても追ってくる索敵能力は脅威の一言です。
 ですので、なんとか周囲に協力者を潜り込ませないかと」

(下種だな)

士郎は眉を寄せる振りをした。
疑問に思っているように見えるだろう。

そんな演技をしながら相手の申し出をどう断るかを脳をフル稼働させて考え始める。

「……勝手に潜り込ませればいいだろう……。
 いつもはこっちに事後承諾しか求めないのにどういうつもりだ?」

まずは当たり障りの無く、間抜けに聞こえる言葉。
向こうから“お願い”を切り出させる。

(しかし、こいつがこんな役目を引き受けるとは……。
 なにかのっぴきならない事情でもあるのか?)

啓吾は万事わかっているように顔を崩さない。
淡々と士郎の誘いに乗ってきた。
テーブルの上で組んだ手を解き、広げるようにしながら話す。

「いえ……士郎さんが考えているように、監視要員を送りこむわけではありません。
 後から接触してくる人間にはある程度隔意を持つでしょうし、
 身内の間での秘密ともなれば探ってくる相手は警戒され遠ざけられるでしょう。
それでは現在の体制と変わりありません。
 私達がお願いしたいのは娘さん方を私達の仲間にできないか、ということなのです」

(……ストレートに要求をだしてきたか)

「正気か?
 俺の娘はまだ十にもならん餓鬼だぞ。
 俺の許可云々の前に、そんな後ろ暗いことなどできるわけ無いだろう」

世間一般的に考えて、子供がスパイなんてできるわけがない。
子供は勧善懲悪が大好きだし、『世界に巻き起こる争いは異なる正義のぶつかり合いが元である』ことを理解しない。
何より、よほどの天才子役でない限り周囲を騙し続ける演技など無理だ。

表面上は呆れたように顔を作り、士郎は世間一般の常識を指摘した。
彼自身としては娘たちに別の考えを抱いていたが、そんなものはここで言うべきことではない。
可愛い娘たちをわざわざ窮地に放り込む趣味は士郎にはなかった。

啓吾は何も答えない。
目からは何も情報が読み取れず、ただ沈黙を保っていた。

(……誰に対する言い訳か知らないが、そろそろ本音が聞けるか?)

啓吾は車道の込み具合を確かめるかのように目を逸らし、そのまま語り始めた。
声は先ほどより一層低く、唇は動かしていない。
おそらく離れてみれば頑固な士郎の説得に苦労して、黙ってしまったように見えるだろう。

(……ここは乗るべきか)

そう判断すると、怒った演技だけは忘れないように留意しながら
耳だけは常人では聞き取れないような音に集中することにした。


「……魔導師、および背後の管理局の存在は古くから知られていました。
 ですが、本格的に関わるようになったのは戦後のことです。
 それも初期は地球出身の管理局員に情報提供を求めるぐらいで、
 スパイとして潜り込ませた者達など、数えるほどしかいませんでした。
 おりしもその当時は冷戦真っ只中。
 次元世界は宿敵を出し抜くための技術を得る場所、という意識が強かったのです。
 地球内部での諍いに忙しく、そちらに構っている暇が無かった、とも言いますが。
 ですが、冷戦が激しくなっていく中、破滅的な衝突を逃れるための政策の一つとして
 地球外に仮想敵を求め始めた時、宇宙と並び次元世界が注目され始めました」

「そして、現在。……現在の地球、いえ世界はバラバラです。
 宗教家が人類の天命と神意を叫び、活動家が人を守るためと異能根絶を謳う。
 HGSの関係者は我関せずと接触に応じてくれませんし、
 夜の一族は半ばこちらを見限り、独自に動き始めています。
 ……表面上は穏やかに見えるものの、そこかしこで鬱屈が溜まり、
 ホンの少しの刺激で何もかも吹き飛んでしまうでしょう
 ……地球には敵が必要なのです」

それも、一致団結して立ち向かわなければ滅ぼされる、そんな強大な力を持った敵が。

そう呟き、啓吾はカップの残りを飲み干した。
カップを置き、こちらをじっと見つめる。

(――――――っ! そういうことかっ!)

啓吾の話を聞き、ようやく士郎は合点がいった。
つまりこれは。今回の彼の訪問の目的は。
組織の手先を作るのではなく地球の魔導師を守ること、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

近い将来、侵略者として地球が一致団結するためのダシに使われる管理局と魔導師。
彼らが敵として選ばれたのは、強力な組織であることはもちろん、
魔導師という
種族
、、
が地球の抱える異人類より圧倒的に強力な力を持っているということ。
そして、なにより彼我の技術力の大きな差が魅力的だった、ということだろう。

