自販機の傍の壁にもたれて、少年は1人考えていた。
これから向かうのは第2の故郷。全てを失い孤児となった自分に、沢山のものを与えてくれた場所。
そんな場所に、これから己は戦いを挑まねばならない。プラントを、ギルバート・デュランダル議長を止める為にだ。
そしてその前に立ちはだかるのは同胞たち。かつて自分が所属した部隊と戦う可能性も十分、いや必ずあるだろう。
過去の決断に後悔は無い。あの時決めたのだ。自分の道を行く、と。
怒りを押し殺しながら自分を許さないと呟いた親友。彼とも話し合い続けると。
だが本当に上手くいくという確信なんて無かった。
これまでの戦い、自分がこの手で守りきれたものなんて、結局何もなかったから。
ステラの救出は全部万丈さんがやってくれた。悲しみを背負っていく仲間たちをただ見ていることしかできなかった。
もしかしたら、今回もそうなのか。俺はこの手で掴めないのか。
もし、レイによってカミーユやセツコが危なくなったりしたら。
俺はレイを撃ってしまうんじゃないか。仲間を守ることができないのでは。
頭の中を埋め尽くすのは悪い予感ばかり。缶コーヒーを口に含もうとしたが、中身はとっくに空だった。
握りつぶしてゴミ箱の中に叩きつけるものの、そんなことで気分が晴れるわけもなく。
「くそ、あの時あんだけ決意固めといてなんて様だよ、俺は……!!」
吐き気がした。この最悪な運命に。
何よりもそれに抗うことができない、力の無い自分に。
「説得するんだ。守るんだ。そうでなきゃ、また俺は何も掴めないじゃないか……ッ!!」
心に湧き上がる不安を、吐き出すように呟くシン。
「うわぁ、あれ相当だぜ……」
「……痛々しいですね。見ていて辛い」
「シン君………」
そんな少年を見守る影が、いくつかあった。
「シンの元気が無い?」
「はい」
セツコの報告に、アムロは思わず疑問の声を返した。
今自分たちがいるのは休憩室。迫る戦いを前に訓練や整備に明け暮れていた者たちが気を抜く場所だ。
現に今も自分の背後では、仲間たちが何人かのグループに別れて談笑している。
彼自身もまた、機体の調整を終えて休んでいたところ。そこに彼女たちが来たわけだ。
「やはりザフトと、いやレイやタリア艦長たちと戦うことで苦しんでいるんだと思います」
「そうか……」
続くロランの言葉に、アムロはこれまでを振り返る。自分がシンと初めて会ったのはオーブ沖の戦い。
当初の印象は、才能に溢れた若いパイロット。ただそれだけ。
だがそれから時が経つにつれ少年はエースと呼ばれるほどに腕を上げ、同時に悲しみも背負っていく。
祖国からは裏切られ、守ろうとしていた少女を目の前で殺され(生きていたが)、その敵を取り(生きていたが)、裏切った上司と同僚をその手にかけ(生きていたが)、
信じていた存在とは袂を別った(まだ生きてる)。
………あれ、大したことなくないか?まあいいか。
だが強いと言っても彼はまだ16歳の少年、その心は成熟していない。しかもこれまでの戦いで精神も傷ついている。
その上次に待ち受けているのは袂を別った親友、そして今なお自分の仲間がいる艦との戦いだ。
誤解や強制ではなく生き方で別れた両者。簡単に元の関係に戻れるとは言えず、その苦悩たるや相当のものだろう。
セツコやロランといった彼と仲の良い人間が心配するのも無理は無かった。
尤も彼女はシン以上に悲劇に見舞われているので、まわりの人間からすれば「むしろシンがセツコを励ませや」といった想いなのだが。
それはともかく、今のシンは切り込んでの雑魚一掃も戦闘終盤でのボスキラーもこなすZEUTHのエースだ。
彼が調子を落とすと他の者にも影響が出るだろうし、メンタルケアは早めにしておいた方が良いのは間違いない。
個人的には目の前の彼女が元気付ければ終わると思うのだが、彼らは男と女。そう簡単に踏み込めないのだろう。
「それで、あいつを元気付けてやろうって話になったんだけどさ……」
セツコの隣にいたエイジが話を続ける。確かに本来ならそれは、まとめ役である自分の役目だが。
