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[6402] アロンダイトで全体攻撃 (スパロボZ ・とりあえず完結)
Name: ドダイ改◆33b9b899 ID:80d4a734
Date: 2011/01/16 11:06

自販機の傍の壁にもたれて、少年は1人考えていた。



これから向かうのは第2の故郷。全てを失い孤児となった自分に、沢山のものを与えてくれた場所。

そんな場所に、これから己は戦いを挑まねばならない。プラントを、ギルバート・デュランダル議長を止める為にだ。

そしてその前に立ちはだかるのは同胞たち。かつて自分が所属した部隊と戦う可能性も十分、いや必ずあるだろう。


過去の決断に後悔は無い。あの時決めたのだ。自分の道を行く、と。

怒りを押し殺しながら自分を許さないと呟いた親友。彼とも話し合い続けると。


だが本当に上手くいくという確信なんて無かった。

これまでの戦い、自分がこの手で守りきれたものなんて、結局何もなかったから。

ステラの救出は全部万丈さんがやってくれた。悲しみを背負っていく仲間たちをただ見ていることしかできなかった。

もしかしたら、今回もそうなのか。俺はこの手で掴めないのか。

もし、レイによってカミーユやセツコが危なくなったりしたら。

俺はレイを撃ってしまうんじゃないか。仲間を守ることができないのでは。


頭の中を埋め尽くすのは悪い予感ばかり。缶コーヒーを口に含もうとしたが、中身はとっくに空だった。

握りつぶしてゴミ箱の中に叩きつけるものの、そんなことで気分が晴れるわけもなく。


「くそ、あの時あんだけ決意固めといてなんて様だよ、俺は……!!」


吐き気がした。この最悪な運命に。

何よりもそれに抗うことができない、力の無い自分に。


「説得するんだ。守るんだ。そうでなきゃ、また俺は何も掴めないじゃないか……ッ!!」


心に湧き上がる不安を、吐き出すように呟くシン。


「うわぁ、あれ相当だぜ……」

「……痛々しいですね。見ていて辛い」

「シン君………」


そんな少年を見守る影が、いくつかあった。






「シンの元気が無い?」

「はい」

セツコの報告に、アムロは思わず疑問の声を返した。


今自分たちがいるのは休憩室。迫る戦いを前に訓練や整備に明け暮れていた者たちが気を抜く場所だ。

現に今も自分の背後では、仲間たちが何人かのグループに別れて談笑している。

彼自身もまた、機体の調整を終えて休んでいたところ。そこに彼女たちが来たわけだ。


「やはりザフトと、いやレイやタリア艦長たちと戦うことで苦しんでいるんだと思います」

「そうか……」


続くロランの言葉に、アムロはこれまでを振り返る。自分がシンと初めて会ったのはオーブ沖の戦い。

当初の印象は、才能に溢れた若いパイロット。ただそれだけ。

だがそれから時が経つにつれ少年はエースと呼ばれるほどに腕を上げ、同時に悲しみも背負っていく。

祖国からは裏切られ、守ろうとしていた少女を目の前で殺され(生きていたが)、その敵を取り(生きていたが)、裏切った上司と同僚をその手にかけ(生きていたが)、

信じていた存在とは袂を別った(まだ生きてる)。


………あれ、大したことなくないか?まあいいか。


だが強いと言っても彼はまだ16歳の少年、その心は成熟していない。しかもこれまでの戦いで精神も傷ついている。

その上次に待ち受けているのは袂を別った親友、そして今なお自分の仲間がいる艦との戦いだ。

誤解や強制ではなく生き方で別れた両者。簡単に元の関係に戻れるとは言えず、その苦悩たるや相当のものだろう。

セツコやロランといった彼と仲の良い人間が心配するのも無理は無かった。


尤も彼女はシン以上に悲劇に見舞われているので、まわりの人間からすれば「むしろシンがセツコを励ませや」といった想いなのだが。


それはともかく、今のシンは切り込んでの雑魚一掃も戦闘終盤でのボスキラーもこなすZEUTHのエースだ。

彼が調子を落とすと他の者にも影響が出るだろうし、メンタルケアは早めにしておいた方が良いのは間違いない。

個人的には目の前の彼女が元気付ければ終わると思うのだが、彼らは男と女。そう簡単に踏み込めないのだろう。


「それで、あいつを元気付けてやろうって話になったんだけどさ……」


セツコの隣にいたエイジが話を続ける。確かに本来ならそれは、まとめ役である自分の役目だが。

しかしどうするかで悩んでいるのならかける言葉もあるが、正直道を決めた今のシンには励ましの言葉くらいしか言ってやれる事がない。

こういう落ち込んだ時に救われるのは仲間の存在なので、皆に聞いたほうが良いのではないか。

そう思って振り返ると、全員こっちを向いていた。やはり聞き耳を立てていたか。

一番近くにいた丸顔の少年の声を皮切りに、皆が騒ぎ出す。


「そんなのトカゲ食べさせればすぐ元気になるさ」

「誰も喜ばないってそんなの。仕方ない、俺の知り合いの女の子たち総動員で……」

「知り合いってほとんどZEUTHじゃない。それより男の子ってヒーローとかアニソンに弱いんじゃなかったっけ」

「じゃあラクスさんににライブしてもらうとかどうかしら」

「いや、あいつはラクスの歌に興味は無かった筈だ。心の拠り所は家族と仲間だし、普通に行く以外正直攻める所がないな」

「確かに上司にはほとんど心を開かなかったもんな、あいつ」

「う~ん家族ねぇ。なあエイジ、妹さんそっくりに女装してこいよ。それでおにいちゃ~んって」

「出来るわけないだろ。それに聞いた話だとロランの方が」

「お断りします」

「ムウさん、ここは一つ不可能を可能に」

「悪い、俺はネオ=ロアノークだから」

「フ、友などというものにとらわれるからそうなるのだ」

「まったくだね、兄さん」

「お前ら帰れ」


意見は出るがまとまらない。というか本気で心配してる人間がいないのがよくわかる。

わいわいがやがやと皆がのんきに騒ぐ中、カミーユが苛立ったように立ち上がった。

そういえば彼も似たような悩みを抱えていた。仲が良かったレコアと袂を別ってしまっている。主にそこのグラサンのせいで。

いやオルソン、君じゃない。ロリコンとかいろいろ似てるけど違う。逃げようとすんなノースリープ、お前だお前。


「ええい、あいつ1人が苦しいんじゃない、他にも悲しみを背負っている者もいるんだ。いつまでもうじうじと落ち込んでいるのなら、そんなシン、俺が修正してやる!!」

「待ってください。シンは必ず立ち上がってくれます。余計な手出しはしない方が」

「そんな!!シン君は今、つらい時なんですよ!?きっと……きっと誰かに側にいて欲しい筈です!!」

「セツコさん、甘やかしては駄目だ!!ロランもどけ!!」

「駄目だよカミーユ!!行くなら僕が!!」

「いや、ここは声が似ている俺が!!」

「じゃ、じゃあ私が!!」



「「「どうぞどうぞ」」」



「ええ!?」



驚くセツコ。周囲を見渡すと、全員がニヤニヤ笑いながら彼女を見ている。

どうやらロランやカミーユの修正うんぬんはプラフだった模様。


「ええと、あの……」

「いやー良かった、セツコさんが行くなら安心だ!!」

「ちょ、ま…」

「ま、こういうのは言いだしっぺがやるもんだしね。んじゃ俺デートだから後はよろしくー」


下手に皆で気を使うよりも、彼女のように本気で心配している者が行った方が良い。

その事を他の人間たちもわかっていたのだろう。全員で彼女の背中を押す。アイコンタクトも無しで。

というかそんなに分かり合えているのなら、先日のZEUTH同士の仲違いはなんだったんだ。あのガチンコの潰し合いは。


「あの、アムロ大尉」

「なんだ?」

「私、どうしたら……」

「そうだな……」


助けを求めるかのようにこちらを見てくるセツコ。

元々、どうしたら良いかわからないから彼女たちはここに来たわけで。それなのに出た結論は『お前がやれ』のみ。

自分を見上げる顔は困り果てていて、助けてやりたいと思わなくも無いが―――


「―――頑張れ」

「……………はい」


まあ、それは無粋というものだ。

彼女も悲しみを背負っている。シンの心を癒すと同時に、自分にとっての大切なものを再確認することもできるだろう。

支えようとしているものに支えられるという事はよくある事なのだから。


「みんな、楽しそう……」

「なになに、何の騒ぎ?」


その時、笑顔の金髪少女にくっ付かれながら紅いアホ毛の少女が入ってきた。ルナマリアとステラ。どうやら2人は本当に友達になったようだ。

シンの前で初めて出会ったときはどうなるかと思ったが、仲良くなって良かっ―――ッッッ!?

しまった、今、このタイミングはマズい!!


「ああ、実はね―――」


リアル系の面々が顔を青くし黙る中、声に答える者が1人。

ZEUTHのKY筆頭ことキラ・ヤマト。名は体を表すとはよく言ったものである。

―――空気読んでくれフリーダム王子。頼むから。

そんな男たちの心の中の叫びにも気付く様子もなく、彼は少女たちに説明を始めた。

いや、彼は本当に気付いていないのか。もしかしたら確信犯なのかもしれない。

セツコ・ルナマリア・ステラと親しくなったシンに対し、既に彼女持ちとはいえキラはキラケンと時々話すのを見るくらい。動機は十分すぎるほどある。

そんな馬鹿らしいことをアムロが考えているうちに説明が終わる。赤毛の少女は溜息を一つ吐き、言った。


「やっぱりまだ落ち込んでるのね。わかった、それなら私が―――」

「ステラが行く!!」

「………私とステラが何とか励ましますよ。私と一緒、ステラもそれでいいわね?抜け駆けは無しよ」

「うん。ステラ、シンを励ます」

「あ……」


抜け駆けしようとしたのは自分じゃないかと突っ込む勇者は存在しなかった。「その役はさっきセツコに決まったよ」と言う者も。

話は決まったとばかりに歩き出す2人の少女。皆、それをなんとなくバツが悪そうな顔で眺める。

本人の意思を無視した内容とはいえ、セツコがやる気になった直後の出来事だ。人が上った後に架けた梯子を退けた様な、申し訳ない気持ちになっていた。


「あ、あの」


搾り出すような声が静かな休憩室に響く。ルナマリアが足を止め、周囲の人間も声がした方に目を向けた。


「ん?………どうしたんです、セツコさん?」

「私が、行きます。シン君のところに」


ちょっと待ったコール。僅かに頬を赤く染め、セツコが女の戦いに身を投じた。


「―――――はあ。何でです?」


雰囲気をなんとなく察知したのか、恋敵だと認識したのか。ルナマリアの声に冷たいものが混じる。

だがセツコも退く気はないようだった。目は合わさず声も小さいが、はっきりとルナマリアに言葉を伝える。


「その、この話の発端は私だから、その責任もあるし」

「あるし?」

「シン君には、いつも優しくしてもらってるし」

「へえ……」

「だからそのお返しに、できたら私が元気付けてあげたいというか……」

「………」


声が小さくなるにつれ、頬の赤みが濃くなっていくセツコ。それに合わせる様にルナマリアのアホ毛も天を衝いていく。

セツコが顔を上げお互いの目が合った瞬間、空気が張り詰めた。周囲に奔るのは背筋の凍るような重圧。2人の背後に翼を広げた鳥と鎌を持った死神のようなオーラが浮かぶ。

視界の端には自分以外のリアル系の男たちが逃げていく光景。この裏切り者どもがっ。

結局この場に残っているのは鈍感なスーパー系と、わくわくした目で見ている女性陣だけだ。

きゃあ修羅場よ修羅場不幸だわどっちが勝つのセツコさんにお昼のプリンじゃあ私名前同じだしルナマリアになんか他人事に見えないな居場所をみつけるのよステラ以下略。



どうでもいいが、自分や意中の男が関与しなければ女性は皆こういう修羅場は大好きである。



「愚かな。レイに全額で決まっているだろう」

「僕はカミーユに賭けるよ、兄さん」


お前ら帰れ。地味に本命と対抗に賭けやがって。


「セツコさんもいろいろ大変でしょうから、ここは私たちだけで結構ですよ」

「私、大変だなんて一言も言った覚え無いですけど」


周囲の楽しそうな空気とはうってかわって、2人の周りの空気は冷たいまま。

このままストリームがストームにでも変わるのかと思ったその時、ステラの無邪気な声がその空気を破った。


「セツコもシン、だいじ。ルナ、セツコもいっしょでいいよね?」

「………そうね。どうしてもというならまあ、……いいですけど」

「ありがとう、2人とも」

「うん!!」


嬉しそうにセツコに抱きつくステラ。不機嫌なルナマリア。まだ頬の紅いセツコ。



『シンを励まし隊(キラケン命名)』は、まあ、こんな感じで結成されたのだった。








「あ~あ、落ち込んじゃってまあ…」

現状把握ということで、再びシンの様子を調べに来た3人。面白がって何人かの仲間も付いてきた。

見たところ彼の様子は以前と変化は無い。ただ普通に励まそうとしたところで、無理をした笑顔で礼を言われるのが関の山だろう。


さて、どうするべきか。


「シン、元気ない……」

「そりゃね。レイは親友だし、ミネルバには仲間がいるんだもん。私だって」

「ミヅキさん、何か良い方法はないですか?シン君を元気付けるような……」

「ん~?そうねえ……」

仲間達には見栄をきったものの、3人共特に策があったわけではない。

この場にいるスーパー系の男性陣は当てになりそうも無いので、セツコは隣のミヅキに聞いてみた。

経験豊富で男性心理に長けている彼女ならきっと、ベストな答えを教えてくれるだろう。そう思ったのだが―――


「良い方法、か。あるわよ。3人とも耳貸して」


悪戯を思いついた子供の様ににやりと笑うミヅキ。いやな予感。しかし他にアイデアも無いので、素直に耳を寄せる。


「それはね……」


ごにょごにょ。ごにょごにょ。



「「………ええーーーーっっ!!?」
「?」



船内に2人の女性の絶叫が響き渡った。

慌ててシンの様子を伺う。良かった、外界をシャットダウンしているのか周囲を気にしてはいないようだ。

声を落としてミヅキを問い詰める。


「それ、本気で言ってるんですか!?私たちの誰かが、シン君に……?」

「もちろん」

「なんでシンにそんなこと……それしかないんですか!?他の方法は!?」

「要するに3人共彼を慰めつつ距離を縮めたいんでしょ?ならこれが1番わかりやすいと思うけど」

「え!?いや、その、私そんなつもりじゃ……。ただシン君を励ましたいだけで」

「じゃあ好きにすればいいわ。でも牽制しあってる間に他の子に取られても知らないから。彼、人気ありそうだし。
 
 それに、今押せば簡単に落ちるわよ?」

「ううう……」


ミヅキのアイデアがどんなものなのかは、結局周囲の誰かに聞こえることはなく。

一つだけ言えるのは、ルナマリアとセツコの顔がひどく赤くなっていることだけだった。






「お~い、ルナ。話って何だよ」


セツコたちの会議から時間にしておよそ1時間後。シンはルナマリアの部屋の中で立ち尽くしていた。

別に無断侵入したわけじゃない。彼女に呼び出されただけだ。

内線で呼び出され部屋まで行ってみると、扉には『シンへ 中に入れ』と書かれた紙が貼ってあった。

外から呼びかけてみるものの応答はなし。鍵は開いていたのでおっかなびっくり中に入ってみたが、やはり誰もいない。

シャワーというわけでもないようだし、一体何の為に自分は呼ばれたのやら。


「誰もいないじゃないか。あいつ何やってんだ、人を呼んでおいて」


愚痴っても始まらない。女の子の部屋で1人待つなんて落ち着かないし、話なら後で内線で聞けばいいだろう。

今の自分でも、話し相手くらいならなれる筈だ。


「……ハア。帰るか」



「「―――待てッッッ!!!」」



帰ろうと溜息を吐きながらドアに歩きかけたその時、部屋に響き渡る制止の声。

何処からか流れ出した軽快なテーマと共に、部屋の奥から3つの影が現れる。


「ザフトレッド!!」


なんかノリノリの赤髪アホ毛(+赤い暗視グラス)。


「ファントムピンク!!」


楽しそうな声の金髪巨乳(+ネオの仮面)。


「グ、グローリーブラック!!」


恥ずかしそうな茶髪ロング(+サングラス)。

いや、恥ずかしいんならやらなくていいですよ?


機敏な動きでポーズをとるレッドとピンク。

それにワンテンポ遅れて、やる気の無い動きでブラックが続いた。


「3人揃って!!」


「「「ZEUTH戦隊、セツルナステラ参上!!!」」」


「………………………」


そのまんまやんけというツッコミすらせずに、シンは胸の中のポケットをあさった。

えーと、拳銃は確か持ってたっけ。うん、あったあった。

黒光りするそれを両手でしっかりと構え、真ん中にいるリーダー格の赤いアホ毛に照準を合わせる。

狙うは一点、頭についている触角。あんなのがあるから変な電波を受信したのだろう。

公共の電波でも受信して天気予報でもしてくれれば良いものをってここ宇宙じゃないか迂闊俺。

まあいい、とにかくアレを吹き飛ばせば元に戻ってくれるはず。


「動くなよルナ。すぐ済むから」

「ちょ、撃っちゃ駄目ぇーーー!!!」

「オーケー、望むところよ!!」

「望んでも駄目ぇ!!」


セツコさんどいて。そいつ殺せない。






「最近、シン君元気ないでしょ?だから励ましてあげたいなぁって…」

「セツコさん……」


なんでこんな事を?と装備を外した彼女らに聞いてみると、そんな答えが返ってきた。

ああ、それで今の某特戦隊の様な出オチか。確かに某紫ライダーとかは好きだし暗い気分は吹っ飛んだが。

何か他のものまで飛んでいってしまった気がするのは気のせいではないだろう。

それが自分の顔に出ているのか、彼女たちはシンの顔を見てやっべーすべっちゃったヒーローさくせんしっぱいもうネタぎれとかなんとか話し合っている。

少しでも考えれば成功の確率が低いことぐらいわかるだろうに。


と思ってはみるものの、正直に言って彼女らの好意は本当に嬉しい。

だがルナやステラはともかくセツコに関してはその優しさは自分の方に使って欲しいのだが。例えばバルゴラに乗るのやめるとか。

目の前の彼女と自分を並べて、励まさなければならないのはどう見ても向こうだし。


いや、そんなことよりも今は言うべきことを言っておかないと。


「ありがとう。それと心配かけてごめん。俺はもう、大丈夫だから」


笑顔を浮かべて礼を言う。

しかし何故か彼女たちに納得した様子はない。ちゃんと心を込めたつもりだが、何か不満でもあるのだろうか。

再び顔を見合わせて溜息を吐いている。やっぱり、という呟きも聞こえた。


「むう……ヒーローもので攻める作戦じゃ、あんまり効果がなかったみたいね。仕方ない、こうなったら最後の手段」

「もうかよ。てか今の格好の何処がヒーロー?もういいって」

「ちょっと待って、本当にやるの?やっぱり私恥ずかしい」

「私だってそうですよ。でも相手がシンなら嫌じゃない、んだけどやっぱり恥ずかしいかも。あ~でも他の女に取られるのもやだなぁ…。
 
 ―――ええい、女は度胸!!行くわよ2人とも!!」

「うん!!」

「あ、やるんだ……」


シンの言葉を綺麗に無視して、自分の制服に手をかける3人。

今度は何をするつもりなんだ。制服の下に戦隊物のスーツでも着てたのか。確かにその年齢でそれは恥ずかしいしセツコが渋る理由もわかるけど。

というかいつまで付き合えば良いんだろう。

正直部屋に帰りたい。そして寝たい。できれば、さっきのの光景を夢の中のことに―――?


「え?」


思考していた自分の意識が、目の前の光景に引きつけられる。


「んしょ」


パラリと床に落ちる水色のスカート。


「よっ…と」


ピンクのスカートの中から降りてくる、真紅のショーツ。


「ん……ダメ、やっぱり恥ずかしい……」


黒い制服のボタンが外れたが、胸元が開ききる前に両腕で隠される。

制服の下に素肌が見えたのは気のせいだろうか。いや多分気のせいじゃない。中の服は何処にいったんだろう。


京都では、お茶漬けを出されたら「帰れ」という意味になるらしい。

つまりこれは「今からシャワー浴びるんだから早く部屋から出て行って」ということなんだよ!!

な、なんだってー!!ってアホか俺。本気で頭がまわってない。とにかく、なんかわかんないけどなんとかしなきゃ。


「な、なんの真似だ?」

「とぼけちゃって。ここまできたらわかるでしょ?言っておくけど冗談やドッキリなんかじゃないわよ」


ルナマリアはショーツを軽く放りながら近付くと、シンの首に両腕を回して呟いた。




「――――――私たちが、元気付けてあげる」





…………な、なんだってーーーッッッ!!!!






[6402] VSステラ編
Name: ドダイ改◆33b9b899 ID:80d4a734
Date: 2009/02/15 17:42





「とぼけちゃって。ここまできたらわかるでしょ?――――私たちが、元気付けてあげる」



生まれてからずっと、自分には運が無かったと思う。



家族は目の前で自分以外全員死んでしまい天涯孤独となり、身体一つでプラントへと渡り、いろいろとつらい目にも遭い。

失った多くの命を忘れたかのように世界は争いを止めようともせず、民を見捨てて逃げた今のオーブの国家元首は、相変わらず奇麗事ばっかりで何も変わっておらず。

結局、妹や両親の死は全く無駄なものだったのだと思い知らされた。


ZEUTHに入ってからもそうだ。


やっと納得いく戦果をあげられたと思ったら、出戻りの英雄がFAITHになって合流してきて、何かにつけて先輩面するし。

戦闘中にいきなり突貫を命じられ、「まあ直感かけてるから平気だろ」と訳の分からない言葉と共に、戦艦の主砲に巻き込まれたり。

顔を赤らめた女の子(モブ)に「カミーユとレイ、どっちと付き合ってるんですか?」と聞かれ、怒り狂って暴れたところをカミーユに抑えられ、「やっぱりそっちなんですね!!」とか言われたし。

オーブでは化け物に目を付けられたうえ、仲間は「クラウダを討て」と援護にも来ず、結局自分の小隊(ロランとエニル)だけで相手をすることになった。


死にかけた。


しかも帰ってきたら誰も自分の事なんか心配せず、皆議長の放送の事で夢中だった。


泣きそうになった。


おまけにせっかくオーブの解放に協力してやったのに、国から逃げて何やってたかわからない連中に「お前のとこのボスは嘘つきだから信用できない」扱いされ、

倒したはずのアスランやフリーダムは何故か生きてて、仲間になった時には超身内人事で遥か上の役職になっており。


そして背中を預けて戦ったかけがえの無い親友は今、敵になってしまった。


無論、ZEUTHの中にも自分より不幸な人間はいる。だが彼らは悲しみにも負けず、自分の決めた道を貫いていた。

そんな人たちの前で、自分だけが不幸だなんて顔をして悲しみに浸るなんてことはできやしない。

だからこそ、プラントやザフトの仲間の事を考える時は、なるべく人目に付かない場所に1人でいるようにしていたのだ。


話がずれた。


まあとにかく、自分にはあまり運が無い。ガロードたちの様な強運はおろか、人並みのそれすら感じたことが無い。

そんな自分の前に広がるこの素敵展開。一瞬アサキムの罠かとも思えたが、流石に3人に化けるのは無理だろう。

常日頃から、自分は神様かその嫁あたりに嫌われているのではないかと思っているシンは、この幸運を受け入れる事ができずに考えを巡らせる。



今の状況から考えられることは2つ。神様は超ツンデレであるか―――――――これが俺の死亡フラグであるか、だ。



超ネガティブだった。




お約束だが、ここまででジャスト1秒である。












ルナマリアの右手からショーツが離れ、床に落ちた。そのまま彼女は自分の首に両手を回し、潤んだ瞳でみつめてくる。

綺麗な瞳にドキドキしながら視線を逸らす。視界の中には制服のボタンを外している最中のステラと手ブラで胸を隠しながらこちらをチラチラと見ているセツコ。

それを見続ける度胸も無い。顔をさらに横に向けようとすると頬にルナの手が触れ、視線を彼女に戻された。さっきよりも近い。


「ちょ、おい、それシャレになってないって」

「往生際が悪いわね。普通喜ぶところよ?こんな美女3人の相手だなんて。

 ま、シンのそういうトコ、嫌いじゃないけど。―――――ステラ、やっちゃって」

「うん!!」


す、とシンからルナマリアが離れると同時に飛び掛ってくるステラ。次の瞬間彼女の制服が開き、大きな胸が露出する。

その光景に意識を奪われた数瞬後には顔に柔らかい何かがぶつかり、シンはベッドの端に押し倒されていた。

目の前には数秒前自分の顔に衝突した2つのメロン。その先端には綺麗なピンクの突起。


ふるふる、と美味しそうに揺れている。


「倒した……」

「うわ、すご……じゃなくて!俺は大丈夫だからそんなことしなくても」

「もう観念しなさい、私たちだって恥ずかしいんだから。………それとも、私たちじゃ嫌なの?」


押し倒されたシンをステラの右隣から覗き込むルナマリア。本気で言っているのか、目に少しだけ不安の色が混じっていた。

……何を馬鹿なことを言っているのやら。心配するとこがあきらかに違うだろ。

長くはないがこれまでの人生で、ここにいる3人以上に魅力的な存在を自分は知らないっていうのに。


「馬鹿。ルナ達が嫌だなんて、そんな事あるわけないだろ」

「………フフッ、そうよね。んじゃ、私たちの美貌を再認識したところで」


垂れた髪をかきあげ、嬉しそうに笑う彼女。やはり彼女は笑顔が1番可愛い―――


「戦闘再開といきますか」


って何も解決してねえ。


「ちょっと待てってば。確かにああは言ったけど、もっと自分を大事に」

「う・る・さ・い」

「しろってバカ顔寄せんなちょっと待んむっ、んん~~~っ!!」


がっつり唇を奪われながら服を脱がされる。ボタンを外すステラを止めようと伸ばした左手は、ルナマリアに抑えられ指と指が絡み合った。

僅かに震えている唇。あんまり慣れていない。もしかしたらだが、あんまり経験が無いのかもしれない。

落ち着かせるように、残された右手を彼女の後頭部に回す。髪を優しく撫でると、彼女は上半身全てで覆いかぶさってきた。

しばらく貪る様な深いキスが続いた後、呼吸をしながら軽いキスを何度も繰り返すルナマリア。

胸元がはだけた時にはもう、シンには完全に抵抗する気は無くなっていた。

離れる唇。頬を染めたまま嬉しそうにシンの顔を覗き込む。


「どう?」


あえて俺に言わせる気か。意地悪なとこはいつもと変わらない。


「………もう、後悔しても遅いからな」

「うん。おもいっきり、後悔させて」

「ああ」

「できれば、もう降参って私が言いたくなるぐらい」

「わかってる」


言葉を吐くと同時に体を入れ替え反撃に移るシン。押し倒されたルナマリアが嬉しそうな悲鳴をあげた瞬間、横から再びステラが抱きついてきた。

受け止めて彼女のこめかみに口付けてやると、その隙に起き上がったルナマリアがシンのベルトを外しにかかる。

あっちを攻めればこちらが手薄に。自分は確実に後手に回っている。ままならない。こんなことではリクエストに応えられやしない。

いや、今は彼女たちのコンビネーションを褒めるべきか。


「わ、すごいじゃない、シン。びっくりしちゃった」


チャックが開かれ、中からシンのものが弾けるように出てきた。仕方ないだろ溜まってたんだから。

一瞬驚いた顔をしたルナマリアだったが、すぐに顔を寄せてくる。床に膝を付いた姿勢のまま、軽い挨拶でもするかのように先端にキス。

そのままチロチロと舌を弾かせた後、一気に咥え込んだ。


「なっ!?ちょ、お前……うわっ」

「ん、ちゅぽ、ふ、ふむ、はぁぁっ、れろ」


いきなりか。行儀良くひざまずき、顔を上下させる彼女に圧倒される。

先端に、亀頭に、裏すじに絡み付いてくる彼女の滑らかな舌。思わず口から情けない声が漏れた。

それにしてもなんで彼女はこんなに上手いんだろう。推測だが、誰か他の男に仕込まれたというのは無いと思う。

自分の知る限りアカデミーじゃ誰とも付き合ってなかった筈だし、後腐れの無い男を漁るタイプでもない。天性の才能だとでもいうのだろうか。

さっきの震えるキスからは想像できない。


「いろいろと勉強したのよ。未来の旦那様の為に」

「………そっか。絶対に幸せ者だよ、そいつ」

「……この朴念仁がぁ………わかってて言ってるのかしら?えい、お仕置き。…………かぷ」

「痛っっ!!何すんだよ!!―――んんっ!!」

「うっさい。やめて欲しいの?」


歯を立てられ、思わず悲鳴をあげるシン。だがすぐにルナマリアの舌が噛まれた場所や裏すじに絡みつく。

思わずこの攻撃に屈し、文句の続きを止めたシンを誰が責められようか。

もっとも、文句の出なかった主な原因はステラにキスで口を塞がれたせいであるが。


「んん、シン……んゅっ!?」


ステラが仕掛けてきたのはじゃれ付くような軽いキス。シンは彼女の立派なバストを円を書くように撫でながら、舌を絡ませるディープなキスを返す。

驚く彼女の甘い舌を味わいながら、胸を優しく鷲掴みにして揉みしだいた。

はぁ、と艶やかな息を漏らす唇をそのまま塞ぎながら攻撃を先端へと移す。指でリズミカルにそこを弾くと、途端に吐息が危ういものになった。

弱点を発見。ここが弱いのか。キスを止めて抱き寄せ、目の前のツンと突き出た乳首を優しく噛んだ。


「ああんっっ!!」


一際大きい声と共に、彼女の身体がぞくぞくと震えた。改造された制服から見える二の腕には、びっしりと鳥肌がたっている。

だが攻撃の手は緩めない。右の乳首は甘噛みしたまま、右手で左の乳首をくりくりと弄る。

しばらく窒息させそうなくらいシンの顔を抱きしめ耐えていたステラだったが、我慢の限界が訪れたようだ。

夢中でシンのを咥え続けるルナマリアに助けを求めた。


「はぁっ、ああ、ル、ルナ……何か身体が変なの。どうしよう」

「んっ、んっ、んっ、ふむん?………ああ、気持ち良いのが初めてだから戸惑ってるのね。とりあえず変わろうか、ステラ?」

「……う、うん。でもステラ、それのやり方はわからないけど」

「こういうのは心を込めればそれで良いのよ。う~ん、でもせっかくだから別のをしようか。私は本で読んだ事があるだけだけど、ステラならできるわよ」

「別の?………あっ…」


たっぷりとシンのペニスに唾を擦り付けた後、ルナマリアがステラの後ろに回り胸を掴む。

持ち上げられたステラの胸の谷間にシンのものを挟みながら、両側から自分の手で優しく押し込んだ。

柔らかいのに弾力がある肉球がぐにゅぐにゅと形を変える。汗で唾で触れ合う場所がねっとりと湿る。


「ほら、こうやって。後は好きなように動かすの。これだけ大きいんだもの、威力は保障付きよ」

「えーと、こう?んしょ、ふぅ、えい」


幼い顔に似合わない豊満な身体を持った美少女が、自分にひざまずき奉仕しているこの状況。肉体的な快楽もさることながら、視覚的な興奮も大きい。


「それから多分、こういうのもあり」

「ひゃぁっ!?」


ルナの手によって、ステラの胸が交互に上下した。地球の重力ではまず見受けられない特殊な光景に、シンの興奮は最高値へと上がっていく。

地球に生まれて良かったーとばかりに、シンの頭に感謝の念が溢れた。

ルナマリアGJ。万丈さんありがとう。そしてステラを加護してくれた寺田神には心からの感謝を。福田夫妻?誰それ。実写版デビルマンつくったやつだったっけ?


「シン、気持ち良い?」


ルナマリアが手を離したので、自分で動かすステラ。小首を傾けて問いかけながらシンを見上げる。畜生かわいいなぁ。


「くぁっ……ステラ、それ、やばい……」

「………」


そうやって盛り上がる3人とは別に、ベッドから少し離れた場所で1人の女性が立ち尽くしている。

混ざるタイミングを無くしたのか、それとも恥ずかしくて混ざれないのか。2人を眺めているのはこれまでモーションを起こさなかったセツコだ。

彼女の視線の先ではステラがシンのを胸で挟みながら先端を舐めていた。彼はとても気持ちが良さそうで、正直自分のいる必要が感じられない。

思わず溜息がこぼれる。


―――――やっぱり自分は必要なかったんだ。こんな思いをするなら割り込まなければ良かった。


そう落ち込みながら視線を落とす彼女。

だからだろう、背後に回りこんだルナマリアに気付かない。


「ほら、セツコさん!!拗ねたりしないの!!」

「わっ!?な、なに?」


いきなり抱きつくルナマリア。セツコの耳元でそっと呟く。


「覚悟を決めたからここにいるんでしょ?大丈夫、仲間はずれにしたりなんかしませんよ」

「で、でも私なんかがいなくても、シン君は十分元気付けられて」

「胸まで見せておいて何を今さら。……もう、こうなったら実力行使。えいっ!!」

「きゃっ!?」


ベッドに向かって突き飛ばされる。その気配を感じたのか、ステラは振り向かずにセツコを避けた。

必然的にシンの胸に飛び込む形になる。思い切りぶつかったのだが、しっかりと受け止められた。


「おっと、危な」

「あ……」

「セツコさん、大丈夫ですか?」

「う、うん」


顔を上げれば目の前にはシンの顔。そして印象的な深紅の瞳。そういえば、こんなに近くで見たのは初めてだ。

動悸が激しくなる自分の胸。この部屋の空気に惑わされたのか、思考が上手くまわらない。

シンの瞳に引き込まれる自分に気付いた時には、既に彼の唇に自分のそれを押し付けていた。

予想していたのか、落ち着いて応えるシン。優しい瞳でセツコをみつめながら呟く。


「あー、その。………いいんですか、俺なんかで」

「…………うん」


年下。短気。おまけに傍には自分以外の女の子。確かに彼の今の状況は女性から見ると最悪だろう。

だが自分は知っている。彼の苦難とその果ての決意を。努力を。


―――――アメとムチってわけじゃないですけど。食べます?


そして何より、彼の優しさを。

だからセツコはしっかりとシンの目をみつめ返し、言った。


「……あなたが、いい。っていうか、シン君じゃなきゃやだ」

「セツコさん……!!」

「あ、んん…ふぅ、んっ……」


顔を近づけようとしたセツコよりも早く、シンの唇が再び彼女を捉えた。

彼女の頬に手を添えて唇を押し付けながら、そのままゆっくりとセツコをベッドに押し倒す。


「はむ、ん、はぁ……シン、くん…」

「セツコ、さん」

「キス、しちゃった、ね……」

「うん…セツコさん、いい匂いする……」

「や、だめ。匂い、嗅がないで……」


唇に、頬に、首筋に。シンはセツコに触れるだけの優しいキスを何度も落とした。

身体の奥から湧き上がってくる吐息とともに、合わさった間から甘ったるい声がこぼれる。

瞳を閉じた彼女の顔を見ながら口付け、その合間にそっと呟く。


「セツコさん……唇、柔らかい…」

「ばか……」


恥ずかしそうに頬を赤くするセツコ。その間もキスは続いたまま。細い腕がシンの背中に回される。


「それに、甘い…」

「え?」


キスの最中に漏れた『甘い』という単語に彼女が反応した。目に少しだけ理性が戻る。

しまった、馬鹿か俺は。そんな現実を思い出させるようなこと、ここで言うべきじゃないのに。すぐに謝ろうと思い直して、


「すいません、俺―――んんっ?」

「はむ」


キスで言葉が遮られる。そのまま視線が合った。

そんなこと、今ははどうでもいいと彼女の目が言っている。


「んんん?」

「んん」


くっついたままだったので、傍目からは何を言ったかわからない。だが当事者同士は伝わったようで。

お互いに目を閉じて、そのまま身体のおもむくままに任せる。

きつく抱き合い端から端までたっぷりと唇を重ねて、ようやく彼女は口を離した。浮かべるのは蕩けた笑み。


「シン君…確かに甘いね……キス」

「セツコさん……」

「私、シン君ともっとキスしたい。だから、もっと」


吐息混じりの切ない声。同時に彼女の顔が迫る。


続行を断る理由は、ない。


「俺も。もっと深くいくよ、セツコさん」

「んふっ!?」


口の中の唾液を舌に塗りつけ、湿った唇の奥に差し入れる。そのまま、中に隠れた彼女の舌を捕らえた。

ぴったりと絡みつく2人の舌。驚いたのか、大きく目を見開くセツコ。構わず強引に動かし、ざらつく表面に擦り付ける。


「ふむ、くっ、んん…ちゅむっ、ううんっ」


動きが止まったのも束の間、すぐに彼女もその動きに応えてきた。

胸板に押し付けられる彼女の双丘を強く感じる。舌先の感触に頭が痺れる。

これは、やばい。彼女の腕からは力が抜けていくし、自分は言わずもがなだ。


「これ、だめ。ちから、んっ、ぬけちゃい、そっ…ふぅっ……」

「大丈夫。んむっ、離れない、から」


離れまいと絡んでいた両腕。しかし、ついに背中から彼女の左手が離れる。シンはそれを右手でそっと掴んだ。

絡み合う指先。恋人のように握り合って、今度こそ離れない。

今のシンにはセツコしか見えていないし、セツコにもシンしか見えていない。

今の2人には、お互いだけ見えていれば良かった。


「シン君、わたしね。んっ、あなたが……」

「セツコさん、俺、俺っ…「でこぴん」ぐはっっ!!!?」

「シン君だめ。わたし、もっと……?」


不意にシンの頭が跳ね上がる。

唐突に中断されて思わず続きをせがんだセツコの視界に、嫉妬に赤く燃えるアホ毛が入った。

少しだけ理性を取り戻す。目を押さえたシンと、半裸のステラ。胸を張るルナマリア。


……そういえば、ここには全部で4人いたのだ。


「が、眼球はないだろ……!!」

「はーい、ラブラブ禁止!!本気になった罰として、愛しのシン君は没収でーす!!」

「え…!?べ、別に本気とか、そんな……」

「思いっきり本気だったじゃないですか。2人して私たちの存在忘れちゃって」

「あう……」


寝転がったままのセツコにルナマリアが噛み付いている。シンはぼんやりとそれを見ながら頭を振った。頭を溶かしていた熱は少し治まったようだ。目は痛いが。

目を押さえるシンを悲しそうな顔のステラが覗き込んできた。大丈夫だよと答えようとしたが、どうやら自分を心配しているというわけではなさそうだ。


「ステラ、仲間はずれ……?シン、わたしのこと好きじゃない?」

「い、いや、そんな事は!!」

「ほんとう?よかった。じゃあ、次はステラね」


嬉しそうにシンの首に抱きつくステラ。思わず抱き締め返し頭を撫でる。

子犬のように身体を擦り付けてくる彼女の首筋に口を付けて、吸った。


「んっ…!」


びくりと反応する身体。そのまま唇を耳にもっていきながら太股も撫でると、彼女の息が荒くなった。

先程までの愛撫もあって身体は随分ほぐれているようだ。

だが残った2人を放っても良いのだろうか。もう眼球を弾かれるのは勘弁願いたい。そう思いながら横を見ると、


「おおっ、こ、これはまさに神乳っ……!!」

「ちょ、ちょっとルナマリ……あっ、揉まないで…っ」


どうやら大丈夫の模様。そう判断してステラを押し倒す。

上半身に身に付けているのはボタンを開けた制服(連合)だけなので、彼女の豊かなバストがはっきりと見える。


「あっ、シン…」


乳首にキスを落とすと素直な反応が返ってきた。さっきのように軽く噛むと再び彼女は身体をよじらせるものの、少しだけこの刺激を楽しむ余裕が出てきたようだ。

指を下腹部に持っていくと十分濡れていた。隣は隣で盛り上がっているようだし、もうちょっと踏み込んでも良いだろう。

シンはステラの左脚だけショーツから抜き取ってから、彼女の下半身を持ち上げる。

でんぐり返しの途中のようなその姿勢のまま、ステラの股間に顔を近づけた。


「ああ……」


恥ずかしいのか両手で顔を隠すステラ。無理も無いと思う。まあ、こちらもそれを狙ってやってるわけだし。

両方の太股にキスをしてから、シンは彼女の秘所に舌を伸ばす。


「んっ!!……はぁ、あ、あっ、ああっ!!」


舌先が陰核を弾くたび、シンが愛液を啜るたびにステラの体がびくんと反応した。

顔を隠していた両手が今では枕やベッドのシーツを強く握っている。羞恥よりも快楽への抵抗を優先するほど感じているようだ。

ちょっと意地悪な気分になったシンはわざと舐める音を立てて、聴覚からもステラの官能を煽る。


「あああ……音立てちゃ、やだ。ステラ、恥ずかしい………」


制止する声とは裏腹に身体は嫌がっておらず、挿入しても問題無いくらいに蜜が溢れてくる。

そろそろ頃合か。顔を離してステラを見つめると雰囲気を察したのか、彼女は両足を開いて姿勢を作った。

彼女の両脚の間に割って入るシン。


「シン、お願い。来て……」

「行くよ、ステラ……ッッ!!」

「うん……あ…あ、あああっっ!!!」


ゆっくりと差し込んだ。きつい。

しっかり先端が奥に届いたのを確認してから、シンは腰の動きを止めた。

見たところ、彼女の蕩けた顔から苦痛は感じられない。このまま行っても良いみたいだ。

優しく腰を動かす。

ピンクの制服の間から見える、上下に揺れる胸。そして右膝に引っ掛かっている丸まった白いショーツが、シンの興奮を掻き立てていく。

腰の動きが早くなっていくのを抑えることができない。


「あん、あん、あっ、ああ~~ッッッ!!」


口の端から涎を零しながら、耐えられないと言わんばかりに顔を横に振る少女。

シンは腰の動きを止めぬまま彼女の両脚を閉じさせた。すらりとしたふくらはぎや膝の裏がなんだか色っぽい。弾けるようなバストに隠れがちだが、彼女もかなりの美脚の持ち主だった。

両脚を優しく抱きしめながら腰をピストンから回すような動きへ変化させる。それに対する彼女の反応は顕著で、シンのものをきゅきゅきゅと小刻みに締め付けた。

もう彼女は限界が近いようだ。だがそれは彼女だけの話ではなかった。

先程までの3人との行為のせいもあって、正直自分もそろそろやばい。スパートに入る時機だ。

だがあんまりステラに夢中になっても、先程のような目に遭って良くないかもしれない。そう思い隣の様子を窺ってみると、


「こんなのどう?ほらここ、くりくり、って」

「あああっ!!」


なんか2人で盛り上がっていた。どっちがオフェンスなのかは言うまでもない。

ルナマリアがその細い指で、セツコの黒いショーツ越しに突起を擦っている。


「セツコさん、ここ弱いんだぁ……じゃあここは?」

「ああっ!!そ、そんなの誰だって耐えられないに決まってるのに……っ!!」

「……ッッ!!」

「きゃああん!!シン、まだすごくなるの……?」


隣の悩ましい声に触発され、激しさを増すシンの腰の動き。

彼女の手首を掴むとへその前で交差させ、彼女の両腕で胸を挟み込んだ。

胸の大きさを強調するようなその姿、それを十分に目に焼き付ける。舌で唇を濡らしながらキスをせがむステラ。

思わず手を離して彼女に覆いかぶさった。

2人が鳴らす音は既に叩きつける音と評しても過言ではなく、また彼女もそれを望むかのように受け入れている。

弾む息。余裕の無くなる表情。段々と加速していくリズム。


そしてそれらが全て止まり、


「ステラ……んんっ!!」

「ん、はあ、れろ、シ、シん、んんんーーーーっっっ!!!!」



痙攣する身体。脚を大きく開き一際ぴんと伸びる両足のつま先。


シンはステラに深いキスをしながら、彼女の1番奥深い場所で放出した。







「ん、んん~~ッッ………ハァッッ!!!……ハア、ハア、ハア…」

「ステラ、大丈夫か?」

「ハア、ハア、うん、ハア、なんとか……」


酸素を求めて口をパクつかせるステラ。密着した胸から、彼女の心臓がバクバク言ってるのを感じる。


「あ~あ、セツコさん相手にしてたせいで、1番とられちゃった」

「わ、私のせいじゃない…」


ベッドの反対側ではルナマリアが拗ねた口調で愚痴る。その隣ではセツコがぼんやりとした目で寝転がっていた。あちらも勝負がついたようだ。

もっとも、勝負と呼んで良いものだったのかは分からないが。セツコさん一方的にやられてただけだったし。


「はぁ…だ、だいじょうぶだよルナ。シン、まだおっきいままだし……んっ」


ステラから自分のものを抜き、離れるシン。

その際に彼女の敏感なところに当たったのか、再びびくん、とステラの腰が痙攣する。


「ハァ、ハァ……」


汗で顔に張り付いた髪を後ろに流しながら、シンは天井を見上げた。

ステラの膣内から抜き出されたばかりのそれはそそり立ったままで、たった今出したばかりなのに硬さを失っていない。


「……ふう」

「シ~ン、こっち向いて」

「ん?」


声の方向に顔を向けると、ルナマリアが尻を突き上げた状態で待っていた。

両手をついて左右にお尻を振る。揺れるミニスカート。足はベッドの外、立ち上がった状態。ニーソは外さないのは流石だ。

だが卑猥な格好のはずなのに、彼女がやると少し格好いいのは何故だろう。

なんというか、エロかっこいいというか。




「ラウンド2。次はこっちよ?シン。――――――セツコさんの前に、私で練習♪」






それにしてもこのルナマリア、ノリノリである。









[6402] VSルナマリア編
Name: ドダイ改◆33b9b899 ID:80d4a734
Date: 2009/02/26 00:20



『ザフトレッド!!!』


『ファントムピンク!!!』


『グ、グローリーブラック!!!』





ルナマリアの部屋にシンが入った後、中からそんな声が聞こえてきた。部屋の外にも響く彼女たちの元気な声に、偶然部屋の前を通りがかった破瀾万丈は足を止める。


なるほど。どうやら彼女たちのセレクトはヒーローものか。


シンの気分を盛り上げようと頑張る3人と困った顔のシンが簡単に想像できて、彼の口許からは思わず笑みがこぼれた。


彼らの話は聞いている。ナーバスになったシンとそれを元気付けようとする少女たち。あのぶんなら大丈夫だろう。

しかし周りの者に聞いた限りでは、皆口々に「やばかった」「修羅場だった」と連呼していたのだが、全然そんなものは感じられないじゃないか。

むしろ仲が良くて、見ていると微笑ましく感じてしまうほどだ。自分も歳は大して変わらないけど。



『『『ZEUTH戦隊、セツルナステラ!!!』』』



………それにしてもヒーローものねえ。

まだ少女と言っても過言ではないステラやルナマリアはともかく、セツコがいながらその選択は無いとは思うんだが。いや、2人に引き摺られたのか。


だがまあ彼らなど年相応な方だ。他の者たちときたら、名有りでもモブでも人目もはばからずいちゃいちゃする者が続出しているのだから。

無論仕方ない部分もある。世界が崩壊に向かっている非常事態という重圧や自分たちの前に立ちふさがる強大な敵との熾烈な戦闘で、戦士たちの疲労はピークを迎えているし、

いつ誰が死ぬかわからないこの状況で、縋り合えるのは仲間だけ。

まして人間は子孫を残す為に、危機的状況になるとそういう欲求も強くなる。有名な「吊り橋効果」などに代表されるようにだ。

一人一人の精神的ケアを完璧に行える手段や余裕がないため、首脳陣もそういった傾向に関しては黙認するほかなかった。


だがそれでも今のZEUTH内の風紀は乱れすぎているように思う。戦闘に入ると気が引き締まるが、それ以外との落差が明らかに目立つのだ。

そこまで堅くない性格の自分がそう思うくらいなのだから、周囲から見ると相当なものなのだろう。現に先程からも仲間の部屋の前を通るたび、男女の声がよく聞こえてきた。

例えば、




1、エイジの部屋


「「「エイジさま!!夜のご奉仕に参りましたぁ!!!」」」

「10年早ぇ!!ったく、またミヅキあたりにそんな言葉吹き込まれたな!?……ほら、部屋で絵本くらいなら読んでやるから、お前らもう寝ろ」

「ぱよ。じゃあ、私もっと後に来ますね、エイジさま」

「「「後に!?」」」

「構わねぇけど、わざわざちび共の前で言わんでくれ……」



2、鉄也の部屋


「しまった!!やられちまったか。……だがなジュン、俺は再攻撃のプロだぜ」

「せめて技量育成してからそーゆー事言って貰える?」



3、ハマーンの部屋


「もうこんな時間か。話はここまでだシャア。そろそろミネバ様にお休みのご挨拶をする時間なのでな。今から通信を繋ぐから少しの間黙っていろ」

「待てハマーン、まだ話は終わっていない。ミネバ様を偏見の塊にしたことを……」

「ミネバ様、お休みなさいませ」

『お休みハマーン。それと寝る前に聞きたいことがあるのだが、エマ中尉は何が好きなのだろう?今度会った時にプレゼントを』

「……ヘンケン?」

「……………私とて辛いのだよ」



4、ゲッターチームの部屋


「お前それで何回目だ隼人。そろそろ弁慶と替わってやれよ」

「はっ、ふぅっ。……まったく、仕方ないな。オープンゲェェット!!」

「チェーンジ、ポセイドン!!行くぜミチルさん!!」

「すごい、これがゲッターチームのコンビネーションなのね!?」



5、ロランの部屋


「はあ、はあ、ロランなんかに負けられるものですか!!ああっ!!」

「ユニヴァァァァァス!!!」

「(コンコン)夜分すまんロラン、この部屋にソシエお嬢ちゃんは来てないか?探しているんだが……」

「「!!!」」



6、甲児の部屋


「う~ん、う~ん。むにゃ。……駄目ださやかさん、鉄甲鬼は駄目だ。角なんてそんなトコに入れちゃ駄目だ……!!」

「うなされてるわね、甲児」

「そのまま死んじゃえばいいと思うわ」




まあざっとこんな感じだ。悲惨な者も中にはいたが、基本的にそれぞれが親密な模様。

というか大人の時間と言って良いこんな時間に男女が部屋に2人きりともなれば、これからなにが起こるかなど簡単にわかるというもの。

自分にだって当てが無いわけではないのでうらやましいという感情はないのだが、艦内には恋人がいない者もまだ多いわけだし、もうちょっと控えてくれと思うのは贅沢だろうか。



『ちょ、撃っちゃ駄目ぇーーー!!!』

『オーケー、望むところよ!!』

『望んでも駄目ぇ!!』


「……ふふっ。やれやれ」


ルナマリアの部屋からは、相変わらず今の時刻には似合わない騒がしい声が続いている。

色気もへったくれもないが、そこには確かに彼らの幸せが感じられた。


「さてと、僕も自分の部屋に戻るかな」


首をこきこきと鳴らし、歩きを再開する。あまり聞き耳を立て続けるというのも良くないし、明日のミーティングも早い。

ビューティやトッポと軽く茶でも飲んでから休むとしよう。


万丈は廊下の曲がり角を曲がる前に、もう一度だけ彼らのいる部屋を振り返り、思った。



まったく。他の人たちも、少しはシンたちを見習って欲しいものだ。








知らぬが仏、とはまさにこの事である。









「次はこっちよ?シン。セツコさんの前に、私で練習♪」


それにしてもこのルナマリア、ノリノリである。練習なんて言葉は本気ではないだろうが、そう下手に出ればセツコが強く出れないのを知っているのだ。

まあセツコもセツコで、今は余裕がないみたいだが。


「シン君、私は後でいいから。彼女に、その……してあげて」

「わかりました。……ごめんね、セツコさん」

「シ~ン、まだぁ?」


急かしてくるルナマリア。シンは次の目標を彼女に定める。

彼女の左右に揺れるヒップを両手でしっかり掴むと、入り口に亀頭を擦り付けた。


「ふあっ!?こ、こらぁっ!!いじわるしないの!!」

「はいはい」

「もう、子供なんだから……まあいいわ。これからトーナメントの決勝戦よ。勝った方がこの部屋の支配者ってことで」

「何だそれ」


こんな受ける体勢になっても自分のペースは崩さない。だが擦るたびにびくりと反応する様や赤らむ顔が可愛かった。

一層力の入る自分の相棒を再び入り口に沿えると、先が少し沈み込む。


「んっ……」


準備良し。あとは真っ直ぐ進むだけ。息を少し乱しながら自分をみつめる彼女が頷く。


「行くよ。ルナ」

「………来て」


息を呑むルナマリア。僅かに腰が離れようとするが、逃がしはしない。

勝気な彼女への仕返し、愛情、感謝。んでもって情欲。湧き上がるいろいろな想いを乗せて、彼女の尻に一気に腰を叩きつけた。


「あぁぁぁっっ!!いきなり、奥までぇ!?」


さっきのお返し。ルナマリアは咎める声をあげたが、腰が動き始めるとすぐに嬌声に変わった。なんだかんだで準備は万端だったらしい。

ちらりと見え隠れする細いウエストや引き締まったヒップ。男にとってこれ以上無いほどの魅力的な肢体がシンの動きに応えるように動いた。


「はぁっ、はっ、んああっ!!」


美しいヒップが跳ねる。涎が唇の端から垂れる。先端が硬くなった胸が大きく揺れる。

いつもは勝気で自分を子供扱いするくせに、今は自分にされるがまま快楽に溺れているルナマリア。そのことに興奮したシンは後ろ向きの彼女と繋がったまま、その両肘を持って立ち上がった。

必然的にシンに体重を預けざるを得ない姿勢になってしまい、ルナマリアが不安そうに振り返る。


「え、なに?なんなの…?」

「少し歩かないか?このまま」

「それって、あ、はぅぅっ!!」


返事をピストンで遮断しながら立ちバックのまま壁まで歩いていくと、シンは支えていた手を離した。思わず彼女は壁に上半身を預ける。

その際に足の位置を変えたことによってシンのペニスの横が擦られ、それに興奮したシンは行為を再開する事にした。


「ほら、このまま部屋を一周。な?」

「ええ!?ちょ、本気で言ってんの……?」


跳ねる腰を止めることなく、部屋の中を横歩きに一歩、また一歩と進む。

時々立ち止まり一段と激しい小刻みな振動をルナマリアに与えると、彼女は悲鳴とも歓喜ともつかない声を上げた。


「うああああ……っ!!ご、強引なんだから…!!」

「ごめんな、ルナ。でも後悔させて欲しいんじゃなかったっけ?」


壁に両手を付きながらの横歩きを続けているうちに、机に辿り着いた。ルナマリアがそれに上半身を預けた瞬間シンの指が乳首を軽く弾き、彼女は一際大きな声をあげる。

顔を上げると目の前には鏡が置いてあり、絡み合う2人の姿を映していた。火照った顔で髪を振り乱しながら、嬌声をあげる自分の姿。


「うわ、うわわわわ。やだ、これ恥ずかしいってばぁ」

「今さらだろ。ほら、2人にも見られてるのに」

「え……?」



「わぁ……シンもルナも、あんなにぶつかってる。……さっきのステラもそうだったのかな?」

「うん。さっきの2人もあんな感じ。今くらい」



シンの言葉に現在の状況を思い出す。ベッドに視線を向けると、寝転がったセツコとステラがこちらに見入っていた。

当たり前だがずっと見られていたらしい。恥ずかしいところも、シンに流され操られたところも、そしてそれに興奮してはしたなく喘ぐところも。


自分の顔が真っ赤になったのが、自分でも分かった。


「……………や、やだぁ!!もうこんなのほんとにやだ!!おねがい、シン。もう」

「でも今の締め付け、凄かったんだけど」


後ろを振り向き懇願するルナマリア。だがこの行為が嫌だというわけではないと思う。

今尚くねくねと自分から動いている腰がそれを証明している。


「ちょ、調子に乗るのもいい加減に………あ、そこいい、そこ好きっ!!」

「!!………わかったよルナ、俺が悪かった。それじゃベッドに戻ろうか。まあ、このまま歩いてだけど」


気持ちいいと感じているとは言え、嫌がることはしたくなかった。だからベッドに戻ろうと思ってた。だが彼女の発言を聞いた瞬間、シンの頭からそんな考えは消えてしまった。

ごめん、と心の中で謝って、シンは彼女が指摘したポイントを亀頭で擦る。


「こ、このベッドヤクザぁ!!戦場ならどこでもプッツンすれば良いってもんじゃないのよ!?」

「………ああ、そういう事言いますか。オーケー、なら優しくしてやらない。歩けないくらい突いてやる!!」

「んんーーっ!!つ、強くしないでよぉ!!………これじゃ歩けない……ベッドに、届かない…っ!!」


再び横歩きを再開する2人。脚を広げて歩幅を大きくしようとするのだが、シンの腰が許してくれそうに無い。


「ハァ、ハァ。も、もうちょっとで……」

「そうは、させない……っ!!」

「あん!!立てない、も、もう立てない、腰抜けちゃう!!抜けちゃうから……っ」


傍から見ると、自分は結構嫌なヤツに見えていることだろう。

でも仕方ないじゃないか。今の彼女はいじめたくなってしまうのだから。つまり俺は悪くない。ルナが可愛いのがいけないんだ。


「ば、ばか!!どさくさにまぎれて何言ってんのよ!!」


やべ。口にしてたのか。いかんいかん。


激しく腰を動かすシンの妨害にも耐え、やっとの思いで彼女はベッドに辿り着いた。

ベッドに手足を着き、四つん這いで繋がったまま尻を左右に振るルナマリア。強く擦られる側面の感触に気を良くしたシンは、それまで以上に奥を突いた。


「ああっ!!そんな、奥突かれちゃ、イキそう……っ!!」

「いいよ、好きなだけ。俺ももう出すから」

「ハッ、ハッ、え!?ちょ、今、出すって」


奥を突かれ仰け反る彼女。その耳の穴を舌で攻めながらそう告げると、焦った声が返ってきた。


「ねえ、膣内はまずいって。ああっ、はっ、わ、私たち相性いいのよ!?ああんっ!!」

「今十分実感してるよ。締め付けて離さないし、もう本当にやばい。ごめんちょっとスパートに入る」

「そ、そっちじゃなくって!!膣内に出したらデキちゃああああっっ!?馬鹿っ、もう知らないっ、からぁ!!」


既に彼女の上半身はベッドに倒れこんでおり、尻だけを高く上げた状態のままシンを受け入れている。

強く握り締められたシーツが彼女の余裕の無さを物語っていた。

それに構わず腰を動かすシン。胸を揉みしだき、耳たぶを甘噛みし、腰を叩きつけ、細い女体に覆いかぶさるその姿。例えは悪いがまるで獣の交尾のようだ。


「クる……!!クるっ!!キちゃうキちゃうキちゃう!!!ああっ、ダメぇ!!」


シーツを掴んだまま、まぶたを強く閉じるルナマリア。当然、締め付けもさらに強くなって――――


「ル、ルナッ!!!」

「だめ!!もうだめ、シン!!だめぇぇぇぇっっっ!!!」



痙攣する彼女の奥にシンの先端がコツンと当たった瞬間、ルナマリアの視界は白く染まり。


シンは自分の欲望を、思う存分吐き出した。








「あ、ああ……なか、いっぱい……ハァ、出てる……。こんなの、すごいよ………」

「ふうっ……ルナ、おつかれさま」

「あっ……」


胸を優しく揉みつつ、腰をルナのヒップに押し付けたままのシン。離れる間際に彼女の頬にキスをして、そっと自分のものを引き抜いた。

そのままベッドの端に座って一息つく。大量に精を吐き出したせいか、自分の体力がごっそりと減っているのを感じる。

ルナとの決勝戦は非常にハードだった。

しばらく痙攣していた彼女だったが、そのうちむくりと体を起こしてシンの隣に座りしなだれかかってきた。タフだなほんと。首すじにかかる息が少しくすぐったい。


「ハア、ハア、シン、凄かった……。こんなに相性良いなら、余所見なんかしないで最初からシンにしてれば良かったなぁ……」

「ルナのも凄かった。俺もさすがに疲れたし」

「ほんと、こっちも元気なくなっちゃってる。けどシンのっておっきいよね」

「いや、まわりの見たらそうでもないと思うけど」


俺のは昔の小ですから。

ちなみに先日、手打ちと評してアークエンジェルの天使湯でCEパイロット大集合を行ったのだが、

その際にシンが確認した限りではキラ>>ネオ>シン>イザーク>>アスラン>>>>>バルトフェルドである。

やっぱりフリーダムはあっちの方もフリーダムだった。やたらと膨張率やテクニックを強調するどっかの虎とは格が違う。これで歌姫をベッドの中でも歌わせて「ラクスはマグロなんだ」すまん。

つかキラさん、虎の負け惜しみがマジでうざいんだけど、いつもどうしてんの?ごめん、俺にはこんなときどういう顔をすればいいかわからないんだ。


「嘲笑えばいいと思うよ」


ひでえ。





「わ、ビクビクしてる。なんかすごいねこれ」

「いや、もういじるなって。それにどうせ、変な形してるとか思ってるんじゃないのか?」


興味深げに覗き込み、シンのをいじるルナマリア。今イったばっかりなので、シンは己の戦士の銃が暴発してしまいそうで少し怖い。

できたらそっとしといてあげて欲しいのだが、彼女の顔が先程までの発情したそれから、いつものからかうような表情に戻っていた。

俺のターンはもう終わりか。勿体無い。


「まあね。なんていうかうーん、キモい?」

「直球だな。普通に傷付くってそれ」

「じゃあ、キモい♪」

「可愛く言っても駄目!!」


ふざけるルナと振り回されるシン。アカデミー時代に戻ったかのようにじゃれ合う2人。

メイリンやレイの件で最近2人揃って笑顔を見せるということがなかったから、なんだか懐かしい。原因はどっちも俺だが。


そういえば俺、ルナとこうやって笑いあう時間、昔から好きだったな。


「ごめんごめん。あんまりこの子が私をいじめてくれたから、仕返ししたくなっちゃって。……お返しに、きれいにしてあげるね、シン。は~む!!」

「うわっ!?」


体を倒し若干力を失くしたシンのペニスをぱくりと咥えると、顔を上下に動かすルナマリア。

いやお掃除なんてビデオとかの見過ぎだって。普通は気持ち悪がってやってくんないって。気持ちは良いから黙ってるけどな。

復活させるというよりは綺麗にするといった感じで舌と口を動かす彼女。「どう?」と言わんばかりに見上げてくる表情が可愛かった。

思わず頭を撫でると、ルナマリアは嬉しそうに目を細める。

しばらく舌を絡みつかせていた彼女だったが、ようやく口を離した。股間と口を繋ぐ一筋の糸がなんとも扇情的だ。


「ん。これで良し。んじゃ次、どんどん行きましょ」

「いや、どんどんって言われてもな。俺結構「シン君」疲れたん」


セツコの声に振り返るシンの動きが止まった。その目に映った光景に魅入られたからだ。


「だけ、ど……」


視線の先にはセツコとステラ。2人が両膝を着いて、こちらにお尻を向けていた。もう下半身には何も履いていない。

その横にルナマリアも並ぶ。いつのまにかピンクのスカートを脱いでいて、先程網膜に焼き付けたばかりの形の良いお尻が露になっていた。


「ステラ、もういっかい、ほしい……」

「シン君、私、まだしてない。今度は私に………お願い」

「もう、私のじゃなきゃ満足できないわよね?シン。こっちのみ~ずはあ~まいぞ~?」



ここは天国かもしれない。



素肌の上にそれぞれ違う制服の上着のみ+四つん這い+横一列=漢のロマン。

並行世界中を探しても絶対に見つからない、奇跡の光景がここにっ。


「くっ……」


だが、身体が言う事を聞かない。知らぬ間に己のアロンダイトが下段に構えている。

ちょっと飛ばしすぎたっていうのか。目の前には宝の山があるってのに………ッッッ!!!

絶望に覆われるシンの精神。思わず目を閉じる。網膜に感じるのは漆黒の闇。まるでシンの今の心境のようだ。




だが、この世界に明けない夜は無い。闇の中から一筋の光がシンを照らす。



――――どうしたんだい?シン。そんな情けない顔をして、君らしくもない。


え……?この声は、まさか。


――――まさか君はそれで終わりと言うんじゃないだろうね?私が認めた、君ともあろう者が。


デュランダル議長。道を別ってしまった筈の貴方が、何故自分の意識の中に……?


――――そんな事はどうでもいい。それよりも、女の子の3人がかりぐらいなんだと言うんだ。

      君の身体には既に『力』が眠っているのだよ?……私が授けた、運命に討ち勝つ力。デスティニーの力が!!!


デスティニーの『力』………?SEEDではなく?一体、そんなものどこに。


――――聞けば良い。今の君になら、応えてくれるはずだ。



その言葉が終わった瞬間眩しい光が広がったかと思うと、シンの周囲に炎が吹き荒れる。目の前には巨大な影。

デスティニー。

シンより二回り大きいくらいに縮んだ愛機が、目の前でひざまずいている。



『―――力が欲しいか?』



精力ならな。てか、なにこの声?議長がアテレコしてんすか?



『力が欲しいのなら――――』



聞けや。



『くれてやる!!!』



議長っぽい声に呼応するかのように、シンの身体に熱が篭る。滾る血潮。躍動する己の筋肉。SEEDとは明らかに違う力の奔流を感じた。


「こ、これは………?」


ありえない。信じられない。まさかこれほどの力が俺の中で眠っていたとは。議長は俺にこんなものを宿らせていたとは。

流石は「テクなら一等かもしんねー」と言われたデュランダル議長。子供できないからと寝取られた恋人を、テクニックのみで寝取り返したというのは伊達ではない。

声も無く女にも逃げられたどっかのグレイトとは格が違う。


――――ようやく目覚めたようだね。それで良い。今の君にならその力、使いこなせる筈だ。


ありがとうございます議長。でも俺、貴方にそんな事をされる資格は無いのに……。


――――君が選んだ道だ。何も言わなくていい。

      それよりも行きなさい。あの小娘たちに、ゴッドフィンガーのパクリはアスカのお家芸だと言う事を思い知らせてやるんだ。




はい。議長。







「む……?」

「ハァ、ハァ、どうしたの?ギルバート」

「今、何かを感じてね。具体的に言えば、勝手に著作権を侵害されたような気がしたんだが……まあいい」


メサイアの自室にてタリアを抱いていたデュランダル。何かを感じたのかあらぬ方向を見上げていたが、考えても無駄だと悟り行為を再開する。

だが身体の下の彼女はもう、息も絶え絶えだった。


「ま、まだするの?私はもう10回以上……それに、貴方には聞きたいことがあって来たのに」

「それはこの勝負が終わってからだよ、タリア。君が私に勝つ事ができれば、私は君に全てを話そう。勝てればだがね。

 降伏か、失神か。本来ならこの技は相手に猶予を与える慈悲に溢れた技だが、今回は勝負。容赦はしない」

「人の身体をここまで弄んでおいて、何処に慈悲あぁぁぁっっ!!!そもそもそんな技、貴方いつ」

「プラント議長としてのたしなみだよ。ちなみにこの技、私以外に使い手はいない」


多分、2代目はレイだろう。なんとなく。


「さあ、止めのアンタレスだ」


「あ、ああァァァァーーーーッッッ!!!こ、こんなのってあるのぉ!?愛のアマリリス!!恋のアマリリス!!」




なんでゴルゴ。










某聖剣の継承と某武器達の契約を足して2で割ったようなイベントが終了し、シンは己の目を開けた。目の前には自分を待つ3人の美女。時間はほとんど経っていない模様。

遠くで誰かのツッコミが入ったような気がするが知ったことではない。自分があの人を信じていたのは間違いではなかった。それだけで十分だ。

SEED覚醒。気力は数値にして200。全パラメータ回復。

パーティーの準備は整った。

運命のパワーに、SEEDの集中力。そして彼女たちへの愛情。3つが揃った今の自分は、阿修羅をも凌駕する存在だ。


(シン・アスカ。デスティニー、行きます!!)


3人に襲い掛かると、少女たちは嬉しそうな声をあげる。

真ん中のセツコを彼女が待ち望んでいたアロンダイトで貫き、両側の2人にはパルマフィオキーナで攻撃を加えるシン。

迷いを無くした彼を、果たして誰が止めることができるだろう。


「ああっ!!シン君の、固い……っ!!ずんずん来る……!!」

「はぁ、あ、んっ!!シン、凄いよぉ!!ステラ、どうにかなっちゃう!!」

「きゃあ!!ちょ、シン、そっちは違、弄っちゃダメだってぇ!!!なんで私ばっかり……もう、ばかぁ!!」



ふん………何がセツルナステラだ……とシンに戦いを挑んできた3人を見下す運命。だがシンはそんなことは思わない。

別に全部が全部、彼女たちに流されてこうなったわけでもないのだから。

そう、今こうなっているのは彼女たちの意思だけじゃない。俺が3人を欲しいから抱いてるんだ。

彼女たちが俺を望むのなら、喜んで相手になってやる。それが――――



「「「きゃああああああっっっ!!!!!!!!!」」」



――――それが俺の戦いだ!!