つまり。

魔導師という、より大きな脅威を見せてやることでいがみ合いを収束させる。
管理局という、魔導師が戦力の大部分を担っている組織を教えることで挙国一致体制を作り上げる。
しかし、彼我の技術力の差が対管理局戦争を不可能にし、とりあえず差を埋めるため科学の発展に力を向けられる。
管理局は数百を超える管理外世界の一つに絶えず気を配り続けることなどできない。
デメリットはあれど、成功時のメリットの方が大きい。
おそらくはそういうこと。

また、対魔導師ではなく対管理局を掲げているのは
管理局に対するネガティブキャンペーンを徐々に行って少しずつ魔導師に対する感情を管理局に対するものにずらしていくつもりなのかもしれない。

しかし、ここで問題が発生する。
ほんの少数の突然変異とはいえ、地球出身の魔導師は存在する。
たしかに他と比べれば少ないが、だからといって簡単に切り捨てていいものではない。
大のために捨てる小は少ないほうがいい。

だからこそ、スパイ、なのだろう。
地球出身の魔導師はほとんど生まれないからこその裏技。
対管理局を掲げるからこその逃げ道。
組織の一員、もしくは対管理局のため志願した英雄扱いで保護。
そうやって魔導師に覚醒した地球人に声を掛けているのではないか?

士郎は考えをまとめると啓吾を了承の意を込めて睨み返す。
啓吾はそれを真っ直ぐに受け止め、士郎に言葉を放つ。

「士郎さん。
地球各国は管理局を仮想敵に設定し、この難局を乗り切るつもりです。
 貴方の娘さんは管理局に入局できる立場にいると言う。
 彼我の差を考えると、彼らに追いつくにはどうしても協力者がいます。
どうか地球のため、娘さんに協力を要請させていただきたい」














結局、おかわりが来るまでしばらくの無言の睨み合いが続いた。

啓吾は魔導師監視のため、なのはたちをスパイ組織に入れたい。
娘たちにそのような行為はさせられない、と断固拒否する士郎。

一見そう見える構図で、やってることも構図そのままだったが、演じる俳優の心情だけが違った。

士郎の娘を助けるために組織に入れようとする啓吾。
啓吾の好意を受けながらも、娘たちの負担を減らしたい士郎。

双方の妥協点を探す、うわべを取り繕った話し合いが再び始まる。

「今の地球の現状はわかった。
しかしだな、だからといって娘たちに危険な真似をさせるわけにはいかん」

ずばりと士郎は切り込んだ。誰がなんと言おうとこれは譲れない。
眉をひそめ、何かを言いかける啓吾。
だが、それを遮るように士郎は別の提案をした。

「士郎さ「……その協力っていうのは、俺がしちゃだめなのか?」

啓吾は戸惑った。
純粋にスパイが欲しいのなら、彼ほどの逸材はそうない。
だが、これは彼女達のための方便。(いや、もちろん遠慮なく活用させてもらうが。)
先ほどまでの説明で、彼はそのことは理解しているはず。
ということは……?

(……なるほど。
たとえ組織が上手く保護したとしても、その過程で様々な負の感情は降り懸り得る。
 親としては自分が被っても、娘たちをそういった泥から守ってやりたい……
 そんなところか? だが……)

にっこり笑い、頷くように顔を動かす。
しかし目は笑わない。
提案は嬉しいが、こちらにも引けぬところがあると示すように。

「なるほど、我々としても嬉しい申し出です。
 あの、在りし日の最強、『不破』の継承者に力添えをいただけるとは。
 ……ですが、我々が欲しているのは情報ではありません。
 管理局内の、空気や雰囲気といった、勤めている当人達にしかわからないものなんです。
 魔力を持っていない士郎さんでは局入りはできませんし、こればっかりは……」

彼女達には【直接】、組織に繋がっていてもらわなければ困るのだ。
地球人として、同胞として守るべき者たちだとしても、懐に入れて獅子身中の虫となられては厄介だから。

多感な時期を管理局員として過ごせば、たとえ管理外世界住民でも身も心も管理世界住民となるのは不思議なことではない。
……普通の人間は自分が所属する組織を疑わないからだ。
子供のころから管理局に所属すれば、管理局の正義は絶対で、それ以外は目に入らなくなる。

もし、そういった『地球出身の管理局員』が我々のことを知ったらどうなるだろう。
我々の【正義】は彼らにとっては【悪】以外の何者でもなく、叩き潰すのに躊躇する理由は何もない。
そうなれば、組織は守ろうとした同胞達に破壊されることになる。

繰り返す。
人間は普通、自分が所属する組織を疑わない。
地球の魔導師には地球優先な思考を持っていてもらわねばならないのだ。

「……そうは言ってもな……。
何度も言うが、あいつらはまだ子供だ演技などできん。
特に。なのはは持っている魔力量が凄まじく多く、魔導師として稀有らしい。
アースラの……提督だったか? お偉いさんから注目されている。
そんな状況で秘密なんぞ作ったら一網打尽にしてくれ、と言っているようなものだぞ?」

