男もすなる日記というものを女もしてみんとてするなり。
昔々、そんな始まり方をした日本の歴史初のネカマの手記があったそーな。
それにあやかるわけではないが、生活も落ち着いたので日記でも書いてみようと筆を執った次第。
今、俺はまるでマンガのような日常を送っている。
まずは俺がこのような状況にある理由を回想してみたい。
始まりは何だったか、気がついたら俺は戦場にいた。
格好いい凄腕の傭兵や兵士が物心付いた時から戦場に居たんだぜみたいなニヒルな回想では当然ない。
本当に気がついたら戦場だったわけだ。
しかも、戦車や爆撃機が飛び回る近代的な戦場でもなく刀と銃で戦うような戦国時代ほど古くないが新しくもないそんな戦場だった。
多分、明治維新前後、戊辰戦争か西南戦争辺りだろうか?
服装からいって間違いないと思う。
そんな事を考える余裕がこの時の俺にはあったりする。
なるほどタイムスリップして未来知識で活躍フラグですね、分かります。
そんな現実逃避をする余裕もあった。
そう現実逃避だ。
だってさ、考えてもみてほしい、気がついたら明らかに過去っぽい場所、しかも戦場だよ?
その上、頭に銃弾を受けて(多分流れ弾)脳みそっぽいの垂れ流してる自分の上でふよふよ浮かんでたら現実逃避以外何すればいいんだと大いに言いたい。
確実に死んでます、ありがとうございました。
普通、タイムスリップと気がついたら戦場と幽霊になって自分を見下ろすなんて一生に一度あれば多すぎる位のイベントだと思うんだ。
それが全部いっぺんに来たとか、どんだけレア体験、宝籤の一等に当たるほうが余程簡単だと思う。
是非とも宝籤の方が来て欲しかったものだ。
しかし、当時は死んだら意識なんて消えるもんだと思っていたんだけど死後ってあったんだなぁと驚いたものだ。
霊能者とか絶対詐欺だと思ってたんだけどごめんなさい、何割かは本物とか居たのかも知れない。
戦場だけあって、俺のように死んで呆然としてる霊とか割りと沢山いた。
内臓をこぼしながらうーうー言ってる兵士とか、俺の死体みたいに頭を銃弾が撃ち抜いて血を流してる奴とか、なんか仮面を付けた化物に頭からばりばり食われてる奴とか……
そう、余裕があったとは言っても現実逃避してただけなので俺は違和感に気付かなかった。
いくらなんでも仮面付けた化物が人間を頭からばりばり食ってるのをスルーするのは無いわ。
何時回想しても、馬鹿だったなぁと思う。
ぼけーっとそれを見てると何時の間にか仮面付けた化物も増えていた。
しかも、何時の間にか黒い着物に剣を持った人間(?)も増えていた。
異能バトルみたいなのを繰り広げる化物と黒服に死後の世界スゲーとか思ってた。
そして気付けば黒服が勝利したようでそこら中の生き残った(?)霊に持ってた刀の柄を当て始める。
どんどん消えていく霊魂に俺はこの黒服は多分、死神なんだろうなとか思っていた。
まぁ、死にたく無いなぁとは思ってたが、あんな強そうな化物に勝つような人間から逃げ切れるとも思えなかった。
そうこうしてるうちに俺の番が来たようで刀の柄をぽんと額に当てられる。
短い人生だったなぁ、この時俺はそんな事を考えていた気がする。
三度、気がつけばなんか順番待ちの列に並んでいた。
列の整理をする例の黒服に、同じように並んでる人間達。
現状を理解する間も無く整理番号を渡され黒服に誘導されて村みたいな所に連れて行かれた。
訳の判らない俺に現状を教えてくれたのは村に住んでる村人だった。
どうやら、この世界は死後の世界って奴で『尸魂界(ソウル・ソサエティ)』といい、今居る場所は死神に連れてこられた死者の霊が暮らす場所『流魂街』、中でも西流魂街1地区『潤林安』という場所である事などを丁寧に教えてもらえた。
先ほどの黒服は死神で、仮面を付けた化物は虚(ホロウ)という事を教えてもらえたのもこの時だった。
しかし、見えてる限り昔の日本の農村って感じなんだが、何で英語なんだろうか?