シンの再攻撃が百八式まであることを信じて……!!ご愛読ありがとうございました!!!











………もうちょっとだけ続くんじゃよ。













[6402] VSセツコ編
Name: ドダイ改◆33b9b899 ID:80d4a734
Date: 2009/03/04 01:30





どんな過酷な戦いの中にも、休息は必要だ。






壁に背を預けたシンは、自分の目の前に流れる艶やかな長髪を軽く持ち上げた。

少しずつ手から離れたそれは重力に従い、さらさらと音を立てて落ちていく。


「やっぱり綺麗だな。前から触ってみたかったんだ、セツコさんの髪」

「そうなの?だったら好きなだけ触っていいよ。でもこの姿勢、少し恥ずかしいな」


腕の中には自分に背中を預け、生まれたままの姿で抱きしめられているセツコ。シンに遊ばれている自分の髪をぼんやりとみつめている。


「俺に抱きしめられるの、嫌?」

「そんなことないけど。ただ、この姿勢甘えてるみたいでね。私の方が年上なのになぁって」

「いつも頑張って立ってるんだから、今くらい体預けてくださいよ。この時だけは年上とかそんなの気にしないって事で」

「………そうだね。うん、気にしない」


シンの胸に身体を預けたまま、セツコはお腹に触れたシンの左手の上に手を添える。彼女と密着する部分が増えて、2人の体温がさらに上がったような気がした。

目を閉じて彼女の首元に顔を寄せると、女の子特有の良い匂いがした。ひどく落ち着く。


「けど、シン君」

「ん?」


目を閉じたままのシンに彼女は問いかける。気にしているのは目の前の光景。



「あっ、はぁっ、あああ……。ルナ、ちょっと待って……」

「ふふっ。顔真っ赤にしちゃって、ステラ可愛い………。ここか?ここが良いのんか~!?」



「あれ、気にしなくていいの?」

「あえて見ない振りをしているとは思わないんですか」



仕方がないので彼女が見ている方へ目を向けると、ちょうど肉食獣が獲物に止めを刺してるとこだった。……いや、正確には乳首をはむはむしてるだけなんだけどな。

昨日は我が身だったせいか、助けてあげた方がいいんじゃという目でセツコが見上げてきた。だがシンはそれに応えることができない。

情けない話だが、今あれに巻き込まれたら涸れ果てちまう。



だって仕方ないじゃないか。



追い込みすぎて底力が発動してしまったルナマリアに対し、自分はENもSPも尽きてしまった。

おまけに前回目覚めた議長ボイスの運命は途中で「さらばだ、わが友よ」とか言って帰っちゃったし。

この役立たずが。口だけか。そーか。


そういうわけで、今のシンの心境は「俺は今、究極のパワーを手に入れたのだ~!!!」 → 「とてもじゃないが助けてやれそうもない」なナメックの人と同じなのだ。


「ねえ、早くこっちに来なさいよシン。さっきまでのリベンジしてやるんだから。さもないとステラがもっと凄い目にあうわよ?」」

「そんなにムキになるなよ。ステラだって疲れてるんだから、少し休もう」


どうやら先程の決勝戦でのシンの責めを根に持ってる模様。自分で降参って言わせて欲しいなんて言ってたくせに。

なんだろうね、負けた事なんて無いのに『彼女には勝てない』って思ってしまうこの空気は。


「何言ってんの。ザフトレッドのこの私が、ベッドの中じゃ緑服なんて認められないんだから」

「いや緑で良いって。俺だってグリーンボーイ、6回戦レベルだって」

「何言ってんの、シンならきっと世界狙えるわよ。だからあと6回はいけるはず」

「ちょっと待てや。どっからきた数字だよそれ」

「知らない?世界戦って12ラウンドまでなんだけど」


ボクシング関係ねえ。そんなにやったら涸れてしまうわ、確実に。

てかそろそろその攻める手を止めてあげて。


「ね~?ステラもシンに来て欲しいわよね~?ほら、ここをこんなにして」

「シ、シン。つらいなら、あ、無理しなくていいよ。ステラならんんっ、大丈夫だから。ステラがシンを守るから……はぁ、はぁ」


あ~、ステラさん。その言葉は嬉しいけど、そんな大げさな話でもないと思うんだ。



「もう、この娘ったらポイント稼ごうとかっこつけちゃって。だったらお望み通りにしてやるんだから。ほぉらステラ、えい!!そんなにシンが好きかーーっ!!!」


「ああん!!このルナマリア凄いよぉ!!さすがメイリンのお姉さーん!!!」



ステラがピンチだ。性的な意味だけじゃなくヒロイン的な意味でも。それにルナマリアがそっちの趣味に目が覚めてしまうのもなんだし、戦場へ乱入しようか。

乱入とは言っても、フリーダムみたいに手加減なんかするつもりは勿論ない。全力で沈めに行くのだ。

裏を返せば、返り討ちにあう可能性も十分あるということだが。


「あ、シン君」

「?」

「あっちが終わったら、私ももう1回お願い。……今度も、強めで」

「………」



身体、もつのかなぁ?









結論から言うと、お尻を並べた3人へ勢い込んで突撃したまでは良かったものの、やはり3人同時は楽なものではなかった。

いくらデスティニーとはいえバルゴラ・インパルス・ガイアの3機相手では厳しいといったところか。


最初はまだ余裕があった。

体の一部分にトライチャージを受け、その反撃に思わず高エネルギー長射程ビーム砲をそれぞれの顔に命中させてしまったり、

調子に乗って仲間にも攻撃を始めたルナマリアへ、セツコやステラと3人でガンホーガンホーガンホーしたり、

両手のパルマフィオキーナとアロンダイトをそれぞれに割り振り、フル・ウェポン・コンビネーションをALL攻撃にしてみたり、

抱き合ったステラとルナマリアの間にアロンダイトを突き刺し、「まだいける!!」とばかりに再攻撃を繰り返したりした。


だが連戦に次ぐ連戦に、ついにデスティニーにもエネルギー切れのピンチがやってくることとなる。

勝機とばかりに襲い掛かる3機。特にやばかったのはやはりインパルスの彼女。

戦術換装(赤服・ミニスカ+ニーソ・全裸)したらすぐEN回復してくるというのは反則すぎる。なんでだ。ミネルバ離脱してんのにさ。

見かねたステラが援護防御してくれなければ、おそらく自分が撃墜されていただろう。彼女が自分を守ると言ってくれたのは嘘ではなかったのだ。

尤もその後、感謝の証としてアロンダイトをプレゼントしなければならなくなったが。最大の難関であるルナマリアを撃墜できたのだから、その甲斐はあったというものだろう。

それにしても運も味方していたとは言え、自分でもよくここまで戦えたと思う。


いや、過去形で語るのはまだ早い。まだ戦いは終わっていないのだから。

ステラは途中で疲れて寝入り、ルナマリアは先程失神してから起きる気配は無い。もはや残っているのは僅かに1人。

だが自分は今、その彼女に――――


「ごめん…ごめんねシン君。腰が……腰、止まんない…っ!」

「いや、いいですけどっ…つうっ!」


一方的に攻め込まれていたのだった。






「はっ、ふぁっ、いい。シン君…っ、シン君すごいっ……!!」


貪られている。シン・アスカの全てを貪られている。

自分の胸に両手をつき、その身体の上で大きく腰を弾ませるセツコを見上げながら、シンはそう思った。


「セツコさん……これまでに何回イッた?」

「んっ、3回目から次は、はぁっ、数えてないっ……!!」


気を逸らす為に問いかけてみると、なんとも正直な答えが返ってきた。シンの記憶でも、大小合わせて結構な回数彼女は達した筈だ。それなのに続くこの貪欲さ。

まずい、体力が残り少ないなんていってる場合じゃない。攻めないと。強烈な一発でKOしないとこちらがもたない。

覚悟を完了して繋がったまま身体を起こすと、今度は逆にセツコに覆いかぶさった。

耳を攻めながらの正常位。だがそれでも下になった彼女の腰が止まる事は無く。


「シン君、シンくん……」


指と指が絡み合う。そう言えば、ここまでの彼女は体を重ねるたび、必ず身体のどこかを絡み付けてきた。まるでシンを離さないかのように。

怖いのだろうか。こうやってお互いを貪っている時でも、失うことを恐れているのだろうか。


「大丈夫ですよ。大丈夫」

「ふあぁ……しん、くん……」


意識が遠くなってきているのが不安なのか、ひたすら小さい声でシンの名前を呟き続けるセツコ。

彼女はずるい。その声は反則だ。

ピンチな現状は分かっていたが、こんな自分を求めてくれる彼女を愛しく思う。

自分を呼ぶその声がもっと聞きたくて思わず身体を密着させると、当たり前のように彼女の腕が背中に回る。

その時、吐息に混じって耳元で何か聞こえた。ような、気がした。





――――す、き





眩暈がした。





それはもしかしたら空耳だったのかもしれない。身体を重ねているからといって、自分は調子に乗っただけなのかもしれない。

でも、それでもよかった。

今までほのかに抱いてた気持ち。この数時間で強まったシンの気持ち。それを吐き出すのに十分なきっかけだった。


「………?」


動かなくなった腰に気付き、彼女は目を開けてシンを見る。蕩けきった瞳が続きを促していた。


「シン、くん。どうしたの?」


自分が何かしたのかと思い込んだのかもしれない。不安そうな顔をする彼女。

シンが顔を近づけると、やっと表情が緩んだ。そして彼女もシンに応える為に顔を近づける。

絡み合う視線と吐息。ついばむように唇が軽く触れる。今日だけでもう何回目なのか分からないキスをして、シンは言った。


「セツコさん、俺さ。………貴方が、好きです。」

「………へ?」


ポカンとした表情を浮かべ、シンを見つめるセツコ。まだ脳が理解していないのだろうか。シンは構わず言葉を続ける。




「だから大丈夫。何処にも行ったりしない。………俺、此処にいますから。貴方の傍にいますから」

「え……?あ………――――ッッッ!!!」





変化は劇的だった。



シンを包み込んでいた柔肉が波打った。見開かれた目からは雫がこぼれた。すらりとした手足がシンの身体に巻きつき、額はシンの胸に押し付けられた。


細い肩が震えていた。


逃げられない。まるで蜘蛛か食虫植物にでも捕まったかのよう。体重をかけないよう姿勢を保つのが精一杯。

しばらく彼女は身体中をびくつかせていたが、そのうち抱きついたまま動かなくなった。自分が動くべきか、このままにしておくか。シンにはこの後どうすればいいかわからない。

一つだけ分かるのは、彼女から離れるという考えが自分の中に全く無いということだけ。


「………」


彼女の頭を優しく撫でながら、シンはしばらく待ち続ける。劣情は今尚身体に残っているが、大して気になるほどのものでもなかった。

ただひたすら、彼女の事を考え続けた。どうやら時間はたっぷりありそうだったから。


変なヤツにひどい目に遭わされて。

好きな人への想いを利用されて。

身体の機能を失ってきて。

仲間を、誇りを汚されて。

信じた者達に裏切られて。



ずっと、1人で。



今の彼女は悟りでも開いたかのように落ち着いている。だが同時に、自分の幸せを諦めているようにも見えた。

自分がいなくても、周りの人は幸せになれる筈だ、と。

だから伝えてやりたかった。そんな事は無いと。皆の、いや自分の幸せの中には、彼女の笑顔も入っているという事を。


隣には裸のルナやステラが寝たままだ。そして2人への想いも嘘じゃない。こんな自分にはその言葉を吐く資格はないということは分かってる。

それでも言わずにはいられなかった。

嘘や同情じゃない。勿論浅はかなハーレム願望でもない。ただ、そう伝えたかっただけだ。


胸の中の彼女は、まだ肩を震わせている。

この想いが届かなくてもいい。ただ、彼女を好きになる男もいるということを分かってくれればいい。自分の幸せの為に生きてくれたらいい。



震える彼女を抱きしめたまま、そうシンは思った。







「ごめんね、シン君。待たせちゃって……。あんな事言うからびっくりしちゃった」


彼女が顔を上げたのは、しばらくたってからだった。

どれだけ自分が待ったのかはわからないが、彼女が謝る必要なんてない。

悪いのは、いつだって自分だ。


「すいません、こんな状況で言う台詞じゃないのはわかってます。でも、俺―――」

「ストップ。その話、今はやめておきましょう。今の私たち、お互いに抱えてるものが多すぎるから」

「セツコさん……」

「お願い、シン君」

「……」


抱えているもの。それはグローリー・スターの事か。彼女のその言葉にシンは少しだけ落ち込んだ。

考えてみれば当たり前だ。死者の想いを裏切ることはできない。

自分たちは出会ってたかだか数ヶ月。しかも隣に他の女の子が寝ている男の言葉などで、彼らとの思い出を振り払えるわけがないのだ。

そんなシンの顔を見て、彼女はシンの頬を撫でてきた。その瞳は優しい。


「ふふっ、なんかおかしいね。私たちこんな格好で繋がったままなのに、なんで暗い顔してるのかな。――――ねえシン君。続き、しようか」

「別に無理しなくてもいいですよ?こうしているだけでも俺、十分幸せですし。……ていうか、そろそろ抜いた方が良いような」

「抜きたいの?でも、ココはそう言ってないけど?」


セツコが腰を僅かに動かし、シンを包んでいた柔肉の締め付けが再び強くなる。

不意を突かれたシンは思わず出してしまうところだった。


「うわっ、セツコさん、それ無し……」

「ふふっ」


笑顔を浮かべるセツコ。その顔に先ほどまでの影は無い。いや、もう余計なことは考えるな。考えるのは今の彼女のことだけでいい。

自分たちに今できるのは、その手に残った大切なものを貪るだけ。今はそれ以外の思考はいらない。


「実は、さっきから身体が火照っちゃってて。続きが欲しいの……お願い、シン君」

「……わかりました。んじゃ」

「あ、ちょっと待って。んー」


唇を突き出しキスをねだる彼女。さっきまでとの表情の落差に思わず笑みが零れる。ルナマリアといい彼女といい、さっきから振り回されてばっかだな俺は。


「あの、いきなり子供っぽくなってません?」

「知らない」

「拗ねないでくださいよ。今のセツコさん、すごいかわいい」

「………ばか」


頬を膨らませた彼女と、鼻をくっつけて微笑みあう。

そのまま彼女にご要望通りの長いキスをしてから、シンは再び腰を動かし始めた。


「ああっ、はっ、んんっ!!……シン君、わたしあんまり、余裕、ないかもっっ!!」

「ごめん、俺も……」


激しくなる息遣い。それに比例するように2人の腰が激しく動いていき、


「出る……っ!!!」

「あ、あああああああーーーっ!!!」



2人が同時に達するのに、大した時間はかからなかった。









「そろそろ、寝た方が良いんだろうな…多分」

「そうだね…」


寝転がったままお互い向き合い見つめあう2人。既に身体は離れているが、手だけは握り合ったままだ。

現在時刻は深夜の3時。明日も早い。隣の2人はとっくに爆睡モードに入っている。

起きる時間を考えれば自分たちもそろそろ寝た方がいいのはわかっているが、シンもセツコもそれができなかった。


いや、したくなかったというべきか。


「ねえシン君。元気、出た?」

「出た。ってか出すぎてもう身体に残ってないです」

「もう……」


疲れたように冗談を口にするシン。セツコは思わず苦笑する。


「それにしても、まさかこんな状況になるなんて思っても見なかった」

「…………後悔してる、とかないよね?」

「当たり前ですよ。ただ、俺たち本当に違う世界の人間だったのかなって思っちゃって。こんなに近くにいるのに」

「そう言えば、そうね。出会うはずの無い人たちがこうして出会って、こうして触れ合って。なんだか不思議」


そう、本来なら自分たちは出会うことは無かったのだ。セツコだけじゃない、カミーユやロランやZEUTHの仲間とも。

もしも彼らに出会えなければどうだったろう?

ステラは助けられず、アスランとは揉めたままで。議長の示す道を疑いも無く進むだけになってたのではないだろうか。


だとしたら、俺は。


「俺、多分皆と…セツコさんと出会わなかったら、きっとひどい事になってたと思う。だから、なんて言うかその………貴方と出会えて良かった」

「私も。ブレイク・ザ・ワールドから今まで、いろいろ辛いこともあったけど。でも皆や……シン君と出会えて良かった」

「うん……」


優しく穏やかな目で微笑みあう2人。キスをしようと顔を近づけかけたシンの足に何かが触れる。

視線を向けると、彼女の両足がシンの右足を挟んでいた。



えーと。このサイン、もしかして?



「セツコさん……?」

「あ……あの、その。……シン君さえ良ければだけど。もう1回、良い?」

「も、もう1回ですか?」

「ダメかな……?」


潤んだ瞳でシンをみつめるセツコ。そんな目でおねだりされて応えないのは男ではない。

でもまあ残弾とか充填率的な問題もあるし、とりあえず下半身に聞いてみた。


シン(いけるかシン太郎?)

シン太郎(やれやれだぜ)


よく言った。ならもう1ラウンド頼む。


「いけます」

「………うう…露骨すぎ」


彼女は頬を染めて恥ずかしそうにうつむく。下ネタは駄目なのかこの人。

身体中キスされて大事なところもほとんど自分に見せたというのに、それでもまだダメらしい。

まあそういう表情も可愛いからいいけど。


それじゃとばかりに身体を起こすと、すぐに彼女が抱きついてきた。細い腰に腕を回し彼女を受け止める。

希望はどうやらこのまま対面座位。お互いの体が密着でき、なおかつ自分もある程度自由に動けるこの体位が彼女のお気に入りの模様。

彼女の胸の谷間に流れた汗を舐めると、さらに胸を押し付けてくる。

退く理由は無い。先端を強めに噛みながら下半身同士を擦らせると、セツコは大きな声をあげながら身体を震わせる。

どうやらスイッチが入ったようだった。淫靡な顔は普段の彼女からは想像もできない。

だけど彼女のそんな一面を見ても、胸の中の感情だけは消えることは無かった。


「全部決着が着いたら、もう一回言ってみようかな……」

「…………何か言った?」

「別に何も。俺の準備はいいですよ。腰、降ろして」

「うん………んはっ、はっ、はいった、よ……」


両手両足を絡ませてシンに体重を預ける。ゆっくりとシンのものが呑み込まれていき、そして止まる。

息を整えながらそのまま動かない彼女。少ししてからシンの顔を見つめて、ようやく動く許可を出した。


「ふー……。もういいよ、シン君。動いて」

「うん。それじゃ行くよ、セツコ」

「ふぇっ!?あ、あああっ!!」


遠慮なく腰を跳ね上げるシン。リズムに合わせて跳ね上がる、彼女の長髪と胸が激しさを物語る。

だが彼女が気にしているのはその強さではないようだった。


「シン君、ちょ、駄目、呼び捨て禁止ーーーっっ!!」

「いいでしょ、今くらい?俺の事も呼び捨てにしていいですから」

「で、でも」

「ほら。シンって言ってみてくださいよ。年上なんだから別に変じゃないでしょ?」


セツコの弾む腰を抱きしめて動けなくしてから、シンは彼女を見つめる。

刺激が止まってしまった事に焦れて自分で腰を動かそうと頑張っていたセツコだったが、シンの目を見ると恥ずかしそうに呟いた。


「…………シン?」

「うん、そう」


キスができそうなほど近づく2人の顔。嫌がっていたわりにはなんだか嬉しそうだ。


「………シン」

「なに?セツコ」

「シン」

「慣れた?」


楽しそうに聞いてくるシン。セツコは頬を染め、照れたように顔を背けて答えた。


「………ねえ、やっぱりシン君の方が」

「はい、『君』付けたからお仕置きですね。激しいのいきますよ」

「え?そんなの聞いてな、あ、あ、あああああっっっ!!!」




結局、起床時間近くになるまでそのじゃれ合いは続いた。










「まったく、あの子たちったら。こんな時間になっても部屋から出てこないなんて。もうミーティング終わっちゃったわよ」

「まあまあ。ここのところ大変だったんだ。注意するのは大事だけど、少しは大目に見てやらないと」


宇宙なので実感は湧きにくいが、現在の時刻は朝の8時。破嵐万丈は仲間たちを連れて艦内を歩いていた。

向かう先は居住区。ミーティングをサボった3人の女の子の様子を見る為に、女性陣リーダー格のエマと共に部屋へ向かっている最中だ。

ちなみにその他の者たちは、ただ単に暇だったので付いてきただけである。


「それにしてもルナやステラはともかく、あの真面目なセツコまで来ないなんて珍しいわね」

「どうせ3人で愛しの彼の相談でもして夜更かししたんじゃない?パジャマパーティーとか」


パジャマパーティーか。なんだかドキドキする言葉だ。いや深い意味はないんだが。

それよりも今朝のミーティング欠席者はその3人だけじゃない筈だ。確か昨日―――


「そういえば、シンも夜に出たきり部屋に戻ってないみたいだね」

「あれ?シンはミーティング出てなかったっけ?後ろで騒いでたじゃん」

「それはエイジだろう。あ~じゃあシンが来てなかったのか。文句言いに行かないとな」

「シン兄ちゃんまだ寝てるんじゃねえの?一応軍人なんだから、起きてたら来ると思うんだけど」


確かに。いつものシンは時間にはきっちりしていた筈だ。大方昨日3人と騒いで寝るのが遅くなったんだろう。後で寄っておく必要があるな。


「フフ、こんなこともあろうかと。キラケンさんと寝起きドッキリの準備をしてきたんだ。それくらいの罰ゲームは良いと思ってね」


彼らの後ろに『ドッキリ』と書かれたプレートを持つキラケンと大きなしゃもじを持ったキラが続く。……キラ、それ違うから。


「あら、シンも起きてないの?じゃあ昨日の勝負はついたってことなのかしら。1人は彼とラブラブ朝チュン、残りは自棄酒二日酔い、みたいな」

「不幸だわ」

「まあそれは無いと思うけどね。それにもしそんな展開だったとしても、幸せも不幸せも人それぞれだよ。

 彼女たちはまだ若いんだし、失恋なんて時が経てば大事な思い出の一つに変わるさ」


女性陣の会話に苦笑しているうちに、ルナマリアの部屋に着いた。女性の部屋なので少し距離をとると、代わりに前に出たエマが部屋の入り口にあるインターホンで呼びかける。

だがインターホンから聞こえてきた声は、部屋の主のものとは違う声だった。


『はい』


幼い声。この声はステラだ。ということはおそらく、彼女はあの後この部屋に泊まったということなのだろう。

暗い様子はなさそうだが、上手くシンを元気付けることができたのか。ちょっと声だけでは分かりそうもないな。


「ステラ?やっぱり貴方もいたのね。ルナマリアを呼んでもらえる?それかセツコ。一緒にいるんでしょ?」

『ルナとセツコ?いるよ。それからシンも。―――ちょっと起こしてくるね』



なんですと?



思わず顔を見合わせる。今彼女は何て言った?

扉の横のスピーカーからは、依然として室内の声が聞こえている。


『みんな、起きて。朝だよ』

『んん、腰痛いな……おはよ、セツコさん』

『ふぁ、ねむ……え、シン君?なんで………あ、そっか。うん、おはよ』

『……おはよぉ……』


会話から想像するに、彼らはすごい近くで寝ていた様子。なら答えは1つしかない。

いやいや焦るな落ち着け自分。その結論は早すぎる。酒でも飲んで皆ダウンしただけかもしれないじゃないか。


『ルナ、セツコ。ねえ』

『ふぁ、ねむ……。ねぇシン、おはようのキスはぁ?』

『キス?ったく……ん。これで良いか?』

『ふふっ。だーめ。あと3回』

『……ん、ちゅ、んん。んじゃ、これで』

『あと5回だけ』

『増えてるぞ、おい』

『調子乗り過ぎた、かな?……ごめ、んーーっっ!?んんーーっっ♪』


あ、コレはアウトだ。女性陣からハイパー化しそうなくらいやばいオーラが出てる。

誰も動かない。キラですら動けない。動ける人間がいたら教えてくれ。


『やっぱり眠いな……あと5分だけ……いやいや、もう起きなきゃ。でもまぶたが重い……』

『セツコ聞いて……だめ?……ねえルナ、今外に』

『あ~あ、もう身体がベタベタ。みんな、シャワー浴びよ?ほらセツコさんももう目を覚まさないと』

『………ごめん、俺今ちょっと立てない』

『ちょっと大丈夫シン?もう、昨日の元気はどこにいったのよ?』

『原因は間違いなくルナじゃないか……』

『何情けないこと言ってんのよ。今夜もするんだから、それまでには回復させとく事。いい?』

『シャワー……ええ?今夜も?私もちょっと身体が』

『自由参加ですから、セツコさんは自分の部屋で休んでても良いですけど?こっちは私とステラがいますし、人数が足りないって事はないですから』

『………参加、します』




有罪確定。判決、死刑。とりあえずそんな結論が出たらしい。

幽鬼の様にゆらりと動き出す女性たち。


「………」

「………」

「……………行くわよ」


エマの声と共に、部屋の扉に向かって数人が舞う。跳び蹴り。

哀れな部屋の戸は、大きな音を立てて吹っ飛んだ。

女部屋なので中に入れない男たちを気にも留めず、彼女たちは部屋になだれ込む。出入りじゃ出入り。いてもうたれ。


「よく見たら身体中キスマークだらけだぁ……。シン君にマーキングされちゃったってきゃああああ!!!」

「うわ、びっくりした」

「ああ、ドアが!!ちょ、みんな、人の部屋に何してるのよ!?」


部屋の中には4人の男女。皆シーツで素肌を隠しているが、全裸なのはすぐ分かった。

露出した素肌には所々赤い斑点がついており、おまけに室内には特有の匂いが充満している。




「「「「この、女の敵がぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」」」」










体を動かせずに部屋の外で立ち尽くす男性陣。中からは肉を叩く音と、おぞましい悲鳴が聞こえてくる。あれでは生きては帰れまい。

無茶しやがって。


「シン兄ちゃん、生きて帰れるのかなぁ……」

「やっぱり浮気はよくないんだな。よし、今からサラに一生君だけを愛し続けると誓いに行こう」

「駄目だなぁ、シン。お前守るんじゃなかったのか。この世界の平和を………」


勝平君怖いのはわかるが落ち着け。ゲイナーやめとけ。マリンは早く正気に戻るんだ。

そして一刻も早くここから脱出しよう。

シンの小隊の再編成は僕がブライト艦長に言っておくから、君たちは今の光景を忘れるように。戦闘に引きずってはいけないからね。

このまま戦場に出たら小隊長効果に「女性への攻撃力-20% 女性からのダメージ+20%」とかになりかねん。マジで。


「あ~!!逃げた!!」

「追え!!!」


怒声と共に部屋から飛び出て来たのは、ズボンだけ履いて上半身裸のシン。体の所々に赤い斑点が付いている。やっぱりかこの野郎。

そのまま自分たちに目も向けず、焦った表情で走り去る。

続いて出てきたのは女性陣。まるでオーバーデビルの大群のように、絶対的な死のプレッシャーを放ちながらシンを追いかけて行った。

どうやらシンはエンドポイントの選択肢を間違えて、1人で黒歴史エンドへ行ってしまったらしい。

万丈は心の中でシンの葬式の時に読む弔辞を考えながら、勝平の手を取り歩き出した。残りの男たちにも付いて来いと促す。

生あるものは死者のぶんまで、自分のすべきことをしなければならないのだ。だから、シンの事を振り返るのはもうちょっと後で良いだろう。



えーと故人は3度の飯よりも女の子が好きで………ってなに?僕にあれを止めろって?…僕は………いやだ。



あの死亡フラグにダイターンクラッシュを決めるのは容易ではないし、僕だってなんでもできるわけじゃないんだ。それが幸せかどうかは別にしてね。








メサイアの前方でZEUTHを待ち構えるレジェンド。本来なら後詰として出てくる予定だったが、自ら志願して先陣を切ることになった。

ZEUTHは精鋭だ。数は此方が多いとはいえ、一般兵士たちが薙ぎ倒される可能性が高い。

それは全軍の士気にかかわる事だ。ならば誰かが先頭に立ち、彼らの勢いを止めなければならなかった。


「俺1人で彼らを止める、か。なかなか厳しいな」


せめてここに親友が、背中を預けられる自分の相棒がいれば、まだ気が楽だったと思う。

いや、そんな仮定の話はやめよう。彼はもう敵だ。敵なのだ。

まだ距離はあるが、ZEUTHの戦艦から数機ほど出撃してきた。先頭はデスティニー。

誰が乗っているかは言うまでも無い。シンが此方に向かって来ている。ザフトを止めるのは俺だ―――そんな考えをもっているのかもしれない。


アイツらしいな。


「やはり来たか。シン、俺はお前を…………なんだ?」


覚悟を完了して迎え討とうとしたレイだったが、何かおかしい。数機で突っ込んできたというよりは、シンが後続の機体から逃げているようにも見える。実際攻撃されてるし。

ビームやミサイルを回避するその光景は、立場は逆だが2人でアスランを追いかけたときに似ていた。

デスティニーを追いかけているのはZとマジンガー。ゆっくりと後方にオーガス。いや、今ジャスティスと百式も加わった。


『ちっ、照準が定まらんか……』

『シン、なんてうらやま…じゃなかった、今のお前は修正してやる!!』

『年貢の納め時だぜ、シン!!』

『いやちょっと待ってくれ、この面子に襲われるのは納得いかないんだけど』

『シン、お前が欲しかったのは本当にそんな力か!?』

『アンタは黙ってろアスラン!!フルウェポンコンビネーション決めるぞ!?魂と再攻撃付きで』


説得に定評の無いアスランはいつもの事だが、これは何だ。また仲間割れというわけでは無いようだが。

通信画面の中のデュランダルやタリアも困惑している。

わけがわからないので、とりあえず追いかけずに眺めているオーガスに事情を聞いてみた。


「すまない、状況が読めないのだが……何があったんだ?」

『あ、レイか?ひさしぶりだな。これは……まあ、あれだ。シンがウチのアイドル達に手を出したんだってさ』

「アイドル?」

『セツコとルナマリアとステラ。3人まとめて』


…………なるほど、やっちゃったのか。しかも3人まとめて。それは誰かに刺されても仕方が無いのかもしれない。

だが追っ手の人選が間違っているだろう。あの4人は無いって。ほとんどがトライアングラーじゃないか。

奴らに女性関係について偉そうに語られるのも気分が悪いし、ここは助けてやってシンの居場所はザフトしかないと思わせようか。

それが良い、そのためにはギルの許可を。そう思いながら振り返ると、背後のメサイアに光が集まっていた。


『ネオジェネシス発射用意。目標、デスティニー。――――運命に打ち勝て!!』

「ちょ、ギルやめて」


それ最後にかっこつける為に残しておいたやつじゃないですか。しかも台詞もタイミング違うし。


『気にするな。私は気にしない』



いや、人の台詞取らないでください。






「やれやれ……」


経緯を聞いたアムロだが、怒る気にはなれなかった。そりゃ女性陣のキレっぷりを見れば冷静になりもする。


ちなみに経緯を聞いたブライトは


「ま、まあ良いんじゃないか?浮気とか不倫とか、そういうのは当人の問題だろう。外野がとやかく言うことじゃない、ウン」


だそうだ。何で続編があった時の予防線貼ってるんだ。劇場版準拠なんだから心配しなくても良いと思うぞ。俺はどうだかわからんがな。

それはともかくシンの捕獲(討伐)部隊も勝手に行ったことだし、自分にはすることがない。ぼんやりと自分の恋人を含めた喧騒を見ているだけである。


「ちょっとルナマリア、大丈夫なの!?」

「だ、大丈夫って何のことですか……?」

「気付いてない!?いや、あのケダモノによほど凄い、じゃなくてひどい目にあったのね!!」

「………好きだって言われちゃった。ああいう事の最中の言葉だけど、あの時のシン君、凄い真剣な顔だったなぁ…」

「ねぇ、プリンが2つ置いてあるけど、ステラが貰っていいのかな?」


あの兄弟意外と義理堅いな。遠慮いらないから食べなさい。


「ケダモノって……シン、そんな悪いやつじゃないですよ」

「完璧に飼いならされてる……だめよ、貴方たちは若いんだから。まだやり直しはきくわ!!」

「『何処にも行かない』とか『貴方の傍にいる』って、もしかしなくてもそうなのかな。………やだ、そんなの私困っちゃう。でも女性が年上の方が上手くいくって聞いたことあるし』


もう無法地帯だここは。戦いを前にしてるのに落ち着きが無い。大丈夫かこんなので。

映像ではジャスティスがアロンダイトで串刺しにされたところ。アスランの安否が気になるが大したことではないか。

この戦いにはロジャーが出撃するし、迅速要員が減っても今回の作戦には支障はあるまい。

女性陣は画面の映像を気にもせず、ヒートアップは激しくなっていくばかり。

こうなったら月光蝶で殺そういやいやここは無限拳で月へ御大将とタイマンとか亜空間に放り込むってのもトリプルマジンガーブレードでNICE BOATはアイキャンフライでよくね?


……もうZEUTHって、とても正義の味方には見えんなぁ。


「ま、まあ、悪いことばかりでもないのかもしれないな」


無理矢理思考を切り替える。とりあえずそれは嘘ではないことも事実だった。現にシンには元気が戻っているし、ルナマリアとステラの仲も悪くなっていない。

今までは達観したような雰囲気を出していたセツコも表情が豊かになった。顔にしまりはないが。

全部良い方向に進んでいるし(たまたまだが)、風紀の乱れについて厳しく注意すれば、まあいいだろうか。

いや、それすら必要ないかもしれない。


「彼女たちの心のケアを最優先にすべきだと思います!!あの男にはサテライトキャノンで派手に散って貰いましょう!!」

「ついでに近くのシャアにも撃ち込んでおけ」

「そうね。とりあえずあのケダモノは男連中に殺って貰って宇宙葬にでもして――――」


罰が必要なくなるくらい、凄い目にあいそうだし。


そろそろ男連中を止めに行くついでにアスランを回収しに行くかとMSデッキに向かう。部屋を出る際にもう一度だけ振り返った。


「それはダメですって!!ちょ、セツコさんもニヤニヤしてないでこっちを何とかしてくださいよぉ!!」

「プリン美味しい。もう1個も今食べよ」

「ふふ、『もう一回言ってみよう』かあ。全部終わったら、そういう道を考えても良いのかなぁ……?」



女性陣に圧倒され、困り果てているルナマリア。


プリンを美味しそうに食べるステラ。



そして微笑みながらモニターを見上げるセツコは、とても幸せそうだった。








[6402] 俺の未来・彼女たちの未来 前編 (オリルートなラストバトル)
Name: ドダイ改◆33b9b899 ID:80d4a734
Date: 2009/09/19 20:14






「身体中が痛いや」





全参戦作品の主人公格による議長への説得(+3人を喰ったシンへの制裁による一致団結)によってザフトとの戦いが回避され、タイミングよく現れたシロッコを皆でフルボッコしたメサイア決戦から数週間後。

身体をこきこきと鳴らしながら、シンはアーガマの居住区通路を歩いていた。



現在の時刻は当直以外ではまだ起きている者も少ない午前6時。

昨日の夜からつい先刻まで熱を出したステラの看病の為に医務室にいたのだが、温くなった氷嚢を変えたり汗を拭いてやったりしているうちに、いつの間にかベッドにもたれて寝てしまっていた。

今は熱が下がり目を覚ましたステラに「もう大丈夫だから休んで」と言われ部屋に戻るところである。

寝る時間はもう無いが起床時間にはまだ余裕があるので、シャワーぐらいなら浴びれるだろう。

寝不足ではあるし変な姿勢で寝てしまったので身体中が痛いのだが、ひさしぶりに夜の営みが無かったせいもあって肉体的には充実していた。


ここ数日、 「そうなんどもぬかれてたまるかーーー!!」 とか 「エネルギーが足りない、少しだけ足りない」 といった生活を送らされているシンとしては、何も無い夜というものは非常に貴重なのである。

まあレイやデュランダル議長との戦いに苦しんでいた以前に比べれば、この程度の悩みなんて可愛いものだろうけど。


「汗もかいてるし、とっとと部屋に戻ろ―――ん?」


「じゃあカードキー渡しておくから、来るときは連絡頂戴。またね」

「必ず来ますよ。それじゃ、また後で」


シャワー恋しさに足を速めた瞬間、エマさんの部屋から出てきたカミーユを見かけた。会話の内容や今の時間帯など突っ込み所は多いのだが、見ない振りでもした方が良かっただろうか。

道を変えるか悩んでいたシンだったが、そうこうしている間にカミーユと目が合ってしまった。

さわやかな笑顔で手を上げる彼に、仕方なくスルーすることを諦める。


「シンじゃないか。おはよう、今日は随分起きるのが早いな」

「ステラが熱出しちゃったから、ずっと看病してたんだよ。今は熱が下がったから部屋に戻ろうとしてただけだ。

 それよりここ、エマさんの部屋だよな。こんな朝早くからどうしたんだ」


「………フフ、見て分からないのか、シン? 俺はついにお前に並んだぞ」


これで3対3だと続けるカミーユ。やっぱ朝帰りか。つーか俺にそんな対抗心抱かれても困るんだが。

確かに自分の周りはちょっとおかしい事になってはいるが、別にプレイボーイ気取ってるわけじゃないんだけどなぁ。


「あんまり人の事は言えないけどさ。カミーユ、お前ファとかヘンケン艦長に刺されても知らないぞ?」

「そのあたりは大丈夫だ。それよりもシン、あとはレコアさんかサラを落とせば俺の勝ちだからな!!」


……その2人はやめておいた方が良いと思うけどな。 『パプテマス様よりはやーい』 とか言われたらショックだろうし。



「馬鹿だなぁシン。……その方が、燃えるじゃないか?」

「心を読むなバカ」




もう好きに生きたら良いよお前。









あの後カミーユとはすぐ別れて部屋に戻ってシャワーを浴びていたのだが、気が付けば鏡の前に立ち尽くしていた。どうやらいつの間にか意識が飛んでいたらしい。疲れだろうか。

明日はサッカー大会があることだし、今日の訓練は早めに切り上げて休んだ方が良いかなと思いながらベッドに戻ると、部屋の中には先客がいた。

Tシャツに短パン、赤い髪。ルナマリアだ。



「しーあわせはー、あーるいーてこーない、だーからあーるいーていーくんーだねー……」



机の上の写真立てをみつめながら、何処かで聞き覚えのある歌を口ずさんでいる。部屋の奥にいるシンには気付いていない。

それにしてもこの歌、本来はもっとノリの良い歌なんだけどなぁ。歌い手の心境からかどこか物悲しく聞こえる。

一体何があったのだろうか。


「前向きに歩いてはいるつもりなんだけどなぁ……。あの馬鹿シン、最近は私と過ごす時間減ってるし。

 そりゃ昨日はステラが熱出しちゃったから、看病でずっと一緒にいるっていうのは仕方がないんだけどさ」


俺のせいでした。

写真の中央部分をつつきながら愚痴るルナ。あの写真はリアルルートの皆で撮ったもので、自分や彼女の他に、セツコやカミーユ、鉄也などが写っている。

確か指先の位置には自分がいたっけ。盗み聞きする気は無いが、出ていくタイミングがわからない。

出そびれるシンを他所に彼女の独白は続く。



「一昨日とその前はセツコさん。戦闘、ステラ、3人、私、セツコさん、パトロール、3人、当直、ステラと私、セツコさん、セツ…あの人マジで自重しないかしら。

 ………なんだかなぁ。

 傷を舐めあうような近付き方だったのは否定しないし、2人も一緒なのを受け入れたのは私なんだから、自業自得と言えばそれまでなんだけどさ。でも」


ため息。


「私だけのものになってくれるって、思ってたのにな………」


マジで申し訳ない。それに関して自分は一切の言い訳が出来ない。

本来ならば謝りながら抱き締めるところなんだろうけど、今の自分にその資格はなかった。

実行に移したところで、ルナは同情されたと認識するだけだ。それでは何も救えない。むしろ彼女のプライドを傷つける事にしかならないだろう。


情けないな俺は。好きな女の子が自分のせいで落ち込んでいるのに、慰める事すらできないってのか。

男として最低な自分を、助走つけてぶん殴ってやりたい気分になる。



「んっ………シン……っ」



零れ落ちる吐息。写真立てを手にしたまま、ルナマリアの股間がシンの机に押し付けられた。



「………」



もう1回言う。

ルナマリアの股間がシンの机に押し付けられた。



「………何、だと?」



ルナの股間が机に。

股間が机に。

こかんがつくえに。

こか つく


(んっ………シン……っ)



「――――――――ッッッ!!!!」






自分の中の、何かがハジけた………






股間が!! (股間が!!)

机に!! (机に!!)

股間が!! (股間が!!)

机に!! (机に!!)



もろともに!!!



「裏コード、『THE BEAST』!!!!」




自分への怒りはどこへやら。獣の如き咆哮と共に部屋の奥から飛び出る。ルナは驚いているが、この内から燃え上がる炎は止められない。


「えっ、えええええ!!!? ちょ、シン、いたの?」

「いたの」



俺の部屋だからな。そらおるわ。



「………み、見てた?」

「最初っから最後までな」



そこまでやりおるとは、流石の余もヒヤリとしたわ。



「瞳孔が開いてるんだけど」

「SEEDってやつだ。気にするな」



気力MAXのイベントだったしね。



「そ、そのおっきいの、私の方に向いてない?」

「他に誰を狙えと」



狙い撃つぜ!!



「それから、えっと 「もういいだろ」 ってちょっと!! 私はそんな」



覆いかぶさるようにルナマリアを抱き締めるシン。細いウエストを両腕に感じる。豊かなバストが自分の胸板で形を変える。……むう、けしからん柔らかさだ。

シンは迷うことなく、そのまま彼女をベッドへ押し倒した。


「ちょっと待って、ね!?お願いだから!! 今は朝だし、誰か来るかもしれないでしょ!? 今夜は開けとくからそれまで 「待てない」 んんーーーッッッ!!!」


静止するルナマリアの声は華麗にスルー。我ながら最低野郎にしか見えないが、女誑しでもシン・マナカでも好きに呼べばいい。

彼女の頬を掌で優しく包み込み、映画俳優ばりの濃厚な口付け。たっぷり1分以上瑞々しい唇を味わってから、ようやく満足して顔を離す。

鼻が触れ合うくらいの近さで見つめ合う2人。その光景を誰かが見た場合、どう解釈しても恋人同士の甘い時間だと判断するだろう。

尤もスイッチが入ったシンと真っ赤な顔でそんな彼を咎めるルナマリア、お互いの心境には大きな差があるけれども。



「ルナ、今夜は寝かさない……!!」

「今は朝だってば!!」

「だから、今夜は寝かさない!!」

「ちょ、何よそれ!! もしかして、明日の朝までってこと!?嘘でしょ!?」



そんな文句を言いながらも拒絶はしないルナマリア。抵抗もせいぜいシンの胸板を軽く押しているくらいで、むしろ短パンを脱がされる際に脱ぎやすいよう腰を浮かせてみたり。

TPOをわきまえて欲しいが求められるのは嬉しいという、複雑な女心といったところか。否定されていない分こちらにとっては好都合だが。

指を絡めたり額へのキスをしてみるが、案の定拒まれない。ルナマリアにシンのN2航空誘導弾を打ち込むのは時間の問題か。最後の障害は黒い勝負下着である。



「あと、いちまい……ッッ!!」

「~~~ッッ!! もう、わかったわよ!! ヤればいいんでしょヤれば!!


シンの首に両腕を廻し、唇を貪り返すルナマリア。火が点いたというよりは、ヤケになったと言った方が正しいかもしれない。

唇を押し付け、舌を絡ませ、シンの身体を強く抱き締めながら愚痴る。


「ほんとに、んっ、馬鹿んぅっ、なんだから!! 私だって、ちゅむっ、私だってたまにはロマンチックなシチュエーションに持って行きたいのにぃ!! ん、んんっ」

「ルナ」

「何よ!!!」


シンの呼びかけに怒りながら応えるルナ。怒った顔がまた可愛い。

自然と口から愛の言葉が零れ落ちた。



「ルナ。君を―――― 一生、離さない」

「な!? ………こ、この…この……ば「始めるぞ」舐めるな、吸うな、噛む、な、きゃ、はぁぁぁぁーーーーっっっ!!!?」





裏コード「THE BEAST」が発動したシンにとって、最弱の拒絶タイプである今のルナマリアは敵ではなく。


次の日の夕方になるまで、シンの部屋のドアが開かれる事は無かった。


















みんな、頼もしい顔になったな。


目の前に並ぶ仲間たちを見ながら、アムロはそう思った。



現在の時刻は16時。

交流のためのサッカー大会も終わり、数時間後にUNにおいてエーデル准将との最後の戦いに臨むため、ZEUTH全員がアーガマのミーティングルームに集まったところだ。

皆の前に出ているのはアムロの他に、ゲッコーステイト代表のホランド、若いが役職の高いキラとアスラン、AW勢代表のジャミル、スーパーロボット勢のまとめ役であるサンドマン。

そして一躍ZEUTHの顔となったクワトロが、現在作戦内容を説明中である。


「ジエー博士の話によると、まず間違いなくエーデル・ベルナルは軍を率いてUNステーションを奪取しに来るとの事だ。

 その力は驚異であるしエウレカを一刻も早く救出したいが、時空修復の際に邪魔されても困る。つまりこの状況は後顧の憂いを断つという意味で我々にとっても都合が良い。

 よってフリーデンやアイアン・ギアーをUNステーションの守備に回し、アーガマ等はその間に大気圏離脱準備に入……む」


不意に言葉を止めるクワトロ。その視線の先では2人の男女が身体を預けあって眠っていた。

シンの肩に頭を預けているルナマリアとその彼女の頭に自分の頭をもたれさせているシン。机の下では指を絡めて手を繋いでいる。なるほど、2人してサッカーをサボっていた理由はこれか。

こういう状況でなければ微笑ましく思うところなのだろうが、今は決戦前の大事な時間だ。注意する必要があるな。

そう自分が動く前に、既にアスランが歩き出していた。止める気は無いが、どうも彼はシンやルナマリアに対して他人に任せずに自分が先輩ぶろうとする傾向がある。

実力はあるんだから黙って背中見せとけばいいのに。これでまた嫌われるんだろうな。

そう思いながら隣を見るとキラも苦笑していた。目と目が合い、通じ合う新旧ガンダムのエース2人。君もそう思うか?答えるまでも無いですね。



「こら、おま……クワトロ大尉?」

「また、この戦いで相対する敵は恐るべき力を秘めているだろう。

 よって火力に不安のある機体は旗艦の守備や後方からの援護に回すため、小隊メンバーの変更を行う。連絡は後ほど行うので間違えないように」



怒鳴ろうとしたアスランをクワトロは手で制し、説明を止めずに優しくシンの額を突付いた。揺れる頭。その僅かな衝撃で2人が目を覚ます。

焦った様子で頭を下げる2人を責めることなく、何事も無かったかのように説明を続行するクワトロ。

そんな彼の大人な対応に、見ていた者たちの好感度は間違いなくアップした事だろう。ハマーンなんか「これが私の元彼だ」みたいな感じのどや顔してるしな。

それにしてもこれは、彼らを怒鳴ろうとしていたアスランと比較する流れに持っていき、相乗効果も狙うという計算高い作戦か。

流石はシャア。女の子が絡んだ時の奴は一味違う。



「以上だ。まずはエーデル・ベルナルを討ち、全てに決着を付ける。そして宇宙へ上がりエウレカの救出。その後に時空崩壊を防ぐ。

 この戦いは人々の命を、そして未来を守る戦いだ。

 力持たぬ者の為。近くにいる大切な人の為。そして、誰もが迎える明日の為に!!」



周囲の空気にも流されず、盛り上がっていくクワトロの演説。緊張感が周囲に満ちる。

クワトロはサングラスを外しながら皆を見つめ、高らかに声を上げた。



「皆、私に力を貸してくれ!!!」



部屋全体が揺れたかと思うほど沸き立つミーティングルーム。燃えているのはスーパー系だけではない。いつもは冷静な人間はおろか、女子供まで咆哮をあげている。

実際、アムロも皆に流されて大声をあげるところだった。自分の立ち位置は知っていたので頼もしそうに彼らを見るだけに留めておいたが。




「やれやれ………まいったな、これは」



覚悟を決めたシャアはこれほどのものか。


ここまでみせつけられると、からかう気すら起きない。














皆の気持ちが一つになった最終ミーティングが終わり、皆それぞれの小隊に別れて最終的なチェックに入っていく。だが幾人かはその場に残る者もいた。

先程クワトロが小隊員変更を伝えた者たち。つまり欠員が出て補充待ちの人間たちだ。

その中には同じ隊だったカリスの代わりは誰なんだろうねと話しながらドリンクを飲んでいる、シンとステラの姿もあった。


「誰が来るのか少しドキドキするな。ステラは誰だったら嬉しい?」


腰を痛そうにポンポンと叩きながら、シンは隣の少女に話しかけた。まだルナマリアとのバトルのダメージは回復しきっていない。

エンドレスエイト→そのまま熟睡→寝起きに2人でシャワー→いつの間にか泡プレイ→ベッドでイチャイチャ→部屋の果物で食事→ついでにシンのバナナも→逆襲のルナ→両者KO と昨日は調子に乗り過ぎた。

一応何時間か眠る事が出来たとはいえミーティングでは2人揃って居眠りしてしまったし、こんなていたらくではステラを守るなんて胸を張って言えやしない。

今では少し反省している。こっからは真面目に行こう。


「ステラは、シンといっしょならだれでもいい」

「……そっか。ありがとう」


彼女がそう言ってくれるのは嬉しいが、流石にシンは誰でも良いと思えなかった。技量不足は隊の死活問題になるし、何よりステラを危険な目に遭わせたくない。

一体誰が来てくれるんだろうか。

隊長機であるシンのデスティニーの運用上彼らは最前線に突っ込む事が多いので、できれば移動力の高く沈みにくい機体が来て欲しいのだが。



「お待たせしました」

「いえ、こちらこそよろし……く……?」


やっと来たか。背後から声がかけられ振り向くシン。

だがその前に現れたのは、「リアルパイロットの底辺」「MR.いるだけ」の異名を持つあの男。……神様、そこまで俺が嫌いかオイ。


「今日からアスカ隊に所属になりました、アッシマー騎乗のカツ・コバヤシです」

「パイロットだけチェンジで」

「いやそんなんないから」


ステラひでえ。


「いいじゃん、格納庫で1人寂しくかく乱してろよ。かく乱の事をトランザムって呼んでいいからさ」

「それ何のフォローにもなってないから」


シンはもっとひどかった。


「大体そこまで拒否される理由がわからないよ。デスティニーもガイアも前に出るタイプなんだから、僕のアッシマーが後方から援護する形で行けば問題ないじゃないか。

 パーティーにはもう勇者と女戦士がいるんだ、ならその後ろに援護する魔法使いがいてもいいだろ」

「ねえシン、カツって魔法使いなの?」

「じゅもんは『アンキモ』しか使えないけどな」

「それはただの新聞社員だろーがァァァ!!!」



このネタどれだけの人間がわかるというのか。



まあそれはともかく、2人のカツに対する態度は厳しかった。無理も無いと言えば無理も無い。

なんせカリスからカツなのだ。全盛期の野茂のフォークに匹敵する落差に2人のテンションはだだ下がりである。

しかしいくら他人から見れば無理もない反応とはいえ、フフンとばかりにかっこつけて登場したカツとしては納得できないのだろう。

偶然近くを通りがかったブライトに近付き、シンたちの自分の扱いを訴える。


「いくらなんでもあんまりだろ!! ブライトさん、何とか言ってくださいよ」

「お前はいつまでアーガマにいるつもりだ、新しい文書を見ていないのか?

 ダイクやベローと一緒にさっさとラーディッシュに行って、フラれたヘンケン艦長でも慰めて来い」


助けを求めるカツの接近を冷たい瞳で拒絶し、さらりと苦情を流すブライト。この人もっと優しい人じゃなかったっけか。

てかやっぱりヘンケン艦長フラれちゃったんだな。カミーユ、お前やり過ぎだよ。


「ラーディッシュもこっちと合流するんですか?」

「ああ。それに伴って護衛のMSを寄こせとさっきからうるさいんだ。どうせ目当てはエマ中尉だろうが、それは本人が嫌がっているし」


それにいつも獣戦機隊やコンバトラーチームの様な主力を廻せると思ったら大間違いだと呟くブライト。つまり主戦力やエマ中尉を送りたくないから、余り者を送っとけということか。

それって目の前にいるカツに対しての実質的な戦力外通告なのだが、その事に気付いているのだろうかこの人。


「人って……信じられないのかな……」


カツは、突然世の中がイヤになってしまったようです。もう立てませんとばかりに力なく両膝をつく2軍。

立ち上がったばかりのクララの足をローキックでへし折ったらこうなるんじゃないかというくらい突き抜けた、見ていて気持ち良くなるほどの心の折り方だった。やるなブライト。


「けっきょく、誰なんだろうね……」

「振り出しに戻っちゃったな」


とりあえずシンもカツ参戦という最悪の事態は免れたのでほっと一息をつく。ステラと共に彼らから距離を取ると、先程までのように話し始めた。

もはやカツのことなど2人の頭にはない。

周囲を見渡すと他の小隊には皆新しい人員が来ているようだ。中には既に挨拶を終えて解散している班もあるのだが、シンたちには一向に来る気配がない。

ねえシン、ステラたちのひとはまだかな。きっともうすぐ来るさ。

くたびれてきたステラを宥めるが、なんだかシンも不安になってきた。クワトロ大尉に問い合わせた方が良いだろうか。

そう思って内線に近付くシンに、駆け寄ってくる人物が1人。


「待たせてすまない、小隊員として配属されたランスロー・ダーウェルだ。今回の戦いでは世話になる」

「ランスローさん、貴方が小隊員!? 隊長交代の間違いじゃ」


2人の前に現れたのはランスロー・ダーウェル。元宇宙革命軍の指揮官にして、ジャミル・ニートのライバルでもあった人だ。

シンが御大将にシャイニングフィンガーを食らった話のボスだと言えば分かる人もいるだろう。

余り物には福と言うが、来たのがこんな大物でしかも自分の部下だと言われると、流石に気後れしてしまう。


「デスティニーの能力はクラウダを遥かに凌駕している。それに今の私はただのパイロットだ。問題は無いさ」

「そんな……でも」


確かにクラウダは沈みにくい機体だし、ランスロー自身も加速を持っているため移動力も問題なく、小隊員としては文句の言いようも無い。つか欲しい。

だが技量といい戦闘経験といい、自分なんかよりも彼が隊長をやるべきだと思うのだが。

何といっても一軍の将だったほどの男だ。初陣から1年程度しか経っていないシンとでは経験に差がありすぎる。


「支援攻撃とサイズ補正無視も会得したし、クラウダにはブースターを着けた。君たちの足を引っ張る事は無いはずだ。

 だから、私も一緒に戦わせてくれないだろうか」

「引っ張るだなんて……本当に頼りにしてますから!! ランスローさんが来てくれるなら百人力です!!」

「良かったね、シン」

「ああ!!」


いえーいとばかりにハイタッチするシンとステラ。本気で喜ばれて悪い気がしなかったのか、ランスローの顔も僅かに綻ぶ。

そしてさっきから気になっていたのだがと前置きした後、背後を指差した。



「あれは、何かあったのか?」


「大きな星がついたり消えたりしている……。あはは、大きい。彗星かな。いや違う、違うな。彗星はもっとバーって動くもんな……」



指の先には体育座りでぶつぶつと呟いているカツ。まだいたのかお前。カミーユが劇場版仕様でそんな事しないからって、お前がやっても別に目立つ事はないだろ。

その美しくもない光景を見て思わず溜息を吐いたシンとステラ。ランスローが見ていたのを思い出し、2人は爽やかな笑顔で言葉を返す。



「いえ、大したことは何も」

「うん!!」

「………それならば良いのだが」





嘘です、いじめがありました。



























最後の戦いは、想像よりも異質なものとなった。



UNにてエーデル准将を打ち破り、乱入してきたアサキムはセツコが撃破。

そして援軍に来てくれた仲間たちに別れを告げ、エウレカ救出のために大量のコーラリアンの攻撃をかいくぐりながらレントンを司令クラスターに連れて行くことまでは上手くいった。


『この私は新世界の統治者、法と秩序の下に平穏をもたらす者だ!!その私に刃向かう者は全て粛清する!!』

「うるせえんだよ!!同じことばかり繰り返しやがって、お前は壊れた人形かよ!!」

『その通り。“そこ”の“それ”はただの壊れた人形です』


だがそんなシン達ZEUTHの前に立ちはだかったのは再び現れたエーデル准将と、漆黒の仮面を見に付けた男。

共に搭乗しているのは最強の機体と言われているレムレースだが、エーデル准将には男の正体に心当たりは無い様だ。


「黒のカリスマとエーデル・ベルナルが別人だっただと!?」

「アンタは一体何なんだ!!いい加減正体を現せ!!」

『クライマックスだからね。今こそ仮面を外そうか』


彼らは同一人物であるという予想が外れ動揺するZEUTH。

シンの叫びに応え男が仮面を外すと機体が光に包まれた。その後にはレムレースによく似た、いやそれ以上に禍々しくなった機体が現れる。

カオス・レムレース。目の前の美男子曰くこれがレムレースの完成形らしい。


『……救世の戦士……大極への旅人……法の守護騎士……因果律の番人……呪われし放浪者……。

 そう、ボクこそ全て!!!その名もジ・エーデル・ベルナルだよ!!!』


イケメンタイムを5秒で終了した、真のエーデルを名乗るこの男。

彼こそが真の黒幕だった。



『うつけが!!私と同じ名を持つ事が、既に私への反逆罪だ!!ZEUTHの前に貴様から……ッッ!!』


男の名に激昂し、もう片方のレムレースに襲い掛かるエーデル。彼女の意思を受けレムレースが右手のドリルを振り下ろそうとしたその時、



『アイラビュ~!!エーデル様、明日の天気を教えてよ』


『関東地方は午前中天気がぐずつく所も多いようですが、昼からは晴れ間が広がるでしょう。 ――――――ッッ!!?

 か、身体が勝手に動いたぞ?なんだこれは!?』



男の言葉通り、いきなり天気予報を始めるエーデル。本人も驚いているが此方もさっぱり状況がつかめない。

理解しているのは目の前でにやにや笑っているあの男だけだ。


『わからないかにゃ、エーデル様?バインド・スペルだよ。ボクがアイラビュ~と叫べば、必ずその後の命令に従うようになっているのさ。

 なんならもっと証明して見せようか?そこの君、何かリクエストを』

「お、俺?……じゃあ、黒○徹子のものまねを」


なんでそのチョイスなんだエイジ。つかもっと気付くとこあるだろ。喋り方があの変態博士に似てるとか。


『それ採用。アイラビュ~!!』

『ジ・エーデルさん、貴方面白いギャグを持ってるんですってね。本当に笑っちゃうらしいですね。ちょっとその面白いのやってみてくださる?攻撃を受けて3の倍数の時だけ絶頂する芸を』

『天・獄!!!!』


シークタイムゼロセコンドでジ・エーデルによるツッコミ(というよりは正当防衛)が入ったので、声色からそれが本当に徹○のものまねだったのか、はっきり確認をとる事は出来なかった。

もしかしたら友近かもしれんし。

だがハードルを極限まで上げた挙句ネタのオチをやる前にバラすという鬼のような無茶振り、これは世界広しと言えども黒柳○子しかいまい。

ということはヤツの言っている事は本当だと考えて良さそうだ。

しかしエーデル准将を操る事が出来るならば、殺す事はなかった筈だ。ヤツの狙いはなんなのか。



「エーデル准将を倒しちまいやがった……。わざわざこの場に来たのもそうだけど、こいつは何が目的なんだ? 世界の支配じゃないのか?」

『世界の支配? ハハハッッ、ボクも買い被られたもんだね。

 別に君たちの言う世界の支配なんてものには興味ないんだけどさ。税金に福祉に教育に軍事に経済……そんな面倒くさいものやってられないし。

 テキトーにやっててもその内起こるだろう反乱を気にしなきゃいけないし、何より楽しくないからね』


あまりにも子供じみた理由なので納得は出来ないが、ある程度の理解は出来なくも無い。

つかこいつラクスやアスハよりよっぽど優秀な政治家になりそうな気がする。あいつらそれを考えた事ないし。


「ふざけんな!! じゃあなんでエーデル准将を倒したんだ!?」

『壊れたオモチャは捨てるのが道理だろ? もともと彼女を造った理由は、おしおきしてもらうためだし』



今なんつった?



「すまん、後半よく聞こえなかった俺」

「奇遇だな、俺もだ」

「私もちょっと……」


幻聴か。そりゃそうだよな。

ドクロベエ様じゃあるまいし、これから最終決戦だっていうのにおしおきなんて変な言葉が聞こえるはずないじゃないか


『だからぁ、エーデル様におしおきしてもらうためだよ。ボクを嬲るエーデル様、歯を食いしばってそれに耐えるボク。

 世界の支配者だと偉そうにしていても、所詮お前なんかこのボクの創作物にすぎないくせに!!

 嗚呼、でも今のボクは醜い老人……そんなどうにもならないもどかしさが快楽への最高のスパイスになるのさ!!』


「い、いや 「へ、変態だぁーーーーっっ!!」 」


カツうるせぇよ。フェイの悲鳴聞きそびれたじゃないか。

だから格納庫でかく乱しとけって言ったのに。


『これでボクが支配に興味が無いってことに納得してくれたかな?

 それにボクはこの混沌とした世界がお気に入りなのさ。人々の欲望が渦巻く、今の世界がね。

 君たちが動けばこの世界がもっと引っ掻き回される。だから面白く見させてもらってたんだけど……時空修復なんて冗談じゃないからね。君たちの邪魔をさせて貰うよ。

 この醜くも素敵な混沌世界で、みんな仲良く生きていこうじゃないか』


まるで芝居のように声を張りながら問いかけるジ・エーデル。いや自分に酔っているだけか。

ZEUTHの前でそんな言葉を吐ける度胸だけは大したものだが、誰も味方がいないこの状況においてそれは、勇気ではなく無謀だ。


「んで?このメンツの前でそんな事を言うってことは、やられる覚悟を決めてるってことだよなぁ?」

「まさかここまでやっといて騙しちゃったゴメンで済むわけないしねぇ!?」


ガラの悪いAWの加速担当と狙撃担当が睨みを利かせながら毒づく。言葉こそ違えど他の者の気持ちも同じだった。

最後の最後に出てきたのがこんないい加減なヤツで、しかもこんな洒落の通じないタイミングでアクションを起こそうと言うのだ。

話を聞いてやっただけまだ譲歩した方だろう。


『怖いねえ。もちろんこのボクだって1人きりで戦う気は無いさ。だからボクはボクを呼ぶよ。カマン、マイブラザー!!』


マイブラザー? 疑問を声にする間もなく、宙域に幾つかの光が放たれた。思わず目を細めるシン。

そして光が止んだとき、目の前には3つの巨大な機体が現れた。



『助けに来たよ、ボク!! 楽しそうなことしてるじゃない!?』

『べ、べつにボクは君を助けに来たわけじゃないんだからねっ!!』

『ASK HIM エーッ!! テメエら俺だけ見てりゃいいんだよオラ!!』


「カオス・レムレースが3体も!?」

『ありがとう、別世界のボクたち!!来て早々なんだけど、ボクたちの最終決戦の邪魔者を排除しようか!!』


最後の黒のカリスマ違いは放っとくとして、今までいたジ・エーデル・ベルナルの他に別世界の彼を名乗る者たちが3人が揃う。

そして合わせて4機のカオス・レムレースの杖から光が放たれ、戦場に残っていたコーラリアンを全滅させた。


『見たかオラ、これがパワーだ!!』


お前は黙ってろ。首攻めるぞマジで。


「あれだけの数のコーラリアンが、一瞬で……!?」

『僕たちの力、驚いて貰えたかな? 伊達にラスボス張ってるわけじゃないんだよ。

 それに君たちの相手はカオス・レムレースだけじゃない。――――ほうら!! 懐かしの敵、大集合だ!!』


その声と共に虚空からカペルやレオーなどの機体の他に、デストロイやサイコガンダム、量産型アクエリオン、風見博士仕様のメガザウルス、ゼラヴィオンなどかつてZEUTHが苦しめられた敵たちが現れた。

それだけでも難敵だと言うのに、最後に出てきた機体にZEUTHの面々は凍りつく。


「あ、あれはプラネッタ!? ウンコ部長の機体じゃない!!」

「ってことはまたオーバースキルで心を読まれるんじゃ……?」


馬鹿な、ゲインさんにやられて死んだはずじゃなかったのか。いや、アサキムに連れて来られたグローリー・スターの2人の件もある。

別世界の生きているカシマルを呼んだという可能性も十分だ。


『その通り!! またオーバースキルで貴方たちの心を暴いてやるわ!!』


気持ち悪いオカマ声が耳に響く。間違いない、ヤツだ。

ZEUTHの面々は正面からのぶつかりあいでは無敵だが、内部工作や罠、精神攻撃などの搦め手には弱いものが多い。

ヤツの存在は少し面倒くさいことになりそうだった。


「なら、厄介な敵は早めに叩く!! 再生怪人は弱いってのがお約束なんだからさ!!」

「そうだな。恋愛少年団、例のやつをよろしく!! せっかくだ、俺たちもそれに続くから」


驚愕する周囲を他所に、深く気にしていないようなジロンの声。それにゲインが同意する。

そういえば彼はあの時暴露されたのが 「トカゲ食いたい」 だけでダメージが皆無だったので、心を読むオーバースキルの恐ろしさも他人事のような心境なのかもしれない。

だが今はその強さがありがたかった。ZEUTHは基本的に熱血系ばかりなので、1人でも根性出すと周りがすぐに同調するのだ。

現に今は動揺も収まり、ゲインの指名が入った少年恋愛団を軸に気勢を上げている。



「任せとけって!! レントン、ゲイナー、準備はいいか!?」

「ちょっと待ってガロード、ゲイナー兄さんが先走ってる!!」

「そうだ、どうせ聞こえるならまた聞かせてやるさ!! サラ」

「言 わ ん で い い !!!」

「この際だから俺も何か叫ぼうかな」

「YOU言っちゃいなYO!!」

「言ったり言わなかったり、はみ出したり浮かんだりグッときたりすればいいさ!! 特にはみ出せ!!」

「よっしゃ!! おいみんな、はみ出そうぜ!!」

「ふふふ……はみ出してやろうじゃねえか!!」



何をだ。



方向性が定まったからか、何だか生き生きとしてきた戦士たち。これを理由に思い切り叫んでストレス発散しようというのだろう。

まあジ・エーデルの登場でモチベーションを下げられた感はあるのでそれもいいのかもしれない。

それにプラネッタのオーバースキルは厄介だ。潰せるうちに潰すというのも間違いではないし。


「ルナ、例のやつってなに?」

「え? ああそうか、ステラは知らないのよね。要するに今自分が一番言いたいことを叫んじゃえってことよ。王様の耳はロバの耳~みたいな」


違うだろ。確かに前回は決意発表会になってたけどさ。


「叫ぶって………何でもいいの? ルナも言うの?」

「ええ、私もいろいろ鬱憤溜まってるしね。ステラも言うなら皆に合わせるのよ?」

「うん!!」


あきらかにあの2人は勘違いしているわけだが、いったい何を言うつもりなんだろう。碌な事じゃなさそうだけど、どうせ俺じゃ止められないし気にするだけ無駄かな。

そんな風に彼女たちに気をとられているうち、周囲もなんやかんやで叫ぶ腹を決めたようだ。

俺も叫ぼうか。彼女たちの事を叫ぶのはいろいろと問題があるので、今回も無難に平和の事を叫んだ方が良いかもしれない。


「ゲイナー、言っとくけどヘンな事叫んだら来週のデートをキャンセルするからね」

「みんなゴメン、ちょっと謝ってくる!!」



土壇場でゲイナーが脱落したが、ラストバトル前の今となってはZEUTH内にカップルはいくらでもいる。問題はあるまい。

ついに始まったレントンやガロードの愛の告白をバックに、他の面々も口々に叫んだ。




「何がキラキラコンビだ、誰がやるもんか!! そんなクロスオーバーするくらいなら、僕だってシンみたいに他作品の女の子といろいろできるルートを探すさ!! できればファサリナさんと」

「僕だってガンダムに乗りさえすれば、サラも振り向いてくれるんだ!!」

「カツ。君はホンコンまでに3機しか落としてなかったのに、よくそんな大言吐けるな。俺がスコアを稼がなきゃディジェ取り損ねてたんだぞ」

「セツコ、シンを独占するのは自重しろぉぉぉぉ!!!」

「そうよ!! な~にが 『シン君疲れてるみたいだからチアガールの格好で応援してあげるね』 よ!! 疲れさせてるの自分のくせにぃ!!!」

「言うなぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

「シャア、昔のように私を優しく抱き締めろぉぉぉっっ!!!」

「なあシン、正直エマさんの髪型って後ろから見たら卑猥じゃないか? 昨日なんか後ろから突いてる最中で萎えそうになってさ。髪を梳く振りして崩したから、その後はなんとかなったんだけど」

「俺に振るな」

「こいつらの世話するの、もう僕は…いやだぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

「正直カツへの感情は、僅かなライクであって決してラブではない。むしろ最近は彼氏気取りでかなりウザい。カツよりは最近よく話しかけてくれるカミーユの方が」




カミーユはマジで自重しろ。



プラネッタ対策とはいえ、おもいっきりぶっちゃけまくるZEUTHの面々。というかヤツの苦手なのは健全な青少年の交際なので、ハマーン以外は役に立ちそうも無い。

尤も前回みたいにやかましいから効果が無いこともないかもしれないけれど。

つかこれだけの若い面子が集まって、1番青春っぽい発言がアクシズ首領のハマーンというのはどうなのよ。




ちなみに大トリはこの人。



「そうだ!! どうせ聞こえるなら、聞かせてやるさ!!