(そう、なのはは無理だ。
あいつはすぐに顔に出るから、隠し事ができない。
 すぐに発覚して酷いことになる。
なのは……、あいつは自分が寂しがっていることに気が付かれていない、そう思っているんだろうな……)

士郎はあくまでも一般論で交わし続ける。
彼にも裏事情は見えていたが、娘たちの気質的に組織を許容するとは思えなかった。
となれば、自分が娘たちの状況を作り出すしかない。

(あ、いや。 ……もしかしたらこのはなら……、いやだめだ早すぎる)

自分の中の考えを否定しようとした士郎だったが、矢先に啓吾の声が耳に飛び込んだ。

「では、このはちゃんだけでも。
 あの子なら魔力量も平凡らしいですから、
管理局入局もただの義務、なのはちゃんのついでみたいな認識でしょう。
 せめて、話を通すだけでもいけませんか?」

士郎の考えを読んだかのようなセリフ。
士郎はその言葉に駄目に決まっているだろう、と返そうとした。
だが、考え込んだ。このはの可能性を。









……
…………

士郎の子供いや、士郎が知る中で、このはは最も自分に近い。

本家御神とそこから分かれた裏の不破。
その血塗られた一族に生まれ、物心つく前から小太刀を握っていた不破士郎。
両一族をこの目で見、一族が滅亡しても裏の世界で剣を振り続けていた士郎は、
いつしか人間の本質というモノを大概見抜けるようになっていた。

今まで生きてきた中で、印象に残った親戚を思い出す。
みな、御神・不破の名に恥じない強さを持っていた。

……強さには様々な種類がある。

圧倒的な剣の才、という点ではあの日嫁いだ琴絵。従妹の剣は神懸かっていた。
不撓不屈、折れない心を持っていたのは一臣。弟はどんな絶望や窮地でも生を勝ち取って来た。
進化し続ける美沙斗の剣は恐ろしい。一秒たりとも成長を止めない美沙斗は、死合っている最中でも劇的に強さを増していく。
御神の業を享けとめる器としては美由希。あいつの器は底が知れない。

そして、麒麟児と持て囃された静馬。
闘いの場において、勝敗・生死はスピード、力、才能、心、成長、器などに左右される。
だが、あいつはそんなものに関係なくただただ絶対的に強かった。

だが、彼ら彼女らは皆、御神・・としての強さだった。
守る、という強い気持ちに裏打ちされた、御神の剣理を体現するような強さ。

……自分は違った。
自分の強さは精神の有り様にある。

いかなる事態が生じても動じることなく体を十全に動かせる精神。
己を周囲から切り離し、機械のような精密さと氷のような冷徹さを
何時如何なる時でも自然体に持ち続けられる精神の構造。

それが、俺、不破士郎の強さ。
俺は、もし家族が死んだとして、悲しみはしても動揺は一切しないだろう。

あの時、一族のほとんどが吹っ飛んだあの日。
親友と弟と両親とが爆弾テロで死んだと告げられた時と同様に。
妹に復讐に出ると聞いたとき、何の感慨も沸かなかったように。

そして、このは。
あの娘は、自分に似ている。
闘いの才能はない。すくなくとも、剣を握っていても大成しないだろう。

似ているのは精神。
いや、もしかしたら俺の精神よりずれているかもしれない。

賭けてもいい。
あの娘は、生まれてから今まで本当の意味で感情的になったことが無い。

物心つく前、おそらくは目も開けない頃からあの娘は周囲に意識を向けていた。
まるで……ああ、そうだ。家族で遊園地に行ったときだ。
末の娘たちはそのときが遊園地が初めてで、特になのはは夢の国に来たような目をしていた。
見るもの全てが目に楽しい、自分を喜ばせてくれるモノだと知っていて、期待に満ちている目。




このははいつでも、どんなときでもそんな目をしている。




……夢の国遊園地に行ったとき、どうすれば夢の国を一番楽しめるだろう?
簡単な話だ。夢の国で紡がれる、物語の登場人物になればいい。
物語の読者には結末がわかりきっていても、登場人物には結末なんてわからない。
登場人物になりきれば、物語に巻き起こる全てのドキドキワクワクは自分のものだ。

自分に役割を与え、夢の国の登場人物になりきるロールプレイ。

それをこのはは日常生活でやっている。
おそらくは、あの性格もなのはを観察して創ったものだろう。
そうでなければ、感情を露わにするのはいつもなのはが数瞬早い、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、などということはありえない。

このはは、なのはを常に観察し『なのはと瓜二つの双子』という役を演じているのだ。

なぜそんなことをするのかはわからない。
だが、このはがあの演技を止めることはないだろう。

あれは『事故』が起こったときも『このは』だった。
悲しんでない、というわけではなかったが、自分の役割を演じられるほどには冷静だった。
……そういうこともあるだろう、そんな目だった。