もう、あの世で良いじゃん、尸魂界なんて凄く漫画チックすぎる。
まぁ、何はともあれ百聞は一見にしかずと言うし、今見てるのが死後の世界の真実なんだなぁ、色々地獄とか設定してた生前の宗教乙。
とまぁ、そんな感じで俺は死後の生活を送る事になった訳だ。
この生活は大体10年くらい続けた気がする。
驚く事に、死後の世界にも四季はあったし、死にはしないが腹も減る。
俺の暮らしていたこの地区は流魂街の中でも治安の良い所らしく大きな事件は無かったが、他の地区では食料の奪い合いや殺し合いも日常茶飯事の場所もあるとか。
死なないと言っても腹が減ると洒落にならない。
死なない分、飢餓がやばい所まで行く、調子に乗って半月ほどメシ食わなかったら幻覚が見えた、冗談ぬきで。
あぁ、あとひとつ、当時の俺には死んでから続く不思議な悩みがあった。
欲求不満なのか夢の中に全身を覆うほどの長い髪に血のような赤い唇の裸の少女が毎夜現れるという事。
髪の間から見える肌は目が痛くなるほど白く、髪があまりに長いので大事な部分は見えないが所々見える肌が扇情的だ。
強いて難を挙げるなら胸のサイズがささやかな所だろうか?
正直、自分が知らなかった性癖を突きつけられてるようで当時は凄く悩んだ。
年上萌えで巨乳萌えだったはずなんだがなぁ。
知り合いに相談したら年下の女の子から遠ざけられた。
思い出したら鬱だ、死のう……はいはい、死んでますね。
生活が安定してくると色々考え事も増えてくる。
死んだという事に驚きすぎて過去にいるという事を忘れていた俺(いや、ホント)。
今はまだ両親も生まれてないんだよなぁ。
そんな事を考えて十数年前(客観的には100年以上先の話だが)に死んだ曾祖母の事を思い出した。
俺の両親は忙しい人で、祖父母も農家をやってたので俺は実質曾祖母に育てられたようなものだ。
その曾祖母が病気で弱っていた時、反抗期だった俺は見舞いにも碌に行かず勝手気ままに生きていた。
それを後悔したのは曾祖母が死んでから、葬式の時だ。
俺は曾祖母が大好きだった、確かにしばらく会いに行かなかったがこんなに簡単に孝行する機会が無くなるなんて考えもしなかった。
葬式で泣きながら、この時俺は一生の傷を背負ったんだと思う。
そこで今の俺の状況がネックになるわけだ。
今死んでて過去にいる俺、頑張れば曾祖母の今わの際に立ち会う事くらい出来るかも知れない。
更にいえば、この流魂街で再び再会し一緒に暮らす事も出来るかも知れない。
そう、この時の俺はこの尸魂界で死神を目指そうと決意したわけだ。
立派な志なんて無い、特に秀でた事も無い、そんな俺だが人並みに家族を大切にしたいという意志はあった。
これから始まる死神への道、その第一歩を俺は踏み出した。
序章・完!
と言うわけで、今俺は真央霊術院の寮でこの日記を書いている。
いやぁ、わりと霊力があったのですんなり合格できました。
苦難の道とか試験の様子とか普通に書いて置こうかと思ったんだが、そのあれだ。
筆記試験とか、この時代の学力の平均と未来の学力の平均とか比べたらダメだよね。
簡単ではなかったけど、復習する程度の勉強で筆記のほうは問題なし。
実技というか霊力も平均以上あるんだとかですんなり合格しちゃって山も谷も無し。
俺の万難排すあの決意は何だったのか、少し納得行かない今日この頃。
うん、まぁ、これから頑張ろう。
金崎玄之丞 西暦不明(多分1870年前後) 卯月の頃の日記より
後書き
かっとなってやった。