 エマ中尉!! 好きだァー!! 中尉!! 愛しているんだ!! 中尉ぃーっ!!

 交渉に来たときから好きだったんだ!! 好きなんてもんじゃない!! 中尉の事はもっと知りたいんだ!! 君の事はみんな、ぜーんぶ知っておきたい!!

 君を抱き締めたいんだァ!! 潰してしまうくらい抱き締めたーい!!

 心の声は心の叫びでかき消してやる!! 中尉!! 好きだ!! 中尉ーーーっ!! 愛しているんだよ!!

 俺のこの心の内の叫びをきいてくれー!! 中尉!!

 エゥーゴを訪れてから、中尉を知ってから、俺は君の虜になってしまったんだ!! 愛してるってこと!! 好きだってこと!! 俺に振り向いて!!

 中尉が俺に振り向いてくれれば、俺はこんなに苦しまなくってすむんだ。 いつもはつれないけれど、優しい君ならきっと俺に応えてくれるだろう。

 俺は君を俺のものにしたいんだ!! その美しい心と美しい全てを!!

 誰が邪魔をしようとも奪ってみせる!! 恋敵がいるなら、今すぐ出てこい!! 相手になってやる!!

 でもエマ中尉が俺の愛に応えてくれれば戦いはしない。

 俺は中尉を抱きしめるだけだ!! そして君の心の奥底にまでキスをする!!

 力一杯のキスを、どこにもここにもあんなとこにもしてみせる!!

 キスだけではない!! 心から君に尽くします!! それが俺の喜びなんだから

 喜びを分かち合えるのなら、もっと深いキスを、どこまでも、どこまでも、させてもらう!!

 中尉!! 君が宇宙に素っ裸で出ろというのなら、やってもみせる!! だから」


「ウザい」





全米が泣いた。




渾身の告白を3文字でぶった切られたヘンケンに幸あれ。

まあ丸パクリだし良い年齢した大人だし下心が見え隠れしてるしで仕方ないよね。エマさんカミーユと関係持ったばっかりだし。


本題に戻ろう。ヘンケンの告白は狙い通りの青臭いものだが、言ってる人が年齢いってるぶん効果はあてにならないかもしれない。

果たしてカシマルの判定は?



『ククッ』



笑っているということはアウトか?いや待て、カシマルがあれを聞いて笑ってるだと?仮に別次元のヤツだろうと、その性格上喜ぶか気持ち悪がって怒鳴るかどちらかの筈だ。

だとするとあれは洗脳されたか、それとも偽者……もしかしてそれか。

よく見るとあのプラネッタ、さっきから何か揺らいで見えるし。


「みんなちょっと待て、あのプラネッタどこかおかしい!! いやパイロットは元からおかしいけど」

「なんだと!?」

「本当かよシン!?」


シンの声に叫びを止め、プラネッタを見やるZEUTH。そのまま宇宙に静寂が満ちる。


『プッ……はは』

『………くすっ』


視線を集めたカシマルとその近くにいたジ・エーデルが、唇を噛みながら身体を震わせていた。

そのうち耐えきれなくなって口を開き



『ハーハッハッハッハッハッッ!! イヒヒヒヒヒヒヒ!!!』

『ふ、ぶふっ。もう駄目だ、ハハハハハハ!!』



笑い出す2人。どうやらまた自分たちは踊らされていたらしい。

目に涙さえ浮かべて笑いながら、2人はZEUTHに話しかける。


『アーハッハッハッハッハ、あ~おかしい。君たちってやっぱり期待を裏切らないから好きだよ』

『ププッ、ほんとほんと。……あのさぁ、これを見てくれる?』



ジ・エーデルが指を鳴らすとプラネッタがもやに包まれ、その後にカオス・レムレースが現れた。その手には杖ではなく何かを持っている。


「偽者だと!?」

「やっぱりそういうことか。姑息な真似しやがって、ワトソン中尉に化けたアサキムみたいに俺たちを騙したんだな。

 でもあの手にしてるやつ、杖じゃなくてプラカードにしか見えないんだけ……ど!?」


手にしているものを見た瞬間シンの動きが止まった。しまった、そういうことかという声が唇から零れ落ちる。

冷静になってこれまでを整理してみよう。素数を数えて落ち着くんだ俺。


先程仲間たちはえらいことを叫んでしまった。勿論ふざけていたわけではなく、そういう青春的なことが嫌いなカシマル対策としてだ。

でもそれが効果があるのは相手がカシマルの時だけで、もし他の相手だった場合は全く意味が無いわけで。いや、むしろ恥を周囲に晒すだけな訳で。



んで。



プラカードにはどう見ても『ドッキリ』としか書かれていないのだが。





「「「「「「 聞 い て な い よ !!! 」」」」」」



『いや、そりゃ今初めて言ったしね?』



嵌められた。こんな罠を仕掛けられたら、そりゃZEUTHの連中もびっくりするわ。自分が大したこと言ってないのがせめてもの救いか。

そう思いながらそっと背後を振り返る。目にしたのは予想通りの光景。


キラちょっとこちらにカミーユ覚悟中尉カミーユとってマジなのかきゃーセツコさんそれはイタいって言うなぁサラどういうこと言葉通りよハマーン先程の言葉はべ別に本音などではないのだからなっ


うん、超カオスだほんと。



「ああ………また不幸が」

「違うな、間違っているぞ麗花。前から言おうと思っていたが、周りからすれば君の不幸なんて大したものじゃない。せいぜい可哀想な自分に酔う程度のレベルだ」



斗牙煽るな。




『チャンス到来だねぇ。そーら、全軍攻撃開始!!』

「ちぃっ、こんな時に……ッッ!!!」



進軍を開始する敵AIたち。いささか間抜けな開幕ではあるものの、世界の行く末を決める最終決戦は開始された。

敵の策に嵌まり動揺する自軍へ、これ以上のチャンスはないとばかりに敵機体が襲い掛かってくる。

“団結”という最大の武器を封じられ、絶体絶命のピンチに追い込まれたZEUTH。………そこ、表面化しただけで元からそんなもの無かったとか言わないで。わかってるから。自業自得だって事は。

各員必死に反撃するものの、あきらかに押されている。開戦から数分しかたっていないのに、気付けばもう仲間に被害が出てきていた。



「ふぅ、死ぬかとおもっうわぁぁぁぁぁっ!! 」

「小林ぃぃぃぃぃ!!」

「エマ中尉、ラーディッシュを楯にするうわぁぁぁぁぁっ!!?」

「あ、やべ」



カツは戦闘中に隕石に衝突、せっかくのアッシマーなのに機体の名を叫ぶ事すら許されず戦線離脱。

ヘンケンのラーディッシュはエマのガンダムMK-2に良いところを見せる為に援護防御しようとして前に出たところ、ジャミルのサテライトキャノンの範囲に入ってしまいあえなく撃沈した。何やってんだニート。



「装甲の厚い機体かバリア持ちを前面に押し出して、中央突破を図れ。敵が分断・孤立したところをMS隊で撃破するんだ」

「カオス・レムレースにはなるべくスーパーロボットをぶつけろ。攻撃力が不足している者は生半可な攻撃をヤツに与えるより、周囲の雑魚の掃討に専念した方が良い。

 ――――ええい、俗物共が!!いつまで動揺しているつもりだ!!」



クワトロやハマーンが前線で指示を出すも、戦局を変えるまでには至らない。

多分、何かが必要なのだ。流れを変えるほどの大きな何かが。だが一体どうすれば良いのか。

シンは思わずアーガマに視線を向ける。戦火の届かない後方で冷静に判断できる、ブライト艦長ならば何か良い手を―――





「こうなったら私の究極奥義、『愛の核ミサイル』を繰り出すときが来たか………!!」


「……………」






今回はねえよ、そんなもん。













[6402] 俺の未来・彼女たちの未来 中編
Name: ドダイ改◆33b9b899 ID:80d4a734
Date: 2009/09/24 00:44



「キラ、ミーティアを射出します。それで敵の数を減らしてください」

「わかった。ムウさん、その間の護衛をお願いします!!」

「3時方向のカペル小隊に攻撃を仕掛ける。エマさんにレコアさん、付いて来てくれ!!」

「わかったわ!!」


コックピット内に響く仲間の通信に、シンはほっと安堵の溜息をこぼす。どうやら皆やっと本気になったようだ。

ピンチを前にしていつまでも痴話喧嘩をしているほどZEUTHも馬鹿ではない。やるべき事を見定め、勝利を掴む為にそれぞれが動き始めた。

しかし劣勢を跳ね返すまでは至らない。エゥーゴ兵が搭乗するネモやリックディアスが次々と破壊されていく。

いつもの彼らならばとっくの昔に逆襲及び無双を開始していただろうが、今回は相手が強すぎた。奇跡と言うものは決して安売りしているわけではない。


一度決まった戦いの流れは、そう簡単に変わるものでもなかった。






『ああZEUTH、君たちの力はこの程度なのかい?哀しいよボクは。もうちょっと楽しませてくれると思ってたんだけど』


演劇ぶった言葉で挑発するジ・エーデル。にやにやと笑いながら相手の反応を待つが彼らからの返事は無い。

ZEUTHもこれまで経験した事の無いほどの劣勢でそれどころではないのだろう。男はその事に気付くとそれまで浮かべていた人を馬鹿にするような笑みを止め、溜息を吐く。

その目に映るのは失望。


『……楽しみにしてたんだけど、どうやらここまでか。新連邦の3人を倒したからってちょっと君たちに期待しすぎたのかもしれないな。

 そこの君でいいや。そろそろ諦める気になったかい? 降伏なら受け付けてあげてもいいよ』


正面のレオーを両手に持ったフラッシュエッジで切り裂きながら、シンは背後に振り返る。どうやらあの変態は俺に話しかけているらしい。

自分で戦いを吹っ掛けておいて勝手な事を。


「俺か………なら一つ聞いて良いか」

『別に構わないよ。何だい?』

「ジ・エーデル。さっき言ってた世界の支配を企んでいないってのは、本当なのか」


とりあえず確認しておきたかった事なので聞いてみる。さっきはおしおき云々で話が流れてしまったことだし。


『当然でしょ。支配をするってことは、支配を続ける為にその管理や整備を延々とし続けなければならないってことなんだ。

 さっきも言ったけど、いずれ起こる反乱を気にしてビクビクするなんてボクはやだね』

「支配をしないというなら力が有り余っているんじゃないか? これだけの力があるんだ、アンタは助けを求めている人の為に使おうとは思わないのか」


認めたくは無いが、ヤツの力と知識は計り知れない。この男が考えを改めこれからずっと世界の為に動けば、結果的にヤツが奪った命の数よりも沢山の人たちが救われるだろう。

無論ヤツの行いは許すことはできない。

だが掌の上で踊らされていたとはいえ、全ての争いがヤツのせいな訳でもない。コペルニクス会談を例に挙げるまでも無く、最終的に戦いを選んだのは自分たちなのだ。

そして自分たちがこれからすべき事は花が吹き飛ばされたらまた次を植えるではなく、花が2度と吹き飛ばされないよう守る事と、吹き飛ばされ傷ついた花を少しでも元に戻す事である。

議長に比べてハードルは高すぎるが、その目標の為ならばこの男と話し合うことも必要かもしれ―――


『めんどくさいことは嫌いって言ったろ? そんな事をするよりも、この混沌とした世界を満喫した方がずっと楽しいよ。

 平和の為や正義の為。誰もが綺麗な理想を掲げるも、結局はドス黒い野望に取り憑かれて支配へのチャンスを狙う。

 そして行われるのは虚々実々の権謀術数に、様々な力のぶつかり合い。

 まさにバトルパラダイス!! 時空破壊からの1年、実に楽しませてもらったしね!!』



楽しませてもらった、だと? あれを?

人々が泣き喚き逃げ惑い、希望を見出せず混乱したこの1年を?

冗談にも程があるだろ。



「それだけのためにエーデル准将を暗躍させ、世界を混乱に導いたってのか……!! 常識がないのかお前、そのせいでどれだけの血が流れたと思ってやがる!!」

『知らないよそんなの、ビーカーで量ったわけじゃなし。それにこんな世界でルールに縛られる方がバカなのさ。

 それとも何かい、君たちは怪物から逃げるときに赤信号を守るのかい!?』

「くっ、減らず口を……」


鉄也が噛み付くがあっさりといなされた。彼は元々口よりも手を出す事を重視する人なので、上手く言い返す言葉が浮かばないのだろう。

だがヤツのあれは只の屁理屈だ。まともに聞いてやる必要はない。

そして、俺が聞きたいのはそんな事じゃない。


「お前さ。もっと……何か他に言う事は無いのか」

『自分が楽しければ良い、ボクにはそれ以外の目的は無いってことくらいかな」


「自分の力を世界の為に使おうという気は」

『無いよ』


「やった事への後悔は!!」

『無いね』



この野郎……。



『………ま、そういうわけさ。

 確かにボクはこの世界をどうこうしようなんて考えちゃいない、けど君の望む答えを口にする事も無いよ。君たちにこれ以上協力する事もね。

 だいたいこんな面白い世界を時空修復なんかで失ってたまるもんか。

 ボクの計算じゃスカブコーラルには64兆の4乗以上の命があるみたいだけど、顔も知らない人間がどれだけ死のうが痛くも痒くもないし。……まあ、知ってても同じだけどさ』


「もういいから黙れ」



これ以上戯言は聞いてられなかった。こんなヤツとテンポ良く会話する自分にも吐き気がした。

歯切れが良いのは薄々ヤツの答えが分かっていたからにほかならない。動揺しなけりゃ次の言葉もすぐに出てくるのは当たり前か。

くそったれ、人の命を肴にした茶番劇なんか大嫌いだ。それが笑えもしない喜劇ならば尚更。



『なんだよ、君がボクに聞いてきたんだろう? ……あ、もしかして気分が悪くなったのかい? だけどこれって当然だと思うけどな。

 だって地球の裏側で餓死してる人を気にしたら、毎日のゴハンが美味しくなくなるだろ? ボクはボクだけ』

「黙れって言ってるだろ、このチンケな小悪党が」

『……今、何て言った?』



いくら抑えつけても怒りが湧いてくる。聞いた俺が馬鹿だった。

これまでの争いには理由があった。悲しみの果てに新たな力を得る事ができ、失われた命も少なからず無駄ではなかった。そんな甘い望みをこいつ相手に抱いていたなんて。

死んだ人間にとっては何の救いにもならないのに、そんな言い訳を求めていたなんて。


吐き気がする。無様な自分へもそうだが、目の前の男に対してはそれよりも遥かに。



「何がカオスの王だ。何が創生の芸術家だ。かっこつけた異名の割りには大した男でもない、名前負けもいいとこじゃないか。

 プライドもない。信念もない。信じあえる友もいない。他人の存在を認める度量すらない。

 笑わせるな。所詮アンタは人が苦しんでいるのを後ろから見て嘲笑うくらいしか取り得の無い、ただの小悪党だろうが」


『こりゃキビしい!! ……で? さっきの返事を聞いてないけどどうするの? これだけ力の差を見せ付けられても、まだボクと戦う?』



茶化すような口ぶりだが、その声質は笑っていない。全てを見下すだけあって流石にプライドだけは人並み以上のようだ。

だが続いた質問は愚かの極み。

現在の戦況や力の差、はっきり言ってそんなものはどうでもいい。俺にとって戦いなんてそんな理路整然としたものじゃない。



「ああ、戦うさ。でもお前を討つのは誰かの意思じゃない。俺がお前という奴を許せないから戦うんだ。

 お前が戦争を呼ぶのなら、俺が相手になってやる。お前が混沌を望むなら、俺がそれを叩き潰してやる。

 お前の望む世界なんか……たとえ世界中の人間が認めたって、俺は認めるものか!!!」



この世界では沢山の人が泣いて、苦しんで、傷ついて……それでも大切な明日を掴む為に今を必死で生きている。

そんな彼らからこれ以上平和や笑顔を奪い取ることは許しておけない。しかも奪うのがこんな下種なら尚更だ。



『ハハハッ、かっこいいねえ。誰も君たちの戦いなんて望んでなんていないし、どうせボクに勝っても人が生きる限り平和なんて絶対に来ないのにさぁ!!

 で、次はどうするんだい正義の味方!? 夕日に向かってダッシュでもしてくれるのかい!?』



人が生きる限り平和は来ない、か。確かにそうかもしれない。

ティターンズやブルーコスモスに暴走した自分も含めて、世界には争いに溺れていく人間も少なくない。

だけどな。


「それで誰かが救えるんならな。

 それとジ・エーデル、アンタに一つだけ言っといてやる。確かに今ここでアンタを倒しても、どうせ次の世界を乱そうとするヤツが現れるんだろうさ。

 だけど俺たちはそんな敵が何回現れても、その度にそいつを倒してみせる。必ず」



だからってそれで諦めるほど、俺たちは素直じゃない。


俺自身も、両親と妹を失ったときに決めたんだ。

争いを望む者がいるかぎり、どこまでも、誰とでも戦ってやるって。全てを薙ぎ払ってやるって。

返り血に塗れてしまっても他の誰かが平和な世界の下で笑って暮らせるのなら。この命、いくらでもかけてやる。

例えそれが決して届く事のない、叶わぬ夢だったとしても。




『覚悟はある、僕は戦う―――そう言うわけね。

 でも何度でも倒すは良いけど、今まさに最初の1回目で転びそうなんだけど。格好つかなくなる前に発言を撤回した方が良いんじゃない?」


「寝言は寝て言えよ。まだ戦いは終わっていないし、誰一人として諦めてもいないんだ。あんまり俺達を……」











「――――――ZEUTHを、無礼るな」









力や憎しみに振り回されてきた自分に、もし生きる意味があるのならば。

それはきっと、この日の為に生まれてきたんだろう。






















「やっぱ、良いなあ……あいつ」

「そうね……」


戦場に響き渡るシンの叫び。

その声は被弾したメシェーのガブスレイをアーガマまで送っていたインパルスとバルゴラにまで届いていた。戦闘中なのに思わずのろける女2人。


あの馬鹿、随分言うようになっちゃって。ちょっと前まではあんなに子供だったくせに。自分と一緒に学生やってたくせに。

それがまさかZEUTHを代表して啖呵を切るくらいになるとは想像できなかった。多分皆がギャグで失ってしまった主人公補正を吸収でもしたのだろうけど。


眩しそうに彼の背後をみつめる。差をつけられたという気も無いではないが、今はそれ以上に誇らしかった。

あれが自分たちの惚れた男だ。


「行きましょう、ルナマリア。シン君を助けに行かなきゃ」

「そうですね。シンの部隊にはステラもいるし、やっぱり私たちは3人揃ってナンボでしょ」


機体を乗り換え中のメシェーは守備隊にまわることになったのを確認し、2人は言葉を交わしながらバーニアを噴かす。シンのいる場所は激戦区だが構いはしなかった。

守られてばかりではいられない。彼に重荷を背負わせてばかりではいられない。

自分たちは、彼の背後を守り、傍に立つ者なのだから。



「それじゃ、とばすわよセツコさ 『デスティニーのパイロットよ、よく言ったぁぁぁぁッッッ!!!』 うわ!! ちょっと誰よもう……ああ!?」


通信に割り込む男の大声。その方向に振り返ったルナマリアの表情が、歓喜のそれに変わる。

彼女の目に映ったのはかつての我が家。そしてその耳に届くのは、自分たちの―――



『やはり苦戦しているようだな。間に合って良かった』



無二の親友の声だった。













「来て、くれたのか………レイ。デュランダル議長に、ミネルバのみんなも……」

「今のザフトとZEUTHは協力態勢にある。

 そして今の俺は自由だからな。その男を倒すのも、ZEUTHに手を貸すのも……そして、お前を助けるのも。全ては己の思うがままというわけだ」



戦場に現れたのはミネルバを中心にレジェンド、グフイグナイテッド、ガナーザクウォーリアのザフト軍MS。

その隣に並ぶは連邦軍空中戦艦とニルヴァーシュthe END。


それだけではない。


グラヴィゴラスにグランフォートレス。

赤と青のスピアヘッド。

ギア・ギアとドラン。

ゴレームと、3機の青いドーベック。

フィクサー1。

ベック・ザ・グレートRX3。


そして、ボロボロのガンレオン。



「「「「「 い、生きていたのかお前たちーーーーーッッッ!!!!! 」」」」」



ほとんどの人間が死んでなかったが、とりあえずお約束として叫んでおくZEUTHたち。余裕あるんじゃねえかよオイ。

それにしても再び援軍に来てくれたのは嬉しいが、アスハムとかはUNでの後処理がまだ残ってるはずなんじゃなかったのか。


「それはそうなのだが、見送った後なんだか不安になってな。やっぱり戦力は多い方が良いと思い他の者に任せて応援に向かったまでは良かったんだが、途中でコーラリアン相手に往生してしまって」

「そこで同じように援軍に向かっていたデュランダル議長たちに出会ったわけです」

「それぞれZEUTHの中に大事な人がいると聞いたのでね。それならばと全員同行してもらったまでだよ。時間的にどうかとは思ったが―――」


言葉を切るデュランダル。強い視線で正面をみつめる。その先に何が存在するのかなんて言うまでも無い。

援軍たちも彼に倣い、敵の中央を―――そこに存在するカオス・レムレースを―――睨みつけた。



「フィナーレには間に合ったようだ。我々も混ぜてもらうとしようか」



その言葉と共に、周囲に展開していた機体たちが敵軍に向かって飛び込んでいく。

彼らの咆哮が宇宙に響き渡り、たちまち劣勢だった戦線を押し返していった。その光景にZEUTHたちの折れかけていた心が蘇る。



「すごいな……俺たちも負けてられないぞ、みんな!!」

「ガハハッ、これだけ揃えば負ける気がせんわい!!」

『調子に乗っちゃって、所詮は一度負けた連中だろ!? それに増援ならまだこっちにもあるんだから。ほら、こんなふうに』


不機嫌になったジ・エーデルが指を鳴らすと同時に、カオス・レムレースと大勢のレオーやカペルが現れる。

ふざけやがって。いったいどれだけの数を揃えていると言うんだ、ヤツは。


「な、まだ増えるの!?」

『切り札は後に出すものだからね。ふふ、君たちが数を増やしたところでこんなもんさ。

 所詮は負け犬、雑魚は雑魚!! それでもやれるって言うなら、やってみれば 『まったく、聞くに堪えんな』 ―――――え?』


宙域に何者かの声が響くと同時に、たった今現れたばかりの敵軍が膨大な光に呑まれていった。

今の一撃はサテライトキャノンに類似していたが、ガロードもジャミルも現在チャージ中で撃ってはいない。

ということは、まさか。



「役者を気取るのは結構だが。周囲に気を配れないようでは、所詮は三流だな」

「気付かれないよう裏側で暗躍するのは、僕たちの十八番ではあるけどね」



ガンダムヴァサーゴチェストブレイクとガンダムアシュタロンハーミットクラブ。

加勢に来た仲間とは訳が違う、正真正銘の敵である筈の2機のMS。それがサテライトランチャーから生き残ったカオス・レムレースの前に立ちはだかる。


第3軍ではなく、味方増援として。












「……それにしても、サテライトランチャーの直撃でも沈まないとはな」


ヴァサーゴのコックピットの中で、シャギア・フロストは小さく呟いた。

不意を突いての攻撃は確かに相手を捕らえたはずだ。だが目の前には悠然と構えるカオス・レムレース。思わず舌打ちをしてしまった自分を誰も責められまい。

化け物め。後に続く筈のその言葉は、声に出さずに飲み込んだ。


『……今の一撃はちょっと効いたな。

 それにしてもこいつは予想外だ。ZEUTHのピンチに参上だなんて、いつから君たちは仲良くなったんだい?』

「勘違いしないで欲しいね。別に僕たちはZEUTHを助けに来たわけじゃないし、例え奴らや他の世界の人間がお前に殺されようが知ったことじゃない」

「だが世界を滅ぼすのは我らであり、それを阻止しようと立ちはだかるのは奴らであるべきだと思うだけだ。貴様のような道化の出る幕は無い」

『やれやれ、困った子たちだ』



杖から放たれた光弾をヴァサーゴは右、アシュタロンは左に跳ぶことで避けた。

いきなり不意打ちとは、どうやら少し頭にきているようだ。どうせ絶望を煽る為の演出がパアにされたとか、そんな馬鹿らしい理由だろうが。

まあいい、どうせ奴と語る事など何も無い。



『あ、オルバにシャギア、このあいだはプリンごちそうさま!! 美味しかったよ!!』

「なんだこの子、確かステラ・ルーシェ…ってプリン? ああ、この間の賭けのやつか……これはどうもご丁寧に」

「ペースに流されてるぞ、オルバよ」


声変わりしてからオルバは少し性格が変わったなぁという雑念を切り捨て、シャギアは目の前の敵と対峙する。

正面から戦うには危険すぎる相手だが、知ったことか。今の己の想いは只一つ。



あの視線。「ヤツら」と同じく自分たちを見下すその目を、恐怖のそれに変えてやろう。











「全機、彼らに続け!!流れを変えるのは今なんだ!!」


通信の声の主を確認する前に、シンはペダルを踏み込んだ。翼を広げたデスティニーが誰よりも先に敵の群れに飛び込んでいく。

敵の数は膨大だが、友や尊敬する人が助けに来てくれた。しかも今の自軍はかつての敵味方入り混じった、一夜限りのドリームチームとなっている。

恐怖は皆無、これだけ揃えば負ける気がしない。

戦う理由もある。存在を否定すべき敵は目の前にいる。

止まる理由は何処にも無かった。今は自分の思うがまま、この力をぶつけるだけだ。あのふざけた笑いを止めない変態に。


「ジ・エーデル……!! アンタみたいなのが……アンタみたいな人間がいるからっっっ!!! うおおあああっっっ!!!」


アロンダイトを振り回しながら阿修羅の如く敵を屠るデスティニー。彼の通った後には残骸しか残っていない。

だがそんな彼を仕留めるため、突出したデスティニーを囲もうと敵軍が動く。


「シン、待って!!」

「焦るな!! 熱くなっては勝てるものも勝てないぞ!!」


気付いたガイアとクラウダが追いすがるが、敵に阻まれ近づけない。シンはそれに気付いていない、いや気にしていないのか。

湧き上がる怒りと強さ故の盲目。その2つがシンから冷静さを奪っている。

勿論シンの腕なら囲みを突破することは難しくないだろう。だがそんなギャンブルはこんな雑魚相手にするべきではない。シンがエースならなおさらだ。


「あいつ、相変わらず世話の焼ける。ファトゥム、行け!!」

「シン、いくら君でも突出しすぎちゃ危険だ!! ……聞こえてないか。ムウさん!!」

「あいよ!!」


近くにいたオーブ小隊がステラの声を聞きつけてやってきた。シンを援護する為それぞれの背中からユニットが射出される。


「囲まれた!? ちぃっ、何やってんだ俺は!! 今は小隊長だってのに!!」


周囲に気付きようやく突進を止めるシン、だが既に包囲は完成していた。吐き捨てるように己をなじる。

だが今悔やんでも始まらない。一点を突破する為に長距離ビーム砲からライフルに持ち帰るシン。

そんなデスティニーの周囲を蒼と黄金のドラグーンが展開する。そのまま周囲の敵に向かって雨のようにビームを乱射。

その混乱に乗じて囲みを破ったクラウダとガイアが、デスティニーと背後を守りあうようにお互いの背中を預ける。


「すみません、修正は後で受けます!! ステラもごめん!!」

「ステラがシンを守るから、あんまり離れちゃやだよ」

「生憎、この戦いの後は思う存分勝利の美酒を飲むつもりだ。修正なんてしている暇は無いな。……それよりも、礼を言うのは我々にではないだろう?」


ランスローの言葉に頷く。ドラグーンの援護がなければ危なかったのは間違いない。

背後の彼といいキラといい敵の時は恐ろしい相手だったが、味方になるとなんて頼もしいんだろう。


「わかってます。すまないキラさん、ネオ!! 助かった!!」

「別に良いよ、でも無茶はしないで!!」

「もうムウだっつーの!! それと坊主、後でちょっと話があるからな」

「ああ。“後で”、必ず会いに行く!!」


数で劣る自分たちだ、2小隊が一つのところで動きを止めているのは良い事ではない。

礼も兼ねてライフルを軽く振る。ちゃんとした礼は生きて帰ったあとすればいい。


「幸運を」

「そちらもお気をつけて!!」


ランスローとキラの交信の後、お互い違う方向へと飛び立つ2組。戦いはまだ継続中だ。


「………」


ちなみにこの時アスランもシンを援護しようとリフターを射出していたのだが、1機に命中した時点であっさりと戻ってきてしまったので誰にも気付いて貰えなかった。












「黒のカリスマ、いやジ・エーデルよ。喜劇は終わりだ。さっさと幕を降ろしたまえ」

『何言ってんだよ、とっくの昔に脱落したくせにさぁ!! 君に未来を選ぶ資格は無いんだよ!!』


ミネルバから放たれたミサイルを光弾で打ち落とすレムレース。その人を馬鹿にしたような言動に、ミネルバに乗ったデュランダルは僅かに眉を顰めた。

世界を誰よりも真剣に考えていた者と、誰よりもふざけて見ていた者。彼らが理解しあえる訳も無い。


「確かにその通り、私は敗者だ。今もプラント議長の座に就いてはいるが、それも全てが終わるまでのかりそめの役に過ぎん。

 だがそれを責めるのであれば、私や他の者に勝利したZEUTHにこそ未来を選ぶ資格がある筈だ。

 最後にだけ出てきて美味しいところを掠め取ろうとする盗人に、その資格は無い!!」

『オーケー、ならここで君たちを叩いて資格を得てやろうじゃない!? 言っておくけど君の頼りにしているZEUTHの力、僕の足元にも及ばないよ?』

「ならば確かめてみるがいい………!!」

『確かめてやるさ。君の死に場所をプロデュースしてあげるよ!!』



手にした杖を横に振るレムレース。形成された魔方陣から放たれた奇形生物の波がミネルバを呑み込む。

異空間にてそのおぞましい奇形生物たちがが一つに融合してから、空間エネルギーを衝突。止めとして杖を投げ付けると、大爆発が起こった。

天獄と呼ばれるカオス・レムレース最強の一撃。まともにくらえばどんな機体でもひとたまりもない、はずだが



「どうやらこの程度か。トライン副艦長、被害状況を報告してくれ」

「はっ、不屈をかけておきましたので、衝撃で転んだ者がいるくらいです」



ミネルバには傷一つ付いていなかった。



『…………精神コマンドって理不尽すぎるなぁ』



尤も直撃したとしても今のミネルバはデュランダルが乗っているので、耐久力が本来の数倍以上だ。天獄の一撃くらいでは沈むわけも無い。

おまけにブリッジにはタリア・アーサーだけではなくデュランダルも加えた3人。冗談抜きで最強クラスの母艦である。


「どうした? いくらそんな かびるんるん もどきを扱えるからといって、この程度の力で世界を語るとは笑わせる。―――タリア、レイ、イザーク、ディアッカ」

「わかっています」

「了解。シン、俺も今から共に戦うぞ―――」

「ジュール隊、突貫します!!」

「………!!」



デュランダルが道を示し、レイ達がそれを信じて突き進むと言う本来の姿に戻ったザフト。今の彼らに迷いは無い。



約1名、声も無いけど。















『頑張るじゃない、ちょこまかと!!けどこれならどうかな!?』



レムレースの嵐のような猛攻を軽やかに避け続けるアシュタロンとヴァサーゴの両機。まがりなりにもガンダム作品のラスボスを張ったのは伊達ではない。

だが手にした杖から放たれる黒い光の一つが、ついにアシュタロンを捕らえた。


「ぐっ!? ……チィッ、兄さん、やっぱり慣れないことはするもんじゃないね」

「そう言うな、オルバよ。我らの戦いはまだ終わってはいない。復讐を終わらせる前に、奴に勝利を掴ませては元も子も無いのだからな」

『あれあれ、この世界への復讐が君たちの目的じゃなかったのかい? 男だったら言った言葉に責任を取らないと』


腹立たしい声が自分たちを哂う。

下種が、哂うな。その目で自分たちを見るな。


「黙れ。貴様の掌の上で操られる世界での復讐など、誰が望むものか」

「そうなってしまったらもう、僕らが求めた戦争じゃないんだ」



2人の機体が流れるように動き、息の合った連携でレムレースに襲い掛かる。ツインズシンクロによるコンビネーション。そのキレは以前の比ではない。

徒に敵の気力を上げ足を引っ張るだけの雑魚を抱えながらZEUTHと刃を交え、そして幾度も生き残ったのには相応の理由があるのだ。


だがそんなフロスト兄弟の猛攻にも男の余裕は崩れない。下卑た笑い声に思わず顔を顰めるシャギアだったが、ヤツの余裕も当然といえた。

なにせこちらの攻撃を食らってもレムレースに堪えた様子は無いが、振り回される長杖や放たれる光弾といったヤツの攻撃はいずれも一撃で自分たちを沈黙させる威力があるのだから。


『ははっ、言うじゃない、ニュータイプの出来損ないの分際でさぁ!!

 けどそんな攻撃じゃボクは満足できないな。もう全部諦めて、僕に全てを委ねてしまいなよ』



圧力を増すレムレース。実力差は想像以上。いつもの自分たちならば一旦退き、ヤツが力や勢いを失ってから仕掛けようと考えるところだ。

だが彼らに撤退の意思はなかった。


逃げてどうなる。この局面でこの相手から逃げて、自分たちに一体何が残る。

ここで逃げては、それこそ自分たちは戦士にすらなれない出来損ないではないか。




「道化の分際で笑わせるな!!」

「俗物が……我ら兄弟、貴様如きに遅れは取らん……!!」




逃げはしない。敗れる気もない。己の全存在をかけてヤツを倒す。


自分たちが出来損ないか、そうでないか。

それを決めるのは、間違いなく今なのだから。













「息子が頑張ってるんだ、父親がかっこつけなくてどうするよ!!なあ!!」

「レントン、ママが行くまで無理しちゃ駄目よ……!!」

「聞いて」



「脳みそ溶けちゃえ!!!」

「アネモネ……凄く綺麗だ……ハァハァ」

「ばっ、馬鹿!! みんなが見てるでしょ!?」

「イチャつくのは他所でやってくれんか?」



「あらよっと!! へへ、やっぱ正義の味方はいいもんだな!! シベ鉄辞めて良かったぜ」

「ええ、心なしか自分の動きがいつもよりいい。それもスラスターモジュールのおかげだけじゃないみたいですし」

「逆転する立場って気持ちがいいんですね。アスハムさんもそう思いませんか?」

「姪っ子のためにも負けられん!! 今の私は、絶好調であぁぁぁぁる!!!」

「……あれはほっとけ」



「クインシュタイン博士……俺は、貴方の為に……!!」

「デビッドが単機で突っ込んだぞ!!」

「じゃあ俺、今は気合使うのやめとこ。必殺技が使用可能になるまであと1だし」

「絶対死んでやらん!!」




最終戦に参加できたのが嬉しかったのか、水を得た魚のように戦場を動き回る援軍チーム。

通常の場合、彼らの多くはスポット参戦止まりだ。ラストボスの顔すら見ずに大戦が終わってしまう(もしくは死ぬ)彼らにとって、降って湧いたこの「ラストバトルの増援」とは思う存分貪るべきものなのだろう。

分かりやすく言えば、ケジナンみたいなチョイ役が真聖ラーゼフォンと同じ立場にまでなったのだ。そりゃあ調子に乗るのも無理は無い。

そういうわけで、それぞれ格好つけたり愛に奔ったり俺TUEEEしたり死亡フラグを建てたりとこの出番を思う存分満喫していた。どうせこんなチャンスが来る事は2度と無いだろうし。



「やれやれ、姐さんも愉快な仲間を持ってんのな」



はしゃぎ過ぎと言うか何と言うか。最終決戦なんだからもっと真面目に戦っても良いと思うのだが。

スーパー系の主人公なので最終決戦に舞い上がることもないランドは、いまいち真剣さが足りない友軍を見ながらそう思う。

リアルルートでは自分は新参者なので、表現は控えめにしておいたが。


「ダーリンもその中の1人だと思うけど? いくら大変だからって、ガンレオン、こんなにボロボロなのに宇宙にまで来ちゃうし」

「む……」


言い返せねえ。畜生、アサキムの奴め覚えてやがれ。

聞いた話だとアサキムはUNでセツコに倒されたらしいが、どうせあいつは簡単に死ぬようなタマじゃない。だからとっ捕まえて1発ぶちかました後、修理に掛かった請求書の束を叩きつけてやる。


勿論、背後にいるこの変態をさっさと解体した後にだが。



『君たちもそんなボロボロになるまでよくやるよね。アサキムにやられたんだろ? 世界のことなんか諦めて、2人で大人しくさすらってりゃ良かったのにさ」

「諦めて、か……。何処まで俺たちの事を知ってんのかは知らねえが、馬鹿言いやがる。

 言っとくけどな、生憎人間ってのは希望ってやつを捨てて生きていけねえんだよ!! ブンマー・スパナ!!」

「行っけぇ、ダーリン!!」

「突っ込む!!!」


レムレースに向かって接続したスパナをヌンチャクのように叩きつけるガンレオン。その一撃は痛烈なものだっだが、レムレースに与える攻撃としては少し軽すぎた。

だがそれも無理の無い事。現在のガンレオンはチェイン・デカッターもライアット・ジャレンチも壊れたままなのだ。

他に戦える武装が無かった。


「やっぱり効いてないよ、ダーリン!! どうするの!?」

「まだ終わりじゃねえ!! 見てなメール!!」

『良い一撃ではあるけど、この程度じゃボクは満足できないな。次はボクの反撃……ん? 戻んないの?』


距離を取らないガンレオンに疑問の声を上げるジ・エーデル。この世界の戦闘はやってやられてだ。彼が下がらないと反撃が出来ない。

しかしランドはにやりと笑い、そんな彼に対し言い放った。


「確かに攻撃力は足りないかもしれねえが……だったらこうやって延々ど突きまわせばいいだけじゃねえか!! すぐ気づけよお前ら!!」

「あっ、そーか」

『ちょ、何暗黙の了解を破ってるのさ!!それは反則だって!!』


すっと俺のターン。スパナをもう1個追加し三節棍としたガンレオンが、レムレースをスタイリッシュに殴り続ける。

そして敵が動かなくなってからようやく動きを止め、静かに呟いた。



「――――――イカスぜ」



忘れちゃいけない。彼がクラッシャーという異名持ちな事を。















「デスティニーなら、こういう戦い方もできる!!」



時間をかけてる余裕は無い。シンの言葉と共にデスティニーがその翼を大きく開く。最強の攻撃であるフル・ウェポン・コンビネーションだ。

デスティニーがライフルと高出力ビーム砲を連射するとカオス・レムレースは大きくバランスを崩した。

その隙に距離を詰めながらアロンダイトを抜き放つデスティニーだったが、追撃を防ごうと近くにいたカペルがシンの前に立ちはだかる。

AIがこっちの攻撃が読んでるのか。そういえばこの男は俺達の戦いをずっと見ていたんだった。おそらくこれまでの自分の戦闘データも入っているのだろう。

だが納得している場合じゃない、こいつらに構ってたらその間に態勢を立て直されてしまう。

一瞬で突っ切るしかないか。

腹を括って最短距離を突き進むデスティニーの脇を、幾つもの光が通り過ぎていった。命中し、爆発を起こすカペルたち。


「心配するな。道は我々が開く!!」

「シン、行って!!」


今のは援護射撃。誰が撃ったかなんて確認するまでもない。

背後の仲間を信じてそのまま突き進んだ。


「頼む!!」


カペルの横を通り過ぎるが攻撃は無い、ならば後は目の前の敵だけ。

一筋の流星の様に最高速でレムレースに突っ込んで行く運命。迷いはない。止まれば失速の代償を己が命をもって買い取ることになる。

アロンダイトでぶっ飛ばす。正面から行ってぶっ飛ばす。

来るし紛れに振られた長杖を避け、シンは手にした長剣を叩きつけた。


「でやああああっっ!!!」

『ぐっ、うわっ!!』


重い一撃がレムレースに叩きつけられ、そして突き刺さる。だがデスティニーの攻撃はそれだけで終わらない。輝く両掌。


「止めだ、吹き飛べぇぇぇぇっっっ!!!!」

『そ、そんな!!このボクが………ッッ!?』



アロンダイトごと叩き込まれたパルマフィオキーナによって、カオス・レムレースが大爆発を起こした。

とりあえずは1機、だが感慨に浸っている暇は無い。

他のレムレースに回復される前に全滅させなければならないが、残りの5機はどうなっているのか。まだ存命ならすぐにでもに討たなければならない。

急がねば。


「次のレムレースは、何処だ……っっ!!」

「ちょっと待ってくれ。戦況も随分優位になってきたし、旗艦を守るためにも我々はレムレース以外の残敵の掃討に掛かろう」


ランスローの言葉に動きを止めるシン。いくら彼の言葉とはいえ、そう簡単に納得できるものでもない。

残敵掃討は確かに大事だが、今の状況では少し暢気過ぎやしないか。


「ちょっと待ってください、他のレムレースを倒さなきゃ回復されてしまうんですよ!? しかも俺たちが行かなきゃ他の誰かがあの化け物と戦うことに」

「仲間を思うことは大事だが、もっと彼らを信頼しろ。あれを見るんだ」


思わず声を荒げたシンに、ランスローは冷静な声で返す。

クラウダが指差す方向を見上げると、その先には4つの大小様々な爆発が起こっている場所があった。どうやらあの4つのポイントが他のカオス・レムレースの戦っている場所のようだ。

急いで援護に向かおうとする体を視界に入った映像が止める。


「これは……」


目に映ったのは重い打撃を与えるスーパーロボットに撹乱しつつ死角から攻めるリアルロボットの姿。苦戦どころかどのレムレースもその見事なコンビネーションで追い詰められていく。

そして――――




「世界は変わる、俺たち一人一人の手で!! 貴様の存在は不要だ!!」



レジェンドのドラグーン・スパイクが、レムレースの中心を貫いた。



「たまには思いっきり物をブチ壊すのも悪くねえ……」



延々と叩きつけられるスパナに、ついに敵が動かなくなった。



「流石に厳しかったね、兄さん」

「こういう時、ヤツらならこう言うのだろうな………ざまあみやがれ」



レムレースの残骸の横で、ボロボロのガンダムヴァサーゴが中指を突き立てた。



「シャア。キュベレイのエネルギー、貴様に預けるぞ」

「その力、無駄にはしない。―――直撃させる!!」



キュベレイと接続した百式のメガ・バズーカ・ランチャーの光が、巨大な影を呑み込んだ。




強敵相手だというのにそれを苦にする事も無く屠った仲間たちに、シンは驚きを隠せない。

光が少なく感じて思わず周囲を見渡すと、いつの間にか周囲の戦いも終わりに近付いていた。


「どうやら、残敵の掃討も必要なくなってしまったようだな」

「凄い……みんな、凄いよ!!!」

「うん!!」


そうだ、何を焦っていたんだ俺は。自分は1人で戦ってるんじゃない。俺『たち』をなめるなと言ったのは自分じゃないか。


「確かにな。だが君たちもその中の1人だ。誇って良いと思うぞ」

「……はい!!」


ランスローの言葉に頷くシン。

さっきまで馬鹿やってたので忘れていたが、こんなに凄い人たちが自分と道を同じくしてくれていると言うのは本当に心強い。



残るカオス・レムレースは1機。しかも既に他の仲間たちが囲んで攻撃を加えている。

どうやらあとは止めを刺すだけのようだ。





決着の時は、近い。















『ハハハハハ!! サイコーだ、サイコーだよ君たちは!! まさか他の世界のボクたちまで倒すとはね!!

 プリーズ!! プリーズ!! もっと痛みを!! もっと刺激を!! ――――ボクを!! ボクを絶頂に導いてくれ!!!!』



歓喜の声を上げながら、四方に向かって光を放つジ・エーデル。近付きたくないくらいにイッちゃってるそのテンションに、誰もが皆戦いの終焉を感じていた。

その力こそ衰えは見られないものの、周囲を囲んでいるのはダブルマジンガーにダブルグラヴィオンなどのスーパー系の主力ばかりだ。ちょっとした切っ掛け一つで直ぐに終わるのは間違い無い。

そしてその切っ掛けは思ったよりも早く訪れた。


「消えなさい、ジ・エーデル!! 私たちはあなたの存在を許さない!!」


セツコの叫びと共にバルゴラから光が放たれた。グローリー・スター。

彼女の思いを込めた光の奔流がレムレースにぶつかり、受け止めようと翳した長杖が真ん中からへし折れ吹き飛んでいった。



そして、カオス・レムレースの動きが止まる。




「今だ、各員一斉攻撃!! カオス・レムレースに止めを刺せ!!!」

「行くぞ皆!!」

「「「「 おう!!! 」」」



一瞬の隙を逃さず全軍に号令をかけるブライト、彼のその声に集結していたスーパーロボットたちが応える。

勝機は今。未来を掴むのも今。



そして溜まりに溜まった鬱憤を晴らすのも今だった。



さっきから黙って聞いてりゃ気持ち悪いんだよこの変態が。

そこまで言うならお望み通り、口から泡吹いてガタガタ痙攣するくらいの衝撃をお見舞いしてやる。


そんな想いの彼らが狙うはただ一点。



「その股ぐらにぃ………」




コレンの合図に合わせ、男たちが叫ぶ!!!




「ロケットパーンチッ!!!」

「無限拳!!」

「ドリルプレッシャーパンチ!!」

「大車輪ロケットパーンチ!!」

「サドン・インパクト!!」

「ボロットパ~ンチ!!」

「スクリュークラッシャーパンチ!!」

「アーム・パンチ!!」

「グラヴィトントルネードパンチ!!」



これでも快楽に浸れるかと言わんばかりに、カオス・レムレースの股間部分に鉄拳を叩き込むスーパーロボットたち。

流石にソルグラヴィオンは何もしませんでした。あのブラックボックスにエィナと琉菜を突っ込ませるのは流石にセクハラになっちゃうしね。

それによって一撃足りなくなった格好だが、サンドマンとロジャーに到っては魂までかけている。いくらあの変態でもこの攻撃で興奮するなんてこと、できるわけが



「来たあああああっ!! 今までに無い最高の刺激だああああっ!!!

 サイコーだよZEUTH!!アイラビュ~!! フォーエバー、アッ――――!!」


「「「「「「……………」」」」」」



やるんじゃなかった。レイプにでも遭った様な虚ろな目で、自らの手をみつめる戦士たち。

全員、なんかあの変態と手扱きとかそういうプレイをやってしまった気分だった。



「やった……やったぞってなんで皆さん浮かない顔してんですか?」



聞いてやるなレントン、男には男の世界がある。例えるなら空を駆けるひとすじの流れ星。


「シンも、元気ないよ?」

「……そんなこと、ないよ。たぶん」


このページの上の方見てみ。「え? どこのスパシン?」ってくらいの俺がいるから。それにしても上等な料理にハチミツをブチ撒けるが如きとまでは言わないが、もっと何か無かったのだろうか。

まあ自分が甘かったんだけどな。この作品ギャグメインだってこと忘れてた自分が。



「皆、今は落ち込んでいる場合じゃない。もう時間が10分しか無いんだ。急いで時空の修復に向かわないと」

「んだと斗牙、他人事だと思って!! お前打たなかったくせに!!」

「いや、でもそれは自業自得じゃ」

「テメー、エイジに言われたのにまだ人の気持ちがわかんないのか!? ここは慰めるかそっとしとくトコだろうが!!」

「そ、そんな……僕は、ただ……」







お前ら、斗牙苛めんな。
























[6402] 俺の未来・彼女たちの未来 後編
Name: ドダイ改◆33b9b899 ID:80d4a734
Date: 2009/10/06 00:58




2300まであと数分。

不動司令やエウレカとレントン、アクエリオンたちに次元を繋ぎとめる役を任せ、セツコたちZEUTHは大特異点へと急いだ。

そして辿り着いたのはユニウスセブン。あれに桂とオルソンが触れれば時空修復が完成するらしい。

このまま時間になれば世界中の人たちの想いが此処へ集うのでそれをνガンダムのサイコフレームで集め、ZEUTH全員がその受信機となる。

それを大特異点に触れさせれば人の意思の数だけ新しい世界が生まれる筈だ。


「オルソン、お父様……私、待っています」

「やっとお父様か……始めは 『貴様』 だからな。道のりは遠かったよ」

「おじさまからオルソンへの道のりもな」


ZEUTHの代表としてユニウスセブンへ向かう桂とオルソン。確かにこれまでの道のりは長かった。

仲間たちと出会い、隊長とトビーを目の前で失い、アサキムにひどい目に遭い、カイメラに騙され、なんやかんやでシンと結ばれ(おまけが2人いるが)、アサキムにリベンジをかまし。

そしてようやく世界を救えるところまで来たのだ。これまでの険しい道のりを思い出し、セツコは思わず溜息を吐く。


仲間が居てくれたとはいえ、自分がここまで来れるとは思わなかった。

それにまさか生きているうちで、ロードを歌うことなく光源氏計画を完遂させる男を見れるとは思わなかった。


「さて、行くか……。新しい世界の始まりだ」


桂さん、オルソンさんはもう新しい世界を開いてますよ。

そんなことを考えながら桂の隣の男を生暖かい目でみつめるセツコ。リアルのロリコンによるのろけなんて見ていて気持ちの良いものでもないので、できれば早く終わらせて欲しい。

そしてシンやルナマリアたちと早く会うのだ。


『残念!!そうは問屋が卸さない!!』


だが、この局面でも空気を読まないバカ参上。

さっき倒した筈のジ・エーデルが、十以上のレオー小隊を引き連れてZEUTHとユニウスセブンの間に割り込んだ。


「ジ・エーデル!!」

「貴様、何をしに来た!?」

『見て分かるだろう!? 君たちの邪魔に来たに決まってるじゃないか。あの岩の塊を破壊すれば、全てはおじゃんなんだ!!』


そう叫ぶやいなや、ユニウスセブンへと突き進むカオス・レムレース。レオーたちはZEUTHたちの前に展開し、ユニウスセブンへの道を閉ざそうとする。

まずい。今のZEUTHにとってあんな機体は物の数じゃないが、あれに構ってたらレムレースにユニウスセブンが破壊されてしまうだろう。


「そうはさせない!!」

「セツコさん!?」


気付けば飛び出していた。レオーたちの隙間を掻い潜り、バルゴラがレムレースに食らい付く。



「私がこの男を止めます!! その間にレオーを倒して時空修復を!! ――――――スフィア、私の命を吸いなさい!!」



セツコが叫ぶと同時に、レムレースごとバルゴラの周囲の空間が歪んでいく。

その時、セツコの思惑に気付いたデュランダルが叫んだ。


『あれは……いかん、急ぐんだシン、レイ!! 彼女は自分ごと』

「わかっていますギル!! ですがここからでは……!!」


言われるまでもなくバルゴラを必死に追いかけていたデスティニーとレジェンド。彼らだけではない、大勢の仲間がその後に続く。

しかし決して少なくない数の敵機体が行く手を阻む。手こずる様な相手ではないが、このままでは


「遠すぎる……!! 邪魔すんな、お前らぁぁぁ!!」


届かない――――!!








『動かない? な、何だこれ―――?』


バルゴラに食いつかれたまま、抵抗する事も無く押されていくカオス・レムレース。自分の考えが正しかった事を知り、セツコはほっと息を吐いた。

確証の無い一か八かの賭けだったが、どうやら勝てたようだ。


「あなたの機体が次元力を制御すると言うのなら……同じシステムのスフィアの力なら、あなたの機体に干渉することができる……!!」

『け、けどそんな事したら君は完全にスフィアに食われちゃうよ!?』

「…………」


知っている。だから出来る事ならばやりたくはなかった。昔の自分ならばともかく、今の自分には光がある事に気付いていたから。

だけど今レムレースを止めるにはこれしかない。スフィアの力に目覚めた、自分しかいないのだ。

世界の危機と、もう先の無い壊れた自分。比べるまでも無かった。


『離せ、離せよこいつ!! ボクの望む世界の邪魔をするな!!』

「あなたも願って……。あなたの願いも連れて行くから……」

『馬鹿!! ボク以外の世界なんて認めてたまるか!!』

「………!! ならば、貴方は私が連れて行く。誰にも手を出せない遠くへ……!!」


リミットまではあと数分だが、天才であるジ・エーデルならその程度の時間でも何かするかもしれない。

だから少しでもユニウスセブンから引き離そうと、動きを止めたレムレースに食いついたままバーニアを噴かした。


戦場から離脱していく2機。ユニウスセブン、そしてZEUTHからどんどん離れていく。



「早まっちゃ駄目だ、セツコさん!! ………くっそぉぉぉぉぉッッッ!!! なんでだよ!! 何でそんな事するんだよ!!」

「ごめんね、シン君。みんな。最後まで心配ばっかりかけて」



少年の絶叫が耳に届く。誰の声なんて考えるまでも無い。自分の1番好きな声だ。

その声を聞いた後セツコは目を閉じ、意識を外界から外した。今感じるのは自分自身と触れているレムレースのみ。それ以外はもう、必要ないと思った。

どうせスフィアの力を長く使えば、少しずつ感覚を失っていく恐怖に晒されるのだから。ならば一番覚えておきたいものを心に焼き付け、自分から閉じよう。


最後に目に映ったのは自分を救おうと戦っている彼の姿。そして最後に聞いた声は自分との別れを受け入れられない彼の叫び。それだけで自分には十分過ぎる。

スフィアの力に目覚めた時から、自分には未来なんて無いと諦めていた。でもこの世界にはそんな事は無いと気付かせてくれた、こんなに自分を強く想ってくれる人がいてくれたのだ。

だからこの後どんな所に跳ばされても、スフィアによってどんな目に遭おうとも、その事だけで自分は幸せと言えるんじゃないだろうか。

思わずそんな事を考えたセツコの目から一筋の涙が零れ落ちる。


さよなら、大好きな人たち。

さよなら、私の大切な家。


勿論別れたくなんてないけれど。できることならすぐに引き返して、皆の元に帰りたいけれど。


「でもきっと、これが」


それ以上に守りたい。彼を。彼がいるこの世界を。自分たちが愛した、この世界を。

だから。



「私の―――――」





「シンを諦めてそんなのと駆け落ちするって言うのなら、好きにすれば良いと思いますけど。――――――その前にセツコさん、左に避けて」





「運命…………え!?」




唐突に聞こえた仲間の声。思わずその指示通り左にバルゴラを動かすセツコ。機体の右隣を2つの紅い閃光が通り過ぎ、そして爆発を起こした。

視線の先にはケルベロスを構えたブラストインパルスの姿。間違いない、今撃ったのは自分の親友だ。


「ルナマリア、なんで 『残念、隙ありだ!!』 ……しまった!!!」


ルナマリアを問い詰めようと僅かに気を抜いたセツコ。その刹那の隙を突いてレムレースがバルゴラから離れた。

杖を振りかぶるその巨体に、不意を突かれたセツコは動けない。

だが次の瞬間、ビームの雨がバルゴラをすり抜けてレムレースに降り注ぐ。インパルスとは別の方向から此方に接近してくる光が見えた。

これは――――?




「やれやれ。誰もが皆、諦める理由に『運命』という言葉をよく使うが……他に理由を言えないものかな?」


レムレースに攻撃を仕掛けているのは両手にライフルとバズーカを構えたクワトロの百式。そして


「いいか、セツコ…運命なんてのはな…後出しの予言と何も変わらない。何かが起こった後で、こう言えばいいんだ……」


その隣にはフィン・ファンネルとビームライフルを連射するアムロのνガンダム。


「全部運命だった、とな!!」


その2機を両脇に従え、ハマーン・カーンの乗ったキュベレイがファンネルを展開しながら両掌を輝かせている。覚醒と加速を使っているのか、通常のMSの3倍にも匹敵するスピードで宇宙を駆ける3機。

小隊長が射程の長いハマーンのキュベレイであるため、なんとか攻撃が届いたようだ。

UC有数のニュータイプ達によるトライチャージ、それもファンネルとバズーカも使ったスペシャル仕様。その弾幕に押されるようにレムレースが後退し、



「セツコさん、無事!?」

「だいじょうぶ!?」



2機の間には、バルゴラを庇うようにインパルスとガイアが割り込んだ。



「どうして来たんですか!? こうするしかなかったのに………!!」


同じ手が通じるかわからないが、もう一度スフィアの力でレムレースを封じるしかない。そう思い前に出ようとするバルゴラの進路を塞ぐ2機のMS。

やめてほしい。もういいから。この男は私が抑えるから、早く皆の所に戻って時空修復に備えて。

そう言葉を続けようとしたセツコを、2人は笑いながら振り返った。


「理由なんかない。だいじな人は、まもる。シンが教えてくれた」

「そうそう。それに………ほらセツコさん、あれを見て。私たちだけじゃないんだから」


セツコの叫びを気にした様子も無く、インパルスは手にしたジャベリンで背後を指す。その先にはレオーと戦っている仲間たち。


「行けぇシン!! デスティニーなら!!」

「了解!! 3人共待ってろ、今行く……!!」

「単機じゃ無理だ、レイとカミーユも行って来い!!」

「修復の予定時間まで残り2分、それまでに敵を全滅させろ!! セツコを守れ!!」

「敵の数は多くはない。この局面でこんな中途半端な数ということは、奴らにこれ以上の戦力は無い筈だ!! 彼女を犠牲にする必要なんかない!!」



その場にいる誰もが、自分の身を案じてくれている。


「やれやれ、みんなセツコさんには甘いんだから」

「他の皆まで………どうしてそんな事を」


嬉しくないわけではない。だが何故だ。そりゃあ確かに自分だって己の身を犠牲にしたかったわけじゃない。

だけど今回ばかりはもう本当に時間が無いのに。壊れそうな世界と既に壊れている自分、比べるのが馬鹿らしいほどに差があるものなのに。

なんでこの人たちは、私なんかのために必死になるんだろう。


「そんなの簡単だよ。皆セツコさんを犠牲にして得た平和なんて欲しくないんだ。

 だって俺たちが望む未来の中には、セツコさんの笑顔も入っているんだから。セツコさんの幸せも入っているんだから。

 だから……お願いだから、もう自分を犠牲にするなんてことを考えないでくれ。俺たちと――――」



今も戦っている最中とは思えないほどの、穏やかなシンの声。

小さい子供に話しかけるかのように、セツコに向かって話しかけた。



「俺たちと、いっしょに帰ろう?」

「シン、君………」



皆のところへ帰る。彼と共に。

その言葉に思わず涙が流れてきた。それは先ほどまでの涙とは違う、喜びの涙。


帰ってもいいのか。諦めなくて良いのか。

私は、自分のために生きても良いのか――――――


「ああ……っ」


涙が溢れて止まらない。何も無かった自分だけど、今では帰る場所がある。帰る事が許される。


こんなに嬉しい事は無い。



「生きるかくご、決めた?」

「………はい!!」



問いかけるステラの声に強く答える。その声を聞いたルナマリアがほっとしたような声を出した。


「まったく、無茶してくれちゃって!! そんな風にして平和を手にしたって、誰も喜びませんよそんなの。………まあ自分の意思で勝手に脱落してくれるなら、私は別にいいけど」

「ルナ、ひどい。ステラにはセツコもだいじな人」

「ステラは優しいわね。でもセツコさんがシンを諦めるなら、私たちがシンと一緒に寝る時間、凄く増えるわよ?」


全員が聞いている通信で行われる会話ではないと思うが。

ステラはルナマリアの言葉に少し考える素振りを見せた後、セツコに向かって可愛く手を振った。



「…………ばいばい、セツコ」


「そ、そんな!!!」



正直すぎる。友情より恋か畜生。さっきまでの感動が半分は吹っ飛んでしまったじゃないか。

悔しい事に、もう半分はどう頑張っても消えてくれそうにないが。


「動揺するくらいなら、最初からそんなこと言わない!! ……私だって、不戦勝なんかじゃ納得できないんですからね!!」


お前を倒すのはこの俺だ的な発言をしながら戦闘態勢をとるルナマリア。再び近付いてくるレムレースに対し、両肩のミサイルを大量に放った。

だが敵は止まらない。命中するミサイルを気にした様子も無く距離を詰めてきた。


『姉系にミニスカニーソやロングブーツ、アホ毛に飽き足らず、ツンデレまで開眼しようというのかい君は!? 引っ掛ける針が多すぎるんだよ!!』


長杖がうなりを上げてインパルスに迫る。避けられないと判断したルナマリアは盾を構えるが、果たしてそんなもので耐えられるのか。

そもそも機体のサイズが違いすぎるのだ。まともに食らえばMSの1機や2機などひとたまりもない。しかし



「なめんな!!」



盾は吹き飛び腕はひしゃげたものの、VPS装甲とルナマリア自身の底力が機体の両断を防いだ。さらに動きを封じようと杖を脇で抱え込むインパルス。


「皆、今よ!! ヤツに攻撃を!!」

『これを止めたか……だけど甘いよ。これで止めさ!!』

「させない……!! ルナ、守る!!!」


インパルスを破壊するべく長杖に力を込めようとするレムレース。だがMA形態に変形したガイアが体当たりのようにグリフォンを叩きつけた。

そこから生まれた一瞬の間を使い、インパルスが分離。各フライヤーを体当たりさせながらコアスプレンダーの機銃で破壊する。

カオス・レムレースの目の前で爆発を起こすブラストシルエット。



「爆・散!!!」

『どこのオレンジだよ!?』



ガイアのビームブレイドにインパルスの分離攻撃。それぞれの機体の特色を生かした攻撃に、流石のレムレースも思わず受けに回る。

当然この隙を逃せるわけが無い。

パーティーの3人目、セツコがガナリー・カーバーを変形させ、構えた。



「今だ!! ――――ザ・グローリー・スター!! フル、バースト!!!」



至近距離で放たれたグローリー・スター。エーデルは咄嗟に反応し回避したものの、左上半身がドリルごと抉り取られた。



『ぐうっ!? こんな、ボクが――――なに!?』



攻撃はまだ終わらない。レムレースの目の前に現れたのは、いつの間にかフォースシルエットを換装したインパルス。ガイアとエクスカリバーを分け合い飛び込んでくる。

そこにガナリー・カーバーを変形させたバルゴラも加わった。



「記憶しなさい!!」



「ZEUTH戦隊、セツルナステラ!!!」



「――――それが、貴方をNice boatする者の名です」



何それ。



ジ・エーデルがそう反応する暇もなく、袈裟切り・逆袈裟・唐竹とそれぞれが通り過ぎながら切りつけた後、3人は持っている得物を同時にカオス・レムレースに突き刺した。


















「すごいな、3人とも……」



あの攻撃はかつて自分がルナマリア・レイと共にデストロイを屠った際に編み出した攻撃だ。だがそこに入るまでのプロセスが自分たちのものより洗練されている。

インパルスによるパーツ攻撃での目くらましからMAガイアでの突撃とバルゴラの零距離射撃を加え、止めに三位一体の合体攻撃。

その破壊力は合体攻撃の最高峰と言われるファイナルダイナミックスペシャルにも引けを取らないだろう。

3機が離れると同時にレムレースが大爆発を起こす。今日幾度も見た光景だが、他のレムレースが撃墜したときの爆発と遜色ない。



「来るのが遅いわよ。もう私たちがやっつけちゃった」

「ステラがんばったよ。シン、ほめて」

「ごめんなさいシン君、心配かけて……。でも私、もう生きる事を諦めないから。皆と一緒に生きていくから」



ようやく彼女たちの元に辿り着いたシンだったが、もうその必要も無くなってしまった。

急いで来たんだけどなぁ。まあいいか、彼女たちが無事なら。

煙が晴れていく空間を固唾を呑んで見守るZEUTHたち。実は皆ちょっと言いたい言葉があるのだが、それだけは絶対に口にするわけにはいかなかった。

何しろ状況が状況だ。もうすぐ23時だし、撃墜を確認したらすぐにでも時空修復をしなければならない。

もうこれ以上の戦闘は、本当に勘弁――――



「やったか!?」


「「「「馬鹿ーーーーーーっっっ!!!!!」」」」



嗚呼。

せっかく皆我慢してたというのに、ジョゼフが言いやがった。

余計なこと言うなよ本当に。そんな台詞言ったら大抵の場合どうなるか、お前原作で御大将から習っただろうが。



『まだだよ!!僕はこんなもので終わりはしないんだ!!』



ほらな。生きてるものなんだよ、こんな風に。

あ~あ。



「ちょっとジョゼフさん、余計な事しないで下さいよ!! お前は影でフランでも孕ませとけという皆の副音声が聞こえないんですか!?」

「空気読めあかいの。……ああ、これまでの人生で読めたことないのか」

「普段目立たないからって、ここぞとばかりにしゃしゃり出てこないで下さい!!」



普通にひどい事を言って叱る3人。気持ちは凄く分かるが、流石にひどい。

俺なら泣いてるぞマジで。



「え? 何だよ、俺のせいかよ!? 3人が仕留め損なっただけじゃ」

「言い訳をするなジョゼフ。余計なことをするくらいなら、MAPの隅で腕立て伏せでもしていろ」




斗牙キレすぎ。




彼女たちの声をきっかけにジョゼフに対してブーイングを始めるZEUTH。だがもうジョゼフのライフはゼロなので勘弁してやって欲しい。

それにいつまでもあんなマサイ族の美人みたいなやつに構っている時間は無いのだ。今は目の前の問題に意識を向けねば。

宇宙空間で腕立て伏せを始めたボルジャーノンを意識から外し、シンはカオス・レムレースに視線を向ける。



『ボクを無視するなんてひどいな。まだまだこんなものじゃボクは倒せないよ』

「黙れ。さっき言っただろ、それなら何度でも倒すだけなんだよ!!」

『おやおや、ようやくナイトの登場かい!? ならこの刺激のお礼に、お姫様たちと一緒に消し飛ばしてあげるよ!!』



ふざけんな、なにが 『お姫様たちと一緒に』 だこの空気読み人知らずが。彼女たちをお前なんかにこれ以上触れさせてたまるものか。



「3人は下がってろ!! あれだけ動いたんだ、エネルギーもそんなに無いんだろ!?」

「それはそうだけど……でも、今はアイツを討たないと」

「俺に任せりゃいい!!」


フラッシュエッジを両手に持ったまま、デスティニーを3人を庇う様に前に出す。

アロンダイトは既に消失しているが、戦えない状況ではない。伊達に武器や各性能をフル改造したわけではないのだ。

死ぬつもりは毛頭無いが、刺し違えても良いくらいの覚悟でいけば――――



「大丈夫だよ、みんな」

「「「え?」」」



皆を安心させるように話しかけるセツコ。その目に無理に言っている様子は無い。

だが何をもって大丈夫だと言っているのだろうか。



「あの人が来たから大丈夫だよ。よく言うでしょ!?」

「「「あの人?」」」



セツコがその言葉を発すると同時に、戦場に一筋の光が流れた。こちらに向かって真っ直ぐ飛んでくる。

援軍か。だが今仲間が1機援護に来たところで、サンドマンや万丈クラスじゃないとセツコほど安心はできないのだが。

大きさから見てスーパーロボットじゃなくMSっぽいけれど、一体誰が来たんだろう。

レオーと戦っている仲間たちも誰が行ったか分からないのか、疑問の声を上げていた。



「あれは何だ!?」

「鳥だ!!」

「飛行機だ!!」

「いや、LFOだ!!」

「いや……鳥だ……!!」




鳥やったんかい。




当然その光は鳥などではなく、宇宙を駆けているのは1機のMS。

フライングアーマーに乗ったガンダムMK-2。エマ=シーンが操るその機体が、ライフルを連射しながらジ・エーデルに向かって突っ込んでいく。

そしてフライングアーマーを叩きつけた後、カオス・レムレースを思い切り蹴飛ばした。



「はああああああっっっ!!!!」

『う、うわああああああっっっ!?』




強烈な一撃に再び大爆発を起こすカオス・レムレース。

そしてセツコの声が宙域に響く。




「人の恋路を邪魔するヤツは、馬に蹴られて地獄に落ちるって相場が決まってるんです」




ジ・エーデルの断末魔の悲鳴と共に消えていくレムレースを見ながら、皆は思った。









――――セツコ、それ馬ちゃう。エマ中尉や。


























戦いは終わった。


エウレカは無事に救出し、ジ・エーデル・ベルナルはZEUTHに破れ、世界の崩壊も防ぐ事ができた。

奇跡的にZEUTHには戦死者はなく、おまけにアクエリオンに乗ったアポロやシリウス、頭翅も無事に戻ってきた。



絶望の淵から掴み取った、これ以上ないほどの完全勝利。皆が大喜びするのも無理は無いだろう。アムロはヘルメットを外しながら周囲を見渡す。

そこには責任や苦しみから解き放たれた開放感と大変な事を無事に成し遂げたという喜びが混ざった、戦いの終わりに相応しい幸せな光景があった。



涙を流しながら抱き合っているのはレントンとビームス夫妻。エウレカはその隣で子供たちの頭を優しく撫でている。

サンドマンを中心に集まっているのは涙目のグランナイツやメイドたち。

琉菜は斗牙とエイジどちらに抱きつこうか迷っていたところ、ちびメイドたちとエィナに先を越されてうらやましそうに彼女らを見ていた。狙うのはどっちかに絞れ。

勝平は関係者たちと泣き笑い、ゲインとアスハムは何かを楽しそうに話している。遠くではガロードたちととフロスト兄弟が皮肉を言いあっているようだが、かつてほどの険悪な雰囲気ではない。


「うぇい!! うぇい!! うぇい!! うぇい!! うぇい!! うぇい!! うぇい!! うぅぅうぇーーーーーい!! 」


子供たちや整備士相手にSRF8回をやっているのはステラ。ヒロインにあるまじき行動だが、まあ今日くらいはいいんじゃなかろうか。超人目指してステラマンとか名乗らなければ。


クワトロはアムロ同様皆を微笑ましく眺めていたが、キュベレイが帰艦するとそちらの方に歩いていった。ついにロリコン卒業の日が来たのだろうか。

そんな彼の背中に視線を浴びせているのはレコア。彼女には悪いが、もう寄りを戻すのは無理だと思うけどなぁ。シロッコのところで 「メタスよりはやーい」 をやっちゃったわけだし。

なんかあの辺りでまたドロドロが起こりそうだが、まああっちに比べればマシか。


アポリーやロベルト等がいるエゥーゴ組の方に視線を向けると、丁度カミーユにファとフォウが抱きついているところ……いるんだと思う。

きっとそうだ。胸から見える刃物の輝きなんて見てない。密着しているのに背中に回らない両手なんて知らない。

カミーユはそのままゆっくりとベンチに座り、天井を見上げる。


「照明が眩しいな……」


今時ブラックコンドルなんて若い人は知らないだろ。だれも結婚式なんてあげてないし。


彼らの周囲一帯に流れるギスギスした空気にも慣れてきたのか、それともギャグ属性に目覚めたカミーユは不死身だと悟ったのか。

アムロは目の前のスプラッタな光景を軽く受け流し、再び視線を周りに向ける。

正直自分もあの喜びの輪の中に入りたいが、とりあえずそれは全機帰艦を確認してからでも良いだろう。今まで少年たちに対してガラにもなく大人ぶってきたのだ。それぐらいの事はしないと。

そう思った矢先に格納庫に入ってきたのはクラウダとデスティニー。

運命の名を冠するその機体を視界に入れたアムロは前言を撤回し、歓喜の輪の中へと入っていった。


さて皆の衆。僕はまだやる事があるし、君たちにも言いたい事ややらねばならぬ事はあるだろうが、今は一つだけ伝えなければならないことがある。








今すぐ離れろ。ここから先は戦場だ。











「ルナ!! ステラ!! セツコさん!! 3人共怪我は無いか!?」



コックピットから降り、シンは周囲に向かって声をかける。

だがその声が響いた瞬間、背筋が凍るような重圧と共にMSデッキの中が途端に息苦しくなった。


「3人共、だぁ!?」


自分に多く集まる視線に、シンは周囲を見渡した。ギラつく瞳に体の節々が鳴る音……うん、敵しかいないね。「アスカktkr」→「うはwwwフルボッコwwww」の良い見本である。

3人との関係が周囲に知られてから急激に伸びた、ZEUTH内の裏サイトでのアンチスレ数2位(part42)は伊達ではない。ちなみに1位はカツ(3桁越え)。なんでだ、あいつ出番は皆無だったのに。

戦闘態勢に入っているのは彼女たちの友人やもてない男たち、そういうのを許せない人等。理由は様々だが、目的は一つのようだ。


「………何か、言いたいことでもあるのか?」

「いやなに、ハーレムなんて狙ってたらぶっ飛ばすって言いたいだけさ」


顔が汎用な整備士 (鉄パイプ装備) がシンに向かって声を荒げる。その気持ちは分からないでもないが、他人が口出しする権利は無いと思うのだが。

いや、彼らが言いたいのはとっとと女を誰か1人に絞って、余った2人を他の男が口説いても良いようにしろとそういう事か。

なるほどなー………ふざけんなモブ如きが。こっちはこういう関係になった時点である程度の覚悟は決めてるんだ。

傷の舐め合いだろうがぬるま湯だろうが、誰かに脅されるくらいで、俺が彼女たちの手を離すとでも思っているのかこいつらは。


なめるなよ? リンチが怖くて女が愛せるか!!