おそらく、このはは自分の周りで起きたすべての事を受け入れ、心から味わっているのだ。
人生を楽しむことに全力を尽くしている、と言ってもいい。
だから、どんなときでも『このは』のままだ。
人生には悲しいことも苦しいこともあるのだから。

……だから、たぶん、組織のことを打明けても口止めさえすれば
演技は変わらないばれることはない

組織に【協力】するかどうかはともかく。

…………情を抜きにして考えれば、このはは不破の仕事に向いているかもしれない。
代々暗殺を司ってきた不破の家には、忍で言う『草』の役割を果たすものもいた。
対象のそばに潜り込んでの下調べなどは、啓吾の求める役割と被る。
……今から相応の訓練を詰ませれば優秀な諜報員になる、だろうか。

…………
……









「……どうでしょうか?」

掛けられた声に士郎はハッと我に返った。
思考の海に沈んでいた時間は一秒ほど。
だが、急に黙った士郎の姿は期待を抱かせるに十分だった。

脈あり。
啓吾が踏み込んできた。

(いかんいかん何を考えている。
いかに気にかかるとはいえ、娘に諜報を仕込んでみたらどうなるか、などと考えるとは)

「……いや、駄目だな。
 確かにこのははなのはに比べれば注目度は低いだろうが、それでも危険は避けられまい。……そもそも、そういう活動の肝は戦場とはまた別種のものだからな。
訓練もしていないあいつらには危なすぎる。下手に見せるよりは隠蔽した方がいい」

そこまで言って、士郎は努めて自嘲の笑みを浮かべる。

「今回の話は大人の事情だろう。
 まだ十年も生きてない子供を巻き込むもんじゃない。
 俺たちみたいなのが苦労すれば言いだけじゃないか?」

この言葉に啓吾もため息をつく。
つまりは、自分が全面的に協力するから子供たちには触れるな、ということだ。
触れたら不破の継承者が敵に回る。

どうやら、今回の第一目標、核爆弾に紐をつけるのは無理らしい。
しかたない。次善策といくか。

まぁ、予想してたことなのだが。

「……わかりました。彼女達に直接【協力】を頼むのは止めておきましょう」

もう一度嘆息して要求を呑む。
士郎は安堵したように笑った。

「……悪いな。まあ、色々と建前は言ってきたが結局はなんてことない。
 自分の娘たちにはそういう汚いことはやって欲しくないだけだ。
 地球の危機に何を言っているのかとは思う。親馬鹿と呆れられるかもしれん。
 だが、親馬鹿と罵られても自分で娘たちを闇の世界に突き落とすことはしたくないんでね」

「いえ、親として当然のことかと。
 ……ただ、こちら側から接触はしませんが、
 彼女達につけている者が見つかったこともあります。
 嗅ぎ付けられて向こうから接触してこられる可能性がありますのでそこはご留意を」

同意をしつつも次のための布石を置いていく啓吾。
もし引っかかれば僥倖といったレベルではあるが、監視を追いかけようとしたくらいだ。
今後、向こうから気付いて噛みついて来る可能性もないではない。
そうしたとき、手懐けて仲間にするために。士郎を黙らす一手。

「俺からも釘を刺すつもりだ。そうそう簡単に首を突っ込むことなどないようにな。
 ……だが、わざと隙を見せるなよ?」

向こうの意図を察した士郎だったが、ここで引いておくことにした。
実際、譲歩の限度はこれくらいだろう。
不安はあるが娘たちをさりげなく誘導すれば済むことだ。

「わかってますよ。不破を敵に回したくありません」

神妙な顔で頷いた啓吾だったが、ふと思いついたような顔をした。

「しかし、なのはちゃんたちの位置づけ、どうしましょうか」

「? どういうことだ?」

「ああ、はい。これから先、仮想敵として反発心を煽り立てていく種族ですから……。
 迫害などを避けるために、魔導師の皆さんには世界を救うような英雄になってもらうか、
 守ってあげたくなるような同情心を煽る境遇を持ってもらうかしてるんです」

「なるほどねぇ……」

少し呆れた。そこまで凝るのか。

「いっそのこと、次元世界を股に掛ける超巨大犯罪結社が士郎さんご夫妻を誘拐して、
 ご夫婦は遺伝子調整ベビーによる魔導師兵器量産実験の試験サンプルにされた末に
 なのはちゃんこのはちゃんがご夫妻の遺伝子を継ぐ人工の魔導師兵器として生み出され、
 後に家族は組織に助け出されたが、士郎さんは復讐のため組織に所属している。
みたいないくつか聞いたことある設定を混ぜ合わしたような話に……」

「おいおい」

士郎が思わず突っ込むと、啓吾は楽しそうに笑った。
そして、ひとしきり笑うと再び鋭く切り込んで来た。

「まぁ、このことは後々お話しましょう。
 直接彼女達に協力してもらうことは諦めますが、
 その分彼女達の情報を逐一把握しておきたいと思いまして。
 ちょっと博士に頼みまして……」

「なに?」

完全に忘却していた白衣の男を見る。
ちょうど、注文品を全部食べ終わったところだった。
こっちに気付くとニヤニヤ笑いながら、

「ん?なんだね、啓吾。 私に用かね?」

などと言ってきた。

(なるほどな……。
 元々抱き込みは捨て策でこれが本命か)

予想の範囲内だ。元来、啓吾は慎重な男だ。
何の関係もない第三者の前で秘密会談をするなんて間抜けをするはずがない。

(だが、何が目的だ?)