しかしどうするかで悩んでいるのならかける言葉もあるが、正直道を決めた今のシンには励ましの言葉くらいしか言ってやれる事がない。
こういう落ち込んだ時に救われるのは仲間の存在なので、皆に聞いたほうが良いのではないか。
そう思って振り返ると、全員こっちを向いていた。やはり聞き耳を立てていたか。
一番近くにいた丸顔の少年の声を皮切りに、皆が騒ぎ出す。
「そんなのトカゲ食べさせればすぐ元気になるさ」
「誰も喜ばないってそんなの。仕方ない、俺の知り合いの女の子たち総動員で……」
「知り合いってほとんどZEUTHじゃない。それより男の子ってヒーローとかアニソンに弱いんじゃなかったっけ」
「じゃあラクスさんににライブしてもらうとかどうかしら」
「いや、あいつはラクスの歌に興味は無かった筈だ。心の拠り所は家族と仲間だし、普通に行く以外正直攻める所がないな」
「確かに上司にはほとんど心を開かなかったもんな、あいつ」
「う~ん家族ねぇ。なあエイジ、妹さんそっくりに女装してこいよ。それでおにいちゃ~んって」
「出来るわけないだろ。それに聞いた話だとロランの方が」
「お断りします」
「ムウさん、ここは一つ不可能を可能に」
「悪い、俺はネオ=ロアノークだから」
「フ、友などというものにとらわれるからそうなるのだ」
「まったくだね、兄さん」
「お前ら帰れ」
意見は出るがまとまらない。というか本気で心配してる人間がいないのがよくわかる。
わいわいがやがやと皆がのんきに騒ぐ中、カミーユが苛立ったように立ち上がった。
そういえば彼も似たような悩みを抱えていた。仲が良かったレコアと袂を別ってしまっている。主にそこのグラサンのせいで。
いやオルソン、君じゃない。ロリコンとかいろいろ似てるけど違う。逃げようとすんなノースリープ、お前だお前。
「ええい、あいつ1人が苦しいんじゃない、他にも悲しみを背負っている者もいるんだ。いつまでもうじうじと落ち込んでいるのなら、そんなシン、俺が修正してやる!!」
「待ってください。シンは必ず立ち上がってくれます。余計な手出しはしない方が」
「そんな!!シン君は今、つらい時なんですよ!?きっと……きっと誰かに側にいて欲しい筈です!!」
「セツコさん、甘やかしては駄目だ!!ロランもどけ!!」
「駄目だよカミーユ!!行くなら僕が!!」
「いや、ここは声が似ている俺が!!」
「じゃ、じゃあ私が!!」
「「「どうぞどうぞ」」」
「ええ!?」
驚くセツコ。周囲を見渡すと、全員がニヤニヤ笑いながら彼女を見ている。
どうやらロランやカミーユの修正うんぬんはプラフだった模様。
「ええと、あの……」
「いやー良かった、セツコさんが行くなら安心だ!!」
「ちょ、ま…」
「ま、こういうのは言いだしっぺがやるもんだしね。んじゃ俺デートだから後はよろしくー」
下手に皆で気を使うよりも、彼女のように本気で心配している者が行った方が良い。
その事を他の人間たちもわかっていたのだろう。全員で彼女の背中を押す。アイコンタクトも無しで。
というかそんなに分かり合えているのなら、先日のZEUTH同士の仲違いはなんだったんだ。あのガチンコの潰し合いは。
「あの、アムロ大尉」
「なんだ?」
「私、どうしたら……」
「そうだな……」
助けを求めるかのようにこちらを見てくるセツコ。
元々、どうしたら良いかわからないから彼女たちはここに来たわけで。それなのに出た結論は『お前がやれ』のみ。
自分を見上げる顔は困り果てていて、助けてやりたいと思わなくも無いが―――
「―――頑張れ」
「……………はい」
まあ、それは無粋というものだ。
彼女も悲しみを背負っている。シンの心を癒すと同時に、自分にとっての大切なものを再確認することもできるだろう。
支えようとしているものに支えられるという事はよくある事なのだから。
「みんな、楽しそう……」
「なになに、何の騒ぎ?」
その時、笑顔の金髪少女にくっ付かれながら紅いアホ毛の少女が入ってきた。ルナマリアとステラ。どうやら2人は本当に友達になったようだ。
シンの前で初めて出会ったときはどうなるかと思ったが、仲良くなって良かっ―――ッッッ!?