「向かってくるのか……逃げずに俺たちに近づいてくるのか……」

「近付かないと後ろの彼女たちを抱き締められないからな……」


所詮は名無し。前に出たシンに対し思わず後ずさりするモブ達。

だがそのうち覚悟を決めたのか、敵の中の数人が動く。


「キエエエエエッッッ!!!」

「五月蝿い」


跳び蹴りで襲ってきたのはカツ。いろいろ恨みを込めたその一撃はシンが左に半歩動くことによって空しく空を切った。

そして着地する間もなく踵落としでカツを地面に叩きつけたシン。だが


「シィィィン!!!この、馬鹿野郎!!!」


休む間もなくオーブの軍服を纏った青年が、シンに襲い掛かる。


「お、アスランが突っかけたぞ」

「行けぇ!! 先輩FAITHの力を見せてやれ!!」

「俺は神に感謝していることが一つある。奴が敵ではなかったことだ」


咆哮と共に繰り出されたアスランの鋭いワンツー。

だがその攻撃をシンは廻し受けで捌き、その勢いのままアッパー気味の掌底を顎に叩き込んだ。音も無く沈んでいくその身体。

糸が切れたかのように倒れこむアスランをまたぎ、シンは再び周囲に目を向ける。



「アスランを……格闘で……!?」

「聞きしに勝る猛将よ!!」

「あれアスランもう終わり? 父親から教わった逆転の必殺パンチは無いのか?」

「フン、だが調子に乗るな。アスランはZEUTHに入れた事が不思議なくらいの実力なのだからな」

「セイバー乗ってたからって射撃の育成しかしてないからこうなるんだよ」

「なるほど、あの2人はレベル外ってことか。カツとアスランの差も相当なもんだが、シンの前では違いが無いもんな」



こいつら手の平返しが半端ねぇ。

どうやら彼らにとって今のアスランは、獣の王様なワニとか六将軍に入ってたのに戦闘シーンが無かったナルシストみたいな微妙なポジションのようだった。

格闘養成してないアスランのジャスティスと熱血の組み合わせじゃ、他のスーパー系に比べて売りが無いもんなぁ。援護攻撃はそこまで使うこともないし。

まあいいや、今はアスランの事なんて考えている場合ではない。

ウォーミングアップにもならなかったが精神的な覚悟はできた。来るならやってやるという心境だ。

だが彼らはどうすれば納得するのだろう。全員倒すのも骨が折れるし、強い奴9人掛けでもすれば通してくれるんだろうか。

拳を鳴らしながら歩き出すシンの前に幾つかの影が立ちはだかる。



「言っておくが、俺はリンチのプロだぜ」

「ふつくしく散りたまえ。タナトスが君を呼んでいる」

「ステラの好きにさせてやりたいし、俺に父親ぶる資格は無いが……流石にコレはないもんな。まさか再びこのマスクを着ける日が来るとは」

「やめてよね。いくらシンでも、この面子に敵うわけないだろう?」

「ファットマン。やっちゃいなさい」 「ウス」

「ゲインの様な者には負けられん!! 今の私は、絶好調であぁぁぁる!!!!!」

「月は出ているか?」

「運命の翼を持つ者は滅する……」

「姐さんの想い人か。人の恋路を邪魔する気はねえが、少しばかし誠意が足りねえな。今だけ俺はクラッシャーになるぜ」

「ククク…君も堕ちてみるかい? 常闇の牢獄へ」



ちょ、9人掛けってレベルじゃねーぞ!! 食い残しどころか “腕の一本で済めばラッキー” ぐらいの超精鋭じゃねーか。どうする俺? とりあえず種でも割っとく?

死亡フラグのランクは最高クラス、手首を決めてくる元海兵のコックと対峙するくらい。いや待てそれフラグじゃなくて死亡宣告だろが迂闊俺。


しかもさっきから目の前に、歩き出そうとする気を挫くかのように立ちはだかっている強固そうな門が見えるんだが。それ以外にも地割れが見えたり吹いてもいない突風を感じたりするし。

なんだろうねコレ。まさかこれがあの有名な修羅の門ってやつかな? 違うか。

なんだかこの門をくぐったらやばそうだ。いつもの俺なら回れ右して逃げてるトコだけど――――


視線を遠くに向ける。その先には3人の女性。

寄り添ったまま、不安そうに自分をみつめていた。




―――彼女らが待ってるってのに、それはないよな。




腹を決めた。眼つきが変わったシンに気付き、7人が臨戦態勢に入る。


「借りは返すぜ、喰らいなアサキム!! 俺の魂のブレーン・バスターを!!!」

「ザ・ヒートめぇ……!! くっ、頭に血が上る……ッッッ!!!」

「ふつくしい……」


ちなみにあの2人は除外の方向で。あ、ランドさんそいつのドタマおもいっきりかち割っちゃってください。

何か思い入れでもあるのかサンドマンさんも何やらその光景に見入ってるみたいなので、動くとしたら数が減った今しかない。


踏み出す一歩。彼らの殺気で目前の空間が歪む。

だが退けない。ここを通らなければ掴めないものがあるのだから。



「―――――――やれやれ。自由の代償は高いぜ」



立ち止まる。

メサイア攻防戦の後でデュランダル議長から受け取ったFAITHの勲章を手に取り、己の心臓に押し付けた。



「夢を抱き締めろ。 そして彼女たちへの想いは、手放すな………!!」



目を開く。

怖くないといえば嘘になるが、彼女たちの為なら命だって惜しくは無い。





「いらっしゃいませぇ!!!!」





飛び込んで行け、夜へ――――

















戦いは熾烈を極めた。




アスハムはそんなに強くないので時間をかけずに一蹴。

ファットマンは身体の末端を攻撃してバランスを崩してから、故障している膝へローキックを思い切り叩き込んで戦闘不能。

鉄也は強かったが、その最中にジュンがぼそっと呟いた 「戦いのテクだけはあるのよね」 の発言にペースダウンし、最後は男泣きしそうな顔で棄権を申請。

頭翅は宙を舞って撹乱してきたものの、遠くでこっそりとキスしてたアポロとシルヴィアの姿に驚愕したところに右アッパー→左フックというコンビネーションが命中。

比較的最近に神の子(自称)を失神KOさせたコンビネーションなので、神ならぬ堕天翅くらいならしばらく沈んでくれるだろう。


無論、一方的なシン無双だったわけではない。実際疲れもあったためネオにはやられかけた。

がしかし、止めを刺される瞬間に乱入してきた金髪ロンゲのマスクマンが 「俺、参上」 と言いながらレッグラリアートを叩き込んだり(すごい正体が気になる。誰なんだろう)、

参戦しようとしたニートに背後からランスローが 「おっと、お前の相手はこの俺だ」 とベジったりと仲間にも助けられた。



「それでも!! 羨ましい世界があるんだーーーっっっ!!」

「アンタって人はぁぁぁぁ!!!」


そして今、シンはキラとのライダーキックの打ち合いを刹那の差で制した。勝敗を分けたのは2人の戦い方による育成の差だ。

ほぼ射撃しか育成する必要が無いキラに比べ、シンは格闘を育成することが多かったため何とか勝てた。だがそれまでの激戦のダメージが大きく片膝を付いてしまう。



「ぐっ……あと何人いるんだ……」

「どうやら、そこまでのようだね」



そんな彼を見下ろすのはサンドマン。よりにもよってこの人が大トリか。

やっぱり人生ってそう甘くないよな。



「感心、いや敬意と言っても良いかもしれない。まさかこのメンバーを破って、私の元にまで辿り着くとは予想できなかったからね。

 君の彼女たちへの想いは良く分かった。だがここは一度退いて、落ち着いて考え直してみるんだ。………今の君のあり方は、美しくない」



勝利を確信し(尤も負けることなんて最初から考えていなかっただろうが)説教モードに入ったサンドマン。

言っていることは正論だ。立場が違えば自分もきっとそう言うだろう。

だがシンはその言葉を受け入れる事はできない。理由がなんだろうが、自分が先に彼女たちの手を離すことはあるわけがない。



「………」

「そうか。……残念だ」



喋る力さえ湧かなくて、とりあえず首を横に振った。

僅かに視線を落とすサンドマン。だがそれも一瞬のこと。



「ならば美しく――――」



シンとの距離を歩いて詰め、右拳を引いて構える。そしてその長身から拳が振り下ろされた。





「――――散りたまえ!!」





手首、肩、腰、膝、足首、足の親指。全ての関節から伝わった力を乗せた、サンドマン渾身の右ストレート。

シンの頬に衝撃が奔る。膝から力が抜けると同時に、地面に前から崩れ落ちた。

拳に確かな手応えを感じたサンドマン。周囲の者に治療を頼もうと、倒れたシンに背を向ける。



勝負あったのか。これで終わりか。


倒れ伏せたシンの視界が白く染まり、全てが終わ――――










「まだ立つのか」



サンドマンの声に意識が戻る。気が付けば、いつの間にか立ち上がっていた。どうやって立ったのか覚えてはいないが、この際そんな小さい事はどうでもいい。

力があるなら立ち上がる。立ち上がれるなら抵抗する。抵抗する以上は必ず勝つ。


このまま終わるわけには、いかない。



「そりゃあ。……だってそうでしょ? 勝つのはアンタじゃない、俺なんだ。間違いなくね」

「……シン、今の言葉をもう一度言ってくれないかな」


開いた口から出てきたのは大言壮語。だがその言葉の全てが法螺だというわけでもない。今の一撃で分かったこともある。

確かに正面から行ったらシン・アスカの力では、どうあがいてもこの人を打ち倒すことはできないだろう。

だけど。



「何度でも。サンドマンさん、アンタが次に仕掛けたとき。戦いは俺の勝利に終わります」



勝つのは、俺だ。




大言に思わず溜息を吐きそうになったサンドマンだったが、シンの目を見てそれを止める。

冗談や虚勢を言っているのではない。そのことを一瞬で理解したからだった。


「……窮鼠猫を噛む、か。この絶望的な状況下にもかかわらず未だ衰えぬ闘志。どうやら今の君は精神が肉体を凌駕しているようだ。

 ならば私も全力でかからなければならないだろう。その意識ごと」


一瞬で間合いを詰めるサンドマン。体重の乗った打ち下ろしの右を再び打とうとして


「断ち切―――かはっ」


動きを止めた。

彼の目の前にいるのはシン・アスカ。交差した腕をサンドマンの首元に押し付け、力を込めている。

傍目からでは何が起こっているかわからない。わかるのはシンによってサンドマンが何やら苦しんでいるということだけ。


「な……何で締めているというんだ……!?」


そう。今のサンドマンの発言の通り、シンが行っているのは締め技だ。

だが彼には何故自分がダメージを負っているのかがわからないのだろう。現に今も必死にシンの腕を掴み、ただ引き離そうとするだけだ。


それこそがシンの狙い。

彼を倒すのに、おぼつかない体での打撃など論外。関節技や投げも決まるとは思えない。残るは締め技しかないが、例え完璧に裸締めを決めたとしてもおそらくサンドマンなら返すだろう。

シンが勝つには彼の意識の外、つまり彼が思いもよらない技でしか勝利は奪えない。


「1回こっきりのチャンスだった。貴方が傷ついた俺に止めを刺す理由を口にしていたとき――――これ以上俺を傷つけたくないのがわかった。優しいから」


締め上げる。軋む脇腹の痛みは無視した。


「案の定。止めの一撃は力が抑えられていた」


締め上げる。定まらぬ視線を気にせぬよう目を閉じた。


「そしてワンチャンス。傷ついた体で、しかも貴方が予想だにしない攻撃となると………」


締め上げる。締め上げる。これでもかというくらい締め上げる。

そうでもしなければあっさりと引き剥がされてしまうだろう。サンドマンの手には今も、それぐらいの力が残っていた。



「これしかなかった」



握り締めているのは黒く長い紐のようなもの。



「あ、あれ私のニーソックスじゃない。いつの間に」



愛する彼女の黄金聖衣だった(黒だけど)。



「サンドマンさん。この技を最後に俺…倒れます……。そのときあなたが立っていたなら」



SEEDが覚醒し、全身の神経が研ぎ澄まされる。残された力はごく僅か。もって十数秒といったところか。

これが耐えられればもう自分には攻撃手段が無い。ならば――――



「あなたの勝ちだ」



その十数秒、己の力を高めるのに費やすまで!!



「うおおおおおおっっ!!」

「~~~~~~~~ッッッ!!!」



時間にしておよそ20秒。シンの手から力が抜ける。

同時に両膝を付くサンドマン。何かを掴むように手を空へ伸ばし――――そして倒れた。

絶叫のような歓声をあげる周囲のギャラリー。だがそれすらシンの耳には届かない。息を弾ませたまま天井を見上げている。



「ああ、シン!!」

「シン君!!!」

「シン、だいじょうぶ!?」



声の方向に目を向けると、群衆を掻き分けながら自分に向かって飛びついてくる3つの影。誰かはいわずもがな。

崩れ落ちかけたシンの体を抱き締める。



「良かった……!!シン君、無事で良かった!!」

「シン、絶対勝つって信じてたんだからぁ!!」

「うん!!」



身体中が痛いけれど。報酬がこれならば、戦った甲斐はあった。

このぬくもりを手に入れられたのなら。もう自分には、他に欲しいものなんて無い。


「ただいま………」


3人に体重を預けると、再びしっかりと抱き締めてくれた。









しばらく3人にもみくちゃにされたシンを待っていたのは、ギャラリーたちの拍手だった。

すぐ側でレイヴンに肩を預けて立っていたサンドマンが、歯を光らせてシンに微笑む。他に倒された者も痛む箇所を押さえながらも笑いかけてくれた。

遠くでは金髪の男性が仮面を放り投げ、背中を向けて去っていくところだった。あの長髪はどこかで見覚えがある気がするのだが、一体誰だったのだろうか。せめて名前だけでも聞いておきたかったのだが。

そんな自分の思考を掻き乱すかのように、男連中が周りに集まってくる。


「ナイスファイト、シン!!」

「良いもん見せてもらったぜ!!」

「ここは一つシンを胴上げじゃい!!」



「「「「しっんあっすか!!! しっんあっすか!!!」」」



胴上げされる自分の身体。現金な奴らめ、お前ら敵じゃなかったんかい。

まあいいや。悪い気はしないし、彼女たちの笑顔を見れたのだ。今までの不幸を考えれば夢のような境遇だし……ん?夢?

何かを考えかけたシンの思考を、どっかで聞いたことがあるようなEDテーマがかき消していく。





DEAR ZEUTH ~正義の愚連隊たちへ~






DEAR ZEUTH……って歌うなこんなとこで。削除されんだろうが。














(まずいなー、この流れ)











そして。




「ああああああっっ!!!! ハア、ハア、イッちゃった………やだ、腰抜けそぉ。きゅ、究極側の発表は以上よ!!」

「負けません……至高側の発表、開始します!! シン君、行くよ」

「シン、だいじょうぶ? ステラが膝枕してあげるね」

「なんちゅうことをしてくれるんや……なんちゅうことを………」




しばらくの。




「アスラン君がまたザフトに戻ったんだって」

「うん。このあいだレイが言ってた」

「またぁ!? 姉としてはいい加減メイリンへの責任とって欲しいんだけど」

「心配するなよルナ、人間関係のもつれか女性問題で3ヶ月もすればオーブに戻るさ。……女性問題と言えば、カミーユの退院はまだだっけ」

「病室でまた修羅場が起こって、1ヶ月伸びたわ」




平和な時が流れて。




「あ、今この子お腹蹴ったよ、シン君」

「ずいぶんおっきくなりましたよね。まあ私もだけど。つか流石に双子はきつい……」

「ステラ、3つ子………」

「金を作らねば……デスティニーを売るしかないのか?いやいや、あいつと一緒に戦ってきたんだ、そんな事できるわけ」

「ソードシルエットならいいわよ? エクスカリバーさえ外せばだけど」

「不憫な」











(なんだか嫌な予感がするんだけど)











「少し疲れたな。こう仕事が多くちゃ、それも仕方ないけどさ」


やっぱり政治家になんてなるんじゃなかったと呟き、ソファに背を預けて溜息を吐くシン。この部屋を自分の仕事場としてから、もうこの類の愚痴を何度言っただろう。

そんな事を考えながらかつてのデュランダル元議長並みに長くなった髪を掻き上げ、視線を机に向ける。

そこにあるのは数年前の結婚式の写真。仕事中の彼の、唯一の心の拠り所だ。

白のタキシードを着て髪の毛をオールバックにした自分が、仲間や愛する妻たちと共に笑っている。


「アスカ議長、まもなく閣議の時間です」


書類を脇に抱えた金髪の補佐官がドアから部屋に入ってきた。疲れ果てたシンの姿を見て僅かに眉を顰める。

トップが人の前で弱さを見せてはならない、それが彼のよく言う言葉だった。とはいえ彼もシンに 「それを見せるのはお前の前だけ」 と返されて黙るのだが。


「わかった。それと、公の場以外では敬語は止めてくれっていつも言ってるだろレイ。議長だろうがなんだろうが、俺とお前は親友で相棒で対等なんだぞ」

「だが立場というものが………そうだな、以後気をつけよう。見たところ随分疲れているようだが、写真なんか見て昔が恋しくなったか?」

「疲れちゃいないよ。ただ、皆は今頃どうしてるかなって思っただけだ」

「そうか。俺もたまに思い出すことがある。あのとき皆と精一杯走った時代を。ZEUTHの仲間の事を」


ZEUTH、それは彼の青春を表す言葉。無論今の自分も十分若いが、あそこに所属していた時を越えるほどの濃密な時間はもう過ごす事はないだろう。

熱く駆け抜けた日々。共に戦った仲間への想い。それは今も尚、自分の胸の奥に宿っている。

しばらく逢えていない者やあれ以来連絡が取れない仲間もいるが、彼らが今もそれぞれの場所で頑張っているのは間違いないだろう。そういう奴らしかいなかったし。


なら俺も弱音なんか吐いている場合じゃないな。


そう自分に喝を入れ、力強く立ち上がるシン。そんな彼を満足そうに見ていたレイが、今思い出したとばかりに声をかけた。


「それと言いそびれていたが、さっき奥さんから電話があったぞ」

「奥さん?」


レイから発せられた 『奥さん』 という単語に、きょとんとした表情をするシン。もう一度写真に目を向け、すまなそうにレイに言葉を返す。



「悪い、レイ………どの奥さんだ?」



机の写真の中には、ウエディングドレスを着た3人の美女が笑顔で写っていた。














(ああ、本当にやばいわこりゃ。


 だってこういうのって、大抵が―――――)
























『夢』



















「うらー!!シン、とっとと起きろよなぁ!!!」


誰かの蹴りによって起こされる。じんじんと痛む頬。目の前には兜甲児。蹴ったのはお前か。


「あれ?俺の奥さんたちと子供は?」

「何言ってんだお前? 寝言なんか言ってないで、とっとと起き上がれよ。もう皆行くところだぜ?」


遠くに見えるのはサンドマン。その首に絞められた跡なんて見えないし、ポケットの中のニーソは丸まったまま。………やっぱり夢オチか畜生。

思い出したかのように始まった頭痛に顔をしかめながら、シンは問い返した。


「行くって何処へさ?」


周囲には甲児以外にも万丈やロラン、そして愛する3人の女性の姿があった。それ以外の面々はちょうど今MSデッキの出口から外へ出ようとしているところである。

特に変わったイベントは無さそうだ。部屋に帰るだけならそんな言い方しないだろうし、一体何を言おうとしているのか。


「馬鹿だなお前は。勝利の後は宴会って相場が決まってんだろ!! ですよね、万丈さん」

「そうだね。これからは違う戦いが僕たちを待っているんだ。せめて今ぐらいはそれも許されるだろう」

「ああ、そういうことか……」


シンが体を起こしたのを確認し、残っていた仲間も出口へ歩き出していく。デッキに響く明るい笑い声。だがシンは万丈の最後の言葉が引っ掛かった。


違う戦いが待っている、か。


そうだ、これからもきっと、人々の間で争いはなくならない。今のような馬鹿騒ぎもできなくなるかもしれない。

今回は平和を守る事が出来たとは言え、ZEUTHだって仲間同士で殺しあうという間違いを犯したのだ。覚悟は決めているものの、自分も道を間違えない保証は無い。

先ほどまで戦っていた変態の言葉を思い出していやな気分になった。

結局のところブレイク・ザ・ワールドから目先の危機を回避しただけで、世界も自分も何も変わっては――――



「シン、立って」

「行こう? シン君」

「ほら、早く掴まりなさいよ」



いや、変わっていることならある。差し出される3本の手。今の自分の傍には彼女たちがいる。

それだけではない。

出口で立ち止まったまま自分が立ち上がるのを待っている、沢山の仲間たち。

お前も早く来いと言わんばかりに此方を眺めている彼らを、信じられない理由なんてない。




「ああ」




不安はある。恐怖もある。もしかしたら、デスティニープランをやっておけばと後悔する日もあるかもしれない。

望まない戦いに心が磨り減ってしまうかもしれない。

考えたくはないが、再び大切なものを失ってしまうかもしれない。



だけど。




「今、行くよ」





これだけの人に支えられてるんだから。





道を間違えることは、きっとないだろう。

















[6402] シークレットエロローグ前編 「枯れ果てろ!!熱戦・烈戦・超激戦」
Name: ドダイ改◆1fc724b0 ID:cb680aa8
Date: 2009/12/03 01:19




カーテンの隙間から差し込む柔らかな朝日と共に目覚める。

宇宙にいる事が多いのでそんな起き方はもう数ヶ月以上していないが、朝のまどろみが気持ち良い事には変わりない。見慣れた天井を見つめたまま、シンはボソリと呟いた。


「ちょっと早く起きすぎたかな……?」


昨日の行為の余韻がまだ残っているのか、下半身には暖かい何かに包まれているような気持ちの良い感触があった。

シンはベッドから体を起こし机の上の時計を見上げる。いつもの起床時間より数十分早いけれど、寝直すには少し短そうだ。

一緒に寝ていたはずの少女の姿は隣には無い。寝ていた場所に触れるとほのかに体温が残っていた。

シャワーでも浴びているのだろうか。だったら少し早く起きてしまったこともあるし、俺も一緒に浴びて背中でも流してあげようかな。そう思いながら周囲を見渡す。

まず目に映ったのは乱れたシーツ。いくつか転がったティッシュの塊に散乱した服と下着。盛り上がった掛け布団。……ん? 盛り上がった?


もしかして。


慌てて布団を引っぺがすと、目に映ったのは上下する金の髪。



「ちゅぽっ、ふぅ、はむ、じゅっ、んぅ? ……ふぉはょう、シン」



ただいまお口でご奉仕中。昨日の夜のお相手、我らがステラさんの姿があった。


「おはよう……なんでそんなことしてんの?」

「だって2人が、じゃなくてシンのが大きくなって苦しそうだったから。いっかい出してらくにしてあげようと」


それは朝になると必ず起こる男の生理現象というやつなのですが。ああでも気持ち良くて何も言えねぇ。

言葉が出ないシンの姿を納得したものと勘違いしたのか、行為を再開し始めるステラ。裏筋を舌先が掠るように上っていった。そこはあかんですよステラさん。

自分の動きによって気持ちよさそうに顔を歪めるシンの姿に思わずステラは笑顔になる。彼にもっと喜んで欲しくなって、さらなるサービスを行うことに決めた。


「ちょっとまってね。今からシンが好きなのをしてあげるから」


足を開いたシンの腰を自分の両膝に乗せ、覆いかぶさるように自らの豊満なバストでシンのものを挟み込むステラ。

そのまま胸の谷間に唾を垂らし上下に揺する。

はっきり言ってエロい。寝起きで頭の回らない時にされていい攻撃ではない。

胸の柔らかさは言うに及ばず、綺麗な乳首やチロチロと触れる舌先。それに加えて小首を傾げながらこちらを見上げる彼女の可愛さを目にしてしまえばもう、


「す、ステラ!! 俺もうっ!!」

「きゃあっ」


こうなるのはコーラを飲めばゲップが出るくらい当然の事なのである。

体を起こし入れ替えると、押し倒された彼女は戸惑った表情でこちらを見ていた。


「ステラ、良いよね……?」

「え、しちゃうのシン? ステラ、これで終わらせるつもりだったのに」

「嫌なら言って。……なんとか我慢、してみるから」


そう言いながらもステラの太ももを優しく撫でるシン。その妖しい指先からは言葉通り我慢しようとする気配は欠片も感じられない。

そしてシンに対して強い奉仕願望のある彼女が彼のそんな様子を目にすれば、断ることなど考えるわけも無く。

自分からシンの唇を吸い、笑顔と共にOKサインを出した。


「いやじゃないよ。でも、声が漏れたらいやだから」


そう言うとステラは両肘をベッドにつき、後ろを向きながらぷりんとしたヒップを高く上げる。半分ほどずり落ちた純白のショーツが扇情的だ。


「やさしくして、ね?」


どうぞ美味しく食べてください、そう言わんばかりの可愛いステラのしぐさ。これに応えない者をシンは男とは認めない。まあ他の誰にもやらんけど。

改めて今の自分の格好を振り返り頬を紅く染めるステラを笑顔で見下ろしながら、シンは答えた。


「ごめん。それ無理」

「ええ!?」


驚く彼女をよそにシンは後ろから覆いかぶさり、背中に舌を這わせながら彼女のショーツの中に指を入れる。

指先に感じたのは水分。どうやらステラはご奉仕しながらも興奮していた模様。まあ仕方ないよね、若いんだし。


「ステラ、濡れてるね?」

「だ、だって……んっ」


ステラの言い訳を乳輪のラインを中指の腹で優しくなぞることでシャットダウン。続けてこの後の行為を想像させるために熱く滾った己の大剣を彼女の下腹部に押し付ける。

だがシンのアロンダイトはステラの鞘に納刀されることなく、表面だけを擦りながら通過した。


「ああっ!!!」


敏感な突起を刺激されたため思わず太ももを閉じるステラ。だがその行動は最愛の彼のものを挟んでしまう形となり、逆に密着具合が強くなってしまった。

予期せぬ素股に腰が砕けそうになったステラを見て、シンは即座に次のステップに移ることを決意する。

ぷにぷにした太ももに興奮しないわけではないが、それに構わず彼女の胸をむにゅむにゅと揉みしだく。童顔に似合わぬ豊かな双丘がシンの掌によって歪に形を変えた。

それにしてもけしからん乳である。大きさといい形といい乳輪の程よい大きさも合わせて、シンを溺れさせる為に成長したとしか思えない。


「そ、そんなに強く揉んじゃだめぇっ」

「そう? じゃあ、ここは?」

「そっちはもっとだめぇ!!」


↑X↓BLYRA。上上下下左右左右BA。そんな感じでステラの巨乳を摘み、弾き、揺らし、揉みしだくシンの指。

次第に狙う箇所も胸や股間だけでなく、太ももや尻はおろか耳や首筋、背中などに広がっていった。軽くではあるもののお尻の穴まで攻めている。

そんなシンの繊細かつ大胆な指使いに段々と息が荒くなってきたステラ。愛撫の時間は短かったが、フィンガーマスターアスカの異名は伊達ではない。

現に彼女の目はとろんと惚け、力の抜けた口の端から零れる涎が銀色の絃を引いている。もう頃合かな。


「ステラ、それじゃ入れるね」

「はぁ、はぁ、はぁ。シン、でもいま朝なのに。もし外に聞こえたら……んぅっ、入ってきちゃった……あん」

「あ~気持ち良い……。大丈夫だよステラ、この部屋防音だから」


快感に耐えられないのか、尻だけ高く上げたまま必死で枕を抱きしめシンのピストンを受け止めるステラ。

最初はゆっくり抜き差ししたり腰を円を描くように動かすなど優しい動きに終始していたシンだったが、時間が経つにつれそのテンポもリズミカルなものに変わっていった。


「あ、あっ、ああっ、うぁぁっ」

「だから、大きい声出して構わないよ?」


ギアをトップへ。覆いかぶさったまま全身を密着させ、腰だけを激しく動かす。

まるで獲物を貪る獣のように激しい動き。その攻撃はセツコはおろかルナマリアすら撃沈させる最近のシンのフィニッシュホールドの一つであるため



「あっ!! ふぁん、あぁ!! はっはっはっ、んあぅぅ!! か、かんじちゃうよ~~~っっ!!! もっと、もっと突いてぇ!!!」



性交を覚えて数ヶ月の少女に、耐えられるはずも無かった。



「まだ激しくして欲しいのかステラ!? だったらもっと大きい声を出して!!」

「あーーーーっっ!!! ああーーーーっっっ!!!!」





鬼かこいつ。


















昼、女子トイレの個室。



シンの目の前でトイレの便座に座り込み、頬を紅く染めて息を弾ませているのはルナマリア・ホーク。

赤服や下着はドアの服掛けに引っ掛けているので、身に着けているのはニーソックスにブーツのみというほぼ生まれたままの姿である。


2人がこんな所でこんな状況になっているのに大した理由は無い。

周囲に誰も居ない状況。他愛も無い会話の切れ間に、付き合ってるカップルの目と目が合う。

そうなれば情熱的なキスくらいは自然な流れであるわけで。しいて言うならキス1回で2人に火が点いてしまったのが誤算といえば誤算か。

サカっちゃったもんは仕方が無い。真昼間から互いの部屋に篭るわけにもいかず、またこの時間に誰も来ない部屋というのが近くに無かった為、

やむなく近くにあったトイレの個室に入ることになったのだった。2人が場所を考えるのも面倒臭くなるくらい我慢できなくなったというのもあるが。

ちなみに彼らが入ったのは女子トイレの方。このトイレに女性が来たのを見た事が無いという2人の記憶に、男子トイレだと隣で大でもされたら本気で萎えるというシンの猛プッシュもあったので

最後にはルナマリアが折れる形で女子トイレに決まったのだった。



「行こう。この中には俺たちが望む場所がある。俺にはわかるんだ」

「………ふ~~~~ん。そうやって、ごまかしますか」

「行くぜ!!!」



彼女も蜜蜂の館に入るかのように突入したシンに思うところが無かった訳ではないのだが、一緒に個室に入り抱きしめられた時点でそんな思考は吹き飛んでしまった。

恋は盲目とはよく言ったものである。


最初は何故か服を脱がされおっかなびっくりされるがままだったルナマリアだが、そのうち本当に此処には誰も来ないと理解すると覚悟を決めた。

本気になったシンと10分以上もの間休まずディープキスで舌を絡ませ合いながら、空いた手でお互いを愛撫するというナイフエッジ・デスマッチも顔負けの決闘を開始、

何これスパロボSAGAかピクルとジャックの噛み合いでも始まったんですかと言わんばかりのバトルを繰り広げた。もう本当に駄目だと思いますこのふたり。


CE随一を誇るテクニシャン2人の凄まじい攻防は長期戦になるかと思われたが、ノーガードの打ち合いは女性である分敏感な箇所が多いルナマリアが次第に劣勢となっていく。

そして最後には腰が落ちて思わず便座に座り込んだ防戦一方の彼女にシンが止めのパルマフィオキーナを秘所に炸裂させ、

絶頂と共にGN粒子散布という形で第一ラウンドが終了したのだった。


今は次のラウンドに向け、座ったまま脚を大きく開いた彼女に奉仕している真っ最中である。


「ふぁぁ、はぁ……ほんと、誰か来たらどうすんのよもう。私も私でこんな格好だしさぁ。 ……あ、そこ舌で弾いちゃダメぇ……」

「わがまま言わないの、誘ってきたのはルナが先だろ? ほら、お尻こっちに向けて」

「うん……。あ、ちょっと待ちなさい。ゴム着けてあげるから」


そう言うとルナマリアはコンドームを口に咥えたまま、手を使わずにシンのものに被せた。

基本的にいつもは生でやってる2人だったが今回ばかりは話が別である。お互いの部屋でならともかく、こんな時間にこんな場所で膣内に出されては後々ルナマリアが大変だ。


「ん、これでよし。……お手柔らかにね?」


2ラウンドめ。コンドーム越しの先端によろしくとばかりにキスをした後、壁に手を付きお尻を突き出すルナマリア。シンもそこに自分の先端をあてがった。

その途端、トロトロになった彼女の秘所にシンのものが少しずつ呑み込まれていく。


「うぁ、くっ……やっぱすごいなルナの。この瞬間って、いつもたまんない気持ちになる」

「あん。……私も」


ルナマリアを後ろから貫いたままシンは彼女の唇に向かって顔を寄せる。最初は必ずキスからというのがいつも彼女にされている要望だ。

自分の言葉がなくとも顔を近づけるシンに笑顔を返すルナマリア。

そして2人はついばむように何度かキスしたのち、どちらからともなく腰を動かし始めた。


「はぁ、はぁ、はぁ、んっ」


腰と尻がぶつかるリズミカルな音が女子トイレ内に響く。もう一度言おう、女 子 ト イ レ 内に響いている。

言っておくがシンには女性の排泄に興奮する趣味などない。むしろ興奮する者に引くくらいである。そして今もできれば誰も来て欲しくないなという思いはある。

だがそのマイナスを抱えても良いくらいに、女子トイレでエッチするという事は男を燃え上がらせる何かがあるのだ。


「は、ちょっと、シン強いってぇ。ん、音がふぅっ、響いちゃってるじゃない」

「ごめん。俺何か舞い上がってるみたいだ」


ルナマリアの咎める声に謝罪するもののシンの腰は止まらない。股間に大剣ぶら下げてる者ならば、この状況で舞い上がらないわけがないのだ。

視線の先には色っぽいうなじと波打つ尻肉。鼻をつくのは女の子特有の甘い匂い。お互いの下腹部がパコパコと音をたて、コツコツと鳴る軍靴の音と混ざって心地よいリズムを―――


コツコツ?


(ね、ねえ!! 誰か入って来たわよ!!)

(マジでか)


ルナマリアの抑えた声に思わず腰の動きを止めるシン、それと同時に誰かがトイレに入ってきた。文字通り間一髪である。

バレるかもしれないという思いから頭からは熱が引いた。それは良いのだが、彼女と触れ合っている下半身だけはそうもいかずに熱く滾ったままだ。

自慢のアロンダイトは当然の如く脳 (理性) に向かって突入を要請してきている。室井さん聞こえるか。事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ。

そんなん言うな青島 (本能) 、頼むから耐えてくれマジで。室井さん(理性) だって眉間に皺寄せて耐えてるじゃないか。


ああでもそんなに我慢できそうも無いなこれは。いつもの自分ならとっくの昔に誘惑に負けて腰を動かしているところである。もし動かしたとしても、ルナも文句を言いつつ応えてくれるだろうし。

しかしこの状況でそれはやばい。絶賛接続中の現状に加え、隣にはほぼ全裸のルナマリアがいるこの状況は。

女子トイレでそれは考えにくいが、音が聞かれて上から覗き込まれたりでもすれば速攻アウトなのだから。


(は、早く出ていって……)


お尻を突き出したままの姿勢で使用者が去るのを待つルナマリア。緊張と焦りから下半身に力が入ってしまい、些細な物音を聞くたび断続的にシンのものを締め付ける力が強くなる。

シンにとっては目の前のプリプリした美尻と腰のくびれの光景も合わせて拷問に等しい。締め付けられるたびに思わずビクリと反応してしまう。

抜けばいいじゃんと思う者もいるかもしれないが、人間は快楽から逃げることって難しいのだ。

ルナマリアも当初は声が出ないよう右手で口を押さえていたが、そのうち片手で体を支えることが難しくなったのだろう。


(シン、動かさないで。何だかわかんないけど、外の人トイレに入らないのよ)


腰が知らず知らずのうちに動くシンを注意した後、貯水タンクを持つ手を両手にして未使用コンドームの袋を口に咥え思い切り噛み締めた。


(そんな事言ったって……)


化粧でも直してるというのか。なんでこんな時に。

すんませんマジで限界です。まだかルナ、 「もう、頑張るの、やめよ?」 はまだか。

もう焦らすとかバレそうなドキドキがスパイスとか言ってる場合じゃない。体の全細胞がGOと叫んでいるような感覚。

欲望を抑え続けていた理性も段々と弱まっていき、次第に頭の中がルナマリア一色に―――


青島、確保だ!!


(了解!! ってやべ)

(ひゃう!? ちょ、何してるのよ!! 少しは状況を考えなさいよね!!)


どこからか聞こえた頼りがいのある声 (幻聴) に、つい腰が反応してしまった。腰の方も一度動くともう止められない。

突かれた衝撃で猿轡代わりのコンドームが床に落としてしまったため再び口に手を当て必死で声を耐えるルナマリアを他所に、シンのアロンダイトはルナマリアの膣内を抉っていく。

ペースは程々に抑えてはいるが、水音やぶつかる音も完全に消えているわけではない。外の人間に聞こえてないと良いのだが。


(んっ、んっ、んってばかぁ、乳首はだめだってコリコリはしなくていいから。声がでちゃうでしょ……!?)

(ルナ、ルナぁ……)

(そ、その目は卑怯よ!! ……もう、しょうがないなぁ。音立てずにゆっくりして……キスで口塞いでる間だけなら、なんとか。ん……)

(ん……)


ゆっくりと、本当にゆっくりと腰を動かしながらキスを交わす事で口を塞ぐ2人。

そのうちお互い鼻息を荒くしてはいけないし唾もすすれないという制限がうっとおしくなり、せめてキスぐらいは愛情の篭った深いものに移行しようと密着具合を増したそのとき、



「え~と、その……。お前たち、楽しんでいるところ悪いが」


「「――――――!!!!」」



思わず腰を止め驚愕する2人。だってこれって、この声って。


(うそ、ハマーンさんだったの!?)

(なんでよりにもよってこの人なんだよ!! ……ぐっ、また)


ここでまさかのハマーン・カーン乱入。キツい物言いと厳格な雰囲気のせいもあって、カミーユやエイジなどハーレムを持った男たちが一番苦手意識を (勝手に) 抱えている女性である。

思わず自分の運の無さに絶望したシンだったが、すぐに思い直す。確かにニュータイプ能力でトイレの中にいるのが自分たちだとバレているかもしれない。

しかしまだ彼女は自分たちの名前を呼んだわけではない。出て来いとも言われていない。

つまりこれはこのまま彼女が出て行くまで待てば、何も見なかったという扱いにしてくれるのだろう。たぶん。


(うわ、締め付け、凄いな……)


だがここで問題が一つ。場所は下半身の接続部分。

今まではウォーミングアップ、ここからが10べぇだと言わんばかりにキュンキュン締め付けてくるルナマリアの媚肉に、シンは声を抑えるのが精一杯だ。

これはいつ吐き出してもおかしくない。今回ばかりは流石の室井さんも命令など出さず、キリタンポでもつついて時が来るのを待つ策を取るだろう。

待て、キリタンポか……。ルナに俺のキリタンポを思う存分頬張って貰うという案も……雑念禁止!! クールだ、クールになるんだシン。


「別に、私はお前たちの邪魔をする気はない。そちらの事情もあるだろうし……」


体を震わせる2人を他所にハマーンの言葉は続く。すんません、ルナは二の腕に鳥肌びっしり立ってるんで早くしてやってください。


「一応入り口には清掃中の看板を置いておくが……その……」


ごくりと唾を飲み込む2人。前振りが長いけど、何を言うつもりなんだろう?



「避妊は、しっかり行うように……」



言われんでもやっとるわ。GOサイン出すくらいなら早く出て行って欲しかった。離れていく気配と軍靴の音。

溜息と同時にルナマリアの肩ががくりと落ちた。傍から見ても彼女の体力とそれ以外の何かが抜けていくのを見て取れる。おつかれさま。


「ふはぁっ。もしかしなくても、あの様子じゃバレてるわよね……んんぅっっ!!!」

「バレててもバレてなくても、あの人はきっと誰にも言ったりしないだろ。それより俺たちが今気にするのはそんな事じゃないんじゃないか?

 俺はもう我慢できない。……ルナだって、こんなに!!」


もう2人を縛る枷は無くなった。快楽の赴くまま激しく彼女の中に突き込むシン。

ダムによって堰き止められた水は、ダムが決壊すれば貯めていた分勢い良く下流に流れていく。それと同じ事である。


「つ、続きは良いけど激し過ぎよ!! 音が……外に……!!」

「そんな事言ったって、今のルナ、締め付けがハンパじゃないじゃないか。もう観念して、素直に俺を感じて」

「もう、十分に、素直に、なってるってばぁ!!」


シンとのSEXはいつもこんなのばっかりだ。ロマンチックなのは良くて最初の数分ぐらい。そのうちお互い凄く動きが激しくなって、意識がドロドロに溶け合って、

気がつけばヘロヘロになった2人が抱き合ったままベッドに転がっている。そんでシンの腕の中で就寝。

合間合間のインターバルに短い時間いちゃつくくらいで、自分が好きなビロートークにもつれ込んだ事なんてほとんどない。

それが嫌だと言う気は無いが、そのあたりはどうにかならないものだろうか。全部いつも私を貪ってくるシンのせいだ。たまには私に主導権を握らせてくれてもいいのに。そしたらもっと甘いひとときにするのに。


まあ、そんな男から離れられない私も私だけど。


「このバカ覚えてなさい!? いつか必ず第2第3の刺客が現れて、あんたを、シンをヒイヒイ言わせてやるんだから!!」

「後のことはどうでもいい。今はルナを抱き続けたい」

「はぁ、あん!! こんな、こんな時の言葉なんて、私は絶対に信じてやんないんだから……!!!」

「信じてくれなくてもいいよ。でも、今だけでもいいから、愛してるって言って……」

「!!! …………あ、あいして――――」




「こほん」




がつん。びくびくっ。



「なっ!? ぐぅぅぅっっっ!!!」

「る、あ゛ぁぁっっっ………!!!」


びっくりしたシンによるこれまでに無い強烈な一撃が不意打ち気味にルナマリアの最奥に命中し、彼女の目に火花が走る。

膣内に感じるのはゴム越しの射精と痙攣するお互いの腰の振動。2人とも予期せぬタイミングで絶頂に達してしまった。

急激な快楽に頭がショートし、彼女は息もできぬまま口をぱくぱくとさせている。



「戻る気は無かったのだが、お前たちの声が外にまで響いてるから。その……ほどほどにな」



そう言うと再びハマーンは女子トイレから去っていく。いま遠ざかってますよと言わんばかりにわざとらしく鳴らされた軍靴の音が、段々と小さくなっていった。

今度こそ戻ってくることは無いだろう。


「く、はぁっ!? ………はぁっ、はぁっ!!」


ルナマリアを後ろから貫いたままシンは座席につく。座った衝撃で再びずんと突き上がる肉棒。その刺激によってようやくルナは呼吸をすることができた。

そのまま前に向き直り、彼女はシンに必死に抱きつく。そうでもしないと体を起こしていられないらしい。

押し付けられた胸から感じる躍動は、破裂するんじゃないかと思うほどだ。


「だ、大丈夫か? ルナ?」

「はぁ、はぁ、ちょっと今は、大丈夫じゃないかも。もうちょっとだけ抱きしめてて……」


断る理由は無い。シンは彼女の崩れそうな体をしっかりと抱き締め、その滑らかな髪を撫でながら支える。

彼女がようやく余裕を取り戻したのは5分ほど経ってからだった。


「あ~あ、やっちゃった。シンが私の名前呼んだの、聞かれちゃったわよね」

「ルナも俺を呼んでたぞ」


言い訳はもうできそうも無いが、ハマーンは近くアクシズに戻る予定だった筈だ。ゴシップをぺらぺらと話すような性格でもないし、おそらくは大丈夫だろう。

そんな感じのことを口にしたのだが、ルナマリアは微妙な表情だ。まあそれも無理はない。

男ならその手のゴシップは人によっては武勇伝になることもあるが、女の子だとはしたない女扱いされ好感度ダウンという悪いことにしかならないのだ。


「もし今日のこと言いふらされたら、流石にもう他へはお嫁に行けなくなっちゃうなぁ。………その時は覚悟を決めといてね。

 それよりもさ、これからどうしよう? 個人的には終わりが唐突過ぎて、ちょっと納得いかないんだけど」

「もう1回したいのか? 俺はまあ、できると言えばできるけど」


出すもの出して賢者タイムに入ったシンとは裏腹に、ルナマリアは再戦を申し込んできた。

断る理由は特に無い。ルナマリアの体は火照ったままだしシンの下半身は萎えることなく接続されたままなので、どちらかが動き出せばすぐにでも始める事ができる。

そして彼女はシンの曖昧な回答を是としたのか、彼に口付けた後激しく腰を動かし始めた。


「凄い腰使い、サンバみたいだ。エロいなぁ……」

「ふっ、ふっ、ふっ、あぁやっぱりだめ、これ以上続けたら声が出ちゃう!!!」

「もういいよ、そのまま好きなだけ動かしても。俺にルナの可愛い声、もっと聞かせて……」



再び外にまで響く嬌声。

誰にも聞かれなかったのは、奇跡と言っていいかもしれない。












夜、自分の部屋。



部屋に入った瞬間あまりにも想像の範疇を超えた光景を目にし、シンは言葉も無く立ち尽くす。

彼の目の前には、よく体育の授業などで使われているような白いマットが敷かれていた。そしてマットの耳を下に押し込んでいたのは



「ア、アスカ君。ちょっとマット運動の練習に付き合って欲しいんだけど、良いかな?」

「………そりゃオハラ先輩の頼みなら喜んで付き合いますけど」



待ち受けていたのはブルマ姿のセツコ、今から行われるのは夜の器械体操か。しかしアスカ君て。

まあTMA並みのこの小芝居はともかく、この流れから言って考えられるシチュエーションは一つ。

清楚な雰囲気をもっているけど体育は苦手な仲の良い先輩の為に、体を密着させたストレッチやら体当たりでのコーチングを行って欲しいということか。

速攻で状況を把握し、即答で彼女の最も欲している返答を返すシン。 「オハラ先輩、かぁ。……悪くないかも」 という彼女の嬉しそうな呟きは聞こえない振りをしておいた。


「なんでそんな格好してるんです?」

「えっとね。このあいだはシン君に悪い事しちゃったから、他の人に意見を聞いてみたんだけど」


セツコの発言の 「他の人に意見を聞いた」 という部分で、シンの眉間に僅かに皺ができる。思い出すのは似たようなことがあった過去の記憶。

前回もミヅキさんに相談したって言ってたんだけど。あの時はひどい目にあった。まあやることはしっかりやったんだけどね。

いや、今気にするべきは入れ知恵したのが誰かということである。


「ちなみに誰に相談したんですか?」

「最初はルナマリアだったんだけど、途中からフラガ一佐とラミアス艦長も混ざってきて」

「最終的にはネオ、じゃなかったフラガ一佐の意見が採用された、と」

「はい………」


流石はムウ・ラ・フラガ。

仲間内での猥談の折、「ブルマなんて2流だね。スパッツこそが王道だろ」 と童貞の癖にそう偉そうにほざいたベローをフルボッコにして女子トイレの前で 「ブルマ最高」 と叫ばせただけの事はある。

あの野郎味な真似を。感慨深く天井を見上げるシン。そこにはムウが 「ナイスブルマ」 と言いながらサムズアップする姿が見えた。

次に会った時、ヤツには一言言っておかなければなるまい。そう……サンキュー、と。


「多分本気で私たちの相談に乗ってくれたわけじゃないと思うんだけどね。

 ラミアス艦長が小さい声で 『私もブルマでも穿いた方が良いのかしら』 って呟いた瞬間 『 計 画 通 り 』 みたいな顔してたし」


悟りにチャレンジする暇があるならブルマにチャレンジ、まあそういうヤツだったよな。

三十路前の女性に敢えてギリギリな格好をさせる。『エンディミオンの鷹』 の異名は伊達ではないということか。


「最初聞いたとき、私はどうかと思ったの。でもシン君は必ず喜ぶってフラガ一佐は力強く言ってくれたから着てみたんだけど」


自分の体を抱き締めながら横を向くセツコ。お腹の前で交差される両腕のせいで、彼女の双丘が僅かに持ち上がる。

狙っててやってるのだろうか。



「でも似合わないよね、こんなの。私もう成人なのに」



いや、似合う似合わないで言えば間違いなく似合っている。

さらりと流れる長髪に、体操服よはちきれろと言わんばかりに前方に突き出された胸。ブラの形がほんのりとわかる。

ブルマの中に服を入れていないためブルマの紺の部分が本来の五角形ではなく逆三角形に近い形をつくり、そこから艶かしい生脚が覗く。足元には白の靴下。

はっきり言って完璧である。好みの差はあるだろうが、彼女を凌ぐ美貌を持った女性はそうはいないだろう。

また安易に 「3ねん1くみ せつこ」 とかゼッケンを着けず、素直にその魅力的な肢体を体操服で包んだ点は非常にシンのツボだった。


「だいたいこの格好、すぐに食い込んじゃうし……」


そう言ってわざわざこちらにお尻を向けながら、ブルマの食い込みを直すセツコ。シンは彼女の魅力的なヒップ (with ブルマ) に貪りつきたくなる衝動を必死に抑えた。

もしかして本当に狙ってやってるのだろうか。だめだこいつ……はやくなんとかしないと (性的な意味で) 。


「そんなことないですよ、似合ってますし。……すごく可愛い」

「ほ、ほんとう? お世辞とかフォローじゃなくて?」

「ええ」


嬉しそうにシンに視線を戻すセツコの腰に腕を回し抱き寄せる。彼女もシンに笑顔を見せ、胸を押し付けてきた。

お互いの疑問も解決したことだし、あとはもうすることは一つしかない。

彼女の耳元に顔を寄せ、意地悪な質問をしてみた。


「ちなみにその “アスカ君” に、何の練習を手伝ってもらうつもりだったんですか?」

「え? え~と、その…………で」



で?



「…………でんぐり返り」




「………何……だと?」






あかん。



これはあかん。



これは本気であかん。




「裏コード……!!」


セツコが発したブロックワードに思わず最強形態になりかけるシン。だが待て自分、襲い掛かるのはいつでもできるだろう。

ここは先輩の練習に付き合って、彼女を1人前のでんぐり返りマイスターに導くべきなのである。



「じゃあ、さっそくですけどここででんぐり返りをやってみてくだちい」

「だ、大丈夫? 目がちょっと怖いんだけど」



語尾がガンツっぽくなっているのはさておき、彼の真紅の瞳が星くんばりに燃え上がる様にセツコは思わず腰を引く。

ヤる気になってくれたのは嬉しいが、本当に自分はこんなテンションのシンを求めていたのだろうか。


「オハラ先輩とブルマ。ひとつひとつは小さな “火” だが、二人合わせて “炎” になる。炎となったブルマセツコは、無敵だ!!」

「な、何言ってるかわかんないよぉ!!」

「わかんなくてもやるのだ」


鬼コーチと化したシンに動揺するものの、とにもかくにも前転をしてみるセツコ。

彼女とて軍人なので本来ならばそんなものは朝飯前だがそこはそれ、現在必要なのはシンのバスターマシンに火を灯すほどのシチュエーションである。

ごろりと勢いも無く転がり、わざとらしく見えない程度に尻餅。両足でハの字を作りながら 「あ~ん、やっぱりダメだぁ」 とドジで無防備な先輩を演出しようとして


「てい」


両膝の裏側を掴んだシンによって、再び後ろに押し倒された。


「え、ちょっと」

「ほらオハラ先輩、でんぐり返りはここから勢いをつけて起き上がらないと。苦手意識でやる気が出ないって言うなら、罰としてここしゃぶっちゃいますよ?」

「ひゃあ!! そ、そんなに近くで見ないで!! 大体起き上がれって言われてもアスカ君が押さえ込んでるから、無理だよ」


まんぐり返しの状況で押さえ込んでおきながらセツコに対して起き上がれという無茶な注文を出すシン。その目はいたずらっ子のそれである。

何度か本気で起き上がろうと頑張ったセツコだったが、起き上がろうとするたびに体を寄せたシンがブルマ越しに顎や口を擦り付けてくるものだからそれどころではなく、

最終的に彼女は赤く染まった顔を両手で隠して降参の意を表したのだった。吐息もほんのり艶が出てきている。


「ほんとに起き上がれないんだ。まあ準備運動もなしにいきなりってのも何だから、やっぱり下半身のストレッチが必要かな。

 オハラ先輩、ちょっと体が熱くなるかもしれませんけど、良いですか?」

「下半身のストレッチをアスカ君と……じゃ、じゃあお手本見せてもらうこともあるかもしれないから、アスカ君も私と一緒にストレッチをしよう?」

「一緒にですか? まあいいですけど。それじゃ俺が寝転びますから先輩は上になって」

「はい。んしょっと」


両脚を開放しマットに横たわるシン。何をするかは口に出さず、ただ彼女の顔を見つめる。

その意図を察知したセツコは顔を赤らめたままシンに近づき、ズボンのベルトに手をかけた。同時にシンの顔を跨いで顔面騎乗の様に腰を降ろす。


「んむぅ!?」

「んっ……あ、出てきた。ちゅっ、ちゅる」


自分の股間をブルマごとクンニしろオラァとばかりにシンの顔に押し付けるセツコ。この体勢はシックスナイン。

男性からすれば気持ちいい思いをしつつ女性の恥部を観察・悪戯しつつ恥ずかしがる様を堪能するという夢のようなカタチではあるが、裏を返せば恥ずかしがりやな女性には結構抵抗のある体位である。

花も恥らうスパロボの清純系代表セツコにそんなことをさせるシンは流石ドS星から来た王子と呼ばれるだけの事はあると本来なら感心するところなのだろうが、

現在のセツコにとっては 「シックスナインの態勢が恥ずかしすぎて動けない……そんなふうに考えていた時期が私にもありました」 と使い古されたネタを披露するくらい余裕があった。

わかりやすく言うと慣れた。


ベルトを外しチャックを開け、力の入ったアロンダイトを抵抗無く舌先でつつく。びくつくシンの腰。

そうやってしばらく彼の反応を楽しんでいたセツコだったが、そのうち本格的に奉仕するべくシンのものを口に咥えた。

口いっぱいに頬張りながら垂れる髪を掻き揚げる姿はいつもの彼女とのギャップが大きすぎて凄くエロい。


「はむ、んっ」

「くむっ、ぷはっ。はぁ」


押し付けられた下腹部を押し返し、呼吸をするスペースを作るシン。下では戦闘が始まっている。こちらも早く攻勢に出ねば。

爪の背でブルマの中央を縦になぞる。ほんのりと湿った真ん中、突起物があるであろうポイントを軽く叩いた。


「はふっ!! ……うむぅ、ふむ、んんぅ!!」


口撃が激しさを増した。我慢するよりも攻めた方が主導権を維持できるという判断か。流石に彼女もシンと数多くの戦いを繰り広げてきたため、どうすれば良いか分かってきている。

彼女が望むはノーガードの打ち合い。お互いの口と手のみによる対等な一騎打ちというわけか。

よろしい、ならば戦争だ。

ブルマを横にずらしシンはセツコの女性器に顔を近づけた。自由の女神ならぬ月の女神 (ルナマリア) をも沈めた、俺の舌によるスペックばりの無呼吸連打を見せてやる。


「ん、ん、う゛ぅっ!? んんんーーーっ!! んはっ、す、すごい……」


あっという間に攻守交替、いや一方的な展開になった。セツコは攻撃することもままならずに上に跨ったまま動きを止めている。

反応したときに掴んだままの手がびくりと動いたり、たまに感じた吐息や柔らかい頬が当たったりしてこれはこれで悪くない。

だけど、やっぱりこの体勢を取る以上彼女の愛撫も受けたい。


「先輩?」

「う、うん」


彼女もその事に気付いていたらしく、シンが催促すると再び口で咥えてくれた。

しかしいくらレベルを上げたとはいえ遠距離狙撃が専門で技量養成していないセツコでは、夜のPPを稼ぎまくっている再攻撃マイスターのシンに及ぶべくも無い。

必死に応戦していたもののすぐさま劣勢となり、今では散発的に舌先で舐めるといった形ばかりの抵抗しかできなくなった。

格付けは終了。あとは強者が弱者に止めを刺すだけである。腰が段々引き気味になってきたセツコの尻を鷲掴みにして止めながら、ラストスパートに入るシン。


「だめ、イク、もう我慢でき、―――――え?」


あと数秒で達する寸前だったセツコの下半身から、シンは舌と手を離す。


「なんで、なんでやめちゃうのシン君……んちゅ」


息を荒げてシンのを握ったまま、責める様な声を上げるセツコ。続きを求めて先端から染み出た雫をキスで吸い取る。呼び方もいつのまにかシン君に戻っていた。

この局面でお預けをするのか、もしかしてここからはおねだりが必要なのか。発情した彼女の目がそう抗議している。


シンのアロンダイト攻略のため、彼に真っ向勝負を挑むセツコ。だがそれはシンの罠だった。

別にシンとてそんなセツコハードをしたいわけではない。だいたい寸止め地獄とかノロノロビームなんてアイデアが常人の枠から飛びすぎてついていけないし。


起き上がるシン。セツコは上に乗っていた体を素直にどかす。一旦間を置いたおかげで今後の流れがわかった模様。


さっきまで自分が咥えていたものは、今では滾りすぎて凶悪なほどである。ならば次は――――


「セツコさん、今夜はさ」

「は、はい」


想像でもしているのか顔をまた赤らめたセツコを背後から優しく抱きしめる。首筋に顔を寄せると彼女の身体中からフェロモンが発散されたのが見えたような気がした。

服の上から胸を揉みしだきつつ彼女に話しかけると、自分に背中を預けながらセツコは振り返る。

そして突き出されたシンの舌を優しく口に含み、うっとりと味わうように自分の舌を絡ませた。そして触れ合う唇と唇。

そういえば今日のキスはこれが最初だった。その事を思い出し予定時間を30秒延長。離れた舌と舌が唾液の橋を架ける。

そしてようやく言葉の続きを吐いた。


「ちょっと今夜は激しくなるかもしれないので、ご容赦の程を」

「うわぁ、シン君本気の目だぁ。ぜったいちょっとじゃないんだろうなぁ……。あ、でも作戦的には良かったのかな」

「作戦?」


なんだそれ。まあ良い、今はそんなことを気にしている場合ではない。てかできない。

もうこれ以上のおあずけは不可能だ。


「ところでオハラ先輩。このストレッチで身体をほぐすにあたり、一つ大事な提案があるんですが」

「ん……なに? アスカ君……」


呼び方を最初の学生プレイに戻す2人。1回目のメインディッシュを頂くにあたり、シンには1つ譲れない点があったのだ。

シンは彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ、言った。



「ブルマは脱ぐな」


「………は、はぁ」



戸惑った表情のままマットに両手をつき、お尻を高く上げるセツコ。彼女自慢の美脚を大きく開いての正常位も捨てがたいが、今日の彼女はお尻が最も映えて見えるブルマ装備である。

持ち味をいかせと地上最強の生物も言ってたことだし、とりあえず1発目はこの魅力的なお尻を眺めながらバックといくべきだ……おや?

これは……ブルマから僅かにはみ出しているこれは!!



「ストラァァァァイプ!!!!!」



とりあえず野球のアンパイアのような感じで叫んでみた。視線の先、ブルマの下にあるのは水色と白の縞々。

侮りがたきはセツコ・オハラ。こんなタイミングで伏兵を出現させるとは。


「ど、どうしたのアスカ君?」

「どうしたもこうしたも」


今夜は3回ほど頑張ろうと(ブルマ2、全裸1)思っていたのだが、ここにきて縞パン+白靴下という黄金コンビが参戦してしまった。

今日だけでもステラとルナ相手に3発は抜いているので明日の体調も考えると正直3回でも多いくらいだ。抑えられるものなら抑えた方が良いのは自明の理である。

しかしこの機を逃すのは余りに惜しい。こう、予期せぬ嬉しい出来事に感じたときめきの様なものを自分は大事にしたいし。

ちなみにブルマでのエッチを1回にするという選択肢は無かった。シンの中では体操服ブルマ=2 (完全装備と脱げかけ) という公式が既に確立されているのだ。

全裸をカットも却下。ブルマという装飾品を纏った彼女の姿は魅力的だが、彼女の白い素肌はそれ以上の芸術品と言っても過言ではないのだから。最低でも1回は確保せねば。



(どうする……)



ざわ……   ざわ……



ざわめきと共に歪み始めるシンの視界。そして脳裏に罠を目の前にした狸の絵が浮かぶ。

ここより先に踏み込めば、明日の腰は間違いなく地獄……ッッ!!  ああ、しかしエサは美味そうだ!!


いや待て、自分の独断で回数を決めるのは良くない。もしかしたら彼女が 「4回なんて無理、3回にして」 と言うかもしれないじゃないか。


「ごめん先輩。今日はもしかしたら……もしかしたらですけど、4回ぐらいするかもしれないんですけど」

「あ、はい。お願いします。練習に付き合ってくれたお礼もあるし、最悪今夜は眠れなくてもおーけーですから」


肯定されちゃった。しかも即答。お礼と言われてもまだストレッチの最中なのに、もう彼女の中では練習は終わったらしい。

おまけに 「今夜は眠れなくてもおーけー」ってことは 「今夜は眠らせないで」 と言ってる様なもんじゃないか。


しまったなこれは。自分で墓穴を掘ってしまった。口に出してしまった以上このままじゃもし3回で終わらせた場合、 「4回なんて威勢のいい事言った割には口だけか」 という事になってしまう。

それだけは避けたい。彼女の前でそんな様は見せたくないし見せてはならない。

夜のお勤めをしっかり果たすのは、彼氏の譲れない義務なのだから。



ああ、畜生。なら……


それなら!!


それなら増やすしかないじゃないか!!