目の前の博士が諜報活動について何かできるとは思えなかった。
先ほどの言動、何よりギラギラと光る目。こいつは間違いなく自己顕示欲が強い。
自分がやったことを隠しておけないタイプだ。

(聞いた方が速いか。 一応はもう『仲間』なんだし)

士郎は突っ込みを入れる。

「啓吾。お前始めからこっちを狙っていただろ。 
 あいつらに何をするつもりだ?
 こっちのハカセとやらに洗脳とやらでもしてもらうつもりか?」

「いえいえ、そんなことはしませんよ。
 彼女達にただちょっとした贈り物をしようと思いまして……。
 博士、件のデバイスをちょっと出してくれませんか?
 士郎さんに先に説明しようと思うので」

啓吾は士郎の突込みをさらりといなしつつ、白衣の男に指示を出す。

「ああいいとも。ちょっと待ちたまえ、色々と用意してきてある」

白衣の男は啓吾の要請に快く応えると、カップを手に立ち上がる。
白衣の男、クレイヴ・リミテイションは店の中に鞄を取りに行きながら手を大きく開き、
そして抑えきれぬように唇を歪めた。




「ああしかし心が躍るねぇ。波長、出力、回路、波数に至るまで全く同じ双子!
 どんなリンカーコアをしているのだろう。どんな色の魔力なのかな。
 いや、それよりここまで同値なのに魔力量だけ違うとはどういうことなのだろうね!?
 解剖できないのが本当に残念だよ!!!」


あとがき

はい終了~。シリアスパート終了~。
ああ楽しかった。またこれでほのぼのが書ける。
でも、筆力落ちたなぁ……orz 描写がわかりにくいことわかりにくいこと。
ていうか今回何気に色々と無茶振り……。
しかも最初白衣の男を『ウィッテン博士』にしてたり。我に返って大改稿しましたよ。
我ながらテンパッてるなぁ
批判批評待ってます。

今日の話は異種族共存の話。
ぶっちゃけた話、魔導師みたいな一人で街を吹き飛ばせるような化け物と共存できます?
自分は無理です。こっちに指一本触れずに殺せる化け物と友達になんて恐ろしくてなれません。
警官の拳銃とどこが違うんだと言われてもねぇ。拳銃持ってるのと拳銃構えてる奴とじゃ恐怖の度合いが違う。
HGSどころか夜の一族、退魔の神咲でもいつ矛先向くか怖くて怖くて。
いやほんと主人公偉いわ。よく平気で受け入れられるわ。

まぁ、世界にはそういう俗人もいます。
リリカル世界にだってガジェット見ただけで逃げる陸士だっているんです。
そういう凡人を含めた世界って英雄だけで救えるのでしょうか。
演出をして、問題から目を逸らさせて、世界を安定させようと頑張ってる裏方がいるんじゃないか?
口伝はその地球サイドの裏方のお話。

さて、次回はいつ出せるやら。



追伸。
ここでレス返ししときます。


容疑者・山田健二◆322a658f様

萌えてくださって嬉しいです。これからも精進します。


danna◆0f7b3886様

そうですね。ちょっと書いてみました。
目標は中学卒業までですから気長に書いていきます。


mujina◆376b4edb様

すずかに萌えてくださってありがとうございます。
彼女可愛いですよね。正直、原作で一番ユーノにあってるんじゃないかと……。
え?根拠?『月照らす安らかな光の中で』かな。

あと、戦闘ナシと言われると破ってみたくなるなぁ。

正直、プレッシャーっす。
最近、ONEPIECEの世界政府くらいどす黒くしたくてたまらなかったり。

元々考えてた展開を少し前倒しにしてみました。
どうでしょうか。

追伸。
『鵺』の話が未だにわからない、全く思い出せない……orz
とらハ好きを名乗る資格ないかも……。
……どんな話でしたっけ?