しまった、今、このタイミングはマズい!!
「ああ、実はね―――」
リアル系の面々が顔を青くし黙る中、声に答える者が1人。
ZEUTHのKY筆頭ことキラ・ヤマト。名は体を表すとはよく言ったものである。
―――空気読んでくれフリーダム王子。頼むから。
そんな男たちの心の中の叫びにも気付く様子もなく、彼は少女たちに説明を始めた。
いや、彼は本当に気付いていないのか。もしかしたら確信犯なのかもしれない。
セツコ・ルナマリア・ステラと親しくなったシンに対し、既に彼女持ちとはいえキラはキラケンと時々話すのを見るくらい。動機は十分すぎるほどある。
そんな馬鹿らしいことをアムロが考えているうちに説明が終わる。赤毛の少女は溜息を一つ吐き、言った。
「やっぱりまだ落ち込んでるのね。わかった、それなら私が―――」
「ステラが行く!!」
「………私とステラが何とか励ましますよ。私と一緒、ステラもそれでいいわね?抜け駆けは無しよ」
「うん。ステラ、シンを励ます」
「あ……」
抜け駆けしようとしたのは自分じゃないかと突っ込む勇者は存在しなかった。「その役はさっきセツコに決まったよ」と言う者も。
話は決まったとばかりに歩き出す2人の少女。皆、それをなんとなくバツが悪そうな顔で眺める。
本人の意思を無視した内容とはいえ、セツコがやる気になった直後の出来事だ。人が上った後に架けた梯子を退けた様な、申し訳ない気持ちになっていた。
「あ、あの」
搾り出すような声が静かな休憩室に響く。ルナマリアが足を止め、周囲の人間も声がした方に目を向けた。
「ん?………どうしたんです、セツコさん?」
「私が、行きます。シン君のところに」
ちょっと待ったコール。僅かに頬を赤く染め、セツコが女の戦いに身を投じた。
「―――――はあ。何でです?」
雰囲気をなんとなく察知したのか、恋敵だと認識したのか。ルナマリアの声に冷たいものが混じる。
だがセツコも退く気はないようだった。目は合わさず声も小さいが、はっきりとルナマリアに言葉を伝える。
「その、この話の発端は私だから、その責任もあるし」
「あるし?」
「シン君には、いつも優しくしてもらってるし」
「へえ……」
「だからそのお返しに、できたら私が元気付けてあげたいというか……」
「………」
声が小さくなるにつれ、頬の赤みが濃くなっていくセツコ。それに合わせる様にルナマリアのアホ毛も天を衝いていく。
セツコが顔を上げお互いの目が合った瞬間、空気が張り詰めた。周囲に奔るのは背筋の凍るような重圧。2人の背後に翼を広げた鳥と鎌を持った死神のようなオーラが浮かぶ。
視界の端には自分以外のリアル系の男たちが逃げていく光景。この裏切り者どもがっ。
結局この場に残っているのは鈍感なスーパー系と、わくわくした目で見ている女性陣だけだ。
きゃあ修羅場よ修羅場不幸だわどっちが勝つのセツコさんにお昼のプリンじゃあ私名前同じだしルナマリアになんか他人事に見えないな居場所をみつけるのよステラ以下略。
どうでもいいが、自分や意中の男が関与しなければ女性は皆こういう修羅場は大好きである。
「愚かな。レイに全額で決まっているだろう」
「僕はカミーユに賭けるよ、兄さん」
お前ら帰れ。地味に本命と対抗に賭けやがって。
「セツコさんもいろいろ大変でしょうから、ここは私たちだけで結構ですよ」
「私、大変だなんて一言も言った覚え無いですけど」
周囲の楽しそうな空気とはうってかわって、2人の周りの空気は冷たいまま。
このままストリームがストームにでも変わるのかと思ったその時、ステラの無邪気な声がその空気を破った。
「セツコもシン、だいじ。ルナ、セツコもいっしょでいいよね?」
「………そうね。どうしてもというならまあ、……いいですけど」