元上司のような結論を出して、シンは彼女の入り口に己の長剣をあてがう。先程イキそびれた秘所は誘うかのようにピクピクと動き、侵入者を待っている。

彼女の入り口に先端が触れた瞬間にはもう、先ほどまでの様な心配は無くなっていた。何回かヤったとしても、この人の身体に触れて勃たないなんてことはないだろう。

だったらあとはただ、心と身体の赴くままに貪れば良いだけで。


「じゃあ、行きますよ」

「うん。でも、男の子の趣味ってわかんないなぁ……あ、はいってきた…ふぁ、あぁぁぁぁぁぁんっっ!!!」



肉を叩きつける音とはじけるように波打つセツコの綺麗なヒップ。彼女の疑問の声はやがて、彼女自身の嬌声によって掻き消えていった。


2人の熱い夜は、まだまだこれからである。







結論から言うと、その夜2人はしっかり4回やった。













次の日の朝。

シンはなんかベッドがギシギシ言ってる音で目が覚めた。目の前にはぶるんぶるん揺れてる美巨乳とピンク色の突起。

5円玉の代わりの新しい催眠術かなと寝惚けた頭で考えるシンだったが、下半身に感じる心地良い柔肉にようやく意識が覚醒する。


「んっ……んっ、ふぅ、はっ、くぅぅ……あん、起きたんだ、シン、くんっ」

「……セツコさん、何してるんですか?」


ミサイルの持ち主は自分の腰にまたがり、円を描くように揺さぶっていた。声を出さぬよう口元を手で覆っていたが、シンが起きてからはそれを止めて普通に嬌声を上げ始める。


「ちょ、ちょっとシン君のを……お借りして、ます……」

「いやまあ、それは見れば」


分かりますけどとまでは言葉にできなかった。腰の動きを円から上下のピストンに変化するセツコ。


「朝なのに、元気が、なかったから。ふぅん、ちょっとだけ、あっ!! ……シン君の、弄ったら、一気に硬くなっちゃって。

 それで、あっ凄いっ、はぁ、たまんなく、ん、たまん、あぁぁっっ!! シン君、たまんないっ!!」


昨夜の葛藤を意味の無いものにされたシンは、非難も迎撃もせずにただ現状を受け入れる。

なんなんだろう、最近の俺のまわりは。まるで媚薬でも飲まされたかのように恋人たちが群がってくるんだが。しかもおねだりの回数も多いし。

それは目の前のセツコだけではなく、他の2人にも言える事だった。確かに最近は (と言っても1週間だが) ご無沙汰だった時期があったが、それにしてもちょっと度が過ぎている。


「ふっ!!」

「ああんっ!! イク、もうイク、イキますっ!! ふ、んんぅーーーーっっ!!!」


つい一週間前まではこんなに飢えてはいなかったよなぁ。頭の隅で記憶をさぐりつつ、シンは下りてくる彼女の腰にタイミングを合わせて突き上げた。

ぐったりして自分の胸に倒れこんだセツコの膣内に精を吐き出しながら、シンは考えにふける。



何があったんだ、彼女たちに。
















「重たい……」


カキフライ。鰻の蒲焼。ニンニクのホイル焼き。ニラと豚肉の炒め物。レバ刺し。オクラの和え物。

これ食い続けたら成人病にでもなるんじゃないかと言わんばかりの濃い料理ばかりを口に運びながら、シンは溜息を吐く。もう舌が限界です。


「けどこんなものでも食べなきゃ」


はっきり言って身体がもたない。

昨日は3人合わせて7回。一昨日は4回。その前2日間は5回ずつ。それ以前も似たようなもん。そして今日も既に1回終了済み。となると今夜は3~4回か……うん、余裕で死ねる。

最近の彼女たちは腎虚による殺害でも目論んでいるのではと思うくらいに貪欲なのであった。

正直何でこうなってるのかはわからない。

真っ先に考え付いたのが自分の技術不足による欲求不満だったが、身体を重ねた夜はいつも3人とも満足そうにしているのでそれは無さそうだ。

だとすると彼女たちの方が快楽に慣れて今までのでは物足りなくなってしまい、常人よりも性に乱れる性格になってしまったということが考えられた。ストレートに言うと淫乱になったということだが。


そりゃあ自分だって男だ。美女3人が自分のことを想ってくれてしかも夜を共にしたいと言ってくれるのだから、嬉しくないと言えば嘘になるし、

3人とも他の男に渡したくない、俺だけのものにしたいと強く思ってしまうのも否定しない。

彼女たちのお誘いの声に甘えて貪ってしまうのも、自分にとっては仕方ないことに思えた。


だけど、本当にそれで良かったのだろうか。


セツコは戦争孤児、ステラは幼少より組織に人間扱いされていなかったという生い立ちに戦いの中で酷い目にあった境遇もあって、誰かが傍にいることや人の体温に飢えている節があった。

ルナだって気丈な性格だと思われているが、本質はそこまで強い子ではない。自分と距離を縮めたのもアスランとメイリンが脱走してからの悲しみの果てである。

つまり3人は悪い男に引っかかる心の隙間を持っていた事になる。


俺はそんな彼女たちの弱みに付け込み自分の欲望に流された結果、綺麗だったものを取り返しがつかなくなるほど汚してしまったんじゃないだろうか。


勿論彼女たちとの行為は全てお互いの同意の上であり、嫌がるのを無理矢理なんてやったことは無い。

だけど。俺が自身をコントロールできていれば、こんな事にはならなかったと思うのだ。



「やっぱり、俺は彼女たちに相応しくないのかなぁ……」



溜息の理由、要約するとそれである。


恋をして綺麗になったという言葉もあるように、男性と付き合うと言うことは女性を美しくする要因の一つらしい。

だが自分はベッドテクニックこそ多少自信はついたものの、彼女たちを輝かせる男であるとは思えないのだ。

付き合ってから今日までやってた事といえば、サルの様にサカってたか彼女たちに甘えていたかのどちらかだったし。



「はあ………」



別れるなんて考えることすらできない。彼女たちがどう変わろうとも、自分はそれを受け入れるだろう。

けれど、自分のせいで彼女たちが、彼女たちらしい美しさを失うようなことにもなって欲しくないのだ。

料理を食べる手を止め、力無く溜息を零すシン。



「どうしたんだよシン、元気ねえぞ」

「そうですよ。いつもの君らしくもない」

「何かあったのか?」



話しかけてきたのは自分の親友たち、エイジとロランとカミーユ。心配そうに自分の顔を覗いてくる。

その気持ちは素直に嬉しいが、この悩みはちょっと他人に言えるようなことでもない。とりあえず曖昧に濁しておく。


「んー? ちょっとプライベートでやばいことになってるかもしれないってだけ」

「やばい? ……ははぁ、さてはついに他の子に手を出し始めたんだな? でも言っておくけど、今更焦ってももう俺には追いつけないぞ」

「カミーユ、お前と一緒にすんなや」


こいつは本当に1回くらい殴った方が良いかもしれない。

思わず菩薩の拳を握ったシンを制しながら、ロランが話を続ける。


「やばいって、例えて言うとどれくらいですか?」

「キラさんがボスボロットに乗らざるを得ないくらい」

「詰んでるじゃねーか」

「どの平行世界にもそんな光景はあり得ませんね」


呆れる2人。

確かにキラさんなら例え世界が滅んでもボスボロットには乗らないだろうし、彼女たちに応えるがままってのは対処法が無いということなわけだから、詰んでるという指摘も否定できない。

相談に乗るから言ってみろというわりとマジな3人の視線に思わず口を開きかけたものの、やはり親友とはいえ話すことではないと口に出すことはしなかった。

俺はカミーユみたいに自分の下半身事情を言いふらすなんてできない。ほんとに。


「なんだ、言わないのか。まあお前がやばいって言うことだから、どうせ3人のことだろ?」

「でも様子を見る限り向こうにそんな素振りは無さそうですけどね。ほら、丁度今入ってきましたけど機嫌良さそうですよ?」


ロランの指した方にはステラを中心にくっついたルナマリアとセツコの姿。フォウやフェイと共に談笑しながら食事を取りに向かっている。

確かに3人は仲間との交流をエンジョイしているようで、そこからはいつもの肉食獣っぷりは全然垣間見えない。

………つかこうしてあの3人を客観的に見たら、スペックがほんとに半端ないな。ナイスバディ、性格良し、仕事も出来る。

この中の誰か1人でも捕まえることが出来たらめちゃくちゃ自慢できるくらいの良い女なのに、なんで俺1対3で付き合えてるんだろ。


「それにしてもシン、やっぱお前羨ましいよ。3人ともマジで美人だもん。しかも毎日やることやってるんだろ?」

「最近あの3人、腰周りが凄く色っぽくなったからな」

「そらそうよ」


わしが育てた。


と言っても正直この2人には言われたくない。カミーユは言わずもがな、エイジだってサンジェルマン城からZEUTHに派遣されている可愛いメイドたち相手に毎晩ハッスルしてるわけだし。

まあこの中で言っても良いのはロランくらい……あれ、どったのロラン? なんかダルそうな顔してるけど。あ、ディアナ様がこっちに近づいてきた。



「皆さん、ご苦労様です。お楽しみのところ悪いのですが、少しロランと話をさせて貰ってもよろしいですか? すぐに終わりますので」

「別に大した話はしてないですから、こちらは構わないですよディアナ様。なんなら俺たちは少し席を外しましょうか」

「いえ、本当にすぐ終わりますのでどうぞそのままに。

 ――――ロラン、また今夜もお願いしてよろしいですか? キエルさんもいらっしゃいますので、前回と同じようにして欲しいのですが」

「……わかりました、ディアナ様。後ほどお部屋に伺います」

「よしなに」



「「「…………」」」



当たり障りのない会話をする2人。他の人間ならディアナとキエルの夜のお茶会の準備とか、良くてマッサージとかを想像するところだろう。

だがこの場に居合わせた3人はZEUTHきっての強者揃いである。去り際にディアナが見せた0コンマゼロ1秒の流し目に淫靡さを嗅ぎ取った。

そしてそこから考えられる会話の真の意味も即座に推理。2秒後に


「できるな」


と呟いたのはシンであり、


「食わせ者だ。用心用心」


とエイジは零し、カミーユに到っては


「ロラン、俺たちと同類になったな。匂いで分かる」


とまで言い切っていた。


ロランとて鈍感ではない。3人が真実に辿り着いたのを即座に感じ取り、何とか誤魔化そうとして――――即座に諦めた。無理。絶対逃げ切れない。

それにカミーユとは違って、彼はノリノリでこんな命令を受けているわけではないのだ。正直そんなことに意識をまわす余裕が無かった。


「今夜もか……ハァ。少しぐらい控えていただいてもいいと思うんだけどな……」

「なんだよ、疲れた顔して。そっくりな顔のお姉さんを同時にいただくなんて、こんな幸せな事は無いだろ」


注射の日になった幼稚園児のような顔でげんなりしているロランにエイジが声をかける。

確かロランは2人にそれなり以上の好印象を持っていた筈だ。彼とて立派な男の子。しかも何度か既に同じ事を経験してるみたいだし、こんな顔する理由は無いと思うのだが。

それに双子プレイとはハーレム以上に難関な、選ばれた者のみが辿り着ける聖域なのである。

しかもこの世界に残されたもう一つの双子プレイはきょぬー担当が死んで今ではナイチチ1人だけなので、希少価値だけならばエクスカリバーⅡ以上である。

カミーユなんかそれを想像してハアハア興奮してるし。


あの……俺もご一緒していいかな? 今すぐぶっ殺してやるからお前は生まれ変わって変態医師にでもなってから考えろ。

自分の関節を増やすイメージを始めたシンを他所に2人は会話を続ける。シン、悪いこと言わんからマッハ貫手あたりにしとけ。


「普通ならそうなんでしょうけどね。……でもディアナ様の命令で、僕は女装しなければならないんですよ?」


そりゃまたどうして。


「ディアナ様は老け専なんです。それで童顔の僕自身よりは、ふたなりのローラ・ローラの方が燃えるって……。キエルお嬢様にしても男性に抱かれるのはハリー大尉への罪悪感があるみたいで」

「そこなんだけどさ。ディアナ様は独り身だからまあ仕方ないとして、キエルさんは断らないのか? 彼氏持ちだろあの人」


ゴーグル越しの視姦がばれてフラれたのだろうかあの阪神王子は。そんな視線でロランをみつめるシン、カミーユ、エイジの3人。

世の中に恋話が苦手な男は多いが、失恋話なら嫌いではないという者は少なくない。


「ハリー大尉は、その……」


ロランはどこか遠い目をしたあと、誰に言うでもなくポツリと呟いた。



「…………早いんだそうです」


「正直スマンカッタ」



机に頭を擦りつけ謝る3人。ロランも数少ない仲間のそんなトップシークレットを言いたくなんてなかっただろう。本当に申し訳ないことをした。

それはそうと早いのかあの人。迅速持ちだし仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが。


「なるほど、大尉のIフィールドアイキじゃキエルさんは満足できないとそういうわけか。いや、確かにIFバンカーなんか戦闘アニメーションがあっさりしてるけどさ……」

「パッと撃つだけだもんな」



それは言ってやるな。いや俺も驚いたけどさ。コレンカプルのロケットパンチの方が派手だったし。



「それからはほぼ毎日です。そりゃあ似ている女性を秘所の具合で区別するなんて背徳的で燃える面もありますし、2人に混ざってドロドロに絡み合うのは気持ちが良いですけど。

 そこへはローラ、あそこへはローラ、頑張っている時もローラ。僕にはそっちの気は無いのに、自分たちの都合でベッドの中でまで女の子扱いされるのはどうも。

 最近じゃ、ちゃんと僕の名前を呼びながら求めてくれるソシエお嬢様に癒されるようになっちゃって……。いや、ウェデイングドレス姿が綺麗だったってのもあるんですけどね」


「泣けるぜ」



ギャバンは知らない。離れていく女心 (元々大して近付いて無かったが) に対する最後の切り札として送った純白のウェデイングドレスを、彼らの結婚式プレイに使われたことを。

ちなみにプレイに誘ったのはソシエの方からだったそうで、ままごととは言え惚れた男と永遠の愛を誓い合うことができた彼女は次の日とても上機嫌でロランにすり寄っていた。父ちゃん哀しくて涙が出てくらぁ。



「ギンガナム先生、純愛が欲しいです……」

「わかる、わかるぞロラン。俺もそれを探しているんだ」

「カミーユ、お前は黙ってろ」



いつの間にかロランの愚痴を聞く集まりになってしまい、昼休みも残りが随分短くなってしまった。言っとくけど御大将は死亡フラグしか教えてくんないぞ。

シンは最後のカキフライを味噌汁で流し込み、両手を合わせごちそうさまを言ってから席を立つ。既に食べ終わっていた3人も食器を持ってその後に続いた。

結局懸念は晴れないままだ。

背後であーでもないこーでもないとだべっている仲間たちを羨ましく思いながら、シンは集団の先頭を歩く。腰の鈍痛だけが空しく身体に響いた。


「ん? 何してるんだあの3人」


エイジの声に視線を前に向けると、廊下の先には円陣を組んでひそひそと話しているセツコ・ルナマリア・ステラの姿。頭を寄せている為、自然とお尻を後に突き出しているような格好になっている。

それを見た途端カミーユがスカートの奥を覗こうと鋭い動きで床まで顔を沈めた。ちっ、ここからでは角度が足りないか。もう少し距離を詰めよう。

阿呆が。シンはその横面に下段の正拳突きを叩き込みながら彼女たちの様子を窺った。


「はい、カミーユちょっとトイレまで行きますよ」

「わかんねぇヤローだ」


声を出さないよう目で合図するシンに頷き、悶絶するカミーユの頭をヘッドロックで捕らえ引き摺って行くロラン。その後に続くエイジがカミーユの尻に蹴りを入れる。

この4人の間では、 『女性関係の事で、それぞれに絶対 “迷惑” をかけない』 という協定が結ばれているのであった。

尤もそんな協定を結ぶ原因になったのはカミーユがあちこちにいらん事してそれぞれが被害をおったせいなので、彼に対しては皆自然と扱いが厳しくなる。他の3人はそんな事を考える必要ないし。

え? 具体的に何をやったか?

ステラに変な事吹き込んだりニュータイプ能力で情報を得てモブメイドに 「昨夜はエイジとおたのしみでしたね」 と言って泣かしたりエマやファがロランを長い愚痴に付き合わせたりとまあそんなところ。

前回ロランが放ったSM○P森君ばりのハイキックによって失神したばかりなのだが、まだ懲りていないようだ。


「いやちょっと待ってくれ痛っエイジ蹴るのやめて。美少女のミニスカは誘蛾灯なんだ、それが輝きを増せばより近くで飛び回りたくなるものだろう!?」

「ならその誘蛾灯に群がった蛾が次の日にどうなってるか、知っているでしょう? それに自分の周囲にもミニスカ履いてくれる人はいるじゃないですか。言い訳は無用です」

「丁度今日ウォンさんが来てるから、あの人にシメてもらおうぜ」

「ぼ、暴力はいけない……」


お前が言うな。尻にもう1発蹴りを入れて男子トイレに入っていく2人。

ああなったあいつらは強い。特にロラン。断らないからってカミーユへの愚痴を毎日聞かされてストレス溜まってるからなぁ。

トイレから漏れて聞こえる断末魔の声を聞き流しながら、シンは廊下の角に隠れて耳を澄ます。

此処からだと会話は僅かしか聞き取れないし聞き取れても意味がわからないが、いったい何を喋っているんだろう? 聴覚に集中して、なんとか聞き取って――――



「とりあえず今朝は私が1回出しておきました。ただ、昨日頑張りすぎたので今日はこれ以上援護はできそうもないです」

「となると私のノルマは3回か……。ステラは今日動けそう?」

「ステラ、明日が当番だから今日はやすみたいな。おくちかおっぱいだけならできるけど」

「オーケー、なら2人とも今日は無理せずゆっくり寝なさい。アイツだって硬さはともかく動きのキレは落ちてるんだから」

「作戦は順調、決戦の時は近いですね」

「うん」









「―――――――シンの陥落まであとわずか。みんな、頑張っていくわよ!!」










今なんつった?






















[6402] シークレットエロローグ後編 「女の戦い」
Name: ドダイ改◆1fc724b0 ID:cb680aa8
Date: 2009/12/12 10:22









「シンをギャフンと言わせたい!!!」



時を遡ること今より5日。

ルナマリアはそれぞれ黒とピンクのパジャマを着て自分の部屋に集まったセツコとステラを前に、声を大にして叫んだ。


「シン君を、ギャフンと?」

「なんで?」


ポリポリとベッドの上でポッキーを食べながら顔を見合わせる2人。現在彼女たちはパジャマパーティーもかねたセルス会議の真っ最中である。


此処で説明しよう。セルス会議とはその名の通り総勢3人のセツルナステラが集まって行われる会議の事である。

議題の大半はシン関連ばかりであとは雑談、真面目な話が行われる回数は一割に満たず、会議の終了の際にはセツコ主催によるキャンディーの掴み取り大会が行われる。

ちなみにそのとき必ず主催者によってシンを意識し始めた例の飴玉イベントについて数十分以上強制的に聞かされるため、ステラとルナには評判は良くない。

モデルに売名行為に使われた芸人がほぼ100円ショップでよくやるランキングの様なものである。


「だってシンのやつ、初めて私たちと体を重ねてから昨日までずっと、エッチが自分本位すぎるのよ!!

 立ちバックや駅弁ならいざ知らず、最近はお尻叩いたり言葉責めもデフォでしてくるし。……そりゃあ私だってワイルドなシンは嫌いじゃないけど、でも!!」

「好きなら良いじゃないですか。どうせ優しくされたら優しくされたで物足りなく感じて、後でおかわりをおねだりしちゃうんでしょう?」

「うん。………いやうんじゃなくて!! 物事には限度ってもんがあるでしょう!?

 そ、それに一昨日なんかあの馬鹿、私の中に濃いのを6発も出しやがったのよ!? 6発も!! 昨日も抜かずの3発だし―――少しは遠慮しろってのよぉ!!!」

「………」

「………」



熱を帯びていくルナマリアの言葉とは対照的に、そんな彼女をじとー、冷たく睨む2人。

なんだろうこの感じ。いつもならこんな自分のテンションにも 「まあまあ」 とか言いながらある程度あわせてくれる友人たちなのだが。



「それは何ですか勝ち誇ってるんですかそんなアグレッシブビーストモードな体位を毎回やっちゃったって自慢ですか肌ツヤツヤで羨ましいですねって言って欲しいんですか」

「ステラ、この10日間くらい、ごぶさた………」



む、そうだった。

昨日まで数日間彼女たちは半舷休息であり、ファやフォウたちと一緒に泊りがけの観光に行っていたのだ。自然とシンの相手は休息日が一緒の自分一択となる。

そして自分もとある理由によってシンと寝るのは一週間ほどご無沙汰だったため、ああは言いつつも一昨日・昨日と非常に燃えたのは事実だった。

身体が夜泣きしている彼女たちがのろけを聞かされて気分を害した件については、間違いなく自分が悪いだろう。

だがステラはともかくセツコにはそんな事を言われたくは無いのだが。


「確かに2人の事を考えてなかったのは悪かったですけど、セツコさんには謝りませんから」

「ど、どうしてですか!!」


声を大にして抗議するセツコ。こんにゃろあれを忘れたってのか。


「どうしても何も……私たちが1週間身体を夜泣きさせる破目になったのは、誰のせいだと思ってるんですか!? 忘れたとは言わせませんよ!?」

「そ、それは……」


ルナマリアの声に思わず視線を落とすセツコ。痛いところを突かれたと言わんばかりに顔を顰める。

そう、1週間ご無沙汰なのは彼女の自業自得だったのだ。










事の発端はセツコの 「シン君は私のチアガール姿を凄く喜んでくれている」 という言葉から始まった。



喧嘩ばかりしているカミーユハーレムを例に挙げるまでも無く、本来ならばこんな自慢話じみた言葉は反感を買うのが常だろう。

しかし丁度最近は3人ともこの関係に慣れ落ち着いてきていた為揉めること無く、逆にそれなら誰が一番シンのポイントを稼げるか勝負しようじゃないかという話になったのである。

当の本人であるシンの都合は完全に無視して。

ちなみにこのとき勝負を公平に行う為、そして3人共テレビなどで見る普通の学園生活とやらに憧れていた面もあった為、 『コスプレは学園生活の範囲内で』 というルールが制定された。


「シン、ステラに保険のべんきょうをおしえて」


まずは1番手。シャープペンを咥えながらノートと教科書を持って行ったセーラー服着用のステラは多大な戦果を挙げ、その日は彼女にとって未知の領域である5回の大台に突入し


「こらアスカ、あんたは居残りよ。放課後、私と一緒に体力測定をすること」


ルナマリアは赤いジャージとホイッスルを着用して体育教師に扮し、シンを使われていない倉庫に引き摺り込んで2人きりの体力測定を行った。

当然ジャージの下に装備したのはタンクトップとスパッツであり、こちらもこうかはばつぐんだったようだ。


「100点満点って言われた」 「最高。通信簿は5で問題無しね」 とつやつやした顔で嬉しそうに報告するステラとルナマリアに当然の如く対抗心を燃やす3番手セツコ。

彼女が準備していたシチュエーションは眼鏡美人な教育実習生。このまま行けば他の2人同様多大な戦果を挙げていたのは間違いなかったのだが、

このコスプレではルナマリアのやった体育教師と教師というポジが被ってしまうのではと弱気の目が出てしまったセツコは仕方なくこれを取り下げてしまう。

本来スーツを着た眼鏡美人と運動しやすい格好の体育教師は十分住み分けが可能なジャンルなのだが、そのあたりの機微がわからないセツコは断念することに抵抗がなかったようだ。


そして代わりの案を一生懸命考えたものの何も思い浮かばなかったので、エロアニメに出演経験のあるグランナイツのミヅキに助言を貰ってみたのだが こ れ が い け な か っ た

シスコンのシンには妹キャラで攻めろ、まだステラは妹キャラを生かしきれていないのでやるならヤツが目覚めていない今しかないというアドバイスと共にミヅキがセツコに勧めたのは、

よりにもよってシンの実の妹であるマユの服。


「お兄ちゃん、お弁当忘れてたでしょ。持って来たよ」


セツコ曰く 「弁当を学校に届けに来た妹」 のコスプレらしい。

お前を食べるのが先だと自分に襲い掛かるシンを妄想し必勝を確信したセツコだったが、そんな彼女に対するシンの反応は微妙だった。

それもそのはず、マユの服を着たセツコの姿はなんとなくマユが大人になったらこんな感じだろうかと想像してしまう程度には似ていたのだ。

溺愛こそしていたものの性的な意味でのシスコンではなかったシンがそんな彼女の姿にぐずつくのも無理は無い。

当然セツコはそんな事に気付けるわけもなく、焦った彼女は 「早く押し倒して、ベッドはそこだよ」 といつもより20%増しでフェロモンを放出しながらシンに迫る。

胸板にツンツンと服越しに行われるあててんのよに陥落し、彼女を押し倒したシンを誰が責められようか。


そんな逆境の中でもなんとかして服を脱がせ普通に楽しもうとしたシンだったが、自分の妹キャラとしての素養を何とかしてシンに認識させたいセツコはなんだかんだでこれをはぐらかし続け、

そして最後 (3度目) の絶頂の際の


「セツコイッちゃう!!! だめぇぇぇ、お兄ちゃぁぁぁぁん!!!!!!!」


という叫び + 脚を大きく開いたまま白濁液を服や顔、太ももに浴び失神した妹 (の格好をしたセツコ) の姿を見たシンは自己嫌悪からくる精神崩壊を起こし、



「すいません。俺、シン・アスカにはなりきれませんでした。セツコさん……いつかどこかで、本当のシン君に会えるといいですね」

「し、シン君!?」



そして1週間、廃人の様に部屋に閉じこもっていたのだった。







「正直スマンカッタ」


2人に向かって土下座するセツコ。その頭を気にするなと言わんばかりにステラが撫でる。ええ子や、この子はほんまええ子や。

謝罪に満足したのかやれやれといった顔で2人を見ながらルナマリアは話を続けた。


「まああの件で1番悪いのはエロ孔明のミヅキさんだし、今回は私にも悪いところがあったからそれは良いとして。

 そういうわけだから2人にも協力して欲しいの。今のシンには、どうあがいても私1人じゃ勝てないから」


かつての姉貴分をエロ孔明扱いしてバッサリとぶった切るルナマリア。

さもありなん、わざわざエロアニメに出演して赤バニー着て乳までさらして男に襲い掛かられたにもかかわらず

結局嫌がってそれを拒んだ彼女をルナマリアは雌豹とか大人のオンナだと認めていない。普段の言動なら襲い掛かった男を襲い返すくらいのことをしても良かった筈なのだ。

そもそも逃げるくらいなら出なきゃいいわけだし。原作でもアヤカとのレズ疑惑はあったけど、男関係は皆無だったし。


「ギャフンと言わせたいって言われても、私は今までので十分満足してますし……むしろ何かアクションを起こして今までと変わってしまうのも怖いし」

「言いたいことはわかりますよ。

 でも想像してみてくださいよ、受身になって私たちに良い様にされるシンの姿を。辛そうに喘ぐシンに馬乗りしたいとは思わないですか?」

「………え?」



喘ぐシン君に馬乗り? それって……。



――――あはっ、枯れちゃえ。

――――くぅっ、ああ、セツコさん……俺もう…勘弁して……。

――――駄目だよシン君、これくらいじゃ寝かせてあげないんだから。紅い瞳の赤ちゃんができるまで、何回でも、何日でも続くんだから。

――――セツコさん、セツコさん………愛してる、愛してるから……!! だから、これ以上は……っ!!

――――もっと、もっと言ってシン君!!





「やります。――――私が乗ります!!」




逃げちゃダメだ。数十秒の妄想の後、気合の入った表情でバベルの塔攻略を決めルナマリアに向き直るセツコ。

1名様入られましたー。



「ステラは、いつもと同じの方が良いけどなぁ……」


渋っているのはステラのみ。彼女は2人のように体力の限界ギリギリまでドッグファイトするタイプではない。1回だけのときも結構ある。

シンとのSEXも十分楽しむが、ステラはそのあとでいちゃいちゃしながらビロートークするのが大好きだった。そしてルナマリアに協力するということはシンとの夜の際に何か注文をつけられる可能性がある。

何かやるのならそっちで勝手にやってくれ。勿論ステラはそんな事を思ってはいないが、彼女の心境にはその言葉が1番近かった。


「たまにはよ、たまには。ちょっと皆で楽しんだら、すぐに元に戻すから……ね? ステラの協力もいるのよ」

「まあ、いいけど……」


両手を合わせてお願いするルナマリア。そんな彼女を見てステラは仕方ないなという顔をして諦めた。ルナマリアとセツコも好きな人だし、まあ期間限定なら手伝ってもいいかな。そんな感じ。

こうしてセツルナステラ対シン・アスカの対戦カードが決定した。


「………でも基本的にどうすれば良いのか、さっぱり考えが纏まらないんだけどね」


仲間が増えたのは良いが、今度は次の難問にぶち当たってしまった。どうやってシンを倒せばよいのだろう。

当初こそ数の力で圧倒していた3人だったが、最近では戦いを繰り返すうちにサイヤ人ばりに上がっていくシンの爆発的な成長についていけなくなったのだ。

単純計算でもシンが手に入れるPPは3人分であることだし。

尤も彼女たちの方がシンによってMに開発されてしまったのではという可能性については誰も口にしなかった。わかっていても触れてはいけないこともある。


「夜のシンって、すごいもんね……」

「それについては、私に考えがあります」


不安そうなステラとルナマリアに対し、任せろと言わんばかりに胸を張ったセツコが眼鏡をかけた。軍師モード発動。

最近は連敗続きだが、セツルナステラにおける作戦立案は彼女の担当である。


「考えって何か作戦でも考えたんですか? でもシンには私たちの合体技 “ぬらりひょん” も通用しなかったのに」


ここで再び説明しよう。“ぬらりひょん”とは生まれたばかりの姿になった3人がそのまま窒息するくらいシンの体に纏わりつく技のことである。

ルナがたまたま 「このスーツ着たらシン喜んでくれるかな……」 と読んでた雑誌の漫画と自分たちの戦友シルヴィアが合体した際の感想からヒントを得たものだ。

「念心!!」「合体!!」 「GO!! ぬらりひょん!!」 の掛け声とともにシンもろとも合体し、すてらぬらりひょん・ぬらりひょんるな・ぬらりひょんせつこといった3種類のフォーメーションを駆使。

シンには自分たちの体で包むというシチュエーションとその肢体の感触によって興奮させつつ、彼の動きを封じながら一方的な攻撃を仕掛けるという反則クラスの大技だった。


だがこのまま為すすべなくイカされるという未来を拒否するためにたった一人の最終決戦を挑んだシンが何故かフリーザにキレながら放ったパルマフィオキーナによって脱出され、

最終的にはシンのGANTZソードによって3人は沈黙させられている。



「最近じゃ3人で行っても、いつも負けるもん……」

「それに関してはルナマリアの暴走が多分に含まれていると思うけどね。いつも背後から隙を突いてくるし」

「皆だってたまには1対1でして欲しくなるでしょ。私は余っちゃった人と時間を潰してるだけよ」

「私が言いたいのはそれが原因でシン君への残機を減らしては意味が無いということです」

「ぐっ……2人だっていつも凄く感じてるくせに」

「私はシン君にイカされたいんです!!!」



なんか凄いことを大声で言ってしまった。ルナマリアとステラがによによと小悪魔的な笑みを浮かべていく。

赤くなる自分の顔をこほんとわざとらしく咳をすることでごまかしてから、セツコは作戦を語りだした。


「ま、まずは夜のお情けを当番制にします。今日はステラ、明日は私、明後日はルナマリア、以降はローテーションをキープ。

 乱入などの例外は認めません。担当以外はしっかり休息を取って、自分の出番に備えること。

 そして当番の者は必ず、いつもしている回数よりも多くこなしてください。目標は1日の回数、最低4回」

「ええ、4回!? 最低で!? ステラ、それちょっときびしいかも……」

「回数の問題もあるけど、それ以外の日にはシンとしちゃダメなんですか? 私たちあいつの彼女なわけだし、こう、なんとなく火が点いた時とか。」


それぞれベクトルこそ違うものの不満を述べるCEコンビ。確かにSEXできるのは3日中1日だけ、だけどその日は4ラウンドこなせというのは極端すぎるだろう。

そんな抗議を予期していたのか、セツコは涼しい顔で言葉を続ける。


「勘違いしないでください、当番制なのはあくまで夜だけです。別に担当が4回しなくちゃならないわけじゃないです。

 たとえばステラの援護の為に、前日担当のルナマリアが朝お口で何回かしておくとか」


トーナメントにおける敵対者潰しのようなものである。捨て駒がガードを固めつつ淡々とローを蹴り続ける。真打ちは体力を温存・回復させ動きが落ちたところを倒す。

今のシンには個人で行った所で勝ち目はゼロだ。主戦力たるルナマリアとセツコもチームに尽くさねばなるまい。


「その辺りは臨機応変で行くわけか。次の日の夜担当は極力無理をしない方向でいった方が良いでしょうね」

「じゃ、じゃあステラはいつも通りでいいの?」

「否定はしないけど、なるべく頑張るのよステラ。ちなみに止めへのGOサインはいつ出すの?」

「それはルナマリアの判断にお任せします。その時は3人で一気に」

「――――狩る。なるほどね、乗ったわその作戦」


作戦を受諾、2人が頷く。セツコは勇ましい表情で高らかに声を上げた。






「これより本作戦を、『ナガシノ作戦』 と命名します!! 各員速やかに作戦通りに動いてください!!」






「いいんですか? 後戻りはできませんよ?」

「私はセツルナステラ最年長、セツコ・オハラです!!」





第9話、 女の戦い。

















それからなんやかんやで順調にナガシノ作戦は進んでいき。

シンが食堂で悩んでいた日から2日後、セツコの部屋にはセツルナステラの3人が集まっていた。今は出陣前の決起集会、リーダールナマリアによる演説の真っ最中である。



「よくぞ生き残った、我が精鋭たちよ!!」

「テンション高いなぁ。でもなんでルナマリア、こんなに濃い声を出してるんだろう?」

「よくわかんない。でもジブラルタル海峡は熱かった。それだけはまちがいない」



ステラ古いの知ってんのな。

まあそれはともかく、ルナマリアのGOサインが出たため3人は今出撃前なのである。身体はしっかり洗ったし、服装や化粧も完璧、今夜は特別に鰻を食べた。

あとは覚悟を決めて突貫するだけ。



「決戦のときが来たわね。今のシン相手なら必ず勝利を掴めるはず」

「でもだいじょうぶかな? いくら疲れてても、シンのデスティニーってすごく強いし。じっさい今日までみんな勝てなかったわけだし」

「何弱気なこと言ってんの、デスティニーなんて大したことないわよ。無双じゃジェリド中尉の黒いMK-2に修正される程度のレベルなんだから」

「いや、あのシナリオの中尉は実質JERIDOだったから、ある意味仕方ないんじゃ」



今日までの戦いで全員全敗しているため2人が心配そうな表情をしているが、おそらくは大丈夫だろうとルナマリアは思う。

今のシンの充填率はかなり低いし、今回はひさしぶりの3人がかり。あのパルマフィオキーナで誤魔化されることさえなければ、敗れる要素はまず見当たらない。

しいて心配するならばダメージを与えすぎて消化不良のまま戦闘終了といった事態だが、それにも既に手は打ってある。

というのも今の3人の格好は、前回のセツルナステラのそれと同じではない。

赤いミニスカチャイナのルナマリア・ナース服のステラ・黒と白のメイド服に白いガーターのセツコと、それぞれが黄金聖衣を纏っているのだ。しかもちょっとキツめでぱっつんぱっつん。

それをパーフェクトジオング以上に完璧なスタイルを誇る自分たちが着ているのだから、男であればどんな劣勢であってもアロンダイトを構え、獣のように自分たちに襲い掛かってくるだろう。

例えその先に、逃れられない敗北が待っているとしても。



「完璧ね」


これならばいける。

疲れているシンを押し倒し両手を押さえつけ、馬乗りになって腰を叩きつけつつ恥ずかしい言葉を叫ばせて服従させるといういつも自分がされている事の反撃が出来る。


「今宵、シンを討つ!! セツルナステラぁぁぁ、えいっえいっおーーーっっ!!」」

「おーーっ!!」

「おーーっ!!」




条件は全てクリアした。

今こそシンに見せるのだ。戦略と戦術の違いというものを!!














「ザフトレッド!!」


「ファントムピンク!!」


「グローリーブラック!!」


「3人揃って!!」




「「「ZEUTH戦隊、セツルナステラ参上!!!」」」




数時間後の勝利を信じ、シンの部屋に飛び込んでアテナエクスクラメーションの構えをとった3人。さしずめ担当は乙女と双子と獅子あたりだろう。

明かりを点けていないのか真っ暗な部屋の中。誰もいないわけではない。ターゲットは目の前にいる。

良かった、これでシンが不在だったらどうしようかと思っていたところだ。他のクルーにこの格好をしたまま部屋に入るところをしっかり見られているので、空振りだった場合ちょっとかっこ悪いし。

だがセツルナステラによる派手な登場にもかかわらず、シンはベッドの上で座ったまま微動だにしない。うすうす自分たちの企みに気が付いていたのだろうか。

どちらにせよ、このタイミングではもう遅いが。


「さて、観念しなさいシン。いつも私たちを恥ずかしい目に合わせている報いを、今こそ受けるときよ!! ……それとも、ごめんなさいしちゃう?」

「………俺はかまわん」


静かな声、意外と動揺している様子は無い。


「シンが2人にあやまればおしおきなんてせずに、あとはいつも通り4人でなかよくできるとおもうんだけど。このままじゃシン疲れるだろうし」

「俺はかまわん」


少し不気味だ。

なんだろうこの感覚。津波が来る前の、潮が一瞬引いた海岸にいるような感覚は。


「あ、謝らないって言うのなら、今夜のシン君は一晩中私たちの相手をしてもらう事になるんだよ? 降参してもやめてあげないんだよ?」

「俺は一向にかまわんッッッ!!!」


セツコの説得を遮り赤服のボタンを外すシン。中の身体を見せるかのように服を開く。



「裏コード。 『THE BEAST』 !!!!!」



シンの纏う気配が猛獣のオーラと形容すべき絶対的捕食者のそれへと著しく変わる。

服の内側にはなんかいろんなものがぶら下がっていた。3人の脳がそれが何をするものかを理解した瞬間、それぞれの目が驚愕で見開かれる。




ピンクローター(多数)。手錠。目隠し。バイブ。ハンディー型電動マッサージ機。



「な……」


「貴様はデスティニーを嘗めたッッッ!!!!」




どっかのツンデレ海王のように雄雄しく叫ぶシン。その覇気を浴びた瞬間3人は思わず動きを止めてしまう。

1度BEASTを体験したルナはともかく、初体験のステラやルナは先ほどまでの勝利への自信はとうに吹き飛んでしまっている。

今の自分たちは猛獣を仕留めるハンターなどではなく、銃を家に忘れてきてしまった哀れなエサだった。そう思えた。


(これは……選択を間違っちゃったかも……)


自分の判断ミスを後悔するルナマリア。シンはその様子に構わず言葉を続ける。

どうやら今までのルナマリアたちの行動を3股かけて好き勝手やってた自分のせいだと後悔していたらしく、ずっとこれからのことを考えていたのだとか。


「お金とかの生活については勿論、家族サービスや夜のお勤めは皆が十分満足できるものにしようって頑張っていたわけです。

 今の俺は3人と一緒にいるっていうこれ以上無い幸運に恵まれてるので、それぐらいの甲斐性は見せたかったから。

 それをいつも受けだから攻めに回りたいって理由だけで、こんなことするなんて。俺は皆を相手に出来る資格はないんじゃないだろうかって、今までずっと悩んでたってのに。

 どうすればいいのかって考え続けてたのに。それをおしおきだなんだって………。

 行っておきますけど、皆が嫌いになったわけじゃないです。ただ」



シンの手の中でカチリと音がしたかと思うと、それぞれが不気味な音を奏で出す。まあ具体的に描写するとヴヴヴ…とかウインウインという音なわけだが。



「………やりすぎてしまうかもしれん」

「「「――――――――ッッッ!!!」」」



3人の間に再び戦慄が奔る。やべえ今のシンはドSモードだ。


「落ち着いてシン君!! 確かにルナマリアはシン君を襲おうとしてたけど、それは全て私たちのより良い生活の為に」


流石は年上というべきか、3人の中でいち早く理性を取り戻したセツコがシンを止めるべく説得する。なんか全ての責任を自分に押し付けている感もあるが、そこは気にしないでおこう。

ここは唯一の20代で弁も立つセツコに少しでも怒りをやわらげて貰うのが吉だ。


「俺たちの、より良い生活のため?」

「そうです。だから今日はルナマリアへのおしおきとかは抜きにして、みんなで楽しい時間を」

「……なんか他人事ですね、セツコさん」


なんとか誤魔化そうと頑張るセツコ。だがシンは妖しい瞳のまま彼女の頬に手を添える。

唇を撫でられるうち、段々と女の貌になってきたセツコを見てルナマリアたちは思った。あ、これもう数分で堕ちるなこの人。


「言っておきますけど、今日のセツコさんには凄いおしおきをさせて貰いますよ。丁度メイドさんの格好だし、誰が自分の御主人様か教えてあげないと……」

「す、凄いおしおき? …………されちゃうんだ。シン君に、おしおきされちゃうんだ」

「はい、おしおきです。いけないメイドさんに凄く恥ずかしいことをさせて、恥ずかしい言葉を言わせて、意識がもたないくらい気持ち良くしてあげます。……良いよね、セツコ?」

「ああ……」


頬を紅く染めて身悶えするセツコ。シンはそんな彼女を抱きしめるとそのこめかみに優しいキスを落とし、耳元で小さく呟いた。


「セツコ、返事は?」

「はい、御主人様……。いっぱい、いっぱいセツコにおしおきしてください……」



うわ堕ちるの早っっっ!!! 数分どころか秒殺じゃんセツコさん!!!



「ちょ、セツコさんしっかりしてくださいよぅ!! このまんまじゃほんとに私たち穴だらけに……ダメだ、この人は置いていこう。ステラ、一旦退くわよ!!」

「うん。いまのシン、ちょっとこわい。早く逃げ―――――ドアが開かない、なんで?」


しないな。ああ、しない。――――勝てる気がしない。そんなアイコンタクトを一瞬で交わし、逃げ出そうとドアに手をかけるSEED勢。

だが扉は開かない。馬鹿な、中から外に出れないなんてありえないだろう普通。

惚けた表情のセツコをツンと指先でベッドに倒したシンが、ゆっくりと少女らに近付いてくる。待ちたまえ、いい子だから。





「知らなかったのか? デスティニーからは逃げられない」




ちくしょう、原作以上のラスボスオーラ出しやがって。

思わず格闘の構えを取る2人。滅びの呪文や竜の紋章、ましてや注射器を持った薬物中毒者のお兄さんもいないこの状況。

後ろにも下がれないなら前に出るしかない。



「覚悟を決めなさいステラ。どうせ最初の計画じゃ戦うつもりだったんだから。シンのダメージが消えたわけじゃないし、一気に決めるわよ!!」

「うん!! 2人ならシンに届く、2人ならシンを超える!!」

「窮鼠猫を噛む、か」



こうなったら最後の手段。ここにオチを持ってきて打ち切りエンドにするしかない。『次の日、痙攣したままベッドから起き上がれない3人が発見された』 的な。

胸元のボタンを幾つか外し、シンに向かって飛びかかる2人。




「私の実力、見せてあげるわ!!」

「うぇーーい!!!」



「「本当の戦いは、これからだぁぁぁぁっっっ!!!」」






よっしゃあああッ!!! THE ENDォオ!!!





















なんてことはなく。








「せんせい……もう、ステラおくすりはいらない。おちゅうしゃ、やぁ……」


「はぁ、くっ、ああご主人様それ以上はダメ、噴いちゃう、また噴いちゃいますから!!」


「て、店長、もうこのマッサージ機止めて……お尻のローターでも、いいからぁ………」






しっかり連載は継続されているのであった。



















「「あああ~~~~~っっっ!!!」」


正常位でステラを本日2回目の絶頂に導くと同時に、シンは右隣で四つん這いになっているセツコを自らの指でイカせる。

セツコの弱点やどうすれば一番感じてくれるかは既に身体に染み込んでいるので、彼女さえその気になればこれくらいは難しいことではない。シンはステラから自分のものを引き抜きつつ2人の様子を伺う。

顔を真っ赤にしたまま息を弾ませるステラ。お尻だけ高く上げたまま未だにシーツを握り締めているセツコ。

そんな2人の姿にシンは一瞬だけ正気に戻り思わず優しくしたくなった。しかし今夜の自分は御主人様で先生で店長なのである。引き返すことはできない。

だから淫らな姿勢もそのままにシンの股間をみつめてくるセツコに、御主人様として声をかけた。


「セツコは、これが欲しいのか?」

「………!! そ、それは」

「どうして欲しいか言わないと俺にはわかんないな。この硬くなってるやつの処理は、もう1回看護婦さんにお願いしようかな?」

「そ、そんな!!」


自分へは指ばかりで、これまでずっとナースなステラを責め続けていたシン。それも終わって当然次は自分の番だと思っていたメイドセツコだったが、それに対する御主人様の答えは言葉責めだった。

何をどうして欲しいか口に出さないと要望に答えてはもらえないらしい。いつもならば恥らいつつもそれに答えるセツコだったが、今回は1対1ではなくまわりに2人がいるのだ。

ここまできたんだからやることはやってほしい。しかし変な事を口走ったら明日彼女たちにどんな顔をすればいいかわからない。

いろいろ考えた末にセツコが出した答えは――――



「わ、私はぁっ………!!」









セツコが凄く恥ずかしいことを叫んでいるのでしばらくお待ちください。








「わ、私何てことを……。恥ずかしくて死にそう……」

「!! 死ぬ!? 死ぬのは…………これもういいや。だるい」

「……よく言えたね。それじゃセツコ、入れる準備して貰っていいかな?」


正気に戻って落ち込むセツコの前に自分のものを突き出すシン。その隣ではステラがブロックワードを再発していたが、あっさりとシンの愛の力 (多分違う) によって克服していた。

メイドはよほど溜まっていたのか口に含んだかと思うと、頬にくっ付いた髪をかき上げつつ勢い良く顔を前後させる。


「ん~、ふむ、んぅン、んんんぅーーっっ!!!」

「すげっ、バキューム……っ」


流石はライトスタッフ (素質ある者) 、追い詰められ覚醒したセツコのその愛撫にシンのアロンダイトが瞬く間に硬さを増した。

いや、ここはシンの持久力も評価するところだろう。原作では不評な脚本のせいで実質忘れ去られていたハイパーデューテリオンだったが、今のシンの中には確かにその力が宿っていた。

じゅぽんと音を立てて引き抜かれたシンの大剣。セツコの唇との間に糸を引いている。


「欲しいんだ? でもその前に言う事があるよね。……俺が今から入れるところは誰専用?」

「は、はい!!! 私は、私の身体はぜんぶ御主人様のものです!!だから――――――」









セツコが洒落にならん事を叫んでいるのでしばらくお待ちください。








「良く言ったセツコ。これはごほうびだ」

「ごしゅじん、さ、まぁぁ!! ひーっ、あっ、せつなかったぁ!! せつなかったよぉ!! ずっとほしかったのにぃ、セツコ、せつなかったぁぁ!!」


叫んだ言葉に満足し、挿入を開始する御主人様。

マゾメイドは両手両足をシンに巻きつけ、できる限り密着しようと力を込める。つかセツコってばノリすぎ。


「うん。だから今から好きなだけ突いてあげる。もういいって言うまで……!!」

「2度と離しません……!! ずっと、ずっとセツコを突いてくださいぃぃぃ!!!」


愛するメイドにマッハ叩きを連続で叩き込むシン。その声を聞いて我慢できなくなった3人目が切ない叫び声をあげる。


「ちょ、シン!! いつまで私を焦らすのよぉ!! やらないならやらないで、少し休ませて……」


叫んだのは目隠しと手錠をされ、両乳首や股間の突起、お尻にローターを着けられているチャイナドレスの少女。ルナマリアがベッドの左サイドで悶えていた。

先ほどまで行われていたマッサージ機での責めは終わったものの、未だシンには指1本触れられていない。

そこへ来て他の2人が快楽に溺れる声を延々聞かされていたため、彼女はもう我慢の限界だった。



「ごしゅじんさま、ごしゅじんさまぁ……!! セツコはもうダメです!!」

「いいよ、好きなだけ。絶対離さないし、何回でもイカせてあげるから」

「そんな!! もう、てんちょぉぉう!! はやくして、私にもはやく来てぇ!!!」

「ホーク君は後で。大丈夫、俺まだまだ残機あるから。……そんなに言うならローターを強にしとくな」

「馬鹿ぁぁぁぁぁっっっ!!!」




シンは歓喜していた。五体に刻まれたこれまでの戦いによる成長。

繰り出す責めの全てが彼女たちの弱点を捉えた。

目の前にいる3人の美女は確かに強敵だろう。しかしその彼女たちの力もBEASTの力の前では分が悪い。


「成った」


目の前で自分の思うがままに乱れている3人に対し、もはや怒りの感情は無い。

今は愛する彼女たちに自分の全力をぶつける。それだけでいい。




シン・アスカ 16歳の夏 ――――――――



灼熱の時間 (とき) !!



















「きゅう」

「ん……すごかったぁ……」

「ハァ、ハァ。こんな……こんなの……レベル違いすぎ……」


しばらくの後。ルナマリアはシンの身体に布団のように覆いかぶさったまま、彼の身体の上で息を荒げていた。シンへの謝罪を繰り返しながら、それ以上の回数でその唇を貪っている。

2人の両隣には力無く倒れたステラとセツコ。3人とも既に黄金聖衣は装着しておらず、その白い身体を惜しげもなく晒している。

戦闘は終了。どっちが勝ったなんて言うまでもない。


「ごめんね、シン。心配させるつもりは無かったの」

「いや俺の方こそごめん、ちょっとやりすぎた。結局俺が突っ走ってただけなわけだし、そもそもの原因も俺にあるし」


仲直りタイムに入り、上に乗った彼女の赤い髪を優しく撫でるシンの掌。ルナマリアはそれを目を細めながら受け入れる。

やはり彼女もおんなのこ。あまあまな時間は嫌いではない。


「皆が本気で嫌がることってしたくないし、今度からは不満があったら遠慮なく口に出して言って欲しいんだ。

 別にどっか連れてってとか一緒にいる上での希望でも構わない。俺は……その、彼氏なわけだしさ」

「なんでもって。じゃ、じゃあもし次機会があったら、今度は私たちがシンを苛めてもいいの?」

「苛め? ……ってそっち!? ま、まあ、あんまり変なことをやらなければ」



シンの言葉を聞いた途端彼女の瞳が輝き始める。ルナマリア・ホーク再起動開始します。



「2人とも、聞いた!?」

「うん!!!」

「勿論です!!」



がばりと体を起こし、寝転んだままのシンに身を寄せてくるステラとセツコ。お前ら生きとったんかい。しかも元気あるし。

にやにやと笑みを浮かべる彼女たちの背中と尻に黒い羽と尻尾が見えたような気がした。


「女王様と奴隷、いや上司と部下……まあそのあたりは後の楽しみに取っておいて。さしあたっては弟プレイからいってみようか」


弟プレイ。それを俺にやれと。いや確かにさっきまで3人はコスチュームに応じた演技してたけどさ。

今度はこっちがやる番だと言われればやるしかないけど……ん~、でもアレ俺が強制したわけじゃないんだが。


「こら。黙ってないで何かリアクションしなさいよ。ほらシン、ルナねえがオンナについて教えてあげるわよ?」


ああもう、仕方ねえ。これもサービスだと思ってやってやるか。


「る、ルナねえ……優しくして………ってやっぱこれ流石に恥ずかしいって。勘弁してくんない?」

「ふふっ。だ~め、男の子なら自分の言った言葉に責任を持たなきゃね? だから今はルナねえを喜ばせてくれないと駄目よ。……やっべ、楽しい。

 ほらシン、次はセツコさんを呼んであげないと。セツコ姉さんはシン君に何て言って欲しいんですか?」

「ん~? 私はね……シン君、耳貸して」


ごにょごにょと耳元で囁いてくるセツコ姉さん。え、それを言うんですか?

毒を食らわば皿までにも限度があるんですが。



「セツコ姉さん、俺頑張って100点取るから。だからその時は俺とデートして」

「な、何か私ときめいてきた!!」


俺はちっともときめきません。

母性溢れる大人の女性ならそういうシチュエーションも想像しやすいんだけど、流石に同年代の彼女たちにそんな言葉を使っても言わされてる感が大きすぎる。興奮なんてできやしない。


「あと1人。呼び方は被らないように、残ったステラにGO!!」


ステラにも言えってのか。彼女は自分よりも童顔だから、正直姉呼ばわりは他の2人より抵抗があるんだが……。


「ス、ステラおねえちゃん……?」

「!!!」



シンの言葉に一瞬目を見開いたステラ。その後俯きしばらくぶるぶると震えていたかと思いきや、



「ステラの時代がキターーーーーッッッ!!!」



柔らかく重い衝撃にシンはベッドに倒れる。原因はステラによるフライングバストプレス。

どうやら先ほどの一言はジャストミートだったようです。その一撃を皮切りに、3人は集団で狩りを行うハイエナの如くシンの体に群がった。



「ふふふ、私の可愛い弟。もっといい男に育てて将来の旦那様にするためにも、ここはたっぷりオンナの良さを教えてやらないとね……」

「テストを頑張ったシン君にはご褒美をあげちゃうね。大人の階段、セツコ姉さんといっしょに登ろう?」

「おねえちゃん……ステラはシンのおねえちゃん……!! 地球に生まれてヨカッターーーーッッッ!!!」


それぞれの脳内設定を妄想しながら目を爛々と輝かせてシンに迫る3人。せめて設定を統一して欲しい。ステラなんか壊れちゃったし。

というかなんだ彼女たちのこの力は。さっきまであんなにいっぱいいっぱいだったってのに。体力ゲージが4分の1を切れば奥義使用可能。そんなのはゲームの世界だけの筈……ってこれゲームの世界だった。

ええい、今はそんなことを言っている場合ではない、BEASTが使えないなら他の戦力を確保しなくてはならないのだ。それも早急に。

援軍の当てはあるにはあるが、その力はあんまり当てにはならない。しかし今は猫の手も借りたいほどである。

襲い掛かる3人を映す自分の目を閉じ、シンは小さな声で呟いた。――――卍解。



次の瞬間、網膜に感じる黒い闇を吹き荒れる炎が紅く照らした。目の前には跪いた自分の愛機。響き渡る声は池田ボイス。




――――久しぶりだな。呼んだか?



数話ぶりに登場。前回セツルナステラに完敗を喫し宿主を置いてとっとと逃げた、シンの体に宿るデスティニーガンダムである。

どうやらシンの中で一部始終を見ていたらしい。呆れたように溜息を吐く。


――――馬鹿者め。怒りの力は一度外されると脆いと教えていたはずだ


嘘つけ、そんなカメハメみたいな教えはお前から教わってねえよ。それよか力貸せ。

お前の力がいるんだ。デュランダル議長から託された、運命の力が。


――――おお、それは私を頼りにしているということか。あのBEASTってやつが出張ってからというもの、お前の中での私の地位がどんどん低くなって……。


愚痴るな、そして懐くな。そんなん言ってる暇があるならとっとと力を解放しやがれ。

別にこいつを心から頼りにしているわけではない。この前途中で逃げやがったし。

虚化が使えないなら卍解。志望校に落ちたら滑り止め。BEASTが駄目なら運命の力。ただそれだけのことである。BLEACHだって今じゃ斬月 (本体) のこと覚えてる奴なんていないしな。


斬魄刀アロンダイトに力が宿る。何はともあれ戦闘準備は整った。後は目の前のエスパーダたちを倒すだけ。

勢いには乗っている3人だが、先ほどまでのダメージは相当な筈。ならば後は精神力の勝負である。




「「「後半まいりましょう後半スタート!!!」」」




――――いくぞ相棒




勝手に呼ぶな。


















次の日の朝。目を覚ましたけれど、体に何かされている様子は無い。シンは頭を掻きながらほっと溜息をつく。


夢から醒めた。首の皮1枚の差だったけれど、勝敗は決した。


「もう醒めていい……もう解けていい……。もう出すものはない……」


間に合った。立っているのは――――俺だ。


ようやく手に入れることができた普通の目覚め。あの雪崩の様に流され続けたピンク色の生活に未練は無いと言えば嘘になるが、それを実感するのはもっと月日が立った時の事だろう。

だって昨日のハッスル具合とそこに到るまでのダメージで、シンは初めて朝勃ちをしていない朝を迎えたのだから。


「あ~さっぱりした。シン君はもう起きたのかな?」

「赤いのがここにもある……やだ、シンはステラのこんなところにまでキスしてたの?」

「こらステラ、まだ髪濡れてるわよ。こっちに来なさい、拭いてあげるから」


ベッドには一緒に力尽きたはずの3人の姿は無い。その代わりバスルームから楽しそうにじゃれ合う声が聞こえてくる。

後で俺も浴びようかなとシンが考えていると、部屋にタオルを巻いた3人が戻ってきた。そのつやつやにこにこした顔はすっげー幸せそう。


「あらシン、起きたんだ。じゃあこれ」

「ありがと」


蒸しタオルを受け取り顔を拭く。頭の中にかかっていたもやが晴れ、意識が急激にクリアになった。

ぱっちり開いた両目に、張りのある頬。シン・アスカ再起動完了である。


「おはようみんな、昨日はごめんな」

「そんなの気にしてないわよ。恋人同士ならあれくらい普通でしょ」


戦いが終わればノーサイド。そう笑顔を見せてくれる3人の姿はとても美しい。

彼女たちのために生きよう。この笑顔をずっと守っていこう。シンは心の底からそう思った。


「俺、今日から3人のためになんだって……ん?」


はらり。次の瞬間、シンの言葉を遮るように3枚のタオルが床に落ちた。美しく張りのある肢体を惜しげもなくさらすステルナコンビ。両手で自分の恥ずかしいところを隠すセツコ。

何だろう、この展開見覚えがあるんだけど。たしか1話くらいで。


「ど、どったの……?」


「ごめんねシン。私たち昨日のことを思い出してたら、なんだか疼いてきちゃって……。今からも、お願いしたいんだ」

「ステラ、きのうのでいろいろ目覚めちゃったかも」

「うん……シン君、お願い」



なんですって!?




昨日の夜は戦いの中に身を置いた自分の人生の中で、トップ3に入るほどの死闘だった。フリーダムとの一騎打ちや傷を負ったままの状態での御大将とのタイマンに並ぶくらいといっても過言ではない。

そしてその全身全霊を込めた死闘の末、やっと手に入れた確かな勝利。なのに―――



「「「ねえ~~、シン (君) ~~」」」



彼女たちはもう回復しつつある。

ベッドに手をつき、四足歩行の前傾姿勢で近づいてくる3人。それぞれの美巨乳が美味しそうに揺れている。


「私たちのこと愛してるなら、してくれるよね……?」


その発言は卑怯やセツコさん。疲れたとか言って逃げられないじゃないか。

しかし3人ともなんというタフさ。完全に満足させるのも、昔ほど容易ではなくなってきたと感じてはいたが。


――――残念なことに……ここまでお前がやったこと。 『何1つ間違えていない』。当たり前の事が当たり前に起こっている、ただそれだけだ


胸の中に響くデスティニーの声。3人の強さにデスティニーも驚きを隠せていない。

だが驚いている暇なんて無い。肝心なのは 「なんで」 と疑問に感じることではなく、 「どうするか」 ということだ。

無論、答えは決まっているのだが。



「やはり最後は」



もうBEASTは使えない。だが深淵喰いのように距離を詰めてくる今の彼女たちに、小手先の技では通じまい。

覚悟を決めたシンの心に再び炎が宿る。すまんがデスティニーよ、もう少しだけ俺に付き合ってくれ。

決意と共にそそり立つ大剣。最後に縋るは自身の強さの象徴、かつて3人を幾度と無くベッドに沈めてきたアロンダイト。




「大剣 (これ) に尽きるか」





来い。今度こそ満足させてみせる。










戦闘開始。



「ずっと私のターン!!!」

「見せてやるぜ、飛鳥風風拳」



1時間経過。



「ずっとステラのターン!!!」

「獣王激烈掌が……足止めにもならんとはっっ!!」



2時間経過。



「神様……初めて貴方にお願いします………。どうか………どうか私に勝――――」

「シン君もう限界が近いのかな。それじゃあ今度はシン君のターン……」

「セツコさん……」



「と見せかけて私のターン!!!」


「あんたって人はぁぁぁぁっっ!!!!」







そして3時間後。

今は、起き上がることすらできない。



シンの顔の上に顔面騎乗して舌での愛撫を受けつつ、目の前のセツコと両手の指を絡ませながらディープキスをしているステラ。

自分の恥部をシンの腹筋に擦りつけ、背後のルナマリアに胸を攻められながらステラと舌を絡ませているセツコ。

セツコの胸を背後から揉みしだく一方でシンと繋がった腰を激しく動かし、快楽を貪っているルナマリア。



まるでクライシスコアのラストバトルくらいに一方的な展開に、少年の体から力が抜けていく。


「く……うお………」


顔に恥部を押し付けられながら、シン・アスカは辛そうな声を上げた。その声は誰がどう贔屓目に見ても敗北者のそれである。

ターニングポイントはおそらく仲直り後の弟プレイだろう。あれで完全に流れをもって行かれた。

逆転の予兆を感じていたにも係わらず、目先の勝利に驕った自分が間抜けだったのだ。僅かな勝利一つで猫が獅子に変わることもある、その事を忘れていた己が。


もう、自分では逆立ちしても3人には勝てないだろう。



「あぁん!! もっと、もっと突き上げてシン!! 私をめちゃくちゃにしてぇ!!」

「んちゅ、ぷぁ、はやくイッてルナマリア!! こっちは身体が凄く疼いて、どうにかなっちゃいそう」

「そのつぎは、ステラ……」



(俺は……負けるんだな……決定的に………)


シンはいともすんなりそれを受け入れた

恐怖はなかった (出し過ぎによる) 痛みもなかった

『ヤるだけヤったんだからな』

そう思った

圧倒的な3人の前にあるのは氷のように冷たい冷静な、失神していく自分を見る目だけだった


(…………)


デスティニーも同じだった 動けなかった

デスティニーは生きながらヘビにのまれるカエルの気持ちを理解したと思った!!