[6250] 掲載の超不定期化についてのお詫びと弁明
Name: VITSFAN◆7f8187e6 ID:a753e2df
Date: 2009/11/06 16:55
はいどうも、VITSFANです。今回は報告のみ。
先日から自分ついてないです。はい。メモリーカード失くしました。
バックアップもお亡くなりになってました。
はっはっはorz

やべーよどうしよう、大学四年間のデータ丸ごとおじゃんだよ。もう泣きそう。
ていうか、バックアップも同時期にお亡くなりとか。酷過ぎる。

まぁ、そういうわけでこのシリーズ、終わらせられるかどうか微妙になりました。
頭の中だけじゃちょっと整理つかないです、伏線とか遣り過ぎた。
もしかしたらこのシリーズ、未完のまま更新途切れて……みたいになるかも。
期待して下さった方々に対しては本当に申し訳なく、どうお詫びしてよいかわかりません。
ですがこのまま消えるのはあまりに不誠実と思い、非難、罵声を覚悟の上でこうして恥を晒します。
申し訳ございませんでした。

まあ、全部で九部二百八十話以上なんて終わるはずなかったからちょうどいいかもははは……。
もしかしたら、このシリーズを解体して数作品に分けて投稿するかもしれないのでそのときはよろしく。

最後に、ほんの少しですがご不快の口直しになればと思い、続きを投下します。
お楽しみ頂けたら幸いです。

あ、それとレスは返します。下どうぞ。


ファンゴ◆9c878808様

まぁ、突きつけられたでしょうねぇ(遠い目。
そんなことで諦めるような賢い奴ならいいんですが……。
科学者って大概阿呆ですしねぇ。

地球対管理局ってありえないような話じゃないと思うんですよ。
少なくともお米の国は倒すことを考えるのではないでしょうか。
一時の従属ぐらいは選択肢にあるかもしれないけど、あの国が自分より強い組織なんて認めるはずが(ry

ウイルスの話は管理局が「まほうのくに」でなくなった時点で避けようのない話ではないかと。
こういう点を考えて、自分は管理局が秘密裏に管理外世界で動くようなことに疑問を持ちました。
そこのところ、どう考えてるんでしょうね。

……このSS、随分と士郎さんの扱い高いよなぁ。どうしてこうなった。
そして逆になのはは低い。これからもたぶん低いまま。何故だ。
実際、言いもせずに真意が伝わるなど有り得ないでしょう。なのはは知らないままなんじゃないですか。

sg◆8a0f027c様

うう。ありがとうございます。
必死で再起してますので心の片隅で応援してください……。

問題なのは、クロノがユーノとなのはをアースラに招いたとき、
真っ先に艦長に引き合わせたこと。まず、殺菌滅菌の類はしてない。
それと、BJで確かに防げるかもしれませんが、杖に付着したのはどうでしょう?


ニイマルサンハチマル◆a90fe8e3様

エリザベータだとロシア系になりますね。エリザベートはドイツ語の名前。
出身がハンガリー王国なんで、三つか四つぐらい有名な読み方があったりします。
―タにしたのは完全な本名で書くのは伯爵夫人に失礼かと思ったから。

フェイトかぁ。絡むかな?


haka◆0843110e様

ありがとうございます。

口実ですが、事実でもあります。
現実でも検疫なしで外国人にウイルス持ち込まれたら困るでしょうし。
というか、なのはやこのはなんて思いっきり捨て駒ですよね。


airi◆33456671様

まぁ、このアニメの原作ゲームって中々超常の存在多いんですよね。
まだ何種類か登場してない超常現象があったりしますから……。
あ、雨月君は自分の独断でこの世界にはいないことにしました。

はっはっは。
仮想敵だろうと本当に敵だろうとやることは一緒。
スパイスパイ。


容疑者・山田健二◆322a658f様

Yes. その陣内氏です。
ひかりの名前は月野ひかりとしています。
偽スカと一緒にいることも併せてお考え下さい。


rec◆6d0f3775様

高評価嬉しく思います。
マジに見捨てないで……。


文月◆10d498f2様

すみませんすみません。
なるべくオリ設定をなしに……なんて考えてるとこういうことになってしまうんです。

そう、その「慣れ」の時間が必要なんです。
もしくは、気にしなくなるような出来事が。
あと、魔導師をどう評価するかで変わってきます。
ただの才能ある人間か、新人類か。
どちらをとるかで世界が取るべき道筋が変わります。

ユーノと二人きりのとき、別な顔が見えるのは否定しませんが、
このはのこの状態は転生の弊害です。
二回目の人生であるがゆえに、その人生全てが余興、余暇、遊戯として感じられてしまう。
実際、二次元世界にいるんだし。ヴァーチャルリアリティと何が違うでしょう?