「ありがとう、2人とも」
「うん!!」
嬉しそうにセツコに抱きつくステラ。不機嫌なルナマリア。まだ頬の紅いセツコ。
『シンを励まし隊(キラケン命名)』は、まあ、こんな感じで結成されたのだった。
「あ~あ、落ち込んじゃってまあ…」
現状把握ということで、再びシンの様子を調べに来た3人。面白がって何人かの仲間も付いてきた。
見たところ彼の様子は以前と変化は無い。ただ普通に励まそうとしたところで、無理をした笑顔で礼を言われるのが関の山だろう。
さて、どうするべきか。
「シン、元気ない……」
「そりゃね。レイは親友だし、ミネルバには仲間がいるんだもん。私だって」
「ミヅキさん、何か良い方法はないですか?シン君を元気付けるような……」
「ん~?そうねえ……」
仲間達には見栄をきったものの、3人共特に策があったわけではない。
この場にいるスーパー系の男性陣は当てになりそうも無いので、セツコは隣のミヅキに聞いてみた。
経験豊富で男性心理に長けている彼女ならきっと、ベストな答えを教えてくれるだろう。そう思ったのだが―――
「良い方法、か。あるわよ。3人とも耳貸して」
悪戯を思いついた子供の様ににやりと笑うミヅキ。いやな予感。しかし他にアイデアも無いので、素直に耳を寄せる。
「それはね……」
ごにょごにょ。ごにょごにょ。
「「………ええーーーーっっ!!?」
「?」
船内に2人の女性の絶叫が響き渡った。
慌ててシンの様子を伺う。良かった、外界をシャットダウンしているのか周囲を気にしてはいないようだ。
声を落としてミヅキを問い詰める。
「それ、本気で言ってるんですか!?私たちの誰かが、シン君に……?」
「もちろん」
「なんでシンにそんなこと……それしかないんですか!?他の方法は!?」
「要するに3人共彼を慰めつつ距離を縮めたいんでしょ?ならこれが1番わかりやすいと思うけど」
「え!?いや、その、私そんなつもりじゃ……。ただシン君を励ましたいだけで」
「じゃあ好きにすればいいわ。でも牽制しあってる間に他の子に取られても知らないから。彼、人気ありそうだし。
それに、今押せば簡単に落ちるわよ?」
「ううう……」
ミヅキのアイデアがどんなものなのかは、結局周囲の誰かに聞こえることはなく。
一つだけ言えるのは、ルナマリアとセツコの顔がひどく赤くなっていることだけだった。
「お~い、ルナ。話って何だよ」
セツコたちの会議から時間にしておよそ1時間後。シンはルナマリアの部屋の中で立ち尽くしていた。
別に無断侵入したわけじゃない。彼女に呼び出されただけだ。
内線で呼び出され部屋まで行ってみると、扉には『シンへ 中に入れ』と書かれた紙が貼ってあった。
外から呼びかけてみるものの応答はなし。鍵は開いていたのでおっかなびっくり中に入ってみたが、やはり誰もいない。
シャワーというわけでもないようだし、一体何の為に自分は呼ばれたのやら。
「誰もいないじゃないか。あいつ何やってんだ、人を呼んでおいて」
愚痴っても始まらない。女の子の部屋で1人待つなんて落ち着かないし、話なら後で内線で聞けばいいだろう。
今の自分でも、話し相手くらいならなれる筈だ。
「……ハア。帰るか」
「「―――待てッッッ!!!」」
帰ろうと溜息を吐きながらドアに歩きかけたその時、部屋に響き渡る制止の声。
何処からか流れ出した軽快なテーマと共に、部屋の奥から3つの影が現れる。
「ザフトレッド!!」
なんかノリノリの赤髪アホ毛(+赤い暗視グラス)。
「ファントムピンク!!」
楽しそうな声の金髪巨乳(+ネオの仮面)。
「グ、グローリーブラック!!」
恥ずかしそうな茶髪ロング(+サングラス)。
いや、恥ずかしいんならやらなくていいですよ?