(カミーユ……エイジ……ロラン……。お前たちは、何を手に入れた? オレは…………)









「この気配はなんだ? 誰か僕の大切な人の光が、消えていくような……」

「ローラ、起きたのですね? 丁度良かった、朝の奉仕をお願いします」

「いや、ちょっともう無理……」

「よしなに」

「………はい」





「この、感覚は……」

「おはようございますエイジ様。でもまだ起床時間には早、あっ、駄目ですこんな時間からなんて。でもどうしてもと仰るなら………エイジ様?」

「すまねえクッキー、俺やっぱりまだガキだわ。……このまま胸を貸しててくれ。少し泣く」

「………?」


「魂を同じくする俺にはわかるんだ」

「胸を揉まれながら言われても……んっ、あっ、そんなところに手を入れられては……っ!!」





「一つの時代が終わったか……」

「どうしたの、カミーユ」

「なんでもないんだ、サラ。なんでもない。……ほら、体が冷えちゃうからこっちに寄って」

「え~? またするつもりでしょ。もういい加減寝させ、ちょ、こらぁ♪」









(あと……1回ずつくらいイカせれば……主導権を確保できる筈だったんだけどな………)


抵抗する気すらなくしてエンディング一直線だったのに、まだ戦いは終わらない。いや、それはもう戦いとすら呼べない一方的な捕食であった。

シンはぼんやりとした頭で過去の記憶を探る。



「あぁ!! あぁん!! やっぱシンのすごいわよもう、んっ、んっ、はぁ、私の弱いとこに……いい感じに擦れてっっ!!」



いつからだろう。

押し寄せる波のように連続で挑んでくる彼女らを、撃退した後に安堵するようになったのは。



「ちゅ、れろ、ちゅぱ、んんっ!! だめ、ステラたまんない。そこの、きもちいいところ、もっと吸って、シン」



おかしいな。

初めは彼女たちの笑顔を見るだけで、自分は幸せだったはずなのに……



「シン君、つぎ……次は私だから………もうがまんできないから、早くルナマリアをイカせて……!!」



いつの間にか彼女たちが快楽に流される様を見ながら、3人を攻めることに喜びを覚える自分自身に気がついた……




「「「ねえ~~~、もっとぉ~~~~!!!」」」








負けたくないなぁ……



かりそめの楽園の……全てはいつか壊れる幻想だったとしても……少しでも長く……



ほんの少しでも長く、あのままでいたかった……

















部屋に響き渡る嬌声。3人は幸せそうに愛する少年と体を絡み合わせ、もたらされる快楽に身を委ねる。

淫靡な宴は終わる素振りを未だに見せない。

そして朝っぱらからサカっていた友たちの予感は間違っておらず、彼女たちの下では一人の少年の生命の光がくすんでいき。












この日、一つの巨星が落ちた。























[6402] シークレットエピローグ 前編 「ハマーン・カーンの憂鬱」
Name: ドダイ改◆58feba7e ID:cb680aa8
Date: 2010/04/24 01:41










女の幸せとは何か。

大金。身を覆う装飾。やりがいのある仕事。地位や名誉。その問いに対して答えは人の数ほどあるだろう。


だが女の一番の幸せとは、真に愛する者と添い遂げることではないだろうかと私ハマーン・カーンは思うのだ。

ガラではないことを考えているとはわかっている。

しかし完璧な人間などこの世にはいない。他人より秀でたところがあれば、逆に劣ったところもある。だが人はその足りない部分を誰かの存在で埋めることができる。

自分の弱い所を預けられ、そして最後には自分を暖かく包んでくれる人がいるのなら。これ以上の幸せは無い。


「コホン。……行くか」


そして自分もその幸せを逃がすつもりは無い。ハマーンは深く息を吸い込み、覚悟を決める。

眼前の敵、ソファでテレビをつけながら漫画を読みふける金髪の男に強い視線を向けた。

これから赴くのは自身の人生の中で尤も予測のしにくい、それでいて退くわけにはいかない困難な戦いである。


「シャア……そ、それは面白いのか」

「ん? ああ、これか。最近忙しすぎて買うばかりで見ることなく溜まっていたからな。

 漫画やアニメーションなど子供の見るものだとばかり思ってはいたが、見ていると不思議とリラックスできる。まんざら馬鹿にしたものでもない」

「そうか……」


雑誌を見ながらそう言ってはいるが、彼は何だか元気が無い。テレビからは生き残りたい生き残りたいと不吉な言葉も聞こえてくるし、話はまた今度にしたほうが良いだろうか。

いやいや待て待て何を弱気になっているのだ自分は。そんな弱気だからいつも失敗するのだ。

半同棲まで持って来た (実際はハマーンの通い妻状態) のだから脈はあると思う。後は勇気を出してガツンとした止めの一撃でも決めればカタはつく筈なのだ。

今の私たちはさしずめパオフゥとうらら。居心地は悪くないが、目標はたまきちゃんとただしくんである。声的に西澤夫婦も悪くは無いが、離れている期間が長そうなので次点ということで。

だから覚悟を決めろハマーン・カーン。牙を突きたてるのだハマーン・カーン。


「な、なあシャア。一つ提案があるのだが」

「どうした」


もう逃げ場は無い。勝利を目指して前に出るのみ。

さあ今こそ燃え上がれ私のニュータイプ能力よ。なんなら小宇宙でもSEEDでもいい。それが今日の勝利に繋がるのならば。


「そ、そろそろ私たちも関係を進展させてみないか。具体的には、その……し、式の日取りとか、何人欲しいとか……」

「…………そうだな」


ぱたんと読んでいた本を閉じ、サングラスを外してハマーンの前に立つクワトロ。

自分を見つめるのは真剣な目。茶化すことなどできそうもない表情。なのに何故だろう、周囲の空気はチャーミーグリーン。

その様子はいつもの自分たちのそれではない。

勝つか。勝つかハマーン・カーン。自分は人生最大の賭けに勝ったのか。


「薄々気がついてはいたのだが」

「う、うむ」


自分の耳が赤くなっていく音が聞こえる。心臓は破裂しそうだ。なのに蛇に睨まれた蛙のように自分の身体が動かない。

いや、むしろ蛇に食べられたがっているのだろうか。肩に手を置かれた瞬間びくりと生娘の様に身体を震わせるハマーン。

ええとキスの時は鼻で息するんだっけ今日の下着は良いやつだっけメイリンの言ったように縞パンでも履いてギャップ萌え狙えば良かったかもしれんがああしまったゴム買ってない――――

テンパった頭からは理性が抜けていき、いつしか思考は一つの言葉に集約されていく。


優しくしてください。


「どうやら私もそろそろ年貢の納めど 『ランカ、シェリル!! お前たちが俺の翼だ!!!』 ――――何だと!?」

「な、なんだ? 急に変な声を出して」


テレビから聞こえてきた声にクワトロの様子が一変する。そして次の瞬間ハマーンを放って階段から落ちて死んだライバルの父親の様にテレビにかじりついた。

画面から聞こえてくるのは釣り合いの取れてない2人の女性の声。君は誰とキスをする? どっちでもいいわそんなもん。

それよりシャア、さっきの言葉の続きを聞かせて欲しいのだが……聞いてないなこいつ。まあいい、ここは遠足の夜の如くいずれ訪れる幸せまでの時間を満喫しよう。

そう思い直し、今までの威厳を次元の彼方に吹き飛ばしたかのようにでへへと表情を崩すハマーン。人生の賭けに勝ったのだ、今日ぐらいは心の鎧を脱いでも良いだろう。

そしてついに物語が終わった。ならば次はこっちのターン。よっしゃ来い、できれば情熱的かつ感動的な言葉を頼む。


「シャ、シャア。先ほどの続きを……」

「昨今の業界は一体どうなっているというのだ。それでなくともTo Loveるが打ち切りとは言えハーレムエンドだったというのに」


作者に何が起こったのか知らないクワトロの愚痴。心なしかその目には怒りの色が見て取れる。

む、むう。怒っているのはわかったが、告白はまだか? もうこうなったら贅沢言わずに普通の言葉でもいいのだが……。

こちらはすぐにでも 「その言葉、まっていました……」 と言う準備はできているのだから。そして同じ未来、さしずめバージンロードを歩みはじめる覚悟も完了している。

ぎぶみーゆあぷろぽーず。


「まさかどうせアルシェリに落ち着くからランカたんは大丈夫だろうという私の予想が外れるとは……。もう一刻の猶予も無い!!!」

「なんだ、どうしたのだシャア」


いつまでたっても幸せの瞬間が訪れず困惑し始めた彼女をよそに、クワトロはサングラス片手に髪を掻き揚げる。現れたのは今までに無い精悍な表情。

オールバックのシャアも悪くないなぁと思わず頬を染めるハマーンに、クワトロは意を決したかのように言葉を放った。







「私が天に立つ」


「何を言っているのだ貴様は」















「どうしたんだよお前ら、元気ねえぞ?」

「そんな事はないよ。実際ここの味噌汁旨いし……」

「ただ、もっと精が付くものが食べたいです……」



両手を合わせた後食事を取り始める少年たち。机に座っているのはシンとエイジにロランの仲良しコンビ、人呼んでアスカファミリーである。

現在の時刻は朝。食堂は朝食時間ということもあって非常に混雑しているが、いつも端っこにある机を利用する3人にとっては大した問題ではない。

昨夜精を搾り取られ朝から元気の無いシンとロランを心配していたエイジだったが、シン達が食事を取るうちに元気を取り戻してきたのを見てほっと溜息を吐いた。


「エイジ、また首にキスマークがついてますよ。見たのが僕たちだから良いですけど、他の人には嫉妬されますから見られないようにしてくださいね?」

「またテセラさんだろ? 一緒にいたの見たぞ。お盛んなこって」

「お前たちが言うか……それにお前が見たのは見間違いで昨日はクッキーだよ。テセラは一昨日の夜だ」


テセラは赤い髪のオペレーターメイド、一方クッキーは同じく赤い髪の戦闘メイドである。遠目だったので間違えたらしい。

そういえばエイジより背が高かったような気もするなぁ。あんまり覚えてないけど。


「それなんですけど、テセラさんって凄く真面目な人なのによくエイジは落とせましたね。カミーユに感化されて何か彼女の弱みでも握ったんですか?」

「アイツと一緒にされても困るんだけど……最近のテセラってこないだサンドマンじゃなかった義兄さんがアヤカと結婚してから元気がなくてさ。

 心配になったんで普通に慰めてあげてたらなんだかそういう流れになっちまって。軽く誘ったらあっさり部屋に付いて来るもんだから、俺も退くに退けなくてさ。

 あれじゃまだマリニアの方が落としにくかったよホント。彼女の時は酒の力借りたし」


まあ今では酒も何もいらないし、そもそもそれも大したことじゃないと言わんばかりにシンとロランの言葉を流すエイジ。その仕草には貫禄と言って良いほどのものが漂っていた。

それにしても、ついにオペレーター3人娘を制覇したのか。流石はメイドマイスターの名で呼ばれているだけのことはある。


「もてもてですね、エイジは」

「そんなんじゃねえよ」


エイジはそう謙遜しているが一線を退いたサンドマンからグランΣを譲られてからというもの、彼のメイド漁りに拍車がかかったのは事実だ。

だがエイジ曰くメイドたちの憧れであったサンドマンが所帯持ちになったので性の対象が自分に変わっただけで、カリスマが無く気軽に誘いやすいからそうなっただけとの事。

斗牙は琉菜 (周囲に知れ渡っていた為今更乗り換えることができなくなった) やエィナ、友人としてよく話すようになったリィルなどが傍にいるため、今更新参者が割り込めないのだそうだ。

実際関係を持ったメイドの大半が、エイジとの関係について火遊びという認識しかもっていないらしい。


モテだした初期はかつてナニを見られて笑われた復讐と称して 「マリニアを立ちバックでヒイヒイ言わせてやった」 とか 「トリアをレンチで愛撫した」 など戦果を調子に乗って語っていたエイジだったが、

最近では彼女たちにとっての自分の立ち位置を悟ったのか、自らを自嘲気味に 『サンジェルマン城の肉バイブ』 と呼んでいる。

まあそれでも彼女たちから慕われているのはわかっているので、腐ることは無いらしいが。


ちなみにカミーユはそんな彼をめっちゃ羨ましがってた。 「家族が大金持ち、なんでもしてくれるメイド、最強クラスのロボット。あとはメイドたちが自分にメロメロなら完璧じゃないか!!」 だってさ。

そんな頭の悪いご主人様全肯定ハーレムなんぞいらんだろうに。


「あ~、死ぬかと思った」


噂をすればと言うわけではないけれど、丁度良いタイミングでカミーユが食堂に入ってきた。

何だか服が乱れているが、女とヤってたとかそういう関係の話でもなさそうだ。むしろ喧嘩でもしたのかという感じ。


「何があったんだよカミーユ」

「おはようエイジ。いや、セツコさんたちがちょっと……」

「セツコさんだと? お前もしかして……ってわけでもなさそうだな」


一瞬眼つきを鋭くしたエイジだったが、シンが大した反応を見せていないので態度を改めた。流石にカミーユも Tomorrow never knows をやるほど外道ではない。

そもそも昨日シンは3人と、いつものごとく朝までドッグファイトしていたのだ (エロローグ参照) 。彼女たちにそんな体力的余裕も時間もあるわけがない。

それにヤツはクロスオーバーを狙うよりも自分のテリトリーをじわじわと広げるタイプであるため、サラやレコアさん、ベルトーチカといった同作品コンプが最優先課題だろう。

他作品の女性にするのは精神的なセクハラくらいである。


「実はさ、俺も何でこうなったかわかんないんだけど……」


説明を始めるカミーユ。死ぬかと思ったなんて言ってるし、どうせまた修羅場でも起こったのだろう。聞くほどの価値はなさそうだ。

でも別に聞きたくないから黙ってろとか言わない辺り、まだ3人はカミーユに甘いのかもしれない。







「サラ、綺麗だよ。……君の体の奥までウェイブライダー突撃したい」

「カミーユったら、他に女の人がいるのに……悪いひと」


昨夜カミーユは長い期間のアプローチの末ついにサラを陥落させる事に成功し、そのまま自室のベッドへと彼女をご招待。

シロッコにはそこまで開発されていなかったのかその反応は初々しく、甘いひとときを過ごすことができた。

だが次の日の朝。


「カミーユ、覚悟はできてるわよね? ……サラ、一応何をしていたか聞いておこうかしら」


案の定と言うか何と言うかそれが他の女たちにバレていたらしく

部屋から朝帰りしようとしたサラと入り口から彼女を見送ろうとしたカミーユの2人は、ファ・フォウ・エマのハーレム要因たちに囲まれることとなった。


「私たちの存在を知っていながらカミーユに手を出すとはね。シロッコに開発された身体が疼くなら、大人しくカツあたりで我慢して処理すれば良いのに」

「泥棒猫は泥棒猫らしく、こっそりビクビクしながら日陰を歩けばいいものを……さあその口で答えなさいサラ。この部屋で一体何をしていたのかを!!」


ムッ。上から目線の彼女たちに、思わず眉間に皺を寄せるサラ。

我慢できなくなったのか、逆ギレ気味に声を荒げる。


「そんなに聞きたいなら教えてあげましょうか。彼に……カミーユに抱かれていたんです。 えっちです!! SEXです!!」

「SEXですってぇぇぇ!!!」




FOREVER LOVE    FOREVER DREAM

溢れる想いだけが 激しく せつなく




「時間をうめつくす」

「それはX JA○ANだってば」



マイク片手に危険なボケに走るフォウ。ピアノ伴奏までしてフォウに付き合っておきながら何事も無かったかのようにつっこむファ。

SEXSEX恥ずかしげもなく言いやがってカミーユは絶対カンチって呼ばせねえからなとキレるエマ。

そんな彼女たちがあまりに険悪な雰囲気だったため (とこれ以上の危険なボケを止めるため) 、丁度その時近くを通りがかったセツコたちがカミーユを無視してサラを助けに入ったものの

最近欲求不満気味なファ・フォウ・エマや寝不足の上囲まれ余韻を汚されて不機嫌なサラにとっては、つやつやにこにこ幸せそうなセツルナステラの存在は感情を逆撫ですることとなり

結局カミーユを放置したまま2手に別れての不毛な口喧嘩が始まったのであった。


「何がしたいんだこのアホ毛がコラ」

「うっせー卑猥な頭しやがってコラ」

「んだコラ、タココラ!!」

「何がタコだコラ!!」


ゴツゴツ額をぶつけ合いながら睨み合い、コラコラ問答するルナマリアとエマ。

その脇では、セツコとサラが対峙していた。間に流れるは冷たい空気。


「聞いた話によると、貴方には以前好きだった男性がいたそうじゃないですか。いなくなった途端他の男に移った挙句そのうえ清純派を気取るなんて恥ずかしいと思いませんかオハラ少尉?」

「確かにサラさんの言う通りですね。子犬のように慕っていた男性をあっさり乗り換えて、今度は彼女持ちにちょっかいかけるなんて私にはできそうも無いですし」

「ぐっ……、貴方にそれを言う資格があるとでも!!」

「手を出したのは3人一緒で、当時は彼も私もフリーでした!! 私は自分を客観的に見ることができるんです、貴方とは違うんです!!」

「言ったな……不幸ぶって同情した男を引き寄せることしかできないくせに!!」


この光景を目の当たりにしたステラは思わず溜息を吐く。

武闘派同士ぶつかり合うルナマリアとエマ。女子高の校舎裏並みにネチネチした女の戦いを続けるセツコとサラ。いつもの自分たちは一体何処へ行ったと言うのか。

みんな仲良くが信条のステラとしては、友達である2組がいがみ合う様は見ていて苦しい。


「なんで喧嘩なんかするのかな。ステラなら、好きな人の傍にいれればそれで良いのに」

「離しなさいフォウ!! 殴るッッ……あのカマトト娘を殴るッッ……」

「ちょっとファ、ベアは駄目よベアは!! あの子、幼いところがあるんだから!!」


おいテメー今なんつったと言わんばかりにファがステラに詰め寄る。α外伝で修羅場を発生させた彼女としてはそんなことを平気で言われては立つ瀬が無いのだろう。

ステラを妹のように可愛がっているフォウが止めているが、このままではそう長い時間は抑えきれずファのベアナッコォが――――


「みんな美人だし、特にフォウなんかすらっとしてて綺麗なのに」

「乳が無くて悪かったなぁコラぁ!! 今時の萌えキャラとして生まれたあんたにはわからないでしょうよ!!」

「フォウ落ち着いてー!! ベアは駄目なんでしょ!!」


さらりと名前以上のコンプレックスを刺激されたフォウがステラに詰め寄り、今度はファが抑える側となった。ちくしょう誰かターンエー持って来い、私の月光蝶を見せてやるから。

富野作品に最近のアニメによく出るような巨乳を期待してはいけないのは定説である。あのハゲ自分はオープンスケベのくせに。


ぎゃあぎゃあと騒ぎながらそこらのモブキャラが場に居合わせたら発狂するんじゃないかというくらいの殺気を撒き散らかす6人プラス1。

そんな彼女たちの争いの隙を突いて、そもそもの原因であるカミーユはその場から離脱して此処に来たのであった。

争い合う彼女たちを放置したまま。




「なんでこんな事になったんだろう………」

「気づけよ」


本当に聞くんじゃなかった。深く後悔しながら肩を落とす3人。つかもうサラまで落としたのか。釣った魚にエサをやらないタイプとは言え、流石にペースが早すぎるだろ。

このままではレコアを落とした後、ベルトーチカに照準を合わせて初代トライアングラーこと技の1号 (アムロ) と戦いを始めるのも時間の問題か。


「セツコさんたちが止めずに通り過ぎてれば良かったんだよ。皆まとめて俺の部屋に引き摺り込んで、それで問題が終わるんだから。

 ただ俺も皆の目の前でそんな事をするのはどうかと思ってさ。女性陣の立場ってものもあるだろうし」

「どうしますこのクリーチャー?」

「2学期のフカヒレみたいな扱いでいいんじゃね?」

「つまり何かあるたびに殴り倒してオチをつけた雰囲気にもっていくんですね? でもリアルなイジメって正直やりたくないんですけど」


つよきすに2学期はありません。ついでにアニメも。

つかいくらカミーユがアホとは言え、変態っぽいキャラとりあえず殴っとけば笑いが取れるなんて認識は甘すぎるにも程がある。NOBにはそれがわからなかった。だからきゃんでぃは滅んだ。

こっちもその事をわかってて同じ轍を踏むことは無い。そう思いながら彼らに向かって口を開こうとした瞬間、スピーカーから流れた放送によって遮られる。



『シン・アスカ、カミーユ・ビダン、紅エイジ、ロラン・セアックの4人は至急、ミーティングルームに集まってください。繰り返します――――』



顔を見合わせる4人。ミーティングルームってことは近く戦闘があるということだろうか。

それならそれで自分たちだけが呼ばれる理由にはならないと思うが。


「おい、今の聞いたかシン」

「耳を悪くした覚えは無いな。ただ俺たち4人が呼ばれる理由が思い浮かばないけど」

「至急って言ってましたし急いで行った方が良いでしょうね。ほらカミーユ、早く食べちゃってください。量は多くないでしょう?」

「ちょ、無茶言うなよ。今来たばっかりなのに」


カミーユが食べ終わるのを待ってから走る4人。ミーティングルームに着いた時には丁度見知った顔が部屋に入ろうとしている所だった。

ZEUTHの少年たちにとっての優しい兄貴分、そしてスパロボの初代トライアングラーことアムロ・レイである。

νガンダムのお礼をしに月まで行ったところ、案の定ファンを自称する女性メカニックをゲットしてしまったらしい。そのお陰で最近は胃薬が手放せないとか。


「どうしたんですかアムロ大尉。こんなところ用事が無ければ来ないでしょ」

「いや、俺も急に呼び出されてな……正直最近の自分の周りは忙しすぎてそれどころじゃないんだが、そういうわけにもいかない。何せ集めた人物が人物だ」

「誰が僕たちを呼んだんですか?」


集めた人物が人物とな。アムロさんが焦るほどの人と言えば大していないと思うのだが……。


「あまり状況の把握は出来ていないんだが、我々を集めたのはどうやらアクシズのハマーン・カーンらしい。

 大戦が終わってから彼女はシャアと行動を共にしていた。その彼女がZEUTHに召集をかけたとなっては俺が黙っているわけにもいかないだろう?」


つまり今回の話は逆シャアがベースということですね、わかります。

皆と共に部屋に入ると壇上にはハマーンが立っていた。席に既に着いているのはラクス・クラインとカガリ・ユラ・アスハ。

でもそれだけだ。他に席についているのは一部のスタッフくらいで自分たちとの共通点が見当たらない。顔を見合わせる5人にハマーンが声をかける。


「お前たちで最後だ。早く席に座れ」


やっぱこんだけなのか。とりあえず話を聞かないと状況が把握できない。

素直に席に着くと、壇上のハマーンが再び口を開いた。


「皆、良く集まってくれた。忙しい中集まって貰って感謝している」

「それはいいんですけど、なんでこの面々なんですか? プラントのクライン議長やオーブのアスハ代表まで集まって」

「それを今から言うところだ。早速だが、此方の映像を見て欲しい」


ロランの声を遮り、手元の機械を弄るハマーン。大画面に映像が浮かび上がる。

画面の中に現れたのはアナ姫と、アクシズの君主であるミネバ・ラオ・ザビ。大勢の群衆の前に2人揃って立ち、目の前のマイクで大きく叫んだ。



『わたしたちは』

『このような所に』



『『――――来とうはなかった!!!!』』



ウオオオオオオオと地鳴りのような歓声が画面の中で響く。うん、何ですかコレ。


「間違えた、アクシズ大運動会の映像ではないかコレは。ちょうど開会宣言のところだな」


何をやってんだアクシズは。


「……一応、続きを見るか?」

「なんでさ」

「いや、この後の親子二人三脚でミネバ様と1位になったのでな。あの時ミネバ様は本当に喜んで、そんな笑顔が凄く可愛くて……」

「もういいですから」


画面の端でクワトロ大尉が拳を突き上げたまま真っ白に萌え尽きてるのが気になるが、まあそんな事はどうでもいい。

ハマーンが手元にある計器を少し弄ると、映像が切り替わった。映っているのは髪をオールバックにしたクワトロ。何やらアクシズ兵たちの前で演説でもするようだ。



『アクシズにいる全ての人たちよ。剋目せよ!! ―――――私は悲しい』


そう言うや否や悲しげに視線を落とすクワトロ。

流石決めるところは決める男、演説する様はかっこいい。なんだかんだで女性に人気があるのは分かる気がするな。



『今の世界には悲しみが溢れている。私にはこの現状を許すことができない』


彼の言う事を否定はできない。ZEUTHも頑張ってはいるものの、それぞれの軍の残党の蜂起などで世界から完全に争いが消えたわけではなかったから。

それに人々の先の戦いでの傷が癒えるには、まだしばらくの時間が必要だった。


『諸君もうすうす感じていることと思うが、私はかつてシャア=アズナブル…そしてキャスバル・レム・ダイクンと呼ばれた男だ』


その言葉にアムロの表情が凍りつく。

名前バレもそうだがこんなに自信の溢れた表情のクワトロがその事を口にするということは、ガチで反乱を起こしたということに他ならない。

だが戦いは避けるべきだ。争いの果てに傷つくのは、結局力を持たない人だけ。どんな大義名分をかざしたとしても許されることではない。

それにかつて約束したのだ自分は。もし大尉が人類に絶望して戦いを始めたときは、自分が止めると。

だから例えこの人がこんなに悲しんでいたとしても――――


『かん○ぎ。T○ LOVEる。マク○スF……これだけ言えば分かるだろう。

 貫通発覚、うやむやハーレムエンド、まさかの2股宣言。我々はこの短い期間に数々の悲しみを抱えてきた。

 だがいつまでも悲しんでばかりはいられない。悲しみに浸る暇があるなら、涙を拭って前へ走るべきなのだ。

 諸君に問いたい!! ナギ様が中古であると分かった今、我々がすべきことはなんだ!! 声高に作者へのバッシングを繰り返すことか!! 単行本を引き裂いてネットに晒すことか!!

 違う!!!

 我らに残された希望、ミネバ様やアナ姫などの貞操を全力で守ることこそが!! 我々に残された唯一の道である筈だ!!

 また、都合のいい言葉に騙されて2股をかけられないように、彼女たちに貞操観念の教育を徹底的に行うべきなのだ!!』


………。


『教育の結果、高みから男を見下ろす典型的な高貴ツンデレになるという懸念もある。その後自分を特別扱いしないだけがとりえの大して美形でもない男に喰われる可能性も否定はできん。

 いや、ツンデレに育つならそれでも良いのだ。彼女たちが美しいあり方を残したまま、相応しい男性と幸せになれるのならば。

 だが昨今のツンデレは男性に理不尽な暴力を振るったあと、さあ今からデレだからオタども食いつけと言わんばかりのあざとい外道ばかり。

 M字開脚でパンツを見せつけ胸を当ててんのよ、挙句の果てには顔面騎乗。君たちはそれで良いのか!? この子達が将来、そんな存在に堕ちたとしても!!

 そのくせSEKKYOというつまらん戯言や中途半端に苦労した過去などを格好つけてほざく頭の足りないガキにマンセー発情するような、そんな雌豚に堕ちたとしても!!

 
 否!! 断じて否だ!!! そんな事を認められるはずが無い!!!』



大尉力入れ過ぎだよほんと。アンタ原作でもそこまで演説に力入れなかっただろ。よっぽど少女たちが主人公補正のみで落とされる作品にキレてんだな。



『ここで私は誓おう。このスイートウォーター改め “ネバーランド” に、子供たちの楽園を作る事を。

そして彼女たちを育てきり、好きな人を聞いたら 『も、もう!! お父さんの鈍感!! なんで気付かないの!?』 と言うような1人前の女性に育て上げたとき!!

 ――――――私は父ジオンの許に召されるであろう!!』



『『『 ウオオオオオオオオオオ!!!!!!! 』』』



テレビの中に映る観衆たち (男ばっかり) が熱い咆哮をあげる。

聞いてるこっちは福盛があっさりサヨナラ満塁ホーマーされた時の気分であるが。もしくはテレビ版エヴァの最終回を見た後のような。

空虚。一言で表すならまさにその言葉である。


画面の中ではクワトロによる戦意高揚のための演説は一段落ついたようで、彼は今後の具体的な方針などを語りだした。


『無論、新しい人材の発掘にも力を入れているのは言うまでもない。男しかいないパイロットという部署にはプルとプルツーやアーニャたんを配置する予定だ!!

 戦場でのお耳の恋人は無論我らがルリルリ。16歳バージョンを連れて来て艦長という手もある。中の人がいなくなった少女もいるが五感の共有はオリ設定だから気をつけろ。

 そしてネバーランド専属の歌姫、戦闘中のバックミュージック担当・もう1人のお耳の恋人としてランカたんを!!

 なに? 歌姫といえばラクス・クラインではないか、だと!? ―――フ、そういえばそんな者もいたな。だがあえて言おう!! そんな女はカスであると!!』


カスは言い過ぎであるが、流石にシンもフォローすることはできなかった。プラントの群衆にとって最近のラクスは終わってしまった人のイメージが強い。

今の彼女は何者か (実はクワトロ) によって行われた情報操作によって、 「ラクス? プ、あの女としてのウリの無い、ただの武闘派電波だろ?」 と言わんばかりに人気が落ちていたのだった。

ガンダム○ースやアニ○ディアの編集長に言い付けておいた、人気投票の投票数の水増しも役に立たないほどに。


「やはりあれはこの方の仕業だったのですね? 許すわけにはいきませんわ!!」

「ラクス落ち着け!! 仕方ないだろ? ガンダムエースの発行部数で1万5千票獲得なんて現実味が無さ過ぎたんだよ!!」

「離してくださいカガリさん!! あの男にノースリープ着せて右胸部分だけ毟ってワンショルダーにして 『お前クワトロだろ』 って言ってやりますわ!!!」

「殿、殿中でござる!! 殿中でござる!!」

「止めないでください!! 武士の情けと、武士の情けとおぉ……!」


バカ義姉妹ではなく純粋なバカ2人は放っておいて。

なんであの人はこんな事をしたんだろう。


「どういうことなんですか、アムロ大尉」

「俺にもわからん。どっかに頭のネジでも落っことしたんじゃないか」


それは俺も思ったけどさ。なんでこんなもん作ったのかって話で。

自分の意思を貫くために力がいるなら、ZEUTHを強化する方が無難だろうに。


「まあ、要するにロリコンのロリコンによるロリコンの為の組織を作ったということだろう。ノンケに引かれても邪魔になるんだろうし」


超わかりやすいわぁその説明。


「今の奴らは愚連隊だ。幼女は今泣いているんだとか言いながら圧制に苦しんでいる地域を侵略し続けている。抑制の途絶えた力は放置するわけにもいかん。

 しかし情けない話だがアクシズの戦力の半数以上、それも精鋭ばかりをシャアに奪われてしまってな……。恥を偲んで力を借りに来た。

 現在のZEUTHに余裕があまり無い事は知っている。だから少数精鋭としてお前たちを選んだわけだ」


なるほど。突撃役にスーパーロボット枠のエイジと切り払いや分身、PS装甲など防御スキルを数多く持つ自分のデスティニー。

援護や突撃をオールマイティに行えるアムロとカミーユ。そして反則的なMAP兵器 『魂+月光蝶』 を持つロラン。

確かに自分たちなら1機につき10小隊は相手にできるし、大軍を招いてはアクシズの物資が不足することも考えられるから納得の編成ではある。

え、もっと行けるだろって? 連続ターゲット補正ってのがあるんだよ。相手がワイドフォーメーションだと一気に落とすのも難しいしな。


それよりも言っていることは理解できたのだが、自分たちを呼ぶほどのことだろうかコレは。大尉を説得すれば良いだけの話だし。

そんな疑問が浮かんだのでハマーンに質問してみる。


「でも、別に悪いことはしてないんじゃないですか? そりゃあ交渉もなしに他の軍の支配下にある地域に突入するのは良くないと思いますけど。

 民衆にも悪い印象は持たれていないみたいですし、上手にコントロールできれば何も問題は」

「最初は私もそう思った。何せ過半数以上の者がシャアに加担したのだ、無視するわけにもいかなかったしな。

 私は内政にまわりシャアに軍の全権を委譲する、だから私の所に戻ってきて欲しい。私にはお前が必要だ。全軍の前でそこまで言った。………だが。だが!!!」


机に拳を叩きつけるハマーン。哀れな机は木材に還った。

そして部屋に響くのは咆哮。



「何が 『サボテンが花をつけている……』 だァァァァ!!! あの男、人に一世一代の告白を2回もさせた挙句、意味わからん言葉で断りおってェェェェ!!!!

 もう絶対に許さん、首にこの鎖でも巻きつけて引き摺って帰ってやるわァァァ!!!!」


「落ち着くんだハマーン!! 鎖を振り回すな、危ないだろって痛ぁ、めっちゃ痛っ!!」

「アムロさんがやられたーー!!!」

「お下がりください!! お下がりください!!」








現在ハマーン様がチェーンを振り回しながら大暴れ中ですので、しばらくお待ちください。








「ハァ、ハァ、ハァ………。と、ともかく、私があのロリコンを捕らえるのに協力して貰いたい」


ハマーン・ザ・ブロディの大暴れも一段落し、負傷者の治療が終わったところで会議はやっと本題に戻った。

ここに来るまで随分長かったなぁオイ。


「事情はわかりましたし協力もしますけど、もういいんじゃないですか? ハマーンさんはよく頑張りましたよ。

 もうクワトロ大尉のことは諦めて、他の男を探した方が良いと思いますけど。美人なんだから引く手あまたですよ、きっと」


彼らとはもう生きている場所が違う。ロリコンはロリコン、一般人は一般人。無理して一緒にいたとしても、向こうが性癖をカミングアウトした以上結局はどちらかに負担がかかるだけだ。

そんな事をハマーンに言ってみるシンだったが、彼女の答えは


「そ、それは……」


もじもじ。


「いや、優秀で必要な人材であるのは間違いないことだし、他勢力に引き込まれてはやっかいなことになるし………」


自分に言い聞かせるように言い訳を始めるハマーン。だめだこりゃ。


「その辺で勘弁してやれよシン」

「エイジ」


ポンとシンの肩に手を置いてきたのはエイジ。こいつも自分と同じ気持ちなのだろう、やれやれといった表情である。


「見たまんま、おもいっきり未練たらたらなんだから。あの性格じゃ他の男なんか当てが無いんだろうし」

「男運の無い嫁き遅れってのは執念深くて良くないよな。まあ同じUCのよしみでどうしてもって言うなら相手してやってもいいけど。あ、でも年齢差がネックだな」

「カミーユ、ハマーンさんはまだ20代前半ですよ。……そりゃあ、確かにそうは見えませんけど」






「そこになおれや俗物どもがァァァァァ!!!!!!」






さらに10分後、床に両手を付き肩を震わせているハマーンの姿があった。傍らでは鎖で吊るされた3人がぶらぶらと揺れている。

今は流石に哀れに思ったシンが肩に手を当てて慰めている最中である。


「私は……嫁き遅れなどでは………」

「ハマーンさん落ち着いて。まずは次元力を解明して、ロリっ娘になるところを目指しましょう」

「シン、それ何のフォローにもなっていないぞ」

「すまない少年、私の味方はお前だけだ……。あの時の事黙っといて良かった……」

「そんな言葉で立ち直るな」


アムロのツッコミを気にした様子も無く、ハマーンは虚空から薔薇の花を喚び出してシンに与える。シンはその薔薇を手に頷いたあとハマーンの体を支え立ち上がらせた。

迷惑をかけるな。気にしないでください、仲間でしょう? フ、そう言えばそうだった。

笑顔を交わし友情を芽生えさせる2人。感動の名場面キタコレ。



ちなみにこの時2人の間に結ばれた友情がプラント・アクシズ間の奇跡的な友好条約に繋がるのは、もう少し先の話である。



「大丈夫ですよ。そこまで想いを貫けるなら、きっとあの人にまで届くはずです。でなきゃ戦いの後に一緒にいたりなんかしないだろうし」

「そう言ってくれるのは嬉しいが……もう1回行っても 『2度あることは3度ある』 になるだけなのではないだろうか……」

「 『3度目の正直』 って言葉もあるじゃないですか。それにどうせ、もう大尉以外の男を狙う気は無いんでしょ?」

「あ、ああ。この体、一度決めた男以外に許す気は無い」

「何だか古臭いこと言ってるなぁ。そりゃあそういう女姓の方が周囲からは受けが良いんだろうけどさ」


2人の会話に割り込む声。

いつの間にか鎖から脱出したカミーユがするりとハマーンの背後に身体を寄せる。


「だいたい一人の男の為に操を守り続けるってのはよく聞くけど」




むにゅ。




「つっぱってんじゃないよ。―――――気持ちいいんだろ?」




ぐちゃり。




「時が見えるよ、ララァ……」

「カミーユ? あれ、こいつ息してなくねぇ? てかララァって誰だよ」

「おーい、いま寝たらそのまま起きれなくなりますよーー? めんどくさいから僕たちは助けたりしませんからねーー?」

「いや、もういっそのこと止めを刺そう。今の発言俺はちょっとムカついている」


優しさに溢れた友人たちの声。そして雨の様に降り注ぐアムロのフットスタンプの前に、カミーユの命の火が消えかけていく。

というかどうやって拘束を解いたのだろうか。こいつら時々すげーな。


「私は……しつこい女なのだろうか………」

「大丈夫ですって。強引と傲慢は紙一重なんですから、惚れさせたもん勝ちです。気にせずどんどん押して行きましょう」

「ありがとう少年、お前と出会えて良かった……。借りはいつか必ず返す。次に女子トイレで出くわしたら、ドアの上からコンドームとバイアグラ放ってやるから……」

「そこあんま触れんな」


ちなみにこの時2人の間に一段と強く結ばれた友情のおかげでプラントはアクシズからの援軍を受け、急に出現した宇宙怪獣の襲撃をしばらく持ち堪えることに成功するのだが、まあそれは別の話である。



「出たー!! アムロさんの48のロリコン殺しのひとつ!!」


無視無視。

説明の続きしません? というシンの言葉に元気を取り戻したハマーンは頷き、画面を操作する。

そこに映ったのは敵の主戦力と見られる者たちの名前。その大半は見たことが無い名前ばかりだが、自分たちが知っている名前もいくつかあった。


「オルソン・D・ヴェルヌ、カツ・コバヤシ、キラ・ヤマト、ギャバン・グーニー、ヘンケン・ベッケナー……マジですかこれ」

「つい最近、セツコの元同僚とか言うトビー・ワトソンの加入も確認された。それにニュータイプと遜色ないほどの強化人間もいるようだ。ギュネイ・ガスだったか」

「結構なメンバーだな、これは……。カツ以外は」


返り血を拭うアムロの言葉に思わず頷く。 しかしオルソンとギャバンはまだわからないでもないが、キラやヘンケン艦長は何故あんな勢力についたのだろうか。

それにワトソン中尉も。別世界の彼とは言え、グローリー・スターを放ってまでする事ではない筈。

あとでセツコさんに話してみた方が良いかもしれない。


「ハマーン、これは我々とアクシズ軍の残存兵力だけで何とかなるのか? 向こうには大軍の他に今言った面々がいるんだ、俺たちが加わっても苦戦は免れないだろう。

 しかも相手はあのシャアだ。君がZEUTHに援軍を頼むことは想定の範囲だろうし、ZEUTHは我々くらいしか援軍に出せないということも知ってる筈だ」

「アムロ・レイ、貴様の言うことにも一理ある。だが心配するな。こういうこともあろうかとザフトからも助っ人を呼んでいる」


部屋の入り口に視線を向ける。ドアが開かれ新たな人物が入ってきた。


「紹介しよう、ミネルバ隊を率いて参戦してくれたギルバート・デュランダル前議長だ」

「皆、よろしく頼むよ」

「今回再び皆さんと共に戦いたいと思います。よろしくお願い致します」


紹介する声に会議室のドアが開き、デュランダル前議長とタリア・グラディス艦長が姿を現した。

議会の連中を脅して退職金代わりにミネルバをタリアやクルーごと奪い 、現在ではそこで研究室と政府から依頼された兵器の運用試験を行うことで生計を立てているデュランダル前議長。

名有りキャラには甘くモブキャラに厳しいアニメ界の例に漏れず、旦那と離婚したタリアを息子ごと招いて今ではレイを含めた4人で幸せに暮らしているらしい。旦那さんマジ涙目ですよ。

テロメア関係やコーディネイター同士でも子供ができやすくする研究に今取り組んでおり、議長をやってた時以上に生き生きとしている。

そうだ、このメンツがいるならレイもいる筈――――あ、いた。

再び吊るされたカミーユを 「そういやよくも本編じゃ俺の出番取ってくれたな」 とブツブツ言いながらサンドバックのように殴っているところだった。左ボディのキレが半端ねぇ。


「ミネルバにはそこにいるラクス・クラインも同乗するとの事だ。それとZEUTHに対する礼は後で必ずする。

 ……他に質問は無いな? では解散だ。作戦開始は1時間後、諸君の健闘を期待している」


そう言うとハマーンはミーティングを切り上げ部屋を後にした。

1時間後とは随分と急な話だなぁ。まあアムロ大尉の考えが当たっててZEUTHとの合流が読まれていると言うのなら、時間を置いては不利になるばかりだ。無理も無いか。

とっととパイロットスーツに着替えて機体のチェックをしないといけない。いやその前にセツコさんたちと話をするのが先かな。

急ぐように仲間たちを促そうとしたが、ロランが女首領2人に話しかけたので仕方なく足を止める。まあキラさんの情報くらいは仕入れといてもいいか。


「クライン議長とアスハ代表はなんでここにいるんですか? それにキラが敵方にいるみたいなんですけど」

「私はキラが 『人生で2度あるうちの2度めのチャンスが来たので帰る』 と書置きを残して行方不明になったので、手がかりを求めて此処に来ました。

 キラが向こうにいる理由は分かりません。……もしかして仲間になるよう脅されたのではと」

「私は丁度ZEUTHに挨拶に来てたらラクスに会っただけだ。後は、ちょっと個人的な用事があって……」


そう言って僅かに頬を染めながら此方をチラチラと見てくるアスハ。ん、個人的な用事って俺絡みか? 全然心当たり無いけど。


「キラがいるらしいので作戦には私もご一緒させていただきます。あのグラサンには貸しもありますし……ハマーンさんがなぜあんな元グラサンにご執心なのかはわかりませんが。

 それとあのオールバックの首殺ってきてくれたら、個人的に好きなだけ報酬を差し上げますわ。特にシンはお金が要り様なのでしょう?」

「マジでか。まあお金が無いのは確かにそうだけど……てかなんでデュランダル議長までいるんですか」

「もう議長ではなく只の研究所所長なのだがね、シン。それはともかくとして、今後の研究の為にお金が必要なのだよ」

「ギルは今月マジでピンチだったりするんだ」


つまりは金欠か。住居も兼ねているミネルバを売れば良いのにと思ったシンだったが、以前ミネルバに遊びに行った際に彼から聞いた言葉を思い出して口に出すのを止める。

家には子供たちの思い出が詰まるものだから、親ってのは家を必死で守るものなんだって。


「そんなことよりも早く行こうぜ。とっとと準備しないと時間が来ちまう」

「俺はセツコさんからワトソン中尉の話聞いてから行くわ。機体のチェックは一応昨日もしてるし」

「セツコに会うなら私も付いて行くぞシン。彼女やルナマリアに話があるし」

「それでは私も特に用事はないですし、ご一緒しましょうか」

「付いて来るんですか? ……まあ、別に良いですけど」


ラクスとはそこまで仲が良いわけではないが、今の自分はZEUTH所属であると共にFAITHでもあるのだ。そうつれなくもできない。

仲間たちと別れてラクカガと共にセツコたちの許へ向かうシン。通りすがった整備士に彼女たちを見たか聞くと、どうやらMSデッキにいるらしい。

パイロットスーツ持ってくれば二度手間にならなかったのになと思いつつデッキへの扉を開ける。耳をつくのは整備による機械音ではなく興奮した歓声。


「でえぇぇぇぇい、どうだぁセツコ! 苦しいだろう!?」

「「「 落・と・せ!! 落・と・せ!! 」」」

「ギブ? セツコギブアップ!?」

「の、のー!!」


特設リングの上でセツコをスリーパーで捉えるフォウ。ステラを鉄柵に叩きつけるファとサラ。エマは場外でルナマリアとエルボーの打ち合いをしている。

それぞれレオタードやタンクトップにスパッツなどの戦いやすい格好。何人かはオープンフィンガーグローブやレガースも着用している模様。どう見ても女子プロレスですありがとうございました。

レフェリーはロジャー、実況はブライト (中の人が天下一武道会経験者) 。解説は元大関スケコマシことアンディ・バルトフェルドがお送りします。


「ううっ……」

「ロープ、ブレイク! ほらフォウ離して。ワン、ツー!!」


足をロープに伸ばして何とかブレイクにもっていくセツコだったが、ストンピングを数発喰らったあと休む間もなく起こされる。場外にいたサラを呼び込み、セツコを羽交い絞めにするフォウ。

いかに彼女とはいえ2対1ではさすがにキツいか。アピール中のサラの隙を突く事もできない辺り、そのダメージは大きそうだ。


「もう見てられない、私も戦うぞ!!」


お、アスハが行った。







友人のピンチに、カガリは駆けた。

リング上で行われているのはセツルナステラ対カミーユハーレムのガチバトル。見たところセツルナステラが劣勢だ。人数が3対4なので無理は無いのかもしれない。

だがそれを言うならカミーユハーレムが数を減らせば良いだけなのだ。これはフェアな戦いではない、そう判断する。

カガリは激怒した。呆れた女どもだ、生かしてはおけぬ。


「CEナメんなやコラぁぁぁ!!!」


そう叫ぶや否や、カガリは飛び込むようにリングに入った。そしてセツコに止めを刺そうとロープに跳んだサラに対して宙を舞う。

カウンターのジャンピングニーをまともに叩き込まれ吹っ飛んだサラ。背後に振り返ると、セツコがフォウの動揺した隙を突いて彼女を投げ飛ばしたところだった。


「アスハ代表がCEチームに加勢したぞ!! これで勝負はわからなくなった!!」

「いや、あの気迫に満ちた目は……カガリじゃない、今の代表はKガリや!! これで勝つる!!」


観客の声をバックにハイタッチをかわす2人。これで数は4対4、互角である。つかセツコはどっちかと言うとUCの筈なのだがまあ細かいことは気にしない方向で。


「アスハ代表、よく来てくれました!」

「なんの、私たちは仲間だろ!? コレぐらいは当然のことだ!! ステラ行くぞ、私たち金髪コンビで攻勢に出る!!」

「うぇい、まかせんしゃい!!」

「今こそ総攻撃であります!! 一撃、必中!!!」


カガリが入った途端に形勢逆転、ワンモアブレス攻撃でチームCEが勝負に出た。

金髪コンビのダブルショルダータックルがフォウに決まり、続けざまにルナマリアがジャンピングエルボードロップを叩き込む。

そしてフォウの身体を引き起こしたセツコがストレッチプラムで完璧に捕らえ、アムロを修正したときのブライトさんくらい彼女の上半身を捻りあげた。

それを見たカガリは力強く頷く。あれなら完璧だ、いくらフォウが耐えようともこのままの流れで行けば勝利はそう遠くない。

この際だからZEUTHに来た用件を済ませておこう。リング外から助けに入ろうとするエマをエルボーで叩き落としながら、カガリは傍にいたルナマリアに声をかける。


「あの、ルナマリア……この間言ってた援軍の件なんだけど。もうちょっとしたらオーブの仕事の都合がつくから、お前たちがどうしてもって言うなら一緒にシンと戦ってやっても……いいぞ?

 それでさしあたっては今日辺り、あいつのレベルを確認しときたいんだけど」

「ああ、あれ? すいません、昨日から今朝にかけてで決着つけましたからその話はキャンセルでいいですよ。ほら、肌がこんなにつやつや」


何、だと………?

驚愕で開かれる瞳孔。自分もこんなことでSEED発動したくなかったが、なっちゃったもんはしょうがない。


「ちょ…そんな、それは無いだろ!! こっちは今夜辺りつまみ食いしてやろうかなって思ってたのに!! 噂のパルマを内心楽しみにしてたのに!! 汚されても良いように代えの軍服だって」

「ごめんなさい、このSSのタイトルって全体攻撃なんですよ。代表が入ったら4人になっちゃうでしょ? それにあの時は私も追い込まれてどうかしてたんですよ」


どうかしてたって今更言われても。

こっちはそれまで男がいなくても不自由してなかったのに、ルナマリアの救援要請という名の生々しい夜の被害報告で自分の女の部分を思い出してしまったというのに。

別にシンと付き合いたいなんていうわけではないが、既にスイッチの入ってしまったこの身体をどうすれば良いと言うのか。


「このアマ、ただでさえお前の妹のおかげで運命の出会いが勘違いの恋になっちゃったのに……そのうえ目の前でエサをちらつかせるだけかよ!!」

「代表とシンのカップリングじゃ需要がないでしょ。アスラン逃がして身体が夜泣きしてるなら、オーブ軍の女に飢えてるおっさんたちに相手して貰えば良いじゃない」

「ぬぬぬ……助けに来た友人になんたる扱いだ!」


許すまじホーク姉妹。


「ほら、バカなこと言ってないで合体技いきますよ!!」


そう言うや否や、フォウを救出に上がったファを捕らえてバックドロップの体勢に入るルナマリア。後は自分がSTOを仕掛ければ有名な合体技 「俺ごと刈れ」 の完成ではあるが、正直そんな気分ではない。

いや、刈って欲しいと言うなら刈ってやろう。ただし刈るのは2人まとめてではない。


「お前の命をなぁぁぁぁ!!!!」










「なんか急にCEチームの連携が乱れてきたなぁ」


シンの見た限りではさっきアスハとルナの合体技が誤爆したあたりだろうか、ギスギスした雰囲気になったのは。勝利する流れを掴み損ねたっぽい。

UCチームには武闘派がエマさんくらいしかいないため個々の実力はCEの方が上である。依然として優勢なのは変わらないが


「なんだ。同数だとUCチームが劣勢ではないか、情けない」


しかし、ここにありえない勢力が存在する。セツコ達が努力をもって高みへ上る常人なら、彼女はただ覇道を進むもの。


「仕方が無いな。ここは私自らが参戦して、勝利に導いてやるとしよう」


オーラを周囲にばら撒きながらハマーンがデッキに現れた。

まずいなこりゃ、今あの人に乱入されたら試合が終わってしまうぞマジで。シンもこの場にいる観客も見たいのは同じレベルの者たちの戦いであり、獅子が兎を狩るところなど見たくは無い。

今丁度4対4だから数が合わなくなるんでとハマーンを止めようとしたシンだったが、その前に彼女の歩みが止まる。

鋭い視線の先には道を塞ぐもう1人の女性の影。


「あらハマーンさん。おそらくそれは無理だと思いますわ」

「ほう、理由を聞いても良いかラクス・クライン」

「それはとても簡単な答え―――――私がこの場にいるからです」


なんかこっちでも戦いが始まったな。シンの眼前でUCとCE、2つの世界を代表する女性カリスマが対峙する。上着をバサリと脱ぎ睨み合う両雄。

ハマーンさんは摂政モードな軍服、ラクスは例の忍者もどきなコスチューム。2人とも実はノリノリなのだろうか。


「面白い。せいぜい私を楽しませてみるがいい、戦乱の歌姫よ」

「まず決める。そしてやり通す。貴方が相手とは言えその言葉を翻す気はありません」


いくらラクス・クラインでもハマーンさんの相手は厳しいだろう。いやメギドラオンでも連発してくれれば良い勝負ができるのかもしれない。

ビキビキと拳を鳴らすハマーン。近くにあったパイプ椅子を手に取り、ゆらりと構えるラクス。

オーラで両者の間の空間が歪んでいる。

そして近くにいた整備士が飲み物のカップを落とした瞬間、両者はリングに向かって横走りしながら攻撃を交錯させた。


「桜舞大回転、秒速五千糎!!!!」

「コンセントレイト!! そしてテンタラフー!!」


あ、負けたなこれ。

戦国BASARA並に観客を吹き飛ばしながら死闘を開始した女帝2人。人外の戦いには突っ込む気がなくなってきたので、シンはリングに視線を戻す。

ラリアットを避けられたアスハがサラに逆さ押さえ込みでフォールされたところだった。


「ワン!! ツー!! ス……」


あ~、アスハ返せ返せ返せあぶねー。









「よし、じゃあ行こうか、みんな」


プロレス観戦も終わり、作戦開始のため集まったシンたち。

試合の方はテンションがMAXになったハマーンさんによって9人がKOされたため試合を一時中断するというハプニングが発生したものの、

最後にはステラがサラからステラスペシャル (腕取り逆回って体落とし風投げ) の3連発でフォールを奪って勝利。

後は挑発・負け惜しみ等のマイクアピールをそれぞれがこなして次回への伏線を作り、それぞれインタビュールームや控え室へと戻っていった。

後で聞いた話だが、控え室ではアスハ革命と呼ばれる出来事があったらしい。会場にいたシンたちがそれに気付くことは無かったけれど。

ちなみにイベントはこの試合で終わりではなく、メインでは男の試合も組まれていた。

アスラン対桂によるヅラ取りマッチ時間無制限1本勝負が行われ、インフィニットジャスティスの異名を持つアスランが永田さんよろしく白目を剥きながら腕固めを決めたりして頑張ったものの、

いまいち観客の受けが悪く次回の興行に不安を残す形となったのは超どうでもいいことである。


「あ、でも俺結局3人に行って来るってこと言いそびれた」

「別にいいだろそれくらい。どうせ向こうはさっきの勝利に浮かれて酒宴でもやってるさ」

「シン、俺は先に行っているぞ」


ポンとシンの尻を叩きガンダムへと歩いていくアムロ。彼のこんな行動は珍しい。これが終わったあとは女2人による修羅場が待っている為テンパっているのだろうか。

まあいいや。

セツコさんたちとは話せなかったけどどうせ怪我するつもりもないし、さっさと帰ってこよう。


「よし、それじゃあのロリコンどもを止めに行きますか」

「今の俺に迷いは無い。お前の背中は守ってやる」

「ここは彼らに、女は腐りかけが一番美味しいということを教えてやらねばなるまいね」

「ギル~? ちょっとこっち来なさい」



迂闊な発言のせいで襟首を掴まれ、まるでドナドナの子牛のように引っ張られていく議長。雉も鳴かずば撃たれまいに。



「ここまでか………。シン、レイ。運命に打ち勝て――――――」

「ギル、それ言えば何でも格好付くと思ってるでしょう?正直困ります」



ほんとにな。











キュベレイの座席にもたれ、ハマーンは軽く息を吐く。目の前の画面に映っているのは5人の青少年。

ようやく自分の許にZEUTHからの精鋭が集った。これであの男に仕置きをすることができる。



スパロボの元祖トライアングラー、アムロ・レイ。

女の敵な俗物ニュータイプ、カミーユ・ビダン。

メイドマイスター、紅エイジ。

最近悪魔な執事にジョブチェンジ、ロラン・セアック。

アロンダイトとゴッドフィンガーを併せ持つ1人トライチャージこと、シン・アスカ。



ZEUTH時代にアンケートで集めておいた 『ぶっちゃけ死んだ方が良いやつランキング』 の上位陣を集めてみたのだが、どいつもこいつもエースばっかりなのはどういうことだろう。

ちなみにアスラン・ザラはすぐ味方を裏切るとデータが出ている為、駄目人間の筆頭であっても呼んではいない。キラ・ヤマトはむこうだし。


『我々の目標はクワトロ大尉、いやシャア・アズナブルの身柄の確保と所属勢力の解体だ。おそらく相当数の敵機体がいると思われるが……』

「何を今更説明している」


出撃前の作戦確認をしているのはアムロ・レイ。だが今更確認するほどのことでもない。

彼らは助っ人なのだから、此方の指示に従って戦ってくれさえすれば良いのだ。


『………かつての仲間と戦うのは辛いかもしれないが、既に向こうは交渉を拒否している。我々はこの騒乱を早期に沈め、世界の平和の為に』

「世界の為だと? それこそ今更だな」

『………』


度重なるハマーンの言葉に、アムロは通信をハマーンに譲る。そんなに言うなら貴方がやれ、そういう感じで。


「四の五の理屈はいらんのだ。さあ」


アムロ、エイジ、カミーユ、シン、ロラン。

モニターに映った彼らを再びみつめたあと、ハマーンは声を上げた。









「―――――準備はいいか。野郎ども」










WILD ROCK!!




























[6402] シークレットエピローグ 中編 「スパロボZERO」
Name: ドダイ改◆cef8b5c8 ID:e766a449
Date: 2010/07/20 22:56











「厄介なものだな、疲れからくる集中力の低下というものは……」



演説をしてから数日間、シャアは激務をこなしていた。睡眠時間は大幅に削り、様々な場所に足を運び、自分が結成した組織の運営に心血を注ぐ。

歴史を動かすのは老人ではない。ならば、自分は若い者のために世界を律する。

こういうものは最初の一歩が肝心なのだ。守りと攻め、どちらもしっかりと行って土台を磐石にする必要がある。少々の疲れなど気にするわけにはいかない。



まずは攻め。虐げられている少女たちを悪から救うべく剣を振るう。

若い者たちの手を汚すつもりは無い。その手を汚すのは自分だけで十分だ。



西へ赴いては火星の後継者と名乗る者たちをサザビー1機で殲滅、中の声の人がいなくなった少女の保護に成功。渋い声を出してたやつは結構強かったが、自分が相手では若干役不足だった。

東へ行っては釘宮を押し倒し致そうとしたヒゲのひろしをフルボッコ。そのままダンボールに詰めてさいたまの奥さんのところに着払いで送り。

北へ飛び立った際には舌を噛み切ろうとしたゲリラの少女を 「生きることを諦めなくて良い」 と優しく止めた後、その場にいた軍人を半殺し。

やっぱりこいつらもノンケを平気で喰う男の許へ送りつけ。

南にロリの気配を感じたかと思えば、プルそっくりの女の子や連合っぽい兵士に襲われた一家を助け出すと同時にその作者に画面暗転即死コンボと本気の脅しを入れ、

「イタコとか機能破壊とか男娼とか、ターンエーが評価良かったからって調子に乗ってマジすんませんでした」 と謝らせた。



そして守り。外からの攻撃に対する防御力を上げるだけでなく、傷ついた者たちの保護や心のケアに全力を尽くす。

地球からは超有名なネズミや顔を食べさせる正義の味方、小さなボールに押し込まれ主の変わりに喧嘩させられる小動物たちといった作品の関係者を集め、大々的な娯楽設備を製作・開放した。

そして兵に対しては組織の目標を明確にさせ、目的を一体化させることも忘れない。



「第2次Zではどの作品が追加されるかわからん。だから可能性がある作品には全て手を打つのだ。

 早乙女アルトにはデート中のホットドッグに強力な媚薬を。シェリルとのフラグを強化してランカたんの貞操を守れ。

 ジュドーと夜明けのヴァンはこちらに引き入れろ。そうすればプルプルズに妹、それとうぎゃーがゲットできる。

 ルリルリは保護を名目にテンカワ夫妻ごと招けば事足りるし、アーニャたんはオレンジがキャンセラーを使った後に強だゲフンゲフン……保護する。それだけで良い。

 なに? グレミーはどうするか、だと? ―――構わん、やってしまえ。ジョシュア・ラドクリフという青年を探し出してギュネイに随伴させれば、補正で間違いなく勝てる」



討伐軍の総大将に最近力を伸ばしてきた強化人間の名を挙げる。彼は友人が傍らにいさえすれば、かなりの力 (補正) を発揮する男だった。

そのあたりの事情も考慮して部下に命令を下すシャア。

矢継ぎ早に起こる質問も気にせず全ての質問に最高の答えを返す様は、まさに 「迷いを捨てたシャアが最強」 という言葉を裏付けるものであった。



「テンカワをこちらに招くのは危険すぎませんか? あやつはハーレム属性持ちです、幼女たちがヤツの毒牙にかかる可能性も」

「ハーレム野郎ほど結婚すれば浮気などしないものだ。そして昼食をテンカワ食堂で取ればルリルリに逢えるだろう。食事時にもたらされる萌え……良いとは思わんかね」

「クラン・クランの名が挙がっていませんが」

「彼女はスタッフの狙いがあざと過ぎる。候補からは外して構わんよ。……まあ、声くらいならかけても構わないし、君の好きにしたまえ」

「神楽耶様と天子様はどういたしましょう? それとナナリーたんは」

「最優先で確保しろ。どうせ苦労するのは寺田だ、シナリオに考慮などしなくて良い。彼女らのまわりにはロリコンとシスコンが多すぎるからな……。

 それと神楽耶様の近くで陰毛みたいな頭の男を見かけたら遠慮はいらんからぶっ殺しとけ。また見てギアス」

「かしこまりました。直ちに」



納得顔の士官を下がらせ、シャアは考えにふける。まだまだ懸念事項はたくさんあるのだ。

カギ爪の男への対策はどうしようか。うぎゃーを童帝に懐かせるためにも時間を置いた方が良さそうだが、それでは彼女の初デートをあの爺に奪われてしまうことになる。

かと言って自分があの老いぼれを殺ったらヴァンを雇えないし。ヴァンが来なきゃうぎゃーも来ない。

その他には螺旋力の件もあるし、まだまだ課題は山積みだ。



「……ああ、私だ」



だが焦っても始まらない。シャアは目の前の受話器を取り、出てきた部下へと話しかける。

幸運にも自分たちが決起してからというもの、ネバーランドには多数の名有りキャラが職を求めて訪れてきた。

それぞれ目的や思惑があるのだろうが、その力が頼りになるのは間違いない。目標に向かって確実に前進しているのは確かなのだ。

だから、今はとりあえずできること、目の前の課題を一つずつ確実にこなしていくことが大事だろう。




「お客様が来たようだ。……丁重にもてなすとしよう」



例えば。

ネバーランドに迫ってくる、MSの大軍の相手とか。














「このMSの数、小競り合いってレベルじゃない。これはまた派手な戦いになりそうだね、兄さん」

「そうだな」



ZEUTHとネバーランド、両軍の衝突ポイントから離れたデフリ地帯。そこには戦いの行方を見守る1組の兄弟の姿があった。

その正体は言うまでも無く、上手く大戦を生き延びて次回作への出演の可能性を繋げたフロスト兄弟である。尤も出演できるかはガロード次第ではあるが。



「兄さん、この状況を上手く生かせないかな?」

「そう焦るなオルバよ。まだ先の大戦から時間が経っていない。

 今動きを起こしたところでヤツらが結託するのがオチだ……今は情報収集だけに留まるべきだろう」

「そうだね……わかったよ、兄さん」



兄の言葉に納得し、とりあえず両軍の通信を傍受してみるオルバ。

ネバーランド陣営は総帥のシャアを筆頭に、ZEUTHを裏切ったとされるキラ・オルソン・カツ・ギャバン・ヘンケン。そして新たに加入したトビーにギュネイ・ガスと呼ばれる強化人間。

会話を聞く限りそれ以外にもまだ隠し玉があるらしい。

対抗するZEUTHの方はシン、アムロ、カミーユ、ロラン、エイジ、レイといった面々。旗艦はタリアとデュランダル、そしてラクスの乗船したミネルバ。

アクシズにはモブしかいないので、おそらくは彼らが主力といったところか。

アクシズの艦隊はミネルバの指揮下に入り、ハマーンはキュベレイで陣頭指揮を執ることに決まった模様。

助っ人を最前線に送るわけにはいかないという言葉に、真っ先にシャアをぶっ飛ばしたいから邪魔すんなという副音声が聞こえたZEUTHたちは黙ってその言葉を呑んだようだ。

というかやっぱりこの戦いの原因は痴話喧嘩なのか。敵ながら彼らに同情してしまう。



「ネバーランド陣営の小隊が100、ハマーン派の残党・ZEUTH連合の小隊が50足らずというところか」

「数もそうだが戦力が違いすぎる。ZEUTHに勝ち目は無さそうだよ、兄さん」



蒸しパンをコーヒーで幸せそうに流し込みながら、両軍の数を数えるシャギア。聞いた通り単位は小隊なので、MSの数の差は150機以上だ。

今回は理由が理由なので自分たちが援軍に入るなんてこともない。そのまま力押しで勝負が決まるだろう。



「さて。それはどうかな……それはそうとオルバよ、そこのチョココロネ取ってくれ」

「食べすぎだよ兄さん。太るよ?」



かっこよく先読みするのはいいが、それならそれでかっこつけ続けて欲しいとオルバは思う。近所にあるパン屋が美味しすぎて、何かと理由をつけつつ世界の破壊を半ば断念している我が兄。

だめ、このままじゃ世界の破壊やめちゃう……くやしい!! パクパクッ!! 今のこの人を一言で表すとそんな感じ。

いやー新商品のチョココロネうまいわーとパンをパクつく隣の男を視線から外し、オルバは思った。

そろそろ兄離れしよう。



「この雰囲気……あれはハマーン・カーンかな」



両軍が立ち止まってにらみ合いを続けるなか、キュベレイが軍の1番前に出る。周囲に放たれるビリビリとした殺気。女帝のテンションは間違いなくMAXだ。

そのままキュベレイはネバーランド軍の最後尾にいる紅い機体に向ってビームサーベルを伸ばし、大きく横に振る。

そして次の瞬間、死神すら道を譲ると思うくらいの恐ろしい声で咆えた。



『ハァァァァ………うるぁぁぁぁ!!!!!』


『『『『『『 オオオオオオオオオッッッ 』』』』』』』


「はじまった………っ!!」



ハマーンの咆哮と共にZEUTH・アクシズ連合軍が襲い掛かる。


ここに、多元世紀史上最も激しく、最もアホらしい戦いの火蓋が切って落とされた。














「ハマーンさんが見えなくなっちまった……みんな、行くぞ!!」

「おう!!」



もの凄い勢いで突っ込んでいったキュベレイが敵の大軍の中に呑まれたため、シンの声と共にZEUTHたちは進撃を始めた。

ハマーンは有象無象に簡単にやられるような人間ではないが、それでも所在が分からなければ他の兵の士気に影響してしまう。一刻も早く合流する必要がある。

しかしこの数、なんとかならんものか。前に進むのも一苦労だ。



「カミーユ、左だ!!」

「わかってる!!」



アロンダイトでギラ・ドーガを切り捨てつつ遠くにいたΖに目を向けると、サーベルを持った黒のリックディアスが体当たりのように突っ込んでいたところだった。

シンの声に反応したカミーユが軽く避けると、ぞのまま浮遊していた隕石に衝突して爆発する。……っておいちょっと待て。



「あの爆発の大きさ、ダミーじゃない!?」

「特攻ってことなのか!? ちくしょうあいつら、そこまでロリコンに命懸けてんじゃねえよ!!」



巨大ロボットが格闘戦までこなす昨今、隕石に衝突して撃墜なんてアホな話は無い。つまりこれは向こうにとって納得済みの攻撃だということを意味している。

予期せぬ爆発の炎に驚愕するZEUTHの面々。そして仲間の爆発に動揺した様子も無く突っ込んでくるネバーランド陣営。

まさかここまで覚悟を決めているとは思わなかった。クワトロのカリスマについては知っていたつもりだったが、これほどのものなんて想像できるわけがない。

そして戦場において最も恐ろしいのは死兵だということを、ここにいる全員が身をもって知っていた。



「皆気をつけろ。こいつら雑魚じゃない……!!」

「モブとは言え相当の手練れです……気迫で技量の差を埋めているみたいですね」



ロランの言う通りいつも戦うモブ兵とは格が違う。 強さ的には 「踏み込みが足りん!!」 とファンネルを切り払う位のレベルだ。

ハマーンさんは本当に精鋭部隊を持っていかれたんだなぁ。



「くっそぉ、上手く距離を保ちやがって!!」



こんなにモブ兵の練度に差があるのなら、アクシズ兵の力を当てにするのは危険だ。ZEUTHが1機でも多く敵を引きつけるしかない。

そう判断して勢い良く突っ込んだまでは良かったものの、ネバーランド兵はデスティニーとの接近戦を避け連携を取りながら距離を保ってきた。

射撃には射撃でとライフルを乱射するシンだったが敵の数が多すぎる。

このままじゃジリ貧だ。まだ始まったばかりだというのに、エネルギー度外視で戦わなければまずいのかもしれない。

そんな弱気になりかけたシンの周囲をファンネルのバリアが包む。そして続けざまに放たれたライフルによって数機のギラ・ドーガが爆散した。

そのままデスティニーに背中を預けるνガンダム。



「シャアとの一騎討ちまでは命張ってでも守ってやる!!」

「いや待ってくださいアムロ大尉、なんで俺が大尉とタイマンしなきゃいけないんですか!!」



アンタかハマーンさんが決着つけるんじゃないのか普通。いや確かに以前 「俺が止める」 みたいな事言ったけれども。

それとも何か、そんなに今回のロリコン全開なあの人と絡みたくないというのか。

勘弁してくれ。あの人の存在自体がロリコンなんだから、今更あの突き抜けた痛い姿なんて気にしなくてもいいじゃないか。

それがあんたのライバルの本性じゃないか。パワーダウンしたところをタコ殴りしてやればいいじゃないか。

できることならなるべく俺は関わりたくないんだ。



「ぼやぼやするな。行くぞシン、道は俺が開く!!」

「聞けや!!」



絶対俺の思考聞こえてるだろニュータイプ!!

























「そう簡単にやらせはしない……いや待て、あの艦は」



混戦の中、前方の戦艦に向ってΖガンダムのハイパー・メガ・ランチャーを構えるカミーユ。しかしその艦の姿に見覚えがあった。

即座に通信を繋げて話しかけてみる。もしかしたら退いてくれるかもしれないし。



「ヘンケン艦長!! 貴方はこんなことをする理由は無いでしょう、ロリコンじゃないんだから!! 一体何故彼らに与しているんですか!?」

「お前がそれを言うのか、カミーユ」



そう、狙いの先にいるのはラーディッシュ。自分たちの仲間だったヘンケン・ベッケナーの艦である。

ネバーランドに付いたのは知っていたが、話せばきっとわかってくれるだろう。

そう期待して話しかけたカミーユだったが、意外にもヘンケンの反応は拒絶気味だった。何か理由があるのだろうか。



「……何があったんですか?」

「最終決戦の直前。俺のパソコンに一通のメールが届いた。

 戦いが終わってから開こうとその時は気にしていなかったが、終わったあと開けて見て驚いた。差出人は 『黒のカリスマ』。

 その中には、多数の並行世界の俺の詳細があった」 



なるほど、あの人を混乱させることが上手い変態の置き土産か。

きっとあることないこと書いていて、ヘンケン艦長を惑わすような内容なのだろう。



「………並行世界には、いろいろな俺がいた。

 エマ中尉を庇いながら、迷い無く死んだ俺。プロポーズが成功しかけていた俺。恋が実り、結婚に向かって動き出した俺。……どの俺も、幸せそうだった」



まあそういう奇跡のような世界も探せばあるよな。

それでそれで?



「全て読み終わったとき俺は思った。………今の俺の様はなんだ。何故この俺は幸せじゃないのか!? カミーユ、何故だと思う!?」



ああ、そういうことか。他の世界の自分に嫉妬する心をあの変態に突かれたとそういうことか。

まあそれにしても相変わらず面倒くさい人だ。第一幸せじゃない理由なんて一つしかないだろうに。



「コンバトラーかダンクーガを強制的に連れて行ったくせに幸せになったのがマズかったんじゃないですか? だからその皺寄せがこっちのヘンケン艦長に来たんですよ、きっと」

「違う!!」



間違ってないと思うけどなぁ。



「カミーユ、全てはお前がいたからだ!! 他に何人も女がいるのに、何故彼女に手を出した!?」

「別にエマさんも同意の上でしたし、ヘンケン艦長に言われる筋合いはないと思うんですけど。あの人も喜んでくれたんですよ?

『こんなのはじめて』 とか 『絶対にまたしましょうね、他の人には内緒よ』 とか。終わった後お掃除されながらおねだりされて、結局3ラウンドめまでいったし。

 ………そう言えば、ヘンケン艦長のことは全然話題にならなかったな」

「うおおおおおっっ!! 言うな、聞きたくない!!!」



友人たちが聞いたら 「鬼かこいつ」 と言われそうな発言を悪意無しで返し、カミーユはライフルを構える。

どうやらこれ以上の交渉は時間の無駄のようだ。早く突破しないとその分シンやロランたちに負担が掛かってしまう。サクッと突破しよう。



「わかりましたよ、やればいいんでしょ?」



そう判断した次の瞬間、カミーユの纏う空気が変わる。いつもの軽薄な女誑しの空気から絶対的な捕食者のそれへと。

そして高機動で周囲を飛び回り瞬く間に周囲に展開していたネモ部隊を撃墜、ラーディッシュにもライフルを数発打ち込んだ。



「ぐあっ……お、おのれ~~~!! ええい、主砲発射用意だ!! 目標は前方のΖガンダム!!」



周囲に浮遊するネモの残骸。爆発で揺らぐブリッジ。

その光景にヘンケンは怒りに燃えた目で眼前のΖを睨みつける。しかしΖに動じた様子は無い。



「全力で撃った方が良いですよ? ラストチャンスかもしれませんから」



動じるどころか余裕に満ちたカミーユの言葉。いくら主人公とはいえこの至近距離で戦艦の主砲を受ければひとたまりもないだろうに。

そこまで自分とこのラーディッシュを馬鹿にしているというのか。

もう許せん。我慢の限界を超えたヘンケンは自ら主砲の照準を合わせ、叫んだ。



「なめるなーーーー!!!!」



まるでヘンケンの怒りが伝わったかのように、ラーディッシュの砲口から光が放たれる。それは猛烈な勢いでΖガンダムに近づいていき――――




「 喝 !!!」




その寸前で、Ζガンダムが発動させたサイコフィールドによって掻き消された。



「ば、馬鹿な……」

「昔仲間だった俺の経験から察するに………ヘンケン艦長。貴方はもしかして、まだ」



冷たい空気。まるで自分に見せ付けるかのようにゆっくりと、戸愚呂100%じゃなかったウェイブライダーに変形していくΖガンダム。

おそらく変形が終わった時に止めを刺すのだろう。



「自分がやられないとか思ってるんじゃないですか?」



背筋が凍りつき、自分の口から格が違うという言葉が漏れる。

そしてもう、自分が勝つ可能性は皆無だということをヘンケンは悟った。それは良い。認めざるを得ない。

所詮自分はスポット参戦が良いとこの脇役おっさんだ。このまま派手に散るのがキャラ的に相応しいのだろう。



だが、そんな自分にもまだ望むものがある。



多くは望まない。一太刀で良い。この余裕に満ちたガキに一太刀浴びせたい。

せめて傷の一つでもつけて苦しめてやらねば気がすまない。

その為に覚悟を決めた。運良くヤツの次の攻撃は突撃だ。必然的にラーディッシュに接近することになる。

その時にこの自爆スイッチで、タイミングを合わせて自爆するのだ。

この作品はギャグメインだから生き残れる可能性は皆無ではないという甘い予測もある。しかし腐っても自爆スイッチだ、押せばまず自分は死んでしまうだろう。

だがそれで良かった。もう今の自分はクワトロ大尉辺りに 「ヘンケン。君が生んだこの刹那、無駄ではなかった」 とか言って貰えるだけで良い。

だからこの男に一撃を。自分の命を懸けて――――



「それじゃ、行きますよ!!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、まだ早いぞ!?」



突っ込んでくるウェイブライダーの姿に慌てて自爆スイッチを押すヘンケン。その様は自分が妄想していたかっこよく散る渋い中年の姿に程遠かった。

スイッチを押したところで艦がすぐに爆発するわけではない。そして早く爆発しないとカミーユにダメージを与えるタイミングに間に合わないのだ。

迫る機影をみつめながらヘンケンは念じる。早く、爆発よ間に合ってくれ。



間に合え。


間に合え。


間に合え――――




「ラーディッシュは、虚名にあら、うわあああああっっっ!!!!」










間に合いませんでした。
















「行けっ、ファンネルたちよ! あのガンダムを……大佐の敵を討ち果たしてくれ!!!」

「手強い……ちぃっ!!」



アムロのνガンダムに迫るのは、強化人間であるギュネイ・ガスが駆るα・アジール。

機体のスペックの差ともかくパイロットの技量の差は歴然としているが、それを感じさせない動きでアムロに襲い掛かる。

予期せぬ強敵に戸惑いが生まれたアムロは、いつものように敵を倒すことが出来ない。



「慢心も、油断も、容赦もしない!! 俺は大佐の為にお前を討つんだ!!」

「何故だ、何故あんなロリコンにそこまで忠誠を誓う!? というかロリコンたちによる国を作るなんて恥ずかしくないのかお前たちは!!」

「忠誠を誓う理由……? そんなの、あの人が尊敬に値する人だからに決まっているじゃないか!!」

「嘘を吐け! どこがだ!!」



ギュネイ・ガス。本来ならば彼はシャアに反目気味な名有りキャラその1に過ぎなかったはず。ジョッシュも傍にいないようだし、自分が苦戦する理由は無いはずだ。

そう考えながらライフルを連射するアムロに向かってギュネイは理由を語りだした。



「嘘じゃない!! そう、あれは俺がクェスに30回目のデート申し込みを断られた日だった……」



回想は良いけどなるべく短めで頼むな。











「こんな所に呼び出して、話とはなんだ? ギュネイ」

「大佐、俺に一つ教えてください。大佐はクェスをどうするつもりなんですか!? そして自分の傍に置いて、一体何をさせるつもりなんですか!?」



あのときの俺は、クェスにフラれ続けて心がとてもすさんでいた。そして彼女に慕われている大佐が憎たらしくて仕方なかった。

だから妬み混じりに問いかけた。特に理由が無ければ彼女から距離を取れと。もし下心があるのならロリコンだと言いふらしてやろうと。

大佐を貶したところで彼女が振り向いてくれるわけでもないのに、感情の赴くまま問い詰めた。

だが、あの人の答えは自分の意表を突くものだった。



「クェスに何をさせるのか。そして彼女をどうするのか、か………それはお前次第だな。

 私が何のためにお前を、クェスと共に私の近くに置いていると思っているんだ?」

「え? 俺次第って……それに今の言葉、どういうことです!?」

「今の彼女は精神的に幼く、そして尖っている。

 彼女がおしとやかになるには、今のままだとおそらくあと数年は必要だろうな。さしずめ18、9といったところか」



とりあえず彼女に対して下心とかが無いのはわかったが、この人の言う話の内容が掴めない。

クェスの今の性格とこの話と、一体何の関係があるというのか。



「ま、まあ確かにそれくらいの年齢にならないと大人しくならないかもしれませんね。でもそれがどうしたってんです!?」

「ギュネイ、ここまで言ってもまだわからないか……ならば言い方を変えよう。年齢と共に恋の熱が冷めたとき、彼女の傍には誰がいるんだろうな?