YAN◆d50b9046様

Orz バレた……展開ばれた……。
まぁ、このはが密偵になったとしても、なのはに明かすことはなさそうですし。
大丈夫でしょう。


無刃◆1d8cd98f様

恐怖なんてそう簡単に御せるもんじゃないですよ。
オーバーキルに意味がないとわかっていても恐怖を払える人間は多くありません。
まぁ、普通の人間が一番恐ろしいのは同意ですが。

「神の名の下、異教徒を虐殺する」ことは正義です。
「魂の救済のため、地下鉄に毒をまく」のは正義です。
「地球内部で戦争しないために、管理世界を全滅させる」のも正義です。
正義とは最も醜悪な言葉であります。
正義なんて当事者以外にとっては理不尽極まりないものなんですから。

一致団結を煽るだけです。
地球内部のみに向けられた関心が管理世界に向けば、破壊的な衝動も分散されます。
防ぐべきなのは地球人壊滅であって戦争開始ではありません。


mujina◆1d8cd98f様

ああ、なるほど。すみませんでした。
美沙斗さんに関しては第三話を見てください。
少しだけ触れています。

検疫は必要だと思うんですよね。
マジでこういう話はなかったのかな?なんて思ってました、アニメ見ているとき。

ええ……頑張ります。くじけませんよ。はい。

あと、これから先もアリすずのほうが触れ合う機会は多いかと。
というか、フェイトやはやては好きじゃな(ry



[6250] 許嫁少女ストレートこのは6,506 第11話 プレゼントを贈ろう。前編(報告編)
Name: VITSFAN◆7f8187e6 ID:a753e2df
Date: 2009/11/06 16:58
このはです。先日、フラッシュメモリを失くしたのです。
このはです。ストーリーどころかプロットまで行方不明なのです。
このはです。家に帰ったらバックアップが吹っ飛んでいたのです。
このはです、このはです、このはです……。

※フラッシュメモリを失くした為、製作途中だった第九話、第十話が抜けています。
 おおまかにあらすじだけ書きますと、
第九話;なのこの、アリすずと仲直り。お喋りしながら翠屋へ。以下話題。
    フィアッセ(恭也+美由希)はコンサート、忍は親戚の会合。
七月初め、遠見市でチャリティコンサートツアーが締めくくられる。
コンサート後、ホテルで身内を集めてのパーティがある。
ユーノ、アリすずに弄られる。
なのは、一緒にお風呂に入ることの意味を理解。→赤面+にじり寄り。
このは参戦、混沌と化す。
翠屋に帰ってきたら、どう見てもスカ博士なマッドとそれをご主人様と呼ぶ幼女がいるんですが。
 第十話;偽スカ博士、クレイヴと名乗る。幼女、月野ひかりと名乗る。
     曰く、ミッドチルダのデバイス関係の会社の社員だとか。
     顧客開拓のため、試供品を持ってきた(ウソだー)。
     なのこの(アリすず)、デバイス首輪ゲット。






許嫁少女ストレートこのは6,506  第十一話 プレゼントを贈ろう。前編っていうか報告。






はい、どうもおはようございます。
今日はみんなで買い物に行くつもりなんですよ。はい。
フィアッセ義姉さんの妊娠が発覚して、すぐ後にコンサートツアーが始まってしまったので何もお祝いできてないんです。
それで、何か贈り物を、と。

え?聞いてない?
ははは、七話でコンサートのケーキをお母さんが任されたって言ってませんでした?
お願いですからそれで納得してください。
いやほんと。

「このはちゃ~ん、いくで~」

「あ、は~い! ちょっとまって~」

それでは行きましょう。今日はユーノくん、いないんですがorz
お父さん達とお話だそうで。クレイヴ博士とも。
ああそうですか、むさい男のほうがいいんですか。

……どう見ても問いただす気満々ですね、どうもありがとうございました。
デバイスもらうのもユーノくんだけ遠慮してたしねぇ。思いっきり警戒中みたい。
実際、今ここにあの金目が居るのはおかしいんですよ。
しかもなんですかあの幼女。見た目まんまギンガなんですが。髪は真っ黒だけど。

しっかし、あの目は前世以来です。
あの、モルモットを見るかのような目。科学者の好奇心剥き出しの。
懐かしすぎて涙が出そうでしたよ。せめて世間様に隠す努力ぐらいしろよ。
ああいう取り繕えない阿呆のせいでどんだけ苦労させられたか……。

ま、今はどうでもいいや。
モルモットとしては、生態観察用首輪デバイスを外すかを考えときましょう。

ちなみに、わたし、「一つだけじゃ満足できない」なんて言ってたくさんもらってたり。
相手が試供品って言ったのをいいことに高価なデバイス5,6個もらっちゃいました。
……これで付け替えとかイメチェンとか、「あ、今日つけるの忘れちゃった!」とかで監視からのだれる時間を持てるはず……。

今はそれで我慢しとかないとね。
博士がどんな意図を持っているかはわからないけど、お父さんが居る所で渡してきたってことはこれを認めたからだろうし。
なにより……、陣内省吾。アレは未だ現在進行形で裏の人間であるはず。
彼が博士と一緒にいたってことが判断を難しくします。