機敏な動きでポーズをとるレッドとピンク。
それにワンテンポ遅れて、やる気の無い動きでブラックが続いた。
「3人揃って!!」
「「「ZEUTH戦隊、セツルナステラ参上!!!」」」
「………………………」
そのまんまやんけというツッコミすらせずに、シンは胸の中のポケットをあさった。
えーと、拳銃は確か持ってたっけ。うん、あったあった。
黒光りするそれを両手でしっかりと構え、真ん中にいるリーダー格の赤いアホ毛に照準を合わせる。
狙うは一点、頭についている触角。あんなのがあるから変な電波を受信したのだろう。
公共の電波でも受信して天気予報でもしてくれれば良いものをってここ宇宙じゃないか迂闊俺。
まあいい、とにかくアレを吹き飛ばせば元に戻ってくれるはず。
「動くなよルナ。すぐ済むから」
「ちょ、撃っちゃ駄目ぇーーー!!!」
「オーケー、望むところよ!!」
「望んでも駄目ぇ!!」
セツコさんどいて。そいつ殺せない。
「最近、シン君元気ないでしょ?だから励ましてあげたいなぁって…」
「セツコさん……」
なんでこんな事を?と装備を外した彼女らに聞いてみると、そんな答えが返ってきた。
ああ、それで今の某特戦隊の様な出オチか。確かに某紫ライダーとかは好きだし暗い気分は吹っ飛んだが。
何か他のものまで飛んでいってしまった気がするのは気のせいではないだろう。
それが自分の顔に出ているのか、彼女たちはシンの顔を見てやっべーすべっちゃったヒーローさくせんしっぱいもうネタぎれとかなんとか話し合っている。
少しでも考えれば成功の確率が低いことぐらいわかるだろうに。
と思ってはみるものの、正直に言って彼女らの好意は本当に嬉しい。
だがルナやステラはともかくセツコに関してはその優しさは自分の方に使って欲しいのだが。例えばバルゴラに乗るのやめるとか。
目の前の彼女と自分を並べて、励まさなければならないのはどう見ても向こうだし。
いや、そんなことよりも今は言うべきことを言っておかないと。
「ありがとう。それと心配かけてごめん。俺はもう、大丈夫だから」
笑顔を浮かべて礼を言う。
しかし何故か彼女たちに納得した様子はない。ちゃんと心を込めたつもりだが、何か不満でもあるのだろうか。
再び顔を見合わせて溜息を吐いている。やっぱり、という呟きも聞こえた。
「むう……ヒーローもので攻める作戦じゃ、あんまり効果がなかったみたいね。仕方ない、こうなったら最後の手段」
「もうかよ。てか今の格好の何処がヒーロー?もういいって」
「ちょっと待って、本当にやるの?やっぱり私恥ずかしい」
「私だってそうですよ。でも相手がシンなら嫌じゃない、んだけどやっぱり恥ずかしいかも。あ~でも他の女に取られるのもやだなぁ…。
―――ええい、女は度胸!!行くわよ2人とも!!」
「うん!!」
「あ、やるんだ……」
シンの言葉を綺麗に無視して、自分の制服に手をかける3人。
今度は何をするつもりなんだ。制服の下に戦隊物のスーツでも着てたのか。確かにその年齢でそれは恥ずかしいしセツコが渋る理由もわかるけど。
というかいつまで付き合えば良いんだろう。
正直部屋に帰りたい。そして寝たい。できれば、さっきのの光景を夢の中のことに―――?
「え?」
思考していた自分の意識が、目の前の光景に引きつけられる。
「んしょ」
パラリと床に落ちる水色のスカート。
「よっ…と」
ピンクのスカートの中から降りてくる、真紅のショーツ。
「ん……ダメ、やっぱり恥ずかしい……」
黒い制服のボタンが外れたが、胸元が開ききる前に両腕で隠される。
制服の下に素肌が見えたのは気のせいだろうか。いや多分気のせいじゃない。中の服は何処にいったんだろう。
京都では、お茶漬けを出されたら「帰れ」という意味になるらしい。
つまりこれは「今からシャワー浴びるんだから早く部屋から出て行って」ということなんだよ!!
な、なんだってー!!ってアホか俺。本気で頭がまわってない。とにかく、なんかわかんないけどなんとかしなきゃ。
「な、なんの真似だ?」
「とぼけちゃって。ここまできたらわかるでしょ?言っておくけど冗談やドッキリなんかじゃないわよ」
ルナマリアはショーツを軽く放りながら近付くと、シンの首に両腕を回して呟いた。
「――――――私たちが、元気付けてあげる」
…………な、なんだってーーーッッッ!!!!