 私はその少女が、自分を今まで温かく見守り続けていた男性の存在に気付くと踏んでいるのだが。

 そしてそのくらいの年齢になれば、もう君と並んでも十分釣り合いが取れるんじゃないのか? 例えば、バージンロードとか」

「た、大佐!? それはもしかして」



この時になって初めて気付いた。

俺は何かとこの人を眼の敵にし続けていたが。





「私は、君たちと義理の親子になりたいと思っているのだよ」





この人はずっと、俺の事を見守ってくれていたんじゃないのだろうかと。









「俺たちにはもう、親と呼べる人はいない。だがあの人は、そんな俺たちの親になってくれると言ってくれた!!

 俺は……俺はあの人がどれだけ俺たちの事を考えてくれていたのかがわかっちゃいなかった!! くだらない嫉妬で、あの人の本当の姿を見てなかった!!!

 だから命を懸けるんだ!! あの人の為に!! 負い目とか償いの心とかじゃない、俺自身がそうしたいと思ったから!!

 アムロ・レイ、お前を止める事でなぁぁぁぁッッッ!!!!」


「落ち着け、君はシャアに騙されているだけだ!!」



電波な女を押し付けただけじゃないのかそれは。しかもその話、クェスがおしとやかになる頃には大人になってるからいらないって言ってるようなものじゃないか。

つかむしろお前らの娘を狙われてるように聞こえるのは俺の気のせいか。



「大佐はロリコンじゃない!! もしロリコンであったとしても、ロリコンという名の紳士なだけだ!!!!」

「言ってて恥ずかしくないのか!? ええい、たかがロリコン1人、軽く突破してやる!!」

「ここから先は行かせない……ッッッ!!!」

「νガンダムは伊達じゃない!!」



仕切りなおしとばかりに戦いを再開する両者。アムロも本気になったが、今のギュネイはそれでも簡単にどうにかなるような相手ではなさそうだ。

目の前しか見えないバカは御しやすい。しかし、いざその視界に入って正面衝突した場合、これほど厄介な相手はいなかった。




無双要員であるアムロが食い止められている今の状況、ZEUTHにとっては致命傷に近い――――



















「あのギュネイという青年、流石だな。あのアムロ大尉を1対1で食い止めているとは」

「そうですね。クワトロ大尉が目をかけるだけはあります。これなら此方も楽ができそうです」

「でもラーディッシュ堕とされちまったぞ? あのおっさん 「カミーユは絶対に殺す」 って大きい事言ってたのに、あっさり返り討ちだし」

「フ、ヘンケンはネバーランド陣営でも一番の小物……大した影響は無いさ」



ギュネイの動きに感嘆するオルソンの声を聞き、キラはとりあえず言葉を返す。そんな自分たちの隣でヘンケンの敗北を呆れた目で見つめているのはトビーとギャバン。

この場には自分を始め、ネバーランド陣営の主要メンバーが軍の中央の位置に集まり戦況を眺めていた。

現在の状況は五分と五分。3倍の数相手に奮闘するZEUTHたちの姿は尊敬に値するが、名有りキャラである自分たちが入ればそのうち決着がつくだろう。



「なら今のうちにこちらも敵の主軸を叩きに行くとするか。バルゴラ2号機、俺について来い。あのヒゲを……ロランを殺りに行く」

「∀かよ……まあ月光蝶さえ気をつければなんとかなるか。じゃあ2人とも、そういうわけだ。俺はギャバンのおっさんに付き合ってくる」

「ならば俺はグラヴィオンを相手にしよう。スーパーロボット相手に防御主体の機体では危険だしな」

「なら僕はここの守備につきます。3人とも気をつけて」



飛び立っていく3つの光を見送るキラ。果たして彼らのうちの何人が帰ってこれるか。

グラヴィオンを機動性で撹乱できるであろうオルソンはともかく、大きな事を言っていたギャバンは役に立たないだろう。

馬鹿にしてたヘンケン艦長と比べてもカミーユ憎しがロラン憎しに変わっただけで強さ的には変わりが無いし、何よりあの人ひらめきも不屈も持ってないし。

戦闘は実質トビー中尉のバルゴラ2号機対ロランの∀ガンダムだった。こう見てみると結構厳しい。



「まあ、正直全員やられても特に問題は無いんだけどね」



自分がここでZEUTHを止めれば良いだけなのだから。そう思いながら戦場に視線を戻し、遠くで奮戦する1機のMSを眺める。

真紅の翼に巨大な剣、デスティニー。そして



「シン・アスカ、か……」



自分の後を継ぎ、そして最終決戦の相手の筈だった少年。しかしその運命は歪められ、自分にとっては取るに足らない相手となった。

だから原作では主役を奪ったこともあって、IFルートの存在なんて歯牙にもかけなかった。別にそれぐらいは良いだろうと。

どんなに2次で頑張ったところで、それが本編に影響することはあの負債の場合まず無いのだから。

そう思っていた。そう見下していた。


けれど。

けれど。


もう、流石にそうやって上から目線で彼を見ることはできなくなってしまったのだ。数週間前に、議長となったラクスの仕事の関係で再びZEUTHに出向いたあの時から。

その理由とは何か。そんなもの、一つしかない。






乳だ。





「うわー、もう腰に力が入んないわよぉ。今夜もシンの部屋、行こうと思ってたのに……シンのばか」

「来てもいいよ。ルナ相手なら俺、いくらでも底無しになれるし。な?」

「ばか。そのうち絶対に赤ちゃんできちゃうんだから……」


「あの2人、ラブラブですね。さわやかでうらやましいですわ」

「……ラクス、それ本気で言ってるの?」



例えば居住区の隅にあった誰も近づかない倉庫。目をとろんとさせたルナマリアがシンの左腕をその豊かな胸で強く抱き締めながら、膝をガクガクさせて出てくるのを見たとき。

自分の傍らにいたのは貧乳。



「シン、いつも気持ちよくしてくれるお礼に、ステラのおっぱいで挟んであげる。いっぱい出してね」

「ありがと。でも無理はしなくていいからな……くっ、凄く柔らかいのに張りがあって………」

「んしょ、んしょ。んっ」


「うわぁ、顔に似合わずステラさんは積極的ですわね。……キラ、何故今私の胸を見て溜息を吐いたのですか?」

「………別に」



例えば医師が席を外した医務室。ステラが椅子に座ったシンに跪きながら、嬉しそうに自慢のバストでご奉仕をしようとしているのを見たとき。

自分の傍らにいたのは貧乳。



「シン君、お願いだから今は腰を動かさないで。イッちゃったばっかりで身体中が敏感になってるから……ヒッ!? ちょ、乳首も吸っちゃだめ! そこがいちばん」

「ちゅうっ、ちゅぱ、れろれろ……かぷ」

「~~~~~~~~ッッッ!!!!」


「すごい、セツコさんがビクビク痙攣してますわ……あんなに顔を真っ赤にして、涎まで垂らして」

「憎しみで人が殺せたら………ッッ!!」



例えば誰もいない夜のMSデッキ。対面座位で合体したまま絶頂を迎えてビクビク震えるセツコに対し、そのまま美巨乳にしゃぶりついて彼女を連続で絶頂させるシンを見たとき。

自分の傍らにいたのは貧乳。



そしてつい最近まで、3人のミサイル持ちがいろんなコスプレをしながら入れ替わり立ち替わりたまには一緒にシンの部屋へ突入するのを目の当たりにし続けたが。



「ああぁぁぁっっ、 シン、シン!! ほんとに愛してる、愛してるからぁ!! どんな事だって、していいから……だからもっと突いてぇ!!」

「シン君、舌出して。キスしよ、キスぅ……ちゅ、ちゅぱ、れろ、んぅ」

「ひゃん!! シンそこだめ、そこは違うところ!! あっ、そこに指入れちゃだめって言ってるのに。ステラ、はずかしすぎる……」

「3人とも、最高だよ。 明日は休みだし、今夜はみんな眠らせないからな……!!」



「4人とも凄いですわね。ただドアが半開きなのに気付かないのはどうかと思いますが……」

「……どうして僕は、こんな所にまで来てしまったのだろう。どうして……」



やはり自分の傍らには貧乳しかいなかった。しかもマグロ。





「………ラクス、今夜は僕たちもあんな感じで燃えて」

「ごめんなさいキラ。今日はわたくし、女の子の日なんですの」

「わかった、ごめんよラクス…… (この間もそう言って断ったじゃないか……) 」



薄暗くてここからではシルエットぐらいしか見えないが、スタイル抜群の美女3人を相手に酒池肉林しているシン。

それに対して自分は貧乳の恋人に夜の営みを断られ続け……。



「ルナ、俺もう出すよ? 何処に欲しい!? 顔、胸、くっ、ふんっ、返事が無いなら中にっ!!」

「あああっ、もうイク!! なかに、中に出して……っ!!」

「やだ、だめだめだめっ、シン君の指すごい!! あはぁっ、そんなところ、そんなとこ弾いたらっ!!!」

「ステラ、また噴いちゃう!! また噴いちゃうよぉ!!」





「「「あああ~~~~~っっっ!!!!!」」」






その日、初めて僕はお酒を飲んだ。

















「お客さん、もうそのへんにしといたほうが」

「うるさいな、ほっといてよ。僕の金で飲んでるんだから誰にも文句は言わせないよ。……それよりもおかわりはまだなの?」



バーのマスターの心配する声を制し、差し出されたドライ・マティーニを一息で煽るキラ。そのままカウンターに身体を預けて力無く溜息を吐く。

身体中を包むのは敗北感。心のどこかで見下していた相手に圧倒的な実力差を見せ付けられたのだ、無理も無いと言えた。

無論自分だって彼女持ちだ。羨ましがるばかりではいられない。

しかしいくら彼女たちとラクスではスタイルという圧倒的戦力差があるとはいえ、それでも夜にいろいろ燃えてくれれば。

美脚とかおへそとか生腋とか持ち味をイカしてくれれば、自分もナンバーワンよりオンリーワンとか自身に対して言い訳が出来たのだが……



「今の僕は、幸せなのかな」



プラントを統べるラクス・クライン議長の恋人にしてFAITH。オーブ代表の弟にして准将。そして最高のスーパーコーディネーター。

今の自分は周囲が羨む肩書きなど腐るほど持っている。10人に聞いて10人が幸せだと答える境遇にあると言えるだろう。


しかし、本当にそうなのだろうか。ならばこの胸に巣食う虚無感はなんなのか。

エッチはたまにしかさせて貰えず、しかもラクスはそっち方面があんまり好きじゃないのかほぼマグロ状態。バックも騎乗位もさせて貰えず、する時はオール正常位。

そのくせ浮気なんてもってのほか。

昔はそれでも満足してた。彼女の僅かに染まる頬やちょっとだけ乱れる吐息でズキューンと己のチョモランマを難攻不落状態にしてた。


だが今はどうだろう? ZEUTHの主人公格の多くは複数の女の子とフラグを立て、アスカファミリーに至っては全員がハーレムを築いている始末。

アスランすらメイリンさんと毎晩ハッスルしてると言うのに、今の自分は聖人君子面してリビドーと戦い続けているしかないのだ。いつからこんなに差がついた。

昔はメイリンの 「でもアスランさんってちょっと早いかも。迅速持ちって皆そうなのかな」 という猥談を盗み聞きし溜飲を下げていたが、今はそんな事では気を楽にできない。

いいじゃないか多少早漏でも。何でも言うこと聞いてくれる年下の女の子のツインテールを引っ張りながらバック決めることができるなら。

やっぱり自分はフレイと添い遂げるべきだったのか。初めて寝たときでも彼女は立派に育ってた。

自分より年下だったし、まだ成長の余地は十分あっただろう。初めてだったのにマグロじゃなかったし。

まんぐり返ししたときにあの強気な顔が羞恥で染まったときにはもう、ブブゼラを吹きながらカズダンスを踊りたくなったくらいだし。岡ちゃん川口じゃなくてカズでも良かったじゃん。


しかし今の自分の恋人はラクスなのだ。あの関東平野を連想させる平坦な胸板では、両側から自分のレインボーブリッジを封鎖なんてできません室井さん。

バルトフェルドの部屋でかつてのラクスの偽者、亡くなったミーアさんの映像を……あの巨乳や股間、生腋を見たときに思わず 「こっちにチェンジで」 と呟いた自分を誰も責められまい。

僕たちがもっと早く出会っていれば、ラクスが撃たれた後で 『影武者ラクスクライン』 的な重厚かつエロティックな話になったというのに。



「はぁ……」



溜息が零れる。カウンターに顎をつけたまま視線を上げると、バーテンダーは諦めた表情でジンの瓶を手にした。

キラは差し出されたカクテル・グラスを手に取り、口に含もうとしたところで



「隣、いいかな?」



背後から声をかけられた。どこかで聞いたような声だが正直興味は無い。

空いているのでご自由に、とだけ言葉を返すと声の主はありがとうと自分に礼を言って席に座った。



「ウォッカマティーニを。ステアでなくシェークで……それと、彼と話したいことがあるから少し外して貰ってもいいかな」

「かしこまりました」



どうやらこの客は自分に用事があるらしい。そのときになって初めてキラは隣の男に視線を向ける。

髪型が変わっていたりサングラスが無かったりで気付きにくいが、この人はまさか



「クワトロ、大尉……?」

「ひさしぶりだな。今日は君に、是非ともお願いしたいことがあって来たんだ」

「僕にお願い?」

「ああ……」



そして大尉の話は始まった。それは決して長いとは言えない、時間にすると数分程度のもの。

だけど深い、とても深い内容だったと思う。

思いを同じくする者たちを集めて幼女たちの理想郷を作る。そのために力を貸して欲しい。文章にすると僅かに1行だが、言葉の外に感じた想いは十分伝わった。

子供に興味の無い自分でも、彼の情熱に一瞬だけ 「まあ手を貸すぐらいのことはしてもいいかな」 と思ったほどだ。

でも。



「……申し訳、ありませんが」



申し訳ないが性癖の問題上進んで力を貸すことはできない。そして何より、今の己は自分の頭の蝿を追えていないのだ。

冷たい言い方だが、他人の世話を焼くなんて余裕はなかった。

それにこの人は強い。自分の力が必要だとは思えない。



「そうか」



クワトロも今の自分が傷付いていることに気付いていたのか、問い詰めることはしてこない。だが諦めるつもりもないようだ。

まあはるばるこんな所にまで来て、収穫ありませんでしたなんて簡単に結論付けるわけにもいかないのだろう。

手土産も用意しているのだがねと呟いた後、唐突に自分に問いかけた。



「実は、私が築いているものには致命的な欠点があってね」

「……欠点?」

「キラ。君は、少年少女が幸せにすくすくと育つにはどんな環境が望ましいと思う? 一般論でも構わない」



いきなりの質問に面食らってしまったが、少し考えるとすぐに答えは出てきた。そんなものは結構シンプルな答えだ。

暖かく幸せな家庭。楽しい娯楽。仲が良く切磋琢磨できる友達といろいろな事を知る集団生活。好意を抱く異性。挫折しない程度に難しく、答えを導き出した時に喜びを抱くような勉学。

キラがそんな解答を口にすると、シャアは我が意を得たりといった表情で頷いた。



「その通りだ。そしてその全てが我がネバーランドにはある。……君が一番最初に言った解答を除いて」

「え?」



幸せな家庭。確かにそれは外部からではどうしようもできまい。

でも彼は先ほどの説明で言っていた。ネバーランドに所属する大人はみんなロリコンで、子供たちを対象とした娯楽施設も十分用意していると。

外が楽しければ家庭の中にもそれが連動するだろうに。



「人は自身が幸福に満たされてこそ、他人に優しくできる。その真理の前には大人も子供も関係ない。だがネバーランドではどうだ?

 確かに子供たちは青春や娯楽にぶつかる壁をみつけ、可能性の翼を大きくしていくだろう。父親たちも仕事をしながらそんな子供たちを見つめ、ハァハァできるだろう。

 だが家族というものはそれだけではない。そう、母親も満たしてやらねば幸せな家庭を築くことはできないのだ。

 そしてネバーランドには、そんな彼女たちの心を満たすものがない」

「――――!!」



盲点だった。確かにそれは真理だ。

楽しく遊んできた子供と仕事で心が満たされた亭主。帰ってきた彼らの幸せを継続するには、それと同じくらい満たされた妻の存在が必要なのだ。



「幼女目当てに楽しそうに出勤していく夫や青春真っ盛りの子供たちを見送ったあと、残された妻たちは何を思うのだろうな。

 面白くも無いワイドショーや再放送のドラマを眺めつつ、掃除に洗濯、食事の準備。たまに仲間うちでママさんバレーやカラオケ。家事を頑張っても夫に褒められることはまず無い。

 そして今日もまた、テレビの中で若い男と乱れる中年女優を羨ましそうに眺め続ける。……こんなものが幸せに繋がるわけがない」

「……!! まさか!!」



彼の言いたいことに気が付いたキラが、驚きの声を上げる。



「そう。君には彼女たちにアバンチュールを体験させて欲しい。自分が女なのだと再認識するくらいのを」

「そんな!! 僕に男娼じみたことをしろっていうんですか!? いくらラクスが貧乳で僕がフェロモン溢れる女性に飢えているからといって、言って良い事と悪い事が……!!」

「だが君がしたい事、そして君が望むもの。――――それは、君自身が一番良く知っている筈だ」

「だけど……わかるけど。貴方が言うこともわかるけど! でも!!」



仮にも彼女持ちに言って良い言葉ではない。激昂したキラが詰め寄る。

しかし、その動きは目の前にかざされた写真つき名簿によって止められた。



「20代前半の若妻から、フェロモン溢れる30代中盤までの美人ばかり……君ならば選り取りみどりだろうな。

 ちなみにそれ以上の年代については君が心配する必要は無い。デビッド君やジョ…ジョゼフ君だったかジョースター君だったか忘れたが、そっちの担当もいるし」



その名前はひょっとしてジョナサンじゃなかろうか。そう思いながら受け取った名簿をパラパラとめくるキラ。

D、F、C、D、E、G……馬鹿な、ここまでの逸材がこんなに揃うとは。そのオールスターっぷりは山王工業OBの比ではない。



「こ、これは……」

「無論彼女たちを本気で愛せというわけではない。むしろ彼らの家庭を壊すなんてもってのほかだ。君は日中の彼女たちに潤いを与えてやるだけ。

 夕方、疲れきった夫や子供に最高の笑顔をプレゼントするためにね……もちろん、君自身の幸せもそこには含まれている」

「僕自身の、幸せ……」



気付いていたのだろうか、この人は。

誰にも言えなかった僕の悲しみに。



「ああ。脚本の被害者は君ばかりじゃない、君は幸せになっていいんだ。

 ……負債の趣味を押し付けられた、マグロなラクスのまな板ではもう限界なんだろう?

 無理をしなくてもいい。巨乳を抱いて溺れ死んでもいいんだ、君は」

「ああ………っ!!!」



幸せになってもいい。そんな優しい言葉に思わず膝が折れた。名簿を抱きしめ涙を零し続けるキラの肩に、シャアは優しく手を置く。

その姿はCEでは最後まで見ることができなかった、子供を導く大人の姿。キラはごしごしと目を拭い、シャアの顔を見上げる。



「一緒に戦おう」


「…………はい!!」




差し出したクワトロの右手を、両手でしっかりと握り締める。視線が合って、おもわずはにかんだ微笑を見せる2人。

離れた場所では、その光景に感動したバーテンダーが鼻を啜りながら目じりをハンカチで拭っている。






そうして自分は、ネバーランドに所属した。






「ふん、ふっ、ていっ!! どうしたの? そんな顔しちゃって、感じてるんでしょ!? いつもより凄いって、旦那より凄いって言え!!」

「ここ、凄いことになってるね奥さん。……口に出さないとわからないな。何を? 何処に!? 夜露死苦!!」

「ほら早く歌わないと、もう歌が始まってるよ? それともマイクは下の口に持っていこうか? こっちの方がぴちゃぴちゃ元気な声出してるし」

「2人ぐらいじゃダメですよ、ここのブロックは3枚つかないと。じゃないと僕のアタックは止められませんよ?」

「キラくんすごい!!」 「奥様がたああああああああっっっ!!!!」 「キラ君私も!!」 「奥様が、たあああああああっっ!!!!」



そこから先は天国だった。シャアが用意した名簿の女性は精鋭ばかりであり、しかもちょっと突付いただけであっさりと落ちた。

熟れた身体を持て余していた人には望み通り最高の快楽を与えてやったし、青春をもう一度体験したいという人には丸1日気分転換のデートに付き合い、ロマンチックな流れでホテルに連れ込んだ。

カラオケに行って嬌声をマイクで大きくしたり、ママさんバレーのコーチとして合宿に行き、夜に1対10くらいの大乱交を行った。

夫への引け目でなるべく乱れまいと思う女性を自分のテクニックで陥落させるのも楽しかった。

十分すぎるほど実った豊穣の大地を堪能した。総統も思わず叫ぶくらいオッパイブルンブルンだった。



「やっとみつけた僕の居場所。それを奪う者を僕は許さない」



意識を戦場に戻す。

目線の先にはシン、カミーユ、ロラン、エイジ。モブではなくメインキャラでハーレムを作っている男たちが遠くで暴れている。

そして彼らによって作られた空間に、アクシズの部隊が大挙して押し寄せてきた。



名無しキャラを何人喰った所で彼らにはまだ届くまい。そう、彼らが王者だとするならば、今の自分は挑戦者なのだ。

だから未だに勝利は掴んでいない自分は、まだこの楽園を失うわけにはいかない……!!



「今回は、てかげん無しだ!!!」



ドラグーン。カリドゥス。クスィフィアス。そして両手に握ったビームライフル。

それらを雄叫びと共に敵に向かって放つ。アクシズの部隊は7小隊はいたはずだったが、光の消えた後には1機も残っていなかった。



そう、ファサリナさんや人妻シギュンに紅月カレン、シェリル・ノームといった保志登場作品による巨乳ハーレムを作るまで。

僕は戦い続ける。
















「流石はキラさん、半端ねえ……!!」



フリーダムによるハイマットフルバーストにより、調子に乗って前に出たアクシズ部隊の前衛があっさりと沈められてしまった。

クワトロ大尉への道に立ち塞がる最後の壁。CEの聖剣伝説の異名は伊達ではない。

このままでは敗北は必至だと思った瞬間、ネバーランド軍の動きが止まった。

何があった。彼らの視線は自分たちの背後にあるが。



『おい!!!』

「なんだ……?」



何故か動揺し始めるネバーランド軍。不思議に思って背後を振り返ると、2方向から接近する部隊の姿があった。

向かって右側から進んできたのはグランフォートレスを中心にした部隊。先頭にはスーパーガンダムやメタス、ギャブランに森のくまさん。なぜかパラス・アテネやソルグラヴィオンの姿まで見える。

反対の方向からはソレイユを中心にバルゴラ・ガイア・インパルス。他にもストライクルージュやカプル、サイコガンダムにちょっと動きが心もとないリ・ガズィまでいる。


そして2つの軍勢は一つに合流していった。誰が乗っているのかなんて言うまでも無い。



「なんでカミーユのピンチに、あなたたちまで来るのよ」

「え?」

「私たちの見せ場でしょうが」



変形したギャブランとメタスがバルゴラに並びかけ、フォウとファがセツコに毒づく。



「なあステラ、ルナマリアとセツコに内緒で教えてくれないか?」

「なあにカガリ?」

「シンのってさ……どれくらいのサイズ?」

「えっとね、これくらい。あ~~ん」

「うわ、ちょっとそれ結構なレベルだなってこらステラ、そんな表現の仕方しちゃいけないんだぞ。手とか指でやらないと」



CEの金髪コンビが猥談をしながら宇宙を駆ける。



「エイジ様、ご無事ですか? 早くこの戦いを終わらせて、この間の店に2人で行きましょう」

「ぱよ、今日のエイジ様は私が予約入れてるのにぃ」

「マリニア、チュイル!! 今は戦闘中です、そういった話は今すべきではないでしょう!? それにエイジ様は一昨日の晩、今夜は私の為に空けておくと約束してくれたのに」

「宇宙はまだ戦場で、安全が確保されたわけではないわ。 エイジ様の身辺警護は私の役目だから、ベッドの中まで一緒にいないと」

「クッキーさんはドアの外で警護してれば良いじゃないですかぁ」

「だめよ、今日こそは私のメンテナンスをしてもらうんだからね!」



メイドたちが予約合戦を開始する。



「ルナマリア、せいぜい背後には注意しなさい。油断してると連ザ2で貴方と組んだプレイヤーと同じ目に合わせてあげるから」

「自分の髪型の心配したらどうですか?」



武闘派の2人がいがみ合う。




そして彼女たちは戦艦の射程範囲ギリギリのところで行軍を止め、戦場を見回した。

いきなり出没した彼女たちに呑まれたのか、戦闘を停止したまま息を飲む両軍。そんな視線の集まる中、スッとバルゴラ・グローリーが前に出る。

そしてボロボロなZEUTHの面々を見たあと、全回線を開いて叫んだ。




「私たちの旦那様に、結構な真似してくれるじゃないですか!!」




戦場に響くセツコの声。どちらの援軍かようやくわかったのかその声にネバーランド陣営が動揺し、逆にZEUTH・アクシズ連合は気力を取り戻した。

自分たちもそうだ。愛する人が自分の危機に助けに来てくれたなんて、こんなに嬉しいことは無い。



「みんな、来てくれたんだな……アスハ、なんでさっきから俺ばっかり見てるんだ?」

「俺関連の話って、夜の話題しか言われてねえんだけど。今日あたり自宅にでも帰って、ユミと飯を食いに行こうかなぁ」

「別に良いだろうエイジ。俺には恋人はいないから、話題にも上がっていない。それに比べればマシだと思え」

「助けに来てくれたんだから良しとするべきだろうな、常識的に考えて……ってロラン大丈夫か? 顔が凄い青いぞ」



青い、いや蒼い顔をしたロランにカミーユが声をかける。



「ねえカミーユ、確認しときたいんですけど。……ギャブランに乗ってるのはフォウさんですよね?」

「乗り換えは無かった筈だから、そうだと思うけど」

「それともう一つ。あの援軍には僕たちに少なからず好意を抱いてるヒロインの方たちしかいないわけですよね」

「まあ、そういう流れっぽいよな。斗牙やとりあえず付いて来た的な連中はともかく」



そういやエイジ、斗牙にプロポーズされてたっけ。いやもちろん本気じゃないだろうとは思うが。

レコアさんは多分、1人ぼっちじゃ寂しいからとかそんな理由だろうけど。いや大尉との元鞘狙ってるのかな?

何にしてもロランがこんなになる理由は思い浮かばない。



「フォウさん以外であのブラックドールに乗ってて、僕たちの誰かに好意を抱いてる人って言ったら……」

「……………ドンマイ」



なるほど納得した。ガチホモ参戦にヘコんでんのかロランは。

ってか誰だよアイツ連れて来たの。








『ZEUTHの諸君!! ネバーランド宙域まで来い。そこでタイマンだ!!』







セツコの言葉に返すように、何やら熱くなっている大尉の声が宇宙に響く。そして真紅の機体は撤退していった。

おそらくは今の言葉通り、タイマンを張る相手が来るのを宙域で待つつもりなのだろう。



「タイマンは良いけど、誰が行くんだよ。ハマーン・カーンの姿は見えないぞ?」

「アムロ大尉も今戦闘中だ。そんな余裕は無さそうだな」

「カミーユが修正してやればいいんじゃないか?」

「いや、俺はシンを推薦する」



ふざけんな。なんで俺なんだよ。



「あ、俺も賛成。前に大尉を止めるって言ってたんだから、言葉通り止めてこいよシン」

「俺もだ。カミーユがラスボスを倒すかっこいい所など見たくもないしな」

「このSSの主人公はシンですし」

「そういうことだ。それに何より」

「何より……?」



まだ理由があるのか。そんな自分に向かって4機のロボットが指を刺す。

そして、声を合わせて言った。



「「「「 お前が1番大尉に近い 」」」」



「お前らが下がっただけだろうが!!!」



そんな理由で俺なのかよ。

渾身のツッコミは華麗にスルーされ、それぞれ散らばっていく友人たち。ちょ、お願いだからちょっと待って。



「まあまあ、セツコさんだって頑張って前に出たんだ。ここはシンが答えてやるべきだろう?」

「お前は出来る子だと信じている。アカデミー時代から見てきた俺が言うんだ、間違いない」

「いざとなったら援護に行きますから」

「見せ場だぜ、見せ場。思いきりかっこつけてきな!! 最終決戦の時だってギャグばっかりやってた俺たちを置いて、1人でキメてたじゃないか」



エイジ、お前あれまだ根に持ってるのかよ。つかあれはお前らがギャグに奔っただけじゃないか。

でもまあ負い目であることには変わりない。仕方ないので受け入れる。

納得はできないけどな。





「わかったよ、俺がやりゃあいいんだろやりゃあ!! だが今に見てろ、いつの日かお前ら 「じゃあなシン」 って行くなぁ!!」










友情なんて大嫌いだこんちくしょう!!!!

















[6402] シークレットエピローグ 中編そのに 「スパロボZEROⅡ」
Name: ドダイ改◆daa4adbc ID:63d81bbd
Date: 2010/12/19 23:41








「敵もさる者か。流石はZEUTH、外から見るとこれほど恐ろしい敵はいないな」


コクピットの中で腕を組んだまま、目の前の光景をみつめるシャア。

ここは最終決戦の地であるネバーランド宙域。一騎討ちで全ての決着をつけるべく、この地に辿りつく者を待っている最中である。

そして画面の中の様子を見る限り、もうそろそろ誰かが現れる可能性が高そうだった。


いや、誰かではない。この場に来るのは間違いなくシン・アスカだ。

戦争を何よりも否定する彼のことだ、立ちはだかる壁を飛び越えこの戦いの根源である自分を止めるために現れる。

いや、彼の戦う理由はそれだけではない。身内に甘い彼のことだ、おそらくは


「ハマーンのために、か………」


アクシズの首領である元恋人の名が口に零れ落ちる。グレたミンキーモモの異名を持ち、スパロボに参戦すれば女性キャラ最強の座をいつもかっさらっていく彼女。

あれでも昔はツインテールな萌えキャラで可愛かったのだが、いつから榊原ボイスに変わったのだろうか……何、ハマーン様は昔からあの声に決まってる?

オーケーわかったそこまで言うならケロロ軍曹の運動会の話でも見て来い。そしてサンドイッチ作ったときの声を聞いてから話し合おう。

人間には向き不向きというものがあるということを実感できるから。



『ナイター、一緒に行くと言っただろう!!』

『すまん』


『花火大会も行くと言ったではないか!!』

『申し訳ない』


『私とミネバ様の浴衣姿、見たくないというのか!?』

『………ごめん、ミネバ様のだけちょっと見たい』

『ばか!!』



思い出すのは別れの情景。いくら自分が貫くべき道を見つけたとはいえ、泣きそうな声で別れを拒む女性を振り切るのは良心が痛んだ。

いいかげんロリからは卒業して彼女の為に生きるという選択肢もあったはずだ。しかし自分は彼女よりも夢を選ぶ覚悟を決めた。自分に嘘は、つけない。

それでなくてもTo LOVEるがモモのせいで今やばいことになっているのだ。 『もし』 とか 『たら』 とか 『れば』 とか、そんな思いに惑わされている場合ではない。

自分が選んだ一つのことが、自分の宇宙の真実だとどっかの兄貴も言っていたし。



まあお互いの年齢を考えずに時かけっぽく別れたのは後悔しているが。



「はいそこ油断しない!! 次危なかったらケルベロスで敵ごと援護しますからね!!」

「くっ、ルナマリア……余計な真似をするんじゃないわよ!」

「みんな、シン君をネバーランドまで連れて行きましょう!! 道は私たちが」

「よーし。それじゃステラ、私たちはシンに迫る敵を止めるぞ!!」

「うん! ……シン、いけーーーっっ!!!」


画面の中では未だにZEUTH無双が続いている。

なんだかんだ言いながらも背中を預けて協力し合っているエマとルナマリア。ナウティラス・カーバーでギラ・ドーガを切り裂きながら大きな声を上げるセツコ。

そして彼女のその声にガイアとストライクルージュが応え、デスティニーの道を作るように敵の群れに飛び込んでいく。

ZEUTHの数はそこまで多くは無い。しかしどいつもこいつも一騎当千の強者である為、前線のモブたちは為すすべなくやられていった。


「……何を笑っているのだろうな、私は」


いつの間にやら唇の端が上がっていたことに気付き、シャアは思わず自嘲の言葉を呟いた。

軍を率いる立場としては、当然誰もこの地に辿り着けずに自軍が勝利するのがベストではある。そうすれば自分の夢にまた一歩近付けるのだから。

しかしパイロットとしての自分に未だ未練を残している己は、ZEUTHの誰かがここに辿り着くのを望んでいる面もあるのは事実だった。


「だが、笑ってばかりもいられないか」


戦況があまりに一方的過ぎる。これは何か手を打たないとまずい。これ以上損害を広げられるとネバーランドという夢は文字通りKAGEROUの如く消えてしまう。

それだけは許すわけにはいかないので、シャアは目の前にあった受話器を取りダイヤルをまわした。えーと、千、十、丸と。


「もしもし、私だ。どうやら君たちの出番のようだから、今すぐ出撃を……なに? 今ハンバーグ食べてる? そこをどうにか来てくれないかな」


元ネタの記憶もあやふやなまま電話で増援を呼ぶシャア。その数秒後ネバーランドからいくつかの光が飛び立ち、戦場へと飛び込んでいく。

ZEUTHが一騎当千なら彼らもまたそうである。きっと戦果をあげて、最低でもアクシズの雑魚を狩って撤退まで追い込んでくれるだろう。

シャアはその光景に満足そうに頷き、次なる一手を打つ事に決める。今度はネバーランドの通信室に連絡を取り、一般市民に戦闘の様子を見せるよう指示した。


この作戦のためにネバーランド軍の兵士はそれぞれ自分の機体にひらがなで名札を付けている。なのでそれを見た幼女たちは知り合いのおじさんの名をみかけたら応援してくれるだろう。

自分たちの数は総勢500機足らず。この戦場限定ならともかく、これから戦うべきこの世界にとっては寡兵に過ぎない。

しかし幼女の声援を受けた彼らは一騎当千の古強者になる。ならばネバーランド軍は自分と彼らとで総力50万と1機の軍集団となる。

消失のクオリティの高さにエンドレスエイトは斬新な手法だったとごまかされている馬鹿共を叩き起こそう。

髪の毛をつかんでゼーガペインの売り上げを見せつけ、どんなに出来が良くてもループ物はDVDが売れないことを思い出させよう。

よりにもよって男アイドルなんか入れやがったナムコに恐怖の味を思い出させてやる。

ダンテの設定全てを変えてデビル名倉イなんかにしやがったカプコンの連中に我々の軍靴の音を思い出させてやるって少し落ち着け私。

素数を数えて落ち着くんだ。1、3、5、7、11、13、えーと17……19もだっけ……に、にじゅう……よっしゃもう落ち着いた。終了だ終了。


まあ何はともあれこれでまだ戦いの行方は分からなくなった筈だ。

しかし手を打ったら自分のすることがなくなってしまった。これから何か動きがあるまでどうしよう。

あれだけかっこつけてタイマンだと叫んでしまった今となっては、戦場に戻るのもなんだか恥ずかしいし。

しばらく悩んでいたシャアだったが、そのうちポケットから携帯を取り出し呟いた。暇な時はこれに限る。




「……モバゲーでもするか」




いい大人の、モバゲー。


















「あのロリコンめ、せっかく流れが変わりかけてたってのに……。まだこの大軍とガチのぶつかり合いしなきゃならないってのかよ!!」


目の前は敵が7分に宇宙が3分。そんな絶望的な状況を前に、ランサーを振り回してMSを多数撃墜しながら毒づくエイジ。彼が怒るのも無理は無い。

せっかく仲間たちが援軍に現れてくれたかと思いきや、数分後には戦場に敵を応援する幼女たちの声が溢れて戦況がまったくの五分に戻ってしまったのだ。

それでなくても名有りキャラとの戦いまでエネルギーを温存しなきゃならないってのに、余計な真似をしやがって。

クワトロに怒りを覚えつつも不機嫌なまま戦いを続けるエイジだったが、不意に聞き覚えのある声が聞こえてきたため思わず眉間の皺を無くす。

あれ、この声良く聞く声なんだが。主にサンジェルマン城で。


「あ、あれゴッドグラヴィオンだ!! 遠くにソルグラヴィオンがいるからこっちは……やっぱり!! エイジさま、私たちはここですよ~!!」

「あと、すこし」

「きゃ~!! がんばってください、エイジさまぁ!!」

「ってお前ら、最近サンジェルマン城にいないと思ってたらそこにいたのかよ。……まあいいや、ちょっと待ってろ。

 いいかげん城のみんなも心配してるだろうし、これが終わったらすぐ迎えに行ってやっからな!!」

「「「 は~い!!! 」」」


Σグラヴィオンの姿、つまりお気に入りの兄貴分であるエイジを見つけたちびメイド3人組が喜びの声をあげる。

戦場に響くその楽しそうな声、ネバーランドにいたからといって特に何かあったわけでもないようだ。まあヤツらの目的が聞いた通りならば当たり前の話ではあるが。

彼女たちを連れて帰ることも目的に追加しつつも、無事な姿になんとなくホッとしたエイジ。操縦桿を握りしめる手に再び力を込める。


「よーし、お前ら今から手加減なしでいくぞ……ってなんかやる気なくしてんな」


「そんな……我らの女神が……太陽がぁ………」

「そうだよな、所詮本当のおにいちゃんキャラには勝てないよな。ポッと出のモブである俺らじゃ彼女たちのおにいちゃんにはなれないんだよな。もう欝だ死のう」

「人の夢と書いて儚い……なんだか悲しいな」


しかしそんな彼とは裏腹に、眼前の敵たちは士気を著しく低下させていた。具体的に言うと気力50くらい。

気合を入れて突貫しようとした矢先のこの光景に、流石のエイジもなんだか戦いにくくなる。


「いや、敵の戦力低下は悪い話じゃないんだけど……なんかいまいちやる気を出しにくいな」


「あきらめんなお前ら、希望の灯は絶やすな!!!」

「いやもういいよ。どうせ みんな大人になる」

「なんで……なんでそんな事言ったぁ!? お前!!」

「やめて………もうやめてよ!!」


ためらいどれくらい僕を試しますか? 果て無きモノローグをバックに仲間同士のぶつかりあいすら始めたネバーランド軍。グラヴィオンのことなんか誰も気にしちゃいない。

思わずここを突破して自分があのロリコンと戦う羽目になるんだろうかと危惧したエイジだったが、1人の男の声をきっかけに敵は落ち着きを取り戻した。

それは彼らにとって希望を意味する名前(ワード)。


「しっかりしろお前ら!! オルソン先生のご尊顔を思い出すのだ!!」

「「「 !!! 」」」


そう。スパロボ界の高橋ジョージ、もしくはヤンキー先生の異名を持つオルソン・D・ヴェルヌの名前である。

あんなにダサいグラサンをつけるというハンデを自らに課しても、幼い頃からの刷り込みのみで友人の実の娘をゲットしたというリビング・レジェンドの存在は、

彼らにとって希望以外の何物でもなかった。


「そうだ……そうだよな! あの人だってあの趣味の悪いグラサン装備のまま上手いこと誑しこむことが出来たんだ、俺たちだって!!」

「ああ。確かに厳しい状況ではあるが、可能性はゼロじゃない。希望はまだ捨ててはいけない」

「この戦いさえ切り抜ければな!!」

「わかってくれたか。……いいか、みんな。小五とロリでは単なる犯罪だが、二つ合わされば悟りとなる。そのことを忘れるな!!」

「つまり小五くらいの子がストライクゾーンの俺は、既に悟りを開いていると言うことだな!!」


心の炎を再点火したロリコンたちがグラヴィオンに視線を戻す。

我不迷。そんなモブたちの意識を感じ取ったエイジは再び戦闘態勢に入った。最後のヤツだけは確実にぶっ殺しとこう、そう覚悟を決めて。

ついでにほっと溜息も一つ。良かった、クワトロ大尉と戦わずにすんで。


「さあ来いグラヴィオン。此処から先、簡単に通れると思うな!!」

「ちびメイドたちの世話は俺たちがやる。彼女たちには 『彼は遠い所に行ってしばらく帰ってこない』 とでも言っておいてやるさ!!」

「ああそうかよ。じゃあこの場にいる全員、その妄想を抱いたまま溺れ死ぬ事になっても――――」



「いや、君の相手は彼らではない」



エイジの言葉を打ち切るように、新たな声が会話に参加する。聞き覚えのあるこの声は確か―――



「ゴッドΣグラヴィオンの紅エイジ。お前の相手はこの俺だ」


「「「 オルソン先生!!! 」」」



今話題に上がったばかりのオルソン・D・ヴェルヌその人であった。モブたちを庇うように立ちはだかり、彼らを他の戦場へと移動させる。

サイズ差からいって彼らと一緒に戦っても卑怯ではない筈だが、どうやら自分との一騎打ちがご希望のようだ。


「小細工なしの1対1。まずは君から好きなように仕掛けてきたまえ」

「随分と余裕だなオイ……。じゃあその余裕を無くしてやるよ、マダオ (マジで駄目人間なオルソンの略) のおっさん!!」


自分の技量に自信があるのだろう。スーパーロボット相手に先手を譲るマダオ。

挑発めいた言葉にいつもの自分ならすぐ突貫するところだが、エイジはその言葉に甘えてゆっくりとランサーを構えた。

自分からハンデをくれるというなら甘えよう。結果的にそれが勝敗を決めたとしても余裕ぶってハンデをあげた者が馬鹿なのであって、貰った自分が気にすることではない。

それにリアルロボットとスーパーロボットの戦いはひどくシンプルだ。スーパー系が自慢のパワーで捻り潰すか、それともリアル系がそのスピードで掻き回して蜂の巣にするか。

お互い一長一短ある噛み合わせである以上、正面からのガチンコでも必ず勝てると慢心するつもりはなかった。


「フ、その生意気な言葉を後か……あれ?」


そんなエイジに対し、どうせ命中率は低いだろうとたかをくくって反撃は何にしようと考えていたマダオ。しかし目にしたものを見て思わずサングラスがずり落ちた。

その口から零れ落ちるのは掠れた声。なんだこれは。命中率が100%になっているんだが。


「行くぜ!! 必中、それから熱血も!! グラヴィトンランサァァァ!!!」


いや、オーガスとグラヴィオンのサイズ差で精神コマンド付随させた攻撃とか反則だから。確かに掛かって来いって言ったのは自分だけれども。

直感をかけて、いやせめてハイパージャマーくらい付けておけばよかったとそれまであった余裕を投げ捨て、マダオはエイジに告げる。


「………前言撤回、させて貰ってもいいかな?」

「却下」


つまりは死ねと。

ついさっきまでは想像すらしなかった絶望的な状況に、オルソンはかっこつけた数秒前の自分を深く憎悪する。気をつけよう。注意一秒、怪我一生。

現実から逃避したくて思わず目を閉じた。その瞼の裏に映るのは走馬灯のように過ぎていく過去の記憶。

親友であり同士であるクワトロとの友情の記憶である。



『最近調子はどうだ? 俺はそこそこだ』

『そのグラサン変だぞ』


『ヒック、それであの時、桂のやつがよ~』

『そのグラサン変だぞ』


『綺麗な夕焼けだな、何か叫んでみるか。馬鹿野郎~~!!!』

『そのグラサン変だぞ~~!!!』


『サングラス取ってコンタクトにしたんだが、似合うだろうか?』

『………誰だ君は』


『俺、アテナとそろそろ結婚するかもしれん。当然その時に初夜も』

『死ね』




そんな熱い友情を過去のものにしてしまう自分を、強敵を前に友を残して逝く己の力不足を呪う。


「……ああ、友よすまん。お前を残して散ることになるとは……」

「グラサンが黒いからって前が見えてないのか? 今の話、どこをどう見ても友情なんかなかったんだけど………まあいいや、グラヴィトン・ブレイク!!」

「そして幼女たちを前に、紅エイジのかませ犬として散っていくことになるとは」


自機に迫る巨大な刃を絶望と共に見上げるマダオ。機体は動かない。都合よく赤い機体の援護射撃とかきたりしない。

グラヴィオンの強烈な一撃を防ぐものは、拍子抜けするほど何もなかった。


「エルゴ・エンド」


エイジの声と同時に爆散する愛機。意識を失うその瞬間、マダオは確かに耳にした。

勝者の凱歌を。それを讃える天使たちの美しい声を。


「ふつくしい……なんつってな!!」


「「「 キャー!! エイジさまぁ!!! 」」」




無念………。





















「無駄だよレイ。君の力は確かに凄い、だけど技量も機体性能も僕の方が上だ!!」

「くっ……! もういい加減バカなことはやめるんだキラ・ヤマト!!」



交錯する火線。飛び交うお互いのドラグーン。ストライクフリーダムとレジェンドが1対1の戦いを繰り広げている。

戦っている理由が理由なので身内の恥を晒すまいと説得を頑張るレイだったが、キラにはそれを受ける気は無いようだ。

戦況は贔屓目に見ても若干フリーダムが有利。性能的に当たり前と言えば当たり前だが。



「バカなことなんかじゃない!!! これが僕の夢! 僕の望み! 僕の業!

 ……僕はもう、これ以上苦しみたくないんだ! いつかは……やがていつかはそれなりの大きさに成長したおっぱいを触れると……!!

 そんな希望的観測に踊らされ、いったいどれだけのヤリたい盛りの時期を溝に捨ててきた!? どれだけの精子をティッシュに無駄死にさせてきた!?」

「知るか!! だいたい胸だけが女性の全てというわけではないだろう」

「それが君に解る? 何が解る!? 解らないさ!! 童貞の君には!!!」


童貞呼ばわりされこいつマジでぶっ殺してやろうかという怒りを押さえ込むレイ。落ち着け、落ち着くんだレイ・ザ・バレル。熱くなっては勝てるものも勝てなくなる。

中央を守るキラさえいなくなればネバーランドまで一直線なので自分にかかる責任は大きいのだ。そうやすやすと負けるわけにはいかない。


「ラクス・クラインはどうした!! 仮にも恋人がいるんだ、そこで満足しておけ!!」

「彼女の歌は好きだったけどね……だけど現実 (まな板→2年後→まな板) は歌の様に優しくは無い!!」


確かに彼女にはもう成長の余地はないので絶望する気持ちはわからないでもないけれども、キラにとってそこまで悲観することだというのか。

正直自分にはおっぱい星人の考えることはわからん。


ふと思う。ギルはキラにミーア・キャンベルを差し出していれば、ラクス・クラインなんかに負けなかったのではないだろうか。

偽者バレで役目がなくなってたミーアはヒロインポジへ。キラは彼女のナイスバディを思う存分貪って幸せ。そしてギルは駒がヘタレ1択のラクスに勝利するだろう。

シンも逆補正から解放されてヘタレに勝つのは間違いないし、自分はムウ・ラ・フラガと長き因縁の話にもっていけた。ルナマリアもそのぶん描写が増えるに決まってる。

なんというWIN-WINの関係。このデスティニープランならみんなが幸せになれたかもしれない。


「確かにそうかもしれない。あのヘタレにミーアさんのフラグを放るなんて悪手を打つくらいなら、僕がもっと有効活用できたんだ。

 年増の女艦長の尻なんかじゃなく、ピチピチのアイドルの際どいショットを視聴者の皆さんにプレゼントすることができた筈。伊達に土曜6時にフレイとのシーンを流してないからね。

 あの今にも襲ってくださいと言わんばかりの格好の彼女を、生脇をレロレロしてきょぬーをムニムニして衣装を引っ張って下を食い込ませてガッツでガッツンガッツンいけたんだ。

 彼女の耳元に甘い保志ボイスで 『君は君だ、彼女じゃない』 って囁きながら運命に抗えたんだ。

 でもいくら叫ぼうが今更!! これが定めなんだ!! 腹黒貧乳を正義と信じ、キャラが解らぬと逃げ、陽電子を知らず、他の人の苦言からは引かず!

 そんな脚本家ごっこ・監督ごっこの果ての終局だ!!

 そう、僕にはあるんだ! この宇宙でただ1人、全ての巨乳を貪る権利がね!!」


「キラ・ヤマト、そのネタそろそろやめろ」



心を読むなバカ。それとラウネタはいいかげんムカついてきた。少ししつこいぞお前。

心の中のラウも 「殺っちゃいナ♪」 とGOサインを出していることもあるし、いい加減潰すか。キャオラァァァと叫びながらの前格でも見舞って。

そう考えながらフリーダムから放たれたカリドゥスをシールドで受け止めるレイだったが、その威力に思わずバランスを崩してしまった。

当然その隙を逃すキラではない。両手に持ったライフルを連射して意識を自分に向けつつ、背後から止めを刺すためにドラグーンをレジェンドの後方へ廻す。


「大体なんで僕ばかり止めてシンやカミーユは止めないんだ!!

 シンなんかカウガールなステラとロデオプレイしたかと思いきや、次の晩には婦警なルナマリアさんと手錠プレイしてるんだよ!? しかも攻守交替で何ラウンドも!!」

「別に俺は他人のプライベートまで干渉する気は無い。しかしお前の場合はシンと違って場所と相手が……しまった!!」


レイがそのドラグーンの存在に気付いたのは、今まさにそのドラグーンがビームを発射しようとする瞬間だった。

このタイミングでは避けようがない。敗北を認識し思わず舌打ちをするレイ。


しかし、そんな彼の眼前で紅いビームの刃がドラグーンを切り裂いた。


「誰だ!!」


誰だも何も、言った本人もZEUTH側の応援だということはわかっているだろう。手中の勝利を掠め取られ、機嫌を損ねたキラが怒気を含んだ声で叫ぶ。

自分も今のタイミングは終わったと感じていたところだったのでその気持ちはわからないでもない。

しかし助けに来たのが選りによってこいつとは。素直に喜べないレイは思わず溜息を吐く。

その視線の先、長く伸びたビームサーベルを構えているのは。


「後からノコノコ出てきて主役気取りかカミーユ?」


自分のライバルにしてUC最高のニュータイプ。カミーユ・ビダンが搭乗するΖガンダムにほかならない。


「なら聞くけど。アレがメインイベントに相応しいと?」


アレって。一応俺たちの世界の主人公なのだが。まあ、敵キャラとしては確かに格が落ちるか。

巨乳の元娼婦相手に筆下ろしした、キラに良く似た青年も敵としての扱いはすごい微妙だったことだし。


「言われてみれば……確かにそうだ」


並んで進みながら距離を詰めていくレジェンドとΖ。ドラグーンの放ったビームをサーベルで文字通り叩き落しながら前に出る。

その高度な操縦技術を前に、思わずキラも声を震わせた。


「僕に勝つつもりなのか?――――スーパーコーディネイターの、この僕に」

「気付いている筈だキラ・ヤマト。今の貴様には負債による補正はない。純粋な技量だけで俺たち2人を止めることはできない」

「レイ、言うだけ無駄だ。身体で気付かせないとな」


そう言うや否や、右と左に分かれて飛び込むレイとカミーユ。ビームの豪雨で迎え撃つフリーダムだったが彼らを抑えられるわけもない。

しばらく奮戦していたものの、最終的には2人が同時に放ったビームサーベルの斬撃によって大きく吹き飛ばされる。

形勢逆転。王手をかけられたのはキラの方だ。


「くっ、このままじゃようやく僕が見つけたデスティニープラン、 “ 子供たちは総帥が世話する、だから若妻たちは僕と遊ぼう ” が………ッッ!!!」


ドラグーンを全て失い、あちこち小さな爆発を起こしながらもまだ立ちはだかるフリーダム。

その沈みかけた機体を支えるのはもはや執念である。枯渇した大地しか手に出来なかった男が、初めて肥沃な大地を手にすることが出来たのだ。

まだ負ける訳にはいかない。まだ倒れるわけにはいかない。こんな小さな自分にも、すぐにラクスに洗脳されてた自分にもくすぶってるものがある。


「そう、意地があるんだ!! 男の子にはぁ!!!」


そうだろう君島と顔も知らぬ親友を想い拳を握るキラ。その気合はラウ=ル=クルーゼを撃破した時の比ではない。精神が肉体を凌駕し、尚もその場に存在し続けていた。


しかし古今東西、悪が栄えたためしは無い。

主人公キャラとライバル兼友人キャラが格好良く構えた時点で決着が着くと相場が決まっている。


「本来なら強敵への止めはスイカバーで決めるところだけど……レイ、今回だけはお前に合わせてやる」

「カミーユ、こういう時に言う決めゼリフを知っているか?」

「……フッ」


レイの言葉に不敵に笑うカミーユ。

そして2人は次の瞬間、お互いのビームライフルを重ね合わせて叫ぶ。



「「 “ ジャックポット !! ”」」



2つの銃口から放たれた紅と蒼の光。絡み合うような螺旋の軌跡を描き、フリーダムを貫いた。



「裸エプロンが………旦那との電話の最中にするいたずらがぁぁ……」

「品のないセリフだ」

「お前は魔界にでも沈んどけ」


2人がそう言葉を吐き捨てた瞬間、フリーダムが巨大な爆発を起こす。

どうせキラのことだから死んではいないだろうが、少なくともこの戦場で復活することはないだろう。そう判断したレイは、深い溜息を吐いて頭上を見上げた。

別にその目に何かを映したかったわけじゃない。ただ目の前の光景を直視したくなかっただけで。


「泣いてるのか、レイ。同じ作品の仲間がこんな死に方して」

「………俺は原作じゃ奴らの踏み台だぞ。そんな端役は泣かないもんさ」


流石はニュータイプというべきなのだろうか。カミーユが自分を気遣ったような声をかけてきた。

助けて貰いもしたし、感謝する想いが無い訳ではない。しかし今は、彼に自分の弱さを見せたくはなかった。

ぶっきらぼうに言葉を返すが、彼はそれに対して何も言ってはこない。おかしいな、いつもなら 「助けてやったのにその言い草は」 って感じで軽い口喧嘩くらいにはなるはずなのに。

そう思ったがその疑問はすぐに解消した。そういえば今回の戦いは彼も似たような立場だっけ。首謀者はあのロリコンだし。


「そっか……でも。事実上の主役がこんな醜態を晒して、作品のために涙を流す踏み台キャラもいるのかも」

「……かもな」


ほんとに泣きたい。俺は原作じゃあんなやつの言葉に流されてフルバースト喰らったというのか。ギルを撃ったというのか。

いややめよう、この世界の自分には関係がないことだ。気にし過ぎてはいけない。


「ところで――――」


会話を打ち切り、Zが唐突にライフルを連射する。自分たちに襲いかかろうとしていたヤクト・ドーガが数機、光弾に貫かれて爆散した。

いつのまにやら大勢の敵が自分たちを包囲している。悲しんでいる暇はなさそうだ。


「これから忙しくなりそうだな、お互い」

「……まったく、やってくれる。でも今は思い切り暴れたい気分だ。こういうノリは嫌いじゃない」


背中を合わせてサーベルを抜き放つ2機。呼吸を合わせて踊り掛かった敵をまとめて一刀で切り捨てる。

そう、今は悲しむ時間じゃない。八つ当たりの時間だ。



「世界の理不尽さに絶望しすぎて――――狂ってしまいそうだ!!!」



そのまま戦闘を再開するレイとカミーユ。今の彼らはこんな雑魚どもに落とされるわけがないので余裕に溢れていた。

カミーユにいたってはエンディングテーマが終わるまでに100機落とそうと必死なほどである。



「絶対に、絶対に100機倒すんだ……。例えレイの命を無駄にしてでも!!

 この流れでいけば、スペシャルエンディングはカウガールステラと婦警ルナマリアと何かのコスプレセツコさんによる回想シーンになるに決まってるんだから……!!」


「お前を少しでも見直した俺が馬鹿だった」





もうなんでもありだなお前。






















「人の命を大事にしない人とは、僕は誰とでも戦うと言ったでしょう!! お前ら退がれぇぇぇっっ!!!」

「黙れロラン、お前だけはぶっ殺す!!」

「やめろ馬鹿ヒゲ、月光蝶の間合いは絶対に入るな! 近接戦闘は俺に任せりゃいい!!」


バルゴラに乗って部隊を率い、トビーはギャバンのボルジャーノンと共にロランの∀ガンダムと戦っていた。

たった1機相手に一進一退とは情けなく感じないでもないが、正真正銘の化け物である∀相手では善戦以外の何物でもないだろう。まあロランもその辺りの力はセーブしてるとはいえ。

ZEUTHの増援も数自体は少ないことだし、後は他の部隊が敵の旗艦でも落としてくれれば向こうも撤退してくれる筈。そしてその痛手でしばらくはネバーランドに侵攻はしてこまい。

そう判断し、とりあえずは作戦通りの現状に満足するトビー。

しかしそんな彼らの許に一つの知らせが入った。キラ・ヤマトの駆るストライクフリーダムの撃墜である。


「FREEDOM!? こんな序盤で!?」

「そんな……ここらでちょっと根性を見せてやるところなのに……」

「我らロリを愛でるまで死んでたまるか戦線にもついに名有りキャラの脱落者が!!」

「落ち着けお前ら。まだ慌てるような時間じゃない」


シャアを除けば最高の戦力であるキラの戦線離脱。大幅な戦力ダウンは避けられないため、兵士の動揺や士気の低下も無理は無い。

しかしトビーは大した動揺もせずに周囲の混乱を鎮める。どうせこんなことになるとは思っていたのだ。それは何故かって言われても大した理由じゃないんだけど。


「やっぱマグロ食ってたやつはこんなもんか」


そう言ってばっさりとキラを切り捨てるトビー。いやーでもそう偉そうに言ってたFINAL WARSだってかっこよかったのドン・フライだけですよアレ。

そんなことを考えてるうちに目の前の∀が翼を広げ始めた。あれは月光蝶か。やべー手加減かけてないみたいだしあんなもんくらったら一撃で沈んじまう。

あわてて自分に直感をかけ、傍らのパートナーに視線を向けると


「はは、甘いな。そんな月光蝶なんかで俺のソシエ嬢への思いが折れるとでも思ったか、ロラン?

 裏を返せばそれはお前が俺の事を恐れてるってことだろう? ソシエ嬢を取られるかもって思ってるわけだろう?」


現実逃避してた。そういやコイツひらめきも不屈もないもんな。

だから前に出んなって言っておいたのに。


「そうだ、そういうことなんだろう。ポジティブだ、ポジティブなことだけ考えろグーニー!!

 この状況で一瞬でもネガティブなことを考えてみろグーニー!! 原作の無駄死にの二の舞グーニー!!」

「おい何恐怖でトチ狂ったこと叫んでんだ。とっとと逃げろよ」

「その声は! ワトソン!! ワトソンかァァ!! よりによって金田一の事件の犯人みたいな奴が助けに来やがった!!」

「それじゃ明智さん探してきますね」

「嘘、嘘ぴょーん!! 高遠じゃなくて良かったグーニー!!」


さっきから一緒に戦ってたってのにもう俺のことを忘れたのか。めんどくせー、超めんどくせー。助けようとする気も起きねー。

と言っても助けようとしたところで装甲の厚い∀は半端な攻撃では落ちないので、自分に出来ることはもう無かったりする。

なのでトビーはギャバンの戦死を受け入れることにした。えーと故人ギャバン・グーニーは本編でも多元世紀でも見せ場の無い芳忠ボイスの無駄遣いキャラとして……ん?


「あれ、でもあのコースじゃ味方のサイコガンダムにも命中しそうなんだけど……」


回避の為に月光蝶の通過コースを確認すると、黒く巨大な機体がその範囲内に入っていた。その正体はブラックドールとも呼ばれているサイコガンダム。

おそらく精神コマンドでもかけて囮に使ってたのだろう。そう思いつつ機体の持ち主の声を拾ってみると


「ポジティブだ ポジティブな事だけ考えるんだグエン。この状況で一瞬でもネガティブな事を考えてみろグエン。全てを失った原作の二の舞いグエン!!」

「ここにも馬鹿がいたよォォォォ!!!」


もうやだこの戦場。とっとと世話して貰ってるピーター・サービスに帰ってメールちゃんに会いたい。

ロリの国を作るがぜよと龍馬ちっくに誘われてホイホイ付いてきてしまったが、「今ビール飲んでる最中だからパス」 と断った隊長に倣っとけば良かった。


「ほらローラ、ここにこんなに大きな声で僕たちの愛を祝福してくれてる人がいるよ!! さあ、幸せなうちに僕と一緒にモロッコに行っていろいろと取っちゃおう!!」

「違ぇよバカ!! なんだ? こんな戦場で笑いに奔るバカは人を腹立たせるバカばかりか!?

 なんだかな……凄い疲れてきちまった。かったるいし、もういいや」


お前はその役に立ってない耳でも取ったらどうだという思いとともに、トビーは戦線離脱することを決意する。

もう戦えない。龍馬の顔に字幕が掛かった時くらいにテンションが落ちてしまった。いや序盤の時点で 「福山、香川に喰われてるぞ」 とは思っていたが。

ネバーランドには未練があるが、どうせクワトロ大尉がボスという時点でハマーン・カーンにボコられて終わるオチは見えているのだ。

この戦いの後残っているのなら客として行けばいい。


「嫌な女!! お前がいなければソシエ嬢の側にいられたのに!!」

「僕は男です……ローラ・ローラじゃないんですよーーっっ!!!」


背後の声を無視し、トビー・ワトソンは帰途につく。

ピーター・サービスに帰ったらきっとメールちゃんが笑顔で迎えてくれるだろう。そしたら自分はそんな彼女を抱き締めて髪や耳の裏をくんかくんかしよう。

ランドの旦那は怒るかもしれないが、その時は目の端に涙の一滴でも見せれば何か辛いことがあったと深読みしてくれるだろう。

もしかしたらメールちゃんも嘘泣きしている自分を胸で抱き締めてくれるかもしれない。そしたら彼女の生脇もくんかくんかしよう。薄い胸を額でぐりぐりしよう。


「……帰ろう。あるべき場所へ」


そう、僕にはまだ帰れる場所がある。こんなに嬉しいことはない……!!





















「やらせない。通さない。お前を大佐の許へは行かせはしない!!!」

「Iフィールドか……厄介だな」


所変わって此方はアムロとギュネイ。α・アジールとνガンダムが長時間に亘る死闘を繰り広げていた。

すぐにZEUTHが攻めてきたためジョッシュやプロとは出会うことはなく自身の補正強化はできなかったギュネイだったが、シャアとの会話で既に迷いは無くしている。

そして同時に驕りも消し去ったため、今の自分の実力も正確に把握していた。これから己が何を為すべきなのかも。

自分と大佐ではその器に大きな差があり、そして目の前のアムロ・レイはその大佐の宿命のライバルと称される男だ。どう逆立ちしても自分では敵うまい。

ならば自分が大佐の為にできることは只一つ、敵が撤退するまでの時間稼ぎしかない。人並み外れた技量を持つ大佐やアムロが鯛だとするなら、自分は鰈だ。泥に塗れよう。

純粋な火力はα・アジールが上だしこちらにもIフィールドはある。格上相手とはいえ、無理な話ではない筈だ。


「いい加減にしろ! 大体お前たちが他人の子供の心配しても意味無いだろう! その力、もっとマシな事に使ったらどうだ!!」

「アムロ、やっぱりあんたは幼女たちの現実を知らないんだな……。世間にはな、バカ親という存在がいるんだぞ!!