つまり。
もしかして、地球の国家、管理局に気付いてません?
スカ博士と協力関係?……なんかありそう。
パックスを掲げる世界の警察国家とか、憤怒を込めて管理局に敵対しそうだなぁ……。
世界を守るのは我々だ、とか言って。

「このはちゃんまだ~?」

「あ、うん。今いく~」

なのはの声ではっと我に返り、
一番小さな指輪上のデバイスを引っつかみ、左手の中指に通すと

「セットアップ」

そう言いました。

パッと変身するわたし。まあ左手首に丸いのができるだけですけど。
ふふふ。一見、待機状態にしか見えない変身モード。BJはツインテールを縛るリボンのみ!
そして、三期なのはのごとくモード変換をすることで変身してるように見せかける!
完璧です。この手法によっていかなる魔法少女ものの変身シーンも再生できるでしょう。
ふふふ。まずは魔法少女アニメの最高傑作、『おジャ魔女ど○み』です。

「いま行くよ~」

そんなことを考えながら下へ降りていきました。




「このはちゃん、遅いでー。
 お友達、みんな待ってたんよ?」

「ごめんなさーい! おはよ!」

「おはよ~」「おはよ」

今日は家で待ち合わせ。
商店街から入り組んだここまで来てくれた友人達に声を掛け、朝のご挨拶。

そして。

「ね、みんなはデバイス持って来てる?」

と、まぁ。
突然降って湧いたように手に入った玩具ですから。
当然その話になるわけで。

なのはが昨日貰った携帯電話型の簡易ストレージを片手にニコニコ聞いてきます。
でもなのは、君はもう持ってたでしょ?
そんなに見たいの?みんなのバリアジャケット。
それとも自分で設定したのを見て欲しいの? スク水?

「一応持ってきてるよ」「ほら、ここにあるわよ」

にこやかに頭頂の赤いリボンを指差すすずかちゃん。
ぶっきらぼうに、でも緩む顔を抑えきれないように鞄からコンパクトを取り出すアリサちゃん。

……アリサちゃんもすずかちゃんもノリノリで嬉しそうですね。
いや、魔法少女になれて嬉しいんでしょうが。
二人ともバリアジャケットを羽織るだけで精一杯だってこと忘れてませんか?
管理局的に言って、F未満なんですよ?

「このはちゃんは?」

「じゃん!」

バッと手を突き出すわたし。
冷めたこと言いつつも、わたしもかなりノッてたり。
左手首に巻いたデバイス(起動形態)を見せます。

「へえ~、パ○ラタップか~」

「見た目だけじゃないよ?」

ふふん。と不敵に笑い、手を掲げます。
みんなから横顔が見えるようにし、祈るように手を合わせ、顔の位置に持ってきます。

「ま、まさか……」

息を呑むように吐き出される声。
それを肯定すべく、わたしは動き始めます。
いまこそ徹夜の努力を見せるとき!

パパン。
手を叩くと同時、指輪からデバイスに光が伸びます。
そして流れ始める音楽。皆の方に向き直り、気を付け。
音楽に合わせ、左、右、と手を叩き、手袋を纏います。
次は足。太もも、膝と叩いた後お洒落な靴を装備。
体を抱き締めてくるりと一回転。見習い服を着ます。
最後はトンガリ帽子を被って変身終了。

「プリティ、ウイッチィ、このはっち!」

調子に乗ってポーズを決めてブイサイン。

「「「わぁ~」」」

方々から惜しみない拍手と尊敬の眼差しが注がれます。
あ、どうもどうも。どうもどうも。

「ああ~、ここはいつから美○町なったんやろか……」

今日のお出かけの保護者役、レンちゃんぼやきます。
ごめんね。でもこういうのって、絶対誰もがやると思うの。

「くっ、ユーノはどこ!
 なんとしてでも変身魔法教えてもらわないと!」

「う、うわーうわーうわー」

「でも、アリサちゃん。
 私達、昨日魔法は使えないって言われたじゃない。
 バリアジャケットが限界だって……」

「くっ、結局、衣装設定を片端から記録してごっこ遊びを楽しむしかないって言うの!」

「わ、わたしも変身ポーズ考えようかな……」

「たしかユーノくん、事前に魔法を込めておくような道具もあるって言ってたよね。
 どうにかして手に入らないかな……」

わたしの変身に乙女心を突かれたのか騒ぎ出す面々。
変身系の魔法アイテムっぽいデバイスを持つアリサちゃんやすずかちゃんは特に悔しそうでした。

「……。とりあえず、なのはちゃんはマ○メロでどういうポーズするつもりやねん」

それを呆れたように見ていたレンちゃんでしたが、
そろそろ行くで~、と声を掛けてデパートに向かうことになりました。

「って、このはちゃん!
 その格好のままはあかんで!」

あり?






あとがき
何の意味もない、かけあいを目指しました。
でもまだ不純物残ってるなぁ。


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