 本気で子供のことを考えているのか怪しい、愚かな大人たちが!!」


予想外の苦戦に焦れたアムロの声。気付けばギュネイは叫び返していた。

自分たちの戦う目的。大佐の真摯な想い。「マシな事」ではないとは言わせない。


「子供の良いところは自分の教育のおかげと自画自賛し、問題が発生したら自分以外の誰かのせいとモンスターペアレント。

 そんな常識もまともな思考も無い頭だから、天使と書いてえんじぇると読ませるような名前を付ける、馬鹿な事しかやらない!!」

「四方から電波が来る……?」


愚かなのは少女たちをハーレムに引きずり込もうとする2次元の作者たちばかりではない。世の中の大人も信頼できる者が少なくなってしまった。

大人はかつて子供だったとはいえ、最近は子供の精神をもったまま成長せずに年齢だけ重ねる大人が増えている。

果たしてそんな頭の悪い連中に、明るい未来に満ちている子供たちを任せていいものなのか。否、良い訳がない。


「しかし自己陶酔の果てに付けた名前を 『お前の親がそんな名前だったらどう思う』 とか 『年取った時の子供の気持ちも考えろ』 という正論に追い詰められていくから」


口からメガ粒子砲を放つがあっさりと回避された。お返しとばかりに連射されたビームをかろうじてIフィールドで防ぐ。

やはり長くは抑えられそうもない。敵の撤退は、まだか。


「バカ親たちはそれを嫌って、 『DQNネームを非難する人の方が不快』 『人様の名付けに口出すな』 と逆ギレする? ……だったら!!」

「……だったら、なんだ? それがお前たちの戦う理由になるのか?」


しばらく黙ってギュネイの言葉を聞いていたアムロだったが、彼の主張が終わると静かな声で言葉を返した。

冷たいその目は彼の心境を一言で表している。お前らが言うなと。


「だから俺たちがそんな愚かな大人たちから幼女を守ろうと言っているんだよ、アムロ!!」

「……お前たちが守るだと? ふざけるな、目を血走らせて幼女を凝視するお前たちがか!?」

「こんな世界じゃ子供たちの貞操がもたん時が来てるんだ、それを―――――ライフルを捨てた!?」


口論の最中に投げ捨てられたライフルに一瞬目を奪われる。ギュネイが自分のミスを悟った時には既にバズーカの砲口が此方を捉えていた。

しまった、口論に意識を割きすぎた。そう気付いたときにはもう遅い。

νガンダムのバズーカから4つの弾頭が放たれ、α・アジールの四肢を撃ち抜く。そして駆け抜けながらビームサーベルを居合いの様に抜き放った。

機体の頭部を切り飛ばされたのか画面が全て黒く染まり、そして続けて起こった爆発によってギュネイ自身の視界も暗くなっていく。



「エゴなんだよ、それは」

「何、あっ……!」



力の均衡が崩れればあとは一直線。それまでの長い戦いが嘘の様に、決着はあっけなく着いた。

敗者には、何も残すことなく。




















「現れたばっかりの所を悪いけど、落ちてもらうわ。狙いは完璧よ!!」

「フ、あの言葉を使ったということは自軍の誰かに誤射するはず。恐れることはってうわぁぁぁぁぁ!!!!」

「デビットがやっぱりやられたーーー!!!」

「あの人何しに来たんだよ。フィクサー1でどうかなる相手か?」


「しんくー!! しぃぃんくぅぅぅーーーっっ!!!」

「て、天子様、お美しい……がふっ、永続調和……」

「おい、美形のにーちゃんが血を吐いて倒れたぞ!! 病気かなんかじゃないのか」

「あ、そいつほっとけ。どーせ死なねー、死ぬ死ぬ詐欺はいつものことだから」

「しんくー……シンクー!! ウィー!!」

「天子様がウエスタンラリアットを!? あのチン毛みたいな頭のヤツ大丈夫か?」

「あ、そいつはとどめ刺しておいて。いても何の役にも立たないから」



「やりたい放題だなこいつら」


真紅の翼を大きく広げ、漆黒の宇宙を駆け抜けるデスティニー。目の前に広がるフリーダムでカオスな戦場は、見ているだけで気が滅入ってくる。

クワトロ大尉とのタイマンは正直気乗りしないのだが、もしかしたらこの空気に浸るよりはマシなのかもしれない。


「集中しなさいシン、今の貴方には敵を気にしている暇は無い筈よ」

「そうね。カミーユやロランたちが名有りキャラを引き付けてくれてるんだから、急いで行かないと」

「まあそれはそうだけど……てかなんでみんな此処にいるんだ?」


とりあえず誰も現在の状況に触れないので自分で突っ込んでみる。

それでなくてもZEUTH・アクシズ連合は数で負けてるのに、デスティニーの周囲にいるのはバルゴラ・インパルス・スーパーガンダム・メタス・ギャブラン・森のくまさんの6機。

自分の恋人であるルナマリアとセツコはともかく、カミーユ絡みの面々が自分の周りにいるのは何故なんだろう。


「え? そりゃだって、ねえ……ほら3人共、他の所行きなさい。この面子じゃ貴方たちは戦力外なんだから。あっちの端っこの辺りなんかかなり苦戦してるわよ?」

「エマ中尉こそ。ロングライフルは後方からの援護射撃で活きる武器です。持ち味を生かす事こそ戦場での正解ですよ?」

「それを言うならファが下がるべきだと思うんだけど。メタスじゃ戦力にならないんだから大人しく修理要員として働いた方が」

「安心しなさい。今の私はハロを2つ付けてるから、ちょっとやそっとじゃ落ちないから」


なんという無駄遣い。


とりあえず話を聞いていてわかったことは、別に彼女たちは自分を守りたくてこの場にいるというわけではないということ。彼女たちにとって重要なのはこの場にいることらしい。

答えを求めてルナマリアとセツコを見ると、2人とも微妙な表情をして首をすくめた。呆れたようにも見えるその様子、つまりはカミーユ絡みの内容と言うことだろう。

その事を問いかけようと口を開きかけた瞬間に次の敵が現れ戦闘に入る。数は7小隊、結構多い。しかもどんどん周囲の敵が集まってくる。

それだけ目的地が近いということか。


「シン、貴方は先に行きなさい!! ここは私たちが仕切る」

「エマさん!? 急に何を……」

「いいから早く行きなさい!!」

「シン君、ここは任せて先に行こう? 私たちも続くから」

「うん……いや何なんですかこのテンションアップは」


シンを襲おうとしていたグフを蹴飛ばし、いつの間にかスーパーガンダムからMK-2に戻したエマが叫ぶ。その背後ではフォウたちによる気合の入った叫び声。

敵が現れた瞬間テンションが上がり皆自分に注目しろと言わんばかりに暴れまくるその姿に、流石のシンもなんとなく彼女たちの思惑がわかってきた。

おそらくカミーユにとってのヒロインだと皆が認めるくらい存在感を増したい、もっとざっくり言うと目立ちたいということなのだろう。

そのためには戦場の端っこで数少ないモブ相手にチマチマやるより中心で無双してた方がより効果がある。

つまり現在の状況を条件に表すとこうだ。


勝利条件:デスティニーをネバーランドに到達させる。

敗北条件:①キュベレイの撃墜。 ②デスティニーの撃墜。 ③アクシズ軍の戦力が50%以下になる。


①はまずありえない。③は戦場が広いため、何処で戦っても大して変わりは無い。となると注目すべきは②である。

敵もZEUTHの撤退を目論んでいるだろうから、当然デスティニーへのマークはきつくなる。密集する敵MS。膠着する戦線。

そこで突如、無双を開始する女性パイロット。

あれは誰なんだ? 知らないのか、Ζガンダムのヒロインでカミーユの彼女だよ。なにー、あいつの彼女ってあんなに強いのか。そんな流れが狙いなんだろう。

カミーユ相手に外堀を埋めるやり方は通用しないが、それでもやらないよりはマシだし。


「それじゃ、俺たちはもう行きますから。……気をつけてくださいね」

「自分の心配をした方が良いわよ。あんなんでも赤い彗星って言われたほどの男なんだから」

「了解です」


とりあえず状況は把握したので安心して後を任せることにする。

バルゴラに手を引かれ宙域を離脱するデスティニー。その背後ではルナマリアとエマ中尉が通信で何やら話し合っていた。

あの2人まだ喧嘩しているというのか。もういい加減仲良くしたらいいのに。


「ルナマリア!!」

「なんですかエマ中尉」


「絶対に、男たちに責任を取らせるわよ」

「……余計なお世話ですよ」


しばらく睨みあっていたが、不意にニヤッと不敵に笑い合う2人。どうやら自分の心配は余計なものだったらしく、いつの間にやら宿敵と書いて友と読む流れになっていたようです。

そして飛び立つインパルスを見送り、MK-2は視線を再び前に戻す。その眼前には長銃を構えている黒いブレイズザクファントムの姿。


「その顔、何だかムカつくのよコラァ……」


私こそがヒロインじゃあというフォウたちの叫び声をバックに、ゆっくりとザクに近づいていくエマ。その声には何故か怒りが込められている。

そしてついに怒りの声をあげ、敵を撃つべく飛び込んでいった。



「私は 『狡猾で残忍な金髪の色黒』 が大嫌いなのよ!!」




すんませんエマさん。そいつ、迂闊で残念なやつです。














「ハイ・ストレイターレットで道を開きます。それまで援護をよろしく!」

「ルナ、セツコさん、それを撃ったら早く仲間と合流してくれ。もう付いてくるのはここまででいいから。これ以上深入りしたら2機だけで孤立することになる」

「それを言ったらシンだって孤立しちゃうでしょ。 あんなロリコンどもに遅れは取らないから、素直に護衛されてなさい。

 セツコさん、この場は私が抑えるからその後はよろしくね」

「ちょ、何言ってるんだルナ。内容こそアレだけど、ここは間違いなく戦場なんだ。ここから後は俺に任せりゃいい」


1機で突っ込むので自分の心配して下さい (意訳) というシンの言葉。心配してくれるのは嬉しいが、流石にそれは空気読めてないんじゃないだろうか。

素直に一騎討ちできるとは限らず、敵がまだ策を残してる可能性だってある。シンならばそれすら突破しそうだが、それでもその後クワトロ大尉と戦うのは無謀だ。

そもそもなんでシンが大尉と戦う必要があるのか。ここが戦場だと言うのなら、シンだって傷付く可能性があるというのに。


「馬鹿言わないで。それを言ったらシンだってあんな化け物と一騎討ちする理由はないじゃない。なんで自分から危険に飛び込もうとしてんのよ」

「確かに周りの連中に乗せられた部分はあるけどさ。でも、俺には託されたものがあるんだ。

 ぶっちゃけ扱いはぞんざいだったけど……それでも 『行って来い』 って託されたからには頑張らないと」


想いを託されてそれぞれに送り出されたというよりは藤田東にフラッシュパスされるサッカーボールのような扱いではあったが、それでも多くの仲間が自分の身体を銃口の前に晒してくれたのだ。

ハマーンさんのこともあるし自分が戦う条件は揃っている。それが逃れられないものであるならば、他者から強制されるのではなく自分から向かっていきたい。

シンのその言葉を聞いたルナマリアはビームライフルを連射しながらデスティニーと背中を合わせ、背後のシンに語りかけた。


「そっか……うん。やっぱりシンを選んで良かったわ」

「は? なんだよ、唐突に」


不意打ちの愛の言葉に、それを聞いたシンが思わず面食らう。久々に見た彼氏の幼い表情。あまりに無防備すぎてゾクゾクしてしまった。

戦闘中にサカってる場合ではないので楽しむのは数秒にしておいたが。


「でもね。心配してくれるのは嬉しいけど、鳥は大空を舞ってこそ初めて美しいと思うのよ」

「……すまん、俺バカだからもっとわかりやすく言ってくれると嬉しいんだが」


つまりどういうことだってばよと言わんばかりのシンに思わず溜息を吐く。こんにゃろ、言葉の意味なんて今までの流れでなんとなく把握すればいいのに。

そういう鈍感なところも含めて愛しいと感じる自分は既に末期なのだろう。

この愛しい鈍感男に自分たちの思いをわからせるため、ルナマリアは大きな声で叫ぶ。こうなりゃヤケですよ。


「エマ中尉たちだけじゃなくて私たちにも、好きな男の子の前でかっこつけさせろってこと!! おーけー!?」


ちょっと直球過ぎただろうか。ヤケで言ったとはいえ少し恥ずかしくなってきた。

でもまあ画面の中の嬉しそうな顔がその対価であるならば、十分元は取ったと言っていい。



「……わかったよ。でもわかってるとは思うけど、無理しちゃ駄目だからな。お前がケガでもしたら本気でヘコんじまう」

「約束してあげるわよ。付きっきりの看病は魅力的だけど、シンがヘコむんじゃ可哀想だし。それじゃセツコさん、シンをよろしくね」

「ええ、必ずネバーランドまで送り届けます。私たちの旦那様を」

「うん」



そう言うと、バルゴラとデスティニーはネバーランドへ向けて飛んでいった。

ルナマリアはエクスカリバーを両手に握り、2機を追おうとする敵の前に立ちはだかる。


「さてと……月並みな言葉だけど。此処から先は通さない」


刮目し覚悟せよ数多の病人ども。

汝等が目にするは巨大な聖剣。

青き鋼鉄の巨人に身を宿した、汚れなき月の聖母。

―――ここに。

終わりにして絶対不落の、真なる守り手が存在する。


「ネバーランドこらぁ!!! お前ら、もしルナを一瞬たりとも痛め、泣かせる様な事があったら!! 我魂魄百万回生まれかわろうとも、恨み晴らすからなぁぁ!!!」

「……なに言ってんのよ、ばか」


もういいから自分の心配してなさいと思わないでもないのだが、嬉しくないわけが無いのでとりあえず素直に照れておく。

敵の先頭は青いKMF。何とか様の為にとか、愛する誰かの名前を叫んでいるようだが正直どうでもいい。




「………行ってこい。マイダーリン」




恋する女は無敵なのだ。ここから先へ行こうという者は、たとえ神様だって殺してみせる。















「セツコさん、急ごう!!」

「ええ! ……いや、向こうもそう簡単には行かせてくれないみたい。隠れてないで出てきたらどうですか!?」

「なに!?」


誰かの存在に気付いたセツコがガナリー・カーバーの銃口を右に向ける。その先のデフリ地帯には何もいない……いや、いた。

デフリの陰から姿を現したのは強行型アクエリオン。アルファということは麗華さんか。


「……待ちくたびれたわ」

「貴方ですか。この戦いに途中参戦してからずっと、私に視線を向けていたのは」

「気付いていたの? まあ、そういうことになるわね」


どうやら他のエレメントは乗っていないようなので、1人で操縦していらしい。グレンさんが乗ってた敵バージョンのアクエリオンか。

しかしなんでまた。わざわざ1人でこの場にいる辺り、ガチで戦いに来ているようだが。


「なんで麗華さんが……ロリコンとは程遠い所にいるじゃないですか。どうしてネバーランドになんか与しているんです」

「別にネバーランド云々に興味は無いわ。ただ、貴方の隣にいる人は必ずネバーランドの敵に廻るだろう……そう思っただけよ。

 かつての私は不幸を極めると誓った。だから彼女とはどうしても決着をつけなければならないの。

 そしてセツコ・オハラを倒して、多元世紀最高の不幸キャラと呼ばれたい」


そんなもん目指してどうするよ。そう突っ込みを入れたかったシンだが彼女の気迫がそれを許さない。

強い視線の先にはバルゴラの姿があった。とりあえず麗華の狙いは自分ではなくセツコの模様。


「……シン君、先に行って。この人は私がやるから」

「わかりました」


今の言葉の何処に引っかかったかはわからないが、カチンときた表情で臨戦態勢に入るセツコ。

それに巻き込まれるのは嫌だったので、シンはこの場を後にすることに決める。射程範囲まで近づいてもアクエリオンに反応はない。

どうやら本気で自分に興味は無いのだろう。ならばセツコさんも応える気まんまんだし、好きにすればいい。流石に生きるか死ぬかまでの戦いはしないだろうし。

とりあえずシンは、道を開けてくれたお礼に一言だけ忠告しておく。


「麗華さん。アンタ外れクジ引いたぞ」

「………さて、どうかしらね」


飛び立つデスティニーの背中をぼんやりと見送り、セツコと麗華はようやく視線を合わせる。

この場に残されたのは女2人。不幸の宿命をその背に背負った、儚いという言葉から最近離れつつある2人の美女だけ。

ゲーム本編ではまったく絡まなかった夢の対戦カードがここにっ。


「私と戦うのは、不幸を極めるためなんですね?」

「何なら他の理由でも構わないわ」


まだ他に理由があるというのか。そう言いたげなセツコの目を見つめて麗華の独白は続く。


「ZEUTH内で 『不幸だ』 と呟いても、同情された試しがない。なんかおかしいなと思ってたら、その場にはいつも貴方がいた。もしくは勝平君」

「はあ……。でも、不幸って人と比べるようなものじゃないと思いますけど―――」


要するに私怨も混ざっているということらしい。セツコの呆れたような言葉を遮ると共に、アクエリオンがバルゴラに襲い掛かった。

インパクトカノンとレイ・ピストルの火線が交差し、PSG量子反応砲とグローリー・スターがぶつかり合う。

武器の威力やセツコの小隊長能力などデータだけ見ればバルゴラの方が優位に思えるが、実際に戦うとサイズ差の問題もあってそう簡単にいくものでもない。

アニメ本編を見てわかるように、アクエリオンだってかなりの高機動なのだ。しかも麗華個人の格闘スキルもかなりのもの。

一瞬でも隙を見せた瞬間勝負が決まるということを、お互いが理解していた。


「あんまりソワソワしないでな虎縞ビキニつけたまま彼氏の部屋から丸一日出てこなかったりするあなたが、不幸っぷりで私より上に行くなんて十年早いのよ!!」

「な!! ……そ、そんな挑発にひっかかると思って」

「浅い知識で物まねするからシンの反応も微妙だったのに、それに気付かないで幸せそうに喘いでいたのは何処の誰!?

 な~にが 『ダーリン、私もうイクっちゃ』 よ。大体ラ○ちゃんの一人称は私じゃなくてウチなのに」

「言うなぁぁぁっっ!!!! ……ハッ、しまった!!」

「隙有り!! 喰らいなさいセツコ!!」


技量と機体性能にそこまで差が無いのなら、勝負を分けるのは集中力。長期戦に持ち込むのを嫌った麗華はそこを突くことに決めた。

全回線を開き、セツコの清楚な外見とは裏腹にベッドの中ではとことん貪るタイプであることやイタい失敗談を戦場へと流す。

夜の生活を全軍にバラされ集中力を乱すセツコ。その事自体は無理も無いが、敵の手に乗せられたと気付いたときにはもう遅かった。

当然その隙を逃す麗華ではない。名前の由来が全然分からない必殺技・昇竜天雷で蹴り飛ばし、そのまま死に体となったバルゴラに高速で接近する。

続く一撃は何か。そんなもの、一つしかない。


「不幸最低拳 (不幸のどんぞこ) ……桶の底を抜けぇぇぇぇぇ!!!!」


不幸を断ち切るのではない。己の不幸の格を見せ付ける。

渾身の力を込めた右拳をまともに受けたバルゴラは、勢い良く浮遊していた戦艦の残骸に突っ込んだ。

そのままの姿勢で敵の反撃を待つ麗華だったが、瓦礫に埋もれたであろうバルゴラに動きは無い。


勝った。自分の不幸の一撃がセツコの不幸の力を上回ったのだ。

勝敗が着いた以上命まで奪う気は無い。呆気ない決着に若干拍子抜けしたものの、それでも幾分かは満足した麗華は踵を返し、次の標的であるソシエの許へ向かう事に決めた。

セツコに比べれば格は落ちるが、若い芽は摘んでおかないといけないし。


「フン、何がスパロボ史上最も不幸な主人公よ。私の不幸と比べれば、そんな称号……なっ!?」


勝ち誇った声は背後で起こった爆発によって容易くかき消された。それが誰によってもたらされたものなのかは言うまでも無い。

バルゴラ・グローリーが瓦礫を吹き飛ばし、戦場に舞い戻る。

その光景を前にそれでこそ我がライバルなんて余裕のある言葉は吐けなかった。直撃させたのは自分の最強の一撃。ダメージを換算すると1万以上は軽い筈である。

なのに、その装甲にはかすり傷一つ残ってはいない。


「これが不幸最低拳? ………そっかそっか」

「た、足りないのならもう1回! でやああああああっっっ!!!」


もう一撃。渾身の力を込めた拳は今度こそ確かにバルゴラを捉えた。

しかし相手は微動だにしない。殴りつけられた頭部を少し傾けるだけ。


「………ふふっ」


静かに笑うセツコの声に、本能が恐怖を覚える。

麗華はその恐怖を振り払うかのように、幾度も拳を叩きつけた。


「くっ、来るなぁ!! 不幸最低拳!! 不幸最低拳!! 不幸最低拳!! 不幸のどん……そんなっ!?」

「どんぞこどんぞこって……。落とし穴に落ちても、廊下でコケても、必ず隣の王子様がラッキースケベ無しの無償で助けてくれるあなたの。

 本命のシリウスさんとキープ君のグレンさんだけじゃ飽き足らず、劇場版じゃアポロ君にまでちょっかい出してるあなたの。

 一体、何処が不幸なんですか? 最低ってそういう意味での最低なんですか?」


何発かは成すがままに拳を受け続けていたバルゴラだったが、受けるのにも飽きたのか繰り出されたアクエリオンの左拳を掌で軽く受け止める。

不幸不幸とさっきから黙って聞いていれば。壱発逆転篇でアポロと至近距離で仲良くランラン歌ってフラグをばら撒くほど余裕のある貴方が一体何を言っているのか。

シリウス死亡済みの創星神話篇では、アポロにコナふっかけるばかりかピエールにまで助けて貰ってた貴方の何処が不幸なのか。

そう言うセツコに思わず気圧される麗華。気が付けばいつのまにか両機の大きさが同サイズになっていた。馬鹿な、不幸の力を吸ってハイパー化でもしたというのか。

巨大化したバルゴラがそのまま掌をゆっくりと閉じると、アクエリオンの拳がくず鉄のようにポロポロと崩れていく。


「不幸自慢にも限度があるでしょうが……ね? ――――――はぁっ!!」

「あうっ!!」


ガナリー・カーバーでもなくレイ・ピストルでもない。何の変哲も無いただの右ストレート。

しかし不幸最低拳と同じ原理で、己から湧き出る不幸なオーラを右拳に込めているためその破壊力は尋常ではない。

吹き飛んだアクエリオンのコックピット内に、動作不良を表す項目が幾つも浮かび上がった。


「そ、そんな……。私が不幸という自分のフィールドで、ここまで一方的に……」


いくら序盤の敵でも雷属性の敵にサンダガを放ったところで吸収されてしまうように、本来不幸属性をもつ自分ならば不幸の力を無効化できるはず。

しかしそれすらもできないということは、この子の不幸レベルは自分のそれとは次元が違うということなのか。


「確かに "今の私" は幸せですよ? 自分たちの関係は変わってるとは思いますしシン君を独り占めしたくなる時は結構あるとはいえ、4人でいるのは本当に楽しいから。

 でも "これまでの私" が幸せだったかと言うとそうでもないです。少なくとも麗華さん程度の不幸な人に大したこと無いって言われるほどじゃ……」


手をブラブラと振りながら、巨大化したバルゴラがアクエリオンへと近づいていく。

その蒼い機体の背後に、一瞬死神の姿が見えたのは気のせいだろうか。


「ないですね」


もはや勝敗は決した。ラオウを見下ろすケンシロウの如き目に、麗華は自分の敗北を悟る。

よく考えれば当たり前のことだった。むしろなんで自分はそれに気付かなかったのか不思議なくらいだ。


戦災孤児で昔の記憶は無し。

隊長が目の前で死亡。

淡い恋心を抱いていた先輩も目の前で死亡。

上記の2人を殺した男にリアルでボッコボコ。

先輩は実は生きていた → んなわけねーだろバーカ

スフィアの影響で五感が無くなっていく。

平行世界の隊長と先輩を返り討ちにするハメに。

頼りにしてた仲間は、実は最初から自分を騙してました。

そして、


ア  サ  キ  ム



「やっべ、この子本当に不幸だ。私よりも」



何故自分はこれに勝てると思っていたのだろう。

麗華の最後の思考は、バルゴラが放った回転蹴りによって途絶えた。

























「どうもクワトロ大尉。お待たせしました、と言っておきましょうか?」


ここにくるまで随分時間が掛かってしまったが、ようやくクワトロ大尉の許に辿り着いた。

戦いの流れはZEUTHが優勢になってきているにも関わらず、彼の表情からは焦りなどを見ることはできない。


「そうだな、随分と待たせてくれたものだ。……まあおかげで季節外れの花火を楽しませてもらったがね」


花火とは戦闘中の爆発のことだろうか。それともただ気分で言ってみただけか。

一つだけ言えるのは、自分はこんな事で生きている実感ってやつを感じたくないということぐらいである。


「どうせ他の連中はZEUTHの皆が倒します。だから後は貴方だけですよ、クワトロ大尉。

 こんな争いなんてすぐに止めて、大人しくハマーンさんの許へ戻ってやったらどうですか」


ここでダラダラしていてもしょうがないので、そう言って降伏を勧めてみた。無論シンだってクワトロが本気で嫌がっているのなら無理強いするつもりは無い。

しかしこの騒ぎが起きるまで外から見ていて、彼ら2人の雰囲気はかなり良い感じだったのだ。きっとゆっくり話し合えばお互いが納得する結論が出るだろう。

もし戦ったとしても、自分がこれまで温存しておいたSPを出し惜しみなく使えば十分対応は可能な筈だ。

真紅の機体はハンパなく強そうだが、自分のデスティニーだって原作ルートではHP6万近くのボス機体である。同じMSである以上そこまで差はあるまい。

ただ、一つだけ気になることが。目の前のこの機体、自分が想定してたサザビーという機体と形状が違うのだが。


「随分と余裕だね、シン。君はこのナイチンゲールのHPがどれだけあるか知っているのかい?」


ってこれがナイチンゲールだったのかよ。いつの間に乗り換えていたと言うのか。

こんな機体を開発していたという情報は誰も掴んでおらず、先ほど現れていたときも遠目だったため、自分はサザビーと見間違えていたらしい。

しかし今はそんなことはどうでも良かった。

絶望的な次の言葉に、意識を全て持っていかれたから。






「16万や」







なん……だと………?



















[6402] シークレットエピローグ 後編  「アクシズの空は青いか」
Name: ドダイ改◆daa4adbc ID:63d81bbd
Date: 2011/01/16 11:03






それは何年か前 チラシの裏に書いた夢



シャア・アズナブル



私は1STの時から年下の女の子が好きで、若い子をよく口説いた。

ララァが亡くなった後はハマーンを抱いて、ハマーンが榊原ボイスになったらすぐに地球に行った。

自分の限界を知ったのはエゥーゴの時だった。

カミーユやシロッコはニュータイプ能力が凄くて、機体もずっとチートで、 自分の百式と比べたらぜんぜん違っていた。


己の行くべき道を決める時が来た。

現実に続き2次元まで腐っていく現在について心の中のララァに相談したら、

「自分のやりたい事をやりなさい。でもガンダムさんだけは中の人がやらないって言ってるからやめなさい」 と言われた。

だから私はこう言った。




「子供たちの楽園を作りたい」




ララァは苦笑いしていた。

黒のカリスマと呼ばれるネット世界の住人たちには「お前の傍にはハマーンがおるから絶対に無理やぞ」と言われた。

それは解っていた。でも、将来は……。







――――誰の為に戦っているのですか?


「妹の為……だと思う」



全てを薙ぎ払うために、皆を守れる存在になりたかった。

死んだ妹に誓った夢は、世界を平和にする事


友人 レイ・ザ・バレル

「時々シンにこんな事を言っていたんだ。 これを言うとシンに怒られてしまうのだが……。『神様たちはお前の願い事だけは絶対に叶えてくれないと思う』 って」


レイの言うとおりだった。夢は最終話とファイナルプラスで、手から零れ落ちていった。

慰霊碑をバックにルナと歩きながら、本当に考えた。

もう諦めようか……




でも、あれは誓った夢だから。

もう一度、やってみる。





人生にはいろんなことがあって



―――――マユ、ステラ……やめろぉぉぉぉっっ!!!!


―――――議長、運命は一人一人が切り開くものだ!!



本当にいろんなことがあって



―――――ララァ・スンは私の母親になってくれたかもしれん女性だ!!


―――――赤い彗星と決別したからこそ、私はお前を認めない……! クワトロ・バジーナとしてお前を討つ!!



いろんな夢を諦めて 


人は、大人になるのだろうか





五月五日




シン・アスカ VS シャア・アズナブル










「………大尉、これ何ですか?」

「暇だったから煽りV作ってみた」


頭痛を堪えつつ元先輩に眼前の映像について問うてみる。質問に対する返答はこのうえないどや顔だった。

画面の中では赤いパンツを穿いた大尉が 「俺はニュータイプだ!!」 と叫びながらブランからマウントを取ったり逆にアムロに上からパウンド浴びてKOされたりとはっちゃけている。

一方の自分はというとトレーニングルームの訓練風景や素人参加番組での騎馬戦で起きた乱闘の際にベローをハイキック葬した映像などが使われていた。

赤いアホ毛がチラチラ画面の上部に見えるから、多分ルナが撮った映像なのだろう。俺なんか撮らずに自分を撮れば良い目の保養になったのになぁじゃなくて。


「すげーやクワトロ大尉、あの神煽りVをここまでレイプできるとは。伊達に戦極でのナレーションをフルボッコされてないですね」

「あの時はいろいろパロディも頑張ったんだからそれは言わないでくれないか……って何だコレ? シンの方は真面目に作ってやったのにこの敗北感……」


テンションだだ下がりのシンの声に、シャアはぶつぶつ呟きながら不貞腐れる。もしかして自分に感謝の言葉でも貰えると思っていたのだろうか。

しいて一言言えるとすれば、その配役じゃクワトロ大尉1分ちょいで瞬殺されますよという忠告くらいなのだが。


「………戦いましょうか。でやああああ!!!!」

「………そうだな。ぬぅん!!!」


気を取り直して戦闘を開始。刃を交わすデスティニーとサザビー……ではなくナイチンゲール。

敵の得意な中~遠距離戦は捨てて接近戦に活路を求めたシンだったがシャアも去る者、年季の違いを見せつける。

自分とデスティニーの全力である対艦刀の連撃、その剣嵐を隠し腕のサーベルで流すように捌くその動きはまさに神業と呼ぶに相応しかった。

こっちのHPが敵仕様じゃないのを差し引いてもこの強さ、流石はオリジナル作品を差し置いてラスボスを張った男なだけはある。


「くっそぉ……。まさか、接近戦でもここまでの差があるなんて……」

「まゆちゃんカンフーで鍛えた格闘値は伊達ではない。しかし君の力はその程度なのかシン・アスカ!!」

「ちぃっ、これがUCを生き抜いた男の力かよ……!!」


やべぇこの機体も大尉もマジで強ぇ。つかこの人ここまで本気なのかよ。SRポイント取った記憶は無いぞ、いつこのステージHARDになった。

ドン引きするほどのロリコンはマダオ (まるでダンディという言葉から程遠いオルソンの略) だけで十分だってのに。


「それも当然だ。今の私には迷いなど無いのでな。―――そう、私シャア・アズナブルが世界を変革しようというのだよ、シン!!」

「クワトロ大尉……アンタに憧れていたのに。尊敬していたのに!」

「知らないのかい? 憧れは理解から最も遠い感情だよ」

「……もうアンタは、俺の知っている大尉じゃない!!」


マジで。


「ほう、では聞こう。君は私の何を知っている。君は私の何を理解できる。

 ハーレム持ちなだけではなく、彼女たちへの挿入前には必ず先端に 「CHU ♡」 とハートマーク付きのキスをして貰えるリア充の君に一体私の何が分かる!?」

「なんでどいつもこいつも俺の性生活に詳しいんだよ!!」


情報駄々漏れじゃないかくそったれ。

確かに毎回して貰ってるけれども。セツコさんとラ○ちゃんの格好でエッチしたこともあるけれども。

カウガールはすっごいぶるんぶるんしててまさにロデオって感じだったし、婦警さんの取調べや手錠を奪い取って強引にってシチュも素晴らしかったけれども。

なんでアンタたちがそれを知ってるんだよ。誰だ、誰が情報をリークしたんだ畜生め。対ルナマリア用の兵器 「遺憾の意」 を発動させた程度ではすまさんぞ。


「常に修羅場なカミーユと違ってセツコたちに仲良くさんとうぶんされている君の存在は、子供たちの思想に悪い影響を与えかねないからね。

 本当は最終決戦の後の1対10も参戦するつもりだったのだが、あの時ハマーンがこっそり私の服の裾を掴んでいたりしていなければ君は……む」

「振り払ったりはしなかったのか……さりげなくデレは見せるくせに攻略までは許さないとかまさに外道だなオイ。

 というか、そうやってまだあの人を大切に思ってるんだったらもう1回……どうしたんですか」


フラッシュエッジには隠し腕。ファンネルにはパルマフィオキーナの連射。ライフルを連射すれば謎のエネルギー切れを起こしメガ粒子砲を撃ったらパワーダウン。

下世話な話をしながらも最終決戦に相応しい激戦を展開する2人。しかしシャアの余所見と共にその動きが止まる。

その目に映るのは自軍 (ZEUTH) の快進撃。分かりきった展開であり特に気に留めるほどのことでもない筈だが……ああ、あの人か。


「いくぜ……グランナイツのみんな、最終合身に入る!! エルゴフォーム!!!」

「早く帰って鍋の時間にしようよ、エイジ」

「月光蝶を使います。コックピットだけは残しておくので安心してください。尤もその後のフォローはしませんが」

「まさかのキラ戦法」


視線の先では輝く蝶と炎の鳥が翼を広げ、立ちはだかるMSの群れを呑み込んでいた。

リアル系とスーパーロボット系の必殺技による夢の競演。それは良い。斗牙が鍋奉行に目覚めつつあるがそれはどうでもいい。

気にするべきなのはその奥の方。キヨシ役の人。


「カンチガイするな!! “カミーユ”ぅ!! 俺は暴れたいから暴れてるんだよォ!!!」

「知らないのか!? “レイ”ィ!! 俺が暴れてるのはお前が、嫌いだからだ!! バカヤロウ!!!」

「行け、フィンファンネル!! ……チッ、たまんねーな俺の仲間たちはぁ!! バカの上に素直じゃねーからよ!!」


「………」

「………」


アムロさん何してはるんですか。アンタだけが頼りだったのに。


「……もう、ZEUTHには常識人キャラっていないのかなぁ?」

「……そうだな。それにしても此方の幹部は皆、敗れてしまったようだ。アムロは槍持った雑兵で囲めば一瞬で終わると思ったのだが」


常識人キャラを返上し、ついにアムロまでボケに入る現状。これには流石のクワトロ大尉も苦笑い。

でも小山田さんの事は言ってやるな。


「だから言ったじゃないですか、他の連中はZEUTHが倒すって。……ネバーランド (貴方の夢) もここまでですよ」

「ここまで? 馬鹿な、まだ始まってもいない。―――私の夢はまだ、終わってはいない!!!」

「うおっ!?」


アムロへの嘆きで僅かに心を通わせていた2人だが、シンの一言にシャアが纏った空気が変わる。

まだ粘るのかこの人は。いや、この人だからこそこの局面でも粘るのだろう。なんてったって己の才覚一つで国を支配していた者達への復讐を完遂させた男である。

このぐらいの逆境なんて逆境と言えないのかもしれない。

次の瞬間には急に素早さを増したナイチンゲールがデスティニーの懐へ入り込み、サーベルを叩きつけた。


「そうだ、少女を愛でたいという願いが綺麗だったから憧れた!」


叩きつけるのは斬撃だけではない。己から生まれ出でる強い意志。

それはZEUTHの重鎮クワトロ・バジーナでもネバーランド総帥シャア・アズナブルのものでもなく、キャスバル・レム・ダイクンという1人の男の叫びなのだろう。

正直この人のこんなカミングアウト、一生聞きたくは無かったが。


「故に大人の女性と交際することに対し、自身からこぼれおちた気持ちなどない。これを虚言と言わずなんという!!」


ないのかよ。


「愛を交わす女性は成人でなければならないという、強迫観念につき動かされてきた。

 それが苦痛だと思う事も、自分にとって破綻していると気付く間もなく、ただ女たちの間を走り続けた!!」

「最低だよこの人!!」

「だが所詮は偽物だ。そんな愛では何も萌えられない。

 否、もとより、何処に萌えるべきかも定まらない―――!!」


繰り出されるシャアの苛烈な攻撃によって戦況は再び劣勢になった。シンはナイチンゲールの猛攻を切り払いや分身などを用いてかろうじて捌く。

だがこのままではジリ貧だ。いずれ必ずその攻撃がデスティニーを捉えるだろう。今の自分にできるのは、援軍が来るまでクワトロ大尉をこの場に引きつけておくぐらいである。

そう、あそこから自分たちの戦いを眺めているカミーユたちが来るまで……っておいコラ何やってんだお前ら。


「シンが押されている……いや、このまま続けば負けは明白でしょうね。でも、シンならきっと逆転してくれると僕は信じてます」

「いやいやいや、根拠無しでそんな期待してやるなよ。なんかないのかレイ?

 怒りでパワーアップする勝利の呪文とかさ。足を180度回転させられそうなイメージしかないけど」

「駄目だ、手を出すなエイジ。シンはまだ負けてはいない! それよりカミーユよ、シンに対して激励の陣を!!」

「そうだな。よしみんな、激励の陣だ!!」


「「「 おう!! 」」」


カミーユの号令と共に4機が立ち位置を変える。一時的に分離したグランΣの肩の上にレジェンドが、同じくゼータの肩の上に∀が乗るこの体勢、これはまさしく激励の陣だ。

確かにその光景は壮観ではあるが―――


「「「「 勝負を捨てるなシン・アスカーーーー!!!! 」」」」


応援いらないから助けろや4バカ。

つかフェニックスにニンジャをぶつけるような真似すんな。


「ちくしょうこいつらアテにならないじゃんかよ! さっき俺をハメたばっかのこいつらに、少しでも期待した俺が馬鹿だった!!」

「おいあんな事言われてるぞ。アイツがあそこまでテンパるってことはよっぽど勝機を見出せないんだな。どうすりゃ勝てるんだろう」

「そうですね……修行編に入る時間は無いですし。大尉がサイコフレームを身体に取り込んで、顔面を両サイドに割ってくれれば勝機も見えてくるんですが」

「かませ犬化させるわけだな。こうなったらカミーユ、お前シンに最後の月牙でも教えて来い。斬魄刀の真似するの得意だろリングディンドン」

「喧嘩売ってるなら買うぞリングディンディンドン」


友情ってなんだろう? 最近頭の中をこの言葉が占めることが多かったりする。

とりあえずボケばっかりでまともな人間を友人にしなかった過去の自分を問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。


「なに、心配はいらないさ2人とも」

「アムロ大尉? 劇場版じゃまさかのかませキャラだった大尉が何を?」

「1番輝いてたのが漫画でザエルアポロ倒した時ってのがなんとも」

「ぶっ殺すぞお前ら」


もう中の人ネタはやめて欲しいんだがというシンの想いが届くこともなく気ままなフリートークを始める5人。つかこいつら本気で俺を助ける気が無いようだ。

さっきの流れだってクワトロ大尉が空気読んで攻撃を止めていなければ、今頃俺は宇宙の藻屑になってもおかしくなかったというのに。


「もういい、わかったからシンへの声援を続けてやれ。彼にはもう既に手を打ってある。少なくとも一方的にやられる事は無い筈だ」

「おお! 流石はアムロさんや!! これでシンは勝つる!!」

「やっぱνガンダムは伊達じゃないんだな!!」

「中の人が伊達のキャラに利用されてたけどな!!」

「だからそこあんま触れんな」


すんません大尉、そいつらに構う必要はないから続きを早く。俺にも……てかむしろ俺に詳しい説明してください。

今の俺は大尉たちが助けに来てくれないから現在進行形で大ピンチなんです。急がないと―――



「……もうちょっとだけ、待って貰うわけにはいきませんかねクワトロ大尉」

「十分待った方だと思うのでね。―――次で決めよう」



いや、もう遅いか。




















「これは……この温かさはなんだ……!?」


次で決める。シャアがそう覚悟を決めた瞬間、周囲をひどく温かいものに包まれた。

例えるならばたくさんの手が自分の背を押しているような。人の優しさを形にしたならば、これの事を言うのだと感じてしまうような。


「そうか。そういうことか」


少し考えるとなんとなく予想がついた。

敗北へ流され壊滅していく自軍。それでも消えない想い。誰に託すかなんて決まっている。

この光は彼らの意思なのだ。若干オカルトめいているが、ここはジ・Oが動きを止める世界である。それぐらいは十分在り得た。


『大佐、いや総帥。俺の…俺の力を、吸って下さい』

「この感覚はギュネイ? そうか……君も敗れたか」

『はい。ですが、総帥が健在な限りネバーランドに負けはありません。どうか……勝利を、掴んでください』

「わかっているさ」


どこか遠くから放たれたギュネイの思念が頭に響き、自分を包むぬくもりが強くなる。

彼との過去に思いを馳せる前に、今度はボロボロのボルジャーノンがナイチンゲールに一瞬だけ隣接した。

そして精神コマンドが発生し自分の感覚がクリアになる。

これは直撃か。ということはこの機体のパイロットは


「ギャバンか……」

『情けない姿で悪いな。大したものじゃないが、せめて俺の直撃を使ってくれ。そして、ヤツらを……』


自分を励ますギャバンの声は最後まで放たれることはなかった。

その事を悲しむ暇もなく、シャアの視線の先には宇宙を漂うオシャレなサングラスが映る。それから聞き慣れた声が聞こえたような気がした。


『リタイアしてしまってすまないが……シンには先ほど分析をかけておいた。……じゃあ、先に行ってるぜ』

「オルソン!? ……クッ、君の犠牲は無駄にしない」


別にオルソンはシンに分析なんてかけてないし、そもそもあのかっこいいサングラスはオルソンのものな訳がないのだがそこはそれ。

まぁグラサン=オルソンみたいなもんだし、既に己に自己暗示をかけたシャアにはそんな現実は不必要だった。

そして自分に呼びかけるのは志半ばで倒れた仲間たちだけではない。ナイチンゲールに搭載されているサイコ・フレームが共鳴を起こしている。

緑の光が機体を包むように集まり、手にしているサーベルに収束していった。


――――ロリが認められるかどうかの瀬戸際なんだ!! やってみる価値ありますぜ!!

――――アグ○スの戯言など知ったことか!! あいつ自分の豪邸売ってからでかい口叩け!!

――――悪いねZEUTH、俺どうやら本物のロリコンだったらしくてさ。あいつの体を知っちまったら、てめぇらなんざ薄汚くて抱く気にもならねぇんだよババァ共!!


最後のやつが参戦してくれれば間違いなく勝ってたと思うのだがスパロボもACEも未参戦ではしょうがない。

そのへんは緑川の頑張りに期待するしかないないのである。いろんな意味でこのタイミングではもう間に合わないが。破界篇とか。


「こういう時に言葉は役に立たんな。やはり人類は変革のときに来ているのか」


シャアは現在この戦場にいる全ての部下、いや同志に感謝する。この想い、ありがとうという言葉だけではとても足りるものではない。

そして感謝と共に自分の歩んできた道が間違いでないことも実感できた。ああ、私のこの想いは――――――




「――――――――決して、間違いなどではないのだから……!!」




答えは得た、大丈夫だよイリヤ。私も、これから頑張っていくから。

そんな想いのシャアだったが、不意に目の前のデスティニーを見て眉をしかめる。サイコフレームを装備していない筈の彼の機体にもサイコフレームの光が集まっていたからだ。

馬鹿な、妹絡みで素養はあったとはいえ、サイコフレームも持たぬ生粋のおっぱい星人の彼が何故。

まさかこんな短期間で彼も幼闘気 (ロリコニックオーラ) に目覚めたと言うのか。


「……フ、今更だな。相手が誰であろうと構いはしない。私はただ、貫くだけだ」


そう、相手どうこうは関係ない。ナイチンゲールは静かにサーベルを構える。

この身は既に自分だけのものではない。自分の背を押してくれる者たちへ、自分の背中を見せつけなければならないのだ。

情けない姿などしてはいられない。


「シャア・アズナブル」


さあ決着をつけようかシン・アスカ。

自分にはまだハマーンとの戦いが控えている。こう言っては悪いが、君は前座の中ボスに過ぎない。

しかしタイマンに応えてくれたことに関する敬意を表し、せめて全力で葬ろう。




「―――――推参 (おしてまいる)」
















「こういうこともあろうかと、か……。アムロさん、あの時から俺に投げる気まんまんだったんだな」


緑の光が集まっていくナイチンゲールを見つめながら、シンは気の抜けた声を出す。

手は打っておいたという先ほどのアムロの言葉。記憶を辿ると怪しいのは出撃前のあの挙動。

まさかと思いつつスーツを探ると尻ポケットからT字の物体が出てきたのだ。

実物は数回しか見たことは無いが、これは確かにサイコフレーム。出撃前の尻叩きはこういうことだったらしい。

そして自分の周囲をサイコフレームが漂い始めると、目の前のナイチンゲールと同じようにアロンダイトに光が収束していく。


決着の時は、近い。


「次が最後の一撃だ。俺の全ての力をこの一撃に込める」


これで条件は五分と五分。あとは想いが強い方が勝つ。


「アンタがハマーンさんや俺たちを捨てた代わりに得た力全部……全部まとめて使ってかかって来い」


勝てないかもしれない。自分のそんな声が頭をよぎるが、今だけは全力で否定する。



「アンタの全てを壊して―――――俺が勝つ」

「……良い目だ。これはこちらも本気を出さねばやられるか」



あれだけのカミングアウトだ。言いたいことはよくわかった。けれどこちらにも退けない理由がある。

ならばどうするかなんて決まってる。2つの道が交差するのならば、己の道を貫き通し、相手の道を断ち切るのみ。




「アンタが正しいって言うのなら!! 俺を倒して!! 証明してみせろ!!!!!」




2機の周りを緑の光が渦を巻くように囲んでいる。おそらくこの場の力全てが敗者に流れるのだろう。

それはまさしく真竜の闘い。実力の拮抗した者同士のみが行える、バーン様すらやりたくないと言う最悪の決闘。



あぁ、最早何も言うまい

語るべき言葉ここにあらず

話すべき相手ここにおらず

漢、ただ前を向き、ただ上を目指す

ただ前を向き、ただ上を目指す」



ナレーション自分で言うなやこのロリコン。






「はああああああっっっ!!!」


「おおおおおおおっっっ!!!」






2つの光が擦れ違う。


その胸に袈裟切りの跡を残し、煙を上げているのはナイチンゲール。そして










「私の勝ちだ、シン」



「―――――ああ。そして、俺の敗北だ」












左腕と左脚、そして翼。

その全てが切り落とされたのは、デスティニーだった。












「紙一重の勝負だったな。一歩間違えれば立場は逆だった」

「………随分分厚い、紙一重ですね」



切り離されたパーツが爆発を起こし、デスティニーは後ろへと吹き飛ばされた。ゆらゆらと漂うその姿、もう戦う力は何処にも見られない。

勝敗を分けたのはほんの僅かの差だった。ほんの僅か、シャアの方が深く前に踏み込んだということだけ。

全てが終わった後では何の慰めにもなりはしないけれど。


「この場に置いて行くが、悪く思わんでくれ。……我が好敵手、シン・アスカよ」

「……ああ、もう好きにしちゃってください。負けた俺にはもう、何も言う資格はないですから」


「――――待て、シャア」


風間によろしく。そう敗北を受け入れたデスティニーに止めを刺さず、次の戦場へと移ろうとしたシャア。しかしその動きは新しい声によって止められる。

声の主は4つの機影を従えて、ナイチンゲールの前に立ちはだかった。


「次は俺だろう?」


MSの正体はUCの奇跡の象徴であるνガンダム。パイロットの名はアムロ・レイ。

ついに連邦の白い流星が、ジオンの赤い彗星の前に姿を現したのだ。

その声に含まれているのは怒り。なんだかんだ言いつつもアホな事をしてる宿敵が自分の気に掛けている部下を傷付けたのが気に入らないのだろう。

いや怒っているのは彼だけではない。その背後に他の仲間が続く。



「………アムロ大尉、親友の俺が先でしょう……?」


“ !? ”


「死ぬまでやってやろうか、この紅エイジさんがよ……!!」


“ !? ”


「クワトロ大尉、貴方は……今回は修正一発で済むと思ってんじゃないでしょうね!?」


“ !? ”


「皆さん……僕が行くって言ってるでしょう?」


“ !? ”



拓ちゃんがやられた爆音の如くブチ切れるアスカファミリー with アムロ。怒ってくれるのは嬉しいが、だったら早く助けに来て欲しかったとシンは思う。

まあともかく自分の戦いは敗北という形で終わってしまった。しかし、不思議と自分に敗北感は無い。

ロリと複数という違いはあれど、愛してはいけない人を愛してしまった。それは俺と何ら変わらないんじゃないだろうか。そう思えてしまったのだ。

だから彼の思考にまったく理解が出来ないわけじゃない。ガチンコもやった仲だし、本音を言うとそこまで本気なら好きにしろよという気分だった。


ただ、一つだけ悔いがあるとすれば。


「……ハマーンさんには、悪い事しちゃったな」


この騒動のもう1人の主導者。誰よりも女らしい女性。

怪我させないように大尉を捕まえてもう一度ちゃんと告白させてあげたかったのだが。赤い彗星が相手では、どうやら自分じゃ役不足だったようだ。


「我ながら少し情けないな。友人……って言っていいのかはわからないけど、そんな仲の人の助けになることすらできないんだから」


「そうでもないさ。よくやってくれた」


自嘲の声を見知った声が断ち切る。声の主は言わずもがなのあの女帝。

純白の機体を躍らせながら、戦場に推参する。


「ハマーンさん、すみません……。俺、結局何も」

「もう何も言うな。……シン・アスカ、お前には心から感謝している。今後お前の身に何か起こったとき、私は世界を敵に回してでもお前との友情に応えるだろう。

 だからもう十分だ。今は退がれ―――何をしている貴様ら、シンを早く連れて行かないか」

「了解、撤退します……みんな、悪いけどちょっと頼む」

「まあ後は本人同士に任せるしかないか……。レイ、シンをレジェンドに乗せてやれよ。爆発はしないだろうけど、流石に破損した機体に乗りっぱなしはシンが危ないだろ」

「わかった、いつ爆発するかも分からないしな……。ではカミーユは機体を頼む。気をつけて扱えよ」


ハマーンの命令に従い、半壊したデスティニーを連れて5機が下がる。

入れ違うように対峙するキュベレイとナイチンゲール。搭乗するのはUCを代表する2人のカリスマ。

メインイベントの準備は整った。


「降伏しろシャア。シンによってつけられたその傷では、このキュベレイと戦うことはできまい」

「確かにそうかもしれないな。だが」


ハマーンの気迫にシャアは思わず眉を顰める。彼女から発せられるプレッシャーはまるで暴風のよう。

しかしシャアには退く気は毛頭無い。渾身の力を込めて目に見えぬ壁を突破した。


「私はまだ、この世界への怒りを抑えることができない。私の拳が、私の上腕二頭筋が、私の魂が怒り狂っているのだ!!」


戦場に踏みとどまる。風は途絶えた。純白の機体まで大した距離はない。彼女がその気になれば数秒で戦いが始まるだろう。

ダメージを負ったナイチンゲールでは守勢にまわると持ち応えられそうにない。


故に。

勝敗はこの数秒で決せられる。




「来るか、シャア―――!!」



ハマーンの声が聞こえた。しかしそんな事を気にしている余裕は無い。

本来の機体性能ならばナイチンゲールが上回る。しかし手負いの今ではせいぜい互角、いやそれ以下だろう。

パイロットとしての腕なら迷いを無くした己に分がある。つまり技と体だけでは決着が着かない。

ならば勝敗を左右するのは精神力。想いの強い方がこの戦いに勝つ。


イメージしろ。最強の己を。

イメージしろ。目の前の相手を倒す力を。

イメージしろ。己の背後には、何があるのかを。


自分の未来に、何が待っているのかを。




―――――おお、あったかいご飯はこれが始めてだったり、ってミサカはミサカははしゃいでみたり!


―――――エ~ブリデイ、ヤ~ングライフ、ジュ・ネ・ス!!


―――――プルプルプルプルゥ~♪


―――――みんな、抱き締めて! 銀河の、はちぇまれ~~!!!




「ぬあああああああああああああ!!!!」



呼吸を止め、全ての力を右拳に叩き込む。身体中の血液が沸騰する。27の魔術回路を全てONにして叩き伏せる。BGMはEMIYAでよろしく。

残されたサイコフレームの光をナイチンゲールの右拳に集めるシャア。乾坤一擲のこの一撃、その気になれば原子すら砕けるだろう。


「まだその道を貫くのか、シャア。その夢の果て、終着駅は何処だ」

「ハマーン。戦いの終着駅は……ここだ!! ネバーランドシャイニングオーシャン……」


裂帛の気合と咆哮。

シャアは眼前のキュベレイに超低速のロケットパンチを放とうとして―――



「クワトロ大尉も、随分と甘いようで」

「………何、だと?」



背後から殺気。思わず振り返ると目の前には敵戦艦の姿。しまった、謀られたか。

砲門の中央部分には既に光が満ちている。この距離とタイミング、とても避けられるものじゃない。ニュータイプ能力で中にいる人間を感じた。

ブリッジ中央に視線を向けるタリア。頷きを返すデュランダル。来賓席で無駄に頑張っているラクスの種割れの意味についてはもう放っておいてやって欲しい。

手加減などするつもりは無し。彼らに共通している思いは一つ、赤い彗星を地に落とそうということだけ。



「しまっ―――――」


「焼き払え!!」



ハマーンによるクシャナ皇女ボイスが戦場に響き渡る。

そして次の瞬間、ナイチンゲールをタンホイザーの光が呑み込んだ。


















「まだだ……まだ終わらんよ!!」


光が消えた後、その場に残っていたのは残骸と呼んで良いほどのダメージを受けたナイチンゲールの姿だった。

ボス仕様にまで高めたHPもイベント攻撃の前には何の意味も持たないと言うことか。むしろ良く生きていたと意外に思えるほどだ。

戦闘の継続など考えるだけ無駄。頭部と胴体の他に残されたのは拳のない左腕と飾りに過ぎない右足、そして逃げるためのブースターのみである。


「ヘルメットがなければ即死だった……」


説得力があるようでまるでない言葉を吐きながら、シャアは戦場を離脱にかかる。さりげなくパニくってるのかもしれない。

出撃した時には己のこんな姿など想定もしていなかった。

無論シャアも赤い彗星と言われたほどの男だ。此処までの戦いの中で油断や慢心など微塵もしていない。

だがシンとの激戦のあとに現れたラスボスオーラ全開のキュベレイを見て、思わず全ての意識をそちらに向けてしまった。

まさかそれを考慮した3段構えだったとは。意識の外からの攻撃には、流石のニュータイプも分が悪い。

そもそも調子に乗ってEMIYAまでかけたのがいけなかったのかもしれない。アーチャーってあの曲がかかったら敗北確定だし。

いやもう考えるのはやめよう。背後からファンネルが迫っている、今はそんな事を言っている場合ではない。

いけいけゴーゴーか。ニコニコバイバイか。一つ言えるとしたら、今の自分は千手ピンチということである。


「ええい!!」


ファンネルから放たれたビームが機体を掠める。機動力が低下した今となってはキュベレイのオールレンジ攻撃を避けるのは厳しい。

今はどうにかしているが、いずれ捉えられるのは目に見えている。

攻めに徹しないと勝てない。そう決意しメガ粒子砲を放とうと構えるが、画面には拒絶を表す言葉が記された。またパワーダウンかよ。


「これで終わりにするか、続けるか、シャア!!」

「そんな決定権がお前にあるのか?」


勝ち誇り自分に降る事を要求するハマーンの声。しかしまだ闘志は消さない。

生きている限りゼロではない。機体が動く限りできることはある。諦めたらそこで試合終了なのだから。


「……口の利き方に気をつけて貰おうか。いい加減私も堪忍袋の緒が切れるところだ」

「自分の意思ばかり押し付けて、勝手な事を!!」


ピキッ。


何かが壊れる音がした。発生源は目の前にいる女帝様。

これはまずい。虎の尾でも踏んだような、何かヤバいことをしちゃった匂いがプンプンする。死ぬか、死ぬかシャア。


「あ!? 何か言ったか? 言いたい事があるなら言えば良い。私も話を聞くぐらいはしてやるぞ。

 ただし内容によっては最期の言葉になる可能性が大だがな。貴様はアクシズにとって反乱を起こした者なのだから、私の気分一つで絞首台からアイキャンフライだ。

 それともそれが嫌だと言うのなら―――ここで朽ち果てるか? 月までドリブルドリブルしてやるのも良いかもしれん」

「ちょっと何言ってんのかわかんないです」


嘘だ。言葉の内容なんて嫌と言うほど分かっている。 月にッ! 着くまで!! 蹴るのをやめないッ!!

ほんとに死んでしまうなそんなことされたら。マシュマーあたりは幸福すぎて死んでしまう気がするが、生憎自分にはMっ気は全然無いのだ。

死ぬのなら東京ドーム一杯の幼女に囲まれながらジョニー・B・グッドを歌ってからにしたい。


「くっ!!」

「何処に逃げようというのだ。月は其方の方向ではないぞ」


ここからあそこまで何キロあると思ってるんだ畜生。一瞬で戦闘を放棄し、後ろに向かって前進だとばかりに駆けるシャア。

戦いはここで終わるわけではない。屈辱ではあるがネバーランドまで一旦撤退しよう。サザビーも置いてあるし守備部隊も残しているのでもう一勝負できる筈だ。

そう判断し逃げるナイチンゲールだが、キュベレイは立ち止まったまま追いかけようとはしない。

逃げながらもその事を疑問に思うシャアだったが、その疑問はすぐに晴れることになった。

自分の行き先に立ちはだかるのはミネルバ。タンホイザーはしっかりと此方を向いている。


「本当に残念だわ……申し訳ありませんが大尉、貴方はここでお終いなんです。

 でも、その前に貴方にはオイタのことを謝って貰わないと。とりあえず、そこに跪きなさいな?」

「宇宙空間でどうやって―――」




「跪け。」




タリアの声と共に、ナイチンゲールの右足が撃ち抜かれた。放ったのは遥か遠くでロングライフルを構えたスーパーガンダム。

そして宙を漂う赤い機体を、ZEUTHの女性陣が告白に立ち会うウザい女友達の如く取り囲む。いやまああながちその表現も間違いではないのだが。

ちなみにネバーランド軍のモブ達はさっきのハマーンを見て速攻で撤退していた。助けに来る者などありはしない。


「心は……折れぬッッ!!!」


戦う術なんて何も無い。しかしナイチンゲールは拳の無い左腕を挙げてファイティングポーズを取る。

この女オオカミどもに屈するわけにはいかないのだ。そういえばオオカミって食べられるんだっけ?


「遊びは終わりですねクワトロ大尉。ネバーランドは娯楽リゾートとして他の人に経営して貰えば良いでしょう」

「そうね。私とカミーユの子供もいつか連れて来たいし」

「ファ、寝言は寝て言いなさい。せっかく映画館に来てくれた観客の前で無重力駅弁するような女が母親に相応しいわけないでしょう?」

「貧乳は黙ってろ」

「没個性女の分際で……!!」



「ZEUTHよ!! 私は君たちを蔑如する!!」



抗え、最後まで。シャアはいろんな意味を込めて目の前の女オオカミどもを否定する。

お前たちみたいな駄目な姿さらす女がいるから、幼女たちがその背中を見て育つんだろうが。

ツンの意味も知らずに暴力に奔る女が増えたり股開けば男が釣れると考える子ができるのだろうが。

個人が変わらないというのなら、その根幹たる世界を変えなければならない。その邪魔をする彼女たちの存在だけはは本当に――――




「勝者とは常に、世界がどういうものかでは無く、どう在るべきかについて語らなければならない!! 私は――――!!!」


「黙れ」



コックピットに響いたのは小さな呟き。

同時に身体中の熱が一気に冷めた。これは最終警告なのだと自分の本能が告げている。




「私は、『終わりにするか、続けるか』 と聞いている」




どうあがいても絶望と言わんばかりのハマーンの殺気。

それを目にして、シャアは腹を括った表情をする。その瞳に迷いは無い。男、シャア・アズナブルの姿をとくと見よ。



「返答なら決まっているさ」




そして、彼はその口を開いた。












「白アリ1号とお呼びください」














ほんとうに、ほんとうにありがとうございました。


























「ああ~、良いお湯だぁ……。旅の疲れが取れるわマジで~」

「まったくだ。この温泉は女性の肌にも良いらしいから、まさに至れり尽くせりだなって熱っ何をするんだ!!」


手拭いを頭に乗せたまま、湯に浸かりはふぅと幸せそうな息を吐くシン。そして肩に湯をかける振りをして隣のバカの顔にお湯を飛ばす。

ここは地球にある温泉。名湯と名高い高級旅館の一つ。

当然1人で来る訳も無い。愛する彼女たちと休暇も兼ねた4人旅である。


「すごいねぇ」

「綺麗な夕焼け……感動しちゃう」

「まさに絶景ね。来て良かった!!」


立ち上がって柵にもたれながら、山々を紅く染めて沈んでいく夕日をみつめる女性陣。当然全裸なので綺麗な背中や色っぽいお尻が嫌でもシンの目に入る。

自分にとっての絶景は間違いなくこっちの方だ。今にもその姿勢のまま彼女たちの細い腰をしっかりと掴んでアロンダイトを叩き込みたいと思うくらい。


「何エロい目をしてんだよお前は。一応お前の隣にも金髪美人がいるんだぞ」

「お前は黙って帰れ」


なんだよーとふてくされるバカ姫は放っておいて、再びシンは3人を今度はNOT性的な目で見つめる。どうやら皆、今のところは満足してくれているようだ。


行き先を決める時点から旅行は始まっています。そう言って旅行パンフレットの山を彼女たちの前に置いたのは1週間前。

旅行に誘うなら自分がリードするのが普通だと分かってはいたが、こういうのは計画するときから楽しめるものだ。その楽しみを奪うことも無いだろう。

実際いろんなパンフレットを覗き込み、ああでもないこうでもないと行き先や泊まる宿を吟味していた3人の姿はとても楽しそうだった。


「ねえ……でも本当に良かったの? 私たちが決めといてこんな事言うのは何だけど、ここって料金凄く高いし、しかも2泊もするのよ?」

「金ならこの間の報酬たんまり貰ったし、FAITHの給料もかなり高くなったから心配は要らない。それに大したことは考えて無いよ」

「言っとくけど私はお金出さないからな。身体で払う気まんまんだから、むしろお前が金払う側だから」

「お前は呼んでないから帰れ」


つれないなぁ、今夜はサービスしてやんないぞーと拗ねる某国のバカ代表を無視してシンは彼女たちに優しく話す。つかお前のサービスなんぞいらんわ。

別に自分は無理してるわけじゃない。だからと言って彼女たちを逃がさないよう焦っているわけでもない。

戦いの内容こそ九回裏二死満塁からのサヨナラ敬遠みたいな微妙なものだったが、幼女の為に戦ったクワトロ大尉の姿を見て感じたことがあるだけ。

そう。ただ、自分は――――


「俺はただ、欲張りになろうって思っただけなんだ。皆に相応しい男になって、金も稼いで、楽しい思い出を沢山作りたいなって。

 俺の傍にいて良かったって、みんながいつか心の底から笑ってくれるようにさ」


俺の大切な人を、俺の全力で幸せにしたい。

そう、その為に俺は今生きている。


「シン……!!」

「こらステラ、まだそれは早いわよ」


嬉しそうに笑うステラが抱きついてくる。右腕をミサイルで白羽取りされたシンは、思わず彼女を抱きしめそうになった。

湿った髪。水滴を弾く艶やかな身体。ルナマリアがステラを注意しなければ、間違いなくここでバトルが始まっていただろう。

仕方ないなぁと笑うセツコとルナマリアがステラを諭し始めた。


「この後はねステラ。美味しい夕食を食べて、お酒もちょっと飲んで。それで卓球やゲームで汗掻いちゃったりして」

「そうそう。そしてもう一度この温泉に入って汗を流したら」

「そっか。流したら――――」



色っぽい目でこちらを見てくる3人。



「「「 いっぱい楽しもうね? 」」」



このシン・アスカ。ご期待には――――全力で!!


応えれるといいのだが。




「フフフ……シン、私も期待しているぞ」

「アスハ、ちょっとそこの柵からバンジージャンプとかしてみないか? ロープ無しで」

「いいぞ。ただしお前の言うことも聞くんだからこっちの話も聞けよ?」

「やめい。ガチで死ねるぞ」


即答かよ。バカとは恐ろしい。


「いや、木に捕まればなんとかなるかなって」

「グロいオブジェになるだけだからやめとけ。それを逃れても間違いなく大怪我コースだろ。それぐらい気付け馬鹿おんな」

「いやまあそうなんだけどさ。お前が一言 『俺の心無い言葉でこんなになって……おわびに今夜は頑張るからな』 とか言ってくれれば、私もスゴいね人体できると思ったんだが」

「アンタ本当に混じりっ気無しの馬鹿だな」


ここまで来たら今夜はこいつも乱入してくるのだろう。しかし自分に彼女とする気はないし4人を相手にするほどの余裕もない。

ルナマリアが事の発端らしいので彼女に一任しよう。となると自分はセツコさんとステラに集中することになりそうだ。

なに? お前のアロンダイトがたった2人相手で満足するのかって? 馬鹿な、悟空とベジータが残ってるのに悟飯がいなくなったぐらいで無双ができるとか思ってるのか。

ちなみに俺はブロリー最強説なんて絶対に認めない。


「さっきから何勝手なことを言ってるんですか。シンは私たちのものです、代表にはあげませんから!」

「そうだルナ、もっと言ってやれ!!」

「確かにエクスカリバー君 (双頭バイブ) は持ってきたし一国の代表をめちゃめちゃにしてみたいってのはありますけどね。でも来ちゃダメですよ? 絶対ダメですよ!?」

「不安を煽る言い方すんな!!」


ダチョウ式拒絶術を使うルナマリアに一抹どころじゃない不安を抱くシン。ステラもセツコも自分が満足する分は必ず確保するタイプなので何も言ってくれない。

いやむしろルナマリアによる自分たちへの攻撃を、アスハを盾にして回避するつもりなのだろう。

自分もアスハにルナマリアの残機を少しでも減らして貰えばいいと考えなくもないのだが、こういうことに限って自分の思うままにはいかないのである。


「シン君、部屋に戻ろう? 夕日も沈んじゃったし」

「ごはん、ごはん~♪」


気が付けば太陽が沈んだ方角が微かに青いだけで、いつのまにか辺りは暗くなっていた。

のぼせてしまっても面白くないので、湯から上がることにする。また後で入れば良いんだし。


「いやほんと、何事も無い方が良いんだけどな……」

「うわお♪ シン、ほんとに凄いの持ってるのな」

「覗き込むなっつーのに」


バトルが開始されるのはあと数時間後だろうが、その時一体どうなっていることやら。

せめて明日の観光に廻す体力くらいは確保しておきたいんだが。






んで、結果。数時間後。






「も、もういいだろ? ここまで人をいじめたんだ、シンとは普通にさせてくれ……。そっちは私、経験無いんだよセツコ。話せば分かる」

「問答無用。恋人たちの逢瀬に割り込むんだからこれくらいのペナルティはないと。ローションだって使ってるんだから大丈夫ですよ」

「聞き分けの無い代表には、振動MAXで応えてあげましょうか。ステラ、スイッチ入れちゃって」

「うん♪」

「ちょ。ちょっと待て、自分たちは2周目に突入しておいて、私にだって少しくらい味見ひゃあああああっ!?

 はあ、はあ、わかったそっちで良いから、言うから……ひぅっ! 言うからちょっと待ってくれ……あっ、ああっ!!」



布団の上では自分を無視して百合の世界が展開されてました。いやさっき4回戦が終了して休憩してるだけなんだけど。

あの清楚だったステラやセツコさんがSテラとかSコとか言われてしまいそうなくらいにアグレッシブに。ルナは女の子相手じゃ前からあんな感じだったけど。

一国の代表にトライチャージを決めてる彼女たちを見て、自分は本当に彼女たちを開発してしまったんだなぁとちょっと後悔。

ちょっとだけな。彼女たちの発言に不穏なものが混ざってたからそっちの方が気になる。


「すんません、俺に拒否権は無いんですか?」

「ステラはステラは振動を弱と強の交互にしてみたり」

「聞いてくれ」


俺のステラが壊れた。


「ん? んじゃシンの初めて散らしてみる? 私だってシンの初めての女になりたいし」

「そっちは一生守りきる予定なんで勘弁してください」


ルナはいつも通りだった。


「はぁ、はぁ、えーと……。さ、『捧げる』?」

「ホントに言ったーー!! シン、GOよGO!!」

「その後は私ねシン君。強めなの、よろしく」

「えー? セツコはさっき2回してた。ステラ、まだ1回しかしてないのに」


「だから話を聞いてくれって言ってんのに!!」



シンの泣き声は発情した女性陣のタックルに掻き消され、その晩彼らの部屋から声が途絶えることは無かった。

次の日の朝、シンがどんな状態で観光していたかは言わずもがな。



後にカガリはその日の事について語る。

快楽に流されてもう一つの処女を捧げると呟いた瞬間、4人のゴッドハンドが降臨して 『蝕』 が始まったと。



「「「「 全ては因果の流れの中に!!! 」」」」


「え、あれ? なんで皆俺に襲い掛かって……」



後にシンはその日の事について語る。

自分はゴッドハンド側だと思ってたら、1時間後には生贄になってて4人のゴッドハンドに貪られていたと。






















「動いているのを感じる……なんだか不思議なものだなハマーン。この子はいつ生まれてくるんだ?」

「まだもう少し先ですよミネバ様」



青い空。風が心地良い高原。

ハマーン・カーンとミネバ・ラオ・ザビは、農業用コロニーの原っぱにシートを広げてピクニックを楽しんでいた。



後にネバーランド抗争と呼ばれた戦いから数年後。各方面からの援助を受け、現在のアクシズは大きな発展を遂げていた。

実質的な首領であるハマーンがZEUTHに触発され穏健派になったのもあり、軍事よりも内政に力を入れたのも大きい。

人口も大幅に増えた為居住区が足りなくなりまた食料の自給などの問題もあったため、放棄された戦艦やコロニー、近くの衛星などを利用してプラントに匹敵する国家を作り上げた。

イメージ的には動かないマクロス船団みたいなもんである。こっそり憧れていた変形機能については挫折してしまったが。

ZEUTHの力をバックに地球圏にもその存在を承認させ、かといって敵対行動も起こさず融和への道を歩んでいるため特に大きな問題も起きてはいない。

なので摂政であるハマーンと王女であるミネバが揃って休暇を取っても特に問題はなかったりする。

まあそろそろ本格的に産休を取らねばいけないので、代役を務めるであろう隣の男に再び本気を出させないといけないというのが今後の課題と言えば課題か。


「この子も大きくなれば、ミネバ様に仕えるに相応しいよう教育していくつもりです。その時はミネバ様も鍛えてあげてください」

「何を言っている、ハマーンは私の母同然だ。だからその子供なら私の兄弟みたいなものだ。鍛えるとかじゃなくて、一生大事にするぞ」

「ミネバ様………」


優しい主君の言葉に、思わず目頭が熱くなるハマーン。

今ならZEUTHの面々が必死になって守ろうとしていた理由が分かる。この幸せな時が続けばどれだけ素晴らしいだろう。

もうザビ家の復興などどうでも良い。プラントとの話し合いも最近外交官になったシン・アスカを介して順調に進んでいることだし、平和が一番だ。


「それで、何故シャアはあんなにもげっそりとしているのだ? 視線もうつろで心此処にあらずといった感じだが」

「安定期に入ったので昨日ちょっとはしゃぎ過ぎゲフンゲフン……いえなんでもありません。心配せずとも頭に赤い角でも刺してやればすぐさま復活すると思います」


流石に4回はねだり過ぎたかなぁと少し後悔するハマーン。いやしかしこの数ヶ月ご無沙汰だったのだからそれぐらいは当然だろうと思い直す。

最近寂しかったのは事実だし、何よりも自分はあの男の……そのなんだ、つ、妻なんだしごにょごにょ。

ミネバはそんな悩んだりでへへと表情を崩したりしている自国の摂政をしばらく見ていたが、その辺りは流すことに決めたようだ。

変なこと聞くんじゃなかったという表情を欠片も出さずにハマーンに再び話しかける。


「な、なんだかよくわからないがとにかく良い。それとハマーン、もう1回赤ちゃんの音を聞いても良いか?」

「今コップに水を注いでいる最中なので、もう少しお待ちくださいミネバ様……はい、いいですよ」

「うん!!」

「あ、そんなに強く抱きついてはこの子がびっくりして……ふふっ」

「おーい、聞こえているか~。早く生まれておいで。世界は光でいっぱいだよ」

「そうですね、本当に……」



世界は光でいっぱいか。確かにその通りだ。

コップの中の水を飲み干し、ハマーンは頭上を見上げる。

見上げた空は偽物に過ぎないというのに、どこまでも蒼く、遠く、高かった。





「生きていて、良かった……」







――――――そう。私は今、本当に幸せだ。






「可愛い子供たちが、できて……」







体育座りのままぶつぶつと言葉を呟き続けている金髪の男の傍らで、自らの主君の頭を撫でながらじゃれ合うハマーン・アズナブル (旧姓カーン)。


彼女の表情は、とてもとてもとても幸せそうなものだった。
















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